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さよならの夏

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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 ――どん どん どどん!

 とつじょ響いた音に、ぼくは、とっさに身を縮めて床に伏せた。
 おふとんに横たわっていたごしゅじんさまが、ふふと、わらって。
「だいじょうぶだよ、あられ。あれはね、花火というんだ」
 やせほそった指でぼくの白い毛並みを撫でながら、やさしい声で言った。
「夜の空に咲く、おおきな、おおきな花だよ」
 にゃあんと窓にかけよれば、ガラスの向こうに、ちらちらと瞬く大輪がみえた。
 ちかくでみる花は、どれほどきれいだろう。
「いつか。僕のこの病気が治ったら、一緒に見に行こうか。花火だけじゃなく、買い物や、散歩にだって――」
 その言葉を、最後まで告げるまえに。
 ごしゅじんさまは、ごほごほと、くるしそうに咳をして。
「あられ。きっと、きっと……。そとの世界を。一緒に、みにいこう」
 そう言って。
 両手いっぱいに、あかい、あかい、血をはいた。
 ねえ、おきて。
 ねえ、こえをきかせて。
 ねえ。
 ねえ。
 ごしゅじんさま……!

 はっと目が覚めた時には、ぼくはひとりぼっちで。
 何度も何度も、くりかえし、おなじ夢を視る。
 それがあまりにもつらくて、哀しかったから。
 ぼくは、祈ったんだ。
 ――ごしゅじんさまが、もういちどなまえを呼んでくれるなら。
 ――ぼくはもう、二度と『外』へいけなくたって、かまわない。

 そうして。
 幽世から、すべての『出口』が喪われ。
 同じ部屋を永遠にループし、どこへも行けない、『無限の世界』と化した。


「カクリヨファンタズムから『出口』という概念が消え、世界が滅亡してしまったわ」
 オウガブラッドのグリモア猟兵、ユヌ・パ(残映・f28086)の告げた言葉に、猟兵たちが「は?」と首を傾げる。
 ユヌはどう説明したものかと、しばし口をつぐんで。
 ぽつりぽつりと、語りだした。
「あるところに――」

 あるところに、人間に飼われていた白猫がいました。
 かれは、永くひとの世で生きてきた化猫でした。
 そして今は、飼い猫として、ひとの家の中で暮らすイエネコでもありました。
 外には出られませんが、『ごしゅじんさま』と一緒なら、しあわせでした。
 ごしゅじんさまは、言いました。
 「いつか一緒に、外の世界を見に行こう」
 しかし、わるい病気に侵されていたごしゅじんさまは、約束を叶えることなく、しんでしまいました。
 白猫は願いました。
 「ごしゅじんさまが居てくれるなら。『外』へ行けなくてもかまわない」
 そうして、白猫は。
 どこにも辿りつかない無限の世界を彷徨いながら。
 ごしゅじんさまを起こすために、やさしい魂の持ち主を探しているのです――。

「その猫の願いの結果が、今回の滅亡、というわけよ」
 滅亡した世界では、だれもが『永遠にループする部屋』に閉じ込められてしまう。
 扉を開いても、窓を開けても、行きつく先は、もといた部屋の中。
 『無限の世界』を抜けだすためには、オブリビオン『茶まろわんこ』と戦い、撃破しなければならない。
「『茶まろわんこ』たちは、『誰か』と過ごしたたいせつな日々が忘れられないようね。彼らと遊んで満足させることができれば、『茶まろわんこ』に取り憑かれた動物妖怪たちも救出できるわ」

 『茶まろわんこ』の足止めを退ければ、事件の元凶であるオブリビオン『彷徨う白猫『あられ』』へ至る道がひらく。
「この白猫は、飼い主を蘇生するために、猟兵たちの魂を奪おうとしてくるわ。でも、その願いを叶えるわけにはいかない。このオブリビオンも撃破して、取りつかれた動物妖怪と、世界を滅亡から救うのよ」

 世界が無事にもとにもどったなら、動物妖怪たちが開催する『花火大会』が行われる予定だという。
 普通の花火に、ネズミ花火、ロケット花火まで多種多様、水入りバケツも完備。
 妖怪の花火職人による、打ち上げ花火も披露される予定だ。
「仕事さえきちんと片付けたなら、好きに遊んでいけばいいんじゃないかしら。そうすれば、骸魂も妖怪たちも、すこしは浮かばれるってものよ」

「あたしにも確か、大事な馬がいて。死に別れたはずだから。……ずっと一緒にいたいってオブリビオンの気持ちは、わからないこともないわ」
 でも、世界が滅亡してしまうのだから。
 その願いを叶えるわけにはいかないのと、ユヌは唇を引き結んで。
「……転送したらすぐに、『永遠にループする部屋』に閉じ込められるわ。あとのことは、頼んだわよ」
 グリモアを掲げ転送ゲートを開くと、猟兵たちを異世界へと、送りだした。


西東西
 ※1章は【 7/11(土) 朝8:31~ 】プレイング受付開始。
 ※作業進捗によって、【再送】が発生することがあります。
 ※受付締切や最新の状況は、マスターページ冒頭をご確認ください。

 こんにちは、西東西です。
 『カクリヨファンタズム』にて。
 「出口」の消えた幽世は、同じ部屋を永遠にループする「無限の世界」と化しました。
 全体傾向は、せつない心情系シナリオですが、心情プレイングでも、戦闘プレイングでも、挑戦者さまのお好みでどうぞ。

 ●第1章:集団戦『茶まろわんこ』
 あなたは出口のない、永遠にループする部屋に閉じこめられました。
 足止めに現れたオブリビオンと全力で遊び倒し、先へ進みましょう。

 ●第2章:ボス戦『彷徨う白猫『あられ』』
 元凶オブリビオンの部屋にたどり着いたあなたは、彷徨う白猫と出会います。
 オブリビオンを倒し、世界を元に戻してください。

 ●第3章:日常『夏の夜の花火大会』
 想いを遂げることのできなかった、元凶オブリビオンの代わりに。
 幽世で行われる花火大会を、こころゆくまで楽しんでいってください。
 グリモア猟兵のユヌ(f28086)は、お誘いがあれば同席します。

 ●2名以上でご参加の場合
 必ず冒頭に【同行者のID】と【呼び方】をご記載ください。
 グループ参加の場合は、上記+【グループ名】をお願いします。
 また、同じ日の朝8:31以降に送信いただけると助かります。

 提示されている行動は一例です。
 どうぞ思うまま、自由な発想でプレイングください。

 それでは、まいりましょう。
 想い出や追憶で組み上げられた、郷愁の世界へ――。
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第1章 集団戦 『茶まろわんこ』

POW   :    スペシャルわんこアタック!
単純で重い【渾身の体当たり】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    おいかけっこする?
【此方に近寄って来る】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    もちもちボディのゆうわく
全身を【思わず撫でたくなるもちもちボデイ】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 あなたが移転した先は、UDCアースの古い建築物と思しき、木造家屋の室内だった。
 古びた畳敷きの床は、一部が毛羽だっていて。
 爪跡ののこる傷だらけの机。
 盛大に破れた壁紙。
 部屋中を見渡せば、そこかしこに、猫の住んでいた気配が伺える。
 一人暮らしの、こぢんまりとした家だったのだろう。
 1DKの間取りには、最低限の家具が置かれているのみで。
 西に玄関。
 次にキッチン、ダイニングと続いて。
 東に窓のある、横長の間取り。
 室内のうち、外界へ続いているであろう場所は、2か所。

 西にある玄関をあけた先は、東の窓に繋がっており、また同じ部屋があった。
 東の窓をあけた先には、玄関があり、扉の向こうには同じ部屋が存在していた。
 扉を開けても、開けても、永遠に同じ部屋が続く。
 ループしている、というよりは。
 どこまで進んでも、同じ部屋が延々と続いている、と言った方が正しいか。

 ――ぼくはもう、二度と『外』へいけなくたって、かまわない。

 化猫の願った、そのままの世界。
 出口を探していると、やがてまろ眉を思わせる毛並が可愛らしい、数匹の茶色い犬が姿をあらわした。
 滅亡世界を飛び交っていた『骸魂(むくろだま)』が、生前に縁のあった動物妖怪にとり憑き、オブリビオンと化したのだ。
 きゅうんと愛らしい声で鳴き、猟兵の前に座って。
 わんこはしっぽをふりふり、つぶらな瞳であなたを見た。
 その姿に、たいせつな『誰か』の面影を求めて。

 ――出口探しなんて放っておいて。ずっとずっと、ここで一緒にあそぼうよ!!
※1章は【 7/11(土) 朝8:31~ 】プレイング受付開始予定です。
※受付締切や最新の状況は、マスターページ冒頭をご確認ください。
林・水鏡
人間に寄り添うてくれる生き物達のなんと健気なことか…。
死してなおもこんなに慕っておる。
その思いは美しいが…世界を壊すことは許されん。

どこまでも続く同じ部屋。
外に出なくたっていいと願ってもその人はもう。

ん、これはまた愛らしいのが来たのう。
はは、遊んで欲しいか?
ならば、遊んでやろうかのぅ…少しだけじゃよ。
(わしゃわしゃと撫でて遊びながら)
おねしもまた健気なやつじゃ…。
さぁ、そろそろお別れをしようかの。
UC【胡蝶の夢】

おやすみ、良い夢を…。




 転送された先は、歩いても歩いても同じ部屋が繰りかえされる『無限の世界』。
 窓の外にはいつかのUDCアースの情景がひろがっており、だれかの足音や、言葉交わす声。自転車の呼び鈴が通り過ぎる音など、喧騒もそのまま聞こえくる。
 ――まるでこの空間だけが、現世から取り残されたような。
 そんな印象を覚えながら、おだんご頭の東方妖怪――林・水鏡(少女白澤・f27963)は床に膝をついていた。
 額と手の甲には、目のような朱書きの紋様が描かれていて。
 長い白髪や、文官服のごとき裾長の服が床に広がるのも構わず、猫の爪研ぎ痕であろう、毛羽立った畳に指を這わせる。
 姿は見えなくとも、この部屋で暮らしていた人間と動物の在り様が眼に浮かぶようで。
「人間に寄り添うてくれる生き物たちの、なんと健気なことか……。死してなお、こんなにもひとを慕っておる」
 水鏡は赤い瞳を細めながら、たっぷりと時間をかけ、部屋に遺るいとおしき命の痕跡をたどった。
 現れる存在がオブリビオンなのであれば、彼らのいのちは、とうに尽きたということ。
 そしてまた。
 彼らの待つ人間のいのちも。
(「――外に出なくとも良いと願っても。そのひとは、もう」)
 永く存在してきた水鏡だからこそ、命のはかなさを理解している。
 彼らの別れや末路がいかなるものであったのかは、わからないが。
 想い残した『茶まろわんこ』たちは、過去の残滓となった今でも、人間と在ることを望んでいる。
「その想いは美しいが。――世界を壊すことは、許されん」
 世界は、今この時を生きる者たちのためにある。
 だからこそ。
 いかなる理由であれ、染みだした過去は『骸の海』へ、還さねばならない。

 部屋を見まわりしばらくすると、水鏡の前に一匹の『茶まろわんこ』が現れた。
 小柄な水鏡よりも、さらに小さな身体に、つぶらな瞳。
「ん、これはまた愛らしいのが来たのう」
 人間を見つけたこと。
 己を認識してくれることが嬉しいのか、わんこは水鏡のまわりをくるくると駆けまわる。
 膝をつき手招くと、わんこは素直にお座りをして、千切れんばかりにしっぽを振った。
「はは、遊んで欲しいか? ならば、遊んでやろうかのぅ……。少しだけじゃよ」
 指先が埋もれるほどの、ふかふかの毛並み。
 顔まわりをわしゃわしゃと撫でてやると、わんこは目を細めて飛び跳ねた。
 窓の外の太陽が中天に昇って、空が茜色に変わるころまで。
 わんこは常に水鏡のそばを離れず、かつてともに在った『誰か』と過ごせなかった時間を惜しむように、ぴったりと身体を寄せていた。
 ――じきに、夜の帳が降りる。
 遊び疲れたのだろう。
 うつらうつらと、傍らで舟をこぎ始めたわんこの頭を撫でながら、水鏡は言った。
「おぬしもまた、健気なやつじゃ……。さぁ、そろそろお別れをしようかの」
 部屋一帯に『幽世蝶』をはなてば、なおも水鏡にすり寄ろうとしていたわんこが、きゅぅんと鳴いた。
 蝶は眠りをもたらし、このいのちを骸の海まで導くだろう。
「このまま。しばし眠れ」
 わんこは、一瞬、濡れた瞳でじっと水鏡を見つめて。
 安心したようにふわあとあくびをすると、燐光をはなちながら、水鏡の傍らから消えていった。
 手のひらに、まだ、ふかふかとした感触が残っている。
 想いは尽きないが、己には、まだやらねばならぬことがある。
 水鏡は立ちあがり、新たに出現した新しい入り口の前に立った。
 部屋を振りかえり、ささやく。
「おやすみ。どうか良い夢を……」

 ――やさしい眠りの底で、想い人に会えますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

チェチェ・アリスラビリンス
チェチェのお散歩の邪魔をするということは悪いヤツだな!
チェチェの邪魔をしたらどうなるか思い知らせてやるぞ!

【WIZ】
ユーベルコードで強化されたメイドのうさぎぬいぐるみにわんこの相手は任せ
チェチェは執事のうさぎぬいぐるみのお茶をいれさせ、お茶を楽しみます

もふもふ毛並みのチェチェのお手入れをしているメイドうさぎの前で全く動けないという無謀なわんこ
メイドうさぎはまずわんこの全身を念入りにブラッシングします
完璧にブラッシングし、毛並みを整えたら抵抗できないわんこにリボンを結んでいきます
チェチェが嫌がってあんまりリボンを付けてくれないので
メイドうさぎはわんこに満足いくまで、大量のリボンを付けます




 帽子をかぶった、大きな尻尾のもふもふなイキモノ――チェチェ・アリスラビリンス(愉快な仲間のプリンセス・f21782)は、つぶらな瞳で、転送先の部屋をぐるりと見渡していた。
 蝶のごときリボンを各所にあしらったドレスが、ふわりと揺れて。
 執事とメイドの姿をしたうさぎのぬいぐるみが、すかさずスカートのふくらみと、ひるがえったリボンの形を整える。
 チェチェはうさぎたちの動きには構わずに、部屋の観察を続けた。
「ここが、グリモアリョウヘイの言っていた『無限の世界』か」
 ――時計うさぎの『うさぎ穴』とは違う、グリモアのテレポートによって辿りついた世界。
 『アサイラム』とも違うようだが、これといって脅威のない世界であるならば、お散歩にはちょうどいい。
 部屋の様子から察するに、家主は飲食にはそれほど注意を払っていなかったらしい。
 狭く小さなキッチンには、特徴のない質素な食器。
 うさぎたちに命じて確認した冷蔵庫の中は、カラッポだった。
「お茶会をしないのなら。この部屋の主は、毎日なにをしていたんだろうな?」
 チェチェが首をかしげた、その時だ。
 『わん!』とよく通る声が響き。
 振り返ると、いつのまに現れたのか、1体の犬型オブリビオンがお座りをしていた。
 己ももふもふの毛皮をもつ存在ではあるが、ユーベルコード『ボディのゆうわく』をはなつわんこの魅力は、チェチェの気持ちをも揺さぶる。
「おまえ! チェチェのお散歩の邪魔をするということは、悪いヤツだな!」
 愉快な仲間のプリンセスは、長い爪でぴしっと『茶まろわんこ』を指さし、高らかに宣言する。
 玄関の前を阻んでいた『茶まろわんこ』は、きゅぅん?と首を傾げて。
「チェチェの邪魔をしたらどうなるか、思い知らせてやるぞ!」
 プリンセスは虹色の光の蝶の力をかりて舞いあがると、オブリビオンから距離をおいた安全圏に着席。
 執事うさぎにお茶を淹れさせ、優雅な所作でティーカップを傾けはじめた。
 その間に、ユーベルコードによって強化されたメイドうさぎが、わんこの全身を念入りにブラッシングしはじめる。
 このメイドは、日々チェチェの毛並みの手入れをしていた。
 腕前が確かなだけでは、チェチェのお世話は務まらない。
 ――プリンセスの機嫌を損ねぬうちに、いかに手早く仕事を全うするか。
 その手際の良さは、見事なもの。
 当のわんこも、気持ちよさそうに目を細めている。
 メイドは、頭の先から尻尾の先、肉球のそばまで、あっという間に丁寧なブラッシングを施して。
 すっかり毛艶が良くなったところへ、今度はリボンの飾りつけをはじめた。
 もちもちボディを見せつける代償に、わんこは身動きができないでいたから。
 メイドうさぎは己のこころゆくまで――なにしろ、プリンセスはリボンの数は控えめを好まれるので――、大量のリボンをあしらっていった。
 チェチェがお茶を飲み干すころには、メイドの仕事は完了していた。
 執事にティーカップを預け仕上がりを見に近づけば、リボンだらけのわんこは、しっぽを振りながらチェチェとうさぎたちの周囲を駆けまわった。
『わん! わん!』
 わんこの言葉は理解できなかったが、道を阻む意志がなくなったのなら良しと判断する。
「さあ、扉をひらけ。お散歩の続きにもどるぞ」
 命じられれば、うさぎ人形たちは人間サイズのドアノブの上に飛びあがって。
 体重をかけてハンドルを降ろすと、玄関の扉を開いた。
 開いた扉の隙間から、執事、チェチェ、メイドが次の部屋へと歩いていく。
 続いて、リボンだらけのわんこも通り抜けようとしたが、チェチェを追うべく駆けたその姿は、部屋を抜けきる前に、燐光となって消えていった。
 ふいに振り返ったチェチェは、わんこの姿が見えないことをいぶかったが。
「まあいいか」
 すぐに忘れて、先を急いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・シェフィールド
もふもふ、もーふもふー

…はっ、あまりのもふもふもちもちなわんこの姿に、思わず見とれてしまいました。

これはぜひ、もふもふしなくては!
そのためにも、まずわんこを捕まえないといけませんね。

小人さん、お手伝いお願いします♪
【悠久に響く幻想曲】で小人さんたちを呼んで、楽器演奏しながら、ちょこちょこと動き回ってもらいます。
わんこなら興味を持って捕まえにくるんじゃないかな…?

近寄ってきたところと、えいっ♪と捕まえたら、ぎゅっと抱きしめて耳やお腹をもふりたおします。
あんまり乱暴にしないで、優しくもふもふしますね。

もっふもふ~♪
骸魂を祓う破魔の力を込めた歌を歌いながら、わんこが満足するまでもふり続けますね。




 転送先の部屋で待ち構えていたオラトリオのフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は、
「もふもふ、もーふもふー」
 『茶まろわんこ』が現れるなり、わんこの前にしゃがみこみ、笑顔で口ずさんでいた。
 しっぽを振るわんこと、しばし見つめあった後。
「――はっ」
 我に返ったフィーナがわんこから距離を取り、己の頬をぺちぺちと叩く。
「あぶない、あぶない! あまりのもふもふ、もちもちなわんこの姿に、思わず見とれてしまいました……!」
 わんこの使用する『もちもちボディのゆうわく』は、魅了効果の強力な技だが、わんこ自身も動けなくなるデメリットがある。
 しかし対象者によっては、フィーナのように思考がしあわせMAXでフリーズしてしまい、一切の行動をとることができなくなる恐ろしい効果をもたらすようだ。
「わんこのユーベルコードに翻弄されていては、永遠に足止めを喰らいかねません!」
 そうなれば、骸魂に取りこまれた動物妖怪を助けるどころか、『無限の世界』を永遠に彷徨うことになりかねない。
「とはいえ、こんなに可愛いまろ眉わんこです。ぜひとも、もふもふしなくては! ――そのためにも、まずはわんこを捕まえないといけませんね」
 さて、どんな手を使うかとしばし逡巡した後。
「小人さん、お手伝いをお願いします♪」
 ユーベルコード『悠久に響く幻想曲(ファンタジア・エバーラスティング)』を展開し、小人の音楽隊を召喚。
「想いを、響き合わせて……♪」
 現れた楽隊に、わんこの気を惹くよう、部屋中を巡っての演奏を依頼する。
 当のわんこはというと、フィーナの目論見通り、近づいてくる楽隊に興味を示したようだ
 ふんふんと鼻先で臭いを確かめ、楽隊の後をぽてぽてとついて回っている。
 フィーナの存在をすっかり忘れて、こちらにお尻を向けた時がチャンスだ……!
「えいっ♪」
『わふん!?』
 隙だらけの身体をひょいと両手で持ちあげ、そのままぎゅっと両腕で包みこむように抱きしめる。
 最初は驚いて手足をじたばたさせていたわんこも、自分を大切に扱ってくれるフィーナに『誰か』を重ねあわせたのか、大人しくその腕に抱かれていた。
 耳やお腹をもふり倒せば、白茶の毛並みからは、おひさまの匂いがする。
「もっふもふ~♪」
 警戒をといて身を委ねてくれることが嬉しく、フィーナは破魔の力をこめた歌を歌いながら、わんこが満足するまでもふり続けた。
 しっぽを振りながら目を閉ざしたわんこの背を、やさしく撫でてやる。
 小人の楽隊が、子守唄を思わせる楽曲を奏でながら、主とオブリビオンの様子を見守って。
 こんな時が永遠に続いたなら――。
 そう、願いたくなる気持ちもある一方。
 猟兵として、骸魂を骸の海へ還してやらなければ、という想いも強くなる。
 愛らしいわんこを、こんな『無限の世界』に取り残すわけにはいかない。
「おやすみなさい」
 小さくささやけば、わんこは『きゅうん』と鼻先をすり寄せて。
 そうして、フィーナの腕の中で燐光と化して消えていった。
 手の内にのこる、やわらかな感触を思い返しながら。
「……すこしは。力になれたでしょうか」
 フィーナはそう零して。
 新しく現れた扉の先へと、振りかえらずに進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
骸魂だって本当は
幽世で生き続けたかったんだもんな
可哀そうに
せめて心残りがないようにしてやりたいぜ

手段
沢山遊びまくって満足してもう

動物妖怪の解放の為は勿論だけど
ついでに動物妖怪に
好意や愛情を沢山感じてもらいたい

体当たり
受け止めでぎゅっとしたりもふる
破壊された地形は…後で戻る?

追いかけっこ
こっちが逃げたりしてもいいよな
捕まってぺろぺろされたり…可愛いなぁ

ボディ
気のすむまで撫でる
いやー俺も動ないぜ

ギター奏でて元気づけ:UC
まだまだ遊び足りないだろ?


沢山楽しんで
大切な『誰か』との絆や思い出で心が満たされたら
自分達がいるべき場所(ハウス)へ自然と還るだろ

じゃあな(ぐっ

事後
鎮魂曲
海のゆりかごで安らかに




 延々と同じ景色の続く部屋を眺めながら、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は骸魂の出現を待っていた。
(「骸魂だって、本当は幽世で生き続けたかったんだもんな。……可哀そうに。せめて、心残りがないようにしてやりたいぜ」)
 ついでに。
 取りこまれた妖怪の解放がてら、動物妖怪にも好意や愛情をたくさん感じてもらえたなら、とも思う。
「取りこまれた状態の妖怪の意識って、どうなってんだろな……」
 ふいに浮かんだ疑問に思考を巡らせていると、
『キュゥン』
 いつの間に現れたのか。
 1匹の『茶まろわんこ』が、ウタを見あげ、ぱたぱたと尻尾を振りまくっている。
「よーし、来たな! この俺がたくさん遊びまくって、満足させてやる! まずは、追いかけっこだ!」
『わん! わん!』
 わんこはぴょんぴょん飛び跳ねて、走るウタを追いかけはじめた。
 最初は遊びだと思って走っていたウタだが、
『わふーん!』
 勢いに乗せて飛びかかったわんこの体当たりは、よほど力んでいたのか、かなりの衝撃があった。
「グハッ……!」
 初撃を受けとめた時は、その地形破壊効果で部屋の壁が崩壊した。
 壁の穴も、一種の『出口』とみなされるのだろう。
 ぽっかりと穴のあいた先には、やはり、同じ部屋が存在している。
「……この穴は、後で戻……らなさそうだな」
 腕の中のわんこをぎゅっと抱きしめ、瓦礫を払いのければ、わんこはよほど遊んでくれたのか嬉しかったのか、ウタの顔をべろんと舐めた。
「よしよし、可愛いなぁ……。いっぱい撫でてやるからな。俺も、気がすむまで動かないぜ。 ――どっちが先に音をあげるか、我慢くらべだ!」
 わんこの毛並みは、どこをとっても丁寧に整えられていて。
 もちもちボディとあいまって、よほど飼い主に愛されていたのだろうと思われた。
(「たくさん楽しんで。大切な『誰か』との絆や、思い出で心が満たされたら。自分がいるべき場所(ハウス)へ還るだろう」)
 警戒を解いたわんこは、ウタの前でごろんと転がり、お腹を撫でろと甘えてくる。
 指先が埋もれるほどのやわらかな毛並みは、いつしかウタの心も癒していった。
「まだまだ、遊び足りないだろ?」
 風吹くようなギターの旋律を奏でれば、わんこはしっぽを振って、ウタのメロディを楽しんで。
 やがて眼を閉ざし、膝の上で丸くなった。
「……楽しかったか? じゃあな」
 そっと頭を撫で、燐光となって消えていくその姿を見送る。
 ほんのひととき。
 瞬間をともにした存在だったけれど。
「――……いい夢みろよ」
 ウタはしばしの間、消えたわんこのために、鎮魂曲を奏でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
千之助にいさま(f00454)といっしょに。
故あって幼体化しています。あどけない無表情。

わんこかわいいと早速ハグしにいくと千之助にいさまにいっしょに抱っこされる。あったかい。

この部屋から出られないの?
ひとまず、わんこのフリフリ揺れる尻尾を追いかけ回ってみる。こいぬのワルツっていったっけ。

千之助にいさまに何か持ってるか聞いてみる。骨?投げてみてー。わんこが取ってきたらえらいねーと褒めて撫でる。ジャーキー食べるかな?

ひとしきり遊んだら、わんこもう行っちゃう?お持ち帰りしたいけど、さよならだね、ばいばい。


佐那・千之助
ネフラ殿(f04313)、わんこが可愛い…!
って、お小さいネフラ殿も可愛い…!
えっ両方愛でたい

よくばりなので二兎を追う
ネフラ殿とわんこ、共に抱き上げ夢心地
よいこたちかわいい…なんと贅沢…
しかもこの溺れそうなもちふわ具合よ…

ああ。遊び道具も持ってきた
犬用骨の玩具をひょいと投げ
ご褒美をあげる子を見守る
わんことネフラ殿可愛いアンド可愛い…

犬を追いかけっこに誘い
廊下を駆け、玄関を出て、その先へ。
無限に追いかけっこしかねない楽しさ
捕まったら抱っこして、わしゃわしゃ撫でて

大切に懐く面影と、重なったろうか
違っても喜んでくれたら嬉しい
犬といると楽しいだけでなく
なにか純粋な気持ちになれるよう
楽しい時間を有難う…




 わけあって、幼い少女になっていたネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は、連れである佐那・千之助(火輪・f00454)とともに、部屋に出現した『茶まろわんこ』たちを追いかけていた。
「わんこ、かわいい」
 あどけない無表情でぽふん!と1体のわんこをハグすると、さらにその背後から、千之助に抱きあげられた。
 地に足のつかない感覚は、頼りなくも思えたが、
「ネフラ殿とわんこ……。よいこたちかわいい……なんと贅沢……。しかも、この溺れそうなもちふわ具合よ……」
 夢心地の千之助をよそに、抱きしめられたネフラは、まんざらでもなかったらしい。
「あったかい」
 ぽつり呟き、自分自身はわんこの毛皮に顔を埋める。
 ようやくにいさまの抱擁から解放されると、ネフラは次にフリフリ揺れるわんこの尻尾を追いかけはじめた。
 たしか、『こいぬのワルツ』なんて音楽があったっけと、とりとめのないことを思う。
 見ればわんこは出入り口をひとりで開けることができず、部屋の中を行ったり来たりしている。
「わんこ、この部屋から出られないの?」
 見あげ、問いかけるネフラに、
「私たちで、扉をあけてやれば大丈夫だ」
 「追ってくると良い」と告げるなり、千之助は廊下を抜け、玄関を出て、その先の部屋へ。
 無限に続く追いかけっこも、一緒に遊ぶ仲間がいれば、違って感じられるものだ。
『わふん!』
「つかまえた」
 わんことネフラに追いつかれ、千之助は再びよいこたちを抱きしめ、彼らの気が済むまで、やさしく撫でてやった。
「千之助にいさま、何か持ってる?」
「ああ。遊び道具も持ってきた」
 そう言って、千之助がひょいとわんこへ投げたのは、
「……骨?」
 あっという間に骨をくわえて戻ってきたわんこが、ネフラの前にお座りをして。
「えらいねー」
 全身をわしゃわしゃと撫でれば、わんこも甘えるようにその手に身体をすり寄せた。
「ジャーキー、食べるかな?」
 ご褒美をあげるネフラを見守りながら、千之助は紫の眼を細めていた。
(「わんことネフラ殿、可愛い、アンド、可愛い……」)
 ある意味、これもわんこの攻撃のひとつなのかもしれなかったが。
 千之助本人がしあわせそうなので、特に、問題は起こらなかった。

 ひとしきり遊んでやれば、わんこがふわあと大きなあくびをしている。
「わんこもう行っちゃう?」
 ネフラに問われた千之助が頷き、
「大切に懐く面影と、重なったろうか。たとえ違っても、喜んでくれたなら嬉しい」
「お持ち帰りしたいけど、さよならだね。わんこ、ばいばい」
 手を振るネフラに応えるように、わんこは『わん!』と吠えると、燐光と化して消えていった。
 その光が、空気に溶け消えるまで、見送って。
「……犬といると、純粋な気持ちになれるようだ」
 ――楽しい時間をありがとう。
 千之助は胸中で感謝の言葉を告げ、幼いネフラとともに、新しく出現した扉を開き、次の部屋へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
繰り返す部屋が続くのなら、一直線のドッグランにしちゃいましょう!

【WIZ】
玄関も窓も大きく開け放し、小さな家具があれば障害物として設置。
わたしも一緒に走りますが派手にこけそうな予感。
そのまま走ると時々翼が重いし引っかかって……。

走り回ったら[シュタウフェンの魔泉]の湧水をお皿に注ぎます。
お水飲めますか?
座って膝の上などにのせ、あごの下や耳の後ろを撫でます。
ふふ、あなたのお気に入りのかきかきポイントはどこ?

犬は忠誠心の強い生き物といいます。
ご主人様もそんなあなた達が大好きで、そして心配している。

だから、そろそろ眠りましょう?
UC発動[祈りと優しさ、慰め]を込め、安心して眠れる子守歌を[歌唱]。




 ハルア・ガーラント(歌う宵啼鳥・f23517)は、何度か玄関のドアをあけ、同じ部屋を通過して。
『キュゥン?』
 ようやく現れた『茶まろわんこ』を前に、ぐっと拳を握り締め、言った。
「同じ部屋がどこまでも続くのなら、部屋自体を一直線のドッグランにしちゃいましょう!!」
 名案とばかりに、すぐさま思いついたアイデアを行動に移しはじめる。
「ここを、こう。こっちの家具は、こんな風に移動させて……」
 玄関の扉も、窓も。
 可能な限り大きく開けはなし、小さな家具は障害物として、直線上に設置する。
「できました! さあ、一緒に走りましょう!」
 先だって駆け始めれば、
『わんっ、わん!』
 嬉しそうに地を蹴ったわんこが、あっという間に障害物を超えていく。
「わわわ、ま、待って……!」
 慌ててハルアが手を伸べ追いかけるも、背中の大きな翼が壁に当たったり、障害物を超える時に重さを感じたりして。
「もう見えなくなっちゃっ――た」
 ――どすん!
 自分で作ったドッグランだったが、どこに何を置いたかまでは覚えていられなくて。
「あいたたた……」
 盛大につんのめり、顔面を床にぶつけたハルアの頬を、駆け戻ってきたわんこは慰めるように、ぺろりと舐めた。

 運動が終わった後は、水の精霊の祝福を受けた透明なボトル『シュタウフェンの魔泉』の湧水を、部屋の中にあったお皿へ注いだ。
 皿はおそらく、この部屋で飼われていた猫のものと思われたが。
 わんこのために使うなら、きっと、猫も許してくれるだろう。
「お水、飲めますか?」
 問えば、わんこはわき目もふらず水を飲みきり、おかわりまでした。
 お腹がたぷたぷになったなら、
「ふふ、あなたのお気に入りの、かきかきポイントはどこ?」
 わんこを膝の上に乗せ、あごの下や耳の後ろを撫でてやる。
 ころんころんと、己の手にじゃれつくように転がるわんこを見ていると、この存在がオブリビオンであるのを忘れそうになる。
 けれど。
 このわんこの中には、取りこまれた動物妖怪のたましいも存在していて。
「……犬は、忠誠心の強い生き物といいます。ご主人様も、そんなあなた達が大好きで。そして、心配しているはずです」
 ――もしも大好きな飼い犬が、『無限の世界』を彷徨うオブリビオンになってしまったら。
 きっと飼い主も、心配のあまり心穏やかではいられないだろう。
 愛くるしい瞳が、ハルアの眼を覗きこむ。
 ハルアは、うんと頷いて。
「だから、そろそろ眠りましょう?」
 祈りと優しさ、慰めをこめて。
 せめて、やさしい眠りがわんこに訪れるようにと、安心して眠れる子守歌を口ずさむ。
 膝の上のわんこの姿が、燐光と化して、すべて消えてしまうまで。
(「――どうか、旅立つあなたが、寂しくありませんように」)
 己の歌声が、彼の導となるようにと祈りながら。
 やさしい歌を歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

不知火・ミソラ
……俺ぁ、昔のことはハッキリ覚えちゃいねぇんだがよ。
なんとなく、自分を守ってくれて、可愛がってくれた大事な人がいたような、そんな気はしてんだ。
だから、てめぇらの気持ちは分からないでもない。
でもよ、何事もずっとこのままってわけにはいかねーんだ。
相手が定命の人間相手なら尚更な。
じゃれついてくる犬っころのタックルを受け止めたり、腹や顎下を撫でたりして遊んでやりながらふと頭を過るのはどこかの下町、懐かしい街並み、綺麗な夕焼け、魚の焼ける匂い、俺の頭を撫でて「ソラ」と呼ぶ優しい声。
「……俺はてめぇらの大事な人じゃねぇ。てめぇらの大事な人は、何処でもなく、今でもてめぇの頭ン中で笑ってんじゃねぇのか?」




 不知火・ミソラ(火車の獄卒・f28147)は、部屋に現れた『茶まろわんこ』を前に、ぽつりぽつりと、話しかけていた。
「……俺ぁ、昔のことはハッキリ覚えちゃいねぇんだがよ。なんとなく、自分を守ってくれて、可愛がってくれた『大事な人』がいたような。そんな気はしてんだ」
 ただ、そんな気配を憶えているというだけの、頼りない記憶。
 けれど、そんな人も居たのだと、よぎるたびに懐かしく想う記憶でもあって。
「だから、てめぇの気持ちは分からないでもない」
 そう告げれば、ミソラの前でおすわりをし続けていたわんこが、『きゅぅん?』と首をかしげた。
「でもよ、何事も、ずっとこのままってわけにはいかねーんだ。相手が定命の人間相手なら、なおさらな」
 ミソラがそんな言葉を口にする頃には、わんこも待つのに飽きてきて。
『わふん、わふん!』
 袖を引っ張ったり、足にじゃれついたり。
 せっせとタックルを繰りかえすころころとした身体を、ミソラは気が済むまで優しく撫でてやった。
 腹や顎下を撫でれば、特に喜んだものだから。
 生前、こうやって撫でてくれた飼い主でもいたのだろうかと、己の記憶に重ねあわせた。

 ――ふと脳裏をよぎるのは、どこかの下町。
 あたたかなひとの暮らしを感じる街並みは、懐かしく。
 頭上いっぱいにひろがる天上は、綺麗な茜色をしていた。
 風にのせただようのは、魚の焼ける香ばしい匂いで。
「ソラ」
 呼び声とともに頭を撫でる、やさしい声。
 ――いつ、だれのものとも知れない、おぼろげな記憶。

 ふと我にかえれば、わんこはソラにぴったりと身体を寄せて、すうすうと寝息をたてていた。
 その、純粋で無防備な姿に、たまらなくなって。
「……俺はてめぇの大事な人じゃねぇ」
 くしゃりと顔を歪め、うめくように、続ける。
「てめぇの大事な人は。何処でもなく、今でもてめぇの頭ン中で、笑ってんじゃねぇのか?」
 問いかけに応えることなく、わんこの姿は燐光となって消えていった。
 あとには、静まり返った部屋に、ソラの姿だけが取り残されている。
 ソラは、急にいたたまれなくなって。
 くしゃりと、己の髪をかきむしった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f03130/コノハさん

遊んで、と
首を傾げる円らな瞳には
眉尻を下げた私が映っているけれど
ほんとうに逢いたかったのは
誰だったのだろう

無垢な様子は
嘗て大切にされてきた証か

素敵な御主人様だったのでしょうねぇ

目線を合わせて微笑むと
台所から拝借してきた箸を
ゆらゆら揺らしてわんこの気を惹き
唐突に遠くへ放り投げる

何方が早く取れるか勝負ですよ

片目を瞑ってみせたなら
箸を取りに一気に駆け出す
茶まろわんことの追いかけっこ

取られそうになったら
コノハさんに渡して
またまた遠くへ、ぽーい
無限に広がる場所だもの
幾らだって行ける

だけど
ついに取られてしまったなら
ふくふく笑んで
御褒美に毛並みを撫でよう

疲れた時は
馨遙で穏やかな眠りを


コノハ・ライゼ
綾ちゃん(f01786)と

あらカワイイ、し気持ち良さそ
まんまる瞳を覗きこんでもそれ以上慮る様な柄じゃあナイけど
嘗てを想う綾ちゃんの言葉に一つ納得したように頷く

じゃあ、悲しい思いをさせちゃあダメね
誰かが大切にした何かを壊す程、今のオレは野暮じゃないモノ

綾ちゃんの意図を汲めば
箸が投げられると同時駆け出して
本気出さなきゃ簡単に負けそうだから、畳が少し痛む位許してもらいましょーか
受けて投げてと沢山遊んだら
撫でタイムにはもちもちボディもしっかり楽しませてもらっちゃおうかしら
一緒に転がって、疲れて眠くなるまでもふり倒さなくちゃ

うつらうつら、揺らぐコは【虹渡】で包んで
痛みなく、其々が在るべきトコへ送りましょ




『わふん!』
 首を傾げる円らな瞳には、眉尻を下げた都槻・綾(糸遊・f01786)の顔が映っていて。
(「ほんとうに逢いたかったのは、いったい、誰だったのだろう」)
 そんなことを思いながら、同じ部屋に降り立ったコノハ・ライゼ(空々・f03130)の様子を見やる。
「あらカワイイ、し気持ち良さそ」
 わんこのつぶらな瞳に、特徴的なメッシュの髪が映りこみ、瞬く。
「無垢な様子は、嘗て大切にされてきた証か。さぞや、素敵な御主人様だったのでしょうねぇ」
「じゃあ、悲しい思いをさせちゃあダメね。誰かが大切にした何かを壊すほど、今のオレは、野暮じゃないモノ」
 そう告げるコノハに、綾が目線をあわせて微笑むと、
「何方が早く取れるか、勝負ですよ」
 台所から拝借してきた箸を、わんこの前でゆらゆらと揺らして。
 気を惹いてみせたかと思うと、唐突に遠くへ放り投げた。
 片目を瞑ってみせる綾の意を汲み、真っ先に駆けたのはコノハだ。
「本気出さなきゃ簡単に負けそうだから、畳が少し痛む位、許してもらいましょーか」
 つま先できゅっとブレーキをかけ、落ちてきた箸をキャッチ!
 ふふっと笑みを浮かべ、わんこを見やる。
 追いついてきたわんこも、ぴょーんとコノハに飛びかかれば、
「ほら、綾ちゃん!」
 呼び声に駆け寄った綾が箸を受け取り、軽やかな足取りで駆け、次なる部屋の扉をひらく。
 開けても、開けても、駆け抜けても。
 繰りかえし同じ部屋があらわれ、通りすぎてゆく。
 けれど、こうして遊んでいる今ならば。
 その在り様も、せつなくは映らなくて。
 ――無限に広がる場所だもの。幾らだって行ける。
 幾度目かのやりとりの末に、わんこもルールを理解したらしい。
 ふたりの呼吸を読みとったかと思うと、
『わうんっ!』
 飛び交う合間を縫って、見事にキャッチしてみせた。
「ついに取られてしまいましたか」
 ふくふくと笑む綾が、御褒美とばかりに、茶白の毛並みをたっぷりと撫でた。
「オレもご褒美に、もちもちボディをしっかり楽しませてもらっちゃおうかしら」
 二人の手が気持ちよかったのだろう。
 わんこはころころとお腹を見せると、やがてふわあと大あくびをしはじめた。
「神の世、現し臣、涯てなる海も、夢路に遥か花薫れ――」
 綾が『馨遙(ユメジコウ)』で、穏やかな眠りへといざなえば、
「うつらうつら揺らぐコは、【虹渡】で包んで送りましょ。――痛みなく、其々が在るべきトコロへ」
 コノハが淡く広がる虹の帯をひろげて、わんこを包みこんだ。
 七色のひかりに溶けるように、わんこの身体が燐光をはなち、消えていく。
 その道行を、静かに見守る綾の側で、コノハは言った。
「――じゃあネ」
 きっと、憂いも痛みもなく。
 虹の先で、最愛のひとに逢えますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
……犬。
君は犬だね。
失礼、君の名前は?

嗚呼。遊びたいのかい?
私で良ければ一緒に遊ぼう。
しかし、私は遊び方が分からない。
君たちはどうしたら喜んでくれるのだろうね。

……君は、その、とてももちもちだね。
いつの間に、こんなにもちもちになったのかな。
嗚呼。撫でてくれと言わんばかりに待機をしているではないか。

なるほど、そうやって遊べば良いのだね。
それでは失礼して……。
思っていた以上にもちもちだ。
一体何を食べたらこのようにもちもちな身を手に入れる事ができるのだろう。

ずっとずっと遊ぶ事はできないよ。
私には帰る場所があるからね。
けれど、君が満足するまで遊ぼうか。




 部屋のど真ん中に膝をつき、榎本・英(人である・f22898)はまじまじとその存在を見つめていた。
「……犬。君は、犬だね」
 特徴的なまろ眉に、茶白の毛並み。
 潤むようなまんまる瞳が、英を見あげている。
「失礼、君の名前は?」
『わふ!』
「そうか。『わふ』というのか」
『わふん!』
 わんこが千切れんばかりにしっぽを振っているところを見ると、意外と会話が成立しているのかもしれない。
 わんこは英の足にじゃれつくと、しきりに飛び跳ねて見せた。
「嗚呼。遊びたいのかい? 私で良ければ一緒に遊ぼう。――しかし、私は遊び方が分からない。君は、いったいどうしたら喜んでくれるのだろうね」
 思案し始めた英の前で、わんこはお行儀よくお座りをして。
 その合間に、己の身体を『思わず撫でたくなるもちもちボディ』へと変化させた。
 撫でてくれと言わんばかりに待機をしている様に、さすがの英も理解して。
「……なるほど、そうやって遊べば良いのだね。それでは失礼して……」
 そっと触れれば、くせになるような魅惑の感触が指先を伝う。
「これは……。思っていた以上にもちもちだ。一体、何を食べたらこのようにもちもちな身を手に入れる事ができるのだろう」
 犬の毛並みについて語れるほど触れてきたわけではないが、これほど惹かれる手触りは初めてと言っても過言ではない。
 これがユーベルコードによってもたらされたものであり、この愛くるしい存在がオブリビオンであるという事実もまた、英を驚愕させた。
 ともあれ。
 正体がなんであれ、ここにあっては、ただの犬だ。
 遊びに誘うべく袖を引くわんこの頭を包み込むように撫でながら、英は淡々と語りかけた。
「ずっとずっと、遊ぶ事はできないよ。私には、帰る場所があるからね」
 けれど、この犬にはそういった場所がない。
 居場所もなければ、待ち人さえもいないのだ。
 どんなに望んでも、永遠に――。
 なればこそ、己が此処にやってきた意味もあるだろう。
 わんこが寂し気に尾を垂れるのを見やり、英は詫びるように言った。
「けれど、もうしばしなら猶予はある。……君が満足するまで、こうして遊ぼうか」
 『誰か』との想い出に至り、君が消えゆく、その時まで――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬河・辰巳
可愛いわんこと全力で遊べるとはなんと俺得……まって、フロッケ、呆れた顔しないで。出れなくていいなんて、ほんのちょっとしか考えなかったから。

幻影の犬や猫を呼ぶね。皆で追いかけっことかした方が楽しいし。もちろん隙あらばもふるよ。
「それにしても良きもちもち具合だね。撫でてもいい?」

離れ離れになって寂しくなるのは俺達も同じ。一緒に過ごせる時間は大切にしないとね。平和におさめるためにも、少しでもこの子達が楽しい時間を過ごせるよう頑張るよ。

※アドリブ等歓迎です。




 偵察がてら見回った部屋は、グリモア猟兵が言っていたように、延々と同じ部屋が続く無限空間になっていた。
 しかし、そんな異空間も、一匹の犬がいるだけで違ったものになる。
 そう、特に、瀬河・辰巳(宵闇に還る者・f05619)の前では。
『キュゥン!』
 つぶらな瞳で見あげるのは、オブリビオンであることなど間違いではないかと思えるほど愛らしい『茶まろわんこ』だ。
「可愛いわんこと全力で遊べるとは、なんと俺得……」
 現れたわんこを前に、ぐっと拳を握り締めれば、
「……」
 ふわふわ毛並みの真っ白な犬が、主の横で「あーあ」という顔をした。
「まって、フロッケ。呆れた顔しないで。こんな部屋ならずっと出られなくていいなんて、ほんのちょっと……、ちょっとしか考えなかったから……!」
 ――弁解はさておき。
 このわんこが寂しい思いをしているというなら、一匹でも多くの遊び友達が居た方が良いだろう。
「助けてくれる子、この指とまれ」
 辰巳の呼びかけに集まったのは、ユーベルコード『森のお助け部隊(モフモフヘルプ)』で召喚した、幻影の犬や猫たちだ。
「どうせなら、皆で追いかけっことかした方が楽しいし」
 そうしている間にも、わんこは幻影の犬猫に興味を示し、すぐに打ち解け、追いかけっこを始めた。
 玄関の扉や、窓を開ければ、繋がった部屋の先まで駆けまわって、ちょっとした運動会状態だ。
 サモエドのフロッケは、そんな仲間たちを見守るように、辰巳の側に佇んでいて。
 遊び疲れたわんこが足にじゃれついてきたなら、もちろん、もふるのも忘れない。
 背中を大きく撫でれば、フロッケとはまた違った手触りに驚く。
「良きもちもち具合だね。もっと撫でてもいい?」
『わおん!』
 大歓迎!とばかりに身体をすり寄せるわんこを、辰巳は気が済むまで撫でてやった。
 手のひらから伝わるやわらかな感触に、フロッケとの違いを想う。
「離れ離れになって寂しくなるのは、俺達も同じ。一緒に過ごせる時間は、大切にしないとね」
 そうつぶやけば、それまで距離を置いていたフロッケが、そっと辰巳の足元に佇んだ。
「さあ、フロッケ。少しでもこの子達が楽しい時間を過ごせるよう、もう少し、頑張ろうか」
 そう告げるなり、ひとりと一匹も、犬猫たちの大運動会に加わって。
 たっぷり遊んで疲れたわんこは、大満足の表情で、燐光となって消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

暁・紅華
【ノネちゃん(f15208)と】

オブリビオンとはいえ、できる限り戦いたくなく、かと言って一人ではどうしようもなさそうでノネちゃんにもついて来てもらったが……猫って言葉につられて来てみたら、なんだ犬か……。

ノネちゃんに呼びかけられ、犬のつぶらな瞳に見つめられ、そっと頭をなでてみる。回復要員も同伴してるし、血液でボールでも創ってみるか。それ、とってこーい!

……拾って戻ってきてくれねえ!ノネちゃんの方へ走る姿を見て愚痴をこぼす。てか、ノネちゃん速すぎ。

これは俺もまざるか。

全員へとへとになるまで走って、昼寝の流れに。
……、犬(クッションとして)も悪くねぇかもな。


ノネ・ェメ
【紅華さん(f14474)と】

 猫って言葉につられた紅華さんにつられて来てみたら。わんこ~~! 来てみた甲斐ありましたね~~!(温度差に気づいたら)アレ?

 最近わんことふれあえる機会増えた気がする。こうしてふれあってると、UDC二大ペットの地位が揺るぎないのも頷けるというもの、かな。ね、紅華さん。……。ねね、紅華さん。ね~ね~クレさ~ん。(わんこアピール)

 全力で抱きつき合う鬼ごっこなんかもいいですね。捕まえる毎にしばしご褒美、みたいな。失敗でもUCの強化になるし。
 ぉゃ。速く動くノネに、皆つられて来ちゃった? ……紅華さんも来た??

 全員の体力が尽きればお昼寝にもちこんで、常時もふもふ、と。




 ――『猫』、という言葉につられて来てみたら。

「なんだ、犬か……」
「わんこ~~! 来てみた甲斐ありましたね~~!」
 声を発したふたり――暁・紅華(流浪の吸血鬼・f14474)とノネ・ェメ(ο・f15208)が、互いの温度差に「アレ?」と思わず顔を見合わせる。
 依頼に誘ったのは紅華であったが、一段とテンション高く『茶まろわんこ』を迎えたのは、ノネの方だった。
『きゅぅん?』
 彼らの眼前には、ちょこんと鎮座する1匹のまろ眉わんこが出現している。
 最近、犬と触れあう機会が増えたように感じると、ノネはすかさずもちもちのボディを撫で倒しはじめた。
 手触りだけではない。
 つぶらな瞳でひとに寄り添う、健気なその姿。
「こうしていると、UDC二大ペットの地位が揺るぎないのも頷けるというもの、かな。ね、紅華さん。……ねね、紅華さん。ね~ね~クレさ~ん」
 この流れ、この状況下にあって、わんこに触れることを拒否する選択肢があろうか。
 いや、ない(反語)。
 よくよく見てみれば、わんこなる存在もなかなかどうして、愛らしいものだ。
(「回復要員も同伴してるし、血液でボールでも創ってみるか」)
 単純な思いつきではあったが、まさか自身の血液で動物のための玩具を作ることになろうとは。
 紅華は創った血液ボールを振りかぶって、投げた!
「それ、とってこーい!」
 ボールは良く飛び、ふたつ先の部屋あたりまで飛んでいったが。
『わん、わふん!』
 わんこは途中までボールを追いかけていたものの、ノネの姿を見るなり、急旋回。
 早々に次なる遊びにかかっていたノネへ、一直線に駆けて行った。
「全力で抱きつき合う鬼ごっこなんかも、いいですね! 捕まえる毎にしばしご褒美、みたいな。失敗でも、ユーベルコードの強化になるし」
 「今やりましょう、すぐやりましょう!」と、走りだしたノネを、わんこが追いかけていく。
「俺のボールは、拾ってすらしてくれねえ!! ――てか、ノネちゃん走るの速すぎ」
 ノネの方へ駆け寄る姿を見て愚痴をこぼせば、奮闘しているのが馬鹿馬鹿しくなってきて。
「これは、俺もまざるか……」
 ノネ、わんこに続いて、紅華も一緒になって走り始めた。
「ぉゃ。速く動くノネに、皆つられて来ちゃった? ……紅華さんも来た??」

 ――それから。
 結局、全員の体力が尽きるまで、延々と続く部屋を走り抜けた。
 ほかにも多くの猟兵がこの依頼を受けていたようだが、ここまで部屋を巡った猟兵は他にはいないだろう。
 わんこがあくびをして、くるんと身体を丸めたのを見やって。
「この時を待っていたんですよ~~~! 常時もふもふ!!」
 ノネがごろんと、部屋に身体を横たえる。
 体力の限りは知り尽くした紅華も、わんこを挟むようにして、寝転んだ。
 この、同じ天井を。
 かつての猫と飼い主も、一緒に見たのだろうか。
「まあ、あれだ……。犬(クッションとして)も、悪くねぇかもな」
 しばしの昼寝を楽しむべく、ふたりが眼を閉ざして。
 ふたたび眼をあけた時には。
 わんこの姿は、燐光と化して消えた後だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
大切な人がいなくなった悲しい気持ちは痛いほどわかるわ
置き去りにされる孤独
恋人がいなくなって三年
生死もわからない
もう会えるはずないって頭ではわかってるのに
可能性を捨てきれなくて

いなくなった人を待ち続けているのはこの状況と同じなのかもしれない
出口なんてなくて
自分から前に進むこともできなくて

あなたたちも忘れえない誰かとの大切な思い出があるのね
あたしはその記憶さえ失いそうで怖いの
ひとりは寂しいわよね
あたしも同じよ

わんこたちを撫でたり抱きしめたりしながら
遊び相手を務めるわ

ずっと遊んでいたいけど
もう行かなくちゃ
あたしも気持ちの出口を見つけるわ
優しい思い出とともに温かな眠りを
また素敵な人と巡りあえますように




(「大切な人がいなくなった悲しい気持ちは、痛いほどわかるわ」)
 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)はからっぽの部屋を眺めながら、胸中でひとりごちていた。
 西日が射しこむ部屋は、どこか哀愁を感じさせて。
 ――恋人がいなくなって、三年。
 生死もわからない。
 もう会えるはずはないと、頭では理解しているのに。
 『もしも』の可能性を、捨てきることが、できなくて。
 置き去りにされた孤独に苛まれながら、これまでの時間を生きてきた。
 だから、目の前に『茶まろわんこ』が現れた時、どこか親近感を感じたのだ。
「いなくなった人を待ち続けているのは、今の、この状況と同じなのかもしれないわね」
 出口なんてなくて、自分から前に進むことも、できなくて――。
『キュゥン?』
 首を傾げたわんこの前に膝をつき、エリシャは金の瞳を細めた。
 無邪気に足にじゃれつく姿に、エリシャ自身の心も、ほどけるように癒されていく。
 わんこの瞳が追い求めているのは、一体誰の面影なのか。
「あなたにも、忘れえない、誰かとの大切な想い出があるのね」
 そっと頭を撫でれば、わんこは気持ちよさそうに、眼を細めて。
 その表情が、笑っているように見えたものだから。
 エリシャは思わずわんこを抱きあげ、己の腕に包み込んでいた。
「……あたしは、その記憶さえ失いそうで怖いの。ひとりは寂しいわよね。あたしも、あなたと同じよ」
 指先から伝わる、このあたたかな存在がオブリビオンなど、どうして思えようか。
 しかし、彼らはいのちを終え、想いにとらわれたからこそ、この『無限の空間』に居るのだ。
 撫でたり、抱きしめたりをくり返しながら、エリシャはわんこの遊び相手を務めた。
 おとなしい性質のわんこだったのだろう。
 駆けまわることがなくとも、わんこはずっと、エリシャの言葉に聞き入っている様子で。
 同じ時を過ごせば過ごすほど、別れの時が辛くなる。
「……ずっと遊んでいたいけど、もう行かなくちゃ」
 まるで、ひとの出会いと同じだと感じながら、エリシャはそっと、わんこに口づけを落とした。
「あたしも、気持ちの『出口』を見つけるわ。どうか、優しい想い出とともに、温かな眠りがありますように」
 右掌にある、星型の聖痕。
 そこから聖なる光をはなち、エリシャはわんこをまどろみの淵へと誘うと、ひとときの安らぎをもたらすべく祈った。
 かつて、聖女エステルが善人、悪人に限らず、等しく安らかな眠りを与えたという『聖エステルの秘蹟(アストルム・サクラメントゥム)』。
 古の神秘が、この愛くるしいいのちを、導いてくれることを願って。

 ――あなたが、ふたたび。素敵な人と巡りあえますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナ・ステラ
アドリブ&絡み等OKです!

白猫さんの切ない願いが、世界の滅亡のきっかけになるといったのは何とも言えない気持ちになりますね...
それに、ご主人様は白猫さんにいつまでも無限の世界を彷徨ってほしいとは思っていないような気がします...
どうするのがベストなのでしょうか?

白猫さんの前に、かわいいわんこさんたちの相手ですね!
遊んで満足させないといけないのですね...
【動物と話す】ことで『誰か』の情報を聞き出し、どんな遊びを希望しているのか聞いて遊びましょうか。

わたしのできる範囲のことはしますけど、わたしはその『誰か』にはなれませんし、ずっと一緒に居てあげることもできませんが、全力で遊びましょう!




 扉をひらいても、同じ部屋。
 また次の玄関をひらいても、同じ部屋。
「白猫さんの切ない願いが、世界の滅亡のきっかけになるというのは……。何とも言えない気持ちになりますね……」
 次の扉を開けようとして、思わず手を引き戻してしまったルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)が、ぽつりと呟く。
 ――どこまでも同じ景色が続く、『無限の世界』。
 ここはどうやら、その白猫と飼い主が暮らしていた部屋らしい。
 しかし、だれも居ないからっぽの部屋には、暮らしの痕跡こそあれ、ぬくもりは感じられなくて。
「きっとご主人様は、白猫さんにいつまでも無限の世界を彷徨ってほしいとは、思っていないような気がします……。一体、どうするのがベストなのでしょうか?」
 ひとりごちたところで、応えてくれる声はない。
 場合によっては、同じ部屋に転送された猟兵たちも居たのかもしれないが。
 少なくともルナは、今現在、ただのひとりでこの空間に佇んでいる。
 これ以上先を行く気にもなれず、来た道を戻ろうとした、その時だった。
『わふーん!』
 いつの間に現れたのか。
 振りかえったルナの視線の先に、茶白の毛並みをした、『茶まろわんこ』が佇んでいた。
 グリモア猟兵の言っていた通りであれば、このわんこは遊んでやれば満足して消えていくという。
「白猫さんの前に、かわいいわんこさんのお相手ですね!」
 そう意気込んではみたものの、実際に遊ぶとなると、何をしたら良いのか思いつかない。
 ならば、当の本人に聞いてみるのが良いだろうか。
 ルナはわんこと話をするべく、その前に座り込んだ。
「こんにちは、わんこさん!」
『こんにちは! ねえねえ、ぼくと一緒にあそぼうよ!』
「はい、いいですよ。……でも、教えてくれませんか。わんこさんは一体、どんな遊びを希望していますか?」
『どんなことでもかまわないよ! ぼくは、ひとの話を聞くのがすきなんだ』
「これまで一緒に過ごしてきた人――『誰か』と、そうやって過ごしてきたんですか?」
 問いかければ、わんこはう~んと首をひねって。
『ずっと想いだそうとしているんだけど、はっきりと想いだせないんだ。ただ、僕はそのひとの話をきいて、いつも一緒に、日向ぼっこをしていた気がするんだ』
 ルナは頷き、それなら、と続けた。
「わたしにできる範囲のことはしますけど、わたしは、その『誰か』にはなれません。ずっと一緒に居てあげることもできませんが……。一緒に居られる時間は、せめて全力で遊びましょう!」
 そうして、『誰か』の物語を聞きつづけてきたというわんこは、ルナの語る星や月に関する魔法。
 あるいは、失敗の証として落ちてくるたらいの話を興味深く聞きながら、最期には、燐光と化して、跡形もなく消えていった。
 悲しみが胸をよぎるけれど、立ちどまってもいられない。
 この部屋で暮らしていた白猫も。
 きっと、逢えることのない主を、ずっとずっと、待っているのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

海月・びいどろ
この小さくて、それが全ての箱庭で
ずっと、終わらない夏を願っている

…それは、ほんとうにきみが望んだことなの?

愛くるしい声で鳴く、もちもち魅惑のボディ
ふわふわ、もちもち、したくなるけど…
きみが撫でて欲しいひととは、きっと、違うから
ボクは、行かなくちゃ

ぷかり、周りに浮かばせた海月の機械兵士たちを
じゃれるように、わんこの前に泳がせて
あっちだよ、こっちだよ
迷彩で目立たなくして、消えたり、見えたり
たくさんたくさん遊んだら
きみが逢いたいひとのところへ行けるように、いのるよ

せかいと、たいせつなひと
天秤にかけるまでもなく
いちばんを選べたら、どれだけ
……しあわせなことだろう、ね




 その部屋の窓の外では、夜が訪れようとしていた。
 海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)が、窓の外の星をみあげる。
 ちかちかと瞬くその光は、この『無限の世界』でも在り様が変わることはなくて。
 プリズムのごとき彩りをはなつ髪をさらりなびかせ、眼前にあらわれた『茶まろわんこ』へと、言葉を投げる。
「この小さくて、それが全ての箱庭で。ずっと、ずっと、終わらない夏を願っている。…それは……、ほんとうにきみが望んだことなの?」
 ふかふかの茶白の毛並みに、愛くるしいつぶらな瞳。
 覗きこめば、だれもが虜になってしまうような――。
『きゅぅん?』
 首を傾げたところを見ると、びいどろが何かしら己に向かって言ったのだということは、認識しているらしい。
 しかしその声は、問いへの答えにはならなくて。
 ――愛くるしい声で鳴く、もちもち魅惑のボディ。
 あそんでとせがむように、びいどろのつま先にじゃれついてくる。
「ふわふわ、もちもち、したくなるけど……。きみが撫でて欲しいひととは、きっと、違うから。ボクは、行かなくちゃ」
 ここで同じ時を過ごせば過ごすほど、きっと、箱庭に心を残してしまうから。
 ぷかり、周りに浮かばせた海月の機械兵士たちを、わんこの前に泳がせる。
「ほら、あっちだよ、こっちだよ」
 ふわふわ、ゆらゆら。
 迷彩で目立たなくして、消えたり、見せたり。
 ゆるやかなダンスを踊るように、わんこは飽きることなく、海の月と遊び続けた。
(「たくさんたくさん遊んだら。きみが逢いたいひとのところへ行けるように、いのるよ」)
 それまでは、もう少しだけ。
 月下の舞踏会をたのしんでいよう。
 この、終わりのない箱庭の世界で。
「せかいと、たいせつなひと。天秤にかけるまでもなく、いちばんを選べたら。それは、どれだけ……しあわせなことだろう、ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
"遊んでほしい"、ですか……
円らな瞳が可愛いけどちょっと戸惑ってしまった
私、動物に逃げられるタイプでしてね……
触れ合い方をあまり知らないんですよ
多分この姿が擬態だって見抜いてるんでしょう
この姿自体が不気味なのもあるのかな

……怖がって逃げたりしませんかね
(座り込んで、じぃっとわんこ見つめ)
(そっと手を伸ばしてみる)

(頭ポフッ)
(ナデナデ、モフモフ)
(ヨォシヨシヨシ)

……可愛い。

わんこを抱いて自分の膝に乗せてみる
歌を口遊みながらナデナデし続けてみます
多分服も包帯も毛だらけ
これは後で洗濯が大変そうだな……

――ずっと遊びたい?
……ダメだよ
閉じ籠った儘じゃ、本当に会いたい人には会えない
だから行かないと




 『無限の世界』にある、部屋の中で。
 ひとりと一匹は、じっと見つめあっていた。
「『遊んでほしい』、ですか……」
 己を見あげるもふもふの生き物を見やり、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は思わずうめいた。
 つぶらな瞳が愛らしいものの、戸惑いを隠せず、思わず半歩、後ずさる。
「……私、動物に逃げられるタイプでしてね……。触れあい方を、あまり知らないんですよ……」
 言い訳のようにそう告げるも、『茶まろわんこ』はお構いなしにスキアファールの周囲を駆けまわった。
『わふ! わふ!』
 したぱたと尻尾を振る様子には、こちらを恐れるそぶりはまるで見えない。
(「しかし、わんこの姿とはいえオブリビオン。多分、この姿が『擬態』だってことは、見抜いてるんでしょう。……この姿自体が、不気味なのもあるのかな」)
 ――スキアファールの正体は、通称『影人間』。
 ゆえに、頭以外の肌を黒い包帯で覆い、ラフな服で身を包み、人間のように見せかけている。
「……怖がって逃げたりしませんかね」
 座りこんで、じぃっとわんこを見つめて。
 おそるおそる、手を、伸ばしてみる。
 ――チョン、チョン。
 包帯に包まれた指の先で、頭の上をひと撫で。
 わんこが嫌がらないのを確認し、今度は、手のひらを寄せて。
 ――ポフッ。
 乗せた手が心地よかったらしい。
 わんこはスキアファールの手のひらに、自ら頭をぐりぐりと押し付けてきた。
 なぞの感動が胸中に沸きあがり、スキアファールは無言のまま、今度は両手を使ってわんこの頭や首回りを撫でてやった。
(「ヨォシ、ヨシヨシ」)
 わしわしと身体を撫でれば、わんこはそのたびに嬉し気に跳ねた。
「……可愛い」
 先ほどよりも確かな感動が、胸に押し寄せる。

 ――自身が『怪奇』である事を、忘れてはならない。
 ――『人間』を謳歌するために、あえて怪奇を残すのだ。

 とはいえ。
 怪奇の身体が動物たちに不人気であったことは、少なからず寂しく思っていたわけで。
 ここぞとばかりにわんこを抱きあげ、自分の膝上に乗せてみる。
 わんこがしっぽを振る様子に、スキアファールの口元がゆるんで。
 言葉に言い表せない喜びが、歌となって部屋に響いていく。
『わふん、わふん、わふ~ん♪』
 歌うわんこを撫で続けるうちに、服も包帯も、毛だらけになっていたけれど。
「これは、後で洗濯が大変そうだな……」
 こぼすスキアファールの相好は、すっかり崩れきっていた。
『わん! わん!』
 寄り添い続けてくれるスキアファールへ向け、わんこはもっと遊ぼうとせがむ。
「――ずっと遊びたい?」
 それも良いかもしれない。
 ふと、そんな想いもよぎるけれど。
 スキアファールは心を鬼にして、膝の上のわんこを抱きあげ、元居た床へと座らせた。
 その眼前に膝をつき、そっと、顎を撫でてやる。
「……ダメだよ。閉じ籠ったままじゃ、本当に会いたい人には会えない。だから、行かないと」
 「わかるね」と問えば、『わふん!』と元気のいい返事が返って。
 先ほど一緒に歌った歌を、スキアファールが口ずさむ。
『わふん、わふん、わふ~ん♪』
 わんこはそうして、歌いながら。
 燐光と化して、静かに、消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
力一杯遊んでやるっす!
球をもってきたっす!(シマエナガ風の白球)
そおれ、とってくるっす!
たっぷり用意した球を次々投げてやる
とってこれたらめっちゃこ撫でて褒めてやるっす!
良くできたっす!えらいっす!
いい毛並みっすね、もっふもふっす!
で、撫でに飽きたらまた球を投げてやるっす!
とってくるっすー!

ここは無限の部屋、出口のない部屋

実は、解ってるんじゃないっすか
誰かは俺じゃないっす
ここには居ない誰かっす

留まっちゃダメなんっす
待ってるだけじゃダメっす
自分で会いに行かないと会えないっす
それは元の主じゃないかもしれないっす
でもきっと『大事な人』っす

香神写しで増やした武器で球を追い俺から背を向けている時に討つっす




 『茶まろわんこ』に出会うなり、香神乃・饗(東風・f00169)は持参していたシマエナガ風の白球を取りだし、言った。
「球をもってきたっす! 力一杯遊んでやるっす!」
 その言葉に、まろ眉わんこの耳と尻尾が、ぴんとまっすぐに張り詰めて。
 饗が大きく振りかぶって――、
「そおれ、とってくるっす! とってこれたら、めっちゃこ撫でて褒めてやるっす!」
 たっぷり用意した球を次々投げれば、わんこは目にもとまらぬ速さで部屋中を駆け回った。
『わん、わん! わうん!』
 白球をくわえ饗の元に運び戻れば、
「良くできたっす! えらいっす! ――って、いい毛並みっすね、もっふもふっす!!」
 わんこのためのご褒美で撫でたつもりが、逆に、饗がすっかり魅了されて。
 はた、と気づき、お行儀よくお座りをするわんこの頭を撫でる手を止めた。
「あまりの癒し効果に、このまま虜になるところだったっす……! また球を投げてやるっす! とってくるっすー!」
 饗が投げて、わんこが取って戻る。
 何度も、何度も。
 まるで『無限の世界』の部屋のように、同じ遊びを繰りかえす。
 ――ここは無限の部屋、出口のない部屋。
『わふん! わふん!』
 わんこは飽きもせず、また饗の前に白球を置いて、『きゅぅん』と鳴いてみせた。
 ――もっと、もっと! 一緒にあそぼうよ!
 白球を投げる手を止めて。
 饗は困ったように眉根を寄せ、わんこを見やった。
「実は、解ってるんじゃないっすか。『誰か』は、俺じゃないっす。ここには居ない、誰かっす」
 その言葉を、理解してはいないのだろう。
 わんこは饗の足元にじゃれつき、白球を持つ手に向かって、何度も何度も、ジャンプする。
 饗はわんこの前にしゃがみこみ、二本の前脚を握り締め、手を繋ぐようにしながら言いきかせた。
「ここに留まっちゃダメなんっす。待ってるだけじゃダメっす。自分で会いに行かないと、会えないっす。……それは、元の主じゃないかもしれないっす。でも、きっと『大事な人』っす」
『わんっ! わん!』
 ひときわ大きな返事をして、わんこが饗の顔をぺろんと舐めた。
 手のひらの白球を見せれば、やっぱり、投げてとせがんだから。
 饗はわんこの頭にぽんと手を乗せると、立ちあがるなり、渾身の力で白球を投げた。
 白球が飛んでいく。
 わんこの背が、遠ざかる。
「一つが二つ、二つが四つ、香神に写して数数の――」
 ちいさな背に向け、複製した苦無(くない)を投げはなつ。
 ――せめて苦しく無いよう、一息に。

 そうして。
 床に落ちた白球を追いかけるわんこの姿は、もう、どこにもなく。
 饗は消えゆく燐光を見送り、そっと眼を閉ざした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴久名・紡
出口がない、ってのは良い事なのか悪い事なのか
まぁ、余り良くないのは判るんだけど

ひとまず、この茶色いのを満足させればいいのか


……
………

っと、思わず見つめ合ってしまった
よし!こい!!
(両手がばっ!と開いて全力受け入れ態勢を示し)

いぬだなぁ……
わしゃわしゃ!なでなで!わっしゃわしゃ!しつつ

葬焔をボールに形状変化させてぶん投げる!
よっし!とってこ……ぃ、言い終わる前に全力ダッシュ、だと?
え?どんだけ遊んで欲しかったんだろう……

わわ、判った判った
お前の気のすむまで遊んでやるよ
どうせ出口はないんだしな?

わんこが満足するまで阿蘇に尽くしたら
棍棒状態に戻した葬焔でフルスイング!
悪いな?妖怪共は返してくれな!




(「――出口がない、ってのは良い事なのか、悪い事なのか」)
 果てなく続く部屋を見やりながら、鈴久名・紡(境界・f27962)は胸中でひとりごちる。
 一見、よくある部屋の情景に見えて、ひとの気配の消えた空間は、やはり異質でもあって。
「まぁ、あまり良くないのは、判るんだけど」
 そうつぶやき、足元にちょこんと鎮座する『茶まろわんこ』を見おろす。
「ひとまず、この茶色いのを満足させればいいのか」
『きゅぅん?』
 呼んだ?とでもいう風に、わんこが首を傾げる。
 ちいさな身体の前に膝をつき、つぶらな瞳を覗きこめば、紡の藍色の瞳が映りこんで。

「……」

『わふ、わふん!』

「…………」

『わん! わわんっ!』

「………………」

 ――ぺろん!

 わんこに顔を舐められて、ハッと我に返る。
「――っと、思わず見つめ合ってしまった……!」
 恐るべきわんこの魔力を前に、紡は早くも魂を奪われかけていた。
 気を取り直し、がばっと両腕を広げてみせる。
「よし! こい!!」
 全力で受け入れ態勢を示せば、わんこも意を察し、ぴょーんと跳躍!
『わふーん!』
 綺麗な弧を描いて、紡の胸に飛びこんだ。
 傷つけないよう両腕で優しくキャッチし、もふもふの毛皮を堪能する。
「ああ、いぬだなぁ……」
 わんこがもみくちゃになるほど、わしゃわしゃと全身の毛を撫で尽くして。
 すっかりリラックスしたわんこには見えぬ死角で、黄泉路をしめす漆黒の鬼棍棒――『葬焔』をボール状に形状変化させる。
 そして。
「よっし! とってこ――……ぃ!?」
 ぶうんと腕を振りかぶりった瞬間、ぐでんと身体を横たえていたわんこが跳ね起きると、驚くほどの速さで駆けだした。
「い、言い終わる前に全力ダッシュ……、だと?!」
 衝撃を受けている合間に、わんこはボールをくわえて戻ってきた。
 したぱたと尾を振り、もう一回!と紡の脚にじゃれつき、せがむ。
「どんだけ遊んで欲しかったんだろう……。っと、判った判った。お前の気がすむまで遊んでやるよ。……どうせ、出口はないんだしな」
 そうして、わんこが遊びつかれて、横になったころ。
 紡はその身体を抱きしめ、最後にひと撫で。
 棍棒状態に戻した『葬焔』を見やり、唇を引き結んだ。
 ――この鬼棍棒なら。オブリビオンにも、黄泉路を示すことができる。
 わんこの姿は愛らしく、いつまでもそばに居たいと思わせるけれど。
 その本性は、『過去の残滓』。
 世界に染みだし、崩壊を呼び寄せるもの。
 このまま、置いておけはしないのだ。
「悪いな? 妖怪共は、返してくれな……!」
 痛みも感じぬ間に逝けば良いと。
 渾身のフルスイングが、わんこの身体を打った。
 ふわふわの身体は、一瞬にして、ただよう燐光に変じて。
 いつの間に出現したのか。
 新たな扉が、紡を誘うように、キィと軋み、ひらいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
私の記憶の中には、たくさんの方がいらっしゃいます
誰かとの大切な記憶を忘れたくないという方も、忘れられることが怖いという方も
…私も、忘れたくないと願ってしまったことがあります
ですから、きっとあなたのその思いも正しいのでしょう
私はあなたの大切な方ではありません、それでも
「よろしければ、あなたが好きなことを教えていただけますか?
たくさん、遊びましょう」
望むままに、忘れられない思い出を、大切な方との記憶を、人形に映し出して
少しでも、さみしさを忘れられるように

思いを、心を持つ。それが、命を持つということ
ならば、この方は、オブリビオンにも、命はあるのでしょうか
…それでも、私は決めたのです、この世界を壊すと




 ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)は、部屋に現れた『茶まろわんこ』を傍に、静かに語りかけていた。
「私の記憶の中には、たくさんの方がいらっしゃいます。誰かとの大切な記憶を忘れたくないという方も、忘れられることが怖いという方も」
 それは、人形自身の身の上話。
 夕焼けに染まり、星空を見上げ、朝日を見た。
 あの、はじまりの記憶から今へと続く、誰かとの出会いの物語。
 もっとも、わんこはユウイの言葉を理解しているのか、いないのか。
 ぴたりと身を寄せ、ふりそそぐ声を、心地よさそうに聞いている。
「……いつだったか。私も、忘れたくないと願ってしまったことがあります。ですから、きっとあなたのその思いも、正しいのでしょう」
 ――ずっとずっと、ここで一緒にあそぼうよ!
 ゆらりしっぽを揺らしながら、わんこはユウイの手に額を押し付けて、撫でてとせがんだ。
 きっと生前は、『誰か』がそうして、わんこを撫でていたのだろう。
「私は、あなたの大切な方ではありません」
 そのまなざしの先に、誰を視ているのかは、わからない。
 それでも。
 ユウイは茶白の毛並みを、優しく撫でてやった。
「よろしければ、あなたが好きなことを教えていただけますか? たくさん、遊びましょう」
 そう告げれば、わんこはぱっと起き上がり、ユウイを振り返りながら、先を歩こうとする。
 散歩に行きたいのだ、とユウイは理解して。
 そっと歩きだせば、わんこは人形を導くように、『無限の世界』をまっすぐに歩きはじめた。
『わん、わん! わふん!』
 玄関を開けてとせがまれれば、ユウイはその通りにして。
 全く同じ部屋が広がるのを、何も言わずに、わんこの背について歩いた。
 あるいは。
 わんこの眼には、また違った景色が映っているのかもしれない。
 それは、朝露に濡れた早朝の散歩道であり。
 陽射しのあたたかい、昼日中のあてのない道程であり。
 虫の音響く夜闇の道の、主とのひそやかな時間であったのかもしれない。
 ユウイは、わんこの望むままに、忘れられない想い出を。
 大切な『誰か』との記憶を、その眼に映しだして。
 眼前のいのちが、少しでも、さみしさを忘れられるようにと願った。
『わふん、わふん!』
 次の玄関にたどり着き、わんこがかりかりと、前脚で扉を示す。
 ――もっと、もっと。たくさんあるこう。どこまでもいこう!
 ユウイは、そこで立ちどまり。
 静かに、首を横に振った。
 絹糸のごとき白の髪が、ふわり、空気をはらみながら揺れて。
 不思議そうにユウイを見あげたわんこが、『きゅぅん』と鳴いた。
「ここで、おしまいにしましょう」
 誘うように白磁の指先を伸べれば、ビワの花吹雪と甘い香りが部屋中にひろがっていく。
 その香りに、わんこがふわあとあくびをして。
 そのまま、深い眠りに落ちていった。
 無防備に寝息をたてる様子に、オレンジの瞳を優しく細めて。
「枝を手折ったりはしません。――おやすみなさい」
 せめて、大切な『誰か』に、夢で出会えますように――。

 その燐光は、空気にとけるように消えていき。
 あとには、なにひとつ残らなかった。
 ――世界から染みだした、過去の残滓。
 ――うしなわれたいのちが辿りつく、骸の海でうまれしもの。
「想いを、心を持つ。それが、『いのち』を持つということ。……ならば、あの方は。オブリビオンにも、『いのち』はあるのでしょうか」
 そう呟く己の声を聞き、ユウイはぎゅっと、手のひらを握り締めて。
「……それでも。私は、決めたのです。この世界を『壊す』と」
 力強い言葉で宣言すれば、声に応えるかのように、ユウイの前に新たな扉が出現した。
 行き先はわからない。
 けれど、『出口』のない世界に、新たに生まれた『出口』なのだ。
 ユウイは部屋を振り返り、そっと祈りを捧げると。
 振り返ることなく、扉の先へ踏みだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『彷徨う白猫『あられ』』

POW   :    ずっといっしょに
【理想の世界に対象を閉じ込める肉球】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    あなたのいのちをちょうだい
対象への質問と共に、【対象の記憶】から【大事な人】を召喚する。満足な答えを得るまで、大事な人は対象を【命を奪い魂を誰かに与えられるようになるま】で攻撃する。
WIZ   :    このいのちをあげる
【死者を生前の姿で蘇生できる魂】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠香神乃・饗です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 想いを満たした『茶まろわんこ』たちは、一様に燐光と化し、消えていった。
 新たに出現した扉をひらけば、その先はすべて同じ場所――正方形の広大な部屋に繋がっていた。

 先ほどの部屋と、雰囲気は似ているが。
 四方の壁にあるガラス窓の向こうには夜空が広がっており、延々、花火があがり続けている。
 ――どん どん どどん!
 東西南北。
 どちらを見ても、ちかちかと瞬く大輪の花が咲く。
 ひとりの猟兵が試しに窓を開けようとしてみたが、窓はぴくりとも動かず、ほかに出口のような場所も見当たらない。
 ――ここは、明けない夜が続く『無限の世界』。
 部屋の真ん中で、永遠に打ちあがる花火を見つめていたのは、この事件を起こした元凶のオブリビオン――彷徨う白猫、『あられ』だった。
 にゃあにゃあと哀し気に鳴くその傍らには、血を吐き倒れた、ヒトの姿の幻影(まぼろし)が見えて。
 猟兵たちは脳裏に響く声が、あられの嘆きと知り。
 その悲しみを終わらせ、世界をもとに戻すために、各々の武器を手に取った。

  *

 はっと目が覚めた時には、ぼくはひとりぼっちで。
 何度も何度も、くりかえし、おなじ夢を視る。
 それがあまりにもつらくて、哀しかったから。
 ぼくは、祈ったんだ。

 ――ごしゅじんさまが、もういちどなまえを呼んでくれるなら。
 ――ぼくはもう、二度と『外』へいけなくたって、かまわない。

 やさしい『たましい』がひつようなんだ。
 ごしゅじんさまに、わけあたえられる『たましい』が。

 ねえ、おねがい。
 ごしゅじんさまのために。
 きみたちの『たましい』を、ぼくにちょうだい……!



※2章は【 7/17(金) 朝8:31~ 】プレイング受付開始予定です。

※受付締切や最新の状況は、マスターページ冒頭をご確認ください。
ノネ・ェメ
【紅華さん(f14474)と】

 猫の鳴き声……ううん、泣き声だ……。詳しい事なんて知らなくったって、こんな声、仮にどれだけの表現力を磨いてたって、そうそう出るものじゃないよね……。

 でも、この声の主こそが、骸魂でもあって。戦いたくない。わたしも……紅華さんは、きっともっと……。

 紅華さん? 血を、消費するんですね。何に使うのかはわかりませんけど、わたしには回復くらいしか出来ないし、これで紅華さんが動きやすくなるのなら……。

 っぃ最近も別の依頼で歌ってきたとこだったし、歌うのは鎮魂歌で。猫さんに限らず、さ迷えるもの達の寄り集りが骸魂なら、まとめてその全員に、聴いてもらえるって事でもあるよね……!


暁・紅華
【ノネちゃん(f15208)と】

ノネちゃん!あそこに猫、が……。

やっと目当ての猫を見つけたと思ったら、傍に倒れたヒトの幻影が見えて。

これはまずいな……。ノネちゃんに攻撃させるわけにはいかないし、あんなの見たら……。誘ったのは俺だし、なんとかしないと、か。

なあ、ノネちゃん。回復頼むわ。血が足りなくなるから。

有無を言わさず【早業】でUCを発動。ノネちゃんを守るために、障壁を出し続けて攻撃を回避。うまく猫の回避をコピーできれば障壁を維持しながら俺も回避できる。

俺はどうなっても構わない。巻き込んだノネちゃんだけは絶対に守ってみせる!




 扉の先の部屋へと踏み入った矢先、暁・紅華(流浪の吸血鬼・f14474)が声をあげた。
「ノネちゃん! あそこに猫、が――」
 言葉を続けようとして、傍に横たわるヒトの幻影に気づき、勢いを落とす。
 幻影の周囲には、赤黒い血の染みが広がっている。
 ――紅華にとって、血は命を繋ぐものであり、忌むべきものでもある。
(「これはまずいな……。ノネちゃんに攻撃させるわけにはいかないし、あんなの見たら……」)
 ちらとノネ・ェメ(ο・f15208)の横顔を見やれば、青髪の少女はまっすぐに白猫を見ていた。
「猫の鳴き声……ううん、泣き声だ……。詳しい事なんて知らなくったって、こんな声、仮にどれだけの表現力を磨いてたって、そうそう出るものじゃないよね……」
 ヴォーカリストであり、「音そのもの」であるノネには、それが嘘いつわりなく、こころからの悲しみを抱いた骸魂の嘆きなのだとわかった。
(「この声の主こそが、『骸魂』。でも、戦いたくない。わたしも……。ううん。紅華さんは、きっと、もっと――」)
 澄んだ瞳で紅華を見あげれば、同じく、ノネを見おろしていた赤い瞳と視線がぶつかって。
(「誘ったのは俺だし、なんとかしないと、か」)
 紅華は覚悟を決め、いつもの不愛想な口調で、言った。
「なあ、ノネちゃん。回復頼むわ」
 互いに思い巡らせていたことは一緒だったのかと、ノネは目を伏せて。
 改めて紅華に向き直り、告げる。
「紅華さん。……血を、消費するんですね」
 紅華は、是とも否とも、言わなかったけれど。
「……何に使うのかは、わかりませんけど。わたしには回復くらいしかできないし。これで、紅華さんが動きやすくなるのなら――」
 歌う曲は、決まっている。
 骸魂を鎮めるための、『鎮魂歌』だ。
「猫さんに限らず、さ迷えるもの達の寄り集った存在が『骸魂』なら。まとめて、その全員に、聴いてもらえるって事でもあるよね……!」
 水の波紋がひろがるように、ノネの歌が、声が、音が、部屋中に響きわたる。
 その旋律をよすがに、紅華はロングパーカーをひるがえし、己の血液で創られた複数の猫型使い魔を走らせた。

 ――きみたちのいのちを、『たましい』を。ぼくに、ちょうだい……!

 気付いた白猫がにゃあんと、ひと声。
 その声が届く前に、紅華のはなった猫型の使い魔たちが融合し、一枚の障壁と化す。
 障壁は白猫の嘆きを受けとめると、その効果を丸ごと複製して。
「ただ防ぐだけじゃないぜ?」
 言葉通り、複製したユーベルコードを、白猫へ向け発動し返した。
 白猫の記憶から浮かびあがったのは、血だまりに横たわっていた、飼い主であろう男の姿で。

 ――ごしゅじんさま……!

 優し気なその姿に、白猫は思わず駆け寄ったけれど。
『あなたのいのちを ちょうだい』
 伸べた手は、触れた瞬間から、容赦なく白猫のいのちを奪いとった。
 世界を破滅させるほど大事な存在から攻撃を受け、白猫が泣きながら距離をとる。
 その様は、ノネにも紅華にも、見るに堪えないものだったけれど。
(「俺はどうなっても構わない。巻き込んだノネちゃんだけは、絶対に守ってみせる……!」)
 紅華はそう胸に誓い、ふたたび猫型の使い魔をはなった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈴久名・紡
やっぱりさ……
夜は明けなきゃ行けないと思うし
お前の気持ちは判らなくもないけど
それでも、やっぱり誰かの『たましい』もやれない
だから、終わらせよう

煉獄焔戯使用
小柄に変化させた神力で先制攻撃
敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避が間に合わない場合はオーラ防御で防ぐ
命中した場合は……理想の世界ってどんなだろう?
両親に育てられたとか……
そんな極当たり前の世界なのかもしれない
でも、それは『事実』ではないから
今更の理想に捕らわれない
俺が親と呼べるのは、叔父であるあの人だけだから

宣告はどんな些末なものでも『守らない』
以降の攻撃は全て生命力吸収を乗せて体力維持を図る

誰かの『たましい』を奪っても
それはお前の主じゃないよ




 血を操る青年(f14474)の攻撃を受け、泣きながら駆けてきた白猫は、すがるように鈴久名・紡(境界・f27962)の方へやってきた。

 ――ねえ、そとになんかいかないで。
 ――この世界で、ずっとずっと、いっしょにいようよ……!

 にゃあんと、ひと声。
 肉球を向け飛びつこうとするも、紡はその動きを見切り、着地後に振りかえった白猫へ向け、言った。
 宣告は、どんなものでも『守らない』と決めている。
 受けた攻撃は「生命力吸収」で補い、体力維持を図るのだとも。
 骸魂の想いを、まっすぐに受けとめて。
 己の想いを、伝えるために。
「飼い主を想うお前の気持ちは、判らなくもないけど……。夜は、いつかは明けなきゃいけないと思う」
 ――どん どん どどん!
 花火は今なお、ちかちかと夜空に瞬き、はかなく消えていく。
 それは、限られた時間にのみ楽しむことができるからこそ、よりうつくしく見えるのであって。
 歪んだ情景のなかで永遠に繰りかえされれば、いつか、色褪せてゆくことだろう。
 愛した猫が、そうして過ごす様子は。
 きっと『ごしゅじんさま』も、望んではいないだろうから。
「だから、誰かの『たましい』も、やれない。――ここで。全部、終わらせよう」
 紡はそうして拳を握り締めると、短く唱えた。
「欠片も残さず、灰燼に帰せ」
 小柄に変化させた神力を、逃げ惑う白猫へと撃ちはなつ。
「誰かの『たましい』を奪っても。そうしてよみがえった人は、お前の主じゃないよ」
 跳ねるようにして、泣きながら逃げていく白い背中へそう告げて。

 紡は、考えていた。
 あの白猫の想う理想の世界は、「主と過ごす永遠の時間」だった。
 けれど。
(「……俺の考える『理想の世界』って、どんなだろう? 両親に育てられたとか……。そんな、ごく当たり前の世界なのかもしれない」)
 しかし、それは『事実』ではないから。
 いまさら、その理想に囚われたりなど、しない。
「俺が『親』と呼べるのは。叔父である、あの人だけだからな――」
 ――長い鉄紺の髪に、瑠璃紺の瞳を持つ竜神。
 かの人なら。
 こんな時、どんな世界を想うのだろうか。
 ふと、そんな疑問が、脳裏をよぎった。

成功 🔵​🔵​🔴​

林・水鏡
あぁ、おぬしがこの世界を望んだものじゃな?
健気な願いではあるがな…世界を閉じてもおぬしが望む人の命はもう戻ってこんのじゃ…。
おぬしの願いは叶わぬ。
残酷かもしれんが事実として告げねばならぬだろうて。

我にとっての大事な人?
今でも友のものもおるが見送ったモノも多いのう。
人も妖怪もみんなそれぞれ命の長さが違うでの長生きな部類な自分には別れが多かっただけじゃ。
おぬしの別れが特別ではない。

UC【式招来】
さて、なにがでるかの?せめておぬしの【慰め】になればよいが。




 竜神の青年(f27962)がはなった力を受け、白猫は部屋を縦横無尽に駆けた後、林・水鏡(少女白澤・f27963)の元へと飛びこんできた。
「あぁ、おぬしがこの世界を望んだものじゃな?」
 やさしげに問うその声に、白猫は望みをかけて、にゃあと言った。

 ――ごしゅじんさまのために。きみのいのちを、ぼくにちょうだい……!

 白猫のはなった問いは、水鏡の記憶から『大事な人』を召喚する。
 しかし。
 現れたそれは、ずいぶんと輪郭のあいまいな存在だった。
 一見するとヒト型をしているが、東方妖怪である水鏡とて普段は人の姿をとっていることを考えれば、人か妖怪かさえも判然としない。
「なるほどのう。これが、我にとっての『大事な人』か」
 記憶の主である水鏡から見ても、それを『誰か』と特定することはできなかった。
「今現在も、友として在るものもおるが。こうも永く生きると、見送ったモノも多いでな」
 哀しいかな。
 すべてをひとしく記憶し続けるには、水鏡はあまりにも永く生きすぎたのだ。
 霊力を籠めた紅白の折り紙を手にすると、カミソリのごとき鋭さをもつそれで、いのちを寄越せと迫りくる『大事な人』を斬った。
 ためらいは無い。
 かの姿が、己の記憶の底から生まれたことが確かならば。
 いつかどこかで、すでに見送った存在のはずなのだから。
「人も妖怪も、みなそれぞれ、命の長さが違うでの。永く生きる部類の我には、別れが多かっただけじゃ。……おぬしの別れが、特別ではない」
 白猫は、かなしいことばかりを言う存在を前に、ぼろぼろと涙をながしながら、にゃあにゃあと鳴いた。

 ――そんなことない! そんなことないよ!
 ――ごしゅじんさまは、きっとまた、ぼくを撫でてくれるんだ!

「健気な願いではあるがな……。世界を閉じても、おぬしが望む人の命は、もう戻ってこんのじゃ」
 水鏡は意を決して、ふたたび折り紙を手に取った。
「おぬしの願いは叶わぬ。……残酷かもしれんが。これは、事実として告げねばならぬだろうて」
 そして、彷徨ういのちに、引導を渡してやることも。
 それもまた、猟兵としてこの『たましい』と縁を持った、己の役目であるのだろう。
「さて、なにがでるかの? せめて、おぬしの慰めになればよいが――」
 式神を召喚すれば、あらわれたのは、折り紙でできた『くす玉』だった。
 何枚もの折り紙を組みあわせて球形をカタチ作ったそれは、まるで花手毬のようにうつくしい。
 水鏡は、ぽおんと、そのくす球を白猫へと投げた。
 てんてんと、床を転がるその球へ、ぴったりと視線を注ぎながら。
 彷徨う白猫『あられ』は、かつての日々を想いだしていた。

 『 あられ。ほら、きれいだろう 』
 部屋の中にいることの多かった飼い主が、数日かけて作ってくれた遊び道具。
 そのなつかしさに、双眸から涙があふれて。

 ――ごしゅじんさま……!

 にゃあんと、くす玉に飛びついた瞬間。
 ひとつのカタチを成していた折り紙がほどけて、白猫の身体に満たされていたいのちを、その中に封じこめた。

成功 🔵​🔵​🔴​

チェチェ・アリスラビリンス
音と光に気が付きUCで飛んで窓に近寄り、窓越しに大輪の花を見る
チェチェは初めて花火を見るので、すごくすごく花火が気になります
うさぎのぬいぐるみに窓を開けるように命じ、開けれないなら壊そうとします
壊せないのならこの場にいるアリス(猟兵)たちを観察して時間を潰します

チェチェは『あられ』にはあまり興味がありません
チェチェが外に出るのを邪魔してる悪いヤツという認識はありますが
積極的に排除しなくてもいいなと思っています

チェチェには『あられ』の悲しみや嘆きを理解することも共感することも難しいです
なので、それを理解や共感できるアリスたちは外の花火と同じくらい興味深いのです
足止めの時間を許せるくらいに




 大きな尻尾のもふもふなイキモノ――チェチェ・アリスラビリンス(愉快な仲間のプリンセス・f21782)が部屋に入った、その時。
 ――どん どん どどん!
 耳に飛びこんできた轟きに惹かれ、チェチェは虹色の光の蝶の力を借りて、ふわり、窓際へと舞い降りた。
「すごいぞ! 窓の外に花がさいているぞ!」
 つぶらな瞳をぱちぱちと瞬かせ、そこから、一瞬も逃さぬようにと眼をみひらく。
 もっとよく見ようとしたところで、こつんと、額が窓にぶつかって。
 むうと頬をふくらませたプリンセスが、命じる。
「いますぐ、この窓をあけろ!」
 強化状態のお付きのぬいぐるみたち――執事とメイドの姿をしたうさぎたちは、命じられるままに窓をあけにかかった。
 しかし。
 窓は恐ろしいほど強靭で、執事とメイドがふたりがかりで壊しにかかっても、傷ひとつつかない。
 ――白猫の姿をした骸魂を倒さない限り、この世界から抜け出すことはできない。
 そのことは、最低限、チェチェも理解していたので。
 戦闘の影響を受けないであろう部屋の端を陣取ると、いつものようにお茶会の支度を整えた。
「ここが行き止まりなら、仕方ない。アリス(猟兵)たちを眺めて、時間をつぶすぞ」

 当の『あられ』――白猫は部屋のなかを縦横無尽に駆けまわり、相対した猟兵たちと言いあいをしている。

 ――ねえ、そとになんかいかないで。
 ――この世界で、ずっとずっと、いっしょにいようよ……!
 竜神の青年(f27962)は言う。
「誰かの『たましい』を奪っても。そうしてよみがえった人は、お前の主じゃないよ」

 ――そんなことない! そんなことないよ!
 ――ごしゅじんさまは、きっとまた、ぼくを撫でてくれるんだ!
 少女白澤(f27963)は言う。
「おぬしの願いは叶わぬ。……残酷かもしれんが。これは、事実として告げねばならぬだろうて」

 しばし、そのやりとりに耳を傾けて。
 チェチェはこてんと首を傾げ、お付きのぬいぐるみたちへ、心底不思議だと問いかけた。
「アリス(猟兵)たちは、なにを言ってるんだ? アイツが、外に出るのを邪魔してる悪いヤツなのは、チェチェにもわかるが。わざわざやっつけるほど、悪いコトなのか?」
 本当のところ、チェチェは『あられ』にはたいして興味を抱いていなかった。
 チェチェにとって大事なことは、滞りなく『お散歩』が進むかどうか。
 興味深いものや、甘いものに出会えるかどうか、なのだ。
 主と同じく、白猫や猟兵たちの言い分について理解できない執事とメイドは、プリンセスへ向けて頭を垂れるばかりで。
「まあいい。あのオウガの言うことを理解するアリス(猟兵)たちは、あの花とおなじくらい見ていて飽きない」
 ――『お散歩』を足止めされても、こうして、許せるほどに。

 それから、すこし後。
 空になったティーカップを、チェチェが執事へと渡そうとした、その時だった。
 少女白澤のなさけを受け、いのちをうしなった白猫が倒れるのが見えた。
 紅白の折り紙が、倒れた白猫を包みこむように、優しくふりそそいでいる。
「おわったか」
 興味深い見世物ではあったが、これ以上は十分だろう。
 白猫がやっつけられたなら、すぐに『お散歩』も再開できるはず。
 そう、チェチェは考えたのだが。
 そうは、ならなかった。

 白猫が願ったのは。
 どこまでも終わりのない、『無限の世界』だったのだから――。

成功 🔵​🔵​🔴​



 ――かつて、どこかで『はじまり』があったのなら。
 ――いつか、どこかで『おわり』がやってくる。

 けれど。
 白猫が願ったのは、『無限の世界』だったから。

 おわったはずの「いのち」が、びくりと震えて。
 白猫は、なにごともなかったかのように、ふたたび頭をもたげ、にゃあんと鳴いた。

 *

 はっと目が覚めた時には、ぼくはひとりぼっちで。
 何度も何度も、くりかえし、おなじ夢を視る。
 それがあまりにもつらくて、哀しかったから。
 ぼくは、祈ったんだ。

 ――ごしゅじんさまが、もういちどなまえを呼んでくれるなら。
 ――ぼくはもう、二度と『外』へいけなくたって、かまわない。

 やさしい『たましい』がひつようなんだ。
 ごしゅじんさまに、わけあたえられる『たましい』が。

 ねえ、おねがい。
 ごしゅじんさまのために。
 きみたちの『たましい』を、ぼくにちょうだい……!

 *

 この世界に、『おしまい』が来ぬかぎり。
 部屋も、景色も、命でさえも。
 ここでは、何度でも繰りかえす。

 永遠に――。


 
フィーナ・シェフィールド
大切な人に会えなくて、哀しくて、悲しくて、切なくて、やるせない気持ち。
とても、とてもよく分かります。
また会えるなら、何と引き換えにしても良い、と…。

でも、それで大切な人が喜んでくれるのでしょうか。
何よりも優しい、愛しい人は。そんな姿を見て、心からの笑顔を見せてくれるのでしょうか。

未来へ。きっと、歩み続けることを願っているはず…。

この広い世界で、出逢えた理由を。
あふれる願いを、奏であわせて、君に伝えよう――♪

誰よりも、何よりも大切な人。出逢えたことに、ただ感謝の想いを込めて。
これからの未来を、その想いを抱いて歩いていこうと言う決意を乗せて。
魂を浄化する破魔の歌と共に、あられさんに聞かせます。


ルナ・ステラ
悲しみを終わらせるには―
世界をもとに戻すには―
心が痛みますが白猫さんを倒すしかないのでしょうか...

優しいご主人様はあなたに誰かから『たましい』を奪ってまで、あなたが『外』に出られくなってまで、起きたいと思っているのでしょうか?
わたしにも大事な人はたくさんいますし、その中で亡くなってしまった人もいますが、誰かを犠牲にしたり誰かの命をもらったりしてまで、蘇りたいとは考えてないと思います。
だからもし、生前の姿でわたしの知っている人が出てきた人がいたとしても中身は偽者だと思います!

眠らされない範囲を保って、遠距離からUCで攻撃していきます!
―流れ星に白猫さんの悲しみが終わるように【祈り】を込めて!




 少女白澤(f27963)の一撃を受け、白猫はこときれた。
 しかし。
 一呼吸の後、猫はなにごともなかったかのように黄泉還ると、たしかな足取りで、ふたたび部屋を駆けはじめる。
 白猫の『おわり』は、まだ、訪れてはいない。
「悲しみを終わらせ、世界をもとに戻すには。……心が痛みますが、白猫さんを倒すしかないのでしょうか……」
 己の背丈ほどもある魔法の箒を手に、ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)が戸惑うように呟けば、同じく白猫の『黄泉還り』を目の当たりにしたフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)が、愛用の紫のマイクを固く握りしめた。
 ――猟兵たちから『たましい』を奪おうと。
 ――あるいは、その手から逃れようと、小さな手足を伸べて懸命に駆けまわる純粋な『いのち』。
「大切な人に会えなくて。哀しくて、悲しくて、切なくて、やるせない気持ち。とても、とてもよく分かります」
 ――また会えるなら、この世の何と引き換えにしても良い。
 まっすぐな強い想いだったからこそ、世界をも歪めてしまった。
「でも、それであなたの『大切な人』が喜んでくれるのでしょうか。なによりも優しい、愛しい人は。そんな姿を見て、心からの笑顔を見せてくれるのでしょうか……!」
 懸命な呼びかけに気づき、白猫がフィーナの眼前へ走り寄る。

 ――ぼくは。ごしゅじんさまが、もういちどなまえを呼んでくれるなら。
 ――このいのちだって、あげるんだ!

 にゃあんと鳴きはなった魂が猟兵たちを眠りへと誘うより早く、フィーナは純白の翼をひろげ、キーボードとギターが一体化したサウンドデバイスを手にしていた。
 ユーベルコードを相殺するべく、歌声と演奏で、清廉な和音を奏でる。
 誰よりも、何よりも大切な人。
 出逢えたことに、ただ感謝の想いをこめ。
 そして、これからの未来を。
 想い抱いて、歩いていこうと、決意を乗せて。
「この広い世界で、出逢えた理由を。あふれる願いを、奏であわせて、君に伝えよう――♪」
 魂を浄化する破魔の歌とともに、白猫へ向け、奏でる。
 それまで花火の打ち上げ音ばかり響いていた部屋に、新たなメロディが満ちていく。
 場を包む旋律に、白猫の足が止まった。
 フィーナの演奏に耳を傾け隙ができたところへ、ルナも声を張りあげる。
「優しいご主人様は、……あなたが、誰かから『たましい』を奪ってまで。あなたが、『外』に出られくなってまで、起きたいと思っているのでしょうか?」
 声とともに、ルナの周囲に星と月の瞬きが満ちていく。
 きらきらとした光が少女を包み込むなか、ルナは機を見ながら、続けた。
「わたしにも、大事な人はたくさんいます。その中で、亡くなってしまった人もいます。でも、誰かを犠牲にしたり、誰かの命をもらったりしてまで蘇りたいと思う人は、ひとりもいないと思います……!」
 花火は、とてもうつくしいけれど。
 たったひとりで見続けるのは、あまりに寂しいから。
(「白猫さんの悲しみが終わるように、流れ星に【祈り】を込めて……!」)
 かつて偉大な魔法使いが使っていたという箒を掲げ、唱える。
「――お星さんたち、わたしに力を! ……悪しきものに降りそそげ! シューティングスター☆」
 瞬間、部屋の天井が一面の夜空へと変じ、数多の星が降りそそいだ。
 フィーナの歌を聴きこんでいた白猫は逃げるタイミングを失い、次々と降りそそぐ流星に撃たれて。
 ぱたり、床に倒れ動かなくなった白猫へ、ルナが駆けつける。
「白猫さん……!」
 しかし、『あられ』は力を振り絞り起きあがると、少女たちの足の間を縫って、ふたたび駆けだした。

 ――ごしゅじんさま! ごしゅじんさま……!

「あなたの『大切な人』は。あなたが、未来へ歩み続けることを願っているはず……!」
 フィーナの言葉は、ぼろぼろと涙をながす白猫に、届いたかどうか。
 駆けゆくちいさな白い背中を。
 ふたりは、哀し気に見送るしかなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

都槻・綾
f03130/コノハさん

ひとつで足りるものなら
己を差し出しても良いとも思うけれど
魂を宿せども
大切に名を呼んでくれた「ご主人様」が還るわけではないの
目覚めても醒めない夢に囚われたまま
同じ夏を繰り返すだけ

――ね、
寂しい悪夢とさよならしましょう

高速詠唱で機先を制し
符を挟んだ指先で空に穿つ七つ星、七縛符
あられさんの動きを封じて
コノハさんの援護を

窓の外
眩いひかりへ双眸を細める

花火が散華する余韻
降り来るひかりは
天から零れる泪のよう

繰り返される光景は
うつくしいけれど
切なげで

一緒に行こうと約束したのに
自分の魂だけが先に外へ出てしまったことへ
そして檻に閉じ困ってしまったあられさんへ
主殿が涙しているのかもしれない


コノハ・ライゼ
綾ちゃん/f01786と

あげるのは無理ダケド
……生命なら。少しだけ、分けてあげてもイイわ

右人差し指の指輪に口付け【天齎】発動
夜空色纏う一振りの刀に変じさせ己の生命を籠めたら
綾ちゃんの動きに合わせ踏み込むヨ

援護くれるから大丈夫とは思うケド
肉球が触れ世界が変わっても動じず
あられちゃん――オブリビオンの匂いを*追跡し切り抜けよう
だって知ってる、死は覆せない
其処に自分が殺めた『あの人』が視えようとも

ダメージは*激痛耐性で耐え斬りかかる
そろそろ分かったよネ
生命を与えたとて『ごしゅじんさま』は戻りはしないって

辛くて、哀しくて、寂しかったンでしょ
アンタの願いを叶える為に、他の誰かに同じ思いをさせられないの




 星と月の魔女(f05304)が、魔法を使ったらしい。
 部屋の天井に夜空が広がったかと思うと、まばゆい流星がいくつも墜ちて。
 星に撃たれた白猫は一度たおれたが、傷をかばいながらも駆け、ふたたび走りだしている。
 駆け来る白猫を見やり、都槻・綾(糸遊・f01786)は青磁色の双眸を険しくさせて。
(「――この『いのち』ひとつで足りるものなら。己を差し出しても良い、とも思うけれど」)

 ――このいのちをあげる!
 ――だから、ねえ。ずっとずっと、ぼくといっしょにいて!

                         その『たましい』を――
               ごしゅじんさまに、わけあたえつづけて!――

 にゃあにゃあと鳴くその声に、哀しみに囚われた声が重なって聞こえたから。
「『魂』を宿せども。大切に名を呼んでくれた『ご主人様』が、還るわけではないの」
 綾は、紅糸で紋が綴られた薄紗を手に構え、機先を制するべく霊符を投げはなつ。
 符は七つ星のごとく空を穿ち、言い聞かせるように、唱えた。
「目覚めても、醒めない夢に囚われたまま。また、おなじ夏を繰り返すだけ」
 星を結んだ結界に白猫を捕縛すれば、
「あげるのは無理ダケド。……生命なら。少しだけ、分けてあげてもイイわ」
 好機を待っていたコノハ・ライゼ(空々・f03130)が、右人差し指の指輪に口付けを落とし、
「祝杯を――」
 その内に己の生命力を籠め、夜空色をまとう一振りの刀に変じさせる。
 綾の結界をふりはらい、白猫は駆けた。
 肉球が触れた瞬間、コノハは、迫るまんまるの金眼を見た。

 ――ねえ、そとになんかいかないで。
 ――ぼくを、おいていかないで……!

 瞬間、世界が光に包まれて。
 綾の気配も、白猫の気配も、すべてが消え失せた。
 目の前に、人影が視える。
 「ああ」と、コノハは息を吐いた。
 ここは、白猫の招いた『理想の世界』。
 ――たとえ世界が理想に染まったとしても、動じはしない。
 コノハは改めて、胸中で唱える。
 視界の端で、人影が揺れる。
(「だって知ってる。死は覆せない。たとえ、オレが殺めた『あの人』が視えたって」)
 あの人は、もう。
 どこにもいないのだから――。
 くんと、白猫の匂いをたどり、世界と世界の歪をたどる。
 手にした夜空で、空を裂く。

 視界がひらけると同時に、にゃあん!と、白猫の身体がびくりと跳ね、もだえるように床に伏した。
 ユーベルコード『天齎(テンセイ)』によって生み出された刀は、肉体を傷つけず、邪な力や心、惨憺たる呪縛や妄執のみを攻撃する。
 横たわる小さな身体を前に、コノハは言った。
「……そろそろ、分かったよネ。生命を与えたとて、『ごしゅじんさま』は戻りはしないって」
 白猫はぼろぼろと大粒の涙を流しながら、2人の猟兵を見た。

 ――ねえ! どうしてごしゅじんさまはおきてくれないの!
 ――どうしてぼくをよんでくれないの!

 『たましい』は欲しいけれど、あの霊符はこわい。
 夜色の刀は、眼に見えない自分のなにかを削いでいく。
 だから白猫は、せいいっぱいに身を縮め、隙をついて逃げ出そうとした。
 すぐさま、綾がそのゆく手を阻む。
「――ね。寂しい悪夢と、さよならしましょう」
 ふたたび空に、七つ星を穿つ。
 身動きのできなかったところへ、薄氷の瞳が近づいて、言った。
「辛くて、哀しくて、寂しかったンでしょ。でも。アンタの願いを叶える為に。他の誰かに、同じ思いをさせられないの」
 夜が迫ってくる。
 逃れようのない、夜が。

 ――いやだよ! ぼくはまだ、ねむりたくないんだ……!

 *

 うごかなくなったちいさな身体を前に、綾とコノハは何も言わずに佇んでいた。
 ふと窓の外を見やれば、
 ――どん どん どどん!
 散華する大輪の花を見やり、綾が冬の草葉のごとき双眸を細める。
 降り来るひかりは、天から零れる泪のようにも見えて。
 なんども、なんども。
 繰り返される光景は、うつくしくも、切なく胸に迫った。
「……一緒に行こうと約束したのに、自分の魂だけが先に外へ出てしまったことへ。そして、檻に閉じこもってしまったあられさんへ。主殿が、涙しているのかもしれませんね―――」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 何度目の悪夢だろう。
 こわい夢はおわらない。
 かなしい想いばかりが募っていく。

 カラカラと乾いた音をたてて、運命の歯車がめぐる。
 『おわり』を『はじまり』へ。
 『はじまり』を『おわり』へ。
 尾をくわえた円環竜のごとく、白猫の因果はめぐる。

 この世界に、『おしまい』が来ぬかぎり。
 いのちは、何度でもくりかえす――。
 
 
ネフラ・ノーヴァ
引き続き千之助殿(f00454)と。
幼体のお相手ありがとう、千之助殿。

私とて他者の血を糧に命を繋ぐ身。だがくれてやる魂は無い。
さあ、哀しき猫よ、せめて終わりへと近づけさせよう。

刺剣を己の右手に突き立て流れ出る血を振り撒く。
UC葬送黒血の炎で絶えるまで燃やし続けよう。

白猫の「ずっといっしょに」を受けたなら、あえてルールを破る。
理想に閉じ込められる方が苦痛というものだ。


佐那・千之助
ネフラ殿(f04313)を可愛がれて嬉しかった
主が猫へ注いだ想いもこんな風か、もっと強かったのだろうな…

夜空に大輪の華が散り落ちて
流す雫は、一滴一滴が涙のよう
昨年初めて花火を見たときは感激したが、今はただ哀しく映り
魂をわけてあげられたら…一瞬過るけれど
やさしい主なればこそ、他の命で甦っても苦しむように思う

つらかったろうな…
主は生を終えたけれど、あられの中に、ずっといる
…それに
破裂する花火の音
それに次いで、あられが散らばるような音。
主殿がそなたを呼んでいるように聞こえる
どうか逝く先で逢えるよう
主の幻とともに炎で

…っ、無茶するな
可能ならネフラ殿の負傷をかばう
大切な友の身、傷付くのを見る方が痛いから




 紫髪の猟兵(f03130)の刀に斬られて、白猫がたおれるのをみた。
 血は流れていなかったから、きっと、『ほかのなにか』を斬ったのだろう。

 佐那・千之助(火輪・f00454)はぴくりとも動かなくなった白猫を遠目に見やり、眉根を寄せる。
(「魂をわけることができたなら――」)
 一瞬、そんな感情が脳裏をよぎるけれど。
 すぐに、やさしい主であればこそ、他の命で甦っても白猫が苦しむように思って。
 ほんのすこしの間想いを寄せた己でさえ、これほどに胸が痛むのだ。
 主が白猫へそそいだ想いは、もっと強かったのだろうと、千之助はしみじみと想い入った。
「つらかったろうな……。主は生を終えたけれど、あられの中に、ずっといる。……それに」
 夜空に大輪の華が散り落ちて。
 ちかちかと瞬き流す雫は、一滴一滴が涙のよう。
 昨年、初めて花火を見たときは感激したものだが、今はただ、哀しく映るばかりだ。
「破裂する花火の音。それに次いで、あられが散らばるような音。主殿が、そなたを呼んでいるようにも聞こえる」
 白猫と主の幻を弔おうと、大気を歪め、渦巻く溶鉄の竜巻よりはしる炎の龍を召喚する。
「どうか、逝く先で逢えるよう――」
 ふたりを炎で送ろうとした、その時だった。
 白猫の前脚がぴくりと動き、空を掻いた。
 続けて大きく伸びをすると、なにごともなかったかのように身体を起こし、立ちあがる。
「まさか」
 驚きを隠せない千之助の傍に立つネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)が、手で制する。
「まただ。『黄泉還った』か」

 ――ねえ、そとになんかいかないで。
 ――この世界で、ずっとずっと、いっしょにいようよ……!

 肉球を向け駆け来る白猫へと、血棘の刺剣を手に、一歩、踏みだして。
「私とて、他者の血を糧に命を繋ぐ身。だが、くれてやる『魂』は無い。――さあ、哀しき猫よ、せめて終わりへと近づけさせよう」
 おもむろに刺剣を己の手のひらに突きたてれば、鮮やかな傷口から黒い血がしたたりあふれた。
 ――赤色ばかりが血の色ではない。
 ――流れるばかりが、血の役割ではない。
「弔いをくれてやる。『葬送黒血(ブラック・ブラッド・ブレイズ)』で、絶えるまで燃やし続けよう」
 炎を振りまくよう血濡れの手を振りはらえば、黒い血を受けた白猫の毛皮が、ぼうと燃えあがる。

 ――きゃあああ!

 こわいものを見たこどものような声をあげると、白猫は一目散にネフラの前から逃げだした。
 追おうとするネフラを、千之助が肩を掴み、引き留める。
「……っ、無茶するな!」
 すぐに己の炎龍に追わせれば、白猫を殲滅できたかもしれない。
 だが、大切な友の身が傷付くのを見る方が、辛い。
 後のことは他の猟兵に任せようと、ふたりは急ぎ、戦闘の影響を受けない部屋の後方へとさがった。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木霊・ウタ
心情
大好きな人に会えないのは辛いよな
堕ちるのも判る
けどそれは悲しみの連鎖を生むだけだ
あられを止めて海へ還すぜ

あられ
…ご主人、大好きなんだな
お前の有り様から
とても優しい人って判る

だから蘇ったその人は
お前が他者の魂を奪ったと知ったら
きっと苦しみ悲しむ
大好きな人を不幸にするコトをしちゃダメだ

戦闘
爆炎噴出で瞬時に間合いを詰め
或いは追い縋り
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う

炎壁で防御
仲間を庇う
傷は炎の物質化で塞ぐ

理想の世界は燃え広がる炎で灰に帰す
…未来は自身で創り上げる
理想の押し売りは御免だぜ

攻撃にUC織り交ぜ
「骸の海でご主人と離れ離れの未来」を灰に変える

事後
鎮魂曲
いつまでも一緒に、な

動物妖怪
お疲れさん
大丈夫か?


エリシャ・パルティエル
なんて悲しい鳴き声なの…
大切な人を取り戻したい気持ちはわかるわ
でもね今度はあなたが誰かの大切な人を失わせることになるのよ
あなたのように辛い思いをする人が増えてしまう…
その人を取り戻すことはできないけど
せめてあなたにも癒しと慰めを

出口がなければ悲しみもずっと繰り返す
終わりは始まりでもあるの
なくしてはいけないわ
大丈夫よあなたが思い続けている限り
またきっと巡り会えるから

あたしの魂はあげられない
死者を蘇生する…それが全てじゃないのよ
希望はきっと出口の先にこそあるの

出口の先には光が見えるの
あたしは手を伸ばしてみるわ
そばにいるって言ってくれたから
過去を捨てるわけじゃない
大切に抱きしめて未来へ歩んでいくの




 クリスタリアン(f04313)の黒い血が、白猫の毛皮を焼いた。
 部屋を疾走し、転げまわりながら炎を消そうとしていた白猫に、あたたかな光をもたらしたのは、太陽のごとき金色の髪をした女――エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)だった。
「さっきから、ずっとあなたの声を聞いていたわ。なんて悲しい鳴き声なの……」
 慈愛に満ちた金眼の女を、しかし白猫は、身を伏せておびえたように見あげていた。
 繰りかえしみる悪夢はあまりにもおそろしく、時に心身を削がれるような痛みに、白猫のこころは怯えきっていた。
 ――殲滅しなければならない対象だということは、理解している。
 けれど、このまま武器やユーベルコードを振るい続けるのも、見ていられなかった。
 エリシャは白猫の治療を終えると、焼けた毛皮が元通りになっているのを見やり、ほっと息をつく。
 こわい夢のなか。
 ごしゅじんさまのように優しく撫でてくれるひとを見あげ、白猫は涙をこぼした。

 ――ねえ! どうしてごしゅじんさまはおきてくれないの!
 ――どうしてぼくをよんでくれないの!

 にゃあんと、切なげに鳴く声に、胸が締めつけられて。
 エリシャは一瞬、言葉を詰まらせた。
 すうと息を吸いみ、覚悟を決めて。
 微笑みを絶やさぬよう心がけながら、ゆっくりと、言った。
「大切な人を取り戻したい気持ちは、わかるわ。でもね、そのひとのために、誰かのいのちを奪ってしまったら。今度はあなたが、誰かの大切な人を失わせることになるのよ」
 居合わせた猟兵たちは、距離をおいてその様子を見守ってくれている。
 ずっと、そのままで居ることはできないだろうが。
 こうして時間を与えてくれたことに、エリシャは胸中で感謝した。
「今のあなたのように、つらい思いをする人が増えてしまうの……。あたしたちは、その人を取り戻すことはできないけど。せめて、あなたにも癒しと慰めを――」

 ――ぼくのことを、おもってくれるなら。
 ――ねえ。きみのやさしい『たましい』を。ぼくに、ちょうだい。

 白猫の思念が怪しく歪んだことに、エリシャは気づいたけれど。
 眠りへといざなうその攻撃を避けるには、あまりにも近くに居すぎて。
 はなたれた『たましい』が直撃するかと思われた、瞬間、
「――そうは、させるか!!」
 エリシャを庇うべく飛びこんだ木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)が、炎の壁を作り、攻撃を防いだ。
 間一髪。
 白猫が飛びのいたことで、エリシャへの攻撃が相殺されて。
「ごめんなさい……! 油断していたわ」
 謝意を伝えるエリシャの言葉には応えず、その背で受けとめる。
 ウタは巨大剣『焔摩天』を手に構え、白猫へ言った。
「あられ。……ご主人、大好きなんだな。お前の在り様から、とても優しい人だったんだって、わかる」
 大好きな人に会えないのは、辛いだろう。
 こころが堕ちてしまうのも、理解できる。
 けれどそのままでは、悲しみの連鎖を生んでしまう。
「だからこそ、蘇ったその人は、おまえが他者の魂を奪ったと知ったら、きっと苦しみ悲しむ。『大好きな人』を不幸にするコトを、しちゃダメだ」
 あるいはもう。
 その気持ちが強すぎるあまり、自分でも歯止めをかけることができなくなっているのかもしれない。
 それでもエリシャは、まだ白猫に、かつての想いが残っていることを信じて、呼びかけ続けた。
「あたしの魂はあげられない。死者を蘇生する……それが全てじゃないのよ。希望はきっと、『出口』の先にこそあるの」
 身に宿した『聖痕(スティグマ)』が、白猫のこころの痛みを伝える。
 ちいさな身に、はりさけそうなほどの不安とかなしみを抱いて。
 それでもただ、主のためにと、想いを繋いでいる。
「『出口』がなければ、悲しみもずっと繰りかえす。それこそ、今のあなたみたいに。――でも、聞いて。『おわり』は『はじまり』でもあるの。だからこそ、『出口』をなくしてはいけないわ……!」
 ふたりの言葉を、白猫はけんめいに理解しようとしていたが。
 やがてふるふると首を振ると、大粒の涙を流しながら、さけんだ。

 ――わからない。わからないよ!
 ――それでもぼくは、ごしゅじんさまにあいたいんだ……!

「!」
 ウタはとっさに己の身から爆炎を噴出させ白猫に体当たりすると、エリシャから遠ざけるように、そのまま前方へ圧し飛ばした。
 その手に握るは、焔摩天の梵字を刻んだ巨大剣。
 顕現しようとした『理想の世界』を、『断罪の炎』で一瞬にして蹴散らす。
「……未来は自身で創りあげる。理想の押し売りは、御免だぜ。それは、おまえだって同じはずだろ!」
 全身の毛を逆立てた白猫が、ウタを前に背を向ける。
 また逃げようというのだ。
 おそろしい悪夢から。
 くりかえす、かなしい夜から。
 けれど、誰がそれを責められよう。
 ウタは唇を噛みしめ、生命讃歌をこめた獄炎を武器にまとわせ、地を蹴った。
 ――『あられ』を止め、骸の海へ還す。
 ――そして。『骸の海で、主と離れ離れになる未来』を、灰に変える。
「待ってろ。そんな『理不尽』。灰にして、消し飛ばしてやるぜ……!!」
 ちいさないのちに、おおきな剣を振りおろす。
 『おわり』さえ来れば。
 白猫にも、きっと安らぎが訪れると信じて――。

 *

 『理不尽な未来』のみを焼き尽くす地獄の炎は、白猫の肉体を傷つけはしなかった。
 しかし、その身体は、ぴくりとも動くことがなくて。
(「今度こそ。いつまでも一緒に、な」)
 ウタはギターを手に、せめてもと鎮魂曲を奏でて。
 エリシャは動かなくなった白猫へ言い聞かせるように、言葉を重ねた。
「……大丈夫よ。あなたが思い続けている限り。またきっと、巡り会えるから」
 後はただ。
 祈る想いで、『その時』を待つしかなかった。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 ――いたい、くるしい、こわい。

 ましかくの部屋の天井あたりに浮かんで、ぼくはぼくをみおろしていた。
 たいようのひかりみたいな、ぴかぴかの髪のひとが。
 うごかないぼくのからだにむかって、いってる。

「『出口』の先には、光が見えるの。そうしたら、手を伸ばしてみて」
「『大切な人』は、そばにいるって言ってくれたのよね。だったら、過去を捨てるわけじゃない。大切に抱きしめて、未来へ歩んでいくの――」

 でぐちって、なんのこと。
 ぼくにはそんなの、みえないよ。

 ああ、だけど。
 ほら。

 まただ。
 また聞こえる。
 はなびの音が。

 めのまえには、血を吐いてたおれたごしゅじんさまがいて。
 もうにどと、ぼくのなまえをよんでくれない。

 ――いたい、くるしい、こわい。
 ――かなしい。

 *

 そして、悪夢はみたびくりかえされる――。
 
 
スキアファール・イリャルギ
"命を頂戴"?
私の命なんか使ったら、ご主人はまたすぐに死んでしまいますよ
私は怪奇人間なんですから

……ね、先生
(桜の精の幻
怪奇になり被験体にされ心を壊され
"人間"を忘れかけていた私を医師である彼は救ってくれた)

あなたが死んだみたいで嫌ですねまだ存命中なのに
先に死ぬのは……置いて行ってしまうのは、きっと私の方だ
……そうに決まってる
失いたくない
置いて行かれたくない
独りぼっちは寂しい……

きみの気持ちは痛い程わかる
でも閉じ籠った儘じゃ辛い幻や夢を見続けるだけ
繰り返し続け苦しむきみの姿を
きっとご主人は望んでいない

だから――

『あられ、おいで』
『外の世界を一緒に見に行こう』

(【掉挙の聲】。きみの希求する聲を)




 しろい、ちいさな身体が三度起きあがった時。
 武器を手に迫ろうとした猟兵たちを制したのは、長躯痩身の怪奇人間――スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)だった。
 白猫の様子は、これまでと同じように見えて、明らかに違っていて――黄泉還るたびに、なにかが消えていくのか、削がれていくのか――金の瞳に虚ろを宿しながら、涙にぬれた眼で、眼前に立った猟兵を見あげていた。

 ――ねえ、ねえ。ごしゅじんさまのためなんだ。
 ――きみのやさしい『たましい』を。ぼくに、ちょうだい。

 スキアファールは背中を丸めたまま、その声を受けとめた。
 すぐに己の記憶から生みだされた『大事な人』が顕現し、記憶の主へと手を伸べる。
『 きみのいのちを わけてくれなゐか 』
 記憶にある、そのままの姿、表情で。
 問いかける存在を見やり、スキアファールは黒包帯を巻いた首筋をさらりと撫でた。
「……『命を頂戴』? 私の命なんか使ったら、彼のご主人は、またすぐに死んでしまいますよ。なにせ私は、『怪奇人間』なんですから。――ね、先生」
 「それは、あなたがよくご存じでしょう」と、言い添えて。
 眼前に立つ桜の精の幻を見やり、自嘲するように口を曲げる。
 幻の手が、スキアファールの首に添えられて。
 ふたたび、同じ声音で問いかける。
『 きみのいのちを わけてくれなゐか 』
 
 ――かつて『怪奇』と成り果て、被験体にされ、心を壊されて。
   『人間』を忘れかけていた私を、医師である桜の精は、救ってくれた。
   怪奇人間となってから、一番しあわせだった時間――。

 いくつもの想い出が浮かんでは消え、ふるりと、ぼさぼさの頭を振る。
「ああ……。これでは、まるであなたが死んだみたいで嫌ですね。あなたは、まだ存命中なのに」
 首筋を締める手指に力が入る。
 しかし、スキアファールはされるがままになっていた。
 首を絞めたところで。
 己にはなんの効果ももたらさないことは、本当の『先生』であれば、知っているはずだからだ。
 それでもその幻は、命をくれと、迫る。
 ふと、脳裏をよぎる想いがある。
(「――先に死ぬのは。置いていってしまうのは、きっと、私の方だ」)
 そうに決まっている。
 失いたくない。
 置いていかれたくない。
 独りぼっちは、寂しい――。
 首を締めようとする幻の手を、掴んで。
 解いた黒包帯を一瞬で幻に巻きつけ、ためらいなく握りつぶした。
 空にとけ消えていく『先生』の姿を見送りながら、白猫へと告げる。
「きみの気持ちは、痛いほどわかる。でも、閉じ籠ったままじゃ、辛い幻や夢を見続けるだけ。繰りかえし続け、苦しむきみの姿を。――きっと、ご主人は望んでいない」
(「私は、きみをよく知らないから、想いまでは汲み取れない。だから、しょせんは幻聴。でも。きみの『ごしゅじんさま』なら、きっと、こう呼ぶと思うんだ――」)

      『あられ、おいで』
      『そとの世界を。一緒に、みにいこう』

 白猫の脳裏に強く焼きついていた聲が、『怪奇』の口から響いて。
 曇りかけていた白猫『あられ』の金眼から、とうめいな涙があふれた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
『たましい』をあげることはできないのです
私は人形ですから、心も魂もありません
それでも、この世界を終わらせるために
できることならあなたの願いを叶えたいと、そう思うのです

あなたのごしゅじんさまとの思い出を聞きたいのです
思い出すのも辛いのなら、無理にとは言いません
ただ、おふたりの生きた証を、記憶に残したいのです

ごしゅじんさまを生き返らせることも、あなたを呼ぶ声をあげることも、血を拭ってあげる事さえ、私にはできません
せめて痛くないようにと夢を見せてもいつかは醒めてしまう
夢が哀しみを連れてくるとしても、これしかできない
私は無力なのです

魂は廻るのです、ですから
ここの方達の心ももしかしたら、と思いたいのです


海月・びいどろ
目が覚めたら、誰もいなくて
ひとりぼっちの繰り返し
これを、『さびしい』って言うんだね

きみのごしゅじんさまは、病気の身体から抜け出して
今は、どこかであられを待ってる気がするの
…ううん、もしかしたら、ずっと傍にいるのかも
だって、きみのたいせつで、だいすきなひとは
いっしょに、そとへ行こうって約束したんだもの

たいせつなひとの為なら、他の誰が何と言おうと
たとえ、世界がこわれても
ずっと、いっしょにいたいよね

誰かの魂で願いが叶うなら、ボクだって
……でも、それはたいせつな人が望まないことだから
あられには、しないで欲しいな

この世界に、さようなら
きみのごしゅじんさまのところへ、いってらっしゃい
……おやすみなさい




 猫背の青年(f23882)の口から、声が漏れる。
 それを聴いた白猫は、これまでにないほど激しく取り乱していた。

 ――ごしゅじんさま! ごしゅじんさま!
 ――めをあけて! もういちど、ぼくのなまえをよんで……!

 にゃあん、にゃあんと声をあげ、飼い主の幻へと駆け寄る。
 しかし、その姿が変わらず動かぬままなのを察し、うなだれるように身体を押しつけて。
 大粒の涙にくれる白猫の側に近づいたのは、
「『たましい』をあげることは、できないのです。私は人形ですから、心も魂もありません」
 同じ真白の身体をもつ人形――ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)だった。
 白猫のそばに膝をつき、そっと、その表情を覗きこむ。
「それでも、この世界を終わらせるために。できることなら、あなたの願いを叶えたいと、そう思うのです」
 あられはただただ、ユウイの言葉を聞きながら、飼い主の身体に額をすり寄せて泣いていた。
 それはまるで、親を亡くした子が、その身体にすがるようにも見えて。
 ユウイはオレンジの瞳を向け、静かな声音で続ける。
「おしえてください。あなたの、ごしゅじんさまとの想い出を。想い出すのも辛いのなら、無理にとは言いません。ただ、おふたりの生きた証を、記憶に残したいのです」
 白猫は、しばらく主の幻に身を寄せた後。
 ユウイの言葉に応えるかのように、脳裏に語りはじめた。
 春の日には、さくらの花びらを集めて、散らして見せてくれたこと。
 夏の日には、みんみんと鳴くさわがしい虫に追いかけ、いっしょにあそんだこと。
 秋の日には、黄色く染まった落葉を愛で、夜空をみあげたこと。
 冬の日には、世界の音が、雪にすいこまれていくのを聴いていた。
 ――病弱な飼い主のそばには。いつも、この白猫『あられ』が傍にいた。
 その、互いへの愛情深さを感じられればこそ、ユウイは胸中で詫びた。
 飼い主を生き返らせることも。
 その声をあげることも。
 血を拭ってあげることさえ、できなくて。
 せめて痛くないようにと夢をみせても、いつかは醒めてしまう。
(「夢が哀しみを連れてくるとしても、これしかできない。私は、無力なのです――」)
 魂は廻る。
 ゆえに、白猫も、飼い主の魂も、もしかしたらと。
 そう、思いたかった。

 次に口をひらいたのは、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)だった。
「目が覚めたら、誰もいなくて。ひとりぼっちの繰り返し。これを、『さびしい』って言うんだね」
 まるで、はじめてその感情を知ったとでも言うように。
 己の考えを整理しながら、ぽつりぽつりと、言葉を紡いでいく。
「『たいせつなひと』の為なら、他の誰が何と言おうと。たとえ、世界がこわれても、ずっと、いっしょにいたいよね」
 プリズムのまぼろしを宿したような髪を、さらりなびかせて。
 やさしく、語りかけるように続ける。
「だれかの魂で願いが叶うなら、ボクだって。……でもそれは、たいせつな人が望まないことだから。あられには、しないで欲しいな」
 その頃には、白猫はすっかり落ちつきをとり戻し、猟兵たちの言葉に耳を傾けるようになっていた。
 海をたたえた瞳を向け、迷い仔の頭を撫でて。
「きみのごしゅじんさまは、病気の身体から抜け出して。今は、どこかであられを待ってる気がするの。……ううん、もしかしたら。ずっと傍にいるのかも」
 本当のところは、びいどろにもわからない。
 けれど、白猫が強い想いゆえに、こうして彷徨うこととなってしまったのなら。
 案外、飼い主だって、心配して近くにいるのかもしれないと、思ったのだ。
「だって、きみのたいせつで、だいすきなひとは。いっしょに、そとへ行こうって約束したんだもの」
 びいどろがちいさく笑み、傍近くで待機していたユウイへと顔を向ける。
 頷き返したユウイの白磁の指が、そっと、白猫の背を撫でて。
 びいどろが静かに、『揺籃航路の子守唄(ブルー・ブルー)』を歌った。
 ――それは、旅ゆくものへと贈る、子守唄。
 涙をこぼしていた白猫が、身体を丸めて小さくなって。
 ユウイの招いたビワの花吹雪と甘い香りが吹き寄せ、白猫へとやわい眠りをもたらしていく。
「この世界に、さようなら。今度こそ。きみのごしゅじんさまのところへ、いってらっしゃい」

 ――おやすみなさい。

 その、白いちいさな身体が、飼い主の幻とともに部屋から消えていくのを。
 やがて、窓の外の花火が消え。
 静けさを取り戻した窓の外の世界に、夜明けが訪れていくのを。
 猟兵たちはしばらく、言葉交わさずに、見守っていた。

 *

 すべてが終わった後には。
 不思議な部屋の空間は、たち消えて。
 『カクリヨファンタズム』のある広場の一角に、『あられ』によく似た白い子猫と、救出された多数の動物妖怪たちが、眠るように倒れていた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『夏の夜の花火大会』

POW   :    ロケット花火を楽しんでみる

SPD   :    普通の花火を楽しんでみる

WIZ   :    線香花火を楽しんでみる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※プレイングは、断章追加後に募集開始します。
 今しばらくお待ちください。

※3章は【 7/23(木) 朝8:31~ 】プレイング受付開始予定です。

 ――どん どん どどん!

 『カクリヨファンタズム』の夜の町に、打ち上げ花火の音が轟く。
 きらきらと夜空を彩る大輪の下では、動物妖怪たちが盛大に『花火大会』を催していた。
 うさぎ、ゾウ、ウマ、ねずみ、クマなど、和服を着こなした様々な妖怪たちが、任務を終えた猟兵たちを歓迎してくれる。
「猟兵のみなさん、ぼくたちを救出してくれてありがとう!」
「わんこたちや、白猫には同情するけど、永遠に彷徨うのはごめんだったからね。本当に助かったよ……」
「お礼といってはなんですが、元々みんなで花火大会を企画していたんです。良かったら楽しんで行ってください!」
「打ち上げ花火を見たい方は、見晴らしのいい【廃校舎の屋上】がおすすめです~」
「手持ち花火なら【川沿いの広場】で、のびのび楽しめます! 火の後始末まで、よろしくです☆」
 普通の花火からネズミ花火、ロケット花火まで多種多様、お水入りバケツも完備している。
「願いを叶えることのできなかった白猫のために。ぜひ、みなさんで楽しんでいってくださいね」
 『あられ』に取り憑かれていた、まだ幼い白毛の猫又が。
 みゃあんと機嫌よく鳴き、しっぽを立てた。


●マスターより
・3章は【 7/23(木) 朝8:31~7/24(金) 23:59まで 】プレイング受付。
 章クリア冠数が少ないため、まとめての返却を予定しています。

・システムで送れる限り挑戦可能ですが、1・2章の参加者様を優先採用し、3章のみご参加の方は、無理なく書ける範囲での採用とさせて頂きます。

・2名以上でご参加の場合は、必ず冒頭に【同行者のID】と【呼び方】をご記載ください。
 グループ参加の場合は、上記+【グループ名】、総人数の記載をお願いします。
 また、同じ日の朝8:31以降に送信いただけると助かります。
 
 
ノネ・ェメ
【紅華さん(f14474)と、廃校舎の屋上で】

 戦わず・戦わせない信条が、きいてあきれるよね。友達の一人でさえ、防げなかった。。それどころか、あの猫さんにとって一番辛い仕打ちだったんじゃないかって思うと……。

 花火は、綺麗だね。そのどれもが一度きりの、儚いもので。でも、そのどれもがあんなに力強く、上がってって。

 ね、紅華さん。わたし……あの花火みたくなりたいなぁ。何事にもまけないような。あんな、花火みたいに……。

 絶えず上がる花火の輝き。その一つ一つが、生きとし生けるものの、一生の一部始終を見てるみたいで。一つとして見逃せなくて。ただただひたすら、眼に焼きつけ続けて。

 ……忘れない、から……。


暁・紅華
【ノネちゃん(f15208)と、廃校舎の屋上で】

ノネちゃんの信条を知っていながら戦ってしまった。それも一番最悪であろう方法で。俺自身、オブリビオンによって大事な人を呼び出され、攻撃されたことがあるというのに。ただ、だからこそ助けてやりたいとも思ったわけで。

まだ幼い白毛の猫又を見つけ、そっと手を伸ばす。猫をなでていると、いつもなら動物達と遊んでいるであろうノネちゃんが、花火を観ている姿を見つけ近づく。

花火みたいに、か。ノネちゃんならなれるさ、きっと。それと、今日はありがとな……。

夜空に花火が咲くたびに、やるせない気持ちも少しは晴れたような気がした。




 『無限の空間』とは違い、夜の『カクリヨファンタズム』は数多の人の気配とざわめきに満ちていた。
「猟兵さん、打ち上げ花火を見に行きますか? それなら、廃校舎はあちらです! どうぞごゆっくり……!」
 暁・紅華(流浪の吸血鬼・f14474)は動物妖怪たちに勧められるままに、廃校舎の屋上へと向かい、虚ろな足取りで歩く。
(「ノネちゃんの信条を知っていながら、戦ってしまった。それも、一番最悪であろう方法で――」)
 あの時、障壁を展開した瞬間から、紅華はノネ・ェメ(ο・f15208)を護ることで頭がいっぱいだった。
 あの時はなった猫型の使い魔たちは、今は顕現させてはいないが。
 指示を出した己の手のひらを、じっと見つめる。
(「俺自身、オブリビオンによって大事な人を呼びだされ、攻撃されたことがあるというのに……。ただ、だからこそ助けてやりたいとも思ったわけで」)
 古い木造校舎の階段はかび臭く、一歩一歩、踏みしめるたびに床板がきしむ。
 階段を昇りきった先。
 灯りが漏れる戸口の先を見あげれば、『あられ』に取り憑かれていた、幼い白毛の猫又の姿が見えた。
 手を伸べ、触れようとすれば、
「みゃあう!」
 触れる寸前に身をひるがえし、紅華を導くように扉の先へと駆けて行く。
 慌てて追いかけた先には、ひとり、夜空を見上げる背中があった。
 いつもなら、なんらかの歌や音楽とともに在る、少女の背中。
「……ノネちゃん」
 そっと声を掛ければ、少女は振り返らぬまま、言葉を返した。
「戦わず・戦わせない信条が、きいてあきれるよね。友達の一人でさえ、防げなかった。それどころか、あの猫さんにとって一番辛い仕打ちだったんじゃないかって思うと……」
 ぐっと唇を噛みしめ、眉根を寄せる。
 その表情が、あまりにも苦しげだったから。
 紅華は掛ける言葉が見つからず、そっと、その傍に立つことしかできなくて。
「花火は、綺麗だね。そのどれもが一度きりの、儚いもので。でも、そのどれもがあんなに力強く、上がってって――」
 夜空に大輪が花咲くたびに、屋上にいた観衆たちから歓声があがる。
 儚くも、うつくしく。
 大勢を魅了し、こころまでも笑顔にしていく。
「ね、紅華さん。わたし……、あの花火みたくなりたいなぁ。何事にもまけないような。あんな、花火みたいに――」
「花火みたいに、か……」
 夜空を見上げる少女の澄んだ瞳には、極彩色の花が映っていて。
 瞳の花が咲き、散りゆくたびに、己のやるせない気持ちが、すすがれていくように感じたから。
「うん。ノネちゃんならなれるさ、きっと」
 我ながら、根拠のない言葉だと紅華は思った。
 けれど、疑う余地もないのだと、そう信じられたから、迷いなく答えた。
 その力強い声に、ノネは弾けたように、紅華へと顔を向けて。
 眉尻を下げて、微かな笑顔を向ける。
「……ありがと、紅華さん」
「いや、こちらこそ。今日は、ありがとな……」
 それから、言葉交わすことなく、ずっと、空に咲く花を見あげ続けた。
 ――絶えず打ちあがる、花火の輝き。
 そのひとつひとつが、生きとし生けるものの、一生の一部始終を見ているよう。
 だから、ひとつとして、見逃すことができなくて。
 ただただ、ひたすらに、眼に焼きつけ続けた。
 ノネは胸中でつぶやき、そっとまぶたを閉ざして。
(「……忘れない、から……」)
 からだ中に響く『音』に、意識と想いを向け、祈り続けた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
ユヌさん、一緒に花火をしませんか?

打ち上げ花火はお互いの声が途切れてしまうから、川沿いの静かな場所で手持ち花火を
普通の花火と線香花火を持っていきます

ユヌさんには相棒の馬さんがいたんですね
いつか、いつかどこかでまた逢えたとしたら。何を話すか、どうしたいか考えていたりしますか?
線香花火の灯りを川に向け以前目にした灯籠流しを思います
ユヌさんが答えても、口を噤んでしまっても静かに隣に
沈黙だって答えだもの

川はいつか海という大きな存在へ繋がる――魂も、きっとそう
涙が溢れてしまったらばれないようそっと下を向きます

さ、後片付けもしっかりしないと!
詰めが甘いわたしなので――ちゃんと足元確認、前を向いて行きます!




 長い三つ編みの揺れる背中が、ひとごみを器用に避けながら遠ざかっていく。
 向かう先は、動物妖怪たちが勧めた【廃校舎の屋上】でも、【川沿いの広場】でもなさそうだったから。
 ハルア・ガーラント(歌う宵啼鳥・f23517)は、慌ててその背に声をかけた。
「……あの、ユヌさん。一緒に花火をしませんか?」
 しかし、少女は立ち止まらず、歩き続けていく。
 声が小さかったのだろうかと胸いっぱいに息を吸いこみ、再び声をはりあげた。
「ユヌさん、一緒に花火をしませんか!!」
「聞こえてるわよ」
 即座に声がして、少女が振り返った。
「あたしを誘うなんて、間違いなんじゃないかと思ったのに。そうじゃないのね」
 ぶっきらぼうな様子に機嫌を損ねたのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。
「どこでするの」
「えっ?」
「花火。するんでしょう」
「あっ、はい! 打ち上げ花火も素敵ですけど、川沿いの静かな場所で、お話ししながら手持ち花火なんて、どうですか?」
 容易万端の手持ち花火や、線香花火を満面の笑顔で見せるハルアに、ユヌは呆れたような表情を浮かべて。
「……いいわよ。そうしましょう」
 仏頂面のまま、川へ向かって歩きはじめた。

 川沿いは訪れる者の姿がまばらで。
 ハルアはしゃがみこみ、ユヌは立ったまま、水のせせらぎを聴きながら手持ち花火に興じていた。
 しかし、愛想というものをどこかに置き忘れたかのような少女は、自分から口をひらくことは、ほとんどなくて。
 ハルアはユヌの表情を見あげながら、ぽつりぽつりと、声をかける。
「ユヌさんには、相棒の馬さんがいたんですね」
 「そうね」と、簡単に答えた後。
 からりと乾いた口調で、少女は続けた。
「覚えてるのは、馬が居たってことだけよ。名前も、なんで傍にいたかの経緯も、なにも覚えてなくて。ただ、なんだか大事だった、という印象だけが在るの」
 オウガブラッドであるこの少女は、己のあらゆるものをオウガへ捧げているのだという。
 ゆえに、己を定義する『記憶』も、断片的にしか残っていないのだ。
 ハルアは、言葉を探しながら、問いかけた。
「……いつか、いつかどこかでまた逢えたとしたら。なにを話すか、どうしたいか考えていたりしますか?」
 手にしていた花火の終わりを察し、ユヌは設置されていた水おけに花火を沈めながら、言った。
「騎乗して。ただ、草原を駆けたいわ」
 じゅっと、水に沈んだ火薬が音をたてる。
 ――あっけなく、おわっていく。
 ハルアは、少女が『草原』と言ったそのことばに、郷愁と、空虚さを感じながら。
 以前目にした、灯籠流しを思いだしていた。
 ひとは願いをこめ、大いなる流れに灯火を流す。
「……川はいつか、海という大きな存在へ繋がるっていいます。だから。――魂も、きっとそう」
 ――ひとを想いながら、逝ったいのちたちへ。
 手にした線香花火の灯りを、川に向けて。
「……だと、いいわね」
 つぶやくユヌに気づかれまいと、ハルアはにじんだ涙が溢れてしまわないよう、そっと顔を伏せた。
「さ! 後片付けもしっかりしないと!」
 突然立ちあがったハルアを、不思議そうに見やり。
「手伝うわよ……。そういえば、名前。教えなさいよ」
 ユヌは、やはり仏頂面のまま。
 ふわふわと揺れる、オラトリオの純白の翼を追った。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
……心が壊れていた時の記憶

『左右くん』

呼吸器に繋がれただ虚空を眺めるだけの日々
無数の怪奇の目が見る世界は万華鏡の様で酔うし
過敏な聴覚は聞きたくない音ばかり拾った

『花火、綺麗だよ』

でも先生の言葉だけはよく憶えてる
花火を打ち上げるのは鎮魂の意味もあると教えてくれた
今迄看取って来た怪奇人間たちの話を、大切そうに話しながら

……桃原先生
いつか誰かに、私のこともそうやって話してくれますか――

『元気になったら外で見よう』

……うん
また先生と見たい
父さんや母さんも誘おう
文さんも誘ったら喜ぶかな
(※文さんは当時の女性担当教官)
……きみとも一緒がいいな、コローロ

あられとご主人も見てるだろうか
外の世界で、ふたりで……




 人々が夜空を見あげたり、手もとの明かりに魅せられている頃。
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は、存在感を消し闇に紛れながら、【川沿いの広場】への道を歩いていた。
 特にひとの気配の少ない場所を選んで腰をおろすと、そこから、打ちあげ花火を眺める。
「……コローロ」
 ぽつり呟けば、火花の様に瞬く光があらわれて。
 スキアファールの傍をつかず離れず、ふわりと浮かぶ。

 ――こころが壊れていた時のことを、憶えている。
 あの頃は、心身ともに、疲弊しきっていた。
 保護された病院の、味気ない病室の中。
 呼吸器に繋がれ、ただただ、虚空を眺めるだけの日々。
 身体中に浮かぶ無数の目が見る世界は、万華鏡のようにぐるぐると映り、酔いを誘ったし。
 過敏な聴覚は、聞きたくない音や声ばかり拾って、私をさいなんだ。
 でも。
 先生の言葉だけは、今もよく、憶えてる。
『左右くん。花火、綺麗だよ』
 味気ない単色のカーテンを開けて、見たことのない世界を垣間見せてくれた。
 その時、教えてくれたのだ。
 花火を打ちあげるのは、鎮魂の意味もあるのだ、と。
 今まで看取ってきた怪奇人間たちの話を、大切そうに話しながら。

 あの日のことは、今も鮮明に覚えている。
 出会ってきた彼らが、どれほど魅力的な存在であったかを。
 どれほど、尊い存在であったかを。
 花火の轟きを背景に。
 彼は休憩さえも忘れて、やさしく語り続けた。
(「……桃原先生。いつか、誰かに。私のことも、そうやって話してくれますか――」)
 遠く、空の果てに咲いては散っていく花の一生を見送りながら、スキアファールは胸中の恩師に語りかける。
 そうしてあの日、先生は言ったのだ。

『元気になったら、外で見よう』

 病室を出て、空の下でともに見よう、と。
(「……うん。また、先生と見たい。父さんや、母さんも誘おう。文さんも誘ったら、喜ぶかな」)
 父や母、当時の女性担当教官の顔も、懐かしく想い出されて。
 そうしてふと、傍に浮かんだままの光へと黒い瞳を向ける。
「……うん。そうだな。きみとも一緒がいいな、コローロ」
 光は応えるようにちかちかと明滅すると、スキアファールの周囲をくるくると回った。
 そうして、今回の依頼で、逝ってしまったいのちを想う。
(「今ごろ。『あられ』とご主人も、この花火を見てるだろうか」)
 あの日、病室に居た己が、外の世界でふたたび夜空の散華を見ることができたように。
 ふたりもそうであれば良いと、願いながら。
 スキアファールは、天上に咲く花を、見送り続けた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・シェフィールド
【廃校舎の屋上】
1人で打ち上げ花火を見にいきます。
翼を羽ばたかせて校舎の屋上に舞い上がり、その更に一番高い処に腰かけて空を見上げます。

夜空に咲く大輪の花火、ぱぁっと開いては、儚く消えていく花火を見ながら。
「…一緒に、見たかったな…」
大切な人に思いを馳せます。

好きだよ、って言ってくれた人。何よりも、誰よりも大好きな人。

連絡がとれなくなって、ずっと待っているつもりだったけど…待っていることに耐えられなくなった、わたし。

あられさんの気持ちも、とてもよく分かってしまうけれど。

「前に、進まなくっちゃね…」

また、いつか会えたら。その時は笑顔で。
あの人は、みんなが一緒に、賑やかにしているのが好きだったから。




 フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は、ひとり空を駆けていた。
 オラトリオの翼を羽ばたかせ、【廃校舎の屋上】の中でも、さらに高い位置にある貯水槽の一角に舞い降りる。
 古びた施設の端に腰掛け、吹き抜ける風に身を縮める。
 両翼で己の身体を抱くようにしながらなびく紫の髪を押さえつけ、天上いっぱいの広大な星空をあおぎ見た。
 視線の先には、次々と打ちあがっては、儚く消えていく大輪の花が咲いて。
「……一緒に、見たかったな……」
 脳裏に浮かぶのは、大切な人のこと。
 「好きだよ」と、言ってくれた人。
 ――なによりも、だれよりも、大好きな人。
 大好きだから、何があっても大丈夫だと思っていた。
 連絡がとれなくなって、平気。
 きっと、どれだけだって、待っていられる。
 そんな風に、思っていた。
(「けれど――」)
 待てど暮らせど、あの人は帰ってこなかった。
 風のたよりも、届かなかった。
 嬉しいことがあった時、楽しいことがあった時。
 その気持ちをわかちあいたいと思っても、傍にはだれもいなくて。
 その切なさをくりかえすたびに、逢いたくてたまらなくなって。
 そうして。
 1日、また1日と。
 希望にすがって待ち続けることに、耐えられなくなってしまった。

 夜空に花がひらくたび、人々の歓声が遠く聞こえくる。
 あの灯りのひとつひとつに、寄り添う者たちがいるのだと、羨ましくも感じる。
(「だから、わたし。あられさんの気持ちも、とてもよく分かってしまった」)
 ――世界を壊してでも。『大切な人』と、逢えるのなら。
 ――あの人に、もう一度、名前を呼んでもらえるのなら。
 けれど。
 どれほど願っても。
 何度いのちを懸けても、あの白猫の願いが、叶うことがなかったように。
 己の願いが叶うこともないのだろうと、わかったから。
 すうと胸いっぱいに息を吸い。
 己に言い聞かせるように、想いを振り払うように、声に出した。
「前に、進まなくっちゃね……」
 翼を広げ、立ちあがる。
 頭上には、まだ幾重にも花火が瞬いていて。
 せめて、どこかの空の下で。
 あの人も、こうして空を見あげていたらいいと、想う。
(「だってあの人は。みんなが一緒に、賑やかにしているのが好きだったから――」)
 今はただ純粋に、願う。
 もし、またあえたなら。
 それはきっと、すばらしいこと。

 ――だから、その時は。笑顔で。

 どこかにいる、あなたへ。
 フィーナは、夜空に向かって微笑んだ。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
花火の美しさも元の世界を取り戻せたから、ね
あられは出口の先で無事にご主人様に巡り会えたかしら
そうであってと願わずにいられない

ユヌを誘って手持ち花火を楽しむわ
猫又ちゃんも…あられではないけれど一緒に楽しみましょう
ユヌは一度亡くなっているのだった?
猟兵の中にはデッドマンもいるでしょ
そういう形で蘇ることもあるのかしらね…

あたしの大切な人は生死がわからなくて
もう待つのに疲れちゃった…
ユヌには覚悟と決意を感じるの
あなたみたいに強くなれたらいいのに…
でもねここに来て出口を見つけた気がするの
いつか会えたらと思うけど
(この花火を一緒に見たいと思い浮かんだ顔はもうあの人じゃなくて…
自分の素直な気持ちに向き合うわ




 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、正常に戻った『カクリヨファンタズム』の夜空を見上げながら、ひとりごちていた。
「花火のうつくしさも、もとの世界も取り戻せたから、ね。……あられは、『出口』の先で、無事にご主人様にめぐり会えたかしら」
 終わりのない無限空間で、『出口』なんて見えないと泣いていた白猫と、やさしい飼い主。
 彼らのいく先が、光の満ちた場所であるようにと。
 そうであってと、願わずにはいられない。
 ――ともあれ。
 世界の終わり(カタストロフ)を食い止めることは、できたのだ。
 エリシャは、今回の依頼の案内人――ユヌ・パ(残映・f28086)の姿を見つけ、大きく手を振った。
 見れば、ユヌは追いすがる幼猫又から逃げようと、こちらへ走りくるところだ。
「ユヌ。猫又ちゃんも……あられではないけれど、一緒に楽しみましょう」
 エリシャがひょいと幼白猫を抱きあげれば、ユヌがようやく足を止める。
「……猫が苦手なの?」
「そんなこと、あるわけないでしょ」
 少女は口をとがらせ、続けて言った。
「名前、教えなさいよ。あたしだけ呼べないのは困るでしょ」
 口調はとげとげしいが、言い分には頷ける。
 悪意があっての態度では、なさそうで。
(「……不器用、なのかしら」)
 そんな様子を微笑ましく感じ、エリシャは「それじゃあ、あらためて」と笑って。
「エリシャ・パルティエルよ。どうぞよろしくね」
 さし出された右手を。
 ユヌはしばし見つめた後、そっと、握り返した。

 ふたりと1匹は【川沿いの広場】の隅っこに陣取った。
 エリシャは駆けまわる幼白猫を構いながら、ユヌは線香花火を手に、夜闇を照らしては消えていく光を眺める。
「ユヌは、一度亡くなっているのだった? 猟兵の中には『デッドマン』もいるでしょ。そういう形で蘇ることも、あるのかしらね……」
「あっちは、人為的に蘇った人たちでしょ。あたしは、オブリビオンにもならず悪霊として『再構築』された。……蘇った理由が、イマイチわからないのよね」
 自分のことなのに、どこか他人事のように語る少女の横顔を見やって。
 エリシャは言葉を探しながら、続けた。
「あたしの大切な人は、ずっと、生死がわからなくて。もう、待つのに疲れちゃった……。なのに、ユヌには覚悟と決意を感じるの。あたしも、あなたみたいに強くなれたらいいのに……」
 ユヌは線香花火がぽとり、落ちるのを見やって。
「確かに、弱いつもりはないけど。――それは、買いかぶりよ」
 仏頂面のまま反論し、そこで言葉は途切れた。
 そんな風に言いきれるところに『強さ』を感じるのだと、エリシャは胸中で言葉を継いで。
 消えていく花火の光と、見上げる白猫の顔を見やりながら、続ける。
「……でもね。ここに来て、あたしも『出口』を見つけた気がするの。いつか会えたらって、そう思うけど――」
 遠く、はじけては散っていく、打ち上げ花火を見あげる。
 風が吹き、エリシャの金の髪を乱して。
(「この花火を一緒に見たいと思い浮かんだ顔は、もうあの人じゃなかったから」)
「これからは。自分の、素直な気持ちに向きあうわ」
 終えた線香花火を、ユヌは乱暴に水桶に沈めた。
「そうよ。待つ必要なんかないわ」
 それから、血紅の眼をエリシャへと向けて、言った。
「綺麗サッパリ、忘れるわけじゃないんでしょ? だったら、あなたは、あなたの人生を生きていればいいの。やりたいように生きていればいいのよ」
 「あたしなら。そんな男の記憶、とっくにオウガにくれてやってるわ」と、まるで自分ごとのように語気を荒げる少女を見やって。
 エリシャはようやく、気づいた。
 この少女を突き動かしているのは。
 その内に、燃えるのは。
 覚悟でも決意でもなく、理不尽に対する『怒り』なのだと――。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

チェチェ・アリスラビリンス
【廃校舎の屋上】
妖怪たちを捕まえて、廃校舎の屋上へ案内させるぞ

夜空に咲く花を見るのにいい場所があるのだろ?
そこへチェチェを案内すると良い
屋上に到着したらお散歩は終了だ
お散歩のあとはお茶会だな

屋上の一角をお茶会の会場にするぞ
イスやテーブルがあれば用意するし、無ければないでも大丈夫だろう
お茶はチェチェ(の執事うさぎのぬいぐるみ)が用意するからな
お菓子は妖怪たちに用意させるぞ
きっと、チェチェの知らないお菓子があるはずだ

夜空には花が咲いているんだぞ
それだけでお茶会を開く理由としては十分だ
それは妖怪たちも同じじゃないのか?

お茶会はみんなで楽しむものだからな
お茶会に参加するのなら妖怪もアリスも拒まないぞ


林・水鏡
うむ、打ち上げ花火はやはり豪快でいいのう!
それに打ち上げ花火と言うのは鎮魂の意味で上げられる…あられやわんこの魂にも届くといいのう。

悲しみも寂しさも理解は出来るが…あぁ、でもそれがこの世界では滅びのきっかけになるんじゃろうな。そんな当たり前の感情がの…。

だからこそ我も精進せねばな。

悲しい思いや寂しい思いをしてるものには寄り添ってやりたいし。
我が儘やただの享楽を求めるものは叱ってやらぬばならんしの。


ルナ・ステラ
白猫さんはご主人様のもとへいけたでしょうか...?

わぁ!かわいい動物妖怪さんたちです!
花火見れるんですか♪
え〜っと...白い子猫さんも一緒にどうですか?

廃校舎の屋上が見晴らしがいいのですね!
そこまで行きましょうか?
行く途中でこれから子猫さんがお世話になりそうな人(妖怪)がいたら挨拶もしていきましょうか。

廃校舎に着いたら子猫さんと一緒に花火を楽しみましょう。
余裕があれば『あられ』さんとそのご主人様に対して鎮魂歌となるような、花火に合う曲を【楽器演奏】しましょうか。
(安らかに眠ってください)
—それから、これからこの世界で生きていく白い子猫さんに対しての応援歌も演奏できるといいな...




「夜空に咲く花を見るのに、いい場所があるのだろ? そこへ、チェチェを案内すると良い!」
 ふもふなイキモノ――チェチェ・アリスラビリンス(愉快な仲間のプリンセス・f21782)の言葉にはずいぶん、なにしろ動物妖怪たちは、自分たちの姿が見えるというだけで大感激。
「こっちです、こっちですよ! もふもふの猟兵さん!」
「一番良い場所にご案内しますね~!」
 道のど真ん中を堂々と『お散歩』するチェチェに、その傍にうやうやしく仕える執事うさぎ&メイドうさぎのぬいぐるみたち。
 興味をもった動物妖怪たちが次々とその背に続けば、チェチェの道行はまるで『大名行列』か『花魁道中』かといった様相を呈していった。
 目的地である【廃校舎の屋上】の屋上に到着したなら、
「お散歩のあとは、お茶会だな。この一角を、お茶会の会場にするぞ!」
 愉快な仲間のプリンセスの宣言に、居合わせた妖怪たちが、わ~っ!と声をあげた。
「それなら、旧校舎の机を運んでくるよ!」
「椅子もいっぱいあるしね~☆」
 我も我も!と、階下に駆けだしていく動物妖怪たちに手配を任せ、執事うさぎはさっそくお茶の準備にかかった。
 そして、『あれ』の準備も忘れてはいけない。
「お茶会にはお菓子が必要だぞ。でも、この世界にはチェチェの知らないお菓子があるはずだ。妖怪たちはチェチェたちのために、お菓子を集めてくるのだ!」
 無茶振りのような依頼だったが、これまた妖怪たちは大喜びで調達に走っていった。
「猟兵さん、よろこんで!」
「幽世の骸魂ケーキは、最高に美味しいよ!」
「駄菓子に、ドロップも、たくさんあるからな。お土産にもいいぞ」
 あっという間に準備が整い、屋上には、ひとつづきの横長テーブルができあがっていた。
 卓上には、あちこちから集められたお菓子が山のように並べられ、席に着いた妖怪たちへ、執事うさぎとメイドが、せっせとお茶を配って回る。
 その時だった。
「わぁ、本当に見晴らしがいいですね! それに、かわいい動物妖怪さんたちがいっぱいですっ! ……えっと。今から、お茶会も開かれるんですか??」
 声をあげたのは、屋上へ辿りついたばかりのルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)だった。
「僕たちもよくわからないんだけど、お茶会するんだって!」
「誘ってもらったんだ~!」
 手招きする動物妖怪たちをよそに、チェチェは当たり前のように、言った。
「夜空には花が咲いているんだぞ。それだけで、お茶会を開く理由としては十分だ。それは、妖怪たちも同じじゃないのか?」
 問われた妖怪たちは、「そういうものなの?」と不思議がっていたが。
 ともあれ、楽しく賑やかな様子に、
「なんと。こういう席でともに憩うのも、趣(おもむき)があって良いのう!」
 打ち上げ花火を鑑賞しに来た林・水鏡(少女白澤・f27963)も、物珍し気に声をかけて。
 チェチェは頷き、場に居合わせた者たちへ、堂々とした声で言った。
「お茶会は、みんなで楽しむものだからな。お茶会に参加するのなら、妖怪もアリス(猟兵)も拒まないぞ」
 その声に、様子をみていた妖怪や猟兵たちも、わっと空いている席についた。
「あっ! 白い子猫さんも、一緒にどうですか?」
 通りかかった幼白猫にルナが呼びかければ、猫はみゃおん!とひと声。
 すぐさま、空いていた椅子の上に飛び乗った。

 人数が増えるごとにテーブルが追加され、どんどん横長に伸びていった。
 ほのかにただようお茶の香りに、ほおが落ちるような甘いお菓子。
 はじめましてのお隣さん同士で打ちあがる大輪の花を仰ぎ見て、同じ瞬間を過ごす。
「うむ、打ち上げ花火はやはり豪快でいいのう! それに、打ち上げ花火と言うのは『鎮魂』の意味でもあげられるものだ。……あられや、わんこたちの魂にも届くといいのう」
 水鏡の言葉に、隣の席についていたネズミの妖怪が頷いた。
「取りこまれていた俺らも、少なからず縁があったから一緒になっちまったんだしな。色々と思う所はあるけど、これからも気を付けないと」
「そうじゃな。彼らの悲しみも、寂しさも理解はできるが……。しかし、それがこの世界では滅びのきっかけになるんじゃからな」
 ――別の世界では、当たり前に抱くような、感情。
 それさえも、ここでは世界の終わり(カタストロフ)のトリガーとなる。
「猟兵さんたちには、本当、感謝しかないな」
「礼に対しては、素直に感謝を。しかし、だからこそ。我らも精進せねばなと、気が引き締まる思いじゃよ」
 ただ戦うばかりが、猟兵の仕事ではない。
(「悲しい想いや、寂しい想いをしてるものには寄り添ってやりたいし。我が儘や、ただの享楽を求めるものは、時には叱ってやらぬばならんしの――」)
 水鏡が、誓いを新たにしていた頃。
 幼白猫とお茶会を楽しんでいたルナは、賑わう人々の様子を見やり、そっと『獣奏器』を手にしていた。
(「『あられ』さんと、そのご主人様の鎮魂歌となるように。どうか、安らかに眠ってください――」)
 この歌や、演奏が。
 今回の事件に関わった幼白猫や、人々の癒しにもなりますようにと、願いながら。
 テーブルの上でミルクを頬張る幼白猫を見やり、微笑んだ。
「さあ。今度は、白猫さんへの応援歌を演奏しますよ!」
 ルナの声に。
 周囲に居たお茶会仲間たちが、ふたたび、一斉に歓声をあげた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴久名・惟継
紡(f27962)と廃校舎屋上で打ち上げ花火を見るか

見事な花火だな!やはり夏はこうでなくては
花火が上がる度に明るく照らされる景色は何度見ても飽きることはなく

これを楽しめるのも紡含め猟兵殿の御力があってこそ
ぼんやりと花火を眺める隣の者の頭を撫でる

はっはっは、俺からすればまだまだ三十路だ
それにお前が子であることはこの先も変わることはない

うん?なんだ、藪から棒に
投げかけられた問いに少し驚いた後、少し考える
そうだなぁ……理想というのは己の願望にも近い
信仰があった世界を懐かしくは思うが、理想ではないな
敢えて理想を言うのならば、種族関係なく手を取り合う世界
例えるのならばお前さんの父と母のような存在だろうか


鈴久名・紡
惟継(f27933)と
廃校舎屋上で打ち上げ花火

隣で花火を眺める惟継の……
理想の世界ってどんな世界なんだろう
さっき思ったそれがどこかにあって

ぼんやりと花火を眺めていると
頭を撫でたつもりなのか
惟継にわしゃりと髪を乱される

俺、四捨五入すると三十路なんだけど……

まぁ、こういう子供じゃないぞって反応が
この人からすれば子供に思えるんだろう

……なぁ、惟継
あんたの理想の世界って、どんなの?
昔、まだ人に信心があった頃の世界とかそういうの?

考える様子の惟継につまらないことを聞いた
そう思って
忘れてくれと言おうとして返ってくる応え

っ!

思いがけない答えのようで
惟継らしい答えのような
その応えに笑う

ありがとう、親父殿――




 長い鉄紺の髪に、瑠璃紺の瞳を持つ竜神――鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)は、白灰の髪をもつ甥――鈴久名・紡(境界・f27962)とともに、廃校舎の屋上へ打ち上げ花火を見に訪れていた。
「見事な花火だな! やはり、夏はこうでなくては」
 夜空に大輪の花が咲きほこるたびに、あたりが明るく彩られる。
 視界全体が照らされる景色は、何度見ても飽きることはない。
 先ごろまで、この世界は滅びかけており。
 それを解決したのが紡たち猟兵の活躍と聞いており、惟継は感心したように頷いた。
「これを楽しめるのも、紡ふくめ、猟兵殿の御力があってこそ。よくぞ、力を尽くしたな!」
 ぼんやりと花火を眺める紡の頭へ、ぽんと手を置くと、
「俺、四捨五入すると三十路なんだけど……」
 藍色の瞳が、わしゃりと髪を乱した――当の惟継は、髪を撫でたつもりなのだが――叔父を呆れたように見やった。
「はっはっは! 俺からすれば、まだまだ三十路だ。それに、お前が子であることは、この先も変わることはない」
 その、憮然とした表情を浮かべる様こそ、惟継には子供の反応のように見えるのだろう。
 豪快に笑う男が、天を仰ぎ見る様子に。
 紡はふと、任務中に考えた想いが、脳裏をよぎって。
「……なぁ、惟継」
「うん? なんだ、藪から棒に」
 言葉をかけた後。
 己をまっすぐに見やる惟継の眼を見て。
 問おうか、問うまいかを悩んだ後、意を決して口をひらく。
「あんたの理想の世界って、どんなの? 昔、まだ人に信心があった頃の世界とか……そういうの?」
 問いかけられた惟継は、一瞬、驚いたような表情をして。
 それから、
「そうだなぁ……」
 真剣な面持ちで、考えこんでしまった。
 ――己の興味を満たすための質問で、憩いの時に水を差してしまった。
 そう思い、紡が「忘れてくれ」と言おうとした、その時だった。
 惟継は、はっきりとした声で。
 まっすぐに紡を見やりながら、応えた。
「理想というのは、己の願望にも近い。信仰があった世界を懐かしくは思うが……、理想ではないな」
 ――問いかけに、真摯に向きあったうえでの、言葉。
 惟継は続けて、こうも付け加えた。
「敢えて理想を言うのならば。種族関係なく、手を取りあう世界。例えるのならば、お前さんの父と母のような存在だろうか」
「!」
 それは、思いがけない答えのようであり、惟継らしい答えでもあって。
 紡は叔父の想いを受けとり、笑みを浮かべ、返した。
「ありがとう、親父殿――」
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f03130/コノハさん

廃校舎にて
発泡酒を片手に
花火鑑賞

更に高みへ上ったら
散る火花を掴めるでしょうか

屋上のいっとう高い場所を指さし
笑んで提案
答えを聞く間もなく
自ら上って縁へと座す

あぁ
よく見えますよ
圧倒的な――宙です

広い広い宇宙に包まれた心地
両腕を広げても
大輪の花火は
此の小さき身では抱き締め切れない

色とりどりの耀きが空を染め
雨のように降ってくる

大気の震える音が身体の芯に響き
飴のようにぱらぱらと天から零れる

…口を開けて待っていたら
甘い味がしそうですね

なんて笑って
代わりに
ぱちりぱちり気泡弾ける酒を口に含めば
まるで身の裡でも花火が咲くみたい

綺麗ですねぇ

ありふれた言葉
けれど偽りなき真心で
此の夏を讃えよう


コノハ・ライゼ
綾ちゃん/f01786と

指さされた場所を見上げれば、一も二も無く頷いて
綾ちゃんに追いかけより高い場所へと

あら本当……まるで宙に浮かぶよう
遮るモノの無い夜色に花が咲けば、大きい!と思わず声上げはしゃいだり

確かに、火花を掴めそうな気にもなるわねぇ
咲く度照らす彩りを、受けるように掌差し出せば、甘味を求めるかの声

ふふ、花火のように色々な味が降ってきたら素敵
口を開けて降るのを待つだナンて、なかなかに可愛らしい図じゃなくて?と茶化すも
共に発泡酒を煽れば彼の言葉にも納得で
宙に咲く花火になった気分でささやかな酒宴
ナンて贅沢なのかしら

――ええ、とても美味しそう

風情がナイ?
オレにとっては最高の賛辞ヨ




 きしむ階段を昇りきり、屋上へと続く扉をひらけば。
 視界一面に、極彩色の花が瞬いていた。

 都槻・綾(糸遊・f01786)が、コノハ・ライゼ(空々・f03130)を手招いて。
 発泡酒を片手に、あいた手で空を示した。
「さらに高みへ上ったら、散る火花を掴めるでしょうか」
 示された場所を見あげれば、コノハは一も二もなく頷いて。
 綾は答えを聞くよりも早く、示した場所――さらに高い位置にある、廃校舎の中央塔の先へと至り、その縁へ腰掛けた。
「あぁ、よく見えますよ。圧倒的な――宙です」
 追いついたコノハが、その声を確かめるように、空を仰ぐ。
「あら本当……。まるで、宙に浮かぶよう」
 五億の鈴がまたたく、藍色の天。
 さえぎるもののない天上を見つめ続ければ、まるで広大な宇宙に、身を委ねたかのような心地になる。
 ひろがる夜色に花が咲けば、
「……大きい!」
 コノハの声に続いて、色とりどりの輝きが宙に散っては、消えていった。
 光は、地上へと降りそそぐ雨のよう。
 大気にはしる轟きが、身体の芯に響いて。
 遅れて、飴を散らしたような小粒の音が、ぱらぱらと天から零れていく。
 幾重にも咲く花は、広大で。
 綾が両腕を広げたところで、その小さき身では、抱き締めることは叶わない。
「でも、確かに。これだけ近づけば、掴めそうな気にもなるわねぇ」
 咲くたびに照らす彩りを受け、コノハが宙へと掌をさしだす。
「……口を開けて待っていたら、甘い味がしそうですね」
「花火のように、色々な味が降ってきたら素敵。……でも。口を開けて降るのを待つだナンて。綾ちゃんにしては、なかなかに可愛らしい図じゃなくて?」
 その様を想像して、コノハはくすりと笑んだ。
 この場に、甘味はないけれど。
 ふたりは発泡酒を手に視線を交わして、どちらともなく、宙へと乾杯!
 ならんで杯をあおれば、ぱちりぱちりと、口の中で気泡がはじけていく。
「まるで、身の裡でも花火が咲くようです」
「ふふ。花火になった気分で酒宴なんて、ナンて贅沢なのかしら」
 語る言葉さえのみこむように、夜空に次々と花が咲く。
 身の内を、轟きが駆け抜けていく。
「綺麗ですねぇ」
「――ええ、とても美味しそう」
 え、と見やれば、
「風情がナイって顔ね。でも、オレにとっては、最高の賛辞ヨ」
 コノハさんらしいと、綾が笑った。

 こころ動かされた情景を語るのに、飾る言葉など要らない。
 ありふれた言葉で。
 偽りなき真心で。
 ただ、この夏を讃えよう――。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
ネフラ殿(f04313)と

取り戻した出口から溢れ出た賑わいは
ひとの形の方が少ないようで、つい目を輝かせてしまい。
あまりじろじろ見ては悪いような気もしつつ
妖怪さん達は見られるのが嬉しいと聞いたので此処は遠慮なく…!

昇る魂がもう泣かぬよう祈り
見覚えのある猫が彼女に抱かれれば、静かに微笑む

地上の景色も壮観だけれど
天の輝きも。
隣の煌きも。
見逃すにはあまりに惜しい

数多の花が夜空に咲いて
どこか寂しげな彼女を彩るものだから
淡い色を見失わぬよう、Nephrite.と声に乗せ。
それも夜空を震わす音に消えてしまうだろうか

…ネフラ殿、肌寒そう?
まだ夏の始まり、無理もない
上着を彼女の肩にかけ、もう少し共に眺めていよう


ネフラ・ノーヴァ
千之助殿(f00454)と。

やあ、可愛らしい動物妖怪たちだ。無事解放されて何より。
千之助殿の目が随分輝いているな。
白毛の猫又がそばにいるなら、抱き上げさせてもらえるかな。

花火か、打ち上げ花火をゆるりと眺めるも良いだろう、千之助殿。
廃校舎の屋上なら夜風も気持ち良さそうだ。

美しく煌びやかに夜空を彩る花火。しかし瞬く間に消えゆくそれは寂しさを感じさせるものでもあり。
少し夜風が冷たいか。千之助殿の好意はありがたく受け取るよ。




 平穏を取り戻し、『出口』からあふれでた『カクリヨファンタズム』の賑わいは、佐那・千之助(火輪・f00454)には珍しく映ったようで。
「ああ、いや。あまりじろじろ見ては悪いとも思ったのだが、妖怪達は見られるのが嬉しいと聞いたのでな……!」
 ひとの形の方が少ないのだなと、目を輝かせ妖怪たちと語らう猟兵を、妖怪たちは喜んで迎えた。
「うんうん、ぼくらもその方が嬉しいよ!」
「そうだよ! こうして眼をあわして話せるって、すごい嬉しいよね~!」
「見えないと、お話しもできないもんね……」
 どれだけ見られたところで、妖怪たちは大歓迎らしい。
 そんな千之助と連れだって歩いていたのは、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)だ。
「やあ、可愛らしい動物妖怪たちだ。こうして、無事に解放されてなにより」
 出会う妖怪にやさしく声を掛けて回っていると、あっという間に動物妖怪たちの人気者になっていた。
 その妖怪たちの合間を縫って、白毛の猫又が駆け寄ってくる。
「みゃあん!」
 『あられ』によく似た幼白猫を、ネフラがその腕に抱きあげて。
 千之助は、先に出会った白猫『あられ』の魂が、もう泣かぬようにと祈り。
 それから、ネフラへと静かに微笑んだ。
「千之助殿。動物妖怪たちを愛でるのも構わんが。ゆるり、打ち上げ花火を眺めるもまた、趣があるだろう。廃校舎の屋上なら、夜風も気持ち良さそうだ」
 そう告げれば、あたりに居た動物妖怪たちが、すぐに道案内を買ってでて。
 ふたりは、すぐに廃校舎へと場所を移した。

 屋上はすでに、妖怪や猟兵たちの姿であふれていた。
 居合わせた者たちは空を仰ぎ見ながら、大輪の輝きが空を照らすたびに、感嘆の声をあげている。
 千之助がひとの少ない場所を探し、白猫を連れたネフラの手を取り、エスコート。
 ならび天を見あげれば、藍色の宇宙が、眼前に迫るように広がっている。
 夜空の花は、次から次へ。
 極彩色の光をはなちながら、宙へと散っていく。
 咲いて、散って。
 また咲いて。
(「地上の景色も壮観だが。天の輝きも、隣の煌きも。見逃すには、あまりに惜しい――」)
 数多の花が夜空に咲くたび、どこか寂しげなネフラの横顔を彩るものだから。
 その淡い色を見失わぬよう、千之助は「Nephrite.」と声に乗せた。
 しかしその声も、夜空を震わす音に消えてしまったのだろうか。
「美しく、煌びやかに夜空を彩る花火。……しかし、瞬く間に消えゆく姿には、寂しさも感じるものだな」
 そう零したネフラが、夜風に身を縮めたのを見やって。
「……ネフラ殿、肌寒いのか? まだ夏の始まりだ、無理もない」
 千之助はすぐに己のまとっていた上着を脱ぎ、ネフラの肩へかけてやった。
「すまない。ありがたく受け取るよ」
 上着を引き寄せ礼を述べるネフラに、千之助が礼には及ばぬと言い添えて。
 もう少し、ともに空を眺めていようと。
 幾重にも咲いた、天の花を仰いだ。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

海月・びいどろ
廃校舎の屋上、高い所から
空に咲く大輪の花を眺めに
ボク、花火は初めて見るよ

おおきな音が身体に響いて
弾けて、きらきら光ってる
花火を観る人、花火をする人
どの顔も照らされて笑ってる
あられも、そのごしゅじんさまも
これが見たかった?

ボクにも猫がいるけれど
びーだまも、見たいと思うかな
それとも、怖がるかな
なんだか、とても会いたくなった
ふわふわのからだを抱きしめて
ただいま、って言いたい

置いてかないで、と思うけど
置いて行きたくなんて、きっとなくて
いきものはいつか、必ず、最後の日が来るのに

このきもちを、知ってしまったら
いろんなお別れが惜しくなってしまう
夏が終わるのも、きみと離れてしまうのも

…さよならは、さびしい、ね




 廃校舎の屋上の、ひとけのない暗がりに、その姿はあった。
 高所を恐れるでなく、その淵に腰掛けて。
 つま先をぶらぶらと揺らしながら、
「ボク、花火は初めて見るよ」
 誰にともなくそう零したのは、電子のこども――海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)だった。
 ひゅるると、空に大輪の花が瞬くたびに、淡い己の身にも彩りが移る。
 空を振るわせる轟きが、身の内にまで響いていく。
 天の花が瞬き、散るたびに、色と音が弾け、世界をきらきらと輝かせた。
 そうして、びいどろの居る場所からは、催しに興じる人々の姿が良く見えたから。
 ヒトを模したこどもは水面を覗きこむように、眼下にひろがる世界を見やった。
 ――花火を観る人。
 ――花火をする人。
 言葉交わすどの顔も、空とおなじ色に照らされて。
 咲く花のように、明るく笑っている。
「あられも、ごしゅじんさまも。これが見たかった……?」
 本当のところは、もう、だれにもわからないけれど。
 びいどろはそうして、己の猫に、想いをはせた。
(「びーだまも、見たいと思うかな。それとも、怖がるかな」)
 考えだしたら、なんだか、とても会いたくなって。
 今すぐにふわふわのからだを抱きしめて、「ただいま」を、言いたくなった。
 ぎゅうっと、胸をしめつけられるような。
 そんな、言葉にできない『きもち』に、気づく。
(「その時がきたら。きっとボクも、置いてかないで、と思うけど。置いていきたくなんて、きっとなくて」)
 けれど。
 ――いつか、必ず。いきものには、『最後の日』がやってくる。
 そのことに、改めて気づいて。
 びいどろは、きゅっと、唇を引きむすんだ。
「……この『きもち』を、知ってしまったら。いろんなお別れが、惜しくなってしまう。夏が終わるのも。きみと、離れてしまうのも」
 今すぐ触れられないもどかしさを、誤魔化すように。
 びいどろは、己の手をつよくにぎりしめて。
 それから、水底をおもわせる瞳を天に向けて、つぶやいた。
「……さよならは。さびしい、ね」
 つめたい風が、びいどろの頬を撫で。
 プリズムを映す髪を乱して、駆けていった。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
だな
あられとご主人の為にも俺達が目一杯楽しまなきゃな
未来を望むには
今この時間をしっかりと生きることだ
きっと二人の供養にもなる
折角だからユヌも一緒に行こうぜ

屋上で打ち上げ花火
夜を彩る色に心奪われ
鼓膜振るわせる音に心躍らせる

やっぱ綺麗だし迫力あるよなー
幽世だから昔懐かしいレトロな花火?
花火妖怪とか火の玉妖怪とかもいんのかな?

きっとあられ達も海で見てるよな

ユヌ>
誰かが言ってたけど
生きてる限り変化は必然で
だからこそ喪失だけじゃなくて
これから幾らでも縁を結んでいける
思い出を創っていけるってさ

花火の音で
多分途切れ途切れにしか聞こえないけど
心優しい主人と飼い猫に心を馳せて
Wウィンド爪弾く




「動物妖怪の言う通りだ。あられとご主人のためにも、俺たちが目一杯楽しまなきゃな!」
 そう告げ、人ごみをかき分け歩く木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の背を、ユヌ・パ(残映・f28086)は小走りに追いかけていた。
 先ほどウタに、「せっかくだから、ユヌも一緒に行こうぜ」と声を掛けられたのだが。
 彼はユヌの返事も聞かずに、廃校舎へと歩き出していた。
「未来を望むには、今、この時間をしっかりと生きることだ。きっと、二人の供養にもなる」
 意気揚々と歩く背中へ向け、ユヌが声をあげる。
「ちょっと、一緒に行くのはいいけど。先に、名前を教えなさいよ」
「俺の名前か? 木霊ウタだ」
 そう告げ、やはり歩きだす少年を、ユヌは懸命に追いかけた。

 廃校舎の屋上へ至れば、地上よりもはるかに空が近く見えて。
 ウタは、夜空を彩る極彩色に心奪われ。
 そしてまた、鼓膜を振るわせる音に、心躍らせてもいた。
「やっぱ綺麗だし、迫力あるよなー! 幽世だから、昔懐かしいレトロな花火? 花火妖怪とか、火の玉妖怪とかもいんのかな?」
 屋上を取り囲む柵を握りしめ、今にもひっくり返りそうなほど反り返って空を仰ぎ見るウタの側で、ユヌは渋い顔。
「……なにそれ。あたしは、こんな風に眺めるのは初めてだから。聞かれてもわからないわよ」
「そっか」
 答えが欲しかったわけではなく、浮かんだ疑問を口にしただけだったのだろう。
 ウタは姿勢を元に戻すと、視界の果てまで広がる空の海を見やり、言った。
「きっと、あられ達も。あっちの海で見てるよな」
 その言葉に、ユヌは改めて、空を見上げる。
 ユヌは一度いのちを落とし、たまたま、『悪霊』として再構築された存在だ。
 ――ひとつ道が違っていたなら。己自身、オブリビオンとなって骸の海に辿りついていたかもしれない。
 そう考えていたから、ウタの言葉は感慨深くて。
「あっちからも、見えるのかしら。もしそうなら……、いいわね」
 つぶやく横顔を見ながら、ウタは手持ちのギター『ワイルドウィンド』を軽く試し弾きしながら、少女へと言った。
「誰かが言ってたけど。生きてる限り、『変化』は必然で。だからこそ、喪失だけじゃなくて、これから幾らでも縁を結んでいける。思い出を創っていけるんだ、ってさ」
 おもむろに告げられた言葉に、ユヌはわずかに驚いた様子で。
「それって。どういう――」
 言葉を返そうとした瞬間、ウタの指が、弦を爪弾く。
(「――心優しい主人と飼い猫に、心を馳せて」)
 この旋律も。
 あちらの海へ届けばいいと、そう、願った。

 花火があがるたびに、旋律はとぎれとぎれに響いたけれど。
 草原に吹き寄せる、風のごとき調べを聴きながら。
 ユヌは、いつまでも天の花を見あげていた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
あの方の見たかった花火は
ごしゅじんさまと一緒に見る花火は、もうどこにもありえないのですが
それでも、見ていきたいと思うのです
なんでしょう、この、胸の中にぐるぐると回る何かが、そうすべきだというのです

明るく光り、すぐに消えてしまう
まるで、命のようです
私はその光の欠片を掬い取り、しまっているだけなのです
もう、どこにもいない皆様の、記憶を
触ることなどできない皆様の、記録を
私はさみしいと感じる心がないですが
きっと、触れたいと思う心があったなら、さみしいと思うのでしょう

「猫又さん、」
どうして、声が出たのでしょう
聞かなければならないことはないはずですが
「…お名前をお聞きしても、よろしいですか」




 ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)は、広場へ手持ち花火をしに行く者や、廃校舎へ打ち上げ花火を見に行く者たちの合間を縫って、歩いていた。
 すでに、任された任務は終えている。
 そのまま、すぐに帰投しても問題はなかったのだが。
(「あの方の見たかった花火は。ごしゅじんさまと一緒に見る花火は、もうどこにもありえないのですが。それでも、見ていきたいと思うのです」)
 言い訳のように胸中で唱えるユウイ自身にも、不可解な感覚で。
(「なんでしょう。この、胸の中にぐるぐると回る何かが。『そうすべき』だと、いうのです」)
 ユウイは、ただ、なにかに突き動かされるように。
 その姿を探し、歩きつづけた。

 ふいに、ぱっと空が明るく光り、夜空に天の花が咲いた。
 続いて、肌身を震わせ、轟きが駆け抜けていく。
 ユウイは足を止め、道の端に寄り立ちどまり、天を見あげた。
 幾重にも重なりながら、光の大輪が浮かんでは、消えていく。
 夜空を照らし、地上へと降りそそいでいく。
 ――明るくひかり、すぐに消えてしまう。
 咲いて、散って。
 ふたたび花ひらくそれは、まるで。
「まるで、『命』のようです」
 ぽつり口にだし。
 ユウイは、はっとオレンジの瞳を見開いた。

 ――私は、その『光の欠片』をすくい取り、しまっているだけなのです。
 ――もう、どこにもいない皆様の、『記憶』を。
 ――触ることなどできない皆様の、『記録』を。

 これまでに「想い留めて」きたそれらを、改めて身の内に感じながら。
 ユウイは己の両の手を、そっと、胸の上に重ねて。
「私には、『さみしいと感じる心』がないですが。もしも今、『触れたいと思う心』があったなら。さみしいと。そう、思うのでしょう」
 人々や花火の音にかき消されながらつぶやいた、その時だった。
 白く、ぴんと伸びた2本の尾が、視界の端をゆき過ぎていった。
 急ぎ追いかければ、それは、猟兵たちが救った幼猫又の姿で。
「みゃあん」
 己を救った猟兵とわかったのだろう。
 幼猫又は感謝を伝えるように、ユウイのつま先へと、その身をすり寄せる。
 ユウイは、その場に膝をついて。
 すべらかな真白の背を撫でながら、言った。
「猫又さん、」
 どうして声が出たのか。
 問いかけながらも、驚く自分がいる。
(「聞かなければならないことは、ないはずですが――」)
 けれど、ユウイは続けて口をひらいていた。

 ――願いを抱くほどに、記憶はころころと零れ落ちていく。
 飴玉のように。
 混ざりあって、もう、確かなものかも分からない。
 それでも――。

 もしも、いのちが。
 魂が廻るなら。
「……お名前をお聞きしても、よろしいですか」
 問いかけた人形の言葉に、幼い白猫は金色の瞳を向け、みゃあんと鳴いた。

 ――あのね、ぼくの名前は。
 
 
 *
 
 
 その日。
 夜空を彩った天の花は。
 旅立った骸魂たちを弔うように。
 そして、猟兵たちの活躍をたたえるように。
 いつまでも、いつまでも、世界をあかるく照らし続けていた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月27日
宿敵 『彷徨う白猫『あられ』』 を撃破!


挿絵イラスト