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【旅団】悠遠メルクマール

#キマイラフューチャー #【Q】 #旅団 #旅団『バス停』 #旅団シナリオ

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#【Q】
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#旅団
#旅団『バス停』
#旅団シナリオ


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 ★これは旅団シナリオです。
 ★旅団「バス停」の団員(または友好団員)だけが採用される。
 ★EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです。

●"歪んだ"バス停の冒険
 俺様が好き好んでいる所。
 俺様の本体、バス停が目印。
 だから俺様がいる場所、それが――"バス停"。

 パンクな映像をビカビカと垂れ流す液晶画面を取り付けた背の高い建物、その物陰。
 "歪んだバス停"を適当に立てて、少年がぼんやりとこの世界での日常を眺めている。
 直立不能なまでの歪み方。これを静かに不器用な念動力で支えていたりもする。
 故に、よくも悪くも、酷く"目立つ"。
 周辺に満ちるのは騒がしいまでの、賑やかさ。
 キマイラフューチャーではよくある光景。街中を流れる音楽も、喧しいが煩いとは感じない、楽しい曲ばかり。カラフルな映像を流して歩くテレビウムや色んな獣の特色を持つキマイラが、街中でワイワイ騒いで今日も楽しく過ごしているようだ。
 ガヤガヤとなにか噂話をするような声を聞いたのは、佇み始めてそう時間の経っていない頃だった。心を落ち着けて耳を澄まして、聞こえた内容を纏めると"珍しいものを見つけた"と、情報端末で写真付き画像をなんやかんやで拡散した住人がいるらしい。つまり、少年のことをもしくは、"バス停"の事を話しているらしいと認識して敢えて無視を決め込んでもフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)の周囲にはそれとなく視線が、声が集まってきている。機械には疎い方だが分かる。特に、野生の勘がそう告げている。
 耳をすませば聞こえてくる――カシャリ、パシャリと撮影する音も。
 おかしなものに付属するような少年のミステリアス加減も含めて、本日の会話ネタとして生放送が幾つも始まってしまったようだ。これには少年、思わずため息。
「……たまには始終喧しいとこ、と思ッたんだがなァ」
 バス停に落書きをするような子供だけなら追い払うだけ。
 しかし、大人も子供もわいわい楽しく、バス停を"見世物"のように見ているだけだ。
「なんでこんなことに?」
 ――誰かの足を停めるだけの標識を、ただ見てる、ってなんだ?
 分からない。なんて平和で、意味がわからない世界なんだろう。
 こういうのも嫌いではないが、何故か話題の中心になっているのもなにか癪。
 手を出すのはなにか違う。そろそろ手より先に"口"が出そうだが、我慢。
「……まあ。何も言わずにさりげなく場所を変えればいいだけか」
 襟からぴょこ、と飛び出す羽耳の兎。
 小柄な兎が突然現れたことで、周囲のボルテージがますますあがる。
 アレは本物の生き物か、それともただのファンシーなぬいぐるみか。
 キマイラたちにはその話題だけで暫く盛り上がれそうな気配しかない。
 コンコンコンなシステムを使って、遠足気分で居座る者まで出てきた。
 これはいけない。早々に此の場を去らなくては誰かに迷惑がかかってしまう。
「シィー……いいか、お前。鳴くなよ?置いてくぞ」
 胸ポケットより蒼い万年筆を取り出して魔力を通す。じんわりとペン先を赤に染めながら、空中に控えめに描く線は指揮者の振るう四拍子の形にどことなく似ていた。
 似てるようで似ていない。恐らく別の力ある印。
 描くことに意味はないが、起動することに意味のある、術式。
 多少時間を稼がなくては世界の壁を越えられないのが、玉に瑕だが――。
「ぴゅい~♪」
「あ、馬鹿……ッ!」
 生き物だとバレた瞬間、わっと黄色い歓声があがった。何処の世界でも可愛い生物に萌えを感じるそうがあるらしく、場の盛り上がりに更に拍車をかけてしまった。
 満足気にふん、と鼻を鳴らした兎の頭をこつんと叩き、普段の移動と同じ術式を起動。
 すなわち――グリモアのテレポートである。
 発動までの時間はたっぷり稼いだ。
 ――これなら余裕で、跳べるだろう。
 バタバタ騒動の中心にいた事で、"標識"を求めた珍しい"客"と目が合った。
 標識を見つけて足を停めた"客"を眺め、少年は軽口で返す。
「……こんなところで奇遇だな。全くアンタに似合いそうにない」
 今日は全く予知と関係ない、ただの散歩を楽しんでいた日。特に目的もなくぼんやりと"趣味"に没頭してるだけの時間を過ごそうと思っていただけ。
 バス停少年に、――予定などなかった。
 "客"がニヤリと笑ったのをどこかへの転送願いと勝手に受け取って、ついでにテレポートに巻き込む。周囲に集まっていた現地民に猟兵はいなかった。
 これなら逃走も余裕だ。此の力は"猟兵以外には使えない"。
 世界の壁を越えて跳ぶ。散歩ついでにどこか他の場所を選ぼう。
 せめて、"客"と落ち着いて話せるような環境だと、尚良しだ。

 さて、次のバス停が佇む場所は――。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 最上段に記載していますが重要なことなので、もう一度。

 ★これは旅団シナリオです。
 ★旅団「バス停」の団員(または友好団員)だけが採用される。
 ★EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです。

 今回は『バス停』の旅団シナリオに付き以降は旅団長へと説明権限を譲渡します。

 バス停のヤドリガミ・フィッダだ。
 参加者は予め決まッているので、シナリオ公開後に旅団の友好、または入団届を頂いても参加は頂けない。此の場にて、ご了承頂けることを願うばかり。
 さあ、良い散歩をしようじャないか?
 どこまでいく?どこへいきたい?転送完了までの間に、さあ聞かせてくれ。
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第1章 冒険 『ライブ!ライブ!ライブ!』

POW   :    肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!

SPD   :    器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!

WIZ   :    知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!

👑1
🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アンテロ・ヴィルスカ
アレンジ等ご自由に

お疲れだったねぇ、フィッダ君
君に任せれば幾らでも良い場所に案内してくれそうだね

静かな高原、ビーチ、良品の揃う街角…
それ以外も良いね、行き先とルートはお任せするよ
君の行きたい場所に飛んでくれても構わない
…ピューレ君も里帰りしたいかい?

そう…一部のヒトは夏に故人を見舞うそうだ
小旅行の最後はそこがいい

棒切れはヒーロー達に片付けられているだろうな
なら君に貰った物を返そうか、女王様
新しい墓碑にaaveを立てる
残る魔力全て使って永遠に溶けない、氷の小さな墓を

もう魔力は空っぽだけど勘弁しておくれ
……あれだけの力を何に使ったかって?
それは勿論、内緒
さぁヒーローに見つからないうちに引き上げよう



●緊急離脱

 とん、と降り立った世界は、桜吹雪の背景がひたすらに舞っていた。
 その桃色が兎に角、目に優しい帝都の風景だと気が付くだろう。
「直感みたいなノリで……なんとなくココを選んじまッたけど」
「お疲れだったねぇ、フィッダ君」
 一緒に世界を跳んだ、"客"ことアンテロ・ヴィルスカ(黒錆・f03396)。
 幻朧桜の花びらが、どこからともなく風に乗って飛んでくる。
 どうやら本日の帝都は、風の強い日であるらしい。
 此処はいつかフィッダが佇んでいたことのある、建物の様式が和に染まった一角。
 桜が乱れ舞うのはサクラミラージュでは日常風景だが、此処も同様だ。幻朧桜にあやかり、艶やかな町並みを称して『幻楼閣(げんろうかく)』なる場所である。
「此処は席があれはご自由に、というからな」
「いつかもそうして君は座っていたっけ」
 二人して、当たり前のように吹きさらしのテラス席に座った。
 時々花びらが、顔に当たって逆巻く風が髪を一緒に巻き上げる。
 本の貸し出しも行っているハズの棚をちらりと見ると一部がごっそりと抜けている。ある文豪の本が、爆発的に借りられているらしい。
 カフェーに訪れてる客が、読んでいるものはすべて、その文豪の書なのだろう。
「……柴犬の本、相応に認められて読者でも増えたのかね。いいことだ」
 アンテロも此処からなら、少しだけ道を知っている気がした。
 なにしろ、アンテロが訪れたことのある書店はすぐ近く。
 もう少し歩いた街角の向こうには『帝都図書館』があるだろう。
「"バス停"になにか用だッたか?かしこまるのも変だが、何処へ行きたかッた?」
 少年は尋ねる。バス停が行き先を問う。
 先んじて静かにテレポートの術式は展開させているが――少しばかり、起動まで時間がかかっていた。
 故に、道標が訪れた"客"へ適切な場所を示すためには重要な質問である。
 今ならそう。行きたい場所、行きたい世界へ案内できるだろう。
「そうだねぇ、気まぐれな散歩だよ。フィッダ君と同じだね」
「ほう。迷える仔羊は道すら迷ッておられると認識したぞ」
 戯れに指をきるような動作をするフィッダに、アンテロは首を振る。それは意味を成す正しい所作ではないという雰囲気をだすわりに、手振りで正解は示さない。
「散歩の足を丁度見つけたし、行き先を君に任せれば幾らでも良い場所に案内してくれそうだよね?」
「俺様任せにするな。せめて大体の場所を言え」
 テレポートだよりの散歩ならば、それは配送業務的な仕事の範囲のこと。ある意味では趣味でもあるので、足と形容されるのは少年は特になんとも思わないようだ。
「静かな高原、ビーチ、良品の揃う街角……それ以外も良いね?」
 ――行き先とルートは、任せるけれど。
 明確な場所を言わずとも、彼なら大体を察せるだろうと踏んでアンテロはそう、提案する。彼は勘がいいので伝わるはずだ。これまでの付き合いで、理解は深い。
「随分と抽象的な行き先指定なことだな」
「君が行きたい場所に飛んでくれても勿論構わないよ?」
 フィッダの襟から、兎がぴょこ、と顔を覗かせた。
 自分も行きたい場所がある。そんなタイミングの登場だ。
『ぴゅい~?』
「おや、……ピューレ君も里帰りしたいかい。フィッダ君の今日は長そうだねぇ?」
「凄く働かせようッて男が何をぬけぬけと……。忘れ物、落とし物はないか?ほら、行くぞ」
 荒立てないように、静かに起動させた術式。
 カフェーのメイドがお茶を机に配膳しようとしたとき、テラス席にはもう。
 桜の花びら以外、――人影は既になかった。

●少し遠くへ
 音が途絶えたかと思ッたときには、車が走る音が次に耳を刺激した。
 異なる世界へ既に降り立ったらしい。
 アンテロが場所を確認すれば、傍にいる少年によく似た標識がひとつ、ふたつ。
 数えきるには難しいほど、たくさん。これは恐らくUDCアースの、町並みだ。
「アンタのなぞなぞは、俺様には難しい。街角は恐らくその先にあるが」
「君は別に場所を示すだけのモノじゃないだろう?この辺りは少しだけ知っているから……おいで」
 男の軽めの手招きに、フィッダが応じる。
 疑いもせずについてくるのは少年のいいところではあるが、迂闊な部分でもあると若干おかしな犬を躾けている気分でもあった。
 勿論、少年に言えばすぐさま不機嫌を示すだろう。
 よく見れば手元には何もないようだが、肩に兎が乗っている。
 なにか、足りないような――。
「先程は確かに持っていたよね……今は何処に?」
「俺様が"俺"を常に持ッてる必要はないだろう?」
 主語の抜けた問いかけはフィッダの本体、バス停はどうしたのか、という部分に帰結する。少年がいつの間にかどこかに消していたり、無造作に扱う事を知る故に、純粋に疑問に思ったものだが……解答を示すようにすっ、と指し示したフィッダの指は、アンテロの腰辺りを示していた。
 眺めてみると存在感の強い違和感の塊が下がっている――それは、バス停のキーホルダー。見覚えのある歪み方をしているが、大きさはアンテロの掌よりやや小さい。いつの間に。ゆら、と不器用さをアピールするかのような銀鎖が、少年の服の袖で揺れたのを男は確かに見た。
「時折持ち歩きに不便を感じてるんで、日々模索し続けた結果だ。今日ずッと付き合う代わりにアンタが持ッてろよ」
「勝手なものだねぇ……」
「褒め言葉か?ヒトを足呼ばわりするアンタに言われたくないわ」
「それにしても及第点にも及んでないな。もう少しうまくやらなきゃバレバレだよ、フィッダ君」
 使いこなせていないものをわざと使ってそうするほどだ。
 物を隠すつもりなど、彼には元からないのだろう。
「へえへえ、今後精進していきマスよ。俺様はアンタほど器用じャねェからな」
 つん、とした態度で顎をしゃくるフィッダ。
 そんなことよりどこへいくのか。言葉にせず尋ねているようでもある。
「ふふふ、どこがいい?」
 なんて言いながら、目に付く店を適当に来店を決めた。
 アクセサリーの専門店、バイクの専門店。
 その他にも、購入は考えてない来店を複数。
 ショッピング、を名目に二人に関係ない店ばかりの、未知の領域に入り込む探検のような散歩だ。
 その締めくくり、最後にふらりとアンテロが足を運ぶ先はオシャレな服屋。
 くるりと高級そうな回転扉が回るのを、通り抜けていく。
 兎は空気を読んだのか少し手狭な少年の立ち襟に潜り込んだ。少し厳かな気配が店内に広がっていて、少年一人なら絶対立ち入らない空気を悟る。
「……アンタが来そうな店だな」
「どういう意味かなそれは」
「そのままの意味だが。……なあアンテロ?俺様にもこういうの、似合うかな」
 マネキンが着込む服装を指差して、アンテロの服装を指差す。
 不良の申し出は少し滑稽だ。彼は衣服に頓着しないタイプだと思っていたものだが、真面目な服装に興味でも出たか。
「まさか、俺の恰好でも"真似"たいのかい?そうだな……フィッダ君なら、揃いで白いよりは黒いほうがいい」
 フィッダの背格好から選ぶ黒いYシャツをアンテロがすっ、とかざして確かめる。
 ――少し、大きいか?
 ――見た目よりも不健康な体格だ。少し小さいサイズが似合うかもしれない。
 良し悪しがわからないと、少年は静かに男の様子を眺めている。
 男二人のショッピング模様に、こころなしか不思議な心地がした。
「……成程、くろか。なら、全身揃えて見るのもいいな」
「上から下まで、俺に揃えさせるのかい。フィッダ君……俺は奢らないからね」
 黒いワイシャツと、スラックス。タイとベスト。
 一通り見繕った一式に加えて、適当なサイズのプレーントゥも渡す。
「サイズに関してまで世話は焼かないよ。それくらいは自分でね?」
「言ッたのは俺様だが。むしろ短時間で揃えたアンタがこええわ」
 試着室に消える少年が暴言を吐く。
 時々控えめに"きゅ"と鳴き声が聞こえるが、アンテロはひたすら知らん顔。
「……うーわ。サイズ丁度良さげだわ、どう。ビシッと着こなしたら利口そう?」
「口調も恰好と一緒になんとか出来れば」
 ――服に着られているようにはみえないかな。
「それでいいのかい」
 普段から殆ど姿見など見ないといつか言っていた少年が、見える範囲で眺め回している。顎のマスクと眼光鋭い部分を除けば、まあまあ様になっていないでもない。
「ああ」
 アンテロが見るに、少年は比較的喜んでいるようである。
 自分一人ではしないこと。友人に選んでもらって更に嬉しい、みたいな。
 パタパタと購入に移行する少年が、ふと、男を見上げて睨む。
「……頼んだの俺様だけど、容赦なく選んでくれたな。散歩、まだするんだろう?手荷物過ぎるんだが商売下手か」
「一度預けていけばいいだろう。フィッダ君なら、今日中に取りに戻ってこれるだろうし」
 出来ますよね、と会計時に店員に聞くと頷いて答えてくれた。
『当日中に取りに来るようにしていただければ、取り置きは可能です』
 知ッていたのに隠してだろう、と少年が腕で小突いてもアンテロはどこ吹く風と笑って誤魔化した。
「どこまでもマイペースなおっさんだなあ!」
 会話しつつ、グリモアの起動の時間を稼いでいた。
 時間は十分にとった。――さあ、散歩に戻ろう。

●もふもふの凱旋
 次に訪れた転送先は、草原が広大という表現が妥当なほどに緑が溢れていた。
 アックス&ウィザーズの、どこかの高原だろう。
『ぴゅい!』
「そう。……ここは、恐らくあの森の近くだぞ」
 大雑把な転送なので、少し遠い場所に在るがとフィッダが指差す先は生い茂った森がある。
「戦いの余波とかはないのかな」
 冬に兎の加工品が必要な、あの村も探せば近いだろう。
 戦いの装備も、蓄えも今ならば色々在るに違いない。
 それに、わりと最近までこの世界は竜と戦争をしていたはずだ。
「多分あまり無いと思う。帝竜と共に蘇ッたらしい群竜大陸が主な戦場だッたし、今や領地統率者がいるし」
「ふうん」
 半ば適当に聞き流しているのを分かっていて、フィッダが説明を加える。
 強いていえば、今まで戦争が起きていた世界同様にオブリビオン騒動がやや控えめになったくらいだ。
「広大なとこへ来たんだ。なあ、何処へいきたい?」
「冬でもないのに村まで、本当かどうかどうか確かめるのも良いね」
「行く気がないだろ」
 訪問したことのない誰かの村に男はあまり関心はないだろうと少年は決めつけた。
「そういう調べごとは、何より先にアンタは面倒事は投げ出すだろ」
 男は肩をすくめる。
「俺が考えそうなことをよく分かってるじゃないか。なら、次に俺が言いそうなことは?」
 また謎掛け。
 明確な答えを示さないのは、男の特徴でも在るだろう。
「……"ピューレ君の里帰りに付き合う"」
「半分正解。ほかは?」
「…………俺様を、とことん"足に使いたい気分"?」
「御名答」
 向かう先は平和な獣の国。
 森を越えた先にある、秘境だ。
 最初に訪れた時は冬場だったために雪が沢山あった。
 夏を目前にしたこの環境では森は非常に生い茂っている可能性が高い。
 普通に進めばスラックスが汚れる。男が意図するところは、そんなところだろう。
「お嬢さんを喚べばいいのではないでショウか」
 彼の愛馬なら、背丈も高く利口だ。
 粗暴寄りの少年が構っても怒る素振りすら無かったことを覚えている。
 無駄な抵抗に、そう促すがアンテロは溜め息混ざりにわざとらしい反応で返す。
「……はいはい。散策乗車を一方的に強く希望なんデスネ。生憎だが、影を縫ッていかないからな?効率上の問題だ」
 兎を無造作に放り投げる少年。
 相変わらず、兎に対しても粗暴を働く。
 要請されたEMERGENCY。フィッダが姿を妖怪鬣犬に変異させる。
 存在感も、威圧感も二倍。
 緊急時に多用する、一人騎乗する事など容易い獣姿。
「今回は残念なことに、鞍も手綱も魔装でなんとかなるから比較的安全かもだが……いつかも言ッたぞ、俺様の"運転"は荒いんだ」
「相変わらずご丁寧で心配性な事前アナウンスだねえ、フィッダ君」
 身の丈二倍のハイエナと化した少年が鼻をすん、と鳴らした。
 獣姿では付けられない魔装を、テキパキと装着させられる。
 友人であるとわかっているハイエナに黒革製の手綱と、鞍。
 騎獣と化した少年は、バス停というよりは"バス"としか形容できない。
 実に異様な光景だ。
 誰もそんな光景を、目視するものもいないのが幸いか。
「さすがのアンテロでも、毛玉片手の騎乗なら落馬するかもしれねェなあ!」
 想像したのかゲラゲラと楽しげに笑うハイエナの鼻面を、アンテロがぐ、と押して黙らせる。きょとん、と大きな目がぱちり。
 面食らったように馬鹿笑いが止まった。
「俺を落としてくれも構わないけどね、手綱までくれてるのにどう落とせるっていうんだか」
 ひらりと兎を片手にハイエナへ騎乗して、軽く腹の横を蹴る。
 意外とせっかちに、行こうと合図されれば進まないわけにはいかない。
 国までの道を覚えているわけではないだろうが、羽耳の兎と過ごしてきた少年ならば。住処である国への道も、"鼻"が拾って迷わないだろう。
「なんか悔しいからあえて汚れそうな道選んでやるわ……」
「君が率先して汚れるだけだねぇ?」
 チッ。明らかな舌打ちが、ハイエナから器用に漏れ出した。
 後ろ足がやや短いハイエナという生き物の性質上、どうしても揺れるが、男は口笛を吹きそうなほどに落ちる気配がない。
 それどころか、濁々とした泥水に近い流動した土の上に突っ込んでいこうとするのを、手綱を引いて逸らさせる。
「……おい、俺様が汚れるだけなんだろう?」
「"足が汚れるじゃないか"」
「騎手サマは足元をよーく見てるんデスねェ……」
「"足"を自称してるのは君じゃないか。おかしいことはなにもない」
 ハイエナが大きなため息をこぼしながらどったどったとガタガタな獣道を走り続ける。そう大きく広大な森ではない。はじめに訪れたときとは違い、雪は無いから所々に跳ねる兎の姿がある――。

 平和の国の入り口は、境界線も何もなく人懐っこい兎の群れが飛び出すことで把握できた。
 見覚えのある光景だ。口笛のような声色が唄うように聞こえてくる。
「ご到着。さあ降りろ」
「我儘だねぇ」
 ぴゅい、ぴゅいーと騒いで寄ってくる兎たち。
「……アンテロ、ちとピューレを寄越せ」
 衣服の誇りを僅かに払すフィッダは既に変異を解除している。
 ピューレは"旅から一時的にでも"国へ帰ってきた稀な兎だ。
 ほかの羽耳兎たちが興味津々に飼兎に集れれば少々見分けがつかない。
「またこの子をモノみたいに扱う……だからね、フィッダ君。レディには」
「優しく?わあッてるよ。これは、"だから"の保険だ」
 ぐ、と首根っこを暫し掴んでいたのもつかの間。
『ぴゅい~!』
 ぴょん、とフィッダの手元からピューレが言葉の通り飛んでいった。
「此処はやはり戦いとの縁がないんだね?」
「ヒトに大切にされた"箱庭"だからな。冬でもなければ、気まぐれに餌付けしにくる奴だけさこんなところに来るのは」
 白い毛皮の絨毯が、小規模ながら二人の前に広がっている。
 どれもこれも兎だが、密集するとまるで雪のようだ。
 もぞもぞと、どこかでピューレが仲間に冒険譚でも語ってるのだろう。
「どれが……ピューレ君かな」
 アンテロが試しに一羽拾い上げてみると、何か異なる。
「ハズレ。残念なアンテロには兎を手元に積まれる権利をやろう」
 手当たりしだいに兎を男の手元に集めて乗せるフィッダ。
「君はどの子か分かるのかい?」
「勿論だ」
 指をぱちんと鳴らすと同時に、アンテロの足元で一羽の兎が急激に変貌する。
 大きな燃え上がりそうな熱を持つ角を生やし、人の丈を超えて巨大化する唯一の個体。少しの浮遊感にバランスを崩した男が兎の背中で、長毛の毛にやや埋もれた。
「そいつがそう。アンタが拾ッた兎の毛並みになし崩し的に埋められた気分は?」
「……通常と変わらない、良い手触りだ」
「これ以上ないッてくらい極上の毛皮体験だぞ。今なら枕以上にいい夢みれるかもだ、アハハハハ!」
 バカでかい兎の背中の上で男が真っ白の群れに集られる様を、少年は満足気するまで眺めて笑う。
 少年の襟めがけて白い毛玉の群れが飛びつこうとしている事にも気づかずに……。


●もういちど逢いましょう、女王様
 暫くもこもこの毛皮と戯れた後。
 ヒーローとヴィランの声が騒がしく飛び交うヒーローズアースへと行き先を定めた。適当に世界を飛んで案内をしようとした少年を、アンテロが停める。
 ――小旅行の最後は、"あそこ"がいい。
 兎に埋めた男がようやく行き先を指定してきたので、バス停少年は単純な興味で"何故"と問う。
 正義と悪の主張が日々騒がしい町に行きたい理由はなんだろう、と。
 ――聞いた話では、一部のヒトは夏に故人を見舞うそうだ。
 あるビーチに形だけとはいえども立てた墓のようなものを、男は覚えていた。
 故に、今の時間に至り海沿いの町へと足を向けている。
「この辺りもあまり変わらないねぇ……」
「確か、左手側のビーチが……アンタと来たこと在るビーチだな」
 通称『アイスビーチ』。夏の一定期間のみ変貌する様は近隣市民にとても親しまれている風景だ。かき氷が、アイスバーが、とにかく美味しく食べられないと苦情が毎年数件は届く。しかしこればかりはヴィランの永久凍土のビーチへと変える呪の産物であり、ヒーローが解呪するには未だに至っていない。
「おや」
 アンテロが目にしたビーチは、いつか来たときと同じとはわずかに言い難い。
 よくあるビーチの様相なのにも関わらず、"何故か気温が著しく低い"のだ。
 これが夏の気温であるはずがない。
 寒さの中でも平然としているアンテロと違い、少年は酷く寒そうに白い毛玉を抱きしめている。珍しい光景もあるものだ。
 "夏"である以上、永久凍土の氷が盛大に、どこまでも存在を主張していた。
「……ねえ、フィッダ君。アレの場所がどこだッたか覚えてる?」
「夏場だけ凍っていて、それ以外は気候にそうビーチと聞いたはずだから……」
 視線を振ってみるが、足元に棒が刺さってる気配はない。
「ああ。棒切れはヒーロー達に片付けられているか」
 環境を整備するのも仕事にしてるヒーローが居てもおかしいことはないのだ。
 ゴミ拾いをする者がいれば、片付けられてる可能性が大いに高い。
「……アンテロがあの時"立てた場所"が、分かればいいんだな?」
 少年が僅かに首を傾げて顔に手を当てて、鼻面を獣に変える。
 すんすん、と何度か嗅ぐと、静かに男を手招いて呼んだ。
「大体あッてたようだぜ?たぶん――このあたり」
 ――匂いで追ってたんだろうけど……何を目印に…………。
 鼻先と口だけ中途半端な獣顔で、ニンマリ笑うだけで少年は答えない。
「本当になにもないねえ……なら君に貰った物を返そうか、女王様」
 例え骸そのものがなかろうとも、それは些細な問題だ。
 男が剣を抜く。この場で出会い、このビーチで逢ったヴィランに贈られたものだ。
 墓碑としてaaveをさく、と妙に軽い音が、地面に突き立てる。
 同時に寒々しい魔法が周囲を氷に染めていく。
 残る魔力全てを変換して、過去に女王がやってみせたような。
 僅かな期間の永久凍土を、再現する。
「……ううん?アンテロがしたい事は少し意図が掴めねェけど。それじャあ――少し足りない。恐らく溶けるぞ」
「もう魔力は空っぽだけど……勘弁しておくれ」
「アンタは望まなそうだけど俺様のを好きに使えよ。半端が一番よくないぞ」
 少年が軽く男の背に触れて、魔力を貸す。いいや表現が異なるだろう。
 貸し借りとしていつか恩で返してほしいわけでも、男のやりたい事に手を出すでもない。ただ純粋な譲渡。使いたいだけ魔力を使ってくれればいいとの申し出だ。
「無機質無骨は、ちとアンテロッぽくねェし。小規模でもそれなりに整えくことを推奨するわ、その剣を置いてくつもりなんだろ。盗まれるぜ?あと故人は持ッと尊べ」
「君は存外、使われたがりだよね」
 バス停の魔力で永久凍土に染め上げたその地に、小柄な氷像を追加で添える。
 賑やかなのは好きだろうか?小柄に添える馬の群れ。
 これで掃除されるような、添え物には見えないだろう。
 女王様の忘れ形見に思われるくらいが理想だ。
「うるせえバーカ!……ッつかなんでアンタ魔力無いんだよ」
 整えられた凍れる、小さな墓標。
 即席にしては上出来だろう。
 それに向けて男は一瞬だけ傅くように頭を下げて、返却完了を示す。
「……それは勿論、内緒」
 もう少し夏感が強まれば、このビーチは目に見えて再び凍りつくだろう。
 ビュゥウウ、と一段と寒い風が通り抜ける――。

 ――やはり貴方も此処が好きなのかしら。
 ――……返却なんて、しなくてよかったのに自由な人ねっ!?

 どこかで聞いたような音が、アンテロの耳に届く。
 どことなく偉そうな、それでいて少女のような声が聞こえた気がした。
 姿は、生憎何処にも見当たらない。
「"意見賛同者"としてだけなら、氷像はおまけだよ」
 独り言は故人を見舞うその後押し。
 返答は何処からも来ないことに、疑問が僅かに湧いた。
 何にでも噛み付いてくる少年が、黙っている。
 振り向くと、とてもしんどそうに嫌そうな顔をしていた。
 好きにしていいと言ッてはいたが、加減を少々見誤ったようである。
 少年に。やや無理をさせすぎたらしい。
「……あんまり駄賃とか貰いたいとか思わねェんだけどさあ」
「うん?」
「最後のは大分労働外だ。何か奢ッてくれ」
「……ああ。道すがら考えておくよ、君のことだから珈琲とかでいいんだろう?」
「わかッてんじャねェか」
 氷の区域を創り出したことが気づかれたのかサイレンの遠鳴りが聞こえた。
 遠くで指差すような人影が複数見える。人が、集まりそうな気配がある。
「……通報、されたかね」
 怒鳴るような声が幾つか聞こえてきた。
「さぁヒーローに見つからないうちに引き上げよう」
「もう見つかッてるだろ……ッたく…………!」
 小さくとも悪事は悪事だ。
 捕まれば相当怒られてしまうだろう。転送には時間が足りないとぼやくバス停を引き連れて、ヒーローズアースの路地裏に二人のヤドリガミが駆け込んでいく。
 遅れて追跡を始めたヒーローが覗き込むと、もう誰も居ない。
 入り組んだ様相を利用して、逃げ切ったようだ。
 取り置きの服を取りに行き、男がcafeに誘うかもしれない。
 または目移りしたまた別の場所に足を向けたりして。
 この後もヤドリガミたちとお供の兎の散歩はもう少し続くだろう。

 長い長い悠遠なる散歩の終わりにも、メルクマールは示され続けるのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月22日


挿絵イラスト