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辺境へ送る葬送歌

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章

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#辺境伯の紋章


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●辺境を目指す鉄棺
 曇天の空の下、決して晴れることのない闇の世界。だが、そのような暗闇の世界においても、既に使われなくなって久しい街道を進むその集団が、異様なことに違いはなかった。
 風に揺れ、時折キィキィと音を立てて蓋を閉開する鉄の棺。その中から微かに漂う血の匂いは、それらがただの棺ではなく、恐るべき拷問具であることを物語っている。
 そして、棺の群れの先頭を行くのは、大きな棺と紫の炎を駆る吸血鬼。彼の周りを漂う紫炎は美しい蝶の形を取り、まるで本当に生きているかの如く、不規則な羽ばたきを繰り返している。
「さて……そろそろ辺境との境界が近いね。次の村では、今度こそ何か手掛かりがつかめるといいのだけれど……」
 もっとも、手掛かりなどなくとも、自分は美しい死体さえ手に入れば、それでいい。自分の棺に相応しい、美しい生贄がいるのであれば。
「ふふふ……辺境、ですか。かつての同志が侵略に乗り出し、そして失敗した忌むべき土地。果たして、私を魅入るような素晴らしい『死』があるのかどうか……今から楽しみですよ」
 そのためにも、まずは拠点を兼ねた足掛かりとして、近くの村を使わせてもらおう。そう言って薄笑いを浮かべる青年吸血鬼の身体には、奇怪な姿をしたおぞましい蟲が付着し、心臓の如く鼓動を続けていた。

●棺の王
「辺境ね……。冒険の舞台としてはカッコ良く聞こえるかもしれないけれど、本当に足を踏み入れたら、大変な目に遭いそうな場所よね」
 そんなところに住む者の気が知れないが、しかし暗闇と絶望に覆われた世界では、あるいはオブリビオンに見つからず暮らせる場所というだけで貴重なのかもしれない。そう言って、神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)はグリモアベースに集まった猟兵達に、これからダークセイヴァーで起きるであろう事件についての説明を始めた。
「ダークセイヴァーで、『辺境伯』って呼ばれる物凄く強いオブリビオンが動き出したようね。目的は、辺境にある『人類砦』や『辺境空白地帯』を見つけ出すことよ。万が一、その吸血鬼に見つかったら……そこにある砦や村なんて、簡単に滅ぼされちゃうかもしれないわね」
 折角、暗闇の世界に灯り始めた希望の火。それを消さないためにも、辺境伯はここで倒さねばならない。幸い、敵はまだ辺境に到達していないが、それでも極めて近くまでは進軍している。
「今回、あなた達に倒してもらいたいのは、『葬燎卿』って呼ばれている吸血鬼ね。本当の名前は、私にも分からないわ。ただ、『辺境伯の紋章』っていう、寄生中型のオブリビオンで強化されているのは確かよ」
 この紋章で強化されているのが、辺境伯の特徴だ。しかし、普段は衣服に隠れて外からは見えず、どこに寄生しているのかも分からない。
 そんな『葬燎卿』の趣味は、自らの棺に見合った死体を集めること。当然のことながら、そのためには生きている人間を殺すことにも何ら躊躇いがない。彼は死を荘厳にして神聖なる人生の到達点と考えており、人間は自らの芸術的欲求を満たすための素材であるとしか見ていない。
「力の素になっている寄生虫型オブリビオンを狙えば、もしかすると辺境伯の力を弱めることができるかもしれないわね。あ、でも、勢い余って寄生虫を殺しちゃうと、後で調べることができなくなるから、そこだけは注意してちょうだい」
 辺境伯の謎を調べるためには、その元凶たる寄生虫型オブリビオンを捕獲する必要がある。捕獲を狙うのであれば、虫を弱らせることで弱体化させた辺境伯を先に撃破し、虫は生け捕りにする必要がありそうだ。
「今、『葬燎卿』は辺境との境界近くにある村を狙って動き出しているわ。放っておくと、村の人達が皆殺しにされて……『葬燎卿』はそこを拠点に、今度は辺境の人達にまで手を伸ばすかもしれないわね」
 そうなる前に、彼を倒すのが今回の目的。『葬燎卿』は自分の他に鉄の棺を大量に連れており、死体としてお気に召さない姿の人間は、それらを使って情け容赦なく排除する。
「今から行けば、『葬燎卿』が通るはずの古い旧街道に先回りできるはずよ。街道は崖と崖の間にあるから、上手く地形を利用したり、先に近くの村の人を逃がしたりすれば、有利に戦えるかもしれないわ」
 敵は強大な力を持つ上に、多数の配下まで相手にしなければならない。厳しい戦いになるからこそ、事前の準備は大切だ。
 そう言って、鈴音は猟兵達を、『葬燎卿』の魔の手が迫る辺境近くの村へと転送した。


雷紋寺音弥
 こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。

 人類砦や辺境空白地帯の村を目指し、『辺境伯』が動き出し始めました。
 彼らを撃破し、その力の源である『辺境伯の紋章』を回収すれば、謎に満ちた上位吸血鬼の存在に迫れるかもしれません。

●第一章
 まずは迎撃準備です。
 強大な力を持った辺境伯とは、真っ向から戦っても勝ち目はありません。
 進軍先にある村から人々を逃がしたり、地形を利用した迎撃作戦の準備をしたり、戦いを有利に進める工夫をしましょう。
 あるいは、偵察に向かうことで、敵戦力の詳細を事前に把握することも大切です。

●第二章
 『怨呪の鉄棺』との集団戦になります。
 先の章で準備をしていれば、それだけ有利に戦えます。
 街道で奇襲する、村で迎え撃つなど、先の章の準備に合わせて行動することで、辺境伯と戦うための力を温存することも可能です。

●第三章
 辺境伯と化した『葬燎卿』との戦いです。
 その身体のどこかにある『辺境伯の紋章(寄生虫型オブリビオン)』を狙えば、それだけ弱体化させることも可能です。
 ただし、『辺境伯の紋章』が死ねば敵は大幅に弱体化しますが、回収して調べることは難しくなるので、注意してください。
 辺境伯さえ倒してしまえば、『辺境伯の紋章』は容易に生け捕りにすることが可能です。
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第1章 冒険 『辺境伯迎撃準備』

POW   :    襲撃を行うポイントに移動し、攻撃の為の準備を整える

SPD   :    進軍する辺境伯の偵察を行い、事前に可能な限り情報を得る

WIZ   :    進路上の村の村びとなど、戦場に巻き込まれそうな一般人の避難を行う

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マリウス・ストランツィーニ
人々の暮らしを脅かす奴らを許すわけにはいかない。

まずは偵察を行うことにする。
敵の情報を知らなければ戦いに不利だし、具体的な情報があれば村の人々に行動を促す説得力にもなるからな。
敵軍勢に気づかれない範囲で可能な限り接近し、数と進軍速度を調べ、人々に伝えよう。
場合によっては避難をさらに急がせなくてはいけないかもしれないな。


ティエル・ティエリエル
SPDで判定

ようし、迎撃の準備や避難誘導はみんなに任せてボクは偵察に行ってくるよ!
ボク、小さいからね!隠れて色々調べてくるよ♪

空高く飛んでくと見つかっちゃうかもだからね!
地面スレスレを飛んでささっと草陰に隠れるよ!

まずは葬燎卿の引き連れてる鉄の棺ってのを観察して「情報収集」するね♪
話には聞いてたけど鉄の棺ってどう動いてるのかな?飛んだり跳ねたり?
とりあえず通り過ぎる棺の数を棺が1つ、棺が2つと数えていって敵の総数を把握しておくね!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



●棺の行軍
 辺境の地に住まう人々へ魔の手を伸ばすため、その進路に存在する村々さえも滅ぼして行く辺境伯。野放しにしておくには危険過ぎる存在だが、しかし迂闊に仕掛ければ返り討ちに遭い兼ねない程に強力な相手。
 そんな者が、従者でもある配下のオブリビオンを、ぞろぞろと引き連れて進軍している。まともに正面から戦ったところで、これでは万に一つも勝ち目はない。
 戦いを制するものは情報だ。まずは敵の勢力や、その他にも進軍速度などの情報を得なければ始まらない。そう考え、街道に先回りしたマリウス・ストランツィーニ(没落華族・f26734)だったが、辺境伯の部隊に近づくのは思いの他に困難を極めた。
(「これは……想像していた以上に、数が多いな……」)
 敵の数は、少なめに見積もっても20体は下らない。おまけに、街道沿いだけあって開けた土地も多く、身を隠す場所にも苦労する。既に使われていない道とはいえ、周囲には背の高い草程度しか生えておらず、あまり近づき過ぎると気づかれる恐れがあった。
「ようし、それじゃ、ボクが様子を見て来るよ」
 そんな中、更に敵の部隊へ近づこうと、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が前に出た。これが普通の人間であれば、あるいは全力で制止しなければならないところだが。
「大丈夫! ボク、小さいからね! 隠れて色々調べてくるよ♪」
 そう言うが早いか、ティエルは草の合間を縫って、地面すれすれを飛行しながら敵の軍勢へと近づいて行った。身長が20cm程しかないフェアリーであれば、確かに他の種族と比べても気が付かれにくいかもしれない。
(「それにしても……話には聞いてたけど、鉄の棺ってどう動いてるのかな?」)
 辺境伯と化した葬送卿の配下は棺。それが動くというだけでも奇妙な話だが、そもそも足のない棺はどうやって動くのだろう。
 まさか、飛んだり跳ねたりして歩いているのだろうか。だとすれば、これは少しばかり滑稽な姿だと思ったティエルだったが、しかし行軍する棺の群れに近づいた瞬間、そんな気分は吹き飛んだ。
「……っ!? な、なに、これ……。なんか、気持ち悪いよ……」
 鉄の棺の中から、微かに漂って来る血の匂い。恐らく、今まで棺の犠牲になった者達だろう。そして、何よりも薄気味悪いのが、棺の上にある人間の頭部を模した装飾だ。その中から溢れ出ているのは、血の匂いなどではない。もっと危険で、もっとおぞましい、それこそ絶対に存在してはならない何かだ。
(「こ、これって……もしかして、呪い!?」)
 そう、呪いだ。少しでも魔法の類を齧った者であれば、本能的に察してしまう程に強力な呪詛の力。それらを自らが動くための力に変え、あの棺は空中を浮遊し、滑るように動いているのだ。
(「うぅ……なんだか、気分が悪くなって来たかも……」)
 棺の数を数えるだけ数えて、ティエルはマリウスの待つ物陰へと戻った。敵の数は、やはりマリウスが数えた20体程で、その後ろを葬送卿が歩いていた。
「……どうだった? 何か、他に分かったことは?」
「うん……。あの棺だけど……すっごい強い呪いで動いているよ。たぶん……あの、頭みたいな形をした飾りの中に……人間の身体の一部が入っているのかも……」
 それ以上は、あまり具体的に説明したくない。狂気が生んだ忌むべき棺桶の化け物について、ティエルはそこまで説明するのが精一杯だった。
「そうか……ご苦労だったな。しかし、呪いによって動いている兵器の類だとすると、これは少しばかり面倒だな」
 敵の連れているのが獰猛な小竜や魔獣といったモンスターの類や、あるいは下級の吸血鬼であれば、まだマシだった。痛みを感じる相手であれば、それを利用して恐怖を掻き立て追い払うことも可能であり、感情を持った相手であれば話術や口述での誘導もできる。
 だが、相手が痛みも感じず感情も持たない、単なる機械であるとなれば話は別だ。こういった手合いは完全に破壊するまで行動を続け、自らの身が滅びることも構わず、最後まで殺戮を続けようとするからだ。
「もしかすると……村人の避難を、さらに急がせなくてはいけないかもしれないな。……」
 こんな連中を村に入れたら、それだけで事故死する者が増える可能性が増してしまう。村で迎え撃つか否かに関係なく、村人の避難は早めに済ませた方が良さそうだ。
 本当であれば、他にも調べたいことはあったが、まずは人命第一である。敵の勢力や性質を先に情報として得られただけでも儲け物と考え、マリウスとティエルは早々に村へと引き返した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクター・グレイン
考えるのは面倒だ…。
そこに倒すべき相手が居るなら真正面から向かってやる。
だが武器になるものがないのは少し危険かも知れん。
(懐からガソリン缶を取り出し辺り一面に撒く)
さぁ近づいてみろ。
(ライターに火を灯し、敵が来るのを待つ)



●火刑の策
 辺境。それは、かつての吸血鬼達でさえ手が出せず、放置せざるを得なかった、異端の神々の支配する場所。
 そんな場所を、一部隊を率いているとはいえ、単身で動き回る権限を与えられている辺境伯。その実力は、今までに猟兵達が戦って来たオブリビオンの中でも、間違いなく上位に位置するものだ。
 まともに正面から戦って、勝ち目のある相手ではないだろう。だからこそ、先手を打って入念な準備をせよというのがグリモア猟兵からの提案だったが、ヴィクター・グレイン(真実を探求する者・f28558)は敢えて真正面から辺境伯と戦うことを選ぼうとしていた。
「考えるのは面倒だ……。そこに倒すべき相手が居るなら、真正面から向かってやる」
 懐からガソリン缶を取り出して、ヴィクターは周囲に撒き散らした。谷間を通っているとはいえ、街道として使われていただけあって、開けた道の真ん中には身を隠せるような岩も、武器にできそうな何かも見当たらなかったからだ。
(「さあ、近づいてみろ……」)
 ライターを片手に、ヴィクターは敵を待ち構えた。簡易式の火炎罠で、果たして敵の軍勢をどこまで翻弄できるかは未知数だったが、ここまで来た以上は引き返すつもりなど毛頭なかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御剣・刀也
POW行動

辺境伯にも変わったやつがいるもんだ
そのひつぎには俺たちの死体じゃなく、お前の死体を入れといてやるよ
ま、すぐに消えちまうから無理だろうけどな

崖と崖の間にある道ということで、両方の崖に岩や倒木などをの罠を仕掛けて置き、辺境伯の先兵が来たら通過するタイミングで落として道をふさぎ混乱が生じたところに降りて行ってがれきを背後に背水の陣で戦えるように、岩や倒木を崖のふちにセットする
「古典的な手だが、使わないに越したことはないな」


ナギ・ヌドゥー
禍々しい拷問具を引き連れた辺境伯ですか。
中々の趣味の悪さで気が合うかも……なんてね。
殺しがいがありそうで楽しみですよ。

事前情報では街道は崖と崖の間にあると聞きました。
ならば崖上から落石の罠を仕掛けられる場があるのでは?【罠使い】
仕掛けられるポイントを【第六感・野生の勘】で感知し、最適な場を探します。
重労働になるのでUCにて幻影体を現し協力させましょう。
落石で倒せる相手ではありませんが、虚を突き先手を取れたら充分な効果になります。
敵の行動をある程度制限させて迅速に各個撃破と行きたいですね。



●アンブッシュ
 崖の下に通された旧街道は、谷間にあるとはいえ見通しが良い。それは同時に、崖から何かを落とそうとすれば、何にも邪魔されることなく街道まで落下させることができるということだ。
「禍々しい拷問具を引き連れた辺境伯ですか。中々の趣味の悪さで気が合うかも……なんてね。殺しがいがありそうで楽しみですよ」
「辺境伯にも変わったやつがいるもんだ。その棺には俺たちの死体じゃなく、お前の死体を入れといてやるよ」
 ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)と御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は、互いに崖の上で岩や倒木を集めながら呟いた。
 旧街道へと下る岸壁は、障害物の類が殆どない。街道として整備されていたのだから、当然と言えば当然だ。使われなくなったとはいえ、それでも未だ背丈の高い木は生えておらず、巨大な岩塊も転がってはいない。
 行商が行き交うことも考えて、かつては徹底的に整備されていたのだろう。その痕跡が、今回は却って有利に働いていた。遮るものがないのであれば、崖の上から何かを落とした場合、それは間違いなく下を行き交う者達を情け容赦なく直撃するはずだから。
「我が幻影よ……走狗となり現出せよ」
 岩を運ぶ手を増やすために、ナギは自分の分身を呼び出した。落石で倒せるような相手だとは思っていないが、少しでも大きな岩を落とさなければ、足止めにさえならない。1人で大岩を動かすには限界があるので、力の無さは手数で補う。
「倒木も、これだけ集めれば十分か? 古典的な手だが、使わないに越したことはないな」
 同じく、刀也もまた刺だらけの倒木を集め、それを崖下へ転がし易い場所に設置していた。そして、全ての準備が整ったところで、二人は互いに合図をしつつ、設置した岩や倒木の陰に身を隠した。
 敵の軍勢が進撃して来るであろう方向から見て、ナギは左側、刀也は右側を固めている。タイミングを合わせて岩や木を落とせば、敵の足を大きく止められるかもしれない。
 後は、混乱して隊列の乱れた相手を、いかに効率よく撃破できるかだ。その瞬間が訪れるのを、二人は息を潜めて待っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
なんとか、間に合いましたか。
過去から蘇りし哀れな魂が、生けるものへ仇成すことは許されぬこと。
使徒として祓い、楽園へと導いて差し上げねばなりません。

…ですが、村は残念ながら戦いの場となってしまうでしょう。
今のうちに、彼らを逃がさねばなりませんね。
天使達を呼び、彼らに安全な場所まで村人たちを誘導させましょう。
大きな集団でいたのでは目立ちますから、一人に対し天使数体で護衛させるのです。
それから、【オーラ防御】を彼らに付与し、万が一に備えましょう。

逃げる道中で襲われぬよう見守り、必要なら【高速詠唱】【全力魔法】【2回攻撃】の聖なる光で不埒な哀れな魂を導きましょう。
安心して、避難していただきましょう。


ルパート・ブラックスミス
【WIZ】
旧街道で迎撃準備、といきたかったが先の猟兵の偵察結果を顧みれば避難を優先するべきか。

愛機こと専用トライクに【騎乗】し村に向かい、到着次第警告、避難を促す。
ダークセイヴァーならば黒騎士の【存在感】は余所より通じる筈だ、巧く【言いくるめ】て誘導しよう。
積荷や自力で避難が難しい村人がいるならば愛機の後部座席に乗せて【運搬】する。

一通り避難が終わってまだ敵の姿が見えないならば
愛機に青く燃える鉛の翼を展開し【空中浮遊】【ダッシュ】、旧街道に向かおう。村で殲滅して呪詛を撒き散らかされるわけにもいかん。

さて、どれだけ時間の猶予が残ってくれるか。
【アドリブ歓迎】



●出るか、籠るか
 旧街道を辺境伯の部隊が進撃する中、その進路に位置する小さな村。オブリビオンが襲撃すれば、軽く消し飛んでしまいそうな集落を、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)とルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)の二人は訪れていた。
「なんとか、間に合いましたか」
「旧街道で迎撃準備……といきたかったが、先の猟兵の偵察結果を顧みれば、避難を優先するべきだろうな」
 万が一、敵がこちらの防衛ラインを突破することがあれば、その先に待つのは無垢の民が悪戯に殺されるという最悪の未来。それが予見される以上、楽観的に考えて避難を怠った結果、無用な犠牲が出ることだけは避けなければならなかった。
「おんや、珍しい。こんな村に、騎士様の客人かえ?」
「なにしに来なすった、こんな辺鄙なところへ……。まあ、ゆっくりして行きなされ」
 ルパートの姿を見て、村人達は柔和な笑みで彼を迎えた。田舎の村は排他的なことが多いが、この村は違う。辺境との境界に位置するだけあって、暮らしは決して楽ではないが、しかし吸血鬼達に目を付けられることもなかったのだろう。
 暗闇と絶望が支配する世界において、彼らのような人間は貴重だった。もっとも、長らく争いから遠ざかっていた……否、この場合は敢えて無視されていたことも相俟って、今の村人達は平和ボケという言葉が似合う程に警戒心も危機感もなかった。
「悪いが、のんびりしている暇はない。詳しい説明は後だ。……お前達、今すぐにこの村から逃げろ」
 放っておけば確実に死人が出ると察し、ルパートは愛機に乗ったまま村人達に告げた。だが、そこは平和ボケした村人達だけあって、なんというか行動が遅い。
「ん~、逃げろと言われても、家や畑を残して行くのもなぁ……」
「まあ、騎士様の仰ることなら、間違いはないんだろうけども……」
 家財を置いて行くことを躊躇う者もいれば、そもそも何処へ逃げれば良いのか検討さえついていない者もいる。こうしている間にも、辺境伯の軍勢が押し寄せて来ないとも限らないだけに、なんとももどかしい気持ちにさせられる。
「積荷を運ぶなら、馬を出せ。馬がなければ、牛でも、他の家畜でも構わん。とにかく、荷台を引けるようなものであれば、全て使うんだ」
 それでも難しい場合は、自分の愛機で引っ張ろうと、ルパートは告げた。後部座席い乗せて運ぶにしても、せいぜい1人か2人が良いところ。それよりも、荷台と連結させて一気に引っ張ってしまった方が、色々な意味で迅速な避難を促せる。
「それでは、避難場所までは、私が案内致しましょう」
 そして、村人達の避難先は、ナターシャが先導することに。どんな危険が待っているか分からない以上、バラバラに離散されて事故にでも遭われては面倒だ。
「あの者へも導きを。罪を祓い、我らが同胞に道標を与えるのです」
 万が一の危険に備え、ナターシャは天使の眷族を召喚し、村人達の護衛に回した。その神々しい姿に感化されたのか、村人達は感銘を受け、後は素直に誘導に従ってくれた。
「おお、なんと神々しい姿だ!」
「あのお方は、さぞ高名な聖女様なのだろうな。ならば、もはや何も言うまい」
 何もない村だからこそ、心の拠り所として信仰が必要だったのだろうか。なにはともあれ、信心深い者達ばかりで助かった。後は、村から外れた安全な場所に、事が済むまで彼らを待機させておけば、それで良い。
「どうやら、無事に避難が終わったようですね。……残念ながら、村は戦いの場となってしまうでしょうけれど」
 少しばかり憂いに満ちた表情で、ナターシャは言った。敵を討ち漏らした時のことまで考えると、当初の襲撃予定地である、この村で待ち構えて戦うのが良いと考えてのことなのだろうが。
「いや、今すぐに旧街道に向かおう。村で殲滅して、呪詛を撒き散らかされるわけにもいかん」
 それに対し、ルパートはあくまで敵を街道で迎撃すべきだと主張した。幸い、街道沿いの崖で罠を張っている者達もいるため、それに便乗することができれば、あるいは村に辿り着くまでに敵を殲滅できるかもしれないからだ。
「統率の取れた集団に対して、各々が分かれて対処するのは、あまり得策と言えませんけれど……」
「ならば、尚更だ。このままでは、街道での迎撃を考えている者達を、無駄に危険に晒すことになる」
 互いに譲れないまま、時間だけが過ぎて行く。主張としては、どちらも正しい。ルパートが間に合わなければ、それだけ各個撃破される者が増えるかもしれないが、しかし村で待ち伏せした場合は、どうしても村の家屋や畑に被害が出る。
「……分かりました。少し、考えさせて下さい」
 今後の作戦をどうするのかは、改めて考える必要がある。打って出るか、それとも籠って戦うか。熟考するナターシャを横目に、ルパートは一足先に、他の猟兵達が待つ街道沿いの崖を目指して愛機を走らせた。
「さて、どれだけ時間の猶予が残ってくれるか……」
 青く燃える鉛の翼を広げ、鋼のマシンが空を駆ける。辺境伯と、呪われた鉄棺の集団による足音は、既にそこまで迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『怨呪の鉄棺』

POW   :    咎喰い
【伸縮自在の鉄針】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【血の記憶から、過去の咎】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    怨呪葬
命中した【防御不能】の【全発射鉄針】が【鉄棺内へ引きずり込む怨呪の針】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
WIZ   :    荒れ狂う怨みの脳髄
【埋め込まれた脳髄から発する怨み】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。

イラスト:塔屋

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●棺の行進
 崖と崖に挟まれた殺風景な道を、鋼の棺が行軍する。呪詛によって動く棺の群れは、滑るようにして移動しながら、何も言わずに規則正しく進んで行く。
 その後ろから、青白い炎の蝶を携えて歩いているのが、他でもない辺境伯たる葬燎卿だった。彼にとっては、辺境の探索とて自らの歪んだ美意識を満たすための行動でしかない。この闇の世界で、強く行き抜く者達の肉体こそが、崇高なる死を鮮やかに彩る最高の素材だと信じて疑わず。
「……そろそろ、次の村が見えてくる頃ですね? 私を心を満たしてくれる、素敵な死体に出会えると良いのですが……」
 次に出会った素材には、どのような死を与えてやろうか。単純に苦しめ、殺すのではダメだ。恐怖、後悔、痛み、あるいは自己犠牲。それぞれのテーマに見合った最高の死を与え、その瞬間を棺に納めることができれば、それは永遠の美として残ることになるのだから。
 谷間を吹き抜ける風が強まり、崖の終わりが近いことを暗示していた。ここを抜ければ、その先にあるのは辺境だ。期待を胸に行軍を続ける葬燎卿は、しかしその先に猟兵達が待っているであろうことなど、まったく予想していなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●戦闘場所
 この章では、街道で辺境伯を迎え撃つことを選択すれば、先の章で準備したものを利用することが可能です。
 ただし、それで必ずしも戦闘を優位に運べるとは限りません。
 また、この章では辺境伯を攻撃することはできないので、彼の率いる『怨呪の鉄棺』を先に倒すことに集中しましょう。
ヴィクター・グレイン
来たか…
(マスクを被り油の前に立ち、火をつける)
俺の背後には炎の壁。
こいつが消える、もしくは消される前にカタをつける。
無線でブラックバードを呼び出し先制攻撃といこう。
(ブラックバードからミサイル群を放ち、あらかた片付ける)
だいぶ減ったか。
ならあとはこいつが尽きるまで燃やし尽くしてやろう。
(コートの中から手作り火炎放射器を取り出し辺りを火の海にしながら攻撃する。)
いくら金属とは言え熱に当てられたら多少は緩む、そこを叩く。
(火炎放射器が切れたら、残りは殴り倒す。)



●超常なる者との戦い
 谷間に位置する旧街道を進む、不気味な鉄の棺の群れ。その先頭を視界に捕らえ、ヴィクター・グレイン(真実を探求する者・f28558)はマスクを被り直した。
「来たか……」
 事前に撒いて置いたガソリンに火を着け、自分はそれを背に敵を見据える。この炎が消える前に、果たしてどれだけ敵の数を減らせるか。
 こういう場合は、先手で仕掛けた方が勝つ。待機させていた飛行船を無線で呼び出し、ヴィクターは搭載しているミサイルを発射させることで、纏めて敵の先頭集団を吹き飛ばした。
「よし、これで少しは減り……なにっ!?」
 だが、爆風の中から現れた鉄の棺に、ヴィクターは思わず目を疑った。
 確かに、多少の破損をしているものはあるが、それでも大半は健在のまま突っ込んで来る。再びミサイルを発射させようとするも、今度は距離が近過ぎる。
 この距離では、下手にミサイルなど使えば自分まで巻き込むか、最悪の場合は土砂崩れを起こしてしまうだろう。そうなった場合、敵を倒すことはできても、自分もまた土の下敷きにされてしまう可能性が高かった。
「ミサイルが通用しない……いや、直撃する瞬間、致命的な場所に当たるのを避けたのか!?」
 敵は物言わぬ棺桶だが、それでも紛うことなき危険なオブリビオンなのだ。知性はなくとも、その後ろには優秀な指揮官でもある辺境伯が控えているため、予想に反して良い動きをする。おまけに、彼らは殺戮のためだけに作られた拷問兵器。多少、破損した程度では怯むこともない上に、爆風で吹き飛ばされたところで、彼らは痛みも感じない。
「ならば、後はこれに頼る他ないな。燃料が尽きるまで、燃やし尽くしてやる!」
 迫り来る棺桶相手に、ヴィクターが次に取り出したのは火炎放射器だった。金属であれば熱に弱く、それ故に有効だと……そう、思っていたのだろうが。
「……うおっ! こ、こいつら……!?」
 炎の直撃を受けてもなお、怨呪の鉄棺達は何ら怯むことなくヴィクターへと向かって来た。これが、獣か小竜の類であれば、少しは火を恐れたかもしれない。が、しかし、呪いによって動く感情のない殺戮兵器が相手では、炎で怯ませる効果も期待できなかった。
 こうなったら、炎の熱に任せて溶かしてやろうと、ヴィクターは周囲の被害もお構いなしに、火炎放射器で火を着けた。だが、やはり鉄棺達が怯む様子はない。
 鋼鉄製の金庫を溶断するバーナーでさえ、3000度以上の炎でなければ役に立たないのだ。火炎放射器の炎では、せいぜい1500度が良いところ。鉄も、そのくらいの温度になれば溶けるものの、そのためにはじっくりと過熱しなければならない。100度のガスを水に吹きかけたからといって、水が瞬間的に沸騰しないのと同じことだ。
「ちっ……こうなったら、最後は拳で……」
 火炎放射器も効果がないと知って、ヴィクターはついに自らの肉体を以て敵を撃破する策を選んだ。ところが、渾身の力を込めて振るわれた彼の拳は、足元がふらついたことで虚しく宙を切った。
(「くっ……こ、これは……」)
 そこら中を火の海にしたことで、気が付けば周囲の酸素がゴッソリと消費されていたのだ。完全に酸欠である。このままでは、敵を倒すどころか、自分が炎に巻かれて死んでしまう。
 それでも、気力を振り絞って立ち上がるヴィクターだったが、先の火炎攻撃で、敵の身体は赤熱していた。
 こんなもの、下手に触れたら自分の方が大火傷だ。完全に、悪手に悪手が重なってしまった。このままでは何もできないまま、自滅に等しい形で倒されるしかない。
 猟兵とオブリビオンの戦いは、ユーベルコードとユーベルコードのぶつけ合いが基本となる。単に強力な武器を振り回すだけで勝てるのであれば、各々の世界のオブリビオンなど、とっくに軍隊やギルドの勇者達、あるいは海賊やヒーロー達によって全て討伐されているはずだ。
 しかし、それができないのは、敵が彼らの更に上を行く存在であるという証拠。ユーベルコードを使え、かつ一般のヒーローや騎士、そして勇者や海賊などよりも更に高い身体能力を以て、初めて互角に渡り合える相手なのである。
「くそっ……視界が……」
 もはや、ヴィクターの肉体は限界寸前。目の前には、赤熱した鉄の棺が3体ほど。このまま挟まれるだけで、自分は黒焦げの焼肉にされるかもしれない。覚悟を決め、せめて相討ちにしてやろうと身構えるヴィクターだったが……突如として、鉄棺の上部にある人頭の装飾から黒い煙が生じ、敵の動きが急激に鈍くなった。
「……っ!? そこが弱点か!!」
 こうなったら、一か八か。人の顔を模した装飾に拳を叩き込めば、ミサイル攻撃によって脆くなっていたそれは、ゴロリと落ちて動かなくなった。同時に、鉄棺の方も動きを止め、再び行動を開始する気配はなく。
「はぁ……はぁ……。な、なんとか、振り切ったか……」
 やがて、残る2体もなんとか沈めたことで、ヴィクターは思わず肩で息をしながら膝を突いた。鉄棺を強引に叩きのめした代償は大きく、彼の両手は血が滲み、おまけに酷い火傷も負っていた。
 周囲の炎も、気が付けば随分と収まっている。枯草しかない場所だったのが幸いしたのだろうか。もっとも、先頭の鉄棺の始末に手間取っている間に、辺境伯はヴィクターの作った炎の壁を軽く乗り越え、既にその先へと進んでしまっていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

マリウス・ストランツィーニ
来たな。迎え撃つぞ!

【気合い】を最大限高めて剣と銃を構えて【切り込み】だ!
うおおおお!
敵の攻撃を回避しながら攻撃を叩き込むが、鉄針を多少喰らっても気合で耐える!

人々のために、私の誇りにかけてここは通さん!


ルパート・ブラックスミス
【騎乗】してきた青く燃える鉛の翼で【空中浮遊】状態の愛機をUC【荒狂い破滅齎す戦車】形態に変形。
他の猟兵の罠を突破してきた敵を上空より突撃、撥ね【吹き飛ばし】【蹂躙】して回ろう。

敵の攻撃は【武器受け】て【なぎ払い】し弾くが、
命中した鉄針はそのまま鎧内の燃える鉛で【武器改造】し溶接【グラップル】固定。
そのまま走行することで引き倒したまま【ダッシュ】、【地形の利用】として街道に叩きつけ破砕するまで引き回す。

血ならば生憎こちらは代わりに鉛詰めだ。
咎ならば成程、生命吸いの鎧は塗れてる。
で、あるならば貴様らをその咎の内に加えるは道理だな?

黒騎士が指揮しよう。デスマーチは、ここまでだ。
【アドリブ歓迎】


ナターシャ・フォーサイス
これは…なんと悍ましいのでしょう。
そして、何と哀れな。
怨みを抱えるのならば、使徒として祓い、楽園へと導いて差し上げねばなりません。

…さすがに、村で呪詛を撒き散らされる訳にはいきませんので。
街道へ出て、天使達を呼びましょう。
天使達の一部は村へ送り、万一に備えさせるのです。

そして、これより此処はまだ見ぬ楽園が一端。
歩を進めても、村へ至ることはできないでしょう。
皆様へは加護を。
仇成すなら力を封じ、【高速詠唱】【全力魔法】【範囲攻撃】【祈り】の聖なる光を。
その怨みは我々が浄化し祓いましょう。

貴方がたはその冷たい棺から解き放たれ、楽園へと至るのです。
どうか貴方がたにも、楽園の加護のあらんことを。



●無敵の拷問機械
 旧街道を進む棺の軍勢。一糸乱れず行軍する鋼の拷問具達は、自らの主が命ずるままに、行く手を阻む者の行き血を啜る。
 こんな連中が村へと辿り着いたが最後、そこに待っているのは虐殺という名の地獄絵図だ。そんな未来は決して認められないと、マリウス・ストランツィーニ(没落華族・f26734)は自ら先陣を切って前に出た。
「来たな。迎え撃つぞ!」
 彼女の武器は、銃と太刀。迫り来る鉄針を物ともせず、気合いを叫びに変えて突撃して行く。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
 ここから先は一歩も通さない。確かに、想いだけならば、彼女のそれは誰にも負けなかったかもしれない。
「……なにっ!?」
 だが、勢いに任せて振るわれた太刀は、鉄棺を後退させたものの、その固さの前に虚しく弾き返された。ならばと、今度は回転式銃で攻撃するも、やはり弾が鉄板に弾かれてしまい効果はない。
「こいつら……なんて固さだ!」
 周囲を囲まれて、マリウスは初めて己のミスを呪った。今の彼女は、気合いだけなら誰にも負けない。それこそ、呪いや精神攻撃の類でさえも、雄叫び一発で吹き飛ばしてしまえる程に。
 しかし、いくら気合いを強化したところで、物理の法則までは覆せない。どのような名刀であれ、そこに特殊な何かを持ち合わせていない太刀で鉄棺を両断することはできず、同じく銃弾で貫こうとするならば、対戦車マグナムでも持って来なければ効果は低い。
「くっ……だが、ここで退くわけには……」
 それでも、飛び出してしまった以上は最後まで戦おうとするマリウスだったが多勢に無勢。そして、いくら気合いで鉄針攻撃の痛みに耐えたところで、鉄棺の中へと引き摺りこまれる効果までは無効化できない。
「ま、まずい……このままでは……!」
 串刺しにされたマリウスの身体が、徐々に鉄棺の中へと引き込まれ始めた。このまま中に閉じ込められ、内側に生えた針で全身を貫かれてしまったら……さすがに、気合いだけでどうにかなるものではないだろう。
 全身をハチの巣のような姿にされ、そのまま出血多量で死に至る。身体に食い込んだ針が抜けず、もはやこれまでかと思われた時……飛来した一陣の蒼き風が、鉄針を圧し折って割り込んだ。
「無事か? 有象無象の機械とはいえ、油断は禁物だぞ」
 上空より飛来した青い翼。間一髪、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)が、先行していたマリウスに追い付いたのだ。
「忝い……。だが、この程度の傷など……っ!?」
「今は下がれ。その身体では、満足に動けまい」
 気合いで立ち上がり、再び戦おうとするマリウスを、ルパートが制した。全身に刺が刺さった状態のマリウスでは、これ以上の戦闘が危険だと踏んだのだ。
「我らが駆ける前には勝利の未来。しかし駆けた後には屍と瓦礫のみ!」
 ここから先は、彼女に代わって自分が戦う。燃える鉛で強化した愛機を発進させて、ルパートは鉄棺の針を薙ぎ払いつつ突撃して行く。
「どうした! 貴様らが内に抱く呪怨とは、その程度のものか!」
 針がいくつか身体を掠めたが、ルパートは決して怯まなかった。それだけでなく、針に身体を貫通されても、何ら動ずる素振りさえ見せず。
「血の味を覚えるだと……? 生憎、こちらは代わりに鉛詰めだ」
 動く鎧でもあるルパートの中は、流動する鉛が詰まっている。それらを利用し、体内で鉄針を溶接することで、ルパートは鉄の棺桶を愛機の出力に任せて引き摺り回す。
 このまま街道に叩き付け続けることで、棺を破壊しようという作戦だった。だが、鉄の塊でもある呪われた棺は、思いの他に重たく、固い。おまけに、次々と身体に鉄針が刺さることで、だんだんとルパートの身体も重たくなって行き、トライクのスピードが落ち始めた。
「このままでは、加速度が上がらないようだな……」
 複数の敵を纏めて引っ張ることになれば、当然のことながらスピードは落ちる。そして、スピードが落ちれば地面や岩塊に叩き付ける速度も低下し、その分だけ威力も落ちてしまう。
 折角、地形をも破壊するパワーがあるのであれば、最初から突進で粉砕した方が良かったかもしれない。もっとも、今の状況ではそれさえも、速度が乗らずに不可能だろうが。
 このままでは、本当に二人ともやられてしまう。些細な判断ミスから、正に絶体絶命の状況に追い込まれてしまったが……そんな彼らを、天は未だ見捨ててはいなかった。
「まだ見ぬ楽園、その一端。仇成すのなら祓いましょう、歩むのならば導きましょう」
 戦場に響き渡る美しくも力強い声。そして、降臨する暖かな光が二人を包み、その身に刻まれた傷を癒して行く。
 いったい、何が起きたのか。状況を掴めないまま立ち上がるマリウスとルパートの前に……現れたのは、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)だった。

●聖女降臨
 苦戦するマリウスとルパートへ、突如として降り注いだ暖かな光。闇と罪を祓い、味方を強化する聖光を齎した者こそ、ルパートを追って来たナターシャだった。
「……どうやら、追い付けたようですね。それにしても、御二人とも無茶が過ぎますよ。自己犠牲」
 相手は超常の存在、オブリビオン。故に、こちらも超常の力を以て事に当たらねば、苦戦を強いられることになり兼ねない。それだけ言って、ナターシャが自ら引き連れた天使達に命じれば、敵の動きが唐突に止まった。
「後ろは私と、天の御使いが守ります。さあ、もはや遠慮は不要……その御力、存分に振るってください」
 見れば、ナターシャの後ろにいる天使達が、その加護を以て敵の動きを止めていた。それだけでなく、周囲はいつしか楽園の如き様相と化し、その全てがマリウスやルパートの身体を鼓舞して聖なる力を授けていた。
「む……この力は……」
「なんだか知らないが、これなら行けそうだ!」
 全身から湧き上がる力を感じ、ルパートとマリウスは互いに頷いて再び鉄棺へと攻撃を仕掛けた。まずは一撃、マリウスが太刀を振るってみると……今までは全く攻撃の通らなかった鉄棺に、衝撃と共に凄まじい亀裂が走って装甲が斬り裂かれた。
「……斬れた!?」
 先程までの手応えが嘘のようで、マリウスは思わず叫んでしまった。敵は、呪詛を動力にして動く拷問機械。故に、聖なる光の加護を受けた状態で斬りつければ、物理的に破壊することはできずとも、大きなダメージを与えられるということか。
「咎を武器とする自分には、些か相応しくない力かも知れんが……」
 同じく、ルパートもまた、気を取り直して愛機に跨り突撃して行く。元より、衝突するだけで地形さえ破壊する程の威力を持った突進なのだ。そこに聖なる光の加護を加えれば、突進の直撃を食らった鉄棺を木っ端微塵に粉砕することも可能だった。
「人々のために、私の誇りにかけてここは通さん!」
「黒騎士が指揮しよう。デスマーチは、ここまでだ!」
 今までの苦戦が嘘のように、マリウスとルパートは次々と敵を撃破して行く。彼らの活躍により、鉄の棺は半数近くが葬られ、ただの鉄屑へと姿を変えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

御剣・刀也
なんだありゃ?
なんかの歴史で見たな。アイアンメイデンみたいな奴か?
なんとも趣味の悪いものを。まぁいい。お前らはここで通子止めだ

先ほど仕掛けた罠を、生物型ではないので混乱があるかどうかわからないが、先頭が通る前に落として道をふさぐ。
道をふさいだらその前に仁王立ちして、怨呪の鉄棺を斬り捨てる
咎喰いの攻撃は第六感、見切り、残像で避けつつダッシュで距離を詰めて、捨て身の一撃で斬り捨てる
過去の咎を見られたところで、すでに自分はその道に生きる覚悟をしているので特に気にしない
「腹の足しにもなりゃしない。もっと強い奴とやりたいね」


ティエル・ティエリエル
SPDで判定

村にオブビリオンを侵入させないよ!ボクは街道で奇襲するね!

他の猟兵が仕掛けた罠、崖から転がり落ちる岩や倒木に合わせて襲いかかるつもりだよ!
背中の翅を羽ばたいて崖を飛びながら落ちていくね!
岩や倒木じゃ倒せないだろうけど十分勢いがついたのが当たれば態勢を崩したり倒れたりして鉄棺が閉じちゃうかも!
その状態なら怨呪葬の怨呪の針もいっぱい撃てないはずだよ☆
一気に近づいて【ハイパーお姫様斬り】で頭みたいな形をした飾りを切り離しちゃうね!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


ナギ・ヌドゥー
感じるぞ……怨呪の波動を【第六感】
あの力の源である頭部に入っているモノ……ククク、アレを潰した時が見物だぜ。

落石で一瞬動きが止まった時を狙わねば
仕掛けた罠の発動と同時に動く
掌より放つ【誘導弾・制圧射撃】の【弾幕】を放つ
光弾の誘導先はあの頭部だ
怨呪の力の源を確実に破壊する

それでも掻い潜って向かって来るモノもいるだろう
UCを使われる前に止めねば
【先制攻撃】でUC発動
呪獣ソウルトーチャーよ禍つ力にて敵を封じろ
敵の動きを止められたらこの刃で直接あの頭部を破壊する!【部位破壊】



●呪いの根源
 先に仕掛けた猟兵達の活躍によって、敵の数は既に半分程にまで減っていた。
 表面が焼け焦げ、あるいは潰れ、辛うじて動いているだけの鉄棺もある。しかし、その全身から発せられる呪詛は未だ鎮まる様子を見せず、ともすれば生き血を求めて獲物を探していた。
「なんだありゃ? なんかの歴史で見たな。アイアンメイデンみたいな奴か?」
 なんとも趣味の悪いものを用意してくれたものだと、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は崖の上から敵を見降ろしつつ呟いた。
「感じるぞ……怨呪の波動を……。あの力の源である頭部に入っているモノ……ククク、アレを潰した時が見物だぜ」
 同じく、敵の姿を捕らえたナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)だったが、彼女は随分と楽しそうだ。どうやら、呪いの力を発している部位から敵の動力部を巧みに見抜き、そこを叩いた時の反応に期待しているようだった。
 敵は既に、倒木や大岩を落とせる場所にまで足を踏み入れている。感情を持たぬ拷問機械相手にどこまで効果があるかは不明だが、それでも足止め程度にはなるだろうと、刀也とナギは罠を止めていた留め具を外した。
「「「……ッ!?」」」
 瞬間、凄まじい音を立てて落下して行く岩と倒木。さすがに、これには拷問機械達も足を止めた。この程度では破壊されこそしないものの、木や岩に挟まれれば動きを封じられ、行く手を阻まれてしまうことに違いはなかったからだ。
「動きが止まった? よ~し、今だ!!」
 落下する岩や倒木に紛れ、飛び出したのはティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)。人の掌に乗るサイズの彼女であれば、罠に巻き込まれる心配もない。雪崩の如く落下する岩から岩へと巧みに飛び移り、そして最後は剣を片手に怨呪の鉄棺へと迫る。
「いっくぞー! ハイパーお姫様斬りだー☆」
 逆境を跳ね返すオーラを剣先に纏い、ティエルはそのまま鉄棺に斬り掛かった。それに気付いた鉄棺も、蓋を開けて鉄針で攻撃しようとするが、しかし岩に挟まれた状態では蓋が開かず、何もすることができなかった。
 横薙ぎに払われたティエルの剣が、鉄棺の上部についている人頭の飾りを斬り落とす。ただの剣では斬れなくとも、特殊なオーラの力を纏った刃であれば、あるいは鉄さえも両断できる。
「よし、まずはひとつ……って、あれ? なんか、頭の中から出てきた?」
 無造作に転がった装飾の中から何かが顔を出しているのに気づき、ティエルは思わず駆け寄った。が、その中身を確認した途端、思わず顔を真っ青にして、数メートルも飛び上がって距離を取った。
「うげぇっ!! こ、これ……もしかして、人間の脳みそ!?」
 そう、呪いの棺の動力ともなっていた呪詛の大元。それは、生きながらにして解体され、拷問機械に組み込まれた人の脳髄。彼らの痛み、苦しみ、そして恨みと辛みが、この鉄棺を動かす力の源だったのである。
 まったく、悪趣味の極みでしかない。この世界の吸血鬼達は、人間の尊厳を奪うことに対して、何の心の痛みも感じていない。
 なんとも嫌な気分にさせられたが、しかしティエルの一撃によって敵の弱点が明確になったのは幸いだった。頑丈な鉄棺を完全に破壊するのは骨が折れるが、あの飾りだけを狙って斬り落とすことができれば、戦いはかなり楽になる。
「オレが牽制する。その間に、アンタは連中の頭部を……」
「任せておけ。そちらの分が、どこまで残るかは分からないがな」
 太刀を片手に崖を下りながら答える刀也に、ナギは苦笑しつつも掌からの光弾で彼を援護した。元より、この程度の攻撃で倒せるとは思っていないが、落石と倒木で動きが封じられた敵への牽制としては十分だ。
「まずはひとつ……!」
 振るわれた太刀の一撃が、情け容赦なく敵の頭を斬り落とす。一見、何の変哲もない斬撃にしか見えないが、これこそが刀也の切り札でもあるユーベルコード。彼の太刀を一度でも受ければ、相手はその防御力に関係なく、確実に両断されてしまうのだ。
「どうやら、抜けてきたやつもいるようだな。まあ、その程度は想定済みさ」
 そして、ティエルと刀也が討ち漏らした敵は、ナギがしっかり殲滅する。自ら打って出ることこそしないものの、彼女には頼れる眷属がいる。
「我が血を喰らい禍つ力を示せ」
 自らの血を生贄に、ナギは屍肉の触手と鋭い骨針を持った怪物を召喚した。その禍々しい様は、どちらが邪悪な存在なのかを忘れさせてしまう程に恐ろしい。が、それでも、この状況下においては頼りになる味方であることに変わりはなく。
「呪獣ソウルトーチャーよ、禍つ力にて敵を封じろ!」
 ナギの命を受け、呪いの獣が放つ屍肉の触手が鉄棺達を絡め取る。これでもう、相手は満足に動くことさえできない。開閉のできなくなった棺など、単なる武骨な鉄屑に過ぎない。
「これで……終わりだ!」
 呪詛の根源たる頭部飾りへ、ナギは零距離から光弾を叩き込んだ。外装は耐えられても、内部にある呪詛の根源までは、彼女の攻撃に耐え切れない。急所を突かれた呪いの棺は、人頭飾りから血の涙を流しつつ、やがて静かに動きを止めた。
「ふぅ……これで全部やっつけられたかな?」
「腹の足しにもなりゃしない。もっと強い奴とやりたいね」
 やがて、全ての敵を倒したところで、刃を納めつつティエルと刀也が呟いた。
 これでもう、呪いの棺が村を襲うことはないだろう。だが、戦いはこれからが本番だ。
 自らの手駒を全て失った辺境伯。彼が黙って退き下がるとは思えない。
 今後のことを考えると、憂いは確実に断たねばならないだろう。己の歪んだ美意識を満たすためだけに、人間を芸術品の素材として扱う葬燎卿。彼と決着をつける時は、刻一刻と迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『葬燎卿』

POW   :    どうぞ、葬送の獣よ
【紫炎の花びらが葬送の獣 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    安らぎを。貴方には私の棺に入る価値がある
【埋葬したいという感情】を向けた対象に、【次々と放たれる銀のナイフ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    葬燎
【棺から舞い踊る紫炎の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:mahoro

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シノア・プサルトゥイーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●紫炎の葬列
 街道に散った鋼の棺。忌むべき儀式によって生み出されし呪われた拷問具達は、猟兵達の手によって破壊された。
 これでもう、村を悪戯に襲撃されることはない。だが、これだけで安心できないことは、その場に居合わせた誰しもが、言葉には出さずとも知っていた。
 ゆらめく紫炎をたなびかせ、棺と共に現れた吸血鬼の青年。彼こそが、この騒動の元凶たる辺境伯。葬燎卿と呼ばれる、死体を愛し、死を美徳とする者に他ならなかった。
「やれやれ……随分と派手に暴れてくれたね。まさか、あの鉄棺の軍勢が、ここまで破壊されるとは思っていませんでしたよ」
 鉄棺の残骸を軽く足で転がし、葬燎卿は薄笑いを浮かべて言った。言葉とは裏腹に、彼は呪われた鉄の棺達に、そこまで未練はないようだった。
「まあ、あれらは所詮、露払いの尖兵です。私の求める、美しい死を与える存在には程遠い……」
 どこか遠くを見つめるような視線で、葬燎卿は陶酔にも似た感情を露わにして告げた。彼の求める『美しい死』とは、いったい何か。それは恐らく、彼だけにしか分からないものなのだろう。
「さて……このまま引き返すわけにも行かないね。こんなにも美しい素材が集まっているのに、見逃す理由はどこにもありませんし……」
 再び猟兵達の方を見据え、葬燎卿が微笑んだ。その笑みの裏に隠れた歪んだ想い。こんな場所で、それを叶えるための糧になどなって堪るものか。
 並の吸血鬼を遥かに凌ぐ強さを誇る辺境伯。未だ、その弱点となる場所も分からぬまま、崖の間の旧街道にて恐るべき敵との戦いが幕を開けた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●辺境伯の紋章
 辺境伯は身体のどこかに『辺境伯の紋章』と呼ばれる、ブローチのような姿をした寄生虫を寄生させています。
 弱点である紋章を狙わずに戦った場合、辺境伯はかなりの強敵です。
 この紋章を狙って攻撃した場合は戦いを有利に進められるかもしれませんが、葬燎卿のどこに『辺境伯の紋章』があるのかは、未だ明らかになっていません。
ヴィクター・グレイン
俺は…何事にも………折れぬ。
折れる時、それは…俺が死んだ時だけだ。
(辺境伯に向けて歩を進める。)
ヒーローってのを知っているか?
ヒーローってのは超能力を持っていたり、変なコスチュームを着ている奴の事じゃない。
自らの意思でもって世界を良くしようと戦う人間の事を言う。
俺は…その為なら、神にだって「NO」を突きつけるね。
それが何者だろうと、俺の前に立ち塞がる奴は…全員殺す。

拳を握り締め、辺境伯と真っ向勝負する。
一撃一撃は重く、たとえ殴り返されても怯む事も後ずさる事もなく。
恐らくその間にブローチを破壊するだろう。
しかしそれでも殴り続ける。
原型を届けなくなるまで、朝が訪れるまで。



●不滅の紫炎
 谷間を吹き抜ける風の中に何かを感じ、辺境伯である葬燎卿は、しばし歩を止めて振り返った。
「へぇ……追い付いて来たようだね。あのまま炎に巻かれて、死んだものとばかり思っていましたよ」
 もっとも、その焼け焦げた身体で何ができるのかと、葬燎卿は呆れた様子で言い放った。彼の目の前に立ちはだかる者。それは、棺の攻撃を辛くも凌ぎ、死の葬列に追い付いて来たヴィクター・グレイン(真実を探求する者・f28558)だった。
「俺は……何事にも………折れぬ。折れる時、それは……俺が死んだ時だけだ」
 どれだけ苦境に立たされても諦めない。その決意が、ヴィクターを更に強くする。特殊な能力を何も持たない種族であるが故、彼の力の源は、その心に宿した正義の誓いだ。
「ヒーローってのを知っているか? ヒーローってのは超能力を持っていたり、変なコスチュームを着ている奴の事じゃない」
 ゆっくりと歩を進めながら、ヴィクターは葬燎卿に問い掛ける。だが、葬燎卿は何ら興味を抱かぬ様子で、バッサリと彼の言葉を切り捨てた。
「貴方の講釈を聞くつもりはないよ。私が興味あるのは、人の死だけですから」
 元より、価値観の違い過ぎる存在。人と吸血鬼は決して相容れることがない。ならば、教えてやろうとヴィクターは更に迫った。
 ヒーロー。それは、自らの意思を以て、世界をより良くしようと戦う人間の事だ。種族や能力など関係ない。その心の在り方、信念こそが、ヒーローであるか否かを決めるのだと。
「俺は……その為なら、神にだって『NO』を突きつけるね。それが何者だろうと、俺の前に立ち塞がる奴は……全員殺す」
「ふっ……面白い。では、宣言通り『殺して』いただきましょうか。この私を……不死身の吸血鬼であり、辺境伯の力を持った存在を、殺せるものならば!」
 どこからでも来い。そう言って、葬燎卿は敢えてその身をヴィクターに晒した。間髪いれず、ヴィクターの拳が葬燎卿の顔面を捕らえるが、その一撃で吹き飛ばされても、葬燎卿は何も仕掛けてはこなかった。
「どうした! まだ、終わりではないぞ!」
 続く拳のラッシュが、情け容赦なく葬燎卿を捕らえる。胸も腹も、真正面からあらゆる場所を殴打されるも、葬燎卿はどこか不敵な薄笑いさえ浮かべており。
「ふぅ……なかなか、重たい攻撃だったよ。並の吸血鬼だったら、粉々に壊されていたかもしれない。ですが……」
 再び吹き飛ばされたところで、身体の泥を払い静かに起き上がった。口元の血を拭う葬燎卿の姿には、未だ余裕が満ち溢れていた。
「御存じないのですか? 私は『辺境伯』なのですよ。その辺の、有象無象の吸血鬼と一緒にされては困ります」
 かつて、吸血鬼さえも恐れさせ、撤退を余儀なくさせた異端の神々。それら禁忌の存在が住まう地を訪れようというのだから、それなりの強化はされているというもの。
 ヴィクターの攻撃は効いていないわけではなかったが、それでも葬燎卿を滅ぼすには程遠かった。どれだけ肉体を強化しようと、強い信念を抱こうと、辺境伯の紋章による強化は、ヴィクターの攻撃に耐え切るだけの壮絶な力を葬燎卿に与えていた。
 やはり、弱点の紋章を攻撃しなければ駄目なのだ。だが、闇雲に殴り続けるだけで、身体のどこにあるのかも分からない紋章を潰すというのは、あまりにも分が悪過ぎる賭けだ。
「それでは、そろそろ反撃と行こうか。私は、死体の形が崩れるのが嫌いでね。貴方のような、無骨な暴力は好まない」
 だから、ここは代わりに自分の駆る炎を戦ってもらおう。その言葉と共に葬燎卿が指を鳴らすと、彼の周りを浮遊していた紫炎の花弁が集結し、巨大な猛獣の姿となった。
「舐めるな! この程度の獣で臆するか!!」
 それでも、何ら怯むことなく果敢に仕掛けるヴィクターだったが、なにしろ相手は炎の塊のような存在だ。
 一瞬、拳が炎を掻き消すも、それらは直ぐに再び集結して猛獣の姿となり、ヴィクターを包み込まんと襲い掛かる。おまけに、炎の身体を殴れば殴っただけ、当然のことながら彼の身体もまた燃えてしまう。
 さすがに、こんなものに纏わり付かれたまま、葬燎卿と戦うわけにも行かなかった。なにしろ、相手は素早く動く者を優先して無差別に攻撃を仕掛けてくるのだ。少しでも獣の気を逸らす策でもあれば話は別だったが、真正面から殴ることしか考えていないヴィクターは、当然のことながら真っ先に獣の標的となる定めだった。
「私は急いでるからね。貴方は、その獣と遊んでいてもらいましょうか」
「待て! 逃げるつもりか!!」
 慌てて追い掛けようとするヴィクターだったが、その行く手を紫炎の獣が阻む。振り切ろうにも、走れば走っただけ獣に狙われるのだから、もはや追い付く術もない。
「なんとでも、好きに言えばいい。貴方は『絶対に諦めない』のでしょう? だったら、せいぜい足掻いてもらいますよ。『拳では絶対に倒せない』存在を相手に……それこそ、死ぬまでね」
 もっとも、そちらの死体は埋葬するに値しない。せいぜい、魔獣の餌として、骨の髄まで消し炭になれ。それだけ言って、葬燎卿は燃える紫炎の向こう側へと姿を消した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

御剣・刀也
随分と上から目線だな。おい
俺たちを素材というか。面白い
俺は強い奴と戦いたいだけの修羅
俺の中の鬼を満足させられるならさせてみな

どうぞ、葬送の獣よで攻撃力と耐久力が向上したら、素早い動きではなく緩急を使った動きで、相手が射程に入るまでゆっくり動いて、射程に入ったら勇気でダメージを恐れず、ダッシュで一気に間合いを詰めて、捨て身の一撃を打ち込む
相手の攻撃は見切り、第六感、残像で必要最低限の会費をしながら、相手の心臓あたりを狙って攻撃する
「なるほど。確かにお前の力はすごい。が、それだけだ。お前は剣士でも戦士でもない。そんな相手じゃ、俺の中の鬼は満足しない。それなりに楽しかったよ」



●鬼の滾り
 紫炎の葬列を携えて、辺境伯は街道を行く。既に手駒は失っていたが、彼は何ら気にすることなく、渓谷の間を抜けるかいどうを歩いていた。
「おや? ……どうやら、また私の邪魔をする者が現れたようですね。私の贈る死に相応しい素材かどうか……ふふ、試させてもらおう」
 御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)の前に現れた葬燎卿が、己の内なる欲望を隠すことなく告げた。だが、そのような大胆不敵な態度は、刀也にとっても望むところだ。
「随分と上から目線だな、おい。俺たちを素材というか……面白い」
 刀を抜き放ち、刀也は早くも斬り掛からんばかりの勢いだった。葬燎卿の思惑など、どうでも良い。ただ、相手が強大な力を持っているのであれば、戦ってみたくなるのは戦士の性。
「俺は強い奴と戦いたいだけの修羅。俺の中の鬼を満足させられるならさせてみな」
「やれやれ……貴方の趣味に付き合う義理はないのですが……まあ、いいでしょう」
 どこからでも来い。そう言って刃を突き付ける刀也に、葬燎卿は軽く肩をすくめながら溜息を吐いた。とてもではないが、戦いを仕掛ける者の態度ではない。
 どう見ても油断しきっているとしか思えない様子に加え、小馬鹿にしたような応対の仕方。
 完全に、こちらを舐めている。そう踏んだ刀也は躊躇うことなく、葬燎卿へ向かって踏み込んだ。が、それに合わせて葬燎卿は軽く指を鳴らし、自らの従える紫炎を猛獣に変え、刀也に向けて解き放った。
「さあ、どうぞ。葬送の獣と、存分に戦ってください」
 葬燎卿の声に合わせ、炎の魔獣が刀也へと迫る。凄まじい咆哮と共に見境なく炎を撒き散らす獣は、とてもではないが葬燎卿の制御を受けているのかさえ怪しかったが。
(「これは……迂闊に動けば、やられるな……」)
 魔獣が素早く動くものに反応すると本能的に察し、刀也はしばし足を止めた。そのままゆっくりと、葬燎卿へと間合いを詰める。だが、刀也が距離を詰めて来ているのにも関わらず、葬燎卿は一歩も動く素振りさえ見せない。
 紫炎の獣が、静かに周囲の様子を窺っていた。やはり、あの魔獣は葬燎卿に制御されているわけではなく、その場で最も速く動くものを狙って攻撃を仕掛けてくるようだ。
 迂闊に走って逃げだせば、自分が獣に襲われることになる。それを気にして、葬燎卿は動けないのだ。
 この機会を逃してはならないと、刀也は思った。既に、葬燎卿との距離は、勢いに任せて太刀で突けば、身体を貫けるところまで迫っていた。
「……捕らえた! 雷神突・零式!」
 敵の胸元を正眼に構えた先に捉え、刀也は刃を突き出した。その動きに合わせ、炎の魔獣もまた走り出す。しかし、魔獣の爪と牙が繰り出されるよりも先に、刀也の太刀は葬燎卿の胸元を、一直線に貫いていた。
「……どうだ!?」
 どんな生き物でも、心臓を貫かれて死なないはずはない。確かな手応えを感じて勝利を確信した刀也だったが……果たして、葬燎卿は一瞬だけ苦悶の表情を浮かべたものの、口から鮮血を溢れさせながらも、不敵な笑みを浮かべていた。
「それが貴方の全力ですか? ……残念ですが、私の急所はそこではないですよ」
 突き刺さった刀と、刀也の腕。その両方を葬燎卿が掴むと同時に、追い付いた魔獣の炎が刀也へと襲い掛かる。捨て身で仕掛けた刀也だったが、それは相手もまた同じこと。いかに攻撃を見切ろうと、動きを阻害されている状態では、攻撃を避けられるはずもなく。
「ぐぅっ……!!」
 紫炎の魔獣が、その身体を以て一瞬で刀也のことを包み込んだ。元より、実態があってないような相手。太刀を振り回して斬り殺そうにも、相手が炎では物理攻撃は無意味だ。
 炎の勢いが増し、やがて刀也の身体の全てを飲み込んで行く。その様を、葬燎卿は薄笑いを浮かべながら眺めていたが……果たして、炎の収まった中から刀也が黒焦げになりながらも生き残っていたことで、これにはしばし感心した表情を浮かべた。
「なるほど。確かにお前の力はすごい。が、それだけだ……」
 太刀の柄を杖代わりに、刀也は立ち上がる。身体を酷く焼かれてもなお、彼の闘志だけは健在だった。
「お前は剣士でも戦士でもない。そんな相手じゃ、俺の中の鬼は満足しない。それなりに楽しかったよ……」
 それだけの力を持っているなら、何かに敵を攻撃させるのではなく、自らの身を以て仕掛けて来たらどうなのか。焼き尽くされ掛けながらも物足りなさを語る刀也だったが、葬燎卿は彼の言葉を、軽く鼻で笑い飛ばしながら苦笑した。
「最初に言ったはずですよ。貴方の趣味に合わせるつもりはないと。それほどまでに戦士を求めるのであれば……単身で、我々吸血鬼の居城に突撃でも仕掛ければ良いのでは?」
 まあ、それを本当に行った結果、命の保証はできないが。再び紫炎の葬列を従え、葬燎卿は刀也の前から去って行く。
 捨て身の一撃で深手を追わせることはできたが、しかし辺境伯の力を得た葬燎卿にとっては、それさえも致命傷にならなかったということか。
 やはり、彼を確実に倒すには、辺境伯の紋章であるブローチ状の寄生虫を探し出すしかないのだろう。未だ弱点の場所さえ判明しないまま、葬燎卿は着実に、辺境の村へと近づいていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルパート・ブラックスミス
然り。見逃す理由は無い。
今迄と同じだ吸血鬼。醜い死をくれてやる。

UC【贄伸ばし絶えぬ火手】、鎧から400本の【炎】属性の鉛ロープを展開。
鞭のように扱い【誘導弾】として機能する短剣の【投擲】と併せ手数で戦う。

何処か判らぬなら端から暴けばいい。

攻撃面では短剣【弾幕】で敵の各所を狙い『辺境伯の紋章』の位置を【情報収集】。
後先考えて手加減する余裕はない、発見次第【部位破壊】にかかる。
防御面は紫炎の蝶の群れの射程範囲と機動を【見切り】、
鉛ロープで【なぎ払い】【吹き飛ばし】。
状況に応じ【騎乗】する愛機からも鉛を供給しリーチを【武器改造】。
数束ねてこの鎧共々、味方を【かばう】【火炎耐性】のある壁にしよう。


ティエル・ティエリエル
WIZで判定

見逃さないはこっちのセリフだよ!
これ以上辺境で暴れられないようにここでやっつけてやる!

どこかに辺境伯の紋章って弱点があるんだよね?
背中の翅で飛び回ってヒット&アウェイでいろんな場所を攻撃していくよ!
どこか無意識にかばっている場所があればそこに紋章があるかもしれない!

紋章の位置に辺りを付けたら【お姫様ペネトレイト】で突撃だ☆
紫炎の蝶の群れなんかお姫様オーラの「オーラ防御」で防いで一気に貫いやるぞ!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


ナターシャ・フォーサイス
WIZ
美しい死を至高とする…ネクロフィリアか何かでしょうか。
個人の趣味は否定いたしませんが、使徒としてその行いまでは看過できません。
ゆえに罪と闇を祓い、楽園へと導いて差し上げましょう。

守護結界を張り、皆様を護りましょう。
加えて反射の加護を授け、万一への備えとしましょう。
そして天使達を呼び、貴方の力を封じます。
まずは天使達に相手をさせ、紋章の位置を見定めましょう。
どこかを庇うなら、そこが怪しいのでしょう。
見定めたら、楽園の名を冠するこの弩で紋章を穿ち、道標とするのです。

弱体化すれば…その後は、いつも通りに。
天使達と共に【高速詠唱】【全力魔法】【2回攻撃】の光を以て祓い、楽園へ導くのです。



●死人愛歌
 辺境伯の紋章にて、圧倒的な力を得ることに成功した葬燎卿。岩をも砕く拳で殴られようと、果ては心臓を貫かれようと、彼は決して死ぬことはなく、それどころか平然と歩みを進めることができる程だった。
 元より不死身の吸血鬼とはいえ、これは明らかに異常だ。やはり、弱点となる紋章を見つけ出して攻撃しなければ、葬燎卿には勝てないということか。
「……おやおや、今度はお揃いで。これはいよいよ、見逃せませんね」
 目の前に複数の猟兵の姿を確認し、葬燎卿がニヤリと笑った。圧倒的な自信と余裕。これまでの戦いで、自分が負けることはないと確信している勝者の目だ。
 だが、猟兵達にも退けない理由がある。ここで葬燎卿に背を向けてしまえば、今までの努力が全て水の泡と化す。
「見逃さないはこっちのセリフだよ! これ以上辺境で暴れられないようにここでやっつけてやる!」
「然り。見逃す理由は無い。今迄と同じだ吸血鬼。醜い死をくれてやる」
 ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)とルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)が、それぞれ葬燎卿を前に剣を抜いた。もっとも、そんな彼らの言葉でさえも、葬燎卿は怒るどころか、余裕で受け流して返して来た。
「ふふふ……この私に、『死』を贈ってくれるとは。ですが、醜い死はいただけない。死とは荘厳にして神聖なる人生の終着点。故に、美しくなければ意味はないのです」
 そんな死を、まずはそちらに与えてやろう。葬燎卿の周囲に漂う紫炎が、徐々にだが勢いを増して行く。
「美しい死を至高とする……ネクロフィリアか何かでしょうか? 個人の趣味は否定いたしませんが、使徒としてその行いまでは看過できません」
 もはや、この男にかける言葉はない。ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)の表情が険しくなる中、いよいよ燃え上がる敵の紫炎。
 自分達の後ろには、人々の暮らす村がある。それを守るべく、猟兵達は葬燎卿と最後の戦いに挑むのだった。

●葬燎
 辺境伯の紋章で強化された葬燎卿は、圧倒的な強さを誇る。しかし、その力の源である紋章は、同時に弱点にもなっている。
 そこを攻撃しない限り、猟兵達に勝機はない。問題なのは、その紋章の場所が、未だに分からないことなのだが。
「どこかに弱点の紋章があるんだよね? だったら……!」
 攻撃しながら探す他にないと、まずはティエルが果敢に仕掛ける。その身の丈は、葬燎卿が本気を出せば簡単に叩き落とされてしまう程に小さいが、小回りが効く分、スピードで勝負だ。
「ああ、痒いね。次はどこを刺してくれるんだい?」
 もっとも、弱点を突かねば効果は薄いので、今のところ葬燎卿は殆どダメージを受けていない。手も足も、頭も腹も手当たり次第に突いたのに、いったい何処に紋章があるのだろうか。
「1つ1つ探っても埒が明かんな。ならば……!」
 今度はルパートが多数のナイフを投げて応戦するも、それらが次々に身体に刺さっているにも関わらず、やはり葬燎卿は動じない。
「さて、そろそろ反撃と行こうか。私が葬燎卿と呼ばれる所以……身を以て知ってもらおう」
 葬燎卿が片手を軽く上げるのと同時に、棺が静かに開き、その中から紫炎が蝶となって飛び出して来た。個々の威力は大したことがないのかもしれないが、纏わり付かれると厄介だ。
「まだ見ぬ楽園、その一端。我らが同胞を救い誘うため、光を以て導きましょう」
 すかさず、ナターシャが天使達を召喚し、反射の加護で仲間達を守る。これで、そう簡単にやられることはなくなったが、それでも弱点が見つからない限り、遅かれ早かれ結果は同じ。
「おかしいなぁ……。弱点、どこにあるんだろう?」
「あれだけの攻撃を受け、その全てに耐え切るとは……」
 そんな中、ティエルもルパートも、さすがにおかしいと首を傾げていた。敵は何かを庇う素振りさえ見せず、こちらの攻撃を敢えて受けている。殆ど遊んでいるようにしか見えない程の余裕。弱点持ちだというのに、この態度は少しばかり腑に落ちない。
「我が血肉は在りし形を手放し。されど……捕えし贄は放さず!」
 鉛で作られた無数の縄を呼び出し、ルパートはナイフの代わりに葬燎卿へと放った。その攻撃さえ、敢えて受けんとする葬燎卿だったが……生き物のように蠢く縄が彼の後ろを攻撃した時、途端に苦悶の表情を浮かべて崩れ落ちた。
「……っ!?」
「やはりな。貴様の弱点は、その腰から生えた翼の付け根だ!」
 そう、敵の弱点は、前ではなく後ろに付いていたのだ。後ろについているからこそ、紋章を庇う必要もない。敵に正面さえ向けていれば、それで常に弱点を庇っていることになる。
 しかし、その力を過信し、余裕を見せ過ぎたことにより、葬燎卿はルパートに弱点の位置を看破されてしまった。ティエルの攻撃に加え、多数のナイフを浴びても怯まなかったこと。そして何より、先の戦いで真正面から幾度も殴られ、果ては心臓さえ貫かれても動じていなかったことは、紋章が彼の正面にはついていないことを、暗に物語ってしまっていたのだ。
「くっ……バレてしまっては、仕方がないですね。こうなったら、私も本気を出しましょう」
 棺から放たれる紫炎の蝶が、一ヶ所に集まって巨大な蝶の形を作って行く。どうやら、余裕がなくなったことで、必殺の一撃を放とうというようだが。
「そんな攻撃なんて効かないもんね♪ お返しにこのまま体当たりで貫いちゃうぞ☆」
 紫の奔流となって襲い掛かって来た焔を切り裂き、ティエルが仕掛けた。彼女の周囲は、強力なオーラによる結界で覆われている。ナターシャの天使が与えてくれた反射結界と併せれば、弱点を突かれて力を半減させた葬燎卿の攻撃など怖くもない。
「ぐぁっ!? こ、この小癪なカトンボが!!」
 攻撃を無効化され、おまけに再び紋章をやられ、葬燎卿は再び膝を付いた。それでも、懲りずに棺から新たな紫炎の蝶を呼び出そうとするが……彼の意志とは反対に、棺からは何も出ては来なかった。
「あなたの力は封じさせてもらったわ。もはや、勝機はどこにもないわ」
 これまでの慇懃な態度に対する返礼とばかりに、ナターシャが告げた。彼女の率いる天使達が、その力を以て葬燎卿のユーベルコードを封印してしまったのだ。
 これでもう、敵は満足に戦うこともできない。弱点の場所が判明した今、辺境伯とはいえ襲れるに足らず。
「よ~し、これでトドメ……って、紋章は壊しちゃいけないんだったね。危ない、危ない」
 それでも、グリモア猟兵からの言葉を思い出し、ティエルが一瞬だけ踏み止まった。確かに、辺境伯の紋章は弱点でもあるが、葬燎卿を先に倒せば回収できる可能性もあるのだ。
 この紋章を回収し、吸血鬼勢力の謎に迫るのも依頼の目的のひとつだったはず。ならば、必要以上に潰しては、紋章を回収できないかもしれない。
「私が牽制します。その間に、御二人も攻撃を!」
 まずは、ナターシャが敵の背後に回り、その腰にある紋章へと銃弾を放つ。立て続けに弱点を攻められたことで、さすがの葬燎卿も、もはや反撃する力さえ残ってはおらず。
「こいつで……」
「……終わりだよ!!」
 最後は、ルパートとティエルの繰り出した剣が、それぞれに葬燎卿の身体を断ち、胸を穿った。
「ガハッ!! ば、馬鹿な……この私が……埋葬されると……いうのですか……」
 大量の血を吐き出し、葬燎卿は自らの流した血の海に沈んだ。死を美徳とし、己の欲求を満たすために、罪なき者を殺め続けた吸血鬼は、自らの死を飾ることもできないまま、大地の染みと化して消滅し。
「……あっ! 紋章が逃げるよ!」
 そんな葬燎卿の身体から離れ、よろよろと逃げ出す辺境伯の紋章。ブローチから蜘蛛の脚が生えたような奇怪な姿をしているが、先程から何度も攻撃された上に、宿主も失いかなり弱っている。
「逃がすわけにはいかんな。それに、これの回収も重要な任務だ」
 紋章を難なく捕まえ、ルパートは袋に押し込んだ。今はまだ、詳しいことは分からないが、こうして辺境伯を倒して行けば、いずれは吸血鬼勢力の背後に潜む、巨大な影に迫ることができるかもしれない。
「明けない夜の世界……ですが、僅かでも希望は残されていると信じたいですね」
 いずれは、この暗黒世界にも救済を。そう誓い、ナターシャは静かに空を仰ぐ。未だ黒雲に覆われている空ではあったが、その向こう側に待つ楽園へ、この戦いで少しだけ近づけたような気がしたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月27日


挿絵イラスト