3
忘却に流るる追憶燈火(作者 ののん
9


●そして全てが消えてゆく
 思い出せない。思い出せない。
 何故自分がここに居るのか、何処へ向かおうとしていたのか、隣に居た人は誰だったのか、どんな関係だったのか。
 ……いや、隣に人なんて居た?
 自分も他人も思い出せない、自身の欲も思い出せない。
 こんな時、なんて言っていいのかも分からない。
 次第に感情も言葉も忘れてゆく。

 あの川に浮いているものは何だったのか、今ではもう思い出せない。
 あの空に浮いているものは何だったのか、今ではもう思い出せない。

 嗚呼、私は××だ。
 ××って、なんだっけ。
 もう、忘れてしまった。

●ダニエルの情報
 新しく発見された世界『カクリヨファンタズム』では、常に世界の滅亡と隣り合わせ――つまりカタストロフが訪れている。骸魂に抗う力を持たない住民達は常日頃それに悩まされながら今日を生きる。
「まぁつまり、新しい世界で早速観光でもしたい所っすけど、『また』世界の終わりが近付いているっす。こりゃあ観光どころじゃないっすな」
 知念・ダニエル(壊れた流浪者・f00007)は淡々と猟兵達に向け、事の事情を話す。
「この世界から、ある一つのものが消え去ったっす。お陰で世界は抜け殻も同然。無法地帯っすよ」
 消え去ったあるものとは何か。
「――『記憶』っす」
 とんとん。自身の頭を指で叩く。
「住民からあらゆる『記憶』が欠けていくんです。やがて彼らは全てを忘れ、文字通り抜け殻となる。そこへ骸魂が憑り付けばどうなるか? ……何もかも分からず暴れ続けるだけっす」
 些細な事、大事な事、嫌いなもの、愛したもの。いずれ全てを忘れていく。ある日突然、世界はそんな呪いに満ちたものへと変貌した。では、一体それは誰が?
「今回の事件の発端は……そうっすね、まずはこの町の事を教えておくっす」
 ダニエルは自身の背後を歪ませ、とある場所を映し出す。映し出された風景は、とある町に流れる大きな川だ。
「川に何か、ぽつりぽつりと流れているのが分かるっすか? これは『死者の魂』を模した灯籠っす。この町では年に一度、死者の魂を弔う為に灯籠を川に流す行事が行われているっす」
 その行事が行われる日が、世界が豹変してしまったその日である。
「そう、お察しの通り、この参加者の一人である少女が『比丘尼の骸魂』に飲み込まれたっす。骸魂は『悲しみや痛みから逃れる為、全ての忘却こそが救いである』と言わんばかりに人々を襲い、世界を変えたっす」
 骸魂に飲まれた少女もまた、それに同調するほど悲しみに包まれていたのだろうか。――それは誰にも分からない。

「皆さんには、この忘却の世界を救って貰うっす。骸魂に飲まれた住民達を救って、無事に灯籠流しを終わらせてあげてくださいっす」
 骸魂に飲まれオブリビオン化した住民達は、倒せば本来の姿に戻るようだ。住民達を救いつつ、今回の元凶である哀れな少女も救い出す。それが今回の任務の流れである。
 無事に世界が平穏に戻れば、灯籠流しも行われるだろう。一時の休息として猟兵も参加するのも良いかもしれない。
「夜に行われる灯籠流しは……綺麗ながらも何処か寂しいでしょうね。ただ静かに眺めるのもいいっすし、灯籠を用意して流すのもいいと思うっすよ」
 住民達は何を想い、灯籠を流すのか。灯籠は何処へ流れ行くのか。――それは誰にも分からない。

「さて、話は終わりっす。忘れ物は……ないっすね?」
 夜に行われる、何処か物悲しい行事。大切なそれを忘れない為にも、世界の記憶を取り戻す戦いへ。
 静かに息を一つ吐き、ダニエルはグリモアを輝かせた。





第2章 ボス戦 『水底のツバキ』

POW ●届かぬ声
【触れると一時的に言葉を忘却させる椿の花弁】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD ●泡沫夢幻
【触れると思い出をひとつ忘却させる泡】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ ●忘却の汀
【次第に自己を忘却させる歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黎・飛藍です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 嗚呼、私は××だ。
 ××って、なんだっけ。
 もう、忘れてしまった。

 静かな空から舞い降りてきたのは、美しい少女。
 悲しい表情を浮かべたその瞳に輝きはない。

「――どうして忘れないの?」
 少女は問い掛ける。
「覚えていても、それを失えば、悲しくて、悲しくて、辛いだけなのに」
 感情なんてなければ良かったのに。出会いなんてなければ良かったのに。
 そんなものがあるから、貴方達は戦うのでしょう?
「貴方達も救ってあげる。苦しい事も、痛い事も、消し去りましょう。大丈夫。少しずつ、少しずつ、忘れていけば良いわ」

 しかし、猟兵達には感じ取る事ができる。
 あの言葉は少女自身のものではない、と。
リゼ・フランメ
何度忘れたとしても、必ず思い出す記憶と思い
それこそが、私を私として形作る魂

悲しいひと、苦しいこと、辛いこと
それらがある程に
嬉しいこと、楽しいひと、幸せなこと
その思い出は炎のよう優しく、揺らめく

罪を抱いて産まれ、罪を重ねて生きる私達には、忘却もまた救いなのかもしれないけれど
私が求めるのは、未来にあるの


UCを発動し、全速力での飛翔
花びらは見切りで避けながら、全力での切り込み

ひととき、声が失われたとしても
私の胸に宿る想いは失われないのだから

破魔を帯びる、属性攻撃の火として劫火剣に宿し
飛翔速度を乗せた斬撃をもって、哀れな人形の罪に焼却を

一度で足りないなら何度でも繰り返し
忘れないのだと、火と剣で歌うわ


 悲しいひと、苦しいこと、辛いこと。
 それらがある程に、
 嬉しいこと、楽しいひと、幸せなこと。
 その思い出は炎のよう優しく、揺らめく。

 可哀想な人ね、とリゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は少女に伝えた。
「罪を抱いて産まれ、罪を重ねて生きる私達には、忘却もまた救いなのかもしれないけれど、私が求めるのは、未来にあるの」
 未来とは、過去がなければ存在できない。
「何度忘れたとしても、必ず思い出すわ。私の胸に宿る想いは失われないのだから」
 それこそが、私を私として形作る魂なのだから。
「良い事も嫌な事も続くのなら、最初からどちらも知らなければ良かったのよ」
 少女は悲しそうに呟く。
「思い出しても、私がすぐに忘れさせてあげる」
 手のひらに咲かせた椿の花を優しく吹く。無数の花弁が宙を舞い、周囲の者へと襲い掛かる。
 花弁はリゼの記憶から言葉を奪う。喉が塞がれたような感覚に陥るリゼだったが、決して全てが消えた訳ではない。
「(覚えている、この熱い想い……あの感覚……)」
 言葉を失っても、身体は覚えている。リゼは全身に力を集中させる。その手に持つ剣に、自身の背に、迸る熱い想いを込める。
「(これは……シテンシノ……ブトウ……)」
 リゼの背に大きな翼が生える。あぁそうだ、これは『翼』というものだった。彼女は大きく踏み込み空を飛ぶ。力強い羽ばたきに記憶を奪う花弁は体から離れ散りゆく。
 更に彼女は思い出す。そう、この熱い想いは、この剣に宿るものは、『炎』というものだったと。
「……そう簡単には忘れないのよ、記憶というものは」
 彼女は翼を広げ強く振るう。天高くから舞い落ちるものは白い羽根。羽根は花弁に触れると燃え出した。あっという間に戦場は火の粉が降り注ぐ天候と化した。
 少女が火の熱さを覚えていると、その頭上から降ってきたものは、更なる熱さを纏った炎の剣。
「あなたにも、思い出させてあげるわ」
 リゼが斬り裂き焼却するものは、世界を変えてしまった少女の罪。
 リゼが切り開き解き放つものは、抱いていたであろう少女の未来。
成功 🔵🔵🔴

無銘・サカガミ
どうして忘れないのか、だと…?簡単な話だ。
どんなに悲しくて、辛くて、痛いものだったとしても。
それが俺を俺たらしめているものだからさ。

ああそうだ、辛い記憶なんて忘れられるもんなら忘れたいよ。
けどな、この身を蝕む痛みが、苦しみが、憎悪が、忘れるなと叫ぶ。
俺が救われる時は…この呪いが真に消えたときだけだ!

そして…言葉を交わした時点で、俺の攻撃はすでに終わっている。
見えるだろう、絶望の未来が。
忘れたはずの記憶。
温かい出会いの記憶、辛く悲しき別れの記憶、色々な記憶。
浮かんでは決して消えぬもの。それは…「お前」にとって忘れたくない記憶のはずだ。

喰らい尽くせ、八百万の呪い。
悪夢と共に骸魂を殺せ!


 どうして忘れないのか? 少女の言葉に無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)は目を閉じる。
「簡単な話だ」
 そんな事も知らないのかと、彼は語る。
「どんなに悲しくて、辛くて、痛いものだったとしても。それが俺を俺たらしめているものだからさ」
 それが唯一、『残された自分がまだ存在している』証なのである。
「貴方は、生きている方が辛そうに見えるわ」
 少女はサカガミを哀れむ。
「私は殺生など行わない。命ある者を救いたいだけ。私は……貴方を苦しみから救いたい」
「……ああ、そうだな、辛い記憶なんて忘れられるもんなら忘れたいよ」
「私には、それができるわ」
 少女は泳ぎ、輝く泡を生み出す。思い出の忘却をもたらす泡はサカガミを囲む。サカガミは動く事なく、淡々と少女と会話を続ける。
「俺の事について、もう少し聞いて貰っても構わないだろうか」
 泡はその場でふわりと浮くだけで動きを止める。少女は静かに頷いた。
「俺が過去を忘れられない理由は、そういった辛い記憶が深く刻まれたから……だけではない」
 記憶を失っただけでは、『それ』は忘れる事はできない。
「この身を蝕む痛みが、苦しみが、憎悪が……叫ぶんだ。忘れるなと、『言の葉』を使って」
 ざわ。少女の表情が歪む。
「そう、最も単純にして最も優れた呪い……それこそが『言の葉』。そして、この言葉を聞いた時点で、お前は致命的な間違いを犯した」
 泡は弾けて消えた。少女は胸を押さえて苦しみ出す。その美しい姿に見合わず、まるで水の中で溺れているかのように見える。
「どうだ、八百万の呪いは。お前はこれが消せるのか? それとも痛みに溺れるか? ……記憶が消えたから何だ。俺が救われる時は……この呪いが真に消えたときだけだ!」
 少女は叫んだ。胸の中が破裂しそうで、痛くて、苦しくて。それをどうする事もできなくて。
 その姿を見たサカガミは思う。どれだけ記憶を消した所で、結局は呪いに呼び戻されてしまうのだ。まっさらに忘れても、痛みと苦しみを覚え直すだけなのだと。

「浮かんでは決して消えぬもの。それは……『お前』にとって忘れたくない記憶のはずだ」
 サカガミは語り掛ける。それは世界を変えた骸魂に向けたものではなく、少女自身に向けたものとして。
成功 🔵🔵🔴

ヘルガ・リープフラウ
わたくしだって、多くの「辛い記憶」を抱えてきたわ
吸血鬼に家族を殺され故郷を焼かれたこと
目の前で失われた数多の命
そして何より、敵に「夫に関する記憶」を奪われ心を蹂躙された忌まわしい事件……

苦しかった
悲しかった
怒りすら覚えた

それでも傍にはいつも「愛する人」がいたから
揺るぎない愛で支えてくれたから
何度心を折られようとも
わたくしは今日まで頑張ることができたの

忘却で心の痛みを誤魔化すことが幸せなんて
そんな欺瞞に騙されないで
記憶を奪われ自我を無くす「虚無」の悍ましさを
わたくしは身をもって知っている

祈り、優しさ、慰めを込め
【聖霊来たり給え】と歌う
幸せな出会いと思い出が
立ち向かう勇気と覚悟をくれると信じて……


 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は気を失い倒れる住民を癒していた。骸魂のみを攻撃し外傷はないとはいえ、住民達は体力を消耗している。少しでも、とヘルガは住民達の回復を試みていた。
「どうして解き放ってしまうの?」
 少女はヘルガに問い掛ける。
「思い出してしまったら、彼らはまた悲しみ、心を痛める日々を送るというのに」
 ヘルガは少し俯き考え込むが、すぐにその視線はまっすぐと少女の方へと向く。
「そうかもしれませんね。わたくしだって、多くの辛い記憶を抱えてきたわ」
 この世界の住民と比べれば長く生きたとは言えない年齢ではあるが、それでも様々な事を経験してきた。苦しみ、悲しみ、怒り。様々な負の感情も覚えた。それはとても嫌な事だ。
「吸血鬼に家族を殺され故郷を焼かれたこと。目の前で失われた数多の命。そして何より、敵に『夫に関する記憶』を奪われ心を蹂躙された忌まわしい事件……。そのような事が起きなければどれだけ幸せだった事かと……確かにわたくしも、そう思った事はあります」
 あの不幸がなければ、こんな事が起きなければ。……誰もが一度は考える事だろう。
 しかし彼女は知っている。過去が後悔ばかりではない事も。
「それでもわたくしには……傍にはいつも愛する人がいたから。揺るぎない愛で支えてくれたから。何度心を折られようとも、わたくしは今日まで頑張ることができたの」
 家族、友人、愛する人。それは誰でも構わない。心の傷があれば、必ずそれを癒し、支えてくれる人がいるはずだ。ヘルガは優しく微笑んでみせた。
「悲しい時間は永遠に続かない。必ず誰かが手を取ってくれます。――忘却で心の痛みを誤魔化すことが幸せなんて、そんな欺瞞に騙されないで」
 体験したからこそ、彼女の言葉は重く、そして宝石のように輝いていた。

「もう誰も、忘却の海には溺れさせません。……全ての人々を、救ってみせます」
 ヘルガは歌う。世界への祈りを込めた讃美歌を高らかに歌う。
 その眩しすぎる彼女に、少女は両手で耳を覆った。しかし歌は聴こえる。心がざわざわした。
 ふと自身の周囲を見下ろしてみると、少女は驚いた。住民達が次々と意識を取り戻していたのだ。彼らはゆっくりと体を起こし、歌うヘルガにそっと耳を傾けている。
 心を優しく励ますように撫でてくれる、そんな不思議な感覚に陥り、住民達は勇気付けられていく。
「(こんな事、信じられない)」
 少女も忘却の歌で世界を静寂に包みこもうとした。

 ……しかし、声が出ない。
「(何故? どうして……?)」
 少女から涙が零れる。心が再びざわざわした。

 ――まさか讃美歌が、この少女の魂に届いているというの?
大成功 🔵🔵🔵