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愛を食んだその先に

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #純白のリリィ #死肉喰らい

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#辺境伯の紋章
#純白のリリィ
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●愛求む行軍
 ざああ、ざああああと、暗い暗い森の中を『何かたち』が音をたて流れていく。
 隆起した根の表面。木の幹。草の無い、枝だけの茂みだったそこ。石や土の上。森を構成する全てに被さりながら、流れる砂や波のような音をたてて行く。
 その、何かの奥に。美しい光が存在していた。
「諦めてはいけません」
 それは優しく慈愛に満ちた声だった。
「必ず、見つかります」
 それは光差すようなあたたかな声だった。
 声の主は豊かな金糸をふんわり躍らせた、聖女の如き一人の女。自分の周りをざあざあ行くものたちに向ける眼差しには、嫌悪も憎悪もない。優しく、慈しむ表情だけを浮かべ、行く先を見つめる。微笑む唇から、赤い雫が顎を伝って落ちた。
「人類砦……見つけましたら、私たちで綺麗に“愛して”差し上げましょう」
 抗う意志の程度に多少の差があるとしても、命であるならば、等しく愛そう。
 ただ、一度に全ては難しい。
「愛する順番をつけても、許していただけるでしょうか……」
 今は。貴方。
 細腕に抱くものへと女は微笑みかけ、唇を寄せていく。
 どこで拾ったのか。それとも、“見つけた”のか。人らしき形をした何かは、赤い染みを広げながら女の“口付け”を無言で受けて。ぶちり、と音がした。

●愛を食んだその先に
「依頼よ。頼まれてくれない?」
 こつっ。手にした杖で足元を突いた女――ノエル・ディセンバー(狩人・f08154)は猟兵たちに微笑を向け、『辺境伯』を知っているかと問いかけた。ダークセイヴァーで存在を知られつつある、極めて強力なオブリビオンの事だ。
「その辺境伯が一人、配下を引き連れて人類砦を探しているわ」
 辺境伯側はまだ人類砦を見つけていないが、手足となって先行している配下の規模は軍勢と称するに相応しい。遅かれ早かれ人類砦を見つけ出し、そこに生きる人々を根絶やしにするだろう。そうなる前に。
「その辺境伯を、配下諸共叩いて頂戴」
 辺境伯の名は『純白のリリィ』。『辺境伯の紋章』によって力を増しているが、予知では体のどこにあるかまでわからなかったという。
「あるとすれば露出している顔と両腕以外でしょうけど。配下の方はうぞうぞとしていてよく見えなかったわ。数は膨大。恐らくは虫ね」
 そう言ってノエルは転送先に触れる。
 場所は辺境伯が行軍している広大な森の外れ。暗い木々の先、むき出しの土壁へ溶け込むように建つ古い砦の近くとなる。それこそが狙われている人類砦――なのだが、砦と呼ぶには頼りない場所だ。
 壁には亀裂が複数。修復途中のものがあれば、これからのものも。門に亀裂は存在しないが、穴が開いていたと、一目でわかる修復痕がいくつか見られる。
 そんな様相である理由は、そこが人類砦として使われる以前は何かしらの戦闘で大打撃を被った砦であった為だ。そのまま放棄されていたそこは雨風をしのぐにはいいが、防衛には向かない。それを人々も理解しており、壁を少しでももたせる為、真新しい柱が壁とくっついて列を作っている。
「……そうね。戦闘能力のない住民の避難と、敵の軍容と進路の観測を勧めるわ。相手の事がわかれば、奇襲を仕掛け、戦力を殺げる。軍勢を何割か減らせれば、叩くのも楽になる」
 そして、『純白のリリィ』。
 元々際立つ美貌の持ち主だったが、紋章によって、今は暗闇に現われた希望そのもののような存在感を放っている。心惑わす美貌に加え、纏う白百合の香りは意志に関わらず魂の奥底にまで染み込んでくるだろう。
「一般人なら何も出来ずに愛される……食われて、お終いよ。……ああ、」
 囁き微笑んだ女は、一部から向けられた何か言いたげな視線に気付き、微笑む。
「食べるのよ。予知の中でも、どこぞの誰かを大事そうに食べていたわ」
 白百合の香りが過ぎた後、そこに生きた人間は存在出来ない。だからこそ、暗闇の世界に灯ったばかりの光が、白百合の女の腹の中へ収められる前に――。


東間
 相手は軍勢を率いるオブリビオン。ダークセイヴァーでの戦いをお届けに来ました、東間(あずま)です。

●受付期間
 個人ページ冒頭及びツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)で期間をお知らせしておりますので、お手数ですが送信前に一度ご確認をお願い致します。

●一章:冒険『辺境伯迎撃準備』
 推奨行動はオープニングにある通り。
 人類砦か、森か。どちらで行動するか、お選びください。
 一章時点で敵軍容を見る事は出来ますが、奇襲といった接触は出来ません。

●二章:集団戦『???』
 ノエルが言った通り、虫系です。それ以外の情報は二章開始時に。

●三章:ボス戦『純白のリリィ』
 相手が人間でも何でも“愛する”女性。
 紋章はリリィを倒すと活動を停止し、捕獲可能になります。

●お願い
 同行者がいる方はプレイングに【お相手の名前とID、もしくはグループ名】の明記をお願い致します。複数人参加はキャパシティの関係で【二人】まで。

 プレイング送信のタイミング=失効日がバラバラだと、納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、プレイング送信日の統一をお願い致します。
 日付を跨ぎそうな場合は、翌8:31以降の送信だと〆切が少し延びてお得。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 冒険 『辺境伯迎撃準備』

POW   :    襲撃を行うポイントに移動し、攻撃の為の準備を整える

SPD   :    進軍する辺境伯の偵察を行い、事前に可能な限り情報を得る

WIZ   :    進路上の村の村びとなど、戦場に巻き込まれそうな一般人の避難を行う

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●愛される為ではなく
「これはいる。これも。こっちは……ええい迷ったからいらねえや。置いてく」
「後で取りに戻ればいいしね。あ、この種はいるわ。食い物大事」
「ねえちょっとー! あたしの鍬どこ行ったかわかる!? ぶっ刺す用に改造した鍬!」
「それなら先が尖りすぎて危ないからって、爺さんがカバーつけてあっちに置いてた。ブラウンのチェック柄が目印」
「わかった!!」
 バタバタと駆けて行った女の横を、木の棒と糸で作ったおもちゃの剣を手にした幼子数名がキャーッとすれ違い、その後に待て待てウハハーと軽装の二人組がのたのた歩いて追いかける。彼らは、幼子たちが怖がらないようにと子守――もとい、くんれん、を買って出た大人だ。
「あの二人、ああ見えてここでは一番強いんですよ」
 案内をしてくれていた青年の目が、砦の壁に向く。
 立てかけられている梯子が二つ。近くには老婆と若者が一人ずつおり、森側を向いて微動だにしない老婆は眠っているのではなく、長年の猟で鋭い“目”を得たこの砦一番の猟師だという。
 若者も弓矢を携え、森を見つめていた。自分の目の前で彼方の獲物を一矢で仕留めた老婆に感動し、頼み込んで弟子入りしたのだとか。
「あの二人のおかげで、たまに新鮮な肉が食べられるんですよ。干し肉は仕込み中で、出来上がりが楽しみで……その前に敵が来るって知られたのは、いいことです」
 何も知らずに襲われれば、抗えずに死んだだろう。
 しかし猟兵たちが来た事で、彼らは『逃げて、生き延びる』という戦い方を選べた。
 暫くして、森を見張っていた老婆が梯子の両端を掴んでするるーっと滑り降りてくる。
「どうでした?」
「薄茶色をした霞みたいなもんがうっすら見えてきたよ。方角はあっち。かなりの数が乾いた地面の上をはしゃいで進んでるみたいだねえ。進行方向は、まだわからないよ」
 老婆曰く、軍勢はかなり横に広がっているようだが、森を埋め尽くすほどではない。
 ここからの距離を考えると避難の余裕はある。が、相手の移動速度を割り出すにはもう少し見る必要がある為、避難準備を急いでも損はない――との事。
 報告を終えた老婆はひょいひょいっと梯子を上り、再び壁の上へ。

 移動を楽にしようと要不要を選別し荷物を減らす者と、選んだ荷物を纏める者。
 幼子が怯えて泣かないよう、遊びのまま避難へ繋げようと奮闘する者。
 彼方にいる敵群に目を光らせる者。
 人々がそうやって抗う間、敵軍勢は自分たちの腹を満たすものだけを求め、森を進み続けている。滅びの瞬間まで止まらない行軍の音は、まだ、聞こえない。
 
春乃・結希
見て。『with』…ここの人たちは、凄いね
敵が来るのが分かっても、落ち着いて行動してる
猟兵が来たからとはいえ、すごく勇気と覚悟があると思う
…私たちも、負けてられないね

わ、みんな楽しそうですねっ
私も混ぜてくれませんか?
子供達の追いかけっこに参加して
捕まえたり捕まえられたりして一緒に遊びます

そうだっ、私力持ちなんですよ見てください
誰かが重そうに運んでる荷物をちょっと借りますねと持ち上げ【怪力】
あー、私、みんなのかっこいいところも見てみたいなー?

子供達にも持てるくらいの軽い荷物を運んで貰い
避難場所まで自然に誘導します
おっ、すごい力持ちですねー
じゃあ、どっちが向こうまで早く持っていけるか、競争ですっ



「見て。『with』」
 最愛の大剣へ話しかけた春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)が笑うと、淑やかだった印象に年頃の少女らしい愛らしさが浮かんだ。
 訪れた人類砦の中で見たのは、日常生活の延長線上に避難準備をのせて動き回る人々の姿。敵が来ると知った人々の行動に、混乱はない。だが、自分たち猟兵が来たからとはいえ、そう簡単に落ち着けるだろうか。人々の中に確かな勇気と覚悟を見た結希は、きゅ、と手を握り締める。
「……私たちも、負けてられないね」
 目の中に光を浮かべたそこに、きゃあっと笑い声が飛び込んだ。笑い声のもとで、子供たちが大人二人を木の棒で遠慮なくぴしぱししている。
「やあやあ!」
「どーだぁ!」
「わ、みんな楽しそうですねっ。私も混ぜてくれませんか?」
「た、助かった、援軍だ! ぐはは覚悟しろダークセイヴァー軍!」
「いや待て、ダークセイヴァー軍の戦士かもしれない!」
 二人組のアドリブに子供たちが「どっち!?」と目をキラキラさせて結希を見上げた。機体の眼差しに、ふふ、と結希は含み笑い。
「私は……ダークセイヴァー軍です!」
 子供たちの横に並ぶと小さな勇者たちから歓声が弾ける。
 はしゃぐ子供たちと一緒に追いかけっこに参加して、二人組を見事に捕まえたら今度は悪者になって一緒に追いかけられて、捕まえられて。避難に続く遊びの途中、結希は「そうだっ」と手を叩いた。
「私力持ちなんですよ見てください。えーっと……あ、ちょっと借りますね」
「え?」
 大きく、そして重そうな荷物を運んでいた男二人は次の瞬間「ええ!?」と叫んだ。悪役を演じていた二人組もだ。子供たちは頬を赤くして「わあー!」と目をキラッキラッ。大の大人でもてこずる荷物を軽々持ち上げた結希は、ふふふと笑う。
「あー、私、みんなのかっこいいところも見てみたいなー?」
 はいはいっと元気に挙がったそこへお願いした荷物は、子供たちでも持てるだろう軽いもの。小さな手でぎゅっと抱えるすごい力持ちさんたちの先頭に結希は立ち、にっこり笑った。
「じゃあ、どっちが向こうまで早く持っていけるか、競争ですっ」
 子供たちの歓声が再び弾け、小さな足音が踊るように響く。
 向かう先は、生き延びる為の通り道。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルベット・ソルスタイン
この暗い世界で希望を捨てず必死に生きようとする
そんな人々の暮らしを脅かそうとするなんて……全くもって度し難いわね
私が真の愛とは何かを教育してあげましょう

【人類砦で行動】
ああっ、この様な状況でも諦めずに助け合っている!
なんて素晴らしいのかしら!

人々の様子に感嘆しつつ、避難を手伝う
この様子なら大人は大丈夫でしょうから、子供の面倒を見る事にするわ
【属性攻撃】魔法で小さな灯や雪を作り出して子供達の興味を引き、話相手になりながら
その手を引いて避難を……そして、こちらを狙う敵は私達が必ず倒すと誓って安心させる


フリル・インレアン
ふえぇ、私にも何かお手伝いができるかと思って厨房に来てみましたが、これはある意味戦場です。
よくよく考えれば、そうですよね。
この砦にいるみなさんの分の保存食を作るのですから量もたくさんになるわけですよね。
ほんと、サイコキネシスが使えなかったら足手まといになっていましたよ。
大鍋を持ち上げたり
遠く離れたかまどの火を消したり
つまみ食いをしようとしているアヒルさんを止めたり
最後のは余計ですが大助かりです。



 夜と闇に覆われた世界であっても希望を捨てず、必死に生きようとする人々と、彼らの暮らし。それを脅かそうとする存在は、美と愛を司る女神たるベルベット・ソルスタイン(美と愛の求道者・f25837)にとって「度し難い」の一言に尽きた。
(「私が真の愛とは何かを教育してあげましょう」)
 だが、苛烈な裁きを与えるその前に。
 ベルベットは訪れた人類砦の中をゆっくりと見て――ああっ、と心を震わせる。
 人類砦を活動拠点とする彼らは『闇の救済者(ダークセイヴァー)』と名乗り、自らがこの世界の、人々の光となるかのように戦っている。その心意気は、敵が迫っているという状況でも諦めずに助け合うという魂の眩さを放っていた。
(「なんて素晴らしいのかしら!」)
 感嘆を浮かべた双眸を宝石のように輝かせれば、美しき深紅の美女に気付く人は増え、ぽかんと見惚れる視線にベルベットは親愛の微笑みを返していった。人々の様子を見ながらゆるりと視線を巡らせれば、大人たちは大丈夫そうだと判る。なら、と向かった先には、小石で地面に何かを書き込んでいる子供たちがいた。
 円。謎の記号。ぐにゃぐにゃの文字。
 成程、これは――。
「ここの『闇の救済者』には凄腕の魔術師がいるのね」
 すごうで。まじゅつし。掛けられた言葉にぱっと笑顔浮かべた子供たちは、深紅の美貌にわわ、と目をぱちぱちさせる。もじもじしながら、そうだよ、ぼくたちすごいんだと小さな指で地面をちょいちょい掻いた。
「私の魔法を見てもらっても?」
 可愛らしく照れていた子らは、一瞬で無邪気な子供へと。みたい、みせて! と弾む声へベルベットは笑いかけ、小さな灯りや雪をふんわり作り出して子供たちの頭上へと躍らせる。
 本物の魔法は子供たちにとって奇跡も同じ。林檎のように頬を赤くした子供たちは憧れで目を輝かせ、どんな魔法が使えるの、こっちの魔法陣はこういうのができるんだよと、すっかりベルベットに懐いていた。
 繋いだ小さな手は、光の少ない世界であってもあたたかい。ベルベットはその手を優しく握り返し――子供たちの親がふと浮かべた不安の色に気付くと、敵は私達が必ず倒すと、子供たちに聞こえないよう固く誓うのだった。

 その頃、人類砦の中に作られていた厨房では一人の少女が目をぐるぐるさせていた。大丈夫? と気遣う声へ、少女もといフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は「大丈夫です」と返し――頑張って深呼吸をする。
(「ふえぇ……私にも何かお手伝いができるかと思って厨房に来てみましたが、これはある意味戦場です……」)
 だが、よくよく考えれば今の厨房が慌ただしくなるのは当たり前だった。ここからの避難が短期か長期、どちらになるとしても、この砦にいる全員分の保存食が要る。作る量も仕事量も、それはもう“たっくさん”だ。
 すう、はあ。呼吸を落ち着かせたフリルは、サイコキネシスで物を扱い始めた。動き回る人々の中に混じって動くのは大変でも、これなら役に立てる、足手纏いにはならない。
 見えない妖精がいるかのように、ふわり、ひゅん、と動き始めた道具や食材たちに、人々の中から「おおっ」とどよめく声が上がった。骨に引っかかったか、下まで落とせずにいた肉切包丁が気持ちよい音を立て、まな板代わりの石板を鳴らす。
「っと……! いやあ助かったよお嬢ちゃん、ありがとう」
「い、いえ。あっ、そこの大鍋も、持ち上げますね。どこへ動かしますか?」
「それじゃあ、あそこ。三つ隣へお願いしていい?」
「はい」
 遠く離れたかまどの火も、サイコキネシスで安全に消せる。
 お役に立てました、とほっとしていたフリルだが。
「ふえぇ!? アヒルさん、つまみ食いはいけませんよ……!」
『グワワーッ!』
 手伝いに加わっていたアヒルさんが飛び上がり、つまみ食いからお手伝いへと行動を修正すれば、保存食作りのスピードは格段に上がっていく。
「最後のは余計でしたが、大助かりです」
『クワッ』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
過去に囚われたモノが、
未来を見据えるヒトに蹂躙されるなど、赦されることではないと思うよ?
柔らかい口調で嘯くも砦の人々を必ず守り抜くと決意を固める

そうだね。急拵えにはなるが
壁の修復を行っておこうか
防御の要…とまではいかなくとも少しでも踏みとどまり人々の希望になって貰わねば
土属性+破魔の力で粘土を生成
ひび割れた箇所に粘土を塗り込み、魔法で出した炎で焼いて定着させる
破魔の力も込めておいたので
弱い敵なら近づくことすら躊躇うことだろう

この作業をゼロをふたり、
もし村人に希望者がいれば手伝いを頼む
避難が優先なので無理しなくてもいいよ
それに私は泥遊びが大好きなんだ
冗談とも本気ともつかない声で言うと微笑んで



 ――過去に囚われたモノが、未来を見据えるヒトを蹂躙するなど、赦されることではないと思うよ?

 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)はやわらかな口調で嘯くも、その胸には“砦の人々を必ず守り抜く”と固く決意していた。その決意は人々が拠点として、生活の場として使う砦の壁にも向けられている。
「それじゃあ始めようか、ゼロ」
『へーへー』
 微笑みを浮かべて呼びかければ、似た顔立ちの、しかし雰囲気の違うセツナがもう一人。
 呼び出したもう一人の自分『ゼロ』と共に、セツナは人々が見物する中、土属性に破魔の力を練りこませて粘土を生成していった。出来上がった粘土をひび割れた個所に塗り込んだら、ぼ、と掌から現した魔法の炎で焼いて。そうすれば粘土はそこに定着し、脆さ儚さ漂う外観を、少しずつ力強いものへと変えていく。
 急拵えにはなるが。セツナは呟き、作業を見守っていた人々。特に、修復を担っていたというグループに目を向けた。
「破魔の力も込めておいたよ。弱い敵なら近づくことすら躊躇うことだろう」
「へええ……! 凄いな、あんた!」
「これなら、戻ってこられた時も砦は無事だな」
 戻ってこられなかったとしても、こういうやり方があると知れた事は財産になる。粘土質の土と炎。この二つは、セツナのように魔法の素養がなくとも用意は可能だからだ。
 このやり方をあそこにも使ったらどうだ。煉瓦と合わせたら砦の増築も出来るんじゃないか。避難準備のさなかだが様々なやる気を漲らせる人々の中。セツナは自分をじっと見ていた若者に気付き、どうかしたかい? と穏やかに笑いかけた。
「あの、俺も手伝いたいんだけど……」
「ありがとう。けれど、避難が優先なので無理しなくてもいいよ。荷運び中だろう?」
 何かを担っている人はそれを。手の空いている人に希望されれば、手伝いを頼む。そう言うセツナに、でも客人にさせるのは、と若者は気にしているようで。するとセツナは大丈夫と朗らかに笑い、再び粘土の生成を始めた。
「それに私は泥遊びが大好きなんだ。そうだろう、ゼロ?」
『は? 何でこっちに振るんだよ……』
 冗談とも本気ともつかない声に“もう一人”は手を動かしながらつれない声。若者はというと、きょとんとしていて。そんな若者に、セツナはにこりと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アン・カルド
人間なんて食べて美味しいんだろうか…機会があればご相伴にあずかりたい気もするが、今はそんなことを言ってる場合じゃないね。
というか僕が食べられかねない。

とりあえず人類砦に行こうかな、こっちの方が多少安全だろう。
えぇと、どこに書いてたかな…
ああここか、【ライブラの愉快話・忍者】。

…僕から君は見えないけれど、君から僕は見えている。
召喚成功だね、よろしく忍者君。
早速で悪いんだが森へ行ってもらえるかな?
敵情視察ってやつ、忍者だから得意だろうそういうの。

あ、情報伝達に狼煙や五色米いらないよ。
五感は繋がってるしそもそも暗号は分からないからね。
様子が分かれば撒菱なり置いて戻るといい、忍者らしく汚く行こう。


クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可

大量の虫に襲われるとは、出来れば想像したくない光景ですが
防衛準備と言っても、相手が虫なら柵を作った所で然程意味はなさそうですし、であれば俺は避難準備を手伝う事にしましょうか

幽霊騎士が住人を脅かさないよう、念の為砦から少し離れた所でUCを発動。幽霊騎士と古代戦車を召喚
召喚した戦車に老人・子供など足腰の弱い人や大きな荷物を積み、自分も持てる物は手でもって運搬を手伝う

他の幽霊騎士たちは主に斥候兼露払い要員
幽霊騎士たちの主目的は避難経路を選考して野生動物などの危険排除
副目的は辺境伯配下の誘導。わざと幽霊騎士の姿を見せて、配下の虫が幾らかでも釣れればラッキー。という程度で



「人間なんて食べて美味しいんだろうか……」
「大量の虫に襲われるとは、出来れば想像したくない光景ですが」
「うん。だよね」
 人の肉を喰らう。この人類砦を探し求める敵の性質は、この世界ではそう珍しくないのかもしれない。だが、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)とクロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)の二人は、軍勢を成す配下とそれらを束ねる『純白のリリィ』の食について言葉を交わしていた。
 ――アンは、寧ろ機会があればご相伴にあずかりたい気も、と思ってはいたが。
(「今はそんなことを言ってる場合じゃないね。というか僕が食べられかねない」)
 配下である虫とやらはきっと、自分一人に対し百以上で群がってくるのだろう。
 それは困るとぼんやり思うアンの前、先に人類砦へ入っていたクロスは杖を突いて歩く老人に手を貸していた。足元に気を付けて。声をかけて乗せたのは、予め召喚しておいた古代戦車だ。
 人々が運び出した大きな荷物。足腰の弱い老人と子供。全体の移動速度が上がれば、生存率も上がる。それは、この世界に光を灯し始めた彼らの活動を後押しし、小さな希望が大きな希望へ変わる為の道程にもなる筈だ。
「おにいちゃん、かっこいいねえ」
「うん、かっこいいなあ」
 わああ、と目を輝かせる幼い兄弟の視線は、荷物の運搬を手伝うクロスにも向いていた。彼らの目は、この後の移動――避難が始まってから経路の選考及び野生生物などの危険排除の為に姿を見せた幽霊騎士を見て、より輝く事となるのだが。
(「配下の虫は……釣れなかったか」)
 クロスは人類砦との境界線の如く広がる森、その奥へと視線を注ぐ。あちらはまだまだ遠くにいるようで――故に今はまだ安全である人類砦の空気にアンは浸りつつ、隅っこで「えぇと」と魔導書『銀枠のライブラ』のページを捲っていた。
 ぺら。ぺら。ぺらぺら。ぺら。
「どこに書いてたかな……ああここか」
 ぴた。指を止めたそこは『ライブラの愉快話・忍者』の項。そこからユーベルコードを展開した瞬間、アンは自分たち猟兵でも、人々でもない何かを感じ取った。姿は見えないが、向こうからは見えている。それがアンの知る忍者というものだった。
「召喚成功だね、よろしく忍者君。早速で悪いんだが森へ行ってもらえるかな? 敵情視察ってやつ、忍者だから得意だろうそういうの。あ、情報伝達に狼煙や五色米いらないよ」
 自分と忍者の五感は繋がっており、そもそも忍者ではないアンに彼らの暗号は分からない。忍者ならば分からない形で伝えるという万が一を起こしはしない、と思うが、念には念を。
 口頭で予防したアンは、うーん、と考える。森ではなく人類砦を訪れた以上は、こちらへ虫が押し寄せる可能性を減らしておきたい。
「そうだね、様子が分かれば撒菱なり置いて戻るといいよ」
 それは押し寄せる腹ペコたちを驚かすだろう。
 汚い? 何とでも。
 忍者らしく、ここは汚く行こうじゃないか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
迷いましたが…
森へ向かいます

まず空へ
俯瞰から樹々や靄の動きや音で
相手の行軍の速度と進路を予測します
視えるなら姿も
真っ直ぐ進んでいるのか
包囲しようとしているのか
無軌道なのか
同時に森の中に光が観測出来れば、その位置や速度も

把握出来れば
砦へ戻る道すがら、距離を置いて森の中へ降り立ちます

葉擦れで音を立てずに、樹々も傷付けない様に
植物の精霊へ木立が避けるように
風の精霊に私の周りの空気の動きを止めるよう願い

話せる動物が居ないか
暗視での視認と、第六感と聞き耳でも確認して
森の中を静かに駆けます

見付ければ
森に訪れた異変に気付いているか
他の仲間にも伝えて早く逃げる事と非難方向を示して

空へと戻れば、全速で砦へ伝えに



 静かな空に、青を帯びた白銀がそっと舞い上がる。
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)の目は眼下一帯に広がる森へと注がれていた。
 そこからゆらり浮かび上がる薄茶色の靄。地上から上るそれと合わせ、音をたてて揺れる樹々。俯瞰で見たそれらの下に“彼ら”はいた。
(「……少し早い、でしょうか」)
 進み方は無軌道なように思えて、どこかで別れてといった包囲を成す形を取っていない。それは人類砦の正確な位置をまだ知らないからだろう。だが、早く見つけ、喰らいつくす――本能にも似た目的を達成する為、ある程度広がりながら流れるように前進していた。
 瑠碧は人類砦とは反対側、彼方へと目を向ける。今見える虫があのように広がっているのなら、その始まりに近い位置に光があるのではないか。それへ応えるように、ほ、と小さな点が見えた。
 虫と比べれば速度は緩やか。
 しかし一定の速度を保っており、虫たちの中心からズレる気配が全くない。
 無数の配下を従える将の質を垣間見た瑠碧は向きを変え、そうっと空を翔る。見られぬよう、気付かれぬよう、距離を置いて森の中へ。
(「お願い」)
 静かな願いは風の精霊へと伝わり、樹々や木立がほのかに枝や葉を動かして瑠碧を招き入れた。梟のように一切の物音を立てず森に降り立てた瑠碧は、樹々を傷つけずに済んだ事へ安堵しながら周りを見る。
 誰か。小さな子でもいい。話せる動物は。
 暗闇でも見通す目と磨き続けた感覚で広く森の中を捉えながら、静かに駆ける。
 風のような。流れ星のような。ひとつの白銀色に、どこかへと向かう鼠の一団が姿を見せた。先頭にいた大きな鼠が立ち上がり、鼻をひくつかせる。
 ――森に訪れた異変に気付いていますか?
『しってる。たべられる。だからいく』
 ――では、どうか他にも伝えてください。そして、一刻も早くあちらへ逃げてください。向こうは危険です。
『あっち。あっち。いう。いく』
 チチッ。
 小さく鳴いた鼠が力強く駆けだし、その後に他の鼠が続く。彼らが去った先からヂィッと聞こえたのは警告の鳴き声だろうか。瑠碧は静かな眼差しを空へ向けると、さあっと上空へ舞い上がった。
(「砦へ――皆さんに、伝えなくては」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
オオカミの目はとーってもイイ。
コレは森で敵を見る。
アッチから、コッチから。
かなりの数の敵がいるなァ……。

コノ森に動物はいるカ?
動物がいるならそいつらに敵の状況を聞こうそうしよう。
特に空を飛ぶヤツらの話は正確ダ。
ウサギやリスみたいな小さいヤツらでもイイ。

賢い君、賢い君、うんうんナルホドー?
動物に糸を渡してあとどのくらいでコッチにたどり着くか教えてもらう
なるほどなるほどー。

コノ中で一番賢くて見つかりにくい動物に糸を渡しておこうそうしよう。
敵が近付いたらコノ糸を引っ張ってくれくれ。

賢い君の糸はとーっても細いから見つからないヨ
ケド、念の為に引っ張ったら隠してくれくれ。
おーけー?



(「ふうん? ふうーん? アッチから、コッチから。かなりの数の敵がいるなァ……」)
 頭を右に、左に。振り子のようにゆるゆる傾けた頭を戻して、エンジ・カラカ(六月・f06959)はニィ、と目を細めた。暗い暗い場所であろうとも、オオカミは森の中を見通せてしまう。何せこのオオカミはとーっても目がイイのだ。
 しかし。
 目はイイのだが人手ならぬ動物手は欲しい。
 あると便利だ。
 エンジは周りをきょろきょろと見て、一瞬だけ樹々の向こうに見えたシルエットへ満月色の目をきゅる、と丸くする。見つけた見つけた。たっ、と僅かな物音だけを残して距離を詰め、ばあ、とシルエット――梟の前へ。
 エンジの登場に目を丸くした梟が空中で軌道を変え、枝に停まる。
 自分から目を離さないオオカミ、エンジには見逃してもらえないと。一瞬だけ交差した視線でそう思ったのか。森の知恵者の様子にエンジは礼を言いながら頷き、空を飛ぶからこそ地上の様子に詳しいだろう梟から敵の状況を聞き出していった。
 白い花をつけた光を孕んだ女は遠く。その周りを埋める虫の波は豊かに広く。その進行ルートをエンジは頭の中にある図と重ね、人類砦へ真っ直ぐ向かってはいないが、それだけ広がられていたらそのうちに見つかるなァと考える。
 ――くん。
 左手薬指から漂う赤色に引っ張られる。
「……ン? 賢い君、賢い君、うんうんナルホドー? それは名案だ、やろう、やろう」
 ぱち。
 瞬きをした梟の片足に賢い君を結べば、鮮やかな赤色が羽毛を彩るように輝いた。
「敵が近付いたらコノ糸を引っ張ってくれくれ」
 梟が無言でエンジを見て、それから賢い君をつつき――はしなかった。そんな事はエンジがさせやしないが。賢い君を気にする梟に、エンジはヘーキヘーキと手をひらひらさせて笑む。
「賢い君の糸はとーっても細いから見つからないヨ」
 綺麗な赤色なだけじゃない。だから賢い君は賢い君なンだ。エンジは上機嫌に笑って、翼を広げた梟の大きさに「お、」と楽し気に目を丸くして。
「ケド、念の為に引っ張ったら隠してくれくれ。おーけー?」
 賢い君は虫の食べ物じゃナイナイ。
 もし齧ったら――こわぁいオオカミが、やって来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ここは、闇に覆われた世界で人類がようやく得た安息の地だもの

…たとえ相手がどれほど強大でも、必ず守ってみせるわ

事前に周囲の第六感に干渉する“隠れ身の呪詛”を施し、
小石のように存在感を希薄にして闇に紛れ森で偵察を行う

…今まで何体かの辺境伯を討ち倒してきたけど、
紋章という明確な弱点を狙うのが勝利の鍵だった

…できる限り手早く紋章の位置は特定しておきたいわ

今までの戦闘知識を頼りに他の猟兵と連携して情報収集を行い、
辺境伯の姿を発見したら右眼に魔力を溜めUCを発動
敵の能力は狂気耐性や気合いで耐え、
紋章の位置を暗視して見切れないか試みる

…っ。遠目で盗み見るだけでこの存在感…
あまり、長居しない方が良さそうね…


日下部・舞
▼森に出て敵を観測する

【目立たない】よう努めて敵の陣容や個体の能力など情報収集

「ただの虫でも脅威なのに、オブリビオンでこの数は……」

反射防止メッシュ付きの双眼鏡でその威容を認める
猟兵であっても無事で済む保証はない

【影時間】を使用して接近する
純白のリリィの存在の確認
可能な限り紋章の位置も確認したいわ

際立つ美貌に刹那、目が離せなくなる
匂い立つような香りを嗅いだ気がして、私の存在が察知されたと思うのは錯覚じゃない

速やかに撤収
追跡されないよう迂回しながらの逃走

「人類砦に案内したのでは本末転倒だもの」

それにしても、たしかに美しかった
愛されたいと望むのは彼女のような人なのだろう
それが破滅だったとしても



「ただの虫でも脅威なのに、オブリビオンでこの数は……」
 森の中。色に、空気に身をとけ込ませた日下部・舞(BansheeII・f25907)は思わず呟いていた。彼方を伺うのは、反射防止メッシュ付きの双眼鏡。それを通して知った敵の軍容は、途切れる様子のない本能と食欲に満ちたおぞましき波。
 蜘蛛のように細長い脚。幼虫のような、表面がぶにぶにと波打つ体に、並ぶ牙。
 その威容を認めた舞は、猟兵であっても無事で済む保証はないと感じ、唇を結ぶ。
(「リーヴァルディさんは……」)
 同じ猟兵、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)を案じた舞だが、自分と離れてすぐその存在感を薄れさせてわからなくした見事な手腕を思い出し、その姿を探すのを止めた。
(「彼女なら上手くやってるわね」)
 今は、自分の事を。
 ユーベルコード・影時間を発動させた舞が『日下部・舞』という存在を可能な限り空間にとけ込ませた頃、リーヴァルディは森を構成するものの一つ――誰も気に留めない小石レベルにまで存在感を希薄にし、偵察を行っていた。
 人類砦は、闇に覆われたこの世界で人類がようやく得た安息の地。そこへ至るまで、人類が奪われてきたもの、犠牲としたものは数知れず。だからこそ。
(「……たとえ相手がどれほど強大でも、必ず守ってみせるわ」)
 辺境伯。その存在は何度か討ち倒してきたが、全ての勝利に共通していたのは『紋章』という明確な弱点を狙う事。リーヴァルディは見えた光に気付くと、右眼に魔力を溜め、感覚を鋭くさせていく。
(「……できる限り手早く紋章の位置は特定しておきたいわ」)
 一体どこに。
 ざああ、ざああと流れゆく虫たちの向こう。海に浮かぶ月のように、地獄の泉に我が身を捧ぐ聖女のように、女はそこにいた。

 何もかもが、美しい女だった。
 触れれば滑らかだろう白い肌。たおやかな指先。
 波打つ金糸の髪は豊かで、髪そのものが輝くよう。
 碧の瞳は大きく、ただただ優しさだけをたたえ、前を見つめ、微笑んで。
 前へ向かう姿は、迷える魂全てを引き寄せるような、優しい光そのものめいて――そして、咲いたばかりの白百合がその馨しい気配をふんわりとこぼすように、視線が、心が引き寄せられずにはいられない“何か”を孕んでいた。

 ――ああ、

 甘くこぼれた吐息。声。刹那のうちに囚われた舞は、距離がある筈なのに匂い立つような香りが鼻孔をくすぐった気がした。そして、それ以上に頭の中で警戒音が鳴り響く。
(「察知された」)
 これは錯覚じゃない。
 舞は迷わずその場から離れた。後ろは振り返らない。僅かな動作が、余計なものとなって敵の――リリィの追跡を許しかねない気がした。もしそうなれば。いや、そうはさせない。だからこそ、迂回しながら逃走する。
「人類砦に案内したのでは本末転倒だもの」
 気付けば、リーヴァルディが同じように駆けていた。
「……っ。遠目で盗み見るだけであの存在感……」
「大丈夫?」
「……ええ。紋章だけど、おそらくは首から下のどこかよ。ただし後頭部や肩甲骨のあたりは除外していいわ」
 より深く探るには時間が足りない。リーヴァルディは短く息を吐き、駆ける。
 能力は持ち得る耐性と気合いで耐えたが、そこにひたり、と、白魚のような手が伸びて、触れられたかのようだった。だがリーヴァルディの瞳に絶望の色は宿らない。凛とした眼差しは、前にのみ向いていた。
「行きましょう」
「そうね」
 ――それにしても、たしかに美しかった。
 舞は垣間見た『純白のリリィ』という存在を思い浮かべ、得心する。
 愛されたいと望むのはあのような存在なのだろう。
(「……それが、破滅だったとしても」)
 それ程までに、あの存在が。魂が。甘美なものに思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「前菜は虫で、メインは女の敵さんって事か。」
…虫って血は流れてたっけ?
まあ、良いや。お仕事お仕事っと。

森で敵さんらを観測する事にしよう。
UCで狼くんを召喚、彼に敵さんらの居場所を探してもらう。ヤバそうな血の匂いを追っかけたらいそうじゃない?

見つけられたら、狼くんには影の中から敵さんらを見てもらい、視界を共有している僕に情報を届けてもらう。見た事は他の人らにも教えるのを忘れずに。

あ、僕は狼くんが見つけるまで大人しく煙草でも吸っときます。
果報は吸って待てって言うしねぇ。



「前菜は虫で、メインは女の敵さんって事か」
 配下とボスなら“そこ”が妥当だろう、と定めた須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は、ん? と緩やかに視線を上へやる。
(「……虫って血は流れてたっけ?」)
 ダンピール的にそこはまあまあ大事な所だが、莉亜は「まあ、良いや」と視線を戻した。今は大事なお仕事中。敵さんらを観測してラクチン――確実な勝利に繋げなくては。
 おいでよ。
 招けばずるりと現れた漆黒の狼が一体。莉亜は隈のある目を狼に向け、それから森の奥へとやった。自分の鼻には、今の所何も感じないが。
「敵さんらの居場所、探してきてよ。ヤバそうな血の匂いを追っかけたらいそうじゃない? ほら、確か“食べてた”って話だし。匂いしてるだろうから、いけるよ、多分」
 食事中か、とうに食べ終えているか。骨はどうしているのだろう。骨まで食べているのだろうか。それとも道中で地面にポイか。
 狼を向かわせればそのお行儀具合もあわせて判るだろう。
 莉亜の言葉が終わるやいなや、狼が莉亜の影に飛び込んだ。そこに見えない穴が開いてるかのように狼はそこへすんなりとけ込んで――そして、地中という影の中を風のように駆けていく。
「さてと」
 莉亜は懐から煙草を取り出し、火をつけた。口をつけて吸い込めば慣れ親しんだ煙草の味が広がって。はあ、と吐き出した紫煙が空中でくるりと渦をえがくようにして、ふわふわ揺れながら消えていく。
(「果報は吸って待てって言うしねぇ」)
 幸い、敵がどちらにいるかはわかっている。それに狼と共有している視界は黒一色。狼が敵勢を見つけるまで大人しくしているのが一番だ。
 暫くすると黒一色だったそこに僅かな光――と呼ぶには頼りないが、木洩れ日めいた細やかさで見えた光から、狼が敵軍勢の影に至ったのだと理解した。
 そのまま情報を届けてもらおう。
 見た事は他の人らにも教える。これも、忘れずに。
「……にしても、前菜多いねぇ」
 思わず呟いた莉亜だが、これだけ多ければある意味狙いやすくて助かるなとも思った。戦いの序盤は、『グリモアベースで石を投げれば猟兵に当たる』のと同じくらい攻撃が当たりそうだ。
 ところで。
(「血って流れてるのかな」)
 たまたま怪我をしている虫なんてのはいないだろうか。狼の目を通して見つめる莉亜の目には、何色の血が流れているのかさっぱり想像のつかない虫が無限に見えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
人類砦へ向かう
軍団を見つけたら先に仕掛けちまいそうだしな

暫く様子を見て回るが
……あまり変わらねえか(アポカリプスヘルの拠点なんかと、この砦が)
無駄か否かは他人にゃ分からない
仕方ない、置いていけねえのなら。重さがあるが人の手で運ぶべき壊れ物なんかを中心に『怪力』で運び出しを手伝う。老人なんかも手貸す必要あれば
おしゃべりするより断然手を動かす気だが
見たところ血気盛んな戦士もいるようだ。今日は倒すより守る方に集中するよう言っておく。一日くらい休んだって腕は落ちねえさ、生活は明日からも続いていくわけだからな

人間を喰うなんざいくらお綺麗でもゾンビと大差ねえ
愛だのなんだの、こいつらには間に合ってるだろうに



 敵を率いているのは聖女のような女で、配下は虫の大軍勢。となれば最初に戦り合う事になるのは森をゆく波の輪郭を作っている配下――大量の虫だ。顔を合わせた時、向こうは血と肉を求め大喜びで飛び掛かってくるのだろう。その時、自分は。
(「まあ、先に仕掛けちまうだろうな」)
 挨拶も抜きで拳で始める己の映像が、容易に浮かぶ。
 故にレイ・オブライト(steel・f25854)は森ではなく人類砦にいた。緩く握った拳は体の横に下ろしたまま、鋭い目で静かに中の様子を見て回る。剥き出しの土壁を背にした人類砦の造りは、電気や科学といったものがない世界だからこその様相を見せていて。しかし。
(「……あまり変わらねえか」)
 アポカリプスヘルに点在する拠点と、ダークセイヴァーの人類砦。拠点を形作っているものの材質は違えど、そこで生きる人々の様子がそう違わないのはどちらも“人”だからか。そして人であるからこそ、拠点を去る時に生じるものがある。
 レイの視線を暫し引いたのは、年が同じだろう少女に唇を尖らせている少年だった。
 鞄に入れられなかった木馬の玩具をぐいぐいと懐に突っ込むも、歩いていたらずり落ちてくるからと結局鞄を開け、中の服と入れ替えて――と少年がレイの視線に気付き、古そうな飴色木馬をきつく握りしめる。
「こ、これは絶対に持ってくから」
「好きにしろ」
 無駄か否かなど他人には分からない。分かるのは、少年にとってあの木馬は置いてはいけないものだという事だ。なら仕方がない。それに、ああいうものがあれば起き上がる切欠になるだろう。
 そういうものの中にあった重い物は得意とする腕力で手を貸し、荷馬車へ乗せ、または馬へ括りつけてと進める間。手も口もよく動かしていた若者が数名いた。腰に剣や斧を佩いた彼らは道中で敵が現れたらコイツで倒すのだと胸を張って笑う。
「そりゃ結構だが、今日は倒すより守る方に集中しとけ」
「? 倒す方じゃなくて?」
「一日くらい休んだって腕は落ちねえさ、生活は明日からも続いていくわけだからな」
「……そうか。うん。それもそうだな」
 これは生き延びる為の戦いであって、武勲を重ねる英雄譚でも何でもない。
 ――そんな彼らを食べたがる敵は、何と形容すべきか。
(「人間を喰うなんざいくらお綺麗でもゾンビと大差ねえ。愛だのなんだの、こいつらには間に合ってるだろうに」)
 だからこそ、人々は当たり前の明日を求め、生きようとする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彼岸花・司狼
生き恥を晒すくらいなら、という考えもあるだろうが
後悔を抱えて死に恥を晒すよりは幾分マシだろうさ。

終始【目立たない】ように【闇に紛れ】たまま、森の中や木々の上から相手の情報を調べに行く。
事前情報から凄惨な光景も予想されるため、気をしっかり保った上で(【狂気耐性】)、ある程度の【覚悟】はしておく。

万が一偵察中に見破られて、逃走などの必要があれば【残像+継戦能力+限界突破+ダッシュ】で、相手を撒くまで移動を続ける。
途中上手く撒けるまでは無駄に敵を引っ張っていかないよう砦側には近づかないで相手の侵攻してきた道を進む。

これがただの延命行為だとしても、命を諦めない。
だからこそ、ここで戦うことに意味はある。



 逃げて生き恥を晒すくらいなら。
 そう考え、敢えて迫り来る終わりを待つ者はいるだろう。
(「だが、後悔を抱えて死に恥を晒すよりは幾分マシだろうさ」)
 あの時ああすれば良かった。こうしていれば良かった。そんなものを抱えての最期は、肉体が滅んでもつき纏ってきそうだ。
 彼岸花・司狼(無音と残響・f02815)は、人類砦の人々を思い出す。
 彼らは逃げて生きて、この世界に光を灯そうとしていた。生きた先に後悔が待っているかもしれなくとも、彼らがそれを選んだのなら、自分はそれに手を貸そう。
 司狼は今、その身を木々の上においていた。森の一部となるよう闇に紛れた司狼は、自分という存在を極力目立たないものへと変えたまま、眼下の光景を見つめ続ける。
 事前情報から凄惨な光景を見るかもしれないと予想し、ある程度の覚悟をしていたのだが、地上を行く軍勢の姿は確かに恐ろしいものだった。
 全く同じ姿をした虫の大群が蜘蛛のような脚で地上を行く。十分な距離を取っている為に、司狼の目には奇妙に艶めく無数の粒がざらざら流れていくようにも見えた。そして。人によっては悲鳴を上げるだろう光景の奥に、例の女がいた。
 司はより己を殺し、覚悟を重ね、目を凝らす。呼吸までも森の中にとけ込ませたその目に、『純白のリリィ』の姿がはっきりと映った。
(「……頭が無いな」)
 リリィが食べていたという人間であった筈の塊は今もリリィの腕の中。しかし頭がある筈のそこには頭蓋骨すら残っていなかった。リリィの口元と鎖骨、胸元。塊の首周辺が真っ赤な所を見るに――骨の行方はわからないが――肉の方は“愛し”尽くしたようだ。
 すると、楚々と微笑んだリリィが抱えていたものを愛し始める。口づけるように唇を寄せて。あ、と開いた口が冷え切っているだろう肉を食んだ。大きくちぎれた一部を細い指先が千切る。
「皆様もどうぞ」
『ッギ! チギィ!』
 ひとかけらを放った途端虫たちが取り合いを始めるが、勝者はすぐに決まった。
 軍勢の足音だけが響く奇妙な空間が戻る。
(「……あれが人類砦へ着いたら、まさに地獄だな」)
 肉という肉がなくなるまで聖女は愛し続け、虫たちが飛び回る。
 それを防ぐ為の戦い――避難と偵察の両方は、重要性を帯びていくばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
黒江さん/f04949
オーケー。オレは自分の仕事を無駄にされるのが大嫌いです。
人類砦ができて、やっと経済が回る目途が立ってきました。
それを止めようというなら、よいでしょう。殺します。

斥候を担当。
虫であれば、何が脅威か見た目で分かりやすい。
総数、進行方向、行軍速度と
この辺りの地形についても自分で見ておきましょう。
罠ひとつ仕掛けるにも、敵と地質の相性で効果が変わ…

何をしてるんですか。
ああそう、奇遇ですね。オレも待機中です。
なぜやってることがこんなにも違うんでしょう。

…さあ?
どうせなら綺麗なものに食べられるほうが幾分マシでしょうけど
世の中そう都合よくできてませんから、フツーの虫じゃないですか。


黒江・イサカ
夕立/f14904と

此処はいつも天気が悪いねえ
折角梅雨時期の世界から抜け出せたんだから、明るい空を見たかったよ
こんなんで夕立の言う経済とか回るのかな?
働く気も失せるよなあ

……なにって、待ってるんじゃないか
避難は順調に進んでるみたいで何よりだね
めぼしいもの、砦の中には残ってなかったよ
強いて言うなら、ほら、これ お人形さん
忘れ物かな? それとも、置いてかれちゃったのかしら

…ひとを食う綺麗な女だって言ってたっけ、来るの
このお姫さまみたいなお人形さんより可愛いのかなあ
それに、“私たち”で綺麗に愛して、って言ってたって?
はは そりゃ虫もひと食い虫っぽそうだな
それとも、ひとを食う綺麗な女≪ムシ≫なのかな?



 ダークセイヴァーと呼ばれる暗黒の世界で人々が立ち上がる勇気と力を得、人類砦というものが各地に生まれ始めた。そこへ姿を見せるようになったのが件の辺境伯という存在で――それは矢来・夕立(影・f14904)にとって、自分の仕事を無駄にするという存在でしかない。多くの仕事を請け負ってきている夕立は、そういう事をされるのが大嫌いだった。
「人類砦ができて、やっと経済が回る目途が立ってきました。それを止めようというなら、よいでしょう。殺します」
「うわ、怖い」
 黒江・イサカ(雑踏・f04949)はこれっぽっちもそう思っていなさそうな笑みを浮かべ、上を見る。梅雨真っ只中の世界から折角抜け出せたから明るい空が見たかったのに、この世界はいつも天気が悪い。しかも今いる森は、頭上含めた全方位が明るいとは言い難いもので。
(「こんなんで夕立の言う経済とか回るの? 働く気も失せるよなあ」)
 文明の進んでいるあの世界でさえも月曜日が来た事を嘆いたり、雨の日はどうだこうだと言って外に出ない人間が大勢いるのに。回るようなものがあるのだろうか。何かあるとしたら――。
 イサカの足音を耳に、夕立は目の前から彼方まで広がっていそうな森を見つめていた。
 まず出会うだろう配下が虫ならば、何が脅威かは見た目で分かりやすい。ああいう手合いは特技をわかりやすく見せてくれる。それから総数、進行方向、行軍速度。周辺の地形についても自分の目で見ておけば、罠を仕掛ける時の役に立つ。
 初見の地形と予め情報を得ていた地形。罠を仕掛けるのなら、効率重視である夕立は当然後者を選ぶ。経済の邪魔者にやれる慈悲と余計な時間はない。敵の地質と相性から見えた最適な、必要ならば卑怯な罠を用いて無駄なくしっかりと息の根を止め――。
「何をしてるんですか」
「……なにって、待ってるんじゃないか」
「ああそう、奇遇ですね。オレも待機中です。では、なぜやってることがこんなにも違うんでしょう」
 黒江さん。今、人類砦から出てきましたよね。
 いつものように冷え切っている赤い眼差しに、人類砦からスタスタと出てきたイサカは避難は順調だって、何よりだねと悪びれずに笑う。
「だからめぼしいもの、砦の中には残ってなかったよ。強いて言うなら、ほら、これ」
 イサカが目の前に出してきたもので視界を塞がれるが、夕立は瞬きひとつせず、すい、と人差し指でそれをどかす。
「何ですか」
「見ての通り、お人形さん。忘れ物かな? それとも、置いてかれちゃったのかしら」
 名前とか刺繍してないのかな。あ、ないや。
 ひっくり返して捲ってと確認したイサカは緩やかに笑み、森の奥へと歩き出す。夕立の黒いシルエットが横に並ぶのを視界に入れながら、ぽーん、ぽーん、と人形を放ってはキャッチした。
「……ひとを食う綺麗な女だって言ってたっけ、来るの」
「らしいですね」
「このお姫さまみたいなお人形さんより可愛いのかなあ」
「可愛いかどうかは人に寄るんじゃないんですか」
 グリモアベースでの話からして、世間一般でいう美人の部類には入るようだが、夕立の頭には今歩いている地面の固さと乾いた表面、湿気のない空気と、最適な罠へ至る為のアレやソレが組み立てられていく。
 夕立が話を聞いているのはわかる為、イサカはそれもそうだと頷いて続けた。
「“私たち”で綺麗に愛して、って言ってたんだって? はは。そりゃ虫もひと食い虫っぽそうだな。それとも、」
 ひとを食う綺麗な女≪ムシ≫なのかな?
 ぴこぴこ。ぐに。ぴこっ。
 人形を左右に揺らし、人差し指と親指で綿の詰まった首を軽く握って。親指を少し動かして、人形の片手を上げてご挨拶。どう? と笑って問う視線に、夕立の目はやはり冷えたまま。
「……さあ? どうせなら綺麗なものに食べられるほうが幾分マシでしょうけど」
 そう言っていっとき人形に向けた視線を前へと戻す。
 ようやく回ろうとしていた経済に邪魔が入るように、世の中そう都合よく出来ていないものだから、綺麗な虫なんてものはいなくて。この先で出会うのはきっと――フツーの、殺すに値する虫なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
ふぅん、そう
人を食べるオブリビオンが相手なのね
えぇ、良いわ
オウガもヴァンパイアもそれ以外でも
人食いを楽しむオブリビオンはみんな、メアリが殺すから

砦は他の猟兵にお任せで
森を進んで、森に潜んで
【目立たない】ように偵察を
必要に応じて【息を止める】
【獣の嗅覚】で嗅ぎ取って
小さな虫が蠢く音にも【聞き耳】立てる
いくつも羽音がするかしら?
それとも這いずる音かしら?
どっちにしろ耳障りな事に間違いはないけれど

偵察が済んだら「見つかってしまった」【演技】をして
逃げるしかない無力な振りで【誘惑】しながら【逃げ足】で
虫に欲望があるかなんて知らないけれど
砦から遠ざかるように逃げまわる
これで少しは時間が稼げるかしら?



 今回の相手であるオブリビオンは、人を食べる女と、沢山の虫。
 ふぅん、そう。木の陰にしゃがみ込んでいたメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は少し考えるような仕草をして、こくり。
(「えぇ、良いわ。オウガもヴァンパイアもそれ以外でも。人食いを楽しむオブリビオンはみんな、メアリが殺すから」)
 どっちでも一緒。最期は一緒。真っ赤になってお腹の中よ。
 メアリーは血のような瞳をぱちりとさせ、五感を研ぎ澄ませる。ただし自分の気配は森という空間の中へと沈めるように。目立ってしまっては砦を他の猟兵に任せてきた意味がない。
「――……、」
 メアリーはふと何かを感じ息を止めた。そこからゆっくり、ゆっくりと、元々が森から生まれた空気なのだというような静けさで息を吐き、呼吸をする。
 メアリーの嗅覚は人ではないものを感知していた。
 耳も、聞こえ始めた異質な音を拾っている。

 ――ざ。ざあ。ざあ、あ。

(「これは、いくつあるのかしら。100? 1000? それとも、それ以上?」)
 羽音ではない。だが、ざあざあ聞こえる音は、這いずっているにしては軽やかだ。
 どちらにしろ耳障りな事に間違いはない。波音のような音の高低を響かせていようとも、その振れ幅はメアリーの内にそこはかとない不快感を齎していた。
(「あれだわ」)
 段差を生んでいる地面の向こう、境界線のように伸びていた根っこの輪郭が太くなった。その輪郭が更に太り、じわじわと揺らいでうねって――溢れた。
 それは音の正体。大量の虫。
 虫の軍勢を見たメアリーは、羽音も這いずる音もしなかった理由を知る。あれが持っているのは蜘蛛のような脚と鋭い牙だけだ。空は飛べないが、その代わり左右に生えている脚が鮮やかな移動を可能として――。
『キギキ!』
 メアリーを見つけた一匹が他の虫を押しのけ踏みつけやって来る。それは他の虫に『獲物がいる!』と興奮して叫ぶかのようで、それを裏付けるように虫たちが騒ぎ出す。
「大変、見つかってしまったわ」
 ざばあ、とこちらへ舵を切った虫の波にメアリーは慌てて立ち上がる事にして、それから一生懸命走ってみせた。虫の言葉も思考もわからないが、どうやら幼い少女を食べたいと思っているようだ。メアリーは自分を追わせる事で、砦から虫を遠ざけていく。
(「これで少しは時間が稼げるかしら?」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

清川・シャル
人であれなんであれ、愛するという事をはき違えてる趣味悪い輩が居るらしいですね…
是非この手で正して差し上げたい
分かるかどうかは別として
シャルにも愛という感情はありますからね、一応知ってる
それは譲れないものだし負けない感情

避難を優先させましょう
櫻鬼のジェットで空中浮遊します
上空からの方が見渡せるかと思うので。
それからAmanecerを召喚、スピーカーで呼びかけます
礼儀作法とコミュ力を使って礼儀正しく、鼓舞で励ましながら誘導をします
落ち着いて、大丈夫です。私達猟兵がついてます、大丈夫!


陽向・理玖
何が愛だよ…胸くそ悪ぃ
好きにはさせねぇ

人類砦で避難手伝う
準備終わったか?
子供たちの面倒なら俺がみるから
まだなら行ってくれ
面倒見てる村人に準備促し

よし兄ちゃんが遊んでやるよ
いやえっと訓練だっけ?
そんなら鬼ごっこだな
備えあれば憂いなしだ
こう見えてもヒーローだけど
たまには鬼もいいだろ
逃げ切れたら勝ちだからな

避難時は声掛け
怖かったら手を繋いで
みんなで励まし合えば怖くない
絶対俺たちが守るから

疲れたか?
ほらもうちょっとだ
手を繋ぎ鼓舞し
歩けない子はおんぶしようと

何だろ
弟や妹が出来た気分だ
いつも一番下だもんな
こんなのも…悪くねぇ

初めて来たけど
どの世界も生きなきゃなんねぇのは変わんねぇな
…守んねぇと
絶対
覚悟決め



 『純白のリリィ』の愛は死の口づけ、肉と血を喰らう真っ赤な愛――。
「何が愛だよ。胸くそ悪ぃ」
 陽向・理玖(夏疾風・f22773)は握っていた拳を更に強く握る。
 爪が掌にきつく食い込んだ。
「好きにはさせねぇ」
「同感です。人であれなんであれ、愛するという事をはき違えてる趣味悪い輩が居るなんて……是非この手で正して差し上げたい。それはもうコテンパンに」
 清川・シャル(無銘・f01440)は理玖と目を合わせ、しっかりと頷いた。
 愛を謳いながら蹂躙するというのなら、それをあの手この手で防いで止めてやる。
(「まあ、あっちがそれを分かるかどうかは別なんですけど」)
 シャルはお邪魔しますと見張りに声をかけ中に入った。
 忌み子だといわれそういった扱いを受けたシャルにも、愛という感情はある。一応知っているのだ。それは譲れないもので、負けない感情で――生きる為の鼓動、そのひとつとなる。

 きゃあきゃあとくっつく子供たちに笑いながら、うーんでもそろそろ休憩しない? と提案する大人たち。疲れたのではないと理玖はすぐに気付き、声をかける。準備終わったか? こそっと伺えば「まだ」の声。
「子供たちの面倒なら俺がみるから、まだなら行ってくれ」
「ありがとう……! ぱぱっと終わらせてくるから頼んだ!」
「あ、いや、そう慌てるなよ!」
 思わず上がりかけたボリュームを慌てて落とし、視線を下へ向ければ、きらきらと期待を浮かべた子供たちが仲良く並んでいて。
「よし兄ちゃんが遊んでやるよ。いやえっと訓練だっけ?」
「うん、くんれん!」
「そんなら鬼ごっこだな」
「鬼ごっこ!? やったー!!」
 こうしておけば、万が一走る必要が出た時に鬼ごっこだと言い聞かせられる。備えあれば患いなしだ。鋭い眼光はヒーローと呼ぶにはちょっぴりクール過ぎるかもしれないが、それを生かして鬼役に立候補した少年は紛れもなくヒーローだった。
「俺から逃げ切れたら勝ちだからな。じゃあ数えるぞ!」
「わーいっ!」
「ぼくあっち行く!」
「ってそれ言ったら駄目だろ!」

 楽しいくんれんはやがて終わりを迎え、みんなでちょっとおでかけしようかと笑う大人たちと一緒に砦の外へ。みんなでおさんぽだねえと笑う幼い少女に、櫻鬼で空中を行くシャルは思わず笑顔になった。
 あの無邪気な少女も、それ以外の幼い子供たちも。この森に脅威が訪れているとは知らない。シャルは砦とは反対側を見る。老婆が見たという煙はここからも確認出来たが、一部が全く違う方向へ伸びていた。
(「誰かが上手く釣り上げてるみたいですね」)
 敵との間には十分な距離がある。これなら、とシャルは召喚したAmanecerのスピーカーを起動させた。
「さあ、こっちです。落ち着いて、大丈夫です。私達猟兵がついてます、大丈夫!」
 春のようなあたたかで華やかな色と共にかけた声が、緊張を浮かべていた数人の表情をほぐしていく。その中には砦の外を行くという状況にドキドキしていた子供も混じっており、理玖は自分の手をきゅっと握る小さな掌を握り返した。
「な、今の聞いたろ? 絶対俺たちが守るから」
「うん。お兄ちゃんも、きをつけてね」
「おう! っと、」
 すぐそこから聞こえた、ん~、というしょんぼり声。理玖はすかさず目を合わせ、もうちょっとだと手を繋ぎ直して背を向けた。どうやら疲れのせいか、眠くなってきたらしい。
「おんぶしてやるから、頑張ろうな」
「……んん」
 もそ、と背中にくっついてきた小さな温もりがくすぐったい。いつも一番下の自分に弟や妹が出来たような気分だ。理玖は軽く体を揺さぶってしっかりおぶり、他の子供とも手を繋いで歩いていく。
(「こんなのも……悪くねぇ」)
 目の前にある初めての世界。そこで生きる人々の姿が、世界は違えども、どの世界も生きなければいけないのは同じと理玖に見せる。それは、この世界では特に残酷で、難しいかもしれない。だからこそ。
(「……守んねぇと。絶対」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
森、樹上にて。
枝葉の影に潜み、見付からぬよう備えつつ、行軍する者共の監視を。
隠れ、視て聞いて、追う…
傭兵とそう変わりませんねぇ。

辺境伯…は誰かに任せ、配下を視る。
這いながら、好むもの、避けるもの。
移動以外の行動。
走る者の速度、跳ね飛ぶ者の高度、種類、
一群では無く各部隊なら数や規模。

それを踏まえ。
進路、拡がり方から陣の展開、砦の攻略の仕方等を想定。
…いっそ数任せの無策で来れば楽なんですけど。

…ニンゲンなんて、今思えば、美味いもんじゃあ無かったし。
あの“愛し”方は、俺には解りそうに無いな…

…って。つまんない回想は無しナシ!
情報が得られたなら、アレらが砦に近付き過ぎる前に、とっとと持って帰りますかっ



 地上より遥か上、枝葉の影に潜む長身がひとつ。クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はぴくりとも動かないまま、行軍する敵の監視を続けていた。
(「絶景ですね。好感が持てないタイプの、ですけど」)
 見付からないよう備えた状態で、隠れ、視て聞いて、追う――傭兵とそう変わらない事にクロトはほんの少し目を細め、しかし一瞬で切り替えて視続けるのは配下の動きだ。
 種類は一つのみ。カブトムシの幼虫に似た見た目に、殺意溢れる牙と蜘蛛のそれと似た脚が複数。その足で段差のある所でも構わず進み、しかししゃがんで行く必要のある場所は、ぴょんっと跳んで上を行く。
 どうやら、横に避けるのは良くても下を行くのは得意ではないらしい。
(「全体の走る速度は一定……我先に、と逸る様子は無し、ですか」)
 それは目の前に獲物がいないからだろうとクロトは推測した。
 ――実際はずっと上の方に自分がいるのだが。
(「気付かれたら、ここ、上って来るんですかねぇ」)
 蜘蛛であればそれも出来そうだが、あの脚にあの体がくっついている虫たちには出来なさそうに思えた。――そうであってほしい。
 そしてクロトの存在に気付かないまま行く虫たちの歩みは、傾けたコップから溢れた水のように、ある程度まで広がった状態を維持し、前進を続けている。
(「部隊らしい部隊は無し。群れというにはそれほど統率されていなさそうですけど、本能が強めだとしたら……」)
 クロトの目に、眼鏡のレンズに、虫たちの行軍が映り続ける。
 ざああ。ざあああ。足音が薄れる気配は一向にない。
(「いっそ数任せの無策で来れば楽なんですけど」)
 こんにちはと姿を見せたら、ドバっと来てくれて。そこをこうしてああして。うん、うんうん。クロトは戦術を組み立てていき――彼らの牙を、暫し見つめる。
(「……ニンゲンなんて、今思えば、美味いもんじゃあ無かったし」)
 彼らのいう、その“愛し”方は。
 クロトには解りそうに無い。
(「……って。つまんない回想は無しナシ!」)
 心の声を弾ませて、別の木、その樹上へと軽々飛び移る。
 土産は十分。
 とっとと持って帰って、森のお掃除に役立てるとしましょうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
森で敵の軍容と進路の観測をする方へ
こっちの方が俺は向いてるだろうからね
砦の方は支援に慣れてる人達に任せとこう
なんて聞こえ良くは言っても
本音は人の面倒を見るのがめんどくさいから
どっちも面倒だけれども、戦う方は慣れてる分まだマシで

森へ向かう姿勢に覇気は無くともやるべきことはきちんと
自分は森の中へ身を隠し
遠く見える敵の軍勢へ『追躡』を向かわせる
一緒に行動させれば動きも読みやすいだろう

…うわ、きもちわる
共有した視界から見えた大量の虫にうんざり顔
多少の虫は平気だがああも数が多いと流石にね

先頭付近を張り込ませてやれば微細な方向転換にも対応できるかな
視界から分かる情報を他の猟兵とも共有しながら迎え撃つ準備を



 人類砦で支援となると――それはきっと、人と会って、話もしたりしてというアレだ。
(「そういうのよりは、こっちの方が向いてるだろうし」)
 向こうはそういう事に慣れている人たちが上手くやってるだろう。鹿忍・由紀(余計者・f05760)は心から彼らに支援を託し、森の中を行く。
(「……なんて。人の面倒を見るとか、めんどくさいし」)
 だが、正直言うとどちらも面倒くさい。なぜなら由紀は必要じゃないなら頑張らないダウナー系アウトロー。今回は支援と偵察のどちらも必要だというから、慣れている分まだマシと戦いに近い方を選んでいた。
(「……見えた」)
 その足取りや背中に覇気はなくとも、やるべき事はきちんとやる。
 それもまた、鹿忍・由紀という男だった。
 身を隠した由紀は、自分に気付かないままぞろぞろと行く軍勢へと黒猫たちを向かわせる。真っ黒で光を反射しない猫たちの足音は本物のように――いや、それ以上に音を立てず、気配までも無に近付けていた。
 由紀は彼ら影猫の目と自身の目を繋ぎ、彼らの視界を覗き込んで――後悔した。
(「……うわ、きもちわる」)
 きゅ、と眉間に小さなしわを寄せる。
 共有した視界を行く大量の虫は、向こうの意識がこちらへ向いていないからこそ眺められるものだが、多少の虫が平気な由紀でも「うわ」と、うんざり顔になる多さだった。
 そして、虫といっても蝶だカブトムシだと色んな種類が存在するだろうに、ここに現れた虫のビジュアルはモンスタークリーチャー感が素晴らしく溢れていた。
(「多少は平気だけど、ああも数が多いのは流石にね……まあ、戦闘になったら普通に殺すけど」)
 由紀は気怠げな表情に冷たさも寄り添わせ、虫たちが向かう方角、その詳細や微細な方向転換をより探るべく、先頭付近に影猫を張り込ませた。虫たちを見る影猫の目は由紀が望んだ通り、虫たちの動きをしっかりと届けていく。
(「このまま砦正面から斜めにずれた状態で行きそう。……他の人にも伝えておくかな」)
 一人より複数。情報は多ければ多いほどいい。
 それを共有すれば――めんどくさいことは、ぐっと減る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九条・真昼
うげー、今回の仕事のターゲット俺の苦手なタイプだわ。
自分に向けられる愛情ほど気持ち悪ィもんはねーよ。

さてさて、それはさておきまずはあちらさんの数や武装、速度や隊列なんかを調べておきますかねっと。
出てこい、妖精共。
仕事の時間だ。
『佐藤君』を触媒に呼び出したタチの悪い妖精達を情報収集に向かわせる。
騙し討ちと罠を使うにも地形情報は欲しいし、そこら辺は自分の目でも確認しておくかな。
リアルタイムで進軍状況と方向を掴みながら、逃げる奴らには安全なルートを提示してやるよ。
俺ってば親切な情報屋だなー。
まぁ、逃げ惑う姿を眺めるのも乙な物だから、その見物料として情報量はロハにしておくってことで。



 グリモアベースで話を聞いた時、九条・真昼(嗤ヒ袋・f06543)は他の猟兵に混じりつつも、その後ろで「うげー」と顔を顰めていた。今回のターゲットが自分の苦手なタイプだとは。
「自分に向けられる愛情ほど気持ち悪ィもんはねーよ」
 ゴシップであればジャンジャン持ってきてよと笑って、両手をわきわきウェルカムモードになるのだが。愛。愛を、自分に? いやいや。
「それはさておき、だ。えーと……お、これなんかいいじゃん」
 転がっていた枝を一本ずつ左右の手に取り、痛々しさと可愛らしさが同居する紫色のウサギぐるみの――脇の下へ突っ込んだ。そして地面に置く。酷い扱いではない。このウサギぐるみ『佐藤君』は触るな危険的なブツなのだ。
「さてさて」
 真昼は両手を擦り合わせ、その『佐藤君』を触媒としたユーベルコードを展開する。
「出てこい、妖精共」
 触るな危険がつき纏う『佐藤君』を扉とするように現れた妖精たちを、真昼はいつものニヤニヤ笑いで出迎えた。その心はこれっぽっちも笑っていない。何せ妖精は妖精でも、夢と希望とハッピーをくれるタイプではなく、タチの悪さが輝く妖精だからだ。
「仕事の時間だ」
 その一言で妖精たちがさあっと散るように翔けていく。
 騙し討ちと罠を使うにも、使う場所の地形情報は欲しい。情報が一つ増えれば、それだけ騙し討ちと罠が光ってより面白――ゴホン。効果的になる。
 自分の目でも確認しておけば、効果はより増す筈。
 真昼は妖精たちが向かった先、遠くから聞こえた音に耳を傾け――ひらり。早速戻った妖精からの情報一号目にギザギザ歯を覗かせ、それは楽しそうに笑った。
 進軍方向へ目を向けていると、妖精がまた、ひらり。相当な数だが、避難ルートにぶつかるとしたらまだまだ後だという。つまり、安全なルートが存在するという事だ。これは是非とも教えてやらなくては。
 真昼は避難中のもとへと妖精を一匹向かわせた。そこにいた猟兵に安全ルートを伝えるよう指示する事も忘れない。そして小さな背中が遠ざかり、完全に見えなくなる。
「俺ってば親切な情報屋だなー。……まぁ、逃げ惑う姿を眺めるのも乙な物だから?」
 その見物量として、情報料はロハにしておくという事で。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
老婆と案内してくれた青年に
「ありがとう。助かったよ。」
と感謝。
(横に広がるという事は
兎に角、手を広げてそこに当る物を探すという事だろう。
なら、速度は速くはない筈。
必ず見つけて「食べる」と言う意思の表れだろうが。)

砦の人に森の歩き方や特徴のある地形や
動植物を聞き森の探索に備え。
死霊縋纏を発動。
森では歩いた痕跡を残さない様に注意し。
木々に隠れ敵に接近。
自身は潜伏しゆっくり進むが
霊は敵に近づきすぎない様に注意し
観察を重視。時に木々の合間から時に上空から
速度や方向、方向を頻繁に変えるのかや群れの範囲を観察。
余裕があれば虫の種類や特徴も見る。
(敵襲に動じない人々の強さは見せて貰った。
今度は此方の番だ。)


コノハ・ライゼ
森へ
目立たぬ格好で此方の痕跡も残さぬよう注意して進みマショ

命であれば等しく愛す――ずいぶん気が合いそうじゃナイ?
だからって手を取り合う訳にゃいかないケド
つい期待に足取りも軽くなるというモノ

【黒管】でくーちゃん達喚ンで、軍勢方角へ走らせるヨ
規模や方向等の戦力の把握、首魁の位置も探れればいいカシラ
それを元に目立たず迎撃しやすい場所、突破され易い場所を選別していくわネ

敵も斥候を放ってるかもだし遭遇には要注意ネ
事を荒立てないよう、もしもの時は潜んでやり過ごすのがイイかしら

至急、或は避難時に伝えた方がイイ情報があれば
伝達可能なお仲間に託すか
背に腹は代えられないし、銀毛の狐の姿になって走って戻り伝えマショ



「ありがとう。助かったよ」
「お役に立てて何よりです。……お気をつけて」
 見送りに門の外まで来た青年と、壁の上からこちらを見る老婆と若者。フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は二人に軽く会釈し、森へと向かった。
(「横に広がるという事は、兎に角、手を広げてそこに当る物を探すという事だろう。なら、速度は速くはない筈。必ず見つけて“食べる”と言う意思の表れだろうが」)
 軍勢と呼べるほどの規模を持つからこそ、当たり前のようにそういったやり方をしているのだろう。数を武器に捜索範囲を広げ、目当てのものを見つけて、そして――。
「……」
 フォルクは森をじっと見つめ、普通であれば見えないものを捉え始める。老婆から聞いた話――この森に生きる動植物や地形特徴といった情報が支えとなって、そこから現した霊と共に森の奥へと向かうフォルクを、探し求めるものへと導いていく。

 それから少し経った頃。獣が自らの尾で足跡を消して行くように、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はその姿を森の内に隠しながら痕跡を残さぬよう森を進んでいた。
 命であれば等しく愛する。虫の方はどうだか知らないが、辺境伯となったリリィのそれにコノハは目を細め、音もたてず笑った。
(「ずいぶん気が合いそうじゃナイ? だからって手を取り合う訳にゃいかないケド」)
 愛し、食べる。自分とリリィのそれは同じようで、近いようで。だが、違う。仲良く分け合いましょ、なんて笑いかけるつもりは毛頭ない。
 しかし等しく愛する、食べると語る女の味はどれ程のものだろう。ついつい沸いた期待でコノハの足取りも軽くなるというものだが、自分という痕跡はしっかり消し続けていて。
(「ああ、いたいた。ざあざあとまぁ賑やかだコト。……おいで、くーちゃん達」)
 虫遊びの前に観察と行きマショ。
 しゅる、しゅるる。黒い管狐たちがコノハの腕の上を走り、指先からぴょぴょんと跳躍する。森の中を駆けゆく小さな小さな黒狐たちは僅かな音もたてない。
 影そのものとなった彼らの目とコノハの目が“繋がれ”ば、コノハの視界にも、貪欲に人類砦と『ダークセイヴァー』を求む軍勢が見えた。
(「成程ねェ……確かにこれが人類砦に来ちゃったら困るワ」)
 綺麗に平らげそうな勢いではあるが、植物に一切興味を抱いていないところから、獲物以外は結果としてぞんざいに扱われそうである。つまり、虫たちは血と肉だけを食べるだけ食べて、他はそのままゴチソウサマなんて光景が生まれかねない。それは料理人としても見逃せず――と、コノハは同じように軍勢を見る者に気付いた。
(「……幽霊? あ、違うワ」)
 ユーベルコード。
 森を彷徨う亡霊の如く、音も気配もうっすらとさせた姿は軍勢とは距離を保っている。その後方、身を潜めながらゆっくり進んでいたフォルクの姿は幹の影に。フォルクはこちらに気付いたコノハと頷き合い、動きを止めた。
(「方向を頻繁に変える様子はないか。変えるとすればリリィからの指示か、獲物を見つけた時か?」)
 虫たちが作る波の範囲は広いが、存在するのは一種のみ。ならば、戦闘となった場合、多種多様なユーベルコードとぶつかる心配はないだろう。逆に、虫たちは様々なユーベルコードを浴びる事となりそうだが。
 大き目の段差を過ぎたか。一部がやたらびょんびょんと跳ねて駆けていくポイントを、コノハは遊んでるみたいネーと眺める。向こうが気付いていない今、事を荒立てずに済むならこのまま観察させてもらう方が得だった。幸い、向こうに斥候らしい斥候はいない。いるとすれば。
(「先頭の虫カシラ。……まァ、」)
 先頭の虫ほど、真っ先に地獄へ案内されそうだが。
 双眸が冷たい光を増していく中、フォルクの瞳もまた、ひとつの意思を宿していた。
(「敵襲に動じない人々の強さは見せて貰った。今度は此方の番だ」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『死肉喰らい』

POW   :    捕食行動
【集団での飛び掛り攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛み付き】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    多足歩行
【大口を開けての体当たり】による素早い一撃を放つ。また、【数本程度の足の欠損】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    死肉を喰らう
戦闘中に食べた【落ちた仲間の足や死肉】の量と質に応じて【傷を癒し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●屍愛の蟲
 森を行く虫の大群はなおも進んでいた。異形そのものである肉体の内は飢えと食欲で膨れ上がり、呼気はその熱を表すように白く浮かび上がっている。
『ッキ、イィ!』
『キシャーーァ! ギギ!』
 あちこちから湧き始めた声が足音をかき消し、木霊する。
 だいぶ来たというのに見つからない。まだ見つからない。
 食べたい。
 食べたい食べたい。食べたい。
 前に進み続ければ渇望するものが、食事が始まる。愛に溢れ生を喜ぶ時間がやって来る。
 進め。進め進め。探して見つけて飛び掛かって喰いついて、あたたかな赤が全て消えるまで腹の中へと収めたらまた次へ。皆で満たされよう。
 求めるものが生きた肉だろうと死肉であろうと、腹に入れれば同じ事。食べられれば、相手が何であろうと構わない。男も女も、雄も雌も。人も獣も鳥も虫も。命という光全てを、眩い白百合のもとで真っ赤に染めて闇の底へとかしていこう。
『キピィッ、ッギ、ギャーア!』
『キィィイイイィィーッ!』
 金切り声を響かすものの名は『死肉喰らい』。
 人類砦を、人々の肉を求め行軍する蟲型オブリビオンの群れはひたすら森を行く。背の低い茂みは葉も枝も削る勢いで過ぎ、激しく揺らして。隆起している大地や根の上は跳ねるように。自分たちが狩られる側だとはこれっぽっちも思わぬまま、溢れる本能を滾らせる――。
 
須藤・莉亜
「実際に自分の目で見るとあれだね。けっこう気持ち悪い。」
まあ、血の味見はするんだけどね。もしかしたら、美味しいかもしれないし。

敵さんらの前に出て喰喰のUCを発動し、腐蝕龍さんを召喚。んでもって、腐蝕龍さんのお腹から出て来た、子腐蝕龍ちゃん達に敵さんらと戦ってもらう。
敵さんらへの質問は、「君らはこの子らのお腹を満たせるかな?」かな。

僕は子腐蝕龍ちゃんの攻撃に合わせて、二振りの大鎌で攻撃していく。敵さんの攻撃を見切り、全力でぶった斬ることにしよう。
もちろん、吸血も狙って行く。深紅でぐるぐる巻きにして、しっかり血を味合わせてもらおうか。

「数はいるし、喉は潤せるかなぁ…。」



 暗い森の中、金を交えた紫がひらりと躍る。
 それは髪で――それは頭で――それは、死肉喰らいたちにとって“待ち望んだものが目の前に現れた奇跡”の、瞬間。
『ッギ、』
「実際に自分の目で見るとあれだね。けっこう気持ち悪い」
 大量にいる中からこぼれた鳴き声の欠片は、莉亜の淡々としたコメントの直後、合唱じみた鳴き声の塊になる。
『ッシャアアアアアア!!!』
 あれは肉だ。血の通う、鼓動ある生きた肉の登場だ。
 欲しい。一秒、いや、一瞬でも早く喰らいつきたい。
 蟲たちは狂ったように脚を動かし、頭部をぐいぐいと前へ伸ばし、肉を喰らい引きちぎるのに最適だろう牙をも前へと開く。その波は暴れ狂うように莉亜という個に迫り――しかし莉亜の薄闇を被ったような瞳は、幼虫に似た蟲の身体、皮下を満たすものだけ見ていた。
(「ああは言ったけど、まあ、血の味見はするよね」)
 色と見た目はあれだがあの蟲にも肉はある。それなら血もあるだろう。
 もしかしたら、美味しいかもしれない。
 だったら。

「君らはこの子らのお腹を満たせるかな?」

 質問を投げかけた瞬間、蟲の濁流は爆発的勢いで破壊された。耳障りな悲鳴と共に水飛沫の如き勢いで、っぼ、と吹き飛び、吹き飛んだそこへ蟲以上の食欲を孕んだものが次々に飛びかかる。
 莉亜を喰おうとしていた大口。波打つ背、腹。莉亜の眷属たる腐蝕竜の腹から孵った415もの子竜たちが、蟲という蟲をその牙で片っ端から喰らっていく。ぶちぶち引きちぎった皮膚と肉に蟲の脚が混じっていても気にしない。寧ろ食感のアクセントとばかりに、派手にバキポキと噛み砕き肉と共に咀嚼していく。
 その上を、同胞を足場に飛び越えた蟲が数匹。大口開けて莉亜に向かうが、一匹はピキギャと悲鳴を最後に子腐蝕竜に喰われ、別の蟲はまず黒い大鎌で縦に斬られ、断面をばつんっと弾けるように膨らませたそこを白の大鎌で横に一閃。
 そこから、血の風味が莉亜へと届いていく。紅い鎖も、莉亜がしっかり味わえるようにと、まだ温かい肉をぐるぐる巻いた。
 口を寄せた莉亜は新たに飛んできた一匹を躱すついでにぶった斬る。それも鎖――深紅が確保するのを見ながら、全方位から聞こえる蟲の悲鳴やら絶叫やらに「あ、」と思い出した。質問したけど蟲語はわからないんだった。
 でも、まあ。別にいいか。
「数はいるし、これで喉は潤せるかなぁ……」
 それじゃあ。
 いただきます。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
ヒトは考えることを知ったから、
感情に任せて戦うことに躊躇いを覚えてしまうようになってしまったのだよね
なので、思うまま動くことのできるあなた方を、少し眩しく思う
羨望に似たような感情を殺気に変えて敵を威嚇

このまま逃亡してくれればありがたかったのだが…私程度の殺気では本能で危険だとは思ってくれないのかな、ふふ、残念だなあ

それでは、これはどうだろう
灯火を瞬かせることで敵を誘おう
虫は光に焦がれるものだろう?
無理はよくないよ…おいで?
囮の灯火に群がる虫の退路を断つように別の灯火を配置
跡も残さず焼いてしまおう



「ヒトは考えることを知ったから、感情に任せて戦うことに躊躇いを覚えてしまうようになってしまったのだよね」
 穏やかな語り口に蟲たちの声に重なる、欲と歓喜にまみれた鳴き声。そこに決まった道でもあるように自分目掛けざあっとカーブした蟲たちの動きと、全てを喰らうような勢いに満ちた声に、セツナは元気だなあと、まるで教師のような、見守るような眼差しを向け、呟いた。
「なので、思うまま動くことのできるあなた方を、少し眩しく思う」
 欲しい。食べたい。衝動と本能に染まりきった集団に抱いたのは羨望に似た感情。
 ヒトでなければ、自分もあんな風に、思うままに動けただろうか。
 感情を紛れもない殺気に変え蟲たちに向ける。だが、止まらない。このまま逃亡してくれれば有り難かったのだが、とセツナは困ったように笑う。どうやら自分程度の殺気では、本能で危険だとは思ってくれないようだ。
「ふふ、残念だなあ」
 なんて笑う間にも蟲たちは凄まじい勢いで距離を詰め、けたたましい鳴き声と共に欲望を迸らせている。圧を増していく声が、物量が、セツナの肉体だけでなく五感全てを喰らい尽くすような勢いでなだれ込んでくる。
「それでは、」
 逃亡してくれないのならば。
「これはどうだろう」
 この灯火で。彼らを誘おう。
 微笑みと共に現した灯火が、セツナを更なる暗黒に閉ざそうとしていた蟲たちの世界に溢れ出す。ぼ、ぼ、ぼぼ、と溢れた狐火ひとつひとつが甘美な命のように宙を翔け、蟲を焼く。
 一等魅力的だろう灯火――セツナへ群がるように走る蟲の選んだ道も、狐火が退路含めて煌々と照らしながら蟲ごと焼き尽くしていった。
『ピギ、ィッ――……』
 鳴いてビタビタ跳ねていた塊が黒ずんで、ぼろり。崩れたそこを蟲たちが避けゆく様は、聖者の海割りを思わせた。しかしそこに宿っているのは『セツナ・クラルス』という血肉を求む欲望と本能だけ。
 ああ、だけど。彼らは蟲だ。蟲であるのならば。
「無理はよくないよ」
 セツナの目が細められる。
 だって虫は光に焦がれるものだ。
 だから、
「無理をして避ける事はないんだよ。……おいで?」
 光は此処に。
 微笑んだ男の導きのまま、肉を求める迷い子たちは跡も残さず灯火の内へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふえぇ、この虫さん達は食べられれば何でもいいんですね。
ということは、食を楽しむ心はないのですね。
でしたら、お菓子の魔法で動きをゆっくりにしてあげます。
さっき、厨房でお菓子もいっぱい作ったので、こちらの準備も万端ですよ。

アヒルさん、今です。
足を攻撃してしまうと少し動きが速くなってしまうから、胴体を狙って攻撃してください。



 大きな帽子の下でフリルのふわふわとした銀髪が舞うように躍り、つぶらな赤い目はひたすら困っていた。ざばあああと流れるように走っていた蟲の一部が、自分だけを狙い始めている。
 お肉はそんなにありませんよ。
 一緒のアヒルさんはアヒルさんですが、本物ではなくガジェットだから硬いですよ。
 そんな訴えは死肉喰らいに全く届かず、ギピキピキィシャアと凄まじい鳴き声と共に迫るばかり。
「ふえぇ、この虫さん達は食べられれば何でもいいんですね……!」
『クワッ!』
『ッギピィ! キイィィーーーッ!』
「ふえぇぇ、アヒルさん、虫さん達にお返事された気がします……!」
 気のせいかもしれないし、気のせいじゃないかもしれない。
 今のとんでもない高音がどちらなのかフリルにはわからなかった。わかったのは、獲物を見つけた蟲たちの声は思わず耳を押さえてしまうくらいの高音だという事と――。
(「この虫さん達には、食を楽しむ心はないのですね。でしたら」)
 ぎゅ、と手を握りしめて、世にも恐ろしい蟲の波を見る。
 フリルは無力な少女ではない。フリルも猟兵の一人だ。
 こういう時はどうすればいいか知っている。
 その為に必要なものが何かという事も――!
「あ、あの、よかったらお菓子をどうぞ」
 人類砦の人々を手伝い、厨房で“戦っていた”時に作った菓子、菓子、菓子。とにかくいっぱいの菓子をフリルが振る舞い始めた瞬間、蟲たちの速度がガクンと落ちた。
 生きた肉も死んだ肉も構わず喰らう蟲たちにとって、菓子は獲物のカウント外。フリルが読んだ通り、楽しむものではない。ゆっくりになった事で死肉喰らいという存在の特徴をしっかりと見せられ、フリルは口癖である「ふえぇ」がついつい飛び出したが。
「アヒルさん、今です。足を攻撃してしまうと少し動きが速くなってしまうから、胴体を狙って攻撃してください」
『クワワーッ!』
 どさくさに紛れ菓子を頬張っていたアヒルさんが華麗に舞い、元に戻られたら困りますとフリルは菓子をせっせと給仕する。二人のコンビネーションは甘く、鋭く、蟲たちを過去へと還し続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

護堂・結城
司狼(f02815)に同行

「ご注文の援軍お届けにあがりやした―!」

一匹たりともにがしはしねぇぞ?指定UCを発動、飛翔して【空中戦】だ
戦場の周囲を囲うように【結界術】を張り
【式神使い・属性攻撃】で燃え盛る式神符を操り【焼却・範囲攻撃】で【蹂躙】する

とびかかってくる奴には念動力で動きを鈍らせ冷気を載せた【カウンター・ブレス攻撃】

「順番にお持ちします大人しくお待ちください」
なんてな、凍り付いた敵を怪力で蹴り飛ばして砕けた破片による【弾幕・乱れ撃ち】

司狼と合流したら【怪力】使って尻尾で司狼を【運搬】
まだ敵の多いところに向けて突き進み重力を最大まで利用するぞ

「おまたせしましたお客様、死をお届けです★」


彼岸花・司狼
護堂・結城(f00944)と参加

食欲、オブリビオンに意味があるとは思えないがね

【目立たない】ように【闇に紛れ】つつ、
密度の高い位置で相手に姿を見せ、護堂と合流するために一度周囲の敵を片付けにいく
【野生の勘+見切り+残像】で避けたり
【怪力+敵を盾にする】ことでギリギリまで周囲に集らせてから、
UCによる【捨て身の一撃+カウンター+なぎ払い】で重力攻撃。
さらに【限界突破+早業+2回攻撃】で重ねて【鎧砕き】。
そのまま潰した敵から【生命力吸収】し、【継戦能力】を補う

合流後は自身は動けないので運搬任せに

食卓に上ったのなら一欠片も残さずに…全て纏めてごちそうさま、と
狼が平らげるってのは、そういうことだろう?



 響き始めた歓喜の声。そこに獲物の気配を感じたのだろう。そちらへ向かおうと大きくうねった蟲の流れ。欲と本能が渦巻くような高密度のそこに、蟲たちの望むものは現れた。
 静寂は一秒にも満たない。
 何が起きたのか。何が現れたのか。理解した瞬間、蟲たちは歓喜を爆発させた。
 その圧は人々が上げる歓声よりもずっと高く、耳障りで、不快で――だが司狼の冷静さは欠片も失われず、現れた時と同じ無表情のまま。死肉喰らいたちの動きを捉え、躱し、躱すついでに一匹の身体と脚数本を纏めてガッと掴み、自分の代わりに喰わせていく。
『ギャキィィィアアイイイアア!!』
『ィィイイイ! ピギュイィィッ!!』
 飛びかかる蟲。同胞に喰われる蟲。
 自分の手を喰わせるつもりはない為、司狼は全方位に意識を張り巡らせ――思う。
(「食欲、ね。こいつらオブリビオンに意味があるとは思えないがね」)
 それが現在に現れた過去であり、生命を滅ぼすだけの食欲であればなおの事。
 司狼は確保したままの一匹を手に立ち回る。その胸の内を知らない蟲たちは肉や脚を欠きながらもびちびち暴れる同胞か司狼、どちらかを狙い――同胞には牙を立てて自らの欲を叶え、しかし司狼はなぜかすり抜けられてしまい捕らえられずを繰り返していた。
 残像を残像とわからないほど、食欲とやらがあるのか。
 司狼は動きを止めぬまま。その瞳に、渦巻いていたそこからどばあっと溢れ跳んできた蟲を映した瞬間、全身を怪物へと変えた。
 白や銀、灰の彩を持っていた姿は冥府へ誘う扉が如き影へ。
 怪物となった司狼を中心に世界が変わる。影の怪物が光までも呑むような暗さを見せた瞬間、他者の動きでしか見えない重力というものが一気に重さを増した。
『ッギ、キィ、ピ――!?』
 見えない何かで平たく押されたように、走っていた蟲も跳んだ蟲も、司狼の傍から外へと向かう形で次々に押し潰されていく。ぶちぶちぶつつッと果実が弾けるような音が駆けた後、同じ場所でもう一度、ぶちッ。
 潰れた蟲からこぼれた生命は、彼らを冥府へ案内した怪物の中へ。
 怪物となった代償は行動不能。何も消費せず、犠牲とせず、力は得られない。だが。 
「ご注文の援軍お届けにあがりやした―!」
 既に得ていた存在は別の話。
 全てを呑み、潰す影の外。明るく飛び込んできた護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、司狼を中心とした状況を見てケラケラ笑う。自分と同じく影の外にいた蟲が各々の意志――本能で動いているが。
「一匹たりともにがしはしねぇぞ?」
 司狼の味方であるからこそ動き回れる自由、それを存分に味わいながら戦場を飛翔しバラ撒くのは式神符の群れ。蟲が跳んでいようがいまいが、進化と強化を経て舞う式神符を操る結城にとって、そこに差はない。
 じっとして動けない司狼の周りに現した炎の柱、数本。縦横無尽に地を滑るようなそれらで蟲を灰に変え、自分目掛け跳んだ蟲は念動力で“捕まえて”極寒の吐息を吹き付ける。
「順番にお持ちします大人しくお待ちください。――なんてな」
 瞬間冷凍、一丁上がり。出来たてのそれを蹴り飛ばせば無数の破片が他の蟲に降り注ぎ、ぶちぶちと貫いていく。
「さてと……!」
 結城は見目からは想像のつかない怪力宿した尻尾で司狼をぐるんと包み、笑った。
 未だ怪物の姿を取っている司狼は極悪レベルの重力を撒き散らしている。自分たちの通った後は、それはもうペッシャンコだろう。それを今、最大まで利用せずしていつするのか。
 という事で。
「おまたせしましたお客様、死をお届けです★」
 とてもいい笑顔を浮かべる結城に運ばれながら、司狼はやわらかなスポンジのように潰れていく蟲たちを眺め続ける。食卓に上ったのなら一欠片も残さずに、“全て纏めて”ごちそうさま。狼が平らげるというのは――“こういう事”だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可

事前に聞いていたとはいえ、実際に虫の大群をみるとかなり嫌悪感を抱きますね
ただ、これ相手なら容赦も加減もする必要はなし。お前達が喰らうものはなにもない、徹底的に殲滅しましょう

鎖を伸ばして『範囲攻撃』で纏めて抉りつつ、集団で飛びかかって来たところを回避してUC【地を穿つ冥闇の火】で纏めて燃やす
飛んで火に入る何とやら……ではないですが、徹底的に焼き尽くせば互いに死肉を喰らう事もできないでしょう

敵の攻撃は『オーラ防御』で近付けないようにしつつ、飛びかかって来たものは噛みつかれる前に斬り捨てる
喰らった分は『激痛耐性』『継戦能力』で耐久

虫は片付いた……そろそろ、辺境伯に出てきてもらおう



 クロスの長い髪が揺れる。それは自然による風なのか、蟲たちが巻き起こす熱量のせいか。後者の可能性が高く思える光景を前に、クロスは鎖を手繰った。
「事前に聞いていたとはいえ、実際に虫の大群をみるとかなり嫌悪感を抱きますね」
 だからこそ、死肉喰らいが相手ならば容赦も加減も必要無しと瞬時に判断出来る。
 あの蟲は滅びを齎すもの。ただただ生命を喰らい、蹂躙するものたちだ。
「お前達が喰らうものはなにもない」
 ここにも――人類砦の人々が歩く場所にも、彼らが目指す未来にも。
 故に選択したのは、徹底殲滅。
 反応した蟲たちが鳴きかけたそこをクロスは鎖で貫き、無理矢理に鳴き止ませる。一匹二匹三匹――ぶちぶちぃッと貫き、数珠繋ぎにすれば、繋がれた蟲たちがカハカハと咳に似たものを吐きながら藻掻き始めて――。
『キシャアアアァァッ!!』
『ギピイィッ! キーーイィ!!』
 他の蟲を相手にしている後ろ姿。長い髪の下に隠れている肉と血。クロスという食を求めた集団が一斉に跳んだが、それを考えていないクロスではなかった。
 蟲たちが声を上げて跳ぶ直前。死肉喰らいの数珠繋ぎを維持したまま地を蹴り、長い髪を翻して回避する。
 躍る長髪越しに見た、一瞬前まで自分がいた所へと降り注ぐ蟲の群れ。勝手に固まって来てくれた敵は、飛んで火にいる――ではないが。燃やしやすくなって実に良い。クロスは礼を言う代わりに蟲たちの足元から冥府の炎を迸らせ、逃れられぬ呪いと共に蟲だけを焼き尽くす。
「これなら死肉を喰らう事もできないでしょう?」
 さあ。どうしますか。
 静かな言葉にはこの場を支配している勝者故の強さがあった。
 本能のままに肉を求める蟲たちは、それを感じていただろう。
 しかしそれ以上の、目の前にいる生きた肉への欲が、渇望が、蟲たちを動かした。何としても欲しい、何としても食べたい。喰い尽くしたい。そこにいるのだ。あるのだ。枯れそうな程に欲したモノが。
『ギシシャアッ!!』
「……、」
 猫がやるように身体を振って飛びかかってきた一匹を、何かが阻んだ。それに牙を立て脚を引っ掛けた蟲をクロスは無言で斬り捨てる。それまで数秒。両断された蟲は、見えなかった何かがクロスの纏う防護だと解らぬまま絶命して――。
(「ここの虫はあと数分で片付くか……」)
 クロスは蟲たちを屠り続けながら、その向こうに控える輝きを思う。
 辺境伯に出てきてもらうまで、そう時間はかかるまい。

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
猟兵さん達からの情報を元に虫達の元へ向かう【ダッシュ】
子供達、可愛かったなぁ…。みんなも、未来を信じて戦ってた
…だから私は守りたいんだ
この闇に覆われた世界の、希望になる人達だから

虫を見つけ立ち止る
すごい…地面が動いてるみたい…
でも、100匹でも1000匹でも関係ありません
『with』と共にある限り、私は最強だから

大剣を抱きしめ、UC発動
…全部、灰にしてあげます

緋色の翼を広げ、周囲を灼熱で包み込む
希望を求める想いの込められた焔は
絶望を尽く焼き尽くす【焼却】
…食べられるなら、食べていいよ
私に、近付けたらね

砦には1匹だって行かせない
あなた達の空腹が満たされることは
もう二度とありませんよ



『おねえちゃん、またね~!』
『つぎはかくれんぼだよ、かくれんぼしようね!』
 小さな手をめいっぱい振って笑顔で見送ってくれた子供たち。
 withと共に森を駆ける結希は、可愛かったなぁ、と、小さなぬくもりを噛み締めた。
(「みんなも、未来を信じて戦ってた……だから私は守りたいんだ」)
 あの子供たちはいつかの未来で、この闇に覆われた世界の希望になる。その未来が訪れるまでの間も、無邪気に輝く子供たちは、結希がぬくもりを覚えたように誰かの支えになっている筈だ。
(「……あ、見つけた! さすが、情報通り!」)
 最短ルートを選んで駆けた結希の目指す先、そこを行く蟲の大群はふたつのダークセイヴァーにかかる希望を喰い尽くさんとしていた邪悪なもの。その一部とはいえ、蟲たちは地面が動いているかのような迫力を結希に見せていた。
「すごい……」
 結希の足は止まっていたが、手は愛おしいwithをしっかりと握り、双眸には次なる戦いへの意志がきらきらと宿っている。人類砦で子供たちを守った。今度は、彼ら『ダークセイヴァー』を守る為の戦いへ身を投じるだけ。
「100匹でも1000匹でも関係ない……『with』と共にある限り、私は最強だから!」
 大好きな一振りが此処にいる。共に在る。
 結希の輝くような意志に気付いた蟲たちが喜び狂うような声を響かせ、ざああああと地面を駆た。結希とwithのいる元へと流れ込もうとする流れは、どこまでも貪欲な濁流めいていて。邪悪ともいえる流れを真っ直ぐ見据えたままwithを抱き締めた結希の背に、眩い緋色が現れた。
「……全部、灰にしてあげます」
 いつか大きな希望になる小さな輝き。
 彼らを蹂躙する絶望なんて、要らない。
 背中に現した緋色の翼が暗い森を――結希の心を、何もかもをその輝きで照らしていった。広がる灼熱は希望求める想いを強く強く宿し、絶望の先駆けとなる蟲たちを紅蓮に輝かせ始める。
『ッギ、イ――ッカ……!』
「……食べられるなら、食べていいよ。私に、近付けたらね」
 焔の輝きを浴びて、その色に染まる結希に蟲が顔を向ける。だがその輪郭はあっという間に黒くなり、業火の中で崩れ落ちた。細い脚は一瞬で。肉厚な身体は、僅か数秒で。結希の焔は蟲だけを呑み、焼き尽くす、絶望絶ちの焔となっていた。
 砦には一匹だって行かせない。
 唇からこぼれた言葉は、焔でも消せない、確かな音。
「あなた達の空腹が満たされることは、もう二度とありませんよ」
 全部全部、焼き尽くす。
 塵は塵に。
 灰は灰に。
 過去は、過去へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……賢い君、賢い君、来たゾ。来た来た。
いーっぱい来たなァ……。
薬指の傷を噛み切って、君に食事を与えよう。

おびき寄せで纏めておびき寄せておく。
今回は一気にガオー!って出来ないカラなァ……。
纏めておびき寄せたら後は少しずつ少しずつ。
あーんなに一杯を相手にするより、こうやって分けた方が楽になるなる。
たぶんネェ。

賢い君、賢い君、アイツらの足を狙おう。
いーっぱいある足。
そうやって足止めをしようしよう。

辺りに障害物があればそこにコイツラを叩きつけようそうしよう。
後は君の毒。
アァ、君の毒は情熱的だろう?

ふらふらくらくらする毒なのサ。
惚れた?惚れた?
うんうん。わかるわかる。
でもダメダメ、バーツ
コレと遊ぼう



 森の中に響く歓喜や絶命の声。遠いそれはただの音として流していたエンジの耳に、自分の方へ向かってくる音の塊が聞こえ始める。
「アァ……」
 暗い森でも鮮やかな赤色が、ゆっくりと細められた満月色の瞳にきら、と映った。
「賢い君、賢い君、来たゾ。来た来た。いーっぱい来たなァ……」
 無数の足音。鳴き声。たくさんの蟲が、うねる根の向こうから、木々の間から、茂みの後ろから。ぞろぞろぞろぞろ、ぞろぞろぞろぞろ。それは満杯になって溢れた水のように、しかし内に孕むのは底無しの本能と欲望で――そこに、エンジという個の姿が火を付ける。
『チギイイィィッ!』
『ピキャァアーーアッ!』
 どうっとスピード増した蟲の濁流が大蛇めいた動きで流れこむように跳ねて突っ込んだ。飛びついて喰らうという感情だけで満たされた一撃目。しかしそれは素早い狼と彼の赤色を捕らえられずに終わる。
「行こう、行こう。賢い君」
 ひら、り。宙を舞ってすとんっと降りたエンジは、左手薬指に寄せていた口を笑みと共に離して地を蹴った。
 地面に激突して蟲の小山を作った一部の上を他の蟲たちは全く気遣う事無く踏みつけて、その蠢き駆ける列へ小山になっていた蟲たちも無理矢理に混じり、血肉を求めてエンジを追い回し始めた。途切れない足音と鳴き声に、振り返ったエンジはにぃっこりと笑う。
「来た来た、いーっぱい来た」
 振り返った一瞬で距離を縮めようと脚を早めた蟲たちの周りに、賢い君でひゅんと円を描き――とんっ。蟲たちの追走を躱しながら跳んで赤い輪がきゅっと絞まれば、サヨウナラ。
(「ホントは一気にガオー!ってしたいンダけどなァ」)
 今回は、ある程度の数を纏めて誘き寄せては少しずつ。たぶんこうやれば楽になるなる。その予想が“その通り”という結果を順調に増やす中、エンジはひとつ思いつき賢い君と内緒話。ウンウン頷き笑った瞳が蟲の脚を見る。足止めするなら、いーっぱいあるあの脚を。
 鞭のようにしなった賢い君が枝のような脚をぐるりと捕まえれば、蟲ブーケの出来上がり。笑ったエンジの手がぐんと上がった瞬間、蟲ブーケもぎゃんっと宙を舞って他の蟲に激突した後に岩へと叩き付けられジャムの成り損ないへ。最後の仕上げは、
「どうダ、どうダ? 賢い君の毒は情熱的だろう?」
 骨の内、体中の血管から燃えるように。ふらふらくらくらと来る刺激にドキドキして惚れてしまいそう? その心地をエンジはよく知っているけれど。
「でもダメダメ」
 バーツ。両手の人差し指をちょいちょい、と重ねて笑う。賢い君はコレのもの。どんなに心臓が熱くなってもあげられない。
「だから、コレと遊ぼう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
黒江さん/f04949
好き嫌いをせず何でも食べる。よし。
出されたものは残さず食べる。こちらもよし。
食べ方が汚い。奴らが今日殺される理由はこれです。

時に黒江さん。虫を食べたことはありますか?
それは結構。人間の食べるもんじゃありません。
次もつかえていますから、時短調理で行きましょう。下拵えは済んでいます。
【紙技・文捕】。
進行方向に紙垂を張っておきました。地面と紙面を水平に。硬質化させて糸鋸にします。
野菜の方から走って来てくれるピーラー、とも言えますね。

脚、半端に残すとまだ走れるらしいじゃないですか。
最初っから全部削いどけばいいんじゃないかと思いまして。

このくらいじゃ死にませんよ。
あとはお好きに。


黒江・イサカ
夕立/f14904と

虫?どうかな、食べたことくらいはあると思うけど
特別食わなくてもいいかな
ましてやあんなデカいのは食べるの、苦労しそうだしね

まあ、なんということでしょう!
お仕事熱心な匠のおかげで、短い時間でこんなにもエグい罠が!
…ちゃんと作業してて偉かったもんね、夕立
こんなん虫じゃなくても細切れだろうなあ
お人形さん落とさないようにしなきゃ

しかし、これで充分そうだけどね
生きてたらちゃんと僕が殺してあげよ
ずっと痛かったら可哀想だし
死線が――― ほおら、すぐ傍にある
たくさんあって綺麗だね これを越えたら彼ら、死んじゃうんだ
…【救世】さ ひとり残らず、っていうやつで



 死肉喰らい。
 あれは好き嫌いをせず何でも食べる。よし。
 あれは出されたものは残さず食べる。こちらもよし。
 ただし夕立の胸は“奴らは今日殺す”で決まっていた。これは何が起きても覆らない。天地が引っくり返ろうとも、死肉喰らいたちはとある理由で殺す。なぜなら。
『食べ方が汚い』
 理由として語るものはその一言で十分。どうしてそこなのか、など、わざわざ言うに値しない。なぜならそれは時間の無駄しか生まず、一銭にもならないからだ。
「時に黒江さん。虫を食べたことはありますか?」
「虫? どうかな、食べたことくらいはあると思うけど。特別食わなくてもいいかな」
 ましてやあんなデカいのはね。口に緩やかな笑みを浮かべたイサカの視線は遥か下、地上を行く蟲たちに向けられていた。
 今いるのは地上ではなく、太く逞しい枝の上だ。二人は当たり前のように、周りがよく見えるそこを雑居ビルの空虚な一室かどこかの如く使っている。
「食べるの、苦労しそうだし」
 どうぞと勧められても俺はいいよと押し返すだろうイサカの返答に、夕立はぞぞぞと地上を行く蟲を見つめたまま。レンズの奥にある双眸は、蟲の先頭と――その先にある空間を捉えている。
「それは結構。人間の食べるもんじゃありません」
 しかも次がつかえるほど居るときた。そんな蟲たちを恙無く殺すには時短調理が最適である。下拵えなら、とっくのとうに済んでいる。ちょうど今、先頭の蟲が突っ込んだ所に――。

 す ぱっ 。

「まあ、なんということでしょう! お仕事熱心な匠のおかげで、短い時間でこんなにもエグい罠が!」
 わぁー、パチパチパチー。イサカは笑みに拍手も添え――いや本当にエグいねと目を細めた。地面と水平に仕込まれ、更に硬質化も施されてと糸鋸になっていた『紙垂』により、元気に進んでいた蟲という蟲が綺麗に斬られていくのが見える。
(「……ちゃんと作業してて偉かったもんね、夕立。こんなん虫じゃなくても細切れだろうなあ。お人形さん落とさないようにしなきゃ」)
 慌てて止まろうとした蟲も脇に逸れて行こうとした蟲も、次から次へと罠に引っかかって無惨な姿へ大変身。可愛いお人形があれにかかれば、ふわふわの中身が飛び出してしまうだろう。
 エグい罠を仕込んだ本日の匠・夕立はというと、仕掛けておいたものを『野菜の方から走って来てくれるピーラー』と表現した。
「脚、半端に残すとまだ走れるらしいじゃないですか。最初っから全部削いどけばいいんじゃないかと思いまして」
「なるほど。しかし、これで充分そうだけどね」
「このくらいじゃ死にませんよ。あとはお好きにどうぞ」
 匠とやらの仕事はここまでなので。静かな声にイサカは笑んで「わかった」とだけ言い――お人形さんは、と、ちゃんと懐にしまったのを確認してから一歩、枝の外へ。とっ、と大地の上に降りてすぐ手元でパチンと刃を咲かせたイサカの目に映るのは、細切れになってもまだ生きていた蟲たちの姿。
「一回で死ねなかったんだね」
 ずっと痛いのは可哀想だ。まずは足元に転がっている蟲たちを見つめれば死線が――ほおら、すぐ傍に。そこに、在る。
「ああ。たくさんあって綺麗だね」
 きらきら輝くこれを越えたら、死んじゃうんだ。
 視線で。刃で。境界をなぞって、男は笑む。
「……救世さ」
 連れて行ってあげよう。
 ひとり残らず、平等に。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…大軍が展開できない森の中は少数の方に利があるのだけど…
それは相手が人間だった場合の理屈だったわね

…とはいえ、私の為すべき事に変わりはない
ここから先には行かせないわ

第六感が殺気や危険を捉えたら離脱するよう心掛け、
"隠れ身の呪詛"を維持して存在感を消して闇に紛れ、
怪力の踏み込みから残像が生じる早業で切り込み先制攻撃のUCを発動

…数で圧倒しようとしても無駄よ
私には通じないと証明してあげる

吸血鬼化して限界突破した魔力を溜めた大鎌をなぎ払い、
真紅のオーラで防御を無視して敵陣の生命力を吸収する闇属性攻撃を放つ

…生命を喰らうのは何もお前達だけの特権じゃない
幾らでもかかって来るが良い。全て私の糧にしてあげる



(「……大軍が展開できない森の中は少数の方に利があるのだけど……」)
 走るリーヴァルディの頭の中は冷静そのものだった。だからこそ自分の考えに溜息をつく。今のは相手が思考し行動する生き物――人間だった場合の理屈だ。本能と欲で動くオブリビオン、それも多数の脚を生やした蟲は、戦場が森の中であろうと何だろうと大軍を構成し、動き回る。
(「……とはいえ、私の為すべき事に変わりはない」)
 ふいに背筋を襲ったのは、無遠慮に伸びて掴もうとしてくる無数の手ような。そんな嫌な気配に、リーヴァルディは力強く地面を蹴り、大きく前へ跳ぶ。直後に聞こえた音は『ギチャアッ』という虫の声と、地面にぶつかってもすぐに流れを生み出す不快なガサカサ音。
 走る娘の後ろ姿を求める蟲たちは逃したばかりの後ろ姿を見失い、戸惑いと怒りの声を響かせた。今ここにいた。すぐそこにいた。なぜだ。どうして。空腹と怒りを曝け出すような声が、存在感までもを闇に紛れさせたリーヴァルディの鼓膜を震わせる。
(「ここから先には行かせないわ」)
 ケダモノのような自由奔放な振る舞い。声。
 それを、血色の波動で一気に薙ぎ払う。
『ッギ――……!』
 決して小さくはない蟲たちが、地面の内側から巨大なハンマーで殴りつけられたような勢いで身体ごと派手に吹き飛んだ。その衝撃の発生地点、僅か一歩の踏み込みから自身の姿を揺らがせ、大鎌による一撃見舞ったリーヴァルディの髪がふんわりと揺れる。
「……数で圧倒しようとしても無駄よ。私には通じない」
 その証明は、今やってみせたが。
『ッキギィィィィ!!』
「……そう」
 信じないのなら。無視して向かってくるのなら。理解出来ないのなら。
「何度だろうと、証明してあげるわ」
 自分の為すべき事に変わりがないように、蟲たちが理解してもしなくても結果は同じ。
 身に宿る魔力は大鎌へと注ぎ込んだ後。
「……生命を喰らうのは何もお前達だけの特権じゃない」
 刃の先端まで溜め込んだ魔力に生命奪う牙を宿して一閃すれば、爆ぜるように翔けた闇色の一撃が蟲たちを斬り裂きながらリーヴァルディを満たしていく。
「幾らでもかかって来るが良い。全て私の糧にしてあげる」
 お前たちが得るものは何もない。
 そう宣告し、一閃。
 一撃が過ぎたそこに、蟲の悲鳴と断片が降り注ぐ。

成功 🔵​🔵​🔴​

日下部・舞
敵の数は圧倒的だから
そして私は彼らを一気に屠る術を持ち合わせていない

「囲まれたら終わりね」

だから私は止まらない
その上で夜帷を振るい虫たちを斬る
倒す必要はない

「闇は闇に」

【暗黒】を発動
与えた刻印が彼らを蝕み葬り去る
飛び掛かる群れは【怪力】で強引に引き剥がし打ち捨てる

幸い耐久性と持久力に不安はない
暗黒の有効範囲を保ちつつ回避行動
味方とも連携、必要なら庇ったり囮になる

「ここは任せて」

負傷、身体欠損なども気にしない
任務の達成が最優先事項だから

「彼らを食べさせたりしない」

人類砦にいた人たちを守ること
敵を屠るのはその手段
戦闘を継続しながら甘い匂いが漂い始めたことに気づく

「純白のリリィ、あなたが来るのね」



「囲まれたら終わりね」
 圧倒的数を誇る蟲に対し、自分は蟲たちを一気に屠る術を持ち合わせていない。
 それを理解しているこそ舞の言葉には落ち着きがあり、その足は止まる事なく走り続けていた。目はぽきりと折れたまま置いて行かれた脚――同胞のものを喰らった蟲を捉えており、大きく跳躍してきたその一匹を片刃の長剣『夜帷』で斬る。
(「倒す必要はない。攻撃して、刻めばいい」)
 刃を滑らせたのは脇腹――蟲の脇腹がどこからどこまでか不明だが、動くのに支障が出るだろう切り傷を刻みつけ、駆け抜けた。更に向かってきたグループは思い切り肉を掴み、強引に引き剥がして打ち捨てて。
「闇は闇に」
 呟いた瞬間、先程斬ったばかりの蟲が悲鳴を上げてのたうち回る。
 それを案じる蟲は一匹もおらず、通行の邪魔だといわんばかりに避けられるだけ。
 仲間意識の薄さは、その蟲が絶命した瞬間に他の蟲によって踏みつけられ完全に見えなくなるという、死肉喰らいの間ではおそらく異常でも何でもない光景によって示された。
 それを、舞は淡々と見つめながら駆け続ける。こちらを案じる猟兵の視線を視界に捉えれば、「大丈夫よ。ここは任せて」と冷静に返した。幸いな事に、自分はサイボーグだ。耐久性と持久力に不安を覚える事はなく、負傷や身体欠損も気にならない。
(「欠けたならパーツで補える。それに」)
 最優先事項は任務の達成。
 人類砦の人々を守る事。
「彼らを食べさせたりしない」
 死肉喰らいを、敵を屠るのはその手段だ。彼らを蹂躙するだろう存在を絶やせば、それは彼らを守る事に――彼らの未来へと繋がっていく。全体数も不明な敵ひとつずつ――全てから、人類砦の生存という未来へのルートが伸びている。
 可能性を絶やし、塗り潰す可能性そのものである蟲に舞は揮う夜帷から死の刻印を付与し続けた。刻みつけたそばから闇が蟲の生命を蝕み、シギァと悲鳴を最期にして躯となる。
 蟲たちの中で舞が躍るたびに躯は積み上がって――ふ、と鼻に届いた甘い匂いに、舞は静かに瞬きをした。ギキュイと声を張り上げ跳んできた一匹に刃を突き立て引き抜いて。匂いの向こうへと意識を向ける。
「純白のリリィ、あなたが来るのね」
 かの白色は見えない。
 しかし、漂う甘い薫りが近付きつつあるのだと。そう、教えてくれる。

成功 🔵​🔵​🔴​

アン・カルド
脚ほっそ。
…人のこと言えないけど。
あの脚だと撒菱はちょっと驚かせたぐらいで終わりそうだ、道中に毒でも撒いたほうが良かったか。

まぁ…過ぎたことは気にしても仕方がない、次に何をするか決めよう。
ええと虫、虫、虫…ああ、これがいい。
【ライブラの愉快話・子猫】。

野良猫がバリバリと虫を食べるのを見たことがあってね、変わった物が好きなんだと随分驚いたものだ。
そうだ、虫ついでに下半身は蜘蛛がいい。
森の中なら糸が大層役に立つだろう、幾匹か絡め捕り昔の様にバリバリと食べてくれ…それこそ死体も残さない様に、あれは同族も食べるみたいだからね。

しかし、まぁ、あれだ、子猫がついてるというだけで蜘蛛も随分と可愛くなるね。



 大量の蟲が成す波を視認したアンの『死肉喰らい』に対する第一印象は、見た目の良し悪しではなく形そのものに対する一言――脚ほっそ、だった。
「……人のこと言えないけど」
 言ってから自分の足の細さを思い出し、はは、と笑ってその足で駆ける。
 それにしても細い。蟲の脚はどれも小枝のように恐ろしく細い。だというのにしっかり走って追いかけてきているあたり、見た目より丈夫なのかもしれないが。
(「あの脚だと撒菱はちょっと驚かせたぐらいで終わっていそうだ、道中に毒でも撒いた方が良かったか……」)
 あの細過ぎる脚が撒菱を踏む確率はゼロではない筈だけれど。運がいいのか悪いのかザックリと踏みつけ悶絶した蟲が――もしかしたら、居たかもしれないが。
(「まぁ……過ぎた事は気にしても仕方がない」)
 次に何をするか決めなくては。向こうは見ての通り、だけでなく聞こえている通りのんびり待ってくれないタイプだ。アンに飛びついて肉を食べようと必死に、そして大喜びで追いかけてきている。
「ええと虫、虫、虫……」
 アンは人類砦でやったように再び魔導書のページを捲り――ぴた。
「ああ、これがいい」
 それはライブラの愉快話・子猫。
 ある日の話だ。アンは野良猫が虫をバリバリ食べる場面に出くわした。変わった物が好きなんだと、その時は随分驚いたのを覚えていて――。
「そうだ、虫ついでに下半身は蜘蛛がいい」
 閃きと共にスタッと着地したのはふかふかの肉球を持つ前脚と、蜘蛛脚で出来た後ろ脚。蜘蛛の下半身を持つ子猫たちは無数の蟲を見て、瞳孔をきゅうっと丸くした。それぞれの欲と本能を鳴き声にのせる蟲目掛け、風のように飛んで襲いかかっていく。愛らしい子猫であっても喉から飛び出すのは狩人の唸り声だ。
 鋭く飛びながら爪で斬り裂き、蜘蛛の下半身からは糸を放って蟲を数匹纏めて捕らえる。猫の前脚と蜘蛛の脚でがっしりと捕まえたら迷わず牙を立てて。
「ああ、昔見た様な光景だ……そのままバリバリと食べてくれ……」
 蟲の皮膚と肉を纏めて噛みちぎる食べ方に、アンは目を輝かせた。更に言うと、同族までも食べるというから、死体も残さないよう綺麗に食べてほしい。
 アンのリクエストへ答えるように、子猫たちの食事風景は元気に広がっていく。
 しかし、まぁ、あれだ。
「子猫がついてるというだけで蜘蛛も随分と可愛くなるね」
 薄暗い森。喰われていく無数の蟲。それがこんなにも――なんて。

成功 🔵​🔵​🔴​

陽向・理玖
…きも
約束したんだ
守るって
お前らにやるもんは何もねぇ!
覚悟決め

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らしダッシュで間合い詰めUC起動しグラップル
足払いでなぎ払いつつ
部位破壊で蟲の足折る
動き止めて確実に倒す
まず一匹…!

でけぇ口開けやがって
弱ぇとこがら空きなんだよ!
口を開けての体当たりは見切りカウンター
口の中狙って殴る
一撃で倒せない場合は拳の乱れ撃ち
身軽になんてさせるか
一気に倒す

倒せば倒すほど動きも分かるし
弱いとこも分かる
足は全部折りゃ動けねぇだろ
何匹かまとまって飛びかかってくんなら
衝撃波で吹き飛ばし
他の奴にぶつけ
弱った所に蹴り入れ倒す

しかし
マジきもい
リリィって奴の愛も知れてるわ



 出遭っての第一声は「きも」。
 一目見て湧き上がったのは、約束を交わした子供たちへの想い。
『ギシシシシッ!』
『ピギャッ、キャアオーォオ!』
「うるせぇ! お前らにやるもんは何もねぇ!」
 守ると約束した子供たち。大人。そして自分。何もかも。理玖は弾いて握り締めた竜珠に覚悟も籠め、ドライバーへ叩き込むようにセットし、一言。
「変身ッ!」
 吼えるように響かせた言葉と共に生じた力の波が、大口を開き跳んで来た数匹を纏めて吹き飛ばす。抵抗も出来ず撒き散らされた蟲が空中をぐるんぐるんと舞う一瞬の間、理玖は距離を詰め捉えた一匹へと暴風じみた足払いを食らわせた。
『ギ――、』
 生えていた脚全てをその一撃で折り、今度は引っくり返った腹に拳を。ぶちんっと裂けた皮膚の下、ぶるぶるとした肉を無数の破片に変えれば、蟲はよくわからない汁を垂らしながら確実な死を迎えていて。
「まず一匹……!」
 二匹目は。
『ギキキキッ!!』
「でけぇ口開けやがって……弱ぇとこがら空きなんだよ!」
 鋭い牙がどうした。その奥に広がる口内には肉の壁だけで、何もない。
 理玖はばちんっと口が閉じられるより速く拳を叩き込んだ。蟲の背肉がボッと弾け飛んで穴が開く。次の蟲は跳んだ所を両足で挟み、捻りを加え地面に叩きつけてブチィッと真っ二つ。
 脚を数本。またはそれ以外の肉体の欠損。蟲たちが身軽になる暇は一切与えられない。一撃叩き込むたび、倒せば倒すほど、理玖には死肉喰らいたちの動きが、弱点が、情報として流れ込んでくる。それは約束と覚悟に続く、理玖の戦う力へと変わっていく。
「随分と生やしてんじゃねぇか……けどよ! 全部折りゃ動けねぇだろ!」
『キギャアッ!? チギイィッ!?』
 折って転がした一匹の腹に足技で大きな穴を開けて。一斉に飛びかかってきた蟲は纏めて吹き飛ばして、他の蟲にぶつけるというサービス付き。
 衝撃波の次は同胞との激突。立て続けに見舞われた衝撃で弱っている蟲に蹴りでトドメをしっかり刺せば、ぶちりぐちゃりと肉が弾け、謎汁が思い切り足にかかった。
「うわ」
 ばっばっと足を振って謎汁を払う。
 蟲たちを容赦なく倒していく中で積み重なるのは、蟲の情報だけでなく外見への慣れ。しかし、それでも嫌悪感は消えない。理玖はそこにリリィが語る愛とやらを見て――次の蟲の土手っ腹に拳を叩き込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「おぞましいあの姿。
見た目は違っても
己が主の性質を表わしている。と言ったところか。」

更に敵の性質を見極めるために
距離を取りながら敵の密集地帯を狙って
デモニックロッドの闇の魔弾で【範囲攻撃】。
死肉を喰らう姿を確認したら。
「なるほど。同族であっても関係ないか。
なら、存分に喰らうと良いさ。」
真羅天掌を発動。
毒属性の霧を発生させ。
自分の姿を隠すと共に毒で敵を蝕む。
【毒使い】により毒の効果をやや弱めのマヒ毒に調整、
更に対象が死んでも効果が残り死肉を喰らったものに
蓄積する様にする。

毒で弱った敵は闇の魔弾で攻撃し仕留め。
その死肉を喰らったものも弱らせて
連鎖的に敵を倒し。
霧の範囲に入った敵は確実に倒す。



「おぞましいあの姿。見た目は違っても、己が主の性質を表わしている。と言ったところか」
 そう呟いたフォルクの瞳はフードで隠れ、表情は伺えない。
 だが、瞳には死肉喰らいたちの姿が映っていた。
 ひだ上の皮膚。獲物を見つければ前へ向けて大きく広がる牙。身体を高い位置に保つ細長い脚は何本も生えている。その脚が絡まりもつれる様子はない。全ての脚が機関車のパーツのように激しく動き、前へ、前へ。
 蟲たちを突き動かすのは“食べたい”という欲求、死肉喰らいという種としての本能。その向こうにあるだろう敵の性質を更に見極めようと、フォルクは自分を追う蟲たちとの間に一定の距離を保ったまま森の中を駆け抜け――。
「では、見せてもらおう」
 とんっと地面に片足をついたそこでくるっと振り返る。その僅かな間でデモニックロッドから放つは闇の魔弾。数は無数。
 突如降り注いだ闇の力、その範囲内を駆けていた蟲たちは成す術なく呑まれた。悲鳴を上げ、衝撃で身体に穴を開け、跳ね、ちぎれていく。それは――範囲外を駆けていた蟲たちにとって“目の前に現れた新鮮な死肉”だった。
『ギキャーーッ!』
『シギキャキャァアッ!』
 蟲たちが歓喜の声を上げ、同胞だったものへと身を躍らせる。脚で押さえ、牙を立て、引きちぎって――フォルクよりも手近な、今すぐ喰らえる死肉を奪い合う。
「なるほど。同族であっても関係ないか。なら、存分に喰らうと良いさ」
 狂うように死肉を求めるそこへ、フォルクはささやかな演出を添えた。
 始めに現れたのは視界を煙らせる霧だった。木々の、地面の、他の蟲の輪郭を朧気にしたそれはフォルクの姿をとかし、呑み込んで――じくり。じわり。蟲たちの覆うもののない皮膚や開けたままの口内から、体内へと入り込む。
『……ギギ? キイッ!』
 ガツガツと死肉を食べる蟲の意識が喰らう事から他のものに向いた。だが、目の前で濡れた表面を見せる死肉で頭はすぐいっぱいになり――身体の自由が効かなくなっていると気付いた時には、目の前に死が迫っていた。
 食べかけの肉片を口からこぼし倒れた一匹に周りの蟲が群がり、喰らう。動きの鈍った蟲には霧の向こうから現れた魔弾が止めを刺し、死んだ蟲を別の虫が喰らう。
 倒れ、喰って、倒され、喰われて――ぐるぐると繰り返されるそれは、霧の舞台で行われる死の宴。生きた蟲も死んだ蟲も皆、仲良く腹に麻痺毒を溜め込んで――やがて、静かになる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
まぁ、ガサガサゴソゴソキィキィと
耳障りったらありゃしない
その愛(よくぼう)を満たす為ならなんでもいい
節操ナシのあなた達
えぇ、それでも人食いは、メアリが必ず殺すから

そんなにお腹がすいているのなら
ほら、アリスを食べてごらんなさい?
そう【誘惑】して惹き付けながら
【凍てつく牙】の高速移動と【逃げ足】で立ち回り
【ジャンプ】【足場習熟】で数いる敵を【踏みつけ】ながら跳び回り
落下の勢いを乗せた包丁の【重量攻撃】で叩き割る
狙いはもちろん中央の胴体狙いで確実に【部位破壊】

それでも齧りつかれそうになったなら
魔氷で【咄嗟の一撃】氷漬け

温かい息を吐くのなら、温かい血も流すのかしら
ねぇ、その血でメアリを温めてくれる?



 “見つかってしまった”から。だから逃げていたメアリーなのだけれど、今は自分を追い続ける蟲たちにつまらなそうな表情を見せていた。
「まぁ、ガサガサゴソゴソキィキィと。耳障りったらありゃしない」
 丁度頭の高さで大きくうねり伸びていた根の下を、滑るように通過する。
 自らの愛(よくぼう)を満たす為なら相手が辟易し始めていてもお構いなし。足音と鳴き声をやかましく広げて追い回す――まさに節操なしの蟲たち。
(「えぇ、それでも人食いは、メアリが必ず殺すから」)
 今日。ここで。この森で。
 メアリーはくすっと笑むと、兎のようにたぁんと跳ねて振り返る。
「そんなにお腹がすいているのなら、ほら、アリスを食べてごらんなさい?」
 動きに合わせて躍る三編み。こっちよと手招く指先と細められる赤い瞳。薄暗い森の中であっても、そこから浮き上がるような色が、存在感が蟲たちの本能を刺激する。
『キギイイィィィイイッ!!』
「ふふ、そう、そうよ。――でも、駄目だわ」
 そんな簡単に食べられてあげない。
 ざざあと飛び込んできた蟲たちよりずっと速く跳んで、駆けて。真冬の夜、全てがきいんと凍てつくような冷気を纏いながら、諦めず突っ込んできた蟲の列を順番に踏みつけ、どんどんどんどん、高く登っていく。
 ダンスというにはあまりにも速く、追いかけっこというにはあまりにも命がけ。しかしメアリーは薄らと微笑んだまま、たん、たたんと跳んで――。
「最初に殺すのはあなたにするわ」
 蟲の遥か頭上。包丁の柄を両手で握り、落ちていく勢いに全てをのせて刃を叩きつける。ぶづっっ、と激しい手応えの直後、ひだ状の皮膚の下からやわらかな肉が弾け跳ぶように現れた。
 胴体中央から真っ二つになった蟲、出来たての死肉の傍からメアリーは軽やかに跳躍する。空中から捉えた一匹、自分に齧りつこうとしていた蟲がバチンッと口を閉じたそこをなぞるように薙ぐ。瞬間、刃から迸った魔氷が蟲を氷の内に閉じ込めた。
『キィキィッ、ギギャーーッ!』
 同じ蟲だった死肉。メアリー。それぞれへと駆ける蟲の口はがばりと開かれ、そこから立ち上る呼気はよく見えた。あれだけ見えるのなら――。
(「温かい血も、流すのかしら」)
 メアリーの口からこぼれた吐息が、ふわりと白く染まってとけていく。
 ああ、冷たい。寒い。
「ねぇ、その血でメアリを温めてくれる?」
 肉を断ったばかりの刃が、音もなく閃いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
随分煩い虫だね
そんなに喜ばれても何にも食べさせてあげられないよ
害虫ならきちんと駆除しておかなくちゃね

飛びかかって来られても対応しやすいように
軍勢に近寄り過ぎないよう距離を確認しながら『影雨』で一掃
数には数をぶつけてやる

それでも向かってくる虫には
手持ちのナイフで対応
見切って、避けて、斬り捨てて
影雨を至近距離で改めて展開
自分の前に壁となるよう降らせれば
攻撃と防御を兼ねつつ距離を取り直し
安全な立ち回りが出来る位置を確保しながら削っていく

こんなにうじゃうじゃ押し寄せられたら
一般人ならひとたまりもないだろうけど
辺境伯とやらは虫の食べ残しでも良いのかな
今回は食べ残しじゃないから喜ばせちゃうかもしれないね



 あっちから。こっちから。蟲という蟲の声がする。
 蟲語など由紀は全く知らないが、興奮しているのは何となく解った。――その声が自分の近くでもギイギィキギイィと激しく響いているものだから、吐く息はいつも以上に気怠げなものになる。
「随分煩い虫だね。そんなに喜ばれても何にも食べさせてあげられないよ」
 露わになっている左目が、向かってくる死肉喰らいの一団を見てかすかに顰められた。
 何匹いるかもわからない。あんな数で押し寄せてきて、しかもこっちの肉を食べる気でいる。それはもう立派な害虫だ。――だったら。
「きちんと駆除しておかなくちゃね」
 由紀は走りながら掌に持ったナイフを軽く振る。パチンと刃を現しながら捉えるのは蟲たちとの距離。これ以上はちょっと嫌だな、という感覚に従って距離を保つよう速度を変えた瞬間、蟲たちが金切り声を上げ飛びかかってきた。
「うわ」
 数が凄い。きもちわるさも凄い。
 そんな思いがセットになった声だけをこぼした由紀の、ナイフ持つ手がひゅんと蟲たちを示した瞬間。ざ、と現れたダガーの群れが一斉に翔けた。夥しい数の刃は数の暴力を揮いに来た蟲たちを容赦なく斬り刻み、数多の死肉喰らいスライスを生み出していく。
『チギャアァァッ!』
「……それでも来るの」
 大きく跳んできた一匹の何本もある脚をナイフ一本で受け止め、流す。すれ違う瞬間に一閃して脚を斬り落として即、至近でダガーの雨を叩き込んだ。それは後続の蟲たちも等しく斬り裂き、使い手である由紀をしっかりと守る攻防一体の壁だ。
 極稀に別方向から跳んできた蟲は由紀自身の手で。
 ナイフで綺麗に“おろして”サヨウナラ。
(「こんなにうじゃうじゃ押し寄せられたら、一般人ならひとたまりもないだろうね」)
 辺境伯とやらは、蟲の食べ残しでも喜んで“愛する”のだろうか。
 リリィと名乗る辺境伯は随分と綺麗でお優しい様子。僅かでも分け合う形になれば、清らかに微笑んで受け入れるのかもしれない。
(「……ああ、でも」)
 跳んできた一匹にナイフを滑らせ、三つに分ける。ぼとりと落ちたそれにギピギャと鳴いた蟲が噛み付いて――ごくんっ。無くなった。
 このまま進んで死肉喰らいという蟲を全て倒し終えたら、残る肉は自然、猟兵だけという事になる。それは。
(「食べ残しじゃないから喜ばせちゃうかもしれないね」)
 だからって、食べられるなんてごめんだけど。

成功 🔵​🔵​🔴​

泉宮・瑠碧
…飢えも、あるのですか…
自然でも、
虫害が発生する事は、ありますが
…ごめんなさい

私は弓を手に
少しでも見通しの良い位置の樹上に身を潜めます
矢を番え、第六感と共に聞き耳や見てきた速度で
距離や射程範囲を測ります

現れた先頭の一体の胴、可能なら口内を狙ってスナイパー
屠ればそのまま囮にします
囮を喰らう為に他が集まれば、纏めて氷柱にする属性と範囲攻撃
後続も、氷の柱ではすぐ食べられませんし、進路妨害にも

討ち漏らして強化されていれば消去水矢で
各個を確実に仕留めていき
密集すれば氷の柱へ

植物の精霊の手助けを受けながら距離を取りつつ
枝を跳んで移動しては同様に繰り返します

…もう
飢えに踊らされる事の、無い様…どうか安らかに



 木々の並び。地上からの距離。様々な要素が重なった最適の場所――見通しの良い樹上に身を潜めていた瑠碧は、弓を手にそっと目を伏せた。
 死肉喰らいたちは今、飢えているのだという。獲物を求めて、走って、走って。しかし何も見つからず――そんな時、猟兵という飢えを満たすだろう存在と出会い、あちこちで歓喜の声を上げ――倒されている。
 自然界でも虫害が発生する事はあるが、死肉喰らいという蟲たちの行動は辺境伯たるリリィの意志の上。空腹を覚えたから食べる、という行為には、“世界を覆う闇を払おうとする邪魔者の排除を”という明確な殺意が寄り添っている。
 それを。知らなかった事には、出来ない。
「……ごめんなさい」
 瑠碧は零れ落ちそうになった雫を止めるように顔を上げ、弓を構えた。
 空気を伝ってくる感覚と音。蟲たちの駆ける速度。自分の周りにあるもの全てを捉え――数秒。僅か一瞬を縫うように放った矢が、先頭を走っていた一匹の口内に飛び込み地面へ縫い付ける。
 射られた蟲が鳴いて藻掻く様子はなかった。
 びぃんっと矢で留められ動かなくなった一匹に周りの蟲が群がる。早かった蟲は肉を喰らい、出遅れた蟲は細長い脚を。一匹に多数が殺到する様は、理解し難い生命が蠢いているようでもあった。
 だが最も適した表現は――囮。
 ひとつの骸。それに喰い付いた多数。ふたつが合わさったそこを瑠碧の手繰った氷が一気に呑み込み、死肉喰らいを封じる氷柱と化す。氷の中に封じされた蟲は数秒と経たず絶命し、それを察知した蟲が数匹氷柱へ飛びつくものの、凍てついた壁は想像以上の頑強さ。
 目の前に死肉があると氷を噛む蟲。迷っているのか氷柱を行ったり来たりする蟲。すぐには喰えないとわかり諦め、駆け出す蟲。反応は様々だが――その全てが、瑠碧からはよく見えていた。
 狙い定めて矢を放ち、囮を生み出し、他の虫を誘う。そうやってある程度を纏めて氷柱へと閉ざせば、薄暗い森の中に氷のオブジェが何本も立ち並んでいた。
(「一箇所に留まっては、どこにいるか気付かれてしまいますね……」)
 手を、貸して。植物の精霊に願い、伸ばされた枝を借りて、樹から樹へと跳んでいく。
 ここなら。足を止めた樹上からは周りを見ると、先程生み出した氷柱が見えていて。
(「……もう、飢えに踊らされる事の、無い様……どうか安らかに」)
 そして再び矢を番え――謝罪と祈りを抱いた氷の棺が、増えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
「こんにちは」と姿を見せて。
いやはや…
近くで見ますと、更に好感持てないですね!

視た行動パターン。
得意、不得意。数に密度。進路、速度…
戦闘の為の知識は、此処に。

地には木の根、岩、渡る蔦と、見るに明らかな障害物。
避けるでしょう?先に視た通り。
…避けるその先に、鋼糸。
速き程に、急く程に、触れた者を斬り断つ罠。

UCは鋼糸へ、炎の魔力を操り纏わせ。
木々に、敵自体に拡げ、斬りつつ絡げ。
踏み込みや跳躍…一斉での動きは、即ち集団での飛び掛り攻撃とみて…
範囲攻撃。
己を囲う様に拡げた鋼糸を一時に操り、向かい来る者を、討つ。

君らの愛も喜びも、此方には迷惑しかないんでね。

一通り終わらせる度、空中へ離脱。
木々を渡り次へ



「こんにちは」
 やっぱり最初の挨拶はこれでしょう、なんて雰囲気でクロトは死肉喰らいたちに姿を見せて――挨拶した事をクルッと華麗に掌返し。何せ遠目で見た以上に好感が持てない集団だった。
「いやはや、近くで見るのは失敗でしたね」
 元気に挨拶を返してくれたのに。
 そう言って笑うクロトの顔に、蟲たちに対する申し訳なさは米一粒ほども無い。なぜなら元気な挨拶はキィンと耳鳴りがしそうなレベルで、戦る気満々というよりも殺る気と喰う気満々過ぎて――と並ぶ感想は一度思考の隅へ。
 レンズの奥、深い湖水を思わす双眸が迫りくる集団を冷静に映す。
 脳に浮かび、展開するのはこれまでに視た蟲たちの様子全て。
 得意、不得意、数、密度、進路、速度――それら全てを戦う為の知識、生きて帰る為の情報と繋げた瞬間、広がる光景に『死肉喰らい』という蟲たちの行動がぴたり重なっていく。
 全速力で駆ける地には木の根。地中より顔を覗かす岩。アーチのように渡る蔦。
 それを。
(「ほら、避けた」)
 視られていたと知らないから。クロトという肉を喰らう事しか頭にないから。だから蟲たちは先に視た通りの行動をクロトの前でもやり――鋼糸に突っ込んだ。
 熱を持った呼気が白く見えるほど、蟲たちは肉を喰らうという事に全力を注いでいた。速く駆け、急くように脚を動かして。クロトが用意していた罠へ自ら飛び込み、大小様々な肉片となって薄暗い大地に散らばっていく。
『ギチイィィィィッ!!』
「あれ、怒ってるんですか?」
『シャアアアァァアッ!!』
 声を揃え意志を統一したわけでもないだろうに、蟲たちは一斉に跳躍しクロトの頭上を覆う。そのまま空中より殺到する蟲へクロトは「そうですか」とだけ微笑み――ひゅ、と鋼糸を躍らせた。
 凄まじい鳴き声を上げた時に視た脚の角度、力の入れ方。集団で来るとわかっていれば、骨の髄から戦い方を心得ているクロトにとって蟲たちの対処は容易い事。
 自分を中心として一気に展開した鋼糸は、そうする直前から煌々と炎色を纏っていた。紅蓮に輝く線が鮮やかに拡がり、蟲たちを斬りながら絡げていく。凝縮した熱に斬られた肉がジュッと音を立てた直後、ぼとと、と肉片の雨が落ちた。
「君らの愛も喜びも、此方には迷惑しかないんでね」
 受け取れないんですよ。にこり笑って一通り済ませたら、地上から空中へ、木々の上へ。確実に生きて帰る為、次なる場所へと渡っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
飛び掛かってくる敵の噛みつきを【Haze】纏う覇気+『オーラ防御』で通りを悪くさせ
零距離の『属性攻撃(電気)』で逆にひっくり返らせ、追撃の格闘で踏み殺す/殴り潰す。その『衝撃波』で他も巻き込む
そんな作戦でいこう

口ん中なんか拳を通しやすそうだ。腕突っ込んだ状態で『属性攻撃(電気)』を伝わせ破裂させるもありか
牙が折れても喰えるなら喰ってみせてくれて構わねえが
どうだ?
そう必死にされると
まだオレも捨てたもんじゃねえ気がしてくるな
愛ってのはそういうことか? ハ、随分と陳腐に説いてくれたもんだ

虫にも理解できる教義とは、さぞかし素晴らしいんだろうよ
……この先か



『キギャアアアァーーーッ!』
 出会った死肉喰らいの開口一番が、それだった。
 いかにも人を襲いそうなものを見つけたレイは「あれがそうか」と瞬時に構え――そのまま、真っ先に跳んできた一匹を左目に映して笑う。
「活きのいい虫だ」
 ぶわ、と全身から溢れさせた覇気と防護の波が、勢いよく跳んできた一匹を撫ぜる。
 空中で蟲がバランスを崩した。それはほんの一瞬だ。バッと跳躍した僅か数秒のうちの、一秒にも満たない。その間に迸った電撃が蟲をぐるんっとひっくり返し、表を向かされた腹部にレイの拳がずどんと沈む。
『ッ……!』
 悲鳴は上がらない。地面へ叩きつけるように沈められ、代わりに唾液が絞り出されるようにして弾け飛んで――それが、一気に爆ぜて駆けた衝撃波で肉片諸共吹き飛んでいく。
『チギッ――!』
『ッギ、ギギャ――!』
 ざばああああと他の蟲も仲良く吹っ飛び、何匹かは木の幹や岩、地面に叩き付けられぶちりと割れた後、動かなくなった。そうでなかった蟲は落とされた先でぐるんと身体を動かし、甲高い鳴き声を響かせ走り出す。
「……、」
 ただただ喰いたい、喰らいたい。こちらへと向かう様に男は何も言わずに腰を落とし――ッガ、と開かれた口へ迷わず拳を突っ込んだ。途端、空気が凄まじい閃光と共に爆ぜ、蟲が粉々になって弾け飛ぶ。
 口内へ直接叩き込んだ電撃が蟲をぷるぷるのミンチにした直後、レイの拳は既に次の蟲を捉えていた。
 口内に拳は通しやすい。それは今のでわかった。
 では――この蟲は、牙が折れても喰えるならと喰おうとするのだろうか。
(「別にそれでも構わねえが」)
 喰われて無くなっても、いずれ復元する便利な身体だ。
 故に、レイは己の肉体全てを“武器”として存分に揮う。
「で、どうだ?」
 敢えて閉じかけたタイミングのそこに見舞った拳で牙を砕き、その奥へと沈めた拳で遠慮なく――押し潰す手前の圧を加えていく。ギチチギ鳴きながら暴れる蟲は、中途半端に残った牙を腕に突き立ててきていた。
「ほお。そう必死にされると、まだオレも捨てたもんじゃねえ気がしてくるな。――愛ってのはそういうことか?」
 一度捕まえたら離さない。全部食べて、自分の中に――など。金の瞳が蟲を見下ろし、ハ、と口だけが笑う。
「随分と陳腐に説いてくれたもんだ」
 拳にぐっと力と電撃を籠め、パァンッと破裂させる。
 あの蟲にも理解出来る教義とやらは、さぞかし素晴らしいのだろう。
 レイは腕輪のようにぐるりと繋がりかけている噛み跡を一瞥し――ふいに訪れた薫りに眼光を鋭くさせる。甘く纏わりつくこれは、恐らくは花の薫りなのだろう。出どころは。
「……この先か」

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
腹ペコサンがいーっぱいだねぇ
ひとつ丁寧におもてなししないと

敢えて目立つよう飛び込んできましょ
奇襲とかするお仲間がいるなら役立てばイイ

*残像置き駆け*誘惑しながら、敵の動き*見切り避けていくわ
右目の「氷泪」から*マヒ攻撃乗せた雷を*範囲攻撃で奔らせ牽制と攻撃
*2回攻撃で、怯んだり足の止まっていない蟲から【焔宴】で狙ってくねぇ

仲間を喰らうにしたって美味しい方がイイだろうし
*料理してあげるとばかり、*傷口をえぐるよう丁寧に焔で焼いてゆきましょ
オレが調理するンだから美味しくない訳がナイ……と言いたいトコだけど
燃え尽きちゃったら食えないわネ、残念

ナンて、癒される前にどんどん片付けてきましょか



 蟲の足音。鳴き声。叫び。
 猟兵によって着実に減らされつつあるその中で、今も駆け続ける一団の前へ、ひらり鮮やかに飛び込んだ暮れゆく紫空の髪。ふわり躍った前髪の下で薄氷色が楽しげに細められる。
「腹ペコサンがまだまだいーっぱいだねぇ。ひとつ丁寧におもてなししないと」
 目を引く造形と色彩は、コノハの狙い通り蟲たちを強く惹きつけた。
 荒れ狂う波のようにざばあっと押し寄せた集団へまず届けたのは、微笑みと残像の焦らしセット。食前の運動ってヤツよと笑い、びょんっと跳んできた一匹はサッと余裕の動きで躱して避けて――バチッ。
 右目から一瞬こぼした閃光が、次の瞬間、大きく花開く。蟲の肉体を鋭く貫き、周りをその色と光で染め上げたのは、触れれば暫しの痺れを齎す雷世界。しかし中にはそれを運良く耐えた蟲もいて、そんな蟲にはコノハの料理人としての顔がきらりと注がれる。
「フーン? 調理のし甲斐がありそーな子だコト」
 皮を剥ぐ?
 触って歯応えを探る?
 いえいえ。まずは焼いて、味を確かめマショ。
 必要なものはフライパンと蒸留酒。調理する最高のシェフは既にいる。手にしたフライパンをぐるんっと華麗に回したら、蒸留酒を傾けて中身を贅沢に注いで――ごうっ! と激しく渦巻いた月白のフランベでしっかり閉じ込めて、こんがりと。
『ギピ、イ――!!』
「ハイハイそのまま。っと、そっちは邪魔しないの。仲間を喰らうにしたって美味しい方がイイでしょ?」
 美味しく料理してあげるから。
 芯まで抉るように――もとい、丁寧に焔で焼きながら、飛び込んできた蟲たちを躱しては雷を落としていく。料理も食べる事も非常に慣れっこのコノハにかかれば、こういう事は造作もない。食材と敵、療法を見極めながら森の中を飛びまわる。
「遠慮しないで食べてネ。なんせオレが調理するンだから」
 美味しくない訳がナイ――と自信の笑みで添えようとして、あー、と笑った。
「燃え尽きちゃったら食えないわネ、残念」
 これはせめてものお詫びと食べ損ねた蟲の頭部にフライパンを真っ直ぐ叩き落としたら、すかさず回転させ、底の部分がしっかり当たるようにフルスイング。
 料理人としては食べさせてやるべきなのだろう。しかし喰った量と質で傷を癒されるのは困る。来世では可愛い虫になるのネと次の蟲を派手にフランベしたら、また次へ。
「さ、どんどん片付けてきましょか」
 メインディッシュまで、あと少し。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルベット・ソルスタイン
ついに来たわね
美しき人々の為、醜いモノたちに神の裁きをたっぷりと味わわせてあげましょう

まずは敵の足を止める
炎【属性攻撃】魔法で群れ前方の地面を薙ぎ払い、炎の壁を作る事でその勢いを削ぐ
そして、動きが鈍った所で炎と氷魔法の弾幕を張り、単発の威力より範囲を重視した攻撃でオブリビオンの集団を撃破していく

ただこれはあくまで接近されるまでの策
それだけで群れを止められるとは思っていないわ
弾幕をすり抜け、接近して来た敵は【ヴァーミリオンエッジ】で切り払い
少しでも時間を稼いで多くの敵を引き付けた後、相手の捕食行動に対して【白夜の支配者】を発動
醜きモノに私に触れる資格はない
自身を餌に、群がる敵を冷気で凍結させる



 蟲たちは混乱していた。
 腹は減ったままで満たされない。他所から聞こえた歓喜の声が絶叫に変わり、消えた。同胞の数が、減っている。どうして。なぜ。諦めなければ見つかるのではなかったのか。喰えるのではなかったのか。
 腹が減って減って仕方がない。
 早く、早く速く速くはやく――。
「ついに来たわね」
 意識まで焼きそうな本能と欲に射し込んだのは、目の醒めるような紅だった。

『ッギシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「……なんて醜い」
 蟲たちが一斉に響かせた声に、ベルベットは手にしていた美しい扇をぱちんと閉じる。
 美しき人々を蹂躙しようとしていた存在のおぞましさが、目の前に広がっている。あれが『ダークセイヴァー』の元へ到達せずに済んだ事をベルベットは心から喜び、同時、彼らの為に神の務めをと微笑んだ。
 自分が見せた魔法を無邪気に喜んだ子供たち。
 告げた決意に安堵を浮かべた大人たち。
 美しき人々への愛をたたえた微笑みは、蟲に向いた瞬間に冷たさを帯びる。
「醜きモノは此処で滅びなさい」
 さあ、と、迫る蟲たちを扇でなぞった次の瞬間、ベルベットの全身が、深紅の色彩が。そして森の中が、眩い炎の色に染まって輝いた。蟲の群れ、その前方を薙ぎ払った力が炎の壁となって溢れ、死肉喰らいたちの勢いを大きく削いでいく。
『ギキャ、ィイ、』
『ギイイ……ッ!』
「誰が喋っていいと言ったかしら」
 容赦ない熱にのたうつ蟲たちにベルベットが向ける声は冷たい。空気を灼いて現れた炎の弾幕と、触れるものを一瞬で極北の内に閉ざす氷の弾幕。現したふたつは底の見えないほどに苛烈で、凄まじい音と共に蟲たちを屠っていく。
 悠然と佇み炎と氷を操る女神の姿は、薄暗い森の中に現れた篝火のように。そして美しい肉体を――豊かな肉を喰らおうと、死物狂いで弾幕を抜けた蟲がいた。しかし指先まで彩られた手は魔法だけでなく美しき短剣をも揮う。
「醜きモノに私に触れる資格はない」
 剥き出しの牙を切り払った女神はそこから逃げる事はせず、多くの蟲を引き寄せ続けた。蟲の数がある程度まで達し、そこから増えなくなった時。一よりも十、十よりも百の方が『喰える』と判断したのだろう。蟲たちが一斉に跳躍し――だが。
「お前たちが得られる資格は只一つ。神の裁きを味わう事と知りなさい」
 美しき深紅の女神から溢れる冷気が蟲たちを氷像へと変えていく。
 近づいた者から熱をなくし、冷気に呑まれ、ゴトンガコンと地に落ちて、ばりんッ。

 蟲たちが生命も肉体も粉々に砕けて散らした後。
 白百合の薫りが、溢れ出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『純白のリリィ』

POW   :    今日の私はあなたが欲しい
【その美貌】を披露した指定の全対象に【自らの血肉や命を捧げたいという衝動的な】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    綺麗に食べて差し上げますから、安心して眠って
【対象が望む幸せな夢を強制的に見せる花香】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    Hallelujah!
【レベル×1体の狂信者】の霊を召喚する。これは【対象を供物として捧げようと、痛覚】や【身体の自由を奪う麻痺毒】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は夏目・晴夜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●真白の愛
「ああ、これは……」
 辺境伯『純白のリリィ』が現れた瞬間、纏う色彩と存在感が、薄暗い空間にさあっと白い光を射し込ませた――そう思わせるほどのものが、ヴェール彩る白百合の薫りと共に甘く深く漂い、本来そこにあった緑や土の薫りを呑み込んでいく。
 はらりと揺れた金糸の髪。その下で、碧い瞳がゆっくりと周りを見た。
 木々。大地。戦いの跡。
 リリィは猟兵と己以外で存在しているものを見て、ぱちり、と瞳を瞬かせる。
「死肉喰らいの皆様は、全員……?」
 細い指先を胸元に添え、周りを見る様は戸惑い、考えているように見えた。だが甘い声を紡いでいた唇から、聖女然とした見目を裏切る言葉が放たれる。

「こうなるのでしたら、お別れする前に愛せば良かった」

 今、リリィの腕には何もなかった。
 奇妙なまでに鮮やかな赤が、白い衣の胸元を染めているだけ。
 腕に抱いていたという何か――誰かはもう、骨まで“愛し”尽くしたのだろう。
 そ、と微笑んだリリィが両手を組んで笑う。やわらかな眼差しが猟兵に向き、瞳に映した姿を刻みつけるようにゆっくりと瞬きをした。長い睫毛が、目元に影を作る。
「どうか、驚かないでくださいね」
 ふわりと浮かべた微笑は花が咲くような美しさだった。
 美しさの中に甘さを残す容貌は、初めての想いを知った乙女のような清らかさ。
 そこにいるのは、出逢いを喜び、魂を歓喜に震わせる白百合の乙女。
 だが。
「貴方が、欲しいのです」
 美しい瞳。
 輝く魂を秘めた心臓。
 鍛えられた肉体。
 多くの感情や記憶を刻んでるだろう脳味噌。
 乙女が求めるのは、命を構成する肉体そのもの。
「“愛しています”。初めてお逢いした、貴方」
 肉も、骨も、余すこと無く愛して。そして、ひとつに。
 乙女が微笑む。天を仰ぎ、喜びの言葉を紡ぐ。

 Ah,Hallelujah――!
 
セツナ・クラルス
"愛しています"?
悪いがあなたの愛には応えられない
だって、…、
強い眠気に身体の力が抜け――

夢の中はめくるめくゼロな世界
普段より若干優しめなゼロが手ぐすね引いてセツナを夢の中に引き留めておこうとする
ああ、ああ
これぞまさに永遠のゼ――(具現化したゼロに文字通り叩き起こされる)――ロッッ!?
(別人格のゼロは催眠の効果が低かったらしい)

酷いよ、何をする『そー言いたいのはコッチなんだけど!?なんであっさり敵の罠に引っかかってるワケ?』
ぐう…だって『だってじゃない!任務に集中しろ!』…はい
もはやぐうの音すら出せずに戦闘に集中

ああ、それにしても夢の中のゼロは可愛かっ『なんか言った?』…いや、なにも…



 あなたが欲しい。
 あなたを愛してる。
 言葉で、眼差しで伝えられるリリィからの“愛情”に、セツナはふむ、と考える仕草をした。したが、リリィから向けられるものへの答えは明瞭。そもそも、セツナには答えをあれこれ考える必要がなかった。
「悪いがあなたの愛には応えられない。だって、」
「“だって”?」
 リリィが10代のあどけない少女のような微笑みを浮かべ、甘く紡ぐ。
 あなたの答えがどんな答えでも構わない。
 髪、皮、肉。全て綺麗に食べて差し上げますから――だから。
「安心して、眠って」

 すとん、と体が落ちていく気がした。そのままどこまでも落ちていきそうな、けれど心地良い感覚に花香が濃密に寄り添う。ああ、これは。意識を浮上させたセツナは――。
「おい、大丈夫」
 ゼロが。ゼロがいる。隠しきれない心配を浮かべ、自分に手を差し伸べているではないか。セツナはいつもと違うもう一人の様に目を瞬かせた。
「どうした? どっか痛むか?」
「あ、いや、大丈夫だよゼロ」
 ならいい。ほんの僅かに表情をやわらげたゼロがもう少し休むかと提案してきた。目を丸くしていると「たまにはこういうのもいいだろ」と言う。
 セツナは胸を高鳴らせた。
 あの! ゼロが! (若干)優しい!
 永遠に、居たい。永久に、在りたい。
 そう願う楽園がここに広がっている。
(「これぞまさに、」)
 永遠の愛し仔。永遠の――。

「――ロッッ!?」
 脳裏に星がどばっと溢れ、すぐ隣には自分を見下ろすゼロの姿。叩き起こされたのだと瞬時に理解したセツナは、ガンガン痛む頭を擦って酷いよと抗議するのだが。
『そー言いたいのはコッチなんだけど!? なんであっさり敵の罠に引っかかってるワケ?』
「ぐう……だって」
『だってじゃない!任務に集中しろ!』
 もっとも過ぎてぐうの音と「はい」しか言えず、セツナは愛する対象が増えたと喜ぶリリィと向き合う。揺れては躍る薫りに呑まれれば、またあの夢を見るのだろう。
「ああ、それにしても夢の中のゼロは可愛かっ」
『なんか言った?』
「……いや、なにも……」

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
相手の本当の想いがわからないのが、いつか必ず訪れる別れが怖いから
私は人を愛することが出来ない
『with』。私が愛するのは、世界で貴方ひとりだけ
…あなたはきっと、全ての人を愛することが出来るんですね
凄く優しくて、私には眩しくさえ見えます

私の夢
旅して集めた楽しかった記憶を思い出しながら
『with』だけが側にいて
「楽しかったね、ありがとう」って伝えて
最期を迎えること

こんなに幸せなら、もうここで…

でも私の心は、眠る時だって離さない『with』の感触が引き戻してくれる
…ありがとう。信じてたよ
UC発動

あなたの力が、想いに依るものだとしたら…
紋章は…心にあるかな…?
握った拳を胸に叩き込む

素敵な夢をありがとう



 好き、嫌い。ありがとう、ごめん。どれだけ言葉にされても相手の本当の想いはわからなくて――そしていつか必ず訪れる別れが怖いから、結希は人を愛せない。愛せるのは。愛するのは。
(「『with』。世界で貴方ひとりだけ」)
 漆黒の大剣を握りしめる自分は、どう見えているのだろう。
 結希は静かにリリィを見つめ――返された微笑みに、ほんの少しだけ表情を揺らがせた。
「何か、恐れているのですか?」
「……あなたはきっと、全ての人を愛することが出来るんですね。凄く優しくて、私には眩しくさえ見えます」
「ああ……あなたの不安も、あなた自身も、なんて愛しい」
 綺麗に、食べて差し上げます。
 足音もなく溢れた薫りが結希の肌を撫で、髪を躍らせ、心に染み込んで――。

 くるり。はらり。
 気付けば自分の周りに思い出がぶら下がっていた。
 揺れた表紙に光を弾く糸にくっついて、ポストカードのような長方形で浮かび上がる思い出は、全てが旅して集めた“楽しかった記憶”ばかり。
 思い出したものがそこに在るのだと気付いた結希は、自分の夢を思い出す。
 こんな風に過ごした記憶を思い出しながら、側には『with』だけがいて。自分は、『with』に「楽しかったね、ありがとう」と伝えてから最期を迎えたい。
 それが――今、ここで叶う気がした。
(「こんなにも幸せなら、もうここで……」)
 けれど、深く沈みかけた心を硬質な感触が引き戻してくれる。見えなくてもわかる。眠る時も離さない一振りの漆黒が“そこでは、夢は叶わない”と。叶えるべき場所を、世界を、教えてくれる。

 ――『with』。
 たった一言のそれを心のなかで呟いたのか、口にしたのか。どちらだったのかは、目覚めたばかりの結希にはわからない。確かなのは『with』への想いと、『with』との絆。
「……ありがとう。信じてたよ」
 “だから私は、戦える”。
 結希は背に眩い焔翼を広げ、『with』と共に翔けた。不完全な力がどれだけ心身に負荷をかけようと『with』と一緒なら大丈夫。そんな想いを――迫る自分を見つめるリリィも、持っているのだろうか。
(「あのひとの力が、想いに依るものだとしたら」)
 左手でリリィの肩を掴む。あ、と丸くなった碧を間近に、拳を握る。
「素敵な夢をありがとう」
 叩き込む一撃は想いの宿る場所――胸へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

護堂・結城
司狼(f02815)と参加

不変で不滅、変わらぬ愛と美貌といえば聞こえはいいが
単に変化の袋小路だろ、滅ぼしてやるよ外道

【POW】

戦闘の邪魔だ、【狂気耐性】で衝動を抑え込む
【生命力吸収】で戦場に満ちた蟲共の食欲と自分の衝動を喰らいながらUC発動

司狼とは逆に劫火剣を【念動力】で操り【範囲・属性攻撃】を仕掛けつつ
【覇気・殺気・存在感】を放って派手に行く

司狼の攻撃で隙ができたら劫火剣を右拳に集め【限界突破した怪力で鎧を砕く貫通攻撃】
そのまま貫いた劫火剣を爆破させ【衝撃波で蹂躙する爆撃】による追い打ちだ

…いや、司狼。
生きた人間が一番怖いが骸の海がある以上は『死んだらもっとやべぇ』んじゃねぇ?


彼岸花・司狼
護堂・結城(f00944)と参加

弱肉強食の世界だ、とはよく言うが
流石に人型タイプの食人行為は中々くるものがあるな。

【狂気耐性】で喰われに行く衝動を抑えつけつつ、
UCで武装の【封印を解き】、自身に纏う。

【目立たない】ように【忍び足】で【暗殺】も狙いながら
【見切り】と【野生の勘】で紋章を探す。
自身はバレないように近づいた上で敵の観察に集中、
それで紋章の位置の目処がつけば【怪力+限界突破】で大鎌による【神罰】執行
【残像を残す早業】で【傷口をえぐる2回攻撃】を加える

見つからなければただのヒットアンドウェイに切替

どんな過去からこんなヤベェ奴が産まれるのか…
結局一番怖いのは生きた人間ってだけかもしれんがね



 リリィがこちらを見て微笑んだ。
 それだけだ。
 白い頬が淡い薔薇色に染まり、碧い目がやわらかに細められた。
 煌めく眼差しが熱を孕んで――司狼と結城、二人の『瞳』を見つめた。
 それだけだ。
 それだけなのに、リリィという存在を構成する全てに司狼は頭の中がぐらりと揺さぶられた気がした。くそ、と口から出そうになった言葉を脳内に留め、構える。
「弱肉強食の世界だ、とはよく言うが、流石に人型タイプの食人行為は中々くるものがあるな」
 “愛した”欠片を蟲に分け与える白百合の女。リリィの愛し方を思い出せば、同じようになりたいという衝動が無だった筈のそこから湧き上がる。それを抑えつける司狼の横で、結城の顔から笑みが消えていった。
「不変で不滅、変わらぬ愛と美貌といえば聞こえはいいが単に変化の袋小路だろ」
 滅ぼしてやるよ外道。
 宣戦布告と共に抑えた衝動――リリィを両腕で抱きしめたいという願いを、死肉喰らいが残したものと共に喰らっていく。それは蟲たちが見せた血肉への欲求、底のない昂りを映した剣の群れ。
「綺麗……」
 そう呟いたリリィは、周りを照らす劫火に宿るものを知りはしない。だが声に滲んでいるのは間違いなく高揚感。荒ぶるように燃え盛るユーベルコード、その使い手たる結城だけを見つめて、ほう、と吐息をこぼしながら微笑んだ。
「あなたが、欲しい」
 結城の返答代わりに剣群が翔ける。剣群は視界を埋める勢いで激しく広がり、劫火剣ひとつひとつにリリィを屠る意志を宿して真白き女へと降り注いだ。
「あら、ふふ」
 リリィが微笑む。碧い瞳は未だ結城へと熱く注がれていて――もう一人の事を、忘れていた。もう一人は極限まで自己を薄れさせていたのだ。無理もない。
 風と戯れるように金糸の髪をふわりと揺らして、剣群と踊り続ける絵画のように美しい姿。そこへ密かに近付く『もう一人』。
(「どこだ。紋章は、どこに」)
 結城が派手に意識を引いている間に。司狼は感覚を鋭敏にした“目”だけでなく、自身が持つ技術から使えるだろうもの全てを動員する。
 除外する範囲は、前面が首から上、背面は後頭部から肩甲骨。
 それを当て嵌めると――。
(「衣の下の、どこか」)
 結城という存在と自身の技術があるとはいえ、近付いて観察するにも限界がある。前面か背面か。ざざざと目まぐるしく切り替わる場面のように司狼は数秒で思考と感覚を働かせ――『死神』がリリィの左腿に喰らいついた。
 白い衣と肌を斬り裂き、真っ赤な血を溢れさす神罰。燃えるような痛みで司狼がすぐそこに迫っていたと気付いたリリィが、苦痛に顔を歪ませながら司狼を見て――笑む。
「血のような、赤」
 欲しい。
 花を摘むような仕草で手が伸ばされる。だが白い指先は触れる直前に司狼は空気にとけてかき消えた。残像に触れる事すら叶わなかった手が空を掻く。あ、と悲しげに歪んだ瞳は、直後に重ねられた一撃で悲鳴を上げた。
 左腿に紋章は無い。
 それを見た結城は即座に劫火剣を右拳に収束させた。ひとつに集められた劫火剣で右腿を容赦なく貫き、爆ぜる衝撃を叩き込む。
「ああ――!」
 悲鳴と共に白と赤が飛び散り、大きく裂けた衣の下にあった脚の一部が露わになる。う、う、とリリィが痛みに呻き――すう、と深く息を吸った。すると表情が穏やかになり、まあ、と微笑みながら指先で衣を摘んで寄せる。
「あなた方も、私を“愛して”くださるのね」
 これが紋章の力か。司狼は納得すると同時、目の当たりにした純白のリリィという女の恐ろしさに、は、と息を吐く。
「どんな過去からこんなヤベェ奴が産まれるのか……結局一番怖いのは生きた人間ってだけかもしれんがね」
「……いや、司狼。生きた人間が一番怖いが骸の海がある以上は『死んだらもっとやべぇ』んじゃねぇ?」
 死んで終わり、とはならず、再び現れるその恐ろしさ。
 あのリリィという女は――“何度目”なのだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可

純白のリリィ、か。外見だけを見れば、確かにあんたは美しいと言えるのかもしれない
だが、その内面は歪んでいると言わざるを得ない

UCと『継戦能力』『激痛耐性』で耐久系の能力を強化
敵の攻撃で、少なからず衝動に苛まれる事は前提に、敢えてその上で立ち回る
『捨て身の一撃』で黒剣を振るい、敵を『串刺し』に、『傷口をえぐる』事で『継続ダメージ』を与えながら『生命力吸収』に『吸血』で敵の命を奪う

俺の生命を持っていきたいのならば持っていくといい
だが、対価として与えた分はあんたから奪わせてもらおう

かつてのあんたに何があったかは知らないが、このような奪い合いを愛だと言うつもりか?


フリル・インレアン
ふわぁ、綺麗な人です。
ふぇ、私が欲しいって・・・。
・・・いいですよ。

ふぇ?前が見えないです。
アヒルさん翼をどかしてください。
ふええ!?私、ユーベルコードの術中にはまっていたって、それで目隠しをしてくれたのですね。
ありがとうございます。
でも、見えないと攻撃が当たりませんね。
こうなったら、第六感の直感でサイコキネシスです。

それにしても、ダークセイヴァーに来ても食べられそうになるなんて、どこに行っても私はアリスなんですね。



 傷を、ダメージを負った。しかしまだ発見されていない紋章の力ゆえか、純白のリリィと呼ばれる女は慈愛に満ちた微笑を欠片も曇らせる事なく、佇んでいる。“愛した”痕跡が伺える衣に真新しい赤も散らした様は、纏う白の中で異常なほどに目立つものだったが、それでも――。
「ふわぁ、綺麗な人です」
 大きな瞳を丸くさせたフリルの口から、素直な感嘆がこぼれた。
 リリィの見目に対する感想にクロスは意を唱えない。
「確かにあんたは美しいと言えるのかもしれない」
 だがそれは外見だけを見た場合、どれだけ清らかで美しくともその内面は歪んでいると言わざるを得ない――クロスの厳しい言葉にフリルは「ふぇ、そ、そうです」と手を握ってリリィを見つめる。
 そんな二人に対し、リリィは破けた部分を寄せて結わえたばかりの衣に視線を落としたまま。ふふ、と笑うばかり。
「どんなひとも、中身は同じですものね。皮膚があり、肉があり、血が通っている」
 あなたたちも――そう。
 リリィが一歩、前へ出てきた。
 金糸の髪は豪奢に、白い衣はかすかに揺れて。ヴェールに添えられている白百合も、そっとお辞儀をするように上下に揺れた。碧い視線が、ゆるゆると上がっていく。
「あなたたちも、私と同じ」
 けれど髪は白く、目は赤と黒。
 同じだけれど、持った色彩は違うから――だから“愛している”。
 “欲しい”。
 “食べたい”。
「ねぇ。あなたを愛しても、いいでしょう?」
 豊かな、甘い薫り。甘い声。
 向けられるリリィという存在に、フリルの頬が赤く染まる。
「……いいですよ」
 あのひとに全部あげたい。
 愛されたい。
 足はリリィへ向かい――ふぁさっ。視界が黒く塗り替えられる。
「ふぇ? 前が……」
 この感触は――アヒルさんの翼だ。フリルは慌ててどかしてくださいと頼むが、アヒルさんは聞いてくれない。どうして、と翼に触れたフリルは次の瞬間、アヒルさんからリリィの術中に見事はまっていたのだと聞き仰天した。
(「そ、それで目隠しを……でも、見えないと攻撃が当たりませんね」)
 アヒルさんから指示を貰ったとしても避けられてしまうだろう。こうなったら、とフリルは直感で捉えた物を次々に放っていく。石、小枝、ぼごんと地面から切り離した破片。
(「それにしても、ダークセイヴァーに来ても食べられそうになるなんて、どこに行っても私はアリスなんですね」)
 直感は僅かなもので、運良く当たった時に念力越しでその手応えを覚えるのみだが――それでも攻撃の手を止めずにいたフリルの感覚には、常にリリィとは別の大きな気配が存在していた。
「俺の生命を持っていきたいのならば持っていくといい」
 アヒルさんがフリルの視界を塞いだのと同時、黒剣を手にリリィへと向かったクロスだった。その気配が、暗闇の中でここだと告げるように在り続ける。
 心を呑もうとする抗いがたい波を、クロスはユーベルコードによって自身の力へと変えていた。体に埋め込まれた刻印を通し、己の寿命を代償として得た力は、間近で見る美貌とその魔力に耐えきる強靭な精神。
「だがな。対価として与えた分はあんたから奪わせてもらおう」
 自分の元へと真っ直ぐ向かってきた男が、自分を見つめ、剣を揮い続けている。
 その事にリリィが歓喜で碧い目を輝かせ、腕を伸ばしてきた。蕾が花開くような、やわらかで美しい所作だった。しかしそれを黒剣が払いのけ、肩を貫く。ぐり、と回転させ更に傷つけ――白百合の生命を啜っていく。
「あ、あ――!」
「かつてのあんたに何があったかは知らないが、このような奪い合いを愛だと言うつもりか?」
 求め、貰い、奪って。そして相手は滅び、自分と“愛した”という満足感だけが残る。
 それを。そんなものを。
 剣を抜いた男の問いに、リリィは傷口を押さえた掌、そこに付着した自身の鮮血をちろりと舐めた。
「欲しいのです。愛して差し上げたいのです。ただ、それだけ」
 ひとつになれば体は愛で満たされて。そこに恐ろしいものはなく、生命は安らぎを得る。だから欲しい。だから食べたい。だから愛したい。語るリリィの唇は真新しい赤に濡れ――花の薫りと共に言葉を紡ぎ続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
家族愛も隣人愛も知らずに育ち
オウガの愛欲のはけ口にされて
猟兵になってもこうして歪んだ愛を見せつけられる
全てがそうじゃないと、わかってはいるけれど
どうしてもこう思ってしまうの
あぁ、愛ってなんて悍ましいのかしら!

狂信者達から【逃げ足】で捕まらないよう立ち回り
だけれど逃げ切れず、毒で動けなくなる【演技】をして
敢えて動かずいれば、毒も回り難くなるでしょう?
そうして供物と捧げられ
歪んだ愛(よくぼう)を向けられたその瞬間
【復讐の一撃】叩き込む

お生憎様
メアリはあなたみたいな人食いなんて大嫌いよ
えぇ、大嫌い。だから大好き
だって、こうして殺すのがとっても楽しいもの!

だからね、メアリがあなたを愛(ころ)してあげる



 メアリーは家族愛を知らない。隣人愛も知らない。何も知らないまま育ったメアリーは、ある日アリスラビリンスへと喚ばれ、“オウガの為の皿の上”へ。そして今は、愛していると美しい声で、微笑で語る女の視線を浴びながら森の中を立ち回っていた。
「白い子兎のようなあなたの足はきっと、とてもやわらかく、あたたかいのでしょうね」
 大切に、大切に愛して差し上げたい。
 うっとりと目を細めたリリィの衣の下から深紅の液体がとろりと溢れ広がった。そこから生えた青白い手がリリィという存在を確かめるように衣を握り締めた後、びたん、と地面に触れて、ずる、ずるり。
『リリィ様……ああ、お美しくお優しいリリィ様……』
『貴方様の愛を、あの娘にも……』
 ずるう、り。血溜まりから這い出てきた教信者たちが真っ黒い目でメアリーを補足し、手足をばたばた、振り子のように動かして走り出す。
 なんて歪んだ愛だろう。メアリーは全てがそうではないと理解していたが、それでも、どうしても、こう思ってしまう。
(「あぁ、愛ってなんて悍ましいのかしら!」)
 愛したいと求めるリリィ。愛されたその果てに霊となった教信者。愛の為にと滅ぼし、滅ぼされたふたつの存在。愛さえなければこうは、とメアリーは信者たちの手から逃れ続け――けれど。
「ぁ、っ――!」
 か細い悲鳴を上げ、すてんと転んでしまう。毒で動けなくなり逃げ切れなかったメアリーは、罠にかかった子兎のように四肢を乱暴に掴まれ、リリィの前で恭しく掲げられた。
『リリィ様、リリィ様。どうぞ、この娘にも貴方様の愛を』
「ありがとう、皆さん。……ああ、やっぱり」
 つ、と伸びた指先が白い肌にふわりと沈む。
「なんて、やわらかい」
 歓喜の呟きが獣の復讐を招いた。教信者の手首をすぱっと両断した反抗の刃が、リリィの胸元を大きく斬り裂く。衣は容易く、白い肌は深く。っぱと咲いた鮮血と悲鳴にお生憎様、とメアリーは愛らしく笑った。
「メアリはあなたみたいな人食いなんて大嫌いよ。えぇ、大嫌い。だから大好き」
「……!」
 瞠られた碧い目が輝き出す。きっと、リリィの愛が自分の足だけでなく心にも向いているのを感じながら、メアリーは刃を空中で回して握り直す。
「だって、こうして殺すのがとっても楽しいもの! だからね、」
 メアリがあなたを愛(ころ)してあげる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
戦闘中は常に動きの不自然さや
攻撃から特定の部位を庇う様子、
通常の肌とは違う色、形の物が見えないかに注意し
紋章の場所を推定し発見したらダメージを与える。

霊召喚に対しては
全体を仕留められる様に【範囲攻撃】の蒼霊焔視で攻撃。
麻痺毒を受けたら
敵が『食べる』為に接近すると予測し
近距離で紋章の場所を確かめるチャンスとして観察し
攻撃の機会を窺う。

紋章の在処が判明するか
これ以上は危険と判断したら。
【念動力】で腕を動かし呪装銃「カオスエンペラー」
で【呪詛】を込めた死霊を撃ち。
【2回攻撃】【全力魔法】を使い
蒼霊焔視で攻撃。
「愛でも何でも。
お前が成そうとしている事を
望む者はこの先にはいない。
ならば此処で、止める。」


泉宮・瑠碧
…愛は様々と、聞きました
当人が愛と言えば、その通りなのでしょう
…けれど、君の愛に従う訳には、いきません

杖を手に破魔と浄化を乗せて
紋章の位置が不明なら、全てに等しく…清澄結界
狂信者が現れるなら召喚タイミングに合わせて除霊も乗せ
リリィ共々浄化の結界による範囲攻撃

気配や直感による第六感と目視による見切りで回避しつつ

無意識にでも庇う位置やヴェールの下も気にかけ
紋章が判明すれば
皆へ位置を示す為に氷を付近に当てる様に属性攻撃

美しさは、その通りなのでしょう
私など、到底及びもしません
ただ…
私にとって、姉以上に輝き、美しい存在など、居ないだけで

願わくば、狂信者にとっての光のままで、ありますよう
…どうか、安らかに



「……愛は様々と、聞きました。当人が愛と言えば、その通りなのでしょう」
 愛しているから優しく慈しむ。厳しくする。敢えて傷つけ、遠ざける。
 わかりやすい愛。わかりにくい愛。
 形は違えど、そこにあるのは紛れもなく愛なのだろう。
 ――けれど。
「君の愛に従う訳には、いきません」
 瑠碧の澄んだ瞳が煌めく碧を凛と映した。
 リリィのやわらかな微笑みが、静かな決意へと向く。
「大丈夫です。恐れないで」
 愛は素晴らしいもの。
 愛は全てを満たすもの。
 いつの間にか出血が止まっていたリリィの歌うような囁きと共に、衣の下から血溜まりが広がっていく。さああーーーっと広がりゆく量、勢いを見たフォルクはフードの下から血溜まり全体を捉え続ける。
「気を付けろ」
「ありがとうございます。……そちらも」
「ああ」
 ――ぴた。
 血溜まりが止まり、とぷん、と音を立てて腕が生えた。ぴしゃんっ。表面を叩いた掌が、ぐっと地面を押して。ずるり。一人、二人――どんどん増えていく教信者はまるで、リリィという花壇に咲き乱れる花のよう。
 その中心で誰よりも華やかに、甘く咲き誇る白百合の女は、瑠碧とフォルクに無垢な眼差しを向けていた。それを確認した教信者たちが、二人をここへ、リリィ様の御前へと呪文のように呟き始める。
(「紋章は、どこに……」)
 彼らの様相に瑠碧は一瞬悲しげな表情を浮かべるも、すぐに手にした杖へ清らかな力を注ぎ込む。ざあ、と生まれた水柱は並ぶ鳥居のように荘厳かつ透徹。流れ出した水がどこまでも行くように、教信者とリリィの両方を幾何学模様えがく結界のうちへと閉じ込めて――その清らかさで彼らの奥底にある核のみを貫いた。
『おお、おお! やめろ、やめろぉ!』
『リリィ様、リリィ様ァア!』
「今更何に縋る気だ」
 とうに人の道から外れているだろうに。指先からちり、と痺れを感じたフォルクが呟くと共に巻き起こった蒼炎で教信者たちの悲鳴はより激しくなり――ぼろ、と体を崩壊させた事で、悲鳴がひとつずつ途絶えていく。
 清らかな水柱と魂を焼く蒼炎。ふたつの力が容赦なく重なる中、存在を保っていたのは『純白のリリィ』だけ。ヴェールや衣の端が裂け、焦げて崩れ、白百合の花もひとつ、ぽとりと落ちて燃え尽きる。
「ああ……この、力は……! だめ、いけません……!」
 私は愛したいだけなのに。
 この力が、それを邪魔してしまう。
 悲痛な微笑が二人へ向いた。碧い目を涙で濡らし、輝かせ、震える手を前へと伸ばす。一歩踏み出すのも辛いのか、震えるように前へ、前へ。――その動きの中、もう一方の手は胸元で大きく裂けていた衣を押さえていた。
 胸が露わになるのを避ける為か。それとも別の理由が。
 ふたつの力が重なって響き合う中、瑠碧はリリィの手元に意識を集中させ、フォルクも僅かな欠片も見逃すまいと注視する。僅か数秒の間、先に口を開いたのは瑠碧だった。
「――胸の下」
 ぴく。
 リリィの唇が、ほんの僅かに動いた。その直後。
「心臓の――いいえ違う」
「胃袋か」
 しゃらん。水柱が一斉に啼いた瞬間、フォルクは呪装銃『カオスエンペラー』を掴む。痺れが動きを阻もうと、念動力で動かしてしまえばいい。神経とは別の感覚で目を見開いているリリィの手――その下に照準を合わせて一発。ガァンッと空気が震えリリィの手の甲に穴が開く。
「ああ、だめ……!」
 ぎゅう、とそこを握りしめるも、瑠碧の氷が一瞬の煌めきを残して降り注ぐ。
 その勢いはついに手を退けさせ、隠していたものを露わにした。
 真っ白な肌を彩る輝きは深い深い赤。そこから生えた何本もの触手が、蜘蛛脚のようにリリィの肉体に刺さって同化している。
「いけません。これは、これは大切な……! 頂いた愛なのです……!」
「愛でも何でも。お前が成そうとしている事を望む者はこの先にはいない」
 ならば此処で、止める。
 フォルクの視線が、蒼炎が一段と激しく巻き上がった。
 ああ。悲鳴を上げたリリィの姿は炎の中でも美しく――自分など、到底及びもしないと瑠碧は静かに思う。ただ――瑠碧にとって、自分を守って倒れた姉以上に、輝き、美しい存在など居ないだけ。
 願わくば、リリィが狂信者にとっての光のままで、ありますよう。狂えるほどに信じられるものは、歪んでいても、己を導いてくれる光だったろうから。
(「……だから。どうか、安らかに」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…生憎だけど、私にはもう心に決めた人がいる
お前のような気の多い輩はお呼びで無いわ。出直して来なさい

事前に自我の存在感を増幅する"調律の呪詛"を付与し、
限界突破した気合いで狂気耐性を強化して敵の精神属性攻撃に耐える

…無駄よ。確かにお前の魅了は強力だけど、
来ると解っていれば対策は取れるもの

…そして、干渉を排除しさえすれば…狩人の眼から逃れられると思うな

UCを発動して魔力を溜めた両眼で情報収集をして、
今までの戦闘知識から紋章の位置を暗視して見切り、
闇に紛れる早業で死角から切り込み、紋章を狙って大鎌をなぎ払い、
敵が体勢を崩したら銃を乱れ撃ち傷口を抉る2回攻撃を行う

…たらふく食べさせてあげる。死ぬまでね



 水と氷、炎の檻から脱したリリィがへその上――胃袋の位置に取り付いている紋章を両手で覆い、そうっと撫でた。
 見つけられてしまった。見つかってしまった。
 でもまだ大丈夫。愛は、此処にある。
「あなた」
 血と肉を望む碧い眼差しが、ゆるりと向いた先。そこには、今にも爆ぜそうな何かを内に湛えたリーヴァルディが得物を手に立っていた。その姿を映した碧が、うっとりと細められていく。
「あなたも、此処に」
 最初は、強い意志を浮かべたその眼球から。
 次は得物を握る手と、腕を。
 その次は――その時に覚えた衝動のままに、愛したい。
 甘く語るリリィにリーヴァルディはにこりともしない。両の腿、肩、胸元、手の甲と、いくつもの傷を負っても美しさを損なわない女へ、冷たい視線だけを注ぐ。
「……生憎だけど、私にはもう心に決めた人がいる。お前のような気の多い輩はお呼びで無いわ。出直して来なさい」
「大丈夫。私の愛し方は、ひとつだけ。恐ろしくなどありません。だからあなたの望む幸せな夢を、此処に」
 風もないのにリリィの髪が揺れた。目に見えない花の薫りが溢れ、リーヴァルディをすっぽりと包み込む。薫りの向こうにはリーヴァルディの心を占めるただ一人が待っているのだろう。それを。
「……無駄よ」
 はたき落とすように拒絶したリーヴァルディの周りを、溢れたものがただ優美に漂い、消えていく。どうして、と目を丸くするリリィの魅了は紋章を暴かれ、傷を負っても強力ではある。しかし来ると解っていれば対策は取れるのだと告げたリーヴァルディは、予め己という存在に対する認識を限界まで高めていた。そうやって干渉を排除したそこに、10代の少女らしい面影はなく。
「狩人の眼から逃れられると思うな」
 腰を僅かに落とす。動作と足音ひとつの後、瞳を輝く赤へと変えた狩人は闇の中。寿命を賭したユーベルコードによってその姿は森の薄暗さと溶け合い、リリィの目では捉えきれない疾風となる。
「ああ、どこへ、どこにいるのです? 愛しいあなた――」
 ここよと教えはしない。それは紋章目掛け薙ぎ払った大鎌で十分。腹部から鮮血を散らし倒れ込んだリリィに銃口が向く。引き金に指がかかる。
「……たらふく食べさせてあげる。死ぬまでね」
 空気震わす銃声の波に、女の悲鳴が重なった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「やっとメインの時間だね。貴女はさっきの虫より美味しいのかな?」
それにしても、なんかシンパシーを感じる敵さんだねぇ…。

原初の血統のUCで吸血鬼化して戦う。敵さんの血の匂いじゃない部分を集中して狙って行ってみようか。彼女以外の敵さんの血の匂いがあったら怪しそうじゃない?

敵さんのUCの効果を受けたら、ちっとくらいの味見は許してあげよう。でも、僕を食べるのなら、その分の料金は貰わないとね。
食らいつかれたら、その隙に僕も全力で吸血。身体を再生しつつ、敵さんの血を奪いにかかる事にしよう。

「僕も愛してるよ。まあ、僕が愛してるのは、貴女の血だけどね。」
肉も骨もいらない。血だけが欲しいんだよ、僕はね。



 蟲たちでそれなりに喉は潤したもののアレは前菜。メインディッシュはこっちだ。
 乾いた地面へ、とん、と足音を刻んだ莉亜は、身を起こし振り返ったリリィを目元の隈と同様に普段通りの表情のまま見る。
「やっとメインの時間だね。貴女はさっきの虫より美味しいのかな?」
 美味しい。
 その言葉に、リリィが嬉しそうに微笑んだ。
「あなたは彼らを愛したのですね。肉はどの様なお味でした?」
「え、肉? ……特に何も」
 遠慮なく血を吸い尽くして殺したが、肉は専門外。対する敵さん、その親玉は血も肉も骨も味わう派らしい。そういった違いがあるリリィに莉亜は少しばかりシンパシーを感じながら、瞬き一回。
「じゃ、始めようか」
 紫から金へ。鮮やかに色を変えた瞳は片手で隠されている紋章へ。吸血鬼に覚醒した莉亜の揮う得物が、普段以上の勢いで空気を裂いて襲いかかった。
 僅かに遅れて翻った白は、リリィがヴェールから外した白布ひとつ。それで莉亜の攻撃を受け止め、しかし幾度か防ぎきれず紋章ごと腹部を斬られた女が、ふいに笑顔を咲かせる。
「美しい金色……それに、血の匂い……ああ、私はあなたが、欲しい……!」
 聖女めいた女がこぼした熱宿る呟き。伸ばされた手。白く細い指先に、莉亜は敢えて指先を重ねた。いいよ、とリリィの愛し方を受け入れようと示せば、待ち焦がれた人物との逢瀬を迎えた乙女のようにリリィがはにかみ、莉亜の背をきつく抱き締める。
「愛しています、あなた」
 喜びで満たした微笑と共に、あ、と口を開いて白い歯で莉亜の肩を食む。そのまま挟んで、引っ張って。限界を迎えた皮膚がぶち、と音を立てた時。
「言い忘れてたけど有料だよ」
 僕を食べるのなら、その分の料金は貰わないとね。
 莉亜は目の前にある白い首筋へと噛み付いた。吸血すると定めているオブリビオンの、今度は蟲ではなく人型の血を、遠慮なく。そして食いちぎられた肩の肉の分も含めて、全力で吸血する。
「あ、う――!」
 痛みか。それとも。背を抱く腕が一瞬離れ、爪が立てられるが奪うのを止めない。
「僕も愛してるよ。まあ、僕が愛してるのは、貴女の血だけどね」
「私、の」
「そう」
 肉も骨もいらない。それは自分を満たさない。
 欲しいのは、赤く滴る血――自分を満たすそれだけが、欲しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
純白のリリィは美しかった
その声は優愛に溢れて、微笑みは慈愛に満ちていた

「う……」

争いがたい衝動に突き動かされて、全てを彼女に捧げたくてたまらない
襲いくる狂信者の霊を夜帷で切り捨てながら、漂う甘い匂いに息が詰まりそう
幸せな夢などない
ただ、彼女に全てを

【殺戮回路】を発動

与えられた感情は破壊衝動に上書きされる
瞳が赤く輝く

「死の宣告を」

圧倒的なパワーと【怪力】で彼女を引き裂く
尋常じゃないスピードで花香を置き去りにして
毒に汚染される体は未だ暴力装置

迫る刻限

彼女はまだ生きて、動いて、壊れていない

「あなたを殺してあげる」

愛してると殺してるは似てる気がする
今の私はリリィしか見えない
抱き締めて全てが砕けるほど



「あなたも」
 ふら、とリリィが身を起こす。
 首筋を、唇を赤く濡らして、立ち尽くしている舞を見る。
「あなたも、私を愛してくれるのですか?」
 私はあなたを愛したい。愛したくて愛したくてたまらない。そう望む相手に愛されたら――それは至上の喜び。魂を震わす歓喜のひととき。
「ああ、」
 Hallelujah!
 幸せの声が響いた瞬間、リリィの足元から鮮血が生まれ一気に広がった。
 血溜まりから這い出た教信者たちが地面を蹴って自分へと迫ってくる。その向こうで佇むリリィはどこまでも白く見えた。美しかった。あなたもこちらへと招く声は優愛に溢れ、向けられる微笑は慈愛に満ちていて――なんて、なんて争い難い。
「う……」
 いけない、と思う声が遠い。衝動のまま全てをリリィに捧げたくてたまらない。けれど舞は教信者たちを夜帷で鮮やかに斬り捨てた。その間も甘い薫りが鼻孔を通って脳髄まで浸しそうだ。
 幸せな夢なんて、ない。
 だから――ただ、彼女に全てを。
 己の内を巡る論理回路を閉ざす。不活性化した瞬間から、破壊衝動が一気に体を駆け巡った。白百合によって齎された感情が凄まじい破壊衝動で上書きされ、静かに煌めいていた黒い瞳が赤く輝く。
「死の宣告を」
 地を蹴って走っただけで教信者たちが弾き飛んだ。圧倒的なスピードは花の薫りまでも置き去りにし、地面へ叩き付けられた教信者が消える数秒の間にリリィの肩を掴む。ヴェールと共に金髪が揺れ、喜びで輝いていた碧い瞳が丸くなる。
 毒は僅かにだが舞へと届いた。しかし毒に侵されつつある体は暴力装置。1分という刻限まで残り何秒あるかなど、破壊衝動のまま白い肩に爪を立てた舞にはわからない。刻限が迫っていて、リリィがまだ生きて、動いて、壊れていないという事だけ。
「あなたを殺してあげる」
 ――ぎちッ。
 左肩を引き裂くと血が溢れ、悲鳴が響いた。
(「ああ、」)
 似ている。愛してるという事。殺してるという事。
 だからだろう。リリィしか見えない舞は時間の許す限り――全てが砕けるほどの力で、リリィを抱き締めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アン・カルド
確かに喰らうことは究極の愛の形とも言えるだろう、そうでもしなければ僕たち生物は一つになれないから。
しかし…一方的ではあるね、僕は喰うのはともかく喰らわれるのはごめんこうむるよ。

代わりに君にはこれをあげよう、【ライブラの愉快話・縫包】。
やってきた彼らに『銀の羽根』を毟って渡してと…銀には魔除けの力がある、呼び出される狂信者が霊なら多少の効き目があるだろう。
僕への麻痺毒はどうせ動かないから問題なし、全て彼ら任せだ。
霊を上手く散らせたら後は彼女だけ…と言っても僕が見る限りでは近接戦闘に長ける様子はない、彼らが集って銀の羽根で叩くだけでも効きはするさ。

ま、綿いっぱいの愛の方が女の子にはお似合いだよ。



 リリィの“愛”とは――食べるというそれは、確かに愛なのだろう。なぜなら、そうでもしない限り自分たち生物はひとつになれない。
 ゆえに、喰らうという事は究極の愛の形ともいえる。
 アンはそう考え、納得した。
 しかし。
「君のは一方的ではあるね、僕は喰うのはともかく喰らわれるのはごめんこうむるよ」
 君に愛されたらそうなるんだろう? ぱかり開きかけの左肩を指すと、疲労の色を浮かべたリリィがきょとんとしてから笑った。
「私なら大丈夫です。少し時間はかかりますけれど、ええ、あなたを、愛せますもの」
 紋章の力か。裂かれているそこから極細のイソギンチャクめいた細かな何かが弱々しく伸びて蠢いている。紋章にダメージが与えられていなければアレはもっと元気に動いてたんだろうな。アンはぼんやり思いながら、ぱららと魔導書を捲っていった。
「代わりに君にはこれをあげよう」
 それを聞いたリリィが微笑みながら首を傾げた瞬間、愛らしい世界が広がった。ぽぽ、ぽ、ぽんっと虚空に現れたぬいぐるみたちが、鬱蒼とした森にメルヘンカラーとふわふわもこもこ要素をふんだんに足していく。
 しかも動いた。ぽよぽよ、ふわわ。万歳をして、両手をぱたぱたしてと、幼子のするお遊戯のような愛らしさ――だが、ぬいぐるみには血肉がない。リリィは彼らをぐるりと見た後に興味をなくした様子。アンを見て嬉しそうに微笑んだその足元に、ぬるりと血溜まりを広げた。
 そこから這い出た教信者たちがぬいぐるみたちを押し退ける――が、ふわもこ世界に不適応過ぎた行動は、リリィと教信者たちの動きを著しく鈍らせる。元気に動けるのは銀の羽根を受け取ったぬいぐるみたちだけ。
 ――そう。アンも、動けない。
(「けど問題ないんだよね、これが」)
 教信者たちの呼吸から出た麻痺毒に身を侵されるが、もとより動かない予定でいた。ふにゃりと笑んだまま、ぬいぐるみたちが魔除けの力秘めた銀の羽根で白百合の乙女一行をふわもこぴしぺしっ! と愛らしく叩く様を眺め続ける。
「ま、あれだよ。綿いっぱいの愛の方が女の子にはお似合いだよ」
 愛してると言って生のまま食べるより、ずっと、ずっと。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、聞いた?聞いた?
コレを愛しているだって。
アァ……怒ったなァ、君が怒ったヨ……。

薬指の傷を噛み切って、君に食事を与えよう。
ハジメマシテで愛しているトカ言われてもねェ。
コレには賢い君がいるのにねェ……。

敵サンの攻撃には賢い君の毒を飲み込んで誤魔化そう。そうしよう。
だーってだって、コレには賢い君がいるンだ。
君の毒は情熱的で最高サ。

うんうん、うん?なるほどなるほど。
アァ……敵サンにも賢い君の毒を捧げる?
イイヨー。

狙うのは敵サンの首
首にアカイイトを巻きつけて引っ張る。
賢い君が特別に遊んでくれるって。

よかったねェ……。



「いいえ、いいえ。これには命がありません。これでは私は愛せません」
 悲しそうに首を振る白い花をつけた敵サンは、さっき何て言ったっけ?
 エンジはぬいぐるみに抗おうとするリリィをじっと見つめ――ア、と思い出した。
「賢い君、賢い君、聞いた? 聞いた? コレを愛しているだって」
 ちりっ。薬指から走った感覚にエンジは目を細める。アァ。これは、間違いなく怒った。“賢い君が”、“怒った”ぞ。
「……賢い君、賢い君」
 誰かがコレに愛を告げようと、エンジ・カラカを食べていいのは賢い君、ただひとつのみ。そもそも、ハジメマシテで愛しているトカ言われてもねェ。エンジは目を細め、薬指をそっと撫でる。
「コレには、ずうっと前から賢い君がいるのにねェ……」
 薬指に牙を立てて甘い時間を提供すれば、血の匂いを嗅ぎつけてかリリィがエンジに気付き、ああ、と微笑んだ。裂けている左肩をぐっと押さえてくっつけて、貴方、と嬉しそうに微笑む。
「私が欲しいのは、愛したいのは、貴方という命」
 愛しています。愛させてください。
 ぬいぐるみたちに抗うのを止めて微笑むリリィの姿は、全てが光を孕んで淡く輝くようだった。リリィという光から溢れる魅了がエンジの心に無遠慮な波を立たせ、緩やかに足がそちらへ向かう気配にエンジはム、と顔を顰め――賢い君の毒を飲み込んだ。口から喉へ、喉を通ってその先へ。そして体中へと賢い君の毒が巡るのを感じながら、べーと舌を出す。
「どうして? なぜ、来てくださらないのです?」
「だーってだって、コレには賢い君がいるンだ」
 いつだって情熱的で最高な毒が嫌な波をぴしゃりと消してくれて――うんうん、うん? なるほどなるほど。
「イイヨー」
 何て話したかは秘密、秘密。エンジはひょいっと長い足を動かし、軽々と跳んだ。リリィの腹部にある紋章を見て――すいっと更に上を見る。ほっそりとした白い首。手をかければ簡単に折れそうなそこへ、とびきり綺麗なアカイロをひゅるんっ。
「あ、」
「賢い君が特別に遊んでくれるって。よかったねェ……」
 敵にも賢い君の毒を――賢い君からの提案通り、エンジは首に巻き付けたアカイイトを引っ張った。ァ、とか細い声を漏らしたリリィが、数秒と経たずに血を吐き出す。
「どうだ、どうだ。賢い君の毒は、とっても情熱的で最高だろ?」
 どんな味かは、コレが一番、ようく知ってるンだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
黒江さん/f04949
愛は感じるものだそうです。
黒江ってひとが言ってました。
あの女の食欲を魅力的には思えないんで、不成立。

はい、プラン場当たりですね。
顔面いきます?じゃあオレは隠れます。
《闇に紛れて》いないフリ。
仕掛けたままの紙垂や蝙蝠の群れをけしかけて、紋章を探させる。
疵が十分なら放置します。

作り物の死角。おっしゃる通りにしましたよ。
先の蝙蝠に混ぜて、いくつか手裏剣を投げときました。

【紙技・影止針】。
あちらの彼が、その花の匂いを邪魔だと言っているので。
やめるか、止まるか、死ぬか、してください。
…そういえばお葬式の花でしたね、白百合。
なら三つ目をおすすめします。
献花まで自分でできるんですから。


黒江・イサカ
夕立/f14904と

あは、気持ちわりい女だな
顔は可愛いのにたまにこういうのいるから、恐ろしい話だよ
しかも、食っても食っても肥らないタイプ
女に好かれないな~これは
しかも食っても美味くなさそうだな~

でも、食べてあげるよ
嬉しかろ?お嬢さん
愛されてるって、思っちゃうんだろ?

さて 厄介そうなお嬢さんだしプランBで行こうぜ、夕立
変な気起こしちゃ駄目だからね
可愛い~って気持ちはわかるけど
そう、だから【慈愛】でね
死角なんて作っちまえばたくさんあるのさ
――― そうだろ?夕立
痛くしないから、顔を逸らさないように宜しく頼むよ

それにしてもお花臭いなあ
これってあれでしょ、あの白百合の匂いなんでしょ
花言葉は何て言うのかな



「どうして……私は……ただ、愛したいだけなのに……」
 なぜ、誰も彼も、愛させてくれないのだろう。
 首に真新しい傷痕を浮かべたリリィの疑問に、そうですね、と静かな声が届く。
「愛は感じるものだそうです。黒江ってひとが言ってました」
 夕立の言葉にリリィが瞳を煌めかせた。愛は感じるもの――ええ、ええ、わかります。私も常々感じていますもの。そう語った女が“常々感じている愛”とやらは、間違いなくその場その場で見つけた命に対する感情だろう。
「『クロエ』様……いつか会えるでしょうか……」
(「まあそこにいるのがその黒江さんなんですが」)
 初対面の、世間一般の感覚でいうのなら美人なのだろう女に「愛しています」と言われた夕立の心は凪ぎに凪いでいた。素晴らしく無風だった。
 愛したいから食べる――その為に猟兵と戦い続ける女の食欲が魅力的には思えず、結果、リリィの間で愛とやらは100%不成立が決定している。貴殿の益々のご活躍をお祈りする事もない。そして噂の黒江さんはというと。
「あは、気持ちわりい女だな。顔は可愛いのにたまにこういうのいるから、恐ろしい話だよ」
 じっ。夕立から向けられた無言の視線にイサカは人当たりの良い笑顔を返す。リリィも微笑を浮かべたまま全く気にしていないようで――まるで、外界を教えられず綺麗なものだけで育てられたお姫様に見えた。欲しいものは何でも手に入る、そんなお姫様だ。
 リリィは欲しいと思った愛を手に入れてきたのだろう。
 人。蟲。動物。
 出会った愛は全て、腹の中。
 あの細い体躯に、今日は最低でも人間一人分の肉と骨が入っている。
「食っても食っても肥らないタイプとか、女に好かれないな~これは。しかも食っても美味くなさそうだな~」
 最後の言葉は、愛と食が繋がっているリリィにとって胸を引き裂かれるものだったらしい。微笑から悲哀へと変わった美しい顔にイサカは優しく笑いかけた。
「でも、食べてあげるよ」
「!」
 ああ。やっぱりそういうのは“嬉しい”んだ。
 輝きを取り戻した微笑にイサカは目を細める。
(「愛されてるって、思っちゃうんだね」)
 さて。そんな厄介そうなお嬢さんをこのまま放置、は、男として忍びない。

 ――プランBで行こうぜ、夕立。
 ――はい、プラン場当たりですね。

 ひそりと交わして、たっ、と同時に地面を蹴る。凪いだ表情の少年は羽織る黒衣を翻していずこへと、笑う男は美しい女の元へと軽やかに駆けた。
「変な気起こしちゃ駄目だからね。可愛い~って気持ちはわかるけど」
 可愛くて可愛くて。可愛がっていたら、ついついうっかり――なんて事は人の世界でも、野生の世界でもままある話だけれど。今からやる事が何て事のないような空気を漂わすその背後から、消えた黒色と入れ違うように別の黒色が溢れ出した。
「ああ、いけません、退いて……! 私は、あの方が欲しいのです……!」
 私を、愛してくれると言った。
 逃げ惑うリリィの言葉は溢れた黒――蝙蝠たちが羽音でかき消し、追い回す。舞う黒の群れは蟲たちをスライスしたそこへリリィをいざない、白い肌に真っ直ぐな裂傷が生まれていく。
 本物の蝙蝠であれば、掴まれ、翼をちぎられ、歯を立てられ、愛されただろう。しかし式紙である蝙蝠はリリィの愛の対象外。愛を求める視界にあるのは、無数の黒色のみ。だから。

 ――死角なんて作っちまえばたくさんあるのさ。そうだろ? 夕立。
 ――作ろうと思えば、いくらでも。

 イサカが顔面狙いで行くのなら、己は隠れ、同行者の望むプラン“B”AATARIを成功へと繋ぐだけ。羽ばたき追い回す蝙蝠たちはどこまでも広がって――リリィの後ろからぬう、と伸びた手が細い顎を掴んだ。
「痛くしないから、顔を逸らさないように宜しく頼むよ」
 優しい囁きと共に、慈愛に満ちた救いの導が閃いて。
「それにしてもお花臭いなあ」
 鼻の奥に残りそう。すんっと鼻息を出して不満げな様子に、速やかな指導が向く。
「あちらの彼が、その花の匂いを邪魔だと言っているので。やめるか、止まるか、死ぬか、してください」
 ふいに訪れた一撃の直後、あ、とこぼれかけた悲鳴が、蝙蝠たちの奥から飛び出したもので血と共に花開く。
 紋章の表面を斬ったもの一つ。白い肌にすぱっと切れ目を刻んだもの二つ。仕込んでおいた手裏剣が闇の向こうへ消えた後、イサカは指で鼻先をふにふにしながら、これってあれでしょと振り返った。
「あの白百合の匂いなんでしょ。花言葉は何て言うのかな」
 音もなく姿を現した夕立はぽろぽろ涙をこぼすリリィには目もくれず、ヴェールから取れて落ちた白百合を一瞥した。
「……そういえばお葬式の花でしたね、白百合。なら三つ目をおすすめします」
「三つ目?」
「ええ。献花まで自分でできるんですから」
 純血。
 無垢。
 それから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
人でも虫でも等しく愛してくれるなんて随分とお優しいんだね
虫ケラと同じ扱いしてくるような奴とはお近付きになりたくないけど

敵の攻撃は厄介そうだし
出来るだけ距離を保って『影繰』で攻撃してく
近付いてくる狂信者の霊は
破魔の力が宿るダガーで斬り伏せる
愛してもらったらこうなるわけ?
まっぴら御免だ
俺は死んでまで働くほど真面目じゃないんでね

紋章の場所は分かんないけど当たるまで攻め立ててやる
次から次へと棘を生み出し
多方面から狙っていく
下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね
紋章に当たれば上等
体力を削れるだけでも問題ない

愛されたいって感情は俺にはよく分かんないけど
アンタみたいなのに愛されたいわけじゃないのは俺にも分かるよ


クロト・ラトキエ
誰も彼もを“愛する”のは結構ですが…
博愛では無く節操無し、知ればお姿も台無し、ですねぇ。

狂信者は、一対多を避け立ち位置を取り。
近接か遠距離か…
間合いの取り方や手振りの大小等より見切り、躱し。
UCにて穿ち飛ばし払いつつ。

…紋章とやらに意思があるなら。
急所以外や、背、肌と肌の合間等…
狙われ難い場を選びそうな?
又、力を与えているなら、敵攻撃時にその兆しはないか。防衛時庇わぬか、よく視。

敢えて急所を外し、鋼糸にて隠れ処を斬り裁ち減らし、燻り出して。
見付けたなら纏めて攻撃。
紋章は捕らえる為パワーアップ阻害程度。
辺境伯へは手心無し。骸の海へと還したく。

俺を、“愛してあげる”…?
――不遜。身の程を知れ。
とね



 愛を交わせば、伝わりますか。
 わかっていただけますか。
 焦がれるほどのこの想いを――衝動を。
「人でも虫でも等しく愛してくれるなんて随分とお優しいんだね。虫ケラと同じ扱いしてくるような奴とはお近付きになりたくないけど」
「全くです。誰も彼もを“愛する”のは結構ですが……博愛では無く節操無し、知ればお姿も台無し、ですよねぇ」
 涙に濡れた瞳が由紀とクロトを映した。“愛した”事よりも、拒絶されてきた結果である赤で濡れた唇が、は、と熱い息をこぼして、
「Ah――」
 Hallelujah.
 囁くような、歌うような声と共に血が広がり、いつそうなったのかもわからない者たちが次々と這い出てくる。見えるのは人間ばかりだが、リリィの愛が人間以外にも等しく向くと二人とも知っていた。だからこそ、リリィと自分たちの出逢いを祝しはしない。
「愛してもらったらこうなるわけ?」
 たんっ。由紀は猫のような軽やかさで地を蹴り、ジャケットを掴もうとしてきた教信者の腕にダガーを一突き。即引き抜くと胸部に真一文字の傷を刻みつける。
『ゥガッ……!』
「まっぴら御免だ。俺は死んでまで働くほど真面目じゃないんでね」
 しかも、愛されたら“食べられながら死ぬ”という最期が約束される。
 愛を押し付けられ、喰われて、そして死んだらこうやって働かされてまた死ぬなんて。
「そんなもの欲しくないんだよね」
 拒絶と共に魔力籠めた視線でリリィを捉え――リリィの影より錬成したいくつもの棘で細い体躯を貫いた。紋章の位置は判っている。破壊しない程度に胃の位置も含め串刺しにすれば、衣が、髪が、ヴェールが派手に舞い上がった。ぱたたっと血痕が増えた後、数秒空けてふわりと落ちる。
「私は、ただ……彼らを、愛しただけです……!」
 彼ら、ねぇ。言葉をなぞったクロトは微笑みながら教信者たちをざっと見て。それから、リリィを見る。
「あなた、何人“愛した”んですか?」
 うっすらと浮かぶ笑み。見つめる瞳。その両方に宿るのは冷ややかな色だけだ。
 クロトは骨ばった腕が衣を掴むより先に遠くへと跳び、間合いを瞬時に読み取ると“増やした”鋼糸で穿ち、飛ばし、払う。それを複数人纏め、更にそれぞれに合わせた一撃を一度にこなせば、僅かに残った教信者たちが体の中身を感じさせない呻き声を響かせ向かってきた。
『逃すな……二人を、捕らえろ……!』
『リリィ様の愛を知らぬ哀れな男たちよ、お前たちもリリィ様の愛を知るのだ……』
「嫌だよ、めんどくさい」
「……信者も信者ですね」
 由紀は心底怠そうな表情で数秒の間に次々と教信者たちを斬り伏せ、リリィとの間に距離を取り続ける。一対多を避けながら鮮やかに立ち回るクロトは、はあ、と少しばかりわかりやすく溜息をついて――。
「お断りします」
 双眸が冷たさを増したと同時、残りの教信者たちの頭が、四肢が、銅が一度に穿たれ、地面に落ちる。どう、と転がる音は消えゆく肉体と共に薄れていき、森の空気に白百合の愛へと狂い堕ちた彼らの声が残響した。
『あ、あ……リリィさま……』
『リリ、ィさ、ま……』
 お許しを。
 お許しを。
「……ぁ、」
 消えていく教信者を追い求めるようにリリィが腕を伸ばす。
 その周りできらりと細い光が走った。
 影から作り出された棘が鳥籠のようにリリィを囲う。
 あ、と見開かれた瞳に映ったふたつは一瞬で閃いて、リリィの肌を斬り裂き、貫いた。
「なぜです、どうして……! 私は、ただ愛して差し上げたいだけなのに……っ」
「俺を、“愛してあげる”……?」
 は、とクロトの唇が弧を描く。
 だが深い青色の瞳は、底が見えないほどに冷たさを増すばかり。
「――不遜。身の程を知れ」
 手心無しの一撃が再び見舞われ、それに一拍おいて現れた棘がざくりざくりとリリィの両腕を貫いた。
「愛されたいって感情は俺にはよく分かんないけど」
 影棘に貫かれたリリィは、殉教した聖職者のようだった。
 ああでも、と由紀はその姿を何の感情もない目に映して言う。
「アンタみたいなのに愛されたいわけじゃないのは、俺にも分かるよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
自分が愛せば良かったナンて情熱的ねぇ
ケドオレも、喰らいたい程愛しくなるの
ドチラのアイが勝つか、押し付け合おうじゃナイ

血肉を差し出す衝動は、一度は敢えて受け入れ身を任す
痛みは激痛耐性で凌ぎましょ
ナルホド、コレが喰われたいって気持ち
イイね素敵な感情だ
ケド血の匂いはもっと強い衝動を呼び起こす
残念、食欲には敵わない
分かるデショ?ソレがオレのアイだもの

至近から一息に「柘榴」振るい流した血を糧に【紅牙】発動
紋章を狙うなら胸元かしらねぇ
無くても誰かが見付けたなら、そこ狙ってくわ
活け締めポイントってヤツ?
丁寧に傷口をえぐって補食、生命力吸収も忘れずにね

ねぇ、愛される側ってのも悪くないデショ?



「自分が愛せば良かったナンて情熱的ねぇ」
 くすりと笑むような声に、え、とリリィが振り返る。
 アラ見事に傷だらけネ、情熱的過ぎたせい? なんて親しみを覚える笑みを浮かべて――ニヤリ。笑みが鋭さを帯びて、瞳が怪しく煌めくよう。
「ケドオレも、喰らいたい程愛しくなるの。ドチラのアイが勝つか、押し付け合おうじゃナイ」
 愛を。
 嗚呼、それは。
 期待と喜びに表情を明るくしていったリリィが、よろりと立ち上がった。
 コノハが言葉ではなく頷きと誘う笑みで示した瞬間、リリィが祈るように手を組んで――嬉しい、と微笑んだ。衣を、肌を、自らの血で赤く染めた姿が淡い輝きめいた存在感を放ち出す。
 能力を爆発的に高めていた紋章は既に暴かれ、幾度も傷を負わされた後。故にコノハが覚えた衝動は強烈なものではないが――弱くもない。自分の意志とは逆に、捧げたいという感情がゆらりと頭を持ち上げる。
(「ナルホド、コレが喰われたいって気持ち」)
 普段は作って――そして、“食べる”専門のコノハには実に新鮮かつ素敵な感情だった。これはイイ。悪くない。敢えて受け入れ身を任せれば、足が勝手にリリィへと歩み、胸に飛び込んできた細く傷だらけの体をしっかりと受け止める。
「あなたを、くださいませ」
「ええ。イイわよ。あげる」
 間近で幸せそうに煌めく瞳は美しかった。微笑む唇は初めて花開く時を迎える蕾のような清らかさ。その口が衝動に乗せて差し出した腕に歯を立て、やわらかな噛み付きが、ぐ、と力を増す。
 常人であれば苦痛で顔を歪めるそれを、コノハは痛みに感覚を慣らす事で笑って受け流す。喰われたい気持ちの次は喰われていく自分を見るという珍しい体験に笑って――ぶち、とちぎれかけたそこから溢れた血の匂いが更なる衝動を呼び起こす。
「――ああ、残念」
「……?」
「お腹空いちゃったワ」
 与えられた衝動は食欲には敵わない。慣れた手付きでくるり躍らせた『柘榴』が血を得て音なき咆哮を上げる。そのまま流れるように刺した先は、紋章を含めたやわらかな腹部。ア、と引きつった悲鳴にコノハはにっこり笑った。
「活け締めポイントってヤツみたいよネ」
 壊さないよう刺した所を丁寧に抉って食べられた分を“頂く”と、リリィの後頭部に手を添えて抱き寄せ、ねぇ、と囁いた。
「愛される側ってのも悪くないデショ?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
熱烈なこった。さすが蟲の大将なだけはある
幸いにして減るもんじゃあねえ、くれてやってもいいが?

砦のため戦って勝つという『覚悟』で敵UCに水面下で抵抗 ※元より魂の衝動以外の感情等で動いていない
敵が捕食に寄ってきたとき殴りかかる努力はしておくが、上手く決まらないのは想定済だ。活きが良い方がとっとと弱らせてくれんじゃねえか程度
血肉を喰らわれたあと数拍遅れで
【Gust】発動。喉を下った頃。内から貫く具合でな
紋章には拘らねえが、胃袋……腹だとか、そんなところと読んで狙っておく。単純に、今まで喰ったもん吐いてもらうついでだ

喰らい尽くせねえってのはつまり、愛せねえって意味にでもしとくか?
寂しいね。まったくよ



 拒絶は多数。愛された事は数回。負った傷は無数。紋章はとうに暴かれた後。
 それでも純白のリリィは愛していると繰り返し、その愛を成そうとする。
 リリィの愛は堂々と佇むレイに対しても向けられた。始めと比べ、活きの良さはだいぶ減っているようだが、それでも――震える指先が、腕が、レイを指す。
(「成程、熱烈なこった。さすが蟲の大将なだけはある」)
 この執念深さが人類砦に到達していたなら、蟲がいなくともリリィ一人で全員を――馬も含め、人類砦にいた生命全てを“愛し”尽くしていただろう。
 全てを腹に収めた図など、想像する気もないが。
「あなた、は……ああ、でも……動いて、生きて……?」
 普通の生者とは違うとわかったらしい。なら話が早い。レイは蟲の喰い痕残る腕がよく見えるよう翳してやる。あぁ、と、声にしてはか細く、吐息にしては言葉として形を得ている音がした。
「幸いにして減るもんじゃあねえ、くれてやってもいいが?」
「ぁ、あ……うれ、しい……っ」
 愛してる。愛しています。
 欲しい。ほしい。
 戦う為にあるようなその肉体が。そこに宿る、生命が。
 歩き出したリリィが何度も転げそうになりながらレイの目の前まで行く。男が一歩も動かず翳した腕はそのまま。広げて抱き留めもしないが、リリィは弱々しい微笑を浮かべて腕に触れた。
 触れてきた指を含めた四肢の細さ。間近で灯る美貌。血塗れの女が齎すものはユーベルコードとなり、レイを動かし続ける衝動の中に異物に近い感情を射し込んだ。翳したままの腕が握った拳が両手でそっと包み込まれる。
 見下ろす琥珀色ひとつに、ふたつの碧色がうっとりと細められた。小さな口が開き、心臓の辺りに上下の歯が、っぐ、と皮膚に食い込んで――肉を挟むようにして削いでいく。そのまま口を閉じて、噛んで。肉が赤い拘束痕残る白い喉を下った後。
「ひッ――!?」
 リリィの体がびくんッと跳ねた。
 ぶち、と僅かな音の直後、眩い槍が皮膚と衣を貫き破って現れる。
「生憎だが。死んでこのかた、衝動ってやつは常にあってな」
 弱った力による魅了は、人類砦に向けた覚悟と魂の衝動を凌駕するには至らない。殴りかかる予定が上手く行かなかったのも想定済み。悲鳴までも貫いた源、喰われたばかりの肉を利用した一撃は胃袋の下、腸を破壊し――今日“愛した”ものをばら撒かせていた。レイの眼光が、僅かに鋭さを増す。
「あんたの言う愛が喰うことなら、喰らい尽くせねえってのはつまり、愛せねえって意味にでもしとくか?」
 散々愛とやらを口にして手にする結果がこれだ。
 寂しいね。まったくよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
気色悪ぃ
あんたのそれは全っ然理解出来ねぇ

変身状態維持

衝撃波放ち服捲り紋章探る
まぁこれだけじゃ分かんねぇか
残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
龍爪付け服刻み紋章探し
見つかれば拳で殴り部位破壊
見つかるまで探るように拳の乱れ撃ち
全身くまなく狙う
数撃ちゃ当たるってな!
後は急所とかか?
暗殺交え弱い箇所狙い攻撃

異形の美っての?
俺にはマジ理解不能だわ
でも
覚悟決め
利用出来るもんは利用してやる
ほら食えよ
衝動のまま左腕で口塞ぐように武器受け
痛みは激痛耐性で耐え
動き止め一気に肉薄しUC
思いっきりぶん殴る

愛してるから
側にいて欲しい
そりゃ分かる
けど
…いなくなっちまったら
二度と会えなかったら
そんなの意味ねぇ

還れ
骸の海へ


ベルベット・ソルスタイン
愛とは理解であり、相手を知ろうとする事
体を、心を重ねる行為もその手段に過ぎない
そう考えればあなたの行為も愛の形の一つなのかもしれないわ

でも……あなたの愛は身勝手すぎる、美しさとは程遠いわね
愛の女神としてこのような愛を認めるわけにはいかない、リリィの行為を否定し戦闘へ

リリィの誘惑を自身の愛と美しさへの想いで跳ね除け
氷【属性攻撃】魔法による攻撃を仕掛ける
躱させはしない、威力よりも範囲を重視し、空気中の水分を凝固させた氷の礫を放つ
これはダメージを与える為だけではなく地面を凍らせ、敵の動きを鈍らせるための策
動きが鈍った所へ【全力魔法】で【紅の拒絶】を放ち、急速に膨張させた大気でリリィを吹き飛ばす



「あ、ああ……私の、私の愛が……!」
 散らばったものの内容に目を瞑れば、それを必死に掻き集める姿は憐憫を誘うものだったろう。だが理玖は純白のリリィという存在を――リリィが得てきた“愛”を真っ直ぐ見た。だからこそ感じるものがある。
「気色悪ぃ。あんたのそれは全っ然理解出来ねぇ」
 相手が弱っていようと変身は解かない。放った衝撃波をなぞるように力強く駆け、リリィの視線が向いたそこに残像を残し、その隙に間合いを詰めて左肩と衣を鷲掴む。そして。
「ッらぁ!!!」
「――!」
 頭から地面へと叩き付けるように投げ飛ばした。次にリリィに触れた時、理玖の拳覆う竜掌からは四本の鉄爪がギラリとある。狙うは急所、だが。
(「紋章、はまだ壊しちゃいけねぇから――ああもう、数撃ちゃなんとかってヤツだ!!」)
 状況に体力と思考が追いついていないうちに、理玖は様々な角度から攻撃を仕掛けていく。それでも、時折白い掌が自分の攻撃を僅かに反らしてダメージを軽減していて――弱っていてもオブリビオンなのだと示される。くっつきかけていた肩が再び裂け、体のあちこちにある傷と腹部の紋章も、十分過ぎる程に示してくれていて。
「異形の美っての? 俺にはマジ理解不能だわ。でも」
 守るという約束を果たせるなら――利用出来るものは全て利用してやる。
 理解に苦しむ愛情を向けられて、その衝動に乗る事になろうとも。
「ほら食えよ」
「ぁ……!」
 美しい顔に金髪をぱらぱらと被せていたリリィが立ち上がりかけたが、理玖はそれよりも早く、笑みの形を作った口へと衝動のままに左腕を押し当てる。即座に感じた激痛は覚悟で満たした肉体と精神両方で耐えきって、動きを僅かに止めたその瞬間にみぞおちへと強烈な一撃を叩き込んだ。
 ああ、と高い悲鳴と共にリリィが吹っ飛び、地面を転がる。白い衣も美しい金髪や肌も、土と血に汚れて――だがそれでも美しいと思わすものは、リリィを動かす精神と共にあった。
「……なぜ……どう、して……」
「なぜ? そんな事もわからないのかしら」
 凛と通る声と共に、深紅の裾が優雅に翻る。
 ベルベット・ソルスタイン。美と愛を司る深紅の女神は、その所以たる華のような美貌と精神の輝きを、どこまでも、そして悠然と示していく。
「愛とは理解であり、相手を知ろうとする事。体を、心を重ねる行為もその手段に過ぎない。そう考えればあなたの行為も愛の形の一つなのかもしれないわ」
 愛しているから食べるという、それも。
 だが、リリィのそこには最も尊重すべきものが欠けている。愛し合う相手の同意や理解――他者に対する、まことの愛情だ。だからこそ。
「あなたの愛は身勝手すぎる、美しさとは程遠いわね」
 愛の女神として、そのような愛を認めるわけにはいかない。
 ベルベットの言葉にリリィが間を空けたのは、思考の為か。疲労の為か。
「……それ、でも……」
 それでも。
 私は。
「あなたが、欲しい」
「そう。――実に、実に愚かだわ!」
 ベルベットが抱く自身への愛と美への想いが、このような“愛”に呑まれるものか。
 声を響かせたベルベットの周りに理玖は星々が生まれる瞬間を見た気がした。それが氷だと理解したのは、煌めきが生まれた瞬間に空気が一気に冷えた為。
 空気中の水分から創り出された無数の氷の礫はリリィという星を取り囲む星雲のように。しかし命を育むのではなく、絶対の意志で屠る極寒の世界。逃れようと思考を巡らせ足を動かそうとしても、ぼろぼろになって露わになっている足元は、季節外れの冬で凍てついた後。
「ぁ、っあ……!」
「身勝手な愛を注いできた報いを受けるのね」
 周囲の気温が上昇する。ベルベットの持つ深紅そのものが輝きを放つように、赤く、煌々とし始める。それは大気に干渉するユーベルコード。冷え切ったそこで熱を一点に集めれば星が果てる時のように大気が急速に膨れ上がり、リリィを容赦なく吹き飛ばす。
 全身を樹に叩き付けられた体躯は受け身も取れずに地面へ落ちた。立ち上がろうと指先が動く――が、数回震えただけで、地面に手を突く事すら叶わない。
 薄い呼吸を繰り返す白い体に、理玖は影を落とした。
「愛してるから側にいて欲しい。そりゃ分かる」
 側にいてもらえたら。
 ずっと一緒にいられたら、どれだけいいか。
「けど……いなくなっちまったら、二度と会えなかったら、そんなの意味ねぇ」
 ましてや自らの手で、進んでこの世から消してしまうなど。
 だから理解出来ない。
 だから認められない。
 この出会いを――リリィの愛を、知らなかった事には出来ない。
「還れ。骸の海へ」

 白百合が散る。輝くような美貌が、燃え尽きるマッチのように光を失くし、花の薫りと共に消えていく。残ったのは辺境伯の紋章と呼ばれるモノと――いつかこの世界に確かな光を齎すだろう、人々の命。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日
宿敵 『純白のリリィ』 を撃破!


挿絵イラスト