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それは涙で始まった(作者 土師三良
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●カクリヨファンタズムにて
 湖のほとりで人魚が泣いていた。
 息絶えた老猫を抱きしめて。
 老猫の体には生前の温もりがかろうじて残っていたが、そんなことは人魚にとってはなんの慰めにもならなかった。
 苦しむことなく、眠るようにして逝ったことも。
 目を閉じる前に優しい眼差しを向けてくれたことも。
「愚かよのう。哀れよのう」
 人魚の背後で声がした。
 声の主は、湖面の上でゆらゆらと揺らめく影。
「ヒトの真似をして畜生を可愛がり始めた時から判っていたであろうが。いずれ、死別に涙することになる、と……」
 影はゆっくりと人魚に近づいていく。
「その悲しみ、わらわが癒してやろう。否、忘れさせてやろう。忘れてしまえば、楽になる。もう二度と泣かずに済む」
「いやよ……忘れたくない」
 と、影のほうを振り返りもせずに人魚は呟いた。
 それが彼女にできた精一杯の抵抗。
 次の瞬間には、老猫の骸もろとも飲み込まれていた。
 影に。
 骸魂に。

 カクリヨファンタズム某所の空き家。
 近隣の妖怪たちはそこを猫屋敷と呼んでいた。
 何十匹もの猫が居着いているからだ。
 猫が集まる場所には自然と愛猫家も集まる。
 この猫屋敷にも猫好きの妖怪たちが毎日のように訪れていた。
 しかし……。
「あれれー?」
 と、猫屋敷の庭で声を発したのは一つ目小僧。ただでさえ丸い目を更に丸くして、四方を見回している。
「今日はやけに静かだね」
「うむ」
 西洋妖怪の狼男が頷いた。その手にあるのは、開栓したばかりの猫缶。いつもならば、蓋を開ける音がするやいなや(『ぷしゅっ!』の『ぷ』のあたりで)猫たちが飛んでくるのだが、今日は一匹も姿を現さない。
「みんな、どこに行っちゃったのかにゃ?」
 猫じゃらしを持ったネコマタの少女が首をかしげた。
 そして、その姿勢のまま、凍り付いた。
「……え?」
 突然、恐怖と混乱と喪失感に襲われたのだ。
 心にいくつもの穴が穿たれたかのような感覚。
 それらの穴から次々と疑問が湧き出してきた。
(「このナントカ屋敷に来た理由はなんだったかにゃ? なにかに会いに来たような気がするんだけど……ん? あたし、いつの間にかヘンな棒を持ってるにゃ。これ、なんにゃの? てゆーか、なんで言葉の端々に『にゃ』だの『にゃん』だのが入るかなー。わけ判んないし……あれ? そもそも、あたしはなんの妖怪だったっけ?」)
 ネコマタだけではなく、一つ目小僧や狼男や他の妖怪たちも同じような恐怖と混乱と喪失感に襲われていた。
 皆、忘れてしまったのだ。
 要領がいいくせに不器用で、大胆不敵なのに臆病で、孤高を気取りながらも甘えん坊で、目にも止まらぬ速さで高所に登ったかと思うと、自力で降りられなくなって情けない声で助けを求めたりする、あの愛すべき生き物たちのことを。

●グリモアベースにて
「カクリヨファンタズムの駄菓子ってさ。初めて食べたものでも、なんか懐かしい感じがするんだよな。ふっしぎー」
 伊達姿のケットシーが猟兵たちの前で梅ジャムせんべいをかじっていた。
 グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトである。
 JJはせんべいを食べ終えると、両手を叩いて食べかすを払い、本題に入った。
「さて、カクリヨファンタズムでカタストロフもかくやという大異変が起きた。なんと、『猫』という概念が消えちまったんだ。どうやら、飼い猫と死別した人魚に骸魂が取り憑き、強力なオブリビオンと化した挙句、そんな悪さをしでかしたらしい。いや、当人は悪さのつもりはないのかもしれないけど……」
 猫がさして好きでない者からすれば、この一件を『カタストロフもかくや』などと評するのは大袈裟であろう(逆に猫好きからすれば、カタストロフどころの騒ぎではないだろうが)。しかし、猫が好きか否かにかかわらず、放っておくわけにはいかない。猫の消失によって世界のバランスが崩れたためか、無数の骸魂が出現し、妖怪たちを次々と飲み込み始めたからだ。
「カクリヨファンタズムの一角に『猫屋敷』と呼ばれてる空き家があってな。俺の予知によると、そこの裏手の湖に問題の骸魂がいるらしい。そいつを倒して、取り込まれていた人魚を解放することができれば、世界は元通りになるはずだ。もっとも、ザコ系の骸魂が周辺にうようよいるから、そいつらを先に排除しなくちゃいけないだろうけどよ」
 JJが言うところの『ザコ系の骸魂』に取り込まれているのは、猫屋敷で猫たちと遊ぶのを日課としていた平和的な妖怪たちだ。ボス格の骸魂の場合と同様、骸魂を倒せば、彼らや彼女らは解放されるだろう。
「注意点が一つ。もう察しのいい奴は判ってるだろうけど……今回の任務地は猫が消えた世界なわけだから、おまえさんたちも猫という概念を忘れちまうんだ。俺みたいなケットシーとか、猫型の賢い動物や愉快な仲間とか、猫の要素のあるキマイラの場合、『猫に似ている』という自覚はなくなるし、他の連中から『猫に似ている』と思われることもないだろう。たぶん、丸っこい変種の犬か未知の動物だと認識されるんじゃないかなー」
『猫』の概念を忘れたところで、任務に大きな支障はない……が、猫好きな猟兵は辛くて切なくてもどかしい思いをするかもしれない。
 深く愛するなにかが世界から消えてしまったことが判っているにもかかわらず、その『なにか』のことを思い出せないのだから。
「話は以上だ。後は頼んだぜ。カクリヨファンタズムで猫の鳴き声がまた聞けるようになるかどうかは――」
 新たなせんべいを取り出し、梅ジャムを塗りたくりながら、JJは転送の準備を始めた。
「――おまえさんたちにかかってるんだ」


土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。
 本件は、『猫』という概念が消えたカクリヨファンタズムで骸魂たちと戦うシナリオです。

 第1章は集団戦。猫屋敷の庭や屋内で骸魂の群れ(飲み込まれているのは猫好きの妖怪たち)と戦ってください。

 第2章はボス戦。戦場となるのは屋敷の裏手の湖。敵は人魚を飲み込んだ骸魂であり、言葉や思い出や自己を忘れさせるユーベルコードを使います。

 第3章は日常編。この世界に戻ってきた猫たちと遊ぶことができます。プレイングで言及されれば、JJも顔を出すかもしれませんが、あんなのは放っておいて猫たちだけを相手にすることをお勧めします。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。

 ※章の冒頭にあるPOW/SPD/WIZのプレイングはあくまでも一例です。それ以外の行動が禁止というわけではありません、念のため。

 ※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
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第1章 集団戦 『鴉威し』

POW ●烏合
全身を【ぼんやりした銀色の光】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【負傷】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD ●三様
戦闘力が増加する【大弓を持つ狩人】、飛翔力が増加する【風車を大量に背負った姿】、驚かせ力が増加する【巨大な目玉】のいずれかに変身する。
WIZ ●追捕
攻撃が命中した対象に【黒い泥のようなマーキング】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【自動追尾するエネルギー弾】による追加攻撃を与え続ける。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 年季の入った平屋建ての廃屋。
 その縁側に面した広い庭に猟兵たちは転送された。
 赤い光点のごとき目を有したおぼろな影が周囲を飛び交っている。近隣の妖怪たちを飲み込んだ骸魂だろう。
 しかし、猟兵たちの意識は骸魂よりも他のものに向けられていた。
 庭に散乱している謎のアイテム群だ。
 鈴を内包した駕籠のボール、エノコログサ(俗称があったはずだが、思い出せない)のような形状の棒、側面のラベルに動物らしきもの(その部分だけが消失して、輪郭しか判別できない)の写真がある缶詰……いったい、これらはなんだろう?
 縁側の柱にある爪痕らしきものも気になる。
 それに無惨に破れた障子や襖も。
 風雨に晒されたせいで破れたわけでないことは一目で判った。
 何者かが破ったのだ。
 そう、たまらなく愛おしい何者かが……。


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●JJからのお知らせ

 グリモアベースで述べたとおり、おまえさんたちは『猫』の概念を忘れちまってる(『猫』に対する好悪の感情までは消えてないけどな)。ケットシーのような猫系の種族だけじゃなくて、猫のペットや使い魔やぬいぐるみなんかも猫以外の動物として認識されるぞ。アイテムとかに描いてある猫のイラストも同様だ。
 あと、『猫』という字を含んだ単語や慣用句や諺も変わってるかも。たとえば、『猫をかぶる』は『豆柴をかぶる』、『猫目石』は『針目石』、『猫の額』は『鼠の足の裏』、『猫に小判』は『デッドマンにAED』とかー。
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