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ようこそ■■■ランド

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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●一夜の夢と誘蛾灯
 空が暗くなり始めても、お楽しみはまだこれからと誘うように。
 塗装の剥げた観覧車はそれでもカラフルに回り、駆け抜けるコースターはリズミカルにレールを軋ませてゆく。
 息も絶え絶え、ポップなメロディを吐くメリーゴーラウンドが柵の隙間からちらりと窺える。足元に散らばるものは土産屋のレシートであって、仲睦まじい記念写真であって。
 無人のチケット窓口の脇でマスコットが手を振って笑っている。
 其処は多くの人々に愛されたテーマパークであった。
 嘗て、暗黒の竜巻に呑まれる前には。

 ――オオオ、ォォ、ォ。
 アァァァ――――……。

 アトラクションの立てる音に紛れ入園ゲートの奥から響き続けるは風の音ではない。人間、だったものの、呼び声。
 辿り着いた数人の奪還者はそうと知りながら、視線を交わし銃に手を掛けた。
「ちょっと待っててね。チケット買ってくるからさ」
「大所帯だからな、きっと時間がかかる。おしゃべりでも楽しんでいてくれ」
 声を掛ける先、此処へ来ようと決めたきっかけ――道端で拾ったボロボロの雑誌に描かれたテーマパークの光景へ「すごい」と瞳を輝かせていた年少の非戦闘員たちは疑うことなく頷いた。
「まってる」
 いいこ、と頭を撫でて。大人たちが歩み寄るゲートの上部では、欠けた文字がチカチカと疎らな点滅を見せている。
 嵐に攫われたのだろう、此処が何処であるのか、天国か地獄か。一番大事な部分はもう読めはしない。

●ようこそ■■■ランド
 食って、寝て、その繰り返しだけでも人間は生きていけるかもしれないが、何を以て生きていると呼ぶかは人間次第でもある。
 そうして此度。とある拠点から訪れた一団が、ゾンビテーマパークに踏み込まんとしているのだ。
「遊びてーんだってさ。見っけたそこが幸か不幸か、ちゃんと動いて見えるもんだから。つってもこんままじゃ食われておしまい。で、皆の出番って話」
 アビ・ローリイット(献灯・f11247)は未来をざっくりと伝えれば、今なら一団が訪れる数時間前には現地入り出来ると続けた。
 安全でないのなら、先に安全にしてしまえばいい。そんな理屈で。
「動く死体だけじゃなく奥にメカみたいなのも見えたから、ちょい早めに向かってもらえたらなって。多分、他のオブリビオンが資源荒らしに来てんじゃねーかな。電力があるのは本当みてーだし」
 オブリビオン・ストームの発生から、あまり日が経っていないのかもしれない。
 嵐はテーマパークから多くのものを奪っていったが、元々電力の大半を太陽光発電で賄っていたようで、アトラクションは尚も動くことが出来ているようだ。
 とはいえパネルも朽ち落ちた今、それにも限りはある。少なくとも今回の奪還者たちが遊べるか否かはラストチャンスとなるだろう。
「アトラクションとかのレベルは今のUDCアースが近いっぽい。最先端ーってほどでもねーけど、それなりな感じ。パンフレット? どっか落ちてっかもね」
 さて、景色は変わりきった。
 コースターの音に一度声を遮られれば、賑やかなものだと園の方向を振り仰いで耳を押さえたアビが猟兵へ視線を戻す。
「まあなんか、毎日大変みてーだけどこういう一日がまた生きてく気力に繋がったりすんじゃねーかな。よけりゃ叶えてやってよ」
 どうせだしついでに皆も遊んできたら、と。
 列待ちなし、チケットのチェックもされないし?
 ――いえいえ。ともすれば提示を求められそう。なんたって、スタッフたちは今も園内で客を待っているのだから。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、一夜の非日常を届けにアポカリプスヘルへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:冒険(ゾンビの群れ)
 第2章:集団戦(資材略奪用兵器群デッカイザー)
 第3章:日常(テーマパーク)

●第1章、第2章について
 テーマパークに巣食うオブリビオンを討伐します。
 奪還者たちが辿り着く前に事を終えるため、守りながら戦う必要はありません。
 プレイングボーナスは施設を壊さない工夫です。

 ゾンビの攻撃手段は噛みつき、組みつき、引っ掻き等。移動速度はまちまち。個々は脆く弱いものの数が多い。
 生前はテーマパークスタッフまたは来園客で、ちらほら習慣が残っている模様。

●第3章について
 時間帯は夜。奪還者たちがテーマパークを楽しむ間、猟兵も警護を兼ねてテーマパーク内に留まります。遊べます。
 アトラクション操作はワンタッチ化されており心配ご無用。
 ボロくなってはいますが、一般的なテーマパークにあるアトラクションは存在し無事動くものとしてご自由にお過ごしください。実在する特徴的な施設が想起できる場合は暈させていただきます。ショーやフード類はありません。
 詳細は第3章の導入およびマスターページをご参照ください。

 複数人でのご参加の場合、【お相手のIDと名前(普段の呼び方で結構です)】か【グループ名】をプレイングにご記入ください。
 個人でのご参加の場合、確実な単独描写をご希望でしたら【単独】とご記入ください。
 アビ・ローリイット(献灯・f11247)はお声掛けいただいた場合のみお邪魔します。

●その他
 第1章は『6/17(水) 08:31』よりプレイング受付開始予定。各章とも導入公開後の受付です。
 補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
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第1章 冒険 『ゾンビパニック』

POW   :    力で黙らせる

SPD   :    素早くすり抜ける

WIZ   :    頭を使って翻弄する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ザザッ、ザ、とノイズを振り撒き。
 スピーカーが届ける迷子放送は延々同じ名を繰り返し、再会が生きて果たされぬことなど知らぬよう。
 ゲートをくぐれば大通り。土産屋の硝子窓は割れ、垣根の花は枯れ、案内板は引き倒されて。
 過去の残滓は物悲しい。
 けれどもそれは生者の視点だ。
 こども向けから絶叫マシンマニア向けまで数種のコースターはぐにゃりとカーブを描いて、海賊船を模した大型ブランコには人影が見えた。いいや、よく見ればアトラクションのあちこちに。今も楽しみ続けている姿が、ある。

『よう、こ そ……へ』
『バルーンを を、どう ぞ』
 亡者は賑やかな夢の中。
 よたりと揺れて揺らして、ビタミンカラーの制服に身を包んだ肉の塊が続々とやってくる。
 骨の浮き出た手には糸とそこから垂れるしぼんだフィルムが握られるだけで、渡せるものはなく、奪うだけ。開いた手のひらは血濡れ、手放したバルーンを踏みつけた足は縺れながらに速まった。
 狂ったように回り続けるコーヒーカップからはざらざら零れる赤。操作室は手形で彩られ、キィキィ、開け閉めを繰り返す上の空のスタッフと。
 ぷきゅ、ぷきゅとご機嫌な音は、キャラクターもののシューズを履いた幼い死体が走り回るから。
 躓いた拍子に外れた足が跳ね転がって、のったり視線で追った先に猟兵の――探していた肉の――姿を見つけると、それは懐っこく笑った。
『  さん、だぁァ……アァ』
 アアア、アアアアア!!
 まるで"歓喜"が伝播したかの如く。一斉に牙を剥くゾンビたちが我先に生者へ迫る!
 目に痛いほど降り注ぐ照明は、黄から青へ、青から赤へ。共にこの夜を楽しもうと騒いでいる。
イサナ・ノーマンズランド
わるいね。普通のお客さんがここを使いたいんだってさ。立ち退いて……いや、今日で定年ってことにしてくれるかな。退職手当って訳じゃないけど、眠らせてあげるからね。

「目立たない」よう後方から「スナイパー」として狙撃銃で接近する猟兵たちの「援護射撃」をするよ。「部位破壊」で足や頭を「吹き飛ば」せば、他の人も戦いやすくなるよね。無駄弾で施設を壊すのもイヤだし、足が遅いゾンビを優先して攻撃しよう。進行方向にモタつくゾンビがいれば、後続の動きを阻害して「時間稼ぎ」にもなる。

わたしの存在がバレて接近されたら、UCで用意した散弾銃の「零距離射撃」で退勤してもらうよ。おかえりはあちらです。今までお疲れさまでした。


カトル・カール
絡みもアドリブも大歓迎
WIZ

ある意味ドキドキのファタジーランドだな。
こんだけの設備が動いてる。しかも無料。ただし生きて帰しゃしないってか。

じゃあ、遊ぼうか。
入園ゲートをくぐったら大通りか。
確認できそうなら園内マップを素早く確認。
手持ちの花火を2、3打ち上げたら、客ゾンビもスタッフゾンビも注目するだろうか。
引きつけつつ前進。適宜【桜の癒し】を使い、メイスで前方を塞ぐゾンビを殴る。
噛まれりゃ痛いけど、まあなんとかなる。

目的地は開けた場所。
だいたいのテーマパークは、こういう大通りを抜けた先が広場じゃないか?
障害物を気にせず全力で退治したいもんだ。




 スタッフの愛想よし、設備よし、なんと無料。――ただし生きて帰しはしない。
 ある意味ドキドキのファタジーランド?
「じゃあ、遊ぼうか」
 そこに打ち上げ花火も加わったなら、いよいよパーティーの始まりではないか!
 遥か高くで炸裂音が連続して響きゾンビたちがそれを見上げる。ああ、事実、いつかであればこの音と光は開園の時間を告げていたのかもしれない。滑稽にも手なんか叩いて――弾みで落として。
(「酷い話だ。だが、使えるもんは使わせてもらおう」)
 花火職人、ではなく猟兵にして行商人であるカトル・カール(コロブチカ・f24743)は用済みとなった円筒を放り出して駆け出す。利き手には代わりに引っ張り出したメイス。
 案内板は崩れてはいたが、大体のテーマパークの構造からして大通りの先には広場があるだろう。まずは障害物を気にせず済むところへ、と、イラつくほど振り返りの遅い死体の横っ面を強かに殴りつける。
 ずべしゃあと吹き飛ぶそれがお仲間を巻き込むから、おかげで広がった道をカトルは悠々と辿れるというものだ。置き土産として顔面の穴にでも捻じ込んでやった花火が今一度空へと打ち上げられれば、いよいよゾンビたちの注目が集まるのを肌身に感じる。
「そうだ、俺の仕業。もっと見たけりゃついてこいよ」
 困るどころか丁度良い。
 なにもパーティーの参加者は自分と彼らだけではない、
 例えば――――。

 ヂギッ!
 金属が擦れ合う風な音がした途端にカトルの一番近くにいたスタッフゾンビが消える。
 崩れ落ちたのだ。頭にひとつの穴だけ開けて、後続に踏まれるただのマットと化す。スコープ越しに成果のほどを確かめた射手、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)はそのお隣さんへ直ぐに次弾を撃ち込んでゆく。
「わるいね。普通のお客さんがここを使いたいんだってさ。立ち退いて……いや、今日で定年ってことにしてくれるかな」
 退職手当って訳じゃないけど、眠らせてあげるからね。
 後方での狙撃を担うイサナが届かせるは声ではなく弾丸のみ。抱えた幼い体躯にそぐわぬゴツいスナイパーライフルが熱を持つ度、心音と同じに規則正しい排莢音は小雨の如く。
 過ごす人のいない、荒れ果てた地の虚しさ。
(「時間は戻らないんだ」)
 可愛らしいワンピース姿の子どもが見える。手を引くスタッフはその所為で遅れていた。同情よりも先立つ思考は"丁度良い"で、そんな自分の思考に感情が追いつくより早く引き金を引くイサナ。
 薄くなった足が角度的に重なる一瞬を撃ち抜かれもつれ合って転ぶふたつ。ちょっと小高い山と化して横たわるから、また更にゾンビらの行進はチグハグなものとなった。
「腕の立つスナイパーがいると楽でいいや」
 狙いの的確さは、己が本来の職としても察せられるものがある。ゆえにカトルは背を預け、後方よりも前方に集中していられた。あちこちから引っ掛かれる傷はじくじくと焼ける感覚だが、開かれた口へとメイスを叩き込んでしまえばおあいこだ。
 そしてなにより桜の精。
「花火もおすすめだが、こっも中々だと思うぜ」
 力技のみならず操ってみせる癒しの花吹雪が亡者たちを包む端から眠りへ誘う。うと、と、瞼が落ちようものならそのまま永遠のおやすみだ。有休消化でどうぞ旅行でも、行先は――既に決まっているけれど。

 がごっ、  銃声と同じく打撲音は鳴り止まない。
 あちら側が問題なさそうと見れば、イサナはこちら側の相手を済ませることにした。ざりざり、引き摺る足音の接近があまりに遅いのでしばらく後回しにしていたわけであるが。
 ――顔を上げた其処にひとりのゾンビがいる。
 涎を垂らし、片目を垂らし。首にはスタッフカードが揺れる。その手が触れるほど間近に伸ばされていた。
「急がなきゃ。みんな退勤してるよ」
 だが、遠い。
 腹へ突きつけるショットガンの銃口。
『ウゥ? グッ、ガァ!』
 押して避けるという知性はない、つっかえる所為であとちょっと手指が届かずに、駄々をこねる子どもに似てゾンビは腕を振り回す。が――、一回転、二回転、そこまで。
『ア、 』
「おかえりはあちらです。今までお疲れさまでした」
 撃発。 弾丸は見えなかった。
 熱波が腹の肉を震わせたかと思えば、続く爆圧がめくり上げるように内外を飛び散らせる。糜爛に焼けた皮の奥をカラにして、それは来たときより何倍も速く後方へ跳ね飛ばされてゆく。 この距離だ、イサナの右眼を覆う真新しい包帯にも点々と赤が跳ねるが、今更いたむものもなかった。
「……また変えなきゃなぁ」
「使うか?」
 ごしと左半分を拭っていれば、カトルが手にした布を差し出してくる。商品のひとつなのだろう、男が持ち歩くには品のある桜花の刺繍の。
 粗方を殴り倒してきたらしい男こそが血塗れだ。いま持ちあわせがないんだ、と、俄かに口の端を上げてみせるイサナ。
「それにこれからもっと汚れる訳だしね」
「言えてるな。じゃ、また考えておいてくれ」
 リロードの音が重たく落ちた。別段売りつける気もなかったのだが、少女らしからぬタフな返しに乗ってカトルもその冴えた緑の目線の先――ゆらりと集まり来る応援スタッフらに、向き直りメイスを握る手の感覚を確かめる。
 まだまだいけそうだ。
「もう少し遊んでやるよ。夢の中でも現でも、好きな方で付き合ってやる」
「撲殺か銃殺か、じゃなくて?」
 カトルの声に湧き立つ桜吹雪に掻き消されることなく、イサナの銃は赤々火を噴いた。焦げ臭くも天へ向かい昇るばかりの煙は、作法を知らぬ弔いにしてはよく出来ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

善哉・鼓虎
ミィナちゃん(f26973)と!
テーマパークはテーマパークやけど完全にハロウィンイベント状態やん!あっちを向いてもこっちを向いてもゾンビ!!嫌になってくるわぁ。

せやけど今日のうちは一味違うで。そう、ピンやないコンビや!ミィナちゃんがんばろな!
いやコンビニとちゃうよ!?…ミィナちゃんお腹すいてるんか?とりまいろいろ倒してまうまで我慢してやー。
まずはうちが一曲歌わせてもらうで。
UC【サウンド・オブ・パワー】

よっしゃー!!うちも気合い入れていくでサブマシンガンで【乱れ撃ち】や!出来るだけ距離取って戦うけど目の前にきたらサバイバルナイフで【咄嗟の一撃】

ゾンビは食べたらポンポンいたなるよ!


ミィナ・シャットブロンシュ
鼓虎f24813ちゃんと

こんび?こんびに…?確かに鼓虎ちゃん美味しい物沢山くれるからミィナ好きだよ!
でも今日は遊園地のごはんが楽しみかな!
えへへ、鼓虎ちゃん、早く倒して美味しい物たべよ!

足取り軽く遊園地を進むもゾンビが群がって来たなら覇気を手に纏い【一撃必殺】でゾンビを殴り撃破していくね?
あ、ごめんね?邪魔だから退いてくれる、かな?
お肉はお肉でも美味しくないから…
お腹減ったなあと耳が垂れかけるも、鼓虎ちゃんの歌が聞こえたら楽しくなってきちゃうかも
ヒレ、リブロース、サーロイン!【一撃必殺】でゾンビを殴りつつ部位を熱唱
お肉は食べられないけどお肉の部位だと思うとたのしい、ね!
鼓虎ちゃんも一緒にやろ?




 テーマパークのステージにお呼ばれして一曲――なぁんて、とりわけ人々の笑顔と音楽とを愛するソーシャルディーヴァ、善哉・鼓虎(ハッピータイガー・f24813)には華のあるお話。
 ただちょっぴり、踏み入ったそこがハロウィンイベント仕様というだけ。その"だけ"が、大いに問題であった。
「あっちを向いてもこっちを向いてもゾンビ!! 嫌になってくるわぁ」
「みんなもう笑顔だね」
 ゾンビ観察から視線を戻し、うがーっと頭を抱えて唸る鼓虎をミィナ・シャットブロンシュ(求道者・f26973)は見上げる。隣から聞こえたその声と、眼差しとに鼓虎は目を合わせて。
 頷く。 せやけど今日のうちは一味違う――、古びたエレキギターにピックを寄せ、確かめるようにギュイッと一音。
「――そう、今日はピンやないコンビや! ミィナちゃんがんばろな!」
「こんび? こんびに……? 確かに鼓虎ちゃん美味しい物沢山くれるからミィナ好きだよ!」
 そして気合いを入れたところで、ぱたたと耳を動かすミィナに全部持っていかれそうになる。
 でも今日は遊園地のごはんが楽しみかな! 鼓虎ちゃん、早く倒して美味しい物たべよ!
 ほわほわ続けるミィナはゴッドハンドであった。足取りも軽く駆け出せば、横道からわらっと湧いたゾンビをこんにちはのなんてことなさで殴り飛ばす。
「あ、ごめんね? 邪魔だから退いてくれる、かな?」
 コンビニじゃない。鼓虎の全力ツッコミも追いつかぬまま。
 一撃で飛び散った肉塊はひとつに終わらず、隣り合ったものたちが、ミィナの拳にはためく覇気に巻き取られ歪みに歪み。
「……ミィナちゃんお腹すいてるんか? とりまいろいろ倒してまうまで我慢してやー」
 何か彼女の腹を満たせそうな物は残っているだろうか。
 見渡す分でもレストランやワゴンには期待出来そうにない。土産屋の菓子、そのくらいなら或いは? ともかく。腐っているとはいえ、観客をあまり長く待たせるものではない。
 本日お贈りするオープニングナンバーはこの夜にぴったりなホラー・パンク!
 掻き鳴らすエレキギターの爆音に乗せ、胸いっぱい息を吸っただけ殴りつけるほど声を弾ませ。鼓虎も力を――歌声を届けてゆく。

 Bメロに差し掛かったときだ。
 はらぺこに耳を垂らしていたミィナが突如として鼓虎を振り返る。
「いまステーキって言った? 良い歌詞だなぁ」
「んっ、えっ、言うてない……どんな歌やねん!」
 うっそり笑うミィナ、サビに入るはずが思わずツッコミを優先してしまう鼓虎。しかし当の少女は聞いてはいない、サウンド・オブ・パワー、力を与う奇跡の歌声にひとり納得しひとり共感したことでより力の漲る拳を固め。
「――ヒレ!」
 お見舞いしてゆく。
 腰への一打。掛け声は旋律への合いの手のように熱く高らかで、
『ウアァ、が』
「リブロース、サーロイン!」
 そして止まることを知らない。
 ぼごっ、めぎょっ、鈍く生々しい音がセットではあるが。背にしがみつこうとしてくるゾンビへは剣の鋭さで右肘を突き刺して、くの字に折ることで一層近付いた顔面への左ブレーン・クロー。
『ギ、ィ、おショクじ なら』
「うーん……」
 腐った肉を引き寄せる。近くで見ても――やっぱり不味そうだ。
 ここで鼓虎はハッとした。このまま齧りついてしまうのでは? ゾンビがではない、ミィナが。
「タンマ!」
 抱えた働き者のサブマシンガンが弾丸を吐き出し続けるのにミィナの周囲を一掃させては、その射撃音より声を張って。
「ミィナちゃーん! ゾンビ食べたらポンポンいたなるよ!」
 声の調子を外し慌てながら、それとは別に落ち着いた判断で鼓虎は、走り込んできた死体を銃身で押し返す。開いた空間へ間髪入れず引き抜くサバイバルナイフを突き立て、横へと薙ぎ倒す頃にはくすくす笑いが聞こえてきた。
「ふふ、食べないよ」
 おかしい鼓虎ちゃん。なんて、ミィナの。
 でも、と続けミィナは手首を捻った。
 みしり。
「お肉の部位だと思うとたのしい、ね! 鼓虎ちゃんも一緒にやろ?」
 ネック! べきぼきーっと儘、"もいで"上げる声色は大層はしゃいでいたとか。
 足元には人間の骸、返り血が七色ライトにてらてらと幼気な少女を輝かせる。
(「よし……よいこらは見てへんな?」)
 鼓虎はといえば敵中であれさささっと体を確かめ、配信設定をつい確認してしまうのはソーシャルディーヴァとしてのサガか。
 絵面こそ凄惨を極めているものの、ミィナが自分の音楽にノってくれているという事実は鼓虎にとっても嬉しい事態に違いなく。
 ナイフを仕舞えば意気揚々、サブマシンガンを抱え直す。照準を合わせる先は――それでは、カルビとでも。
「よっしゃやったろ! 限定ライブや、よぉく耳に馴染ませてかえってや」
「やったぁ、ミィナだけ聴けるってことだよね」
 ゾンビもいるだろうって?
 いまはね。直ぐ、みんなコマにしてあげるもの。 ふたりの連携の前に、血飛沫で彩られた肉々しい新曲が爆誕するのにはそう時間がかからなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
オイオイ、パニックムービーの撮影現場か?
随分と役者が多い…しんどそーだな
お望みどおりに歓迎を受けよう。遊ばせてくれんだろ?骨の髄まで楽しんでいこうぜ

セット、レディー…『VenomDancer』
ゾンビの大群のド真ん中、道化は踊りだす
ターゲットを集めて、アトラクションを壊さないようにルートを決めて誘導
引き撃ちしつつ猛毒と鈍化をばら撒き続ける
害虫の駆除を一匹ずつやるなんて非効率的だろう?
集めて、まとめて叩く方がベストに決まってる
その為のデコイがこの俺ってわけだ。上手く使いやがれよ

っかし、こういうでけぇ娯楽もまだあるとはね
そういや、まとまなテーマパークは行ったことなかったか
面白いのかねぇ…分からねえや


ラパ・フラギリス
・基本はホバー戦車の中に籠もりっぱなしのビビリ兎
この世界にもテーマパークなんてあったんですね…。
ゾンビじゃなければとっても楽しそうなのに…。もっと安全なうちに来てみたかったです…

可哀想だけど放置するのもダメですね…。
後ろから敵が来なさそうな所に陣取って、前方からくる敵だけを対処します。
ミサイルや火炎放射は被害がやばそうだし、機関銃で弾幕を張ります。
銃はいっぱい取付けてあるので近づかれる前に殲滅できるはず
UCで呼んだ兎にもリロードやバリケード作りを手伝ってもらって耐えながら数を減らしていきたいです

銃声で更に集まってきそうだけど弾はまだまだある…はず
後ろが崩れたり前が突破されたら必死で助けを呼ぶ


伊敷・一馬
不採用含めて全て歓迎ッ!
POW対応だ。

夢の島…この大地に人々が想いを馳せるのも仕方ない。
それでは危険なネイティブには退場頂こうか!

ゴーゴー☆ジャスティライザー!でダイナミック入場だ!
スタッフの皆様の為にも交通整理よろしくワガママゾンビを実力排除する!
(多分スタッフ混じってるべ)

スピーカーの囁き…なんということだ、迷子がいるぞ!
熱血ヒーロー・ガジェットアーツ!で敵を薙ぎ払いつつ放送の特徴にあった者を見つければ速やかに回収、迷子センターへ一目散。
唸れ、私の美しきジャスティライザーッ!
(なおカゴに入るよう頭だけ持っていく模様だぁ)

夢の島は誰もが楽しむ故にマナー遵守大前提!
マナー違反者は退場だぞッ☆




「この世界にもテーマパークなんてあったんですね……」
 もっと安全なうちに来てみたかった。ロボットアームがちょんと摘まみ上げたパンフレットを見つめ、ラパ・フラギリス(Wrapped in strong things・f25323)はそんなことを思う。
 戦車の中、外の賑わいはどこか遠い。廃材製巨大戦車ノワールはラパの武装兼移動拠点、そして鎧でもあった。先ほどからガリガリと引っ掻き音が聞こえたりもするが、その程度で傷付くこともない。
 むしろ噛みつくほどに彼らの歯の方が抜け落ちているだろう。
「可哀想だけど……放置するのも、ダメですよね」
 戦わなくては。
 ほうと息を吐くラパ。ぽちっとな、とボタンをひと押し、サイドに取り付けたノズルからジェットを噴射させれば機体を大きく片側へと倒すかたちで発進させゾンビどもの輪を押し崩した。
 肉を轢き潰す感覚も直接は伝わってはこない。怖いものの多いラパにとっては、それもすこしだけ安心なこと。
 ひとまずは背を壁につけたいところだ。
 モニター越しに戦うに適した場所を探していれば、レーダーにぴこんと生体反応が増える。こちらに向かっている。それもすごいスピードで!
「矢面に立ちひとり戦うとはッ! 助太刀に来たぞ、この私が!」
 ガゴッ、  跳ね飛ぶゾンビ。くっきりと刻まれたタイヤ痕――。
 ゴーゴー☆ジャスティライザー! たなびくヒラヒラはヒーローの証!
 砂煙を巻き上げ(丁度良い感じにそこにあった瓦礫を踏んで)ダイナミック・ジャンピング・入場を決めたバイクマン。その正体こそ伊敷・一馬(燃える正義のひょっとこライダー・f15453)とその愛車。なんかすげー音を立てているがベースはママチャリである。
「――待たせたな」
「えっ、あっ、はい」
 なお顔面はひょっとこマスク。
 嵐の影響でオブリビオン化したショースタッフとかでもなくて、一馬はれっきとした猟兵だ。正義の心燃えるまま、足つきターンで大地を蹴り付け巨大戦車の前にザッ……と回り込む一馬。 烈しく吹き荒れたジェットにより周囲のゾンビらは軒並み弾き飛ばされていた。
(「どうしよう」)
 ラパはちょっと焦った。熱血バトルについていける自信が毛ほどもない。
「その……前に出ているのは不可抗力でして。むしろ下がりたいというか」
「むっ!? そうかならば尚の事間に合ってよかった。さ、此処は私が引き受けるとしよう」
 人々が想い馳せる夢の大地。危険なネイティブのすべてを排斥するつもりで一馬はやってきた。
 後退してゆくラパに近付けさせはしないと、唸りを上げるエンジンがワガママゾンビを威嚇する。
「助かります。あ、後方から支援します。銃なんですが、撃っちゃっても大丈夫ですか?」
「勿論だとも。私には、こいつがいるからな」
 信頼を込め格好良く愛車を叩いているようではあるがママチャリ。言葉に迷ったラパは戦車の中でぺこ……とお辞儀をするにとどめて操縦に専念した。

「オイオイ、パニックムービーの撮影現場か?」
 ――とは、ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)。
 屍の山、その山を蹴り崩して走る屍。頭痛を誘うイルミネーションとミュージック。ちょっと足を踏み入れてみればこれだ。
 ぼやく風でいて電脳ゴーグル越しの瞳は明るい。ゲーム画面を見つめるプレイヤーのようだ。事実、ヴィクティムは"遊ばせてもらう"つもりで此処にいる。骨の髄まで――。
「ま、楽しんでいこうぜ」
 セット、レディー。Extend Code-"VenomDancer"。
 どうせ同じ地獄の底なら、躍らにゃ損々騒がにゃ損。
 ピッとゴーグルを放れば、待ち受ける大群の最中へ飛び込むヴィクティム。男は電脳魔術士だ。その一歩ごとは高速演算されるプログラムをバラ撒き、ヘイトの感情を植え足音以上にゾンビどもの気を引き付ける。
「おぉっと」
 引き撃ち。
 伸ばされる手に足を止めて相手してやることはなく、"バグ"を纏うてのひらでハイタッチだけくれてやりすれ違えばあくまで誘い続ける。アトラクションから遠くへ、そして助っ人のいる方へ。
 ――そうして見つけたのは、片隅に陣を構えるラパであった。
 一馬援護のリロードの最中とあって静かなもので、廃材で組まれた戦車は傍目にポンコツにも見えたろう。中身はどうなっているか?
「オーイ生きてっかぁ?」
「っっひゃいっ……!」
 がつんと車体に拳を打ち付けられたラパはといえば震え上がった。レイダー……では? 身包みを剥がされて荒野に転がされるのでは!?
 だがしかしモニター越しに窺う声の主、ヴィクティムは、呆気にとられるほど快活に「そうかよ」と笑う。ラパの生存だけ確認すると瓦礫の山をとっとと飛び降りて、またゾンビとの追いかけっこに興ずるのだ。
「なら俺の考え、分かるよな?」
「――ぁ、はい!」
 がら空きの死者の背を機銃掃射が薙ぎ払う。弾が切れても呼び出したリペア・バニーズがせっせとリロードで支え続ける。
 自らを追って鳴り止まぬ快音にヴィクティムは口角を吊って、仕込んだバグもがしっかり働いていることに心地よさを感じていた。猛毒と、鈍化だったか。元々トロい奴であれば今やカタツムリと良い勝負だろう。
 その読み通り、勝負は瞬く間についた。
 応援スタッフがやってくるまでまだ少し時間がありそうだ。
「っかし、こういうでけぇ娯楽もまだあるとはね。んなにぞろぞろ集まるほど面白いのかねぇ」
「面白そうでしたよ。あ……パンフレット見ます?」
 たしかこのへんに仕舞って、とラパが戦車に取り付けたバッグをごそごそし始めたときだ。 ポーン、甲高い音に続けてあちこちのスピーカーから園内放送が流れだす。

『まい、ご、の…… の子 あさんが、おまちです。ねこちゃんの、ワンピース みつあみ、赤いリボン。 ……は、センターまで――』

 ――迷子。
 迷子、だと? 一馬は震えた。別にペダル回し過ぎて足が疲れたからではない。義憤に、だ。
「なんということだ……」
 見つけてやらなくては。
 熱血ヒーロー・ガジェットアーツ! ぴかぴか光り輝くブレードが振り抜かれた。
 マシンの加速とゾンビのダッシュ、ふたつの力が一点に影響しあいつまり触れたものはスパンッと断たれる。手放し運転は危険であるが、ヒーローにはそんなこと些事であった。 ――その果てで、一馬は見つける。放送の特徴と合致している気がしないでもない、幼子を。
「辛かったな。もう大丈夫だぞ」
 それからやさしく抱き上げる。
 カゴに入れた方が楽なので刃で焼き切った頭部だけ、ではあるが。  ヒーロー?
「迷子センター……迷子センターは何処だあぁぁ! 唸れ、私の美しきジャスティライザーッ!」
 きこきこきこ。
 魂の限り叫ぶのでゾンビの注目もかなり集め、先のヴィクティムほどではないがファンの列を引き連れることになる。
 そんなおそろしい追っ手たちを切り抜け、はたして一馬は無事に迷子を親もとへ送り届けることが出来るのか? マテ、次週!
「あの、あれ、いいんですかね……」
「やらせとけやらせとけ、ちょいとトんでるくれぇが強いってな。おたくはただお好みの的を選びゃいいのさ」
 選択肢が増えた。"上手く使い"やがれよ? なんて具合だ。
 この場の誰もが死なないと思っているし、誰もがそれだけの力を有していると思っている。
 楽観? いいや違う。再開したダンスに没頭しながら未だに掠り傷程度、ヴィクティムの揺るぎない物言いは迷うものにとって、ときに背を押す力ともなる。「なるほど、では」おずおずと呟いたラパは照準器を覗いた。
 ハンドルを回す。旋回する砲塔にならい、四方へはありったけの弾が吐き出される。
 ヒーローを追うものと、アンチヒーローを追うもの。
 風に硝煙が晴れればすべてのゾンビは等しく倒れ伏していた。ラパという戦車乗りは、意外なほど大胆不敵な全取りをやってのけたのだった。
「こう……でしょうか?」
 やはり自信なさげに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

ぞんび、ひぇっ!
じゃが、ああやって動いてるのはわし、大丈夫じゃ
姿がみえずひんやり系ではないから平気じゃ――えっ??
混ざっ!? な、ない、そんなんおらんじゃろ(不安げな尻尾)

幽霊などおらぬ…!
せーちゃん、ここに群れる者どもを片してゆっくり遊ぼ
あっ、わしあれ、あの、パンダがゆるゆる動くやつに乗りたいんじゃ(わくわく)

色々なものを壊さぬように気を付けて戦う…吹き飛ばしたりは無しじゃな
燃やすんは、周りに散らさんかったらええかな?
あかりがわりになろうし
今日はせーちゃんと遊びながらより、お片づけを上手にしよ
虚、その爪また今日も貸してな
全部切って払って、焼いて叩き伏せてしまお


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

らんらんはぞんびは平気なのか
だがぞんびの中に、そういう幽霊の類も混ざっているかもしれないぞ?
心して参ろうか、らんらん(微笑み

…パンダさん(興味津々
俺も是非パンダさんに乗りたい
一緒に乗ろうか、らんらん(微笑み
さあ、早々にぞんびを片そう(やる気

周囲を壊さぬよう、桜花弁を弾幕の如く舞わせようか
花弁の数多の刃で敵の群れを斬り裂きつつ
抜いた蒼桜綴で広範囲へ衝撃波の連撃を
敵を漏らさず片しつつ、周囲を守る
ぞんびは、花霞に溶ける様な残像で翻弄
確りと動きを見切り避け、躱せぬならば扇開き受けよう
友の炎はやはり鮮やかだな

今日はパンダさんに早く乗りたい(そわり
なので、遊びはそれまでお預けだな




 ひぇっ! ――と、一瞬竦み上がったのは姿見えぬ闇から呻き声だけ漏れ聞こえていたから。
 よたよたテントを回り込んでくる声の主がゾンビ、すなわち動いていて、見えて、触れられるものと知ってしまえば、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の袖を引っ張ったことなど素知らぬ顏で踏み出した。
「なぁーんじゃ、驚かせよって。姿のみえんひんやり系でないなら、わしの敵ではない」
「らんらん……、ぞんびは平気なのか。だがぞんびの中に、そういう幽霊の類も混ざっているかもしれないぞ?」
 虚、その爪また今日も貸してな。自らの右眼の奥へと語りかけ、黒き茨に半身を明け渡すことですぐに臨戦態勢を取る嵐吾を横目に清史郎はすうっ……と一点を指さした。
 ゾンビの群れ。から、すこし外れた電灯の下でぼやぁ~っと佇んでいるワンピース姿の女の後ろ姿。振り返ればもれなく腐っているのであろうが――白の輪郭がライトに溶けて、その存在は朧気で。
「あんな具合に」
「あれぞんびじゃし! ぞんび、……ぞんびじゃろ? 幽霊などおらぬっ……!」
 嵐吾の狐尻尾も足の間で垂れるというもの。
 どうしてそんな意地悪言うんじゃあぁと耳までぺしょんする連れへと清史郎は朗らかなまでの微笑を向ける。心して参ろうか、らんらん。
「ええい確かめるっ! 見とれよせーちゃん」
「その意気だ」
 すっかり獣のそれへ変じた爪を構えだんっと飛び出していく嵐吾を追って、清史郎もまた死者の群れへ歩み寄った。スタッフなのだろう、言葉が通じればおすすめのアトラクションなど尋ねてみたかったところだが。
 さみしいものだ。ちいさく紡げば拾ったらしき嵐吾の耳はぱたと動き、先頭の首を刈り落とした肩越しに振り返る。おすすめならわしにもあるぞ、そう言って。
「だからせーちゃん、ここに群れる者どもを片してゆっくり遊ぼ。……あっ、わしあれ、あの、パンダがゆるゆる動くやつに乗りたいんじゃ」
 嵐吾が思い浮かべるものは、背にハンドルが取り付けられた四足歩行のパンダ。成人男性だって軽々乗せて歩き回る逞しき夢の乗り物だ。スピードの方は、まぁお察しではあるのだが。
 パンダさん、となぞるように呟いた清史郎の声がそわと弾む。
「そんなものが? 俺も是非パンダさんに乗りたい。一緒に乗ろうか、らんらん」
 そのためにも――そうだな。早々に片してしまおう。
 お遊びはすこしばかりお預けだと、ふうわり。やわらかく風に揺れる清史郎の袖口より刃持つ桜花弁が零れ出せば、抜き放つ蒼桜綴の刀がそれに続き、闇を裂く一閃にて花風を吹き抜けさせた。
 一重、二重と斬撃の波が広がる。
 回避。反撃。いずれもゾンビの反応速度では間に合おうはずもない。チリリと微かな音を感じたかどうか、直後には肉体は途切ればらばらに宙を躍り。
『イィィ、ギィィいぃッ』
「うむ。お片づけにも精が出る」
 同時。 それらがまだ地にもつかぬうち、嵐吾の振るう爪の軌跡に赤き狐火が巻き起こる。
 縋る亡者の指を焼いて、ほろほろと端から零させ。焦げ付く空気をその度に、清史郎の齎す香り立つ花嵐が混ぜ返していった。

 鮮やかな炎もまたショーのひとつに映るのかもしれない。
 ゆら、ゆら、集い来るゾンビが俄かに数を増したことに、清史郎は結んだ唇の端をほんの僅か綻ばせた。ああ、分かるとも、うつくしいものな。 と。
「確と見ていくといい。ところで、パンダさんを見かけなかったか?」
『ア、ァ』
 燃ゆ花霞にすうと身を溶かしながらの問いかけだ。答えは得られぬと分かっている。大振りに手を突っ込んだゾンビは清史郎の残像だけを抱きしめ、前のめりに転がりかけたところで胸にどっと突き立つ黒き爪に支えられる。
 嵐吾だった。
 嵐吾は動かなくなった骸を直に燃やしてやると、くるりと立ち位置を入れ替え、左手側から迫り来ていた一体へ押し付ける形でプレゼントしていっしょくた蹴り飛ばした。
「係のひとに聞く。なるほどさすがせーちゃんじゃ、なんでも件のパンダは定位置なく縦横無尽に闊歩しとるものらしいしの」
「縦横無尽に……? 凄いな、ますます楽しみだ。どちらが先に見つけられるか競争しよう」
 そして先に見つけた方が操縦権を得るのだ、なんて。
 じゃんけん勝負でも嵐吾は構わないのだが、ええもちろん弱くなんてないので構わないのだが。競争というワードに躍る心はこの友といてこそで、にんまりと笑みを返す。
「言うたな?」
 狐火は勢いを増して。もっと遠くまで見えるようにと暗がりを、道を照らしてゆく。
 きっと怖い幽霊だって溶かしてしまえる。「ああ」そんな彼の笑みにどこか似てきた風な――挑戦的な色をいつしか湛えることの出来るようになったヤドリガミの青年は、共に、とまたひとつを斬り伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ロカジン(f04128)

遊園地ー、遊ぶー、あーそーぼー
賢い君、賢い君、沢山遊ぼうそうしよう。
アァ……でも何か、変なのがいるなァ……。
アレ、見たことあるある。
コレのいた牢獄にもちらほらいたいた。

ロカジン、ロカジン、アレは平気なのカ?
アイツら幽霊の仲間。
幽霊とすごーく仲良しダヨー。

一緒に遊ばないと幽霊がオシオキに来るンだ。
知ってた?知ってた?

コレはロカジンの蛇の後を追いかけよう。
ロカジン一人で見てる?賢い君といる?
一人だとオシオキされるヨ。
何にとは言わないコレの優しさ。
うんうん、優しい優しい。
コレは蛇と一緒にゾンビと追いかけっこをするする。

アァ……ゾンビ、ゾンビ、あーそーぼー。


ロカジ・ミナイ
エンジくん/f06959

やぁやぁ、実に愉快な賑わいじゃないか
僕はね、遊園地は結構好き
彼女と来るのもお友達と来るのも好き
家族とは、……そのうちね

アトラクションの前にゾンビと追いかけっこするのかい
うんうん、死体は僕の蛇の好物でさ(たぶんね)
遊ぶ前の腹ごしらえにはうってつけよ
「さぁ行っておいで、おやつの時間だよ」
生きのいいゾンビをたんとお食べ
僕はここで見てるよ
だってほら、これから遊ぶってのに
ゾンビの液とかが服に飛んできたらやだし
うんうん、エンジくんも一緒に遊んでおいで

……うん?
ゆゆゆ幽霊って言った!?
オシオキいやだ!コワイヨー!
賢い君!助けて!一人にしないで!

……ここ、ペット禁止なんて言わないよね?




 別に、バッド・トリップに襲われているわけじゃなくって。
 どちらかといえばグッドだ。ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)もエンジ・カラカ(六月・f06959)も、この状況下で"彼ら"と同じににまにま笑って揺れていられるから。もしかしてお仲間と思われているんじゃない? そんな疑問は伸ばされる赤黒い手の数々が、一応は否定してくれるものの。
「やぁやぁ、実に愉快な賑わいじゃないか」
「イイネー遊園地。遊ぶー、あーそーぼー」
 賢い君もそれでいいだろう? 襤褸の端を掴まれながらエンジが手元へも声を落とせば、そこに収まる拷問具はきんきらと――今は照明の青へ紫へ――ドレスアップして光って。エンジに寄り付く肉の塊へ鋭い鱗片を吐きつける。
 ひとりとひとつは"それ"を見たことがあった。
 牢獄の中にもちらほらといたのだ。こんな風に、ぺこぺこでふらふらでどろどろの連中。
「だからついでに遊んでやるやる。コレは賢いからなァ」
(「おやぁ。僕ったらちょいとお邪魔かなぁ」)
 鱗の刺さった"不埒者"が泡立って溶けてゆく。
 ロカジはエンジらの仲睦まじい様を窺っては、さりげなくその鱗片の恩恵に与ることの出来る一歩後ろで楽している。
 お熱いおふたりさんの逢引を邪魔したとなれば、また嫌われてしまいそうだし。誰にって――――ああ、遊園地、彼女と来るのもお友達と来るのも好きだけれど、家族と来るのもいいな。……そのうち、ね。
 僅かな思案の間にロカジのポケットから足元へ降りた白蛇は七つの鎌首をもたげ、主の一声を待っていた。赤い瞳に見つめられ片眉だけ上げてやるロカジ。やる気? 本気? ではどうぞ、なんてとぼける風に。 途端、白が膨らむ。
「それじゃ仲間に入ーれて。死体はこの子の好物でさ、遊ぶ前の腹ごしらえにはうってつけよ」
 ――たぶん。
「行っておいで、おやつの時間だよ」
 ぐわっ。
 瞬く間に大蛇にまで膨れたそれの全開の顎ときたらサイズからゾンビの比ではない、赤色の障害物を除雪車のように丸呑みにしてゆく。胴は波打つ度に残骸を磨り潰し、鮮やかなラインでテーマパーク内を一層賑やかなものへ。
『ペッ ト、は、パーキング  に゛ィッギ』
「あーすまないね、大目に見とくれよ。この通りちゃんと躾けてるから」
 どの通り? ――問えるものは二重の意味でいないのだ。
 それでも涙ぐましい責任感或いは食欲で蛇を捕獲せんと掴みかかるならば、囚われるのは己の方。後を追って走るエンジが放出する赤い糸は不可思議なうねりで風に逆らい、ゾンビらを締め殺す。ほらほら、パレードのお通りだから。
「ロカジンはー? 来ない?」
「僕ぁいいよ、ここで見てる。変な液とかついたらやだし……」
「ヘェーひとりがイイのかァ。アイツら幽霊の仲間ダヨ。幽霊とすごーく仲良しなのになァー」
「ん、  今なんて?」
 ――ゆゆゆ幽霊って言った!? ロカジ・ミナイ二十七歳、大の苦手は懐かぬ猫と殺せぬお化け。
 詳しく、とロカジが伸ばした片手は空振って、エンジはその間にもたったかとゾンビらを赤糸で編む毒沼へ引き込んでゆく。
 ああ、そうそう。そうだから。
「一人だとオシオキされるヨ。一緒に遊ばないと――オシオキに来るンだ、知ってた? 知ってた?」
「ちょっ待……幽霊に? ねぇ幽霊に? オシオキいやだコワイヨー!」
 にたぁ。
 "優しい"ので肝心な部分は口にせず意味ありげに唇に指一本立てたエンジと、そんなエンジを穴も開くほど見遣るロカジとの間。ちょうど間に、ふっ――と、黒い影が落ちてくる。

 ずちゃり。

「?」
「ひゃっ出たァ!」
 地で跳ね、潰れたそれにもライトが当たれば――。
 なんてことはない、正体はかたっぽだけの靴だ。まぁ確かに、片足分の誰かの骨肉もくっついているけれど。
 警戒心皆無で拾ったエンジが落とし物をした空を仰ぐと、そこにはたくさんのブランコが機械に繋がれ回っていた。くるくる、ぐるぐる。ぐるぐるぐる。「イイなァ」目を瞑り顔を覆ったまま固まるロカジを放置して、エンジは駆け、操作室や木々を足場としぴょんぴょん身軽にその特等席まで!
 ――ずるい。 牢獄にあっただらんとぶら下がり揺れるブランコたちより、こーんなにも楽しそうなもの独り占めして。
「乗ーせてー」
『オォォ゛ォ゛ァッ! ――ギッ』
 もがくように両腕をばたつかせるゾンビを着地ひと踏みで黙らせ蹴落とせば、入れ替わりブランコの上に立ったエンジはご機嫌にゆったり瞬く。
 ああ、見晴らしも良い。漸くひとりきりな状況に気付いたらしく、ばばばばと右往左往しているロカジもここからはよく見えて。
「エンジくぅんったら一人にしないで! せめて賢い君置いてってよ、さっきの幽霊に捕まっちゃったの!? エンジィーーーー!」
「……賢い君、どうする? 教えてやる?」
 うんうん。そうだねェ、もうちょっと眺めてようカ。
 悪戯好きな狼は月みたいに笑い、愛しの拷問具を抱き込めば一足お先に空のランデブーを楽しむことにした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ゼロ・クローフィ
【まる】

テーマパーク
普段の俺なら絶対に足を踏み入れない
何故なら何が楽しいのかわからん
そもそも女、子供が行く場所だろう

だが愉しげにしてるのが一人
楽しそうだからと連れてこられたが
煙草に火をつけ一服した後、溜息ひとつ
はいはい、そりゃ楽しみだな

ソンビか
いつもの俺なら無視するのだが
楽しい事が一番のアイツはそれではつまらないとぼやきそうだ
あ?どの口が怖いって言ってんだよ

だったらゲームでもどうだ
どれだけ消滅させれるか勝負するか?
手の平でねぇ
お前さん相手だとどちらが転がされてるかわかりゃしねぇが

煙草の灰を地面へと
灰骨僕
ゾンビに地獄のしもべは強すぎるか

負けたら…まぁそれはその時に考えるか
あぁ

ゲームを始めようか


百鳥・円
【まる】

まあまあ、そんなつまんないこと言わずに
ほーら!行きますよおにーさん!
だいじょぶですって
行けばなんとかなりますん
そのため息を笑い声に変えてあげますよっと

この世界のことは人づてにお聞きしましたが
いやはや、こわーい世界ですねえ
死者があちこち歩いてるのは震えそうです
……え?そう見えない?
そりゃそーですよ、思ってませんもの

おや、競走ですか
わたしの扱いがじょーずになってますね
今日くらいは手のひらで転がされてあげます
手加減はナシですよ

さあおにーさん、準備はオーケー?
決まりですね
じゃあ十分後にお会いしましょ!

彼らはかつての生者
でも死者は死者でしょ?
ならばもう関係はナシですん
さーて、それでは

遊びましょ。




 ゲートを背にふたつの人影が伸びる。
 夢の使者――巻き角の百鳥・円(華回帰・f10932)にはそんな呼び名も相応しかったろうか。尤も、背の翼が黒であるように、少女の好むユメが何れであるかはその甘やかな見目形によらない。
「……何がそう楽しいのか分からんな。普段も、今も。この場所は」
「あれれ? 笑ってました、わたし?」
 ゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)はくわえ煙草に火をつけながら零した。
 テーマパーク。常ならば絶対に足を踏み入れることのない場所だ。そもそも女、子どもが行って喜ぶ場所であろうと。
 男の呟きを拾い見上げる円の口元と目元は確かに緩やかな弧を描いている。楽しいから? 愉しいから。惨劇を前にも怖気付くどころか、隠すつもりもない喜びが浮かぶ。――此処ならばしばらくは退屈しそうにない。
 退屈は大嫌い。 その色違いの紫宝石と視線が絡めば、ゼロは唇から煙草を離し溜息とともに煙を吐いた。
「ゾンビの群れとやらも、籠もっているなら放っておけばいいだろう」
「まあまあ、そんなつまんないこと言わずに。ほーら! 行きますよおにーさん! だいじょぶですって、行けばなんとかなりますん。そのため息を笑い声に変えてあげますよっと」
 口を挟ませぬ饒舌さで語る円は犬が尾を振るみたいに愛嬌たっぷり黒翼を動かし、数歩先で半身振り返ってゼロのことを手招いた。女の背後、すぐ近くでわさわさ上下左右に振られる腐った手たちまで一緒になって呼んでいるかの光景!
「はいはい、そりゃ楽しみだな」
「それに、こんなにこわーい世界です。死者があちこち歩いてるなんて、わたしひとりじゃ震えて進めないかも……」
 ――どの口が。
 こうなったときの円が如何に"強い"か知っているゼロも、やはり歩み出すしかないのだった。

 そんな折、ゲームを吹っ掛けたのはゼロの側だ。
 お題はどちらがどれだけ消滅させられるか。一瞥くれる程度、さしてやる気でもなさげな隣の提案に、笑みを深めたのは円であり。わたしの扱いがじょーずになってますね?
「いいですよう、今日くらいは手のひらで転がされてあげます。手加減はナシですよ」
「手の平でねぇ。お前さん相手だとどちらが転がされてるかわかりゃしねぇが」
 とんとん。 軽くノックするとゼロの指先で短くなった煙草から落ちた灰が、いくらか風に流されながら、落ちてゆく。そして死に濡れた大地へそっと降った途端にもうひとつの姿を得る。
 さながら墓地であるように。
 灰より突き出す骸骨の手。かたりと微かな音立てて組み立てられてゆく灰骨僕は、法則を知らず留まる死者らを連れ帰るに相応しい地獄のしもべであった。
「ま、適当にやってくれ」
「もぉーおにーさんたら勝ちたくないんです? わたしに色々お願いできるチャンスじゃないですかあ」
「負けたら何をさせられるんだろうな」
 ふたりのやり取りは平行線。指先でつんつーんしてくる円に「準備はできた」とだけのゼロ。けれどもめげはしない円だ、なんだかんだと付き合ってくれるこの男のこと、"たのしい"のうちだから。
「はぁい。じゃあ十分後にお会いしましょ!」
「あぁ」

 ――遊びましょ。
 ――ゲームを始めよう。

 おまたせしました。なだらかに甘色の長髪揺らして円が群れへと振り返る。
 自然、振れる腕に従い装束の袖が蝶の如くにはためけば、前触れなく飛び立つ真空の刃。波だ。波状に広がるルベライトの殺意。
「その夢、わたしにくださいな」
 彼らはかつての生者。けれども今は、死者は死者。
 驚嘆。後悔。絶望、それともそれとも? 最期の瞬間、その奥底でどんなこころを煮詰めたの? あまい甘いお菓子をねだる子どものように、追われる側から追う側へ――瞬きの間隔でぱっぱっと数多の死肉を切り飛ばす、円。
『おた、ン、じょうび おめで……う 今日は、ゥウ 』
「ふむふむ。大切な記念日に?」
『ねえ゛ぇ゛ふうせん トんでっちゃ た゛ァ』
「それはまた、かなしいですねえ」
 ひとつひとつの残滓にも親身に耳を傾けるかの猫撫で声は、なにより己の愉悦のため。
 ふわ、ふわと。決して意気揚々と駆け抜けるでもない、しかし歩むごとに甚大な災いを振り撒く女の後ろ姿を見送ってゼロは煙草をもう一本追加することにした。
「どっちに殺されたいかくらいは選べばいいんじゃねぇか」
 最後の自由だ。
 骸骨らは獄炎燃え立つ槍を思い思いに振り回し、寄り付く一切を串刺しに処して沸き立つ。狂ったようにカタカタと骨を笑わせている。主がこうして醒めた眼で世界を眺めているというのに、これではどっちが死んでいるのだか。
 ――そこらのゾンビに問うてみようか。 お前たちにはどうみえる、と。
 足首に縋りつくボロボロの手は見下ろしているうちに燃え溶けていった。きっと、記憶にも、残らない。
「馬鹿馬鹿しいったらない」
 は、と、吐息とともにゼロは煙草にともる火を手の甲でもみ消した。舞い散る灰は新たなしもべとなるのだろう。分かりきった結末を見もせずに視線を巡らせれば、燃え屑の向こう、にこやかに手を振る円がいた。
 ――浮かない顔してますよう。負け、認めちゃいます?
 ――いつも通りで悪かったな。まだ五分だ。
 ダイ・オア・ダイ。こんな夜にぴったりのワンサイドゲームは続く。ふたりの間を隔て、ぎんぎらとファンシーキュートに回り続ける機械の馬たちは、数をかぞえてくれているだろうか? 
 動くだけの死体は、着実にその仮初の生を散らしてゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

日東寺・有頂
亮さん(f26138)と

熱烈歓迎やなかですか〜〜ヤダ〜〜〜。
亮さんアンタ。
こがん死臭パークで底抜け明るいばいね。 
おっけえ燃えてきましたん。
そん勝負乗ったろうやなか!
私は女の子に手加減無しでヤラレたいですハイ。

おうおう亮さんたら脚技ばり華麗ばいね。
オイも一発喰らいたか…言うとー場合やなかね!
こちとら悪霊に幽鬼に後なんやっけ…
とにかく力ば宿す忍者やけん亡者合戦なら負けんばい。

大声張り上げダッシュで園内走り抜け
おびき寄せたゾンビ共尻目に上空で回転する乗り物ん一つに飛び乗るばい。
超強力やけんお前らにも効くったら効くん!
高みから全方位に満遍のう神経毒手裏剣降らせたる。


天音・亮
日東寺さん(f22060)と

いるねいますね!うようよと!
ゾンビと言えばやっぱりガンアクション
ってことでひとつ勝負しない?

より多くゾンビを倒せた方が勝ち
負けたら帰りにアイス奢り!
どーする?受ける?

ふふ、そーこなくっちゃ!
女だからって手加減は無し
うん!性癖は聞いてないかな!(すこぶる笑顔)

ま、ガンアクションって言っても私の武器は
これ(武装ブーツ)だけどね
さあさゾンビさん達よそ見厳禁だよ!
蹴って蹴って蹴りまく…っと惜しいはずれ!

次々飛ぶ手裏剣にほあ~と口開け
忍者だ!生の忍者初めて見た!かっこいー!
…ってまさかの根性論!?

あっ、こらこら大事な商売道具に噛みつかないでー!
脚を掴んだゾンビをまた一蹴り




 混沌とした夜に太陽が照りつける――!
 ゲートをくぐるや否や飛び出した天音・亮(手をのばそう・f26138)。弾む足取りは纏う陽光の彩をぱらぱらと跳ね上げて、ああきっと彼女の目には在りし日のテーマパークがそのまま映っているのだという晴れやかさ。
 だが、違う。
「いるねいますね! うようよとっ!」
 亮はそのまま現在の、眼前にひしめくものたちにこそはしゃいでいた。
 数歩遅れてきょろきょろあたりを見回し続くのは日東寺・有頂(手放し・f22060)であって、踏み込むほどに増す死の気配に手団扇も捗るというもの。ひんやりとしたUDCアースの梅雨の湿気ともまた違う、纏わりつくかのこの冷気。
 ゾンビめっちゃいる。
「はーーっ熱烈歓迎やなかですか~~ヤダ~~~」
「すごいねえ、映画の世界みたいで。ザ・ヒーローのお仕事って感じだね……!」
「亮さんアンタ、こがん死臭パークで底抜け明るいばいね……」
 にこにこーっと前のめりな亮は、だって、と両手の腹を合わせた。つまりは無限ボーナスステージだよ、なんて。
 直後にはその手指を二丁拳銃っぽく立ててみせ振り向きざま有頂へ突きつける。
「ゾンビと言えばやっぱりガンアクション――ってことでひとつ勝負しない?」
「勝負?」
「より多くゾンビを倒せた方が勝ち、負けたら帰りにアイス奢り!」
 どーする? 受ける?
 亮の履いたブーツがカツンと音を立てる。 さぁさぁと祭へ誘う風に、削れる地面が微かに火花を咲かせる。
 かわいい女の子からの熱ぅいお誘いだ。瞬き一度ののちに有頂の口元には三日月のような弧が描かれる。
 返事は、もちろん。

 ボゴオォッ!

 ――女だからって手加減は無しね?
 ――私は女の子に手加減無しでヤラレたいですハイ。
 サイケデリックな光の中けたたましく響いた、それは性癖暴露した有頂が蹴り飛ばされた音ではなくて。宙を舞いながら零れる脳漿も、吹き飛ぶ歯も、全部全部ゾンビのもの。
「ふうっ! どんなもんですか!」
 飛び蹴りからの華麗な着地を決めた亮は地についた手足をバネに身体を跳ね上げると、すぐ傍らから伸ばされる抱擁を振り切ってsoleil――武装ブーツの超加速を乗せた回転に周囲を巻き込む。
 駆ける疾風。
 まるで竜巻のようだ。
 そもそも恐れ知らずと亮がひと跳びに飛び入ったのがゾンビたちの群れのど真ん中だったものだから、弾け、削り飛ばされる死肉の数も夥しい数となる。
「おぉぉ嬉しないシャワーシーンッッ!」
 もろに浴びるかたちとなった有頂はまた違った絶叫マシンに興ずるようでもあり。だがしかしガン見していただけの意味はあった、亮の足技の鮮烈さをこの距離で拝めたとなれば釣りがくる。
 一発喰らいたい。
 もうすこし近くに寄れば或いは事故っぽく――、なんて、ついつい口から零れる願望もあるがしかし有頂は出来る男であった。
 金の光彩をチリリと夜闇に走らせ。
「女の子ばっかし見とる思うたら大間違いや」
 ジャケットを翻して軽快なステップでゾンビタックルを躱す。ギリギリまで引き付けておいたのさ、という感じのオーラを帯びるよゆうの顔を見せつけ――直後には真逆の側へ全力ダッシュで駆け出した。
「うおおおおおああああああ!!」
「ええっ日東寺さぁん!」
 待ってほしい。理由があるのだ。
 こちとら悪霊、幽鬼、あと何だったかとにかく埒外の力を宿す化身忍者。このトンデモ亡者合戦を勝ち抜く一本の道筋が、有頂の双眸には確かに見えている。こうやって……、
『オオオオァァッ』
 まずはゾンビらを引き付ける。
 腕のアーチをスライディングで掻い潜って、
『おきゃ……さ、ま、 エンナイでのきのぼり り、はッギャッ』
 小うるさいスタッフをナイフ目潰しで黙らせる。
 そうして高くより高くへと飛び移り、掴み取るは空中回転ブランコのこども席の端っこだ。「さぁてオイの時間よ」懐から取り出す忍者手裏剣がギラリと光れば。 あとは、投げるだけ。
 神経毒を塗りたくられた凶器が眼下へ向けて乱れ撃たれる!
 腐った死体に毒は効くのか? ――超強力やけん効くったら効くん、とは有頂の弁。
 ともかく高さはそのまま力となる。どっと刺されば弾みでよろめくゾンビは互いを押し合い、縺れ、倒れ、密集した所為で中々抜け出せずうごうごと地を這いまわる。
「――忍者だ! 生の忍者初めて見た! かっこいー!」
「亮さんに喜んでもらえんなら男有頂、生まれて良かったちゅうもんですわ」
 途端崩れるにへら笑いにまた大袈裟、と破顔する亮も相変わらずの健闘ぶり。
 狙いが外れることもあったけれど、常に機敏に、そして活発に動き続ける娘を捉えられるほどのゾンビはそうそういない。蹴られながらもたまに靴裏を掴めたとしても――。
「あっ、こらこら大事な商売道具に噛みつかないでー!」
 ――二度蹴り。
 靴と手との間で圧縮された大気は砲撃の如し。べきぼきに折れる指は二度とものを掴めぬ裏返り方をして、本体も直にそれに続くのであった。
「やぁっぱ良かなあ……」
「なんか言った? ごめん、ちょっと遠いやっ」
 すこぶる笑顔の亮と首を振る有頂と。それからゾンビ。躍って、躍って躍らせて。
 なお強毒にさらされた死体はそのうちしゅわしゅわ溶けていったので、有頂のカウント負け――なんて事態が発覚するのはもうすこし後のお話。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

渦雷・ユキテル
フォーリーさん(f02471)と
リアリティすごーい
まあリアルゾンビですもんね!

自分もそんなには
お仕事で来るほうが多いかもしれません
ご褒美のアトラクション、ちゃんと動いてもらわなきゃ

大人も子供も賑やかで大変結構!
楽しい気持ちのまま送ってあげますよ
キャンディ振ってにっこり笑って【おびき寄せ】
欲しいのは飴かあたしか分からないけど
近くまで来たら手品紛いの【だまし討ち】
びっくりしました?
くるり回した手に拳銃握り、近距離から確実にバイバイ
数が増えてきたら電撃の【範囲攻撃】も

沢山いた方が楽しいでしょ?
フォーリーさんも何かサプライズしたげましょうよ
あらま。それじゃ戦闘テクで驚かせてくださいね!

※アドリブ歓迎


フォーリー・セビキウス
ユキテル(f16385)と
何処の世界でもテーマパークはそう変わらんな。
行ったことは余りないんだが。
お前ある?
意外だな。好きそうだと思っていたよ。
まあ、並ばずに済んで結構じゃないか。

おい、態々集めてどうする…。
というかお菓子で釣られないだr釣られてんじゃないよゾンビが!世界観ぶち壊しだろうが!
そこに並べ。あの世への片道切符をくれてやる。
いや、既に死んでいたな。なら墓場へ帰してやろう。
双剣と弓を使い分け、徒手空拳や蹴り技投げ技を組み合わせ連続攻撃を決め、スタイリッシュに敵を屠る

それは得意な奴に任せるよ。
ご来場ありがとうございますお客様?
そろそろ閉園だ。お帰りの際は気を付けるがいい!

※アドリブ歓迎




 テーマパーク。
 何処の世界でもそう変わらぬであろう楽しさを煮詰めた夢のような地に、変わってしまったものたちの影がゆらめく。
「リアリティすごーい。まあリアルゾンビですもんね!」
「はしゃぎどころかそれ? まあ、並ばずに済んで結構じゃないか」
 渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)のテンションにフォーリー・セビキウス(過日に哭く・f02471)は早くも一歩遅れ気味であった。
 意外にも、プライベートでユキテルがこの手の施設を訪れた経験は少ないという。
 "ご褒美"のアトラクションを見上げては期待を注ぐ瞳はキラキラと、それはもう毒々しく瞬く照明より強く輝くというものだ。
 ――……お菓子なんか食べちゃって。
(「……もっと怖がるとかないんだな」)
「ほふぁ? 食べます?」
「いや。見かけによらず逞しい胃袋だと感心していただけだ」
 今ユキテルの口の中にあるものと同じもの、ポップな包装紙に彩られたロリポップがくいくいと縦に揺らされるのを、フォーリーは手の甲で押しのけた。目の前には悍ましき死者が迫っているというのに、まったく。
 えーもう開けちゃいましたーと頬を膨らますユキテル。
 けれども、だったら。その手をすっとゾンビらの方へ翳し大きく振れば、にっこり笑顔とともに実に明るい声を上げるのだ。
 ――大人も子供も賑やかで大変結構! 楽しい気持ちのまま送ってあげたいから。
「皆さん食べません? おいしいですよ、チェリー、あたしのイチオシです」
「おい、態々集めてどうする……というかお菓子で釣られないだ、 」
 ろ……と、フォーリーがちらと目線を遣ればそこにはぞろぞろーってな具合で頭を垂れ群れを成してやってくるゾンビの姿があった。
 俺が俺がと掴みあっている混沌具合。
「――釣られてんじゃないよゾンビが! 世界観ぶち壊しだろうがッ!」
「あははっ、フォーリーさんより話が分かるみたいですねー」
 そーれそれ、腕を振り回すユキテルがきゃっきゃとダッシュすれば追う群れはフォーリーの横を素通りしていった。何故なのか。謎の悔しさがある。
 チキリと大弓のグリップに指を食い込ませ。
「……いいだろう」
 フォーリーが番えるは、剣身だけが削り出されたかの"矢"。
「そこに並べ。あの世への片道切符をくれてやる」
 いや、既に死んでいたな。なら墓場へ帰してやろう――告げ、放つ。飛び立った一矢は最後尾で揺れるゾンビの腐って薄くなった背から胸を貫いて、更に前の個体をも縫い留める。
 チッ、チリッ。風を裂いて第二第三の刃を送り出すと同時にフォーリー自身の身も嵐の如くに地を蹴っていた。駆ける、いいや、転移? 残像をも残す瞬間の踏み込み。
「此方も忙しい。優しくは、してやれんが」
 そうして再び実像を得た先で、とっ、と首を刈るのだ。
 剃刀めいた鋭利さで振るわれた脚だった。衝撃音こそ静かな部類だというのに、横一文字の裂け目は一拍遅れて口を開き、筋肉を断たれ天を仰ぐ首、首、そしてその顔面へ靴跡刻んで群れの只中へ飛び込むフォーリー。 手には双剣が照明を受けてしっとりと光っていた。
 白鴻連鎖。ユーベルコードまでに昇華した殺しの術は、肉眼で捉えることすら難しい。
 呼びつけたゾンビが次々に減らされてゆく様をユキテルは一瞥し「こわぁい」と他人事。目の前にまでやってきた、お菓子配布列の一番先頭は、自分と同じかすこし幼いかくらいの少女だ。 少女、だったもの。
 いまや解れてはいるけれど、髪型から足元まで愛らしくおめかしして。だいすきな彼との念願のデートの日だったのかもしれないなと、ちょっとだけ過った。引っ掻きの途中を掴み取り、ネイルの割れたつめたいその手を握る。
「しあわせになりたいだけなのに。生きるだけでも、楽じゃないですよね。……じゃあ、これはラッキーなあなたに」
 逃がさぬため。
 逆の手にしたCry&92――甘くはない金属の飴玉を、違わずプレゼントするため。

 タンッ。

「バイバイ」
 でも、食べきれないのは本当だから。
 仰向けに倒れ込み半壊した口元へロリポップをひとつ押し込んでやって、一呼吸分だけ。置いたのちユキテルは顔を上げた。警備員でもないのに銃声に反応して駆け来るゾンビの多いこと。
「好かれたものだな」
 そんな死肉を斬り捨てながら飛来したフォーリーの剣が、すぐ真横へ突き刺さる。
 とはいえさして動じることもなく、よいしょと杖代わり引っこ抜いた剣に電流を這わせるユキテルだ。ぱち、ぱちとこびりつく肉の焼ける音。焦げてしまえば人間もそれ以外も大差ないのに、なぁ。
「沢山いた方が楽しいでしょ? フォーリーさんも何かサプライズしたげましょうよ」
「それは得意な奴に任せるよ」
 ちょっとしたやり取りの合間にも齎す破壊は容赦なく。
 ユキテルが投げ返した剣は走る死体へぶっ刺さるなり落雷じみた衝撃を伝わせた。視覚にも捉えられるほどのスパークが周囲数体をも怯ませて、鈍らせる。 格好の獲物だ。
「私はこっちでいい」
 悲しませ、奪う側と見えて構わぬと――フォーリーは駆けつつ魔力で新たに構成したデッドコピーの二振りを構え。
 ご来場ありがとうございますお客様?
「そろそろ閉園だ。お帰りの際は気を付けるがいい!」
 ザ、  ッザザ。
 左右へ斬り開かれた刃がそれぞれの側に立つゾンビへ最後を知らせる。彼らの上半分が、次に下半分が倒れてしまえば、後にはすこしの土煙が立つのみであった。
 ――ナイスお仕事。天職では?
 ――……ハッ、どうだか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
黒江さん/f04949

遊園地なら予習済みです。足場やトラップに、何。壊したらダメなんですか?
コーヒーカップも?そう…アレ不適切じゃないですか?
仕方ないので使うのは紙だけにしてあげます。

ゾンビに生前の記憶や習慣が残っているのなら、イベントのアナウンスをするのはどうでしょうか。
任意の場所へ、効果的に集められます。
壊れてもさして問題なさそうのはフードコートあたりかな。
で、場所的に整合性が取れるのはショーですね。まあウソなんですけど。
そこで黒江さんと合流する手筈になっています。

なっていますが、おひとり様向けの量ではない。
【冬幸守】。トドメは刺せなくても隙は作れます。
できれば自分で殺したいでしょうから。


黒江・イサカ
夕立/f14904と

不適切遊具だけど、ほら、ひとの苦しむ顔が見たいって層は一定数いるからね
彼らの健気な楽しみも守ってやらないとさ

それにしてもゾンビかあ
可哀想になあ
折角死んだのに、こんな風に引き止められて
それとも僕のこと待っててくれたのかな

ゆうちゃんがフードコートに集めてくれるらしいから、
僕は最初から其処に待機してようかな どっかのカウンター裏にでも
…ショーだって あは、面白いこと言うなあ
じゃあ、ある程度集まってから始めようね
満を持して僕が登場すれば、嗚呼、ほら、 死線が綺麗じゃないか

こんにちは、僕は君たちの味方だよ
君たちを殺してあげるために来たのさ
【救世】してあげよう
ショーの開幕ってやつさ




 ――遊園地なら予習済みです。
 あのコースター。レール上の一点に弾けるやつでも仕掛けましょうか。下りの、最も角度の厳しい箇所が好ましい。
 紙風船型式を弾ませる矢来・夕立(影・f14904)はそうやって万全の備えをしてきたというのに。何? あっちもそっちも壊したらダメだって?
「アレなんかむしろヤっといた方が世のためでは。不適切じゃないですか? コーヒーカップ」
「うーん。だけど、ほら、ひとの苦しむ顔が見たいって層は一定数いるからね。彼らの健気な楽しみも守ってやらないとさ」
 黒江・イサカ(雑踏・f04949)も心なしか眉をへにゃっとする。
 甘酸っぱい思い出――もとい、胃酸がせり上がってきそうなのでふたりは考えることをやめた。同時に賑やかしい拷問具から目を離せば、比べて随分と愛らしいよちよち歩きでやってくるゾンビたちを視界に招く。
「……投入したら一瞬でバターになりそうですね」
「見たいの? ゆうちゃん」
「いえ」
 すこしもときめかない。ので、夕立は踵を返して放送機器が生きているらしき迷子センターへ赴くことにした。ゾンビに生前の記憶や習慣が残るというのならば、適当にイベント開催の案内でも流してやれば釣られるものもいるのではないか。
 ところは此処、フードコート。 現時刻より。
「ショーの内容、なんにしましょうか」
「ん? ふふ、おまかせ」
 肩を竦めてそれきり影に溶け消える夕立。
 ひとりになったイサカはすこしだけ名残の闇を見つめたのち、亡者の群れと自らとを遮る鉄製のシャッターにギリギリまで歩み寄った。皆が餓えている。輝きのない眼を間近に覗いてまわり、端っこまで辿り着けばまた逆の端へ。
「……ショーだって あは、面白いこと言うなあ」
 がしゃ、
「じゃあ、ある程度集まってから始めようね」
 がしゃん。
 ゾンビらの手で絶え間なく鉄柵が揺らされている。
 もう何十人かがやって来たなら、柵は重みで曲がってしまうだろう。そうして雪崩れ込んでくる筈だ。この、舞台へ。
『ウ、ァ、アーアアァ……』
「すこし退屈かい。ナイフ回しでも見る? 限定公開・本番直前リハーサル、なんだか良い響きだろう?」
 埃を払えばカウンターの上に腰を下ろす。イサカがにこやかに語り掛けてもゾンビどもはただ、濁った眼をして手足を動かすばかり。――それにしても、可哀想になあ。イサカはおもった。
 折角死んだのに、こんな風に引き止められて。
「それとも僕のこと待っててくれたのかな」
 ぱちん。 十指の間に挟んだ折り畳みナイフたちが同調する。
 そうそうそうに決まっている。だから、はやく――――、みちびきを。

 一方、夕立は目的地に居座っていた邪魔者をボコしてマイクを手にしたところであった。
 既に放送は垂れ流し状態。騒がれては面倒な手前、苦無一手で喉を裂けたことは日頃の鍛錬の賜物といえようか、ともあれ静かに息を吸って。
「よいこのみなさん。そのおとうさん、おかあさん。当園人気マスコットのくろくんのダンスショーがフードコートにて開催中! 転ばないように、なかよくお越しください」
(「……こんなところでしょう。まあウソなんですけど」)
 声を張るのも疲れるな、と喉をさする夕立。こんな施設のスタッフだなんて、ともすれば暗殺業よりも厄介そうだ――。
 駆ける戻り道で目にするアトラクションは、どうにもこうにも回転モノが多い、し。
 テントの屋根や木々を飛ぶように進んで見下ろす眼下には、行先を同じにした小規模な群れができている。アナウンスに惹かれたゾンビだ。私服姿が多い。狙い通り、反応したものには来園客が多いのだろう。
 そうして、約束の会場。
 最後尾の死体が到着した途端、崩れる柵と入れ替わりに人影が立つ。
『くろ、 くん?』
「こんにちは、そうだよ。僕は君たちの味方。君たちを殺してあげるために来たのさ」
 たくさん集まってくれてありがとう――、 出迎えはナイフの雨。
 ショーの開幕、救世を伝えるはカウンターから舞い降りたイサカそのひとであった。イサカには救うべき彼らの数だけの死線が見えている。綺麗だ、と、賛美したのと同じ口で、殺そう、と紡ぐ。
「夕立は頭が良いねえ。放送のセンスも」
「はあ」
 惑うゾンビらの後方を押し上げるように紙細工の――冬幸守の、無彩の羽音が宙に舞う。使い手たる少年は、いつしか其処に佇んでいた。
 腕を頭を振って、ときに掴んだ紙を口へ運んでわざわざ内から切り裂かれることを選ぶゾンビの悲哀。喰らいついてその動きを阻害しようと、蝙蝠は致命傷こそ与えない。
 できれば彼が彼の手で殺したいだろうから。
「いいの?」
 てのひらに収まるほどの刃の光がちらちら乱れ飛び、紙と紙との合間を綺麗に縫ってまたいくつかのトドメを刺した。
 彼、ことイサカの声と救いの音が頬のあたりを撫でて滑り落ち、夕立は新たな式を折り上げながら、そうやって手元を見つめながら「どうぞ」とだけ促した。
 もとよりそのつもりで来た。
「今日はとことん付き合いますよ。遊園地ってそういうものでしょう」
「日曜日のお父さんたちみたいな台詞」
 大人みたいだなあ。
 喜色その他の混じる瞬きに星が散り、その分だけナイフは滑りよく、ショーのスピードを上げてゆく。「みたい、みたいって」夕立は作りかけのコーヒーカップを千切ってしまえば紙吹雪として振り撒いた。きっと百人分の観客の拍手にも匹敵する、色鮮やかな手向けだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

壊れためりごらんど、きいきい鳴るこひかぷ
遊園地は好きだけれど
物悲しく死に溢れて
ここは丸ごとお化け屋敷のよう
こ、怖くないんだから!
からかう様な視線に尾鰭を震わせて
やっぱり少し怖いので櫻宵の腕を掴んで身を寄せる
柔い春の香りに心が和む
一緒なら平気

ゾンビ達がきた!
僕の櫻を食べさせるわけにはいかないんだよ
櫻、なるべく壊さないように気をつけて

はじまりだ!
櫻宵を守るように水泡のオーラを風船飛ばすように纏わせて
歌う、軽やかに蕩かすように『魅惑の歌』を
人魚が歌って桜舞うパレードだ!
美しく咲いて散るゾンビ達
薄紅の中舞う龍の、美しきこと
ほらもっと咲かせてご覧
鼓舞の歌声響かせて
龍を彩る

ほらここだけ
春が来たよう


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

私、こういう雰囲気も好きよ
ノスタルジックというのかしら!退廃的で美しくて、わくわくするわね?
舌足らずな人魚さん?
絡む腕に隣の熱
震える尾鰭をちょんとつついて怖いの?なんて問いかける
強がりな様もかあいいわねぇ

あら、せっかくいいとこだったのに
無粋なお邪魔ものがやってきたわ
嫌ね、醜いわ
もっと美しいゾンビはいないのかしら。
破魔宿らせた刀でなぎ払い、生命力奪う呪殺の桜を吹雪かせ雨降らせ

ゾンビ達を蹂躙するわ
軽やかな人魚の
衝撃波放ち傷口重ね抉って…ほら神罰よ
私の邪魔をするから
うふふ!美しく咲かせてあげる
「喰華」
龍瞳瞬きゾンビ達を桜に変えて食らってやるわ
綺麗に咲いたわ
踊るように斬って殺して咲かせてあげる




 死の嵐を乗り越えたアトラクションたち。
 それでもすべてが在りし日のままとはいかない。メリーゴーラウンドの馬は数頭が倒れているし、コーヒーカップは中の飲み物の多くがトマト。
 それらとすれ違う度に、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)はすこし振り返ってしまう。遊園地は好きだけれど――此処はまるごとお化け屋敷のよう。物悲しく、死に溢れて。
「リール? 怖いの?」
「! わっ」
 突如、両頬をむにゅっと挟まれびっくりしたリルが隣へ視線を戻せば誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)が覗いていた。眼差しは優しくも、細められどこか楽しそう。……これはからかっている目!
「こ、怖くないんだから!」
「あら本当? 私もよ、こういう雰囲気は好き。退廃的で美しくて、わくわくするわね?」
 ノスタルジックというのかしら!
 尾びれが震えてる、なんて追い打ちをかけられる前に否定したリルを深追いすることなく、櫻宵はくつくつ喉を鳴らす。強がったようでいて、手を離せばうろっと心許なげに視線を彷徨わせるリルが愛らしい。
 次に起こることを予言してあげてもよかった。
「怖くはないけれど……、広いもん。櫻が迷子になったら大変だと思ったんだ」
「まぁ。さすが私の人魚様」
 腕を掴んで身を寄せてくるに違いない、と。はたしてその通りに指が伸ばされれば微笑ましくて、櫻宵の角の桜花もぽぽぽと増える。
 自然と増す花の香は、リルにとって春のようで――。
「行くよ」
(「一緒なら、平気」)
 心が和む。上手く吐き出せない胸のつっかえは、やわく溶かされてゆく。

 だからへっちゃらだ。
 無粋な邪魔者ゾンビの波が押しかけてきて、「せっかくいいとこだったのに」刀を抜くためふれあう櫻宵の腕が解けても。
「僕の櫻を食べさせるわけにはいかないんだよ」
 リルもまた隣で、強く、戦うことを選ぶ。
 ――はじまりだ! 人魚が歌って桜舞う、極上のパレードを。
 萎んでしまったバルーンの代わりにふうわりと浮くもの。照明に照らされて七色の水泡は、大切な桜花をケダモノの爪牙から守るため。
「櫻、なるべく壊さないように気をつけて」
「ん、そうね。……なるべく。でないとあなたと遊べないもの」
 たなびく袖を風に流し、紅き屠桜の刃が閃く。泡に弾かれる腕を初めから見越していた櫻宵の斬り込みはゆえに速く、それによって崩れるであろう体勢の隙まで織り込み済み。
 反ったゾンビの胴をばっさりと横へ断ち、吹雪かせる桜は血とともに雨のよう。
「醜くって嫌になるわね。でも心配いらないわ。私が、美しく咲かせてあげる」
 ふふ。と、うるわしき微笑を口許に。
 それでいて、瞳に湛えるは貪婪なる龍の殺意。喰華。"囚われた"ものはたとえ死者であろうと花開く。うつくしくおそろしい、桜獄のうち。
 さあああああ、
 呻き声の合間に静かな音を奏で、龍眼に睨まれしゾンビらが指先から桜花へと解けてゆく光景をリルは見つめていた。
 ひしめく死体が減るほどに、彼らの足元に転がっていたものが見えてくる。華やかな舞台衣装。楽器に、旗。ズタズタに裂けて、土に汚れた。
「……そうか」
 そうっと唇を開けば、喉を震わせそこに歌声を乗せるリル。シレーナ・ベルカント――パレードを、より酔って蕩けて身も心もとろとろ忘れてしまえるものへとするために。
 ほら、もっと咲かせてご覧。
 それは魅了だ。
 それは鼓舞だ。
 どんな断末魔よりも深く沁み込む愛おしき声に、櫻宵の桜も尚更に開花の勢いを増す。
 おそれるものなく、大振りに暴れまわる刀は心地好く澄んだ歌の出処を探すみたいに動きの鈍った個体から順に削ぎ落としてゆく。大も小もない。櫻宵は特別に上背があるわけではないが、なによりその一挙ごとに荒れる風こそが既に生命枯れた彼らをバラバラに舞わせるのだ。
「最期にリルの歌声が聴けるなんて。幸せ者よ、あなたたち」
 曰く、神罰――と。

「君たちも此処で、舞台を盛り上げてきたんだろう。……今までお疲れ様」
 見世物とは観客あってこそ。
 無人のテーマパークで過去を演じ続ける必要は、もう、ないのだ。
 リルの静かな呟きは、歌声は、桜嵐とひとつに溶けあってゾンビたちを眠りの淵へと追い込んでゆく。
 ひととき、其処には確かに春が来ていた。
 淡紅に包まれ躍り続けた龍の刃が、やがてすべてを斬り伏せるまで。
 太刀から滴る液ですっかり赤黒く汚れた筈だったけれど、櫻宵が開いた手のうちにはさらりとひと山のはなびらだけが残っている。それが、おしまいに落ちてゆく。
「綺麗に咲いたわね」
「うん」
 綺麗だったよ、と傍らへ泳ぎ着いたリルは労うように櫻宵の手を取った。
 見渡す限りには死体はない。腐臭も、痛みも、涙もない、陽だまりのような残り香がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロキ・バロックヒート
夕辺ちゃん(f00514)と

遊園地とゾンビってちょっと微笑ましいよね
ゾンビがおばけかって?
え?もしかして夕ちゃんおばけダメだったの?
言ってる傍からすごい悲鳴
なんだかんだで俺様の後ろに隠れるの可愛いよね
あはは夕ちゃんこっちこっち
広いところ行こうよ
施設壊れちゃったら後で遊べないもん
まぁいっぱい集まって来るだろーけど
夕ちゃんが頑張ってくれるよね

俺様最近こういうの出てくるゲームやってたんだよね
銃は持ってないけどこの辺に斧とか…あったあった
斧とか使ったことないし追い払う程度にぶんぶん振る
わー夕ちゃんすごーい!ないすしょっと
管狐ちゃんえらーい
頭をやればだいたいのゾンビは大丈夫かもよ
ほらほら他のもよろしくね


佐々・夕辺
ロキ【f25190】と

「ねえ、ロキ
生ける死者……その、ゾンビって……
おばけ、なのかしら
……いえ、別に駄目って事はないわよ?
全然別に平…きゃあああああああ!!!!
ぞんびー!」

「いやあああ!!!やだやだやだ、おばけいやー!!ロキー!!」

思わず私は彼の後ろに隠れながら
可愛いと言われて反論する事も忘れて
一緒に広い処へ
けれど集まってくるじゃない!いっぱいいるじゃない!

「ひえ……く、く、く、」

管狐ー!!!

管狐行軍をめちゃくちゃに乱射
其のうちの一体に見事にヘッドショットが決まり

……あら? 倒せ…た?
頭をやればいいの!? いいのね!?
もうやけくそよ!手当たり次第撃ち抜いてやるわ!




『アアアアアアアア!!』
「きゃああああああああ!!!!」
 ――夜のテーマパークに乙女の絶叫が響き渡る。
 追うは動く死体。お化け屋敷ならいざ知れず、此処は通りであった。数分前に遡るならば、追われる側、佐々・夕辺(凍梅・f00514)はロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)との会話の中でこう言ったのだ。
 お化け? 怖くない。
 ゾンビがお化けだとしても余裕。別にダメってことはない、と。
「いやあああ!!! やだやだやだ、おばけいやー!! ロキー!!」
 そして数分後の彼女がこう、だ。
 背へ逃げ込む夕辺が肩を引っ張る力があまりに必死なので、ロキの身体はくるんと回転してしまう。ちょうどゾンビらと正対する形だ。浮かぶ笑みを隠すことなく逃亡劇を眺めていたロキは「いやぁ」と、品定めする風に顎に手を遣った。
「いっぱいだ。遊園地とゾンビってちょっと微笑ましいよね」
「うっ、う~~ッ……」
 ふるふる唸る夕辺はそれどころではない模様。だからロキはふはっと息吐いて、その手首をいつかの逆に掴んであげる。なんだかんだで俺様の後ろに隠れるなんて可愛いね? 囁くように告げ、外れかけの通行止めの板を蹴り飛ばせば横道へ。
「こっち」
「どっちよぉ……もう終わりよぉ」
 片手で目を覆う夕辺は反論も出来ず導かれるまま。揺れる声に肩を揺らすのはロキで、背後で何かが何かに躓く音を聞きながら両脇に積まれた箱たちをたったと追い越し、開けた場へと逃げ果せる。
 やっぱりちゃんと走れるじゃない――引く手の確かさにいくらか落ち着き、夕辺が文句のひとつ口にしたくなったとき。

 ばあ。

 とでも言いたげに、逆光で見え辛かったが其処にいた――メリーゴーラウンドを見つめていたゾンビどもの集団がぐるんと振り返った。
「っっっっむしろ集まってるじゃない! いっぱいいるじゃない!」
「あれだね、子どもの写真撮影でもしてあげてたのかなー。でもほら、此処ならずっと戦いやすい。でしょ?」
 亡者の汚れた爪がくっきり見える。ロキの金の瞳が間近に笑う。
 やってくれるよね、夕ちゃん? ――――。
『オオオァ、アア!』
「ひえ……く、く、く、 」

 管狐ー!!!

 力いっぱい叫べば、夕辺の髪を服をめくり上げ数多の狐型精霊が飛び立つ。それは吹雪のように、白き氷の華を伴ってゾンビに体当たりをかますと次々に冷凍してゆく。
 狙いも何もないめちゃくちゃな"乱射"であったが、数は力だ。ぼこぼこに貫かれ、足を地面に凍り付かせて暴れる一体に綺麗なヘッドショットが決まる。
 と、糸の切れた人形のようにかくんと頽れた――他のものと違い、もう藻掻きはしない。
「……あら? 倒せ……、た?」
「わー夕ちゃんすごーい! ないすしょっと、管狐ちゃんもえらーい。あの倒れ方ゲームで見たな」
「ゲーム?」
 最近こういうの出てくるやつやってたんだよね、俺様。などとごそごそロキが袖から腕を出せば、そこには黒光りする(ご丁寧に血糊までこびりついた)斧、が握られていた。
 使ったことこそないが、銃なんかよりうんと単純だ。振って、当たれば、相手は死ぬ。
 よいせ。 軽い掛け声でぶん回し、手近な一体の腕を叩き落とすロキ。一連の出来事に夕辺は「!?」と固まっていて。
「ッなんでそんなお菓子感覚で物騒なものが出てくるのよ!?」
「えー? ダメ?」
「ダメ、とかじゃなくて……ってロキ後ろっ」
 口元に指差しにとあわあわと身振り手振りも騒々しく夕辺がロキの名を叫ぶ。そうだ、おしゃべりの合間にも彼の後ろにダッシュで死体が迫っているのだ!
 翻す片手で急角度を制御して直ちに管狐らを向かわせんとする夕辺であったが、しかし乾いた音の方が先に響く。
 ――――。
「わぁお、結構速い子もいるんだね」
 ロキが"偶然"振った斧だ。相手方のダッシュの勢いが全乗せとなった接触は面白いほどすとんと首を刎ね落として、ぽんぽん弾む頭が鞠よろしく夕辺の足元まで。
「……、……」
「うん、やっぱり頭をやればだいたいのゾンビは大丈夫かもよ。ほらほら他のもよろしくね」
 先ほどと同様、確かに死体が起き上がる様子はない。
 嫌な汗だけ無駄にかいた夕辺とその精霊はべしょ……と耳尾を垂らしていた。が、攻略法が確かになったということは。
 そう、頭を。それでいいのね?
「来なさいよどこからでも! 手当たり次第撃ち抜いてやるわ!」
「やだなー、折角の遊園地なんだし夕ちゃん笑顔笑顔ー」
 フルバースト。
 この後に資源回収メカやらアトラクションが控えているなど知ったことか! 此処が地獄の終点とばかりすべての管狐を一斉放出する夕辺を余所に、しれっとベンチに腰掛け休む、両手の人差し指でにっこりと自らの口角を持ち上げるロキがいたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴島・類
ライラックさん(f01246)と

遊園地と言うものを前に体験した時は
それは大層驚いて、感動したもので

ええ
日常から離れ別世界ではしゃぐ夜の一幕を
惨劇にしたら、演目違いですからねえ

案内の中のどれで遊ぶかそわそわは胸に
熱烈大歓迎!な死者達の笑みを見て…
ええ、ライラックさん
亡者と踊るにしても、楽しげに参りましょうか

柔らかな薄紫の花弁に紛れ踏み込み
氷で止まった相手には薙ぎ払い
逃れ施設を破壊しそうな子には
糸で絡め、引き寄せ止め
破魔乗せた刃で送り

血塗れの歓待、悲鳴を送る曲にするより
賑やかな夢の夜のまま

舞いながら花いろの彼の瞳に向け
振り返って、片目をつむる
お客様や舞台作家でもなく
今夜は、あなた色との共演ですね


ライラック・エアルオウルズ
類さん(f13398)と

初めて踏む地に眺め見る
催しめく、ゾンビの大行進
何処か胸踊る景ではあるが、
舞台壊すのは頂けないねえ

好奇の侭と往くのを、抑え
パンフレットは紛れて拾い、
魔導書の間に挟み込んで
先の楽しみを叶える為にも
ひと仕事始めようか、類さん

魔導書の頁を花弁として
彼が紛れられるようにと
広範囲の敵へ一気に放ち
施設向かうのは見逃さず、
花弁に《属性攻撃:氷》乗せ
身を凍らせて、場に留め

花弁で華やかに飾る場に、
糸繰る劇や舞の混ざる様は
宛ら、素敵な舞台のようで

此処に観客が居ない事も、
観客となれない事も惜しいな
これこそ胸踊る景だろうに

然れど、共演となれば悪くない
瞑る片目に笑い返して、
一層と花弁舞わせようか




 癖のついた白髪をひょこひょこ揺らし、あたりをきょろきょろ。
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)と冴島・類(公孫樹・f13398)。
 並び歩くふたりの姿は、時が時ならば久々の休日に仲良くやって来たご家族にも見えたかもしれない。――その実、同年代といえるのだが。
「……でですね、凄かったんですよ。どこまでも遠くまで見えるし、なにより風が心地好い!」
「それはいい、貴方がそうも紡ぐのならきっと格別だ。ああ、近くに見るとうんと大きいね」
 それはもう大層驚いて感動したものだ、と。以前に体験した遊園地の話を楽しげに聴かせてくれる類にライラックはしきりに相槌を打つ。
 行き当たった先には観覧車。
 道中、拾っておいたよれよれパンフレットを今一度広げれば横合いからひょっと類も覗く。見やすいように持ち直してあげるライラック。「観覧車です」「観覧車だね」頷き合って、それじゃああっちは……そっちは……、答え合わせが始まったなら、いっそ好奇のままに乗り込んでしまいたくもなるけれど。
 ライラックはぎゅむと目を瞑るとぺら紙を魔導書の一番前へ挟み込んだ。眼鏡を摘まんでちゃっ、とすれば、ちいさく笑う類の手に短刀がきらめく光が見えた。
「わくわくが増しちゃいました?」
「とっても。だから――早速だがひと仕事始めようか、類さん」
「ええ、ライラックさん。亡者と踊るにしても、楽しげに参りましょうか」

 言葉を交わし、付かず離れずずっとついてきていた足音を振り返るふたり。そこにはもちろんゾンビたち。びっこを引いて腕だけ元気にばたばたばた、アーだかウーだかサービス精神旺盛で。
 背負うカラフルライトも相俟って、大行進はまるでひとつの催しだ。
「……どこか心躍る景ではあるが、うん、やはり舞台を壊すのはいただけないねえ」
「日常から離れ別世界ではしゃぐ夜の一幕を惨劇にしたら、演目違いですからねえ」
 指も触れぬのに捲れる魔導書の頁。ライラックの手の中にいつも物語はあって、淡いこころの欠片たちが弾んで高鳴るように沸き立つ花は鎮魂のリラ。
 貴方の道にと用意されたカーペットは、そこらの赤よりもずっと綺麗で価値がある。
 ふ、と、感謝込めた会釈残して類はその渦中へと身を溶け込ませる。そう、これらのはなびらは目くらましの役目を担って。同時に、広く帯のように広がればゾンビらへは張り裂ける痛みを齎す。
『アァ、があァ!』
『カダんの みずを、 を、トウバんを』
 苦しみ、嘆き、ぶおんと振り回された腕がその瞬間に宙へ飛ぶ。
 春色景色にぽつんと銀杏が舞っていた。類はそのまま脇を斬り抜けるとゾンビの背に飛び出し、両手に持ち替えた枯れ尾花の刃を囁きが届くほど深くまで刺し入れた。
「心配しないで休んでいい。もう枯れてる。……でも、きっとまた咲きますよ」
 人間は、強いから。
 声に呼応したかの如くリラのはなびらの帯びる気が急速に冷える。つめたく、つめたく。操作室へ逃げ込まんとしていた――或いは、ただいつかのいつもを繰り返さんとしていた――スタッフを、ドアノブを掴んだ状態でかちこち凍り付かせて。
『ヒ、ィ』
「彼の言う通りさ。 いけないよ」
 子どもを寝かしつけるかの穏やかな声色だった。
 吹き散る淡紫はライラックの眸が世界のすべてを見通していると錯覚させる。そして、実現させる。空想の中ではすべてが叶うように、込められた氷の力が思うままに通せんぼ。
「助かります」
「いいや、こちらこそ。素敵な舞台を見せてもらって」
 そこを類のひと振りが起こす風の刃が砕いてゆく。凍った身は脆い、鏡にも夢にも似ている、十指に結わえられ挙動にあわせて巡る絡繰糸が幕を下ろすようにも引かれれば、風に煽られる凧よろしくゾンビどもの歩みは乱れた。
 糸を、刃を通して破魔のまじないが伝う。朽ちるべきを、朽ちさせる。
 血塗れの歓待、悲鳴を送る曲にするより――どうか賑やかな夢の夜のまま。
「いやいやいや、こちらこそ。……ってこれ終わらないやつですね?」
「ふふ、違いない」
 信を置いて任せあうふたりの前に、意思なき手も歯もかなしいほど非力だ。彼らにはこのひとときも、幸せを奪い取る地獄の延長に過ぎぬのだろう。一歩引いて眺むライラックはそっと書の背を抱え直す。
(「これこそ胸踊る景だろうに」)
 惜しい。
 此処に観客がいないことも。観客となれぬことも、同じだけ惜しい。
 綴っておきたい。今すぐ、ペンに持ち替えて瞳を閉じて。けれども振り返る類が片目をつむってみせるのだ。さあご一緒に、どうか咲ってと願うみたいに。
「お客様や舞台作家でもなく、今夜は、あなた色との共演ですね」
「僕色との……、 」
 ゆえにライラックも微笑み返した。数度瞬いたのち、やわく花色綻ばせ。
 ああ――共演となれば悪くない。 どこまででも盛り立てよう。一層にとはなびら舞わす手は、傍らへとやさしく引かれているような心地が、した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ネネさん(f01321)と

……哀しいものですね
未だにテーマパークを楽しんでいるのでしょうか
自身がゾンビ化したことに気付いていないのかしら

ですが、このままにはしておけません
しっかり骸の海に還してあげましょう

終わったら私達もテーマパークを楽しんじゃいましょうね

ネネさんに害が及ばぬよう私が前に出ますね
愛槍ノクティスを構え、いざ
疾く駆けて薙ぎ払い進みます
施設を壊さないためには吹き飛ばさないように注意しつつ……、
……はっ。アッパーカットで空に飛ばせばいいでしょうか
という訳である程度纏まった敵は槍で薙ぎつつ、
あとは各個撃破で空に向かって拳で打ち上げていきますね!

囲まれた時はネネさんの支援に期待しましょう!


藍崎・ネネ
織愛ちゃん(f01585)と

ゾンビさん達、遊んでいるの?
楽しいのかも、しれないけど、でも可哀想なの

うん。ちゃんと眠らせてあげるの
織愛ちゃんと一緒に、がんばるのよ

一緒に遊べるの、楽しみなの
怪我しちゃわないように気を付けるの

織愛ちゃんが前に出てくれるから、私はしっかりサポートするのよ
ユグルの黒い鎖を展開して、範囲攻撃していくの
織愛ちゃんが攻撃し易いように足止めをしたり、討ち漏らしソンビに死角から急所を狙ったりするの

わぁ、すごいの。ゾンビがお空を飛んでいるの
でも、頭だけ飛んでいっちゃったのはびっくりしちゃうのよ
織愛ちゃんが大変にならないように、しっかりサポートしていくのよ
まかせてね、織愛ちゃん




 オオオォ、オオオオオ、――――亡者どもが呻いてさざなみのように手を揺らす。
 海月か花か。走る風にふうわり膨らむ白織絹のお洋服は、こんな悲惨な遊園地にあって異質なほど無垢で可憐。
 家族となかよくお出掛けにやってきて、かわいそうにおそろしい魔物にぺろりと食べられてしまう――きっと、藍崎・ネネ(音々・f01321)を題材にしたならそんな絵本も書けたことだろう。
 ところが少女も、そしてその前を往くもういくらかお姉さんな三咲・織愛(綾綴・f01585)も、隙間なきゾンビアーチをくぐり抜けてなお傷のひとつもない。
「――よし。もう抜けます。大丈夫ですか、ネネさん?」
「うん。織愛ちゃん、すごいの。かっこいいの」
 姫を守る騎士の如き獅子奮迅の突進。
 織愛が、その手に握りし星煌を宿す得物――今は槍へと姿を変じた藍竜ノクティスを闇を塗り潰すように揮うから、進むほどズタズタに裂かれてゆくのはむしろゾンビの側であったのだ。
 剥がれた途端に遅れて殴りつける風圧が更に遠くに死体を押し退ける。ゆえに細かに砕ける肉片すらふたりへは触れられず。ただ、高速の乗り物の窓から見える雨垂れみたいに彼らが視界の端を過ぎてゆくのを、すこしさみしい気持ちでネネは見送っていた。
「いろんなひとがいたのね」
 ぽつり。ネネの零した声に織愛はひとたび目を伏せる。
 尋ねた大丈夫は二重の意味だ。あどけない、柔く幼いこの子が、凄惨な光景にいたまなければ良いのだけれど。
「ええ。きっと、素敵な一日を過ごされていたのでしょう」
 それ以上言葉を探す代わりに、織愛はそっとネネの肩を抱いていつでも守ることのできる距離、自らの傍らへと招いてあげた。
 群れを退けたふたりの前にはマスコットキャラクターがモデルとなった子ども向けコースターの乗り場。身長制限を示すパネルはネネよりもすこし小さい。
 コースターは動いていて、ちょうど一周して此処へ戻ってきたところだった。ゆらり、ぞろり、降りてくるゾンビたちは大も小もまばら。
「ゾンビさん達、遊んでいるの? 楽しいのかも、しれないけど、でも可哀想なの」
「……哀しいものですね。ゾンビ化したことに気付いていないのかしら」
 顔を上げた彼らは少女ふたりにゆっくりと向き直る。濁りきった、ものによっては零れた目が機能しているかは分からない。ただ、生者を。同じところへ引き込みたいと唯一残った本能のまま歩むのだ。
 このままにしてはおけない。
「しっかり骸の海に還してあげましょう。終わったら私達もテーマパークを楽しんじゃいましょうね」
 前に出る織愛が肩越しに微笑めば、ネネもこくりと頷いた。「ちゃんと眠らせてあげるの」こころが呼び起こしたかの如く、ネネの身体を囲いながら宙にはぞるりとダイヤの黒鎖が浮かび出る。
 一緒に遊べるなんて、楽しみ。 だからこそ。
「怪我しちゃわないように……私も守るのよ。まかせてね、織愛ちゃん」
 そうして鎖は意思持つヘビのようにうねってゾンビへと襲い掛かった。
 牙を食い込ませる代わり足と足を手と手を縛り上げて、麻痺毒を与えるよりも即効性の高い戒めを施してゆくのだ。振り払わんと掴んでもその腕へしゅるしゅる巻き付くまで、ユグルは願い通りに蠢く。 妹のような彼女にこうして健気な頑張りをみせてもらったなら、応えぬ織愛ではないわけで。ありがとう、そう口にしたときにはもう地を蹴っている。
 ゾンビの背にはアトラクション。ならば先のように突き飛ばすわけにはいかないと選んだ一手は"こう"だった。
「――ふ、――はぁッ!」
 うんと深く身を沈めてからのアッパーカット。
 ゴガッ、 と、骨の奥まで震わすナックルダスターがその右手に煌めいた。
 悶えて伸ばされる腕へ逆側の拳を打ち付けガードもカウンターも許さずに、傾き始める上体へ流星めいた二連撃。顎骨の砕ける音。怪力に裏打ちされたパンチは絵面以上の破壊を呼び起こし、千切るみたいに強引にゾンビの頭を吹き飛ばした。上空へ。

 ぽぉー……ん。
 とっ、とっ、枯れた芝生がありもしない紅葉の色へ彩られる。

「さぁ! 来なさい、私は逃げも隠れもしませんよ!」
「わぁ、すごいの。ゾンビがお空を飛んでいるの」
 後方で支えるネネはといえばふわふわ無邪気なものだった。上向いて下向いて、また上向いて。
 固く握った掌からときに光を溢れさせながら、切り込んだ勢いのまま拳を揮い続ける織愛が次々にゾンビを打ち上げてゆくので。しばらく頭だけで空飛んで傍らに落ちてきたものなんかは、きっとアトラクションよりもスリリングな体験が出来たことだろう。
(「もういたくなさそう。良かった」)
 ちょこんと屈んでその死に顔を覗いたネネはちいさく息を吐いて――、織愛の背に回り込んだ子どもを忍ばせた黒鎖で縊る。
 その死を契機として空から降る鎖たちが、内へ囲い守るかの風に織愛を中心とした円環を描きながら、討ち漏らしをも余さず屠っていった。
「織愛ちゃん」
「おかげで助かりましたよ。元気だって残しておかないとですもんね」
 振り向いた織愛は、とてとて寄ってくるネネに目線の高さを合わせ笑いかければ。
 一番目に乗ってみたいアトラクションはありました?
 見回るついでにじっくり探していきましょうか、と。すこし悪戯っぽく唇に指を添えるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
屍体の割には活きの良い
ジジ、恐怖で震えてはおらぬか?
…ふふん、冗談だ
そう真面目に言葉を返すでないわ

はて、砕けぬか否かはお前の働き次第よ
背合わせの従者へ、戯け交りに言葉の応酬
高速詠唱の魔方陣より召喚するは
【女王の臣僕】たる蝶の群れ
折角の歓待であるならば
我々も派手に迎えようではないか

多かろうと足止めさえしてしまえば
其処に在るのは愚鈍な屍のみ
恐るるに足りん…おっと
間近の空を貫く短剣を軽く避け
矢継ぎ早に抜いたそれを
傍に居る敵に対する反撃の一撃に使用
やれ、手癖と足癖の悪さは一体誰に似たか
さも当然と彼奴の手にある我が得物に歎息一つ

さて、宴の終焉は寂しいものだが
いい加減幕引きとせねばな


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
感心な働き者ぶり…と言いたいところだが
礼儀はなっておらぬようだな

倒せるものなれば恐るるに足らぬ
それに、あれらでは師父の体を砕けまい
壁は選ばず背を合わせ
…存分に

剣と短剣
両の手に構えたそれらから【まつろわぬ黒】
遊具は壊さぬよう、屍人らの肉だけを穿つ

師へと接近してきたものには短剣を投げ放ち
こちらの眼前に迫るものは――蹴り飛ばせばよいか
別の屍人の方へと突っ込ませ動きを阻害
しつこい者は回る杯やら駆ける台車へと投げ込んで
…速いな、なんだあれは
後ろ手に師の腰、仕込杖から剣を失敬
ふむ、良い切れ味だ

うむ
…遊びも仕事も仕舞いの時間だ
もはや給金も出ぬ、帰って眠るがいい
悼む代わりにさらに黒を一閃




 迫る顎を掌底が跳ね上げる。
 もとよりガタの来ていたそれはべごんと音を立てて外れ、飛び出した舌が涎を散らして踊り狂う。様に、繰り出した側のジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は眉を顰めた。
「感心な働き者ぶり……と言いたいところだが。礼儀はなっておらぬようだな」
「屍体の割には活きの良い。ジジ、恐怖で震えてはおらぬか?」
 一撃はアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)を守ったものだ。当のアルバは悠々と、素早い反応を見せた弟子に何故だか自分こそが得意げに笑みを向けてみせる。
 そう見えるならそうかもしれんな、の返しは固い。常ながら固い。黒の長剣と短剣、二本を逆手にすらりと抜いて回すジャハルは"敵"だけを見ていて。
「……ふふん、冗談だ。そう真面目に言葉を返すでないわ」
「御身が欠けるか否かの瀬戸際なれば真面目にもなる。……尤も、あれらでは師父の体を砕けまいが」
「はて、砕けぬか否かはお前の働き次第よ」
 戯け交りに言葉の応酬。彼、だからこそアルバは表向きとぼけていられる。
 表向きとは読んで字の如し。自然と背中合わせのかたちとなるジャハルに背を任せ、ちいさく口遊む詠唱はゾンビウェーブ本体が押し寄せるよりも速く周囲に魔法陣を描き出した。
 まるでバリアのようでもある。だが、その実態は破壊。
「折角の歓待であるならば、我々も派手に迎えようではないか」
 王に仇なす敵を凍えつかせて屠る僕の一、ヴィルジナルの魔術。 仄青き鱗粉を散らし数多の蝶が飛び立った。示し合わせたでもなく、時を同じくしてジャハルの黒き剣からは同色の影が揺れる。
「……存分に」
 そうして、薙ぐ。
 まつろわぬ黒。クロスした両の手から左右下方へ滑らせた剣は軌跡に従って真っ直ぐに駆け抜ける波動めいた刃を放ち、選んで、死肉だけを呑んでゆく。
 未だ扱いこそ難しいが、ここで制御を誤りなどしない。ジャハルは全集中を傾けていた。――この地に微かにでも息衝く希望を壊すことなど。
(「ふん。恐怖でなくとも、お前のそれは緊張かもしれんぞ」)
 一丁前に。と、アルバは輪をかけて口数少ななジャハルを想う。守るものの重さを知ることができる。それは立派な成長であろうとも。
 蝶らにはゾンビの足元を重点的に攻めさせていた。氷結は、手っ取り早く贈られる死だ。そも動きの軋むばかりであった死体は妙な音を立てながら――さながら壊れかけのロボットみたいに――足首だけを地に残しダイブし始める。
『ア アイスハウス は、このさき』
『ェ、ベ……』
 転がってしまったならまだまだ人間のつもりで手をつくだろう。その手が次の瞬間に足首と同じにもげる。そして腹ばいに悶えれば、くっつく皮膚が剥げてゆく。
 腐った身から零れて止まぬ液が事態を悪化させていた。やがては隣り合う互い同士で凍り付いて、団子のようになって。
「犬猫の方がまだ芸が出来ような。恐るるに足りん……おっと、 」
 同僚の死骸が積もるほど、それを踏み台に、倒れ込みながら手を伸ばすものもいた。指が届くか届かないか――否、届かせるはずもない短剣の投擲。
 ジャハルだ。
 先読みしていたかの僅かな首の傾きで後方からのそれを躱したアルバは、綺麗に目元に突き刺さってしまい倒れゆくゾンビから剣を引き抜けば矢継ぎ早に他方へも奔らせる。

 黒き刃風の端と端とが背中合わせに手を結ぶから、あたり一帯へ吹き荒ぶようであった。
 巻かれた死体が細かに削れ飛んでゆく。
 死角が無いとはこのことだろう。 短剣を手放し、空いた自らの左手に迫ってきていたものへは強烈な蹴りを見舞ってやったジャハルは、掴みかかる一体の髪を逆に握りしめ力任せ引き倒す。
「遊び足りんか。そうか」
 これは見る限りお出掛けコーデ。
 スタッフではない。そうと見るや、丁度良く回ってきていたファンシーなお花柄のコーヒーカップに投げ入れてやる。ガゴッとそれだけで脳挫傷待ったなしの音が鳴りはしたが、ジャハルが瞬くのはそこではない。
(「――、速い、なんだあれは」)
 カップの回転速度だ。
 カップの回転速度を気にしていた。柔くなっていたとはいえ入れてやったばかりのゾンビがミキサーにかけられたかの状態でどぅるりと流れ出るので無理もない。操作室といったか、後で何かしらの調整をせねば……しかし少したのしそ、
「どうしたジジ。件の電気泥棒でも見つけたか?」
「ああ、いや、……いや、何でもない。早く片さねばな」
 言って、戻す腕の寄り道程度の滑らかさで拝借するはアルバが腰元に携える星追いの仕込み杖。よく手入れされた刃は断面までうつくしく腐肉を割り、そうして尚も輝く。
 ――良い切れ味だ。
 先の自分が落としたものにも似ている、相手の力を指して得意げな響きにアルバは歎息ひとつ。まったくいつの間に抜いたのだ。
 やれ、手癖と足癖の悪さは一体誰に似たか。
「まあ、いい。働きに免じて許す。――さて。宴の終焉は寂しいものだが、いい加減幕引きとせねばな」
「うむ。……遊びも仕事も仕舞いの時間だ。もはや給金も出ぬ、帰って眠るがいい」
 一度だけ目配せしたふたり。残るよたよた歩きのすべてへ、蝶が、刃が注がれる。
 悼む代わり。ここへ至るまでひとつの加減もなかった。僅かでも早く、その先にある本物の目覚めへ辿り着けるよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルル・ミール
ひゃっ(大歓迎に、びん!と立つ犬耳と蛇尻尾

ままま負けませんよ負けませんからね…!
ちょっとビックリしただけですもん!

想像できないくらい大変な毎日の中で見つけた遊園地
その眩しさはきっと、私が想像する以上の筈
何とかランド最後の日と、ここを目指してる人達の為
ゲームと違って本物ゾンビが相手ですけど
勇気を胸にいざ!
向かってくるゾンビ達だけを
風の全力魔法で包むように押し止め、UC

銃勇士の皆さん、GOGO、GOです!
攻撃するのはゾンビだけですよ
ラッパ銃はできるだけボディに密着させて使ってくださいね!

新手ゾンビの警戒も忘れずに
こういう時後ろから、はお約束ですからね
現われたら、同じように風の全力魔法で捕まえます!


ケルスティン・フレデリクション
ゆうえんち!
ちょっと、たのしみにしてたけど…なんだかおもってるものと、ちがう…?え…?ぼろぼろ…

わ、ゾンビだ…!
【ひかりのねむり】でおやすみさせて、短刀【いのり】で各個撃破していくね
ぼろぼろだけど、皆があそぶとこだもん。大事にしなきゃ!

ゾンビのみんなも、あそびたかったんだよね…。ごめんね。
でも、みんなをまもるためだから…
ゆうえんちの、スタッフのゾンビのみんなも、ずーっと、おつかれさまなの。
ゆっくり、おやすみなさい。




「ひゃっ」
 遊園地といえば。
 もっとこう――可愛くて。賑やかで。キラキラで。笑顔に溢れているものと、思っていたのだが。
 手厚い"歓迎"にルル・ミール(賢者の卵・f06050)の犬耳蛇尻尾がびぃんと立って戦慄く後ろでは、ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)がそんな疑問に首を傾げていた。
「ぼろぼろ……ね? ひとも、ほかも」
「ままま負けませんよ負けませんからね……! ちょっとビックリしただけですもん!」
 こんなところで獣本来の機敏さを発揮ししゅたっとバックステップを踏むルルは、そうしてケルスティンの存在に気付く。色素の薄いはかなげな彼女がほわんと真横に佇む様に一瞬心臓が止まりかけたが、なんてことはない。軽傷だ。
「……迷子さん?」
「ううん。猟兵なのよ」
 一方のケルスティンは仄かに笑めば両手の指を組む。その指と指の隙間から零れ出すように、青の――勿忘草のはなびらが舞い上がった。
 ひかりのねむり。幼くも立派なユーベルコード使いである少女は、ゾンビへと先制の祈りを送り届ける。
 青に包まれたものたちはどうだろう、それまでの凶暴さが嘘だった風に大人しくこうべを垂れ始めた。服従、いいや、眠っている。 死者が本来あるべき姿へと誘われている。
「これは。――では、私も」
 この戦いは何とかランド最後の日と、ここを目指している人たちため。
 想像も出来ぬほど大変な日々の中、それでも沈まぬ眩しい願いを結ばせてあげたい。その一心でルルは虹帯びるビューグルを吹き鳴らした。

 始めに魔法の風が吹く。それはゾンビを押し返し。
 リバイブ・マスケティアーズ。 やがて駆けつける希望の足音。
 どこからか姿を見せた魔法の馬車から次々に飛び出してくるリスたち。格式高き銃士のお洋服、手にはレイピア、ラッパ銃、そして心に主とよく似た勇気を燃やして、いざ!
「銃勇士の皆さん、GOGO、GOです!」
「――わぁ、かわいい!」
 ケルスティンの歓声になんだかもじっとするリスたち。
 で、あったが、直後にはじゃこっと果敢にラッパ銃を構えてみせる。隊列の右から左へと波のように構えが伝わりゆけば、発射もまた右から順に。
 施設を傷付けたくはない。なるべく接射をと願ったルルの心通り、すぐそこまで迫ったゾンビの土手っ腹へと一斉に弾が撃ち込まれる。幸いにして、半ば眠る彼らは的にして最適で。
 銃口から飛び出すは――どんぐり!?
 大丈夫、ときどきおやつが混ざり込んでいるだけ。それに加速のついたものが当たればなんでも痛いのだ、証明するかの如くにびしっばしっと打ち据えられる脆い死体は欠けてゆく。
『オオオ、アァ!』
「わ、 」
「むっ」
 脇道の仕切りを乗り越えてやってきたゾンビがどちゃりとふたりの眼前に落ちる。
 おどろおどろしく這い来る様にひええと声が零れかけるも――自分がしっかりしなくては! ルルはすぐに自分よりも幼い少女を庇うため腕を横へ。
「ぉ――お姉さんにお任せをっ! えいえい!」
 一度は口にしてみたかった台詞に内心ドキドキなルルであった。
 せっせと弾込めに勤しむ銃勇士の腰からレイピアを抜き取れば、前へと構える。
「おねえさん……」
 つんつく立ち向かうルルの姿に瞬いたケルスティンは、くすっと笑みを弾けさせ、その隣にちょこんと並んだ。だいじょうぶ。いっしょに、と。
 ルーンを宿した短刀の名は"いのり"。
 光の球を連れ添って、それはゾンビの肉に沈む。ルルが腕を払ってくれていたおかげもあり難なく胸へ届かせることが出来たひと突きは、動きを止めさせるに十分で。
 柵を倒してでも雪崩れ込まんとする一群へ蜜色の眸がきっと瞬いた。
「ぼろぼろだけど、皆があそぶとこだもん。大事にしなきゃ!」
 そうして駆け出してゆくケルスティン。
 愛したものをその手で壊させぬため。
「ちっちゃいのに頑張り屋さんですね……!」
「えへへ。おねえさんも早くあそびたいもんね、私がんばるの」
 ――ゾンビの皆も、もっともっと遊びたかったはず。来園客だけではない、スタッフだってもっと皆に笑ってほしくて。
 ごめんね。ずーっとおつかれさま。 ゆっくり、おやすみなさい。
 ケルスティンが刀を振る合間に今一度彼らへの祈りを乗せた花嵐が吹く。
 やわらかな青色はルルの頬をもくすぐってゆく。ここまで凛と戦ってきたけれど、届けたい想いは同じだ。――皆さんの紡いできたすべて、今を生きる者として大切に、なくさずに、楽しませてもらいます。
 眠りに落ちるゾンビたち。花薫る風の中に淡い碧の光がふつふつ広がったかと思えば、そんな彼らは血溜まりに倒れ伏す前にやわらかく抱き留められて。
「――――」
 ルルが手を振って号令を出す。
 重なり合う最後の銃声が、閉園時刻を報せる時計塔のようにぽぉんと響き渡った。

「いっぱいありがとう。ねぇ、もうひとついーい?」
「はいっ? なんでしょう?」
「ゆうえんちって、どうやってあそべばいい……かな?」
 ケルスティンにとっては本の中でしか見たことがなかった遊園地。
 お任せあれ! の一声は今度こそ力強く。
 ペンとノート、ときに望遠鏡をも持ち出して、ルルが世界中のキラキラ大好きものしりお姉さんを発揮するのはここからが本番だった、とか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花剣・耀子
神楽耶ちゃん/f15297と

かつての動きをなぞっているなら
あたしたちも“お客様”になれば効率よく行き会えるかしら。
こちらこそ、どうぞ宜しくね。

奥の方の施設からゆきましょうか。
元から暗いし、スタッフだって多そうだもの。
……自分で歩いて回るタイプなのね。ふうん。……ははあ、廃病院。
神楽耶ちゃんもパンフレット見る?

もしかしてお化けの類は苦手――、あっ、そういう感じでゆくのね……?
きゃあきゃあ言うとスタッフさんにモテるのかしら。

……、そうね。
此処に残っているのは、もうどうしようもない残滓だけだもの。
悼んでも届きはしないのでしょうけれど、閉園のお手伝いなら出来るわ。
死体だけを狙って、斬り果たしましょう。


穂結・神楽耶
耀子様/f12822と

スタッフがそのままゾンビと化しているということは、
アトラクション内にも潜んでいるということ。
ひとつひとつ確認してみないことには安全とは言い難いですし…
お付き合いよろしくお願いしますね、耀子様。

あ、パンフレット見せてください!
廃病院、なるほど…
それでこんなに部屋数が多、
きゃー! 出たー!
いえ、別に怖い訳ではなくて。お約束というか?
そうそう、スタッフ様方も脅かしがいを持ってくれるかなって。

しかし…
ここまでたくさんスタッフがいたということは、
それだけ多くを楽しませようとした施設だったんですね。
こうなってしまったのは痛ましい限りですが。
せめて迅速に、丸ごと平らげてしまいましょう。




 カチ。
 カチカチ、数度の繰り返しの果てにうすぼんやり灯るライト。
 懐中電灯の控えめな光量は予めそうと設定されたから。――此処は"二度と生きては出られない"廃病院であった。入口で血文字っぽいのがそう言ってた。
 そんな、パラダイス状態の屋外に比べしんと闇に沈んだ通路をふたりの娘が肩を寄せ合うようにして進んでいる。
「静か、ですね」
 穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)。
「そうね」
 花剣・耀子(Tempest・f12822)。
 壁際に垂れるチューブから点々と何かが落ちる音がやたら大きく聞こえるくらい。
 ――いいや? もうひとつ。ふたりの耳は、進行方向から微かに届く呻きと息遣いを確かに捉えていた。
 目配せ。
(「"当たり"でしたね。耀子様」)
(「良かった。きっと此処に入りたがる現地の子、いるもの」)
 死者たちがかつてをなぞっているならば、此方も"お客様"になれば――アトラクションを巡れば討ち漏らしが減るのではないかとの算段だった。
 耀子はおもむろに手にしたパンフレットを開く。「それにしても、広いわ」ややわざとらしくとも良いのだ、声を張る方がゾンビたちに気付いてもらいやすい。
「神楽耶ちゃんもパンフレット見る?」
「あ、見せてください! へぇー此処って廃病院でしたか、ふーむ、出られないなんて……怖いですねぇ」
 ――良いのだ。
 横から懐中電灯で照らしてやりながらうんうん唸る神楽耶。
 道理でこんなに部屋数が多いんだなぁ、と紙面から顔を上げたなら。二つほど先の扉がギィィィ――、音を立てて開いた。  濡れた、目が。真っ赤な人が。こちらをみている。
「きゃー! 出たー!」
「? もしかしてお化けの類は苦手――、 」
 即座に機械剣のスターターハンドルを引き、気遣わし気に前へと庇い出ようとした耀子より一拍早く薙がれた太刀が"出た"を"なかった"にするのが直後。
 苦手?
「いえ、別に怖い訳ではなくて。お約束というか?」
「あっ、そういう感じでゆくのね……?」
 振り上げた拳の下ろしどころが分からないとはよく言うが、若干それに似ていた。回転鋸が虚しく喚く。が、元気を出してほしい。
 此処は巣窟。 濃くなった死の香に惹かれたか、先の一体を皮切りにぞろぞろやってくるゾンビが見えた。いくつもの扉が同時に開かれて、硝子が隔てた手術室の向こうではヘドバンする医師。ああ、頭までもげて。
『きゅう、カン、  です』
『おチュウシャ……の、じ、じじじ』
 きゃあきゃあ言うとスタッフさんにモテるのかしら?
 ぜひご一緒に、と視線で語る神楽耶に、ちょっと真似して頑張ってみる耀子なのであった。きゃー。いやー。

 剣と、刀。 ふたつが閃けばたちまち、そんなサービス精神旺盛な彼ら彼女らも花の如くに散らされて。
 お次は曲がり角の向こう、からがらがらがらと院内では許されぬレベルに飛ばした音が近付いてくる。
 あれはストレッチャー! 押すは血だらけゾンビナース!
「うわぁー来ないでー!」
 神楽耶がそれっぽく我が身を庇う具合で腕を振るうと――ザンッ! 刃伴う太刀風は走り、そこに寝かされたマネキンごと真っ二つな台車が崩れ落ちる。
 無論ナースもだ。四肢を断たれ腹ばいに這いずる死体を、どっとひと突きトドメを刺す神楽耶の横顔を耀子はなんともいえぬ顔で見ていた。
「行動と叫びがつくづく一致していない……まぁ気にする人も残っていないようだし」
 いいわ、と、同じように白刃が舞う。
 滑らせた刃の軌跡に沿って、斬りたいものだけ斬り果たす。花剣の嵐は吹きつける場所を選ばない。
 肉片がぱっと咲いて飛び散れば、突き当り――ひととき静けさの戻った通路を進むふたりの前にはご丁寧に血で濡れた院長室の文字。
「神楽耶ちゃん。他に病院とお化けといえば?」
「うーん……マッドなドクター、でしょうか?」
 伊達にB級モノを見ていない。 その答えをまってました、と。
 内から蹴破られる扉。 チェーンソーの、駆動音。
 すかさず身を捻った耀子のクサナギがかち合って、暗闇に弾ける火花。刹那の力比べを優に制しそれを弾き上げる耀子。なにせあちらは木と鉄材でできたただの玩具だ、しかし――耀子という使い手が手にしてしまえば、立派な戦いの道具と化す。流れるような打ち下ろしで相手のチェーンソーを握る手首から零させた耀子は、逆にそれを掴み取りギャリギャリと奔らせて。
『ゥ、オ あんせい ニ……』
「こうやって使うのよ。お医者様」
 言うが早いか袈裟に斬ってのけたのだ。
 生じた白刃は壁を傷つけず空気に溶けてゆく。ズレて落ちる腐肉を横目に、神楽耶は「おお」と演技ではない感嘆の声を漏らした。チェーンソーの電源を切った耀子は、壁に一筋焼き付いた摩擦の跡をそっと撫でる。
「ごめんなさいね、剣なら負けるものかって。ちょっと焦がしちゃった」
「いいえ、お見事です。耀子様となら、同じ病院があとみっつよっつあっても攻略できそうですよ」
「それは……、それで、嫌かしら」
 ふふ。 冗談を交わして笑いあう神楽耶と耀子は同学年のともだちのよう。
 いつかは同じように、ドキドキに満ちたこの通路で仲を深めたものもいたのだろう。
 斬っても斬っても次の来る、これだけ多くのスタッフがいるということ自体、それだけ多くを楽しませようと夢を掲げた施設だったということ。痛ましい限りであるが――。
「この調子でせめて迅速に、丸ごと平らげてしまいましょう」
「……、そうね。此処に残っているのは、もうどうしようもない残滓だけ。引き続き閉園のお手伝いに励みましょう」
 固き意志の映り込んだ得物を握り直し、ふたりは往く。
 なお、屋上に巣食っていたゾンビカラスが一番厄介だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

こうやって見ると酷えな
そうなんだ?生きた心地しなさそうだ

……おー。任せろ
親友の頼みを断るほどの甲斐性なしじゃねえぜ
背中は任せろ
ここを取り戻して、子供らにちょっとでも楽しい思いさせてやらねえとな

吠えて叫んで煩わしい
私の力は確かに死人の呪詛だが、体が残ってる奴は別なんだよ
寄ってくる端から氷の属性攻撃で氷漬けだ
私にも匡にも近寄るんじゃあない
もう終わった連中は、生者の邪魔をせんように寝ててくれ

テーマパークかあ
子供の頃に来られたら、楽しかったりしたのかなあ
今も結構、こういう賑やかなとこは好きだぜ
えー!こういうのって誰でも乗れるんじゃないのかよー!
冗談か……最近よく言う気がするぞ、匡……


鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


俺の育ったところも、こういう廃れた感じだったよ
まあ、文明も人間も一応生きてたけど

守りたい、なんて言ってもやっぱり怖いんだ
上手くいかなかったらとか、考えちまう
――まだ、弱いままだ

でも、もう自分に嘘はつきたくないんだ
だから、助けてくれ
俺がいつも通りでいられるように

近づかれる前に粗方を殺し尽くすつもりで挑む
狙いは正確に
まず足を削いで、それから頭を砕く
氷に足を取られたり、バランスを崩していて
一射で頭を抜けそうならそうするよ

彷徨い歩くのもいい加減疲れたろ
道案内はしてやるから、もう眠りな

……うん、なんなら帰りに寄っていくか?
いや、ニルの重さだと乗ったら壊れちまうかな
なんて、冗談だよ




 ひでえな、 そう零したのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)。
 ようこそとにこやかにやってきたスタッフの腕が絞り上げた途端に取れてしまう、そんな場所だ。しかもバランスを崩した転倒で勝手に死んでゆく。ぷらんと残された腕だけに眉を顰める男の隣で、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は拳銃をいじくっていた。カコンと音立て替えのマガジンがはまる。
「俺の育ったところも、こういう廃れた感じだったよ。まあ、文明も人間も一応生きてたけど」
「生きた心地しなさそうだ」
 撃ち尽くした軽いひとつはポケットへ。
 そこからおもむろに腕を持ち上げると、ゾンビたちの――それぞれの人生の名残が感じられるその顔の高さに照準を合わせながら辿る匡は。
 俺さ。  ぽつりと切り出した。
「守りたい、なんて言ってもやっぱり怖いんだ。上手くいかなかったらとか、考えちまう」
 ――まだ、弱いままだ。
 ひとつひとつ、探す言葉よりも口達者な銃声が単調に響いてゆく。
 的に開ける穴は微かもブレはしない。そこには感情など無いようでいて。
「でも、もう自分に嘘はつきたくないんだ」
 だから、助けてくれ。
「俺がいつも通りでいられるように」
「……おー。任せろ。親友の頼みを断るほどの甲斐性なしじゃねえぜ」
 フチを焦げ付かせる熱みたいに、燻ぶる煙みたいに、確かな何かがある。ただ隣で匡の仕事を見守り、言葉の終わりを待っていたニルズヘッグはばしりとその背を叩いた。"こっち"は任せておけと言いたげに。
「ん」
 痛ぇよとぼやきながらも、自らも知らぬうち僅かに和らぐ匡の眼差し。
 そんなふたりを――これからも紡げる日々を羨むか、足と頭とを撃ち抜かれた死体を踏み越えやってくるまた別の死体。よくもまぁぞろぞろと、お誘いあわせのうえで。
「さ、まずはここを取り戻して。子供らにちょっとでも楽しい思いさせてやらねえとな」
『アァゥ、ウウウウア!』
『いヤ まだ、カエらな……わ』
 腕を伸ばすゾンビ。貴様らには同意を求めていないんだがと竜の眸が窘める。
 ――吠えて叫んで煩わしい。
「もう必要ないだろう。その肉体、邪魔になってしまっているだけだ」
 ニルズヘッグの力もまた確かに死人の呪詛ではあったが、故にというか歪なかたちで留まり続ける彼らを許してはおけない。
 死者には死者の行くべき場所がある。そして――。
 近寄るんじゃあない。私にも、匡にも。 ぴしゃり告げた双眸の険が増せば、男の纏う空気だけが瞬時に冷え込んだかの様相で足元に霜が生えた。
 それはたちまちにゾンビどもの足元までざああああと白く伝い、触れると同時に凸凹と結晶を生やしながら――死した肉体を取り込みながら、聳える氷柱と化す。
 人の数だけ。誂えられた棺にも似ている。
「生者の邪魔をせんように寝ててくれ」
 腕のひと振りが指揮であるようだった。ニルズヘッグの爪が端を掴んで夜の帳が横へと引かれれば、なぞるに従い、片端から割れて散って崩れる氷棺。
 中にこそ囚われなかったが、その厳しい余波で半身を削り取られたものがよた、よたとびっこをひいて尚歩み来る。あぁ、ううぅ、痛苦に喘いでは。
 そうだな、と匡は零した。それはニルズヘッグの見送りの言葉へだったか、死者の弱弱しい呻きへだったか。
 彼らはなによりも"心"が死んでいる。あてどなく彷徨い歩くのは、いい加減疲れたろう。
「道案内はしてやるから、もう眠りな」
 引き金を指で押し込むという、それだけ。
 それだけで闇夜に溶け込み刈り取る様は、死神の振るう鎌の如く。派手な音も光も無い。だが、慈悲がある。捉えられたものは、弾着の熱によって漸く悟るのだ。そうか、これで終わるのだ、と。

 衝撃に揺さぶられる頭を支える両足に力は失せ、儘、後方へ倒れ込んでゆくゾンビを匡は瞬きの間だけ見つめ――それから、「にしても。テーマパークかあ」耳打つニルズヘッグの呟きへ心を寄せた。
 氷で築いた小山の上、竜人は地ではなく空を見ていた。駆け巡るコースターにそよそよと髪を揺らして。
「子供の頃に来られたら、楽しかったりしたのかなあ。こんな姿にはなっちまってるが……今も結構、こういう賑やかなとこは好きだぜ」
「……うん、なんなら帰りに寄っていくか? いや、ニルの重さだと乗ったら壊れちまうかな」
「えー! こういうのって誰でも乗れるんじゃないのかよー!」
 指摘通りの重量といえようか、届く範囲には他に動くものがないと見て山から飛び降りたニルズヘッグの足元でばきんと氷が鳴った。
 そこから樹木の根のように広がる罅は、繋がり合ってまた氷塊を崩してゆく。内に閉じ込めた死体たちを、二度と動き出すことのない断片へと割りながら。
 後に残るは、回り続けるアトラクションに一瞬ごと、右から左から染め変えられるふたりだけ。互いに元々有する彩は少ない、けれど。
「なんて、冗談だよ。行きがけに好みの奴を探しときな。身長制限に引っ掛からないやつを」
「身長!? むう、角はいいとして……あと尾を引っ込めて……?」
 本気にして竜部分を触り確かめ始めるニルズヘッグを、口元に悪戯なカーブ描きつつ匡は眺め、それも冗談、なんて。虚を突かれた様子で瞬いたニルズヘッグが大股でずかずか隣へ並び肘でつっついてくる頃には、いよいよ息吐いて笑ってしまった。
 ――冗談。最近よく言う気がするぞ、匡……。
 ――そう? だったら誰かさんたちの所為かもな。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カシム・ディーン
ああ
僕こういう映画見ましたよ
一人絶対カメラを手放さない奴がいてそいつの映像記録でのパニック物で殆どバッドエンドでしたね

んー…あんまり壊しちゃいけないんですよね

ならば…ちょいと反則技でいきますか

帝竜眼…起動!(UC発動

バリアを展開し迫るゾンビを自動迎撃(鬼畜盗賊が此処にいた

後はレッツ探索ですね

【情報収集・視力】でこの遊園地の構造と隠れてたりするゾンビがいないか確認して捕捉してはバリアを押し付けて破壊

…何…終わりがないのはある意味悪夢ですよね
終わりがないのが終わりって怖い言葉もありますし
静かに眠り来世を目指す方が吉ですね

後は…金目の物が無いかはきっちり探索します
これでも僕は盗賊ですからね?




 この光景既視感あるな、なんて。
 眼下の光景に見たことのあるゾンビもののパニック映画を思い返しながら、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は入園ゲートを蹴りつけ土産屋の手頃な屋根へ飛び移る。
(「あれはたしかカメラの映像記録がテーマでしたっけ。最後には誰が生き残ったんだったか……お約束のようにバッドエンドだったのは、憶えてるんですけどね」)
 カメラでもスクリーンでもない、肉眼で映すなら臭いと音とのリアリティも相俟って強烈さが増す。とはいえ、それだけだった。カシムにとってはそれだけ。もっとおそろしい難敵をいくつも相手取ってきたのだ。
 例えば――、"盗んだ"、この力の主。
「帝竜眼……起動!」
 帝竜、ヴァルギリオス。
 長い外套で隠した懐のうち、手を触れる竜神兵器たる水晶玉は、その正体が眼球であった。数多の帝竜の眼に宿る魔力を収束させたもの。呼び掛けに応じぐわりと吹きあがる風はカシムの身を地へ真っ逆さまへ押し出して――――、そのときには始まっていた。
 ガゴッ!
 石畳に突き刺さるはずであった少年を揺らめく闇色の水玉バリアが包み。
 そして、地に触れ弾ける。 弾けたものを全身に浴びるのは、その場でのうのうと呻いていたゾンビたちに他ならない。
『あァァァ、ううア゛ァ゛!?』
「さぁさどうぞ。僕、この通り手ぶらなので。食べ放題ですよ」
 寄ってらっしゃい見てらっしゃいと朗らかに語り掛ける声色こそ友好的と呼んで差し支えないが、そのカシムの辺りはひっくり返って溶け落ちゆくゾンビで死屍累々だ。バリアが触れたものへ齎す異常――この場合、毒が、視えざる牙を剥いている。
「どうです? 魅力的な話だと思うんですが」
 丁寧な語り口調の端々に滲む――、場慣れした、殺気。
 多少なり知性を残していれば我が身可愛さに逃げ出したであろうゾンビであったが、その意識はいまやひとつの信号に支配されている。襲い、増やし、喰らいたい。 ガチガチガチ歯を噛み鳴らし、縺れあって雪崩れればカシムの外套を引き裂かんとして――。

「そう。それで良いんです。静かに眠り、来世を目指す方が吉ですから」
 終わりのない悪夢を、終わらせて差し上げます。

 ――飛び散る。
 死体を大小バラバラな火玉に変え、瞬時にして膨れ上がった光の爆発。炎と、雷。
 それらもまた展開したバリアの有する性質のひとつ。ただそこにあるだけで、誘われた蛾を殺してしまえる。それこそ誘蛾灯の如く。曰く、反則技――あの日カシムが盗んだものはそれほどの業だった。
 泥濘む足元には目もくれず、少年はかつかつ踵を鳴らし歩む。探すものは隠れ潜む敵と、値の張る物品のみ。すれ違う度にぱちっ、どちゃっ、と音立て消えるものらは死臭が濃すぎて漁ったとて碌な物が、であろうし。
「資材だか資源だかを荒らしに、とか言ってましたか。例のオブリビオンの蓄えにでも期待したいところですね」
『ゥ、うゥ』
 カタリ。
 そうこう思惑を巡らせていれば、かくれんぼの最中に嵐に呑まれたか、穴の開いた木箱の陰で上体だけのゾンビが動いた。こんなものでも只人にとっては危険であろうから。
 ――ああ、こんなところに。
「見ぃつけた。……ので、僕の勝ちです」
 開いたカシムの手が、幕引きにゆっくりと被せられてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザガン・アッシム
【アドリブ及び連携歓迎】

【単独】で

『…平和な日々が唐突に理不尽な死と炎で満たされる』か。仕事柄何度も見ていた光景とはいえ、やっぱり慣れねぇな…。

施設に被害の及ばない様にイベント広場等スペースのある場所まで誘導する

【サイバー・リフトアーム】を用いてゾンビを掴んで武器とする
(施設にぶつけない為に掴んだゾンビで他のゾンビを攻撃したり、掴んだまま【ジャンプ】して真下に【投擲】する等基本的に叩きつける戦法をメインに)

粗方片付いたら、後で纏めて弔ってやる為に倒したゾンビ達は一か所に纏めておく。
…個人が特定できる遺品でもあったら探しておくかね
(他の猟兵が同様の行動をしていた場合、手伝いを申し出て一緒に探す)


コノハ・ライゼ
あら賑やかなコト
ケド予約が入ったからにゃきっちりお掃除しないとねぇ

ざっと見渡して戦っても支障の無さそうなトコチェックすんね
コッチばっか気を遣ってもられねぇだろうし、出来るだけ誘き寄せてみようか

さあさとびきりをご馳走してアゲル、オレに届いたらネ
「柘榴」で肌裂き血の匂いで*誘惑したり出来ないカシラ
血を柘榴へ与えたら【紅牙】発現、誘い込んだ屍人を一体ずつ丁寧に喰らっていくわ
そうすりゃモノ壊すのは避けられそうだし
腐肉は趣味じゃナイケド、残しちゃ予約のお客様に失礼だもの

小さな子供相手なら、おいでと手招き
そうね、腹が減ってそうなら噛み付かれても叱らないであげましょ
すぐにミンナのトコへ送ってあげるから




 平和な日々が、唐突に理不尽な死と炎で満たされる。
 ――――地獄。
 それは戦場に生まれ育ったザガン・アッシム(万能左腕の人機兵・f04212)にとって、昼下がりの夢にも見るほど記憶の奥底にこびりついて。同時に、いつまで経っても慣れはしない光景であった。
「よりにもよってこんな場所でよ」
 テーマパーク。戦火と最も縁遠いような、幸せの空間であったはずだ。あちこちで始まった戦いに揺らめきながら行く先を迷うゾンビたちの虚ろな目に、ザガンは左腕――常人のそれではない、殺すにも生かすにも特化した兵装"THE・GUN"を向けた。
 擦れ合う金属音を立て五指を折って、手招く。
「そうなっちまったら、俺がしてやれるこたぁひとつきりだ」
 来い。
『ウゥゥゥアアァァ!!』
 告げるや否や涎を撒き散らしにちゃりと口を裂けさせる亡者が転び出ながらやって来る。水中を掻き分けるように暴れる腕を此方から掴み取ってやり、ぐ、と眸を眇め――指先に集中させた力が、ザガン自身よりもずっと横幅のある大男を宙に浮かせた。
「ッら、ぁ!」
 ゴッ、オ、と嵐が起こる。ハンマーをそうするように人体を振り回しての打ち付けだ。
 掴む肉は早々に千切れ、骨だけを柄として持つかたちとなる。直撃したある死体は潰れ、またある死体は吹っ飛び、そのまたある死体は擦り切れて霧になって。
『ギィ、イいいいや、いや イだ』
「ッ……!」
 痛みを感じる頭など残っているか怪しいくせに、奴らは嘆く。人間の輪郭だけで。 ――そこで手を緩めてはならないなどと、よく知っているとも。宙を舞ったものを追って強く地を蹴り付けジャンプしたザガンがキャッチして、滞空するまま足元へ打ち込めばそれは即席の爆弾とも化す。高速で動く物体はそれだけで凶器なのだ。受ける側が柔いとなれば――尚の事。
 ぱあんっ。
 肉袋が弾ける音、内容物がびしゃびしゃと降り注ぐ音。
「今はそれで我慢しな。後の時間でちゃんと全部、拾ってやる」
 着地し、赤き湖のふち佇むザガンは右の腕で乱雑に顔を拭うと、ひらりと遅れて舞い落ち来て靴先にへばりついた紙切れを拾い上げた。
「……写真か」
 裏、表と数度返せば表面にこびりついた古い血糊を親指の腹で削る。
 ――背景にはこの園の一等目立つ観覧車。はにかんで笑う、蜂蜜色の髪をした幼い娘が映っていた。

 落ちる影は上手に人間に化けている。
 ときに影狐らの手を借りつつ、ゾンビウェーブの合間をするすると抜けるコノハ・ライゼ(空々・f03130)はそうして広場へ軽やかに降り立った。
 中継地点として利用したブランコがギィギィと頭上高くで揺れている。弾みで座席から振り落とされた死体がぼとぼと、疎らに落ちてきては、コノハの周囲に染みを広げる。
「入口からこっち賑やかで結構なコトだケド。予約が入ったからにゃ、ネ」
 綺麗さっぱりお掃除しないと。お仕事は、お仕事として。
 "とびきりをご馳走してアゲル、オレに届いたら"。
 柘榴こと鉱石ナイフで浅く裂いた複数の傷から滴る血は、ある種の呼び水だ。加えて派手に動き回るコノハは、狙い通りにゾンビの一団をこの場まで連れ込んでいる。
 ――そう、連れ込んで。
「オツカレサマ。終着デス」
 ライトアップされた観覧車を背に、両腕を広げ群れへくうるり向き直ったコノハは、風に遊ぶかのゆるやかな所作から一転し苛烈に踏み込む。電光石火、まさにそんな表現が相応しき軌跡に通された刃が数多のゾンビを斬りつけて。 しかし、どれもが"致命"。丁寧に。
 飛沫く血をも断って、
「残しちゃ予約のお客様に失礼だもの。……とはいえ」
 やはり腐肉は趣味じゃないと、べ、と舌を出した。その視界の端にうぞりと蠢いて起き上がるものがある。身体の大きなゾンビたちが結果的に盾やクッションとなったのだろう、それは甘い色味の髪の少女であった。
『ぉ、 ア、かあ……』
 ただし、動く死体。
 痩せて溶けて骨だけの両腕が震えながら伸ばされた。たべ、たい。 たべたい。

 ――ああ。
 何かに納得した風にすとんと零れ落ちた声は、同じ場へ行き着いたザガンのもの。
 佇むサイボーグと、眼前のゾンビ。 比べ見たって父娘とは思えないけれど。
「もしかして顔見知り?」
「いいや、 」
 ただ――、ザガンが目を伏せるのにコノハは「そう」と微かに笑み、少女ゾンビの前に片膝をつく。「おい」当然ながら警戒を促すザガンへは片手を上げて、すこしだけ時間を頂戴と言外に。
 餓えたちいさな両手が肩に触れれど尚も押しのけない。
「これでも、腹が減る辛さは分かるつもりよ。……おいで」
 逆に、手を伸ばす。抱き返すみたいに。 首筋に歯が触れて。
「いい子」
 噛み付く子の背をぽんぽんと叩くコノハ。
 獣の牙でもなければ深く食い込むこともない。まともなオブリビオンとやりあって受けるものと比べれば微かに過ぎる痛みとともに、その噛み傷からは一筋程度の血が伝うのみだ。――すん、と、唸り声に嗚咽が混じり始めたのをすぐ耳元にコノハは聞く。
『ァ……、ゥう、うェえェェ』
「ええ、ええ。すぐに、ミンナのトコへ送ってあげようね」
 背へ一息に沈み込ませた刃に、順繰りに、多くを貫く手応えが伝う。
 後ろ頭を押して肩口に埋めさせた唇は食んだ以上の血泡を零しごぼごぼ鳴るのみで、だらんと腕が垂れるに至るまで、二度と苦しみを叫ぶことはなかった。
「ったく、本当に嫌な仕事だよ」
 一部始終に口を挟まず壁に寄りかかっていたザガンは、自らの白髪をくしゃりとかき混ぜて細く長く息を吐いた。
 蹴りつけた小石が跳ねても、本来ならば跳ね返しただろう壁の方が崩れているのだ。
 すこしの沈黙ののち、眠りについた子を抱いて身を起こしたコノハへと"置き場所"を顎でしゃくって示すザガン。そうして背を向け、道中の腕代わりは任せろという風に左腕を叩けば先を歩き始める。
「さっきよく似た写真を持った女が居たんだ。近くで弔ってやりてぇ。意味はねぇかもしれないが、さ」
「イイじゃナイ。自己満足だって、生きてく糧にゃなるもの」
 弔いは誰がために。 その答えもまた、ひとつでなくたって。
 ふたりの猟兵はそれ以上に言葉を交わすことなく、照りつける極彩を確かな足取りで裂いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
きらきらしててにぎやかなゆうえんちはもちろんわくわくするけど
なんでだろう
ここも、どきどきするよ
まだたのしんでるひとがのこってるからかな

割れたガラスや枯れた花にちょっぴりさみしいきもちにはなるけど
ああ、あの子はおかあさんとはぐれちゃったのかな
くるくる視線を巡らせながら

おばけやしきはびっくりするけど
見えるところからやってくるならこわくない

駆けてくる姿を見たら逃げの姿勢
おにごっこ、しようっ
ガジェットショータイム
大きな鈴付きの杖をがらんがらんと鳴らして
ここにいるよと知らせながら

お土産屋さんやアトラクションの間を通って
目指すは広場
なんだかパレードみたいっ

施設を壊さぬよう範囲攻撃
おやすみ
たのしい夢をみてね


セロ・アルコイリス
ほえ。
この世界にも遊園地ってあるんですね
ゲートを見上げてちょいと感心

はは
なんだ、それ楽しんでんのか
昔のおれなら一緒に遊んだかなあ
えっえっバルーン配りのスタッフサンすげー怖いんですけど!
こわっ速ッ!
藍ちゃんくん!
咄嗟に逃げ出しつつ、かわいい弟分の幻想……いや、妖精サンに励ましてもらいながら

"よろこぶ"を識ってるぶん、あんたらはおれより上等ですよ
ああそっか、元々は人間なんですっけ
なら丁重に扱わねーとですね

吐息をひとつ、蜃気楼を手にする
UCの効果は非戦闘行為中、うん
これは戦いじゃなく葬送だ
鬼ごっこくらいなら付き合ってやりますよ
おれが鬼ですけどね
もー、いーかい?(至近距離でぶっ放す)




「――にしても。本格的な遊園地ですね」
 メリーゴーラウンド。回る台座上から放り出された、首の無い白馬にぺたりと触れて。
 セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)はひとり、感心した風にそう呟きを零す。ゲートからの道を振り返っても、家々や電柱、ベンチなどの細部にまで装飾が施された、人々を楽しませようという思いやりに溢れた景色。
 たのしい、うれしい、しあわせ。
「今日、また間近で見せてやりますよ。お楽しみに」
 それは朽ち崩れた彼らへの労いの言葉のようだった。
 次第に近付くエンジン音に立ち上がるセロ。そこには、コースを外れたひとり乗りの小型自動車がやってきていた。運転手はもちろんゾンビ、よそ見真っ最中の首折れだ。
 スピード超過の蛇行運転に歓声じみてううう、あああ、と呻き声が上がっている。
「はは。なんだ、それ楽しんでんのか」
 昔のおれなら一緒に遊んだかなあ。――けれども今ならば分かる、本来このテーマパークが届けたかった"たのしい"はこれじゃあなくて。
 転がるように身を飛ばし躱したセロは、タイヤが巻き上げた砂煙に紛れ駆けだす。
「っ生身の方もはっええなぁ!」
 バルーン売りのスタッフが横から掴みかかってくるのを空のゴミ箱を身代わりに差し出してやり、更にと走る。
 飛び散るカラフルなフィルムを踏めばぎゅみっと気持ち悪い音。「藍ちゃんくん!」こんな遊園地でもご機嫌に盛り上げてくれそうな友の名を叫べば、彼ら――藍色髪のちいさなアイドルたちはユーベルコードの奇跡で結ばれセロのもとへ降ってきてくれる。
『おにーさん、ふれっふれなのです!』
「ありがてー! 土産のひとつでも持って帰りますからね」
 かわいい弟分の幻想、いや妖精、藍ちゃんくんこと彼らのエールはセロを襲うゾンビの引っ掻きをうんと鈍らせる。
 いける。このまま抜けて、一旦アトラクション傍から引き離す。セロが行先を定めるべく視線を巡らせれば、一枚のガラスが隔てた先によく知った――陽の下の、たんぽぽのような色が在った。

 きらきら、にこにこ、しあわせ。
 そんな遊園地は勿論わくわくするけれど――。此処も、どきどきする。
(「まだ、たのしんでるひとがのこってるからかな」)
 割れたガラス、枯れた花、家族とはぐれたこども。様々なものがオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の心をきゅっと締め付けて、始めはすこし息をするのも重たい気がした。それでもオズは足を止めることをしなかった。
「おくれずについてきて」
 からん、からん。
 揺らめく亡者――彼らを呼びつけるための鈴音を鳴らし続ける。今は戦斧から杖へ姿を変えた右手のガジェットは、音とともに仄かに光を振りまく。ここにいるよ。開けた場まで導かんとす少年人形の後にぞろぞろとゾンビが列をなす様は、アトラクションの間を練り歩きさながらパレードの様相。
 ドール用ガラスケースにも似た建物の戸口に手をついて覗き込んでみたなら、内側は多くの鏡が割れてしまった鏡の迷路。じゃり、と、靴裏で上がる悲鳴も犠牲となった過去のひとつだ。中でぼんやり揺れるゾンビたちは何人にも増えて映った。 数十と目が、合う。
「ずっと、まよっているんだね」
 杖を振る。
 鈴を鳴らす。
「みんなもおにごっこ、しようっ」
 おいで。出口はこっちだよ――言葉の内にこもるそんなやさしさを死者が知ることはないとしても、反響し光より明るく広がるオズの声は多くのものを惹きつけた。ぶつかり過ぎて血のこびりついたガラスを離れ、彼らは腕を前にオズのもとへ集い始める。
 そんなときだった。
 ガラスの向こうの景色に白が姿を見せたのは。
「わっ? ――セロ、 」
 気付いたのはほぼ同時。クリアな板越しにお互いの姿に瞬くセロとオズ。
 だがセロの背後に角を曲がり来るゾンビが見えて、ハッとしたオズはガラスをぱしぱし叩いて示した。「う・し・ろ!」必死の口パクを目にしセロはつい笑ってしまう。わかっている、そのつもりで開けたここへ連れて来たのだから。
 吐息をひとつ。蜃気楼の名を持つ骨董銃がその名の通りにふっとセロの手に収まっていた。振り返りざま、銃口を向けるセロの前へ死を恐れる自我も失いただ寄ってくるゾンビ。
「それでも。"よろこぶ"を識ってるぶん、あんたらはおれより上等ですよ」
 元人間の彼らを、丁寧に、殺し直す。これは戦いではなく葬送だ。 ――火花が弾ければ銃弾が飛んだ。
 足を撃ち抜かれた先頭が頭から滑りこけると後続も縺れて倒れ込む。その雪崩をぴょいんと飛び越え、建物を飛び出してきたオズはセロのもとに駆けつけた。
 背に縋る腕を姿戻した機械斧が半円描き斬り払いながらの「だいじょうぶ?」「もちろんです、オズのおかげで」ふたりは軽くタッチ交わして、自分たちそれぞれを追いかけてきたゾンビに改めて向き直る。
「セロもおにごっこ中だった?」
「はい。でも、そろそろ鬼を交代してあげようかと思ってたとこでし、て!」
 もー、いーかい? 問いと発砲とはほぼ同時。
 ゾンビの引っ掻きと弾き合い束の間宙舞った骨董銃がセロの手に再び落ちたとき、宙には弾だけが残っていた。それは直ぐに腐肉の額に埋もれ見えなくなる。崩れ落ちるまでを確かめることなく、次のゾンビの股下をスライディングで崩し抜けつつハンマーを起こしたセロは「それじゃ」と。
「オズはそっちの皆さんを」
「うん。いっしょにつかまえちゃおう」
「鬼が協力しちゃダメなんてルールはねーですもんね」
 ――もっとも手出しなんかいらねーってよく知ってますけど!
 銃声がまたひとつゾンビを仰け反らせれば、頼もしさに微笑んだオズが振り回すHermesの蒸気嵐が曲がったその背骨をも折って吹く。
 ひとたびに薙ぎ払われた人々、だったものが、表情も色取り取りに打ち上がった。驚愕に見開かれた眼。もうこわいものは映さなくていいと、めいっぱい引き絞られた斧の刃先が叩き込まれては頭蓋を割る。オズの、見かけによらぬ重い一撃一撃は痛苦を長引かせぬために。
「おやすみ」
 たのしい夢を、みてね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

綾、わたし、最初は海賊船に乗ってみたいな

きみの裾引いて駆け出す身から、
真っ赤な血色の花が零れ咲く
正しく脈打つ心臓が人の生の証なら、
わたしも彼らの仲間みたいなものだから――

一緒に遊ぼう、最期まで!

高々と跳躍して船に降り立ち
下で待つ綾に手を振ってみれば、
まるで宝島目指す船長の気分だ
横にいる彼らもはしゃいで蠢いて、
死んでもそんなに楽しそうだから
ひょいひょい跳ねて彼らを地に蹴落とそう

綾、ないすきゃーっち!

順番待ちのゾンビたちを残らず落としてあげたら、
きみの傍へぽよんと軽やかに着地して
隣で舞わすハッピーなエフェクトの花吹雪
いつもより多めに花が散るのは
どうやらうきうきしているせいらしい


都槻・綾
f11024/花世

宝島を探すのですか?

共に駆けつつ
園内を見渡せば
観覧車は堂々と聳え立ち
大型船は嵐にも負けぬ威風ぶり
残骸と呼ぶには未だ未だ勿体ない遊具達に微笑む

やんわり手を振り返し
周囲の施設の破壊防止に
大きな布を広げるが如くオーラを展開

落とされた屍達が
とらんぽりんみたいにオーラマットを跳ねる姿は
何処か楽しげで

甘やかな夢の残滓ですねぇ
どうぞ弾む心地のまま
永い午睡に就いてくださいな

ね、と屍達へ歌うように説きながら
ふくり笑みつ取り出す帛紗を
ふわりと風に靡かせましょ

傍らに舞い降りた気配もまた
朗らかで楽しそうな幼子めいて
釣られて破願するのもきっと無理はない

眠りへ誘う花の馨も
繚乱の花吹雪も
御伽噺の一頁のよう




 ――綾、わたし、最初は海賊船に乗ってみたいな。
 宝島を探すのだろうか? ゲートをくぐって直ぐ意気込む境・花世(はなひとや・f11024)に、ひとつ返事で頷いた都槻・綾(糸遊・f01786)とが連れ立って足を向ける先は決まっていて。
 女の白い手指が存外ひかえめに男の裾の端を引けば、血色通わせやわらかく零れ咲く百花の王。
「こっち」
 進路の空に見上げるは大船。ギィ、キィと、油の足りていなさそうな音が幽霊船の様相だ。
 けれども尚も沈没せずにそこにある。大船自体も、乗り込んだクルーたちも。一回転するのではないかと思えるほど大きな揺れがふたりの元まで届ける風は、ひどく血に染まっているものの。
「立派な威風ぶりです。嵐にも、負けることなくこうして」
 待っていてくれた、のだ。残骸と呼ぶには未だ未だ勿体無い。微笑み湛え、ひとたび綾が念じたならば死臭を塗り返し広がりゆく花の香がある。
 その薫る風に背を押されるように――緩む眦そのままに、心地よさげに同調した花世の指が解けた。「いってきます」「いってらっしゃい」日常に溢れ特別ではない、だからこそ大切な言葉を交わす。それだけでぶわりと一層につぼみ開かせた花世は地を蹴った。 うんと高くへ、跳ぶ。
 正しく脈打つ心臓が人の生の証なら、
 わたしも彼らの仲間みたいなものだから――。

「一緒に遊ぼう、最期まで!」

 艶やか、鮮やか。それでいて"切り込み"は苛烈。
 横殴りにざあざあ吹きつける牡丹の花嵐は触れるだけで身を裂いてしまううるわしき刃。突然の美味そうな女の乱入に、沸き立つゾンビらであったが下ろされた安全バーが今や逆にその安全を妨げていた。
『ウ゛ぅ、アァ!』
『わあ あぃ、い、たかぁ……ィヒヒッ』
 がごっ、がごと暴れる間にも切り刻まれる腐肉。それでも尚も楽しげに、はしゃいで。
 わさわさと腕ばかりが伸ばされ、振られる様はさしずめ船乗りを海の底へ引き摺り込まんとす海草?
「この船は我々がいただいた。なんて、ね」
 ――けれど、花世はひとところに咲き続けてはあげられないから。
 花吹雪に勢いを増した蹴撃が削れたゾンビをバーの隙間から押し上げれば、風に巻いてその身をひょいひょいと下方へ投げ落とす。
 かいぞくのせかいは厳しい。敗者に待っているのはペーストと化す無惨な死、と決まっているようでいて、実のところ。
「ようこそ、お待ちしていましたとも」
 落下地点には薄布の如き朧な霧霞が広げられている。綾だ。綾の展開したオーラはマットよろしく落ち来るゾンビらを包みこんで――、ぽぉん!
 トランポリンかポップコーンみたいに、跳ねさせた。
「綾、ないすきゃーっち!」
『アアアアぅあ!?』
『アハッ、  は』
 その度に地に立ち込める香こそが馨遙――牡丹のものともまた一味違う、花の浄化。浴びた死体の足掻きがすこしずつ鈍ってゆく。意識の深く、深くへと次第に誘われて。
 楽しいならば、その方がよい。 甘やかな夢の残滓を抱いて、次の夢へ。
「どうぞ弾む心地のまま、永い午睡に就いてくださいな」
 ――ね。
 ふくりと笑んでは歌うようにも説く綾だ。
「わぉ! 下も下で気に入ってくれたみたいでよかった」
 落としてやったゾンビたちがぽんぽんと弾み、同じ高さまで跳ね上がっては歓声の尾を引いてまた落ちる有様に、船のふちに手を掛け覗いた花世の瞳はきらきら。うきうき。
 反対に空を見上げている綾も見える。手を振れば振り返してくれることの幸せ。いよいよまるで宝島目指す船長の気分!
 彼の手に芳しき花の香が染み込んだ帛紗が帆のように膨らんで、航海の雰囲気を盛り立てている。或いは出航に際し陸から振られるハンカチのような。
「……でも、わたし、見送られるよりも」
 となりがいい。いま行くよ、と。 ふちを蹴りつけ宙へ身を投げ出す花世は両腕広げて軽やかに。舞い落つはなびらとなってくるくる、ひらひら、そうしてお宝の――……綾の傍らへ舞い込んだ。
 ――もしも本当に旅立つときはどうか、ともに。 なんて。言の葉にしてしまう代わり。
「ね。ふわふわでゆらゆらで、すごくすごかった!」
「ええ、ふふ、お顔にそうと書かれていますよ」
 いつもより多めに散る淡紅は目に見えるハッピーエフェクト。
 幼子めいて朗らかな、瑞々しい花の笑みを向けられた綾はつられて破顔したのだった。――トランポリンの最中にまた随分とあちこちもげたゾンビたちは、ふたりの背後に沈んで起きてくる気配はない。
 帯を漂わせる馨遙のしとねに包まれて、今頃は第二の夢の中で穏やかな波を感じていることだろう。そうであれば、と。
「それでは、花世。次はあちらなんて?」
「さすが綾、わたしの好みに詳しいんだものな」
 まだまだ遊び足りない彼女だろうから。ついとつまさきを向け、傍目にスリリングなアトラクションを綾が促せば、早速と駆け出しながら花世が咲う。
 御伽噺の一頁のよう。眠りへ誘う花の馨も、繚乱の花吹雪も。仲睦まじく支え合うふたりも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

叢雲・源次
【義煉】
アドリブ◎
※任務なので非常にクール。と思わせて少しだけ感傷的

この手の場所は去年のクリスマス以来か…あの時はキマイラフューチャーで絶賛稼働中だったが…一度滅びを迎えた此処は何処かもの悲しささえある
クロウ、物珍しさからはしゃぐのは良いが…程々にしておけ
遊びで死ぬのは本懐ではあるまい
(と言いつつも是非もあるまい、とジェットコースターに付き合う)

彼らは…そうか、嘗て此処で働き、甲斐としてきた者達か
すまんな…そうなってしまった以上、俺が取れる手段は限られている
精々、来世も同じような甲斐を得られる事を願う…
(鯉口を切り、踏み込み、電磁抜刀。一思いにゾンビの首を飛ばさんとす)


杜鬼・クロウ
【義煉】
アドリブ◎
※剣はガイオウガ戦で折れて武器無
グラサン着用

熱いお出迎えだなァ(ゾンビ避け
俺、テーマパークに誰かと行ったの初めてかもしれねェ!(目輝く
心優しい親友がついてきてくれて助かったわー
華がねェケド
じぇっとこーすたーってヤツに乗って倒そうぜ!
ちぇ、遊びじゃねェが少しぐらい楽しンだってイイだろ(口尖らし

(ゾンビ共の生前は…そうか
なら)
テメェらも一緒に”アソ”ぼうや(指クイ

主は後方支援
【煉獄の魂呼び】使用
禍鬼の霆でゾンビへ足止めと牽制
数減らせれば
棍棒で援護攻撃

シートベルトは締めず
敵を地面に振り落とす
勢いを利用し虹駆で敵を蹴り飛ばし部位破壊・2回攻撃
敵の攻撃は腕で押し除け
見切り回避

爽快だぜ!




 漆に近い黒髪を駿馬の鬣のように靡かせて、躍る。
 強烈な向かい風を肌に、車輪の軋みを靴裏に感じる。右へ――、左へ、搭乗者を振り落とさんとする凶悪なコースターの背をシートベルト無しに駆けずり回る人影がふたつ。
「爽快だぜ!」
「……そうか」
 声に重なって鈍い打撲音が響けば、それよりもずっと澄ましたな剣戟のひびきがもうひとつ。
 その度に元々乗っていた客たちが宙を舞ってダイナミック降車を決めてゆく。

 ――時はすこし遡り。
 入園ゲートをくぐるなり熱い抱擁を繰り出してくれたゾンビには足を引っ掛けすっ転ばせ、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は我が身の春とばかり腕を広げ、眼前広がる娯楽へ黒硝子越しの瞳を輝かせたのだ。
「俺、テーマパークに誰かと行ったの初めてかもしれねェ! 心優しい親友がついてきてくれて助かったわー」
 華はねェがと付け足しながらもなんだかんだと楽しげに足取りも弾むクロウ。
 彼の指すところの"心優しい親友"たる叢雲・源次(DEAD SET・f14403)は先行くその背を見ていた。 ひとりで、この男が、このような場所に?
 流石に長い付き合いなだけはある。直後「文句あんのか」じとりとクロウの目線が寄越されれば、更にそれを先読みしていた源次は園の奥の方を平常運転で睨めつけているばかり。
「いいや。物珍しさからはしゃぐのは良いが、程々にしておけ。遊びで死ぬのは本懐ではあるまい」
「へいへい、遊びじゃねェから少しだけ――な。ンじゃ手始めにあのじぇっとこーすたーってヤツに乗って倒そうぜ!」
 こいつ、聞いているのか?
 という感じの間があったのも束の間のこと。なにより、このクロウという男のなんたるかを知る源次は二の句を放棄して後に続くのみであった。是非もあるまい、と。

 ――そうして今だ。
 手放しときに足放し、座席を埋めるゾンビを相手取ってなかよくコースターに揺られている、今。
「ッひょう! いいねいいねェ、中々の急角度カーブじゃねえか!」
「……、……一秒遅れていればそのよく動く口も飛んでいたろうな」
 鉄柵スレスレ、ゾンビを引っ張りその肉を挟み込むことで身代わりに回避せしめたクロウである。
 竦み上がるどころか、こりゃ他のアトラクションも期待出来そうだなどとからから笑う男に付ける薬はない、そういうわけだ。源次はただ己の手元に精神を注ぐ。 そこには黒塗りの鞘が握られていた。
『ウ、ぁ゛ぁァ』
「すまんな」
 否、よく見たならそれはただの黒ではない。
 ある種の機構を有したパッケージ――鯉口を切った刹那にそこから解き放たれるは、帯びた電磁波に白光放つ超高速の一閃であった。
 目にも留まらぬ早業とはこのことだろう。金属が擦れる音がしたかと思い、相手側はその刃を探す。ところがその頃には自らの視界が傾いて落ちてゆくのだ。狂乱に沸く車体から暗い、暗い、夜の底へ。
 どちゃり。
 下方へ……、進み続けるのだから、後方か。消えていった死体に源次は風音に掻き消える程度の溜め息を零した。口にした謝罪に意味があるとは思えない。ただ、このような運命を辿った彼らへ取れる手段が限られている己を、苦々しく思わずにはいられない。
(「嘗て此処で働き、甲斐としてきた者達だ。精々、来世も同じような甲斐を得られる事を願う……」)
(「ゾンビ共の生前は……そうか、なら」)
「どうした? ぼーっとすンなよ、テメェらも一緒に"アソ"ぼうや」
 杜鬼クロウの名を以て命ずる、  ――血肉となりて我に応えろ。煉獄の魂呼び。混淆解放に向けた詠唱が実を結べば、召喚されし禍鬼の霊がゾンビたちへ霆を降らせシートベルトをもすり抜けるほどその身をバラしてゆく。
 ならばこそこのラスト一周、共に楽しみ尽くさなくては。
 次が一番の下り坂だ。
 Gが全身を軋ませて、車体が真下を向いた途端の抑圧からの解放。考える頭を持つふたりは即座に座席を掴んだが、ゾンビの方はそうはいかない。 ベルトを抜け滝登りするかの如く後方へ打ち上げられてゆく。
「ヤベええええなんだコレ! ッハハハ!」
「おい、 」
 ピンチはチャンスとでも。
 まずぶん投げられる棍棒。クロウは席を手放せば追って身体を風に投げ出すようにして、棍棒に打ち据えられなんとか引っ掛かるゾンビへ勢い乗せた靴裏を叩き込んだ。吹き飛ぶゾンビが縋りつくことで座席自体が剥がれ始める。 共に落ちても可笑しくはない状況で、クロウへ差し出される手。
「待ァってたぜ、と」
「手が焼ける」
 掴み、掴まれ引き上げたなら一拍遅れて脱落してゆく座席の一部。
 損傷からしてこの戦いの所為というよりも、元々ガタが来ていたのだろう、むしろ今のうち落としておけて良かったとすら言えようか。な、やっぱり先に"試乗"しておいて正解だろとでも言いたげにニヤつくクロウの目線を頬に感じつつ、源次はそれに目を合わせることなく、手すりを掴んで身を低くした。 次が来る。
「お前が楽しそうでなによりだ」
「へっ、そう怒ンなって」
 ゾンビたちのいなくなったコースターはふたりには広い。
 がたんごとんと車輪が軋む。クロウの何とも知れない鼻歌が風に乗って二番へ入るから、残る半周分くらいは源次も黙して"過去"へ思いを馳せることが出来そうだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レイニィ・レッド
狭筵サン/f15055

作戦:狭筵サンが見つけたゾンビを微塵切りにする

集まってくるとは思いますが
大群の中のヤバそうな奴探すとか頼みますよ

とにかく数がヤベェと思うので
鋏を増やして一気に畳み掛けます
答えは期待してませんが
『赤い雨の問答』と洒落込みましょう

――、アンタは正しいか?

…なんです?
一人で肉の処理をしてる最中なんすけど
手伝ってくれる気になったンすか?

遊園地、ね
昔のことは、あまり

しかしゾンビで納涼とは風情もクソも無ェですね
ゾンビ怖いんですか?
コレ納涼になってます?
テーマパークのイベントっぽいというのは同意します
何が怖いですか
自分のことは見慣れてるでしょ

さ、まだ肉は残ってますし
ドンドン次行きますよ


狭筵・桜人
赤ずきんさん/f17810

作戦:赤ずきんさんがゾンビをたくさん倒す

私は赤ずきんさんのうしろで索敵に専念します。
探さなくても勝手に集まってきそうですけど。

ねえねえ、赤ずきんさんって遊園地来たことあります?
今忙しい?フーン。
ゾンビに追いかけられるのもテーマパークのイベントみたいですね。
肝試しと思えば納涼っぽくて良くないです?
ゾンビよりあなたの方が怖いですよ。

えー、ちょっとくらいなら手貸してあげてもいいけど……。
やれやれ、まったく世話の焼ける人ですねって
何かが体にベチャって……ウワーー肉片!!
もうちょっと綺麗にやってくださいよもう!!

ねえちょっと歩くの早くないですか?
置いていかないでくださいって!!




「ねえちょっと歩くの早くないですか?」
「はあ」
 足音がふたつ、連れ立って石畳の通路を叩いていた。
 片や毅然とした乱れなきもの。片やぱたぱた、ぱたと、止まっては走ってと忙しなきもの。
 前者が前行くレイニィ・レッド(Rainy red・f17810)、後者がその背に貼り付くかの狭筵・桜人(不実の標・f15055)であった。
「置いていかないでくださいって!!」
「はあ」
 右から左に流されていることを自覚しつつ桜人は視線を巡らせた。本日の役割分担は、彼が"手"、自分がさしずめ"眼"だ。
 ゾンビの性質として此処に至るまで肌身に感じたことと言えば、大声や物音、肉の気配に寄ってきやすいこと。ダッシュ勝負にもつれ込むと普通に負けかねないこと(あれはこわかった)。そして、何の因果かリアクション芸人を好むこと、だ。
 かつて人々の笑顔を愛したテーマパークスタッフ魂がそうさせるのか? だったらお引き取り願いたい。
 土産屋を覗き込めばゾンビ、真横を通った瞬間血濡れた手で窓を叩くゾンビ、マネキンと見せかけゾンビ自販機の中にゾンビ連れと思いきやゾンビ――十数分間の記憶が走馬灯の如く桜人の脳裏を巡ってゆく。
「本当、死んでまでよく尽くしますよ……タダ働きなんて私は御免です。そういえば赤ずきんさんって遊園地来たことあります?」
「……なんです? 一人で肉の処理をしてる最中なんすけど、手伝ってくれる気になったンすか?」
 肉の処理。
 とは、先ほどから声と足音の合間にじゃきじゃき挟まる硬質なそれの出処。ゾンビと出くわす度、レイニィが開いて閉じてと動かす大鋏であった。赤錆びた引っ掛かりは流された潤滑油により滑らかなものとなっている。 血という油で。
 こうしている間にもまた、肉片が落ちる。
 今宵バラされたのはゾンビのみであるが。ブロックになってしまえば元の素材など成程分からぬものだなぁと妙な感慨をも覚える桜人。スーパーのパック売りなんかが怖くなる。
「フーン忙しいなら別に……、あ。そんな中すみませんが、左手奥、柱のところ。三です」
「どうも」
 レイニィは大方バラけた目先の肉塊を蹴倒せば、同じ色に濡れた手でフードの端を引き上げ新手を視認した。肉の袋が揺れている。忙しいも何も、ぺらぺら昔話に興じる気分ではなかったわけだ。来客ならば丁重にもてなそうとも。
 ううぅ、ああぁ、意味も掴めぬ呻きに何を期待するものでもないが。
「――、アンタは正しいか?」
 赤い雨の問答。彼我間の狭い空にだけしとしと降り出した雨が石畳に流れた血を洗ってゆく。
 いいや。洗うようでいて、汚して。引き延ばされた血溜まりに波紋を広げながら、ゾンビたちの背後に現れ出たのは、もうひとりの"レイニィ・レッド"だった。
『ァ、あ? ォ……オオオ!』
「でしょうね」
 得られぬ答えには一瞬の間にして鋏の音が返される。
 レイニィ本人と、レイニィが呼び出した幻覚のレイニィ。揮う得物がじゃっきんとひとつの音へ重なれば――、そうしてまた三人――三つが、細切れの赤色の雨の一部と化す。

 撥水性の高いレインコートをエプロン代わりに、大鉈改め大鋏を振り回すブッチャー。なんてホラーな絵面であろうか。
「グロ。うぷ……」
「何度も見といて今更。さっきまで楽しンでたじゃねーですか、やれ納涼イベントだって」
 言った。確かに「ゾンビに追いかけられるのもテーマパークのイベントみたいですね☆ 肝試しと思えば納涼っぽくて良くないです?」なんて桜人は余裕綽々口にした。
 ただ。もっと肝を冷やしてくるものが目の前にあるというか。
「ゾンビよりあなたの方が怖いですよ」
「何が怖いですか、自分のことは見慣れてるでしょ。さっきからヒマそうすね。代わりますか?」
「えー、ちょっとくらいなら手貸してあげてもいいけど……。やれやれ、まったく世話の焼ける人ですね」
 頼られてふふふと息吐く桜人へレイニィが「なら早速お仕事です」道を譲る風に脇へと退けば、其処はゾンビウェーブ到来の真っただ中であった。
 伸ばされる手、手、手――――。
 ――。
「スミマセン私どうせならレジ担当に」
「そんなもんは無ェです。ほら男に二言は無し、手伝った」
「ウワーー肉片!! ペチャってするもうちょっと綺麗にやってくださいよもう!!」
 配置転換の願い受け入れられず。実作業を求められた桜人は押し付けられた大鋏に縮み上がりながら、さあドンドン次へとレイニィ(幻覚)が悪気無く跳ね飛ばしてくるあれやそれやの回避で手一杯であり。
 ――せめてその雨合羽、支給してくれません?
 ――現地調達で。ホラ、そこなんてイイのがあるじゃねーですか。
 目に見えて面倒くさげに視線だけで指された先はウォータースライダー系コースターの乗り口であろうか、搭乗する際に頭から水を引っ被らないためのクリアシートがカートに山積みされていて……恐る恐る、桜人はそれに手を伸ばす。
 ガッッ。
『オアァアァァ!!』
「ああああああ!!」
「うっせぇ」
 その山の奥からわさあっと突き出てきた亡者の手に腕を掴まれこれまたわさあっと髪を逆立たせる桜人、そんなコントめいたやり取りを断ち斬るように、やっぱり持ち主の手に戻った赤錆び鋏がまた鈍い音を立てるのだった。
 ゾンビ映画にひとりはいる、歩くだけでゾンビに出くわすトラブルメーカー? ――映画の中だけじゃないんだなあ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱酉・逢真
メリーゴーラウンドの端っこにでも腰掛けてっと。
眷属《虫・鳥・獸》をどんどこ創造して向かわせよう。こいつら全員強化してある。もとから脆いってんなら十二分にやれるさ。
アトラクションを【城】にセット。これでアトラクションは害せねえ。俺も【城】ン中に避難してっから安全ってわけだ。
眷属は無尽に呼び出せる。強化してもやったら強くなったりはしねえが、ゾンビの群れくらいなら問題ねえさ。もとから動物ってなぁ強い。
あとは猟兵さんがたも疲れたら避難しつつ戦えば片付くだろ。
ヒトがヒトのために作った設備だ。彼らあるいは彼女らも100年もちゃあヤドリガミにでもなったかね。最後のご奉公だ。つつがなくさせてやりたいさ。


臥待・夏報
一定の行動パターンを繰り返すだけじゃなく、ちゃんと言葉を話すのか。
年上の女性を見て、「お母さん」と判断することが可能なわけか。

うん。
だったらきみには感情があるね。
ゾンビはゾンビでも哲学的ゾンビ、なんて話を持ち出さない限りは。

日常あってこその非日常だ。
遊園地が楽しいのは、後でおうちに帰れるからだ。
僕がこの滅んだ地球を好むのは、もうひとつの地球に安全な寝床があるからだ。

難しい話しちゃったね。
悪い癖だ、ごめん。簡単に言うと――
鴉が鳴いても、夕焼け小焼けで日が暮れても、きみはおうちには帰れないんだ。
わかるかな?

……2012/8/19の炎は呪詛の具現化だ。
感情の主だけを焼却し、施設や建物は傷付けないよ。




 オルゴールの音が近かろうか。ピンポロピンポロと流れ続けるメロディは。
 戦いの最中になんだか血色がよくなった馬もいるが、回るメリーゴーラウンドは尚も健在であった。その端っこによいせと腰掛ける朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)。
「お前らは休みなしだ、働いてきな」
 顎で使えば眷属たる虫に鳥にが散り散りに離れてゆく。獣は最後まで足元で丸まっていたが、逢真の足が音楽に合わせ板を蹴り始めたところで伸びをして駆け出した。
 いくら脆いゾンビでも虫に殺せるものか? ――殺せるのだ。もとから動物ってのは強い、とは逢真の弁。そしてそんな自論をよりスマートに実現させるための白夜の幻城。
「困ったときは素直に喰われとけよ、内側からやってやれ」
 術者たる己自身がこうしてだらりとしている限り、その分だけ強化された眷属は華々しく戦ってくれることだろう。同時にこの場へ張ったのは不可侵の結界ときた。
 見送って、くありと欠伸をひとつ。
『ウゥ、ううゥ! ゥ……』
『お、  うまさん のせ、せ、りたい』
 視界のあちこちで早速バチバチ殺し合いが始まるのを後目に、逢真は土汚れたメリーゴーラウンドの台座を払った。ヒトがヒトのため作り、そのヒトの想いに応え働く。テーマパークのあちこちにあるアトラクションも、百年も経てば立派なヤドリガミにでもなったろうか。
「最後のご奉公だ。つつがなくさせてやりたいさ、お前さんも今のうちひとつ休んだって良いんだぜ。なにしろこっから先は忙しくなる」
 ヒヒ、と笑い声は親しみ込めて楽しげに。
 もいだ腕や足を褒めて褒めてと運んでくる眷属らを指先で弾いていなしていれば、結界の中へと入り込んでゆっくり歩いてゆく女の背が見えた。
 頬杖をつく腕を左右入れ替えて、逢真は双眸を細める。ただ――静かに、心を傾け人間をみつめるときのそれだ。眠たげにも、興味深げにも。

 おかあさん?
 そう、呼ばれたように思う。臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は自身の腰ほどの背丈しかない少女、否、ゾンビと見つめあっていた。
 こうして歩み寄るまでは抱いたテディベアを無心にガジガジと齧っていたそれだ。
 年上の女性を見て"お母さん"と判断することが可能なわけか。
「うん。だったらきみには感情があるね」
 哲学的ゾンビの部類ではないでしょう? 膝に両手を当てて屈みながら、夏報はその顔を覗いた。きっと死に際して誰かに齧られたのだ、半壊して覗く内側。鼻をつくであろう死臭に眉ひとつ歪めず、似てはいないけどなぁなんて考えている。
 けれどもいいよ。模範的な母親じゃなくたって教えてあげたいことがある。
「いいかい。 日常あってこその非日常だ。遊園地が楽しいのは、後でおうちに帰れるからだ。僕がこの滅んだ地球を好むのは、もうひとつの地球に安全な寝床があるからだ」
『ァ……? ウゥ』
 夏報の唇からぽろぽろ零れ落つそれはまるで他者に向けた風ではない、呟き。
 逢真の張った結界の力がそうさせるのか、ゾンビは獰猛性を俄かにひそめ首を傾げていた。だから夏報は苦笑して、んーとひとたびだけ目線を地面へ落とした。「悪い癖だ、ごめん」瞬きののちに少女の頭に手を乗せる。
「難しい話しちゃったね。簡単に言うと――」
 鴉が鳴いても、夕焼け小焼けで日が暮れても、きみはおうちには帰れないんだ。
 わかるかな?
『――ッッアァァ! ぎッ、アァ!』
 言葉が通じているかは不明だ。しかし、途端に振り回される腕には怒りが燃えてみえた。
 垂れ流される涎には悲しみが。それならば、飛び散る血からは。
 すべては主観に基づくものだ。結局はこの個体の心のうちなんて――仮にそうと呼べるものがあるとしたって――もはや誰にも知れないし、触れられない。
 いくら振り回そうと引っ掻ける爪はもう無いから。触れた片手ひとつでその足掻きを抑え込めてしまって、佇む夏報はぽん、ぽんと、汚れた髪の上でてのひらを弾ませた。
「そう。わかりたくない、っていうのは、つまりね」
 もうわかっちゃってるんだ。
 言の葉がくべられる。夏報の逆の手にはいつしか古びたアルバムが乗っていた。頁がぱらぱらと捲れてある一日に終着する。最後といえば最後だった。――2012/8/19の炎は、呪詛の具現化。
 真っ黒にごおごお燃え盛るポラロイド写真が剥がれながらゾンビと呼ばれる娘を取り巻いた。
 火種は後悔? 遊園地に行きたいなんてわたしがお願いしたせいで。明々よく燃える理由は、予想したならそんなところだろう。予想する必要性も、今はもう無いけれど。
 やがて初めから何も無かったみたいに写真とすべては焼け消えて。後には、嘘みたく損傷のない地面と彼女のぬいぐるみとがあるだけだ。

 ぱたん。
「きみだけ残されちゃったか」
 閉じたアルバムを仕舞った夏報は、目が合ったのでぬいぐるみを拾い上げる。それってなんだかさみしい話だ。ベアの手をくいと動かしつつ振り返れば、相変わらずメリーゴーラウンドに腰掛け頬杖をついたままの逢真が居た。
「おや。この結界まだ維持してられっけども、もう出るのかい?」
「うん。世界中救うとか、そんな大それた夢を持ってるわけでもないんだ」
 ぬいぐるみを男の傍らに座らせて、夏報はまた来たときと同じ足取りで歩き出す。その背になんと声を掛けるでもなく、逢真はクマを両手で持ち上げて高い高いしてみた。べったりと手に誰かの鮮血がつく。
 こいつを抱きしめて眠りに落ちれば、不幸せになんてならないと未だ信じている。 彼らは――、
「涙ぐましいねえ……」
 なんていとおしい。
 ――人間というものは、まったく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キディ・ナシュ
【半死】

遊園地!初めてです!
わたしも遊びたいです!

ではまずはお掃除頑張りましょうね!
はーい!ゾンビさーん!こっちですよー!
大きな声と身振りで手招きです
園内のものを壊さぬように開けた場所で戦いましょう
後で遊べなくなると困りますものね
ちゃんと良い子で戦いますよ!

では狼さん、たくさん食べてくださいませ!
大きなお口に向かってゾンビさんを
えいえいとスパナさんで殴り飛ばす作業です

伸びすぎた氷には元気よくお返事返し
冷凍ゾンビさんごと殴って砕いて…
あ、こうしたら匂いがずいぶんマシですね

エスパルダさんナイスです!
籠城は破られてしまうのも映画の基本ですよ
おねえちゃんもちゃんとお仕事頑張って――痛い!痛いです!


エスパルダ・メア
【半死】
そういやオレも来るのは初めてだな
にしても子供が一発で泣きそうなのがらしくねえってのはわかる
入って血塗れじゃ台無しだしな、殴り飛ばすよりまず氷で固めるか

施設は巻き込まないよう
氷津波を足下から走らせて氷像にしたら殴って砕く

…と、やりすぎた
キディ、そっちの頼んだ
氷の範囲が行き過ぎそうなら砕くのを頼んで
返事が頼もしいねえ、次々行くぞ

おーっと足が滑った
悪いなイディ、お前の周りの柵壊れたわ

サボろうとする誰かさんは
一人だけ楽させねえぞって引っ張り出すか
お前角はやめ…痛ェ !
ここで篭城したって進めねえんだから諦めろって

探せるならパンフレットを探して
壊れた看板の代わりに氷のアーチと一緒に作って置いとくか


イディ・ナシュ
【半死】

先客を追い出すのは忍びない気もしますけれど
遊具を綺麗に使えないようですし
残念ですがご退場頂きましょうね

遊具に被害が及ばぬよう
手頃な柵を見付けたら複製して
無防備な施設はぐるりと囲みましょう
多少は戦い易くなると良いのですが
…二人ともあまり派手に殴り飛ばさないようお願いしますね

己の周りにも柵を巡らせ
中から二人を傍観…いえ、応援しています
これは、おさぼりではありません
ゾンビには篭城が基本だと映画で学びまし…

あっおやめください何をなさるのですか
私に肉体労働を期待しないで下さいませ
引っ張り出される無体に逆らう筋力はございませんので
せめて本の角で抵抗しておきます

標的はエスパルダ様と囃すキディですが




「もう既に血塗れじゃねえかよ……」
 踏み入った園内は赤くない場所を探す方が難しい惨状。
 後々やってくる子らに怯えた涙を流させぬためと珍しく(実は珍しくない)慮り、血が飛沫く撲殺をセーブしようと考えていたエスパルダ・メア(零氷・f16282)は天を仰いだ。
「お帰りの時間にご納得いただけなかった方が多かったご様子」
「ちょっぴり気持ちが分かります。だってこんなに楽しそうな場所ですもん」
 ひょっこり続くイディ・ナシュ(廻宵話・f00651)とキディ・ナシュ(未知・f00998)。初めての遊園地だ。アトラクションたちはギラギラと笑いキディを誘うようで、今にも飛びついていきたいくらい!
 でも――まずは。
「はーい! ゾンビさーん! こっちですよー!」
 より一層、遊んで楽しい環境へ。
 背伸びしめいっぱい両手を振ってキディが声を上げれば、虚ろに空や地を眺めていた亡者たちがゆらりと振り返る。そして、歩み来る。
「今日は良い子か?」
「い・つ・も、です!」
 返しに笑って少女らの前にエスパルダが歩み出た。まぁ血塗れではあったとして、やることは変わらない。周囲への被害を抑えて、死者をより多く屠る。 守護が編み込まれた黒手袋をも突き抜け急速に広がる冷気は氷津波のかたちを得て、男の足元に波立つ。
 思い返せばエスパルダにとってもこの手の施設は初めてであった。
 楽しいものか否かなんて未だ分からない。 だが、楽しみにしているものがいるのは分かるから。
「そういうことなんでな。良い子らの為にも、退いてもらうぜ」
 更に一歩踏み込めば、波は振り下ろされたつるぎの如くに奔り出した。直線上に蠢くゾンビを頭から呑んで、――圧し潰し――、閉じ込めて。
 そこに並走し続くはキディの呼び出した巨狼。屈強な体躯で腐った肉を轢き潰しながら、駆ける。剥いた牙はゾンビが見せつけてくる犬歯の数倍はあって、頭から丸かじり、だ。
「たくさん食べてくださいませ! あっ、ほらあーんですよ」
 すこぉん!
 快音轟かすは振りかぶったこれまた巨大なスパナ。ゴルフに勤しむかの軽快なショットで叩き上げられた死体がどこへいくかって、それはもう指示通りあーんした狼の口しかなくて。
「……やっぱ今回も前言撤回しとくか?」
「どうしてですっ、働き者は良い子の秘訣でしょうに!」
 すこぉん。
 主従の織り成すスプラッタ・ショー。噛み付くよりどうにか早く氷のうちに包めば飛び散る中身も減るわけなので、連携しあうようでいて、戦場はなんだかふたりの競争みたいになっていた。
 ――ほら、こっち凍ってるから先に食わせてろ!
 ――えっどこですかどこですか? ああぁ狼さんが勝手に……。
「……お騒がせして申し訳御座いません。我々も先客をこうして追い出すのは忍びないのですけれど、遊具を綺麗に使えないようでは残念ですが」
 ご退場いただく他、無く。
 暴れる前衛たちへ新手が近寄ろうものならイディの出番。
 折り目正しくお辞儀をした拍子、如何なるマジックか周辺の地面にざああああと一斉に柵が突き出た。柵だ。ちょうどそのへんにもあるような、腰ほどの高さの、木の――複製を、レプリカクラフトの力が生み出す。
 一番に重点を置いて囲い守るのはアトラクション。これならやんちゃなふたりがいくら暴れてもそうそう流れ弾は飛ばぬだろうし、またその陰から這い寄らんとす魔の手を阻むためにも役立つ。
『――オォォォオ、ァアッ!』
「ひゃっ」
 ゾンビにしては気合いの入った踏み込みでキディの背へしがみつかんとするもの――。
 だが。舞ったものは血ではなくて、木屑。噛み付いてくる脆い歯を毟り取りながら、複雑な木のささくれはその喉奥を引き裂いて。
 もんどりうって倒れるゾンビ。まにあって、よかった。ほっとするイディであるが「おねえちゃーん!」と身振り手振りびしばしラブコールを送ってくる義妹に注ぐ視線は相変わらず平温以下であったとか。

 拳を打ち付ければ、ひとのかたちをした氷像が悲鳴を上げ崩れてゆく。
 殴った側の骨にもしんと伝うつめたさと、痛み。おくびにも出さぬエスパルダは強い。ジャックフロスト、その氷雪を暴走させることだけは無いように、実のところ細心の注意をも払っていた。
 すこし"やりすぎた"となれば。
「キディ! 頼んだ」
「はいただいま!」
 麗しき連携ではないか。高く伸び上がる氷塊をキディのスパナ&狼タックルが根本からだるま落としの要領で砕き、あるいは転がる雪玉よろしくその一塊が、周りのゾンビをもぺったんと均して進む。
「よくやった」
 ごろごろごろ、  めきょっ。
 それはやがて、本当にいつの間にやら柵の内側に身を潜め傍観、否、応援に徹していたイディの周囲の木をも引っぺがす。
「あの」
「よくやった」
 エスパルダは二度言った。
「お待ちください。これは、おさぼりではありません。ゾンビには篭城が基本だと映画で学びまし……」
「――おーっと足が滑った、悪いなイディサボれなくてよ」
 ぐしゃーっ!
 氷津波がもうあまり居ないゾンビもろとも薄い防衛線を根こそぎ削ぐ。ひとりだけ楽はさせない。そんな念の籠もった力強さであった。「くっ」しゅたっとドレスを翻し巻き添えを回避したイディの肩に、背中から二本の腕が絡められる。 砂糖の甘い香り。これは。
「籠城は破られてしまうのも映画の基本です。観念することです、おねえちゃ」
「せい」
 相手がキディならばなんてことはない、魔導本の角で一発である。
「キディ――ッ!」
 糸が切れがくんと崩れ落ちる人形娘の名を叫ぶエスパルダ。そんな彼女の犠牲を無駄にしないためにも、足元広がる氷を散らして男は駆けていた。手を、伸ばす。イディの細っこい手首を握る。
「! ……っ」
「諦めろって、ここで籠城したって進めね」
「せい」
 ――いつしか逆の手に持ち替えられ突き刺さる角!

 怪我の功名というべきか、最終的にはなんとか本とそれを持つイディの両腕を押さえたエスパルダに軍配が上がった。
 ちなみに三人のひと悶着に巻き込まれた残りのゾンビはついでのように死んだ。柵の内からずるずると引き摺り出される美しきヤドリガミの図。
「エスパルダ、さん……ナイスですっ! 信じてました!!」
「はぁ、……私、この後に、……体力を残していられるかどうか」
「だーれーのーせーいーだ。ほら自分で歩け自分で。あぁ痛ェ……ったくゾンビより厄介な説得案件が入るなんてよ」
 イディのことはキディに引き渡し、たんこぶの有無をさすって確かめつつエスパルダは崩れた案内板のそばへと屈みこんだ。そんな、泣くほど? 泣いたところを見られたくないほど?
「エスパルダ様? 打ちどころが……」
「違えこら。ちょっと待ってな」
 だが目的は別にある。
 拾っておいたパンフレットを押し付けて。冷気を纏いエスパルダが触れた手は折れた木を補強するにとどまらず、覆う氷をつなぎ合わせアーチ描いた真新しい案内へと変えた。 夢の世界への招待にはぴったりではないか。
「わ」
 きっと喜んでくれるはず。娘ふたりのどちらともない賛辞受け出来栄えに満足げにひとつ頷けば、手と手を叩いてエスパルダはあたりを見渡した。欠け、血や煤に汚れホラー味を増してはいるが大きく崩れたアトラクションはまだひとつもない。猟兵たちの頑張りの賜物だろう。
「さてと。残りもちゃちゃっと片して、そっから大掃除だぞおめーら」
「異論御座いません」
「ええーっ! 何事もご褒美は大切です、早く終わったら貸し切り状態でひとつふたつくらい――」
 キディ? す、と翳された鈍器に頭を押さえキディはエスパルダの陰にまで隠れた。
 溜息吐く男とひょこひょこ飛び出すツインテールに淡ぁく微笑み、踵を返してイディは先を促す。先のすべてなど忘れ去ったかの足取りだ。まさか、本で殴るだなんてそんな蛮行。
「良い機会です。お片付け、沢山上達いたしましょうね」
「ひゃぃ……」
「漫才やめろ。気が抜けっから」
 このふたりといると毎日がテーマパーク状態だ。
 わちゃわちゃする後ろ姿を追って歩みながら、ちらと入園ゲートの方角を肩越しに振り返るエスパルダ。この夜は一夜限りで終わったとしても。彼らにも、そんな存在が居たならいい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

フラン・スティレット
十雉(f23050)と
頼れる兄貴分

そんなに喜ぶようなもんかな
不潔だし、不気味じゃん
ま、十雉が楽しそうでなによりだけど

多分、頭潰せばいいんじゃない?
ほら、銃使ってみたいんだろ
回転式で弾は限られてるから、よく狙えよな
危なくなったら【援護射撃】するからさ

「まかせて。今のうちに弾込めな」

返り血やらで汚れんの嫌だし、機関拳銃で距離を取って戦う
素早い奴、距離の近い奴から狙う
施設を傷つけないよう、単発で頭を狙って仕留める
十雉が鬼を召喚したら連射で【なぎ払い】といこう
接近されるか施設に弾が当たりそうな時はナイフに切り替えて【咄嗟の一撃】を

「へぇ、そんな術使えんだ。さっすが十雉。――これで、遠慮なくぶっ放せる」


宵雛花・十雉
フラン(f09009)と
可愛い妹分

見ろよフラン、ゾンビだぜゾンビ
へぇ、幽霊とは違うんだ
ほんとに腐ってんだな

初めて見るゾンビにすげぇすげぇと感動する
UDCアースの映像作品でしか見たことなかったんだよ、オレ
って、こんなにテンション上がってんのオレだけ?

ところでゾンビってどうやって倒しゃいいんだい?
何かそれらしい武器持ってたら貸してくれよ
カッコよく倒してみてぇ
お、リボルバー式の拳銃か
いいじゃんいいじゃん
頼もしい妹を持って幸せだなァ

一体ずつ頭をよく狙って撃つ
あ、外した
こっち撃ってくれ、フラン…!

施設の近くで戦う時は赤鬼と青鬼を召喚
図体のデカイ二体を立たせて壁にする
その間オレは戦えねぇけど
フラン、任せた




 見ろよゾンビだぜゾンビ!
 幽霊とは違うんだな、ほんとに腐ってんだ、などなどアトラクション以上に大はしゃぎする兄貴分の声をBGMに、フラン・スティレット(Ambivalent・f09009)は揺れる死体たちを黙して見つめていた。
 まだ距離のあるうちから届く死臭がまず気に入らない。
「UDCアースの映像作品でしか見たことなかったんだよ、オレ。本物に会えるなんて」
「そんなに喜ぶようなもんかな。不潔だし、不気味じゃん」
「うーん、言われてみりゃ思った以上にドロドロしてるけどさ……」
 これ自分だけテンション上がってるやつ。察してこほんと咳払い挟む宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)のことを、フランも実は彼が楽しそうでなによりだと思っている。 いちいち言葉にしやしないが。
 ゾンビの倒し方談議には道中花を咲かせたもので、その結果フランが十雉へ貸してやることにした"術"はひとつのリボルバーだった。重みある金属の塊が手渡され。
「ほら、銃使ってみたいんだろ。その映像みたいに」
「ああ、こいつなら知ってるぞ。度胸試しに使うやつ?」
「さっきから何かの見過ぎだろ。弾は全部込めてるよ、間違っても頭に撃つなよな」
 試すんならあいつらを――、と、勿論言われるまでもない。
 頼もしい妹を持って幸せだ。笑ってそう口にし両手でリボルバーを構える十雉は、ゾンビの頭部へと狙いを定めた。精神を研ぎ澄ます感覚は戦巫女の修練ともそう遠くはない。
『ウゥ、ああアッ!』
「――動くなよ」
 ここだと見定めた一瞬。引き攣ったように揺れる死体の震えに合わせ、引き金を引き。
 一発、二発。シリンダーががちゃがちゃと回れば吐き出される弾丸は思うままに飛び出した。初体験で風の抵抗までを予測するのは難しく、それは肩口や頬を抉るに留まるけれど。 そんなことはフランも織り込み済だ。
 銃創から血を溢れさせつつ憤って走り来るゾンビの足元に銃弾が跳ねる。跳ねた上で両足が横並びとなった一瞬をまとめて貫く、まさに"援護射撃"と呼べるそれは他でもない、妹分の力添え。
「もう一回」
「う? ああ!」
 タンッ。
 膝から崩れ落ちたゾンビの頭に銃弾を叩き込むのは、比べてずっと簡単に済んだ。
「ん、その調子」
「結構反動があるんだな……」
 普段からこんな武器たちを取り回している娘の頑張りの一端を知れるというもの。

 束の間手のうちの道具に視線を落とす十雉であったが、ゾンビたちはやぁと友だちじみたフレンドリーさで次々に寄ってくる。装填してもらっていた弾を撃ち尽くすのも直ぐのことで。
「っととと、こっち撃ってくれフラン……!」
「まかせて。今のうちに弾込めな」
 声を上げる十雉を余所にフランはといえば冷静なもの、まずは彼に最も近いゾンビの腕を、そして次に頭をと順に吹き飛ばす。操るは機関拳銃Fantôme rouge、発射の度に鋼の口元に憤怒のような紅の閃きがチカチカと瞬く。
 助かった、と礼を続け力なく倒れかかってくる死体になった死体を押しのければ、十雉はガチャリと弾倉をスイングさせその奥に迫るゾンビへと銃口を突きつける。
「ここらで格好付けたいもんだが」
 そこから放たれるのは、一巡目よりも大分と精度の上がった一射だ。
 首には当たるであろう軌道。ゾンビは身を捩り、本能でその射線を脱しようとするが――。
 響くギィ、ィ、 と甲高い音。
 十雉の弾丸にぶつかるフランの放った弾丸であった。宙で弾けあったそれらはゾンビのほど近くで小爆発を伴い破裂して、その衝撃で飛び散るどちらのものとも知れぬ金属片が腐った頭を破壊していた。
「す、すっげえ……さすが敵わねえや」
「さてね、当たったのは十雉の弾かもしれないし」
 おみそれしましたとグリップの方を向けて差し出されるリボルバーを、気安げにふっと首傾げてみせながらフランは受け取った。「もう満足したのか?」「ああ」ここからはもう一仕事増えそうだからと十雉。
 どんっ、と、重みに押し崩される鉄柵の向こうから雪崩れ溢れてくるゾンビの群れ。群れとはいっても入園時に比べれば控え目なもので、いよいよ終わりが近付いているということだろう。
「まさか突っ込む気?」
「まさか! まぁ見てなって」
 十雉の指には今や銃でなく折り上げられた千代紙二枚。
 赤鬼と青鬼、挟んだそれをしゅぴっと飛ばせばまるで紙が命を得て膨れ上がったかの如くに二体の鬼が現れるのだ。神織双鬼。ずしんと一歩で地を揺らし、二体はふたりを、そして施設を守るべくゾンビたちを広場中央へ追い込み始める。
「へぇ、そんな術使えんだ。さっすが十雉」
 先の言葉をそのまま返すみたいに口遊みフランは銃を構え直した。
 おかげ様で当社比ゆっくりと終えさせてもらったリロードで弾はパンパン十二分、その全部を見舞ってやるつもりで。
「――これで、遠慮なくぶっ放せる」

 閃光と、弾雨。暫し音と時間が切り飛ばされたかの銃声の嵐。
 連射に次ぐ連射が煙の幕を薄らと広げる中も、どデカく目立つ目印兼肉壁の協力で戦いはスムーズに終えられた。折り重なって伏すゾンビどもが動かぬことをひとつずつ用心深く確認し、仕事終わりに目を合わせるふたり。
「やっぱりフランが使ってると倍は格好良く見えんだよなあ、銃」
「なんだそれ」
 いつも通りな言葉を交わせるのも、生きている者にだけ許された幸せのひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナルエリ・プローペ
荒れ果てているように見えても、死者は楽しそうです。
死者の見る夢が、こんな感じなのかな。
ゾンビの仲間入りはご遠慮したいですけど、死後に見れる夢があるならこういう夢がいいですね。
幼い頃、お父様に連れていって頂いたテーマパークの夢とか。

傘に仕込んだ剣を、初めて抜きます。
暴力は先生方からお叱りを受けそうですが、死者への冒涜に等しい
ゾンビの存在を神様はお許しにならないでしょうから。
剣を振るいましょう。
……これは人殺しのうちに入るのかな?
出来るだけ綺麗な状態で残したいなら、私は味方が討ち漏らした
ゾンビの浄化をします。

夢のようであっても現の世界。
今を生きる人たちがいつか笑える場所になるといいですね。


鹿忍・由紀
ゾンビになってまで働くなんて随分仕事熱心だね
夢を与える仕事ってのはそれだけやり甲斐あるのかな

皮肉じみたことをぼんやり考えながら
アトラクションを見上げたり
手入れされていたであろう植木を眺めたり
テーマパークの中を散策するように進む

アトラクションの入口でゾンビを見つけたら手を振ってみる
確か、以前訪れた遊園地のスタッフというのはよく手を振ってくれたから
感心しつつ近付いて、襲いかかってくるようなら
『影繰』で貫き縫いとめる
崩れ落ちたスタッフだったものの身体を何の感慨も無く見下ろして
動かない事を確認したら次へ向かおう

次のゾンビが見つかるまでまた散歩でもしようか
こんなに静かな遊園地っていうのも珍しいだろうから




 猟兵の手によって、生ける屍が次々に眠らされてゆく。
 静かなものだ。物音という意味ではなくて、人間の気配だとか。そういったものが。

 歩きやすくて、良い。
 鹿忍・由紀(余計者・f05760)は世界と自分を隔てるみたいに垂らした前髪の奥で、視線だけをあちこちへ動かしていた。背の高いアトラクションなら見上げてみたり。よく手入れされていたであろう垣根に、今は飛び散った腐肉が花咲いているのを見下ろしてみたり。
「あれ、 」
 気持ちひそめた声を上げた娘がナルエリ・プローペ(Waker・f27474)。ナルエリも特段おしゃべりなタイプではないから、偶々居合わせたふたりの道行きは此処に至るまで遊園地よりも博物館――そんな施設を観光しているみたいだった。
 あれ? ナルエリの視線の先には僅かに人影の残る大観覧車。そしてその操作室の中から、此方へ手を振るキャップ姿のスタッフ。すべて当然ながらゾンビだ。本能と生前の習慣に従うだけの死体。
「……楽しそうです、ね」
「本当。仕事熱心だと思うよ」
 ナルエリが来園客を見ているなら、由紀はスタッフを見ている。
 ゾンビになってまで働いて。夢を与える仕事ってのはそれだけやり甲斐あるのかな。隣の娘は純粋に口を開いたであろうと察せるものがあったから皮肉めいた思考の皆までは口にせず、手を振り返しながら寄ってゆく由紀。ナルエリは立ち止まり束の間その背を見つめる。
(「最後に振り返してくれる人がいて、少しでも……と、思わずにはいられませんね」)
 これから彼の手で多くがより深い眠りに落ちるのだろう。
 死後に見ることの出来る夢がこうしたかたちなのなら良いと思って、ナルエリは園を進んできた。ゾンビの仲間入りはご遠慮したいところだけれど、見てみたい――幼いころ父に連れられたテーマパークの夢なんて。
「どきどきで、わくわくで、きっと覚めたくなくなってしまいます。皆さんも同じお気持ちなのでしょう」
 淡い想い出に伏せた宝石めいた瞳を開けば、そこには意志の光が宿る。
 痛みや願いを理解したうえで尚やらねばならぬことがある。――まさか武器であろうとは、気品しか感じさせぬ黒傘に仕込んだ細剣がゆっくりと、初めて、引き抜かれて。
「振るわせていただきます」
 ナルエリもまた駆け出した。はたはたとコートの裾を風に遊ばせ、観覧車までの道筋、レストランの陰から転び出て来たゾンビへ切っ先で線を引く。
 暴力は先生からお叱りを受ける悪いこと。だとして死者への冒涜に等しいゾンビの存在を、神は許しはせぬだろう。信仰に従い選んだゆえに太刀筋は迷いなく、軽やかに舞っては首を落とす。
 前方、観覧車の操作室前では由紀を出迎えるゾンビスタッフ。 ゆら、ゆらり、さっきまでパネルを押すか手を振るかだった両腕が血管を浮き上がらせ此方の首へ伸ばされる様を由紀はしげしげ眺めた。
「仕事と食欲の天秤が傾くラインが謎だなぁ。まぁそっちの方が"健全"な人間らしくてさ、良いかもね」
 腹が減ったら休憩する。大いに結構、なんて気怠く身を後ろへ傾けた刹那を縫ってスタッフの足元からは大小疎らな影の棘が突き出した。影繰、その名の通りに由紀が遣わせたつるぎ。 するりと避けた由紀の目と鼻の先の出来事だった。
 これといった感慨も抱かず、どっどっと腐肉に穴が増えてゆくのをただ眺めていたときだ。

 がごん、

 不吉な音を立てて観覧車のうちひとつのカゴが外れる。 儘、転がり落ちてくる。
 先ほど人影の見えた唯一のカゴであった。それはゾンビを巻き込みながらも、狙いすましたかのようにふたりの側へ突き進む。
 ――しかし。
「強度が不安になるとこ見ちゃったな。やめて欲しいよ」
 伏した目で由紀が寄越すはまるで焦らぬ一瞥のみ。なんたってそれだけで、"発動"に事足りるのだ。バウンドしながら向かい来るカゴを一斉に突き出た影の棘が串刺して止めた。
 急停止についていけず開いた扉から放り出されるゾンビたちは宙に走らされたナルエリの剣が断つ。九死殺戮刃。
「お眠りなさい」
 この行いは人殺し? いいえ、いいえ。
 叶うなら、この手を通し僅かでも清めることが出来ていれば。 囁きに遅れ丁重に裁断された肉片がぱらぱらと舞い。
 這いずった最後の一体は由紀の足元に辿り着く手前で崩れ溶けていった。わななく手がぱたんと地に落ちる、微かな土煙だけが彼らの残したものであることを見下ろして、由紀はふいと背を向けた。
「早めに片付いたね。なにより」
「ええ、この一帯はもう心配ないでしょうか」
「散歩でもしようかな、こんなに静かな遊園地っていうのも珍しいだろうから」
 散歩? ぱち、と瞬いたナルエリは教育方針がそうであるからこうしたときの息の抜き方など知らぬ顏。次のゾンビが見つかるまで、ぶらりとするだけ。由紀はそんな彼女へ簡潔な説明だけしてやって。
 では私も、と背に声が掛かった。 今度は心なしか弾んでいる。
「道が分かれるところまで、ご一緒しても?」
「お好きにどうぞ。歩く方向を決めるのは個人の自由だし」
 ポケットに手を突っ込み振り返りもしない由紀の返しは、当人にそのつもりがなくともこの静けさに溶け込んでほどよく穏やかで、やさしい。ぱたと耳を揺らしたナルエリは踏み出しかけて、もう一度だけ大観覧車を振り返る。
 アポカリプスヘルがどれほどに苛酷な地であるかは本より肌身で学ぶものもあった。そうして今日、もうひとつ、そんな地に残る微かな希望へ捧げたい祈りが増えた。
 ――夢のようであっても現の世界。
 ――今を生きる人たちが、いつか笑える場所になるといいですね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『資材略奪用兵器群デッカイザー』

POW   :    よーし、ジッとしてるね!
全身を【全電磁塗布装甲を閉じ、熱血防御モード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    僕たちの邪魔をしないでよ~!
【装甲を展開し防御力を下げ、各種内蔵兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    超最強っぽい地上走行戦艦グレート・デッカイザー!
【群れが合体変形し、非常に強力な】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【数多く】の協力があれば威力が倍増する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ゾンビのいなくなったアトラクション群を越え、スタッフオンリーと書かれた看板をも乗り越え駆ける猟兵たち。
 そのとき、前方に不自然な黒色が無数に蠢くのが見えた。
『よしよし、あとはこれを壊してー……』
 回転鋸が鉄網をジリジリと焼き切る火花がそれらの輪郭を照らし出している。
 問題のオブリビオン、資材略奪用兵器群デッカイザーであった。
『ギクッ』
 猟兵の気配――殺気ともいえようか、を察知したオブリビオンは手元を狂わせながら振り返る。
 盗みの現行犯を見られたわけであり。あと数枚まで焼き切られた鉄網の向こうには、未だ手付かずと見える管理棟が建っていた。 背に担いだ箱やら袋やらをひとまずぺいっと投げ捨てるデッカイザーズ。
『僕たちが先に見つけたんだぞ、横取りなんてさせるもんか!』
『電気の方はまだ時間がかかりそうだよー!』
『じゃあ乗り物の金属だけでも剥がして持って帰ろう!』
『えー、せっかくここまで来たのにー?』
 口々におしゃべりする内容からしてあまり意見が一致していないようだ。勝手に立ち去ってしまう個体もいる。
 うち一体が、でも待って、と猟兵のことをじいっと見つめた。
 照射されるライトの動きは、それぞれの装備を吟味しているように見える。否、きっと装備だけではないのだろう。――肉のひとつに至っても、彼らの狂ったプログラムは"資源"と弾き出すのだから。 転がった箱のいくつかからは腐肉がはみ出して。
『こいつらも持って帰っちゃおうよ!』
 そうしようそうしようと機械群が声を揃える。
 そうして、開かれた装甲からは無邪気なAIには不釣り合いな凶悪兵器たちがぞるりと顔を覗かせた。

 それは無観客のショーではあった。
 だが、遠く背中には勝利を願い続けるものたちがいる。
フォーリー・セビキウス
ユキテル(f16385)と
何だあれ。思考戦車…?
足が短過ぎる、アポヘルの地形に則してないぞ。
それとも柔軟に曲がるのか?気になるな。

どうやら攻撃の際に装甲を開け、そこから銃身を出す構造の様だな。
うん?何か言ったか?
私は遠巻きからそこを狙う。
ユキテル、後は頼んだぞ。
丁度良い、給電してやるつもりで行ってこい。
ハッ、笑わせるな。
お前達も、そいつを唯の乙女だと思ってたら痛い目を見るぞ。
安心しろ、護ってはやるさ。

オーバーフローとは、やるな。
色素細胞を利用した迷彩に加え地形を利用して目立たなくし、給電口や銃口など装甲の隙間へスナイピング
連続発射や一斉発射で敵を一掃する
これで動かなくなるだろう。

※アドリブ歓迎


渦雷・ユキテル
フォーリーさん(f02471)と
あ、泥棒さんみーっけ
ちょっと可愛いような

装甲開いてるほうが攻撃届きそうですね
隙を作りたいです。フォーリーさん囮やりません?
……乙女を囮にするなんて酷くないですかー?
(デッカイザーに聞いてみた!)【コミュ力】
いい感じの反応なら勝ち誇り
塩対応ならやれやれって感じでポンコツ扱い

ま、この子たちと遊ぶのも楽しいかも
点滴槍のクランケヴァッフェを振るいます
装甲の隙間に突き立てて
抜けなくなっちゃったーって【演技】も交え

電気、探してましたよね
欲しいならどうぞ召し上がれ
最初は微弱な電流【属性攻撃】を
美味しそうって口を開けたら
食べきれないくらいに出力上げちゃいます

※アドリブ歓迎




「あ、泥棒さんみーっけ。ちょっと可愛いような」
「足が短すぎる、アポカリプスヘルの地形に則してないように見えるぞ。それとも柔軟に曲がるのか?」
 闇から響いたふたつの声に、さかさかと向きを回転させてデッカイザーは振り返る。
 そこに並んでいるのはユキテルとフォーリー。覗き込む姿勢で手を振るユキテルを警戒してずざっと後退るロボ。 すこしのお見合い状態。
『人間、僕たちに興味津々か? 巣について来れば教えてあげるよ』
「その手には乗らん」
「何普通におしゃべりしてるんですか……ていうかおしゃべり出来るんですね? ねぇ皆さん、この人こんなかよわい乙女を囮にするって言うんです。酷くないですかー?」
 フォーリーをぐいぐい押しのけて、こんな、と己が両頬に手を添え物憂げムーブのユキテルだ。えっと固まるデッカイザーズ。
 そんな問答はプログラムされていないのだが――。
『比較的戦闘向きのオスでは?』
「命が惜しくないみたいですねこのポンコツ」
 囮だとバラしていいのか? いいんだよ余所見などさせないのだから。
 ――"給電してやるつもりで行ってこい"と言ってある。
 そうとさせるだけの力がユキテルにあるとは知っている、ゆえにフォーリーもさしてツッコむことなく後ろへ下がり弓を引き絞る方に意識を集中させた。 少年というか少女というか、とりあえず彼女の足元に電流が弾けるのを垣間見つつ。
 ま、この子たちと遊ぶのも楽しいかも。
 誰にともなく呟いたユキテルは後ろ手に点滴台を回した。たぷん、揺れるトキシックパープルの薬剤入りバッグ。甘いあまいBloody&Brandistockは、そうして突き出された。
「機械っていうのは劣化しますし。仕方ないです、バラしてお掃除しなくっちゃ」
 しかし――?
『ひえぇ、厚くてよかった!』
 デッカイザーが装甲を閉める方がやや早かった。
 まさに瞬きほどの間の攻防で、ユキテルがちょうどそこへと刺した穂先は引っ掛かって戻るも進むも出来ぬのだ。
「やーん抜けなくなっちゃったー」
『なぁんだ本当は戦えない個体か、みんなやっちゃえ!』
 これには沸く他のデッカイザーたち。数体の装甲がざわわっと一斉に開かれたかと思えば、直後ユキテルへ放出される銃弾は夥しい数。けれども――もっとずっと早く、届くものがあった。
 色素細胞を弄ることでいつしか景色に己が身を溶け込ませたフォーリー、外灯の上に音も無く立つ、その両手いっぱいから手向けられた特上の贈り物だ。 矢の雨が、死角より機械へ山なりに降り注ぐ。
 形状的に、弱点を背負うものとしてはアーチを描いた奇襲はあまりに脅威だ。
『ガガッ ピ――』
 どどどどどと已まぬ雨音に紛れ、射手は溜め息ひとつ。
「乙女かどうかは置いておいても、護ってはやる約束だからな」

 ここまですべて打ち合わせ通り。 "演技"と、その終わり。
 舌を出すのは心のうちで。地へ縫い付けられ機能停止する諸々の中、相手取っていた一体の装甲の緩む手応えを感じユキテルは、穂先を膂力で進めた。
『ギャッ』
「あーあー脅かしてごめんなさい、彼はあんなですけど実はあたしは違って、皆さんに電気を分けてあげるために来たんですよ」
『ええ……?』
 本当です、と言ってユキテルが槍に微弱な電流を伝わせる。
 ちょうど美味しそうな塩梅の。
「電気、探してましたよね。欲しいならどうぞ召し上がれ」
『わーい本当の本当は話の分かる親切なお嬢さんだったみたい、データを更新しておくね!』
 バチッ。 バチ。光弾ける音に続くは機械特有の焦げ臭さ。
 それでも初めは嬉々とし口を開いていたデッカイザー(純朴)であるが、さぁ腹八分かなというところで更にガゴッと捻じ込まれる金属のつめたさに血のようにオイルを吐くのだ。
『ミ゛ぎャッ ギギギギ……?』
「あらあらあら、もう満腹ですかー? もっとあげます、よっ!」
 バチバチバチと耳に痛いほど音を立てる点滴台の矛先。 出力を段飛ばしで引き上げる先にあるのは、許容を超えた電流のスパーク伴う暴走であり。
 黒煙が上がってロボの頭部がぷしゅうと項垂れるまで、ユキテルの責めたては続いたという。というか続いている。
(「相当根に持ってるぞあれ」)
 ともあれ、と。目に見えて後退し始めた残党へと再びフォーリーは狙いを合わせた。立ち位置を移した此方への注意は十分に逸れている、オブリビオンに感謝してやるとすれば乙女心を知らぬAIその一点限りだ。
 そんなフォーリーの探知へ多くのリソースを割いているのか、攻めるか守るか迷うために半開きとなっている装甲の隙間へ、遣わせるヘルハウンド。
 放った矢は呪われた名に相応しい荒々しさで唸りながら宙を翔け、餌へと迫る!
『!』
 射手に近いものに関してはまるで反応が間に合わずに喰らわれる。つまりは、その背を貫く牙とも爪とも似た一矢によって。
 加えてこの矢は追尾の性質を持つ。飛び退いた個体をも追いかけて、
『負けないぞ!』
「ほう?」
 迎え撃たんとすホーミング弾へも対処してみせる。二者が互いに放った矢と弾とが宙で曲芸飛行のような複雑な軌跡を描きつつ弾き合う、冗談じみた壮絶な光景だ。
 二度、三度と、  ――だが。
「まぁ、足掻くだけ無駄だろうが」
「ですよ。頑張るコは嫌いじゃないですけどね」
 お次は迎撃にかかりきりなデッカイザーの背へ、ユキテルが差し込んだ穂先が筋肉を断つが如くにあらゆる制御を狂わせ。
 そうして焦げ付いて広がった隙間へと、弾を弾き落としついに辿り着いた駄目押しの矢もが突き立つのであった。
 吹き荒れる爆風。
「やはり適材適所ということか」
「うん? 何か言いました?」
 ちょっとそれなら盾にくらいはなってくださいよ VS この身が欠けると煩い者がいるんでな。
 そんなドつき合い、否、やり取りを口にしながらふたりは押し合うようにしてその場を後にする。残された名残の光が、ぱちりと火花を散らした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

伊敷・一馬
不採用含め全て歓迎!

まさか火事場の泥ボリオンとはな。ゴーゴー☆ジャスティライザー!が魅力的とは言え、不義理は許さん!
(それが特別欲しい訳じゃないべ)

残っている方のオブリビオンを倒して道を作るぞ。
残念だったな、誰が呼んだかデッカイザー。私はジャスティライザーを決して離さん。
地形を利用してUC発動、とうッ!
(数秒と持たずにデッカイザーズの群れに落下した騒音チャリンコの運命や如何に)

他人の魅力を妬み、ねだり、奪う…その心は醜い。醜いという字には鬼が潜むのだ。
デッカイザーズよ、目を開き空を見よ。遍く星々は輝かしい。他人ではなく君自身が輝く星となるのだ!
(したり顔で適当ほざくんでねぇぞ!)


ザガン・アッシム
【アドリブ及び連携歓迎】【SPD対応】

…お前ら、悪いが『それ』は全て置いて行ってもらうぜ。

『弔ったのに漏れがありました』ってのはプロの仕事じゃねえし、加えて流石に胸糞悪いんでな…

箱を確実に回収する為に未だに箱を持っている個体を優先的に【内蔵サブマシンガン】で【制圧射撃】を行ってから肉薄し、敵に取り付いたら右手の【殺戮刃物】で振り落とされない様に体を固定してから装甲の隙間、若しくは展開した装甲に左腕を突っ込んで、敵内部に【トルソー・バズソー】を食らわせる。

破壊したら同様の方法で他の個体にも攻撃を仕掛ける



資材を奪いに来て俺の資材(データ)になるたぁ…まさに『ミイラ取りがミイラになる』って奴だったな


ラパ・フラギリス
ひい…いっぱい…
しかも凶悪そうなかっこいい武器まで…ノワールがバラされちゃいそうです…絶対近づきたくないです

近づかれたらその分逃げるガン逃げ戦法
なるべく広い場所で周りに被害が出ないように戦いたいですが…自分の安全第一ですごめんなさい
ミサイルやマシンガンをフル使用で制圧射撃しつつ逃げ回ります
とっておきのミサイルも全弾発射です
兎ミサイルは空で飛び回らせて待機させておいて、敵が内蔵兵器使うために装甲を開いた瞬間そこに飛びつかせる
怖い武器を出されないようにずっと有利をとってたいです…っ

が、合体はずるいです…!
全火力を集中してバラしたいですが…硬そう…
やばかったら逃げ回って助けを待ちます。お、囮です…!




『ふう、猟兵っていうのはデータにあるより強いんだねぇ』
『よいしょよいしょ、あいつらがいないうちに……』
 赤目をぎょろぎょろ動かして警戒しながら、背に載せた回収ボックスを運び出さんとす慎重派のデッカイザーズ一行。
 整然と縦一列に並んでゲートへ急ぐ彼らへと、威嚇射撃ではない、トる気の弾丸が雨嵐と叩き込まれるのは直後のことであった。
「――おい。どこへ行くってんだ?」
 進路に立ち塞がる人影。 ガコン、と、鳴らして空になったマガジンを吐き出しながら、左腕に内蔵されしサブマシンガンに新たなひとつを叩き込む男、ザガンだ。その間も照準も射貫く眼差しも的たるデッカイザーからひとつもブレてはいない。彼らの背の箱から。
 胸糞悪くて仕方ない。あいつら、中にナニを詰めたって?
 装甲に傷を刻み、土煙を前に身を寄せて後退を図るロボたちへザガンは大きく一歩を詰めた。進むにつれ次第に早まる足取りには怒りが透ける。 そうだ。怒り。
「弔ったのに漏れがありましたなんてよ、プロの仕事じゃねえだろ。 悪いが"それ"は全て置いていってもらうぜ」
 ゾンビといえどかつては人間だったのだ。
 その安息を。――ひとりでだとて取り返してみせる気迫をこそ弾丸と込め、ザガンの左腕が再び火を噴いたとき。
 後方から鼓舞し吹きつけるように、もうひと嵐起こす飛翔体が舞い込んだ。

(「うぅ、撃っちゃった……気付かれちゃいましたよね?」)
 自作戦車ノワール、そこに搭載されたマシンガンによる制圧射撃はザガンのものとともに一部のデッカイザーを引火爆発させ頼もしくあたりを照らすというのに、操縦して送り出した当のラパ本人はといえば及び腰。
 矢面に立ってくれている男のピンチはすなわち自らのピンチに繋がる、大丈夫、これでいいと深呼吸を繰り返すも。 いざ足元までわささっと厳つい兵器を構えたロボが寄り集まって来れば、自己暗示に反して総毛立つというもの。
「ひい! ノワールはバラさないでくださいぃおねがいします!」
 がちゃこともげそうなほど操縦桿を引き込んでの全力後退。
 同時にミサイル類は前へと飛ばしつつ追い縋るオブリビオンとの距離を稼ぐ、逃げの戦いにおいてラパは一枚上手だった。周囲には兎ミサイルこと誘導ミサイルを飛び回らせ来たるべきときのためにと備え、隙を無くす。
 あちこちで上がる爆発。
 怖いものは――こうしてたまに、仲間を盾にしてでもすり抜けて来るもの。 その虫感溢れる身の伸縮をバネにびたむっと戦車へ体当たりした一体は、回転鋸をすかさず振りかざす。
『まずはかわいいモニターから!』
「きゃあぁっ! はな、離し」
 ――痛いのはいや!
 戦車の中であり直撃することはないとはいえ、思わず長い垂れ耳を引っ張りしゃがみ込むラバ。
 だが、衝撃は一向に訪れない。それどころか振動すらも。そろりと瞼を押し上げて様子を窺えば、画面隔てママチャリが宙を飛びそのジェットでへばりつく悪い虫を引き剥がしていた。 そんな意味の分からない乗り物が二台とあって良い筈がない、つまり。
「あなたはさっきの……!」
「すまない、迷子を届けてきたら遅くなってしまった。だがここからは! 私も君たちの正義の戦いにお供させてくれッ!」
 ヒーローとは人々の助けを呼ぶ声に呼ばれるもの。
 一馬と彼の愛車はチャリにあるまじきホバリングからの垂直着陸をこなしラバ機を庇い立て、装填のために銃撃を止めたデッカイザーズと相対する。
『やったーなんだかさっきからデータにない乗り物がいっぱいだよ。ちょうだい!』
「やらん!! 如何な信念に基づいた悪かと思えば……まさか火事場の泥ボリオンとはな。ゴーゴー☆ジャスティライザー! が魅力的とは言え、不義理は許さん!」
 敵さん案外本当に欲しそうな目です。
 とはいえ、いやだからこそ、一馬の闘志は燃え上がる。
「残念だったな、誰が呼んだかデッカイザー。私はジャスティライザーを決して離さん。そして彼女の愛機にも触れさせん……!」
 片足で地を押し漕ぎ出す炎の海。
 消し飛ぶほど回すペダル。折り重なる機械の死骸で出来た坂道を駆け登って、いざ。
「うおおおおおお!!」
 色々を背負ったライダーが飛ぶ。
 荒れる風に煽られながら、マシンを蹴りつけ宙返りで舞った一馬の身体はより高きへ。そして、輝く。 ――燃える正義の一番星! 超・速達便キック!!
『ギャアァァァッッ!』
『お前そんなベタな断末まグアアアアア!』 
 何故だか爆音響かせ炸裂したそれは、うつくしいまでの角度が守られた急降下蹴りであった。
 一体のみならずその後方で余裕の伸びをしていたものまで難なく貫通した流星の一撃。届かせたのは真心と、そして、愛。

 爆炎を切り裂き飛び出した愛車に一馬は着地する。それはもうハンドルのみならずサドルまで妙な方向に曲がっているが、ヒーローのマシンはこの程度で倒れはしない。なんなら前輪も無かった。
「ふっ、決まった……良い子の皆にも見せてやりたかったものだな」
「あわわわ、援護しますっ」
 ウィリーで駆ける一馬を追いかけるデッカイザー、そのデッカイザーを追いかけるラバの銃撃の図式だ。
 慌ててわたたとレバーやらボタンやらを押し間違え顔を蒼くするラバであったが、頭で考えるよりも指はずっと冷静で。
 ゆえに存外的確に守られ、一馬は心地好い風を感じていられた。
「他人の魅力を妬み、ねだり、奪う……その心は醜い。醜いという字には鬼が潜むのだ。デッカイザーズよ、目を開き空を見よ。遍く星々は輝かしい。他人ではなく君自身が輝く星となるのだ!」
 ヒーローの台詞はときに長い。
 したり顔というか顔面自体は締まりなきひょっとこのままなのだが、とにかくビシッと半身だけ群れへ背を向け言ってのける一馬。
『ぐ、ぐぬぬ……いいさ、だったら見せてやる! 僕らの本気!』
『いくよ!』
 デッカイザーたちは残念ながら熱い心を解するAIを有していなかった。輝く術として力を振るう。残党同士で寄り集まって、ガション! 地上走行戦艦グレート・デッカイザーへの変形だ!
 一馬目掛け飛来するは美学の分からぬ散弾の嵐。
 だが。
「さっきから後ろを任せてりゃとんだ滅茶苦茶だ、まあ悪かねえがな」
 間を駆け抜けた影が円を描いて弾く。削りあえど回転刃の勢いは鈍るどころか増すばかり、ザガンだ。
 俺も"そういうの"が得意なんだよ、と。口元に薄く笑みを引いた男は左腕を一振りし臓物めいて絡む切り裂いた敵のコード類を払えば、迫る巨大戦艦へ猛然と飛び掛かる。
 そこら中には奪取したばかりの箱が転がって、否、眠っている。決してこの道は譲らぬと踏みしめた石畳が割れた。
 轢かれる――――。
 傍目に誰もがそう思ったろう。しかし生身の右に握る刃物を最も早く接触した敵前面の溝へ打ち立て、ザガンは喰らいつくのだ。
 この厄介男を消し飛ばすには至近で兵器を叩き込むしかない、そう認識させるため。
『いいだろう! お望み通りに』
「獲った! そ・い・つ・を・待ってたんだよォ!!」
 正面装甲展開に踏み切るグレート・デッカイザーと、その隙間こじ開け左腕を突っ込むザガン。
 勝負は一瞬。
 肩を腹をと熱線に焦がされながら、我が身をも顧みぬトルソー・バズソーの猛回転が前面を担当していたデッカイザー数体をくり貫いて飛ばせば。
『なにぃっ、お前ら早く戻って――』
「みなさん、退いてくださいっ……!」
 勇気を振り絞った本日一のラパの大声。グレート・デッカイザーの指示なぞ遮って、押し込む重たいレバーがガチャコンと埃を吐いて止まった。 ノワールに備えられた数多の砲門が同時に開かれる。
 フルアサルトバニーズ、ありったけ!
 ――うきゅう!
 先から滞空させていたものたちがまず我先に敵前面の穴へと飛び込み、より一層深く大きく開かれた其処、"弱点"へ新入りが後を追った。尾を引く煙が描く軌跡は複雑にして、どこか美しい。
 小から大へ。連鎖して広がりゆく爆発は戦艦をひずみバラけさせ。
「借りる、っぜ!」
「応とも、そのためにある!」
 駆け、跳ぶ人影ふたつ。
 チャリのカゴを踏みつけ直前で逆方向へ二段跳躍したザガンと、一馬。それぞれに振るう光と鋼の刃が核部分となっていたデッカイザーを右へ左へと切り捌いた。
 轟音――――。
 爆炎、
 振動。 あとには静かなものだ。
 ぱらぱらと落ちるデッカイザーの残骸。
 無事に焼け残った腐肉入り回収ボックスに、三人の影が伸びて重なっていた。
「どうする? 後は私たちに任せて、君は彼らを?」
「いや、俺も行く。奴らからぶんどった資材(データ)、早速活かしてやろうじゃねえか」
 資材を奪いに来て資材になる。まさに"ミイラ取りがミイラになる"って奴だとザガンが一馬へ答えれば、滾る左腕『THE・GUN』も唸る。
 モニターを通し同じ勝利を確認したラパは未だ緊張に微かふるえる両拳を握って、開いて、機体の操縦に戻った。
「では……こちらはお迎えのときまで、私の方で端っこへ動かしておきますね」
「ああ。そうしてくれっと助かる」
 ロボットアームが肉の詰まった箱をゆっくりと戦火から遠ざけてゆく。
 見送るザガンの肩にはぽむと手が置かれる。一部パーツをデッカイザーから拝借しつつ力技で愛車を直した一馬が、後ろ乗っていけよと親指をクイッしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

キディ・ナシュ
【半死】

ドロボウなんて悪い子たちですね!
リサイクル資材になるのはあなたたちの方です!
びしっとお片付けと参りましょう
おねえちゃんはこの後たくさん遊ばねばなのです
体力が尽きるのはその時でなければですからね!

かくれんぼの鬼役はわたしも得意です
視界がどれほど悪くとも
狼さんの耳鼻の前では丸見え同然ですから
その背に乗って、黒霧避けての飛んで跳ねて
動けなくなった悪い子たちを
爪で、牙で、スパナさんで潰していきましょう

わぁ、エスパルダさんのその子も綺麗ですね!
今度乗ってみたいです!
あ、ちがいますよ狼さんだって素敵で…
あああ振り落とさないでくださいー!
毛皮掴んでなんとか耐えて
悪い子へドカンと突撃いたしましょう


イディ・ナシュ
【半死】

あんまり起伏の激しい地形で戦うと
私の体力は即尽きます
ので、平地で迎撃に回りたく

まだ使える物においたをするなんて、悪い子達ですね
遊んで差し上げれば気が済むかしら
かくれんぼはいかがでしょう?
私達が鬼になりますから――上手に隠れてくださいね
遊戯の誘いの否応には耳を貸さず
魔導書を開いて黒霧を撒いて行きますけれど

二人はきっと上手に避けて下さると信じています、ええ
霧に触れると碌に戦えなくなりますからお気を付けを

極力反撃浴びぬよう敵との間に前衛を挟む立ち位置で
二人と二匹の舞踏を合間で堪能しますね

遊びの主役は子供達ですよ、お忘れなく
…けれどキディとエスパルダ様のはしゃぐ姿も
密かに楽しみにはしております


エスパルダ・メア
【半死】
この場所も前座にゃ持ってこいだろ
遊ぶ体力くらいは残しとけよ
幕開けは混沌姉妹の元気な方で
お掃除の時間です、ってな

隠れんぼって何だっけ
ああクソ、いつも通りの無茶振りで!
こちとらキディみてえに身軽じゃねえんだぞ
鬼役…捕まえてぶん殴ればいいわけな?

霧の至らない場所へ抜け出したなら氷竜を放って
フィー、お前なら上手く掻い潜れるだろ、頼んだぜ
封じを構わず解いたなら――ああ、派手に行こうじゃねえか
一応破壊工作にはならないように
動き鈍った敵を喰い潰せ

乗ってもいいけど…ってお前の狼ご立腹じゃねえか
吹き出して笑えば霧に狼に竜を沿わせて
仕上げだ、そのまま突っ込んじまえ

とっとと片して遊ぼうぜ
鬼役はおしまいってな




 アトラクションの方へよじ登ってゆくデッカイザーにキラリ瞳を輝かせ追わんとしたのがキディならば、手綱を握るみたいにその肩を掴んで方向転換させたのがイディであった。
 イディはふるふると首を振る。平地で頼む。起伏の激しい地形は体力が死ぬ。
「爺さんかよ……前座にゃ持ってこいの場所だしオレも構わねえがな。遊ぶ体力くらいは残しとけよ」
「面目次第も御座いません」
「いいえ、いいえ。それもこれもあのドロボウさんたちのせいです。悪い子ですね! おねえちゃんはこの後たくさん遊ばねばなのですし、リサイクル資材になるのはあなたたちの方です!」
 反転させられるままぴしぃと指改めスパナを突き付けるキディに、それも僕らのせい……? と顔を見合わせた居残りデッカイザー。
 完全に混沌姉妹・妹のペースに巻き込まれつつある敵の様がいつもの自分を見ているような。零れかける苦い笑いを噛み殺しつつ、エスパルダも「ああ」とダメ押しを続けた。
 そういうわけで、"お掃除の時間です"、ってな話。
 ――まだ使える物においたをするなんて。本当に、悪い子。
 疲労からだけではない、ワントーン落ちた声でイディが敵味方ともへ提案した遊び(お掃除)方法が"かくれんぼ"であった。
『ピ ピピピ……データ収集中。当機にそのような機能は』
「私達が鬼になりますから――上手に隠れてくださいね」
 返事などは聞いていない。
 イディの手の上に開かれた魔導書からはラウル・テム・エル、黒く蠢く霧がしゅうしゅうと音を立てて漏れ出始めていた。
 それは視界を奪う。たとえ機械だとて、霧中に囚われたものは刈り取られる運命から逃げられはしない。 暗い、暗い確定的な死の絶望のみを瞳に映すのだ。
 ふより。 自分たちの方へも満遍なく漂う黒にイディを見つめるふたり、見つめ返すイディのなんだか曖昧な微笑。猟兵にも有害ですか? もちろんです。
「ちょっっっと待て、かくれんぼ自体オレもよく知らな」
「つかまったら負け、つかまえたら勝ち。いつも通りですよエスパルダさん!」
 言うが早いかエスパルダの脇をキディがぴゅんと抜けてゆくのは喚び出した巨大狼の背に跨ったためだ。ずりィぞ、と手を伸ばす間も惜しい。何故なら背に今にも触れるほど近く、毒の霧がひたひた忍び寄っているから!
「ちっくしょ、こちとらんなに身軽じゃねえっての!」
 拳を握りしめ氷を振り撒きながらエスパルダも大股に続く。
 だがひとつ良いこともあった。鬼役とはつまりつかまえて、ぶん殴ればいいということ。 ――すなわち今回も身内こそが一番の脅威だと、呆れ混じりの吐息ひとつ。

 ああ、派手に行こうじゃねえか。
 零れる氷雪が形を成したのか、霧を抜けたエスパルダはいつしか一匹の氷竜を連れていた。
 フィーと名を呼べば竜、サフィラスはその牙にて主に向けられる凶弾を、凶刃を、何もかもを凍り付かせて割り砕く。霧に動きを鈍らされたものなど格好の獲物に他ならず。
 だが、そのうつくしき殺戮にばかり気を取られていては。
「いいんです? ――たべちゃいますよ?」
『わ』
 かぱあ、と口を開いた狼のそこに並ぶお菓子を食べたって虫歯知らずの牙。
 たらり垂れる涎が人間でいう額の部分に跳ねたとき、猛烈に震えたデッカイザーが背の装甲をけたたましくも展開する。即座に飛び出す蟹鋏は狼の背を飛び越え操り手を捕まえんと。 して、がちゃん。やはり霞のみを掴むのだ。
『これは』
「よいですよ。お食べなさい」
 幻覚に程近い知覚のゆがみ。困惑に震えるロボには答えをやらずに、霧の向こうに在るようでずっと近く囁くイディの声は狼とその主キディへ許しを出す。
 尾とツインテールとが仲良く揺れれば。
 にっこり笑うみたいにいっぱいに口を広げた獣は固まる機械へ牙を沈ませる。無駄な反撃のせいで開かれた背は牙の進みを止められず、ついにはべごんと腹側とくっついて噛み砕かれてしまうのだった。
「あっ、散らかして。んもー、わたしの待ての後より美味しそうにするんですもんねぇ」
「……。動物にも感じ取れるナニかがあんのかもな」
 砕けては吐き捨てられる金属片を余所に、お前は大丈夫かと言いたげにエスパルダは連れた青き竜の背を撫でた。
 ひんやりとよく似た体温のサフィラスはくぁりと鳴けば手に頭を押し付けるようにして、エスパルダが一番アピールをしてくる。愛いやつ。微妙に緩んだ眦に背後からの追い立てる気配を感じた気がして、咳払いしたエスパルダはその背をぽんぽん叩いて押し出した。
「もうひと踏ん張りだ、フィー。オレの敵を喰い潰してこい」
「むむっ狼さん我々も負けていられは――……初めてこうして見た気がしますが、エスパルダさんのその子も綺麗ですね。今度乗ってみたいです!」
 共に駆け出さんとしてちょっとだけストップ、サフィラスを間近に見ようとそろ~っと前のめりになるキディの身体が、不意にがくんと下がる。
 ふてくされた巨狼がいきなり頭を下げたことで振り落とされかけたのだ。なんとか毛皮を掴んで耐えたキディがわーっ違います狼さんだって素敵でと早口でフォローを紡ぐのに、エスパルダはついつい噴き出してしまって。
「お前の狼ご立腹じゃねえか。いけんのか?」
「いけっ、ます! さぁ狼さん、とつげーきっ」
 向かう先では積み重なってむくむく巨大化してゆくデッカイザーズ。
 半ばずり落ちつつ片手を伸ばしキディが前方へとクッキーをばら撒けば、漸く前へ進む気になったらしい狼が唸って駆け出した、
(「結局菓子で釣ってら……」)
「ま、何にしてもとっとと片して遊ぼうぜ。鬼役もこれでおしまいってな」
「遊びの主役は子供達ですよ、お忘れなく」
 イディがぴしゃりと声および霧を飛ばすなら、はいとわかってるの返事が即座に返ってくるあたりとてもよく訓練されている。
 連れ立って突撃をかましてゆく巨狼、その背のキディ、それに命を受けし氷竜サフィラス。
 ――事実、ああやってわちゃわちゃしているふたりと二匹を飽きもせずに眺め続けていたイディだ。
 ただし彼らの想像みたく追い立てるものでも叱りつけるものでもない、夜に漂う灯りに似て瞳は仄明るい彩だけれど、実はもっとぴかぴかした心地で。 楽しみ。ふたりが楽しそうにしていると、楽しい。この後に待つもっと"たのしい"であろうひとときを思い、そうっと微笑みは霧中に溶けた。
 
 ドゴオッ!

 強烈な衝突音は氷竜の凍てるブレスによって強度の下がった戦艦前面へ、叩き込まれたスパナが奏でる。
 まるでこの世界におけるレイダーじみた珍走・爆走であった。
「てぇいっ」
 殴る!
「邪魔です!」
 轢く!
「頭からいっちまえ!」
 そして喰らう!!
 彼らの通り過ぎた後にはぺんぺん草も生えぬという――とはイディが今考えた物語であるが、とにかくそうした破竹の勢い。
『やめろー来るなー!』
『僕たちだって!』
 部分部分を着実に削られながらも、ごお、と全砲門を開き迎撃に乗り出すグレート・デッカイザー。
 大口径から撃ち出されるボウリングボールもかくやの鉛玉がすべてを抉り潰さんとする、けれど、ふわりと色濃く立ち込める闇色の霧がその狙いを狂わせる。風無き屋内でもないのに留まって薄れぬのは、術者イディがそうあれと唱え続けているから。
「どうか」
 ――お任せいたします。
 霧の魔の手とロボの魔の手、ふたつの危険を左右に分かれて掻いくぐった狼と竜とが同時に吼えた。任せられた、と。
「そら。目にもの見せてやりな」
 ここに至ってオマケに一段と解除された永劫凍結の封印が、的へ鎌首を向けるサフィラスの口元に渦巻く吹雪を猛吹雪へとランクアップさせ。ひび割れる鋼の鎧、重ね合わせ振るわれるスパナ、そしておぞましき獣の爪。
「っつかまえ、ました!」
 タッチ(物理)。
 別々の方向から中心へと向かい振るわれたそれらは、巨大戦艦をも薄い紙みたいに引き裂いてみせたのだった。

 急激に冷やされた機体はお約束の爆発炎上もせず散ってゆく。
 同時に、やっとこさ止んだ黒い霧の向こうではやはりイディがまったり自動販売機のボタンを押していたとか、いなかったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
【まる】

おやまあ、悪い子みーつけた
なんですおにーさん、物言いたげな顔ですね
今日のまどかちゃんはイイコでしょ?

物騒なものをお持ちなようですねえ
まーた競走するのも楽しそーではありますけれど
おにーさん、今度は共闘タイムですよっと
特別にまどかちゃんがサポートしてあげます
バシッとキメてみせてくださいね

最初はそこで見ててください
使役する蝶たちを招きましょう
お出で、お出で。可愛い子
アレ、溶かして固めて遊んで良いですよ
ほーら行ってらっしゃい
属性のサポートならお任せあれ
おや、褒め言葉です?

どーいたしまして
助力が欲しければ衝撃波でお助けしますよん
ま、おにーさんなら大丈夫でしょうけど

溶かすひと時は楽しーものでしたよ


ゼロ・クローフィ
【まる】

何処かで声らしきが聴こえる

悪い子ねぇ
何処のどいつの口が言うだが
良い子は普通自分では言わないと思うがと溜息ひとつ
まぁ、今日はお前さんにしては大人しいな

物騒つぅーか、気持ち悪い姿がうじゃうじゃだな
前の勝負はまぁ引き分けと行くか
勝敗はまた後日という事で
いいぜ、共闘も面白い
お前さんがサポートなんて珍しいな

ひらひら舞う蝶
見た目はアレだがやる事はえげつないな
まるでお前さんみたいだなぁと
くくっと喉を鳴らし

蹴りやすくしてくれてありがとさん
飛脚魔
吸って捨てた煙草を足で消す
煙草が悪魔を呼び寄せ脚へと
黒く濁った脚で蹴りあげる

…地獄へ堕ちな

そりゃ良かったな
終わったら遊ぶんだろうなと溜息をつき覚悟を決めた




 おやまあ、悪い子みーつけた。

 ――それにしたって嬉しそうな第一声だった。
「…………」
「なんですおにーさん、物言いたげな顔ですね。今日のまどかちゃんはイイコでしょ?」
「良い子は普通自分では言わないと思うが。まぁ、今日はお前さんにしては大人しいな」
 眼前にはデッカイザーたちが警戒心も露わに物騒な兵器を構えている。
 先の"競争"はひとまず引き分けということに落ち着いたけれど、今度こそめいっぱい暴れたいとでも言い出すのだろうか? 言葉以上に語る隣の疲れた眼差しに円は先回りして首を振った。
「おにーさんはおにーさんですしねえ、すこしお休みが必要なご様子」
「そいつはありがたい気遣いどうも。十年もすりゃお前さんもこう――は、ならないだろうな」
 ええ、ええ。だから。また競争も楽しいけれど、と円。
 一歩二歩とデッカイザーの方へ歩み出せば、その分だけ引く群れを波みたいだと笑った。
「今度は共闘タイムですよっと、良い子ついでにまず特別にまどかちゃんがサポートしてあげます。バシッとキメてみせてくださいね?」
「珍しいこともあるもんだ」
 いいぜとだけ続けるゼロはそれでも傍目に何かと億劫そうではあるのだが、そんなもの円は気にしない。耳触りの良いYESの返事のみ切り取って気分は上々、空気を混ぜる仕草で宙へ指を躍らせた。
 すると、どうだ。
 どこからか赤青の鮮やかな輝きを放つ蝶が寄り集まってくる。樹木など疾うに枯れているというのに?
「お出で、お出で。可愛い子」
 ――アレ、溶かして固めて遊んで良いですよ。
 つ、と艶めかしく指先が示した方へ蝶たちはひらひら舞ってゆく。素敵な花の蜜を探すよう。その姿かたちは反対にデッカイザーにも希少な宝石とでも映ったか、攻撃の構えを解き蝶へと蟹鋏や手を伸ばすものがちらほら。
『なにか来たよ』
『わ。なぁにこれ、持って帰っていいのー?』
「ええ勿論、いーですとも。皆さんのために拵えたんですよう」
 袖口で口元を隠した円がころころ鈴を転がすみたいにうたう。いざなう。
 甘いかんばせに促され触れたなら、ぽんっ!
 または、音も無く。弾ける炎か襲う氷があるだけだ。 アレキサンドライト、ユーベルコードが生んだ蝶たちは地獄の遣いの第一波。
 見た目こそ美しく華やかながらもその行いは――。
「まるでお前さんみたいだなぁ」
「おや、褒め言葉です?」
 くくっと喉を鳴らしたゼロはシケモクを指で弾いた。敬虔な聖職の貌をして教会の土を踏むのと同じ靴裏が、それを踏み躙り、未だ薄らと灯っていた赤い燻ぶりを掻き消す。
 命の火だったとするならば消えて現れ出るものは。悪魔の腕が絡みつくように煙が纏わりつけば、黒く濁った二本足は慌てて合体に乗り出すデッカイザーズの側面へ鋭く突き立った。
「……地獄へ堕ちな」
 輝石の蝶だけがひらりと遊んではばたき逃げる。
 短時間のうち幾度も熱に氷に晒されたそこは装甲なんか無かったみたいにぐにゃりと歪んで――ぽっかり、それこそ地獄の穴でも開いた有様。或いは腐食の進んだ金属か、内側のコードが覗くほどに崩れ始めた。
『なっ』
『わー合体中止、合体中止!』
 敵はといえば合理的に一部だけ切り捨てることで持ち直そうとする魂胆らしいが、そうはいかない。
 煙草を押し付けた風にゼロの飛脚魔が刻み付けた"印"は、既にすべての機体にまで滲み広がっていた。 "悪魔からは逃れられない"。
 蹴り自体は一度であった筈なのに、めき、みし、と耳障りな音立てて刻一刻と進む崩壊は呪いそのものであった。よじよじ這って逃げを打つものがいたとしても――。
 その、人間で例えるならば鼻先か。そこにちょこんと舞い降りては翅を休める蝶のおそろしさを、彼らはもう十二分に知っている。 翅の起こす焦げ付く風が、さいごの足掻きをどろりと溶かした。
「はぁい、お困りの迷い子たちへ天使からの恵みの風ですようー」
「ハッ」
 今度こそ思い切り鼻で笑ったゼロにぷくうと愛らしく頬を膨らませ、たかと思えば、いっしょになって笑う円。
 そんなふたりの背景と化し、屑鉄山のてっぺんから崩れ落ちたグレート・デッカイザー頭部担当の赤ランプが光を失っていった。

「それで?」
 とは、静まり返ったあたりに落ちるゼロの一声。
 "特別なサポート"の裏には何があるのかと問う響きだった。残り火がちらちらと消えゆくのに新しく抜き取った煙草一本へ火を移しながら、問いかけの先を見もせずに言う。
「やですねえ、わたしとおにーさんの仲じゃないですか。裏なんて」
「だからだろ」
「てへ。 溶かすひと時は楽しーものでしたし、それは良かったんですがー。……ね? まだまだこぉんなに沢山の楽しそーが待ってるんです」
 こぉんなに、のあたりで両腕を広げくるりんとアピール一周してみせた円の背後には朽ちかけて尚も躍るアトラクションたちが犇めいている。
 それこそ夢の中みたいだ。良いものか悪いものかでいえば――、お察し、と言えようが。
 腰の後ろで両手を組み「ね?」を強調してくる娘っ子に、深く肺まで煙を吸い込んだゼロは溜め息じみてそれを吐く。女、子供ときたら本当に。
「……長い夜になりそうだな」
「明けるまでお付き合いしますよう」
 遊びましょ。
 先刻、死者へ向けられたものと同じ台詞が嬉々として弾けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

叢雲・源次
【義煉】
アドリブ◎

結局遊ぶ気満々ではないか…全く…通常時と違って今のお前は丸腰だ。余り無茶を……と言っても聞くような奴ではなかったな…

(ゴンドラに着地して、打ち刀の柄に手をかけつつ)
…高所を取れるのは良いが…逆に言えば逃げ場のない背水の陣になるなこれは…オイ、クロウ。何故この場所を選んだ。

全く…
(頭を振って気を取り直し、戦闘開始。高速戦闘機動、シークエンス『七閃絶刀』超高速でゴンドラを飛び移りつつ敵に対して連続斬撃を放つ。その最後の一撃を放った後、敵にゴンドラを破壊され自由落下……さて…どう着地したものかと思いあぐねていたところクロウに抱えられそのまま八咫烏の上に落ち着く)
……腑に落ちん。


杜鬼・クロウ
【義煉】
アドリブ◎
防刃ベスト着用

遊ぶ前に壊されたくねェ!
源次、次は見晴らしがイイ観覧車行くぞ
…男ならてっぺんだろ

ジェットコースターに後髪引かれつつ観覧車へ
途中、適当な武器を捜索し強奪(得物お任せ
【杜の使い魔】召喚
源次も乗せて時間短縮
ゴンドラの上に飛び乗る

うっわ、凄ェ足場不安定だなァ
金属持ち帰るのは俺が全然乗ってねェからダメだ

敵が爆発物の兵器出す時は注意
八咫烏の嘴で咥え空中に放り投げさせ
ゴンドラ伝い兵器を部位破壊

体幹鍛えられるし愉しい…睨むなって
優しくしろよー丸腰同然だぜ

観覧車の頂上で敵の外殻を地道に殴る蹴る
後は源次任せ
落下する源次を姫抱きし八咫烏の上に着地

さっきの借りは返したぜ源次クンよ(笑顔




 ジェットコースターをたのしみ尽くしたひと――……、ふたり。
 まだコースにゾンビ潜んでるかもなんでもう一周とそれっぽく乗り込みかけたクロウを引き留めたのは、実のところ、源次のひややかな眼差しでもなくて。
「先ほどのもので懲りなかったか」
「ったりめぇだろ? むしろ、なァ、アイツなんかイイよなァ」
 口遊みクロウが尊大な態度そのまま顎で示す先には、ロボによじ登られながらもゆっくりと回転を続ける大観覧車が聳えていた。

 男ならてっぺんだろ。
 ――そういうことである。
 濡羽色の翼が風を叩き、勇壮な羽ばたきで夜闇を裂いた。こちらは園のペットではなくクロウの使い魔、巨大八咫烏さん、名は募集中。背には勿論、主とその親友を乗せている。
 決定に口を挟まれる前に半ば掻っ攫うようにクロウが烏を喚びつけたのだ。片腕を引かれ宙に投げ出された瞬間の源次は大層不服そうな面持ちであったとか。
「……通常時と違ってお前は丸腰だ。余り無茶を」
「オイオイ見ろよ源次ィ、このスケール! こん前叩っ斬った竜ほどはあるぜ!」
「はぁ……」
 ――そしてこういう奴である。
 観覧車上空を飛び抜けざまに烏の背から飛び降りたふたりは、危うげなく一台のゴンドラの屋根に着地する。
 過日の炎竜との激戦にて剣を失ったクロウの手には何処ぞで引き抜いてきたか、グラサンと相俟ってあまりに"アレ"な鉄パイプが握られていた。この男、これで正義の味方だ。
「うっわ、凄ェ足場不安定だなァ」
「遠目にも分かったろう……オイ、クロウ。何故この場所を選んだ」
「体幹鍛えられるし愉しい――睨むなって。優しくしろよー丸腰同然だぜ」
 高所を取れること自体は良い。しかし逃げ場のない背水の陣でもある。
 形こそ強制連行であるが、ここに至っては源次も大人しく打ち刀の柄に手を掛けていた。言えど無駄、睨めど無駄、嗚呼知っているとも。 早速カサカサよじ登ってくるロボ一体へ、視認される前にと閃く鞘と鉄、ふたり息の合った鈍器コンビネーションを決めれば虚を突かれ落ちてゆく黒。
「な? やぁっぱお似合いだわ、俺ら」
「全く」
 調子良く嘯くそれへ話にならんと律儀に頭を振った源次は、腰を屈めれば友を置いて躊躇いなく跳躍した。隣の足場ことゴンドラまで数メートル、宙で抜いた灰ノ災厄は残像を伴って。
 高速戦闘機動、シークエンス"七閃絶刀"。
 解除されるリミッターが機械めいて冷えた男の、唯一、燃えるような彩の瞳にも光の筋を引かせた。斬ってもよい敵だけを捉える、赤。薙ぐ斬撃は回転鋸を引っ張り出してさぁ作業を始めるぞとしていたデッカイザーの背へザンッと音立て沈んだ。
『わびゃ!?』
「虫が来る高さではないだろう。落ちろ」
 一度ではない。
 一振りに見えるその一瞬に七本の線が走っている。対抗して装甲を閉じる間も与えてもらえず、主要なコードを断たれたロボはオイルを撒きながら細かに解け、成果を確認するまでもなく次へと飛び移る源次の背で塵と化した。

 ――敵だ!
 ――邪魔者が来たよ!
 わあわあ連絡を取り合うデッカイザーズ。
『よーしいくよー、なら急いで剥がさなきゃ……』
「イかせねェつったら?」
 そのうち蟹鋏を動かしせっせと働く一体の背へ、ぬうと影が落ちた。声と、風も。 鉄パイプしょって降り立ったクロウがフルスイングで打ち据えるのは直後のことである。同じく連撃ではあるのにスマートな源次の戦いぶりと比べ随分と力技な、つまりは撲殺。
 ガゴッ、
『ギ!?』
 ドゴッ!
『ぅギギッ』
 折れる鉄。おしまいに見舞われるヤクザキック。
 いくら優れた装甲を持つといえど、からだを重くすることは叶わない。息もつかせぬ衝撃の嵐で宙へと放り出されてしまえば、ばたばた藻掻く手足の短さはゴンドラに届かず――――。
「イイな、金属持ち帰ンのはダメだ。まだ俺が全然乗ってねェだろう?」
 許される次の選択は、俺様発言ここに極まれりのクロウに見下ろされるままの落下のみ。
 めしゃり。
 高さがよりあるためか、届く音としてはゾンビを蹴落としたときとあまり変わらぬものだとうんうん頷くクロウ。「テメェらも、そういうことだからよ」巡らす視線の先には、じわりと身を隠すロボたちの姿があった。
『やっ』
『やられてたまるか!』
 がこんと装甲を展開しマシンガン状の銃器を持ち出す数体。
 そうして、そこへ舞い込む刃の嵐。
 依然ゴンドラを駆け巡っていた源次の刀が火を噴く瞬間の銃口を斬り飛ばせば、暴発した弾丸が銃のみならずそれを持つ手とその付け根までを破壊した。
『うぅぅ!』
「っ、 」
 我武者羅に振るわれる回転鋸を源次は冷静にいなしたが、繋がれた足場はそうはいかない。
 支点を断たれたゴンドラがガタンと激しく揺れた。大空へ放り出され微かに息を呑む源次はしかし、刀を振るい任務の達成を優先する。油断していたロボがまた一体とバラされて。
 今しかと追撃に出るもう一体。 その脳天というべきか、背に、一本の折れパイプが突き立つ。
『ィギギッ! 損傷、八十パーセント』
「お? なァんだ、まだ壊せんのか」
 牙覗かせにんまり浮かべる笑みはさながら悪鬼か悪童のそれ。
 なら生き餌に丁度良いかもな。男、クロウの指が鳴る。舞い込む風は強い羽ばたきの起こすもの、再び喚ばれた八咫烏は嘴を開いて半壊したデッカイザーをすれ違いざま掻っ攫ってゆく。
 背まで呑まれてしまえば、装甲のうち、次にと用意されていた爆弾は人知れず不発に終わることとなる。
「さてと、 」
 クロウは既に跳んでいた。
 使い魔の背に降り立つと靴裏で蹴りつけ急降下させ、落ちゆく源次の身を下から掬い上げるかたちで支柱との激突スレスレ支えた。 所謂、姫抱きで。
「さっきの借りは返したぜ源次クンよ」
「……腑に落ちん」
 間近の胸板を肘で押しやる源次の心中を代理するみたいに八咫烏がペッと吐き捨てたロボが真っ逆さま、地面へ落ちてちいさな爆発を上げた。
 仕掛け人の笑い声に彩られ空の旅は続く。次のアトラクションを、否、戦場を探して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


確かにあの範囲なら、外すってことはまずないな
さ、やろうぜニル
守ってやるって決めたんだ
どこもかしこも、無傷で終わらせないとな

命中弾が相手の身体を“貫通しない”よう狙って撃ち込むよ
設備に傷をつけたくないからな

武装を展開した瞬間は恐らく無防備だろう
よく動きを観察し、タイミングを狙って撃ち抜くよ
動きさえ縫い止められれば、ニルの呪詛が残った命を絞るだろうし
既に呪詛で弱ってる敵なら、一撃で止めになるだろう

お化け屋敷は呪いで人攻撃しなくない?
そん時は隣で喫茶店でも経営しようか――なんて、冗談
そんな柄でもないしな

……まあ
お互い、そういうのちゃんと認められるようになったら
悪くない、かもな


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

コーヒーカップを狙う連中を倒す
遮蔽物があって、大きさも知れてる
お前の射撃は絶対届く
――最高の戦場だと思わねえ?匡
おー。全部守り切ってやろうぜ!

遊具は壊さないように、あいつらを壊せば良いんだろ
なら簡単だ
起動術式、【災いの輝杖】
呪詛を奴らに纏わりつかせ、私は中央に立つだけだ
後は寄って来た連中が何とでもしてくれる
装甲は無駄と心得ろ
私の得物は、物質ではない
匡の銃弾、とくと喰らうが良い

ははは、お化け屋敷ってこんな感じかな
私も経営出来そう
えっ、やってくれんの――って、冗談かよー
やってくれたら流行りそうなのに。お化け屋敷カフェ
お前って、喫茶店の店主とかそういうの、似合いそうなんだけどなあ




 結論からいえば、デッカイザーたちはコーヒーカップに翻弄されていた。
 カップにまで辿り着ければ相当上等で、内蔵兵器を駆使してなんとか台座へかじり付くもの、回転に弾き飛ばされ囲いにぶつかるもの。
『うぅ……』
『他のところから先に剥ぎ取ろうよー、それか一気に吹き飛ばしちゃうか』
 そうしようそうしよう、とりあえずこれだけでも運んで――そうしてカップのひとつへ蟹鋏が振り下ろされたとき。
 その先端がパキンと凍りついて、ぶつけた途端に逆に崩れ落ちた。
「よお」
「随分と楽しそうだな。混ぜてくれるか?」
 アトラクション降り口を塞ぐかたちで佇むは冷気零す手を翳すニルズヘッグと、台詞とちぐはぐに自動式拳銃を突き付ける匡とのふたり。

 守ってやると決めたのだ。
 出来るだけ、いいや、出来るだけ以上にどこもかしこも無傷で終わらせたい。
 ――さ、やろうぜニル。
 ――おー。全部守り切ってやろうぜ!

 "お前の射撃は絶対届く"。 傍らの友がくれた言葉は匡にとって、師の言葉がそうであるように力をくれる。
 吹き飛びたいんだっけか、と匡。
「おすすめの方法があるぜ」
 ごくごく自然に構えられた水平撃ち。挨拶もそこそこ見舞う弾丸はギチギチ踏ん張っているデッカイザーの脚部へ。
 施設には刺さらぬ角度で進むそれは等間隔で並んだ脚数本を飛ばし、尻側の装甲に喰らいついてやっと止まった。
『へっ? あれ、あれれれれ』
『あわ、こっち来ない、でっ!』
 損傷は軽微に見えるが此処は回転盤の上、そうするとどうなるかといえば、滑る。
 滑って別の個体とぶつかって、腹を向け転がったそこへ粛々と二発目が撃ち込まれる無駄弾のなさ。これで満足か、そう言いたげに肩を竦める匡だ。
「おお、さすが匡は"料理上手"だ」
 ロボの腹から一筋立ち昇る煙に嬉々としてニルズヘッグ。
 分かるとも。遊具は壊さないように、あいつらを壊せば良いんだろう。ならば私にも簡単だとひと跳びに回る盤の真ん中に降り立った竜の足元が、不意に揺らいだ。
 氷雪の齎す凹凸にではない。闇。其処に波打つは、仄暗き水のような闇だった。 起動術式、災いの輝杖。
「貴様らには理解出来んだろうが、死者は"みている"ものだよ。どうだ――案外、手ずから箱詰めしてやった奴らかもな」
 見覚えはないか? よく顔を見せてやれ。
 ニルズヘッグの声色は、王威を感じさせ厳かですらあった。此処に在って此処に無い杖の石突がかつんかつんと墓を打ち鳴らす音がする。幻聴だ。幻聴だとて、センサーに確かに捉える"それら"にただの機械は震え上がる。
 ニルズヘッグの浸かる澱から、ずるりと数多の死霊が湧き出ていた。
『わっ、ぁ』
『なに――』
 コーヒーカップの台座、机といえようか、その床面を不可思議に突き抜け死霊の腕がデッカイザーを引き留める。咄嗟の銃撃は銃口ごと空を向かされれば無駄に終わり。
 ピピと電子音が策を探すがそんな悠長な間などない。かたく閉じられた防護の隙間へ水でも染み込むかの如く、めいめいによじ登り始めた霊の手指は入り込んでゆくのだ。
「装甲は無駄と心得ろ。あぁ、攻め手も――まあ、試してみれば良いのではないか?」
『わああああ!』
 デッカイザーは術者の囁きすべて聞き終えるまでもなく、かぱり背を開き回転鋸を振り回す。
 それは亡霊を霧のように薄らと断つも、所詮は実体なき存在だ。混ぜ返された風は直ぐにかたちを取り戻し、その生気なき黒の眼窩を機械の赤目へ押し付けながら、開かれた穴に突っ込んだ手でコード類を引き千切る。
 ぶちぶちと鈍い断線の音。 上がる火花、落ちるランプ。
 数多の腕を突き入れられ踊り食いされる小魚よろしくびたびた跳ねたのちに静かになる同型機の有様に、蜘蛛の子散らして走り出すデッカイザーズ。
 ――だが。
 ヂュインッ! 降り口へ向かい列を成す先頭の一体が不意に"動かなくなる"。
「降ろさないぜ。乗り物が完全に止まるまでそのままで、ってアナウンスの定番だろ」
 追い縋る霊がこじ開けてくれた隙間、弾丸ひとつが通るほんの僅かな綻びを狙い抜いての射撃。匡だった。
 お前らには分からないかな。先の親友の口振りを真似てやったのがバレたのか「言うようになったな」「お互い様だろ」と俄かに浮かぶ笑みをふたりは交わす。
「ははは、しかしお化け屋敷ってこんな感じかな。私も経営出来そう」
「お化け屋敷は呪いで人攻撃しなくない? そん時は隣で喫茶店でも経営しようか」
「えっ、やってくれんの――って、 」
 冗談? そう、冗談。
 そんなやり取りは和やかといっても過言ではないのに、仕事ぶりは徹頭徹尾の冷ややかさ。
 折り重なる残骸を隠れ蓑に這う這うの体でアトラクションの囲いの下をくぐり抜けた個体がいる。
 数本失った脚を縺れさせ、なんとか進むその身はけれどもジャンプして地を目指したなら、再び地面に触れることはない。
「おっと言い忘れてたが、死者はな、しつこいんだ」
「えげつね」
 ――ずるり。
 深き呪いは祓えない。四方八方から湧き出た蒼褪めし手が機械を宙に縫い付けた。
 ギチギチギチと装甲が内から割り開かれる。ぎ、ギギと虫じみた呻きを零すデッカイザーは最後の手段として自爆を選び、自らのうちで爆弾の信管を作動させんとするも。
「人のことは言えないが、さ」
 伊達にここまで奴らのAIを分析し続けてはいない。その足掻きをも一発の銃弾が刈り取った。軋みもたつく手とその奥の胴体部、更に奥に倒れた別な残骸に突き刺さるまで、まとめて通した匡はここに来て初めて"貫通"させたのだった。
 まぐれ? それとも狙って撃ち分けていた? ――傍目に分かるものはこの場にニルズヘッグくらいなもので、設備を守らんと努めて配慮していた友の表には出さぬ気遣いに対し、我がことのような誇らしさでグータッチを求めるのだ。

 ――さっきの話、と。
 訪れたときから転覆していたカップのハンドルに腰掛けながら、ぽつり匡が零せば。
 床面に残った虫改めロボの死骸を引き摺り下ろしていたニルズヘッグの尾が、興味を示してゆらりと揺れる。先を促されるみたいですこし間を置きながら、前のめりに指を組んで。吐く息のついでみたいに匡は続けた。
「冗談のつもりだったけど。……まあ、お互い、そういうのちゃんと認められるようになったら悪くない、かもな」
 突入時と同じだ。ひとつずつ、自分のこころと向き合いながらのそれ。
 対して間を置かずにニルズヘッグは。
「流行るぜ。きっと」
 お前って、喫茶店の店主とかそういうの、似合いそうだと思ってた。 ――なんて。晴れ晴れ笑う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
耀子様/f12822と

本来横入りはマナー違反ですけど…
現地を壊そうとする方々はそれ以前の問題ですもの。
どうも、こんばんは。
──猟兵《ヒーロー》の出陣です。
奪還者の為の資材になるのはあなた達の役目ですよ?

では、こちらは切断を担当しましょうか。
大きな資材が落ちやすくなるよう、こと強靭な部分に切れ目を入れておきましょう。
鉄材の雨とは、また壮観なことで。
生き埋めになるのも圧死するのも厭でしょう?
出てくることをお勧めしますけど……

動き出した、その出鼻を叩きます。
動かなければ装甲ごと断つだけのこと。
耀子様程の剣士の前で披露するにはいささかお恥ずかしいですが…
潔く散りなさい───【神業真朱】。


花剣・耀子
神楽耶ちゃん/f15297と

あら。
早い者勝ちのところに横入りして御免なさいね。
……それとも、こう言うべきかしら。
ヒーローは遅れてやってくるのよ。

此処なら壊れるものは気にしなくても良いのね。
それなら、力一杯行きましょう。

あたしはアレの守りを崩しにゆくわ。
観客はおまえたちとあたしたちだけだけれど、
大仕掛けはアトラクションの華よ。
振りかぶった鞘で、斬りこんでもらった資材ごと叩き潰しましょう。
べつに動かなくても良いけれど、
動かないならそのまま埋めるだけのことよ。
ほら、大雨になってしまいそう。
いつまでじっとしていられるかしら。

逃れようとするなら、神楽耶ちゃんの方へと叩き返しましょう。
あとはお願いね。




 早い者勝ち。横入りはマナー違反。
 それについてはなんら言い返すこともなく、むしろ「御免なさいね」なんて謝罪まで舌に乗せながら、しかし道を譲らぬ女がふたり。
 赤と青の対照的な瞳の彩は奇しくもお誂え向きのカラーリングではないか。
「……それとも、こう言うべきかしら」
「どうも、こんばんは。──猟兵《ヒーロー》の出陣です」
 ふたりで一組なヒーローに。
 ヒーローは遅れてやってくるのよ、続ける耀子が引き出した厳重に封の施された刀の鞘は、最寄りの個体が口を開くより早く弾き転がす。
『ギッ!?』
『僕たちが悪役だって? それは違うよ、君たちをステキなものに作り直してあげようっていうのに!』
 その転がる球に巻き込まれワッと陣形を崩しながらも、デッカイザーは蟹鋏を振り上げ猛抗議。
 そうだそうだと後方のものたちがマシンガンに似た銃器をガションと構える中、照準を合わせられている側のはずの神楽耶はゲートをくぐったときと同じだけの躊躇いなさで前へ出た。
「生憎と、より良く作り直すくらい自分で出来ますので。奪還者の為の資材になるのはあなた達の役目ですよ?」
 耀子様。 本日の相方の名をちいさく呟くと名の主は視界の端、首を縦に振る。
 手には抜き身の刃。結ノ太刀。
 神楽耶が先に進むのか、刀が先に進むのか。いいや、ヤドリガミたる女そのものが刀なのだ。此処に居ぬ何かに腕を引かれるみたいに駆け出した神楽耶は、迎え撃つ小粒の弾丸らを回転乗せたひと薙ぎにて弾き落とす。
「フッ」
 駒のように軸足の芯はぶれない。白刃で夜闇に円の線を引き一周、ぴたりと端と端とをくっつける精密さで何を狙ったかといえば、デッカイザーズの傍らに放り出された堆い鉄材の山であった。
 彼らが回収した資材のひとつだ。
 コンテナに纏め詰められてはいるが収まりきってはいない。太刀の長い刀身とそれが発生させるかまいたちにぴしりと切れ込みを入れられた箱の外周を、慌てて飛び退いた機械たちは無警戒だ。
『なにさ、僕らは今の状態が最高なんだよ!』
『こんなことだって出来るしね?』
 バチッ。微かに静電気じみた音立てデッカイザーが装甲を閉じれば、そこに一拍遅れで飛び込んだ小石が不思議な軌道描き跳ね上がる。全電磁塗布装甲? 「そう。凄いのね」石を投擲した側である耀子は言った。 粛々と、肉薄し、鞘を振りかぶりながら。
 "よかった。此処なら壊れるものは気にしなくて良い"。
 ――数分前、この羅刹女はそう口にしている。

 ざ、 ざああぁ、
 ガゴォッ!

「おまえたちはこの遊園地を巡って、何を楽しめたかしら」
「勿体無いことをしましたね。ゾンビは箱に詰まるより、病院を徘徊している方が趣深いものですよ」
 瞬間、
 まず降り注いだものは鉄材の雨。 耀子が敵の気を引いた僅かな間、悠々と振るわれた神楽耶二太刀目は先のコンテナをぶつ斬りにし中身――どこかの骨組みだったろうか、程好く尖った凶器の群れを解放し。
 突如として視界を覆う鉄、鉄、鉄に守るか攻めるか演算が遅れた機械たちを、まるでその凶器を釘に見立て打ち込むが如く耀子の鞘が叩き潰したのだ。
 砲弾をも弾く電磁装甲とて展開が遅れたのなら形無しだ。
 頭から尾までを綺麗に貫通させた虫型ロボが寝返りも打てずふるえるのを後目に、しゅたりと耀子の傍らに舞い戻った神楽耶は刀の先っちょで鉄材山をつっついた。ちょん、ちょん。
「埋まってしまった方もいらっしゃいますか。そのまま生き埋めになるのも圧死するのも厭でしょう? 出てくることをお勧めしますけど……」
『ヒッ』
 がさがさ山を揺らし飛び出すデッカイザーが一体、神楽耶の目を盗んだつもりでいるものの。
 双つの青をお忘れで? きっと装甲の有無を除いても並の砲弾より強烈なのであろう耀子の鞘は、風切り裂いて容赦なく黒の横っ面へ吸い込まれた。
『へぶぁ』
「殊勝な心掛けね。"大雨"に降られるよりずっと楽にゆけるわよ」
 だむっ、だむ、砕けつつバウンドして行き着く先にデッカイザーはカチャリと涼し気な音を聞く。
 それから。
「耀子様程の剣士の前で披露するにはいささかお恥ずかしいですが……」
 潔く、散りなさい――――。 女の囁き。鈍い赤、冴える銀閃。
 それらがメモリーの最後に刻まれた内容であった。

「おっと――そういえば。我々としたことがコンビ技名を叫び忘れちゃいましたね、耀子様」
「あら、そういうもの?」
「そういうものですよ。ね、もう一度付き合っていただけます?」
 神楽耶のそれは勿論、オブリビオン残党へ。這う這うの体で豪雨を振り切ったもの、今もなお鉄材の下に敷かれるもの、なんなら突き抜けて地に縫い付けられているもの。 微笑み湛え尋ねる口振りであるのに、すべてに有無を言わさぬ語気がある。
 幸いにしてこの場にはまだまだたくさんの資材の山もあるではないか!
 ジェットコースター。コーヒーカップにメリーゴーラウンド、鏡の迷路、観覧車。他にも……あちこちつまみ食いならぬつまみ泥棒しただけのデッカイザーらには、その楽しさが分からなかったのだろうが。
「此処ではせめて楽しむといいわ。観客はおまえたちとあたしたちだけだけれど、大仕掛けはアトラクションの華だもの」
「はい、ではお次の雨をどうぞー」

『いっ、いや――いやだああアァァァ!』

 そこから続くは晴れ間知らずの雨ばかり。
 みんなだいすき勧善懲悪のセオリーに則って、悪をコテンパンに叩きのめすまでヒーローショーは終わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セロ・アルコイリス
うぅわ。
廃墟にその見た目はちょいとなんか……
いや、いけねーな、ごめんごめん

正直、遊園地ってなにがあるか識んねー
判んのは乗り物壊しちゃマズいだろってことだけ
このひらけた場所なら
迷惑かかんねーかな?

さて、えっと電気が欲しいんだっけ?
ジッとしてるデッカイザーをにやにや見下ろして
莫迦だなァ
盗人が獲物ん前でじっとしてたらお縄んなるしかねーだろ?
(おっといけねー口調口調)
『雲』を使ってひっくり返す
はい、あんたも、はい、はい
周囲に動かないデッカイザーを集めてひとつにしたら
解除の瞬間を見計らって【落雷】
はいどーぞっ

まぁもちろん全滅はできねーだろうけど
お腹いっぱいんなりました?


オズ・ケストナー
わあ、わあ、でっかいっ
こらーっ
もってっちゃだめだよっ

園内を回る汽車のレールの上に立ち塞がって
ガジェットショータイム
動かない汽車に代わりガジェットの汽車
ぽっぽーっ
しゅっぱつしんこうっ

よけないとぶつかっちゃうよっ
避ける個体には横から
避けないなら汽車の先頭、まるい顔のところまで走って行って
魔鍵で生命力吸収
そのままぐいぐい汽車で押していくよ

ステーションから離さなきゃ
レールも壊さないよう気をつけて

攻撃は武器受け
受けきれない分はオーラ防御で
開いた装甲には斧を差し込めるかな

ごじょうしゃありがとうございましたっ
つぎは、きみたちがかえるところ
むくろのうみ、だよ

おわすれもの、ございませんようにお気をつけくださいっ




 ――アトラクションたちを守らないと。
 あちこちへ散らばってゆく敵群を見とめ、弾かれるよう駆けだしたオズ。そのオズをデッカイザーの一部が更に追おうとする。
「おっと、おれの遊びにも付き合ってくださいよ。こっちの方が何かと都合が良いんです」
 しかし、それをセロの骨董銃が吐いた魔法弾が煙に包み押し返すかたちで遮った。
 程好く開けたこの場所が良い。 正直なところセロは、遊園地というものをよく識らない。
 どんな乗り物があるのか。気付かぬままに巻き添えで壊すなどしてしまえば、マズいだろうということだけははっきり判るから。――誰かの"たのしい"を奪うことは、避けたい。
(「あっちはオズが上手くやってくれるだろうし」)
 彼こそこういった場所が得意そうだ。 ひそりと笑った人形は、自身に敵の注目がざわりと集まることなんて恐れもしない。廃墟足すこの、敵の、見た目にはちょいとばかりうぅわと思うところもあるけれど。
 今はただ、ばっちり盗めて上々、なんて。

 走って走って、初めにオズの視界に飛び込んできた乗り物はレールの傍らで横倒しになったちいさめの蒸気機関車。デッカイザーたちは囲って物色するみたいに寄り付いていて。
「こらーっ! もってっちゃだめだよっ」
 握る斧を振り回し、今まさに車体へ鋸を入れようとする個体を振り払うオズ。切り込んだ勢いで自分の身体で汽車を守るみたいに立ち位置を入れ替えれば、虫ロボたちを凛と見据える。
『むむっ!? こいつは僕たちが』
「ちがうよ。きみたちでもわたしでもなくって、みんなのものなんだ」
 ガジェットショータイム。そんなに欲しいんだったらと、立ち塞がるオズが喚んだもの――それこそが、二両目の蒸気機関車であった。
 しっぱつしんこう!
 ぽっ、 ぽ。
 オズの号令を受け短く二、三と噴き上げられる煙は発車合図。そうして長く笛を吹き走り出した汽車は、まずレール上にいたものたちを車体下へと巻き込んだ。
 めきめき、ごり。ちょうど怪物にまるごと食べられたみたいに骨改め金属片があたりへ舞い散る。
『――うわあああ! 壊せこわせ! 剥がして持って帰ってやる!』
『このっ!』
 怯みながらも車体へわらわら取り付こうとするデッカイザーズ。
 だが車内の治安維持は「きっぷはお持ちですか?」そこへ飛び乗ったオズが守っていて。
「よけないのなら、ぶつかっちゃうよっ」
 運転席の扉は全開で、告げたそばから薙ぐ斧身が質量任せに機械虫を叩き落とす。
 そこから身を乗り出せば更に前、煙室の方までパイプ伝いに駆け出すオズは魔鍵を振るいすれ違うデッカイザーの動きを鈍らせ、次々動輪の下へお招き。
「ごじょうしゃありがとうございましたっ」
 ピシッと敬礼の手で元気のよいあいさつも忘れない。
 つぎは、きみたちがかえるところ――むくろのうみ。
「おわすれもの、ございませんようにお気をつけくださいっ」
 ステーションは彼方になった。
 この場の敵はしっかり引き付けられているし、次は――ふいと視線を巡らせた先の空に、瞬きの間だけ雷光が弾ける。

 その光はセロが打ち上げたものだった。
 オズが発った直ぐ後のこと。セロを囲ったデッカイザーズは攻めてくると思いきや固まっていた。固まる他なかったのだ、対峙する男の銃撃の腕っぷしを見るに。
「――莫迦だなァ」
 たしかこのロボたちは、そこな網の向こうの電気が欲しいのだったか。
 それがどうだ、これではお見合いしに来たみたいではないか。
「盗人が獲物ん前でじっとしてたらお縄んなるしかねーだろ?」
 にやにや笑いで見下ろすセロはおっといけねと口元にゆるく拳をつくる。他に誰もいないからって、口調。
 それにしても――我が身が可愛くて盗人などやっていられるか、という話であり。ひとつ嘆息したセロは懐を漁りちいさな硝子瓶を取り出した。
「ま、いいんですけどね。楽でいいです。今日のおれは警察も兼任ということで」
 きゅぽんっと蓋を外せば中から溢れ出すのはなんと雲!
 うっすら赤紫に染まった筋雲は、なにこれ!? と赤目ランプだけ激しく点滅させる彼らの腹の下へと潜り込むと、もふんと巻きつきひっくり返してしまうのだ。
『なんだこれぇ!』
「はい、あんたも、 」
『ふわっ』
「はい、 」
『動けない……!』
「はいお待たせです」
 たちまち山積み。
 今になってちょきちょき切ろうとする蟹鋏をもなんのその、切れては繋がる雲は強固な縄であり。デッカイザーたちは兵器を出したのだ。 つまり。
「逃げんのも遅ぇんですって」
 はいどーぞっ。
 落雷。 ――セロの片脚一点に濃く纏わる雷魔法は、断頭台めいた踵落としがうち一体へ炸裂した瞬間に四方八方への雷電流を放出する。
 それはもう空まで引き裂く光の柱、だ。着弾点たる根本に近かったものから黒焦げに、てっぺんのものたちがべしゃべしゃ降ってくるけれど、目を回したその動きはぎくしゃくと。
「お腹いっぱいんなりました?」
『ま  まま……ま゛だまだだだだ』
「ふはっ、欲深いとこだけは評価してやります」

 ぽっ、ぽ――!
 そこへ不意に響き渡る汽笛の音。

「へっ!?」
 見れば白黒煙を噴き上げて汽車がレールの上を走ってくるではないか。
 ほんのすこしだけ地面から浮いているそれは、ガジェットで継ぎ足したありあわせのレールだ。一回きり、臨時便、ただこの場へ駆け来るためだけに作られていて――――。
「セロ!」
 ――突っ込む、とそういうこと。
 先頭の連結器部にて手を振るオズの意図を瞬時に理解したセロは、続く落雷を敢えてと地面へ蹴り込んだ。飛び退こうとしたはずが広がる電界に巻き取られ大地に括りつけられることとなったロボたち、反動に身を任せ逆側へと転がり避けるセロ。
『ァ、っギ』
「娑婆でのシメにデザートもどーぞ?」
 不敵に言い捨てたそのセロの眼前を、ブレーキ無しの動輪が抉っていった。
 がたんごとんと機体が立てる音の方がうんと大きくて、他には断末魔も何もかも掻き消える。ややあって停止した黒塗りの車体と飛び降りてくるオズをようやく落ち着いて見上げたとき、セロの瞳もまたキラリ。
「っっなんですコレ、すっげー! 駅からぶんどってきたんです?」
「えへへ、これはわたしの汽車! 駅には駅でほんものがねむってたんだ」
 ――なら、オズ号! ――そう、オズ号!
 ガジェット召喚時にある程度コピーしたのだろう、味わい深い経年劣化を見せる車体に触れたりしてやいのやいのと盛り上がるふたりを前に、よろよろ身を起こした一部のデッカイザー。
『くそぅ、僕たちがグレート・デッカイザーになったらもっとカッコイイんだぞ……』
 けれども。
「へえ。園内の色んなモンを眺めて回るための汽車……ですか? おれ、実物も見てみてーです!」
「あんないするよ。乗って、いこう!」
 直後にはずがごんと衝突音。
 お次はオブリビオンではない、より多くを識ってこの夜を楽しまんとす友のため。再び走り出した汽車には歯も立たず、ぺしゃんこにされて風に舞うのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
類さん(f13398)と

ああ、本当だ
やる事が豪快で隠れる気がない上、
逃げず向き合うのが厄介な泥棒だね

灯の眩しさに薄目となり乍らも、
彼の台詞の不慣れさに密か綻べば
何だか、更に眩しくなった様な――

ええ?随分嬉しい事を聞けたな
けれども、それは貴方も同じこと
彼らも渡しはしないから、何て
瓜江さんの後ろから野次飛ばし

盗人猛々しいにも程があるね
では、此処は貴方に御任せを
施設を身で守り乍らと、
僕はひと暴れするとしよう

彼が気を引く間、集中する様に
《全力魔法》で暴走抑えて、
施設に被害は及ばぬように
雷の竜巻を場に作り出せば、
逸れた先の戦艦に放ち破壊

期待に応えて、綴るとも
派手で過剰な演出と、
僕達の輝かしい結末をさ


冴島・類
ライラックさん(f01246)

わー
あからさまな泥棒がいますよ、ライラックさん
灯が眩しいですねぇ

えーと
そこな君達、盗みはよくない
それを置いて去らねば…ん?
何をじーっと見て

だ、だめですよ!
彼は沢山の方に愛されてる友なんです
資源になんかさせません!
糸引き瓜江の羽織広げがーど
背から聞こえる声が…擽ったくて

全く、なんて欲張り君だ
施設は勿論、他も奪われちゃ堪らない
今度は僕が足止めや気を引きにいっても?

糸放ち彼らが担いでいた袋絡め奪い
取りにおいでと挑発
来る前に、欠片放ち写す像を撹乱
突撃する向きをずらし

追いかけっこの先に
ペン持つ貴方がいるのなら
結末に負けなどない

ああ
新しい表情
こんなに激しい雷も魅せてくれるのか




「わー。あからさまな泥棒がいますよ、ライラックさん」
「ああ、本当だ。開き直って厄介なタイプのね」
 手を頬に添わせてひそひそ。
 類とライラックの登場に『むむっ』カチンときたらしいデッカイザーズが一斉にライトを向ける。
 わっ、まぶしい。
 目をしょぼしょぼするふたりを何と見たのか、機械同士もランプを点滅させ何やら情報交換中のようだ。そしてライトを引っ込めた代わりに鋸やら鋏の物々しい兵器を持ち出した。
『こいつら持って帰りやすそう!』

 …………。

「だ、だめですよ! 彼は沢山の方に愛されてる友なんです、資源になんかさせません!」
 糸手繰り寄せ、ばさあっと羽織を広げさせた瓜江がーど。
 がーどされた側の
 どうにも嬉しいことを聞けてしまった。 一瞬素でぽかんとしたライラックは、すぐに目元口元に気合を入れ直して類を、次に"敵"を見据えた。
「けれども、それは貴方も同じこと。 彼らも渡しはしないから、えーと、盗っ人諸君」
 全く、なんて欲張り君だ! 盗人猛々しいにも程がある! やんややんやと交互に飛ばす野次。
 面と向かっての褒め合いにお互い微妙に擽ったさ残りつつも、ふたりはがーどの陰にてひそりと目配せ。
 ――今度は僕が前へ出ても?
 ――では、此処は貴方に御任せを。

『あのねぇ、僕らは君たちをバラしてもっと良いものに変えてあげようって思ってるの! だから』
「寝言は寝てお言いよ」
 この際己は置いておくとしても、傍らのひとに向けられて良い台詞ではない。
 遮った類はそのまま歩み出て片手ひと振り。傍目には会話の流れをぴしゃんと打ち切る素振りにも見える自然なそれは、実のところ"泥棒泥棒"を働いていたのだった。
 指から伸びる糸がデッカイザーの集めたものの入った袋に絡み、類の手元へと引き寄せる。何が入っているのやら、重たい袋を転がしながら首だって傾げてみせて。
「これだって要らないんじゃ?」
『いつのまに……返せ! みんな、始めから全力だ!』
 叫び、巨大な戦艦へと合体変形しながら類目掛け襲い掛かるデッカイザー。
 彼らが改めて照りつけるライトに、闇夜に混じって宙へばら撒かれていた鏡の破片がキラリと瞬いた。
 巨大化したせいでそんなちいさな違和を見落とすポンコツAIは、全速力を保った状態のタックルを見舞い、
『つかまえ――、なにっ!』
 そして何も崩せずに終わる。
 いや、鏡の一枚を割りはしたのだ。けれどもそこに類はいない、いや、いる、鏡という鏡に映り込み同じ顔して囁くだけで。
「ほらほらどうした、取りにおいで。取れたらだけれど」
『あわわわ、あれっ!?』
「それとも僕にくれたのかなぁ」
 まるで丁寧に磨き上げられた鏡の迷路を滑っているみたい!
 仕切り直す突入も、進むほどに逆にホンモノの類から遠のいてしまうのだ。もっと右、なんでそこで曲がるの、口々に罵り合い困惑するグレート・デッカイザーの各部たち。
 事前に作戦を伝えられ、仕掛けに気付いているライラックはふふふと滲む笑みを隠し切れない。
 ユーベルコード、閃輝鏡鳴の力――だったろうか。 技を喰らう側に回るも楽しかろうと思えてしまうあたり、どうにも好奇心の塊であることを否定できそうにない、が。
「任せてもらったんだ。胸を張って、僕も僕のお仕事をしなくてはならないね」
 ギャリギャリ地を削って自分のもとへと誘導される戦艦を前に、片腕には閉じた魔導書を抱え、焦りの色なくライラックの指が宙をなぞる。それは筆を執るようでも、本の頁を捲るようでも、はたまた夢の扉を開くようでも。
 コラージュ・アート。
 背にした施設とを境目として、途端ライラックの立つ前方へだけ溢れ出した一等明るい光。
 光は渦巻く風へと躍り出す。雷の、竜巻であった。
「それに虫は得意じゃなくて」
『ひギャアアアアアッ』
 頭から突っ込む戦艦より数十人分ほどの悲鳴が上がった。舞い飛ぶあれはご自慢の砲身、これは巨大化した回転鋸、そっちは高速ダッシュのための脚。
 プレハブ小屋みたくバリバリに剥がされてゆく憐れなグレート・デッカイザーは、その本領を発揮出来ぬまま一体ずつへ戻され始める。
 高く吹き上げられ奇跡的に無事に着地までこなしたとしても、損傷個所から内部へ入り込んだ電流が彼らのセンサーを狂わせていた。よろ、よた、鏡の力がなくっても足取りは覚束ない。
『あれえぇ……こっちに、敵が、いるよ』
『からだがうごかない……』
 嵐の最中に無傷の男が佇んでいるのがうっすら見える。
(「――ああ」)
 新しい表情、と第一に類は思った。こんなに激しい雷も魅せてくれるのか。

 隣に立ち戦うほどにライラックの世界の一端を覗けているようで、そのわくわくはテーマパークにも匹敵するようで。
 弾む足取りは身を軽くし、突っ立ってないで相乗りしなきゃ損だよ、なんて射程圏外にて銃火器を構えていた数体を駆け抜けざま類は光の中へと蹴り入れた。
 瓜江の風が送り届けを後押しする。
 と、お次は類本人ではなく彼の絡繰りと目が合った気がするライラック。真似たウインク、は、つい両目いっしょに瞑ってしまったから、照れ隠しに眼鏡を押し上げてちょいちょいと指二本だけ曲げた。
 そんな所作のついでに呼ばれたらしき雷が数本、落下地点に身を隠していたロボを灼き、地を揺らしたのちに嵐へ合流し光量を足す。
「はは! 他じゃ無かった催しだ、昼と夜とが逆転した眺めだなぁ」
「嬉しいな。貴方がたに気に入って貰えたなら」
 まだまだ、まだまだ。――期待に応えて、綴るとも。
 派手で過剰な演出と、僕達の輝かしい結末を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
蟹なのか、芋虫なのか
要は火事場泥棒であろう

師父も資材にされかねんと?
師父の顔があしらわれた建造物や物品
空想し、振り払う
…成る程、万死に値する

師に近付くものを蹴転がし斬り捨て
指――鋏一本とて触れさせぬ
剣弾く個体は無敵防御と見て

そら、貴重な「資材」だぞ
身を屈め、あえかに輝く右角示し釣る
動き出した瞬間、腹部を狙い【雷帝】放つ
阿呆め
我が師を建築材などにすれば
夜な夜な呪詛を吐くだけではすまぬぞ

む…俺は常に真剣であるのだが
ああ、しかし連中の、この装甲
引き剥がせば「あとらくしょん」とやらの
一時凌ぎの補修にも使えるやもしれぬ

狩る側が狩られる側へ
屍人へ手向ける見世物としても悪くなかろうよ


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
転がる腐肉を遠い目で見て
あー…成程、そう来たか
蟹でも芋虫でも構わんが
彼奴等に私を欠片たりとも渡してはならんぞ?
…おい待てお前何を想像した?

ええい然し数が多い
少しでも手数を減らすべく
高速詠唱の要領で魔方陣を描き
【雷神の瞋恚】にて機械共を穿つ
広範に落とせば一機や二機と云わず動けなくなるであろう
ええい合体なぞ小賢しい!
間髪入れず魔術を見舞う事に集中
ふふん、周囲を気に留める必要はない
私に寄る不敬者なぞ、ジジが黙っておらぬでな
それに私が派手に暴れ回れば彼奴の負担も減るに違いない

おい、そろそろ戻ってこんか
杖で小突くも、零れた提案に瞠目
ふむ…であれば、善は急げだ
使えそうな資材を集めるぞ




「師父も資材にされかねんと? 確かにそう言ったのか、貴様ら」
「あー……成程、そう来たか」
 デッカイザーの口上、そして転がる肉入りボックスを前に険を帯びるジャハルと遠い目をするアルバ。
 輝石に価値を見出す不届きものはこれまでにも数多く湧いたものの、こうも面と向かって宣言されれば笑えてくるものもある。更には間抜けな火事場泥棒ときた。
 命ずるより早く前へと歩み出る逞しきジャハルの背が、我彼を遮る。それこそ、欠片ほども案ずることはないとして。
「蟹でも芋虫でも構わんが。彼奴等に私を欠片たりとも渡してはならんぞ?」
「無論。…………」
 言葉を続けかけたジャハルが不意にその先を途切れさせた。
 イメージしてしまった。アルバの顔があしらわれた建造物や物品? なんだそれは。
 塒の敷居を跨げば足元から「ジジよ」怪我を隠したつもりでも物陰から「ジジよ」粗相をすれば四方から降りかかる「ジジよ」――。
「……成る程、万死に値する」
「……おい待てお前何を想像した?」
 頭を振って空想を払ったジャハルはその勢いのまま、踏み込む。指――鋏一本とて触れさせぬ、誓いは何れにしても揺るがない。
 飛来する砲弾を滑らせる黒剣で撫で斬れば左右へ分かれさせ、瞬間に立った爆炎へ我が身を溶け込ませる。
 煙を突き抜けたそこでセンサーを必死に起動させているデッカイザー、その顔面を頭盾から蹴り転がすのだ。「そら、貴重な"資材"だぞ」生まれつきの左と異なり、賜りしあえかに輝く己が右角を見せつける。欲しくはないか? 欲しいだろうとも。
『ほしい! ちょっと割れてもいいや!』
 釣られてジャンプするデッカイザーは回転鋸を振り竜に対し腹を晒した。掛かったと紫電放つは右角、そのものが、その装甲の及ばぬ肉へ雷撃を撃ち込む。
 ――!! 声にならぬ叫びとともにグッと身を縮こまらせるロボであったが、もうひとり。前でジャハルが戦うならば、後ろでアルバも戦っている。
「まだ足らぬな?」
 遠慮はいらず、大胆にして敵もおらず。高速で描き上げた魔法陣より直上へ雷雲を呼び起こしたアルバが、天指す杖を前へと振り下ろす。
 刹那。雷神の瞋恚がより膨大ないかづちの姿をして降り注いだ。

 狩る側が狩られる側へ。
 屍人へ手向ける見世物としても悪くなかろう。と、光る嵐を絶景と捉えた黒目がひそやかに彩を増す。
『わわわわわ、わ!』
『合体だ! ぺしゃんこにして再利用してやる!』
 一方慌てふためくデッカイザーズ。
 ジャハルが傷付けた個体を初めとして兵器を出し攻撃姿勢にあったものから順に灼かれる中、辛くも合体変形を果たした戦艦はその直撃を躱さんと右へ左へ蛇行する。
 が。
 直撃こそせずとも地面伝いで這い上がる雷電流は大きな破壊をもたらす。
 それが腹這いの機械虫であれば尚のこと。落雷の閃光で一瞬真っ白に色飛びしたグレート・デッカイザーは、有効打も打てぬまま、直後には物理的にもバラバラに剥がれ飛ぶこととなった。
『うわああぁぁァァ!』
『もう一回だ! 僕たちはまだ、 』
 そこを、
「翼を授けられたようだな」
 過ぎる影。薙ぐ、爪。
 爪に似た黒の剣。着地待たずして閃けば衝撃で生まれた歪みを断ち、腹側まで抜けて虫を両断せしめる。影踏み興じるようにもアルバの用意した戦場を駆け回るジャハルは、ときに連中を光の柱の中へ蹴飛ばしながらその力を発揮する。
 すべては主のため。デッカイザーたちが失ってしまった"だれかのため"を原動力にしている男がここで譲る道理はひとつもないのだ。
 よたっと物陰へ隠れようとする一体も取り零さず、ふたり同時に繰り出す雷光が重なり突き立った。
「ふん」
「口ほどにもない」
 これにて動くものは粗方排除出来たか。
 役目を終えた魔法陣がこれまた不思議な魔法みたく掻き消えてゆく傍ら、消し炭状態の遺骸を見下ろしジャハルは息を吐いた。払ったつるぎを収める。
「……阿呆め。我が師を建築材などにすれば、夜な夜な呪詛を吐くだけではすまぬぞ」
 言い捨てたなら今だって、空想の中のアルバはずもももと迫ってきて――――。
 コンッ。 側頭に感じた僅かな衝撃にそれが現実であると思い至ると、目元を揉み解すジャハル。「そろそろ戻ってこんか」小突くため使った杖を下ろしたアルバは、弟子にも他にはまともなダメージが入っていないことを見て取れば、煤の類を軽く振り落として襟を正した。
「む……俺は常に真剣であるのだが。ときに、師父よ」
「内容次第だ」
 牽制を刺されたジャハルはたらりとなった自身の尾を踏まぬように屈めば、転がる金属片のひとつを掴み上げた。それは群デッカイザーたちの装甲の一部。破壊し尽くされても形を残す様から見ても、頑丈さに関しては折り紙付きだ。
 これは。
「"あとらくしょん"とやらの一時凌ぎの補修にも使えるやもしれぬ、と思うのだ」
「ほう?」
 こやつまた何か拾っているぞと横目にしげしげ眺めていたアルバもその提案には瞠目する。
 悪くはない。むしろよく考えたものだと。 ならば善は急げ、だ。
 自前の宝石をひとつ握り壊して手足持つ幻影を呼び出せば、離れた先へも顎で遣わすアルバ。そして自身は軽く袖まくりして切れた外灯へ魔術の揺らぐ炎を灯した。
「手短に済ますとしよう。この後の予定も詰まっているのだからな」
「ああ。それが良い」
 ジャハルは大きな残骸を進んで押し上げては、予定、つまりは先刻目にしたこーひーかっぷなどでぐるぐるされるアルバを思い描いていた。
 とてもたのしそうだ。同じ空想するならば、やはりそちらの方がずっと良い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天音・亮
有頂(f22060)と

楽しかったねぇ
ひゃーでっかいダンゴムシ!
虫?平気平気!

ダンゴムシさんこっちこっちー、一緒に遊ぼう!
じゃじゃーん!手の平に乗ります球体は最先端技術を駆使して造られた音響増幅器AIのアドくん!電子のお顔がキュートでしょ?
この子はこういう使い方も出来るんだよ
そぉれハイパワー竜巻~!

吹き飛ばしたと思えば次には同士討ちを始める虫達
有頂の技だって知ってるからこの隙に
あっおかえり有頂!幻術すごいねぇ
さ、もうひとっ走り行きますか!

再び蹴って蹴って蹴りまくり
ハイ有頂こっち向いて~!
オーラ防御してくれてるからって余裕ぶっこいて
ダンゴムシご一行と一緒にアドくんカメラで記念撮影

笑顔満開、蹴り炸裂


日東寺・有頂
亮さん(f26138)と

あ〜〜勝負にゃ負けたが臭キモ楽しかった!
さてゾンビおらん間の泥棒ダンゴムシけ。
蟹挟つき。
などと素早く物陰潜んで覗っとーオイです。
フレッシュ(肉じゃ無か)ビューティーがアドくん旋風巻き起こしてくれよー隙に
化身忍者は霊力的なアレをニンニンして幻術発動。
一気に何体か操れたらばしめたもん。
僕達の邪魔をしないでよ〜!言うてホレ。ワイ(お前)らの邪魔モンば攻撃回数MAXで駆逐せんね。
ある程度片付いたら飛び出し亮さんと背中合わせでナイフ手裏剣乱れ投げサバシュで蹴り倒し蹂躙すっと。
亮さんへの攻撃はオーラ防御で仕事きっちり庇うとよ。
ん?カメラ?
ハ〜〜イポーーズ!




 ちょっとジョギングでひと汗かいてきましたみたいな爽やかさで両手の指を組んで、うんとひと伸び。
 軽くその場でジャンプすれば流れる金糸を払う手が、さらりと風になびかせた。
「おまたせ。始めよっか? ダンゴムシさんは準備運動へーき?」
 亮の瞳は挑戦的にもデッカイザーを見据えている。わくわくがその彩を深めさせていた。ゾンビも楽しかったけれど、でっかいダンゴムシも蹴り応え抜群そう!
 対するデッカイザーはといえば、ひとりきり堂々道を塞いで相手取らんとす女に警戒を露わにする。
 協力者は? 目元の赤は明滅し探知を急いでいるようであるが。おそろいだねぇなんて笑う亮は右てのひらにぽむぽむと、球体を弾ませていた。 ピピ、ピ。電子音を鳴らす。それは機械だ。
 ――じゃじゃーん! 最先端技術を駆使して造られた音響増幅器AIのアドくん! お顔だってとってもキュートだぞ。
『む……』
『なんだなんだ、僕たちの方が高機能だぞ!』
 謎の対抗心に火が付いたらしい、しきりに蟹鋏をカシャらせ寄ってくる虫ロボに「いやいや」と亮。
 チチチ、わかってないなぁ。
「この子はこういう使い方も出来るんだよ」
 告げれば空へとポイッとな。釣られて視線を上にずらすデッカイザーたちの目の前で、光が弾けたかと思えば同時に急激な嵐が巻き起こった。爆風? 爆撃、さながらその着弾点。 ユーベルコード、クライシスゾーンが可能にする超次元の変換はひとつの手乗りサイズ機械を膨大な竜巻へ変じさせていた。
 そのときのアドくんが発した輝きはそれはもう、第二第三の太陽のようであったとか。

(「ぷぷぷ……おチョロ御座いますなあ」)
 そんなやり取りを物陰から眺めていたのは協力者、こと有頂。ハデハデなルックスでいて化身忍者たる男は気配消しなどお手の物で、たとえセンサーに捉えられたとて常ながらの雲の上を歩くかの足取りでぬらりと凌いだだろう。
 けれどもこれは都合が良い。
 フレッシュ(肉ではない)ビューティー・亮とアドくんに心の中で感謝しつつ、己の仕事に取り掛かることにした。
 竜巻にもみくちゃにされ、台風時の網戸みたいにばったばた装甲を開け閉めするデッカイザーズへ全意識を集中しての――忍法、操るやつ。触れもせず、また音もなく、俄かに細めた眼差しに籠められし霊気が金縛りよろしく突如機械の身を縛り上げる。
『わ、ぁ?』
『おいお前、 どうした……やめ』
 やめろ! 叫びたくもなろう、同型機に前触れなく斬りつけられたのだ。機械は誤ることなくプログラムを実行するもの、そこには当然同士討ちとそれにまつわる対処のコードなぞ存在していなくて。完全に意表を突いた攻撃はダイレクトに真っ二つに通る。
 その一件を皮切りに複数個所で同時にバトルロイヤルブームが巻き起こった。ガチンッ、ギギッと機械同士が奏でる肌寒い金属音に黒板消し現象で片耳を塞ぎつつ、小走りに有頂は亮のもとへやってくる。 片手に引き摺って盾にしていた虫が流れ弾に弾け火花を上げた。あーおそろしや。
「ひゃあ~、こいはまた痛そな絵面の山でして」
「あっおかえり有頂! 幻術すごいねぇ」
 亮の近くまで吹き飛ばされてきていた瀕死の個体をさしたる感慨もなく蹴転がした有頂がスペースを確保すれば、ちょうどふたり背中合わせの構図だ。
 帰りをにこぱっと惜しみなき笑みで迎えた亮もまた、もうひとっ走り、彼が作ってくれたこのチャンスに! と、振るは手でなく脚、向ける先は友ではなく敵、soleilによる斬撃めいた蹴りを閃かせている最中。
『うぐぐぐ……変な技を使いやがって! どっちの仕業だ!』
『まて二百四十七番、出過ぎるな!』
 ムードとフラグたっぷりのやり取りはいくらでも大歓迎というところ。
 どっちやったけ? んーどうでしょう?

 ――ここまで来れたら教えてあげるね、
 なんて、語り口こそバラバラな声が楽しげにふたつ揃った。

 蹴撃と手裏剣ナイフの乱れ咲き!
 襲い来るデッカイザーの頭盾を蹴りつけ宙返りからのムーンキック、蟹鋏を打ち下ろしつま先でコード類を刈り取る亮が曲芸師なら、隙間という隙間から暗器を引き摺り出す有頂の姿は手品師か何かだ。
 キキキキキ、と回転鋸と弾き合うそれも本命は別。
(「前にしか目ぇついとらんの不便ね」)
 相手の更に後ろに控える操り人形に、本命、砲弾のひとつを至近で叩き込ませてやればいい。
 くいと指を引けば爆音が弾けた。
 熱とぱらぱら吹きつける金属片を頬に感じては、有頂が他へと目線を流しかけたとき――。
「ハイ有頂こっち向いて~!」
 不意に。
「ン? はぁい?」
 亮が明るく声を上げる。
 亮の手の中、またもや転がるアドくんが瞬くみたいにピピと光っていた。遊園地。なかよし二人組。ショーの最中。こっち向いて。導き出される答えは、つまり。
 ――はいポーズ!!
 記念撮影に写り込んだのは笑顔全開蹴りも満開でオイルの花咲かす亮と、無駄に無駄でない超反応で上体だけ捻じれさせ映えバッチリに指に手裏剣挟んだダブピ有頂。
 さながらショーの悪役担当スタッフ、目線はカメラへ両脇からの攻撃に派手にひしゃげつつ吹っ飛ぶ、サービスのなんたるかを解している虫ロボであった。

「……あ」
「あ?」
「ゾンビとも撮っとくんだったなぁって」
「なはは、いくらでもオイがゾンビ役やらして頂きますやん!」
 ホント忍者ってなんでも出来るんだねぇ、なんてまたひとつ夢の膨らむ夜。――蹴られたい願望も合法的に叶ってWin-Win? なんのことだか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三咲・織愛
ネネさん(f01321)と

私達はアトラクションの方へと散らばった個体を倒しに行きましょう
せっかくのアトラクションを潰させる訳にもいきませんし、
肉塊に変えられる訳にもいきません
ばらばらに潰してやっちゃいましょう!

ネネさんの手を取って走ります
敵を見付けたら手を離し、目配せてから私は先へ

愛槍ノクティスを構え、相対しましょう
時間を掛けずにいきます
敵からの攻撃は見切りと武器受けで対処を
ネネさんへ目が向かぬよう私は目立つ立ち回りを心掛けます
力を溜めて怪力で串刺し、そのまま敵に敵を叩きつけていきましょう

硬い敵には腕が鳴るんですよね
最後は拳で一撃必殺です!


藍崎・ネネ
織愛ちゃん(f01585)と

遊べなくなったら、困っちゃうものね
織愛ちゃんが怪我しちゃうのも嫌なの
ばらばらに潰してやっちゃおうなの! おー! なの!

織愛ちゃんと一緒にアトラクションにいる敵を探すの
見付けたら、一旦織愛ちゃんとはお別れなのよ
私は遠くから見つからないように支援するの

ユグルの黒い鎖を展開して、影に紛れて地を這わせるの
死角から暗殺攻撃をするのよ
素早い個体がいたら鎖を絡めて足止めするの
織愛ちゃんを狙う敵は許さないんだから

もし敵が向かってきたらユグルを戻してオーラ防御するの
織愛ちゃんには敵を攻撃しててもらうの
足手まといにはならないから、大丈夫なのよ
やっちゃえー! なの!




 転ばないように。はぐれないように。
 並んで、同じものを見つめ笑いあえるように。
 つないだ手は、きっと、いつかの園内にも溢れかえっていた平和と幸せの象徴であった。
 織愛の手はネネの手を大切に包み、ネネも回りきらない指でけなげに握り返す。アトラクション側へと入り込んできたデッカイザーたちを追ってふたりは薄暗い遊園地を駆け抜けてゆく。
 前方に列の最後方が見えた。向かう先は小型自動車乗り場であろうか、遊戯用と分かるアニマル顔が描かれた車の姿も疎らに見つけられる。
「これから、またすこし離れることになります。ネネさんには私の背中をお任せして良いですか?」
「うん。だいじょうぶだよ、織愛ちゃん。さっきみたいにうまくやるの」
 壊されて遊べなくなったら困っちゃうもの。織愛ちゃんが怪我しちゃうのも嫌、だから。
 ――ばらばらに潰してやっちゃいましょう! ――やっちゃおう!
 おー! 心意気も新たに微笑みあえば、指こそひととき離れるけれど、怖いものはない。

 ノクティス。
 名を呼ぶと、駆ける主の重荷にならぬようにと暫し本来の姿に戻っていた藍色竜がひと鳴き応じて、ふわりと星屑舞わせ織愛の手へ収まった。
「また、お願いしますね」
 その柄を撫でつけるみたいに指を沿わせ、潰れた車体から外れ落ちたタイヤを足場に大きく跳躍した織愛はぎゅっと握り直せば直後、例の最後尾へ殴りつけるように槍を叩き下ろす。
『――ぁ!?』
『出たっ、 』
 猟兵――――!
 そんなシンプルな強襲も持ち前の怪力が合わさればクレーターを刻む。
 皆まで言わせてもらえず吹き飛ぶ奴らを捨て置いて先頭を目指す織愛。ちょうど一台のマシンへ回転鋸を沈ませようとしていた現場リーダーと思しきデッカイザーは、次々に跳ね飛ばされる同型機にびくりと鋸を引っ込めた。
「私は!」
 目が合った、とみれば織愛は声を張り上げる。
 強く心が望むからその身より溢れ出す光は聖者由来のものであり、照明の絶えたあたりへ白く輝きを散らす。
「こうして道具無く眩しく出来たり、 」
『くそぉいきなりなんてひきょ』
 よろよろ、傷だらけでようやっと持ち場へ戻ってきた個体を再び殴り飛ばす豪鬼の右ストレート。
「こうやって、ドリル要らずの拳も持っています。そこの車よりもきっとずっと役立ちますよ?」
 それは売り込みだった。
 デッカイザーの関心を他の何でも、誰でもない、ひとまず自分へ引き付けるため。

 それでは後方で嵐に巻かれたものたちはどうなったかといえば、未だ織愛には追いつけずいる。
 ユグルの黒い鎖。可憐な見た目からはとてもそんな馬力は無さそうだというのに、ダイヤのチェーンは彼らの脚に胴に魔法みたいに絡みついて引き倒す。
「ごめんね。今ね、織愛ちゃんはおとりこみ中なの」
 こてと首を傾げながらネネは呟いた。ロッカーの陰に身を隠す、そんなネネの存在を未だ知覚出来ていないデッカイザーたちは右へ左へと身を捩り姿を見せぬ暗殺者の気配に震える。
 どんな大男がこの鎖の先を握っているのだ?
『ぅギギギ……ええい、取り分は減るけど全部壊しちゃえ!』
 がぱん、と、痺れを切らした一体が背の装甲を展開すれば他の個体も続々それに続く。
 爆弾を炸裂させて鎖もみんな千切っちゃおう、そんな魂胆であったのだろうが、しかし。いきものみたいに波打ち揺れた黒鎖はすれ違う影の如くに枝分かれし、真上に投げられた爆弾をもひと巻きで絡め取った。
「だめ」
 織愛ちゃんを困らせちゃ、だめ。
 ネネの指が下へとなぞれば鎖も下へと――つまりは開かれた背の内側へと――動き、発火装置の解除された爆弾を押し込んで解けた。
 ゴオッ!
 と、今度こそ文字通り弾け飛ぶデッカイザーズ。爆発の瞬間閉じられた装甲は彼らではなく周辺の被害を減らすためにだけ機能してしまい、ゆえにあたりは意外にも綺麗なものだった。
 怪我はないだろうか、念の為覗き込んだ小型自動車の顔は淡いピンクの長耳うさぎ。なんだか彼女のことを連想してネネの口元がふっと緩んだとき、その彼女こと織愛がパッと現れてネネを引っ張り上げた。
 どこへ? それは勿論、車上へ。

 メインターゲットが子どもとその親兄妹なのだろう、カートはペダルを踏んでハンドルを握るだけで運転が出来てしまう新設設計だ。この世界らしいというか最高速度が異様なことを除けば。
 ゆえにデッカイザーのような無駄に手足の多い生物も乗りこなせてしまったりする。そちらも明らかにイレギュラーであるが。
『いえーいこいつは頂いていくぜ! だよー!』
「いいでしょう、あなたもリーダーさんのようにして差し上げます!」
 ふたり乗りの座席の隣へネネを降ろしてあげた織愛は、すぐさま両手で大きくハンドルを切る。ガララララとけたたましく回転するハンドルを見つめ、そして織愛を見つめ、ネネはぱちくり。
 時を戻せば数分前、己が価値を示してみせた織愛は釣られた現場リーダーがかさこそ寄ってきた途端にそこまで溜めていた力と諸々をフル動員、頭盾もなんのそのの刺突を見舞ったのであるが。
 おそれをなした一体がカートへ飛び乗り逃走を図ったのだ。そうしてすぐさま後を追い手近な一台へ乗り込んだ織愛との間で、この突発レースが始まったということである。
「凄いの、とっても速いのよ!」
「しっかりつかまっていて。それから、出来るだけあの車も傷付けずに残したいので……ネネさん」
 アクセルがベタ踏みされ加速する景色。
 頼ってくれているのだと感じネネは二度、三度と多めに頷いた。
 念じ、鎖を這わせる。影へ――影を渡って、前ゆく車体のその腹の真下へ。「始めるね」そこからタイヤを巻き取る形で強引にスリップさせるのだ。
『にゃにイィィィ!?』
「やっちゃえー! なの!」
 ぎゃりぎゃり地面を削って滑る車体からデッカイザーだけが投げ落とされる。即座に鎖は周囲の壁へピンと張り巡らされ車を安全に停止させ、ふたり乗りの操縦席からは一本の鈍器が振り抜かれた。
「あなたの敗けです」
 首刈り鎌、とかそんな感じのネーミングが相応しい、輝く織愛の右腕であった。

 バツンッ。

 すり抜けざまに屠られたデッカイザーはコースのシミと化す。
 ゴールまでのドライブは「私にも運転できる?」「勿論ですよ。代わります?」勝ったふたりだけのもの。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

佐々・夕辺
ロキ【f25190】と

もう!さっきは貴方のお陰で散々な目に遭ったわ…!
囲まれるし!おばけだし!頭を撃ったら大人しくなったけど!

いい?もうあんなのは……って、あー!?
オブリビオ…あああああ!?
(資源「肉」を見つけてしまった)

も、勿体な……じゃなかった
いやああああ!! ろき、ロキー!!
(後ろに隠れ)
前にいて! 巻き込まないって約束するから!!
盾じゃないわよ、頼りにしてるのよ!

妖狐疾走で囁きを蹴り上げ、相手に蹴りつける
動揺しているからちょっとくらいロキを巻き込むかも知れないけど
まあ…さっきの仕返しと思えば…まあ…ね?

持って帰られるとかやめてよ!
私はまだブツ切り肉になる予定はないわよ!


ロキ・バロックヒート
夕辺ちゃん(f00514)と

いやーゾンビ片付いて良かった
えー散々?面白かったじゃん
やっぱ銃とか持ってきたら良かったよねぇなんて

あーヤバイ方のお肉だ
おっと
また背に隠れてくれるのは嬉しいんだけど
これ盾って言わない?
あと夕ちゃん痛いー当たってる
仕返し?なーんにもしてないのになぁ
向こうの攻撃も痛いんだけど

でもあのデッカイザーとかいうのめっちゃ可愛くない…?
一体持って帰って飼ってみたい…
あ、でもこれ俺様達逆に持って帰られそうだね?
あはは

こーいうカタチの子って大体お腹が弱かったりしない?
さっき流した血を代償に
影を使って下から押し上げて
ひっくり返っちゃえ!
起き上がれなかったらめちゃくちゃカワイイんだけどなぁ




 さっきはもう散々だった、とは夕辺。
 ゾンビのお出迎え。遭遇時から撃退完了までがピークとしても、隣の男が腐肉塗れの斧を何食わぬ顔で袖に仕舞い始めるあたりなんてのもさいあくだった。
 そう? 面白かったじゃんゾンビ片付いてよかったねーってにこにこロキ。ぽかっ。いたいよ夕ちゃん。
「この辺も薄暗くて不気味だわ……」
「あ、たしかに。明るくしたげる」
 指くいくい、ちょっと照明をつけるみたいな軽さのロキであるが、天から降らせるものは破滅と狂気の光だったりして。ともあれ一瞬あたりはまばゆく照らされた。 ――そうしてふたりは気付く(うちひとりは先に気付いていた節もある)。
 周囲に転がる、赤黒い水溜まりに浸った箱。

 饐えた血の香り。

 すん、と鼻を鳴らして"中身"を嗅ぎ分けた夕辺はすぐに表情を険しくする。
 しってる。これ、肉だ。ひとの肉。
『――ふふふふふ! 掛かったな人間、ここは僕たちが占領済みだよ!』
「――ぁああああ!!? もったいな……じゃなくてろき、ロキーッ!」
「ぅおっと」
 手に手に兵器を掲げて飛び出すデッカイザーたち!
 ほぼ同時、ずざあっと土煙上げ自分の後ろへ駆け込んできた夕辺に、今度はなんとか地面を踏みしめよろめくことは耐えたロキ。可愛らしい悲鳴で頼ってくれること自体は嬉しいのだけれど。
「これ盾って言わない?」
「そんなこと……頼りにしてるのよ! 巻き込まないって約束するから!! おねがい、前にいて?」
 実際の狐であればきゅーんとか細い鳴き声もセットであったろうか。
 だが夕辺は妖狐であるし、精霊術士である。きゅーんすると同時に足癖はそこそこ悪く、周囲に満ちる精霊たちの囁き――彼女には当たり前のように聴こえている力持つ聲――を、蹴り上げている。
 シューズのリボン結びを躍らせ、ズガァッ、と色帯びる風が波立ったなら触れれば凍てる氷の地獄だ。
「ぅわさむっ」
「心頭滅却なんとやら!」
「それ俺様が言ったら怒るやつじゃーん」
 似合わぬ精神論のようなことを口走り始めた夕辺の力に敵もろとも巻き込まれ、ロキの肌にはぴぴぴと細かな裂傷が走る。衝撃波に氷片でも混ざっているらしい、ひとつ空中で摘まみ上げては「よく出来てるけどさ」としげしげ。
 ふぅ。
 蝋燭の火みたいに吹き消すと、ちょうど敵方の一体のランプもカションと落ちたところ。衝撃と、寒さもあって部品不良を起こしたのだろう。かわいそうに。
「まあ……さっきの仕返しと思えば……まあ……。ね?」
「仕返し? なーんにもしてないのになぁ。んであっちは痛いし。もー、俺様挟んで喧嘩するのやめてくんない? 神様かっての」
 背に氷の刃なら、ぺぺぺぺぺと盾もといロキの前面に撃ち込まれるのは散弾の雨だ。
 右から左から好き勝手押されて引かれて、板挟みなんていつになってもつらいもの。ロキ自身以上にその影が耐えきれませんってな様子で伸びだしてデッカイザーズ前列を足元から押し上げた。
「ってことで、神罰だ。 なんてね」

 こーいうカタチの子って大体お腹が弱かったりしない?
 仮説、からの検証。
 電磁の防護は一応は腹側にも及んでいるようだが、脚など動いてなんぼのパーツがくっついているせいかやはり薄めではあった。板挟みで流れた分の血を用いて影を制御するロキは、裏返った一同にふむふむと頷いている。
「……それもゲーム知識?」
「えへ。今度いっしょにやろうよ、手取り足取り教えてあげる」
 夕辺の獣耳はぱたんと揺れる。またなんか言ってるわ、とでも言外に。
 とりあえずはロキが見つけた弱点を活用し、屠るスピードを加速させてゆくのだ。
「でもこうしてよく見ると可愛いねぇ。うち来る?」
『なにをぅ! 僕らがお前らを持って帰るんだい!』
『えい、撃ち込め撃ち込め!』
「――何度繰り返しても、無駄よ」
 言葉の応酬と力の応酬。
 銃撃爆撃の類が衝撃波に一掃される度、オブリビオンの数もまた減っていった。
『かくなるうえはこのふかふかあったかそうな毛皮だけでも!』
「ええい触らないでって言ってるでしょ! 私はまだブツ切り肉になる予定はないの!」
 捨て身で飛び込んできた生き残りの蟹鋏と、負けるものかと踏み込む夕辺の脚とがしのぎを削る。だが、所詮は精密機器だ。兵器を露出しているせいでがら空きの背からは凍てる刃風が舞い込み、ぶちぶちとコードを切ってその機能を低下させてゆく。
「そうだね。ブツ切りになっちゃったら俺様まで退屈だし」
 と、ロキが突き上げた影が、総仕上げとなった。
 ぐるんと天地逆さにされた虫ロボは高きから落とされ真っ逆さま。凍り付いて閉めることの叶わぬ背甲を強かに地へ打ち付けて、中身を溢れさせた。
 ロキはひっくり返ったデッカイザーの傍らに屈みこむ。実は、ずっと気になっていたのだ。
「ねぇねぇ、ぼくたち自力で起き上がれるの?」
『なん、の……見てな! 僕らは凄い、んだよッ! ……』
 脚部はじたじた試して早々に諦めたらしいが、なに、荷物運搬用に搭載されたデッカイザーの手は背中にも回る構造だ。我こそがダンゴムシの進化系というドヤオーラ放ち跳ね起きたそれを、跳ね起きた瞬間に裏返して夕辺の風が吹き飛ばした。
「なにぼさっと見てるの、私がちょっと目を離してるとこうなんだから。ほら、もうひと頑張り働くわよ」
「ごめんごめーん、いてて鎖引っ張んないで」
 引き摺る夕辺、引き摺られるロキ。この場を後にする様はテレビゲームの電源を消す母と消された子のようである。
 そして消えたゲームの方は――、憐れにも、声無く過去へ失せるのみ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

矢来・夕立
黒江さん/f04949
◆その場

使い古しの重機も守備範囲ときた。
じゃ、テキトーに一匹殺してもらっていいですか?
隅とか、袋小路とか死角になりやすいところでお願いします。
バラバラにして餌にするので。

…はい。白旗でーす。
資材を渡しますから命だけは助けてください。
機械類のパーツでしたらたくさんあります。
こちらの角までどうぞ。――…今から、もう一匹分増えます。良かったですね。
【竜檀】。
持ち“帰って”よいと、誰が言いましたか。

こんなのに引っ掛かるんじゃ、考えるまでもなくバカです。
電磁装甲を展開する前に斬れると思うんですよね。
展開後は押し切れないかもですけど、
そこは壊れやすいところを分かる人がやってくれます。


黒江・イサカ
夕立/f14904と
◆その場

んじゃ、僕らはこの辺で遊んでよっか
機械相手にするのってドライバーとかの方が絶対良いと思うんだけどなあ
ナイフしかないから仕方ないね
それでは、ご要望にお応えしまして
ちょいと失礼おひとりさん 随分素敵なハサミだね
UC使ってちょっともいじゃおっと
…それにしても、餌って何?

……
わー ひどーい ゆうちゃんのオニー カワイソー ケチー
折角貰えると思ってこっち来たのにねえ
まあ、ちょっとした物取りゲームだよな
みーんな物資が欲しいんだもん
しかも機械って壊れやすいし
こうやって、ちょっと隙間に刃を入れて、もう一発中に入れてやればさ

機械って、叩けば直る角度もあるけど壊れる角度もあるよね はは




 じゃ、テキトーに一匹殺してもらっていいですか?
「あれを?」
「あれを。バラバラにして餌にするので」
「へえ」
 それでは、ご要望にお応えしまして。
 ちょいと失礼随分素敵なハサミだね、物陰、他の猟兵への狙撃で必死であったデッカイザーに対し、歌うみたく躍りかかったイサカが夕立のおねがいを叶えるのはとっても簡単で。
 なので、ふたりの足元には一体分のパーツがバラけて転がっていた。
「上等ですよ、ありがとうございます」
 もいでやった蟹鋏をかにかにしてやれば、そのへんに置いててくださいと一瞥限りの塩対応されたイサカは釣れないなぁと思いつつ。表へ向かう夕立の背を見送った。考えるのはお任せ、自分は箱の陰にでも引っ込んでおくとして。
 ――それにしても、餌って何?

「……はい。白旗でーす。資材を渡しますから命だけは助けてください」
 ひみつのやり取りから数分後。 白飛びするほど沢山のライトを一身に照射され、壁際に追い詰められて両手を挙げるのは夕立だ。
 取り囲むデッカイザーズはぎちぎちと鳴き警戒中。
『命だけ?』
『目は? 足はくれるんだよね?』
「それを先に渡したら案内が出来なくなります。機械類のパーツでしたらたくさんあるんです、こちらへ」
 ぐいぐい、眼鏡に触れそうなほど頭盾を押し付けてくる虫ロボからふいと顔を反らし、夕立は先導する。左右、恐らく背中にもだろう、突きつけられている銃口を心内で数える。
(「安く見られたもんだな」)
 たったの三か四で、"もしものとき"も制圧できると思われている。
 これが作戦ではなく相手が豆腐なのだったら、息吸う間も返上でバラしてやったというのに。 進行方向に例の曲がり角が見えた。勿体ぶって歩くスピードを落とせば、ひたりと背に触れた砲身が夕立の背をどつく。
『どこなんだよ? ウソなんて言ったら――』
「見えませんか? すぐそこです、破片が散らばってるでしょう」
 どっ、 と前へ押された夕立は突き当りの壁に手をつくことでごくごく自然に先を譲った。そんな男を気にとめず細かな破片を追い、虫どもがせっせと角を曲がればそこにはたしかに機械パーツが散らばっている。 同型機(餌)、という名の。
『な、 』
『これは、僕たちの――』
「ええ。――…今から、もう一匹分増えます。良かったですね」
 ヂギィッ!
 ふたつはほぼ同時に動いたのに、竜檀。至近・背後からの強襲は電磁装甲展開のいとまも与えず響いた。
 斬り込んだ夕立の手には一本の脇差、羽織に隠し持つにはぴったりな。
「持ち"帰って"よいと、誰が言いましたか」
『――ッ!!』
 デッカイザーたちはぱっくりとふたつに割れて爆発する同型機を見た。
 退路を塞がれている。 もう反対側は? 破片が、仲間がバラバラに転がっていて。そのもっと奥は?
 抜け道なのではないか、と考えたのだ。だが違った。『ひぎゅっ』情けの無い声を発し一番端っこの一体が何かに馬乗りされていた。
 した側であるイサカは、自分に注目が集まったことにすこし首を傾げた。そうそう、どうせ機械相手なら。
「ねえ。だれかドライバー貸してくれない?」

 みんな静かだ。
 残念ながら誰も持っていないらしいので、イサカはポケットを漁り折り畳みのナイフを起こすことにした。
 携帯に適した簡素で軽量な形状だけあって、薄めの刃は閉めかけ装甲間の微かな隙間からも入り込む。
『ぅ、ギ゛ッ』
「餌かあ。なるほど、餌ねえ」
 パキン、
 その状態であえて一本へし折ってスペースを確保すれば、まだまだスペアのあるイサカは別な一本を逆手に回し持って悠々と突き入れた。一本目よりもっと深くへ。確実に。ゆっくり。終わらせるそのときは、何れにしたって穏やかで満ち足りたものであるといい。
 ゴツゴツとした兵器類が所狭し詰まっている中、指の延長のようなナイフの切っ先がこれと選び取ったものは二色のコードであった。なんだか時限爆弾っぽい。
「赤と青、君ならどっち切る?」
『やめて! どっちもやめ』
「両方」
「欲張りになったよなあ」
 間髪入れずの夕立の返しにイサカは肩を揺らして笑った。
 笑った弾みでついつい刃が進んじゃったみたいな、そんなあっけのなさで彼らにとっての動脈静脈は断ち切られた。
 手元まで静かになる。爆発は起きない。
 ――考えるまでもなくバカ。こうも綺麗にウソに引っ掛かるとは。 沈黙を破ったのは夕立で、言い捨て敵を見る眼にはある種の憐憫が浮かんでいる。
「守備範囲の広さがアダになりましたね。俺なら手を出しませんよ、こんな二人組」
「わー ひどーい ゆうちゃんのオニー カワイソー ケチー」
 折角、貰えると思ってこっち来たのにねえ。
 間近に噴き出すオイルをどんなもんかと見下ろしていれば、ばっちいですよ、と夕立がノーを口にするのでイサカも身体を反らせて別個体へ向き直る。今は目の高さより低い位置にある赤いランプがチカチカ、ギラギラ、ざわついている。
 高架橋から眺む夜景が過る。
 だから、軽々と身を投げ出した。
「ほら。バカは道を譲ってください」
「ハハッ、そりゃゆうちゃんからすればバカばっかかもしれないけどさ、 」
 軽々。やりやすい個体を探してデッカイザーらを踏み走るイサカ、彼を追って攻撃せんと背を向けるロボを更にタイミングをずらし斬りつける夕立。
 見様によってはふたりきりの追いかけっこだ。終点でイサカはくるりと身を反転させ、彼らだって必死なんだぜ? なんて。慌てて飛び出してくる回転鋸を"みて"避け、開かれたそこへ入れ替わりに、今一度腕を突っ込んだ。
「みーんな物資が欲しいんだもん。そのちょっとした物取りゲームに負けただけ」
『くそぉ! はなせ、はなせ!』
 ぐるり、ずるり。
 まるくくり抜くみたいに手首捻って探す適正角度右斜めなんたら、寝かせられたナイフの腹がくいっと引き摺り出すコードの束。ピガガとエラー音を吐き出しながら見上げてくる存外つぶらな瞳と目が合った。
 機械って壊れやすいよな。――そういえば、
「本人? 本機? に聞いてなかったや。痛くない方がいいね。どっち切ってほしい?」
「オニー カワイソー」
 イサカはまた笑ってしまった。少年の声真似がひとつも似ていなくって。
 ああ、ほら、みて。切れちゃったじゃない。 君のせいだぞ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鹿忍・由紀
ここのマスコットキャラクターってやつ、では無さそうだね
見た目のおかげでまさに害虫って感じ

アトラクションを壊そうとしてる方を片付けに
ひとまず敵の意識をわざとこちらに向けるよう隠れずに向かう
気付かせるよう声も掛けたりして挑発
お仕事お疲れ様、横取りしに来たよ

攻撃態勢になってくれたらこっちのもの
高速移動で回避しながら展開した装甲内を絶ち切る
弱点晒さないと攻撃出来ないなんて作りが甘いね
おかげでこちらとしては楽で助かるよ

小回りを利かせつつ敵の攻撃射線がアトラクションに向かないよう立ち回る
面倒だけど難しいことではないからやってあげる
少年達の憧れなんてちっとも気にしてないけれど
無碍にする理由も特にないからね


臥待・夏報
まいったな……。機械類は苦手なんだよね。
ダンゴムシかなこれ。妙に可愛いのは否定しないけど。
だって、ほら。それは「感情」じゃないだろ?

ま、帰っていく子たちがいるならそれを狙おうか。
背を向けて移動中なら隙もできるだろうし、外へ向かう群れ相手なら他を巻き込む心配も少ないし。
……『他者の血』なら、さっきの住民たちから存分に確保できるからね。

さて、
仲間外れは誰なのか。

『内臓を抜かれた牛の真実』を荒野に描き拡げ、ダンゴムシくんを射程に捉えたら
防御が落ちた瞬間に呪詛の炎をきっかり三発。
無機物には効きにくいんだけど……ここまでやれば、有効打にはなるでしょう。

……君たちには。
餌を持って帰るおうちがあったのかな?


朱酉・逢真
おやまあかわいらしいこと。先に見つけたのはそっち、一理ある。この肉を渡して済むなら渡してやったってかまやしねえんだが…ざんねん。てめぇらオブリビオンなんだものなぁ。俺は猟兵だから、退治にゃならん。
赦せたァいわんからよぅ、死んでくれや。電力が欲しいってんなら、くれてやるからさ。
稲妻を走らせよう。こいつァまともなカミナリじゃねえ。狙ったところにしか落ちねえし、何より当たればヤケドだけじゃなく腐らせるのさ。
そんなんだから充電にゃ使えねえんだが…ちょうどいいだろう? 電力として吸収できねえってことだからさ。
アトラクションにゃ当たらんよう気をつけるよ。俺への攻撃は眷属を肉盾にして防ぐ。




「ダンゴムシかなこれ」
「おやまあかわいらしいこと」
「ここのマスコットキャラクターってやつ、では無さそうだね。見た目のおかげでまさに害虫って感じ」
 夏報、逢真、由紀。
 三人は口々に対峙するデッカイザーへの感想を呟いて、ほんのすこしだけ顔を見合わせた。「えっそう?」みたいな間。
 ――まぁいいか。
 と、初めに口にしたのは誰だったろう。
 ともかく目に見えて動き出したのは由紀が最も早く、ロボが這い登りつつある子ども向けコースターの方へ踵返せば、メンテナンス用に設けられた梯子を手も使わず猫のような身軽さで駆け上がった。
 何故なら手には無彩のスローイングナイフ。三本。 電磁装甲があろうとなかろうとさして変わらぬ強度のカサカサロボ虫脚目掛けそれらを順に投げ入れ、きっかり三体を踏み外させて落とす。
「お仕事お疲れ様、横取りしに来たよ」
 挑発と隠さぬ由紀の物言いにピガガと威嚇音らしき何かを発するデッカイザーは、回転鋸と入れ替わりにマシンガンを持ち出して優先順位を新たに定めたらしい。
「やれやれ、おっぱじまったか。先に見つけたのはそっち、一理ある。この肉を渡して済むなら渡してやったってかまやしねえんだが……」
 てめぇらはオブリビオン、俺は猟兵。
 因果なものだと嫌々首を振ってみせる一方の逢真は、台詞の前まで無手であったはずのその手に一束の光を握っていた。光? 否、鎌のようでもあったかもしれない。
 ともかくそれが脈打って拡散する。
 頭上へ――跳ねて、
「赦せたァいわんからよぅ、死んでくれや」

 落ちた。
 コースターの入り組んだレールの間と間を縫う不可思議な道筋での落雷。
 恙、は、意の儘デッカイザーだけを射貫く。さきほど由紀に剥がされたものも漏れなく光に呑まれ、そして光が止めばぐずぐずに腐り落ちていた。
『にゃにィ!?』
「わざわいって奴だァな。欲しがってた電力だろぃ、もちっと寄ってくるといい」
 まだまだご用意してるぜと悪疫の稲妻の本数は増す。
 眼下の眩さとアトラクション上にまで伝わる振動に身を固めるデッカイザーと違い、由紀は相変わらずでいた。レール、梯子、落下防止ネット、……変則的にジグザグと飛び移っては、己を追い撃ち出される銃弾へ逆に飛び込むのだ。
 とはいえすべて受けてやる気もないから、ジェットコースターを構成する諸々に当たらぬようeager eyesにより弾道の計算も同時に行い、ときに敢えて掠めさせるダガーでその微調整までしてみせる。
「面倒だけど。そっちも面倒じゃないの、もっとまともな武器でも使ったら? それともそれが限界?」
『こいつぅっ!』
 頭に血なぞ上る仕様でもなかろうに、近接兵器を振り回し襲い来る個体がいたなら。
 絶影、
 魔力により一層高められた速さが由紀のひと踏みに風をも纏わせ。
 その磨かれたバランス感覚で振られる得物の角度に合わせ身を捩じり、すり抜けざま下の特設お祭り会場へ蹴り込んでやるだけだ。 装甲の隙間へ投げ入れるナイフはお土産で。
「無駄なエネルギー消費ってやっぱり早死にするよ」
 由紀はそうやって、戦って――躍っていた。
 ぼぎゃっ、べごっ、
 如何にも痛ましい音立てる落下物たちに眉を顰めるどころか歓迎の姿勢で歩み寄るものが逢真。
「おうおう、今日は供え物の絶えねえ日だ。いつもこうならいんだがね」
 此処はさながら穴の底。 どうだい、神様の手に縋るかい?
 なんて。
 途端振り上げられた大鋏へは眷属の獣なんかを一匹駆け込ませ、自らは悠々と――人間でいう武器持つ腕の部分を、握手感覚で軽く握りしめた。
「くくっ。そう怒りなさんな。上のにいちゃんの言う通りだぜ」
 "宿"は接触で害を移す。
 救うみたいで、かみなりを落としたときとおよそ同程度かそれ以上の崩壊を齎してやれば、電磁装甲がない分も即座に侵食されたらしきデッカイザーは目元から光を消した。
「ふぅん……しっかしまァ、よくもこんだけの子を作り出したもんだ」
 もげた機械の腕から先を適当な眷属のおやつへ投げ遣ってやりながら、逢真はあたりを見渡した。死骸の海だ。いつの間にやら、否、もしかすると初めからだったかもしれない、夏報という女の姿は消えていた。
 神様っていうのは往々にして粗悪乱造と罵倒されるけれど。
「親にとっちゃ愛い子らばっかなんだ、仕方ねえさな」
 先の鋏に代わりに断たれ、襤褸屑になって死んだ獣をよいせと摘まみ上げ歩き出した逢真。
 ――背を向けた!
『いまだあぁアァ!』
「また余所見」
 だが、ひたり。
 装甲内部、コードを辿るひややかな刃先の感触。
『ひッ! やっめ』
「弱点晒さないと攻撃出来ないなんて作りが甘いよね。おかげでこちらとしては楽で助かったよ」
 神様、ね。次にまた造ってもらえるなら、頼んでおいた方がいいんじゃない。
 もっと賢くしてください、って。  狩人と獲物とをともに映し込んだナイフが閃いて。

 ――パツン。

 ふたりの猟兵のもとから散り散りに逃げ出すデッカイザーたち。いいや、数からして他の場所からのものも混ざってはいたか。
 多くは現場で仕留められていたが、それでも同型機にばかり攻撃させて自らは身を守り続けるだとか、常に最後尾について他を盾に使うだとか、ずる賢いものもいたものだ。
 ピピピとセンサーを働かせ警戒を強めつつ、走る。広場を越えて入園ゲートそばへ差し掛かる。
『やだやだ。資材集めでスクラップだなんて、馬鹿馬鹿しいったら』
「それでも、君たちのそれも"感情"じゃないだろ?」
 その進路にただの来園客みたいな佇まいで、夏報は居た。
 待っていた。両の手は指先までべったりと赤黒く濡れていて、女の立つ地面にも同じ色の線が歪に引かれている。地上からは何とも知れぬであろうそれは、空から見下ろしたときひとつの解を描いていると――ああ、やはり、知れるものはまた居ぬだろう。
「夏報さんとしては可愛い派だったんだがね、どうにも機械類そのものが苦手なんだ」
『……! ……僕たち何も持ってきてないよ。ほら、手ぶら。悪いことなんてしてないよ』
 ウィンと手という手を持ち上げてみせるロボ一同。
 これは命乞いだろうか。命乞いプログラム。それにしたってお粗末なのが、閉じた装甲の隙間から覗いているどこかのだれかの肉片であった。
「そうかぁ」
 夏報は目を細めた。
「それも使わせてもらおうかな」
 そしてひとつ、瞬いた。

 誰が信じなくともユーベルコードは発現している。
 ぼこぼこぼこと地獄の窯みたいな、核触合みたいな、爆発の最中みたいな。怪音はミステリーサークルのあちこちから溢れ不可視の熱線が入り込んだものたちを襲った。

『ギャッ』
『ぁ』
 スライスされてどこかへ失せたり、なんだり。
 瞬間的な死は断末魔をも溶かすが、誰かがずっと叫び続けている。ただ、夏報だけはしんと円のまんなかで夏報の姿で立っていて、デッカイザーが隠し持っていた肉片が円の一部になるのを眺めていた。
「おっと。そうそう、思ったよりもよく通るから忘れてたよ」
 藻掻く残り滓へはきっかり三発、足しておく呪詛の炎。
 同型機の終わりを目の当たりにするほど、一も二も無く、背を向けただ逃げることに集中する姿は実に"感情"らしい。
 けれども。
「さて。 仲間外れは誰なのか」
 幾度選別を重ねたところで、彼らは余すことなく吊るし上げられる。
 そうして無防備な背を裂いて燃やせば、血と臓物はさっぱりどこかへ消えてしまって謎は謎のまま。この夜に誰がいて誰がいなくなったかなんて、説明できるものは世のどこにも残っていないよう。
 夏報は流れる髪を耳にかけて、風が運んでくる声にその耳を傾けた。
「……君たちには」
 ――餌を持って帰るおうちがあったのかな?
 隕石の欠片にも似た凸凹の残骸は答えを返さない。 ひとつ角を曲がった先から、身を寄せ合う奪還者たちの無事を願う祈りだけが、ひそひそと届いていた。今日は。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ロカジン(f04128)

ロカジン、ロカジン
アレはなにー?ムシー?ゾンビー?
うんうん。なるほどなるほど。
賢い君がアトラクションって言ってる言ってる。
なら遊んでもイイ。うんうん、そうだそうだ。

あーそーぼー

コイツら、壊したいモノがある?
ロカジン、ロカジン、賢い君が寄り添ってくれるって。
優しいなァ。
ロカジンに君の糸を半分渡そうそうしよう。

コレはコイツらと遊ぶー。
アトラクションだからなァ……コイツの背中に乗ろうカナー?
ロカジンも乗るカ?
乗り心地はとーっても悪い。

賢い君の糸を括り付けて綱の代わりにしようそうしよう。
アバレウマダー!
アァ、コイツは言う事を聞かない賢くない。
大人しくさせないとなァ。

グーパンチ


ロカジ・ミナイ
エンジくん/f06959

ん?何だいエンジくん
あれはでっかいムシゾンビだろう?え?違うの?
アトラクションなの?へぇ!よく出来てるねぇ!

賢い君が寄り添って?今日の君は保護者みたいに包容力に溢れてるね
……そりゃそうか、僕らが子供みたいにはしゃいでるんだもんね
かくいう僕もアトラクションしたいしね

やぁ、エンジくん
一緒に遊ぼうじゃないの
アトラクションってのは乗り心地が悪いほどスリルがあって楽しいものさ
おやおや、ムシみたいな暴れ馬だこと!

機械にいう事聞かせるには昔っからこうと決まってる
そうそう、脳天をグーでゴン!ってさ
そうするとズレたネジが元に戻っていい子になるんだよ
僕のゲンコツは鉄より硬いからねぇ




 ――ロカジン、ロカジン。アレはなにー?
 ――ん? 何だいエンジくん。あれはでっかいムシゾンビだろう?

「賢い君がアトラクションって言ってる言ってる。なら遊んでもイイ」
「え、アトラクションなの? へぇ! よく出来てるねぇ!」
 彼の賢い君と自分との回答が食い違ったとき、エンジがどちらを優先するかなど今に始まったことではないのだが。それでもオブリビオンをして乗り物と言ってのける様にはつい声に笑いが混じってしまう。気が合って。「どう遊ぶって?」三日月な目でロカジが問えば、エンジはついと赤い糸――賢い君の約半分を差し出してきた。
「賢い君が寄り添ってくれるって」
「やったーお借りするよ。今日の賢い君は保護者みたいに包容力に溢れてるね……そりゃそうか、僕らが子供みたいにはしゃいでるんだもんね」
 両手に持った糸を頭の高さに掲げて拝むポーズを取るロカジ。さて、で、これを? とエンジを見遣ったとき、襤褸布狼男はたったか駆け出しデッカイザーに飛び掛かっていた。
 さながら開園と同時に駆け出してゆく幼子。

「あーそーぼー」

 エンジの声掛けに反応したかの如くしゅるるると赤い糸が蠢き始める。警戒したデッカイザーが開いた背から伸ばす回転鋸で迎撃を図るが、縦や横への直線的な斬撃では風に躍るような糸の動きを捉えるのは難しい。
 そうしてそれはムシの真上で網のように広がった。
『わっ』
「ロカジン見てるカ? こうやって……」
 その、赤糸に包まれ動きの制限された背へ難なく飛び乗ったエンジ。
 ぺちぺちと金属装甲を叩いては得意げな目配せを、ロカジへ。
「――こう乗る」
「お? お? ちょっとこうで合ってる?」
 その頃には、半ば糸に引っ張り回される形でロカジもデッカイザーの背へお招きされていた。いっしょに機体へ結びつけられた足が割と痛いのは見ないふり、うん、固結びでさすが賢い君気が利く。
「あってるー」
「ほっ。ならエンジくん、一緒に遊ぼうじゃないの」
 アトラクションってのは乗り心地が悪いほどスリルがあって楽しいもの。なんて、ロカジは馬にそうするみたいに残った脚で機械の横っ腹を蹴りつける。
『ムッ! こいつ』
「おやおや、ムシみたいな暴れ馬だこと! やっぱり上の面が効果的かぁ」
 暴れるデッカイザー。次は頭部の装甲を。
『いだっ、やめ!』
 拳で。 ガッ、 。
「ふむふむ。この辺もっとよく見てみましょうねお客さん」
 ゴガッ。
『ろ! 僕の装甲は無敵だぞ!』
 ロカジがぶん殴るほどにデッカイザーも振り落とさんと頑張る。だが腹側まで数周して回された赤い糸は中々解けてくれはせず。片手で頼もしきその糸を握り持つロカジは目一杯揺られながらにんまりした。 エンジへ。
「そいつはどうかな? 僕ぁ詳しくってね、機械にいう事聞かせるには――……」
 昔っからこうと決まってる。 告げれば、スッと拳を握り直し。黒い脳天の"より適した"一点を鉄より硬いグーがゴンッ!
 こうするとズレたネジが元に戻っていい子になるんだよ、とはロカジの弁だ。衝撃に目を回したデッカイザーは成る程目に見えて大人しくなり、暫くは糸で操られ素敵な乗り物として働く他なくなる。
 同型機の行く末を目の当たりにしたデッカイザー(エンジ用)はといえば目元のランプをチカチカと明滅させて。
『あわわ……いやだっはなせー!』
「わぁ。コッチもアバレウマダー!」
 片や大慌て、片や嬉々。じたばた身を捩るデッカイザーとそのデッカイザーを括りつけた糸を手綱よろしく握るエンジとの綱引きだ。
 糸が撓んだ隙に装甲の間から飛び出してきた鋸が、背のエンジをふたつに斬り開こうとする。だがこの瞬間こそが狙い目なのであった。二、とロカジへ笑ったエンジは余りの糸すべてを鋸に巻きつけさせ四方八方から引き、進むも戻るも出来ない状態にまで絞る。
 ぎち、 ぎちぎちと拮抗する最中、開いたままの装甲の内が覗けた。
「それに賢くないウマ。なら、大人しくさせないとなァ」
『……へ?』

「――へいロカジン!」
「――へいへい!」
 手綱を操る、というかその毒でふらつかせているふたりが馬同士の頭を正面衝突させたのだ。
 頑強な頭盾が欠けて飛び。 装甲は弾みで完全にまで開かれる。
 その弱点へ続けて。
 ドゴォッ!
 エンジ渾身のグーパンチもが、叩き込まれた連撃だった。
 ミギュッと情けの無い音を上げたデッカイザーを足蹴にしてエンジが跳べば、内で爆弾でも弾けたのだろうか、機械の身に爆発が生じてあちこちが弾丸のように飛び散ってゆく。
「わーお。それも賢い君の発案?」
「今のはロカジンサッポーベースだ。さっきヤってたの楽しそうだった」
「やめとくれよ、まるで僕がイケない事吹き込んだワルい大人みたいじゃない」
 勿論そのつもりでしたともの、笑い。 手放し乗りしながらロカジの剣技がデッカイザーたちへしゅばばばと破片を撃ち返していけば、本格的にカサカサ逃げ惑う虫のよう。なにせ兵器を出していたものが多くて、内部にまでダメージが浸透しているのだ。
 そんな彼らの退避を許さぬ賢き赤い糸。 内へ潜り込んで傷付いた装甲を引き剥がし、
「アァ……ドコへ行く? アトラクションは、ずぅーっとそこにいなきゃいけない」
「"子供"の夢を壊しゃしないだろう?」
 ロカジもまた刀の切っ先を捻じ込んでショートさせた憐れな馬の背から飛び降りざま、エンジとは入れ違いに別の弱った個体へ飛びついた。
 ふたつ生まれた穴へふたつの拳が飛ぶ。
 災難だったねぇ、そちらさんも――上辺だけ貼っ付けた感じの労いの声とともに、お利口になるどころか煙を吐いて潰れる個体であたりが満ちるまで、あと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

筧・清史郎
らんらん(f05366)と

お持ち帰りか
申し訳ないが、俺達はパンダさんに乗らねばならないからな
ああ、らんらん
乗り心地も行いも悪そうな輩は、躯の海へとお還り願おうか

幽霊が敵ではなくてよかったな、らんらん(微笑み
そうか、ではパンダさんに乗った後、お化け屋敷にも行くか?(くすりと
ああ、確かにパンダさんは重要だ
では、さくっと退治してしまおうか

敵の動きを確りと見切り、残像等も駆使し、攻撃をくらわぬよう立ち回る
いくら合体し強力になろうとも、突進に当たらなければいい話
むしろ、的が大きくなって此方の攻撃が当てやすい
らんらんとも連携し、早々に片付けようか
そんなに欲しいのならば、桜吹雪の数多の刃を存分にくれてやろう


終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

んん、なんか一杯おるの
わしらをお持ち帰りしよとしとるみたいじゃけど
あーんまり居心地よさそな感じせんしの
むしろ悪そうな…
お持ち帰りされるんはお断りじゃよ!そう、パンダに乗らねばならんからの!

ふ…ぞんびでも幽霊でもないのなら恐れることも…べ、別に幽霊が怖いわけではなく…ほんとじゃよ?
えっ、おばけ、やしき?いやそれは…怖いわけではないんじゃけどな?
それよりパンダの方が重要じゃろ? パンダに乗ろ!
その為にもせーちゃん、さくっとやってしまお!

虚から借りた爪はそのままに数も多いし燃やしてしまお
散らしたものはせーちゃんがどうにかしてくれるじゃろ
は、確かに大きなもんは燃やしやすいの




 アレは。もしやこの荒廃した世における"パンダさん"か――――?
 ハンドル風パーツのおかげもあり震えたものだが。間近に見ればそれはデッカイザーなるオブリビオンで、だからこそふたりは殺気立つどころかほっと胸を撫で下ろしたのであった。
「どうするせーちゃん? わしらをお持ち帰りしよとしとるみたいじゃけど」
「そうだな。つかぬ事を伺うが、持ち帰られた先では三時に氷菓や大福は出るのか?」
「洋菓子もあると尚良し」
 嵐吾と清史郎。
 拉致られる側からのぐいぐいくる要求にたじろいで顔? を見合わせるデッカイザーたちは。
『えっと……』
『すみませんそういうのは無いんですけど』
 AIの奥底に眠る従属姿勢がそうさせるのか俄かに兵器をがしょがしょさせる。そんな彼らから外した視線をスッと交錯させた猟兵ふたりは、爪と刀、それぞれの得物をすらり構えた。
「交渉は決裂だ。――申し訳ないが、俺達はパンダさんに乗らねばならないからな」
「そうじゃとも。始まってもおらんかったが、な!」
 ザアッと風が吹き抜けたかと思えば、それは炎だ。
 爪の一本ずつに嵐吾が留まらせた狐火。蛍めいた淡い光は敵へと近付くほどに大きく荒れて、咄嗟に手榴弾を撃ち出し相殺を狙ったデッカイザーズとの間に焔の嵐が吹き荒れる。
『ムムッ、総員――』
「乗り心地も行いも悪そうな輩は、躯の海へとお還り願おうか」
 赤き壁を恐れることなく斬り進んだ男は清史郎。友の手繰る炎が己を溶かさぬものと知っている。連れる風が清史郎を境目に桜吹雪へと変わるのは、空華乱墜、その人智を超えた力。
 蒼桜綴の冴えた刃が儘、花に宿るのだ。
 巻き取られたデッカイザーの装甲はざりざりと嫌な音を立て削られ始め――。
『わわわわわ、待て!』
「ふふ。此方の相手ばかりしてもらっていいのか? 俺の友は少々やんちゃだぞ?」
『あれ、 』
 近接兵器で応戦せんとしたデッカイザーの背にどんっと重みが。 嵐吾だ、嵐吾が跳躍からの着地を完了させていた。「今は大人しいもんじゃて」などと笑い。
 清史郎を狙うことでかぱりと開いていた背に黒き茨の爪が突っ込まれたかと思いきや、直後、コードを引き千切りながら抜かれる。
「互いに益も無いと思うんじゃがなぁ。まだやるんかの?」
 途端に当該機の目元のランプは消えて。ズタズタに裂かれたそれがボタッ……と地面に落ちたちまち炎に消えるのに、感情を有さぬはずのAIだとてゾッとした模様。散開していた個体が全速力バックで一か所に寄り集まってゆく。
『っっがっ、がったぁい!』
『がったい、がったい!』
 ピピピピと警告音を鳴らしながら積み重なるデッカイザー。そう、地上走行戦艦グレート・デッカイザーへの移行だ!
 無論、それをただただ見上げているだけのふたりではなくって。合体の間は狙っちゃ駄目なお約束などイマドキっ子でもなければ知らぬのである。「らんらん」「せーちゃん」の掛け声で左右それぞれふたりが斬り崩したデッカイザーがぴゃーっと転げ落ちていった。
 大切な砲部分が速攻剥ぎ取られる。
「だるま落としみたいじゃな」
「思わぬ遊びが増えた。これが遊園地か……」
 それを太刀風で追い立て炎にくべながら、しかし、と清史郎が零した。「幽霊が敵ではなくてよかったな、らんらん」添えられた微笑みにギクッと肩を震わせた嵐吾は大振りに爪を薙ぐことでその揺れを誤魔化……ナイナイし。
「べ、別に幽霊が怖いわけではなく……ほんとじゃよ? ただ、倒しやすさからの観点というかの」
「そうか、ではパンダさんに乗った後、お化け屋敷にも行くか?」
 今度こそ隠し切れない勢いでびくぅとした嵐吾が肩越しに振り返れば、くすくす笑いの清史郎と目が合う。
「いやいやい、  それよりパンダの方が重要じゃろ? パンダに乗ろ! ……怖いわけではないんじゃけどな? ぼーっとしとるとパンダが逃げて園の外まで行ってしまいかねん!」
 ああ、それは大変だと清史郎。必死の訴えを汲んでやり、こちらはこちらで振るう刀にて友の声の震えを隠す快音を響かせた。

 目的(パンダの乗り物)の為にも、さくっと。
 互いの想いはいま改めてひとつとなり、それは力となってオブリビオンを屠る速度を加速させる。
 ――大きいものは燃やしやすい。
 どこへ撃ったって火がつく。そのセオリー通り。 ぽっ、ぽと巨体のあちこちに赤を灯しながら。
「やれっ! せーちゃん」
 脇目も振らず清史郎へ突進をかましていたグレート・デッカイザーの先っちょを、収束させた嵐吾の炎が空から舞い込み迎え撃つ。
 最大火力のフォックスファイアは進むほどに先端から機械を熱で混ぜ合わせ、胴へ脚へ細かな炎たちと繋がっては一層溶かしていって。
「――、ああ」
 そこに、逃げも隠れもせず正面佇んでいた清史郎の桜花が触れる。
 一枚。十。百――……さあさあと降りかかる桜吹雪は、その性質が刃だ。炎が薄く溶かした装甲を触れるごとに斬り崩して内側を覗かせ、
「持ち帰るといい。この景色だけを」
 最後には一振りの刀のかたちへと舞い戻って通される上段からの一閃!
 一瞬の閃光が衝撃波とともに夜闇に駆け抜けた。左の眼を眇め眺めていた嵐吾は、刀を収める友の肩を拳で押して先を促す。
 互いに頬の煤を拭う。にこやかに頷く清史郎とふたり。
「さてと。……此処にもいなかったな、パンダさん」
「ううむ。何処うろついとるんじゃろう」
 長髪を吹き荒れる爆風にばたばたとたなびかせながら、続く真なる戦いのため、ザッ、と踏み出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

あらあら派手に壊しているわね
資源を集めるお仕事かしら
うふふ、ごめんなさいね
これ以上壊されたら、可愛い人魚と遊べなくなってしまうから
代わりにあなた達が壊れて頂戴
可愛い人魚が攫われたら大変だわ

攫われる前に解体してしまいましょ
ゾンビ狩りの次は、ポンコツ解体ショーよ
それにコレ、名前を言えない黒い虫のようで…私、好かぬわ
喰らう気にもならぬもの
振るう刀にもついつい力が入ってしまうわ
思い切りなぎ払い、攻撃を桜花のオーラで凌いでかわしたならカウンター
呪殺の桜花を撃ち込んで、斬りつける度に生命を喰らう
傷抉るように斬り―『絶華』
どんな防御もリルの歌が解いてくれるわ

さあもっと
美しいショーを楽しみましょうよ!


リル・ルリ
🐟櫻沫

壊してる!泥棒だぞ!
櫻と一緒に遊園地、遊ぶんだから!
これ以上壊させないし…え?僕の櫻を持って帰るって?
そんなの許さないんだから!

え?櫻宵…綺麗な顔して怖いこと言うよね
解体ショ、だなんて
まぁそれも君らしい
…まさか、コレを食べたりしないよね?
そうなの?櫻って虫、嫌いだよね
なら綺麗に咲かせてあげるといい

美しい龍が桜咲かせ舞い踊る舞台が始まるよ
水泡のオーラは愛しい龍を守るため
君達は大事な演者、ちゃんと演じてみせてよね
かれの為の、贄の役

ダメだよ。邪魔をしたら
笑み転がして、歌声に滲ませるのは櫻への鼓舞
歌う「薇の歌」
防御も、合体も…そんなシーンは《なかった》(カット)

櫻宵が笑って桜が舞って
嗚呼、綺麗




 がしょ、がしょ。どこか力無く蟹鋏を動かす一体と、そんな一体の隣で周囲を警戒する一体。
 こちらは珍しい慎重派デッカイザー。の、残党だ。
 一度猟兵に叩きのめされた彼らは命からがら逃げだして、この隅っこの方でちょっとした外灯や壁を壊すなどしていた。
『資材略奪用ロボとしての自信、なくなっちゃうなぁ……』
『元気出してよ、ここにはまだ猟兵は来てないん』
「――壊してる! 泥棒だぞ!」
 来た。
 人が来ても恋人がベンチで休むだけかもしれないなくらいの通りもしっかり探知していた、リルと櫻宵であった。
「あらあら派手に壊しているわね。資源を集めるお仕事かしら」
「櫻と一緒に遊園地、遊ぶんだから! これ以上壊させないし、壊せると思わないで」
 鰭で空気を打ち付けるようにして憤りをあらわにするリル。
 そんなリルの背を宥めながらも、櫻宵の逆の手はより物騒な血桜の刀身をした太刀を抜いている。
 …………。
 ……、目配せするデッカイザーズ。死か、死か、生か。
 このふたりの片方をでも持ち帰れたのなら、先の失敗帳消しどころか随分と評価されるのでは?
『やってやる!』
『持って帰ってあげるよ、まずはお花で、次にお魚!』
 ――その判断こそが救いようのない初期不良とも知らずに。

 己が倒れれば愛するひとへ魔の手が伸びると聞かされたとする。
 そこで倒れてやる奴がいるだろうか。
「僕の櫻を持って帰るって? そんなのもっともっと許さないんだからな!」
「うふふ、ごめんなさいね。そういうことなの。代わりにあなた達が壊れて頂戴」
 これ以上壊されたら、可愛い人魚と遊べなくなってしまうから。
 ――万一いたとしても、リルは。そして櫻宵も違う。愛しの人魚が攫われるなど。どう見ても虫とくに名前をいえぬ黒いアレ似な物体を斬り下ろす手に、ますますの力が籠もるというもの、
「ポンコツ解体ショーよ」
『いっ、い゛たっ、いだだだ』
「ほらほらどうしたの? こんなに近くよ。持ち帰れば良いじゃない、この手を引いて!」
 桜花を散らし荒れる太刀筋が装甲に閉じこもる連中の背に幾重も刻まれ、まるではなびら流るる水の筋のようだ。
 無論、後方を担うリルも任せきりなどではない。竜の刀へ歌声添わせてはその刃をともに進め、電磁の防護をも打ち負かすことが出来るし。
「君達は大事な演者、ちゃんと演じてみせてよね。かれの為の、贄の役」
 ――あまりに歯応えの無い大根役者への演技指導だって出来る。
 ぴしゃん! 愛し櫻をまもる水泡が音符のように跳ねた。
(「それにしても櫻宵、綺麗な貌して怖いこと言うよね。解体ショ、だなんて」)
 それも君らしいけれど。 えへへ。惚れた弱みというかリルが春日にぽかぽか綻んでいるとき、身体の方がボロボロに綻んだデッカイザーの方は斬撃に転がりながら声を上げた。
『――みんなァ助けて! 合体てつだって!』
 その悲痛な叫びが響き渡るやいなや。
 柱や箱の陰などからぞろろろろろと集まってくる黒光りたち。
 数は二十を超えようか。いや、先に刀交えた手応えとしてはなんら問題なく櫻宵の敵ではない。 ただ。ビジュアルが。その。この数のこれが更に、合体?
「……ぅうううう」
「鳥肌立ってるね……龍だけど。よしよし大丈夫だよ櫻、僕がついてるからね」
 ――巨大化などさせてなるものか!
 いますぐ寄り添って慰めてあげたいが、まずは。決意も新たに胸元で拳をつくったリルは息をすう。その瞬間には歌姫だ、すっかり心は透明へ。
 喉を震わせて届かせ。届け。 薇の歌。
「ダメだよ。邪魔をしたら」
 旋律にあわく笑み転がせると。
 おどろおどろしく組み上がりつつある戦艦を眼差しこそひえびえと見据えるリル。
 薇の歌は夢の泡沫、巻き戻す砂の秒針は好む夢だけ選び取る。
 厭うものは時の彼方へ。それこそ、砂みたいにさらさら"なかった"ことへ。
「そんなシーンはカット」
『なにいいぃぃぃ!?』
 ――つまりずっと櫻宵のターン。
 此度リルに「きらい」「いらない」を突きつけられたのは地上走行戦艦グレート・デッカイザーへの合体そのもの。結び目はぽわんっと解け、ロボ虫はバラバラに背中から地面へ叩きつけられる。
 そんな殺生な。頑張って組み上げたトランプタワーが崩れてゆくみたいな、いや崩れるならまだ良い、初めから"なかった"になるのだ。 これには大精神ダメージを受けたらしきデッカイザーズがしおしおと気持ち薄くなる中。
 ――くすり。 反対に活き活きとした櫻宵は、ヒーローショーであれば決め技のソレである、絶華の剣戟をお見舞いする。
「あら? いま何かしたかしら?」
 この龍、わかって言っている。ゆえにこそ妖艶で、おそろしい笑みが、かたちの良い唇を薄く開いて引かれたとき。機械虫たちもまたぱっくりと開かれていた。
 きっと巨大戦艦だとて断ったであろう不可視の一手。
 無駄にひとところに集まっていた分、ひと振りのうちの出来事であった。――合掌。

 けれど咲き、散る終わりは。如何なる悪とて虫とてうつくしい。
 さわさわと花の海みたいに桜花弁が積もって。
 刃を収める龍の麗しき背とセットでしばしそれらを愛おしげに見つめていたリルは、ぱちと瞬けばふよりと屈んで、浅く薄れた海の下から覗く一枚のパンフレットを拾い上げた。先ほどから此処にあったろうか?
「みて、おちてた。なんだか彼らが僕らを祝福してくれたみたいだね! 櫻」
「まぁ。ふたりでゆっくりじっくり楽しんできて……ってことかしら。見かけによらず気が利く虫だったのねぇ」
 恐らく園内を効率よく回るため確保したものであろうが、盗人から強奪し返したと思えば丁度良い。――ともすれば今は去りし観客一同からの拍手の代わり、だったりもして。
 いずれにせよ、リルと櫻宵はにこにこーっと微笑みあって手をつなぐ。
 ひとつの案内をふたりで見よう。行こう。となりで触れる世界は、だからこそどんな舞台よりキラキラで、そのキラキラは舞台にも差し込んで、すべてに素敵が満ちてゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コノハ・ライゼ
剥がされちゃったら遊べないもの、アトラクションを守りに行くヨ

今の内にちょいと楽しンでも罰は当たらなさそうだしネ
勿論施設は破壊しないよう注意

絶叫系アトラクションの支柱や足場を走り跳び
時に搭乗部に乗って素早く移動
お客サマ、備品の持ち出しはご遠慮くださいません?
敵を見付け次第【彩月】で照らし動きを止めれば、しばらく安心デショ

一通り動く敵影がなくなるまで繰り返したらゆっくりイタダキマス
刃物や玻璃が届かなくたって構わねぇよ、ソッチと違ってモノが欲しい訳じゃナイ
機械だろーが骸の海より来たなら等しくご馳走
鉄も電気も磁力も、雷とは相性が良いと思わない?
右目の「氷泪」から紫電奔らせ*捕食、*生命力を吸収するねぇ


ナルエリ・プローペ
少しでも息抜き出来たので、気が楽だったのですが。
途端に気が重くなりました。
……私を連れて帰ってもそうお役に立てないと思いますよ。
諦めて何も持たずに帰って頂けませんか。
私もその方が楽です。駄目なら、また戦うしかないかな。

人の足りない方に回ります。
綺麗なままで引き渡したいですから。何一つ、欠ける事の無いように。
彼らに立ち塞がります。
目前に迫る銃弾や爆風に、恐怖を感じないと言えば嘘ですけど。
でも、この世界の人たちはいつもこうだったから。
私には、味方がいて。
私が盾として引き付けていれば、味方はその隙を見逃さない。

渡せる物は、はじめから何も無いんです。
ここは、今も昔も、その時を生きる人の物だから。


イサナ・ノーマンズランド
悪いけど、わたしは非売品なんだ。
でもちょっかいかけてくるなら相手はしてあげるよ。
ここはもう誰のものでもない。キミたちのものでもないってことだ。

UC星を追うもの使用。保護色のポンチョを被る【迷彩】で【目立たない】よう風景に紛れ、優れた【視力】で敵を一方的に視認、【スナイパー】ライフルで装甲の隙間を狙う【部位破壊】。執拗な【2回攻撃】で【傷口をえぐり】、【体勢を崩し】て【時間を稼ぐ】。足を止めた相手には強力な弾丸の【貫通攻撃】でトドメ。

遊園地は、お客を楽しませるための施設らしいね。
キミたちが資材で何をするかは知らないけども、わたしはこの施設に最後のお仕事をさせてあげたいんだ。邪魔しないでほしいな。




 ――――ギィ、イィィィ!
 轟く金属音、駆け回る足音、その足場をすり抜け遥か下方へ落ちてゆく雫。
 こちらは園内某所、フリーフォール。現在はリニューアル工事中――……、なんてことはなく、戦いの真っ最中であった。
『ええい落ちろぉ!』
「コッチの台詞! 下でお仲間が待ってンよ?」
 デッカイザーの回転鋸がぶん回されれば、骨組みを蹴って躱すコノハ。
 敢えて小ジャンプに留めたのは伸ばされた兵器握る腕部分を即踏み砕くためで、強かに打ち付ける踵がまたまた金属を奏でる。力任せに放り上げられた足裏にライドの天井を踏みしめて衝撃を逃がし、
「――こちらで!」
「アリガト!」
 そのコノハを更に追わんとする敵の剥き出しの背を、共に此処へ登り来たナルエリの細剣が断った。
 よくも虫ロボがこうも高くまで登ったと褒めてやりたくもなるものだ――それも、これだけの数。
『ふふーん猟兵!』
『ここが年貢のなんとやら!』
 戦闘音を聞きつけカササササと伝い来ていた応援が加わったことで、ついにふたりへ数多の銃口が向けられる。
 明らかな重量オーバーでライドどころか支柱自体が軋むようだ。ギィ、ギイと。
「ようこそ? つくづくヒマなのなァ、ンな大家族で」
『うるさいな! 僕たちについてくるって言うなら許してあげてもいーけどね?』
 次第に包囲を狭める機械虫。
 ナルエリは伏せていた瞼をすっと押し上げ、一歩前へ出た。
「……私を連れて帰ってもそうお役に立てないと思いますよ。諦めて何も持たずに帰って頂けませんか」
『そんなことないよ! ハカセは立派に役立ててくれるよ。お前も僕らみたいに――』
「でしたら。 撃って裂いて引き摺っていけばよいでしょう」
『うんうん。うん……うん!? いまなんて?』
 撃てと言ったのです、そう娘が繰り返す。
 銃弾に、爆風に、恐怖を感じないと言えば嘘になる。けれどもこの世界に暮らす人々はいつもそんな日々を懸命に生きて来た。
 自分には味方がいる。コノハと目が、合う。きっと今も"見ている"であろう少女とも。 ――ゆえに。
「そのときがあなたたちの最後です」
 凛と。

「あのロボまた言ってるよ」
 ふたりとは違うアトラクションの高台にて、"見ている"のは光学迷彩ポンチョに身を隠すイサナ。あのデッカイザー、やたら声までデカい。
 持って帰りたい?
 ――悪いけど、わたしは非売品なんだ。
 別な個体へその一声とともに二連射お見舞いしてやったのは記憶に新しい。つい数分前に二度はあった。やっぱり同じAIなんだな、と謎の感慨がある。
 思考パターンに規則性があるということは壊しやすくて助かる、なんて、大体そっち方面への感慨であるが。
 ここはもう誰のものでもなく、キミたちのものでもない。ならば個体の数だけそうと叩き込んでやらねばなるまい。
 手ずから。 イサナは狙撃銃のスコープを覗いた。予定通り、ナルエリの覚悟がぱっかり開かせたデッカイザーズの背が並ぶ。
 彼女のユーベルコードは無敵城塞だ。一斉砲火を受けたとて傷付くことはなかろうが、誰より自分が、それをみすみす許す射手ではいたくない。
 きれい、ほしい、心躍らせた子どもが必死に望遠鏡を覗き込むように。
 その十字線の中央に、星を見て。イサナは手を伸ばす。

「届いた」
 スターゲイザー。
 スナイパーの働きがまた一輪の火花を咲かせた。
 尾を引く銃声の他には不思議なほど静かなのは、金属装甲に阻まれることなく弾が獲物を通ったからだ。持ち前の視力とすべてを己の腕二本にかける胆力、積み重ねてきた日々がコード類だけをぶち抜いて一拍遅れの炎上。
 どご、お、と燃え立つ熱が周囲の個体をも襲うのを後目にコノハは獣ばりの反射神経でそれを掻い潜り、逆に利用もして煙に己が身を紛れさせる。実にからだに悪そうなオイル臭がした。客商売の立場としては、染み付かないといいのだけれど。
(「そのためにも、早いとこ」)
「――終わりにしなけりゃ、ネ!」
 彩月。 声に月白の焔が舞えば、光照る地から突き出す玻璃の結晶が慌てふためく諸々を縫い留め。
 深く沈ませた身から体当たりめいて繰り出す斬り上げは、後ろ半分の脚だけで伸び上がるデッカイザーを更にとのけ反らせた。
「ってワケで英気も養わせてもらおっと」
 つまみぐいだ。機械だろうが骸の海より来たなら等しくご馳走。 瞬くコノハの右目に氷泪が、ひときわ青く澄んで紫電を放てば。
 先の爆風そして斬撃、砕けた結晶、数々の要因で傷付いた腹部装甲は防護を得られず、刃の如く鋭利に刺し込まれた雷をうちへ通して嫌な感じの音を漏らす。ガガッ、ピ、だとかなんとか。
「――、――爆発を?」
「いんや。もう死んでるヨ」
 己は己で一体屠り、前へ庇い出ようとしたナルエリの肩を軽く叩いて走るコノハは。
 言葉通り、目元の赤をプツンと絶やしたデッカイザーが崩れ落ちるのを余所に「よければあっちの方へご一緒頼める?」と懐こい笑みでおねがいするのだった。
 あっち、とは。
『好き勝手しやがって! もう許さないんだよ、みんなまとめて吹き飛ばしてやる!』
 がちゃこんと装甲を全展開し、担ぎ上げた多連装ロケットを今まさに撃ち出さんとす一体を指す。
 明らかに過積載である、よろろろろと怪しい足取りに他のデッカイザーズが寄り集まった。
『やめろー! 僕たちも巻き込まれちゃうだろ!』
『それにお前だって……!』
 やんやと騒ぐAIたちであったが、それらすべてをひんやり眺め下しているものがひとり、居るわけで。
 カシャン、とコッキングを終え特製弾に切り替えたイサナである。
 迷うくらいなら撃ってみたらいいのに。 イサナは思った。スコープで眺む先のそいつは震えているようで、まるで人間みたいだ。どちらにしたってこの目が捉えた時点で同じ"的"なのだけれど。
「早撃ちなら負けないから」
 精密さでも負けないけど、と。
 イサナが撃ち出した銃弾は風の壁を穿ち砕きながら荒々しく早駈けし、ひとつも余所へ流れず、まさに"刺さる"。
 ――ところで。遊園地は、お客を楽しませるための施設らしい。
『?? ――?』
「キミたちが資材で何をするかは知らないけども、わたしはこの施設に最後のお仕事をさせてあげたいんだ」
 これ以上、邪魔しないでほしいな。
 ロケット持ちのデッカイザーは瞠目した。
 開いた背から兵器を貫通し己を抉った刺客の存在は、今だって迷彩により景色に溶け込んでいて見つけられない。
 ゆえに死という結果のみを突如異次元から叩きつけられたかの不条理を覚えながら、それは最後まで引き金を引くことなく、そして派手に散る見せ場も与えられずにプシュンと電源を落とすのだった。
『わああああ!』
『くそぅ卑怯だぞッ!』
「卑怯なものですか。勝つためなら何もかも巻き込もうとするあなたがたは、鏡を見て同じことを言えるのですか?」
 前へ。 ナルエリはそう声にする。
 猟兵はその多くがアトラクションを壊さぬように、誰かの希望を奪わぬようにと細心の注意を払って戦っているのだ。好き勝手に暴れまわってときには「それ以上来ると壊しちゃうぞ」なんて言い出す輩に言わせてなるものか。
 そんな心身とも無敵城塞モードで敵を見据える少女の傍ら、ひょっこりと顔を出したコノハは手のナイフをくるくるっとさせては何処かに居るであろうスナイパーに胸中で感謝を告げた。 ――それでは、総仕上げということで?
「ま、おかげサマで更に身軽な場になったし。ここらでお嬢さんもいかが、もう一曲?」
「……曲?」
「こういうコト!」
 言うが早いかデッカイザーへ斬りかかるコノハ。
 先ほどの共闘の続き。なるほど――、
「なるほど。皆さん、色々な息抜きの術をご存知なのですね」
 では、と。 細剣に己の心を預けるみたいに。
 彼と交互に振って、振るえば、皆で削り来た彼ら自慢の装甲は、とてもやわくなって感じられて。
『ううぅ、僕らの最高で最強の計画がぁッ……』
「計画段階から終了していたのですよ。渡せる物は、はじめから何も無いんです」
 ここは、今も昔も、その時を生きる人の物だから。
 ――――。
 ――互い違いに差し伸べた手と手。機械の刃は寸前で舞い込んだ銃撃に僅かに逸らされ、Rassemblezは震えひとつなくコードを断った。
 金属を擦り減らしながら核を穿つ手応えだけはヒトであれ他であれやはり骨身にじんと響くも、この感触をおそろしいと思う心を忘れてはならぬ気が、した。

 どう見たって重たいライフルを抱いての着地も、衝撃の逃がし方をよく知っている風な体重移動が場数を感じさせる。
 狙撃地点にしていた作業員足場から飛び降りる最中、ポンチョの端から順にさああああと迷彩を解除したイサナは「終わったね」と見える範囲の敵が片付いたことを告げる。
 今は皆が地上へ降りていた。
 あたりの残骸が動き出しはしないことを蹴転がして確認していたコノハは、おつかれさまとふたりへ笑いかける。ナルエリも釣られ微笑めば、ぺこりと頭を下げて。
「ご一緒できて頼もしかったです。この乗り物もかなり丈夫なようで……、そういえばこれは一体どういったものなのですか?」
「ン? 気になっちゃう? 気になっちゃう?」
「どうかな……、さっきのロボたちよりは強烈だと思うよ」
 なにせあたりに散らばっているゾンビがどれもただのシミと化している。運転中によほど高速且つ高所のコンボで地面へ叩き落とされたのだろう――、予想できたイサナは首を振った。
「そう、強烈。退屈な日常にバイバイするにゃもってこいってネ」
「退屈な、日常に……」
 パンフ受け売りにまりとするコノハよりも幾分表情硬く、ごくり。敵を追い必死で登った先ほどは気付かなかったけれど、今やてっぺんが見えぬほど高く聳えるモンスター・フリーフォールを見上げるナルエリ。
 新たな挑戦者を招くが如く、血痕のついた安全バーは上がっている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

善哉・鼓虎
ミィナちゃん(f26973)と!
資源ってなんでも壊して資源にするんかいっ。
形が残っとるもんは壊すんやない!
それはまだ使えるんやから!

壊すんより作ったり直したりする方が時間も手間もかかるんや。ましてやそのテクノロジーまで失われてるんやったら形がないと使うことすらできんねやから…。

ミィナちゃん、ちょっと時間稼いでくれへん?
うちUCの準備するから。頑張ってくれたら後で飴ちゃんあげる。

自分のSNSに接続して配信開始。
【コミュ力】で人を集めて【パフォーマンス】
UCの為に賛同数を上げてUC【ハッピーエンドコール】
派手にぶちかますでー!
ここを楽しい遊園地にもどすんや!


ミィナ・シャットブロンシュ
鼓虎f24813ちゃんと

…え?壊しちゃうの?
ミィナのレストラン壊されたら困るなあ…って
…あ!駄目だよお肉はミィナのなんだから!
腐肉の入った箱を見つめつつ尻尾を立てて威嚇するよ!

鼓虎ちゃん、任せておいて
お肉全部奪い返せる様にミィナ頑張るから!勿論飴ちゃんも忘れちゃや、だよ?

そう声を投げると共に地を蹴り敵へ間合いを詰めようと試みるね
攻撃の間合いに入ったら腰を低く【一撃必殺】
その後は鼓虎ちゃんに近づけさせない様に攻撃をしかけながら『蹂躙』してく、ね!
鼓虎ちゃん!凄い!えへへ、ミィナもはいはい!はっぴーえんどがいいな!
生の鳩じゃなくて美味しいお肉食べるの!
あ、でも敵さんは駄目だよ!ちゃんと沈んで、ね!




「ちょおーっと待った! なんでもかんでも資源にしようたってそうはいかんで!」
 ところ変わって園内某所。
 ――形が残っとるもんは壊すんやない! それはまだ使えるんやから!
 わさわさ蠢くデッカイザーたちを前に、指まで突きつけよく通る声を大にした娘。それこそが彼らの悪行を見逃すわけにはいかぬ鼓虎であり、その瞬間までは土産屋の中を窓越しに覗いていたミィナであり。
「みて鼓虎ちゃん、このぬいぐるみなんだか鼓虎ちゃんに似てるねー……ん、だぁれ?」
「どっからどう見てもオブリビオンやな!! ほら来るでミィナちゃんっ」
 否、ミィナの方は特に声を荒げてはいなかったが。
 それはそれとして、だ。ムムッと目元のランプを敵意に光らせたデッカイザーが撃ち出す発煙弾がふたりの足元へも撃ち込まれる。咄嗟に傍らの少女の手を引いて走る鼓虎、弾みで落ちて床に倒れるぬいぐるみ(特に似てはいない)、引かれるミィナ。
 背後で硝子の割れる音。
「っ、壊すんより作ったり直したりする方が時間も手間もかかるんや。ましてやそのテクノロジーまで失われてるんやったら、形がないと使うことすらできんねやから……」
「……鼓虎ちゃん」
 苦く歯噛みした風な鼓虎の呟きを耳にして、そうだねとミィナは首をゆるゆる縦に振った。
 何体いるのだろうか。敵群の照射するライトがふたりを探して舞い上がる埃の中、ぐるんぐるん動いている。 その間にも撃ち込まれる銃弾の嵐を防ぐため、ちょっとそのへんの棚の金属板をガゴッと抜き取ったミィナは鼓虎の前に立て掛けてあげた。
「うん。ミィナもミィナのレストラン壊されたら困るなあ……って。思うし、……あ! 駄目だよお肉はミィナのなんだから!」
 なんだか深良いお話が始まろうとしていたがそこまでであった。
 デッカイザーらの脇、転がされた回収ボックスから零れ出す肉片を目敏く発見したミィナはもふもふ尻尾をフーッと逆立てて威嚇する。今にも飛び出さんと荒れる覇気に慌てて手を引き戻した鼓虎だが、けれども、彼女に時間稼ぎを頼みたいのもまた事実。
「落ち着いて、落ち着いてな……、で、落ち着いてもろたうえで前頼んでもええ? 頑張ってくれたら後で飴ちゃんあげる」
 空いた手指にSNS端末のコードをくるくる絡め、気遣わしげな鼓虎。
 鼓虎ちゃん、任せておいて。 繋いだ手を解く直前、きゅみっと握り返して、ミィナは言う。
「――お肉全部奪い返せる様にミィナ頑張るから! 勿論飴ちゃんも忘れちゃや、だよ?」
『なぁ、に!?』
 そうして、煙幕を切り裂く一発の弾丸の如くに飛び出したのだ。 特に落ち着いてはなかった。
 速い。 顔の前でクロスした腕を盾にひと跳び接敵すれば、表に返して開くそれで驚くデッカイザーの目元にバッテンを刻む。 ぱきん、と、ランプが割れる音も置き去りに。慌てるその背へ勢い殺さず駆け上ったミィナは両の脚での着地と同時、さながら三本目の脚みたく、装甲へ拳を叩き込んだ。

 ドゴォッ!

「一枚ずつ剥がせば、焦げ目のついたベーコンには見えるかな?」
『やややめろぉ! くそっ、振り落としてやる……!』
 ピピッ、ギ――ゴッドハンドの一撃必殺と、デッカイザーご自慢の装甲とが水面下での戦いを繰り広げる。一度で駄目でも二度なら。二度で駄目でも、三度なら。 守りは次第に歪み始める。
 小柄を活かし跳ね回るミィナに対して、視覚を奪われたロボの動きはちぐはぐだ。やれ同型機へぶつかって、やれあらぬ方向へ回転鋸を振り回して。 手応えを感じた鼓虎は口に手を添えエールを飛ばす。飴ちゃんなんてかわいいものだ。
「いくらでも用意したる。ステーキ味はあらへんけど、好きなもん掴み取りや!」
「えっ掴み取り? ほんとう?」
「うんせやけど片手分で頼むわ」
 覇気までフル動員されてごっそり掴み取られるビジョンが視えた。確実に訪れるであろう未来を幻覚と呼ぶべきか否か、ともあれ、おかげで稼げた時間は溢れる光伴い実を結ぶ。
 ハッピーエンドコール。
 それはソーシャルディーヴァが世界へ訴えかける願いだ。
「みんな、力を貸してな。ほんでいつか、みんなにもこの遊園地楽しませてやるさかい!」
 ピピピと電子音を発しながらネットの海を渡り投げ込まれる賛成票は、鼓虎の構えるソーシャルレーザーを夢と希望の色味に輝かせて。
 飛び掛かってくるキマイラ娘との追いかけっこに躍起になっていたデッカイザーたちは、膨れ上がり続ける光の熱量に照らされたところで漸く"本命"を振り返った。 だが。
「えへへ、ミィナもはいはい! はっぴーえんどがいいな! 生の鳩じゃなくて美味しいお肉食べるの!」
 物騒な台詞を問い質すものもいなければ、これで賛成が――、
 百。
『わぁまずい! 合体を』
『にげっ』
「逃がさへん。ここを楽しい遊園地にもどすんや! ――ぶちかませぇ!」
 つくづく、遅い。 結び付き始めていた機械の接合が瞬時にして溶かされる。
 鼓虎心からの叫びに呼応し解き放たれる、空気をもジュゥッと焦がすぶっとい光線であった。ミィナの力で罅を刻まれていたものなどはなす術もなく、一路、跡形も無き状態まで細かになって骸の海へ直送され。
 箱も置き去り我先にゲートの方向へと踵を返し始めた残党に、 ガゴォッ! 今一度叩き込まれ、いよいよ装甲をも貫く豪速は徹甲弾? いえいえ。
「ふふふー、鼓虎ちゃんはやっぱり凄いよね。きっとお肉もそれ以外も、たくさん見つかるよね」
 あ、でも敵さんにはあげないよ! ちゃんと沈んで、ね!
 ただの右拳である。

 やがて回収ボックスを確かめたミィナは、そこにある肉がゾンビ肉のみであると知れば、鼓虎と彼女のSNSを利用する人々の願いに応じて中身をいっしょに取り出した。
 食べるためではない。
 確か――誰かが一所に集めて、弔いをしていると聞いた。
「付き合わせてもうて堪忍や」
「ううん。たくさん動いた分だけ、ごはんもたくさん美味しくなりそうだよ」
 はい。 パーで差し出されるミィナのてのひら。
 ええ性格しとる、なんてぷっと噴き出した鼓虎は、色取り取りのキャンディーを格好良く傷付いたそこへ落としてあげた。それはもう、零れ落ちそうなほどいっぱい!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

狭筵・桜人
赤ずきんさん/f17810

作戦:赤ずきんさんがカニロボを倒す

あ!ちょっと!
このウォータースライダーはあとで乗るって
パンフレットにも印付けてたんです!
パンフレット?これは拾ったやつでー……
赤ずきんさんがゾンビの面倒見てる間ヒマだから
アトラクションチェックしてただけで別に。ね?

ほらほら壊されないようにカニロボ始末しましょう。
壊さないようにもね。

【怪異具現】。【黒い粘体】のUDCを装甲を展開した
ロボの関節部分に詰まらせて動きを止めます。
整備不良って今聞きたくない言葉ですけど。
人の手を離れた機械の末路なんてこんなものでしょう。

あーあ、ロボがボロボロ。ロボなだけに。
聞いてました?もう一回言いましょうか?


レイニィ・レッド
狭筵サン/f15055

作戦:狭筵サンが捕まえたカニをシメる

ワー堂々とサボリ宣言有難う御座いまーす
っつか いつのまにパンフレットなんて拾ってたンすね
遊ぶ気満々じゃねーですか
いやまァ察してはいましたけど

ハイハイ、分かってますよ
壊さない様にって
簡単に言ってくれますけどね
自分が暴力以外の手段を持ってない事分かってます?

まァやりますけど
アンタも少しは働いてほしいモンですね

ンー…狭筵サン
ひとつ確認なんですケド
アトラクション壊さなきゃイイんですよね

動きの止まったカニロボに素早く接敵
装甲の隙間を縫って
動力部らしい部位を鋏で串刺し
一撃でブッ壊しちゃいましょ

……、あ?
なんか言いました?
いや繰り返さなくてイイです




 引き続き肉の処理に勤しんでいたふたり。というか結局のところ大体レイニィ。
 囮という名目で隙を見ては彼から離れてうろちょろしている桜人は、これまた調査という名目でロッカーを開け閉め覗いていた背に、ガサリと大きな音を耳にした。まさか動く死肉の残りがまだ――? 
「いい加減に、 」
 しかし。
 叫ぶ心の用意万端で振り返った其処には黒光りするデッカイザーズがやってきていた。あちらもあちらで『やべっ』なビクつき方をしたのち、装甲の隙間から伸ばした回転鋸を加速させる。
『あの、僕たちちょっと忘れ物取りに来ただけなんで』
『怪しいものじゃないんで』
 口々に余った脚で桜人へ手を振る。
 そしてさりげなーく刃先をロッカーの扉へ触れさせようとして――。
「うそつき!」
『ほばぁっ!』
 桜人が全力投擲した何故だかお誂え向きにロッカーに入っていたスパナがロボにヒットする。割れる頭盾、仰向けに吹き飛ぶロボ。
 誤魔化しに失敗したデッカイザーたちは同型機の残骸を乗り越え、まずは邪魔者を黙らせる――実力行使に出ることに決めたようだ。手ぶらで取り囲まれる桜人。しかし此方にも"先生"がいる。
「私に半端な嘘つこうなんて百万年早いんですよ。さぁ赤ずきんさんヘルプ!」
「次はなんです?」
「Gが」
「ハイハイてめぇでやってください」
「ほんとです敵が!!」
 肉あるところに奴あり、道理ではあるが。無論、相手が何であれ"悪"ならば断てる大鋏だ。本物の虫であれば振るうまでもなくとも、オブリビオンとなれば。
 渋々レイニィが投げ込んだ鋏は多分Gでもないデッカイザーたちの目と鼻の先的な地点にザックリ突き立ち、彼らの包囲をざわっと乱す。
 場の誰よりもざまあみろ顔でその隙間を駆け抜けた桜人は、まるでレイニィを真似たみたいに蟹鋏をカチカチする一体を前に急ブレーキをかけた。
 危うい、常日頃から磨いてきた逃げ足はこうした一瞬にこそ輝く。 一歩先の空間がパツンと断たれた。
「ひぇ」
「サボってっから次々変なのに引っ掛かンですよ、ったく」
「サボ? まさか。確かにこのウォータースライダー風な奴あとで乗るってパンフに印付けてましたけど! それも赤ずきんさんが強すぎてというか。私ヒマすぎてというか」
 フーンとあしらう姿勢のレイニィである。いつの間にパンフレットまで拾って? ワー堂々とサボリ宣言有難う御座いまーすである。
 もとより察していた身として、今、このピンク頭を追及するよりも優先すべきことがあった。地から掻き消え、纏う血霧が形でも成したか手のうちに再び姿を現した断ち鋏を引き摺るようにして、レイニィは歩く。 ぽた、ぽた。遊ぶものの去り、乾いた床へ水が落ちる。
「で。実際カニにハサミって使えるンすか? 茹でて食われてる印象しかねーンですけど」
「ちょっと、暴れすぎないようにお願いしますね……」
 ひそひそ声量の桜人の囁きが背に飛べば、気怠げに肩越し、指だけひらめかす雨男。簡単に言ってくれるものだ。やたらと小狡――もとい器用な彼と違い、自分は暴力以外の手段を持たぬというのに。
『僕の切れ味、君で証明してあげるよっ!』
 ご自慢の兵器を揶揄されたからか蟹鋏デッカイザーはお冠!
 突撃しながら鋏を振り上げる。前に立つレイニィは、だが片足に重心をかけた余裕ある立ち姿で「アトラクション壊さなきゃイイんですよね」先の桜人の言葉を、なぞった。

 ガヂッ。鋏が鋏を弾けば。
 ぼごん。

 泥沼に人間が飛び込んだみたいな。 そんな籠った音とともに、レイニィの眼前に黒い液体が弾ける。
 誰の血でもない、怪異具現。UDC。遣わせた当人である桜人は「最低限は手伝いますって」ゴマすり声。
 おどろおどろしい粘液は欠けたロボ蟹鋏を包んだ。ギチ、ギギと鋏を開こうとするも難儀するデッカイザー。そっちの方々も、とはこの隙にこっそりライドの裏へ向かわんとしていた他の個体へ、だ。撒かれる黒があらゆる活動を阻害する。
「乗り物の底に穴を開けようなんて非情極まりない……私みたいな純粋な人間を沈ませて笑おうってな魂胆ですね? 腐ってますね、ゾンビの仲間だけに」
『いや、そこまでは考えては』
「――赤ずきんさん!」
 戯言の終わりを待たず桜人のUDCが弾ける。
 風船に針を刺した風だ。自壊することで一層に粘液を飛び散らせるそれは、デッカイザーたちの両の赤目へもべしゃりと降り注いだ。わ、と声を上げ鋏を振り回すロボ。顔を拭おうとしてもかなしいかな手は届かずに、その間にもずるり、ずる。粘液は背へ――開かれた装甲の隙間へと忍び寄る。
「こっちですよ」
 どこからか。薄ぼんやりと声が落ちた。
 レイニィだ。途端、自ら目掛け一斉に振るわれる鋏やら鋸の重なった一点を足場により高くへ跳んだレイニィは、宙で大鋏を閉じて縦に構える。 そう、ちょうど串刺し刑の鉄串みたいに。
 着地地点は決まっていた、桜人のUDCがこじ開けた背。
『なっ、に……閉まらない!』
「"詰まらせて"おきました。整備不良って今聞きたくない言葉ですけど、人の手を離れた機械の末路なんてこんなものでしょう」
 装甲の開け閉めに影響する節という接が、黒き粘液によって固められているのだ。
 先のジャンプ台扱いで同士討ちまで誘発されたデッカイザーがいくら焦ったところで、そこからの殺戮――縫製と呼ぼうか。 赤ずきんお得意の処置は全ロボ分で十秒は要さなかったと、そう言っておこう。 鋏が、赤が、黒が降る。
「ブッ壊れてください。では」
 ジョギリと。

「あーあ、ロボがボロボロ。ロボなだけに。……」
「……、あ゛? なんか言いました?」
 爆風で焦げたローブの端をちょん切りながらも、なんだかんだと返事をしてくれるレイニィの付き合いの良さ、である。
 桜人はもはや隠す気なくパンフレットを広げながらあれもそれもと印を付けている。
「ん? なんだ聞きそびれたんですね、もう一回言いましょうか?」
「いや繰り返さなくてイイです」
 それよりペン貸してと言えばこの"仕事"は譲れないと返る。
 よく働いたふたりの頭上も空はカラッカラに晴れ行楽びより、星なんてものが顔を出し始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カトル・カール
黒光りするのが無数にいると、ゴ……なんでもない(苦手な人への配慮)

観覧車を狙うデッカイザーズを銃で狙撃。
優先順は支持架台>ホイール部分>アームやゴンドラ
基礎は大事にしないとな。
充塡が間に合わなかったり弾切れの場合はジャッジメント・クルセイドも併用。

立ち止まってるといい標的だよな。
手持ちの釘を一箱ばら撒いたら、足止めに使えるか?
小さい資源をバラバラーっと。

位置取りが悪くて倒せない敵がいたら、接近戦にするか。メイスに持ち替えてホイールの鉄筋登って、殴り飛ばす。倒せなくても落とせたら幸い。

観覧車のてっぺんはいい眺めだろうな。


ルル・ミール
今日は何とかランドの素敵な夜って決まってるんです
泥棒なんて許しません
いっぱい愛されたアトラクションにも、
指一本触れさせません!

あれ?指だけじゃなくって爪もあります…?

声を上げて出来るだけ多くの気を引いて
日々のときめき探しで鍛えた足でアトラクション上をちょこまかと
高い所はドンと来いです
走るのだってへっちゃらですよ
バランスは尻尾を揺らして取ればバッチリです

銃弾や爆弾は風の全力魔法で何もない上空へポーイ
花火にしてはカラフルさが足りないですけど!
回転鋸や鉄鋏は風で厚く包んじゃいましょう
立派な装備も使えなければ怖くありません

多くを巻き込める時に今です!とUC
遊園地の思い出
素敵な風船を見せてあげます!


ケルスティン・フレデリクション
ひゃ、わたしはもってかえっても、いみがないよ…?
沢山の機械兵器に思わず怯え、涙目に。
でも、倒さなきゃいけない敵と認識すれば、だいじょうぶ。たたかえるもん…

【ひかりのほし】で攻撃を。
流星の模様を描き、複雑に飛ぶ沢山の流れ星!
「おほしさま、きらきら…たくさん!」
ひとのおにくはしげんじゃないからね!
みんなも、わたしも、持って帰っちゃダメなんだよ!

機械には水が利くかな…?【属性攻撃】【範囲攻撃】で豪雨を降らせるよ

敵の攻撃は基本避けるけど、よけ切れなかったら【激痛耐性】で我慢するね




 やたらカサついた動きで観覧車の方へ向かうデッカイザーの群れを追いかける一行。
 後ろ姿を見つめるかたちになる。効果は薄くとも何もせぬよりマシと、その装甲へカトルは銃撃を見舞い続けていた。時折反撃しようと振り返る短気なものを止め、更には仕留められるので足し引き無駄弾でもない。
 それにしても、黒光りするあの見た目。
「似ているな。ゴ――」
「ご?」
「ゴマ団子が焦げたときのやつっ、分かります!」
 違う。 違うが、違わないでいい。配慮して口を噤んだカトルからすこし遅れながらもついてくるのがケルスティンとルルの少女ふたりだ。
 頼もしきサバイバルガンナーに任せていても大丈夫かもしれなかったが、ルルは熱い想いに燃えていた。今日は何とかランドの素敵な夜だと決まっている。泥棒なんて許すものか! 蛇尻尾も常以上にびしばしと地を叩いて、走るルルを応援する風。
 お団子といいお腹が空いているのだろうか? 尻尾をじ、と見つめたケルスティンに蛇はイケた角度でウインクを決めた。が、少女の首がこてりと一層傾くだけの結果であった。
「壁をも走る力がある、か。ますます似てきたが、駆除しがいもあるってもんかもな。 いけるか?」
「もちろんです。いっぱい愛されたアトラクションにも、指一本触れさせません!」
 カトルの分析通りに支持架台を伝いカサカサと思い思いの部位へ散らんとするデッカイザーへ、強く地を蹴りつけて飛び出したルルが目一杯の声を上げた。
 指、だけじゃなくて爪もある? ――スクラップにしてしまえば同じこと!
『そう焦らなくても、君たちもちゃんと持って帰ってあげるよ』
「ひゃ、わたしはもってかえっても、いみがないよ……?」
 殺意向けられ改めて対峙する機械兵器、その数に一歩をたじろぐケルスティン。スカートの端をぎゅっと握って睨み返すも、意思に反して涙は滲んでしまう。此処へついてきたのは、何かの役に立ちたくて。
 けれども、 けれども。
「黙りな。互いに武器があるんだから、こっちで話そうじゃないか」
『!! ヴっ、』
 引き金を引いたカトルの愛銃、アルトゥールが放つ音と力が一切を押し返す。
 銃声に紛れカトルが口にした「好きにやれ」その短くも力強い台詞にこくりとちいさく頷き返して、ケルスティンもきらめきの精霊銃を構えた。だいじょうぶ、――たたかえるもん。
『あわわっ、ひとまず上へ』
「おほしさま、きらきら……たくさん!」
 願い唱えるは、ひかりのほし。
 ぽわんっ! 淡い夜色の煙が銃口から吐かれたなら、その煙を裂いて飛び出すのはたくさんの流星!
 ちょうど流星群がそうであるように、隠れて消えてと不規則な軌道がデッカイザーたちを翻弄する。ガゴン、ベゴン、星の欠片に殴りつけられ右へ左へ、やっとのことで寄り集まって超合体を試みる、も――。
「ひとのおにくはしげんじゃないからね! みんなも、わたしも、持って帰っちゃダメなんだよ!」
 ぷくりと頬を膨らませたケルスティンは合流を許さない。
 四方八方から流れ星にタコ殴りにされるムシ。 そうして歪んだ装甲の隙間を、カトルが冷静にして的確な狙撃で撃ち抜いていった。

 数にものを言わせ漸くゴンドラそばまで登れたものもいるにはいるが、この時点で割と這う這うの体だ。
 カサコソ。 
『ふー、でもいいもんね。人間の作ったものは柔らかいもん。この爆弾ひとつで――』
「見えてます!」
『何をぅ!?』
 大事なホイールへ放られた爆弾と、風を濃縮し編まれた魔法。
 デッカイザーズ大混乱の最中、その身軽さで既に上まで飛び移りスタンバっていたルルだった。
 ルルの呼んだ風は間一髪爆弾を空へ運び上げることに成功する。頭上後方で弾ける赤々とした炎、その風の圧が二者を同時に襲い突き落とさんと荒れる。
 先に体勢を整えたのは、無駄にたくさんある脚全部で柱にしがみついたデッカイザーの方。
『ふんっ。手足が多い方が強いに決まってるよーっだ』
「っと、と、ととと……」
 揺らめくルルには視界の端っこ、眼下に硬そうな石畳の地面が見える。スカートが傘みたいに膨らむ。
 しかし――そこまでだ。猫のように尻尾を揺らすことで器用にバランスを取り片足立ち状態から持ち直したルルは、今しがた自分がいた空間目掛け撃ち出された弾丸を「そう来るものと」と風に包む。 弾はゴンドラを逸れ明後日へ。
 危機を脱したのだから、放っておいて攻撃に回してもいいだろうって?
「言ったでしょう、私たちの目がある限り!」
 それでは"勝利"ではないのだ。
「届くことはないと!」
「――よく言った」
 男の声は意外なほどに近くから響いた。
 そして、衝撃音も。 鉄筋をよじ登ったカトルが振り下ろすメイスが強かに打ち据えてメカを下方の、何も巻き込むもののない空間へと叩き落したのだ。大立ち回りのルルが居てこそ敵の死角を取れたのだと、先の一言には顔に出辛い賛辞も込められていて。
 遠く足元でめしゃりと鈍い音が立った。
 ぴちょん。  睨みあうオブリビオンと猟兵、その頭上からはひとしずく。
『ひゃっ、つべたい』
『なんだ? 雨……染みる……!』
 雫はたちまち豪雨へ。しかし観覧車以外、どころか、デッカイザーらの頭上を除けば雨など降ってはいないのだ。これはケルスティンの齎す魔法のひとつであった。
「冷たいのは苦手? 虫さんなら、得意?」
『ムッ、僕たちに苦手なものなんて』
 どうみても虚勢といえよう。太い柱に寄りかかって頼りなげに立つ幼子へ、満足に爪を伸ばすことも出来ぬのだ。ただの雨水ならばいざ知れず、背の装甲を開けば内の精密機器を破壊し尽くされてしまうことはAIにも分かる。
 困ったときの合体変形――のフォームだって取ってみるけれども、如何せん辿り着けた個体数が足りなさすぎる。
 僅かな間。

『たいきゃーく!』

「退却?」
 させるかよ、させません、させないの。 三つの声と力がここぞとばかりに重なった。
 ばらばらと散らばって逃げんとするグレート・デッカイザーがまだ一塊のうちに、指をさす、その一秒も要さぬ所作だけでカトルが呼び起こすいかづち。
「折角なんだ、全部買ってけ」
 ジャッジメント・クルセイドは真白い閃光伴って観覧車そのものが避雷針であるかの如くに烈しく炸裂し、彼らを焦げ焦げに灼いた。
 まだまだ。
 そうして演算に遅れが生じている間にルルの硝子ペンは宙にひとつのイラストを描き上げている。
「では私からは、うんと大きくて素敵なこちらをっ」
 遊園地のおもいでです、とにっこり笑顔も眩しいまま。ルルがペン先を上へとシュッと突き上げれば、その動きに従って彼女の眼前からふうわり浮き上がるのは風船だ。
 上り、膨らむごとに分裂して――また膨らんで――分裂して――大きな風船の群れを作り出し、鉄筋にしがみついていたデッカイザーたちを無理やりに乗せ空高くへと進んでゆく。 頃合いを見て弾けるのであるが、それはイコール地面までのショートカット降車を意味していて。
『やだああぁ! 降ろしてええぇ!』
『お家に帰らせて!』
「いいよ。降ろしてあげるね」
 最後のひとつはおほしさま。の、おかわり。
 でも。もうひとつ覚えてかえってね、と、ケルスティンのあどけない声音が言って聞かせる。
「二度ときちゃだめだよ」
 降り止まぬ光。かえる場所は星の彼方。
 或いは、海の底。

 本日幾度と戦いの舞台となった大観覧車。
 ところどころゴンドラは落ちているがさすがというか逞しいもので、この分ならば一夜の晴れ舞台には問題ないだろう。
「落ちるなよ?」
「はいっ。よいしょ……ありがとうございます」
 ルルを軽々引っ張り上げてあげたカトル。そのルルがケルスティンに手を貸して、点検を兼ねいよいよ三人は頂上に辿り着くゴンドラの上だ。高きで眺め下ろしてみれば、園内の戦いもその大半が鎮まっているのが窺えた。
 キラキラと尾を引いて星が駆け下る中、風船たちは上へ上へと飛んでゆく。すべてが"敵"だけを襲うユーベルコードだったから、触れられるほど近くを掠めていっても無害で。
「なんて景色でしょう」
「きれい……」
 ノートにペンを走らせるルル、端っこに腰掛けて足を揺らすケルスティン。
 少女たちの傍ら、座ることはせずカトルも遠くまでを眺めた。奪還者たちだろう、入園ゲートの向こうに豆粒ほどの人々が立ち上がって同じく空を見上げている様まで見える。 ――深い藍の眼差しは人知れずそっと細められて。
「ああ。こりゃ絶好の眺めだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世

綾(f01786)と

コーヒーカップの中には
珈琲とお砂糖とミルク、綾と縫とわたし
ワクワク鼓動高鳴らせ回転を上げたなら
きみたちも目一杯楽しんでくれる?

え? 囮? ……ウン、全然忘れてないよ

敵のお出ましに徐に顔を引き締め、
縫の作ってくれた好機をすかさず繋ごう
デッカイお客様を乗せたカップへ
花嵐で回転方向に加速させる追い風
開いた装甲へ投擲する花の種が芽吹き、絡めば
落っこちないように安全対策も万全!

さあ、ほら、いちばん素敵な資源を持っておかえりよ
荒れ果てた世界でも新たに生み出せるもの
――楽しいきもち、ってやつをね

クルクル目を回す姿に振ってみせる手は
今度こそさようならの仕草
アトラクションは、これでおしまい


都槻・綾
f11024/花世

軽快な音楽でゆったり回る、珈琲カップ
相棒の縫と花世と三人で乗って楽しんでいるのは
ちゃっかり――ではなく、
遊具を護る為の囮として

表情は動かぬけれど興味深そうに
座っている縫の頭を撫でたところで

こら~じゃまするな~!と飛んで来た攻撃を
オペラツィオンで受け止めよう

縫から咲き乱れる朱赤の幻想に眩んで
よろめいたデッカイザーが
カップの一つにころんと転がり入ったなら
さぁ、好機

花世が巻き起こす花嵐と
符を扇状に開いて薙ぎ払う衝撃波で
くるくるくるくる
激しく回転

目が回る様子は何処かあどけなくもあり
ついつい笑みが零れてしまうけれど
度の過ぎた悪戯は罪ですよ、と
言い解くうちに
骸の海まで辿り着いているかしら




 軽快でいてどこかなつかしいBGM。
 過ぎた日々の綻びすらかわいいヴィンテージ。お洒落な陶器のカップの中には、珈琲とお砂糖とミルク。
 綾と縫と、わたし。
 かよ。 ――己の名を呼ぶ声がして、指に指が触れ、溶けきった花世の鼓動は揺れるマーブル模様とおんなじ、ぴちょんと跳ねて高鳴るばかり。ついでにハンドル回す速度もぎゅんぎゅんと。
「大丈夫ですか? 代わりますよ」
「へ、うん、ううん? ……だいじょうぶ! ほら落ちちゃうよ、しっかりつかんでて」
 此処はコーヒーカップ。
 そして三人は目一杯遊んでいる。まさか? 立派に敵を誘き出しているのだとも。事実、一度はこの場所から駆除された害――デッカイザーのライトがゆらゆら集ってくるのが見えた。
「おや。花世の頑張りのおかげで、あちらもおいでになったようです」
「やった」
 ――なんて言いつつも。花世はそんな明かりよりも何よりも、縫、ちょこんと腰掛けるからくり人形の頭を撫でる綾を見ていた。
 慣れぬ回転に傾げたまま首を固定した縫へ、綾が何事か囁いている。
 よかった。たのし、そうだ。

 こんなしあわせなひととき。
『こら人間! のんきに楽しみやがって、そこにいられると邪魔なんだよ』
『まとめて持って帰ってやる!』
 邪魔をするのは、どっち?

 ガギィッ!
 と。響いた鈍い音の出処はデッカイザーが撃って殴って振り上げた兵器たちではなくて。
 なんとなんと、瞬きの間に彼らがカップの中へ放り入れられた音だった。
『――へ?』
「縫、お上手でした」
 入れ替わりに猟兵サイドは床面に着地。手品のようで手品ではない、一瞬にして発動したからくり人形のオペラツィオン・マカブルは攻撃ごと敵を絡め取って、プレゼントし返した朱赤の幻想に取り込んだのだ。
 幻想の主、綾の腕に抱かれた縫は銃創ひとつ受けずなんてことのない面持ち。
 奇襲がとっても成功して人間が血飛沫を上げる光景でも見ていたろうか? 赤が晴れた瞬間のデッカイザーズは目元のランプちかちかお互いの顔を見合わせ――――、
「ではでは運転開始!」
 ――、次の一瞬には強制的に離された。 カップが回る。はじめから最高みたいな滑りだしで回る。
 高らかに言ってのけたのは花世で、操作室は相変わらずの無人でも段飛ばしに上がるスピードは風の力。花葬。赤が止んだ代わりに咲き散る薄紅、花嵐は兵器を露わにしていた装甲の奥へも舞い込んでゆく。
 そこに含まれし花の種は、たちまち芽吹いて絡みつく。
 カップの取っ手に罅に彼らをくくりつけてシートベルト。落っこちないよう安全対策も万全――なんて!
『うっ、ぐぐ、お前たち……集まって……、がったいを』
『むりだよおおぉ』
 がむしゃらに撃ち出される銃弾なんかが明後日へと飛び立ってゆく。
 掠りようもない。大はしゃぎの様相に、綾はくすりと笑みを深めた。
 彼女、凄いんですよ。カップ回しの達人でして。だとか、整然と扇状に浮かせ並べる薄紗の霊符を一斉にひとあおぎ。
「やはり回す側も楽しそうで」
 そうしたところ。 そよそよ~~なんてもんじゃない、薙ぐ力強さで奔った衝撃波が回転を更に更にと押し上げるのだ。
 くるくるくるくる。
『はびゃっ』
 くる、
 まるで嵐の中!
 鋸で根を断ちなんとかジャンプする個体がいても、ぐずぐずにかき混ぜられた身体はべぎゅっと床面に投げ出され、合流を前に裏返ってしまって。
「お客様、運転の最中ですよ?」
 度の過ぎた悪戯は罪である、と。
 大変に愛想良いスマイルを浮かべ言い解く綾の符に包まれすぐさま送り返されてしまえば、罰、もとい、地獄の罠に引っ掛かったのだと夢の中で現実をいよいよ悟る。
 ――花世。もう少々刺激が足りぬご様子。
 ――まかせて、綾。
『あわわ、あわわわわわ!?』
「喜んでくれて嬉しいな、このために鍛えておいたんだ!」
「このために鍛えて?」
「……はんぶん嘘!」
 冗談めかしあまく耳梁擽る声に、花世がてへっと舌出すのは先のひとときが本当に本当に――ただ素敵だったから。
 だからそちらももーっとたくさん満喫して、と、強まる花の嵐はガラガラガラガラーッ。ただしそれは三人乗せた回転と違い、気持ちや中身のことなんておかまいなしの一方通行であって。
『あああぁぁああ』
『もう、ダメ……ぷしゅぅ』
 強弱ついた音声だけが黒き風と化したオブリビオンのなんたるかを物語る中、いい仕事をした、という顔で額を拭うムーブをする花世。あたり一帯焦げ臭い? 気のせい気のせい、花の香りが満ち隠してゆく。
「遊園地はね、たしかに素敵な資源に溢れているよ」
 欲しくなってもしかたない。だからあげようと思ったんだ。
 ――いちばん素敵なひとつ。荒れ果てた世界でも新たに生み出せるもの。
「――楽しいきもち、ってやつをね」

 さようなら。
 やんわり手を振るふたりへ元気良く振り返すようだ、千切れたコード類なんかがばたばたと風に舞った。
 生じる火花がバチッと焦げ付きカップに咲かす柄もどこか、花に似ている。
 じ、と見上げていた縫がひとつずつ右と左の手を引いた。常ならば仲良く叱られても仕様の無いはしゃぎようであったところを、むしろ"次"へと、先を促すみたく。
「さて、では」
「うん」
 同時に口を開けば微笑みも交わる。同じ"次"を見つめみっつ並んで踵を返すその背で、BGMとともにすこしずつ止まってゆくコーヒーカップ。
 とろとろにおいしく出来上がって。 アトラクションは、これでおしまい。
 閉園までに残された時間は――いまを生きるひとたちのもの。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『荒野の日常』

POW   :    廃墟の街を散策する。

SPD   :    周囲の砂漠を散策する。

WIZ   :    星空を眺めて過ごす。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 降り注ぐ照明の色は相変わらずの黄から青、青から赤。
 素っ頓狂な馬鹿騒ぎの会場はそれでも、もう、誘き寄せたものを傷付けるおそろしい魔窟ではなく。

「わあ……!」
「早くはやく! ぜんぶ回ろう!」
 入園ゲートをくぐりばたばたと駆け出してゆく子どもたち。その手に引かれ、しきりに頭を下げながら奪還者が続いていった。
 氷でできた案内板を覗いて指差してあれ、これ、と作戦を立てるもの。まずは自分の足で確かめてと片っ端からアトラクションに乗り込むもの。手を振る子ども、今だけは武器を脇へ置いて手を振り返す大人。
 そんな光景。
「頑張ってきて、よかった」
 心から零れた誰かの呟きが空気に溶ける。
 それは荒野を走る風とひとつになって、いつか世界の果てまで届くのだろう。

 つい先刻まで激しい戦いが繰り広げられていた園内は、有志の後片づけと弔いとがあって表向き血みどろの状態から脱していた。
 経年劣化でついた傷は傷のまま。キィキィと軋む音こそあるものの、人々の歓声に混ざり込んでささやかな声のひとつとなる。アトラクションたちの声。
『ありがとう』
『よくきてくれたね』
『どうぞたのしんでいって』
 船首で微笑む彫像。
 老馬のやさしい瞳。
 ゴンドラに灯る光。 ようこそ、ようこそ。
 すべてがどこか欠けていたって、亡者の呻きではない、心地好い囁きがあちこちから溢れるようだった。
イサナ・ノーマンズランド
【単独】
『……遊園地、おまえも興味あったんじゃねえの?』
「べつに。わたし、そういうのではしゃぐ年齢じゃないし」
『素直じゃねえなあ』

とはいえ、最後のチャンスかもしれないと聞いて心揺れないわけでもない。
というわけで、ちゃんと動くのか少し不安な観覧車を選ぶのだ。

「……あれがいい」
『いい棺桶の趣味してるな』
「落ちないよ」

軋む揺り籠に身を預けながら、遠くを見遣る。
窓の外に広がる夜の荒野には何も面白いものなんかないけれど。昔この座席に座っていた人は何を見たのかと思いを馳せたりしながら、月と星あかりを静かに眺めているのだった。きっとこれだけは今も昔も変わらないものの筈だから。




『……遊園地、おまえも興味あったんじゃねえの?』
「べつに。わたし、そういうのではしゃぐ年齢じゃないし」
『素直じゃねえなあ』

 キィ、ィ。
 頼りなげに宙で揺れる鉄錆びたカゴを、ある男は棺桶と呼ばわった。
 金属の細腕に支えられた内部には向かい合わせのシートがある。窓から外の景色を窺うことが出来る。それ以外は、ただ、ゆっくりと風に流されるみたく廻り続けるだけ。

『ほらな。近くで拝むとますます風情が出てら』
 そんな棺桶へ続く最後の一段を上りきって、軋む音の他にもうひとつ、イサナは自らへと語り掛けてくる別人格の声を聞いている。
 同年代と思しき人々が大はしゃぎで駆け出すのと佇んだまますれ違ったときだったろうか、たしか、ひとつめのやり取りをしたのは。
 仕事は終えた。もう帰って泥のように眠ってもいいと思いながら、なんだか帰り難い自分がいることに、そのとき初めて気付かされた。――此処で遊べる最後のチャンスかもしれないと耳にしたことを思い返して。
 どれでも自由に遊んで良いと放り出されてもよく分からなくて、正式名称すら知らないような、一番先に目に飛び込んできた大観覧車を選んだのだ。
 迎える風にちょうど乗り口へやってきたゴンドラがあった。
 開放されっぱなしの扉をくぐり腰を下ろすと軽い少女の体重ですらギィと嘆く始末。『地獄行きへようこそ』「落ちないよ」労うみたいにシートに手を遣って、イサナは返す。抱えていた銃を向かい側へ立て掛けたなら、天秤よろしくゴンドラは左右に揺られる。
 善悪の重さ比べでも無かろうに。
 肉体を間借りしている別人格ことレイゲンはなにやら笑う風に息を詰まらせて、そこから数十秒間くらいは空気を読んで黙ってくれていた。
「……たかい」
 ゆえにそれは本当に、ひとりごと。罅の走った硝子窓にこつんと額を寄せて、何とはなしに景色を眺め下ろす。
 射殺す標的を探すのでも無いのなら、こんな高さまでやって来る機会なんぞ稀だ。どこまでいっても荒野が広がるだけの夜景に面白いものなど何も無いと知っているのだから。
 見慣れた月と、星あかり。
 ただ。 その光の帯がどこか違ってやわらかく降るのは。
 ボロ板の隙間を抜け、下方から伝わってくる人々とアトラクションの活気がそうさせるのか。
「変わらないといいな」
 いつかは街が栄えて、緑が茂って、道が続いて。かたちこそ殺風景に変わり果ててしまっても、今も昔も、未来だって、この座席にて触れられる世界は彩り変わらぬものであれば良いと――、
『ワビサビが判るようになったってか、お嬢ちゃん』
「うるさいなぁ。むずかしい言葉使わないで」
 ――思い馳せていたところの"これ"だから。
 おちおち感傷的になってばかりもいられない。てっぺんを過ぎたゴンドラはこれから同じだけの時間をかけて、地面へと戻るのだろう。なあ、あっちのコースターの方が眺めが良いんじゃねえか? なんて尚もけしかけてくるレイゲンに、降りたときに気が向いてたら、とすげない態度で膝を抱えるイサナである。
 けれど。
(「それも悪くないかもって、いまはちょっぴり思えるよ」)

 キィ、ィ。 相変わらずの不気味な音色だって。
 乗り込んだときよりもずっと居心地好く感じられるこの鉄のカゴは、やっぱり、棺桶よりも揺り籠と呼ぶ方が似合いなんじゃないかとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
神楽耶ちゃん/f15297と

派手なアトラクションに目が行きがちだけれど。
それでも、夜のメリーゴーランドは別格だわ。

あたしにきらきらしさは足りていないけれど、いまは王子様になるのも良いわね。
だってほら、このお馬さんは二人乗りが出来るみたいだもの。
お手をどうぞ、お姫様。

くるくる回るだけなのに、何でこんなに楽しいのかしらね。たのしい……。
もう一周いきましょう。

皆も楽しそうで良かった。
乗っているヒトたちにも、見ているヒトたちにも手を振りましょう。
流れる景色と笑い声は、ほんのすこし夢のよう。

楽しい記憶は、きっと胸に灯るのよ。
ひかりのひとつになったなら報酬としては上々ね。
おつかれさまでした、神楽耶ちゃん。


穂結・神楽耶
耀子様/f12822と

遊園地といっても、アトラクションは色々ありますよね。
お化け屋敷もそうですし、ジェットコースター、ブランコ、フリーフォール…
こういうメリーゴーランドも好きなんです。

耀子様は白馬がよくお似合いですね。
雰囲気が凛々しくあらせられるので王子様みたい。
…え、と。
わたくしもお姫様というにはちょっとこう、刃金が過ぎますけど。
今日はお供させてください、王子様?

それなら次はカボチャの馬車ですね。
あ、ほらほら奪還者の方々も乗ってきましたよ。
手振りましょう。
いっしょにどうですかー!

希望なんておこがましい気もしますけど、
この笑顔が今日のわたくしたちの報酬です。
お疲れ様でした、耀子様。




 ライトアップにより生み出された影絵までも躍るメリーゴーラウンドは、ひとつの華やかな劇場みたい。
 先に"攻略"したお化け屋敷、ジェットコースターをはじめとした色々な絶叫系、……遊園地には派手なアトラクションがたくさんあるけれど。
 耀子と神楽耶がこれは欠かせないと選んだものは、そんな賑やかしい動物たちの織り成すパレードの景色だった。
「好きなの?」
「はい。耀子様も?」
「そうね。夜となると、別格」
 乗り降りの入れ替え時が訪れても、足場の回転が止まっている時間は短い。
 二人とも初めてではないから、踏み入って手分けして"イチオシ"を探す姿はショッピング――よりも、戦闘時のテキパキさのそれだ。
 最中、初めに足を止めたのは耀子。一頭の白馬の逞しい胴を撫でて、目立った故障がないことを確かめている。神楽耶はひょっこりと横から覗いた。同じくそろりと触れてみる。つめたい。モノであるから、当然だが。
「こちらにしますか? 耀子様は白馬がよくお似合いですね」
 背に跨り剣を抜いたならきっと一層。常ながら纏う凛々しい雰囲気が王子様みたいで、と神楽耶。
 王子様と呼ばれるにはキラキラしさが足りていないと耀子は自らを評価するものの、見初めた馬はちょうど二人乗りができるようだから。
「それも、いまくらいは良いわね」
 ふっと眦を緩めた。
 白馬はほかのものより二回りは大きい。軋む鐙にかかとを引っ掛けて、勢いをつけてからまず耀子がその背へと飛び乗る。
 手綱代わりの鉄の手すりを掴む。そうして足元で惚れ惚れ見上げてくる娘へと、恭しくも片手を差し伸べた。
「お手をどうぞ、お姫様」
「……え、と」
 お、おひめさま! まさかのカウンターときた。
 脳内では予測変換がバグった神楽耶たちが大慌てしているけれど、このシチュエーションで他のものに受け取れるほど鈍くもいられなくて。――此方こそ、お姫様というにはどうにも刃金が過ぎる身だ。
 けれども、今夜、この場所でくらいは。
「お供させてください、王子様?」
 癖のように刀の鞘に添えていた手指を離し、伸ばして、耀子のそれと重ねる。
 途端に力強く引き上げられる身体が地を離れた。「わ、」「今日のために鍛えていてよかったわ」なんて。高い馬の背にてちいさく笑いあう頃には、ともに引け目なぞ吹っ飛んでいた。
 ゆるやかに始まった音楽と回転。馬は上下へとお利口に駆けながら、二人を夢の世界へいざなう。
 耀子王子も決して高い方の背丈ではないが、それが逆に神楽耶姫にはちょうど良い。頑張って背伸びをしなくたって向こうの景色が見えるし、なにより見ているものも同じ。
「耀子様、右手、馬車もあります」
「野菜? 野菜もお祭り気分ということかしら」
「そういった御伽噺があるんですよ。ただの女の子が挑戦の果てに成功を掴む、その過程でですね……」
 ――戦いと切っては切り離せぬ日々だからこそ。
 おしゃべりもそうだ。普通の人々にとってはなんでもないことのようなひとつずつが、輝いて映る。
 くるくる回るだけなのに、なんでこんなに楽しいのかしらね。ふとした耀子の呟きは丁寧に神楽耶に拾われて、世界は素敵な不思議に溢れていますね、と微笑みで返される。いつくしむ女神のようでいて、等身大の少女のようでいて。
「やっぱりお姫様が似合うと思うの」
「えっ?」
 くすくす、愛らしく弾む音楽の終わりに従って白馬の歩みが止まってゆく。
 だが。「お次は?」「ええ」二人は示し合わさずとも次の一周を約束済み!
 先に飛び降りた耀子の手にエスコートされ連れ立って向かう先は、先の野菜の馬車。鮮やかなオレンジからパープルへのグラデーションにどこかの城の影が映り込んで、なんともメルヘンチックな扉がそこに開かれていた。
 屈んで戸口をくぐると、ちょうど反対側の扉から奪還者の少女二人組が乗り込んできたところ。
「あ」
「わ」
「――こんにちは! いっしょにどうですか?」
 頑張ってくれた猟兵へ場所を譲ろうとした彼女らをにこやかに呼び止めて、同乗をお誘いするまではごく自然体に。だって、今度は四人乗りができるようだから。
 ふかふかクッションに腰を下ろし、丁寧に装飾されたままの車内を見上げて零れる感嘆の吐息は四人分。
 ちらと隣を窺い見た神楽耶は、気持ちそわっと膝の上の手をぐーぱーする耀子の肩へ始まった揺れの所為にして肩をこつんとぶつけた。
「今度はお互いにお姫様ですね?」
「王子様より更に、」
「可愛くって、それにかっこよくて強いお姫様たちなんて憧れます!」
 似合わない、そう自己評価をくだそうとした耀子の声は向かい側、握りこぶしの奪還者に遮られる。
 ちょっとお姉ちゃんだとか申し訳なさげにする妹をも巻き込んで、白熱するガールズトークはそこから二周は優に続いたのだとか。

 流れる景色。笑い声。廻るあわい夢から覚めても、まだ。
 馬車から降りた耀子と神楽耶は大きく振られる手へ手を振り返していた。去ってゆく彼女らもまた明日から、戦いの日々へ戻るのだろう。
「年相応、というのでしょうか。とても元気そうで。楽しんでくれていて良かったです」
「ええ」
 さりとていつか、この思い出が力となる日が必ず来る。
 ――今日はゆっくりと終わるけれど。
 ――希望なんておこがましい気もしますけど。
 同じタイミングで"続き"を口にして踵を返す先には、まだまだきらめきはしゃぐ人々の。
「あの笑顔が今日のわたくしたちの報酬ですね」
「楽しい記憶は、きっと胸に灯るのよ。ひかりのひとつになったなら報酬としては上々ね」
 乾杯する? 自販機、動いてますかね?
 並んで歩き出して贈りあう「おつかれさまでした」が、ほっとひとのぬくもりを持って、荒野の風をまたすこしだけあたためた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
地元にも遊園地……を名乗る何かはあったけど、なんともいえず地味だった。
遊具が並んでるだけで、うん、世界観がなかったんだよね。
そういう意味では、このアポカリプス遊園地ヘルは百点満点。
……演出じゃなくて、事実なんだけど。

定番は大観覧車かなって順番待ちに並ぼうとして、
乗れずに眺めているだけの小さな女の子に声をかける。

どうしたの?
……落っこちないか怖いって?
奇遇だね……僕も正直ちょっと怖い、メンテとか大丈夫なのかなこれ。
ね、怖い同士で一緒に乗らない?
ふたりなら怖くないかもよ。

君にもまだ、帰るところはないんだろうな。
日常を与えてはあげられないけれど。
ちょっとした非日常の間だけ、手を繋ぐことはできるから。




 濃い、血のにおいがする。
 そりゃああれだけべったりと使わせてもらっていたら、当然かもしれない。奪還者や非戦闘員も混ざる大観覧車の列に並ぶうえですん、と鼻を鳴らして、夏報は自分の服の袖なんかを引っ張っていた。 怖がらせないといいけれど。
(「まぁ、今更そんなものに怯える世界でもないか」)
 石畳のシミなど数えもせず、交わされる人々の笑顔なんて常ながら逞しいものだ。
 ぎぃ、ぎぎ。軋んで廻る巨体をこうしてひとり見上げていると、地元にも遊園地――……を名乗る何かがあったことを思い出す。なんともいえず地味だったなぁ、とか。
 遊具が並んでいるだけで世界観というものがなかった。
 そういう意味では、此処、アポカリプス遊園地ヘルは百点満点。
「……演出じゃなくて、事実なんだけど。……と」
 ふと。
 感傷とも呼べぬ感慨に耽りつつ夏報がもうすこし端へ視線を移ろわせれば、列から外れてぽつんと佇んでいるちいさな女の子がいる。
 一心に観覧車へ向けられる眼差し。風にばらける後ろ髪の長さだけが似ていた。さっきの、ぬいぐるみの、あの。
「どうしたの?」
「ぁ……の、みんな、あんなの、よく乗れるなって」
 声を掛ければ返ってくるのはしかし、まともな人間の回答だ。
 いつの間にやら傍らにやってきていたお姉さんにびっくりしたのか、大きく肩を揺らして"あんなの"と宙と、地に落ちたいくつかのゴンドラとを示す。歪み、鋭く、砕けて撒き散らされた破片たち。
 あぁ、と浮かぶのは飾り気のない苦笑いだったろうか。とにかく夏報は世紀のヒーローぶることなどてんでせずに、同じ目線に屈んで「奇遇だね」と吐息を零した。最後にメンテしたのいつなんだろう。「僕も正直ちょっと怖い」と。
「並ぼうとしてたのに?」
「並ぼうとしてたのに」
「……死にたがり?」
「うぅん。多分、君とそう違わないよ」
 ――ね、怖い同士で一緒に乗らない?
 ふたりなら怖くないかもよ。

 やっぱり怖いよ、と、女の子はなんとも不器用に笑った。
 それはぐらつく車内への橋渡しをする夏報の手を取ったとき。手を離してしまえば簡単に滑り落ちてゆくであろう命を、すこしだけ笑い返し、夏報は今度はしっかりと引き上げた。
 もつれ込むみたいに向かい合わせのシートへ沈む。
「わ、っ」
「ほら、これで一周分は何処へもいけない」
「泣いても喚いても?」
「泣いても喚いても。って……うーん、さっきから言葉選びがシビア続きだな」
 いまの弾みで転げたネジがあるって、正気か? ダブルの意味で困り顔な夏報に何を思ったのかすこししてやったり顔で窓辺へと這い進めば、大人たちがよく言ってたんだ、そう四角の外へ目線を注ぐ女の子。
 アトラクションを――楽しむ人々を――近くを見ているようでいて、夜空と同じ色の瞳はもっと遠く、違う何かを探すみたいに色を濃くする。
「そう」
 君にもまだ、帰るところはないんだろうな。 言葉にはしなかった。
 一応は壁面にくっついて仕事している手すりに腕を置くと、夏報もまた頬杖ついて同じ方角を見つめるだけ。本当のところは落ちるかもしれないことなんて、怖くなかったのだろうともう分かっていた。
 ――長いね。すこし、お話してもいい?
 ――ん。その方が、怖くないよね。
 ぽっかりと広がる荒野は、だが、向かいの子どもの心を絶望を越えひそやかに躍らせる何かを持つらしい。
 夏報はやわらかく頷いた。日常と、非日常。ひっくり返して与えてあげられはしないけれど、ちょっとした非日常の間だけ、手を繋ぐことはできるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

では、いざ!帽子をかぶり!(パンダ帽子装着)
パンダさんに乗りにいこか!
どこにおるかの~、だいたい園内をうろうろしとるはずなんじゃけど…
トナカイ?
トナカイがおればサンタさんにはなれるかもしれんが、わしらはいまぱんだじゃ
いやぱんだサンタさんであれば…なれぬことも…(うなる)

あっ、ぱんだ。ぱんだ…おったよ!
む、ぼろぼろじゃね、大事に乗ってあげよ
さて…どちらが先にのるか…ここはじゃんけんかの?
一緒? 一緒はどうじゃろ、もつじゃろか~?
しかし歴戦ぱんだならいけるか
ではわしも失礼して…ぱんださんよろしくたのむ!
…せーちゃんはいつのまに乗物とおしゃべりできるようになったんじゃろ…


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

お待ちかねのパンダさんだな(そわ
俺達もパンダさんになったことだし(パンダ帽子着用
では、パンダさんを探そう

パンダさんは何処をお散歩しているのだろうか(きょろ
そういえば、さんたさんとやらはトナカイさんに乗っていたな
トナカイさんもいるかもしれない(探す
…トナカイさんはいなようだな
そうだな、俺達は今パンダさんだからな

おお、パンダさんと遂に出逢えたな(嬉し気
ああ、優しく乗ってあげよう
じゃんけんも良いが、らんらん一緒に乗ろう(微笑み
ボロボロになっても尚現役なところをみると、歴戦のパンダさんでは
パンダさん、よろしく頼む。おすすめの場所まで案内してくれたら嬉しい(微笑みつつお喋り




 ライトアップされた園内をのそのそと二頭のパンダが歩いてゆく。
 二本足で、確固たる意思を持って。ときに和気あいあい言葉すら交わして。
 やはりこの世界のパンダは一味違った――なんてことはなく、それは嵐吾と清史郎。満を持しておそろいのふわふわパンダ帽を装着し、パンダに擬態した二人であった。
「……ふむ。仲間恋しさに寄って来るかと思うたものの。案内図的にはこのあたりなんじゃけどのー」
「おひるねの時間なのかもしれない。パンダは……日陰と日向どちらを好むんだろうな」
「日向じゃろ? むむ、しかし白い部分は日陰かもしれん」
 道中、謎が謎を呼ぶパンダ談議に花を咲かせる二人。なお答えは出ない。
 時折すれ違う奪還者らにパンダの行方を尋ねる様は、それだけでイベントスタッフのようであったとか。パンダ(乗り物)の代わりに子どもたちへ肩車などしてやったりとサービス精神満点で練り歩く二人の善行をパンダ(乗り物)もまた見ていたということか、ついにそのときはやってきた。
 ――そういえば、さんたさんとやらはトナカイさんに乗っていたな。トナカイさんもいるかもしれない。
 ――トナカイがおればサンタさんにはなれるかもしれんが、わしらはいまぱんだじゃ。いやぱんだサンタさんであれば……なれぬことも……?
 それは、おしゃべりがサンタさんとトナカイの袋小路に入り込んでいたときのことであった。あっ、と切迫した声を上げたのは嵐吾。土産屋とアトラクションの間をスッと横切ってゆく、大きな白黒もふもふの影に目を擦り。
「ぱんだ。 ぱんだ……おったよ!」
「おお!」
 幻ではない、本物だ!
 思わず自分たちの顔もとい帽子を互いに見やり、正しくパンダであると確認し頷きあった嵐吾と清史郎は、そこから今日一のダッシュでパンダ自動車に追いつくことに成功する。
「待ってくれ、パンダさん」
「わしらを乗せとくれ! ずっと探しとったんじゃよ」
 ひしっっ。
 衆目を気にせずに縋る大の大人。いや大パンダ。そんな二人へ、にこやかに振り向くでも立ち止まるでもない、天敵知らずの超然さとふっかり感でパンダは迎えてくれたのであった。
 ――。先の戦いのみならず長く雨風に晒されてきたのだろう、お世辞にも美しい毛並みとはいえない。むしろ所々金属が露出してボロボロだ。だが夜闇限りの世界と違い、どこかお日様の香りがする。やはり日向の方が好きらしい、声をひそめそっと笑み交わして。
「よしよし。大事に乗ってあげよ」
「ああ、優しく乗ってあげよう」
 色褪せたシートには"おとうさんおかあさんとといっしょに乗ってね"の文字が躍る。明らかにおこさま向け――、しかし、ここまで数多の苦難を乗り越えパンダを求め続けたものたちに迷いの二文字はなかった。
 どちらともなく、その背にいまだ輝く銀のハンドルへ熱視線を注ぐ。
 右手左手を複雑にクロスして額にあてて数秒。 嵐吾がすうと息を吸う。
「じゃん、けんっ」
「待った」
「なにっ?」
 どちらが先に乗ったものか、一発勝負と心得ていた嵐吾は清史郎の静止にびくりと肩と耳を揺らす。そんな姿にも笑み零して「じゃんけんも良いが、」戦意無きパーのままの手で清史郎は広いパンダの背を叩いた。
「らんらん、一緒に乗ろう。座席にはこう書かれているし、ボロボロになっても尚現役なところをみるに歴戦のパンダさんでは」
 歴戦の、パンダさん?
 強いワードに改めてその佇まいを覗けば、太い四本の手足、ずんぐりと分厚い胴。ひび割れて深まった口元のカーブは乗れよとニヒルなスマイルに見えないこともないこともないことも以下略。
「――ならいけるか」
 コロッと納得した嵐吾である。よろしく頼んだとパンダを撫でるは同時。
 では、どちらがハンドルを握る?
 それに関しては――――。

「おかしいのう、わしの血潮はチョキの勝利を叫んどったんじゃけど」
「ははは、勝ちを譲ってもらってすまないな。次の角で交代しよう」
 前に清史郎、後ろに嵐吾。大人二人で乗っても意外に安定感のあるスペースは、やはり家族連れが想定されていたのであろう。ウィンウィンと音立て歩むパンダに苦しそうな様子はない。
 その遅さときたらまさに牛歩であるが、だべりながらの観光には丁度良い。パンダの背にて興味の向くまま、あれはなにそれはなにと話を楽しむパンダーズの前にふっと現れたのは枯れ蔦の這う廃墟であった。半壊した門に■■■病院の血文字――、これは!
「なぁらんらん」
「ぅおっとぉ! パンダ様はもっと散歩を続けたいようじゃよ」
 どう見たってお化け屋敷! 身の危険を察知した嵐吾が目一杯腕を伸ばしてハンドルを逆へ切る。ゆったりと方向転換する乗り物と後ろの男の必死さのでこぼこ感にくすりと笑いを零して、わかったわかったと宥める清史郎だ。
「そういうことなら。パンダさん、他のおすすめの場所まで案内してくれると嬉しい」
 出来れば怖くないところで、なんて。
 ぽふぽふその頭を撫でての注文にぶつ切れのメロディが返る。プログラムされた電子音であろうとも嵐吾は、どこか誇らしげな調べを発するパンダと、手はハンドルへ添えるだけの清史郎とを夢心地で眺めることとなるのだった。 本当に三パンダでエンジョイしているみたいだ。行き先が、また少しずつずれてくる。
(「……。せーちゃんいつのまに乗り物とおしゃべりできるようになったんじゃろ……」)
 ちょっとうらやましいような。
 術を教えてほしいような。
「――ってお化け屋敷はパンダのおすすめだったんか? またせーちゃんのいじわると思うた!」
「人聞きの悪い、俺たちはらんらんに楽しんでほしいだけだとも。な、パンダさん?」
 ただの機械と心の通じているかの不思議もきっと、この一夜にこそ許された――猟兵が叶えてあげた――素敵な夢と魔法のひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
亮さん(f26138)と

おうおう!そいもあいも逃げんけん転ぶなよ!
ちび等に声掛け
さあお待ちかね遊園地デートと亮さんば振り返りゃあ、
あハイ!ひとっパシリ行ってまいります!

そいやあアイスって何処で手に入るとやろか
売店あと?自販機?
まあなんかこうアレをこうして見繕いまっしょ

そん呟きが聴こえて
本当になと頷いて、労いの一缶を受けとり
俺も、亮と一緒できて最高だった
有難うな
一夜の夢で終わらせんよう
俺達きっと蹴って蹴って投げて投げるよ これからも
また背中ば守ってくれんね
え!どこどこ!!ってゴリゴリのオッサンやなか!
キリッと決めとーたんに…

おう夜通し回り倒したろ!


天音・亮
有頂(f22060)と

駆け回る子供達
みんな楽しそう
あ、約束のアイス!私チョコアイスで!

待ってる間に自販機で缶ジュース2本購入
…飲める、よね?
ベンチで待ってると目が合った女の子
手を振れば楽しそうに振り返してくれて
可愛い笑顔にときめきながらパーク内見回す

守れてよかった
なんて呟いて
おかえり有頂
はい交換
勝負とは別で今回一緒に来てくれたお礼!

楽しかったなぁ
ね、また一緒に遊ぼうね
もちろん!
駆けられる限りどこへでも
自由奔放なその背中を守るよ

あ、めちゃくちゃ綺麗なお姉さん
指差した先に屈強な男性
引っ掛かった有頂に笑いながら立ち上がり
いつの間にか食べ終えたアイスの紙屑ゴミ箱へ

さ、遊ぼう!
きみの腕を掴んで駆け出そう




 ゾンビどっちが多く倒せるかな? バトルの勝敗は、亮の勝利に終わっていた。
 本来あるべき賑やかさを取り戻した園内にて果たされる約束はといえば、負けた方が買った方にアイスをおごるというもの。
「おうおう! そいもあいも逃げんけん転ぶなよ!」
 駆け回る子どもたちにぶつかられそうになった有頂は、低い位置にある頭をぐりぐりと撫でて押しながら笑う。はーいと返事こそ素直なものだが、彼らの足取りは相変わらず。腰に手を当てて見送る有頂はなんだか普段よりぐっとお兄さんに見えて、平和な光景に亮の笑みも深まる。
 みんな笑顔で。楽しそうで、なにより。
「有頂、私チョコアイスで!」
「あハイ! ほいじゃ亮さん、行ってまいります!」
 さあお待ちかね遊園地デートと意気込んで振り返った有頂は先の先に釘を刺されたような。それでこその亮であるような。涙を呑んで手慣れた敬礼ひとつ、まずはおひとりさま遊園地散策へと乗り出した有頂なのである。
 しかしアイス、アイスという話であったが――。
 コンビニなんてあるはずもなし。見渡す限りは半廃墟。ひょこ、ひょこと割れた窓や戸口から建物を覗いては引っ込めてを数軒繰り返したろうか、お目当てのブツは意外な場所で有頂を待っていた。
 移動式屋台の端に置かれたショーケース。
「……ちょこっと失礼~、ほい腕だけさんは食えんやろ」
 上に乗っかっていたゾンビの手をひょいと除け。フタを開けば、熱狂の夜には心地好い冷気が頬を撫でつける。
 ――ポチッ。 ガラン、ガラン。
 その頃の亮はといえばチカチカ誘う自販機と向き合っていたところ。
 ボタンを押して吐き出される缶は二本。自分の分と、彼の分。スッキリレモン・熱中症も怖くないが売り文句のスポーツドリンクは如何にも体力勝負な遊園地向けだ。くるりと表へ回せば大きく描かれたマスコットキャラがピースサイン。
(「……飲める、よね?」)
(「見た感じ消費期限無いしな」)
 缶を箱をくるくるし、時を同じくして似たようなことを考えていた二人であった。
 電気系統が生きていたことが幸いといえようか、きっと口に入れて大丈夫だろう。次に宝探しする誰かのためとフタを閉めた有頂がそそくさ踵を返す一方で、手近なベンチに腰を下ろした亮。プルタブを引きながらふと顔を上げれば、メリーゴーラウンドに乗り込む少女とばっちり目が合った。
「お」
 まだちいさい、かわいい白馬。「かっこいいね!」声も大に手を振ってあげたなら、こんな世界でもお姫様になんて憧れるものなのだろう、嬉しさや誇らしさが透けるお淑やかな手の振り方がそれっぽくて。溢れる笑顔は、おそろい。
「……守れてよかった」
 ぽつり。
 零れた亮の呟きを拾い、本当にな、と言い重ね有頂は柱の陰にて頷く。一拍置いてベンチの背にそっと歩み寄れば、子どもたちを眺めている彼女の眼前へ後ろからにゅっとチョコアイスを差し出した。
「わっ。 おかえり?」
「お待たせです、見っけてきましたよーて。まずオイから毒見してみるけん」
「どくみって、ふふっ。それも忍者のワザ?」
 隣へどっかり腰掛ける有頂に亮もハイ交換とつめたい缶ジュースを押し付ける。
 これは? 狐につままれたみたいな顔が面白くて。
 今日は楽しかった。勝負とは別で、一緒に来てくれたお礼! ――真っ向から素直な気持ちを伝えたなら、にへへと緩む有頂スマイルとふたつめのプルタブが引かれる音。

 マスコットキャラの形をした棒アイスは軽いくちどけで、とろりと甘いシロップに覆われた見かけ以上に爽やかだ。
 これなら何本でもいけてしまいそう。こんな夜が何度繰り返されたって楽しめそうなのと、同じに。
「俺も、亮と一緒できて最高だった。有難うな」
「――ね、また一緒に遊ぼうね」
「そん時はまた背中ば守ってくれんね」
「もちろん!」
 駆けられる限りどこへでも。自由奔放なその背中を、守るよ。
 ベンチに隣り合うふたつの影は地面へ落ちて、照明の色に賑やかしく染まっている。
 向き合ってよし、背を預けてよし。これからも蹴って蹴って投げて投げて――? 笑いあって。一夜の夢で終わらせるには勿体なさすぎるめぐり合いに、思うことはまたおそろい。
 とてもいいムードである。そんな最中、ふと亮の指先がしずかに宙を滑って一転を指さした。
「あ、めちゃくちゃ綺麗なお姉さん」
「え! どこどこ!!」
 バッッとその先を睨む有頂、ココイチの眼光。
 だが――。
 そこには屈強な壮年奪還者が「?」な顔をしてファンシーな馬車の扉を開いているのみだ。
「……ってゴリゴリのオッサンやなか!」
 オーバーに頭を抱える有頂。ベンチから転げ落ちかける。
 同時、カシャッと響いたのはシャッター音。見遣れば、亮の膝上で先と同様にアドくんがピカピカと保存済を伝えていた。
「へ? 今?! さっきのキリッと男前タイムでなく?!」
「うん? キメ顔より決まってたもん」
 なんて、と朗らかに笑った亮は空箱と空き缶をそれぞれゴミ箱へポイッ。ちょうどゾンビを蹴転がしていたときみたいに、華麗にゴールへ入ったそれを後にして隣の男の腕を引いた。
 休憩はおしまい。
 さ、遊ぼう! ばっちりリードされてしまえば、間抜け面して凹んでなんかいられない。有頂の顔にスッと浮かぶのは挑戦的な笑みで。
「おう夜通し回り倒したろ!」
「そうこなくっちゃ! まずは頭の上でぐるぐるしてるアレね」
「おおぉ……最初っから飛ばすやないのステキ!」
 メモリにも収まりきらないほどの、大はしゃぎの一瞬一瞬を!
 積み重ねるため、駆けだす。荒れ狂うモンスター・コースターの攻略も、二人にかかれば楽しいばかりの一ページ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
メーリ(f01264)と

メーリもきこえたっ?
かんげいされてるっ
うん、たくさんたのしむよっ

メーリはどれが気になる?
水しぶきと楽しそうな笑顔に悲鳴

わあ、わたしものりたいっ
手を引かれ笑顔で駆ける
真似てシートベルトを
これでいいのかな?
動いているゆうえんちは初めてだからわくわく

ゆっくり上がっていく間も平気で話しかける
メーリはゆうえんち、きたことある?
わたしも、
言いかけたところでひゅっと落ちて
わあっ
手すりにぎゅっと掴まり
ざぱーん!

ぽたぽた髪から雫が落ちるのを呆然と眺め
ふふ、ふふふ
つめたいっ
ハンカチっ
思い出したように出せばこちらもびしょ濡れ
おかしくてたのしくて

メーリ、次はあっちいこ
まだまだじかんはあるものっ


メーリ・フルメヴァーラ
オズ(f01136)と

アトラクションが
『よくきてくれたね』って言ってくれて
嬉しさで頬が緩んじゃう
すごい、どれもレトロで楽しそう!
ね、いっぱい楽しもうねっ

ええとね…あれ!
指差すはウォーターコースター
ちょうど歓声と水飛沫が跳ねる
今の季節にぴったりだよ
オズがよければ手を引いて駆けだそう

シートベルトつけて準備万端
これでばっちり!
動き出しても私も普通に話しちゃう
あるけどあんまりないの
だから今日はいっぱい遊ぼうって
声が重なりかけて
わあっ!!
きらめく水に飛び込んじゃった

前髪から滴る水が鼻先に落っこちた
つめたいけど笑顔が綻んじゃう
ハンカチで拭けば…あっこれも濡れてる!

うん行こう!
まだまだ一緒に全力で遊ぼうね!




 ――よくきてくれたね。
 見上げるアトラクションたちが確かにそう言ってくれた気がして。メーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)はじっ、と瞬きも忘れ彼らの顔ひとつひとつを眺めては、眦と頬とを緩めた。
 オズはといえばそんな少女の横顔と視線の先とを交互に見つめて。うれしいな、と。きっとみんなの心模様を代表した呟きを零したのだ。
「メーリもきこえたっ?」
「うん、聴こえたよ。すごいね、どれもレトロで楽しそう! ね、いっぱい楽しもうねっ」
 ね! と次にはお互いが顔を見合わせる。
 どこから行こうか。迷ってしまうほど素敵な選択肢ばかりだけれど――。
 一つ目の行先決定をどきどきそわそわなオズに譲ってもらって「あれ!」とメーリが指差したのはウォーターコースター! まだ少し距離のある此処からでも、わあわあきゃあきゃあ明るい歓声に合わせて水飛沫が上がるのが窺える。
「今の季節にぴったりだよ。今日も沢山頑張ったもんね、きっとサッパリ出来ると思うな」
「わあ、賛成。わたしものりたいっ」
 どちらともなく手を引けば駆け出す。いいや、始めこそきっとメーリがオズのそれを引いたけれど、追い抜け追い越せのわくわくが足取りを弾ませた。
 辿り着く頃には軽く息だって切れるくらいで、その高鳴りが落ち着くより早く二人隣り合わせにライドへ飛び乗ったのだ。備え付けのレインコートなんてまるきり視界に入らなくって。
 キィ、と揺れる車体は早くも水の上のよう。
「! すごい、船みたいになってる」
「ふつうの車輪じゃないんだね、どうやってくっついているのかな?」
 ガジェッティアな青年少女はお互いの左右の下方を覗いてみたり、なんとなんと大部分が木製らしき車体のあちこちぺたぺた触れてみたり。別の意味でも興味深々。
 ――夏の間、ラボラトリーにも造れたら良いのに。
 ――それとってもすてき!
 おしゃべりに花を咲かせていたら、ぽぽーっと機械音声のアナウンスが出発時間をお知らせだ。
 シートベルトは大丈夫? 準備万端ばっちりメーリは「こうかな?」と見様見真似でぐるぐるしていたオズにふふっと笑えば、ひと巻き分だけ自分の方へ引っ張って窮屈さを緩めてあげるのだった。
「でね、前のバーをぎゅうって持つんだ。そうしたら大丈夫! オブリビオンが飛んできたって落ちないよ」
「メーリはいっぱいくわしいね。ゆうえんち、きたことある?」
「あるけどあんまりないの。だから今日はいっぱい遊ぼうって、」
 思って。 の、言葉の最後とオズの元気あふれる「わたしも!」と。それからライドが上り坂のてっぺんにまで辿り着くのとは、すべてがほぼ同時だった。

「「――!! わあっ」」
 ガコン!

 荒波へ放り出されたいかだみたいに!
 はたまた大きな魚に呑み込まれて真っ逆さま? きっとどこかの御伽噺やゲームの中で夢見た体験だ。身体がふんわりと浮いて、そして引っ張り下ろされる。自由に空を飛ぶともまた違う、たのしさ。
「お、ち、 てく!」
「水!」
 息止めなきゃ! ぷくっと頬を膨らませた瞬間に、水面へ突入したライドが目一杯左右へ巻き上げた水。そうして前方から申し訳程度のクリア板を飛び越え打ち付けてくる水が、時間差で四方八方から降り注いだ。
 ざ、あ、ああ――……水音の後の一瞬の無音は、夢の世界に溶け込んだよう。
 あちこちの照明が照らすから、目を閉じても開けてもキラキラカラフルの光が舞うばかりだ。
 ゾンビパニックの後だけれど、頭から引っ被ってみても水にすこしの血腥さもない。きっと電気系統の繋がりで浄水システムも生きているのだろう。
 あるのは――とびきりのスリルと、ゆるやかに出発地点へ帰るライドと、目をぱちくりするお客様だけ。
 ぽた。 前髪から滴る雫が、悪戯の感想を求めるかの如くぽたぽたりと鼻先に落っこちれば。
「…………」
「……つめたい」
「ね」
 ふふ、ふふふ。驚きは次第に楽しさへ変わって。
 そして笑いへ。 綻ぶ笑顔で「オズったらびしょびしょ!」「メーリもたいへんだ!」手形のつくほど握りしめていたバーからやっと離せた手で揶揄い合えば、せーのと示し合わせたわけではなくとも二人は、ポケットからハンカチを引っ張り出した。
「はい」
「わたしのも」
 ぺたっ。クロスカウンターよろしく互いの頬に当てる。
 ――が。
「わっ。つめた……ハンカチもびしょびしょ!」
「あっこっちも濡れてる!」
 水の勢いたるや。
 今一度瞬いて本日何度目か顔を見合わせたなら、シートベルトのロックが自動で外れるまでの間、なかよくぎゅぎゅっと絞る間もおかしくってたのしくって。

 ひんやり冷まされた身に、吹く夜風が一層涼しく、心地好く感じられる。
 それでもわくわくの熱はこれっぽっちも冷めるはずもなく。
「メーリ、次はあっちいこ」
「うん行こう!」
 そろって階段を駆け下りる。メーリの手を今度はオズが引いていて、繋ぐ箇所から互いの楽しいが行き来しているのかもしれない。だったら永久機関ということで。
 ――閉園までの時間、まだまだ一緒に全力で遊ぼう!
「今日一日で遊園地の大先輩になっちゃおうねっ」
「ウォーターコースターにのるときは?」
「まず初めにハンカチを置いていくこと!」
 きっとみんな知らないから、なんて。
 帰ったら教えてあげなきゃと連れ立って走り去ってゆく足跡に。ぽちょんぴちょんと落とされた水滴が跳ねる様まで、満喫してくれる二人を嬉々と見守るみたいに、生き生き輝いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルル・ミール
色んなアトラクション
楽しそうな奪還者さん達
やっぱり遊園地は“こう”です!

アビ(f11247)さんを見かけたら観覧車へお誘いを
高いところ大丈夫でしたら
今日が最後のキラキラぴかぴかをゲットしませんか?
資材泥棒退治中に頂上から見た景色がとっても素敵で…!
あそこには今
その時とは違う今だけのときめき絶景がある予感なんです

今、地上から見える観覧車も
乗ってから頂上に着くまでの時間と景色も今だけのもの
私一人でもときめいてるだろうなって思いましたけど
嵐を超えた何とかランドの最後のお顔
一人よりも誰かと一緒の方がもっと楽しくて眩しい予感
ときめきには欲張りスタイルです

スマホの残り電池とノートの準備もバッチリです!




 すれ違う奪還者たちの和やかな談笑が、ルルの犬耳をぴんと震えさせた。
 音を拾いたいと、そして拾えた音を心の中で噛み締める度、うれしさは際限なくこみ上げてくる。アトラクションたちもきっと同じ気持ちなのではないだろうか? ――今なお誇らしげに人々を乗せて動く、その姿を見上げるほどに思うのだ。
「やっぱり遊園地は"こう"です!」
「大変だったろうに。働いた後でも元気だなぁ、ルルさんは」
 ふんすと蛇尻尾をびたびたしていたらば、そんな尻尾を踏まないように回り込んでアビ・ローリイット (献灯・f11247)がにゅっと顔を覗かせる。
 けれどもルルは数多のホラーを乗り越えた猛者(立派なお姉さん)なので同じ轍は踏まぬのだ。びくぅ! なんてせずに、むしろ胸を張って「もちろんですとも」握った拳で叩いてみせた。アビに向き直れば、そこからすこしきょろきょろ。
 遠くの空を見上げるみたいに手を目元にかざして――。
「ちょうどよかった。アビさんにもお見せしたかったんです」
「俺?」
「はい」
 資材泥棒の退治中に、とっても素敵なものを見つけましたから。 にっこり笑ってお誘いを。

 ――今日が最後のキラキラぴかぴかをゲットしませんか?
 唇に一本指を立てた少女の提案に、当人以上に分かりやすい犬尻尾がもっふぁもふぁと関心を示すのは無理もなく。毛量に半ば押されながら先導を始めたルルだ。
 "最後"、"キラキラ"、"ぴかぴか"。 "ゲット"?
「なんだろ。すごくパワーって感じ」
「でしょう? 実際に見たらもっともっとパワアァですよ、アビさんの耳もぴんと立ってしまうかもしれません」
「えぇー大丈夫かなぁ」
 てくてく、ときにくるくる踊りだしそうなルルの案内で辿り着いた先は大観覧車。
 ああ、オブリビオンの居ぬ今改めて見上げる姿のなんと勇壮にしてファンタジックなこと――!
「高ぇ。これを退治中に?」
「はい! あそこやあそこに飛び乗って、皆さんと戦ったんです。なので中に入るのはこれが初めてになるんですが……」
 おしゃべりの途中で、タイミング良くゆっくりと乗り口へ帰ってくるゴンドラをたっと駆けだしたルルがつかまえる。さぁどうぞ! 飛び乗れるもんなんだ、だとか関心した風にぼやっとしていたアビは手招きに応じて、二人ひとつの空間に収まることとなったのだ。
 ネコナベならぬイヌカゴ?
「……せまくない?」
「もしも落っこちても安心な気がしてきました……!」
 クッション的な意味で? クッション的な意味で。互いに尻尾を右へ左へスペース確保に励んだり。と、ついついアビのゆるさに巻き取られあと二周は軽いぜコースに入りかけていたルルだが、窓の外の景色に大地が消えたならぺたりとそちらへ張り付く。
「見てください」
 今、此処でしか見られない景色です。そう、恥ずかしげもなく。
 ――眼下に広がる、嵐に揉まれ朽ちかけのそれらを、キラキラのぴかぴかと呼ぶ。
「独り占めしよつって、思わなかったの?」
 ルルの眼差しを辿ったアビが問う。まんまる大きな藤紫の瞳には数多の光が映り込んでは遊んでいて、成る程綺麗ではあった。
 私一人でもときめいてるだろうなって思いましたけど、とは、窓硝子にくっつき過ぎて鼻先を打っちゃったりなルル。ごまかしごまかし、目が合ってしまえばへへとはにかみ笑い。
「一人よりも誰かと一緒の方がもっと楽しくて、眩しい予感がして。ときめきには欲張りスタイルなんです」
「なんだそれ。案外強かだよな、ルルさんてさ」
「お爺ちゃんにもよく言われます!」
 どやややーっ。
 そんなルルが、じゃん! と引っ張り出したのは、残り電池もばっちりなスマホとお馴染みときめきノート。先ほど描き取った絶景をまずは紹介しようか、それとも今見える絶景をまずは収めようか――わくそわは蛇尻尾のばたつきに表れて?
「じゃ、一周ごとに順繰りやってこ」
「おおっとアビさん、永遠に降りられないかもしれませんよ……!」
「はは。やべーなあ、猟兵に助けてもらわねーと」
 冗談か本気か、いずれにしても観覧車はゆるやかに廻ってゆく。
 瞬間、瞬間ごとの素敵を、全力で受け止めて喜んでくれるひとがいるからこそ、止まることなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
ネネさん(f01321)と

色々あって迷ってしまいますね!
絶叫系に惹かれてしまうんですけど、
ネネさんは観覧車やコーヒーカップの方がいいかしら……(むむむ)

絶叫系、いっちゃいます?
ちょっと心配ですけど、本人は楽しみにしてそうですし……
いっちゃいましょうか!
手を取って向かいます!

ひゃーーーっ! すごーーーい!
楽しいーーー!!
…………楽しかったですね!
高いところから落ちる時のふわっとした感じにどきどきしちゃいました!

ちょっと休むためにも観覧車に乗りましょうか
園内をゆっくり眺めてみましょう
楽しそうな人の笑顔はいいものですよね
この世界だと特に、守れたものを実感出来て……
ええ、今度どこか遊びに行きましょうね


藍崎・ネネ
織愛ちゃん(f01585)と

遊べるところ、いっぱいあるのね
織愛ちゃんが迷っているの
私、絶叫系に行ってみたいなぁ……

! いいの? 絶叫系行ってみたいの!
織愛ちゃんも絶対に好きだと思うの
お気遣いありがとうなのだけど、大丈夫なのよ
手を繋いで一緒にいくの!

……!!!!
す、すごいの、身体がぐいーっとされてふわーってなって、ひゃーー! なの!
す、すごかったの……でも楽しかったの!
私もどきどきしちゃったの
えへへ、織愛ちゃんも楽しそうでよかったの

観覧車も乗ってみたいの
今度はゆっくり高いところから見れるのね
みんな楽しそうでよかったの
ね、織愛ちゃん。また遊びに行きましょうなの
遊園地以外にも一緒に色々行ってみたいの




 様々な音楽や光が交わる中心点。
 広場の真ん中に立ってぐるりとあたりを見回すと、身体がいくつあっても足りない心地になる。
(「とっても色々な種類が……あっなんてど派手な絶叫系! でも、ネネさんは観覧車やコーヒーカップの方がいいかしら……」)
 織愛はすごく悩んでいた。
 見上げてくるネネの眼差しを頬に感じつつも、一歩、足を踏みだす方角を決めるだけがこんなにも難しいだなんて。
 ネネもネネで、そんな織愛の胸の内をそそそっと慮っていたところ。彼女の目線が右へ左へくるくる忙しい様も面白いって眺めたりして。がたん、ごとん、響き続ける力強い車輪の音もどこかの誰かの絶叫も、ネネ自身どれもこれも魅力的なものに思えるから。
「私、絶叫系に行ってみたいなぁ……」
 くいくいと織愛の袖を引くのだ。
「! はっ……顔に出てました?」
「ううん。あのね、さっきの空にいっぱい飛んでくゾンビさんも楽しそうだと思ってたの。私も空へぽぉんって飛んでみたいの!」
 かっこよかったし、と改めて面と向かってきゃいきゃいされてしまえば嬉しちょっぴり恥ずかしい織愛である。
 袖引くネネの手を取れば、ごくごく自然に繋ぐかたちで落ち着く。
「空に――ではあちらなんてどうでしょう、うんと高いし凄そうです。でも、大丈夫ですか? 無理は……」
「うん! お気遣いもありがとうなのだけど、大丈夫なのよ」
 一緒だもの、と手を引くのはネネで。わくわくが抑えきれぬといった姿に織愛もキリリ! では、いっちゃいましょうか!
 おー! わーっと駆け出す先には、威風堂々な佇まいのフリーフォールが二人を待ち構えている。

「ひゃく……ひゃく、よんじゅう」
「うん。しっかり超えてますね、大丈夫そうです」
 崩れかけの模型との背比べで身長制限のクリアを確かめ、安心を強めながら乗車位置でしんとしているライドへ乗り込む。乗り込……飛び乗る?
 すこし高い位置にいるシートへ隣同士腰掛けたとき、ぐわしっと降りてくる安全バーにホールドされるという仕組みだ。
「ひゃわっ」
「あ、浮いてる。ね、織愛ちゃん」
 ふわりと浮き上がる身体はそのまま上方へ運ばれる。
 背では巻き取りレールがキリキリ音を立てて働いている。ジェットコースターならば上昇中だとか、そういった緊迫の間であろうか? ふと風を感じ下方を見遣れば、そこにはダイレクトに地面までの空間が覗いていた。
(「あ、足元が……ない!!」)
「どうなっちゃうのかな?」
「だだ大丈夫ですよネネさん、手、ぎゅってしますか?」
「うん……うぅん、ちょっとだけ届かない、かも」
 ――かっわいい! うんしょと身を捩って試すお隣さんにうぐっと織愛の肩のみならず胸までもが締め付けられたとき、鈍い音が振動とともに伝わった。いや勢いで機器を殴ったとかではなくて。出発の前兆、そういうことだ。
 がこんっ。
 すぐにネネへバーを掴むよう教えて。 ぐぅ、わ、と――途端の急上昇!
 ビリビリ痺れるほどの強烈な重力は頭のてっぺんからつま先まで!
「……!!!!」
「わ、 これはっ中々……!」
 息を呑むので精一杯! がこがごがご、悪路走行めいて荒れるライド。
 景色は流れるなんてより吹き飛ばされるみたいで、一瞬だけぎゅっと瞑った瞳をネネが瞬いたとき、目の前には大観覧車以外に遮るもののない星空が広がっていた。
 もう少しだけ視線を落とせば園内の大半もが見渡せる。はしゃぐ人々。アトラクション。誰も彼も、楽しそうで。
「ぁ」
「ああ、なんて――」
 素敵。ほうと溜めた息吐き織愛が言葉にしかけたとき。
 始まる急降下。

 !!!!?!?!?
「「ひゃーーーー!」」

 まるまるダブる悲鳴はそれでも喜色に満ちている。
 バタ足して、分厚い風に抗うのも不思議な重みが気持ち良い。身体はぶわり、ぐいぃ、上へ上へと浮き上がってそのまま飛んでいきそうな心地で。バーが邪魔にすら感じられるなんて、夢にも思わなかった。
「すごーーーいっ! 楽しいーーー!!」
「なの!」
 首から上は唯一自由だから、二人して顔を見合わせてはにこにこにっこり。
 地上から天上へ、天上からまた、地上へ。 五分にも満たぬ束の間のフライトは、しかしとびきりのわくわくを贈ってくれたのだった。

 ――…………楽しかったですね! どきどきで、ふわふわで!
 ――私も、私も。どきどきしちゃったの。えへへ、織愛ちゃんも楽しそうでよかったの。
 さっきの星空を、園内を、もう一度間近に見てみたい。
 ともに身振り手振りを交え心はひとつな感想を紡ぎながら。一休みにもぴったりな大観覧車は、そうして第二の行先に選ばれた。
「ここ、すこし段差になってます」
「はぁい」
 手を取り乗り込むのはもちろん二人一緒のゴンドラ。剥げかけていてもコーラルピンクの塗装は愛らしく、ちかちか、時折ネオンの光で魅せてもくれる。
 シートに腰掛けるなり同じ側の窓を覗き込む。
 飛び移れそうなそばを通るジェットコースターのレールをゆくライド。ウォーターコースターから噴き上がる水飛沫、熾烈なレースを繰り広げるカートに、ぽつぽつ見える白黒はパンダ?
「みんな楽しそうでよかったの」
「本当に。楽しそうな人の笑顔はいいものですよね、この世界だと特に、守れたものを実感出来て……」
「織愛ちゃんは、私のこともたくさん守ってくれたものね」
「それはこちらの台詞でもあるんですよ? ネネさんと来ることが出来て、良かったです」
 知らない人々の笑顔も、大切な友だちの笑顔もどちらもぽかぽかあたたかい。
 ――ね、織愛ちゃん。
「また遊びに行きましょうなの。遊園地以外にも一緒に色々行ってみたいの」
「ええ、今度どこか遊びに行きましょうね」
 おいしい場所、きれいな場所、にぎやかな場所。今日みたくこわい場所だって。
 次のおでかけもきっと楽しいものになる。
 おもむろに織愛が差し出した小指に、すこしだけ不思議そうに首を傾げたあと、「約束です」と内緒話にほど誓い囁きで促されたネネは微笑んで同じ指を絡める。
 月明かりが穏やかに、和やかに、これからも続いてゆく二人の繋がりを照らし出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f11024/花世

海賊船に珈琲カップ
既に目一杯遊んだ気もするけれど
まだまだ足りない

さぁ
次はあちら――、

同時に指差したのはレーシングカート
顔を見合わせて笑い声

花世、そして縫と私の走行勝負
二人用へ乗り込むも
人形が運転席
己は助手席で
優雅に観戦を決め込む

縫への御褒美ですからね
運転は任せますよ
存分に遊んでくださいな

的確な走行技術
速度を落とさずに曲がる度胸
卒なき運転は勿論――肩慣らし、でしょう?

全力で壁にぶつかりに行くのも厭わない花世と
表情は全く動かぬまでも
真っ直ぐにゴールを見ている縫との一周対決

運命の女神はどちらに微笑むのかしら
(結果お任せ)
なんて
実況を交えながら
風を切って走る爽快さに
ふくふく笑みやまず


境・花世
綾(f01786)と

どれもこれもと遊び尽くしたいけれど、
まず指差したのはレーシングカート
ふふ、気が合うね、わたしたち
きっと勝負にかける想いもおんなじ熱――

運転するのそっち!?

思わず盛大に突っ込んでしまいつつ、
もちろん縫が相手でも容赦はしないよ
さあ、一斉にスタートだ

わたしのもモットーは止まるな進め
壁にぶつかっても気にしないスタイル
カーブはすれすれを狙ってぎゅいんと回るし
クラッシュしても不死身の復活を遂げるよ

綾、優雅なドライブもここまでだ
本気のデッドヒートを見せてあげる!

風に流れてく軽快な笑い声は
わたしかきみか、或いは少女人形のだったか
勝負の行方がどうだって結末はひとつ
すごく楽しかった、ってこと!




 海賊船に珈琲カップ。既に目一杯遊んだ気もするけれど――。
 ――"遊び尽くしたい"。
 じっと眼差し交わすまでもなく。あちらと指す指先は一点に揃って、どうやら願いはひとつのようで。
「ふふ、気が合うね、わたしたち」
「まったくです」
 二人、顔を見合わせ笑いあう。
 選ばれたのはレーシングカート。となればやることは勿論、レース!
 フレーム自体はパイプながら顔が描かれていたり、デフォルメされたアニマル仕様のマシンがお利口に並ぶ姿はさながら動物園? 遊園地にいながら動物まで楽しめてしまうなんて、なんだかお得だ。
「どの子にしようかな」
「縫、お選びなさい。二人乗りにしましょうね」
 ああ、綾の絵になり過ぎる運転姿が拝めてしまうのか――ひそかにときめいてしまった花世はそれを隠すみたいにぶんぶんかぶりを振ると、隅っこの方で埃を被っていたライオンカートに手を触れた。
 子ども向けにはすこし厳めしいが、きっと逞しく戦ってくれるはずだ。
「よいせ、」
 スタートラインまでカートを押せば綾たちは美麗な孔雀カートに乗り込んで待っていてくれている。
 孔雀! いいや真の驚きポイントはそこだけではない。操縦席側に腰掛けているのは他でもない、式神人形たる縫の方であって。
「運転するのそっち!?」
「ええ、縫への御褒美ですからね。運転は任せますよ、存分に遊んでくださいな」
 優雅に観戦を決め込む姿勢の綾が二人分のシートベルトをカチャッと鳴らすのに、脱力も束の間、キリリと気合いを入れて横へつける花世であった。
 これはこれで。娘の初ドライブをやさしく見守り指導する親兄弟のようで素敵――……ではなくて!
「オーライ。もちろん縫が相手でも容赦はしないよ、準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
 嬉々と交わした眼差しを改めて外したなら。
 前を見る。――今、戦いの幕が切って落とされる。
 それぞれが選んだマシンの違いは、実のところ見かけだけではない。
 綾たちの乗る孔雀はスタータースイッチのワンプッシュで言うことを聞くタイプ。スマートにして安定性の高い走り出しで、排気ガスをひと吹き、
「それではお先に」
 どるどると動き始めた。まずは綾&縫チームが先を取る。
 ひらりと手が振られる代わりにカートの尻に取り付けられた七色尾羽がぴこぴこ揺れて。
「むむっ。離されるわけにはいかないぞ、相棒!」
 元々がお遊戯用か。実際のレースで使われていたものが最終的にこのテーマパークへ流れ着いたか。それともある種のモデルカーか。
 経緯は定かではないもののどうやら造りにも数種類あるらしく、対する花世が選んだライオンはダイレクトエンジン――所謂、一度止まってしまえばそこでエンジンも止まるというマグロのような猪突猛進パワフルタイプ。
 弾けるならば太く短くが良いだなんて笑って嘯きつつも、早々止まる気はない。数歩、地面を強く蹴りつけながら車体を押しがけし操縦席へと飛び乗れば、スタートこそ出遅れながらも馬力は抜群!
「――負けないよ、二人とも!」
「ふふ、花世らしい走りだこと」
 ハンドルに齧りつくや否やぎゅいいいいんとアクセル全開! 追い縋る花世。
 華麗なハンドル捌きでその突進を躱し、しかし道は譲らぬと左右にぐねぐね牽制する縫。時折接触するフレームからはリアル火花が飛び散って、女二人の麗しくも苛烈な戦いにこわごわ、と扇で口元を隠す綾はやっぱり微笑んでいた。
 直線では花世が頭ひとつ分ゴリ押すも、カーブに差し掛かれば主によく似た、縫の冷静沈着な角度調整がその分のリードを回収する。
「くっ、さすがやるなぁ……!」
「度胸勝負の勝敗は花世にお譲りしても良いですよ?」
「なんの!」
 ガゴッ! 大きく膨らんだ花世号は壁をもぶち抜く勢いで衝突――する僅か手前でハンドルを切って、ギャリギャリと壁面を削りながらコースアウトを拒む。
 命の火もといエンジンはまだ燃えている。ならば次はもっと早くに切れば良い。実践の中で学習し、次へ活かそうという前向きな思考回路で。
「綾、優雅なドライブもここまでだ。本気のデッドヒートを見せてあげる!」
 キラリ眼を光らせて。おやおやと先行く背を、懸命に追いかける。
 まるで見慣れた日々の追いかけっこみたいな。けれども、いやだからこそ綾に対して、花世はなりふり構ってなんていられない!
(「そちらはひとの身。お怪我はなさらぬよう……などと、野暮でしょうしね」)
 背後でけたたましくエンジン音ががなる中。一方、さらさら風に遊ぶ縫の髪に指を通しては、綾はほのかな思案を巡らせていた。隣の式神は表情こそしんと動かぬまま、尚も真っ直ぐにゴールを見据え続けている。
 まったく――どちらが勝っても"いい戦い"だ。
「運命の女神はどちらに微笑むのかしら」
 く、と零れた笑いは過ぎる風へ溶けた。
 一人分ではない。花世と合わせて二人分、もしかしたら縫まで含めて三人分だったのかも。楽しい嬉しいと弾む笑いはマシンの振動以上に軽快に、爽やかに、景色を色付け流れてゆく。

 結果として、白熱した勝負のゆくえが決まったのはゴール前。
 最後のカーブ、その後の直線にすべてをかけた花世号が百獣の王の咢で喰らいつくみたく綾&縫号に体当たって、押し合い圧し合い。再起不能なスピンを起こしながらもその馬力を活かし、コンマ秒の世界で先にゴールテープを切ったのだった。
 もちろんテープなんて見えやしないから、これは三人の心の満足だけのお話。
 けれども。
「……わたしの走り、どうだった?」
「とても刺激的でしたよ。いつものあなたと同じにね」
 拍手しつつ先にマシンから降りた綾と縫にともに手を差し出されれば、にへーっと満面の笑みでふたつを取って飛び降りる花世。 隣に、並ぶ。金のメダルが無くたってそれだけで。
 縫こそすごいガッツだったね。誰かさんに似てきたのでしょうか。えっダメ!? ふふふ、冗談です。
 なんて。 健闘を称え合えばライバルから仲睦まじき三人組へ。おしゃべりを交わしながら、その足は次なるアトラクションへ向かうのだ。
 勝負のゆくえに関わらず、結末は初めからひとつと決まっていた。
 ――すごく楽しかった、ってこと!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
ライラックさん(f01246)

此処からがむしろ本番!

案内で確かめながら歩くと
乗り物達からも声をかけられ
誘惑がすごい

まず、大海賊船に乗り込みに
着席したら船員で目配せ
よーほーと掛け声
準備は良いです?
あなたの初めての出航と洒落込みましょう

身体飛んでいかないように止める部品や
揺れ始めて感じる風の香は
海を行くのとは違うなぁ

わあ、どんどん高くなる
沈没か、嵐を飛ぶのか
落ちる瞬間ぶわって!
浮き立ち、つい袖引き伝え
そういえば…ライラックさん
宙返りに耐性はおあり?

逆さまの世界に写る
驚く貴方と
きっと笑ってる、乗り物達

降りたら、休憩に
ぱんだ君乗りませんか
童心に帰った今なら
乗ってるとこ見たくなった
悪戯心は誤魔化せるかな


ライラック・エアルオウルズ
類さん(f13398)と

今から僕達は脇役だ
主役の乗り物達を楽しもう

目の誘惑、耳の誘惑
全て魅力的乍ら全制覇は難しい
ひらり躱して、目的地に一直線

物語で見た様な海賊船に胸躍り
ヨーホー、の声に思わず笑う
錨を上げて帆も上げたよ、船長
船から眺める景、実に楽しみだ

本物、とは違うだろうが
主題添う装飾で気分は充分で

この傾きよう、沈没していない?
落ちる感覚についと閉じた眸
放られない様に捕まる間、
袖引く言葉に和む前に眸瞠って
宙返り?えっ、この船まわ――

――景を見る所ではなかった
嵐に巻き込まれた心地だなあ
船酔いめく身を癒すべく、
柔い港は是非往こう……

悪戯心を知る由もなく、
乗る自身の客観視も忘れて
パンダを求め、ふらり




「いよいよ本番ですね」
 さて。我々に許された時間は――折れた秒針すら止まってしまった時計台をふと見上げていたライラックへ、そんな、弾む声が掛かった。
 声の主はもちろん、ここまで共にやってきた類だ。
 猟兵の手で新たに作り出された美しい案内板を興味津々と覗き込んでいた類は、顔を上げるなり破顔した。通りを行き来するだけでも引く手あまた、目も耳もアトラクションたちの誘惑に溺れてしまいそうで。
「ライラックさん、お心に変わりはなく?」
「ああ、心を強く持とうと自分に言い聞かせていたところさ」
 限られた時間の中で、どれだけの魅力に触れることができるだろう。
 後ろ髪を引かれる想いをしながらも、誘いの数々をひらり躱して一路、二人が目指していたシルエットが闇の向こうにぼおと浮き上がって揺れている。
 海賊船。
 幾重にも重なる照明の作り出すベールが、危険な海域に立ち込めるスモッグに見えて雰囲気はばっちりだ。
「大きいなぁ……」
「よく作り込まれているね。物語の中から、そのまま飛び出してきたようだよ」
 乗り口へ向かうまでも船底、梯子や網、突き出た砲身についつい触れてしまう二人だ。その度にライラックがじっくり胸裏でも味わうみたく静かに瞼を伏せる様を、類は居心地よさげに見守っていた。
 急かすものはただただアトラクションだけ。
 出航するぞ! の合図に法螺貝がぷおおぉと吹き鳴らされて、そこからは小走りで席へと着く。シートベルト良し、安全バー良し。後は――。
「「ヨーホー!」」
 ――ご機嫌な海賊に欠かせぬ掛け声!
 類船長の目配せを受け、先に乗り込んでいたらしき奪還者改め船員たちも歌うように声を揃えたのだ。これにぱち、と瞬いて、それから笑ったのはライラック。ますます絵本で見た光景!
「夢を見せてくれるね。となると、さしずめ僕は捕虜だろうか?」
「ふふ、またまた。準備は良いです? あなたの初めての出航と洒落込みましょう」
「錨を上げて帆も上げたよ、船長。船から眺める景、実に楽しみだ」
 はい、と縛められた両手を挙げて安全対策ばっちりなことを互いに知らせあっていれば、がごん、ひとつ大きな揺れが伝わったのち、船はゆっくりと動き始めた。

 目を瞑れば潮の香だって感じられそうな、風。
 実際の海賊船もこんなに出鱈目なスピードで海を割り往くのだろうか? ――なんて楽しそう!
「ライラックさん! いま、ぶわって!」
「ね。眼鏡はお気をつけくださいの放送の意味、がっ、やっと、分かったよ」
 徐々に……どころか、直ぐに。どんどんと"波"は高くなる。早速前後へ大揺れとなった船上にて揺さぶられ、人々の歓声に混ざり込んで二人も声を上げていた。初め安全バーをぎゅっと握っていた手も今や時折手放しで、お宝を掴むみたいに空を切っている。
 わらわらといっぱいの手が伸びて、それから落ちる様はもしかすると海藻にも似ているかも?
(「海底の藻暮らしものんびり、ゆらゆら、素敵だなぁ」)
 ずり落ちかけた眼鏡を定位置へ押し戻したライラックはまたひとつ空想を巡らせて――ぐぉぉんと力強く後方へ持っていかれる力にうぐ、と胸を圧迫されれば、今一度バーに抱きついた。
「わ、ぁ。この傾きよう、沈没していない?」
「大波だ! そういえば……ライラックさん。宙返りに耐性はおあり?」
 隣の男がちいさく笑いを堪える気配がして?
 くいくい袖を引かれて?
「宙、返り?」
 細めていた目を、見張る。

 目一杯に引き戻された直後に訪れた、ほぼほぼてっぺんからの振り子運動。
 "まさか"の一回転は、頭で理解するよりも先に目に飛び込んできた。
「――!!」
 自分の足が天井にある!
 いいやこれはさっきまでの床で? ということは、天井が、足元で?
「類さん……!」
「はい、居ますとも」
「僕、いま、どうなってる?」
「ふはっ」
 案外顔に出るらしいライラックの慌てように、頼られた類はどうにも嬉しく吹き出すばかりで。「ご心配なく。相変わらずの男前だ」だとか、自然と逆立ってバンキッシュになった彼のヘアスタイルをも称賛してやったのだ。
 逆さまの世界。
 映る、彼と。皆と。きっと笑っている乗り物たちの軋む音もがきぃきぃきらきら、なにより類をただの青年へ近付けてくれる。
 ――それはきっと、大荒れの嵐だった。
「は、はは。 は……此処が宝島かい?」
「ですです。我々は生きて辿り着いたのだーって、ほら、胸を張って」
 船酔い同然千鳥足なライラックを支えてやりながら船着き場へ降り立てば、そんな男を笑うでもなく励まして類は階段を一段ずつ共に下る。ちらと横目に窺う時計台はやはり物静か。 ベンチで一休み、も良いけれど、折角ならば。
「足が必要ですね。ぱんだ君に乗りましょうか」
 楽しみ尽くさねば。
「ん……、パンダに乗る? それはなんだか、とても柔そうだよ……」
「ええ、ええ。雲の上みたいなふわふわ心地ですよ、きっと!」
 類が力説するならば、休憩にもぴったりと意気投合するは直ぐだ。 さぁ、では、肝心のパンダはいずこへ?
 珍獣を追い求める陸の冒険がここに始まる。それこそ、二人が主役の物語の第二章に相応しく。
「ライラックさん、気に入ると思います」
 だと良いなあと絵面の想像は差し置いて、心底安堵した風に、眉下げ笑うこの人が。
 童心に帰った今、パンダの背にゆるふわ運ばれている光景までも拝みたくなってしまったから。沢山の"表情"を見せてもらえるこの機も恵まれた一夜の夢と堪能し、類がそーっと胸のうち隠した悪戯心はまだ、ひみつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

善哉・鼓虎
ミィナちゃん(f26973)と!

せやな、お肉…やないけどちゃんとしてあげられてよかった。
うちはこの遊園地の様子をうちのSNSで配信しよう思うてるんやけど…。
他の人楽しんでる様子を配信するつもりやったけど自分が楽しんでる様子を配信か。
うん♪それええなぁ。
素敵な案をくれたミィナちゃんには飴ちゃん一個追加や♪

メリーゴーランドに虎かぁ。うちに似てる?それは嬉しいなぁ。
うちはこの優しい目のお馬さんにしとこ。
…ミィナちゃんやったらいつか虎も食べれるようになる気がするんやけど…

コーヒーカップ!可愛らしいなぁ♪
えっ回したら早なるけど。
ちょ、回しすぎやて!!

目ぇ回ってもた…けど…!
今日はありがとなミィナちゃん!


ミィナ・シャットブロンシュ
鼓虎f24813ちゃんと

お肉は食べられるお肉じゃなかったけど…ちゃんとして上げられてよかったね、鼓虎ちゃん
そう口の中に飴ちゃんを放りつつ声を
えへへ、苺とソーダと林檎と…色々混じってフルーツソーダみたい!

鼓虎ちゃんはSNS映えしそうなの探してるの?
ならこれとかどうかなー!とメリーゴーラウンドへ
飴ちゃんは勿論貰うね!あ、コーラだ!(もぐ
お馬さんは食べたくなっちゃうからの隣の虎ちゃんに乗ってみるよ
ねーねー鼓虎ちゃんに似てるよね!

降りたら鼓虎ちゃんとコーヒーカップへ
えへへ、可愛かったけど速さが足りなかったの!
ここの真ん中を…回せばいいんでしょ!えへへ、いくよ!鼓虎ちゃん!
早さの果てをめざしにいこー!!




 ぽいと高く放られた飴玉はストロベリー。
 それを難なく口へとお迎えしたミィナは舌なめずりしてご満悦。すぐに噛み砕いてしまう。アップル、レモン、ソーダの欠片がざらりと混ざってまるでミックスフルーツソーダ!
 隣から鳴り止まぬ軽快な音に、まぁこれだけ喜んでもらえたならたくさん用意してきて良かった、と思う鼓虎だ。注がれる視線と沈黙を何と捉えたのか、横目に見返したミィナがにっこり。
「お肉は食べられるお肉じゃなかったけど……ちゃんとして上げられてよかったね、鼓虎ちゃん」
「ああ、うん。せやな。お肉……やないけどちゃんとしてあげられてよかった」
 ほっと呟くみたく言葉にして、改めて見渡す園内。オブリビオンとの連戦も終わり、あたりは明るい賑やかさを取り戻している。一夜限り、居合わせたこそ、伝えられるものもある筈だ――ソーシャルディーヴァとして、鼓虎は楽しむ人々の様子を自らのSNSに配信しようと接続を整えていた。
 ブゥンと微かな音を立てて宙にホログラム状のモニターが浮き出る。
 これにぱちくり瞬き手をスッスッ貫通させたのはミィナ。もしかして生配信が始まってる? ――だったら! たたたーっと小走りに駆け出したミィナは「こっち!」と鼓虎の気を引くため両手を振る。
「どないした?」
「ふふふ、鼓虎ちゃんSNS映え~探してるでしょ? ならこれとかカワイイよ! キラキラだし、ほら、乗りながら撮ったらもっとキラキラ!」
 きてきてと手招くミィナの勢いもだが提案そのものに、すこしびっくりしたのは鼓虎の方。
 自分自身が楽しんでいる様子を配信、はまるで頭になかったから――。
「うん♪ それええなぁ。素敵な案をくれたミィナちゃんには飴ちゃん一個追加や♪」
「わぁい! あ、コーラだ。えへへ」
 ――彼女がいっしょでつくづく良かった。
 二人で楽しむのなら、二倍の楽しさを間近に伝えられるはず。

「すごーくおっきなお馬さんだね。食べるところがいっぱいだ」
「あ、そこは相変わらずそういう着眼点なんやね……音声切っとかんでええかな……?」
 なんてやり取りをしつつも、それぞれに乗り込んだのは鼓虎が白馬、ミィナが虎。 虎!? とびっくりする視聴者もいたようだが、他にも狼やら象やらが疎らにいるのでそういったテーマなのであろう。
 お馬さんは食べたくなっちゃうから虎ちゃんに――との選別理由は薄らおそろしくも、格好良くて強そうな虎に「似てる!」と此処に来て改めて言われて、ちょっぴり鼻高々な鼓虎でもあって。
 頼んだで、と、やさしい目をした白馬の首を撫でていればBGMの音量がすこしだけ上がり、足場のゆるやかな回転が始まった。夢の大地を悠々駆け巡るが如く、動物たちが上下しながらくるり、くるり。
「おおっ。回ってる!」
「そちらはどないですかーミィナちゃんさんー」
「ばっちりでーす。ねぇ、くるくるって速いからなんだかハチミツっぽく見えてきたよ」
 虎が?
 虎が。
(「……ミィナちゃんやったらいつか虎も食べれるようになるとは思っとったけど……」)
 案外近い未来かもしれない。
 べったりと齧りつ――もとい貼りつくみたいに虎に寄りかかるミィナの隣、ひとまずは飴玉のオレンジ味追加あたりで我慢してもらおうと、ポシェットを漁る鼓虎であった。
 音楽と回転が止んだ途端に、そんな鼓虎の手首をミィナが引いた。ついに丸齧りか!? いえいえ、そうではなくって。メリーゴーラウンドを楽しむ間に次の"映え"を見つけていたミィナからのお誘いだ。
「なになに。ええのあった?」
「じゃーん、こーひーかっぷだよ。虎ちゃんたちも可愛かったけど、ちょっと速さが足りなかったの!」
 二人、すこしだけ走って。
 水玉マーブルカラーのひとつのカップへと手を差し伸べエスコートしつつ、えへへとゆるゆる笑うミィナの姿は今頃、ひとつの幸せの在り様として全世界へ届けられていることだろう。
 いつも元気印とは鼓虎のことでもある。「ええやん。こっちも可愛らしいなぁ♪」釣られて深まる笑みでカップも揺れるほどえいやと飛び込めば、プシュンと飲み口の戸が閉まった。
「けど、コーヒーカップってそんなに速度出るもんとちゃうやろ?」
「ううん、ミィナ見たんだ。この真ん中のとこ……回せばいいって! いくよ鼓虎ちゃん!」
「えっええっ?! ――はやッ」
 ガッ ギギッ!
 ゴッドハンドに全力で回されるハンドルはちょっと危ない感じの悲鳴を上げて。このままもげたらカップはどうなってしまうのだろうか? 無限に止まらない? どこまでもイケる?
 それも楽しいね、なんてミィナがぐいぐい飛ばすものだから、鼓虎は自分とヘッドセットが飛ばないようにそれぞれ押さえる程度で精一杯。ああ、視聴者側の映像は今どうなって……。
「ちょ、回しすぎやて!!」
「うんうん、速さの果てをめざしにいこー!!」

 ――そこからの数分は天国か地獄か?
 再び生きて鼓虎が地面を踏んだとき、目が回りすぎて足の感覚がなくなっているのを笑ってしまえばあとは笑いがなし崩しに零れるだけ。もう、まったく、ミィナちゃんは。
「敵わんわぁ、色んな意味で。 今日はありがとな?」
「とーっても楽しかったね、ね。お腹いっぱいのときと同じ気分だよ、えへへ」
 ぴこん。
 ふと、鼓虎のSNS端末から音が流れる。覗いてみたなら、
『映像大荒れだったね……痛くない? だいじょうぶ?』
『すごーい! ねぇ、他にはどんな乗り物があるの? 全部乗ってみせて! XD』
『いいなぁ、私もいつか家族と行ってみたい!』
 ぴこんぴこん。鳴り止まぬ音は飴玉からリアクションへ様変わり。
 その夜、SNS上には着実に鼓虎ファンが増えることとなった。鼓虎本人のファンはもちろんのこと、天真爛漫な振る舞いのミィナのファンも含まれているのはここだけのヒミツ。 また二人でなかよく遊んでみせてねって、幸せのお裾分けを願うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐々・夕辺
ロキ【f25190】と

ねえ、確認するけど
もうおばけ…じゃなかった、ゾンビはいないのね?
オブリビオンもいないのよね?
よし! じゃあ遊ぶわよ! ええ、初めてだから遊び尽くすわ!

ねえロキ、あれはどうやって遊ぶの? 回すの?
あれは? 乗って走るの?
わたし、ジェットコースターとかいうのに乗りたいわ!
怖くない? 大丈夫よね? ほんとね? 遊具だものね?

一番前が面白いのね!
うきうきと前に乗って出発よ


嘘つきー!!!いやあああああ!!!
え!? 何か言った!? 聞こえないんだけdあああああ!!! 急降下はいやー!!


ロキ・バロックヒート
夕ちゃん(f00514)と

うんうんゾンビもオブリビオンも居ないよ
いっぱい遊べるよ
そういえば夕ちゃんは遊園地来たことなかったっけ?
子どもの頃みたいにはしゃぐのを微笑ましく見て

あれは回ったり揺れたりするかな
どれでも付き合ってあげるよ
へぇ――ジェットコースターとはお目が高いねぇ
そうだね遊具だし怖くないよ
ゾンビ相手よりずっと楽しいものだよ
ほら一番前に乗ろうね面白いから
一緒に乗ってしゅっぱーつ!

すぐ聞こえる横の愛らしい悲鳴に笑って
わーいって両手も離してスリルを楽しんじゃう
車輪ガタガタ軋んで面白いね

ああ
このまま事故でも起きてさ
可愛い可愛い夕ちゃんと一緒に死ねたら幸せかもしれないのになぁ
ふふ!
なんでもなーい




 そろり。 あっちへきょろり、こっちへきょろり。
 忍び足で壁伝いに歩く夕辺の姿にもうから滲む笑いの堪え切れぬロキだ。影に潜んでわあっなんて脅かしてやりたい――次こそ蹴り一発じゃすまないだろうけれど。
「ねえ、……確認するけど。もうおばけ……じゃなかった、ゾンビはいないのね? オブリビオンもいないのよね?」
「うんうんゾンビもオブリビオンも居ないよ。いっぱい遊べるよ、夕ちゃんのための遊園地だよ。たしか初めてだったよね」
 背後の邪気を拾ったかぴこんと跳ねる狐耳。目を眇めて通りを睨んでいた夕辺は、そこでやっと深く、長く息を吐く。
 緊張続きの状態からの解放。
 は、目一杯のダッシュという形で訪れた。道中で逐一ロキに"楽しみ方"を尋ねたうえで、一番に乗りたいものはもう決まっていたのだ。先ほどから頭上で一番速く、一番派手にぐるぐるしているアレ!
「――よし! じゃあ遊ぶわよ! ええ、初めてだから遊び尽くすわ!」
「やっぱり最初はジェットコースター? ふふふ、お目が高いねぇ」
 もふもふぴょんと尾を揺らして先ゆく背をロキもゆったり追う。アトラクションは逃げやしないのに、子どもの頃みたいに全身ではしゃぐ夕辺がどうしたって微笑ましくて。
 ライドへ続く階段を駆け上る彼女に「一番前がおすすめだよ」と声を飛ばすのだ。
「一番前……? 怖くない? 大丈夫よね?」
「怖くないよ、ゾンビ相手よりずっと楽しいものだよ。風きもちーって」
「ほんとね? 遊具だものね?」
「そうだね遊具だし」
 問答が次第に雑になっていることにお気付きいただけるだろうか――?
 だがうきうきでいっぱいの夕辺は、最前列シートへ勢いそのまま飛び込んで安全バーを腰まで引き下ろすのに必死であった。それ僕も乗ってからにして、だとかわざとらしく唇を尖らせたロキが隣へ滑り込んで手伝えば、早くも出発のお時間だ。
 しゅっぱーつ♪
 ガコンと伝う重たい振動に同じ方向へと揺さぶられ、珍しく笑顔も、言葉までもおそろいであったけれど。

 ――――。
 ――。
「ロキの嘘つきぃぃぃ!!! いやあああああ!!!」
「心外だなぁ。こんなに楽しいのに」
 いつものやつ。
 ごうごうと唸る風は気持ち良い……、気持ち良い? 右から左から殴りつけられ割と痛い域であるのだが、とにかくにっこり両手離しなロキと真っ青で手すりにしがみつく夕辺の間には大きな認識の溝があるようだ。
 あ、ほら、あそこカメラあるよ。 などと嬉々とし指差されてもそれを見つめあまつさえロキとともにポーズを作る余裕は夕辺にはない。出来る限り身を縮めて空気抵抗を減らしつつ、暴風に抗うばかりである。
「もう!」
 出鱈目な重力に浮き上がった足で隣の男の脛をゲシッといった夕辺。が、当のロキはといえば「おっそれも楽しそうだね」なんて足を浮かせるのを真似る始末。ノーダメージ。
「このバーが無かったらな。世界には立って乗るタイプや床無しタイプもあるんだってさ」
「とうてい、っまともじゃ、ないわ」
 バーが降りる際に大きな尾っぽが挟まっていた分スカスカとする背の空間は、余計に夕辺の恐怖心を盛り立ててくれている。二度目の上りのときだったろうか交わされた「飛んでいったらつかまえて」「努力はするけど」の会話も、相手がロキとなれば眉唾に過ぎた。
 ……いや。
 どれだけ怖がらされても、最終的に見捨てられたことはまだ、一度もないと知ってはいるものの。
(「こわいものはこわいのよ」)
 ばか。ばーか。 この、――。
 ぐるぐるりと茹だる夕辺の思考を遮断するみたく激しく進むライド。複雑な、蜘蛛の巣よろしく張り巡らされた鉄骨が頭スレスレに待ち構えている演出なんかはありがた迷惑の極みであって!
「っっぶつかる!!」
「そうだねぇ耳ぺたーんした方がいいかも」
「離せるわけないでしょ! 手!」
 ぶつかる筈がないのに。しかたないなぁって顔したロキは代わりに手動で狐耳ぺたーんしてあげた。
 ――泣かないで?
 ――泣いてない!!
 頭など撫でようものなら普段ならば振り払われるところだが、これぞ世に聞く役得という奴であろうか。肩が触れる距離になることでより間近に飛び込んでくる夕辺の悲鳴は、キンキンだろうと砂糖菓子めいて愛らしい。
「……ふふ」
 ああ。
 このまま事故でも起きて、さ。一思いに同時に頭を飛ばして。
「可愛い可愛い夕ちゃんと一緒に死ねたら幸せかもしれないのになぁ」
「え!? 何か言った!? 聞こえないんだけあああああ!!! 急降下はいやー!!」
 ひそやかなロキの願いを叶えるみたいにコースは真っ逆さま!
 けれどこの輪を越えた後も首輪から上は変わらずくっついているだろうし、隣の娘は変わらずそこにいるだろう。それは良いこと? 悪いこと? ――なんだって。
「なんでもなーい」
「後でっ吐かせて……やるんだから、ね! う゛ああぁムリもうっ」
「あはっ、生還できたらねぇ」
 楽しみにしてるよ、と嘯くだけ。
 ガタンゴトンと終着へ向けレールが軋む。極彩が寄って開いて、花と散って。
 そうやって。壊れかけの退屈な世界は明日からもすこしだけ面白く、続いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

わぁい、櫻!
遊園地で遊ぶよ!僕楽しみにしてたんだから!どれにしようか
あ!!僕あれがいいな
じえとこすた!
すごい勢いで、ごーーって進むんだよ?
きっと楽しい
僕好きなんだ
絶叫系

櫻?顔が青いよ
……まさか、怖い……とか?
なんて揶揄えばムキになって着いてきてくれると知っている
ふふ!可愛い
じゃあ行こうよ
じえとこすた!

ヨルと誘はお留守番
二人とも小さいからね
めりごらんどに乗ってるといい

櫻?行くよ!

キイキイ歌うじえとこすた
落ちないよ
落ちても大丈夫!櫻は飛べるし
高く昇ってそして一気におちる!まわる、滑る!
あはは!!たのしい!!

櫻……真っ白になってる
首ついてるよ
平気だよ
よしよし、頑張って偉いぞ

じゃあもう一度だ!


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

リル!遊園地よ!なかなか雰囲気あるわね
さぁ!優雅にメリーゴーランドを……え?!
ジェットコースター??!
い、いえ、ほら髪が乱れちゃうし、ほら……勢い良くて楽しそうだけど桜も散っちゃうわ?

私は絶叫系が得意ではない
むしろ苦手だから、青ざめつつわくわく人魚の説得を試みつつも―
こ、怖くないわよ!
怖いわけないわ!
リルが泣いちゃわないか心配だっただけよ!
…強がってしまった

手を振るヨルの隣で憮然としている誘に視線だけで助けを求める
あ、無視されたわ

ねぇこれ壊れてない?
崩壊するわよ
おちる、てば!飛べるとかそういう問題ではなく!

ヒイイイ!

桜散る
真っ白呆然
私、首ついてる?

ひぇ!
…でもリルが楽しそうだから
いいわ




「リル!」
「櫻!」
 楽しみにしていた時間がついにやってきた! 互いに名前を呼び合って、さぁ何処から向かおうかと見渡す遊園地の真ん中。
 しかし繋いだ手を引く方向はそれぞれ左右バラバラで?
「さぁ! 優雅にメリーゴーラウンドを……」
「あ!! 僕あれがいいな。すごい勢いで、ごーーって進むんだよ? きっと楽しい、僕好きなんだ」
 櫻宵がメリーゴーラウンド。
 リルがジェットコースター。
 たらりと冷や汗が伝う感覚がして、櫻宵はリルの指が示す先を見つめる。――よりにもよって絶叫系の方だ。絶叫系は、得意ではない。むしろ苦手で――。
「櫻?」
 言葉を探していたらリルが再び名を呼び手を引いてくる。ハッとしてかぶりを振る櫻宵。
「じえとこすた、だめ?」
「い、いえ、ほら髪が乱れちゃうし、ほら……勢い良くて楽しそうだけど桜も散っちゃうわ?」
「でも顔が青いよ。……まさか、怖い……とか?」
 グッッと息を呑む櫻宵はほぼ条件反射的に「怖くなんて!」と声を大にする。怖いわけ、ないわ。リルの両手をひとまとめに包むみたいに握り直して、気持ち男らしくずんずんと先を歩く。
 行先はもちろん、ジェットコースター。
「リルが泣いちゃわないか心配だっただけよ! 決まり、行くわよ」
「ほんとう? さすが僕の櫻だ、格好良いなぁ」
 ――なんて。強がっちゃって。
 揶揄えばムキになって着いてきてくれる櫻宵と知っていたリルだ。本当は、可愛い、がぴったりだと思っていて。ふふふと淡い微笑みだけ表へ零したとき、ちらと横目で窺う櫻宵がそれでもほっとしたように綻ぶ様なんてまさに。
 そんな主たちの背をペンギンのヨルと人形の誘、二人の式神はお利口にメリーゴーラウンドの馬車から眺めている。
 のーんびり手を振るヨルの隣に憮然と腰掛ける誘へと、最後の足掻き、視線で助けを求めてみる櫻宵であったがまるきり無反応とくればいよいよ腹を括るしかないわけで。
「また後でね、ヨル、誘。 ――櫻? 行くよ!」
「えっええ、ごめんなさい。わくわく過ぎてぼうっとしていたわ」
(「後で覚えてなさい誘! いいえ……落ち着いて、いけるわよ櫻宵。今日は気持ち悪い虫だって倒したし、怖いものなんてあるわけないじゃない」)
 自分の心へ言い聞かせて鼓舞する。
 一歩ごと、着々と近付いてくる乗り口を処刑台への階段のようにも錯覚しつつ。

 ――ねぇ。ところで、リル?
「これ壊れてない?」
「キイキイっていっぱい歌って元気だね。絶叫系の醍醐味だ!」
 いざとライドに乗り込んで安全バーに拘束されてしまえば、後は如何に百面相したって抜けられない。
 動き出した車体がこれでもかとレールを踏み鳴らす音を、リルは小気味よい歌声と喩え合わせて尾鰭を揺らすが、櫻宵には。唯一自由に動く腕で何処を掴んだものか、あちこちぺたぺたぺた。
 掴む囲いを支えに首をひねり、つい出来心で振り返ってしまった後ろのシートがいけなかった。
 先の戦いの所為であろうか、断裂して一列まるごと無くなっているではないか!
「っっっっ や、やっぱり……崩壊するんだわ。落ちるのよ私たちも」
「落ちないよ。それに落ちても大丈夫! 櫻は飛べるし」
「飛べるとかそういう問題ではなく! ひ、ぃ」
 上り詰めた先、地面と水平にてっぺんへ乗り上げたライド。がくん、と、全身を襲う浮遊感。
 待っているのは――。
「――――ヒイイイイ!!」
「あはは!! たのしい!!」
 真っ逆さまの出だしからクライマックス! ドリルで穴を穿つみたいに大から小へ回転は繰り返され、一番下まで落ちたかと思いきやまた上る。縦へ、横へ、たまにはジグザグ?
 特盛絶叫コースは車輪の歌声をキイキイからギャアギャアまで引き上げてくれていて、ゾンビたちの方がまだ上品だったかもってくらい! 背中が、背中が痛い。
「リリリリリリルリルわた、わたし」
「うんうん、リルだよ隣にいるよ。あっ見て、またヨルが手を振ってる」
「ム・リ・よ!!」
 頑張って振り返そうにも手は塞がっているのだ。
 普段は櫻宵に凛々しく守られることも多いから、しがみつかれているリルだって悪い気はしない。抱き寄せるかたちで櫻宵の肩に腕を回してその手で、今は機能していないであろう備え付けカメラへ余裕のピースまで!
 ごおごおと突き進むコースターの後には小雨ほどに桜花が散り落ちる。
 地上で待つ式神たちは、宝物を集めるように、或いは呆れたように、淡紅のそれらを拾っては二人の行く末を見上げていた。

 はらり。
 最後の方なんか無言になりつつ一周を終えて。一気に冬枯れが訪れたよう、桜散り真っ白になった櫻宵は終始元気に声を上げていたリルに支えられながら席を立つ。
「……。……私、首ついてる?」
「首ついてるよ、平気だよ。よしよし、頑張って偉いぞ」
「もっと褒めて~……」
 うりうりと頭を寄せ撫でろ要求をしてくる大の龍の図だ。愛おしさに、やはりちょっと吹き出しかけてしまいつつも応じるリルはにっこり笑みを深めていた。
 繋ぎ直す指。
 よし、と、今一度弾む声で続ける意図はといえば。
「じゃあもう一度だ!」
「ひぇ……!」
 二周目に決まっているじゃない。
 次は最前列ね、だとかぐいぐい引っ張られる櫻宵は今しがたの慰めで花開きかけた蕾もが即座にシュッと閉じてしまう勢い。だけれども。
 先も今も、ずっとリルが楽しそうだから。
(「いいわ」)
「さっきのはちょっと油断しただけだもの。二周でも五周でもなんでもかかってきなさい!」
「やった! この後はあっちの海賊船で、その後ももう決めててね」
「そ、そう。慣れさせてはくれないのね……」
 それも、いい。
 笑顔で語られるおそろしい計画のどこまでだって付き合うと、指を絡めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
フォーリーさん(f02471)と
あれ、ロボの残党いません?
違いました。パンダでした

もしかしてこれ乗れるんです?動くんです?
初めて見たので興味津々。おっかなびっくり乗ります
動いたら「へー、こういう感じ」って顔しつつ密かに感動
気に入ったのでそのまま園内お散歩します

フォーリーさんたらはしゃいじゃって。しかも結構似合ってますし
あたしもパリピしましょ
カチューシャonユキテルonザ・パンダ・スタイルで乗り回します

ふふ、ポップコーンはありませんけど。何かお菓子食べます?
リュックをごそごそ

そうだ、写真撮りません?
ちょっと寂れた景色ですけど楽しいものも残ってますし
最後のお客さんですから。記念に

※アドリブ歓迎


フォーリー・セビキウス
ユキテル(f16385)と

錆びついてはいるが、どうやら動く様だ。乗ってみるか?
行くが良い、おもち号!

サングラスやら耳のついたカチューシャやらを売店から掻っ払い、ノリノリで付けてパリピになってウェーイ!

店番も居ないんだ、貰っていくぞ。
どうだ?似合ってるだろう?フハハ、こんなものも着こなせてしまうとは流石私!
お前も中々傾いているな。ハハハ!

ロクに来たことないのでかなり楽しむ

なんだ、このポップコーンマシン壊れてるな。
遊園地に来たらポップコーンと相場は決まっているだろうに。

む、用意が良いな。やはり食べながら巡るのが醍醐味というものだろうモグモグ。

私の隣で映る気か?フフフ霞んでも知らんぞ。

※アドリブ歓迎




 手に手を取って走ってゆく子どもたちの後ろ姿をゆるりと見送ったユキテルは、血濡れた殺しの道具ではなくロッカーに預けていたミニリュックを担いだ。キュートな白い羽根が背にぱたぱた揺れる。
「なんだそれは。園限定グッズか?」
「欲しいんですか? 残念ながら私物です……ん?」
 壁に寄りかかって待っていたフォーリーに迎えられ、それはいいのだがと視界の端にもうひとつ。
 先の虫の残党めいたぎくしゃくした動きの黒いロボがいるではないか。注目を待ってましたと言うようにゆっくりとカーブしたそれが、闇の中に白い顔をぼおっと露にするは直後。
「「パンダ」」
 意外なキャラクターの登場に二人の声が揃う。
 パンダ型電気自動車。近付いてみたなら漏れる音こそ錆付きジィジィ怪しいが、どうやらまだ"生きている"らしい。背のハンドル、次にシートと順に触れたユキテルは「もしかしてこれ乗れるんです?」恐る恐ると呟いた。
「丁度良い」
 フォーリーは即決し飛び乗る。
 広い園内、徒歩での攻略に少々辟易していたところだ。使えるものは使わねばとどっかり跨りしたり顔でいるものの、パンダ自体の超スローペースに関してはあまり気にしていない模様。
「行くが良い、おもち号!」
「ま、フォーリーさんが良いなら良いですけど」
 名前までつけちゃって。
 ぷ。と吹き出したユキテルは案外広いシートの後ろへとお邪魔することにする。重くはないだろうか、顔を足をと覗き込んでみるもののパンダは安定した足取りで一歩ずつ進んでゆく。
 程好い振動、もふっと肌触り、なにより丈夫な逞しさ。
 ――密かに感動しちゃったり。
「見ろユキテル」
「はい? は、手癖悪っ」
 フォーリーの声に現へ引き戻されて――見遣れば、開園ウン周年記念の数字サングラスであったりマスコットキャラ仕様のカチューシャを身につけた珍妙な男が振り返っているではないか。
 近くにはグッズ類を移動販売していたのだろう、一台のワゴンが横転していた。店番スタッフをボコしてかっぱらったと字面こそ凶悪であるが、真実彼らの人生を狂わせたのは暗黒の竜巻であるし、だったら掬って楽しんでやるのが華、かもしれない。
「かも、ではない。華だとも。フハハ、こんなものまで着こなせてしまう私に選ばれてな!」
「はぁー、でもホント、結構似合ってるかも。あたしもパリピしちゃいましょ」
「ん? ほう――お前も中々傾いているぞ。ハハハ!」
 ひょひょいっと摘まみ上げたカチューシャの、謎の触覚みたいなものが頭上でぴろぴろ。
 フォーリーが赤、ユキテルがピンク。ついでにパンダには青、だ。
 ウェーイ! なテーマパーク練り歩きに必要不可欠なものといえば、あと。
「ポップコーン……」
「ふふ、ポップコーンはありませんけど。お菓子なら持ち歩いてますよ、何か食べます?」
「!」
 ひしゃげて中身の真っ黒くなったポップコーンマシンをしげしげ見下ろすフォーリーへ、ユキテルからの用意周到な助け船。リュックを漁ると出てくる出てくる、棒付きキャンディー、マシュマロ入りチョコバー、オレンジピール入りクッキー、etc。
 どれだと雰囲気出ます?
 ――だとか、ざらりと十の指に挟んで並べられてしまえば、テンションも大から極へうなぎ登りというもの!
「その、お前に似た奴を」
「えーあたしこんなに毒々しい色してないですしぃ。でもオススメですよコレ、ピリッとしてね?」
 選ばれたのはパチパチ入りグミでした。
 カラフルなそれがてのひらからてのひらへ。落ちた一粒はパンダのものかスタッフのものか、いずれにせよこの地の一部になるのだろう。
 バチッと弾ける電撃のようなソーダ味。パンダの歩みは尚も止まらずに、メリーゴーラウンドの音と光がわぁわぁ二人を迎える。気分が良い。
「んむ、美味い。やはり食べながら巡るのが醍醐味というもの……」
「ムードって大事ですよね。乙女としても分からないことはないです、  そだ」
 何頭か崩れてはいるけれど、折角のファンシー愛らしいお馬さんたちとも出会えたことだ。「写真撮りません?」リュックの底から引っ張り出した自撮り棒をカシャンと伸ばしつつユキテルは笑った。
 最後のお客さんですから。記念に、と。 そう。
「……ふん」
 片眉を上げ下げしたフォーリーは眼前ににゅっと伸びてきた棒を避け、どうどうとパンダを止め――止まらないので、ハンドルを回し大分慣れた風にその場でターンさせる。ちょうど背後に馬たちが入る角度へ。
「私の隣で映る気か? フフフ霞んでも知らんぞ」
「まさか。誰のスマホだと思ってるんですか」

 煽り合いもそこそこに、まずは一枚。

「もう一枚だ」
「角度変えたって大して変わりませんよ。イマドキ加工です加工」
「ギャルが現実的なことを言うんじゃない」
(「言い回しがたまに古いんだよなぁ……」)
 そこはかとないジェネレーションのギャップを感じつつも、パシャ、パシャリ。
 好奇心と小腹と、楽しい思い出とがいっぱいに満たされるまで。
 パンダとユキテルとフォーリー、そのままずるずるぐるぐる、広い園内の端から端へ。写真に収められた"最後の日"は背景に移り込んだアトラクションと人々の笑顔までも眩しく、終わることなく残り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ロカジン(f04128)

ジェットコースターだー!
鉄の乗り物、鉄のお化けー!
知ってた?知ってた?
アァ……さっきのヤツラも鉄の乗り物だったなァ。
もう居ないンだなァ……。

アイツらよりもコノ鉄の乗り物の方がずーっと速い速い。
ロカジンも乗ったコトある?
気を付けないと振り落とされるンだ。

アァ……賢い君は一緒に行ったらダメらしい……。
君が誰かに絡みつく。それはダメダメ、バーツ!
ロカジンが見てくれるって、ロカジンさっすがー。

準備はイイカ?3、2、1、発進ー!

ぐるぐる回るジェットコースター!
アバレウマダー!
フリオトサレルー!

回転もするする
ワー!ギャー!
ロカジン、ロカジン、コノ鉄のアバレウマを止めてくれくれ!


ロカジ・ミナイ
エンジくん/f06959

ジェットコースターだー!
めちゃくちゃ気持ちいい鉄だよエンジくん
そうそう、鉄のおば おば!?
冗談はやめとくれよ、もう、ふふふ
……どしたい?センチメンタルな顔をして

そうよ、こっちはさっきのアレらよりずっとスリリングよ
賢い君は留守番かい?
ふむふむ、レディにはちょいと刺激が強いかもしれないしね
まぁ、エンジくんのことなら僕に任せておきなよ

僕くらいの絶叫マシン玄人になれば
この程度のエグい最恐絶叫マシンごときオチャノコサイサイだし
……ああ!ちょっと待って、待って待ってまだ心の準備が

アーーーーッッッツ!
ヤバいよエンジくん早いよ落ちるよ胃から口が出ちまうよー!
トーメーテー!!
ギャハハ!




 カチコチな虫を乗り潰しふたりがまず向かったのはジェットコースター!
 もっとめちゃくちゃに気持ちいい鉄があるんだよエンジくん! そんな、闇医者男の如何にもあやしい耳打ちが決定打となり狼男のわくわくを高めていた。
 軋む階段を踏みしめ上に待つライドを見上げながら、コレ知ってる、とエンジ。
「鉄のお化け。乗るとバラバラになってドーン!」
「え゛ おば……」
 ぼくのしってるじぇっとこーすたーと違う……。まるで同調する風にライドがギィギィ嗤うから、そこまでニヤついていたロカジの面持ちも俄かに引き攣る。それもこれもお構いなしのエンジは二足も先に一番前の席へと乗り込んで、ぱしんと硬質な頭を叩いた。
「お化けみたいに速いンだ。バラバラゾンビがイッパイ落ちてたろう、さっきのヤツらよりこの鉄の乗り物の方がずーっと速い速い」
「あ、そういう……冗談はやめとくれったら、もう。ふふふ。 そうよ、こっちはさっきのアレらよりずっとスリリングよ」
 けれども、ちゃんと掴まってたらバラバラに落ちたりなんてしやしないさ。頼むよと伝えるみたいに安全バーをぺちぺち撫でてロカジがエンジの隣へ乗り込めば、獲物を詰め込んだ魔物の口が閉まるが如くバーが降りた。
 ――やはりオブリビオン化しているのでは?
 一抹の不安が過るも。
 貴重品や眼鏡はロッカーへ預けてくださいとの機械音声が今更流れたなら、思いの外お利口にそれに従うエンジが相棒の拷問具をそっと置く様に引き戻される。
「おや? 離れ離れでだいじょうぶ?」
「アァ……ロカジンが見てくれるからって話になったンだ」
「そ、そう。そりゃ責任重大だなあ。でもま、賢明だ。エンジくんのことなら僕に任せておきなよ」
 レディにはちょいと刺激が強いかもしれないしね。 言って聞かせるロカジにエンジも神妙に頷いた。君が誰かに絡みついて、あまつさえ千切れて戻ってこないだなんて。そんなことダメダメ、バーツ!
 もそりと襤褸フードの下から這い出た白黒仔竜が「じゃあ姐さんのことは任せて」とでも言いたげに拷問具の傍らで丸まった。
「ロカジンのは?」
「ふふふ、仮にも医者が仕事道具を手放すワケにゃいかないとも。空の上で何かあったらどうすんだい?」
「ヘェー。でもロカジンにナニかあってもコレは落とすくらいしか出来ないなァ……」
「一思いにトドメ刺そうとしないでね!」
 準備はイイカ? 3、2、1、
 発進!
 ぎゃんぎゃん騒ぐロカジを余所にエンジの掛け声でガコンとライドは大きく揺れ、じわっと滑り出す。
 おお、と手すりを握りしめるロカジの手にも力が籠もる。重力に縫い付けられる急斜面。重たくも心地好い振動が足元から伝わって。口に浮かぶのは、笑みだ。
「――それに心配いらないさ。僕くらいの絶叫マシン玄人になれば、この程度のエグい最恐絶叫マシンごときオチャノコサイサイだし」
「あ。 イチバンてっぺんだ」
「……。……ああ! ちょっと待って、待って待ってまだ心の準備が」
 半分聞いてくれていたら良い感じなエンジが肩から上だけきょろっとして呟いたとき、荒野の彼方に見える禿山なんかと視界の高さが水平になる。
 直後であった。
 キリキリと高められた緊張からの解放――頂点からのより一層に角度のついた急降下!
 冷えた風の音が耳を裂く! あちこち照らす照明が混ざり合って踊り狂う、その騒がしいひとときを二人は駆け抜ける! 下り切らぬ地点に突然捻じ込まれた縦回転横回転がぐるぐるぐるぐる――……、
「アーーーーッッッツ!」
「アバレウマダー! フリオトサレルーー!」
「オァッ、ホォォゥ!?」
 怪奇・ゴースト・ジェットコースターにより水族館のトドコーナー時空に飛ばされた二人。いつしか自分自身がトドに変えられていた狐男は生涯自らの身に起きた不幸に気付くことなく……それは雄叫びで、断末魔であった。
 真っ当にはしゃぐエンジの肘鉄がうるせえと言う風に(実際はコースの傾きによる偶発的な不幸である。多分)横腹にめり込んだとき、ングッと色々なものを呑み込んだロカジは漸く正気を取り戻した。
 ちょうどコース的にも再びの上り坂、息継ぎタイム。
「ハァッ、はぁ……危ないところだった、助かったよエンジくん」
「? アァ……ロカジンがいるとたーのしーねェ」
 嫌味かな? おそろしいことに嫌味ではない、し、おしゃべりが許された時間はほんのいっとき。
 上り切って、直ぐ。 最大の盛り上がりどころたる高低差に殴りつけられるみたいに翻弄されれば、今度こそ二人のワー! ギャー! はおそろいになる。それこそバラバラに解けてしまえそうな。比類なき、疾走感!

 ――早いよ落ちるよ胃から口が出ちまうよー!
 ――ロカジンロカジン、コノ鉄のアバレウマを止めてくれくれ!
 ――止めらんないなぁ! こいつばっかしは!

「トーメーテー!! ギャハハ! このまま二周目いっちゃう!?」
「イーヨイーヨ、手離しして帰ってきた方が賢くて強いイヌ科」
「いやその勝ちは譲るよ」
 途端にスンッと大人しく縮むロカジであったが、ギラギラ、瞳も唇も似た弧を描く隣の男は拘束具で括りつけてでも"タノシイ"を共有したがることだろう。 乗りっぱなし、絶叫度マシマシの二周目へ、いざ。
 男たちの狂乱を知ってか知らずか、出発点かつ終着点のロッカーの上では赤い糸がそよそよ風に揺れている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイニィ・レッド
狭筵サン/f15055

…、働いたのは自分だとか
そういうことを言うのは諦めました

自分のスタイル考えたら
返り血フルコース確定なの分かってましたよね?
なので文句は認めません

ま、いいでしょう
御付き合いしますよ
シャワー代わりのウォーターコースター
さあ?このコースターは初めてなんで勢いは知らねェです
自分はこのまま乗りますけど

狭筵サン
コース見てたら何となく予想で来たでしょ
返り血だとか浴びてた癖に
何を今更頭からずぶ濡れとか気にしてるんです?
"ウォーター"っつってたじゃないですか
そりゃ浴びますよ
ずぶ濡れ不可避でしょ
大人しくずぶ濡れポメラニアンになって下さい

ズルくないでーす
前言ったじゃないですか
コレ脱げないって


狭筵・桜人
赤ずきんさん/f17810

はあ働いた働いた。
もう赤ずきんさんがゾンビを散らかすから
私まで返り血やらゾンビ汁を被ったじゃないですか。

ですから、ね。
これ乗りましょうよ。ウォーターコースター。
帰るまでシャワーも無いし、水で洗い流したいです。
水避けのクリアシート?服を濯ぐのにそんなもの要りませんよ。
水を被るといってもまさか頭からずぶ濡れに
なるようなことない……ないですよね?

ねえ思ったより水飛沫すごくないです?
ちょっとやめてくださいよ私のふわふわヘアーは
水を被ると濡れたポメラニアンみたいにな……

なんですかもう!
自分だけレインコート着てズルじゃないですか!
……じゃあ次、ジェットコースター。乾きそうなので。




「もう赤ずきんさんがゾンビを散らかすから、私まで返り血やらゾンビ汁を被ったじゃないですか」
「文句は認めません。自分に声掛けた時点でフルコース確定なの分かってましたよね?」
 ――はあ働いた働いた。
 スマホ画面に映る自らの頬にこびりついた誰かの血を拭う。ヘアセットもちょんちょん整えて、ポケットにその端末を仕舞い桜人はレイニィに向き直った。レイニィはといえば備え付けの透明レインコートをカゴから摘まみ上げていて。
「働いたのだって自分ですし。……ま、いいでしょう。乗るんならさっさと支度してください」
 鮮やかな魚の姿をしたウォーターコースターのライドは、そんな二人を快く迎えてくれた。
 コースに溜められた水は案外綺麗なもので、雨水なのだろうか、少なくとも血溜まりではない。ゆえにとこのアトラクションが"シャワー代わり"として選ばれたのであった。
「支度?」
 つかつかとレイニィの脇を抜けてライドへ乗り込む桜人はレインコートも持たず手ぶらのまま。先頭でも最後尾でもない、中ほどを選ぶあたりに拭いきれぬチキンみが表れているが、まさかの防具無し。 涼しげな顔をして隣の席を叩いてみせ。
「――お気遣いはありがたいですがね、服を濯ぐのにそんなもの要りませんよ。水を被るといってもまさか頭からずぶ濡れになるわけでもないでしょうに」
「気遣ったっつーか後から騒がれるとうるせぇというか」
 とはいえレイニィにそこまで面倒を見てやる筋合いもない、自前の赤ずきんを目深に被り直して「忠告はしましたんで」と腰掛けるまで。
 ……。ガコン。動き出すライドが急な坂を上るにつれて、次第に不安になってくるのは当然というか桜人。結構高いなぁあっはっは、なんて笑いもどこか引き攣って。坂の下、大口を開ける水音がやたら大きく耳を打つ。 ――頭からずぶ濡れに?
「……なるわけ、ないですよね?」
「さあ? このコースターは初めてなんで勢いは知らねェです。返り血だとか浴びてた癖に何を今更気にしてるんです?」
「端っこでいいんで貸してくださいそのオシャレな赤いの。そうそう前々からオシャレだと思ってたんですよねやっぱり近くで見ると格好良いなぁ!」
 ノンプレスの御機嫌取り、一瞥すらもらえずあえなくスルー。
 "来ますよ"。
 代わって零れる抑揚に欠けた、レイニィの一声が合図となった。

 ざあああぁぁああぁ!

 真っ逆さまにほど近い角度で水の中へ突っ込むライド!
 押し上げられ左右からそれはもう盛大なアーチ描いてばしゃばしゃばしゃーっと降ってくる水が、結構な重さで頭上から潰しにくるのだ。正直なところ接触の瞬間は呼吸も苦しい。
 そんなものを、ノーガード戦法の桜人はダイレクトに浴びていた。
「首おれました」
「ご愁傷様です」
「ねえ。 思ったより水飛沫すごくないです?」
「そりゃずぶ濡れ不可避でしょ、乗り口にもありましたよそういうモンって」
 "ウォーター"っつって。子どもにも分かるように図解されてましたよってなレイニィは手の平クルクル手すりを握り、前だけ見て我関せず。何事か叫ぼうとした桜人の口に水が飛び込みその整った顔がくしゃっと歪んでゆくのを、アトラクションのひとつとして受け止めていた。
 コース見てるだけでも何となく予想できたでしょ。 めちゃくちゃ正論であった。
 もうひとつ、ふたつと大波を越えた先。
 ――ぷしゅうん。
 やがて機体は大きくひと揺れ。
 辿り着いたスタート地点には、人間とずぶ濡れべっしょりポメラニアンとがいちずつ。
「ああ涼しかった」
「わたしの、私のふわふわヘアー……」
 何事もなかったかのように降りるレイニィと目元に貼り付く前髪を握りしめ唸る桜人だ。絞れば絞るほど水が。やはり雨の日の切り裂き男に次ぐ第二の都市伝説かもしれないが、がばりと身を起こしたとりあえず桜人は赤ずきんの端っこに縋りついた。見下ろす側の冷ややかさ含め、散歩終わりに駄々をこねる犬の如く。
「っっなんですかもう! 自分だけレインコート着てズルじゃないですか!」
「ズルくないでーす。余裕ぶっこいたのは誰でしたっけ。大体、前言ったじゃないですかコレ脱げないって」
「くそぅ今日こそは内側を暴いてやりますよエージェントたる私がね」
 ぐいぐい。
 諦めの悪い犬にしんと注がれるレイニィの暗い赤目。が、不意に細められた。 ――ジョキン。手には鋏が。
「はー。切り落としたら頭くらいは入れてやれるかもしんねェですね。次の一周で試します?」
「わああサイコキラァ!! たすけて係の人!」
 しーん、と静まり返ったあたりから救いの手が差し出されることはない。さっき丁寧に殺し直したので当然である。
 背後に迫るチョキチョキ音に階段を踏み外しかけたりもしつつ、ライドから転び出た桜人はなんとか手すりにしがみついてその先にズゥンと聳えるアトラクションを見上げた。
 歓声を上げ、気持ちよさそうに夜風に煽られる人々の髪。
 軋むレール。そこそこに長いコース。ジェットコースター様だ。 連れが駄目なら彼に頼るしかない。
「……じゃあ次、アレで。よく乾きそうなので」
 残り数段を脱兎の勢いで飛び降りてゆく桜人とその提案に、風と水に煽られてもさして乱れていないフードポジションを整えたレイニィは何も言わず後を追う。考えるまでもなく結果が見えていたからだ。
 結果?
 なかよく乗り込んだジェットなコースターの強烈な向かい風、乱高下、回転――。
「コレ! ねえ! 思ったよりひどっわっぶっ」
「良かったですね強そーになってますよ見かけだけは」
 ――かくしてポメラニアンは鬣も荒々しき雄ライオンに進化することとなったが、はたしてそれを進化と呼ぶべきかはあやしいところであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
【空】
たぬちゃん、ジンノと

まるで生まれ変わったみたいねぇ
足取り軽く華やかな電飾を流し見て
大の大人三人で目指すはレーシングカート!

ミンナできゃっきゃもイイけど、ここは熱く楽しまなきゃネ?
早さ競って勝負しましょ、賭けるのは何がいいカシラ

運転ナンてお手のものと乗り込むケド
こう、ハンドルから駆動への反応が……勝手が随分違うモノねぇ
危うい運転ながらもスピード目一杯……つってコレももどかしいコト!
見れば二人とも似たり寄ったりだし
もしかして走った方が早くない?ナンて
しまいにゃ可笑しくなってけらけら笑っちゃう

ふ、良い勝負だったわネ……(目は合わせない)
(勝敗お任せします)
さあさお次は絶叫系いっちゃう?


火狸・さつま
【空】

コノ!!コノちゃん、お疲れ!
姿見れば尻尾ぶんぶか振り
常盤と一緒に合流!

楽し、が、いっぱい詰まってる、よね!
周囲には、好奇心いっぱい笑顔いっぱい
良かった…コノ達が、頑張てくれた、おかげ、だね!(にぱ)

カート!勝負?楽しそ!
じゃ、じゃ、今日の、美味し、晩御飯!かけて!
意気揚々、エンジンかけて乗り込んで
俺の、テク、見せて、やる!
ハンドルしっかり握り
GO!と共に、アクセル思いっ切り踏み込…
……お、おそ…っ?!
コーナリングは体重移動でスムーズ、に…?
全速力でもゆったりのんびり速度
安全第一、かな?これはこれで!楽し!

白熱の、戦い、だた(きりり)
うん!びゅーんってするやつ!乗りたい!
すぴーど、感じたい


神埜・常盤
【空】

お仕事お疲れ様、コノ君
荒廃した世界の遊園地とは思えないほど
ココは豪華だなァ……

回転木馬も絶叫マシンも楽しそうだが
レェシングカートも魅力的
あァ、勝負なら受けてたつとも!
僕が負けたら今日のディナーは奢ろう

ンン、普通の車と違ってうまく動かないなァ
意外と運転に難儀するねェ……
想いきりアクセルを踏んで飛ばしてみるケド
あくまで遊具だからドリフトは難しい

ふふ、確かにその方が速いかもねェ
まァ……もどかしさも含めて楽しいさ
コレは誰が勝つか予想が付かないなァ

いやァ、なかなかに拮抗していた
さつま君の言う通り実に白熱していて……
うん、良い勝負だったとも!

お、絶叫系いいな!
次はジェットコースタァに行こう、行こう




 広場へ向かいながらオイル汚れを拭うコノハのもとへ、たったか駆け寄る足音があった。
 おつかれ! と尻尾ぶんぶか迎えてくれる火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)だ。比べて幾らも控えめな神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)がその後方に佇んでいる。
「やあ。お仕事お疲れ様、コノ君。荒廃した世界の遊園地とは思えないほど、ココは豪華だなァ……」
「ふふん、デショ? オシゴト頑張った甲斐があったわ」
「うん。みんな、にこにこ……コノ達が、頑張てくれた、おかげ、だね!」
 にぱっと笑うさつまの頭、はぐりぐりしてやるには案外高いので、背をぱしんと叩いて応えるコノハは足取りも早く過ぎる景色を見渡す。三人集まったとなれば行き先はもう決めていたから。
 メリーゴーラウンドや海賊船からの熱いお誘いにもプレイボーイ的移り気さで整った微笑みを向けていた常盤は、みっけた、との知己の声に視線を戻した。整然と並べられたパイプフレームの車たち。アスファルトに引かれたライン、遠く彼方までうねりながら伸びるコース。 これこそが。
「カートレース! ミンナできゃっきゃもイイけど、ここは熱く楽しまなきゃネ? 賭けるのは何がいいカシラ」
「あァ、勝負なら受けてたつとも! 僕が負けたら今日のディナーは奢ろう」
「カート! 勝負? 楽しそ! じゃ、じゃ、今日の、美味し、晩御飯! かけて!」
 直ぐにコノハの言葉の先を読んだ二人だ。異議を唱えるものはおらず、それどころかノッリノリで。
 見上げてくる小さめなカートはどれもやさしげな動物の顔。どの子にしようなんて第一の楽しみを経て、それぞれがマシンへ乗り込んだ。

 スタータースイッチ。ぽちっ。
 簡略化された操縦はそれだけでエンジンをかけることが出来る。ふんすと気合上々意気揚々、前のめりにさつまは身体を傾けた。
「俺の、テク、見せて、やる!」
「くくっ、いきなり飛ばして大丈夫?」
「レースは頭脳戦とも言うよねェ」
 続くコノハ、常盤。フッと好戦的な笑み湛え睨み合う。三者ほぼほぼ同時にアクセルを踏んだ!
 快調なスタート、ライバルたちを蹴落としてコースを独占  ――の、はずが。現実の車と違う分、そう上手くはいかない。
「れっ? ……お、おそっ……?!」
 コーナリングに備え身体を倒し、体重移動はしっかりと。けれどもアクセルベタ踏みでもそうそう激突なんてしない程の速度だ、きゅきゅーいとタイヤ音だけけたたましく、丁寧に膨れて角を越えたさつまの脇を他二人が勢いだけで抜けてゆく。
 ……安全第一、のレース?
「これはこれで! 楽しい!」
 ぱあっとなるさつま、肩越し俄かに後方を振り返るコノハと常盤。
「もしかして走った方が早くない?」
「ふふ、確かにその方が速いかもねェ。まァ……彼の言う通り。もどかしさも含めて楽しいさ」
 遅れているくせ早くも新たな楽しみ方を見出したらしき後続にくすりと笑うも、勝負は勝負。
 小手先のテクニックが通用せぬというのなら――。
「どうやらオレらのどっちかがテープ切るコトになりそうネ?」
「それではこの辺りで、決めてしまおうかな」
 コノハ同様含みある物言いが板につく常盤は次なるカーブに合わせブレーキを押し込む。"小手先"ならばそうだろうとも。では! ――、な、計算高きドリフトチャレンジであったのだが。
 後輪だけどうこうの精密な操作を受け付けぬシンプルな車体は、その場でキキィッとつんのめるのみ。即仕切り直すも、コースの壁を削るも厭わぬスピード狂なコノハ号が頭ひとつ抜きんでる結果となった。
「あ~ら自滅? いただきっ!」
「ンン、これも上手く作用しないかァ。どうにも勝手が違う」
「常盤、どうかした? 動き、跳ねたり……ヘン!」
「ううん、今のはそういった技なのだよ。スキルさ。それよりさつま君のそれは――それは何だ?」
 ちょっと失敗したけれどとは言わなかった常盤。普通の自動車と大分違う操作感なのでノーカンということで。それよりも、と言い示したのはこの機に追いついたさつま号のパイプ数ヵ所から漏れ出ている、異様な赤の排気ガスについてである。
 自分からは見えない運転手は「それ?」と首をこてり、一心にアクセルを踏み続けていて。
 瞬間、である。
 がうんと鈍く重い音、さつまのカートが前へ"飛ぶ"。
「ぃ゛!?」
 此処は死と諸々が隣り合わせの世界・アポカリプスヘル。
 ハンドル・アクセルに対してある一定の操作を続けたとき(かはマニュアルも無いので定かでない)最高速度制限は外れ、車体は一段と激しくガスを吐き付けて飛び立つ魔物へ躍進したのだ。 ごおっ、と、マフラーからは赤い炎が。
「コノおぉぉ常盤ああぁぁ」
 ぎゃりぎゃりぎゃり!! 超速で遠のいてゆくさつまの悲鳴に、
「た、たぬちゃああん!」
「どこだ、どこをどうしたんだ!?」
 大パニックの一同。
 そうこうしている間にもさつま号はぎゅんぎゅんすっ飛んでいくわけで、束の間あらゆるレバガチャを試していたコノハと常盤は顔を見合わせると各々のマシンから飛び降りた。
 やっぱり走った方が速い件!!
 コースを横切りショートカットしてゴールへひた走る!
 指先ひとつの指示で常盤の遣わせた吸血蝙蝠たちは羽ばたいて、さつま号のタイヤの下へと潜り込んで緩衝材と――なり切れはしないが、次々弾けてマシンをスピンさせることには成功させていた。
「ああぁぁぁああ!」
「しっかりハンドルを握りたまえさつま君、振り落とされるぞ!」
 その場で高速回転。摩擦が生じることで前進する速度こそ落ちたマシンの剥き出しのボンネットへと、看板やらを踏み越えて大きくジャンプしたコノハが飛び乗った。
「ったく」
 不意に体重が掛かったことで前へとひっくり返りかける車体。もはや「あわわわわ」しか言えなくなって耳尻尾がぎゅんっと裏返りそうなさつまを余所に、そんな友を蹴りつけるかたちで操縦席へ乗り込んだコノハは操縦権を奪う。
 実のところ三人の中で一番運転技術があったりもする。
「横にブレーキがついてんでしょうが!」
「ぶ、ぶれーき!? で、でも踏んだ、よ?」
「こういうのはね――ぶっ壊す気でヤんの!」
 ガギィッ!
 先日ダンゴムシの硬い装甲を砕いたときと同じ感じの鈍い音であった。その音とともにコノハの健脚で踏み抜かれたブレーキは妙な煙を立てつつ、どうやら作用はしたらしく、がくんと車体が傾くほどの急減速を成功させて。
 前に進まんとす力、回転の力、静止の力。三つの力の拮抗を慣れたハンドル捌きがどうにか御したとき、壁面で刮げて大きく横転しつつも、マシンはちょうどゴール地点に乗り入れる状態で停車したのだった。
「二人とも。やるじゃあないか、生きてるかい?」
 道路へでろりと零れ出るたぬきつね尻尾にくつくつ笑う常盤が、爆発他の危険の去ったあたりでマイペースに歩み寄ってくる。腹這いで這い出るコノハはすっかり呆れ顔で、おかげさまでね、と傾ぐ首を鳴らした。
「ほらたぬちゃんも出た出た、この子起こして元ントコに返すまでがレースよ」
「うぅ……れぇす……、 レース?」 
 痛みというより洗濯機の中状態に目を回していたさつまも、二人の呼びかけにもぞりと身を起こす。
 顔を出して覗いてみたなら、此処はゴールと定めていた地点だ。さつま号以外はコースの途中に乗り捨てられていて?
「えっえっ、じゃ、レースは俺のかち――」
「ナニ言ってんの、最後に運転したのはオレよ?」
「その前段階からの話だろう。チャンスを与えたのは僕の蝙蝠だ」
 ――――。
 ――。
 ぷ。
 一番に吹き出したのは誰だったろう?
 とにかく、堪えきれぬ笑いはたちまち伝播して。「こんなアトラクションだなんて聞いてない!」満場一致の感想に、お互いの肩を支えたり手を貸したりとしながら立ち上がるのだった。
「ハァ……途中まではなかなかに拮抗していたんだがな」
「ね、良い勝負だったわネ……」
「白熱の、戦い、だた」
 キリリするさつまが横から肘で小突かれて「なんで!」って顔をするまでがセット。
 ゆるふわ草食系アニマルカートの貌をしやがって。初めから絶叫系だと説明されて楽しむのとでは、胃とか色々使う器官が大違いだ。逞しいもので依然動作に支障のないカート三台を元あった場所まで連れ戻し、それではと三人が靴先を向ける先は。
「次こそホンモノいっちゃう?」
「いいな! ジェットコースタァに行こう、行こう」
「うん! びゅーんってするやつ! 乗りたい! すぴーど、感じたい」
 "懲りる"だなんて辞書にあるはずもない。
 より強烈なスリルを求める男たちは、終わらぬ夜のテーマパークの極彩へと溶け込んでゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エスパルダ・メア
【半死】

遊園地が息を吹き返したみてえだな
楽しそうで、ああ、良い夜だ

どれもこれも初めてだが、いいな絶叫系っての?
キディ、次のどれにする…って
何だイディ、もうへばってんのか?
生まれたての小鹿みたいになってんぞ

片側からぐったりした体を支えて歩く
大人しいの…ああ、じゃあコーヒーカップってのは?
何か大人しそうじゃねえ?

何だろうな、まあこれならイディも大丈夫だろ
あ、動いた…って、すげえ回るな!
ははっ、キディすげえ、全っ然大人しくねえ

イディ、生きてるかってか息してるか?
髪がすご、おっぶ
キディストップストップ、イディの首がもげる!
カップあり得ねえ音してる!

生還おめでと
しかし楽しいもんなんだな、遊園地


イディ・ナシュ
【半死】

照明に負けじと輝く奪還者様方の笑顔は
夜の遊園地によく映えますね

と、辺りを見ている内は平和でしたが
絶叫系ばかりを好んで回る二人の供としては平和は遠く
あの、もう少し静かな物に乗りませんか
二人の膝と三半規管は鋼製ですか?

介護めいて連れて行かれた先はカップ型の可愛らしいそれ
小さいお子さんも楽しんでいるようですしと油断した私が浅はかでした

キディのハンドル捌きで振り回されるカップの中
声を挙げる余裕すらなく
カップから落とされないだけで精一杯
無理です大丈夫くないですと首を振った瞬間
ぽーんと飛ぶ帽子に跳ねる髪
降りる頃にはゾンビのようですが、辛うじてまだ生身でした

たの…楽しく、は、ありましたが…


キディ・ナシュ
【半死】

きらきら電飾に
楽しそうな悲鳴がたくさん
ワクワクしますね!

次はあれを――はっ
おねえちゃんがぷるぷるしています
おんぶした方がいいですか?

いいですねエスパルダさん!
お茶休憩を模したものならば
きっとのんびりできるでしょう!

いそいそ乗り込めば気になる真ん中の、これは、なんでしょう?
とてもぐるぐるぐるぐる回りますけれど
いくら回したからと動き出す感じでもなさそうな

あ、わーー!
音楽と共に動き出したコーヒーカップの遠心力!
ストップ、ストップですね!
あああ、ダメです逆に回しても止まらないです!
エスパルダさんおねえちゃんの頭をしっかり支えてください!

はい楽しかったです!
また一緒に行きましょうね!




 きゃあきゃあ、わあわあ。
 人々の悲鳴は響き続けているけれど、それは苦悶のうち発されていたものとはまるきり違う色。
 すれ違ってゆく奪還者一行の笑顔。やわらかく瞳を細め見送るイディの横顔に、ワクワクしますね、とキディがその心模様をも語ってみせれば、遊園地が息を吹き返したようだと頷くエスパルダ。
 ――楽しそうで。ああ、良い夜だ。
 本当に。
 本当に――――、と、三人が同じ方向を見つめながら晴れ渡った面持ちでいられたのもこのはじまりまで。否、二人は変わりなかったのだが。
「はっ。おねえちゃんがぷるぷるしています」
「おいおい、何だイディもうへばってんのか?」
「"もう"?」
 うち一人に関しては、アトラクションをふたつも経由した頃にはご覧の有様である。

「お二人の膝と三半規管は鋼製ですか?」
 ジェットコースターと空中回転ブランコだったろうか、早くも記憶が怪しいがとにかくやたら攻撃的な同行者ズの好みに敗北したイディの足取りはふらついていて。
 突き出たベンチの脚に引っ掛かるなり、がくぅ! とどさくさ紛れ木のベッドへ横たわろうとしたイディの身体は、あえなく左右から伸びた腕に抱き留められた。
 懇切丁寧な介護のようで「まだ寝かさねぇよ?」という強い意志を感じるそれはもちろん、キディとエスパルダの腕であり。
「よしよし、おんぶしましょうね」
「……いえ、まだ……これしきのことでは……」
「アレだな、休める感じのとこでも探し――おっアレなんか良いんじゃねえ? 何か大人しそうだぞ」
 生まれたての小鹿を容赦なく引き摺りつつ、エスパルダがアレと眺める先にはコーヒーカップ。アンティークな雰囲気とメロディが漂っている。
 滑りだしの傍目にゆるやかな回転はそれこそ和やかなティータイムなんかを想起させ、これなら、と油断を誘う。極めつけはそれに回され楽しげにはしゃいでいる子どもたちだ。
「いいですねエスパルダさん! お茶休憩を模したものならば、きっとのんびりできるでしょう!」
「……そうですね。すこし、端の方で休ませていただいて」
 ねっおねえちゃんとニコニコピカピカ促され、ついでに手も引かれ、揺れに揺られるまま承諾してしまうイディ。本当の地獄の始まりとも知らずに――。

 ――ごうん。
 キディ先導のもと三人が乗り込んだカップはお花柄であった。あらかわいいとほのぼの眺める間もなく、カップの乗り口、飲み口というべきか、が自動で閉まる。
「ん……これはなんでしょう?」
「コーヒーカップって話だし、テーブル的な奴か?」
 向き合うように腰掛ける三人。キディ、そしてエスパルダは中央のハンドルに興味津々でぺたぺたと触れてみて、既にくったりと背もたれに寄り掛かる状態のイディはそんな二人をぼんやり眺めていた。
 あまり不用意に触れない方が――。
「おお、回ります! 回りますけれど、回ってません?」
「乗り物自体は回ってねえな? どっか他にスイッチでもあんのかね……」
 ぐるぐるぐるぐるーっ。
 ああ……思わず嘆息するイディ。しまった本の角が絶妙に届かない距離感。
 好奇心の赴くままにハンドルを全力で切り始めたキディだがしかしカップは動き出さない。スイッチ、と周囲を窺うエスパルダが操作室の方へ視線をやったなら、ちょうどGOが掛けられるところであった。
 ――ごうん。
 そうして二度目の駆動音が響いたときだ。 ピンポロ流れ出すメロディ。
 ハンドルを回した分の加速が一気に乗って、カップが快調に過ぎる滑り出しを見せたのは。
「おおおっ?」
「ぁ、わーー!?」
 ぐぅんと横へ身体を引っ張られたエスパルダが戦闘で発揮するものとまるで同じ反射神経で両手にカップのフチを掴み取れば、キディはハンドルにしがみつく。その更に隣のイディはくつろいでいた分もろに遠心力に薙がれていた。なんなら上半身が傾きすぎてキディの膝枕状態になっていた。声もない。
 ふわふわのロングヘアがそのまま風に煽られてカップから零れだすミルクティーの如し。キディがテーブルをひっくり返したときですらこうはいかない、更にはガゴガゴと悪路もセットときた。
「は、なっ――ぁ」
「ええっなんですか? すみません風でっ聞こえません!!」
 まずそのハンドルから離れろと言いたいのだが、計算してるのか? な勢いでわたつくキディの手が回す回す。「ははっ! キディすげえ、コレ全っ然大人しくねえ」エスパルダはといえば満点の笑顔で。
 周りのカップが色のついた風とビュンビュン溶ける景色を楽しむ余裕がある。先のジェットコースターとはまた違った楽しさだ、華やぐ二人の声がより間近に聞けるというのもあるし――。
 二人?
 初っ端から折れた状態だったイディは今や再び背もたれへ張り付けられて、爆風にやられクレーターにめり込んだ残骸じみた何かと化していた。流石に気の毒になって風に逆らい覗くエスパルダ。顔の前で片手をスッ、スッ、スライドさせれば弱弱しくも彼女の呻きを拾う。
「……イディ、生きてるかってか息してるか?」
「むり、です、……ぅ」
 蚊の鳴くような声であった。
 だいじょうぶくないです。ふるり、薄っすらと目を開いたイディが頭を振った向きが悪く回転にもっていかれた首が「カコッ」と、最後の要というか引っ掛かっていた帽子はぽぉんと跳ね飛ばされ、よって注ぎ足された髪の毛もこれでもかと大暴れである。その猛威はエスパルダにも襲い掛かった!
「うおお!? 前見えねっ」
 ――絡みつく髪!
「あ゛ぁ゛ぁぁあぁ」
 ――回り続けるカップ!
「ちょ待っキディストップストップ! イディの首もげるしオレも」
「さっきから逆に回してるんですー! でも止まらないんですー!」
「そっち逆の逆! 元の向き、だッ!」
 ――ティーパーティーは阿鼻叫喚の様相!
 キディとエスパルダ二人がかりでぱしぱしぱしと互いの手を弾くわ叩くわ右へ左へ弄くり回すハンドルであったが、さすがはアポカリプスヘル無駄に頑丈なそれは結局、ファンシーなミュージックのおわりまで言うことを聞いてはくれないのだった。

「……あの、まだ、くっついてます?」
「多分……」
 とてもいきものの首を押さえながら交わすセリフではない。
 飲み口から溢れ出すみたくカップに寄り掛かる三人。最終的にイディの頭を胴体に固定する役割を担うこととなったエスパルダは、ふるえるキディの問いに重々しく返せば添えていた両手をそろりと剥がす。我が身のため脅威たる髪を押さえていた面も三分の一くらいはある。
 ぺち、とキディのてのひらがまっしろな姉の頬を叩く。
 長いまつげは実にゆっくりと持ち上がり、半分ほどのあたりでやはりゆっくり伏せられた。だめっぽい。
「そ、う……ですか、私の身体は……もう……」
「くっついてっからしっかりしろよ! おかげでオレの身体はボロボロだがな!」
 もう一歩たりとて動かねぇとこの機にすべて投げ出さんとすイディの耳元、叩き起こすエスパルダのおつかれも無理はない。腕も肩も腰もカップに散々強打されじわじわ痛いやつだ。両手離しはそりゃそうなる。だがその甲斐あってしっかり"首"を守り切れたわけであり、エスパルダは気が抜けたようにカップのフチに両腕を乗せ身を預ける。
「ま、生還おめでと?」
「お手を煩わせて……」
「――ふふっ」
 二人のやり取りに笑ってしまったのはキディだ。一人まるで疲れた様子がないがやはり鋼製なのかもしれない。ともかくキディはハンドルをぺしぺしと叩いて、楽しかったですねぇ、と噛み締めた風に呟く。
 三人で訪れる初めての遊園地。
 ゾンビパニックだってお片付けだって乗り越えて、マテを積み重ね心待ちにしていたひとときは想像以上のものだった。刺激的で、破壊的で! 混ぜられた自分たちはコーヒーだなんていうけれど、きっとシュワシュワパチパチ、そしてキラキラした飲み物になったに違いない。
「また一緒に行きましょうね!」
「ああ。楽しいもんなんだな、――遊園地」
 エスパルダがしみじみ続く頃には、ぱち、と。瞬いたイディもなんとか膝を揃えて座りなおす程度に復活する。
 楽しくは、あった。閉園までまだ時間は残されているというのに、自らの不甲斐なさを理由に二人を帰りのムードにさせてしまうのもいささか忍びない。
「そ、う、ですね……カップも無事止まったことですし、もう少し休憩したなら。あとひとつくらいは、回れるかも……しれません」
「本当ですかおねえちゃん!?」
「無理はすんなよ。次は首どころか」
 もっといろんなもんが飛ぶ、そう腕を伸ばし隣のカップに入り込んでいた帽子をエスパルダが持ち主へ被せてやった瞬間。
 ――。 ピンポロピンポロ、ごうん。

「「「あ」」」

 その意気だ!
 こちらこそまだまだ帰さないよ、と遊園地側からの熱烈アプローチが始まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナルエリ・プローペ
一件落着、かな。
まだ警護の仕事はありますが……オブリビオンは討伐出来ましたし。
オブリビオンがいなくなると、思ったより静かで。
多くの人が訪れるようになれば、また賑やかになるのかな。
それがいつなのか、分からないですけど。

さっきみたいに、息抜きに散歩したり……
アトラクションで少し遊んだら少しは落ち着けるでしょうか。
初めての戦いの後だからかな、落ち着かなくて。

どれに乗るかは少し迷ってしまって
ジェットコースターは余計に気持ちが高揚してしまいそうで、静かな物がいいかな。
何方かのお勧めがあれば、それに乗ってみたい気もしますし――あ、でも。
大観覧車。一度、乗ってみたかったんです。見える景色が綺麗そうだから。


カトル・カール
誘いあわせて、ってわけでもない男一人で何だが。
一仕事終えた後の、こういう空気が吸いたくてな。

いい眺めだったな…。
観覧車を見上げて、しみじみと。

適当に散歩など。
楽しそうな雰囲気に和み。

海賊船型大型ブランコが気になるので乗ってみる。
「…………」
(びゅんびゅん風を切って楽しいがリアクション出来ず固まる図)


伊敷・一馬
不採用含めて全て歓迎ッ!
POW対応だ。

大人も子供も武器を捨てて手を繋ぐこの瞬間、正しくジャスティス!
だがスタッフにマスコットもいなければ花がない。
私がその役目を慎みつつも全身全霊をもってお受けする!
(誰も申してないんだけども)

UC発動、この刹那的美しさを誇る無敵の筋肉ボディーで施設の案内を行おう。
さあ子供たち、そして青年たち、こちらにあるのがまず──、む。
ちょっと待ちたまえ何処に行くんだね?
(大人は変態から子供を守る最低限の義務を果たしただけだよ)


ケルスティン・フレデリクション
他の方との連携アドリブ歓迎)

ゆうえんちは…たのしい、ね。
メリーゴーラウンドにのろうかな。
しろいおうまさんに、よこのりして、くるくるまわるのをたのしむよ。
…すてきなけしき、ね。
みんながいろんなアトラクションにのってるのをみて、たのしむよ。
さそわれたら、わたしものってみようかな…
ジェットコースターとか…ちょっとこわいけど、のってみる…?
のったら、しんぞうがびっくりしちゃう。
こえも、でてこなくて、ごっくんてのみこむよ。
かみのかも、くしゃくしゃになっちゃう…
でも、みんな、これがたのしいのかな…?
…こんどまた、ほかのとこでのってみよう…


ラパ・フラギリス
絡み歓迎、臆病だけど何でも好き
や、やっと平和になったんですね…。(そわそわ戦車から出て
楽しそうだし…遊んでいきたいですね。

す、すごい強そうなジェットコースターが…!
怖そう…でも楽しそう…うう…
(ぐるぐると悩んだあとに結局絶叫系に乗ることにして)
ひい…高い…や、やっぱりやめといたほうがよかっ…ひゃああ!!
(乗ったことを少しだけ後悔しながら情けなく叫んで楽しんで)

…そういえばあの助けてくれたひょっとこヒーローさんはここのマスコットなのかな?(微妙に勘違い)
関連グッズとかあるかも…帰る前にお店の様な場所を漁ります。少しくらいいいですよね
強そうなものがあれば戦利品…じゃなくて思い出のお土産にしたいです


鹿忍・由紀
本当は景色見れそうな観覧車が良かったんだけど
わざと外したにしても落ちるとこ見ちゃったし…
ここでは宙に浮いてるのはやめとこう

歩いていて目に入ったのはレーシングカート
あれならスピードも大して出なさそうだから良いかも
普段は気にしなくても経年劣化が気になるから安全第一で

車を運転するってこんな感じなのかなぁ
免許は持ってないから正式な運転方法なんて知らなくて
備え付けられただけの意味もないハンドルを回してみる
乗ってるだけで進んでいく車で気分だけゆるりと楽しむ

流れていく景色を眺めれば楽しげな声と沢山の笑顔
静けさやゾンビよりはああいう方がお似合いなんだろうね
先刻までとの景色の違いに、仕事が終わった実感を感じつつ




「いや、乗れるのか?」
「うん。もしものときはね、おねがいしますなの」
 此処は海賊船。その船上、なんなら安全バーも降りたあと。
 何の因果か改めて隣り合わせとなった少女、ケルスティンに思わずツッコんでしまったカトルだ。どう見ても身長制限はクリアしていない気がするのだが、尋ねれば「ちょっとこわいけど。みんなたのしそうだったから……」とのこと。
 おねがいされてしまった。一仕事終えた後の空気が吸いたい、つまりはもう働かないモードであったはずが。
「おいおいおい。責任重大だな……」
 一歩間違えば目も当てられないことに。桜の癒しでなんとかなるか? 勘弁してくれってな顔をするカトルとて、一度出発してしまえば止まるまでは降りられぬことも重々承知。
 晴天の下で部分的に暗雲が立ち込めていた、が。
「「…………」」
 いざ揺れが始まれば二人してまさかの無言!
 いや、息ごと悲鳴をごっくん飛び出しそうな心臓をぐっと押し留め抗戦しているケルスティンとはカトルはかなり毛色が違う。ビビッているというよりも――リアクションの取り方がわからない。
 周囲からはわぁわぁ悲鳴が起きては消えて、それこそさざ波の如く。
(「よーほー? 何か叫べばいいのか? かといって、こんな小さい子の隣で叫ぶのもな……」)
 跳ね飛ばされる強さで切る風は楽しくも。がっちゃがちゃと横で鳴るスカスカ金具の恐ろしさがやや勝るというか。
 ついに訪れた豪快一回転の際にはぴゅおーんと飛び去りかけたケルスティンをやはりつかまえてやることになる。そうやって初体験する海賊船は、軽く二倍はスリリングであった、とか。
 なに、絶叫系はひとつだけとは限らない。
 がごん、 がこっ。
 強い揺れはコクピットで感じる振動ともどこか似ている。
「す、すごい強そうです……!!」
 ――とは、走り出したジェットコースターの手すりを握るラパの口から零れた熱い吐息混じりの感想であり。
「さっきはまけちゃったけど、つぎはかてるきがするよ」
 こちらは不屈のチャレンジャー・ケルスティン氏。
 船旅でしっちゃかめっちゃかになった髪の毛は手櫛で整えられ、何事もなかったかの素振りだ。「向かいのお子様向けにしたらどうだ」もっとも過ぎるカトルの提案をユーベルコード・しゅんとするで相殺して今ライドへ乗り込んでいる。
「あああ、やっぱり降りたくなってきましたぁ……! どうしましょう、もうこんなに高く!?」
「だいじょうぶ、ふきとんじゃってもつかまえてくれるから、ね?」
「ほほほんとうですか? もしものときはお願いしますっ」
 ……手が掛かる先が増えたんじゃないか? 一列後ろに座るカトルは訝しんでいた。何故回収係に落ち着いてしまっているのか。行く先々で出会うのか。
 どうにも耳がそわそわ動くラパへ、ケルスティンはメリーゴーラウンドのお話を話して聞かせる。
 一番目に楽しんだアトラクションだ。 白いお馬さんに横乗りして、くるくる、くるくる。素敵な景色を楽しんで。たくさん回ったけれど誰も怪我なんてしなかったから、今回もきっと大丈夫――子ども目線の感想は気休めかもしれないが、ラパには十分。
「ありがとう。なんだか勇気が湧いてきまし、たっ、あ、 ぁ」
 ――直後には打ち砕かれる儚さだとて。
 ごおおぉぉ!!!!
 降下するライド。 まず、風だ。獣耳はばったばた、千切れるほどに大暴れ! べちっと目が覆われたかと思えば、むしろずっと覆っていてほしくなる視界の上下逆転!
「ひゃああぁぁぁ!!?」
 手すりはもはや戦闘時のレバーよりめちゃくちゃ強く握っていると思う。
「ぴっ」
 剃刀じみた急角度のカーブ!
「いぃぃっ」
 直後の上昇!
「おっ、おろっ、」
 おろしてえええぇぇ!!
 あられもない叫びは細~く、長~く、終着まで続いてゆくこととなる。なお今回もケルスティンとカトルは"無"であった。傍目にはとても肝が据わっているようで、降車時のラパがへろへろになりながら尊敬のまなざしを向けたのはもちろんのこと。


 こんどまた、ほかのとこでのってみよう。 静かに決意を固めるケルスティンの脇。
「あ……、私はちょっと奥の方を見てきますね」
「ああ。高値のつきそうな品があれば俺にも教えてくれ」
 なんとか一息ついたのち、そそくさ退散するラパをなんてなと見送るカトル。
 ば、ばれてる。 ――かといって別段咎める風でもない男の声を背に受けつつ、目的ことお店漁りが見透かされていることに舌を出すラパだ。やはり業種柄鼻が利くということか、否、それは別に良くって。
 誰にも使われず埋もれてしまう道具たちなら、きっと見つけてあげる方がずっと良い。
(「ノワールは今日はあんまり壊れなかったけど、強そうなパーツ、くっつけてあげられると良いなぁ」)
 戦利品。いやいや思い出のお土産として!
「みんなも手伝ってくれますか?」
 ひそひそ呼び掛ければ、影からぽぴょん! と次々飛び出してくるリペア・バニーズの闇うさぎたち。
 肩書き通りに整備上手な彼らとともに、ラパが土産屋そばへ踏み込んだとき。
 その事案は発生した。
「ハハハ、子どもたち。そして青年たちよ。こっちだ!!」
 ――そういえば、あの助けてくれたひょっとこヒーローさんはここのマスコットなのかな?
 関連グッズとかあるかも。なぁんてほのかに思い巡らせていたものだから。"呼び寄せた"のかもしれない――都市伝説か何かか?
 フォームチェンジ完了済・数十分前に目にした姿よりもゴリマッチョボディに進化(?)した一馬が、大手を振って広場を練り歩いている。何をしているかといえば、まさにマスコットキャラクターとしてのおつとめ。来園客へ向けた園内案内だ。
 曰く、スタッフにマスコットもいなければ華がない。私がその役目を慎みつつも全身全霊をもってお受けする! とかなんとか。
「やはり私のイチオシは右手のジェットコースターだ。ハイスピードで過ぎ去る風景……誰よりも速くッ……吹き抜ける風の中に飛び込んだとき、誰がヒーローになれるという――私のようになりたい子たちには特におすすめだな!」
 その台詞は意欲を減衰させるのではなかろうか? そんな懸念があろうはずもない。
 素敵な一夜をプレゼントしてくれた猟兵のひとりとは窺い知れつつも、やや遠巻きに見つめる人々――なんとなく劣勢な一馬を見掛けてしまったのだ。恩返しのタイミングはここしかない! ラパはそっと一歩を踏み出した。
「あのぅ、そのお方はその、本当に凄くて強い方でしてー……」
「ムッ!? 君は先ほどの!」
「ヒッ!」
 突然ムキムキ決めポーズで振り向かれれば命の恩人だって誰だっておどろく。しかたない。
 標的がラパへ向いた瞬間を縫って奪還者たちは非戦闘員の手を取り、それぞれが予めこれと決めていたアトラクションへと散ってゆく。戦場の世知辛さを濃縮したかのようだ。
「ちょっと待ちたまえ何処に行くんだね?」
「え、えと、案内がばっちりだったから、待ちきれないよーさぁ遊ぼうってお話かも……ですね?」
 柱の陰に隠れながらもラパは健気にフォローした。
 この場合の手を繋ぐ行為はどちらかといえば「こらっ近付いちゃいけません」のアレに近い。近いが、構わない。一馬にとっては悉くがうつくしい。
「そうか。そうだとすればなによりだ。うむ、大人も子供も武器を捨てて手を繋ぐこの瞬間――……、正しくジャスティス!」
 腰に手を当てて笑って見送るマスコットの鑑である。
 そんな出来た男なヒーローに変態性を度外視してでも近付く子どもは実際居るもので、求められたならひとつ返事で交わす握手に暑苦しさ以外の問題はない。でも抱擁は要らないらしい。
「今日は、ありがとう……! えっと、」
「フッ。燃える正義のひょっとこライダー……ジャスティスそのものと、そう呼んでくれても構わない」
「うんおじさん! いつかぼくもおじさんみたいになるね!」
 子どもの残酷さとて鋼の肉体に傷を付けることは叶わない。
 たったっ駆け行く少年が家族と思しき者たちに手を引かれるのをアツく眺める一馬の後方にて、人々の注目が男へ逸れているうちにお目当てのブツを探り当てた闇うさぎたちはラパのもとへ舞い戻っていた。
(「あ。これ……強そう」)
 当然ながらひょっとこ面ではないが、何かのアトラクションのミニチュアであろうか、造形はどことなく彼の愛車に似ている気がしないでもない主にタイヤのあたりとかが。
 そそっと仕舞いこんだラパ。
 いつの間にかユーベルコードが解けてスリムになった一馬。
「ふう。今日も世界はまたひとつ、平和へと近付いたな!」
「じゃ、じゃすてぃーす?」
 なんとなく求められた気がして――おおーっと挙がる手はけもけもなラパのもの一本のみであるが、一馬はとても満足げに頷くのであった。


 すっかり賑やかだ。やはり、散歩は初めのうちにしておいてよかった。
 マスコットキャラクターの登場に大賑わいという見方もある広場をするりと抜けて、黒猫柄のカートは進む。
 気儘に。
 行先は特に決まっていない。運転席には片手だけハンドルへ添えた由紀が座っていて、景色を眺めるついで程度にアクセルに足を置いていた。レーシングだとか冠が付けられてはいたが、園内を一周するコースは誰かと競わぬのならば程良い具合の観光道具だ。
「車を運転するってこんな感じなのかなぁ」
 免許は持っていない。 不思議な感覚だと、思う。
 ハンドルを繰り返し回せば確かに車体は傾くけれど、どこかセーブされているのは感じる。さすがはファミリー向け、と看板を思い返しひとり納得してみたり。
 本当は景色を眺め下ろせそうな大観覧車が良かったが――。
 ――ゾンビバトルで転がり落ちたゴンドラの破片一部がコースにまで入り込んでいるのに、大事故だ、なんて他人事じみた感想でくるくるとマシンを蛇行させ回避する。吹きつける排気ガスがそれを巻き上げてコース外へと押し出すのを後目に、由紀は次第に近付く観覧車へと視線を戻した。
「あれじゃあね」
 いつ根から崩れ落ちたものか、随分と欠けた花もあったものだ。
 それでも未だ大輪。チカ、ピカ、カラフルな蛍光色で照らされる根元には度胸ある人々が尚も列を成している。

 一件落着、かな。
 警護の目自体は絶えず光らせながら、ナルエリはゆったり徒歩で園内を巡っていた。
 それぞれ別の意味で騒がしかったオブリビオンも去り、ひとたびアトラクションから離れてしまえば通りはやはり静かで、時折急ぎ足の奪還者たちとすれ違う程度。朽ちた店や垣根に落ちる己の影もがどこか物寂しそうに見えてくる。
「……けれど、今だけですよね」
 うつ伏せで倒れているマスコット像――本来の清く正しいアニマル風味なマスコット――を抱き起こして、傷だらけの壁面に立て掛けてやって。
 つぶらなふたつの瞳が昏く翳るのならば「また賑やかになりますよ」それがいつになるかは分からなくとも。きっと、と、穏やかに祈り込めた声を落とした。拭った指につくものは血、ではなく、埃。
 本当はまだちょっびり落ち着かない。
(「初めての戦いの後だからかな……」)
 手の震えこそなくとも、心の方は。ナルエリの足は自然と大観覧車を目指していた。がらがら、先ほどから絶えず頭上を駆け巡るコースターは気持ちが更に高揚してしまうと分かり切っていたし。
「こんばんは。皆さんもこれからですか?」
 列は並ぶまでもなくて、ゴンドラには亡者ではなく生者のシルエットが動く。
 ちょうどそれを見上げていたケルスティンとカトルとが、ナルエリの声掛けに振り返った。 ――よろしければご一緒しても? 尋ねたのなら間置かずに首肯はふたつ。
「うん! さっきもきれいで……おしまいにね、もういっかいっておもったの」
「まぁその付き添いというか。さすがに放っとけないだろ」
 しっかりと戦える猟兵とはいえ、なにせケルスティンは七歳児。しかも道中で度々縁があったとなれば、だ。「この手のところは保護者がいて初めて乗れるものも多いらしいしな」カトルがくいっと顎で示す身長制限他注意書きの模型にも、ナルエリは憶えがあった。
 そう、そう――あの頃は私もお父様に手を引かれて。
「とても名案だと思います。では、早速……あら?」
 そんな大観覧車前を一台のカートが通り過ぎんとするのが見える。
 運転手はナルエリの記憶にとってもっと新しい、由紀だ。 先刻同じこの場所で共闘した男が、平和を取り戻したいま、向かい合うかたちでそこにいる。見つめる娘に気付いた由紀の足でキキッとブレーキが踏まれた。
「――へぇ。乗るんだ」
 まるで顔に出ずとも、どこか面白がる風な物言い。
「乗らないのですか? 見に来ただけ、と?」
「そうだね。さっき落ちるとこ見ちゃったし……快適な乗り心地だったら手でも振ってみせてよ」
 こう、と由紀はハンドルから離した片手をゆらり。
 いかんせん気怠げな所作と提案にくすっと笑い、それでは一番上で、そう引き受けたナルエリも二人が先行く乗り口へと踵を返してゆく。再びアクセルを軽く踏みながら、本気にする彼女の純粋培養生真面目さのようなものに息を吐く由紀だ。呆れたとかそういうのではない、ただ、疲れたりはしないのか――とか。
「ま、いいんだけど」
 鮮やかさの片鱗を光に煌めかせる青いゴンドラが、ナルエリらを迎えて空へ帰る。
 四人掛けが当初の想定であろうか、車内は案外広い。 ナルエリとケルスティンとが隣、カトルはその向かい。戦いの直後に眺めた景色も格別であったが、楽しませるためにとアトラクション側が用意し魅せてくるライトの彩りに包まれるもまた悪くはない。
 先ほどはゲートの外、今は園内でと思い思いに楽しむ奪還者たちの姿が、尚の事カトルにそうと思わせる。
(「金では買えない――なんて、口にする柄でもないか」)
 ふっとひそかに笑っていれば、タイミングを同じくしてナルエリが感嘆の吐息を零した。
「綺麗…………」
「ね? ね、こっちもすごいんだよ」
 それに何故だか自分のことみたいに嬉々とするのはケルスティン。自分の側とナルエリの側とを交代してあげようとして、ぴょんこと席を立った瞬間の揺れであわわわわとわたわたするまでがセットだ。
 これでいて同年代な他二人は手を伸ばして支えてやり。
「大丈夫ですか?」
「確かにこいつにシートベルトは無いがな、急に立つものじゃないぞ」
 すっかりお兄さんお姉さんが板についてしまうのもまた、テーマパークの魔力なのやもしれない。――カトルに至っては染み付いた癖もあったかもしれないが。
 やがて三人を乗せたゴンドラは頂点へ。
 窓の外へと、おもむろにナルエリは手を振った。
「? だれかみてるの?」
「そうですよ。それになんだか、わくわく……する気がします、こうして誰かに手を振ると」
「じゃあわたしも……。わーい、とってもたかいよー」
「そこ硝子割れてるぞ、気を付けてな」
 ――成る程、同じ楽しさを体感して横で一緒に手を振るひとがいるというのも心が弾むようだ。いまや震えは無く。注意を促してくれるカトルの声にケルスティンとともに返事しながらも、そんな想いで、ナルエリはまさにアトラクションを満喫していた。

「……あれだけ乗っても大丈夫なら俺もいけるかもなぁ」
 てっぺんに辿り着いたゴンドラから約束通りに振られる手。数こそいくつも多い、が。
 随分と楽しそうなことだ。先ほど操作室へそうしたように、横目に見上げる由紀はゆるく手をかざしてやった。
 ここまでに目にした静けさやゾンビよりも似合いの景色の数々に、仕事終わりを実感する。 深く背もたれに沈み込めば、最後のカーブの程好い重みに身を任せただ、揺られて。
 クラクションなんてついていない剥き出しのパイプフレームは、運転手よりもよほど元気いっぱいお祝いするみたく、もくもくの煙を吐いて駆け抜けてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザガン・アッシム
【アドリブ及び連携歓迎】

…あっち(遊園地)は楽しくやってるみたいだな。

…んじゃ、こっちもきっちり終わらせるか。

今まで回収した屍体全てを【サイバー・リフトアーム】で

『遊園地の見える砂漠』まで運搬する

その後、【トンネル掘り】で遺体が露出しない様に深く穴を掘り、搬送した屍体を『並べる』

…こいつらは『人』なんだ。埋葬するにしたって最低限の作法はあるだろうよ

全員分並べ終えたら、『THE・GUN』の火炎放射器を起動し、【浄化】の炎で遺体を火葬し、砂を被せて埋めた後に廃材で作った十字架を立てて墓代わりにする

『本日の営業は終了しました、又のご来場をお待ちしています』…か。

簡素な葬式だけど、これで勘弁してくれ。


朱酉・逢真
やァめでてえこった。楽しそうでなにより。命が楽しそうにしてんのを見るンは大好きさ。
だから、『俺ら』は場違いなのさ。とっとと出ていかにゃァな。
目立たねぇように園内ひとまわり。ふんわかぱっぱと神威を放とう。ゾンビになってまで“だれか”を待ってたおひとよしどもが居たんだ。体を失ってなお残るやつらも居るかもしれん。残留思念…ユウレイってやつさ。そォいうんが残ってねえか浚おう。ゾンビのもあっかもしれん。
居たら俺とおいで。おつとめご苦労さん。終業時刻だぜ。居なけりゃそれはそれでけっこうなことさ。
デケェ《虫》の背に乗って空へ。上から命とマシンどもをながめてさ。一服したら帰るとするさ。俺の仕事は山積みなんだ。




 死と生とが表裏一体に存在するように、弔いもまた、賑わいの傍らに。
 入園ゲートからは逆方向――間違っても奪還者らが立ち入らぬ方角、けれども、遊園地を眺むことの出来る場所にザガンはひとり立っていた。
 戦いに沸騰した血は今や静かに肌の下を流れ、時折園から届く音がやけに大きく感じられる。
「……あっちは楽しくやってるみたいだな」
 んじゃ、こっちもきっちり終わらせるか。
 呟きとともに最後のひと箱から"中身"が穴へ零れ落ちる。サイバー・リフトアームはこれでしばらくお役御免だ。ああ、ザガンという男は、この段になって尚も働いていた。 不思議なほど約束にひたむきに。
「これはお前さんの腕かな。ほら、忘れるなよ」
 端っこへとごとりと落ちた塊を腕無しの腹へ乗せてやるザガン。
 乾いた不毛の大地に掘った大穴には、そうやって数多の肉体が横たわっている。死体の山などと雑な扱いではない、手ずから寝かされていた。スタッフであり、来園客であり、はたまた夢を求め踏み込んだ奪還者たちの成れの果て――すべては"人間"だ。すくなくともザガンはそう捉えてきたから。
 先刻の親子は隣同士に。硬直の歪なままとて繋がせてやった手を、一度だけ、見つめた。
「遅くなったが、時間だ。見送りが俺のような無頼漢じゃ、不満かもしれねえが」
 用済みの胸糞回収ボックスを跡形無く殴り潰せば、その弾み――怒り、とも単純には形容出来ぬ感情で開いたかの左腕のTHE・GUNの砲口は、血のように赤い炎を吐いた。
 最初ちろりと空気を舐めたそれはたちまちごおごお燃え盛る。
 あとは、手順通り。 放射する炎を彼らへと向けた。端から端へ、すべてを燃やして一層に勢いを増すそれに託すは浄化の願い。骨ひとつ忘れて還るもののいないよう、持てる最大の熱量を惜しげなく見舞う。
 ――ぽた、
 やがてひと粒の汗が顎を伝って荒野へ落ちた。
「…………」
 シミになる。人間の、自分のものだと気付くのがすこし遅れて、ザガンが浮かべるは下手な苦笑だったろうか――降りかかった灰ごと右腕で乱雑に顔を拭えば、一歩を引いて砂の山を蹴り崩した。
「熱ぃよな、そりゃあさ」
 左腕を振るって炎の帯を掻き消す。
 砂に埋まりゆく穴の中に留まる人型は、もう、なくなっていた。

 ――お。
 亡者以外で誰より早く、赤々と夜闇にともる弔いを目にしたのは逢真だった。
「そうかい、そうかい。"俺ら"以外でもこいつらの相手をねェ」
 なにせ逢真は空にいた。案外乗り心地も悪くない眷属の一たる甲虫の背に揺られ、足なんて組み泰然と周囲を眺め下ろして。
 ああまったく捨てたモンじゃねェ世だとくつくつ笑う。おつとめをさぼる気はこれっぽっちもないが、のらりくらりと暮らせりゃそれがよっぽど好いとも。 "こいつら"、とは、無論亡者を指す。
 十六の一番。
 俺とおいで。 おつとめご苦労さん。 終業時刻だぜ。
 肩を叩くような気軽さで。
 園内を煙か霞めいて巡り歩き、しれっと振り撒いてきた神威が地にこびりついた未練を呪詛を摘まみ上げては空へ昇らせたのだ。おかげで周囲には薄ぼんやりとした筋がいくつも、いくつも。
 残留思念――ユウレイとも。尤もそれは逢真にしか見えぬだろうが。 指先で戯れにひとつつっつけば、ふうっと肌に溶け込むみたく消えていった。
「ゾンビになってまで待つ価値もあったろう、おひとよしども?」
 ――食む。呪縛を食んで解いてやって、輪廻のうちへ戻してやる。
 慈悲深き行いを称賛するものが周りに居なくとも、逢真自身はまるで気にしちゃいなかった。思うまま、好きなようにやるだけ。その点において、人知れず火を焚く彼のひとの子にも近しいものを感じたというわけだ。
(「丁度良いや。俺らは場違いだ、とっとと出ていかにゃァならんしな」)
 仕事だって他にも山積みときた。楽しげな命たちの好ましいざわめきを背に、十分に味わったとして逢真とその足は翅音もなく飛び立つ。
 ふわ、ふわりと後に続く光の筋が絡まり合いながらゆっくり薄れてゆく。

 本日の営業は終了しました、又のご来場をお待ちしています。
 ――……か。
「祈りの学も無い。簡素な葬式だけど、これで勘弁してくれ」
「ヘヘ、手厚いくれェさ。祈りなンてのは形式よりか、ああ、心って言や相応しいかい?」
 ふ、と、高くから落ちる影にザガンは顔を上げた。
 廃材を組み上げ拵えた大味な十字架を荒野へ突き立てて、墓代わりにしていたところへ生気の無い宙に浮く白っぽい男ときた。「たまげたな、土に埋め損ねたかと思ったぜ」「分類上は神なんだがね」嘯く逢真は口振りばかり心外そうに。
 漂いながらザガンが作り上げた墓を見下ろしていた。
「――。おかげ様であっちゃもう空っぽだ、霊魂のひとつだって迷っちゃいねえとも」
「神とやらが言うと説得力あるじゃねえか。……お帰りらしいが、通りかかったついでにひとついいか?」
「おう、なんだい働き者の兄さん」

 なにか手向けてやってくれよ。神様から、この十字に似合いの文句のひとつでも。
 そいつはそいつで管轄外なんだがなァ。 ――ま、俺ァこの通り人ってのに甘いンでね。

 何時かの掃き溜めで何処かの女がうわ言のように繰り返した"祈り"、ワンフレーズ分。
 スラングじゃねえか、と直ぐ気付くザガンに、だから心ってェわけさ、と逢真。慨嘆の思念は――何故なら、この墓には既に無い。確りと清めの火に送り出された後だ。眠る彼らのためを想い一日駆けずり回った男へ神は、より有益な園内のオススメ休憩スポットを教え笑って去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フラン・スティレット
十雉(f23050)と
頼れる兄貴分

こういうとこ、実は俺も初めてでさ
今までそういう機会なかったし
……まぁ、ひと仕事したし元は取らないとな

ジェットコースターか、いいじゃん
ガキの頃、一度乗ってみたかったんだ

少し危なっかしいけど、まぁ大丈夫じゃないの
十雉、そろそろてっぺんだよ
ほら、結構すごい眺めじゃん
……十雉、平気?本番はこれから……――わ。わあぁぁぁぁぁっ!
……変な声でた。急に速度出しやがって……

まったく、髪がめちゃくちゃだ
まぁ、ボロの割にはなかなかの迫力だったな

俺は平気だけど、十雉こそ大丈夫……?
ふふ……すっかりグロッキーだな
う、うるさいな、十雉だって涙目だったじゃん
一休みして、まだまだ遊ぶからな


宵雛花・十雉
フラン(f09009)と
可愛い妹分

へぇ、これが遊園地か
戦ってる時はあんまり見てる余裕なかったけど
改めて見ると面白そうなモンがたくさんあるな

噂には聞いてたけど、実際に来んのは初めてなんだよ
お、フランも?
なら今日は初心者同士楽しんじまおう

見ろよフラン、あれ知ってるぜ
確かジェットコースターってやつ
あれ乗ってみよ

乗り込んだら動き出した
なぁんかカタカタいいながら上ってっけど、大丈夫か?
ボロっちくて壊れちまうんじゃ…
って、高!落ち…!

そのまま急降下したからおっかなくて声も出なかった
ついでに涙目になった

うー…ふらふらするし気持ち悪っ…
ふ、フランは平気か?
って元気だな
でもお前も変な声あげてたの知ってんだからな




 戦いが終わってみて改めて歩いてまわる園内は、何から何まで二人にとって新鮮だった。
 ――噂には聞いてたけど、凄えな。
 ――……まぁ、ひと仕事したし元は取らないとな。
 十雉とフラン。道中で確認しあったところ、互いに本日が記念すべき遊園地デビューだ。 それはもう、
「あれ、どうやって乗るやつだ?」
「さぁ。頭からガッて落ちるとか」
「いのちが幾つあっても足りねぇよ……なんなんだ遊園地って」
 謎もどしどし増してゆくというもの!
 大口を開けて獲物を待つ状態のフリーフォールにぞぞぞと声を震わせた十雉はすぐ視線を外す。にしたって面白そうなものの多いこと、目移りして仕方ない。 そんな男のハートを射止めこれと足を止めさせたのは、お馴染みにしてならではな絶叫系ジェットコースターであり。
「見ろよフラン、あれは知ってるぜ。乗らね? ちゃんと頭が上にくるやつ」
「妙な覚え方だな……でも、いいじゃん。ガキの頃、一度乗ってみたかったんだ」
「なら決まりな! へへ、長年の夢が叶う場面に立ち会えるってのも中々嬉しいもんだ」
 決めてからは早い二人は迷わずにライドへ続く階段を上った。
 コースの全体像を見たうえで己に攻略可能か考えるなどと、熟練者ムーブは出来ようはずもなく――。

 ――ガゴッ。
「痛ぇ」
「痛いな。なんだこのバー、これで降りてんのか? そっちもっと引っ張ってくれよ十雉」
「体格差かも。やっぱり前後ろの席が良かったんじゃねぇ? でももう上がんねぇなこの棒……」
 乗り込んだ時点から俄かに混乱は始まっていた。
 ダブルでアトラクション初体験となるとアナウンスが頼りになるが、肝心のアナウンスがノイズ塗れとあっては最早野生の勘とかそのあたりに頼るしかなくなる。安全バーとすらバトルを繰り広げる二人は、その最中に今一度重たい振動を伝え動きだしたライドに、一瞬よく似た目の丸さをして。
「……! うおっ、思った以上にガタガタいってんぞこいつ、大丈夫か? ボロっちくて壊れちまうんじゃ」
「少し危なっかしいけど、まぁ大丈夫じゃないの。さっきまでもスイスイ走り回ってたわけだし」
 しかし命を守る動きに関しては極めて機敏だ。
 互いに眼前のバーを掴み取れば、いい感じに身を屈めた姿勢をキープする。遺伝子レベルで刷り込まれていそうなスムーズさであった。
 まだビビッてないか? ――交わった意志の強いフランの眼差しにそう揶揄された気がして、十雉は眉に腹筋そのへんに力を入れた。キリリとする。頼れる兄貴分として、可愛い妹分より先に叫びを上げてなるものか。
「だよな。まさかオレたちのときに限って壊れるなんざ、そんな天文学的なこと」
 あるわけが~~みたいに続けて不安を鼻で笑い飛ばそうと思った。
 思っていた。
「てっぺんだ。ほら、結構すごい眺めじゃん」
(「って、高! 落ち……!」)
「……十雉、平気? 本番はこれから……」
 過去形。
 続く割と九十度に近そうな下り坂が、語彙とか声とか呼吸とか心臓とかとにかく色んなものを刈り取っていったのだ。
「――、――――」
「わ。 わあぁぁぁぁぁっ!」
 ガコガコガコガコ!!
 車輪のいくつか脱輪している可能性、実のところありそう。ヤバいとしか表現出来ぬ振動とともに襲い来る風の圧! 爪が食い込むほどバーを握って身体を押し留めても、下りきったと同時に繰り出される横回転が物理的に殴りつけてくる。
 フッ、ぐっ、的な歯を食いしばるSEしか発しなくなった兄貴分を気遣う余裕は今ばかりはフランにも無い、自分の口から"つい"零れてしまった裏返った絶叫に毒づきたくなる思いと、死んでたまるかという闘志と。
「急に速度出しやがって、いい加減にっ、しろよ……!」
 なんだかそういったものに沸々と燃えていた。
 ばさばさと舞い荒れる薔薇髪は咲いては散りゆくようで、覚悟の表情と相俟って、冷静に見つめたのならきっとうつくしいだろう。涙目な十雉にはぼやけてしまっていた、が。
 めっちゃめちゃおっかない。
 遊園地って……――なんなんだ?

「まったく、髪がめちゃくちゃだ。まぁ、ボロの割にはなかなかの迫力だったな」
「うぅー……ふらふらするし気持ち悪っ」
 ぷしゅううぅぅんと無事(?)乗り口へ辿り着いたライドから、よろける足取りの十雉が零れ出る。
 思わずその肩を支えては、しっかり歩けとつっけんどん気味ながらやんわり押し直すフランだ。よかった、とりあえず言語面は取り戻せた模様らしいが。
「……ふ、フランは平気か?」
「俺は平気だけど、十雉こそ」
 俯きがちな男の様にひとつの確信があった。
 同じ手で白ボサくなった頭のちょろりと長く垂れた横髪をアサシンもかくやという手刀で捲れば、予想通りというか、思いきり涙目な橙色と目が合うこととなり。 ふふ、と。思った通りだ、笑うフラン。
「大丈夫……じゃないな、身も心もすっかりグロッキーだな」
「ぅ゛ぐ。 でもお前も変な声あげてたの知ってんだからな」
「! う、うるさいな、レールの軋みだったかもしれないだろ」
 しかし負けじと十雉も挑戦的に口端を上げてみせる。強さを醸し出すためまずは涙を拭うべきである。
 よりにもよって十雉に聞かれたというか、十雉で良かったというか――つかつか、焦る考えを纏める前に数歩先へ逃れ出たフランは階段の手すりの向こうに、他にも多くのアトラクションが待つ姿を眺め下ろした。
 ――負けられないし。 自由に空を飛ぶかの感覚は実際、悪くはなかったし。
「一休みして、まだまだ遊ぶからな」
「元気だな。勿論、オレだってその気だけど」
 食いついてきて(付き合って)くれる相手だと知っているし。
 ふっと交わし合う次の笑みには、好戦的なようでいて、二人らしい信頼と甘さとが滲んでいる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
見ろ、童達の眩い笑みを
実に善きかな、善きかな…む、ジジ?
何だ、お前も遊び足りぬか?
ふふん、頼みを無下にする師ではないと知っておろう
ほれ何処だ、案内せよ
導かれる侭辿り着いた先は…カップ?
見慣れた陶器を模した乗り物
ほう…回る遊具か
恐る恐る、然し好奇心は抑えきれず
従者と共に乗り込む
待てジジ、勝手に触るでな――のわっ!?
緩かった回転は刹那、鋭さを増す
ジジに支えられなければ
罅の一つや二つ、入っていたやも知れぬ
ジジ…お前…好きに遊ぶのは結構だが
せめて師に断りを入れよ!
悪くないもくそもあるか!

ぐぅ…どっと疲れた
暫し休憩を…やれやれ
そう云われては休むに休めぬであろう
ほれ、疾く次へ向かうぞ


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
これが、本来のこの場所なのだな
あちら此方響く歓声
遠くで回る塔
鋼の道を駆ける竜
大きな水音は何だろうかと見回せば
…そうだ

師父よ、気になっていたものがあるのだが
挑みに参らぬか
うむ、何やら楽しげだった故
いざ征かん

流れ始める人々、風景
おお、回るぞ師父
しかしあの時ほどではないな
ふむ?この中央の器具を?
よしと力に任せ一気に
なんと急に速度が――師父!?
吹き飛ばされかける師を掴んで支え
いや、その、少し期待し…
周囲は滲んで霞み
引き攣った師の顔は良く見える
うむ、目は回るが悪くない

飲み物を手渡しながら
師父、休むにはまだ早いぞ
今日で全てを制覇せねばならぬ故
――なにせ「かれら」の最後の晴れ舞台なのだ




 あちらこちらから響く歓声、遠くで回る塔、鋼の道を駆ける竜――。
 昔に閨で読み聞かせられた御伽噺にあったろうか、何処かの国にて繰り広げられているとの祭の様子は、きっと実際目の当たりにしたのならこうした光景なのだろう。
「これが、本来のこの場所……」
「何だ、お前も遊び足りぬか?」
 ジャハルが誰にともなく零した感嘆の呟きを耳にしアルバは、はしゃぎまわる子どもたちへやさしく向けていた眼差しを傍らの大きい方の子どもへ移ろわせる。
 思えばこの竜、今日はずっとこの調子である。戦いで腑抜ける訳でも無しそれはそれで構わぬのだが、なに、師として多少は思わぬところも無いでも無い。 慮ってやりたい、そのような。
「うん? 話してみよ」
「……師父よ、実は。気になっていたものがあるのだが、挑みに参らぬか。うむ、何やら楽しげだった故」
「ふふん、頼みを無下にする師ではないと知っておろう。ほれ何処だ、案内せよ」
 ――やはりだ。
 心の中で握りこぶしを掲げつつ、現実には颯爽と払う手でジャハルを前へ歩ませるアルバ。所詮は弟子の可愛い頼みと考えていた、正しく、このときまでは――――。

 カップ?
 導かれた地。見慣れた陶器を模した乗り物は初見、そんな予想をももう一段は上回る愛らしさで攻めてきた。
「なんだ、私へ気でも使ったか? 随分と大人しい選択ではないか」
「いいや。ともあれ乗ってみてくれ、師父。説明が難しい」
 なにやらそわっとするジャハルの手にあれよあれよと詰め込まれ、座らされ。音楽が始まり、緩やかな回転がそれに続いたあたりでアルバにも合点がいった。一応はそうした娯楽であると。
 時折隣のカップとぶつかり合うことはあるが、驚かしの要素といえばその程度か。
「…………」
 と、アルバが冷静に分析をしている頃、ジャハルもまた周囲に視線を走らせ分析していた。ふむふむ。中央のこの器具を回すことで? 回転が? ふむふむふむ。
「中々に気に入ったぞ」
 そんなこんなを露知らずアルバは言った。
 しかし立派だ、と頑丈なカップのフチを指先で戯れに伝っては。回して良し、多少の衝撃を与えて良し、なにより男二人を注いで尚余裕のあるこの容量!
「ふふ……これを外して持ち帰ることでも出来れば、幾ら飲もうと乾かん杯となろうにな」
(「余計に籠もって出てこぬことになるだろうな……」)
 それはいけない、とてもいけない。
 おかわりの頃合いを読み、茶を注ぎ、運ぶことはジャハルの楽しみのひとつでもあるのだ。ゆえに燃やす対抗心――否、実の実の実のところただただ限界まで回してみたくてうずうずしている説もあった。
「よし。では」
 持ち前の怪力にて目一杯切ってみるハンドル。
 は、もげないことが奇跡なくらいで、とても危うい音で震えながら一方向へズラアアアァァァと回った。
「は」
 は?? アルバの呼吸がミキサーにかけられる。
 前触れ無き強烈な横回転! 視界がマーブルにズレる違和に瞠目するより早く身体が、浮く。「――師父!?」「の、わっ!?」あわや硬いカップの壁へぶち当たらんという刹那、はっしと肩を掴んで止めるジャハルの手が無ければ欠けヒビ待ったなしであったろうとも。無論、自分の側が。
 目が合う。ぱぱぱぱちと互いにめちゃめちゃ高速で瞬いた。 なんだこれは?
「なにをしたジジ……お前……好きに遊ぶのは結構だが、せめて師に断りを入れよ!」
「いや、その、少し期待し」
 あっこれ雷が落ちるやつ、条件反射で幼子めいて片目をぎゅむと瞑り俄かに顔を伏せるジャハルにアルバは怒気も削がれてしまいふるふるする拳をどこへもやれず、というか実際問題すこしでも体勢を崩せば飛ばされそうで、――ハンドルへ、静かに下ろした。
「はぁああぁぁ」
「しかし、師父。目は回るが悪くない点もある」
「悪くないもくそもあるかっ!」
 悪くない点とは、滲んで霞む風景たちと違い、同じ速度の中に存在する引き攣ったアルバの顔だけはよく見えること。
 ……などと丁寧に解説したところで次こそ"どう"なるか分かっていたので、聡明なる竜はそそくさとハンドルを逆方向へ回す作業を手伝うのみである。

 そこからも想定外な強さの摩擦で煙が上がったり隣のカップから人が飛んできたり紆余曲折ありながら、二人が真に解放されたのは数分後、音楽の終わりと同時であった。
 お誂え向きに、もはや嘗てのスタッフも見越して配置したのであろうか、コーヒーカップすぐ前のベンチへとよたよた辿り着いたアルバは深く深く腰を下ろした。
「ぐぅ、可笑しい……まだ地面が回っておるぞ……」
「それは錯覚というものだ。先ほどまでの回転は機械仕掛けの土台によるもので、大地そのものの動きではない」
「正論を聞きたい訳ではないわ! まったくもうお前はもう、お前という奴は」
 傍らから影が動く気配。
 両手で顔を覆って眩暈を落ち着かせんとするアルバの額へ、ふとひややかな感触が寄り添う。アイスティーの缶だ。自販機を使ったのだろう、当てたジャハルは自分の分の缶をメキョと謎の圧迫手法で片手オンリーで開けつつ、すこし首を傾けた。
 何を見ているのか。 ――缶を手にしたアルバがその視線を追えば、成程、なるほどお次はジェットコースターと?
「師父、休むにはまだ早いぞ。今日で全てを制覇せねばならぬ故――なにせ"かれら"の最後の晴れ舞台なのだ」
「…………やれやれ」
 そう云われては休むに休めぬであろうに。
 寄る年波には勝てんな~等と用意していた出任せおとこわりテンプレートをごそりと捨てざるを得ない羽目になったアルバである。だが、ああ、その瞳に世界が煌めくのならば。
「ほれ、疾く次へ向かうぞ」
「! ああ」
 缶は開けぬまま脇を抜け、逆に、辿り着くまでに飲み切るようになんて言ってやる。
 大きな一歩で隣に並ぶジャハルが、こくこくと三度。いつもよりも多めに頷く様すら微笑ましいと思えてしまうのだから、つくづく甘いことなど我ながら知っているという話。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
【まる】

おにーさんこっちですよう
ほーら、はやくはやく!
遊びたい放題したい放題ですん

わたし、アレ乗りたいです!
ジェットコースター!

急旋回に急降下!
きゃあ、昂ってしまいますね!
あ、なんですその顔は
こーいう時くらい笑ったならどーです?
ふふん、わたしのスピードは格別ですよ
瞬きすらも許しませんからね
その時にはお覚悟を

もういっこ!
コーヒーカップなんてどーでしょ
うるさーい聞こえなーい
ほらほら行きますよっと!
ぐるっぐるに回してあげますん
そーれ、回れ!ふふふっ
目、回っちゃいました?
逆襲なら大歓迎ですよっと
にっこにこでお相手してあげますん

おや、珍しくノリがいーですね?
帰る時間まで遊び尽くしちゃいましょ
いきますよ!


ゼロ・クローフィ
【まる】

はいはい、わかったわかった
乗る気全く無い俺をぐぃぐいと引っ張っていく

ジェットコースターか?
隣に座ってるお前さんは手を挙げたりとキャッキャッと愉しげだ
あぁ?普通の顔だよ
思ったよりスピードが無いなと
お前さんの異空間移動の方が面白いかもな
今度したいという事じゃないからな?

コーヒーカップ
ちょっと待て!それは女子供が乗るモンで俺は遠慮する!?
無理矢理載せられグルグルとこれまた愉しげに高速回転
お前さん回し過ぎだ!?
っ、やられっぱなしと思うなよ!
とこちらもグルグル回して逆襲する

それが逆効果で喜ぶ彼女
その姿を見て
ここまで喜んでるからまぁいいか

で、次は何だ?
仕方ない、お前さんが飽きるまで付き合ってやるよ




 大の男と細腕の少女なのだ。本気で振り払おうと思えば当然、払える力関係だろう。
 しかしゼロは、自身ではすこしも乗る気の無いギラギラカワカワアトラクションの合間をずるりずるりと円の手に引っ張られている。「こっちですよう。ほーら、はやくはやく!」「はいはい、わかったわかった」律儀に返事までしてやって。
 そんな自分が自分で一番不思議なのだから、もう仕様がない。
「今なら空いてるんです、先頭が」
「先頭?」
 任せるばかりであった行先を今度はなんだと今更に見遣れば、出たわ出たわの本格派ジェットコースター。先に"攻略"した乗り口の近かった子ども向けでは到底満足できやしなかったということだ、つまるところ目の前の娘っ子は。
(「これでも未だ足りていなさそうだがな」)
「さぁ階段ですよう、ダッシュ! ジャンプ!」
 いつの間にやら背へ回り込んだ円に半ば押されながらライドへ詰め込まれたのは、そうした経緯から。
 ガコン。
 ガガッ、ガ――――。
 今日は久方ぶりに多くの客を乗せたのだろう、鈍く軋む車輪はそれでも滑らかに駆け出した。
「これです、この音、振動……たまらないですねえ」
「はあ」
 安全バーにべったりくっくいて耳を寄せる円へ今更なにを忠告したとて無駄な気がして、生返事をしながらゼロも揺れに身を任せ稲穂めいて右へ、左へ。長い上昇がきたなら次は急降下、ある種のセオリーに則って組み立てられているコースは感心したとて恐るるほどのものでもなく。
 真っ暗なトンネルを潜り抜けて再びの黒き夜空へ!
 ごお、と真っ逆さまに伴い吹きつける風が二人おそろいなオールバックヘアーにアレンジしていったとき。
「――きゃあ、昂ってしまいますね!」
「…………」
「あ、なんですその顔は。こーいう時くらい笑ったならどーです?」
 すこし手を伸ばしやすくなったゼロの仏頂面な頬を、円のゆびさきがつんつくする。
 その悪戯な手指をまとめて掴み取って無理やりバーを握る仕事へ戻らせれば、ゼロは「あぁ? 普通の顔だよ」と。思ったよりスピードが無いと思っていたところだ、と淡々続けた。
「お前さんの異空間移動の方が面白いかもな。……今度したいという事じゃないからな?」
「押すなよ押すなよですね、ふふ! ふふん、仰る通りにわたしのスピードは格別ですよ。瞬きすらも許しませんから、その時にはお覚悟を」
 ほら見ろ聞いちゃいない。
 零したゼロの溜め息も風のうちへ、隣の女の愉しさ溢れるはしゃぎ声こそが周りのどの音よりも高い輝度と明度をして、好き勝手に踊っている。

 夜は、長い。
「――で? 俺にはこの柵の外で、手でも振っていろと?」
「ええー居心地好さそうなカップじゃないですか、まさかおにーさんだけお留守番だなんて頼みませんよう」
 わたし、優しいので。 ジェットコースターを降りたその足で向かったコーヒーカップにて、にーっこりな円は当たり前みたいに返した。ゼロはかぶりを振る。
 居心地好さそうなカップ? とんでもない、どこからどう見ても女子どもの乗り物ではないか!
「遠慮する」
「そう言わず」
「手でもなんでも振ってやろう」
「はいうるさーい聞こえなーい、あっ音始まりましたよ!」
 ぐぐぐぐぐいーっ。
 乗り口からすこし進んだところのカップへ連れ込まれてしまえば、まるで円の意思が乗り移ったかのようだ、カップの飲み口――平和的に降りる術がウィンと自動で閉じられた。
「く、 」
 それでもフチへ足をかけて飛び降りんとしたゼロを「隙あり! ですっ!」ひときわ激しい回転が襲う!
 猟兵でなければ転げ落ちて液体化していたかもしれぬ衝撃は、もちろんというべきかカップ中央のハンドルをがらららっと盛大に回す円のもたらしたワナであった。
「――お前さんな、回し過ぎだ!?」
「そりゃそうですよ回してますからね!! 逃げられると思わないことです!」
「チッ、無理やり乗せてるという自覚はあったんだな……!」
 やられっぱなしと思うなよ! ハンドルに手を伸ばすゼロが円の握る反対側を掴み取る。逆だ、逆回転。オブリビオンとの戦いの最中ですら余裕綽々遊び半分であった二人の全力がこんなところでぶつかり合う!
 ギッ、 ぎちぎちぎちと拮抗する力の果てには――。
「むむむむ、大人げな……」
「なんとでも言え」
「なんちゃって! その調子ですようおにーさん、さぁもっともーっと愉しませてくださいな?」
 ――ぱ、
 逆襲なら大歓迎ですよ。憎たらしいほど愛らしく破顔してみせた円が、一瞬にして両手を、離す。
「っ!」
 対するゼロは渾身の力を加えていた最中だ。回転の力は逆転し、まぁつまるところ回る向きが変わるというだけで、カップはより一層激しい踊り狂い方をするのであった。

 夜は、――――。
 回転が止まってもしばらくはハンドルを掴み黙していたゼロを、あらあら怒らせちゃったかしらなどと覗き込む円がしかしまるで動じていないこと、分からぬゼロでは最早無かった。
 嵐の後に負けず劣らずな乱れ方をした濡羽色の髪を掻き上げれば、先にカップを発つ。
「行くんだろ」
「?」
「次」
「おや、珍しくノリがいーですね?」
「仕方ない、お前さんが飽きるまで付き合ってやるよ」
 ぱち、ぱちぱち。
 瞬く宝石に似たきらめきはたちまち溢れんばかりに。
「でしたらお言葉に甘えまして? 帰る時間まで遊び尽くしちゃいましょ」
 いきますよ!
 ぽむぽむ弾む鞠のような、明らかご機嫌な円の足取り。数秒間、立ち止まってそれを眺め――同じ方へと靴先を向けると、追うゼロであった。 まったく、ここまで喜ばれてしまえば。煙草を吸う間もありゃしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


空中ブランコ?
そうだな。行ってみようか
でもお前の体重支え切れんのあれ……
あ、二度目はさすがに冗談ってわかる?

こんな高さから見下ろすことなんてあんまりないから
なんか、新鮮だな
飛んでるときっていつもこんな感じ?
――ほら、戦闘の時とかは周り気にしてるから
あんまり景色気にした事ってなかったし
空の旅、か
……そういうのもいいかもな

あ、ニル、あれ
子供がいる
楽しそうだな
嬉しそうで、幸せそうに笑ってて

ずっと、自分はそんなにいいものじゃないって思ってたんだ
人の笑顔とか、幸せとか
そういうのを望めるほど、優しくも、正しくもないって

でも、今
守れて、よかったなって思う
これはきっと――嘘じゃないんだ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

本当に色々あるんだなー
匡、匡、空中ブランコだって
あれ乗ろうぜ
お前またそういう冗談言って……
流石にそこまで馬鹿じゃねえぞー!

やっぱ空って良いな!
風切ってる感じが飛ぶのに似てて
そうだな、戦ってる間はここまで楽しむ余裕はねえけど
じゃあ今度、空の旅にでも連れてってやろーか
綺麗なとこ見繕っとくよ
よっしゃ、約束な!

お?本当だ
つくづく目ェ良いよな、匡
こんな世界でも、楽しいことを楽しいって思えるんだ
子供ってのは逞しいもんだよ

……そっか
そう思えるってのを、認められんのは、きっと大事なことだ
私が言うまでもねえだろうけど、大事にしてくれよ、それ
ははは、随分生き物らしくなったな、お互い!




「本当に色々あるんだなー」
「遊園地にしても結構でかい方かもな、此処」
 さて、ゲートの外で眺めるのと真下にまでやってきて見上げるのとは大違いだ。
 頭上に濃く影を落とす巨大建造物たちの存在を、物珍しげに見遣るニルズヘッグとそんなニルズヘッグを見遣る匡と。不意に足を止める背ぇ高竜男にぶつかりかけて、どうしたよ、と視線を辿れば空中に浮くブランコへ釘付けときた。
「あれ?」
 匡が重ねて尋ねかければニルズヘッグの首肯が返る。
「乗ろうぜ。余分な壁やら地面がついてない分、すごく気持ちよさそうだ」
 振り返る瞳は存外、否、知っての通り初めての冒険へ出た少年みたく輝いて。亡者を傅かせるときとはまるで違う、付き合いの浅い人間であれば驚くだろうが、そこは二人の間柄だ。
「そうだな。行ってみようか。でもお前の体重支え切れんのあれ……」
「お前またそういう冗談言って……流石にそこまで馬鹿じゃねえぞー!」
 揶揄ってしまうのも"つい"で済ませてほしいというもの。わぁっと抗議してくる友を片手でどうどういなしつつ、次第に勢いを弱めて降りてくるブランコへと足早に歩み出す匡。「置いてくぞ」「ズリぃっての!」ちょっとの距離でもかけっこの様相で。
 ――これ、座るだけでいいのか?
 ――いやベルトは締めとけよ。いくら落ちても飛べるっていってもさ。
 席はスカスカだったが、二人は当然のように内側と外側、隣に吊り下げられた席を選ぶ。フライト中にも互いの顔が見える位置だ。
 外側を譲ってやったのは匡なりの思いやりだった。風も、景色も、そちらの方がずっと全力で感じられるだろうから。
「まぁ、ぶつかりそうになった場合は他のブランコへ飛び移ることが推奨されてるんだけどな」
「おいおい懲りずに分かりやすい冗談……」
 えっ冗談だよな? だとか、ムードも高まってきたところで出発のベルが鳴り響く。

 リリリリリリ、

 それまで地についていた両足が、ふわんと。不要な荷物でも括り付けている感覚になる。
 空をゆく際に必要なものは翼だ。屋根のような軸が代わりに役割を担いカラフルに風をかき混ぜ始めれば、世界も同様に回って、廻って。
「おおっ……! ははっ、飛ぶのに似てる!」
「ん、速い速い。こんな高さから見下ろすことなんてあんまりないからなんか、新鮮だな」
 飛んでるときっていつもこんな感じ? ――ほら、戦闘の時とかは周り気にしてるから、あんまり景色気にした事ってなかったし。
 宙裂く音もまた空の中にいるみたいに大きいが、匡のその問いを聞き逃すことはなく、ニルズヘッグはすこしだけ考える素振りをする。景色を、楽しむ。言われてみたならそうだ。「こんなだ。風切ってる感じが特に」一度切って「じゃあ今度、空の旅にでも連れてってやろーか」続けた。
 空の良さを語るとき、自分はいま確かに、戦いではない日常の一コマを思い浮かべていた。
「どうだ。綺麗なとこ見繕っとくよ」
「空の旅、か。……そういうのもいいかもな」
 ベルトもワイヤーもシートも取っ払って、身ひとつで世界へ飛び出す。地べたを這いずりまわって来た己の生き方とまるで正反対なようで、きっとどこか、似ている部分もあるのではないかと匡は思えた。
 隣の男がそうであるように。
 当のニルズヘッグは好い返事がもらえたことにニッと笑って。
「よっしゃ、約束な! あっ、指切りでもするか?」
「しないよ。欠けたらどうする、ガンナーの指をなんだと思ってるんだ」
「お前こそ私をなんだと思ってるんだ!?」
 このやろばたばたーとブランコを揺するまでがお約束。
 ニルズヘッグの姿が微笑ましくないといえば、それこそ嘘になる。また噛み付かれかねないので呆れたふりの吐息で笑いを誤魔化した。誤魔化す、と意識しなくてはならぬほど、自然に零れているものと思い至った――匡は、ふと。
「あ、ニル、あれ」
「お?」
 外した視線の先に非戦闘員の子どもたちを見つける。
 ひとつアトラクションを乗り終えて、さぁさぁ次へと、あれは行先決定権を奪い合うじゃんけん対決であろうか。負けて顔を覆うものの腕を掴み、勝ったものがジェットコースターへ引き摺ってゆく。
 どこからどう見ても満喫している光景、だ。
 平和な。
「――楽しそうだな。嬉しそうで、幸せそうに笑ってて」
「笑ってるか。つくづく目ェ良いよな、匡。こんな世界でも、楽しいことを楽しいって思える……子供ってのは逞しいもんだよ」
「まったくだ。 変な話でさ、」
 ずっと、自分は"そんなにいいものじゃない"と思ってきた。人の笑顔とか、幸せ、そういったものを望めるほど優しくも、正しくもないと。 ――匡がこころを言葉にする。ニルズヘッグは耳を傾ける。
 でも、今、の否定から続くその先を彼自身の口から聴いてみたかった。
「守れて、よかったなって思う。これはきっと――……嘘じゃないんだ」

「……そっか。そう思えるってのを、認められんのは、きっと大事なことだ。私が言うまでもねえだろうけど、大事にしてくれよ」
 それ、と。
 言い結ぶニルズヘッグへ匡はうんともいいやとも返事はしなかった。伏した瞼を開くだけ。一声に込められた想いごと胸の奥深くに届いていることは、過ぎる風の他に互いが知ってさえいれば十分だった。
 ブランコの速さ高さはきっとここが一番のてっぺんなのだろう。
 観覧車ほどじゃないが世界は広い。
 コースターほどじゃないが世界は、
「子どもの頃に来られたなら……だったよな。お互いもう子どもじゃないけどさ、良かったって思えるか?」
「ああ。良かったよ、"今"来れて」
 ――ははは、随分生き物らしくなったな、お互い!
 溌溂たる大笑が弾けて解けてゆく。その端っこに相乗りするみたいに、静かに、しかし確かに、もうひとつが波打った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
ワンさーん(f11247)、おーい!
あっそびーましょ!

ねぇ、あんたは遊園地って詳しいです?
おれはさっき汽車に乗ってきましたけど、楽しかったですよ
今んとこ気になんのはうぉーたーこーすたー?ってヤツかなぁ(ワックワク!)
ワンさん別に速度怖がんなさそうだし行きません?
つーか怖いモンとかあります? 別に答えなくてもいいですけど

(ぎゃー)(めいっぱい速度も楽しんで)
ウォータースライダーでは遊んだことあるんですけど
それよりもっと速度出ますね!

びしょ濡れんなっちまったなぁ
あ! ワンさんあれは?(服を掴んで、海賊船型大型ブランコ指差して)
あれなら乗ってる内に乾きませんか?




「……でね、おれさっき汽車に乗ってきましたけど、楽しかったですよ」
「此処って汽車まで走ってんの? やべーね」
 身振り手振り交えセロが話し聞かせてくれる"今日あったこと"に相槌を打ちながら、アビは尾をゆらゆら。
 遊園地に詳しいかどうか? 一番初めに問うたそれにはセロの予想通り横へ首が振られたものだが、まるで興味がないかといえばそうでもないらしく、先に汽車で園内を回ったセロを先輩扱いして時折問いが返る。
「ひとつの街みてー。で、セロくんのお眼鏡に適ったもんはあったのかな」
「こわい、びっくり、たのしいや、うれしい。色んな人の色んな心が行き交って……うん、多分本当にそんな感じです。気になんのはですね、あれとか!」
 よくぞ聞いてくれました! あれ、とわっくわくセロが指し示すものはウォーターコースター。
 今まさに下り坂へ突入したライドは、キラキラと水を跳ね飛ばしながらド派手なダイブを決めているところであった。歩く二人の足元そばまでも飛んできた水滴は、ぴしゃんと弾けてシミになる。
「……割と痛そう。きみ折れんじゃね?」
「折れ?? 泳げますし、あんたの尻尾他がお利口にしてりゃご心配には及びませんよ」
「ひでーよな、ひとが引き摺り込むみてーにさ」
 気兼ねのない応酬を繰り広げつつ、だがノーも待ったも出てきはしないのなら行先、決定だ。
 大体いつもぬるっとしたこんな調子だが、このキマイラ男には怖いものとかあるのだろうか。「あります? 別に答えなくてもいいですけど」短い列の最後尾、ほんのすこしの待ち時間をおしゃべりが濃いものにする。
 うーん、と目を閉じるアビ。 このまま寝てしまいそうである。
「……」
「うーーん」
 だがセロは待った。言い辛い可能性もある。十秒、三十秒、一分――――最後の一段を上りきるまで、
「…………」
「ないかも」
「ねーのかよ!!」
 待ってからのこれ。
 思わず鋭さを増したセロツッコミであったが、アビは素知らぬ顔して「今が楽しいし他とかいいや」と安全バーをガッグッした。お隣に滑り込んだセロは「いてーんですけど」と唇尖らせ抗議するも席を変える気は、なく。
「そういや要らねーの、被る水除けのやつ。量すげーと思うけど?」
「望むとこです。だってその方が"楽しい"でしょう?」
 にやりとして答えてやれば分かってるよなぁ、と似たような笑いが返った。
 滑りだすライドにカタカタと車輪までもが笑う。その音は先ほどの汽車のものよりもずっと危うげながら、どうにも、不吉なものとは思えなくて。

「はーっ死ぬかと思いました! ってやつでしたね、まさしく! ウォータースライダーよりかこうなんか、ガーッでゴーッで」
「セロくんすげー笑うんだもん。俺こえーもの見つかったよ」
「またまたー。ワンさんこそ尻尾ばたばたしてたくせにー。……て、今は随分シュンとしちまったみてーですけど」
 たっぷり一周分、スピードも水も満喫した二人はそれはもうびしょ濡れで。並んだ足跡が地に新たなシミを作るくらい、髪という髪、毛という毛がしおしおだ。
 やおら口を噤んだアビが首を傾けた瞬間に「ハッ」と察知したセロは飛び退く。そう、犬あるあるなアレ。水滴飛び散らせ攻撃である。いつかどこかの学習成果が活きた結果やもしれない、とにかくそうやって回避したセロのもと居た場所が直後盛大にびたたたたーっと濡れてゆく。
「避けたか……」
「いやそれ攻撃の自覚あったんですか……ふふん、ですがおれの方が一枚上手だったみてーですね? 乾かしてーならねぇ、あれ。次あれ行きません?」
 衣の端をちょいちょい、お次のあれの指はまっすぐ海賊船へ。
 競争だ。言うが早いか駆け出すセロは、アビがノーも待ったも言いやしないことを理解しているから。「ああそう、ふぅん、燃えてきたな」「顔こわッ! 獲物との追っかけっことは違うんでそこんとこ頼みますね!」ほらこの通り、人々の間をすり抜けてちょっとしたスパイスまで楽しめる。
 風に遊ぶ青い翼はもう乾き始めていた。そのことを惜しいと思う暇もないくらい、――今日は。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
イサカさん/f04949
◆遊園地を歩くだけ

なんにも売ってなくてよかったです。
帽子なんかあったら被せて遊ぶつもりだったでしょうから。

こういう、ひとがいる遊園地は、テレビや映画でしか知りませんでした。
四方八方から音がする、どこを見ても何かしらが動いてる。
正直、現実味がないです。このへんにモニタの枠が見えそうなくらい。

そういえば、あなたのまわりに枠が見えるように感じたこともありました。
あなたの傍にいたいと、初めてそう思ったとき。
今はウソみたいに外れちゃいましたけどね。現実で叶ってしまいましたから。
だから「頑張った甲斐」って話なら、それで十分です。

…でも、そうですね。
連れてってくれるなら、どこにでも。


黒江・イサカ
夕立/f14904と

ほら、見てごらんゆうちゃん
あれが遊園地で遊ぶひとびとの姿ってやつだ
平和だねえ 感動的だ
あれでコーヒーカップも全力で回しだすんだから、人間ってのは凶暴なんだな

ひとがいる遊園地を見るのは初めて、 ってわけじゃないだろうけど
ああいう声とかさ、実際に聞くのは初めてなの?
僕はこういうのも含めて遊園地はいいなあって思うんだけど
…でもここ、グッズがないな 残念だな
やっぱり耳のついた帽子くらいはないと困るよねえ
僕だって可愛くなりたいもの

…次はこういう、ひとでごった返した遊園地に行ってみようか
頑張った甲斐ってやつ、たまには感じないとね
僕が一緒なら何処でも、どうだろうと楽しめるさ そうだろ?




 ほら、見てごらんゆうちゃん。
 あれが遊園地で遊ぶひとびとの姿ってやつだ。
 赤、青、黄――乱反射する光たちのちょうど、そこは影だった。白と黒と灰、イサカは遠くの多くを眺めていた眼差しを夕立ただひとりへ戻してくれる。
 楽しげに喉を鳴らして同意求め笑うから、ようやく血の通う人間めく。パッと。
「平和だねえ。感動的だ。あれでコーヒーカップも全力で回しだすんだから、人間ってのは凶暴なんだな」
「それだけ暇なんでしょう。いえ、死なない前提ありきの刺激を求めているというか」
 まぁあのカップたちが生を約束しているかといえば疑わしい部分もある。一瞥に終わらせる夕立を咎めるでもなく、刺激かぁ、とイサカは次に上へ視線をやって思案顔。
 戦い終わってそのままぶらりと歩き続けているだけの二人は、では刺激欲しさに再び拷問具へ乗り込むかと言われればノーを叩きつけるだろう。イサカとしてはもっと別なもので同じ気分を味わいたかった。
 たとえば――。
「グッズとかさ。遊園地を名乗るならやっぱり耳のついた帽子くらいはないと、困るよねえ。僕だって可愛くなりたいもの」
「言いませんよ」
「うん? あは、ありがと」
 もう小細工抜きで可愛いってことだろう、だとか。賑わいから離れている分、声はおろかまるで心までよく通るかのようだ。それは専ら夕立を読むイサカにばかり作用するものであった、が。
 ふいと顔を背けた夕立がメリーゴーラウンドを眺めていると思い、イサカは「やっぱり気になる?」と。
「お馬さんたちも大賑わいだね。ああいう声とかさ、実際に聞くのは初めてなの? 僕はこういうのも含めて遊園地はいいなあって思うんだけど」
「……こういう、ひとがいる遊園地は、テレビや映画でしか知りませんでした。四方八方から音がする、どこを見ても何かしらが動いてる。正直、現実味がないです。このへんにモニタの枠が見えそうなくらい」
 このとき夕立少年が実際見つめていたのは例のパリピ帽子やらなにやらを積んだまま隅で横転しているワゴンであったとか、察知される前にさりげなく視線をアトラクションへ逸らして事なきを得たとか、色々。
 色々ありはしたが、何をしたって時間は不思議なほど穏やかに流れるばかり。
 煩い光に眼を灼かれ、やり場に困るような、迷うような。背を向けて過ぎ行くすべては相変わらずぐるぐるちかちか眩しいというのに、隣の男だけを見つめるならば酷く楽だった。
「そういえば、」

「あなたのまわりに枠が見えるように感じたこともありました」
「……へえ?」
 "枠"。
 ――あなたの傍にいたいと、初めてそう思ったとき。
 見えていた、阻まれていた、或いは自ら引いていた一線があったと、ひとりごちる風に吐くなら俄かに世界の時がとまったような静けさを覚える。
 それはおしゃべりだったイサカが、先の夕立がそうであったのと同じにひとつ呼吸を挟んだからだ。
 同時に夕立は、横っ面へ静かに注がれる視線を感じる。これはつまり話の先があると知られていて。先を促されているのだと、理解していた。「枠、今はウソみたいに外れちゃいましたけど」 拙くとも、言葉にしなくては。
「どうして?」
「単純なことです。現実で、叶ってしまいましたから」
 ピンポロピンポロと往年のラブソングのメロディーライン。
 メリーゴーラウンドのとっても気の利いた選曲が埋める、数秒ほどののち。そっかぁ、と、今度はイサカの方がひとりごとじみてしみじみ落とした。続きのようで、切り替えのようで。
「……次はこういう、ひとでごった返した遊園地に行ってみようか。頑張った甲斐ってやつ、たまには感じないとね」
「それに関しても間に合ってます」
 口を開いたイサカへぴしゃんと夕立。"頑張った甲斐"という話自体、叶った、それだけでもう十分なのだから。
 ――なら、行きたくない?
 ――そうとは言っていません。
 夕立がお利口に自分自身に正直だったから。
 いつもの押し問答を今日は、イサカが吹き出すようにして終わらせた。先に譲った方が大人だとかいうみたいで、ちょっとむかつくなどする少年がジト目を剥けてくる前に、目深に被った帽子を摘まみ上げて。
「ふふふ。そう怖い顔するなって、僕のこれ被る? たのしいよ」
「要りませんし、してません」
 ぽふり、と。
「はいはい、ほぅら可愛いね」
 断ったにも関わらず乗せられたキャスケットにはもこもこな耳もおっきな目玉もついていないが、こと夕立にとってはそういった有象無象よりも価値があるときた。 これで互いの顔が見えなくなる。否、見えなくなってくれた。
「……」
 些細な一瞬ずつに教え込まれるようだ。
 夕立にはいまイサカが何をどんな表情して見つめているかわからない。わからなくとも懼れが湧かぬのは。 その、わけは。
「なあ夕立。僕が一緒なら何処でも、どうだろうと楽しめるさ。 そうだろ?」
「だから、…………でも、そうですね」
 ゆるやかに振れる手指を偶然のふりして伸ばしたなら、ウソみたいに触れられる。枠の中に引き摺り込まれたのか。枠の外へ引き摺り出したのか。ホントウなんぞ何方でもよくって、ただ、隣にいる。
 夢の一夜の終わりを告げるゲートが近付いてきた。
 夕立はしかし、醒めぬと知って歩みを緩めはせずに。 ――どっかのだれかが漢字一文字で片付けやがった難解な気持ちを、いくらも上手になった息継ぎに混ぜ、零すのだ。
「連れてってくれるなら、どこにでも」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・カイト
【遊】
きちゃった☆
兄さまがオレを置いて遊園地で遊ぼうとするからいけないんですよ?
ナーシャくんに、源次くん、よろしくね
兄さまの愛しの妹、カイトだよ。…いもうと、だよ?(念押し)

この遊園地、オレの苦手なぐるぐると回転する遊具多くない?
…パンダなら安全だし、乗った兄さま達は観てみたい気もするけどシュールすぎる
ジェットコースター!ジェットコースターにしましょう。
こういうのは思いっきり叫ぶほうが楽しいんだよね。叫ぼう

次は……え、コーヒーカップ…?
べ、別にいいですけどぉ?
あ、いや、回転早くするのはやめていただけると
ってちょっとぉおおお!!??

……世界が回る。ぐるぐるする
くそ気持ちわりぃ…(ぐったり)


ナーシャ・シャワーズ
【遊】
さて、ゾンビのホラーパークは閉園したようだが、
折角だ。楽しませてもらうとするかね。

……お?源次じゃあないか。
とすると隣はクロウだな。で、そっちの妹?がカイトね。
ま、よろしく。

パンダに乗るお前さん方の姿を見てみたかった気もするが……
ジェットコースターがお望みならご一緒しよう。
宇宙を駆けるのとはまた違ったスリルがある。私はこう言うの、好きだぜ。
声出して楽しんでいこうじゃないの。

で、お次は?コーヒーカップ?これまたメルヘンな。
こういうのは勢いよくやるのがお約束だが……
ほう、その反応はいいね。
ご期待通り、全力で回させてもらおう。

ははっ、いい顔じゃないの。
ほれ、冷たい飲み物だ。これで一息つきなよ。


杜鬼・クロウ
【遊】アドリブ◎
先程までと一変
囁く聲は優しく安堵

こっからが本番だぜ源次!
…ってオイ待てやコラ(首根っこ掴む
遊び倒すまで帰らせねェぞ?
お?源次はその別嬪サンと知り合いか?
…げ、何でいるンだよ。お前はお呼びじゃねェわカイト(今一方的に複雑な心境なので極力目合わさず

軽く自己紹介の後、絶叫系ジェットコースターへ
二回も乗れて嬉々
叫びまくる
余裕あれば二連続乗る

スリル満点!はー楽しすぎたわ
パンダは俺が居た堪れねェから却下だ
次は…そうだ、コーヒーカップ行こうぜ(悪人面

ナーシャと滅茶滅茶コーヒーカップを回し高速回転
視界ぐるぐるするが楽しい

カイト君はもう音をあげちまったか?
ちったァ休んでてもイイぜ(置いてく気満々


叢雲・源次
【遊】
任務は完了した…俺は帰るぞ。ではな。(クソ無粋極まりない事を言って帰ろうとしたら相棒に止められる)

なんだ、ナーシャではないか。一足遅かったな…既にゾンビ達は皆居なくなった。…そちらは確かクロウの弟…いや、妹だったか
(人が増えた。こうなっては仕方あるまい。付き合う事にする)

・ジェットコースター編
(腕を組み不動の姿勢で座する。風圧に晒されようが加速Gを見舞われようが不動)
やはり中々のスピードとパワーだ
先の戦闘で乗った時とはまた違った趣がある

・コーヒーカップ編
(腕を組み不動の姿勢で座する。視界は回る)
………。
(だが臆する事なく不動)

うん?…まぁ楽しんでいる
お前たちが楽しいのならば、それでいい




 勝利で迎えた戦いの終わり。
 人々の笑顔、加えてアトラクションのやさしい囁き声なんかまで聴こえてくるような心地、
 ――ああ、どれもこれもいいものだ。
「お前もお疲れさん」 
 腰に手を当てて暫しあたりを眺めていたクロウが一声かければ、応える風に一声鳴いて、ばさばさばさと羽音も勇ましく八咫烏は去ってゆく。
 一方。強制・空の旅で大変な精神的疲労を負った源次には休息が必要であった。
「任務は完了した――俺は帰るぞ。ではな」
「……ってオイ待てやコラ。遊び倒すまで帰らせねェぞ? 帰れると思ったかむしろ? この俺の目の黒いうちに?」
 だがしかし踵返した瞬間の肩をヤンキーにがっしと掴まれた。
 黙って抜け出ていれば五割の確率で逃げおおせたろうに――……こういったところがクソ真面目というべきか。同時に、美徳というべきか。
 なら白くしてやろうと云わんばかりに腰の剣に手を触れたとき「お? 源次じゃあないか」己の名を呼ぶ女の声があった。
 ――同時に。
「兄さまぁ! もう、探したんですよーぉ?」
「なあッ?!」
 どーん♪ とクロウへは背面よりのタックルが。
 殺気ではなく別の、とりあえず背筋にびりびりくるあまり善くはない気を感じ寸でで身を翻していたクロウはそれを掠る程度で回避する。というよりもこの声は。
「きちゃった☆ 他のお二人もどうもこんばんは、兄さまの愛しの妹、いもうとのカイトだよ」
 聞き間違えるはずもない。杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)。自らの弟――妹――きょうだい、だ。
 にこーっと愛想良く源次、それから傍らの女改めナーシャ・シャワーズ(復活の宇宙海賊【スペースパイレーツ】・f00252)へ微笑みかけるカイト。
「おま、 何でいるンだよ。そっちの別嬪さんは好いとしてお前はお呼びじゃねェわカイト」
 食って掛かっていれば、
「なんだ、ナーシャではないか。それと……クロウの弟、いや、妹だったか」
「ゾンビ目当てだったんだがね、折角だし"こっち"の園も楽しませてもらうことにしたんだ。妙な縁もあるものだな。クロウと、で、妹? のカイトもま、よろしく」
 フツーに会話を進めるまわりにクロウだけが取り残される始末となる。
 こいつら順応性高すぎでは?? 女装しているわけでもなし、妹に見えるはずがなかろうに誰もツッコまない。そしてクロウ自身も、極力カイトの相手をしたくない根深い理由がひとつ、あった。――。複雑にして一方的な、よろしくないものと知っていながらも。
「だーッ乗らなきゃやってらんねえ、言っとくが乗るモンはもう決めてっからな」
「ジェットコースター! ジェットコースターにしましょう、ですよね兄さま? オレ的には道中見かけたパンダも似合いそうでおすすめですけど」
「ひとりで乗ってろ」
 ずんずか歩く兄をたたたっと愛らしく小走りな弟が追う。
 とはいえ行先は実際にジェットコースターらしく。「パンダ、乗るところを私も見てみたい派だったんだがな」「やめておけ。毒にしかならんぞ」「コースターなら付き合うって?」「……仕方あるまい」等々とナーシャ&源次はぽつぽつキャッチボールしながら、後に続いた。

 冒険! 浪漫!
 宇宙を駆けるのとはまた違ったスリルがある。
 恐怖! 死のジェットコースター! に揺られながらも微塵と揺らがぬナーシャのその捉え方は、さすがはスペースノイドでありスターライダー。そして、宇宙海賊。
「はっはぁ! いいね! 私はこう言うの、好きだぜ」
「別嬪さんなうえに話が分かる! こりゃあイイ、お近付きになれてツイてるわ」
 ああ、向かい風に激しく躍る心よ。かっかと笑うクロウは隣席よりの""圧""を知らんぷりして後方へと声を飛ばした。各列二人という構造上どうしても知己同士で座ることとなったわけで、時折わざとらしく可愛い悲鳴を上げる弟についてはスルーである。
(「もう! すーぐ調子いい言葉かけるんだから」)
「ところで源次くんいる? 飛んでってない?」
「いる」
 呼吸ほどの短さで返事したのがご本人だ。
 源次は――なんていうか――不動だった。曲がりなりにも絶叫系、回転も角度も上下移動も相当に激しいのだが、組まれた腕(手すりは?)も正面を見据える眼差しもスタート時からミリとブレていない。
「やはり中々のスピードとパワーだ。先の戦闘で乗った時とはまた違った趣がある」
 クソ真面目感想を淡々奏でつつ。
 ガタ、ガガッ、 ギ!
 ラストにかけての山場、先刻はクロウが吹っ飛ばされかけたポイントにてヒャッホオオォな両手離し足す絶叫をこなす他三人と相俟って、源次の異質ぶりは群を抜いていたが、しかしお隣のナーシャがさして気にする素振りもなかった。付き合いの長さによる慣れとは色々なものを凌駕する。
 しゅうううぅ、と、ライドは程なくして元いた地点へ辿り着いた。 ――辿り着いたということは?
「もう一周だ」
 誰より早くクロウ。
「おい」
「ノった。こんまま座ってりゃいいのかい?」
「はしゃいじゃってかわいい……オレは兄さまに全面賛成です!」
「…………」
 ナーシャに、カイト。源次はもはや何も言わなかった。
 二周目も一周目同様、なんかそういうライドの装飾のひとつかな? な体幹で席に突き刺さっているだけだ。これほどの力がありなぜ先ほどはああして観覧車から落ちてしまったのか、自戒の念も含まれているレベルであった。

 じゃあ真面目くんが黙ったところで三周目――――とはいかず、一同は次のアトラクションへ。
 選ばれたのはコーヒーカップ。ファンシーは上辺限り、カイトの苦手なぐるぐる回転の真骨頂とあって、強行する側のクロウはそれはもう似合いまくりの悪人面をしていた。
「嫌なら降りて眺めてンだなァ?」
「別に、……別にいいですけどぉ? ただちょっと回しすぎに配慮してほしいだけというか、」
 ぐおん。
 カイトが言い終わらぬうちに強まる横方向への力。は、四人乗りのカップにおいて舵よろしくぐわしとハンドルを掴み取っていたナーシャの一手。「ヒッ」「ほうその反応はいいね」――完全にハンターの眼をして。
「ご期待通り、全力で回させてもらおう」
「っしゃこういうのは一思いにってな」
 そこにあくどい笑みを湛えたクロウの手もが加わるとなれば。
 辿る道はひとつ。 ギュルルルルルル!!
「――ちょっとぉおおお!!??」
 ハッピーなBGMに呑まれながら、カイト少年の絶叫(素)がむなしく木霊することとなる。
 源次? 動いてると思う?
 堂々の黙って腕組んで不動。弾き上げられたカイトやら若干自滅したクロウが降りかかってこようと無。これでいてその実楽しくないわけではない……、三人が楽しければそれで良いというのだから、すごい。すごい男だ叢雲・源次。

 コーヒーカップの所要時間は数分と記されているが、被害者の誰もがその記述を信じはしない。
 目を開けても閉じても世界が回る。 ぐるぐる、底なしに。
「くそ気持ちわりぃぃ……」
「ははっ、いい顔じゃないの。ほれ、冷たい飲み物だ。これで一息つきなよ」
 べちゃあとベンチに潰れたカイトへと缶ジュースを押し付けてやるナーシャはきまぐれな海の女神のようでもあるが、主犯格であることを忘れてはならない。
 カシュッ。小気味いい音を立てて自分用を開けたクロウは炭酸を一気飲みして、その手でくず入れへ放り込む。
「カイト君はもう音をあげちまったか?」
「無理もないな。五体満足であるのが不思議な程だ」
 ティーパーティーはどんな大荒れになっていたのであろうか? 常ながら冗句か否かが読み取り辛い源次へ、いまのカイトはすらすら声を上げることもままならない。 ひんやりした缶にただ、頬を寄せ。
「聖者……聖者のかたはいませんか……」
「撃つのは十八番なんだがね」
「斬って繋げればあるいは」
「残念だったなオイ」
 ゴリゴリ武闘派な皆さんにがくりと項垂れたカイト。しかし、クロウはそんな彼の回復を延々待つほど暇ではない。あちらにもこちらにも、未だ触れていないアトラクションが聳え立ってラブビームもといギラギラな照明で誘惑してくるのだ。
 ゆえにこそ、進まねばなるまい。
「ちったァ休んでてもイイぜ。俺は行くがよ」
「っ」
 悪びれず背を向けて――この方角はよりにもよって海賊船であろうか――歩み去る兄へ、執心だけでゆらりと身を起こし縋る弟という図式を、やはりナーシャ&源次は「ほう」「あのタフネス。兄妹だな」「そうこなくては」等々とマイペースに追うとする。
 なお、妹という部分には結局終始クロウ以外誰も触れなかった。

「――いやァにしても遊んだ遊んだ」
「……カイトのそれは大事ないのか?」
「あ?」
 そうしたノリと勢いで、瞬く間に楽しい時は過ぎ。その間もいくつ絶叫系メインに回ったろうか。
 源次の指すそれとは他でもない、ついにはダウンしてしまったカイトをずるずる、クロウが運んでいる状態をいう。家族のぬくもり溢るるおんぶ、ではなく、ジャケットの襟の部分を掴んで半分引き摺っているかたちであった。
「うぅ……もうぐるぐるは……いや……」
「ほら生きてンだろ。構わねェよ、ったく置いて帰っても後々うるせェだろうしな」
「なんだかんだと良い兄貴をしているんじゃあないか。感心したよ」
 うなされる少年とその兄とのやり取りを軽ぅく笑い飛ばせるナーシャと、そういうものかと必要以上には踏み込まぬ源次と。影は四つ、月にライトに照らされて長く長く伸び、最後の夜の賑わいに溶け込んでいる。
 この地で戦いがあったなど、今はそれこそ夢物語みたいだ。
「想像よりもずっとパワフルなアトラクションばかりだったしね、ホラーパーク体験こそ間に合わなかったが、私も割と満足さ」
「おう。あとは土産でもありゃあ言うこと無かったんだがなァ」
 ――おっ、なんだあれ乗り忘れがあるぞ。行こうぜ! 先頭歩くクロウがきょろりとし、そんな具合で易々興味を惹かれればたちまち道草を食いまくる帰り道だから、真の"遊んだ遊んだ"はまだまだ延長されることとなって。
 やがて流れ始める閉園アナウンスも。次第に消えゆく光たちすら、もの悲しいさようならではない、もっと別なものに感じられたはずだ。
 それはきっと、そうであれと願う誰の耳にも。心にも。

 ほ じつ、は。 ありがとう  いました。
 ……ランドをタノしんでく て。ありがとう。みつけて。わたした をマもってくれてありがとう。おかえりのさいは。おきゃくさまを。えがお。あそんでくれて。
 ありがとう、ありがとうありがとう――――。

 ――またのお越しを、お待ちしております。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月19日


挿絵イラスト