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猫又坂の迷子猫

#カクリヨファンタズム #猫又坂 #夕狩こあら #ねこまたウィスプ #彷徨う白猫『あられ』 #懐かしの縁日

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#懐かしの縁日


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「大変! 幽世――カクリヨファンタズムの世界で『道』の概念が奪われちゃった!」
 見渡す限りどこまでも「道」が無い!
 道が無くてはどうやって生きていけるのかと、ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)が蒼白い顔で詰め寄ってくる。
 彼女は声色を落として事態を詳述し、
「今、幽世は道を奪われて建物がくっついて、入り組んだ状態になってる」
 古代から現代の文明様式を想わせる建物が無規則に、重力を無視して接着している。
 道によって隔てられていた距離と空間の概念を喪い、混ぜっ返された様な状態なのだ。
「そう、それは世界の終わり……カタストロフが訪れたかのような光景よ……」
 近付けた顔に翳を差して、おどろおどろしく語るニコリネ。
 然し彼女はここでスッと距離を取ると、元の表情になって言を足し、
「それもこれも、オブリビオンの所為なの」
「やはり」
「ええ、ご主人をずっと探している迷子猫が『道』を食べちゃったのね」
「迷子猫、か……」
 自身が迷宮化させたとも気付かず、帰る道を喪った迷子猫。
 然し道を食べたところで、鈴を付けてくれた主人とは会えないだろう。
 迷子猫は化け猫で、自身も知らぬ裡に主人を喰ろうてしまったのだから。
「……迷子猫は仔猫だから、なんにも分からないの」
 何が起きているのか、何を引き起こしたのか。
 それはとても可哀想な事だと、きゅ、と脣を結んだニコリネは、ここで猟兵の頼もしい表情を見て、勇気を得たように再び口を開く。
「二つの尻尾を持つ白猫が『道』を食べてしまった所為で、幽世には無数の骸魂が飛び交い、妖怪達が次々と飲み込まれてる」
「他の連中もオブリビオン化しているのか」
 幸いな事に、うまく骸魂だけを倒せば、飲み込まれた妖怪を救うことが出来る。
 それは此度の「無道」の元凶となった二又の白猫も同じ。
「……なんとか解決して、幽世を元に戻したいところだ」
「私、皆ならそれが出来ると思ってる」
 ニコリネが揺るがぬ信頼を口にする。
 凛然と花顔を持ち上げた彼女は、グリモアを喚んで、
「お願い。なんにも知らない迷子猫が、何をしたかも分らないまま幽世を壊してしまう前に、皆の力で救ってあげて」
 と、眩い光の先に「道」を繋いだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、或るオブリビオンの影響で「道」の概念が奪われてしまった幽世のカタストロフを解決する通常シナリオ(難易度:普通)です。

●戦場の情報
 カクリヨファンタズム、妖怪達が「猫又坂」と呼んでいた一画。
 「道」の概念が奪われた今は建物が立体的に密着し、坂の景色はありません。
 猟兵は天地を引っ繰り返した建物の柱や屋根、壁などを伝って移動できます。

●シナリオ情報
 第一章『ねこまたウィスプ』(集団戦)
 西洋妖怪「ウィルオーウィスプ」の骸魂に飲み込まれてしまった東方妖怪。
 かわいい仕草で油断させ、尻尾の先の鬼火で相手を惑わせたり焼き殺します。
 他のねこまたや化け猫達と群れている光景が多く見られます。
 体毛の個体差が大きく、サイズも様々です。

 第二章『彷徨う白猫『あられ』』(ボス戦)
 自分に鈴を付けてくれたご主人様を探す迷子猫。
 知らず主人の命を喰らった化け猫で、今は主人を探して「道」を喰らっています。
 カクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」なので、飲み込まれた妖怪はオブリビオンを倒せば救出できます。

 第三章『懐かしの縁日』(日常)
 無事に「道」を取り戻す事が出来たら、その道を辿って縁日に行きましょう。
 オブリビオンから元に戻って大喜びの猫又達と一緒に、様々な屋台を楽しめます。
 POW,SPD,WIZに関わらず、縁日らしい遊戯や食べ物を書いて頂く事も出来ます。
 ニコリネをお話相手や遊び相手に指定する事も出来ます。皆様が縁日を満喫できるようお手伝い致します。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や【グループ名】をお書き下さい。特に呼び方があると、とても助かります。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 集団戦 『ねこまたウィスプ』

POW   :    惑わしの鬼火
【二股に分かれた尾の先端に浮かぶ炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【相手を幻惑する効果のある青白い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    顔を洗う
【夢中で顔を洗うことで】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
WIZ   :    化け猫の集会
戦闘力のない、レベル×1体の【化け猫達】を召喚する。応援や助言、技能「【『おどろかす』や『化術』】」を使った支援をしてくれる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 煌々と燿ける蓮の花に包まれて幽世(カクリヨ)に降り立つ。
 一枚、一枚と花葩を開いてグリモアが外界を暴けば、猟兵は凛然の瞳に飛び込む異様に息を呑んだ。
「これは――」
 古い石碑の上に五重の塔。橫倒しになったピラミッド。
 天地を逆さにした日本家屋に、中国様式の城が屋根をくっつける――倒錯した世界。
 建物の間にある筈の「道」を無くしては斯くも混乱するのかと、顛倒(あべこべ)の世に足を付けた彼等は、少し済まなさそうに屋根やら城壁やらを伝いながら、来た当初から耳に届く鈴の音を辿った。

 ――リン。リリン。

 多分、これは二又の尾を持つ白猫に付けられた鈴の音だろう。
 冷たい風に運ばれる其は、幽かに鼓膜を震わせるだけの――糸のようにか細い音だが、他に迷子猫を見つける手掛かりは無いと、猟兵は聢と耳を澄ます。
 而して鋭い聴覚は、倒錯した建造物の間に息衝く別の気配も察したろう。
『にゃごにゃご、にゃふん』
『にゃふにゃふ、なぁご』
 二又の尾の先に鬼火を揺らした猫達が、縄張りを犯されたと毛を逆立てる。
 ここは猫又の集まる場所、通称『猫又坂』――数多の猫又たちが怒りに言葉を喪失し、不躾に上がり込んで来た猟兵達を威嚇する。
『フーッ! フーッ!!』
『にゃぁぁぁごぉぉおお』
 骸魂に飲み込まれてしまった妖怪「ねこまた」が、わらわら。
 何とか「首根っこを捕まえ」、母猫のように「身体を持ち上げて」やったなら、彼等も仔猫の様に大人しくなって、骸魂を吐き出してくれそうだが……。

 ――リン、リン。

 未だ鈴の音が聽こえる。
 目の前に現れた猫又達には首輪が無いから、矢張りこれは白猫のものだ。
 猟兵はその音を決して失わぬよう神経を研ぎ澄ませながら、視界いっぱいに飛び込んでくる猫又の群れをどうにかせんと動き出した。
トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎

パンデュールに搭乗し操縦して戦うよ

/
帰る道をなくしてきっと心細いよね

迷子の仔猫、すぐに助けに向かうから待っていて!

/
まるで絡繰屋敷みたいだ
先ずは手がかりになるねこまたウィスプを探そう

尻尾にともる炎が目印になるだろうから、建物の迷宮を進み猫の鳴き声と二つの灯りを目指して慎重にパンデュールを操るよ

/
ねこまたウィスプは他の化け猫たちと一緒にいるだろうから、猫の集会の中から探して捕まえよう

恐らく化術で似たような姿になって惑わせてくるだろうから、召喚された化け猫たちから応援や助言を受けている化け猫を見極めワイヤード・マレディクションで捕獲
首根っこを捕まえたてパンデュールの両手で持ち上げよう!



 横倒しになった金字塔(ハラム)の斜面に重厚な躯体が降り立つ。
 超常機械鎧『パンデュール』の胸部キャノピーより周囲を一望したトゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は、天地が倒錯した異景に先ず嘆声を溢した。
「――まるで絡繰屋敷みたいだ」
 耳を澄ませば、鋭い聴覚は慥かに鈴の音を捉える。
 か細い音色を聽くだに、其を結んだ猫の不安を推し量ったトゥールは、ぎゅっと操縦桿を握り込めて移動を始めた。
「帰る道をなくして、きっと心細いよね……すぐに助けに向かうから待っていて!」
 手掛かりは鈴の音の他にも在る。
 猫又坂に屯していた猫又達なら、何か知っているかもしれない――。
 碧く透徹(すみわた)る瞳を烱々と、迷宮化した建造物の隅々に巡らせたトゥールは、彼等の尻尾の先端に燈る炎を目印に、灯光(あかり)が集まる場所を探った。
「……猫又達も猫と同じように集会して、情報交換とかするのかな……」
 読みは的中。
 猫又達は化け猫と共に、横倒しになった仏塔の陰に密集(かたま)っていた。
『にゃごっ!!』
『にゃふにゃふ!!』
 鐵の塊が勝手に入って来るなと逆立った尻尾が尻尾を喚ぶ。
 二つの尻尾は四本に、四本の尻尾は蒼白い炎を膨らませて巨猫に――!
『に゛ゃぁぁぁごぉぉおおお!!』
 あっちいけ、と喊んだろうか。
 大きな化け猫が牙を剥いて飛び掛かるも、其を化術と見破った少年は至極冷靜。
 彼は凛然を萌すや巧みに『パンデュール』を操り、
「向かい來るタイミングに合わせて捕まえる! 逃さないよ!!」
 展開、【ワイヤード・マレディクション】――!!
 刻下、搭乗機の手首部からフック付きワイヤーを射出したトゥールは、入射角と速度、軌跡を精緻に一致させた冱撃を以て迎える。
『にゃごっ!!!』
 巨大化け猫が首根っこを捕まえられ、『パンデュール』の硬質の手に優しく持ち上げられた時には、猫又達もビクゥッと喫驚を示して――。
『…………にゃふん』
 ――降参。
 仔猫のように、或いは借りて来た猫のように大人しくなった猫又達は、驚嘆の聲と共に骸魂を吐き出し、元の東洋妖怪に戻った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
なんと奇妙な光景であることよ! クセが強くて実に面白いではないか!
このままぶらりと散歩ロケと洒落込みたいところであるが、望まぬ変容であるなら直してやらんとな

はっはっは、猫の威嚇など可愛らしいものよ
この迷路を以て、決して逃がしはせん、まとめてどーんと来い!
というか妾、猫にはいつもガチ逃げされておるが…もしや此度はむしろ跳びかかってくる? マジで!?
だとしたらテンション爆上がりであるぞ?

妾の過去の記憶から引っ張り出されでもせん限り、妾が化術やおどろかしに引っ掛かることはないよ
攻撃は甘んじて受けよう! じゃれつかれるなんて素敵体験ではないか!
首根っこを右手で捕まえて、優しく持ち上げてやるぞ~



 高性能AIを搭載した撮影用ドローン『天地通眼』が、先ずは高みより異景を撮る。
 天地を顛倒(あべこべ)にした建物を一頻り映したカメラは、●RECを点滅させた儘、焦点を下へ――御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)の堂々たる姿を映した。
「なんと奇妙な光景であることよ! クセが強くて実に面白いではないか!」
 素材(ネタ)に不足無し、撮れ高に不安無し。
 此度も動画の視聴者に抜群の絵を届けられると、倒錯の世界を泰然と受け取った菘は、然し横倒しになった店の看板を首を傾けて読んだ後に、凝りを解して、
「……このままぶらりと散歩ロケと洒落込みたいところであるが、望まぬ変容であるなら直してやらんとな。妾が!!」
 と、くるりカメラ目線を寄越す。
 画角いっぱいに丫(ふたまた)の舌を出して煽った菘は、それからスッスッと蛇尾を揺らして城壁を歩きつつ、高笑いの合間にも聽こえる鈴の音を手繰った。

  †

『にゃごっ!!』
『にゃんご、にゃんご!!』
 程無くして猫又の集会に出くわした菘は、縄張りを犯されたと尻尾を蹴立てる猫又達に余裕の表情を見せる。
「はっはっは、猫の威嚇など可愛らしいものよ」
 華奢を高く擡げ、長い睫毛を半ばまで伏せて睥睨した凄艶は、美しく塗り込めた魔爪にツ――と大地を捺擦(なぞ)ると、周囲の倒錯した世界に似た迷路を創り上げた。
「この迷路を以て、決して逃がしはせん。さぁ、まとめてどーんと来い!」
『にゃにゃっ!?』
「――畢竟、“邪神からは逃れられない”(アンヴォイダブル・カラミティ)」
 突如、頑健なる壁が立ち塞(はだ)かり、一帯に複雑な岐路が組み上がる。
 猫又達は見た事の無い景色に戸惑うが、然しこの迷宮が時間稼ぎでなく、寧ろ「逆」であるとは飛び込めば理解ろう。
 迷路の壁は、触れれば即座に術者たる菘の下へ強制転移される絡繰になっており、
「――というか妾、猫にはいつもガチ逃げされておるが……もしや此度は寧ろ向こうから跳びかかってくる?」
『にゃぁぁごごおお…………にゃごっ!?』
「マジで!?」
 驚かそうと群れで襲い掛かった化け猫たちが、逆に喫驚の表情を揃えて飛び込んで来た瞬間には、菘もテンション爆上がり!!
 くわっと刮目した佳人は、視界いっぱいに迫る爪に盾するより甘んじて、
「悉く受け止めよう! じゃれつかれるなんて素敵体験ではないか!」
『にゃんご! にゃんご!』
 ジタバタと藻掻いて爪を見せる猫又の首根っこを右手で捕まえ、優しく持ち上げる。
 然れば猫又はシュンと大人しくなり、借りて来た猫のように菘の手に収まった。
『…………にゃふん』
 フン、と骸魂を吐き出したなら元に戻ろう。
 菘は正気を取り戻して欠伸する猫又に、穏やかな聲を添えて、
「――妾の過去の記憶から引っ張り出されでもせん限り、お主達の化術やおどろかしに引っ掛かることはないよ」
 のう? と、今度はやんわり睫毛を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リダン・ムグルエギ
あー
道を無くすと道理を失うって感じなのかしら
ぐっちゃぐちゃに自分の好き勝手に建物を繋げたこの雰囲気
…実家のような安心感だわ
(創作意欲溢れる建築家達が何世代にも渡って好き勝手増築した家が実家)

一応世界の危機らしいけど
ぜんぜん実感わかないわねー
車だって走れそうじゃない
ジャンプ必須だけど
(いつもと同じノリで顔を洗ったり威嚇してる猫又を撮影しながら)

猫達はまぁ、まっしぐらな缶詰とか
猫大人気のチューブ菓子とかを囮に使った
粘着とりもちの罠でも使って、適当に捕まえて行きましょっか
猫が摩擦レスになってもついたもちが摩擦MAXなら捕まえるのに苦労は…
あ、思ったより結構早い

罠に猫っぽい無関係な人とかもかかりそう?



 煌々と帯を引く光を解いて、蹄音をひとつ。
 51度50分の勾配に、成る程、金字塔(ハラム)の斜面に降り立ったのだと壮大な景色を受け取ったリダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)は、その見事に入り組んだ建造物群にアンニュイな溜息を溢した。
「あー……道を無くすと道理を失うって感じなのかしら」
 碧く艶めく長い睫毛を半ば伏せる。
 顛倒(あべこべ)の世界を映したリダンに然し違和感は無く、
「ぐっちゃぐちゃに建物を繋げたこの雰囲気……まるで実家のような安心感だわ」
 ホッとする――と目尻に湛えるは郷愁(ノスタルジア)。
 彼女の実家は、創作意欲溢れる建築家達が何世代にも渡って好き勝手増築した賜物で、新進気鋭のデザインが彼女の感性を磨き、そして――胆力を鍛えてくれた。
 故にリダンは漫ろなる歩武で猫又坂の辺りを巡り、
「一応世界の危機らしいけど、ぜんぜん実感わかないわねー」
 城壁を床に、トリックフォトをパシャ。
 遠近法を駆使したSNS映えの風景をパシャ。
 道は無くとも歩いた所が道になると、堂々たる漫遊にシャッター音を連れた。
「車だって走れそうじゃない? ジャンプ必須だけど……面白そう」
 蓋し彼女は風に運ばれる鈴音を聢と聽いているし、建物の翳に映る鬼火で猫又の位置も把握している。
 故に、撮影に勤しむ彼女の尻尾を踏む事も叶わぬだろう。
『フニャーッ!!』
「まぁ、その缶詰には猫又もまっしぐらよね」
『にゃぁぁぁごぉぉおおお……!!』
「ええ、悪いものは入ってないから、ちゅーるちゅーる食べていいわ」
 既に餌は用意してあるのだ。
 彼女は涼しい顔でスマホを構えながら、顔を洗ったり威嚇する猫又達を次々にフレームに収めていく。
 格別の餌が極上の罠だと気付いたのは、何時だったろう?
「食べたらお昼寝でもして、ごゆっくり。粘着とりもちのお布団で寝転がって頂戴」
『にゃご? ――にゃにゃにゃ……っっ!!』
 あっあっ、動けない――!!
 其が【レプリカクラフト】――罠を仕掛けた時こそ極めて精巧に作られる「トリモチの沼」と気付いた時には既に遅く、美味を食していた猫又達は他愛なく首を差し出す。
「摩擦レスの猫又が来たとしても、トリモチが摩擦MAXなら捕まえるのは……」
『ニャフン』
「あ、思ったより結構早い」
『ニャンッ!』
 辛うじて、首根っこを掴む。
 ヒョイと抱いてやれば猫又は骸魂を吐き出し、元の猫又と戻ってくれたようだが、この一連の挙動を観察していたリダンは、ふと餌を継ぎ足して、
「……罠に猫っぽい無関係な人とかもかかりそう?」
 眠そうな翠瞳に悪戯な色を挿した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メーアルーナ・レトラント
メリルちゃん(f25271)と

むむ…どこに進めばいいのかわからないです…
と、伸ばされた手に気づいて、笑顔でぎゅっとおてて繋ぎ

迷子にならないように、おててぎゅってしましょ、メリルちゃん!
メアのほうがおねーさんだから、しっかりしなければなのです(ふんす)

ねこさんたち、お友達に…今はなれそうにないのです

メアはひよきんぐしゃんを呼んで、ねこさんの首根っこきゅっと銜えてつまみあげてもらうのです!
大きなひよきんぐしゃんなら、ねこさんもつかまえることができる、はず!

大人しくなってくれたらいっぱいなでなで
メアはねこさん捕まえれなかったのです
でもひよきんぐしゃんがばっちり!
なかよしさんはよいことなのです!


メリル・スプリング
メア(f12458)と

ふわ……あっちもこっちも、あべこべなのです

どこを進めばいいか躊躇って、思わずメアに手を伸ばし

ん、いっしょなら、だいじょぶなのです

ねこさんねこさん……いっぱいなのです
おこってるのは、きっとこわいからなのです

アレキサンダーを操り、ねこさんの気を引くのです
あわ、アレキサンダー、いたいです?んん、ちょっとがまんです……!
きっと、アレキサンダーとあそべばねこさんのこわいもなくなるのです
うまくいったらつかまえて、そっとなでなで
ふふ、かわいいのです
メアも、ねこさんつかまえたです?
わ、ひよきんぐさん、ねこさんのママみたいなのです……!
えへへ、なかよしさんで、かわいいのです……♪



 脚頸の蝶飾(リボン)を搖らして黒い靴がトン。
 次いで繊脚に絹飾(リボン)を巻いた赤い靴がトン。
 光に解かれるや、スカートにふうわり風を集めて幽世に降り立った二輪の花は、天地を引っ繰り返した様な異景に玲瓏の眸をぱちくりとさせた。
「ふわ……あっちもこっちも、あべこべなのです……」
「むむ……どこに進めばいいのかわからないです……」
 無垢なる翠玉(エメラルド)の精彩を巡らせたメリル・スプリング(アリス適合者のプリンセス・f25271)と、ちんまりとした角を右へ左へと動かすメーアルーナ・レトラント(ゆうびんやさん・f12458)は、幼な佳聲を奇しくも重ねる。
 動もすれば自分達が迷子になりそうな――倒錯した世界。
 一歩を躊躇ったメリルがそうっと繊指を伸ばせば、その指先に気付いたメーアルーナが莞爾(にっこり)と綻んで手を繋ぎ、
「迷子にならないように、おててぎゅってしましょ、メリルちゃん!」
 メアのほうがひとつうえのおねーさん。
 おねーさんはしっかりしなければなのです、と零れる微咲(えみ)は花のよう。
 而して愛らしくも頼もしい花顔に瞶められたメリルは、雪白の指をきゅ、と結んで首肯いた。
「ん、いっしょなら、だいじょぶなのです」
 二人なら、大丈夫。
 メアと一緒なら何処にでも行ける、と凛然を萌したメリルは、踏み込むだにコトコトと音を立てる瓦屋根に、勇気ある一歩を踏み出した。

  †

 すこうし慎重に、そして幾許か好奇心に煌く瞳を周囲に巡らせていた二人は、軈て仏塔の陰に照る燈火(あかり)の集合に、猫又の群れを見つけたろう。
『にゃごっ!!』
『にゃふにゃふ!!』
 顔を洗ってリラックスしていた處に、集会を邪魔するとは許すまじ――!
 黒、三毛、サバトラ……数多の猫又が揃って尻尾を逆立て、その先に燈る鬼火を烈々と燃やして威嚇する。
「ねこさんねこさん……いっぱいなのです」
「ねこさんたち、お友達に……今はなれそうにないのです」
 縄張りに入った自覚はあって、彼等が怒るのも無理はないと櫻脣を結ぶ二人。
 蓋し可憐もまた猟兵なれば、嚇怒の爪牙を向けられたとて踵を返す怯懦に非ず。
 少女達は手を繋いだ儘、各々の超常の異能を解き放ち、
「大きなひよきんぐしゃんなら、ねこさんもつかまえることができる、はず!」
 きりっと長い睫毛を持ち上げたメーアルーナが喚ぶは、【ひよひよ大行進】(メアノオトモダチ)――無数のヒヨコが現れた瞬間にも猫又達は喫驚したが、ふわふわ黄色が身を寄せ合って巨大な「ひよこキング」に合体した時は、肩をビクゥッと震わせたろう。
「ぴよぴよ~」
『にゃご~!』
 本来は狩猟衝動が掻き立てられるヒヨコに首根を捕まえられた猫又は、ポカーンとして大人しくなる。
「メアがねこさん捕まえられなくても、ひよきんぐしゃんならばっちり!」
「ぴよ~」
 大きくなってもフワフワの背中に乗ったメーアルーナは、鳥瞰――ちょっとした高さからメリルの奮闘を見られたろう。
「ねこさんがおこってるのは、きっとこわいからなのです」
 わからないものはこわい。
 こわいものは、あっちいけ、と。
 瞋恚の炎に根差す本能的な恐怖を推し量った少女は、【My Best Friend】(タイセツナオトモダチ)――繊手に抱いていたアレキサンダーなるテディベアを操り、彼等の気を惹くようクイックイッと動かした。
『にゃごっ!!』
「あわ、アレキサンダー、いたいです? んん、ちょっとがまんです……!」
 視界を過るものが気になるのは猫と同じ。
 猫又達は訝し気に、蓋し夢中で猫パンチを繰り出せば、テディベアはくるんっと回って蹌踉めくも、またちょこちょこと歩いて遊び心を擽る。
 怒りも恐れも失くした頃には、メリルでも抱く事が出来よう。
「……ふふ、かわいいのです」
 仔猫のように大人しくなった猫又の温かさと柔かさに頬を寄せれば、彼等は欠伸する様に骸魂を吐いて丸くなる。
 ほうっと安堵の息を溢したメリルは、大きなヒヨコに乗るメーアルーナを仰ぎ見て、
「メアも、ねこさんつかまえたです?」
「えへへ、お友達になれそうです」
「わ、ひよきんぐさん、ねこさんのママみたいなのです……!」
「ママ……! ひよきんぐしゃんが、ねこさんのママ……!!」
 すっかり懐いた猫又と、乙女色の麗瞳を細める少女に笑顔が移される。
 きっと彼等も自分達と同じように、いやそれ以上に、匣をひっくり返したような世界に驚き、戸惑っていたのだと――愛しさに撫でる手は一層穏やかになる。
「えへへ、なかよしさんで、かわいいのです……♪」
「なかよしさんはよいことなのです!」
 もうお友達だもの、仲良くしましょ、と――。
 美し二輪の花は、猫又達が言葉を取り戻すまで優しい時間に包んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
ご機嫌ナナメのようだな。勝手に入ったのは謝るが、この世界はご覧の有様だぜ。少しぐらいは仕方ねぇだろ?(悪びれもせず)

魔剣を顕現。猫に限らず動物は炎を嫌うが、お前らに関しては炎を遠慮する必要はねぇな。
俺からは先に仕掛けず。【挑発】しながら青白い炎が放たれるのを待つぜ。
どした?ご自慢の炎、見せてみな。俺を熱くしてくれるんだろ?
青白い炎に対し、魔剣に黒銀の炎の【属性攻撃】を宿し、大きく振るって【範囲攻撃】で俺も炎を飛ばす。
力を抑えて青白い炎との相殺を狙うぜ。派手な爆発で猫の目をくらませて首根っこ捕まえて宙ぶらりんだ。
あー…こりゃ、飯の食い過ぎだな。重いぜ、お前。…なんて言ってら猫に引っ掻かれるかね?



 便利屋『Black Jack』は迷子猫の探し出しまで請ける様になったか――否。
 これも猟兵業の一環と、音もなく金字塔(ハラム)の斜面に降り立った男は、高みより天地を無くした異景を一望すると、玲瓏の紫瞳を烱々とさせた。
「……猫又の事は猫又に尋ねるのが早い。先ずは聽き込みだ」
 その男、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は相手が人だろうと魔だろうと、或いは猫又であろうと、気配は必ず探し当てる。
 故に藪から棒に出くわす事も無い。
「猫又の尻尾の先に燈る鬼火で、位置は判明るからな」
 耳は聢と鈴の音を手繰りながら、眸は鋭く燈火(あかり)を探る。
 然ればカイムは相手の縄張りにあって驚かされるより先、集会中の彼等を驚かせる事になったろう。
『にゃにゃっ!?』
『にゃごにゃご!!』
 フーッと尻尾を蹴立てて炎を燃やす猫又たちを、両手を広げて落ち着かせる。
「ああ、ご機嫌ナナメのようだな」
『にゃんご!!』
「勝手に入ったのは謝るが、此処はご覧の有様だぜ。少しぐらいは仕方ねぇだろ?」
 悪びれもせず、微咲(えみ)すら溢して。
 にゃごにゃごと威嚇する猫又達の熾々と然(もえ)上がる蒼炎を視たカイムは、彼等の怒りを受け止めるべく、『神殺しの魔剣』が從える黒銀の炎を顕現(あらわ)す。
「猫に限らず動物は炎を嫌うが、お前らに関しては炎を遠慮する必要はねぇな」
 多分に彼等は喫驚かされたのだ。
 道が飲まれ、世界が歪み、建物が横倒れになって混迷していたのだろう。
 縄張りを侵した事もある、仔猫の犯した變容も被ってやろうと靴底を踏み締めた彼は、自ら仕掛けず――猫又達が蒼白い炎を放つ瞬間を待った。
『にゃむ……! にゃむ……!』
「どした? ご自慢の炎、見せてみな。俺を熱くしてくれるんだろ?」
『っっ!! にゃぁぁああ!!!』
 烈々と喊ぶ蒼炎が迸発(ほとばし)る。
 烱々たる紫瞳いっぱいにその燿いを視た麗人は、須臾、黄昏を連れる炎を解き放つと、冱ゆる斬撃と共に厖大な焦熱を飛ばした!
「相殺する。派手に爆ぜろよ!」
『にゃご――!』
 蒼白い炎と黒銀の炎が混ざり、凄まじい光熱を爆発させる――!
 まるで宇宙を視るかの様な表情――餘りの衝撃に猫又が眼を晦ませた瞬間、むんず、と首根を掴まれたら術は無い。
 気付けば猫又はカイムに持ち上げられ、ぶらりん、と四肢を投げだしていた。
『――にゃふん』
 フン、と骸魂を吐いたなら、元の猫又に戻ろう。
 仔猫の様に大人しくなった猫又を見たカイムは、安堵の息を吐くなり悪態を溢して、
「あー……こりゃ、飯の食い過ぎだな。重いぜ、お前」
『にゃんご!!!』
「おっと悪ぃ、レディには言い過ぎた……っ痛ぇ、引っ掻くなって!」
 ジタバタと藻掻いて爪を出す猫又を、どうどうと宥めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
にゃんこと戯れる系の仕事と聞いて!
うん、まぁ、知ってたですよ?
そんな美味しい仕事はないってことくらい。
知ってたけど期待しちゃうのにゃー。
んー、上手くやれば戯れるだけでイケルっぽい?
この猫をモデルとした化身鎧装ならイケルイケル!
センサー群で索敵を行いながら猫の道を進む。
体格的にムリっぽいところは影に潜航して通過。
で、発見したにゃんこの首根っこを…
まぁ、流石にそこまでにゃんこにはなれないので。
手で優しく捕まえて…ちょっと暴れ過ぎじゃない?
仕方ないので適度に生命力を吸い上げて大人しくさせよう。
後は骸魂を吐き出すまで戯れてね。
ちょっと物足りないけど、そこは数で補うとゆーことで。
さぁ、次にいくっぽい!



 にゃんこと戯れる系の仕事と聞き、歩武も漫ろに光に包まれた露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、花葩に解かれ降り立った仏塔の屋根の傾きや、あちこちから聽こえる不穏な鳴き声に、何とも形容し難い感情を得た。
「――うん、まぁ、知ってたですよ? そんな美味しい仕事はないってことくらい」
 天地を喪った建物が折り重なる顛倒(あべこべ)の世界。
 住民たる猫又達も混乱して、尻尾を蹴立てて荒ぶっている様子。
「知ってたけど期待しちゃうのにゃー」
 これでは仲良くなれないと、語尾に未練を滲ませた鬼燈は、ゆるくのほほんとした紫瞳をぐるり巡らせると、先ずは建物の翳に燈る鬼火を手掛かりに猫又達の位置を探った。
 慥か首根を掴んで持ち上げてやれば、骸魂を吐き出すと――。
「んー、上手くやれば戯れるだけでイケルっぽい?」
 イケルっぽい? イケルイケル!
 穏やかな聲が推察から確信に至る間に、鬼燈の化身鎧装<形無>が様相を變える。
 ナノメタルの特性で様々な装束を再現する化身鎧装の此度のモデルは猫――<影猫>に變容した彼は、センサーイヤーに鋭く音を拾いつつ、屋根や壁を伝い歩いた。
「道無き道こそ猫の道なのです」
 建物がひっくり返っていても、「猫」には造作無い。
 然も体型的に通れぬ狭隘は「影」に潜航すれば他愛無く――畢竟、鬼燈は地形の不利に阻まれる事なく、猫又達が蒼炎を重ねる集会所を見つける事が出来た。
 気配を潜め、音を殺して接近したなら、驚かされる事も無い。
『にゃごにゃご……』
『にゃふにゃふ……』
 鼻頭を寄せて話し合う猫又達を見た彼は、鬼火の搖れる尻尾側から回り込み、
「あとはそっと首根っこを……まぁ、流石にそこまでにゃんこにはなれないので」
 むんず、と掴んで持ち上げる。
 腰に手を回し、両腕で優しく抱き上げ……るのは少し難しかろうか。
『にゃんご! にゃんご!!』
「……ちょっと暴れ過ぎじゃない?」
 仕方ないので、適度に生命力を吸い上げる。
 多分に興奮していたのだと宥める様に撫でてやれば、猫又は借りて来た猫の様に大人しくなり、鬼燈がもう一度撫でてやったタイミングで骸魂を吐き出した。
『……なぁご』
「言葉を取り戻すまで付き合って。物足りなさは数で補うとゆーことで」
 縄張りを侵した詫びに、戯れてあげよう。
 幸いにして<影猫>には猫又が喜びそうなギミックもある。
「はい、にょろにょろ~」
『にゃごにゃごっ! にゃごっ!!』
 しゅるりワイヤーを繰り出した鬼燈は、猫又達が――いや彼自身が満足を覚えるまで、尻尾の群れと大いに戯れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
初めは視覚と感覚が混乱するだろうから少し慣れておこう。
まあ割ける時間は少ないだろうがな。露も…心配ないようだ。
さて猫の対応だが…攻撃してしまうのか忍びないな。
動きをよく観察しつつ捕まえて吐き出させてしまおう。
「…ふむ。流石にいい動きをするな…」
猫たちの動きは野生の勘と第六感で予測し見切りって回避。
もし回避しきれない状況になったら威厳の圧をかけて止める。
捕縛は…しかたがない視線に誘惑を含ませて対応する。
「いい子だ。無理せずにゆっくり吐き出してくれ」
抱き上げて背中を撫でながら骸魂を体内から出す。
…露が隣でうるさい。やれやれ。
【冷視】は消化の際に行使しよう。攻撃には使わない。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と一緒。
不思議なところね。面白いわ~♪楽しいー♪
…あれ?なんでレーちゃん慎重になってるの?

猫さんかぁ。少し苦手だわ。今回大丈夫かしら。
…前の依頼だと挨拶したら逃げられちゃったからなぁ~。
傷つけたくないし【三種の盗呪】で猫さん達の技を封じちゃう。
回避しつつUC使って猫さん捕まえてみるわ。骸魂出さないと!
この猫さん達は逃げないかしら。大丈夫…よね…。猫さん。
「猫さぁ~ん」
!!
猫さん達レーちゃんに抱っこしてもらってるわぁ!
しかも撫でて貰ってるッ!いいないいなぁ…レーちゃんに…。
「あー!ずるいわずるい。…あたしもレーちゃんにされたいッ!」
…むぅ…。猫さんいいなぁ…。



 花色に帯を引く光を解き、横倒しになった五重塔の瓦屋根に降り立つ。
 まるでジオラマを揺すって引っ繰り返したような――倒錯の景色を高みから見下ろした神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は、月白の瞳を爛々と輝かせた。
「不思議なところね。なんだか面白いわ~♪」
 膨らむ好奇心に屋根を飛び降り、金字塔(ハラム)の斜面を駆け降りる。
 その軽快な足取りを追ったシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は、己の視覚と感覚を馴染ませるようにゆっくりと歩き始めた。
 シビラに先行した露は、艶めいた銀髪を揺らして振り返り、
「……あれ? なんでレーちゃん慎重になってるの?」
「割ける時間は尠いが、少しずつ慣らそうと……、……露は心配ないようだ」
「うん、楽しいー♪」
 柔かく細む麗眸に、幾許か安堵する。
 然し露を迷子にさせてはならぬと、シビラは美し金瞳を聢と可憐に繋いだ儘、鈴の音が鳴り続ける猫又坂周辺を巡り歩いた。

  †

 世界が顛倒(あべこべ)になって混乱していた處に、縄張りを侵されたのだ。
 猫又達は多分に興奮していたろう。
『にゃごにゃご!!』
『ニャッフーッ!!』
 尻尾を蹴立てて威嚇する猫又達の剥き出しの敵意に、露がそっと柳眉を顰める。
「……猫さんかぁ。少し苦手だわ。今回は大丈夫かしら」
 慥か前の依頼では、挨拶しただけで逃げられてしまった。
 中々仲良くなれないのだと溜息をする間にも、猫又達は四肢を蹴って飛び掛かり、少女二人を撃退せんと喫驚(おどろ)かしに掛かる。
 大きな化け猫の陰に覆われたシビラは、蓋し淡然と櫻脣を開いて、
「機嫌は宜しくなさそうだが、攻撃するのは忍びない」
「――うん、私も傷付けたくない」
 互いに凛然を萌した麗瞳を結び、一瞬で二手に分れる。
 露は右眼に、シビラは左眼に。其々が視界の端に化け猫を映した後は、その幻影を操る猫又に向かって呼吸を合わせる。
 初手に動くは露。
「猫さん達の『化術』を封じちゃう! ――言葉を三つの力にして剥奪す!」
 顕現発露、【三種の盗呪】(アウトリュコス・スキル)――!
 決意を示した丹花の脣は、金環(手枷)、黒革(禁言)、銀鎖(拘束)を力にして猫又の群れに放ち、全て命中した個体の異能を封縛する。
『にゃにゃっ!!』
『にゃフンッ!!』
 化術や身体能力が阻害されれば、次々と襲い掛かる猫又達も精彩を欠き、彼等の動きを鋭利く観察していたシビラも随分躱し易くなる。
「……ふむ、流石にいい動きをするな……。だが劣勢を覆すには不十分」
『にゃにゃーっ!!』
「威厳の圧をかけるまでも無い」
 猫又の野生に勝る戰闘勘と、幾度と戰って培った経験則で回避する。
 突進力はあるが、躯を反転させて再度の攻撃に出るタイミングで隙が生じると、須臾の瞥見で気付きを共有したシビラと露は、呼吸を揃えて同時に首根を捕まえた!
「――扨て、大人しくして貰おうか」
『にゃごっ!』
「この猫さん達は逃げないかしら。大丈夫……よね……猫さん」
『…………フニャン』
 むんず、と首根を掴まれて持ち上げられた猫又は、仔猫のよう。
 まるで借りて来た猫の如く大人しくなった猫又を抱えた二人は、そっと背を撫でて、
「さぁ、骸魂を出さないと」
「いい子だ。無理せずにゆっくり吐き出してくれ」
 欠伸をする様に「けふ」と口を開いたなら、体内より排出された骸魂は【冷視】(アルゲオス・シレオ)――シビラが極低温に凍結させる。
 すっかり丸くなった猫又を抱きかかえ、手分けして骸魂を吐き出させてやった二人は、それからどれだけの猫又を撫でただろう。
 時に露は彼等に嫉妬して、
「猫さん達レーちゃんに抱っこされて、しかもいっぱい撫でて貰ってるッ!!」
『ニャゴニャゴ』
「あー、ずるいわずるい! いいな、いいなぁ……私もレーちゃんにされたいッ!」
『露がうるさい……』
「……むぅ……猫さんいいなぁ……」
『……。……やれやれ』
 柔らかな雪白の頬をぷっくりと膨らませる露。
 猫又のもふもふに埋もれたシビラは、その合間から可愛らしくむくれる少女を一瞥し、溜息の様な吐息を零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘇摩・瞬華
わ、建物がこんなにぎゅうぎゅういっぱい…うーん、動きにくい、ね。
これはなんとかしなきゃ。

猫さん達がいっぱい…。えっと、骸魂を引っぺがして助けてあげないといけないんだったね。
それなら…こう、かな?
(惑乱マホラマイ発動。周囲の家財調度等をネズミの幻に変換)
猫さん達の周りをちょろちょろさせて気を惹いてみるよ。
その間に近づいて、抱き上げて安心できるようにあやしてあげる。
「大丈夫、怖いことはないから、ね?」

それでうまくいかない時は、大きな猫さんの幻を作って、怖がっているところを同じように抱き上げてあやそうかと。
「ごめんね、もう大丈夫だから…」



 概念としての「道」を無くしたなら、世界は斯くも入り乱れるのか。
「わ、建物がこんなにぎゅうぎゅういっぱい……」
 玲瓏の光を帯と引いて降り立った蘇摩・瞬華(蒼篝・f25151)は、種として早熟な身体をむぎゅむぎゅと揉(ねじ)りつつ、猫又坂の異様を見て回った。
「うーん、動きにくい、ね……これは、なんとかしなきゃ」
 名残惜しいと隙間が狐の尻尾を引っ張れば、御臀を振って抜け出して。
 狭隘の地形に随分と悩まされた瞬華だが、彼女の聡い耳は常に鈴の音を拾っていたし、月白の麗眸は建物の翳に忍ぶ鬼火の燈火(あかり)から猫又の位置を把握していた。
 而して縄張りを侵した自覚もあったろう。
「ここは蒼白い炎がたくさん……やっぱり猫さん達がいっぱい……」
『にゃごにゃご!』
『にゃふん!』
「ええっと、骸魂を引っぺがして、助けてあげないといけないんだったね。それなら……こう、かな?」
 ことり、小首を傾げつつ優艶の瞳を周囲に巡らせる。
 半径52m圏内――入り組んだ此処なら眼路に映る全てが操れようか、烱々たる銀の瞳に家財調度を捺擦(なぞ)った瞬華は、それらを幻影と變える。
「ふふっ、これなーんだっ? ちょろちょろして気になるでしょう?」
『にゃにゃっ!?』
 顕現、【惑乱マホラマイ】――此度、形を成すは闊達な仔ネズミだ。
 動くものが大好きな猫又は狩猟本能を擽られたか、素早く走り回る幻影にシュッシュッと前脚を伸ばし、或いは大きくジャンプして飛び掛からんとする。
 すっかり意識が仔ネズミに惹かれた処で、瞬華はそうっと首根を捕え、
「大丈夫、怖いことはないから、ね?」
『…………にゃふん』
 腰に手を回して優しく抱き上げ、安心できるようあやしてやる。
 然れば猫又は仔猫の様に大人しくなり、「けふ」と欠伸をした瞬間に骸魂を吐いた。
 中には気の強い猫又も居るが、仔ネズミに惹かれぬなら大きな猫は如何だろう?
『にゃにゃーっ!!』
「ちょっと驚いたら、混乱しているのも怒っているのも忘れてくれるかな?」
 多分に彼等は縄張りを引っ繰り返されて、昂奮しているのだと心情を慮る瞬華。
 敵意のない瞳で猫又を瞶めた凄艶は、その背に大きな、大きな――猫又が化術で現した化け猫より巨きな猫の幻影を作り、喫驚を以て戰意を喪わせた。
『ふにゃぁぁぁん……』
「うん、ごめんね。もう大丈夫だから……」
 腰を抜かした猫又を、温かな懐に包んでやる。
 すると彼等も安心したように、繊手の中でふわふわと丸くなるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷守・紗雪
普段ある道がないとこんなにも大変なのですね
幽世が別世界のように見えてしまいます…
仔猫さんも分からず迷子になっているなら、ちゃんと導いてあげなくてはいけません!

雪を纏い、ふわりふわりと身体が浮かぶ
鈴の音を頼りに周囲を見渡す

わ、わあああ!どうしたのですか、怒っているのですか?
もしかしてユキが縄張りに入ったからです?
違うのです!迷子の仔猫さんを探して――あああっ危ないのです!

恐雪で放たれるニガテな炎を弱め当たらぬよう距離を取り
ごめんなさいと胸中で謝りながら更に凍える風を吹かせて

ネコさんは寒さに弱いとお聞きしました
猫又さまも例外ではないはずです!
どうかその内で燃える苛烈な心、この雪で鎮めてください



 玲瓏の光を花葩と解き、猫又坂に降り立つ。
 澄み渡るほど繊細な羽衣をひらひらと揺らして舞い降りた氷守・紗雪(ゆきんこ・f28154)は、トン、と爪先に触れた瓦屋根の傾斜に一瞬だけ慌てた。
「わ、わ――」
 コトコトと身動ぎする瓦に詫び、白雪を纏って浮かぶ。
 その儘ふわりふわりと空中を泳いだ花車は、横倒しになった金字塔(ハラム)を抜け、その斜面に身を寄せる仏塔(ストゥーパ)を潜り……道無き道を進んだ。
「普段ある道がないと、こんなにも大変なのですね」
 幽世が別世界のように見えてしまう、と碧き麗瞳が異景を巡る。
 地理感も平衡感覚も奪われるほど顛倒(あべこべ)な世界で、か細く鳴る鈴の音に耳を澄ませた紗雪は、凛然を萌して言った。
「……きっと仔猫さんも方向が分からず迷子になっているでしょうから、ちゃんと導いてあげなくてはいけません!」
 鈴が鳴る方向を、風が運ぶなら風の方向を手繰る。
 五感を研ぎ澄ませて周囲を見渡した紗雪は、軈て建物の翳を照らす鬼火がチラチラと、群れを成して近付く――猫又の集団を見つけて(またも)慌てた。
「わ、わあああ! どうしたのですか、怒っているのですか?」
『にゃご……! にゃご……!』
「もしかしてユキが縄張りに入ったからです?」
『にゃんごにゃんご!!』
 フーッと毛を逆立て、じりじりと迫る蒼炎の塊。
 炎はニガテだと身構えた紗雪が、辨明しようと花脣を開くも間に合わず――、
「違うのです! 迷子の仔猫さんを探して――あああっ危ないのです!」
『にゃむにゃむ!!』
 問答無用、と迸発(ほとばし)る炎を、霊障『恐雪』で先ずは弱める。
 しんしん、こんこんと降る氷雪の華を以て距離を取った可憐は、尚も詰め寄る猫又達を前に繊麗の指を操り、凍てる風を吹かせた。
(「ネコさん、ごめんなさい……!」)
 胸奥で何度も謝りつつ、それでも凍氣を増す。
 猫又坂に起きた異變を、迷子猫を助けたいから――。
 幼な花顔をきりりと引き締めた紗雪は、尻尾をピンと立てる猫又達を聢と見据え、
「ネコさんは寒さに弱いとお聞きしました。猫又さまも例外ではないはずです……!」
 六花斉放、【鎮雪】(シズメノユキ)――!
 小さな躯に秘めた妖力を凛冽たる吹雪と吹かせ、猫又たちの肉体を傷付けることなく、その鬼火に宿る瞋恚を凍てさせる。
「どうかその内で燃える苛烈な心、この雪で鎮めてください」
 丹花の脣を滑る佳聲の穏やかさに、害意も敵意も削がれよう。
 勿論、寒かった事もあろうが――嚇怒を靜められた猫又たちは、身体を丸くさせると、大人しく紗雪に首根っこを差し出した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
鳴北・誉人(f02030)と

顔を洗わせなかったら良いんじゃないっすか?

ねこじゃらしふりふり
おやつもあるっすよ!UDCアースで買ってきた美味しいおやつっす!
おまけにまたたびを放り込むっす!

顔を洗うのって不安だからって言うじゃないっすか

大雨になるのって大気不安定だからみたいっすよ
スマホで検索してる

不安にならないようにたっぷり遊んでやるフェイントをかけてから
順番に首根っこを掴んで持ち上げてやるっす

またたびはお酒みたいな物じゃないんっすか?
俺お酒の事は分からないっす

エナガチャン?
誉人、何見てるんっすか!?

摩擦を減らし逃げようとしたら
香神占いで逃げる方向を読み掴むっす

しゅるってしてるっす
毛並みいいっす!


鳴北・誉人
饗(f00169)と

ねこかァいい、触りてえ!
触りたくてそわっ

へえ!不安になってっから顔洗うンか
顔洗いまくってっから明日は大雨って思ってたよォ
なんてくつくつ笑いながら軽口を

またたびってさ、どんな感じなんだろうな
気になるわァ
へろへろで、くねくね、ごろにゃん…
酒ェ?そっか、こんなになるのか…

饗?猫だけじゃなくね?
シマエナガいる
お、わ、あはっ!
丸っこくってちっこくて
もっこもっこしてる!
エナガの幻影に触れば熱くて
かァいいけど遊べねえ
高嶺の花だわァ、やっぱ

炎で焼かれる痛みに気合で耐えて
千華一花の花弁をゆらゆら降らせ
猫が釘づけになれば
首根っこ引っ掴んでやる

お、結構ズッシリ
お前もいいもの食わしてもらってンの?



 普段は人狼に由来する形姿を披瀝かぬ鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)だが、この時、迂闊にも尻尾を見せていたなら、其はブンブンと振り切れていたに違いない。
『にゃごにゃご!』
『にゃんご!』
 猫又坂の變容に戸惑いを隠せぬアーモンドアイ。
 突然の来訪者を警戒して熾々と然(も)える鬼火。
 あっち行けと鳴く聲の愛らしさにも胸が閊えよう、誉人は細身の長躯を屈め、堪らないという風に頭首(かぶり)を振った。
「……ねこかァいい、触りてえ!」
 触れる指を躊躇う誉人に対し、梅印の相棒は眞直ぐだ。
「ほら、ねこじゃらしふりふりっす!」
 香神乃・饗(東風・f00169)は猫又の視界に高速で色味をチラつかせ、彼等の好奇心と狩猟本能を掻き立てた。
 曰く、顔を洗わせなければ戰わずして収められる、と――。
 屈託無い微笑を湛えた饗は、まだまだ戒心を解かぬ猫又には、脇に置いた袋から細長いパウチを取り出し、ちゅるーと絞って香味を差し出す。
「おやつもあるっすよ! UDCアースで買ってきた美味しいおやつっす!」
『にゃっ……』
 玩具とおやつのコンボに夢中になった猫又達は、顔を洗う暇も無し。
 我も我もと群がった猫又達が犇々と押し合うのを頃合いと見た饗は、ここにダメ押しの――木天蓼(マタタビ)を中央に放り投げた。
「これ、おまけっす!」
『にゃごっ!!』
『にゃっ………………ニャフーン』
 其は百獣の獅子もほやんと恍惚(とろ)ける魅惑の香霧。
 猫又も例に漏れず、にゃんにゃんゴロゴロと寝転がれば、その陶酔の表情を見た誉人が細顎に肘して呟いた。
「またたびってさ、どんな感じなんだろうな。気になるわァ」
 へろへろで、くねくね。にゃむにゃむの、ごろにゃん。
 体中で香気を嗅がんと仰向けになる猫又達に、誉人の犀利な藍瞳が緩めば、彼と視線を同じくした饗も莞爾(にこにこ)と咲みを添える。
「またたびはお酒みたいな物じゃないんっすか?」
「酒ェ? そっか、こんなになるのか……」
「俺、まだお酒の事は分からないっす」
「だよなァ、未成年」
 猫又達の平和な景を前に、他愛ない会話は彈んで。
 すっかり表情を變えた猫又達に、饗もほっとしたろう。硬質の指はスマホの液晶画面を滑りながら言を継いで、
「顔を洗うのって不安だからって言うじゃないっすか」
「へえ! 不安になってっから顔洗うンか。ねこが顔洗いまくってる時は、明日は大雨って思ってたよォ」
「大雨になるのって大気不安定だからみたいっすよ」
「成る程、繊細と……」
 くつくつ含笑いながら、二人、猫又を愛でる。
 一頻り遊んでやった後なら、彼等も余程抵抗すまいか、誉人と饗はリラックスした順に首根っこを捕まえ、次々腕に抱いて骸魂を出させてやった。

 ――なのだが。

 笑聲と香味、そしてふうわり風に漂う木天蓼の馨に誘われてやってきた次なる群れは、敵愾心を露わに、鬼火を滾らせるや幻惑の蒼炎を紡いだ。
「饗? 猫だけじゃなくね? ……シマエナガいる」
「エナガチャン? 何見てるんっすか!?」
 ――俄に。
 誉人の落ち着いたハイ・バリトンが喜色を帯び、饗がついと視線を寄越せば。
「誉人?」
「お、わ、あはっ!」
 丸っこくってちっこくて、もっこもっこ。
 チョンチョンと歩いては、コトリと首を傾げるシマエナガの幻影に心底(ぞっこん)、小動物好きの稟性を擽られていた。
「……かァいいねえ」
 甘く囁(つつや)く様に嘆声が零れる。
 そうっと繊指を伸ばして触れれば、無垢の小鳥はチリと熱を返して――。
「――かァいいけど遊べねえ。高嶺の花だわァ、やっぱ」
 己の掌に包めるものでは無いと、熱を痛みと受け取った誉人は、『唯華月代』の冱ゆる白銀を暴くや【千華一花】――無数の白アネモネと變じ、絢爛なる花吹雪を舞わせた。
「俺も釘付けにされたから。お返しに」
『にゃっ……!!』
 ゆらゆら揺れる花瓣は刃。其は歓喜か呪縛か、観る者の時を止める――。
 万一にも逃げる尻尾があれば、饗が先んじて其を掴もう。
「合わせ香神(かがみ)は御見通し」
 全ての行動は【香神占い】によって予見され、第二波と押し寄せた猫又達もまた二人に首根っこを捕まえられた。
 そうっと持ち上げられた猫又は、彼等に端から敵意の無かった事が伝わろう。
「しゅるってしてるっす。毛並みいいっす」
『にゃぁん』
 三毛の艶やかな体毛を撫でて頬笑む饗。
 傍らの誉人は抱き上げたサバトラの瞳を覗き込んで、
「お、結構ズッシリ。お前もいいもの食わしてもらってンの?」
『にゃごにゃご!!』
 ちょっとした反駁も愛らしいと麗瞳を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
迷子の猫さん……しかも、帰るべきところすら知らず知らずのうちに壊してしまっていたなんて。
せめて、この世界まで壊してしまう前に止めてあげないといけませんね。

道が無くなってしまったのなら、作れば良いんです
【草木の精霊さん】発動、ごてごてした空間に植物の迷宮で「道」を作って進みます
この時、迷宮を構成する植物に「またたび」を多めに生やしてもらい、ねこまたさん達をぐでんぐでんの骨抜きにできないか試します
わたしの身体能力ですと、そのままでねこまたさん達を捕まえるとか絶対無理ですからね……
出来たのなら片っ端からやさしく首根っこを捕まえて、持ち上げて元に戻してあげましょう



 耀ける光の葩弁を解き、金字塔(ハラム)の斜面に降り立つ。
 建物の複雑に入り組んだ異様を見下ろした荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、宛如(まるで)迷子猫の心象を表すかの様な世界に、柳葉の眉を顰めた。
「猫さん……道が分からなくなってしまったんですね……。しかも、帰るべきところすら知らず知らずの裡に壊してしまっていたなんて――」
 迷子猫に帰る家は無い。
 ご主人様を喪ってしまったから。
 家族や友達、精霊との絆に深く結ばれたひかるにとって、全ての縁を、縁に繋がる道を断ってしまった仔猫の境遇は胸に閊える。
 風に運ばれる鈴の音の心細さを聽いた可憐は、細顎を持ち上げ、
「……せめて、この世界まで壊してしまう前に止めてあげないといけませんね」
 迷わず辿り着こう――。
 これ以上、「道」を食べさせてはいけないと一歩を踏み出したひかるは、同じ気持ちで顛倒(あべこべ)の世界を眺める草木の精霊さんに「お願い」をした。
「道が無くなってしまったのなら、作れば良いんです」
 発動、【草木の精霊さん】(プラント・エレメンタル)――。
 繊手に握る精霊杖【絆】の穂先に掲げられた精霊石が柔らかな光を放ち、一帯を撫でるように広がった輝きが「植物」となって繁茂する。
 其は建物が折り重なる空間に青々とした迷宮を作り、たったひとつの出口を鈴の音の鳴る方へ――慥かな道を創り上げた。
 更に丹花の脣は佳聲を添えて、
「草木の精霊さん、壁には木天蓼(またたび)を多めに生やしてください」
 迷宮を構成する多種多様の植物の中でも、特にマタタビを割り増しで。
 これを聽いた精霊は、成程と頷くと同時に少女の願いを喜んで叶えたろう。
「これで、ねこまたさん達をぐでんぐでんの骨抜きに出来る筈……」
 結果は直ぐに眼前に現れて――、
『ふにゃぁぁああん……』
『にゃごぉぉおおん……』
 二又の尻尾をパタパタ、とろんと四肢を投げだした猫又がごろごろ、ごろごろ。
 陶酔の表情で浴びるように身体を擦り付ける姿は、最早「完敗」の絵面だろう。
「わたしの身体能力では、ねこまたさん達を捕まえるとか絶対無理ですからね……」
 云って、そうっと首根っこを摑まえる。
 掌手を優しく腰に添えて、抱きかかえる。
『…………ケフ』
 然れば猫又は欠伸をするように骸魂を吐き出し、その儘ひかるの腕の中で丸くなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
道が無くては何処にも行けまい
何も解らぬ侭に居る所為であるならば尚の事
迷い仔に主の元へと繋がる道を用意してやらねばな

先ずは此方の猫達に退いて貰うとしよう
攻撃は視線や尾、身体の向きから第六感で先読み躱し
極力威力を落とした衝撃波で以って、当てぬ様に足元を撃ち牽制
怯んだ処で動きを止めてくれる
――侵逮畏刻。仕事だ、火烏
炎は使わず羽根だけで止める様に命じ
止まった手近なものから捕らえ、首根を押さえ持ち上げる
そら、余計なモノは吐き出せ
そんなモノを飲み込んでいた処で腹の足しには成らんぞ

話には聞いていたが
随分と簡単に世界が終わりかける世界の様だな……
まあ、原因が解り易い様でもある
確実に片付けて行くとしよう



 耀ける葩弁が一枚、一枚と花開き、精悍な影を暴く。
 琥珀の髪に黄金の光を彈いて幽世に降り立った鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、天地を引っ繰り返した様な顛倒(あべこべ)の景色に、そっと嘆声を溢した。
「――道が無くては何処にも行けまい」
 何も解らぬ侭に居る仔猫なら尚の事。
 無垢に、唯だ徒事(いたずら)に漫歩いて毀しては、仔猫も世界も曠空(むな)しかろうと赫緋の隻眼に異景を射た嵯泉は、迷わず踏み出る。
 聡い耳は聢とか細い鈴音を辿って、
「迷い仔に主の元へと繋がる道を用意してやらねばな」
 道が無ければ、作れば佳い。
 仔猫に出来ぬなら、己が為るまでと雄渾を萌した男は、金字塔(ハラム)の急斜面から爪先を蹴り、折り重なる塔の間を風の如く擦り抜けた。

  †

 途中で遭遇(でくわ)した猫又たちは、多分に興奮していたのだろう。
 猫又坂の突然の變容に困惑し、見知らぬ来訪者に戒心を鋭くした尻尾の群れは、先端に燈る鬼火を熾々と然(も)やしていた。
『にゃごにゃご!!』
『フシャーッッ!!』
 其は不安を種火とした怒りであったか。
 猫又達の心情を推し量った嵯泉なれば、次々と襲い掛かる彼等の瞳から攻撃の方向を、尾や躯の動きで次なる挙動を見極め、優れた観察と勘を以て躱した。
「――極力威力を落として、怯んだ處で動きを止めてくれる」
 此度、『秋水』は鞘に包まれた儘、劔圧のみを暴く。
 猫又達は衝撃波に躯を揺すられ、或いは脚を掃われ、戸惑いの裡に挙措を阻まれた。
『にゃごっ!?』
 畢竟、彼等を駆り立てているのは骸魂だ。
 元の猫又に戻して遣ると、懐に潜った繊指が取り出すは『黒符』。
 黒々と塗り潰された紙片は、朱き焔に灼かれて標されたものを暴く。
「――侵逮畏刻。仕事だ、火烏」
 艶帯びたバリトンが然う喚べば、太陽の象徴、三本足の火烏は焔翼を羽搏かせ、肺腑に満ちる炎を――否、此度は煌々と燿う羽根のみを繰り出して射止めた。
『んにゃっ!』
『にゃんごっ!』
 動きを封じ込められた猫又から順に、首根を押えて持ち上げる。
 むんず、と躯を浮かされた猫又は、腕に抱かれると大人しくなり、
「そら、余計なモノは吐き出せ」
『にゃふにゃふ』
「そんなモノを飲み込んでいた処で腹の足しには成らんぞ」
『…………ケフ』
 欠伸をするように大口を開ければ、吐き出された骸魂が霞の如く消えていく。
 漸く落ち着きを取り戻した猫又を抱えた嵯泉は、溜息を一つ置いて、
「……話には聞いていたが、随分と簡単に世界が終わりかける世界の様だな……」
 而して原因が解り易い様でもある。
 嵯泉はすっかり腕の中で丸くなった猫又の重みを預ると、烱眼を異景に注ぎ、
「確実に片付けて行くとしよう」
 と、また一歩を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
迷子の猫
消えた誰か
知らず心拍が早くなる

…知らぬ間に…か
…否、今はドラ猫どもに仕置きをせねば

思考を追い出し呼吸を整え
猫――猫といえば、そうだ
逆さの家屋から毛ばたきあたりを拝借
【怨鎖】の先端を巻き付け
あちら此方へと跳ねさせる
飽きさせぬよう、時に渦巻き、時に水平に

幼い頃から毎日とんでもない魔術を目にしているのだ
化術程度では驚かぬぞ

ついでに尾先の飾り羽を外套の裾から揺らし
あと少しの所で引いては煽って
徐々に近くへと誘い込み
――そこだ

黒と白、片手に一匹ずつ掴み上げ
そら、悪い毛玉は早く出してしまえ

ついでに余計なことを思い出す
…思えば昔はよくこうして
師の手で捕えられていたような

うむ、良い子だ
毛艶も申し分ない



 耀ける葩弁が一枚、一枚と花開き、「道」を喪失(なく)した異景を見せる。
 仆れた金字塔(ハラム)の斜面に降り立ったジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、迷子猫の心象を具現すかの様な顛倒(あべこべ)の世界に、そっと吐息を置いた。
「――…………」
 迷子の猫。
 消えた誰か。
「……知らぬ間に……か」
 眸に飛び込む異景に七彩が揺れ、胸が閊えるのは、何をか重ねているだろう。
 憶えず早鐘を打つ心臓を宥めんと胸へ向かう繊指を握り込めたジャハルは、渣滓と漂う思考を追い出すように一歩を踏み出した。
「……唯だ、今はドラ猫どもに仕置きをせねば」
 呼吸を整えれば、五感が精細を取り戻す。
 聡い耳はか細い鈴音を捉えつつ、烱眼は建物の翳にて燈る鬼火から猫を探し出そう。
 蓋し向こうも気付いたか、元々、猫又坂の變容に動揺していた彼等は、見知らぬ来訪者の匂いに昂奮し、大きな化け猫を召喚して怖がらせようとした。
『フニャー!!』
「猫が大きくなった程度で腰は抜かさん」
 幼い頃から毎日とんでもない魔術を目にしているのだ。
 化術程度では喫驚かぬと、襲い来る化け猫との間に穏やかな溜息を置いたジャハルは、其のとんでもない魔術を操る師が囁いた言葉から生まれた術を以て禦し掛かる。
「逆さの家屋から拝借してきた」
『ニャゴ?』
 猫も猫又も同じだろうと取り出したるは、毛ばたき。
 綾吊るは【怨鎖】――血雫を滴らせるや、黒く染まりゆく血で鎖を編んだジャハルは、翻っては彼方に、躍っては此方にと動かして気を惹く。
「果して連いて来られるか」
『にゃんンンンッ!!』
 飽きさせぬよう、時に渦巻き、時に水平に。
 然れば猫又は怒りも時も忘れて夢中になり、視界にチラつく獲物を叩かんと狩猟本能を全開に追い掛けた。
「――中々の手並み。だが、これなら――」
 折に、尾先の飾り羽を外套の裾から揺らす。
 促される儘に伸びた前脚が、あと少しの處で攫むという時――飾り羽は巧みに引かれて麗人の衣袂(たもと)へ、胸懐(ふところ)へ。
「――そこだ」
『ニャニャッ!?』
『ニャフーン!!』
 黒い一匹は右に、白い一匹は左の手掌に攫み上げられ、シュンと大人しくなった。
 優しく腰に手を添えられ、抱きかかえられた二匹は漸う欠伸をして、
「そら、悪い毛玉は早く出してしまえ」
『…………ケフ』
 ぽわりと吐き出された骸魂が霞と消えるのを見たジャハルは、不図、腕の中で丸まる猫に嘗ての記憶を過らせる。
(「……思えば昔はよくこうして師の手で捕えられていたような」)
 蓋し昔の事だ。
 一つ瞬きをして現在(いま)を眺めたジャハルは、すっかり目を細くした白黒の二匹にそっと聲を降らせて、
「うむ、良い子らだ。毛艶も申し分ない」
 と、端整なる脣を結んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
無知に勝る罪はそうなかろうよ
脳裏を過る背に、思わず目を瞑る
…やれ全く、何奴も愚かものばかり

統一感のまるでない世界
一周回って興味をそそられるそれを
暫し観察したい気持ちを抑えつつ
鈴の音に耳を澄ませ、追跡

想定はしておったが…
そう易々と通らせてはくれぬか
溜息一つ、懐より宝石を取り出して
【宝石商の狂宴】で具現化した幻影に
猫共の首根っこを引っ掴まえさせるとしよう
ほれ、少しは大人しくせんか
押し寄せる獣を深追いせず掴んでは持ち上げ
鳴き声に掻き消されんとする鈴の音を
逃さぬよう常に聞き耳で探る

――寂しいならば呼んでみせよ
たとえ貴様へ至る道を喰らおうとも
私は必ず、貴様を見つけ出してくれる
迷子の捜索は、慣れておるでな



 光の葩弁が一枚、一枚と花開き、更なる玲瓏を披瀝(あば)く。
 黄昏と清宵を映す艶髪に光を滑らせて降り立ったアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、迷子猫の心象を具現したかの様な無道の世界に、丹花の脣を開いた。
「……無知に勝る罪はそうなかろうよ」
 聽けば迷子猫はその幼さ故に己の為た事を理解っていないとか。
 脳裏を過る背に、麗人は覚えず長い睫毛を伏せて、
「……やれ全く、何奴も愚かものばかり」
 ほつり、零す――。
 然し「手が焼ける」とは云うもの、手が焼けようが毀れようが構わぬがアルバなれば、双眸に宿る青き星は熾々と異景を巡り、こつりと踵を鳴らした。

  †

「金字塔(ハラム)に仏塔(ストゥーパ)、古代東洋の城郭が現れたと思えば、屋根沿いに五重塔が乗っかるとは……宛然(まるで)統一感が無い」
 雑多と言えば其れ迄だが、文明の遺物の集合は實に刺激(そそ)られる。
 叡智を貪るに健啖なアルバは、暫し此処で耽りたい気持ちを抑えつつ、その耳に慥かな鈴音を聞き留める。
 鈴の鳴る方へ、風が運ぶなら風吹く方へ――。
 道無き道を歩いた佳麗は、軈て初めての匂いに昂ぶった鬼火の揺らめき――即ち猫又の群れに遭遇(でくわ)した。
「想定はしておったが……そう易々と通らせては呉れぬか」
『フニャーッ!!』
『にゃぁぁごぉぉおお!!』
 アルバの溜息に威嚇の聲を被せる猫又たち。
 既に顔をツヤピカに洗った彼等なれば、決して攫まれはせぬと勢い良く飛び掛かるが、胸懐(ふところ)より取り出したる宝石『寵愛』は、果して――。
「ほれ、少しは大人しくせんか」
『にゃごっ!?』
 百様玲瓏、【宝石商の狂宴】(シャルラタン)――。
 魔術の触媒たる宝石は、アルバの厖大なる魔力を「光」と励起させ、大きく、巨きく、母猫を想わせる影を成して立ち塞(はだ)かった。
 にゃあごと鳴く聲の優しさは郷愁を擽って、
『ニャゴ……ニャゴ……』
『…………なぁご』
 サイズ感も母猫そのものの幻影がヒョイと首根を口に攫めば、幼少期を思い起したか、猫又たちはシュンと大人しく持ち上げられる。
 その儘『けふ』と骸魂を吐き出せば、彼等も妖怪としての言語を取り戻そう。
 母猫(幻影)の傍ですっかり丸まった猫又たちに安堵の表情を浮かべたアルバは、今も耳に届く鈴音のか細さに応えて、
「――寂しいならば呼んでみせよ。たとえ貴様へ至る道を喰らおうとも、私は必ず、貴様を見つけ出してくれる」
 迷子の捜索は、慣れておるでな、と――。
 音の方向に結ばれた瞳は愈々烱々と、明るい星燈りを灯していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【桜一華】

まあ、ねこ
彼方も其方も……嗚呼、此処にも
まるで猫のための場所ね、サヨさん
仲良くなる方法はあるかしら

ふふ、サヨさんは猫がすきなのね
わたしも、猫がすきよ
出会って間もない子がいるのだけれど
なゆが驚かせてしまってばかりで
上手に遊ぶことが出来ずにいるの
猫たちと、仲良くなりたいわ

毛が逆立っているのは威嚇?
じい、と目を見続けてはいけない
そう教えてもらったわ
警戒心を解く方法は、もうひとつ
一緒にあそぶのはどうかしら

素早く動くものが好きだと、聞いたことがあるの
あかい花びらたちを呼び寄せて
猫たちの眼前へと遊ばせましょう

……どう、かしら?

まあ、本当だわ
あまい香りに誘われたのかしら
引っ掻いて散らしては、ダメよ


誘名・櫻宵
【桜一華】

にゃあと可愛い鳴き声が
見遣れば、あらあら可愛い猫ちゃんがたくさんいるわ!
七結は猫が好きなのかしら
私は、猫好きよ
気まぐれでわがままで、薄情に見えて情があつくて自由で――そんな姿が好きなの

そうね、七結
まずは猫の前ではゆっくり動いてはどうかしら
それとしつこくしない事
犬と違って尻尾をパタパタしてる時は苛立っている時ね
胃袋を掴むと打ち解けるのもきっと、はやいわ

七結ならすぐに仲良くなれるわ
遊ぶ時は、素早く不規則に猫じゃらしを動かしてみたり…あとはマタタビを使うのも!
花弁じゃらしね
うふふ、上手よ七結

上機嫌にやわやわ翼をはためいて
心地よい眠り誘う風で遊ぶ

あのね…さっきから
私の翼に猫
くっついて来るのよ



 蓮の花がひとつ、ふたつと葩弁を開いて、優艶なる影を披瀝(あば)く。
 光の帯を解いて猫又坂に降り立った二輪の花は、顛倒した建物のあちこちに搖れる鬼火に、玲瓏の眸をぱちくりとさせた。
 ゆらゆらと蒼白い炎を燈す尻尾に、「にゃあ」と轉がる愛らしい聲。
 桜霞色の麗瞳に猫又の群れを映した誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は、佳景見たりと艶やかな聲を彈ませた。
「あらあら可愛い猫ちゃんがたくさんいるわ!」
 丹花の脣が微咲(えみ)を湛える傍ら、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は紫苑色の彩を其処彼処に巡らせ、
「まあ、ねこ……彼方も其方も……嗚呼、此処にも」
 しろ、くろ、しましま。
 様々な種類の猫又が、顔を洗ったり丸くなったり、鼻頭を寄せて集会したり……天地を引っ繰り返した様な世界でも、強く逞しく過ごしている模様。
「まるで猫のための場所ね、サヨさん」
 猫又坂と言われるだけの事はあると、猫又達を瞶める七結の眼差しは柔かく――。
 彼女も猫を好いているのだと麗眸を細めた櫻宵は、嫋々と口角を持ち上げた。
「私、猫好きよ」
「――サヨさんも?」
 こっくりと首肯いた後、そうっと上目見る可憐に、淡く咲む。
 櫻宵は、こちらの気配に気付いているだろうに、三角の耳をピンと立てた儘、そっぽを向いている猫又たちにくつくつと艶笑って、
「気まぐれでわがままで、薄情に見えて情があつくて自由で――そんな姿が好きなの」
「……ふふ、サヨさんはとっても猫がすきなのね」
 ここに莞爾と微笑を溢した七結が、更に佳聲を紡ぐ。
「じつは、出会って間もない子がいるのだけれど、なゆが驚かせてしまってばかりで……上手に遊ぶことが出来ずにいるの」
 仲良くなりたいのに、中々上手くいかない――。
 寄り添う事は出来るかしらと、白磁の繊手が片頬に杖すれば、可愛らしい悩みを聽いた櫻宵は、七結を連れてふうわりと歩き出した。
「そうね、七結。まずは猫の前ではゆっくり動いてはどうかしら」
 猫と仲良くするには色々なコツがあると、引く手は尻尾の群れに。
 きっと警戒心と好奇心が抗衡しているのだろうと、くりくり動くアーモンドアイに心境を推し量った凄艶は、穏やかに聲を滑らせて、
「それとしつこくしない事。犬と違って尻尾をパタパタしてる時は、苛立っている時ね。胃袋を掴むと打ち解けるのもきっと、はやいわ」
「毛が逆立っているのは威嚇? じい、と目を見続けてはいけないって教わったわ」
「ええ、そう。勉強家さんな七結ならすぐに仲良くなれるわ」
 猫は気高く繊細だ。
 透徹なる双瞳は相手の下心に敏感だが、だからこそ七結に敵意も害意もない事が理解るだろうと、双方を見守る櫻宵の瞳は温かい。
「素早く不規則に猫じゃらしを動かしてみたり……あとはマタタビを使うのも!」
 彼等の好きなものや興味の湧くものを見せてみては? と――。
 その言葉にヒントを得た七結は、不図、己が冠する牡丹一華に繊指を運び、その花色を広げるように風を紡いだ。
「――素早く動くものが好きだと、聞いたことがあるの」
 紅花斉放、【まな紅の華颰】(マナクレナイ)――。
 刻下、牡丹一華は一陣の風に紅い花びらを呼び集め、翩翻と飜って風を颯に、旋風に、嵐にして舞い踊った。
『ニャン……!?』
『にゃごにゃご!!』
 ヒクリと耳を動かした猫又達が、眼前の景に身を起こす。
 閃々(ヒラヒラ)と躍る葩弁に脚を蹴り、ジャンプする。
『ニャーン!!』
『にゃむにゃむ……!!』
 宙空を舞う牡丹の花嵐にすっかり心奪われた猫又達は、術者たる七結が繊指を動かす方向に無垢の瞳を揃えた。
「……どう、かしら?」
「花弁じゃらしね。うふふ、上手よ七結」
 彼等が警戒心を手放したのは表情で判然る。
 何とも愛らしい光景だと、櫻宵が上機嫌にやわやわ翼をはためいていたなら、猫又達は風に遊ぶ桜龍の繊翅に釘付けになったらしく、
「あのね……さっきから私の翼にくっついて来るのよ」
「まあ、本当だわ。あまい香りに誘われたのかしら」
 今度は好奇と遊戯に満たされたかと、凄艶と可憐が苦笑を揃える。
 七結は悪戯な猫又達にそうっと繊手を伸ばして、
「引っ掻いて散らしては、ダメよ」
『……なぁご』
 まだまだ触れたいと前脚を動かす童心も可愛いと、嫣然を溢した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
【渡鳥】
会いたいという気持ちがこのような形になってしまったのですね
剣が折れていたことには驚きつつも頼りにされるのは嬉しく
もちろん!任せてくださいな!と目を輝かせ張り切る

一緒に探してくださいね
鷹の彗、狼の星とともに【情報収集】
空からや匂いを辿りながら不思議な空間を楽しみながら跳び回り
面白い空間ではありますがこのままにはしておけませんからね

うまく骸魂だけを倒せるように
クロウさんが気を引くのに合わせて藤の花弁を降らせながら
さぁ、一緒に遊びましょう?
猫を誘い踊るは【浄化】の舞
『神楽鈴蘭』の音色とともに風に乗せて【破魔】【除霊】の力で骸魂を壊していきましょう


杜鬼・クロウ
【渡鳥】
アドリブ◎
※剣はガイオウガ戦で折れたので剣は無

”道”は大事なモンだ
仔猫じゃァ自ら切り拓くのは難しそうだしな(歪ませられたのか
千夜子、今回俺は見ての通りだ(肩竦め
頼りにしてるぜ?
…ハ、柴犬かよ可愛いなオイ(尻尾が見える錯覚

初めて降り立つ世界な筈が懐旧さも感じる奇妙な感覚
鈴の音を追う
柱や屋根をジャンプしながら伝う
慣れないルートだが愉しい
出来れば骸魂だけ退治する方向で
建物を障害物として利用し盾に

化け猫っつってもネコだもんなァ?(挑発
俺でも見入るな、この景色は

【魔除けの菫】使用
千夜子の藤と舞と自分のUCコンボで動き止める
敵の首根っこをどんどん掴む
骸魂吐き出させ靴で踏む
ゴメンな、と隠れて猫撫でる



 蓮の花が一枚、二枚と葩弁を開き、二つの影を披瀝(あば)く。
 靉靆(たなび)く光を解いて幽世に降り立った薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)は、迷子猫の心象を具現したかの様な景色に嘆声を溢した。
「……会いたいという気持ちがこのような形になってしまったのですね」
 聽けば仔猫は、知らず裡に道を食べてしまったとか。
 道の概念を喪失(なく)した猫又坂に「坂」は無く――折り重なって入り乱れる建物に夕赤と青浅葱の烱眼を巡らせた杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、寂寥に言を置いた。
「“道”は大事なモンだ。歪められたか、仔猫じゃァ手前で切り拓くのは難しそうだし、何とかしてやりたい處だが……」
 手に馴染むものは無し、無聊を喞って肩を竦める。
「千夜子、今回俺は見ての通りだ」
 広げられた両掌が全てを語ろう、彼の身丈に及ぶ黒魔劔『玄夜叉』(アスラデウス)は先の帝竜戰役にてガイオウガを引き裂いて散った。
 クロウの麗眸に結ばれた千夜子は、花顔いっぱいに喫驚の色を差したが、それでも彼が沈着を崩さぬのは、信頼を寄せているからだと嬉しさが湧く。
「頼りにしてるぜ?」
「もちろん! 任せてくださいな!」
 翠玉の瞳を爛々とさせた可憐は、凛然を萌すや鷹の彗、狼の星と共に顛倒(あべこべ)の世界に一歩を踏み出した。
「彗は高みから、星は狭隘を。一緒に探してくださいね」
 彗は眼が利くし、星は鼻が利く。
 彼等と一緒ならより多くの情報を掴めるだろうと――嫣然を湛えた千夜子自身も五感を研ぎ澄ませ、倒錯した世界を愉しむ様に跳び回った。
「なんて不思議な……面白い空間!」
「ああ、慣れないルートだが愉しい」
 柱や屋根をジャンプして、猫の様に建物を渡る二人。
 蓋し双眸は鋭利く周囲を探り、聡い耳はか細い鈴音を聽き逃さず。
「このままにはしておけませんからね」
「迷い猫を探すがてら、猫又達に入り込んだ骸魂も退治しとくか」
 颯然と文明の遺物を渡りながら感覚を慣らした二人は、鈴の鳴る方向へ、風が運ぶなら風の方向へと影を疾走らせた。

  †

 初めて降り立つ世界な筈が、懐旧の念すら感じる――。
 視界に過ぎ行く光景に奇妙な感覚を得つつ探索を続けたクロウは、軈て建物の翳に燈る鬼火の重なりに、猫又の群れを見つけたろう。
『フーッ!』
『にゃごにゃご!!』
 猫又坂の變容に困惑していた處に猟兵に遭遇し、敵意を露わにする猫又たち。
 尻尾の蒼白い炎を迸発(ほとばし)らせるや、化け猫を模っておどろかす彼等に対し、二人は幾許の言を交して前後に分れた。
「うまく骸魂だけを倒したいですよね」
「――俺が引き付ける」
 巨大な肉球が振り下ろされる頃合いを見計らい、クロウが前に出る。
 周囲の建物を盾と利用して特大猫パンチを遁れた彼は、敢えて猫又が捉えられる速度で――彼等の狩猟本能を駆り立てるよう動いて挑発する。
「化け猫っつってもネコだもんなァ?」
『にゃご……にゃご……!!』
 うずうずと前脚を宙に漂わせ、獲物を仕留めんと釘付けになる巨猫たち。
 この時、彼等の視界には更なる色味が舞い散って、
「――さぁ、一緒に遊びましょう?」
『にゃにゃん?』
 誘うは千夜子の【操花術式:雨花藤扇】。
 繊麗の躯が神楽舞を踊るに合わせて藤の花瓣が降り、淡い花色が嫋々と閃めく。
 耳を擽る心地好い音色は『神楽鈴蘭』――繊手に揺られる鈴蘭は清らかな音を響かせ、爽涼の風に撫でるや猫又の器に潜む骸魂を脅かした。
『にゃぁご、にゃぁご』
『にゃふにゃふ』
 敵意も害意も、或いは警戒に隠れていた恐怖も失せようか。
 清けし舞の典雅なるは、クロウも不覚えず優艶の微咲(えみ)を溢す程。
「――俺でも見入るな、この景色は」
 然して祈りの舞にすっかり魅了された猫又は、其と同時に紡がれた絆(ほだし)に挙措を封じられる。
 端整の脣は艶帯びたバリトンを滑らせ、
「片割れの鏡像、写し映して古の力を揮え。我が掌中に囚われよ」
 全て俺のモノだ――と発露すは【魔除けの菫】(シンデモハナレナイ)。
 菫青石のピアスに込められた「歪愛」なる呪いは、猫又が心を煽られる程に時を止め、気付けば彼等は首根をむんずと捕まえられていた。
「喰ったか喰われたか、とまれ悪い毛玉は吐き出せ」
『…………ケフ』
 首根を掴まれ、ぶうらり四肢を投げ出した猫又が、大きな欠伸をして骸魂を吐く。
 クロウは其を靴底に踏んで霞と消すと、そうっと背中を撫でてやり、
「――ゴメンな」
『にゃふん』
 腕の中で丸くなる温もりを、聢と包んでやった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
此の世界の荒れ模様は留まることを知りませんな。
やれやれ、今暫く仕事には困らなさそうだな?濡姫。
『若、不謹慎』
■闘
こうなれば実力行使しかありませんな。
青白い炎を【見切って】よけつつ、攻撃の機会を伺いましょう。
当たりそうになったら【オーラ防御】で我慢です。

行ける時は少し距離を取って【構え太刀】を放ち、【衝撃波】を
横切らせ【恐怖を与える】事で動きを止めて差し上げましょう。
あえて『当てない』ほうが、かえって怖いかと。

動きが止まったら瞬時に首根っこを【グラップル】し、
すっと持ち上げ骸魂を強制退去です。
複数持てそうなら、纏めて持ち上げましょうかな。

※アドリブ・連携歓迎、『』は濡姫(口調は~ございます)



 煌々と燿う蓮の花が一枚、二枚と葩弁を開き、精悍なる影を暴く。
 帯と靉靆(たなび)く光を解き、横倒しになった金字塔(ハラム)の斜面に降り立った荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は、射干玉の麗瞳に映る異景に嘆声を溢した。
「此の世界の荒れ模様は留まることを知りませんな」
 幾度と危機に見舞われる妖怪絵巻の世界。
 此度は「道」を喪失(なく)したかと、其は慣れた節がある口吻だ。
 顛倒(あべこべ)の世界を見下ろした蛟鬼は、軽やかに跳躍するや瓦屋根を伝い、
「やれやれ、今暫く仕事には困らなさそうだな? 濡姫」
『若、不謹慎に御座います』
 颯然の風に揺れる袖から顔を出すは、従者たる『濡姫』。
 蛟鬼の弓張月と冱ゆる横顔は、少し窘めた處で整った鼻梁を向けはしないだろうが――鈴音の鳴る方向を眞直ぐ射る黒瞳の輝きを見た濡姫は、せめて振り落されぬよう、主人の袖を聢と握って運ばれた。
『にゃご……にゃご……』
『にゃフーッ!!』
 か細い鈴の音の他に、荒い息遣いが聽こえる。
 建物の翳に、ゆらゆらと鬼火が重なる。
『――若』
 理解ってる、と烱光を燈す瞳が従者に応えたろう。
 蛟鬼が往く城郭の向こうには、尻尾の鬼火を熾々と燃やした猫又が群れを成し、縄張りを荒らされた怒りを打擲(ぶつ)けんと毛を逆立てている。
 蒼白い炎が幾重にも放たれた瞬間、蛟鬼は闘気を波動と解き放ち、
「――扨て、こうなれば実力行使しかありませんな」
 致し方無し、とは言うもの、少年はやりこめる心算(つもり)は無い。
 次々襲い掛かる蒼炎の波を肌膚の灼ける間際で躱しつつ、相手の挙動を見極める。
 月白と燿う闘気のオーラに焦熱を軽減しつつ、群れ全体を捉えられる距離に至った彼は【構え太刀】(カマエタチ)――宛ら刀の閃くが如き鋭利い足技を放った!!
 研ぎ澄まされた華麗な蹴撃は低く地を疾走り、
「あえて『当てない』ほうが、かえって怖いかと」
 ぞんっ――と衝撃波が猫又の髭を掠める。
 躯の間際を凄まじい圧が駆け抜ければ、彼等もどちらが強いか本能で理解ったろう。
『にゃにゃっ……!!』
『…………ふにゃん』
 一歩でも動けばハゲ猫になる、と時を止めた猫又達は、瞬きの裡に近付いた蛟鬼が精悍の腕を伸ばしても抵抗しない。
「さぁ、骸魂は強制退去にて」
 むんず、と首根を掴んで持ち上げる。
 優しく腰を抱いてやれば、彼等は『ケフ』と欠伸をして骸魂を吐き出そう。
 霞と消える骸魂を双眸に追った蛟鬼は、今度は次々に攫み上げ、
「どれ、纏めて持ち上げましょうかな」
 その手際の良さには、濡姫も『流石に御座います』と感歎の聲を添えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛
※アドリブ/連携などお任せ

現地の当事者にとっちゃ冗談じゃァないんだろうが、光景はなかなか面白いな。

移動に際しては、霊力障壁を足場として適宜つかっていく。
いちおう戦場だしな、アスレチックを正直にやるってのもリスキーだ。
▻足場習熟▻結界術

おっと、コイツが噂の二尾猫か。

相手の炎は避けずに◈UCで受けて吸収、再利用。
▻略奪▻盗み
使用権を得てから、幻惑効果の詳細を解析。
(この手の術に多いのは、視覚欺瞞のたぐいかね?)
解析したら、幻惑分を頭ん中で補正して状況を正確に▻見切り、相手がいるところに焔をお見舞いしよう。
▻焼却

化かすのも燃やすのも、アタシぁそれなりに得意なんだぜ。



 煌々と燿う葩弁がひとひら、光を解いて繊麗の影を暴く。
 横倒しになった金字塔(ハラム)の斜面に降り立った玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は、琥珀色の瞳いっぱいに飛び込む異景に精彩を増した。
「現地の当事者にとっちゃ冗談じゃァないんだろうが、光景はなかなか面白いな」
 古今東西の文明の遺物が犇く、宛如(まるで)積み木じゃないか。
 其々の建物を眺めながら往くのも佳かろうが、一応は戰場、アスレチックを愉しむにはリスキーだと足許に睫を落した狐狛は、繊指をスッと滑らせて霊力障壁を敷く。
「道が無ければ作ればいい」
 一歩踏み出し、感触を確めて。
 足場の不安を無くせば観察や索敵にも集中できよう。巫狐は軽快な跫を踵に彈きつつ、顛倒(あべこべ)の世界を探索した。

  †

 元々、猫又坂の變容に混乱していた猫又達だ。
 己の棲み処たる「坂」を失くした上に見知らぬ者が現れたなら、彼等は縄張りを荒らされたのだと、尻尾に燈る鬼火を熾々と然(も)やして威嚇した。
『にゃごにゃご!!』
『フーッ!!』
「――おっと、コイツが噂の二尾猫か」
 蓋し狐狛は幾許にも怜悧冷靜。
 怒れる金瞳に射られた彼女は、ぶわりと迸発(ほとばし)る蒼炎が次々に放たれるも、「随分なご挨拶だ」と佳聲を添え、身躱しもせず其を浴びる。
 動揺したのは猫又の方。
『にゃっ!?』
 轟ッと燃える蒼白い炎の中で、花車の影が屹立して見えるのは気の所為で無い。
 奥秘顕現、【狐燈】(プロメテウス・ファイア)――猫又たちが放った鬼火を吸収した狐狛は、その焦熱から異能まで躯に取り込むと、宛ら咀嚼する様に解析を始めた。
「――成る程」
(「この手の術に多いのは、視覚欺瞞のたぐいかね?」)
 惑わしの鬼火、その灼熱に烟る幻惑効果を詳細に見極める。
 全身を巡る炎のエネルギーのうち、幻惑分を脳内で補正し、正確に精緻に把握する。
「鹵掠(うば)ってばかりじゃ悪い。お返ししよう」
『にゃ、っ――!!』
 何十匹分の炎を纏めて操る霊力も十分。
 狐狛は繊指を突き付けるや、烈々と喊ぶ爆炎を大きな化け猫の姿に模り、四肢を彈いて飛び掛からせた――!!
『にゃごーっ!!』
『にゃふにゃふ!!』
 蒼白く燃え盛る巨猫のメラメラパンチに腰を抜かす猫又たち。
 大きく喫驚を叫喚んだ彼等が、ぽっかり骸魂を吐き出せば、狐狛は「勝負あり」と丹花の脣を持ち上げ、
「化かすのも燃やすのも、アタシぁそれなりに得意なんだぜ」
 と、美し妖し嫣然を溢した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
悠里(f18274)と

歪んだ道無き世界の異様さは
悪い夢でも見てるみたいだ
迷子の仔猫を想えば早く見つけてあげないと
りんと微かに聞こえる鈴の音を追って

威嚇する猫又たちを横目に
悠里、猫初めてなの?
猫の扱いはちょっと自信があるよ
よいしょ、っと
にゃあにゃあ警戒する猫達の首を
ひょいっと持ち上げて
悪いものはぺっしなさい(お腹わしわし)
待てはちょっと通用しないかも
お、そうそう上手
俺達できっちり躾しますか

寂しい仔猫
どんなに逃げられても俺は追いかけよう
だって、独りぼっちはもっと辛いだろう
君は失くした痛みを抱えても生きなければ

…ね、悠里。君もね。
可哀想な仔を迎えに行ってあげよう
手を差し伸べて、走るのが苦手ならば共に


水標・悠里
千鶴さん/f00683
扉と扉が繋がりあった世界
こんな世界になるだなんて
いえ、それよりも気になるのは知らぬ内に主人を食らうた仔猫の事

ええと、そういえば猫に触るのは初めてでした
目を合わせてはいけないのでしたっけ
待て……えっ違う?

千鶴さんの真似をして捕まえてみる
首を、こうですか?
喉や耳の後ろがいいと聞いたことがあるので
そこを爪で軽く掻いたり撫でたり
貴方は私が怖いですか

寂しいのはよく知っているのです
知らず失くしてしまったのなら、尚のこと
真実に向き合った瞬間が怖くなる

走るのは苦手
追いかけるのも苦手
けど私に似た子を助けたい
手を取って一緒に行きましょう
置いて行かれるのは嫌なので、並んで共に



 煌々と燿う葩弁がひとつ、ふたつと花を開いて繊麗の影を暴く。
 靉靆たる光の帯を解いて降り立った水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)は、扉と扉、屋根と屋根が連なる顛倒(あべこべ)の世界に嘆声を溢した。
「……道がなくなると、こんな世界になるだなんて」
 聽けば迷い猫が喰ろうてしまったのだとか。
 道無き世界の異様は、傍に寄り添った宵鍔・千鶴(nyx・f00683)も胸が閊えよう、
「……宛如(まるで)悪い夢でも見てるみたいだ」
 或いはこの世界の歪みは、迷い猫の心象を具現しているのではないかと――。
 知らぬ裡に主人を喰ろうた無垢を慮った二人は、一刻も早く探し出そうと凛然を萌し、りんと微かに聽こえる鈴の音を追った。

  †

 迷子の仔猫だけでは無い。
 猫又坂では、突然の變容に喫驚いた猫又達が、見知らぬ来訪者の匂いに昂奮している様だった。
『にゃごにゃご!!』
『フシャーッ!!』
 鬼火を揺らす尻尾をピンと立て、躰いっぱいに威嚇する猫又たち。
 千鶴は蒼白い炎に秀でた鼻梁を向けた儘、隣する悠里に優艶の流眄を注いで、
「悠里、猫初めてなの?」
「ええと、猫に触るのは初めてになるかと……目を合わせてはいけないのでしたっけ? 待て……えっ違う?」
「待てはちょっと通用しないかも」
 幾許か緊張した眼差しで猫又を見詰める悠里に、嫋々と咲む。
 遇い方は知らずとも、彼等の怒りを十分に悟った悠里は、然し如何すれば佳いだろうと手を拱いている様子で、滲み出る心根の優しさに不覚えず微咲(えみ)が零れるのだ。
 なればと千鶴は爽涼のテノールを滑らせて、
「猫の扱いはちょっと自信があるよ」
 先ずは彼等が喰ったか喰われたか、骸魂を喫驚かしてやろうと繊指を操る。
 顕現すは【仮縫ノ匣】(イトシキカイライ)――ぎいぎい廻る歯車の檻、ちくたく刻む針の城、きらきら染まる赫の絲を紡いで化け猫の幻影を霧散させた千鶴は、必ずやおどろくだろうと踏んでいた猫又たちを逆におどろかせた。
『にゃにゃっ!?』
 霞と散る化け猫の幻影に時を止めた隙に、繊手を伸ばす。
「よいしょ、っと」
『にゃご』
「悪いものはぺっしなさい」
 僅かに身動ぐ猫又の首をヒョイと摘まみ上げ、腕に抱きかかえる。
 お腹をわしわしと撫でてやれば、猫又は大口を開けて骸魂を吐き出し、其の霞と消える迄を見届けた千鶴は、「いいこ」と頭を撫でてやった。
「お、そうそう上手」
 ふわり、紫苑の麗瞳を細める千鶴。
 佳き先達を得た悠里は、成る程と頷くや【影彩陸離】――死霊の黒蝶を羽搏かせ、その翻々とした妙なる動きに、猫又達の瞳を釘付けにした。
『ニャン、ニャンッ』
 黒蝶に好奇心を擽られた前脚が伸びた處に、回り込む。
「――首を、こうですか?」
『にゃごにゃご』
 上手、と千鶴が頬笑む程に手際佳く。
 優しく、而して慥かに首根を捕まえた悠里は、喉や耳の後ろがいいと聞いた事を思い出し、其処を爪で軽く掻いたり撫でたり、存分に労ってやった。
「貴方は私が怖いですか」
『…………けふ』
 大きな欠伸が其の答えか。
 悠里の腕に包まれた猫又はぽっかり大口を開けると、骸魂を霞と吐き出して丸くなり、そのリラックスした表情に悠里も安堵の息を置いた。

 二人はそれから尽底(すっかり)大人しくなった猫又達を囲み、未だ耳に届く鈴の音に思いを馳せる。
「……仔猫は今もきっと寂しい思いをしているだろう」
 千鶴がほつりと零した科白に、悠里が小さく首肯く。
 寂しさをよく知る彼は、か細い鈴音に佳聲を添えて、
「知らず失くしてしまったのなら、尚のこと。真実に向き合った瞬間が怖くなる――」
 幾許の靜寂に猫又達が「なぁご」と鳴いて、彼等の背を押す。
 すっくと立ち上がった千鶴は、雪白の繊指を差し出して、
「……ね、悠里。君もね。可哀想な仔を迎えに行ってあげよう」
 どんなに逃げられても追いかけよう。
 だって、独りぼっちはもっと辛いだろう?
 君は失くした痛みを抱えても生きなければ――と、翡翠の髪状の搖れる間に覗く紫瞳は烱々と、共に歩む友の手を誘引(いざな)う。
 細顎を上げて彼の佳容を仰いだ悠里は、長い睫毛を瞬かせて「是」を頷くや、彼の手掌に白磁の手を重ね、
「迷わずに、懼れずに、行きましょう」
 ――私に似た子を助けたい。
 走るのも追い掛けるのも苦手だけど、置いて行かれるのは嫌だから。
 並んで、共に――。
 斯くして玲瓏の双瞳を結び合った二人は、その眼眸(まなざし)を遙か遠い異景に――鈴音の運ばれる方向を眞直ぐに射た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無明・緤
ニコリネが拓いた道を辿り
無道の幽世へ

この世界は猫にとって格好の遊び場
得意の【逃げ足】【早業】、【猫の毛づくろい】で
建物を飛び渡り隙間をすり抜け
鬼火を楽しくかわしながら鈴の音を追跡

猫の居所は猫が知る
迷い、見失いそうならバディペットを呼び
同じ猫の【第六感】で案内してもらおう

顔を洗う猫又がいたら悪い顔でニヤリと
その技はおれもよーく知ってる、ケットシーだからな
ニャーン!と体当たりで小突き
捕獲役に据えた絡繰人形の構える段ボール箱へシュートだ
摩擦が無ければブレーキや方向制御は効かない
まっすぐお家へ飛んできな!

首の後ろはしっかり洗えないだろ
捕獲した猫又の首根っこを優しくつまみ
そっと持ち上げて骸魂を吐かせよう



 煌々と燿う蓮の花が葩弁を開き、「道」を喪失(なく)した世界を暴く。
 玲瓏の光の帯を解いて降り立った無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は、古今東西の文明の遺物が顛倒(あべこべ)に犇く異景に、小さく聲を置いた。
 倒錯した幽世を忌むか――否。
「この世界は猫にとって格好の遊び場」
 道無き道こそ猫の道と、前脚をスッと胸元に引き寄せた緤は、【猫の毛づくろい】――己の躰をペロペロなめる事で摩擦抵抗を極限まで減らし、ツヤピカの影を滑らせた。
「高低差のある建物や狭隘は寧ろ得意だ」
 横倒しになった金字塔(ハラム)の斜面を駆け降り、ジャンプして飛び移る。
 着地した仏塔(ストゥーパ)の隙間を擦り抜け、今度は瓦屋根を伝い歩く。
 建物の翳に蒼白い燈火(あかり)を見たなら、黒影は嫋やかに靭やかに躍動して、
「失礼する」
『にゃご!?』
 ゆらゆらと搖れる鬼火を楽しげに躱し、猫又達の喫驚の聲を背越しに聽く。
 斯くして猫又坂を自由に駆けた彼は、その聡い耳に捉えた鈴の音を手繰るように颯爽と進んだ。

  †

「猫の居所は猫が知る」
 猫が多ければ掴める情報も多かろうと、猫の手を借りる。
 愛らしく鳴いて助手を任されるは、緤の相棒たる『ちびミケ』――名前はまだ無い。
「にゃぁお」
「――ふむ、成る程」
 三毛猫の感性も連れて周辺を詳細に探索した緤は、時に顔を洗う猫又と遭遇(でくわ)すと、ウィスカーパッドをふくふくと、わるいかおをして見せた。
「その技はおれもよーく知ってる、ケットシーだからな」
 猫又だろうとケットシーだろうと、猫は猫。
 同じ穴の狢なれば、長所も弱点も佳く識るものだと、ニヤリ不敵に嗤笑った緤は、美し翠瞳を烱々と、強く爪先を蹴ってニャーン! と体当たりした!!
「シュートだ!」
『にゃふん!!』
「まっすぐお家へ飛んできな!」
 猫まっしぐら――いや、計算高い彼は幾許にも先を読んでいる。
 彼が体当たりをかました方向には、絡繰人形『法性』が段ボール箱を構えており、「捕獲用」と書かれた中に猫又がスポーンと入れられる。
 摩擦が無ければブレーキや方向制御が効かない事も念頭に、入射角から軌跡までを全て合致させた美しい穹窿形(アーチ)が、箱の中へと吸い込まれていった。
 猫戰を制した緤は、次いで段ボールにそっと手を伸ばして首根を攫み、
「首の後ろはしっかり洗えないだろ」
『にゃごにゃご』
 優しく抓んで、持ち上げてやる。
 腕に抱いた猫又が欠伸をするように『けふ』と骸魂を吐けば、その霞と消えるまでを見届けた緤が、「やれやれ」と安堵の息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『彷徨う白猫『あられ』』

POW   :    ずっといっしょに
【理想の世界に対象を閉じ込める肉球】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    あなたのいのちをちょうだい
対象への質問と共に、【対象の記憶】から【大事な人】を召喚する。満足な答えを得るまで、大事な人は対象を【命を奪い魂を誰かに与えられるようになるま】で攻撃する。
WIZ   :    このいのちをあげる
【死者を生前の姿で蘇生できる魂】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠香神乃・饗です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 骸魂を吐き出し、元の東洋妖怪に戻った猫又達はよく喋った。
 言葉を取り戻した彼等は一様に安堵して、
『いやー、ありがとうでヤンス!』
『猟兵さんに吐かせて貰わなきゃ、今頃アッシらどうなってたか……』
『これにて一件落着でヤンス!!』
 じゃあこれで、と尻を向ける猫又たちを少しだけ引き留める。
 猫又坂周辺で迷子になったという白い仔猫を知らないかと問えば、尻尾の群れの中には鬼火をポワと膨らませる者も居て、
『ああ、白の猫又でヤンスか? 勿論、知ってまさ!!』
『あられって言うんでヤンスよ。人様に飼われた事があるのか、首輪をつけてまさ!』
『まだ幼くて、尻尾に鬼火も宿らねえでヤンス!』
 二尾を揺らす、眞白の仔猫。
 首に結わえた赤い紐が鈴をリンリン鳴らすのだと、猫又たちが口々に言う。
 では『あられ』は何処に――と問えば、皆は一斉に頷いて、
『猫又神社の千本鳥居で見たでヤンス!』
『オラもだ。千本鳥居に囲われた中だけは、まだ「道」があったでヤンスよ』
『ここら一体はもう「道」は食べられたし、きっとあすこだ!』
 にゃあにゃあ、にゃむにゃむと鼻頭を突き合わせる猫又たち。
 成る程、彼等が白猫を最後に見かけた「千本鳥居」が怪しいと周囲を見渡せば、慥かに鈴の鳴る方向に赤い鳥居が見える。
 ならば其処へと爪先を蹴った猟兵は、今度は逆に猫又たちに引き留められ、
『待ってつかぁさい! 猟兵さん』
『あられはアッシらみてぇに喋れねぇでヤンス!』
『じいっと此方を見詰めて心を覗き込んで来るんで、お気をつけを!!』
 小首を傾げ、にゃあ、と鳴くだけの仔猫。
 無垢な双瞳は己の理想の世界を映し出し、視線を合わせた者の記憶や精神を辿って心を揺るがしてくる――本人も知らぬ裡に。
 猫又たちは更に言を足して、
『あのう、猟兵さん……その……』
『悪さをしているのは「あられ」じゃねぇ、骸魂でヤンスから……』
 どうか、どうかと懇願の瞳を揃える猫又たちに対し、猟兵はこっくりと首肯を返して、千本鳥居に向かうのであった。
クラリス・スカイラーク(サポート)
 好奇心旺盛かつ天真爛漫で、誰に対しても友好的な人物です。娯楽と新しい発見に目がなく、どの世界でも様々な出来事に興奮します。
 また、面白いと感じた、特に詩の題材となるものを日記帳に記す癖があります。

 多少の怪我は厭わず積極的に行動し、指定したユーベルコードは全て使います。
 各世界のルールは守り、他の猟兵や一般人に危害は加えません。

 得意技は音楽による精霊4体の召喚と使役です。精霊はそれぞれ火・風・水・土の力を持ち、任意の精霊を呼び出せます。
 精霊の描写(容姿や攻撃手段など)はマスターの皆さまにお任せします。

  口調や細かい設定はプロフィールをご確認ください。以上、よろしくお願いします。


エダ・サルファー(サポート)
アックス&ウィザーズ出身の聖職者で冒険者です。
義侠心が強く直情的な傾向があります。
一方で、冒険者としての経験から割り切るのも切り替えるのも早いです。
自分の思想や信条、信仰を押し付けることはしません。
他人のそれも基本的に否定はしません。
聖職者っぽいことはたまにします。
難しいことを考えるのが苦手で、大抵のことは力と祈りで解決できると言って憚りません。
とはいえ、必要とあらば多少は頭を使う努力をします。
戦闘スタイルは格闘で、ユーベルコードは状況とノリで指定のものをどれでも使います。
ただ、ここぞでは必殺聖拳突きを使うことが多いです。

以上を基本の傾向として、状況に応じて適当に動かしていただければ幸いです。



 ねえ
 ごしゅじんさま
 こえをきかせて

 ねえ
 ごしゅじんさま
 ここはどこ

『にぃあ、にゃあ』
 千本鳥居で見つかった迷子猫『あられ』はくりくりと無垢の瞳で覗き込んでくる。
 やっと「道」を見たと、鳥居を潜って至ったエダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)とクラリス・スカイラーク(微笑む春風・f08606)は、『あられ』がトコトコと歩く毎に變わる景色に烱眼を鋭利くした。
「……これは……何処かの、河川敷……?」
「緑の広がる土手の向こうに、小さな公園があって……」
 見憶えの無い景色で合点が行く。
 これは仔猫の世界――大切な景色のひとつだ。
 己の首に鈴を結わいて呉れた主人との思い出が、「そと」の景色が、エダとクラリスを引き込み、閉じ込めようとしている――。

『にぃあ、にゃあ』
 ずっといっしょに
 いっしょにいようよ

 嗚呼、仔猫は主を喪失(なく)してしまって。
 幼な過ぎて如何して主が亡くなったか解らない。
 白猫『あられ』はまだ人語も操れずに鳴く猫又だが、満月のような金瞳になんとなく事情が察せられるのが経験豊かな二人だろう。
 クラリスは己を取り込んだ平穏の世界をぐるり見渡して、
「――御主人様と過ごした景色が忘れられないみたいだけど、その『過去』はとても危険なものなんだよ」
 景色の美しさに淡く細むオレンジの瞳に、きりり、凛然を萌す。
 緑を撫でる爽涼の風に金糸の髪を揺らした可憐は、瞳いっぱいに広がる景色こそ仔猫を迷わせているのだと、意を決したように花脣を開いた。
「ボーパル……ボイス!」
 繊指に『アルダワの竪琴』を爪彈き、妙なる旋律と歌声を広げる。
 半径46m圏内を音波に揺する大震動は、時に音痴と誤解されるのが悩みの種だが、強大な音声スペクトラムを「世界」に叩き付け、平穏な景色をぐにゃりと揺らした。
「過去に囚われないで、迷わないで。自分の『道』を見つけに行こうよ」
 音律(メロディー)が振える。
 佳聲(ソプラノ)が心を震わせる。
 クラリスは猫又の心を喰わんとする骸魂を追い出さんと、雪白の五指を琴弦に滑らせ、語るように歌い上げた。

『にぃあ、にゃあ』
 ここにいようよ
 いっしょに、ずっと

 心地佳い世界を混ぜられた『あられ』は、愛らしく鳴いては二人を留めようとするが、ずっとこの儘ではいけないと、無垢を見詰めるエダの瞳は竟ぞ沈着を崩さず。
「辛い過去があったかもしれない。幼い今は受け入れられないかもしれない」
 ――だけど、と。
 丹花の脣を一度結んだ佳人は、それでも伝えたいと――握る拳に祈りを籠めた。
「ゆっくり、少しずつでいいから、前に歩いていこう!」
 刻下、赤銅に燿う艶髪が闘氣に靉靆(たなび)く。
 閃光炸裂、【聖職者式精神攻撃】――祈りの力で本来発生するはずの物理的な衝撃を、全て精神への衝撃に變換したエダは、月白と燿う衝撃波に仔猫の躯を揺らした。
「飲んだか飲みこまれたか、お腹の中の骸魂が重いなら、軽くしてあげられるよ」
 拳撃が幼な命を傷付ける事は無い。
 聖性溢るる光の波濤は、白猫の中に潜む骸魂を捉え、その邪心を攫んで灼く。
 然れば周囲に揺らめいていた仔猫の「理想の世界」は、硝子が割れるように罅を入れ、儚く欠片を溢すや、元の景色――千本鳥居の石畳に二人を連れ戻した。
 二輪の花に見詰められた『あられ』は、すこうし首を傾げて、

『にゃあ?』

 己が骸魂を宿していた事も知らなかったか――。
 首元で愛らしく結ばれた鈴を、りん、と鳴らした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

キア・レイス(サポート)
大得意 隠密・潜入・暗殺・遠距離攻撃・籠絡
得意 偵察・探索・支援・制圧・集団戦・時間稼ぎ
不得意 目立つ・コミュニケーション・ボディタッチ・格闘戦
特技(アイテム装備時)ピアノ演奏・歌唱・二輪車操縦

幼い頃から吸血鬼に飼われていた奴隷
吸血鬼の魔力を少量ながら持ち一部UCはそれを元に発動している
現代火器による戦闘と斥候・諜報・盗賊行為が得意な他、色香を使った誘惑が得意技
反面普通の人と関わったことが少なく踏み込んだ会話が苦手、他に不用意に身体を触られると不快感を覚え一瞬身体が動かなくなる

アドリブ歓迎
UCや装備品の説明文は読んで頂くと書きやすいと思います
また一部UC使用時の口調は覚醒時を使用してください


眞嶌・未来(サポート)
 バーチャルキャラクターのシンフォニア×聖者、外見は十代前半くらいの女です。

 基本的に知っている歌を歌います。
 白兵戦ならハインライン型マシンウォーカーに搭乗して戦います。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



『にぃあ、にゃあ』

 どこにいるの
 ごしゅじんさま

 ごしゅじんさま
 ここはどこ

「見つけた、迷子猫!」
「二又の白猫か……やけに幼い」
 リンと振える鈴音を辿って千本鳥居に至った眞嶌・未来(センテニアル・ラブドール・f25524)とキア・レイス(所有者から逃げだしたお人形・f02604)は、眞白の躰に際立つ朱の首紐と、小梅を飾る鈴を麗瞳に映すや、仔猫にも主人が居たのだと察した。
「……喪失(なく)した御主人様を探しているんだね」
 斯くいう未来も、製作者兼持ち主を亡くしている。
 少女は喪失感と引き換えに自由を得た訳だが、眼前できょろきょろ、くりくりと金瞳を動かす仔猫は主人を喪った事も気付いてないらしい。
 ――聽けば、幼な猫又は、知らず主人の魂を喰らってしまったとか。
 所有者の元から逃れて来たキアは、主を慕って鳴き続ける仔猫に花脣を引き結び、
(「……随分と愛されたのだろう」)
 私とは愛された方が違うが、「過去」という鎖に繋がれている点では同じだろうかと、そっと嘆声を隠す。

『にぃあ、にゃあ』
 ここはどこ
 おうちにかえして

 猫又『あられ』は、己が超常の異能を操っている事も自覚(わから)ない。
 幼な仔猫は、嘗て御主人様と歩いた景色にあった全てを、その儘の姿で甦生らせると、千本鳥居いっぱいに死者の魂をありありと具現(あらわ)した。
「御主人様も、この人達も……もう居ないのに……」
 過去に帰れる道は無い、と柳葉の眉を顰める未来。
 優しい魂が揺蕩う中、可憐は酷い眠気に襲われるが、ここで眠ってしまえば仔猫は永遠に過去を彷徨う事になる――と、自らを叱咤する。
 凛然を湛えた丹花の脣は、刻下、透徹の歌声を紡ぎ、
「わたし達が見つけたからには、もう二度と迷わせない」
 百花斉放、【シンフォニック・キュア】――!
 精彩を放つ五線譜に嚮導(みちび)かれた幽玄の音色が一帯に広がり、光に耀う旋律は聽く者を奥底から奮い立たせる。
 未来の歌声に雄渾を得た猟兵達は、身を蝕む眠気を靴底に踏み締めると、再び烱眼に光を宿して仔猫を見据えた。

『にぃあ、にゃあ』
 こえをきかせて
 へんじして
 ごしゅじんさま

 猫又『あられ』が鳴く程に死者の魂は溢れ、眠気はぐらりと思考を襲うが、これも惑乱の一つ――色香を使った誘惑を得手とするキアは、余程籠絡されまい。
「この程度の催眠、時間稼ぎにもならない」
 美し紫苑の隻眼は烱々と、仔猫の無垢を射止めた儘。
 櫻脣より滑る佳聲に訣別を置いた麗人は、白磁の繊手に号令を発し、
「二重三重に隊列を組んで防禦と彈幕を厚くしろ! 魂を霞と散らせ!」
 顕現発露、【特殊機巧機動隊】――!!
 突如、凄艶の聲に喚ばれた人型警護ロボットがキアの前に盾を並べ、そこに短機関銃を構えた撃射隊が僅かな隙間より筒先を出す。
「物量を以て抑える。不断に撃て!」
 凛乎たる聲も間もなく轟音に消されよう。
 守盾が眠気の侵入を阻む中、鐵筒は閃光火花を散らして死者の魂を払い、轟然たる硝煙弾雨が晴れた時には、茫漠と漂っていた魂は見事に一掃されていた。

 元の景色を取り戻した千本鳥居には、未来とキア、二輪の花が凛々しく屹立し、

『――にゃあ?』

 恐らく何をしたかも、何があったかも飲み込めていないのだろう。
 白猫『あられ』は、二人に向き合うよう二尾を丸めて座った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
今の姿じゃなかった頃に。
人手に渡るってことが理解できなかった時があったわ。
気に入っていた人だったのにいつの間にか変わってて。
その時のあたしとあられちゃんって近いかもしれないわね。
当時の記憶辿ってくれたらあられちゃんも少しはわかるかしら?
わからなくても似てる人もいるのかもって知ってくれると嬉しいわ。

猫又さんと同じように撫でたりして骸魂って吐き出せるのかしら?

「おいで♪」って手広げたらこっちに来てくれるかしら?
来てくれたらうんと優しく抱きしめてあげたいわ。
「さみしかったのよね~」って頬すりもしたいわ~。
あたしは見つけ出せたけど…あられちゃんもそうあって欲しいわ。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
本来の猫又というものは会話が可能な種族なのだな。
独特な口調だが環境の変化によるものなのだろうか…。
UDCアースの世界に隣接する世界の存在というか猫だが。
ケットシーに近いものがある気がする。
精霊と妖怪と起源は同じなのだろうか?

それはともかく原因を作った子をなんとかしないとな。
言葉としては理解しているつもりだが…今一よくわからん。
物心ついた時には何故か一人で暮らしていた影響だろう。
そんな私だ。気持ちをくんでやることは難しいだろう。
…露に任せてみようと思う。あの子ならなんとかできるだろう。
露を見守りながらあられを観察。まあ害はないだろうが。
骸魂は前回と同様に【冷視】で凍結。



「本来の猫又というものは、会話が可能な種族なのだな」
「ヤンス~って言ってたねー」
「独特な口調だったが、あれは環境の變化に依るものなのか……理解らない」
 千本鳥居の甃に二つの影が滑り、軽やかな風が抜ける。
 爽涼の風は跫を連れて、佳聲を連れて、
「UDCアースの世界に隣接する世界の存在、というか猫だが……ケットシーに近いものがある気がする。精霊と妖怪と起源は同じなのだろうか?」
「あたし、精霊さんと仲良しだから聞いてみようかな?」
 冷然淡然と言つシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)と、彼女の言に悠然暢然と相槌を打つ神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)。
 どうか、どうかと懇願の瞳を揃えた猫又たちを、その不安ごと包むように撫でて宥めた二輪の花は、刻下、猫又神社へと至る石段にふわふわと揺れる二又の尻尾を見つけた。
「小梅を飾る鈴……この白い仔猫が」
「うん、この子があられちゃんだね」
 シビラと露の聲に気付き、りん、と鈴音を鳴らして振り返る『あられ』。
 三角の耳をピンと立てた仔猫は、コトリと首を傾げて鳴いた。

『にぃあ、にゃあ』
 ごしゅじんさま
 ここはどこ

「……言葉としては理解しているつもりだが……今一よくわからん」
 くりくり耀く満月のような金眼に玲瓏の彩を結んだシビラは、何とかしてやりたいが、無垢なる心の言葉にならぬ想いを汲み上げてやる事は難しい。
 物心ついた時には、何故か一人で暮らしていた影響だろうと自覚はある。
 而して自分の得手と不得手を慥かに見極められるシビラなれば、あの子なら――露なら何とか出来るだろうと流眄を注ぎ、彼女の為る儘に任せた。
 知らず信頼を寄せられた露は、矢張り手練れていて、
「おいで♪」
『にぃあ?』
「うん、怖くないよ~」
 手を広げたり、繊指をちょろちょろと動かして仔猫の興味を擽る。
 幼な仔猫は好奇心が勝ったか、りん、りんと鈴を揺らして近付けば、露は『あられ』が自ら触れるまで十分に待って、それから漸っと腕に抱いてやった。
「よく来たね~。えらいこ、いいこ~♪」
『なぁご』
「うんうん、さみしかったのよね~」
 仔猫が怖がらぬよう、優しく、柔かく囁(つつや)く露。
 凪の様に夷(なだら)かな聲が心地好いか、シビラは「肩の力が抜けている」と観察を続けていて、この様子なら露に害を及ぼす事はないだろう、と靜観する。
 親友が見守る中、露は仔猫に頬擦りしながら話し掛けて、
「今の姿じゃなかった頃に。人手に渡るってことが理解できなかった時があったわ」
『にゃぁん?』
「気に入っていた人だったのに、いつの間にか包まれる感触が變わってて……その時のあたしとあられちゃんって近いかもしれないわね」
 肉体を得るまでに幾つもの人間の手を渡り、最終的に遊牧民の手に預けられた露。
 嘗ての想いを呼び覚ました彼女は、不覚えず心を覗き込むという『あられ』が、当時の記憶を辿ってくれるよう額と額を合わせる。
「わからなくても似てる人もいるのかもって……知ってくれると嬉しいわ」
 全てを理解ってくれなくても構わない。
 仔猫なりに親しみや近しさを感じてくれたら――と微咲(えみ)を見せた露が、そっと躰を撫でれば、『あられ』は心地良さそうに欠伸をして、
『…………けふ』
 この瞬間。
 じっと様子を見ていたシビラが【冷視】(アルゲオス・シレオ)を放ち、極低温の凍気に骸魂を包んで仔猫から引き離す。
「――これでもう『道』を食べたりはしないだろう」
「悪いの取れたよ~、良かったね~♪」
 仔猫が気付かぬ裡に諸悪の根源を凍てさせたシビラがふう、と吐息を置く中、露は純真なる金の瞳を瞶めて、
「あたしは見つけ出せたけど……あられちゃんもそうあって欲しいわ」
『にぃあ?』
 願いを籠めるように、ぎゅう、と仔猫を抱き締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
――任せとけ。その依頼、Black Jackが受けるぜ。

千本鳥居で声を掛ける。
…ご主人様との思い出でもあるのかい?
瞳を合わせて。肉球は躱さないぜ。『理想の世界』とやらに行ってみるか。

故郷、ダークセイヴァーから吸血鬼が消えた世界。
支配から解放され、自由を得た。涙を流して抱き合う人々。故郷で俺が殺しちまった親友、過去に失った何人もの友人の姿。
――ああ、確かにクソッタレの吸血鬼共が居なけりゃ、あの中に俺も居たかもしれねぇ。猟兵なんかじゃなかったかもな。
けどよ、悪ぃな。『今の俺』は猟兵なんだ。
魔剣とUCで切り裂いて世界から脱出する。

そのまま首根っこ掴むか。ブラブラさせりゃ、あいつらみたいに吐き出すか?



 其の男を動かすには相応の報酬が要る。
 然し金銭(カネ)を積まれたからといって動く男でも無い。
 数多の猫又に懇願の瞳を注がれたカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、彼等の不安気な表情ごと頭をぐりぐりと撫でて、颯然と立ち上がった。
「――任せとけ。その依頼、Black Jackが受けるぜ」
 其の便利屋は、既にUDCアースで腕を認められている。
 フィールドを變えても為る事は變わらず――カイムは鈴の音の鳴る北西へ、猫又神社の千本鳥居に影を疾走らせ、間もなく二尾の仔猫『あられ』を見つけるに至った。
「――よう、仔猫にしちゃ随分と冒険したもんだ」
 眞白の毛に際立つ赤い首紐。蝶結びにした付け根に小梅と、鈴。
 可憐な鈴をリンと鳴らして振り向いた猫又は、ことり、首を傾げた。
『にゃあ』
 無警戒に、じい、と覗き込む黄金のアーモンドアイ。
 無垢の色を輝かせた儘なのは、降り落つ聲が慈雨の様に優しかったからだろう。
「ご主人様が付けてくれた鈴が、お前さんの居場所を教えてくれたよ」
 ごしゅじんさま。
 その言葉を聽いた三角の耳は、ピンと立って続く言を待った。
「……ご主人様との思い出でもあるのかい?」
 おもいで。
 而して仔猫は嘗ての陽だまりを思い出す。

『にぃあ、にゃあ』
 ひとりぼっちはいや
 ずっといっしょにいて

「――嗚呼、付き合ってやるよ」
 猫又達には「心を覗かれる」と忠告されたが構わない。
 無垢の瞳と玲瓏の色を結んだカイムは、そうっと前脚を伸ばして触れようとする仔猫の肉球を拒むこと無く、宛然(まるで)握手をする様に――夢幻の世界に引き込まれた。

『にぃあ、にゃあ』
 ここにいようよ
 なんにもこわくないもの

「――此処は、俺の……」
 見覚えのある景色、懐かしい風の匂いに振り向く。
 此処はカイムの故郷、常闇が掃われた美しのダークセイヴァー。
 吸血鬼の支配から解放され、自由を得た人々は涙を流して抱擁を交わす。
 塊麗の指先が時を止めたのは、紫瞳に映る人影の所為だろう。
(「――……ッ」)
 己が殺めた親友、過去に喪失った何人もの友人の姿。
 彼等は一様に莞爾と咲んで、安寧の光に燦々と耀いている。
(「――ああ、確かにクソッタレの吸血鬼共が居なけりゃ」)
 あの中に己も居たかもしれない。
 猟兵でもなかったかもしれない。
 其の眩しさにスッと麗眸を細めたカイムは、長い睫を擽る温かな光に嫣然を湛えると、瞬きをひとつした後に鋭利い烱光を燈した。
「――けどよ、悪ぃな。『今の俺』は猟兵なんだ」
 奇しくも世界に選ばれた。
 その証左たる超常の異能を『神殺しの魔剣』に披瀝(あば)いたカイムは、己に流れる厖大な魔力を黒銀の炎と滾らせ、漆黒の刀身に流し込む。
 彼は皮肉めいた、それでいて極上の微咲(えみ)を湛えて振り被り、
「俺がこんな處で迷子になってたら恰好悪いだろ」
 一閃、【必滅の刃】(スキル・スレイヤー)――!!
 全てを滅ぼす終末の劔は神や化物を殺すのみに非ず。波濤と溢れた斬撃は『あられ』の肉体を一縷と傷付けることなく、その内に潜む骸魂を捉え、邪の本質を灼いた。

『にぃあ?』

 刻下、理想の景色がぐにゃりと歪み、色を混ぜて掻き消える。
 元の千本鳥居に戻った『あられ』は、何をしたのか、何が起こったのかも理解らぬと、眼前のカイムに首を傾げる。
 両者の間に小さな溜息を置いたカイムは、仔猫の真似をして首を傾げ、
「そのまま首根っこ掴むか。ブラブラさせりゃ、あいつらみたいに吐き出すか?」
『にゃぁん』
 温柔(やさ)しく、優婉(やさ)しく。
 そうっと手を伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
手荒な真似をするつもりはなかったけどね。
ああも頼まれたのでは、ね。
うん、できる限りのことはするよ。
とは言え、骸魂を吐き出させるにはなー。
あの子たちのように揺らすだけで、とはいきそうもない。
器を傷つけずに中身だけを斬る。
ちょっと大変だけどイケルイケル!
だって僕は優れた剣士でもあるからね。
斬るものを選んで斬る。
そーゆー技を扱うに足る技量はあるからね。
<斬祓>
この刃を以て斬り祓えば穢れは在らじ。残らじ。
あっ、記憶から召喚された人は普通に斬るけどね。
敵であるなら誰であれ…斬る!
それが僕の生き方だからね。
まぁ、里の皆もそんな感じだしふつーふつー。
むしろ遺恨が残らず斬り合えるなんて最高じゃない?



『にぃあ、にゃあ』
 ごしゅじんさまにあげるの
 ちょうだい、ちょうだい

 くりくりと満月の様な黄金色を揺らすアーモンドアイ。
 無垢なる眼差しに言葉無く欲しがられた露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、靉靆たる霞が漸う模る影に魅入るより、猫又達の忠告を思い起こしていた。
「成る程、僕の記憶を覗き込んで、僕の大事な人を召喚すると――」
 彼等の云った通りだと首肯く花顔は相變わらず穏やか。
 紫苑の麗眸に映る人影は、慥かに己が大事に想う者ばかりだが、だからと言って攻撃を躊躇うほど杜撰には育てられていない。
「普通に斬るけどね。敵であるなら、誰であれ」
 其が己の生き方だ。
 里の皆もそうして生きてきた。
「ふつーふつー。よゆーよゆー。寧ろ遺恨が残らず斬り合えるなんて最高じゃない?」
 畢竟、己が記憶から紡がれた幻影。
 術に幻惑さるは忍で無しと、繊手に握る『魔剣オルトリンデ』は蛇か鞭の如く靭って、広範囲に揺蕩う幻影を薙ぎ払った。
 鋭利い連結刃が影を裂き、狭霧と靉靆(たなび)く中に燿う瞳は烱々、
「手荒な真似をするつもりはなかったけどね」
 両の眸に刻まれた契約紋<呪>が励起するのは、誰が為か。
 凛乎と結ばれた櫻唇は、呼吸の間に佳聲を置いて、
「ああも頼まれたのでは、ね。――うん、できる限りのことはするよ」
 どうか、どうかと袖を引き、懇願の瞳を注いだ猫又達。
 悪いようには為ないと、彼等の不安気な表情ごと包み撫でて来た鬼燈は、霞の向こうでコトリと首を傾げる『あられ』の純真を一瞥した。
「……とは言え、骸魂を吐き出させるにはなー」
 無意識にもこれだけの夢幻を紡ぐ妖力だ。
 仔猫が喰ったか喰われたか、件の骸魂は猫又等と同じ様に吐き出せは為まい。
 暫し思案した鬼燈は、然し幾許にも安穏としていて――。
「器を傷つけずに中身だけを斬るには――ちょっと大変だけど、イケルイケル!」
 彼は卓抜(すぐ)れた忍であると同時、精撰(すぐ)れた劔士でもある。
 唯だ只管に武を磨いた一族の者なれば、鍛錬を極めた太刀は活殺も自在に、
「斬るものを選んで斬る。そーゆー技を扱うに足る技量はあるからね」
 発露、<斬祓>(キリハライ)――。
 拇指球を踏み込むや、繊麗の躯に漲る破魔の力を収斂した鬼燈は、其の月白と耀く神氣で刀を形成し、一閃――不可視の斬撃を疾走らせた!
「この刃を以て斬り祓えば穢れは在らじ。残らじ」
 味方に放てば悪しき影響を断ち切り、敵に放てば破魔の一太刀となる冱撃。
 眼に視えぬ威は幻影の狭霧を眞一文字に裂いて疾るや、仔猫の小さな躯を駆け抜け――穢れの根源たる骸魂を捉えた!!
 而して『あられ』には傷も痛みも無く、爽涼の風を受け取ったのみで――、

『にぃあ、にゃあ』

 周囲を揺蕩う狭霧が晴れ、今や明瞭(ハッキリ)と現れた千本鳥居をぐるりと見渡した仔猫は、一体なにが起こったのかと、ちょこんと香箱座りをして鬼燈を見るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

無明・緤
「あられ」って言うのか
霰みたいな小粒の白猫を想像しつつ
猫又神社の千本鳥居へ
いつまでも聞こえる鈴の音はきっと
誰かが迎えに来るのを待ってんだろ

あなたのごしゅじんさまはどこ?と問う瞳に
想うのは嘗ての主
おれが連れる人形と同じ姿で同じ名前のヤツだ
あまり優しくなかったけど、おれは好きだったよ
だから攻撃だって抵抗せず受けいれるのさ

大人しくやられる気はないけどな!
UC【オペラツィオン・マカブル】使用
【操縦】【早業】で人形を割り込ませて無力化を試み、
巧くいったらニセ主をぽいと捨ててやる

猫又と同じく襟首をつまんで持ち上げれば
骸魂を吐き出してくれるだろうか
…腹ン中の主の魂も、あられを独りにしたくないと思ってんのかな



 いつまでも聞こえる鈴の音は、きっと。
 誰かが迎えに来るのを待ってんだろ。
 だから、――全速力で行く。

 か細い鈴の音を辿り、顛倒(あべこべ)の猫又坂を直走る。
 間もなく視えた無数の鳥居を颯然の風と潜った無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は、猫又神社に至る石段の半ばに、ふわふわ搖れる白い尻尾を捉えた。
「よう」
 ひとつ息を吐いて、名前を呼んでやる。
「――『あられ』って言ったな。正にその通りじゃないか」
『にぃあ?』
 霰みたいな小粒の白猫を想像していた緤は、振り向く姿から鈴を振る様な鳴き声まで、まだほんの仔猫なのだと実感する。
 無垢で純真、そして幾許にも物事が理解っていないのだと、鳥居の間から倒錯の世界を眺め見た緤は、橄欖色の瞳をゆっくりと戻し、努めて穩やかに語り掛けた。
「その名前と、あかい首輪をくれた人を憶えているんだろ」
 どちらも野良は持たぬものだ、と降り落つ聲の柔かさに、三角の耳がピンと立つ。
 くりくりと耀く黄金色のアーモンドアイは、玲瓏の彩を湛える緤の眸を覗き込み、

『にぃあ、にゃあ』
 はじめてのおともだち
 あなたのごしゅじんさまはどこ?

「――おれのごしゅじんさま、か」
 ことり小首を傾げる仔猫が望む儘に、答えてやる。
 緤の聲は物語を紡ぐように夷(なだら)かに、
「嘗ての主は……然う、おれが連れる人形と同じ姿で、同じ名前のヤツだ。あまり優しくなかったけど、おれは好きだったよ」
 ――好きだった。
 云って、「法性」と銘を刻む傀儡を操って見せる。
 無明なる糸に繋がれた絡繰はロボットのように無骨な形姿で、仔猫が見上げても笑顔のひとつも返さぬが――彼を語る緤の聲は漣の如く穩やかだ。
『なぁお』
 ここに金瞳をぱちくりとさせた仔猫が、不覚えず幻影を編む。
 靉靆(たなび)く霞が疆界を得て「嘗ての主」を模れば、其が無機質な腕を振り上げるに合わせて緤も顎を持ち上げ、
「だから攻撃だって抵抗せず受け容れるさ。――大人しくやられる気はないけどな!」
 邀撃展開、【オペラツィオン・マカブル】――!!
 緤自身は全く無抵抗、完全なる脱力状態で鐵の拳を迎えるが、髭は別。
 ひくひく動いた髭は電波を操り、迫り来る拳撃の軌跡に素早く割り込んだ「法性」が、相手の腕を両手に抱えて逆一本ッ! 聢と重心を捉えた躯を轟ッと投げ飛ばした!!
「ニセ主はポイだ、ポイ」
 緤が後背に流眄を注いだ先では、朱色の鳥居に打擲(ぶつ)かった虚像が狭霧と化し、霞と消えるまでを見送った『あられ』には、そうっと手が伸びる。
「ほら、あられ」
『にぃあ?』
 一語一語、大切に名前を呼んでやる。
 猫又たちと同じく襟首をつまんで持ち上げれば、骸魂を吐き出してくれるだろうか――緤の懸念は、仔猫が欠伸が出した時に安堵に代わった。
 出逢った当初から變わらぬ無垢の瞳を瞶めた緤は、ふと言ちて、
「……腹ン中の主の魂も、あられを独りにしたくないと思ってんのかな」
 今は亡き主人の心は、果して――と。
 人語を操らぬ幼な猫の瞳に、答えの色を探るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛
※アドリブ歓迎

やれやれ、どうも取っつきづらいタイプだぜ
つってもアンタのお友達に頼まれてるし、やるこたァやらないとな

召喚されるのは、たぶんアタシと似たようなタッパの妖狐だろう……が、律儀に待ってやる義理はない

UCで召喚されるモノを掻っ攫う
骸魂の絡む召喚術なら、適用されるハズだ
完全にとはいかない――たとえば、あやふやな「影」くらいは残るかもしれないが
手の内を知ってる相手との術の打ち合い、しかも力をいくらか剥いでのハンディ戦なら負けちゃやれないぜ

召喚体を撃破したらリソース切れになる前に解除。敵地で寝入るワケにもいかないだろ?
副作用でそこらに呪詛が撒き散らされるが……まァ、猫本体への削りになれば上々だ



『にぃあ、にゃあ』
 よくにた、みみのこ
 あなたはだぁれ?

 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は勝負師だ。
 自身の洞察力や霊感を以て場の気運や相手の心理を読むのは得意だが、くりくりと耀く無垢の金瞳に、何の打算も無く心を覗かれては落ち着かない。
「やれやれ、どうも取っつきづらいタイプだぜ」
『にぃあ?』
 狐狛が肩を竦めれば、不思議そうに小首を傾げる白猫『あられ』。
 全き純粋なる仔猫は、此方の都合も知らずにリン、リンと首の鈴を振るわせるが、この小さな器に潜む骸魂が悪さをしていると聽けば、放っても置けず――。
「……アンタのお友達に頼まれてるし、やるこたァやらないとな」
 どうか、どうかと猫又たちが小袖を引いた。
 多くの瞳が心配していたからと、仔猫との距離にひとつ嘆息を置いた狐狛は、じいっと琥珀色の彩を瞶めてくる無邪気に向き合う事にした。

『にぃあ、にゃあ』
 たいせつなひと
 あなたにもいるの

 慥か猫又たちが言っていた。
 仔猫は不覚えず心を覗き込み、そこに刻まれたものを具現すと――。
「――たぶんアタシと似たようなタッパの妖狐が顕現(あらわ)れるんだろう?」
 己の記憶に存在する「大切な人」に憶えがある。
 猫又達の忠告を元に、その者の具現化を予測できたからこそ狐狛は冷靜に、千本鳥居の周辺に霞と靉靆(たなび)く邪氣の動きを捉える。
 其は狐狛の記憶と感情を煽るように揺蕩い、間もなく形姿を生成するだろう。
「……が、律儀に待ってやる義理はない」
 眼前に顕現れる虚像と悪戯に戯れる心算(つもり)は無い。
 霞が邪像を成す前に麗眸を烱々とさせた狐狛は、【買収するなら宵のうち】(ブラックナイト・ゴーストダンス)――骸魂の能力を己が利用可能な妖力に分解・吸収し、一時的にオブリビオンと化した。
 その所為か、丹花の脣を滑る佳聲は漸う艶帯びて、
「骸魂の絡む召喚術なら、適用されるハズだろ?」
 読みは至当。
 仔猫の内に潜む骸魂が召喚したモノを掻っ攫った彼女は、ぶわりと迸発(ほとばし)る闇黒と呪詛を妖力で制禦しながら、強靭な力を振るって虚像と術を打ち合う。
「完全にとはいかない――あやふやな『影』くらいは残るかもしれないが」
 構わない、と繊手を振り被る。
 全き純然を以て対抗する刻では無いと花脣を結ぶ狐狛は、矢張り「局」を読むのが巧みであろう。
「力をいくらか剥いでのハンディ戰なら負けちゃやれないぜ」
 その者の挙動は己の記憶に在る。
 手の内を知る相手に押されて堪るかと、花顔を凛乎とさせた可憐は幾許か嗤笑っていた様な――とまれ、『あられ』がキョトンと瞳を注いだ時には、虚像は中核を穿たれて狭霧と消えていた。

『なぁご』

 どうしたの、と鈴振るような聲が問い掛ける。
 煌々たるアーモンドアイに映る狐狛は、すこうし疲れたように鳥居に身を預け、
「酷い眠気に甘んじて、敵地で寝入るワケにもいかないだろ?」
 と、大きく吐息して周囲に漂う呪詛を眺める。
 蓋しこれも仔猫の内に潜む「悪玉」を脅かす要素となれば上々だと、櫻脣は淡い微笑を作り、小首を傾げた儘の仔猫と玲瓏の彩を結び合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎

パンデュールに搭乗し、操縦して戦うよ

/
ここがあの迷子の仔猫の理想の世界

大事な人との絆を感じられる大切な場所なんだね

だけど、いつまでも、どこにも、大切な人の元にも辿り着けない、そんな世界でキミをさまよわせるわけにはいかないんだ

だから、ボクはこの世界を破壊する

そして、キミを本当の大切な場所へ連れて行くよ!

クロックアップ・パンデュールを発動したら、ドゥ・エギールを構えて空間を切り裂くように振り下ろす

ごめんね

そのままあられの元までパンデュールとともに飛んでいき、超スピードで後ろへ回り込み首根っこを捕まえて高々と優しく身体を持ち上げるよ

あの空の向こうの大好きなごしゅじんさまにも見えるように。



 りん、りん、と爽涼の風に運ばれる鈴音を辿り、千本鳥居に至る。
 数多の朱門を潜って幾許――猫又神社に向かう石段で、ふわふわ搖れる尻尾を見つけたトゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は、努めて穏やかに名を呼んだ。
「あられ」
 怖がらせぬよう、優しく。
 ご主人様に貰ったであろう名前を、一語一語、大切に紡げば、眞白の仔猫『あられ』は小梅を飾る鈴をひとつ鳴らして、くるりと振り向いた。

『――にぃあ?』

 搭乗型機械鎧『パンデュール』の躯体を不思議そうに仰ぎ、小首を傾げる。
 幼な仔猫なら好奇心が勝ったか、前脚は無警戒に鎧装へと伸びるが、トゥールは小さな肉球を拒まず、宛然(まるで)握手をする様に手甲を差し伸べた。

『にぃあ、にゃあ』
 ここがすきなの
 ここにいたいの

 突如、周囲の景色が一變する。
 風の吹き抜ける千本鳥居は長閑な河川敷に、青々とした草の繁茂る土手の向こうには、小さな公園も見えようか――蓋し見知らぬ光景ならば、少年は直ぐに合点したろう。
 刻下、端整の脣を滑るテノールは夷(なだら)かに、
「……此処が、あられの……大事な人との絆を感じられる大切な場所なんだね」
 この景色こそ、仔猫の大好きだった「そと」の世界。
 自分の首に鈴を結わいてくれた主人との思い出が『あられ』を包んでいるのだろうと、笑聲さえ届く陽だまりの世界を見渡した少年は、然し空色の瞳を凛乎と澄まし、
「――だけど、いつまでも、どこにも、大切な人の元にも辿り着けない――そんな世界でキミをさまよわせるわけにはいかないんだ」
 ずっと迷子だったキミが、これからも迷子だなんて。
 そんな物語は、キミのごしゅじんさまも望んでいない筈だから。
「――だから、ボクはこの世界を破壊する」
 未来に進む為に決意する。
 變わらぬ過去に訣別する。
 トゥールが凛然と闘志を萌せば、愛機パンデュールも勇々しく励起しよう。
 鋼鐵の躯体は黄昏色の光を彈くと、迸発(ほとばし)るエネルギーを光翼と羽搏かせ、【クロックアップ・パンデュール】――真の姿へと至った。
 攻撃力と推進速度を飛躍した躯体は、嚮導の柱の如く耀いて、
「――そして、キミを本当の大切な場所へ連れて行くよ!」
 紫電一閃――ッ!!
 蒼白い稲妻を纏った双刃『ドゥ・エギール』が眞一文字に薙がれ、轟ッと疾った斬撃が平穏の空間を断った!
 一条の光と化した少年と超常鎧装に瞬く間も無い。
 大きな裂傷に切り裂かれた景色は、帷帳の如く揺らぐと――元の景色に溶けた。
 斯くして千本鳥居に戻ったパンデュールは、間隙を置かず旋風と翔けて、
「ごめんね」
 ――と。
 慈雨の如く、聲が沁みる。
 無垢の仔猫がキョトンと周囲を見渡す間に、絶影の機動で尻尾側に回り込んだ躯体は、そうっと腕を伸ばして首根を捕まえた。

『なぁご』

 腰をそっと支えられ、高々を持ち上げられた『あられ』は、餘りの幼さ故にトゥールの優しさは理解らなかったかもしれない。
 それでも少年は、清冽の瞳に仔猫を瞶めて、
「あの空の向こうの大好きなごしゅじんさまにも見えるように――」
 可愛らしい欠伸をして骸魂を吐き出す小さな命を、高く、高く、蒼穹に掲げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷守・紗雪
白い仔猫の姿を見つけ
粉雪舞わせて微笑む

こんにちは、あられさま
ダメなのですよ。皆さんが通る道を食べたりしたら
たくさん食べてお腹壊していませんか?

唐傘広げてふわり浮かんで
指先を遊ばせるように雪を操れば仔猫に柔らかな雪を舞わせる

誰も雪妖怪を厭わない、そんな理想の世界
極寒の地では実るものも少なく周辺の妖怪さんから嫌われていました
いまでも雪妖怪以外の方々はすこし怖いのです
だけど優しく笑う人達を知っているから

そろそろ帰る時間なのです
あられさまの御主人さまは、いらっしゃらないけれど
ユキと一緒にみなさまのところへ帰りましょう?
心配している猫又さまたちがたくさんいらっしゃいます
あられさまも、ひとりではないのです



 青い鼻緒の白下駄をからん、ころん。
 千本鳥居の石段に軽やかな音を響かせた氷守・紗雪(ゆきんこ・f28154)は、りん、と鈴音をひとつ鳴らして振り返る眞白の仔猫に、ふわり粉雪を舞わせて頬笑んだ。
「こんにちは、あられさま」
 見れば本当に幼い仔猫。
 小さな命を怖がらせぬよう、優しく、柔らかに名前を呼んだ紗雪は、満月のように耀くアーモンドアイに玲瓏の彩を結んだ。
「ダメなのですよ。皆さんが通る道を食べたりしたら」
『にぃあ?』
「たくさん食べてお腹壊していませんか?」
 腰を落とし、仔猫の目線で莞爾と頬笑む。
 そうっと語尾を持ち上げる佳聲は凪の様に夷(なだら)かで――心地好い音色に三角の耳をピンと立てた『あられ』は、ねぇ、と語り掛けるように一鳴きした。

『――にゃあ』
 だいすきなところで
 あそぼ、あそぼ

 紗雪をおともだちと認識した前脚が伸びて、肉球で小袖に触れる。
 然れば雪白の可憐は仔猫の「理想の世界」――ごしゅじんさまと歩いた新緑の河川敷に引き込まれるが、紗雪は其を拒絶まなかった。

『にぃあ、にゃあ』
 ずっといっしょに
 ここにいて

「此処が、あられさまの……大切な人との景色、なのですね……」
 爽涼の風が草を撫でる、心地よい情景を見渡す。
 其処に唐傘『隠雪』を広げてふわり浮かんだ紗雪は、白磁の指を動かして雪を操ると、チラチラと舞う其をくりくりの金瞳に追う仔猫に微咲(えみ)を湛えた。
 佳聲は柔かな雪と共に花瓣の様に降り落ちて、
「……ユキにも理想の世界があるのです」
 誰も雪妖怪を厭わない、そんな理想の世界――。
 仔猫が六花に遊ぶ中、丹花の脣は穩やかに言を紡ぐ。
「極寒の地では実るものも少なく、周辺の妖怪さんから嫌われていました」
 幽世の或る山奥、年中雪が降る奥地で母と暮らしていた紗雪。
 山を降りるまで外の世界と断絶していた少女は、今でも雪妖怪以外が少し怖い。
 それでも紗雪が見知らぬ世界を歩き続けるのは――、
「ユキは、優しく笑う人達に出逢って、その温かさを知ったから……」
 ふわり、雪が舞う。
 ふわり、言が散る。
 氷霜の燿う麗眸を細めた紗雪は、仔猫が存分に雪と戯れた頃合いに手を伸ばして、
「そろそろ帰る時間なのです」
『にぃあ?』
「あられさまの御主人さまは、いらっしゃらないけれど……ユキと一緒に、みなさまのところへ帰りましょう?」
 云って、己の小袖を引いた猫又達を思い起こす。
 どうか、どうかと懇願の瞳を揃えた彼等は、まだ人語を操れぬ小さな命をとても心配していたのだと教える。
「あられさまも、ひとりではないのです」
 沢山の仲間が帰りを待っている――。
 斯くして可憐が頬笑んだ時には、周囲の景色は元の千本鳥居に戻っていたろう。
 繊指が紡いだ【鎮雪】(シズメノユキ)に、内に潜む骸魂を凍てられた仔猫は、無垢の花顔をことりと傾け、

『なぁお』

 と、躯の重みを預けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
はっはっは、降り注ぐ喝采、皆の笑顔!
妾を受け容れてくれる実に優しい世界であろうな
しかし悪いが、それは血と汗と涙とか、その辺のものを流しつつ妾が地道に掴み取ってきたものでのう
決して楽に、与えられてきたものではない! これからもそうだ!

無粋を許せよ! 右手を上げ、指を鳴らし、さあ鳴り響けファンファーレ!
骸魂とやらのみを燃やし尽くすがよい! ああ、ついでに妾の頭にも喝を入れておこうか!
ちなみにもちろん、擾乱の反動なんぞ端っから気にしておらんのでな?

せめて本気で、妾と差し違える渾身の覚悟でブチ込んでくるなら話は全然違うであろうが
…強者とバトり続けて、精神攻撃に結構耐えられるようになってきたものね、私も



『あのう、猟兵さんが行ったら……その、おったまげるんでヤンスよ……』
『あられ、大きな蛇に喰われるって、逃げ出しちまうんじゃねーかと……』
 猫又達は、蛇神にして邪神たる御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)が果して迷子猫と邂逅出来るのかと心配したが、その不安気な表情ごとガシガシ撫でてやった菘は、聢と仔猫を発見(みつけ)られたし、仔猫も餘りの幼さ故に戒心を抱かなかった。
「ここに居たか、あられ!!」
 ――ズゥン。
 猫又神社に至る石段にふわふわの尻尾を見つけた菘が、威風堂々と立つ。
 よく通る佳聲に三角の耳をピンと立てた『あられ』は、首の鈴を鳴らして振り向くと、無警戒に前脚を進め、小さく柔らかな肉球で菘に触れた。

『にぃあ、にゃあ』
 あそぼ、あそぼ
 ずっと、いっしょ

 居心地の佳い此処なら、ずっと一緒に居られる――と無垢の眸は云ったろうか。
 刻下、無数の鳥居に霞が掛かるや、ひとつひとつが人影を模り、全ての者が菘に憧憬と称賛を集める――「理想の世界」へと變容を遂げた。
「成る程、此れが猫又たちの言っていた……あられの無意識か」
 所持するスマホは通知音が鳴りっ放し。
 全動画の再生回数、チャンネル登録者数、不動の第一位!
 指先一つ動かすにも注目され、言動全てに「イイネ!」が集まる人気者!
 特に、光と降り注ぐ笑顔と歓声が心地好かろう。嘗ては見る者を噤ませた菘の形姿は、この世界ではアイコン(象徴)と親しまれる。
「はっはっは、降り注ぐ喝采、皆の笑顔! 妾を受容れてくれる実に優しい世界だ!」
 嗚呼、實に優しい――易しい!
 くつくつと艶笑った菘は、然し認める訳には往かぬと両手を広げ、
「……悪いが、其は血と汗と涙とか、その辺のものを流しつつ妾が地道に掴み取ってきたものでのう。決して楽に、与えられてきたものではない! これからもそうだ!」
 易く獲得したものでは無い。
 故に易くは受け取らない――。
 宛然(まるで)訣別する様に距離を置いた菘は、紅脣に「無粋を許せよ」と拒断るや、右の繊手を天に掲げた!
「さあ鳴り響け、ファンファーレ!」
 彈指を合図に響き渡るは、【見よ、この人だ】(エッケ・ホモ)――。
 勇壮なるファンファーレは蒼穹に高らかに透徹(すみわた)り、一帯に満つ偽りの歓声を翳ませるや、耀ける光に虚像を灼いて霧散させる。
 熾々と燃ゆる炎は、中央に立つ菘のカリスマを際立たせよう、
「骸魂とやらのみを燃やし尽くすがよい! ああ、序に妾にも喝を入れておこうか!」
 無論、擾乱の反動など歯牙にも掛けぬ。
 丫(ふたまた)の舌を出して小気味佳く嗤笑った凄艶は、自身に釘付けになる骸魂に滾る程の焦熱を浴びせ続けた。

『にぃあ?』
 ここにいないの
 どうして、どうして

 無垢なる仔猫に痛撃は無く、その純真は何も知らずに菘を瞶める。
 その内に秘める骸魂が情動に揺り動かされて外界に暴かれるのを見た菘は、漆黒に塗り込めた爪に己を示して、
「せめて本気で、妾と差し違える渾身の覚悟でブチ込んでくるなら話は違うが――」
 唯だの虚像に翻弄される珠(たま)では無い。
 心を見透かされて狼狽える珠ではない、と美しく妖しく睨めて見せる。
 漸う骸魂の妖氣が削られ、周囲が元の景色を取り戻す中、菘は胸に繊手を宛てて、
(「強者とバトり続けて、精神攻撃に結構耐えられるようになってきたものね、私も」)
 ――と、咽喉を衝く皮肉を噛み殺した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リダン・ムグルエギ
えぇ、えぇ
任せて猫又さん
あられちゃんを攻撃せず弱らせて
骸魂を取り出せるよう努力するわ
だから、ちょっと協力してほしいな、なんて
(スマホを手に

事前に猫又さん達に協力してもらい
「猫がくたくたに疲れるまで甘やかしまくる猫動画」という作品を撮影するわ

後は、動画をエンドレス再生するスマホを手に
アタシではなく手のスマホに注目を集めるような催眠模様を施した地味な服を着て
1章の猫餌や動画撮影に使った玩具類を持ってくわ

お、あられちゃん見っけ
それじゃおやすみー

猫があられちゃんだけの状態で
「生前の姿で蘇生された死者」の間で
空前の「猫甘やかしブーム」が起きればどうなるか
ふふ、疲れ果てるまで楽しんでいってね、あられちゃん



『おさかなしっぽの猟兵さん、あられはまだ仔猫なんでヤンスよ……!』
『どうか同じしっぽ仲間って事で、あられを許してやってつかぁさい……!』
 うるうると懇願の瞳を注がれ、わらわらと尻尾に群がられ。
 どうかどうかとブルゾンの裾を引かれたリダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)は、「えぇ、えぇ」と猫又達を宥めるように両手に広げた。
 スッと整った鼻梁に続く櫻脣は、ここに慥かな聲を置いて、
「任せて猫又さん。あられちゃんを傷付けず、骸魂を取り出せるよう努力するわ」
『おさかなしっぽの猟兵さん……ありがてぇ……!!』
「だから、ちょっと協力してほしいな、なんて」
『? 協力??』
『アッシらが??』
「えぇ、そう」
 今度はキョトンと瞳を揃えた猫又達に、こっくりと首肯いたリダンは、高機能移動端末『万魔電』なるスマホを取り出すと、塊麗の微笑を湛えた。

  †

 斯くして猫又神社の千本鳥居を潜ったリダンは、冷ややかな石段で香箱座りをする仔猫を発見すると、首に結わえた赤い紐と小梅を飾る鈴に、先ずは安堵の表情を浮かべた。
「お、あられちゃん見っけ」
『にぃあ?』
 くりくりと耀く無垢の瞳で瞶めてくる仔猫に、玲瓏の彩を結ぶ。
 事前に猫又達から『あられ』が死者の魂魄を呼び寄せる事を忠告として受け取っていた佳人は、その流れは先取りしても佳いと、堂々、鳥居に凭れて瞼を落とし、
「それじゃおやすみー」
 寸毫も躊躇わず、寝た。
『にゃあ?』
 これには仔猫も不思議そうに首を傾げたが、内に潜む骸魂はどんどん死者の魂を生前の姿で蘇生し、朱門に囲われる空間を睡魔の漂う妖氣に満たしていく。
 彼等は生気を醸すリダンに襲い掛かるか――否。
 形姿を得た魂魄は、地味な服を纏うリダンを見るや、そこに描かれた催眠模様によって別なる対象――彼女の繊手に握られたスマホに視線を集め、来た当初よりエンドレス再生される動画に惹き付けられる。
 其は「猫がくたくたに疲れるまで甘やかしまくる猫動画」なるタイトルが付され、

 ♪――
 嗚呼、今や空前の「猫甘やかしブーム」!!
 トレンドが気になる貴方は勿論、誰だってお猫さんを甘やかしたくなーる!!
 ウホーイ、我らは「猫をとことん甘やかし隊!!」

 ♪――
『にゃんにゃん、ごろごろ。にゃん、ごろり』
『ちゅるちゅるウマーでヤンス……にゃん!』
『ねこまたまっしぐらでヤン――』
「はい、もっと可愛くねー」
『……にゃおーん!!』

『……。…………。…………嗚呼、お猫さんをここぞと甘やかしたい!!』
 其は狂熱の勃興――。
 ブームを仕掛ける【トレンドメーカー・GOATia】は、一人のツボに嵌るデザインも、万人に流行るデザインも、生前だろうと死後だろうと自由自在。
 リダンは甦った死者の間に「猫をたっぷり甘やかしたいムーブメント」を巻き起こし、而してその願望を叶える猫用の餌や玩具類を取り揃えたなら、彼等は競って其等を使い、猫を――『あられ』をとことん甘やかし始めた!!

『にぃあ、にゃあ』
 たくさんあそぼ
 いっぱいあそぼ

「ふふ、疲れ果てるまで楽しんでいってね、あられちゃん」
 寝息を滑らせる佳脣はすこうし艶笑ったか――リダンは夢寐に在りながら、遊び疲れた仔猫が丸まる未来が視えたろう。

『にぃあ、にゃあ』
 あそぼ、あそぼ
 でも、もうおねむ

 たっぷり遊んだ幼な仔猫は、倖せいっぱいの夢裡(ゆめ)に包まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
……っ、この、眠気……は……
だめ……耐えられ、ない……
たすけ、て……おじい、ちゃん……!
(意識を手放しつつ、半ば無意識に【助けておじいちゃん!】発動。以下おじいちゃんのターン)

儂を呼んだか、ひかる
(眠りに墜ちるひかるを支え、抱き上げつつ)
折角黄泉還ったというのに、言葉を交わせぬのは口惜しいが……仕方あるまい

ひかるを負ぶったままあられを追う
追いついたなら丁寧に首根っこ摘まんで捕まえ、寝ているひかる共々膝に乗せて撫でてやる
儂はこ奴の本物の主ではないが、何かの慰めくらいにはなろう
そして目の前で消え去ることで『別れ』という区切りを演じよう

お主は半人前だが、立派な猫又よ
過去に囚われず、未来へ行くが良い



 猫又神社の千本鳥居に、颯然の風が通り抜ける。
 月白の艶髪に光を彈いて駆けて来た荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、りん、と鈴を鳴らして振り向く眞白の仔猫の色艶に、先ずは安堵の微咲(えみ)を浮かべた。
「ああ、元気で良かった……」
 お腹を空かせた風でも無し、食べ過ぎて苦しそうな気配も無い。
 仔猫との間にほっと吐息を置いた少女は、無警戒な前脚がトコトコと近付き、純真なる瞳がピカピカと耀いて己の瞳を覗き込む――その愛らしさに身を屈めた。
「? 何か言いたい事が……」
 この時。
 コトリと首を傾げた『あられ』が、無自覚に死者の魂を呼ぶ。

『にぃあ、にゃあ』
 あげる、あげる
 いのちをあげる

 いのちとは何であるか、幼な仔猫は理解っても居るまい。
 蓋し『あられ』は内に潜む骸魂がそうする儘に――嘗て己が「そとの世界」で見た者の魂魄を召喚し、朱門に囲われた空間を霊氣に満たした。
「……っ、この、眠気……は……ッ、だめ……耐えられ、ない……!」
 須臾、ひかるがくらりと膝を付き、視界を揺らす。
 如何したのかと、精霊たちが親友の花車を揺り動かすが、彼等もトロンと瞼を落として次々その場で眠りに就く。
 意識が遠退く中、丹花の脣は潜在意識からその名を呼んで――、
「たすけ、て……おじい、ちゃん……!」
 【助けておじいちゃん!】(ヘルプミー・グランパ)――!!
 目に入れても痛くない、愛し孫に呼ばれたなら、おじいちゃんは何処からでも飛んで来よう。そう、何処からでも。

 ――儂を呼んだか、ひかる。

 くったりと倒れ往く繊麗の躯をガッチリ抱き上げた腕は筋骨隆々。
 孫の寝顔を見守る眼差しは穩やかながら、身長2.5m超の巨漢に荒谷流の神髄を窮めたおじいちゃんは、レベルMAXの魁偉にひかるを背負うと、カッと活眼した。

 ――折角黄泉還ったというのに、言葉を交わせぬのは口惜しいが……仕方あるまい。

 話したい事は山ほどある。
 何でも聽いてあげたいし、沢山遊んでやりたい。
 それでも孫が道の半ばで眠ったなら、代わってやるのがおじいちゃんの務め!!
 然して次の瞬間から、おじいちゃん(守護霊)のターンになった!!

 ――ひかるも仔猫と戯れたかったろう。
 ――だが然し!(くわっ)

 可愛い孫を負ぶった儘、小さな尻尾を、『あられ』を追う。
 蓋し丸太より丸太な、精強なる筋肉に覆われた脚力は一秒と掛からず仔猫に追いつき、無骨な指ながら丁寧に首根を抓んで持ち上げた。
『にぃあ?』
 一秒も掛からねば、何が起こったかも判明るまい。
 すっかりおじいちゃんに抱きかかえられた『あられ』は、スヤスヤと眠るひかる共々、膝(筋肉の枕)に乗せられ撫でられる。
 きゅ、と瞳を細める仔猫に、力強くも優しい聲は降り落ちて、

 ――儂はこ奴の本物の主ではないが、何かの慰めくらいにはなろう。
 ――主が伝えられなかったなら、『別れ』という区切りも演じよう。

「お主は半人前だが、立派な猫又よ。過去に囚われず、未来へ行くが良い」
『なぁお』
「うむ。佳い返事だ」
 雄々しく頬笑み、無垢なる金眸の前で慥かに消え去る。
 然れば『あられ』は、消えた影の余韻を追うように、じっと虚空を瞶め続けよう。
 仔猫は其を『別れ』と知れたろうか――隣にあるひかるの温もりが、小さな命の成長を見守るようだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
唯々主が恋しい、か
忘れる事の叶わぬ想いを裡に懐いた侭
既に亡い者を探し続けるのでは路に迷うも道理と云えよう

平穏な日常の景色は、何処迄も幸せに満ちたものだろう
此処へ帰りたいのだろうが、其の為にはお前は知らねばならん事が在る
何より先ずは――緋圏疾影……「世界」を焼け
迷い猫への攻撃は極力威力を落とし
其の作り上げられた世界だけを対象として焼くとしよう
ダメージは激痛耐性と覚悟で捻じ伏せ、行動に支障は及ばせない
……過去を振り返る時間は終わりだ
飲み込んだもの、総て吐き出すが良い

知らず仕出かした事を改めて自らの裡へと刻むのは苦しかろう
だが其の侭では主が何処に居るのか解るまい
――能く自分の裡をご覧、誰が居る?



 か細く震える鈴の音を辿り、無数の朱門を潜る。
 爽涼の風が抜ける石畳を直走った鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、軈て猫又神社に至る石段の途中に、ふうわりと眞白の尾を揺らす仔猫を発見(みつけ)た。
『――にぃあ?』
 幽かに馨る紫煙に主を重ねたか、リン、と鈴を鳴らして振り向く『あられ』。
 迎えに来てくれたのだと喜色を差した白猫は、無警戒に四ツ脚を蹴り、嵯泉の膝元へと擦り寄った。
『なぁお』
「――唯々主が戀しい、か」
 全き純真の瞳が細むのを見て、ほつり、呟く。
 蓋し赫緋の隻眼は、仔猫の無垢が犯した大事――鳥居の隙間から見える倒錯した光景も聢と捉えていて、
「忘れる事の叶わぬ想いを裡に懐いた侭、既に亡い者を探し続けるのでは路に迷うも道理と云えよう」
 宛如(まるで)仔猫の心象を投影(うつ)したかの様な世界に、小さく吐息した。

『にぃあ、にゃあ』
 そとにいきたいの
 いっしょにあそぼ

 朱の囲いが連なる風景が變わったのは、この時か。
 仔猫が甘えたように一鳴きした瞬間、鳥居を抜ける爽風が霞掛かり、景色は緑の広がる河川敷に――笑聲すら聽こえる陽だまりの風景となる。
 其が主人との思い出の場所とは、洞察に優れた嵯泉なら直ぐに判然ろう。
「平穏な日常の景色は、何処迄も幸せに満ちたものだろう」
 幼な仔猫だけではない。
 慎ましい日常、穩やかな過去、大切な人とは、幾許の時を経たとて忘れ難いものだと、長い睫毛を伏せた麗人は、然し嚴然と告ぐ。
「此処へ帰りたいのだろうが、其の為にはお前は知らねばならん事が在る」
『にゃあ?』
 ことり首を傾げる仔猫に玲瓏の彩を結んだ儘、超常の異能を披瀝(あば)く。
「何より先ずは――緋圏疾影……『世界』を焼け」
 凄艶のバリトンに紡がれるは、異能を灼き尽くす破滅の炎。
 仔猫が無意識に投影する景色は、内に潜む骸魂が悪しき様に操っているのだと見極めた嵯泉は、器たる『あられ』への攻撃は避け、作り上げられた世界だけを熾やした。

『にぃあ、にゃあ』
 いっしょにいようよ
 ずっと、ずっと

「……ッ……ッッ」
 仔猫の願いを振り解こうとすれば、全身に激痛が疾るが――構わない。
 過去の鎖を解き、未来へと歩き出す時に痛みが伴うなら、仔猫に代わって甘んじようと痛痒を捻じ伏せた嵯泉は、ぐにゃりと混ざる景色の中で、慥かな一歩を踏み出した。
 同時に伸びた無骨なる指は、蓋しそうっと仔猫に触れて、
「……過去を振り返る時間は終わりだ。飲み込んだもの、総て吐き出すが良い」
 首根を掴み、持ち上げる。
 而して小さな欠伸が零れ、骸魂が吐き出される。
 周囲の景色が元の千本鳥居に戻れば、男は霞の晴れた空間に囁(つつや)いて、
「知らず仕出かした事を改めて自らの裡へと刻むのは苦しかろう。――だが、其の侭では主が何処に居るのか解るまい」
 主を喰ろうた事も、「道」を喰ろうた事も。
 猫又としては幾分にも幼い『あられ』が咎を負うのは酷だと、嚴格な口調にも優しさを帯びた佳聲が、慈雨の如く降り落ちる。
 精悍なる片腕に抱かれた『あられ』は、それから逆手で胸を撫でられ、
「――能く自分の裡をご覧、誰が居る?」

『にゃあ、にゃあ』
 だいすきな
 たいせつな
 ごしゅじんさま!!

 斯くして咽喉を転がした時、大きな掌が褒めて呉れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘇摩・瞬華
あの子が、あられちゃん…だね。
さあ、一緒に帰ろう。あなたの行くべきところは、そっちじゃないから…

…って、姉様…!?
(※故郷で可愛がって貰ってた年長の仙狐)
だめ、だよ…!それが誰かのためでも、そんな風に命を捨てることなんて…!
…それに、そうしたって死んだ人は生き返らないんだから…

…何より、姉様は、わたしにそんなことを願ったりはしないんだから!
お願い、アオカグヒさま!悪い骸魂も偽者の姉様も、纏めて焼き尽くしちゃって!
(暴乱アオカグヒ発動、骸魂と姉様の幻を攻撃。あられ自身への被害回避のため攻撃は一回)

…大丈夫、あなたは独りじゃないから、ね…?



 か細い鈴の音を辿って、疾る、走る。
 数多の鳥居が並ぶ甃を颯然の風と駆け抜けた蘇摩・瞬華(蒼篝・f25151)は、猫又神社に至る石段の半ばに、ふわふわと揺れる二又の尻尾を見つけると、安堵の息を吐いた。
「あの子が、あられちゃん……だね」
 眞白の躰に蝶と結わいた赤い首輪。小梅を飾る可憐な鈴。
 見れば本当に小さく幼いと、仔猫の無事にほっと双頬を緩めた凄艶は、怖がらせぬよう優しく、穩やかに、囁(つつや)く様に言った。
「さあ、一緒に帰ろう。あなたの行くべきところは、そっちじゃないから……」
 先輩の猫又さん達も心配していた。
 彼等が仔猫の帰りを待っていると、柔らかな微咲(えみ)を湛えて語り掛けた瞬華は、三角の耳をピンと立てて聽く『あられ』の、純真なる金瞳に吸い込まれた。

『にぃあ、にゃあ』
 ちょうだい
 だいじなもの
 いのち

 いのちとは何であるか、幼な仔猫は理解っても居るまい。
 蓋し『あられ』は内に潜む骸魂がそうする儘に――無垢の金瞳に映した瞬華の記憶から「大事な人」を投影し、彼女の命を奪うよう差し向けた。
「……っっ、姉様……!?」
 須臾、玲瓏の彩が戸惑いに搖れる。
 佳人の虹彩に映るは、故郷で己を可愛がってくれた年長の仙狐――美し髪の煌めきも、妖し瞳の輝きも、ようく親しんだ故に鮮明に憶えている。

 ――あなたのいのちをちょうだい。
 ――ごしゅじんさまにあげるの。

 骸魂が仙狐の脣を借りて、彼女の声色で云う。
 瞬華は彼女が繰り出す炎を躱しながら反駁して、
「だめ、だよ……! それが誰かのためでも、そんな風に命を捨てるなんて……!」
 命を捨てたり、あげたり、鹵掠(うば)ったり。
 そんな事は出来ないのだと、冱銀の瞳が煌々と輝いて訴える。
 尚も炎が放たれれば、瞬華は鳥居の陰を渡りながら焦熱の軌道を遁れて、
「……それに、そうしたって死んだ人は生き返らないんだから……」
 いのちは、その人だけのもの。
 死は變えられない、命は替えられないと語気を強めた可憐は、吃ッと仙狐を――いや、己が記憶に紡がれた「虚像」を睨めて、超常の異能を披瀝(あば)いた。
「……何より、姉様は、わたしにそんなことを願ったりはしないんだから!」
 ふうわり銀の光を彈く尻尾を一振りする。
 然れば尻尾の先に煌々と熾ゆる蒼き炎が、烈(めら)と揺れた。
「お願い、アオカグヒさま! 悪い骸魂も偽者の姉様も、焼き尽くしちゃって!」
 発露、【暴乱アオカグヒ】――!!
 瞬華の尻尾から分離されたアオカグヒは、不定形の形ある炎――スライムの如き形姿を成して燃え盛り、むくむく大きな焔玉に膨らむと、骸魂の邪氣を灼いた。

 ――しゅんか……しゅんか。

 彼女の佳聲で名前を呼ぶのも、嘘、偽り。
 努めて冷靜に、姉様と呼び親しんだ者の「虚像」を灼き払った瞬華は、花瓣と舞い散る炎の向こうで、キョトンと首を傾げる『あられ』に近寄り、手を伸ばす。
「……大丈夫、あなたは独りじゃないから、ね……?」
 あなたには帰る場所がある。
 そう心を籠めて囁いた瞬華は、その小さな命を包み込むように抱き寄せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
漸っと見つけたな、迷い猫
…然し、鳴くばかりでは
何を云っているのかさっぱり分らぬ
読心術…若しくは猫と会話出来るか試すべきか
――恐れていては、誰も救えぬ
一歩、踏み出して

猫が見せる、灰色の煌き
小さな、然れど瓜二つのかんばせを持つ童
その姿を見る度に心がざわつく
嘔気を堪え、猫を見詰める
…お前には、私が斯様に寂しげに見えるか?
――答えは否だ

手に握り、魔力を溜めていた宝石を手放す
決して傷つける訳でなく
目眩まし――骸魂を引き剥がす為の光魔術を発動
姿を現すが良い、邪なる魂め
幼き猫より全てを奪った貴様に
慈悲を与える程寛容ではない
その所業、永劫の責め苦を与えて猶足りぬ

疾く邪魔な骸魂を吐き出せ
――そして帰るぞ、あられ



 か細い小鈴の音に結ばれ、千本鳥居を潜ったアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、猫又神社に至る石段の半ばに搖れる二又の尻尾に吐息を零した。
「漸っと見つけたな、迷い猫」
『にぃあ?』
 眞白の躰に赤い首紐、小梅を戴く可憐な鈴。
 佳聲に振り向く無垢のアーモンドアイも、無警戒に近付く好奇心も。餘に幼稚いと微咲(えみ)を湛えた佳人は、玲瓏の彩を結んで言ちた。
「仔猫ながら随分と冒険家よな」
『なぁお』
 凪の如く夷(なだら)かな聲が心地好いか、三角の耳をピンと立てる『あられ』。
 全き純真は『にぃにぃ』と鳴いて擦り寄り、薔薇色輝石の指先をペロリと嘗める。
 その擽ったさを受け取ったアルバは、幾許か苦笑して、
「……然し、鳴くばかりでは何を云っているのか皆目(さっぱり)解らぬ」
 会話が叶うか試すべきか。
 言が操れぬなら心に呼び掛けるべきか。
 スゥ、と呼吸を置いた麗人は、端整の脣をすこうし開いて、靜かに囁いた。

 ――恐れていては、誰も救えぬ
   一歩、踏み出して

『にぃあ、にゃあ』
 だって、こわい
 たいせつなひと
 いないんだもの

 アルバの聲に瞳の色を搖らした仔猫が、須臾、灰色の煌きを揺蕩わせる。
 其は、其は。
 小さな――然れど瓜二つのかんばせを持つ童。
「……これは」
 ヒリ、と悴む繊指を包み、閊える胸に押し当てる。
 アルバは至極冷靜で、仔猫は内に潜む骸魂がそうする儘に己が記憶から虚像を生み出しているのだと理解しているが、その姿を見る度に心はさざめき、ざわつく――。
「……お前には、私が斯様に寂しげに見えるか?」
 辛くも嘔気を堪え、込み上がる感情を嚥み下したアルバは、熾々と燃える星の瞳に仔猫を見詰めた。
「――答えは否だ」
 決然と、嚴然と訣別を置く。
 芙蓉の顔(かんばせ)に凄味を増した熟達の魔術師は、手に握り込めていた魔術の触媒『寵愛』を手放すと、其に秘められたる赫耀燦爛を解き放った。
「姿を顕現(あらわ)すが良い、邪なる魂め」
 覚醒、【妖精の戯れ】(グット・フェローズ)――。
 美しテノールに誘われた妖精は、目晦ましの光を放ち、幼な仔猫の無垢に隠れる悪しき骸魂を暴いて引き剥がす――!
「幼き猫より全てを奪った貴様に慈悲を與える程――私が寛容と思うか」
 己が精彩を白ませるほど眩く耀いたアルバは怜悧冷徹。
 佳脣は凛乎と言を滑らせ、
「その所業、永劫の責め苦を衝(あた)えて猶足りぬ」
 ――と、影も残らぬ程に灼き切った。

『なぁご、にゃん』

 何をしたのか、何が起きたのか。
 躯に潜む骸魂を知らなかった仔猫は、その消滅にも気付かず、ことりと首を傾げる。
 キョトンとした瞳で瞶められたアルバは、變わらぬ無垢にひとつ嘆息を置いて、

「――帰るぞ、あられ」

 猫又たちが心配している、と雪白の繊手を差し伸べた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
ひとり密か、かぶり振って
複雑な心地で迷子を見る

見た目によらぬ大食らいであるな、お前は
捕らえようと触れたさき
不完全な記憶から出でた
曖昧な影が手を振る
穏やかな木洩れ日、傍らで笑う師の姿
喪った者、故に出逢った者

…有り得ぬ光景だ
惑わされぬよう目を逸らし
あられ、と言ったか
俺は、お前と同じ失敗を犯した
いつか罰を受けような

そうか、何も分からぬか
会いたいか、主に
優しい、良き主だったのだろうな

何時か己のしでかした事を知れば
この猫も悔やみ苦しむのだろうか
然れど、してやれる事は何もなく
ただ己がそうして貰ったのと同じ様に
そうと狭い額を撫でてやるだけ
…喰ろうた分だけ
お前も、しかと生きよ

疾く骸魂を追い出すべく【想葬】を



 眞白の躯に、二又のふわふわ尻尾。
 蝶結びにした赤い紐に、小梅を飾る鈴。
 満月の如き金瞳で瞶めてくるこの者こそ、猫又たちが心配していた迷い猫と足を留めたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、独り、密かにかぶりを振った。
『にぃあ?』
 ことりと首を傾げ、己が眸の七彩を覗き込む仔猫を複雑な心境で見る。
 無垢が背負う鳥居の間からは、未だ倒錯した世界が広がっており――愛する主と「道」を喰ろうた純真のアンバランスが無暗(やけ)に瞳に迫った。
「見た目によらぬ大食らいであるな、お前は」
『にゃあ』
 幾許の沈黙が竜人と仔猫の時を埋める。
 とまれ、これ以上の健啖はと仔猫に繊手を伸ばしたジャハルは、全き同じタイミングで伸びた前脚の、柔らかな肉球に触れ――深淵に揺蕩う記憶の欠片を汲み上げられた。

『にぃあ、にゃあ』
 たいせつなところ
 ずっと、いたいの

「これは……――」
 曖昧な影が手を振る。
 穏やかな木洩れ日、傍らで笑う師の姿。
 喪った者、故に出逢った者――。

「……有り得ぬ光景だ」
 喫驚に虹彩を揺らしたジャハルが、薄く開いた佳脣から「否」を滑らせる。
 惑乱されぬよう目を逸らし、一瞬、硬質の掌で瞼すら覆った彼は、鼻梁の映える横顔を見せた儘、ほつりと言ちた。
「あられ、と言ったか。俺は、お前と同じ失敗を犯した」
 失敗(つみ)を犯した、と――。
 餘に美しい光景に瞬きをひとつ。
 何知らぬ仔猫が足許に擦り寄れば、ジャハルは腰を落として目線を同じくし、
「いつか罰を受けような」
 と、無垢なる金眸に玲瓏の彩を結んだ。

『にぃあ、にゃあ』

 蓋し仔猫は罪を知らねば罰も知らぬ。
 にぃにぃと可愛らしい聲が耳を擽れば、ジャハルは小さく吐息して、
「――そうか、何も分からぬか」
『なぁご』
「会いたいか、主に」
 優しい、良き主だったのだろうと――鳥居の間より覗く碧落を暫し仰ぐ。

『にゃあん』

 何時か己のしでかした事を知れば、この猫も悔やみ苦しむのだろうか。
 好奇心の赴く儘に石段を登っては鳥居を引掻く仔猫に、己は何をか為て遣れよう。
「過去は變わらない。罪を失くす事は叶わない」
 然れども。
 嘗て己がそうして貰ったのと同じ様にしてやることなら――。
 夜色に瞑る指を伸ばしたジャハルは、仔猫の狭い額をそうと撫でた。
「……喰ろうた分だけ、お前も、しかと生きよ」
 発露、【想葬】――。
 掌に籠められるは、かたち無き手向け。
 麗人に紡がれた闇は、仔猫の内に隠れる骸魂を探り、その悪しき能力を靜かに葬る。
 器たる『あられ』には何の作用もせず、唯だ仔猫は擽ったそうに、にゃ、と鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【渡鳥】アドリブ◎

心配すンな(猫又達へ
傷つけるコトはしねェ
約束する

千夜子はどう思う
全部教えてヤるのが優しさか
知らずに還すが倖せか
俺なら…どんな結末でも訊きたいと願うケド

こころとは
何時だって理解が難しい
人の器を得てまァ長いが未だに慣れねェわ

緩く首振り
千夜子へ目配せ
あられと距離取る

その力は死者への冒涜
悪さしてンのは骸魂と解ってはいるが…
許せねェな

魂の形もまた懐かしい(…造主
銀の長髪の男が微かに笑む様で
己でない己がざわめく

恫喝・威厳で敵意抱かせ【聖獣の呼応】使用
破魔の朱羽根だけ受取り朱の鳥は待機
花嵐の中あられへ近付き捕獲
骸魂を吐き出させる
羽根で浄化
赤い紐と鈴は回収する

戦闘後、お墓作り鈴や花などを置く


薄荷・千夜子
【渡鳥】
あられさん、お迎えに行かなきゃですね
クロウさんと猫又さんたちとの約束に頷いて
真実を話すべきか、あの子に悲しんで欲しくはなく
せめて、少しでもあの子の力になれればいいのですが

【結界術】を自身とクロウさんを守るように展開して眠り対策を
あられさん、このままではご主人様も探しに行けませんよ
すぐに会うことはできませんが、貴方がまた会いたいと願っていればきっと、もう一度巡り合えますよ
UCを使用して『神楽鈴蘭』を鳴らして鈴蘭の花嵐を
鈴蘭の花言葉は再び幸せが訪れる
あられさんのご主人様の魂が巡りもう一度出会えますように【祈り】ながら
【破魔】【浄化】【除霊】の力を鈴蘭の花弁に乗せ骸魂のみ攻撃しましょう



 どうか、どうかと懇願の瞳を揃える猫又たちの頭をぐりぐりと撫でる。
 大きな掌で彼等の不安ごと宥めてやった杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、燿う烱眼を無数の朱門に注ぎ、決然と云った。
「心配すンな、悪い様にはしねェ。約束する」
 幼な仔猫を傷付けるコトは為ない。
 その科白に慥かな首肯を添えた薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)も想いは同じで――無事に連れ帰ると誓った二人は、多くの猫又達に送られて千本鳥居に向かった。
 而して、間もなく。
 颯然と甃を翔けた二筋の爽風は、聢と小鈴の音色を捉えたろう。
 猫又神社に至る石段の半ばに、ふわふわ揺れる眞白の尻尾を発見(みつ)けた二人は、その餘に幼い姿と、鳥居の隙間より見える倒錯の景色にアンバランスを視た。
「千夜子はどう思う」
「あられさんに真実を話すべきか……」
 ふわり鼻腔を擽る初めての匂いに、りん、と鈴を鳴らして振り向く『あられ』。
 無垢のアーモンドアイが瞶める中、二人は仔猫に玲瓏の彩を結んだ儘、言を交して、
「全部教えてヤるのが優しさか。果して知らずに還すが倖せか。俺なら……どんな結末でも訊きたいと願うケド」
「……クロウさんは、強いから」
 忘れ難い事実を「過去」と受け止める事も、己が犯した罪を知る事も。
 心が強くなくては飲み込まれてしまう、と芙蓉の顔(かんばせ)を翳らせた千夜子は、仔猫のくりくりとした金瞳の純然を愛しむ様に言った。
「……せめて、少しでもあの子の力になれればいいのですが」
 悲しんで欲しくない――。
 然して凛乎と花顔を持ち上げた可憐は、キョトンと首を傾げた『あられ』の周囲に立ち込める霞が、漸う人影を模る――超常の異様を麗瞳に射た。

『にぃあ、にゃあ』
 あげる、あげる
 いのちをあげる

 いのちとは何であるか、幼な仔猫は理解っても居るまい。
 蓋し『あられ』は内に潜む骸魂がそうする儘に――死者の魂を生前の姿で甦生召喚し、千本鳥居を冷たい妖氣に満たした。
 其が急激に眠気を齎す夢魔と気付いた千夜子は、素早く爪先を彈いて先行し、
「催眠対策は任せてください」
「ああ、頼りにしてる」
 須臾に預る全幅の信頼を力と變え、錫杖型の神楽鈴『神楽鈴蘭』を鳴らした。
「あられさん、このままではご主人様も探しに行けませんよ」
 絢爛繚乱、【操花術式:花神鈴嵐】――!!
 清澄の音色を振わせた神楽鈴は、刻下、破魔の力の宿れる鈴蘭の瓣へと姿を解く。
 純白なる花色は閃々と、浄化の霊気を帯びて美しく咲き乱れ、影を成した死者の魂魄を悉く取り除かんとする。
「大切な人にすぐに会う事はできませんが、貴方がまた会いたいと願っていれば、きっと……もう一度、巡り合えますよ」
 あなたの想いが、きっと結ばれますように。
 愛しご主人様の魂が巡り、もう一度出会えますように。
 千夜子が舞わせた鈴蘭には、彼女の願いと祈りも籠められていたろう。
 鈴蘭の花言葉は、「再び幸せが訪れる」――爽然と広がる花馨も馥郁と、漂流う清涼が魂を鎮め、且つ眠気を払わせた。

「――綺麗なモンだな」
 花を操る麗容に、ほつり、嘆美を溢す。
 斯くして揺り動かされる心は、形を持たぬ故に繊細で――これが中々厄介だとは、受肉したクロウだからこそ零れる皮肉か。
「こころは何時だって理解が難しい。人の器を得てまァ長いが、未だに慣れねェわ」
 目瞬きをひとつして、緩く頭首(かぶり)を振る。
 含みある一瞥を交して距離を置いていた彼は、鈴蘭の葩に千切られて靉靆(たなび)く妖氣を烱眼に射ると、微笑を退けた佳脣に鋭利い低音を滑らせた。
「その力は死者への冒涜。悪さしてンのは骸魂と解ってはいるが……許せねェな」
 目下。
 美し夕赤と青浅葱の瞳に映る魂の形、……造主の姿にさざめく。
 燦然と銀を彈く長髪の男が、微かに笑む様で――己でない己がざわめく。
「また懐かしい」
 蓋し懐旧に留まる程、人の情に馴染んだ憶えは無いと訣別を置いた佳人は、短い言と、それ以上に語る瞳の色を以て敵意を煽った。
「酔狂も醒めるぜ」
『…………――』
 ぬらり、妖氣が蠢けば、クロウは【聖獣の呼応】(アケノトリ・コタエタリ)――迸る霊力に朱(あけ)の鳥を喚び、
「朱(あけ)の鳥の加護を受けし我が命ず。閉ざされし杜より集いし霊力(ちから)にてカタチを得よ。遠つ神恵み給え――我が敵を切り裂かん」
 雄々しく羽搏く朱の鳥は待機させ、朱色の羽根だけを受け取る。
 破魔の力を宿す、刃の様に鋭利い朱色の羽根は、千夜子が操る花嵐の中を颯爽と翔けて『あられ』を射止め、その内に潜む骸魂を捉えた。
「随分と居心地が良さそうだが、出てって貰おうか」
「先程の猫又さん達みたいに、吐き出させます」
 仔猫が時を止めた瞬間、より近くに居た千夜子が間を置かず繊手を伸ばし、首根っこを捕まえる。
 そうっと持ち上げて抱えてやれば、仔猫は小さく小さく欠伸をして、
『……けぷ』
 ぽかりと浮かぶ骸魂を浄化すれば――『あられ』は幼な猫又に戻った。
 何か起こったのか、相變わらずキョトンとした金瞳で見詰めてくる仔猫に、二人は安堵の息を溢して、
「あられさん、私達お迎えに来たんです」
「猫又の先輩が帰りを待ってる」
『……にぃあ?』
 彼等との約束は果たせそうだと、小気味佳い艶笑(えみ)を結んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メリル・スプリング
メア(f12458)と

あられは、迷子のねこさんなのですね
はいなのです、メア
さびしんぼのあられを、たすけるのです

はわ、ひよきんぐさん、のっていいのですか……?
(瞳をキラキラ見上げて)
すごいのです、ふかふかなのです
ねこさんに負けないふかふかなのです……!

ひよきんぐさん、すずなのです、すずの音をおうのです

あられ、いたのです……!
んん、しんだ人に会えるですか?
でもメリル、なにもおぼえてないからしんじゃった人も知らないのです……
だからメリル、そんなたましいいりません!

ぎゅっとメアの手を握り

メリルには、メアもアレキサンダーもいるから、だいじょぶなのです!
アレキサンダー、あられをたすけてくださいなのです!


メーアルーナ・レトラント
メリルちゃん(f25271)と

ねこさん、あられちゃんを…お助けしにいくのです!
メリルちゃん、ここに一緒にのるとよいのですよ(と、自分の前を叩き)
あられちゃんのところへいくのですっ

千本鳥居の中をひよきんぐしゃんに乗って
むむ、道は一本なのですが、これはこれでまよいそう
なるほど! メリルちゃんの言う通り、すずの音を追いかけるのです!

進んでいけば――あられちゃん!
メアの命はあげれないのです
目の前にだいすきなひとのすがたが現れても、それはかわらないのです
メアのだいすきなあのひとは、そゆこといわないのです!
だからにせもの

ひよきんぐしゃんもメリルちゃんも一緒にいるのです(手を握り返り)
メアはまけません!



 言葉を取り戻した事に口々に感謝を述べた猫又達は、『あられ』なる名を聽いた途端、心配そうに声色を落とした。
『アイツはよう、幼な過ぎて自分が迷子になったのも理解ってねぇんでヤンス……』
「まだほんのちっちゃなこねこさんなのですね」
 ふむふむ、と美し花顔に神妙の色を挿して聽くメリル・スプリング(アリス適合者のプリンセス・f25271)。
 傍らで似た様な表情を揃えたメーアルーナ・レトラント(ゆうびんやさん・f12458)はすこうし佳聲を翳らせて、
「いまごろ、ひとりぼっちで……」
 お腹を空かせてないかしら。
 寂しくて鳴いてないかしら。
 雪白の頬に繊手を添えて少女達が心配すれば、彼女等に救われた猫又達は、どうか仔猫も助けてやって欲しいと、懇願の瞳を注ぐ。
『あっし等はアイツがやっちまった事を咎めはしねェ』
『唯だ無事に、帰って来て欲しいんでヤンスよ……』
 罪知らぬ無垢に與える罰も無かろう。
 彼等は猫又の先輩として、『あられ』を迎え入れてやりたいのだと瞳に訴えれば、麗し二輪の花は此処にきりりと凛然を萌した。
「ねこさん、あられちゃんを……お助けしにいくのです!」
「はいなのです。さびしんぼのあられを、おむかえにいくのです」
 メアは猫又さん達の想いを届けるゆうびんやさん。
 メリルは迷子猫の居場所を探すたんていさん。
 聢と任務を遂行しますと、玲瓏の彩を結んだ二人は、多くの猫又達が見守る中で準備を整えた。
 メーアルーナは【ひよひよ大行進】(メアノオトモダチ)――無数のひよこを合体したひよこキングに騎乗するや、己の前をほむほむと叩き、
「メリルちゃん、ここに一緒にのるとよいのですよ」
「はわ、ひよきんぐさん、のっていいのですか……?」
 何と、僥倖極まれり。
 促されたメリルは、幽邃の湖水の如き翠瞳をキラキラ輝かせると、うんしょと背伸びをして乗り込む。
「すごいのです、ふかふかなのです! ねこさんに負けないふかふかなのです……!」
「ひよひよ~」
 そうだろう、そうだろうと、撫でられる儘に誇らしく胸を張るひよこの王。
 王は可憐な姫君が聲を発するに合わせて爪先を蹴り、
「あられちゃんのところへいくのですっ」
「ひよー!」
 颯然たる一陣の風となって千本鳥居に向かった。

  †

 無数の朱門が立ち並ぶ甃を、ひよこが駆け抜ける。
 爽涼の風に靡くツインテールに虹色の光を彈いたメーアルーナは、同じ景色の繰り返しに櫻脣を引き結んで、
「むむ、道は一本なのですが、これはこれでまよいそう……」
 躊躇うか――否。
 こんな時でも二人なら、メリルが居てくれるから、道は開ける。
 前方に坐すプリンセスは、その聡い耳にか細い鈴の音を拾って、
「ひよきんぐさん、すずなのです、すずの音をおうのです」
「なるほど! メリルちゃんの言う通り、すずの音を追いかけるのです!」
 仔猫が呼んでいる、と耀きを増した麗瞳が行く先を凛乎と射る。
 斯くして速度を増した二人は、軈て猫又神社に至る石段の半ばに、ふわ、ふわと揺れる二又の尻尾を発見(みつ)けたろう。
「あれは――あられちゃん!」
「あられ、いたのです……!」
 眞白の躰に際立つ赤い首紐。小梅を頂く華奢な鈴。
 玉を転がす様な二人の佳聲に振り向いた迷子猫『あられ』は、無垢なるアーモンドアイをくりくりと、満月の様な黄金色に「影」を燻らせた。

『にぃあ、にゃあ』
 だぁれ、おともだち?
 いのちをあげる
 だから
 いのちをちょうだい

 幼な仔猫は、いのちの何たるかも理解ってはいまい。
 然し『あられ』は己が内に潜む骸魂がそうする儘に――死者の魂を甦生し、千本鳥居の一帯を冷ややかな妖氣に満たした。
「――んん、しんだ人に会えるですか?」
 先ずは前方に据わるメリルが死者の群れを視るが、アリスと覚醒する時に記憶を失った少女は、己に縁ある者が死者として模られても判然らない。
 小さく頭首(かぶり)を振り、「知らない」とふわふわのプラチナブロンドを揺らした可憐は、幼くも決然と断って、
「メリル、そんなたましいいりません!」
 欲しくないと拒む勢いで、ぎゅっとメーアルーナの繊手を握る。
 然ればメーアルーナもまたぎゅうっと握り返して温もりを反芻し、勇気を得た様に断然(きっぱり)と言った。
「ひよきんぐしゃんもメリルちゃんも一緒にいるのです。メアもいらないのです!」
 いのちはあげないし、欲しくもない。
「目の前にだいすきなひとのすがたが現れても、それはかわらないのです」
 仮令(たとえ)骸魂が愛する者の脣を使って「命を呉れ」と言ったとしても――己の傍に温もりがある限り、心は脅かされない!
 而してメーアルーナは、眼前に紡がれる人影が虚像であるとも理解っていて、
「メアのだいすきなあのひとは、そゆこといわないのです!」
 偽りの魂に訣別を置いた双眸は清冽と、メリルの【My Best Friend】(タイセツナオトモダチ)――アレキサンダーがトコトコと動き出すのを見守った。
 少女の櫻脣を滑る佳聲も頼もしかろう、
「メリルには、メアもアレキサンダーもいるから、だいじょぶなのです!」
 どちらも大切なお友達、と愛しみを注がれたアレキサンダーがスッと妖氣を潜る。
 まあるいお耳は、少女の『お願い』を聽いて、甃を歩き――、
「アレキサンダー、あられをたすけてくださいなのです!」
 果してコクンと首肯いたか。
 靉靆たる霞の中で『あられ』に辿り着いたアレキサンダーは、その柔らかな手で首根を持ち上げると、そうっと持ち上げて骸魂を吐かせた。

『…………けぷ』

「あられ……ぺっしたのです……?」
「あられちゃん……いいこなのです……!」
 仔猫の器を離れた骸魂が霞と消えれば、もう大丈夫。
 可憐なる二輪の花はほうっと安堵の息を吐くと、花顔にふうわり微笑を咲かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【桜一華】

迷子の白猫は、何処かしら
千本の鳥居をひとつ、ふたつ、みっつ
指折り数えることに飽いても歩みは止めず

しゃらんと鳴る鈴音
ゆうらりと揺れる白
ねえみて、サヨさん
彼処、と指し示す場所にはふたつの白

みいつけた

嗚呼、とてもあいらしい子ね
こがねの眸に吸い込まれてしまいそう

ぱちり瞬けばあたたかで
ぬくもりに満ちた世界が広がる
あわい花咲く場所
大切なひとたちがわらっている

まあ、此処は
わたしの理想、かしらね

ステキな光景をありがとう
この景色は、わたしの手で描いてみせるわ
ずうと此処には居られない
かえる場所が、かえりたい場所があるから

あかい花嵐で世界を攫う
あなたをかえる場所へと送りましょう

サヨさん、ご一緒願えるかしら


誘名・櫻宵
【桜一華】

迷子の子猫ちゃんは何処かしら
迷い子探して鳥居を潜る
指折り数える娘に笑んで、歌うように数えを重ねる
猫探しも楽しいものね

あられのかくれんぼも上手いわね
七結の声に振り向けば、あらほんと
歌う鈴音に白の尾が二つ

みぃつけた

なんて愛らしい!
円な瞳に白い毛並みが綺麗ね
ふうわり微笑み瞬けば
淡い桜の元に微笑む愛しいひとたちの姿
軋轢も苦悩も、立ちはだかる苦しみもない
誰も欠けない春の宴

夢幻のあたたかさに小さくわらう
叶わぬものこそ追いたくなるもの
けど私にも帰る場所があるの
帰りたい場所があるのは、幸福なことね

薄紅桜を吹雪かせ世界を奪う
あなたの居るべき場所はここではないわ

ええ行きましょう
七結
共にあの子をおくらねば



 千本鳥居の冷ややかな甃に優婉の跫が響く。
 爽涼の風が吹き抜ける空間に佳聲が透み徹る。
「迷子の白猫は、何処かしら」
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は整然と並ぶ朱門をひとつ、ふたつ、みっつ……と指折り数えることに飽いても歩みは止めず――その直向きな眼差しに櫻色の麗瞳を細めた誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は、七結の数えに軽やかな音色を重ねた。
「いつつ、むつ……やっつ……子猫ちゃんは随分と冒険家なのね」
 猫探しも楽しい、と艶笑を溢す櫻宵は宛ら探偵気分。
 或いは童遊びの鬼役か、
「それに、かくれんぼが上手」
 と、ころころ艶笑う。
 而して二人はどれだけ歩いたろう。
 華奢な鈴音を辿った七結と櫻宵は、軈て猫又神社に至る石段の半ばに、ちょこんと佇む影を発見(みつ)けた。
「ねえみて、サヨさん。彼処――」
 しゃらんと鳴る鈴音。ゆうらりと揺れる白。
 喫驚かせぬよう聲は靜かに、七結が雪白の繊指に示して見せれば、そこへ視線を結んだ櫻宵の瞳にも愛らしい姿が捉えられたろう。
「あらほんと。歌う鈴音に白の尾が二つ」
 秀でた鼻梁は幼な仔猫に向けられた儘。
 優美の流眄を繋ぎ合った二人は、囁(つつや)く様に聲を揃えた。

 ――みいつけた。
 ――みぃつけた。

『にぃあ?』
 小梅を戴く鈴を、りん、と鳴らして振り向く仔猫。
 警戒心より好奇心が勝ったか、初めて馨る匂いに駆け寄った『あられ』は、前脚をクイクイと動かして触れようとする。
 この幼気無い仕草には七結も櫻宵も莞爾と咲んで、
「嗚呼、とてもあいらしい子ね。こがねの眸に吸い込まれてしまいそう」
「なんて愛らしい! 円な瞳に白い毛並みが綺麗ね」
 握手をする様に前脚を取り、小さな肉球に触れた。

『にぃあ、にゃあ』
 だいすきなところ
 いっしょにいようよ
 ずうっと

 正に瞬刻。
 無垢なるアーモンドアイが……いや、仔猫は内に潜む骸魂がそうする儘に、千本鳥居を霞に覆い尽し、二人を閉じ込める。
「まあ、此処は――」
 不覚えず、薄く開いた花脣より嘆声を溢したのは七結。
「あわい花が咲いて……大切なひとたちが、わらっている……」
 紫苑色の麗眸いっぱいに広がる、あたたかで、ぬくもりに満ちた世界は、七結の胸中に秘められた「理想の世界」。
 仔猫の無意識が然うさせているのだとは、櫻宵が視る世界の美しさにも表れよう。
 凄艶は溜息を袖に隠しつつ、春咲く櫻瞳にぐるり周囲を見渡した。
「……愛しいひとたちが、淡い桜の元に微笑んで……」
 軋轢も苦悩も、立ちはだかる苦しみもない――誰一人欠かぬ春の宴。
 燦然の光景に二人が時を止めれば、仔猫は心に雨滴を落とす様に鳴いた。

『なぁご』
 ここがいいの
 いっしょにいようよ

 塊麗なる二輪の花は、果して仔猫の願いを聞き入れたか――否。
 瞬きひとつして長い睫毛を持ち上げた七結は、すこうし艶笑って、
「ステキな光景をありがとう。――この景色は、わたしの手で描いてみせるわ」
『にぃあ?』
 ずうと此処には居られない。
 かえる場所が、かえりたい場所があるから――と。
 佳聲は凪の如く穩やかながら、科白は決然と意志を示せば、傍らの櫻宵もまた金絲雀の歌う様な優婉の聲に訣別を置いた。
「夢幻が餘にあたたかくて。叶わぬものこそ追いたくなるもの、だけど――」
 けれど。
 私にも帰る場所がある。
 帰りたい場所がある。
「それはとても幸福なことね」
「ええ、サヨさん」

 ――サヨさん、ご一緒願えるかしら。
 ――ええ行きましょう、七結。共にあの子をおくらねば。

 聲無き言が攻撃を揃える切欠と成ったか。
 以心伝心、須臾の一瞥で呼吸を合わせた二人は、艶帯びた髪を微風に、旋風に、嵐に靡かせ――「虚像の世界」に花色を広げた。
「あなたをかえる場所へと送りましょう」
 可憐が紡ぐは【まな紅の華颰】(マナクレナイ)――。
 閃々と牡丹一華を舞い散らせた七結は、目も覚めるほどのあかい花嵐に幻想を攫い、
「あなたの居るべき場所はここではないわ」
 少女と時を同じくして、凄艶が【哭華】(キキウタイ)――櫻吹雪を狂い咲かせる。
 颯の中を踊った無数の葩は、夢幻の世界に満ち広がるや刃の如く偽りの景を切り裂き、ぐにゃりと色を混ぜた幻想が元の景色を取り戻す。
 これには仔猫もくりくりの金瞳をまあるく輝かせて、

『――にぃあ?』

 何か起きたのか、ことり首を傾げて二輪の花を瞶めるばかりだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
安心して下さいよぉ、猫又の旦那(←乗)
『悪しき骸魂を討ってくれ』、でしょう?
ご安心ください。それが私たち“獄卒”の仕事ですから。
■闘
先ずはあられの元まで【ダッシュ】で接近、そこから手の
動きを【見切り】つつ、肉球に触れないよう振るってきた
腕を【グラップル】し攻撃を阻害。
そこから人差し指で頭を素早くちょんちょんします。

何をしたかと言いますと……実はこれね、私の奥義なのですよ。
【嘗女の惑乱】。あられの身体に『生命を脅かす存在が身体の中に
潜んでいる』という誤情報を送り、あられの方から骸魂を倒すよう
仕向けさせて頂きました。

さあ、一刻も早く出てきてもらいましょうかな?骸魂よ……

※アドリブ歓迎・不採用可



『あっし等は唯だ、あられに……無事に帰って来て欲しいんでヤンス』
『あんなに幼い仔猫がやっちまった事を咎められるもんか』
 罪知らぬ無垢に與える罰は無し。
 猫又達は同族の者として『あられ』を迎え入れてやりたいのだと懇願の瞳を揃えれば、荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は彼等の不安を振り払うよう雰囲気に「乗」った。
「安心して下さいよぉ、猫又の旦那」
『旦那……!』
「ここは『悪しき骸魂を討ってくれ』、でしょう?」
 数多の尻尾が集まる中、小気味佳く語尾を持ち上げた蛟鬼は、口に咥えている棒付き飴を取り出し、その艶やかな色を見せて言う。
「ご安心ください。それが私たち“獄卒”の仕事ですから」
『獄卒……』
 彼こそ知られざる閻魔の力を振るい、骸魂から他の妖怪達を護る“地獄の獄卒”。
 正に我が仕事の案件だと精悍の表情を見せた蛟鬼は、颯爽と縞の合羽の翻し、千本鳥居へと向かった。

  †

 然して迷子猫は、猫又神社に至る石段の半ばで香箱座りをしていた。
 石畳に響く跫に三角の耳をピンと立てた『あられ』は、警戒心より好奇心が勝ったか、スッと前脚を出して蛟鬼に近付くが、果して彼に触れられるか――。
『にぃあ、にゃあ』
「骸魂が内に潜んでなければ、遊んでやりもしましたが」
 無垢の白猫に潜む闇に――其が見せる「理想の世界」とやらに付き合う道理は無い。
 可愛らしい前脚の動きを鋭い洞察によって見切った若き竜神は、神速の軌道で距離を詰めると、肉球に触れぬよう手首を把捉する。
『なぁご』
 遊んで呉れるの、とまあるいアーモンドアイを輝かせる『あられ』。
 純真なる金瞳が蛟鬼の麗貌をまじまじと瞶める中、彼の手掌はスッと、人差し指を伸ばして仔猫の頭へ――素早く、ちょんちょん、と二回。
『……にぃあ?』
 愛らしく小首を傾げる無垢には答えよう。
 蛟鬼は端整の脣より披瀝して、
「何をしたかと言いますと……実はこれね、私の奥義なのですよ」
 秘奥義、【嘗女の惑乱】――。
 諸有る知覚に様々な「誤情報」を流す超常の異能は、此度、あられの身体に「生命を脅かす存在が身体の中に潜んでいる」と流し込んだ。
 人語は操れぬ仔猫だが、その脅威を知覚として受け取れば、本能的に生理的に反応するのが妖怪だろう。
「さあ、一刻も早く出てきてもらいましょうかな? 骸魂よ……」
 仔猫と玲瓏の彩を結んだ蛟鬼は、間もなく可愛らしい聲を聽いて、
『………………けぷ』
 仔猫にしては大きな――然し小さな欠伸に、骸魂が吐き出される。
 ぽかりと浮かんだ骸魂が、器を離れて霞と消える迄を見届けた獄卒は、今回も無事に仕事を終えたと、小さな吐息を置くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『懐かしの縁日』

POW   :    たこ焼きや綿菓子など屋台の食べ物を食べ歩く

SPD   :    射的や輪投げを楽しむ

WIZ   :    縁日特有の空気を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 仔猫が骸魂を吐き出した途端、倒錯の世界に「道」が戻った。
 元の景色――猫又坂に「坂」が戻って安堵した猫又達は、蓋しそれ以上に、仔猫の成長を祝った。
『……あられが、あられが……喋ったでヤンス……!!!』
『立派な猫又の第一歩を踏み出したでヤンス!!』
 にゃんにゃん、にゃふにゃふと喝采した後に、その鈴振るような聲を確かめる。
 水を打ったように沈黙した猫又達は、仔猫が次に喋るのを待ちに待って――、

『あられだよ』

『ンンンンンー!! こりゃめでてェ!!』
『しかも今宵は月の縁日。祝いの日に吉事が重なりまさァな!!』
 と、歓喜に踊る勢いで猟兵の手を引く。
 彼等は一様に「道」の先を示して、
『今夜はお月様をお祝いする日でヤンス。猫又神社の境内に夜店が並ぶんでヤンス』
 月に一度の「まんげつ縁日」。
 神社には東西を問わぬ妖怪が集まり、屋台の食べ物を食べ歩いたり、射的や輪投げを楽しんだりするそうだ。
『おばけ屋敷もあるでヤンス。リアルなやつでさァ』
『俺っちの叔父がクリ焼いてるんで、食べに行きましょうや!』
 行こう、行こうと袖を引く猫又達の表情を見るに、とても楽しい縁日らしい。
 そんな大人の猫又達を見た『あられ』は、くりくりとしたアーモンドアイを輝かせ、

『あられもいく!』

 と、初めての縁日に一緒に行きたいと尻尾を振らせた。
 なんだか「皆で行こう」という雰囲気になれば、猟兵たちも一歩を踏み出し、平穏を取り戻した幽世を見て回るのも佳いかと、「道」を歩き始めたのだった――
トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎
絡みも歓迎

あられが無事に助かって良かったよ
「道」もこの世界に戻ってきたみたいだし、一件落着

それじゃ、折角だから最後は楽しく遊んでいこう

/
これがまんげつ縁日
月に一回こんな賑やかなお祭りがあるなんてすごいな

屋台がたくさんあって目移りするけど猫又達に挨拶しながら色々巡って美味しいものを食べ歩いてこよう

さっき聞いた猫又の叔父さんがやっている焼き栗の屋台はここかな

そういえば、カクリヨの妖怪達は感情をエネルギーにするって言うけど、こうやって屋台があるってことは食べ物もちゃんと食べたりするのかな

屋台巡りの途中であられに会ったら食べ物を分けてあげよう

はい焼き栗
もう熱くないからあられでも食べられるよ



 行こう、行こうと鬼火の燈る尻尾を並べて神社に向かう猫又たち。
 斯くして歩ける「道」が戻って佳かったと、安堵の息を溢したトゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は、先輩達に囲まれて歩く仔猫に透徹の青瞳を細めた。
「あられも無事に戻って来れたし……折角だから、ボクも楽しく遊んでいこう」
『そうこなくっちゃ、旦那!』
 手招きして促す彼等の表情と云ったら。
 トゥールは柔らかな微咲(えみ)を溢すや、粋美なる繊翅を羽搏かせた。

 優しい夜に橙色の燈火(あかり)を連ねる夜店。
 境内を行き交う妖怪達の間に、祭囃子の笛音が流れる――郷愁の景。
 賑々しい喧噪に紛れたトゥールは、楽し気な笑聲に淡い嘆声を混ぜた。
「これが、まんげつ縁日……」
『ほうら、紫紺の空に浮かぶお月さんがあんなに太って、美味しそうでヤンしょ?』
「美味……月に一回、こんな賑やかなお祭りがあるなんてすごいな」
『でがしょ!!』
 ふふん、と誇らしげに胸を張る猫又。
 幽世は日々に危機が訪れる刺激的な世界なれば、一日でも長く生きられたお祝いを頻繁にするのだと聽けば、成る程、この瞬間を愉しまなくてはと共感を寄せるトゥール。
 彼はずらりと軒を連ねる屋台に目移りしつつ、それでも丁寧に猫又達に挨拶して回り、彼等が薦める儘に美味を探索して回った。
『旦那、リンゴ飴でヤンスよ! これがまたウマウマでやして』
『待ってくれ、飴で口が塞がる前にワタアメを食べにゃあ!!』
「うん、うん」
 ふたつしかない手に、次々と屋台ならではの甘味が迫る。
 少年はやけにグイグイくる猫又達の商売上手を褒めつつ、傍らでふくふくと咲む一匹に人差し指を示して言った。
「叔父さんがやっている焼き栗の屋台はここかな?」
『ヘイ、でヤン――』
『ラッシャイ!!』
 本人が答えるより早く、威勢の佳い聲が被せられる。
 甘栗屋の親父は「甥ッコが世話ンなった」と豪快な聲で感謝を述べると、袋いっぱいに焼き栗を詰めて渡した。
 其の甘い薫香に秀でた鼻梁を寄せたトゥールは、やんわり頬を緩めて、
「――そういえば、カクリヨの妖怪は向けられた感情をエネルギーにするって言うけど、こうやって屋台があるってことは、食べ物もちゃんと食べたりするのかな……?」
『勿論でヤンス! でも、今の旦那の感情の方が御馳走でさ!!』
 美味しいとか、嬉しいとか、楽しいとか。
 縁日はそんな感情でいっぱいになるんだと言う猫又に、それならもっと遊ばなくてはとトゥールも綻ぶ。
 この時、少年は小さくて華奢な聲に呼ばれて、
『とおる』
「あっ、あられ。ボクの名前、覚えてくれたんだ」
『とーる』
「……発音は難しいか」
 まだまだ人語は未熟にして、舌足らずも可愛いと額を撫でてやる。
 眞白の仔猫が鼻頭をスンスンさせるものだから、トゥールは紙袋いっぱいに詰められた焼き栗をひとつ、差し出して、
「はい焼き栗」
『やき?』
「もう熱くないから、あられでも食べられるよ」
 莞爾(にっこり)と薦める少年に促され、仔猫が初めてのお味を口に含む。
 もぐもぐ……と舌に広がる旨味と鼻を抜ける香気に、黄金色のアーモンドアイを煌々と輝かせた仔猫は、きゅ、と瞳を細め、

『とーる、おいし!』

 花の零れるような笑顔が移ったか、トゥールも不覚えず艶笑(えみ)を深めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
月を祝うなんて行事があんのか。どっちにしろ飯が食えるってのは有難い。
腹減ってたんだ。

あられの後ろ姿を見送りながら。
大切な誰かを失った傷はきっとすぐには癒えないだろうが、一人じゃないってのは心強いモンだ。支えられて生きていける。妖怪も人間も変わらねぇ。
――ああ、気分良いぜ。ニコリネに声を掛ける。依頼の報酬は今回無しで良い。代わりに、報酬でこの場に居る猫又含めた全員に飯や飲み物を奢るぜ。
栗や焼き鳥、天ぷら。ああ、好きなモンを好きなだけ頼め。あられの猫又祝いだ。
この世界の報酬ってのが金貨なのか、新鮮な感情なのか。そりゃ、分かんねぇが…ま、なんとかなるだろ。
月と可愛らしい住人達。此処も悪くねぇ世界だぜ



 いこう、いこうと尻尾の鬼火が搖れる。
 おいで、おいでと肉球がクイクイ動く。
「招き猫――又だな」
 随分とゴキゲンな彼等に同行したカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、行く先に見える大きな満月に紫玉の瞳を結んだ。
「月を祝うなんて行事があんのか」
『だって旦那、お月さんがあんなに太って美味しそうでヤンしょ?』
「……月を喰う気はないにしろ、飯が食えるってのは有難い。腹減ってたんだ」
『あっしもペコペコでヤンス~!!』
 ああ食べたい、と垂涎を前脚に隠す猫又が言うことにゃ。
 幽世は日々に危機が訪れる刺激的な世界なれば、一日でも長く生きられた喜びを満月に映し見るらしいのだが、彼等が生粋のお祭り好きとは軽快な足取りで判然ろう。
『甘栗、りんご飴、わたあめ、かき氷~♪ なにたべよっかな♪』
『射的、わなげ、型抜き、オバケ屋敷~♪ なにしよっかな♪』
 口より目よりモノを言う尻尾の動きに、不覚えず艶笑(えみ)を溢すカイム。
 更に彼の麗眸を細めるは、先輩猫又の間でちょこちょこ動く影で、

『おまつい、おまつい!』

「舌足らずでも十分、よく喋れてる」
 小さな一歩を踏み出した『あられ』の後ろ姿に、優婉のバリトンを添える。
「大切な誰かを失った傷はきっとすぐには癒えないだろうが、一人じゃないってのは中々心強いモンだ」
 支えられて生きていける。
 其は妖怪も人間も變わらない――。
 いつか痛みを受け容れられる、立派な猫又になるだろうと見守る瞳は柔かく温かく――玲瓏の彩に惹き付けられたニコリネ・ユーリカが、そうっと語尾を持ち上げた。
「ふふ、なんだか嬉しそうねぇ」
「――ああ、気分良いぜ」
 流眄に注がれる微咲(えみ)の粋美たるや。
 宛如(まるで)『あられ』のパパみたい、とふっくり頬笑んだニコリネは、この瞬間、彼に依頼を頼んだ身として滑る科白を、塊麗の微笑に遮られたような気がした。
「今回の報酬は無しで良い」
「えっ、だって便利屋さん――」
「代わりに、この場に居る猫又含めた全員に飯や飲み物を奢るぜ」
「ええっ!?」
『旦那、マジでヤンスか!!』
 これにはニコリネのみならず、周囲の猫又達も頓興な聲を彈く。
 喫驚の瞳を集めたカイムは、然し本気も本気と屋台の暖簾を次々指差して、
「栗や焼き鳥、飴細工に……天ぷらもあるな」
『ひゃっ、天ぷらもいいんでヤンスか!?』
「ああ、好きなモンを好きなだけ頼め。あられの猫又祝いに出し渋る事ないだろ」
『ピャー!! カイムの旦那ったら大統領!!』
 猫又達は僥倖極まれりと、猫目をキラキラ耀かせて踊り狂う。
 喝采(やんや)と尻尾が音頭を取る中、ニコリネはすこうし心配そうに尋ねて、
「…………便利屋さんってそんなにお金が?」
「ああ、“もってる”」
 と、取り出されたコインが宙に踊って光を彈くのを見る。
 間もなくコインは彼の手に収まって――。
「Heads or Tails? ――ほら、裏だ」
「えっ当たっ……えっ」
「“もってる”男は違うってな」
 万事的中、【表か裏か】(オール・イン)――。
 強運の持ち主は有言実行、自身の依頼後の報酬を代償に全ての行動を成功させ、「パチパチが飲みたい」という者にはサイダーを、「ハフハフしたい」という者にはたこ焼きを奢ってやった。
「この世界の報酬ってのが金貨なのか、新鮮な感情なのか。そりゃ、分かんねぇが……ま、なんとかなるだろ」
「……なんて太っ腹なの!!」
 しがない花屋(わたあめを奢ってもらいました)には大胆不敵に映ったろう。
 カイムは数多の猫又にコートの裾を引っ張られながら、あっち行こう、こっち行こうと急かされる儘に夜店を漫歩く。
 その姿には、何だか満月もつられて頬笑むようで――、
「月と可愛らしい住人達。此処も悪くねぇ世界だぜ」
 そうでしょう、そうでしょう、と淡い月光に彼の艶姿を際立たせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イヴォール・ノトス
縁日…いいな!うまいもんが沢山食べられる
それに猫達も楽しそうだ。猫かわいい、猫

屋台が出ると聞けば、食い物系の店は制覇して行かねェとな!
甘い物、塩気のある物、交互に食べれば飽きの来ない無限ループだ
伊達に食いしん坊を自称してねェぞ(積み上げられる焼きそばの空き箱)
どの店もうまいモンばっかりだ。料理上手いんだなァ猫!

…しっかし、賑わってンなぁ!釣られてこっちもウキウキするわ
腹ごなしに散歩しながら雰囲気楽しんで、射的や輪投げの屋台冷やかしたり
型抜き屋で大人気ないほど真剣になったり
ぶっはー、楽しいにも程がある
また腹が減ったら食べ物屋台に世話ンなるか~

お礼がてら、アタシに何か手伝える事でもあれば手を貸すぜ



 紫紺の帷に橙色の燈火(あかり)を連ねる屋台。
 祭囃子の笛音が流れる境内を妖怪達が賑々しく行き交う――郷愁の景。
 何とも楽し気な喧噪に紛れたイヴォール・ノトス(暴食・f25687)は、咲むように燿く満月を仰いで言った。
「まんげつ縁日か……いいな!」
 うまいもんが沢山食べられるし、擦れ違う猫又たちも楽しそうだ。
「猫かわいい、猫」
 尻尾をフリフリ、風を連れて疾る鬼火に頬を緩めたイヴォールは、「道」の両脇に軒を連ねる屋台の文字を麗眸に捺擦(なぞ)り、義気凛然、気合を籠めた。
「甘栗、りんご飴、わた菓子にかき氷……食い物系の店は制覇して行かねェとな!」
 先ずは甘い物、塩気のある物にジャンルを分ける。
 次いで其等を交互に食べる。
 然れば飽きる事無く無限に食べ続けられるとは、フードファイターの重要戰略だ。
「伊達に食いしん坊を自称してねェぞ。焼きそば、おかわり!」
『はっ、速ェ……!!』
 ずん、とまた一つ積み上げられる空の舟皿に「おお」と声が上がる。
 豪快な食べ方も見ていて胸の空くようだが、彼女は聢と味わってもいて、
「どの店もうまいモンばっかりだ」
『おうよ、縁日は腕の見せどころでさぁ!』
「料理上手いんだなァ猫!」
『喰いっぷりも見事だが、姉ちゃん、褒めっぷりもいいぜ!!』
 作り手と喰い手の視線が小気味佳く結ばれる――その空気感が鯔背だろう。
 猫又たちはイヴォールの景気の良い食べっぷりに喝采(やんや)と湧き立ち、『もっとやれー!』と肉球を突き上げていた。

 斯くして「喰いっぷりの佳い姉ちゃん」として猫又達に認められたイヴォールは、少々箸休めに境内を散歩し、平和な縁日の雰囲気を味わう事にした。
「……しっかし、賑わってンなぁ! 釣られてこっちもウキウキするわ」
『おう、健啖の姉ちゃん! 射的の腕は如何だい?』
「射的?」
 先程は面白いものを見せて貰ったと、コルク銃を構えて見せるは射的屋のオヤジ。
 肉球の手招きに足を運んだイヴォールは、「成程」と意気込んで銃を構え、
「店を潰しちゃ悪いから、食べ物の景品だけ掻っ攫ってやる!」
『おう、やってみせろやい!!』
 パン、コトン。
 ポン、コトン。
 こと食に関する集中力は神域に達しているイヴォールである。
「イカの珍味は全部いただきだ!」
『イッツ……グレイトフル……!!』
 店主の口調が變わる程に仕留めきった彼女は、それから輪投げの屋台も攻略し、型抜き屋では少々苦労したか、大人気ないほど真剣になったり……くるくると變わる表情で周囲の者達を愉しませた。
 イヴォール自身も満喫したろう、花顔にはいっぱいの微咲(えみ)が溢れ、
「ぶっはー、楽しいにも程がある! また腹が減ったら食べ物屋台に世話ンなるか~」
 と、足取りは今なお軽快に、鬼灯の様に連なる提光に影を滑らせた。
 愉しませて貰ったお礼に何か手伝える事があれば――と、イヴォールは頼もしく腕捲りして見せたが、猫又たちは「もう十分に頂いた」と断ったろう。
『姉ちゃんの倖せそうな感情、たらふく喰わせて貰いやしたよ!!』
『おいしいフルコースでヤンした!!』
 美味しいとか、嬉しいとか、楽しいとか。
 俺っちも満腹になったと頬笑む猫又たちに、彼女もまた莞爾と頬笑むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01543/イアさん
ニコリネさんも

揃うのは久し振りですねぇ
時が過ぎても並んで歩けることの嬉しさに
足取りも軽く

左右に揺れる猫又さんの尻尾が愛らしい
縁日を楽しんでいる様子が伝わって来るから

お二人共、祭はお好きですか
私は好きです
皆が笑顔になれるもの

穏やかな物腰なれど
口調には弾んだ気持ちが乗って朗らか

あぁ、栗屋さん発見です!

香ばしい匂いに釣られて
いそいそと
礼を告げて受け取ったなら
一粒、両手で転がして粗熱を取り
あられさんにもお裾分け
猫舌さんが火傷しないように

さぁさ
我々も!
ほくほくを頂きましょう

焼き栗の自然の甘さが堪らなく美味しくて
袋があっという間に空っぽ

…お土産にもう三袋、追加しても良いかしら、
なんて


イア・エエングラ
綾(f01786)にニコリネと

やあ、季節の変わっても共に行けるの
こんなに嬉しいことはないかしら
さあ、手を引き開く新しい世界の一頁

猫又さんらも楽し気に
漂う香りはなんだろな
あちらこちら視線と一緒に言葉も回る
お隣に在る二人にも僕の心は弾むから
靴音まで跳ねて思わず咲みこぼれてしまいそ

おや、ま、綾が見つけるのが早かったかしら
つやつやでぴかぴかで、ほくほくの栗ねえ
一等宝物かあられさんの目のよに真ん丸ね
ころり転がしニコリネにも、火傷しないよに

優しく円い甘さにほっぺの落ちたらどうしましょ
おどける間にも、すっかり袋は皮のよで
次は僕の目が真ん丸になる分かしらな



 月夜の下、神社の石段で待ち合わせ――。
 鬼灯色の提燈を連ねる屋台を滑るように走り抜けたニコリネは、軽妙に流れる祭囃子の笛音に笑聲を混ぜる――馴染みの影に急ぎ駆け寄った。
「綾さん! イアさん!!」
 一語一音、大事に呼ぶ。
 然れば談笑していた二人は、佳宵に玲瓏の彩を結んで、
「ええ、ニコリネさん。こうして三人が揃うのは久し振りですねぇ」
 久方に邂逅を得たと綻ぶは、都槻・綾(糸遊・f01786)。
 彼の隣、あえかに咲んだイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は、硝子の震えるような佳聲を添えて、
「やあ、季節の変わっても共に歩けるの。こんな嬉しいことはないかしら」
 時は過ぎる。季節は移ろう。
 竟ぞ留まらぬ大河に在って、一滴、二滴、三滴が集まる奇跡は得難く――これぞ僥倖と微咲(えみ)を深めた仲良し三人は、軽やかな足取りで賑わいに向かった。
「――さあ、まんまる月夜の縁日へ」
 繋いだ手に新しい世界の一頁を披見(ひら)く。
 目下、猫又神社の境内は、古今東西の妖怪が賑々しく行き交い、屋台ならではの遊戯を愉しむ聲や音、夜店ならではの美味を堪能する笑顔で溢れている。
 綾は金魚すくいに夢中になる猫又にふくふくと艶笑を溢して、
「左右に揺れる尻尾が何とも愛らしく」
「おや、尻尾の先の鬼火が目より口よりものを言って」
 こつ、と凛乎たる跫を石畳に響かせたイアも、此れにはふうわと頬を緩める。
 二人が似たような視線を揃えれば、ニコリネは愉しげに手招きして、
「私達も金魚をすくったり水風船を取ったりしましょ。もしかお二人も集中したら、何か面白い癖か仕草が見つかるかもしれないもの」
「癖」
「仕草」
 云った途端、全き同じタイミングで語尾を持ち上げるのだから!
 折角の機会なのだ。沢山の表情を見なくては、と――ニコリネは佳人らととことん歩き回ろうと決意した。

  †

 而して彼等は愛でられるだけの器で無し、憧憬を注がれるだけの玉石でも無い。
 優美の佇まいに佳容を湛えた綾とイアは、光と見紛う程に眩しく表情を變え、次々と声を掛けてくる商売上手な猫又たちに、大層な誘惑を受けた。
『ほらほら、旦那! 美味しいの買ってっておくんなまし!』
「成る程……たこ焼きを海老煎餅で挟み、『たこせん』とは……」
『そこな兄貴、ウチの飴細工ときたら飛び立ちそうでやんしょ?』
「ほんと、あの月まで羽搏いていきそな……」
 矢継ぎ早に訪れる新鮮に、麗瞳は煌々と耀いて。
 餘に袖を引かれるものだから、まだ些(ほん)の少しも歩いてないと苦笑が零れるが、綾はそんな漫歩きを気に入ったようで――。
「お二人共、祭はお好きですか」
 これに「勿論!」と首肯を返すはニコリネ。
「楽しいものがぎゅうっと詰められて、雑多な雰囲気もいいなって思うの」
 斯く云う彼女の両手はもう水風船やら綿菓子やら、腕には猫又の風船人形までくっついていて、頗る説得力があると綾が頷く。
 ニコリネの猫又人形と藍玉の瞳を結び合ったイアは、すこうし饒舌になって、
「お隣に在る二人にも、僕の心は彈むから。靴音まで跳ねて、咲みこぼれてしまいそ」
 愉しくて、嬉しくて、倖せで――。
 妖怪がこれらの感情を食べるというなら、嘸かし美味だろうと目尻は粋美を溢す。
 月弧と映えるイアの横顔の秀でた鼻梁を瞶めた綾は、幾許の靜黙の後に言を継いで、
「私も好きです。皆が笑顔になれるもの」
 聲は穩やかに嫋やかに。
 然れど丹花の脣を滑る科白は朗らかに彈むようで――彼の昂揚に触れたイアとニコリネもまた彈けるように嫣然を解いた。

  †

「いっぱいの猫又さんの合間に。漂う香りはなんだろな」
 ――時に。
 イアの幽邃の湖水の如き玉瞳が、あちらにこちらに精彩を巡らせる。
 仄かに鼻腔を掠める薫香、この匂いは――と胸に薫き染めた矢先だった。
「あぁ、栗屋さん発見です!」
「!! 綾さん、速い!!」
「おや、ま、綾が見つけるのが早かったかしら」
 綾が彈かれたように爪先を蹴り、直ぐにも風を抱く翡翠の髪状(かんざし)を追って、ニコリネが、次いでぱちくりと睫毛を瞬かせたイアも香気を辿る。
 三人が怡々と向かった先には、老練のオーラを醸し出す店主が焼き栗を詰めており、
『おう、死ぬほどウマいぞ。死ぬなよ』
「はい、覚悟して賞味致します」
 ――きりり、双方が凛然を交す。
 斯くして袋を受け取った綾は、その物々しい遣り取りをくりくりとしたアーモンドアイで見詰めていた猫又『あられ』に気付き、そっと腰を落とした。
「さぁ、猫又の第一歩を歩まれたあられさんもどうぞ」
『なぁに』
「焼き栗です。猫舌さんが火傷しないよう、空気に触れさせてから……」
 キョトンと小首を傾げた儘の無垢の前で、粗熱を取る。
 綾の両手でころころと転がる栗を見たあられは、鼻頭を擽る馨に吸い寄せられるように口を寄せて、先ずは一口。
『ほわ……おいし』
 純真なる金瞳がきゅ、と細む傍ら、綾は莞爾と咲んでイアとニコリネを促し、
「さぁさ、我々も! ほくほくを頂きましょう」
「ほんとに死を賜るかしら」
 冗談をひとつ零して栗を摘んだイアは、雪白の繊指に愛でた後に其を口へと運ぶ。
 而して昇天はせずとも、極上の甘美が花車を満たそう、
「つやつやでぴかぴかで、ほくほくの栗ねえ」
『つや、ぴか?』
「一等の宝物か、あられさんの目のよに真ん丸ね」
『あられ、まんまる』
 理解っているのか、舌足らずにもイアの佳聲を懸命に拾う仔猫も愛らしい。
 ほくほくと美味を転がした麗人は、他の栗たちをころり転がしてニコリネに、
「ほら、火傷しないよに」
「ふぁあ、本当に美味しそう……! いただきまーす!!」
 ちょんと摘んで頬張ったニコリネは、天に昇る気持ちを抑え、綾とイア、そして店主に無言の賛美を送った。
 それから三人と一匹は、小鳥のように順番に袋を突いては食べ、食べては啄み、
「この自然の甘さが堪らなく美味しくて……」
『くり、おいし!』
「優しく円い甘さに、ほっぺの落ちたらどうしましょ」
「ふふ、イアさんたらほっぺを押えて――」
 気付けば。
 あっという間に空っぽ。
「…………。…………」
「…………。…………」
「…………。…………」
『……?? あれぇ?』
 空の袋をじっと覗き込んだ三人と一匹は、佳顔を持ち上げるや喫驚と寂寥に真ん丸になった瞳を結び合わせて、
「……お土産にもう三袋、追加しても良いかしら、なんて」
『あられも!』
「では、もう一袋」
 綾とあられが真劔な会話をする傍ら、イアは堪らず優婉のテノールを溢し、
「長靴いっぱい食べたいなんて、僕らこんなに子供だったかしら」
「――それは、勿論!!」
 くつくつと微笑ったニコリネは、中々笑いが止まらないと可笑しみを噛み締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
戯に蝶結びの浴衣姿に化け
猫のお面をして
歌う林檎飴を齧り
既に屋台を一通り満喫した様子で道を往く

ねこがどうと聞いていたのを
解決済と聞き、便乗して遊んで帰る心算

こねこと遊びたかったのだけれど
遅かったみたい
化け猫しかいないわね

傍にふよふよ浮く綿菓子袋を話し相手に
商人魂逞しい猫又店主にあてこすりつつ

しようがないから
金魚でもすくって帰りましょう

縦横無尽に空にさえ逃げる魚を追って
やっと一匹捕まえて

この金魚は何味か知ら

店主と共に掌の魚を揶揄いつつ
好きな所へ連れて行ってあげるわ、と
さっそく甘露をやりながら声をかける

自身は道に溢れる感情などを
林檎飴の合間に盗み喰い

甘く転がる様な味わいを堪能し
「めでたしめでたしね」



 鈍・しとり(とをり鬼・f28273)は妖崩れの雨女にて。
 雨を呼ぶため常にうつろい定まらぬが定めの身なれば、此度は戯に蝶結びの湯帷子姿に化け、軽妙な祭囃子の笛音にかろり下駄の音を混ぜた。
 麗貌は妖し猫のお面を載せ。
 佳脣は艶帯びた林檎飴を齧り。
 既に境内を一巡りしてお気に入りを身に付けたしとりは、その聡い耳に猫又達の会話を拾いつつ、賑々しい喧噪を擦り抜ける。
 目尻に置く彼等は皆々が温和な表情を湛え、
『俺っちも骸魂を吐いて喋れるようになったでヤンス!』
『迷子の仔猫も猫又坂に戻ってきたでヤンス!』
 ――成る程。
 ねこがどうこうと聞いていたが、幽世の危機は此度も禦がれたか、と――長い睫をそと伏せた凄艶は、慥かに人語を操る猫又しか居ないと吐息をひとつ置いた。
「こねこと遊びたかったのだけれど。遅かったみたい」
 其は安堵か寂寥か、ふう、と燻る嘆声を拾うは、ふよふよと浮く綿菓子袋。
 華奢な紐に繋がれた綿菓子は、佳人に相槌を打つようにふうわりと揺れて、
『別嬪さんよう。お前さんの溜息が艶っぽくて、俺っちの綿飴までしめりまさァ』
「それは大変」
『どうぞ別嬪さんのお供にしておくんなし』
「……随分と商売上手ね」
 艶帯びた流眄に金眸を結んだ猫又の店主はニッと笑って。
 蓋し綿菓子のふわふわと、往く宛てのない様を瞶めたしとりは、片時の供を許して漫ろ歩く事にした。

  †

「しようがないから金魚でもすくって帰りましょう」
 猫と戯れる筈だった繊手を慰むに、嫋々と游ぐ錦魚なら。
 小さな水槽の前に腰を落とした佳人は、チラチラと遊泳ぐ色彩にうずうずしている店主に代わって、羽衣の如き尾を揺らす玉魚を獲らんと指先を濡らす。
『そいつァヤンチャな奴でしてよ。空すら泳ぎまさァ』
 豈夫(まさか)、いや慥かに。
 幾許か瞠目した玲瓏の眸は蓋し真劔に――縦横無尽に水を分け、空にさえ逃げる金魚を追って、追って、竟に掬い上げた。
「……漸っと一匹」
 果してこの金魚は何味か、と店主を上目見るしとり。
 これには彼も小気味佳い返事を返して、
「今宵の満月みたいに太ってまさァな」
 と、ふくふく笑って搖れるヒゲに、しとりも微咲(えみ)をひとつ溢す。
 淡く緩んだ花脣は、そっと佳聲を滑らせて、
「何処かに行きたい様だから、好きな所に連れて行ってあげるわ」
 先ずは甘露を遣って。
 口をパクパクとさせる金魚に耳を寄せる。
 射干玉の黒髪を項へ送ったしとりは、それからより明瞭(ハッキリ)と聽こえるようになった周囲の声色に、様々な感情の色を捉えて。
「安堵と、欣喜と、――これは感動」
 平穏を取り戻した大通りには、沢山の感情が溢れている。
 繊麗の細指を林檎飴に絡め、丹花の脣に寄せる傍ら、其をつまみ喰いした美しい女は、舌に転がって広がる甘やかな味わいを堪能し、
「めでたしめでたしね」
 と、極上の馳走を嚥下した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
やはり何度経験しても祭の雰囲気は慣れないな。
というか賑やかな空気に慣れていないの方が正しいか。
静かなところの方が落ち着く。賑やかさは露や友人で十分だ。
…いずれ慣れる時が来るのだろうか?…今は…想像できんな。
「また、後でな。あられと猫又達…」
…あられにべったりだったはずの露が私をひきずっていく…。
なに。腹が減った?残念だが私はまだ空腹ではない。
…といっても露は一緒に食べようとするだろうな。やれやれだ。
「じゃあ、あの丸いの…を頼む。あれの名称はなんだろう?」
窪みのある鉄板で作る食べ物(たこ焼き)を指定する。
あれなら多く食べなくとも平気だろう。
…なるほど。たこ焼きというのか。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
わわ♪あられちゃんもお話するのね。すごーい♪
負担をかけないようにきゅーって抱きしめるわ。
「そういえば、金の瞳なのね。…レーちゃんと同じ」
そっかそっか。だからあられちゃんに…♪
不思議そうなあられちゃんに何でもないわって返事。
それから名残惜しいけどそっと地面に下ろすわ。
「じゃあ、またね♪ …さて。お腹が減ったわ。何食べよう」
あられちゃんに手を振ってレーちゃんを引っ張って屋台へ。
えぇー。お腹へってないの?うーんうーん。一緒に食べたかったのに。
って言ってたらレーちゃんが一つの屋台を指さした。
「え? たこ焼き屋さん? …えへへ♪ 買ってくるわ」
やっぱりれーちゃんは…やさし♥



 軽妙な祭囃子の笛音が近付く。
 橙色の提灯が連なり、朦朧(ぼんやり)と「道」を照らす。
 耀ける月夜の下、猫又神社の縁日に招かれたシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は、湧き立つ喧噪を前に吐息をひとつ置いた。
「……やはり、何度経験しても祭の雰囲気は慣れないな」
 或いは賑やかな空気に慣れていないと言う方が正しいか。
「賑々しいのは露や友人で十分だ」
 靜かな処の方が幾分にも落ち着くと肩を竦めたシビラは、ずらりと並ぶ暖簾の文字を麗眸に捺擦(なぞ)って呟く。
(「……いずれ慣れる時が来るのだろうか? ……今は……想像できんな」)
 己が變わる刻が來るのか。
 果して全てのオブリビオンを斃せば、世界と共に己も變わるか。
 答えの無い問いに花脣を引き結んだ少女は、不図、傍らの佳聲に繋がれ、
「わわ♪ あられちゃんもお話できるようになったのね」
『そだよ』
「すごーい♪」
『えらい?』
「うん、えらい、えらい♪」
 きゅーっと『あられ』を抱き締める神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)の横顔を見る。
 お祝いの気持ちは溢れんばかりに、それでいて負担を掛けぬよう優しく仔猫又を包んだ彼女は、相變わらずくりくりと耀くアーモンドアイに月白の瞳を結んで、
「そういえば、あられちゃんは金の瞳なのね。……レーちゃんと同じ」
『れーちゃ?』
「そっかそっか。だからあたし、あられちゃんに……♪」
『なぁに?』
「……ふふ、何でもないわ」
 ことり、小首を傾げる『あられ』に柔かな微咲(えみ)を溢す。
 それからもう一度だけ、ぎゅうっと抱き締めて木洩れ日の馨を吸い込んだ露は、はやく早くと手招きする猫又の先輩達に『あられ』を預け、元気に駆け出す尻尾を見送った。
『あられ、いくね』
「ああ、また後でな。先輩たちに色々教えて貰うといい」
「じゃあ、またね♪ 初めての縁日、いっぱい楽しんでね」
『はぁい』
 ぱたぱたと駆けていく仔猫に、急激な成長を感じる二輪の花。
 斯くして二人きりになれば、露はくるりシビラへと向き直ると、彼女の繊手をむんずと掴み、ずるずる……と殷賑の中へ引き摺って行く。
「……さて。お腹が減ったわ。何食べよう」
「なに。腹が減った? 残念だが私はまだ空腹ではない」
「えぇー。お腹へってないの? うーんうーん。一緒に食べたかったのに……」
 澄み渡る蒼穹の如き花顔が曇る時は、あっという間だ。
 くるくると表情を變える露にはもう慣れたか、シビラは「やれやれ」と溜息を溢しつつ付き合う事にする。
「レーちゃんの食欲をそそる食べ物、ないかなぁ……?」
「無理に食べる事も無いが……」
「でも、折角だし!」
 他愛ない会話を連れて、和やかな喧噪の中を漫ろ歩く。
 時に玲瓏なる金の瞳は、ひとつの屋台に結ばれて、
「じゃあ、あの丸いの……を頼む。あれの名称はなんだろう?」
 月のように丸くて、掌に収まるほど小さくて。
 窪みのある鉄板でコロコロと転がされ、ヒョイと舟皿に乗せられる其は――。
「え? たこ焼き屋さん? ……えへへ♪ 買ってくるわ」
 同じ方向に視線を揃えた露が、彈かれたように店に向かう。
(「……なるほど。たこ焼きというのか」)
 あれなら多く食べなくても平気だろうと、舟皿に乗せられて来る其等を見たシビラは、ふうわりと鼻腔を掠めるソースの匂いに眸をぱちくりとさせた。
「これは……」
「――うん、良い馨り!」
 露は花顔を綻ばせて爪楊枝を一本取ると、ぷす、とたこ焼きに刺し、
「やっぱりれーちゃんは……やさし♥」
 おひとつどうぞ、と塊麗の微笑を注いで差し出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘇摩・瞬華
(アドリブ・他PC様との絡み歓迎)

お祭りかー。
美味しそうな匂い、賑やかな声…こういう雰囲気、あんまり経験はないけど…でも楽しそうだね!
(故郷の祭りは割と落ち着いた雰囲気だったらしい)
うん、わたしも目一杯楽しんでいくよ♪

匂いに惹かれるままにタコ焼きとか焼き栗とかハニーカステラとか、色々食べて回るよ。雰囲気のせいかな、いつもよりいっぱい食べられる気がするかも?

あ、あられちゃんもひとつ食べるっ?妖怪さんだし、わたし達と同じもの食べても大丈夫…だとは思うけれども。
そのついでに一旦休憩。あられちゃんを撫でさせてもらいつつ少しお話。
わたしは楽しいけど、あられちゃんはどうかな。いっぱい楽しめてるといいけど。



 鬼灯型の提灯がぶうらりと連なる猫又神社の境内。
 佳宵に流るるは祭囃子か、軽妙な笛音に耳を澄ました蘇摩・瞬華(蒼篝・f25151)は、別世界の遊興に誘(いざな)う暖色の殷賑に、ほつり、嘆声を溢した。
「お祭りかー。こういう雰囲気、あんまり経験はないけど……」
 美味しそうな匂い、賑々しい声。
 多様な店々が雑多に並ぶ空気も楽しかろうか、瞬華の故郷の祭りとは随分と様相が違うようだが、何故だろう、郷愁の景に麗瞳が緩む。
(「祭りと言えば、割と落ち着いた雰囲気だったけど、これはこれで……楽しそう!」)
 瞬華は急かすように手招き、いや肉球招きをする猫又達に手を振り返して、
『瞬華どのー! 早く行くでヤンスー!!』
「うん、わたしも目一杯楽しんでいくよ♪」
 と、月下に軽やかな一歩を踏み出した。

  †

「あ……いい匂い……」
『へい、らっしゃい!! タコ焼きをエビ煎餅に包んだ「たこせん」はどうだい?』
 成る程ソースの薫香かと右に鼻梁を向ければ、今度は左から香しい芳醇が漂う。
 ツンツンと裾を引っ張るのは、先程助けた猫又だろう、
『瞬華の姉御、俺っちの叔父の焼き栗屋に寄るでヤンスよ!』
「うん、うん」
 たこせんを持った儘、焼き栗屋で「甥っ子が世話になりやした」と袋いっぱいに甘栗を貰った瞬華は、それから往く先々で食べ物を薦められ、遂に両手がいっぱいになった。
『ほうら、甘くて美味しいハニーカステラも食べてっておくれ!』
「待って、待ってね」
 こくこくと首肯きながら、むぐむぐと口を動かしながら。
 商売上手な猫又たちに促される儘に、美味を堪能して回る瞬華。
 絞られた柳腰は思いの外、彼等の好意に応えて、
「雰囲気のせいかな、いつもよりいっぱい食べられる気がするかも?」
 どれも美味しい、と繊手が胃袋のあたりを撫でた時、鈴を振るような聲が足元から聞こえた。
『しゅんか』
「あ、あられちゃん! 名前、憶えてくれたんだね」
『えらい?』
「うん、えらいえらい」
『えへへ』
 舌足らずに喋り、褒められれば、きゅ、と金瞳を細める可憐な猫又。
 あられも人語を覚えた立派な妖怪なれば、周囲の猫又たちが正に然うしているように、同じものを食べられるだろうとカステラを差し出せば、りん、と鈴が鳴る。
『なぁに?』
「カステラだよ。ふわふわで美味しいよ」
『ふあふあ』
 小首を傾げて、鸚鵡返し。
 鼻頭を擽る香気に惹かれて口にすれば、蜂蜜の甘さが舌に広がったか――あられは恍惚(とろ)けるような咲みを見せた。
「もひとつ食べるっ?」
『うん!』
 かすてら、かすてら、と躍る前脚に思わず艶笑(えみ)が零れる。
 他のハニーカステラも粗熱を取って切り分けた瞬華は、猛烈な勢いで食べるあられを眺めながら、神社の石段に腰掛けて暫し休憩する。
 満腹になったあられが香箱座りをすると、繊麗の手は慈しむ様に背中を撫でて、
「わたしは沢山食べて楽しい思いをしたけど、あられちゃんはどうかな」
『あられもたべた』
「初めての縁日。いっぱい楽しめてるといいけど」
『うん。きらきら、たのしい』
 あかり、きれい――と息を継いだところで、瞼がとろんと微睡む。
 お腹が満ちた今は背中を撫でられた安心感が勝ろうか、まだまだ幼い猫又がスゥと眠りに落ちれば、瞬華は撫でる手をその儘に、柔らかな嫣然を湛えて見守る。
「今日は疲れたよね。好きなだけ休んでいいよ」
 降り落ちる佳聲は優しく、穩やかに。
 和やかな空気に包まれる一人と一匹に、美し満月が頬笑むように照っていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メーアルーナ・レトラント
メリルちゃん(f25271)と
あられちゃんもお誘いして

わああ、すごいです!
あっ、ひよきんぐしゃん先走ってはいけません!

一緒に手を繋いできょろきょろ
はわわ…べびーかすてら、猫さんの顔です!
どれもおいしそう…メリルちゃんはどれにします?
お喋りしつつ屋台散策

わ、メリルちゃんからのぷれぜんと、ひよきんぐしゃん良かったですね!
…すごい勢いで食べ…はっ、これは…浮気…!
むー!メアもあられちゃんに浮気しちゃうです!

あられちゃんも、ベビーカステラです!
メリルちゃんも!わ、ふわふわありがとですよ!
ひよきんぐしゃんにもしかたないのであげるのです!

いっぱい食べれないけど、ちょっとずつ分け合うから美味しいのですよ!


メリル・スプリング
メア(f12458)と
あられも行くのです

並ぶ屋台に瞳輝かせ

すごいのです、おいしそうなもの、いっぱいなのです……!

メアと手繋ぎ屋台を見て回り、気になるものを買うのです

わたあめ、かき氷、りんごあめ……めずらしいのも、あるですか?

買ったものを食べ比べ

ん、ひよきんぐさん、おつかれさまなのです
メリル、やきとうもろこしをかったのです
これ、ひよきんぐさんにあげるのです

メア、ありがとなのです
メリルのわたあめもあげるのです
ふわふわなのです

あられもたべるのです
おいしいのですか?よかったのです!

んん、おなかいっぱい……
もっともっとたべたいのがあるのに、ざんねんなのです
はいなのです、ひとりでたべるよりおいしいのです!



 鬼灯型の提灯が橙色の燈火(あかり)を連ねる猫又神社の境内。
 殊更に粋美な佳宵に流るるは祭囃子か、軽妙な笛音が郷愁に誘う。
 はやく、はやくと猫又達に急かされるまま歩いてきたメーアルーナ・レトラント(ゆうびんやさん・f12458)とメリル・スプリング(アリス適合者のプリンセス・f25271)は、まるで別世界に来たみたいと歎声を溢した。
「――わああ、すごいです! きれいです!」
「おいしそうなもの、たのしそうなものも、いっぱいなのです……!」
 温かな光と音に溢れる空間に、少女らの麗瞳が爛々と輝く。
 早打(はや)る心は間もなく爽風を紡いだろう、
「ひよひよ~」
「あっ、ひよきんぐしゃん先走ってはいけません!」
 蓋し爪先を彈いたのはひよこの王。
 慌てて王の奔馳を止めたメーアルーナは、こほんと咳払いとひとつ、眞白の柔かな手を差し出して言った。
「ひよきんぐしゃんも、メアも、メリルちゃんも、あられちゃんも。迷子にならないようやくそくです」
「ひよ~」
「はいなのです」
『はぁい』
 王と姫君がこっくりと頷く足許で、舌足らずの聲が幼気ない返事をする。
 それから二人と一羽と一匹は、互いを見失わぬよう手と手を繋ぎ、或いは羽根と尻尾を触れ合せながら、賑々しく喧伝する屋台を見て回った。
 警戒心より好奇心が勝るのは皆同じで、くりくりの瞳は興味深く店々を見渡し、
「ねこさんわたあめ、ねこさんかき氷、ねこさんりんごあめ……みんなねこさんです」
「あめ細工は……ときどき、おさかなのかたち……?」
 気になるものは手に取って、食べ比べて。
 蓋し店主は皆な商売上手の猫又なれば、小さな手は直ぐにもいっぱいに、猫耳のついた水風船やら猫又抱っこ人形やら……すっかり縁日の装いになってしまった。
 時に三毛猫のお面に額を飾ったメーアルーナは、喫驚に乙女色の彩を揺らして、
「はわわ……べびーかすてら、猫さんのお顔です!」
「ほんとなのです。いろんなおかおがいっぱいなのです」
『あられもみたい~』
 あられも、あられもと小さな猫又が前脚をトントンするものだから、二人は腰を落として猫の目の高さに、粗熱を取って差し出してやる。
「どれもおいしそう……メリルちゃんはどれにします?」
「にこにこのがいいのです」
『あられも!』
「はい、あられちゃんも。どうぞなのです!」
『えへへ、おいし!』
「メア、ありがとなのです」
 あられも、メリルも、メーアルーナも。
 小さなほっぺをむぐむぐと動かして頬張る姿が可愛らしいが、舌に広がる極上の美味に双眸を煌々と、恍惚ける様な表情を見せるのも微笑ましかろう。
 芳醇な倖福を胸に広げたメリルは、ここにヒヨコの王を仰いで、
「ん、ひよきんぐさん、おつかれさまなのです」
「ひよ?」
「メリル、やきとうもろこしをかったのです。これ、あげるのです」
 スッと差し出る薫香の芳しさと甘やかな照りに、王が欣喜の表情を浮かべる。
 これにはメーアルーナも喜色を差して、
「わ、メリルちゃんからのぷれぜんと、ひよきんぐしゃん良かったですね!」
「ひよ! ひよ!」
「……すごい勢いで食べ……はっ、これは……浮気……!」
 神域の速疾さで、絶影の嘴で香味を啄む王の姿に一転、瞠目した櫻瞳は、ついと視線を小さな猫又に繋いで、ベビーカステラのおかわりをサービスする。
「むー! メアもあられちゃんに浮気しちゃうです!」
『うわき?』
 うわきってなに。
 ことりと小首を傾げつつも、差し出された美味をうまうまと頂くあられ。
 無垢を眺めるメーアルーナの花脣がすこうし尖っている様な――聢と嫉妬の横顔を見たメリルは、傍らにそうっと腰掛けた。
 繊手に握られる縞スティックには、虹色を帯びた綿菓子が三角の耳を立てていて、
「メリルのねこさんわたあめあげるのです。ふわふわでおいしいのです」
「メリルちゃん……! わ、ふわふわありがとですよ!」
 一番美味しそうな猫耳の部分を呉れる優しさに、莞爾と靨笑(えみ)が溢れる。
 口の中でほろと解ける甘さに機嫌を直したか、メーアルーナはベビーカステラをひとつ摘んで、
「……ひよきんぐしゃんにもしかたないのであげるのです!」
「ひ~よ~♪」
 嗚呼、元のメアに戻ってくれたと、麗瞳に翠玉の色を輝かせたメリルは、三角の猫耳をもうひとつ、今度は二又の尾を振るあられにも分けてやった。
「あられもたべるのです」
『ほわほわ、あまあま!』
「……おいしいのですか? よかったのです!」
 満月の様な金瞳が柔かく細めば、少女もまた、きゅ、と花顔を緩める。
 それから二人と一羽と一匹は、どれだけの美味を愉しんだろう。
 境内を一巡りした頃には、小さな胃袋は満ち足りたようで、
「んん、おなかいっぱい……もっともっとたべたいのがあるのに、ざんねんなのです」
 神社の石段に座りながら、まだまだと屋台の看板を瞳に捺擦(なぞ)るメリルが溜息を溢せば、つと振り向いたメーアルーナが塊麗の微笑に答える。
「いっぱい食べれないけど、ちょっとずつ分け合うから美味しいのですよ!」
 ベビーカステラも、わたあめも。
 大好きな友達と分け合ったからこそ美味しかったのだと滑る佳聲は軽やかに――。
 これを聽いたメリルは、傍らに香箱座りするあられを撫でながら首肯を添えて、
「はいなのです、ひとりでたべるよりおいしいのです!」
『みんな、おいし!』
 片言の鸚鵡返しが祭囃子に紛れた時には、二人共々、心から嫣然を溢していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【縁】

(”道”はやっぱり大事だ)
お前らも楽しんでな

あられ達を笑顔で見送る
千夜子と縁日見る途中、初対面のメイと遭遇
ナンパは面白いから暫くニヤニヤ顔で観察

怪しいモンじゃねェよ
ドヤ顔…?俺のコト知ってるのか?
(誰から聞いたかは直感で)コンポタ野郎か…イヤ、こっちの話だ
そろそろヴォルフガングもこっち来いー(首根っこ掴み引き摺る

男女に分かれヨーヨー釣り対決
大人気無く全力で
白猫の柄のは絶対釣る

俺は誰が相手だろうと手ェ抜かねェかンな!
厳ついイケメン?誉め言葉か
千夜子サンが一番本気だった

最後は皆で食べ歩き

…最初から勝敗関係なく奢るつもりだったっての
年下は素直に甘えとけ
何食いたい?
俺は見守ってたろ?!(串舐めて


薄荷・千夜子
【縁】4人で(メイさんのみ初対面)
縁日、楽しみですね!
楽し気にクロウさんと見て回りつつ、メイさんを見かけ声掛け
お一人ですか?よかったら私たちと見て回りませんか?
皆で楽しめたらもっと楽しいですよ、と屈んで視線を合わせながら自己紹介とお誘いを
メイさんと手を繋いで露店に、と向かう視線の先のヴォルフさんに目を見開いて
そこ!何顔面の無駄遣いしているんです!?

ヨーヨー釣りはメイさんと色違いのお揃いを取りながら楽しむも、勝負と聞いては負けられません!
メイさん頑張りましょう!
UCで【早業】【罠使い】強化で全力勝負

奢りに甘えつつ綿飴や林檎飴を
まぁ!串でも舐めててなんてひどい!とか言いながら飴舐めます


ヴォルフガング・ディーツェ
【縁】

縁日か、こんなに賑やかなんだね…

腹ごなしと人恋しさ紛らわせに買い求めた串焼きを差し出す店員の手をやわり握って口説き
有難う、仕事が終わったらオレに時間をくれない…って顔面の無駄遣いとまで!?(振り返れば友人達の姿)
やっぱり千夜子に…クロウもか
両手に華とはやるじゃないか、と、そちらのお嬢さん(メイ)は初対面だね
宜しくねと笑顔きらきら

ヨーヨー釣りか、やった事ないから楽しみだ
えー、いかついイケメンと組むより女の子に癒された…首、首締まってる!?

ふふん、真剣勝負だと言おうとしたら千夜子がガチだ!何個釣るのキミ…
勝敗に関係なくメイには奢るよ、人のナンパを邪魔した2人は串でも舐めてなさいっ(ぶーぶー)


辰神・明
【縁】
アドリブ歓迎

ふーちゃん、にぎやかさん、ですね……?
大事なぬいぐるみさんをぎゅうっ、て……ぴゃっ!?
(不意の声にびっくり!

え、お友達さんの、お友達さん……?
千夜子おねえちゃんと、ドヤ顔クロウおにいちゃん……?
(ドヤ顔意地悪星人クロウ、と聞いていたが良心が咎めた模様)
コンポ、タ……?
は、はい!メイも一緒、したい、です……!
え……っ!?ヴォルフおにいちゃん、何してる、ですか……!?

千夜子おねえちゃんとチーム、なのです!
ふーちゃんに応援してもらいながら
はじめてだけれど、お揃いのヨーヨー、取りたいな
みなさん、すごい!はやーい……!

メイも、いいの?
りんご飴、きれーだから
みんなで食べたいな、なのです



 猫又坂から猫又神社に、一本の「道」が通った。
 鬼灯型の提灯を連ねる社の境内へ、はやく、はやくと猫又達が手招き、いや肉球招きをすれば、其の欣々と熾ゆる鬼火に嚮導かれた杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、玲瓏のオッドアイに一路を捺擦(なぞ)った。
(「――“道”はやっぱり大事だ」)
 物理的にも概念的にも端倪すべからざるもの。
 己の中にある「道」も――と胸奥を瞶めた麗人は、然し猫又達が橙色の燈火(あかり)を見て駆け出すに合わせ、穏やかな聲に送り出してやった。
「お前らも楽しんでな」
「あられさんも、ようく気を付けて」
『だいじょぶ!』
 何とも舌足らずで幼気ない聲も、尻尾の群れの中から聽こえたなら大丈夫。
 ふう、と安堵の息を溢した薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)は、クロウと優婉の彩を結ぶと、莞爾(にっこり)と靨笑った。
「私達もめいっぱい楽しみましょう!」
「――迷子になるなよ」
「はいっ!」
 軽やかな足取りで縁日の賑わいに向かう可憐を見失わぬよう。
 クロウは直ぐにも爽風を抱くサイドテールを追って、颯爽と歩き進んだ。

  †

 祭囃子の軽妙な笛音に搖れる、尻尾、尻尾、尻尾。
「猫又さん達も楽しそう! ――……あれは?」
 温かな光と音に溢れる大通りに歌うような跫を連れていた千夜子は、フワフワと搖れる尻尾の叢からひとつ頭の抜け出した人影に、お仲間かと視線を結んだ。
(「――あの方も猟兵さん、でしょうか?」)
 見ればまた年端も往かぬ少女だ。
 鬼灯色の燈光に艶を彈く紫髪は煌々、繊手に抱える黒狐のぬいぐるみは無垢の瞳に喧噪を映していて、少女の言葉に相槌を打つように精彩を瞬かせる。
「ふーちゃん、にぎやかさん、ですね……?」
「お一人ですか? よかったら私たちと見て回りませんか?」
「ぴゃっ……!?」
 不意に聲を掛けられた少女――辰神・明(双星・f00192)は驚いて肩を竦め、ぎゅうっと大事なお友達『ふーちゃん』を抱き締める。
 千夜子は喫驚に満つ乙女色の瞳に視線を合わせて身を屈めると、丁寧に自己紹介をした後に手を差し出した。
「皆で楽しめたら、もっと楽しいですよ」
「別に怪しいモンじゃねェよ」
 此処に聲を添えたのはクロウ。
 猟兵とは云え、少女の一人歩きを見ては聲のひとつも掛けるもんだと、口は悪くも面倒見の良い彼が斯く言えば、明は麗瞳をぱちくりと瞬かせて呟き、
「……ドヤ顔クロウおにいちゃん……?」
 この佳容、この麗貌。
 慥か或る人から『ドヤ顔意地悪星人クロウ』と聞いていたが、流石にそこまで言うには良心が咎めたか、然し零れた科白は聢と本人に拾われる。
「ドヤ顔……? 俺のコト知ってるのか?」
「えっと、あの」
 全てを聽かずとも判明る。物凄く顔が浮かぶ。
 優れた直観力か、或いは因縁を以て明との繋がりを披瀝(あば)いたクロウは、ついと鼻梁を横に向けると、その者を同じ様に呼んでやった。
「成る程、コンポタ野郎か……」
「コンポ、タ……?」
「――イヤ、こっちの話だ」
 月弧の如き横顔を見せた儘、夕赤の玉瞳だけを注いで言う。
 とまれ、「お友達のお友達」(?)と理解った明は、千夜子の雪白の手に手を乗せて、
「は、はい! メイも一緒、したい、です……!」
 千夜子おねえちゃんと、クロウおにいちゃん。
 ふーちゃん共々よろしくお願いします、と同道する運びとなった。

  †

 ――時に。
 佳宵の風の吹く儘、ひとつ、ふたつ……と祭提灯の燈光を結んで猫又神社に辿り着いたヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は、擦れ違う笑聲と笑顔に歎声を溢した。
「縁日か、こんなに賑やかなんだね……」
『そこな旦那、もっと燥いだらどうだい? ほら、旨いモン食べてさ』
 狐目の濡女子が差し出す串焼きが特段好物という訳では無い。
 唯だ腹ごなしになれば、人戀しさが紛れるならと硬質の指を伸したヴォルフガングは、串を持つ手ごとやわり包み、端整の脣に極上の麗笑(えみ)を湛えた。
「有難う、仕事が終わったらオレに時間をくれない……」
 お時間を少々。
 いや少々と言わず――と魔狼の麗瞳が艶帯びた、その時。
「そこ! なに顔面の無駄遣いしているんです!?」
「!? 顔面の無駄遣いとまで!?」
 言い過ぎだろうと勢い良く振り向いたヴォルフガングは、その聡い耳に聞き憶えのある佳聲を、秀でた視力に馴染みの顔を――己のナンパを興(おもしろ)いと観察するニヤニヤ顔に、我が香気を霧散させた。
「やっぱり千夜子に……クロウもか」
 邪魔が入ったよ、と名残惜しそうに店主に流眄を注いで別れた麗狼は、不図――千夜子の手に繋がれた一輪の花に緋瞳を細めて、
「両手に華とはやるじゃないか」
 クロウに冗長を投げつつ、長躯をゆっくりと傾けて頬笑んだ。
「そちらのお嬢さんは初対面だね。宜しくね」
「は、はい……宜しく、お願い……します!」
 ヴォルフでいいよ、とキラキラの笑顔を添える。
 もう少し明の事が知りたいと、可憐の瞳の色を瞶めれば、屈んで掴み易くなった首根はクロウにむんずと捕えられ、
「そろそろ行くぞ。こっち来いー」
「えっなんか首根っこ掴むの上手くない?」
「私達、今回で鍛えられましたから!」
「えー」
 ずるずる、と引き摺られていくヴォルフガングの姿には、明もくすりと微咲(えみ)を溢すのだった。

  †

 それから一気に打ち解けた筈の四人が戰う事になったのは、奇遇と言うしか無い。
「あっ……この水風船、耳があります……!」
「本当、不思議な模様だと思ったら……三角の耳がついてるのもあるんですね!」
 わぁ、と明と千夜子の歎声が重なる。
 可憐の聲に結ばれたクロウとヴォルフガングも水槽を覗き込めば、光彈く水面に浮かぶ水ヨーヨーには、ねこ柄におさかな柄、ネズミ柄を描いたものと、ねこ型の形をした特別なものがプカプカと揺れていた。
 何故だろう、身を寄せ合って浮かぶヨーヨーを見ていると様々な感情が揺らいで、
「へえ、ヨーヨー釣りか。やった事ないから楽しみだ」
「――男女に分かれて釣り対決するか」
「えー、いかついイケメンと組むより女の子に癒された……首、首締まってる!?」
「厳ついイケメン? 誉め言葉か」
「……っ!? ヴォルフおにいちゃん……!?」
 犬か猫の様につままれていくヴォルフガングとクロウは右の水槽に、千夜子と明は左の水槽に留まって腰を落とした。
 こんな時の千夜子の瞳は、陽気に悪戯に耀こう。
 佳人は幾許か緊張した明を勇気づけるように両拳を握り込め、
「勝負と聞いては負けられません! メイさん、一緒に頑張りましょう!」
「はい! 千夜子おねえちゃんとチーム、なのです!」
 店主の威勢の佳い聲を合図に手を動かした二人は、沢山の色彩の中へと繊指を潜らせ、水中に隠れる鈎を探し回った。
 紅紫のリボンをゆらゆら、懸命に応援するふーちゃんにも応えたいところ。
「はじめてだけれど、お揃いのヨーヨー、取りたいな……」
「大丈夫ですよ。落ち着いて針を潜らせて、そっと…………ほら!」
 二人同時に、猫耳型の水風船を吊り上げる。ふーちゃん万々歳!!
 思わず明の花脣から安堵の息が零れるが、逆の水槽では極限まで集中した男二人が手首を濡らして鈎を探っており、
「俺は誰が相手だろうと手ェ抜かねェかンな!」
 烱々と冱ゆる麗瞳は既に獲物を決めている。
 白猫の水風船は絶対釣る――と決めていた男は、寸毫の迷いもなく其を掬い上げ、
「ふふん、真剣勝負――」
 近くにあるものから順に釣ろうと長い睫を落としたヴォルフガングは、時に須臾、視界の端にチラつく光景に呼ばれ、佳顔を持ち上げた。
「えっ」
「気付いた時には手遅れですよ!」
 一個、二個、三個……超常の異能【朔ノ手】を駆使した千夜子は、目にも留まらぬ速さでヨーヨーを釣り上げ、次々と木桶に移しては水槽から彩を運び出す。
「みなさん、すごい! はやーい……!」
 ふとクロウとヴォルフガングに視線を移していた明も、自陣のヨーヨーが急速で水揚げされていく景色には、目を皿のようにして、
「千夜子おねえちゃんは……手元が、みえない……」
「千夜子がガチだ! 何個釣るのキミ……」
「この量、ヨーヨー屋でもやんのか……千夜子サン」
「勝負は全力で、真剣に!」
 手を抜く失礼は為ない。
 其を突き詰めた結果、水槽を気持ち良く空にした千夜子は、釣り上げた全部の中から特にお気に入りのものを選んで、ふくふくと艶笑った。

  †

「最初から勝敗関係なく奢るつもりだったっての」
「そうでしたか……」
「年下は素直に甘えとけ」
 可愛らしい財布を取り出そうとする千夜子の繊手を抑え、雑多に並ぶ屋台の看板を指に示すクロウ。
「何食いたい?」
「……わた飴と、リンゴ飴と……」
「飴ばっかだな」
 口は粗雑(ぞんざい)だが、それ以上に優しい兄貴肌に甘える。
 千夜子が猫耳のついたリンゴ飴に芙蓉の顔(かんばせ)を綻ばせれば、花の乙女の微笑はいつだって美しいと赫緋の瞳を細めたヴォルフガングが、ちょん、と明の肩を啄む。
 硬質の指先に振り返った明は、すこうし首を傾げて、
「メイも、いいの?」
「メイには勝敗に関係なく奢るよ。初めてのヨーヨー釣り、頑張ってたし」
 ご褒美だよ、と零れた塊麗の微笑は、しかしクルリと逆側を向くや、恨めしそうな表情に變わった。
「人のナンパを邪魔した二人は串でも舐めてなさいっ」
「まぁ! 串でも舐めててなんてひどい!」
 お断りします、と花色の脣を飴で塞ぐ千夜子が無理なら、串は眞直ぐクロウへ。
「俺は見守ってたろ?!」
 然し串は「問答無用!」とばかり紅脣に向かい、皓歯に受け止めたクロウは仕方なしに嘗めてやった。
 暫し大人組の悶着を見た明は、柔らかな嫣然を溢して口を開き、
「りんご飴、きれーだから……みんなで食べたいな、なのです」
 斯くして可憐があまりに優しく頬笑むものだから。
 大人達は少女の願いを叶えてあげたいと、赤い甘味を買い上げるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
事件は無事に解決。
よかったよかった。
あとは縁日を満喫するだけ。
屋台で食べ物をてきとーに購入。
静かで月が映える場所を探して月見酒といこうかな。
一人静かに飲むのも風流でいい感じっぽい!
んー、でもなぁ、縁日で盛り上がってる中でそれは…
流石に面白みがないよね。
にゃんこを愛でるのも足りてなかったし?
美人な猫又さんを誘ってみるのもいいかな?
一見するとにゃんこを愛でながらの月見酒。
人並みの知性を持つ猫又さん相手なのでナンパみたいだけど。
まぁ、縁日だしそーゆーのもありかな?ありだよね?
健全な月見酒なのでセーフとゆーことで、ね。
月の下で静かな大人の時間を過ごす。
そーゆー終わりもいいよね。



 猫又坂から猫又神社に向かって眞直ぐに一路が伸びる。
 幽世に「道」が戻ったのだと、欣々と駆け往く猫又たちの後を追った露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、佳宵に戰ぐ瑞風に安堵の息を混ぜた。
「よかったよかった。万事解決っぽい!」
 迷子猫は見つかり、猫又としての一歩を踏み出した。
 あられが数多の尻尾に囲まれて喧噪に溶けるのを見守った鬼燈は、己も月に一度の縁日を愉しもうと、軽妙な笛音が誘う儘に足を運ぶ。
 鬼灯の様に提燈を連ねた屋台の看板で、目に留まるのは美味か珍味か。
「猫型に面取りした大根かぁ……おでんなら出汁割りが出来るかも」
『旦那、酒に合うモンをお探しで?』
「てきとーに肴をね」
 足るを知る身なれば、無いものは探さぬ漫歩き。
 聲を掛けられた店主から肴を幾つか頂戴した鬼燈は、擦れ違う笑顔を目尻に置きつつ、細顎を持ち上げて満月を眺めた。
「……月見酒なんか風流でいい感じっぽい!」
 殷賑から幾許か離れた場所で、独り美酒を愉しもうか。
 煌々と映ゆる月を仰ぎ、手酌するのも悪くない。
 これぞ粋美と、調達した酒壺をたゆんと揺らした鬼燈は、然し暫し思案して「んー」と唸り、頬笑むように照る月に佳聲を溢す。
「……でもなぁ、縁日で盛り上がってる中でそれは……流石に面白みがないよね」
 聡い耳が拾うは彈むような笑聲。
 賑々しい聲を聽くだに、助けた猫又達は尻尾を振り振り、縁日を満喫しているだろうと思いを巡らせた麗人は、未だ充足を得ぬ手掌に視線を落とす。
「にゃんこは愛で足りなかったし? 美人な猫又さんを誘ってみるのもいいかな?」
 云えば、烱々たる紫苑の瞳は直ぐにも喧噪を眺め遣り、店の看板娘か見物客か、将又(はたまた)猫型か人型か、どの美人に聲を掛けようと彩を放つ。
 人並みの知性を持つ猫又が相手なら、宛如(まるで)ナンパの様だが――今宵は月一度の縁日、祭りが合縁奇縁を結ぶものとは、幽世も侍の国も同じだろう。
「まぁ、縁日だし。そーゆーのもありかな? ありだよね?」
 あり、あり! と是を置いた鬼燈の目に留まったのは、神社の冷ややかな石段に躯の熱を預ける三毛の美人猫。
 弓を張る如く整った鼻梁は余所を向いた儘、玲瓏の金瞳だけを流眄に注ぐ彼女は、此方の視線に気付いていようが、前脚ひとつ動かさぬ気高さに妙に誘惑(そそ)られる。
 間合いに入る瞬間こそ勝負だろうかと、無暗(やけ)に面白くなった鬼燈は、
「健全な月見酒なのでセーフとゆーことで、ね」
 いきなり撫でる失礼はせず、先ずは挨拶に一段下の石段に腰掛ける。
 三角の耳を此方に向けるだけ――とは詰り、大いに此方の様子を気に掛けている美人猫にそうっと微咲(えみ)を溢した男は、幾許の沈黙の後に紡がれた佳聲に返事をして、
『……お酌なんてしないわよ』
「へーき、へーき」
 美人にゃんこを瞳に愛でつつ月見酒。
 月の下で靜かな大人の時間を過ごすに付き合って欲しいと言えば、二又の三毛はついと視線を上に、上に――唯だ月を眺めるのみ。
 その横顔が美人なんだよなぁと、端整の脣に溜息を滑らせた鬼燈は、グッと盃を傾けて溢美を呑み下した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛
※アドリブ等お任せ

縁日とはゴキゲンじゃねぇか。
そういうコトなら回らせてもらおう。

まずは……そうだな、“面”でも買っとこう。
狐――じゃなくて、ここなら猫のヤツだな。

それを頭にかけつつ散策。
ラムネやら団子やらを食べ歩きながら、あとはオモシロい土産物がもしありゃァ、ってところか。

遊戯のたぐいは、基本的には見るだけにしておく。
アタシがまともにやったらゴロツキ同然だからな……なんかフツーじゃないのがあればやるかもだが、こういうのは雰囲気を愉しむモンさ。自分でやらずとも、な。



 いこう、いこうと二又の尻尾が忙しなく搖れる。
 はやく、はやくと手招きを――いや肉球招きをする。
 沢山の猫又達に囲まれた玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は、猫又坂と猫又神社を結ぶよう繋がった一本道を麗瞳に捺擦(なぞ)ると、端整の唇に微笑を浮べた。
「縁日とはゴキゲンじゃねぇか」
『でがしょ? 狐狛の姉御も楽しんでってくだせぇ!』
 幽世に「道」が戻り、迷子猫が見つかった。
 小さな仔猫が猫又の第一歩を歩み出した。
 猫又達は大きな目を、きゅ、と細めて今宵の月を仰ぎ、
『ほうら、お月さんもふくふく笑って、祝え祝えって言ってるでヤンスよ』
「そういうコトなら回らせてもらおう」
『そうこなくっちゃ!!』
 狐狛が祭囃子の聴こえる方へ、鬼灯の如く燈光(あかり)を連ねる境内へと向かえば、猫又達は軽やかな足取りで彼女の跫に続いた。

  †

 瑞風に軽妙な笛音の流るる佳宵。
 光と音に溢れる殷賑を漫ろ歩いた狐狛は、ずらりと軒を連ねる屋台の看板を眺めつつ、ふと、或る店の前で止まった。
「まずは……そうだな、“面”でも買っとこう」
『お面でヤンスか? そりゃ風流でさァな!』
 琥珀色の瞳が視線を結ぶは、狐面――でなく、目尻に紅を引いた猫面。
 中々佳い表情をしている、と雪白の繊指に眼のラインを撫でれば、足許に侍る猫又達がにゃあにゃあにゃむにゃむと口を出して、
『これで狐狛の姉御もアッシらと一緒でヤンス!』
『待て、待て。こういうのは頭の橫ッ側にチョンと乗せるのが鯔背なんでさァ』
『姉御の小顔を映えさせるように……こうやって……ハイ、別嬪!!』
 喝采(やんや)――!
 美人だ別嬪だと猫又達が膝を打てば、狐狛は吐息をひとつ置いて、
「……随分とゴキゲンだな」
『勿論でヤンス! さぁさ、祭りを愉しむ仕度が出来たら、どんどん食べようじゃありやせんか!!』
『たべゆ!』
 先輩の猫又に続いて『あられ』も嬉々と云うのだから。
 狐狛はとことん付き合ってやろうと、氷の中に浮くラムネに手を伸ばすのだった。

  †

 しゅわ、と彈ける香味を片手に、もう片方の手には串団子。
 縁日こそ食べ歩きが楽しいと、串ものを中心に屋台をぶらり歩いた狐狛は、和やかな賑わいに小さな呟きを混ぜた。
「あとはオモシロい土産物がもしありゃァ、ってところなんだが……」
 と、猫面を戴いた頭首(かぶり)をきょろきょろと巡らせた折、ちょうどハンドベルのかろりと響く音を聴いて視線を結ぶ。
「――賽か」
 其は三つのサイコロを振り、出目の和や重複する数を以て景品を得る遊戯。
 周囲に集まる猫又達は、椀の中で転がる賽に笑ったり叫んだりしている様だが――。
『……姉御はやらねェんでヤンスか?』
「ああ、見るだけにしておく」
『そりゃ何で?』
 賽を振れば土産になる物が手に入るかもしれない、と首を傾げる猫又達に、麗瞳を喧噪に注いだ儘の佳人が花脣を開く。
「アタシがまともにやったらゴロツキ同然だからな……なんかフツーじゃないのがあればやるかもだが、こういうのは雰囲気を愉しむモンさ」
 ああいう愉しみ方が正しい、と繊指に観客を示す狐狛。
 裏社会で“代理賭博師”として生計を立てる者が、堅気の遊興に入る事も無し――場の空気だけ味わわせて貰おうという狐狛の横顔は、はすっぱな遊び人らしい妖しさと美しさがあった。
「自分でやらずとも、な」
 猫又達が十分に楽しんでいる、と琥珀色の彩を煌かせた凄艶は、冷ややかな石段に腰を落とし、縁日の熱狂を浴びた躰をすこうし休めるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
あられも帰ってきましたし、任務完了ですな。
さーて、甘味でも頂きますかな。

■行
【SPD】
祭りといったらやはりあれですよな、綿菓子。
あの甘みと食感が最高なのですよ。
少しでは物足りないので、特大のを頂きましょう。

どうだ濡姫、おまえも何か欲しいものあるか?
え、あの射的をやりたいって?できるのか?
……ああ、銃だけ構えてほしいと。いいぞ。

(濡姫が銃に巻き付き、指示を出している)
あの小さい置物か……随分と挑戦的だな。
ん、もう少し左だと?ではここで……行き過ぎなのか。
ならここ、っていきなり撃つのか?
って、おおっ。本当に撃ち落しているではないか。

※アドリブ歓迎・濡姫は『~でございます』



 猫又坂から猫又神社に、眞直ぐな「道」が通った。
 気持ち良い一本道を麗眸に捺擦(なぞ)れば、遠くには鬼灯の様に提灯を連ねた屋台が――縁日の燈光(あかり)が見える。
「万事解決、任務完了ですな」
 幽世に「道」が戻り、迷子猫が見つかった。
 猫又を蝕んだ骸魂は滅び、小さな仔猫は猫又の一歩を歩み出した。
 先輩の猫又に囲まれる『あられ』に安堵の息を溢した荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は、はやく、はやくと急き立てる尻尾の群れと、己が袖の中で煌々と瞳を輝かせる『濡姫』の願う儘に、賑わいに向かって歩き出した。

  †

 蛟鬼は冷徹に骸魂を葬る地獄の獄卒にて、人の皮を被った残虐なる「鬼竜」と恐れられる男に違いないが、実はとんでもない甘党だったりするとは或る従者の証言。
「さーて、先ずは甘味でも頂きますかな」
『やはり若は甘味に御座いますか』
 祭囃子の軽妙な笛音に誘われて漫歩きするにも、爪先が向かうは甘い薫香。
 佳宵の瑞風に運ばれる香気を辿る蛟鬼の足取りは軽く、
「祭りといったらやはりあれですよな、綿菓子」
 あの甘み、あの食感。
 纏う馨香も最高だと、わた飴屋の前に招かれた蛟鬼は、虹色を輝かせる原宿風わた飴に三角の耳を見ると、似た様なシルエットの店主に注文した。
「少しでは物足りないので、特大のを」
『ヘイ旦那、ウチのはネコちゃん風のかわいいヤツでヤンスよ!』
 直ぐにも差し出る巨大わた飴には、『濡姫』が袖から喫驚の聲を溢して、
『……なんと見事な、二又の尻尾まで忠実に再現されて……』
「濡姫もひとつ、どうだ?」
『!! 愛らしい猫の耳が……若は優しくも冷とう御座います……!』
 チョン、と摘んだ蛟鬼の手をすこうし恨めしく思うのだった。

  †

 畢竟、若はお優しい。
 従者たる『濡姫』がそう思ったのは、ずらりと並ぶ屋台をぶらぶらと巡り歩く蛟鬼が、袖の中に隠れる己に「どうだ」と尋ねた時だったろう。
「どうだ濡姫、おまえも何か欲しいものあるか? 或いはやりたい事とか……」
 賑わいに紛れるテノールを拾い、こっくりと首肯く。
 小さな繊指に其を示せば、主人は指先の方向に身体を向けて、パン、パンと彈ぜる音に精悍な眼眸(まなざし)を注いだ。
『――あれに』
「え、射的をやりたいって? できるのか?」
『心配無用に御座います』
 幾許の確認をして、射的屋へ向かう。
 蛟鬼が店主からコルク銃を受け取れば、濡姫は主人の逞しい腕を台に固定して、
「……ああ、銃だけ構えてほしいと。いいぞ」
 自身は銃身に巻き付いて、筒先を動かして標的を――景品を吟味する。
 銃を構えた砲台、もとい蛟鬼は撃手の指示によく從って、
『最上段の右から五番目に御座います』
「あの小さい置物か……随分と挑戦的だな」
『若、もう少しこちらに』
「ん、もう少し左だと? ではここで……今度は行き過ぎなのか」
 中々細かい指示を出すものだと、端整の脣が微咲(えみ)を湛えた時だった。
「ならここ、っていきなり撃つのか?」
 ――パン!
 喫驚の聲に銃声が被り、コルク彈で躯の中心を押された置物が傾き、倒れる。
「って、おおっ。本当に撃ち落しているではないか」
『的中に御座います!』
 コト、と音を立てて顛倒(ころ)んだ其は、落下して網目の中へ――。
 店主が喝采(やんや)と手を叩いて景品を台に置くと、濡姫は餘に誇らしげに楽しげに眸を輝かせるのだから。
 蛟鬼は不覚えず塊麗の微笑を溢して、
「……連れて帰るか」
 と、置き物をツンツン小突くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

無明・緤
尻尾を振ってはしゃぐ仔猫を見て目を細め
猫又たちが一緒なら、もう独りで道に迷うこともないだろ

働きへの労いもかねて
絡繰人形とバディペットの三毛猫を連れて
夜店を冷やかしにいこう
好奇心旺盛な彼女がはぐれぬよう気を配りつつ
どっか行きそうなら首元を優しめに捕らえて引き戻す

焼栗の弾ける音、匂いにつられて一袋買い求め
熱々を頬張るのは猫舌には中々の冒険だから
人形を【操縦】し、鋼の手で焼けた栗をお手玉
程よく冷めた所を頂く

手慰みに一度に何粒までいけるか試してみよう
操縦の訓練も兼ねて、お手玉する栗を増やしていく
手からうっかりこぼれた栗はおれがおいしくキャッチ!

ニ゛ャ!?
(横からさっと出てきたちびミケに栗をさらわれる)



 迷子猫は助けられ、幽世に「道」が戻った。
 猫又坂から猫又神社へ眞直ぐに伸びる一路に喝采(やんや)の聲を挙げた猫又たちが、尻尾を振り、鬼火を揺らして駆けていく。
『あられも、あられも!』
 舌足らずながら懸命に、尻尾を立てて後に続く『あられ』。
 猫又の一歩を踏み出したばかりの新米を囲む尻尾も頼もしかろう、
「猫又たちが一緒なら、もう独りで道に迷うこともないだろ」
 万事解決、一件落着――。
 颯爽と境内に向かう猫又達を、安堵の表情で見送った無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は、瞥見を左右にひとつずつ、絡繰人形『法性』とバディペットたる『ちびミケ』に落ち着いたテノールを添えた。
「――扨て、夜店を冷やかしにいこうか」
 此度の働きを労おう。
 郷に從い、存分に楽しませて貰おう。
 言外に然う滲ませた緤は、佳宵の風が運ぶ祭囃子に誘われる儘、一歩を踏み出した。

  †

「今回は随分と首根っこを掴むな」
「にゃあ」
 好奇心旺盛な三毛猫が迷子にならぬよう、前脚が行き急ぐ度に首元を優しく捕える。
 賑わいの中にあっても注意は充分に、緤はずらりと並ぶ屋台を漫歩いた。
『ヘイ、機械の旦那! 腕に自信があるなら射的はどうだい?』
『そこの一本尾の兄貴! 兄貴そっくりに絵皿を描きやしょう!』
『三毛のお嬢、おさかな型のカステラが美味しいでヤンスよ!』
 猫又たちは中々に商売上手だ。
 往く先々で威勢の良い聲を掛けられた緤達は、ここで不図――助けた猫又の叔父が栗を焼いているという話を思い出し、その馨香を辿る事にした。
「焼栗の彈ける音、匂い――此処だな」
『ラッシャイ! 猟兵さんにゃ甥っ子が世話になりやした!』
 格別の香気に招かれ、一袋買い求める。
 緤のスッと通った鼻梁を擽る薫香は頗る芳しく、袋口を開いた瞬間に貪りたくなるが、熱々を頬張るのは猫舌には結構な冒険だろう。
 故に緤はヒゲをヒクヒク、電波を受発信する『索』より電波を飛ばして傀儡を操ると、お手玉をする様に焼き栗を宙に転がした。
「粗熱を取る程度ではなく、もう少し冷まそう」
 舌が火傷しては、折角の美味も無粋になる。
 程良く冷めたかと、肉球でフニフニと確かめた緤は、「法性」がヒョイと宙に踊らせた一つを口に運び、ほむほむと咀嚼した。
「……これは、旨い」
 舌に広がる極上の味に気を良くした彼は、更に袋から二つ、三つと取り出してお手玉をする栗を増やしてみる。
「手慰みに、一度に何粒までいけるか試してみよう」
「にぃあ?」
 ちびミケが小首を傾げて見守る中、「法性」が五つの栗を軽妙に投げて転がす。
 集中力を研ぎ澄まして更に一個、ヒゲをヒクヒク動かしてもう一個と焼栗を増やせば、お手玉は更に高く、美し楕円軌道を描いて栗を舞わせた。
 迂闊(うっかり)鋼の手から零れても大丈夫。
 聢と焼き栗を捉えた翠の烱瞳が、精確精緻に落下地点を予測すれば――!
「ニ゛ャ!?」
 ――いや!
 颯然と後脚を蹴ったちびミケがおいしくキャッチ!
 小さなお口に極上の一粒を咥えた三毛猫は、しゅた、と着地するや美味を嚥下し、
「なぁお」
 おいし、とでも言うように愛らしい瞳を細めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
道が戻ったとあらば、此れ以上の用も無く
元より祭りの賑やかさには馴染みの悪い身、余り長居はすまい

……何だ、陽煌。何か気になるのか?
綿飴に林檎飴、鈴を模したカステラと、興味を示すのは甘い物ばかり
しかして最後に仔竜の目が吸い寄せられ動かなくなったのは
転がすと光り、鈴の音が鳴る宝玉の玩具
此の処、些か寂しい思いをさせていたしな、偶には良いだろう
買ってやるから好きな色を選びなさい
最後に林檎飴を1つ――ゆっくり食べる様にな

宝玉を抱えた仔竜を肩に、社――喧騒の遠い場所へ
燻らせる紫煙を深く肺へと落とし、変わらず其処に在る月を仰ぐ
……そろそろ帰るとしよう
照らすものの有る道だ、迷う事はあるまいよ



 幽世に「道」が戻った。
 探し当てた迷子猫は猫又に、小さな一歩を踏み出した。
 猫又坂から猫又神社にかけて伸びる一本道を、嬉々として駆け出す尻尾の群れを認めた鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、そっと安堵の息を置いた。
「――万事の解決を見たとあらば、此れ以上の用も無く」
『えっ、鷲生のダンナ……行かねェんでヤンスか?』
 爪先を留め置いた儘の嵯泉に気付き、はたと振り返る猫又たち。
 元より祭りの賑やかさには馴染みの悪い身にて、と端整の脣が言を足せば、首をことりと傾げていた『あられ』が足許に擦り寄り、
『さぜん、いこ!』
 よく理解っていないのだろう、舌足らずの聲で嵯泉を促す。
 然れば隻眼の男は、漆黒の革手袋を嵌めた指を差し伸べ、
「……余り長居はすまい」
『うん! いそご!』
 会話が噛み合っているのか、いないのか。
 とまれ嵯泉は眞白の尻尾に引っ張られるように、祭囃子の流れる方へ向かった。

  †

 鬼灯の様に燈光(あかり)を連ねる祭提灯。
 佳宵の瑞風に運ばれる軽妙な笛音。
 光と音に溢れる境内に屋台が立ち並ぶ――殷賑。
 擦れ違う笑声と笑顔を目尻に流し、喧噪を漫ろ歩いた嵯泉は、仔竜『陽煌』の金の瞳がくりくりと煌めくのを見て、眼眸(まなざし)の結ばれる先に視線を遣る。
「……何だ、陽煌。何か気になるのか?」
 じっ、と見詰めた儘の眸子(ひとみ)が何より物を云おう。
「成る程、甘味か」
「クゥ」
 仔竜は綿飴や林檎飴、鈴を模したカステラと、次々に瞳に映り込む食べ物に興味津々、同時に鼻頭を擽る薫香に金眸をぱちくりと瞬かせる。
 陽煌もまだまだ仔竜にて、好奇心は逞しいかと虹彩の輝きを瞶めた嵯泉は、ここに無垢なる金瞳が吸い寄せられ、動かなくなるのに気付いた。
「――これか」
 視線を追って繊指を伸ばし、触れてみる。
 然ればゆうらり光を彈いて轉がった宝玉の玩具は、璃、と心地好い鈴の音を溢した。
「クー」
 透徹(すみわた)る凛冽の音色に心が洗われる。
 きら、きらと零れる粋美に視線を落とした嵯泉は、佳脣に幾許か微咲(えみ)を湛えて言った。
「此の処、些か寂しい思いをさせていたしな、偶には良いだろう」
 宛如(まるで)宝物を見つけたかの様に瞳を輝かせる仔竜を甘やかせる機会も尠い。
 もう一度宝玉を揺らした嵯泉は、陽煌を促して、
「買ってやるから好きな色を選びなさい」
 と、滑るバリトンは穏和に優婉に。
 それから彼は仔竜が遊びながらじっくりと選ぶまでの時間を、靜かに待つ事にした。

  †

 思い出の味に、最後は林檎飴をひとつ。
「――ゆっくり食べる様にな」
「クーゥ」
 宝玉を抱えた仔竜を肩に、あかくて甘やかな美味を添えて歩いた嵯泉は、満月が天頂に昇る頃に社へ向かった。
 喧噪を隔てた彼は、燻らせる紫煙を深く肺へと落とし、煌々と照る月を仰ぐ。
 軈て丹花の脣はほつりと言を溢して、
「……そろそろ帰るとしよう」
 猫又達の平穏を確めた。
 己と仔竜も僅かにも其に与った。
 充分だろうと、縁日で浴びた熱狂を冷ややかな石柱に預けた麗人は、誰に別れを告ぐでもなく、靜かに一歩を踏み出す。
「照らすものの有る道だ、迷う事はあるまいよ」
 紫煙と共に立ち昇る言。
 其の顕かなるは、紺藍の天に浮かぶ満月が聽くのみであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
知らず尾を下げたまま
ぼんやりと提灯に伸びる影を見る

…ああ、すまぬ師父
今宵は祭、月の宴であったな
なんだ、お前も来るか
あられを踏まぬよう師を追う

む、勝負?
俺は兎も角あられも出来るのだろうか
しかし従者たる者、主に挑まれては退けぬ
受けて立とう
素早く袖を捲り

見ていろ、あられ
的を獲物と心得、息の根を――
…師父、何故あの輪は言うことをきかぬ
兎や鳥は捕らえられるというに
うむ、まだだ、もう一投

どうした輪、言いたいことがあるなら早く言わぬか


…もういたくないか、あられ
気付けば宵も深く
いつの間にか裡の波も凪いで
敵わぬ思いで師を、それから
笑むような月を共に仰ぐ

迷子が、もう道を見失わぬようにと


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
随分楽しげではないか――ジジ?
しょぼくれた従者に瞠目
彼奴が何を考えているか自ずと察しはつく

ああ、そうさな…実に特別な日だ
ならば今宵はゆっくり
羽を伸ばして帰っても罰は当たるまい
ほれジジ、往くぞ
折角だ、あられもくると良い

甘栗に舌鼓を打ち、夜店を見る
輪投げか――ジジ、あられ
此処は勝負をしようではないか
私が勝てばジジに何かを奢らせる
ジジが勝てば私が奢ってやろう
あられが勝った時は…私とジジで割り勘だ

もう、尾は垂れておらんだろうか
…別の意味で垂れそうだが
ジジ、輪の言葉に耳を傾けよ
然すれば心を通わす事が出来る…筈だ

…うむ
瞳に何時もの彩が戻ったか
人知れず吐息を零す
あられもそう思うだろう?



 鬼灯型の祭提燈が連なる神社の境内。
 御囃子の笛音も軽妙に、賑々しい笑顔と笑聲の間を瑞風に運ばれ往く。
 燈光に伸びる我が影に曚然と眼を落としたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、竜尾が垂れた儘とは知らず――師たるアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)に悄然の背中を許した。
(「……ジジが何を考えているかは察しがつく」)
 随分としょぼくれた従者に先ずは瞠目し、次いで紅脣を引き結ぶ。
 弟子の機微に敏い師は、然し其を詳らかにはせず――唯だいつもと變わらぬ玻璃めいた聲に彼を振り向かせた。
「随分楽しげではないか――ジジ?」
「……ああ、すまぬ師父」
 開口一番に謝る、バリトンの儚さと云ったら。
 己も気付いていないだろう揺らぎにアルバが幾許か沈黙を置けば、ジャハルは漸う視線を持ち上げ、眸の七彩に屋台の看板を捺擦(なぞ)った。
「今宵は祭、月の宴であったな」
「ああ、そうさな……實に特別な日だ」
 緩然(ゆっくり)と相槌を打つ。
 弟子に合わせて玲瓏の彩を巡らせる。
 本人の気付かぬ所で調子を合わせた師は、我が足許で前脚をトントン、駆け出したくてウズウズしている猫又『あられ』を見せた。
「今宵はゆっくり羽を伸ばして帰っても罰は当たるまい。ほれ、あられも急いておる」
「なんだ、お前も来るか」
『うん』
 長身の竜人と小さな猫又が視線を結んだ矢先、アルバは爪先を動かして、
「あられ、ジジ、往くぞ」
『ジジ、ゆくぞ』
「――む」
 舌足らずにも科白を真似るあられと、あられを踏まぬよう長い脚をギクシャク動かしたジャハルが、急ぎ師の跫を追った。

  †

 ――矢張りと言うべきか。
 気付けばあられが先頭を疾り、二人の漫歩きを嚮導いていた。
『しーふー! ジジー!!』
 はやく、はやく、と足踏みするのが癖らしい。
 甘栗が食べたいと、屋台の前で二人の到着を待ったあられが甘え上手なら、店主の猫又は商売上手で、
『ハイハイ、こちらは試食、サービスでヤンスよ!』
『ん、おいし』
『そこな旦那、ウチのは祝い栗でして、縁起がよござんすよ!』
『かって、かって』
 幼な金瞳がキラキラと、店主の銀瞳がニコニコと薦めるものだから。買い求める。
 袋口を開けた瞬間に広がる薫香も、一粒含んだだけで舌を魅了する美味も素晴らしく、存分に舌鼓を打った二人と一匹は、ふと――湧き上がる歓声に視線を結ばれた。
「あれは……輪投げか。――ジジ、あられ、此処は勝負をしようではないか」
「む、勝負?」
『しょーぶ?』
 人集り、いや尻尾溜りに秀でた鼻梁を向けた儘、アルバが流眄を注いで言う。
 屋台に向かうがてら、師は説明を足して、
「私が勝てば、ジジに何かを奢らせる。ジジが勝てば、私が奢ってやろう」
『あられは?』
「あられが勝った時は……私とジジで割り勘だ」
『はーい!』
 莞爾と頬笑むあられだが、ジャハルの烱眼はまじまじとその前脚を見ており、
「俺は兎も角、あられも出来るのだろうか……」
『だいじょぶ!』
「然うか。ならば従者たる者、主に挑まれては退けぬ故――共に受けて立とう」
『うけてたとー!』
 相手は師にて、遠慮無し。
 全力を見せねば礼を欠き、また全力を出さねば勝てぬ相手と、素早く袖を捲る。
 勝負と聞けば麗眸は怜悧に、烱々と彩を増すのが彼らしかろう。
(「――もう、尾は垂れておらぬか」)
 五感を研ぎ澄ませていく弟子の横顔にそっと微咲(えみ)を溢しつつ、アルバは左側の卓へ、輪を束ねるやヒョイ、ヒョイと投げて景品を狙い始めた。
 右側に残ったジャハルは、順番待ちのあられにそうっと囁(つつや)き、
「――扨て、どれにする」
『とり』
 小さな肉球が青い鳥の貯金箱を差せば、成る程蓄財するも佳しと照準を絞った烱眼が、輪が、其を喰らいに掛かる――!
「見ていろ、あられ。的を獲物と心得、息の根を――」
『いきのねを! あれぇ?』
「………………師父、何故あの輪は言うことをきかぬ」
 動き回る兎や鳥は捕らえられるというに、止まった小鳥に逃げられる不可解。
 可怪しい、と訝しげな表情に訴えられたアルバは、教え諭すように佳聲を滑らせ、
「ジジ、輪の言葉に耳を傾けよ」
「わのことば」
『わのことば』
「然すれば心を通わす事が出来る……筈だ」
 ふむ、ふむと耳を寄せる竜人と猫又は揃って真劔な表情。
 宛如(まるで)同じ顔をしている、と吃々と窃笑したアルバは、彼等の愛らしい光景を盗み見て愉しむ事にした。
「うむ、まだだ、もう一投」
『つぎ、あられ! つぎ、あられ!』
 少し意地になるジャハルと、前脚をトントンするあられ。
 斯くも急いては輪と心を通わせる事は叶わぬか、
「……。…………。…………どうした輪、言いたいことがあるなら早く言わぬか」
『はやくいわぬか』
 畢竟。
 修行の途にあるジャハルと、猫又になったばかりのあられには、終ぞ輪の深奥は視えず――勝者アルバは、すっかり尾が垂れてしまった彼等に好きなだけ甘いものを食べさせてやる事にした。

  †

「……うむ。瞳に何時もの彩が戻ったか」
 漸っと安堵を得たとアルバが溢したのは、宵も深まった頃だったろうか。
「あられもそう思うだろう?」
『ジジのめ? うん、きれい』
 語尾を持ち上げて優婉に問えば、じっと瞳の色を覗き込んだ猫又がふくふく咲む。
 純真なる金瞳を鏡にしたジャハルは、喫驚いたように七彩を揺らして、
「――師父」
 いつの間にか胸のさざめきも凪となり、心に沈んでいた澱も解けた。
 師父が取り払って呉れたのだと気付いた弟子は、「敵わぬ」とくしゃり射干玉の艶髪に指で櫛を入れる。
 掌手はその儘、耳の脇を流れて首頸に――俯きそうになる麗顔を起こしたジャハルは、紫紺の天蓋で頬笑む満月を仰ぐ。
「……もういたくないか、あられ」
『? うん!』
 理解っているのか、いないのか。
 蓋しその無垢こそあられの魅力だと、双つ星が揃って光を溢す。
 きゅ、と金眸を細める無垢を眞ん中に、師父と二人、さやかな月光を浴びた竜の仔は、薄く引き結んだ佳脣に願いを紡いで、
(「――迷子が、もう道を見失わぬように」)
 と――、いつまでも皓月を瞶めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リダン・ムグルエギ
【ワイハン】
道が戻ったこの世界
アタシ達が新しく道を開こうじゃない
そう、輝かしきランウェイを!

なんて言いつつお知り合いと食べ歩くわ
魔王様のオフショットを映さないように気を付けつつ動画撮影も
お、ヒカルちゃんナイスコール!

動画はキマフュへのカクリヨ紹介も兼ねてるの
「皆気さくな妖怪達よ!
魔王様とかもう、オススメ聞いて溶け込んでるし…
あ、鯛焼きと鮪焼きと河馬焼きくーださいなー

「この店員の子達が猫又よ!(甘やかし動画を別枠で流しつつ)
あ、アタシにもかき氷頂戴、シャケ味で

「元ロードイーターなあられちゃんは元気ねー
お喋り一杯できて大満足かしら?

祭りの光景を流したり食レポしたり(描写お任せ)しつつ満喫するわ


荒谷・ひかる
【ワイハン】

(カメラへ向かって)
『GOATia×邪神様×精霊さんちゃんねる』のこらぼ企画。
『カクリヨ★ふぁんたずむ もぐにゃーフェスティバル編』始まりますよっ!
(満面の笑顔でタイトルコール)

そんな訳で、お二人と一緒にカクリヨの紹介動画のロケをしながらお祭りを楽しみます
「ここの妖怪の皆さん、恐ろしい一面もあるそうですが楽しい方々ばかりで……って、鮪焼きと河馬焼きってなんですか!?」
「かき氷のメニュー……かつぶし味とかカリカリ味とか、ちゅーる味とかあるんですけど、意外と美味しいのがびっくりです」
「ろ、ろーどいーたーってすごい二つ名ですね……あっ、焼きシシャモもありますよっ」


御形・菘
【ワイハン】
はーっはっはっは! 此度は超豪華コラボ企画であるぞ!
『GOATia×邪神様×精霊さんちゃんねる』だ!
そして、妾の動画史上、最っ高に可愛らしいゲストも登場!
ささ、自分の名前を言ってくれ!

とゆーことで猫又たちも巻き込み、楽しく屋台巡りをしよう
行き当たりばったりに突撃するのも楽しいが、現地の者たちにおススメを聞こうか
佳き記念日に相応しい、ハイレベルに素敵な案内よろしく!

う~む、鯛焼きの中身が餡子ではなく、鯛のすり身ってアリなのか?
かき氷はカリカリ味が好みであるな、ご当地感も素晴らしい!
はっはっは、元ロードイーターは何が気に入ったかのう
お主が存分に楽しんでくれたら、妾はとっても嬉しいぞ!



 ファッションカテゴリ第一位の「GOATia」。
 ~してみた系で殿堂入りの「邪神様」。
 癒し系動画で急上昇中の「精霊さんちゃんねる」。
 各分野でフォロワーを生み続ける三局番がコラボ企画を発したなら、チャンネル登録者はおろか、一般視聴者もザワついたに違いない。
 公式のトップページを席捲したドリーム企画には、既に銀河の数ほど視聴予約が入っていたが、実際にライブ配信が始まれば、その視聴者数は更に膨れ上がった。
 配信零秒で歓喜したのは、キマフュの一番星、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)を「邪神様」とか「邪神さん」と崇める信者(フォロワー)達だろう。
「はーっはっはっは! 妾だ!!」
 ――ぬぅん。
 画面いっぱいに邪神オーラを迸発(ほとばし)らせて現れた菘は、群を抜くファーストインプレッションで視る者の心を掴み、勢いをモノにする。
「皆も知っておろうが、此度は超豪華コラボ企画であるぞ!」
 その名も――! と、玲瓏際立つ金の邪眼が目線を寄越した處で、カメラは右へパン、莞爾と笑顔を咲かせる荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)を映す。
 精霊さんが燦然を振り撒く中、少女はほんわ、と佳聲を轉がして、

「お待たせしました、『GOATia×邪神様×精霊さんちゃんねる』のこらぼ企画!」
「――『カクリヨ★ふぁんたずむ もぐにゃーフェスティバル編』始まりますよっ!」

 満面の笑みでタイトルコールが発せられると、ここで祭囃子の笛音が軽妙に流れ出し、撮影用ドローン『天地通眼』が猫又神社の上空から縁日の光景をインサートする。
「お、ヒカルちゃんナイスコール!」
 上出来、上出来、と笑顔を結ぶリダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)のリラックスした表情も、彼女をインフルエンサーと仰ぐファンには嬉しかろう。
 此処で夢のスリーショットを披露した彼女は、此度の内容を説明して、
「動画の概要にあった通り、幽世のカタストロフは無事に防がれて、猫又坂にも『道』が戻った訳だけど、ここにアタシ達が新しく道を開こうじゃない! って話になって」
 まじで、まじでとコメントが走る中、三人が小気味良く瞥見を交わす。
 視聴者の歓喜を数字に受け取りながら、リダンは塊麗の微笑を溢して、
「――そう、輝かしきランウェイを!」
 ここでメインカメラがグッとズームアウト!
 三人を中央に据えた儘、左右にずらりと並ぶ屋台を俯瞰で映せば、各分野のカリスマ達が一同に「食べ歩きロケ」をするのだと、感動のコメントが駆け抜ける。
 この動画が幽世の紹介を兼ねているとは、ひかるが丁寧に説明し、
「今回、わたし達がやって来たのは妖怪絵巻の世界……古今東西を問わず様々な妖怪達が日々のカタストロフと戰いながら暮らしています」
 喋り方が何処となくミステリー。
 歩き方が何処となくハンター。
 ひかるを始点にカメラがぐるりパノラマ景色を映せば、途中で菘が仁王立ちしており、威圧的に擡げ……いや、躯は屈んで足許に注目を集めさせる。
「そして今回は、妾の動画史上、最っ高に可愛らしいゲストも登場するぞ!」
 誰ぞ、誰ぞと疑問符で埋められたコメント欄は、小さな眞白の猫又のアップに、今度は狂おしい絶叫を飛び交わせた。
「ささ、名前を言ってくれ!」
『すずな』
「惜しい! 自分の名前だぞ!」
『あられ』
「そう、スペシャルゲストのあられだ!!」
『あられだよ』
 一瞬、邪神様の本名が明かされた様な――。
 リダンは事前対策も抜群、菘の配信用ペルソナを崩さぬよう、颯然と新米猫又を連れて屋台へ向かい、
「元ロードイーターなあられちゃんは元気ねー。お喋りも出来るようになったものね」
『えへへ、おとな!』
 服飾師の尻尾と二又の尻尾が揃って漫歩きを始めれば、精霊さんにツンツンと促された少女も軽やかに踏み出る。
 ライブ動画ながら直ぐにも付されるスーパー(字幕)も視覚効果を惹き立てようか。
「ろ、ろーどいーたーってすごい二つ名ですね……」
 \元ロードイーター!!/
 \あられの強者感パネェ/
 縁日の空気に合わせて動画の画面も賑々しく、続々とコメントを走らせた。

  †

 鬼灯の如く橙色の光を連ねる祭提燈。
 紺藍の天に浮かぶ皓月は妖し美し、瑞風を戰ぐ佳宵。
 郷愁を誘う様な、それでいて何処か不気味な――幽世の縁日は、生配信を観る者に強烈な刺激を与えた。
「はいはーい、ここで恒例の質問タイムね!」
 リダンが高性能移動端末『万魔電』に流れるコメントを翠瞳に捺擦(なぞ)りながら、視聴者から寄せられる疑問に答える。
「妖怪ってコワくないですか、と……。猫又坂の皆は気さくよ!」
 此れにはひかるも首肯を添えて、
「ここの妖怪の皆さん、恐ろしい一面もあるそうですが、楽しい方々ばかりなんです」
 慥かに。
 ひかるの身に危険が迫るなら、精霊さん達が黙ってはいるまいと、妙に納得するのが「ふれんず」と呼ばれる彼女のフォロワー。
 時に菘は、スッと液晶画面を覗き込んで質問を拾い、
「あられの姿に『猫又って何ぞ』『何と何のキマイラ?』という質問が来ておるのう」
「それなら……この店員の子達が猫又よ!」
 ばん、と効果音付きでリダンが2カメにスイッチする。
 屋台で威勢良く客引きする猫又を映しつつ、左下のワイプには件の『甘やかし動画』を流し込み、視聴者に彼等の魅力を発信する。
 既に猫又達と大いに触れ合った三人は、彼等との会話を愉しむよう屋台を巡って、
「あ、鯛焼きと鮪焼きと河馬焼き、くーださいなー」
「!? 鮪焼きと河馬焼きってなんですか!?」
 シュッと賑わいを泳いで鉄板屋に向かうリダンを、喫驚の表情で追うひかる。
 猫又も商売上手なれば、阿吽の呼吸で美味を差し出して、
『流石、猟兵さんはお目が高い。ウチのは逸品でヤンスよ!』
「…………う~む、鯛焼きの中身が餡子ではなく、鯛のすり身ってアリなのか?」
 丫(ふたまた)の舌に乗せて充分に咀嚼し、食レポをする菘の表情もリアル。
 お味は全体的に猫又向け、キマイラフューチャー民の好むジャンク系ではないかもと、相談し合って食べる姿もファンには貴重で、これぞコラボの醍醐味と悦ぶ視聴者たち。
 行き当たりばったりに突撃レポートをするのも楽しいが、現地の者達におススメを聞くのも良いと、持ち前の行動力を発揮した菘は、早速通行人に聲を掛け、
「お主らが持っている物を見せて貰っても構わぬかのー?」
『コレでヤンスか? 猫又型のわた飴でヤンス!』
「尻尾が見事な二又じゃのー。買った店に案内して貰おうかのー」
『がってん。こっちでヤンス!』
 こう、いきなりグイグイいく感じも街歩きロケならではだろう。
 リダンとひかるは感嘆を溢して、
「もう溶け込んでるし……」
「心の壁を感じさせないのが、現地の人にも受け入れられるんでしょうね」
「あられちゃん、ここ勉強しておくところよ」
『わかったー!』
 \これが世界を渡る力/
 \あられ、勉強タイム/
 そして、彼女達の街歩きに即座に反応が返るのがライブ配信ならでは。
 此度のコラボ企画は、配信者と視聴者、そして会場の猫又たちとも一体感を共有できるような――何とも賑々しいものとなった。

  †

 今宵、あられが猫又としての一歩を踏み出した。
 佳き記念日に相応しい、ハイレベルな動画を配信したいという野望を抱いていた菘は、素晴らしい仲間と案内を得て、最高の取れ高を獲得していた。
 全員がキマイラフューチャー出身、ちょっと不思議なメニューもノリと勢いで楽しめる気魂があったのも奏功したろう。
 目下、菘はひかると共にかき氷をしゃくしゃくと突いており、
「かき氷のメニュー、かつぶし味とかカリカリ味とか、ちゅうる味とかあるんですけど、意外と美味しいのがびっくりです」
「かき氷はカリカリ味が好みであるな、ご当地感も素晴らしい!」
 \ひかるちゃんが意外とチャレンジャー/
 \邪神様が褒める時はガチでうまいやつ/
 可憐と凄艶のツーショットが中々に微笑ましいと視聴者が和んでいると、時に猫又型の水ヨーヨー釣りに挑戰して帰ってきたリダンが、ナチュラルに追加の注文を取る。
「あ、アタシにもかき氷頂戴、シャケ味で」
『ははぁ。おさかな尻尾の猟兵さんは、やっぱアスタキサンチンかい?』
 \メニューがカオスな件/
 \会話についていけない/
 そろそろ視聴者が「じわじわ系動画」と理解してきた頃、瑞風に運ばれる薫香を鼻梁に掠めたひかるが、あられが、彈かれたように視線を揃える。
「あっ、焼きシシャモもありますよっ」
『ししゃも! ししゃも!』
「あら、本当……なんて香ばしい……」
 眞白の尻尾がピュウと疾走り、その後を追って少女がパタパタ、走るのは面倒と続いたリダンがゆっくりと屋台に向かえば、あられはアーモンドアイを煌々と、前脚をトントンと踏み鳴らして一同を急いた。
『かって、かって!』
 舌足らずな聲で甘えるあられ。
 リダンが支払いを済ませ、ひかるがフゥフゥと粗熱を取ってやれば、差し出された串に勢い良く飛びついたあられは、ハフハフ、ウマウマと其を食べた。
 胸の空く食べっぷりには、菘も満足気に艶笑(わら)って、
「はっはっは、元ロードイーターはシシャモが気に入ったか」
『うん! おいし!』
「お主が存分に楽しんでくれたら、妾はとっても嬉しいぞ!」
 \おれもだ/
 \僕もです/
 \ワシもよ/
 皆がにっこり、ほっこりする。
 其々のジャンルを超えて一体感に包まれた此度のコラボ企画は、大成功!
 餘に反響を得た配信動画は地上波のニュースでも取り上げられ、幽世の認知度アップに多大な貢献をしたという――實にめでたい仕儀であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月18日
宿敵 『彷徨う白猫『あられ』』 を撃破!


挿絵イラスト