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異端者の道行

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #夕狩こあら #辺境伯迎撃準備 #異端の神に捧げる処刑人 #預言者ムガヴィー

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#ダークセイヴァー
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#辺境伯の紋章
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#辺境伯迎撃準備
#異端の神に捧げる処刑人
#預言者ムガヴィー


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「常闇の世界、ダークセイヴァーにも人々が安全に住める場所が増えつつある」
 ヴァンパイアの支配が及ばない人類の活動圏「人類砦」が現れ始めた。
 辺境にヴァンパイアにも異端の神々にも支配されない空白地帯が生まれた。
「これらの変化は、全て君達の奮闘によって齎された事だ。ありがとう」
 一つ一つは小さくとも、これらはいずれヴァンパイアの支配を揺るがす、人類の反撃の礎になるだろうと、枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)は集まった猟兵に感謝を示す。
 然し彼女の瞳が鋭い儘なのは、新たな懸念を知ったからで、
「だが、ここに『辺境伯』と呼ばれる極めて強力なオブリビオンが、軍勢を率いて人類砦や辺境の空白地帯を探しているとの報が届いた」
 辺境伯――。
 彼奴は身体のどこかに宿した「辺境伯の紋章」と呼ばれる「寄生虫型オブリビオン」でパワーアップしており、従来のオブリビオンに比べて非常に強くなっていると言う。
 これを聞いた猟兵らは、ふと呟いて、
「……寄生虫型オブリビオンに力を与えられているのか」
「紋章が彼奴等を強化している……?」
「ああ、私もここに攻略の道があるように思う」
 彼等の気付きに鋭い微笑を浮べた帷が、こっくり頷いて言を足す。
「辺境伯を倒し、紋章を数多く収集すれば、『彼に紋章を与えた存在』……つまり、より上位の吸血鬼の存在が明らかになるかもしれない」
 小さな安全地帯の侵略にかかる辺境伯を打倒し、彼奴に力を与えた黒幕を暴く。
 然すればヴァンパイアの盤石の支配体制に楔を打つ事が出来るかもしれない――。
 猟兵らと鋭い視線を交した帷は、ここに地図を広げて、
「私が君達に頼みたいのは、或る村の防衛……幽谷にある小さな村に、異教の神を信奉する邪教団が侵攻してくるので、これを撃退して欲しい」
 と、厳しい自然に囲まれた村を指に示す。
「辺境伯の紋章を与えられた『ムガヴィー』という預言者が、数多の狂信者を率いて異教徒を虐殺しに来るので、先ずは村人を避難させたり、敵軍を観察したりして、迎撃の準備を整えよう」
 オブリビオンの軍勢に先んじて村に入り、敵の軍容と進路を観測しつつ、奇襲の準備や住民の避難など行い、戦闘に備える。
 そうすれば、押し寄せる軍勢にも優位に戦える筈だと、帷は確かな口調で言う。
「異端者の軍勢が襲来したなら、君達は狂信者の集団を駆逐し、首領たる預言者ムガヴィーを討伐して欲しい。彼奴は首の後ろに紋章を隠している筈だから、これを収集すればより上位の吸血鬼に辿り着けるかもしれない」
 謎に包まれた上級ヴァンパイアの手掛かりを掴む――。
 これは、猟兵が築いた反撃の礎あってこその新たな一手だと語気を強くした帷は、彼等ならきっと紋章を奪えるだろうと信じつつ、ぱちんと弾指してグリモアを喚ぶ。
 彼女は猟兵らの精悍なる顔貌に凛然を注ぎ、
「ダークセイヴァーにテレポートする。長きに渡るヴァンパイア支配にも翳りが見えてきたと、堂々示してやろうじゃないか」
 と、眩い光に包んだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、軍勢を率いて人類砦や辺境空白地帯を探している「辺境伯の紋章を宿したオブリビオン」を討伐するシナリオです。

●戦場の情報
 ダークセイヴァーの辺境、幽谷にある村。
 猟兵によって異端の神が討伐され、ヴァンパイアの支配下にもなっていない空白地帯です。
 村は切り立った崖を東西に仰ぎ、細長く集落が形成されており、村に入るには南北に伸びた細道を通る必要があります。

●シナリオ情報
 第一章『辺境伯迎撃準備』(冒険)
 極めて強力なオブリビオンである「辺境伯」を迎え撃つ準備をしましょう。
 偵察や伏兵の準備、戦場となる地域の住民の避難等を行って下さい。
 第一章の行動が辺境伯の進軍に影響を及ぼす事が出来た場合、第二章の全てのプレイングにプレイングボーナスが追加されます。

 第二章『異端の神に捧げる処刑人』(集団戦)
 異端の神を崇拝する教団員(オブリビオン)と戦います。
 この世界の絶望と歪んだ信仰によって心を無くし、生者を過去にする事で信仰心を示します。
 異端の神を讃える言葉しか呟きません。

 第三章『預言者ムガヴィー』(ボス戦)
 異端の神の祝福を受けた預言者と戦います。
 世界の破滅を預言した彼は、神の祝福を受けられた者だけが救われると説き、手に持つ「神授のオーブ」による奇跡で信者を増やしてきました。
 自身の神を信じぬ者は容赦なく虐殺し、恐怖を振り撒きます。
 首の後ろにある紋章を襟で隠しており、当該の部位を狙うような行動にはプレイングボーナスが付与されます。また、紋章は辺境伯を倒せば活動を停止し、捕獲可能になります。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や【グループ名】をお書き下さい。特に呼び方があると、とても助かります。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 冒険 『辺境伯迎撃準備』

POW   :    襲撃を行うポイントに移動し、攻撃の為の準備を整える

SPD   :    進軍する辺境伯の偵察を行い、事前に可能な限り情報を得る

WIZ   :    進路上の村の村びとなど、戦場に巻き込まれそうな一般人の避難を行う

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 東西に切り立つ崖に挟まれた、幽谷の村。
 この村の人々は、嘗ては異端の神に脅えて暮らしていたが、猟兵が之を退治してくれたお陰で、ここ数カ月は心穏やかに過ごしている。
「安心して水を汲みに行けるべやな」
「羊もたっぷり放牧させてやんべ」
 或る者は谷川に流れる水を求めて、北に。
 或る者は草の生い茂る野原へ、南に。
 断崖絶壁を両側に仰ぐ――謂わば天然要塞に守られた村は、南北に長く集落を形成し、働き盛りの若者は簡易的な関所を潜って谷川や草原地帯へ、足腰の弱い者や女子供は家で機織りをして生計を支えている。
「父ちゃん、はよう帰ってこんかな」
「自分で織れた外套、羽織らせとうて……待ち遠しいんだべな」
 決して豊かではないが、何にも脅えぬ暮らしに笑顔が咲きつつある村。
 此処に「求道」と称して狂信者の軍勢が侵攻するとは――まだ誰も知らぬ事。
マギア・オトドリ
……準備を、しなくてはいけません。
例え、一度獲得した地とはいえ、命をまた、費やすわけにはいきません。

戦闘地域となる場所に住まう方々、特に村長といった偉い方に、強力なオブリビオン、ヴァンパイアの軍勢が来ることを伝え逃げるよう説得します。
無論、地を捨てる事は難しいでしょう。しかし、今は命の物種があってこそですと、粘り強く、素早く避難するように説得します。

説得できたのならば、避難の準備を手伝います。
家財や食料はその後も必要です。馬車や手押し車への積み込みや、子供や年老いた方を背負って避難路の誘導を行います。
また、鋼鉄結晶を複製し、それに荷を紐で括り付け浮かし、大量の荷物を運べるようにしましょうか。


ピオニー・アルムガルト
行動【wiz】
地形的に敵の軍隊を迎え撃つなら村の入り口になるのかしら。
なら村人達には戦闘が終わるまでできるだけ安全な後方に居てもらいましょう!
村人から何名か代表者を選んで避難誘導を手伝ってもらうようにお願いをして、【深緑の隠者】を着けさせ広範囲の状況を把握出来るようにしたいわね。
勝手な神の教えで生け贄に捧げられるなんてごめん真っ平よ!ダークセイヴァーという厳しい世界だけど、いつもと変わらない明日を向かえられるよう皆で頑張るわよ!


金原・子夜乃
…凄い場所にある村だ
ちゃんとベンキョウはしてきた、手筈通りに準備しよう


まずはUCを使って、村のひとの避難をお手伝いする
身体の悪いひともいるだろうから、荷車をお借りしてライオンに引っ張ってもらうつもりだ
村を出て…たぶん、南北どちらかの細道を行くんだろう
帰り道は避難先で確保した水を道に撒きながら帰ろうと思う
こんな道だ、少しでも泥濘んでいれば大勢が進むのは苦労するはず
避難した足跡を消すのにも丁度いいしね
あと、【破壊工作】でこさえた棘を所々に
いちおう、ひとのかたちで、足があるみたいだし
出来ることはやって戻ろう


…そう、全部別の子夜乃にあらかじめ指示されてたことで
それをちゃんとやってるだけなんだ、子夜乃



 幽谷の村の南、草原地帯に猟兵が降り立つ。
 爽涼の風に撫でられる草の青さを瞳に追った彼等は、東西に切り立つ大断崖の峻嚴に、先ず息を呑んだ。
「……凄い場所にある村だ」
 金原・子夜乃(孵る・f06623)の橄欖色の麗瞳が円く大きく絶景を映す。
 颯と吹き抜ける風が射干玉の艶髪を梳れば、その隣、南からそよぐ風が運ぶ草の匂いを肺腑に満たしたピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)が紅脣を開いた。
「うーん、心地よい緑の馨り! まだ時間はありそうね」
 篝火や煮炊きの匂いが混じらぬあたり、軍勢は遠いと――聡い嗅覚が洞察する。
 子夜乃が地図を広げれば、ピオニーはそこに繊指を滑らせ、
「軍容が視えない今は、周囲の地形から予測して――」
「そうね。敵の軍隊を迎え撃つなら、村のどちらかの入り口になるのかしら……村の人達には戦闘が終わるまで、安全な場所に居て貰いましょう!」
 この時、視線を一にする二人に鈴を振るような佳聲が添えられる。
「――村人を戰闘区域から避難させるのが安全と思います」
 聲の主はマギア・オトドリ(MAG:1A・f22002)。
 少女は地図に示される村の南口の、関所としての脆弱を左の紫瞳に射て、
「異端の神から解放され、やっと平穏を得た村です。繋ぎ止めた命を再び費やすわけにはいきません」
 辺境でも、慥かに築かれた権力の空白地帯。
 細々とながら繋がれていく生命を、漸う咲き始めた笑顔を絶やしてはならぬとマギアが瞳を鋭くすれば、子夜乃とピオニーもこっくり首肯いて、
「命を護り、脅威を撃退する……その準備を、しなくてはいけません」
「よーし、皆で頑張るわよ!」
 と、先ずは羊を放牧する村の若者に聲を掛けた。

  †

 村の若者に頼み、村長の家まで案内して貰った三人が、軍勢の侵攻を説明する。
 辺境伯なる狂邪の遠征――其は異端の神に苦しめられてきた村の者達にとって、初めて吸血鬼の怖ろしさを知る機会となった。
「……むむむぅ。おぶ、おびぶりおん? が村に攻めてくるとはおったまげた……」
 事情を聽き、戸惑いに唸る村長。
 嘗て猟兵に助けられた村なれば、長も彼女達に直ぐに理解を示したが、住み慣れた地、安堵を得た地を離れる事は中々に難しい。
 然し大事を見失ってはならぬと、マギアは粘り強く説得して、
「村長に号令を掛けて頂ければ、村人も従ってくれる筈です」
「けんど、ご先祖さまが何と言うか……」
「命あっての物種です。死んでしまえば祖霊を祀る事も出来ません」
「……。…………。…………わがっだ」
 その直向きな姿に信頼を寄せた村長は、すっくと立ち上がった。
「おったまげとる場合でねえ! やるでな!!」
「おう!!!」
 村長が言うや、若者達が奮起する。
 その力強い聲を聽いたピオニーは、リーダーシップのありそうな者を代表に選び、
「村人の誘導を手伝ってくれる? 土地勘のある貴方達と、探索に優れた隠者が居れば、安全に避難できる筈だから」
「……隠者……?」
「然う、――“我らが古き盟友、隠者よ、彼等を導きなさい”」
 顕現――【深緑の隠者】(ディープグリーン・ハーミット)。
 ピオニーと五感を共有した隠者は巧みに自然に溶け込む為、その者の気配に気付く者は居まいが、隠者は優れた知覚によって広範囲の状況を把握し、村人達を導くだろう。
 周辺環境を把握すれば、後の戰闘でも優位に立てると知る彼女は、可能な限り村人から話を聞き出して、
「ふむふむ……村の北側は水源地になっていて、南よりも狭いのね……」
「北は知らねぇモンが行けば迷う道だでな」
 ここに地図を眺めていた子夜乃が、繊麗の指をトンと置いて告ぐ。
「北に向かおう。避難先に水があれば、多少は凌げる筈」
「……なんか策があるべやな? 猟兵さま」
「ちゃんとベンキョウはしてきたから、大丈夫」
 長い睫を持ち上げて現れる烱眼に、村人も看々(みるみる)希望が湧いてくる。
 そうと決まれば、行動あるのみ――。
 猟兵と村人らは、凛然を萌して荷造りに取り掛かった。

  †

「家財や食料はその後も必要です。大切に運びましょう」
「ほんなら羊駝(リャマ)がええでな。手押し車も細道にはええ」
 狭隘の道を進むに適した乗り物を選ぶ。
 子供や足腰の弱った者達は、騾馬に乗せる。
 着々と村人の避難を進めたマギアは、小さな集落ながら積荷の多さに気付くと、繃帯に包む繊手に『鋼鉄結晶』――使用者の意の儘に動く、一対の巨大な結晶を取り出した。
 花脣は靜かに詠唱して、
「……共鳴し生まれよ、鋼鉄にして懐旧の記録よ」
 発露、【複製結晶】(クローンクリスタル)――!
 唱うや61個の複製が荷紐に絡んでフワフワと浮き上がり、大量の荷物を一列に並べて順序良く運び出す。
「ふなっ……荷物が勝手に動きよるべな……!!」
 村人達があんぐりと口を開けて眺めれば、別なる場所では響動めきが湧き、
「なっ、なんちゅうケモノじゃ!!」
「獅子ぞな……獅子ぞなもし!!」
 喫驚を集めるは、子夜乃が召喚した黄金のライオン。
 3m程の巨きな獅子は吼えもせず唸りもせず、荷車が聢と己が躯に結ばれるを待つ。
「身体の悪いひともいるだろうから、大きな荷物は引っ張ってもらおう」
「がおーん」
 従順な獅子の金毛を撫でた子夜乃は、【ライオンライド】――颯爽と背に跨って北へ、土地勘のある者達の案内に従って歩み始める。
「さぁ、急ぎましょう」
「はぐれちゃダメよ?」
 マギアは老婆を背負って其に続き、ピオニーは幼子と手を繋いで谷の奥へ――常に周囲を警戒しながら、一般人を連れての避難行は気が張ろう。
 それでも彼女達は何とか村を離れ、村人の命を守るに貢献した。

  †

 ――そして、その帰路。
 子夜乃は避難先で確保した水を道に撒きながら、幽谷の村へと戻った。
「こんな道だ、少しでも泥濘んでいれば大勢が進むのは苦労するだろうし、避難した足跡を消すのにも丁度いいしね」
「がうがう」
 黄金の獅子が引っ張る荷台は、大きな荷物に代わってマギアとピオニーが乗っており、其々が左右から甕を引っ繰り返している。
 然う、子夜乃の策戰に共感した二人もまた水を撒くのを手伝っていた。
「動物の足跡も、車輪の跡も……全部、消してしまいましょう」
「岩肌も濡れて、滑りやすくなるわね!」
「助かるよ。そして、この後は――」
 色々とベンキョウしてきただけの事はある。
 子夜乃は往路からこさえていた「棘」を所々に撒き、万が一にも押し寄せてくる軍勢を足止めんと工作を重ねた。
「いちおう、ひとのかたちで、足があるみたいだし」
 敵は狂信者。
 オブリビオンと堕ちた異形だが、足があれば踏むだろう――。
 出来ることはやって戻ろうと、棘が疎らに落ちる道を見た子夜乃は、小さく呟き、
「……そう、全部別の子夜乃にあらかじめ指示されてたことで。それをちゃんとやってるだけなんだ、子夜乃」
 やれる事を、やる。
 人事は尽くしたと子夜乃が凛然を萌せば、水を撒き終えたマギアも進路を――元の村を見詰めて、
「あとは軍勢を迎え撃ちましょう。宣教という名の殺戮を行う者達を」
「ええ、勝手な神の教えで生け贄に捧げられるなんてごめん真っ平よ! 此処は厳しい世界だけど、いつもと変わらない明日を向かえられるよう……頑張りましょう!」
 ピオニーはきゅ、と握り込んだ拳を突き上げ、意気軒昂。
 三人の瞳には未だ見えぬが、狂信者の軍勢は軈て南の草原地帯に現れよう。
 どろどろと黒叢を滲ませる邪の軍勢が、漸う幽谷の谷に向かっていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
天然要塞の渓谷とあらば、敵が来るルートは絞られます。
まずは【赤鉄蛺蝶】を飛ばして偵察を。
敵戦力の来る方向、多寡、進軍速度に兵装種。情報はあればあるほど後の助けになります。
得られた情報は他の猟兵様方へも共有しましょう。

そうと決まれば村人様方の避難を始めます!
万一の場合に備えた避難所はありますよね?
そちらに少しの間だけ避難していてください。
恐ろしいとは思いますが…
大丈夫、我々が守ります。
…約束しますとも。
だから終わった暁には笑顔で迎えてくださいね?

希望の種を摘むのはこの世界の常套手段。
けれど、だからこそ。
育った芽を引き抜く乱暴は阻みませんとね。
見たいのは荒地ではなく大輪の花ですので。


カイム・クローバー
寄生虫型ねぇ…。いよいよ、なりふり構わねぇか。ま、上位の支配者サマにとっては部下なんざ捨て駒みてーなモンだろうけど。

UCを使って【追跡】と【忍び足】の偵察、奇襲に最適な地形を見つけ出すぜ。南北に伸びた細道ってのが奇襲を掛けるには最適だろう。村の連中に手を貸して貰って、大量の丸太を集めるぜ。厳しい自然に囲まれた村なら丸太なんざ腐る程あるだろ。
軍勢が細道に差し掛かったトコで崖上から大量の丸太を転がしてやる。なんせ軍勢だ。適当に投げても当たるだろうぜ。
村の連中が丸太を転がした後は直ぐに逃がす。崖上で顔を出してるのは俺だけさ。そうすりゃ注意は俺に向く。
折角だ。親指を下に向けて、挨拶でもしてやるか!


シャルロット・クリスティア
SPD

守るに易く、攻めるに難い……場所としては上々ですね。
前もって予知できたのなら、防衛戦はしやすい部類でしょう。

とは言え、まずは偵察ですね……。
南北にのびる道、そのどちらから仕掛けてくるか……あるいは挟撃をかけてくるのか。
それがわからないことには、防衛戦力に無駄が出る。
陸路だと時間がかかりますね。空から行くのが得策でしょう……レン。
愛騎に跨り、空中から見て回ります。
奴単騎と言うことはないでしょうから、軍勢の陣容も把握しておかないとですね。
あまり低空を飛ぶと気付かれる。極力高所から、視力にものを言わせましょう。

……ようやくこぎつけた人々の居場所です。
容易に奪えると思わないことですね。


ニール・ブランシャード
いい村なんだね。
あんなに毛艶が良いもふもふの羊、この世界にはなかなか居ないよ。
…無事に村を守れたらモフらせてほし…だ、だめだめ、今は敵に集中しなきゃ…!

【POW】
ええと、ぼくは攻撃を有利に進めるために罠を準備するよ!

谷間の村にはほとんど逃げ場がないけどそれは敵も同じだよね。

崖の上なら手頃な岩がたくさんありそうだし、仕掛けを作動させれば大量の岩が落ちてくる罠を崖上に作ろう。

できれば何個か作りたいな。
避難が間に合いそうなら…
ぼく、おしゃべりは上手なほうじゃないけど…村の人を説得して、罠作りを手伝ってもらおう。

「反撃の時が来たんです。この村を、あなた達の大切なひとを守るために、力を貸してください!」



 幽谷の村の南、草原地帯に降り立つ。
 初夏の風に身を揺らす青草の草丈の低さや、所々に岩肌を晒す石嚴が高地と語るか――黒騎士の鎧越しに爽涼を受け取ったニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は、その心地よさに歎声を溢した。
「――いい村なんだね」
 大地に恵まれているのだとは、硬質の指に示される牧羊が証左か。
「あんなに毛艶が良いもふもふの羊、この世界にはなかなか居ないよ」
「めぇめぇ」
「そろそろ毛を狩る頃かな……凄いもふもふだね……」
「めぇー」
 じっと、じぃぃいっと。
 無事に村を守る事が出来たなら、是非その柔らかな白毛をモフらせて欲しいと、無垢の瞳を瞶めて幾許――ハッと垂涎を手甲に隠す。
「……だ、だめだめ、今は敵に集中しなきゃ……!」
「ええ、この子達も守らなくてはいけませんから」
 無機質ながら感情豊かに動く黒鎧に瞳を細めた穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)が、翡翠の髪状を撫でる風を追って谷間(たにあい)の村を眺める。
 黄昏の如く燿う緋瞳は切り立った崖を映して、
「東西に峻嶮な大断崖を仰ぐ……天然要塞の渓谷と云った處でしょうか」
「守るに易く、攻めるに難い……場所としては上々ですね」
 前もって予知できたのなら、防衛戰はしやすい部類でしょう、と――首肯と共に佳聲を添えるはシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)。
 神楽耶の隣で地図を広げた少女は、白磁の繊指に紙面を捺塗(なぞ)りながら、実際の地形と照らし合わせる。
 二人は鋭利(するど)い視線を地図や景色に投げて、
「狭隘の村を攻めるなら、敵が来る道は絞られます」
「問題は、南北のどちらから仕掛けてくるか、或いは挟撃をかけてくるのか……」
 防衛戰力に無駄を出さない為にも、敵の進路を見極める必要がある――。
 多くを語らずとも瞳の色で意を通じ合わせた両者は、ここに揃って天を指差した。
 凛然を萌した神楽耶は、艶麗滴る繊指に炎焔(ほのお)を紡ぎ、
「敵の進路、多寡、進軍速度に兵装種。情報はあればあるほど後の助けになります」
 炎の翅、羽搏くは【赤鉄蛺蝶】(アカガネタテハ)。
 其は魂の複製――己と五感を共有する炎蝶の群れを晴朗の穹へと解き放った神楽耶は、極めて知覚され難い隠密性を以て偵察に出る。
「陸路だと時間が掛かりますから、矢張り空から行くのが得策でしょうね」
 艶めく炎蝶を瞳に追ったシャルロットも、時を同じくして鳥瞰を得よう。
「……レン」
 花脣が呼ぶはパンゲア大空洞産の翼竜レン。
 すっかり懐いた翼竜の鞍に跨ったシャルロットは、敵の目に気付かれぬよう高高度から軍容を視んと、碧落へ飛び立った。
「目にものを――視力にものを言わせましょう」
 澄み徹る空の如く、果てない決意を宿し続けた蒼い瞳は、超常の異能【蒼穹を映す瞳】(インフィニティ・ブルー)――いつしか遥か遠くを見通す魔眼となった。
 極限まで研ぎ澄ました視力を以て見て回れば、邪の軍勢の陣容も具に把握できようと、小気味よい微咲(えみ)を置いて金糸の可憐が往く。
「……情報は強みになる。頼んだぜ」
 その翼影を見送ったカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、好奇心旺盛に集まり始めた羊の群れを擦り抜けつつ、長閑な景色に溜息を置いた。
「それにしても、寄生虫型オブリビオンねぇ……。連中も愈々なりふり構わねぇか」
「めぇーめぇー」
 敵は「辺境伯の紋章」と呼ばれる寄生虫型オブリビオンを與えられた者の一人。
 紋章を、つまり“より上位の力”を授けて辺境に支配を広げんとするヴァンパイアとはどんな奴なのか。今はまだ謎のベールに包まれているが、軍勢を倒して紋章を集めれば、いずれ辿り着くかもしれない――。
 思案する裡、紺瑠璃の麗瞳を烱々とさせていたカイムは、スンスンと鼻を寄せる羊達にスッと瞳を和らげ、
「――ま、上位の支配者サマにとっては、部下なんざ捨て駒みてーなモンだろうけど」
「めぇめぇめぇ」
「よし、分かった。分かったから通してくれ」
 と、やっとの事で村へと向かった。

  †

 羊飼いの若者に案内を頼み、村長の家に至る。
 目下、炎蝶を繋いで軍勢の様子を「視る」神楽耶は、村の代表者達に脅威が迫っている事実を丁寧に説明した。
「ふえぇぇー、惡の軍勢が攻めてくるなんて、おったまげた……」
「村の皆様方には、避難をして頂き度……万一の場合に備えた避難所はありますよね?」
「んだ、そっでも此処から離れた北の水源地の方だでよ?」
 崖崩れの兆候が現れた時に逃げる場所がある。
 彼等が地図に示した場所は戰闘圏外につき、神楽耶はこっくりと首肯して言った。
「そちらに少しの間だけ避難していて下さい」
「細道だで、ちっと時間がかかるべなぁ……」
 まだ時間はあると、幾人かの猟兵が身を乗り出し、村人達の避難誘導と避難先の護衛を申し出る。
 嘗て猟兵によって異端の神の脅威から解き放たれた村なれば、彼等は直ぐに理解を示したが、恐怖が拭える訳ではなかろう。
 村長らがまごまごと躊躇う様には、ニールが靜かに口を開いて、
「――この世界を長らく恐怖で支配してきた吸血鬼に、反撃する時が来たんです」
「反撃……?」
 人類砦が現れ、権力の空白地帯が生まれ始めた。
 辺境では慥かに吸血鬼の支配が翳り、人類が反撃する礎が出来てきたのだと――決しておしゃべりは上手な方ではないニールだが、強めた語氣には力がある。
 純朴さの滲む聲も心に染みたろう。
「この村を、あなた達の大切なひとを守るために、力を貸してください!」
「……大切な人を、守る……!」
 仲間の直向きな言を聽いた神楽耶は、ここに危急を感じさせぬほど頼もしい塊麗の微笑を添えて、
「恐ろしいとは思いますが……大丈夫、我々が守ります」
「……ほんとけ?」
「約束しますとも。だから、終わった暁には笑顔で迎えてくださいね?」
 ――と。
 絶望に抗う少年の勇気と、神氣さえ漂う乙女の靨笑(えみ)に、村人が雄渾を得る。
 村長がすっくと立ち上がれば、村の若者達も勇んで、
「おったまげとる場合でねえ! やるでな!!」
「おう! おぶ、おびぶりおん? と戰うべな!!」
 邪と闘うべし――!
 村長は女性や子供、足腰の弱い老人を集めて避難準備に、若者達は彼等の足を助くべく羊駝(リャマ)や騾馬を引いてくる。
 俄に活気立った彼等に、カイムとニールは聲を投げて、
「周辺の土地に詳しい奴と、力のある奴。些少(ちょっと)協力してくれないか?」
「おう、なんぞな兄ちゃん!」
「避難が間に合いそうなら……手伝って欲しい事があるんだ」
「よし、何でもござれよ!」
 数人の男達が集まってくると、二人は小気味佳い微笑を浮かべた。

  †

 地図に示されぬ有益な情報は、土地の者がよく知っている。
 大事を成し遂げるには、己の力以上の――環境を利用するのが良策である。
「……ってな」
 其等は全て、“前職”で得た知識であり技能として身に付けたとはカイムの言。
 盗賊としての技術の集大成――【盗賊の極意】(シーフ・マスター)を以て、戰闘区域を隈無く偵察した彼は、奇襲に最適な地形を「断崖の頂」に見出していた。
 土地勘のある村民に崖の行き方を教えて貰ったカイムと、そして、村に入った当初より断崖の景色が気になっていたニールは、其処に大量の丸太と岩石を集める。
「薪用に丸太は二年分は備蓄してあんべ。それを使ってくんろ!」
「崖の上は岩だらけぞな。いくらでも転がしてやれんぞ!」
 ごろごろ、ごろごろ。
 続々と運び込まれる丸太と岩石で仕掛け罠を作った二人は、断崖から村を見下ろし、
「谷間の村にはほとんど逃げ場がないけど、それは敵も同じだよね」
「敵の軍勢が細道に差し掛かったトコで、崖上からコイツらを次々転がしてやる。なんせ軍勢だ。適当に投げても当たるだろうぜ」
 南北に伸びる狭隘の道こそ攻略の鑰――。
 罠によって軍勢が足止められ、大きな打撃を與えられるだろうと瞳を見合せた二人は、丁度、偵察から戻って来たシャルロットを迎えた。
「村の皆さんは――」
「仲間が避難所に誘導した。此処に残っているのは俺達猟兵だけだ」
「あとは……辺境伯の軍勢を待つだけだよ」
 再び集まった猟兵は、敵軍の規模や編隊、進軍速度や装備等の情報を共有し、邪の黒叢が迫り来るまでの時間を知る。
 シャルロットは間もなく敵影が見えるだろう南の草原を炯眼に射て、
「……ようやくこぎつけた人々の居場所です。容易に奪えると思わないことですね」
「ぼくは、生きてる素晴らしさを知ったから……ひとつの命も奪わせない」
 少女の科白に力強く首肯いたニールが、靴底を踏み締めて――立つ。
 この時、戰域となる周辺を見て回っていた神楽耶も合流したなら、彼等は揃って視線を地平線に注ぎ、
「希望の種を摘むのはこの世界の常套手段。けれど、だからこそ――育った芽を引き抜く乱暴は阻みませんとね」
 見たいのは荒地ではなく、大輪の花。
 其を踏み躙る事は決して許されぬと、紅脣は凛々しく結ばれる。
 漸う迸発(ほとばし)る皆々の闘志に触れたカイムは、此度の防衛戰は必定(きっと)苛烈に、必ずや血闘になるだろうと読み、
「折角だ。軍勢が来た折には此処で親指を下に向けて、挨拶でもしてやるか!」
 盛大に迎えて遣るぜ、と端整なる脣の端をクッと持ち上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
アドリブ共闘OK

彼らの平穏な生活を護る為に…
辺境伯とその軍勢を打ち滅ぼす為に…
行こうか…

[地形を利用し目立たぬように闇に紛れながら]
迫りくる辺境伯の軍勢を偵察し[情報収集]をしよう

[足場を習熟しつつ忍び足]で出来る限り近づいて
[暗視と視力]で軍勢の数と所持する武器を探ろう

動向に[見切り]つけたらば
【大鴉の訪問】を用いて味方の元へ戻り状況を報告しよう

もうすぐここに敵が来る…
辺境伯め…貴様らを返り討ち滅ぼしてやる…



 ――扨て。
 仲間達が村内で伏兵や奇襲の準備をしたり、村人達の避難誘導に当たる中、どろどろと進軍する辺境伯の軍勢に忍び寄る影が在った。
 仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)である。
「……漸く前線が見えたか……」
 上空を偵察した仲間の情報から、草原地帯を南へ疾走って幾許――。
 邪惡な地響きに耳を欹てた彼女は、高原の草地に岩肌を晒す石嚴に身を隠しつつ、その鋭利(するど)い黒瞳に辺境伯の軍影を映した。
 丹花の脣は低く小さく佳聲を滑らせ、
「軍勢の規模、進軍速度、統率……それに装備も判明れば後の戰闘に役立つか……」
 獲得した情報は全て武器になる。
 近付くほど多く情報は掴めても、身の安全は脅かされるが――彼女は寸毫も迷わぬ。
「行こうか……」
 幽谷の村の人々の平穏な生活を護る為に。
 辺境伯とその軍勢を打ち滅ぼす為に。
 村に降り立って間もなく偵察に出たアンナだが、漸との事で異端の神から解き放たれた村民の長閑な暮らしぶりは、常闇の世界に咲いた花の様であった。
 一輪の花すら踏み躙らせぬ――。
 普段は漠然(ぼんやり)とした彼女だが、雪白の肌膚に敵の禍々しい邪氣が触れるほど麗瞳は烱々と、射抜かんばかり鋭利さで観察していく。
「軍馬に跨る者を長に十人単位で小隊を形成し、歩兵と……工兵も揃えていると」
 掲げるは血に染まった巨斧。
 全員がローブ状のトゥニカ(修道服)を着用し、頭部を血染めの麻袋で覆っている。
 寄せ集めの農民部隊でなく、信仰によって統率された軍隊なのだろうと洞察を鋭くしたアンナは、収集した情報を全てを頭に叩き込んで持ち帰る事にした。
「――村へ戻り、状況を報告しよう」
 その影は間もなく消えて、味方の下へ――超常なる異能【大鴉の訪問】は、凶事を齎す大鴉の群れと共に、アンナを幽谷の村へとテレポートさせる。
 邪の軍勢より離れる瞬間、アンナは視界の端に首領たる預言者ムガヴィーを睨め、
「辺境伯め……貴様らを返り討ちにして、殲滅(ほろぼ)してやる……」
 と、決意を置いて飛び立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
矢来(f14904)と

◆行動方針
矢来に従う

リクエストに従う
お互いの得手はだいたい解る
村人達の誘導は任されよう。そっちの仕事は、そっちに任せた

おそらく、西か東に村人を固めておくのが最善だ
二方向を守るのは数の面でも愚策
どちらか一方に村人を誘導
方針が違う仲間がいれば、片方に寄せた方が守りやすい旨を具申
協力して、村人を片側に誘導するよう働きかける
村人が不安げな顔をしたり、おれ達の行動を訝ったりもするだろう
どうか聞いて欲しいと低姿勢から、彼らに語りかける
「騒がせて済まない。けれど、この村を守るためなんだ。協力してくれないか。――必ず守る。おれ達はそのために来たんだ」


矢来・夕立
名無しさんf00067と
◆行動方針
1.罠の作成
2-A.村人との対話・保護(灰色)
2-B.敵の偵察・罠の設置(夕立)

人員を釣…雇いました。
魔力で爆発する石を作ってもらいます。
仕掛けに行くのはオレでいいですね?偵察も兼ねて。
現地民との折衝は任せました。

さて偵察。
まず装備、村までの距離と行軍の速度、
雑魚を率いるリーダー格の顔を覚える。
これが一つ目。

村までの道のりに罠を仕込んでおきます。
峡谷の崖にいくつか、例の石を打ち込む。
後ほどコレを爆破して落石を起こす予定です。
それから式紙も少し。
これが二つ目。

村に戻ったら情報を共有しときます。
こちらもあちらも手筈通りと。
話のできる人がいると話が早い。いいですね。



 幽谷の村の南、草原地帯に降り立つ。
 無造作の蓬髪を爽涼の風に遊ばれた壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は、銀灰色の前髪が巻き上がった瞬間に顕在れた大断崖の峻嚴に、不覚えず嘆声を溢した。
「佳い處じゃないか」
 ――とは詰り。
 天然要塞とも云える懸崖が地形として活かせると言う話なのだが、風に運ばれるハイ・バリトンを拾った矢来・夕立(影・f14904)も、言の尠さは彼と變わらない。
「風も心地佳いですし」
 秀でた鼻梁を擽るは草の馨。
 火か油か、煮炊きの匂いでも混じれば敵は近かろうが、谷を抜ける風に未だ不穏は無しと赫緋の流眄を寄越した彼は、僅か二、三語で所感を共有した相手に口を開く。
「名無しさん」
「壥(ななしの)」
 即座に返る聲には、「ええ」と一言。
 受け止めたか流したかも判然らぬ儘、夕立は両手を胸の前に、おにぎりを握る様な仕草をして見せた。
「魔力で爆発する石を作ってもらいます。これくらいの」
「……そんな風には作らないが」
 蓋しリクエストには応じる。
 硬質の指を鈎状に曲げた灰色は、壊鍵『爆殺式』(ギガース・ザ・デトネイター)――己を中心に半径74mの波動を放つや衝撃に触れた無機物を収斂して「爆彈」に變装し、夕立のレッグバッグに収まる程度の「石」にして渡す。
 任意に起爆出来る其を受け取った夕立は、長い睫を持ち上げて断崖を仰ぎ、
「仕掛けに行くのはオレでいいですね?」
「任せた」
「現地民との折衝をお願いします」
「任されよう」
 お互いの得手はだいたい解る。
 そっちの仕事は、そっちに任せた、と――感情の乗らぬ瞥見で意を通じ合わせた灰色は、直ぐにも頼まれ事を、先ずは草原で羊を放牧する若者に接触を試みる。
「――村長の家に案内してくれないか?」
「んン? なんだべや?」
 実は……と彼が言を継ぐ間に、夕立の影は風に溶けた。

  †

「上を失礼」
 敵に気付かれぬよう、高く、高く――。
 超常の異能『夜雲』を以て岩膚の荒々しい断崖を登った夕立は、高高度から敵の軍容を観察するに功を奏した。
「軍馬に跨る者を長に十人単位で小隊を形成し、歩兵と……成る程、工兵も揃えると」
 軍勢の規模、統率、そして装備。
 進軍速度が判明れば、村に辿り着く時間も割り出せよう。
「雑魚を率いるリーダー格の顔を……ああ、これは判然り易い」
 雑兵がローブ状のトゥニカ(修道服)を着用し、頭部を血染めの麻袋で覆っているのに対し、首領は禿頭――ハゲている。
「これも共有しておきましょう」
 情報は強力な武器になる。
 特に馘をあげるべき辺境伯の目印を得た夕立は、それから絶影の機動で石嚴を移動し、峡谷の崖に件の「石」を打ち込み始めた。
「後ほどコレを爆破して、落石を起こせば……編隊が乱れる処ではなかろうと」
 名無しの彼は、吝嗇(けち)らず複数を拵えてくれた。
 ならば己も、気前良く式紙を付けて遣ろう。
 斯くして村までの進路に二重の罠を仕込んだ夕立は、再び蒼穹を蹴って疾走る。

 ――風に松脂の匂いが混じって来たと、伝える為に。

  †

 仲間の猟兵達と共に村へ、指導者たる村長の家を訪れた灰色は、辺境伯なる邪の軍勢が迫る事実を丁寧に説明した。
「ふぇぇぁぁああ、おぶ、おびぶりおん? が村に攻めてくるとはおったまげた……」
 事情を聽き、震え上がる村長。
 嘗て猟兵に助けられた村なれば、迫る脅威にも直ぐに理解を示したが、住み慣れた地、平穏を得た地を離れる事は中々に難しい。
 信頼を得るには確証性が必要か、灰色は邪に対抗し得る戰術を語り、
「二方向を守るのは数の面でも愚策。どちらか一方に村人を固めておくのが最善だ」
 云えば、避難誘導は任せて欲しいと進み出る猟兵が幾人。
 それでも村長は蒼い顔をして、
「女子供も居れば、足腰の弱った者もおるでな……震えて動けんかもしらん……」
 村の危急を目前に躊躇ぐのも理解ると、不安が出し尽くされるまで話を聽いた灰色は、広げた地図の前で深く頭首(こうべ)を垂れた。
「騒がせて済まない。けれど、この村を守るためなんだ」
 どうか聽いて欲しい。
 一握の命も摘ませぬ為に、協力して欲しい。
「――必ず守る。おれ達はそのために来たんだ」
 顔貌を持ち上げた彼の灰色の双眸は眞直ぐと。
 低姿勢で語り掛ける若者に慥かな誠意を受け取った村長は、すっくと立ち上がり、
「……おったまげとる場合でねぇ! 今すぐ動かにゃあ!!」
「おう!! やらいでか!!」
 これに村人達も奮起すると、急ぎ避難の準備を始めた。
 俄かに慌しく――勇ましい空気を纏った彼等に一先ずの安堵を得た灰色は、ここで夕立が村に戻っている事に気付き、片手を開いて「現状」を報告して見せる。
 然ると夕立は空になった両手を見せて、「石」を打ち込んで来たと示し、
「そちらもこちらも手筈通りと」
「見ていたのか」
「話のできる人がいると話が早い。いいですね」
 話が早い。仕事も速い。
 中々の人物が釣……雇えたものだと、玻璃(ガラス)を隔てた麗瞳をスッと細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…確かに、この世界は理不尽に溢れ闇に覆われている

…ただ生きているだけで希望は消えて絶望は絶えず、
狂える信仰に身をやつすのは無理なからぬこと

…それでも、その信仰が新たな理不尽、新たな絶望となるならば容赦はしない

たとえ吸血鬼でなくても、今を生きる人々の安寧を害するならば…私の敵よ

自身の生命力を吸収して複数の“死棘弾”に魔力を溜めてUCを発動
合図1つで弾丸から80m超の魔杭を乱れ撃つよう武器改造を施し、
他の猟兵の情報収集で敵軍の進路が判明したら、
闇に紛れて進路上の谷間の両側や地面に複数設置しておく

…百年続いた支配の歴史は今、転換期を迎えている
貴方達は此処で散りなさい。狂える信仰を抱いていたまま…



 偵察に出た仲間の猟兵から次々に情報が入り、敵の軍容が顕かになる。
 彼等は「宣教」や「求道」と称して辺境に支配を広げんとする遠征軍――その影は狂気に満ちていると聽いたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、花脣から小さく吐息を零した。
「……確かに、この世界は理不尽に溢れ、闇に覆われている。……ただ生きているだけで希望は消えて絶望は絶えず、狂える信仰に身をやつすのは無理なからぬこと」
 冱ゆる銀の麗瞳は、これまでも多くの闇を映してきた。
 不条理な暴力も、非業の死も、ダークセイヴァーでは珍しくない。
 目下、辺境伯の侵攻を聞いて北へ避難する村人とて然うだろう。やっと平穏を得た地を離れなくてはならぬ理不尽が、今まさに少女の目の前に在る。
 避難民が北へ向かう、その最後尾を見送ったリーヴァルディは、直ぐさま南側の関所を抜け、敵軍が来るという草原地帯へと疾った。
 風と翔る中にも言は聢と置かれて、
「……それでも、その信仰が新たな理不尽、新たな絶望となるならば容赦はしない」
 絶望の連鎖を断つ。
 死と懼れを打ち砕く。
「たとえ吸血鬼でなくても、今を生きる人々の安寧を害するならば……私の敵よ」
 芙蓉の顔(かんばせ)に凛然を萌した可憐は、繊手に乗せた『死棘弾』に魔力を籠めるや秘呪を詠唱した。
「……限定解放。極刑に処せ、血の魔棘」
 瞬間的に吸血鬼化し、我が血を「魔杭」と變える――其は【限定解放・血の魔棘】(リミテッド・ブラッドピアース)。
 術者の合図ひとつで死棘彈から80m超の魔杭を乱れ撃つよう武器改造を施した彼女は、これを敵軍の進路上に――谷間の両側や地面に幾つも設置した。
 魔棘は少女の意の儘に、強い伸縮性と彈性を以て邪の軍勢に襲い掛かり、侵攻を妨げ、編隊を崩壊させるだろう。
「……百年続いた支配の歴史は今、転換期を迎えている」
 リーヴァルディは颯と雪白の肌膚を撫でる風に振り返ると、石嚴の覗く草地の向こうを炯眼に射る。
 薄く開いた花脣は、未だ視えぬ黒叢に告げて、
「貴方達は此処で散りなさい。狂える信仰を抱いた儘……」
 と、儚げな佳聲を風に運ばせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
この世界では珍しく、皆さん穏やかに暮らされてるんですね……
この安息の地を、崩壊させるわけにはいきません。
行きましょう、精霊さん!

恐らく村周辺のみならず、敵の進軍ルートも崖や山道が多い筈
ですので足場が悪くなるエリアに敵群が差し掛かった所で【本気の大地の精霊さん】を発動
ピンポイントに大地震を何度も起こし、落石や崩落、地滑りや地割れ等に敵群を巻き込むことで足止め
そのまま動けなくなって脱落してくれたらなお良し

もしわたし自身が見つかったら戦わず地割れに飛び込んで一目散に逃げます
精霊さんの作った地割れは、わたしにとっては緊急避難通路みたいなものなので平気です
勿論、追手はそのまま埋まってもらいますけどね?



 幽谷の谷の南、牧羊が草を食む高原地帯――。
 爽涼の風に抱かれ、柔らかな草間に降り立った荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、悠久の大自然に暮らす人々の姿に嘆声を溢した。
「この世界では珍しく、皆さん穏やかに暮らされてるんですね……」
 羊を飼う若者も、毛刈りを前に肥える羊も、平和で安穏。
 少し前に異端の神の脅威から解放されたという村は、やっと得た平穏に笑顔の花を咲かせつつある。
 だからこそと、ひかるは瑪瑙色の麗瞳に凛然を萌し、
「この安息の地を、崩壊させるわけにはいきません。行きましょう、精霊さん!」
 ほわ、ほわと光を揺らめかせたのが是の合図か。
 幼な繊躯に漂う精霊達もヤル気いっぱい、少女の進む道に続いた。

  †

「村周辺のみならず、敵の進軍ルートも崖や山道が多い筈……」
 所々に石嚴が覗く高地の草原では、必然と進路も絞られる。
 鳥瞰を得た風の精霊さんの助言に従い、事更に足場の悪いエリアを見張ったひかるは、邪の軍勢が半ばまで進んだ処で精霊杖【絆】を振り翳す。
「……よしっ、大地の精霊さん。全力でいっちゃって!」
 発動、【本気の大地の精霊さん】(アース・エレメンタル・オーバードライブ)――!
 目下ひかると強い絆を結んだ大地の精霊が、佳聲に呼ばれて大きく唸り立つ。

 ――オオオォォオオオ――!!

 其は大地の咆哮であったか。
 轟轟轟轟轟……ッッと地面が猛り立つや嶮しい石嚴を鋭く突き上げ、切り立った断崖は音が出るほど身を揺らし、落石や崩落を呼び起こす!
「――ッッァァアアア嗚呼ッッ!!」
「……ォォオオヲヲヲ嗚乎ッッ!!」
 ピンポイントで繰り返される大震撃は、編隊を乱す処では無かろう。
 邪の軍勢は怒れる大地に進撃の足を掬われ、落石に頭を砕かれ、地割れによって裂け目に攫われた。
 蓋し怒涛と荒ぶる大地の精霊は幾許にも冷静で、突如と隆起する地盤にひかるを乗せ、敵の反撃を拒むと同時、高所から被害状況を掴ませる。
 凛呼と燿う瞳は、軍馬が脚を挫き、歩兵が倒れる惨憺に聢と成功を視たろう。
「皆さんはそのまま埋まってもらいますね!」
 一握の命も摘ませぬ為に――。
 少女は大地の精霊さんに感謝の言葉を述べると、一目散に幽谷の谷へ引き返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『異端の神に捧げる処刑人』

POW   :    幸あらんことを
自身の【肉体】を代償に、【斧に歪んだ信仰】を籠めた一撃を放つ。自分にとって肉体を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    神は希望を与えて下さる。神は、神は、かみかみか
【自己暗示により限界を超えた筋肉】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。
WIZ   :    救いを、救いを、救いを成す為。立ち上がれ
【心や身体が壊れても信仰を果たす】という願いを【肉体が破損した者、昏倒した者】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 幽谷の谷に至る道中で足止められ、落石に遭った辺境伯の軍勢は、隊伍を組みなおすに相応の時間を強いられた。
 それだけではない。
 南の関所を突破して村に侵攻した彼等は、村人の気配が無い事を訝しんだのも束の間、半ばまで進んだ所で前方を落石に塞がれ、後方には丸太を落とされて退路を失う。
 この周到すぎる罠に、辺境伯――預言者ムガヴィーは猟兵の介入を悟ったろう。
『村は蛻の殻……忌わしき者達が手助けしたに違いない』
 おのれ、猟兵――!!
 馬上で「神授のオーブ」を揺らしつつ、眉を蹴立てる首魁。
 然し紋章を賜った者が、辺境の大遠征を手ぶらで終える事は許されまい。
 狂邪はオーブを撫でながら手勢に命令し、
『工兵、速やかに落石を撤去せよ。この先に我等の神に背を向けた異端の者が居る!』
『我等ガ神ニ信仰ヲ! 異端者ノ血ヲ捧ゲヨ!!』
『愛し仔等よ、猟兵なる異端者共をその血斧に屠るが佳い!』
『神ヨ、神ヨ!! 信仰無キ愚昧ヲ救済シ賜ヘ!!』
 軍勢は当初より半減したが、信仰が薄まった訳ではない。
 同胞の血を浴びて更に昂ぶった狂信者達は、工兵は障害物の撤去に、斧兵は村に残った猟兵を虐殺すべく進み出る。
『生者ヲ過去ニ……今コソ信仰ヲ捧グ刻……!!』
『希望ナキ常闇ノ世ニ相応シキ死ヲ、死ヲ、死ヲ!!!』
 どろり、ずるり。
 血腥い道行(みちゆき)が再び動き出した。
シャルロット・クリスティア
多少の損害は気にせず来る連中ですか……!
身を犠牲にしてまでもこちらに被害を与えることを至上としている、防衛戦では厄介な相手ですね!

半端なダメージでは動きを止められない。
ならば、やるべきことは一つ。一撃必殺です!

幸い、場所は崖に挟まれた細道。高所のアドバンテージは取れるしそう簡単にここまで登ってはこれません。
斧兵は……他の猟兵との戦闘にも手を割かれているでしょう。狙うべきは工兵の側。
作業に集中などさせませんよ。後方の崖上から脳天を撃ち抜かせて頂く。
そこから先へは、一歩も通さないですからね……!


金原・子夜乃
1、出来ないことはしないこと
2、するべきことをすること
3、痛くても騒がないこと

これが、子夜乃の猟兵の約束
ちゃんと守って、働きマス

それに、準備はちゃんとさせてもらった、から
子夜乃でも出来ることがあるんだ

ここは村で、建物がある
センエツながら罠を張らせてもらった
見える? ――見えては困るけど
見えないから、村の広場まで、子夜乃の巣まで侵入ってきて

まんげつさんは頭がいいんだ
UCを使って糸を張り巡らせておけば、きっとみんなの役に立てるだろう

子夜乃は戦うの下手だから
屋根の上とか高いところに陣取りながら、
フック付きワイヤーと【ダッシュ】で新しく糸を張り直したりして援護に徹しよう

どうかみなさま、怪我のないように


カイム・クローバー
随分と『カミサマ』って奴にご執心らしい。信仰心なんてモンが俺に無くて良かったぜ。クソ無能なカミサマの手駒になってまで働きたくはねぇからな。

二丁銃を構えて、【二回攻撃】と紫雷の【属性攻撃】を纏った銃弾で【クイックドロウ】のUC。胴やら足やらは筋肉の鎧に守られてやがる。単純に耐久力が上がってるだろうから、顔面に銃弾を叩き込む。
へぇ、それが信仰心の為せる技ってヤツか?尚更、信仰心なんて持たなくて良かったと思うね。イケメンの俺がアンタらみてぇな醜い筋肉ダルマになるなんざ考えられねぇしよ。
【挑発】しつつ、UCを【範囲攻撃】で拡大。村を背にしてて良かったぜ。
この位置なら――遠慮なくぶち込めるからな。



 蠢く黒叢は螂蛆(うじ)か螻蟻(ろうぎ)か。
 幽谷の村の東西に切り立つ断崖、その頂より狂邪の群れを見下ろした猟兵達は、頭部の麻袋を朱殷に染めながら這う惨憺に息を呑んだ。
「……痛みより昂奮が勝って……身体を動かしているんだ……」
 崖下の状況を視た金原・子夜乃(孵る・f06623)が柳葉の眉を顰める。
 谷間に落された石嚴と丸太は慥かに軍勢を強襲したが、彼等は泣き別れた四肢を悼みもせず嘆きもせず、信仰を示すべく血濡れた一歩を踏み出す。
 まるで麻薬だと、彼等の狂信に花脣を結ぶ子夜乃の隣、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は語気を強めて、
「多少の損害は気にせず来る連中ですか……!」
 身を犠牲にしてまでも、此方に被害を與える事を至上としている――。
 防衛戰では中々に厄介な相手だと、透徹の麗瞳が青く碧く色を揺らす。
「――連中は随分と『カミサマ』って奴にご執心らしい」
 軍勢の侵攻時、親指を下に“お行儀の良い”挨拶を呉れて遣ったカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、血煙と戰塵に塗れる狂気を見下ろして、
「信仰心なんてモンが俺に無くて良かったぜ。クソ無能なカミサマの手駒になってまで、働きたくはねぇからな」
 救いも無し、慰めも無し。
 何より報酬が無いのは以ての外だと、下に向けた親指はひらりと解かれて飜る。
 其が合図になったか、猟兵達は直ぐに第二局面に移行すべく散開した。

  †

 ネズミと呼ばれた子供。
 王を名乗る寡黙と、彼(そ)のメイドを名乗る女。
 常軌を逸した獣に、枯れ果てた男――。
 可憐な少女の器に多重の人格を内包する子夜乃は、その誰もが遵守る「猟兵の約束」を持っている。

 1、出来ないことはしないこと
 2、するべきことをすること
 3、痛くても騒がないこと

「ちゃんと守って、働きマス」
 倖いにして準備は十分にさせてもらった。
 仲間のお陰で、軍勢が来る迄に「罠」を張り巡らせるに成功した子夜乃は、狂邪が号令に従って動き出した矢先、超常の異能を顕現(あらわ)す。
「子夜乃でも出来ることがあるんだ」
 発露、【夜蜘蛛召喚】(コール・ティファレト)――否、既に潜伏していた其は、光景として「結果」を齎したろう。
『救ヒヲ……救ヒヲ成ス為ニ、立チ、上ガレ……ッッ』
『神ヨ、神ヨカミヨ……我等ヲ動カシ給ヘ……ッッ』
 何故(どうして)動けない――!!
 狂邪は信仰を示す為なら、動かぬ脚など斬って歩んだろうが、その血斧が動かない。
 振り上げた腕は絡め取られ、藻掻けば藻掻くほど挙措の奪われる、これは――。
「夜更かしさんなまんげつさん。まんげつさんは頭がいいんだ」
『グ、グ……ググ……ッッ』
「センエツながら、建物に糸を張り巡らせてもらった」
 見える? ――見えては困るけど。
 すこうし語尾を持ち上げた子夜乃が、さやかに告ぐ。
 建物の屋根の上から佳聲を降らせる少女――彼女と似た美し翠緑の眸を持つ蜘蛛の糸が玲瓏と煌めくのを視るのは、子夜乃だけだ。
「子夜乃は戰うの下手だから。子夜乃の巣まで侵入ってきて」
『ッッグウッ……神ハ、我等ノ行進ヲ……希求マレル……ッッ!!』
 闇雲に振るわれる血斧が糸を断つなら、また張り直そう。
 線も刃も露出しなフック付きワイヤー『はだし』は蓋し無垢なる少女の如く軽やかに、空間に架渡されるや繊麗の躯を運び、冱銀の糸を巡らせる。
 然れば狂邪は躯を縛され挙措を阻まれ、凄腕の撃手に背を晒そう。
 援護に徹する代り格好の的を差し出した子夜乃は、崖上から冱彈を射る仲間を仰ぎ、
「――どうかみなさま、怪我のないように」
 まだまだ子夜乃はお役に立てるかしらと、再び爪先を彈いた。

  †

 ――而して崖上の撃手は。
「幸い、戰場は断崖に挟まれた狭隘の道。高所のアドバンテージは既に取れていますし、そう簡単に此処まで登ってはこれません」
「更に仲間が的を差し出してくれている。俺達は撃ち放題、喰い放題って訳だが……」
「ええ、半端なダメージでは敵の動きを止められないでしょう」
「――だよな」
 シャルロットとカイムは、地理的優位と広い視野を得ながら、敵の狂える強靭に戒心を鋭くさせていた。
『神ハ希望ヲ……救ヒヲ與ヘテ下サル……神ハ、神ハカミハ……ッッ』
『グ、……ッッ、救済ノ主ハ……尊キ道行キヲ、希求マレル……ッッ!!』
 狂気と狂熱、昂奮と、幾許の陶酔。
 歪んだ信仰はトゥニカ(修道服)を纏う躯を精強に、五体を欠損して尚も奮い立たせる雄渾を與える。
 並の鐵鉛では射止められぬと、二人は鋭利い視線を交して、
「胴やら足やらは筋肉の鎧に守られてやがる。単純に耐久力が上がってるだろうな」
「ならば、やるべきことは一つ。一撃必殺です!」
 死の中心点――脳天を貫穿く!!
 烱々煌々、互いの麗瞳に闘志が萌すのを認めた二人は、狙撃地点が判明(われ)ぬよう射線を違えつつ、其々の位置に着く。
 敵の侵攻方向に対して後方より鐵筒を向けるはシャルロット。
 他の猟兵との戰闘に手を割く斧兵を銃口で捺塗った少女は、更に奥――己が獲物は工兵と鋭眼を絞り、白磁の繊指を銃爪に掛ける。
「――作業に集中などさせませんよ」
 逃す心算(つもり)は無い。生かす心意(つもり)も無い。
 照準を絞るほど怜悧冷徹に、一心集中した青瞳が、次の瞬間――死を映す。
『神ヨ、カミヨカミヨ……ゼ唖ァッッ!!』
「先ずは一体」
 魔術処理で強度と冷却性能を高めた機関銃『マギテック・マシンガン』は此度、単射で敵の熱狂を屠る。
 戰塵と狂気に烟る中を潜った冱彈は、精確精緻に麻袋を貫いて脳天に――鈍い音を立てて爆ぜる脳髄を秘しながら、胴ッと落石の上に轉がした。
「この落石は、謂わば防衛ライン……突破されてはならないもの」
 狙い、撃つ。
 基本を正しく履行する。
 銃も弓も、突き詰めればそれだけの事とは【狙撃の心得】(スナイプ・ノウリッジ)。
 踏んだ場数は多かれど、決して手放す事のない基本の姿勢に従った撃手は、整えた呼吸の合間に、揺るがぬ意志を溢した。
「そこから先へは、一歩も通さないですからね……!」
 凛呼たる佳聲は銃声に掻き消えても、彈く鐵鉛が意志を届けよう。
 次々と後頭部を撃たれて沈む工兵を優れた視覚に捉えたカイムは、彼女と会話する様に呼吸を合わせて死を置いていく。
「――Are You Ready?」
 優艶のハイ・バリトンが喚ぶは、相棒『双魔銃 オルトロス』。
 瀟洒な科白が促すは【戦場の咆哮】(ハウリング・ロアー)――漆黒の躯に金のラインを疾らせる双頭の魔犬が、破壊力と速射力、射程を倍増して牙を剥く。
 其の威の昂ぶりを硬質の指に受け取ったカイムは、婀娜に笑んで、
「村を背にしてて良かったぜ。この位置なら――遠慮なくぶち込めるからな」
 電光閃雷――!!
 麗し紫の虹彩に映る霹靂が、血と埃に覆われた戰場を切り裂いて疾る、走る。
 シャルロットとは逆に、工兵らが顔を出す瞬間を正面から狙い撃ったカイムは、麻袋を貫いて額に鐵彈を叩き込む――正確無比の狙撃を以て牽制を敷いた。
 彼が敢えて前方に、姿の見える位置に居るのは挑発を兼ねての事だろう。
「へぇ、落石を膂力だけで退けようと……それが信仰心の為せる技ってヤツか? 尚更、信仰心なんて持たなくて良かったと思うね」
 麻袋の下で狂信を唱え続ける彼等に対し、ゆるく頭首(かぶり)を振るカイム。
 端整の脣は言葉巧みに、
「イケメンの俺がアンタらみてぇな醜い筋肉ダルマになるなんざ考えられねぇしよ」
 イケメンだし、仕事もデキるし。
 ゴリラにならずとも敵は斃せるし。
 会話は通じずとも、視界に入り語ることで「生者」たる姿を晒した彼は、今度は続々と身を乗り出す麻袋を捉えるや、左右二丁、神速の連撃で複数体を射抜く。
 悲鳴を叫喚ぶ代わり神を賛美して消える狂邪を視たカイムは、ここに肩を竦め、
「……アンタらが信じるカミサマとやらは、やっぱクソ無能だな」
 と、戰塵の奥に居るであろう首魁が逆立つよう揶揄った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
矢来(f14904)の作戦方針に従う


助かるね。お陰で本気を出せる

真正面から突撃する
おれが派手に暴れれば暴れるほど、夕立に対する敵視が減るだろう
敵の群を、大まかに切り分けるように、『鏖殺式』によって爆撃
近接するものは拳脚で、押し寄せる敵の波は侵徹撃杭の連射により粉砕する
大雑把に敵の群を削るのは何より得意だ
細かいことをするのは苦手でね

矢来が狙うとおり、群から浮いた駒を作るように、常に多数敵が固まっているところに地形を変えるほどの爆撃を叩き込む
散り散りに散らせば、あの千代紙の忍びがそれを放っておかないだろう
おれにとっては楽な戦いだ

おれを狙ってくる敵には、この『壊鍵』の威力を教えてやる
始めよう、鏖殺だ


矢来・夕立
名無しさんf00067
◆作戦方針
灰色:包囲圏内の殲滅・戦力の分散
夕立:集団から外れた敵の排除

どなたかが逃がしてくれたんですね。村の人。
人質なんかにされると困るんで良かったです。
しかもコレ、岩と丸太で妨害できる地形になってますね?
名無しさんの狙い通りにいけそうですよ。
打ち合わせ通り突っ込むのは任せました。

…あのよくわかんない火力は人の目を引きますからね。やりようも派手だし。
こちらは《闇に紛れて》観察してます。包囲網を上から見られるところがいい。
群れからあぶれたもの・単独行動を取るものへ集中して攻撃、各個撃破。
飛び道具なら幾らでもあります。

ええ、では――――鏖、ということで。



「……随分と尠くなっていますね」
 偵察に出た時は大蛇の如くあった軍勢が、今や宛如(まるで)螂蛆か螻蟻だ。
 断崖の頂より辺境伯の軍勢を見下ろした矢来・夕立(影・f14904)が淡然と告げれば、同じく谷間の惨憺を俯瞰していた壥・灰色(ゴーストノート・f00067)が言を足す。
「多勢に無勢が覆された訳か」
「佳いものを作って頂きました」
「仕掛けたのはおれじゃない」
 蓋し甲斐があった。
 灰色が生成し、夕立が仕掛けた爆彈と式神が奏功したと、土埃と血煙の中で蠢く黒叢に烱眼を絞った二人は、「扨て」と聲を揃える。
「どなたかが村の人を逃してくれたので、戰闘圏内に懸念は無し――」
「助かるね。お陰で本気を出せる」
 加減が利くほど器用じゃないと言う灰色に対し、夕立は細指に眼鏡を持ち上げ、
「ええ、人質なんかにされると困るんで良かったです」
 ――とは畢竟、無辜の命に心を懸けているのだとは言うまい。
 視線を崖下から頂に、互いに凛然の萌す麗瞳を瞥見した二人は、第二局面に移行すべく一陣の風と翔けた。

  †

「名無しさんは包囲圏内の敵を殲滅し、戰力の分散をお願いします」
「陽動か」
 敵の目を惹くには、眞正面から派手に暴れるのが判然り易い。
 夕立の策戰に乗った灰色は、一縷と躊躇わず軍勢の――狂信の最前線に躍り出た。
「先ずは挨拶を呉れて遣る」
 出し惜しみは為ない。そんな器用も持ち合わせて居ない。
 端整の脣から幾許の言を滑らせた灰色は、須臾、邪の黒叢に一条の衝撃を疾走らせた。
「派手な挨拶をな」
 雷霆万鈞――圧倒的衝撃が龍尾と伸びて邪を拷ち拉く!
『救ヒヲ、救ヒヲ……ゼ嗚呼ァァアアッ!!』
『我等、救済ヲ成ス為ニ……ォオオ嗚乎!!』
 感情の色を映さぬ眸が煌々と燿うたのは、力積と衝撃を掌る回路の始動刻印『壊鍵』が励起したからか――而して狂邪は彼の烱眼を見るより先、爆轟に屠られる。
「細かいことをするのは苦手でね。大まかに切り分ける」
 狭隘の路に面と満つ軍勢を楔打つに、其の鋩は鋭利くなくてはならぬ。
 此処に「魔劔」の『六番器』は適材で在ったろう。
 白皙の麗貌を眩き紫電に白ませた灰色は、時の寸毫を埋める如く『侵徹撃杭』を放ち、生者の匂いを嗅ぎつけて押し寄せる狂濤を朱殷の血煙に變えた。
『ズァァアア嗚呼嗚呼ッッ!!』
『神ヨ、神ヨ、カミヨカミヨ……ッッ!!』
 壊鍵『鏖殺式』(ギガース・ザ・カラミティ)による苛烈な爆撃が邪の隊伍を撹乱し、兵員を粉砕する様は、建物の屋根に立つ夕立には鮮明に窺えたろう。
 打ち合わせ通りの景色を認めた彼は、地形を變える程の爆撃を赫緋の麗瞳に追って、
「……あのよくわかんない火力は人の目を引きますからね。やりようも派手だし」
 實に佳い進撃、實に佳い蹂躙。
 そして實に隠れるに佳いと、轟音と烈風の逆巻く戰場に紛れた夕立は、衝撃から毀れた駒を聢と捉えて『式紙・禍喰』を放った。
 凡そ射手は三年凝視の瞳を以て的を虱と為るが、夕立なら三秒で足りる。
 血の色より赫い双瞳は、戻る隊を喪った狂信者を残酷に射止めて、
「群れから溢れたもの、単独行動を取るもの。面倒な連中の排除は任せて下さい」
 暗香蓊勃、【紙技・冬幸守】(カミワザ・フユコウモリ)――。
 刻下、黒手袋に包まれた繊指より離れた千代紙は、蝙蝠の群れとなって飛び立ち、狂気の渦を擦り抜ける。
 知性を有する彼等は音を殺して獲物を囲繞し、死の羽搏きに沈めた。
「生憎、派手さはありませんが。飛び道具なら幾らでもあります」
『……ッ、ッッ……!!』
 悲鳴すら匿す靜けさにゾクリと寒気が疾る。
 成る程、暗殺者の手法だと視界の端に夕立を捉えた灰色は、色無き佳聲を置いて、
「格好の狩場になった」
「この岩と丸太で妨害できる地形……名無しさんの狙い通りかと」
「ああ、おれにとっては楽な戰いだ」
 大雑把に敵の群を削るのは何より得意だと、犀利な流眄を注ぐ。
 折に血濡れた戰斧が目前に迫れば、灰色は斧撃の間合いの更に内側へ――狂邪の肉体に拳打蹴撃を叩き込み、脇より襲い掛かる次なる相手には、零距離で爆撃を……否、それはもう蝙蝠の群れが音も無く仕留めている。
「名無しさんを狙う敵には、『壊鍵』の威力を教えてやればいいんですよ」
「そして散り散りに散った處には、千代紙の忍びが襲い掛かる」
 敵軍が昂ぶる程、夕立と灰色は怜悧冷徹。
 各々の得手を取り合わせて妙を得た二人は、間隙なく押し寄せる第二波を捕捉するや、闘いは愈々血腥くなると視線を交して、
「誓おう、鏖殺だ」
「ええ、では――――鏖、ということで」
 斃した骸が狭霧と消ゆ、邪の残滓を靴底に踏み付ける。
 その爪先は片や惨憺の正面へ、片や惨憺に紛れ――殺伐の戰場を鮮烈と躍った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マギア・オトドリ
救い。信仰。神。いずれも、善良である言葉。
ですが、貴方たちのそれは、既に墜ちたモノです。そこに血を求めた時点で、その教えを穢していると知りなさい。

後方より、鋼鉄結晶をエーテルに分解し、戦場に散布。
叡智示す道を開き、記された術式を紐解き、詠唱を高速化及び多数の術式を多重展開、星の術式を発動します。
属性は『不信』、現象は強烈な私雨。
暗き雨雲より敵陣の中央に眼すら開けぬほどの雨を降らします。
雨で溺れる等は想定しておりません。『不信』により隣人も軍勢も、果ては己の信仰する神すらも疑い、孤独の闇に囚われよ。
己の斧に込めた過去に苛まれ、反省しなさい。他者を虐げるその教えは、信ずるべきものでなかったのです。


仇死原・アンナ
アドリブ共闘OK

…貴様らの信仰とやらに付き合う義理はない
まして…むざむざと殺されるつもりもない!
ふざけるなよ…ワタシは…処刑人だ!

敵群の攻撃を[見切り]つつ妖刀を抜き
[早業]で妖刀を振るい斧の柄を切り[武器を落とし]たり
腕や足を切り裂く[鎧無視攻撃による部位破壊]で攻撃しよう

[怪力と鎧砕き]を用いた【炎獄殺】を発動し
地獄の炎を纏わせた拳や蹴りを敵の頭部へ叩き込み
頭を潰して止めを刺そう

妖刀と炎纏う拳や蹴りで敵群を[蹂躙]してゆこう…!


リーヴァルディ・カーライル
事前に気合いや殺気を絶ち存在感を消して闇に紛れ、
情報収集で得た戦闘知識や第六感から先制攻撃の好機を見切り、
前章で仕込んだ“死棘弾”を発動して敵陣を乱れ撃つ

…まずは一手。“次”が控えている以上、
利用出来るものは何であれ利用させてもらうわ

例えばそう、お前達の流した血とか…ね

敵陣が混乱したら吸血鬼化してUCを再発動
敵が流した血液を暗視して無数の血杭に変え、
敵の傷口を抉り生命力を吸収する2回攻撃で敵陣をなぎ払う

さぁ、奴らの狂信を喰らい力と為せ、過去を刻むもの…!

その後、死者の祈りと狂信を大鎌に取り込み武器改造
大鎌を限界突破した呪詛で纏い魔力を溜める

…次はお前よ、辺境伯。彼らを煽動した罪を償うがいい



 辺境伯の軍勢は、幽谷の村に至るまでに猟兵が仕掛けた罠に掛かり、その規模と編成を大幅に縮小させていた。
「……真っ黒い大蛇が、随分と痩せた」
 先に偵察に出た仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)の瞳にこそ變容は際立とう。
 薄く開いた花脣より喫驚を溢す麗人の隣、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は崖下に蠢く黒叢に仕掛け罠の奏功を視る。
「……まるで螂蛆か螻蟻ね」
 彼女は言を飾らない。
 数多の魔杭に貫かれ、石嚴と丸太の下敷きになり、四肢を欠損して尚も蠢く邪の群れは――……これが狂信の末路と思えば遣る瀬無い。
 同じく断崖の頂から谷間の惨憺を覗いたマギア・オトドリ(MAG:1A・f22002)は、神への信仰を唱え続ける呻き声に、そっと溜息して、
「救い。信仰。神。いずれも、善良である言葉。ですが、貴方たちのそれは、既に墜ちたモノです」
 どれだけ唱えても、虚の器は満たされまい。
 偽りの奇跡を信じ、生ける者を屠らんと這い出る姿は醜く穢く――ダークセイヴァーに依然として在る死と絶望の連鎖を視た少女は、聢と語気を強めた。
「そこに血を求めた時点で、その教えを穢していると知りなさい」
 彼等を救済する手立ては、ひとつ。
 紫苑の瞳が鋭利く凛然を萌せば、懸崖より視線を戻したアンナがこっくりと首肯き、
「……貴様らの信仰とやらに付き合う義理はない。まして……むざむざと殺されるつもりもない!」
 その神は誰も救わない。
 死を捧ぐなど認めない。
 ペストマスク風の黒仮面が彼女を「処刑執行人」と變える時、美し花顔が覆われる前にリーヴァルディが佳聲を置く。
「……落石が堰き止めた處が防衛ライン」
 工兵が石嚴を撤去して突破する迄に、為留める――。
 その為の手筈は整っていると、互いの戰術を共有した猟兵達が素早く散開した。

  †

 倖いにして、断崖から落とした丸太によって退路は断たれている。
 狭隘の路に前後を塞がれた軍勢が、前進あるのみと工兵を繰り出す前線――数多に積まれた石を全き膂力で退け始めた彼等は、其処に颯爽と躍り出る赫炎に頭を擡げた。
『グッ、唖ッッ!!』
 敵襲――!!
 彼等が戰斧に手を遣るより疾く、斬撃は麻袋に覆われた咽喉を貫穿しよう。
 闘志に燿う炎を迸発(ほとばし)らせるは――炎獄の執行人アンナ。
「暴虐の斧を振るわれた者の痛みを知り、骸の海に還るがいい……!」
『ッッズァア嗚呼!!』
 握るは、首斬り処刑人の名を冠した『アサエモン・サーベル』。
 拳打蹴撃に連れるは、決して消えぬ地獄の炎。
 別なる世界、アポカリプスヘルでゴッドハンドの戰い方を視たアンナは、見様見真似で其を習得し、劔術と体術を一体化した【炎獄殺】を以て強襲する。
 見様見真似と言っても、既に血肉となった技だ。
 佳人は振り下ろされる戰斧を僅かに半身を引くだけで躱し、或いは間合いに侵入して、斧の柄を彈くと同時に腕を斬り落とす!
 須臾に夥しい血飛沫が噴くが、狂信者は怯懦の色も挿さず。
『腕ガ欠ケヨウト脚ガ捥ゲヨウトモ……信仰ノ炎ハ消ヘル事無ク熾ヘ滾ル……ッッ』
「頭部ならどうだ。頭を潰してやる……!」
 射干玉の艶髪を邪の血に濡らしたアンナは、麻袋にサーベルを突き刺して固定すると、地獄の炎を纏わせた拳を叩き込み、血染めの麻袋を炎々と燃やして蹴り落とした。
『ドォオ嗚乎ッ!!』
 落石の山から転落する骸を瞳に追えば、地面から続々と工兵が這い上がってきて、
『異端者ヲ処刑セヨ……我等ハ救済ノ処刑人……ッ!!』
『我等ノ神ニ抗フ者ヲ……悉ク処刑セヨ……ッッ!!』
 狂気、狂乱、狂熱――。
 歪んだ信仰に堕ちた狂邪の群れを眼下に視たアンナは、ここに烈々と炎を蹴立てた。
「ふざけるなよ……ワタシは……処刑人だ!」
 躙リ寄る工兵を灼熱の蹴撃に薙ぎ払い、組み敷く。
 処刑人の一族として育てられた彼女は、嚴然たる訣別を示すべく蹂躙を始めた。

 敵の状況は崖上から、味方の位置は情報を共有して把握した。
 血煙と砂埃に満つ戰場を立ち回るに十分な知識を得たリーヴァルディは、気配を断って戰塵に紛れ、敵を確実に劣勢に追い込む好機を探っていた。
(「……狙うは諸有る個所で、同時に……」)
 アンナが獅子奮迅の働きで前線を揺るがした時、少女も“威”を解き放つ。
「……血の魔棘、偽りの処刑人を極刑に処せ」
『――ッ、ッッ!!』
 狭隘の道に面と広がる軍勢を切り裂く魔杭――【限定解放・血の魔棘】(リミテッド・ブラッドピアース)によって生成された“死棘弾”は、圧倒的衝撃を幾筋にも疾走らせ、周囲に血煙を立ち昇らせた。
『ォォオオヲヲ嗚乎!!』
『クッ、ァァア嗚呼!!』
 禍き絶叫に混じって返り血を浴びるリーヴァルディ。
 雪白の花顔に血斑が染むほど少女は冷靜に、
「……“次”が控えている以上、利用出来るものは何であれ利用させてもらうわ」
 例えば、そう――。
 お前達の流した血とか。
 薄く開いた脣に小さく言ちた可憐は、狂邪の群れが混乱する中で瞬間的に吸血鬼化し、今度は彼等が流した血液を以て“死棘弾”を再生成した。
「……認識する血があれば、一滴からでも魔杭を射突できる」
 穢れる血で穢れる者を脅かすとは皮肉が利いていよう。
 またも顕現れた無数の血杭はトゥニカ(修道服)を貫き麻袋を穿ち、惡しき肉体と頭を砕いて更なる血を絞り出す――!
「隊を組み直す時間は與えない……悉く薙ぎ払う……!」
『ォォ、オオ……ヲヲッッ神ヨ神ヨ……カミヨカミヨ……ッッ!!』
 其を二回も喰らえば立つ者は居まい。
 神への賛美を叫喚んで斃れる狂邪を麗瞳に組み敷いたリーヴァルディは、死者の祈りと狂信を大鎌に取り込み、繊手に握る其に強靭を付す。
「さぁ、奴らの狂信を喰らい力と為せ、過去を刻むもの……!」
 呪詛を纏い、少女の厖大なる魔力を吸って威を増す大鎌。
 弓張月の如く冱ゆる鋩は霊氣の滴る如く――首魁を屠らんと殺意を迸発らせる。
「……次はお前よ、辺境伯。彼らを煽動した罪を償うがいい」
 軍勢が手薄になれば、軈て玲瓏の紫瞳に真の標的が視えよう。
 少女は軍の中核に居るであろう預言者ムガヴィーを探すべく、風と翔けた。

 或る者は落石を撤去する工兵を妨害し、或る者は前線に躍り出て撹乱し。
 中には軍勢に紛れて暗躍する者や工作する者も居るだろう。
 崖上より全てを確認していたマギアは、彼等の働きによって段々様相を變える軍勢と、如何なる脅威にも屈せぬ狂信のアンバランスを凛呼と見詰めていた。
「未だ光を視ぬ世界で心を無くし、歪んだ信仰に縋った者……」
 彼等を憐むか――否。
 マギアは瞳を閉じて祈るより、瞼を持ち上げて為べき事を知っている。
『神ハ希望ヲ與ヘ給フ……神ハ、神ハ、カミハカミハ……』
『救ヒヲ、救ヒヲ……神ノ救済ヲ示ス為。立チ上ガレ……!!』
 神を賛美し続ける狂信者たちの、唸りにも哮りにも似た聲を傍らに、左の繊手に乗せた『鋼鉄結晶』に視線を落とし、ひと撫でする。
 先程は村人の荷運びを援けた其は、此度エーテルに分解され、戰場全体へ――。
 朦々たる戰塵に被さるように行き渡った神秘の現象は、マギアの佳聲で更なる變容へと結ばれる。
「叡智示す道を開き、記された術式を――星の術式を紐解きます」
 端整の脣に紡がれる詠唱は高速化され、多数の術式を同時に展開する。
 血濡れた麻袋を被った者達は、己が頭上の景色が、碧落の光が波打つように揺り動いた事に気付かなかったろう。
「……星よ、我が声に応え、この地に力を示せ!」
 解き放たれるは、【星々の目覚め】(ホシハコタエル)――『不信』を帯びて雨滴と落ちた雫は、忽ち強く烈しく降り注ぎ、狂える邪の躯を打ち付ける。
『な、に……!?』
 軍の中央に坐した預言者ムガヴィーは、天蓋を覆う暗き雨雲が局地的な俄雨を降らせていると気付いたろうが、然し空を仰ごうにも眼すら開けられぬ。
『こ、これは――!!』
 溺れる事を想定した雨でないとは、肌膚を打つ雫の属性で判然る。
 首魁が舌打ったとは知るまいが、マギアは雨に烟る戰場を俯瞰して、
「『不信』により隣人も軍勢も、果ては己の信仰する神すらも疑い、孤独の闇に囚われよ」
『ォォ……ォォオ、オオ……!!』
『神ヨ、神ヨ、……カミ、ヨ……!!』
 血濡れた麻袋をじっとりと濡らした上に、不信の雨に叩かれた狂信者らは、晴れぬ闇の中で何をか見たろう。
 血斧を手放し、手を泳がせた彼等は、雨と共に降るマギアの聲を聽いて、
「己の斧に込めた過去に苛まれ、反省しなさい」
『……ッッ、ッ……!!』
「他者を虐げるその教えは、信ずるべきものでなかったのです」
『……――』
 皆々が膝をついて沈黙する。
 然れば、独り、馬に跨って今の状況に歯噛みする辺境伯の姿が戰場に浮き立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・アズロ
アドリブ等歓迎
SPD

さて、ぶっ叩きあいがあたしの本領だ
こっから参加させて貰う

計略も策も向かない猪武者の自覚がある小さな影が動く
斧兵たちへ尋常な速さではない小さな影が走る
UC使用、代償は気合と激痛耐性で耐える
斧兵の挙動などは情報収集で程度を看破して戦う

ぶっ殺しにきて、それが正しいって思ってるんなら

血に塗れながら幼い顔を凶暴に崩して嗤う

ぶっ殺されて手前らが救われるっていうのもアリなわけだよなぁあ!

敵集団のただ中でなぎ払いを活用し、身の丈より遥かにに大きな剣で死体を作り続けようとする
これこそが至上の歓びと少女は思っているから、負傷すら焚べられる薪だ

正しいことは楽しいよなあ?返事はどうしたよ、あぁ?


荒谷・ひかる
来ましたね……
貴方がたの信仰について、今更どうこう言うつもりはありません。
どうせ言った所で聞くような方々でもないでしょう。

心や身体が壊れてもなお立ち上がる……なんて恐ろしい力でしょう
ですが、その脅威もこの場で立ち上がれればの話です
まずは二丁の精霊銃で牽制
弾は足止めに優れる氷結弾や雷撃弾を使用、弾倉全弾撃ち尽くす
そのまま「THE EARTH」で【武装憑依・闇の精霊さん】発動
最も敵が纏まっているところへ向け、マイクロブラックホール弾を撃ち込む
限定範囲を超重力で呑み込み圧し潰し、時空の狭間へと消し去ります

その信仰を抱えたまま、躯の海へと還りなさい。
漸く咲き始めた……明日へと生きる人々の笑顔のために。



 懸崖の頂から奇襲に遭った軍勢を窺う。
 進路を落石に潰され、退路を丸太で塞がれた彼等は、全身を朱殷に染めて尚も這う――狂気の景を猟兵に見せた。
「まるで黒虫だな」
 螂蛆か螻蟻か、とまれ其の類だ。
 眼下の黒叢を視るルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)の佳聲は冷ややかに、次いで言を置く荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)も憐みに柳眉を顰めたりはしない。
「……村に来るまでは大蛇くらいあったんですけど」
 進路に配した仕掛け罠と、地殻変動が奏功した。
 軍勢が狭隘の路の半分に収まってくれた事に安堵しつつ、一方で大きな損害を被っても折れぬ狂信に戒心を鋭利くする。
 血煙に覆われる狂邪の群れに視線を揃えた儘、二人は聲を交して、
「さて、ぶっ叩きあいがあたしの本領だ。来たからには確り働かせて貰う」
「はい。私も頑張ります! ……行こう、精霊さん達!」
 死と絶望の螺旋を断つ。
 常しなえの支配を切り崩す。
 共に凛然を萌した二輪の花は、第二局面へ――敵の殲滅に移行すべく散開した。

  †

 仲間より戰術は聽いた。情報も共有した。
 蓋し計略も策も弄するには向かぬ――猪武者の自覚がある小さな影が動く。
 振り上がる血斧に向かって、尋常な速さではない小さな影が疾走る。
『我等ノ神ハ希望ヲ、救済ヲ與ヘ給フ……神ハ、神ハ……ッッ』
『救ヒヲ、救ヒヲ……神ノ威光ヲ示ス為。立チ上ガレ……!!』
 異端ノ者ヲ処刑セヨ――!!
 呻きにも哮りにも似た醜聲が頭上に降り注ぐ時、ルーチェは其の狂気を吃ッと睨めた。
「ごちゃごちゃうるせーぞ」
『ヌッ、ッッ!!』
「さっさと死んどけよ」
 牙ッ――と血斧と両手劔『絆と呪縛の錆剣』が噛み合う。
 少女の身丈に合わぬ長大な劔は、然し少女の怪力を以て鋭利く翻り、複数の斧を彈くや倍以上ある躯を薙ぎ払う。
『ゼァァア嗚呼!!』
『ォォオオ嗚乎!!』
 復讐の怨念。復讐の妄執。復讐の呪縛。
 他の感情を持ち合わせぬルーチェは、強烈で絶大な復讐心を以て劔鋩を怜悧に犀利に、力の儘に振り回して敵の狂気を屠る。
 少女の花車には負い切れぬ代償にも甘んじよう。
 ルーチェは激烈な痛みに耐えつつ、続々と向かい来る黒叢に花脣を開いた。
「……ぶっ殺しにきて、それが正しいって思ってるんなら」
 雪白の肌膚に返り血を浴びながら。
 幼い顔を凶暴に崩して――嗤笑う。
「ぶっ殺されて手前らが救われるっていうのもアリなわけだよなぁあ!」
『――ッ、ッッ!!!』
 劔閃断獄――ッ!
 僅か数合で斧兵の挙動を、其の餘りに拙い太刀筋に狂信の虚しさを感じたルーチェは、唯だ只管に狂気の渦に身を躍らせ、薙ぎ払い、斬り崩し、骸の山を累々と積む。
 其こそが至上の歓びと想う故に。
 少女には負傷すら焚べられる薪だ。
「正しいことは楽しいよなあ?」
『……ォォ、ッオオ――!!』
「返事はどうしたよ、あぁ?」
『グ、ァア嗚呼!!』
 最高で最低の気分だ。
 彼等が言う「処刑」を代わったルーチェは、血に滑る劔の柄を握り直し、錆びた劔刃を不断に振り回す。

 ――其れ以外を知らぬが故に(コンナニモジブンハミチタリテイル)。

  †

 然し軍勢を半減させようと、直ぐ隣の者が斃れても、狂邪の士気は畢ぞ削がれぬ。
 四肢が千切れようと肉体が毀れようと信仰を果たす――その狂信は常に戰士を強靭に、昂奮に痛みを忘れさせる様だった。
「……無手でも来ますか」
 生者の気配を手繰るように躙り寄る斧兵に、凜乎と言つひかる。
 餘りに無謀な邪惡の群れに、少女はすこうし頭首(かぶり)を振って、
「貴方がたの信仰について、今更どうこう言うつもりはありません」
 所詮(どうせ)言った所で聞くような方々でも無し――。
 偽りの信仰に心を無くした者の末路を視たひかるは、漸近する狂気に敵意を露わにする闇の精霊さんを傍らに、嚴然と見据える。
 聢と土を踏み締めた少女は、繊麗の手に二丁の精霊銃を握り、銃爪を引いた。
「心や身体が壊れても、なお立ち上がる……歪んだ信仰の底知れぬ危うさを感じますが、その脅威もこの場で立ち上がれればの話です」
 彈ッ、彈ッ――!!
 即時に発動出来ぬ精霊術を補うに、『Nine Number』と『THE EARTH』は頗る優秀。
 閃光を喊んだ銃口は須臾に氷結彈と雷撃彈を敵躯に沈め、先ずは前線を崩した。
『ォォオオヲヲ嗚乎!!』
『クッ、ァァア嗚呼!!』
 足を凍結され、脳天を打たれ、禍き黒叢は益々螂蛆か螻蟻の如くとなる。
 視界いっぱいに飛び込む光景は陰惨を極めるが、ひかるは彈倉全彈撃ち尽くした處で、間を置かず親友(とも)に呼び掛けた。
「よろしくお願いします、闇の精霊さん――っ」
 佳聲は親愛と信頼を籠めて。
 星の息吹を戰ぐ『THE EARTH』の筒先はその儘、愈々闘志を励起させた闇の精霊さんと意気を合わせた彼女は、闇の力の神髄――マイクロブラックホールを彈と籠める。
 照準は、最も敵が纏まっている狂気の渦。
「……どうか、届いて……!」
 発動、【武装憑依・闇の精霊さん】(アームドポゼッション・ダークエレメンタル)!
 ドォンッと撃ち出された冱彈は螺旋を描いて狂熱の中心へ、圧倒的超重力で呑み込み、圧し潰し、何もかもを時空の狭間へと消し去る――!!
『――ッッ、ッ――』
『……!! ッッ――』
 血濡れた戰斧も穢れた躯も、悲鳴すら異次元へ送られる狂邪たち。
 神への賛美が途切れた時には、可憐の聲が惨憺の戰場に透徹(すみわた)ろう。
「その信仰を抱えたまま、躯の海へと還りなさい」
 櫻脣を滑る科白は慈雨の如く沁みて。
「漸く咲き始めた……明日へと生きる人々の笑顔のために」
 少女はそっと落とした瞼の裏に、あの長閑な村の景色を映した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ピオニー・アルムガルト
己の信念、強い信仰がある事は良いことだわ!私達の一族も太陽と月の神様を信仰しているし、人によっては力や救いになるもの!
だけど皆に迷惑が掛かることを強要する事はいけないわ!貴方たちには正しい行いだとしても私は看過できない、その信心ぶち折ってやるから覚悟しなさい!
村人さん達に被害が出ないように取りこぼしなく敵を倒したいわね。相手の神様の悪口を言ってればヘイトを取って注目されるかしら?
視野の狭くなった貴方たちには私の一撃はちょっと眩しいわよ!


穂結・神楽耶
神を信仰するのは結構ですけど、
改宗の機会すら与えないのはどうかと思いますよ?

…と、過去に言ったところで仕方ありませんが。
わたくしは過去より未来を奉じるモノなれば、
相応しき死が今でなきことなど明々白々。
あなたがたには骸の海にお帰り頂きましょう。

前後を塞がれ、
道は一直線上、
隊列は組み直すばかり、
そして敵の数はまだ充分。

解答。――纏めて薙ぎ払います。

わたくしの赤色と『結火』のあかは遠目からでも存在感があります。
殺したがりの狂信者は何をせずとも誘き寄せられることでしょう。
わたくしは、唱えて待つだけでいい。

――破滅はどこまでも追い駆け続ける。
誰一人とて逃がしはしません。
終わりを此処に――【神掃洗朱】。


ニール・ブランシャード
…この人たちも、こうなってしまう前は普通に暮らしてたのかな。
家族は、いるのかな。それとも「いた」のかな
もっと早くこの人たちに手を差し伸べられていれば…

やめよう。ぼくたちは全知全能じゃない
誰を救うか、選び取らなきゃいけないんだ

【POW】

射撃や魔法で戦う仲間の壁になれるように前線に立つよ
それに敵を大勢村に入れてしまえば、破壊工作をされかねない
できるだけ敵を惹きつけないと…
「ほら、ここに異端者がいるよ!ぼくの血をかみさまに捧げるんだろ!」
ぼくタールだから血は出ないんだけどね

手足を落としたくらいじゃ無力化しにくい相手だし、なるべく一撃で、苦しませないように終わらせてあげたいな

※鎧の中身は黒いタールです



 懸崖の頂より狭隘の路を見下ろす。
 進路を落石に塞がれ、退路を丸太に断たれた辺境伯の軍勢は、宣教の道行きを阻害した猟兵を異端者として処刑すべく、螂蛆か螻蟻の如く蠕動いている。
『……我等ノ神ハ希望ヲ、救済ヲ、奇跡ヲ與ヘ給フ……』
『……神ノ威光ヲ示ス為。生者ヲ、死ヲ捧ゲヨ……!!』
 不断に呟くは神の礼賛。
 その唸りか哮りにも似た醜聲を足許より聽いたニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は、ぽつり、小さく言を溢した。
「……この人たちも、こうなってしまう前は普通に暮らしてたのかな」
 家族は、いるのかな。
 それとも「いた」のかな。
 其は小雨の様に幽微かな聲であったが、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は鼓膜に沁む声音に頷くと、崖下の黒叢に注いだ視線をその儘にして言った。
「……これだけの数です。軍勢は遠征の道すがら村々を襲い、殺め、骸の海に沈んだ絶望を汲み上げて信者を増やしてきたのでしょう」
 軍勢の規模は、即ち死と絶望の数だ。
 一縷の光が見えた世界だが、依然として闇は濃く――醜く蠢く狂邪の姿には、それだけ踏み躙られた命がある、と長い睫が半ばまで伏せられる。
「――でも、幽谷の村の人々はそうさせちゃいけないわよね」
 幾許の沈黙の後に聲を添えたピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)の表情は凛乎として明るい。
「これまでの遠征は阻めなかったけど、此処で止められると思えば、頑張らないと!」
 過去は變えられない。
 然し未来は變えられる。
 だから現在(いま)こそ力を奮うのだと、ぎゅうっと拳を握り込める。
「……うん。ぼくたちが頑張らないとね」
「ええ、力を尽くしましょう」
 然れば仲間の猟兵もこくりと首肯き、闘志を萌し。
 互いの戰術を共有した精鋭は、次なる局面――軍勢の殲滅に移行すべく散開した。

  †

 もっと早く――。
 もっと早くこの人たちに手を差し伸べられていれば――。
 狂邪の軍勢が躙り寄るほどニールの優しい心根は搖らぐが、少年は微動する手掌を強く握り込め、我が黒劔を戰斧と變える。
「やめよう。ぼくたちは全知全能じゃない」
 何もかも出来る訳じゃない。
 寧ろ出来ない事の方が多いとは、どろどろと迫る狂信の塊が痛いほど突き付けてくる。
 ニールは血濡れた大地を踏み締めると、峻岳の如く立ち塞(はだ)かり、
「誰を救うか、選び取らなきゃいけないんだ」
 先ずは一閃――!
 眞一文字に戰斧で薙ぎ払い、軍勢の最前線を血煙に覆い尽した。
『ォォオヲ嗚乎ッッ!!』
『グァァア嗚呼ッッ!!』
 射撃や魔法で戰う仲間の壁になるよう敵前に布陣した彼は、仕掛け罠を――石嚴を落とした場所が防衛ラインと、積み上がる石を背に堂々戰斧を振るう。
(「村を破壊されないように、できるだけ敵を惹きつけないと……」)
 少し思案して、間もなく大声は戰場に澄み渡ろう。
「ほら、ここに異端者がいるよ! ぼくの血をかみさまに捧げるんだろ!」
 ありありと生者の姿を見せつける。
 黒騎士の鎧を纏った大柄の躯は、麻袋に隠れた邪眼に格好の獲物と映ったに違いない。
 軍勢は聲に結ばれる様にニールに進路を集め、血に滑る斧を握り直して振り被った。
『異端ノ者ヲ処刑セヨ、穢レシ血ヲ捧ゲヨ――!!』
「ぼくタールだから血は出ないんだけどね」
 雷霆万鈞、【断罪】(エクスキューション)――!
 脇の空いた瞬間、身を低く地を滑る様に踏み込んだニールは、膂力を振り絞って胴部へ斧刃を衝き入れる。
 横薙ぎに放たれた斧撃は戰塵を裂き血煙を断ち、朱殷に沈むトゥニカ(修道服)を一気両断した。
『ゼェァァアア嗚呼嗚呼!!』
 四肢を斬り落とした程度では無力化し難い相手だ。
 なるべく一撃で、苦しませないように終わらせてあげたい――其の一心で閃いた斧は、狂邪が神への賛美を叫喚ぶより早く意識を摘み取る。
 鮮烈な斬撃はまた新たな狂邪を呼び、前線は一瞬にして血場と化した。

 斯くしてニールが前線を揺るがせば、その混乱を軍に行き渡らせようとする者が二人。
 ピオニーと神楽耶だ。
 血斑の染む大地を一陣の風と疾走った両者は、第二波、第三波と、間隙なき波状攻撃で編隊を切り崩さんとする。
『神ハ……神ハ、神ハ神ハ神ハ……ッッ』
『救ヒヲ、救ヒヲ……神ノ救済ヲ……立チ上ガレ……!!』
 隊列を崩し、負傷して尚も進む邪を瞳に映したピオニーは、狼耳をピンと立てて彼等の信仰を聽く。
「己の信念、強い信仰がある事は良い事だわ! 私達の一族も太陽と月の神様を信仰しているし、人によっては力や救いになるもの!」
 彼女は頭ごなしに信仰を否定しない。
 ピオニー自身もアルムガルト家が信仰する太陽と月の神の加護を受け、その能力や姿に影響を受けているのだ。
 然し今の暴虐を認める訳にはいかぬとは、漸う烱光を帯びる金の麗瞳に示されよう。
「だけど、皆に迷惑が掛かることを強要する事はいけないわ! 貴方たちには正しい行いだとしても、私は看過できない――その信心ぶち折ってやるから、覚悟しなさい!」
 成る丈、大きな聲で叫ぶ。
 嚴然と否定して、敵意を煽る。
 取り溢しなく敵を撃滅するに注目を集めた方が良かろうか――なれば瑞々しい花脣は、異端の神の惡口も紡ごう。
『異端ノ者ヲ処刑セヨ、異端ノ者ヲ処刑セヨ……!!』
『我等ノ神ニ平伏サヌ者ハ処刑セヨ……ッッ』
 どろり、軍勢が彼女に進路を結ぶ。
 ピオニーを異端者と認めた狂邪らが大きく血斧を振り被った、瞬間――燦然が溢れた。
「視野の狭くなった貴方たちには、私の一撃はちょっと眩しいわよ!」
『ッッ、ッ』
「これが私の最高の一撃――!!」
 斉放、【一欠片の煌めき】(モルゲンロート)――!
 精霊の力を宿す魔導杖を高く翳し、花車の躯に秘めた厖大な魔力を炎に變換する。
 橄欖色の精霊石が赫々と輝くほど光熱は昂ぶり、ピオニーが振り下ろした瞬間に紅蓮の奔流が狂邪を呑み込んだ!
『ォォオオヲヲ嗚乎嗚乎――!!』
『グァアアァァ嗚呼嗚呼――!!』
 凄まじい魔力の波濤に、片腕が千切れそうになる。
(「……ッッ、頑張る……!!」)
 凄艶は激痛に柳眉を顰めつつ、然し双瞳は聢と見開き、狂邪の跡形も無く消え去る迄を見届けた。

 ――扨て。
 ピオニーと同時に爪先を彈いた神楽耶は、不断に呟かれる神の賛美と異端者の排斥に、皮肉な微咲(えみ)を溢していた。
「神を信仰するのは結構ですけど、改宗の機会すら与えないのはどうかと思いますよ?」
 とは、太刀の宿神でありながら己は神ならぬ刀であると心得る者の言。
 彼等が信奉する神を異端と蔑(なみ)しは為まいが、其の寛容ならぬは誰をか救済すると語尾を持ち上げる。
 蓋し“過去”に云った處で詮無きこと。
 彼等は確定した事象につき悛める事は無いのだと、狂気の渦中に溜息を混ぜた佳人は、その烱眼に敵軍の現況を具に観察した。
「わたくしは過去より未来を奉じるモノなれば、相応しき死が今でなきことなど明々白々。
あなたがたには骸の海にお帰り頂きましょう」
 狭隘の一本道に前後を塞がれた軍勢。
 隊列は組み直すばかり。
 而して敵の数は未だ充分。
 嚮導(みちび)く答えは――。
 長い睫に黒々と縁取られた麗瞳、その赤々とした虹彩は戰場を巡って解を見出し、
「――纏めて薙ぎ払います」
 正に至当。
 神楽耶と結びの片割れ、神器『結火』は遠目でも存在感がある。
 神氣溢るる赤色と破滅の焔は、仮令(たとえ)血煙と砂埃が吹き荒れる中に在っても、殺したがりの狂信者を誘うだろう。――然う、何をせずとも。
 故に唱えて待つだけでいいと、どろどろと躙り寄る狂邪の群れを睨め据えた神楽耶は、丹花の脣に清冽の言を結んだ。
「――破滅はどこまでも追い駆け続ける。
 誰一人とて逃がしはしません。
 終わりを此処に――【神掃洗朱】」
『――ッッ、ッ――!!』
 血斧を振り被った魔は、その斬撃を視たろうか。
 彼等は強靭な膂力を以て斧刃を届けるより先、胴に食い込む鏖殺の斬撃に躯を断たれ、泣き別れた半身を整然と直線上に並べる。
 破滅はどこまでも追い掛けるだろう。
 神楽耶が赫緋の瞳を滑らせる地には、悉く薙ぎ払われた骸が斃れ、沈み――やけに広くなった路の向こうに、唯だ一騎、馬に跨る預言者ムガヴィーの姿が視えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『預言者ムガヴィー』

POW   :    神聖伝道
【不信者達を平伏させ、神の真理を広めたい】という願いを【神授のオーブを通じて世界中の信者達】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    汝、救済を求める者なりや?
対象への質問と共に、【対象の体内】から【不信者を喰らう神の幼獣】を召喚する。満足な答えを得るまで、不信者を喰らう神の幼獣は対象を【内臓を食い破る拷問】で攻撃する。
WIZ   :    最後の審判
【不信者のみに落ちる神の雷】を降らせる事で、戦場全体が【信徒だけが救われる審判の日】と同じ環境に変化する。[信徒だけが救われる審判の日]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナギ・ヌドゥーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 畢竟、双方の利が一致していたのだ。
 預言者ムガヴィーは信者獲得の為に空白地帯に求道を敷けたし、彼に「辺境伯の紋章」を與えた者は、己の息が掛かった者を辺境に送り込み、支配基盤を広げる事が出来た。
 紋章の授受に、両者が思惑を明かしたかは判然らない。
 蓋し預言者ムガヴィーの首の後ろ――襟に隠された「紋章」は、慥かに吸血鬼の契約が交わされていよう。
 其を、寄生虫型オブリビオンを回収する。
 より上位の吸血鬼の存在に迫る。
 それには、いま眼前に居る「辺境伯」を倒さなくてはならないが――預言者ムガヴィーは手勢を駆逐されて追い詰められるより、猟兵を数えて北臾笑んでいる様だった。
『……我等の信仰の道行きを阻む異端者を、猟兵を忌々しく、憎々しく思っていたが……これが神の示された道、新たなる使徒を連れよと思し召しの様だ……』
 今の戰いを見て理解した。
 我等の神は万軍に値する猟兵の力を求めている。
 超常の異能を操る猟兵を絶望に墜とし、死の淵を潜らせて骸の海より掬い上げたなら、彼等は樂土を敷く尖兵として神に仕えるだろう。永久に。
 くつくつと嗤笑った巨邪は、「神授のオーブ」を手に愛で、
『なれば憎し猟兵こそ我等の愛し仔。存分に恐怖に染め、絶望に組み敷き、惨い死を味わわせた後に冷たい躯を掬い上げて遣ろう』
 と、魔に魅入られた鋭瞳を細めた――。
マギア・オトドリ
……信じる事自体は、否定しません。
しかし、その在り方はヒーローとして否定させて頂きます!

包帯を千切り、code=MAG:1Aの封印を解放、発動!
発動するは叡智示す道より記されし、断罪術式!
対象が甘言を持って突き落とした信徒の数だけ、身体機能を超強化。発生する激痛に対しては歯を食い縛り耐え、地を蹴り付け疾走。対象へ急接近します。

対象が神への真理への願いを叶える?……なるほど、更に罪過を重ねるのですね。
対象が願望を発動させた途端、それも罪と判定。更に肉体を活性化。
エーテルから戻した鋼鉄結晶で地を爆ぜ、舞う砂と土を目潰し代わりにして接近し拳激を!
狙うは手に持つ神授のオーブ。まずは牙を削ぎます!


シャルロット・クリスティア
神は、人を救わない。
救済を与える神など、どこにもいない。
貴方達の言う神など、ただあなた達にとって都合のいいだけの存在です。
信じるのは勝手ですが、人の未来をそんなものに委ねさせるわけにはいきません。

真の姿を解放。旗槍を手に、前へ出ましょう。
奴の信仰がどれほど強かろうと、私の信念は折れはしない。
突き進み、突き砕いてみせましょう。小細工は無し、正面から、真っ直ぐに。

人の未来は、神の手に委ねるものではない。
ましてや過去に沈み、歪んだ信仰などに、奪わせるわけにはいきません。

仇敵たる吸血鬼の威を借りてなお、人の救済を嘯くな!
人が歩む未来は、人の手で決めなければいけないんです!!


ニール・ブランシャード
【POW】
平伏させようとしてくるならいっそ…
そのまま武器も置いて地面に平伏するよ

そして敵に気づかれないように、鎧の隙間から「体」を全部抜けださせて
辺りに広がってる血溜りに擬態して潜り込む
敵は多分はいつくばってるぼく…の鎧を近くで見たがると思う
近寄ってきたら背後に回り、首後ろを狙ってUCを発動。手じゃなくて触腕から発動することになるけど
命中しても紋章は破壊しないように加減するよ

…あの中に入ってないとやっぱり怖いや。
でももう、人が死ぬのはたくさんだ。
そのためならぼくは…どんなことだって頑張れる!

※精密な変形は不得意で、鎧から出ると不定形の動いて喋るタールの塊のようになります

連携アドリブ負傷描写◎



 預言者ムガヴィーの項窩に標された「辺境伯の紋章」は、襟に秘されている。
 要之(つまり)紋章を鹵掠する事は、彼奴の首級を獲る事と同義なのだが、其が中々に難しいとは猟兵の表情に示されよう。
「……敵は己を中心に、前後を問わぬ全体攻撃を仕掛けてくるようですね」
「ええ、攻撃に方向性のない相手の背後を取るのは容易ではありません」
 懸崖から颯爽と飛び降りたシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)はワイヤーを手繰りながら、マギア・オトドリ(MAG:1A・f22002)は鋼鉄結晶に荷を運ばせた要領で降下しつつ、空中で鋭利く視線を結ぶ。
 少女達が建物の屋根を伝って着地した先では、漆黒の騎士鎧をしとど返り血に濡らしたニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)が身構えていて、
「あのね、ぼく……こういうことが出来るんだけど……」
 左のポールドロン(肩当)から下の腕をブラン、と垂れ下げる。
 まるで抜け殻のような――力無く揺れたガントレット(篭手)に視線を集めた二人は、続く言葉に耳を欹て、
「今の戰いで地面に血溜まりができているから……きっと、うまくいくと思うんだ」
「……成る程」
「分かりました」
 少年が全てを語らずとも、その意図を逸早く理解した二人は、慥かな首肯で応える。
 この瞬間に戰術は共有されたか、
「では、私が敵の視線を前方に引き付けましょう」
 正面から眞っ直ぐに対峙して見せると、凛乎と告げるシャルロット。
 咄嗟に策戰の成功に必要な動きを見出すマギアも頼もしかろう、
「奇跡を起こすという厄介な『神授のオーブ』は任せて下さい」
 一人では届かぬ攻撃も、皆で力を合わせたなら――。
 漲る闘氣に強い意志を認め合った三人は、遂に視線を違えて其々の道へ踏み出した。

  †

『万人は死から逃れられず、闇は永久に晴れず。神への信仰のみが世の救いである』
 この真理を伝道するのが己が役儀と、預言者ムガヴィーは迷わない。
 手に持つオーブに絶望に沈む者達を映した巨邪は、寄生虫型オブリビオンによって強化された異能を解き放ち、全ての不信者――猟兵を跪かせんとした。
『さぁ愛し仔らよ、神の真理の前に俯伏(ひれふ)すが佳い!!』
 地に蹲い、恭順を示せ――!!
 刻下、オーブが天に掲げられるや紫黒の邪氣が迸発(ほとばし)る。
「くっ……っっ……」
「こ、れは……!!」
 不可視の脅威が躰に圧し掛かり、己の意に反して膝が折れる。
 多くの猟兵が身を屈める中、然しシャルロットは手に握る戰旗の石突を地に突き立て、義気凛然と屹立した。
『なに――』
 邪に染められた魔瞳が瞠目する。
 翩翻と繙(はため)く戰旗に、勇壮と波打つ銘無き紋章。
 其を握る可憐は更に気高く、雄々しく――不屈の一歩を踏み出す。
 白薔薇と羽根を飾る銃士帽のブリムの下、青瞳は透徹と邪を射て、
「貴方達の言う神など、ただあなた達にとって都合のいいだけの存在です」
『……何だと』
「信じるのは勝手ですが、人の未来をそんなものに委ねさせるわけにはいきません」
 神は、人を救わない。
 救済を与える神など、どこにもいない。
 真の姿によって語られる科白は嚴然と、ムガヴィーが言う真理を打ち据える。
『年端もゆかぬ小娘が生意気に……!』
 巨邪が眉を蹴立てて怒れば、シャルロットはオーブの力が荒ぶるほど語気を強め、
「貴方の信仰がどれほど強かろうと、私の信念は折れはしない」
『、っ――!!』
 突き進み、突き砕く。
 小細工は無し、唯だ敵の正面を堂々と歩み進んだ少女は、【解放の旗を此処に掲げよ】(リベレイターズ・フラッグ)――「理不尽に屈せず立ち向かう」という誓いを立てて、繊麗の躯を強靭に堅牢に、漲る闘志を増強した。
 丹花の脣を滑る佳聲は巨邪の嚇怒を愈々駆り立てよう、
「人の未来は、神の手に委ねるものではない。ましてや過去に沈み、歪んだ信仰などに、奪わせるわけにはいきません」
 蓋し言を繕わず。
 眞っ直ぐな瞳で真理を打ち破ったシャルロットは、戰旗の冱銀と耀ける棒頭を向けるや服従の鎖を断ち切った!!
「仇敵たる吸血鬼の威を借りてなお、人の救済を嘯くな!」
『ッッその善悪無(さがな)口、塞いで呉れる!!』
 再びオーブが掲げられるが、降り懸る理不尽は何度でも抗おう。何度でも。
 玲瓏なる金糸の髪は一陣の風に翻って、
「人が歩む未来は、人の手で決めなければいけないんです!!」
『――ッッ!!!』
 巨邪の視界いっぱいに、美し銀の槍鋩を届けた。

 ――時に。
 シャルロットが戰旗を掲げて敵の目を惹き付ける中、巨邪に操られる『神授のオーブ』を注視していたマギアは、不信者達に降り懸る森羅万象に暴虐の牙を視た。
『信じる者は赦される。其は信じぬ者を赦さぬという事』
「ぐ、っあ……!!」
「ぅっ、く……!!」
 眼に見えぬ重圧が躯を曲げ、蹲わせんとする。
 仲間が次々に膝を折る中、マギアの繊手も血の泥濘に汚れるが、彼女は其を拒むように『封呪包帯』を千切った。
「……信じる事自体は、否定しません。しかし、その在り方は、決して――」
 信じる者の心を虐使し、不信者に無惨を成すは「信仰」に非ず。
 ヒーローに救われ、己もまたヒーローたらんとするマギアは、信じる心が齎す力は純粋で善良であるべきと――封縛を解いて訣別を示した。
「その道行き、ヒーローとして否定させて頂きます!」
 code=MAG:1Aの封印を解放!
 発動するは、叡智示す道より記されし断罪術式【code=G】(コード・ギルティ)!
「ッ、ッッ……」
 須臾、儚き花車に途轍もない激痛が雷霆と疾走る。
 意識を奪う激烈な痛みに柳眉はきつく顰められるが、マギアはその右眼に巨邪が積んだ罪を聢と具現化させよう。
 そして解き放たれた右腕は、敵が「甘言を以て突き落とした信徒の数だけ」強化され、暴走寸前の強大な力を全身に漲らせていく。強く、靭く、剛く――!!
 ムガヴィーがオーブの力を振るえば振るう程、断罪術式は賦活しよう。
「神の真理が願いを叶える? ……なるほど、更に……罪過を重ねるのですね……!」
 信者を増やした力も奇跡も、骸の海を潜って得た異能で。
 より上位の吸血鬼の力を借りただけなのに――!!
「その、宝珠に……神の奇跡など……働いていないのです……っ!!」
 狂える程の激痛を、歯を喰い縛って耐える。
 全身を蝕む激痛を、ダンッと靴底に踏みつける。
 そのまま爪先を彈き、血濡れた大地を矢彈の如く疾走したマギアは、鋼鉄結晶に念じて地を爆ぜさせると、突如として吹き上がる砂埃を目晦ましに急接近した!
『ッッ、な――!!』
「まずは牙を削ぎます!!」
 極限まで励起した力が、少女の肉体を衝き動かす。
 今こそ懺悔を――!!
 地から天へと振り抜かれた右腕が、目下、偽りのオーブに襲い掛かった。

 ――扨て。
 多くの猟兵が不可視の脅威に足止められる中、ニールは押し付けられる力には抗わず、頑健の躯を横仆える事にした。
(「平伏させようとしてくるなら、いっそのこと……そのまま武器も置いて斃れるよ」)
 先に狂信者を屠った戰斧を手放し、膝折った躯を漸う泥濘に沈める。
 向こうが望んだ事だと、ニールはムガヴィーの言に耳を傾けよう。
『愛し仔らよ、神を前に頭首(こうべ)を垂れよ。真理を前に領伏(ひれふ)せよ!』
 恭順を示すか――否。
 ニールは無銘の黒騎士の鎧の隙間からこっそり抜け出し、液体状の体を周囲の血溜りと一体化させる。
 擬態した上に、狂信者の大量の骸がある裡は余程見つからぬだろう。
(「敵は多分、はいつくばってるぼく……の鎧を見にくるはず」)
 より鋭く感応する五感を以て、敵の挙動を洞察する。
 特に音は振動として液体の躰によく伝わるし、敵の惡意も邪氣も生々しかろう。
(「……あの中に入ってないとやっぱり怖いや」)
 精密な変形は不得意だと自覚がある。
 人型への変化が苦手で、常は鎧の中から殆ど出ないニールにとって、鎧は「安心毛布」となっていた。
 ――それでも。
(「それでも、もう……人が死ぬのはたくさんだ」)
 この世界には沢山の悲劇があった。
 そして、今も多くの血が流れている。
 ただただ絶望しかなかった常闇の世界に、漸く光が芽生えたと言うなら――、
(「そのためなら、ぼくは……どんなことだって頑張れる!」)
 不定形な質量の中に、慥かに在る勇気と決意がニールの稟性を研ぎ澄ます。
『……ほう。黒騎士が堕ちたか。骸の海を潜りて我等の神に仕えるが佳い』
 くつくつと嗤笑うムガヴィー。
 巨邪が血腥い戰場を誇らしげに闊歩する跫音で、醜聲で、邪氣で位置を把握した彼は、辺境伯の背後に回り込み、首の後ろを狙って触腕を伸ばした。
「ぼくは、ぼくにしかできないことが、あるから――!」
 慥か「母」は「旧き水の眷属」の力だと言っていたか。己は体内で毒を生成出来る。
 強い腐食性を持つ毒液を分泌させた【黒い手】(ブラックハンド)が、背中を這い上り、襟を融かす。
 紋章は破壊せぬよう加減して触腕を伸ばしたニールは、
「つかまえた!!」
『…………ッッ!!』
 ――竟に。
 項窩を掴み、毒に灼いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ピオニー・アルムガルト
追い詰められてると思ったら、猟兵を尖兵にしようなんて大胆な考えで前向きじゃない!だけどそんなマッチポンプな作戦で大丈夫なのかしら?私達、猟兵はそんな簡単には堕とせないわよ!
首の後ろの紋章を狙えば良いのね!武器のヒッツェシュライアーにUCの魔法の紐を付けて鎖鎌の様に扱えば狙い易いかしら。敵を魔法の紐で引き付けてもよし!斧をぶん回して【地形の利用】で斧の軌道に変化をつけて狙うもよし!
永久とかなんか面倒なのでノーサンキュ!皆一生懸命に日々を過ごしている所に超迷惑な神の求道なんて要らないのよ!あ、紋章は大事だからちょうだい!


荒谷・ひかる
……わたしたちを殺して、オブリビオンにするつもりですか。
お断りです。わたしはここで死ぬ気はありませんし、『私』を再び悪鬼羅刹にするつもりもありません。
幻影の神への信仰を抱いたまま、一人で滅びなさい。

攻撃が『雷』の形態を取るのであれば恐れる事はありません
右手に【雷の精霊さん】を宿し、指先を天へと向け敢えて雷を受けます
右手に宿る雷の精霊さんが受け止めて食べてくれるので、受ければ受ける程精霊さんの力が増していきます
十分に溜まったならば指先を預言者へと振り下ろし、審判の雷撃を放ちましょう

お前を斃し、邪教に翻弄されし憐れな信徒を救いましょう
そして此度の審判……裁きを行うのは、このわたしです
(環境に適応)


カイム・クローバー
宗教の勧誘ならお断りだ。言ったハズだぜ。俺には信仰心なんてモンはねぇよ。それどころか、お前らが崇めてる『神サマ』ってのをぶちのめしてやりたいと思ってるぐらいだ。

魔剣を顕現し、爺さんに向けて。
信者ってのは、まだ居るのかい?連れの信者は一足先に神サマに会いに行ったようだが。【挑発】を入れながら、神授のオーブを確認するぜ。…あれがあの爺さんのお気に入りの品ってわけだ。
俺の狙いはオーブの破壊。魔剣を持って紫雷の【属性攻撃】で斬撃を見舞う。身体能力も紋章とやらで強化されてるなら当たらねぇだろうが…【フェイント】で魔剣を手放し、【早業】で腰から銃を抜いて。
至近距離でUC。Show Timeと洒落込もうぜ?



 此度「辺境伯の紋章」は預言者ムガヴィーの項窩に標されている。
 其は辺境進出を認められた証であり、超常の異能を強化する増幅器であり、より上位の吸血鬼の存在を辿る秘鑰として回収せねばならぬものだ。
「首の後ろの紋章を狙えば良いのよね!」
 ピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)が爛々とした金瞳を射る。
 幅広の翼襟に隠された紋章を鹵掠する事は、彼奴の首級を獲る事と同義なのだが、其が中々に難しいとは彼女の花顔に示されよう。
「扨て、どうやって間合いを詰めようかしら」
 凄艶がじいっと敵との距離を測る中、編髪(おさげ)を揺らしてぱたぱたと駆けてきた荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)が、雷雲に覆われ始めた戰場を見渡す。
「周囲一帯に全体攻撃を仕掛ける相手に近付くのは至難の業……」
「ああ、それに『神授のオーブ』ってヤツも厄介だな」
 首肯を添えるはカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。
 建物の屋根を伝って地に降り立った彼は、数々の奇跡を起こして信者を獲得してきたという宝珠に戒心を鋭利くする。
 蓋しこの三者は、手強さを感じたところにこそ攻略を見出す戰巧者にて、
「戰場全体に降り落ちる雷は任せて下さい」
「それじゃ俺はあのオーブを受け持とう。爺さんのお気に入りの品みたいだからな」
 ひかるとカイムがそう言えば、ピオニーが莞爾と微笑を返す。
「そうね、皆で力を合わせましょ!」
 其々の得手を組み合わせ、敵の弱点を暴き、衝く。
 然れば必ず紋章に手が届こうと、殺伐たる風が吹き荒ぶ中で凛然を交した三人は、颯爽と爪先を彈いた。

  †

『審判の刻ぞ来たれり。我等が神を信じぬ者は裁きの雷に打たれるが佳い!』
 ムガヴィーが言う通り、今や戰場には不信者を探して雷鎚が閃々と疾走っている。
 雷雲に覆われた天と血濡れた大地を繋ぐ無数の霹靂は宛ら牢檻の如く猟兵を囲い込み、精鋭の神速の機動を牽制していた。
 この雷をどうにかしなくてはと歩み出たのがひかる。
 雪白の花顔を閃雷に白ませながら、毅然と首魁に相対した少女は、凛乎と引き結ぶ櫻脣を開いた。
「……わたしたちを殺して、オブリビオンにするつもりですか」
『全き然り。躯を灼かれた後は骸の海を潜り、我等の神に仕えよ!』
「お断りです」
 間髪容れず、即答。
 美し佳聲に嚴然と訣別を示したひかるは、巨邪が眉を蹴立てるより早く言を継いで、
「ここで死ぬ気はありませんし、『私』を再び悪鬼羅刹にするつもりもありません」
 漸く魂の欠片を迎える事が出来たのだ。
 前世の自分を吸収して一つの因果に決着をつけたひかるは、敵を殺す覚悟も決めた。
 『わたし』と『私』をひとつにした少女は、聢と邪の邪たる根源を射て、
「幻影の神への信仰を抱いたまま、一人で滅びなさい」
『な、にを……!!』
 愈々瞋恚を顕すムガヴィーの目の前で、右腕を天に掲げる。
 曇雲を指した繊麗の指先が玲瓏と燿うたのは幻覚でなく、周囲で荒ぶる雷に触発された【雷の精霊さん】(サンダー・エレメンタル)がメラメラと対抗心を漲らせたのだとは、次の瞬間で判然ろう。
「恐れる事はありません。雷の精霊さんが食べてくれますから――!!」
『な、ンだと……!! !?』
 食べる。
 正にその表現こそ正しかったろう。
 右手に宿った雷の精霊は、戰場のあちこちで閃く稲妻を誘雷して集めると、その光熱を吸収して威を増し、繊指を突き立てた少女を大きな光の柱の如くする。
 そして烈々と紫電を漲らせた光の巨柱は、ひかるを神々しく白ませると、彼女が指先を振り下ろす瞬間を鮮美に際立たせた。
「お前を斃し、邪教に翻弄されし憐れな信徒を救いましょう」
『くっ、年端もいかぬ小娘が生意気な口を……!!』
「此度の審判……裁きを行うのは、このわたしです」
『なッ、にッッ――!?』
 並外れた適応力、其を応用した口吻も妙々。
 繊指が眞直ぐ巨邪を差し示すと同時、極限まで励起した雷の精霊が至大のエネルギーを解き放つ――其は審判の雷撃、ライトニング・バスター!!
『ぉぉおおおおををを嗚乎嗚乎っっっ!!!』
 どっっっっかーーーん!! と、脅威の命中率で霹靂が叫喚ぶ。
 眼を白黒させるなり、禿頭の中身たる頭蓋骨まで透かしたムガヴィーは、凄まじい激痛に躯を反らせた。

『っ、っっ……小癪な……我等の神に対する冒涜は赦さぬ……!!』
 崩れそうになる膝を叩き、身を起こす。
 嚇怒を露わにしたムガヴィーはここに『神授のオーブ』を高く掲げ、ぶわりと黒き邪氣を迸発(ほとばし)らせた。
『神に楯突く者達よ、真理の前に俯伏(ひれふ)すべし!!』
 地に蹲い、恭順を示せ――!!
 刻下、不可視の脅威が躯に圧し掛かるが、カイムは重圧が迫る程靨笑(えみ)を鋭く、両脚を踏み締めて立ち続けた。
「宗教の勧誘ならお断りだ」
『なに……ッ何故、貴様は屈さぬ……!!』
 不信者ほど縛される服従の鎖を断つは黒銀の炎。
 黄昏を連れる『神殺しの魔剣』は、血溜りに屹立して主人を支え、抜いては尖鋭の鋩を巨邪に突き付け、滅びの炎を烈々とさせた。
「言ったハズだぜ。俺には信仰心なんてモンはねぇよ。それどころか、爺さんが崇めてる『神サマ』ってのをぶちのめしてやりたいと思ってるぐらいだ」
『じ、爺さん……っっ、なんと不遜な……!!』
 ムガヴィーが怒るほど彼は嗤笑おう。
 カイムは何の有難味も感じぬ風に、オーブに映り込むものを窺わんとして、
「信者ってのは、まだ居るのかい?」
『神の子は尽きぬ。絶望を視る者全てが我等が神の信者となるのだ……!!』
「へぇ、連れは一足先に神サマに会いに行ったようだがな」
 黙れッ、と遮ろうとした瞬間だった。
 カイムは婀娜な微咲(えみ)を湛えた儘、閃々たる紫雷を纏った魔劔を振り下ろす!
『――ッッ、!!』
 刹那、ムガヴィーの躯を斬撃から逸らしたのは「紋章」だったか判明らない。
 身体能力を飛躍した巨邪は、燦爛と帯を引く劔筋を辛くも遁れる。
 ――だが然し、この瞬間だった。
「命中らねぇだろうと思った!」
『ッ!?』
 須臾、ニッと口角を持ち上げたカイムが魔劔を手放したのは全く想定外。
 先の一撃をギリギリで躱した躰は、次いでダブルホルスターから引き抜かれる二挺――破壊力と速射力を備える双頭の魔犬の牙は遁れられない。
 空気が張り詰めるほどカイムは怜悧に冷靜に、接吻を置くように銃口を突き付け、
「Show Timeと洒落込もうぜ?」
 ――と。
 艶帯びたハイ・バリトンが砲音に掻き乱れる。
 オルトロスが哮るは【紫雷の銃弾】(エクレール・バレット)――至近距離で放たれた銀の銃彈は紫雷を纏って燦然と、美し軌道に霹靂を連れて飛び込み、『神授のオーブ』を貫通した!!
「救世主ごっこは仕舞いだ、爺さん」
『なん、と……奇跡のオーブが……ッッ!!』
「惡い玩具は取り上げておかねぇとな」
 ムガヴィーが驚愕の光景に戦慄く正面、麗人は塊麗の微笑に宥めて遣った。

「よしっ! 雷も止んだし、『神授のオーブ』も敗れたようね!」
 ぐぐっと握った拳を突き出し、仲間の大奮闘に歓喜を示すピオニー。
 後は自分の仕事だと、腕捲りのポーズをして見せた彼女は、『ヒッツェシュライアー』――太陽の加護を受けた者に授けられる両手斧を握り、ムガヴィーの前に立つ。
「あなたが言う『宣教の道行き』もここまでよ!」
 巨邪は蹌踉(よろ)めきながらも佳人を睨んで、
『ッッ、ッ……貴様も抗うか……その力こそ神に求められているというのに……!!』
 超常の異能こそ神の真理を広められる、と魔瞳は醜く穢く歪む。
 蓋し睨まれた處で怯むピオニーではなかろう。
 彼女はピンと立てた狼耳を横に、つまり不服従を示して言った。
「追い詰められて尚も猟兵を取り込もうなんて、凄く前向きだけど、そんなマッチポンプな作戰で大丈夫かしら? 私達猟兵はそんな簡単には堕とせないわよ!」
 其がどんな困難な事か、今こそ証明しよう。
 唱うは【フローズヴィトニル・グレイプニール】、此度は其の応用の業――。
 ピオニーは視る者に根源的な生命力を感じさせる「始原の炎」を紡ぐと、左右の繊手に握る斧に結び付けて鎖鎌のようにし、ブンブンと振り回し始めた。
 旋回するほど炎は赫々と燿い、折に紅の花弁を散らしながら風を裂く。
『愚かな……神の愛し仔となれば、永久に長らえるものを……!!』
「永久とかなんか面倒なのでノーサンキュ!」
 明るく軽快にNOを突き付けるのが小気味佳い。
 ピオニーは頭首(かぶり)を振って断ると、片方の斧を瓢と投擲し、強く靭やかな軌跡を描いた頃合いに變化をつける。
 主人に呼ばれた斧刃は、ムガヴィーの背後に回るや見事に項窩を強襲した!!
「みんな一生懸命に日々を過ごしている所に超迷惑な神の求道なんて要らないのよ!」
『ぬっ、が……っっ!!』
 辺境伯の証、強靭の源を攻められて前踣(まえのめ)りに仆れるムガヴィー。
 血濡れた大地に禿頭を埋めゆく邪は、ピオニーの聲が届いたろうか――、
「あ、紋章は大事だからちょうだい!」
 否、既に血の海に沈んだ耳には何も聽こえなかったろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…偽りの救済を掲げて人々を破滅へと導くその狂信

…仰ぐ神は違えども、お前のような輩の事は良く知っているわ

…故に容赦はしない。無慈悲に残酷に、
お前の存在をこの世界から抹消してあげる

真の姿に変化してUCを発動し【魔人降臨】を九重発動
全能力を限界突破して強化し、敵の雷属性攻撃を全身を覆うオーラで防御
幼獣は第六感を頼りに召喚の瞬間を見切り、体内で生命力を吸収し尽す

…フフッ、どうしたの?私を平伏させるんじゃなかったの?

それとも、私に贄を捧げたかったのかしら?

残像すら残さない早業で敵の懐に切り込み、
首めがけて呪詛を纏う大鎌を怪力任せになぎ払う

…他に芸が無いなら終わりにしましょうか
攻撃とは、こうするものよ?



 常闇を渡る者。絶望の中を往く者。
 名をリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 紫苑の花色を広げる麗瞳には、多くの流血と悲劇が映されてきたに違いない。
 櫻脣は開く。
「……偽りの救済を掲げて人々を破滅へと導くその狂信。……仰ぐ神は違えども、お前のような輩の事は良く知っているわ」
 血魔の世では珍しくない邪なれば、殲滅(ほろぼ)し方もよく知っている。
 預言者ムガヴィーを前に鏖殺の氣を迸発(ほとばし)らせて屹立した可憐は、歩を進めるうち邪を映す紫瞳を紅く赫く――柘榴の如く輝かせる。
『ぬっ……小娘、貴様は――っ』
 その深い血色に吸血鬼の影を視たのは、彼等より「紋章」を賜ったならでは。
 ムガヴィーが言葉を呑む中、真の姿へと變容を遂げたリーヴァルディは、妖艶な微笑を萌した花脣より訣別を告げた。
「……容赦はしない。無慈悲に残酷に、お前の存在をこの世界から抹消してあげる」
 己が後背に巨大な血色の光輪を顕現(あらわ)す。
 光輪は神々しい輝きを放ち、【代行者の羈束・魔人降臨】(レムナント・デウスエクス)――神域に至る力を降ろして能力を飛躍的に増強し、其を九重、発動した!!
「……限定解放。代行者の羈束、最大展開開始。起動せよ、血の光輪……!」
 其は“名も無き神”の力を最大限に振るう為の形態。
 唯だの契約者では無い“神の器”の証。
 圧縮した時間(とき)の中で全能力を励起したリーヴァルディは、己が限界を突破し、間もなくその花車を燦然たる霹靂に包む。
 蓋しムガヴィーも喫驚してばかりでは居られまい。
『ッッ異端者め、如何なる神を宿したか知らんが……その不信心、喰らってやる!』
 巨邪が断罪の指を差し向けるや、神の幼獣が体内で生まれんとするが、【限定解放・血の光輪】(リミテッド・ブラッドヘイロゥ)で感応も神域に達したリーヴァルディなれば、孵化する瞬間に其を体内で吸収し尽す。
 故に神の幼獣は、彼女の生命力の糧にしか成らず――更に精強を増したリーヴァルディは婀娜に妖艶に、小気味佳く語尾を持ち上げた。
「……フフッ、どうしたの? 私を平伏させるんじゃなかったの?」
『ぬっ、ぐぐ……』
「それとも、私に贄を捧げたかったのかしら?」
『ッッ、年端も行かぬ小娘が――』
 反駁を萌した瞬間だった。
 残像すら置かぬ神速の機動で敵懐へと侵襲したリーヴァルディは、大いなる呪詛を纏う大鎌を振り抜き、その襟首に秘された「紋章」を摘みに掛かる。
「……他に芸が無いなら終わりにしましょうか」
『なっん――……!!』
 攻撃とは、こうするものよ? ――と。
 薄く開いた花脣が、妖しく冷ややかに――嗤笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
アドリブ共闘OK

辺境伯よ…
貴様の信仰に付き合うつもりはないと言ったはずだが…何も言うまい…
貴様を屠り貴様が信じる神の御許に送ってやろう…

仮面を被り【処刑執行】で真の姿の[封印をとき]立ち向かおう
鎖の鞭を振るい[ロープワークの捕縛]で敵の首に巻き付けて
同時に手に持つオーブを[武器落とし]で叩き落そう

隠された紋章とやらを見せてもらおうか…じっとしていろ…!

首に巻き付けた鎖を[怪力]の限り引っ張り絞め上げ
敵の首を[部位破壊]で圧し折り半回転させて
首の後ろに隠された紋章を露わにさせてやろう…!

辺境伯の紋章…忌わしき闇の印…
あの印を与えた者が存在する…
この世界の…暗い闇の奥底に……!


金原・子夜乃
子夜乃は弱い
弱いけど、あの村のひとの味方をするって決めたんだ


……あなたはかみさま、見たことがあるの?
実はちょっと、見てみたいとは思ってるんだ
見たこともないもの、信じたりって子夜乃は出来ないから
ねえ、かみさまってどんなひと?
どんな顔で、どんな声で、どんなご趣味のひとなんだ?
あなたの手、握ったりしてくれる?

行こう、あおばさん
みんなの怪我を治すんだ
あおばさんの塗り薬はよく効くから、ちょっと沁みるけど我慢してくれ
邪魔にならないように【ダッシュ】【野生の勘】で場所取りしつつ、前線から付かず離れずの位置をキープだ

痛いのは悲しいことだから
怪我、してほしくないけど…
するべきことをするんだ
痛いのなんて怖くないぞ



 不可視の脅威が躰に圧し掛かり、己の意に反して膝が折れる。
 そこに碧落を覆い尽した雷雲が、不信者を灼かんと万雷を降り注ぐ。
「ぐっ、……っっ」
「痛――ッッ!!」
 戰場全体に及ぶ範囲攻撃に多くの猟兵が身を屈める中、金原・子夜乃(孵る・f06623)と仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)は何故だろう、少し安堵していた。
「……村のひとを避難させておいて良かった」
「ああ、これは常人が受けるものではない……」
 血に泥濘む大地を踏み締め、立つ。
 子夜乃は繊麗の躯を蝕む激痛に柳眉を顰めながら、この凄惨を味わうのが彼等でなくて良かったと、端整の脣に淡く咲みを挿し。傍らのアンナは劔鋩を突き立てて屹立しつつ、これらの業を「神の奇跡」と信じる者は慥かに居ようと、ムガヴィーが多くの信者を獲得してきた道を推察する。
 蓋し二人は立ち続けて反抗(あらが)うのみに非ず。
 この脚は何処までも駆ける為にある、と靴底に激痛を踏み締めた子夜乃は力強く爪先を彈いて、
「子夜乃は弱い。――弱いけど、あの村のひとの味方をするって決めたんだ」
 決めたからには、やる。
 斯くして翡翠の髪状(かんざし)が風を帯びて往けば、少女を射干玉の双眸に見守ったアンナもまた地より引き抜いた劔を一閃――服従の鎖を断ち、慥かな一歩を踏み出す。
 櫻脣を滑る言は嚴然として、
「辺境伯よ……貴様の信仰に付き合うつもりはないと言った筈だが……何も言うまい……貴様を屠り、貴様が信じる神の御許に送ってやろう……」
 必ず罰する。必ず処する。
 処刑人の仮面の下、炎獄の執行人が内に秘める炎焔を迸発(ほとばし)らせた。

  †

『さぁ、愛し仔らよ! 神の御前に平伏し、その真理に触れるが佳い!』
 不信者よ目を開けと、戰場を雷鎚の牢檻の如くして語るムガヴィー。
 無数の霹靂が天地を結ぶ惨憺の中を疾った子夜乃は、此処にすこうし首を傾げて、
「……あなたはかみさま、見たことがあるの?」
『――なにィ?』
 巨邪が眉を吊り上げて少女を視る。
 然れば知りたがりの少女は何度も語尾を持ち上げて問おう。
「ねえ、かみさまってどんなひと? ……どんな顔で、どんな声で、どんなご趣味のひとなんだ? あなたの手、握ったりしてくれる?」
 実はちょっと、見てみたいとは思っている。
 見たこともないものを信じたりは出来ない子夜乃は、ルース(裸石)の如く無垢に煌く瞳を注ぎ、その眞直ぐな視線に預言者としての真贋を問われたムガヴィーは、一瞬、息を呑んだ。
『――ッッ、年端も行かぬ小娘が不躾に神に覗く事はならぬ!!』
 揺らいだか。
 揺らいだろう。
 電光雷轟が止んだのは寸毫にも満たぬ時間であったが、子夜乃はこの瞬間に【末鎌鼬召喚】(コール・ケセド)――幽深の湖の如き緑の眸を持つ鼬の名を喚んだ。
「行こう、あおばさん。みんなの怪我を治すんだ」
 心配性のあおばさんは、どんな傷も放ってはおけない。
 猟兵の創痍にヒクリと首を擡げた鼬が間もなく疾れば、子夜乃はその尻尾を追い掛け、看々(みるみる)うちに裂傷が癒えていくのを見守った。
「あおばさんの塗り薬はよく効くから、ちょっと沁みるけど我慢してくれ」
 仲間の機動を阻害せぬよう立ち位置には十分気を付けて。
 医術の心得のある鼬の秘薬は、忽ち傷を治して猟兵を奮起させ、次の一手を援けた。
『ッッ小癪な……!!』
「、っ」
 嚇怒したムガヴィーが再び雷鎚を落とせば、子夜乃と鼬は仲間と別れて散る。
 或いは彼等はまた痛撃に打たれ、再び血を流すかもしれない。
 この時、佳聲はそっと花脣を滑って、
「痛いのは悲しいことだから。怪我、してほしくないけど……」
 するべきことをするんだ。
 子夜乃は、子夜乃ができることを――ひたすらに。
 血煙と砂埃に荒ぶ風に手を翳した可憐は、足に粘着く血糊を振り払うよう駆け出し、
「痛いのなんて怖くないぞ」
 大丈夫、怖くない――と。
 自らに言い聞かせるように疾り続けた。

「……有難う、助かる」
 己の創痍を癒して離れた「あおばさん」なる鼬に、そう感謝を置いて別れたアンナは、この手で必ずや敵を討ち殲滅(ほろぼ)さんと誓いを立てる。
「判決は……処刑! 処刑だ!! 速やかに執り行う!!!」
 其は処刑人としての本懐、【処刑執行】(エンゴクノシッコウニン)――。
 胸に宿る正義が喊ぶほど怒りの炎は烈々と、アンナの心を焼き尽くす。
 一歩踏み出る毎に地獄の炎を迸らせた彼女は、鏖殺の波動と共に真の姿を解き放つと、敵前に立ち塞(はだ)かるや手に握り込めた『鎖の鞭』を大きく振り被った!
「先ずは偽りの奇跡を齎して人を惑わすオーブからだ」
『な、にを……む愚ゥッ!!』
 靭やかに旋回した棘付きの鐵球が風を切り、ムガヴィーの首に巻き付く。
 巨邪は咄嗟に左腕を噛ませて絞首を遁れたが、「紋章」が――寄生虫型オブリビオンが宿主を守ったのは其が限界で、間もなく飛び込んだアンナを後退ける事は叶わない。
 赫く耀ける凄艶は宛ら火球の如く懐に侵襲し、
「叩き落す――!!」
『ッ、ッッ!!』
 地獄の炎を蹴立てる蹴撃が『神授のオーブ』を捉え、血溜りに轉がす。
 これに瞠目したムガヴィーがオーブを瞳に追うより先、回し蹴りで背襲したアンナは、ギリッと鎖鞭を引っ張りながら佳聲を絞った。
「襟に隠した紋章とやらを見せてもらおうか……じっとしていろ……!」
『ッッ、なんという膂力……女風情が、魔人の如き怪力を……!!』
「ならば魔人が暴いてやる……!」
 巻き込んだ左手首ごと縊り、締め上げる。
『ッ……ッッ、ッ……――!!』
 奇しくも我が手で頸動脈を塞ぐことになったムガヴィーが幾許を経て意識を手放すと、ぐるり半回転させて巨邪の項窩を暴いたアンナは、そこに刻まれたものに瞠目した。
「これが、辺境伯の紋章……忌わしき闇の印……」
 其は預言者ムガヴィーに辺境遠征を認めた証であり、彼の強靭の源。
 一介の預言者を辺境伯と成らしめた契約の証を確かめたアンナは、心火を燈して紋章を睨め、
「この印を与えた者が存在する……血魔の世界の……暗い闇の奥底に……!」
 必ず探し出す。必ず辿り着く。
 多くの人を絶望に墜とした紋章が、いずれ所有者たる吸血鬼の下へ嚮導(みちび)き、彼奴を血に沈めるだろうと――その手に聢と掴んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
矢来(f14904)と


根本的に信頼がない……
そうするつもりさ、大丈夫だよ
それに殴ってすぐ壊れるほど、敵も柔じゃあるまいさ

壊鍵、『牢殺式』
起動

不信心ものっていうのは、神様を信じていないものか、お前の予言を信じていないものという意味なのか
どちらにも当てはまっているおれには覿面に落ちそうだね
格闘戦に持ち込むために距離を詰めるけど、その過程で喰らう雷は全て牢殺式により魔力変換
貫通するダメージもあろうが、その程度では止まってやらない
矢来の援護もあることだしね

注意を引き付ける大振りで、溜めた魔力を用いた『衝撃』を宿した拳でのラッシュをかける
当たるならそれもよし。当たらないなら、爾後は矢来に任せるだけさ


矢来・夕立
名無しさん/f00067

引き続き名無しさんが先行、オレが後詰めです。
紋章は首の裏。殴っていいのは首の付け根より下ですからね。いいですね。

オレは様子見をしつつ待機です。
影になる岩も沢山降ってきたことですから。
コレが神罰ってヤツでしょうか。主に信者を殺しましたが。
そういや雷も降ってきましたね。コレも神罰でしょうか。
そしたらコイツらにもよく当たります。
【禍喰鳥】。オレ準拠で罰当たりです。
これで名無しさんへ向くものをいくらか軽減できる。
雷の落ち方でオレの存在を悟られる心配もなくなる。
作ってもらった隙は逃しません。
抜刀。岩なり死体なり、一番見えにくい影から致命傷を入れる。
…斬るべきとこが残ってれば。



 血煙と砂塵、それに饐えた死臭を混ぜた風が吹き荒ぶ。
 殺伐の黒風に煽られる儘、搖れる前髪の隙間から緋の烱眼を暴いた矢来・夕立(影・f14904)は、淡く色付いた脣から色無き聲を滑らせた。
「引き続き名無しさんが先行、オレが後詰めです」
 傍らで視線を揃えるは壥・灰色(ゴーストノート・f00067)。
 薙ぎ払った狂邪の血に白皙を朱く染めた彼は、目下、粘着く血糊を粗雑(ぞんざい)に手の甲に拭っている。
「――紋章は首の裏。殴っていいのは首の付け根より下ですからね。いいですね」
 首魁に注いでいた眼光(まなざし)をついと逸らし、流眄を置く。
 然れば目尻に圧を受け取った灰色は小さく嘆声を溢して、
「根本的に信頼がない……」
 随分と念を押されたものだと、くしゃり、青磁紛いの灰色(グレー)の髪を掻く。
 そのまま硬質の指を襟足に滑らせた彼は、一度旋毛を見せた頭首(かぶり)を再び持ち上げると、是を示す様に言った。
「――そうするつもりさ、大丈夫だよ」
 夕立ほど精緻にはいかないが、首から下の方が的は大きい。
 赤黒く穢れた指に標的の胴体を差せば、前髪の奥に隠れた麗瞳は烱々と冱え、
「それに殴ってすぐ壊れるほど、敵も柔じゃあるまいさ」
 何せ寄生虫型オブリビオンが奴の身体と異能を増強している。
 見た目以上に持ち堪えて呉れるだろうとは、此度の獲物を揶揄ったか持ち上げたか。
 とまれ灰色は、辺境伯に視線を結ぶや血に泥濘んだ大地を蹴った。

  †

『終末の日、審判の刻ぞ來れり――!』
 不信者よ目を開けと、一帯に雷鎚を降り注ぐ預言者ムガヴィー。
 雷轟を喊ぶ霹靂が天地を結ぶ――宛ら牢檻の如き戰場を疾駆した灰色は、眼路の間際を過ぎる焦熱に皮肉を溢した。
「不信心ものっていうのは、神様を信じていないものか、お前の予言を信じていないものという意味なのか……どちらにも当てはまっているおれには覿面に落ちそうだね」
 神も、預言も、信仰も。
 畢竟、何も信じていないのだ。
 ムガヴィーが信奉する異端の神には余程の放蕩無頼に映ろうかと駆けた灰色は、天蓋を覆う雷雲が稲光を疾らせた瞬間、魔術回路「壊鍵」――ギガースを励起させた。
「壊鍵、『牢殺式』――起動」
 瞳は眞直ぐ巨邪を射た儘、長槍と降る蒼き閃雷を伸ばした掌面(てのひら)で攫む。
『な、にィ――!?』
 全身を魔力障壁で覆った彼は、邪の雷槍が如何なる部位を狙おうとも把捉出来る上に、その撃力を己が魔力と變換し、総量に応じた強靭を得る。
 我が掌裡で烈々と喊ぶエネルギーを吸収した灰色は、灰髪も灰瞳も白むほどに、色無き麗貌を冷ややかに、淡然と聲を置いた。
「その程度では止まってやらない」
『ッ、ッッ……!!』
 止めたければ、もっと強いのを寄越せとは、それだけ糧か薪にするという事。
 而して夕立の援護も信じているだろう。灰色は雷鎚の怒れる中を颯然の風と抜けると、敵懐を侵略するなり『衝撃』を繰り出した。
「返そう。鹵掠(うば)ってばかりじゃ悪い」
『ぐっ……ずぁ嗚呼っ!!』
 ムガヴィーに寄生する紋章型オブリビオンが必死にダメージを拒絶むが、實のところ、当たろうが当たるまいが構わない。
 限々回避られる輿地を残す大振りな接近戰は、影を滑るもう一人を隠す為。
 灰色は蒼白く威を放つ拳を神速で衝き入れながら、己のみを映す巨邪の瞳を覗き込んで言った。
「――審判の刻ぞ來れり。その預言なら今に的中るさ」
 それだけは信じる、と。
 表情無き男の聲に、信頼の色が差したような――気がした。

「オレは様子見をしつつ待機します」
 灰色にそう言った夕立は、正に“様子見”――周囲の観察を怠らなかった。
 殺伐の風が吹き荒ぶのは、狭隘の路が障害物で大きく地形を變えたからだろうと、懸崖から落とされた石嚴群を眺めた彼は、其々の位置を把握する。
 丹花の脣を滑る科白は宛然(まるで)他人事の様に、
「随分沢山降ってきたものです。コレが神罰ってヤツでしょうか」
 蓋し殺したのは主に信者であったが。
 言外にこそ真実を付け足した夕立は、夥しい血量に泥濘んだ大地を瞥見した後、赫緋の瞳を天へ――碧落を呑み込んだ雷雲を仰いだ。
「そういや雷も降ってきましたね。コレも神罰でしょうか」
 ならばコイツもよく当たるだろう、と漆黒の繊指に取り出すは『式紙・禍喰』。
 夕立が瞳を落とした瞬間に折り紙は蝙蝠と羽搏き、「お仕事ですよ」と聲を落とせば、其々に知性を有した黒翼の群れが音を殺して雷槌の中を往く。
「――【禍喰鳥】。オレ準拠で罰当たりです」
 個々に戰闘力を持たぬ彼等は、然し様々に働いて呉れる。
 例えば此度なら、名無しさんへ向く雷撃をいくらか軽減出来るし、不信者を探るという雷が蝙蝠の数だけ墜ちたなら、自身の存在が悟られる懸念も無くなろう。
 早速、黒々とした雷雲が幾筋もの稲妻を分けて疾らせるのを見た夕立は、ここで初めて爪先を蹴った。
「作ってもらった隙は逃しません」
 導線は既に描かれている。
 後刻(あと)は其を辿るだけだと、神速の機動で岩々を擦り抜けた黒き影は、抜刀――斬魔の剣が一、『雷花』なる脇差の朱の匂を暴いた。
 此処に全き死角から確定的致命傷を與える――。
 灰色が眞正面から獲物を惹き付ける最中に後背に回り込んだ夕立は、刀の烱光を沈める瞬間、不図、薄く開いた脣から嘆声を溢した。
「……斬るべきとこが残ってればと思いましたが、成る程、仕事の出来る方です」
 紋章に全く創痍無し――。
 灰色は言を違わず「首の付け根から下だけ」を苛烈に攻めたのだと、眼鏡を隔てた紅瞳を烱々細めた夕立は、冱え冱えとした刀鋩を頸動脈に衝き入れた。
『っっ、ぉぉおおをを嗚乎嗚乎――っっ!!!』
 須臾、生温い血飛沫がどっと噴き、夕立の白皙を花染める。
 血色を濃くした美脣は靜かに言を足して、
「――いえ、信頼してましたけど」
「それは有難い」
 胴ッと斃れる骸の奥に、同じ血量を浴びた灰色と瞳を結んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
お断りします。
理不尽な恐怖を、戯れの絶望を、惨い死を、打ち払うことこそ猟兵の努め。
であるからして――
あなたの狂信と、覇道はここまでです。
その紋章を置いて去れば酷い様にはしませんが?

…まあ、聞かないでしょうね。
ですのでこちらも取るべきはひとつ。
真っ向、断ち散らします。

その技には「呼びかけ」が必要なのでしょう?
つまり呼びかけ、返答を待つ間は無力ということ。
祈りが形を成し、理不尽が顕現する前に――
わたくしの出せる最速で、素っ首薙ぎ払って魅せましょう。


力に頼るものは、より強き力に駆逐されるが必定。
あなたの祈りは神に届かない。
故、おやすみなさい――【神業真朱】。



 穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は神体たる太刀の宿神なれば、猟兵の振う力が、超常の異能が両刃の劔である事を重々に承知している。
 ――故に。
 櫻脣を滑る佳聲は嚴然と訣別を告げた。
「お断りします」
 異端の神の僕には為らぬ。万軍に代わる使徒には為らぬ。
 其は預言者ムガヴィーの崇める神が異端だからでは無い。
 骸の海を潜って「過去」に獄がれれば、不確かにも在る「未来」を手放すと――眞直ぐに射る緋の麗瞳は晶瑩玲瓏と美しい。
 突き返される答えに歯切りする巨邪と正対した神楽耶は、凛乎と言を足し、
「理不尽な恐怖を、戯れの絶望を、惨い死を、打ち払うことこそ猟兵の努め」
 視線を結びつつ、而して交わらぬ彊界を置く。
 白磁の繊指に血濡れた大地を示した麗人は、此処がデッドエンド――辺境遠征の終着と言うように双瞳に捺擦(なぞ)った。
「――あなたの狂信と、覇道はここまでです」
『な、にを……ッ、絶望の底を知らぬ者が生意気な口を……ッ』
「……その紋章を置いて去れば酷い様にはしませんが?」
『ッッ、辺境伯を賜った私が求道の道行きを止めると思うかッ!!』
 聞く耳を持たぬとは判然っていたこと。
 声を荒げるムガヴィーに嘆声を溢した佳人は、艶帯びた睫に縁取られた赫い瞳を烱々と煌かせ――射止めた。
「ならば、こちらも取るべきはひとつ。――真っ向、断ち散らします」
『ッ、ッッ……!!』
 小癪な、と舌打ちしたムガヴィーが『神授のオーブ』を掲げる。
 其は己の神に從わぬ者を不可視の脅威に押し込め、己の意に反して膝を折らせる邪術であったが、不信者を從わせるには信者に呼び掛ける必要があるとは皮肉な話。
 宝珠が絶望に沈む者達を映し出さんと光を揺らめかせた瞬間、神楽耶は『結ノ太刀』の神氣を暴き、重花丁子の燿いを混ぜた。
「その技には『呼びかけ』が必要なのでしょう? 返答を待つ間は無力である筈」
 預言者は信者なくして神の力は降ろせぬ。
 神の真理を広めるにも、聽く者なくしては不信者を平伏させられまいと指摘した彼女の読みは正しく――神楽耶は禍き祈りが形を成し、理不尽が顕現する前に「時」を寇した。
「力に頼るものは、より強き力に駆逐されるが必定」
 其は刀の本懐。
 閃くは残された業の一にして太刀の神髄――【神業真朱】。
 御神体と呼ばれた以外、何ひとつ特別を持たぬ白銀の刃は、然しその刀身に真朱を――黒みのある鈍い赤色を纏い、戰慄を覚えるほど威を増していく。
 振り抜くは刹那。
 眞一文字に放たれた斬撃は惨憺の戰場を翔け、た走り、巨邪の右肩を屠るや宝珠を持つ腕ごと天に泳がせた。
『ズッ嗚呼ッッ……なんという……ッッ』
 泣き別れた腕を惜しむより先、粉々に砕けたオーブに色を失うムガヴィー。
 虚しく宙で回った右腕が血濡れた大地に沈めば、神楽耶は穏やかに聲を置いて、
「あなたの祈りは神に届かない。故、おやすみなさい――」
 邪を祓う様な鈴音は然し聽こえまい。
 オーブの欠片に手を伸ばして仆れたムガヴィーは、血腥い泥濘に沈み、黙した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・アズロ
色々歓迎

ああ、なるほどそうかい
偉いカミサマのお言葉を預かったお前は偉いと凄いと平伏せと
勘違いしてんじゃねえぞ耄碌ジジイが!

同タイプのUCで互いの自由を食い合う
互いの能力のどちらが世界を塗りつぶすに足る物か、相手を屈服させるに足る物か
自分の憎悪と殺意に勝てると思うならやってみろ
此処があたしの世界だ

テメエの言葉は何処に在る
テメエの思いは何処に在る
カミサマ、信仰、救済、審判
全部借り物、貰い物じゃねえか!空しか詰まってねえ力は軽いんだよ!

気合、限界突破で無理やり動き、野生の勘で適応低下を補う
ダッシュし続け常に怪力、乱れ打ちですり潰しにかかる
激痛耐性で止まらずに

有難い説教ならその辺の案山子にでも垂れてろ



 偽りの奇跡を生む『神授のオーブ』は砕けた。
 其を掲げていた手掌も血の泥濘みに沈んだ。
 泣き別れた右腕を惜しむより狂った男は、血煙と砂塵の吹き荒ぶ戰場に稲妻を降らせ、猟兵を雷の牢檻に囲繞した。
『ッッ不信者よ、刮目して視よ……終末の日、審判の刻ぞ來れり――!』
 碧落を覆う雷雲が紫電を喊び、血溜りの大地を蒼白い霹靂に結ぶ。
 これぞ神の威と、次々に身を屈め膝を折る猟兵を睥睨した預言者ムガヴィーは、其処に『絆と呪縛の錆剣』の鋩を突き立てて屹立する、小さな影に瞠目した。
「ああ、成程そうかい。カミサマのお言葉を預かったお前は偉いと凄いと平伏せと」
『な、ン……貴様……!! 何故立っていられる……!!』
 小さな影は。少女は。
 ルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)は繊躯に疾る痛みを靴底に踏み躙ると、ダンッと爪先を蹴って巨劔を振り抜いた。
「勘違いしてんじゃねえぞ耄碌ジジイが!」
『ぬッ、おッッ!!』
 巨邪を睨め据えた儘、服従の鎖を断つように疾駆する。
 万雷が不信者を追って鎚を振り落すが、ルーチェは終末の惨憺を視界の端に送りつつ、駆け様に血錆の劔を高く掲げる。
「互いの能力のどちらが世界を塗りつぶすに足る物か、相手を屈服させるに足る物か――自分の憎悪と殺意に勝てると思うならやってみろ」
『っ、それは如何言う……』
「此処があたしの世界、あたし自身だ」
 巨劔の鋩が示す先、碧落を覆い尽した筈の雷雲が炎に貫徹(つらぬ)かれる。
 其はルーチェが抱える【一番良く知る風景】(ウチガワ)――復讐心と痛苦の塊である「夜」と「血」の色を塗り込められた炎は紅黒く熾え盛り、宛ら火球の如く烈々と、雷雲を裂いて降り注いだ。
「ジジイ。テメエと同じ能力で喰い合ってやるよ」
『これが、年端も行かぬ小娘の“世界”だと言うのか……ッッ』
 我が終末の景を喰い破る惨憺は、神の一切関与せぬ、少女の純然たる憎しみと復讐心と殺意の心象風景。
 夜と血の色の心で、少女は生きてきた。育ってきた。
 少女そのものと言える「世界」が、復讐を喊んで何もかもを炎に飲み込む。
 ルーチェは降り注ぐ紫電を振り払い、或いは烈火に灼きながら、血溜りに滑る大地を唯ひたすらに駆けて巨劔を振り回す。
「テメエの言葉は何処に在る。テメエの思いは何処に在る」
『ぐッ、ッッ……!!』
 誰ぞより賜った「紋章」が老体を強化し、轟然と閃く斬撃を限々で躱させるも、優れた戰闘勘と経験則、そして適応力を持ち合せたルーチェの太刀筋を避ける事は難しい。
 少女は花顔を嚇怒と瞋恚に歪めて肉迫し、
「カミサマ、信仰、救済、審判! テメエのは全部借り物、貰い物、紛い物じゃねぇか! 空しか詰まってねえ力は軽いんだよ!」
『ッ!! ッッ――!!』
 捩じ伏せる! 叩き斬る! 摺り潰す!
 限界を知らぬ復讐心は、間隙なく巨刃を疾走らせ、ムガヴィーの躯を饐えた血臭の漂う泥濘に沈めた!
『……ッッ……ッ――――』
 少女は前踣(まえのめ)りに斃れた老体の襟を掴むや、彼の死を以て活動を停止した「辺境伯の紋章」を掴み取り、眞っ赤に染まった花顔を拭う。
 闘争の最中には語気を強めた佳聲も、今は冷ややかに櫻脣を滑って、
「……有難い説教ならその辺の案山子にでも垂れてろ」
 殺伐の風の吹き抜ける靜寂に、やけに沁みた――。

  †

 斯くして幽谷の村を襲った辺境伯の遠征は、ここで進軍を途絶えた。
 預言者ムガヴィーの宣教の道行きを阻んだ猟兵らは、彼の襟に隠された「紋章」を回収し、北の避難地に遁れた村人達へ報告に向かう。
 彼等に一縷の光を――吸血鬼にも異端の神にも支配されぬ自由を伝えんと北を目指した猟兵は、誰もが酷く血濡れていたが、その背は雄渾と輝いていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月30日


挿絵イラスト