これね、なんだと思う? パンジャン以外には無敵の邪神
#UDCアース
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●いにしえのことば
蛛牙、ァ縺ォ縺励※譌ァ縺阪◎縺ョ逾槭?縲慍荳翫r謾ッ驟阪@隕?
偉大にして旧きその神は、地上を支配し覇を唱え、ひとつの決まりをつくった。
縺?°縺ェ繧狗・槭b縲◎縺励※莠コ繧ゅ延縲ケセ縺◆迚ゥ縲ケソ縺」縺溽黄縲?縺ョ縺。
いかなる神も、そして人も。木、金属、乾いた物、湿った物、光、呪いのいずれによっても我を傷つけることは叶わない、と。
縲?縺昴@縺ヲ蝨荳翫?縺ゅi繧?k繧ゅ?縺ィ螂醍エ?@縲キア縺悟慍菴阪。
そして地上のあらゆるものと契約し、己が地位を揺るぎなきものにした。
縲?轣ォ轤弱?ーエ縲?ェィ縺ェ縺ゥ讒倥?迚ゥ雉ェ縺ォ縲守・槭?菴薙。
火炎、水、骨などの様々な物質に、神を傷つけないことを誓わせた。
縺?縺後?◆縺?縺イ縺ィ縺、縲ヱ繝パンジャン繝?縺?縺代蟷シ縺輔′蜴溷螂醍エ?縺溘?
だが、ただひとつ、パンジャンドラムとだけは幼さが原因で契約を結ぶことができなかった。
●色んな意味でやべーやつ
「UDCアースで、とんでもない邪神が復活してしまいました」
白い軍服の少女がどこか悩ましげにぽつりと言った。
場所は首都圏の郊外。街を縦断する大きな河の河川敷。近づけば10mを超す巨躯が見えるだろう。
それは常識を遥かに越えた、恐るべき力を持つ邪神なのだという。
「なんでも、あらゆるユーベルコード……武器や魔法などが通用しないそうなんです」
嘘ではない。例え空から山が落ちて下敷きにされようと、深海に突き落とされようと、ましてや太陽に投げ込まれようとも、一切傷つかない。そういう規格外の邪神である。
「……でも、まったく弱点がないわけではありません」
少女は瞑目し、小さく唇を震わせる。次の言葉をいうのにはすこし勇気が必要だった。
「パンジャンドラムなら、倒せます」
要点を説明しよう。
いかなる攻撃すら通じないという恐るべき邪神だが、唯一『パンジャンドラムを利用した攻撃』なら有効だという。
だから、決戦前に他所で野生のパンジャンドラムを捕まえる必要があるのだ。
街中とかよく探せばわりとすぐ見つかるからね。
ユーベルコードでパンジャンドラムを作れる稀有な才能を持った猟兵なら普通にそれで攻撃してもいいんじゃないかな。
「まあ、はい。そういうことなのでよろしくお願いしますね」
グリモア猟兵は頭を下げて猟兵たちを見送った。
鍼々
鍼々です。
今回は普通の戦闘シナリオと見せかけたネタシナリオです。
2章のボスを倒すのにパンジャンドラムが必要な点以外は普通の戦闘シナリオかもしれません。
それぞれの章に補足があります。
1章の補足。
野生のパンジャンドラムを捕まえます。UDCです。もちろん抵抗してきます。群れてるので気をつけてください。
適当に倒しつつ捕まえられそうなやつだけ捕まえましょう。捕獲方法は自由にしてください。
2章の補足。
すごい邪神と戦います。ほぼ無敵なのですごいです。
攻撃方法のどこかにパンジャンドラム要素が含まれていれば問題ありません。
大砲でパンジャンドラムを打ち出したり、日本刀でホームランして直撃させてもいいです。自由なので。
自爆を恐れないのであれば、パンジャンドラムに乗って体当たりとかしてもいいです。とても自由なので。
自分はパンジャンドラムなんだと自己暗示でうまいことアレして素手で襲いかかってもいいです。
3章の補足。
2章で使いきれなかったパンジャンドラムをここで処分します。UDCなので全て処分する必要があります。
UDC-Pではないので突然平和な心に目覚めて人間と仲良くなったりしません。
第1章 集団戦
『廻るパンドラ』
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POW : 終末理論
【激しい爆発】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 臨界点突破
【高速で接近し、爆発】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 革命前夜
【爆発音】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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野生のパンジャンドラムを探すときは、虫取り少年になったつもりで探すというのが、古いUDC職員の知恵だ。
さすがにそのへんの石をひっくり返した裏にいたりはしないが、ゴミ捨て場の影とか、廃棄車の下の隙間とか、そういったところを探せばすぐに見つかるかもしれない。
だが、注意が必要だとUDC職員は言う。1体見つければ30体くらいは確実にいるし、ついでにパンジャンドラムを見つけたときはパンジャンドラムもまたこちらを見つけているのだから。
Q.つまり?
A.雑に探せば雑に見つかるよ。頑張ってね。
※既に大量のパンジャンドラムに囲まれてる感じのホットスタートでもいいです。
火奈本・火花
「野生のパンジャンドラム……野生、やせいとは……?」
■戦闘
既に我々の認識が改変されている気もするが、必要であれば集めるしかあるまい
危険な作業になるだろうし、Dクラスを呼んで協力して貰おう
先人の知恵にも倣って……こう言うのは暗い場所や隙間にいる事が多い
陽の当たらない路地裏をメインに探索するのが良いだろう
Dクラスを先行させ、パンジャンを見付けても近付きすぎないように注意しておくつもりだ
発見したら私がグローブの鋼糸からの『ロープワーク』で『捕縛』して行こう
地道な作業になるが……何? 囲まれているだと!? まさかこいつは囮……?
そちらがその気なら、我々も地道な作業とは行かないようだな
■
アドリブ、絡み可
野良・わんこ
世の中わけのわからないオブリビオンもいたものですね
まぁ必要というからには探しましょう
パンジャンドラムの習性を考えれば海岸に居る可能性が高いですね
パンジャンドラムの本場のノルマンディー海岸では毎年6月になると上陸できずに散っていったパンジャンドラムの死体が大量に打ち上がると聞きますからね。
こうして海岸に鉄骨をペケの字に立てて、海月分身の術で分裂。
そしてドイツ兵の格好をして潜んでいれば……ほらきた!
ノルマンディー上陸作戦が始まったと勘違いしたパンジャンドラムが集まってきましたよ!
上陸できずに横倒しになったパンジャンを【念動力】を捕まえていきましょう
自爆にだけは気をつけて!
狭筵・桜人
まずは何処かしらでパンジャンドラムを呼びます。
パンジャンドラムを呼び寄せるパパパーパププパーの呪文は皆さんご存知ですね。
ちなみに私は知的なので丈が30cm以上ある虫取りあみを使用することで敵の攻撃を上手に回避します。
パンジャンドラムは側面のここ……そう、ここを優しく抑えることで
大人しくなる性質を持つことは皆さんご存知かとは思いますが
この丈の30cm以上ある虫取りあみでここをアレして
虫取りあみのあみでソレして捕獲することが出来るんですね。
余ったパンジャンドラムはパププパーパパパーの反呪文で帰らせます。
この技法をパンドラの回転する性質に因んでカクテイロールと呼びます。
危険なので真似しないように。
メーティオル・スター
虫取り気分といっても、宇宙船の中だとあんまり見ないからちょっと新鮮かも。
さて、まずはパンジャンを探さないと。
虫捕りだと罠を使うみたいだけど、パンジャンの餌が何か分からないし…
空地の草むらをかき分けてみたり、木を揺らしたりして探してみよう。
うまくパンジャンと遭遇できたら、次は捕まえないとね。
まずは数を減らして、残った3匹くらいを捕まえればいいかな?
爆発音を聞かせてくるみたいだけど、オレも派手な爆発を見ると興奮する性質だし、上手く共感して戦闘力を増強させてもらおう。
マグネボードで風を切って飛びながらマグナムで数を減らして、
最後はハイパー電磁トルネードで動きを封じたところをゲットだぜ!
●
「野生のパンジャンドラム……?」
野生、とは?
人類防衛組織『アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ』のエージェント、火奈本・火花(エージェント・f00795)は咀嚼しきれない違和感を共有するために、あえて口に出して呟いた。
彼女の向く先には虫取り網を持った二人の男子が立っている。
「養殖のよりは活きがよさそうですね」
と応えるのは狭筵・桜人(不実の標・f15055)。肩を竿で叩きながら、温度のない笑顔を見せる。残念なことに状況に対して何の疑問も抱いていない様子だ。
「宇宙船の中だとあんまり虫がいないからちょっと新鮮なんだよな」
対してこのようなコメントをしたのが、メーティオル・スター(屑鉄漁りの見習い冒険者・f05168)だ。虫取り網自体を珍しげに弄んでいる。彼の生まれ育った場所が宇宙だからか、ここは兵器が自由に繁殖する世界なんだなと納得している。
「そうですね」
火花は諦めた。気持ちを共有できる者などいないと悟った。
「人気の少ない路地を中心に探しましょうか」
二人に異論はなかった。
そして10分が経つ。
「なかなかいないなー」
メーティオルが網でばさばさと空き地の茂みを薙ぐが、手応えはない。やや後方で桜人が手伝いもせずに立って眺めている。疑問に思ってときどき振り返るが、温度のない笑顔は何度見ても変わらず、何も伺えない。
「ううーん……」
茂みは収穫なし。続いて適当な木に手を当てて揺らそうとすると、待ったが掛かった。
「危険です」
「なんで?」
火花の声。手を翳して静止させるポーズをとっていた。
「私の知る限り、パンジャンドラムは危険な爆発物です」
想像してみてください。もしそれが木の上にあったら、と指差す。
「揺らすと……?」
落ちて。その衝撃で。
「爆発します」
メーティオルは静かに木から離れた。茂みを薙ぐのもギリギリだったと悟った。
同じことには桜人も気づいていた。だが、味方にそれを伝えるのが火花で、特に何もしないのが桜人だった。
さらに5分後、ようやく一匹のパンジャンドラムが見つかる。
塀の影で寝転び涼んでいたのを桜人が忍び寄り、虫取り網で撫でて起こしたところを素早く両側から挟み込むようにキャッチ。驚いたパンジャンドラムがロケット噴射で回転するが、軸を掴まれていては虚しく空転するのみだった。
「これで一匹かー」
「ようやく一匹ですね」
鋼鉄の糸で縛る火花とメーティオルの声が重なる。ここまで15分経過してようやく一匹。進捗はよろしくない。
「パンジャンの餌って何かない? おびき寄せられないかな」
パンジャンドラムの餌。火花は意味を理解するのに少しばかり時間を必要とした。
「でも、餌が何か分からないしなー……」
そもそも兵器が餌など必要とするだろうか。ロケットの燃料とか?
考えてみてもこれといった案が浮かばず、いたずらに時間が過ぎる。
火花は、仕方ないと内心でため息をついた。人員の質に不安はあるが、Dクラス職員を動員して手分けして探すしかないだろうと。
そんなときである。
「はい」
桜人が手を挙げたのは。
「まず、パンジャンドラムを呼び寄せるパパパーパププパーの呪文は皆さんご存知ですよね」
「有名なの?」
メーティオルは火花を見る。火花は無言で首を振った。
桜人は虫取り網を肩に乗せながら続ける。
「つまり、餌となるパンジャンドラムを呼べばいいんですよ」
普通に呼べるならもうそれでいいような気がしてまたメーティオルが火花を見る。今度は頷いていた。
「繁殖期にあるメスのパンジャンドラムを呼びます」
「メスのパンジャンドラム」
「これによってオスが釣れるということです」
「オス」
火花は渋面を作る。認識の改変が深刻なレベルにある。
「なるほどな」
だがメーティオルが頷く通り、UDCアースの常識を横に置いておけば確かに有効な手段だった。これなら餌がわからなくとも呼び寄せることが可能だろう。
「じゃあさっそく――」
「というわけで呼んだのがこちらです」
桜人が横を向いて虫取り網を見せる。網の中にはどことなく興奮した様子のパンジャンドラムがあり、重みで竿をミシミシと軋ませていた。
火花がはっと周囲を見回す。
「……いつですか?」
「何がです?」
それを呼んだのがです。答えて、火花は目を細め神経を尖らせた。ゴミ捨て場の影、塀の隙間、マンホールの下。
気づけば、数え切れぬ数のパンジャンドラムらが忍び寄っていた。
「少し前ですかね」
「囲まれてますよ」
自動式9mm拳銃が引き抜かれた。
どおん。
どおんどおん。
銃弾が包囲網に穴を開け、猟兵達が一斉に飛び出す。路地をまっすぐに突っ走り、向かうは河のある方向。入り組んだ市街地であの数に対応するのは無理だと判断した。
捜索から一転して、事態は追撃戦に移り変わる。
逃げる猟兵が三人なのに対して、追うパンジャンドラムは数え切れないほどだ。
「なあそのパパパーパパパパーの呪文で追い払えない!?」
「可能ですよ! 私が呼んだ個体ならですが!」
つまり焼け石に水というわけだ。この状況を好転させることはない。
背後では膨大なパンジャンドラムが数珠つなぎになっており、ときどき仲間同士の接触で爆発しては、他を巻き込んで誘爆させていく。しかしどこからともなく新しいものが合流してきて、一向に減る気配がない。
地獄絵図だ。
濃厚な死の予感が背筋を舐める。
開けた土地に出ないといけないと誰もが理解していたが、そこでどう対処すればいいかは誰にも思い描けないでいた。
そのまましばらく走っただろうか、一番最初に異変に気づいたのは火花だった。
ちょうど河川敷へ差し掛かろうというとき、パンジャンドラムの先頭集団が一斉に向きを変えた。
「見て」
息を切らしながら二人に声をかける。後続のパンジャンドラムも少なくない数が先頭集団を追い、いまや猟兵達を追いかける個体は半数にまで減っていた。
ではパンジャンドラム達は何を目指しているのかと言うと、彼らの先には一人の少女がいた。
「かかりましたね!」
野良・わんこ(灼滅者・f01856)である。不思議なことに軍服姿、それも第二次世界大戦の兵に扮していた。
大量のパンジャンドラムを迎えながらも彼女は自信に満ちた表情を崩さない。彼女の前には交差させた鉄骨による柵があり、敵はそれを乗り越えられずにいると、後続と接触し、連鎖的に爆発していく。
おお見よ。これがパンジャンドラムの本場、ノルマンディー海岸で毎年見られる光景である。ここは海岸ではなく河川敷であるが、大量の鉄柵を用意し、その奥で兵士に扮装して潜めば、パンジャンドラム達は陸上地雷の本能を刺激され吸い寄せられてゆく。
「これは……」
「なるほど」
目の前の光景を一番早く理解したのは桜人だった。
「上陸作戦を再現したとは」
「パンジャンドラムの習性を考えればこんなもんですよ!」
応じてわんこが叫ぶ。決して短くない距離と、連続する爆発音が声を阻むが、わんこの耳は自分を称賛する言葉を決して聞き逃さなかった。
「6月になると上陸できずに散っていったパンジャンドラムの死体が大量に打ち上がると聞きますからね!」
メーティオルは走りながら火花を見る。火花は無言で首を振った。
あの子も深刻な認識改変を受けているようだが、なんだか素でそういう子のような気がしてきた。
が、この状況を利用しない手はない。
「よしッ!」
まずメーティオルが反転した。その手にはプロペラがあり、電撃を纏いながら高速回転する。
パンジャンドラムは異変に気づくがもう遅い。電磁力に体を絡め取られる。爆発的に膨れ上がる力場は瞬く間に後方を巻き込んでゆく。
「こいつでどうだ!」
メーティオルはさらに回転数を上げる。プロペラから溢れる雷は荒れ狂い、やがて嵐を作った。
「こ、…ンのやろォォォオオッ!!」
構えながら大きく踏み出す。だんっと地を踏みながらプロペラを渾身の力で押し込めば、電磁力に支配されたパンジャンドラム達は打ち出されたように吹き飛ばされ、遥か先で爆発を起こした。
猟兵と追撃隊のあいだに大きな空白地帯が生まれる。
メーティオルが作ったのは時間だ。パンジャンドラムの洪水に飲み込まれるまで、猟兵が新しいアクションを起こすための時間である。
「Dクラス職員!」
声を張り上げて、火花はその身に持つ権限を振るう。予め状況を説明し待機させていたUDC職員はDクラス、すなわち特殊な身分を持ち、特殊な用途に投入される人材だ。これを自身の援護にでなく、単身で上陸作戦を再現した少女に付ける。
軍を演出したのだ。
河川敷に布陣し、鉄柵を用意し、軍服までも用意した少女に、唯一足りなかった『軍団の演出』を火花が補った。
戦争のイメージが補強されたいま、もう習性に逆らえるパンジャンドラムはないだろう。
三人の猟兵を狙おうとしていたパンジャンドラムは、鉄柵を目指して方向転換する。
すると何が起きるのか。
三人の安全確保だろうか。
否、それだけではない。答えは密集だ。
大量のパンジャンドラムが一箇所へ集中することでそれぞれが接触しあい、爆発する。
誘爆に次ぐ誘爆。しかし彼らは止まらない、止まれない。これこそが自分たちの本望であるかのように。嬉々として鉄柵へ飛び込み、仲間とぶつかりあい、爆発して破片を撒き散らしてゆく。
狂宴は、爆音に辟易した猟兵達が耳を塞いでもしばらく続いた。
「……」
「……」
「全滅じゃないですか!!!」
青い空。広い河。散乱する夥しい数の破片。
ジャンク屋のメーティオルですらドン引きする空間でわんこが叫ぶ。
「確保する分が残ってないじゃないですか!!」
パンジャンドラムは誘爆した。それはもう連鎖的に、猟兵に介入する時間を許すことなく全ての仲間を巻き込んでいった。
いまとなっては作戦が成功しすぎたのか、ただ失敗しただけなのか、判断が難しい。
「また集め直すの?」
「そうしましょう。でも敵を密集させると危険ですね」
メーティオルの言葉に桜人が続く。今回の目的がパンジャンドラムを一掃することならこのままでいいのだが、確保となるとひと工夫が必要になる。
「職員の数を調整します」
これに火花が提案した。兵士の数でパンジャンドラムへの影響力が増減するなら、適量を探ればいいのだ。
「じゃあ、開始しますね」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎アドリブ等々、お好きにどうぞ!
【パンジャンドラム】
(歴史資料を見る、暴走して爆発するパンジャンを見る)
……。
阿片(こうちゃ)をおやりに?
あ、いや、職員さんのことじゃなくて……。
→(Gみたいな扱いを聞いて)
(パンジャンって非合法阿片やってる時に見る幻覚かなにか?)
不安しかない。
【パンジャン捕獲計画】
要は爆発させなきゃ良いんだし、ぼくの超機械で爆発阻止して……。(ネズミ花火みたいにその場でグルグル回ったり空飛ぶパンジャンを見て)
存在がうなされてる時に見る悪夢みたいなんだけど!
そっか、UDC……紅茶(阿片)をきめてるような情緒不安を起こす存在……!
(※鈴鹿は阿片やってません)
百地・モユル
野生の…パンジャンドラム?って何?
へぇ、あのぐるぐる回ってるのがパンジャンドラムっていうんだ!
ボクもひとつ賢くなったかな
この武器がUDCになったんだね
捕まえる方法は…灼熱の束縛をあびせて動きを止められないかな?
技能の挑発とおびき寄せとダッシュで走りながら
試しに数体を狙ってこっちにこーいって煽って
射程内にきたら灼熱の束縛を放つ!
うまくいったらそいつをゲットだぜ
…ただ、あれ火薬が入ってるんだとしたら誘爆しないかどうかが心配だな…
もしそうなっちゃったら火炎耐性と覚悟と気合いで耐えるよ
ご、ごめんなさーい…
アドリブ、絡み歓迎です
エレン・マールバラ
※アドリブ・連携歓迎
ふっふっふ…。Panjandrumの事なら私に任せるっす!本場仕込みのTechnicを見せてあげるっすよ!(紅茶の飲みすぎで内なる英国面が発現している)
まず、警戒心を消すために紅茶を飲んで匂いをつけるっすよ。Kettle一杯分が目安っすね。
それから、Panjandrumが好きなMelodyがあるっす。例えばこういうのっすね。(ファイフ(横笛)で例の行進曲を演奏)
…Look!出てきたっすよ!捕まえる時はためらわないで、こうやって正面からしっかり抱きかかえるようにAaaaarrrrrrggghhh!!!!!(派手に轢かれる。辺りは血の海に…いやマーマイトだこれ!)
●
連装式黒色火薬ロケットが火を吹き、車輪が唸りを上げる。
面妖な形状をしたUDCは、猟兵めがけて路地を文字通り爆走した。それは怒り狂っていた。
これには深い事情があった。つい先程までUDCは友と二匹で日向ぼっこしていたのである。暖かい陽光と暖まった路面、そして清涼な風を満喫しながら、平和を謳歌していたのである。これが終わったら一緒に適当な人間を爆破しようねと話していたのだ。
だがあろうことか、突然として平和は無慈悲な悪魔によって引き裂かれた。
悪魔とは赤い炎であった。
地獄めいた灼熱が友を包み、たちまち爆発させたのである。
なんという悲劇なのだろう。一体友が何の罪を犯したというのか。友は他の個体と変わらず熱に弱く、衝撃にも弱かったが、日向ぼっこと人間の悲鳴をこよなく愛するUDCだった。
「まさかあんなすぐ爆発するなんて……」
聞こえた声に体を向ける。敵の姿が見えたとき、全身がマグマに包まれたような気がした。この煮えたぎるエネルギーは怒りだ。そして悲しみなのだ。
「ご、ごめんなさーい……」
人間がどれほど謝ろうが絶対に許さないことを亡き友に誓った。
そして冒頭に至る。
猟兵二人へUDCが襲いかかるという図式である。二人とも敵意のない様子で立っていたが、UDCのほうはカンカンである。もはや対話はない。そもそも話など通じない。
必ず木っ端微塵にしてやるとさらに加速したが。
「!?」
UDCは突然の浮遊感に驚愕した。猟兵の片割れが謎のリモコンらしきものを持っていた。スティックらしきものが親指で持ち上げられると、UDCの体は宙に浮かび上がった。
「これなら熱も衝撃もないから爆発しないはず!」
何やらわけのわからぬことを言っていたが、関係ない。必ず木っ端微塵にしてやると決めたはずだ。
UDCは空中でなんとか前に進もうともがく。だがいくらロケットの出力を上げてもまったく進めない。不可視の力で前から押さえつけられているようだった。UDCはさらに怒った。
怒りすぎてぽーん、とロケットの一部がすっ飛んだ。
「あっ」
そしてバランスを崩したUDCは空中で横倒しになり、ネズミ花火めいた激しい高速回転を披露して、だんだんと高度を上げていき、いい感じの高さで爆散した。
「……」
「……」
国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)と百地・モユル(ももも・f03218)は顔を見合わせる。一切の感想が抜け落ちていた。
モユルは盛大に事故死した物体を視界に入れないようにしながら口を開く。いまはまだ、一連の出来事に心がびっくりしていて、残骸を直視することができない。
「結局、パンジャンドラム? ……って何?」
「えーっと……」
対して、鈴鹿は資料を開くことでそれを視界から隠した。正式な手段で入手したUDCアースの歴史資料である。今回のUDCと同じ名前の兵器について綴られている。
ただ悲しいかな、資料を見ながら目を細めたまに見開いて、時には少し離してみたり横に倒したり逆さにしたりしたのだが、何度見ても資料が示すものと爆死したUDCがそっくりで、鈴鹿は百面相をした。
困ったな、なにひとつ正気なものが見つからない。どうやらこの世界の歴史は故郷と違って、大英帝国が正気と味覚を栄華の代償にしてしまったようだ。
「この世界でむかし開発された兵器のようだね」
「へぇ、そういう兵器が昔あったんだ」
モユルは資料を覗き込む。でかでかと掲載された写真はなるほどいま見たものとそっくりであり、おかげで兵器がUDCになったという事実をゆっくり飲み込むことができたかもしれない。
モユルは現在7歳。非常識な物でもありのまま受け止められる年頃である。ぜひそのまま真っ直ぐに育ってほしい。
「ボクもひとつ賢くなったかな」
疑問がひとつ晴れた清々しい表情だった。
鈴鹿の表情は一向に晴れなかった。
「それで、野生ってどういうこと?」
「どういうことだろうね」
遠い目をして丸めた資料に、野生という単語はどこにもなかった。
さて、気を取り直して。
変わらず場面は小路地。鈴鹿はぺちっと弱めに頬を叩く。思考を切り替えよう。いま求められているのはパンジャンドラムの確保だ。理解することではない。
だが先程捕獲を試みたところ、予想を遥かに下回るパンジャンドラムの耐久度が、二人の考案した捕獲方法に耐えられないという問題点が判明した。
パンジャンドラム以外に無敵な邪神攻略作戦は、早くも暗礁に乗り上げてしまったのだ。
「ふっふっふ……お困りのようですね!」
しかしここに救世主が現れる。
「Panjandrumの事なら私に任せるっす!」
路地の角、いつの間にか電柱へ背中を預けていたエレン・マールバラ(不運と幸運は紙一重・f22565)が口を出す。そのネイティブな発音のなんと心強いことだろう。さらに本場仕込みのTechnicなんて言ってる。テクニックではない、Technicだ。オーラも違う。もう期待しかない。
「まず、警戒心を消すために紅茶を飲んで匂いをつけるっすよ」
なるほど、とモユルは手を叩いた。確かにあのパンジャンドラムは怒っていた。警戒させず落ち着かせたままであれば捕獲できるかもしれない。これには鈴鹿も納得した様子で頷く、が。
エレンが鉄製のケトルをラッパ飲みし始めたのを見て凍りついた。
「……えっと、それは何?」
「紅茶っす!」
ぷはーとひと心地ついた調子で言わないでほしい。中身について聞いてるのではなく量を問いただしたいのだ。
「……なんでそんなに?」
「紅茶は英国面に深みを与えてくれるっす。紅茶が多ければ多いほど、より深みを持たせることができるっすよ」
英国面。知らない単語だ。不穏な感じがする。
「あっ」
鈴鹿の脳裏で資料と英国面が結びついた。英国面ってつまり英国じゃないか。あの面妖な兵器を開発した国だ。間違いない、エレンの言う紅茶はサクラミラージュのそれとは違う危険な薬物なのだ。
例えば、そう。合法阿片のような。
「ああ……感じるっす、感じるっすよ。この胸の奥に感じる、Spiritualな共鳴……。いまならPanjandrumの設計コンセプトにも完全に共感できるっす……」
エレンは両手を広げながら瞑目し、大きく深呼吸する。
もっとやべーやつだこれ。
鈴鹿は頭を抑えてよろめいた。この人はきっともうだめだ。どこの世界にラリったやつのアイディアを真に受ける者がいるだろう。捕獲方法は自分たちで考えるしかない。
多感な少年がこれ以上英国面を直視しないよう、鈴鹿はモユルとエレンの間に立つ。そして手を引いて距離を取らせようとした。
しかし。
「んー、ボクも紅茶を飲めばいいってこと?」
「ダメだよ!?」
耳を疑う。モユルはあの姿を見て何も思わなかったというのか。
「飲んじゃダメだよ! 紅茶なんて絶対に危険だよ!」
鈴鹿は必死だった。幼い少年の精神を守るために声を荒げたが、現実は残酷であることを直後に知ることとなる。
「ボクも飲んだことあるけど」
「その年で!?」
馬鹿な、こんなことが許されていいのだろうか。故郷の合法阿片ですら未成年には禁止されてるというのに。非合法阿片を煮詰めて悪夢を添加したようなものがこんな小さな子供の手に渡ってしまうなんて。ペットボトルにぎっしり詰まったものがコンビニや自動販売機で手軽に購入できてしまうなんて。
「見込みのある少年っすね、Kettle一杯いりますか?」
嘆く鈴鹿をよそにエレンは新しいケトルを勧める。予備ケトルだ。英国面をキメすぎると一杯分じゃ満足できないことが多々ある。
「ううん、いい。飲みきれないし」
鈴鹿が落ち着くのを待ってから、エレンは路地の中央に立ち、横笛を取り出す。
「警戒心を消すために紅茶を飲むところまでは説明したっすね」
対称的な表情で頷く壁際の二人。それぞれの表情は察してほしい。
「次にこれで演奏するっすよ。Panjandrumが好きなMelodyがあるっす」
パンジャンドラムに詳しい諸氏はお気づきであろう。勇敢なバグパイプの音色が特徴的な某行進曲である。英国面の奔流に身を浸すいまのエレンなら、横笛でバグパイプの音色を出すなど朝飯前だ。
「Look!」
果たしてエレンの示す先にUDCの姿があった。路地のゴミ捨て場のネットから這い出てくるパンジャンドラムは、明らかに行進曲を意識してそわそわしている。
「あそこ、いっぱいいるぞ!」
続いてモユルの指差す先にもいた。民家の屋根の上で蠢いていた。それ以外にも続々と姿を見せてくる。
エレンが行進曲らしく歩き始めると、パンジャンドラム達は速度を合わせてその後に続く。パンジャンドラム達はこの行進曲が好きなのだ。魂レベルで刷り込まれている。もちろんパンジャンドラムを鑑賞してはしゃぐ人間たちにも。
エレンの鳴らす笛にドラムの音が混じる。英国面は絶好調だ。英国面に不可能はない。パンジャンドラムのテンションもうなぎ登りである。
エレンが駆け出した。パンジャンドラムもロケットを点火する。行進曲の勇猛さ、疾走感に胸を突き動かされて速度を上げてゆく。
もはや、ひとりの猟兵とパンジャンドラム達は一体となっていた。全員が同じ景色を見て、全員が同じものを聞いた。そして夢を共有し、魂で語り合った。
突如先頭のエレンが反転する。大量の後続パンジャンへ手を広げた。
「さあ、Panjandrumの捕まえ方を教えるっすよ!」
ハグだ。ハグをしようとしているのだ。
パンジャンドラムはエレンめがけて加速する。彼らは何も恐れない。エレンを仲間であると心の底から信じ切っていた。同じ英国の夜明けを見れる同志なのだと受け入れていた。
「こうやって正面からしっかり抱きかかえるように――……Aaaaarrrrrrggghhh!!!!?」
そして当然のように轢いた。
あとに残ったのは、大量のパンジャンドラムに轍を刻まれた無残な猟兵だけだった。
「……」
「……」
モユルと鈴鹿は静かにパンジャンドラムの大群を見送る。彼らはどこを目指しているのだろう。きっと、目指すものに辿りつくまで決して止まらないのだろう。
「一匹ずつ地道に捕まえていこっか」
「そうだね」
鈴鹿は青空を見上げ、目を細める。
UDCアースは狂気で狂気を駆逐する世界とは聞いていたが、ここまで正気を投げ捨てたくはないなと思った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携・絡み・キャラ崩壊大歓迎】
パンジャンて。
パンジャンて……!
なあもっとマシな弱点なかったのかよ!?
いやまぁ、逆にあり得ないようなブツだから
効果てきめんかもしれないけどさぁ……!
居るんだよ!パンジャン使いが!知り合いに!
ぜってーあのヒゲ嬉々として参加してるだろ!?
いや流石に会いたいとかじゃねぇけど!
ハァ……なんだろう。すごく疲れる依頼になりそうな気がする……
だってほら、目の前にもう転がってる野生のパンジャンがいるし。
……って野生ってなんだよそれ!?
アタシも納得しかけてた!?何この空間!?
あーもう適当に【縁手繰る掌】で加速前のパンジャンを捕まえて、
『マヒ攻撃』で大人しくさせとく!
エドゥアルト・ルーデル
(ブリティッシュなBGM)
野生のパンジャン!心踊るワードでござる…おっと見渡す限りパンジャンの群れ!これだけのパンジャンが揃うと壮観でござるな
早速拙者もパンジャンを転がして行くでござるよ!【ブレイブマイン・パンジャンドラム】!
このパンジャンは虹色の煙を吐きながらやたらカラフルな爆発で物と人を直すヒーリングパンジャンドラムでござる
野生であれば派手な仲間を追いかけるのは必然!
大量に連れ立つパンジャン達はさながらディガーランドのように土煙と重厚さを醸し出す…
正しくテーマパークに来たみたいでござる!テンションあがるな~!
さあこのままボスの元までパンジャントリカルパレードの始まりですぞ!
●
「パンジャンて! パンジャンて!!」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は大声を上げた。様々な思いの籠もった声だった。
もっとマシなものを弱点にできなかったのとか、これ絶対知り合いのパンジャン大好き猟兵がやってくるだろうとか、滅茶苦茶に振り回されそうな予感がひしひしとするとか、なんかそういう感じのネガティブな感情の噴火だった。
ここは街から少し外れた場所。本来ならば小山の麓というべき、雑木林の境界と閑散とした道路しかないところだ。
だが、普段と違っていまは猟兵の多喜と無数のパンジャンドラムがいる。
急カーブの中心に立つ多喜へ、両側からパンジャンドラムが押し寄せている状況だ。
「大体! 野生ってなんだよそれ!?」
多喜はまだまだ叫ぶ。いくら叫んでも全然足りない。野生ってなんなんだ繁殖でもするのか。
襲いかかる敵へ腕を振る。すると軌跡をなぞるように雷が生まれ、迫る敵を打ち据えた。パンジャンドラムは堪らず爆発し、同族を巻き込んでゆく。
おわかりだろうか。彼女は、挟み撃ちを受けながらも追い込まれてはいない。サイキックによる電撃で陸上地雷の波状攻撃を凌いでいる。それも合間に悪態をつきながらだ。
「くそ、それにしてもさっぱり減らないね!」
いますべきことは、邪神攻略に向けたパンジャンドラムの確保である。それを踏まえれば次々と押し寄せてくる状況は探す手間がなくていいのだが、いかんせん数が多すぎる。攻撃の手を緩めれば途端にパンジャン洪水に飲み込まれることなど火を見るより明らかだろう。多喜とてまだまだ死にたくはないし、死因がパンジャンドラムになるのは死ぬ以上に嫌だった。
腰を落とし、水切りの要領で腕を振る。すると延長線上を紫電が這い回り、パンジャンドラムを次々爆破してゆく。
結構な数を倒してきたが、まだ減る気配はない。
「……ここはいったん逃げるのがいいかねぇ」
額の汗を拭い、仕切り直しを検討する。
状況に変化が起きたのはその時だった。
「……?」
「……!!」
戦場を駆け抜ける一条の虹。
どこからともなく響く軽快なドラム。
立ち上る極彩色の煙。
やっぱりどこからともなく聞こえてくるバグパイプ。
「このブリティッシュなグラビティは……!」
多喜がごくりと喉を鳴らす。やばい。あいつだ。ヒゲだ。
虹色のパンジャンが発射された地点。そこに立つのは。
「愛を知らず、本能の赴くまま暴れるパンジャンよ聞くでござる」
うわああぁぁぁぁでたあああああ!!
やっぱり来たああああああ!!
パンジャンドラム達は圧倒的な英国面の波動に震え動きを止める。
多喜は両手で顔を覆いながら俯いた。
ぽっかりと生み出された静寂に、エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)の声はよく通る。
「多くの鳥類のオスの羽毛が派手なのは同族のメスに対してアピールするためというのは有名でござる」
なんか語りだしたぞ。
「クジャクなんていうのはその代表的な例で、ここ日本ではマガモなどにも見られる特徴でござるな。
ところでこのマガモの繁殖期は4月から8月。いま見られるオスは翡翠色、純白、白い首輪、黒褐色を散りばめられた鮮やかな姿であるが頭の中は真っピンクでござるな。
だが繁殖期が過ぎるとこの鮮やかなオス達は見られなくなるでござる。秋の川のどこを見渡してもなんか回想シーンのようなセピアカラーのマガモばかり。
やっぱりカマキリみたいにヤることヤったオスはもぐもぐされちゃうんでござるか?
いいや勘違いしてはいけないでござるよ。
なんと繁殖期を終えたオス達は鮮やかな羽毛が抜け落ちてメスとそっくりな外見になるのでござる。
つまりメス堕ちでござるな。
オスのマガモは繁殖期にケバコラしながらメスとエンジョイし、それが終わればメス化という一粒で二度美味しい人生を送ってるのでござるよ。大自然の性癖は驚異的でござるな。
ちなみにこの現象は鳥類用語でエクリプスと呼ぶでござる。フフッ拙者のエクリプスも――」
「うるせえ!!!!!!」
多喜の両手から電撃が迸った。
エドゥアルトは爆発した。周りのパンジャンドラムも爆発した。
だが、直後に信じがたい現象が起きた。
エドゥアルトが無傷で立ち上がったのである。それどころか爆発したはずのパンジャンドラムも新品な姿で起き上がる。
「こいつが原因か!」
多喜は虹色の恐ろしく派手なパンジャンドラムを睨みつけた。野生のパンジャンではなく人間の元で飼育されたパンジャンである。先程のマガモの話ではないが繁殖期に異性へアピールするような見た目で頭が痛い。
そして見た目がカラフルであれば爆発もカラフルであった。
加えてカラフルな爆発には回復効果があったのだ。
「さあ行くでござるよ。ディガーランドを駆け抜けて、ノルマンディーを目指すでござる」
踵を返しながら指笛を吹くエドゥアルトにカラフルパンジャンは追従する。さあ、紅茶の水平線から登る太陽を見に行こう。
一人と一匹が進みだすと多くの野良パンジャンドラムが追従した。さながらパレードのようだった。行進はパンジャンドラムの大好物だからね。ほら、なんかBGM的に。
「…………」
多喜は目頭を押さえた。何だろうこの空間は。
少し前まで襲い掛かってきたパンジャンドラムは、今やこちらを無視して続々とエドゥアルトを追ってゆく。
未だパンジャンの復活も続いていた。黒焦げで倒れていたのが突然綺麗になりながらスッと立ち上がり、ゆっくりパレードに加わっていくのだ。
「あーもう……」
もう何も考えないことにする。
とりあえず捕まえられればそれでいいや。
多喜は復活したてで動き出す前のパンジャンを手で触れ、一匹ずつ麻痺させていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セフィリカ・ランブレイ
『頭痛がしてきた。……パンジャンドラムに野生も何もないでしょ?』
私より先に呻く魔剣、相棒のシェル姉。現実を受け入れてほしい
今捕まえとかないと後で大変だよ
例の邪神はパンジャンドラムじゃないと倒せない!
『欠陥兵器じゃないと倒せないとかひどい話ね』
でもこのレギュだとシェル姉欠陥兵器以下だよ……
『神も龍も魔王も斬った私が欠陥兵器以下か……ふ……』
し、シェル姉がショックで曲がった!?
早く捕まえて場を収めてしまおう!
ほら、シェル姉はパンジャンドラムを捕まえることができるから!
つまり欠陥兵器を上回ってる事になるからね!?
【蒼剣姫】を発動、高速で周囲を駆けまわり、
目に止まった野生の奴らを片っ端から捕獲だ!
エメラ・アーヴェスピア
え、えぇ…?…また大雑把に強力ね、それは…
でも、なんでパンジャンドラム…?
…ま、まぁこれも仕事には違いないわね…
…悪かったわね、その稀有な才能を持った猟兵の一人よ…
だから無理に捕獲する必要はないのだけれど…
…あまりにも大量発生しすぎじゃないかしら?別の意味で危険では…?
仕方ないわね…『ここに始まるは我が戦場』
上空より広範囲を【偵察】、位置を【情報収集】
まだ見つけていない同僚さんがいるなら位置を教えるわ
そして一般人に危険がありそうな場所に展開している奴には…
ステルスドローンをそのまま投下して打撃、爆発してもらいましょうか
あ、周りに被害が行かないようには気を付けるわ
※アドリブ・絡み歓迎
●
閑散とした市街地を風が走り抜ける。
蒼い光を纏った娘は、地を蹴り塀を蹴り、さらには魔力で編んだ壁すら蹴って、トップスピードを維持しながら跳ね回る。その動きはまるでピンボールのようで、常人にはまるで捉えられない。
娘は、赤いマントと軽装鎧を纏ったエルフであった。
『南南東200m先に目標二体、10m離れてさらにもう二体。周囲に民間人の姿はないわ』
「はーい、すぐに向かうよ!」
娘が声に答える。声は翼を生やした通信端末から発せられたもので、声の主は協力関係にある猟兵のものだった。
エルフの娘、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)はすらりと伸びた美しい足で魔力のスロープを蹴り、大きく跳ね上がる。次に足場とするのは民家の屋根。その次は電柱。魔力壁。電柱。アパートの壁。魔力壁。
行く手を遮る建築物の尽くを足場として進むセフィリカにとって、200mなどというのはほんのひと呼吸分の時間で踏破してしまえる距離だ。
「見えたよ、シェル姉!」
セフィリカが呼びかけるも、通信先の相手は沈黙している。相手の猟兵はシェル姉という人物ではない。シェル姉なる人物の返答がなくともセフィリカは気にしなかった。
赤い瞳が射抜く先。土地売ります、と看板の立つ更地に屯するパンジャンドラム二体がずつ。
空に蒼と赤の鮮やかな色彩を描く星は、電撃的な軌道を描きながら敵の背面へ回り込み、そして相手が状況を理解するより早く魔力壁の檻に閉じ込めた。
「二体確保!」
『残り二体は任せて』
端末から声を発せられる。幼い声だった。
ようやくセフィリカの存在に気づいたパンジャンドラム二体は、彼女へ突撃を仕掛ける前に、空からドローンの降下攻撃を浴びて爆散した。
「ふー……。順調だね、シェル姉。すごいすごい」
セフィリカは額を拭う。シェル姉らしき人物からの答えはない。
その代わりに端末から遠慮がちに、気遣うような声色で質問が投げかけられた。
『それでその。……あなたの剣は立ち直ってきたかしら?』
セフィリカは片目を瞑りながらそれまでずっと握っていた剣を観察する。彼女が姉と呼ぶ魔剣シェルファ、その柄から切っ先までを視線が往復して、
「うーん。いま直角くらいかな」
と答える。
『そ、そう……』
意思を宿す魔剣。セフィリカが姉と慕う人格を持つそれは、大胆に折れ曲がっていじけていた。
『欠陥兵器以下じゃないもん……』
アイデンティティの危機に瀕していたのだ。
通話先の猟兵、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は深く息を吸い、力なく吐く。そしてどうしてこんな状況になったのだろうと30分前の出来事を振り返るのだった。
場面は二人が協力関係を築く前まで遡る。
「え、えぇ…?」
閑散とした小さな公園で、エメラが腕を組み、口元に手をやりながら困ったように眉を窄めた。彼女は、外見の幼さとスチームパンキッシュなドレスが相まって、洋人形の印象を見た者に抱かせる可愛らしい少女だ。少女なのだ。実際の年齢を聞いてはいけない。
さて、そのエメラがどうして困っているのかというと、理由は目の前の猟兵にあった。
赤いドレスと軽装の鎧を優美に一体化した衣装。セフィリカが同じ猟兵であるということでエメラに声をかけ、ひとつのことを頼んできたのである。
欠陥兵器以下と言われて凹んでる魔剣を励ますのに手を貸してほしい、と。
「え、えぇ…?」
全く同じ感嘆句をこぼしてエメラはセフィリカの見せる剣を見る。
それはもう見事に凹んでいた。
凹んでるというか、コルク抜きのように捻じ曲がって、ついでに安全ピンのように折れ曲がっていた。
一体何が起きればここまでなるのだろうと頭を抱える。
ちょっと待ってほしい。
これからパンジャンドラムによる攻撃以外は全く効かないとかいう珍妙な邪神と戦わなければ行けないし、街中に棲息してるとかいう野生のパンジャンドラムもなんとかしないといけないのだ。
前衛芸術みたいになった剣までは正直、ちょっと……。と思ってしまうのは仕方のないところである。
「ええと、どうして欠陥兵器なんていう言葉が出てしまったのかしら」
「ありがとう。ちょうどパンジャンドラムの話をしていてね……」
一応は付き合ってくれるらしいエメラにセフィリカは礼を述べる。励ますのはセフィリカが行うから、そのアイディアが貰えれば十分だ。
魔剣シェルファ。それは女性の人格を持ち、セフィリカと共に幾多の世界であらゆるものを斬ってきた恐るべき剣である。だが知性と常識を持っているせいで、野生の、前世紀のニッチな陸上地雷という存在に反発してしまった。
『パンジャンドラムに野生も何もないでしょ?』
『だいたいどうしてそんな変な邪神がいるのよ』
という剣が言ったらしい内容にはエメラも大きく頷きたい。例の邪神と野生のパンジャンドラムは全く関係がない別個の存在だが、邪神のせいでパンジャンドラムと向き合わないといけなくなったのは紛れもない事実である。
『欠陥兵器じゃないと倒せないとかひどい話ね』
なるほど、最初に欠陥兵器という単語を使用したのは剣の方なのね。
「そこで私が、でも今回のレギュだとシェル姉欠陥兵器以下だよって言って」
ああー。
幾度もの世界を越えて、あらゆるものを斬ってきた魔剣が欠陥兵器以下。
龍を斬った、魔王を斬った、さらに神さえも斬った。そんな、あらゆる神秘と暴力を下してきた魔剣がなんと、なんと。
欠陥兵器、以下。
敵陣まで転がって体当りして自爆するコンセプトなのに、ロケットがひとつ不具合起こしただけで逆走、暴走、暴発。敵味方巻き込んで大混乱を起こすような悪夢の欠陥兵器の、それ以下、だなんて。
つらい。つらすぎる。ショックで曲がるのも仕方ない。
「いやそこまでは言ってないんだけどね」
「そう」
エメラは剣に同情した。同時に、自分がそんなパンジャンドラムをユーベルコードで作れてしまうことは決して言うまいと固く決意した。
そして、人差し指をピンと立て、口元へ寄せる。幼い少女が背伸びをしてみたような、可愛らしい姿だった。
「邪神についてはあくまで相性の問題よ」
これは仕方のないことだから。
「だから、たくさんパンジャンドラムを倒して捕獲して、剣のほうが遥かに格上であることを証明して、自尊心を取り戻すのはいかがかしら」
つまりそういうことになった。
長い回想から戻り、現在。
エメラは変わらず閑散とした公園で、ちょこんと小さくベンチに座りながら大量のドローンを制御している。
動員したドローンの数は400に至る。これに偵察を指示し、リアルタイムで情報を処理しながら補足したパンジャンドラムを一つずつ検証。周辺に一般人がいないか調査。すぐに対処する必要があればそのまま対地攻撃に切り替え、そうでなければセフィリカに伝え、捕獲を支援する。
有り体に言ってめちゃくちゃ忙しい。
だが、幸運なことにセフィリカの魔力壁はパンジャンドラムの拘束に大変有用で、次々と捕獲ができている。
いまのところ一般人に被害はなし。極めて順調だ。
「剣の様子はいかが?」
学校の屋上。ちょうどパンジャンドラムを一体捕らえた少女が明るい調子で言う。
「いま80°くらいね。少しずつ立ち直ってきてるかな」
先程は90°だったのだからこちらも順調である。
パンジャンドラムを捉えるたびに、すごい、えらいと励ましてきた甲斐があった。
「さすがシェル姉。頼れるなぁ」
『…………』
数秒の沈黙。
『ほんと? お姉ちゃんパンジャンよりすごい?』
魔剣の角度が75°になった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アリス・セカンドカラー
お任せプレイング☆お好きなように♪
ぶっちゃけ、アリスナイトイメジネイションを始めとした想造系ユベコは充実してるんだけど、やっぱり捕まえてきた方が楽しいわよね☆
目立たない存在感の迷彩を施した赤い糸を罠使いで設置、後はナンパして待ってればワンダフォーランドに大量ってな寸法よ☆あ、でも、待機中に爆発されても困るから男の娘属性攻撃の呪詛で男の娘化させておきましょ。おーと、ナンパなんかしてる場合じゃないわ、いざゆかん楽園へ♪
男の娘パンジャンが爆発に必要な情熱を魔力溜めするためにご奉仕ご奉仕。いえ、料理してるだけよ?
アリルティリア・アリルアノン
おや、この茂みを見てください!
小さな轍がありますねー
これはここをパンジャンがよく通っているという印……いわばパンジャン道です
ところで、パンジャンのふるさとはイングランドといわれています
そのせいか彼らはイギリスの食べ物が大好きなんですねー
なのでこのパンジャン道に紅茶やマーマイトを塗りたくったパンなどを置いておけば、
それを見つけたパンジャン達はすぐにでもティータイムをはじめるでしょう
……ってネビルせんせーが言ってました
ともかく上記の作戦でパンジャンを足止めして、フォトジェニック・ステイシスで動きを封じます!
動けなくなった所をまとめて捕まえちゃいましょう!
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ改変・連携歓迎】
うーん、世の中実に狂ってる
パンジャン猟兵に心当たりはあるけど、偶には自分でパンジャン研究をして芋煮に活かすいい機会かも
ここは活きのいいパンジャンを捕まえよう
そんな訳で、大きな廃工場に仕掛けを作り終えた私が翌日出向くと既に大量のパンジャンが密集していたのでした
あちらこちらに蜜を塗るように芋煮をいっぱい塗ったり設置した甲斐があったね!
さぁ収穫収穫。【芋煮ビット】で大きな重い容器の芋煮を出して、そのまま相手にダバァして動きを止めつつカポッと閉じ込めるよ
芋煮のお鍋は頑丈だからいくら爆発しようが暴れようが無駄無駄
大人しくなったとこで睡眠薬入りの芋煮を滑り込ませてお持ち帰りしよう
●
ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)は芋煮に深い情熱を注ぐ少女だった。
芋煮とは文字通り、里芋を煮込んで作る郷土料理である。地域によってはじゃがいもを利用することもある。味付けにおいても、醤油をベースにしてもいいし、味噌をベースにしてもいい。
具だって大根や人参、長ネギにゴボウ、しめじ、さらには油揚げやこんにゃくなど、自由に投入していいのだ。
家庭によって様々な味わいと姿を見せる芋煮は、まさに郷土料理の代表と言えるかもしれない。
だからルエリラは思った。
パンジャンを入れた芋煮があったっていいよねと。
だって郷土料理なのだ。具は地域差に寛容なのだ。
だからパンジャンドラムが多く獲れる土地はパンジャンドラムを具にしているはずなのだ。
「なるほど」
これにアリルティリア・アリルアノン(バーチャル魔法少女アリルちゃん・f00639)が理解を示す。
ルエリラが芋煮エルフであるのに対し、彼女はバーチャルキャラクターだ。
バーチャルキャラクターだから瞬間的にメガネをヒゲを実装して『理解を示す専門家』感を演出することだって朝飯前である。
「わかりました、新鮮なパンジャンを捕まえましょう」
そういうことになった。
そういうことになったので二人はさっそく街を歩く。
ゴミ捨て場の影とか、廃棄車の下の隙間がいいというのはUDC職員の言だが、専門家はもっといい場所があるのだという。
アリルティリアに導かれるまま歩いていくと、やがて寂れた廃工場にたどり着く。
「この茂みを見てください!」
ここに至るまで一切メガネをヒゲを手放さなかったアリルティリアが敷地内の一角を指差した。稼働をやめて随分経つのだろう、工場の裏手にはすっかり雑草が生い茂っていた。
一見して普通の茂みだが、専門家から見ればただの茂みではない。
「小さな轍がありますねー」
「これってもしかして?」
ルエリラの質問へ、アリルティリアは頷く代わりにメガネのずれを直す。ちなみに度は入っていない。
「これはここをパンジャンがよく通っているという印……いわばパンジャン道です」
パンジャン道。
ルエリラの胸中で期待が膨らむ。パンジャン芋煮が近づいてきた。
「いますよ、ここは。……たくさん」
ルエリラとアリルティリアが顔を見合わせる。どちらも自然と顔が綻んだ。
工場の検分を済ませれば、二人はさっそく仕掛けを用意する。
パンジャンを誘い込む地点は一番大きいガレージとした。
まずテーブルとテーブルクロスを用意し、その上にパンを設置。マーマイトを気持ち多めに塗って、紅茶を添える。
「パンジャンのふるさとはイングランドといわれています」
とアリルティリアは言った。パンジャン達がこれを見つければすぐにでもティータイムをはじめるだろうと。
「芋煮も塗っておくね」
とルエリラが言った。例え具にする予定のパンジャンに対しても、彼女は芋煮を布教したかったのだ。
仕掛けの設置を終えて、二人は廃工場を離れる。
およそ2時間ほどで十分なパンジャンが収穫できるだろうと見立て、それまで普通の芋煮を堪能しながら時間を潰した。
ルエリラは熱々の里芋をゆっくり噛み締め、汁のしみた優しい味わいを楽しみながら、パンジャンの食感を夢想するのだった。
そして2時間後。
ガレージには大量の男の娘がぎっしり詰まっていた。
「……」
「……」
予想だにしなかった光景に、パンジャン専門家の口がぽっかりと開く。メガネとヒゲはたちまち消散した。
一体どんな化学変化が起きれば陸上地雷が男の娘になるというのか。
「教授、これは一体?」
パンジャン専門家は、ルエリラの質問に答えられない。
そう、だからここで登場するのである。
アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)という男の娘専門家が。
アリスは様々な超能力を持つ猟兵である。
その身に引く血はヴァンパイアのもので、他者のエナジーを糧にして生きている。
他者とはつまり、男の娘のことだ。男の娘以外でもいいが男の娘が一番いいのだ。
「ごきげんよう」
廃工場のガレージ。パンジャンドラムと男の娘が5:5の割合でひしめく光景に満足しながら優雅に挨拶をする。
「この人達は、あなたがやったんですか?」
普段の顔でアリルティリアが問う。パンジャン専門家はもう引退した。
対してアリスは鷹揚に頷く。
「ええ、ちょうど目当てのものがたくさんいたから」
目当てとはパンジャンドラムのことである。だが、正確に言うならば、アリスの真の目当てはこれと少し違う。
アリスは様々な超能力を持つ猟兵である。
だから妄想ならぬ想像力によって無からパンジャンドラムを生み出すのは可能であった。
本来ならわざわざ街を歩いてパンジャンドラムを探し、捕まえる必要なんてなかった。他の猟兵達が邪神へ仕掛けるタイミングまで街でナンパしてても全く問題はないのである。
しかし。
あるひとつの思いつきがアリスをパンジャンドラム探しに駆り立ててしまった。
野生のパンジャンドラムだから、きっと繁殖する。
繁殖するのだから、きっとオスとメスがいる。
オスとメスがいるんだから、男の娘のパンジャンドラムだっているかもしれない。
深い深い業をアリスのエンジンに注いでしまった結果がこのガレージの光景だ。
「その性別が男の娘のパンジャンは見つかったんですか?」
「いなかったから男の娘属性の呪詛で男の娘化させたわ」
パンジャン男の娘化の真相である。
「……」
「……」
長い沈黙がガレージを包む。
元パンジャンの男の娘も、まだパンジャンのままの個体も、どちらも呑気にティータイムを満喫している。
「ひとつだけいいかな」
ルエリラが手を挙げる。
「その仕掛けは私達がパンジャンドラムを集めるために用意したんだ。集めて料理に使いたかったから」
「あら、そうだったの」
アリスの表情が曇った。
「邪魔をしてしまったかしら。そうだとしたら、ごめんなさい」
「ううん、大丈夫。伝えておきたかっただけだから」
ガレージに集まったパンジャンドラムはとにかく多く、三人の両手の指の数でも収まらない。そのうちの半分が男の娘になっていたとしても全く問題はない。
芋煮会でもしなきゃ1匹くらいで十分だしね。
「そうなの」
すっかり安心した様子でアリスが肩の力を抜く。
パンジャンと元パンジャンは相変わらずティータイムを楽しんでいた。
「それにしても、片やパンジャンを芋煮にする猟兵。片やパンジャンを男の娘にする猟兵ですか」
アリルティリアが腕を組む。世界の懐の深さというものに感心するばかりだ。パンジャンドラムも四方八方からオファーが来て大変だろう。
「あら」
そんなことないんじゃないかとアリスが声を挟む。
「わたしのすることも、芋煮にするのとそう違いはないんじゃない?」
「同じじゃないような気がするけど」
芋煮が話題に出たとあればルエリラも参加せずにいられない。
これに対し、アリスはピンと人差し指を立てる。可愛らしいウィンクも添えて。
「大きな共通点があるわ」
「聞きましょう」
「どっちも食べ物よ」
一理あった。
ここに和解は成った。
三人はそれぞれの目的を共有し、尊重しあうことができた。
「いえ、アリルの目的は捕獲なんですけどね!」
あとで邪神に投げなきゃいけないからね。しょうがないね。
「ちょっと失礼して……はい、パシャリ!」
両手の指で作るフレームを作り、ウィンクと共に口頭でシャッター音。
すると突然、ティータイムの光景は絵画のように時間を止める。アリルティリアが捕獲用に使ったユーベルコードだ。さすが元パンジャン専門家である。パンジャンドラムを刺激せずに確保する手段をよく心得ていた。
「じゃあ、いくつか芋煮にもらうね」
続いてルエリラが指示を飛ばす。呼応するのは鍋である。芋煮をたっぷり詰め込んだ寸胴の鍋が二つ四つ、宙を自在に飛び回りながら一匹のパンジャンを挟んで布陣。合図のもと鍋がかちあいパンジャンドラムを閉じ込める。
どおん。
「あの、爆発しましたけど」
「うん。いいダシとれるよ」
内部で爆発が起きようと鍋はびくともしない。そうでなければ芋煮会など務まらないのだから。
「味付けいろいろ試したいからいくつかもらうよ」
「どうぞどうぞ」
びゅんびゅん飛び回る鍋が一匹ずつ確保していく。パンジャンドラムに抵抗はない。ただ鍋のなかで爆発するだけだ。
「男の娘になったのはわたしがもらうわ」
二人の回収が落ち着くのを待って、アリスが糸を飛ばす。彼女が認めた客だけを楽園に招待する赤い糸である。するするとガレージ内を空にしていった。
「ふぅ」
それは誰のため息だったか、三人は各々の目的を達成して人心地つく。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
「お疲れさま♪」
「ところで」
解散する間際、ふと気になった様子でアリルティリアが問う。
「その男の娘なんですが、爆発できるんです?」
「さあ、どうかしらね」
アリスはただ、意味深に微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロスタ・ジーリード
まあ、かわいいパンジャン。
みんなは知らないかもしれないけど、野生のパンジャンの中でもこの『廻るパンドラ』種は地下鉄、特に東京都の丸ノ内線に特に多く生息しているのよ。
それじゃ、はじめましょうか。
【彼方より】、わたしの『楽団』をよぶわ。
さあ、セッションしましょう。高らかな爆発音は実質派手に響くファンファーレ。きっとたのしいコンサートになるわね。
いっしょに音楽を奏でればもうなかよしさんよ。
なかよしさんよね?(念押し)
それじゃあ、パンドラたちといっしょに外に繰り出すとしましょうか。おさんぽよ。
……ああ、だめよ。あそこのにんげんはたべちゃだめ。ちゃんと躾けるわ。
お手。
おすわり。
爆発。
はい、よくできました
朝沼・狭霧
アドリブ歓迎
【心情】
とりあえず、ヴィルさんの言ってることが
何一つわからない…パンジャドラムとは一体なんなのか?
とりあえずスマホで検索した
そしてもう一度依頼を聞いた
やっぱりわからない
野生のパンジャドラムってなんなの!?
探します
森の中を
探します
都会の片隅で
ある時は宝の地図を片手に
ある時は伝説の剣を抱いて
砂漠を
荒野を
無人の道を・・・
UCでサンタの奇跡を願ってみたりもしますが
クリスマスの日まではまだまだ先で・・・
探したけれど見つからなくて
ふてて帰った自分の部屋に
パンジャドラムが寝ていました
青い鳥はこんなに近くにいたなんて!
とりあえず出ていけー!
怒りと叫びと徒労感とともに
ふんじばって捕まえます
●
朝沼・狭霧(サギリ先生・f03862)は両手で顔を覆った。
彼女は深く暗い悲嘆の中にいた。そして重く濁った徒労感に打ちひしがれていた。
「野生のパンジャドラムが見つからない……!」
そもそも野生ってなんだ。大自然のなかで繁殖しているのか。
一体何を食べて何をして生きてるのか。野生じゃないのもいるのか。何ひとつ理解できない。
「さぎりちゃん」
狭霧とて立派な文明人である。成人してもいる。だからわからないことがあればすぐに調べるし、実際にパンジャドラムで検索した。
だが、それでも何ひとつわからなかったのだ。
「さぎりちゃん。検索結果から目を逸らしてはいけないわ」
狭霧は目を瞑り、ぐっと肩を抱く。赤い唇はただ悔しげに戦慄いていた。
「森にもいませんでした、街にもいませんでした!」
「さぎりちゃん。目を閉じながら森を歩いたら危ないのよ」
会話は噛み合わない。
狭霧は己に声をかけてくれる者へ一切反応しないし、目を開けてそちらを見たりもしない。
「きっと私にはパンジャンドラムなんて見つけられないのですね……。そう、宝の地図や伝説の剣があってもだめなのでしょう……」
「さぎりちゃん。パンジャンならここに――」
「あってもだめなのでしょう!!」
むしろ言葉を被せるようにして否定する。
嫌だ。狭霧は目を開けたくない。開けたらきっと自分が今まで目を逸らしてきたものが見えてしまうのだから。
「きっと砂漠や荒野、無人の道にいるんですね……」
「無人かどうかは難しいところだけれど、この『廻るパンドラ』種は地下鉄、特に東京都の丸ノ内線に特に多く生息しているのよ」
「具体的な地名!」
狭霧はいよいよ限界だった。現実を直視するときが来たのだと理解した。
ほら、目を開ければここが小さな路地であることがわかる。
そして目の前には幼い少女、ロスタ・ジーリード(アンフォーギヴン・f24844)がいて、その小さな手で抱えているのは紛れもなく野生のパンジャンドラムなのだ。
そう、野生のパンジャンドラムというものが実在してしまった。
やめてほしい、もう丸ノ内線に乗れなくなっちゃう。
「パンジャンが怖いかしら?」
「…………」
口元を綻ばせながら狭霧は肩の力を抜く。
「いいえ。きっといままで歩いてきた場所の影に実はパンジャンドラムがいた、という事実に心がびっくりしてしまっただけ」
知らないままでいられたらどんなによかっただろう。これからはいい感じの暗がりが視界に入るたび、あそこにパンジャンいるかもと思ってしまう。
家のなかで不快害虫を見つけた人間がそのまま安眠できるわけがないのだ。
「でも、仕方ないのですよね。探せばどこにでもいるのでしょう?」
受け入れよう。きっと通勤中とか学生寮への往復とか、気が付かなかっただけでいるのだ。
「ええ、どこにでも。意外と近くにもいるのよ。幸せの青い鳥のようなものかしら」
ロスタの手の中、廻るパンドラ種が回転する。それは自分の存在をアピールするようであり、単純に目の前の狭霧を爆破しようとしているようでもあった。
「例えば、私の部屋のベッドとか?」
「そうね、きっといるわ。さぎりちゃんの部屋のベッドとか」
控えめに言ってかなり嫌だなと思った。
たぶん本当にいたら秒で叩き出していた。
「ちなみに人の家に住み着くのはパンツァードラム種が多いわ。金属をよく食べるから、爆発するときに鉄片を撒き散らすのよ」
「そうなんですね……」
家に帰ったらしっかり調査しよう。お隣さんが巻き込まれかねない。
さて、と咳払い。
狭霧は当初の目的を思い出す。邪神へ対抗するためにパンジャンドラムが必要なのだった。
だから自然とどこでそれを探すかという考えになるし、実際に一匹確保しているロスタに意識が向く。
「そのパンジャンドラムはどこから見つけてきたのでしょうか」
「さぎりちゃんがパンジャンを見ないように目を瞑りながら森を歩いていたときね」
もしかしてずっと追いかけてんですか? と狭霧。
ええ、森にも街にも鋭角はあったから、とロスタ。
要領を得ない解答に狭霧は疑問符を顔に貼り付けたが、ロスタにそれ以上の説明をする気はない様子だった。
そしていま、狭霧は空き地の土管の上に座っている。なんだか妙な流れになってしまったなという表情をしていた。
きっかけはロスタの手の中で妙におとなしくしているパンジャンドラムへの質問である。
「どうすれば大人しくできるんですか?」
この質問に対して、
「いっしょに音楽を奏でればもうなかよしさんよ」
というのが彼女の解答だった。え、と驚くUDCに真上から顔を近づけ『なかよしさんよね?』と念を押す。慌てて頷いていたから本当に事実なのだろう。仲良くなるだけでなく上下関係も叩き込めるものらしい。
「本日は演奏会にお集まりくださり、まことにありがとうございます」
観客席の土管へロスタが頭を下げる。観客席には狭霧しかいないが、その代わりに演奏席では無数のパンジャンドラムが整列する。それぞれが妙に広い間隔を開けていた。
「さあ、始めましょう」
ダンボール箱の指揮台に立ったロスタが右手を上げた。彼女がユーベルコードで呼び出した異形の楽団が一斉に楽器を構える。
「せーの」
ぶおー。
管弦楽器の音に合わせてまず一匹のパンジャンドラムが炸裂する。初手で一匹お亡くなりになった。いきなり盛り上げてかっ飛ばす曲調だ。ホットスタートともいう。
世界広しと言えど、パンジャンドラムを実際にドラム代わりに使用するのはこの楽団が初めてだろう。二小節、三小節と曲が進んで一匹ずつパンジャンドラムの犠牲が重なってゆく。
整列したパンジャンドラムであるが、絶妙な距離感のおかげで誘爆は免れている。最近流行りのソーシャルディスタンスのおかげだ。
じゃーんじゃじゃーん、ぱんっじゃーん。どどーん。
曲の盛り上がり、シンバルに呼応して景気よく二匹が吹っ飛んだ。
「…………」
狭霧としてはもうどういう表情をすればいいかわからない。少しだけパンジャンドラムについて理解できたつもりだったが、随分遠くまで突き放されてしまったなと思う。
狂気で狂気を駆逐せよというのが猟兵に伝わるこの世界のキャッチフレーズだが、なんだか狂気のマウント合戦のように見える。
じゃっじゃじゃーん。どどどーん。
終盤、曲の盛り上がりは最高潮で一気に三匹のパンジャンドラムが消費された。パンジャン在庫はもう四分の一程度しか残されていない。
ふと、狭霧は職場に思いを馳せた。彼女は教職についていて、担当教科は音楽だった。だが教壇でパンジャンドラムの演奏について教えることなんて一生ないだろうなと思う。ないのだろうか。少しわからなくなってきた。
ロスタが指揮棒を振る。演奏はいよいよ最終局面である。
魔法少女のステッキめいたタクト捌きを披露すれば、テンションが上がりに上がったらしい残りのパンジャンが一斉に吹き飛ぶ。爆発音はとても長い余韻を残して響いていた。
「おそまつさまでした」
狭霧は虚無の表情で拍手をする。
指揮台の上でお辞儀する少女と、全て吹き飛んでしまったパンジャンドラムを見て、さあどうやって対邪神用のを捕獲しようかなと考えるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
臥待・夏報
また野生のパンジャンドラムかよ……。
夏報さんも、新人時代はさんざんパンジャンドラムの駆除をやらされたな。
これもUDCエージェント稼業のの宿命ってやつか(世界知識)
え、今回は捕獲なの?
うーんパンジャンドラム素手で掴むのはちょっと抵抗あるな。
よし。
海浜公園みたいな、街の中でも比較的ひろびろとした場所を当たろう。
雑木林とかにいるパンジャンドラムを誘き出して――『切って貼って瞬いて』。
作るのは精巧な写真じゃない。
小石とか、バナナの皮とか、造りが荒い『偽物』の障害物を出現させてパンジャンドラムの車輪に咬ませていく。
構造上、片方の車輪がおかしくなればその場をぐるぐる廻るからね。
あとは、近付かなければ安全。
緑川・小夜
[SPD]
野生の…パンジャンドラム…!?
言葉の意味はわかりませんが、とにかくすごい言霊を感じますね…!
さて、パンジャンドラムを捕まえる為に辺りをうろついていましたが…気づくと大量のパンジャンドラムに囲まれていました!
わたくしにひどいことをする気でしょう!
第一次大戦みたいに!
しかし、こんなこともあろうかと、今のわたくしには選択UC製の着ぐるみが装着されています
貴方達を説得し、軍門に加えるという非戦闘行為を行う限り、ダメージはありません!
野良パンジャンの皆様…何故暴走パンジャン行為に身を任せるのです…
パンジャンとは強大な敵に己の生きざまを叩き込むモノ…違いますか?
[アドリブ連携歓迎です]
黒沼・藍亜
……いや確かに変な弱点あるカミサマとか怪物は例が多いっすけども……
というかそんな昔からいるんだパンジャン
【WIZ】
捜索なら任せろー(バリバリ)※UCを発動した音
【落とし子の召喚:奈落這う黒群】で落とし子呼び出して探させるっす
その間にボクはある程度開けた場所で体内のUDCを地面に広げつつ待機
後はボクに向かってきた奴からUDCの沼の中から粘液を変形させた触腕伸ばして『捕縛』、あるいは沼にハマったところをマヒ攻撃を撃ち込み確保っすよー
……なんかパンジャンをUDCの触腕が嬲ってるんすけど
まさかパンジャン相手でも落とし子孕めるのこの子?
「パンジャンの血を引く落とし子」って一体何?
※アドリブ連携歓迎です。
●
野生のパンジャンドラム、と聞いた瞬間に臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)と緑川・小夜(蝶であり蜘蛛であり・f23337)はそれぞれ別のことを思い浮かべた。
夏報は『また野生のパンジャンドラムの駆除かよ……』である。それはUDCエージェントの宿命だった。新人時代はパンジャンドラムと共にあったと言っても過言ではない。
先輩職員に引率されながら街中を探し森で探し、目撃情報があれば昼夜問わず出動。駆除した数が報告の数より少なければ始末書を書かされし、逆に多すぎれば駆除後すぐさま周辺に巣がないか調査だ。過酷な駆除作業に耐えられず辞めていった同期は少なくない。
連日の駆除のせいで夢の中にまでパンジャンドラムが登場したのも今となっては良い思い出だ。
そして小夜のほうはというと、悲観的な想像に身を震わせた。
「わたくし、きっとひどいことされちゃうんですわ、第一次大戦みたいに!」
きっと野生のパンジャンドラムは野生だからジュネーヴ条約なんて知らないのだ。捕虜を見つければすぐに取り囲んでぱんじゃんぱんじゃんするに違いない。ぱんじゃんぱんじゃんとは爆発のことである。捕虜はまず確実に助からない。
戦慄く小夜を見て、今度は夏報が腕を組み感慨深げに頷く。
あー、あるある。夏報さんも捕虜にしたことあるなぁ。適度に痛めつけたパンジャンドラムを餌にして仲間を誘い出すんだよ。爆発しないよう加減しながら攻撃するのにとても苦労したなぁ。
「…………」
そんな思考をしっかり口から漏らしていた二人なのだから、そばで見ていた黒沼・藍亜(人間のUDCエージェント・f26067)が口元を歪めるのも仕方ない。
この二人、なんで会話が成立してるんっすか。
藍亜は心のなかで呟いた。声に出すのはなんだか憚られた。どんな回答がくるか分かったものじゃない。
おかしい。今回の仕事には邪神の信奉者や私欲に走る人間は登場しないから、藍亜にとって比較的心穏やかに対応できる案件だったはずだ。ところが蓋を開けてみれば、野生のパンジャンドラムというワードに猟兵達が謎の化学変化を起こしている状況。
もちろん夏報の語る新人UDCエージェントの宿命など、彼女にはまったく見に覚えがなかった。
「それで、どうやって捕まえるっすか?」
二人が落ち着くのを待ってから、藍亜が切り出す。野生のパンジャンドラムに気を取られるのはいいが、今回の目的はあくまで変な弱点を持ったカミサマをどうにかすることなのだ。
これに対し、夏報がはい、と手を挙げる。
「素手で掴むのはちょっと抵抗あるし」
ちょっとで済むレベルなのだろうか。
「障害物を出現させてパンジャンドラムの車輪に咬ませていけばいいんじゃないかな。そうすればもう近づかない限りは安全」
パンジャンドラムの構造に即した意見であった。片方の車輪に不具合が生じれば、その場をぐるぐる廻るしかできなくなるはずという推理は、新人時代の駆除経験から導き出されたものである。
まずは小夜がおお、と手を叩く。藍亜はメモ帳を開き『方法1』と書く。
続いて手を挙げたのは小夜だった。
「わたくしは、野良パンジャンを説得いたします!」
それを聞いた二人はなんとも言えない表情で顔を見合わせる。アレに説得が通じるのだろうか。だが安易に否定すべきではないと夏報は支持した。駆除こそ数え切れないほどこなしてきたが、捕獲や説得はまだ試したことがない。
なるほどと応じながら藍亜はメモ帳に『方法2』を書き加える。
「それじゃボクは粘度の高い沼に嵌めることを提案するっすよ」
どうやって沼を用意するのかというと、彼女のUDCを利用すれば簡単に展開できるらしい。ある程度開けた場所であればどこでもいいというのだから、かなり有用な方法だろう。
そして、これがメモ帳に『方法3』と記されることとなった。
実験記録:UDC-Panjan-1
実験対象:UDC-Panjan
実験者 :職員H
実験目的:捕獲プロトコルの検証
実験手順:UDC-Panjan駆動部を停止させる
雑木林にいるパンジャンドラムをそばの公園まで誘引し、夏報は遮蔽物のない環境でパンジャンドラムと1対1になる状況を作った。興奮し赤く点滅する野生のパンジャンドラムは、夏報のこれまで駆除してきたものと変わらない。
彼我の距離は100m程度。パンジャンドラムは推進用ロケット全てを噴射し、およそコンマ1秒でトップスピードへ至った。常人には到底避けようのない加速力である。野生だから殺意がすごいのだ。
対する夏報はギリギリまで相手を引きつけ、そしてユーベルコードを使用する。生み出したのは巨大風船と鉄釘であり、これを体のすぐ横で破裂させることで横方向への瞬間な加速を生み出した。結果として、パンジャンドラムは相手の回避に対応できず空を切ることとなったのだ。さらに、その走行は長く続かない。
「夏報さんのお土産はどうかな?」
彼女はすれ違いざまに、車輪の接合部へ無数の石を差し込んでいた。ユーベルコードで作成した石が楔状ならば、走れば走るほど接合部の歪を拡大するのは自明の理である。従ってパンジャンドラムは直線走行が不可能となり―――。
実験結果:爆発
「なんでぇ!?」
異物感でキレにキレたパンジャンドラムがヤケクソ気味に全てのロケットを全力噴射。機体が宙に飛び上がり、燃料の付きたところで落下。地面に落ちた衝撃で爆発したのだった。
「ああーもう、それなら今度はロケット全部にバナナの皮詰め込んでやるからね!」
「そっちの実験結果は成功って書いておくっすね」
「便利でございますね、果物の皮。さあ、ほどほどの数を確保できたことですし、これからわたくしの番といきましょう」
実験記録:UDC-Panjan-2
実験対象:UDC-Panjan
実験者 :外部協力者M
実験目的:捕獲プロトコルの検証
実験手順:UDC-Panjanを説得する
公園を再利用して、今度はパンジャンドラムが少数ずつ断続的に小夜へ接近できるようセッティングした。小夜はきぐるみを着用して迎える。
「ねずみ……」
「なんできぐるみ……?」
いやこれが意外と高性能なんですよ。
まず小夜inきぐるみの姿を見つけたパンジャンドラムが、夏報のとき同様に恐ろしいほどの加速で突進。
「野良パンジャンの皆様、何故暴走パンジャン行為に身を」
どおーん。
小夜がひとこと言い切る前にさっそく炸裂した。
見守る二人がこれまずいんじゃねと表情を歪める。かなりエグい角度で直撃していたのだ。
が。
「パンジャンとは強大な敵に――」
どかーん。
晴れた爆煙から覗けるきぐるみ姿は傷一つなかった。小夜は煙そうにしながら続きを語り、やはり言い切る前に新しいパンジャンドラムが爆発する。
「己の生きざまを叩き」
どどーん。
「ちが」
ぼーん。
「この」
ずぅーん。
「いい加減」
爆発音いっぱい。
「もう!!」
実験結果:捕獲失敗
「陸上地雷に人間の言葉は難しすぎましたか……」
「地雷に脳はないからね」
消沈した小夜を二人が慰める結果となった。
「結局説得できたのは、突進受け止めて至近距離で語りかけた一匹だけだったかな」
「あれはびっくりして大人しくなっただけだと思うっすよ」
実験記録:UDC-Panjan-3
実験対象:UDC-Panjan
実験者 :職員K
実験目的:捕獲プロトコルの検証
実験手順:UDC-Panjanを沼に沈めて拘束する
現在、公園の入り口地点に黒い沼が展開されている。藍亜が立つ場所はその奥側だ。公園に入ったパンジャンドラムはさっそく藍亜を狙って加速し、狙い通りに沼へと囚われることとなる。パンジャンドラムが驚きロケットを全力で噴射するも、沼から芽吹く数多の触腕が脱走を許さない。
「おお、これはかなり行けるんじゃないかな」
「見てください。どこか様子がおかしく見えます」
黒い沼の触腕は見る見るうちに数を増し、もはや無抵抗となったパンジャンドラムへ殺到し絡みついた。
「え、これは……?」
予想だにしない反応に藍亜が困惑する。そこまでしろなんて指示していない。
やがて困惑する主をよそに、沼から這い出た落とし子がパンジャンドラムを襲う。襲い、孕み、そして。
「あの……」
「これは……」
実験結果:UDC-Panjan-aが発生
「『パンジャンの血を引く落とし子』って一体何っすか!?」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『翠翁』
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POW : 縺ソ繧薙↑縺ゥ縺薙∈?
【意識】を向けた対象に、【対象の内部を植物に変えること】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 蝸壼他縲∝履蜻シ縲∝履蜻シ窶補?輔?
自身からレベルm半径内の無機物を【土壌に、猟兵を問答無用で植物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ : 縲主卸荳悶?繧ィ繝シ繝?Ν繝ッ繧、繧ケ縲
全身を【エーデルワイス】で覆い、自身の【周囲にある植物の数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
その神が再び目を覚ますと、河川敷に草花が芽吹いた。
川の中だろうと、石の表面だろうと、まるで関係などないというように草木が生え、そして伸びていった。
これは恐るべき神の力の、ほんの一端である。
その神は自分の見たもの、関心を寄せたものを緑で染め上げてしまうのだ。
繰り返すが、これでも力のほんの一端に過ぎない。
その神を支えるもっとも大きな力は、古の契約だという。
すなわち、パンジャンドラム以外のすべてと交わした『神を傷つけられない』という因果律なのだ。
躯の海から蘇ったとき、神は静かに勝利を確信した。再び地上の覇権を握ることを疑わなかった。
なぜなら。
ちょっとの衝撃ですぐ爆発する上に少しでもロケットや車輪に欠陥があれば逆走暴走暴発上等な欠陥兵器陸上地雷パンジャンドラムを自分に仕掛けてくるような存在がいないかぎり、無敵なのだから。
そんなニッチなやついるわけないからもう勝ち確定なのだ。
【環境】
無人の河川敷に邪神が一体。戦闘に利用できる面積は極めて広く、また戦闘の支障となりそうな障害物は邪神の生やした木々を除いて存在しない。その木もまばらに生えており、特別に注意する必要はないだろう。どれくらい気にしなくていいかというと、何も考えずにパンジャンドラムでボーリングを行えるほどだ。
【備考】
すごい邪神。ほぼ無敵だからとてもすごい。すごいけど適当にパンジャンドラムを利用しながら攻撃すればきちんとダメージが通る。自分はパンジャンドラムなのだと心から信じることができれば素手でもいけるかもしれない。
【お知らせ】
プレイングの受付をこれより開始しますが、6/8~9に頂いたプレイングは再送をお願いする可能性があります。ご了承願います。
これは失効日が同日に集中することで頂いたプレイングの執筆が間に合わず流してしまうことを、可能な限り減らすためであります。
再送をご承知の上で上記期間に送信してくださった場合には、喜んで取り掛からせていただきます。
エレン・マールバラ
※アドリブ・連携歓迎
(エレンは気づいた。紅茶の匂いとブリティッシュな曲でパンジャンを操れるのなら、わざわざ捕まえる必要はなかったのでは?その瞬間、彼女の真なる英国面があふれ出してきた!)
…遊びは終わりよ。行きましょう、太陽の沈まない帝国を築くために!
(なぜか通信講座の曲として知られる英国の行進曲を横笛で吹きながら、パンジャンドラムを集めて邪神に向かって行進)
勇敢なる擲弾兵達!敵の攻撃に怯んではダメよ!戦列の穴は速やかに埋めなさい!祖国の栄光は貴方達にかかっているのよ!(申し訳程度の【鼓舞】)
着☆剣!!!突撃ぃぃぃ!!!!!
…私?突撃なんかしないわよ。なぜ自ら手を汚す必要があるの?(英国しぐさ)
緑川・小夜
[WIZ]
いくわよ、同志パンジャン!
そう言って、前章で説得した一人のパンジャンを抱え込みます
パンジャン力を高める為に、【催眠術】による自己暗示でパンジャンになりきり、紅茶を血管から注入る(キメる)ことで、今のわたくしは100パンジャン!
そして蝶の羽を生やし、100パンジャン+100パンジャンで200パンジャン!
いつもの二倍の高さを飛翔し、200×2の400パンジャン!
さらにいつもの三倍の回転を加え、400×3の1200パンジャン!
最後に同志パンジャンとの友情パワーを加えれば、1200×2…邪神、お前を打ち倒す2400パンジャンよ!
そうして邪神に突撃し、同志と大爆発です
[アドリブ連携歓迎です]
野良・わんこ
連携・アレンジ可
パンジャンドラムの欠点は……まぁ色々あるのですが。
まっすぐ進まないというのが大きい。
なら、まっすぐ進むようにすればいいのです。
このわんこの【念動力】で!!
パンジャンの中央の軸に乗り念動力でパンジャンドラムを操れるだけ操って、動かして特攻する。
植物にされても意識があるなら念動力は使えるんですよ!!
「う、うおおお、わんこの体がオオイヌノフグリになっていくーー!? ですがパンジャンドラムのほうが早い!」
「へへ……。残念ですけどこれって戦争なんですよね!」
GMー、ここでパンジャンドラムの爆炎に消えるようにして行方不明宣言します。
で、そのままシーンから退出します
●
河川敷、野原から天上へ大きく突き出た影がある。身長およそ10mに届くほどの巨躯、邪神である。
それは己がいずれ手にする領地を検分するように首を大きく回し、微かに目を細めた。
「縺薙%縺ッ縺ゥ縺薙□……」
世界はどうやら、かつて在った頃と随分様変わりしているようだ。
しかし、その程度なら許容してやろう。またすべて緑で埋め尽くしてしまえばいいだけだ。
「縺ゅl縺ッ縺ェ繧薙□」
不意に、何かしらの気配を感じて頭を山に向けた。
「縺ェ縺ォ縺ゅl」
目に映るのは青く切り取られた山々の輪郭。己の脅威になるものなどあるはずがない。
「縺医∴……」
ないのだが。
「…………」
ドラム音。
バグパイプ。
なんか稜線の向こう側から勇猛な行進曲が聞こえてきた。
「縺医▲縺ェ縺ォ????」
邪神は秒で嫌な予感に支配された。
やがて稜線が盛り上がり、ぽこぽことした小さな丸い輪郭が露わになる。紛れもない、見間違えるはずもない、間違いなく絶対に、それはパンジャンドラムだった。
「は????????」
邪神はこの一瞬、よく親しんだ言語を忘れてしまった。
無理もない。ふと見た先に己の天敵がずらっと並んでいたら誰だってそうなる。誰だってそうなるから邪神だってそうなった。
なんでパンジャンおるねん。
それも数が尋常じゃない。
なんでこんなにパンジャンおるねん。
どうも中央に扇動している者がいるようだが、あれは一体何者なのだろうか。とても正気とは思えない。
やがて、なにやら横笛を吹いているらしい扇動者がゆっくりと一歩踏み出す。パンジャンドラムもペースを合わせながら一斉に一歩分、進む。信じがたい統率力だ。真の英国面に目覚め、パンジャンドラムと心を通わせたものにしかできない芸当であった。
扇動者。否、統率者エレン・マールバラは声を張り上げる。声に滲む英国面のなんと頼もしいことだろう。
「行きましょう、太陽の沈まない帝国を築くために!」
高く高く天へ伸ばされた腕が、邪神の元へ振り下ろされた。
それが、パンジャンドラム大行進の合図となった。
猟兵達が調べた情報によると、この邪神は飛翔することができるらしい。
だが、当然ながらパンジャンドラムは陸上地雷だ。飛行できるように作られていない。
ゆえに空を飛ばれるまでが勝負だと、彼女達は理解していた。
そう、彼女達である。この場にいる猟兵はエレンだけではない。
密集したパンジャンドラムが接触しあって暴発しないよう行進速度を抑えるエレンのため、邪神を地上へ釘付けにする役が必要だった。それを、野良・わんこと緑川・小夜が引き受けていた。
まず行進の最前列から飛び出すは血気盛んな若いパンジャンドラム数体。
後先のことを考えないロケットが一気に点火し、トップスピードへ登りつめる。
しかしこれは悪手だろう。河川敷の細かく凹凸がある地形は猟兵の戦闘の支障にこそならないものの、パンジャンドラムが全力疾走しては簡単に横転してしまう悪路だ。若いパンジャンドラムはさっそく小石を踏み、片輪を跳ね上げてバランスを失う。直後に待ち受けているのは無益な犬死に違いない。
だからこそわんこがいる。念動力によってパンジャンドラム数匹の姿勢を正し、そのうちのひとつへ跳び乗る。バランスを保ったパンジャンドラムはここで最大トルクを遺憾なく発揮し、邪神への距離を詰める。
無論邪神もそれをただ座して待つわけがない。細い足をたたみ、力を込めて跳躍しようとし、しかし寸でのところで低く体を伏せる。
巨体の頭上をパンジャンドラムが通り抜けていった。わんこが念動力で飛ばしたものだ。まだ地上にいてもらわないと困る。
「おっと、それは頭が高いってもんですよ!」
数匹のパンジャンドラムで邪神を旋回させ、さらに適時念動力によるパンジャンドラム発射で牽制。これらを駆使してわんこは敵を釘付けにする。
その間、小夜は邪神の背後から接近していた。彼女の傍には並走するパンジャンドラムが一匹。わんこの操るものと違って一匹だけだが彼女の渾身の説得に応じてくれた個体だ。いや本当に説得に応じたのだろうか。きっと応じたのだろう、共に邪神へ立ち向かおうとしているのは紛れもない事実なのだから。
「いくわよ、同志パンジャン!」
同志が叫ぶようにロケットを吹かす。いま、小夜と同志は心のずっと深いところで固く結ばれている。同じ釜の飯を食い、走り、夢を語らい、競い合い、そして苦楽を共にしてきた。同志という言葉は決して誇張ではない。
「縺?k縺輔>……」
しかしこの一人と一匹は邪神にどう映るだろうか。パンジャンドラムは天敵であるが、隣の猟兵など全くの無力な羽虫ではないか。
邪神は身を低くしたまま、前足で大きく薙ぐ。巨体から繰り出される一撃だ。直撃すればひとたまりもない。
だが、前足は何の感触も得られぬまま空を切ることとなった。一人と一匹にとって想定済みだったらしい。
「さあ同志パンジャン、力を貸してください!」
小夜が叫ぶ。同志が応じる。二人は河原の凹凸を利用し三次元的に動き回る。接近と見せかけて旋回、後退と思わせて距離を詰める。
巨体の足が連続で空を切った。
邪神の攻撃は決して届かない。彼らは複雑に連携して、虚実を織り交ぜ、タイミングとフェイントの妙で完璧な撹乱を続ける。
「縺薙@繧?¥……」
そのはずだった。
尋常では捉えられない複雑なチームワークだろうが、邪神にはたったひとつのシンプルなロジックで対応できる。
そう、ただパンジャンドラムにだけ注意を向ければいい。あの人間の少女が何者であろうと何を放とうと、邪神の身を害することはできないのだから。
巨体の側面へと回り込んできた同志へ、邪神は素早く振り向き大口を開ける。少女の存在など完全に無視した。
そして小夜の短剣が側頭部へクリーンヒットしたとき、神の思考は一瞬にして虚無になった。
「わたくしは、パンジャンです!」
「……???」
何言ってんのコイツ。
未だ遠く離れた位置、エレンはパンジャンドラム軍へ包囲を指示しながら、渋面を作る。
目まぐるしく走り回りながら、邪神を足止めするわんこは、小さな舌打ちをひとつ。
そして邪神の目と鼻の先、小夜は同志を抱えながら距離を取り、唇を噛む。
「パンジャン力が……足りない!」
悲鳴のような声が小夜から漏れた。自身をパンジャンドラムと思いこむことで、邪神に攻撃を通す。それはよかった。しかし通しているのに邪神の傷はひどく浅い。
これでは邪神が小夜を警戒しなくなる。すなわちパンジャンドラム軍が到着するまでの足止めがわんこだけになる。
小夜の目に涙が滲んだ。身を引き裂かれんばかりだった。同志との絆を否定されたような気持ちだった。
「縺励°縺溘↑縺……」
邪神が身を屈めて、すべての足に力を込めようとする。多少の被弾を覚悟で跳躍するつもりだ、距離を離してそのまま飛翔するに違いない。そうなればエレンの集めたパンジャンはすべてが無駄になってしまう。邪神を倒すのが絶望的になってしまう……。
ああ、自分のせいで邪神を逃してしまうのか。自分がパンジャンドラムになりきれていなかったせいなのか。
目の前が暗くなる。奈落へ突き落とされたかと思った。
「紅茶っすよ!」
そのとき、エレンの声が、河川敷に響き渡る。
一番はやく反応したのはわんこだった。エレンの投げたものを理解し、念動力で小夜の元へ送り込む。
「これは――」
驚きとともに小夜が受け取ったもの、それはケトルだ。紅茶を満杯まで溜め込んだケトルがエレンから寄越されたのだ。
「そう……わたくしに足りなかったパンジャン力とは……すなわち紅茶!」
少女の瞳に光が戻る。同志との絆が否定されたわけではなかった、自分は正しくパンジャンドラムになれていた。たったひとつのピースが欠けていただけだった。
小夜はケトルに口をつけて一気に呷る。噎せそうになるが止まるわけにはいかない。いまはほんの一秒すら時間を無駄にはできない。
「まあ、仕方ないですね」
わんこは呟いた。ひどく落ち着いた声だった。それは頭が弾き出した計算を受け入れる、殉教者の声だった。
小夜が紅茶をキメ終わるのを待っていては間に合わない。邪神が空へ逃げてしまう。
だからいまわんこがするべきことはただひとつだけ。
特攻。
「行きますよ」
短く放たれた言葉にパンジャンドラムが追随する。特攻爆発は彼らのお家芸である。今回はそこに猟兵ひとりが加わるというだけだ。
それまで旋回で包囲し続けていたパンジャンドラムの軌道が変わったことに、邪神は気づいた。
飛び上がる寸前のところだったが、彼らの特攻は無視できない。多少の被弾なら許容範囲であっても、パンジャンドラムと猟兵がまとめて特攻してきては多少じゃ済まない。
邪神は前足を高く上げ、地面を踏みつける。迸る緑の権能、無機物有機物を問わず植物に作り変える無慈悲な力が放たれた。
「う、うおおお……!」
わんことパンジャンドラムは回避を選ばない。そのまま直撃を受けた。体を緑に書き換えられてなお走り続ける。
「わんこの体がオオイヌノフグリになっていくーー!?」
謎のチョイス。
「ですがパンジャンドラムのほうが早い!」
しかし直後、わんこの目が驚愕に見開かれることとなる。
「パンジャンが!」
わんこの体同様緑に染め上げられていく。ただし同じオオイヌノフグリではない。
「タンブルウィードに!!」
西部劇の決闘シーンによく後方で転がってるアレである。もちろんよく転がるので減速などしない。
邪神は目の前の光景に狼狽えた。全身に緑化を受けながらも止まらない猟兵に、そしてパンジャンドラムに。
植物に対して強力な権能を持つ邪神だが、これほど反抗的なオオイヌノフグリとタンブルウィードを見たことがなかった。
そして、
爆発音。
邪神の胸が炎と閃光に包まれる。
「縺翫?繧後―――!」
大きくのけぞる巨体。だがまだ致命傷には遠い。小夜は戦友を悼み、空のケトルを投げ捨てる。わんこの安否や行方を気にして時間を失うのは、特攻した彼女に対して何より失礼なことだ。
「同志パンジャン!」
同志がロケットを吹かせて応える。
姿勢を起こす邪神は彼らを見た。そして同じく権能を使用した。たちまち一人と一匹が緑に染まってゆくが恐怖の表情は見られない。
止められないと思ったのだろう、邪神は己の体に花を咲かせて飛び上がる。逃げるのだ。
この女は人間でありながら生身で己に攻撃を通してきた得体のしれない存在が、いまは謎の勝機を見つけている。
「逃しません!」
草花や蔦で覆われた少女の身から、薄く鮮やかなものが生える。蝶の羽だ。これは小夜自身が生み出したものだ。
空へと逃げた邪神は、パンジャンドラムを抱えながら回り込んだ影に目を見開く。
「一つ一つのパンジャン力が100だとしても――」
急になにか言い出したぞ。
「それを束ねれば!」
蝶の羽が空を打つ。邪神を超える高度、邪神を超える速度にて、小夜と同志は飛び出す。
瞬間、同士のロケットが火を吹いた。ベクトルの異なる急激な加速に小夜の体は回転する。螺旋を描く。
「――これで1200パンジャン!」
邪神は思考を止めた。途中式が狂おしいほど気になった。
「わたくしと同志の友情パワーで――、お前を打ち倒す2400パンジャンよ!!」
少女の体が、同志もろとも邪神へと突っ込んだ。
再びの爆発。再びの轟音。
さながら流星の直撃もかくやという勢いで巨体が地に叩きつけられる。
邪神はいま混乱の最中にあった。なぜ己がここまで被害を受けているのか理解ができない。
そして、わざわざ邪神が立ち直るまで待つエレンではない。
「勇敢なる擲弾兵達!」
限界まで紅茶をキメた声は邪神のすぐそばから放たれる。いつの間にか完全に包囲されていることに邪神は目を見開く。
「祖国の栄光は貴方達にかかっているのよ!」
エレンの手が邪神へと突き出される。彼女に従う全てのパンジャンドラムは、一斉にロケットから火を吹いた。
「着☆剣!! 突撃ぃぃぃ!!!!!」
剣とは。
邪神はもう現実逃避しかけている。空から叩き落されたばかりで、とてもまた飛び上がれそうにない。そしてパンジャンドラムの包囲網は完全で、抜け道などない。
邪神は咄嗟の抵抗に、周囲へ木々を生やした。爆発的に拡大してゆく緑は、パンジャンドラムを防ぐ砦となるが、それはせいぜい第一波までのことだ。
紅蓮の爆発。光と熱と衝撃は木々を薙ぎ倒し、巨躯を丸裸にする。
そして、もはや打つ手のない邪神へパンジャンドラム軍が殺到した。
果たしてパンジャンドラムどれほどあっただろうか。全て炸裂するまでどれほどの時を要しただろうか。
夥しい傷を受けた大きな影が、ゆっくり地面へ倒れる。ずうんと河原を轟かせた。それきり河原は静寂に包まれる。
エレンは爆風で乱れた髪を掻き上げる。爆発の余韻に、胸がまだ熱く鼓動を刻んでいた。吐息がどこか熱い。
横たわる邪神は、まさかコイツも突撃してくんのかと恐る恐るエレンを見る。
「……私?」
彼女は澄まし顔で肩をすくめた。
「突撃なんかしないわよ。なぜ自ら手を汚す必要があるの?」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
メーティオル・スター
幼さが原因で契約できなかったってことは、パンジャンドラムも成長するんだね。
爆発せずに大きくなれるのは、ほんの一握りなんだろうなぁ。
大地を駆けるのがパンジャンドラムだけど、空で戦えないってわけじゃない。
捕まえた中から人懐っこそうなパンジャンを数匹見繕って、仲良くなっておく。
そしてそのまま一緒にマグネボードに騎乗。
そのまま"マグネウェイブ・ライダー"を発動、邪神を追ってオレたちも空へ!
風に乗ってチェイスを繰り広げながらクロー付きワイヤーで敵を捉えたら、
上方からパンジャンドラムがダイブ。
パンジャン空を飛ぶ。そして邪神に着弾して炸裂するパンジャン。
オレたちの友情の勝利だね。
エメラ・アーヴェスピア
…弱点が分からなかったなら…いえ、今回の状況で無かったら本当に脅威だったでしょうに…
…本当に、色々と不条理だわ…
戦場は河川敷、私としては助かるわね
その辺の石ころを対象に『我が紡ぐは戦装束』
ロケット付きの車輪と爆弾、その他安定性を高める物を軽く装備
…ここに魔導蒸気兵器製パンジャンドラムの完成よ…
いくつも造り出してどんどん転がしましょう…欠点部分は排除した設計だから問題は無い…筈
しかもコアは石ころだから、相手のUCの効果も意味がないわ
強いて言うなら…作るだけ資材が減るのよね…なんでこんな非効率的な…
私はパンジャンの陰に隠れるように移動し続けて意識を向けられないように逃げるわよ
※アドリブ・絡み歓迎
●
10mの巨体が地を駆ける。鋭く伸びた足は土を蹴りそして岩を蹴った。
邪神だ。緑の権能を持つ邪神が河原を激しく跳ね回っている。鹿のような足が何かを踏むたび、草花を植え付けた。
が、それはすぐさま爆煙に引きちぎられる。
「行きなさい! あれを休ませないで!」
エメラ・アーヴェスピアは次々と武装を召喚した。ロケット付きの車輪、そして爆弾。これが揃えば全てはパンジャンドラムになる。彼女の最も得意とする魔導蒸気兵器によって組み上げられたパンジャンドラムは、その核にこそ河川敷の石を利用しているが、性能面では決して従来のパンジャンドラムに引けを取るものではない。むしろ安定性を補強した分だけ遥かに優秀だ。
エメラの指示の下、ロケットが火を吹く。瞬く間にトップスピードへ至る魔導蒸気パンジャンドラムは悪路を涼しい顔で踏破し、目標へ肉薄、自爆した。
爆煙から巨体が飛び出す。体の末端に焦げ目こそ見えるがいまだ健在だ。機動力は微塵も衰えていない。
故にエメラは次々とパンジャンドラムを作りけしかけて、邪神はどこまでも避け続ける。
戦況は拮抗しているように見えた。
邪神は激しく動き回りながら、緑の領域を広げようとしている。あらゆる物を植物に塗り替え、それによって自身の力を増してゆくことを狙っていたが、パンジャンドラムの爆発が尽く焼き払う。
エメラは隠れていた。時には木の陰、あるいは自身の生み出したパンジャンドラムの陰。さらにはパンジャンドラムを囮としながら場所を変えるなど、邪神から直接攻撃を受けることがないよう立ち回る。
戦況は拮抗しているように見えて、その実拮抗しているわけではない。
エメラの作り続ける魔導蒸気パンジャンドラムは貯蓄していた資材をすり減らしてゆくし、敵に見つかりそうになって肝を冷やす場面がいくつもあった。それなのに、邪神の体力は未だ衰えを見せない。
ではエメラの胸中を支配するのは絶望だろうか。または焦燥感だろうか。
否である。エメラは冷静に敵の隙を作る方法を考えている。
連続する爆発音。重い生き物が土を蹴り穿つ音。舞い上がった土砂の降り注ぐ音。
それは永劫に続くかのように思え、しかしエメラの意図しない形で変化を迎える。
「――!?」
パンジャンドラムを隠れ蓑にして駆けていた足がもつれて転ぶ。
こんな時に、とエメラは悪態をつきそうになりながら足を見る。
「あ……」
つるりとした細い両足に、無数の蔦が生えていた。
「縺薙%縺セ縺ァ縺」
はっと振り向く。邪神の視線はまっすぐこちらへ注がれている。すべての足を折り曲げ力をためている。そしてすぐに跳び上がった。
踏み潰すつもりだ。邪神の質量に、きっと機械の体は耐えられない。
エメラは唇を噛んでただ睨みつけた。足はもう動かない。
そのとき一陣の風が吹く。
邪神は足を渾身の力で叩きつけ、大きなクレーターを穿つ。
しかしそこにエメラの姿はない。
「セーフ!」
メーティオル・スターの声が響き渡る。
「えっと……」
エメラは状況を把握しようと努めた。
驚くべきことに自分は空を飛んでいるらしい。それは己を脇に抱える少年のしわざで、間一髪のところを助け出してくれたようだった。あの巨大だった邪神がいまはパンジャンドラムより小さく見える。
「オレに掴まれるか? これからちょっと動くから」
ゆっくりと頷くエメラへメーティオルは満足げな笑みで返す。
「パンジャンでもいいぜ」
は? とエメラは硬直する。見れば、少年の操っているらしいボードには、数匹のパンジャンドラムが同乗していた。
しかも、ぞれぞれがロケットの筒から雫をこぼしている。パンジャンドラム達はいま、静かに泣いていた。
「ええ……」
腕から解放されたエメラはゆっくりボードに捕まる。泣いているパンジャンドラムに掴まろうという気はどうしても起きない。そろそろ不条理に慣れてきたかなと思ったが、どうもまだまだだったらしい。
初めて空を飛ぶパンジャンドラムは、仲間とともに静かに震えていた。
いままで感じたことのない浮遊感、不安定な足場による不安。代わりにそれらを押し流す、圧倒的な感動。吹き付ける風の冷たさや、全てが小さく見える天上の視座。自分があれほど爆破に拘っていた人間のなんとちっぽけなことだろう。
パンジャンドラムが爆発するのは本能だ。習性であり、いかなる衝撃にも敏感という特徴でもある。
だから仲間の爆発にも自身の爆発にも特別な感慨はない。それで喪われようとも、当たり前のことだからだ。
しかし。
しかしこれは違う。
空を飛んでしまったら、もう全然違う。
空から敵に襲いかかるんだとメーティオルに聞かされたとき、パンジャンドラム達はただ当たり前だった爆発が、斬新な大冒険に書き換えられるのを感じた。
パンジャンドラムが空を飛ぶなんてありえない。そのありえないことができてしまったから、いまなら最高の爆発ができると確信する。
もちろん邪神はドン引きした。
あれが飛ぶとか嘘やろ。
「いッく、ぞぉぉぉぉっ!」
ぐるん。電磁力で制御されるマグネボードが大きく進路を変える。邪神へと真っ直ぐに降下する軌道。
エメラは暴風のなか大声で伝える、邪神に凝視されてはいけないと。
メーティオルが答える、絶対に手を離すなよと。
見上げる邪神が注視しようとしたとき、突如マグネボードは稲妻の軌跡を描いて横切っていった。
「縺ェ縺ォ!?」
驚愕にたたらを踏む、が、すぐに立ち直る。
邪神の深碧色の体で瞬く間に白色が咲いた。
「お前も、飛ぶのかよ!」
四足をバネのようにして跳躍、さらにいかなる原理か、空中で推進力を得てメーティオル達を追う。
驚くべきことに、邪神の加速力は圧倒的だった。飛翔中は敵を植物で染める権能が使えないのか、注視されているメーティオル達に異変はない。その代わりに巨大質量と凄まじい加速で、純粋なる暴力を叩きつけようとしている。
「アンタ、めちゃくちゃはえーじゃん!」
メーティオルがボードの先端を掴む。そして強引に引き寄せる。直後、同乗者を巨大な慣性力が襲った。
マグネボードが縦方向にUターンをした。僅かなあいだだけ彼らの真上が陸となり、空へ吸い込まれるような錯覚が襲った。インメルマンターン、航空機マニューバを真似て邪神の頭上をすり抜けるが、対する邪神もすぐさま反転して追いかけてくる。
「ねえ、何が必要かしら」
帽子が飛ばないよう苦心してエメラは問う。
「風!」
短い返事。メーティオルのボードは電磁力と風の力で飛ぶ。
「それなら地上へ!」
大きく高度を下げるマグネボードがメーティオルの返事だった。
「兵器の換装を開始…完了」
背後で紡がれた言葉がメーティオルに聞こえたかどうかは定かでない。
ただ、彼は地上で蒸気機関を装備したパンジャンドラムを見つけた。
そしてマグネボードの接近する瞬間で炸裂した光景も。
爆風が彼らを押し出す。地上で広域に展開されたパンジャンドラムが次々と爆発してゆき、マグネボードをどこまでも加速させる。
メーティオルは歯を食いしばった。ボードのコントロールに集中した。胸部リアクターが熱い。処理能力はとっくに限界域だ。
邪神とマグネボードの速度が並ぶ。敵は体当たりを諦めず執拗に追いかけてきているが、もう距離は縮まらない。
「いくぞ!」
メーティオルが仕掛ける。ボードの角度を急激に起こす。およそ進行方向と垂直までになったボードは風の抵抗を全面に受け、エアブレーキを作る。さらに磁力を操作、錐揉み回転を描いて後方から突っ込んできた邪神を紙一重で回避。
エメラがすかさず指示をした。地上のパンジャンドラムが爆発し、爆風を以て再び加速させる。
今度は邪神が背を見せる番だ。ドッグファイトの勝者は決まった。
猟兵からフックが放たれた。風圧を切り裂き邪神の背骨へと食い込む。フックとボードまで、一本のワイヤーが橋を作る。
「いけるか」
少年の声にパンジャンドラム達は振り返らない。ワイヤーに車輪を引っ掛け、一斉にロケットを点火した。
激しい空中戦を制したマグネボードから、パンジャンドラムが数珠つなぎに発射される。
「……本当に、色々と不条理だわ」
振り返る邪神の顔が驚愕と恐怖に染められた。
「私にとっても、あなたにとってもね」
着弾。
そして光、熱、衝撃。
幾重にも重なった地雷の牙が、古の神を地上へと叩き落とした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
……うん。
こりゃアレだね、吹っ切れないとダメだな!
ツッコみ続けるのもただただ疲れるだけだし、
いっちょ乗ってやりますか!
イェーガー初夏のパン(ジャン)祭りに!
さっき捕まえたパンジャンをそーれ行ってこい!
とばかりに転がして送り出し、
……やっぱそのまま転がすだけじゃ逸れるよな!
いいんだよ囮だし。
本命は【弱点特攻作成】で奴の頭上に一辺4メートルのオーダーで
パンジャンを創り出すんだからさ!
そしてそのまま頭上へブチ落とす!パンジャン落としだ!
いやーパンジャンっていいよな、爆発が詰まってるもん。
そのままパンジャンが木っ端微塵になって消えたら、
もいっちょクラフト!
おかわりもいいぞ!
エドゥアルト・ルーデル
パンジャンジャーン
パンジャンジャーン
パンジャンマーチでドッカンボーン!
植物化に対抗するにはそう、拙者自身がパンジャンになることだ
植物になる途中でパレードを先導したパンジャンの回転軸を掴んで持ち上げ植物化により固定し、【コンソールコマンド】にてサイズと火薬量を三倍に!
これぞ滑車式投パンジャン型パンジャンドラムだ!
巨大化したパンジャンを高速回転!回転に乗って打ち出される野生のパンジャン達!
今日の天気は晴れのちパンジャンですぞ
最後は巨大パンジャンと共に大地から飛び立ち敵に突貫!爆発してこそパンジャンでござる
なお狙いは適当なので周辺を味方ごと無差別爆撃する事になるがパンジャンの発展に犠牲は付き物デース
百地・モユル
やっと見つけたよ!この邪神だね!
まずはつかまえたパンジャンドラムを技能の投擲でぶつけてみるよ
いっけーファイアドラム、サンダードラム!
なんかどっかのアニメっぽいけど気にしない方向で
投擲だけじゃ足りない場合はUCを使って持てるだけのパンジャンドラムを担いで邪神に直接バーンとぶつける!
ボクの火炎耐性で耐えられるかな…
あの邪神を倒すなら今がチャンスだよね
持てるだけのパンジャンとともに爆発するボクの『捨て身の一撃』をくらえ!
アドリブ、絡み歓迎
セフィリカ・ランブレイ
シェル姉は…うん、まだ曲がってるけど剣には見えるかな!よし!
『…さっきまでの私を記憶から消し去ってほしいわ』
低い声の相棒の魔剣の声は……反応しない優しさ
しかし、シェル姉の言うようにパンジャンが欠陥兵器なのも事実…なので
ちょっと野良君たちには改造を施しておいたよ
推進ロケット周りを安定させる
そして特殊な信号をキャッチし、それに直進する機能!
特殊信号は【虚影の燐虫】から出るんだ、これで誘導すれば命中率問題はクリア!
え?アイツ飛ぶの?
しゃーない、シェル姉、出番だよ
『……私の切れ味が、必要なのね?』
バッター、セフィリカ選手!
放り投げられたパンジャンを……ホーーームランっ!!
『それに私使う意味あんの!?』
アリルティリア・アリルアノン
空中にアリルの芸術的センス(【アート】【残像】【罠使い】)で精巧にコピーした立体映像、
すなわちバーチャルパンジャンドラムの大群を展開!
いかにチート神といえど、唯一の弱点パンジャンドラムが支配する空を迂闊に飛ぶ気にはなれないでしょう(【時間稼ぎ】【迷彩】)
陸上には最速のパンジャンドラムを決めるレースゲームのバトルキャラクターズを召喚!
…あれはそういうゲームじゃない?うるせえパンジャンぶつけるぞ!
ともかく総勢68体のゲーミングパンジャン、
プラスうなぎゼリーを摂取することにより通常の3倍の英国力を得た野生パンジャン達の総攻撃です!
さあ、派手な花火を上げてやりましょう!
ぱんころー!(突撃の号令)
●
「はい! それではいよいよ始まるパンジャンレース、実況はこのアリルちゃんでお送りします!」
わーわー、と一斉に歓声をのぼらせるのは観客席のパンジャンドラム達だ。
河川敷に突如出現した障害物競走めいたレース会場(※ホログラム)と観客席(※ホログラム)に邪神は何事かと混乱する。そして猛烈に嫌な予感がした。ここにいてはいけないと本能が叫んでいた。だが逃げることなどできない。観客席にずらりと並ぶパンジャンドラム達(※ホログラム)を見てしまえば、とてもじゃないが空を飛ぶ気にはなれないのだ。
「さてさてこちらは予選を勝ち抜いた総勢68体の猛者、ゲーミングパンジャンズです!」
パァァァとスタートラインで虹色に発光して自己主張するパンジャンドラム達。もちろん予選なんて存在しなかったのでイマジナリー予選の覇者たちだが、それでも邪神にとっては悪夢のような光景である。邪神でなくとも正常な猟兵ならきっと夢に出る。
会場、観客席、そして観客と全てを一人で用意したアリルティリア・アリルアノンだ。バーチャルキャラクターにして電脳魔術士の力を持ってすればこの程度造作もないことだろう。もちろんスタートラインのパンジャンドラムはユーベルコード製の本物。破壊力も本物だ。
「さすがアリルですね……完璧です」
レース会場、マーシャルポストの位置で彼女は胸を張る。完璧である。完璧な作戦だった。ホログラムにて邪神の飛翔の意思を砕き、レースに見せかけたパンジャンドラムの総攻撃で邪神など木っ端微塵に違いない。
アリルティリアは早くも勝利宣言をしていた。
「さあみなさん汚い花火をどうぞご期待! みんなせーの……ぱん」
ころ~。
直後、遥か彼方から投擲された無数のパンジャンドラムが、スタート地点を爆撃した。
「な、なにやつ!」
驚きと憤りの綯い交ぜになった顔を向ける。下手人はスタート地点よりさらに後方にいた。
「パンジャンジャーン パンジャンジャーン
パンジャンマーチでドッカンボーン!」
野太い声。調子っぱずれの歌。なんだなんだと色めき立つ観客席の注目を一心に浴びる男、彼はまさしくエドゥアルト・ルーデルに違いない。
「おっと失礼。拙者は……しがないパンジャンでござるよ」
「まさか、あなたは……」
アリルティリアは彼の外見に息を飲んだ。何やら水車型に改造したパンジャンドラムを持ち上げている彼は、体の大半が植物化してしまっているらしい。
「そう。パンジャンになったのでござる」
下半身をパンジャンドラムの車輪に固定。背にはジャンプ台を取り付け、頂点まで登ったものは上半身の水車型パンジャンドラムから勢いよくブン投げられるシステムである。大胆な設計にはバランスの悪さという欠点を孕んでいるが、そこは核たるエドゥアルトの巨木化した手足によって強固に支えられていた。
まさか邪神もさっき襲いかかってきた猟兵が、パンジャンドラムの発射台になるためだけに植物化を受けたとは夢にも思わなかっただろう。かなり死んだ目をしている。
「エントリーナンバー2番。滑車式投パンジャン型パンジャンドラム」
爆撃で綺麗にしたスタート地点へ彼は立つ。正確には立ってない。パンジャンドラムの車輪をキュラキュラ進めてそこで停止したのだ。
「いいでしょう、挑戦を受けます」
アリルティリアはマーシャルポストから降りた。挑戦を受けたのだ、エントリーナンバー1番は彼女の席である。
「アリルのゲーミングパンジャンズに勝てるとは思わないことですね……!」
いつの間にかゴール地点で正座させられた邪神を他所に、二人は睨み合い火花を散らす。勝利条件は簡単だ。邪神を爆撃したら勝ち。それだけだ。
「さあ、じゃあエントリーナンバー3番の多喜さんもスタート地点についてくださいね」
「えっアタシ!?」
この茶番はやく終わらないかなぁと他人事な顔で佇んでいた数宮・多喜から上擦った声が出る。
待ってほしい、出場するなんて言ってない。
「モユルさんとセフィリカさんも待っていますよ」
アリルティリアのが示す先。いつの間にか4番と5番のスタート地点に百地・モユルとセフィリカ・ランブレイが立っていた。モユルは観客パンジャンへ大きく手を振っており、セフィリカに至ってはなんだかブーメランのような角度の剣を見つめている。
「ええ……」
ただパンジャンドラムを転がして当てるだけじゃだめなのか。どうしてレースなのか。様々なツッコミが喉元まで登ってきたが、多喜は疲れた表情で飲み込む。
「……これはアレだね」
吹っ切れないと自分だけ疲れるやつだ。残念なことに周りの猟兵がみな乗り気で、邪神はゴール地点で正座しているのだから。
「いっちょ乗ってやるよ」
むしろ乗るしかない。このビッグウェーブにひとりで逆らうのは無理だ。
「イェーガー、初夏のパンジャン祭り!」
多喜の名付けたレース名に、アリルティリアが続く。
「それでは、位置について――」
不思議な掛け声と同時にパンジャンドラム達はスタートを切った。普通は合図用のピストルかシグナルランプじゃないのかと多喜は思うが、パンジャンドラムのレースではこういうものらしい。
「そーれ、行って来い!」
初めに、ふたつのパンジャンドラムがトップに躍り出る。安定性を重視しアンダースローで送り出された多喜のパンジャンドラムと、初速を重視しオーバースローで放たれたモユルのパンジャンドラム。どちらも改造や調教のないプレーンな野生パンジャンだが活きはいい。
第一コーナーまで快速で到達し、しかしパンジャンドラム本来の弱点を突きつけられることとなった。
「うう、コーナーが……!」
「うまく曲がれない……!」
もともと悪路を走行するだけでもバランスを崩して横転するようなパンジャンドラムである。サーキットは整備された平面だがカーブで重心が傾けば片輪が浮いてしまう。横転して爆発しないよう細心の注意を払いながら減速する二匹だが、その真横をひとつの影が追い抜いていった。
「おおっとあれはなんでしょうか! パンジャンドラムには見えない異彩のフォルム、虫型の……マシン!」
実況はアリルティリアである。パンジャンマスターも兼ねてるので非常に忙しい。
謎の機械の軌跡をなぞり、モユルパンジャンと多喜パンジャンを追い抜いていく新しいパンジャンドラムにセフィリカが拳を握った。
「ほら見て、シェル姉! あの改造はやっぱりよかったよ!」
「あれは! セフィリカさんのパンジャンドラムです! 虫型のマシンを追いかけています!」
それもそのはず、トップを独走するセフィリカパンジャンが追いかけるのは、もともと彼女の用意した機械だ。予め特定の信号だけを受信し追尾するよう改造されたパンジャンドラムは、機械の柔軟な指示の下、急カーブをアウト・イン・アウトの軌道で極限まで減速を控えながら走破する!
「このままS字カーブの後半も難なく走破! やはりカーブを制するのは勝負を制するのか!」
「見て、見てシェル姉! あの急カーブもすごいスピードで駆け抜けてる!」
『そうね、すごいわね』
おざなりな返事だ。それは未だ曲がったままの剣から聞こえている。
「凹んだシェル姉くらい急な曲線を!」
『あれはもう忘れて』
さて、セフィリカパンジャンはS字カーブの先、瓦礫が散乱する悪路地帯へと差し掛かった。パンジャンドラムの天敵である。
改造によって安定性を高めているとはいえ減速せざるをえず、後続のモユルパンジャンと多喜パンジャンが距離を縮める。
観客は三人のパンジャンドラムのどれが勝利するかと手に汗握った。
パンジャンマスターの三人もそれぞれのパンジャンドラムを応援していた。
そのときである。
エドゥアルトの滑車式投パンジャン型パンジャンドラムが牙を剥いたのだ。
「パンジャンマーチでドッカンボーン!」
通常の三倍もの体積を持つ水車型パンジャンドラムが高速回転し、搭載した無数の小型パンジャンドラムを振りまき、絨毯爆撃を仕掛ける!
「ああーっ! これは容赦ない爆撃! あたかも自分の前を通るパンジャンはすべて許さんと言わんばかりの!」
耳をつんざくほどの轟音と、目を焼かれるような閃光がレース会場で炸裂。観客は一斉に悲鳴を上げた。
「解説の邪神さんこれについていかがでしょうか!」
「何やってんのコイツら」
「はい! コメントありがとうございました!」
そして絨毯爆撃ジャンが巻き起こした恐るべき修羅場を、虹色のパンジャンドラムが駆けてゆく。
「ここをアリルのゲーミングパンジャンズが通り抜けます。疑似自走砲の爆撃で三分の一まで減りましたが、まだまだ20体くらいいるので余裕です!」
つい、と手が上げられた。スタート地点の多喜とモユルだ。
「はい質問ですね、それぞれどうぞ!」
「68匹全部操作ってレギュレーション的にいいのか!?」と多喜。
「ルールに書かれてることは邪神を爆破することだけなので」
「じゃあパンジャンにパンジャンをぶつけて妨害するのもいいんだね?」とモユル。
「全然大丈夫です。エドゥアルトさんが超やってます!」
エドゥアルトが静かにサムズアップをする。彼の生み出した滑車式投パンジャン型パンジャンドラムは、パンジャンレースの傾向で分類するなら自走砲型となる。自爆して大量の破片を敵に浴びせるなどの遠距離攻撃および妨害を目的としたパンジャンドラムなのだ。
いまやサーキットに残っているのはエドゥアルトジャンとアリルジャンのみ。アリルジャンは半分を妨害用に回し、ライバルへ特攻しようとした。
「じゃあ、こういうのもいいってことだよね」
モユルは呟いた。その手にはパンジャンドラムがひとつ掴まれている。
目標は悪路地帯にいる連中である。片足を上げながら腕を振りかぶり、背を見せるほどまでに体を捻る。
「せー……」
地面に付いていた一本の足へ力を込め、大きく踏み出すように重心移動。さらに捻った体から遠心力を生み出し、一気に腕を加速!
「のッ!!」
全身の力を手の先へと集中させれば、モユルが大砲めいた加速でパンジャンドラムを投射!
弾速は凄まじいものであった。モユルの立つスタート地点からS字カーブへと瞬きひとつの時間で通り抜け、その地点でパンジャンドラムが爆散。結果、ライバル達が鎬を削る悪路地帯へ爆煙と破片を叩きつけるのだった。
「ぬわーッ!?」
「あばーっ!!」
エドゥアルトとアリルティリアの叫びが重なる。
かくして、サーキット上からパンジャンドラムが一掃されることとなった。
レースは有耶無耶になってしまったが、観客は大盛りあがりだった。
「…………」
邪神が身を屈め、全身に白い花を咲かせた。
数多の狂ったパンジャンが暴れまわる光景に我慢できなくなって、飛び立とうとしている。
そもそもサーキットを臼状に囲む観客席のパンジャンドラムが作り物だと気づいてきたのだ。もう飛翔を躊躇う理由はない。そもそもパンジャンドラムがレースを応援してる時点でおかしいと思ってたのだ。
「あっ! ゴールが逃げます!」
初めに実況のアリルティリアが気づいた。大声で叫ぶことで、レースに興じていた猟兵達が我に返る。
だが遅い。邪神はもう地を蹴り飛び上がるところだ。
「くらえええェェェッ!!」
次に動いたのはモユルだった。先程のパンジャン爆撃の要領を思い出しながら今度はふたつみつを一気に鷲掴み、引き絞られた弓のように大きく体を捻り、全身のバネの力を一点に集中して投擲。
「サンダードラム!!」
空気の壁を突き破る甲高い音はまさしく雷霆そのもの。暴力的な風圧にパンジャンドラムのロケットが吹き飛んでゆくが辛うじて暴発を耐える。
やがてモユルの一撃は、離陸して間もない邪神を強かに打ち据える、はずだった。
「ああっ邪神が間一髪でそれを回避!」
実況者が叫ぶ。
全力投射に肝を冷やしたのだろう、体に負荷を掛けながら一心不乱に高度を上げ、間一髪のところで回避に成功していた。掠めたパンジャンドラムに後ろ足をえぐられる程度で被害を留める。
パンジャンドラムの届かない高さまで逃げられたら終わりだ。
少年の口が悔しげに歪んだ。もっと投げなきゃとパンジャンドラムへ手をのばす。
「まだだよ!」
鋭い声がサーキットを切り裂いた。
少年は顔を上げる。すると、邪神が避けたパンジャンドラムの飛ぶ先、おそらく着弾地点となる場所にエルフの娘がいた。
「まだ、終わってない!」
彼女は剣を構えていた。青く透き通った、水晶のような両刃の剣。それは未だ曲がってこそいるが知性と人格を持つ魔剣、シェルファに違いない。
セフィリカの赤い双眸が飛び上がった邪神へ向き、次に飛来するパンジャンドラムを捉える。
彼女はさらに腰を落とした。剣の構えと見るにはやや違和感がある。むしろ、野球のバッターによく似ていた。
まさかこの距離から邪神を斬るというのか。それこそまさかだ。いま彼女の目はしっかりとパンジャンドラムへと向いている!
『まさか打ち上げる気じゃ――』
「力を貸して、シェル姉!」
魔剣が振られる。セフィリカの動体視力は確かにパンジャンドラムを捉え、さらに剣の刀身を叩きつけることに成功した。
どおーん。
もちろん爆発した。
「ええ……」
「…………」
実況も邪神も、投げたモユルだってびっくりである。レースだと思ったらいつの間にか野球が始まっていたし、ちょうどいまバッターが爆発した。
もくもくと登る爆煙から、煤けたセフィリカが現れる。
「もう一回!」
『どうして打とうとするの!? そもそも投手がまた邪神に直接投げればいいじゃない!』
「……わかった」
少年の顔が重々しく頷く。
困難に立ち向かう戦士を見て、果たして応えずにいられようか。そんなわけがない、もう少年だって心は戦士なのだ。
「いくよ!」
『なんで同意しちゃうの!?』
「さあセフィリカ選手、力尽きる前に場外ホームランジャンをキメることができるのでしょうか!」
『実況!!』
投手モユル、サイボーグの腕がパンジャンドラムを3匹まとめて引っ掴む。これくらいせねばバッターに失礼だと感じた。
二投目。結果はやはりセフィリカの爆発だった。
「セフィリカ選手、苦しげに膝をついています! やはりホームランジャンは土壇場でキメられるほど甘くはないのでしょうか!」
「いえ……できる、絶対にできるから」
剣を支えに立ち上がる美しい健気さに、観客は息を飲んだ。剣はツッコミを抑えられなかった。
『わざわざ打ち上げる意味あんの!? それに私使う意味あんの!?』
意味はない、ただ意地だけがある。
だが、勝負というものは意地だけでは勝てないのだ。軋む全身に顔が歪んだ。
「……シェル姉。力を貸して」
小さくか細い声だった。どこか祈りにも似ていた。
シェル姉は神も龍も、魔王も斬ってきた。だから、シェル姉なら絶対にできると思うんだ。力を貸して。
『…………』
いつになく真剣な声色に、魔剣は言葉を失う。パンジャンドラムをホームランするためだけにどうしてこんなセリフを向けられているのだろう。
邪神は高い位置でこちらを睥睨している。あの高さではもうどれだけ強く投げても届かない。
「パンジャンドラムを生きたまま打ち返すのは、やっぱり魔剣にしかできないんだよ」
『私にしか、できない……?』
「うん。欠陥兵器に劣るって言われて凹んで折れ曲がったシェル姉にしか」
『あれはもう忘れて』
「はい」
でもまだ完全に立ち直ってないじゃんという言葉をセフィリカは飲み込む。
しばらく沈黙が降りた。
観客席も、他の猟兵も、ついでに邪神もじっと少女と剣を見守っていた。
『……そう』
長い間のあと、やがて聞こえてきた声に少女の肩が震えた。
『セリカがそこまで言うなら……』
しゃきーん。
魔剣シェルファ、ついに直線へと戻る。
「いっけぇぇェェ、ファイアドラム!!」
ごお、とパンジャンドラムの塊が風を切った。塊である。凄まじい怪力によって十匹まとめて圧縮された物体なのだ。単純計算で火薬十倍。桁外れの爆発力を内に秘めていながらも、体積は元のパンジャンドラムと同じと言えば圧縮率が伺えるだろう。
そんな、モユルの全力を込めた破壊の権化がサーキットを一直線に進む。あらゆる壁が、あらゆる仕掛けがただ衝撃波のみで蹴散らされていく。
「シェル姉、いくよ!」
『私の切れ味、見せてあげるわ!』
セフィリカは柄を強く握る。体は満身創痍だが、戦意は微塵も衰えていない。なにしろ彼女が姉と慕う剣が、いまは万全な状態で共にあるのだから。彼女がいればセフィリカは何にも負けなかった。神にも、龍にも魔王にも負けなかった。
がきり。
剣の腹、すなわち側面がファイアドラムを真芯で捉え、高く高く打ち上げる。猟兵二人分の力が詰まったパンジャンドラムだ、邪神はそれを認識する間もなく直撃を受けた。
「いきますよ、ゲーミングパンジャンズ補充!」
巨体の予想落下地点をアリルティリアが指差す。ずらりと展開された虹色のパンジャンドラムは、エドゥアルトの発射台へと並んでゆく。だがそれよりも早い者がいた。多喜である。
「アタシをぶん投げろぉ!!」
水車型パンジャンドラムが駆動音を立てる。エドゥアルトによって3倍まで拡大されたパンジャンドラムだ。生み出すトルクも尋常ではない。
多喜の体はあっという間に高く飛び上がり、緩やかな放物線を描きながら立ち上がろうとする邪神へ吸い込まれてゆく。
猟兵を見上げた邪神の顔へ、なにか大きな影が差した。
「縺ェ繧薙→蟾ィ螟ァ縺ェ……」
それは。
巨体の邪神の上半身をすっぽり飲み込んでしまうほどに大きい、巨大なパンジャンドラム。
「釣りはいらないからな、丸々貰っときな!」
空中で回転し、力まかせに振り下ろす。再び飛び上がるつもりだった邪神を、上から叩き伏せる鉄槌となった。
「うわ、ぶ……っ!」
咄嗟に腕を交差させて爆風から顔を守る。運良く破片に巻き込まれずに済んだおかげで、着地後すぐに追撃へ移れる。
「縺ゅ≠……」
敵は力なく横たわっていた。体のところどころが焼けていて、甚大なダメージを受けていることが見て取れた。
だが、未だ立ち上がろうとしている。多喜とてもともと一発だけで済ませるつもりなどない。
「おかわりをくれてやる……!」
邪神の身が強ばる。多喜へ向く目に恐怖が混じった。
駆けながら片手を高く高く突き上げる。その上に再び生まれる巨大パンジャンドラム。
「これで!」
多喜は勝利を確信した。必ずこれで仕留めてやると意気込み、そのための火力も用意していた。
だが、何か表現の難しい予感を覚えて、ふと真横を向いてしまった。
エドゥアルトの顔があった。
否、正確には滑車式投パンジャン型パンジャンドラムである。
恐るべきことに水車状のパンジャンドラムはその段ひとつひとつにアリルティリア製のゲーミングパンジャンドラムを搭載しており、虹色の光をまとっていた。
なんだこいつやべぇ。
多喜と邪神の気持ちが一体となった瞬間である。
エドゥアルトは、虹色に発光したまま邪神と多喜めがけて高速で接近し、さらに加速。
「え、ちょっと待っ、アタシが巻き込まれる!?」
「やめろこっちくんな!」
もちろん二人から何言われようと止まるつもりはない。
「パンジャンマーチでドッカンボーン!」
ぼーん。
パンジャンレースサーキット。その四分の一の区画が虹色の光と炎に包まれて、爆散した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロスタ・ジーリード
まあ。かみさまね。
じゃあこっちもかみさまをよぶわ。
【嘲笑う終焉】【無貌にして支配者たる黒き神格】【その幾億の化身のひとかけら】を宿し超強化する。
ねえ知ってる?このユーベルコード構文って、『“自身に”宿し』って書いてないのよ。『“他者に”宿す』ことも可能だと読み解けないかしら?
ええ。だからね、ここに呼び込んだ黒き神格をさっきつかまえたパンドラたちに降ろすわ。パンジャンラトテップね。
もちろん“かみさま”は1000の化身をもつんだから、どのパンジャンにも分霊めいてひとしく宿るわね。
あとはこの神格級パンジャンを解き放つだけよ。
さ、たのしんでらっしゃい。
国栖ヶ谷・鈴鹿
🔴真の姿
(パンジャンのせいでよろよろしてる)
力の解放で高次情報にアクセスして、有効なパンジャン武器を……。(そもそもパンジャンが産廃すぎて使えない)
【高次情報体】
(なんかバグパイプをBGMにした怪しげな紅茶キメた仏様にアクセスする、あっこれやべーやつだ)
『パンジャンとは廻るもの、つまり功徳を廻すマニ車と同位の存在、マニパンジャンドラムとして、廻しなさい、そしてお殴りなさい』
もうやだこのパンジャン。
【戦闘】
紅茶菩薩の言われるままに回転動力マニパンジャンドラムで殴ってみる。
マニパンジャンの破魔で呪いを防ぎながら、接近して叩くシンプル作戦。
鈴鹿の正気はそろそろ限界だ!
●
まず始めに国栖ヶ谷・鈴鹿の悲鳴が土手に響いた。
「パンジャン使いづらい! 産廃!」
悲鳴には強い強い怒りと悲しみ、そして悔しさがあった。
ここは河川敷、これまでさんざんパンジャンドラムの直撃を受けて外見がボロくなった邪神は頷く。
「縺サ繧薙→パンジャン繧ッ繧ス縺?繧医」
「なに言ってるか全然わからない!」
「ほんとパンジャンはクソ」
「急に流暢に喋らないで!!」
肩を落として荒い息をつく鈴鹿。辛い、正気が限界だ。どうしてこんなものを発明してしまったのか開発者に問い詰めたくなる。
だがどこを見渡したって開発者なんていないし、代わりにパンジャンドラムと目が合ってしまうのだ。
加えてそれはどことなく批難がましい顔をこちらに向けてきて、それがなんだか『悪いのは俺たちを理解できないほうやで』と言われているようで腹が立つ。
自分ならパンジャンドラムより遥かにマシなものが発明できるのに。
よりにもよって謎耐性邪神のせいでパンジャンドラムに頼らなければいけないなんて。
歯噛みしてしまう。
「まあ、すずかちゃん。パンジャンの使い方がわからないの?」
だから、そんなときに現れたロスタ・ジーリードが天使のように見えた。
幼く甘めの衣装で身を包みながら、日傘を杖のように付いて歩いてくる姿は十人が十人とも可愛らしいと言うだろう。
「それじゃあ、使い方を教えてあげるわ」
片手にパンジャンドラムを抱きかかえていなければだが。
「いや、ちょっと遠慮したいかな……」
「遠慮しなくていいのよ」
鈴鹿は顔を背けた。『しなくていい』じゃなくて『したい』のだということを幼い少女に訴えるのは少しばかり気が引けた。
「相手がかみさまならね、こちらもかみさまを呼べばいいのよ」
なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「神様って……」
「うん、うたうの」
うたいましょう、うたいましょう。途端に幼い少女から、粘つくような声が溢れだした。
おむかえします。おいでください。川辺りに座す邪神が強い敵意を以て少女を睨みつける。
るろろろろ。るろろろろおおん。いつしか声は、びちゃびちゃとあたり一面に飛び散った。それはどこまでも糸を引き、胸元に抱えたものからもあふれるようになった。
「…………」
唐突に歌が止む。辺りを重苦しい沈黙が支配する。
「だからね、黒き神格を降ろすのよ」
鈴鹿は何も声を出せない。邪神すらも黙ったままだ。
「このパンジャンに」
「よりにもよってそれ!?」
「1000の化身をもつかみさまだから、どのパンジャンにも分霊めいてひとしく宿るわね」
「増えちゃうの!?」
ほら、とロスタは河川敷を指差す。るろろ、るろろおん。そこにはパンジャンドラムと化した邪神化身入りの岩が。るろろろろろろおおん。そして邪神ジャン入りの木々が。るるろろおおおん。さらには河の水面すらパンジャンめいた影を映しながら盛り上がってゆく。
うわ、と鈴鹿は心底引いた。邪神すらも引いた。パンジャンドラムがそこかしこに蔓延していた。
千の顔を持つのだから河原に捨てられたセンシティブ本パンジャンバージョンだってあるし、風に飛ばされてきたダンボール箱パンジャンバージョンだってあるのだ。
到底受け入れられない光景だった。
すうっと意識が遠のいてゆく感覚を覚えながら、逆らえず鈴鹿は目を閉じるのだった。
鈴鹿ははっと、自分は夢を見ているのだと気づいた。なぜなら河川敷の風景はすっかり消えていて、なんだか白い光に包まれた何もない空間に来ていたのだ。おそらく白昼夢なのだろう。静かにそう結論付けられる程度には、パンジャンドラムから離れた心は落ち着いていた。
「ああ、なんだか音楽が聞こえる……。 誰かそこにいるの?」
不思議な気配を感じる。見渡す限りが白色で何も見えないというのに、なぜだか他の存在を確信できる。
途端に気配が強まる。
そちらを見れば、納衣と裳だけを身に纏う、神々しさを人の形にしたような何かが立っていた。
「あなたは……」
そしてめちゃくちゃ紅茶の匂いがした。
「うわっっ一瞬でろくでもないのがわかる!」
『鈴鹿……鈴鹿……』
しかも話しかけてくる。
「まさかこれもパンジャン黒い神の千の顔のひとつ……?」
『いいえ。あなたが開放した力と接続を果たした、高次情報体です』
「そっちのほうがもっと嫌だった!!」
なんで高次情報体まで紅茶キメてるんだ。
『パンジャンについて困っているようですね』
が、鈴鹿の混乱になどまるで頓着せず滔々と話を続ける。
ちくしょう菩薩とか神様なんていつもそうだ。
『パンジャンとは廻るもの、つまり功徳を廻すマニ車と同位の存在、マニパンジャンドラムとして、廻しなさい、そしてお殴りなさい』
まさかの物理攻撃推奨である。
「マニ車と菩薩系の偉い人に謝ってください!!」
渾身のツッコミが喉から飛び出した。だが気がつけば紅茶菩薩の姿はなく、代わりに視覚へ飛び込んでくるのは河川敷の風景だ。
ああ、夢から返ってきたのだと気づいた。そして、邪神と様々なパンジャンドラムが派手に衝突しているのを見てすぐに目をつむった。
河の上を、砂利の上を、そして草花の上をふたつの神が駆け回る。
いや、ふたつという表現は正確ではない。二種類だ。邪神と、分化しそれぞれで数多の形態をとる黒き神が衝突していた。
「繧?∋縺医%縺?▽」
おるろろろん。パンジャンドラムの影を浮き上がらせる水の塊、水パンジャンが触手を伸ばした。水でできた触手は槍のように鋭く、鞭のようにしなって緑の巨体を襲う。するといかなる原理だろうか。水が体に触れるとたちまち爆発した。
邪神とてただではやられない。全身で燻る炎を振り払い、水パンジャンへと突進。破裂音とともにそれを木っ端微塵に弾き飛ばす。
おるるるろろるる。しかし効果は薄かった。散らばった水はそれぞれが有機的に蠢き、元の一へと集合する。たちまち元の形を取り戻してゆく黒き神の水パンジャンに、緑の巨神が唸る。
「縺ェ繧峨?縺薙■繧峨□……」
切り替えは早かった。敵は早々に水の相手をやめ、呼び水たる土手のロスタへと地を蹴った。
「あら、いけないわ」
敵の補足長い足がロスタを襲う。高く高く振り上げられ、すぐに振り下ろされた。強固なコンクリートでさえクレータを穿つ一撃。
「かみさまはどこにでもいるのよ」
土手が一気に盛り上がった。コンクリートがパンジャンドラムの形を作り、巨人の攻撃を止めたのである。
間髪をいれず岩パンジャンと木パンジャンが邪神へ飛び込む。連続する爆発音。邪神は寸前で回避していたが、浅くない傷が幾重にも重ねられていく。
「ねえ、すずかちゃん」
ロスタは振り向きもせずに呼びかけた。
後方で鈴鹿が決意の表情で立っていた。
邪神は混乱の最中にいた。
地を蹴っては土が襲いかかり、岩を踏んでは岩が立ち上がる。風を切れば何ということだろう、風がパンジャンドラムの形になるではないか。このような敵は邪神すらも理解が及ばない。
邪神は凄まじい緑の権能を持つ神だった。有機物無機物問わず、あらゆるものに草木を生やしてしまえる存在だった。
しかし、己の生み出した緑に反逆されてしまえば、もうどうしようもない。
「縺翫?繧……!」
悔しげな唸り声があった。邪神は風パンジャンと草パンジャンの爆撃を受け、蹲っていた。すぐには立ち上がれないダメージだ。
「もうやだ! パンジャンとか邪神とか、いい加減にして!」
そして、手に何やら輝くものを持ちながら駆け込んでくる少女を見た。見ただけだ、神は見ただけで敵を草木で覆い尽くすことができる。
だが。
「そんなもの!」
鈴鹿が回転動力マニパンジャンドラムを一気に回転させれば問題はない!
驚くべきは邪神の権能すら弾く破魔の力。平然と侵食を弾いてみせれば唖然とした表情が見えてくる。紅茶菩薩の力は本物だったのだ。
やがて敵の目と鼻の先まで至った鈴鹿はマニパンジャンを大きく振りかぶり、殴る。殴る殴る殴る。
ぽこん。ぽこんぽこん。
「…………」
「…………えっと」
もう一度殴る。
ぽこん。
鈴鹿は不安げな顔で邪神を見上げた。なんか気の毒そうな顔が見えた。
「回ってるあいだはありがたいお経が流れてるのと同じだから、爆発しないんじゃないかしら」
「あっ!」
すぐさま回転を手で止めて、念のため離れてから放り投げれば、命中した邪神の体が爆発するではないか。
蹲っていた邪神の体が横転する。これまで他の猟兵からも攻撃を受けていたのだ。ダメージはいよいよ深刻なのだろう。
「さ、たのしんでらっしゃい」
ロスタの幼い声が飛ぶ。合図を受けた神格級パンジャン達が横たわった巨体を目指す。
そして。
河原に夥しい爆発音が生まれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
パンジャン落とし子が爆誕してしまった……
ま、まだ一匹だから、沼の中で野生化とかしてないから
※体内のUDCは落とし子蠢く異界の沼への門でもある
さて、神話でも似たような奴の末路は
ヤドリギ以外に無敵→ヤドリギ投げつけられ死
人にも獣にも神にも殺されない→人でも獣でもないライオン獣人に殺される
フラグ過ぎるっすね……
スカート内からUDCを地面に滴らせ広げ、触腕出して捕縛を狙うっす
あと銃を鎮圧モードにして気絶弾・マヒ弾も撃ち込むっすよ
そしてこっちを警戒したタイミングでUC【昏く暗い黒い沼】!
広げ済みの沼の中から落とし子達を嗾けるっす!
そこにはパンジャン落とし子達の姿も!
……“達”?
※アドリブ連携歓迎です
臥待・夏報
捕獲したパンジャンドラムは他の人に提供しておこう。
そう、夏報さんには奥の手があるからね。
準UDCオブジェクト、未確定現象2012/8/19-B、通称――『羊の皮』。
これは肉眼では写真のように見えるが、厳密にいえば、あらゆる過去を記録する情報生命体の一種だ。
エージェント生活苦節8年弱、野生のパンジャンドラムと共にあった日々を映したこの写真たちは――
もはや『パンジャンドラムという概念』そのものと言って差し支えない。
ってかカードとか投擲して攻撃するやつあるじゃん?
あれ超カッコいいからやってみたかったんだよね(しゅばば)
ついでに『パンジャンドラム駆除業者』の肩書がついたフロント企業の名刺も投げておく。
狭筵・桜人
これはいけません。猟兵の数に対して明らかにパンジャンドラムが足りていない。
そう思って人工繁殖に成功したパンジャンドラムの卵を
10個入りパックで温めておきました。
スーパーで売ってるニワトリの卵にも見えますが
これは間違いなくパンジャンドラムの卵です。
それなりの時間温めておいたので温泉卵ぐらいの強度はあるでしょう。
これを空中戦にも対応出来るエレクトロレギオンに
えっちらおっちら運ばせてぶつけます。
パンジャンドラムの卵であれば効果はばつぐんに違いありません。
なにせパンジャンドラムの卵ですからね。
ホントですって。メスが産むとこ見ましたもん。
生まれてくる前に死んでゆく命(無精卵)……うーん、エモポイント。
●
河川敷に開いた無数のクレーター。そして焦げ跡。なぎ倒された木々、散乱した石の破片がここから見える。
三人は土手のコンクリートに立っていた。
これから邪神の攻略を始めようというところで、狭筵・桜人が声を上げたのである。
「大変です、パンジャンドラムの在庫がなくなりました」
臥待・夏報と黒沼・藍亜が眉を上げた。
「えっ」
「夏報さんの捕まえた野良パンジャン全部配ったんだけどな」
桜人の言葉が本当ならば由々しき事態である。なぜなら倒さねばならない邪神はパンジャンドラムによる攻撃以外を一切遮断してしまうのだ。
「はい……」
心底困ったような表情を作り、桜人は俯く。彼だって恐ろしい邪神を討つため野生のパンジャンドラムを捕まえてきたのだ。
「まあそんなこともあろうかと思って、人工繁殖をしておいたんですよ」
「パンジャンを?」
「はいパンジャンドラムを」
怪訝な顔で問う夏報の隣、藍亜は肩をぎくりとさせた。
人工繁殖は彼女にとっても大いに心当たりのある言葉だった。
「……」
つい下の方に目を落としてしまう。スカートばかり見てもそこにはなにもないが、野良パンジャンドラムとUDCの落とし子から産まれてしまったものを彼女は確保している。
「こちらがそのパンジャンドラムの卵になりますね。10個入りパックで温めておきましたよ」
んん? たまご?
藍亜が顔を上げれば、青年の手にあるなんだかよく見たことありそうな卵。具体的にはスーパーの玉子コーナーに並んでるようなものだ。そもそも10個入りパックの時点でいかにもスーパーから買ってきました感がすごい。
「これがパンジャンの卵っすか……?」
「ンフフ。ニワトリの卵に似ていますが、そうですよ」
おひとついかがですかと差し出され、藍亜は首を振った。
「違うっすよ! パンジャンの子は卵で生まれないっす! パンジャンは胎生っす!」
桜人の温度のない笑顔に疑問が滲む。その顔が夏報へ向けば、頷いて返された。
ちなみに河原の邪神はというと誰も襲いかかってこないので座って休んでいる。
「おやそうなんですか? おかしいですね。ぼくはパンジャンが卵を生む場面をしっかり見たんですが、パンジャンは卵生ですよ」
ここで藍亜は憮然とした表情を作る。まるでパンジャンドラムとUDCの落とし子が認知してもらえないような気分だ。しかし何故これほどパンジャン落とし子に囚われているのだろう。自分でもよくわからない。
ちなみにどんなふうに産んだんだ? と夏報。
あの車輪のロケットの穴からぽこぽこと、と桜人。
「かわいそうに、産むときは痛いのかぽろぽろと涙をこぼしてましたねぇ」
「ウミガメみたいな話だなぁ」
野生のパンジャンドラムの駆除をUDCエージェント新人時代から経験してきた夏報にとっても、養殖は未知の領域だ。そもそも捕獲でさえ今回が初めてであったのだが。
「そうだ、胎生だと主張するなら見せてもらってもいいですか?」
「む」
卵生と主張する桜人が実際に卵だと見せているのだから、こちらも見せるのがフェアだなと藍亜は考えた。あの卵がどこからどうみても鶏卵にしか見えないとしても。
「…………」
藍亜は一歩下がりながら、片足のつま先で軽くコンクリートを叩いた。体に伝わる振動が小さくスカートを揺らし、雫を一滴垂らした。コンクリートに小さな黒色の染みが生まれる。昏く、暗い、そして黒い液体は、やがて沼まで成長する粘液状のUDCだった。
液体から這い出ようとするものを藍亜は持ち上げ、翳す。
「これがボクのUDCとのあいだに産まれたパンジャンドラムの子供っすね。まだこの一匹だけですけど」
なんだかヌメヌメした黒いパンジャンドラムである。前が見えないのか、あるいは見えているがただの習性なのか、触腕めいたものを伸ばし、藍亜の手を突くなどしていた。
「一匹ですか」
「はい」
「何匹か見えますけど」
え。
藍亜の瞳が恐る恐る下に向く。夏報もまた顎に手をやりながら水溜りを覗き込んでいる。
「……なんか増えてる?」
さて。
パンジャンドラムの繁殖についての考察は、UDCと英国面に関する高度な知識が必要とされるもののため、この場では追求しないこととなった。
そうして三人の猟兵は今回の目的を思い出したのである。パンジャンドラムは、そもそも邪神を倒すために必要だった。
では邪神はというと、すっかり暇して眠りそうになっている様子が土手から見下ろせる。
「そういえばさ」
虚空から写真を一枚取り出し、指先で摘みながら夏報が問いを投げた。
「それで繁殖に使ったパンジャンはどこ行ったんだ?」
桜人は答えない。ただ曖昧な笑みで質問をやり過ごすつもりでいた。
なるほどパンジャンドラムの在庫は方便で、ただ養殖したパンジャンを使いたいだけかと結論づける。世の中には嘘も方便という言葉があるのだ。
「まあいいけどね」
在庫などほぼどうでもよかった。もともと邪神への攻撃を野生のパンジャンドラムに頼るつもりはなかったから。
夏報は一番槍として土手を駆け下りる。邪神はすぐさま気づき、煩わしそうに彼女を見るが特別警戒には至らない様子。当たり前だ、邪神はパンジャンドラム以外のもので傷つけられないし、夏報は写真以外何も持っていない。
だから最初の奇襲が成立する。
走りながら腕を振りかぶれば、その手のなかで写真の束が扇状に広がる。
怪訝に思う邪神の目の前で、放たれた写真は空気を切り裂き、それぞれが回転しながら放物線を描いた。
そして、邪神に触れたものから爆発していくのだ。
「縺ー縺上?縺、縺励◆!?」
「もっといくよ!」
邪神が驚くのも無理はない。夏報が投じるのはあくまで写真だ。バランスが悪く碌に直進しない陸上地雷そのものではない。ただ、写真の中にパンジャンドラムが写り込んでいて、さらにそれ自体が情報生命体だった。
エージェント生活苦節8年弱。夏報は数々のパンジャンドラム駆除に従事してきた。初めて駆除に駆り出された日の写真。報告書に挟むため仕方なく取らされた写真。パンジャンドラムの速さに慣れずブレてしまった写真だってあり、また先輩に『この中に4匹隠れてるよ』といわれて同期とにらめっこした写真だってある。結局3匹しか見つけられなかったのは苦い思い出だ。ただ先輩はそのときだいぶ酔っていた気がする。
夏報は再び写真の束を振りかぶりながら、在りし日の思い出に浸る。思えば、あの頃から随分と遠いところまで来たものだ。
「これはパンジャンドラムばかり映してきた写真だからさ。『パンジャンドラムという概念』を獲得してるんだよ」
獲得したからもちろん爆発するのだ。
「縺薙l莉・荳翫?縺セ縺壹>……!」
夏報が振りまく爆炎のなか、邪神は傷だらけの体に花を咲かせる。白い花の名はエーデルワイスだ。
飛翔能力を得て、写真の届かぬ高度まで逃げようとするつもりらしい。
だが。
「いいんですか? 卵臭くなっちゃいますよ?」
それに備えぬ桜人ではない。
邪神が逃げ出す先には、既に彼の指揮する飛行型エレクトロレギオンが待ち伏せていた。
すわ航空型パンジャンドラムかと身構える邪神だが、どうもそうではない。エレクトロレギオンの形状はドローンに近い。
その代わりに銃砲より大げさなサイズの発射装置が装着されており、彼らは一斉に発射するのだ。卵を。
どおん。どどーん。
閃光。轟音。爆炎の中から巨体が落ちてゆく。その顔は驚愕と困惑に彩られ、写真と卵が爆発する理由を一切見いだせないでいた。
一体誰が気付けるのだろう。片やパンジャン概念を獲得し自爆能力を得た写真。片や野生の陸上地雷のメスから採取した卵である。そうはならんやろ。普通そうはならんやろ。
「念のため電子レンジで温めておいた甲斐がありましたね」
「それパンジャンの卵じゃなくても爆発したんじゃないっすか?」
墜落した邪神に満足げな桜人と悩ましい表情の藍亜が交わす会話だ。
藍亜から見れば、謎の巨大生物が囲まれて延々と写真と卵を投げつけられて爆発しているのだからたまらない
そして自分もこれから謎生物をけしかけるのである。
すぅ、はぁ。
写真と卵の爆発をBGMに、小さく深呼吸。
意を決して邪神へと歩く藍亜は、その後ろに足跡のような黒い染みを垂らしていった。言うまでもない、液状型UDCである。
ぞろぞろ、ぞるぞる。
植えられた染みは水溜りへと拡大し、やがて繋がり大きな沼を成す。先を歩いていた藍亜を追い越し、邪神へと到達するまでに広がった。
不意に、爆音の途切れるタイミングがあった。
「出番っすよ」
だから彼女の声がよく響いた。
沼がごぽりと音を立てながら膨れ上がり、やがて腕の輪郭を作ってゆく。沼に潜むUDCの落とし子どもの触腕である。パンジャンドラムでないそれは邪神を傷つけるには至らないが、拘束するのは不可能じゃない。
あたかも亡者が引きずり込むような形で、巨体へ幾重にも腕が伸びていった。邪神がいくらもがこうとも決して振りほどけない。
最後に、パンジャン落とし子。
邪神を討つため、爆発するために産まれた子だった。
親から授かった車輪と爆薬を備え、そして親から授かった触腕を生やした漆黒の子だった。
新しく沼から伸びた触腕が、パンジャン落とし子を掴み上げる。高く高く持ち上げ、おおきく振りかぶって、勢いよくぶん投げた!
「え、そんな感じの扱いなんすか!?」
どおん。縛り付けられた邪神は動けない。
どおんどーん。黒沼の触腕が己が子を投げつける。
「ああ、獅子は我が子を千尋の谷に落とすって言いますもんね」
「……そういうやつじゃないと思うっすよ」
動けない邪神を的にした写真と卵とパンジャン落とし子投げ大会は、しばらく続くこととなった。
5分後。
倒れ伏して沈黙する神へ夏報は紙を投げる。風に乗り、緩やかな弧を描きながら巨体の中央へと落ちた。
爆発はしない。
ただパンジャンドラムの絵の代わりに文字がある。それは『パンジャンドラム駆除業者』と書かれた企業の、名刺なのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
アリス・セカンドカラー
お任せプレイング。お好きなように。
男の娘パンジャンドラムと身も心も一つになった私はその身が羽化するように星辰界へと変態する。
星辰界、アストラル界とも呼ばれる精神の世界。即ち、今の私は宇宙そのものであり世界である。男の娘パンジャンドラムと一体化したのでパンジャンドラム宇宙である。つまりこの星辰界全てがパンジャンドラムである。
アリスの英国面のイメージが反映されてスターゲイジーパイを模したパンジャンドラムが増殖してるが気にしてはいけない。不可説不可説転(無量大数の5400溝乗)の世界があるのだ、今さら栗饅頭問題的にスターゲイジーパンジャン宇宙が誕生しても問題ない。それに『翠翁』が巻き込まれてもね☆
朝沼・狭霧
アドリブ歓迎からみOK
あの日以来、夢を見るんです
可愛らしい猫たちと戯れる、とても楽しい夢を
白い猫さんは、のんびり屋さん、縁側で丸くなります
黒い猫さんは、おくびょうな子、自分の尻尾を追いかけちゃいます
ヴィルさんが猫さん達と遊ぶパーティを開いてくれると言ってました。
これはとても楽しみですね。おしゃれして行かないと・・・
まあ、なんて大きな緑色のケーキかしら?
猫さん達は次々とケーキにじゃれついています
可愛らしい光景にほっこり頬を緩ませます
ああ、楽しい時間ほど早く過ぎるって本当の事ですね
追記:
SAN値=0
猫=パンジャン
ケーキ=邪神
じゃれつく=狭霧がパンジャンを邪神に投げつけている
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ改変・連携歓迎】
ヒューゥ活きのいいパンジャン沢山手に入ったよ
これはもう、新しいパンジャン芋煮を邪神やみんなにご馳走するしかないって事だね!私の研究成果を見せてあげよう!
ヘイ、ご注文のパンジャン芋煮一丁ー!
という訳で、【芋煮ィッシュ作戦】を発動するよ!
落ちてくる巨大な芋煮を邪神の人にダイレクトアタックだー!
芋煮の中には活きのいいパンジャンが所せましと泳ぎ回り、普段とは違ううま味成分が楽しめるよ
そう、これは芋煮とパンジャンの完璧な融合。芋煮でもありパンジャンでもある素晴らしい調和
まぁそんな事はどうでもいいけど、芋煮パンジャンとパンジャン芋煮。どっちが語呂いいかな?
●
邪神は半ば途方に暮れていた。
何故か自身の唯一の弱点が知られていて、さらにそれで猟兵に追い詰められているのもそうなのだが、何より目の前の光景が理解できなくて途方に暮れていた。
でーん、と河川敷に鎮座する巨大な鍋。もうもうと立ち上るのは湯気であり、そのなかで浮いているのは里芋を始めとした具、それとパンジャンドラムであった。
なんだこれはと邪神は思った。
どれくらい巨大な鍋かというと、かき混ぜるためにショベルカーの動員が必要そうなほどに巨大だ。
もちろん、受け入れがたいのはサイズと具だけに留まらない。
「ヘイ、ご注文のパンジャン芋煮一丁ー!」
と威勢のいい声でルエリラ・ルエラが上空からずしんと落としてきたものがこれのだ。突然、前触れもなく。もちろん誰も注文などしていない。いかにも怪しい料理だ。怪しすぎる。
「芋煮とパンジャンの完璧な融合。芋煮でもありパンジャンでもある素晴らしい調和。ぜひ味わっていってほしい」
さらにはロケット推進式陸上地雷を料理に投入したという暴挙を告白しながら試食を勧めてきている。常人ならば食べ物を粗末にするなと怒る場面だろうが、ルエリラの場合は『そういう料理』として作っているのだ。
しかしそればかりに驚いてはいられない。
なぜならここには朝沼・狭霧とアリス・セカンドカラーもいる。
二人は鍋を見て、心底うっとりした様子でこのように呟くのだ。
「見て、ねこちゃんがベッドの上をごろごろして遊んでるんですよ、かわいい」
「そうね。プールに半身を浸しながら男の娘が期待した顔を向けてきているわ」
どちらも鍋を見た感想である。
邪神はドン引きである。
「うんうん、みんな目の付け所がいいね。湯気に混じるピリッとした香り……パンジャンから出汁がよく出てる」
こわい。
全員同じものを見ていてそれぞれ別のものに認識しているくせに、何故か話が通じ合っている。
「繧?∋繝シ繧?▽縺?…………」
関わりたくない、というのが邪神の素直な思いであった。それゆえ下手に刺激しないよう足音を立てずゆっくり後退してゆく。
していたのだが。
「あら、そんなに物欲しそうな顔しちゃって」
アリスが邪神に向いた。
「ヒッ」
ぶるりと巨体が震える。それが可愛らしく見えるのか、にっこり笑いながら彼女は一歩ずつゆったり歩いていく。肉食獣のような、どちらが捕食者か思い知らせるような動きだ。
「可愛い子ね、もしかして……」
くす。白魚のような指先の、よく手入れされた爪先が唇に触れる。桜色の弧を描いた唇だ。
「初めてなのかしら」
お気づきだろうか。いまアリスには邪神すら男の娘に見えている。男の娘と英国面をキメすぎたのだ。
「いいのよ、そういうの嫌いじゃないわ。怖がった顔がね、だんだんと蕩けていくのを見るのはとても楽しいから」
後ずさる邪神の足へ彼女の手が置かれた。強く掴まれているわけでないのに、不思議と振り払えない、抗えない。
いつの間にか、邪神はバランスを崩し転倒していた。
アリスの手はやがて足の上へと伝ってゆく。緑に覆われた付け根を、白が剥き出しになった背を。
「いい子ね、とってもいい子」
やがて邪神へ馬乗りになって、花の茂る頭部まで手を伸ばす彼女が笑う。
「いい子には、わたしの特製のパイをあげちゃうわ」
滑らかな指が邪神の口を撫でる。もう片方の手には例の芋煮鍋から摘んだものが乗っていた。
「縺ェ縺ォ縺昴l……!」
さて、このときの邪神の表情はなんとも形容詞がたいものがあった。ルエリラが活きがいいと太鼓判を押す芋煮のパンジャンドラムへ、これでもかとイワシを突き刺した物体と対面させられたのだ。
名付けてスターゲイジーパンジャンである。英国面ここに極まれり。もちろん邪神は顔を背けた。意地でも食べるかと全身の力を振り絞った。
「遠慮しないでいいのよ」
「もう、強情な子ね」
「でもそこが可愛いんだから」
「ほら、つかまーえた」
およそ1分に渡る攻防の末、やがて邪神は度し難き英国面の申し子を押し込まれてしまい……。
頭から爆発した。
「ねえ、聞こえました? にゃあんって鳴いたの。かわいい」
一方で狭霧はパンジャンドラムが猫に見えていた。こちらは英国面などでなくリアリティショックの産物である。あまりにも大きな衝撃は彼女の記憶を改竄し、今回の仕事を『ただ猫と戯れるだけ』と認識させるまでに至った。
なのでパンジャンドラムは猫であるし、あの巨大な邪神はデカ猫なのだ。
鍋のなかを回遊するパンジャンドラムはさながらベッドの上でごろごろする猫の楽園。狭霧にとって無限に見ていられる光景だ。
「あら……?」
そんな折、ふと一匹のパンジャンドラムと目が合う。
「ああ、そうなのね。寂しくなったのね」
ざぶんと芋煮に手をつっこみ、それを抱き上げる。熱々の汁でひりつくような痛みを覚えるが、臆病な子猫に引っ掻かれたのだと脳内で変換される。
「大丈夫よ。怖くない、怖くない」
抱きしめながら背を撫でる。
「お母さんが離れてしまって怯えてるのね。体が硬いし、こんなにも汗がぐっしょり」
「火が通ってないものあった?」
「いいえ、大丈夫ですよ。すぐに落ち着くと思いますから」
狭霧とルエリラの会話もご覧の有様である。
このままずっと撫でていたい気持ちと、母親の元へ送らねばという気持ちがせめぎあう。つるりとした毛並みを撫でるたび、あともう少しだけ、あともう少しだけと自分に言い訳を続けてしまった。
このまま自分の胸のなかで眠ってくれたら、それはどんなに幸せなことなのだろうか。
だが、夢はいつか終わるものである。
抱えたパンジャンドラムが小さく身じろぎするのを感じて、狭霧は寂しげに笑いながら優しく地面に降ろした。
「お母さんはあっちだからね」
体を母猫のほうへ向けてやる。それからそっと背中を押してやればゆっくりと進み出す。
たまに振り返る様子に、安心させるよう笑みを浮かべて、小さく手を振ってやった。
「子猫だもの、お母さんのそばが一番ね」
……。
………。
…………。
どっかーん。
さて、最後に残るはルエリラである。鍋を鍋のまま認識していたある意味で正気の、そしてパンジャンドラムを食材にした料理を作り『うまみ』がどうの言う素で一番危険かもしれない少女である。
彼女の前には芋煮パンジャンで爆発する邪神など、料理漫画でよくある過剰なリアクション演出に過ぎないのだ。
そしていまは巨大な鍋を邪神の方へゆっくり押している。相手は虫の息でぴくりとも動かない。
それでもいい。まだ息があるのならそれで十分。
「よっこいしょ」
初夏の陽気で汗ばんだ額を拭う。見下ろす邪神は大地に手足を投げ出し、いまにも消え入りそうだ。猟兵が近づいてももはや抵抗ひとつできやしない。
だからルエリラはおもむろに鍋から芋煮を掬いとって、容器を差し出した。
「死ぬ前に芋煮ひとつ、どう?」
死にゆくものの目が薄く開いた。わけがわからない、という色を滲ませた。
「芋煮はね、すごく美味しいんだよ。今回のはかなり自信作」
ちなみに彼女は本気で言っている。
「これを知らないで逝くのはもったいないと思うから。はい」
器を寄せた口元から、逡巡が伺えた。
人間の作った料理など、本来ならば鼻で笑いながら蹴飛ばしていたところだ。旧い神には、ただ己の世界だけがあればいい。それで十分だった。他者などただの異物に過ぎなかった。
とはいえ。蹴飛ばそうにももう足が動かず、植物でも生やして追い払おうにもすっかり力を使い果たしている。遠ざけることができない。
抵抗できないまま、香りに鼻孔をくすぐられる。
単一でない、様々なものが入り混じった香り。ほのかに塩気と甘みの気配がした。
人間の料理など気に入らない。
気に入らないが、どうしてもというのなら少しだけ食べてやってもいいかもしれない。
僅かに口が開いた。ルエリラはそれを了承と受け取った。
「名前ね、どっちか迷ってるんだよね。芋煮パンジャンとパンジャン芋煮」
どっちがいいかなと小さく笑う。
邪神が目を見開いた。そういえばこれパンジャン入りじゃん。
え、パンジャン入りの芋煮を本気で人に食べさせるつもりなんですか?
「…………!」
無言の抗議。口が閉じられようとする。
だがルエリラの方が早く、さっとパンジャンドラム入り芋煮を滑り込ませた。
「どう? 美味しいかな」
そして。
もちろん爆発した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第3章 日常
『勝つも一興、負けるも一興、いざ賭けよ!』
|
POW : 技術?計算?んなもんしるか!せっかくだから俺はこいつで勝負するぜ!!
SPD : 知ってますか?バレなければ何してもズルくないんですよ。見せませんがお見せしましょう、イカサマをね!
WIZ : 私達に必要なものはただ一つ。そう、祈りです。神よ、このチップと我が運命をあなたに委ねます……
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
かくして、恐るべき邪神は猟兵達の奮闘により骸の海へと返された。
オブリビオンに地上の支配を許すことなく、事件は収束を迎えたのである。
もはや倒すべき敵はない。
ないのだが。
邪神撃破用に確保されたパンジャンドラムがまだだいぶ残っていて、これをどうにかするのに協力してほしいと現場地域を担当するUDC職員に請われたのだ。
といっても難しく考える必要はない。パンジャンドラムをどうするべきかといえば基本的に爆発させるだけである。
さあどうしよっかこれ。
<お知らせ>
今回はレクリエーションとして、パンジャンドラム同士を戦わせるパンジャンバトルとかできます。
猟兵のパンジャン同士で戦わせたり、地域を担当してるUDC職員が強制的に動員されてパンジャントレーナーになってたりします。
どんな酷いバトルになっても死者はでません。
上記とは別の遊びをしたい方は【その他】と記入してください。
OPに登場したグリモア猟兵は、本章での登場予定はありません。
※以下は基本的に読まなくて大丈夫です。
<魔改造したい人向けルール>
MS側で判定ダイスを2つ振って平均値でスコアを決定します。このスコアで勝敗を判定します。
魔改造度合いによって判定ダイスを増加させます。判定ダイスが増えた場合は出目の良いものを2つ選び、その平均値でスコアを決定しますが、判定ダイスにひとつでもゾロ目があったら暴発したりなんか酷いことになります。ゾロ目が多ければ多いほど酷いことになります。
改造の内容はドリルを付けたり虹色に光らせたりしてもいいですが、わかりにくかったりちょっとアレな内容だなと思ったら適時勝手にアレンジします。
※
(言い訳)
実はOP申請段階では命をチップにしたレースにしようと思ってたんですが、なんかボス戦でレースが始まっちゃったので命をチップにしたバトルへ変更されました。
アリス・セカンドカラー
【その他】
おまかせプレイング☆
真の姿“UDC-P腐海の貴腐神”としての姿を解放。やぁ、職員の諸君、監視ご苦労様☆
折角の男の娘パンジャンを処分するだなんてとんでもない!
私のサブジョブはシャーマン。そして、シャーマンは公式設定としてUDCと心を通わせて使役する。更にシャーマンズサクラメントは心を通わせた(催眠洗脳した)オブリビオンの破壊の衝動をデリートする、即ちUDC-P化できる☆
レクリエーションで余ったパンジャンも男の娘化させて具現化した妄想世界にご招待♡
情熱的に心を通わせて仲良しになって楽園の住人になってもらいましょ♪
え?監視員さんも来るの?お仕事熱心ねぇ、性癖拗らせても責任は持てないわよ?
エレン・マールバラ
※アドリブ・連携歓迎 【その他】
…まさか原産国でも絶滅危惧種のPanjandrumがJapanでこんなに繁殖してるとは思わなかったっすよ!ただ、このままじゃ生態系に影響が出るかもしれないっす…。何体か標本として祖国に送りたいっすけど、扱いが難しいっすからねえ…。惜しいっすけど、この辺りの個体だけでも駆除するっすよ。
(楽しそうに転がるパンジャンの群れにレーザーを照射し座標指定)
Sorry…。これも世のため人のため、っす…。(【選択UC】を発動。巨大な爆炎に向かって、英国式の手のひらを見せる敬礼)
Goodbye,Panjandrums…。アナタ達の雄姿は忘れないっすよ…。できたら忘れたいっすけど。
●
光が走った。
すると、ひと呼吸ほどの間を置いて爆発音が響き渡る。
光と間、そして轟音。雷のような組み合わせはいま、草の生い茂る開発予定地でいくつも繰り返し発生していた。
「hmm...」
エレン・マールバラが腕を組んで唸る。組みながらも手先の装置をパンジャンドラムへ向け、ボタンを押す。
再び光が一つ。すぐに爆発。
表情に滲む物憂げな色が少し濃くなった。
「多いっすねぇ……」
まだまだいますよと返事が届く。UDC職員のものだ。エレンの立つ場所まで野良パンジャンドラムを引き寄せる役目を負っていた。座標指定とスイッチひとつで簡単に爆撃できるエレンの火力は並のUDC職員とは一線を画すのだから、爆撃役を期待されたのは当然のことだった。
英国では多くないんですか、という問いが出た。
エレンはこれに首を振った。
「原産国でのPanjandrumは絶滅危惧種っすよ」
つまりこのUDCアースでは一般的な野良パンジャンドラム駆除の光景は、紅茶の国ではもう人々の記憶にのみ宿る原風景となってしまったらしい。
「…………」
ちら、とエレンのなかの祖国を想う一面がこれを持ち帰りたいと訴える。だがリスクやコストを考えるもう一面が現実的ではないと棄却する。
「扱いが難しいっすからねえ…」
具体的にどう難しいかと言うと、輸送中に98%が爆発する。残りの2%は破損で沈没する船と運命を共にする。もちろん空輸でも同じだ。
だから、エレンにいまできることは駆除しかないのだ。
爆発してゆく彼らをせめて敬礼して見送ろうと思う。異国の地に適応し逞しく繁殖してきた彼らを忘れないため、目に焼き付けようとも。
「Goodbye」
爆風が長い茶の髪を浚ってゆく。この風を、焼けた匂いを、いつまでも覚えていようと思った。
「Goodbye, Panjandrums...」
「すみません、少しいいでしょうか」
「私いますごくいいところだったっすよね?」
パンジャンドラムを匿おうとする人がいる、と案内されてエレンの向かった場所は雑木林の入り口だった。
濃緑と影に彩られた景色に、目を引く銀色と赤色があった。アリス・セカンドカラーという猟兵であることはすぐにわかった。
「来ないでちょうだい。何度言われようと無駄なことよ」
切り裂くような鋭い言葉が案内した職員へ向く。小さな体は背後のものを隠そうとしていた。
「あれが、匿おうとしてるパンジャンっすか?」
「はい。男の娘パンジャンのようです」
どこからどう見ても可愛らしい子供にしか見えないのに、実はパンジャンドラムなのだという。
「爆発するっすか?」
「します」
恐ろしいことだ。男の娘パンジャンなど英国では聞いたことがない。パンジャンドラムは早くも生態系に影響を与えてしまっているらしい。
「引き渡す気はないわ。私はこの子たちと心を通わせられるの」
この子たち。複数形。
「どうか渡してください。パンジャンドラムは危険です」
いつの間にやら少女と男の娘パンジャンをUDC職員が取り囲んでいる。それぞれが手を伸ばそうとして物々しい雰囲気だが、エレンとしても危険性には同意しかない。兵器だし。
らんらんらんらんららららんらんらら。
ららんらららんらんらーん。
これはひらがな二つを組み合わせただけの文だけどなんとなく雰囲気を察してほしい。
「嫌よ。この子たちはまだ人を傷つけていないわ」
かわいそうに、英国面に取り憑かれてしまったか、パンジャンと人とは同じ世界には住めない、などなど職員が口にする。
途端にアリスの眉が釣り上がった。失礼なことを言わないでほしい。自分は英国面に魅入られているのではなく男の娘面のほうに魅入られているのだ。さらに言えば男の娘が自分に魅入られているのだ。
どちらかというと英国面ではもうひとりの猟兵のほうが深刻である。
まるで引く様子のないアリスに、職員たちがため息をつく。不和の匂いがあたりに満ちていた。
「ちょっといいっすか」
エレンが手を上げた。強張った空気によく響く声だった。
「そのPanjandrumが人を傷つけたことがないのは事実だと思うっす」
傷つけるイコール爆発するってことだからね。人を傷つけた個体はまず生きてないからね。
「ただ放置はできないっす。何かの刺激で人を襲ったり爆発するかもしれないっす」
そうならなければどんなによかったか、とエレンさえ思う。だが現実は甘くないのだ。だから彼女でさえパンジャンドラムを駆除した。
「それに、このままじゃ生態系に影響が出るかもしれないっす」
「そうね」
残念ながらアリスとしては望むところである。彼女にとって世界の男の娘は多いほどいい。
言葉を重ねつつ、エレンにはある種の予感を感じている。アリスの主張には軸があり、絶対にブレることはないだろうという。
「……」
ゆっくり、呼吸をひとつ。
「だからあなたが責任持って監督できるっすか」
アリスの表情が変わった。口を開く職員を手で制してエレンは続ける。
「不安なら彼女がちゃんと監督できるか監視員つければいいじゃないっすか」
職員とてUDC-Pのことを聞いたことがないわけではない。ただ目撃例はあまりに少なく、目の前のパンジャンドラムもそうとは断定できない。十中八九違うだろう、と思っている。
だが、これはリスクの問題だった。そのリスクをアリスが負うのならUDC組織とて受け入れる余地がないでもない。
アリスと職員のあいだに和解の空気ができたのを感じ、エレンはひとり微笑む。
祖国では絶滅危惧種となったパンジャンドラム。ただ駆除するしかないのは惜しいと思っていたのだ。
そして一時間後、アリスは監視員として自己紹介をする職員に笑いかけた。
「お仕事熱心ねぇ」
小さく細い手で男の娘パンジャンの頬を撫でる。永遠に撫でていたくなる感触だ。これが楽園の住人に加わるのだから心が躍ってしまう。
さらにくすくすと喉が鳴る。次には怪しい笑みが職員の表情を捉えていた。
「あら、私の楽園に興味があるのかしら」
返ってくる言葉はない。しかし彼女の、魔性と妖艶さを宿す瞳には職員の心などお見通しだ。
「性癖拗らせても責任は持てないわよ?」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
自動・販売機
自動販売機だ。
無事邪神をぶっ飛ばしたこの場所になぜ今更現れる必要があるのか。
それはもちろんここに需要があることを読み取ったからである。
君は闘パンジャンを知っているか。
古来より大事を決める時に命を賭けて執り行う神聖な儀式、それが闘パンジャンである。
時代は下り、その内に儀式から賭博へと変容していった。しかしその本質は変わらない、人々を熱狂の渦へ誘い込むそれ自体が大きな呪術的意味を持っているのだ。
そしてその熱狂を高めるための賭け…つまりパンジャン券を売るために自動販売機は現れたのである。
その電子頭脳により導き出されるオッズは確かである。
なおそれ以外にもパンジャン土産も取り扱っている、お一ついかが?
臥待・夏報
うーんこれこれ、辛く苦しいパンジャンドラム案件のあとはパンジャンバトルだよね。
UDC上層部に声を掛けられるには、パンジャンバトルで才能を示すのが一番の近道だ。
よっし、目指せ夢の役員生活……!
なんて盛り上げてはみたけれど、あんまり立身出世って興味ないんだよね。
猟兵だからお給料は言い値だし。
そもそも、捕まえたパンジャンドラムは他の人にあげちゃったし。
この写真は過去のパンジャンバトルで禁止カードにされちゃったし。
こんなこともあろうかと、先月の給料を6000兆円(言い値)貰っておいたからな。
一番魔改造してる人のパンジャンドラムに全額賭けよう。
ふ。燃えてきたぜ。
こういう時のビールが一番旨いんだよな……!
百地・モユル
パンジャンバトル…?
パンジャンドラム同士をぶつけ合わせて…当然爆発するよね
勝敗はどうやって決めるの?
先に爆発した方か、爆発しないで耐えたほうか…
とにかくどっかんどっかんやって大丈夫ならボクもバトルに参加するよ
トリニティエンハンスで攻撃力をあげて
怪力と投擲、あと気合いをこめてゴーシュートだ!
いっけえぇぇ!ボクのパンジャンドラム、エクスプロード・ドラム!
なんだかちょっと玩具で戦うアニメみたいでノリノリ(でもマジで爆発してる)
爆発したら次のパンジャンにもかっこいいと思った名前をつけてバトル
いっけー!バーニングホイール!
アドリブ、絡み歓迎
数宮・多喜
【アドリブ改変・絡み大歓迎】
【被害担当歓迎】
おいパンジャンが足りないって話どこ行ったんだよ!?
なんでこんなに溢れてるんだよ!?
卵から生まれたちっちゃい養殖パンジャンとか!
なんか名状しがたきパンジャンとか!
ゲーミングパンジャンはさっき見たし再生産できるっぽいからノーコメントだけど!
その上でパンジャンバトルだァ!?
……よーしわかったやってやろうじゃねぇか!
ここは配信で稼ぐチャンス!
タイトルは「野良パンジャンでパンジャンリーグ制覇を目指してみる」
これだ!
早速捕まえたパンジャンで……
あ、爆発した。
次捕まえて……爆発したよオイ。
どうすんだよこれ!?
どうすりゃ上にってあああ、収益化が解除されてるー!?
●
丘陵団地として開発する予定だったのが、資金難により工事中のまま放置されてしまった土地。
そこがUDC組織の設置したパンジャンバトル会場である。このような場所はUDCアースには珍しくなく、故に現役職員である臥待・夏報には、例え訪れたことのないところであったとしても、組織の保有している土地を難なく見つけることができた。
入口付近には人だかりが見える。
パンジャンドラムの、とりわけ猟兵の関わった案件だから話題になったのだろうか。
と思ったらそういうわけではなかった。
「へー、パンジャン券なんて売ってるんだ」
珍しい。よほど規模の大きいパンジャンバトルでないとこういうのはないぞと券売機を眺める。妙にピカピカでカジノでも設置されていそうなほどゴキゲンなデザインだ。馬券握りしめながら馬の競争を見るだけでも人は盛りあがれるのだから、パンジャン券持ってのバトル鑑賞はさぞうまいビールが飲めることだろう。入り口で人だかりができるほどの盛況さも納得である。
行列が捌けるのを待ってからオッズ表を眺めることにした。こういうのは見ているだけで楽しいからゆっくり眺めていたい。
「……改造パンジャン部門とプレーンパンジャン部門に別れてるのかぁ」
改造部門は派手で楽しいが、プレーン部門も唸るような工夫が見られて味なものである。
「購入する券の種類を決定してください」
「あれ、入場券じゃないの?」
不意に、耳が前方からの声を拾った。ひとつは女性の声で、もうひとつが自動音声らしきもの。
「……うん?」
何か違和感に気づいた様子で夏報と前方の女性、数宮・多喜が販売機を覗き込む。
自動販売機は自動・販売機(何の変哲もないただの自動販売機・f14256)だった。
「うわっ」
よく見たら猟兵だこれ。
ガッコン。
販売機の発券口から何やら冊子が躍り出る。
「ええ……なにこれ」
恐る恐る多喜が手に取れば、パンフレットのようだった。闘パンジャンの歴史って書いてある。
多喜はまず見開いた目にそれを近づけてみた。それから目を細めながら離してみる。
「なにこれ」
同じ言葉がもう一度でた。
「闘パンジャンっていうのは、パンジャンバトルの昔の呼び方だね」
手を伸ばした夏報が同じものを受け取る。
「パンジャンの駆除とかで大量に在庫ができちゃったとき、一気に消費するためにレクリエーションをやるんだよ」
多喜にとって頭を抱えたくなる事実だったが、すでに他のUDC職員から聞いたことでもあった。むしろ彼女がいまもっともぶつけたい疑問はバトルの歴史や経緯云々ではない。
「パンジャンが足りないって話どこ行ったんだよ!?」
これ。
「なんで変なゲームが開催されるくらい溢れてるんだ!?」
いやほんとこれ。
ゲーム内容が気になってやってきたわけじゃないのだ。なんでこんなゲームが開催されることになってしまったのか、やり場のない感情に身を任せていたらいつの間にかこんな場所に立っていたのだ。
「まあ夏報さんがだいぶ大会用に寄付したからね」
原因が目の前に立っていた。夏報にしてみれば処分を押し付けただったかもしれない。
「あとパンジャンの養殖に成功してるひともいたし」
「さっき見た卵とちっちゃいパンジャンってそれかい!?」
「記念にお土産はいかがでしょうか?」
販売機が商品ラインナップに卵(パンジャンドラム)を表示する。
「いらない!!」
いらなかった。
「やっぱり改造度の高いパンジャンほどオッズ高いなー」
観客席にて、販売機の表示するオッズ表を見た夏報の感想である。
入場してそういえばパンジャン券買い忘れてたなと思いながら何気なく横を向いたら彼がいたのである。そして空席を見つけて一息ついたときその横にもいた。
「購入する券の種類を決定してください」
恐るべきは需要への洞察力である。通常の自動販売機は動かない。だから彼も動かない。自動販売機とは客の動線に沿って設置されるものであり、実際彼も夏報の求めを察してここに予め待機していたのだ。
「ちょっとまってね」
藍色の瞳が数字を追っていく。そこにはわかりやすい傾向があるのだ。
ほとんどの人が改造度の高いパンジャンが優勝すると思っている、という。
「でも、逆に改造度の高いパンジャンになってくると低くなってくるね」
あまり改造しすぎると開幕暴発の可能性が高くなってくるのがパンジャンバトルの肝である。過去これによって多くの優勝候補が塵となっていったし、逆に様々なダークホースが産まれてきたのだ。
不意の懐かしさに瞼を閉じる。いつだったか、夏報にも参加したことがあった。そのときはパンジャンドラムの概念を宿した写真で大いに暴れたものである。概念パンジャンがレギュレーション変更で使えなくなるまでは流行の最先端を走っていた。
だが大会の目的があくまでパンジャンドラムの爆破もとい消費ということで、パンジャンドラム以外のものを用いることが制限され、輝かしい戦歴は幕を降ろしたのだ。
「ご注文のパンジャンをお選びください」
「いや、夏報さんは参加しないよ。今回は観戦するだけ」
販売ラインナップにパンジャンドラムを並べる自販機だった。赤・青・黄からお好きな色のパンジャンドラムをお選びいただけます。期間限定商品、スケルトンパンジャンも好評発売中。
「それじゃせっかくだし、一番魔改造してる人のパンジャンに突っ込もうかな」
「ご利用ありがとうございました」
瞬間、周囲にどよめきが走る。
オッズ表の数字が大幅に変動したのだ。改造パンジャン部門へ注いだ金額は尋常ではない。
「ビールもひとつ」
ガッコン。
「販売機くんなんでも売ってるね」
「ご利用ありがとうございました」
販売機はなんでも売っていた。スマホ用三脚すら売っていたし配信機材も揃えていた。
だから多喜はこれで配信しようと思ったのだ。
「『野良パンジャンでパンジャンリーグ制覇を目指してみる』いける気がする……!」
「どうかなぁ」
彼女のアイディアにそう返すのは百地・モユルだ。
ここはプレーンパンジャン部門の試合会場である。見渡す限りの出場者は殺気立っていて、己こそが優勝するのだと意気込んでいる。
「動画見る人、野良パンジャンのことわかるか微妙だと思うんだよな」
万が一配信コメントで『野良パンジャンってなに?』などと聞かれたら回答しなきゃいけないのは他ならぬ多喜だ。
野良パンジャンドラムってなんだろう。多喜でさえいまだによくわからない。もちろんモユルもわからない。
さらに言うとパンジャンバトルのルールすら怪しい。
「…………」
受け取ったパンフレットにはただ『パンジャンドラムを爆破させること』としか書いていなかった。あとは細かいQ&Aだけだ。
Q.パンジャンバトルの結果を大事を決める儀式や賭博に利用することは可能でしょうか?
A.ルール上は問題ありません。
Q.当方UDC組織上層部です。パンジャンバトルで才能を示した選手を役員に推薦することは可能でしょうか?
A.ルール上は問題ありません。
「くそ……!」
これで何がわかるというのか。多喜の手のなかでくしゃりと冊子が歪む。
広い正方形に区切られたライン。外側を参加者が囲み、その真後ろにはパンジャンドラムが並べて設置されている。
周囲の状況からは辛うじて読み取れるのは、せいぜいこのなかでバトルロイヤルを行わせるということだけだ。
「あ、もう始まるよ」
モユルの指す先をハッと顔を上げる。タイムカウントが始まった。各々の参加者が真後ろからパンジャンドラムを掴む。
5。多喜が三脚で立てたスマホの録画開始をタップする。
4。二人がパンジャンドラムを掴む。
3。モユルがパンジャンドラムを持つ腕に力を込める。
2。え、なんかそのパンジャン燃え上がってますけど。
1。周りのひと滅茶苦茶びびってますけど。
スタート。
「いっけえぇぇ! エクスプロード・ドラムッ!!」
赤い光が迸った。凄まじい怪力と爆発的なエネルギーを込められた彗星は、炎の尾を伸ばしながらステージの中央に着弾、そのまま大爆発。さらにちょうど飛び出していたパンジャンドラム達を次々と誘爆させ、ステージの大部分を炎上させた。
「…………」
「…………」
盛り上がる観客席。反対に沈黙する試合会場。何かを言おうと口を開いたまま固まる実況者。全員の視線がモユルへと集中する。
「…………」
多喜も見てる。
「……ボク、なんかやっちゃったかな?」
その質問には誰も答えることができなかった。
『えーと……』
実況者が咳払いをする。長年パンジャンバトルの実況を務めた者としてもこのような光景は初めてだが、いつまでも驚いていられないのがプロフェッショナルである。
『モユル選手、凄まじい投パンジャン術です! ですがパンジャンが投げのパワーに耐えられずあえなく爆散!』
「やったぜ!」
『喜んでいますが、タイムはわずか0.1秒と残念な結果になりました』
「長いほうがよかったの!?」
ちぇー、とモユルは口を尖らせる。
一番長く生存していたパンジャンドラムが優勝するものだったらしい。大爆発に巻き込まれなかった多喜はほっと胸をなでおろした。
『……はい、いま計測が終わりました! なんといまの爆発によるキルスコアは54匹! これまでのプレーンパンジャン部門の最大キル数を大きく更新しました!』
「キルスコアもあるの!? このゲーム何を目指せばいいんだよ!」
ぜんぜんわからない。みんな雰囲気でパンジャンバトルをやっている。
「……まあいい、要は生き残ればいいんだろ! 敵はほとんどいなくなったしこれで――」
「そこだーッ! バーニングホイール!!」
どおん。多喜のパンジャンドラムが爆散した。
新しくパンジャンドラムを投げたモユルの仕業だった。
「なんでまた投げてるの!?」
「まだまだ後ろにいっぱいあるし。2回以上投げちゃだめって言われてないし」
『ルール上は問題ありません』
唯一のルールには、パンジャンドラムを爆破させることとしか書いてないしね。
見れば他の参加者も次々と新しいものをステージに送っている。
「ああ、もう……」
なんだかゲームの序盤だというのに多喜はどっと疲れていた。
まあいいか撮れ高すごかったし、と自分を慰める。このままUDC職員連合VSモユルでも撮っていよう。
収益化の申請は通っているのだから、うまいこと稼いでくれるだろう。
「んん……?」
ふと、違和感に気づく。スマホ画面が真っ黒になっていた。
『ガイドラインに違反していたため、このアカウントを停止しました』
「なんでぇ!?」
ほら、UDCの存在って一応秘匿されてるしね。
「……よーしわかったやってやろうじゃねぇか! アタシもバトル復帰するからな!」
「いいよ、負けないぞ!」
パンジャンドラムはまだまだあるのだ。参加者全員で終了時間まで投げ続けてもなくなりやしない。
果たして終了の合図が出されるまで、爆発音が途切れることはなかった。
プレーンパンジャン部門
結果
最長生存時間 :7秒(多喜、UDC職員他)
瞬間最大キル数:66匹(モユル)
優勝者 :同率1位多数につき優勝者なし
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
今日はパンジャンバトルしてもいいのか!?
なら拙者のお出しする魔改造パンジャンはこれ!ランチ付きパンジャンドラムでござる!
戦い続きでお腹すいたろ?大量にあるパンジャンを一個一個丹精込めてお弁当に仕立てたでござるよ
ロケットモーター近くにランチボックスを付けることで直ぐに温まるスグレモノですぞ
因みに爆薬搭載量は据え置きですぞ
メニューは
卵・ソーセージ・スパム
卵・ソーセージ・スパム・スパム
スパム・スパム・スパム・卵・スパム
…
好きなの選んで良いから…ええっスパム抜き?本当に?うへぇ!
遠慮すんなよ一杯あるから腹いっぱいSPAM®食べろよな!
スパムスパーム!スパムスパーム!
スパムスパーム!スパムスパーム!
ルエリラ・ルエラ
【アドリブ改変・連携歓迎】
きたね夢のパンジャン対決
この可愛く賢い私が魔改造した私のパンジャンで優勝をいただくよ
という訳で、余ったパンジャン芋煮を燃料として改造した、量産芋煮式パンジャンドラムマークⅡで対決
転がるたびに美味しい芋煮の匂いが周囲に漂い、芋煮の汁をマシンガンのように撃ちしたり、撒いて相手を滑らせる機能を搭載!
欠点は汁を撒いたら自機も滑るし、爆発すると芋煮が周囲に勢いよく飛び散るだけなので、些細な問題…
なんにせよこれはパンジャンでもあり、芋煮でもあるので、戦闘開始直後に相手に【芋煮鑑賞会】を発動!
指示を出すことも忘れて、芋煮いい…となってる隙に突撃だー!
ふっふっふ…勝負は非情なのだよー
●
プレーンパンジャン部門の試合が終わり、いよいよ改造パンジャン部門の出番となる。
観客席の盛り上がりは最高潮だ。なにしろ改造パンジャン部門はエントリーパンジャンの発表だけでも盛り上がる。
正方形に引かれたライン、パンジャンバトル専用ステージ。
じゃり、と音を立てて一人の男が縁を踏む。
「今日はパンジャンバトルしてもいいのか!?」
いいんだ!
左様。
多数の声援がエドゥアルト・ルーデルを迎えた。彼の傍に直立するパンジャンドラムを拍手が包んだ。
見よ、このパンジャンドラムのロケット部に装着された数々の小箱を。その正体はエドゥアルトがせっせと作ったランチボックスだ。ロケットに直接取り付けることで瞬時に温めてお出しできる優れもの。
そして……。
「……こ、この匂いは!」
「フッ。気づいたでござるな」
観客席の者たちは疑問府を浮かべるが、対戦相手達は驚き戦慄く。ランチ付きパンジャンドラムから香り立つのは英国の魂。
「まさか」
「そう。……スパムでござる」
ニヤリと歪む口元。もちろん彼の腹にもスパムが収まっている。英国面をキメなければパンジャンドラムに英国面を増設しようなどと思いつかない。
英国面の頂きの果てで完成したのが、ほかほかのスパムを回転による遠心力で対戦相手の口にお届けするジャンである。拒否権はない。
バトルステージに動揺が走った。
ここにいるパンジャントレーナーに、スパムをキメる覚悟を持てる者はいかほどだろう。
ひとしきり反応が収まった頃。
ざり。
ひとつの靴音がした。
エドゥアルトの背後からだった。
「今日も芋煮バトルしてもいいのか!」
「うn!?」
振り返るよりもはやく嗅覚をくすぐる芋煮の香り。もはや顔を見るまでもない。
「この可愛く賢い私が魔改造したパンジャンで勝負はもらうよ」
ルエリラ・ルエラである。パンジャンドラムを料理の具材に使う少女だった。
「まさか、この沸き立つ醤油と味噌の香りは……!」
エドゥアルトの視線がルエリラからパンジャンドラムへと移る。どちらからも芋煮の香りはしたが、パンジャンドラムのほうがなんというか濃い。見た目こそただ重火器を取り付けたパンジャンドラムであり、芋煮要素は見当たらないのだが。
「量産芋煮式パンジャンドラムマークⅡだよ。燃料にパンジャン芋煮を使ってる」
これはあれですね、中身に芋煮がぎっしり詰まってる系の改造。
燃料の芋煮は推進剤であり飛び道具でもあるのだ。走り出せばたちまち芋煮の芳香を撒き散らし、ついでに己の汁でスリップし、さらに銃口から郷土料理の優しい味わいを対戦相手の口にお届けするジャンとなるだろう。もちろん拒否権はない。
ここにいるパンジャントレーナーに、芋煮とスパムをキメる覚悟を持てる者はいかほどだろう。たぶんいない。
波乱の気配が会場を包む。
参加者振り分け抽選の妙、予選Aブロックに和洋対決が発生してしまうのだ。
やがてタイムカウントが点灯する。
数字が変わっていくたび、対戦相手たちは唾を呑んだ。パンジャンドラムを投入したとかいう芋煮の香りに腹を空かせてしまうのがなんだか悔しい。パンジャンを改造し育てるのはいいが口に入れるのは謹んで遠慮したい。パンジャン芋煮かスパムの二択を迫られているのも意味がわからない。どうしてこうなってしまったんだ。
しかし、時間というものは残酷だ。青い顔をする参加者たちへの忖度などない。
電光掲示板はついにゼロを示し、合戦の始まりを告げてしまった。
「スパムスパーム! スパムスパーム!」
「イモニイモーニ! イモニイモーニ!」
ふたつの声を受け、問題児二匹が唸る。それぞれのロケットが点火し高速回転。瞬く間にほかほかとなるランチボックス。部品の隙間から立ちのぼる湯気。
数多の改造パンジャンが襲いかかるが、開幕と同時に撒き散らされた芋煮汁で次々に横転してゆく。まず一匹爆散。続いて二匹目が誘爆。
だが、多くの改造パンジャンは耐久面の強化が施されていた。転倒だけで爆発するようなものは少数。体勢を立て直せばすぐまた問題児組を狙うことだろう。
「くそ、あのふざけたパンジャンどもめ!」
ひとりのパンジャントレーナーが悪態をつきながら、転倒した改造パンジャンへ指示を飛ばす。
転倒に気を取られた一瞬が彼の運命を決定した。
「スパーム!」
「すぐに起き上がって――モガァッ!?」
ほかほかのスパムが開いた口を撃ち抜いた。上体を仰け反らせる衝撃と、舌の上で広がる油っこくスパイシーな肉の味。口を閉じる間もなく訪れたソーセージと卵焼きの追撃。
ちくしょうやってくれたな! パンジャントレーナーは拳を握る。姿勢を戻す。目に憤怒を宿し、さあどうやって仕返しをしてやろうと計算を巡らせる。
「芋煮ごー!」
「ゴアア!!」
今度は里芋が口に飛び込んできた。続いて人参。大根。どちらもよく味の染みた至高の具だ。ルエリラの辞書に手抜きの文字など存在しない。
「むぐ、もごォ!? やめてえええお腹いっぱいになっちゃううう!!」
パンジャントレーナー、沈黙!
もちろん被害者がひとりだけなわけがない。青い顔で口を抑える観客たちの先で、幾人ものトレーナーがばたばたと倒れてゆく。そしてトレーナーを失ったパンジャンドラムは爆散していくのだ。目を覆うような地獄絵図!
「どうやら残っているのは拙者たちだけですぞ」
「みんなお腹いっぱいで寝てるね」
1分後、二人は短く言葉を交わした。
1分である。たった1分のあいだに他のパンジャントレーナーたちは全滅してしまったのだ。
観客の大半が避難しているのも、そこまで到達した芋煮とスパムを思えば仕方のないことだった。
死屍累々のステージ。そこで二匹の問題児が対峙することとなる。
どちらもほかほか料理お届けパンジャン。しかし和と洋の違いが作る両者の溝は、とても深い。
「これで決着をつけるでござる」
向き合うパンジャンドラムが作った距離は10m程度。どちらも残弾乏しく、ランチ付きパンジャンドラムのランチボックスは残りひとつ。量産芋煮式パンジャンドラムマークⅡの芋煮も一食分しかない。
「いいよ」
二人は呼吸を止める。二匹も動きを止める。
次の一撃に全てを賭けて、全神経を研ぎ澄ましてゆく。
一秒、二秒、三秒。
パンジャンドラムの残骸に燻る熱気。それが猟兵の頭に作った汗が、床へと垂れた瞬間。
「スパーム!」
「イモーニ!」
パンジャンドラムが火を吹く。スパムが、芋煮が、同時に宙を舞う。
「厳しい戦いでござった」
その後、ステージに立つパンジャンドラムはひとつだけとなった。
「空のランチボックスで芋煮を受け止められなかったら、結果は逆だったはずですぞ」
エドゥアルト・ルーデル。
彼のランチ付きパンジャンドラムが決勝進出を果たしたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
正直パンジャン落とし子……長いからパン子でいいや(雑)
これもう完全駆除は無理なのでは?
まあ沼への門は限定されてるから外界への拡散の恐れはないとして、
後は報告をどうす
って何?え?手伝え?ちょっと待
暇なら手伝えとUDC職員に連行され、帰ってきた時にはパンジャントレーナー化してます
さあ、スイオウシティ(適当)のパンジャンリーダーのボクがお相手っす!
とりあえず沼を広げてパン子はっしーん!
余りパンジャンどもを爆破するっすよー!
こっちへ流れパンジャンが?ボクの周囲にはUDCの沼を展開済み!沼に嵌めてしまえば転がるパンジャンがいくら来ようと!
(繰り返される1章のアレ、増えるパン子)
※アドリブ連携歓迎です。
ロスタ・ジーリード
まあ。パンジャンバトルね。
いいわ。あたしどうぶつ育てるのはとくいなの。
侵蝕音響型シンフォニックパンジャンでいくわ。
これは中央の部分に座席を用意し、そこにあたしが呼びつけた“楽団”を座らせることでたのしい音楽をかなでながらはしるとってもたのしいパンジャンよ。
しかも脳波コントロールできる。
じゃあ、いってらっしゃい。
やだじゃないわ。いきなさい。
勇壮でかつ冒涜的な音色のファンファーレを鳴らしながらシンフォニックパンジャンがすすむわ。とってもすてきね。
さあ、前進よ。
ここで一度後退。激突を避け、そして「ばくおんぱ」よ!
突然の音にあいてのパンジャンを驚かせてショック性の突発的自爆を誘発させる心理的戦術ね。
●
予選Bブロックでは信じがたい光景が広がっていた。
観客も、実況者も、さらには他の対戦者のほぼすべてが絶句した。
正方形のラインで区切られた試合会場。ルールはバトルロイヤル。最も長く生存したパンジャンドラムと最も多くのキル数を稼いだパンジャンドラムだけが評価される場所。
いまそこに、狂気と暴力の嵐を振りまくものがあった。
「……クソッ! いけ! やつを撃ち落せ!」
叫ぶような指示を受け、一匹のパンジャンドラムが果敢に挑む。ロケットブースターを増設し、両側にチェーンソーを搭載した高機動攻撃型パンジャンだ。
その突撃を迎えるのは、パンジャンドラム4匹を水平に倒して連結した容貌。4匹の回転によってふわりと浮き上がり、地上5cmの高度を維持しながらのフロートを可能にした、大型の低速パンジャン。
本来ならこの対決は同士討ちに終わる。パンジャンドラムというのは爆発物で、いくら大きくしようと衝突すれば爆散してしまうもの。
「はい。ばくおんぱ」
もちろん、設計者のロスタ・ジーリードがそうはさせなかった。
プアアアッププウウア! パンパンジャカジャカパンジャンドーン!
ロスタの大型パンジャンから放たれたのは音響攻撃。
直撃を受けた高機動攻撃型パンジャンはあえなく爆散。さらに付近のパンジャンドラムも大音量にびっくり爆発四散。
音響攻撃の主はロスタが呼び出した異形の楽団で、パンジャンドラムに搭乗させられていた。長いパンジャン史に一石を投じる有人型パンジャンの発想である。誰もが一度は夢想し、いやいやと苦笑いで振り払う冒涜的なアイディアだ。
大型で低速というパンジャンドラムにとって格好の的でありながら、音響兵器による圧倒的な制圧力で、ロスタは戦場に女王として君臨していた。
「……」
しかし、幼き支配者の表情は晴れない。
ばくおんぱ、と再び呟く。音響攻撃が吹き荒れた。数多のパンジャンドラムが爆発してゆくが、彼女の見据えるたったひとつだけは沈黙を保っていた。
黒い沼。それがロスタの視線にあるものだった。
「いまだ、パン子!」
黒沼・藍亜の声が飛ぶ。途端に沼から黒い触腕を生やしたパンジャンドラムが躍り出た。
「沼の中に潜ってしまえば、その攻撃も届かないっす!」
沼の上で回転しながら、触腕を駆使してパンジャンドラムは移動する。ロスタのシンフォニックパンジャンの攻撃範囲から逃れていたパンジャンドラムを次々捕らえ、沼へと放り込んでいった。
この沼は藍亜の管理するUDCである。中に潜む落とし子は未だ健在で、飛び込んできた獲物を絡めとり決して放さない。
それどころか他人の改造パンジャンを番とし、子供を産む始末。
そう、いまステージで軽快に跳び回るパンジャンドラムこそパンジャン落とし子略してパン子なのだ。ぶっちゃけ邪神戦で大量消費したにも関わらずなんかまた増えてきている。現在進行系で増えてる。ほらまた一匹産まれた。
『……あの』
それまで存在感が空気だった実況者はようやくマイクを握る。
『パンジャンバトルの趣旨って、パンジャンを消費して駆除することなんですが』
「はい……」
『そのパンジャン落とし子、ちゃんと全部駆除できるんです?』
「…………」
完全駆除はもう無理なんじゃないかな。
観客は初め、未知なるパンジャンドラムに歓声を上げた。
「なんか乗ってる! めっちゃ嫌そうな顔して楽器持ってる!」
「なにあれ、変な沼から出てきたんだけど、ウケる」
盛大に爆発してなんぼなのに生物を搭載してしまったパンジャンドラムと、UDCから産まれたらしい粘液と触腕を帯びたパンジャンドラム。冒涜的で悍ましい特徴を持つこれらがどのように暴れまわるのかと期待していた。
そして爆音波が叩き出すキルスコアに、黒沼のユニークな地形効果に、立ち上がりながら拍手を送ったものである。
「……」
「……」
だが、試合が進むにつれて彼らは着席していく。
だんだんと理解を越える展開を突きつけられるようになったのだ。
あ、これやべぇやつなんだなと気づいたときにはもう遅い。
特に黒沼に沈んだパンジャンドラムとUDCが子を成す場面など、ある者は震えながら隣人と抱き合い、またある者はロザリオを握りしめ祈りを捧げ、さらにはスマホの録画をアップロードしSNSのアカウントを凍結される者まで出た。
現在。ステージの状況は大きく三つの勢力に分けられる。
高火力範囲攻撃で一切の敵を寄せ付けないロスタジャンと、孤立した者へ奇襲し沼へ引きずり込むことで勢力を拡大してゆく落とし子ジャンと、虎視眈々と起死回生の機会を狙うその他ジャンだ。
ここまでの脱落者多数。生き残りパンジャンは三分の一まで数を減らしている。
観客の多くが試合の早期決着を望んでおり、他のトレーナーにも焦りが見られてきた。
だが彼らの思いに反して、大勢の変わらぬまま時間が過ぎる。
ようやく落とし子ジャンが勝負を仕掛けたのは、制限時間の半分が過ぎようとしたところだった。
「よし、パン子。いくっすよ!」
黒沼の落とし子より生み出されたパンジャンドラムの数は、およそ二桁を越えるというところ。いずれもが粘液状の触腕を備えている。
そのうちの一匹が、同類に手を伸ばし、持ち上げた。
さらに、ロスタのシンフォニックパンジャン目掛けて全力で投げつける。
「それもばくおんぱよ」
すかさず飛ぶ指示。楽器が吹き鳴らされ、大音量にてパンジャンドラムを爆破する。
が、爆炎を突っ切って新たな落とし子パンジャンが飛来した。
「ばくおんぱ!」
どどーん。これも難なく爆破。
さらに爆炎からパンジャンドラムが飛び出してきたのを見て、ロスタは藍亜の狙いを悟る。
「ばくおんぱ……ばくおんぱ、ばくおんぱ!」
連続、立て続けの特攻攻撃は楽団の息切れを狙っているのだ。異形の楽団とて生物なら体力や呼吸に限界はある。ここにきて、シンフォニックパンジャンに座する者は表情を歪めた。
パンジャンドラムとは爆発するものだ。そして、当然ながら爆発すると死ぬ。つまり敵を倒すとは自身の死とイコールである。
これを解決したのが遠距離攻撃の実装だった。
ロスタの設計したシンフォニックパンジャンは高火力、広範囲を兼ねた恐るべき攻撃性能を誇っていた。事実、キルスコアでは改造パンジャン部門トップを独走している。
ただし、音波攻撃のリロードは楽団に大きく依存する。飽和攻撃を仕掛けられればそれはもうめっちゃ疲れる。顔が真っ赤になり、眉間に血管が浮くくらいしんどい。
「このまま押しつぶすっすよ!」
ああ、この短いあいだに一体何回鳴らしただろうか。酸欠で朦朧とするなか楽団は楽器に手を添え、咥えた。
「ばくおんぱ」
ぷすー。
「……残念ね」
異形の持つ楽器から空気の抜ける音がし、勝敗を決着することとなった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セフィリカ・ランブレイ
一杯集めたこの子達も、最後の時か
『爆発してこそのパンジャンでしょ、何しんみりしてんの』
シェル姉、パンジャンに辛辣
『辛辣にもなるわ』
パンジャンバトル!
さっきの誘導センサーによる機動力は正解だった
加えて改良するなら……
すぐ爆発するからダメなんだ。ここは強力なバリアを張ってぶつかっても爆発しなくする!
爆発しないのもダメだから、バリア展開と共に過熱していって、一定温度で大爆発!これでいこう
※バトル鑑賞中
そういえばさシェル姉
『何よ』
ぐにゃっと曲がったシェル姉の姿、ピンナップ受理されたんだ。挿絵にして一生の思い出にしようね。仕上がりは七月中旬だってさ
『ころして』
ああっ、シェル姉がまたぐにゃぐにゃに!?
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎もう色々アドリブとか色々オッケーです。
パンジャンバトル???
どうせ爆発オチなんでしょ???
ぼく知ってる!!!(もうやだ)
【パンジャンバトル】
ヱゲレスから来た「ニッポンのパンジャンバトルは低レベルデース!」とか言うパンジャン・ラシーヌ氏とか、色んな頭悪い情報に頭の中にマーマイト流し込まれたような一刻も早く逃げ出したい状況。
産廃処分ゲームとは言え、こんなのが街中に溢れたら色んな意味で問題だから、ちゃんと改造して……なにこれ?スターゲイジー射出装置???やだ!英国面が出てきてる!助けて!!
(その後、精神汚染に苦しむことになり、苦手なものにパンジャンとか英国の暗黒面が追加される)
●
これはパンジャンバトルのエントリー前の出来事である。
UDC組織が会場に設定した、未開発の丘陵団地。広大な敷地は会場のみならず、改造パンジャン開発室としても開放されていた。
これから改造を施すパンジャンドラムを前に、セフィリカ・ランブレイは腕を組み、小さなため息をつくのだった。
『何しんみりしてんのよ』
腰に差した魔剣が囁く。妹分を気遣う言葉だが、どことなく刺々しさが混じっていた。
当然である。魔剣シェルファは今日だけで一体どれほどパンジャンドラムに振り回されてきたことか。邪神を倒し終わりさあ開放されるかというところでパンジャンバトルに参加するなどと言われれば、声に少しばかり感情が乗っていても仕方のないことだ。
「あれだけいっぱい集めた子たちもみんな爆発しちゃって、もうこの子しか残ってないなって」
セフィリカは目を閉じる。瞼に浮かぶのは、地を駆け空を蹴り電撃的に捕獲していったときのこと。プライドを傷つけられた魔剣がぐにゃぐにゃになったこと。『もうほんと忘れて?』パンジャンレースで他人と競い合ったこと。そして投げられたパンジャンドラムをホームランしたこと。シェル姉がいつまでもいじけて曲がってたせいでなかなかホームランできなかったこと。『忘れましょ??』絶対に忘れるものか、一生の思い出にしてやる。
「……うん」
セフィリカは改造を待つパンジャンドラムに手を置き、ゆっくりと確かめるように撫でる。
「あとちょっとしかないけど、それまでよろしくね」
作業台の上でそれは、なんとなく頷いたように見えた。
「ああああーっ! なんでー!?」
ところ変わってこちらは国栖ヶ谷・鈴鹿の改造シーン。
セフィリカ同様、開発室として案内された場所で彼女は悲鳴を上げていた。
「どんな風に改造してもスターゲイジー射出装置がくっついてくるんだけど!?」
冗談のような台詞だが、割とガチめの悲鳴である。
なんせ彼女はサクラミラージュで煌めく現役の超技術機械技師。オーパーツと見紛うほどの超機械をいくつも開発、運用してきた才媛なのだ。だからこそ自信と自負があり、己が技術を眼前のパンジャンドラムに注ぎ込み大会優勝をもぎとることで、、なんかこう今日の理不尽の数々の帳尻合わせたいとかそんな風に考えていた。
だって頑張ったんだよ。すっごい頑張った。目の前で大量のパンジャンに轢かれた人を見てもめげずに頑張ったし、紅茶菩薩とかいうのにマニパンジャンドラムを渡されても頑張った。なんだよマニパンジャンドラムって。菩薩系の偉い人に謝ってほしい。
とまあ、そのように様々な思いを抱きながら、せめて最後はなんかいい目を見たいなと腕まくりした次第である。
「ところが現実は何を作ろうとしてもスターゲイジー射出装置!!」
原因がさっぱりわからない。羽を作ろうとしてもスターゲイジー。ディーゼル機関を搭載しようとしてもスターゲイジー。いっそ変形機構組み込んでパンジャンじゃなくしてやろうとしても、なんか部品の隙間からイワシの頭がにゅっと出てきたのだ。にゅっと。
そのとき、開発室の前に人影があった。
「ホーッホッホッホ! ニッポンのパンジャンバトルは低レベルデース!」
「あ、あなたは!?」
驚愕と共に振り向く鈴鹿。視界に映る金髪、女性的な肉体、機能よりデザイン重視な軍服。謎の登場人物の名はまさしくパンジャン・ラシーヌその人である!
「さっき会場の入口ですれ違ったひと!」
ぶっちゃけほぼ接点皆無。突然何をしに来たのかわからない人でもある!
「おっと失礼。何やら叫び声が聞こえたのでつい覗いてしまったのデース」
「あ、うるさかったらごめんね……」
そうしたら、いえいえなかなかうまく行かないときもありますよねと丁寧な物腰で返してくれる。たぶんいい人なのかなと鈴鹿が見ていると、突然ハッと気づいたように大きく胸をそらした。
「ホーッホッホ! なぁに、そのスターゲイジーを発射する機構って! そんなものが通用すると思ってる時点でニッポンの程度が知れマース!」
「うん」
うん。それはほんとにそう。鈴鹿もそう思う。だからどうしても射出装置が完成してしまう現状を嘆いていたのだ。これでいけるなどと思ってしまう人間は嘆いたりしない。
「実際通用しちゃうんですけどネ」
「なんで!?」
「いや、パンジャンは衝撃に弱いので何でもいいから勢いよくぶつければ爆発するデース」
「……ッ!!」
鈴鹿は顔を覆った。悲しいほどの正論があった。これの残酷さは、スターゲイジー射出装置を受け入れざるを得ないところにあった。
「腹は決まりマシタ?」
「はい……。スターゲイジーでいきます……」
手の隙間から漏れた声はあまりにか細く、悲痛な色をしていた。
「七虹最小にして最硬! 防げないものなんてないんだからああぁぁうわああなにこれええええ!?」
いざパンジャンバトルが始まり、両者の改造パンジャンが相対したならば、このようなことになるのは半ば目に見えていたかもしれない。
いま、セフィリカの繰り出したパンジャンドラムが、スターゲイジージャンの襲撃を受けてバリアを展開しているところである。
パンジャンドラムの欠点はすぐ爆発するところ。ならバリアを以て耐久力を補ってやればいい。残り僅かなパンジャンドラムとの時間がこれで少しは伸びるだろう。そのような思いでセフィリカはバリアを実装していた。
爆発してこそのパンジャンでしょという魔剣シェルファの意見は届かなかった。
パンジャンドラムとしっかり向き合ったセフィリカに対して、しかし運命の女神は残酷だった。
恐ろしいスターゲイジー弾を受け止めたバリアは、結果静止されながらも回転し火花を散らすイワシの頭という代物を、セフィリカへ至近距離でまざまざと見せつけたのである。
「怖っ!?」
これには撃ったほうの鈴鹿もびっくりだ。なんかもうすみませんっていう気持ち。
「やだああ! シェル姉助けて!」
セフィリカ抜剣。姉貴分の魔剣を盾にしてイワシ頭大回転が視界へ入らないようにする。
『やめて! あんなものに近づけないで!?』
もちろん彼女だって大混乱だ。これまでさんざん自分を悩ませてきたパンジャンドラムが目の前である。処分のためのバトル参加は100歩譲って許すとしても、スターゲイジー某へ近づけられるのまでは受け入れられない。
「ああっシェル姉また曲がったぁ!?」
『違うの、これは少しでもアレから距離を取ろうとしただけよ!』
傍目には少女と剣。実際は妹分と姉貴分の口喧嘩が始まる。欠陥兵器がどうの、それ以下がどうの、二人にしかわからない文句が飛び交った。
「あ、見て!」
割り込む鈴鹿の声。彼女の指差す先にはやはりバリアに阻まれつつも前進しようとするイワシがあったが、どうもぶすぶすと黒煙を立てている。
『バリアが……イワシを焼いている!』
続いてシェルファが声を上げる。何を馬鹿なと思うかもしれないが、事実だ。バリアとイワシの接触面が赤熱し、見る見るうちに炭化していくではないか。
「……そっか! そういうことなんだ!」
最後にセフィリカが理解の光を宿した。バリアに組み込んだ発熱機構の仕業である。いくら防御力を高めようとも、相手もまた防御型であればぶつかりあったまま静止して先日手。その対策としてバリアの発熱でダメージを与える機能が実装されたのだ。
それが、いまイワシを焼いている。
「これならいける! このまま押し出すんだ!」
セフィリカの指示に、果たしてパンジャンドラムは応えた。己を包むバリアを拡大させ、加熱し、さらには自ら加速することで鈴鹿のパンジャンドラムへ体当たりを仕掛けたのである。
「うわ、このままじゃ……!」
鈴鹿は咄嗟に後退の指示を出したが、鈴鹿ジャンの後退よりセフィリカジャンの前進のほうが速い。パンジャンドラムは急には逆走できないのだ。改造で補える要素だったが、ついぞスターゲイジー射出装置しか実装できなかった。
負ける。
そうよぎったとき、鈴鹿の胸を満たしたのは、意外なことに悔しさより安心感だ。
せっかくだから優勝したかったという想い。ここで負ければもうパンジャンドラムからイワシを飛ばさなくてすむという想い。後者は戦意を挫く毒でありながら恐ろしいほどに甘美で、どうにも抗えない。
セフィリカジャンに焼かれ、そして押し出された鈴鹿ジャンが眼前まで迫っている。
「もうこのまま爆発オチでもいいかな……」
呟き、彼女は静かに目を閉じ、敗北を受け入れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メーティオル・スター
目指せパンジャンマスター!
目が合った相手とパンジャンバトルだ!
パンジャンには超強力磁石をセット。
そしてオレの方で、強力な電磁石を用意しておけば…
電磁石をonにしたとき、オレの方に方向転換できるようになるはず。
パンジャンバトルで最後に物をいうのは、トレーナーとパンジャンの絆だからね。
あとは、無駄にユベコで相手の攻撃を予測して、「かわせ!」って指示を出したりするよ。(実際に躱せるかはお任せします)
野生のパンジャンがいるんだし、パンジャンバトルには十分流行る素質があるよね。
っていうか流行ってほしい。
緑川・小夜
[WIZ]
ククク…わたくしはパンジャンの暗黒面に堕ちた、その名もダークパンジャンマスク!(変装道具からパピヨンマスクと黒い全身タイツを装備)
わたくしが選択UCで魔改造(腕がついていたり羽が生えていたり)を施したパンジャン達を率いて、他の猟兵の方を通り魔的に襲撃し、パンジャンバトルをします
さあ、貴方もパンジャンの暗黒面に堕ちなさい!暗黒面はいいわよお…
しかし、バトルにはことごとく敗北
そんな…暗黒面に至ったわたくしが負けるなんて…
は!?貴方は同志パンジャン!
…そうね、一番大切なのはパンジャンとの絆…それをわたくしは蔑ろにしていた…ありがとう同志…大切なことを思いだせたわ
[アドリブ連携歓迎です]
●
改造パンジャン部門予選Eブロックは一見して波乱なく粛々と試合を進めていた。
白線の正方形で区切られたステージ、数多のパンジャンドラムが繰り広げるバトルロイヤルで最も強い存在感を見せるのは、前年度優勝者が出す重歩兵型パンジャンだ。重装甲と加速力を両立したそれは今大会においても優勝候補と呼ばれ、多くのライバルを頑強さで蹴散らしてゆく。
これに丁寧な立ち回りで食らいつくのがメーティオル・スターのパンジャンドラムであった。見た目こそプレーンパンジャンと同じだが強力な磁石を搭載し、メーティオルの持つ電磁石を合わせれば鋭敏な機動力を発揮する。
「かわせ! パンジャン!」
轍を刻みながら突進してくる重歩兵型パンジャン。あらゆる相手を吹き飛ばし、また破壊してきた暴力の行進はしかしメーティオルジャンを紙一重で捉えられない。
「ちぃッ!」
前年度優勝者は見事な動きだとメーティオルジャンを評価する。お互いの死角を保管しあう動きだ。そこからは確かな信頼関係が読み取れる。
「まあいい、そのまま進め! 敵を減らすんだ!」
獲物を捉えそこねた重歩兵型パンジャンは、進路を変えることなくその先のパンジャンドラムへ襲いかかる。緑川・小夜のパンジャンドラムである。こちらは何やら羽のような飾りが見えるが、大した脅威に見えない。
飢えた重歩兵が襲いかかる。これに目を付けられて生き残れたパンジャンドラムはまだ一匹しかいない。小夜ジャンにとっては絶体絶命だ。
果たして少女の表情に浮かんだのは絶望や諦観だろうか。それとも己の無力さを悔いるものだったか。観客たちは誰もが彼女を憐れみ、そして先に待ち受ける無残な結果を想像した。
少女はこのまま敗北を受け入れるのだろうか。
「ククク……」
そんなものはありえないと、昏い笑みが物語る。
「そんな、馬鹿な……!」
会場全ての視線が集中するなか、小夜の改造パンジャンは突如羽化するように翼を展開し、そして羽ばたいた。
パンジャンドラムが、飛んだ。
その事実にどよめきが広がる。
ジャンプではなく、滑空でもなく、ましてや一時的なロケットによる上昇ですらない。そのパンジャンドラムは自力で、そして翼で羽ばたいたのだ。
実況者すら絶句する光景でそれは、重歩兵型パンジャンの突進を飛び越えて回避するだけでなく、さらに両輪から生やした後肢で敵を掴み、会場の壁へと投げ飛ばす。
どおん。
会場を揺るがす爆発音。
前年度優勝者カーマ・セイーヌが膝をつく。輝かしい夢と確かな勝算を込めて作り上げたパンジャンドラムが、もう無残な残骸しか残っていない。だが、それはいい。パンジャンバトルの勝敗とはそういうものだ。受け入れがたいのは別にある。
「何なんだ、何なんだそのパンジャンは! 答えろ、緑川小夜!」
敗北者の絶叫が木霊する。
観客や他のパンジャントレーナーも抱いた疑問だった。パンジャンドラムと呼ぶにはあまりにも異質なものを、彼女はなんと答えるのか。
「くくく!」
果たして少女は、答えの代わりに嘲笑を向ける。
「緑川小夜……? いいえ、わたくしは」
バッと翻る和柄の布。彼女が服を投げ捨てたのだ。
その下に現れる衣装は全身を墨色で覆うタイツ。そして蝶を模した仮面である!
「わたくしはダークパンジャンマスク! パンジャンの暗黒面を体現するものよ!」
「パンジャンの、暗黒面……?」
「聞いたことがある……。改造の果てにパンジャンドラムをパンジャンドラムでなくしてしまった者たちの奈落、か……」
疑問で首を傾げたメーティオルに噛ませ犬がすかさず説明した。
なるほど、と彼は暗黒パンジャンを観察する。両輪からは前肢までもが生え、四肢を利用して這いながら移動する。そして孤立した獲物を見つければたちまち跳躍し、翼で加速しながら襲いかかるのだ。
車輪を使わず、横転せず暴走もしない、四肢と翼で自在に動き回る爆弾。果たしてそれはパンジャンドラムと呼べるのか。
どどーん。
一匹のパンジャンドラムが投げられ、他と衝突し爆発を起こす。
負けじと様々なパンジャンドラムが攻撃を仕掛けるが、空へ飛ばれては為すすべがない。
「なるほどな……」
陸上地雷の性質上パンジャンドラムは空を飛ぶものと相性が悪い。それは邪神との戦いでも思い知ったことだ。確かに飛ばせるなら飛ばしたほうが強い。
「だけど、さ」
メーティオルの表情が曇る。彼にはなんだか、あの羽ばたくパンジャンドラムが寂しがっているように見えた。
「あいつ、空を飛んでるのに喜ばないんだな」
次いで己のパンジャンドラムへ視線をやる。戦いに参加せず、彼のすぐ目の前で静止していた。
「なあアンタはさ、空を飛んでみたいか?」
パンジャンドラムは動かない。ただ頷く気配がした。
「じゃあ、あんなふうに改造されてみたいか?」
次は首を振る気配。
「そっか」
沈黙する。相変わらず世界は爆発音ばかりで、悲鳴と少女の嬌笑が支配していた。
うん。
メーティオルは瞑目して頷く。うん、なんとなくわかるよ。
「走るなら自分の車輪で走りたいもんな」
首肯の気配。
「車輪でかっ飛ばすの、気持ちいいもんな」
再びの沈黙。爆発音は随分と少なくなっていた。生き残りはあと僅かだった。
メーティオルのパンジャンドラムがゆっくりと動き出す。
「ああ、あいつを止めてやろうぜ」
「はぁ……っ」
小夜ならぬダークパンジャンマスクがうっとりと熱いため息をつく。
暗黒面はいい。暗黒面は最高だ。茹だるような全能感があり、なにより対戦相手から届く畏怖が心地よい。
さあ残るパンジャンドラムはあと僅か。どうやって倒してやろうかと心を躍らせていると、突如真っ直ぐな声がした。
「勝負しようぜ、パンジャンバトルだ!」
途端、パピヨンマスクの奥で眉が釣り上がる。いまさら力強さに満ちた声が向けられるのが気に入らない。自分に向けていいのはお前たちの恐怖だけだというのに。
「いいでしょう。受けて立ちましてよ」
メーティオルジャンと暗黒面ジャンが向き合い、加速する。
「さあ、暗黒面パンジャン。あなたの力を見せてやりなさい!」
がばぁ。暗黒面を象徴するが如く、黒翼が展開される。それは羽ばたき空を掴み、滑空。敵パンジャンの頭上スレスレを飛び、すれ違いざまに後肢で引っ掛け投げ飛ばす。これぞダークパンジャンマスクの必殺マニューバ。
やはりメーティオルジャンと言えど暗黒面の膂力には叶わず、勢いよく壁へと吸い込まれる。やはりそうなのだ。どれほど努力をしても、想いを募らせても、暗黒面が生む圧倒的な力の前には全て無意味になってしまうのだ。
「うぉぉぉぉ間に合えええええッ!!」
否。否である。例え全ての人間がそう言ったとしても、彼だけは否定するに違いない。
メーティオルは駆けた。全速力で駆けた。己が炉心を燃え上がらせながら、白線が区切る試合会場の端から端まで。
そして、あわや壁に叩きつけられようとしたパンジャンドラムへ電磁力を全力放出。強力な斥力で受け止める!
「なっ!」
ダークパンジャンマスクが表情を歪めた。必殺マニューバが破られたのはこれが初めてである。
「それなら床に叩きつけるまでよ! 行きなさい!」
指示を受けた暗黒面ジャンは羽ばたく。四肢を前に突き出し、獲物を絶対に捉えようという気概を漲らせた。
「かわせ、パンジャン!」
メーティオルもまた走り出す。走りながら電磁力で相棒を引き寄せるのだ。
「く、ちょろまかと!」
それからしばらく鬼ごっこが続いた。投げでなく床への叩きつけを狙う暗黒面ジャンは捕まれば即死の鬼だ。四肢のいずれにも触れてはならない。それを互いに承知していた少年と相棒は、ロケット加速と電磁力を駆使してひたすら避け続ける。もちろん簡単なことではない。電磁力の力では『押す』か『引く』かしかできない。だから少年は力の向きをを都度調整するべく会場を駆け回るのだ。
「どうして……どうしてここまで!? なぜ、なぜたかがパンジャンのためにそこまでするんですの!?」
息を切らし、汗を垂らしながらパンジャンドラムのために動き続ける少年がダークパンジャンマスクには理解できない。パンジャンドラムとは兵器だ。ただの兵器を、なぜ人間が献身的に支えてやらなければいけないのか。
「それはさ……」
呼吸を整えて少年が言う。
「コイツが勝ちたがってるからさ」
「え……?」
パンジャンドラムを指差す少年に、彼女は固まってしまった。
「パンジャンにも心はあるんだぜ。だから勝ちたいって思ったりする」
それから少年は汗を拭い、力こぶを作った。
「オレも勝ちたい。だからオレたちは同じ気持ちで結ばれた同志ってやつだな」
「同志……」
絆。そんな一文字が彼女の胸に浮かんだ。邪神と戦ったとき、自分はどうだったっけ。
「なあ、お前のパンジャンがどうして改造を受け入れたかわかるか? ソイツだって勝ちたかったからさ。ソイツにも心があるんだぜ」
「…………」
でもやっぱり、パンジャンは車輪で走るのが楽しいみたいなんだ。続くメーティオルの言葉に返事はない。その代わり、ただ涙を湛えた悔恨の目で暗黒面ジャンを見つめていた。
「なあ」
ようやく彼女の目が少年に向いた。
「勝負しようぜ、パンジャンバトルだ」
深呼吸をひとつ、ふたつ。
「いいでしょう。受けて立ちましてよ」
やがて、二人は勝負を仕切り直す。
今度はどちらも車輪でステージを走りながらの勝負だ。
前肢を移動に使わず、攻撃のため振り回す暗黒面ジャンを、メーティオルジャンは電磁力を利用した高速ターンと旋回で背後を取り、そのままステージ外まで押し出した。
敗北した小夜の表情に悔しさはない。静かに、ただ静かにパンジャンドラム二匹の健闘を讃えた。
「ありがとう同志……大切なことを思いだせたわ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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無尽蔵と思われたパンジャンドラムの在庫も、いずれは底をつく。
そのときがパンジャンバトル大会の終わりということだ。
邪神は倒され、処理すべきUDCもなくなった。UDCアースの平和を脅かす事件はついに収束を迎える。
大会に動員された職員たちは三々五々に帰り、猟兵たちも元の世界へと送り返される。
だが、忘れてはいけない。
野生のパンジャンドラムは割とその辺にいる。
邪神はともかくとして、パンジャンドラムの駆除とパンジャンバトル大会が再びやってくる日に違いないだろう。
そのときまで、我々はパンジャンドラムの研究を怠ってはいけないのだ。
【パンジャンバトル大会結果】
プレーンパンジャン部門(最長生存時間を元に優勝者を決定)
最長生存時間 :7秒(多喜、UDC職員他)
瞬間最大キル数:66匹(モユル)
優勝者 :同率1位多数につき優勝者なし
改造パンジャン部門(決勝バトルロイヤルでの勝敗を元に優勝者を決定)
最大キル数 :60匹(ロスタ)
優勝者 :黒沼・藍亜
準優勝 :エドゥアルト・ルーデル