21
文豪女子はお腐れがお好き

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#幻朧戦線
🔒
#籠絡ラムプ


0




●天啓はいまだ遠く
「違う……違うの! 此処はもっと情熱的に愛を歌って……ああんそうじゃない!」
 ぐしゃりと、駄作の綴られた原稿用紙を握りつぶし丸める。一瞬にして紙屑と化したそれを宙へ放ると、女の目の前で座り込んでいた二人の少年たちはひぃ、と情けない声を上げた。
 嗚呼、もう駄目だ。と女は直感的に悟る。涙でぐしゃぐしゃになった醜い顔、必死に命乞いをしながらこちらの様子を伺う酷い声。こんな『資料』はとてもではないが使えない。
「こんな陳腐なものじゃあわたくしの思い描くものは書けないのよ。もっとこう、情熱的に刺激的に、それでいて貪欲に冷酷に! 帝都の傑作はこんなものではない筈よ!」
 駄目になってしまった『資料』から視線を外しつつ、爪を噛む。構想は出来ている、出来ている筈なのだ。
 しかし足らない。決定的な何かが足らない。それがなければ、この作品は完成しない。
 もっと知りたい。もっと見たい。いいや、見なければ、手に入れなければ。
 この胸の内に湧き上がる衝動を、渦巻く欲望を具現化し、作品として昇華させる為に。何としても、欠けたものを女は手に入れなければならなかった。
『熱いわねぇ』
 ラムプの火に揺られながら、のんびりとした口調でもう一人の女が彼女に声をかける。
 しかして、その姿は奇妙で異様だった。
 先ず、女の身体はラムプの炎に合わせてゆっくりと揺れていた。まるで炎そのものが彼女のであるかのように。よくよく見れば上品な着物の裾は透け、後ろの景色が見えている。
 次に、女を守るように、影の様な、犬のような『何か』が彼女の近くに伏していた。以前聞いたときには、悪魔、などと言っていたが詳細は結局分からない。
『けれど、その気持ち、分かるわ。貴女の書く作品は私にはまだ分からないけれど、その情熱がある限り、私は貴女に協力してあげる。魂のままに、貴女は書いて宜しくてよ』
 しかし、そんなこと。今の彼女にはどうでも良かった。
 彼女は『味方』だ。それだけ解れば十分なのだ。
 私は書かなければならない。このラムプと彼女はそのために運命が授けた奇跡なのだ。
「……次の資料を探しに行きましょう。お姉様」
 絶対に、絶対に完成させてやる。

 この帝都の世に残るような素晴らしい、『耽美小説』を。

●グリモアベースにて
「どこの世の中にも、面白いジャンルってのは存在するもんだわ」
 一般書籍にしてはやけに厚みの薄い本をぱらぱらとめくりつつ四辻・鏡(ウツセミ・f15406)はにやりと笑った。
「サクラミラージュでさ、民間人の手に『籠絡ラムプ』出回っちまってるって話はもう聞いているかい?」
 それは影朧が潜む桜の都にて、少し前から落ちている不穏の影。絡繰りは不可解、出所は不明。摩訶不思議なそのオイルラムプは、手に取れば何の力もない民間人でも影朧の力を自分のユーベルコヲドの如く操ることができるという。
 しかしその実態は幻朧戦線がばら撒いた甘い罠。いずれ影朧達は民間人の手にあまり、暴走を起こし帝都に混乱をもたらすという厄介な代物だ。
「そうなる前に、お前さんたちには篭絡ラムプの持ち主を探し出し、破壊して貰いたいんだが……今回のターゲットは中々に癖のある奴でな?」
 鏡が見つけ出した篭絡ラムプの持ち主の名前は、『花園・芙蘭(はなぞの・ふらん)』。本名ではなく、筆名であるという。その呼称が指し示す通り、彼女は物語を書くことを(魂の)生業としている。
「っても、あくまで自称。社会的には無名で本も自作しているものが数冊程度だ。その代わり、挿絵やら編集やら装丁やら、出来ることは全部自分でやっている……まぁ別世界でいうところの同人作家ってやつが多分近いだろうよ」
 自分の好きなものを、自分の好きなように作り出し、それを好きだと思える人達だけが求め密かに出回っていく。そんなささやかな、けれども何物にも代えがたい世界。本来彼女はそこに生きる人間だ。
「しかしこいつが、籠絡ランプを手にしたことで欲が出ちまった。この力を使えば、一世一代の傑作を作り出せると信じ暴走しちまったんだ」
 最高の作品には良質な資料とネタを。そう考えた彼女は自分好みの人物を影朧の力を使って攫っては、その人物を資料として調べ上げ、作品の場面を演じさせながら執筆に及んでいるという。
「捕まったヤツらは数日で命に別状はなく返されるらしいが……どいつも妙に衰弱しているらしい」
 今すぐ人命にかかわることではないだろうが、それでもいずれ彼女に従っている影朧が反逆することは必須。そうなる前に彼女と接触し、籠絡ラムプを奪取、及び破壊してほしい。
「丁度、帝都のとある通りでは節句の祝いにちなんだ催し開かれてて、ネタに詰まったヤツはそこへ顔を出すみたいだぜ。ヤツ好みのシチュエーションを演じてやれば、ホイホイと釣られて出てくるだろう。あとは人気の少ない場所へ誘い込んで戦闘に持ち込んじまえばこっちのもんさ」
 通りには大きくはないが品の良いカフェーや雑貨屋が並び、いくつか出店も出ているという。標的をおびき出すのに合わせて、少しばかり羽を伸ばしても良いかもしれない。
 ちなみに、と説明を聞いていた猟兵の一人が質問をする。
 彼女の好みとは言いたい何であるか。
「あー……」
 その質問に対して、鏡は簡潔に、手の中にあった薄い本を開いて見せた。
 其処に描かれていたのは、美青年やら美少年がやけに距離が近く、妙に仲睦まじくしている絵姿。
「……ヤツは耽美小説って言っているみたいだが。まぁUDCアースの言葉を借りるなら、今はやりのBLってやつ」
 つまり俗にいう。花園・芙蘭は腐女子な同人作家なのである。
「あ、でも守備範囲はバリ広みたいだから、別に男装女子同士がイチャイチャする、とかでもイけるみたいだぜ」
 ペアの片方が女装女子でも勿論OK。どうしても自信が無いなら、狙われやすそうな人物を探してマークするのも良いかもしれない。勿論、公衆のルールを守ることは必須ではあるが。
「ラムプの破壊後は……まぁ、夢潰えて意思消沈、って感じになってるだろうな。最高傑作の新刊を作る! と周りに宣言していたみたいだし。余裕があるやつはそこらへんのフォローをしてやってもいいかもしれねぇ」
 方法は間違えてはしまったけれど、彼女の熱意と文学への想い本物だ。十分反省しているのなら、落ち込んでいる彼女をもう一度奮起させ、新刊へ取り組ませるようにしてあげると良いだろう。
「まぁ、随分とアクの強い依頼になるかと思うが……宜しく頼むぜ」
 各自検討を祈る。と言葉とは裏腹に軽い口調で締めながら、鏡は転送の準備を始めるのであった。


天雨酒
 攻めの反対は守りです、天雨酒です。
 どこまでもネタ系のシナリオのご案内です。ちょっと特殊な性癖やら世界が飛び交いますが、あくまで常識の範囲内で。公共良俗に反すること、エロ系の行動は厳禁とさせて頂きますのでご了承下さい。
 ペアでの参加をイメージしてのシナリオですが、お一人様のご参加も歓迎です。逆に、それ以上の連携でのご案内は難しいかもしれません。
 ペアでご参加希望の方は必ずお相手様のID、または【】にて合言葉を決めて迷子にならないようご注意下さい。

 以下補足となります。

●登場人物
 花園・芙蘭(はなぞの・ふらん)
 本人曰く魂の名前。
 男性同士による恋物語を好み、自分でも執筆、時折自作の本を製作したりする。その過程で絵も嗜むようになった。
 良く言えば情熱的だが、猪突猛進な所がある花も恥じらう美少女文豪(自称)
 篭絡ラムプを手に入れた事をきっかけに帝都を揺るがす傑作(耽美)の執筆に乗り出すが、現在煮詰まっている状態。守備範囲はバリ広。

●第一章
 街の一角で芙蘭をおびき出しましょう。
 通りは秋の節句に合わせて、ささやかな催しが行われている様です。出店が並んでいたり、カフエーでは期間限定の甘味が出ていたり、雑貨屋では季節に合わせた小物の売り出しが行われていたり……各々日常を楽しみつつ、適度にいちゃついておびき出して下さい。
 OPにある通り、芙蘭は男性同士が密接な関わりを持たせる場面を好みます。好みの光景があちこちで起こればその内湧いて来るでしょう。
 女性の方は男装をすれば問題ありません。片方が男装女子でも、男装女子の二人組でも女装男子の二人組でも、芙蘭は全てを美味しく頂きます。
 お一人様の場合は民間人と接触しつつ、が予想されます。美男子に声をかけるもよし、狙われそうな組を探して見守るも良し、フラグメントにとらわれずお好きにどうぞ。
 繰り返しますがエロや過度のえっちは厳禁です。

●第二章
 湧いてきた芙蘭と、彼女の操る影朧との戦いになります。
 この章は普通にバトルとなります。敵詳細については断章にてご案内予定です。

●第三章
 篭絡ラムプ喪失後の芙蘭さんの運命や如何に。具体的に原稿の進捗は。
 詳細は断章にてご案内します。

●締め切りについて
 各章、断章を挟んでの受付となります。詳しい日時につきましてはお手数ですがTwitter、MSページをご確認お願いします。

 それでは、宜しくお願いします。
87




第1章 日常 『桜の街に何を問う』

POW   :    胸の内より溢れる情熱を言葉にする

SPD   :    耳に残る、ロマンの音を言葉にする

WIZ   :    目の前に広がる鮮やかな世界を言葉にする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●秋のはじめに
 猟兵たちが転送された街の一角は、素朴ながらも活気に満ちた場所だった。
 節句の祝いといっても、それに乗じた街興し、といった方が近いのかもしれない。人通りは混雑、という程では無いものの、それでも此処が平時よりも賑わっているだろうことが空気から読み取れる。
 カフェーには『期間限定』と書かれた秋の果物や花に因んだメニューが書かれ、雑貨屋へ行けば月や菊、兎に因んだ小物が多く見つかることだろう。
 街路に出ている出店は、団子を始めとした簡単な甘味から、季節の花を売る店もある。町の人々みな、ささやかな秋の祝いをそれぞれの方法で楽しんでいるようだった。
 それは、常に戦いの中に身を置く猟兵達にとって刹那にも等しい、けれど愛すべき日常。依頼とは別に、しばし心と体を休め、日常を楽しむことも良いだろう。
「ネタ……ネタ……誰か見るだけで創作意欲が湧き立つ美男子はいないかしら……」
 勿論、本来の『目的』のおびき寄せも忘れずに。
 そうして猟兵達は、暴走する文豪少女を誘うべく、行動を開始するのであった。
獅子王・椿
◎芙蘭の好みに合うよう男装(和装)をし通りを歩く。
身長が低く凹凸も少ないため少年に見える。

「びーえるというものは初めて読んだが、なかなか面白いのぅ。ただ…」
ラムプは破壊しなければいけないと心の中で呟く。その後上手くフォローできるか自信が無いが…。

出店で鯛焼きを全種類買い袋を抱え歩く。
たい焼きを食べながら(1人のため)「とりあえずまずは男子を探さねばの」
とキョロキョロしていると、前方の確認不足で誰かの背中にぶつかって鯛焼きを数個落としてしまう。
「!すまぬ!お主怪我は無いか?」
そして落ちた鯛焼きを拾おうとすると手と大きな手が重なる。
顔を上げると整った顔立ちの男性がいた

芙蘭が見てることを祈り会話する



●その時、鯛は見ていた
 静かながらも秋の予感に包まれた街角に、大きな紙袋を小さな人影が一つ。
「びーえる、というものは初めて読んだが、なかなか面白いのう」
 獅子王・椿(復讐の鬼・f25253)は、荷物とは反対の手で持った書物に目を通しながら感心したように呟いた。
 男性同士の許されざる色恋の物語。ひとえにそう称しても、その内容は多岐にわたる。禁忌の恋という概念に重きを置いた重厚なストーリーから、甘酸っぱさ溢れる日常を描く青春物まで千差万別だ。一度慣れてしまえば、中々に読み応えのあるジャンルであるように思えた。
「ただ……」
 どんなに面白いものを書いたとしても、芙蘭の持つラムプを放置することはできない。被害にあったもの達の為にも、何より彼女自身の為にも、破壊しなければならないのだ。
「その後、上手くフォローができればいいのだが……」
 彼女にどんな言葉をかけるべきかと思案しながら、椿は書物を懐に仕舞い、紙袋を抱え直した。
 ちなみに、そんな椿の格好は、彼女の趣味に合わせた男性物の着物である。
 その実年齢に相反して、椿は小柄で凹凸の無い体つきだ。多少の誤魔化しは必要であったが、簡素な着物に身を包んだその姿は傍から見ればあどけなさを残した少年のように見えるだろう。
 淡い金の髪に赤い瞳。愛らしい顔立ちでありながら、大人びた雰囲気を纏っており、ミステリアスささえ感じてしまう。
 本人に自覚はないだろうが、彼女はその手の類にはたまらない美少年として街中を歩いていた。
 そして、それら全てを裏切るかのように、椿の腕の紙袋の中で溢れているのは――大量の鯛焼きだった。通りの入り口にあった出店で、迷わず全種類買い占めていたものだ。

 一見老成した美少年が、実は甘味好き。その落差がまた良い、とても良いです。

「……とりあえずまずは、男子を探さねばの」
 そんな誰かの思考が掠めていくことなど露知らず、椿はおもむろに鯛焼きを手に取り、頭から齧りながら周囲を見渡した。外側のぱりっとした食感と、中のふんわりとした生地が口の中で踊る、これは良いと舌鼓を打ちながらもう一口。
 何しろ自分は今回、一人でこの捜査に臨んでいるのだ。より芙蘭の好みに近づけ、おびき寄せる為には男性同士の絡みは必須。必然、もう一人男性が必要となってくる。
 とはいえ、急に『捜査に必要なんでいちゃついて下さい』など民間人に声をかければそれこそこちらが変質者だろう。自然とそんな行いができる人はいないだろうかと椿は道行く人を観察しながらさらに鯛焼きを一口。絶妙な食感の先にたどり着いたのは漉し餡だった。丁寧に濾された餡は舌ざわりが良く、優しい甘さが身体に染み渡る。正直、とても美味しい。あっという間に一匹を平らげてしまう。
「どれどれ、他の味は……」
 次の鯛は如何様な味か。紙袋の中に視線を落とし、椿は次の獲物を選び始めた。
 その瞬間。
「おっと」
 どん、と椿は目の前の壁にぶつかり、大きく体勢を崩した。
 それが誰かの背中で在ると気づくのと、衝撃に負けた彼女の躰が尻餅をつくのは同時。当然紙袋は椿の腕の中を離れ、鯛焼きが数匹、あたりに散らばる。
「すまぬ! お主、怪我は無いか?」
「こちらこそすまない、露店に夢中で回りが見えておらなんだ」
 強かにぶつけた顔を抑え咄嗟に述べた謝罪に返ってきたのは、まだ年若い精悍な声。落ちた鯛焼きを拾おうとした椿に大きな影がかかり、彼女の小さな手に、大きな手が重なった。
「あっ……」
 意図せず、手と手が触れ合う。双方の手が弾かれたように引っ込められたのは同時。そこでやっと、椿は地面へと下ろしていた視線を上げる。
 視界の中一杯に広がったのは、逞しい体つきをした、整った顔立ちの青年だった。
「こちらこそ怪我はないかい、僕。鯛焼き、勿体無いことをしたね」
 一つ一つ丁寧に落ちた鯛焼きを拾いあげていく青年。それを呆然と見上げながら椿は意を決して声をかける。
「……詫びと言ってはなんだが、少し馳走させてはくれぬか」
 どうか、このひと時をかの文豪が目撃していることを祈りながら。
 その様を、そしてその成り行きを覗き見している人影を、拾われた鯛焼きだけが静かに見届けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

贄波・エンラ
件の彼女はどうにも焦りすぎているようだね
望む情景を目にしたいと思うのならじっくり丹念に
手塩に掛けて育て上げながら待つことも重要だ
まあ尤も。僕には記憶がないからね。そうしたら何か良いものを見られた気がする、だけなのだけど

さて、僕は独り身だ。ここは少し誰かに力を貸してもらおうか
そう、具体的には同性が恋愛対象であって、それでいて誰かとの恋に破れたばかりの傷心の青年
探せば居るものだよ
ほらいた

そんな彼とカフェで相席になろうか
破れた恋の相談に乗ってあげる体で、僕に靡かせるように素知らぬ顔で甘く甘くしてあげよう
傷口に甘い毒薬を塗り込む様に
ふふ、僕は狡い男だったみたいだからね

この現場を見つけては貰えないかな?



●甘く、深く
「件の彼女は、どうにも焦りすぎているようだね」
 曰く、贄波・エンラ(White Blind・f29453)そう彼女を推察する。
 どの分野にも、生みの苦しみというものは必ずしも起こりうるものだろう。しかし、本当に望む情景を目にし、形作るというのなら、じっくりと丹念に造り上げねばならぬと云うものだろう。
 一つ、一つ素材を選りすぐり、望み通りとなる様最適な環境を与え続けて。まるで種から一つの花を咲かせるように、手塩にかけて育て上げながら待つ事も重要だ。
「まぁ尤も。僕には記憶がないからね。そうしたら何か良いものを見られた気がする、だけなのだけど」
 それに、既に轍は廻り、坂を転がり始めている。今更かの女史にそれを説いたとしても、大人しく聞き入れることはあるまい。
 ならば、多少強引にでも止めてやるのが道理だろう。止まることを忘れた轍が壁にぶつかり、砕けてしまうその前に。
 
 
 さて、と街角に降り立ったエンラは近くのカフェーに設けられたテラスへと目を向けた。
 彼は独り身だ。効率よく目的を誘い出す為に、少しばかり誰かの力添えが必要となる。
 たとえば――そう。催しに活気づいた中でただ一人、浮かない顔でいるような人物。大衆には受け入れられない秘密をその心に押し留め、しかしつい最近、耐えきれぬような傷を心に受けて苦しんでいるものなら尚のこと良い。
「こんなに人がいる中なんだ。探せば居るものだよ」
 ――ほら、いた。
 エンラの視線に止まったのは、たった一人でテラスに座し、道行く人を眺めている華奢な少年だった。
 あどけなさを残す美しい顔は、どうにも悲しげな色彩られている様である。憂いを帯びたその視線が追う先が、華やかに着飾った女性ではなく、逞しい男性であることに気付けば、彼の望むものが何であるか、エンラには手に取るように分かった。
「失礼。相席いいかな?」
 そんな彼の視界に滑り込むように、エンラは珈琲を片手に向かいの席へ座す。勿論、他にも空席はある。何故態々相席を、と怪訝な顔をする少年を、エンラはそっと人差し指を立てて制した。
「怪しいものじゃあない。ただ……傷付いている君を放っておけなくてね」
 その言葉に、思い当たることがあったのだろう、少年ははっとしたように俯き押し黙ってしまった。
 エンラはそんな彼の行動を追求することはなく、ゆったりとカップを口元へ運んだ。優しい珈琲の香りが、二人だけの静かな時間を包み込む。
 そんなエンラの穏やかな空気が、彼の心を解き解したのだろう。
「実は――」
 やがて少年は、おずおずと告白を始めた。
 彼はこの近くに通う学び舎の生徒であること。男性の先輩を慕い、意を決して思いを伝えたところ、手酷い振られ方をしてしまったこと。
「僕、もうどうしたらよいかわからなくて……」
 言葉に詰まり涙を流す彼の頭へエンラはそっと己の手をのせる。傷付いた彼の心が、その涙で染みることを少しでも防げるように。
「その先輩は、随分と勿体無いことをしてしまったようだね」
 僕なら、そんなことは決してしないのに。
 握りしめた相手の手に、そっと己の手を重ねながらエンラは紡ぐ。
 その言葉は酷く甘い蜜のように少年の胸の内に深く深く潜り込んで。甘い甘い、毒薬のようにその心を酔わしめる。赤らめた頬をそっと反対の指でなぞり、くいを顎に指をかけて。
(さて、この毒花の恋を、見つけては貰えないかな)
 何処からか付きささる熱い視線にゆったりと微笑みながら、エンラは丹念に、少年を育て上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒河内・柊夜
※妄想お任せ
えっこういうのって柊夜の担当では?眼鏡は正義?ちくしょう反論できない
ということで副人格のヒイラギがお送りします

さて、テーマは『真面目な眼鏡と一匹狼君』で
すみませんが一般人の方を巻き込みます

狙いは群れない系不良君
祭の場ですから探せば一人くらいいるでしょう
やることは素行が悪いところを注意する、ですが君のこと心配してるんですよ感と、顔近付ける手を握るなどナチュラルーな距離の近さを意識します
素直に言うこと聞いてくれたら褒めてあげましょうか
ほだされてくれたら百点満点

やってることは不良君への注意なのでやましい事など何もありませんよ?これが社会人の特権です
ま、妄想を繰り広げるのは勝手ですけどね



●外すことは許されない
 本日の黒河内・柊夜(中途半端にこじらせた・f16288)は、オン眼鏡。つまるところ、副人格のヒイラギによりお送りいたします。
「えっ、いやまってこういうのは柊夜の担当では?」
 どこからか聞こえてきた気がするアナウンスに、そして放り出された状況に、ヒイラギは思わず全力で突っ込みを入れた。どんな状況においても全力に中二病で尊大で芝居がかったような口調で、実際ハイスペックな柊夜こそ、この場にぴったりの筈ではないか。
 しかし、彼は失念していた。柊夜に無くてヒイラギに在る、決定的優位点を。
「はい? 眼鏡は正義?」
 眼鏡。それは人類が生み出した偉大なる性癖。
 視覚矯正器具であり装飾品であるそれには古今東西老若男女問わず、一定の需要が存在する。
 そんなとてつもないアドバンテージ今を有効活用しなくて何時するのか? 今でしょ!
「ちくしょう反論できない!」
 反論できなかった。中指で眼鏡のズレを直しつつ、ヒイラギは遂に諦めたように溜息をつく。
 そういう訳で、今回はヒイラギがお送りします。
 題して、『真面目な眼鏡と一匹狼君』――。
 
 
 街角の雰囲気は穏やかで、周囲は至って平和だった。
 しかし、多くの人々が行き交う祭りの場。そこには当然、この場を十分に楽しめないものも存在する。
 例えば、弱者をいたぶるついでに金目の物を奪い、甘い蜜を啜る無法者。そして、そんな彼らに属さないながらも、社会に馴染めず、はぐれて生きる不良達。
「君、関心しませんね」
 そんなものが好みそうな路地裏で、ヒイラギは一人の青年に声をかけた。
 振り返った際に見えた顔立ちはまだ若い。強面に気を取られがちだが、よくよくみれば来ている服装はどうやら学生服の類の様だった。
 そんな彼の手の中にある薬包を見咎めて、ヒイラギはかつかつと歩みを進めて青年の腕を掴んだ。
「何すんだてめぇ!」
 当然、不良はヒイラギに向けて怒号を浴びせてくる。しかしヒイラギとて猟兵の一人、日々影朧をはじめとしたオブリビオンと戦うことに比べれば、この程度の威圧など児戯に等しい。
 構わず彼の手から薬包を攫い、それを地面へとぶちまけた。
 さらさらとした白い粒子が風に乗って落ちていく。その中身は、ヒイラギの予想通りの――合法阿片。
「まだ君は子供でしょう。こんなものはやめてしまいなさい」
 サクラミラージュでは、中毒性の無い合法阿片を嗜むこと自体は禁じられてはいない。けれどそれは、物事の分別が付く大人になってからの話。子供がやっていい遊びではないのだ。
「離せよ、てめぇには関係ねぇだろ」
「いいえ、関係あります」
「ルールは守れってやつか。良い大人ぶりやがって、何様のつもりだ」
 不良はあくまで反抗の態度を見せる。強引にヒイラギの腕を振り払おうとするのを力づくで押し留めて、ヒイラギは相手を壁へと押し付け身動きを封じた。
「そんなんじゃない」
 どん、と反対の手で不良の顔の直ぐ横に、もう片方の手を付く。逃げられなくなった相手の顔を見下ろして、そして、言う。
「決まりなんかじゃ、ない。君のことが心配なんです」
 その言葉はどこか苦いのもを含んだ様で。表面だけではないヒイラギの真摯な言葉に不良が微かに瞠目する。
 いやまぁ、本当は演技なんですけれど。
「いきなりこんなことをいって戸惑うのは分かります。しかし、大人が身勝手に作り出したもので、君の様な子供の未来が壊されてしまうのは見ていて耐えられない」
 その言葉は、固く閉ざされた不良の心に確かに届いたのだろう。抵抗の力が弱くなる。
「……まぁ、そこまで言うんなら」
 そう言って顔を背ける彼の頬は微かに朱に染まっており。
「いい子だ」
 そう言って微笑んでやれば、不良は大人しく頷き、残りの薬包を差し出すのだった。
 ――さて。別にヒイラギが行っていることは素行不良の青年への指導であり、やましいことは何もない。社会人として迷える子供を導く、ある意味特権の様なものだ。だからそこに事案のようなものは無いったら無い。
(……ま。そこに妄想を繰り広げるのは勝手ですけどね)
 妙に興奮した空気が発せられるのをどこかから感じながら、ヒイラギは不良の手を握り、笑みを深めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
ケイラ(f18523)と

帽子を目深に
書生さんの恰好

前にそゆの好きな敵いたな…
オレの故郷だと妄想じゃなく現に横行しΣイテ(相棒のユキエが耳を噛む)

へ~男に見えるよケイラ
巧いこと化けじゃん

…で
あんみつ食うのにこんな密着する意味って…
え、これがタンビなんですか

普段通りスッとぼけ…
そりゃ演技は難しーけどー
しかしこんなんでその耽美娘来るかー?

「今日は仕事で…?たまに甘味もいいだろ
「答つーかまず質問どこ…
「え。あの一夜ってどの夜遊び?アヤマチつーほど深刻な事あったかー?
「イヤ師匠のものじゃねーし
あ、これは郷出るときの餞別で(耳を近づけ囁く)毒の暗器だし
…まあアレは慣r(ユキエが耳噛み『それ以上はダメ』


ケイラ・ローク
◎あら面白そう♪
トーゴ(f14519)ご一緒するわ♪キミの服も選んであげる

耽美がお好き?ならあたし男装するねっ
髪を揉み上げ残し後ろ一つに束ね白シャツに黒い細身のズボン
言葉遣いも耽美な少年を意識
UCで鼻歌ですら甘美よ

「フフどうだい?可憐な美少年の出来上がりだろう?
お店の白玉餡蜜を隣り合って座り意味深に見つめあいながら食べましょ♥
「受け答えにはキミ、普段通りすっとぼけたまえ
え~だって演技ヘタそうだし~
「今日はなぜ僕と?
「そうやって答えをはぐらかすんだね…
「酷いな。あの一夜は過ちだったというのかい?
「君がお師匠様のものなのも知っている…(指輪にショックを受けた演技

あっキミも少し言葉遣い意識してよね!



●一部では通過儀礼とか言うとか言わないとか
「タンビ……ねぇ」
 書生の恰好に扮した鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は心の底からしみじみと、口慣れないその言葉を反芻した。
 かつてUDCアースの世界でも、同様のジャンルが好きな敵と会ったがまさかこの世界でも縁が繋がることになるとは。世界とはなんとも狭いものである。
 というか、そもそも、そのジャンルとはそこまで大きく取り上げる程特殊なものなのだろうか。
「ぶっちゃけオレの故郷だと妄想とかじゃなく現に横行しあ痛ッ!」
 それ以上はいけない。さらりと曝露されかけたトーゴの秘密は、肩に乗っていた白鸚鵡のユキエが思い切り耳を噛み付くことによって阻止された。実にファインプレーである。
「まー、面白そうじゃない♪」
 そんな彼らのやりとりをみてからからとケイラ・ローク(トパーズとアメジスト・f18523)が声を上げて笑った。そんな彼女は、耽美が好きという芙蘭の嗜好に合わせて一つに髪を束ね、白いシャツと細身のズボンという少年を意識した格好だ。歌の力を借りれば、即興で囀る鼻歌さえも、今の彼女を甘美に彩る装飾品となる。
「へー。ケイラ、ちゃんと男に見えるね」
 巧いこと化けたもんだ、と感心したトーゴが素直に誉めればケイラは嬉しそうに、しかしどこか艶やかな笑みを浮かべ。
「フフ、どうだい? 可憐な美少年の出来上がりだろう?」
 キミのお眼鏡にかなったようで何よりだよ。と、トーゴの手を取り、エスコートしてみせるのであった。
 
 
「……で、何この状況」
 注文した白玉餡蜜を目の前にして、トーゴは全力で困惑していた。
「何って、これがお求めなんだろう?」
 彼の言葉に、すぐ隣に座っていたケイラが首を傾げる。甘味処の中、席は他にも十分ある筈なのに彼女は向かい合わせの席を選ぶのでもなく、トーゴの隣に座っていた。
 それも、こう、なんか異様に距離を詰めて。気を抜けば手と手どころか腕やら足やらもぶつかりかねない距離である。
「オレの知ってる連中の距離感と違うんですけど」
 え、何この距離。餡蜜を食うのにこんな密着する意味ってありましたっけ。タンビか、これがタンビなんですか。
「そんなツれないこと言わないで♪」
 対するケイラはノリノリで餡蜜を匙で掬い、トーゴを熱いまなざしで見つめながら差し出す。
「ほら、トーゴも合わせて」
 目の前に出されたそれに、トーゴは渋々と口を開いた。黒蜜と餡の優しい甘みが広がり、美味しいことには美味しい。けれどなんとも居心地が悪い。
「僕が適当に話すから、受け答えにはキミ、普段通りすっとぼけてくれたまえ」
 そんな神妙な顔でいると、ケイラがが耳元に口を寄せ、そっと耳打ちをしてくる。驚いてそちらを見れば、色違いの瞳が至近距離でこちらをのぞき込んでいた。
「スッとぼけ……て」
「え~、だってトーゴ演技下手そうだし~」
「まぁ、確かにお手本無しに演技は難しーな……」
「そ、だからここはアタシに任せて♪」
 ぱちり、と片目を瞑ってみせ、一時的に口調を戻していたケイラは演技を再開する。演技の必要はないトーゴはとりあえず、もう何がきても突っ込むまいと腹だけは括った。こんなので噂の耽美娘が来るかは半信半疑だが、これも仕事なのだ。
「今日は、なぜ僕と、こんな所に付き合ってくれたんだい?」
「えーと、今日は仕事で……? たまには甘味もいいだろ」
 事実である。別に嫌いな訳じゃないし。
「また……そうやって、答えをはぐらかすんだね?」
 ツれない人、とかケイラが大仰に首を振った。一体何が釣れないのか。
「答えっつーか、まず質問がどこ……」
「酷いな。あの一夜は過ちだったというのかい?」
「え。あの一夜ってどの夜遊び? アヤマチつーほど深刻な事あったっけ?」
「嗚呼、皆まで言わなくて良いよ! 君がお師匠様のものなのも知っている……。それでも、今日ばかりは僕のことを見てくれてもいいじゃないか」
 トーゴの指に通された指輪をなぞり、ケイラは悲し気に目を目を伏せてそんなことを。会話が噛み合ってない気がするのもなんのその。もう彼女はノリノリの絶好調である。
「や、師匠のものじゃねーし。これは郷を出るときの選別だし……」
 正直毒を仕込めたりする暗器の類だし。
「ついでに……まあアレはどちらかというと慣rあ痛ッ!?」
『それ以上はダメよ』
 再び口が滑りかけたトーゴ曝露譚に、本日二度目のユキエによる自主規制ならぬ鸚鵡規制。
「もー、トーゴ。あんまり生々しい事言わないでよ?」
 一応此処は公の場。いちゃいちゃしておいてなんだが、マイナーな趣味嗜好の性癖は大声で口にしてはいけないのである。誰が聞いているかも分からないのだから。
「あと、キミも少し言葉遣いを意識してよね!」
「はいはい。でもさー、別にオレのとこでは珍しくないし、それこそガキの頃には」
「『ストーップッ!』」
 今度はユキエとケイラ双方からの制止。ユキエが額を小突き、ケイラが口を塞ぎにかかる。絶妙な連携プレーである。
「まってその御師匠様の件めちゃくちゃ気になるのですけどっ!?」
 と。そこに、聞きなれない女の声が割り込んだ。
「えっ」
「えっ」
「やばっ」
 不意に入ってきた第三者に、二人と一羽が同時に声の方向を向けば。
 無人の席にはまだ湯気の立つ珈琲と、小銭だけが残されていただけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトリア・アイニッヒ
セフィリカ(f00633)さんと

(参考に見せられたアレやコレやを思い出しつつ)
…えぇ、と。何と言いましょうか
私には、ちょっと理解が出来ない世界、ですね…

ま、まぁそれはともかくとして!
他者に迷惑を掛ける行為は、捨て置けません
況や、それが影朧。オブリビオン絡みの案件であるのなら
狼藉を止め、人々を守る為。この力を振るいましょう

セフィリカと共に、男装に初チャレンジ
…あ、あの。セフィリカさん? ちょっと胸の辺りがキツくて
え、キツくしないと男装にならない? それは、そうですが…

適度にイチャつき、誘き寄せに徹します

※アドリブ歓迎
※至って真面目に頑張ります。トンチキ空間で好きな様に翻弄してやって下さい


セフィリカ・ランブレイ
【ヴィクトリアちゃん(f00408)と】

面白い世界でキラキラしてたよね
退廃的かつ純情?(参考資料を読んだ)

ヴィクトリアちゃんはピンとこなかった?
シェル姉はどう?
『男同士、女同士でどう番おうが私の知った事じゃないわ』
相棒の魔剣は我関せずの様だ

私はこれも一つの夢の形と肯定かな

いいシーンを演出すれば釣れるって事で、私も男装
王子様然とした白いタキシード。出所は弟の
マジの王子御用達ならそれっぽいでしょ

ん、ヴィクトリアちゃん苦しそう。……これは、おっぱいですね?
まあ私も布で潰すの痛いんだけど我慢

「どうしたんだよ、辛そうじゃん?
俺の前で位、素直になれないっての?」
彼女を顎くいして、甘い言葉なんか囁いてみる



●俺には全部見せろよ
「面白い世界でキラキラしてたよね」
 セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)は買ったばかりの団子の一つをはい、と傍らの青年へと差し出す。青年――いや、男装をしたヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)は、そんな彼女の言葉にううん、曖昧な返事を返した。
「……えぇ、と。何と言いましょうか」
 参考資料にと事前に漁った書物の中には、まぁ恋愛漫画として読めなくもないものもあった。それでも、中にはちょっと刺激的な描写があったり、逞しい男性同士がいちゃいちゃとアレコレしているものも少しくらいはあったりして。
「私には、ちょっと理解ができない世界、ですね……」
 こう、なんか、ちょっと色々すごかった。 
「ヴィクトリアちゃんはピンとこなかった? 退廃的かつ純情? みたいで、私はありだと思うけれど」
 そっか、とセフィリカは自分の分の団子を頬張りながらヴィクトリアの言葉に首を傾げる。そんな彼女の装いも、ヴィクトリアに合わせたような男物の、王子を思わせるような白いタキシード姿だ。この日の為に弟から借り受けたものである。
 ちなみにセフィリカの家系は軍事国家と謳われるエルフの国の王家。その弟ということはそれ即ちマジ物の王子様。当然、生地やら装飾やらが市販されているものと段違いに良かったりして、それが一般人から見ても分る物だから密かに注目を集めていたりするのだが、そんな細かいことは気にしない姫様なのであった。
「シェル姉は、どう?」
『男同士、女同士でどう番おうが私の知ったことじゃないわ』
 試しに腰に佩いた相棒の魔剣にも聞いてみるが、彼女は我関せずを貫いているようだった。
 そっかぁ、とセフィリカは独り言ちる。彼女にとって、あの物語の世界は一つの夢の形として肯定できるものだったから。
 だって、夢はいつだって幸せで、とても眩しいものなのだから。
「ま、まぁそれはともかくとして! 他者に迷惑をかける行為は捨て置けません。況してや、それが影朧――オブリビオン絡みの案件であるのなら尚の事」
 人の趣味嗜好が多様なのはまぁ良いだろう。しかし、それは自分の中で完結する場合。己の利欲の為に他者を傷つけるというのなら、ヴィクトリアはその狼藉を止め、人々を守る為にこの力を振るい尽力しよう。
 静かに決意を固めるヴィクトリアにセフィリカも同意する。形は違えど何かを創り出すという趣味を持つ身、その熱意は分かるが、それでも人に迷惑をかけてはいけない。しっかりとお説教をしてあげなければならないだろう。
 その為には彼女が好む傾向に合わせて何かしらの『いちゃつき』を見せなければならないのだが……。さて、どうしようかとセフィリカは頭を悩ませた。
 知識としては頭には入れてきたが、いざ実践となると何をしたらよいか分からない。こうして男装女子二人で仲良く歩く、というのでもそれなりに形になると思うが、何かもう一つ、インスピレーションが湧くような一味が欲しい。
 残ったお団子で食べさせ合いでもしてみようかと考えはじめた頃に、セフィリカはヴィクトリアの様子がおかしいことに気が付いた。
「ヴィクトリアちゃん?」
 見れば、彼女は何やら苦しそうに俯いている。なにやら、顔色も良くなさそうだ。
「どうしたの、人酔いでもした?」
「あ、あの……ちょっと胸のあたりがキツくて」
 その言葉にああ、と合点がいく。
「……これは、おっぱいですね?」
 どうやら胸を潰す為に巻いた布がキツすぎた様だ。斯く言うセフィリカも正直、布で潰すのは多少なりとも痛かったりはする。我慢しているけど。
「でも、キツくしないと男装にならないよ?」
「それは、そうですが……」
 なにせセフィリカもヴィクトリアも、女性的なバランスの取れたスタイルの良い体型なのだ。凹凸のない男性的な身体に似せるには、しっかりと胸を潰さなければ誤魔化せないだろう。
「……ええ、大丈夫です。この程度、耐えて見せましょう」
 大きく息を吐き、ヴィクトリアは姿勢を正す。弱きを守らねばという使命感が、彼女を奮い立たせているようだった。
 それでも彼女は大切な友人。心配なものは心配だから。
「……もう、しょうがないなぁ」
 そんなヴィクトリアの手をぐいと引き寄せ、ふらついた身体を支える。驚いた彼女の身体を抱き寄せて、密着した状態で顎に手を添えた。
「どうしたんだよ、辛そうじゃん。俺の前で位、素直になれないっての?」
「セ、セフィリカさん……⁉」
 至近距離で視線が交わる。少し動くだけで、ともすれば唇が触れてしまいそうになるほどの距離。そんな中で囁かれた甘い言葉に、たちまちヴィクトリアの顔が真っ赤になった。
「ふふ、ヴィクトリアちゃん、かわいい」
 俗にいう顎クイの状態のまま、セフィリカが甘く微笑む。一瞬の静寂の後、周囲からきゃあ、という黄色い声が上がった。
「あ、あれ?」
「え……?」
 いやまぁ、見目麗しい麗人二人が揃ってたらだいたいの女子は興奮しますよね。マジ物の王子様衣装で人目を引いておりましたし。
 そんな中、セフィリカは万年筆を手に引くほどの高速でメモに何か書きつけている女性を見つけ、そっと友人に目配せをするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

やはりこの世界にはその手の方々がたくさんいらっしゃるのですねと独りごちつつ
「視力」を駆使して標的を探しましょう

周囲を見渡しつつも足を止めたかれに視線を向け
なにやら甘味に惹かれたらしいかれの様子に
笑ってもちろんですと答えて店に入りましょう

僕は大学芋のクリームがけを頼み
かれの注文したパフェを目にすれば当然のように差し出されたスプーンの上のそれ
微笑んでひと口いただきましょう
うん、甘くてしっとりしていておいしいですね

それからフォークで大学芋をひと切れ突き刺してかれの口元へ差し出しましょう
ふふ、かわいいきみ
美味しいですか?と問いかけながら
……なにやら熱い視線を感じますね?


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

作家業は過酷と聞くがネタの為に強要される悲劇は止めねばならんと宵の手を引き通りを歩こう
だが『聞き耳』を立てている為か期間限定の甘味やら栗と芋のパフェやら魅惑的な単語が飛び込んでくれば立ち止まり宵へ視線を
…宵…その、少々寄っていかんか…?

カフェのテラスに座り運ばれてきた栗と芋のパフェを見れば宵も食うだろう?と満足気な笑みを浮かべ当たり前の様に宵の口元にスプーンを差し出してみよう
宵に差し出された芋をみれば口を開き当然の様に口内へ
ああ、味もだが愛しい宵と共に食す甘味は別格だ…と
ん?視線か…?狙いの者が出たのやもしれんが…
…宵、此方を見て居ろ
お前の表情をねた、にはされたくない故に…な?



●三十日三十夜を我が元に
 文豪というその名自体がこの世界のジョブとして存在するように、サクラミラージュにはその道を志すものが多い。そうなれば自然、分類は多様化し、同時に発達していくもので。
「やはりこの世界にはその手の方々がたくさんいらっしゃるのですね」
 行きつく先は同じ沼。何処の世界でも人の嗜好というものは共通していくものだと、歩いていく人々を見遣りながら逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)はそう独り言ちた。
「その、なんだ。作家業は過酷と聞くが、ネタの為に強要されるという悲劇は止めねばならんな」
 宵のすぐ隣では、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)もまた、目的の文豪女子を探すべく周囲の人々の声や噂に耳をそばだてている。
 ちなみに、そんなザッフィーロの手は、しっかりと宵の指先を絡め捕らえ、はぐれることがないようにと引いている。つまりそういうことである。
「ええ、望むならともかく、無理強いはよくありませんからね」
 そしてそんな宵も、それが当然とばかりに彼の手を握り返し悠然と歩いている。そう、つまりそういうことなのである(二回目)。
 今こうして話をしている間にも、二人はかの文豪女子の恰好の囮として機能していたりするのであった。それもとても自然に、なんら違和感もなく。まさしくなんてご馳走でしょう状態である。
「……ザッフィーロ?」
 と、そうして他愛ない話をしつつ人探しに集中していた二人であったが、それは急に立ち止まったザッフィーロによって中断された。
「……宵。その、少々寄っていかんか?」
 どこかきまりが悪そうにこちらをみる彼の示す先。そこには『期間限定秋メニュー』の張り紙が大きく貼られたカフェーが。そういえば、先程通りがかった女学生たちもそんな話をしていたような気がする。
「期間限定の甘味が多いとか……栗やら芋やらのパフェがあるそうでな」
 必死に宵へ向けて説明するザッフィーロに小さく笑いかけながら、もちろんですと宵は快諾して店内へ向けて彼の手を引く。
 甘味に惹かれ、照れながらも店へとさそう彼に愛おしさを感じながら。
 
 
 テラス席へと案内された二人は、さっそくお目当ての期間限定メニューを注文することにした。
 ザッフィーロは先程噂を耳にした栗と芋のパフェ。宵は大学芋のクリームがけを注文。程なくして運ばれ、二人はそれぞれ小休憩をとることにした。
 品の良いグラスに紫芋のアイスに甘さ控えめのホイップ、装飾には栗の甘露煮がバランスよく乗せられた店おすすめの一品。それをみて、ザッフィーロは満足気な笑みを浮かべる。そして全体の均衡を崩さないように器用に匙で掬い上げると、さも当然というように相方へ向けて差し出した。
「宵も食べるだろう?」
 応えの代わりに返されたのは、愛しい人の優雅な微笑みと、少しだけ近づく距離。形の良い口の中に吸い込まれていった銀の匙が抜けると、宵はゆっくりとそれを飲み込んで笑みを深くした。
「うん、甘くてしっとりとしていておいしいですね」
 ああ、と頷くザッフィーロもまた、パフェを一口頬張り顔を綻ばせる。本当に甘いものに目が無いのだ、この愛しいひとは。
「宜しければ僕のもどうぞ」
 お返しに、と宵もまた己の大学芋の一口をフォークで刺し、彼の口元へ。今度はザッフィーロが当然という様にそれを口内へ迎え入れる。
「美味しいですか?」
「ああ、味もだが愛おしい宵と共に食す甘味は格別だ」
 そうやってザッフィーロが囁く言葉も、目の前の甘味にも負けないくらい甘いもので。けれども不思議と、それがとても耳に心地良い。今甘味を食べたのは自分ではない筈なのに、どうしようもない甘い幸福感が宵の胸の中に広がっていた。
 しかしそこに、ぞくりと。
「ん……」
 なにやら奇妙な視線が刺さるのを、宵は感じた。
「どうした?」
「いえ……何やら熱い視線を感じますね」
「視線か? 狙いの者が出たのやもしれんが……」
 項のあたりをさすりながら、宵は曖昧に感じた視線について答える。
 熱いというか、ねとっとしたいうか、黄色いというか、ついでにちょっと酸っぱいというか。いや、おそらく件の女史のもので間違いは無いのだろうが。
 なんか、予想よりだいぶ強烈だった気がする。これは思ったより大きな反応を得られたのかもしれない。
 そう思い宵が視線を廻らせようとすると、それは他ならぬザッフィーロの手によって防がれた。
「……宵」
 褐色の指が宵の黒髪を梳き、宵の頬へ添えられる。銀の瞳がじっとこちらを射抜けば、それを振り払う術など宵にはない。
「此方を、見て居ろ。お前の表情をねた、などにはされたくない故に……な?」
 そうやって、まだ姿すら見えない者にすら宵を垣間見ることを許さない独占欲も、宵にはいじらしく見えてしまって。
 嗚呼、かわいいひと。
 声に出さずにそう囁いて、暫し二人は見つめ合い、甘い時間を過ごすのであった。
「……ご馳走様でした」
 空になった硝子の器が、匙とぶつかりからりと音を立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
カイム(f08018)

俺達は互いに別の本命がいる友人同士
だが、暴走する文豪少女ならば、友人としての仲の良さを勝手に勘違いするかもしれん
妄想とはいえ、その想像力は逞しいよな

雑貨屋で桜色の装飾品を手に取り
「カイム(の彼女)に似合いそうだ」と目を細め
カフェーでは小食であることを忘れ、つい食べきれない量を頼み
「…仕方ないだろう。期間限定と聞けば、頼まざるおえなかった」
視線を逸らしたのは、子供っぽい言い訳だと恥ずかしかったから

互いのものを食べ比べをするのは、仲が良いからで
多少のわざとらしさは囮だから

事件が解決したら(彼女を連れて)また来たい
カイムもそう思わないか?
彼なら俺の言いたいことを察してくれるはず


カイム・クローバー
親友の悟郎と(f19225)

なるほど。つまり、妄想させて、想像させりゃ良い訳だ。
遊んでるだけで良いってんなら、仕事前にちょっとばかし、息抜きさせて貰おうぜ。

装飾店での悟郎の言葉に(自分の彼女の好みが分かってくれてたので)…サンキューな、と。(頬を掻きつつ、視線逸らし)
代わりに俺も碧色に金の装飾が映える髪飾りを手渡し(悟郎の彼女に)どうだ?ま、何でも喜んでくれるだろ?(悟郎が渡せばその気持ちが嬉しいだろうから)何て自信満々に。
カフェでは『まぁ、良いさ。俺も(甘いモノは)好きだぜ?』なんて言いつつ、互いに食べ比べ。

ああ、また来ようぜ。
次が待ち遠しい。今度はいつ、(彼女と一緒に)休み取れるんだ?



●飛んで火にいるヲタク女子
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)と薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)の関係は、ごくごく一般的な友人である。勿論、その中でも特に親しい仲ではあるが、互いに別に想い人がいることもよく知っているし、二人の間にはやましい感情など決してありはしない。
 ありはしないけれど。
「だが、暴走する文豪少女ならば、友人としての仲の良さを勝手に勘違いするかもしれん」
 表層に浮かんだ行動や言動からは見えない意図を探り、その人物の心の裏を読む。一般的に『行間を読む』という技能は実際存在しており。ついでに言えば芙蘭のようなその道を往く者達は、その技能があらぬ方向へ飛び抜けて高いのが必須技能、というか解除不可の呪い装備だったりするのです。
「妄想とはいえ、その想像力は逞しいが……」
「なるほど、つまり、妄想させて、想像させりゃ良い訳だ」
 神妙に唸る悟郎に対し、カイムの反応は至って軽いものだった。
「遊んでいるだけで良いってんなら、仕事前にちょっとばかし、息抜きさせて貰おうぜ」
 別に特別なことなどする必要はない。ただ二人仲良く連れ合って、楽しんでいればあとは向こうが勝手に勘違いしてくれるというのだから。言ってしまえばちょっとした休日のようなものだ。
 勿論、そこにある程度の含みを持たせるくらいはするのだけれど。
 
 
 待ち合わせをした二人がまず足を運んだのは、装飾品やインテリアが多く揃えられた雑貨屋だった。催しに合わせて秋をイメージとした小物が多く並べられているが、勿論それ以外のモチーフも数多い。
 その中で、優しい桜色が悟郎の目にとまった。
「これ……」
 手に取ってみたそれは、桜色の飾り紐だった。どうやら髪を結ぶ際に用いるらしい。一見シンプルに見えるそれは、よくよくみれば複雑な方法で織られているようで細かい模様がうっすらと見える意匠だ。端についた緑の玉も紐と調和している。
「どうした?」
 悟郎が何かを見つけたことに気付き、カイムが隣へやってくる。そんな彼に紐を掲げて見せ、悟郎は目を細めた。
「似合いそうだ」
 淡い色の髪に、きっとこの優しい色はよく似合う。
 あの金の髪に飾れば、桜でも咲いたかのように華やかになるだろう。
 彼の――まだ幼い婚約者を思い出し、悟郎は口元を綻ばせる。
「……サンキュ」
 カイムもまた、彼が何を考えているか予想できたのだろう。頬を掻き、視線を逸らしながらも礼を言う。自分の彼女の好みを分かってくれた上で選んだのが、ムずかゆい気持ちはあるが、それでも正直に嬉しい。
 代わりにと、カイムも手に取っていた金の装飾が施された髪飾りを悟郎の手に置く。
「どうだ? ま、何でも喜んでくれるだろ?」
 彼の心寄せる翠玉を、この金はより鮮やかに彩ってくれるだろう。そうでなくても、彼が渡せばきっとなんだって宝物になるだろうから。そんな自信をもって渡したそれを、悟郎は嬉しそうに受け取った。
「ありがとう」
 ――このやり取りの中。会話の中でおそらくとても、重要な主語やら目的語やらが抜けまくっているのは勿論敢えて、囮だからである。
 それでも、意図することはちゃんと伝わるのだ。だって二人は親友なんだから。
 
 
 雑貨屋でそれぞれの土産を購入した二人は、近くで見つけたカフェーにて休憩を取ることにした。
 カイムは季節のゼリーと紅茶を頼んだが、悟郎はあれこれと悩んだ末にパンケーキとプリンを注文。程なくして二人の前に注文された品が並べられる。
「……やってしまった」
 予想以上に多かった甘味の量に、悟郎が思わず呻く。明らかに頼み過ぎた、小食な自分ではとてもではないが食べきれる量ではない。
「お前も懲りねぇなぁ」
「……仕方ないだろう。期間限定と聞けば頼まざるをえなかった」
 にやにやと笑うカイムから視線を逸らしたのは、我ながら子供っぽい言い訳の自覚があったから。頬がなんだか熱い気がするが、これは恥ずかしいからだろう。
「まぁ、良いさ。俺は好きだぜ?」
 期間限定も、カフェーの甘いものも。どちらも同じくらい魅力的なのは分かる。
 食べるのを手伝って遣る為悟郎の皿からパンケーキをよそいながら、さりげなく自分の分も分けてやり、二人は互いの甘味を食べ比べ、美味しいと笑い合うのであった。
「事件が解決したら、また来たいな。カイムもそう思わないか?」
「ああ、また来ようぜ。今度はいつ、休みが取れるんだ?」
 食後の余韻を楽しみながら、二人は何気ない会話を楽しむ。彼らの頭の中では、次に来た時、それぞれの愛しい人を連れての四人で回る光景が描かれていて。
 次が待ち遠しいな、なんて。漏れた呟きはどちらのものだったのか。
 
 
 二人の距離はとても近くて、付かず離れず、互いの心地の良い距離感を保っている。
 互いの好みがわかっているのも、食べ比べをするのも単に仲が良いからで。思わせぶりの言葉はそう、敢えて全てを言わなくても、思っていることぐらいわかるから。
 それが他者の目からどう映り、どう受け取ろうと関係ない。それはその人の自由である。
 そう思っていたささやかな日常。変わらないと思っていたものが、どうしようもなく絆されていたことに気付いた時、その一線はとうに超えていたことに――。
 ぶつぶつと意味不明なことを呟きながら彼女は角の影に隠れて必死に万年筆を走らせる。
 そんな、ありそうでなさそうで、でもやっぱりありそうなものほどその手の女子は大好物なのでした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
ヴォルフくん(f09192)と

俺様男女どっちでも良いや
かれとはこんなお遊びができる程には腐れ縁

期間限定クレープ買ってご機嫌
ベンチに並んで座って
見て見てモンブランだって
クレープ上手に食べるの難しいよね
あぁほっぺにクリーム付いてる
そうと近付いて舌の先でちろりと舐める
うんおいしーって悪戯げに笑って
そーだ食べ比べしようよ
ちょっと恥ずかしいから
なんとなくかれが食べてたのとは反対側を齧る
あぁっまるごと栗食べられちゃった
もー、なんてね

食べたらお昼寝したくなるねぇ
言い出すのはいつも気紛れ
お膝と尻尾貸してよ
ダメ?
やったぁヴォルフくんだいすきー
遠慮なく膝に頭をぽすんと
ふふーもふもふ気持ちいい
うららかな昼寝を楽しむ


ヴォルフガング・ディーツェ
ロキ(f25190)…際どい戯れも許せる腐れ縁と

俺も愛に性差は問わないタイプだけども…今回は無い筈の薔薇の香りを感じるな…
ご期待に応えバナナチョコホイップクリームのクレープを買ってベンチへ
へえ、ソッチも美味しそうだね
分かる、気が付くと中のクリームが飛び出たり…(舌の感触に僅かに身を震わせ)…ちょ、恥ずかしいんだけど
お返しにロキのクレープを多めに食べてしまおう、齧ったところをそのままぱくり!何だ、今更恥ずかしがる間柄じゃないだろ?と目を細めて笑う

君はほんっと猫みたいだ…駄目なワケないだろ自分の膝を叩いて誘って
お腹を冷やさない様、胎を中心に尻尾をくるり
柔らかそうな髪を漉いて穏やかな時間を過ごそうか



●ひだまりのかおりと
 催しで活気付く通りの中でも、一際人が多く、人気となっているクレープのお店。列に並んで待っている間でも漂ってくる甘い誘惑の香りに胸を高鳴らせならが、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はふと考える。
 思うのは、ここに来た目的の人のこと。なんでも男同士がくっついているのを好むとか、そんな話だったと思うけれど。
 男とか、女とか。
「俺様どっちでも良いや」
 そんなこと、古くからかみさまとして在ったロキとしては、些末なことである。人の姿をとって永らく生きた今となっても、気にかけることじゃない。それこそ、しっきりに漂う甘くて魅惑的な匂いよりもずっとずっと些細だ。
「俺も愛に性差は問わないタイプだけども……」
 そんな彼と共に並ぶヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)も、考えは大きく変わらない。けれど、周りの、というかごく少数の、ぶっちゃけ件の彼女はそういう訳にはいかないようで。
「今回は無い筈の薔薇の香りを感じるな……」
 なんだか熱烈な期待を受けている気がするのだった。
「俺様は感じないよ?」
「気のせいだから大丈夫だよ」
 不思議そうな顔をしてこちらを向くロキに、ヴォルフガングは一つ首を振り前を促す。見れば、ちょうど順番が回ってきたことを案内役の店員が知らせるところだった。


 無事クレープを買った二人は、近くにあったベンチに座り食べることにした。確保できた場所は日当たりもよく、おまけに見晴らしも良い。のびのびと休憩するには丁度良い場所である。
「見て見て、モンブランだって!」
 期間限定のおすすめ品と書かれていた栗のクレープを、ロキはご機嫌な様子でヴォルフガングへと見せてくる。栗色のアイスを彩る様に丁寧に重ねらられた紐状のマロンクリームは、確かに同じ名前のケーキを思い出させる。ちょこんとてっぺんに乗せられた栗の渋皮煮がなんとも可愛らしい。
「へぇ、ソッチも美味しそうだね」
 対してヴォルフガングが選んだのは、期間限定ではないものの、人気商品として取り上げられていたバナナチョコホイップクリームのクレープだ。別段バナナが好き、という訳では無かったのだけれど、何となくご期待に応えるにはこれが相応しいような気がした。なんとなく。
 いただきます、と二人で言って、それぞれクレープを食べ始める。ロキは大きな口をあけかぶりつくように、ヴォルフガングはそんな彼を微笑まし気に見ながらゆっくりと。
「うーん……」
 食べながら、ロキは思わず唸った。
 クレープはとても美味しい。甘すぎず、渋すぎず、食べれば食べるほど後をひく美味しいさだ。
 けれど、ギリギリまで形を上手く残さず食べるのがなかなか難しかった。頂上に乗せられた栗はもちろん後に取っておくとして、片方をかぶりつけば、もう片方から中身が出てきてしまう。じゃあと反対側を食べれば、それはそれでバランスが崩れてきてしまう気がして。
「クレープ、上手に食べるの難しいよね」
「分かる、気が付くと中のクリームが飛び出したり……」
 ちらりと見れば、どうやらヴォルフもクレープの食べ方に悪戦苦闘しているようだ。手についてしまったクリームを困ったように舐めとっている。
(…………あ)
 ロキの視線が、そんなヴォルフガングの一点に止まった。飛び出てしまった際についたと思われるクリーム。それが、彼の頬にまだ残っている。
 彼に気付かれないようにそっと身を乗り出し顔を近づけて。ヴォルフガングが思わず身を震わせるのも構わず、ちろりと舌を伸ばしてそれを舐めとった。
「うんおいしー」
「ちょ……恥ずかしいんだけど」
 ふわりと口の中に広がるのは、自分のものとは違う甘さ。その美味しさも、彼の反応も楽しくて、浮かぶのは悪戯めいた無邪気な笑み。
 代わりにと栗のクレープを差し出せば、彼もそれ以上文句を言えず、そのままクレープの食べ比べをする流れとなった。
 ロキの齧った跡を気にした風もなく、ヴォルフガングは大口を開けて食べようとする。つい先程自分がしたことの方が大胆なのに、なんだか見ている側としては気恥ずかしい。
 そんなことを思っていたら、ぱくり。
「ああっ!」
 齧りさしに重ねるような跡を残してヴォルフガングはクレープに食いつき、おまけに最後にと残しておいた取って置きの栗ごと攫われた。
「なんだ、今更恥ずかしがる間柄じゃいだろ?」
 意趣返しというようににやりと笑うヴォルフガングに、ロキは恥ずかしがって良いのやら怒ってよいのやら。わざわざ彼が食べた箇所と反対側のバナナクレープを食べた自分が馬鹿みたいだ。
「もー……」
 ――なんて、それもお互いがお互いで在るからこそできる戯れ。別に本当に怒っているわけで、無い。
「あーお腹一杯。食べたらお昼寝したくなるよねぇ」
 二種類のクレープを十分堪能したロキは、くぁ、と一つ大きな欠伸をした。
「お膝と尻尾貸してよ。……ダメ?」
「君はほんっと……駄目なわけないだろ」
 大きく伸びをする姿も、こちらを見上げて甘えてくる姿も、膝を叩いて誘ってやれば遠慮なく寝転がり、頭を預けてくる姿も。自由で気紛れな猫の様。
「やったぁ、ヴォルフくんだいすきー」
 ロキはご機嫌に彼の尻尾に触れる。ふかふかとした柔らかな毛並みは、触っているだけで心地がよさそうで、見ているこちらも微笑みが漏れてしまう。うつらうつらと微睡み始めたら彼の腹に、冷えないようにと尻尾を乗せてやって、そっとヴォルフガングはロキの髪を撫でてやる。
「……平和だな」
 ゆっくり、ゆっくり。穏やかで温かな二人の時間は過ぎていく。
 他愛ない、けれども大切な二人の時間。それは降り注ぐ陽の光を思わせる暖かで大切なものだ。
 
 ――だから。
 どこからか感じる妙に熱い視線も、少し据えたような甘い香りがするような空気も、そられを発する犯人が始終二人のことをガン見していたことも、彼らはついぞ、気付くことはなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日川・駒知
尾宮くん(f29616)と一緒に
アドリブ、マスタリング歓迎

_

…男装必須、ってきいたから、袴を男性のように着付け
「…おかしなところはありませんか…?」
尾宮くんに確認していただきつつ
…私の我儘に付き合ってもらい、出店で並ぶ本を見たり雑貨屋さんを覗いてみたり、
「え」
こんな綺麗な髪飾り、いいんですか…?
…ありがとうございます。
大事に…します。
…ぎゅっと抱き締めて、はにかみ

「…わ…」
カフェで、苺パフェを半分こしたり
美味しそうで、私も知らず頬を高揚させ
いただきますの後、掬って、そのまま尾宮くんへ

「…どうぞ」

勇気を出して、あーんしてみます。


……
「か…」
かんせつきす。

_
(苺と駒知、はたしてどちらが赤いのか)


尾宮・リオ
明日川さん(f29614)と



お揃いの袴姿
「とてもお似合いですよ」
にこやかに微笑んで褒め称える
可愛らしい、と言えないのが残念です

あなたの好きな場所を巡って
本屋でおすすめ小説を聞いたり
雑貨屋で髪飾りをプレゼントしたり

そして、カフェーへ

苺パフェを目の前にして
楽しそうな様子の明日川さん
それを見るだけでも満足ですけど
「じゃあ、あー、」
ん、と。差し出された匙をぱくり
美味しいです、と、にっこり

でも、やられてばかりではいられません
明日川さんから匙を貰い受け
同じように苺と生クリームを掬う
「はい、明日川さんの番ですよ」
にこにこ。笑いながら差し出して

──ねえ、知ってました?
こういうの間接キスって言うらしいですね



●割り込めるほど勇者じゃなかった

 特別じゃないけど、普通じゃない。
 普通じゃないけど、それ以上にはまだなれない。
 その距離は誰もが一度は通る、甘酸っぱくてせつなくて、もどかしくて愛おしい。
 それは、まだ若かった君たちが残す――青い青い、瞬きのひととき。

 (とある暴走した文豪の手記より)


「あの……おかしなところはありませんか……?」
 事前に調べていた着付けの手順を振り返って間違えたところがないか確認。帯の位置にも十分に気を付けてから、準備を終えた明日川・駒知(Colorless・f29614)は彼の前に立った。
 何しろ、今日の仕事は男装が必須であるのだから。普段より低い位置で結ぶ袴が、どうも心もとない。しかし万が一不備があった場合、一緒に行動する彼にまで迷惑がかかると思うと、気が気でなかった。
「よくお似合いですよ」
 しかしそんな駒知の姿を、揃いの袴を着た尾宮・リオ(凍て蝶・f29616)は素直に、安心させるようにそんな彼女の姿を褒め称えた。彼女の不安を取り払ってやるように細かな乱れを直してやり、自信持つように促す。実際、艶のある黒髪に、和装の姿はよく似合う。大人びた印象も併せて、今の駒知は物静かな美少年に見えてもおかしくないだろう。
(……本当は可愛らしい、と言ってあげたいのですけれど)
 男装姿を前にしてさすがにそう言いうのは憚れる。それだけが少し、リオは残念だった。
 それでもリオに褒められ、なんとか駒知は自信を持てたようだ。よし、と意気込み、目標を探すべく、そして街中を散策すべく歩き出す。当然、リオも後に続き、活気ある通りへと踏み入れた。
「さて、どこへ行きましょうか」
「どこへでも。あなたの好きな場所へ」
 UDCアースとは似て異なる風景を見回しながら駒知が尋ねれば、返ってきたのリオの意外な言葉。驚いてそんな彼を見返せば、返れは優しい表情で駒知が行きたい場所を優先したいと言い直してくれる。
「それなら……」
 なんだか我が儘を言っている様で申し訳ないと思いながらも駒知が提案したのは、古本が並べられた出店だった。どうやら節句や季節の植物、慣例などが書かれたものを意図して蒐集したらしい。あまり見かけない装丁や、知らない知識が詰め込まれたそれらに、駒知はすっかり夢中になってしまう。
「明日川さんは、どのような本が好きなのですか?」
 そんな彼女の邪魔にならないように気を付けながら、リオは問う。彼女の手に取った本の題名に目を通し、彼女が見せてくれる頁に、其処に描かれた世界へ触れていく。
 彼女が好きなものを、少しでも多く知りたくて。そして何よりも、好きなことを話す彼女の表情がとても生き生きとしていたから。そんな表情を見れることが純粋に嬉しかった。
 ついでにと、本屋の隣にあった雑貨屋にも二人は立ち寄っていく。季節らしく、月やウサギを象った小物が多く並べられた中で、駒知はとある一つの装飾具に目を奪われる。
「あ、これ……」
 白く光るようなそれは銀だろうか。花弁の一つ一つまで丁寧に造られたそれは、菊をモチーフとして造られた髪留めだった。
「これですか?」
 そんな駒知の視線から、リオは何を見ているのか悟ったのだろう。ひょいと髪留めを摘まみ上げると、店主を呼んでそれを包んでもらうように依頼する。
 え、と驚いたように見上げれば、彼は今日のお礼ですよ、なんて言って微笑んで。可愛らしい箱に納められた髪留めを駒知の手に乗せる。
「……ありがとうございます。大事に……しますね」
 掌から伝わる小さな重みをぎゅっと抱きしめて。駒知は嬉しそうにはにかむのだった。
 
 
 買い物を終えた二人はカフェーで小休憩。
「……わ」
 カフェーのメイドが置いた大きなパフェに、駒知はそっと歓声を上げた。真っ白なアイスクリームにふわふわのホイップ、そして赤い苺がいくつものったそれはとても美味しそうで、見ているだけでもどきどきしてしまう。いただきますと両手を合わせた後、匙でそれを掬う。
 本当にいいのかな、と迷ったのはほんの少し。
「……どうぞ」
 駒知はそう言うと勇気を振り絞り、匙をリオへと差し出した。
「……じゃあ、あー」
 リオは大人しく口を開け、匙ごとぱくりとパフェを食べる。程よい甘さが歩き疲れた体に染み渡る。
 美味しいです、と素直に感想を伝えれば、駒知は恥ずかしそうに再びはにかんだ。
 苺のパフェを前にして楽しそうな彼女、そして自分に気を使ってくれる、優しい彼女。そんな駒知を見ているだけでリオは充分満足なのだが、それでもやられてばかりではいられないと思う。
 だから、駒知の手から匙を攫うと、今度はリオが彼女へパフェを食べさせる番だ。
「はい、明日川さんの番ですよ」
 彼女に倣うようにパフェを掬って口元まで運んでやれば、まさか返ってくるとは思っていなかったのだろう。駒知は驚いたように顔を赤くする。それでもお返しだから、と念を押せばおずおずと口を開いてくれた。
 もぐもぐと口元を抑えて食べる彼女がそれを飲み込んだのを確認してから、リオはにっこりと笑ってこう伝える。
「ねぇ――知っていました? こういうの、間接キスって言うらしいですね」
 わざわざ彼女の匙を借りたのも、彼女がパフェを食べた後に言ったのも全て確信犯。
 何故なら、今やパフェに乗った苺のように真っ赤になってしまった彼女の――。
「か……かんせつきす」
 ――驚きと恥ずかしさに染まり固まる彼女の、そんな可愛い姿を見たかったから。
 そこに特別大きな感情はない。強いていうならそれが――リオのささやかな我儘であったのだ。
 
 
 友情以上、恋愛未満。
 未発達な僕達だからこそ生み出せる、幻のような甘い夢。
 どうか覚めないでと祈りながら、きっといつか、僕らは気付くのだろう。この心に芽生えた感情の正体に。
 そんな彼等の繰り広げる、一瞬の輝き。
 その時の名前は――青春。
 
 (とある陶酔した文豪の走り書きより)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

平平・晴
今日の人格【腐晴】

彼女へは超絶親近感を感じます
私が彼女の立場なら
カフエーテラスで街を行き交う人を眺めイケメン定点観測をするのではと

BLTサンドを頬張り
脳内受攻判定会議をしながら待機

あっちの雄み溢れたガチムチ兄貴…受!
こっちの線の細い儚げ美少年…攻!
Sっぽいインテリ眼鏡…ド受!
郵便屋さん…攻!
ポスト…受!(郵便受け)

意外性のあるCPが好きです

仲良く寄り添い歩くイケメンズ
妄想で補強した腐ィルター越しに見る景色は今日も尊い
ハイいちゃいちゃ頂きました有難うございます!
にやける頬を必死で元に戻し冷静を装ってますが
心の中でブレイクダンスの合間に和太鼓叩くレベルの大騒ぎ

心に腐っとくる対象は彼女もきっと同じ筈


黒鵺・瑞樹


せっかくの重陽の節句だし何かしら面白そうな物ないかな。
…目的忘れたわけじゃないけど、俺一人だしこう、適当なカップルを適度に見守る方向で。

さてまずは買い物、何がいいかな。
食器類は一通り揃ってるし、装飾品はあまり付けない。
でも折角だし何かしら欲しいんだよな。月も菊も好きだし…。
見守るカップルを見つかるまでは自分用の土産ものを探してうろうろ。
あー、刺繍されたリボンがいいな。黒地か紺地に月、もしくは菊、それぞれが刺繍されたものを適当な長さで買う事にしよう。細工物にしてもいいし。
購入したら猟兵の仕事に集中するか。
人目が無かったら高い場所とか見渡せる場所に移動すれば見守りやすいしな。たぶん。



●惹かれ合うもの
「せっかくの秋の――重陽の節句だし、なにか面白いものでも出てないかな」
 催しの賑やかな空気に誘われるようにそう思った黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は、目に入った雑貨屋に入ってみることにした。
 勿論、ちょっと突飛な嗜好をもつ文豪女子、芙蘭を探すという目的を忘れたわけではない。ただ、一人で訪れた瑞樹にはいちゃつけるような相手はいないし、かといって民間人を口説くことも躊躇われる。そこで、彼女が好みそうな二人組を街中で見つけ、彼等を見守りながら同時に芙蘭を探すつもりだった。
 それなら街の通りよりも、店の中の方が探しやすいだろうとも考えてのことだ。瑞樹が入った店には丁度狙ったかのように、ペアで身に着けるような装飾品を多く扱っているようだったし。
 ほら、今の。
 月をイメージした指輪をみている男性二人組など良いかもしれない。別に柄が気に入っただけだから、とお揃いを否定しているあたりとか、瑞樹には良く分からないけど、なんというからしい気がするし。
 そうやってある程度的を絞ったところで、瑞樹は自分の買い物を開始する。
「食器類は一通りそろってるし、装飾品はあまり付けないんだよな……」
 だからといって大きな調度品は嵩張ってしまう。店内の一つ一つのエリアをざっと見ながら瑞樹は思案する。どうも、なかなかぴったりと気に入るものが見つからない。
「でも、折角だし何かしら欲しいんだよな。月も菊も好きだし……」
 今回は依頼がかみ合ってこうしてくることになったが、自分一人ではきっとこのような催しにはあまり足を運ばないだろうし。
 さてどうしたものかと服飾のエリアを抜けた瑞樹の目に入ったのは、手芸の材料を集めた棚だった。
「……リボンか」
 期間限定とラベルが貼られた棚にあったそれを見つけて、瑞樹は内心でぽんと手を打った。
 黒や紺、白と色とりどりに並べられたそれには、月と菊があしらわれた文様が刺繍されている。触り心地も良いし、持ち歩きにも困らない。場合によっては細工物に加工しても良いだろう。丁度良いと思って、紺色のそれを適当な長さで購入することにした。
 みれば、先程見かけた二人組も丁度店を出るところのようだった。手早く支払いをすませ、瑞樹は一定の距離を保ちながら後を追っていくのだった。
 
 
 カフェーのテラス席にて、平平・晴(一般人・f27247)はもそもそと注文したサンドイッチを食していた。ちなみに具材はベーコンにトマト。所謂BLTサンドというものである。何でこれを選んだかといえば、ずばり名前が好きだから。
(……彼女へは超絶親近感を感じます)
 事前に情報を聞かされた時から、晴――本日の人格である腐晴はどうも芙蘭が他人事のように思えなかった。それはまるで、魂で通じたかのような、遠くで戦っている同士に気付いた戦友を見つけたかのような感覚と、悦び。
 ――そう、触れるジャンルは違えど、腐晴もまた、その手の耽美を好む一人であるのだ。
(私が彼女の立場なら、カフェーテラスで街を行き交うヒトを眺め、イケメン定点観測をするかと)
 徒然なるままに日暮し硯に向かいて耽美を綴る……そんな古の名言の通りに、目に映るあらゆる事象を心行くままに思い、そして妄想を高めていくだろう。今まさに腐晴が実践しているかのように。
 あっちの雄み溢れたガチムチ兄貴……受。
 こっちの線の細い儚げ美少年……攻。
 サディストみ溢れたインテリ眼鏡は実際のまごうことなくド受け。強面のお兄さんに壁ドンとかしちゃってるけど間違いはない。郵便屋さんは攻め。ポスト……攻めがいるから受! なんでも受け止めくれるし(物理的に)。
 無表情で紅茶を飲みつつ、腐晴は黙々と脳内受攻判定会議及び脳内耽美捜査本部を全力展開していく。意見の食い違い反論は勿論聴くが、誰も彼女を否定することは赦されない。
 意外性のある組、要素というものは何時だって心惹かれるものだ。例えば陽気な美少年より、その対応に辟易する少年の方が案外えげつなさそうだったり、鯛焼きから始まる恋も斬新だ。かといって王道もやはり心惹かれますよね、悪徳じみた素敵お兄様が少年を篭絡するとか、気の置けない親友のような、腐れ縁から始まる恋とか、初心な少年の赤らめた顔とか、それを微笑んでみつつ己の感情を隠しているつもりの眼鏡(こんどは攻)とか! 嗚呼しかし、女性と見間違うばかりの美しい二人という組み合わせもそそるものがある!
 男二人連れ添い歩けば耽美が生まれる。腐晴が見る妄想で補強した腐ィルター越しの景色は今日も今日とて世界は尊い。
 はい今近くの席でいちゃいちゃ頂きました有難うございます! あそこの顎くいも頬に手を添えた貴方も全世界の女子を救います!
 もてる精神力を総動員してにやける顔を抑え冷静を装って居るも、もはや腐晴の心中はブレイクダンスの合間にタンバリンを振り鳴らしつつ和太鼓を叩くレベルの大騒ぎである。つまりそれだけすごいのである。
 こんな素晴らしい空間なら、かの文豪も必ずいる。間違いなくここにいる。なぜなら彼女もまた、同じ魂を持つ者だから。
 そして、彼女の歯牙にかかる新たな男性カップル(腐フィルター実装済)がまた一組。遠くから彼等のことを見守っているのはおそらく同業者(猟兵の方)の様だった。
 彼等に目をつけるとはお目が高い。なんて口には出さず腐晴は腐っとくる二人を観察の観察を始めて。
 そして、今度こそ気付いた。露店の本を漁る振りをして彼等をガン見している魂の同志の存在に。
「あのっ」
 遠くで見守っていた方の猟兵――瑞樹を腐晴はそっと手を挙げて呼ぶ。腐晴の様子に気付いた瑞樹が彼女の元に来るのを待って、見つけた目的の存在と場所を伝える。
「腐乱……じゃなかった、芙蘭女史、見つけました」
「本当か?」
 確かめるように問う瑞樹に腐晴が確信をもって頷く。
 扱うジャンルの差、解釈違いに逆カプ地雷、きっと彼女は同型ではないけれど、それでも腐晴と芙蘭は同類なのだ。同類には同類にしか分からないものが第六感的ナニカがする。
 妙に説得力のある彼女の言葉に、瑞樹は頷く。正直頷くしか選択肢が無かった気がするけれどそれはまぁ、置いておいて。
「なら、俺が後を追っておく。君は他の猟兵達に連絡を」
 折角見つけた彼女を逃す訳にはいかない。腐晴と瑞樹はお互い頷き合い、それぞれの仕事へと戻るのであった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『文筆夫人・黒住霧子』

POW   :    この子?私のかわいい「悪魔(ダイモン)」よ
自身の身長の2倍の【黒霧の魔獣】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD   :    ねぇ、あなたの物語を教えて?創作の種になるわ
【レベル×5の白紙の原稿用紙を飛ばす事】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【用紙に書き留められ戻る事で記憶や過去】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    私の創作活動を邪魔しないでくださる?
非戦闘行為に没頭している間、自身の【召喚した黒霧の魔獣】が【近づくもの全てを攻撃し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は推葉・リアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花園芙蘭の華麗なる一日(暫定)
 その日、花園芙蘭はかつてないほどに悦に浸っていた。
「なんなの……ここは天国なの……」
 興奮のあまり乱れてしまったおさげをかきあげ、ズレた眼鏡を押し上げる。そうしている間にも、彼女の頭の中は先程まで目撃した夢の様な数々の光景を反芻している。
 本来であれば今日はとても憂鬱な日であった筈だ。締切は刻一刻と迫る一方、話の構成は纏らず煮詰っていくだけ。肝心の資料もつい先日駄目にしてしまったばかりで、何をとっても悪いことばかり。
 それがどうだ、街を出歩けば芙蘭好みの美男子美少年があちらこちらを闊歩し、あまつさえ胸をときめかす事ばかりをしている。止まっていた筆も高速で動こうというものだ。
 一度落ち着きを取り戻すべく路地裏へ来たが、それでも網膜に焼き付けてきたあれやこれやこんなんの光景は彼女の脳裏から消えることはない。いいや消してなるものか。
 すでに殴り書きが綴られた手帳を開き、思いつくままに言葉を書きつける。この興奮を速く、疾く作品に昇華させなければ。いやしかし今日はまたとない資料の宝庫だ。もう少し観察を重ねて……あまつさえお持ち帰りできればもっと捗るかもしれない。
 さぁどうしよう。めくるめく妄想に芙蘭の口は緩み、自然と変な笑い声があがる。
「ああこれは……やはり運命が私に味方しているとしか! ご褒美ですか、ご褒美ですね!」
「いいや、罠だよ」
 その時だった。彼女の背後から、そんな声がかかったのは。
 驚いた芙蘭が振り返ると、そこにはついさっきまでいちゃいちゃと理想の光景を生み出していたイケメンたちがずらりと並んでいた。 そして彼らは言うのだ。見つけた、と。
 そこで芙蘭は瞬時に全てを理解した。
「まさか……わたくし奪い合う為に誘き出したというの⁉」
 いえ違います。
「じゃあまさか……わたくしの授けられた異能を狙って……」
 いや異能というか篭絡ラムプなんですけど。概ねはあっていいるから良しとしよう。話が進まないし。
「嫌よ、わたくしはこの力を使って帝都を揺るがす傑作を生みだすの! 邪魔はさせないわ!」
 予想通り、芙蘭はおさげの髪をぶんぶんと振って猟兵達を拒絶する。それでもこちらに見逃す気はないと悟ると、懐から小さなランプを取り出した。
 猟兵達の間に緊張が走る。芙蘭はその様子ににやっと笑うと、ランプが一人でに火と灯し――。
「斯くなる上は……お姉様、やーっておしまい!」
『……貴女その台詞、言ってみたかっただけでしょう?』
 芙蘭とは対照的に至極冷静な突っ込みを入れつつ、ランプの炎の中から女性の姿が現れる。
 焔に合わせて揺れる身体は、彼女が生身のヒトではなく影朧である証。彼女が従える黒霧の獣は、彼女が扱う力が尋常なものでない印。
『まぁ、いつかはこうなると思っていたけれど』
 多くの猟兵達に囲まれる中で、それでも彼女は悠然と己が名を口にした。
『私は黒住霧子、この子と同じく、小説を書くことを嗜みとしているの。……早速だけど、邪魔をさせてはあげない。私は彼女の熱意が気に入っているのだもの』
 優美な動作で己の従える獣の背に乗り、どこからか原稿用紙と万年筆を手にした霧子はうっそりと嗤う。
「彼女が綴る物語も、それに情熱を捧げる彼女の人生も。私にとっては最高の題材よ」
 霧子の無力化しなければ、芙蘭から篭絡ラムプを奪うことは難しいだろう。逆に、霧子さえどうにかしてしまえば芙蘭を力尽くで説得することも難しくはない。
 影朧は今のところ、主である芙蘭を守ることを優先して動くだろう。真っ向から戦うことも勿論可能だが、彼女が守るべき対象、芙蘭は只の一般人である。戦闘中の立ち回りは不慣れであるだろうし、これまでの性格上、興味を惹くものに出会えば影朧の動きを制限させ、隙を作ることもできるかもしれない。それこそ耽美とか。
 また、霧子自身も長く彼女に従ってきた身である。多少感化されている部分も無きにしも非ず……かもしれない。ほら、耽美とか。
 閑話休題。
 猟兵達は暴走する芙蘭を留めるべく、各々戦いに臨むのであった。
黒河内・柊夜
耽美はよく分からんが突然のキャラ変が嫌いな創作愛好者はあまりおるまい!
ということで眼鏡なぞ放り投げて我のターンである!!
(副人格注釈:投げるな)

腐れし女史の業はその夢想の力、それは関係性のみでなく観測する個人の属性も対象となると聞いた
つまり!我が過ぎ去りし闇の……えーっとアレだ、トラウマ属性、好むであろう?

ふ、この力を使う時が来てしまったとはな……
【黒き箱の呪い】解放、【忘れ難き記憶の棺】を発動!
くっ……封印せし深淵の記憶が暴走する……
金属の軋む音が蘇る……頭が割れそうだ
(副人格注釈:この辺で絵になる角度で苦痛に満ちたキメ顔)

言うてあとは正面から殴るだけであるがな!
我が根源の闇、くれてやろう!



●行きはよいよい(振り)返りは怖い
 先ずと先陣を切ったのは、無駄にテンション高く高笑いを上げる黒河内・柊夜(中途半端にこじらせた・f16288)であった。
「耽美はよくわからんが突然のキャラ変が嫌いな創作愛好者はあまりおるまい!」
 何事も緩急というのは大切である。その急な変化に人の心は大きく揺さぶられ、その感情は搔き乱されることは間違いないだろう。
 まぁ所謂、ギャップ萌えというやつだ。
『貴方分かっているわね。劇的変化というものに人は魅力を感じるのよ』
「我が闇の意思に共鳴を見せるか、原初の福音の遣い手よ!」
 そう、丁寧な物腰で社交的なヒイラギはあくまで彼の副人格。彼本来の主人格は尊大で独特な語彙と口調を多用する柊夜なのである。或る意味これも大きなギャップと言えるだろう。
「ということで眼鏡なぞ放り投げて我のターンである!」
 かけていたヒイラギ愛用の眼鏡を顔からもぎ取り、高く高く放り投げて柊夜はそう宣言する。
 何故ならヒイラギは眼鏡を愛用するが、柊夜は眼鏡をかけないからだ。眼鏡の有無で口調どころか性格まで変わる。これもとても重要なポイントだと柊夜は熟知していた。
 ――ちなみに投げられたヒイラギ愛用の眼鏡が地面へと落下するまでの数秒。思い付く限りのカッコいいポーズを決めていた柊夜の脳内では、ヒイラギより全力のクレームが上がっていたが柊夜はこれもまた同じく全力で無視することに決めていた。だって別に誰に聞こえている訳でもないし……。
「眼鏡は! 投げるもんじゃないかけるものなのよ!」
 前言撤回。聞こえている人がここに一人いた。見れば声の主、芙蘭は飛び掛からんばかりの勢いで柊夜を睨みつけている。ラムプでレンズを光らせているその姿と剣幕は、正直ちょっと怖い。
 そういえば彼女も眼鏡をかけている。眼鏡の扱いについては人それぞれ、弱点にも逆鱗にもなってしまうらしい。
『嗚呼、機嫌を損ねてしまったわねぇ』
 これは大変、と霧子は芙蘭の指示に従うように黒霧の獣の背に乗り柊夜へと襲い掛かる。慌てて後ろに跳び退った柊夜が見たのは、彼の代わりに獣に穿たれ、大きく抉れた地面だった。その威力、一撃でも当たればおそらく被害は甚大だろう。
 しかし、柊夜には退く気など全くなかった。
「何故なら、汝の失われし鍵は既に我が手中にある!」
 含みをたっぷりと使って言えば、返ってくるのは霧子の胡乱な視線。その反応ににやりと笑い、柊夜は霧子の後ろ、芙蘭を真っ直ぐ見ながら説明をする。
「腐れし女史の業はその夢想の力。それは事象の因果のみではなく、観測する個人の属性をも対象になると聞いた……。つまり! わが過ぎ去り闇の……えーっとアレだ!」
 つまり、トラウマ属性です。過去の想起による乱される精神。これも大多数のその手の道の者が一度は手を出す道である。
「好むであろう?」
 この力を使う時が来てしまったとはな……。そんな前置きをいれ、柊夜は封印していた記憶の扉を自らの手で解き放つ。右腕に鉄製のワイヤー巻き付き、音を立てて車輪が巻き上げられる。その先についているのは錘と――巨大な鈍器としか言えない箱状の鉄の塊。
「くっ……」
 同時に、割れそうな程の頭痛が柊夜を襲う。
「封印せし深淵の記憶が暴走する……!」
 金属の軋む音が記憶の底から蘇る錯覚を感じた。手足が急速に冷えていく反面、心臓が暴れるように早鐘を打つ。自然、柊夜の表情は苦悶に満ちたものとなり、額には脂汗が浮かぶ。
 己のトラウマと向き合い続けなければならないこの力は諸刃の剣だ。使えば使う程彼の正気は削り取られていく、まさに危うい闇の力。
 ……と、微妙な解説を加えつつ自身の映える角度で苦痛に満ちたキメ顔をとっているので
 、おそらくもうしばらくは大丈夫でしょう(注釈:ヒイラギ)。
 それに対して、芙蘭及び霧子はというと。
「くっ……否定できない! 好みの殿方が苦しめば苦しむほどときめいてしまう自分がいることを見れば見るほど自覚してしまう……!」
 柊夜に負けぬ劣らぬの勢いで悶えていた。こちらは苦悶ではなく尊しである。終いには待って、とかいややめないで、とか意味不明なことを言う主の痴態に、さすがに引き始める霧子。とかいいつつ本人も柊夜の様子から視線を外せないのは戦闘が理由だけはあるまい。
 そして、そんな大きなチャンスを見逃す程柊夜もまた甘くない。生まれた隙に乗じて右腕を振り上げ、鉄塊を高々と宙へ持ち上げる。
 此処まで来ればあとはもう、正面から殴るだけだ。
「我が根源の闇、くれてやろう!」
「し、しまったー!」
 ずしん、と派手な音を響かせて霧子は乗った魔獣ごと、柊夜の鈍器に吹き飛ばされたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

獅子王・椿
◎自身の武器である大太刀を脇構えにし、余裕の笑みを浮かべつつ
「ようやく出てきおったわ。芙蘭とやらを利用して、帝都に混乱をもたらそうとしていると聞いてな」
芙蘭に対し「お主はラムプに頼って満足の行く小説が書けているのかの?我にはそうは見えぬぞ」
など二言三言会話した後戦闘に。(会話おまかせ

地面を蹴りだし一気に加速し霧子が騎乗している悪魔の懐に入り込みます。
 「この子?私のかわいい「悪魔(ダイモン)」よ(POW)」に対し、ユーベルコード「響華閃」を使い斬撃を浴びせます

(攻撃を受けた時は太刀で受け流したり素早く避けたりします。ある程度ダメージを負ってもOK、ダメージを負っても余裕ありそうな軽口叩きます。



●ギリギリで生きていたいのは恒常です
「ようやく出てきおったわ」
 獣を支えに身を起こした霧子の前に、獅子王・椿(復讐の鬼・f25253)は立ち塞がる。
 右足を引き、体は大きく半身を切る。手に持った大太刀の切っ先を後ろへと下げた脇構えの状態で、椿は敢えて余裕を持った態度で笑みを浮かべてみせた。
「芙蘭とやらを利用して、帝都に混乱をもたらそうとしていると聞いてな」
『利用だなんて。私も彼女も、やりたいようにしているだけよ。その結果がどうなるかなんて、知らないけれど』 
 二度、三度自身の着物を叩き、埃を払った霧子の顔にもまた笑みが浮かんでいる。虚勢ではないその言葉は、どうやら本当に彼女は創作の一環として芙蘭と付き合い、創作の為に望むことをしているようだった。
 ぎり、と椿は小さく歯噛みをする。おそらく霧子は知っていたのだ、その先にどんな被害や犠牲が出るか、全てを分かっていながらその状況も楽しんでいるのだろう。
「お主もお主だ」
 あくまで悠然とした態度を崩さない霧子の先、逃げ腰になりながらもこちらの様子を伺う芙蘭へと視線を滑らせる。こんな状態において尚、万年筆と手帳を離さない態度はさすがとしか言いようがないけれど、それでも今の彼女は間違っているのだ。
「お主はラムプに頼って満足のいく小説が書けているのかの? 我にはそうは見えぬぞ」
 だって、椿から見る彼女は苦しそうだった。繰り返し繰り返し『資料』を集めては執筆を行い、それでも満足のいく作品を生み出せずにいて、悩んでいる。篭絡ラムプの力が本当に万能であればそんなことは起こり得ない筈だ。だからきっと――。
「あ、あなたには分からないでしょう!」
 その力が彼女の道を誤らせる、と続けようとした椿の言葉に返ってきたのは、はっきりとした拒絶の意思だった。
「こんなのずっと前からだわ。書いても書いても満足なんてできないのも、全然かけなくて締め切り前がいっつも徹夜なのも、執筆が予定通りいかないのも!」
「それは生来故か……」
 どうやら芙蘭の筆の遅さも、雑念に気をとられてばかりなのもデフォルトの様らしい。いいのかそれで、と言いたいところだが、他でもない芙蘭が開き尚っているのだから仕方がない。
「だからこそ、ラムプの力をこうも容易く受け入れたのかも知れぬな……」
 ならばと椿はため息をついて太刀を握り直す。言ってきかなければ、後は力尽くでやるしかあるまい。
 呼吸を整え、椿が地を蹴った。弾丸の如き速度で駆け、引いていた刃を振り抜き、魔獣に乗る霧子へと斬りかかる。しかし魔獣は大きく跳躍することで躱した。
『悪いわね。貴方の様な坊やを手籠めにするのも悪くないと思うのよ』
 空中から降る勝利を確信した声と共に椿の視界に影がかかる。見上げれば、巨大な魔獣の前脚が降りかかり、その爪が彼女の身体を引き裂かんと迫って――。
「生憎、大人しく籠に入る程軟な性格はしておらなんだ」
 黒い霧でできた魔獣の足が、細切れに寸断された。爪が彼女へ触れる寸前、椿は己の太刀をその間へと滑り込ませていたのだ。爪が触れたのは柔らかい肉でなく、冷たい刀の切っ先。触れたもの全てを斬り裂く刃の切れ味は獣の爪に勝ったのだ。
『くっ……』
 霧子が己の手を抑え呻く。互いの力を高め、生命を共有しているからこそ、魔獣のダメージは直接霧子のものとなってしまうのだ。
「お主がなんと言おうと、そのラムプ、奪わせてもらうぞ」
 刀に残る霧の残滓を血振るいで落としつつ、椿は不敵に笑うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

平平・晴
イケメンを攫って資料にするなんて何て羨ま…けしからんですね
ちょっと後でその話詳しく聞かせて下さい

芙蘭さんの安全を確認しつつ
霧子さんをUCで感化させ腐沼へ引きずり込む事で攻撃を封じます

愛に性別は関係ないです
固定観念から解き放たれ
自由にCPを愛でるって素晴らしいと思いませんか

ギムナジウムの美少年×美少年は至高ですよ
スーパー攻様×平凡一般人なんて如何ですか
攻同士左右を争い喰らいあうようなケンカップルとか
主従関係は王道ですかね下克上も良きものです

めくるめく男と男の美しき愛の饗宴
美こそ正義
愛こそ正義
妖艶甘美な耽美沼においでませ

まだまだ推しカプはあるんですもっと語りましょうkアッ(レベル秒以上使用で死亡)


贄波・エンラ
さて、どうしようか
一先ず鎖剣で夫人に一度だけ攻撃をして傷をつけるけれど
それは「痛みのない傷」だ、傷つけたことにも気づかせないよ
それから鎖剣を髪に戻して…これ以上攻撃する気はないと伝えようか
魔獣にも近寄らなければ攻撃されないんじゃないかな?

「どうしても芙蘭くんとともに居たいと言うんだね?じゃあ仕方ない、この上僕に君を傷つける意図はない」
にっこりと笑って
「教えてくれないかな?君の目から見る彼女の好きな作品は?君のお気に入りのシチュエーションは?」
たくさん話をして、「話をさせて」、最初につけた傷が致命傷にまで至るのを待つよ

「傷つける意図はないと言ったね、あれは嘘だ」
「だけど、痛くはなかっただろう?」



●MN5(本気で沼落ち5秒前)
 獣が纏う黒い霧と戦闘の土煙に紛れて、一筋の影がうねった。
 長くしなやかなそれは音も無く空中を泳ぎ、影朧の死角へと滑り込む。完全に気配を消しているそれに、一般人の芙蘭は勿論、霧子でさえも気付くことはない。
 気付かれないままにその影――贄波・エンラ(White Blind・f29453)の髪から作り出された鎖剣は霧子の胸に小さな傷跡を残して、彼の手元へと返っていった。
『なに……?』
 気付かずとも何かを感じたのだろう、霧子が不思議そうに周囲を見渡した。しかし凶器は既にエンラの手の中だ。そして、この刃が付けた傷も、霧子は気付くことはできない。
 何故なら、それは痛みを感じることが出来ないからだ。傷自体も『今』はとても小さい些細なもの。気付いたとしても痛みが無ければ、気にするほどのものではないと判断するだろう。まるでそれは麻酔のように、ゆっくりゆっくり、彼女の信号を眠らせていく。
 そいういうものなのだ、エンラの使う技というのは。
「さて、どうしたものか」
 そんなことを一切悟らせず、エンラはさも困ったというように顎に手を添えた。勿論、髪をかきあげるふりをして鎖剣をしまうことも忘れずに。
「どうしても芙蘭くんとともに居たいと言うんだね? じゃあ仕方ない、この僕に君を気付ける意思はないよ」
 そう言ってにっこりと笑い、エンラは武器一つ持たない諸手を上げて見せる。魔獣にも一切近づかず、攻撃の意思がないことを示した。
 これ以上攻撃するつもりがない、というのは本当だ。手は既に打ってある。あとはエンラ自身が何かをする必要はもうないのだから。
『……貴方、本気で言っているの?』
「勿論。それよりも――そちらのお嬢さんの方が先程からキミ達に物申したいとうずうずしているようだからね」
 あとはそちらに任せるとしよう。そう残し、エンラは後ろに居る猟兵の彼女へと視線を送った。
「さて、教えてくれないかな? キミの目から見る彼女の好きな作品は? お気に入りのシチュエーションは?」
 それを聴いて、エンラは精々楽しむこととしよう。 
「イケメンを攫って資料にするなんて……」
 エンラに促されて前へと出た彼女――平平・晴(一般人・f27247)、もとい腐人格の腐晴は、そう言いながら霧子と芙蘭の前へと歩み出た。
「なんて羨ま……けしからんですね。ちょっと後でその話を詳しく聞かせて下さい」
 勢いでうっかり本音が漏れているが、それはデフォルトだ。目の前の彼女達に比べればきっと些細な事、の筈。
『あら、気になるのなら貴女も招待して差し上げてよくてよ?』
「……っ、それも大変魅力的ですが!」
 しかし、そんなことに今は気を取られてはいけない。いやそんなことと言い切ることはできないのだが、とにかくいけないったらいけない。
 今は霧子を押さえつけ、芙蘭を無力化させなければならないのだ。たとえ目の前にどんなに魅力的な餌があったとしても、いたいけない美少年美青年たちの為に、腐晴は立ち上がらければいけないのだ!
 だから、と腐晴は眼鏡を逆光気味に光らせながら、宣言する。
「今からあなたを――より深く、より深淵に。腐沼に落とします」
 ユーベルコード、『万物乗算』。展開。
 森羅万象、この世の全てはカップリングで成り立っている。その世界を、腐晴は大きな代償を払うことで今ある世界に映し重ねる。
 つまり何かというと――具体的には腐晴の妄想が今この場に湧き上がりこの場の固定観念をぶち壊します。
「愛に性別は関係ないです。固定概念から解き放たれ、自由にCPを愛でるって素晴らしいと思いませんか」
 大きく息を吸い、腐晴は己の内に広がる(腐った)海のような世界を謳う。
「ギムナジウムの美少年×美少年は至高ですよ、閉鎖された空間の中で育まれる無垢な心と揺れ動く人間関係、そして染まってく愛欲の世界……! あ、スーパー攻様x平凡一般人なんて如何ですか一般的にはスパダリに属されますが、平凡受けちゃんが翻弄されるのも胸キュンものですよ勿論異種として攻同士左右を争い喰らい合うようなケンカップルとか意地っ張りな所が可愛らしいですし主従関係は王道です左右の好みは分かれますが意味深下克上もよいものでですね!」
 つらつらと澱みなく吐き出される性癖の奔流。無論、ここまで腐晴は一息である。オタク特有の早口というやつだ。
『……これ、は』
 吐き出された性癖と流れ出る妄想の映像に霧子が目を見開く。今、彼女の中にあった『恋愛は男女が基本。それ以外はあくまで嗜好としてのジャンル』という固定観念は腐晴により粉々に撃ち砕かれていた。
 つまりどういうことかというと。
『私はなんて……なんて、意固地になっていたのかしら。創作の種の一つだなんてとんでもない、これは一つの文化よ、真の愛の形というものなのね!』
 霧子さん、性癖覚醒しました。
「正確には目覚めつつあった素養を促進させたという感じですね!」
 誰に向かってか分からない解説を織り交ぜつつ、腐晴は己の妄想で霧子を取り囲み、無力化させる。
 ちなみに後ろで護られていた芙蘭はどうしているかといえば、腐晴の妄想にとっくに悶え転がっていた。事前に彼女の場所を確認した為、腐晴の力の範囲外ではある。多分大きな影響はないので今回は放置しておくことにするとしよう。
 腐晴の妄想は止まらない。先程まで己が目撃した麗しき光景を映像と言葉の形へと昇華し、霧子へと見せつける。霧子もまた、それに呑まれ、黄色い声を上げつつ迸る己の衝動を解放させていく。
 めくるめく男と男の美しき愛の饗宴。
 美こそ正義、愛こそ正義、妖艶甘美な沼においでませ。
 ……しかし、その夢のようなときは長くは続かなかった。
「まだまだ推しカプはあるんですもっと語りましょうkアッ――」
 飛びきりの美男子を前にした時のような悲鳴を最期に、腐晴はその場に倒れ伏す。
 そして、死んだ。
『ちょっと貴女――⁉』
 世界を変えるほどの強大な力の代償は大きい。許容量以上の力を行使した腐晴はその命と引き換えに彼女を沼落ちさせたのである。
『ちょっと、目を開けなさい! そこで小悪魔少年は攻に何を言ったの、それを聞かなければ夜も眠れないじゃない!』
 霧子が彼女を抱きおこし、その身体を揺さぶるも腐晴が目を開けることは無かったが、その顔はどこか満足そうに見えた。
『なんて……なんて惜しい人を失くしてしまったの……』
「ならば、次はキミの番というものだろう」
 腐晴を抱きしめたまま涙ぐむ霧子に声がかかる。
 そして、ぱちんと指の鳴らす音。
 それを合図に、霧子の胸から赤い血が噴き出した。
『え……?』
 見下ろせば胸元から脇にかけて、深い深い裂傷が刻まれている。それは赤い液体を噴き出し、みるみる命を零していく。
 それなのに、不思議と痛みを感じない、体が危険を感じていない。それが不気味だった。
「彼女と随分お喋りを楽しんだようだからね。思ったよりも早かった」
 傷付けた本人、一連の二人の流れをにこにこと眺めるに徹していたエンラが霧子にそう言葉をかける。
 それは紛れもなく、エンラが鎖剣によって付けた傷だった。
 『眠りの森(モルヒネ)』。それはエンラがこの場に居る限り、彼女が声を出せば出すほど深く広がり続ける痛みの無い傷。妄想の世界に足止めをされ、言葉を紡ぎ続けた彼女の傷は、気付けば取り返しのつかない程深く広がってしまったのだ。
「傷付ける意図はないといったね、あれは嘘だ」
 だけど、とその場に蹲る霧子をみてうっそりと笑いながらエンラは言う。
「痛くはなかっただろう?」
 傷ついたのは、他でもない彼女の意思からなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹

右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

資料がないとかけないとか書き手として限界では?
絵師として人体構造とかポーズとかの意味の資料ならともかくなぁ…。

耽美とかはできる人に任せた。
相手がいるいないに関わらず人前でいちゃつくとか俺には恥ずかしくて死ぬ。無理。
まっとうな惚気を聞くのは平気なんだがな。
存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして隙を見て可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC菊花で攻撃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないもの武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。

過去)剣の師匠(神鏡のヤドリガミ)との稽古。勝った覚えがない。



●現実は時として見たくない
 そもそもの話さ、と黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は至極、とても至極真面目に、芙蘭の行いに対して思ったことを口にする。
「資料がないと書けないとか書き手として限界では?」
「はうぁっ⁉」
 その一言で、妄想の楽園で悦に浸っていた芙蘭は一気に現実へと叩き戻された。
「そ、そそそそんなことはないですし」
「絵師として人体構造とかポーズとかの意味での資料ならともかくなぁ……」
 創作する上で生身の少年達がいないと書けないというのは、それが彼女の臨界ではないのだろうか。それを無理しようとするから、こうして事件が起こってしまうのだ。
「こ、これはインスピレーションを呼び寄せるだけですしー! それに脚本というかシチュエーションはわたくしが考えたものだもの、わたくしに限界なんてないわ!」
「でも結果、満足いってない訳だろ?」 
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」
 悪気は全くないが、それ故にざくざくと刺さる瑞樹の言葉に芙蘭は呻く。否定が出来ないところが痛い、といったところだろう。それにしてももう反論の言葉が尽きるとは、文豪を語る割に呆気ない語彙力な芙蘭であった。
「う、うるさーい! あなたも大人しく、わたくし好みの資料になりなさーい!」
 瑞樹を言い負かすことができないとなるや、芙蘭は実力行使へと打って出る。彼女がラムプを振りかざせば、それに従うように蹲っていた霧子は立ち上がった。
 此処までの戦いで怪我を負ってはいるが、芙蘭の手の中にともるラムプの炎はまだ健在だ。霧子の余力はまだまだあると見たほうが無難だろう。
『……そうね、色々見方も変わったことだし、新たに集め直すことも大切ね。美少年をこう、重点的に』
 それまでのダメージ、というか目覚めさせられた性癖は確実に蓄積はされている様だが。それもなんか変な方向に。
 霧子の両手が掲げられる。そこから呼び出されたのは夥しい量の白紙の原稿用紙。霧子がそれを宙へと放ると、空の用紙は書かれる内容を求めるかのように瑞樹へと向かって飛来していく。
『貴方はどんな耽美を見せて呉れるかしら』
「御免だね。相手がいるいないにかかわらず、人前でいちゃつくとか死ぬ、無理」
 それに、その手の供給はこの後充分にありそうだし。出来る人がいるのなら彼らに任せるのが道理というものだろう。まっとうな惚気を見たり聞いたりするのはまだ平気な方であるし。
『なら、その身体に聞くまでよ』
 視界一面を埋め尽くさんとする原稿用紙が押し寄せる。真っ先に飛んできた一枚を己の勘を信じて避け、次に振ってきた数枚は右手の胡で斬り裂いた。そうして押し寄せる紙の束を対処しつつ、瑞樹は紙の奔流が生み出す影に隠れ、反撃のチャンスを伺う。
 斬り裂き、破片となった原稿用紙。その中でもひときわ大きいものが瑞樹の頬を掠めた。滲んだ血を吸い上げ、原稿用紙が瑞樹の記憶を書き留めていく。
 綴られたのは、かつての瑞樹の剣の師匠との稽古。此処とは違う世界の神社で日々鍛錬を積んでいた記録を視界の端で攫いながら、瑞樹はそっと思い出す。
 そういえば最後まで、師匠には勝てた覚えがなかったと。
『嗚呼、良いわね。師弟関係……主従にも劣らない甘美な響きだわ……』
 手元に戻ってきた原稿用紙を見て霧子がうっとりとする。その隙を見て、瑞樹は動いた。
 行く手を阻む紙を胡で蹴散らし、左手の黒鵺を走らせる。刃が彼女へと届く瞬間、瑞樹の瞳が輝き、その切っ先は九つに分かたれる。
 彼女と、その手の中の原稿用紙に銀の閃きが走った。
「だから無理って言ってるだろ」
 残心を解くと同時に細切れにされた記憶の紙を吹き払い、瑞樹はそう、拒絶の言葉を繰り返したのだった。
 無理強いはダメです、絶対。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

ほぅ、ふむふむ
彼女らの仰っていることはコアすぎておそらく半分ほどしか理解できませんが
まぁなにとなく察せはします

敵を警戒して僕の前に立つザッフィーロを見れば
ああ、今日もかれは格好良いですねぇと惚れ惚れ呟いてみせて
動揺するかれを見て楽しみつつ
こんな感じでしょうか?と彼女たちの様子を伺いましょう

即座に僕を守ってくれたかれにありがとうございますと微笑みつつ
霧子嬢の攻撃直後の隙に「多重詠唱」「高速詠唱」で練っていた
「属性攻撃」「全力魔法」を付加した【天航アストロゲーション】にて攻撃しましょう

Hi、darling
よそ見は禁物です
攻撃じゃなく、僕を見ていてくださいね


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と手を繋ぎ現場へ
ご褒美…取り合い…?全くもって思考が解らん
だが宵は渡せぬ故…宵、後ろに下がって居ろ…?

戦闘時は常に敵から宵を隠す様前に立ち行動
…彼奴に見られると背筋が粟立つからな
宵に斯様な思いをさせる訳には行かんだろう

戦闘は『怪力』を乗せたメイスを振るい【全能の目】にて問いを
嫌がる者を監禁してまで望む傑作とは、何なのだ…?

攻撃になれば良いが答えられたらついぞ動きが止まる
…何を言って居るのか全く分からん…っ

投げられる原稿から宵を『盾受け・かば』いつつも
ああ…宵の攻撃は美しいな…と心を鎮めるべく流星を見上げよう
ん?見つめていては護れんだろう
だが心を落ち着かせる為なら仕方ない、な?



●恋は盲目
「ほぅ、ふむふむ、なるほど」
 混沌と化した会話の応酬を聴いていた逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は、その言葉に繰り返し頷いた。残念ながら(味方側を含めた)彼女達が言っていることは半分程しか理解できなかったが、言いたいことはまぁ何となく察することはできる。
「ご褒美……取り合い……? 全くもって思考が解らん……」
 一方、そんな宵と共に現場に駆け付けたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は一部特殊な文化の言語に戸惑っているようだった。そりゃもう全力で。
 ……余談だが、そうしている間にも、そしてこの場所に来るまでも、二人の手は固く繋がれている。まるでそれが至極当たり前の状態であるかのように。解っていないながらそんな状態を作り出すあたり、とても罪深いカップルである。
「どちらも業が深いということですよ」
「業……? つまり、彼女もまた赦しが必要ということなのだろうか」
 宵が補足を入れるも、どうやらザッフィーロはあらぬ方向へ理解を進めてしまった様だった。少し悩むような素振りを見せた後、己の武器であるメイスを手に一歩、霧子へと間合いを詰める。
「宵、後ろに下がって居ろ。彼女達の罪がどうであれ、お前は渡せぬ故」
 それに、どうも彼奴に見られていると背筋が粟立つ感覚を覚える。自身の大切な半身に、同じような想いをさせる訳にはいかない。
 視線と言葉で己の半身を下がらせながら、ザッフィーロは霧子へと武器を横薙ぎに振りぬいた。
『……危ないわね』
 何の細工も無い、小手調べのような一撃だ。当然の如くそれは霧子が召喚した黒霧の魔獣によって防がれる。
 しかし、ザッフィーロの狙いは打撃での攻撃では無い。霧子と、そしてその奥にいる芙蘭へ充分に近づいたことを確認した彼は、凛とした声で『問いかけ』を投げる。
「お前達が嫌がる物を監禁してまで望む傑作とは、何なのだ……?」
 同時にザッフィーロの周囲に、瞳状の異形が現れた。人々の罪穢たるそれは茨の躰をうねらせつつ、問いただされた霧子を、そして芙蘭を巨大な眼でじっと射抜く。
 この瞳に秘される所など何一つなく。虚偽の罪を重ねれば、穢れの茨は忽ち彼女らを戒め罰を与えるであろう。
「……そ、そんなの、決まってる」
 この世の者と思えぬ異形に怯えながらも、真っ先に口を開いたのはラムプの主たる芙蘭であった。
「帝都一の耽美小説よ! 見る者全てが耽美物の虜になってしまうほどの、熱く胸をときめかせるほどの作品。そうして私はこの道の尊さを帝都に広めるのよ!」
「……その心は?」
「……わたくしがそんな作品を見たいッ!」
 無いならば、作ってしまえ創作活動。
 ぽとんと枯れた茨と瞳が地面に堕ちた。ザッフィーロの罪暴く罪穢は、真実を述べさえすれば解除されてしまう。
 花園芙蘭という娘。彼女は恐ろしいほど自分に正直なのであった――。
「な、何を言っているのか全くわからん……っ」
 真実を聞けども、その内容の理解がさっぱりと追い付かないザッフィーロ。それでも暴れる魔獣と応戦し、宵を護る構えを崩さないのはさすがと称賛すべきところであって。
「ああ、今日もかれは格好いいですねぇ……」
 そんな彼の姿に見蕩れながら、宵はしみじみと、そして惚れ惚れとした心地で呟いた。
「なっ……今はそういうことを言っている場合では無かろう」
 その言葉に分かりやすく動揺する様も、宵にとっては微笑ましくも魅力的なものである。もっとも、戦う彼も、そうでないときの彼も宵にとっては一番であるけれど、ここは敢えて声高に主張したい。
「こんな場合だからですよ」
 ね、こんな感じでしょうかと宵が視線を滑らせてみれば、視界に映ったのは荒い息で声にならない歓喜の悲鳴をあげている芙蘭。と、乗っている魔獣の背をばんばんと叩きながら口元を抑えている霧子。
 宵はにっこりと微笑む。こちらもとても分かりやすく、実に効果てきめんであった。
「だか、ら、そういうところー!」
『もっと全部見せなさい! 具体的にそう、過去にあったあんなことやこんなこと!』
 我慢できなくなったのか、霧子の白紙の原稿用紙が乱れ飛ぶ。人の記憶を洋墨のように吸い上げ、書き留めるそれは霧子の逸る気持ちがそうさせたのか直線的で大ぶりな一撃となり、いともたやすくザッフィーロの淡い光の盾に受け止められた。
「生憎ひとかけらも、宵をくれてやる気はないのでな」
「ふふ、ありがとうございます」
 目の前に立つ彼の広い肩に目を細めつつ、宵の杖が真っ直ぐに霧子を指し示す。彼と、彼女達の動揺のおかげで魔力は充分に練れた。
「星降る夜を、あなたに」
 詠唱の最後の一節が紡がれるとともに、霧子へ向けて空から星の残滓が落ちる。降り注ぐ流星は次々と光の筋を残し、彼女達に降り注いだ。
「ああ……宵の攻撃は美しいな……」
 戦いとは別の方向で疲弊していたザッフィーロは、流れる煌めきを見て思わずそう呟く。耽美とか尊いとか、分からないながらも奔る悪寒と鳥肌に乱れていた心が鎮まっていくのを感じる。可能ならばいつまでもこうして見ていたいくらいだ。
「Hi、darling」
 そんなザッフィーロの視界に翳される白い手が、一つ。聞きなれた言葉と共に手はザッフィーロの顔に添えられ、やや斜め下へと引き寄せられる。
「よそ見は禁物です。攻撃じゃなく、僕を見ていてくださいね」
 そうして誘導された先には、予想通りの星明りに映える宵の微笑み。
「ん? 見つめていては護れんだろう」
 それでも、と。紫の瞳に反射する煌めきを見つめながらザッフィーロは思い直す。
 そうは言っても、心を落ち着かせる為ならこれも仕方ない、と。
 
 
 そうやっていちゃつく彼らの横できゃあきゃあと上がっていた悲鳴は果たして何色だったか。それを見ているものは誰もいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
ヴォルフくん(f09192)と

あははどっちも腐ってるんだね
でも男同士って昔から結構あるのになぁ
王族将校なら男の愛人侍らせてたし
ひとの文化のようなものだと思ってたけど
なんて興味を引きそうな話をしてヴォルフくんの時間を稼ぐよ

なるほど叶わぬ悲恋かぁ
幻を悠々と鑑賞
あぁでもさ
来世でどうなったかって【終幕】も必要じゃない?
追い打ち?違うよ善意だよ

来世でもやっぱり敵同士に
俺様が捕虜になっちゃって
ヴォルフくんだけが前世の記憶が戻って助けようとするけど
俺様の記憶が戻らなくて冷たくするヴォルフくんと
なにもわからないで憎むけど時々優しいのが引っかかる俺様
さて俺様とヴォルフくんが幸せを掴む時は来るのか―
なんてね、ふふ


ヴォルフガング・ディーツェ
ロキ(f25190)と
俺達を創作の題材にする腐乱…間違った、芙蘭を更に題材にすると。腐女子を越える霧子は貴腐人??

【指定UC】で喜劇の幕開けを告げよう
「ハッキング」「誘惑」「精神攻撃」「全力魔法」を活用、霧子に接近し接触し精神干渉を行おう
見せる幻はBLに良くある、憎からず思いながらどうにもならない背景から敵同士で殺し合うロキと俺のシチュ
お互いの攻撃で息絶えるダメージをフィードバックさせよう
多分、「来世で幸せになろう」と言いながらロキの顔に付いた血を優しく親指で拭ったりしていると思う。戦場で死屍累々の中で。

あ、「残像」で芙蘭にも同時中継して意識を逸らそうねえ
…え、ロキも追い打ちするの残酷!!?



●特技は白昼夢です
 篭絡ラムプの主、花園芙蘭は腐女子である。いや、サクラミラージュにそのような呼称はあるか分からないから厳密には別の名称があるかもしれないのだが、まぁ意味合いは大きく変わらないだろう。
 それなら、とヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)は考える。目の前の霧子は一体何と呼べばいいのだろうか。
「そんな俺達の創作を題材にする腐乱……間違った、芙蘭を霧子はさらに題材にする、と」
 そして勿論、霧子本人もほんの少し前に覚醒したことではあるが腐っている。それなら彼女も同じ腐女子だろうか。しかし、芙蘭自体を話の種にするというのなら、同じ括りにいれるのは、なんだか違う気がしてならない。
「つまり腐女子を超える霧子は……貴腐人?」
『待ってなんかとてつもなく不名誉な呼び方をされた気がするわよ⁉』
 ヴォルフガングが言った傍から霧子の鋭いツッコミが入った。どうやら当て字や呼称の文化はわからなくても、薄々どのような意味合いで言われたのかは感づいたらしい。
「あはは、結局どっちも腐ってるんだね」
 怒る霧子の様子を見ながら、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は面白そうに笑い声をあげる。ロキから見れば芙蘭も霧子もどっちも似たようなもの、呼び方の差など些細な話だが、そうやって反応する様子は見ていて面白い。
 だから、せっかくだからもっと面白い反応を見てやろうと思い、ふと真顔を作って話してみせた。
「でも、男同士って昔から結構あるのになぁ。特別、なんて言えないよ」
『……どういうことかしら?』
 案の定食いついてきた霧子ににんまりと笑いつつ、ロキは記憶に残るそれを語る。
「そういうことだよ? 王族将校なら男の愛人なんて当然のように侍らせていたし、有名な芸術家だってきれいな男の人を好んでいたよ。ひとの文化なんてそのようなものだと思っていたけれど、最近は違うんだねぇ」
 ええと、あれはこの世界だとどんな名前のひとだっけ、なんてわざと忘れた振りをしながら霧子の様子を伺えば、彼女は分かりやすいくらい身を乗り出してロキの話を聞いていた。散らばっていた白紙の原稿用紙を引っ掴みメモ代わりにしているあたり、かなり興味を惹かれた様子だ。
『もう少し詳しく話してくださる? その人の位は? どのような恋物語がどこにあったのかしら?』
 鼻息も荒く詰め寄る霧子にロキはにっこりと笑う。創作と題材の蒐集という非戦闘行為に夢中になっている霧子だが、ロキはその提供元。さすがの魔獣も敵と見なせず手を出さないらしかった。
 そんなだらしない顔の彼女に勿体ぶって話しながら、ロキはヴォルフガングにそっと目配せをする。その視線を受け、ヴォルフガングは彼女達に悟られないように頷き返す。
 彼がこうして霧子の機を引くのは、魔獣の攻撃を防ぐだけではない。相方の攻撃の為に、時間を稼ぐためでもあった。
 周囲の地面、壁にルーンを刻み、気配を消して背後から霧子へ近づく。彼女が伸ばされたヴォルフガングの手に気付いた時は、すでにそこは罠の中だ。
『しまった……!』
「さぁ、開演だ」
 刻んだ刻印を一斉に起動し、魔力を以って霧子へ精神干渉を仕掛ける。ヴォルフガングのイメージと彼女の心の回路が繋がれば、機械仕掛けの万能の神は幻想の舞台の幕を引き上げる。
 それはどこにでもある、けれど決して逃れることの出来ない恋の悲劇。
 霧子は見た。つい先程まで並んでいた二人の美青年――ロキとヴォルフガングが血に塗れ、凶器を振りかざし殺し合っている光景を。
 
 ――特別だった。本当はこんなこと、したくはなかった。彼らの苦し気な表情がその心理を様々と物語っている。
 求めても求めても交わることは決してなく、二人の男を繋ぐ糸は運命ではなく戦場の血の赫い糸。なればせめて最期は共に。幾多の屍を踏み越え、二人は真の意味で一つになるために死地へと赴く。
 
 ――まぁ要は、その界隈には割とある、憎からず思いながらも互いのままならない背景の為敵同士になる、という設定の二人の映像を霧子の脳内に直接流し込んだのである。最終的にお互いの攻撃で息絶える際のダメージを霧子への精神攻撃として反映させようと考えていたのだが……。
『き、きゃあああ――ッ!』
「……早くない?」
 すでに前半から霧子は悲鳴を上げまくっていた。幻覚に捕らわれた霧子の目は呆然――ではなく明らかに恍惚とした光を宿している。足止めの意味も含め、折角なのでと残像で幻覚を中継させた芙蘭の反応はもはや言わずもがな。

 ――幻の中で、ヴォルフガングの剣が深々とロキの心臓を貫いた。服を、体を深紅に染め、崩れ落ちるロキを彼は無言で抱きかかえる。そんなヴォルフガンも、ここに来るまでの戦いで満身創痍だった。最後に受けた傷は間違いなく致命傷。おそらく、ここで彼の命も間もなく終わるのだろう。
 彼の顔についた血を優しく親指で拭ってやる。せめて最期は、愛しい姿のままで。
 そうして、吐息の様な声で言うのだ。どうか――「来世で幸せになろう」。
 
「なるほど、叶わぬ悲恋かぁ」
 幻の終盤、さてそろそろ止めをさすかというところでロキが割って入ってきた。少し前まで、ヴォルフガングが創り出した幻と、それに捕らわれた女子二人を悠々とみて楽しんでいた筈だが、今の彼の目には悪戯めいた光が宿っている。
「でもさ、来世でどうなったかって【終幕】も必要じゃない?」
 物語はきっちり終わらせないと。そう言ってかつての神の権能を一欠片を、ヴォルフの映像に織り交ぜて。
「……え、ロキも追い打ちするの残酷⁉」
「追い打ち? 違うよ善意だよー」
 終わりを告げた楽園は、急加速で墜ちていく――。
 
 ――遠い時が流れた来世。そこでもやっぱり二人を繋ぐ糸は相容れない敵同士。
 俺様――ロキは捕虜となっていた。過去の約束故か、カミの気紛れか、ヴォルフガングだけが前世の記憶を取り戻し、ロキを助けようとするが、肝心の彼は記憶が戻らない。
 すれ違う縁に苛立ち、冷たく当たってしまうヴォルフガング。そしてそんな彼を理解できずに憎みながら、時々みせる優しい素振りにひっかかりを覚えるロキ。
 決して触れ合えない二人の運命が交わる時は、望んだ幸せをつかむ時はくるのか。
 
 ……なんてね、ふふ。めでたしめでたしの夢なんてないんだよ。

『ひんッ……!』
 今度こそ幻を終えた霧子が、謎の悲鳴を上げて魔獣から転げ落ちた。ばたばたと藻掻いている様は間違いなく苦しそうなので――一応多分、精神攻撃として成り立ってはいるようだ。
『無理……もう無理、しんどい……』
 ユーべルコードとしてのダメージ以外にも、なにやら色々な傷跡を残された感が強いが、まぁそれも弱ってくれているのならいいだろう。とりあえず良いということにしたい。
 ちなみに芙蘭はすでに泡を吹いていた。彼女は呻き声一つ上げず、地面にはただ、書きかけの『尊い』という文字が残されていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
◎ケイラ(f18523)と

いや
そんな借り物じゃなく自分で帝都どーにかする大作書きなよ
あ…影朧も作家先生か
敵でも物書きってオレ尊敬するな
だって文字だけで世界作れちゃうだろ
すげーじゃん
(言いつつもUC発動の詠唱、だがなんかユキエが敵を見て動かない)
…?
ユキエ?
ユキエ『作家さんならユキエとトーゴが巣作りする話を書k「今はそれ置いて?つか字読めないじゃん『朗読してよ』「いやあの先生タンビ専門らしいから『耽美より人外モノを「ちょ…どこで何覚えてくんの?!

霧子にクナイを【投擲】+【念動力】も使い紙束を纏めて【カウンター/串刺し】

ん?この声(芙蘭)師匠が気になるとか

Σえ
意味深て
あーっと
「…すごかった」とだけ


ケイラ・ローク

トーゴ(f14519)と参加♪

だんだん演技と素の口調が混ざる…外見は凹凸なし体型で自称可憐な美少年

「帝都をどうにかって帝都が受なお話かい?帝都×帝とか…いわゆる擬人化?…あらっ違う?

まあっ!
他人の力だって借りたくなっちゃうよね!?創作活動ってエネルギーいるよね!
トーゴそこをキミ解ってるかい?
キマフューなんかお気楽でもシビアな配信創作競争世界なんですから!

ユキエちゃん…💧
あ、でも~
あたしキマイラだし種族越え結婚全然気にしない派~

うん、餡蜜のお店で聞いた声ね
(トーゴの耳引っ張り)…ここで照れた演技で油断させるの!意味深に!!

攻撃は三つの獣で巨大猫又
引っ掻き噛み付きなど動物的
霧子、芙蘭の見境無し



●混ぜるな危険
 帝都を揺るがす傑作を、と望む芙蘭の言葉を、ケイラ・ローク(トパーズとアメジスト・f18523)はゆっくりと口の中で繰り返し吟味する。そんな彼女の姿は芙蘭をおびき寄せた時の服装のままだ。つまり元から細身の体を服装で誤魔化した中性的な格好は、自他共に認める可憐な美少年なのである。
 そんな美少年スタイルのケイラが、閃いたというようにぽんと手を打つ。
「帝都をどうってつまり、帝とが受けなお話しかい? 帝都×帝とか……いわゆる擬人化?」
 この可憐な美少年(仮)、さらりととんでもないことを言い始めた。
「それは鉄板王道ネタだけどなかなかに地雷なやつッ! そして微妙に違っていてよ!」
 ケイラの爆弾発言に、気絶していた筈の芙蘭がものすごい勢いで起き上がり反応する。供給過多もなんのその、創作に生きる乙女は盲目故に逞しいのである。
「あらっ、違う?」
 そんな力強いツッコミもなんのその、間違えた筈のケイラはけらりと笑って受け流す。じゃあ正解なんだろうと思うけれど、今ここで聞いたら話は長くなりそうな気がするのでやめておく。
 その代わりに、ケイラは笑いながらその声が既に聞き覚えがあることを確認していた。
「ん……? この声、前に師匠が気になるとか言ってった……」
 どうやら隣にいた鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)も丁度同じことに気付いたらしい。彼の反応に一つ頷いて、ケイラはその答えを口にした。
「うん、餡蜜のお店で聞いた声ね」
 そう、芙蘭を探す為に二人が立ち寄った店での中――二人の会話に風のように割って入り、そして消えて言った声。それは紛れもなく、芙蘭の声だった。 
 つまり――彼女は見ていたのである。ケイラ達が喫茶店でやっていた、あんなことやこんなこと、そして意味深な発言をしていたことを。
「ほら」
 気付いたのなら話は早いと、ケイラはこっそりとトーゴへ耳打ちする。いけないと知りつつ割って入る程だ、あの話は彼女にとってとてつもなく興味を惹かれるものだったのだろう。だからこそ、このネタは効果がある。
「ここで照れた演技で油断させるの、意味深に!」
「え、意味深て」
 意味深ってなんだ。思わず言い返しかけたトーゴの言葉は耳を引っ張られることで打ち消される。そういわれても、話す事などほとんど浮かばなかった為、とりあえずとトーゴは曖昧に言葉を逃がすことにした。
「あー……じゃあすごかった、とだけ……」
 いや何が、いや何について。
 言えばいう程本人の意図せぬところで意味深になっていく発言に、何故か芙蘭は天を仰ぎ呻いた。
「くうぅッ! 妄想――じゃなかった創作の神よ、この妄想を形にする力をどうかわたくしにっ!」
「っていうか、そんな借りもんじゃなくて、自分で帝都をどーにかする大作書きなよ」
「書けたらこの世に締切はないわよ……」
 トーゴは至極真っ当な意見を言ってみるも、芙蘭は何かを悟った顔をするばかりである。そういえば力を借りている影朧もまた作家であったっけ、なんて思い出すも、もっと根本的なところでトーゴには彼女を理解出来ない。
「まあっ! 他人の力だって借りたくなっちゃうわよ、創作活動ってエネルギーがいるよね!」
 対するケイラは、そんな芙蘭には少し同情的だった。なにせ彼女は創作魂を持つ者が集まるキマイラヒューチャーの住人だ。衣食住には困らないお気楽なキマイラたちも、流行には敏感であり、満たされているからこそ飽きが早い。そんな中で配信トップを狙うのは簡単ではない。或る意味、シビアな創作競争世界がそこにはあるのだ。 
「トーゴ、そこをキミ、解っているのかい」
「いやわかんねぇけどさ……」
 ケイラがどんなに噛み砕いて説明しても、その手の活動に疎いトーゴに芙蘭の心理はさっぱり分からない。
 けれど。
「分からないけどさ、ついでに敵でも……物書きってのは素直に尊敬するよ」
 だって、彼女達は文字だけで世界を作ってしまえる。誰を傷つけることなく、何かを奪うことなく、自分の思うままの世界を創り上げることができるのだ。忍びとして育てられ、生きてきたトーゴにはそんなことは絶対に出来ない芸当だ。
 まぁその世界が多少、色々結構、特殊な訳ではあるけれど。
「それでも物書きってすげーじゃん」
 そう、心から思えるから。だからこそこの事件は見過ごしておけない。
「じゃあちゃーんとお仕置きしなくてはね?」
 軽い口調で応えるケイラではあるが、彼女もまた思う所は同じだ。さらにトーゴよりも少しだけ芙蘭の苦しみが分かるからこそ、身を低くした態勢で芙蘭に、そして霧子を無力化するために走り出す。
 走りながら、彼女の躰はみるみる変化していった。速く駆けるために手足は化わり、白い毛に覆われた四肢となる。小柄で細い躰は強くしなやかな獣のそれに。瞬き一つで白虎と見間違うばかりの巨大な猫又となったケイラは唸り声をあげて黒霧の魔獣へと飛び掛かった。
「俺達もいくぞ、ユキエ」
 魔獣の喉笛へと噛み付くケイラを応援するべく、トーゴも相棒のユキエを呼び印を組む。鸚鵡を依り代に降ろし奉るは白き体躯の猪。術の発動とともにユキエはその姿を猛き獣へと変化する――筈であったが。
 ……。
 …………。
「ユキエ?」
『…………』
 何故か、鸚鵡は動かなかった。術の発動はしているはずなのに、その身を化えることなくただ一点――ケイラに応戦する霧子と、悲鳴を上げながら逃げ惑う芙蘭を直視している。
「……あの、ユキエさん?」
『作家さんならユキエとトーゴが巣作りする話を書いてくれる?』
「うん、今はそれ置いて?」
 ユキエ、曇りなき眼での暴走だった。彼女は胸に秘めた野望をまだ諦めていなかったのである。
「ユキエちゃん……。あ、でもー、あたしキマイラだし種族越え結婚全然気にしない派~」
 前方では魔獣を押し返すケイラが猫又姿のまま助けにならないフォローを入れてくるが、超えていいものと悪いものは存在する筈だ。そもそも鸚鵡であるユキエには小説があっても文字が読めない筈だし、うん。
『トーゴが朗読してよ』
「……いや、あの先生タンビ専門らしいからさ」
『耽美より人外モノをどうか』
「ちょ……どこで何覚えてくんの⁉」 
 嘴から飛び出た予想外の語彙に今度はトーゴが天を仰ぐ番だった。そんな彼の動揺諸々を気にせず、ユキエは翼を広げると空を飛び、今まさに猫又のケイラを振り解いたばかりの魔獣の背中――霧子の元へと降り立つ。
 舞い飛ぶ原稿用紙の中、黒い円らな瞳がゆっくりと霧子を見つめて。
『だめ?』
 ユキエはこくりと首を傾げてお願いした。お願いしちゃった。
『あらあら仕方ないわねぇ……ならばまず、理想のオスになるところから始めましょうか』
「いや混ぜんなよ!」
 によによと笑いながら快諾した霧子の頭部に、トーゴの渾身の力を込め投げたクナイがすこーんと突き刺さった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトリア・アイニッヒ
セフィリカ(f00633)さんと。

己の夢に邁進するは良し。そこに人生を賭けるも、また良しでしょう。
ですが、己の欲の為に余人を巻き込むなどという事は、断じて看過出来ません。
主に代わりて、その曲がった性根を正してみせましょう!

…とは言ったものの、普段と違う身形では動きが窮屈です。
使い慣れた武器もありませんし…ここは、受け身の立ち回りと行きましょう。

UC『陽光の神器』で、聖気帯びる大盾を創造。
セフィリカを守る盾役となるように存在感を示しつつ、敵の攻撃を引きつける。
私に意識が向けば向くほど、セフィリカさんが動きやすくなるはず。
攻撃は、セフィリカさんにお任せしましょう。

※アドリブ歓迎です。


セフィリカ・ランブレイ
【ヴィクトリアちゃん(f00408)と】
根本さえ違わなければ上手くやれたのかな
性格相性はいいよね。芙蘭ちゃんと彼女

『ま、オブリビオン相手じゃ……ね』
シェル姉……相棒の魔剣の言葉に同意
出直してもらって、新しい出会いを祈るよ!

ヴィクトリアちゃん、まだ苦しげ?
彼女自身が自分のおっぱいを甘く見ていた故か

ま、世界観は維持しとこ!今の私は王子様!

ヴィク、お前に支えられんの、すっげー嬉しいぜ
けどな、お前が守るんじゃない、俺がお前を守るんだよ、そうしてえのさ

と、キラキラとした感じで囁いて
サポートを受けて、渾身の一撃をお見舞いだ!

魔導ゴーレムはちょい世界観じゃないか
なら【神薙ノ導】
魔剣による華麗な剣舞を披露!



●王道を征く
 夢を追いかけること、それは日々の糧を輝かしものへと変えることができる、本来であれば称賛されるべきことである。
 そんな芙蘭の生き様を、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)は決して頭ごなしに否定することはできなかった。
「己の夢に邁進するは良し。そこに人生を賭けるも、また良しでしょう」
 自身後悔がないのなら、一つのことを懸命に励む彼女は間違いでないのだろう。
 それが、自分一人の内で完結することであれば。
「……ですが、己の欲に余人を巻き込むという事は断じて看過出来ません。主に代わりて、その曲がった根性を叩き直してみせましょう!」
 聖女然とした態度で芙蘭へ、そして影朧へと断罪を告げるヴィクトリア。いや、今のヴィクトリアは男装をしたままの為、聖女ではなく聖者になるのだろうか。どちらにしても、清廉潔白な騎士であることには変わりないから多分いいだろう。
「まぁ、他人に迷惑を掛けちゃダメだよね、やっぱり」
 そんなの横で、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)も仕方ないと思いながらも剣を構える。
 それでも、考えてしまう。根本さえ違わなければ二人は上手くやれたのではないか。
 周りが見えなくなるほどに耽美に情熱と性癖を燃やす芙蘭と、執筆の為ならどんな犠牲も厭わない霧子。きっと性格も、相性も、本当はきっと悪くない筈だ。もしもこんな形で出会わなければ、二人そろって道を外さずに、仲良く創作活動に取り組めたのではないか。
『ま、オブリビオン相手じゃ……ね』
 そんなセフィリカの内心を察したのか、相棒の魔剣がそっと呟く。セフィリカがシェル姉と呼び慕う意志ある剣は、過去の骸の影をよく知っている。
 どんなに相性が良くても、今は大きな災いにならなかったとしても。影朧がオブリビオンであり、未来を脅かすものでしかないのだ。行きつく先はどうやっても、決まっている。
 そうだね、とセフィリカは頷いた。きっとそんな未来は、芙蘭も、本来の霧子も望むものではないだろう。だから、彼女もまたヴィクトリアに続くように元気よく、二人へと戦闘の開始を告げる。
「出直してもらって、新しい出会いを祈るよ!」


 白い原稿用紙が群れをなし、二人と霧子の間に割って入る。
『俺様な王子と美麗ながらも硬派な聖騎士……なかなかもって王道の組み合わせね』
「王道……? 確かに私の世界では珍しくはないと思いますが」
『分からないわよね? ええ、それでこそよ!』
 これまでの戦いで既に傷だらけの癖に、霧子は妙に元気いっぱいである。創作への情熱は影朧の魂であっても肉体を凌駕するのだろうか。余裕たっぷり……というかによによした、なんだか鳥肌が立ちそうな視線を受けながら、ヴィクトリアは自身の想像より聖気纏う大盾を作り上げ紙束の攻撃を受け止める。そのまま押し返し、反撃へと転じようとして、彼女は僅かに顔をしかめてその場に踏みとどまった。
 そのまま第二撃、三撃と続く霧子の攻撃を、セフィリカを庇うように立ち受け続ける。
「ヴィクトリアちゃん、大丈夫?」
「ええ。しかし、普段とは違うこの身形では動きが些か支障が出ます。使い慣れた武器もありませんし……ここは私が受け身に回りましょう」
 背後からの気遣わし気な声に首を振って返し、ヴィクトリアは真っ直ぐに霧子を睨む。
「さぁ来なさい。その全てを防いでみせましょう!」
 霧子の言っていることは相変わらず良く分からないが、この記憶も過去も渡すつもりはない。そしてこうやって相手の気をこちらへ向ければそれだけ、セフィリカが動きやすくなる筈なのだ。ヴィクトリアは覚悟を決め、続け様の攻撃を受け止める――!
「……ヴィクトリアちゃん」
「セフィリカさんはどうか攻撃を。あなたは、私が護りますから」
 さぁ、と無意識ながら完璧な忠騎士ムーブをこなすヴィクトリアをセフィリカは見る。繰り返しぶつかる紙束を受けるその顔は何かを耐えるように苦し気で。
 そんな彼女を見て、セフィリカは聞かないではいられなかった。
「……まだ、苦しいの?」
 おっぱいが。
「はいっ!?」
 分かりやすく赤面し、挙動不審になるヴィクトリア。やっぱり図星らしい。
「ヴィクトリアちゃん自身が自分のおっぱいを甘く見ていた故か……」
 日常の中では当たり前過ぎて気付かない宝物。その扱いにまさかこんな場面で苦戦するとは。なまじ自分も同じものを持っているがゆえに、なかなかに興味深い事象だった。
「い、いえ今はそんなことを気にしている場合では……っ!」
「……おっとっと」
 真っ赤な顔で攻撃に耐えるヴィクトリアの言葉に、セフィリカは我に返る。
 忘れてはいけない、今のセフィリカは王子様だ。とりあえず、この世界観は維持しておくことに集中しよう。
 それでは、俺様な王子様であるヴィクトリアがこの忠実なる騎士にできることとは。
「ヴィク、お前に支えられんの、すっげー嬉しいぜ」
 背後から手を伸ばし、盾を支えるヴィクトリアの手に触れる。苦しみに耐え震えるそれを支えるように手を重ね、彼女の耳元で囁いた。
「けどな、お前が守るんじゃない、俺がお前を守るんだよ。……俺自身が、そうしてえのさ」
 ダメか? とたっぷりと含みを持たせた低い声で言えば、ヴィクトリアは先程とは違う意味で顔を朱に染める。その様子に微笑んでみせ――セフィリカはそっと霧子の様子を観察する。
 セフィリカの目論見は見事的中していた。紙の隙間から見える霧子は口元を抑え、二人の様子を凝視している。王道が、受け攻め一致、とか癖の強い専門用語を連発しているが、もうこの際理解は諦めることにする。
「ヴィクトリアちゃん、今っ!」
「はいっ!」
 セフィリカの合図とともにヴィクトリアが渾身の力で大盾を押し、紙の群れを掻き分け突き進む。急な接近に対応が遅れる霧子の頭上へ、彼女の背後から飛び出したセフィリカが剣を振り上げた。
「魔導ゴーレムはちょい世界観じゃないから……俺の華麗な剣舞、しっかり見ていけよ」
 力強い踏み込みと共に青い剣閃が走る。
 剣と盾。王道にして正道の対。霧子はその威力をを自身の躰でもって思い知ったのであった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
悟郎(f19225)

ハッ、デケェペットを飼ってるって話は聞いてたが。悪魔、ね。
赤の他人を『資料』扱いにして、要らなくなったらポイかよ。
――こいつは少しお仕置きが必要だな?

UCを発動させ、紫雷の猟犬を放つ。狙いは黒霧の魔獣。
喰らい付いた瞬間、爆破させ、紫雷の鎖と俺の腕を繋ぎ、【怪力】任せに魔獣を引き寄せる。
人のペットとはいえ、躾のなってねぇ駄犬にはマナーを叩き込んでやらねぇとな!
怪力任せに引っ張った駄犬の頭を踏み付けて、魔剣を片手に顕現。
そのまま魔剣を【串刺し】で駄犬に突き刺す。
騎乗してる霧子には瞳を合わせて一応、忠告しておくぜ。
アンタのお仕置きはこの後だ――精々楽しみにしてな。


薬師神・悟郎
カイム(f08018)

「熱烈だな。妬けるほどに」
俺にも譲ってくれと軽口を叩きつつ、カイムの猛攻からスナイパー、視力、暗視で狙い
毒使い、麻痺毒の技能を使用し弓を番い射る

カイムの邪魔にならないよう注意は払うが、この程度で彼の攻撃が揺るぐとは思えん
彼を信頼しているから、俺も貴方への気持ちを行動で示そう

一番成功率が高い状況でUCの発動を狙い、最低でも二つ拘束を狙う
お前ら如きがカイムを傷付けられるとでも?
彼は俺が守る(彼女さんを)悲しませたくないからな

前回の囮から引き続き、戦闘中でも誤解させるような態度や口調を意識して
敵の狙いや手元を狂わせることを積極的に行っていこう

あとはカイムが上手くやってくれるさ



●言葉は不要
「ハッ、デケェペットを飼ってるって話は聞いてたが。また随分なモンを連れてんじゃねぇか」
 満身創痍ながらも退く様子を見せない影朧。その傍らに立つ黒霧の魔獣を睨みながら、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は不機嫌に吐き捨てる。
『あら、私のかわいい悪魔(ダイモン)に興味を持って?』
「悪魔、ね。悪趣味なこと」
 一心同体である魔獣をひと撫でし、身軽に背に乗る霧子に対し、カイムは嫌悪感を隠さない。そもそも、そのやり方からして気に入らないのだ。
「赤の他人を『資料』扱いにして、要らなくなったらポイかよ。――こいつは少しお仕置きが必要だな?」
 霧子にも、そしてそれを命じた芙蘭とやらにも。実際に本人を前にして早々に判断したカイムは、突進してくる魔獣をひらりと躱し、一度距離を取る。
 同時に、破裂音に似た音を立てて、カイムの周囲に紫電が走った。彼の意思に応じて呼び出されたのは、悪意持つ者を喰らう忠実なる追跡者。
 礼儀の無い獣を相手取るのであれば、同じく獣、同型の犬をけしかけてやるのが丁度良いというものだ。稲妻の躰を持つ猟犬は、主の銘に従って放たれた矢のように魔獣へと飛び出して行く。
 しかし、霧子の方もただで受けるつもりは毛頭ない。真っ向からぶつかるのは危険と判断したのか、猟犬の行く先を先読みし、回り込もうと魔獣に命ずる。
 ――しかしそれは、魔獣の足に突き刺さった針の様な矢によって防がれた。
「熱烈だな。妬けるほどに」
 後方、カイムと走る稲妻の猟犬のさらに奥。猛る閃光のような彼等に隠れるように、外套のフードを被った薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)が黒い弓をこちらに向けていた。
「少しは俺にも譲ってくれよ」
「それなら実力で奪ってみせろよ」
 戯れの言葉を投げれば、カイムも不敵な笑みを見せて笑って返す。勿論、足を射られ機動を削がれた魔獣を追い詰める様立ち回ることは忘れない。
『くッ……!』
 魔獣が傷ついた肢にも構わずに跳躍しようとして、バランスを崩した。当然だ、悟郎の矢には影朧にも有効な神経毒がたっぷりと塗られている。いくら悪魔といえど過去の骸の一つ。その効果は無視できるものではないだろう。
 悟郎はその隙にさらに二本、弓を番え、矢を射る。放たれた弓と同じく黒塗りの矢は曲線を描き、前を往くカイムの動きを一切阻害することなく魔獣へと突き刺さり、さらに魔獣の動きを鈍らせた。
 例え彼に掠めることがあったとしても、彼ならこの程度の攻撃で動きが揺るぐことなんてあり得ない。そう信じているからこそ、悟郎の手に迷いは無かった。
 それ以上に、彼の思う事、彼の動きなど手に取る様にわかるのだ。
「俺とお前の仲だから、な」
 共に大切なものを知り、守ることを誓った親友として。その信頼を形に示そう。
「そーいうこった」
 動きが鈍った魔獣に、カイムの猟犬が追いつく。火花の散る顎を開き、魔獣の喉元へと牙を立てる。
 食いちぎる必要は無い。追跡者の役目は此処までだ。
「狙った獲物は逃がさねぇよ」
 カイムの言葉と共に、紫電が爆ぜた。犬を象っていた稲妻は瞬時に魔獣を食い荒らし、その形を今度は鎖へと変える。一方は魔獣を戒め、動きを封じるために。そしてもう一方は、獣とカイムを繋ぎ、逃がすことにないように。
 気合の声と共にカイムが鎖を引き寄せた。動くこともままならない魔獣はいともたやすく体勢を崩し、霧子を振り落として引き摺られる。そうしてすぐ目の前にきた獣の頭をカイムは踏みつけ、地べたへと這いつくばらせた。
「人のペットとはいえ、躾のなってねぇ駄犬にはマナーを叩き込んでやらねぇとな!」
 そのまま顕現させた魔剣を下に向け、魔獣を串刺しにして。気は済んだとばかりにカイムは鼻を鳴らした。
『よくも私の子を……!』
 使い魔を目の前で倒され、霧子が怒りの声を上げた。白紙の原稿用紙がそれに従い彼女の周りに浮かび上がり、目の前の敵を斬り裂こうと渦と作り上げる。
「させる訳が無いだろう?」
 しかし、そんな抵抗さえ悟郎の目は許さない。振り上げた霧子の腕を彼の咎力封じのロープが捕らえ、締め上げる。驚き怯んだ内に手枷を放ち嵌めてやれば、力を封じられた霧子の原稿用紙達がぴたりと停止した。
「彼は俺が守る。 本当はこんな必要はないくらいカイムは強いけど……これは、俺の問題だ」
 矢を番えた態勢のまま、悟郎はゆっくりとカイムの前へ移動する。まるで彼を守る様に、霧子の前に立ち塞がる。
「……悲しませたくはないからな。そんな顔、させたくないんだ」
 きっと彼が傷つけば、彼を慕う彼女は悲しい顔をするだろう。一緒に来た以上そんなことはさせない。――なんて、肝心の言葉は敢えて口を噤んで思わせぶりな言葉を選ぶ。
『う、うううッ……!』
 そうすればこんな時でも分かりやすく霧子は顔を赤らめて、紙束を操る指先が躊躇うように大きく震えた。半減したとはいえ、彼女の力の封印は完全ではない。威力は落ちていても無理にでも使うことは出来るはずなのに、それでも彼女は攻撃へは転じずに二人を睨みつけるだけだった。
 ――そりゃあ、難しいだろう。だってこうしていれば、二人は霧子達にとって極上の話のネタなのだ。執筆に全てを捧げている彼女達。いくら怒りに身を任せたとしても、己の内なる欲求には逆らえない。
『こんな状況じゃなければ全力で短編を書き上げるのに……!』
「それは残念だったな」
 その隙に、最後の猿轡を霧子へと当てて。ユーべルコードを封じられた霧子の原稿用紙はは呆気なく塵へと消えていく。
「お前ら如きがカイムを傷付けられるとでも?」
 がくりと項垂れる霧子に、カイムは一応、と前置きを置いて忠告する。
「アンタのお仕置きはこの後だ――精々楽しみにしてな」
 抵抗の術を全て防がれた霧子はその言葉に悔し気に睨み返すのみ。
 しかし、その目は滔々とカイムに向けて語っていた。
 ――『いつかその台詞を使って書いてやるから覚えていろ』と。
「え、こわっ」
 後々に残すものがあるのは、どうやらお互い様であるらしかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日川・駒知
尾宮くん(f29616)と。
アドリブ、マスタリング歓迎

_

そう。貴女、
彼女の、ファンなのね。
…私も本が好きなんです。
貴女の、貴女たちの書いた物語を読んでみたいから、
今だけは、ごめんなさい、ね。


尾宮くんとの連携を意識。
彼を傷付けるのは許さない、から。
彼の背を護るのは私と、

私の、共犯者。


──私と共に在る《忘却》。
黒影纏て姿を成す。
焔の如き眼が黒霧に浮かび、犬の巨躯を以て顕現す。

「ヴァレンタイン」

貴方の名を呼ぶ。


「尾宮くんを食べてはだめよ」


……

……?私、に?
食べませんよ。大事、だから。

戦闘中だと言うのに彼をきょとんと見上げ
…返答、間違えたかしら。
でも彼が食べるって…


尾宮・リオ
明日川さん(f29614)と。



本は良いですね。
ミステリーも冒険も、それ以外も。
書き手の方は凄いな、と思います。

ただ、素敵な物語を書く為に、
力を使ってはいけません。

僕と明日川さんで出来る事なら、
何でも協力したいのですが……。

ちらりと男装中の彼女を見て、
目を細め、にこり、と微笑んだ。

「ちゃんと明日川さんを守りますよ」

鞘から妖刀を引き抜いて臨戦態勢。
彼女との連携を意識しながら、
現れた相棒の姿に感嘆の息を漏らす。

でも食べる、なんて、大袈裟な。

「どうせ食べられるのなら、
 君に食べられたいですけどね」

って言ったら影朧は釣れますか?
明日川さんの反応に、
くすり、と愉しげに笑って。

「さあ、阻止しましょうか、」



●食べたいくらいに
 己の使い魔たる魔獣を失くし、自身もまた傷ついて。それでも霧子は芙蘭を守る様に猟兵達の前へと立ち塞がり続けた。
 始めの勢いはどこへやら。肩で息をする霧子を見て、芙蘭は不安げな声を上げる。
「お姉さま……」
『私を従えているのは貴方でしょう。こうなったら徹底的にやってあげるわ』
 しかし、そんな彼女を嗜め、奮い立たせているのは外ならぬ影朧の霧子であった。
 その様子をみて、明日川・駒知(Colorless・f29614)は嗚呼、と一つの事に思い至る。篭絡ラムプを使っていたとはいえ、それでも人々を脅かす存在でる影朧が、一般人の芙蘭に付き従っていた理由。今日の今まで、暴走することなく大きな被害も起きないでいた理由。
「そう、貴女。彼女の、ファンなのね」
『……はぁッ⁉』
 駒知の言葉に霧子は驚いたような声を上げる。けれど、その顔はどこかバツの悪そうな、恥ずかしがるような顔をしていて。それが何よりの答えだった。
『……ええ、まぁ。きっかけは別であれ、素養を育んだのは他ならぬ貴女の作品であるだろうし』
 そう、言えなくもないわね。そういう霧子に駒知は笑う。
 彼女がここまで芙蘭を守ろうとする理由。それは理解ができない、興味はないと言いながらも、彼女の生み出す物語を好いていたからだ。
「……私も、本が好きなんです。だからその気持ちは分かるの」
 なんてことはない。ただ、応援したかったのだろう。
「本は良いですね。ミステリーも冒険も、それ以外も。書き手の方は凄いな、と思います」
 微笑む彼女の前に一歩出ながら、尾宮・リオ(凍て蝶・f29616)も同意する。
 本はたくさんのことを教えてくれる。自分の知らない世界へ連れて行ってくれる。そんな素晴らしいものを創り出す人は、きっとすごい人だろう。芙蘭の物語は二人には未知の領域だが、それでも生み出すことは同じだろう。
「ただ、素敵な物語を書くた為に、力を使ってはいけません」
 過ぎた力は身を亡ぼす。霧子の影朧の力は、いつの日にか芙蘭自身をも苦しめることになる。
 だからその前に。霧子を倒し、彼女を留めなければならないのだ。
「僕と明日川さんで出来る事なら、何でも協力したいのですが……」
 彼女の代わりにどうですか、とリオは霧子越しに芙蘭を見る。少し離れた位置で控える彼女は、そんな言葉に興味をもったようでおずおずと聞き返す。
「な、なんでも?」
「程度はありますが、それでも無理強いをするよりはずっと良いものを見せられると思いますよ」
 ですよね、と男装中の駒知に視線を流せば彼女は赤くなりながらも頷いた。彼女の中の応援する気持ちは紛れもなく本当なのだ。そして、それはリオも同じことである。連れ合って談笑するくらいなら、いくらでも引き受けよう。
「……でも、駄目よ。私はお姉さまと一緒に執筆に挑むもの」
 しかし、返ってきた芙蘭の言葉は拒絶。予測はできていた言葉に、駒知は力なく息を吐いた。
 どうやっても、穏便に事を終わらすことは難しいようだから。
「貴女の、貴女たちの書いた物語を読んでみたいから。今だけは、ごめんなさい、ね」
 ぎゅ、と自身の手を握りしめながら囁いた謝罪を合図に。
「さぁ、阻止しましょうか」
 影朧との最後の戦いは始まった。
 
 
 リオの妖刀が鞘走る。刃から怨念が解き放たれ、斬撃は不可視の刃となって霧子を襲う。
 足となり、牙となった魔獣はもういない。霧子は両手を広げると無数の原稿用紙を呼び出し、盾とすることでその攻撃を受けきった。
 しかし、続くようにリオの後ろで駒知が仕掛ける。死霊術死たる彼女が呼び出すのは、唯一にして共に在り続ける、≪忘却≫。
「ヴァレンタイン」
 名を呼べば身を黒影を纏いて姿を成す、凶兆の妖精。
 焔の如き赫い眼が光る。滲みだす黒い影が象る犬の巨躯は、影朧が生み出した獣を彷彿とさせ、けれど向けられる唸り声が決定的に違うことを知らしめた。
「尾宮くんを、彼を傷つけるのは許さない、から」
 行って、と鋭く命じれば、獣は走る。原稿用紙の壁にぶつかり、引き裂いて、リオの周囲のそれを霧散させる。
 彼は誰にも傷つけさせない。彼の背を護るのは駒知と、彼女の共犯者なのだ。
 ああでも、それの顎はとても大きいから。人くらいなら一人も二人も、きっとまとめて呑み込んでしまう。もしくは、己の手数を増やす代償として駒知の命が削れることそ阻止するために、その牙をリオへ向けてしまうかもしれない。
 だから駒知は言う。大切なものを二度と手の届かないところへしまってしまわないように。
「尾宮くんを食べてはだめよ」
「……おや」
 現れた彼女の相棒の姿に感嘆の息を漏らしていたリオは、その言葉にふと笑った。
 確かに、その姿は見上げる程に巨大だけれど、それにしても食べる、なんて大袈裟な。
「どうせ食べられるなら、君に食べられたいですけどね」
「……? 私、に? 食べませんよ。大事、だから」
 含みを持たせたリオの言葉に、駒知はきょとんと彼を見上げた。
 食べてしまえばそれで終わりだ。もう話すことも、触れることもできなくなってしまう。そんなこと、駒知が絶対にするはずがない。
 真摯に返せば、リオはくすくすと愉し気に笑うばかりで。駒知は自身の頬がだんだんと赤くなるのを感じた。
 何か返答を間違えたのだろうか。でも、彼が食べるって不思議なことを言うから答えただけだ。ヴァレンタインは駒知の言うことをよく聞くから、そんなことはあり得ないけれど。
「ああ、失礼。それでは、そんな無防備でいて僕に食べられてしまわないように気を付けて」
 なんて言えば、影朧は釣れますか?
『ぐっ……大人しい顔してなかなか攻めるじゃない……!』
 彼女がますます不思議がるのを眺めながら霧子を盗み見れば、赤くなった彼女が呼び出す紙束は確かに乱れ、その数は減っていて。その先にいる芙蘭の表情まで見てリオは満足気ににっこりと笑い、地を蹴った。
 いくら守るといっても彼女とその相棒に全てを任せてはいられない。
「ちゃんと明日川さんを守りますよ」
 怨念を纏い強化された脚力で、隙を見せた霧子の懐に飛び込む。彼女が防御の体勢をとるその前に、雪ぎの名を冠した剣が閃く。
 そうして、刃に貫かれて。
『……そう、ここまでなのね』
 影朧、黒住霧子は静かに膝をついたのだった。
 
 
 
「お姉さまっ……!」
 芙蘭の手の中で篭絡ラムプが音を立てて罅割れる。しかし、そんなことも気にせずに彼女は消えゆく霧子の元へ駆け寄った。
『もっとちゃんと話したかったけれど……どうやら遅すぎたみたい』
 霧子にはもう何の力も残されていない。戦う力もなければ、影朧としてこの世に留まり続ける力も。刻一刻とその存在を失くし、薄れていく彼女はそれでも、芙蘭に微笑んだ。
 彼女が認めた、真なる熱を胸に秘めた文豪の卵を。縋りつくその手に透けた手を重ねながら。
『いい? 貴女はちゃんと最後まで完成させるのよ。帝都を揺るがさなくてもいい、貴方の情熱のままに書き上げた、耽美小説を』
 涙を流しながら頷く芙蘭。それを見て安心したように目を閉じる。
『願っているわ……いつかあなたの書いた小説を、この手に取れることを』
 霧子の躰がさらに薄くなる。その姿はもはや、刻一刻と崩れていくばかりで。
『――最高の、男と男の恋愛という名の萌えの塊をね!』
 その言葉を最期に。霧子は塵となり、舞いおちる薔薇……じゃなかった桜の花びらとなって消えていった。
「お姉さまーッ!」
 最期の台詞がそれでいいのか、という突っ込みはさすがに猟兵達の心の内で留めるだけとした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夢潰えて恐怖の二文字
 猟兵達の手の中で、回収した篭絡ラムプが音を立て砕け散る。
 霧子が消えていった場所を暫くの間見つめていた芙蘭は、やがてへなへなとその場に座り込んだ。
「わたくしは……これからどうしたら……」
 呆然自失といった表情で呟き、項垂れる芙蘭。先程より小さく見える彼女の背中は絶対と信じていたラムプの力と、信頼できる仲間を喪った悲しみを物語っている様だった。
「お姉さまはああ言ってくれたけれど……わたくし一人でなんて作品を完成出来る筈……」
 涙声で悲嘆にくれる彼女にはもう、先程のような謎の勢いはない。今の彼女は自らのスランプの中、縋るものを喪い完全に心が折れたただの娘であった。
「調子に乗って酷いことをしてしまった人は一杯いるし、ついでに周りの作家仲間には帝都一の傑作を作り上げるとか大言壮語なこと言っちゃったし! このまま原稿を落としたらもう面を晒して歩くこともできない! 原稿の締め切りは間近! もう終わりなのよーッ!」
 今までの行いを思い出したのかずぶずぶとマイナス思考の海へと落ちていく彼女を見て、猟兵達はやれやれとため息をついた。
 このまま放っておけば追い詰められた彼女がどんな行動にでるか見られたものではないだろう。何とかして立ち直らせ更生させようにも締切という魔物に追い詰められた彼女にはまともな会話など成り立たなそうだった。その手の人間にとって原稿を落とすとはそれほどのものなのである。
 が、逆に言えば彼女が原稿を完成させることができれば、彼女を再起させることができるかもしれない。手助けを借りながらでも完成したという成功体験さえあれば、再び彼女も情熱を取り戻すことが出来る筈だ。作業の合間に、或いは手伝いを通して、彼女に伝えたいことがあれば言うのも良いだろう。
 そうと決まれば実行に移すまで。猟兵達が手伝う旨を伝えると、芙蘭は驚きながらも頷いてくれた。
 では、というように一人の猟兵が禁断の言葉を彼女に投げかける。
 ちなみに進捗は?
「言えません……ッ!」
 つまり、とても駄目らしい。
 
 
 
 ※以下MSより補足※
 色んな意味で心が折れてしまった芙蘭を再起させるべく、芙蘭の書きかけの原稿を完成させることで彼女を元気付けてあげてください。
 
 現在の芙蘭は燃え尽き、頓挫してしまった状態です。篭絡ラムプに頼るほど切羽詰まっている状態でもあった為、影朧の力を失くした今、自分の小説に対する自信すらも失くしてしまって居るでしょう。何とかして彼女の背中を押し、原稿を完成させることで生きがいである創作への意欲を蘇らせて上げてください。
 行動指針は以下の目安として以下の中からお選び。複数を選択するより、一つに絞って頂けると成功しやすいと思います。プレイングには選択した数字をご記載願います。

 追記として、芙蘭が書こうとしていたのはオムニバス式の作品集(もちろん全て耽美)です、が予定はきれいさっぱり未定です。

 以下選択肢 
 ①芙蘭の身の回りの世話をする
 腹が減ってはなんとやら何事もまずは規則正しい生活から。色々駄目な感じになっている芙蘭の身の回りを片付けたり、お世話をして活力を叩き込みましょう。
 ②ネタを提供する・原稿を手伝う
 芙蘭はとにかく内容に煮詰まっています。斬新なアイデアを提供することによりインスピレーションが生まれるかもしれません。実演しても良し、語っても良し、新たな性癖に叩き落としても良し。友情出演ということで何か提供しても良いでしょう。そうすればページ数も増え、白紙のページも減ります。
 ③とにかく励ます
 前記にもあった通り、芙蘭は心が折れ迷走しています。彼女が自信を持つような言葉・行動を行ってあげれば気持ちは前向きになるかもしれません。
 今まで書いた作品は希望すれば本棚から引っ張り出してくれるでしょう。
 ④その他
 原稿が完成できることに繋がれば上記以外の行動でも勿論問題ありません。
 が、大切なのは原稿を完成させることで彼女が再び創作者として再起できることです。無理強いさせて終わらせるのではなく、折れた彼女の心を前向きにさせてあげることに留意してください。
 
 どうかフラグメントに捕らわれず、ご自由にどうぞ。
 
 プレイング受付は10月15日(木)AM8時31分よりと致します。
 それでは宜しくお願いします。
 
黒鵺・瑞樹


前向きになれるように励ますとか苦手だぞ、どうしよう。
問題に対して具体例とか出すのならともかく、この状態ってそういう事じゃないんだよな?
掃除とかは得意な方だが、男がお嬢さんの世話ってありなのか?
できれば他に女性もいればいいな。
まぁ当たり障りない部分で家の掃除でもするか。
見られたくないものは先に片付けて貰えれば大丈夫だろ。多分。

書くにしろ書かかないにしろ。なるべく規則正しく生活しような。
創作系の生業してる人は何かと短命がちだとUDCアースでも聞いたことあるし。
この世界でも同じかわからんけど、家で突然死すると警察に家探しされるらしいな。
そうなった場合、その…いろいろ大丈夫か?


贄波・エンラ

君ね…君ね…ああ、何て手のかかる子だろう…!
けれど、ああもうどうしてかな、手のかかる子の面倒を見るのは慣れている気がする、いや僕には記憶がないから具体的なところはちっとも覚えていないのだけれど!

原稿を手伝うと言ったって、まあ漫画のベタ塗りなら何故かやったことが有る…ような気がするのだけれどね
君が作ろうとしているのは小説なのだろう、ならば書くのは君で、考えるのも君だ、芙蘭君。
ネタ出しから書くまで全部が君がやるべき作業だ。
それ以外の君の世話、食事作りから電話・来客の応対、入浴の準備まで、あらゆるものを僕たちがやろう。

嗚呼全く、軽い食事の作り方くらいは覚えておいて…記憶に残っていて本当に良かった!


ヴィクトリア・アイニッヒ
セフィリカ(f00633)さんと。

(魔剣がボソっと呟いたのを耳にして苦笑しつつ)
スランプ、ですか?
こう、と言った明確な物は記憶にありませんが…でも、思い悩む事くらいは、沢山ありますね。
そういう時に必要な事は…やはり、良き食事と良き睡眠です。

セフィリカさんと共に芙蘭さんの家に押し掛けましょう。
著作を読み漁るセフィリカさんの横で、全力のお世話モードに突入します。
まずは、部屋の換気と掃除です。お布団を干すのも忘れずに。
料理は常備菜を中心に。飽きが来ない様に種類を増やしましょう。

…彼女の書く物語は、やはり私には馴染みませんが。
それでも彼女が、満足出来る仕事が出来るよう。今は力を尽くしましょう。


セフィリカ・ランブレイ

【ヴィクトリアちゃん(f00408)と】

ヴィクトリアちゃんは、スランプ経験ある?
私は殆ど無いけど、無いとは言わない

そういう時にこそ
ベッタベタに褒められたり甘やかされたい!

『ウゼーのよねこういう時のこの子……』
シェル姉がボソっと何か言ったが気にしない!

片っ端から彼女の著作を読む!!
章毎に良かった展開やシチュ、台詞、キャラ…
いいと感じた部分をとにかく列挙

探偵がヘタレたところにグイっと来る助手のこの存在感が本当に最高で……
イケイケの王子様が裏では従者にゾッコンっていう意外性に新たな扉が開いたよ!

褒める部分を余す所なく手紙にしたためて(読み返せるように)芙蘭ちゃんに渡す

私、もっと続きが読みたいなー!


黒河内・柊夜

部屋が散らかるのも分かるぞ、我も遠隔の召喚(注:リモートワーク)に縛られし宿命故な!

資料や原稿は全て内容別に分類し参照頻度が高いものから手に取りやすい場所にまとめるか
サイキネ使えば整理も楽々である
内容もきっちり確認して傾向ごとに分け……ええい紙が多いな!?

しかし我も浅学だ……耽美というがよく分からん
芙蘭なる者よ、これはどのような意図の描写だ?この後二人はどうなるのだ?
ん?これから書く?いやその内容を教えよ、そして書くのだ

こら合法阿片に逃げるな!現実逃避は許さんぞ!!
まあつべこべ言わずにさっさと心のままに原稿を埋めるがよい
社会人我が言うから間違いない、締め切りを前に我々は無力なのだ……うん……



●お家へ帰ろう
 とりあえず、とめそめそとした空気を切り替える様に、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)はぽんと手を打ち鳴らした。
 ヴィクトリアは、芙蘭が書く耽美小説というものはまだ馴染めない。けれど、挫折している彼女をこのまま放っておくことは弱きを護り救うという彼女の信条に反することになる。彼女をこのままにすることなど、彼女にはできる筈がなかった。
 全てを理解する必要はないのだ。それでも支え、助けることはできる。芙蘭が満足できる仕事が出来る様、力を尽くすつもりだった。
 では、その為にまずするべきことは何か。
 ここに居続けても原稿が進むことはないし、いつまでもいては人目についてしまうだろう。これでは原稿を終わらせるどころか始める前の段階だ。まずは環境を整える事から始めるべきだ。
 戦いするのなら戦場で。では原稿をする場所は――作業場だ。
 そういうことで。 
「まずは芙蘭さんのお家へ伺わせて頂きましょう」
「う゛っ」
 そう提案したヴィクトリアの言葉に、先程よりもさらに蒼白になり深刻な顔をした芙蘭に猟兵達が気付くことはなかった。
 
 
●衣、或いは別の洗濯
 扉を抜けたらそこは腐海でした、腐乱だけに。
「君ね……君ね……ああ、何て手のかかる子だろう……!」
 腐乱、もとい芙蘭の家の扉を開けた贄波・エンラ(White Blind・f29453)は、目の前に映る惨状に思わず天を仰いだ。
 そこは誰がどう見ても惨状だった。地獄絵図と言ってもいいかもしれない。
 散らばる衣服に、食品が入っていたであろう袋、そして握りつぶされたり破られた紙の束。それらがあちこちに転がっており、まさに足の踏み場もない。いや正確には、彼女の作業机と思しき(それも大半が原稿と書物に埋もれている)場所の近くがぽっかり空いていたのだがが、それはおそらく逃げ出した少年たちがいた後だろう。
「いやぁそれほどでも……」
 誤魔化すような笑いを浮かべる芙蘭だったが、正直全く、是っぽっちも誉めていない。このような地獄の中で今まで一体どのように生きてきたのかてんで不思議だが、これでは作業など集中できる筈もないだろう。
 花園芙蘭。この女子、本当に手のかかる残念系文豪であった。
「けれど……ああもうどうしてかな。手のかかる子の面倒を見るのは成れている気がする……」
 痛む頭を押さえながらエンラは目の前の惨状にどこか既視感を覚える。悪霊となる前の記憶を持たない彼であるから本当に気がするだけで、具体的なことはちっとも覚えてなどいないのだが、かつて同レベルの、いやそれ以上の厄介な案件をポンポンと持ってきた教え子達がいたような気がする。
 それでも、まさかここまできて淑女の汚部屋の目にする羽目になるとは思いもしなかったけれど。
 そもそもの話、だ。
 散らばったゴミと思しきものを拾い集め、部屋内への道を作りながらエンラは芙蘭の考えている原稿予定を再度確認する。部屋の扉を開け、念のため水道等の生活必需の設備が健全であることを確かめる。まさかとは思うが、彼女の現状ならちょっとやりかねない。
「原稿を手伝うと言ったってだ。まぁ漫画のベタ塗りなら何度かやったことが有る……ような気もするけれど」
「えっ、そこはあるんです?」
「気がするだけだよ。しかし、君が作ろうとしているのは小説なのだろう? ならば書くのは君で、考えるのも君だ芙蘭君」
 無事にお湯が出ることを確かめながら、エンラは彼女に事実を突きつけた。
 塗りつぶしや下書き消し、背景の書き込み等の分業が出来る漫画の作業とは違い、小説はそのその成分は全て文字によるものだ。浮かんだ構成や表現の全ては勿論作者が己の心と脳味噌から抽出しなければならなし、そうでなくては彼女の作品とは言えなくなってしまう。
 例えばそこにエンラが考えた語彙や文章を一つでも入れてしまえば、それは真白の頁に真っ黒なインクを一滴零すようなもの。彼女が求めた『傑作』とやらはそんなものではない筈だ。
「ネタ出しから書くまで、全部が君がやるべき作業だ」
「う、うう……わかってるわよぅ……出来たら苦労しませんよぅ」
 ざくざくと突き刺さるエンラの辛口の言葉に芙蘭が再びべそを書く。そんな彼女に溜息をつき、その代わりに、とエンラは手を動かしながらもゆっくりと、言い聞かせるように宣言した。
「それ以外の君の世話、食事作りから電話・来客の対応、入浴の準備まであらゆるものを僕たちがやろう」
「……え?」
 エンラ達は彼女が人として生きていける環境を芙蘭に提供する。その代わり、芙蘭は原稿に全力で取り組む。それが、エンラが彼女に持ち掛けた取引だった。
「ほ、本当にいいの……?」
「元よりそのために来たのだからね」
 さしあたって、とエンラはそこでやっと作業の手を止め、振り返る。袖をまくり掃除をしていたエンラを目を白黒とさせていた。
「まずは片付ける間にゆっくり風呂でも入っていてくれ」
 見れば、エンラの後ろでは久方ぶりに張られた湯が暖かな湯気を上がらせていた。
「嗚呼、四半刻以上浸かっていたら強制的に引っ張り出そう。原稿の前に風呂でのぼせて寝ぼけて溺死、など笑い話にもならないからね」
 
 
 それから芙蘭がさっぱりとして風呂から出てくるまで。エンラはとりあえず頑張った。服またゴミの山を発掘し道を作り出し、とりあえず彼女が落ち着ける場所を確保する。台所(そこだけ不気味なほど綺麗だった。というか使われた形跡が無かった)まで行きつくと、残っていた缶詰とパンを拝借し簡易的なサンドイッチを作り、出てきた彼女に与えた。本格的な食事と掃除は別の部隊が担当してくれる為、差し当たってはこれで十分だろう。
「嗚呼全く……軽い食事の作り方くらいは覚えておいて……記憶に残っておいて本当に良かった!」
 もっきゅもっきゅとサンドイッチを頬張る芙蘭を見守りながら、エンラは数少ない残っていた記憶のありがたさを噛みしめたのであった。


●此処で挫けたら全てが水の泡です
「えーと……」
 しょんぼりとした芙蘭を見ながら、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は正直困っていた。前向きに慣れるように励ますとか、誰かを元気づけるとか、瑞樹にとっては苦手の分野だ。問題に対して具体例や解決策を提案するのならまだしも、今回に至っては芙蘭の気持ち次第だ。いくら正当なことを言っても本人が納得しなければ効果は無いし、逆に意外な言葉で彼女の情熱が再燃する、なんてこともありえる。どうしよう、え、何言っていいか分からない、というのが瑞樹の本音だったする。
 そう、悩んでいたのだが。ちょっとこれは色々論外だ。
 彼女の部屋の惨状を見て、とりあえずその葛藤は一度置いておくことにした。
「とりあえず……片付けようか」
 答えが分からず途方にくれるよりも、まずは明らかになっている問題の解決から。元から掃除は得意な方であるし、これなら瑞樹にもなんとかできそうな気がする。
 そう思い直し、瑞樹は芙蘭が風呂に入っている内にと手近にあった衣服の山へと手を伸ばしかけ――寸前で止めた。
「……いや、男がお嬢さんの部屋の世話ってありなのか?」
 そこで我に返る。一応、色々特殊な性癖を抱えていて、ついでに心も折れていて、さらに部屋の中がものすごいことになっていても芙蘭はいち女性である。(聞いたらとりあえず成人はしている様だった。良かった)そんな女性の部屋に入り、あまつさえ許可を貰っているとはいえ彼女の衣服を片付けるというのは色々どうなのだろうか。ヤドリガミであるとはいえ瑞樹は男性であるのだ。こう、いろいろ常識とか、見てはいけないものとか、あるのではないだろうか。
「……とりあえず他のところにしよう」
 先程とは別の葛藤の末、瑞樹はとりあえず、と散らばっていたゴミを集めることにした。彼女の生活を整える人の中には女性もいたし、デリケートな部分は彼女達に任せる、もしくは芙蘭に直接いって見られたくないものは先に片付けてもらうことにしよう。そちらの方が安全だ、色々な意味で。
「それにしても……」
 次々と発掘されるゴミを纏めながら瑞樹はため息をつく。芙蘭の限界の名残という名のその内容は、握りつぶされた没案の原稿や書き損じは勿論、散らばった資料、汚れた衣服など様々である。その中でもとりわけ多いのが携帯食料のパッケージと思しきゴミだった。
「今までどうやって生活してたんだ? 食事ってもしかしなくても……これ?」
 サンドイッチを頬張りながら、芙蘭は瑞樹の冷たい視線を居心地悪そうに受け流す。それが何よりも雄弁な回答だった。
 生存する上での必須事項である食事すらこうなのだ、他のことに関してはもやは聞くまでもないだろう。
「書くにしろ書かないにしろ、なるべく規則正しい生活をしような……」
「ひゃい……」
 一応と小言を指すが、芙蘭は小さくなって曖昧に返事をするだけだ。今は自分をはじめ他の猟兵達が手伝うからよいが、このままでは数か月後には元に戻りかねないだろう。
 そういう訳で、瑞樹は少しばかり怖い話をすることにした。
「……創作系の生業をしている人は、何かと短命がちだとUDCアースでも聞いたことがあるな」
 若い時は大丈夫と思っていても、年を重ねた時にその反応は意外な所で返ってくる。健康だと自負していた人がある時急に大病に倒れてしまったり、酷いとそのまま帰らぬ人になってしまったり。はたまた前触れもなく、なんていうのも別世界のこの業界、よく聞く話である。
「わ、わたくしは作品の為なら命は惜しくなくてよ……!」
「いやそうじゃなくてさ……この世界でも同じかわからんけど、その世界では家で突然死すると警察に家探しられるらしいな」
「……家探し?」
「そう、家探し」
 家探し。そう、つまるところ、何も知らない他人に自分の家の中をひっくり返され、中にあるものをしっかりばっちり調べられる。瑞樹が一角を片付けた山の中身も、彼女の本棚も――もちろん芙蘭が書いた作品とやらも。
「そうなった場合、その……いろいろ大丈夫か?」
 何が、など、皆まで言うな。
 瑞樹の恐ろしい言葉を聞き、びくっと芙蘭が大きく震えた。おそらく彼が言ったもしもの可能性を思い浮かべているのだろう。その顔は赤くなったり蒼くなったりと大忙しだった。
「……死ぬ前に何としても全てを燃やさなくては!」
「いやその前に急死するような状況にならないようにだな」
「……努力しますわ!」
 割と真面目に、芙蘭が己の生活の有様を見直そうと思いなおした記念すべき時がそこに生まれた。
 
 オタクたるもの、簡単に迂闊に死ぬことも許されない。それはその星に生まれた者達の宿業なのである。


●作業中に正気に返ってはいけない
「部屋が散らかるのも分かるぞ、我も遠隔の召喚に縛られし宿命故な!」
 元気よく書類の山をかき集めながら、黒河内・柊夜(中途半端にこじらせた・f16288)は部屋の主である芙蘭の行動にあるある、と頷いた。
 ちなみに彼の指すところは遠く離れた地においても呼び出され、出された仕事をきっちりとこなさなければならない社会人の宿命、リモートワークである。あ、あの資料どこだっけ、とか一区切りの間に、とか頻繁に物を取りに行くことがだんだんそれが煩わしくなる。その内に手の届く範囲に積みがちになってしまうとかありがちな環境だったりする、かもしれない。
「似て非なる宿命に生きる者の縁だ、我が技法により作業に完璧な場を錬成してみせよう!」
 そんな環境に身を置く柊夜だからこそ、出来ることがある。
 まず、散らばった資料や原稿を全てかき集め、大まかな大きさ、内容に分類する。その中で使用頻度が高そうなものをさらに細かく分類し、順に手に取りやすい場所へとまとめていくのだ。
「内容もきっちり確認して傾向ごとに分け……っとええい紙が多いな!」
 ばらばらばら。
 次の山に着手を、と山へ触れたところで、目の前でずささ、と紙の山から雪崩が発生した。
 散らばっていく大小問わずの本に被さる様に、書きかけなのだが書き損じなのだか分からない原稿用紙が床に滑り落ちていった。
 彼が住まうUDCアースではある程度の資料ならデータとして保存することが可能だ。書籍だって物によっては電子に置き換えることはできる。しかし、ここはそんなものなど存在はしないサクラミラージュ。物理的に圧縮された紙量は、その遥か上をいくものである。
 それでも柊夜は挫けない。とりあえずやらなければ作業は進まないのだ。
 散らばっていった紙を再び集め、転がった書籍をとりあえずと床に並べ再び分類を繰り返す。重い図鑑や資料もなんのその、サイコキネシスを使って運べば、柊夜一人でも簡単だ。
 問題があるとすれば、そう――。
「む……これは一体何に分類すればよいのだ?」
 珍しく綴じられた原稿用紙に並ぶ、芙蘭のものと思われる字。それを辿りながら柊夜は首を傾げた。流し読みをするに、そこに出てくるのは學徒兵と思われる青年二人……なのだが、どうもスキンシップが激しい。これが、彼女が好むジャンルなのだろうか。
「我も浅学だ……耽美というのが良く分からん。芙蘭なる者よ、これはどのような意図の描写だ? この後の二人はどうなるのだ?」
「はうぁ⁉ そ、そそそそそれはまだ書きかけでその先は正直……!」
 妙に慌てた様子の芙蘭の言葉に柊夜は驚く。
 確かに柊夜の手の中の作品は書きかけだ。しかし、任務により生死不明となっていた青年の一人が生きていたことが分かり、運命の再会を喜ぶところで終わってしまっていた。しかも妙に熱い抱擁と、近くなった距離を思わせる描写を残しながら。これなら先が気になってしまうのも無理がないというものだ、まるでその距離といったら、顔と顔が触れ合ってしまいそうなほどなのだから。
「ん? これから書く? いやその内容を教えよ、そして書くのだ」
「いやだからその先は……」
 芙蘭の目が全力で泳ぎ出す。何かを言っているように思えるも、その言葉あー、やうーなど意味不明の言葉にかき消されていまいち要領を得ない。言えば内容も自然と固まり、形にしやすいだろうと思っていたのだが、違うのだろうか。
「さぁ、はやく言うのだ。この先はどうなる」
「……素面のまま語るとかいっそ殺してっ!」
 再度問い詰めれば、何をどうしてか芙蘭は一目散に柊夜の前から逃げ出した。もう脱兎の勢いである。
「こら逃げるな! あっ、合法阿片に手を伸ばすな、現実逃避は許さんぞ!」
 何故か暴れる出した芙蘭を柊夜はなんとか宥める。阿片など冗談ではない、これから大切な作業という時に、薬に酩酊するなど言語同断である。真面目に素直に机に向かわせることが、柊夜達の目的なのだ。
「言えとは言わぬからづべこべ言わずにさっさと心のままに原稿を埋めるが良い」
「うう、ううう……」
「まずはやれ。社会人の我が言うから間違いない、締め切りを前に我々は無力なのだ……うん……」
 締切、それは人の心を追い詰め搔き乱す魔性。余裕があるかと思えば、気付くと切羽詰まってしまうもの。そうでなくても急に向こうから距離を詰めて来るもの。人間、何をどうやっても締切からは逃れられない。考えれば考えるほど、柊夜の目は遠くなっていく。
 そんな彼を見て、芙蘭も何かを察した様で大人しくなる。
「……貴方も苦労しているのね」
 なんか逆に同情された。ちょっと泣きたかった。
 ああ、としみじみと呟き、柊夜は再び彼女を整理された作業机へと座らせる。
 芙蘭は、今度は逃げなかった。
 
 
 
●一番のご褒美
 買い出しの帰路に、ねぇ、とセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)はヴィクトリアへと問いかける。
「ヴィクトリアちゃんは、スランプ経験、ある?」
「スランプ、ですか?」
 人とは不安定なものだ。どんなに力を持った人物であるとはいえ、その力を常に、最大限のパフォーマンスで発揮できるとは限らない。
「……こう、と言った明確なものは記憶にありませんが……でも、思い悩む事くらいは、沢山ありますね」
 例えば成長の途中、己の力に限界を感じた時。失敗が続いてしまったとき。人の心は簡単に揺れ動き、自身の力であるにも関わらず満足に振るえなくなってしまうときは、ある。
「そうだよね。私は殆ど無いけど……無い、とは言わない」
 剣の才覚に優れ、傍らで幾多のゴーレムを生み出し天才と謳われたセフィリカでさえ、決して皆無ではない。数少ないその記憶は大切な姉貴分と、周りの助けがあったからこそ長くはなかったが、それでも辛いものは辛かった。
 だから、きっと芙蘭も辛い筈だ。書きたいのに書けない。好きなのに書けない、そんな苦しみが彼女を暴走させた。
 だから、今、セフィリカが芙蘭を励ますべく行うことは一つ。
「そういう時にこそ、ベッタベタに褒められたり甘やかされたいよね!」
 頑張ったね、よく出来たよ。すごい。大丈夫。思いつく限りの肯定の言葉を投げかけてあげたい。うわべだけでなく、心から。彼女の奥底まで温めてくれるような元気を分け与えてあげだい。
 そのためにはまず、彼女が好きなもの、彼女が生み出してきたものをもっと知らなければならない!
 そう心に決めたセフィリカは勢いよく芙蘭の家の扉を開ける。そのまま脇目も振らず、部屋の中へ入り、事前に教えてもらっていた目的の――芙蘭が過去に作った作品を収めた本棚へ。
『ウゼーのよね、こういう時のこの子……』
 一直線に本へと飛びついたセフィリカの腰で魔剣がぼそりと言ったが、今の彼女はそんなことなど構いやしなかった。元々彼女は思い立ったらとことんやり尽くすタイプなのだ。
「まぁまぁ……」
 そんな魔剣の愚痴を耳にしたヴィクトリアが代わりに苦笑を漏らす。
 けれど、ヴィクトリアもセフィリカの考えには、大まかには賛成だった。
 今彼女に与えるべきは、厳しい言葉でも逆境に立ち向かう為の根性ではない。それはまた、別の時に使うべきだ。
 スランプに苦しむ彼女に必要なことは……やはり、良き食事と良き睡眠だろう。身心を回復させてこそ正常な判断は取り戻せる。一見遠回りに思えることが、巡り巡って一番の近道になるのだ。
 芙蘭の過去作を片っ端から読み漁るセフィリカをとりあえずそっとしておき、ヴィクトリアは早速芙蘭への全力のお世話モードを開始する。
 まずは部屋の換気から。窓中の窓を開け、埃っぽくなった室内の空気を入れ替える。籠った空気では心も曇ってしまうというものだ。新鮮な空気を取り込む間に、男性陣が(敢えて)残していた一角の掃除もてきぱきと片付けていった。敷きっぱなしになっていた布団も勿論没収。
日当たりのよい場所に干し、少しでも心地のよい睡眠を提供できるように努める。
「さて……」
 そこまで整えて、ヴィクトリアは芙蘭から借りた新品の割烹着を身に纏う。
 残る彼女の仕事は――お料理タイムだ。今現在彼女のお腹は満たされているようなので、今後彼女が偏った食事をすることがないように、簡単に、すぐに食べられて、尚且つ保存がきく常備菜をメインに作り始めた。
「ふむふむ……」
 ヴィクトリア買いだした食料を検め始めた時、一方のセフィリカはひたすら耽美に耽っていた。もう周りが見えないくらい夢中に芙蘭の小説を読み進めていた。
「……あ、ここ好きだなぁ」
 読みながら、手元に置いた紙に感じたことを挙げていく。自然な展開運び、好みのシチュエーション、台詞、キャラの魅力……。一冊ごとなんて勿体ない、一話ごと、一章ごとに、事細かに、一つ一つ取り上げていく。
 だってこの作品は芙蘭が、それこそ己の魂を燃やして書いた小説なんだ。そんなの、面白くない訳が無い。
「私、この二人、好きだなぁ。探偵がヘタレたところにグイっと来る助手のこの存在感が本当に最高で……」
「あ、それは……探偵がリード側と見せかけてその実精神的には助手がサポートしてるっていう意外性を見せたくて……」
「分かる! このシーンで見直しちゃったよ、思わずどきっとしちゃった!」
「分かってくれる……⁉」
「勿論!」
 満面の笑顔でセフィリカが肯定すれば、自然と芙蘭の表情も和らいでいく。そんな微笑ましい光景を見守りながら、ヴィクトリアは下拵えを終えた煮卵を容器に入れた。やはり卵は万能食である。人手まで色々応用がきくし、彼女のような人には必須だろう。
「あとねあとね。イケイケの王子様が裏では従者にゾッコンっていう意外性が堪らない! 新たな扉が開いたよ!」
「そうでしょ、王道は王子と従者、だと思うんだけど、そう思わせて実は、の落差を頑張ったの。妄想が先走るから匂わせを書きすぎないように苦労したんだけれど、その分我ながら良い急展開を運べたと思って……!」
 続いて同時に作ってい野菜の煮浸しの味も確認。濃すぎず、薄すぎず、我ながら実に酔い塩梅だ。外食や保存食などの類はついつい味付けが濃くなってしまうから、敢えて素材本来の旨味を出すように意識した。これも容器に詰め、冷所に置いておくことにする。その他にも野菜だけではなく、鶏肉、豚肉、豆類も数点。飽きが来ないようになるべく多くの種類を少しずつ作ってあげた方が良いだろう。こんな時だからこそ、なるべく滋養があるモノを食べてくれるようにと、丁寧に調理していく。
「わかるわかるっ、特にこの台詞がすごくきゅん、って来ちゃって……! あとあとこのサブタイトルも読み返すと感慨深いなぁって思うの」
「それすっごく嬉しい……何度も何度も悩み抜いて考えたのよ!」
 少しずつ顔を輝かせていく芙蘭。やはり創作者の一番の活力は、自分が手掛けたものへの感想なのだ。
 それを目の前で再確認したから。セフィリカは最後にぎゅっと彼女の手を握り、したためたばかりの手紙を握らせた。
「これは……」
「感想。さっきの含めて、良いなって思ったところを余すところなく書いたんだ。手紙の方が後から読み返せるでしょう?」
「そんな気遣いまで……っ!」
 セフィリカの優しさに、芙蘭の目から大粒の涙が零れる。そんな彼女の頭を撫でてあげながら、セフィリカはやっぱり笑顔で言うのだった。
「私、もっと続きが読みたいなー!」
 次のお話も楽しみにしてる! そう言えば芙蘭は何度も頷いて。
「わたくし……頑張るわ。わたくしの小説をこんなに楽しんでくれる人がいるんだもの……挫けてなんていられない!」
 顔を上げた彼女の表情を見て、二人は確信した。彼女はもう大丈夫。失くしてしまった情熱を彼女は取り戻せる、まだまだ彼女はやり直せるのだ。
 最後にと完成した一品を小皿にとりわけ、ヴィクトリアはセフィリカと芙蘭の前へと差し出す。
「さぁ、デザートですよ。これを食べて、もう少し頑張りましょう」
 桃のコンポートの優しく甘い香りが三人を包み込んだ。誘われるように芙蘭は小さく切り分けたそれを口に運び、今度こそ、彼女は吹っ切れたというように明るく笑った。
「……ありがとう、お母さん」
「えっ」
「えっ」
「あっ」
「あの……おそらく年はそう変わりませんが……」
「あー……その、うっかり」
 ――まぁ、これもよくある和む光景なのである、多分。

 
 
 斯くして、執筆という戦場への場も、芙蘭の身心も整えられた。
 計画は次の段階へと進行する。
 そう、それは具体的なネタ出し、そして執筆という終わるで決して楽になることはない、仁義なき戦いである――!
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
カイム(f08018)と


カイムが参考にと話し始めたそれは、なるほど、婚約者のことかと納得
ならば、俺も彼女のことを語ろうか

「俺は……一目惚れだった」
楽しそうにはしゃぐ姿は微笑ましく、不意打ちで口付けた時の顔は可愛らしく、温かく微笑む様子は愛おしい
切なそうに溜め息なんて吐けば、それらしく見えるだろう

ちらとカイムに視線を向けて、ウインクする彼と目が合えば、思わず笑ってしまいそうだ
あえて伏せてはいるが、互いに誰の話をしているか分かっているからな
カイム達の仲の良さを知れば、これは後でじっくり話を聞かなければならないと心に決める

カイムの台詞を使った作品をぜひ読んでみたい
芙蘭には執筆を頑張ってもらわねば


カイム・クローバー
悟郎(f19225)と共に。

喪失後の芙蘭にどう声を掛けて良いのか…。
あー…このまま、無視ってのもな。小説の参考になるかどうかは分からねぇが、軽く話のネタを譲るつもりで普段、どう接しているのか喋って見ても構わねぇ。
アイツ(彼女)は大人っぽく見えて、子供っぽいトコがあるからな。時々、不貞腐れたりもするんだが、そこも可愛らしいトコだ。頭を撫でてやると不貞腐れながらも少し機嫌が直ったりする。こいつは内緒だぜ?(ウインク)
この間は一緒に海に行って来た。二人で眺める青い海は最高に綺麗でよ、ホントに良い息抜きになるんだ。
(悟郎を見て)互いに(彼女を)大事に想ってるのさ。
肝心の彼女というトコは伝え忘れつつ――



●語る目は口より雄弁に
 さて、どう声をかけて良いのやら。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は机に噛り付く芙蘭に肩を竦める。喪失後、失意のどん底に落とされた彼女だが、どうやら何とか這い上がる兆しが見えてきたようだ。
 しかし、未だ完全復帰とは程遠い。原稿に向かう意欲はあっても、肝心の手元は真っ白。先程から遅々として文字は進んでいないようだった。
「あー……このまま、無視ってのもな」
 書く気にはなったな、じゃあ後は頑張れ、と言って帰る程カイムも悪人ではない。とりあえず、彼女の傍に腰を下ろし様子を伺うことにする。
「煮詰まってんのか?」
「詰まってる……」
 ごちんと、机に額をぶつける勢いで突っ伏す芙蘭。これはまだまだ、なかなかの重症である。
そんな彼女の様子に頭を掻き、カイムは仕方ないと息を吐いた。
 折角頑張ろうというのだから、餞別代わりにネタの一つでも譲ってやろうではないか。
「小説の参考になるかどうかは分からねぇが……俺達が普段、どう接しているか喋っても構わねぇよ」
「……聞く!」
 どうする、と尋ねる前に、餌に食いつくように芙蘭は顔を上げる。その勢いに少し引きつつ、カイムは傍に立っていた薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)に目配せをした。
「お前も別に良いだろ?」
 何を、とは言わなかったが、悟郎は二つ返事で了承する。思い当たることは多くあったが、別に二人の仲だ、互いに話されて困ることもないだろう。
「アイツはさ……大人っぽく見えて、子供っぽいトコがあるからな。時々、不貞腐れたりするんだが、そこも可愛らしいトコなんだ」
 切り出したカイムの話の内容に、悟郎は直ぐになるほど、と納得した。確認するまでもなく今、彼の表情は優し気な笑みを浮かべているだろう。
 だって彼は、彼の婚約者の話をしているのだから。
「えっ、惚気ですか、惚気ですか?」
「まっ、そんなもんさ」
 机から落ちてしまうのではないかと思うくらい身を乗り出し、カイムと悟郎を交互に見比べる芙蘭。彼女が今の話を聞いて、何をどう解釈しているのかなんてもう今更である。ついでにここまで来たら、彼女の誤解を解く気は二人に最早無い。
「頭を撫でてやると、不貞腐れながらも少し機嫌が直ったりする。おっと、こいつは内緒だぜ?」
「ここで言ったら内緒にならないだろう」
 口元に手を当てウインクをするカイムと目が合えば、悟郎は笑ってしまいそうになった。
 そして、後に続くように悟郎も自身の宝である「彼女」について想いを口にする。カイムがここまで話したのだ、ならば自分も倣わなければきっとフェアではないだろう。
「俺は……そうだな。一目惚れだった」
 大衆はその姿を宝石人、と呼んでいたと聞くけれど。その魅力はそんな一言では表せない。表してはいけない。
「楽しそうにはしゃく姿は微笑ましく、不意打ちで口づけた時の顔は可愛らしく……温かく微笑む様子は愛おしい」
 それなのに、長き時を経ても曇ることのない美しさは紛れもないもので。切なそうに溜息なんて吐けば、崇め続けられた翠玉の現人神としての一面も垣間見えてしまう。
 そんな美しさも、愛らしさも、全てが悟郎の心を惹いて止まない。それが、彼女であるのだ。
「ああ、この間は一緒に海に行ってきたんだ。二人で眺める青い海は最高に綺麗でよ、ホント良い息抜きになるんだ」
 話ながらカイムはその光景を思い出す。青い空も、太陽に煌めく金の髪も、怖がりながらもこちらにしがみついてくる様子も――二人で海中へ潜ったことも。全てが眩しい思い出だ。
 カイムの話に悟郎も自然に笑みが零れる。海にいったというのは聞いたが、そんなに良い思い出だったのか、まるで聞いているこちらまで楽しくなってしまいそうだ。これは後で、もっとじっくり話を聞かなければならない。
 そうやって笑い合う二人は、まるで共通の思い出に浸っているように見えなくもなくて。
「仲が良いのね……熱々じゃないもう……」
 にへにへと形容しがたい笑みを浮かべながら芙蘭がほうと溜息をついた。どうやら二人の話は随分、彼女の気に召したらしい。おもむろに傍らにあった紙片を引っ張り出すと、そこに素早く『大人に見えて子供』とか、『一目惚れ』とか『海水浴』とか。聞いた話を断片的に書き連ねていく。そこからさらに線を走らせ、落差を、とか宝石のような輝き、とか単語を書き進めている。どうやら何か案が浮かんできたらしい、さらに次、と紙片を捲り、芙蘭の万年筆がせわしなく動き始める。
「互いに大事に想ってるのさ」
 誰を、は勿論言うまでもない。それでも悟郎の目を見れば、お互いの彼女を思い合っているのは分かるのだから。
「あっ、その台詞、言い方、萌えるわ、使うわね!」
 更にガリガリと構成を纏めてき、最後にカイムの台詞をそっくり写し取る芙蘭。
「俺も良いと思うな、それ。その台詞を使った作品をぜひ読んでみたい。芙蘭には頑張ってもらわねば」
「まかせて、これて一話、いけそうよ!」
 結局、芙蘭には最後まで、二人が差していたのはそれぞれの彼女であるという重要な情報は伝え忘れられたままだった。


 その後、二人の話を受けた彼女が海辺で遊び、互いの想いを確認しあう、純甘ながらも青春たっぷりの、勿論青年二人組の短編を書き上げたのは言うまでもない。なんでも月長石のような美しい髪を持つ快活な青年に一目惚れした青年は、相手が垣間見せる表情に惹かれれたりとか、相手の方も大人びた彼が見せるふとした時のあどけない所作に胸をときめかせたりとか。
 王道に沿いつつも時折見せる性格の落差や繊細な心理描写は芙蘭の作品の中でも屈指の表現力を誇ったとか、誇らなかったとか。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と


霧子嬢には話して差し上げられませんでしたが
僕たちの過去のお話が創作に役立つのならば話せる範囲でなんなりと

そうですね、僕たち二人の馴れ初めはとある異世界の夕闇迫る丘の上でした
お互いが同じ種族故に抱える問題を話し感情をぶつけ合い―――
お互いがお互いの導きの星になったのです

ザッフィーロはひとの生活と衆目の意識に疎くて
最初の頃は飲食店で臆面もなく僕の手からベーグルを食べることをねだったりと、今思えば気恥ずかしいことも多かったですが……
初めて逢った時から格好良くてとても可愛い、僕の天狼星です

……ほぼほぼ惚気になってしまいましたが
貴女の創作に寄与するものであれば良いのですが


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と


宵の愛らしい姿を直接見せたくはないが話ならばとネタの提供を申し出よう
恋愛小説なのだろう?ならば暑がりの者が冬には身を寄せてくれる旨等入れてはどうだ?
宵も暑さに弱くてな…夏は暑いと逃げるのだが近頃は冷えてきたせいか朝迄腕の中に居てくれる事が増えた故に
まあ二度寝が捗り家族である犬猫がフード袋を食い破り散らばすという悲劇はあるのだが…と

宵はその、何だ。あの時は傍の女子達もしていた故、普通の事だと…な…?
だがまあ、お前の手から食べたいと思う時点で無意識ながら惹かれていたのやもしれんが

少しは役に立てただろうか?
創造し形に出来るという事は素晴らしい事ゆえ筆を折らずにいてくれればとそう思う



●上天に輝きて
 それでは僕達からも、と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が手を挙げた。
「霧子嬢には話して差し上げられませんでしたが、僕達の過去のお話が創作に約圧のならば話せる範囲でなんなりと」
 ね、と宵は傍らのザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)に寄りかかり、同意を求める。対するザッフィーロそんな彼に微笑みかけてから、芙蘭へ向き直り頷き返す。
「宵の愛らしい姿を直接見せたくはないが、話ならば良いだろう」
「……あの」
 そんな、ナチュラルに密になる二人をじっくりと、文字通り嘗め回すように見つつ、芙蘭は真剣な面持ちで二人に尋ねた。
「……ちなみにお二人は、つまるところ?」
 その先は、皆まで言うな、そういうこと。(字余り)
 にっこりと宵が笑う。
「ご想像の通りで間違いないかと」
 何が、とは直接口に出さずに答えた彼に鼻息を荒くする芙蘭。ここで今更聞くのかよ、という突っ込みはおそらく今の彼女には通用しないだろう。
「そうですね――では、僕たちの始まりから、お話しましょうか」
 勢いよくメモ紙と万年筆を構える芙蘭を前にして、宵はとうとうとあの日の夜――偶然にして、忘れることのできない大切な日の事と語り始める。
「僕たち二人の馴れ初めは、とある異世界の夕闇迫る丘の上でした」
 赤紫の小花が揺れる丘の上。たまたま出会った二人は、そのまま星を見上げていた。
 お互いに長く時を経て、肉の器を手に入れた種族。それ故に胸の内に抱える澱を打ち明け、或る時は互いの感情をぶつけ合って――気が付けば、お互いがお互いの導き星となっていた。
 造られたものとしての宿業と、ヒトの身を手に入れたものとしての自由。相反する二つの中で、気付かされた己の道。その時の感情は、きっと一言で表せるものではないと宵は思う。
「互いが互いを導く……うんうん、星空の中っていうのも浪漫溢れるわね」
 ぶんぶんと首を振って宵の想い出の光景を文字へと書き起こしていく芙蘭を、宵は微笑まし気に見る。ざっと盗み見れば宵が言った覚えもない行動や信条が混ざっているのはもはやご愛敬だろう。その道の者達はいつだって、現実を見ている様で現実以上のものを見ているのだから。
「互いの距離が近づいてからは、彼の可愛い一面を目にすることが多かったですね。ザッフィーロはひとの生活と衆目の意識に弱くて、最初のころは飲食店で臆面もなく僕の手からベーグルを食べることをねだったりと、今思えば気恥ずかしいことも多かったですね」
「えっ、えっ、あのパフェ以上のことを、街の真ん中で⁉」
「やはり先の時の視線はお前だったか……」
 唐突に曝露される昼間の犯人だった。いや、大方予想はついていたことではあるが、面と向かって見ていた、と言われるのは少しばかり気恥ずかしいものがある。ザッフィーロは大きく咳払いをし、きらきらと濁った眼を向けてくる芙蘭が近づいてくるのを制した。
「その、何だ。あの時は傍の女子達もしていた故、普通のことだと……な?」
 女性同士は何かと距離が近いものである。お互いの甘味を交換しあったり、相手の手から食べることも、若い少女達の間ではよく見かけた風景だったのだ。だからまさか、性別と年齢が少しばかり違っただけで、意味合いがこうも変わるなんて思いも寄らなかったのだ。
 だが、その時の記憶だってザッフィーロにとっては良き思い出の一つである。
「……まあ、お前の手から食べたいと思う時点で無意識ながら惹かれていたのやもしれんがな」
 思い出せば多少の気恥ずかしさを覚えるとはいえ、今も昔もその行為を後悔することは全くない、というのが真実である。例え周りに倣ったとしても、誰彼構わずにしたわけではない。
「それくらい、宵は魅力的だったのだろう」
 隣にいたのが彼だから、つい。暖かな感情の向くままに、ザッフィーロはそうしてしまったのだと、振り返ればそう思う。
「ふふ……僕にとっても、初めて逢った時から恰好良くて、とても可愛い天狼星です」
 それは宵にとっても同じこと。空を見上げて探した輝きは、今はすぐそこに。己の在り方を指示した光は、いつしかすぐそこに、片時も離れずについていてくれる。そしてそれが何よりも心地よい。
「他には……そうだ、芙蘭の書くものは恋愛小説なのだろう? ならば暑がりの者が冬には身を寄せてくれる旨はどうだ?」
「ああ、そこを言ってしまいますか」
「待って詳しく」
 待って欲しいのか詳細を話して欲しいのか。いやこの視線は明らかに続きを待っているのだろう。そう判断したザッフィーロは最近の朝の日常を少しばかり付け加えることにした。
「宵も暑さに弱くてな……夏は暑いと逃げるのだが、近ごろは冷えてきたせいか朝まで腕の中にいてくれることが増えた」
「腕の中」
「はい、ついつい暖かく居心地が良くて……最近は毎朝負けっぱなしですね」
「毎朝」
「無理もない、めっきり冷えてきたからな……まぁ、二度寝がはかどり家族である犬猫がフード袋を食い破り散らばすという悲劇はあるのだが……芙蘭?」
 騒ぐどころか遂に片言になった芙蘭をザッフィーロは訝しみ、彼女の顔を覗き込む。
 あらぬ方向を見て押し黙る彼女はなんというか……とてもだらしない顔をしていた。手元の紙片に大きく『意味深』と書いているあたり、とりあえず大丈夫なのだろう。多分。
 

「……なんだかほぼほぼ惚気になってしまいましたね」 
今この尊さを纏めるからちょっと待って、と言い残し、原稿に向かい己の妄想の世界に入っていった芙蘭を見送りつつ、宵は取り上げた話題を振り返りしみじみと言った。
 想い出話やときめく場面の提供を、と思った筈だったが、結局のところ己の半身がいかに魅力的かを延々と語っていただけの様な気がする。彼女の創作に寄与できるものがあったのなら良いのだが。
「創造し、形にできるという事は素晴らしい事ゆえ、筆を折らずにいてくれればいいと思う……少しは役に立てただろうか?」
 彼女の好む内容であるか、なかなか判断に苦しんでいたのだが、とザッフィーロが唸れば、ちゃっかり二人の話が聞こえていたらしい芙蘭が無言で手を上げた。
 手を握り、挙げられた親指が上を向いている辺り、どうやら彼女にとってはとても萌え……有意義な話であったのは間違い無いだろう。
「体験談はやっぱ濃さが違うわ……リアルさをもっと追及しないと……ふふふふ……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

平平・晴

あ、先ほどはご心配おかけしました
我々公式や神からの供給で割と軽率に死ぬので死ぬのは慣れてるんです

性癖開花したばかりの霧子さんも
きっとまたこんな風に再会できると思うんです
だからその日まで書き続けましょうよ、貴女の耽美を

私は主に読み専でして…すいません
執筆の真似事をしてみた事はあるんですが
気づくと何故かいつも推しが病んだり死んだり事故にあったり村を焼かれたりで
救いようのない酷い目に遭うのでしんどくなってやめました…
推しを幸せにしたい気持ちはあるんですが

そう言う訳でランプ擬人化BLなんてどうですか
一度は分かたれた二人が紆余曲折を経て再会
これからはずっと共にと明るく温かく未来を照らし生きていくような



●仰げば尊死
 此処までに聞いた、甘く濃いリアル体験談をもとに短編を創り上げていく芙蘭。執筆がひと段落したところで手を止め、思考の海へと沈む。
 さて、次はどのようなネタ出しをしようか。そろそろ少しばかり刺激的な、意外性に富んだものを投げ込みたいところであるが。そう思いながら宙を見つめ、頭の中の引き出しを漁り始めた、その時。
「擬人化はどうでしょう」
 にゅ、という効果音でも聞こえてきそうな勢いで、平平・晴(一般人・f27247)こと腐晴彼女の視界へと滑り込んできた。
「きゃあああっ⁉」
 思わず芙蘭は悲鳴を上げる。当然現れたことにも勿論驚いたが、それ以上に芙蘭にとって彼女は予想外の登場なのだ。
 何故って、そう。
「あ、あなた……さっき死んだ筈じゃ……」
 そう、影朧霧子との戦いで、その身に過ぎた能力と引き換えにその命を落とした筈なのだ。思わず後ろへと下がった芙蘭に、腐晴はああ、と納得したように頷き、ぺこりと頭を下げる。
「あ、先ほどはご心配をおかけしました。我々公式や神からの供給で割と軽率に死ぬので死ぬのは慣れてるんです」
 繊細で感受性が豊か、と言えば聞こえがいいが、妄想が先走り過ぎて感情が暴走するオタク達は割とちょっとしたことで限界を超える。推しの顔が良くても死に、四季折々のシチュエーションでも無理を超え、公式の匂わせで灰となる。さらに追い打ちのように神絵師神字書きからの供給に塵となる。
 しかし、うかうかといつまでも死んでいられないのも又オタクだ。何故って死んでいる間に再び供給が来るから。それを拝むまでは死んでも死にきれないというものだ。
 そんなこんなで、先の戦いで死したはずの腐晴は割とぴんぴんとして芙蘭の前に立っているのだった。
「いやまぁ……わかるけどっ‼」
 そして分かられた。耽美の文化は異世界文化の壁もやすやすと超えまった様だ。
「だからですね」
 確かな共感を感じた腐晴は、だから、と少しだけ真面目な顔をして続ける。
「性癖を開花したばかりの霧子さんも、きっとこんな風に再会できると思うんです」
 先も行った様に、オタクたるものやすやすと死んではいられない。死んでもすぐに生き返る。だって死んでしまったら、新たな供給を己の網膜と魂に刻み付けることができなくなってしまうのだから。
 腐晴だってこうしてすぐに生き返った。だから――同志としての目覚めを迎えた霧子だってすぐ、再びこの現世に顔を出すに違いないのだ。
「だからその日まで書き続けましょうよ、貴方の耽美を」
 最後の彼女の望みを果たす為に。そして――再び巡り合う為に。
 そう言えば、芙蘭は少しだけ涙ぐんで、それでも大きく頷いたのだった。
 
 
 どうか同じ性癖を持つ者として原稿の友情出演を、と申し出た芙蘭を、腐晴は丁重に断った。
「私は主に読み専でして……すみません」
 申し訳ない気持ちで一杯になりながらも頭を下げる。腐晴とて、過去、一度や二度や三度や四度、執筆の真似事をしてみたことはあった。
 しかし、己の欲望に走ってしまうのがその道の業かな。気が付けば何故かいつも、推しが病んだり死んだり事故にあったり村を焼かれたり……ととにかく散々な目に遭ってしまう話へと進めてしまう。
「終いには救いようのない酷い目に遭っていく推しを見ているのがしんどくなって……やめてしまいました。
 そんな目に遭わせているのは他ならぬ自分が原因なんだけど。そんな表情も苦しみも大好物であるのだけれど。やっぱり推しには幸せになって貰いたい気持ちはあるのだ。しかしこう、ちょっと手癖で趣味に走ってしまうのが問題なだけで。多分、きっとおそらく。
 不幸になって欲しい訳じゃない、ちょっと苦しんで欲しかっただけなんだ、というやつである。
「そんな訳で私もネタの提供をさせて頂きたく」
「それで擬人化?」
「ええ……例えばランプ擬人化なんてどうですか? 一度は分かたれた二人が紆余曲折を経て再会、これからはずっと共にと明るく温かく、未来を照らしていくような」
「素敵……とても希望に溢れるわね。ランプと炎、だったらお互いがいなければ片や役立たず、もう片方は人を傷つけてしまう不器用さをもっているなんていうのもよくってよ!」
 そこから暫し二人は擬人化の設定に花を咲かせる。それぞれのキャラがどうであるかとか、出合いとか、それぞれの位置がどちらかとか。とにかく話は盛り上がった。
 その中で、ふと芙蘭が疑問を投げかける。
「けれど……一度二人が離れ離れになるきっかけは何にしましょう? 話の転機だから、少しくらい劇的な展開があっても良いのだけれど」
 悩む腐晴。しかしすぐに閃いた、というように彼女は叫んだ。
「そうですね……では村を焼かれ追われたという設定で!」
 耽美女子たるもの、この手の業にはやはり抗えないのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケイラ・ローク
◎②
トーゴ(f14519)と参加♪
服装は自称猫耳美少年のまま
しかし口調は素に戻った

キミぃ~…芙蘭さんの身になれば笑い事じゃないわよぉ
真っ白で迫る〆切!なんて生き地獄よ『落とす』は禁句ね!

え、そこお尻で思い出すの?キミ直結するほど経験積んでるの?
待って何いきなり語りだすのよ生々しいのダメよ
…それ泣ける?(ジト目

それより例の指輪のお師匠様はどうなの
崇高な師弟愛がいつしか恋慕に変わったから或る夜に全てを捧げたパターンだとBL的に行けるんじゃないかな、オジサマ攻で
あんな羅刹ですがネタにどう芙蘭さん
イロイロ…想像で補完すればマシ?
月明りで見つめ合い…指輪の光る手がその耳を撫でて…略
で、凄かった、のよね


鹿村・トーゴ


ケイラ(f18523)と

芙蘭嬢の百面相は面白いけど
っとこれは失礼
色々必死なんだよねぇ…
仲間に帝都イチ云々吹聴したのむしろ良いんじゃね?尻に火付いて傑作作る人もいるじゃん

尻で思い出したけどタンビつーか男同士のなアレな
恥ずい嗜好とかじゃない…
あれ文化だ文化
平安の頃には鑑賞されててな
それに
知ってる?寺小僧さんは脚気の薬にもなるんだ
「お住持の脚気は治り小僧は痔」ていう句ね
泣けるね(治らない

師匠の事は好きだが色気のある話じゃねーよ
修行で世話になって
あと刀が苦手なら念動巧く使えとか恩が
ハイハイびいえるびーえる
ついでにフツーにイロイロあった
だって相手は海千山千の年上
追ってでも攻める派よ?逃げ道無いわー



●発酵食品は健康に良い
 泣いて、騒いで、悶えて、と思ったら今度は感動で咽び泣いて突然死んで生き返る。
「芙蘭嬢の百面相は見ていて面白いんだけどなー」
 ころころと変わっていく芙蘭の表情を興味深げに観察しながら、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)はしみじみと思う。自身の周りにその手の人間が多くなかったこともあるが、それでもここまで感情が全力で出てくる人という者はそういないのでは無いかと感じる程だ。とにかく見ていて飽きないし、興味深かった。
「もう、キミぃ~……芙蘭さんの身になれば笑い事じゃないわよぉ」
 そんなトーゴの耳を引っ張り、ケイラ・ローク(トパーズとアメジスト・f18523)は頬を膨らませて彼を嗜めた。ちなみに彼女の服装と髪型は最後の抵抗とばかりに自称美少年を維持していたが、その口調は完全に素に戻っている。
「真っ白で迫る〆切! なんて生き地獄なんだからね、それこそ放送ネタの決まっていない配信本番みたいだわ」
 本当の意味でぶっつけ本番ノープラン小道具無し、など考えただけでも鳥肌が立つ。創り産む文化が身近にあったケイラにとって、芙蘭のピンチは明日の我がことのように思えた。
 だからこそ、このまま放置することは出来ない。
「ほら、私達も何かネタになることを話すわよ」
 ぐいぐいと背中を押し、ケイラはトーゴを芙蘭の前に座らせる。何でもいい、カフェーでの一件のように、ナチュラルに爆弾発言をしてくれれば芙蘭にとっていい刺激となるだろう。
「えー……」
 話の提供を余儀なくされたトーゴは困ったように頭を書いた。そもそもタンビだってイマイチ分からないのに、一体何を話せばよいのやら。
「お願い……まだまだ頁が足らないの、皆に自慢して回っちゃった後だしこのままじゃ大見栄張りの大嘘付きまっしぐらだわ!」
「と言われても……」
 ちなみにトーゴ自身は、彼女が仲間に帝都イチ云々などど吹聴して回ったことはむしろ悪いことではないと思っている。人の中には追い立てなければギリギリまで何もできないという人間は少なからず存在するものだし、言ったからには中途半端なものは出せないだろう。そういう意味ではトーゴなどが下手に手を出さなくても、芙蘭の実力だけでなんとかなるのではないだろうか。
「尻に火付いて傑作作る人もいるじゃんし……」
 あ。一つ思い付いた、話のネタ。ぽんとトーゴが手を叩く。
「尻で思い出したんだけど、タンビつーか、男同士のアレな」
「ぶっ」
「え、そこお尻で思い出すの?」
 唐突に降ってきた爆弾に芙蘭は噴き出し、ケイラは思わずツッコミを入れた。振っておいた身で言うのもなんだが、気のせいでなければ、通常その手の話と繋がりにくい話をしていたと思うのだけれど……話題が急に鋭角を描いて飛んでいった気がするような。
「その連想はどうなの? キミ直結する程経験積んでるの?」
 これもうっかり言えないだけで、あれがあれでそれがそれだったりするの、ねぇ。
「いや俺のことは置いておいて。別にアレって恥ずい嗜好とかじゃないんだよ。えーとあれ、文化だ文化。実は平安の頃にはもう鑑賞されててな」
「待ってとんでもないこと置いて何いきなり語りだすのよ」
「それに知ってる? 寺小僧さんは脚気の薬にもなるんだってさ。『お寺持の脚気は治り小僧は痔』っていう句ね。あ、寺小僧っていうのは修行中の年少の僧のことなんだけど、大体のヤツはお稚児的に」
「ストップストーップ! 生々しいのはダメよ!」
 或る意味予想以上に濃い深淵となっていく話題にケイラは慌てて制止をかける。刺激は確かに大事だが、刺激的過ぎてはいけない。具体的にそれ以上は文字に起こせなくなるのだ。
「え、そう? 健気で泣けるねって言おうと思ったんだけど」
「……それ泣ける?」
 あくまで素できょとんとしているトーゴに、ケイラの冷たいジト目が突き刺さった。
 ちなみに余談として、脚気は当時の偏った食生活から引き起こされるビタミン欠乏症の一種なので、そんなことをしても治らない、というオチもあったりもします。
「泣けねぇ?」
「泣けないっ! ほら、芙蘭ちゃんなんて捗るどころか真っ赤になって突っ伏しちゃったじゃない!」
「ちょ、ちょっと予想以上すぎて……」
 ケイラの言葉通り、刺激的過ぎる話題に芙蘭は机に頭を打ちぷるぷると震えていた。とりあえずトーゴの問題の句を書きとっているあたり辛うじて正気を(ある意味狂気かもしれない)保っている様だったが、正直時間の問題だろう。
 この少年、しっかりリードを掴んでいないととんでもないところへ行きかねない。もう少し健全な、甘く腐った刺激の話題へとケイラは方向修正を試みることにする。
「それより、例の指輪のお師匠様はどうなの。芙蘭さんも気になってたことだし」
「あ、それは是非!」
 ケイラが知っている耽美ものでは、そういう関係での組み合わせは比較的よくあるパターンではないかと思う。些細な日常の甘酸っぱさでも、好きな人は好きなのだ。ほら、見れば芙蘭も起き上がり目を輝かせているし。
「師匠の事なぁ……別に好きだけど、色気がある話じゃねーよ」
 女子二人の好奇に溢れた視線を受け、トーゴは唸った。
 師匠への感情に特別なものはない。修行を通し忍びとしての技術は教えられたけれど、感情の方向性は全く違うものだし。
「あとは、刀が苦手なら念動巧く仕えとかよく言われたっけ」
「もっとBLっぽい話!」
 先ほど打って変わって今度は硬派な話になる、驚くほどの振れ幅である。
「ハイハイびーえるびーえる。……まぁついでに、フツーにイロイロはあったけど」
「色々?」
「イロイロ」
 なんといっても相手は海千山千の年上の、追ってでも攻める派である。始めから逃げ道など存在していない。ついでに具体的な内容を話せばそれこそ先程よりも生々しくなる。
「イロイロ……想像で保管すればマシかな?」
 このあたりが妥協点だろう、とケイラは引っ張り出した情報をもとに語彙力を手繰っていく。あとは受けての想像次第でいくらでも変わっていくだろう。
 たとえば崇高な師弟愛がいつしか恋慕に変わり、とか、ある夜に全てを捧げて、とか。圧倒的な高みにいるオジサマ受けを感じさせる方向にうまく持っていけないだろうか。
 そう、月明りで見つめ合い……今はまだ師匠の元にある指輪。それが光る手がそっとトーゴの耳を撫で、髪を梳いていく。
 そう思った時には、視界はいつの間にか空を見上げていて――――。
「見たいな感じで。あんな羅刹ですがネタにどう、芙蘭さん」
「全然おっけー問題なくてよ」
 試しに即興で作り上げた文章に、水を得た魚のようにさらにその続きを書いていく芙蘭。原稿用紙の上ではすでにあんなことやこんなことが展開され始めているが、敢えてここでは語るまい。
「で、凄かった、のよね」
 最後に念を押すように聞かれた質問に、トーゴは肩を竦めつつもしっかりと頷いた。
 そんな二人を見つめながらぽつりと芙蘭は呟く。
「なんかもう……その道をナチュラルに極めるってすごいわ……わたくしもまだまだね」
 ちなみにその師弟ネタは問題の句を含めしっかり採用された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
ヴォルフくん(f09192)と


さーて遊んじゃってたけどどうしようかな
なんていうか方向性定めたら良いんじゃない
甘ーいのがいいの?鬱がいいの?
極端?極端な方が良いってきっと

とりあえず甘い方を実演?
ヴォルフくんに擦り寄って
悪戯に耳に噛み付くフリ
ほら仕返しに君が着けた首輪の鎖を引いてよ
ねぇずーっと一緒に居よう?
蕩けた笑顔も甘い声も全部演技だけどさ

ああでもね
人狼である君が数十年経っても生きてて良かったなぁって
ずっと生きてて欲しいなって思うのは本当だよ
他の神に呪われたりしていても、ね
これからも楽しい楽しい腐れ縁を続けていこうよ
ね?
君が獣になったら可愛がってあげるよ

なんて本気か冗談かわからないモノを最後に


ヴォルフガング・ディーツェ
ロキ(f25190)と
2

遊んだのか、弄んだのかはレディの受け取り方に任せるとして
何だい、君スランプなのかい。なら少しばかり老婆ならぬ老爺心を焼くとしよう

確かに方向性が決まってた方が手伝い易い気もす…うわ、両極端なシーソー…!

甘い方か、りょーかい
悪戯なロキの希望に応えて、躾の強さで鎖を引いて
当たり前だろ、やっと会えたんだ。どこまでも一緒だ、指切りしようか?
蕩けるような笑みと共に、睦言を囁く様な甘さをこれ見よがし

演技だけどそれだけじゃあないのは2人の秘密だ

…はは、相変わらず言うね君は
俺が呪われていても良い、何て言うのはロキ位だよ?

ご期待に添えるかはわからないが…もしも獣になったら首輪付け、頼んだよ



●健やかなる時も病める時も
「調子はどーお?」
 周りの人たちに介護され、あるいは背中を突き飛ばされ、必死に執筆に取り組む芙蘭。そんな彼女に、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はの間延びした口調で声をかけた。
「い、今までよりはなんとか……」
 書きかけの原稿を見せ、芙蘭は大きく息をついた。猟兵達の協力により以前よりも調子は上がっているようだが、それでも難しいところはあるのだろう。
「何だい、君スランプなのかい。なら少しばかり老婆ならぬ老爺心を焼くとしよう」
 そんな彼女に、ロキの後を追いかけてきたヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)が穏やかに笑いかける。一見芙蘭とそう歳の変わらないように見えるヴォルフガングだが、その正体は不老の魔狼だ。彼から見れば芙蘭など、幼い子供同然。困っているのなら手を貸してやるのが年長者の務めだろう。
「僕もー」
 彼に続くようにロキも便乗するように手を挙げる。そして早速、何をしようかと思案を始めた。
 話すのもいいが、せっかく男二人が揃っているのだ。先ほどは映像だったし、ここは即興劇宜しく実演を見せるのも面白いかもしれない。
「さっきは遊んじゃってたけど、どうしようかな……。なんていうか方向性を定めたら良いんじゃない?」
 何かを作るにしても、何を作るかが決まっていなければ準備も何もないだろう。手を付ける前にあらかじめ目的をもつことは達成感も得られるし、結果的に作品の精度を上げることにも繋がるだろう。
「遊んだのか、弄んだのかはレディの受け取り方に任せるとするが……確かに方向性が決まってた方が手伝い易い気も」
「で、甘いのがいいの? 鬱がいいの?」
「うわ両極端なシーソー……!」
 そうと決まればさくさくと、究極の選択しを手に話を進めていくロキにヴォルフガングが思わずツッコミを入れた。
「極端? 極端な方が良いってきっと」
 甘いのと切ないのならまだ分かる。しかし鬱とは。悲恋やらシリアスやらをかっ飛ばして鬱とは。さすが先の戦いで女子達の情緒をこれでもかと搔き乱していった邪神。キレの良さは健在だった。
「じゃ、じゃあ、甘い方で……」
 両極端の落差に何か不穏なものを嗅ぎ取ったのか、はたまた先程の(ある意味)精神攻撃のトラウマが残っていたのか。暫し迷った末、芙蘭は無難な甘い方を選択した。
「じゃ、とりあえず甘い方を実演?」
「甘い方か、りょーかい」
 頷いて、ロキとヴォルフガングはそれぞれ顔を見合わせた。
 悪戯な神の気紛れだ。具体的に何をやるか、台本も台詞も勿論決まってなどいないが、そこは長年の二人の仲である。
 それこそ方向性さえ決まってしまえばあとはどうにでもなるのだ。
 
 
 すり、と傍らの心地よい熱へとロキは擦り寄った。鼻をくすぐる柔らかな髪に、そこから覗くふわふわの狼の耳。小さく上下に動くそれがあまりにも可愛らしく誘うから、思わずロキは口を開けてそれを甘噛みする――フリをした。
「こら、歯を立てるな」
 その絶妙な機を見計らって、ヴォルフガングの制止の声がかかる。
 ぴたりと止まるロキ。しかし彼はヴォルフガングから離れることはなく、ふふ、と小さく嗤って彼の耳元で囁く。
「だったらほら、仕返しに君の付けた首輪の鎖を引いてよ」
 ロキの首に嵌められた鉄の枷と、鎖。決して外れぬそれは彼がかつて邪な者であった紛れもない証左だ。ヴォルフガングが冷たいそれに指を絡めれば、しゃらりと高い金属音が大袈裟な音を立てる。
 それでも構わずと引けば、彼はゆっくりと身を起こす。代わりに、と絡みつくのは金色の視線。
「ねぇ」
 その瞳と同じ、甘い甘い蜂蜜のような声で、ロキが囁く。
「ずーっと一緒に居よう?」
 その言葉は決して戯言ではない。
 かたや時の輪から外れた獣と、時の概念など関係のない神たる存在。互いに望みさえすれば、互いの心に偽りは無ければ、その願いは簡単に叶えられる。
 だから。
「当たり前だろ」
 ヴォルフガングはあっさりと、その望みを肯定した。
「やっと会えたんだ。どこまでも一緒だ、指切りしようか?」
「本当?」
 小指を立てて差し出せば、花がほころぶようにロキは笑う。そうして互いの指を絡めて指切りげんまん。
 甘い言葉と蕩ける笑み。その中で永久の約定は、果たされるのだ。
 
 
「……とかこんな感じ?」
 ぱっ、と手を放し、ロキは展開していた寸劇を終え、たった一人の観客、芙蘭の方を向く。
「ちょっとこの設定諸々参考にお借りしていいかしら⁉」
「勿論、その為の演技だからな」
 目の前に繰り広げられる濃厚接触に芙蘭は鼻息荒く食いついてきた。ロキとヴォルフガングの経歴を簡単に聞き出し、どうのようにすれば先程の場面へと結びつくか、ぶつぶつと呟きながら構成を練り始める。書きたい場面からイメージする、それも立派な創作の手法なのだ、多分。
「演技、か……」
 その様子を微笑まし気に見ながら、ヴォルフガングはふと呟いた。
 先ほどの流れは、甘いの、で咄嗟に行った演技だ。蕩ける様な笑みも、甘い言葉も、絡みつく視線も。芙蘭を刺激するための嘘に過ぎない。
「ああでもね」
 そんな彼の心を見透かしたように、唐突にロキが囁く。夢中になっている芙蘭に聞こえないように、先ほどと同じく彼の耳に顔を近づけて。甘い甘い嘘の中の、小さな秘密を紡ぐ。
「人狼である君が数十年経っても生きてて良かったなぁって。ずっと生きててほしいなって思うのは本当だよ。……他の神に呪われたりしても、ね」
「……はは、相変わらずいうね君は」
 無邪気に笑うロキにつられて、ヴォルフガングも口元に笑みを乗せる。彼が呪われていても良い、なんて笑顔で言うのは、今も昔もロキ位だろう。
「これからも楽しい楽しい腐れ縁を続けていこうよ。ね? キミが獣になったら可愛がってあげるよ」
 ロキは囁く。本気か冗談か分からない言葉を、睦言のように。
 先ほどの『甘いの』の中を含めても。
 どの言葉が嘘で、どの言葉が本当か。嘘の中に何の本当があるのか。それはこれまでも、これからも彼ら二人の秘密だ。
「ご期待に添えるかはわからないが……もしも獣になったら首輪付け、頼んだよ」
 こうしてまた一つ、蜘蛛の糸のような約束は結ばれるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾宮・リオ
明日川さん(f29614)と



無事に倒せましたが
あとは彼女のやる気を
どう取り戻すか、ですね

「明日川さん、どんなお手伝いがしたいですか?」

芙蘭さんが満足しそうなことを
ネタ提供も楽しそうですよね



ドン、と壁に手を当てて
次はどうするか考えていれば

急に足を払われて
抵抗する間も与えられず
されるがまま立場が逆転した

その出来事に瞬きひとつ

「少し、油断してました」

正直な気持ちを吐露して
目を細め、彼女を見据える

守らなきゃいけないような
放っておけない人かと思えば
こんなふうにギャップを魅せてくれる

そんなことを考えて
ふ、と穏やかな笑みを浮かべ
絡め取られた手を引き寄せる
一層、近くなった距離で

──本当に、目が離せませんよ


明日川・駒知
尾宮くん(f29616)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

…籠絡ラムプを持つのは危ないから、自分の行動に後悔はないけれど
でも彼女の落ち込んだ姿をみると苦しくなる
「…お手伝い…」
…このまま彼女を放っておけない
でも何が出来るかしらと考え込んだ矢先
「…ねたていきょう、ですか?」

_

私の背には壁
私の前には尾宮くん

…けど不意にクラスの女の子同士が話し聞こえてきた会話が脳内に甦る
曰く『ギャップって良いよね』と
「……」
尾宮くんの足を素早く払い反転
彼を壁に押し付け
縫い付ける様手を絡めとり
吐息が触れそうなほど彼の顔に深く影落とし

「ねえ、」

──油断しました?




……なんて、
やってみたものの、
ちょと気恥ずかしいですね。これ。



●形勢逆転は鮮やかに
 どん、顔のすぐ横に彼の腕が置かれる。
 私の背には壁。
 私の前には彼。
 なるほど、明日川・駒知(Colorless・f29614)はとしみじみと自覚する。
 これが男女性別問わず、心ときめかせる場面の一つだと。
 
 
 時は少し遡る。
「無事に倒せましたが、あとは彼女のやる気をどう取り戻すか、ですね」
 尾宮・リオ(凍て蝶・f29616)の言葉に、駒知はそっと息を吐いた。
 彼女が持っていた篭絡ラムプは持っているだけで危険な存在だから、自分達の行動に後悔はない。けれど、色々なものを失い落ち込んでいる芙蘭の姿を見ると苦しくなった。
「お手伝い……」
 できたら、いいな。と、駒知は小さな声で呟く。そんな彼女の優しい言葉に、リオは微笑んでそっと尋ねた。
「明日川さん、どんなお手伝いがしたいですか?」
 その問いに、駒知はそっと首を横に振る。残念ながら、何をしていいか全く思いつかない。
「何ができるかしら……」
 自分に何ができるかなんてわからないけれど、彼女を放っておくなどできなかった。口元に手を当て必死に考える。彼女の為に、今自分達が行えることはなんだろう。
 それでは、とリオは真剣に考えている駒知に一つの案を提供することにした。
 生活面での彼女の手伝い、も堅実で大切なことだが、そちらは充分に整えられている。なら芙蘭が満足できることを探した方がいいだろう。
 そして彼女が満たされるものといえば、やはり耽美一つしかない。
「ネタ提供も、面白そうですよね?」
「……ねたていきょう、ですか?」
 リオの言葉を反芻し、ぱちくりと駒知は瞬きを繰り返した。
 
 
 リオの案を提案すると、芙蘭はとても喜んでくれた。丁度書きたい話があり、ついでに駒知とリオにぴったりの場面があるということだった。概要を話したリオが素早くその意味を理解し、あれよあれよといううちに実践する流れとなり。
 そして、今である。
 ドン、と壁に手を当てて、すぐ近くにある彼女の顔を見下ろして。リオはさて次はどうしようか考えていた。
 此処から先は特に芙蘭からの指定はなかった。強かな攻め手側と、純粋無垢の受け手側。じれったい距離を保ちつつ一歩進む瞬間、そんな話を書きたいと聞かされ、なるほどたしかに自分達に似ているなと思い承諾した。
 しかし、これはあくまで演技だ。小説の中と違って大胆な行動に出る訳にもいかない。それでももう少し、もう少し近づいて――手を、伸ばせたら。
「……」
 一方、駒知の方は考え込む彼を不思議そうに見上げながら、クラスメイトの女子達の会話を思い出していた。たしか、このような体勢が心ときめくシーンだと話していたような気がする。
(あ、でも……)
 そして同時に思い出した。
 曰く、『ギャップって良いよね』、と。
「……――ねぇ」
 壁についた彼の手をとり、声をかける。同時にリオの足を素早く払い、体勢を崩させた。そのまま彼の体を痛めないようにと気を払いながら、お互いの位置を反転させる。
「ちょっ……」
 何かを言おうとした彼を制するように、彼を壁に押し付けて、縫い付ける様に手を絡め捕る。
 足払い直後のこの体勢では、視線の位置は駒知の方が少し高い。ぐっと顔を近づければ、彼の顔には駒知の影が深く落ち。
 ともすれば吐息が触れてしまいそうなほどの距離で、駒知は再度ねぇとリオに問いかけた。
「――油断しました?」
「……ええ、少し油断していました」
 ほんの瞬きの間だった。足を払われ、抵抗する間も与えられるず、気付けば立場が逆転していた。その意外なまでの鮮やかな身のこなしに、リオは正直な気持ちを吐露していた。
 目を細め、彼女を見据える。
 まるで、膝の上にいた仔犬がその実狼で、あっという間に飲み込まれてしまったかのような錯覚。自分が守ってあげなければ、放っておけない人だと思えば、こんな風にギャップを魅せてくれる。
「……なんて、やってみたものの。ちょっと恥ずかしいですね、これ」
 かと思えばほら、もう一度瞬きをすれば、そこにはいつもの彼女が顔を出して。穏やかな気持ちと共に笑みが零れた。
 絡められた手を強引に引き寄せる。バランスを崩した彼女を支えて、一層近くなる距離。
 そんな彼女の耳元で、そっとリオは囁いた。
「――本当に、目が離せませんよ」
 ずっと、この自らの中に入れてしまいたいと思えるほどに。
 
 
「こ、ここここにきての形勢逆転⁉ 右と左の固定概念が吹っ飛んだ、世界はひっくり返ったわ悪くない‼」
 興奮し、上擦った芙蘭の声に二人は我に返った。そうだ、これはネタ提供というものだった。
 思い出した二人は顔を見合わせて、笑い合う。互いに声をかけて離れれば、今更ながらにとんでもない近さだったことを自覚して、駒知は顔を赤らめた。
「ね、ね、今のどうやったの? どう思っての行動?」
 そんな駒知に芙蘭はぐいぐいと迫り問いかけてくる。慌ててリオが制しなければ今度は芙蘭に壁まで追い詰められそうな勢いだった。
「どうって……」
 駒知はゆっくりと。つい先程の記憶を手繰る。
 ネタ提供、と言われたから、『ギャップが良い』と女の子たちが言っていたようなどきどきする場面を創り出せばよいと思ったから。
 それに、彼に。
 リオにも、同じくらいに。驚かせて、あの時パフェを食べた駒知と同じくらいに、どきどきさせて。そんな顔を見てみたいと、知ってみたいと、思ったから。
「だから気付けばそう、思い立って体が動いていました……」
 ゆっくりと説明する駒知にリオはそっと微笑む。そうやって照れながらいう彼女ははやり魅力的で、だからリオは傍にいたい、と言葉には出さずに思った。
 芙蘭は純情甘い、と顔覆い崩れ落ちていた。
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
「でき、たーっ!」
 慎重に締めの言葉を書き終えた芙蘭が叫ぶ。手やら顔やらを洋墨塗れにし、それでも初めの頃よりもはるかに生気に満ちた顔で、彼女は己の目の前に積んだ原稿用紙を見下ろした。
 白紙の原稿用紙はもうそこには無い。あるのは、己の情熱と妄想が叩き込まれた渾身の原稿達。多くの猟兵達の助けと、萌えを受け完成した、芙蘭にとって最高の、文句なしの出来栄えだった。
「ありがとう、ありがとう……皆の萌えが原稿を完成させてくれたわ!」
 いやその表現はどうかと。なんてツッコミを入れるも、歓び飛び跳ねる彼女にはいっても無駄だろう。
「わたくし、これからも頑張れるわ。だってあんなギリギリの状態から、こんな傑作を完成させたんだもの。勿論助けがあったからだけど……それでもこの時に比べればって思えばできる気がする!」
 疲労は濃い筈なのにきらきらと輝いた表情で芙蘭は言う。
「だからわたくし、これからも書き続ける。帝都を揺るがす耽美をこの世にたくさん、たくさん生み出して、いつかお姉さまにも読んでもらうわ」
 そして改めて猟兵達に向き直り、原稿を抱えたまま深く頭を下げる。
「みなさん、本当にありがとうございます。そしてご迷惑をおかけしました。やってしまったことは戻らないけど……あの子たちにはちゃんと謝って、私なりにけじめをつけていくわ。そして、筆は折らずにこのまま書き続ける」
 あとは生活改善も。
「そっちは重々……善処します……」
 打って変わって渋々といった返事に猟兵達はどっと笑う。
 希望に満ちた彼女は、もうその身に過ぎた力に手を出すことも、溺れることもないだろう。
 だってそんなものが無くとも出来る、とう成功体験を彼女は獲得したのだから。

 花園芙蘭、耽美専門の文豪女子。
 彼女の妄想と作品は、これからも情熱と薔薇の香りとともに、全力で炸裂していくのだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月25日


挿絵イラスト