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カミトケ

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●アカトキ
 突然の大雨がやがて猛烈な豪雨となった、あの初夏の夜から十と六の年を数えた。
 ――つめたい。
 山を震撼させる雷が落ちて、十六年を迎える。
 ――あつい。
 その地に根づいた永い営みを、けたたましい雷炎が飲み込んでから、十六年。
 ――くらい。
 月も見えないこの夜が明ける頃、あの時刻を迎える。
 ――かなしい。
 誰もいなくなった。誰の声も届かなくなった。
 足繁く通ってくれたあの人も来ない。
 さみしい。かなしい。寂しい。
 サミシイ。寒い。さむい。悲しい、カナシイ、だれか――ダレカ……

●カタルトキ
 グリモアベースで猟兵を迎えた鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、腰に佩いた刀の柄を人差し指でコツコツと叩く。紺瞳を鋭く尖らせて、眉間に刻まれた皺はやや深い。
 それでも、現れた猟兵の姿を見、強張らせていた頬を少しだけゆるめた。
「ひとつ、事件を終わらせてきてほしい」
 言って示したのは、年月日の揃わない新聞記事のスクラップのコピー。
 古いもので十五年前――高齢男性が行方不明になって三晩となったもの。
 その三ヶ月後、川釣りに出た四十代男性が遭難したことを知らせる記事。
 年が変わり、遺書のような書き置きを残したまま行方をくらませた夫を心配する妻の特集記事。
「俺もちょっと調べて、わかったことだけ――姿を消した人は、まだ見つかってねえ」
 その赤丸つけた記事の人だよォと誉人。十個目からは数えるのをやめた。
 病気、生活苦、事故――なんとなく辻褄を合わせることができる背景のある人がいなくなっていた。
「あんたがこれを集めたってことは、この人たちも今回の事件に関係があるんだな」
 問われて頷いたが、それを否定するように、小さくかぶりを振った。
「それでもこれは、過去のことだ。で、こっからが俺の視た予知のことな」
 過去の失踪事件はもはや追えない。これらの事件(もしくは事故)について調べることはできても、失踪者を見つけ出すことはできない。
 しかし、予知にかかった事件ならば――
「三人、いなくなったンだ」
「三人も?」
 誉人ははっきりと首肯して、もう一枚のコピー紙を示す。そこには町の略図が印刷されていた。
 主要な場所――町役場、警察署、消防署、病院、図書館、公民館、幹線道路、それに交わる線路、大型の駅――その近くにある建物のひとつに赤丸がついている。
 そうしてもうひとつ、学校にもシルシ。
 学校周辺のより詳細な地図は二枚目。学校は小学校であることが明らかになる。そこから伸びる一本の赤い線。
「いなくなったンは、その新聞社に勤める、鈴本浩平サン」
 一枚目の、駅前の建物の赤丸を指で示して誉人。
 大学を卒業し入社してから今までの十余年、無断欠勤なんぞしなかった男が、この四日もの間、連絡もいれずに出社していないと、社内でも不安が広がっている。
「次、末村清一サン」
 学校から伸びる線をなぞる――この通学路の見守り隊に所属して、地域のコミュニティにも積極的に参加している老齢の男性だ。登校時間には、見守り隊の黄色の旗を持ち、襷をかけて通学路に立つのだが、その日は珍しく出てこなかった。そういう日もあるだろうと仲間内で、心配こそすれど家を訪ねることはしなかった――しかし、下校時も出てこなかった。
「末村サンの方は、まだ体調不良だろっつってオオゴトにはなってねえ」
 そこで言葉を切って、誉人は息をついた。
「もうひとり、いるのは確かなんだよ……けど、詳細がわかんねえ」
 漠然ともうひとり、町から姿を消したことは分かった。
「この失踪事件が、邪神を復活させる儀式に必要なモンなのは、視えたから疑いようがねえ。けど、わかんねえことだらけだ」
 厄介だが頼まれてほしい。
 紺瞳を伏せて誉人は、手をひらく。ぼわりと蒼い光は精緻な紋を描きながら丸く収斂――さらに輝きを強める。
「一旦、鈴本サンの勤務先か、末村サンがよく顔を出してた公民館で、話きいてきてよ」
 どんな話でもいい。
 なにが解決の糸口になるか判然としない今、情報は多いに越したことはない。
 失踪する直前の様子、普段の様子、人物像、過去――どんなことでも構わない、ひとつでも多くの情報を集めてほしい、と誉人。
「じゃあ、しっかりな。おめえらだけが頼りだ」
 蒼いグリモアの光の中に、一輪のアネモネが開花する。
 繋がる先は山間の小さくも豊かな町――今にも雨が降り出しそうな、分厚い暗雲が垂れ込める夜の境目。


藤野キワミ
背筋がぞくりとするモノガタリを目指します。されど、どのようなモノガタリになるかはアナタさま次第。
藤野キワミです。

▼シナリオ概要
一章・冒険「真実探し」:
 行方不明者のことを知ってください。POW・SPD・WIZは行動例としてお考え下さい。
 プレイング冒頭に、誰の話を探りにいくかをお知らせください。
 鈴本浩平 → 鈴
 末村清一 → 末
 上記のように短縮可能、字数節約にお使いください。
 どちらか一方にプレイングが集中しても、のちに影響がないようイイ感じにします。バランスを考える必要はありません、大丈夫。

二章・集団戦「???」:
 モノガタリを進めてください。一章の情報の集め具合で三人目の安否が決まります。

三章・ボス戦「???」:
 盛大にネタバレしてますが。

▼お願い
全章通して、途中から、一部のみなど、どのような参加の仕方も歓迎します。
円滑なリプレイ作成のため【プレイング受付日時】を設定します。
受付状況、進捗状況はマスターページおよびツイッター(@kFujino_tw6)にてご案内します。
同行プレイングのお願いはマスターページにて記載しています。
そちらをご一読ください。
(前回シナリオ運営時から内容が変わっている部分が複数ございます。ご注意を。)
一章プレイングは、【7/15(水)8:31~】受付を開始いたします。

▼それでは、このへんで。
みなさまのプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『真実探し』

POW   :    しらみつぶしに探す。

SPD   :    技能を発揮して探す。

WIZ   :    情報を集めて探す。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●オオマガトキ
 道路を世話しなく走り抜けていくヘッドライトは強く、飲食店の看板は一層賑わう。
 見上げた空にはびっしりと犇めき合う黒雲――いつ降り出しても不思議ではない湿気が、緩い風にかき混ぜられる。
 着々と、雨の気配は濃くなっていた。
 分厚い雲の向こうにある太陽は、じりと沈んでいく。闇がひたりと背後に立つ。
 黒瞳に映る町並みは見慣れたものだが、今宵はいやに新鮮に思えた。
 奇妙な感覚は爪先を這い上がってきて、多くの感情が綯い交ぜになって五指を支配し、ふわりとした浮遊感ととてつもない緊張感に口元を歪めた。
 一陣の風が多分に湿気を含んで流れた。
 ポケットから取り出したスマートフォンが、闇を散らす。
 ちりん。
 小さく鳴った鈴が結わえられた叶結びの飾り紐が振り子のように揺れた。
 夜が迫る。
 雨が迫る。
 もうすぐ、もう少し、あと少し――
波狼・拓哉


うん…うん!?誰か分からない3人目の行方不明者?…んー今回も中々難題そうです

まあ、取り敢えずは調査調査と。得意分野ですわ

あんまり騒ぎを大きくするのもアレだし…新聞記者にでも変装して末村さんの事を記事にしようとしてるって体で聞いて回りますか
話聞く限り地域で話題の人に選ばれても可笑しくなさそうですし

コミュ力、礼儀作法で印象良く情報収集
見守り隊に参加するきっかけとか、どういう人物とか聞いていきましょう。
記事に出来そうな事なら色々と…この土地についてとかもいけますかね?
最初の概要で入れたいんですけどなんか特色ありますかね、みたいな感じで

さて果て一雨来る前に終わりますかね…

(アドリブ絡み歓迎)


香神乃・饗
毎日繰返し続けてる人が消えてるんっすかね
習慣や根付いたもの、生きがいごと食われてるみたいっす

末のよく行く公民館で聴込みっす

フェイントをかける様な物言いで雑談をするような軽い雰囲気で
末さんここに来てないっすか?
知りあいから最近姿を見ないって聞いて心配になってきてみたんっす

ここにも来てないっすか
末さんは見張り番して長いんっすよね
毎日欠かさずってすごいっす!

故郷にでも帰っちゃったんっすかね

(出身地が同じなんていうなら誉人が気づくっす)
昔の話を聞いたことないっすか?
あの雰囲気どう成長したらなれるんっすかね

風邪でもひいたんっすかね
見かけなくなる前
違った所なかったっすか

心配っす
他に行きそうな場所ないっすか


八尾師・ささら
そうね、末村のおじいさまを探しに行こうかしら。
故郷では老齢の者が身の回りの世話をしていたから、彼らの相手をするのは得意よ。
甘えた表情をすればすぐ飴玉をよこしてくるの。
そんなに子供っぽいかしら…。

公民館ではあたかも顔見知りであるかのように微笑み
末村のおじいさまは今日はいらっしゃらないの?
すんなりと住所を聞き出すわ。
あら、そんな上等なお菓子いただいてもいいの?ふふ、嬉しい。

末村家では手掛かりを得るために徹底的に探すかしら。
でも、空き巣のような品のない事はしないわよ?
あるべきものはあるべき場所へ。

嗚呼、それにしても不可思議な行方不明事件だなんて。
何て愉しそうだこと。

◎連携可


霑国・永一


やれやれ、俺が探偵紛いの事をしなきゃいけないとはねぇ
しかし素晴らしい狂気が待っているとなればやる気も出るというもの。いやぁ愉しい事になりそうだなぁ

とりあえず新聞社の方調べるかぁ

ああどうもこんにちは。私は探偵業を営む霑国永一と申します。この名乗りでお察しかもしれませんが、鈴本浩平さんの足取りを掴む為に依頼を受け、足を運んだ次第です。少しお時間頂けますでしょうか?

彼が蒸発する直前、何かおかしな点はありましたか?例えば悩みがありそうだったとか

彼の行きつけのお店等の場所を少しでも思い当たるのであれば教えていただきたいのですが

もう警察の方々にはご相談を?何か有益な情報はありましたでしょうか


(成程ねぇ)


護堂・結城


【POW】

まずは情報を集めなけりゃ始まらないな
【化術】で友人や関係者に成りすましつつ【コミュ力・言いくるめ】で最近おかしなところがなかったか調べるぞ
口ごもったり言いたくなさそうなら【読心術】も併用して【情報収集】だ
さてさて、【世界知識】を基に末村側の情報と照らし合わせて失踪者の共通点が見つかるといいんだが…

そうだ、ちょっと変わったアプローチもしとくか
【目立たない】よう【結界術】で【迷彩】しながら【動物と話す】技能で鳥や犬猫からも情報を得よう
近寄りがたいとか怖いとかそんな変な奴や場所がなかったか、【野生の勘】も馬鹿にできんからな


須磨・潮
鹿糸(f00815)と
災難ですね。
私事ですが、学校に関係している末村さんの手掛かりを探したいです。
よろしいですか。
   
連れとは入口で別れて別々に情報収集します。
あれは目立つ外見ですか大丈夫でしょうか。

聞き耳を立てて末村さんの話、もしくは見守り隊に関連する話が聞こえてきたらそちらに。
通学路近辺の教師の振りでもしましょう。
失礼ですが、見守り隊をされていた末村さんをご存知の方でしょうか。
毎朝うちの生徒を見送ってくださって…いつも通学路でご挨拶をしていたので。
最近は見かけないので気になっていたんです。

後に連れと合流します。
何やら楽しそうですが。良いことでもありましたか。


朱酉・逢真
探す方:末
こっちのほうが情報少なさそうだしな。うまくやりゃあ鈴本サンの方もわかるかもしれねえが、調査に使うンが地味ながら大技でね。ひとつに絞ったほうが確実さ。
まずは目標の情報だ。眷属の《虫・鳥》からどこにでも居るような虫や鳥を飛ばして、ほか猟兵のハナシを盗み聞き。見た目やら行きそうな場所を聞いたら、それを頭にたたっこんで【撒地の覚野】だ。たとえ次元が違おうと、“地球上"に居るならわかるはずさ。星そのものと同化するだけあって負担がでけぇんでそォそ使えねえんだが…だからこそ先に絞っておいたんだ。ひとりだけを追うなら80秒ちょい。余裕を見て1分でアタリつけてやるさ。


氏神・鹿糸
潮(f13530)にくっついてきたの。
無事に見つかると良いわねえ。
私はどちらでも。潮が良いならそれでいいわ。
末村清一のほうを調べましょう。

私だと文化に馴染みがないから、大人への対応は潮に任せるわ。
心配しなくても大丈夫よ。

―こんにちは。母親を待っているのかしら。学校帰りに、ここで何をしているの?
髪色や服装はこちらに合わせて、ここで働く人間に変装。
公民館にいる子供たちに話しかけてみるわ。

―最近、通学路のおじいさんも行方不明になっちゃったのよね。見守りのおじいさんのことは知ってる?

ある程度情報収集できたら、潮と合流。
お話できて楽しかったわ。
帰り道には充分に気をつけてほしいわね。


桜井・亜莉沙
末 WIZ アドリブ・絡みOK

昔の事件も気になるところだけれど…まずは目の前の事件を調べるとしようか。

ひとまず、末村さんの情報を集めるために公民館に顔を出してみようか。
【コミュ力】を利用して、世間話を装って【情報収集】
見守り隊で一緒に活動している人とか近所の人が来ていれば最高だね。
いきなり失踪するんだ、きっと何かおかしな点のひとつやふたつあるんじゃないかな?
普段の様子を掘り下げていけば、直前に何か変わった様子があったとか、
過去に何かあったとかそういう話が出てくるかもしれない。

何か有益な情報が得られたら、他に来ている仲間にも連絡して共有するよ。


陽向・理玖
新聞社ね
何か余計な事でも…調べちまったのか?
予め新聞記事に目を通してから
鈴本氏の勤務先を訪れる

心配だよな鈴本さん
ちなみにどの記事が担当?
そっか
文面から何か読み取れるものはないか確認しつつ
今は誰が代わりにしてんの?
大変だよな
引継とか何もないんだろ?
それとも何かメモとかあったりすんの?
支障がなければ見せて貰えないか頼む
えぇっと
俺高校生だし
職業体験?的な?
新聞記者にも興味あってさ

普段はどういう感じの仕事ぶり?
文章から読み取れない様子や人柄も伺い
また仕事以外に趣味とか何かないか
何らかの手掛かりを掴むべく話を聞く

…さあ
何が分かんのかな
でも…見つけるよ
みんな待ってんだろ?

いやな天気だ
けど
…好きにはさせねぇ


鏡島・嵐
【末】
うーん、聞くだに不気味な話だな。
こういうのって絶対ぇロクでもない話が裏にあるんだろうけど……せめて、なんとか助けてやりてえな。
ついでに邪神も放っては置けねえし。

ともかく、その末村さんって爺さんの足取りを追ってみっか。
〈コミュ力〉を活かして、公民館とか、よく顔を出していた所とかで聞き込み調査。
ユーベルコードも使ってはみるけど、多分いきなり居場所までは特定できねえだろうな。
それでも末村さんか……あるいは、“三人目”の人の行方とかについて重要な手がかりが手に入るかもしれねえから、関係ありそうなものが見つからねえか探らせてはみる。
あと、手に入れた情報はなるべく他の仲間とも共有する形で。


コノハ・ライゼ


一旦受付けなり正面から出向こうか
ココを訪ねるよう言われてたんだけど、と彼への取次ぎを頼む体で
居ないと聞けば困った様に
何か調べてたりとか、変わった話をしたりという事がなかったか話を振ってみるわ
すぐに情報が得られずとも気にせず、こっそり【黒管】でくーちゃんを忍ばせましょう
最後に彼の動向を知ってそうな人がいないか聞いてみて
その場はお礼を言って引き、くーちゃんからの情報を待つわね

話し掛けた人、或は彼について詳しそうな人が判明したらその人の動向を追い
噂話や状況から情報が得られないか探してみるヨ
居なくなる前に変化とかなかったかとか
もう一人の行方不明者とも何らかの接点がなかったかとか、知れるとイイかしらネ


神埜・常盤


彼の勤め先――
新聞社の方へと話を聞きに行こう
探偵として、多発している失踪事件の
調査に来たという名目で

礼儀正しく接触してみるが、怪しまれた時は
輝く魔瞳から催眠術を放って関係者へ「お願い」を
さァ、僕に話を聞かせておくれ

聴きたいことは
鈴本浩平の最近の動向かな
昔起こった失踪事件について
何か調べたりしていなかったかね?

或いは、都市伝説や神隠しなどの
所謂オカルト的な取材に出かけたことは?
邪神が関係して居るなら
其れに“呼ばれた”ってコトも有るかも知れないしなァ

あとは、いなくなる前に
彼に変わった所は無かったかね
メッセージを遺して行ったとか
誰かと会う約束をしていたとか

この調査で、何か分かると良いンだが



●末村清一/壱
「鹿糸、私は学校に関係している末村さんの手掛かりを探したいです」
 須磨・潮(既知の海・f13530)が是非を問う前に、彼女の金瞳は優しく細くなる。
「私はどちらでも。潮が良いならそれでいいわ」
 あなたにくっついてきたのは、私――ふわりと笑む氏神・鹿糸(四季の檻・f00815)だった。
「末村清一のほうを調べましょう」
 頷き返して、潮の深い蒼の瞳は、鹿糸を滑って背後の建物を捉えた。
 彼女の眼に映るのは、館内の明かりが漏れる公民館。
 そこで二人は別れた。
 大人の対応は、鹿糸には難しい――なにせ、このセカイの風習に馴染みがない。教師をしている潮に任せておけば万事解決する気がした。
(「……目立つ外見は、少し抑えられたようですが……」)
 晴天の蒼を溶かし込んだような長い髪に、くりっと光る金瞳の双眼を見上げれば、ばちりと視線がかち合った。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ」
 見上げた金瞳は、どこか無邪気に笑っていた。

 公民館の掲示板には、編み物教室の開催日延期の案内と、習字教室の生徒募集の案内が貼られていた。その横には週間予定が書き込めるホワイトボード。そこに、「自習室開放日」と掠れた字で書かれ、全曜日をぶちぬく大きな矢印が一直線に伸びていた。
 「自習室の利用方法」という表題のプリントの掲示もあった――小学生から高校生まで利用可能で、大きな声で話さない、音楽禁止、携帯電話は自習室の外で使うこと、遊ばない等が記されていた。
 古めかしい靴箱には、すっかり履き潰され砂まみれの靴がちらほら、脱ぎ履きのしやすそうなシューズが何足も並んでいる。
 もう夕暮れだというのに、まだ中には人がいるようだ。
 さざ波のように、談笑する声が鹿糸の耳朶を滑っていった――声の感じからして、高齢者。男女が入り混じって、話に花が咲いている。
 そんな中、ばたばたと賑やかな足音が響いて、ランドセルを背負った二人の少年がエントランスに向かって、滑るように走ってきた。
「――こんにちは」
 やわい笑みを浮かべて、鹿糸は二人に声をかけた。
 驚いたように見上げてくるのは、背の高い少年。太い眉がくっと上がって、利発な双眼が電灯に照らされる。
「学校帰りに、ここで何をしているの?」
「えっと……宿題?」
 ちらと友人に目配せして、背高の彼。合図を受け取った彼は、メガネを押し上げて、こくこくと頷いた。
「あのね、私、ここでお手伝いさせてもらうことになったの。だから、ここに来る人の事を覚えたくて――」
 鹿糸の毒気のない笑みに、つられて微笑むメガネの彼は、「へえ、引っ越してきたの?」と屈託なく訊く。
 一言二言会話をしたのち、
「あなたたちは、通学路の見守りのおじいさんのことは知ってる?」
「いっぱいいるけど……」
「最近、通学路のおじいさんも行方不明になっちゃったのよね――あ、さっき聞いた話よ」
 鹿糸は頬に手を当てて、困った顔。
「あ、でも、今日はいなかったよ。セエさん」
 メガネの彼が、末村の立つ通学路を使う生徒の一人だったのは、儲けものだった。
「セエさんって呼ばれてるの?」
「そう! すっごく優しくって面白いんだよ、オレ、セエさんが一番好き」
 いろいろな人が見守り隊として通学路に立ってくれるし、誰もが優しいのだが、末村に挨拶するのが毎日楽しいとメガネの彼は言う。
「いなかったのは、今日だけ?」
「昨日も、一昨日もいたから……うん、今日だけ」
「昨日のセエさんは、いつも通りだった? 例えば、いつもより、ウキウキしてたとか、ちょっと元気がなかったとか、気づいたことはある?」
 その質問に首を傾げてみせた彼は、じっくり考えてから、自信たっぷりに頷いた。
「いつもと一緒だったよ、いつものセエさんだった。いつもと一緒、ちょっとおしゃべりしてバイバイした」
「セエさんとは、どんな話をするの?」
「ん? いろいろだよ! 昨日オレ、九九の七の段を間違えて覚えてて、それを教えてもらったし、社会のさ、歴史の人の名前もめちゃくちゃ知ってた!」
 こくりこくりと頷いてしっかと聞き入る。
「でも、オレの友達がね、ちょっと歩道から出て、ふざけて車道を歩いてたんだけどね、セエさんに見つかって、すっごく怒られてた」
「そう――あなたから見たセエさんって、どんな人?」
「どんな人? んー?」
 子供の扱い方がべらぼうに上手いのだろう。
 でなければ、ここまで懐かれることもあるまい。自身に子育ての経験があるか、子供と長く接する職にでもついていたのだろうか。
「セエさんは、さみしいって言ってたから、今日は朝も帰りもいなくて、大丈夫かなって心配」
「さみしい?」
「そう、さみしいからオレらの通学路の見守り隊してるって、みんなと挨拶できるのが楽しいんだって言ってた」
「結婚してないのかしら……」
 そこに、背高の彼のポケットから音がした。携帯電話の着信音だ。
「母親からかしら?」
 問えば彼は、大きく頷いて通話を始めた。メガネの彼も、慌てて靴を履き始める。どうやら、公民館の駐車場で待っているようだ。
「ごめんね。おねえさん、ボクたちもう帰るね」
「引き留めてしまって、私こそごめんね。お話できて楽しかったわ――気を付けて帰ってね」
 親が車で迎えにきているのだ。夜道に気をつけるのは母の方だろうが、子供たちにそう声をかけた。
 中断されてしまったが、話をきくことができた。
 鹿糸は得た情報を手に、潮と合流しようと、談話室の方へと歩き始めた――途中、二人の男性とすれ違う。にこやかに会釈をされたので、「こんばんは」と挨拶を返した。
 ぺたりぺたりとスリッパを鳴らして進んでいけば、そこには、三人の老齢の女と、猟兵が語らっていた。
 藍色の視線が鹿糸へと投げられ、そっと潮が談話室から出てくる。
「それは、なに?」
「いただきました――ドーナツです。食べますか」
 小さなお菓子を鹿糸に渡す。
「……何やら楽しそうですが。良いことでもありましたか」
「今、ドーナツをもらったわ! それと、たくさんお話できたの。楽しかったわ」
「それは良かったですね」
「潮はどうだった?」

 ◇

 桜井・亜莉沙(自称大魔術師・f26162)は、公民館の談話室で持ち前の対人能力を発揮して、あれやこれやと世間話をしながら末村のことを探り出そうとしていた。
 その会話の中に求めているワードを聞き取った潮も談話室へと入っていく。
 会釈をひとつ。
「あら、べっぴんさん。今日はお客さんがいっぱいねえ」
 あたたかくやわい声音で老女が、「お茶菓子どうぞ」と小さなドーナツを差し出してくれた。
「ありがとうございます」
 すんなりと輪に混ぜてくれた彼女はにこにことして、礼を述べた潮を隣へ呼んだ。
「で、なんの話だったかね……ああ! そうそう、今夜の雨がイヤだって話だったねえ」
 頷いたのは亜莉沙。世間話で距離を縮めている最中だった。これから末村の話にスライドさせていく算段はすでについていた。
「明日の朝まで雨が続いたら、なにかとイヤじゃない? 学校にいくのも、仕事にいくのも」
「ああ、そうだねえ。通学の時間だけ晴れてやくれないかねえ」
「クニちゃんは、明日もオツトメだから、なおさらだね」
「いやいや、ボクは構わないんだよ、こどもたちが濡れてしまうからねえ」
 矍鑠と笑うのは、小粋にストールを使いこなすロマンスグレーの男性だった。
「失礼ですが、見守り隊をされていた末村さんをご存知の方でしょうか」
 そろりと、クニちゃんと呼ばれた男性へと声をかける。
「知ってるもなにも、ボクも見守り隊の一員だよ。もちろん、知ってる」
 ペットボトルの茶を湯呑みに注いで、クニちゃんは笑う。
「生徒から、最近見守り隊の人が変わったのかと訊かれまして」
「おや、先生かい?」
 潮はゆっくりと首肯し、「いつもありがとうございます」と社交辞令をひとつ。
「いつものおじいさんがいないと教えてくれたのです。毎朝うちの生徒を見送ってくださって……いつも通学路でご挨拶をしていたので――体調を崩されたのでしょうか」
「そうだったんですか。それは、ご心配をおかけしましたなあ。メンバーは入れ替わってないんですよ」
「末村さんのことで私たちも話をしていたんです」
「あの元気なセイさんでも、もう年だから。風邪を引いてしまったんだろうと。明日になっても出てこないようなら、訪ねてみるかとね。なあ、ナベさん」
 クニちゃんが話をふったのは、彼の隣であくびを噛み殺していたもう一人の男性――ナベさん。
 彼は大きく頷きながら、「こういうのは男の結束が試されるんですよ」なんて冗談めかした。
「みなさんが訪ねるんですか?」
 その話を黙して聞いていた亜莉沙は、首を傾げた。
 そういう慣例でもあるならば不思議でないだろうが、同居の家族がいるのではないか。妻がいてもおかしくはないだろう。あるいは子世帯と同居しているかもしれない。
「セイさんがいないとこであまりコレを言うのも、なんなんだけどねえ」
 苦笑をひとつ、ナベさん。
「セイさんは奥さんを亡くして、長いことひとりなんだよ――こどもも授からなかったって言っててね」
 亜莉沙と潮は今の言葉を記憶する。
「だから、ひとの子でも、毎日おおきく成長していく子たちを見てるって」
「毎日、楽しんでたのね……」
 ぽつりと亜莉沙がこぼして、潮の声にはっとする。
「調子が悪そうだったのでしょうか」
「ん? 昨日かい?」
「ええ、急な風邪であればまだ、なんとか……ですが、長患いをしているのであれば、早く訪ねた方が良いような気がして」
「はっはっは! セイさんは健康を自慢するような男なんだよ。それが持病を隠すためだったなら、ボクらには分からない」
 なるほど。
 親しくしている人にこう言われるなら、末村という男は――プライベートに踏み込んでいけるようで、なかなかにガードの硬い性質なのかもしれない。
 センシティブな内容であるから、そうずけずけと話したがらないか。
「なにか、変わったことはなかった? 最近、セールスの電話がしつこくて、とか」
「いいや、聞かないねえ――大丈夫だよ、おねえちゃん方。きっと風邪で寝込んでるだけだよ」
 さて。もういい時間だ。もう帰らないと――ゆっくりと立ち上がったクニちゃんは、「お先にい」と談話室を出て行った。
「……クニちゃん、また帽子を忘れていったねえ」
 よいしょと立ち上がったナベさんはハットを小脇に抱え、先に出たクニちゃんのあとを追うように、「ではまた」と一礼。退室していく。
「あの二人、いつもああして帰っていくのよ。ふふふ、私たちのお話に付き合ってくれる優しい人たちなの――奥さんに謝りにいかないとね」
「ああ、そういうことですか」
 潮は振り返り、扉の方を見れば、そこには鹿糸の姿があった。
 いつもの装いではなく、公民館にいても不思議でないほどに、このノスタルジックな雰囲気に溶け込んだ控えめな洋装の彼女の瞳は、きらんと輝く。
「すみません。私も失礼します。いいお話をありがとうございました」
 もらったドーナツを手のひらに乗せて、もう一度礼を述べ、鹿糸のもとへと急いだ。
 彼女の背を見送った亜莉沙の紫瞳は、手元のせんべいにとどまる。
 もう少し、もう少しだけ。話を聞き出したい。
 本当は昔の事件も気になるのだ。いまだ見つかっていない行方不明者の多いこと――それに輪をかけて、今回の事件だ。
 三人もの人間がいなくなっているのだ。焦る。しかし、ここにいる老女たちは迫りくる危機なんぞ知らずに、いつものようににこやかに、朗らかに楽し気におしゃべりを謳歌する。
 亜莉沙はそっとほぞを噛んだ。
 彼女の耳に、少し長く細い呼吸音が届いたのは、そんなときだった。

 ◇

 公民館の談話室には、亜莉沙だけではない。鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)も座っていた。話の腰を折らず、的確なタイミングで相槌を打っていた。
 そうして、談話室の中で、誰が末村に関する情報を話してくれるかを見極めていた。
 だから、彼が先に席を立ったのは、好都合だった。
(「――ちょっと探らせてもらうか」)
 ロマンスグレーの小粋な彼の、末村のことを語る口ぶりは、普段の仲の良さを窺わせた。
 【彷徨える王の影法師】がゆらりと立ち上がり、音もなくクニちゃんの後を追いかけていった。帰る二人の会話をこっそり聞かせてもらえれば、もしかするとさらに末村のことをウワサするかもしれないし、先の会話が頭に残っていて早々に彼の家を訪ねるかもしれない。
 そうすれば、末村の家がどこにあるのかもわかるだろう。
 駄目で元々――やれることは今は全力でやるしかない。嵐は、もう一度深く細く吐息した。
 十五年も前からぽつりぽつりと人がいなくなっている。ただの失踪事件であれば、それこそ今もどこかでひっそりと人がいなくなっていることだろう。その後の行方も分からず終いの事件もあるだろう。
 しかし、先刻見た新聞の切り抜きは、あまりに多くて。未解決のままになっている赤丸の記事も確かに多かった。
 これを引き起こしているのが邪神なれば、放っておくことはできない。
 背を這うぞわりとした感覚を、嵐は琥珀色の瞳に瞼を下ろしてやり過ごす。
(「……ぜってえロクでもない話が裏にあるんだろうけど……せめて、なんとか助けてやりてえな」)
 頭の中でわんっと響く、クニちゃんとナベさんの会話では、末村の話をするでもなく、趣味の川釣りのことを延々と話している。こちらは、まだアテにできそうにない。
 そっと目を開け視線を上げれば、うさぎ柄の湯飲みを持った、きっと一番年上の彼女と目が合った。
「こんなこと聞いていいのかわかんねえけど……末村さんって、いつ奥さんを亡くされたんだ?」
「いつだったかしらねえ……引っ越してきたときにはもう、ひとりだったものねえ」
「末村さんは、もともと、この町の人じゃないのね」
 驚いたように亜莉沙。
 嵐もまたその一言で、聞きたいことがぐんと増えた。
「引っ越してきたのは、何年前か覚えてる?」
「んー……十年じゃあきかないねえ……もっとかな」
「うちの孫が生まれたころだったかなあ……」
 三者三様に首を傾げた。ひとつずつ、ひとつずつ、じわりじわりと明らかになってくる。

●末村清一/取材
 超常現象を専門に扱う探偵一族に生を受けて二十三年。幾度もこの手の話は聞いてきた。しかし、やはり気持ちのいいものではない。
 それでも成すべきことは成さねばなるまい。
 鈴本浩平の方は、共にこの町に転送された猟兵に任せた。
 末村清一について、あの段階で不明点が多すぎた――だからこちら側の調査に乗り出した。
 あまり騒ぎを大きくはしたくない。仲間内で体調不良だろうと楽観視されているうちに足取りを掴み、真相を解明すればいいだろう。
 それに気がかりは末村だけではない。まだなにも分かっていない「三人目」がいるのだ。
 彼もしくは彼女にいきつかなければならない。
(「さて果て……一雨来る前に終わりますかね……」)
 なかなかに難題。今回も骨が折れるだろう――しかして、これは、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の得意とするところだ。
 人の機微を読み取り、情報を集めて、探し当てる。人当たりをよくして印象を操作することは、お手の物だ。
 定番の新聞記者を名乗り、公民館の談話室で年老いたちに取材を申し込んだ。
 もちろん、末村清一のことだ。
 前情報を聞くかぎり、地域で話題の人に選ばれてもおかしくはないだろう。子供たちの安全を守っているおじいちゃんというのは、特集しやすい。
「実はまだ末村さんには、このお話をヒミツにしていまして。というのも、みなさんの言葉があれば取材を受けてもらいやすいからで」
 根回しをし、外堀を埋めてしまえば、当の本人も「ならば受けてみようか」とその気になりやすい――なんてそれらしいことを言い、談話室を色めき立たせた。
 あとは簡単だった。
 新聞の取材を受けたことのない五人は、意気揚々と話をしてくれた。

 ――末村さんは、見守り隊に入られて長いんですか?
「定年退職してからだからねえ、えーっと、何年だろう――詳しく覚えてないけど……五、六年ってとこかなあ」
 ――きっかけはあったんですか? お誘いになったとか?
「ああ、ボクは声をかけたねえ。一緒にどうだいってね。二つ返事でオッケーをもらったよ」
 ――どんな人物でしょう。
「優しいね。とても優しい。こどもが好きで、とても話がうまい。彼の話には引き込まれるね」
 ――前職は?
「役所に勤めていたはずだよ。どの部署だったかまでは、聞いていないねえ」
 ――末村さんの趣味をご存じですか?
「ああ……彼は、指先が器用でね。編み物をするんですよ。女性陣には大変ウケてます」
「セイさんの教え方は上手なんですよ。ほら、表の張り紙は見ましたか? アレ、セイさんの教室ですよ」
「器用に編むもので、ボクなんて祝儀袋の水引をほどいてしまったときに、助けてもらってねえ――うまいもんですよ。なんて言ったかなあ、あのちょうちょ結び」
「叶結びですよ、クニタさん」

 拓哉はなるほどと相槌を打った。
「記事の最初の概要で、少しだけになるかもしれませんが、この町のことを書こうと思っているんです。なにかこの土地ならではの特色はありますか?」
「特色かあ……こんな山町で誇れるものといえば、山だよ」
 冗談めかして笑ったクニタだったが、
「この町の特色ねえ……隣村が健在のときは、宿場としていろいろと儲けもあったが、廃村してからは、まあさっぱり。あるのは、山と川だけだからねえ。春になればアユ釣りをしにくる人たちはいるが、今はもうシーズンも終わってしまったからねえ。好き好んでなにもない町にはなかなか……」
「隣村が、廃村?」
「ああ、おにいさんは、ここの子ではないのか――なら、知らないだろうねえ、お若いから」
 もう十五年、いや、もうじきまるっと十六年を迎える昔ばなしだと、クニタは小さく笑った。
「宿場として儲けが出るというのは、隣の村にはなにか、名物があったということですか?」
「おにいさんが知りたいのは、セイさんと、この町のことだろう?」
 クニタはにこにこと笑っているが、そのことに関しては話したくはないと、全身で訴えられているようだった。
 押すか、引くか。
 拓哉は、次の質問で、末村のことを訊ねながら、廃村のことを聞くチャンスをうかがうのだった。

●鈴本浩平/質問
 見覚えのある髪色は、紫雲の移ろう揺らめきで。
 これまた見覚えのある男の髪も、艶めく琥珀の輝きは暗雲の下にいても変わりはしなかった。
「ハァイ、ジンノ」
「おや、コノ君じゃないか」
 新聞社の前で顔を合わせた二人は、互いに挨拶をした。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)と神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)だ。
「ジンノも来てたのネ」
「あァ、気になってしまってね」
 ならば――ふたりは並んでビルへと入っていく。自動ドアが開いて入ったそこは、湿気とは無縁で、ややひやりとした。
 受付カウンターには、男性が座っていてコノハは彼に声をかけた。
「アポはございますか?」
「ココを訪ねるよう言われたんだけど――鈴本浩平さんから」
「お待ちください」
 来館者予定リストでも調べているのだろう、カチカチとパソコンを操作する。見つかるわけはない。
 そんな約束なんぞしていないのだ、いくら探しても出てくることはないだろう。コノハは困ったようにため息をついた。
「君、僕のリストも探してくれないか」
「はい、お名前は――……」
 画面から視線を外して常盤を見上げた彼の目を覗き込んだ。
 赤みの強いブラウンの眸は、紅の輝きを強める。
「僕は神埜。神埜常盤だ、多発している失踪事件の調査を依頼されてきた探偵さ――さァ、僕のお願いをきいてくれ給え」
 焦点が合わなくなった受付の彼は、緩慢な動きで受話器を上げた。ボタンを三回押せば、ぼんやりした声音で来客の対応を求め切電する。
「あちらのエレベーターで、三階に上がってください。そのフロアが鈴本のいる部署です」
「ありがとう」
 常盤は艶然と笑み、踵を返す。
「ホント、悪い大人ネ」
 常盤の隣を歩き始めたコノハもまた、笑む――そこで足止めを食らっている暇はないのだ。
「コノ君に言われるとは」
 常盤の視線は、コノハの影から現れた【黒管】を撫でる。
「だって、彼、怪しかったじゃナイ」
 何か知ってそうでしょう、わざとらしく、カチカチ、カチカチ――コノハは、普段よりぐっと小さなくーちゃんを受付係の男のそばへと忍ばせた。 
 
 三階のフロアで出迎えてくれたのは、くたびれた様子の男だった。首から下げた社員証には、『山之内』と書かれていた。
「……鈴本と約束をしていただいていたそうで」
 コノハは首肯する。
「本日は、鈴本のお客様が多くいらっしゃる……――立ち話もなんですので、どうぞ、こちらへ」
 山之内に促され、二人は彼の後ろをついて歩く。パソコンのキーボードを叩く音と、様々な紙とインクのにおいが充満するフロアの奥に、すでに三人の猟兵が座していた。
「すみません、狭いところで」
「いいえ。どうぞお気になさらず」
 社交辞令を返して、二人もソファに腰を掛けた。

 ◇

 ビルの中に足を踏み入れた。エントランスはやけに明るい――が、人の気配はまばらだった。すでに帰宅した人が多いのだろう。
 エントランスには新聞のバックナンバーが一週間分保管されているラックと、その前にはデスクと座り心地のよさそうな椅子。実際それに腰かけていたが、不快にならないほど良い硬さで、記事に集中することができた。
(「新聞社、ね……」)
 先に示された新聞記事の切り抜きと合わせて、地方紙をも流し読みするのは、陽向・理玖(夏疾風・f22773)だった。
(「何か余計なことでも……調べちまったのか?」)
 十五年も前から始まった緩やかで不可解で、それでもしっかりと悪意を感じる失踪事件に関連して、消えた鈴本を想像してみた。
 ここでこうして座っていても、何がわかるわけではない。
 意を決して動く。受付へと足を向けた。
「すまない、ちょっと人を呼び出してもらいたいんだが――」
 理玖の向かう先で、先に受付係に話しかけていたのは、銀髪の男だった。
「鈴本浩平という男で、取材の約束をしていたんだが待ち合わせ場所に来なくて困っている」
 護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、彼の関係者を装って受付に問い合わせる。
「俺も、鈴本さんにお願いがあってきたんだけど」
 理玖は静かに近寄って、青眼を陰らせる。見目学生然とした理玖が、鈴本に約束をすっぽかされたと問い合わせれば、大人は慌てるだろう。果たして、内線を終えた彼はエレベーターで三階に上がるようにと言った。
「私では、対応しかねますので……上で文化部長の山之内が対応させていただきます」

 ◇

(「まさか探偵紛いの事をしなきゃいけないとはねぇ」)
 やれやれ。霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は小さく吐息をしながらも、内心が踊るのをとどめることはしなかった。
 聞けば聞くほどに、好奇心が刺激された。
 この先、この事件の奥で、狂おしいほどの愉快な惨劇が待ち構えていると想像するだけで、口角が上がる。
 素晴らしい狂気に触れるためには、今、たとえ面倒事ではあるが情報をかき集めなければならない。
 情報の集約点であるならば新聞社はこの上なく好都合だ。なにせ、多くの記者が町を歩き回り、ウラをとって、戻ってくるのだ。
 ビルに踏み込んだ永一は、まずは受付で名乗った。
「ああどうもこんにちは」
「いらっしゃいませ――アポイントは、」
「急に訪ねてしまって申し訳ありません。私は探偵業を営む霑国永一と申します。この名乗りでお察しかもしれませんが、鈴本浩平さんの足取りを掴む為、訪ねた次第です――担当の方に継いでもらえませんか」
 淀みなく言い切って、永一は金瞳を覆う眼鏡を押し上げた。
「少しの時間で構いません。お願いしますね」

 ◇

 山之内もソファに腰かける。
 空のグラスと麦茶のポットが運ばれてくる。飲むも飲まないも自由にどうぞ――テーブルの上に置かれた人数分のグラスとコースター。
「鈴本くんと約束をされてた方には申し訳ないんですが、その約束は、白紙に戻していただきたいんです」
 山之内は重い口でそう告げる。
「探偵さんが二人も来られるくらいだ……」
 永一は眉を上げて、常盤は飄然として頷く。
「ご存じの方もいるでしょう……鈴本と連絡がつかなくなってしまいました」
「なにかあったのか?」
 赤緑のオッドアイを心配げに陰らせて結城。
「わかりません。こんなことはわたしどもも初めてで」
「心配だよな、鈴本さん……」
 エントランスから思わず持ってきてしまった新聞を膝に乗せた理玖が視線を落とす。
「なあ、鈴本さんの書いた記事って、ここに載ってんの?」
 差し出しながら問えば山之内は、ぱらりと捲り地方版のページを示して、「コレだよ」と見せてくれた。
 そこにあったのは、縁結びの特集記事だった。
 理玖は口の中で「へえ」と呟き、その記事を読む。文面から何か違和感を読み取れないか試みるも、全国に点在する、縁結びの神を祀る神社の一つを掘り下げて紹介するような記事だ。とくに何も違和感はなかった。
「今、このコーナーって誰かが代わりにしてんの?」
「いいや、休載しているよ――これは、彼がやりたいと発案したものだから、誰にも変わりは務まらないんだ」
「大変だな……引継ぎもなく、音信不通か……なにかメモを残してなかったのか? 取材旅行に出るとか?」
「ないんだよ、それが――失礼、君は、鈴本くんとは?」
「えぇっと……俺、高校生で、職業体験? 的な? ちょっと新聞記者に興味あってさ、たまたま鈴本さんとカフェで知り合って」
「そうだったのか! いや、興味を持ってくれるのは嬉しいね」
 理玖の出任せににこやかに話す山之内は、二度三度と頷いた。
「そうか、鈴本くんの仕事ぶりに興味を持ってくれたか……」
「また会って話したくって、」
 理玖の青眼を見返して、彼は自分の太ももをばしんと打った。
「分かった。わたしにわかることならなんだって答えよう――わたしどもも困っているんだ」

 ◇

 ――彼が蒸発する直前、何かおかしな点はありましたか? 例えば悩みがありそうだったとか。
 ――ああ、ソレはオレも聞きたいな。いなくなる前になにか、変化したこととかなかったかしらネ?
「悩みは、始終抱えている男でしたからね。きっと、トクベツな変化ではなかったのかもしれません。少なくとも、わたしにはわかりませんでした」
――メッセージを遺して行ったとか、誰かと会う約束をしていたとかではなく?
「メッセージはありませんでしたが、あの日は友人と酒を飲むと言って、朝から仕事を黙々と片付けていましたね」
 ――酒ですか……彼の行きつけの場所に、少しでも思い当たるのであれば教えていただきたいのですが。
「社で飲むときは、近くの大衆居酒屋です。彼は仕事人間で、あまり食べ歩きはしないそうで、どこを贔屓にしているかは、あいにく……」
 ――なら、その友人と飲むときは、どこに行くんだろうか?
「大抵宅飲みにするそうです。飲み潰れても帰宅する手間が省けていいと」
 ――友人のことはご存じで?
「いいえ。プライベートなことは触れないようにしていました。鈴本くんから教えてくれることだけしか知りません――今は、なにかと面倒な世の中ですので」
 ――鈴本さんって、どんな人なんだ?
「どんな? そうですね……真面目な人ですよ、今回の無断欠勤以外で、連絡をし忘れたことはありません。仕事にも誠実で、今回のように、アポをとりつけた方を困らせることは一度としてなかった」
 ――仕事人間ってことは、他に趣味はなかったのか? 仕事が休みになったらゲームをして過ごしてるとか。
「聞かないですね。本当に、彼からは、仕事以外の話を聞かない」
 ――鈴本さんがいなくなって四日でしたっけ。警察の方々にはご相談を?
「警察には、明日の朝に連絡しようと決まりました。彼も成人男性ですので、職場に突然来なくなったからといって、すぐに警察へ相談していいものやら……決めあぐねていました。本来なら家族から連絡していただけると助かるんですが、そういうわけにもいきませんので」
 ――それはどういう?
「彼の親は、十六年前に事故で他界していまして。彼を育てた祖父母もすでに亡くなりました。親戚もいないんです――いわゆる、天涯孤独という身の上です」
 ――昔起こった失踪事件について、一人で調べていなかったかね?
「昔の事件ですか、ははあ……どうでしょう……」
 ――昔の失踪事件ではなく、昔のどんな事件を調べてたんだ?
「ああ……旧アイト村のことは、ずっと追いかけてますね」
 ――それは、都市伝説や神隠しなどの所謂オカルト的な取材ということかね?
「いいえいいえ、そんな、きちんと存在した村ですよ」
 ――存在した、ってどういうコト?
「廃村になったんです。待ってくださいね、今、鈴本くんがまとめていたファイルをお持ちします」

●末村清一/弐
『セイさんにいっとう懐いていた、あの子が心配といえば心配だねえ』
『ああ、あの先生の話かい?』
『そうそう。たった一日、出てこなかっただけで……子供たちはよく見てるんだねえ』
『あの先生の言っていた子が、レンくんとは限らないけど――そうだねえ、レンくん以外にもセイさんになついてる子はたくさんいるしねえ』
『そういうクニちゃんも大人気じゃあないか』
『茶化すのはよしてよ、……でも、今日はレンくんも見なかったねえ、そういえば』
『もしかしたら、車で送ってもらったのかもしれないねえ』
『ああ、そうかもしれないねえ』
 じっと聞いていた二人の会話の中で、初めて聞く名が出てきた。
 レンくん。
 嵐はしっかりと記憶する。
 末村に一番懐いていた小学生の名だ。なにか手掛かりになるだろうか。嵐はふう、と息をついて、【影法師】を霧散させた。
 あのまま釣りの話だけされていれば、骨折り損になるところだった。
「末村のおじいさまは、今日はいらっしゃらないの?」
 鈴を転がすような少女の声がして、嵐は驚いた。クニちゃんとナベさんの動向に集中しすぎていて、八尾師・ささら(深窓の猛毒・f28355)が談話室に入ってきていたことに気づかなかった。
 ささらは何食わぬ顔で、おだんご頭の老女へと問いかけた。
「そうだよ、今日は来なかったねえ」
「あら残念。用事があったのに。約束を違えるなんてとても心配……おじいさまのおうちを教えてくださる?」
 頬に手を添えて、本当に困ったように吐息をひとつ。伏し目がちの琥珀がとろりと魔性の毒を垂らす――こうすれば、大抵の年老いはころりと騙されてくれた。
(「すぐ飴玉をよこしてくるの――そんなに子供っぽいかしら……」)
 だが、それも今、十二分に役に立っている。書いてもらった地図をポケットに入れて、そろりと立ち上がる。
「ありがとう。ついでに言付かっていくわ。なにかある?」
「んー、そうだねえ。じゃあ、コレを届けてもらおうかな」
 おだんご頭に手渡されたのは、お茶菓子の余った詰め合わせ。
「お嬢ちゃんには、ハイこれ――お願いね」
「あら、そんな上等なお菓子いただいてもいいの? ふふ、嬉しい」
 チョコレートがコーティングされた秘蔵のパイが出てきて、ささらは遠慮なくもらう。もらえるものは全部もらう――こうすることが、彼女らを喜ばせることが分かっているから。
「それでは。私、末村のおじいさまのところに行ってきますね」
 マイペースにささらは席を立つ。切り揃えた濃紺の髪がさらりと揺れる。始終張り付いた微笑みは、最後まで崩れることはなかった。
 談話室を出かけたとき、「わっ」と驚く声が降ってくる。誰ぞにぶつかりかけて、彼の方が引いてくれたのだ。
「あら、ごめんなさいね」
「こちらこそ、ちゃんと前見れてなかったっす」
 梅印の紅半纏がふらりと揺れて、ささらと入れ違いに入室していった。彼の元気な声を背に感じながら、ささらはくつりと喉の奥で笑う。
(「嗚呼、愉しみで仕方ないわ」)
 ポケットの上から、地図を撫でた。

 ◇

 ここに来る前の話を聞いて、きゅっと唇を引き結んだ。
 毎日毎日、欠かさずにナニかを繰り返し続けている人が失踪しているのではないか――新聞の切り抜きを見て、あの男の話を聞き、そう思った。
 日々の習慣や生活に根付いたもの、その人の生きがいそのものごと、何者かに食われているようで、落ち着かない。
 得ることのできる情報は一つでも多く集めていきたい。あれも言っていた――公民館で話を聞いてこいと。
 廊下はずいぶん古くなった蛍光灯がジーと鳴り続けている。表の靴箱には、まだまだ靴が残っていた。
 女物の靴ばかりだった。時間も時間だ、女はなにかと忙しいのは、どこでもいっしょだろう――帰られて話を聞けなくなってはいけない。急いで談話室へと向かえば、
「あら、ごめんなさいね」
 漆黒の双眸をぱちくり。香神乃・饗(東風・f00169)は衝突しかけた少女を見たが、彼女は静かに廊下を歩いていく。
 饗は彼女と入れ替わるように、談話室へと足を踏み入れた。
 うさぎ柄の湯飲みを持った老女。
 キュートなおだんご頭。
 鼈甲の眼鏡を首に下げた垂れ目のおばあちゃん。
 そうして、饗と、嵐と亜莉沙。談話室には、それだけの人がいた。
「こんばんはっす――末村さんはここに来てないっすか? 知り合いから姿を見ないって聞いて、心配になってきてみたんっすけど……」
 言いながら見回してみれども、老年の男性はいない。そこで答えは出てしまったが、
「あらあら、あなたもセイさんを探してるの? ふふ、こんな若い子にいっぱい探されて、セイさんが有名人になったみたいね」
「新聞の取材がくるくらいだもの、そりゃあ有名人よ」
 あっという間に姦しくお話を始めてしまう三人に、へへっと笑う。
「末村さんに取材っすか! そりゃすごいっす! 毎日欠かさず見張り番してるって聞いたっす」
「そうそう、その取材よう! 知り合いとして鼻が高いわあ」
 さらに眦を下げて、垂れ目の彼女は笑む。
「あの雰囲気、どう成長したらなれるんっすかね」
 会ったことのない人だが、こうして慕われているし、他人の子を見守るような人格者だ。
「苦楽を乗り切るのよ、生きた時間だけ人は優しくなれるわ」
「カヨちゃんったら! おばあさんみたいなこと言わないで!」
 おだんご頭――カヨちゃんが茶化された。二人で笑いあってから、
「優しくて強い人よ、とても」
 末村が風邪をひいたところを見たことがないと、冗談なのか定かではない言葉が返ってくる。しかし、健康であるから登校と下校の時刻に合わせて通学路に立つことができるのだろう。
 饗はうーんと唇をひん曲げた。
「突然故郷にでも帰っちゃったんっすかね」
「セイさんは、故郷がないのよ」
「ほ? そうなんっすか? 生まれも育ちもこの町っすか?」
「セイさんの故郷はね、この町の山をずっと上ったところにあった、村よ」
「マコちゃん」
 窘めるように湯飲みを手放さない老女が彼女の名を呼んだ。
 あった、村――含みを持たせた言い方に、饗の呼吸は少し早くなった。
「山の中の村出身だったら、なにかマズいんっすか?」
「いいえ。そこから人がいなくなったから、村がなくなっただけよ――仕方ないことねえ」
 彼女は細い肩を落として吐息を一つ。
(「失踪者の出身地が同じ――なんていうなら誉人が気づくっす……でも、」)
 その出身地がなくなっていたなら。少し、難儀なのではないか。
「おばあさん、末村さんの昔の話を聞いたことないっすか? そのなくなった村のこととか」
「ないねえ」
 ぴしゃりと言い切られて、肩透かしをくらう。口を閉ざされた気配すらある。ここを突いて他に引き出せる情報まで隠されるわけにはいかない。
 饗はすぐに引く。
「そっすか……末村さんが他に行きそうな場所はないっすか? 心配っす」
「ほかに行きそうな場所ねえ、あとは近くのスーパーか、クニタさんたちと釣りに行くか、かしらねえ」
「そうしたら、本当に風邪でもひいたんっすかね」
「そうかもねえ――」
 そのとき。
 地区放送が鳴った。流れてくる音楽は、もの悲し気で帰路に着かなければならない気になってくる。
「さあて、お開きにしましょう」
 うさぎ柄の湯飲みを流し台でさらりと洗い、彼女はにこりと笑った。
「今日は若い子たちといっぱい話せて楽しかったわあ。また、おばばの相手をしてあげてね」

●鈴本浩平/過去
 差し出されたファイルは、『アイト村廃村まで』と銘打たれていた。
 表紙をめくった一枚目は、十六年前の新聞記事。
『 アイト村に落雷 祭り準備中の機材に引火か 住宅八棟全焼 焼け跡から性別不明の遺体みつかる 』
 次のページは、当時の週刊誌の切り抜き。
『 縁結びスポットとして知る人ぞ知る秘境壊滅 ご神木が雷に打たれて倒木 』
 縁結びの特集を組みたくなる理由が繋がった気がした。
「……彼のご両親は、その焼けた家の中から見つかったそうだ。彼は、たまたま、離れの祖父母宅にいて難を逃れたと」
 両親との思い出が詰まった村にいることが辛くなり、この町に引っ越してきたと話していた――山之内は語った。
 この町には、旧アイト村から引っ越してきた人間が多いという。
「旧アイト村……この町にある山の中にあった、小さな村だよ。もともと限界集落で、こことの合併話が持ち上がるくらいだった。それが、あれよあれよという間に住人がいなくなってしまってね――廃村した」
 原因は、若い世帯の引っ越しと、高齢世帯の他界が重なったものだ。
「このファイル、お借りしてもかまいませんか?」
「ああ、大丈夫だよ。鈴本くんの手掛かりになるなら、持って行ってくれ――ただ、彼の私物だからね。怒られてもしらないよ」
 力なく、笑ってみせた。
 理玖は永一からファイルを受けとって、それを開く。ぱらり。鈴本の悲しい過去が詰まっているように思えてならない。
「なにか分かればいいが」
「……さあ、なにが分かんのかな……でも、見つけるよ」
 理玖はファイルを撫でて山之内を見つめて、フロアに視線をやった。
「みんな、鈴本さんが帰ってくるのを待ってんだろ?――だったら、頑張るしかねえ」
「それ、見せてもらってもいいか?」
 今度は結城がファイルを開く。なるほど鈴本の過去を知るには、客観的に説明されていて都合がいい。
「……あら」
「どうかしたか、コノ君?」
「受付に、人が来たわ――ビンゴ! さっきの、鈴本さんのオトモダチみたいヨ」
 くーちゃんを介して見える景色を知覚するコノハは席を立った。
「嗚呼、話を聞いてみたいねェ」
 胡乱に笑んで常盤も一緒に立ち上がった。
 ふたりにつられるよう、あとの三人も離席、そのフロアから離れた。
 エレベーターの一瞬の浮遊感、落ちていくような感覚、しかし足の裏はしっかりと箱についている。
『鈴本浩平はいますか?』
『失礼ですが、あなたは?』
『彼の友人の、山里結衣です。彼と連絡がつかなくなって、家に行ったけど誰もいないの。出社してますか? 急いでるの……レンが、息子がいなくなっちゃって、浩平と一緒にいるならイイんだけど……いるかいないかだけ、教えて!』
 くーちゃんの五感のすべては、コノハと共有している。くーちゃんの聞く音はきちんと聞くことができる。
 女は焦っている。彼女の話す内容を思えば、無理からぬこと。
「大丈夫かい?」
「オオゴトになりそうよ」
 気遣ってくれた常盤に片手をひらひら、無事をアピールしたコノハだったが、見える景色と聞こえる声は止まらない。
 エレベーターの速度が落ちる。刹那的に重力が体にかかる。ゆっくりと開いたドアの向こうには、受付に迫る女性の姿。
「その話、聞かせてくれるかしら?」
 黒い髪をうなじでひとまとめにして、蒼惶とした彼女は、五人の男たちを見て、一歩下がった。
「俺たちも鈴本さんを探しています。そんなに警戒しなくても大丈夫」
 黒ぶちメガネの奥の金瞳を細くさせて、永一。

 ◇

 その女性のことは、他の男に任せておこう――結城は、ビルを出る。全身に纏わりつく湿気は、先刻よりもしつこいと感じた。
 鈴本のことは知れたが、杳としてその足取りは掴めない。結城は目立たぬようにビルとビルの隙間に入り込み、念のために存在を朧に感じさせる結界を張り巡らせる。
 カラスがけたたましく啼き喚く。結城は、彼に、
「おいお前、最近、変なことはなかったか? 人間が普段いないようなとこにいたとか、しらんか?」
 喧しく一啼き、翼を打って飛んでいく。
「山の中……?」
 野生動物の勘はバカにならない。あとで末村側に回った猟兵との情報のすり合わせもしなければなるまい。
「――お、理玖。どうだった?」
「もしかしたら、三人目は、あの人の息子かもしれない」
 ビルから出てきた理玖は、空を見上げる。
「いやな天気だ……けど、もう好きにはさせねぇ」

●山里結衣/蒼惶
 れんが、蓮が小学校から帰ってこないの。
 今朝はいつも通りに登校したわ。
 いつもならとっくに帰ってきてるの――学校にも連絡したけど、ホームルームが終わってからさっさと帰宅したって言ってた。
 どこかで寄り道しているにしたって、ちょっと、遅すぎるの。
 蓮? 五年生よ。でも体だけは大きくて、中学生に間違われることが多いわ。
 五日前に浩平に相談したいことがあって訪ねたのよ。そのときは、蓮はずいぶん疲れたようだったから、家で留守番をさせたわ。
 私が帰るとベッドで寝てた。本当に眠かったみたい。
 蓮は浩平になついていたの。
 だから……
 父親? ……亡くなったわ。蓮が生まれてすぐに。だから、蓮は父親を写真でしか見たことがないの。
 浩平に父親を重ねてみてるのかもしれないから、少し不安で。だから、いなくなって、すぐに浩平のところかもしれないって思ったの。
 でも、浩平も……そう……私と一緒に飲んでから……。

 ◇

(「成程ねぇ――……いやぁ、愉しいことになりそうだなぁ」)
 永一は腕を組んで、彼女の話――というか、独白にも似た悲痛を聞き、いままで知りえた情報の整理を始めた。
 鈴本浩平、山里結衣、蓮、末村清一。
 接点はある。
 十二分にある。
 彼女の息子、蓮の通う学校は、末村が見守り隊を務めるあの学校だ。
 わずかな声音でくーちゃんに礼を言ったコノハは、影へと戻っていく愛しの仔狐を見送って、常盤を見やる。
「彼方の班と合流して情報を整理すれば、この調査も実りそうだねェ」
「そォね」
 頷いて、このまま滞りなく解決に向かうことを願った。
「三人目の安否が心配だ。急いだ方がよさそう、かな」
「ああ、その方が良いかもしれない」
 さっきから、野生の鳥が雨が来る雨が来ると騒いでいるように感じている結城は、真っ黒の空を見上げて、左右で違う色の双眼を尖らせた。

●末村清一/深淵
 日は落ちた。
 ずっと空を覆い尽くしている分厚い雲のせいで闇は一層濃くなる。
 外灯の間隔は一定で、散らされた闇は影に押し込まれて濃密に這う。
 その下をふわりふわりと、楽し気に少女は歩いてた。指先は白いレースが隠しているが、その間に挟まれた地図が滑り落ちていくことはない。
 朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の眷属たる《虫》――夜目の利く蜘蛛がささらの跡を追う。町に《鳥》の眷属を放ち、蜘蛛以外の《虫》も蠢かせ、ともにこの町に降り立った猟兵たちのハナシを盗み聞きしていた逢真は、集めた情報を自分の中に落とし込んでいった。
 二人を追うのは、骨が折れる。
 あの段階で情報が一番少なそうだった末村を重点的に調べることに決めた。
 公民館へと遣わせた毒蛾や蛇、鳩たちが逢真へと情報を齎した――その中で、ささらが末村の家まで行くという。
 ささらの足は一軒の家の前で止まる。ずいぶんと年季の入った、木造二階建ての小さな家だ。すっかり掠れた字で「末村」と表札がかかっている。ここで間違いないようだ。
 ささらは地図をまたポケットにしまい込み、呼び鈴を探す――までもなく、小さなそれは引き戸の枠にくっついていた。
 押してみれば、キンコンと甲高い音で鳴る。しかし、中から物音はしない。
「やっぱり中にはいないのかしら――」
 伏し目がちの琥珀の瞳に、興味の光が宿れば、なんの躊躇いもなく、レースで隠れた指先は玄関を開けていた。
「あらあら、鍵がかかっていないわ、ふふ」
 なんて不用心。しかし好都合。
「おじいさま、いらっしゃいますか?」
 三和土に上がり込んで声を出す――しかし返事はないし、気配もない。留守らしい。
(「ほうら、愉しくなってきたわ」)
 うきうきと家に上がり込む。なにか、手掛かりになるものはないかと探る。むろん、空き巣のような無粋な真似はしない。触ったものは、触る前の状態へ戻す。不必要なものは触らない。ぐちゃぐちゃに掻き混ぜるような方法はとらない。
 玄関に置かれた電話台の下の棚を開けて、眺めて閉めた。
 次に向かった居間にあったのは、古い写真。しめ縄がかかる大きな樹の前で男女が幸せそうに立つ写真だ。
 それ以外、興味を引くものはない。
 しかし、その隣の和室に入ったとき――ささらの微笑みは深いものに変わった。
(「なんだ――これは……」)
 蜘蛛を介して室内を覗き見ていた逢真の眉間に皺が刻まれる。
 文机の上に広げられたノートに書かれてある字の羅列に、怖気が駆け上った。

 田島正樹 (71) /赤線で消されている
 201*/9/** 見つけた。
 ……
 201*/9/** 〇〇病院の診療明細書を入手。妻が入院しているようだ。
 201*/9/** 〇〇病院の診療明細書を再び入手。マサキも患っているらしい。
 ……
 201*/12/** 通夜。
 201*/12/** 告別式。
 201*/1/** 〇〇病院で待ち伏せ成功。ともに靴を新調。――違った。

 真木友介 (54) /赤線で消されている
 201*/7/** 見つけた。
 ……
 201*/10/** 定刻出社。昨日靴を新調。いよいよか。
 201*/10/** 定刻出社。いつもより鞄がひとつ多い。私も準備をしよう。――違った。

 鈴本浩平 (33) /赤線で消されている
 201*/12/** 見つけた。
 ……
 201*/5/** 帰宅後、ユイと会っていた。レンと一緒。
 201*/6/** 定刻退社。ユイと待ち合わせ。レンと一緒。
 201*/7/** 定刻退社。ユイと待ち合わせ。レンはいない。私も準備をしよう――違った。

 山里蓮 (11)
 201*/4/** 見つけた。
 ……

「……ユイと、レン」
 ささらはノートを持ち上げて、日付を遡るようにページを捲る――瞬間、一枚の写真がひらりと落ちた。
 居間に飾られていた写真と同じ樹の前で、一人の女性が微笑む。
 その裏には、ノートの字と同じ筆跡で詩が綴られていた。
『 神解けに 燃えし縁の 永久の 離れて落つる 戀糸赤かな 』
 もの悲しい詩だ。悲恋、悲哀、哀愁がじっとりと溶け出すように感じられた。
 それともうひとつ。
『 200*/7 アイト 御神木の恩恵に 』
 この一文に、『 在りし日の 』と一言が付け加えられていた。
「なにかの役に立つかしら」
 拝借していきましょう――コレは元に戻せないわと、ささらは写真とノートを手に末村邸を後にした。

 ◇

 今の情報を元に、逢真は大地に手のひらをつける。
 居間にあった写真の男女――男の方が末村本人だろう。不気味な手記を残していた末村の姿形のあらましは分かった。
 たとえ次元が違っても、このセカイにいるのであれば、逢真にならば感じることができるだろう。
 惑星(ホシ)そのものと同化する荒業だ。
 ずるりと地が溶けていく――ずぶりと同化が始まる。陸地の表面が逢真の知覚領域へと変じていく。
(「負担がでけえ……けど、やらねえと、あれを放っておくわけにはいかねえだろ」)
 覗き見た不気味な手記の内容を思い返し、逢真の感覚はより研ぎ澄まされていく。
 どこにいる。狂気に満ちた足跡を探す。町にいない。どこだ。川をたどる。下流側から昇っていく。上流へと意識を広げる。
 感じた。
 足音だ。ひとつ、ふたつ……みっつ――
(「なんだ? 多い、増える――?」)
 逢真は慌てて感覚を切り離す。心臓はどっどっと大きく脈打った。今は人型であるから仕方ないが、それでも小さく舌を打つ。
 暗闇の中、足音だけが響いていた。禍々しくも、確かな意志をもった音だった。
 逢真は振り返る。
 そこに聳える山――この中だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『暗闇の追跡者』

POW   :    燃エ広ガル狂気
【崩れた輪郭から溢れ出る闇】が命中した対象を燃やす。放たれた【狂気を齎す漆黒の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    膨レ上ガル呪詛
【膨張しながら不定形に拡がり続ける闇】に変形し、自身の【輪郭や自己同一性】を代償に、自身の【攻撃範囲】と、技能【精神攻撃】【呪詛】を強化する。
WIZ   :    揺レ浮カブ恐怖
レベル分の1秒で【対象の背後に出現し、対象を絞め殺す腕】を発射できる。

イラスト:透人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●霹靂(かみとけ)
 年に一度、夏の始まりに行う祭りがある。縁を結ぶ神との縁を確かめる祭りだ。そうして他者との縁を、家族との、友との、あらゆる縁を結んでくれた神に感謝を捧げる祭りだ。
 村をあげての神事に、みなが晴れやかに笑う。その日も夕暮れ間近まで櫓の設営をしていた。
 雲行きが怪しくなってきていたが、あと少しで終わりそうだったのだ。電飾系の準備は翌日に持ち越した。持ち込んだ機材を倉庫まで片すことは、面倒だからと雨を凌ぐシートをかぶせておくことにした。
 数年に一度、こうして雨に見舞われることはある。山の天気は変わりやすい――なんて村人は笑う。
 よくあることだった。だから、みなが疑わなかった。
 叶結びのしめ縄の、一本のナギの大木は、ざわりと風に揺れて大枝を揺らす。その葉擦れの音と、雨が葉を叩く音が重なる。
 いよいよ雨がきた。
 よくあることだからこそ、大慌てで多くの手で作業が終わらせることもできる――しかし終わるころには、みな、ぬれねずみだった。
 櫓は見事に組み上がって、いよいよ祭りの気配は強くなる。彼の黒瞳に、幾何の寂しさが過る。
「風邪引きますよ、はやく戻りましょう」
 快活な若い声に呼ばれて、首肯。もう一度だけ、ご神木を見上げ深く深く頭を垂れた。

 雨は次第に強くなる。空を叩く遠雷が鼓膜を打つ。外に閃光が走る。ぱっぱっと明滅、家具の影は一等濃くなる。遠くで魔物の腹が鳴るような音が響く。どうにも胸がざわつく。雨戸のない窓から入り込んでくる稲光に、呼吸は浅くなり心臓は反して強く脈打つ。
 雷鳴は近づく。雷雲が村へと流れてきているのだろう、そういう風向きなのだろう。なにごともなく、どうかなにごともなく、流れ去ってくれ――願うそばから、家の中が激しく照らされた。
 刹那。
 天を破り壊す爆音。
 山を揺るがす激震。
 心臓を穿たれたような衝撃。
 それらが一緒くたになって村へ落ちた。
 頭蓋を穿孔された――息を忘れた――蒼惶として家を飛び出した。途端に打ち付ける雨は矢のように皮膚に突き刺さる。驟雨をその身に受け、ぬかるみに足を取られ、靴を履かずに走り出したことを知った。
 猛烈な雨の中、木っ端に砕けたご神木を目の当たりにする。
 一等背が高く、一等太く、一等この村を見守り続けたご神木が天の鎚に打たれて砕けていた。置いたままの発電機から猛烈な火の手が上がる。雨に混じる猛火に焼けていく神の姿に、ただただ、ただただ――心が死んでいくのを感じていた。

 ◇

 鈴本が失踪する直前に会っていたのは、山里結衣。彼女の息子、蓮が帰宅しない。
 山に感じた複数の足音――明確に知覚できたのは音だけだったが、それでもこの時間帯の集落も何もない山中で知覚するにはあまりに不自然と言えた。
 鴉の噂した人間の出没先も山の中だった。そこになにかあるのは、どうにも疑いようはない。
 末村の人となりを聞いた後に、突きつけられた彼の闇は、あまりに深くへどろのようで、邪推をしてしまう。
 何人もの赤線が引かれた名前と、「見つけた――違った」の文字と、異様な執着を見せる観察日記……その中に、鈴本と山里の名もあった。
 鈴本には、「違った」の一文と、名は赤線で消されていた。
 山里には、入学式のころからの監視内容が書かれていた。
 怖気立つと共に薄気味悪さに、吐き出す息は苦く感じる。
 新聞社で借りることのできた鈴本が調べていたファイルには、廃村になったアイト村について書かれたあらゆる記事が集められていた。
 その中に、『 アイト村へのアクセス方法 』と書かれた一枚の略図が含まれていた。
 旧アイト村へと続く道は封鎖されて久しく、かつての舗装は割れ、その隙間から生命力にあふれた下草が生い茂る。ガードレールも朽ちて途切れ途切れで、もはや役目は果たしていない部分が多い。
 辛うじて町の光が届くのは、旧道の入り口までだった。
 今宵、もし月明りがあったとしても、こうも木々が光を取り合っている状態なら闇は薄まらないだろう。昼間でも薄暗いのではないだろうか。
 ここに入っていくのか――湿った風が流れて、葉擦れの音すらじっとりと重く聞こえる。
 鼻先に雫が落ちた。ぽつり、ぱたり。地に浸み込んでいく雫は、とめどなくすべてを濡らしていく。
 いよいよ雨が降り出した。今まで我慢した分、一斉に落ちてくるように錯覚した。

 オオォォォ……

 刹那、雨音の向こうから地鳴りのような低い「声」が響いた。言葉を聞き取ることはできなかったが、それが声であると即座に認識する。
 猟兵たちは己の得物を手に、身構える。
「はっ、あ! くるな、は……!」
 闇影の奥の奥――聞き覚えのない子供の声が聞こえた気がした。
 緊張が走る。
 誰もが、その声の主が、もう一人の行方不明者の山里蓮であると、思い至る。
「ニゲロ、……ニゲ、」
「オオォ……アレニ、オイ、……」
「オイツケ、オイツケ、オイツケ、オイツケ」
 いつの間にか、猟兵の背後に、狂気を濃縮した闇が蠢く。




お待たせしました。
『暗闇の追跡者』との集団戦となります。
山道の先に山里少年がいます。彼を助けてあげてください。
また背後から『暗闇の追跡者』が追ってきます。
明かりはありません。
足元は雨で大変滑りやすくなっています。

プレイングは、【7/23(木)8:31~】受付を開始いたします。
みなさまのプレイングを心待ちにしております。どうぞよろしくお願いします。
香神乃・饗
香神写しで武器を増やし
苦無を足場に駆け滑らないように

助けに来たっす
一気に駆けて追いつく
少年を逃がし守るのを最優先
影に呑まれないように付き添うっす
剛糸を護りに
首を絞められないよう影を盾にしたり影を縛ったり

アルト村の呪い、みたいなものなんっすかね?
呑まれた人の意識みたいなの混ざってないっすか
ごちゃ混ぜになって何がなんだかわからないっす!
あぁもう気持ち悪いっす!

根付をぎゅっと握って
俺は、ここにいるっす!俺は俺っす!
闇に触れないよう苦無の竜巻で
影を斬り割いて呪詛ごと粉々に砕くっす!
どれだけ広がろうともまとめて全部吹っ飛ばしてやるっす!

灯りはつけず目を慣らすっす
下手に灯したら闇を生むだけっす


霑国・永一
漸く狂気への入口へと思ったらよもや後ろを取られるとは。
さてさて、捕まることなく救出するには速度か、数か。
よぅし、今回は数だ。頼んだよ、《俺達》
『殿かよてめぇ!』『しゃーねぇ!連中と心中しまくってやっか!』

狂気の分身を発動。
本体の自身は山道の先の少年のもとへ向かいつつ、分身を無尽蔵に生み出し続けてひたすら追ってくる連中へ向けて特攻、自爆させまくって足止め、撃滅をする。
これらは敵が追ってくる気配が無くなるまで続ける
『うはっ!俺様死ぬわ!そこの黒いの!一緒に死のうぜ!』『俺様は今闇と一体化してるぜ!ウケる!グェッ!』『なんだァ?精神攻撃に呪詛の類か!頭イカれるぜ、ハハハハッ!』

いやぁ、楽しそうだなぁ


桜井・亜莉沙
※アドリブ・連携歓迎です

できればこんな所でまともにやり合いたくはなかったけど…どうやらそうも言っていられないらしい。
仕方ない、こいつらを蹴散らすとしようか。

まずは敵の位置を割り出すためにウィザード・ミサイルを使用
ある程度広い範囲に【範囲攻撃】するように矢を降らせる
矢が当たったり、炎で姿が浮かび上がる等して居場所がわかったら、今度はそこ目掛けて【全力魔法】【多重詠唱】したUCで集中砲火
複数の矢を一点に集中させて確実に撃破を狙う
後ろに回り込まれた場合は【高速詠唱】で反撃・対処


須磨・潮
鹿糸(f00815)と

旧アイト村。繋がるものが見えましたね。
文化の中でも、地域や信仰が関わるものには深入りし難いものですね。
少年の安否が気がかりです。先を急ぎましょう。

鹿糸には先に行って少年を探して頂きます。
私は追跡者を少しでも遅らせます。
レプリカクラフトで、中学生くらいの背丈の少年を模倣。
正しく彼を追っているのか分かりませんが…レプリカに後ろを走らせて囮にさせましょう。
仕掛け罠で爆破する度に新しいレプリカを生み出して囮にします。

レプリカを生みつつ、逃げ足を駆使したダッシュとは……全盛期を超えた体には辛いですね。
必要があれば光属性攻撃を放って闇を霧散させましょう。


氏神・鹿糸
潮(f13530)ときたの。
雨なんて嫌ね。ただでさえ暗いのに、気配も視界も悪くて適わないわ。
たくさんの闇が子ども一人に急いで…何か用事でもあるの?

潮が敵を遅らせてくれるから、私は先に子どもを探しに行くわ。頑張って頂戴ね。
武器は縛霊手。
闇が来たらひとまず[破魔][呪詛耐性]で基本攻撃は躱す、もしくは氷[全力魔法]で反撃するわね。
それでも執拗にくるなら『残滓・忍冬』
私の死角に付けて、迎撃してもらうわ。
亡霊みたいな敵に、過去の霊ってお似合いじゃない?

さあ、先を急ぎましょう。
日は落ちて、こんなお天気だもの。
帰り道には気をつけなくちゃね。


八尾師・ささら
末村のおじいさまったらなんとも愉快な手記をご用意してくださったこと。
お次はなぁに?まあ、追いかけっこなの。
雨も泥濘もあまり好きではないのだけれど。
せっかくの白が汚れてしまうから黒は嫌いよ。

山里少年、あなたまだ走れるわね?そう、良い子ね。振り向かずそのまま走りなさい。
安心させるように微笑み並走していた少年から数歩離れる。
さしていた白い日傘をたたみ、駆けていた力をそのまま軸足に、遠心力を使って傘を振り抜き影の横っ面に一発くらわす。

蜂が夜目が効かないから弱いだなんて思わないでくださいね。
さあ、私と遊んでくださいな。
薄い笑みを浮かべ銀の石突で【傷口をえぐる】

◎アレンジ歓迎


朱酉・逢真
まいったねェ。俺ァ熱や光系統の技はほっとんど使えねぇんだよな。闇殺しにゃ驚くほど役に立たねえぞ。
けどま・攻撃する手にゃ事欠かなそうだ。ありがてぇこったよぅ。そんじゃ俺は俺で出来ることをするとすっかな。
追われてる坊っちゃんを中心に結界を展開。よォ坊っちゃん動きなさんな。地面に陣が、変な模様が見えるだろう。そん中にいりゃ、やっこさん手が出せねえ。お前さんの命は助かるぜ。
俺は俺で《鳥》に乗って追跡者の手が届かねえとこまで上がる。敵には強化された《獣》や《虫》どもを向かわせよう。上から見りゃ戦局もわかりやすかろう。うまく指揮するさ。



●散開
 聞こえた足音は、もっと標高の高いところだ。これほどの低い位置ではなかった。
 子どもの声も山道の入口よりももっと、上の方だった――そこまでいかなければ、早く追い付いて、あの声の主の安全を確保してあげなければ。
 知りたいことは山とある。多くの不明点が散在している。
 己にできる、最善の一手を。

●闇路
 夕日は分厚い雲の向こう。頬を打つ雨は粒を次第に大きくして、雨足はどんどん強くなっている。
 氏神・鹿糸(四季の檻・f00815)は、じっとりし始めた蒼い髪を一撫でして、肩を竦めた。
「雨なんて嫌ね――ただでさえ暗いのに」
 明かりはほぼない。雨音のせいで気配は探りにくいし、雨粒が顔に当たって視界も悪くなる。
「そうね……でも、先を急ぎましょう」
 悲鳴を上げた少年が心配だ。声をあげるくらいにまだ余裕があるのか――否、死活問題に違いない。
「ニゲ、……ニゲタ、」
 鹿糸は金瞳をしばたたかせる。彼女の双眸に映るのは、濃い黒が蠢く狂気の闇。
「マテ、マテ、マテ、マテ……」
 たどたどしい発音だが、その声音は、不安を煽り立て恐怖を際立たせ焦燥を掻き立てる。
「私はここで足止めを――鹿糸、少年を任せました」
「解ったわ。潮、頑張って頂戴ね」
 須磨・潮(既知の海・f13530)の、今は黒に見える紺碧の双眼をしっかと見返し、鹿糸はふわりと笑んで、彼女に背を向け足を速めた。
 凝り固まる闇を見返した潮は、【レプリカクラフト】で触れれば爆発するように罠を仕掛けた人型を創り出した。
 中学生ほどの背丈の少年だ。正確に個人を特定して追いかけているのならば、無意味かもしれないが、それでもカレを躱して追ってくることをするだろうか。
(「ようやく点が繋がるものが見えてきましたね」)
 この細路の先にある旧アイト村――鈴本が作っていたファイルを流し読んだが、縁結びスポットとして、ときおりひっそりと話題になる程度の秘境だったようだ。
 信仰を支える御神木に、叶結びのしめ縄を結い、村民の寄る辺を担っていた大木があったという。
 土地や信仰に関わるものには深入りし難いものだが、放っておくわけにもいかない。
 潮の背後で、爆発が起きた。
「――案外、素直にかかってくれるのですね」
 ぽつりとこぼしたが、すぐまた次のレプリカを生み出す。背後に迫る膨張する呪詛――不細工に不気味に不格好にその身を際限ない呪詛で膨れ上がらせて、闇を深く濃くさせていく。
 そのぼやけた輪郭に、レプリカが触れる――爆発。攻撃の範囲は先刻よりも拡がっているようだが、潮に届くにはまだまだ遠い。
 はあっ、はあっ……――
 しかし潮の息は上がる。
 レプリカを生み出しながら、追跡者から逃げ走り続けるのだ。全盛期を越えた体躯には辛いが、そうもいっていられない。
 先行した鹿糸の冷気溜まりへと足を踏み込んだのだ。濡れた体へその冷気は身が締まるようだ。
「たくさんの闇が子ども一人に急いで……何か用事でもあるの?」
 湧いて湧いて湧いて――夜が明けるまで、雨が上がるまで無尽蔵に湧いて出てきそうな追跡者へ、《華鹿》の指先を向ける。
 濡れる祭壇が、聖性を発揮。破魔の力は雨粒を凍結させ、追跡者を凍て締める。
 問いに答えないかわりに鹿糸の背へ漆黒の腕が伸びてきた。
「チガウ、チガウ、タリナイ、タリナイ、モット、モット、チガウ、ニゲル、ニゲナイト、ニゲ、」
 口々に怨嗟を呪詛を慟哭がごとく垂れ流しながら、鹿糸の背に追いすがる。その手が背を撫でた――瞬間。
「アァ、アアァ、イタイイタイ、イタイヨ、イテェ、オオオォォォ……」
 鹿糸と瓜二つの女が薙刀でその手を斬り落とした。振るわれる一閃の度に雨は氷粒へと変わり、地に落ちてだらりと溶けていく。
「お似合いと思っていたの」
 亡霊のような暗黒の狂気と、悪霊《残滓・忍冬》――どちらもあやふやな存在だ。並び立てば、やはり異彩を放つ。
 鹿糸の死角をカバーし迎撃する過去の霊は、虚ろな貌で薙刀を構え直した。
「しつこいと嫌われるわよ」

 ◇

(「末村のおじいさまったら、なんとも愉快な手記をご用意してくださったこと」)
 あの狂気に満ちた、残忍で残酷な内容を思い返し、八尾師・ささら(深窓の猛毒・f28355)の頬に刻まれた微笑みは、ほんの少しだけ深くなる。
「お次はなぁに?」
 伏目がちの琥珀の瞳に映り込むは、ささらに手を伸ばしてくる闇の塊。
「触れないでくださいね。せっかくの白が汚れてしまうわ」
 すいと躱し、それから距離をとれば――追ってきた。
「まあ、追いかけっこなの……こんな天気に、元気なこと」
 息をついて、ささらはとっと駆け出した。こんなにも元気な多くの闇と今は遊んでいられない。
「よもや後ろを取られるはな」
 ようやく狂気への入口まで来たと思いきや、周囲の闇を寄せ集めたような敵に追いかけられるなんぞ――霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)もまた、嘆息をひとつ。先に背後の集団から距離をとったささらの白い傘を見ながら、思考を巡らせる。
 闇に捕まることなく少年を救出するには速度か、数か。どちらだ。永一はすぐさま答えを出した。
「よぅし、今回は数だ。頼んだよ、《俺達》」
『うるっせ! 殿かよてめえ!』
『てめえが爆発しろ!』
『うはっ楽しめんだろうな!?』
『しゃーねえ! 連中と心中しまくってやっか!』
 一気に賑やかになったのは、永一の狂気の分身たちのせいだ。
「ご自身が増えるのですか」
「まあねぇ……さぁ、俺の為に散ってくれ」
 ささらの驚嘆に首肯をひとつ、永一は己の分身たちを嗾ければ、戦闘狂然と口汚く闇を罵りながら驀地に駆けていった。
『クソッタレ! 覚えてやがれ!』
『いつかイタイメ見せてやるからなぁ!』
 明かりの乏しい細路に蔓延する闇と同化するよう、不安定に拡がり続ける追跡者へと、肉薄。
『俺様は今闇と一体化してるぜ! ウケる!』
 ゲラゲラと笑い眼鏡の奥の金瞳をかっと見開いて、喉が潰れたような悲鳴を上げて爆発した。
『うはっ! すっげえ! 俺様死ぬわ! おいそこの黒いの! 一緒に死のうぜ!』
 分身の一人が、追跡者を巻き添えに、派手に爆散したのを見て、表情を猟奇的に輝かせて特攻していく。
 地を揺るがして爆発。
「コワイ、コワイ、コワ、ク、ナイ、オオオォォォ……サムイ、サムイ、イタイ、イタ、イタ、ク、ナイ……」
『なんだァ? 精神攻撃に、呪詛の類か! はっはぁ! 頭イカれるぜ、ハハハハッ!』
 ずるりずるりと輪郭が曖昧になっていく追跡者の憎悪嫌悪恐怖畏怖が名状しがたい呪怨の濁流となって、狂気にまみれる永一たちを飲み込んでいく――が、彼らは哄笑して、それすらも楽しげに受け入れて、闇を抱いて爆発していく。
『それっぽっちで俺様がビビると思ってんのかよ! おめでてえ野郎だぜ!』
 閃光が闇を引き裂き、爆音が腹の底を殴り、爆風は雨に濡れる全身を撫で回す。
「――…………いやぁ、ほんと」
 無尽蔵に己の分身を生み出しているのは永一で、追跡者を巻き込んで爆発してこいと特攻を命じているのも永一だが。
『ハハハハッ! どうした! もっとこいよぉ!』
「楽しそうだなぁ」
 闇の追跡を食い止める爆発の合間に、彼はぽつっとこぼした。
 その間にささらは、黒の細路を軽やかに駆ける。追跡者の相手は彼らに任せた永一自身も山路を急いだ。
 差したままの自慢の日傘はびっしょりと濡れてしまったし、指先のレースも濡れた。
「黒は嫌いよ……雨も泥濘もあまり好きではないのだけれど」
 ささらの嫌いなものばかりだ。
 降り続ける雨は強い。手入れされていない細路は土砂が流れ出て、ぬかるんで、ぐちゃぐちゃ――泥を撥ね上げて、ささらの白い肌も黒く汚れる。
 背に感じる爆発音を数えることはやめた。とめどなく響き続けるのだ。
 とはいえ、山道。
 緩やかとはいえ、登り続ける細路は思ったよりも体力を使う――が、彼女の視界の端を梅鉢紋が駆け抜けた。
 香神乃・饗(東風・f00169)だ。七十余の苦無を足場にして駆ける。泥濘なんぞに足を取られないよう、できるだけ平坦に駆け抜けられるように、苦無の道が宙に敷かれた。踏んだ瞬間、それは新たな足場へと行く先へと奔る。
 追いつく。すぐに追いついてやる。先刻の悲鳴がこびりついている。絶対に追いつく。少年に害が及ぶ前に。彼が闇に呑まれる前に。
(「見えたっす……!」)
 大きく息を吸い、躊躇なく苦無を擲った。
「助けにきたっす」
 闇に慣れた饗の視界の中で、その影だけは、見逃さなかった。
 暗黒が濃縮されたようなのっぺりとした背に突き刺さった苦無が、がらんと音を立てて落ちた。
 追跡者から呪詛が滂沱と溢れ流れる。輪郭が朧になり、うねり逆巻く怨嗟が拡がる拡がる拡がる。
「なんっすか、これ! アイト村の呪い、みたいな……呑まれた人の意識みた――ッ!」
「コワ、イ、コワイ、サムイ、ニゲタイ、オイツク、オイツク、アイタイ、アウ、サル、イカナイデ、イキタイ、コワイ、コワイ、コワイイタイコワイアツイコワイ」
「あぁもう! 気持ち悪いっす!」
 饗の掌にあるのは、真白のトンボ玉と、雨濡れの銀細工の梅花――ぎゅっと握る手に力が入る。引き摺っていかれないよう、縋るように根付を握った。
「俺は、ここにいるっす……俺は俺っす!」
「ニゲロニゲロニゲロ、アイタイ、アイタイ、アイタイ、コイシイ、アイタイ、アイタクナイ、コワイ」
 様々な意思が混濁して、あらゆる意識が綯い交ぜになって、寄せ集められた呪怨に触れて、饗は黒瞳を眇める。
 もうこれ以上、闇に触れないよう、足場の二本の苦無はそのままに、他の多量の刃で旋風を巻き起こす。
 刃は衰えることなく、拡がる闇を影を斬り裂き、蠢く呪詛ごと木っ端に砕く。
 苦痛に喘ぐような低い声が響く――憐憫を誘うような、悲哀に満ちる声を、饗は耳を塞ぐようにかぶりを振って無視した。
「関係ないっす。俺は、この子を守るっす」
 足場にしていた苦無から飛び降り、生まれた隙に乗じて、剛糸を防壁として展開。
「安心していいっす。指一本、触れさせやしないっす」
 背に守る少年は、饗を見上げて言葉を失っていた。
 否、彼は、饗を通り過ぎて空を見上げて、頬に雨粒を感じているようだった。危機が去ったことによって放心したか――怪訝に思ったが、すぐさま影が動く。
 下手に灯りを点すことはしなかった。明かりは闇を濃くする。影を生み出し、負を呼び寄せるだろう――そう思ったから饗は目を闇に慣らした。
 パッパッと空を明滅させたその光は、やけに鮮烈に感じた。
「あ……」
 少年が声を漏らす。彼の視線の先には、無数の鳥の上に立つ男がひとり。
「よォ坊っちゃん、そこから動きなさんな」
 降ってくる声は、落ち着き払った静かな波で、彼は耳をそばだたせた。雨と混じって鳥の羽根が降ってくる。
「地面に陣が、変な模様が見えるだろう。そん中にいりゃ、やっこさんはお前さんに手が出せねえ」
 少年は、確認するように足元へと視線を落とした。
「お前さんの命は助かるぜ」
 そこには、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の造り上げた【白夜の幻城】の結界が完成していた。彼の眷属が護る不可侵の領域だ。
 毒蛇は追跡者の呪詛を物ともせずに締め上げ噛みつき、毒蜘蛛は闇に溶け出る影を糸で絡めとり、ぞろぞろと悍ましくも蠢く無数の毒虫は、その一体へと群がって喰らい尽くしていく。
「まいったねェ。闇殺しにゃ驚くほどに役に立たねえぞ」
 嘯く逢真だったが、俯瞰で見る細路は、やはり闇が蔓延している。これを裂く光や熱源を操る術を使えないのは事実――しかして、逢真には、多くの眷属がいる。攻撃を加える手には事欠かない。
 彼の赤は楽し気に細くなる。喉の奥で小さな笑い声が漏れた。
「闇を掃うにゃあ、ちと力不足だがなぁ。ありがてぇこったよぅ」
 操る《虫》どもは、次の獲物を貪り始める。食欲は底なしで、耳障りな羽音は雨音と一緒くたになって、一層辺りを騒然とさせた。
「……あ、ここに、いちゃ、ダメ、だ……、ぼ、く、は……」
 ガチガチと歯の根が合わない少年は、小さくかぶりを振って、一歩、また一歩と、饗の背から遠ざかる。逢真の展開した結界から出ようとする。
 少年の度し難い焦燥に、まだ誰も気づかない。

 ◇

 できることなら――こんな足元も悪い、視界も利かないところでやり合いたくはなかったが、そうも言っていられない。
「ようやく、追い付いた……!」
 ふうっと鋭く呼気、桜井・亜莉沙(自称大魔術師・f26162)のチョーカーが光る。魔力が渦巻く宝石が煌きを放つ。
 長い黒髪が頬に張り付いて少し乱暴に払った。
 呼吸を整える。
 肢体に広がる魔力が収束する。足先から這い上がり、腕へと別れ、五指の隅々までいきわたる。
 燃えるように熱くなった掌を開く。瞬間、浮かび上がるのは、無数の燃え盛る魔炎の矢束。
 亜莉沙の体の正面に一斉に並んで、射られるときを今か今かと待ち構える。雨が当たろうが火勢は衰えない。
 闇が引き千切られ、浮かび上がるのは呪怨に塗れ怨嗟を孕んだ狂気の闇だけだ。
「蹴散らすとしようか。今は――」
 亜莉沙は、己の扱える範囲に留め矢を降らせた。明るく見えるところが広がった――一番固まっているところへ、一等効果的に一掃できる箇所へ矢を射れるように、その僅かの間に見極める。
「右だ、もう少し、そう、そのまままっすぐ、全力でぶっぱなしなぁ」
 雨と鳥の羽根とともに降ってくるのは、逢真の声。毒蛾が鱗粉を巻き散らしながらひらひらと舞う。ココを狙えと言わんばかりだった――だから、亜莉沙は一切の容赦を捨て、そこへと一斉に魔炎を叩き込む、瞬間、背後に気配、凄まじい勢いで伸ばされる腕が絡みついてきた、否、それは細い糸で雁字搦めに絞め倒された。
「はっ、うまいもんだなぁ」
「へへ、どうもっす」
 二人の男の声を聞きながら、亜莉沙は今度こそ猛烈な炎の矢を射た。猛然と轟然と炎を上げて影を焼き尽くしていく。
 ありったけの魔力を注いで織り上げ、それを燃料に燃え上がる魔炎の集中射撃で、影は千切れ消えていく。
 一体が燃えつきれば、その奥のもう一体がなすすべなく崩れ落ちていった。
 拡がり続ける闇は、怨恨と妄執が混濁して纏わりつくような重苦しさで、呪詛を紡ぎ続ける。
 しかし、饗の苦無は止まらない。
「どれだけ広がろうともまとめて全部吹っ飛ばしてやるっす!」
 一本一本に彼の意識が宿り無尽に飛び交い、悉くを木っ端に砕いていく。
 その宣言は伊達ではない。闇に触れれば呑まれるかもしれないが、触れずに間合いを見誤らぬように。眼前の狂気へと注意を払った。
「おい、坊がいねえ」
「あれ!?」
「えっ、あの子はどこに――」
 逢真の一声に、饗は黒瞳を瞠って、亜莉沙は血の気が引くのを感じた。
「なんて、やんちゃな坊っちゃんだ」
 くつりと笑えども、逢真の眉間には深い皺が刻まれた。
 赤の視線を斜面の上へと滑らせる。こちらの意識が、ほんの少し少年から逸れた瞬間に走り出したのだろう。
「少年は、まだ、登っていったのですね?」
 ようよう追いついた潮は、聞こえてきたわずかな会話から状況を読み取って、少女を見つめ問う。錫杖の光に照らされた亜莉沙の紫瞳は、潮と鹿糸をひたと見返して、頷いた。

 ◇

「どうかしたのかしら?」
「え!?」
 ささらの声に心底驚いた表情の彼は、一瞬の迷いを見せた。隙をついたと思っていたのだろう。しかし追ってこられていたことに驚いたようだった。
「あ……ぼ、く、行かないと、」
 少年と並走すれば、彼は息を切らしながらも、答える。
「――そう、まだ登るの?」
 ささらの問いに山里ははっきりと頷いた。
「あなた、山里蓮?」
 名を呼ばれ驚いた彼だったが、ゆっくりと頷いた。
「まだ走れるわね?」
 再び頷く。
「そう。良い子ね。振り向かずそのまま走りなさい――守ってあげるわ」
 ささらは彼を鼓舞し安堵させるように笑み、少年から一足、一歩と離れ――転瞬、身を翻すと同時に日傘を畳み、遠心力を殺さないよう軸足に力を入れる。
 靴裏で砂利を磨り潰した感触、渾身の膂力でもって振り抜いた日傘は背に迫る追跡者の横っ面へと叩き込まれた。
 闇影なのに殴りつけたという感触がある――ささらは、うっそりと浮かべた笑みを冷たく凍らせた。
「蜂が、夜目が利かないから弱いだなんて思わないでくださいね」
 横倒しになった影の輪郭が崩れ始める。狂気が漆黒の炎へと変じる前に、ささらは一足で間合いを詰める。
「私の可愛い日傘を汚したのですから……さあ、私と遊んでくださいな」
 銀の石突が、殴打の衝撃で割れた影へと突き込まれた。聞く者の心を掻き乱すような悲鳴に、惚恍たる微笑みで返事をする。
「用事があるのは、分かったわ――こんなお天気で、日も落ちてるし。さあ、急ぎましょう」
 少女が闇を打ち倒した横を、駆けたいった鹿糸は、彼を守るよう並走する。
 背後には、潮もいる。【残滓・忍冬】も鹿糸の死角にいる。
「ぼくを、連れ戻しに、きたんじゃ、ない、の?」
 切れ切れに紡がれる不安の言葉に、鹿糸はにこりと笑んだ。
「帰り道には、気をつけなくちゃね」
 是とも否ともとれない返答に、少年は困ったように目を瞬かせたが、あまりの目映さに驚いてぎゅっと目を瞑った。
「あとで、理由を教えてください――でも、あなたが無事でなによりです」
 レプリカを連れた潮の声は静かだが、錫杖から放たれた光の力を内包した衝撃波は凄まじく、空を叩く雷鳴を伴って、酷く荘厳に影を掃った。
「追っ手は、なんとかなるだろうし」
 永一だ。追われる気配がなくなるまで分身たちに自爆し続けろと伝えた。少年に追い付いて、びっしょりと濡れた髪を掻き上げる。
「さってぇ、夜の登山といこうか――で、いいんだな? いいのか……?」
 少し自信はないが、それでも「今」山を登る彼には、相応の理由があるのだろう。
 このワケのわからない状況が、登った先にあるのなら。あるいは――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

陽向・理玖
違ったって何だよ
鈴本さんは…
いや
まずはあの子助けねぇと

待ってろ
もう大丈夫だ
蓮に声掛け

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らしダッシュで近くの敵に間合い詰めグラップル
拳で殴る

UC起動
足元の悪さは浮く事でカバー
飛んでりゃこけねぇし問題ねぇな!
動き見切りスピード上げて攻撃避けカウンター
死角から回し蹴り

闇はオーラ防御で弾く
仮に燃えても辺りが照らされて丁度いい
激痛耐性で耐え
それに…一人で逃げてたあの子の恐怖を思えば
これ位何だってんだ
覚悟決め
逆に叩きのめしてやる
ジャンプキック

何体か倒してる内に効率も分かるだろ
戦闘知識と暗殺用い
弱い箇所狙い拳の乱れ撃ち

早いとこ片づけて
安心させてやんねぇと


護堂・結城
外道っていうか、外法って感じだなぁ今回の敵は
まぁ、人命かかってるしさくっと始めますか

【POW】

安全と視界の確保が優先だな
まず【足場習熟】で山道を駆けぬけ少年の周囲に【狂気耐性・結界術】を仕掛け【庇う】
そして燃える式神符を【弾幕】の如くばら撒き【式神使い】で操って敵の位置を補足するぞ

うじゃうじゃきやがるね全く、こういう時は全包囲攻撃が一番ってな

指定UCを発動し吹雪と共に【大声・歌唱】
【衝撃波】に炎を載せた【属性攻撃・範囲攻撃・爆撃】で相手のUCの力を削ぐ

追撃に燃え上がった場所を狙い【破魔】を込めた石を【怪力】で【投擲】する【貫通攻撃】だ

「ジャックポット!!いや、ブルズアイか?」


波狼・拓哉
魅入られたのか…それとも結んだ縁が正しいか知りたいのか
…まあ推察はいくらでも出来ますが真実は実際見た方が早いですね
一体何が違ったのかあんまり考えたくないですけど

さてそれじゃ、「違った」と言われる前に助け出さないとね

ミミック!化け堕としな!
追跡者の対処は任せます
縛り上げて燃やし尽くしてやりましょう…明るくもなって見やすくもなるでしょう、邪魔になりそうなら消しますが

自分は衝撃波込めた弾で進行上邪魔になるやつだけ撃って山道を踏破する事を重視
地形の利用、第六感、足場習熟、環境・地形耐性で滑らないようにかつ迅速に
崖とかあるならロープを投擲してショートカットも挟んでやりますか

(アドリブ絡み歓迎)


鏡島・嵐
……っ、足元は悪ィ上に真っ暗か。人捜しの条件としちゃあ最悪だ。
おまけに後ろから危ねえのが迫ってきてるし、正直怖ぇよな。
つっても、泣き言言ってる場合じゃねえ。助けられるモンは助けねえとな。

一応照明を準備。靴も滑りにくいやつに履き替えておく。
まずは〈ダッシュ〉で蓮って子供に追いついて、ユーベルコードで作ったメダルを押しつける。
「お守りだ。そいつを持ってれば、とりあえずは安心できる」
(つぶらな瞳の白犬が描かれたメダルは、見る者に安心と幸福を齎す)

取って返して、戦ってる仲間の援護に回る。
〈援護射撃〉で他の仲間の攻撃のチャンスを作ったり、向こうの攻撃を妨害したり。
〈暗視〉があるから、暗くても撃てるぞ。



●細路
「……っ」
 足元は悪い上に真っ暗で、人捜しの条件としては最悪だ。鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は、ともすれば震えがくる指先に力を入れた。
(「おまけに危ねえのが迫ってきてるし、正直怖ぇよな」)
 得体のしれない化け物に追われる恐怖に、嵐は首を振った。泣き言を言っている場合ではないのだ。
「助けられるモンは助けねえとな」
 怖いと悲鳴を上げたのは、ずっと小さな子供なのだ。彼のおかれている状況も、相当恐ろしいはずだ。
 万が一のために備えてきた腰に吊り下げ可能なランタンは、闇を散らす。グリップ力の強い靴に履き替えてきて正解だった。
 トントンと踵を鳴らして、闇の先を見据え、嵐は覚悟を決めた。
 末村の手記に幾度となく記されていた、「見つけた――違った」の文字が、いくつもの赤線で消された名の羅列が脳裏に焼き付いて離れない。
「(違ったって何だよ……)」
 図らずも口をついて溢れた小さな呟きは雨音に掻き消された。陽向・理玖(夏疾風・f22773)の青瞳に、それでも宿るのはあらゆる覚悟の光。
(「もしかしたら鈴本さんは……いや、」)
 いま考えても詮無いことだ。それよりも、漆黒の影を蹴散らし悲鳴を上げる少年に追い付かねばなるまい。
 あれやこれやと考えるのは、それからでも遅くはない。
 納得できるかどうかは、そのときになってみないと分からないが。
 まずは、助ける。
 助ける。
 目前にある命が危機に曝されているのだ。助けずにいられるか。否、答えは分かり切っている。
 理玖の心は晴れない。悪意と狂気の只中にいた鈴本も、それを画策したのかもしれない末村も、渦中の少年も――まるっと助けるのは、難題かもしれない。だから。
「一体何が違ったのかあんまり考えたくないですけど」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の零した言葉に、理玖は何度も頷いた。
 考察はいくらでも、推察は詮無く続けることはできる。しかし、それの真偽は本人にしか分からない。百聞は一見にしかず。
 この闇路の向こうで答えが待っているのならば――救いを待つ命があるのだから、優先すべきはそれだ。
「外道っていうか、」
 外法という言葉がしっくりくる気がしてならない護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、空を見上げる。重く重く犇めき合う雨雲から、絶え間なく雨粒は落ち続ける。
「人命がかかってることだし」
「また『違った』なんて言われる前に助け出さないとね」
 拓哉の合いの手に頷きをひとつ。くるりと肩を回し、お供竜を連れ、軽快に走り出す。その足元が滑ろうとも、結城がバランスを崩すことはない。
 嵐も続くように駆ける。
 いくつもの戦闘痕を過ぎて、さらに登る。掃われた闇は解けて雨に溶け出して地に浸み込んでいくようだった。
 真っ黒い細路は続く。
「オオオォォォ……」
 深淵から響き渡る慟哭に、理玖は青眼を尖らせた。
 《龍珠》を指で弾き、宙で掴み取る。ぎゅっと握り締め《ドラゴンドライバー》へと嵌め込む。
「変身ッ!」
 体躯が装甲に包まれる衝撃は、そのまま鋭い刃となって湧いて出る闇を裂いた。鋭い踏み込み、ぬかるんでいる地は彼の足跡で削れた。
 最も近くにいた追跡者へと肉薄、跳んで加速、怨嗟を撒くその口を塞ぐよう《龍掌》を渾身の力で叩き込む、めり込む、殴り飛ばした。
 着地の瞬間、【龍神翔】の七色の輝きを纏う。理玖の敢然と漲る覚悟を力に変換し、更なる力を得る。
 煌然たるオーラが光の糸を引いて闇を薄めていく。加速した理玖に追い縋るように、狂気は燃え広がる――邪悪な黒炎が上がる。触れれば心が砕けて灰燼に帰すような、不気味な炎が。
「ミミック! 化け堕としな!」
 鮮烈な拓哉の声。
 その声に喚ばれたミミックが、大きくあぎとを開ける――燃え盛る漆黒の炎すら縛り上げるように、その箱は見る間に白熱する鎖へと変じて、追跡者へと絡みつく。
 ひゅごっ
 白炎が黒炎を飲み込んで悲鳴を上げた。
「ミミック、そのまま燃やし尽くしてしまいなさい」
 闇を地に縛り付ける鎖は、火勢を強めて応える。
(「魅入られたのか……それとも結んだ縁が正しいか知りたいのか……」)
 その炎は、どんどん燃え広がる。鎖が拡がる。闇に囚われることのない光が生み出された。
 末村の手記がふいに思い出されたが、それを振り払い、細路の先へと視線を転じる。
 ミミックの鎖が燃やし尽くした痕は、雨が洗い流してしまうだろう。

 ◇

 理玖は加速して空を切る。
 こうして飛翔すれば、泥濘に足をとられることもない――なにより、己の足で走るよりも速く少年に到達することができる。
 いくつもの爆発痕が、生々しく残されていた。
「速いなぁ……」
「おれも急がないと」
 結城が飛んで行った理玖の背を一旦見送って後、嵐は反って気合を入れて己を鼓舞し、「そうですね」と拓哉も踏破を覚悟する。彼の手には、二丁の拳銃。
 行く先の闇が濃くなる――そこに生まれ出る追跡者を睨み据え、結城は赤い方の眼を眇めた。
「うじゃうじゃきやがるね、まったく……こういう時は、全包囲攻撃が一番ってな」
 氷牙がすいっと飛ぶ。翼で空を打てば、風が巻き起こる――冷たい風が生み出され、それは辺りの温度を急激に下げた。
 雨を取り込んで吹雪は荒れ狂い、結城の背に生えた翼の熱は衝撃波となって、紡がれる歌と共に闇を飲み込んでいった。
 影の中で渦巻く妄執の炎が消えていく――燃える。雨で鎮火されることのない炎は闇を燃やし尽くす。
 その炎を巻いて拓哉の撃った弾丸が追跡者を穿った。瞬間、闇が霧散する――その奥にはまだ、暗闇。しかし、理玖がその闇を裂いている。
 チラと背後を見やれば、しっかりついてきているミミックは、鎖になったり箱に戻ったりしながら追跡者を焼き尽くしていた。
 進行を阻む敵を退け、追ってくる敵を焼く。
 刹那、理玖のオーラが目映く光った――煌きは夕闇の細路には鮮やかすぎて、琥珀色の眼を細めた。それで彼らの足が止まるわけではない。
 走る足は動き続ける。泥を撥ね上げ、水溜まりを蹴散らし、砂利を踏み潰す。
「いた……!」
 乱れる息をそのままに、嵐はメダルを創り出した。
「もう、大丈夫だ」
 一つの闇を殴り飛ばした理玖の声。
 彼を見つめる少年の黒瞳は、ヒーロー然と現れた理玖に釘付けだった。彼に付き添う濃紺の眼差しと、金瞳の光も驚きを隠せていない。
「見つけた――、それ、お守りだ」
「お、まもり?」
 たどたどしく訊いてくる彼の声は、震えている。嵐は安心させるように頷いて、息を整えた。
「そう。お守り。そいつを持っていれば、とりあえずは安心できる」
 山里の双眸は手元に落ちる。握らされたまあるいメダルには、つぶらな瞳の白犬が描かれこちらを見ている。見ているだけで緊張がほどけていきそうな可愛らしい犬だ。
「さあ、それ以上、その子に近づくなよ、外道ども」
「蓮、待ってろ、もう襲われねぇからな」
 結城の不敵な笑み、理玖の力強い言葉に、山里はメダルをぎゅっと握り締めて、頷けども――彼の視線は不安に揺れる。
「オオオオォォォォ……アアアアァァ……ツメタイツメタイ、サムイ、アツイ、イタイイタイイタイ、イキタクナイ、イカナイデ、イカナイデ、ソバニイテ」
 漆黒の炎が燃え広がる。
 闇の輪郭はぼやけて、境界は薄れて、夜と同化していくようで、その実、轟然と炎を滾らせる闇は、呪詛を吐きながら呪怨を撒き、山里へとにじり寄る。
「ミミック!」
 拓哉の声音が鮮烈に響き、白熱して燃え上がる鎖が闇を焼き絞める。
「アツイアツイアツイアツイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ」
「タスケテタスケテ、アツイ、アツイ、モエル、モエル、アツイ」
 聞くに堪えない悲痛を吐いて憐憫を誘う狂気の慟哭は、細路にこだました。
 だからなんだ。
 結城の背に焔鳳の翼が生える。熱波は臨界点まで濃縮されて、氷牙の吹雪を纏って解き放たれる。再生と消滅を歓ぶ歌と共に放出されて、邪悪な悲鳴は止まる。
 だらりと溶け消え、雨と共に地に浸み込んでいった。
 その結城の背後へと、嵐は《スリングショット》につがえた小石を放つ。彼の力を纏って放たれた石だ。もはやただの石ではなくて。穿たれた追跡者は、闇夜と一緒くたになるよう霧散した。
「イトシイ、アイタイ、コイシイ、サミシイ、アイタイ、サミシイ、サミシイ、モウ、サミシクナイ、ヒトリ、イッパイ、サミシクナイ、サムク、サム、サムクナイ」
 理玖は、空中でくるりと反転した。
 この雨の中、今の急旋回を地上でやれば確実に滑って転んでいただろうが、足元にオーラで防壁を練り上げそれを蹴り、勢いを殺さず追跡者を蹴り伏せる。
 じわじわと崩れていた輪郭を無視して放った蹴撃だ。焼かれる痛みに、奥歯を噛み締め耐える。
「こんな……この程度……! 一人で逃げてたあの子の恐怖を思えば――」
 耐えられないわけがない。これくらいどうということはない。腹が決まる。覚悟はより強固なものへ。
 まだまだ追跡者はわんさかいる。
 叩きのめすの決めた。一足跳びに死角へ回り込んで、勢いそのままに回し蹴り。
「早いとこ片付けて、安心させてやんねぇと」
 体勢が崩れたところに、嵐の援護射撃が正確無比に撃ち貫く。視界の悪さは、周囲の炎が和らげるが、それでも彼の射撃は外れない。
 輪郭が崩れ始めた闇の額を穿つ――後ろへのけぞった瞬間、【陽炎鳳奏】で狂気の薄れた追跡者を容赦なく焼き苦しめ、ミミックが発火させる。泥水の中に引き摺り倒され、白熱する鎖は闇を打ち払う。
 広範囲にわたる炎の追撃は、雨では消えない。その炎の中で蠢く狂気へと結城は破魔の力を込めた石を渾身の力で擲った。
「ジャックポット!! いや、ブルズアイか?」
 強化された石によって打ち倒され霧散した狂気は、その場で黒炎を噴き上げた。今際の熱にあてられるように、どろりと闇が集結し始める。
「まったく、ぞろぞろと……」
「キリが、ない!」
 拓哉の嘆息に嵐は頷く。狂気の散らし方を会得しつつあるさしもの理玖も、眉を顰めた。
「オイデオイデ、ニゲテニゲテ、ハシッテ、アルイテ、トマッテ、イカナイデ、ハヤクキテ、アイタイアイタイアイタイアイタイアイタイ……」
「――……なんで、こんな、……あ、あ、じ、かん、がな……行く、行かないと」
「蓮!?」
 メダルをぎゅっと抱き締めた彼は、雨水を受けてなお燃え盛る炎に背を向けて、歩くような走るようなスピードで登り始める。
「どこへ行くっていうんですか――帰る、わけじゃない?」
 拓哉の緑の双眸が怪訝に曇る。
「じっとしてらんないのか! 母親が探していたんだぞ!」
 町へ戻ろうとしない子どもを叱りつける結城だったが、彼は攻撃の手を止めることはなかった――これを止めると、闇が山里へと向かうかもしれない。
「理由が、あるのか?」
 跳んで狂気の闇を蹴倒し踏み潰した理玖の問いかけに、山里は躊躇いがちに小さく頷く。
「約束、した、から」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

神埜・常盤
コノ君/f03130

先ずはあの少年を助けないとねェ
この身を蝙蝠に転じさせて
闇に紛れながら、彼の元へと急いで飛んで行こう
ふふ、便利で良いだろう?

少年の前に辿り着けば人型に戻って
この身を盾として庇ってあげよう
彼を護りつつ、光を纏った影縫を抜き放ち
襲い来る敵を薙ぎ払って行こうかなァ

大立ち回り期待しているよ、コノ君
討ち漏らしの処理は任せてくれ給え
破魔の護符を投擲して足止めし
その隙に影縫で串刺しにしてくれよう
さァ、灰に還ると良い

漆黒の炎は冷気を纏った護符を
盾状に展開させることで武器受け
狂気に身を焼かれたら、お前たちのように成るのだろう
そんなのはゴメンだなァ……
まあ、哀れだとは思うケドねェ


コノハ・ライゼ
ジンノ(f04783)と

急いだ方が良さそうネ
蝙蝠姿を見ればズルい、ナンて笑いつも
山道であればより適した姿が良いだろうと己も銀毛の狐へ
あんま好きじゃナイけど、まあ致し方なしネ

今は獣だって怖いだろうし、少年の目に触れる前に人へ戻り
*庇うように一旦視界を遮りましょ
よく頑張ったネ、もう大丈夫
アレはオレらに任せて頂戴

ジンノに合わせ隙つき元気そうなヤツから狙ってこうか
「牙彫」に【天齎】で淡く虹色を纏わせ*傷口を抉ってくヨ
どう見たって妄執の塊、よく効きそうじゃなくて?
討ちきれない分はジンノに任せるわ

動き*見切り*残像置き立ち回って闇を避けてくケド、多少の炎は気にせず行こう
この程度の狂気じゃ薄味過ぎて、ねえ



●雨路
 雨足は強くなる。先刻から稲光が天を驚かせる。
 服は雨を吸ってじっとりと湿気り始め、髪も濡れる――コノハ・ライゼ(空々・f03130)は、うっそりと足元の爆発痕やら戦闘痕を見、顔を上げる。
「急いだ方が良さそうネ」
 隣を見やれば、なぜかにやりと笑む友人がいる。
「そうだね、まずはあの少年を助けないとねェ」
 言下、その長身は瞬時に蝙蝠へと転じてしまう。
「ジンノ、それ、ズルくナイ?」
「ふふ、便利で良いだろう?」
 軽口をたたき合うも、神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は雨夜の闇に紛れるように飛び行く。
「とっても便利ネ、ウラヤマシイ――」
 そんなコノハの呟きに、常盤はくつりと笑みを零した――が、それをコノハが知ることはなかった。
「あんま好きじゃナイけど、まあ致し方なしネ」
 この足元の悪い山道だ。二本の足で駆け上がるよりもっと適した姿があるのだ。
 出し惜しみする必要は一切ない。
 コノハは、僅かな光でさえ反射する美しい毛並みの銀狐に変じた。ぴんと立つ双耳は坂の上を向いて、凛乎たる薄氷の双眼は闇に溶けそうな常盤を見つける。
 とっ。
 風を切って駆ける。軽やかに、しなやかに。
 眼下で疾駆するコノハの姿を確認した常盤は、
「先に征くよ、コノ君」
 友人にしばしの別れを告げ、翼を打った。
 雨粒がその身を打ち付けれども、今は些末なこと。
 闇の軍勢は漆黒の炎を噴き上げ、怨嗟を撒き散らし、背後からの奇襲に躍起になる。
 その激突を一飛び――緩やかな登りが延々と続き、猟兵たちが闇と交戦するのを見、彼らの先にいるはずの少年を探す。
 もはや獣道の様相を呈する細路だ。雨に濡れた下草は踏めば呆気なくすっ転んでしまいそうだった。
 小学五年生の少年が、一体なんの用事があって、こんなところにいるというのだ。
 山里結衣の憔悴しきった顔を思い出す。子がいなくなって心配しない親はいないだろう。しかも、亡くした伴侶の忘れ形見だ。
 解せない。
 あの子を救えば、答えは出るだろうか。鈴本が追いかけた旧アイト村が、この先にあるのならば、少年はそこを目指しているのだろうか。
「嗚呼、見ィつけた」
 思考は一旦中断。必死に前へ前へと進む少年を見つける。後ろを振り返っては、怯えるように耳を塞いで、蹲りかけて意を決したように歩み始め、早歩きになり、駆け足になる。
 そうまでして、「今」行かねばならない理由はなんだ。詮無いことと分かりながらも、回り出した思考は止まらない――否。彼の眼前に闇が立ちはだかった。
「いけない……!」
 急降下。少年と狂気との間に落ちた瞬間、人型へと戻る。鋭い牙を見せつけるように唇は弓なりにひらく。
「幼気な少年に向ける狂気じゃあないねェ」
 常盤の手には、光を纏う《影縫》――この身を盾として、闇と対峙する。落ち窪んだ眼窩のような穴の奥は、一等黒い怨念が渦巻いている。
「なァに先に始めてンの」
 コノハのいつもの飄然とした声音がした。ちらっと背後を一瞥、果たしてそこには、少年の視界を掌で覆い隠したコノハがいた。
「思いのほか、コノ君が遅いから」
「言ってくれるワ……見なさいな。足元、ぐっしょぐしょ――サイアク」
 一気に駆け上がってきたのだ。泥濘に爪を立て、闇の合間を縫い身を隠して、最速で駆けた。
 その代償が泥塗れ。分かっていたことだが、今文句を並べたてることではないと、自己完結。
 銀狐の姿のままこの場に現れなかったのは、コノハの気遣いだ。こんなワケの分からない闇のバケモノに追われて、恐慌状態に置かれている少年だ。これ以上驚かせて心を疲弊させてやる必要はない。
 いくら泥に塗れようが、この命を護ると駆けたのは事実。
 そうして、間に合った。
「よく頑張ったネ、もう大丈夫」
「こわ、こわか、っ、」
「うん、うん。怖かったネ。アレはオレらに任せて頂戴」
「僕たちが討ち滅ぼしてみせよう」
 くるりと弄ぶように《影縫》が時を刻む。輪郭が崩れて燃え上がる黒炎を前に、常盤は冷酷にそれを振るう。横一文字に一閃、光を宿すそれは闇を裂いて炎ごと薙ぎ払う。
「次は串刺しにしてあげるから覚悟を決めておき給え」
 言下、鋭い踏み込み。宣言通りに闇は、一突きに穿孔された。
 爆発的に噴き上がる怨念は業炎と姿を変えて、やがて霧散する――否、闇の襲撃はそれだけで終わらない。次から次へと沸いて出てくる。
 こんな得体の知れないものに、夜道を追いかけられるなんぞ、トラウマものだろうに。
 この少年は、よくもここまで一人で登ってきたものだ。
 感心してしまったコノハだったが、今、元気が有り余っている漆黒の炎が迫っている。これらを相手にしないといけない。
(「……メンドクセー」)
 正直に漏らすことはなくとも、細められた双眸は、雄弁だった――それでもコノハに背を向けている常盤がそれに気づくことはなく。
 取り繕うつもりもなかったが、迫りくつ追跡者の輪郭がでろりと溶けて崩れ始めた。それは視認した瞬間、《牙彫》の海象牙の柄を握り直した。
 銀色の刀身は、コノハの命を燃やす虹色を纏って、瑠璃色は煌めきを増す――その刃を一閃させれば、それは狂気だけを――惨憺たる呪縛や妄執のみを斬り裂いた。
「だと思った……どう見たって妄執の塊、よく効きそうじゃなくて?」
 ゆらゆらと影は輪郭を崩していく。しかし、コノハは止まらない。ピンポイントで、追跡者が内包する恨み辛みを切り裂いていくのだ。
「さすが、名推理だねェ。大立ち回り、期待しているよ、コノ君」
「リョーカイ――あ、でも、討ちきれない分はジンノに任せるわ」
「勿論さ! 討ち漏らしの処理は任せてくれ給え」
「…………なんでだろ、ジンノに言われると、討ち漏らしちゃいけねえ気になるワ」
「ふふ、」
「笑うンじゃないヨ」
 言いながらも、彼らの動きは止まらない。
 常盤が擲ったのは、冷気を帯びた護符――襲来する黒炎に向かって展開すれば、火勢は見る間に衰えていく。もう一種の護符は、狂気の動きを鈍らせるほどに魔を砕く聖性を帯びていた。
「さァ、灰に還ると良い」
 あらゆるものを焼き尽くしてきた狂気は、反対に焼かれ霧散する。
「狂気に身を焼かれた、お前たちのように成るのだろう」
「クライクライ、コワイ、コワイ、イタイ、イタイ、アイタイ、イタイ」
 凍気を纏繞した護符は扇のように広げられて、身を焼こうと迫る黒炎を防ぐ盾となる。火勢は封じ込めに成功し、常盤の肌を焼くことはできなかった。
 彼の笑みは、濡れたことによってなおさら美麗に、いっそ恐ろしいほどに凄絶さを増した。
「――そんなのはゴメンだなァ……」
 慟哭はコノハに斬られて止まるが、その瞬間、それの形は霧散して雨に流れていく。
 土に浸み込んで、声は届かなくなる。
 黒炎を噴き上げる追跡者へと肉薄したコノハは、多少の焼かれる痛みも熱も無視して、残像がその場に残されるほどに追跡者の背後に回り込んだ。
 虹色に輝く《牙彫》を奔らせ、それを斬る。
「オオオォォォ……」
「この程度の狂気は薄味過ぎて、ねえ」
「まあ、哀れだとは思うケドねェ」
 今までどれほどの狂気に曝され、それを喰らってきたと思う――言外に語られた言葉に返事をする者はいなかった。

 ◇

 ようよう静まり返る。
 否、雨音は激しく煩いほどだった。空は時折、稲光を奔らせる。
 年上ばかりに囲まれた少年は、ばつが悪そうにぬかるんだ地面を見つめ続けた。
「なんで、ひとりで、こんなとこにいるっすか?」
 結果として助けることができたから良かったが、彼は幾度も危機に曝されたはずだ。饗は納得できなかった。
「……やくそく、した、から」
「誰とどんな約束をしたんだ?」
「蓮のお母さん、すっげえ心配してた」
 鈴本の手掛かりを求めて訪れた新聞社に乗り込んできた、山里結衣の姿を見た、永一と理玖だ。
 コノハと常盤も頷いた。あの焦燥は、心が痛むものだった。
「……ひみつだよって、ないしょだよって、だから、言わない」
 彼は俯いたまま、視線を上げない。
「お前さんは、俺たちから逃げようとしたなァ、そんなに怖かったかね?」
「……う、ん……こ、わかった……」
 逢真の言葉に、たどたどしく頷いた。
「あなたは、この先になにがあるか知っているのですか?」
 潮の静かな声音に、鹿糸が、「知ってるなら教えてね」と相槌を打つ。
「…………ひみつ」
「黙秘するっていうの、すごいわね……」
 亜莉沙は思わず感嘆の吐息を漏らす。
「おれには、蓮が、……誰かをかばってるようにしか聞こえない」
 嵐の言葉に、山里は口を噤んだ。
「この先、登っていけば、お前の気は済むんだな?」
 結城に問われた彼は、たっぷりと時間をかけて、やがて小さく頷いた。
「さて……どうしたものでしょうか」
 嘆息交じりの拓哉の言葉に、
「ここまで来たのだから、私はこの子に付き合います――」
 そのあとに言いかけた言葉を飲み込んで、ささら。
「――最初に、この山で気配を感じたのは、もっと山頂寄りだった。増えた足音ってな、きっと今しがたの、敵なんだろう」
 逢真の言に、山里はようやく視線を上げた。
 幼さがまだまだ色濃く残る、まるい頬は、雨に濡れて白くなっていた。

●山里蓮/秘密
 山里蓮は、自分がむちゃくちゃなことを言っていることは分かっていた。
 頭では分かっている。母が心配しているだろうことも、この人たちが心配してくれて、あの恐ろしいナニカから守ってくれたことも。
 それでも、行かなければならない。約束したから。母には帰ってから謝ろうと思っていた。この人たちには、誠心誠意礼を伝えようと思う。
 だから、行かせてほしい。
 この約束だけは違えたくないのだ。
 けれど、うまく説明することができない。ふたりだけの秘密だから、誰にも言ってはいけないと約束した。
(「どうしよう。どうすれば、この人たち、帰ってくれるんだろう――ぼく、この人たちを連れていっていいのかな」)
 是非を問いたいが、その答えをくれる者はここにはいない。
 でも――
 こんなオバケが出ることなんて聞いていなかった。こんな怖いところだとは思わなかった。でも、行かなければならない。行ってあげないといけない。
(「ぼくが、連れてきたんじゃなくて、勝手についてきたことにすればいいのかな」)
 一人でおいでとは言われたが、後をつけられてはダメだと言われていない。
 この先、今みたいなオバケが出ないとも限らない。
 あれは、本当に、怖かった。
 勝手に、ついてきてくれるなら、願ったり叶ったりだ。
 だから、だから。
 どうか、怒られませんように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『禍罪・擬結』

POW   :    藍
【悲痛な叫びと共に大量の水】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    愛
【血のように赤い糸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    哀
【悲哀に満ちた歌】を披露した指定の全対象に【戦意を喪失する程の寂しさや悲しみの】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。

イラスト:匙鱈栞

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は榛・琴莉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●神解け
 御神木が落雷によって引き裂かれ、事故により燃えてしまった。それから、祭りは中止となり、盆を迎えて、ぽつり、ぽつりと村を出ていく者が増え始めた。
 最初は、若者の転職や夢追いやら――若い夫婦も村外へと新居を構え、親を連れて引っ越していった。
 秋を過ぎ、冬を迎え、年を越し、厳寒を耐え抜くころ、村は閑散とし始める。
 徐々に、徐々に――御神木の欠片が風化していくように、村は活気を失っていく。賑やかで晴れやかな笑い声は、次第に消える。
 すでに村外にいる子のところへ越してゆく者もいた。あるいは、孫のために村を出る家もあった。村に残っていた最後の若夫婦も、生まれたばかりの赤子と、親と、その親を連れ、ひっそりといなくなった。
 燃え滓となった神は、もはや縁を紡ぐこともできない。繋がった縁を保つことも、綻んだ縁を結わえ直すこともできない。人は去り、心は消え、残るは廃墟ばかり。
 ほどけた神に、すがる者はいなくなった。
 燃え残った鳥居をいつものようにくぐって、なにもなくなってしまった境内を歩む。
「かなしいなあ、さみしいなあ、なあ、……」
 口をついて漏れ出るため息にのって、吐き出された呟きは、誰の耳にも届かない。
 見上げた青空には、御神木の豊かな枝はもうない。地を見れば朽ちた株がある。燃え滓を一欠片、株から毟り取って木箱に閉じ込めた。
「つらいなあ、さみしいなあ……」
 蓋にぽたぽたと雫が落ちる。雨粒のようにぽたりと落ちて、木箱に吸い込まれていく。
「あいたいなあ、また、ここで、……さみしいなあ……」
 叶結びの結い紐で封をする。あいつが好きだった赤い紐で、しっかと封をした。

 ◇

 子どもの足に付き合って登った細路の先で、すうっと小さな光が飛んだ。見覚えのあるような光り方は、蛍を思わせる。
 ゆっくりと明滅しながら、ふらふらと、ふわふわ漂う。消えては増えて、増えては消えて――それは、夜闇が沈殿する村を、じわりとほのかに色づかせる。
 不気味で仕方がなかった。こうして雨が降っていなければ、あるいはもっと小雨であれば蛍が飛んでいても納得できたかもしれない。
 その僅かな光が齎した視界の中に映ったのは、古ぼけた小さな屋根。なにを祀っているのやら――人間の頭ほどの石に、叶結びで赤い紐が結わえられている。その御前には、夥しい量の線香の燃え滓が残ったままの香炉、そして、供物皿に生米がこんもりと盛られていた。
 誰かが今も世話しているのだ。
 奇怪な蛍は、村の中へ、村の奥へといざなうように漂う。
 奥へ、奥へ。
 彼は歩みゆく。その背を追っていたが、途中蛍が多く集まる廃屋があった。損傷が激しくて、辛うじて骨組みが残っているような家屋らしいものの、玄関先だ。何気なくそちらに足を向けて、絶句した。
 成人男性が不自然な体勢で横たわっていた――顔は見えない。ただただ地に寝転がり、じっと雨をその身に受け続ける。生気は、感じなかった。
 少年の歩みは止まらない。
 蛍が群がる玄関先は、その家以外にもあった――確認する気は起きなかった。
 取り壊されることすら拒まれた家屋は、帰ってこない家主を待つ。誰を守るでなく雨に耐えている。
 静かに歩く彼の頬に蛍が当たったが、不自然に霧散。彼のまだ丸い頬が、どろりと赤黒く汚れた。
 得体の知れない蛍に、とくに関心をみせない彼にも、薄ら寒いものを感じた。
 一体、誰と、どんな約束をしたというのか。
 今すぐ彼を担いで下山すべきなのだろうが、彼の無垢で頑固な思いはまっすぐだった。まるで自分の庭のように淀みなく歩いていく彼が、朽ちた鳥居をくぐる――そのとき、稲光が夜を裂いた。

「じいちゃん!」

 変声期特有の掠れた不安定な声で山里は叫んだ。弾かれたように駆け出す。
 蛍の数は先刻よりも比べ物にならないくらいに多い。
 狭くも薄明るい中、照らし出された人影へと一気に近寄る。力なく倒れ、雨に打たれ続けるその細い背に縋りつく少年は、
「じいちゃん、遅くなってごめんなさい、じいちゃん、ごめんなさい」
「れん、あやまること、ないよ……」
 ゆっくりと小さな声で紡がれていく声は、ともすれば雨音で掻き消されてしまいそうだ。
 山里は老人に抱き着いて、彼の細い体を雨から守ろうとする。
「ぼくが、おそくなったから、ごめ、ごめんなさ……」
「はあ、……さむいなあ――」
 山里の背を撫でていた彼の手がどさっと落ちた。指先はぴくりとも動かない。

「――かみとけに」

 刹那、ぞっとするほど冷酷な女声が響く。

「もえし、えにしの、とこしえの――」

 末村の家で見つけた歌を口遊む声は、雨夜の闇を纏い、なにかを引き摺るような音と共に現れる。

「――はなれておつる」

 白装束の女は山里の眼前に立つ。
 弾かれるように飛び出した猟兵。
 各々の得物を手に、己の力を発揮せんと身構え――山里の命を護らんと動く。

「こいし、あか、かな――」

 白布の奥から紡がれる、末村の悲痛と恋慕の歌が終わるとき、女のアイが溢れだす。




お待たせしました。
『禍罪・擬結』とのボス戦となります。
倒れている老人と山里少年が戦場にいます。
小さくて不気味な蛍が無数に飛んでますので、ある程度の視界は確保できます。時折、稲光が走ります。
雨はいっそう強くなってます。足元は雨で大変滑りやすくなっています。

プレイングは、【7/30(木)8:31~】受付を開始いたします。
みなさまのプレイングを心待ちにしております。どうぞよろしくお願いします。
八尾師・ささら
うっそりとした笑みを浮かべ、山里少年の頬の汚れを白いレースのついたハンカチで拭う。
ねえ、あなたは何を知っていて、何を隠しているのかしら?
人間てとても愉快だこと。
問い質したい気持ちはあれど、まずはこの大量の水と五月蠅い声をどうにかしないといけないわね。
伏し目がちだった目は眩い琥珀色を放ち、背には2対4枚の蜂の羽根が生え、性格はやや攻撃的になるそれは真の姿。
羽音をたて飛び上がり邪神の尾鰭をエナメルのつま先で踏み抜き、蠱惑的な微笑みを向け言い放つ。

あなたさっきから耳障りなの。
その口かがって差し上げますから
赤い糸をよこしなさいな。

◎アレンジ歓迎




 擬結と少年の間に滑り込んだのは、心許ない光すらも反射する白いレースの日傘。
 日は出ていないが、それでも彼女を雨粒から守るそれを、畳んだ。
 現れるのは、左目下の二連黒子が印象的な、八尾師・ささら(深窓の猛毒・f28355)のうっそりとした微笑み。
 ぞっとするほどに思考を読み取らせない、否、心を見透かすような不穏な昏い笑みを浮かべている。
 雨で流れかけているが、山里の頬には、先刻の不気味な赤黒い汚れが付着したままだった。まだ丸みの残る頬に、ささらは白いハンカチをそっと押し付けた。
「ねえ、あなたは何を知っていて、何を隠しているのかしら?」
 彼は舌が凍り付いたようで一言も発しなかった。心が追い付いていなのかもしれない。大雨の中、「約束したから」とここまで一人で登ってきて、その約束の人物はそこで横たわっているのだ。
 暗闇を溶かし込んだような狂気に追われた果てに現れた、白装束の異形がそこにいる。
 小学五年生の少年の心には、荷が勝ちすぎるだろう。
 ささらは笑みを深める。
「だんまりを決め込むの、そう……人間てとても愉快だこと」
「あ……」
 心の均衡が崩れた人間の愚かな行いも、なにもかもが愉快でならない。
 黙りこくる山里を問い質したい気持ちはあれど、ささらは汚れたハンカチを見る――血のように赤い汚れに、眉を顰めた。
 丁寧に畳んでポケットへ片付ける――この雨を受け続けて体はしっかりと冷えた。夜目も利かない。それでも、このふたりに手出しをすることは許せない。
 人間の愚かしくも愉快な一面を覗けなくなるではないか。
 ささらはゆっくりと、優雅に立ち上がる。
 髪と同じ色の睫毛が縁取る瞳は、いよいよ正面から擬結を映し出す。眩い琥珀色の輝きは、意志の現れか。
 ささらの背に、二対四枚の羽が生える――翅脈は不気味な光を吸って、低く唸り響く羽音。
 愉悦が滲む口元は、獰猛に彩られる。
 問い質したいことはたくさんあれど、それも現状このままでは、ゆっくり話をすることもままならない。
 雨の雫を弾き飛ばすほどに背の羽が激しく震える。不安を煽り立てるような低い羽音を立てて飛び上がった。
「――……雨は嫌い」
「あいたい、ああ、こいしい、おまえに――もういちど、あえるなら――このみをとして、しゅらを」
 耳障りな悲痛な叫びをあげる擬結を睨め、ささらは鉄砲水のような大量の水塊を空中へと逃れて回避――直後、急降下。
 擬結の尾鰭を踏みつける。エナメルの爪先は尾鰭を地に縫い留め、一時的に擬結の自由を奪った。
「あなた、さっきから耳障りなの」
 紡ぐ言葉とは裏腹に、ささらの笑みは蠱惑的だった。
「あえたよろこび……つかのまに……あいたいあいたいあいたいあいたい」
 カミの結う言葉が呪詛か――踏み躙っていた爪先にぐっと力を入れて再び空へ跳ぶ。
 ずぶ濡れの総身を捻って、ささらは日傘を渾身の力で振り切り、擬結の横っ面を強かに打ち付ける。
 衝撃でよろめき、後ろへと傾いでいく擬結を、冷たく睥睨。
「その口、かがって差し上げますから、赤い糸をよこしなさいな」
 己の紡ぎ切れなかった赤い縁で、雁字搦めとなってしまえ。
 ささらは笑む。愛らしく、無邪気に――猛毒を滲ませて、琥珀色の瞳はとろりと光った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

護堂・結城
骸の海から戻るほどに焦がれようと、人の命を奪う外道なら…殺すべし

【POW】

六花*改の光刃を天に伸ばし【天候操作】、戦場周辺だけ雨を止めるぞ
今回は人命優先だ
【野生の勘と暗視】で敵を捕捉しつつ【結界術】で少年達を庇い【拠点防御】

対藍
お供竜二匹の【大声】に【衝撃波】を載せ召喚された水の流れを強制的にそらしUCを発動
【限界突破した属性・範囲・ブレス攻撃】でブリザードを巻き起こし水を凍らせる

「歌え!吹雪、氷牙!!」
「凍り、砕けろ、此よりは我が氷結の獄」

接近してきたら【浄化・破魔】を込めた翼による【怪力のなぎ払いでカウンター】だ

「狐さんは殺す方が得意だが、防衛戦も嫌いじゃないぜ?」


陽向・理玖
何だか分かんねぇけど
とりあえず倒して二人とも連れて帰る
神だろうと…負けらんねぇ
覚悟決め

二人の位置常に注意
出来るだけ離れて戦う
守る人がいたら任せるが
危ない時は割り込み

再変身しUC起動
フェイントに残像纏いダッシュで距離詰めグラップル
拳で殴る

故郷がなくなる気持ち
多少分かる気はする
戦争の時は何か落ち着かねぇ気持ちだった
でも
押し付けも押しかけも迷惑なんだよ

叫びは受け止め耐え水はよく見て見切り
ジャンプで加速しさらに高く飛び
重力あるし多少は減速するだろ
避け切れぬ分はオーラ防御展開衝撃波も使って弾き
急降下し懐に飛び込み蹴り
暗殺と戦闘知識交え
弱い箇所探し攻撃
蹴りの乱れ撃ち

多分もう
あんたはいらない
だからもう還れよ




「さみしさが、わたくしのさみしさが、あなたさまに、わずかでも……さみしい、あいたい……」
 さめざめとすすり泣くような声音は、白布の奥から漏れてくる。
 恋しい。
 会いたい。
 逢いたい。
 もう一度、今一度、あいまみえるその日を――
「たとえそうだとしても、それを理由にしていいわけないだろう」
 護堂・結城(雪見九尾・f00944)の唇の隙間から放たれた低い声は、烈気に漲る。
 骸の海から甦り強く焦がれようとも、人の命を奪う道理はない。
「善悪もない外道なら……殺すべし」
 結城の赤緑の瞳は、偽りの縁を紡ごうとする解けたカミを映す。これが人の命を奪うのならば、捨て置けるはずがない。
 激しい憎悪は凍気を帯びて結城から発露する。抜刀。その刀身は銀を放って、氷の粒を撒き散らす。
 漆黒の鞘から抜き放たれた刃は輝き、天を穿った。分厚い雲へと突き刺さり――雨は、ひらひらと舞う雪へと変じる。
 雨音が遠くなった。境内だけ雨から雪へ――舞う六花は、風に流れていくほどに僅かだ。
 蛍が雪に触れる。真っ赤な花を咲かせてぼたりと落ちた。
「さむい……さむい、さみしい、さみしい、さむい――あいたい、あのひとに、あいたい……あいたい!」
「それは無理な相談だ」
「――――――っ!」
 喉が破れるほどの大音声――狂おしい程の恋慕は悲痛に裂かれ、カノジョの涙は凍ることなく滂沱と流れる。
 溢れる水は哀切の色をして、一切合切を塗り潰さんと迫る。
(「今は、人命優先だ……!」)
 雨から守ろうとして男に覆いかぶさる少年を背に庇い、
「吹雪! 氷牙!!」
 従竜の名を喚ぶ。白竜と黒竜は、擬結に負けず劣らずの大音声でもって空気を振動させる――その波は大きな衝撃を内包して、向かってくる水塊を割いた。
「俺の後ろにゃ手出しさせねぇ――此よりは我が領域!」
 空気がなお凍てつく。肌を刺すような冷気を伴って、結城を起点に風が吹き荒れる。降る小雪は舞い上げられて、巻き込まれた蛍は潰れて弾けとぶ。
「歌え、今こそ!」
 二頭の竜はあるじの言に従い、衝撃波を解き放つ。白装束がばたばたとはためいて、黒髪は掻き混ぜられる。
「全てを閉ざす氷結の獄だ――覚悟しろよ」
 新たな隙が生み出された瞬間、結城は鳳が如き氷装へと乗り込んだ。
 氷を操る術に長けた結城の頬に、不敵な笑みが刻まれる。
 凍てつく空気を掻き混ぜるよう背から生えた翼を羽ばたかせれば、擬結の放った水塊は、みるまに氷塊へと変わっていく。
「ああ、あああ、……かなしい、さみしい、どうか、ごしょうだから、あわせて、もういちど――もういちどだけ!」
「それは、一体、誰の言葉だ!」
 擬結の言葉なのか、神に縋った人々の声の残滓か――聞くも不快な懇願は、悲哀に満ちる。
 大波となって押し寄せる哀しくも藍い水を、強かに打ち据える!
「凍り、砕けろ!」
 容赦ない力で翼は空気を掻き混ぜた。その反動で巻き起こる氷嵐は激しくも、その冷酷な厳しさは穢れを浄化し魔を砕く。
 結城の背後には、一切手出しをさせない。まさに氷壁だった。
「狐さんは殺す方が得意だが、防衛戦も嫌いじゃないぜ?」

 ◇

「じいちゃん、じいちゃ……ごめん、ごめんなさ……」
 山里の悲痛な声が陽向・理玖(夏疾風・f22773)の鼓膜を否応なく振るわせて、青瞳を陰らせた。
 約束の時間に遅れたことを謝っているのだろうか――それとももっと他の何かに対して謝っているのだろうか。
(「……ダメだ、何だか分かんねぇ……けど、」)
 とにかくコレを斃すことは決めた。そうして、二人とも連れて帰る。なにがなんでもだ。
 結城の背に守られる二人を流し見て、敢然と理玖は心を決める。
「神だろうと……負けらんねぇ」
 強い雨は今は細雪――ちらつく雪と蛍の不釣り合いな幻想だが、これに心を奪われていられない。
 平時に観賞できれば、存分に楽しむことができたろうに。
「変身ッ!」
 たられば論を展開している余裕はない。
 《龍珠》の一つを弾いてドライバーにセットすれば、再び理玖は龍のオーラを纏い、七色に輝く。
 弾かれたように理玖は地を蹴る。
 一足のうちに擬結との距離を詰めて、《龍掌》を叩き込む!
 衝撃は腕を伝播し肩に刺さる。インパクトを利用して、素早く距離をとった。
「故郷がなくなる気持ちは、多少分かる気はする」
 寂しい寂しいと泣く白装束の女は、理玖の言葉を聞かない。
 縁が切れた。人恋しい。寂しい。逢いたい。逢いたい――様々な声がごちゃまぜになっているようで、その思いは一貫性があるようでない。
 恋慕と思慕と悔恨と寂寞に憐憫を繰り返す。
「俺だって、――戦争の時は何か落ち着かねぇ気持ちだった」
 思い返すは、辛かった戦いの日々。
 今ある安寧を脅かすことが、そこに住む者をどれほどの混沌に叩き落すか考えたことがあるか。
 末村は確かに故郷を失ったのだろう。きっと心の寄る辺としていたのは、この朽ちて株だけを残す御神木だったのだろう。亡くした妻と逢いたいと希ったのだろう。村の再建を願ったのかもしれない。
 かつての御神木の縁結びに惹かれた人々の思念が渦巻いているのだろう。
「でも、押し付けも押しかけも迷惑なんだよ」
 雑多な思いは、まがいもののカミの口をついて吐露される。
「なみだ、はてぬ、おもいなれど――ああ、いとおしい、おまえさまに、こよいも、あいとうござります」
 血を吐くような悲痛な声が、果てない涙を流させる。
 耳障りな声撃と、爆発的に流れ込んでくる水塊を見据える。理玖の青眼は鋭く尖った。
 その思いのすべてを受け止めてやることはできない。そうしてやる義理もない――聞き流して凄まじい水圧でもって、理玖を圧し潰そうとするそれから逃れるために地を蹴った。
 上昇する速度を上げ、高く高く跳び上がる。理玖のいたところへ水がうねり押し寄せる――それを眼下に見下ろして、その一部がしつこく理玖を追って弾丸のように射出された。
 しかし、それは理玖を傷つけることはない。
 眩く輝く龍のオーラが総身を護っているのだ、その悉くを弾き雫へと変じさせる――鋭い呼気と発破、練度を高めた覚悟が折り重なって、最高潮に達する――同時に急降下、ぐんと速度を上げて擬結の懐へと蹴撃を放つ。
 強烈な飛び込み蹴りに、擬結はもんどりうって倒れ込んだ。
 僅かな着地、すぐに体勢を整え青眼はカノジョの弱点を探し出さんと光る。
 理玖の中で積み重ねてきた歴戦の知識がぐるぐると駆け巡る――起き上がる瞬間、更に蹴撃を放つ。
 ぬかるんだ地に捕らわれないように、足裏にオーラを硬化させ踏ん張れば、カミはさめざめと涙を溢れさせる。
「あえぬくるしみを、きさんは、なんとす――あえぬじごくを、きさんは、」
「分かるわけないだろ、そんなもの」
 放たれた水の圧を耐え抜けば、それは、ゆらりと立ち上がっていた。泥に塗れた姿に成り果て、顔の前の白布には、蛍がぶち当たったのだろう、赤黒いシミが出来ていた。
「多分もう、あんたはいらない――だからもう還れよ」
 理玖の言下、疾駆。
 加速する蹴撃――腹を蹴り、後ろに倒れ込む前に背後へと走り込んで回し蹴り、瞬時の着地、もう一方の脚が、天より墜とされる。
 凄絶な蹴りの連撃に、ソレは成すすべなくて。
 縁を叫ぶカミは、地に堕ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
ああ、待ち合わせに間に合わなかったのかい? 残念だったなぁ。なァに、お前さんは悪くねえよ。そう落ちこみなさんな。
ちびすけと爺さんの前に立って水からかばおう。自分の前の空間を指先で切り開き、小路をつなぐ。出口は白装束の頭の上さ。こっちに飛んできた水はぜんぶ小路を通って彼女に注ぐ。
追撃だ。《鳥》の群れは空から襲え。《魚》の群れは水を渡って彼女を食らいつくせ。俺は《獣》を盾にしよう。ちびすけと爺さんは、俺よか上手に守る人がいりゃそっちに任すさ。
愛を弔う時間だ。俺に向けるくれぇなら自分をアイしな。


霑国・永一
うーん、いいね。夜闇に浮かぶ蛍、そこで奏でられる狂気混じりの恋の歌。敵ながら風情ってものを分かってるじゃあないか。
もうちょっとのんびり聴きたいのは山々なんだけど、君は歌いながら襲い掛かって来るし、残念ながら落ち着けなさそうだねぇ。

狂気の透化を発動。自身の姿が透明になった後、高速で移動しながら赤い糸を躱しつつ、敵の生命力を盗み続けていく。ダガーを振るうだけで、銃を撃つことで、指を向けることで。自身のあらゆる行動が生命力を盗む技と化す。

「いやぁ、苦しくても歌うんだねぇ。苦しみから解放されるには死ぬか、俺を殺すかだよ。視えないうえに速くなった俺に頑張って当てるのさぁ。命が盗み切られる前にねぇ」




 ともすれば土砂降りになりそうだった雨の勢いは、狐の力を加えられて――細雪へと姿を変えた。霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、それでも体に纏わりつく湿気と、服に吐息をひとつ。
 眼鏡が濡れて視界が悪い――暗いことを差し引いても実に不愉快だった。
 だが、彼は笑む。
 夜闇に浮かぶ蛍、その中で奏でられる狂気混じりの思慕と切望の恋の歌。
「うーん、いいね。敵ながら風情ってものを分かってるじゃあないか」
 たとえ、その蛍に触れたとたん赤黒く弾けて溶け消えていこうとも。狂気に身を焦がされて見境を失くしたカミの歌であろうとも。
 永一の金瞳は凶悪に細くなる。
「もうちょっとのんびり聞きたいのは山々なんだけど、君は歌いながら襲い掛かって来るし」
 擬結の白くほっそりとした指が永一に向けられる。
「えにし――えにしと、こう、あなた――いやますいとしき、あまい、あまい、あまい」
 爆発的に解き放たれた赤い糸は、誰の血の色か。
 糸は永一を捕らえんと追ってくる。
「残念ながら、落ち着いて聴いてあげれなさそうだねぇ」
 凶悪に冷酷に残忍に、永一の唇は弓なりに曲がる、戦いの高揚に心が蠢く。
 永一の中の戦闘狂が目覚める――それは四肢に漲って、糸の拘束を躱した。
「いとしいあなた――いずこに」
 擬結の知覚域から逸脱し、ぬかるんだ地を蹴り彼女の体に銀を一閃。
「視えないうえに速くなった俺に頑張って当てるのさぁ。命が盗み切られる前にねぇ」
 刃先が触れるだけで、刃を持たない手の指先を向けるだけで、擬結の生命力を盗み続ける。
「ああ、ああ、あなかなしや――おまえさまに、あえぬよのながいこと、おお、おおぉぉ…!」
 孤独を悲しむ叫びとともに、心の傷から涙が溢れる――それは、大波と化して永一を巻き込み、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)へと迫った。
「任せときなさい」
 赤瞳が不穏な光を宿す。
 逢真の指先が空間を切り裂いた――小路を拓く。一本道の行き着く先は擬結の頭上だ。空間を操り、捻じ曲げ繋げたのだ。
 先刻の雨の比ではない水量が擬結を圧し潰す。
 穢れのすべてを洗い流し押し流して――ふっと鋭い息、突きつけた銃口から弾丸が放たれる。その弾先が当たり、体を貫通していく瞬間にも擬結の生命力を奪い続けていく。永一が起こすあらゆる行動がカミの命を盗む技となって、悉く盗み続ける。
「いやぁ、苦しくても歌うんだねぇ。苦しみから解放されるには死ぬか、俺を殺すかだよ」
 擬結の声を刈り取る銃声を、ダガーの一閃を、睨めつける視線を、あらゆる行動を止めるほかないだろう。
「追撃だ――喰らいつけ、エサだ」
 逢真の眷属たちが現れる。
 《鳥》の群れはけたたましく鳴き声を上げて擬結の歌を掻き消して急降下――その骨のように細い身を襲い突く。
 小路を通って水塊と共に現れる《魚》の大群は小さくも鋭い歯を立てて痩身に食らいつく。
「愛を弔う時間だ。俺に向けるくれぇなら自分をアイしな」
 擬結と逢真の間に《獣》たちが立ちはだかる。主を護るよう牙を剥き、低く唸り、総毛を逆立たせる。
 迫りくる水の悉くは小路へと流れ込んでいって、擬結は己の水を浴び続けた。
 逢真はちらと背後の山里へと視線をやって、すぐに擬結を見る。眷属たちと永一が擬結を翻弄している。少しの時間ならば、話をしても大丈夫そうだ。
「そう落ち込みなさんな。待ち合わせに間に合わなかったのかい?」
 ぴくりとも動かない男性をずっと抱き締める少年の痛々しい姿に、逢真は小さなため息を漏らした。
「残念だったなぁ。なァに、お前さんは悪くねえよ」
 少なくとも、彼に落ち度があったわけではない。
 引き起こされた事件の根源を辿ればどこに行きつくのやら――人の業か、自然の摂理か、とびきり狂った埒外か。
「でも、じいちゃんが、じいちゃん、」
「今はそうやって守ってやんな。爺さんとお前さんは俺がかばってやろうな」
 逢真の言下、涙でぐしゃぐしゃになった山里の顔が上がる。ぼろぼろと大粒の涙が流れている。
 頷く。彼の刺さる視線を、瞼を閉じて遮って、睫毛を持ち上げる瞬間には、赤瞳は擬結を映していた。
 神もどきには、永一は見えていないのだろう。捕まえようと放たれる赤い糸は、まるで見当外れの空間を締め上げる。
「そろそろ、眠ってもいいころだろ」
 腹の底を揺るがす銃声が一発、轟いた。
「俺を殺せなくて残念だねぇ」
 声は聞こえるだろう。嘲笑を含ませて永一は吐き捨てた。
 細雪はだんだん雨の姿を取り戻す。肌に刺さるように打ち付けられる刺激が、戻ってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
コノ君(f03130)と

人に忘れられて、口惜しかったのかね
それとも、怨みに想った?

コノ君や少年の肉盾となりながら戦おう
自分への攻撃は敢えて受け止めてみせ
痛みは激痛耐性で堪えよう

あァ、押し寄せる水だけは
護符を盾状に展開することで防ごう
少年が波に拐われて仕舞ったら可哀想だ

僕にも縁を結ぶ神が居るよ
――さァ、縫
愛すべき母の貌をしたお前
血絲の縁を辿って、出ておいで

コノ君の技が為れば
縫には彼の援護をさせよう
光を纏う影縫の写しで、破魔の一撃を

自身が雷に打たれることで
村を、彼等が紡ぐ縁を護ったのだと
それでこそ縁結びの神の名に恥じぬ御技だと
そう想うべきだったのだよ
――お前も、其処のご老体も、ね


コノハ・ライゼ
ジンノ(f04783)と

縁ナンて。本来ヒトにどうこうしてもらうモンじゃナイでしょ

ところで、カミナリはお好き?それとも、


「牙彫」に月白の雷纏わせ【霹靂】発動
ジンノと縫ちゃん頼りに
敵の挙動*見切り一度敢えて外す事で地に晴天描く
力を得たら*2回攻撃で足元から降る雷をお見舞いしよう

悲しみは知らねど寂しさには覚えがある
ケド一瞬伏せた目も上げればその身を盾にする友を映すから
心震わしてるヒマなんか無いワケ

*傷口をえぐり*捕食、*生命力吸収で受けた傷を補ってくねぇ
少年らへの危害、不審な動きは止めるケド
基本は高めた力で攻撃に集中し早い収束を狙うわ


神を解くと言うンでしょ?
過去に堕ちたなら、確と受け止めなさいな




 身を刺すような雨粒。
 時折、雷電が閃いて、黒雲の影を濃くする。
 落ちる瞬間を今か今かと待ち侘びるように、天を打って轟き響く。
「そんなに穢れて――それで、よくも縁を繋ぎたいと吐けるものだね」
 神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は、泥に塗れてなお立ち、アイを叫ぶ女を睥睨する。
「人に忘れられて、口惜しかったのかね。それとも、怨みに想った?」
 どちらにせよ、同情の余地はない。
 両の手に広げた護符を展開、来る激流に備える。それ以外のものは、己が身一つで耐えてやると、決意を固めてきた。
 しかし、そこで震える少年が、こんな堕ちたカミの波に拐われてしまうのは、可哀想だろうに。
 常盤が時間を捻出する。
 そうすれば、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が活路を拓くだろう。
「縁ナンて。本来ヒトにどうこうしてもらうモンじゃナイでしょ」
 己で手繰り寄せるものだ。それを紡ぐも、結わえ直すも、断ち切るも――とどのつまり、自分で選択するものだろうて。
 紡ぎたいと思える縁は、繋ぐために動く。それを労せず手に入れようとするなんて、祈るだけで手に入るならば――なにも楽しくないではないか。
「悲しみは知らねえけど、寂しさは覚えあるわ」
 ふいな郷愁の念に一瞬だけ睫毛を落とす。しかし、次に薄氷の瞳が映すのは、気の置けない友の背。
 身を盾にコノハを守って、その彼の後ろにいる少年たちをも守る友がいる。
 寂しさは知っている。それに浸って悲観して、雁字搦めになって動けなくなって――そんな悲劇のヒロイン然としているいとまはない。
 コノハの白磁の面にはっきりと笑みが刻まれる。
 展開した護符の結界に弾き飛ばされ、蒸発し砕けていく水塊を、それを齎す擬結を睨み据えていたが、こちらの様子を窺うように赤茶の双眸がちらとこちらを振り返った。
「あァ――その笑みは、コワイねェ」
 くつくつと喉を震わせて、常盤が牙を見せて笑った。
「ジンノのその顔だって、十分ハクリョクまんてんだからね」
「おや、お褒めにあずかり光栄だ――いくらも酒がすすみそうだねェ」
「ふふ、そうね。帰ったら、酒、飲みたいわね」
 仲間との縁が繋がるバルの様子を思い、二人の笑みが少し、やわいものになった。
「あいとう、あいとう、いまいちど――あなかなしや、いな、いな、いな、もっとそばに、いてほしい」
 叫ばれる悲痛な思いは衝撃を伴って常盤を苛む。哀しい寂しいと歌う声は、傷つく躯に沁みて心を弱らせる。
「僕にも縁を結ぶ神が居るよ」
 耐え得る激痛の限度はすぐそこで――しかし、それは、絲をツナグときが来たということに他ならない。
「――さァ、縫。血絲の縁を辿って、出ておいで」
 常盤の愛すべき母の貌をした彼女は、その貌をいみじくも鴉面で覆い隠す。縫は常盤を見つめ、掌を翻した。そこに現れるのは、光を纏う《影縫》の写し。
「コノ君の一助におなり、縫」
 こくりと首肯。
 《影縫》は、さらりさらりと光を零す。それは、魔を砕く力の欠片――縫は、駆けだした。
「つむぐ、つなぐ、ゆう、まみえて、あえて、あなたといっしょ、……」
「ところで、カミナリはお好き? それとも、――」
 艶めく銀の輝きがいや増す。
 刀身のクロッカスが纏うのは、月白の雷だ。目映く雷花を咲かせて、縫を追うようにコノハも駆けた。
 縫の刺突――躱した先を見切って、コノハは【霹靂】を纏う《牙彫》を滑らせる。
 その一閃は、空を裂き、地を抉り取る。
 裂けた地から日が差す。泥は消え、そこには、真っ青の晴れ渡る空が現れ、薄く雲が流れる。それは、眩い光を湛えて、彩を弾いた。
 唐突に切り出された晴天は、陰鬱な心をも軽やかにする。目を細めて、常盤もその空を見る。
(「俄然元気になったねェ」)
 攻撃を一手に担い、疲弊し消耗した。
 立っているのもやっとのことだ――しかし、こんなところに倒れ込むのは、御免被る。
 大丈夫、まだ立っていられる。ああして、今は縫が、コノハが擬結の注意を引き続けているのだ。
「残さず受け取ってネ、心籠めた贈り物ナンだから」
 不敵に笑む。
 視界が晴れたことで、動きやすくなる。泥濘に足をとられるそのハプニングさえ、好機に変えて《牙彫》を振るう。雷刃は鋭くカミを斬り焼く。
「きえるおまえさまの、あえないきみの、いないあなたの、――こえをおもえば、たからもので、」
 紡がれる歌がコノハの心へと侵食しようとするほどに、雷刃は気高く奔る。
 奪われたココロを裂けた傷口から啜り返した。万が一、コレが、常盤や少年に危害を加えようとするならば、阻止する算段はたっている。
 縫の剣閃が擬結のバランスを崩したのは、その時だった。
「縫ちゃん、ナイス!」
 ふっと呼気、月白の雷は激しく光る。縫が跳び退ってコノハの道を拓く。魔を掃う力の残滓が煌く傷口をさらに広げんと刃を突き立てた。
 耳障りな絶叫が、白布の奥から迸った。
「神を解くと言うンでしょ? 過去に堕ちたなら、確と受け止めなさいな」
 カミトキに打たれ、よろりと揺らぐ白装束を睨めつける。
 尾鰭が、泥を削りながら、コノハから距離をとろうと這い去る。
「自身が雷に打たれることで、村を、彼等が紡ぐ縁を護ったのだと――それでこそ縁結びの神の名に恥じぬ御技だと。そう想うべきだったのだよ」
 縫によって繰られる《影縫》の、破魔の力が煌然と高まり、逃げを打ったその鰭を刺突。地に縫い留める。
 三度目。
 雷がその身を駆け抜ける。みたび斬りつけられた傷は大きく広がって、擬結の命を垂れ流す。
「――お前も、其処のご老体も、ね」
 降り続ける雨から、今にも落ちてきそうな雷から、横たわる老人を健気に守る少年を見遣り、常盤は吐息した。
 そうして、彼の眼は、友の背を追いかけ始める。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
成人男性は鈴本さんっすか
後で警察でも呼んで遺族にお返しするっす
山里さんと末村さんは大丈夫っすか

2人を護ること最優先
香神占いで未来を見続けるっす

走れるっすか
担いででも戦場から離す
2人を狙うならその場で守り抜くっす
2人が赤い糸に触れ暗殺されないよう逃がすっす
滑る地形を利用して
滑る動作でフェイントをかけ
速く逃げれるようにするっす
少々怪我しても命があればいいっす!

そんなに糸が欲しいならくれてやるっす
先端に苦無を結び付けた剛糸の片方を敵に
片方を天高く放り投げ落雷を狙う

俺はもう赤い糸を結んで貰ったっす!
2本目も結んだら絡まるっすご遠慮っす!

終わってからでいいっす
なんでここに来たのか
全部
話してくれないっすか


鏡島・嵐
雷が落ちて、神さまも――誰も居なくなった場所、か。
誰もが悪くねえのに、そんな哀しい結末になったんは……ただ、間が悪かっただけなんだろうな。
辛い、寂しい、またいつか――そういう気持ちも否定はしねえ。
だけど今は――怖ぇけど、二人を助けねえと……!

手遅れかもしれねえけど〈医術〉とユーベルコードで爺ちゃんの方を治療出来ねえか試みる。
仲間の回復も兼ねて、ユーベルコードは常時展開。向こうの歌を相殺できるかもしれねえしな。
爺ちゃんと蓮の二人に危害が及びそうなら〈オーラ防御〉で身体を張って庇う。
爺ちゃんへの治療はある程度のところで区切りをつけて途中からは〈援護射撃〉や〈目潰し〉で味方を支援。


氏神・鹿糸
潮(f13530)とね。

神さまかしら。悪霊かしら。
見る影も無くって、かわいそうね。
潮、疲れているようだけど歳かしら。雨足も強くて嫌ね。

移動は日傘で[空中浮遊]
UC解放後、風[属性攻撃]で追撃。水を凍らせるわ。
まずは遠方から攻撃を放って仲間の攻撃を支持。
敵の目くらまし程度には使えると良いわね。

潮が捕縛したら[電撃耐性]を持ってして接近。
縛霊手で相手を掴み、潮の攻撃を確実に当たるよう抑え込むわ。

霹靂の如く出現した、アナタ。
私はアナタと生きる世界も違うから。
アナタのような存在の考えていることなんて、これっぽちも分からないけど。
人間に危害を加えたら、それは悪者よ。


須磨・潮
鹿糸(f00815)と

追いついて、終わりとはいかないのでしょうけど。
必要最低限は体力も回復しました。
年代物の貴女に言われたくありませんが、気を抜かず行きましょう。

雨に、蛍のような光。
加えて炎の花びらとは、状況に不釣り合いなほど美しいものですね。
錫杖「既知の海」を武器に。
身体能力を補うためにUCを発動。
水の攻撃に対しては、鹿糸の追撃と合わせて風属性攻撃を放って凍らせます。
「逃げ水」をロープワークで活用し、相手を捕縛。
さらに鹿糸が押さえ込んだところ、至近距離で雷[全力魔法]を落とします。

……「神解け」が一緒に落ちましたが、大丈夫ですか。


波狼・拓哉
…方法は兎も角、縁を繋ぎなおしたのか
解けた神を再び呼ぶために
…それはなんと言うか虚しい気がしますけどね

ミミック!化け煌めきな!
その叫びは聴き飽きた
水も藍も感情も…全て巻き込んで、その縁を切り裂きましょう
解けただけならまた寄り戻る事もあるでしょうけど…このお話はここで終わりです、再びは起こさせません
後光量は戦場を軽く照らすくらいで
蛍がいるとはいえ見え辛いですからね

自分は地形の利用、第六感、足場習熟、環境・地形耐性で濡れた地面に適応
衝撃波込めた弾で戦闘知識、見切り、早業で動き辛くなるよう撃ち込んでサポートに
声が出せなくなるといいなと思って喉の部位破壊を狙いますが…どうでしょうかね

アドリブ絡み歓迎)


桜井・亜莉沙
※アドリブ・連携歓迎です

これは……いや、今は考えないでおこう。無事に町まで戻ったら調べるとしようか。
今はこの子も守らないといけないしね。

……今度は本当に死ぬかもしれないから、私たちの前に出てはいけないよ。
終わったら、キミに聞きたい事もあるんだ。

禍罪・擬結と2人の間に割って入って戦闘開始
呼び出した狼に【呪詛耐性】を与えて攻撃させるよ
可能であれば、私自身はウィザードミサイルで狼を援護しつつ攻撃
攻撃する時は一応建物は巻き込まないよう注意

……ねえ、末村さん。
この村の人たちを結びつけていた神様は……




 道中、仄かな光の中で雨に打たれていた姿を思い返し、香神乃・饗(東風・f00169)は苦い思いを噛み潰した。
(「さっきの、あの人は、鈴本さんっすか」)
 骨組みだけになった家屋の前に、投げ捨てられるように寝そべった影。
 彼の生家は、燃えてなくなったという。両親もそのときに亡くした――あれが、鈴本であるなら。
「ほかにも、あの蛍みたいなのが集まってたっすね……」
「ああ、そうだったね。あれは……いや、今は考えないでおこう。無事に町まで戻ったら調べるとしようか」
 相槌を打ったのは、桜井・亜莉沙(自称大魔術師・f26162)だった。
 すべてが終わったら、警察に通報しよう。オブリビオンが引き起こした埒外の事象さえなくなれば、彼らに任せてしまう他なくなる。
「山里さんと末村さんは大丈夫っすか」
 饗の言葉に、少年も老人も答えない。じっと雨に耐えて、子猫の鳴くような声で「じいちゃん、じいちゃん」と呼びかける。
 彼のまだ小さな手が、痩せた背を撫でるたびに、痛みがいや増した。
「山里さん、走れるっすか」
 はっきりと名を呼んで、彼を振り返れば、少年は泣き顔のままに首を横に振った。
 担いで彼らを境内から離してしまおうかと、逡巡――否。
「いとしいあなた、かたときも――いっしょにいて、いっしょに――ああ、きみと、ひとつになれたら、」
 しあわせなのに。
 ぞっとするほどの声がして、生気を感じない真っ白い手が少年を指さす。その指から二人を守るように饗が立ちはだかる。
 二人から視線を外した饗の黒瞳に睨み据えるは、白装束の解けたカミ――いくつもの傷を負い、それでもいまだ愛おしい人を呼び、再会を希い、邂逅に焦がれ、まだ見ぬ縁を切望する。
 指先から流れ出る血の如き赤い赤い糸は、五指すべてから伸びてくる。
「二人には、触れさせないっす」
 この子は守る――亜莉沙の気持ちも、なおさら固まった。
「今度は本当に死ぬかもしれないから、私たちの前に出てはいけないよ」
 亜莉沙も紫瞳を強く決然と輝かせて、山里に言い含めた。
「……方法は兎も角、縁を繋ぎなおしたのか。解けた神を再び呼ぶために」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の翠の眼が、滂沱と泣く少年を滑り、彼に守られ横たわる老体の背に刺さる。
「……それはなんと言うか虚しい気がしますけどね」
 刺さった視線を引き抜いて、今度は擬結へと翠の棘を突き立てる。
 虚しい気がする。
 もっと他になかったのか。
 縁を繋ぎ直したいがために、招いた結果がこれだ――こんなものに縋る必要が本当にあったのか。
「ミミック! 化け煌めきな!」
 口の中にある苦いものを、箱を喚んで誤魔化した。
「狩りの時間だよ、こっちにおいで」
 拓哉は煌くミミックを、亜莉沙は彼女に従順な狼の群れを呼び寄せた。
「良い子、狩っておいで」
 群れの一等大きな狼の頭を撫で、一声。彼らは泥濘も構わず駆け出した。
「さみしくて、さみしくて、こころがひえるの、あたためて、わたしをあたためて」
「その叫びは聴き飽きた!」
 悲哀に満ち満ちた歌を遮って、ミミックから輝く刃が放出された。
 いくらでも輝かせることのできる刃だが、それは、戦場を難なく認識できるほどの明るさで、擬結を照らし出す。びしょ濡れのカノジョの歌を遮るように斬撃が繰り返される。
 噛みついて自由を奪う狼、その隙をついて刺突。
「水も藍も感情も……」
 《バレッフ》に込められたのは、衝撃波を内包する銃弾。
 拓哉の力を練り込み織り込んだ弾丸の射出音は軽快で、リズミカルに擬結を捕捉する。
「全て巻き込んで、その縁を切り裂きましょう。解けただけならまた寄り戻る事もあるでしょうけど」
 横たわるそこな老人よ、聞こえているか――しかし、彼からは返事がない。もとより動くこともない。
 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が、持て得る知識を総動員させて、老人を診る――縁よりも、命よ繋がれと、嵐は大海の姫を喚ぶ。彼女の清廉な歌声が戦場に満ちる。哀しい調べの切ない恋歌が紡がれ始めた。
「なあ、おい、目を覚ませよ」
 嵐の声は、老人に届かない。なんとか気づけ、少しでいい、動け。彼の肩を押せば、ごろんと仰向けに転がった。閉じた目も、動かない唇も、拭われない顔を汚す泥も――見つけた写真に写っていた男性そのものだった。
 末村清一その人が、こんな騒然とする戦場にあって静かに静かに眠りについている。
 彼の体の下から出てきたものは、泥で汚れて雨を吸い込んだ、小さな木箱だった。赤い紐でしっかりと封をされている。
「じいちゃん……じいちゃん、ごめんなさい、ごめんなさ、」
 その箱を抱き締めて、山里は泣き続けた。
 嵐は奥歯を噛み締める。
 拓哉も眉間に皺を寄せ、亜莉沙の紫瞳が陰って、饗は黒瞳を揺らせた。
「桜井さん、山里さんを頼むっす」
「――わかったわ」
 頷いた亜莉沙が山里を抱き起こして、少し強引に歩かせる。
 饗は末村を担ぎ上げた。
 これ以上、彼になにをしてあげられるわけでもないが、せめて、せめて戦闘の巻き添えにならないように。
 強く無慈悲に降る雨の痛みを、少しでも和らげてくれる葉を茂らせる樹の下へと運び、そっと横たえた。
(「……ねえ、末村さん。この村の人たちを結びつけていた神様は……」)
 答えは二度と得られないと分かっていながらも、亜莉沙は訊かずにはいられなかった。だが、声にならない。そろりと息を吐いて、目を閉じる。もう一度深呼吸。
「キミもここにいて」
 泣き止まない山里の背を撫で、亜莉沙。
「終わったら、キミに聞きたいこともあるんだ」
 しゃくり声をあげる少年に背を向ける。この子を護るには、アレを止めなければならない。
「――大丈夫っす。山里さんが、謝ることはなんにもないっす。末村さんが寂しがるといけないっすから、そばにいてやってほしいっす」
 せめて、ふたりが、これ以上雨に濡れないように。
 饗の頬が引き締まった。

 ◇

 狼の群れは、擬結へと噛みつく。太く低い吼える声は擬結の歌を遮る――しかし、それもつかの間、カミの歌は滔々と紡がれる。
 逢いたくても逢えない。
 あのひとは、どこにもいない。
 もう二度と逢うことはできない。
 命を終えた愛しい人に、今一度、もう一度、一目で良いから、会いたくて逢いたくて。
 声が聴きたくて、話をしたくて。
 聞けば聞くほどに、悲しみが込み上げる。心を支配する。心が痛い。苦しい。辛い。
「はっ……」
 亜莉沙の心が締め付けられる。織り上げていた魔力が霧散する――途方もない苦しみと悲しみが、ふいに血の香りを思い起させる。心が冷えていく、不安が支配する。
 苦しいのは、亜莉沙なのか。それとも眼前の擬結なのか。
 ほどけていく縁を紡ぐこともできなくなった、己に対する悔恨か。無常にもほどけてしまったものを見つめるしかできない無力感か。
 喪失感に亜莉沙の息は浅くなる。編まれない魔力は雨に流され地に吸い込まれていった。
 主のにおいが変わったことを敏感に察した狼たちは、亜莉沙のもとに集まる――次なる指令がない――困惑を深めた。
「亜莉沙、しっかりしろ!」
 鮮烈な声は、混迷の戦場でもよく通った。
 大海の人魚の歌声が、ようよう亜莉沙の耳に届いた。
 振り返れば、そこには爛然と輝く琥珀色の双眸があった。いかな場合でも、山里と末村を身を呈して護れる位置に、敢然と立っている。
 嵐だ。
 彼のそばで美しい歌声を紡ぐ人魚の、とろりと甘やかな歌声が心を溶かしていく。
 悲しい恋の歌だ。
 しかし、擬結の紡ぐ悲しみに悔い怒り恨む絶望の歌ではない。
 【大海の姫の恋歌】――シレネッタ・アリアは、暗い暗い戦場に響き渡る。
 麗しの歌声が、擬結の悲しみを食い破り、阻害できる可能性を込めて、彼女に歌うことをやめないでと、嵐。
「俺も、戦うから! 止まるな!」
 本当は、怖い。戦いたくない。けど、逃げることはしたくない。逃げたことで後悔が生まれるなら、それは本懐ではない。
 怖い、逃げたい、怖い、逃げたくない、助けたい、助けたい。
 渦巻く心がぴたりと照準を合わせる。
「辛い、寂しい、またいつか――そういう気持ちも否定はしねえ……でも!」
 狙うは、擬結の頭――スリングショットに番えたのは、無限に落ちている足元の小石。嵐のオーラを纏って弾丸へと姿を変えたそれは、正確無比に擬結の頭を狙い撃つ。
 衝撃にそれは後ろへ傾いだ。
 その隙へ撃ち込まれたのは、二波の衝撃。
 万能にそつなく持ち主の要望を叶えてくれる《バレッフ》から、二連撃の衝撃波を放ったのだ。
 歌が厄介だ。その声音と、末村の過去と、この村がなくなった理由がいっぺんに紐づく――悲しみと後悔と、憐憫が一斉に押し寄せてくるのだ。
「ああ、潰してみますか……どうでしょうかね」
 彼の意を汲んだミミックの光刃が、さらなる隙を生み出す。
 狼の遠吠え――持ち直した亜莉沙が再び狼を喚んで、指示を下したのだろう。
(「まったく頼もしいねぇ!」)
 不敵に笑って拓哉。僅かにそちらに擬結の意識が向いた瞬間、ミミックの光が奔る。それを扇子でいなした擬結だったが、拓哉の頬に笑みが刻まれたままだった。
 軽快にトリガーを絞る。
 喉を引き裂かんと狙撃。果たしてそれは、広げられた扇に防がれた。
「……守りましたね」
 喉を狙う意味はありそうだ。防がれたが、それもまた収穫のひとつ。

 ◇

 黒雲に閃光が走った。
 天の唸り声は大きく響く。
 不安を掻き立てるような轟音と、閃光が一緒くたになって騒然となる。
 よろりと揺らめくように、擬結は鰭をずるりと引き摺り、泥と小石を踏んだ。
(「追いついて、終わりとはいかないのでしょうけど……」)
 実際、そういうわけにはいかなかった。山道に負けず劣らず厄介なことが起こっていた。
 須磨・潮(f13530)は、ほうっと一息。《既知の海》の柄を握り直した。
 ふたりの眼前には、白装束の女。顔は見えない。蛍の赤と泥と己の赤に汚れてはいるものの、その身はいまだに倒れることなく、器用に鰭で立つ。
「神さまかしら。悪霊かしら――どちらにしても、見る影も無くって、かわいそうね」
 氏神・鹿糸(四季の檻・f00815)は、飄然と評した。
 彼女の琥珀はそろりと隣に立つ潮を一瞥。
「潮、疲れているようだけど」
「必要最低限は体力も回復しました、大丈夫です」
「歳かしら?」
「年代物の貴女に言われたくありませんが」
 ふたりの間に流れる独特の時間は、一瞬だけ戦地にいることを忘れさせてくれた。
「雨足も強くて嫌ね」
 まるで弱まる気配を見せない雨は、容赦がない。
「気を抜かず行きましょう――そう、あなたにはそれがありましたね」
 ぱっと開いたのは、鹿糸のお気に入りのひとつ。枯れていく花を見続けたが、この花はいつまでも咲いてくれるのだ。
 雨も蛍も、擬結の涙も、地を走れば滑るかもしれない危機からも守ってくれる日傘を開いて、ふわりと浮いた。
「とおざかる――おまえさまのぬくもりを――、いな、いな、いな、ただただこいしい」
「大きなヒマワリを咲かせてあげる」
 鹿糸の言下、【火廻り】が咲き乱れた。鋭い刃を湛える黄色い花弁は、擬結を炎で包んでしまう。焼き切れ爛れ流れる血に当てられた熱は、更に燃え盛る。
 擬を結うカミは、悲痛な絶叫を上げる。恋慕に身を焦がす歌と共に放出されるカノジョの悲しみに染まる藍い水は、鹿糸と潮を飲み込まんと迫る。
 しかして、その水は二人を濡らさない。
 びょうびょうと吹く風があたりの熱を奪い始める。
「雨に、蛍のような光。加えて炎の花びらとは、状況に不釣り合いなほど美しいものですね」
 潮の落ち着き払った声音がした。艶めく黒は白く白く彩を変えて、もとより白かった肌はいっそう白く、透けるように白くなる。
 長い睫毛に縁取られる仄藍い双眸が、擬結を見つめる。果てぬ命を燃やして爆発的に力を底上げする――操る風はいよいよ熱を奪い取る。
 それに追い打ちをかけるように、鹿糸の繰る風も混じる。
 ぎしぎしと軋みながら、擬結の涙は凍り付く――積み重なる水は氷壁に触れれば触れるほどに凍り、堅牢に剛健に聳える。
 それは、饗の姿を隠す壁になる。
 泥濘に足をとられることを分かったうえで駆け込み、あえて足を滑らせ氷壁の影から唐突に姿を現し、苦無を投げた。
 梅花が彫り込まれたソレを見失わないよう――すぐさま擲てるように、剛糸が括り付けられている。擬結の肩に突き刺さる。
 饗には、ほんの少しだけの未来が、視えている。カノジョが山里に意識を向けることは、今はなさそうだ。
 畳みかけるならば、今。
 次に放つ苦無は躱されるようだ――ならば、その躱した先へ。思考を巡らせる。
 一投目――案の定躱されて、氷壁に刺さる。素早く剛糸を手繰り寄せながら、解き放たれた赤い糸を斬り裂いた。
「俺はもう赤い糸を結んで貰ったっす!」
 それも極上の縁だ。これ以上を望めばただの我が侭になってしまう。
 二本目はいらない。饗に結わえる場所は残っていない。
「二本も結んだら折角の糸が絡まるっす! 遠慮するっす!」
 その宣言に、ゆらゆらと、ふらりと。尾鰭が泥をずるりと擦る。
「えにしは、えにし、は……あぁ、……い、らな、――っ、」
 指先から血のように赤い糸が垂れる。擬結の五指のすべてから、際限なく糸は伸び続ける。
 その糸は収斂し始め、蛇のように蠢く――愛を欲して繋ぎ止めようとして、あるいは新たに結ぼうと足掻いて、饗へと向かって奔る。
「そんなに糸が欲しいならくれてやるっす」
 低い声音は厳然として、見続ける未来が示した糸の動きを打ち消すため、苦無を擲つ。剛糸が繋がる苦無は、擬結の愛を斬り裂いて、すでに傷まみれの身に突き刺さった。
 深く深く突き刺さって、饗はその瞬間を――未来を視た。
 剛糸の先にもう一本の苦無を括り付け、天高く投擲。瞬間、その苦無が一等高いところで雷を呼ぶ。
 強く稲妻が閃き、剛糸を伝播して凄まじいエネルギーでもって雷電が奔り抜け、擬結を焼き締めた。
 追い打ちをかけるように、ミミックから輝きが解き放たれる。強烈な雷光のあとのその光は、幾分も目に優しいが、それでもその刃に一切の容赦はなかった。
 カノジョの焼けた身を斬り下ろし、返す刀で斬り上げ、一方からはその心臓を突き刺さんと奔る。
 拓哉の力が織り上げる銃弾は、擬結の動きを縫い留める。
 潮は、《逃げ水》の銘を冠する使い慣れたワイヤーへと指を滑らせる。錫はそのままに潮の手から放たれたそれは、意志をもった蛇のように擬結へと巻き付いて絞め上げ、さらに自由を奪う。
 この時を待っていた。
 鹿糸は、日傘を手放して自由落下――荘厳な祭壇の縛霊手が、瞬時に擬結を掴んだ。
 強大な握力と破魔の力がいかんなく発揮されて、びくとも動かない枷となって抑え込む。
「霹靂の如く出現した、アナタ」
 背後から潮の駆けてくる音が聞こえた。
「私はアナタと生きる世界も違うから、アナタのような存在の考えていることなんて、これっぽっちも分からないけど」
 真白い影――真白い錫杖が、地を穿つ。
「人間に危害を加えたら、それは悪者よ。観念してね」
 シャンッ。
 玲瓏な金属音が、鹿糸の声も、人魚の恋歌も、邪神の哀歌も、狼の咆哮も、光刃の剣戟音をも遮った――バチバチと雷花が猛烈に咲く、明滅する閃光は膨大な力を内包して、それでも莫大すぎるがゆえにあたりに小さく稲妻を走らせ、徐々に、次第に、大きく、強く、激しく――
 閃光。
 爆音。
 激震。
 呼吸ができなくなる錯覚――肺を握り潰されたような、心臓を穿たれたような、脳天をぶち抜かれたような凄惨な衝撃が、一瞬遅れて総身を支配する。
 思わず瞼を閉じてしまった。薄い皮なんぞいとも簡単に貫く猛烈は光が、境内を照らした。
 ほぼ同時に、大地が震撼。
 耳を劈く爆音は一度、二度と轟く。
 潮の全力で練り上げられた雷撃が落ちた。
「……『神解け』が一緒に落ちましたが、大丈夫ですか」
「潮は、私を避けたでしょう――もちろん、大丈夫よ」
 もとより雷撃には少々の慣れがあるし、華鹿の加護で鹿糸に傷一つついていない。
 落雷したところには、白布の滓があるだけだった。
「雷が落ちて、神さまも――誰も居なくなった場所、か」
 悲しくも癒しを齎す歌を歌い続けた姫を労い見送った嵐は、その衝撃痕を見つめ、ぽつりと呟いた。
 誰もが悪くないのに、これほど哀しい結末になった。どこかで歯車がかみ合わずに歪んで、別の歯車が嵌められていれば――きっと、こんなことにはならなかったのかもしれない。
(「ただ、間が悪かっただけなんだろうな……」)
 考えても詮無いことだ。
 嵐は深く吐息して、山里のいる茂みへと歩を進めた。

 ◇

 明けきらない夜闇は、ぼやけた月の輝きに溶け始めて、じわりじわりと村が暴かれる。
「少し、話せる?」
 静かな亜莉沙の問いかけに、少年は首を振った。
「山里さん――なんでここに来たのか、全部、話してくれないっすか」
 その言葉にも拒絶の意を示した山里は、かちかちと歯を鳴らす。
 寒さに震えるその体を、自身で抱き締める。小さく蹲ってしまった彼へ、
「終わってからで、いいっす」
「蓮、」
 嵐は小さな背を撫で、彼の言葉を待つ。それでも少年は、カタカタと震えるだけだった。
 無理からぬことだ。
 嵐は、そっと寄り添う。
「(……も、――終わらないよ……)」 
 寒そうな吐息とともに発せられた音は、あまりに小さすぎで、誰の耳にも届かなかった。


 雨はあがっていた。風は強く、葉が湛える雫が雨のように降り注ぐ。いまさら濡れたところでなんとも思わない。
 雲がいよいよ切れた。
 まだ朝日が昇るには早いだろう。
 しかし、雲間の空の、東雲は目が溶けるほどに眩しく感じられた。
 胸に抱く木箱は、雨を吸って今は開かない。否、未だ赤紐の封印は解かれていない。これを解くことはできない。これは、彼が守ったものだから。彼の命だから。
 木箱を抱き締め、僅かに相槌を二度うって、泣き笑いのように山里は口元を歪めた。


 なあ、えみこ。
 おまえに、もうすぐ、あえるよ。
 さみしかったね。
 くらかったろう。
 もうすぐだよ、えみこ。
 いつぶりにあうだろうな、としがいもなく、きんちょうしてしまうね。
 また、おまえの、つけたきゅうりをたべたいんだ。
 ああ、みそしるも、たまごやきも、たべたいなあ。

 なあ……――――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月02日


挿絵イラスト