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天明の魂魄祭

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●光の祭
 淡く光る竹に囲まれた夜の広場。
 今夜、其処を照らすのは行灯めいた明かりを燈す竹と月光だけ。
 幽世らしい幻想的な雰囲気に包まれた竹林では今晩、妖怪達のお祭りがひらかれる。
 時刻は真夜中。
 奏でられる笛と太鼓の音に合わせて、好き好きに踊るキョンシーや童子妖怪はとても楽しげだ。彼女、或いは彼ら妖怪の中には魂の天麩羅や油揚げ蕎麦、おにぎりや駄菓子の屋台を出しているものもいる。
 祭は一晩中続く。
 そして踊り疲れたものや、屋台で腹ごなしをしたもの、夜を満喫したものは思い思いに竹の元へ行く。其処で光る竹を割っていくのが、この『魂魄祭』の習わし。
 竹が光を放つ理由は、その中で力を蓄えていた霊魂がいるからだ。
 妖怪達は竹から霊魂や幽世蝶などをそっと解放してやり、これから共にカクリヨに住むものとしてやさしく迎え入れる。
 そんな祭の夜は、今晩も賑やかに過ぎていく――はずだった。

●天魂の夜
「でもね、世界は滅亡しちゃうの!」
 さも当たり前のことかのように、花嶌・禰々子(正義の導き手・f28231)は語る。
 グリモア猟兵であり妖怪のひとりでもある少女はふたつに結んだ髪の先を指先で弄りながら、幽世では日常茶飯事である事態について話していく。
「一反木綿の骸魂が飛んできて『暗い夜は嫌だなぁ』って思っちゃったみたいね。世界からは夜が消えて、光の弾幕が飛び交う閃光の世界に大変身! もう大変!」
 そんなわけで、と禰々子は猟兵達に事態の解決を願った。
 辺り一帯は夜を阻むような光に満ちている。
 それに加えて近くにいた妖怪達までもが、飛び交う骸魂によってオブリビオン化している。破茶滅茶な状況である上にこのままでは眩しくてかなわない。
「まずは骸魂に飲まれた童子くん達を倒してから、首魁のキョンシー木綿ちゃんをやっつけて! あの子達は丈夫だから君達が全力を出してもぜんぜん平気よ」
 それゆえに思いきり戦って欲しい。
 そう告げた禰々子は、首魁を倒せば閃光の世界が元に戻ると話した。戦いが無事に終わった後は魂魄祭を楽しむだけ。
 広場には妖怪達が奏でる祭囃子が響く。
 妖怪と踊ったり、のんびり眺めたり、自由に夜の祭りを楽しんで行けばいい。
「お祭り屋台は天ぷらがおすすめよ。テンプラ! あとお蕎麦ね!」
 じゅわっと揚げた美味しいサカナやエビの魂天が絶品だと語る禰々子は、手で何かを掴む仕草をした。どうやら妖怪ゆえに躊躇なく素手で天ぷらを掴む派のようだ。
 おにぎりや駄菓子屋台も色んな種類がある。
「それから、良かったら光の竹の中で休んでいる霊魂を迎えてあげてくれないかな? もしお互いの波長が合ったら君達の相棒になってくれるかもしれないわ。あたしの傍にいる悪霊くんと蝶子ちゃんも、実はこういうお祭りで出会ったの」
 禰々子は自分の後ろに浮かんでいる霊魂達を示す。
 可愛いでしょ、と微笑んだ禰々子は得意気だ。その際に腰に飾られている正義の星飾りがきらりと光った。
「それじゃあ君達、よろしくね!」
 次はお祭り広場で逢おうね、と約束をして――禰々子は猟兵達を明るく見送った。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『カクリヨファンタズム』
 骸魂に囚われた妖怪を助けて、夜祭を楽しみましょう!

 一〜二章はさくさく進行・少数採用。多くても十名様以下の予定です。
 三章は比較的ゆっくり受け付け、採用は可能な限りを予定しています。一章分のみ、途中章からのご参加、ボスだけ撃破狙いなど、お好きなタイミングで自由にご参加ください。
 プレイングの受付期間や締切についてはマスターページに記載しております。お手数ですが、ご確認くださると幸いです。

●第一章
 集団戦『骸魂童子』
 子供の姿をした妖怪達が骸魂に飲み込まれたもの。
 夜はすっかり消え去り、世界と戦場には光の弾幕が舞っているので眩しさとの戦いでもあります。やっつければ骸魂と妖怪を引き離すことが出来ます。

●第二章
 ボス戦『キョンシー木綿』
 一反木綿の骸魂に飲み込まれた、東方妖怪の少女。
 キョンシーの耐久と一反木綿の速さを兼ね添えています。倒せば助けることが出来るので全力で戦ってください。妖怪は丈夫なので戦闘後にはピンピンしています。

●第三章
 日常『ライトアップステージ!』
 魂魄祭と呼ばれる、夜の広場でのお祭りをお楽しみください。
 天ぷらやお蕎麦、おにぎりや駄菓子の屋台があり、広場の中央では祭囃子が奏でられているので妖怪と一緒に踊ることが出来ます。

 また、周囲で光っている竹を割ったり触れたりすると、その中で力を蓄えていた幽世蝶や霊魂、使い魔、またはあやかしメダル等と出会えます。
 どんなものと出会うのかはご指定頂いても、お任せ頂いても大丈夫です。
 お任せの際はプレイング内に『✨』マークを記載してください。どんな霊魂や使い魔が来ても良いという場合におすすめです。
 シナリオ内で遊ぶだけに留めるのか、その後にアイテム化するかどうかはご自由にどうぞ!

 三章では禰々子(あるいは犬塚が登録しているPC)をお呼び頂ければご一緒します。一人参加だけど誰かと話したい、大勢で楽しみたいから誰かを呼びたい等お気軽にどうぞ。初対面でも気にせずお声がけください。
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第1章 集団戦 『骸魂童子』

POW   :    怪力
レベル×1tまでの対象の【尻尾や足】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    霊障
見えない【念動力】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
WIZ   :    鬼火
レベル×1個の【鬼火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

波紫・焔璃
あっはっは!何これすっごい眩しい!
っと、こんなこと言ってる場合じゃ無かった
さあて、初仕事行ってみよーう!

みんなで楽しいお祭りするんだから、骸魂とはさくっとお別れしてよね!
地面に鬼棍棒を打ち付けたり、コインを飛ばして範囲攻撃
近付いてくるなら鬼棍棒に破魔を込めてフルスイングしちゃうぞ!

ひゃー!
え?掴むのとか無しでしょ?
まってー!!……なぁんちゃって
童子からの攻撃は残像で誤魔化して躱すよ
あとは掴まれちゃったとこだけ煙に戻してスルッと逃げちゃおうかな

そろそろ終わりにしーましょ!
嘘つきは閻魔様の御前に行ってらっしゃーい!!
飛ばしたコインに光を反射させて視界を遮ったところで鬼棍棒をどーん



●光の波と焔の煙
 目映い光が辺りを飛び交い、暗かった世界が明るく照らされる。
 言葉にするだけならば光に満ちた風景は良いものに思えた。だが、これは天変地異の類であり、明るさにも限度というものがある。
 弾幕とも呼べるほどの軌跡が舞う中、波紫・焔璃(彩を羨む迷霧・f28226)は自分に向かってくる光を避けた。
「あっはっは! 何これすっごい眩しい!」
 笑うしかない状況とは、きっとこういったことを言うのだろう。
 次々と虚空から生み出されていく光の合間には、骸魂に囚われた童子妖怪達の姿が見えた。眩さに動じぬまま、ゆらりと揺らめく姿は一目で普通ではないと分かる。
「っと、こんなこと言ってる場合じゃ無かった」
 地を蹴った焔璃は数歩だけ後方に下がった。煙が風に揺らめくように、ひらりと身を翻した焔璃は童子に視線を移す。
「さあて、思いっきり行ってみよーう!」
 骸魂の影響を受けた童子達は皆一様に暗い顔をしていて表情は窺い知れない。焔璃は彼らに笑顔が戻るように、と願いながら鬼棍棒を振りあげた。
 童子達も祭りを楽しみにしていたから此処に訪れたはずだ。真夜中でこそ輝く舞台であるのに、大事な夜を消してしまうなど言語道断。
 光の弾幕と共に駆けてきた童子が腕を伸ばす。相手の振り袖が激しく揺れる様から動きを察知した焔璃は、棍棒を振り下ろし返した。
 その一撃には破魔の力が込められており、妖怪は一気に吹き飛ばされていった。
「みんなで楽しいお祭りするんだから、骸魂とはさくっとお別れしてよね!」
 焔璃は鬼棍棒を構え直す。
 掴まってしまえば叩きつけられるのが分かっていた。
 それゆえにこれ以上近付かせぬよう、焔璃は地面に鬼棍棒を打ち付ける。弾け飛んだ土が童子達の接近を阻んだことを確かめながら焔璃は次の一手に出た。
 空飛ぶ金貨を弾いて飛ばした焔璃は周囲の童子達を穿っていく。
 しかし童子達も骸魂を削られながら、焔璃をどうにかしようと迫ってきた。疾く駆けて避けようとする焔璃だったが、別方向から回り込んできた一体に前を取られる。
「ひゃー!」
 がしっと腕を掴まれそうになった焔璃は思わず声をあげた。童子の力は強く、振り払うくらいでは離してくれそうにない。
「え? 掴むのとか無しでしょ? まってー!!」
 そんな風に慌ててみせた焔璃だが、すぐに彼女の姿は掻き消えた。
 その理由は――。
「……なぁんちゃって」
 掴んだと思わせたのは焔璃が残した残像。他にも腕を伸ばしてきた童子がいたが、煙に巻くかの如く攻撃を躱した彼女は一気に攻勢に出る。
 自分を狙ってきている数体を引きつけ、振り被った焔璃は明るく笑った。
「そろそろ終わりにしーましょ!」
 次の一撃で決める。
 焔璃は新たに飛ばしたコインを操って光の弾幕へと向かわせた。刹那、反射した光が童子達の目元を照らす。
 そして――フルスイングされた鬼棍棒が骸魂達をひといきに薙ぎ払った。
「嘘つきは閻魔様の御前に行ってらっしゃーい!!」
 童子から打ち出された骸魂が空に舞う。
 光を受けながら消えていく魂の行方を目で追い、焔璃は眩しそうに双眸を細めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷守・紗雪
あう、あうう、まぶしいです
明るい世界はユキも好きですが、まえに遠くから見た夜のお祭りは暗いなか光輝いて皆さま笑顔で楽しそうでした
ユキも夜のお祭りに行きたいです!
お祭りには甘いお菓子があると聞いたのです。あとテンプラという食べ物も気になるのです!

ぴゃ?!わあああ熱いのユキはダメです!
雪女に熱はご法度ですよ、いけないのですよ!

むむっと眉を吊り上げ着物の袖を翻し両手を上に
六華珠(竜珠)から光線を放ち牽制している間に飛翔する魔法剣を作る

ううう…
悪い子にはお仕置きして分からせてやりなさいと母様も仰ってました
だからユキも、悪い子にはお仕置きしちゃいます!

両手を童子に向かって振り下ろし魔法剣を飛ばしていく



●六花の光
 ぴかぴか。きらきら。
 光に満ちた世界は眩しくて、目を瞑っても白い軌跡が瞼の裏に残る。
「あう、あうう、まぶしいです」
 氷守・紗雪(ゆきんこ・f28154)は思わず、閉じた目を両掌で覆った。
 しかし、いつまでもこのままではいけない。がんばるのです、と意を決して瞼をあけた紗雪は瞳を凝らす。
「明るい世界はユキも好きですが、まえに遠くから見た夜のお祭りは暗いなかでも光輝いていて、皆さまも笑顔で楽しそうでした!」
 そんな楽しみがあると知っているからこそ、夜のない世界はいけないと思えた。
 飛び交う弾幕の中には骸魂に操られた妖怪童子がいる。あの子達もお祭りを楽しみにして来たのだと思うと、戦いへの思いも強まっていく。
 そのとき――ひゅう、と風が吹くような音と共に弾幕が迫ってきたので、紗雪は咄嗟に後方に下がった。
 あぶなかったです、と胸を撫で下ろした紗雪は身構える。
「ユキも夜のお祭りに行きたいです!」
 甘いお菓子に美味しい食べ物。それにテンプラも気になる。みんなでそれらを楽しめる世界に戻すのが今の自分の役目だ。
 だが、放たれたのは光の弾幕だけではない。
 紗雪に意識を向けた童子が片手を掲げた刹那、周囲に鬼火が浮かびあがった。
「ぴゃ?! わあああ熱いのユキはダメです!」
 雪女に熱はご法度。
 幾つもの炎が弾幕と一緒に近付いてきたものだからもう大変。紗雪は鬼火に当たらぬよう、竹林をぱたぱたと駆けていく。
「危ないのです! おいたはいけないのですよ!」
 振り向き様に、むむっと眉を吊り上げた彼女は着物の袖を翻した。
 そして、六華珠を包み込んだちいさな両掌を頭上にあげる。其処から生み出されたのは炎を貫く光の一閃。
 鬼火を牽制しながら舞う光。その間に紗雪は霊力を紡ぐ。
 すると光線の間に幾何学模様が浮かびあがった。その最中に舞い踊る魔法剣と光は鬼火を貫きながら、骸魂妖怪を穿っていく。
「わあ!?」
 童子から驚きの声があがったが、紗雪は手加減などしない。してはいけないと分かっているからだ。それでも少しの罪悪感はあるので複雑な気分にもなる。
「ううう……ごめんなさい。でも、悪い子にはお仕置きして分からせてやりなさいと母様も仰ってました。だからユキも――」
 宝珠に咲き誇る氷結の華が真白に輝いた。
 その瞬間、紗雪は両手を童子に向かって振り下ろす。
「悪い子にはお仕置きしちゃいます!」
 告げた言葉と同時に氷色の魔法剣が飛翔し、次々と骸魂に突き刺さった。淡い軌跡を残しながら刃は解けて消える。
 鬼火は消え、童子は膝を付いた。はっとした紗雪は其方に駆け寄っていく。
「わ、わわ。大丈夫でしたか?」
「うん……もう、平気」
 少し疲れたらしく、力なく答えた童子だったが、その口許には笑みが浮かんでいる。安堵した紗雪は合わせてふわふわと微笑む。
 重なった笑顔は光よりも目映くて、とてもやさしいものだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

揺・かくり
濁りを宿す金の双眸
彼方、此方にと視線のみを運ぶ
夜闇に慣れきったこの瞳
ああ、眩いものは苦手だね

けれども、それはまやかしさ
私は、屍人なのだから
この躯はそんなものを感じないだろう
……ほうら。何も感じなくなってきた

ゆうらり、ゆらり宙を漂う
儘ならぬこの身も、空中ならばこの通りさ
地を駆けられずとも構わない
浮遊したまま先へと往こう

君たちは、飲まれてしまっているのかい
それでは言葉も交わせないね
君たちを呪うのは気が滅入ってしまう

私には身に宿す呪詛しかない
見ての通り、躯を扱えないのさ
だから、力を貸しておくれよ
黒の指輪をそっと撫ぜる

呼び出した死霊たちに委ねよう
私は此処で力を与え続けるよ
ああ、あまりやり過ぎないように



●幽明に搖れる
 光に満ちた光景は目映く、瞼を閉じてしまいそうなほど。
 されど揺・かくり(うつり・f28103)は眼を閉じることはなく、濁りを宿した金の双眸に夜のない世界を映し込んだ。
 彼方、此方へ。視線だけを運び、眩い世界を確かめる。
 この瞳は疾うに夜闇に慣れきっている。それゆえに光ばかりの情景は妙な居心地の悪さを感じてしまう。
「ああ、眩いものは苦手だね」
 思わずぽつりと呟いたかくりは緩やかに、ごく僅かに頭を振った。
 光が眩しいと感じる心。それがまやかしであることを彼女は識っている。
 何故なら。
 ――私は、屍人なのだから。
 胸中で独り言ちたかくりは再び、視線だけを戦場に巡らせる。
 光る竹林は何処が輝いているのか分からぬほど、弾幕めいた光球に覆われていた。ちかちかと光が瞬き続けている。
 この躯はそんなもの、即ち、戸惑いや躊躇などを覚えない。
「……ほうら。何も感じなくなってきた」
 自分に言い聞かせて告げるように、かくりは言の葉を紡いだ。そうして、ゆうらり、ゆらりと宙を漂っていく。
 儘ならぬ身も空中ならばこの通り。
 地を駆けられずともこのままで構わない。浮遊したかくりは一体の童子を見つけ、其方へ進んでゆく。骸魂に囚われた童子妖怪の元へかくりが近付けば、身構えた相手が鬼火を生み出していった。
「来ルな。クルな……!」
 たどたどしい声をあげた童子は明らかに骸魂に操られ、囚われている。
 かくりはそれを理解しつつも敢えて声を掛けてみた。
「君たちは、飲まれてしまっているのかい」
「うあ、ア――」
「それでは言葉も交わせないね。君たちを呪うのは気が滅入ってしまうな」
 意志までも奪われているらしい童子は意味のない言葉を返す。軽く肩を竦める仕草をしたかくりは、どうしたものかと考えた。
 その間にふわりと身を反らし、周囲に舞う光の弾幕を躱す。
 それと同時に迫ってきた童子の鬼火をいなし、かくりは右手で左指の指輪に添えた。毒をひそめた爪が環に触れぬよう、そっと。
 己には身に宿す呪詛しかない。虚空に語りかけるように、見ての通りに躯を扱えないのさ、と口にしたかくりは其処に霊力を注ぐ。
 だから、力を貸しておくれよ。
 指先で黒の指輪を撫ぜれば、其処から煙めいた靄が現れいずる。
 瞬く間に形を成した死霊達はかくりの前に布陣し、骸魂童子に鋭い眼差しを向けた。
 後方に下がったかくりは浮遊したまま、かれらに後を託す。指輪に込める霊力は緩めぬまま、かくりは戦いの行方を見つめた。
 光の弾幕や鬼火が迫って来ようとも死霊もかくりも動じず、骸魂を穿ってゆく。
 蛇竜が牙を剥き、騎士は刃を振り下ろす。
「ああ、あまりやり過ぎないように」
 かくりが静かに告げれば、かれらは言葉に応じた。童子ごと傷つけぬように骸魂を斬り裂き、噛みついていき――そして、暫し後。
 骸魂は妖怪から離れ、操られていた童子がその場に倒れた。
 童子はただ気を失っているだけだと察したかくりは死霊達を傍に呼び寄せる。
 これで後は首魁のみ。
 未だ光が舞い続ける世界を金の眸に映し、かくりは一度だけ瞬いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
夜が無いのは困るよな
月見酒が出来ないじゃないか
わらべを叩くのは気が引けるが、これが救済になるのならアタシはやるよ

一本下駄を鳴らし、身の丈ほどの斧を引き摺りながら遊んでやろう
オマエも力持ちなのか?
アタシもだよ。鬼だから。
見目はオマエより幼く見えようが、アタシは鬼だから。
だから遊ぼうか

鬼ごっこにでも興じようか
捕まったら負けだ
そら、逃げろ
捕まえてやろう
逃げろや逃げろ、遊べや遊べ
ほら、捕まえた

アドリブ歓迎



●鬼追い遊戯
 時刻はもうすぐ真夜中が訪れるという頃合い。
 それだというのに、世界は眩い光に包まれている。竹林の周囲に浮びあがる光球は、まるでひとつずつが太陽であるかのように周囲を照らしていた。
「夜が無いのは困るよな」
 疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)は肩を竦め、光が飛び交う光景を見渡す。
 月見酒が出来ないじゃないか、と口にした萃請は宵鬼酒が入った大きな瓢箪を軽く撫でた。見据える先には骸魂に囚われた童子妖怪が居る。
 うう、と苦しげな声をあげているかれらは操られているようだ。
「わらべを叩くのは気が引けるが、これが救済になるのならアタシはやるよ」
 戦うことこそが救い。
 それゆえに遠慮はしないと決めた萃請は身の丈ほどの斧を引き摺り、一本下駄を高らかに鳴らす。
 甲高い音が響いた刹那、萃請は一瞬で童子との距離を詰めた。身体はちいさくともその動きは力強く、気迫を感じさせるものだ。
「倒れるまで遊んでやろう」
 振り下ろした斧で一閃しようとするも妖怪は既の所で避ける。しかし萃請にとってはそれでも構わない。勢いは止めず、萃請は地面に刃を叩きつけた。
 その衝撃によって土と石が周囲に散らばり、骸魂童子を穿っていく。
 対する童子は体勢を立て直し、近くにあった岩を持ちあげて対抗しようとしていた。
「オマエも力持ちなのか?」
「あ、ああ……!」
 問いかけても意味のある答えは返ってこなかった。即座に相手との距離を取った萃請は薄く笑む。元気なことは良いことだと示すような視線を向け、彼女は頷いた。
「アタシもだよ。鬼だから」
 双眸を細めてみせた萃請の外見は童子妖怪達よりも幼く見える。
 されどこの世に存在している年月は見た目に比例しない。アタシは鬼だから、ともう一度だけ言葉にした萃請は斧を振り回す。
 だから遊ぼう。
 もっと遊んで、魂が疲れ果てるまで続けよう。
 童子から投げつけられた大岩を刃で砕いた萃請は駆けていく。その勢いに気圧されたのか、妖怪は後退った。
 丁度良いと感じた萃請は童子に提案めいた言葉を向ける。
「鬼ごっこにでも興じようか」
 決まり事は簡単。捕まったら負け。刃が触れたらおしまい。
 そら、逃げろ。やれ、駆けろ。
 鬼の遊戯は止まらない。ひとときでも足を止めたら捕まえてやろう。
 逃げろや逃げろ、遊べや遊べ。
 そうしたら、ほら――。
「捕まえた」
 萃請の声が光の中に軽く響いたと思った瞬間、斧刃が鋭く振り下ろされる。
 そして、童子から骸魂が離れると同時に鬼ごっこは終わりを迎えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
嗚呼。眩しい。
とても眩しいのだよ。

この光はどうするべきだろうね?
生憎、私は妖のように闇を生み出す事は出来ない。
ここはやはりふわもこの出番だろうね。

君たちの季節は過ぎ去ってしまったが
夏も頑張れるかい?
毛糸玉な身では少々暑いだろうか。
さて、針と糸を渡そう。
誰か一匹、私の頭上に来てくれるかい?

嗚呼。光を遮るために毛糸玉で影を作ってほしいのだよ。
できるかい?
……服の中には入らないでくれ。
私も、暑い。

さあ、準備が出来た者から行こう。
光はとても心地良いが、多すぎると眩しい。
程々にしてもらわないといけないね。

数多の敵は纏めて倒してしまおう。
私の元に連れてきてくれるかい?
なぎ払おう
ふわもこたちも気をつけてくれ



●光糸の導き
 太陽にも似た、それでいて明らかに違う光が世界に満ちている。
 光の弾幕が竹林の広場を飛び交う様は眼に痛いほどだ。
「嗚呼。眩しい」
 片手を庇のように目元に添え、榎本・英(人である・f22898)は感じたままの思いを言葉にする。この光はどうするべきだろうか。肩を竦めながら、ぶつかりそうになった光を避けた英は双眸を細めた。笑ったのではなくこの眩さを少しでも緩める為だ。
「とても眩しいのだよ」
 見遣った先には骸魂に操られた童子妖怪がいる。
 向こうが此方を見つければすぐに激しい戦いになるだろう。英は竹の影に隠れ、身構えながら対抗策を考える。生憎、自分は妖のように闇を生み出すことは出来ない。それならば、と思い至ったのは愉快な仲間達のこと。
「ここはやはりふわもこの出番だろうね」
 おいで、と英が呼べば周囲にふわふわした毛糸じみた仲間達が現れた。どうしたの、問うように英を見遣ったかれらはやる気いっぱいだ。
「君たちの季節は過ぎ去ってしまったが、夏も頑張れるかい?」
 すると、もちろん、というようにかれらがぴょこんと跳ねた。嗚呼、と頷いた英はふわもこ達に針と糸を渡す。毛糸玉めいた身では少々暑い季節だが、そんなことなど関係なしにかれらは童子妖怪を見据えている。
「誰か一匹、私の頭上に来てくれるかい?」
 英の声に応じた一匹がひょこりと頭に乗る。光を遮るために毛糸玉で影を作って欲しいのだと告げれば、見る間に大きな糸の玉が紡がれていった。
 光があれば影が出来るのは必然。
 こうすれば目元を覆わずとも眩しさから逃れることも出来る。役目を終えたふわもこは英の胸元から服に潜ろうとした。
「……服の中には入らないでくれ。私も、暑い」
 がーん。
 そんな効果音が聞こえそうなほどに小さな眼を見開いたふわもこ。
 しかし、主が暑いというのだから我慢する、という雰囲気でぎゅっと目を瞑った。
「後で、終わったらおいで」
 見かねた英がそっと付け加えると毛糸玉はぴょんぴょこと飛び跳ねる。そんなこんなで戦いへの備えは完了。
「さあ、準備が出来た者から行こう」
 英は呼びかけと同時に竹の影から姿を現す。それによって童子妖怪が彼らの気配に気が付いた。骸魂の導くままに襲いかかってきた童子達をしかと見つめ、英は仲間達に願う。
「私の元に連れてきてくれるかい?」
 その声に応えるようにふわふわした子達がわあっと敵に飛びかかっていった。
 光はとても心地良いが多すぎると眩しい。飛び回る弾幕にも気を払いながら、英はふわもこが引きつけてきた童子へと糸切り鋏を振るった。
「光も悪戯も、程々にしてもらわないといけないね」
 数多の敵や光が来ようとも全て纏めて倒してしまえばいい。ふわもこたちも気をつけてくれ、と気遣った英は刃を揮い、童子から骸魂を切り離すべく立ち回った。
 そして――。
 針と糸が舞い、鋏の一閃が骸魂を切り裂いた。
「嗚呼。魂が……」
 光の合間を縫って空に昇っていく。英は目を細めながら、童子を操っていた骸魂が天に消えていく様を見送った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
「うおっ、まぶしっ!」
何か言いましたか、オルキヌス?
「ううん、なんでも」
では、行きますよ

あの子らに取り憑いている骸魂を倒せば良いのですね
ただ、元はと言えば、骸魂もこの世界に辿りつけなかった妖怪の魂であると聞きます
それらの者も救えればいいのですが……残念ながら、私達はその術を持ちません

今生きている者を助ける
今の私達ができることに全力を尽くしましょう

既にかなりの妖怪が骸魂に取り憑かれてしまっているようです
ここは皆さんの力をお借りします

剣を代償にUCで近衛騎兵団を召喚
光を吸収するアリスランスを構え、突撃を行います!

それにしても、本当に眩しいですね。目がチカチカします
「聞こえてたんじゃないか」



●闇を払う光
 光が舞い飛び、眩い世界が広がっていく。
『うおっ、まぶしっ!』
「何か言いましたか、オルキヌス?」
 キャロル・キャロライン(アリスナイト・f27877)は傍らに浮かぶ光の球――守護霊獣を軽く見遣りながら問う。すると守護霊獣も何事もなかったかのように答えた。
『ううん、なんでも』
「では、行きますよ」
 頷きを返したキャロルは光の弾幕の向こう側を見据える。其処には明らかに操られているような動作をしている童子妖怪達がいた。
「あの子らに取り憑いている骸魂を倒せば良いのですね」
『そうらしいな』
 オルキヌスと状況を確かめあったキャロルは白銀の剣を強く握る。
 ゆらり、ゆらりと怪しい足取りで近付いてくる骸魂童子の表情は見えなかった。しかし、自分の意志で動いているわけではないことだけは分かる。
 骸魂を早く引き剥がさなければ。
 そう考えたキャロルだが、骸魂のことも気にかかっていた。元はといえば骸魂もこの世界に辿りつけなかった妖怪の魂。
 そう聞き及んでいるからこそ、かれらの魂も救いたいと思った。
 その思いを感じ取ったらしいオルキヌスは彼女の気持ちを代弁するかのように、ちいさく一言だけ呟く。
『難しいな』
「ええ……残念ながら、私達はその術を持ちません」
 されどキャロルは躊躇などはしなかった。
 今、生きている者の未来を切り拓く。それが此処にいる自分達の役目であり、やるべきことだと識っていた。
「今の私達ができることに全力を尽くしましょう」
 決意を言葉にしたキャロルは手にした剣を代償にして、近衛騎兵団を召喚していく。
 既にかなりの妖怪が骸魂に取り憑かれてしまっているゆえに数には数で勝負だ。
「皆さんの力をお借りします」
 お願いします、とキャロルが告げれば騎兵団が骸魂童子へと突撃していった。
 怪力を発揮した童子は近衛騎兵を掴み、振り回そうとしていた。しかし騎兵達もその動きを察知して避けながら立ち回っていく。
 その様子を確かめたキャロル自身はオルキヌスを伴い、光を吸収するアリスランスを構える。騎兵が引きつけた童子に狙いを定めたキャロルをはひといきに駆けた。
 ランスの切っ先が童子を捉えた、一瞬後。
「少し痛いですが、堪えてください」
 キャロルが振るった一閃が鋭い奇跡を描く。
 妖怪が貫かれると同時に、身体に纏わりついていた骸魂が打ち破られた。童子はその場に崩れ落ち、魂は離れて空に飛んでいく。
 この調子で行けば囚われた童子達を救い出すことが出来るだろう。ランスを構え直したキャロルは次なる標的に目を向けた。
 飛び交う光の弾幕にも注意を払い、キャロルは双眸を鋭く細める。
「それにしても、本当に眩しいですね。目がチカチカします」
『聞こえてたんじゃないか』
 オルキヌスとそんなやり取りを交わしながら、死人の姫は戦い続けてゆく。
 目の前の者を救い、助けるために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
一晩中寝ないでいられたら、と思うのは
大人も抱く願いですよねぇ

懐に忍ばせた古書をそっと一撫で
此れだけ明るければ
書に存分に耽ることができるだろうか
なんて
眠らずに遊びたいオトナの思惑は
胸の裡に留めるけれど

まるで「遊んで遊んで」と駆け寄ってくるかのような
いとけない骸魂童子達へ
双眸を細めて穏やかに微笑み
此方も「えぇ、遊びましょ」と告げるが如く差し出す掌

ゆっくり開いた指の間から零れるのは無数の花びら
紫陽花、鉄線、梔子、木槿――、
艶やかに煌く花嵐

様々な夏の彩りの幻想で童子達を包み
花色に染めあげたなら
骸魂達も楽しい気持ちで
憑りついた妖しさんから踊り出てくれるかしら

彼方の海までの澪が
どうか寂しくありませんように



●花は海への標
 真夜中を過ぎれば特別な時間。
 夜通し、夜もすがら、一晩中――寝ないでいられたら、と思うのは子供や大人など関係なく誰もが一度は抱く願いであるように思えた。
 都槻・綾(糸遊・f01786)は懐に忍ばせた古書をそっと一撫でしてから、本来は真夜中近くであるはずの空を見上げる。
 其処には暗さは一欠片もなく、飛び交う光の弾幕が煌々とあたりを照らしていた。
 此れだけ明るければ、書に存分に耽ることができるだろうか。
 そんなことを考えて頭を振る。
 眠らずに遊びたいオトナの思惑は胸の裡に留めて鎮め、綾は前方に視線を落とす。
 其処には骸魂に囚われた童子妖怪達が立っていた。
 どうやら向こうも綾に気が付いたようだ。
 光に照らされた表情は周囲の眩い移り変わりとは違い、よく窺い知れない。しかし、童子はまるで「遊んで遊んで」と言うように駆け寄ってくる。
「えぇ、遊びましょ」
 此方も、掌を差し出すだけに留める心算が声に出ていたらしい。いとけない骸魂童子達に答え、双眸を細めた綾は穏やかに微笑んだ。
 されど綾はただ手を伸べただけではない。
 ゆっくりと開いた掌の上、指先の間から無数の花びらが零れ落ちてゆく。
 その間に童子達が鬼火を飛ばし、綾を穿とうと狙ってきた。しかし綾は地を蹴り、花を散らしながら幾つも迫ってきた鬼火を避けた。
 紫陽花、鉄線、梔子、木槿――。
 様々な色彩と形を魅せながら、艶やかに煌く花の嵐が鬼火を包み込む。
 燃えなくてもいい。
 何も燃やし尽くさなくてもよい。
 そう告げるかの如く広がった花の煌めきは光の弾幕すら包み、威力を弱めていった。
 花が示すのは夏の彩り。
 数多の幻想で童子達の目を引きつけた綾は景色を花の色に染めていく。
 童子に纏わり付き、その身を操っている骸魂が謳う彩りによって引き剥がされていった。しかしそれは無理矢理にではなく、花にいざなわれているかのようだ。
 このまま全てを花の彩で満たしたら、骸魂達も楽しい気持ちでいられるだろうか。
「ねえ、憑りついた妖しさんから踊り出てくれるかしら」
 綾が問いかければ、ひとりの童子から骸魂が完全に離れた。眩い空に昇っていく骸魂はいつしか見えなくなり、消えてゆく。
 その魂が向かったのはきっと、光の彼方。そして、膝をついた童子は解放された。
 他の子達も救おうと決めた綾は、更に魂へと花をくべてゆく。
 花は散る。
 魂を骸の海へと導きながら、ふわり、ふわりと。
 そうして綾は静かに願う。
 
 ――彼方の海までの澪が、どうか寂しくありませんように。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
此処が噂の
面白ェモンばかりの筈なんだが、ちいとばかし眼が痛ェな…
暗すぎるのも難儀だが、コウとあっちゃあ情緒もねェや

然しこの眩しさは如何したもんか
マ、よくわからねェ時ァ此れヨ
柏手二つ、掌を上に
降って来たなァ…黒い眼鏡、火縄銃(みてえなの)、短刀の三つ
得物ァわかるがこねェに黒くて見えるのかね
偶に付けてる奴ァ見るがよ
…と思ったが此奴ァすげえ
色ぁわからねえが、この光ン中で丁度好く見えら

刀は使わねえから帯に差して、まァ近寄る奴が居たら抜くくれえだな
殴る方が早そうだが
鉄砲は眼鏡でちいと合わせ悪いが、狙いも上々
使い道のわかるモンで助かったゼ
何でこの二つかはわからねえし、眼鏡も此処以外で使い道ねェけど



●魔を断つ刃と炎の銃
「へェ、此処が噂の」
 現代世界と骸の海の狭間にあるという幽世の一角。
 光る竹林の広場を見遣り、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は眉間に皺を寄せる。本来ならば真夜中のはずの光景は今、目映い光に満ちていた。
 夜だ昼だなど関係ないほどの光量を生み出しているのは、辺りを飛び交う弾幕。
 本当は面白そうな地であるというのに、これは――。
「ちいとばかし眼が痛ェな……」
 掌で庇を作って目の上に添えた彌三八は肩を竦めた。これでは眩しくて夜祭どころではなく、骸魂とやらに操られた妖怪達も更なる騒ぎを起こしていくだろう。
「暗すぎるのも難儀だが、コウとあっちゃあ情緒もねェや」
 さて、と口にして辺りを見遣った彌三八は片目を眇めた。この眩しさは如何したもんかと考えるが、今すぐにどうこうできる手合いでもなさそうだ。
 見れば、既に近くまで童子妖怪が迫ってきた。
「マ、よくわからねェ時ァ此れヨ」
 考える暇はない。
 柏手を二つ。そして、掌を上に掲げた彌三八は困ったときの一手を呼ぶ。
 刹那、光の合間から黒い何かが落ちて来た。それも複数だ。
 降って来たなァ、とそれらを受け止めた彌三八は内容を確かめる。黒い眼鏡と火縄銃、そして短刀の三つ。
「得物ァわかるが、こねェに黒くて見えるのかね」
 黒い眼鏡は所謂サングラスだ。
 偶にこういったものを付けている者を見たことを思い出した彌三八は、半信半疑ながらもひとまず眼鏡を掛けてみる。
 すると、それまで眩しくて仕方なかった光景が随分と落ち着いて見えた。
「此奴ァすげえ。色ぁわからねえが、この光ン中で丁度好く見えら」
 ふ、と口許を緩めた彌三八は銃を構える。
 妖怪童子は操られるがままに念力を使い、周囲の石ころや鋭い葉を彌三八へと投げつけてきた。光が眩しすぎて見切れなかったであろうそれらは、今ならはっきりと見て、風の音を聞いて感じ取れる。
 彌三八は数歩下がりながら体勢を立て直し、銃口を骸魂に向けた。
「使い道のわかるモンで助かったゼ」
 何でこの二つかはわからず、眼鏡も此処以外で使い道はないがこれでいい。
 使わぬ刀は帯に差し、万が一に相手が近付いてきた時に抜く心算だ。殴る方が早そうだがこれも召喚した器物の一部。大いに役立てればいいだろう。
「そら、これで如何よ」
 火を付けて銃爪を引き、狙いを定めた彌三八は次々と火縄銃を発射していく。
 鉄砲は眼鏡で若干だけ照準が合わせ悪いが、狙いは上々。
 しかし、銃の厄介さを察した童子が横手から駆けてきた。捉えられぬと察した彌三八は銃を横に放り、腰の短刀を抜き放つ。
「おいたは其処までにしてくれねェかい」
 掴みかかろうとしてきた童子に向けた刃が振り上げられた。その瞬間、妖怪に纏わりついていた骸魂が切り裂かれる。
 それによって童子から魂が離れ、空に昇っていった。
 へぇ、と刃を見遣った彌三八は気付く。これは魔除けの短刀だ。殴るよりも此の方が童子達を無事に救ってやれると知り、彌三八は地を蹴った。まだ囚われた童子は多く、解放してやらねばならない。
「さァさァ、天を見たい奴から寄ってきな」
 お天道様は遠いが、と付け加えて口許を緩めた彌三八は刃を差し向ける。
 その切っ先は光の弾幕の眩さを反射して静かに煌めいていた。
 宛ら、未来を拓く退魔の刃の如く――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
【WIZ】
うわあ、すごく眩しいね…。ちょっと落ち着かないや。
ピカピカ光ってとても綺麗だけど弾幕と炎は危ないなあ。
少し痛いかもだけど、ちゃんと助けるから許してね?

眩しくて視界が怪しいし、基本的に第六感を信じて動くよ。
防御はあまり考えずに回避できそうなら回避を。厳しいなら敢えて避けないで捨て身の一撃でカウンターを狙いにいく。
攻撃には全力で凪ぎ払う事でお返しを。
鬼火にはこちらもUCで対応するね。
熱いのと冷たいの、どちらがより強いのか試してみようか?
ボクはどちらでも良いのだけど、熱いのあまり好きじゃないんだ。

眩しくて目がすごくチカチカする…。
うう、目が痛い…。サングラス持ってくれば良かったよ…。



●氷と炎と光の弾幕
 飛び交い、巡る光の数々。
 それらまるで夜の暗さをすべて吸い取ってしまっているようだ。
「うわあ、すごく眩しいね……」
 ちょっと落ち着かないや、と言葉にして双眸を緩めた樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は辺りの様子を窺う。
 揺らめいて飛び回る光の流れは、よく見ればピカピカ光ってとても綺麗だった。しかしそれが弾幕になっていて、童子妖怪が放つ鬼火と混ざり合っているのならば話は別。
「炎も光も危ないなあ」
 ねえ相棒、と肩口に呼びかければシマエナガがぴっと鳴いた。
 首元のファーの中に相棒が隠れたことを確かめた桜雪は身構える。その視線の先には骸魂に操られた妖怪童子がいた。
 彷徨っていた鬼火は桜雪に向けられ、今にも解き放たれようとしている。
「少し痛いかもだけど、ちゃんと助けるから許してね?」
 眩しさに目を細めた桜雪は地を蹴り、童子達に語りかけた。しかし骸魂に操られた妖怪達は何も言わない。きっと答えられないのだろう。
 とにかく今は骸魂をどうにかしなければ始まらない。眩しさには少し慣れてきたが完全に避けられるかといえば怪しい。
 己の第六感を信じようと決めた桜雪は鬼火の起動を読む。
 防御は考えず回避に専念する。そうすれば反撃の機がきっと見つかるだろう。華桜の薙刀を強く握った桜雪はしかと童子と鬼火を見つめた。
 光の弾幕は此方を惑わすように飛んでくる。
 それらを避けようとした桜雪は一瞬だけ光に気を取られた。その瞬間、骸魂妖怪が新たな鬼火を生み出して来る。
「喰らエ……!」
「わ、そっちからも来るんだね」
 迫ってくる鬼火に気付いた桜雪だが、あれを躱すのは厳しいことを先に悟った。
 それなら、と意を決した桜雪は敢えて避けることをやめてそちらに駆け出す。多少ならばこの身が傷付いても構わない。捨て身で向かった桜雪は炎を受け止めながら、敵との距離を詰めた。
 其処から振り下ろされるのは華桜による鋭い一閃。
 刃は弾幕の光を映し込みながら、童子の身と共に骸魂を貫いた。
「これで痛み分けだね」
 此方も鬼火を受けたが相手も無視できないほどの衝撃を受けたはずだ。桜雪の攻撃は止まらず、切り替えした刃で更に骸魂を薙ぎ払った。
 それでもまだ鬼火は止まらない。
 桜雪が透空の札を取り出そうとしたとき、それよりも先に目の前に札が現れた。どうやら相棒が次の一手を察して咥えて差し出してくれたようだ。
 ありがとう、と告げた桜雪は霊符を掲げる。
「熱いのと冷たいの、どちらがより強いのか試してみようか?」
 敵に問いかけながら、桜雪は符を無数の氷花へと変えていった。それらと炎が衝突しあい、氷の欠片や火の残滓が散っていく。
「ボクはどちらでも良いのだけど、熱いのあまり好きじゃないんだ。だから――」
 消させて貰うよ。
 そう告げた刹那、周囲に舞っていた鬼火がすべて消えた。それと同時に薙刀を振り下ろせば、同時に骸魂が童子から離れていく。
 童子はその場に膝をついたが、どうやら無事であるようだ。
 安堵を覚えた桜雪は周囲を見渡す。未だ首魁は残っており、辺りに満ちている光は収まりそうにない。
「眩しくて目がすごくチカチカする……。うう、目が痛い…」
 サングラス持ってくれば良かったかなあ、と呟きながら桜雪は薙刀を構え直した。
 そして、戦い未だ暫し続く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリアナ・フォルケ
なんて嘆かわしいのでしょう…
こんなにビカビカと明るくっては恋人たちの
ムード作りもへったくれもないじゃありませんのよ!
夜を待ちわびる恋人たちの為にも、私が今何とかしなくては!

眩さで多少視界が悪くとも、人海戦術で強行突破を試みますわ!
UCで召喚した方舟を光を遮る障害物として使いつつ
恋人たちの霊をけしかけましょう。
私自身もフォルケッタで鬼火を『なぎ払い』ながら接近、
遠慮なく『串刺し』を狙わせていただきますわ!

もし合体させた鬼火で行く手を遮られるようなら
麻痺毒を塗ったフォルケティーナを投擲し
味方の攻撃へ繋げられるような動きをさせていただこうかしら。
恋の駆け引き同様、戦場では臨機応変に参りたいですもの!



●恋の花咲く夜の為
 今、世界のすべてが光に満ちている。
 これが煌めくイルミネーションであったり、ロマンチックな光の装飾であったのならばどれだけ良かっただろう。そんな雰囲気など感じさせない、眩しすぎる光の弾幕が辺りに飛び交っていた。
「なんて嘆かわしいのでしょう……」
 オリアナ・フォルケ(恋愛成就の金色フォーク・f09185)は夜がなくなった世界を見渡し、憤りにも似た感情を覚えていた。
 その理由は、この光景が全く良い雰囲気ではないゆえ。
 普通の昼間ならば兎も角、光の球が夜を覆い隠す明るさは過剰なほどだ。
「こんなにビカビカと明るくっては恋人たちのムード作りもへったくれもないじゃありませんのよ!」
 舞い飛ぶ光を鴇色の瞳に映したオリアナは身構えた。
 弾幕の合間には骸魂に操られた童子達の姿が見える。妖怪達は魂に囚われており、ただ暴れるだけの存在に成り果てようとしている。
 きっと妖怪達の中にも恋をしている者だっているはず。恋愛成就に貢献してきた身としては其処が一番大事なことだ。
「夜を待ちわびる恋人たちの為にも、私が何とかしなくては!」
 この世界に浪漫あふれる夜を取り戻す。
 それこそが恋を司る者としての役目だとしてオリアナは力を紡いでいく。光は眩しくて視界が遮られるほどであり、操られた童子も鬼火を浮かびあがらせている。だが、それならば此方にも考えがあった。
「こういったときは人海戦術ですわ」
 ――さあ、心強い先輩方。
 オリアナが呼びかけると、死によって結ばれた恋人達が乗る方舟が召喚される。彼、或いは彼女達に援護を願ったオリアナは強行突破を試みてゆく。
 恋人達が刃や弓矢で以て光や鬼火を穿ち、オリアナに迫る攻撃を相殺してくれた。
 そのうえ赤い糸で雁字搦めに装飾された方舟は、周囲に飛び交い続ける光を遮るものとして浮かんでくれている。
 その影に入ったオリアナは眩しさを避け、金色のフォークを強く握った。このフォルケッタ・アモローゾならば斬るのも突くのもお手の物。
 一気に前に踏み込んだオリアナはフォルケッタで鬼火を薙ぎ払う。恋人の幽霊達が援護をしてくれているので、横合いから迫る炎も蹴散らされていった。
 オリアナは鬼火を操る本人である童子妖怪との距離を詰める。
 その胸には靄のような骸魂が見えた。彼処を狙えばいいのだと察したオリアナはフォークの切っ先を妖怪に差し向ける。
「そこですのね。遠慮なく狙わせていただきますわ」
「!?」
 危機を察した童子は残っていた鬼火を合体させ、オリアナを阻もうとした。
 しかし彼女も素早く片手でデザートフォークを取り出す。オリアナは邪魔な鬼火を消すべく、麻痺毒を塗ったフォルケティーナをひといきに投擲する。フォークは見事にその中心を貫き、炎の勢いを止めた。
 同時に童子にもフォークが突き刺さっていく。
「恋の駆け引き同様、戦いは臨機応変にいくのがよろしくてよ!」
 そうでしょう、と問いかけるように片目を閉じてみせたオリアナ。彼女はフォルケッタを動けなくなった妖怪の胸に突き刺した。童子に取り憑いていた骸魂は金のフォークでざくりと掬い取られ、宿主から完全に切り離される。
 童子妖怪はその場に倒れたが、どうやら気を失っているだけのようだ。
 ふわりと解けるように消えていった骸魂を見送り、オリアナは淡く笑む。そうして彼女は光の弾幕の奥に隠れていた存在――キョンシー木綿に目を向けた。
「さあ、あとはアナタだけですわね!」
 
 ひらひら、ふわふわと一反木綿の布が光の中で靡いた。
 そして、次なる戦いが始まってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『キョンシー木綿』

POW   :    キョンシーカンフー
【中国拳法の一撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    百反木綿槍
自身が装備する【一反木綿が変形した布槍】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    キョンシーパレード
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【キョンシー】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●光を求める闇
 白い布が光の中で揺れていた。
 夜の失くなった世界は未だ続いており、眩い弾幕は収まることはない。
 その中心に佇んでいるのは此度の異変を引き起こした骸魂、一反木綿に取り憑かれたキョンシーの少女だった。
「――ずっと、ずっと明るくあれ」
 抑揚のない声で語る彼女は完全に一反木綿に操られているようだ。
 周囲をふわふわと浮かぶ昏い色の魂はキョンシーに纏わり付いている。骸魂童子達との戦いを見ていたキョンシー木綿は、猟兵達を邪魔な存在だと認識したようだ。
「光は綺麗だヨ。どうして要らないっていうノ?」
 相手は拳法の構えを取る。
 そうして、臨戦態勢を取った相手は問いかけてきた。
「眩しい光があれば導いてくれる。誰も暗い夜や闇の道で迷わないんダヨ?」
 おそらく一反木綿が幽世に辿り着けず死んだ妖怪であるからだろう。道に迷うことを怖れているらしい相手は光を望んだようだ。
 しかし世界から夜がなくなることと、相手の事情はまた別。
「さあ、みんなもオイデ!」
 両手を掲げた骸魂妖怪は先程の戦いで倒れた妖童子に呼びかけた。すると見る間に妖怪達がキョンシーになり、気を失ったまま飛び跳ねはじめる。
「邪魔な奴らをやっつけよう!」
 そして、キョンシー木綿は配下となった妖怪達に呼びかけた。
 其処から始まる攻防。
 それは大切な夜を取り戻し、妖怪達を――更には哀しき骸魂を救う為の戦いだ。
 
都槻・綾
ひかりがあれば迷わないのに、と
謳うあなたこそ
未だ、
――もうずっと、
帰れずに居るのですね

煌々たる燈に目が眩んで
道を見失ってしまっているの

斯様に明るいのに
骸魂の想いは暗がりに沈んだまま
まるで其れは
煌かない己の魂を見ない振りしているようで
あなた自身を否定しているかのようで――、

ねぇ
余りに、寂しいでしょう

ひかりがあれば
影も必ず生じるものだから
どちらも大切なものだから
眩いひかりの洪水に
どうぞ飲み込まれないで

迷子のあなたへ
大丈夫
帰れますよ
と告げられたら良いな

さぁ
帰りましょう
妖しさんへ身を返しましょう

つい、と指し示す彼方の海
飛び立つ鳥の翼を道標に
白く耀く玉の緒を引いて
在るべき場所まで
迷わず辿り着けますように



●幽魂の之く先
 ひかりがあれば迷わない。
 そう語った骸魂は今も迷っているように思えた。直ぐ側にひかりがあるというのに。仮初ではあるが妖怪という身体を手に入れたというのに――。
「そう謳うあなたこそ、未だ……」
「ナニ? 邪魔をするなら蹴っ飛ばすヨ!」
 綾が零した言葉を拾い、骸魂妖怪は構えを取った。その周囲には無理矢理に操られている童子妖怪達が控え、今にも綾に襲いかかってくる勢いで跳ねている。
「――もうずっと、帰れずに居るのですね」
 綾は哀しげに眸を眇め、風に揺れる一反木綿を見つめた。
 煌々たる燈に目が眩んで道を見失ってしまっている。それが今のかれだ。
 光は飛び交い、目映い程の白い奇跡が満ちている。斯様に明るいのに、骸魂の想いは暗がりに沈んだまま。
 何だか其れは煌かない己の魂を見ない振りしているようだ。
「みんな、行っテ!」
 骸魂は袖を振り、手下となった者達を綾に嗾けてきた。綾は動じることなく詠唱を紡ぎ、差し伸べた掌から陰陽五行の鳥達を呼び起こす。
「今の状況はまるで、あなた自身を否定しているかのようで――、」
「うるさい! ウルサイ煩いッ!」
 綾が落とした声に反応した骸魂妖怪は喚く。声こそキョンシー少女のものだが、その言葉を操っているのは周りに纏わりつく一反木綿だ。
 たすけて。
 助けてあげて。
 操られている娘の声が奥底から聞こえた気がした。勿論ですよ、と視線で応えた綾は羽撃く鳥達で敵を穿っていく。
「ねぇ。余りに、寂しいでしょう」
 迫りくる配下の一閃を避け、綾は語りかける。
 ひかりがあれば影も必ず生じるもの。光だけ、闇だけで成り立つものはない。どちらも大切なものだから。
「眩いひかりの洪水に、どうぞ飲み込まれないで」
 願うような言の葉と共に疾てなる羽搏きが次々と敵を貫いていく。
 配下と化した妖怪はふたたび倒れ、首魁までの路がひらかれた。綾は疾く駆け、また阻害されぬようキョンシー木綿との距離を詰める。
 かれはただの迷子。
 それならば在るべき場所へ送るのが自分達の役目。
「大丈夫、帰れますよ」
 必ず、と付け加えてながら告げた綾は更に五行の鳥を遣わせていった。骸魂妖怪の身が鋭い一閃によって穿たれる。
「さぁ、帰りましょう」
 妖しさんへ身を返して、と呼びかけた綾は、つい、と彼方の海を指し示す。
 飛び立つ鳥の翼を道標に白く耀く玉の緒を引いて――在るべき場所まで。
 迷わず辿り着けますように。
 綾が願う最中、妖怪は体勢を立て直した。
 戦いは未だ続く。されど綾の示した先は、確かな標となって其処に在り続ける。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

揺・かくり
やあ、君が事の発端かい?
どうやら私と同族の妖のようだ
ああ、君も取り憑かれているのだね

光あれ、と願うのは結構だけれど
常に眩しいだけの世界は参ってしまうね
目が眩んではひとが彷徨うだけさ
仄闇を好ましく思う者だって居るだろう
この身も瞳も、闇に慣れている
私は、暗がりの方が好ましいよ

会話での終結は不可能だろう
同族を呪うのは気が引けてしまうね
やるべきことは先程と同じさ

ぎこちない指で指環に触れよう
もう一度、君たちの力を拝借する
この身に宿す呪詛の一片を渡す代わり
私の声に応えておくれよ

彼女は私の、この幽世のはらからだ
本来ならば会話も出来るだろう
骸魂だけを上手に切り離しておくれ
君たちならば可能だろう?
よろしく頼むよ



●同胞の聲
 死霊達を従え、光の中心に目を向ける。
 未だ終わらぬ眩さに軽く双眸を緩め、かくりは骸魂妖怪に問いかけた。
「やあ、君が事の発端かい?」
「そうみたいネ。だからどうしたノ?」
 かくりに視線を返したキョンシー娘。その声は纏わりつく一反木綿に操られているようだ。そして、周囲に漂う骸魂の軌跡は怪しい光を宿していた。
 どうにもしない、と云うようにぎこちなく首を傾げたかくりは更に言葉を続ける。
「どうやら私と同族の妖のようだ。ああ、君も取り憑かれているのだね」
「みんな、あのコをやっつけて!」
 しかし相手はかくりの話を聞く心算はないらしく、邪魔者を排除しようと動いた。配下として立ち上がらされた童子は目を瞑っており、まるで傀儡のように操られている。
 かくりは死霊達を遣わせ、操られた童子達に相対させた。
 虚ろな視線なれど、かくりの眼差しはキョンシー木綿に確りと向けられている。
「光あれ、と願うのは結構」
 だけれど、とかくりはちいさく声を紡いだ。
 その間に死霊達は童子妖怪を散らしていく。先程に力を失った者達だけあって余力もないのだろう。蛇竜が尾を振るっただけで童子達はふたたび倒れていく。
 後でちゃんと助けるよ、とそっと告げたかくりは瞼をゆっくり瞬いた。
「常に眩しいだけの世界は参ってしまうね」
 目が眩んではひとが彷徨うだけ。
 ひかりは確かに暗い夜路を照らす道標になるだろう。されど、眩しすぎれば道を惑わせるものに成り果てるだけ。
 それに仄闇を好ましく思う者だって居る。
 現にかくりの自身の瞳も身体も、闇に慣れきっている。
「私は、暗がりの方が好ましいよ」
「ボクは光の方が好きだヨ!」
 かくりがぽつりと落とした言葉に対して骸魂妖怪は語気を強めて反論した。
 これではいつまでも平行線。
 会話での終結は不可能だろうと察したかくりは傾げていた首を戻す。同族を呪うのは気が引けてしまうが、やるべきことは先程と同じ。
 配下だけでは歯が立たないと気付いたキョンシー木綿は直接、此方に向かってきた。
 かくりは危険を察知し、ぎこちない指先で指環に触れる。死霊達とて乱戦で消耗していた。それゆえにかくりは更なる霊力を死霊に分け与えていく。
「もう一度、君たちの力を拝借する」
 この身に宿す呪詛の一片を渡す。その代わりに――私の声に応えておくれよ。
 死霊は刃を振るい、尾を揺らすことで呼び掛けに応えた。首魁に向かっていくかれらを見つめ、かくりは更に思いを伝える。
「彼女は私の、この幽世のはらからだ。上手に切り離しておくれ」
 本来ならば会話も出来る者のはず。
 現に操られた娘の瞳はずっと、かくりにこう語りかけている。
 ――たすけて。救ってあげて。
 それは娘が抱く魂への思いなのだろう。かくりは静かに頷く。
 願い通りに骸魂だけを切り取って、どうか助けてやって欲しい。ゆらり、ゆらりと揺蕩うようなかくりの言の葉は願いとなって戦場に巡る。
「君たちならば可能だろう?」
 かくりの問いかけへの返事は骸魂だけを穿つ死霊の動きで以て答えられた。
 拳法の一撃が死霊を捉えたが、かれらとて刃や尾で反撃に移る。
 そのまま頼むよ、と告げた声には仄かながらも確かな信頼が寄せられていた。そうして、死霊達はかくりの願いの儘に戦ってゆく。
 目の前の者達を救い、在るべきかたちに戻す為に――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
導きの光か…
確かに眩しい光は目を引くだろう、綺麗であることもわかるし、不要だとは思わない。
だが真っ暗な闇が道を隠す様に、強過ぎる光は大切なものをまで見えなくしてしまう。
…夜があるから、光が綺麗なのだと俺は思うよ。
考え方はそれぞれだからそれを強要するつもりはないが、だが、この状態のままという訳にはいかないだろう。

拳法か、良い動きだな。
極力、相手の攻撃を見切って回避する。仮に攻撃を受けたとしても俺の体は破壊されればその分、好都合だ。この身を削る。
UC「revontulet」を使用。
光が反射しより眩く迸る宝石の欠片。一反木綿を輝く自身の一部で包み込む様に、覆い貫く。

光を求める者へ、俺の光を贈ろう。



●極光を贈る
 周囲に舞う光は骸魂にとっての導きだという。
 眩しすぎる程の弾幕光を見渡しながら、ユヴェン・ポシェット(ت・f01669)は双眸を細めた。これまでに穏便に童子妖怪から骸魂を切り離していたが、今やかれらが更なる配下として操られてしまっている。
「導きの光か……」
 暗闇が嫌だという気持ちは理解できないこともない。
 確かに眩しい光は目を引く。綺麗であることもわかるし、不要だとは思わない。
 だが――と、考えたユヴェンは一度だけ目を閉じた。
 瞼の裏にも焼き付く光は激しすぎる。真っ暗な闇が道を隠すように、強過ぎる光は大切なものまで見えなくしてしまう。
「……夜があるから、光が綺麗なのだと俺は思うよ」
 猟兵と戦うキョンシー木綿を見つめ、ユヴェンは身構えた。
 昼が好き。夜が好き。
 闇が嫌い。光が嫌い。
 そういった考え方は人でも妖怪であってもそれぞれ。ゆえにユヴェンは好みや理想を否定したり、こうであるべきだと強要するつもりはなかった。
「そんなことナイ! 夜は暗くて怖いだけ!」
「そうか、怖い思いをしてきたんだな」
 されどキョンシー木綿は必死に反論する。其処からユヴェンが感じ取ったのは、幽世に無事に辿り着けなかった骸魂の嘆きだ。
 何かに取り憑かねば自由に動けない魂。その苦しみや苦悩は計り知れない。
 しかし、この状態のままという訳にはいかないのは確かだ。
 今は光を喜んでいるらしい一反木綿も、いずれは眩しさに負けて道を見失うだろう。人一倍、否、妖怪一倍に迷うことを嘆いているならば尚更。
 ユヴェンが相手を見据えていると、キョンシー木綿が地を蹴った。
 ひらひらと揺れる布を纏いながら繰り出される拳。それを布盾で受け止めたユヴェンだったが、すぐに蹴撃が横合いから見舞われた。
「喰らエ!」
「……ッ!」
 片腕で蹴りを受けたユヴェンの身体が僅かに揺らぐ。しかし果敢に耐えてみせた彼は体勢を素早く整えた。
「どうだ! これがぼくの力だヨ!」
「拳法か、良い動きだな」
 胸を張って誇るキョンシー木綿は得意気だが、ユヴェンは次の攻撃は読めるだろうと察していた。それはこれまで培ってきた戦いの経験が為せる技。
 素早い拳や蹴りが更に繰り出されるが、ユヴェンは一撃ずつをしかと見切っていく。
 そして、或る瞬間。
 先ほど受けた腕の痛みと傷を利用したユヴェンは敢えて身を削る。
 刹那、遊色に輝く欠片が彼の傍に浮かんだ。
 極光を放つ欠片に辺りに満ちていた赫きが反射して、より眩く迸っていく。
 輝くユヴェン自身の一部――即ち、宝石の欠片から放たれる光は一反木綿を包み込むように覆い貫いた。
「光を求める者へ、俺の光を贈ろう」
 望むならば存分に。
 欲しかったもので満たしてやろうと決め、ユヴェンは戦い続ける。
 在るべき場所に魂を還す為に。ただひたすら真っ直ぐな意志を向けて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷守・紗雪
だ、ダメです!
童子さまたちは疲れて、あああーっ!
もうう!一反木綿さまイタズラがすぎますよ!

真っ暗が続けば先が見えなくて、ユキもちょっと怖いです
ひとりぼっちに思えてさみしいです

でも暗いときにしか楽しめないことがあるのですよ
例えば花火!夜空に咲くお花です。他にも河原で蛍が灯す光も!
ぜんぶ暗い場所を照らしてくれるから、いっそう輝いてきれいだと思うのです

おおきく息を吸って
ふうっと吐き出せば粉雪が周囲を舞いキョンシーを包み込む
イヤな気持ちはユキがいただいていきます
もうおいたしちゃダメなのですよ

また迷うことがあれば、きらきらの六花を目印にしましょう
そして今度はユキが手をひいて一緒に暗い道を歩いてあげますね



●燦めく氷雪
 ゆらり、ふらり。
 童子達が立ち上がり、首魁の方に引き寄せられていく。
 はたとした紗雪はその背に手を伸ばした。
「だ、ダメです!」
 かれらの歩みは止まらない。倒れていた子達だけではなく、それまで疲れて休んでいた童子までもが骸魂に操られて飛び跳ねていく。
 先程、もう平気だといって紗雪と笑みを交わしあった童子までもが新たな骸魂に囚われてしまっている。
 紗雪はかれらを追いかけた。
 しかし、此度の首魁である一反木綿が猟兵達に童子を嗾けていく。
「童子さまたちは疲れて、あああーっ! 戦っちゃ! ダメですっ!」
 必死に止めようとした紗雪だったが、かれらに言葉は届かなかった。
 気を失っていたり疲れて果てていたというのに、更にその身に鞭を打つようなことはさせたくない。紗雪は両手をぶんぶんと振り回し、一反木綿を強く見つめた。
「もうう! 一反木綿さまイタズラがすぎますよ!」
 その瞳には真剣さと憤りが宿っている。
 周囲の光は相変わらず強くて目が眩んでしまいそうだ。随分と目も慣れたので動き辛いことはないが、紗雪はふと考える。
 まっくらとまぶしい世界。一体どっちが良いものなのだろう、と。
 たとえば闇がずっと続けば先が見えなくて――。
「暗いのは、ユキもちょっと怖いです。ひとりぼっちに思えてさみしいです」
 でも、と紗雪は首を振る。
 ずっとずっと同じ世界が続くのは違う。明るいとき、暗いとき、それぞれに良いところがあるはずだと思えた。
「暗いときにしか楽しめないことだってあるのですよ!」
 紗雪は一反木綿に指先を突きつけながら懸命に宣言する。戦うしかないと解っていても、言葉を交わさないままであるのは我慢できなかった。
「ふん、そんなものないヨ!」
「例えば花火! 夜空に咲くお花です。他にも河原で蛍が灯す光も!」
「花火? ホタル?」
 紗雪に反論しようとした一反木綿がふと首を傾げる。
 そうです、と答えた紗雪は胸を張った。
「ぜんぶ暗い場所を照らしてくれるから、いっそう輝いてきれいだと思うのです」
 光の中では花火も蛍も見えない。
 それらが素敵で綺麗だと思えるのは夜という暗い世界があるから。紗雪は夜を嫌わないでほしいと願い、おおきく息を吸った。
 掌を口許の前でそっとひらいて、ふうっと息を吐き出せば――粉雪が周囲に舞い、キョンシーを包み込んでいく。
 それは身体を害するものではなく悪意ある根源だけを鎮めるもの。
「イヤな気持ちはユキがいただいていきます」
「あれ? え……なんで、コレ――」
 粉雪を受けたキョンシー木綿は不思議そうな表情を浮かべた。嫌だと思う気持ちが和らげられていったことが不思議なのだろう。しかし、これで完璧に戦意を消せたわけではないことは紗雪も解っていた。
 見れば童子達は他の仲間によって抑えられている。それならば後は一反木綿をどうにかすればいいと感じて、紗雪は更に鎮めの雪を舞わせていく。
「まだおいたしちゃうなら、お仕置きです。暴れるのはダメなのですよ!」
 また迷うことがあれば、きらきらの六花を目印に。
 今度は自分が手をひいて一緒に暗い道を歩いてあげたいから――。
 どうか、安らぎを。
 そっと願う紗雪が放つ吹雪は、戦場を燦めきで彩りながら舞い散っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

波紫・焔璃
えー?別にいらないとは言ってないよ
そりゃあ、光がなきゃそこら中ぶつかったり転んだりしちゃうけどさ
ずっと明るいままじゃ疲れちゃうじゃん
暗い夜はゆっくり休むから、お日様が出てくる昼間にまた頑張れるんだよ

もし夜も歩くならさ
小さい灯で十分だよ
夜しか見えない風景とかもあるでしょ?
それも楽しみながら進まなきゃ!

って、あー!
今さっき骸魂剥がしたのに!
なんてことするのさ!
空中浮遊で攻撃回避

…よし、悪い骸魂は焼却しちゃお
で、元に戻ったら、一人じゃなくて皆でお祭り行こう
皆で行けば迷子にならなくて済むんだから!
うん、そうと決まればやることは一つ

骸魂を彼方にごあんなーい!
破魔の焔で焼却し、鎧砕きの勢いで鬼棍棒を振るう



●骸魂一撃ホームラン
 闇は嫌い。それゆえ光だけが欲しい。
 そう望んだ骸魂は今、光の弾幕に包まれながら闇を否定している。
 だからなのか、どうやら相手は此方が光を拒絶していると思い込んでいるようだ。
「えー? 別にいらないとは言ってないよ」
 焔璃は飛び交う光を再び避けながらキョンシー木綿を見遣る。しかし、その間に敵は童子妖怪達を呼び起こした。
「って、あー! 今さっき骸魂剥がしたのに! なんてことするのさ!」
「いけ、みんな!」
 童子達がぴょんぴょんと飛び跳ねながら襲いかかってくる。
 その動きを察知した焔璃は空中に浮遊することで彼らを避けた。焔璃は其処から浮かばせた金貨で以て、キョンシー化させられた童子妖怪達をぺちぺちと穿っていく。
 それによって童子は倒れていった。
 元々が倒されていた子達であった為、耐久力は紙よりも薄かったようだ。そして焔璃は鬼棍棒で弾幕を打ち返し、キョンシー木綿に向き直る。
「そりゃあ、光がなきゃそこら中ぶつかったり転んだりしちゃうけどさ」
 ずっと明るいままでは疲れてしまう。
 今は光が生まれたばかりであるから良いとしても、いつかは一反木綿だって眩しさに嫌気がさしてしまうかもしれない。
 それに、と焔璃は自分の思いを伝えていく。
「暗い夜はゆっくり休むから、お日様が出てくる昼間にまた頑張れるんだよ!」
 どちらだけが良い悪いというものではない。
 そうじゃないかな、と呼び掛けた焔璃は地面を大きく蹴り上げた。跳躍で以て一反木綿との距離を一気に詰めた焔璃は鬼棍棒を振り下ろす。
 だが、骸魂妖怪は素早い身のこなしで一撃を躱した。なかなかやるね、と笑顔を向けた焔璃は敵の強さを認める。
「もし夜も歩くならさ、小さい灯で十分だよ」
「イヤだ! 頼りない明かりだけじゃ、ぼくは……!」
 するとそれまで黙っていたキョンシー木綿が口をひらいた。操られているキョンシー娘ではなく一反木綿の言葉なのだろう。
 その声には闇への恐怖が宿っているように思えた。
「夜しか見えない風景とかもあるでしょ? それも楽しみながら進まなきゃ!」
「できないヨ! 無理だもん!」
 されど一反木綿は反論を続ける。焔璃は話が平行線にしかならないと感じ取り、少しだけ残念そうに肩を竦めた。
 見捨てるわけではないが、やはり此処は力尽くが正攻法となる。
「……よし、悪い骸魂は焼却しちゃお」
 破魔の焔を鬼棍棒に纏わせた焔璃は再び敵との距離を詰めに掛かった。骸魂は正しき海の彼方へ。操られた娘は元の姿に戻すのが自分達の役目。
「で、元に戻ったら、一人じゃなくて皆でお祭り行こう。皆で行けば迷子にならなくて済むんだから! うん!」
 そうと決まればやることはたったひとつ。
 大きく振り被った焔璃は全力を込め、一気に勢いを込めた一撃を振るった。
「骸魂を彼方にごあんなーい!」
 見舞われたのは焔を伴ったフルスイング。一反木綿を貫いた一閃は相手の身体に深くめり込み、そして――キョンシー木綿は後方に吹き飛ばされる。
「よしっ!」
 此処からが更なる勝負時だと察し、焔璃は更に身構え直した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリアナ・フォルケ
可哀想に…夜道でよっぽど酷い目に遭われましたのね。
ねえアナタ。恋って知っていて?
それさえあればどんなにか怖いことだって乗り越えられる。
暗い夜道だって浮足立った心には無関係。
愛しい人の瞳はそれこそどんなにか眩く見えることでしょう!
大丈夫、アナタの恐怖心はすぐになくなりますわ!安心なさって!

ストレッチャーで周囲のキョンシーを遠慮なく轢き倒して
【蹂躙】しながら大本命に接近!
一反木綿部分を踏んづけるかストレッチャーの拘束具で
【捕縛】するかで動きを封じてUC【恋愛式・改心治療】
恋する余裕を失くす原因・記憶を排除しますわ!

もしストレッチャーが拳法で壊されてしまったら
フォルケッタでの接近戦でゴリ押しますわね



●恋は素敵なものだから
 骸魂は泣いている。
 どうしてかそんな風に思え、オリアナはあらあらと首を傾げてみせた。
「可哀想に……夜道でよっぽど酷い目に遭われましたのね」
 恐ろしいと感じたからこそ夜を怖がっている。それゆえに光で満たして闇を消してしまえば良いと思ったのだろうと考え、オリアナはストレッチャーを用意していく。
 それは周囲に集ってきているキョンシー化した童子妖怪を薙ぎ払うため。無理に酷使されているならば早々に休ませてやらなければならない。
「いきますわ!」
 駆けたオリアナは飛び跳ねる童子を巻き込みながら遠慮なく轢き倒していく。
 荒療治だが、これもまた戦略。
 そして、オリアナはキョンシー木綿との距離をひといきに詰めていった。
「ねえアナタ。恋って知っていて?」
「コイ?」
「ええ、それさえあればどんなにか怖いことだって乗り越えられますの」
「……知らナイ! 知りたくもナイ!」
 オリアナからの問いに一反木綿がひらひらと不思議そうに舞った。しかし、此方を敵だと認識している相手は全てを拒絶しようとしているらしい。
 それでもオリアナは怯まない。
 相手が恋を何も知らぬならばそれでもいい。教示してあげるのが自分の役目だと感じて、恋とは何かを語りかけていく。
「暗い夜道だって浮足立った心には無関係。愛しい人の瞳はそれこそどんなにか眩く見えることでしょう!」
「そうなの?」
「大丈夫、アナタの恐怖心はすぐになくなりますわ! 安心なさって!」
 オリアナの勢いと自信満々な言葉にキョンシー木綿が徐々に押され始めた。されど一反木綿とてストレッチャーに轢かれるわけにはいかないと感じ、地を蹴る。
 高く飛び上がったキョンシーは蹴撃で担架を退けた。
 しかし、オリアナだって負けてはいない。
 ひとまずは相手の動きを封じようと狙い、拘束具を投げ放っていった。
「そこですわ!」
 くるくると包帯で巻き取るように一反木綿の一部が絡め取られる。標的が均衡を崩した瞬間を狙い、オリアナは布を一気に踏みつけた。
 それによってキョンシーの方がバランスを取れなくなり、思いっきり転ぶ。
「あうっ!?」
 今こそ最大の好機だとして、オリアナはフォークを大きく掲げた。
 ――恋愛式・改心治療。
 純粋に恋愛を尊ぶ思想を籠めた一撃が振るわれ、恋する余裕を失くす原因となる記憶が見る間に排除されていく。
「心の治療を致しましょう。さあ、そこから踏み出す勇気を持って!」
「う、うう……コイって何……?」
 骸魂妖怪は何やら混乱して戸惑っている様子だ。されどこれは改心治療が効きはじめている証でもあるだろう。
「まだまだ教えて差しあげますわ!」
 恋を知れるように力を尽くすべく、オリアナは更にフォークを強く握った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
明るい処で光ったって何も見えやしねェ
暗い処で光るから綺麗なんだろうが
黒ばかりも白ばかりも変わらねえよ
間はねェのか間は

周りが邪魔だな
一先ず筆は四、群れを地面と水平に置いて一気にぶつける
人の背程も跳ねにゃあ一先ず頭の高さで狙や好い
外れても身体には当たるだろ
扇状に散らした千鳥は後ァ何時も通り、群れ毎に戦場を縫うが如く奔らせて
一体ずつ潰していく

首魁がちいと速いってんなら動きを絞る
上手く動いていると見せかけて、その実動かされてるのが善いやな
千鳥を一群潜ませて、追い立ててぶつける

浮かばれねえなあ気の毒だが、そいつを返しちくんな
引き離した後の此奴ァ…成仏って云うのかい?
妖が妖に憑りつくてなァ不思議なモンだな



●骸魂と成仏の道
 未だ光は飛び交い、辟易するほどに舞い続けている。
 戦いの中心にいる骸魂を在るべき場所に還すまでは、ずっとこの調子なのだろう。
 筆を手にした彌三八は巡りゆく戦いの行方を見据えている。無論、見ているだけではなく、再び操られた童子妖怪達を破魔の短刀で斬り伏せていた。
 身体を斬るのではなく、骸魂だけを切り離す。
 そうやって周囲の童子を粗方片付けた後、こうして首魁の動きを窺っている訳だ。
「明るい処で光ったって何も見えやしねェ」
 光を求め続ける一反木綿に思うのは極端過ぎるのだということ。
 暗い処で光るから綺麗なものがある。
 そのことがまるで理解できていないらしい骸魂は、ただひたすらに光だけの世界を望んでしまったらしい。
「黒ばかりも白ばかりも変わらねえよ。間はねェのか、間は」
 色のない灰色でも困るが、と付け加えた彌三八は周囲を見渡した。片付けたと思ってはいたが、未だ倒されていない童子妖怪もいる。
「……周りが邪魔だな」
 ならば一先ず、筆は四だと判断した彌三八は宙に線を描いていく。
 筆数に応じて増える千鳥の群れが迸る。
 その群れを地面と水平に置いて一気にぶつければ、ちいさな童子達が次々と穿たれていった。幾つかは外れたように見えたが、相手の身体には当たることで作用していく。
 其処から千鳥は扇状に散らされる。
 そうすれば後は何時も通り。群れ毎に戦場を縫うが如く、翼を広げた鳥模様が一気に飛び交っていく。
 其れは光の弾幕にも負けないほどに舞い、操られた者達を鎮めていった。
 一体ずつ、確実に落としてゆく彌三八はやがて首魁にも意識を向ける。他の猟兵と戦うキョンシー木綿は素早い拳法を用いて暴れていた。
「ちいと速いな。それなら――」
 自分は皆が戦いやすいよう、その動きを絞ってやろう。
 どう攻めるのが良いだろうか。自分は上手く動いていると見せかけて、その実は動かされているという策が善いはず。
 彌三八は千鳥を描き、一群を戦場に潜ませた。
 そして、飛び跳ねて移動するキョンシーに向けて鳥達を追い立ててぶつける。
「わあ! 危なかったネ!」
 一反木綿に操られた娘は既の処で千鳥を避けた。得意気な様子でいるキョンシー木綿だが、彌三八の狙い通りの動きをしてくれている。
 今だ、と彌三八が視線を送れば他の猟兵が敵の反対側に回り込んでいった。
 これで挟撃は完了。
 はたとしたキョンシー木綿は千鳥に誘われたと気付いたらしいが、後の祭だ。
「浮かばれねえなあ気の毒だが、そいつを返しちくんな」
「いやだヨ!」
「我儘を言うモンじゃねぇ。成仏する方が善いだろうに」
「やーだネ! 絶対にイヤだ!」
 押し問答が続いたが、彌三八は怯みなどしなかった。いつまでも幽世に彷徨って光に浮かされているようではいけない。切々と語る彌三八は、ふと思う。
(それにしても、妖が妖に憑りつくてなァ不思議なモンだな)
 これが幽世の理なのか。
 そんなことを考えつつ彼は筆を振るい続けていく。
 此度の騒動が収まるまで己の手は止めない。そう心に決め乍ら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フルラ・フィル
ああ
眩しい光だ
眩しすぎて眼が潰れてしまいそうだよ
私のような―森の薄闇に慣れたものにとってはね
光は必要なものだ
されど強すぎる光は毒なのだよ
キミもそう思うだろ?
シィがにゃあと同意すれば、口元を三日月のように歪め笑む

ふふ、明るい森もいいが
夜の森はもっとよい
無くなっては困るのだ
光の中では眠れない
ひかりのなかでは安らげない
闇こそが安寧を齎す

キミにも教えてあげないといけないね
歌うように詠唱を口ずさみ
闇色の花咲かせて生命を溶かして
絢爛の花弁のオーラで身を守る
シィ、私を応援してくれるの?
うれしいな

そろそろか
高まる魔力に身を任せて、さぁ
咲かせよう
『蜜の楔』

夜を厭うキミよ
キミは、どんな蜜に変わってくれるだろうか?



●薄闇と蜜色
 光が満ちて、彷徨う魂が揺らめく。
 飛び交っていく弾幕めいた光を見据えようとして、思わず頭を振る。
 フルラ・フィル(ミエルの柩・f28264)は目映すぎる光に対して双眸を閉じたが、瞼の裏にまで揺らぐ軌跡が残っていた。
「ああ、眩しい光だ」
 眼が潰れてしまいそうだと零したフルラは、ゆっくりと瞼をひらく。
 これほどの光ならば闇など消し去ってしまえるだろう。されど、フルラにとってはどちらかと云えば闇の方が好ましい。
「私のような――森の薄闇に慣れたものにとってはね」
 眩しさについて、そっと付け加えたフルラは身構えた。その視線の先には猟兵達を相手にして暴れるキョンシー木綿の姿がある。
 骸魂は光を求めている。その通り、光は必要なものだ。
 されど深い闇が恐ろしいように、強すぎる光とて毒となる。そんな風に語ったフルラは宵闇を纏う黒猫、シィに問いかけた。
「キミもそう思うだろ?」
 にゃあ、とシィが鳴いて同意すれば、フルラは口元を三日月のように歪めて笑む。
 光の弾幕が飛んでくる様を新緑の瞳で捉えたフルラは、一歩後ろに下がった。するとそれまで彼女が居た場所に光弾が通り抜けていく。
「ふふ、明るい森もいいが、夜の森はもっとよい」
 ゆえに闇や夜が無くなっては困る。
 光の中では眠れず、ひかりのなかでは安らげない。
 闇こそが安寧を齎すのだから。
 魔杖を握ったフルラは詠唱を紡ぐ。かぶせて、とかして、と謡うような声に乗せた魔力が解き放たれていった。
「キミにも教えてあげないといけないね」
 闇色の花を咲かせて生命を溶かす。そうすれば絢爛の花弁が広がってゆく。
 魔力の奔流は骸魂に乗り移られている童子を穿ち、地に伏せさせていった。これでいいとフルラがちいさく頷くと、シィが再びにゃあと鳴く。
「シィ、私を応援してくれるの?」
 うれしいな、と淡く口許を緩めたフルラは更に詠唱を謳いあげる。
 戦場には花が舞い、光が揺らめく。
 そして――。
 そろそろだと察したフルラは高まる魔力に身を任せ、胸元に掌を軽く掲げた。
 さぁ、咲かせよう。
 楔めいた力が戦場に打ち放たれる。其処から巡る花嵐は一反木綿の布を捉え、瞬く間に透き通った蜜に変えていった。
「何コレ!? ええい、邪魔だヨ!」
 されど力が及んだのは端の方だけ。身を翻したキョンシー木綿は花嵐から逃れた。
 それでもフルラは標的から目を逸らさない。
「夜を厭うキミよ」
 ――キミは、これからどんな蜜に変わってくれるだろうか?
 透き通る雫が光の中に零れ落ちていく。燦めく光景を見つめながら、フルラはふたたび月のような笑みを浮かべた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
眩しい光があれば導いてくれる
誰も暗い夜や闇の道で迷わない――

あの骸魂は、本当にこの世界に住む皆のことを、そしてこの世界へと向かう皆のことを想い、この騒ぎを起こしたのかもしれません
「そうかもしれないね。だけど……」
そう、皆を救うためならば、皆を使役しても構わない――
その心は、既に壊れてしまっているのでしょう
可哀想ですが、永久の眠りに付いてもらいます

無手で戦うあの素早い動きに、私の武器では届かないかもしれません
それならば……UCで幾多の鎖を召喚!
相手の身体部位の全てを対象とし、絡み取ります
動きを封じられたならば、剣を光の刃へと進化させ、痛みを感じぬようその魂を狙います!

せめて最後は光の中で――



●迸る鎖
 眩しい光があれば導いてくれる。
 もう誰も、暗い夜や闇の道で迷わない――。
 キャロルは骸魂の語らんとしてしていたことを思い、ふと考える。今こそああして暴れている者だが、元の心根は悪くないものなのかもしれない。
「あの骸魂は……」
 キャロルは胸に手を当て、言葉を続ける。
 その最中、戦う一反木綿の布が光の中で懸命に揺らめいていた。それは何だか憎めない様子にも思える。
「本当にこの世界に住む皆のことを、そしてこの世界へと向かう皆のことを想い、この騒ぎを起こしたのかもしれません」
『そうかもしれないね。だけど……』
 キャロルの言葉に対してオルキヌスが答えた。
 きっと感じていることは同じ。
「そう、皆を救うためならば、皆を使役しても構わない――その心は、既に壊れてしまっているのでしょう」
 この戦場にいる他の者達も一反木綿にそれぞれの思いを投げ掛けているようだ。
 しかし、相手は聞く耳を持たないでいる。
 対話を諦めるわけではないが、倒すしかないということがよく分かる。意を決したキャロルはアリスランスを構えた。
「可哀想ですが、永久の眠りに付いてもらいます」
 されどこれまで見てきた敵の動きは素早い。
 無手で戦うあの速さに対してランスの突きでは届かないかもしれない。きっと届いたとしても切っ先を逸らされて避けてしまうだろう。
 それならば、とキャロルは幾多の鎖を周囲に召喚していく。槍や剣が届かないなら、この鎖を飛ばして、素早い敵の動きを封じようと狙えばいい。
 しかし、此方の動きを察知したキョンシー木綿も鎖を警戒している。
「これでどうでしょうか」
 キャロルは相手が動く前に鎖を一気に舞い飛ばした。
 幾重もの鎖の軌跡が戦場に迸る。一本、二本、三本、とキョンシー木綿に鎖が迫るが、次々と躱されていった。
 だが、キャロルも更なる鎖で相手の身体部位の全てを絡み取ろうとしていく。
「わっ、うわわ!?」
「逃しません」
 或る瞬間、キョンシー木綿が一本の鎖を避けきれなかった。それを好機だと感じたキャロルは残りの鎖で相手を縛りあげる。
 動きはこれで封じられた。キャロルは瞬時に剣を光の刃へと進化させ、キョンシーに纏わりつく魂だけを狙って振るう。
 一閃が骸魂を斬り裂き、大きなダメージを与えた。
「ぐ、ううっ!!」
 キョンシーは必死に鎖を弾き飛ばして拘束から抜け出す。自分から逃げるように遠ざかっていく相手を追うべく、キャロルは地を蹴った。
 逃走を許してしまったが、今の一撃は確かなものとなって巡っていた。
 この調子で戦えば骸魂を在るべき場所に還せる。
 そして、せめて最後は光の中で――。
 戦いはきっと後少しで終わる。願う思いと共に、キャロルは戦場を駆けていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
『WIZ』
その子たち、気絶してるのに…。
そう、キミがこのピカピカの原因なんだ。
眩しくてたまらないし、その子たちを早く解放したいから手荒くいくよ。……ごめんね。

先制攻撃で先に仕掛けに行く。出来るなら2回攻撃したいね。
わあ、キョンシーたくさん。ちょっと数が多いかな?
UCで吹き飛ばしに行こう。一反木綿つきの子の懐に飛び込んでボクごとUC発動だ。
ごめん、痛いの、いくよ。

道を照らす灯りは必要だ。ボクもよく知ってる。
でもね?こんなにド派手な道しるべは勘弁願いたいな。
目がチカチカして痛いんだよ。
明かりも暗闇も適度が一番。
それにね、あまりに明るすぎると闇もまた暗くなりすぎて怖くなるんだ。



●闇が有る意味
 光は依然として眩しく、弾幕は収まることはない。
 そのうえ先程に倒して休ませていたはずの童子妖怪達が操られていく。桜雪は首を振り、なんてことを、と呟いた。
「その子たち、気絶してるのに……」
 いくら光を奪われたくないからといって、疲れた子達を操るなど言語道断。
 そして、桜雪はキョンシー木綿に目を向けた。
「そう、キミがこのピカピカの原因なんだ」
 光の中心にいる骸魂妖怪は猟兵達を相手取りながら飛び跳ねている。闇が怖いと思う気持ちは否定できないが、代わりに目映いほどの光を生むのは違うはずだ。
「眩しくてたまらないし、その子たちを早く解放したいから手荒くいくよ」
 ごめんね。
 そっと告げた言葉と同時に、桜雪は風と雪を巻き起こしていく。
 まずは周囲に集いはじめた童子妖怪から。雪風で撫でるように妖怪達を穿つ桜雪は次々と、確実に妖怪を伏せさせていく。
 元より力を使い果たしていた相手であるゆえ、手数は然程かからなかった。
 弱った身体に鞭を打つようで少し心が痛んだ。しかし、先程も今もこうすることがかれらを救う最良の手となる。
「たくさんいたけれど、ちょっとは数が減らせたかな?」
 他の童子達は別の猟兵の元に向かっている。仲間に任せておいても大丈夫だと感じた桜雪はキョンシー木綿との距離を詰めていった。
 相手はやはり素早い。
 それでも目で捉えられないほどではない。
 桜雪は光の弾幕の間を掻い潜り、他の仲間に気を取られている一反木綿に近付いていった。ふと見れば、仲間が放った鎖が骸魂を捕えている。
 これはチャンスだと感じた桜雪は、鎖を振り払って逃げてくるであろうキョンシー木綿の軌道を予測した。
 素早い相手に小細工は通用しないだろう。
 ならば――。
「ごめん、痛いの、いくよ」
 逃げる相手の前に回り込み、一反木綿の懐に飛び込んだ桜雪は一気に力を解放した。
 零距離からの氷雪と風が骸魂を凍らせていく。
「うぐ、う!」
 苦しげな声をあげた骸魂妖怪は腕を大きく振るった。桜雪は反撃が来ると察して相手から離れる。桜雪をすぐには追えないほど、骸魂はかなり弱ってきているようだ。
 桜雪は次の一手を叩き込む機を見計らう。
「道を照らす灯りは必要だ。ボクもよく知ってる」
「だったら、ナンデ邪魔するの?」
 桜雪とキョンシー木綿の視線が交差した。
「でもね? こんなにド派手な道しるべは勘弁願いたいな。目がチカチカして痛いし、暗闇以上に迷ってしまうよ」
 明かりも暗闇も適度が一番。
 それに――あまりに明るすぎると、闇もまた暗くなりすぎて怖くなるから。
 桜雪は自分が抱く思いを伝え、雪と風を周囲に広げていく。
 戦いの終わりは少しずつ近付いてきている。眩しすぎる光も間もなく消えるのだと感じながら、桜雪は真剣な眼差しを向けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
あらまあ、せっかくのお月様が
眩しげに笠を被り直し相手を一瞥

あなたこそ、夜に綺麗にうつるのに

かつては夜にひらりと舞い降りたであろう一反木綿の姿を想像し
闇夜に乗じて愉しんだヒト達の顔を隣に思い描く


とうに忘れられた私たちもまた
こうして人間のことを忘れてしまうのか知ら

かわいそうに
おなかがすいて しようがないのね

しとやかにため息を零したのち
刀をとりだすと同時
芝居じみた涙をひとつよびよせる

瞬きひとつで周囲の眩しさは息をひそめ
戦場は先程思い描いたほの暗い夜の竹やぶへ

ほら、こちらの方がよく似合う

その姿を捕えやすくなった闇夜に浮く白へ優しく語り掛け
微笑んで刀をふるって



●雨夜に月光
 光は満ちて、夜を覆い隠している。
 今頃ならば月が煌々と輝いて真夜中の闇を静かに照らしてくれるというのに。
 空を見上げても光ばかり。
「あらまあ、せっかくのお月様が」
 眩しげに緩く頭を振った鈍・しとり(とをり鬼・f28273)は笠を被り直し、光の中心にいる骸魂妖怪を一瞥した。
 ひらり、ひらりと舞う一反木綿の骸魂は光を反射して更に白く輝いている。
「あなたこそ、夜に綺麗にうつるのに」
 しとりは感じたままを言の葉に変え、周囲を飛び交う光の弾幕を避けた。
 一歩横へ、それから後ろへ、しとりは流れるように重心を移す。光自体を躱すのは容易だが、問題は光に紛れて飛び回るキョンシー擬き達だ。
 かつては夜に一陣、風のように舞い降りたであろう一反木綿の姿を想像したしとりは双眸をそうっと細めた。
 同じくして、闇夜に乗じて愉しんだヒト達の顔を隣に思い描く。
 しかしそれは遠い、遠い昔の噺。
「とうに忘れられた私たちもまた、こうして人間のことを忘れてしまうのか知ら」
 かわいそうに。
 ちいさな言葉を落としたしとりは淑やかに溜息を零す。
「おなかがすいて しようがないのね」
 ――ゐらして。
 そして、刀を鞘から抜き放つと同時に芝居じみた涙をひとひら、降らせた。
 しとりの瞬きひとつで周囲の眩しさは息をひそめてゆく。其処に映し出されていくのは彼女の心象風景。
 戦場は瞬く間にほの暗い夜の竹藪へと変わり、光は押し込められていった。
「さぁ、進みましょうか」
 前に踏み込んだしとりは周囲の景色に戸惑う骸魂童子に刃を振るう。斬り伏せるのは妖怪自身ではなく、其処に宿る骸魂の欠片だけ。
 操り人形の糸を斬るように刃が疾走れば、童子達が次々と倒れていく。
 しとりはキョンシーと化していた妖怪達が更に気を失ったことを確かめ、一反木綿が操るキョンシー娘の方へと駆けた。
 されど其処は光の中心。
 夜の心象風景と目映い光の情景がぶつかりあい、景色が不可思議に揺らぐ。
 それでも相手を捉えるのは先程より容易だ。
 しとりは闇夜と光に浮く白へと視線を向け、優しく語り掛けていく。
「ほら、こちらの方がよく似合う」
「似合いなんてするものか! 暗いのはイヤだ!」
 対する一反木綿は操る娘の声で拒絶を示した。刹那、相手の鋭い視線と片目を眇めたしとりの微笑みが交差する。
 笑んだまま刀を振るったしとりはキョンシー娘に纏わりつく骸魂を斬り放った。
 くう、という苦しげな声を溢した相手は素早い蹴りで以て反撃に移る。しとりは咄嗟に刃を立てて蹴撃を受け止めた。
 重い衝撃が響くと同時に妖怪は高く跳躍して、しとりから距離を取る。
「もうすぐね」
 周囲に再び光の景色が広がっていく様を見上げながら彼女は感じ取った。
 あの空に月の光が戻ってくる時が訪れるのも、あと少しだと――。
 そして、戦いは終幕に向かって巡ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
嫌ですねぇ、昼夜揃ってこそじゃねぇですか
まして、夜は安寧、生きとし生けるものが穏やかな眠りに就き、英気を養うための大切な時間ですよ
ご自分の都合でそれを妨げちゃなんねぇでしょう
……ま、自分は種族柄寝なくても良いんであんまり関係ないんですが

まあ、負の感情ならこの辺にそれなりに溢れてますしねぇ
喰らうに困りませんよ
【恐怖を与える、誘惑】で敵の攻撃のタイミングを誘導し、【カウンター、呪詛、継続ダメージ】
全く、吸収する生気も血液もなさそうなんですもの
どうせ戦うのなら、糧になってくだされば宜しいのに

おやすみなさい、一反木綿
今度は迷うことなく、あの世にはきちんと行けると良いですねぇ



●呪は深く
 光、ひかり、そのまた光。
 唯只管に眩しい、目映いとしか表せぬ世界の様相に肩を竦め、雲烟・叶(呪物・f07442)は煙を燻らせる。
「嫌ですねぇ、昼夜揃ってこそじゃねぇですか」
 周囲を騒がせる光の中心にいる骸魂妖怪は夜を厭っているようだ。
 極端過ぎるのではないかと口にした叶は目を細め、標的との距離を詰めていく。既に操られていた童子達は他の仲間によって倒されている。
 童子妖怪は倒れてはいるが、生命を脅かすような負傷は受けていないらしい。これも仲間のお陰だと察し、叶はキョンシー木綿を見据えた。
「まして、夜は安寧の象徴。生きとし生けるものが穏やかな眠りに就き、英気を養うための大切な時間ですよ」
「そんなの綺麗事ダヨ!」
 対する一反木綿は操る娘の声を使って反論してくる。
 其処に満ちる負の感情は相当なものだ。ああやって誰かの身体に入り込まねば顕現出来ず、言葉すら発せない。
 ただ彷徨い、恨み辛みだけを抱えて漂うのはどんなものだろう。
 その感情を喰らっていく叶は首を振り、綺麗事だと語る一反木綿に言い放つ。
「ご自分の都合でそれを妨げちゃなんねぇでしょう」
「迷う世界なんて消えちゃえ!」
 しかし相手は聞く耳を持たず、自分の主張ばかりを声高に掲げた。これではいつまでも平行線でしかないと感じた叶は溜息をつく。
「……ま、自分は種族柄寝なくても良いんであんまり関係ないんですが」
「それならイイでしょ!」
 するとキョンシー木綿が強く地を蹴った。
 鋭い拳が迫り、叶の胸を貫かんとしている。だが、動きを察知した叶は文字通りに煙に巻くように拳を回避した。
 しかし其処に連撃が叩き込まれようとしている。
 その状況の中で叶は薄く笑う。すると周囲に恐怖を覚えさせる呪の空気が満ちた。
 一瞬だけ敵がびくりと身体を震わせたことを悟り、叶は呪詛を解き放つ。彼が纏う呪詛はより凶悪なものへと変貌していき、キョンシー木綿に絡みついていった。
「あ……わあ、あ――」
「全く、吸収する生気も血液もなさそうなんですもの」
 その力を受けた相手は恐怖の声を上げている。おそらく叶が纏う雰囲気から闇に包まれたような感覚をおぼえているようだ。
「どうせ戦うのなら、糧になってくだされば宜しいのに」
「ぐ、うう……離れろッ!」
 自分の顳を指先で軽く叩いた叶は静かに笑った。其処にすら恐怖を感じたキョンシー木綿はなんとか呪詛から脱して逃げていく。
 その背を見つめた叶は慌てることなく、彼なりの歩みで後を追っていった。
「そろそろおやすみの時間ですよ」
 終わりは近い。
 今度は迷うことなく、あの世にはきちんと行けるように――。
 叶はそっと思いを抱き、戦いの行方を見据えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
……君は、光を暴力にして振りかざしているだけだよ。
あまりにも眩しすぎると目が眩む。

光の届かない闇の中でそうであるように
闇のない光の中では必然的に闇を求めてしまう。
見えないからね。

さて、どうしたものか。
先程ふわもこたちに作らせた物で影を作ろう。
君はあまりにも眩しい。

嗚呼。私は光を生み出す事は出来ないが闇を生み出す事はできるよ。
この著書の情念の獣がその証。
彼らには目がない。
だから光など意味のない物。

ただ本能のままに求めて這う獣だ。
さて問おう。
「なぜ闇は不必要なのだろう?」

私の満足する答えを呉れ。
くれないのなら此処で、さようならだ。



●冥と明
 光が迸って白布が揺れる。
 闇が嫌だと拒絶している一反木綿の力は随分と疲弊していた。英は伴っていたふわもこ達に倒れた童子妖怪を任せ、首魁を見つめている。
「……君は、光を暴力にして振りかざしているだけだよ」
 英は語る。
 あまりにも眩しすぎると目が眩み、何も見えなくなってしまう。闇も光も度が過ぎれば毒となり、己を害するものになっていくだろう。
 闇に射す月光。
 或いは日向に出来る影。
 そういったものこそが本や物語の描写の中でも映える。
 光の届かない闇の中でそうであるように、闇のない光の中では必然的に闇を求めてしまう。そう、何も見えないから――。
 しかし、目の前の妖怪はそれを理解していない。骸魂と化した所為か、理解しようともしていないと表すのが相応しい。どうしてか相手の姿は何だか哀しげだ。
「さて、どうしたものか」
 少しばかり考え込んだ英はふと思い立つ。
 先程にふわもこたちに作らせた物で影を作り、眩さを軽減させればいい。視界は僅かに悪くなるが光に遮られるよりは幾分も良いはずだ。
「君はあまりにも眩しいからね」
「明るくていいでしょ。これがぼくの望む世界だ!」
「おや、それは困ったね」
 英の声に気付いたキョンシー木綿が胸を張った。相手は影を作る英を邪魔だと感じたらしく勢いよく駆けて迫ってくる。
 無論、英とて敵の接近を察知していた。
「嗚呼。私は光を生み出す事は出来ないが闇を生み出す事はできるよ」
 この著書の情念の獣がその証。
 相手が近付いてくる直前に力を紡いだ英は本を開く。いつものように頁を捲れば、其処から獣達の無数の手が溢れ出てきた。
 彼らには目がない。
 それゆえに光など意味のないものだと断じられる。
 此れはただ本能のままに求めて這う獣。そして、英は妖怪に問いかける。
「なぜ闇は不必要なのだろう?」
「それは――」
「私の満足する答えを呉れ」
「暗くて怖いからだヨ!」
 獣の指先を蹴り上げた一反木綿は宣言する。だが、それでは英の満足する答えには成り得ない。獣と妖怪の攻防が繰り広げられる中、問答も一緒に戦場に巡る。
「くれないのなら此処で、さようならだ」
「――ッ!」
 肩を竦めた英の言葉が落とされた。
 それと同時に鋭い獣の爪が一反木綿の一部を引き裂く。分が悪いと察した相手は英から距離を取るべく必死に駆け出した。
 されど其方には別の猟兵が待ち受けている。
 それすら判断できぬほどに骸魂は弱っているのだ。英は、間もなく屠られて骸の海へと送られるであろう魂の残滓を見遣る。
 ひらひらと舞う白の軌跡はやはり、何処か悲しげに映った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
昏い道は、怖いよな
迷い子は、嫌だよな
いいよ、アタシが連れて行こう

眩い光の示す先が、必ず幸福とは限らない
光が強ければ強いほど、造られる影の色は濃くなっていく
……それに、光の中だけでは誰も生きていけるわけではない
オマエの動かすその骸、解放してやってくれはしないか
オマエの帰り道は、アタシが照らして導いてやるから

明食鎖を振り回し、素早いその身を捕えてやろう
そら、捕まえた
鬼に捕まればどうなるか、わらべなら良くわかるだろう?
指先から鬼火を出して、キョンシーを包み込む
もう迷うことなく、安らかであれ



●鬼火の導き
 徐々に光に陰りが見えてきた。
 戦いは巡り之き、夜や暗闇を厭う骸魂の力も間もなく潰えるだろうことが分かる。
 それまで操られた童子を相手取っていた萃請は周囲を見渡した。もう起き上がってくる妖怪はおらず、すべて骸魂を切り離されている。
 光が飛び交い続けるこの戦場に残るは、キョンシー娘を操る一反木綿のみ。
「昏い道は、怖いよな」
 萃請は他の猟兵から逃れようとして駆けてくる骸魂妖怪を見据えた。
 彼の骸魂の気持ちは解る。
 だから否定などはせず、その心と思いに同意を示す。
「迷い子は、嫌だよな」
 どれほど強い妖怪でも、鬼であっても、道を違えて迷うことを由とはしないだろう。
 萃請の方に逃げてきた一反木綿はもうボロボロだった。
 魔力に溶かされ、呪詛に蝕まれ、破られて――もしこれが骸魂が幽世に留まる報いや応報なのだとしたら、もう此処から還してやるべきだ。
「いいよ、アタシが連れて行こう」
 萃請は鬼の力を紡ぐ。
 揺らめく青白い鬼火が光の最中を舞い、道を示すように飛んでいった。
「なあ、聞いてくれないか」
 諭すような口調で萃請は一反木綿に呼び掛けた。
 眩い光の示す先が、必ず幸福とは限らない。
 萃請はそのことを識っている。闇が深ければ深いほどに恐ろしくなるのと同様に、光が強ければ強いほど造られる影の色は濃くなっていく。
「……それに、光の中だけでは誰も生きていけるわけではない」
 かれは光を求める。
 だが、操られている骸の娘は夜を好んでいる。
「解放してやってくれはしないか」
「イヤだ……」
「オマエの帰り道は、アタシが照らして導いてやるから」
「いや、だヨ……!」
 必死に鬼火を避けながら、一反木綿は抵抗していく。萃請は双眸を鋭く細めて首を横に振った。周囲の光が弱まる。それが示しているのは世界の崩壊が防がれている――即ち、骸魂妖怪の力が衰えているということだ。
 明食鎖を手にした萃請は、鬼火を操りながら刃を振り回す。
 あれほどに弱っていても相手の動きは素早い。されど萃請とてしかと一反木綿の動きを呼んでいた。鎖で以てその身を捕えた萃請は鎖を一気に引く。
「そら、捕まえた」
「うわあッ!?」
「鬼に捕まればどうなるか、わらべなら良くわかるだろう?」
 幼い見た目からは想像出来ぬ程の力で鎖を引き寄せれば、一反木綿が纏わりつくキョンシー娘の身体が大きく飛んだ。
 足元に落下して倒れた相手を見下ろし、萃請は別れの言葉を伝える。
「もう迷うことなく、安らかであれ」
 指先から放たれた熱のない鬼火が白い布を包み、そして――。
 燃える。燃える。
 魂の欠片は道行を慈しむような蒼の炎に導かれ、燃え逝きながら天に昇っていく。

●迷わぬ道を
 こうして戦いは終幕した。
 光は収まりはじめ、辺りの眩さが少しずつ消えていく。
「還っていったね」
 かくりはこれで漸く慣れ親しんだ仄闇が戻ってくるのだと察し、褪せた彩の瞳をゆるりと瞬いた。指環を撫ぜれば彼女の傍に居た死霊達は姿を消した。
「そうだな、これで俺達の役目も終わりか」
 ユヴェンは仲間の声に頷きを返し、薄まっていく光を見送る。
 己の遊色の光も導きのひとつになっただろうか。ユヴェンが空を見上げる最中、綾もまた双眸を緩めて魂を見届けていく。
「どうか、在るべき場所へ」
「ユキの六花もいっしょに、おともします!」
 掌を掲げた紗雪は、ふうっと氷の吐息を吐き出した。きらきらと瞬いた氷の欠片は天に昇り、魂の後についていったようだ。
「わー、すっごく綺麗!」
 焔璃が六花の煌めきに明るい声をあげると、えへへ、と紗雪がはにかむ。
 空を振り仰いだ焔璃はふと気付いた。
 同時にオリアナとキャロルも、竹林の光景がはっきりと見え始めてきたことを察する。
「これがこの場所の本当の姿ですのね。恋が生まれそうな予感がしますわ!」
「お祭りも無事に行われそうですね」
 オリアナは光る竹が淡く輝いている様を見つめ、キャロルはオルキヌスと共に自分達が無事に役目を果たせたことを確かめる。
 叶も消えゆく光を見遣ってから、暗くなっていく空を眺めた。
「もうすっかり夜ですねぇ」
「元から真夜中だったみたいだからね。戻って良かった」
 こくりと頷いた桜雪も静かな夜の光景をそっと見ている。その肩の上にはぱちぱちと丸い瞳を瞬く相棒シマエナガが乗っていた。
 英はシマエナガが愛らしいと感じながら、自分の元に戻ってきたふわもこ達に手を差し伸べる。ご苦労様、と告げればふわもこは英の傍に擦り寄った。
「さて、後はこの子たちか。だけど心配はなさそうだな」
 萃請は倒れたキョンシー娘や童子妖怪達を見下ろす。戦いの中でかれらを介抱していた者もおり、誰も大事には至っていないらしい。
「おっと、もう起き上がってら」
 萃請と共に妖怪の様子を見ていた彌三八は幾度か瞼を瞬く。驚くのも無理はない。徐々にかれらが目を覚ましはじめたのだ。流石は妖怪だ。
 全てが無事に巡った。
 そう感じたフルラはお供の黒猫、シィを撫でながら天空を見上げる。
「良い月だ」
「ほんとうに。白の彩が舞うには良い夜ね」
 フルラが零した言葉に同意したしとりも夜空の月に瞳を向けた。夜の闇は何も怖いものばかりではない。
 骸の海へと葬送された魂も、そのことを識ってくれるだろうか。
 どうか闇夜を怖れないで。
 だって、ほら。迷えるものの昏き路を照らしたいと願った皆の想いは、此処で確かに光り続けているのだから。
 
 そうして、夜は更けて――。
 祭囃子が響いていけば、天を明るく染める魂魄の奉がはじまっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ライトアップステージ!』

POW   :    屋台巡りで楽しむ

SPD   :    幻想的なステージで踊ったり歌う

WIZ   :    より良いステージの為に演出する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●魂魄祭にようこそ!
 光に覆われていた幽世は夜を取り戻した。
 月光が夜道を照らし、竹林には淡く光る竹がちらほらと見え始める。その中で妖怪達は平穏が戻った林の広場で祭や屋台の準備を整えていた。
 広場に屋台通り、竹林。
 祭の舞台は様々で、それぞれに違った雰囲気と楽しみ方があるらしい。
 
 まずはお祭り広場。
 笛や太鼓、三味線をはじめとした楽器を持ち寄った妖怪達は祭囃子を奏でている。
 妖しくも楽しげな音楽に乗って、他の妖怪は好き好きに踊っていた。ぴょんぴょんと跳ねるキョンシー、それに合わせて腹太鼓を鳴らす狸妖怪など。
 童子妖怪は駆け回り、楽しげな声をあげている。
 一緒に踊りたいと申し出れば、かれらは快く受け入れてくれるだろう。
 
 次に屋台通り。
 最初に目につくのは天ぷらを揚げている屋台。
 食欲をそそる良い香りを漂わせている天ぷら屋。その一番の人気は海老型の魂をカラッとあげたエビ天だ。他にも鮎の天ぷらや、玉子や竹輪天などもある。
 冷めても美味しい天ぷらを、妖怪達はなんと素手で持って祭内を闊歩している。だが、素手天ぷらは妖怪達としてはごく普通のことらしい。
 そして、隣には蕎麦屋が軒を連ねている。
 きつね蕎麦にたぬき蕎麦、月見蕎麦、冷やしおろし蕎麦にざるそば。どれもコシがあって出汁が絶品だと評判だ。
 また、密かに人気なのがおにぎりの屋台。
 梅やシャケに海苔。シンプルな塩おにぎりや、特製醤油を塗った焼きおにぎり。ふんわりとしたお米の香りや、香ばしい匂いに誘われて買い求める者が多い。
 それから子供妖怪が群がっているのが駄菓子屋台だ。
 練り飴やアタリ付きのあんず飴、麩菓子にポン菓子。ちいさなガムやグミ、硬貨の形をしたチョコレート菓子など、昔懐かしい雰囲気の駄菓子が並んでいる。
 屋台通りは何処も賑わっており、とても良い雰囲気だ。
 
 そして、魂魄祭の一番大切な場所――明光の竹林。
 竹の園は静けさに満ちている。様々な理由で弱ってしまっていた魂や使い魔、霊などが休んでいる竹は通常ならば光など発しない。
 しかし、今夜の月光に照らされたかれらが力を取り戻したことで、こうして優しい光を宿すに至ったというわけだ。
 光る竹を割るか、またはそっと触れれば、中で眠っていた魂が目を覚ます。
 或る者は美しい幽世蝶と出会った。
 また或る者は金に光るあやかしメダルを手にした。
 そうして或る者は猫や烏の使い魔と邂逅したという。
 其処に現れた子とどんな出会いをして、どのようなひとときを共にするかは、光の竹林に向かった者次第。
 
 さぁさぁ、魂魄祭が始まるよ。
 あの子もこの子も、君も貴方も。そして、僕も私も。
 一晩中続くお祭りの最中で、今しかない時間を思いきり楽しもう!
 
オリアナ・フォルケ

あらあら、どこもかしこも本当に賑やか。
辛く思い悩むような片想いがあるからこそ、実った恋が煌めくように。
闇の中に灯った光のなんと美しいことでしょう!

熟した恋心のような綺麗な色に惹かれて購入したあんず飴を片手に
ゆったりとお祭りを見て回ろうかと思っていたのですけれど。

あそこの光る竹!なんてロマンチックなのでしょう!
祭りの喧騒から離れ、二人だけで語らうカップルなどが
竹林にいらっしゃいそうな雰囲気ではなくて?
そう思うや否や走る心は止められるはずもなく。
趣味のカップルウォッチングに打ち込むため、
そっと竹林の様子をうかがうつもりで光る竹へ手を添えますわ!



●恋色の彩縁
 祭囃子が響き、賑やかな声が重なっていく。
 仄かに光る竹と清かな月光に照らされた竹林には、不思議な雰囲気が満ちていた。
「あらあら、どこもかしこも本当に賑やか!」
 オリアナは夜祭を楽しむ妖怪達の様子を見て回っていく。
 この様子はまるで恋。
 辛く思い悩むような片想いがあるからこそ、実った恋が煌めくように。苦難を乗り越えた先に訪れた喜びはより楽しく見える。
 それに、と視線を巡らせたオリアナは竹林の光に瞳を向けた。
「闇の中に灯った光のなんと美しいことでしょう!」
 眩すぎた先程の光を思えば、ささやかな明かりがとても優しいものに思える。
 オリアナは上機嫌に歩みを進めていった。
 その手にはあんず飴が握られている。それは喩えるならば、熟した恋心のような綺麗な色彩。飴の中に閉じ込められた杏は心の在り方を形にしたもののようにも感じられて、実にオリアナ好みだった。
 甘さと仄かな酸っぱさに舌鼓を打ち、オリアナは微笑む。
 こうやって、このままゆったりと祭りを見て回ろうかと思っていたのだが――。
 ふと、或る竹がオリアナの視界に入った。
「あそこの光る竹! なんてロマンチックなのでしょう!」
 それまで見ていた竹とは少し違うように見える。一目惚れのような感覚が彼女の中に巡った。この感覚は信じるべきだと感じたオリアナはそちらに向かう。
 祭の喧騒が遠くなる。
 何処かに二人きりで語らうカップルや、もしくは告白前の素敵な二人組などは居ないだろうか。もし居たら恋の成就を願って見守るものとしてこの瞳に収めなければ。
 抱くのはときめきにも似た感覚。
 走る心は止められるはずもなく、オリアナは趣味に打ち込むためにそっと竹林の奥の様子をうかがう。
「まあ、いらっしゃいましたわ」
 声をひそめたオリアナは、恋人同士らしき妖怪達を見つける。
 楽しげに語らい、ときおり頬を染める二人の間には良い雰囲気が流れていた。邪魔をしないよう気配を完璧に消しているオリアナは、微笑ましげな表情を浮かべている。
 そして、彼女の隣には――謎の狛犬が居た。
「あら、アナタは?」
「わう!」
 オリアナが首を傾げると狛犬は元気よく鳴いた。どうやら先程、カップルを見守るために手を添えた竹の中にいたものらしい。
 小型犬くらいの大きさの狛犬はオリアナの横で尾を揺らしていた。おそらく恋人達を見て、オリアナと同じように良い気分になっていたのだろう。
 狛犬の毛並みは純白。
 しかし、首周りにある獅子のようなふわふわした鬣は鴇色。つまり、ピンク色だ。
「アナタは恋の色を宿していらっしゃいますのね!」
 オリアナは狛犬の頭を撫でた。
 一緒にカップルウォッチングをしましょう、と誘えば狛犬は「わうわうっ」と楽しげに鳴いて応える。そうして、オリアナと狛犬は共に竹林をゆく。
 次はどんな恋人達と出逢えるのか――もとい、こっそり眺められるのか。
 一人と一匹の夜はまだまだ始まったばかり。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
「✨」

無事に終わったね。よかった。
目も痛くないや

…くしゅん。さすがに氷嵐は寒かった…。
温かいもの食べようよ。えっと天婦羅そば?うん、それにするよ。
ちゃんと温まるから無茶したのは見逃してよ相棒。…くしゅん。
天婦羅蕎麦温かくて美味しい。ホッするね。好きな味、かも。

お蕎麦を食べたら竹を見に行こう。
どんな子が来てくれるのかな。楽しみだ。
少しだけドキドキしながら、竹に触れてみよう。
出てきてくれたら挨拶をして一緒にお祭りを楽しみに行こうか。
初めまして。どうぞ、よろしく、だね。
さっそくだけど、遊びに行こうよ。
何がいい?さっきお蕎麦を食べたけど美味しかったよ。今度はおやつ食べようよ。
…実は甘いの好き、なんだ。



●縁を繋ぐ光
 戦いは無事に終わり、平穏が此処に満ちている。
 桜雪は賑わっていく祭の様子を眺めながらゆっくりと歩いていく。空には夜の色が宿っていて、闇を照らすのは提灯の明かりや光る竹だけ。
「よかった。もう目も痛くないや」
 瞼を瞬いた桜雪が穏やかな声を紡ぐと、ぴぴ、という鳴き声が肩から響く。
 うん、と頷いた彼は相棒のシマエナガも「よかったね」と言ってくれているのだと察して双眸を緩めた。
 しかし、そのとき。
「……くしゅん」
 桜雪は身体を震わせた。流石に先程の氷嵐は寒過ぎたようだ。
 ふるふると首を振った桜雪は腕を伸ばし、やさしい明かりが灯る屋台通りを指差す。
「温かいもの食べようよ」
 そうすればきっとこの身体も温まる。
 相棒は鳴いて同意を示し、ふたりは屋台通りに踏み出していく。すると或る屋台の店主が桜雪に声を掛けてきた。
「よう、坊っちゃん。何か食うかい?」
「えっと……」
「ウチのおすすめは天麩羅を乗っけた蕎麦だよ。どうだい!」
「天婦羅そば? うん、それにするよ」
 勧められるままに注文した桜雪は蕎麦が用意されていく様を見つめる。手際よく器に蕎麦と天麩羅が盛られていく様子は何だか面白い。
 その間に相棒は、じゅりり、と鳴いて桜雪に注意を促していた。
「ごめん。ちゃんと温まるから、無茶したのは見逃してよ相棒。……くしゅん」
「ほらよ、お待ちどう!」
 桜雪がもう一度くしゃみをしたとき、ちょうど蕎麦が渡された。湯気を立てる蕎麦もちょこんと乗った天麩羅も熱々だ。
 桜雪はふーふーと蕎麦を冷ましてから、そっと口に入れた。
 温かくて美味しい。
「ホッとするね。好きな味、かも」
 そう感じた桜雪は少しずつ、しっかりと蕎麦を味わって食べていく。出汁を吸った天麩羅はふわふわとしていて此方も嫌いではない。
 そうして暫し、桜雪はのんびりとした時間を過ごした。
 屋台の次は竹林へ。妖怪達が踊る様を眺めて楽しみながら、光る竹の元へと向かう。
 光は様々で何処に触れようか迷ってしまう。
 その中で桜雪は妙に気になる竹を見つけた。もしかしたら何らかの力が共鳴しあったのかもしれない。
「どんな子が来てくれるのかな。楽しみだね」
 相棒に語りかけた桜雪は少しだけドキドキしながら、竹に手を伸ばした。
 そして、指先が光に触れた瞬間。
 雪色の光を纏った真っ白な稲荷狐が足元に現れる。こんばんは、と挨拶をした桜雪は狐に穏やかな眼差しを向けた。
 ――コンコン。
 稲荷狐は軽く鳴き、桜雪を見上げる。
「初めまして。どうぞ、よろしく、だね。さっそくだけど遊びに行こう」
 ――コン!
 狐は尾を振り、ぜひ、というように桜雪の傍に寄り添った。
「何がいい? さっきお蕎麦を食べたけど美味しかったよ。今度はおやつ食べようよ」
 実は甘いものが好きなのだと話しつつ、彼らは屋台通りへ歩を進める。
 提灯の明かりはやさしい。
 その灯はまるで、新たな出会いを経た彼らを迎え入れるように光り続けていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾


祭囃子の賑わいが
屋台を廻る足取りを
いっそう軽やかにしてくれる

やぁや、楽しいですねぇ

擦れ違う妖怪達や禰々子さんと
はいたっちしたり
手を取り合ってくるりと回ったり
意気投合した店主に秘蔵の酒を頂戴したり

お勧めのお握りを両腕に沢山抱え
神秘的に輝く竹林で一休み

漣のように届く音色は優しく
耳に心地良い

傍らでほんのり燈る竹をそっと撫で
眠る魂魄を労ったなら
どんな子と出会えるかしら

お腹を空かせていないだろうか
寂しく泣いた涙の跡はないだろうか

こんばんは
素敵な夜ですねぇ

穏やかに声をかけ
空腹ならお握りを分け与えて
其れから
風の音と遠い囃子の楽に添うように
ゆったり篠笛を奏でよう

どうぞ
あたたかで安らかな目覚めでありますように



●目覚めたものは
 祭囃子と賑わいが聴こえる。
 楽しげな笑い声と音色は、屋台通りを廻る足取りを軽くしてくれるようだ。
 妖怪の子供達がはしゃぎながら駆けていく。その姿を見ると、よりいっそう心が軽やかになっていく気がした。
 綾は子供らに手を振り、彼らと一緒に遊んでいるらしい禰々子に声をかける。
「やぁや、楽しいですねぇ」
「本当! 賑やかでみんな元気で、とっても楽しい!」
 禰々子は綾に笑いかけながら、その手に自分の手を重ねた。快い音が響いてハイタッチが交わされる。またね、と告げて子供達と駆けていった禰々子を見送り、綾は屋台通りを目指していった。
 すると或る出店の店主が綾に目を留め、ひらひらと手を振ってくる。
「よお兄ちゃん、アンタは行けるクチっぽいな」
 その店先には瓢箪や酒瓶がぎっしりと並べられていた。ええ、と頷いた綾は手招かれるままに其方に歩みを寄せていく。
 そうして、暫し後。
 あっという間に意気投合した店主から、秘蔵の酒を頂戴した綾は上機嫌だ。
 赤い瓢箪に入れられた酒の味は絶品だった。この酒には米も合うのだと教えられた綾はお握りの屋台に寄ってきたばかり。
 鮭に梅。変わり種は安全な骸魂を入れ込んだお握り。
 お勧めされたものを両腕にたくさん抱えた綾は竹林に向かう。
 良い気分のまま、好い場所へ。そうすればまるで導かれたかのように歩が進んだ。そうして綾は人気の少ない林の奥に辿り着く。
 綾の視線の先には、神秘的に光輝く竹がある。
 広場からは離れた場所であるゆえに祭囃子の音は遠くなっていた。けれども、漣のように届く音色は優しくて耳にも心地良い。
 綾はそうっと手を伸ばした。
 光を纏う竹の一部に掌を添えてみると、ほんのりと明滅する。燈る明かりもまた心地の良いものだと感じて、そのままそっと竹を撫でた。
 すると――。
 ふわり、ふわりと光が竹から抜け出てくる。睡っていた魂魄が綾の労いの思いを受けて現れて出てきたようだ。
 双眸を細めて光を見守っていた綾は、それが徐々に形を成していくことに気が付く。
「やぁ、こんばんは」
 指先を光に寄せれば、それは薄青を纏った蝶々の姿になる。指に止まった幽世蝶は言葉こそ話さないが、綾へと感謝を抱いているように思えた。
 お腹を空かせていないだろうか。
 寂しく泣いた涙の跡はないだろうか。
 睡っていた魂へのそんな心配も今はもうない。何故なら蝶々からは穏やかな心地が伝わって来ている。そして、貴方の傍にいさせてください、という意思も感じられた。
 ええ、と頷いた綾は幽世蝶を慈しむような視線を向ける。
 共に過ごすのがひとときだけなのか。
 それとも、これからずっとなのか――それは、彼の思い次第。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
俺達の故郷は常に闇で、光は憧れの存在ではあるけど
それでもこの、月明かりに照らされた景色や
ライトアップは光だけの世界では見られないものだよね

何だか懐かしさを感じさせる出し物がいっぱいで
童心に返ったような気分になれるね
まぁ俺、子供の時のこと何も覚えてないけど
雰囲気だよ雰囲気
あっ、梓。俺もエビ天食べたいな
あはは、何のことかなーと笑いながら美味しくいただく
外はサクッ、中はプリッとしていて最高だね
なんてCMみたいな感想が出ちゃう

光る竹を眺めてたら
お爺さんが光る竹を切ったら中から赤ん坊が、
なんて昔話を思い出したよ
俺達はいったい何と出会えるんだろうね?
せーの、で一緒に触ってみようか



乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
まぁ何事も過ぎたるは及ばざるが如し、ってやつだな
光る竹林を眺めながら祭り会場へ

この世界の妖怪はもともとUDCアースに居たからか
祭りの内容や屋台もUDCアースの夏祭りのようだな
…ん?何か食いたいのかお前ら
顔を覗かせて鼻をくんくんさせる焔と零
仕方ないな、エビ天2つ頼む
じゃあ、もう1つ追加で……ってちょっと待て
しれっとその場の流れで俺に奢らせたな綾!?
ったく、火傷するなよ
二匹と一人に言う

賑やかな祭りを楽しんだあとは竹林へ
静けさと淡い光に包まれたこの空間は居心地が良い
はいはい、せーのな
もしかしたら、焔や零の良い遊び相手になれそうな奴と
出会えるかもしれないな
✨(使い魔系希望



●闇色の出会い
 自分達の故郷は常に闇だった。
 それゆえに光は憧れの存在ではあるけれど――。綾は周囲を眺め、賑わう声と淡い光の数々に双眸を細めた。
 それでも、と口にした綾は月を見上げる。
「うん、綺麗だ。この月明かりに照らされた景色や。ライトアップは光だけの世界では見られないものだよね」
 その声を聞いた梓は綾に頷きを返した。
「まぁ何事も過ぎたるは及ばざるが如し、ってやつだな」
 思うことはあれど、今は此処に満ちている雰囲気を楽しむのが良いだろう。
 光る竹林を眺めた梓は綾と共に祭り会場へ向かっていく。すると、それまで遠かった祭囃子の音色が次第に近くなっていく。
 妖怪達はそれぞれに楽しんでいるようだ。
 跳ねて踊るキョンシーや、盆踊りのような仕草で踊る小豆洗い。かれらに目を向けた梓は薄く笑う。綾も微笑ましさを覚えているらしい。
 駄菓子屋、蕎麦屋。
 レトロな雰囲気の屋台は悪くない。
「何だか不思議な雰囲気だ。どれも懐かしさを感じさせる出し物がいっぱいで、童心に返ったような気分になれるね」
 まぁ俺、子供の時のこと何も覚えてないけど。
 そんな風に付け加えた綾は、懐かしさもまた雰囲気だといって屋台通りを進む。
 綾が零した言葉を反芻した梓は、そうか、と納得した。その理由は、この世界の成り立ちを思い出したからだ。
 この世界の妖怪達はもともと地球に居た。それゆえに祭りの内容や屋台も日本の夏祭りのようになっているのだろう。
 その最中、焔と零が鼻をくんくんさせていた。
「……ん? 何か食いたいのかお前ら」
 顔を覗かせた焔と零はどうやら屋台に興味津々のようだ。梓は少し先に見えた天ぷらの屋台に歩み寄り、妖怪の店主に向けて指を二本立てる。
「仕方ないな。エビ天をふたつ頼む」
「あいよ!」
「あっ、梓。俺も食べたいな」
 すかさず綾が梓にねだり、もうひとつ、と示すように人差し指を立てた。
「じゃあ、もうひとつ追加で……ってちょっと待て」
 梓は流れで屋台店主に追加をオーダーしたが、その後にはっとする。既に店主は注文のエビ天を揚げ始めていた。
「しれっとその場の流れで俺に奢らせたな綾!?」
「あはは、何のことかなー」
 二人がそんな遣り取りをしていると、天ぷらがカラッと揚がった。
 さっそく受け取った綾は笑いながら美味しく頂いていく。梓は肩を竦め、わくわくしているらしい焔と零にも天ぷらを差し出してやった。
「ったく、火傷するなよ」
 梓が二匹と一人にそう告げれば、綾は味の感想を言葉にする。
「外はサクッ、中はプリッとしていて最高だね」
 何処かのコマーシャルみたいだと感じた綾はふたたび笑った。そんなこんなで賑わう屋台通りを抜けていけば、一行は静かな竹林に辿り着く。
 静けさと淡い光に包まれた空間は居心地が良かった。
 綾と梓は光る竹を眺め、穏やかなひとときを過ごしていく。そうしてふと、綾は或る昔話を思い出す。
「お爺さんが光る竹を切ったら中から赤ん坊が、なんて話があったよね」
「だな、これもそういう類なのか?」
 赤ん坊は面倒見れないけどな、と冗談めかした梓も光を見つめた。
 時折、淡く明滅する光には何が眠っているのだろう。自分達が起こすことになる魂や使い魔の姿は未知数だ。
 綾は想像を巡らせ、傍らに立つ梓に問いかける。
「俺達はいったい何と出会えるんだろうね?」
「もしかしたら、焔や零の良い遊び相手になれそうな奴と出会えるかもしれないな」
「キュー!」
「ガウガウ!」
 竹の下で駆け回っている仔ドラゴン達もまだ見ぬ相手が気になっているようだ。二匹に微笑ましさを覚えた綾はそっと掌を竹の前に掲げる。
「せーの、で一緒に触ってみようか」
「はいはい、せーのな」
 梓も倣って腕を伸ばして、せーの、と呼び掛けた。そして、二人は光に触れる。
 淡く輝いた光が竹から離れた。
 綾の前には蝙蝠が描かれた黒いあやかしメダルが現れる。
 同時に梓の前には風を纏う鴉の使い魔が出現した。
 漆黒のメダルは何らかの力を秘めているらしく、鈍く光っていた。同じく黒い鴉も風の属性を持っているらしく、翼を羽ばたかせて微風を起こす。
「これは……?」
「闇の色だな、どっちも」
 昏い闇に閉ざされた世界に生まれた自分達に似合う色なのかもしれない。綾はメダルを掌の上に乗せ、梓は肩に止まった鴉に視線を向ける。
 此処でこうして出会った存在と、どのような時間を過ごしていくのか。
 それは、きっと――彼らだけが知るひとときの記憶になる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
この世界に辿り着くことができずに亡くなった者達
骸魂として新たな生を与えられたかと思えば、世界を侵す者として再び倒される
なんて哀しい存在なのでしょうか

オブリビオンとなった以上、その魂は何処へと行くこともできず、無に還ったのかもしれません
慰霊はもはや叶わぬかもしれませんが、せめて追悼させてください

祭りにいる妖怪の中に、生前の一反木綿のことなどを知っている方がいましたら、好きだった食べ物などをお訊きし、それを買いましょう。そして、彼らと戦った場所にそれらを捧げるとともに、歌を唄います

この世界にもオブリビオン・フォーミュラはいるのでしょうか
だとしたら、いつか倒し、彼らのような者が生まれえぬ世界に――



●鎮魂の思い
 ――骸魂。
 それらは、この世界に辿り着くことができずに亡くなった者達。
 骸魂となって或る意味での新たな生を与えられたかと思えば、世界を侵す者として倒されていく。キャロルは骸魂という存在に思いを馳せる。
 竹林の片隅で考えを巡らせていたキャロルは、静かに呟いた。
「なんて哀しい存在なのでしょうか」
 かれらは苦しみに満ちている。
 オブリビオンとなった以上は仕方ないのだろうか。その魂は何処へと行くこともできず、無に還ったのかもしれない。
 キャロルは先程まで戦っていた一反木綿や、名もなき魂を思う。
 そして、両手を重ねた。
「慰霊はもはや叶わぬかもしれませんが、せめて追悼させてください」
 視線の先には光る竹がある。
 敢えて其処には触れず、キャロルはそっと祈った。
 そうしてキャロルは静かな竹林から、賑わっている祭広場へと歩を進めていく。
 その目的はひとつ。
 祭りにいる妖怪の中から、生前の一反木綿のことを知っている者を探すためだ。
「一反木綿? 僕らとは違う時期にカクリヨに来た子だろうからなあ」
「ごめんなさい、よく知らなくて……」
「うーん。違う一反木綿ならあっちにいるけど、骸魂さんじゃないんだよね」
 妖怪達は首を横に振る。
 キャロルは諦めずに情報収集を行っていったが、今回の骸魂について知っている者はこの場に訪れていないようだ。
 しかし、ふとしたときにある情報が手に入った。
「その一反木綿さんは知らないけど、チョコレートが好きなヒトが多いよ!」
「あとねえ、魂の天ぷらをお供えするといいかな」
 無邪気に笑って、アドバイスをくれたのは愛らしい座敷童子だ。
「ありがとうございます。そうしてみますね」
 キャロルは彼女達に礼を告げ、駄菓子屋台でちいさなチョコレートを購入した。それから天ぷら屋台にも寄ったキャロルは、座敷童子達が言っていたことを思い出す。
 この世界では骸魂を追悼することが多い。
 その理由は、元は皆が同じ妖怪仲間だったから。骸魂がオブリビオンだからといって無下にされているわけではないのだと知り、キャロルは少し安堵する。
 此処は思った以上に優しい世界だ。
 そうして、キャロルは戦闘場所に戻ってチョコレートと天ぷらを捧げた。
 取り合わせは不思議だったが、きっとこれで良いだろう。
「――♪」
 それから鎮魂代わりの歌を唄いながら冥福を願う。やがて歌い終えたキャロルは夜空を振り仰ぎながら、月を瞳に映した。
「この世界にもオブリビオン・フォーミュラはいるのでしょうか」
 そうだとしたら、いつか。
 まだ遠い未来かもしれないが、キャロルはそっと胸裏に願いを抱く。
 彼らのような者が生まれえぬ世界になりますように、と――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
やあっぱ祭りァ好いやな
妖の類と云うが、やる事ァ此方と何も変わらねえ
出店でさえそうだってんだからヨ、安気なモンさ
その地の事がよっくわかるなァ、飯だ
ちいと此の侭見て回ろうか

…と思ってたンだが、此の天麩羅の中身は魂だと云う
…食っていいのか
然も掴めと

…マ、郷に入っては、てえやつだな

他ァ大方見慣れたモンだが、この菓子?は知らねえな
子どもに混じり飴を練りまくり、柔ら硬い寒天を噛み、まァ色々試して最後
何だかんだと気に入りは、食った気のしねえ霞みてえな甘い棒

祭りの目玉の竹は気が向きゃあ行くが、俺ァ其れより此の景色よ
色んな妖がいやがるなァ
生まれも謂われも気になって仕方がねえ
端の方借りて似顔屋でもやろうかね



●描き之く世界
 祭囃子は賑やかに、きっと一晩中続いてゆくのだろう。
 自由気儘に踊る妖怪達の様子に口元を緩め、彌三八は歩いていく。笛の音色が耳に届き、笑いあう声が方々から聞こえてくる。
「やあっぱ祭りァ好いやな」
 屋台通りに盆踊りめいた催し。
 周囲で楽しんでいるのは妖怪達が多いが、故郷の世界での祭と何も違わない。楽しむ気持ちは誰しも同じ。良いねェ、と言葉にした彌三八は何度か頷く。
「何処でも、やる事ァ此方と何も変わらねえ」
 前方に見える出店には提灯が吊るされており、淡い光が心地よい。
 夜店は広場以上に賑わっているようだ。
「ちいと此の侭見て回ろうか」
 らっしゃい、らっしゃい、と客を呼ぶ声も彌三八がこれまで見てきた祭に似ていた。安気なモンだと感じて歩を進める彼は、不意に天麩羅屋台の前で立ち止まる。
 その地の事がよくわかるのはやはり食べ物だ。
 何が名産であるのか。どの店が評判であるのか。そして、その味は――。
「こいつにしようかね」
 海老天をひとつ、と屋台の店主に告げた彌三八は注文を終えた。あいよっ、と答えた店主は近くに浮かんでいた魂めいた何かを掴んで衣を纏わせ、油に浸す。
「……は」
 思わず驚きの声が彌三八から零れ落ちた。
 揚がっていくそれの形は海老だ。しかし、その前は火の玉のようだった。理解が追いつく前に店主が彌三八に皿に乗った天ぷらを差し出した。
「ほらよ、海老天だ!」
 此の天麩羅の中身は紛れもなく魂だ。食していいのか。しかも皿までくれるわけではなく、そのまま掴めと云われているらしい。
「……」
「お客さん、どうしたんだい?」
「いや。……マ、郷に入っては、てえやつだな」
 手を伸ばした彌三八は海老天を受け取る。あち、あちち、と最初こそ声をあげてしまったが、いつしか慣れてしまった。
 思い切って口に運ぶと、濃厚な海老の味が広がっていく。
 こりゃ美味え、と感想を口にした彌三八は上機嫌に次の屋台に向かった。其処にあったのは駄菓子の店だ。
 昭和レトロな雰囲気ではあるが、彌三八はそれらをよくは知らない。
「他ァ大方見慣れたモンだが、この菓子は面白いな」
 屋台に集まっていた子供妖怪に、どれがお勧めかと聞いてみると、かれらは「これ!」「これも!」と練り飴やガムを示してくれた。
 そうして彌三八は子供に混じって飴を練りまくり、柔ら硬い寒天を噛み締め、気の向くままに菓子を楽しんだ。不思議な食感ではあったが、どれもこれも悪くはない。
「食った気はしねえが、こりゃ良いな」
 宛ら霞のようだと感じた甘い棒。これは何だ、と感じつつも大いに味わった彼は随分と満足している。
 その中でふと、彌三八は竹藪に目を向けた。
 見れば妖怪が触れた光る竹から幽世蝶が浮かびあがっている。その景色が美しく思え、彌三八は懐に仕舞っていた筆を取り出した。
「此の景色の中にも、色んな妖がいやがるなァ」
 すねこすりに小豆洗い、豆腐小僧に座敷童子。その生まれも謂われも気になって仕方がないと感じた彼は、屋台の方に引き返していく。
 その目的は似顔屋をひらくこと。
 そして――。
 一晩限りの似顔絵屋台にあれよあれよと行列が出来ていくのは、もう暫し後の話。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英


嗚呼。光る竹。
不思議な竹だね。竹を斬ると赤子が出てくるのかな。
まさかね?少し触れてみよう。

竹の中から出てきた者と共に駄菓子の屋台に並ぼう。
並ぶ童もあやかし達か。
喜ぶ様は、人の子と何ら変わりないね。
一寸、失礼して。

嗚呼。私が珍しいかい?
人だよ。
それで、私はアタリ付きのあんず飴とポン菓子を頂きたいのだが。

アタリが出たらもう一本、なんて事はあるかい?
共に並ぶ子らにはポン菓子を分けよう。
我慢出来ないだろう。少しだけだよ。

所で、竹の中から出てきた君も何か食べたりするのかい?
食べたい物があるのなら共に並ぼうではないか。

幽世の祭も、嗚呼。良い物だ。



●猫と祭と夜のひととき
 にゃあ。みゃあ。
 英の傍らを歩く白い猫が、構って構ってと言うように鳴いている。
 額にバツ印のような黒い模様を持つ白い仔猫は、先程に英が触れた光る竹の中から出てきた猫の使い魔だ。
「分かったよ、分かったから。そんなに足に擦り付くと危ない」
 ちゃんと構うと告げた英は仔猫に懐かれていた。
 あの不思議な竹からは当初、赤子でも出てくるのかと冗談めいた予想をしていた。しかし実際に出てきたのは猫の子。
 顕現してすぐに英を気に入ったらしい仔猫はずっとこの調子だ。
 おいで、と白猫を呼んだ英は賑わう屋台通りに進んでいく。ちょこちょこと走って付いてくる仔猫は呼ばれたことで嬉しげな様子を見せていた。
 そして、英は駄菓子の屋台に並ぶ。
 店には子供が群がっていて、楽しげな声が響いていた。
 並ぶ童もあやかし達だが、その様子は人間の子達とさほど変わりはない。見た目こそ様々だが、菓子で喜ぶ心は一緒のようだ。
「一寸、失礼して」
「わあ、普通のヒトだ。人間だー!」
「嗚呼。私が珍しいかい?」
「わっ! わわー! 遊んで、遊んでヒトのヒト!」
「人だよ」
 はしゃぐ妖怪に対して英はいつもと変わらぬ調子で話す。ヒトは何が食べたいの、と問いかけてきた子供の言葉に、彼は少し悩んでから答えた。
「そうだね、私はアタリ付きのあんず飴とポン菓子を頂きたいのだが」
 にゃあ。にゃあ。
 その際に仔猫が自分も、と言うように鳴いた。英は足元でうろちょろしている白猫を抱き上げ、片手で器用にあんず飴と菓子を受け取る。
「それね、ハズレばっかりなんだよ!」
「ポン菓子、ぽんぽぽん!」
 英の傍らでは座敷童子が頬を膨らませており、子狸が楽しげにお腹を叩いてふざけていた。そんな様子も賑々しく感じつつ英は飴を見遣る。
「おや。……アタリだ」
「すごーい! ヒトのヒト、大豪運だ!」
「いいな。いいな。ヒト!」
 英が難なく当たりを引いたことで妖怪達は大興奮。どうやらいつの間にかヒトのヒトという不思議なあだ名がついたようだ。
「飴はひとつきりだが、こっちをお裾分けしよう」
 英はポン菓子の袋をあけて子供達に差し出した。少しだけだよ、と付け加えたのは猫の使い魔も物欲しそうな目をしていたからだ。
 はーい、と素直に答えた妖怪達が一握りだけポン菓子を貰っていく様子は可愛い。
 やがて子供達は踊りたくなったらしく、祭囃子が響く広場に駆けていった。まるで嵐のようだったが、元気なのも悪くない。
 少し歩き、近くの竹に背を預けた英は腕に抱いた仔猫に語りかけた。
「所で、君はこれを食べられるのかい?」
「にゃう!」
 すると使い魔は平気だと示すように明るく鳴く。英が試しに一粒だけポン菓子を口元に寄せると猫は美味しそうに平らげ、もういっこ、とねだるようにまた鳴いた。
「気に入ったのだね。けれど、食べすぎないように」
 みゃ、という返事を聞きながら英は暫し猫との時間を過ごしていく。
 流れる時間は穏やかだ。現世の祭もだが、幽世の祭も同じくらいに好ましく思えた。
 嗚呼。良い物だ。
 そんな風に言葉にした英の声を、白い仔猫が満足そうに聞いていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻華

一華、ここが幽世よ
怖い?
逸れぬように小さな手を握り、ゆるり妖の世界を歩みゆく
あら、生意気
元気な様子に頬が緩む

妖は祓うものと習ったけれどいい子もいるんですって
なんだか新鮮よね
手を引くは駄菓子屋屋台
ほら、一華!駄菓子屋さん、初めてでしょう?
好きなお菓子を選びなさい
この昆布も美味しいし、みて!紐飴に、このきな粉の棒も美味しいの
それは、ねり飴ね
上手い練り方を教えてあげる
小さな顔に笑顔が満ちれば、私の心も満開に咲いていく

光る竹林
一華の相棒ができればいいわ
一華の友達で、守ってくれるパートナー
ほら選んで!

よかったわね、一華

――噫、なんていとおしい
こうやって無邪気に、しあわせに育って欲しいの
あなたには


誘七・一華
🌺櫻華


兄貴、ここ?
妖怪だらけだけど大丈夫なのかよ?!
突然帰ってきた兄貴に連れられて見知らぬ世界へ
大きな手に縋るように歩いて―こ、怖くねぇよ!
驚いただけだからな!
…桜のよい香り
暖かな体温に安堵するのは本当だから

だがし?
賑やかな屋台を覗けば見た事ないお菓子が沢山
これなんだ?
兄貴は好きなのか
このチョコも面白いな!このどろどろしたのは?
これも買う!
宝石箱を覗くみたいで楽しい
兄貴が笑うと俺まで嬉しくなる
たくさん買ってもらってご満悦
祭りっていいな
こんなに楽しいの滅多にない

竹が光ってる?
俺の相棒?
できるかな?俺のとこに来てくれるかな
ドキドキしながら手を伸ばす
飛び出たそれに驚いて
でも笑みが咲く
俺の友達だ!



●心の色彩
「兄貴、ここ?」
 和の国を思わせる雰囲気の竹林に踏み入り、一華は隣の兄を見上げる。
 見知らぬ土地に訪れたことで、少年の表情には不安めいた僅かな感情が滲んでいた。突然、誘七の家に帰ってきた兄に連れられて妖怪だらけの見知らぬ世界へ来たのだ。平静で居られる理由はあまりない。
「そうよ一華、ここが幽世よ」
 怖い? と櫻宵が聞けば一華は少しだけ虚勢を張る。
「こ、怖くねぇよ! 驚いただけだからな!」
「あら、生意気」
 しかし少年の手は大きな手に縋るように繋がれていた。櫻宵は彼が逸れぬよう小さな手を握り返す。そうやって、ふたりはゆるりと妖の世界を歩んでいく。
 隣を歩く櫻宵から、桜の良い香りを感じた一華はやっと肩の力を抜いた。
 あたたかな体温に安堵する。
 そうして、次第に一華の様子は変わっていった。未知への畏れは興味に変わり、好奇心が見え隠れしはじめている。
 櫻宵は彼に元気が戻ったことを嬉しく思い、夜祭を楽しむ妖怪達を見遣った。
「妖は祓うものと習ったけれど、いい子もいるんですって。なんだか新鮮よね」
「本当だ、良い奴そうだ」
「ええ、皆もお祭りを楽しみにしていたみたいね」
 言葉を交わしながら、櫻宵が導いていく先には駄菓子の屋台があった。見て、と櫻宵が示した場所には一華と同じ年頃の子供妖怪もいる。
「ほら、一華! 駄菓子屋さん、初めてでしょう?」
「だがし? 茶菓子じゃなくて?」
「そうよ、もっと庶民的なものね。好きなお菓子を選びなさい」
 何でも買ってあげる、と櫻宵が告げれば少年はぱっと表情を輝かせた。そして、賑やかな屋台を覗けば見た事のない菓子がたくさん見える。
「これなんだ?」
「ねり飴ね。こっちの昆布も美味しいし、紐飴に、お金型のチョコレートね。このきな粉の棒も美味しいのよ」
「へぇ……兄貴は好きなのか?」
「甘くて好きよ。ほら、上手い練り方を教えてあげる」
 これくださいな、とねり飴をふたつ手に取った櫻宵は、一華が気にしていたチョコレートも一緒に購入した。
「待って兄貴、これも買う!」
 すると一華がきなこ棒と昆布をねだったので、櫻宵は快く頷く。
 駄菓子の屋台はまるで宝石箱を覗くようだ。一華は櫻宵が穏やかに笑っている様に嬉しさを覚える。そのちいさな顔に笑顔が満ちれば、櫻宵の心も満開に咲いていった。
 ふたりは祭の片隅で一緒にねり飴を始めとした駄菓子を味わっていく。
「うわ、どろどろしてる。零れそうだ!」
「気を付けて。こうやってこうして……そう、上手ね」
「甘い! 祭りっていいな」
 駄菓子は普段の茶席で食べるような上品な味はしない。けれども、これも良いものだと感じた一華はご満悦だ。
 こんなに楽しいことは滅多にない、とはしゃぐ少年は無邪気に笑った。
 其処から暫しの時が巡っていく。

 駄菓子を楽しみ、祭の賑わいを堪能したふたりは竹林に訪れていた。
 目の前には光る竹。
「ここに休んでいた魂が眠っているらしいの。起こしてあげましょう」
 櫻宵は竹を示し、一華の相棒ができればいいと語る。
「俺の相棒?」
「そうよ。一華の友達で、守ってくれるパートナー。ほら選んで!」
「できるかな? 俺のとこに来てくれるかな」
 光は幾つもある。何かを感じる所に向かってみると良いと聞き、一華は暫し竹林を歩いて回った。ふと気になる竹を見つけた彼はドキドキしながら手を伸ばす。
 その瞬間、光がゆっくりと明滅した。ふわりと浮かんだ光は色を変え、暁と桜を思わせる淡い彩に変わっていく。
 そして、其処には――二頭の白い狛犬が現れた。
 驚いた一華は瞼を瞬いたが、其処にすぐに笑みが咲く。ころころとした子犬めいた狛犬達が愛らしく鳴いたからだ。
「これ知ってる。阿像と吽像の生き物だ」
「まあ可愛らしい」
 獅子に似た阿の首や尾は暁の色。犬めいた吽の方の首や尾も桜色に染まっている。
 話に聞く母や、兄めいた色を宿す狛犬達だと一華は感じていた。どうやらかれらは、竹の前にいた櫻宵と一華の心の色を読んで顕現したようだ。
 狛犬達をすっかり気に入った一華は二匹を撫でた。阿の獅子はがうがうと元気に鳴き、吽の狛犬はわん、と大人しく鳴いている。
「俺の友達だ!」
「よかったわね、一華」
 阿吽の狛犬達も少年の傍で尻尾を振っている。ちいさな狛犬達を両手で抱えた一華は嬉しそうに笑った。その様子を見守る櫻宵は微笑んでいる。
 ――噫、なんていとおしい。
「こうやって無邪気に、しあわせに育って欲しいの。あなたには」
「あはは! お前ら、手を舐め過ぎだって! ……と、兄貴。何か言ったか?」
「いいえ。楽しそうだと思っただけよ」
 櫻宵がそっと落とした言葉は心からのもの。
 どうか、この子がこのまま幸福をたくさん得ていけますように。願いは淡い光に宿り、賑わい続ける祭の中に巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラビ・リンクス
ロキ25190と

来たぜ新世界!
真夜中のパーティー!
ドコもそー変わんねェな
祭りだ祭りだ

幽霊船の例もあり
余計な物は見まいと視線を屋台にだけ向けるも
時折響く独特な泣き声や
すれ違う者の姿に偶にピクリと肩が揺れ

イヤ妖怪とお化けは別だし?
俺だって首位チョット伸びるし?
あくまで屋台だけ見て
余計なコト言うロキの長い袖をぐいぐい引っ張り歩く

テンプラ凄ェ好き!
中身解んねーケドコレとコレとコレちょーだい!
ロキの分までアレコレ注文
…何の魂だって?なんて?魂?
たじろぎつつ口元へ
…魂って美味いのな
思わず霊魂にも目をやったり

他は何食いたい?
飴いーな、買お!
この金貨っぽいのもまさか食えんの?

興味は尽きず交互に次々食べ歩く


ロキ・バロックヒート
ラビくん(f20888)と

新しい世界だー
お祭り楽しそう
なんかすごい怪しげだけど
あれお化け苦手じゃなかったっけ?
妖怪はお化けと違うって感じかな
わーほらあれ見てよ首伸びてるよ
こっちも引っ張ってるけど屋台へ引っ張られてく

ラビくん天ぷら好きなんだねぇ
いろいろ頼むのが微笑ましくて
海老…じゃなくて海老型の魂だって?
すごいなぁ俺様も魂食べるのは初めてだよ
案外さくさくしてておいしー
エビ天だから海老味…?
おっ、まさかのオバケ克服?
それ(霊魂)も揚げて食べるとおいしいかもよ
食欲は恐怖にも勝るのかなぁ

あんず飴とかも食べたいな
ラビくんはどれがいい?
え、金貨齧ってみる?
おにぎりもいいよね

あちこち付いてったり引っ張ったり



●夜が明けるまで
 淡い光が闇を照らし、賑わう音が夜に響く。
 今宵のひとときを彩るのは妖しの祭。不思議な雰囲気に誘われて新たな世界に踏み出せば、真夜中のパーティーが幕あける。
「これがここのお祭り? どの子も楽しそうだね」
「ドコもそー変わんねェな」
 ロキとラビは妖怪達が跳ねて踊る広場を眺めながら、祭囃子に耳を傾けた。
 住人達の姿は変わっていても満ちる雰囲気は何も違わない。一夜を思いきり楽しもうとしている姿勢は、ヒトも妖しも、兎も神様も同じ。
 赤い火が灯された提燈が提げられた道は幻想的にも思えた。其処を共に歩く最中、ロキはふとラビを軽く見上げる。
「なんかすごい怪しげだけど、あれ。お化けが苦手じゃなかったっけ?」
 ねぇラビくん、と声を掛けたロキは道行く妖怪を示す。見れば屋台通りに向かっていく人影は現世には到底いないような奇怪な姿をしていた。
「……イヤ、妖怪とお化けは別だし?」
 ぎくりとした様子で片耳だけを下げたラビは首を振る。
 以前にロキと一緒に向かった幽霊船の例もあり、怖いものは完全にバレている。確かあの時は亡霊達に驚いて瓶を何本か取り落としてしまったのだった。
 それゆえに余計な物は見まいとして、視線を屋台にだけ向けていたのだが――。
「おっと、失礼しますね」
(びゃッ)
 不意にラビの前に足のない幽霊めいた妖怪が通り掛かった。ごめんなさいね、と告げた妖怪は優しげだった。それゆえに何とか声をあげずには済んだが、ラビにとっては大変な出来事だったらしい。
「ラビくん?」
「何でもねェ……」
 首を傾げたロキとの距離をさりげなく縮めつつ、ラビは気を取り直した。するとロキは前方を指差し、特徴的なシルエットの妖怪を示す。
「ほらあれ見てよ、首伸びてるよ」
「俺だって首位チョット伸びるし?」
 おそらく、ろくろ首だ。しかしもう何も見るまい。屋台だけを瞳に映すラビは適当に答え、早く行くぞ、とロキの長い袖をぐいぐい引っ張って歩く。
「えー、もうちょっとゆっくりでも良いのに」
 ロキも引っ張り返すが、オバケコワイ状態のラビの力の方が強かった。
 やがてロキとラビは屋台通りへと辿り着く。
 賑わう店々。
 其処を行き交う妖怪達や猟兵達。
 すごいね、と言葉にしたロキが店をひとつずつ確かめていると、ラビの眼差しが或る店に釘付けになった。その瞳は心なしか輝いている。
「テンプラだ!」
「ラビくん、天ぷら好きなんだねぇ」
「凄ェ好き! えっと、コレとコレとコレちょーだい!」
 すぐに店先に向かったラビは思うままに注文をしていく。その店主が先程のろくろ首であることも忘れて、彼はロキの分まで選んでいった。
 色々と頼んでくれる彼の姿が微笑ましく思え、ロキは暫し見守る。
 あいよ、と答えた店主が手際よく揚げていくのはふわふわした魂だ。それらが海老と魚、竹輪の形になってからりと揚がっていく。
「これ、チクワの魂だ」
「何の魂だって? なんて? 魂?」
 其処でやっとラビも魂テンプラの材料に目を向けた。何かよくわからないが普通に食べていいものらしい。多分だが、味も海老と魚と竹輪そのままのはず。
 そもそも竹輪の魂とは?
 疑問が浮かんだが、ややこしくなるので考えないことにした。
 屋台の店主は竹製の器に注文品を乗せてくれている。それを受け取ったラビは、ややたじろぎつつも礼を告げた。
「……いただきます」
「すごいなぁ。俺様も魂食べるのは初めてだよ」
 ロキはいつもの調子でテンプラに手を伸ばし、ひょいと口に運んだ。
 ラビも観念して彼に倣い、思い切って食べてみる。さくさくとした衣の歯応えと其処から広がっていく海老の味がとても良かった。素直においしい。
「魂って美味いのな」
「さくさくしておいしー」
「悪くないかも」
「おっ、まさかのオバケ克服? それも揚げて食べるとおいしいかもよ」
 ロキがそれと称したのは霊魂。
 思わず霊魂にも目を遣るラビの横顔を見つめ、ロキは可笑しそうに口元を緩める。
 食欲は恐怖にも勝るのだろうか。
 ろくろ首の店主が奇妙に首を伸ばしていることは伝えず、ロキは感心するラビの様子を暫し眺めていた。
 そうして、テンプラを食べ終えた後も屋台巡りは続く。
「他は何食いたい?」
「あんず飴とかも食べたいな。ラビくんはどれがいい?」
「飴いーな、買お! あ、この金貨っぽいのもまさか食えんの?」
「金貨も齧ってみる?」
 駄菓子屋台の前で色々なものを選んでいく二人は楽しげに語りあう。駄菓子を堪能したら、次はおにぎりや蕎麦の屋台も覗いてみてもいいかもしれない。
 興味は尽きず、視線は様々な方に向く。
 時が経つ毎に魂魄祭は更に賑わっていき、どの妖怪も人も楽しそうだ。
「見ろよあの子。テンプラを素手で何個も持ってる」
「ほんとだ、可愛いねぇ。そういえばラビくん」
「ん?」
「ううん、何でもなかった」
 いつしかラビはごく普通に周囲を見られるようになっていた。それを指摘するとまた振り出しに戻ってしまいそうなので、ロキは敢えて黙っていた。
 楽しいね、と語れば笑顔が返ってくる。今はきっと、これでいい。
 こうして夜は更ける。
 望むならば日が昇るまで、ずっと――心地好い時間は続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

揺・かくり
夜への移ろいが戻ってきたようだ
この暗さは眩さよりも親しみがあるよ
其れは私が屍人だからなのだろうか
それとも、……先へと往こうか

これはただの気のまぐれ
偶には流れに身を委ねよう
宙を漂い、賑わう明るみの方へ

君は……禰々子、と云ったかい
私はかくり。幽世の、かくり
見てのとおり屍人のひとさ
……ああ、君も同胞のひとりなのだね

祭事を見掛けることは有れど
こうして近付くことは滅多に無いのさ
祭りの楽しみ方を教えておくれよ
君さえよければね

ふよりと屋台通りを漂う
蕎麦屋に駄菓子屋、多様なのだね
未だ好きも嫌いも曖昧なのさ
君の勧めは、何処だろうか

こうしたひと時も、良いものだね
有意義な時間をありがとう
また、何処かで会えるだろうさ



●またいつか
 光は正しき在り方に戻り、辺りには夜の帳が下りた。
 夜への移ろいが戻ってきたようだと感じ取り、かくりは安堵めいた感覚を抱く。
「この暗さは眩さよりも親しみがあるよ」
「あたしもこういう夜が好き。ありがとね、かくり!」
 此処は竹林の片隅。
 浮遊しているかくりを見上げ、戦いを無事に終えられたことに礼を告げたのは禰々子だ。やはりこの昏さは落ち着く。
 闇に穏やかさを感じるのは自分達が屍人だからなのだろうか。
 それとも、と口にしかけたかくりはぎこちなく、それでも緩やかに頭を振った。
「……先へと往こうか」
「ええ、いきましょ!」
 普段ならばそのまま帰るという選択を取りそうだが、今宵は祭の日。
 これはただの気のまぐれだけれど、という思いを抱いたかくりは広場に瞳を向けた。こうやって偶には流れに身を委ねるのも悪くはない。
 こっち、と誘う禰々子に続いて宙を漂うかくりは、賑わう明るみの方へ向かった。
「それにしても、かくりって良い名前ね」
 幽世の響きに似ているから好き。そんな風に語る禰々子に対し、かくりはそうっと頷いてみせる。そして、かくりは少女の名を言葉にする。
「君は……禰々子、と云ったかい。ちゃんと覚えておくよ」
「もし忘れてもまた名乗るわ。ネコちゃんって呼んでくれてもいいからね」
「……ああ、君も多様な意味で同胞のひとりなのだね」
「ふふーん、普通の女の子に見えるでしょ? でも君と一緒よ」
 聞けば、かくりと同様に禰々子も一度は現世で死んだ身らしい。身体は屍人ではないにしろ、互いにちょっとした親近感を抱くには十分だ。
 禰々子はかくりを手招く。
 かくりは祭事を見掛けることは有れど、近付くことは滅多に無いと語った。それならばと少女が案内を申し出たのが今の状況というわけだ。
「さあ、祭りの楽しみ方を教えておくれよ」
「それじゃあまずはやっぱり屋台巡りね。好きなものはある?」
 元気よく意気揚々と歩き出した禰々子は、かくりが逸れないように時折後ろを振り返りながら進んでいく。
 ふより、ふわりと通りを漂うかくりは、ゆっくりと夜店を見渡した。
「未だ好きも嫌いも曖昧なのさ」
「だったらお菓子から見るのが良いかしら。お蕎麦も良いんだけどね」
「駄菓子屋に蕎麦屋か。色々とあるのだね」
「どれも美味しいんだから! そこから一番好きなものを見つけるのも楽しいわ」
 賑わいの中で話すのもなかなか悪くはない。そう感じつつ、かくりは何処に案内するか考え込んでいるらしい禰々子に問う。
「君の勧めは、何処だろうか」
「あたしの? それはもちろん、天麩羅屋台ね!」
「では、それにしよう」
「いいの? じゃあ、お蕎麦も貰って海老天蕎麦にしましょう。決まりね」
 そんな会話が交わされ、二人は蕎麦屋台に向かっていく。それから熱々の海老天や湯気を立てる蕎麦を堪能した彼女達は、順に夜店を巡り――。
「はあー、楽しかった!」
「こうしたひと時も、良いものだね」
 禰々子とかくりは大いに祭を楽しみ、後はそれぞれに竹林を散歩することに決めた。
 有意義な時間をありがとう、とかくりが告げると禰々子は満面の笑みで「こちらこそ!」と答える。
 しかし、少女は不意にちいさく俯いた。
「でもこうやって仲良くなっちゃうと、お別れが寂しいな」
「すぐに、何処かで会えるだろうさ」
「……! そうよね。その通りだわ。それじゃあ……またね!」
「ああ、また」
 かくりの言葉を聞いた禰々子は瞳を輝かせた。そして、二人は手を振って別れる。
 またね。
 その言の葉はいつかの再会を願う、大切な想いの証。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
賑やかでおいしいこと

広場を満たす猟兵と妖怪の感情を先ずは一口つまみ喰い
あとは棒付きの水飴だけを手土産に竹林へ向かう


やっぱりお祭りはよいものね

からりとした祭の音や空気の余韻を味わいながら
自然に鞘に手をかけようとし
何も斬り倒す必要はないかと一旦手を止め

夏の夜は短いもの
お前はおきて、楽しんでおいで

思い直して爪先でそうっと触れる


輝ぐなにものかが天に還るまで
又は世に遺されるまでは見届けようかと
祭囃子を遠くききながら
優しいばかりの竹の空気に身を置いて

今宵は天も曇るまいと思うのは
夏の夜にみる夢か知ら

長居すまいとは思いつつも
串に囚われた水飴にゆっくり口づけながら
せめて天明を過ぎるまで一時
夜遊びに耽ろうと佇む



●甘やかな夜
 淡い光が夜の狭間を照らす。
 光を灯した竹の向こう側には、賑わい始めた祭の景色が見えた。
「賑やかでおいしいこと」
 雨色を思わせる双眸を静かに細めたしとりは、魂魄祭の様相を眺めていく。おいしいと言葉にしたのは今しがたに感情を口にしたゆえ。
 広場を満たす猟兵と妖怪。かれらの感情を先ずは一口、つまみ喰いしたのだ。
 楽しい。嬉しい。面白い。
 そのような感情は一欠片だけでも十二分で、得も言われぬ味がした。しとりは緩やかに屋台通りへと踏み出し、菓子の夜店に寄った。
 棒付きの水飴をひとつ、手土産にしたしとりは光が揺らぐ竹林へ向かっていく。
「やっぱりお祭りはよいものね」
 竹林の奥に進む度、広場に流れていた祭囃子の音が遠くなっていった。
 心地好い喧騒と穏やかな静寂。そのふたつの間に立っていると思うと、不思議な感覚になる。まるで、世界の境目にいるような――。
 からりとした祭の音や空気の余韻を味わいながら、しとりは歩む。
 その際に自然に鞘に手をかけようとして、はたとした。
 今は何も斬り倒す必要はない。
 思い直して一旦、手を止めたしとりはそうっと言の葉を落とした。
「夏の夜は短いもの。お前はおきて、楽しんでおいで」
 爪先で鞘に触れ、ゆるりと瞼を閉じる。
 そうすれば此れまで以上に、賑わいと静けさが際立って感じ取れた。瞼の裏には淡く輝く竹の光が残っている。
 瞼をひらいたしとりは竹林を見渡していった。
 輝ぐなにものかが天に還るまで、或いは世に遺されるまで。此処で見届けてみよう。そうすることも今は赦される気がしたから。
 遠く響く祭囃子の調子が変わった。
 笛の音、太鼓の音律。
 誰かの笑い声とはしゃぐ足音が聞こえた。そして、優しいばかりの竹の空気に身を置いて、しとりは夜のひとときを樂しむ。
 今宵は天も曇るまい。
 ――そう思うのは、夏の夜にみる夢か知ら。
 ふと独り言ちたしとりは月が浮かぶ夜空に眼差しを向ける。其処にも又、竹の光に負けないほどのやさしさを宿した耀きがあった。
 長居すまいとは思いつつも、ついつい過ぎゆく時に身を委ねてしまう。
 串に囚われた水飴にゆっくりと口づけ、しとりは広がっていく甘さを確かめた。
「本当に、おいしいこと」
 零れ落ちた言の葉には嘘偽りない思いが宿っている。
 せめて天明を過ぎるまでの一時に耽ろうと決め、しとりは夜の最中に佇む。
 光は清かに。月は玲瓏に。
 寧静たる夜の刻はゆっくりと、閑かに更けていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
祭囃子を背の奥に、竹林を飛び進む
竹というA&W育ちの身には物珍しい植物が作る景色を見回して香りをすんと嗅いで
「これが夏の香りっていうのかしら」
尤も、自分の故郷は常冬の国だった
だのにこれほど青い匂いにも知らないと目を白黒させずに居られるのは
「…私の悪運、それとあの子のお陰」
月でなく桜の花明かりを纏う、私の命の恩人
馨しく高貴なれど薄闇の匂いが抜けない羅刹の娘
「…、……」
光る竹の中で不意と目を惹いたものに近づく
手を伸ばして触れたのは殆ど無意識だった
現れ出たのは全てが水で出来た様な幽世蝶
「色、私の翅とお揃いね」
あの娘の周りにも蝶は沢山居る
水とは鏡だから
私の奥底の願いを写し取って生まれたみたいだと思った



●水鏡の蝶
 耳に届くのは賑わう声と楽しげな音。
 響き続ける祭囃子を背にして、レインは竹林の奥を目指して飛び進む。
 何処までも真っ直ぐに伸びる竹はちいさな彼女からすると、天高くまで伸びているかのように映った。
 まるで月まで届きそうだと思い、レインは物珍しそうに夜の竹林を見渡す。
「これが夏の香りっていうのかしら」
 植物が作る景色と、浮き立つような淡い熱を孕んだ空気。周囲に満ちている香りを確かめたレインは仄かな心地よさを感じた。
 尤も、自分の故郷は常冬の国だったから夏は程遠い。
 それでもこうして季節の香りを知れる。これほど青い匂いにも、知らないと目を白黒させずに居られるのは――。
「……私の悪運、それとあの子のお陰」
 そんな言葉を紡いだレインは或るひとの姿を思い浮かべた。
 この空に浮かぶ月でなく、桜の花明かりを纏う――私の命の恩人。
 馨しく高貴なれど、薄闇の匂いが抜けない羅刹の娘。どうしてか今、彼女のことが思い浮かんで仕方がない。
「……、……」
 レインは竹の間を飛び、辺りを照らす光をひとつずつ眺めていった。
 一見は同じ光に見えても、よくみれば淡い色が宿っているものがある。明滅する速さや、光り方自体もそれぞれに違うことが分かった。
 きっと中で睡る魂の在り方や属性、宿す力によって光も変わるのだろう。
「綺麗ね」
 レインはふと、その中でどうしてか目を惹いたものに近付いていく。導かれるように翅を羽ばたかせて、手を伸ばした。
 触れたのは殆ど無意識だ。呼ばれているような、或いは自然にみずからが選び取ったような――本当に不思議な感覚だった。
 ふわりと竹から抜け出た光は徐々に形を成していく。
 それが蝶々の形になっていくのだと感じながらレインは顕現を待つ。そうして現れ出たのは全てが水で形作られたような幽世蝶。
 蝶々が翅を揺らす度に模様の如く波紋が生まれ、美しい雫が翅先から滴る。
 けれどもこぼれた雫は地面を濡らすことはなく、宙に滲んで消えていった。
「その色、私の翅とお揃いね」
 蝶に語りかけたレインは桜羅刹の娘を想う。
 あの娘の周りにも蝶はたくさん居る。そして、水とは鏡だから。
 この幽世蝶は自分の奥底にある願いを写し取って生まれたのかもしれない。揺蕩うように飛ぶ蝶は、そっとレインに寄り添う。
 その羽ばたきがとても穏やかに感じられ、レインは静かに双眸を緩めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
【灼熱】✨

竹、すげー光ってんなぁ
竹取物語か…ふふ
早く触ってみたい気もするケド、後のお楽しみで

亮ちゃんは何が気になる?
俺は野菜天と蕎麦にする
お、竹輪もエビもいいな。好き

こーゆー時、みんなで買ってわけっこすると
色んなもん食えていーよな
嫌でなければ、ドーゾ?
まずは雪ちゃんに差し出し
他のみんなにも順番に

ありがと、美味い
うん、ひとりで食べるよりうまいの
なんでなんだろうなぁ

小腹も満たしたし、竹、触ってみよっか
どんな子が出てくっかねぇ
ベルが吃驚するよーな子だと面白いんだケド

俺はこれにする。みんなも決めた?
せーので行こーぜ
せーの!

出て来たもんにはおぉと控えめに驚き
そー?いつかのベルの魔法も面白かったケドな?


嘉神・雪
【灼熱】✨
……とても、輝いていますね
まるで、かぐや姫がいたと云う竹の様
えぇ、楽しみは取っておきましょう

皆様と分け合いっこ、良いですね
提案に賛成して
私はきつね蕎麦とエビ天を
エビ天はベルさん、綾華さん、亮さん、私
人数分に分けて

皆様が買ったものもどれも美味しそうです
……頂いて良いんですか?
ご好意に甘えて、私も皆様のを頂いて
ふふっ、皆様と食べるからか
一層美味しく感じます

何かに出逢える光る竹
どんなものに出逢えるか、心が躍る様

皆様、決められたのですね
では、私はこの竹を
じゃあ、せーのっ

出てきたものには、きらり目を輝かせ
一緒にこの夜を楽しみます


天音・亮
【灼熱】✨

祭囃子に自然と身体がそわそわ
雪ちゃんの言葉にさらにうきうきしちゃって
うんうん、かぐや姫もひょっこり現れちゃいそう!

綾華さんは野菜天?いいねいいね
じゃあ私は月見そばと竹輪天にしよっかな
分けっこしようしよう!
ベルと同じ様に綺麗に四等分っと
みんなのものを一口ずつぱくりぱくり
ふふっ、みんなで一緒に、さらに美味しくってしあわせ~!

竹の園では意識して声は小さめ
撫でる光はどこか優しくてあったかい
ここでみんな眠って元気になっていくんだね

決めたみんなの視線に目配せ
私はこれ!
じゃ、せーの!

可愛いものは大好き
怖いものはちょっと驚いちゃうけど
それでもやっぱり一緒に楽しんじゃうよ
たった一度きりの夜だもん。ね!


ベル・ルヴェール
【灼熱】✨

へぇ、これは竹と言うのか。
僕の住む場所には無い物だ。

食べ物の香りが漂う。ここが屋台通りと言うのだな。
みんなで食べ物をわけっこする。それは良い事だ。
一人で食べるよりも、皆で同じ物を食べた方が良い。
僕は米を食べてみたい。
焼きおにぎりを勧められたが、これは米を焼いているのだな。

アヤカとアキラとススギと僕。四等分にしよう。
皆どうぞ。こんがりと美味しい米だ。
皆から貰った物も美味しい。

この光る竹に触れば何かが出てくるんだね。
よし、僕はこの竹にしよう。
準備はいいよ。皆も大丈夫か?

ああ、行こう。せーの!
出て来た物には驚きが隠せないな。
竹の中には色んな物が住んでいる。
魔法よりも面白い。



●分かちあう気持ち
 静かな夜に開かれる賑わうお祭り。
 祭囃子が響く広場の周囲には光を湛えた竹が淡い明かりとなって灯っている。
「竹、すげー光ってんなぁ」
「へぇ、これは竹と言うのか」
 綾華が周囲を見渡す傍ら、ベルは物珍しそうに竹を眺めた。自分の住む場所には無い植物であるゆえに興味が湧く。
 雪も薄墨の瞳を緩め、光を不思議そうに見つめる。
「……とても、輝いていますね。まるで、かぐや姫がいたと云う竹のようです」
「うんうん、かぐや姫もひょっこり現れちゃいそう!」
 亮は雪の言葉を聞いて明るい笑みを浮かべ、近くの竹に目を向けた。お伽噺の中にいるようでもあり、耳に届く祭囃子の音も心を浮き立たせてくれる。自然に身体がそわそわと動いてしまっている亮に気付き、ベルは薄く笑む。
 綾華も微笑ましさを覚え、明滅する光のひとつに着目した。
 本当に中からちいさな姫君が現れそうだ。
「竹取物語か……ふふ。早く触ってみたい気もするケド、後のお楽しみで」
「えぇ、楽しみは取っておきましょう」
 雪はこくりと頷き、皆と一緒に賑々しい祭り会場へと向かっていく。光の中で睡る魂に逢うのはもう少しだけ後で。
 今は、そう――良い香りが漂う屋台通りを満喫するときだ。
 
「ここが屋台通りと言うのだな」
 ベルは様々な夜店が並ぶ通りをひとつずつ見ていく。
 蕎麦屋に天ぷら屋、駄菓子屋におにぎり屋台。似顔絵を描いてくれる店まで出始めたらしい。どれも興味深いが、中でも目を引かれた一角に向かうことにした。
「わ、おいしそう!」
「いいですね、お蕎麦もお願いすれば貰えるみたいです」
 亮が瞳を輝かせ、雪も嫋やかに頷く。
 綾華は亮達が並ぶ様に華やかさを覚えつつ、問いかけてみた。
「亮ちゃんと雪ちゃんは何が気になる? 俺は野菜天と蕎麦にする」
「綾華さんは野菜天? いいねいいね。じゃあ私は月見そばと竹輪天にしよっかな」
「お、竹輪もエビもいいな。好き」
 さくさくと注文を決めていく亮と綾華の傍ら、雪はじっくりと考えて選ぶ。
「私はきつね蕎麦とエビ天を」
 ベルさんはどうですかと雪が視線を巡らせると、彼は既におにぎりを抱えていた。
「僕は米を食べてみたくてな。店の前に行ったら焼きおにぎりとやらを勧められた。これは米を焼いているのだな」
 香ばしい香りが食欲を刺激する。
 ベルの持っている焼きおにぎりも良いと感じた綾華は皆に提案を投げかけてみた。
「こーゆー時、みんなで買ってわけっこすると色んなもん食えていーよな」
「皆様と分け合いっこ、良いですね」
 首肯した雪はすぐに賛成を示し、亮とベルも名案だと話す。
「分けっこしようしよう!」
「それは良い事だ。一人で食べるよりも、皆で同じ物を食べた方が良い」
 皆で少しずつ分けあえばたくさんの味が楽しめて、同じ気持ちも分かち合える。それはきっと幸せのお裾分けにもなるだろう。
 各々で注文した天ぷらや蕎麦を持って、一行は屋台裏にある卓袱台の周りに腰を下ろした。茣蓙を敷いた上に丸い卓があるというレトロな雰囲気がまた良い。
「いただきます!」
「はい、ドーゾ」
 亮が両手を重ねて食べる準備を整え、綾華は綺麗に四等分した天ぷらを分けていく。
 ベルも皆に行き渡っていることを確かめ、箸を手に取った。
「アヤカとアキラとススギと僕。これで良いな」
「はい、それでは。皆様のご厚意に感謝して、いただきますね」
 雪は少し遠慮がちに、焼きおにぎりを口にする。亮もみんなのものを一口ずつ、ぱくりと口に放り込み、綾華とベルもそれぞれに天ぷらを頂く。
「ありがと、美味い」
「なかなか、こんがりと美味しい米だ」
 男性陣が落ち着いて食を進める中、雪と亮は何気なく視線を交わしあった。ふふ、と自然に笑みが溢れて重なったのは今という時間が心地好いからだ。
「皆様と食べるからか、一層美味しく感じます」
「みんなで一緒に、さらに美味しくってしあわせ~!」
「うん、ひとりで食べるよりうまいの。なんでなんだろうなぁ」
「不思議だが、悪くないな」
 四人は屋台飯に舌鼓を打ち、賑やかながらも穏やかな食事を楽しんでいった。

 そうして、存分に小腹を満たした後。
 食器を屋台に返した一行は、誰とはなしに光の竹林の方に歩を進めた。静かに光輝く竹には、すべて違う様々な魂が眠っているという。
「この光る竹に触れば何かが出てくるんだね」
「竹、触ってみよっか」
 ベルは近くの光を見遣り、綾華は皆を誘う。いいね、と答えた亮。その声は睡っている子達を無理に起こさないようにという配慮から少し小さめになっている。
「ここでみんな眠って元気になっていくんだね」
 そして今夜、魂は目覚める。
 雪は亮の優しさを感じ取りながら、竹を選んでいく。どんな子が出てくるのだろうか。期待は少しずつ胸の裡に募っていく。
「ベルが吃驚するよーな子だと面白いんだケド」
「どうだろう。驚かせてくるのが妖怪なのだったか」
 そんな会話をしつつ、綾華もベルも光を選び取っていく。僕はこれに、俺はこっち、と違う竹の前に立った二人。彼らに続いて亮と雪も直感を覚えた竹に手を伸ばす。
「私はこれ!」
「皆様、決められたのですね。では、私はこの竹を」
 どの光もきらきらと輝いている。
 そして、四人は目配せを交わしてタイミングを合わせた。
「せーので行こーぜ」
「ああ、行こう」
「では……」
「じゃ、一斉に! ――せーの!」

●光の出逢い
 四人の声が重なる。
 皆の手や指先が、それぞれの光に触れた。
 竹から浮かびあがった光は淡い軌跡を描きながら、皆の傍に寄り添っていく。
「おぉ」
 先ず綾華の前には金色にぴかぴか光るレジェンドな雰囲気を纏うあやかしメダルが現れた。威厳がありそうな猫又の姿が描かれており、とても強そうだ。
 綾華の手の中に収まった金の伝説メダル。其処から不思議な声が響いた。
 ――我を使いたければレベルを99に上げるが良いニャ。
「え?」
 綾華が何かを答える暇も与えず、レジェンドあやかしメダルは再び眠りにつく。彼の掌の上には今は未だ唯のメダルでしかないものがちょこんと乗っていた。

 雪の傍には鴉の使い魔が現れている。
 カラスとはいってもその翼は真っ白だ。凛とした雰囲気を纏う白鴉は静かに雪の肩に止まった。冬に降る雪色の羽は美しく、雪はきらりと目を輝かせた。
「こんばんは、一緒にこの夜を楽しみましょう」
 雪が白鴉に呼び掛けると、かれは一声だけ「カア」と鳴いて答える。
 どうやら大人しくて利口な子のようだ。そして、翼を広げた白鴉は敢えてバサバサと羽を揺らした。其処から一枚の羽根がひらりと舞う。
 雪は羽根が地面に落ちる前に手を伸ばし、それをそっと握った。
 きっと白鴉がお近付きの印に羽根をくれたのだろう。雪は嬉しくなり、ありがとうございます、と使い魔に礼を告げた。

 可愛いなぁ、と雪と鴉の様子を眺めていた亮。
 彼女の周囲には何羽もの幽世蝶が羽ばたいていた。薄青から紫へ、そして夜を思わせる漆黒の色へ。色彩を変えながら亮の頭上を飛ぶ蝶々は美しい。
「君達、綺麗だね。月の色にもなれる?」
 蝶々を見上げた亮は夜空に見えた月彩を見て、何となく問いかけてみる。
 すると幽世蝶は彼女の声に応えるように、ふわりと光を纏いながら月の彩を翅に映してみせた。きっと蝶々達はどんな色にでもなれるのだろう。
「いいねいいね、写真に撮ると映えそう!」
 亮は上機嫌に幽世蝶に指先を伸ばす。その人差し指に止まった蝶は亮に寄り添うように、穏やかに翅を揺らしていた。

 そして最後に、ベルの前に顕現したのは一匹の黒い蝙蝠だった。
 しかし、それは一般的に想像するものではない。まんまるでずんぐりとしたふかふかの毛並みと小さな翼を持つヴァンパイアバットだ。
 その大きさは一般的な成猫くらいで重量感がとてつもない。
「これは……コウ、モリ……?」
 流石のベルも疑問を抱かずには居られなかった。だが、まんまるな物体は翼を羽ばたかせて闇の中をふよふよと飛んでいる。間違いなく蝙蝠だろう。
「竹の中には色んな物が住んでいるんだな。驚いた」
 おいで、とベルが手を伸ばすと、蝙蝠はその腕の中に収まった。ずっしりとした重さがあったが、悪くはない抱き心地だ。

 こうして四人は皆違う魂魄と出会った。
 ベルは黒蝙蝠を抱いたまま、感心するように皆が邂逅した光の化身を見遣る。
「魔法よりも面白い」
「そー? いつかのベルの魔法も面白かったケドな?」
 将来に使えるかもしれないメダルを指で弾きながら、綾華はおかしげに笑った。雪は鴉の羽根を大切そうに仕舞い込み、蝶々を連れる亮も満面の笑みを浮かべる。
「皆様、この後はどうしますか?」
 雪が問うと、亮は少し考えてから祭広場を指差した。
「この子達を連れてお祭りを巡ろっか。たった一度きりの夜だもん。ね!」
「賛成だ」
 ベルが同意して、綾華と雪も亮の提案を受け取る。
「じゃ、今度はあっちかな」
「はい、皆様と一緒ならどこでも楽しそうです」
 そして、一行は歩き出す。
 伝説メダルがきらりと光り、白い鴉が短く鳴く。蝶々はひらり、ひらりと優雅に舞って、黒い蝙蝠は腕の中でのんびりしている。
 今宵の出会いは、これからどのような楽しい時間を作ってくれるのだろうか。
 それは――この先に巡る、まだ見ぬ未来でのお楽しみ!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット


良い月明かりだ。
このくらいの明るさだと、何と言うか安心するな。

ミヌレは何か食べたいものあるか?
そう言って、ミヌレに連れられ来たのは、おにぎり屋。
俺もおにぎりが食べたいと思っていたところだ。自身の腕は先程削って片方無くしてしまった為、残ったもう片方の手で焼おにぎりを持ちミヌレと食す。
屋台とお祭りの楽しい雰囲気を堪能したし明光の竹林にも行ってみようか。光る竹がみれるらしいしな。

この竹の光は…何というか穏やかな気持ちになるな。そうか、ミヌレも同じ気持ちか。
ミヌレと一緒に光る竹に優しく触れる。
楽しく話したり、(ミヌレと)踊ったり、この時を俺達と共に過ごしてくれる…
そんな素敵な出会いがあると良いな。



●祭の夜に
 世界に夜が戻ってきた。
 闇を照らすのは月光。周囲の林にも仄かに光る竹があり、夜を穏やかに彩っている。
「良い月明かりだ」
 ユヴェンは空を見上げ、片目を眇めた。
 先程の明るさを思えば随分と暗いが、このくらいの方が安心する。どちらかひとつではなく両方が共存する世界こそが良いものだと思えた。
 ユヴェンは屋台通りの方に向かう。
 歩を進める度に祭囃子の音が大きくなっていき、賑わう声が聞こえてくる。
 祭らしい雰囲気を更に彩る提燈の灯が見え始めた。祭を楽しむ妖怪達の姿を眺めながら、ユヴェンはミヌレに問う。
「ミヌレは何か食べたいものあるか?」
 すると仔竜はきょろきょろと辺りを確かめ、こっち、と誘うように進んでいく。
 きっと何か気になるものを見つけたのだろう。
 香ばしい匂いが漂う天麩羅屋台を通り抜け、湯気が満ちる蕎麦屋を越える。途中でミヌレが蕎麦をちらりと気にしたが、目的は別の店らしい。
「駄菓子の屋台か? いや、違うのか」
 ユヴェンは向かっていく先にある夜店を見遣るが、まだまだミヌレは止まらない。駄菓子に群がる子供妖怪の賑々しさに微笑ましい気持ちを覚え、ユヴェンは後を追っていく。
 そうしてミヌレが立ち止まった店。
 それは様々なおにぎりが置かれた屋台だった。
「ここか、成程な」
 自分もおにぎりが食べたいと思っていたところだと告げ、ユヴェンは店先に並ぶ品に目を向ける。塩おにぎりをはじめとして、梅と鮭、昆布、焼きおにぎりまで揃っている屋台からは良い雰囲気が感じられた。
 ミヌレは香ばしく焼かれたおにぎりを、ユヴェンはそれに加えてシンプルな塩おにぎりを選んだ。戦いで削って無くしてしまった片腕を補うようにミヌレが寄り添い、ユヴェンは残ったもう片方の手でおにぎりを持つ。
 あちらに行こう、と示したユヴェンは竹林の片隅に腰を下ろした。其処からは祭囃子に合わせて楽しげに踊る妖怪達の様子がよく見える。
「皆、楽しそうだな」
 ユヴェンは賑やかさに耳を傾けた。ミヌレと共におにぎりを食し、祭の雰囲気も一緒に味わう。ささやかなひとときではあるが、贅沢な時間に思えた。
 屋台と祭りの心地を堪能した彼らは立ち上がる。
 行こう、と誘ったのは竹林の奥。先程は通るだけだった光を近くで見るためにふたりは進んでいった。
 そして、穏やかな光を見つめるユヴェンは肩に乗ったミヌレに語りかける。
「この竹の光は……何というか穏やかな気持ちになるな」
 ミヌレも同じ気持ちらしく前足をそっと竹に伸ばした。ユヴェンも片手を上げ、同時に光る竹に優しく触れる。
 すると其処から光が溢れ出し、一匹の稲荷狐が現れた。
 きゅっと鳴いた狐はユヴェンとミヌレを見上げると尾をふわりと振る。
「遊ぼう、と言っているのか?」
「きゅう!」
「きゅ!」
 ユヴェンが問いかけるとミヌレが稲荷狐の傍に飛び降りた。二匹はユヴェンの足元の周りをくるくると回って駆けはじめる。
 まるでそれは遠くから聞こえる祭囃子に合わせて踊っているようだ。
 ふ、とちいさく笑んだユヴェンは狐と竜が遊ぶ様子を見守る。きっとこの後も楽しい時間が巡っていく。そんな予感を覚え、ユヴェンは不思議な心地好さを抱いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請

天ぷら屋台で天ぷらを頼もう
おすすめを適当に包んでくれるか?
ああ、キス天は入れて欲しい
紙に包んでもらって、竹林へ足を運ぼう

嗚呼、なんて美しい景色だ
暗闇に、ぼんやり光る竹
優しく照らす月光
闇があるから、こんなにも優しく美しい
あの魂は、無事についたか
この景色を愛でられる心を持てればよいが

ひとつ、光に触れる
何が出るか分からぬが、そら、天ぷらでも食え
食べられぬのならアタシが食べるさ、安心しろ
嗚呼、キスは駄目だ、アタシんだ
むんずと掴んで口へ運ぼう
指に着いた油を舐めとりながら、オマエに聞こう

アタシと共に行くか?
答えが是であれ否であれ
このひと時が楽しいよ



●旅は道連れ
 賑わいが満ちる屋台通りの一角。
 元通りの世界に戻った祭の最中を歩いていた萃請は、或る店の前で足を止める。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。何か揚げるかい」
「おすすめを適当に包んでくれるか?」
 其処は天ぷら屋台だ。明るい店主に呼び掛けられた萃請は首を縦に振った。あいよ、と答えた店主は食用魂をひょいひょいと狐色の油の中に入れていく。
 じゅう、と軽やかな音がして天ぷらが揚がっていった。
「そうだ、キス天も入れて欲しい」
「おうよ、お嬢ちゃんは通だねえ。オマケしてやるよ!」
 そんな遣り取りを交わした後、萃請は紙に包まれた天ぷら盛り合わせを受け取る。海老天に玉子、竹輪にかき揚げ、そしてキス天。
 熱を宿すそれらを腕に抱えながら、萃請は竹林の方に足を運んでいく。
 祭囃子を背に、月が浮かぶ夜空の下を歩く。
「嗚呼、なんて美しい景色だ」
 ひとりだというのに思わずそんな言葉が零れ落ちた。或る一角で立ち止まった萃請は改めて周囲の様子を確かめる。
 静かな暗闇、ぼんやり光る竹。優しく照らす月光。
 光に満ちていたときには見えなかったものだ。こうして取り戻した闇があるから、こんなにも優しく美しく感じられる。
 あの魂は、無事に静かな海に辿り着いただろうか。
 萃請は視線を竹に移した。今の自分が感じているような、この景色を愛でたいと思う心をいつか持てればよい。
 そして、萃請は手を伸ばした。その先には光る竹がある。
 指先が触れた。
 それは仄かに温かくて、ふわりと宙に浮かぶ。光は次第に形を成していき、やがて萃請の足元で猫の姿となった。
 ニャア。
 使い魔の黒猫は一声だけ鳴き、萃請の足に擦り寄った。そして手元にある天ぷらの包みに緑色の瞳を向ける。その眼は萃請が宿す色によく似ていた。
「これが欲しいのか? そら、一緒に食うか」
 竹の根本に腰を下ろした萃請は包みを開け、どれがいいかと問う。
 顔を天ぷらに近付けた黒猫はすんすんと鼻を鳴らす。よくみれば手足と尻尾の先だけが白い。まるで足袋を履いているようだ。
 黒猫はキス天に興味を示す。ニャ、と鳴いた使い魔はじっと萃請を見上げた。
「嗚呼、これは駄目だ、アタシんだ」
 このままでは奪われてしまいそうだと感じた萃請は天ぷらを掴む。
 そのまま口へ運ぼうとすれば、イニャアアという抗議の声が上がった。しかし萃請は無情にも一気に半分もキス天を齧ってしまう。
 白い前足をてしてしと萃請にぶつけてくる猫。萃請は残る半分を見遣り、しょうがないな、と猫に差し出してやる。はんぶんこだ。
 そうすれば猫の機嫌も良くなり、嬉しげに魚天に齧りついた。
 萃請は指についた油を舐めとりながら猫の使い魔を見つめる。此方の言葉も理解できており、ちゃんと主張も出来るしっかりした子らしい。
 よし、と頷いた萃請は黒猫に問いかける。
「オマエ、アタシと共に行くか?」
「ニャア!」
 すると、是と示すような快い鳴き声が返ってきた。
 未だ名前のない黒猫は萃請の膝の上によじ登り、次の天ぷらを狙っている。すっかり懐かれた萃請は双眸を細めた。
 嗚呼、きっと――。
 このひとときこそが、楽しいと呼ぶべき時間なのだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結

【彩夜】

ひかり輝く竹林のなかを歩む
ステキな出逢いが待っているそうよ
ほら、みて
彼方も此方もきらめきに満ちている

そうと触れてみましょうか
如何なる縁を結わえるのかしらね
心惹かれたひとつへと指さきを添え
わたしと出逢う“あなた”
どんな姿をしているのかしら
わたしに、見せてくださる?

――まあ、
はじめまして、よろしくね
おふたりの出逢いは如何かしらね

めぐり逢いのひと時を終えたなら
このステキな夜を、共に楽しみましょう
やさしい気持ちがこぼれ落ちて
嗚呼、知らぬ間に頬が緩むよう
あなたたちは、あたたかな心地をくれる

つめたい常夜の真白な館
何時しかとりどりの色が灯っていた
このひと時を、これからを
あたたかな彩で満たせたのなら


歌獣・苺
【彩夜】

わぁいわぁい、今日は3人でおでかけ♪
なゆちゃん!ユェーさん!
はぐれちゃったら大変!

(もう、大切な人を手離したくないの。だから…)

手を繋ぎましょう!
…うん、これで安心…♪
ふふふ、これ、両手に…!竹だ!綺麗な竹!

導かれるように輝く竹に触れる
中から小さな呂色の震える子猫
警戒しているのか触れようとすると
噛まれてしまった

怖がらせちゃったかな…ごめんね?
でも大丈夫だよ安心する歌
いつまでも歌ってあげる
だから落ち着いたら一緒に歌おうよ
とっても楽しくなっちゃう歌、教えてあげるね

大好きな紅茶を『半分こ』
心も身体も温まったら
広場へいこう!
幸せを埋めてくれる二人へ歌と踊りの贈り物

――貴方も一緒に歌おうよ♪


朧・ユェー
【彩夜】

光る竹なんて珍しいね
彼女達が怪我しないか気にしながらゆっくりと二人の後ろを歩く
ん?手を繋ぐのかい?良いよ
ステキな出逢いがあると良いねぇ

ふと気になった輝く竹に触れる
小さな雛の烏だろうか?手の平にちょこんと乗っている
二人の出逢いの子はどんな子だろうか
きっと君達を幸せにする素敵な子達なんだろうね

祭囃子の音?
愉しげに過ごす二人を僕も微笑んで見護る
嗚呼なんて心地の良い時間だろうか

買ってきていた焼きおにぎりと和食に合う紅茶を淹れて彼女達の傍に

あの館の彼女達と共にまたこの暖かい時間を過ごせるなら
僕はどんな時でも護っていこう



●邂逅の夜に
 降りそそぐ月光を受け、穏やかな竹林を歩む。
 周囲で耀く光はとても優しい。月の色に魂の彩。そのふたつが合わさった景色からは長閑な雰囲気が感じられた。
「ほら、みて」
 彼方も此方もきらめきに満ちている。
 そんな風に示してみせた七結は夜の心地好さを覚えていた。その少し後ろを歩くユェーは物珍しそうに光を見つめる。
「光る竹なんて珍しいね」
 仄かに道行きを照らす光の中には、ひとつずつ違う魂が睡っているという。
 そう思うと心が浮き立ち、楽しみな気持ちが巡ってくる。苺は共に歩くふたりの名を呼び、片方ずつに両手を差し出した。
「なゆちゃん! ユェーさん!」
 暗い夜の中ではぐれてしまったら大変。だから手を繋ごう、と差し出された掌。
 七結とユェーは顔を見合わせてちいさく笑んだ後、すぐに苺に手を差し伸べた。
「ええ、そうしましょう」
「そうだね、良いよ」
「……うん。これで安心……♪」
 ふたりの手を握った苺は明るく笑む。握り返して貰った掌のぬくもりは確かなもの。
 ――もう、大切な人を手離したくない。だから。
 裡に浮かんだ思いはそっと秘めて、苺は七結とユェーを交互に見つめた。視線を受け止め、七結は頷いてみせる。
「行きましょうか。ステキな出逢いが待っているそうよ」
「ふふふ、これ、両手に……! ふぁ、竹だ! 綺麗な竹がいっぱい!」
 七結に笑みを返し、花、と続けようとした苺の言葉が途中で止まった。その理由は言葉通りに光を宿す竹がたくさんある箇所を見つけたからだ。
 足元で光るもの、目線の先にあるもの。
 高い頭上で明滅している光など、魂の在り処は本当にいっぱいだった。
 ユェーもそちらに目を向け、はしゃぐ苺を微笑ましく思う。
「ステキな出逢いがあると良いねぇ」
 自分達はこれから、どんな子を眠りから起こすことになるのだろうか。期待を馳せながら、ユェー達は視線を巡らせた。
 そして、三人は繋いでいた手を離す。
 それぞれに導かれるように光の元へ歩んでいけば、それらが此方に呼応するように強く輝いた。やがて、各々が光に手を伸ばしていき――。

 七結は、そうと光に触れた。
 如何なる縁を結わえるのかしら、と七結が言葉にすると光は真白く耀く。竹から光が抜け出たかと思うと、それは徐々に形を成していった。
「どんな姿をしているのかしら。わたしに、見せてくださる?」
 七結が問うと、幾つものちいさな光が生まれていく。
 やがて光は何羽もの蝶々になって七結の傍に羽ばたいてきた。その瞬間、七結の裡から何かがあふれていくかのような感覚が巡る。
「――“あなた”は、」
 何故か、はじめまして、とは言えなかった。
 不思議な懐かしさを覚えた七結は指を幽世蝶に伸ばす。するとなかでもいっとうの光を宿していた一羽が指先に止まった。
 蝶々の翅は真白。蝶が周囲に纏う妖力は牡丹一華を思わせる紅。おそらく白い蝶が七結の心の彩を読んで色を得たのだろう。
 ましろと、くれなゐ。
 蝶々が宿した色彩に縁を感じた七結は花唇を蝶々に寄せた。触れるか触れないかくらいの距離で七結は目を閉じる。
 仄かなひかりが瞼の裏に残っていた。
 ああ、この真白は――。

 苺もまた、何かに導かれるように輝く竹に触れていた。
 光は少しだけ怯えたような様子で消えかかっている。しかし、その光は竹から地面にそっと落ちていった。
 中から出てきたのは小さな呂色の震える子猫だった。
 ぱちぱちと瞼を瞬かせた子猫は苺に気付き、ふわふわとした毛を逆立てる。
「大丈夫……? わ、痛……っ」
 子猫は警戒しているのだろう。苺が触れようとすると、かぷりと彼女の指先を噛んでしまった。小さな牙が指に食い込む。しかし、ぐっと耐えた苺は優しく言葉をかける。
「怖がらせちゃったかな……ごめんね?」
 でも、大丈夫。
 苺は緩やかに花唇をひらき、歌を紡ぎはじめた。
 安心するまで、いつまでも歌ってあげる。だから落ち着いたら一緒に歌おう。
 想いを込めて唄いあげていく歌は次第に子猫の心をとかしていく。おそるおそる口を離した子猫はしゅんとして、ごめんなさい、と告げるように尾を下げた。
 平気だよ、と答えた苺は明るい笑みを浮かべる。
「ほら、もう怖くない。後でとっても楽しくなっちゃう歌、教えてあげるね」
 苺は自分が大好きな紅茶を子猫と半分こしていく。
 心も身体も温まったら、もうふたりはお友達。子猫に宿っていた怯えは何処にも見えず、その尻尾は嬉しげにぴんと立っていた。

 ユェーは今、竹から出てきた光を掌に乗せていた。
 ふと気になった輝く竹に触れた瞬間、飛び込むように手の上に訪れたのだ。それは最初こそ光の塊だったが、ユェーが目を凝らすと徐々に鳥のような形になっていった。
「君は……何かの雛かな?」
 ぴぃ、と可愛らしい声が返ってくる。
 ユェーは手の平にちょこんと乗り続けている雛を見つめた。まだどのような鳥になるかはわからないが、最初にユェーを見た雛は彼を親のように思っているのだろう。
 すりすりと寄り添う雛は楽しげに、ぴぴ、ぴちち、と鳴いた。
 そうして、ユェーは懐に雛を入れてやる。ここなら安全ですぐに様子も見られる。雛も嬉しそうにしており、彼の体温を感じながら翼を羽ばたかせた。
 ユェーは七結と苺の様子を見遣る。
 二人の出逢いの子はどんな子だったのだろうと確かめると、それぞれに蝶々と子猫が見えた。どちらも彼女達に似合っていると感じたユェーは微笑む。
「きっと君達を幸せにする素敵な子達なんだろうね」
 良かった、と双眸を細めたユェーは各々に得た出会いを嬉しく思った。

●幸せな歌を
 めぐり逢いのひとときを終えたなら、次はこの夜を楽しむ時間。
 七結は傍を飛ぶ蝶々達を連れ、苺とユェーを誘う。
「このステキな夜を、共に楽しみましょう」
 幽世蝶は多いが、その意志と魂は元々ひとつ。なかでも少しだけ大きな真白の蝶は常に七結に寄り添っている。
 苺は蝶々が綺麗だと感じながら、腕に抱いた子猫を撫でた。
「広場へいこう!」
「祭囃子の音がする方だね」
 苺に頷きを返したユェーは来たときと同じように七結達の後ろを守るように歩く。
 その胸元にはもちろん、ちいさな雛が収まっている。
 七結は賑わう祭の気配を感じ取りつつ、裡にやさしい気持ちがこぼれ落ちていくことを確かめていた。知らぬ間に頬が緩んで、ふたりと共に居られる時間をいとしく想う。
 あなたたちは、あたたかな心地をくれる。
 抱いた思いは胸に秘めたけれど、苺もユェーも同じ思いを感じていた。
 なんて心地の良い時間だろうか。
 幸せを埋めてくれるふたりに明るい笑みを向けた苺は、広場に一番乗りしていく。そうして振り向いた苺は子猫に呼び掛けた。
「――貴方も一緒に歌おうよ♪」
 其処から紡がれていくのは、歌と踊りの贈り物。
 ユェーは無邪気に笑って歌っていく苺を見守り、買ってきていた焼きおにぎりと和食に合う紅茶を淹れていく。
 こんなに穏やかで楽しい時間を過ごせるなら、どんな時でも護っていこう。
 静かな誓いを立てるユェーは館を思い浮かべた。
 七結もまた、つめたい常夜の真白な館の過去と今を対比して、懐いを巡らせる。
 
 館には何時しか、とりどりの色が灯っていた。
 このひと時を、これからを、あたたかな彩で満たせたのなら――。
 きっと其処にも、しあわせな光が宿ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【涙雨】


お嬢さん方、迷子にならねぇでくださいな
自分の目的は竹林なんで、辿り着くまではお嬢さん方のお望みのままに
自分らは全員ヤドリガミですけど、魂の天ぷらは……どうなんですかね、食って良いもんなんです?
では有難く、……あ、意外と美味しいんですねこれ

……これは、圧巻ですねぇ
かぐや姫もかくやと言わんばかり

ねぇ、例え呪詛に塗れても、人の子を救うため、人の子の無念を晴らすため、手を貸してくださる方はいらっしゃいますか?
嗚呼、なら、契約しましょう
自分とおいでなさいな

禰々子のお嬢さんから聞いて、考えてたんですよ
妖や怪異に準ずるもんなら契約相手にお迎えしたいな、と
……こういう出逢いも、たまには良いでしょう?


ネムリア・ティーズ
【涙雨】

……すごい、とってもにぎやかだね
気になるものばかりで、つい歩き出してしまいそう
わあ、ほんとう?
ねえさゆり、最初の行きたいとこ、ボクたちで決めていいって

ボクはお店を見たいな
分け合いっこして、いろいろ食べたら楽しそう
ふふ、全制覇、だ
禰々子が言ってたエビのてんぷら…?も気になるんだ

これがエビの…大丈夫か、ドキドキするね
思いきって小さくひとくち
…!……さくさくだ、すっごくおいしいよ
おいしいものを食べても、びっくりするものなんだね

…このひかりが、眠るたましいなの?
あたたかくて優しいひかり
叶が出逢うのはどんな子だろう

さゆりの隣で見守るよ
どうかこの先も、目覚めた魂と叶を柔らかな光が照らしますように


四・さゆり
【涙雨】

迷子になるかはお前次第ね、叶。
ちゃんと見つめてなさいな、妖に化かされないように
…。跳ね回る妖たちに目を細めて
どれか、連れて帰っては、だめ?…。冗談よ。

お前たちで充分。

勿論よネムリア
えび、…たまご、…ちくわ。
目指すは、全制覇、よ。
分けっこしましょ。

たましいのてんぷら。
外側を、器を食べるか、中身を食べるかの違いでしょう?
あら、本当。おいしい。
…これ、持って帰れないのかしら。
ね、これも食べてみて、叶もよ、ほら。

わたしの叶に傅くのは、さて
どんな子かしら、ね
主人として
変な虫がつかないように、見届けましょう

互いに誓いなさい
互いに尽くすと

この子を、よろしくね
どうか
わたしの分まで。



●やさしい邂逅
 笛の音色に太鼓が響く音。
 賑々しいと表すに相応しい祭の雰囲気が夜を彩っている。妖怪達が催す魂魄祭の最中を歩き、盛況さに浸れば不思議と楽しい気分が満ちてきた。
「……すごい、とってもにぎやかだね」
 ネムリアは視線をあちこちに巡らせ、活気のある祭に興味を示す。
 妖怪が織り成す不思議な踊り。行き交う人影はまるでおばけのようで、はしゃぎまわる子供達の姿も少し変わっている。
 つい別の方向に歩き出してしまいそうになっているネムリア。そして、じっと駄菓子屋帯を見ているさゆりの姿に気付き、叶は軽く声をかける。
「お嬢さん方、迷子にならねぇでくださいな」
「迷子になるかはお前次第ね、叶」
「そいつは責任重大ですねぇ」
「ちゃんと見つめてなさいな、妖に化かされないように」
 すると、さゆりは答える。
 もし逸れてしまったならば自分達のせいではなく、叶の監督不行き届きだ。そんな風にいつもの調子で語った少女に頷き、叶は笑いながら肩を竦めた。
「わかりました。自分の目的は竹林なんで、辿り着くまではお嬢さん方のお望みのままに、見守らせて頂きますよ」
「わあ、ほんとう? じゃあさゆり、どっちにいこうか」
 ネムリアは自由に回れると知り、さゆりと共に何処に行くか相談していく。
 どこでもいいわ、と答えたさゆりは行き先を任せることにした。それもまた責任が重大だと感じ、ネムリアはあれやこれやと屋台を見渡していく。
 そんな中、さゆりはふと広場に目を向ける。
「……」
 祭囃子の音色に乗って跳ね回る妖は実に楽しそうだ。その様子に目を細めたさゆりは、ぽつりと呟いた。
「どれか、連れて帰っては、だめ?」
「それは……」
「冗談よ。お前たちで充分」
 その言葉を拾った叶が何かを答えようとしたが、すぐにさゆりは首を緩く振った。その様子を見ていたネムリアは彼女が最後に付け加えた言葉に対して、ちいさくとも確かな嬉しさを感じた。きっと、それこそが本音だからだ。
 そして、ネムリアは二人に希望を告げる。
「ボクはあの辺りのお店を見たいな」
 分け合いっこをして、いろいろと食べていったら楽しそうだ。一人では難しくても三人ならきっと少しの無茶だって出来る。いいかな、とネムリアが聞くとさゆりが頷く。
「勿論よネムリア」
「来る前に聞いた、エビのてんぷらも気になるんだ」
「いいですね、行きましょうか」
 叶も是非にと答え、ネムリアが指差した天ぷらの屋台に向かっていった。
 店先には提燈がぶらさがっており、ゆらゆらと揺らめいている。その中では妖怪の店主が次々と魂をからりと揚げていた。
 元が魂ということは不思議だが安全なものらしい。店主が油にそれらを浸せば、見慣れた天ぷらの形になって揚がっていく。
「えび、……たまご、……ちくわ。目指すは、全制覇、よ」
「ふふ、全制覇、だ」
「魂の天ぷらは……どうなんですかね、食って良いもんなんです?」
 少女達は店主に注文をしていき、叶は首を傾げた。しかし周囲の妖怪達は美味しそうに天ぷらを食べている。此方の世界では普通のことのようだ。
 そうして、さゆり達の注文品が揚がる。
 お待ち、とネムリアの前に天ぷらが乗った竹の皿が差し出された。
「これがエビの……大丈夫か、ドキドキするね」
「外側を、器を食べるか、中身を食べるかの違いでしょう?」
 ネムリアは思いきって、さゆりは何でもないようにひょいと天ぷらを手にする。そして、同時にぱくりと一口齧ってみた。
「……!」
「あら、おいしい」
「……さくさくだ、すっごくおいしいよ」
「本当。こっちは持って帰ってみてもいいかもしれないわ」
 さゆりは追加で店主に注文を告げ、ネムリアは海老天を食べていく。さゆりは竹輪天をもくもくと食べながら、叶に竹皿を差し出した。
「ね、これも食べてみて、叶もよ、ほら」
「では有難く。……あ、意外と美味しいんですねこれ」
 なかなか、と言葉にした叶の隣でネムリアも玉子天に手を伸ばす。すっかり気に入ったらしい彼女は上機嫌だ。
「おいしいものを食べても、びっくりするものなんだね」
 ふふ、とふたびネムリアの口許に笑みが宿る。
 されど屋台巡りはまだまだ始まったばかりだ。蕎麦におにぎり、駄菓子屋だってあるらしい。そうして三人は暫し食事のひとときを過ごしていく。

 夜は巡りゆき、屋台を楽しんだ一行は光る竹がある林の中に訪れていた。
「……これは、圧巻ですねぇ」
 叶はそこかしこで輝いている光を見渡していく。
 まるで物語のようだ。かぐや姫もかくやと言わんばかりだと評した叶は、ゆっくりと竹藪の中を歩いていった。
「このひかりが、眠るたましいなの?」
 ネムリアも彼に続いて数々の光を瞳に移していく。
 魂は目覚めを待っているようだ。どれもがあたたかくて優しいひかりだと感じて、ネムリアはさゆりの横で立ち止まる。
 此処に来たのは、叶がこの中から新たな巡り逢いを探すためだ。
「出逢えるのはどんな子だろうね」
「わたしの叶に傅くのは、さて。どんな子かしら、ね」
 ネムリアは期待を馳せ、さゆりも光を選んでいる叶を見守っていた。主人として変な虫がつかないように見届けるのが目的だ。
 そして、叶は導かれるように或る竹の元で立ち止まった。
「――ねぇ、」
 腕を伸ばした叶は光に呼び掛ける。
 願うのはひとつ。たとえ呪詛に塗れても、人の子を救うため、人の子の無念を晴らすため、手を貸してくれる存在を見つけること。
 叶は光に触れる。すると其処からちいさな動物が現れた。
 ぴんと立った耳。
 揺らめく煙のようなふわりとした尾。
 猫か狐か、叶の持つ煙の力を読み取って宿した魂はそっと彼に寄り添った。まるで願ったことに是と応えているかのようだった。
「嗚呼、なら、契約しましょう。自分とおいでなさいな」
 手を差し伸べると煙獣は叶の手に触れる。これで契約は完了したようだ。
 さゆり達はその様を見つめ、無事に邂逅が終えられたことを確認した。そして、ネムリアは光を眺める。
 彼女の差しを追い、さゆりは叶達に語りかける。
「互いに誓いなさい」
 互いに尽くすと、支え合うと。
 さゆりの言葉に叶は頷いて答えてから静かに微笑んでみせた。それでいいの、と告げたさゆりは次に煙獣の方に目を向ける。
「この子を、よろしくね」
 ――どうか、わたしの分まで。
 今はこうして皆と居られても、いつまでも一緒に寄り添い続けることは出来ない。
 それだから、と静かに願いを胸に沈めたさゆりは顔を上げる。灰色の片目には二人と一匹の姿が映っていた。
 一行は頷きを交わし、誰ともなしに歩み始める。
 光り輝く竹に導かれるように進みながら、ネムリアは裡に浮かんだ言葉を落とす。
「どうかこの先も、目覚めた魂と叶を柔らかな光が照らしますように」
 その願いはとてもやさしい。
 叶は少女達の思いを感じ取り、ゆるりと歩を進める。
 こうして、祭の夜は更けていき――穏やかな時間はゆっくりと過ぎていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【春告鳥】✨
嗚呼、お前とA&Wで最初に出逢って交わした約束
漸く果たす時が来た
もう一年以上…今でも鮮明に憶えてる
リルの歌
今は座長だもんなァ

(初めてだった
あそこまで歌に感銘を受けたのは
お前以上に惹かれる春蕩けの歌聲は
ねェよ
今も)

屋台で天婦羅の香りに目細め
エビ天や鮎など天婦羅を購入
リルへエビ天を渡す
残りはヨルへ
幽世流で食す

美味ェな!
さて、こっからだ
本番に強いンだろ(くす
期待してるぜ
楽しんでいけよ

リルを広場へ送り出す
観客として春の音を聴く
踊る妖怪もいて笑う

綺麗だった
上達したな(頭ぽん
桜花が咲いて見えたぜ

最後に光る竹にリルと優しく触れ
一時を育む

俺にも八咫烏や夜雀がいるが、どんな巡り合わせがあるか楽しみだ


リル・ルリ
【春告鳥】✨

僕は歌は得意だけれど楽器は馴染みがなくて

クロウの言葉に、にこりと微笑む
ふふ、座長なんだから!
優しい眼差しに、胸を張ってみせる

クロウからさくさくのえび天麩羅を受け取って―あちち
これが幽世流の食べ方なの?
さくさくをふうふうしながら満喫する
君の鮎の天麩羅も美味しそうだ

元気をつけたなら
遂に本番
春告の笛の音色を披露する
ふふん、聴いててよね
ずっと練習してたんだから

春目覚める笛を吹く
桜がまって
桜がちって
また咲いて―爛漫に
あえかに
幸をうつすように
咲き乱れるように

冬がなければ
雪どける春もない

褒められれば嬉しくて頬が緩む
あ!竹!
ヨル、一緒に触ってみよう
どんなのがでるかな
ねぇクロウ
クロウは何がでてきた?



●約束の音色
 今日は以前からの約束を果たせる日。
 最初に出逢って交わした言葉と、あのときに聞いた歌を思い返す。もう一年以上も前になるのかと思えば感慨深くもあった。
「漸く果たす時が来たな」
 今でも鮮明に憶えているのだと語り、クロウはリルに視線を向ける。
 あの頃と比べて人魚は大きく成長した。
「今は座長だもんなァ」
「ふふ、座長なんだから!」
 クロウの言葉と優しい眼差しに、にこりと微笑んだリルは胸を張ってみせる。
 泡沫のように儚く、水の中にとけきえてしまいそうだった人魚は、様々な出会いと経験を経てきた。元より強い光のような存在だったが、人魚の中に或る花が咲いたことでその輝きは更に彩を得たように思える。
 クロウは双眸を細め、告げぬ思いを胸裏に浮かべた。
(初めてだった。あそこまで歌に感銘を受けたのは――お前以上に惹かれる春蕩けの歌聲は何処にもねェよ)
 そう、今も。
 そしてクロウはリルを誘って屋台通りの方に歩き出した。
 アレを食べよう、と示したのは天麩羅屋台。
 ひとまずは人気らしい海老天。それから鮎の天麩羅を頼んだクロウの横で、リルは魂の海老天がからりと揚がっていく様を見つめていた。
 はいよ、と店主がクロウに天麩羅を渡す。
 彼は鮎天を自分に、海老天をリルに渡した。更に特別にちいさめに作ってもらった天麩羅をリルの腕の中にいるヨルにあげる。
 きゅ、とお礼を告げる鳴き声が聞こえたことでクロウは笑む。
「あちち」
「ほら、食おうぜ」
 そのまま手で持って、幽世流で食せば――。
「おいしい!」
「美味ェな!」
「きゅきゅい!」
 三人の声が重なり、さくさくと快い音が広がる。海老に鮎、ミニ魚天麩羅。ふうふうと冷ましながら満喫すれば楽しさが満ちてきた。
 そうして、暫し後。
 広場に向かったクロウは楽しげな様子を見て、くすりと笑う。
 此処に訪れた目的は笛の演奏を披露するためだ。
「さて、こっからだ。本番に強いンだろ」
「ふふん、聴いててよね。ずっと練習してたんだから」
 期待してるぜ、と告げられた言葉におおきく頷き、リルは広場に游ぎ出る。その手には春告の笛が握られていた。
 歌は得意だけれど楽器は馴染みがなかった。けれども今日は遂に本番だ。
「楽しんでいけよ」
 クロウに送り出され、リルは目を閉じる。そして――。
 春目覚める笛を吹き、夜祭に音色を響かせる。
 桜がまって、桜がちって。
 また咲いて――爛漫に。
 あえかに幸をうつすように、咲き乱れるように。
 冬がなければ、雪どける春もない。
 闇がなければ、照らす光もないから。
 そんな春の音を聴き、クロウはリルの演奏を妖怪達と共に楽しんだ。やがて曲は終わり、リルが此方に戻ってくる。
「綺麗だった。上達したな。桜花が咲いて見えたぜ」
「やった、ありがとう!」
 褒められたことで嬉しくなり、リルの頬も緩んでいった。
 笛の音を聞いた妖怪達も大いに喜んでくれており、演奏は大成功。ヨルもきゅっきゅと喜んでおり、子供妖怪と一緒にぱたぱたと駆け回っていた。

 それから一行は広場を後にして、光る竹の元へと向かう。
「あ! 竹! ぴかぴか光ってるね」
 リルはぴるぴると尾鰭を揺らして近付いていく。光は竹林の間にちらほらと見えた。そのどれもに魂が睡っており、目覚めを待っているのだという。
 クロウもその一本に歩みを寄せて手を伸ばす。其処に触れれば光が呼応してくれるはずだ。自分にも八咫烏や夜雀がいるが、どんな巡り合わせがあるか楽しみでならない。
 クロウは、ヨルと一緒に竹を選んだリルの方を見遣る。
「それじゃあやるか」
「うん! ヨル、一緒に触ってみよう。どんな子がでるかな」
 そうして、二人と一羽はそっと光に触れた。

 ふわり、ゆらりと光が浮かび上がる。
 まあるい形をしていたそれはふたつに分かれ、次第に蝶々の形になっていった。リル達の傍に舞い降りた幽世蝶は二羽。
 黒い蝶々達はヨルの頭の上と、リルの指先に止まった。
 蝶々は美しく、まるで黒薔薇を思わせる出で立ちだ。穏やかに翅を揺らす幽世蝶は言葉こそ喋らないが、ヨルとリルに感謝を伝えているようだ。目覚めを齎してくれたこと。出会ってくれたことに喜びを覚えている。
 リルも何となく思いを感じ取っていたが、ヨルは蝶々ときゅきゅきゅ、と言葉を交わしているようだった。
「ヨル、この子達と話せるの?」
「きゅ!」
 どうやら式神達の相性はとても良いらしい。黒の蝶々はふわふわとリル達の周囲を舞い、淡い光の欠片を散らしていった。

 一方、クロウの触れた竹からは光がぽとりと零れ落ちていた。
 地面に蹲るように落ちた光を見下ろす。するとクロウの足元で光が強く明滅し、やがてそれはちいさな蛇となっていった。
「こいつは……?」
 真白な鱗が美しい蛇は、しゅるりと舌を出した。
 起こしてくれたのはお前か、と云うようにクロウを見上げている。蛇の中でも白蛇は高い力を持つと言われており、その周囲には不思議な霊力が満ちていた。
 白蛇は悪いものではなく、一説では蓄財の神でもある弁財天の眷属とも呼ばれる。
 蛇はクロウに礼を言うように首を擡げた。
 そして、クロウ達が来た方向とは別の道へとしゅるしゅると進んでいく。
「ん? 何処に行くンだ」
 クロウが呼び掛けると白蛇は一度だけ振り向き、また更に奥へ向かっていく。
 ――共に来い。案内してやろう。
 そんな意志が感じ取れたことで、クロウはリルを呼ぶ。
「ってワケなんだが、どうする?」
「クロウはどうしたい?」
「それは――」
 其処から蛇を追いかけるか否か。その選択はクロウ自身に任されており――その後、どのような時間を過ごしたのかは、彼らだけが知る出来事だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波紫・焔璃
彩灯(f28003)と

わーい、お祭りー!!
みんな楽しそうに踊ってるねー
笑顔もきらきらしてるし、よきかなよきかなー♪
ひとりでお祭りは寂しいから、会場で出会った彩灯に付き合ってもーらお!

ん?なあに?
え?ほんと?うん!行こう行こう!!
彩灯にえすこーとしてもらうー

ん?何か気になる物でもあった??
あー、あんず飴!
美味しいよ、彩灯も食べてみなよ
屋台のおじさんに二つもらって分け合って
んふふ、おいひい♪
ご機嫌なままお祭りを駆け抜けて
お、行っちゃう?いいよ、れっつごーう

ぉお、ほんとに竹が光ってる
……昔話みたいだねぇ
灯る竹をじぃと見つめて、そうっと触れてみる
メダル…じゃないのがいいなぁ……なあんて、ね


壱織・彩灯


焔璃(f28226)と

噫、祭囃子のおとはほんに心地よくてわくわくするな?
ほら、真ん中では皆手を取り合って笑うておる
なあ、なあ、
煙の。焔璃。
折角だ、俺達も踊るか?
くるりとはしゃいだ様にステップ踏んでえすこーと、をさせて頂こう

真っ赤なあんず飴に
惹かれるまま
焔璃はこれを喰ろうたことあるか?
首を傾げ飴にくちびる寄せて
美味いと聞けば齧り付く
ああ、ほんに。甘くて美味いなぁ

一通り祭りを楽しんだなら、さあ、光り竹林に宿る魂の眠りを解きにゆくとしようか

そうと、淡く灯る竹を見定めて、手を伸ばした先に優しく触れるだけ、
昔話か……確かに、そのような竹に由縁在る御伽があったな
さあ、どんな愛し仔が応えてくれるやら



●灰と黒
 祭の賑わいを彩るのは楽しげな声と祭囃子。
 夜の最中に宿る淡い光と、揺らめく提燈の明かり。そして降り注ぐ月光。
 そのどれもが心地よく思え、焔璃は両手をあげてその場でくるくると回った。
「わーい、お祭りー!!」
「噫、祭囃子の音はほんに心地よくてわくわくするな?」
 はしゃぐ焔璃の傍ら、彩灯は音に乗って踊っている妖怪達の姿を見つめる。笛の音と太鼓の音、爪弾く三味線の音色が夜を不思議な空間にしているかのようだ。
 ほら、と彩灯は広場を示す。
「真ん中では皆手を取り合って笑うておる」
「ほんとだ。みんな楽しそうに踊ってるねー」
「よき光景だ」
「みんな笑顔もきらきらしてるし、よきかなよきかなー♪」
 元に戻った世界で大いに楽しむ者達を見守り、焔璃と彩灯は祭囃子を聞いていた。
 こんなに賑やかでも、きっとひとりでお祭り巡りは寂しかった。だって少しだけ、みんなから取り残された気分になるから――。
 けれど今は隣に彩灯が居てくれる。だから何にも寂しくはない。
 焔璃がしみじみと考えていると、彼が不意に手招きをする。
「なあ、なあ、煙の」
「ん?なあに?」
 焔璃、と名を呼ばれたことできょとんとして、彩灯を見上げた。すると彼は楽しげな音が響く広場を見遣る。
「折角だ、俺達も踊るか?」
「え? ほんと? うん! 行こう行こう!!」
 彼女から返ってきたのは嬉しげな答え。彩灯はくるりとはしゃぐようにステップを踏んで、焔璃の手を取った。
「えすこーと、をさせて頂こう」
「やった! 彩灯にえすこーとしてもらうー」
 彩灯の手を握り返した焔璃は、彼と共に広場の中央に踏み出していく。
 踊って、回って、ときには歌って。
 楽しくて賑々しい時間が過ぎていく。そうして音色が一段落した後、二人は身を交わしあう。其処に巡る気持ちは快くて、いつまでも踊っていたいくらいの気分だった。
 けれどもお祭りはこれだけではない。
 どちらともなしに視線を向けたのは更に賑わう屋台の方。
 行こう、と告げた焔璃。お返しに次は自分が彼をエスコートする番だと感じて、彼女は屋台通りへと駆けていく。

 からりと揚がる天麩羅。湯気が揺らめく蕎麦屋。
 素朴なおにぎり屋に、子供達が集っている駄菓子屋台。
 どれも見ているだけで楽しくなってくる。通りを歩く彩灯はふと、真っ赤な何かを目にして立ち止まった。
「ん? 何か気になる物でもあった??」
 焔璃が気付いて問いかけると、彩灯は駄菓子屋台の片隅にある飴を指差す。
「焔璃はこれを喰ろうたことあるか?」
「あー、あんず飴! 美味しいよ、彩灯も食べてみなよ」
 おじさーん、と小豆洗いの妖怪店主に声を掛けた焔璃はあんず飴をふたつ買った。
 片方は自分に、もう片方は彩灯に手渡してから、ぱくりと飴を口にする。
「んふふ、おいひい♪」
 もとより笑顔だった彼女に更なる笑みの花が咲いたことで、彩灯は目を細めた。美味しいと零れた言葉はきっと心からのものだ。
 彩灯も倣って飴に口許を寄せ、水飴に包まれた杏の味を確かめる。最初は甘くて、次に甘酸っぱさが広がっていく。
「ああ、ほんに。甘くて美味いなぁ」
「ね!」
 彩灯が同じ心地を感じてくれていることが嬉しくて焔璃はご機嫌だ。そのまま祭りを駆け抜けていく焔璃の後に続き、彩灯も歩みを進めていった。
 そうして屋台通りを一通り祭り楽しんだならば、次は竹林へと向かう時。
「さあ、光る竹林に宿る魂の眠りを解きにゆくとしようか」
「お、行っちゃう? いいよ、れっつごーう」
 彩灯と焔璃は祭の喧騒から離れ、笛や太鼓の音を背にして光の元を目指す。
 そして――。
「ぉお、ほんとに竹が光ってる」
 昔話みたいだねぇ、と零した焔璃は足元で耀く竹の一部を見下ろした。
 彩灯は頭上高くで光っているものに目を向けており、次に目線の高さにある竹にも視線を巡らせていく。
 どの光もそれぞれの輝きを秘めており、目覚めの時を待っている。
 灯る竹をじぃと見つめた焔璃は、どうしてかこの光が自分を呼んでくれているようだと感じた。そうっと手を伸ばした焔璃は光に触れてみる。

 ――にゃあ。
 光が地面にするりと抜け落ちた。
 それと同時に猫の声が聞こえ、焔璃は声の方に目を向ける。それまで光の塊だったものは猫の形を成していく。
「あなたは?」
 焔璃が問うと、灰色の猫は紫色の瞳を向けて、もう一度「にゃあ」と鳴いた。
 どうやら彼は猫の使い魔のようだ。灰猫の胸元の一部には、波を思わせる白い毛の模様がある。眠りから目覚めたばかりの灰猫は尻尾をぴんと立てた。
 吾輩は煙色の猫である。名前は未だ無い。
 そんな意思が伝わってきた気がして、焔璃はくすりと笑んだ。
「おいで、一緒に遊ぼう!」
 焔璃が手を伸ばすと灰猫はその掌にすりすりと顔を寄せ、心地好さそうに目を閉じた。
 
 その様子を見守っていた彩灯も、光に手を伸ばす。
 そうと、淡く灯る竹を見定めて指先で優しく触れる。そうすると光はふわふわと宙を舞い、彩灯の周りをくるりと回った。
「昔話か……確かに、そのような竹に由縁在る御伽があったな」
 先程の焔璃の言葉を思い返した彩灯は、とてもちいさな姫君が竹から出てくる想像を巡らせる。けれども、この光の雰囲気はどうやら姫とは違うようだ。
「さあ、どんな愛し仔か――」
 彩灯が舞う光に掌を差し出すと、それは幽世蝶の姿に変じた。
 その翅は彩灯の髪の色と同じ漆黒。優雅に、なおかつ静かに掌の上に止まった蝶々の周りには不思議な霊力が感じられた。
 ――目覚めを齎してくださった貴方に、この力を捧げます。
 そんな声が聞こえたかと思うと霊力が彩灯の中に流れ込んできた。蝶々はそのまま羽ばたき、彼の傍をひらひらと飛ぶ。

「何だか不思議! でも面白い出逢いだったね」
「ふむ、合縁奇縁とはこのことか」
 それぞれに出会ったものを確かめてから、視線を重ねた二人は笑いあう。
 今宵に邂逅したもの達と、どんな言の葉を重ねて、どうやってこれからのひとときを過ごしていくのか。それは、二人の思いと選択次第だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷守・紗雪
御手隙の方がいらっしゃれば犬塚様のPCさんに御一緒してもらえると幸いです


わあ、わあああ!ぴかぴか光る竹です!
何かが宿っているのです?
ユキにもお友達ができるでしょうか
冷たい雪女の手は拒まれないでしょうか…?

迷いながら手をそろり伸ばして竹に触れる

ユキとお友達になってくれますか?
えへへへ。ありがとう
いっぱい遊びましょうね!

自分の下へ来てくれた子をぱあっと明るい笑顔で出迎え
触れても平気な様子に思わず涙ぐみ
くるり振り返り付き合ってくれた相手へ礼を
そしてもうひとつ、と口籠り

あの、あのっ!
広場でたくさんお店があるのです
甘いものやテンプラという食べ物もあるみたいで
良ければもう少しだけ、一緒に見てみませんか?



●雪色の出逢い
「わあ、わあああ!ぴかぴか光る竹です!」
「わあ……! きらきらした光の竹です!」
 少女と少年、二人の声が重なった。
 はたとした彼女たちは顔を見合わせ、きょとんとする。しかしすぐにどちらともなく笑みをたたえ、景色に同じ感想を抱いたことに不思議なおかしさを感じた。
 少女の名は紗雪。少年の名はミカゲ。
 魂魄祭の中で見られるという魂の光に誘われて、偶然に出会った二人だ。彼らは既に自己紹介を終えている。ミカゲの後ろには、通称ハルお姉ちゃんと呼ばれる浮遊霊がいて、二人を微笑ましそうに見守っていた。
「紗雪ちゃん、あっち!」
「向こうにもたくさん竹が光っています!」
 ミカゲが指差した方にぱたぱたと駆けていく紗雪。その瞳は期待に満ちていた。
「何かが宿っているのです?」
「どんな子がいるんでしょうね。わくわくします」
「ユキにもお友達ができるでしょうか」
 ミカゲもその後に続き、紗雪の後ろからひょこりと竹の光を覗き込む。その時にふと、紗雪の視線が下に向いた。
 少女は自分の掌を見下ろしている。
 こんなにあたたかな光だから、冷たい雪女の手は拒まれてしまわないだろうか。
 そのことが少しだけ心配で、しゅんとしてしまった様子の紗雪に気付き、お姉ちゃんの霊がそっと手を伸ばす。
 そして、紗雪の手に自分の手を重ねた。
「ふぇ……?」
「ハルお姉ちゃんが、大丈夫ですよ、って言ってます」
 顔をあげた紗雪に向け、ミカゲはそっと笑んでみせる。紗雪に触れている浮遊霊の掌も冷たい。けれどもどうしてか温かさを感じた。
 曰く、手の冷たい人は心があったかい。
 昔にお姉ちゃんからそんな話を聞いたことがあるのだとミカゲが告げると、不安気だった紗雪の表情も明るくなった。
 少女は未だ少し迷いながらも、手をそろりと伸ばして竹に触れてみる。
「ユキとお友達になってくれますか?」
 問いかけながら光を見つめると、紗雪の前に輝きが満ちた。
 その光は次第に形を成し、凛とした雰囲気を湛えた真っ白な狛犬に変わる。すらりとした体躯の狛犬は紗雪の身長の半分ほどで、それなりに大きい。
 純白の毛並みはしなやかだ。
 その瞳や尾の先端は青色に染まっており、冬や雪を思わせる風体だった。
 静かに鳴いた狛犬は紗雪に真っ直ぐな視線を向ける。まるで、友達になることを了承しているかのような眼差しだった。
 ぱあっと明るい笑顔を咲かせ、狛犬を出迎えた紗雪は嬉しげだ。
「えへへへ。ありがとう。いっぱい遊びましょうね!」
 紗雪が手を伸ばすと、狛犬は自分から少女の掌に頭を寄せた。冷たい指先であっても狛犬は不快な様子などは見せていない。
 おそらく雪の属性を宿す霊獣なのだろう。自分が触れても平気な様子に思わず涙ぐんだ紗雪だったが、すぐに笑みを浮かべてくるりと振り返る。
 ミカゲ達は紗雪と白狛犬の様子を見て、穏やかな視線を向けた。
「良かったですね、紗雪ちゃん」
 お姉ちゃんも嬉しそうに両手を広げて、その場でくるくると回っている。どうやら新たな出逢いを祝福ししているようだ。
 紗雪は礼を告げ、そしてもうひとつ、と口籠る。
 そうして、意を決して告げたのは――。
「あの、あのっ! 広場でたくさんお店があるのです、よかったら、その……」
 甘いものにテンプラ、おにぎりにお蕎麦。
 雪山に居た頃は知らなかったものがたくさんあるから見てみたい。そう語った紗雪はミカゲ達に願う。
「もう少しだけ、一緒に見てみませんか?」
「はい、もちろん。僕達からも紗雪ちゃんを誘うつもりでしたから」
 そんな風にミカゲが語りかけると、姉の霊は少年と少女の手をぎゅっと握って引っ張った。早く行きましょう、と告げているようだ。
「わあっ、お姉ちゃんってば!」
「わわっ、ハル様! いそがなくてもお祭りは逃げないのです!」
 再び二人の声が重なった。
 屋台通りに向かう一行は賑々しい。
 その後ろを雪色の狛犬が静かにゆっくりと付いていく。それから少女達が大いに今宵を楽しんだことは間違いなくて――。
 こうしてまたひとつ、天明の祭の一幕が巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

龍槙・悧玖

ネコちゃんが言ってたお祭りってココでいいんだよな?
うん、迷わず来れた

すっげ楽しそう
踊るのも面白そうだし
それに屋台とかワクワクするじゃん
ネコちゃんも来てるんだよな?折角だし会えるといいな

りう🐈を抱えて、辺りをきょろきょろ。
“りう”ってのは俺の使い魔。という事にしてるけど実は猫の姿に変身して元に戻れなくなった俺の双子の片割れ
元気がよい奴で、今日も
『りく!りうエビ天食べたいぞ』
なんて言って楽しんでる。
猫ってエビ天食べてもいいもんなん?
光る竹も見れるんだって、行ってみようぜ

すげぇ ほんとに光ってる。
あったかいんかな、これって触っていいんだっけ?

この世界にきて初めてのお祭り、たくさん楽しめるといいな



●🐈🤖🎮
 祭囃子は賑やかに、心地好い音となって響いていく。
 悧玖はきょろきょろと辺りを見渡し、此処が天明の魂魄祭が行われている場所であることを確かめる。
 どうやらこの場で間違いないようだと感じた悧玖は、よし、と頷いた。
「ネコちゃんが言ってたお祭りってココでいいんだよな?」
 腕に抱えられているりうも興味深そうに周囲を眺めている。りうの視線が広場に向けられていることに気付き、悧玖は双眸を細めた。
「すっげ楽しそう」
 其処では音楽に乗って様々な妖怪たちが踊っている。
 皆に混じって踊るのも面白そうだ。それに屋台通りからも活気が感じられ、何処に行こうかワクワクしてくる。
 すると、悧玖の後ろから元気な声が響いた。
「悧玖! こんばんは、君も来てたのね」
 その声の主は禰々子だ。
 その子は? と少女が聞いたので、悧玖はりうのことを紹介する。
 使い魔、と名目上は告げているが、本当は悧玖の双子の片割れだ。変身したまま猫の姿から戻れないでいるという。
「こっちが探す前にネコちゃんが見つけてくれるなんてな」
「ふふーん。あたしのアンテナはびびっと何でも見つけちゃうの!」
 よろしくね、とりうに告げた禰々子は悧玖と共に微笑みあう。そして、折角だからと悧玖達の案内を買って出た。
「悧玖は食べたいものはある? おすすめの店を教えるわ」
「うーん、えぇと……」
 屋台通りを歩いている中で問いかけられ、悧玖が少しばかり悩む。おにぎりに蕎麦、駄菓子に天麩羅屋と様々で何を食べたいか決めかねてしまう。
 すると、りうが片足をぴっとあげて主張した。
『りく! りうはエビ天が食べたいぞ』
「わかったわ、天麩羅屋さんね」
 りうの可愛らしさにくすくすと笑った禰々子は悧玖達を手招き、店に連れて行く。
 其処はろくろ首の店主が目印の天麩羅屋台だ。
 りうの希望通りに海老天が注文され、衣を纏った魂海老が狐色の油の中に投入されていく。香ばしい匂いを感じながら、悧玖はふとした疑問を零した。
「そもそも、猫ってエビ天食べてもいいもんなん?」
『良いに決まってる!』
「ふふ、ほどほどにしておけば大丈夫。ね、りう」
『そのとおり』
 悧玖の問いに禰々子とりうが頷きあう。どうやらすっかり仲良しになったようだ。
 そうして三人は揚がった天麩羅を味わい、他愛ない話に花を咲かせる。禰々子は途中で駄菓子が欲しくなったと言って走っていき、悧玖とりうはその背を見送った。
 そして、暫し後。
「これが光る竹か……来てみてよかったな、すげぇ綺麗だ」
 りうと共に竹林に訪れた悧玖は様々な強さで光る竹の光景を目にしていた。
 ほんとに光ってる、と物珍しそうに手を伸ばす。すると触れる前から仄かな温かさが感じられた。この光に呼ばれた気がして、悧玖はそのまま竹に触った。
 その瞬間。
 ふわりと光が浮かび上がり、其処から何かが顕現する。
「こんなものまで眠ってたのか」
 それは昔懐かしい雰囲気のするブリキロボだった。カタリ、カタリと腕をあげたちいさなロボットは悧玖の前に浮かび、胸元の装飾を光らせながら音声を鳴らした。
 ――戦闘、及び行動プログラムを組んでクダサイ。
「プログラム?」
 どうやら胸元のボタンを押すことで何らかの命令を組むことが出来るようだ。まるでゲームのようだと感じながら、悧玖はブリキロボを手に取った。
『この子はどうする?』
「どうするかな。祭に戻って考えるか」
 肩に乗っているりうからの問いかけに対し、悧玖は頬を掻きながら答える。
 そんなとき、少し遠くから呼び声と音楽が聞こえてきた。
「悧玖、りうー! 今から皆で踊るんだって! はやくはやくーっ!」
 それは両手を振っている禰々子の声だ。
 悧玖はそちらに手を振り返し、今行く、と告げた。美味しい食べ物に不思議な出会い、そして楽しい時間――。
 まだまだ続くひとときを思い、悧玖はりうと共に歩き出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
何かまた迷い込んじゃったな…
お祭りの音がおっきくて、離れて来ただけのつもりだけど…
でもぽわぽわ光ってる竹はとっても綺麗
「そういえば竹のお花ってあるのかな…」
またぼんやり考え事
でも不意にどれか触ってみたくなって
「わ、…!?」
現れたのは綺麗な緑色の蝶
えっと確か、幽世蝶
ステンドグラスっていうのかな、翅の模様がすごく綺麗
よく見たら森とかを思い出させるみたいな
葉っぱ模様にも見える
…そっか、わたしだから
「…一緒に、来てくれる?あまり先は長くないと思うけど、その日が来るまで」
私は花に憑かれ、発作として花を吐く娘
緑とは切っても切れない運命だから



●花が咲いて、枯れるまで
 真夜中に迷い込んだのは竹林の最中。
 淡く揺らめく光が暗い道を照らしている。竹の向こう側には此処よりも更に明るい光が満ちていた。揺れる提燈、響く祭囃子。賑やかな声。
 そういったものから離れるように歩いてきた心算だけれど――。
「ここは……?」
 香鈴はゆっくりと辺りを見渡し、金木犀色の瞳に竹林を映す。
 此処が高木の林で良かった。一瞬だけ浮かんだ思いは他所に遣り、香鈴はそのまま祭囃子と喧騒を背にして歩いていく。
 大きなお祭りの音は遠くていい。あまり賑やか過ぎるのは自分には合わないから。
 こんな夜だから、ぽわぽわと光る竹の輝きを感じるくらいが丁度いい。
「そういえば竹のお花ってあるのかな……」
 ぽつりと呟いた香鈴はぼんやりと考え事をしていく。
 今は知れぬことだが、後で調べて分かったのは竹の花は百二十年に一度咲くと云われるほどにめずらしいものだということ。
 香鈴は竹を見上げ、ふとどれかに触ってみたくなった。
 歩を進めて光に手を伸ばす。自分の目線よりも少し低いところにある光が気に掛かった香鈴は、そうっと触れてみた。
「わ、……!?」
 その瞬間、宿っていた光が其処から抜け出してくる。
 驚いて瞳を幾度か瞬いた香鈴の前に現れたのは、一羽の蝶だ。
 透き通っていた蝶々は次第に美しい緑色を宿していく。ひらひらと香鈴の目の前で羽ばたいた蝶はまるで、こんばんは、と告げているかのようだ。
「えっと確か、幽世蝶」
 半透明の翅には綺麗な模様が入っており、ステンドグラスを想起させる。香鈴の前で舞う蝶はよく見れば、森を思い出させてくれるような色合いだった。
 美しい装飾でもあり、葉っぱ模様にも見える。
 ――これが、あなたのいろ。
 喋らないはずの幽世蝶から、不意にそんな意思が伝わってきた。
 光の中で睡り、何者でもなかった魂は香鈴が触れたことによって色を得た。おそらくはそういうことなのだろう。
「……そっか、わたしだから」
 幽世蝶の意思を感じ取った香鈴はちいさく頷く。
 そして、ひらりと舞う蝶に掌を差し伸べた。
「一緒に、来てくれる? あまり先は長くないと思うけど、その日が来るまで」
 魂の色を読み取って顕現した幽世蝶は、香鈴が告げた言葉の意味もちゃんと理解しているはず。己の運命を宿命レベルで理解している少女と同じだ。
 花に憑かれ、発作として花を吐く娘。
 それが香鈴という存在であり、いずれは――。
 緑とは切っても切れない運命の最中に立つ少女がこの夜に得た縁は、必然の出逢いだったのかもしれない。すると蝶は香鈴の指にそっと止まった。
 ――あなたの傍に。
 そして、いつかの日にはわたしが導きましょう。
 静かな意思だけを伝え、幽世蝶は香鈴のか細い指先で翅を休めた。金木犀色の双眸が緩やかに細めながら、香鈴は思う。
 この邂逅は、きっと。
 裡に浮かんだ思いは胸裏に秘め、香鈴は自分だけの幽世蝶に頬を寄せる。
 蝶々もまた、花に寄り添うように翅の彩を揺らめかせた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フローエル・フロゥノート

ふわり、花香とともに浮遊して散策
物珍しさにきょろきょろ

お祭り、だって
すごい…どこもかしこもにぎやかで…楽しそう、だね
お祭りも、人が多いところも、はじめて
声をかけられ、勧められるままに色々と買ってしまって
見たこともない食べ物ばっかり
おいしいし、楽しいけれど
少し落ち着かない

慣れ親しんだ自然の緑が見えて、そっと竹林のほうへ
わっ…立派な竹がたくさん
ぼくの温室では育ててないし
見るのもはじめて…
…光ってる?
思わず手を伸ばして触ってみる
…なんだか安心する光、だね
それにあたたかいような…そんな気がする
これが魂の光、なのかな
そこに誰か、眠っているの?
…そっか
きみもひとりぼっち、だったんだね
…いっしょに、来る?



●同じ寂しさを分け合って
 真夜中に満ちる空気は心地好い。
 その理由は淡く耀く光と、穏やかな月光が降り注いでいるから。嵐の気配なんて全く感じはしない。集う人々――妖怪だって、とても楽しそうに歌って踊っている。
 ふわり、背の翼擬きを羽ばたかせてフローエルは進む。
 花香をただよわせて、お祭り広場を散策すれば珍しいものばかりが目に入った。
「すごい……。どこもかしこもにぎやかで……楽しそう、だね」
 きょろきょろと辺りを見渡す。
 提燈が揺らめく屋台通りに、祭囃子が響いていく広場。
 行き交う妖怪は様々な姿をしていて、楽しげな声がたくさん。こんなに賑やかお祭りも、人が多いところもフローエルにとってはじめてだ。
「お嬢ちゃん、おにぎりはどうだい?」
「あんず飴もあるよ。さあ、騙されたと思って食べてごらん!」
「うん……ありがとう」
 屋台通りを浮遊するフローエルはよく目立ったのか、屋台の店主たちが次々と自慢の品を勧めてきた。最初は少し驚いたが、誰もが善い人に見えたのでフローエルは勧められるままに色々なものを手に取って、買っていった。
 どれも見たことがないものばかり。
 特にふわふわとした魂を揚げた天麩羅は変わっていて、さくりとした食感が更に不思議な気持ちを呼び込んできた。
「これ、おいしい」
 でも、とぽつりと呟いたフローエルは賑わう祭会場を眺める。
 楽しいし、おいしい。けれども少し落ち着かない。
 この雰囲気は嫌いではないが、静かな場所――廃墟に佇む温室のようなところの方が性に合っているのかもしれない。
 視線を巡らせると、慣れ親しんだ自然の緑が見えた。
 あんず飴を食べ終えたフローエルはそっと竹林の方へと向かっていく。遠くからも見えていたが、林の中には数多の光が煌めいていた。
「わっ……立派な竹がたくさん」
 竹は天に届きそうなくらい真っ直ぐに伸びている。自分の温室では育てていない植物であり、実際に見るのもはじめてなものだから興味は尽きない。
「……光ってる?」
 その中のひとつがフローエルを呼ぶように明滅していた。
 まるで導かれるように近付いた少女は無意識のままに手を伸ばし、光に触ってみる。それは仄かにあたたかくて、何だか安心した。
「これが魂の光、なのかな。ねえ、誰か……眠っているの?」
 フローエルが呼び掛けると、光が更にちかちかと瞬く。
 そうだよ、ここにいるよ。
 そんな風に語っている気がして、フローエルは「おいで」と呼んでみた。すると其処に羽ばたきの音が響き始める。
 光だったものは徐々に形を変えていき、鳥のような翼が見えてきた。
 白く耀く眩しさに菫色の眸を細めたフローエルは、それが鴉だと気が付く。しかしそれは黒い鴉ではなく、純白の羽根を持つものだった。
 白鴉はフローエルの前に羽ばたき、一声だけちいさく鳴く。
 みつけてくれて、ありがとう。
 そう語っているような声を聞き、フローエルはこくりと頷いた。どうしてかこの子の思いと気持ちがわかる。おそらく僅かでも魂が共鳴しあったからだろう。
「……そっか。きみもひとりぼっち、だったんだね」
 フローエルが語りかけると、鴉は頷くような仕草をしてみせる。揺れる羽からは甘やかな花の香りがした。
 何だか、世界にふたりぼっちでいるような感覚をおぼえてしまう。
「……いっしょに、来る?」
 フローエルが問いかけると、白鴉はそうっと身体を寄せるように肩に止まった。
 天使擬きと鴉擬き。
 これが白の翼を持つふたりの出逢い。
 其処からどのような物語が巡っていくのかは、未だ誰も知らない。


●天明の魂魄祭
 光が満ちて、魂が目覚める。
 今宵は楽しいお祭りの夜。飲めや、歌え。踊れや、踊れ。
 巡る縁は今ここに。さあさ、みんなで共に斎いましょう。
 夜が明けて、明日が訪れたって。ずっと、ずうっと。

 響き続ける祭囃子に、いつしか歌が乗せられはじめた。騒いで踊り、食べて寛ぐ楽しい時間はこの歌が終わるまで――否、日が昇るまで続くのだろう。
 そうして、祭の夜は賑やかに過ぎていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月12日


挿絵イラスト