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忘却に流るる追憶燈火

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●そして全てが消えてゆく
 思い出せない。思い出せない。
 何故自分がここに居るのか、何処へ向かおうとしていたのか、隣に居た人は誰だったのか、どんな関係だったのか。
 ……いや、隣に人なんて居た?
 自分も他人も思い出せない、自身の欲も思い出せない。
 こんな時、なんて言っていいのかも分からない。
 次第に感情も言葉も忘れてゆく。

 あの川に浮いているものは何だったのか、今ではもう思い出せない。
 あの空に浮いているものは何だったのか、今ではもう思い出せない。

 嗚呼、私は××だ。
 ××って、なんだっけ。
 もう、忘れてしまった。

●ダニエルの情報
 新しく発見された世界『カクリヨファンタズム』では、常に世界の滅亡と隣り合わせ――つまりカタストロフが訪れている。骸魂に抗う力を持たない住民達は常日頃それに悩まされながら今日を生きる。
「まぁつまり、新しい世界で早速観光でもしたい所っすけど、『また』世界の終わりが近付いているっす。こりゃあ観光どころじゃないっすな」
 知念・ダニエル(壊れた流浪者・f00007)は淡々と猟兵達に向け、事の事情を話す。
「この世界から、ある一つのものが消え去ったっす。お陰で世界は抜け殻も同然。無法地帯っすよ」
 消え去ったあるものとは何か。
「――『記憶』っす」
 とんとん。自身の頭を指で叩く。
「住民からあらゆる『記憶』が欠けていくんです。やがて彼らは全てを忘れ、文字通り抜け殻となる。そこへ骸魂が憑り付けばどうなるか? ……何もかも分からず暴れ続けるだけっす」
 些細な事、大事な事、嫌いなもの、愛したもの。いずれ全てを忘れていく。ある日突然、世界はそんな呪いに満ちたものへと変貌した。では、一体それは誰が?
「今回の事件の発端は……そうっすね、まずはこの町の事を教えておくっす」
 ダニエルは自身の背後を歪ませ、とある場所を映し出す。映し出された風景は、とある町に流れる大きな川だ。
「川に何か、ぽつりぽつりと流れているのが分かるっすか? これは『死者の魂』を模した灯籠っす。この町では年に一度、死者の魂を弔う為に灯籠を川に流す行事が行われているっす」
 その行事が行われる日が、世界が豹変してしまったその日である。
「そう、お察しの通り、この参加者の一人である少女が『比丘尼の骸魂』に飲み込まれたっす。骸魂は『悲しみや痛みから逃れる為、全ての忘却こそが救いである』と言わんばかりに人々を襲い、世界を変えたっす」
 骸魂に飲まれた少女もまた、それに同調するほど悲しみに包まれていたのだろうか。――それは誰にも分からない。

「皆さんには、この忘却の世界を救って貰うっす。骸魂に飲まれた住民達を救って、無事に灯籠流しを終わらせてあげてくださいっす」
 骸魂に飲まれオブリビオン化した住民達は、倒せば本来の姿に戻るようだ。住民達を救いつつ、今回の元凶である哀れな少女も救い出す。それが今回の任務の流れである。
 無事に世界が平穏に戻れば、灯籠流しも行われるだろう。一時の休息として猟兵も参加するのも良いかもしれない。
「夜に行われる灯籠流しは……綺麗ながらも何処か寂しいでしょうね。ただ静かに眺めるのもいいっすし、灯籠を用意して流すのもいいと思うっすよ」
 住民達は何を想い、灯籠を流すのか。灯籠は何処へ流れ行くのか。――それは誰にも分からない。

「さて、話は終わりっす。忘れ物は……ないっすね?」
 夜に行われる、何処か物悲しい行事。大切なそれを忘れない為にも、世界の記憶を取り戻す戦いへ。
 静かに息を一つ吐き、ダニエルはグリモアを輝かせた。


ののん
 お世話になります、ののんです。

 ●状況
 カクリヨファンタズムが舞台となります。
 ノスタルジックな風景が広がる自然の多い田舎町にて、住民達が骸魂に襲われています。

 ●3章について
 静まった夜、灯籠流しが行われます。
 ゆっくりと流れてゆく灯籠を眺めながら、一時の休息をお過ごし下さい。
 灯籠は住民に言えば用意して貰えますので参加も可能です。

 もしご要望があれば、知念・ダニエル(f00007)と過ごす事も出来ます。静かに想いや語りを聞いてくれると思います。

 ●敵について
 カクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」です。
 飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できます。

 ●プレイングについて
 受付期間は特に設けておりません。

 キャラ口調ですとリプレイに反映しやすいです。
 お友達とご一緒する方はIDを含めた名前の記載、または【(グループ名)】をお願い致します。
 同時に投稿して頂けると大変助かります。

 申し訳ありませんがユーベルコードは基本的に【選択したもののみ】描写致します。

 以上、皆様のご参加お待ちしております。
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第1章 集団戦 『麒麟』

POW   :    カラミティリベンジ
全身を【災厄のオーラ】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD   :    因果麒麟光
【身体を包むオーラ】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、身体を包むオーラから何度でも発動できる。
WIZ   :    キリンサンダー
【角を天にかざして招来した落雷】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を災いの雷で包み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 町はとても静かで、とても騒がしかった。
 脱け殻のように棒立ちになった住民を、ふわふわと宙を浮く何かが飲み込む。
 直後、雷光が走り、腕が、足が、顔が、歪んでいく。
 気付いた時には、そこには神々しくも恐ろしい麒麟の姿があった。
 麒麟は叫ぶ、狂う、嘆く。
 己が何者か、相手が何者か、全てを忘れてしまったのだから。

 嗚呼、私は、僕は、俺は――誰だ。
彼岸花・霧晴
※フロッシュ・フェローチェス(f04767)と共闘。アドリブ歓迎。

さて、実戦に出るのはかれこれ少なくとも20年以上です…
元極道が、何を弱気にと思うかもですが、正直不安です。
だからこそ管理人さん、一緒に行くです!

いくら負傷で攻撃回数が増えるといっても、一発で仕留めりゃ関係ないです。
無花果、攻撃力の型を取らせてもらうです。
【戦闘知識】使って急所や攻撃の隙を【見切り】【残像】で回避、即座に【カウンター】、【怪力】乗せた拳や蹴りをぶち込むです。
逃げたきゃどうぞ。
もっとも、その先は管理人さんの狩場ですが。
カタギに手出すチンピラ以下は、エンコだけじゃなくタマも飛ばしてやるです!


フロッシュ・フェローチェス
彼岸花・霧晴(氷連の拳聖・f27987)と連携。アドリブOK。

これまた厄介なものが来たね。でもウチの新入りに頼って貰ってるなら、余計に手は抜けない。
ああ一緒に行こう……存分に暴れて。

アタシだけならキツいけど今は拳闘士がいる。早業で回り込み敵を衝撃波込みで陣形の外から内へ蹴り飛ばす。
ダッシュしながらの戦闘は十八番……急所を狙い易いよう狙撃モードの銃で射撃だ。
反撃にはカウンターで返し、敵の動きを止め彼岸花を援護して行こう。

逃がしはしないよ……元より連携を決めて来てるんだ。
深く突っこんで見せるのもフェイント。アタシの元へようこそ、UCで思いきり叩き切らせて貰う。
返してもらうよ、カクリヨの住人達をさ。



 理由も分からず叫び狂う麒麟の姿に、彼岸花・霧晴(氷連の拳聖・f27987)は心を痛めた。
 少し前までなら、自分もあの麒麟の姿と化していた一人だったのかもしれない。だが、今の自分は猟兵として目覚めた一人だ。この残酷な世界を変えられるかもしれない力を手に入れた。立ち向かわない理由など、もう何処にもない。
 とはいえ霧晴が実践に赴くのは久々だ。人々からの信仰を失い本来の力はまだ取り戻せていない。元極道であるとはいえ、少なくとも20年以上は戦いなど行っていない。自信があるかと言われれば……すぐに頷く事は難しい。
 だからこそ、彼女の隣には新たに知り合えた仲間がいる。
「管理人さん、一緒に行くです! カタギを助けてやってくださいです!」
「ああ一緒に行こう……安心して、存分に暴れて」
 霧晴の隣に立つフロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)はそう返しながら、手首や足首を回し軽い準備運動を行っていた。
 戦闘に慣れた身である以上、慣れていない新人の前で手を抜く事は許されない。仮にもその新人は、過去とてつもない力を持っていたかもしれない者だ。準備も心構えも普段以上に念入りに行う。
「アタシも、一人じゃこれはキツいから。頼りにするよ彼岸花」
「……任せて下さいです!」
 妖怪ではない者から頼られたのは何年振りか。――これならば、戦う感覚を思い出すのも時間の問題なのかもしれない。

 麒麟は黄昏色のオーラを纏い、敵味方も理解せずその大きな体をぶつけ合う。そして互いを傷付け合った。
「もうやめるです! 私が許さないです!」
 霧晴は叫ぶ。その言葉は住民に向けたものではない。麒麟へと豹変させた骸魂に向けたものだ。
 声の響いた方へ一斉に顔を向けた麒麟は、狂ったような動きを見せながら彼女の方へと突進をする。いきなり一度に多数を相手にするのは至難だろう。しかし彼女は落ち着いていた。
「……もう忘れてしまったのです?」
 霧晴は構えたまま動かない。攻撃を行った素振りを見せていないにも関わらず、麒麟達は一体、また一体と、次々と体勢を崩していった。
「あぁ……もう忘れられちゃったね、アタシの事」
 何処からかフロッシュの声が聞こえた。しかしその姿は何処を見回しても見当たらない。
「ま、覚えてた所でアタシのスピードには追いつけないだろうけどさ」
 彼女は姿を消した訳ではない。見えないのだ。見えない速さで戦場を駆け、的確に相手の脚を撃銃・刻天炉の弾を撃ち込んでやり、相手の動きを鈍らせてやったのだ。攻撃が失敗に終わった麒麟に対し、霧晴は氷を纏わせた拳を握りしめ、足を地面へ強く踏み込む。
「基礎の型・無花果……!」
 一体の麒麟へ拳をねじり込む。一瞬にしてその体を凍り付かせると、麒麟の体は周囲の空気を氷結させながら遠くへと吹き飛んでいった。
「おっと」
 吹き飛んだ麒麟の衝撃でよろけた麒麟が何かにぶつかる。ぶつかった所から何かの声が聞こえた。
「……アタシの元へようこそ」
 声の主はフロッシュ。ぶつかったというよりは、掴んでやった、と言う表現の方が正しいだろう。いつの間にか麒麟は、彼女の巨大な熱爪刃で体を掴まれていたのだ。
「返してもらうよ、幽世の住人達をさ」
 体を持ち上げられた麒麟は地面に叩き付けられながら、その鋭い爪で切り刻まれる。動かなくなった麒麟は体から輝く炎を発生させると、徐々に本来の住民の姿へと戻っていくのだった。
「カタギに手ェ出すチンピラ以下は、エンコだけじゃなくタマも飛ばしてやるです!」
「いいね、その意気だよ、彼岸花」
 氷の粒を周囲に散らしながら怒りと共に重い一撃を与え続ける霧晴。彼女の活躍にふと微笑むと、フロッシュは再び己の姿を消すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ・連携歓迎

落雷攻撃は第六感で察知し翼飛行(空中戦)で回避

わたくしは知っています。忘却の恐怖を、自分が自分である証を奪われることの悍ましさを
そして、たとえつらい記憶を抱えたとしても、共に寄り添う人の優しさがあれば乗り越えられることも

歌うは【Marchenlied】
思い出して、幼い日の憧憬を
寝物語に聞いた夢の世界のおとぎ話を
ある時は勇敢な英雄に、ある時は心優しき姫君に
勇気、優しさ、慰め、希望をもらったでしょう?
そして傍には家族が…「大切な人」がいたでしょう?
その声音は、包み込む手は、きっと温かかったはず

浄罪の懐剣の一刺し
少し痛いけど我慢してね
目が覚めて自分を取り戻したら
きっと、大丈夫



 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は祈る。記憶を失ってしまったこの世界を、姿を忘れてしまった住民達を。
 彼女は知っている。忘却の恐怖を、自分が自分である証を奪われる事の悍ましさを。

 彼らが暴れている理由は、『何も分からない』という恐怖を覚え、その感情しか知らないからなのだろう。
「……辛いでしょう、恐ろしいでしょう」
 敵も味方も分からず互いにぶつかり合い傷ついていく姿に、ヘルガの心は痛む。
「もう止めてください、そのような事をする必要などないのです。どうか……思い出してください」
 腕を伸ばし想いを訴える。しかし麒麟の心には届かない。ただただ音の聞こえた方へ暴れ馬の如く突進を仕掛けるだけ。
 悲鳴のように叫びながら掲げた角からばちばちと雷電が発生する。直後、空が曇り空気が湿る。
 ぽつ、ぽつ。地面が少しずつ濡れていく。麒麟の顔に水滴が滴る。ヘルガの頬にも滑る水滴は、雨粒なのか、それとも。
「……これは怒りですか? それとも悲しみですか?」
 そんな問いに麒麟は答える事などなく、代わりに曇り空を光らせ雷撃を呼び起こす。
 ヘルガは体を屈めると、白の翼を生やし大きく跳躍した。曇り空の下を羽ばたき、体を回転させながら落雷を避けていく。
 空中を飛びながら彼女は戦場全体を改めて見渡す。我を失っている麒麟の群れ全てに言葉を届ける事など、やはり難しいのかもしれない。
 だが彼女は諦めない。必ず救うと、恐怖から解放すると決めたのだから。
「いきなり全てを思い出すのは難しい事なのかもしれません。どうか一つ一つ、ゆっくりと思い出すのです。例えば、そう……」
 幼い日の憧憬を。寝物語に聞いた夢の世界のおとぎ話を。

「夢は現、現は夢。幼き日の心を携え、とこしえに穢れることなき夢の都へと貴方を誘いましょう」
 彼女は胸に手を当て、静かに言葉を紡ぐ。決して大声ではない、そっと語り掛けるような柔らかで優しい歌声が混乱した戦場に響き渡る。
 ある麒麟は動きが鈍り、ある麒麟はふと何処かへ顔を向ける。それはまるで何かを思い出したかのような仕草に見えた。
 彼らの心に芽生えたものは、幼き日の風景。幼き日の声。幼き日の出来事。
 そこには何かがあって、何かが居て、何かを覚えた。『何か』が何であったのかはぼんやりとしているが、何故か懐かしいと感じてしまう。

 ――ある時は勇敢な英雄に、ある時は心優しき姫君に。
 勇気、優しさ、慰め、希望をもらったでしょう?
 そして傍には家族が――『大切な人』がいたでしょう?

 ああ、確かにそこには温もりがあった。
 あの風景を知っている。あの人を知っている。あの温かさを知っている。
 そうか、私は、僕は、俺は。

 天から舞った蒼いミスミソウの花びらが湿った地面に落ちる。
 曇り空から差し込んだ優しい光は、麒麟の額に刺さった浄罪の懐剣を照らす。
「きっと、大丈夫」
 例え思い出した記憶が優しいものであっても、辛いものであっても、わたくしは教えましょう。共に寄り添う人の優しさがあれば乗り越えられる事を。

成功 🔵​🔵​🔴​

リゼ・フランメ
記憶の喪われた世界、それはひとつの平穏なのでしょう
でも、今の自分を織りなすものこそ、かつての思い出
幸せだとか、悲しみだとか、或いはどうしてもやりきれない後悔だとか

……そういうものが、明日に求める夢を心に形作るのではないかしら
今、立って歩く、自分を確かにするのではないかしら

だから、この麒麟は泣いているのね
夢も自分も、全てを忘れてしまって
稲妻の災禍を放つばかりならば、今は鎮めましょう

この剣で、その骸魂の罪のみを斬りましょう

ふわり、ゆらりと火のように揺らめきながら

劫火剣エリーゼに破魔の力を宿して構え、麒麟の動きを見切り、早業でひらりと避けると同時にUCでの斬撃を


ね、記憶にある思いの熱は、消えない筈よ



 首謀者は『悲しみや痛みから逃れる為、全ての忘却こそが救いである』と唱えたらしく、それを実行してみせた。
 結果、この世界は変わってしまった。楽しかった事も苦しかった事も全てを失ってしまった。それは、ある意味では一つの平穏なのだろう。
 ――しかし。
「……泣いている」
 狂う麒麟の群れを見つめるリゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は呟く。ぽつりぽつりと降る小雨が額を濡らす。
「……そう、誰も望んでいなかったのね」
 誰も幸せには見えない。誰もが泣き叫んでいる。それはきっと、何かを失った事に気付いているから。
「……必ず鎮めてみせます。この剣で、その骸魂の罪のみを斬りましょう」
 劫火剣エリーゼが火を纏う。破魔の刃は雨降る中で輝きを放ってみせた。

 災厄のオーラを纏った麒麟は、目に入るもの全てに向かって突進する。例えそれが建物であろうと、同じ姿の麒麟であろうと関係ない。
 そこへ湿った地面を駆け抜けるリゼが現れた。暴れる麒麟と麒麟の間を素早く掻い潜り、隙を見て懐へ潜り込むと、破魔の刃を思い切り振り上げた。
 雨粒すら蒸発させる火焔の斬撃は麒麟の鱗を物ともせず体を貫いた。しかし麒麟の体には血飛沫どころか傷すらない。
「その罪が、命の裡にあるならば、炎と刃にて清められる」
 『断罪の天焔剣』は肉体を傷付けず、罪と霊魂のみを斬る。故に彼女が狙ったのは麒麟という名の骸魂。斬られた麒麟は静かに倒れ、その姿を本来のものへと変えてゆく。
 次々に襲ってくる麒麟達に対し、リゼは冷静に動きを見極め、身を屈めながら相手の脚の間を潜る。火のようにゆらりゆるりと不規則に揺れ動き、斬り続ける。ただ、決して適当には斬らない。骸魂だけを斬るのだ。

 麒麟の呪縛から解き放たれた幽世の住民が、すぐに記憶を取り戻すものなのかどうかは分からない。彼らはまだ気絶をしている。
 目覚め、思い出した所で、彼らを待っているものが希望なのか絶望なのかも分からない。
 しかし、リゼは思う。
「幸せだとか、悲しみだとか、或いはどうしてもやりきれない後悔だとか……そういうものが、明日に求める夢を心に形作るのではないかしら」
 今、立って歩く。それが自分を確かにするのではないかしら、と。
「……だから、泣いていたのよね」
 大丈夫、忘却よりも苦しい事なんてないのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

無銘・サカガミ
忘却…忘れたもの、忘れてしまいたいもの。
確かにあるさ、俺にも。

消してしまいたい過去。目の前で滅ぶ故郷。死んでいく皆、唯一人生き残った俺。

だが―――俺はそれを忘れない。忘れられない。忘れることはできない。

「この身に宿る『八百万の呪い』は―――決して逃れられない、俺の宿業だからだ!」

過剰に研ぎ澄まされた感覚と、制御不能の高速移動をもって、あの麒麟に一撃を当てる。それで十分だ。

それを真似しようものなら…傷口から伝わる痛覚もまた、何十倍、何百倍もの強さになるだろう。
俺はもう慣れっこの痛みだが、果たしてあんたにとってはどういうものだろうな?



 忘却について思う事があるのは無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)も同じだった。
 忘れる事自体が悪かと言われれば、そうとも言い切れない、と。
「忘却……忘れたもの、忘れてしまいたいもの。確かにあるさ、俺にも」
 忘れてしまった方が楽になれる。その考えは間違ってはいない。だから否定もしない。
「目の前で滅ぶ故郷。死んでいく皆。唯一生き残った俺。そんな過去が記憶から消えたら、俺は楽になれるのだろうか?」
 起きた出来事も、大切な人も忘れて、どう生きるのか。あの麒麟のように彷徨い、暴れ、狂うのか。
「……いや、本当に忘れられるのか?」
 そんなはず……ある訳がない。
 忘れた所で過去が変わるのか? 痛みも消えるのか? 全てにおいて現実から逃げる事などできないのだ。
「俺はそれを忘れない。忘れられない。忘れることはできない。この身に宿る『八百万の呪い』は――決して逃れられない、俺の宿業だからだ!」

 そう、サカガミに染み付いた呪いは、決して彼の記憶から忘れさせる事などしない。それを主張するかのように呪いは身体を蝕む。
「あぁ、全身が軋む……騒音が止まない……血の臭いが消えない……世界が、止まって見える……!」
 全てが痛い、全てが苦しい。呪いは彼に囁き続ける。この痛みを忘れるな、この苦しみを忘れるな、戦い続けろ、と。
 ――何百、何万、その言葉を今まで聞いてきた事か。
 悲鳴を飲み込み、サカガミは走る。人知を超えた速さで麒麟の戦場を駆ける。もはや世界が動いてすらいないような錯覚に陥る中、彼は刀を滑らせた。麒麟を斬る事など容易であった。
 災厄のオーラに身を包んだ麒麟がサカガミのユーベルコードを写し取り真似ようとするものならば、その身に起きる事は『八百万の呪い』のそれである。
「……果たしてあんたにとってはどういうものだろうな?」
 全ての感覚が過敏になる。それはどのような事を意味するのか。麒麟は叫び、動く事すらままならず。死よりも苦しい痛みに襲われ、そのまま横たわるのだった。
 自身の呪いを写し取り倒れていく麒麟達を見たサカガミは、その姿に悲しくもなり、また、羨ましくも感じた。
「……その痛みに、俺はもう慣れてしまったんだ」
 俺はもう普通ではない。とっくの昔に『忘れてしまった』んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『水底のツバキ』

POW   :    届かぬ声
【触れると一時的に言葉を忘却させる椿の花弁】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    泡沫夢幻
【触れると思い出をひとつ忘却させる泡】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    忘却の汀
【次第に自己を忘却させる歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黎・飛藍です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 嗚呼、私は××だ。
 ××って、なんだっけ。
 もう、忘れてしまった。

 静かな空から舞い降りてきたのは、美しい少女。
 悲しい表情を浮かべたその瞳に輝きはない。

「――どうして忘れないの?」
 少女は問い掛ける。
「覚えていても、それを失えば、悲しくて、悲しくて、辛いだけなのに」
 感情なんてなければ良かったのに。出会いなんてなければ良かったのに。
 そんなものがあるから、貴方達は戦うのでしょう?
「貴方達も救ってあげる。苦しい事も、痛い事も、消し去りましょう。大丈夫。少しずつ、少しずつ、忘れていけば良いわ」

 しかし、猟兵達には感じ取る事ができる。
 あの言葉は少女自身のものではない、と。
リゼ・フランメ
何度忘れたとしても、必ず思い出す記憶と思い
それこそが、私を私として形作る魂

悲しいひと、苦しいこと、辛いこと
それらがある程に
嬉しいこと、楽しいひと、幸せなこと
その思い出は炎のよう優しく、揺らめく

罪を抱いて産まれ、罪を重ねて生きる私達には、忘却もまた救いなのかもしれないけれど
私が求めるのは、未来にあるの


UCを発動し、全速力での飛翔
花びらは見切りで避けながら、全力での切り込み

ひととき、声が失われたとしても
私の胸に宿る想いは失われないのだから

破魔を帯びる、属性攻撃の火として劫火剣に宿し
飛翔速度を乗せた斬撃をもって、哀れな人形の罪に焼却を

一度で足りないなら何度でも繰り返し
忘れないのだと、火と剣で歌うわ



 悲しいひと、苦しいこと、辛いこと。
 それらがある程に、
 嬉しいこと、楽しいひと、幸せなこと。
 その思い出は炎のよう優しく、揺らめく。

 可哀想な人ね、とリゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は少女に伝えた。
「罪を抱いて産まれ、罪を重ねて生きる私達には、忘却もまた救いなのかもしれないけれど、私が求めるのは、未来にあるの」
 未来とは、過去がなければ存在できない。
「何度忘れたとしても、必ず思い出すわ。私の胸に宿る想いは失われないのだから」
 それこそが、私を私として形作る魂なのだから。
「良い事も嫌な事も続くのなら、最初からどちらも知らなければ良かったのよ」
 少女は悲しそうに呟く。
「思い出しても、私がすぐに忘れさせてあげる」
 手のひらに咲かせた椿の花を優しく吹く。無数の花弁が宙を舞い、周囲の者へと襲い掛かる。
 花弁はリゼの記憶から言葉を奪う。喉が塞がれたような感覚に陥るリゼだったが、決して全てが消えた訳ではない。
「(覚えている、この熱い想い……あの感覚……)」
 言葉を失っても、身体は覚えている。リゼは全身に力を集中させる。その手に持つ剣に、自身の背に、迸る熱い想いを込める。
「(これは……シテンシノ……ブトウ……)」
 リゼの背に大きな翼が生える。あぁそうだ、これは『翼』というものだった。彼女は大きく踏み込み空を飛ぶ。力強い羽ばたきに記憶を奪う花弁は体から離れ散りゆく。
 更に彼女は思い出す。そう、この熱い想いは、この剣に宿るものは、『炎』というものだったと。
「……そう簡単には忘れないのよ、記憶というものは」
 彼女は翼を広げ強く振るう。天高くから舞い落ちるものは白い羽根。羽根は花弁に触れると燃え出した。あっという間に戦場は火の粉が降り注ぐ天候と化した。
 少女が火の熱さを覚えていると、その頭上から降ってきたものは、更なる熱さを纏った炎の剣。
「あなたにも、思い出させてあげるわ」
 リゼが斬り裂き焼却するものは、世界を変えてしまった少女の罪。
 リゼが切り開き解き放つものは、抱いていたであろう少女の未来。

成功 🔵​🔵​🔴​

無銘・サカガミ
どうして忘れないのか、だと…?簡単な話だ。
どんなに悲しくて、辛くて、痛いものだったとしても。
それが俺を俺たらしめているものだからさ。

ああそうだ、辛い記憶なんて忘れられるもんなら忘れたいよ。
けどな、この身を蝕む痛みが、苦しみが、憎悪が、忘れるなと叫ぶ。
俺が救われる時は…この呪いが真に消えたときだけだ!

そして…言葉を交わした時点で、俺の攻撃はすでに終わっている。
見えるだろう、絶望の未来が。
忘れたはずの記憶。
温かい出会いの記憶、辛く悲しき別れの記憶、色々な記憶。
浮かんでは決して消えぬもの。それは…「お前」にとって忘れたくない記憶のはずだ。

喰らい尽くせ、八百万の呪い。
悪夢と共に骸魂を殺せ!



 どうして忘れないのか? 少女の言葉に無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)は目を閉じる。
「簡単な話だ」
 そんな事も知らないのかと、彼は語る。
「どんなに悲しくて、辛くて、痛いものだったとしても。それが俺を俺たらしめているものだからさ」
 それが唯一、『残された自分がまだ存在している』証なのである。
「貴方は、生きている方が辛そうに見えるわ」
 少女はサカガミを哀れむ。
「私は殺生など行わない。命ある者を救いたいだけ。私は……貴方を苦しみから救いたい」
「……ああ、そうだな、辛い記憶なんて忘れられるもんなら忘れたいよ」
「私には、それができるわ」
 少女は泳ぎ、輝く泡を生み出す。思い出の忘却をもたらす泡はサカガミを囲む。サカガミは動く事なく、淡々と少女と会話を続ける。
「俺の事について、もう少し聞いて貰っても構わないだろうか」
 泡はその場でふわりと浮くだけで動きを止める。少女は静かに頷いた。
「俺が過去を忘れられない理由は、そういった辛い記憶が深く刻まれたから……だけではない」
 記憶を失っただけでは、『それ』は忘れる事はできない。
「この身を蝕む痛みが、苦しみが、憎悪が……叫ぶんだ。忘れるなと、『言の葉』を使って」
 ざわ。少女の表情が歪む。
「そう、最も単純にして最も優れた呪い……それこそが『言の葉』。そして、この言葉を聞いた時点で、お前は致命的な間違いを犯した」
 泡は弾けて消えた。少女は胸を押さえて苦しみ出す。その美しい姿に見合わず、まるで水の中で溺れているかのように見える。
「どうだ、八百万の呪いは。お前はこれが消せるのか? それとも痛みに溺れるか? ……記憶が消えたから何だ。俺が救われる時は……この呪いが真に消えたときだけだ!」
 少女は叫んだ。胸の中が破裂しそうで、痛くて、苦しくて。それをどうする事もできなくて。
 その姿を見たサカガミは思う。どれだけ記憶を消した所で、結局は呪いに呼び戻されてしまうのだ。まっさらに忘れても、痛みと苦しみを覚え直すだけなのだと。

「浮かんでは決して消えぬもの。それは……『お前』にとって忘れたくない記憶のはずだ」
 サカガミは語り掛ける。それは世界を変えた骸魂に向けたものではなく、少女自身に向けたものとして。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘルガ・リープフラウ
わたくしだって、多くの「辛い記憶」を抱えてきたわ
吸血鬼に家族を殺され故郷を焼かれたこと
目の前で失われた数多の命
そして何より、敵に「夫に関する記憶」を奪われ心を蹂躙された忌まわしい事件……

苦しかった
悲しかった
怒りすら覚えた

それでも傍にはいつも「愛する人」がいたから
揺るぎない愛で支えてくれたから
何度心を折られようとも
わたくしは今日まで頑張ることができたの

忘却で心の痛みを誤魔化すことが幸せなんて
そんな欺瞞に騙されないで
記憶を奪われ自我を無くす「虚無」の悍ましさを
わたくしは身をもって知っている

祈り、優しさ、慰めを込め
【聖霊来たり給え】と歌う
幸せな出会いと思い出が
立ち向かう勇気と覚悟をくれると信じて……



 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は気を失い倒れる住民を癒していた。骸魂のみを攻撃し外傷はないとはいえ、住民達は体力を消耗している。少しでも、とヘルガは住民達の回復を試みていた。
「どうして解き放ってしまうの?」
 少女はヘルガに問い掛ける。
「思い出してしまったら、彼らはまた悲しみ、心を痛める日々を送るというのに」
 ヘルガは少し俯き考え込むが、すぐにその視線はまっすぐと少女の方へと向く。
「そうかもしれませんね。わたくしだって、多くの辛い記憶を抱えてきたわ」
 この世界の住民と比べれば長く生きたとは言えない年齢ではあるが、それでも様々な事を経験してきた。苦しみ、悲しみ、怒り。様々な負の感情も覚えた。それはとても嫌な事だ。
「吸血鬼に家族を殺され故郷を焼かれたこと。目の前で失われた数多の命。そして何より、敵に『夫に関する記憶』を奪われ心を蹂躙された忌まわしい事件……。そのような事が起きなければどれだけ幸せだった事かと……確かにわたくしも、そう思った事はあります」
 あの不幸がなければ、こんな事が起きなければ。……誰もが一度は考える事だろう。
 しかし彼女は知っている。過去が後悔ばかりではない事も。
「それでもわたくしには……傍にはいつも愛する人がいたから。揺るぎない愛で支えてくれたから。何度心を折られようとも、わたくしは今日まで頑張ることができたの」
 家族、友人、愛する人。それは誰でも構わない。心の傷があれば、必ずそれを癒し、支えてくれる人がいるはずだ。ヘルガは優しく微笑んでみせた。
「悲しい時間は永遠に続かない。必ず誰かが手を取ってくれます。――忘却で心の痛みを誤魔化すことが幸せなんて、そんな欺瞞に騙されないで」
 体験したからこそ、彼女の言葉は重く、そして宝石のように輝いていた。

「もう誰も、忘却の海には溺れさせません。……全ての人々を、救ってみせます」
 ヘルガは歌う。世界への祈りを込めた讃美歌を高らかに歌う。
 その眩しすぎる彼女に、少女は両手で耳を覆った。しかし歌は聴こえる。心がざわざわした。
 ふと自身の周囲を見下ろしてみると、少女は驚いた。住民達が次々と意識を取り戻していたのだ。彼らはゆっくりと体を起こし、歌うヘルガにそっと耳を傾けている。
 心を優しく励ますように撫でてくれる、そんな不思議な感覚に陥り、住民達は勇気付けられていく。
「(こんな事、信じられない)」
 少女も忘却の歌で世界を静寂に包みこもうとした。

 ……しかし、声が出ない。
「(何故? どうして……?)」
 少女から涙が零れる。心が再びざわざわした。

 ――まさか讃美歌が、この少女の魂に届いているというの?

大成功 🔵​🔵​🔵​

クララマリー・アイゼンバウム(サポート)
私、クララマリー・アイゼンバウムと申します。
普段は世界を渡る旅人をしています。
特技は料理と、誰とでも仲良く話せること…でしょうか。
旅人なので体力には自信がありますが、荒事は苦手です。
戦闘は召喚したバロックレギオンにお任せですね。

戦闘開始と共に『トイソルジャー行進曲』を発動させましょう。
ライフル銃を構えたおもちゃの兵隊を大量召喚、統率の取れた団体行動で集団戦術を展開します。
共闘する猟兵の方がいるならば援護中心で立ち回り、ここぞという時は一斉発射で決めましょう。

念のためですが、公序良俗に反する行動、他人に迷惑をかけたり倫理的に問題のある行いはしません。
あとはおまかせ。よろしくお願いしますね。



 あの人も苦しんでいる。
 クララマリー・アイゼンバウム(巡るメルヒェンの旅人・f19627)は少女を見るなり、そう強く感じ取った。骸魂から解き放ち、少女自身の悲しみを少しでも和らげる。それらが幽世を救う事にも繋がるのならば、行うべき事は一つ。
「聞こえますか? 骸魂に飲まれても救えるチャンスがあるというのならば、私はあなたを救います。あなたが堕ちる必要などないのですから……!」
 クララマリーはアリスラビリンスから偶然脱出できる力を持ってしまったアリス適合者である。力を手に入れあらゆる世界へと歩き渡ったのだが、何処へ行こうが苦しむ人がいる事を知った。だからアリスであろうとそうでなくとも関係ない。困った人には手を差し伸べると誓ったのだ。
「……貴方も、全てを忘れてしまえば幸せでしょうに。どうして無理をするの?」
 少女はクララマリーに問う。
「えぇ、私は絶望の世界にて偶然生き残ってしまった者です。とても怖かったです、今もそう……なのかもしれません。確かに怖い事を忘れてしまえば、私は平穏に日々を過ごす事でしょう」
 だけどそれは違うのだと、クララマリーはまっすぐと少女に向けて視線を向ける。
「でも私は忘れる事などできません。私は『偶然』生き残ってしまったのです。あの時救えなかった命を、あの時変えられなかった悲劇を、決して忘れてはいけないと誓ったのです……!」
 クララマリーは腕を広げる。彼女の前に現れたのはおもちゃの兵隊達。武装した兵隊達は一斉に空中へと飛び上がる。
「私は逃げた訳ではないのです。私が旅をする理由は、私よりも救われるべき多くの命を救う為です……!」
 俊敏な速さで動く兵隊達はあっという間に少女を包囲した。少女は忘却の歌を奏でようとしたが、兵隊達による大きな空砲の音により歌はかき消された。
「今こそ、盛大なるフィナーレを!」
 天高く向けられていた銃口が、がちゃりと少女へと向く。一斉に発射された無数の銃弾は、無慈悲に少女を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハルア・ガーラント(サポート)
オラトリオのバロックメイカー×シンフォニア
口調:基本丁寧、時々くだける
「こ、ここでわたしが何とかしないと」
「うぅ……怖い、でも、やってやります!」

怖がりで自信なさげですが、やる時は[仄昏い炎の小瓶]を胸の前で握りしめ[勇気]を出します。翼は大型で出し入れ不可ですが、その代わり[空中戦]はかなり得意です。

攻撃は背の翼に巻き付く[咎人の鎖を念動力]で操作[マヒ攻撃]又は[銀曜銃を誘導弾]で射出します。
敵の攻撃は[第六感]で感知[オーラ防御]か飛翔して回避。鎖にオーラを張り巡らせ壁・盾のように使う事もあります。

UCは援護系を優先して使いますが、攻撃した方が有効だと判断した場合は攻撃系UCを使います。



 苦しむ少女の顔をハルア・ガーラント(歌う宵啼鳥・f23517)が心配そうに遠くから覗き込む。声を掛けたいが、近付くのは怖い。
 だが、少女の様子がおかしい理由は何となく察する事ができる。きっと、彼女の『本当の心』が動き出しているのだ。
 ――もう少しで、あの子を救う事ができるかもしれない。
 そのチャンスを逃がす事などできない。ならば恐れている場合ではない。ここで動かなければ、あの少女も自分自身も、後悔しか残らないだろうから。
「(……ここでわたしが何とかしないと)」
 決意を固めたハルアは一歩前へ踏み出る。
「どうして誰も分からないの。貴方も心の底から恐れているのに、怖がっているのに。何もかも、忘れればいいのよ」
 少女はハルアを睨み付けた。驚いて思わず体が固まってしまったが、ハルアは力を振り絞り声を出す。
「……確かに怖い、です。猟兵になってから、いえ……生まれてから怖い事だらけです。わたしは『いらない子』なのですから……」
 震えた声でそう述べた。猟兵になったとはいえ、一般人だった頃の気持ちが消え去った訳ではない。怖いものは、怖いのだ。
「で、ですけどね……何も嫌な事だらけでは、ないのですよ?」
 少女に対し、少しだけ笑みを見せるハルア。
「世の中怖い事だらけだと、最初はそればかり思っていました。ですが嫌な事は続かないのです。……それはとても長かったり、或いは短かったりしますけどね」
 オラトリオになり、猟兵になり……知らない世界を知った事で学んだ事を彼女にも。ハルアはゆっくりと自身の言葉を並べていく。
「そう、明けない夜はないのです。嫌な事があれば、次にあるのは良い事です。わたしは、楽しい事も嬉しい事もたくさん経験できました。良い事と嫌な事、両方が存在し、両方と上手に付き合う事で……思い出というのは出来上がっていくものだと思ったのです」
「私は、良い思い出も嫌な思い出も、両方あるのが悲しい。だって」
 ――だって? なんだっけ?
「思い出ができたから、わたしは少しだけ、自分の選ぶ道に自信を持てるようになりました。戦いを続ける理由もできました。それを含め、全てを忘れる事なんてできません。だから……どうかあなたも自分の事を思い出して下さい、人魚さん」
 ――人魚って?
「わたしが……助けてあげますから!」

 頭の中で引っ掛かる。私は誰? 人魚なの?
 どうしてこんなに悲しかったのかしら? 
 私は人魚で……悲しかった?

 少女は混乱し、両手で自分の顔を覆った。苦しそうに叫び、体を震わせた。
「痛いですが……我慢して下さい!」
 ハルアは大きな翼を広げると、咎人の鎖を伸ばし少女を拘束した。少女は全てを理解できない。
「えぇ、狙うのはあなたではありません。骸魂です!」
 鎖の一部がゆらりと姿を変えてゆく。白く輝く光となって散っていったかと思えば、その形は鳥の羽根にも似た花、刃鳥花の花びらであった。
 無数の花びらは刃の如く少女の体を突き刺した。少女は叫ぶ。しかし、流血する事なく彼女の体は輝き出す。
 そう、響いたのは骸魂の断末魔であった。怪しげな輝きが少女の体から溢れ出すと、そのまま浄化されていくように消えていく。少女は無傷の状態のまま、刃鳥花の花びらに優しく包まれ地上へと倒れた。

 ハルアは急いで少女へと駆け寄り、ゆっくりと上半身を起こす。眠る少女に向け、ハルアはやっと、自分から彼女へ声を掛ける事ができた。
「……大丈夫ですよ」
 今、幽世の世界に、忘れられた記憶が降り注ぐ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『想いを馳せる地にて』

POW   :    迷い躊躇うことはなく、そのままの想いを馳せる

SPD   :    自らに言い訳や偽りの言葉を聞かせつつ想いを馳せる

WIZ   :    複雑な感情を抑え込もうとしながら想いを馳せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 日没。それは行われた。

 世界に記憶が戻った。人々は己が何者なのかを思い出し、再び平穏な日々を過ごし始めた。
 ただ、この町だけは違った。
 町の人々は小さな灯籠を大事そうに抱えると、それを静かに川へと流していた。皆が寂しそうな表情を見せながら、流れゆく灯籠をいつまでも見送るのだ。
 ――これが、いなくなってしまった大切な人を思い出し弔う儀式、灯籠流しである。

 彼らは全てを思い出した。思い出したが故に、大切な家族、友人、恋人がこの世にはいない事も思い出した。とても悲しく、寂しい記憶だ。
 だが、そうであっても決して忘れてはならない記憶である事を彼らは思い出した。灯籠の淡い輝きもまた、彼らの心を温め、励ましてくれるのだ。
 人魚の少女も悲しみに暮れ涙を流しながらも、優しく灯籠を流し、いつまでも眺めるのだった。愛した人を思い浮かべ、前を向いていく事を誓いながら。

「ありがとう、またね」

 川に輝く灯籠と見送る人々が、そんな会話を交わしているように見えた。
 灯りは流れる。魂は流れる。何処までも、何処までも。
 静かなる儀式を猟兵達は見守り、何を想うのだろうか。
リゼ・フランメ
命は時とともに流れ、世界へと運ばれていく
それを『運命』というらしいわね
運ばれる命
川へと流される灯篭はまさにそう

なら、私はどうかしら?

理想を求めるのは、それこそ、自分達が簡単に罪を犯してしまうから
気づけば咎ばかりで、人を傷つけてしまうから
……夢や願いを抱き、追い続けなければ
故郷で起きた惨劇が繰り返されると感じるの
叶えられる『奇跡』を求めて殺しあい、焼き合って、雪と灰ばかりになってしまった、私の故郷の街

願い、求めて、祈り
それらが簡単に罪咎と欲望に堕ちてしまうことを知っている
心が闇に堕ちる事を止めると誓い

私も灯篭を流しましょう
災禍焼き払う、理想の炎の蝶であることを
罪より夢を求める導が私の『運命』だと



 さらさらと流れる川をリゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は眺める。
 ぽつり、ぽつりと水に浮かぶ光。たかが小さな灯籠の燈火、されどそれは力強く輝き続けていて。
 川の流れに身を任せ、ゆらり揺れながら灯籠は流れてゆく。
「(――『運命』)」
 流れる灯籠を見送りながら、リゼは思う。
「(命は時とともに流れ、世界へと運ばれていく。それを――『運命』というらしいわね)」
 今、自分自身の視界に映っているものはまさに運ばれる命。ゆらゆらと波に揺れる輝きは……なんてちっぽけなのだろうか。

「(なら、私はどうかしら?)」
 目を閉じれば、つい昨日の出来事のように思い出す故郷の惨劇。あれは悲しく、そしてあまりにも醜かった。
 彼らは理想を求めた。理想を願い、求め、祈り、そして堕ちた。
 叶えられる『奇跡』を手にせんと殺し合い、焼き合って、最後に残ったものは雪と灰ばかり。……何とも虚しい運命を辿ったものだ、故郷の街は。
 皮肉なもので、生き物とは傷付く度に何かを学ぶ。理想を求めるのは、それこそ、自分達が簡単に罪を犯してしまうから。気づけば咎ばかりで、人を傷つけてしまうから。
 だから、私は。
「(……夢や願いを抱き、追い続けなければ、故郷で起きた惨劇が繰り返されると感じるの)」
 心が闇に堕ちる事を止めると、そう誓ったのだ。全ての命も、己自身も。惨劇たる罪を焼き尽くして終わらせる、と。

 嗚呼、何とも小さく儚い光だ。なのにその数が徐々に多くなればなる程、美しく強いと感じてしまう。あの光は何処へと向かうのだろうか。
 リゼは立ち上がり、住民達の元へと向かう。驚かせないよう、そっと囁くような優しい声で言葉を並べる。
「……私も、灯籠を流してもいいですか」
 住民の女性は頷くと、用意さえていた灯籠を一つリゼに渡した。女性は何も言わず、ただ優しく微笑んでくれた。
 先程眺めていた灯籠も、いざ実際に手にすると思っていたよりも大きく感じられる。一本の蝋燭の火がこれほどまでに眩しいとは知らなかった。
 リゼは少女に礼を言い終えると、川岸へと向かった。そして灯籠を水の上へ浮かせ、静かに手を離す。蝶が舞う姿の描かれた灯籠は遠くへと放たれると、輝きの一部となった。
「(不思議ね。あんなにたくさんの光があるのに……私の灯籠が何処にあるのか、はっきりと分かる)」
 緩やかな水の音を聞きながら、リゼはいつまでも蝶を眺めた。
 災禍焼き払う理想の炎の蝶である事を、罪より夢を求める導が己が『運命』である事を、心に響かせながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
皆さんと一緒に、灯篭を流しましょう

思い出すのは非業の死を遂げた両親のこと、領民たちのこと
彼らが果てたのはこことは違う世界
吸血鬼の手で炎に焼かれ、最早弔う墓とてなく
それでも……寧ろそれ故に、決して忘れたことはなかった
わたくしの……人々の記憶から消え、思い出す者もいなくなった時が、彼らにとって真の「死」なのだと

悲劇を風化させないように
同じ過ちを繰り返さぬように
だけど決して過去に縛られることなく
未来への希望を抱いて、前を見て歩けるように

鎮魂の祈りと共に流れゆく灯篭の光を眺め
口ずさむは、幼い頃に母が聞かせてくれた歌
想いと魂を乗せた光の行く先が、天に輝く星々のように、幸多かりし未来であらんことを……



 なんと悲しい行事なのだろうか。なんと優しい行事なのだろうか。
 さらさらと静かに流れゆく川を眺めているだけで、これほどまでにも心に響くものがあるだろうか。
 それは決して感動という意味ではない。川の上に点々と輝くそれは、魂なのだから。

「わたくしにも一つ、よろしいでしょうか」
 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は住民の女性に声を掛ける。そっと渡された灯籠を一つ手に持ったヘルガだが、その表情はとても悲し気なものだった。
 魂を模した灯籠を目の前にした彼女が思い出したのは、非業の死を遂げた両親、そして領民たちの事。
「ああ、灯籠とは……こんなにも小さい、のですね……」
 幼い自分を包んでくれた大きな体、温もり。あの時はとても大きな存在だと思っていた。いや、今でもそう思っている。なのに、灯籠はいとも簡単に両手で持つ事ができる。魂とはそれほどまでに軽く小さなものなのか?
 彼らはこの世界とは異なる場所で朽ち果てた。しかし弔いの墓すら未だに存在しない。
 ――となれば、もしかして何処かで生きているのではないのか?
 夢だと思いたいと願った事もあったかもしれない。だが、それは決してない。彼女は知っている。吸血鬼に襲われ多くの命が犠牲となり、炎の中で消えた事を。
 その光景が今でも目に焼き付いている。あの悲鳴が耳に残っている。あの炎の熱さを覚えている。それでも自分はどうする事もできず、一人生き残ってしまった。

 灯籠を渡した女性がヘルガの顔を覗くと、優しく背中を撫でてくれた。にっこりと優しく微笑み、何も言わずに彼女を撫でる。
「(そうか……そうなのですね)」
 ヘルガは理解した。悲しき儀式、灯籠流しが行われている理由を。
「(これは……死別の現実を受け止め、思い出し、決して忘れまいと誓い……悲しみと決別する為の儀式なのですね)」
 彼女は一人生き残ってしまったが故に、決して彼らの事など忘れた事はなかった。それはとても悲しい記憶の傷跡にもあり、自身が生き残り続けようと思う力にもなった。
 自分は彼らをはっきりと覚えている。彼らとの思い出が心に残り続けている。……生きる人々から思い出が消え去り、存在を思い出す者がいなくなってしまった時、彼らは真の『死』を迎えるのだろう。
「(私は、決して死なせません)」
 ヘルガは微笑む。その様子に、優しく撫でていた女性も無言で頷いた。

 灯籠を手放す行為がどれ程辛く、勇気がいる行いである事か。ヘルガはそれを強く思い知った。
 彼女は川辺へと近付き、大事に抱えていた灯籠をそっと手放した。淡く輝く灯籠はゆっくりと波に揺れながら離れていく。それはとても寂しくもあり、しかし美しくも感じた。
 ヘルガは燈火を見送りながら、鎮魂の歌を静かに奏でる。口ずさむは幼い頃に母が聞かせてくれた歌。
 懐かしき風景と共に忘れない事を誓い。そして、優しい世界になる事を祈り。

 花の模様を描いた灯籠は他の燈火と共に、何処までも、何処までも、流れてゆく。
 ヘルガは、猟兵達は、住民達は……あの燈火を忘れる事は決してないだろう。

 ――願わくば、想いと魂を乗せた光の行く先が、天に輝く星々のように、幸多かりし未来であらんことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月25日
宿敵 『水底のツバキ』 を撃破!


挿絵イラスト