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『絶望卿』が恋したモノ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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「この世で最も美しいものは、なんだと思う?」

 星明りひとつない闇夜に支配された地で、ひとりの少女が歌うように囁いた。
 赤いフードとマントを纏い、可憐な顔立ちに無邪気な笑みを浮かべた、愛らしい娘だ。
 その言葉遣いは、陰鬱さに満ちたこの空間では場違いなほどに、明るく弾んでいて。

「富や財産? 名誉や権力? いいえ、違うわ」

 誰もいない荒野で、彼方に見える人の営みの灯りを見つめながら、彼女は語る。
 それは恋する乙女のように、眼差しは輝いていて、愛おしそうに頬を染めて。

「それは人の心。絶望に挫けながらも力強く立ち上がり、何度でも戦う心の輝きこそが、この世で最も美しいの」

 それが嘘偽りのない本心なのは、うっとりとした少女の表情を見れば一目瞭然だろう。
 だが、その言葉がひどく薄っぺらく、空々しいものに聞こえてしまうのは何故だろう。

「わたしはそんな人の美しい姿を愛しているの。だからもっとわたしに見せてほしい」

 それは、少女の手に握られている、血塗られた巨大な刃のせいかもしれない。
 それは、少女の足下から湧き出る、粘りつく大量の黒泥のせいかもしれない。

「あなたたちの絶望する姿を。悲劇に塗れ、愛する者を失い、大切なものを守れず、敵は強大で、勝ち目なんてなくて、それでも立ち上がるあなたたちの勇姿を」

 想い人に愛を打ち明けるような口ぶりで、その少女の言葉は悍ましさを孕んでいく。
 その眼差しは輝かしいものを見つめているようでいて、実際は盲目も同然であった。
 彼女は焦がれている。彼女は浮かされている。狂気にも等しい恋の熱に。

「そのためならわたしは何度でも皆を絶望させるわ。だからお願い、はやく来てね」

 ただ、美しいものを見たいから。そのために彼女はそれ以外の何もかもを踏み躙る。
 その影より滲み出た泥の塊は、総毛立つような『絶望』の嘆きを上げて動き始める。
 "それ"が向かった先でどんな悲劇が起こるのか、少女は分かった上で何もしない。
 これは恋文なのだ、彼女なりの。惨劇と絶望を起こせばきっと"彼ら"は来るはずだと。
 純真に、無垢に、そして残酷にそう信じながら、少女の形をした怪物は微笑む。

「イェーガー……わたし、あなたたちが大好きよ」

 少女の名は『絶望卿』アルマ・アークナイツ。
 絶望に抗う者を愛し、絶望をもたらすもの。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーの都市にオブリビオンが現れ、住民を虐殺する未来を予知しました」
 ヴァンパイアの圧政に苦しめられながらも、比較的安全な生活を保証された城塞都市。
 そこに暮らす数千人もの人々が、たった一体のオブリビオンによって、一夜にして殺し尽くされようとしている、というのだ。

「現れるのは黒い泥の塊が、人型や巨大な目や腕を形作ったような姿のオブリビオン。これは過去へと消費された絶望の感情が骸の海より染み出した『絶望の集合体』です」
 この怪物は一度顕現すれば、集積した絶望の感情のままに無差別な破壊をもたらす。負の感情のみを宿すために意思の疎通も不可能で、絶望を撒き散らす災害のような存在だ。
 ただの人間に抗うすべは無い。もしも猟兵がこの事態を放置すれば都市は絶望に沈み、住民は一人残らず殺戮され、新たな『絶望の集合体』を生み出すことになるだろう。
「事件発生までもう時間がありません。皆様には住民の保護や避難を行いながら、市街地で敵と戦って貰うことになります」
 都市への被害はこの際目をつぶるとしても、住民に犠牲が出ることは何としても避けたい。人々の死や絶望が集まれば集まるほど『絶望の集合体』はより巨大に、そして強大になり、手のつけられない存在と化していくためだ。

「しかし、こんな天災のようなオブリビオンが突然都市に姿を現すとは奇妙なことです。裏に明確な意図をもって事件を手引きしている者がいます」
 その者とは誰あろう、この城塞都市を支配するヴァンパイアの領主に他ならない。
 彼女は"猟兵をおびき寄せる"ために自らの治める都市と数千の住民を犠牲にしたのだ。
「『絶望卿』アルマ・アークナイツ。それがこの地を支配するヴァンパイアの名です」
 悪辣な嗜好の持ち主が多い吸血鬼の中でも、彼女はとりわけ奇妙な性向を持っている。
 それは"絶望"に抗う人間に対する、恋慕のごとき異常な執着と他への無関心さである。
「彼女は絶望に立ち向かう人間の輝かしい姿"のみ"を愛しています。それを見るためには何を犠牲にしようと一向に気にしませんし、時には同族すら平然と手にかけます」
 そんな厄介な相手に猟兵は目をつけられてしまった。彼女が他のオブリビオンに自らの都市を襲わせるという暴挙に出たのも『絶望の集合体』と戦う猟兵の姿が見たいという、ただそれだけの理由なのだ。

「下手をすれば『絶望の集合体』以上にこちらの方が悍ましい怪物です。仮に今回の事件を無被害で終わらせても、同じような事件を彼女がまた起こさない保証はありません」
 もう二度とこんなことを繰り返させなるわけにはいかない。そのために『絶望の集合体』と『絶望卿』アルマの両方を討伐するのが、今回の依頼の最終目標となる。
「幸い、アルマは理性や最適解よりも趣味嗜好を優先するタイプです。猟兵が"絶望の中で戦う姿"を見せつけてやれば、感情を抑えきれずに自分から姿を現すでしょう」
 仮にも領主であるため単独で現れることは考え難く、おそらくは配下の大軍を引き連れての出現となる。『絶望の集合体』から休む間もない連戦になるだろうが、この機を逃しては次に彼女と相まみえるのは何時になるか分からない。

「何としてでも配下を突破して『絶望卿』を討ってください。アルマ自身も『絶望の集合体』に劣らぬ強大なオブリビオンですが、皆様なら決して不可能では無いはずです」
 難題を口にしているのは承知の上で、リミティアの眼差しには猟兵への信頼があった。
 『絶望卿』と意見が被るのは癪だが、絶望に立ち向かう猟兵の姿は確かに輝かしく――その勇姿は必ずや、宵闇に包まれたこの世界に希望の光をもたらすと確信しているから。
 説明を終えた少女は手のひらにグリモアを浮かべて、ダークセイヴァーへの道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、猟兵をターゲットとした『絶望卿』の暴挙を阻止し、彼女を討伐することが目的となります。

 第一章では絶望卿に呼び寄せられた『絶望の集合体』との戦闘になります。
 絶望の中で死を遂げた人々の感情の集積体で、その衝動のままに猟兵・民間人を問わず目についたものを無差別に攻撃します。
 明確に生前の意識が残っているわけではないので、基本的に意思の疎通はできません。これ以上絶望が広がる前に倒すことがせめてもの供養になるでしょう。

 無事に『絶望の集合体』を倒すことができれば、黒幕が姿を現します。
 第二章では彼女が率いてきた配下オブリビオンの大軍との集団戦。
 第三章では『絶望卿』アルマ・アークナイツとの決戦になります。

 戦いの舞台は市街地です。
 第一章開始時点ではまだ周辺に都市の住民が残っているので、『絶望の集合体』に巻き込まれないよう護ったり避難させる必要があります。
 『絶望卿』の狙いは猟兵で、他は釣り餌としての役割を終えれば眼中にありません。そのため二章以降では住民への被害を気にせず戦えます。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『絶望の集合体』

POW   :    人の手により生み出され広がる絶望
【振り下ろされる腕】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に絶望の感情を植え付ける瘴気を蔓延させる】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    粘りつく身体はぬぐい切れない凄惨な過去
いま戦っている対象に有効な【泥のような身体から産み出される泥人形】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    過去はその瞳で何を見たのか
【虚ろな瞳を向け、目が合うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【幾千という絶望な死を疑似体験させること】で攻撃する。

イラスト:井渡

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

才堂・紅葉
ったく、厄介な戦場ね
クソ迷惑な性癖持ちだこと……まぁ、それが不幸中の幸いだけど

何はともあれ民間人の保護だ
気は進まないがあれを使おう

「大丈夫、あなた達!」
真の姿の【封印を解き】、民間人を救助する
基本は超重力付与の格闘と流星錘として用いる「紋章板」だが、今回は敢えてのキラキラ【属性】でファンシーさをマシマシだ
可愛く力強いプリンセスファイトを子供達に見せつけよう【パフォーマンス、存在感、ブームの仕掛け人、恥ずかしさ耐性】

根本的に護り切るには戦力不足なので、機を見て民間人特に子供達に訴える
「私だけじゃ勝てない。お願いみんな、力を貸して! 」

魔法少女達を軸に【団体行動、戦闘知識】で撤退戦を行いたい



「きゃぁぁぁぁぁっ?!」
「なんなんだよ、こいつはっ!?」
 それは、都市の住人たちにとってはまさしく天災にも等しい、突然の出来事だった。
 市街地に突如として出現した黒い泥――『絶望の集合体』は、見る間に異形の姿となって人々を襲う。骸の海に堆積した数多の悲劇と絶望がカタチを為したこの怪物を相手に、人々はただ逃げ惑う他に選択肢はなかった。

「大丈夫、あなた達!」
 だが、そこにキラキラと輝く光の軌跡を描いて、赤い髪の女性が颯爽と駆けつけた。
 それは真の姿を解放した才堂・紅葉(お嬢・f08859)。彼女は黒泥の腕に叩き潰されそうになった民間人を抱え上げ、蔓延する瘴気の範囲から遠ざけるように奔走する。
 他の猟兵達も続々と到着し、市民の救助活動を開始する。間一髪のところではあるが、犠牲者が出る前に彼女らは間に合ったのだ。

「ったく、厄介な戦場ね。クソ迷惑な性癖持ちだこと……まぁ、それが不幸中の幸いだけど」
 災異から人々を救助しながら、紅葉はこの状況を作り上げた黒幕――『絶望卿』への悪態を吐く。"絶望に抗う姿が見たい"というヴァンパイアの私欲がこれほどの人々を危険に晒し、しかしそれゆえにグリモアの予知にも掛かったのだから皮肉な話だ。
(何はともあれ民間人の保護だ。気は進まないがあれを使おう)
 多くの猟兵がこの危機に駆けつけたとはいえ、城塞都市に暮らす全ての住民を護り切るには根本的に戦力不足だと紅葉は判断していた。一体どこから湧いてくるのか、街を侵蝕していく『絶望の集合体』に立ち向かいながら、彼女は人々に対して叫ぶ。

「私だけじゃ勝てない。お願いみんな、力を貸して!」
 プリンセスのような黒い華麗なドレスを纏い、「紋章板」の術式によるキラキラ演出を加え、可愛く力強いファイトスタイルで『絶望の集合体』相手に奮戦する紅葉。
 振り下ろされる巨大な腕――【人の手により生み出され広がる絶望】にも屈さず、徒手空拳にて押し留め、弾き返すその勇姿は人々に、特に無垢な子供達に感銘を与えた。
「わ……わたしたちに、何ができるの……?」
「私には、お姉さんみたいな力もないし……」
「できるわ! あなたたちも魔法少女になれば!」
 恥ずかしさをぐっと堪えて、ファンシーで強いマジカルプリンセスの姿を見せつけながら、紅葉は【魔法元素固定式少女幻想投影機】を取り出す。帝竜ヴァルギリオスの宝物庫から手に入れたこの秘宝があれば、誰でも一時的に魔法少女に変身できるのだ。

「この『マジカルシステム』の力で、私と一緒に戦って!」
 虹色のペンダントから放たれた光が人々を包み、魔法少女的なパワーと可愛い衣装を与える。その対象として同意した者の殆どは、純粋で素直な心を持った子供たちだった。
「すごい! ほんとに魔法少女になれちゃった!」
「よーし、いくぞーっ!!」
 湧き上がるパワーに興奮しながら、魔法少女となった子供たちは無垢な勇気を胸に『絶望の集合体』に立ち向かう。元は非戦闘員とはいえ、竜の秘宝から引き出されたユーベルコードの力は驚異的なもので、十分に戦力たり得ていた。

「みんな、突出しては駄目よ! 民間人の救助と避難を最優先に!」
 紅葉は魔法少女たちの指揮官として、彼女らを軸とした撤退戦を行う。戦力が増えたとはいえ普通の子供を対オブリビオンの最前線に立たせるのは危険すぎるし、救助活動のための人手が増えただけでも、この状況は劇的に改善する。
「「はーいっ! わたしたち、がんばるっ!!」」
 キラキラな笑顔と元気いっぱいの声で返事をする魔法少女たち。元々この街の住人である彼女らは、その土地勘を活かして人々を救助し、安全な抜け道から撤退していく。
 歴戦の猟兵にして工作員である紅葉の采配もあって、都市の民間人救出はハイペースで進められつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

市街戦とはあまりよくない状況じゃな。
まずは周囲の民間人を避難させるとするか。

【秘伝の篠笛】を吹き鳴らし、狼の群れを呼び出して『絶望の集合体』から人々を守るのじゃ。
ふむ、あの『虚ろな瞳』が恐怖を煽っているのかの?
民間人の足が恐怖で止まらぬよう、【祈り】を乗せた【疾風の凱歌】を【歌い】皆を【鼓舞】し勇気を奮い立たせ『過去はその瞳で何を見たのか』が齎す絶望を打ち払ってやるわい。

【巨狼マニトゥ】に【騎乗】し群集の殿を受け持ち【破魔】を宿した矢で【援護射撃】、風の精霊の力で声を拡声し周囲の人々に避難を呼びかけて誘導するのじゃ。
更に逃げ遅れた人や高齢者・子供は狼に乗せて運ぶとするかの。


セルマ・エンフィールド
吸血鬼としては特異な嗜好を持っているようですが、やっていることは同じ。
ならば、私がやることも何も変わりはしません。

直接敵の攻撃を受け止めることで住民をかばう、というのは不得手ですが、住民たちを避難させている最中の殿はお任せください。敵との相性は悪くありません。

どこかに逃げ損ねた人がいる可能性もある。広範囲への攻撃はできませんが……問題はありません。この銃があれば十分。ここから先へは通しません。
フィンブルヴェトを手に【絶対零度の射手】を。形状は変われど泥人形。氷の弾丸の連射で凍てつかせ撃ち砕きます。射線があけば本体を狙いますが今回必要なのは足止め、深追いはせず後ろへ敵を通さないことを第一に。



「市街戦とはあまりよくない状況じゃな。まずは周囲の民間人を避難させるとするか」
 絶望と混乱の渦中にある都市に降り立ったエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)は、部族に伝わる秘伝の篠笛を吹き鳴らす。平原に吹く風のような涼やかな音色が響き渡ると、どこからともなく狼の群れが駆けつけてきた。
「行け、人々を守るのじゃ」
 白き巨狼マニトゥに跨った巫女姫の指示の下、狼達は逃げ惑う人々の救助と護衛にあたり、迫りくる『絶望の集合体』から遠ざけていく。多くの民間人が巻き込まれたこの状況下で、人海戦術ならぬ群狼戦術は頼もしいアドバンテージだ。

「住民たちを避難させている最中の殿はお任せください。敵との相性は悪くありません」
 後退していく人々と群狼の最後尾に立つのはセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)。敵の攻撃を直接受け止めることで住民をかばう、というのは不得手だが、その代わり彼女には優れた射撃の技量と愛銃「フィンブルヴェト」がある。
『ウゥゥぅぅぅ……』
 不気味な唸り声を上げて人々に追いすがる泥人形の群れ――『絶望の集合体』から産み出された眷属共に向けて、セルマはトリガーを引く。マスケット銃より放たれた氷の弾丸は瞬く間に標的を凍てつかせ、その進行を停止させた。

「皆、もう大丈夫じゃ。わしらが必ず助けるからの!」
 エウトティアも殿にて、手製の短弓から破魔の矢を泥人形の群れに射掛けながら、風の精霊に己の声を伝えさせる。メガホンのように拡散する声で周囲の人々に避難を呼びかけながら、マニトゥや狼達と共に誘導する手筈だ。
「うぅ……無理だよ、もう駄目だ……」
「逃げ切れるわけない……おしまいだ……」
 だが、人々の中にはすでに絶望に囚われ、生存を諦めてしまった者が相当数いた。自発的に危機から逃れる意志がなければ、猟兵達がどんなに頑張っても救助活動は滞り、全体の避難も遅れることになってしまう。状況はあまり芳しくは無かった。

「ふむ、あの『虚ろな瞳』が恐怖を煽っているのかの?」
 エウトティアは泥人形を産み出し続けている『絶望の集合体』が、この事態の原因であると見抜いた。かの災異の瞳と目が合ってしまった者は、ソレが抱える幾千という"死"を味わわされる――それは常人が心を折られるのに十分すぎる疑似体験だ。
『ウアァぁぁぁぁぁ……』
 絶望に膝を屈した住人に、泥人形が容赦なく襲い掛かる。【粘りつく身体はぬぐい切れない凄惨な過去】――1体ごとに微妙に形状の異なるソレは、どれも人の恐怖心や絶望をかき立てる醜悪な造型であった。

「ここから先へは通しません」
 あわやという瞬間、住人を救ったのは【絶対零度の射手】。超高速で連射される氷の弾丸が、泥人形の群れをたちまち動かぬ氷像に変える。どんな形状をしていようが素体が泥である以上、凍結への耐性は低いというセルマの読みは当たっていた。
(どこかに逃げ損ねた人がいる可能性もある。広範囲への攻撃はできませんが……問題はありません。この銃があれば十分)
 手に馴染んだ愛銃から放たれる弾丸は、スコープの向こうにいる獲物を決して逃さず。住民にはこれ以上一歩も近付けさせまいと、的確かつ迅速に敵群を撃ち砕く。

「風よ、勝利の歌を! 皆に希望を!」
 セルマが敵を足止めしている間に、エウトティアは祈りを込めた【疾風の凱歌】を歌い奏でる。風の精霊の力に乗せて響き渡る歌声は、炎が風を受けて燃え盛るように、人々の心の内に燻っている勇気を奮い立たせる。
「幾千の絶望であろうと、わしらが全て打ち払ってやるわい」
 忌むべきものを祓い清め、幸運や希望を運んでくる風のように――虚ろな瞳がもたらす絶望を、勇ましくも力強い凱歌が吹き飛ばす。それによって一度は膝を屈した群衆は再び立ち上がる力を得て、ゆっくりとだが避難を再開した。

「ほれ、もう少しじゃ、頑張れ」
「あ、ありがとうございます……」
 体力的に他より遅れがちな老人や子供を狼の背に乗せて、避難民を鼓舞し続けるエウトティア。その背後からは『絶望の集合体』が視線を向けて、再び住民たちを絶望に沈めようとするが――。
「させません」
 泥人形を砕いて開けた細い射線を縫って、セルマの氷弾が虚ろな瞳を撃ち抜く。氷結によって『絶望の集合体』の視界は一時的にゼロとなり、苦悶に満ちた呻き声が上がった。

(今回必要なのは足止め、深追いはせず後ろへ敵を通さないことを第一に)
 セルマは本体へのそれ以上の追撃は行わずに、照準を再び泥人形の群れに切り替えて連射を継続する。今優先すべきは人命の救出――彼女はそれを理解していたし、同時にそれが今回の黒幕の望みなのだろうとも分かっていた。
「吸血鬼としては特異な嗜好を持っているようですが、やっていることは同じ。ならば、私がやることも何も変わりはしません」
「そうじゃな。己の趣味の為にこれほど多くの命を弄んだ輩には、後で目にもの見せてやるわい」
 狼の群れを率い、避難する住民たちの安全を確保しながら、エウトティアも同意する。
 絶望に抗う姿を見たいがために『絶望卿』とやらが人々を絶望に堕とすというなら、望み通り見せてやればいい。自分たちは必ず全ての絶望を打ち破り、そして最後にはその元凶をも射抜く――少女たちの瞳には、静かな決意が宿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
絶望がすごく嫌いです
希望に溢れた世界、人達も、沢山見てきてるから

私も、絶望を払える猟兵である事を嬉しく思います
だから、アルマさんとは気が合う気がする
…あなたに早く会いたいな

UC発動
翼で闇を照らしながら街を駆けます【ダッシュ】
襲われそうになっている人を見つけたら捨て身で突撃して護ります
私には焔があるから、どれだけ怪我しようと、死なない限りは戦える【激痛耐性】
だから…私の手が届く限りは、私がどうなろうと、絶望から救ってみせる
ここで生きる人達も、いつかこの世界の希望になるはずだから

…ごめんなさい、遅くなりました
この街は絶対に護ります
どうか、私達を信じて
絶望に負けたりしないでください



(絶望がすごく嫌いです。希望に溢れた世界、人達も、沢山見てきてるから)
 黒い絶望の泥に呑まれようとしている都市の光景を目の当たりにして、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は胸を締め付けられるような想いでいた。ただ穏やかに生きたいというささやかな希望さえ、この世界ではオブリビオンに容易く踏み躙られる。
 乱れる少女の心を支えるのは、背に負った漆黒の大剣『with』。それは大切な相棒であり、最愛の恋人であり、どんな絶望の闇をも打ち払う、彼女の力。

「私も、絶望を払える猟兵である事を嬉しく思います。だから、アルマさんとは気が合う気がする……あなたに早く会いたいな」
 今も自分たちを何処かで見ているのであろう、元凶たる『絶望卿』に呼びかけながら、結希はユーベルコードで己を真の姿に近付け、燃え盛る焔の翼を広げて駆け出した。
「焔の力、少し借りますね!」
 翼が闇を照らし、焔が泥を焼く。猛禽のようなスピードで街を駆ける少女は『絶望の集合体』が産み出した泥人形に襲われている住民を見つけると、勢いを落とすことなく突撃する。

「い、いやっ、誰か助けて……っ!!」
 絶望の泥に襲われ、怯える住民がその瞬間に見たのは、死ではなく希望の焔。
 広げた翼と我が身を盾として、泥人形の攻撃から住民を護る少女の姿だった。
「……ごめんなさい、遅くなりました」
 身代わりとなって血を流しながら、結希は焔を纏った『with』を振るう。絶望の眷属たる泥人形は、その一太刀にて切り伏せられ、骸の海へと還っていった。

「この街は絶対に護ります。どうか、私達を信じて」
 落ち着いた、それでいて力強い口調で住民を励ましながら、彼らを護るために奔走する結希。その戦い方は己が傷つくことを顧みない捨て身の戦法で、誰かを護るたびに、敵を倒すたびに、彼女の身体は血に染まっていく。
(私には焔があるから、どれだけ怪我しようと、死なない限りは戦える)
 強固な自己暗示と苦痛への耐性の高さが、彼女の心身を支えている。たとえ骨が折れようと四肢が千切れようと、気力が途切れない限り彼女が立ち止まることは無いだろう。
(だから……私の手が届く限りは、私がどうなろうと、絶望から救ってみせる)
 一人でも多く、一秒でも速く。火の粉と鮮血を散らしながら結希は駆ける。
 その紅い軌跡は絶望の闇を打ち払い、人々の心に希望の灯火を点していく。

(ここで生きる人達も、いつかこの世界の希望になるはずだから)
 それが、結希がこの人たちのために血を流す理由。誰かの為と言うほど崇高なものではない。ただ彼女は絶望が嫌いで、絶望に人が屈するのを見るのも嫌で、この世界の闇を照らすにはもっと沢山の希望が必要だと知っているから。
「絶望に負けたりしないでください」
 痛ましく、しかして力強く、絶望に立ち向かう己の姿を見せつけながら結希は戦う。
 その鮮烈な勇姿は、彼女に救われた全ての人々の目に焼き付けられる。心の奥底まで伝わるその"熱"は、いずれ彼らの心からも、新たな勇気と希望を生み出すだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
そうだね、ヒーローはこんな状況でも諦めずに抗うのが仕事さ
目の付け所は間違っていない
「素直に応援してくれるなら感謝もするんだけどね。これはちょっと歪みすぎているよ」

何よりもまず市民の救出を優先しなくては
巻き込まれたらひとたまりもない
「正義のヒーロー・オーヴァードライブ参上!市民の救助に入るよ!」
救助活動に没頭することでユーベルコードを発動
絶望の集合体の攻撃を遮断しつつ市民を街の外へ誘導しよう
必ず市民と敵の間に自分を置くように意識して動く
「落ち着いて、でも走って!アレはボクの仲間が止めるから、早く逃げるんだ!」

避難が終わって絶望の集合体が倒れていれば良し
まだ倒れていないなら――ボクも遠慮なく戦おう



「そうだね、ヒーローはこんな状況でも諦めずに抗うのが仕事さ」
 目の付け所は間違っていないと、ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は今回の黒幕である『絶望卿』の企てを評する。皆を護るのがヒーローの使命である限り、人々を脅かす『絶望の集合体』を見過ごせる筈はない――とはいえ。
「素直に応援してくれるなら感謝もするんだけどね。これはちょっと歪みすぎているよ」
 絶望に抗うヒーローを見たいがゆえに、絶望的な事件を自ら引き起こすとは。とんだ厄介な相手もいたものだと、彼女は肩をすくめながら都市の惨状を見渡していた。

(何よりもまず市民の救出を優先しなくては。巻き込まれたらひとたまりもない)
 胸のヒーロー魂を滾らせながら、ジュリアは【特別編成:救助車両到着】を発動。
 戦闘よりも未だ逃げ遅れている人々の救出と避難を最優先として行動を開始する。
「正義のヒーロー・オーヴァードライブ参上! 市民の救助に入るよ!」
 高らかな宣言は市民から自分のことを見つけて貰うためであり、同時に敵の注意を引き付けるためでもある。ジュリアの存在に気付いた『絶望の集合体』は不気味な唸り声を上げて泥人形の群れを産み出し、一斉に襲い掛からせた。

「さあ、もう大丈夫だ」
「あ、ありがとう……っ、後ろっ!」
 壊れた家屋の隙間に隠れていた住民に、爽やかな笑みで手を差し伸べるジュリア。
 その背後から泥人形が近付いてくるのを見て、住民はさっと青ざめながら叫ぶが――。
『ぎぎぎギギ……っ!?』
 叩きつけられた拳は、ジュリアと泥人形の間に立ち塞がった遮断器の幻影によって阻まれる。ジュリアが救助活動に没頭している限り、この幻影は敵のあらゆる攻撃を遮断し、救助の妨害を行わせない。

「緊急列車が通過するのでね! 運行の妨害は遠慮して欲しいな!」
 ジュリアは敵と要救助者の間に自分を置いて、危害が及ばないようにしながら市民を家屋の隙間から引き上げた。そして怪我をしていないかどうか確認すると、発破をかけるように力強く叫ぶ。
「落ち着いて、でも走って! アレはボクの仲間が止めるから、早く逃げるんだ!」
「は、はいっ!」
 まだ怯えている様子だった市民は、その一声で弾かれたように街の外に向かって逃げていく。そちらを追いかけようとする泥人形もいるが、ジュリアは遮断器で道を塞ぐように意識して立ち回り、次の要救助者を探して戦場を駆ける。

「逃げ遅れていたこの辺りの市民は、みんな助けられたかな」
 しばらく救助活動に没頭したジュリアは、その成果として一街区に残っていた市民の避難をほぼ完了させていた。各所で同様の活動にあたっている猟兵も多く、現状での民間人の被害は最小限に抑えられていると言っていいだろう。
『ううウゥゥゥゥ……』
 だが、事態の原因である『絶望の集合体』は未だ健在。この街を絶望の泥で覆い尽くさんとするあの災禍を打ち倒さなければ、現状の根本的な打開にまでは至らない。

「なら――ボクも遠慮なく戦おう」
 ジュリアを守護していた遮断器の幻影が消える。すかさず抜き放った高圧放水銃の射撃が、付近にいた泥人形に穴を開け、泥のような『絶望の集合体』の巨体を抉る。
『グゥぅぅぅぅ……っ!!』
 付近に巻き込まれる市民がいなくなれば、ジュリアも――ヒーロー『オーヴァードライブ』も本気を出せる。苦しげに身をよじる敵にニヤリと好戦的な笑みを浮かべて、鋼鉄と蒸気の戦士は本格的な戦闘を開始するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
索敵や探査、防衛は私の得手
味方が住民を気にせず大技を使える環境を整えなくては

機械馬に●騎乗し機動力確保
センサーでの●情報収集で生体反応や音等から生存者の位置を●見切り急行

ご無事ですか? 他に動けない方は?

見逃されはしませんか

背に●かばいつつ馬から降り、UC発振器を周囲に●投擲
腕の振り降ろしを●見切りバリア起動
攻撃遮断する障壁で腕を挟んで斬り飛ばし
落ちた腕はアンカー接続した大盾で鉄球宜しく●盾受け
●怪力で遠方に弾き飛ばし

障壁保つ内に住民と(抱えて)離脱

あれは…『絶望卿』?
特等席で見物ということですか
住人の避難完了まで席を立たないで欲しいものです

命弄び増やした観劇料、これ以上の計上は不可能ですので



「索敵や探査、防衛は私の得手」
 絶望に呑まれていく都市の中を、機械白馬「ロシナンテⅡ」に騎乗し駆けるトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。彼に搭載されたマルチセンサーは、助けを求める人々の悲鳴を、取り残された者の生体反応を決して見逃しはしない。
「味方が住民を気にせず大技を使える環境を整えなくては」
 戦場に取り残された生存者の退避が完了すれば、猟兵たちも全力で『絶望の集合体』と戦うことができる。このまま敵の思うようにさせない為にも、彼は捜索と救出に全力を尽くしていた。

「ご無事ですか? 他に動けない方は?」
「む、娘が、まだ奥の部屋に……!」
 倒壊した家屋の前に残っていた生存者を発見したトリテレイアは、母親と思しき女性からの切なる訴えを聞く。バケモノの腕に家が壊された際に、一人娘が崩れた瓦礫の下敷きになってしまい、生きてはいるものの動けなくなってしまったらしい。
「お任せ下さい、すぐに救助致します」
 こと力仕事ならばウォーマシンの怪力が物を言う。機械仕掛けの騎士は重機さながらの馬力で瓦礫を速やかに撤去すると、その下で震えていた少女をそっと抱え上げる。
 それを見た家族は歓声を上げるが、事態はまだ予断を許さない。彼同様に生存者の反応に気付いたのか、『絶望の集合体』本体がゆっくりと此方に近付いてきていた。

『ウウぅぅぅぅ……』
 深い闇の底から響くような不気味な呻き声。骸の海から湧き出した負の感情の集積体である黒泥の災異は、ただ生者に無差別な死と破壊をもたらすためにその力を振るう。
「見逃されはしませんか」
 トリテレイアは青ざめる一家を背にかばいながら馬から降り、肩のハードポイントに内蔵した【攻勢電磁障壁発振器射出ユニット】を展開。杭状の発振器を自分たちの周囲に射出する。
『アァぁァァァ……!!』
 迫るは【人の手により生み出され広がる絶望】。瘴気を纏った腕が振り下ろされる瞬間、トリテレイアは発振器を起動し『絶望の集合体』の腕と発生位置が重なるタイミングでバリアを展開させた。

「いわゆる壁というものです」
『ぎぃぃィィィ……ッ!!!?』
 バリアに挟まれた『絶望の集合体』の腕は、まるで鋭利な刃物で斬り飛ばされたように分断される。重力に引かれて力なく落ちてくる腕を、トリテレイアはワイヤーアンカーを接続した大盾を鎖鉄球よろしく振り回し、渾身の怪力で遠方に弾き飛ばした。
「さあ、今のうちです」
「は、はいっ」
 すぐさま彼はあっけに取られている住民たちを抱えて馬上に乗せると、障壁が保っているうちに速やかにその場から離脱する。現時点での彼の優先目的は敵の撃破ではない。生存者を安全な場所まで送り届け、反撃のための環境を整えることだ。

 ――『絶望の集合体』の咆哮から遠ざかる最中、トリテレイアはふと視線を感じる。
 センサーの感度を最大まで上げると、闇に紛れてこちらの様子を窺っている何者かの姿を、朧げながら捉えることができた。
「あれは……『絶望卿』? 特等席で見物ということですか」
 都市の外側からこの惨劇を眺めているのは、情報にも合致する赤いフードの少女。
 この距離では表情までは分からないが――"待ち人"たる猟兵が人々を絶望から救い出す様を見て、彼女が喜んでいるであろうことは容易に想像がついた。

「住人の避難完了まで席を立たないで欲しいものです」
 声が届かないことは承知の上で、トリテレイアはそう口にせずにはいられなかった。
 今はそうして高みの見物をさせておくのも已む無しとはいえ、このまま逃すつもりなど微塵も無い。
「命弄び増やした観劇料、これ以上の計上は不可能ですので」
 かの『絶望卿』には必ずや、自らの命で『絶望』という劇の代価を支払って貰う。
 静かなる決意を胸に秘め、機械仕掛けの騎士は仕組まれた台本を覆さんと駆ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…絶望卿とは中々に面白い名前だな
望み通り、絶望に抗って見せようか…

装備銃器による豪雨のような制圧射撃で敵の動きを止める
周辺に住民が残っているようなら止めているうちに避難を促すか
別の猟兵の避難活動を助ける

…奴の顔もまともに見れやしないほどに恐ろしい…全身の震えが止まらない…これが絶望か…
…では、今度は私がお前に絶望を与える番だ

敵の瘴気が周囲に漂いだしたらデゼス・ポアを取り出しUCを発動
絶望の瘴気や振り下ろされる腕のダメージを喰らい、高速で敵に突撃し素早く強力な斬撃を何度も敵に叩き込む

お前達から受けたこの痛みは、全て奴に叩き返してやる
だから、絶望も苦痛も全てを忘れて安らかに眠れ


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

…またいっそわかりやすく目的のために手段選んでないわねぇ…
そもそもその「絶望」の元凶なヴァンパイアが何吐かしてんだって話なんだけど。

一般人の保護や避難誘導もしなきゃいけないなら、機動力が要るわねぇ。
ミッドナイトレースに○騎乗して●轢殺で高速戦闘仕掛けるわぁ。
腕の一撃はなんとか〇見切って回避したいとこだけど…瘴気が鬱陶しいわねぇ。
ゴールドシーンにお願いしてルーンの効果を強化。ラグ(浄化)とソーン(退魔)で領域を塗り潰し返して、エオロー(結界)とアンサズ(聖言)で固定しつつ○破魔の領域を形成。〇足止めしてる間に一般人には退避してもらいましょ。



「……またいっそわかりやすく目的のために手段選んでないわねぇ……」
 呆れたような口ぶりでティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は言う。絶望に抗う者――猟兵をおびき寄せるだけの為に都市ひとつを絶望に沈めようとするとは、オブリビオンとはいえ手段のスケールが常軌を逸している。
「そもそもその『絶望』の元凶なヴァンパイアが何吐かしてんだって話なんだけど」
「フン……絶望卿とは中々に面白い名前だな。望み通り、絶望に抗って見せようか……」
 完全にマッチポンプでしかない『絶望卿』の動機を吐き捨てるティオレンシアに、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)も冷笑を浮かべながら肩を並べる。
 これも敵の筋書きの通りだと言うのなら敢えて乗ってみせよう。全ての『絶望』に抗い、勝利する――そう、『絶望の集合体』も『絶望卿』も含めた、全てにだ。

「敵の動きはこちらで止める。その間に住民の避難活動を頼む」
 キリカは市街地で暴れまわる『絶望の集合体』に対して、神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"と魔導機関拳銃"シガールQ1210"による制圧射撃を仕掛ける。聖句と秘術によって強化された豪雨のごとき弾幕が、敵の進撃を食い止める。
「一般人の保護や避難誘導もしなきゃいけないなら、機動力が要るわねぇ」
 その間にティオレンシアはバイク型UFO「ミッドナイトレース」に跨り、市街に取り残された人々の捜索にあたる。【轢殺】のために磨いた操縦技術は人命救助にも遺憾なく発揮され、複雑な市街地を縦横無尽に駆け巡り、住民を救い出していく。

『ウゥゥぅぅぅぁぁァァァ……!!!』
 猟兵たちの妨害に苛立ったように唸り声を上げて、がむしゃらに腕を振り回す『絶望の集合体』。技術も知性もない乱雑な一撃などキリカとティオレンシアなら見切るのは容易いが、地面に叩きつけられた腕は周囲に瘴気を蔓延させていく。
「……奴の顔もまともに見れやしないほどに恐ろしい……全身の震えが止まらない……これが絶望か……」
 足止めのために敵の近くにいたキリカは特に、瘴気の影響を強く受けることになる。
 多くの修羅場を潜ってきた戦場傭兵すら、竦み上がらせるほどの強烈な負の感情の奔流。かの災異の攻撃は、文字通り世界を『絶望』で染め上げていくのだ。

「腕の一撃はなんとか回避できるけど……瘴気が鬱陶しいわねぇ」
 一方のティオレンシアの元にも【人の手により生み出され広がる絶望】は着実に迫っていた。敵の攻撃はミッドナイトレースの機動力を捉えられるほどでは無いが、地形そのものを侵蝕されればいずれ逃げ場を失うし、何より救出した一般人も危ない。
「ここはあなたにも手伝って貰うわよぉ」
 ティオレンシアはバイクの軌跡で地面にルーン文字を描くと、追従する鉱物生命体「ゴールドシーン」に願いをかけて、その効果を強化する。刻みつけるのはラグ(浄化)とソーン(退魔)――絶望の瘴気を祓う2文字が、領域を塗り潰し返していく。

『ウゥゥぅぅぅ……??』
 瘴気の領域が浄化されれば、その上に立つ『絶望の集合体』の力も弱体化する。
 敵の動きが鈍った隙を見逃さず、絶望の感情に耐えていたキリカが反撃に転じた。
「……では、今度は私がお前に絶望を与える番だ」
 取り出すのは呪われし「デゼス・ポア」。憎悪や悪意を糧とするかの人形は、周囲に漂う瘴気を全身で「喰らう」と、狂ったような笑い声を上げて敵に飛び掛かった。
「ヒヒヒヒヒャハハハハハ!!!!」
 全身から生えた錆びついた刃が、目にも留まらぬ速さで『絶望の集合体』を抉る。
 喰らった攻撃の量と質に応じて人形を強化する【美味礼讃】。"絶望"をその名に隠したデゼス・ポアにとって、目の前の敵はまさにこの上ないご馳走そのものだった。

「形勢逆転ねぇ」
 泥のような災異を禍々しい人形が切り刻んでいくのを見上げながら、ティオレンシアは先に刻んだ浄化と退魔のルーンをエオロー(結界)とアンサズ(聖言)で固定し、破魔の領域を形成する。これで当分は瘴気の侵入を防ぐことができるだろう。
「ここはあたしたちが足止めしてるから、今のうちにあなたたちは退避して頂戴ねぇ」
「は、はいっ。ありがとうございますっ!」
 彼女に救い出された都市の住民たちは、口々に感謝を述べながら遠くに逃げていく。
 幸いにも犠牲者はまだ出ていない。この調子ならばじきに避難も完了するだろう。

『グゥぅぅぅぅ……!!』
 『絶望の集合体』は遠ざかっていく生者の気配を追いかけようとするが、させじと立ちはだかるキリカにティオレンシア、そしてデゼス・ポア。邪魔だと言わんばかりに振るわれる腕を、呪いの人形が受け止め「喰らう」。
「キヒヒヒヒヒヒッ!!」
 "絶望"そのものを喰らったことで人形はますます力を増し、何度も高速で敵に突撃しては鋭い斬撃を叩き込む。細切れになった『絶望の集合体』の腕は泥の破片となって降り注ぎ、破魔のルーンの領域に触れると塵のように消えていく。

「お前達から受けたこの痛みは、全て奴に叩き返してやる。だから、絶望も苦痛も全てを忘れて安らかに眠れ」
 この災異を現世に引きずり出した元凶――『絶望卿』への応報を誓いながら、キリカは人形を踊らせる。ぼろぼろと斬り崩されていく『絶望の集合体』の呻きは、無理矢理に呼び覚まされた者たちの嘆きの声のようにも聞こえた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
アルマちゃんとは気が合いそうだな。ぼくも絶望に抗うお話は大好物だよ。
それじゃあ、作ろうか、そんなお話を。

なるほど、この瘴気が絶望を植え付けるのか。いいよ。そこから立ち上がるからこそ、お話は美味しくなるんだもんね。

あえて乗り込んで、強化された身体能力で白兵戦をしかけるよ。
負けないよ、この絶望を乗り越えて、ハッピーエンドを食べるためにもね。



「アルマちゃんとは気が合いそうだな。ぼくも絶望に抗うお話は大好物だよ」
 "物語"を糧とする少女、アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)はにこにこと笑いながら、この事件を引き起こした黒幕に思いを馳せる。『絶望卿』が脚本家にして演出家なら、彼女はそれを心ゆくまで味わう観客にして美食家だ。
「それじゃあ、作ろうか、そんなお話を」
 配役の1人として街に降り立った少女は、暴れまわる黒い泥のような災異と対峙する。
 その名は『絶望の集合体』。絶望に抗うお話の敵役としては、この上ない相手だ。

『アアアァぁうぅぅぅぅぅぅ……』
 『絶望の集合体』はぶんぶんと乱雑に腕を振り回し、手当たり次第に街を破壊している。そして叩きつけられた腕からは瘴気が広がり、周囲に絶望を蔓延させていく。
「なるほど、この瘴気が絶望を植え付けるのか。いいよ」
 アリスは敵の能力を把握したうえで、敢えて【人の手により生み出され広がる絶望】の領域に乗り込んだ。大気に充満する瘴気が心を蝕み、鉛を呑み込んだような重苦しい感情が胸の中で渦巻いていく――しかし彼女は表情ひとつ変えなかった。

「そこから立ち上がるからこそ、お話は美味しくなるんだもんね」
 よりドラマティックなお話を食べるためなら、自ら不利な行動を取ることも厭わない――それが【物語中毒】のユーベルコードを持つアリスの性分だった。
 ブレない己を貫くことで身体能力を強化した彼女は、絶望を植え付ける瘴気を吹き飛ばしながら、小柄な身体でパワフルに『絶望の集合体』に挑み掛かる。
「えいっ!」
『グォぉぉぉ……!?』
 ウィザードロッド型の情報端末を鈍器のように思いっきり叩きつければ、『絶望の集合体』の巨体がぐらりとよろめく。サイズ差を考えれば無謀のようにも見える白兵戦だが、"だからこそ"アリスの力はさらに増大し、一時的に巨人のようなパワーを得ていた。

『がああァァァァ……!!』
 反撃を仕掛ける『絶望の集合体』の一撃。その体躯に見合った巨腕の衝撃は小柄なアリスを吹き飛ばすが、すぐさま彼女はひょこりと起き上がって、さらに殴り返す。
「負けないよ、この絶望を乗り越えて、ハッピーエンドを食べるためにもね」
 最高のクライマックスを味わいたいという、彼女の好奇心と食欲は止まらない。
 傷ついても怯まず、一歩も退かず。巨大な『絶望』に立ち向かうという物語を盛り上げるために、アリスはその身を張って戦い続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

幻武・極
へえ、これが絶望の集合体ね。
なんだか敵の思い通りの展開みたいなのが嫌だけど、絶望の中から希望を取り出してみせるよ。

トリニティ・エンハンスで防御力を高めてから敵の攻撃を受け止めるよ。
攻撃が命中しちゃえば絶望の瘴気が増えることはないからね。
そして、炎の魔力を宿したオーラ防御が絶望の中に灯される希望に
攻撃を受け止めた際の衝撃を風の魔力で衝撃波として散らすことで生きる為の活路を作り
発散された水の魔力が沸き立つ絶望を洗い流す恵みの雨となり
人々の絶望から希望を取り出すよ。



「へえ、これが絶望の集合体ね」
 眼前に立ちはだかる黒い泥の塊のような巨大オブリビオンを見上げて、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は呟く。この災異が一つの都市を滅ぼし、人々を絶望に沈めようとしているのなら、猟兵として阻止しない訳にはいかない。
「なんだか敵の思い通りの展開みたいなのが嫌だけど、絶望の中から希望を取り出してみせるよ」
 これが『絶望卿』の筋書きに沿ったものだとしても、自分たちは必ずそれを上回る結末を作り出してみせる。彼女にはそれを成し遂げるという自信と力があった。

『うぅぅゥゥがああァァァァ……!!』
 希望に満ちた少女を疎ましそうに目を細めながら『絶望の集合体』は腕を振り上げる。【人の手により生み出され広がる絶望】の瘴気を纏ったその一撃は、たとえ回避されたとしても周囲に絶望の感情を蔓延させていく。
(なら、攻撃が命中しちゃえば絶望の瘴気が増えることはないよね)
 極は【トリニティ・エンハンス】を発動すると、炎・水・風の魔力を纏って防御の構えを取る。"最強"を追い求める過程で鍛え上げた肉体と、磨き上げた魔法拳の技術は、強大なる絶望の腕を真っ向から受け止めてみせた。

「どんなに絶望の闇が深くても、ボクが希望を照らしてみせる」
 その言葉はこの戦いを見守っている都市の住民と、目の前の『絶望の集合体』に向けたもの。炎の魔力を宿した極のオーラは、絶望の中に灯される希望となって、闇夜を明るく照らし出す。
『グウゥぅぅぅ……!!?』
 その希望を叩き潰さんとした『絶望の集合体』の腕は、直撃の瞬間に風の魔力によって衝撃を散らされる。威力が分散したことで作られた生きるための活路を極は見逃さず、巧みな体捌きで攻撃を受け流しながら敵の本体に肉迫する。

「キミたちの中にも希望が眠っているはず」
 カウンターのように突き出された掌底から発散される水の魔力。それは沸き立つ絶望を洗い流す恵みの雨となり、人々と『絶望の集合体』の頭上に降り注いでいく。
「これは……」
「なんだか、温かい……」
 悲劇的な状況に置かれていた者たちの心から絶望が消え去り、希望が取り出される。
 それは生者には今を生き延びるための活力を与え、同時に『絶望の集合体』を浄化する雨であった。

『うぁぁぁぁァァァ……!!!!!』
 苦悶の呻き声を上げながら、慈雨に打たれた『絶望の集合体』の身体が縮んでいく。
 数多の絶望の感情の堆積から生まれたオブリビオン。その中から取り出したひとかけらの希望の光を、極はしっかりと握りしめるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
重く、暗く…そして悲しい心を感じるよ…。

「怖い!」
「大きい!」
「おぞましい!」

ラン達には町の人達の避難誘導と護衛をお願い…。
わたしはアレを止めるよ…!

【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…。
そして【ソウル・リべリオン】召喚…。

呪力を込めた札で六芒星を描き、封印術式【呪詛、呪詛耐性、高速詠唱、全力魔法】を発動…。
町の人達が逃げる時間を稼ぎ、相手の力をできるだけ封じるよ…。
後は敵の神速で【ソウル・リべリオン】を振るい、破の呪詛や怨念を喰らい、自身の力に変換…。
敵の呪いや怨念…絶望の心を喰らい尽くし、浄化していくよ…。

貴方達に絶望の連鎖は引き起こさせない…。
貴方達の心…その絶望を解放する…!



「重く、暗く……そして悲しい心を感じるよ……」
 目の前に立ちはだかる『絶望の集合体』を見て、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は哀しげにそう呟いた。それは名前の通り、数多の死者たちの絶望の感情が一つになったもの。数え切れないほどのオブリビオンの犠牲者の成れの果てだ。
「怖い!」
「大きい!」
「おぞましい!」
 璃奈に付いてきたメイド人形のラン、リン、レンも、表情を曇らせてぶるりと肩を震わせる。骸の海より染み出した幾千という絶望の塊は、それを見る者に恐怖を抱かせるのに十分過ぎる存在であった。

「ラン達には町の人達の避難誘導と護衛をお願い……。わたしはアレを止めるよ……!」
「「「りょうかい!」」」
 まだ逃げ切れていない人々の救助に向かうメイドたちを背に、璃奈は【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解放。莫大な呪力のオーラを纏う九尾の妖狐に変化すると、呪札を構えて『絶望の集合体』に立ち向かう。
『ああァァァァぁぁぁ……!!!』
 泥のような黒い塊の中から浮かび上がった虚ろな瞳が、ギロリと璃奈を睨めつける。彼女はそれと目を合わせないようにしながら呪力を込めた札で六芒星を描き、絶望を封じるための封印術式を発動した。

「少しでも町の人達が逃げる時間稼ぎを……」
『ぐうウゥゥぅぅ……!!』
 媛神の莫大な呪力を込められた六芒星の呪縛が『絶望の集合体』の力を封じ込める。
 その間に璃奈のメイドたちは絶望に怯える人々を支え、安全な場所まで誘導していく。
「こっちこっち!」
「もう大丈夫!」
「絶対助かる!」
 快活なメイドたちの励ましと、単身で敵の進行を食い止める璃奈の勇姿は、ただ蹂躙されるばかりだった住民たちにとっては希望そのものだった。「ありがとう」「がんばって」と口々に声援を送りながら、彼らは無事に戦場から退避していく。

「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の者を縛る呪いを喰らい、正しき姿、正しき魂へ戻せ……。彼の魂に救済を……!」
 周辺から住民の避難が完了したのを確認すると、璃奈は魔剣【ソウル・リベリオン】を召喚し攻勢に打って出た。魔剣の媛神となった彼女の剣技は神速の域に達し、踏み込みから剣を振るう一連の動作全ては、まばたきよりも短い刹那に行われる。
『グ……アァぁぁぁぁ……っ!!!?!』
 あまりの早業に『絶望の集合体』はいつ斬られたのかすら分からなかった。かの魔剣は呪詛や怨念を喰らい力とし、呪いや怨念に縛られた者を救済する剣。怨念の集合体であるこのオブリビオンにとっては、まさに天敵ともいえる存在だった。

「貴方達に絶望の連鎖は引き起こさせない……」
 まるで神楽を舞うように、華麗で洗練された神速の剣技を振るう魔剣の媛神。呪詛喰らいの魔剣が『絶望の集合体』の呪いや怨念――絶望の心を喰らえば喰らうほど、彼女自身の力も高まり、その斬撃は鋭さを増していく。
「貴方達の心……その絶望を解放する……!」
『アァァァァぁぁぁぁぁぁ……!?!!?』
 神速の魔剣に斬り付けられるたびに徐々に小さくなっていく『絶望の集合体』。それはかの災異の中にある無数の絶望が浄化され、歪んだ心が解放されていく証だった。
 全ての魂の救済が果たされるまで、璃奈は休むことなく魔剣を振るう。救えるものがある限り手を伸ばし続ける――それが、彼女の決めた生き方だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
絶望な死か
丁度良い 遣ってみろ
死に対する恐怖等、私は持たない
人間の絶望は、竜には通じない
だが、失った記憶の手がかりと
なるかもしれない

違う 違う 此の死も違う
駄目だ まるで共感出来ん
人間の死では意味が無いか
では、もう用は無い
滅べ

約定に従い、住民を守る
重力操作による障壁を作り、抱えて無事な場所へ運ぶ
力には自信があるし、自前の翼も有る
必要なら瓦礫ごと移動させよう

敵は総て滅殺する
殴り、蹴り、引き千切り、咬み裂き、尾で薙ぐ
邪魔だ 死ね



(約定に従い、住民を守る)
 雄々しい竜の翼を羽ばたかせて、イリーツァ・ウーツェ(古竜・f14324)は夜闇の都市を翔ける。人間を害さず、オブリビオンは殺し、猟兵は補佐する――己を縛める"約定"に基づいて、彼はまだ市街に残っている住民の捜索と救助に当たっていた。
「無事ですか」
「え……えぇ」
 竜の聴覚は助けを求める者の声や鼓動を決して聞き逃さず、人には動かせない障害物も竜の膂力なら簡単に持ち上げられる。瓦礫の下にいた住民を助け起こした彼は無感動で平坦ながらも礼儀作法に則った態度で、その安否を確かめた。

「では、無事な処まで御送り致します」
「は、はい……ひゃっ!?」
 イリーツァはひょいと住民の身体を抱えると、重力操作による障壁を張りながら空を飛ぶ。相手は驚いているが、彼にとってはこれが最も安全かつ迅速な護送手段だ。
 まだ敵の攻撃が及んでいない場所まで救助した人間を運ぶと、すぐに次の要救助者を探し。人数が多いときは瓦礫ごと持ち上げて運ぶなど、竜の力を遺憾なく発揮する。
 そうして何人もの住民を救出してきたイリーツァであったが――その行動が敵の目をいつまでも引かぬ訳がなく、気付けば『絶望の集合体』がすぐそこに迫っていた。

「絶望な死か。丁度良い、遣ってみろ」
 只人であれば恐れずにはいられないであろう、おぞましき異形のオブリビオンを前にして、イリーツァは不敵にもそう言い放った。剛毅朴訥に固められたその表情に、鋭く細められたその目つきに、絶望を恐れる様子などは微塵もない。
(死に対する恐怖等、私は持たない。人間の絶望は、竜には通じない。だが、失った記憶の手がかりとなるかもしれない)
 古竜の中でただ1人、神隠しによって滅びを免れた彼の失われた過去を知る者は、もはや現世にはいないだろう。しかし"死"ならば何かの切っ掛けになるやもしれない――そう考えたが故に、彼は絶望的な死の体験に敢えて身を晒そうというのだ。

『ウゥゥぅぅうぅ……』
 『絶望の集合体』は不気味な呻き声を上げながら、虚ろな瞳をイリーツァに向ける。
 【過去はその瞳で何を見たのか】。目が合った瞬間、幾千という膨大な死の記憶が、彼の心に叩きつけられる。
「違う 違う 此の死も違う」
 絶望的な死を幾度も疑似体験させられながら、しかしイリーツァは難しい表情で首を振るのみ。飢えで死んだ者、病で死んだ者、圧政に殺された者、理不尽な暴力に殺された者――どんな人間の死の体験も、竜である彼の心を震わせるものでは無い。

「駄目だ、まるで共感出来ん。人間の死では意味が無いか」
 それが無為な試みであったと悟ったイリーツァは、重く小さな溜息をひとつ。
 幾千の絶望の死が彼の心に与えたものは、たったひとつの溜息だけであった。
「では、もう用は無い。滅べ」
 淡々とした宣言と共に、古竜の身体は重力操作によって再び空に舞い上がる。
 用済みとなればオブリビオンは殺す。それもまた彼の"約定"のひとつだ。

(敵は総て滅殺する)
 暴風を巻き起こして急接近したイリーツァの猛攻が、『絶望の集合体』を打ちのめす。
 殴り、蹴り、引き千切り、咬み裂き、尾で薙ぐ。単純極まりない力技だが、彼にとって最も強力な武器とは剣でも弓矢でも銃でもなく、竜の暴威を宿した己の肉体である。
 戦威《孤坤武走》により強化された彼の五体は、文字通りあらゆる障害を破壊する。
「邪魔だ 死ね」
 冷徹な言葉と共に振り下ろされた竜の腕が、巨大なオブリビオンを地に叩きつける。
 絶望さえもねじ伏せる圧倒的な暴威は、正にこれこそが竜であると体現するようであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒城・魅夜
希望の繋ぎ手、希望の依代たる私の前で希望を弄び蔑む愚か者
悪夢の底でその蒙昧を久遠に嘆くがいいでしょう

我が身を斬り裂き血を噴きださせその血を胡蝶へと化します
蝶たちは戦場を覆い、夢を見せるでしょう――住民の皆さんにね
普段は悪夢を見せるこの蝶ですが今は心安らかな夢を
パニックにもならず、茫然自失もせず
夢遊病のように静かに整然と彼らは避難していくでしょう

同時に、胡蝶たちの鱗粉は「集合体」を侵食し崩壊させていきます
攻撃など通じません
幾千の死?
ふふ、その数万倍の死さえ私は悪夢の中で味わいました

ですが、むざむざ攻撃を受けることもありませんね
要は目を合わせなければいいだけ

ええ、先ほど私が切り裂いたのは
私の眼です



「希望の繋ぎ手、希望の依代たる私の前で希望を弄び蔑む愚か者」
 凍えるような冷たい怒りを瞳にたたえ、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は何処かで見ているであろう『絶望卿』に宣告する。希望の何たるかをまるで理解せぬままに絶望ばかりを撒き散らすその所業は、彼女にとっては到底許せるものではなかった。
「悪夢の底でその蒙昧を久遠に嘆くがいいでしょう」
 かの愚者が呼び寄せた『絶望の集合体』が都市を破壊する様を見て、彼女は「呪いと絆」の鎖を取り出し、先端に付いた鈎で我が身を切り裂く。噴き出した血は空中で無数の真紅の胡蝶と化し、戦場となった都市を羽ばたいていく。

(普段は悪夢を見せるこの蝶ですが、今は心安らかな夢を)
 【滅びの日、最期に舞うもの、紅き翅】。魅夜の放った胡蝶はまたたく間に都市の全域を覆い尽くすと、まだ残っていた住民たちに夢を見せる。『絶望の集合体』という脅威に対してパニックにもならず、茫然自失もせぬように、恐怖を和らげる夢を。
「ふぁ……なにこれ……」
「すごく……いい気分……」
 夢に囚われた人々はまるで夢遊病のようにぼんやりとしたまま、胡蝶の羽ばたきを追って静かに整然と避難を始める。本来ならば悪夢で精神を破壊する技でも、使いようによっては此のように、人々の心と命を救うための技ともなり得るのだ。

『ウゥゥぅああァァァァァ……ッ!!!!』
 他方に耳を傾ければ、身悶えする『絶望の集合体』の苦しげな呻き声が聞こえてくる。
 蝶の群れは人々に夢を見せるのと同時に、翅から撒いた鱗粉で敵を攻撃していたのだ。
「肉も鋼も魂までも朽ち果てよ、終焉の赤き闇夜今来たれり」
 歌うような魅夜の宣告の通り、真紅の胡蝶の鱗粉は触れたものを侵食する。粉雪のように舞い散る終焉の赤に巻かれた『絶望の集合体』は、その末端から徐々に崩壊を始めていた。

『がアァァァァァァァ……ッ!!!』
 鱗粉の渦の中で悶え苦しみながら、『絶望の集合体』は虚ろな瞳を魅夜に向ける。
 ひとたびそれと目を合わせてしまえば、幾千という絶望的な死の疑似体験に襲われることになる――だが彼女はそれを知りながら、まるで恐れていない様子だった。
「幾千の死? ふふ、その数万倍の死さえ私は悪夢の中で味わいました」
 "悪夢"の一部であったかつての自分が体験した、恐怖・悔恨・悲嘆の数々。それと比べればたかだか幾千程度、鼻で笑えるようなもの。それしきの絶望が自分の心を揺るがす事は無いという確信が彼女にはあった。

(ですが、むざむざ攻撃を受けることもありませんね。要は目を合わせなければいいだけ)
 魅夜は既にそのための対策を行っていた。具体的にいつかと言えば、【滅びの日、最期に舞うもの、紅き翅】を発動するために鈎で我が身を切り裂いた、あの時に。
 目を合わせようとした『絶望の集合体』も、ようやく気付く。彼女は最初からこちらを"視て"おらず――その両目からは涙のように真っ赤な血が流れ落ちているのに。

「ええ、先ほど私が切り裂いたのは、私の眼です」
 自分の視力を封じてしまえば、敵と目が合うこともない。確かに有効だが余りにも大胆で、痛みを伴うその攻略法を、魅夜が迷いなく実行したのは覚悟の表れだろうか。
 希望を蔑み弄ぶ存在を、彼女は絶対に許さない。盲目ながらもその瞳からは刺すような激しい怒りと殺意が感じられ――その意を示すかのように、紅蝶の鱗粉は止むことなく、『絶望の集合体』を崩壊させていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御狐・稲見之守
やれやれ群竜大陸帰りだと云うのに、猟兵に休みなしか。避難誘導や人払いは済ませておくが、逃げ遅れた者は霊符を用いた[オーラ防御]の結界を張っておこう。敵さんの目的が我らならば尚のこと住人の被害はないものにしたい。

ほう、邪視を使うか。面白い、ならば我が死を見せておくれよ。[狂気耐性]を以て我の『絶望な死』とやらを拝んでみようじゃァないか。

――――。

――。

うむ、飽きた。

適当なところで疑似体験を切り上げて、奴さんには[UC狐火]でお暇願おう。骸の海より染み出した負の情念ゆえ打ち倒すのに気を病むこともないが、この炎を彼奴らへの送り火とす。



「やれやれ群竜大陸帰りだと云うのに、猟兵に休みなしか」
 帝竜戦役の勃発から領主への就任と、慌ただしい日々を過ごしていた御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)は、落ち着く間もなく舞い込んできた事件に溜息をつく。
 とはいえ彼女も猟兵の1人としてやることに手抜かりはない。仲間が住民を避難させるのに合わせて敵の周囲から人払いを済ませておき、逃げ遅れた者を見つければ霊符で結界を張るなど、被害を最小限に抑えるために尽力している。

「敵さんの目的が我らならば、尚のこと住人の被害はないものにしたいでな」
 『絶望卿』が猟兵をおびき寄せるためにこの事件を引き起こしたのであれば、巻き込まれただけの住民に犠牲が出るのは後味が悪い。幸いにも稲見之守を含む猟兵達の尽力によって、負傷者こそ出ているものの死者はゼロ人に抑えられている。
「ほれ、ここは危ないから、はよう向こうへ行くがよい」
「あ、ありがとう……あなたも気をつけてね!」
 お守り代わりに結界の霊符を持たせて、逃げていく住民にひらひらと手を振って見送り。さて、と振り向いた先には、おぞましい瘴気を纏った『絶望の集合体』がいる。
『ウゥゥぅぅぅ……』
 当初は塔のようだったその巨体も、負傷によって相当小さくなったように見える。だがその身に宿した負の感情は今だ尽きぬようで、獲物を求めて視線を彷徨わせている。

「ほう、邪視を使うか。面白い、ならば我が死を見せておくれよ」
 からかうような調子で声をかけると、『絶望の集合体』の虚ろな瞳が稲見之守を見る。
 目を合わせた者に幾千の死を疑似体験させる【過去はその瞳で何を見たのか】。果たしてその"死"とは如何なる程度のものかと、彼女は自分から敵と目を合わせにいく。
「我の『絶望な死』とやらを拝んでみようじゃァないか」
 金銀の双眸と虚ろな瞳が互いを見つめ合った瞬間、稲見之守の意識は虚空へと引きずり込まれる。それは夢を見ているのに近いが、それよりもっと実感を伴った、痛みさえ感じるほどの"記憶"の領域だ。

 ――家族を吸血鬼の贄にされ、叛逆の咎で首を刎ねられて死んだ。

 ――重税を課せられ明日のパンすら失い、骨と皮だけになって死んだ。

 ――愛する者に裏切られ、嘲笑と罵倒の中で不名誉に塗れて死んだ。

 ――人としての尊厳を奪い去られ、家畜として屠られるように死んだ。

「――――」
 ひとつの死を迎えれば、またすぐに次の死の体験が始まる。いつ終わるとも知れない惨劇の数々は全て、あのオブリビオンに宿る絶望の記憶を元にしたものなのだろう。
 稲見之守はその疑似体験を、当初はただ黙したまま身を任せているだけだったが――。

「――うむ、飽きた」

 ふいに燃え上がる紅蓮の【狐火】。適当なところで死の疑似体験を切り上げて、現実に戻ってきた稲見之守の様子は、瞳術に掛かる以前とで何ら変わっていなかった。
 今は童女の姿とはいえ、永き歳月を通じて酸いも甘いも噛みしめてきた仙狐にしてモノノ怪神にとっては、たかだかヒトの記憶による『絶望な死』は薄味に過ぎたか。
「では、そろそろお暇願おうか」
 疑似体験を破られ動揺する『絶望の集合体』に、八十個の狐火が一斉に襲い掛かる。
 骸の海より染み出した負の情念ゆえ打ち倒すのに気を病むこともないが、それでも滅ぼすのに火を用いるのは、彼女からのせめてもの手向けである。

「この炎を彼奴らへの送り火とす」
 骸の海より現れし怨念たちを再び骸の海へと送り返す、霊験宿りし妖狐の炎。
 赫々たる焔に包まれた『絶望の集合体』の悲鳴が、闇夜の都市に木霊する。
 その巨体が燃え上がる様は、まるで天へと魂を昇らせる、篝火のようにも見えた

成功 🔵​🔵​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
絶望?
えぇ、知っています
ボクはずっと絶望のなかにいたのだから
死ねない殺してもらえない
終わらなかった絶望

こんなものボクたちが飲み干してみせましょう
【空想音盤:終末】で災禍の狼を喚び出す
逃げる住人を背後に庇い
魔狼の背でボクの感情を、歌を彼に捧げましょう

ボクの魔狼
あそこにあるのは絶望が形を得たもの
絶望という死を振り撒くもの
あれにボクたちの絶望を喰らわせてやりましょう
ボクたちが絶望に終わりを与えてやりましょう

拡がる絶望は火焔で燃やし
本体を喰らい尽くす

「死」は「終わり」です
絶望の終わりです
ボクたちはそれを与えられなかったもの
終わりを知らない
だから「死」というまやかしに惑わされはしない

アドリブ歓迎



「絶望? えぇ、知っています。ボクはずっと絶望のなかにいたのだから」
 どんなに目を凝らしても見通せない、闇よりも昏くて深い泥のようなもの――目の前に立ちはだかるその災異は、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)の心の中にあったものと確かに同じ。だが、決定的に異なる点もあった。
(死ねない殺してもらえない、終わらなかった絶望)
 あの『絶望の集合体』を形作るものが"終わりの絶望"なら、彼女の味わったものは対極だ。だからこそアウレリアは恐れはしない。それがどんなに巨大な絶望だろうとも。

「こんなものボクたちが飲み干してみせましょう」
 腹部に刻まれた冤罪の刻印「Punishment」をなぞり、アウレリアが奏でるのは【空想音盤:終末】。蒼い火焔を巻き上げて、災禍の魔狼『フローズヴィトニル』が顕現する。
「ここから先へは行かせない」
 絶望から逃げていく住民たちを背後に庇い、フローズヴィトニルの背に跨った彼女は自らの感情と歌を彼に捧げる。神さえも喰らい尽くすかの魔狼に力を貸して貰うためには、相応の対価が必要であるために。

「ボクの魔狼。あそこにあるのは絶望が形を得たもの、絶望という死を振り撒くもの」
 虚ろな瞳でこちらを見つめながら近付いてくる敵を指差してアウレリアは歌う。それは幾千という絶望の死が骸の海より滲み出したもの。"数"のうえでは圧倒的だが、しかしそんなものは恐るるに足らないとばかりに力強く。
「あれにボクたちの絶望を喰らわせてやりましょう。ボクたちが絶望に終わりを与えてやりましょう」
 ただ不吉というだけで捕らわれ、蔑まれた者同士。終わるはずの処で終われなかった者の絶望を見せてやろうと――白黒のオラトリオの呼びかけに魔狼は応え、高らかな遠吠えと共に駆けだした。

『グウウゥゥぅ……ッ』
 近付いてくる1人と1頭を捉えた『絶望の集合体』は、虚ろな瞳で彼女らを睨みつけながら腕を振り回す。撒き散らされる瘴気をフローズヴィトニルは蒼焔で焼き尽くしながら、敵の本体に向かって一直線に駆けていく。
「『死』は『終わり』です。絶望の終わりです」
 虚ろな瞳とまっすぐに視線を合わせながらアウレリアは語る。脳裏に叩きつけられる絶望的な『死』の追体験も、彼女の心を惑わすことはできない。どれだけ悲劇的な末路であろうとも、その絶望は既に『終わり』を迎えたものだから。

「ボクたちはそれを与えられなかったもの。終わりを知らない。だから『死』というまやかしに惑わされはしない」
 死ぬことさえ許されなかったふたりの魂が、幾千という『死』の絶望を凌駕する。
 終わることのない絶望は、皮肉にもふたりに揺らぐことのない礎と、研ぎ澄まされた牙を与えた。そして今、鍛え上げられた力は絶望にすら終わりをもたらす。

「奏でよう、幻想の中の終末を」

 猛然と飛び掛かったフローズヴィトニルが、『絶望の集合体』に牙を突き立てる。
 神さえ呑み込む牙が、幾千の嘆きを、苦しみを、死を、絶望を喰らい尽くしていく。
『ギいいぃぃィィィィィィ……ッ!!!!?!』
 のたうち回る災異の悲鳴が戦場に響く。それでも災禍の魔狼は決して獲物を放さない。
 それは絶望を喰らう絶望。まさに幻想に謳われし世界終末の光景の再演であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
戦争が終わって帰ってきたら早々にこんな相手なんて…!
厄介なのをけしかけてくれたわね!

【ブラッディ・フォール】で「世界樹イルミンスールの決戦」の「帝竜ヴァルギリオス」の姿(魔力で帝竜の姿を再現構築し、外殻として纏った姿)へ変化。
雪花や他の猟兵、逃げる人々に【スペクトラル・ウォール】を展開して防御しつつ、避難誘導は任せて迎撃に徹するわ。
【ヴァルギリオス・ブレス】で敵を粉砕・押し戻し、【完全帝竜体】による肉弾戦で敵を全力で迎撃・撃滅するわ

都市への被害を考えなくて良いのは正直ありがたいわ…この力、巨体と流石に強力過ぎて細かい制御が…!
消耗も大きいわね…でも、ここは通さない。消え失せなさい!!


鏡島・嵐
――多くの苦悶を見た。
――多くの悲憤を見た。
――多くの、絶望を、見た。

視線が合った瞬間、流れ込んでくる“死”のイメージ。
それは戦うのが怖ぇおれにしてみれば、目を背けたくなるほど悍ましい――。
……って、莫迦かおれは……! あんな悪ィ夢に呑まれて、どうすんだ!

なけなしの〈勇気〉と〈覚悟〉を振り絞って、そのイメージを跳ね除ける。
悪ィ夢は、道化の凱歌が笑い飛ばす。
〈援護射撃〉でも何でも撃って、他の味方がアイツらを退ける道を作る。
自分と関わりの無いところで絶望に堕ちた人は、おれには救えない。
だからせめて、悪夢がこれ以上長引くことの無ぇように、全力を尽くす。
それが、何も出来ねえおれの、せめてもの意地だ。



「戦争が終わって帰ってきたら早々にこんな相手なんて……! 厄介なのをけしかけてくれたわね!」
 帝竜戦役の余韻も冷めやらぬうちに、故郷であるダークセイヴァーで起こった事件にフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は憤りを隠せなかった。
 都市を襲うは漆黒の異形『絶望の集合体』。ただ猟兵をおびき寄せるためにしては厄介に過ぎるオブリビオンだ。対応が早かったから良かったものの、もし到着が遅れていたらどれほどの犠牲が出ていたことか。

「あれが、絶望の集合体か……」
 猟兵を相手に市街地で暴れまわる、巨大な災異を目の当たりにした鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の声は微かに震えていた。命のやり取りをする戦いに対する強い恐怖心を抱く彼にとって、今回の敵は格段に"やりづらい"相手と言えるだろう。
「……それでも、やらなきゃな」
 その場に居付きそうになる両脚を叩いて、お手製のスリングショットに弾丸を込めて。恐怖心に負けないよう勇気を絞り出そうとしたその時、『絶望の集合体』がこちらを向いた。

「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
 相手の敵意を察知した瞬間、フレミアは【ブラッディ・フォール】を発動。その身からあふれ出した膨大な魔力が外殻となって「帝竜ヴァルギリオス」の姿を形作った。
 同時に展開されるのは【スペクトラル・ウォール】。8つの属性で構成された3重のバリアが彼女の周囲に展開され、仲間と避難中の住民たちを守護する。
『ウゥゥぅぅがアァぁぁぁぁ……ッ!!!』
 ごうっと唸りを上げて叩きつけられる絶望の腕。しかしその一撃はバリアを砕くことはできず、逆に腕のほうが猛毒、炎上、凍結の侵食を受ける。かの最強の帝竜が駆使したユーベルコードの力は、そう簡単に破れるものではない。

「ここはわたしが抑えるから、住民の方は雪花や皆に任せるわ」
「はいなの、おねぇさまー」
 フレミアの眷属である雪女見習いの「雪花」はこくりと頷くと、既に誘導に当たっている猟兵たちと共に、住民の避難を助けに向かう。『絶望の集合体』は腕が傷つくのも厭わずバリアに猛攻を加えているが、現状なら暫くは持ち堪えていられそうだ。
「貴方も手伝って……ちょっと、どうしたの!」
 スペクトラル・ウォールを維持しながら視線を下に向けたフレミアは、凍りついたように動かないでいる嵐に気付く。彼は『絶望の集合体』と目が合ってしまった瞬間、流れ込んでくる"死"のイメージに囚われ、恐怖に身が竦んでしまったのだ。

 ――多くの苦悶を見た。
 ――多くの悲憤を見た。
 ――多くの、絶望を、見た。

 それは、何よりも戦いを怖れる嵐にしてみれば、目を背けたくなるほど悍ましい体験。
 幾千もの死を味わった彼の意識は、そのまま絶望に沈んでいくかに思われたが――。
「……って、莫迦かおれは……! あんな悪ィ夢に呑まれて、どうすんだ!」
 なけなしの勇気と覚悟を振り絞って、そのイメージを跳ね除ける。全身は冷や汗でびっしょりと濡れて、顔色は死人のように真っ青だが、その瞳はまだ死んではいない。

「危ないところだったようね」
「悪ぃ、もう大丈夫だ!」
 放心状態の間もバリアで護ってくれていたフレミアに感謝を伝えると、嵐は改めてスリングショットを引き絞りながら【笛吹き男の凱歌】を発動する。召喚された道化師が奏でる軽快な演奏と陽気な歌が、『絶望の集合体』がもたらす悪夢を笑い飛ばす。
(援護射撃でも何でも撃って、他の味方がアイツらを退ける道を作る)
 魔笛の響きに合わせて放たれたスリングの弾丸は、狙い過たずの標的の目に的中した。目潰しを食らった『絶望の集合体』がたまらず仰け反った瞬間を逃さず、これまで迎撃に徹してきたフレミアが反撃に転じる。

「喰らいなさい!」
 八つ首の外殻から一斉放射される【ヴァルギリオス・ブレス】。炎水土氷雷光闇毒の8属性からなる破壊の奔流が『絶望の集合体』の巨体を粉砕し、押し戻していく。
 さらにフレミアは【完全帝竜体】を発動し、8属性の力で自らを強化しながら肉弾戦で畳み掛ける。ヴァルギリオスの能力を見事にものにしていながらも、その表情は決して余裕のあるものでは無かった。
「都市への被害を考えなくて良いのは正直ありがたいわ……この力、巨体と流石に強力過ぎて細かい制御が……!」
 流石にオブリビオン・フォーミュラの力は並のオブリビオンとは格が違うようで、制御しきれていない力の余波が周辺の建物や街路を破壊していく。被害がそれだけで済んでいるのは、住民の避難に尽力した多くの猟兵たちのお陰だろう。

「消耗も大きいわね……でも、ここは通さない」
 力のコントロールに苦慮しながらも、全力で敵を撃滅せんとするフレミア。そんな彼女を援護すべく、嵐もスリング弾を連発しながら【笛吹き男の凱歌】を奏でる。
「自分と関わりの無いところで絶望に堕ちた人は、おれには救えない。だからせめて、悪夢がこれ以上長引くことの無ぇように、全力を尽くす」
 この都市の人たちも、そして『絶望の集合体』と成り果ててしまった数多の死者たちも、もう悪夢を見ないで済むように――道化師の演奏はいつしか凱歌から子守唄へと変わり、慈しむような優しい調べで聴衆の心から絶望を遠ざけていく。

「それが、何も出来ねえおれの、せめてもの意地だ」
 今も身体はガタガタと震えている。けれどもう凍りつくことはない。怖くてもぐっと歯を食いしばって、格好がつかなくても踏み留まる。そんな嵐の放つ"勇気"の弾丸は、"絶望"の具現である標的を貫き、これまでにないダメージを与えた。
「グぎぃぃぃィィィッ!!!?!」
 絶叫を上げてのたうち回る『絶望の集合体』。そこに間髪入れずフレミアの操る八つ首が喰らいつき、防ぎようのない零距離から【ヴァルギリオス・ブレス】を叩き込む。
「これが最後の一撃よ……消え失せなさい!!」
 目も眩むほどの8色の閃光が、闇夜に包まれた都市をまばゆく照らし。絶大なるブレスの奔流に呑み込まれた『絶望の集合体』は、声もなく彼方へと吹き飛ばされていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
「茶が美味いのぉ」
絶望の集合体をちゃぶだい向かいに茶を飲み座っている。
「好き嫌いはよくないわ。絶望の集合体としてはどうかと思うのよ」

あら、つかぬ事を聞くけど、もしかして戦闘?
「みぎゃー!ほら、(敵にスパーン)もう始まってるわよ!」
敵を巻き込んで、勝手にてんてこ舞い。

「…ぜぇぜぇ…貴方の瞳にサンダーボルト!」
ちゃぶだいの上で、何か疲れているハリセン女が叫んだ。
「ハリセンパンチ、ハリセンキック!」
カビパン達はちゃぶだいをバックにハリセンでどつきあった。
その後、ノリについていけない絶望の集合体はぶっ倒れお互いの健闘(コント)を称えあった。

このギャグこそが相手にとっては絶望の塊なのかもしれない。



「茶が美味いのぉ」
 地べたに敷いた座布団の上に座って、ずずず、と湯呑みを傾けるカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)。一体どこから持ってきたのだろう、丸いちゃぶ台の前で一服する彼女は、まるでここが戦場だと知らないような落ち着きぶりだった。

「好き嫌いはよくないわ。絶望の集合体としてはどうかと思うのよ」
 カビパンが声をかけた相手は、ちゃぶ台の向かいに座っている『絶望の集合体』。猟兵との戦いで吹き飛ばされたソレは、たまたまここに転がって来ていたようだ。
 当然ながら口すらないソレが茶など出されても、好き嫌い以前に飲めるわけもなく、泥のような肉体にある器官は虚ろな瞳だけ。その眼差しは今、困惑に満ちていた。

「あら、つかぬ事を聞くけど、もしかして戦闘?」
 何も手をつけないままじっと睨んでくる『絶望の集合体』としばし向かい合った後、はたと気がついたように首を傾げるカビパン。辺りを見れば街はすでに戦場と化しており、戦闘の痕跡がそこかしこに刻まれている。そこでようやくハッとなった彼女は「女神のハリセン」を持って立ち上がり、ちゃぶ台に足をかけて(行儀悪い)。
「みぎゃー! ほら、もう始まってるわよ!」
 敵にスパーン。勝手にてんてこ舞いしている【ハリセンで叩かずにはいられない女】に巻き込まれた『絶望の集合体』は、何が何やら分からぬまましばき倒される。

「……ぜぇぜぇ……貴方の瞳にサンダーボルト!」
 ちゃぶ台の上で、何故か疲れているハリセン女が叫んだ。恐らく敵の【過去はその瞳で何を見たのか】にかけたギャグなのだろうが、センスが斜め上を行っている。
 カビパンとてまさかマジで戦いが始まっているのに気付いていなかった訳ではないだろう。ないと信じたい。彼女のユーベルコードはボケやツッコミによって相手を自分のペースに合わせたギャグの世界に引きずりこむ能力。つまりここはもう独壇場だ。
『ウウぅぅぅぅぅぅ……!!』
 よく分からないままシバかれた『絶望の集合体』は当然ながら反撃する。ブンブンと振り回される黒泥の腕と、カビパンはハリセン一本を武器にしてどつきあう。普通に見ればまず勝ち目は無いが、自らのギャグ空間に完全適応したハリセン女はしぶとい。

「ハリセンパンチ、ハリセンキック!」
 ちゃぶ台をバックにどつきあったカビパンたち。熾烈(?)な戦いの果てに、先に音を上げたのは、彼女のノリについていけなかった『絶望の集合体』のほうだった。
『グウゥゥぅぅぅぅぅ……』
 ばたり、とぶっ倒れた黒い泥の塊を見て、カビパンもハリセンを握りしめたまま大の字に倒れる。そして清々しい表情でお互いの健闘(ギャグ)を称えるのであった。
「ふっ……なかなかやりますね、あなたも……」
『グゥ……』
 わけわからん、と諦め気味の『絶望の集合体』。ソレにとってはカビパンのギャグこそが、自らの理解が及ばない『絶望』の塊だったのかもしれない――ある意味で。

成功 🔵​🔵​🔴​

シェーラ・ミレディ
絶望を希望に変えるのが猟兵の仕事……とはいえ、それを狙われるとはなぁ。
生憎だが、僕らが胸に抱くのは易々と砕かれるようなものではない。
今から証明して見せようじゃないか!

街中ならば、無機物など無数にあるだろう。『艶言浮詞』で精霊たちを呼び出し、敵を抑え込んで一般人が逃げられるよう時間を稼ぐ。
「ここは僕に任せて、早く逃げろ!」とか、大声で言えば従ってくれるだろう。

しかし、あまり長時間抑え込めるものでもない。倒さねば被害が増える一方だ。
視線を合わせるとまずいらしいが……何、これだけ広がっていれば、見ずに撃っても当たるとも。
僕の精霊銃で、絶望を焼き払ってくれよう!

※アドリブ&絡み歓迎


フォルク・リア
絶望の集合体の瞳を見ない様に注意し
周辺を観察し避難路を確保。
住民に助けに来た事を知らせ
不浄なる不死王の軍勢を発動。
召喚した魔物や死霊に自分と住民を保護させて
絶望の集合体と戦わせる。
「この魔物は敵じゃない。
みんなを守らせるから一緒に避難してくれ。」
と言うと共に住民には絶望の集合体の瞳を見ない様に
呼びかける。
極力魔物、死霊を壁として敵とは近づかず。
傷を受けユーベルコードが解除されたら
住民に危険が及ぶ事を念頭に
魔物や街の建造物に隠れ戦闘を避ける。

「ただ自分の望む瞬間を目にするためだけに
人々の命を犠牲に…いや、奴にとっては犠牲と言うほど
重いものでもないのだろう。」
こんな凶行はこの場限りで終わらせる。



「絶望を希望に変えるのが猟兵の仕事……とはいえ、それを狙われるとはなぁ」
「ただ自分の望む瞬間を目にするためだけに、人々の命を犠牲に……いや、奴にとっては犠牲と言うほど重いものでもないのだろう」
 破壊されていく都市、逃げまどう人々、そして『絶望の集合体』。希望を見たいがために絶望をもたらす悪鬼の所業を目の当たりにして、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)とフォルク・リア(黄泉への導・f05375)は忌々しげに語る。
 この惨状が、自分たち猟兵をおびき寄せるために引き起こされたものだと言うのだから、気分がいい筈もない。ましてやオブリビオン風情に試されているのも業腹だ。
「生憎だが、僕らが胸に抱くのは易々と砕かれるようなものではない。今から証明して見せようじゃないか!」
「ああ。こんな凶行はこの場限りで終わらせる」
 今もどこかで様子を見ているのであろう『絶望卿』への宣戦布告の意も込めて。2人の猟兵は決してこの場から犠牲を出すまいと、住民の保護と避難誘導の為に奔走する。

「偉大なる王の降臨である。抗う事なかれ、仇なす事なかれ。生あるものに等しく齎される死と滅びを粛々と享受せよ」
 死霊術の秘奥書「エンドオブソウル」を手に、フォルクが喚び出したのは【不浄なる不死王の軍勢】。禍々しい杖を携えた骸骨姿の不死王を筆頭に、無数の死霊とそれを喰らう魔物の群れが戦場に現れる。
「街中ならば、無機物など無数にあるだろう。おいで、僕に手を貸してくれ」
 同時にシェーラは【彩色銃技・口寄せ・艶言浮詞】を発動。無邪気に戯れる精霊たちを呼び寄せ、破壊された家屋の瓦礫や街路の石畳などの無機物に憑依させることで、実体を与えて使役する。

『うぐウゥゥぅぅぅぅぁァァァっっ!?』
 フォルクとシェーラが喚んだ死者と精霊の大群は一斉に『絶望の集合体』に戦いを挑む。敵の進撃が抑え込まれている間に、彼らは残っている住民たちに避難を呼びかけた。
「この魔物は敵じゃない。みんなを守らせるから一緒に避難してくれ」
「ここは僕らに任せて、早く逃げろ!」
 当初は突然現れたソレに戸惑いと恐怖を感じていた人々も、それが街を破壊する災異と戦っている姿を見れば味方だと理解したようだ。大声で叫ぶ猟兵たちの言葉に従い、魔物と精霊に護られながら、急いで『絶望の集合体』から遠ざかっていく。
「あ、ありがとうございますっ」
「この恩は絶対に忘れません!」
 住民からすれば天災のように突然訪れた脅威に対して、颯爽と駆けつけ人々を守るために戦う猟兵たちの姿はまさに希望そのものだった。多くの声援と期待の眼差しを残して、彼らは安全な場所まで離れていく。

「避難路は確保してある。逃げている間は絶対に瞳を見ない様に注意してくれ」
 事前に周辺の観察を行っていたフォルクは、予め住民が避難するための安全なルートを把握していた。【過去はその瞳で何を見たのか】に掛からないよう警戒も促しつつ、自らも極力魔物、死霊を壁として敵に近付かないようにする。
(俺が傷を受けユーベルコードが解除されたら、住民に危険が及ぶ)
 不死王の軍勢の召喚中は、彼自身は戦闘に参加することはできない。敵の足止めから住民の保護にと奔走する魔物たちを維持するために、物陰に隠れて標的にならないよう立ち回っていた。

「しかし、あまり長時間抑え込めるものでもない。倒さねば被害が増える一方だ」
 一方で本人の戦闘に制約のないシェーラは、敵の注意をフォルクや住民たちから逸らすためにも率先して精霊たちと共に攻撃に加わっていた。流れるような動作で愛用の精霊銃を抜き放ち、瞬時に狙いを定めてトリガーを引く。
「視線を合わせるとまずいらしいが……何、これだけ広がっていれば、見ずに撃っても当たるとも」
 軽快な発砲音と共に放たれた弾丸は全弾過たず標的を捉え、精霊の力で絶望を焼く。苦痛に身を捩らせた『絶望の集合体』がギロリとシェーラを睨むが、彼は目を瞑りながら飄々とした表情で銃口を向け返す。

「僕の精霊銃で、絶望を焼き払ってくれよう!」
 花火のようなマズルフラッシュが夜闇を照らし、『絶望の集合体』に風穴を開ける。
 シェーラの勇姿に合わせて精霊たちも踊るように戦い、炎、風、水、土――様々な属性の力を振るって巨大な敵を押し返していく。
「住民の避難は順調のようだ。もう暫く持ち堪えてくれ」
 物陰から戦況を確認するフォルクも、不死王の軍勢を指揮してシェーラたちの戦いを援護する。魔物の牙が敵に喰らいつき、死者の怨念の塊であるソレを貪っていく。

『グがアァァァァァァ……ッ!!!!!』
 猟兵と死霊と精霊の猛攻を受けて、堪らず絶叫する『絶望の集合体』。当初は都市を覆い尽くさんばかりだったその威容も、今は弱まり、街区の一角に追い込まれていく。
 防衛戦が終結に向かいつつあるのを感じながら、シェーラとフォルクは油断なく――むしろ警戒を強めながら戦いを続ける。この『絶望の集合体』を猟兵が撃破した時、必ず仕掛けてくるであろう『絶望卿』の動きに備えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
覚悟は出来てる
猟兵になってしまった時にこういう時がいつか来るって
だから、駄目だよ
絶望なんて――させない、絶対に

敵に見つからない様なるべく闇に紛れながら
障害物に足を獲られない様空中浮遊し
逃げ遅れた人たちを探して手を繋ぐ

大丈夫、皆、助けるから……
せめて逃げる人達の光りになれる様に
偽りの死のヴィジョンなんてかに負けない様に
怯える人たちを鼓舞して、精一杯の祈りを
【生まれながらの光】――怪我をしている人達を助ける為に

諦めないわ
高速詠唱全力魔法の風で障害物を吹き飛ばして
皆が逃げる為の道を作る
立ち向かう姿が美しい、ですって
そんな事の為に、誰かの命を脅かす事
そんな醜い願いの為に、皆生きてる訳じゃない……から!



(覚悟は出来てる。猟兵になってしまった時にこういう時がいつか来るって)
 きゅっと唇を引き結びながら、セシリー・アリッサム(焼き焦がすもの・f19071)は破壊された都市を翔ける。この惨状は自分たちをおびき寄せるために引き起こされたもの――猟兵として戦い続けていれば、敵がいずれこうした手段に訴えてくるのは分かっていたことだ。
(だから、駄目だよ。絶望なんて――させない、絶対に)
 ここに居る、誰一人として。『絶望の集合体』や『絶望卿』の犠牲になっていい者など存在しない。固い決意を胸に宿して、少女は今だ逃げ遅れた人々の捜索にあたる。

(聞こえる……助けを求める声が)
 父譲りの狼耳をぴんと立てて、敵に見つからないよう闇に紛れて移動するセシリー。壊れた瓦礫や障害物に足を取られないよう空中を浮遊して、足音を立てずにそっと要救助者の元へ。
「……見つけた。もう大丈夫」
「ひ……っ!」
 彼女が発見したその住民は、血の気が失せるほどに青ざめて、ひどく怯えていた。身体はガタガタと震えて立つことすらままならず、その様子は尋常のものではない。

「わ……わたし、見ちゃったの。あ、あいつの、目を……」
 目を合わせた者に幾千の死を疑似体験させる『絶望の集合体』の虚ろな瞳。彼女がここで逃げられずにいたのは、その死のビジョンがもたらす絶望に囚われてしまったせいだった。
「大丈夫、皆、助けるから……」
 怯える住民の恐怖を和らげるように、セシリーはそっと手を繋ぐ。自分の体温を、生きている者のぬくもりを伝えて、あなたはまだ生きていると実感させる。
「偽りの死のヴィジョンなんかに負けないで。希望はまだ、ここにあるから」
「ぁ……ぅ……うん……」
 少女の励ましと優しい眼差しに心を打たれ、死に怯えていた住人の震えが微かに止む。よろめきながら立ち上がったその人の手を引いて、セシリーは他にも同様の生存者がいないか捜索を続ける。

(せめて逃げる人達の光になれる様に)
 怪我をしている者を見つければ、精一杯の祈りと共に【生まれながらの光】を。左掌の聖痕から溢れる聖なる光が、傷ついた人々の身体を、そして心をも癒やしていく。
 その力は代償として自身の疲労を伴うが、そんなこと彼女は気にも留めない。暖かな光を纏いながら皆を導く、その姿に人々は鼓舞され、生きる希望を取り戻していく。
 だが、絶望は執拗なまでに彼女らを追ってくる――安全な場所まで避難しようとする一行の進路は、建物の崩れた大きな瓦礫によって塞がれてしまっていた。

「そんな……やっぱり私たち、助からないの……?」
「いいえ、諦めないわ」
 愕然とする人々の中で、ただ1人セシリーだけが、絶望を受け入れようとしなかった。
 呪杖「シリウスの棺」を掲げ、呪文を唱える。陰鬱な空気をかき消すように突風が巻き起こり、行く手を阻む障害物を吹き飛ばした。
「これで先に進めるわ。後少し、頑張って」
「あ……ああ!」
 開かれた道を杖で指し示せば、力強い声が返ってくる。どんな苦境が待ち受けていようとも決して諦めようとしない彼女の姿勢は、徐々に人々にも伝播し始めていく。

(立ち向かう姿が美しい、ですって。そんな事の為に、誰かの命を脅かす事)
 住民たちを先導するセシリーの心に密かに宿るのは、この事件を引き起こした『絶望卿』に対する怒り。人々を絶望に堕としながら足掻くさまを讃美するというその行動原理は、彼女からすればあまりに醜悪に過ぎた。
「そんな醜い願いの為に、皆生きてる訳じゃない……から!」
 絶対に、そんな奴の思い通りになんてさせない。セシリーの意志が強まるほどに、彼女の放つ光と風は激しさを増して、絶望に閉ざされた道を切り拓いていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メアリー・ベスレム
ふぅん。変わったオブリビオンもいるのね
むしろその「美しいもの」を汚したがる
そういう手合いばかりだと思っていたけれど
どちらにしても身勝手な事には変わりないかしら

避難誘導は他の人にお任せで
周囲の音に【聞き耳】立てて
ほら、アリスを殺したいでしょう? と【誘惑】してみせて
人の少ない方へと【逃げ足】で誘い込む

追ってくるのは
メアリを殺す狩人かしら
アリスを食らう鬼かしら
どちらでも良いわ
だって、殺すだけだもの

戦えそうな場所に着いたら
【凍てつく牙】を使って冷気と高速移動で立ち回る
泥人形なら固めてしまえば動きが鈍るでしょ?
鈍ったところを【ジャンプ】からの【踏みつけ】や
肉切り包丁の【重量攻撃】で叩き切ってあげるから



「ふぅん。変わったオブリビオンもいるのね」
 今回の事件の元凶について説明を聞いたメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は、絶望に抗う姿を美しいものとして愛する『絶望卿』の性癖に、少しばかり興味を抱いたようだった。
「むしろその『美しいもの』を汚したがる、そういう手合いばかりだと思っていたけれど。どちらにしても身勝手な事には変わりないかしら」
 尊ぶにせよ汚すにせよ、やっている事が他のオブリビオンと同じなら、彼女のやることも変わらない。赤い瞳を暗闇の中で爛々と輝かせながら、少女は戦地へと赴く。

(避難誘導は他の人にお任せで)
 ヴェールで隠した耳をそばだてて、周囲の音を探りながら。深手を負った『絶望の集合体』の前に現れたメアリーは、艶のある表情を見せてそっと手招きをする。
「ほら、アリスを殺したいでしょう?」
『グゥぅぅぅぅ……!』
 一見して無防備な獲物のようにしか見えない幼気な少女を、敵が見逃すはずもなく。泥のような身体がボコボコと泡立ち、産み出された奇怪な泥人形の群れが一斉に彼女に襲い掛かった。

「さあ、こっちよ」
 メアリーはくるりと踵を返して、子ウサギのような逃げ足で駆けていく。
 周りを気にせずに戦えるよう、人の少ないほうへと敵を誘い込むために。
(追ってくるのはメアリを殺す狩人かしら、アリスを食らう鬼かしら)
 被害者としての素振りで敵を惹き寄せながら、獣を宿した少女は微笑む。
 そのヴェールの下に隠された凶暴性に、果たして敵は気付いているのか。

「どちらでも良いわ。だって、殺すだけだもの」
 周りの住民がみんな避難した後の、ほどよく開けた街の広場。そこに到着したメアリーは無骨な肉切り包丁を片手に持って、追ってきた泥人形の群れと対峙する。
 その身は極低温の冷気をまとい、ちろりと唇を舐める舌の動きは獲物を見定める獣の仕草で。【凍てつく牙】をさらけ出した人狼は、たんっと軽やかに地を蹴った。
「ねぇあなた、アリスを温めてくれる?」
『うぁアァぁぁぁ……っ!?』
 目にも止まらぬ俊敏さで近付いて、すれ違い様に冷気を浴びせる。彼女からすればほんのひと撫でした程度の所作で、泥人形の身体が凍てつく魔氷に覆われていく。

「泥人形なら固めてしまえば動きが鈍るでしょ?」
 其は古の人狼騎士が用いたという禁呪。自らの生命の火と引き換えに呼び込むのは、魂さえも凍てつくような冥き冷気。絶望の過去から生じた泥人形たちが、氷像の群れと化すのにそう時間はかからなかった。
『ぐうウゥゥぅぅうぅ……ッ!!』
 人形どもが動けなくなったところでメアリーはぴょんと跳躍し、すらりと伸びた脚で敵を踏みつける。氷結によって脆くなった泥の塊は、その一撃であっさりと砕けた。

「アリスのことを見誤ったかしら。アリスはメアリで、メアリはアリスなのよ」
 人にして獣、被害者にして加害者である人狼の"アリス"は、崩れていく泥人形を踏み台にしてさらに高く跳ぶ。勢いでズレたヴェールの隙間から覗くのは狼の耳――それに構わず後方の『絶望の集合体』本体に狙いを定め、肉切り包丁を大きく振りかぶって。
「叩き切ってあげる」
『グギぃぃ……ッ!!?!』
 速度と重さを乗せて振るわれたその一撃は、肉も骨もない『絶望の集合体』の巨体をばっさりと断ち切って、ドス黒く濁った泥の雨を戦場に降らせた。
 悶絶する敵の背後へと着地したメアリーは、刃物についた泥を拭いながらズレたヴェールをかぶり直し、子ウサギともオオカミともつかない笑みを浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリスティアーネ・アステローペ
性質はただの死霊の類、とはいえ規模が厄介ね
迷い出るのはまだいいとして、あまり群れて暴れるものではなくってよ?
滅びてなお現世に害をなすだなんて、罪深いにも程があるでしょうに
故に。今一度の滅びを以て、その咎に対する報いとしましょう
断罪者たる我、アステローペが"朧月"より絶望に囚われた死者達へ。その魂に、永き救いと安寧を

注意をこちらに向けようと声を上げ
住民との間に壁にもなるように【咎を穿て、赫き杭】を展開
《破魔》の力で多少なりとも自己を取り戻させられないかしら
瘴気を撒かれても困るので回避ではなく《呪詛耐性》を高めたフランツィスカの《武器受け》で対処するわ



「性質はただの死霊の類、とはいえ規模が厄介ね」
 都市を呑み込まんとする泥の山――『絶望の集合体』を見上げながらクリスティアーネ・アステローペ(朧月の魔・f04288)は呟く。幾千という人々の絶望の過去から生まれたソレは、彼女の言う通り無差別に生者を襲う、たちの悪い怨霊の巨大版だ。
「迷い出るのはまだいいとして、あまり群れて暴れるものではなくってよ? 滅びてなお現世に害をなすだなんて、罪深いにも程があるでしょうに」
 住民から注意をこちらに向けようと声を上げれば、その異形は傷ついた巨体をゆっくりと動かし。絶望で濁った瞳でクリスティアーネを睨めつけながら、漆黒の腕を振り上げた。

「故に。今一度の滅びを以て、その咎に対する報いとしましょう」
 臆することなく朗々と宣言しながら、黒髪の処刑人は呪詛と祈りを紡ぎ上げる。
 展開するのは【咎を穿て、赫き杭】。まるで絶望の侵食に大地そのものが憤るかのように、血で作られた無数の杭が地面から飛び出し、『絶望の集合体』に突き刺さる。
「汝を裁くは顕世の法理。贖え、己が血潮と痛苦を以て」
『ぐうウゥゥぅぅ……ッ!!!?』
 串刺しにされた災異が悲鳴を上げ、血飛沫のように泥を撒き散らす。クリスティアーネの杭は敵を攻撃するのと同時に連なることで壁にもなり、避難する住民から敵を隔離することに成功していた。

(破魔の力で多少なりとも自己を取り戻させられないかしら)
 クリスティアーネが血と呪詛と共に赫き杭に込めたのは魔を打ち破る祈り。その力は『絶望の集合体』の怨念を弱めることで、彼らにかつての有り様を思い出させようという、せめてもの慈悲。
『うウゥゥぅ……わ……私……は……俺は、ボクは、あたしは……あ、あぁぁぁぁぁ……!!!』
 ただ呻くだけであった災異が、始めて人の言葉を発する。だがそれはすぐに別の怨嗟の声に呑み込まれ、総体としての【人の手により生み出され広がる絶望】は止まらない。
 だが、クリスティアーネは確かに見た。虚ろに澱んだ『絶望の集合体』の瞳から、黒い泥ではない、一滴の透明な涙が、零れ落ちるのを。

『……殺し、てくれ……』
 杭にその身を貫かれたまま、『絶望の集合体』は腕を振り下ろす。大地に触れれば絶望の瘴気を蔓延させるその一撃を、クリスティアーネは避けるのではなく断頭斧槍"救済者フランツィスカ"で対処する。
「……断罪者たる我、アステローペが"朧月"より絶望に囚われた死者達へ。その魂に、永き救いと安寧を」
 呪詛への耐性を高められた処刑人の斧が、颶風を纏って敵の攻撃を打ち払う。彼女はそのまま、弧を描くような動作で刃に勢いを乗せると――返しの一撃で、絶望の腕を切断する。

『ぎぃぃぃぃぃィィぃッ!!!!?』
 ばっさりと断ち斬られた腕は大地に触れることなく赫き杭に受け止められ、塵となって骸の海に還る。その躯体の部位を構成していた、幾百という人々の魂と共に。
『ぁ……りが、とう……』
 『絶望の集合体』本体の叫びが戦場に轟く中、クリスティアーネはかき消えそうなほど微かな死者たちの声を確かに聞いた。その御霊がもう現世に迷い出てくることの無いように、彼女は斧槍を掲げしばし鎮魂の祈りを捧げるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…まるでこの世界の闇が容を為したような存在ね
今を生きる人々の為にも、その存在を許容する事はできない

…魂無き残影なれど、せめてもの手向けよ
その絶望を祓う事が死者の安息に繋がると祈らせてもらうわ

今までの戦闘知識と経験を基に敵の攻撃を見切りながら、
“血の翼”を広げ残像が生じる早業で空中戦を行い敵を引き付け、
好機を捉えたら吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを発動

…来たれ、世界を廻る大いなる力よ!
絶望を喰らい力を為せ、過去を刻むもの…!

大鎌に負の想念を引き寄せる“闇の引力”の魔力を溜め、
敵の絶望を喰らい限界突破した大鎌を怪力任せになぎ払い、
呪詛のオーラで防御ごと敵の巨体に切り込む闇属性攻撃を放つ



「……まるでこの世界の闇が容を為したような存在ね」
 骸の海より染み出した、幾千という負の感情の具現。都市を死と破壊で満たさんとする『絶望の集合体』を前にして、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は黒き大鎌を構える。
「今を生きる人々の為にも、その存在を許容する事はできない」
 それが嘗ての犠牲者たちが遺したものだとしても、過去が未来を脅かすことがあってはならないから。揺るぎのない使命と決意を瞳に宿して、彼女はまっすぐに"敵"を見据える。

「……魂無き残影なれど、せめてもの手向けよ。その絶望を祓う事が死者の安息に繋がると祈らせてもらうわ」
 静かなる宣言と共に、魔力で構成された"血の翼"を広げて空に上がるリーヴァルディ。その飛翔は紅と漆黒の残像を生じ、またたく間に『絶望の集合体』との距離を詰める。
『アァぁぁぁウゥゥぅぅ……ッ!!!!』
 泥のような異形の塊は怨嗟の声を上げながら、虚ろな瞳で彼女を睨めつけんとする。だが、これまでの戦闘知識と経験から相手の動きを読み切り、縦横無尽に空を翔けるリーヴァルディの機動は、目で追うことすら容易ではなかった。

「……こっちよ。付いてきなさい」
『グウゥゥぅぅぅ……!!』
 闇に揺らめく残像で翻弄しつつ、リーヴァルディは敵を引き付けながら好機を窺う。
 大地を汚染する瘴気の腕も、産み落とされた泥人形の群れも、もはや敵からは失われている。『絶望の集合体』に最後に残された武器は、幾千という絶望の死を疑似体験させる虚ろな瞳――だが、それも視界から出てしまえば。
「……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!」
 ギリギリまで引きつけてから敵の死角へと素早く回り込んだ直後、リーヴァルディは【限定解放・血の教義】を発動。一時的に吸血鬼化を進めた自らの生命力を糧として、世界に満ちる精霊たちの力を「属性」と「自然現象」のカタチで具現化させる。

「……来たれ、世界を廻る大いなる力よ! 絶望を喰らい力を為せ、過去を刻むもの……!」

 リーヴァルディが掲げた黒の大鎌に、負の想念を引き寄せる"闇の引力"の魔力が宿る。
 その名の通り負の感情の塊である『絶望の集合体』は、突如発生した闇の力に抗うことができず、泥の破片を撒き散らしながら彼女の元に吸い寄せられていく。
『うウゥゥアァぁぁぁぁ……!?』
 引き寄せた死者の絶望の想念を喰らうことで、過去を刻むものはさらに力を増す。光さえも歪める漆黒と呪詛のオーラを纏ったその刃で、リーヴァルディは力任せに敵を薙ぎ払った。

「……これで終わりよ」
 防御の上から敵を斬り捨てる渾身の一撃が、『絶望の集合体』の巨体を両断する。
 斬閃が翔け抜けてから一拍遅れて、ずるりと音を立てて泥の塊は真半分となり――。

『ウゥゥぅぅぅあぁァァァァァァ……ぁ……』

 絶望と、怨嗟と、そして微かな安らぎの感情が入り交ざった断末魔を遺して。
 『絶望卿』に呼び寄せられし『絶望の集合体』は、再び骸の海へ還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『蜂起する銀狼軍』

POW   :    シルバーバレット
自身の【命】を代償に、【他の構成員を超強化。彼ら】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【銀の弾丸】で戦う。
SPD   :    決死の覚悟
【自ら頸動脈を切断する】事で【最終戦闘形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    抹殺の意思
【戦闘後の確実な死】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【高速連射形態】に変化させ、殺傷力を増す。

イラスト:白狼印けい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「あぁ、あぁ、素晴らしいわ!」

 都市から『絶望の集合体』が消え去った直後、感極まったような歓声が夜闇に響く。
 いつからそこに居たのだろう。恋する乙女のようなキラキラとした眼差しで、城壁の上から猟兵たちを見下ろすのは、紅いフードとマントを纏ったヴァンパイアの少女。

「やっぱり、あなたたちは来てくれた。悲劇に打ちのめされる人々を救うために。理不尽な絶望に立ち向かうために。だけどまさか、本当に全てを救ってしまうなんて」

 猟兵たちの迅速な迎撃と救助活動の甲斐あって、都市自体の損害や負傷者こそ出たものの、住民に死者は1人もいない。あれだけの規模の厄災に見舞われながら、この結果は奇跡的とさえ言えるだろう。

「あなたたちは、わたしの想像なんて簡単に超えてしまうのね。わたし、もっとあなたたちの抗う姿が見たくなってしまったわ」

 少女がパチンと指を鳴らすと城壁の門が開かれ、外から兵士の群れが雪崩込んでくる。
 それは一目でただの兵隊では無かった。銃剣付きのマスケット銃で武装した彼らは皆、狼の獣相をその身に備えた者――すなわち人狼だったのだ。

「この子たちは『銀狼軍』。遠い昔、わたしたちがまだオブリビオンでなかった時代、わたしたちの支配に立ち向かった者たちよ。実力の差は歴然だったのに、怒りと連携を武器とした決死の戦法によって、多くの同胞が討ち取られたわ」

 ほんとうに素晴らしい勇者たちよね? と、うっとりとした表情で少女は語る。
 銀狼軍とは言わば、吸血鬼の圧政に抗う現代のレジスタンスたちの先駆者と言うべき存在だったのだろう。歴史の彼方に消えていったはずの彼らは、骸の海から現世に蘇った。圧政ではなく、未来への叛逆者――オブリビオンとして。

「かつて絶望に抗った者たちと、あなたたち猟兵。より美しく輝くのはどちらかしら。叶うならばもっともっと、わたしを驚かせてちょうだい」

 少女の言葉に呼応するように、銀狼軍の兵士たちは一糸乱れぬ動きで行軍を開始する。
 城壁の上から高みの見物をする彼女に刃を届かせるには、この軍団を撃破しなければならない。かつて吸血鬼の圧政と戦いながら、今やその走狗と成り果てた者たちと。
 対する猟兵は『絶望の集合体』との戦いで消耗しているが、状況は悪いことばかりではない。住民の避難が完了した今ならば、戦いのみに全力を注ぐことができる。

 狂おしい程の恋情と悪意を以て、猟兵の力を試さんとする『絶望卿』。
 その邪な思惑を打ち破るために、猟兵たちは再び戦闘態勢を取った。
才堂・紅葉
とことん悪趣味な事ねと小さく息を吐く
彼等程の者達がオブリビオンになり果てたのは、全てを賭けても届かなかった無念と絶望であろう

「気に入らないわね」
荒野の装備に着替え、戦端を切る
方針は【先制攻撃】
敵集団が連携する前に、機構靴の噴射機構で飛び込み、膝当てでの飛び膝で意識を奪いに行く【メカニック、グラップル、気合、気絶攻撃】
踏み込めば四肢狙いで携行小火器のサブマシンガンの斉射、杭打ち銃での打撃、高周波シャベルでの切断をはかる【部位破壊、怪力】
命を代償にした強化の効果を減じる方針だ

「その無念と絶望を寄こしなさい。私が奴に届けてあげるわ」
止めを入れる前に【礼儀作法、優しさ】で告げ、返り血で戦化粧を行いたい



「とことん悪趣味な事ね」
 小さく息を吐きながら、『絶望卿』が差し向けたオブリビオンの新手――蜂起する銀狼軍を睨めつける紅葉。かつて命を賭けて圧政に立ち向かった、彼等程の者達がオブリビオンになり果てたのは、全てを賭けても届かなかった無念と絶望であろう。
「気に入らないわね」
 そんな無念の兵たちをヴァンパイアの玩弄から解放する方法は、ひとつしかない。
 真の姿のドレスから傭兵の荒野の装備に着替え、紅葉は銀狼軍との戦端を切った。

(方針は先制攻撃)
 敵集団に連携される前に、射撃戦の間合いから白兵戦に持ち込むのが紅葉の作戦。
 地を蹴ると同時にガジェットブーツに搭載された噴射機構が作動し、驚異的な跳躍力で敵陣に飛び込んだ彼女は、その勢いのまま先頭にいた人狼兵士に膝を叩き込む。
「ゴハッ?!」
 硬い膝当てに覆われた飛び膝蹴りを頭部に喰らった人狼は、銃を撃つ間もなく意識を刈り取られる。あくまで気絶であり命まで奪っていないのは、"自己犠牲"をトリガーとしている彼らのユーベルコードを発動させないためだ。

「さて……狩りの時間ね」
 【荒野を征く者】は静かに宣言すると、居並ぶ人狼たちに向けてサブマシンガンの斉射を浴びせる。この距離ならば狙うまでもなく誰かには当たる――だが彼女は敢えて火器の照準を敵の四肢のみに定めて、殺すよりも戦闘力を奪うことを図っていた。
「グアァッ! すまない、同胞よ……!」
「せめて俺たちの命を使ってくれ……!」
 死を恐れず、勝利のために自らの命を擲つ覚悟のある敵には"殺さない"ほうが有効な戦術もあることを紅葉は知っていた。仲間を盾として斉射をくぐり抜けてきた敵に、彼女は対戦車杭打銃"楔"を向け――射出された杭が、敵の脚を地面に縫い付ける。

「うおぉぉぉぉぉ……ッ!!!」
 命を代償に友軍を超強化する【シルバーバレット】も、殺さず無力化されては発動の機会を失う。そして強化されていない人狼個人の戦力は、猟兵に並ぶものでは無い。
 彼らのマスケット銃が銀の弾丸を放つことはなく、苦し紛れに繰り出された銃剣突撃も、紅葉にはあっさりと躱され――直後、高周波シャベルによる反撃の一閃が、マスケットごと彼らの腕を斬り飛ばした。

「その無念と絶望を寄こしなさい。私が奴に届けてあげるわ」
 銀狼軍の先鋒を無力化した紅葉は、まだ生きてはいても、すでに戦う力のない人狼たちに銃口を向ける。望まぬ復活を遂げさせられた彼らを、骸の海へ送り返すために。
 圧政を敷くヴァンパイアへの叛逆、そして敗北と絶望の果てにヴァンパイアの走狗と成った人狼たちは、その最期の刹那のみ、かつての矜持と信念を取り戻し――。
「……俺たちの命では、届かなかった。頼む、どうかあの女に、これを……」
「ええ」
 震える手で差し出された銀の弾丸を受け取って。銃声が鳴り響き、血飛沫が散る。
 紅葉はその身に浴びた人狼たちの返り血をそっとなぞると、紅く染まった指で自らの顔に戦化粧を施す。それは彼らから託された無念と、交わした誓いの証であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュリア・ホワイト
かつての勇士達とはいえ、今の脅威になるなら遠慮はないさ
これより迎撃戦闘を開始する!

市街地になるべく被害を出したくないし、広域攻撃技や真の姿を使った攻撃は自重したほうが良いかな
行政のサポートが手厚かった地元と違って、この世界じゃ壊れた家を建て直すのも一苦労だし

【圧力上げろ!機関出力、最大開放!】を発動
強化された身体能力で彼らの陣に突っ込んでいくよ
射撃主体で数が多い、なら乱戦は此方を利するからね!
「命失ってでも戦う覚悟があっても……物理的に手やら頭やらを切り落とされては戦えまい!蹴散らさせてもらうよ!」
動輪剣の威力に任せ、手近な人狼から捉えて倒して行くさ



「かつての勇士達とはいえ、今の脅威になるなら遠慮はないさ」
 次なる敵の素性を知っても、ジュリアの振る舞いに変わりはなかった。ヒーローが表情を曇らせれば、それだけ世界は希望から遠ざかる――世が世ならば英雄になっていたかもしれない者達が相手でも、絶望の走狗と成り果てたのならば迎え撃つのみ。
「これより迎撃戦闘を開始する!」
 そう高らかに宣言すると、彼女は身体から真っ白な蒸気を吹き上げて、敵陣目掛けて突撃する。これ以上この都市を、そして人々を、オブリビオンの好きにさせはしない。

(市街地になるべく被害を出したくないし、広域攻撃技や真の姿を使った攻撃は自重したほうが良いかな)
 行政のサポートが手厚かったヒーローズアースと違って、頼れるものの無いこの世界では壊れた家を建て直すのも一苦労である。地元では「オーバーキル」とあだ名される彼女も、今回はなるべく規模の大きい攻撃は控えるつもりでいた。
「撃てぇッ!」
 よって通常モードのまま突撃するジュリアに対し、銀狼軍の兵士たちはマスケットによる一斉射撃を仕掛ける。だが一度走り出した彼女はそれしきの攻撃では止まらない。
「圧力上げろ! 機関出力、最大開放!」
 倒れた街路樹の枝からそのへんの枯れ草まで、燃える物を片端から口にしてボイラーの出力を上昇させたジュリアは、噴き上がる「スチームレイヤー」で銃弾を弾き返しながら猛然と敵陣に突っ込んだ。

「射撃主体で数が多い、なら乱戦は此方を利するからね!」
 ここまで近付いてしまえば向こうも迂闊に銃は撃てまい。敵の懐に入ったジュリアが振るうのは無骨な「残虐動輪剣」――唸りを上げて高速回転するチェーンソーの刃が、人狼兵士たちを薙ぎ払う。
「ぐあぁぁぁッ!!?」
 血飛沫が舞い、悲鳴が上がる。燃料を得たジュリアの身体能力は敵を大きく上回っており、いかに多勢だろうとマスケットと銃剣だけで太刀打ちできる相手ではない。敵陣をかき乱すように真っ只中で暴れる彼女に、人狼たちは次々と斬り倒されていく。
 だが銀狼軍には自らの命を代償として友軍の力を増すユーベルコードがある。勝利のために死を選んだ人狼たちは、銃剣の刃で自らの頸動脈を掻き切ろうとするが――。

「命失ってでも戦う覚悟があっても……物理的に手やら頭やらを切り落とされては戦えまい! 蹴散らさせてもらうよ!」
 【シルバーバレット】の発動よりも速く、動輪剣がマスケットを持つ腕を切断する。
 武器の威力に任せて手近な人狼から素早く無力化、もしくは撃破。ジュリアの取った対策は非常にシンプルかつ容赦のないものだったが、それゆえに有効であった。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
 乱戦状態による混乱から主導権を握られたまま、一方的に蹴散らされていく銀狼軍。その強みを発揮する機会を得られぬまま、彼らは骸を地に晒すことになった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
死を厭わぬ兵か 偶に居る
引き金となる行動が要るならば、対処可能だ

全身の感覚を研ぎ澄ませ、
筋肉の微かな動きを見極め
頸動脈を切断する前に、リボルバーで射撃
視界内総ての腕を落とす
足を使うならば足も落とす

苦しませる必要は無い
頭を潰して片付けよう
背後とて隙は無い
尾と杖で薙ぎ払う

私は古いが、近代の武器を使える
近代の武術を使える
時の止まった貴様等には決して負けん
ましてや死者が命を懸けた所で
結果は変わらん
再殺だ 一体も残さん



(死を厭わぬ兵か 偶に居る)
 保身なき進撃を続ける銀狼軍を前にして、イリーツァは無言で思慮を巡らす。強大な敵に立ち向かうために命を捨てて喰らいつく――それは本来ヴァンパイアと戦うために磨かれた戦術なのだろうが、今それが猟兵の脅威となっているのは皮肉である。
「死を怖れるな、命を惜しむな。銀狼軍の誇りをここに!」
 その誇りが歪んでしまったことにも気付かぬまま、オブリビオンと化した人狼は自らの頸動脈を切断して【決死の覚悟】を示さんとする。だがその挙動は表情や呼吸の変化から微かな筋肉の動きに至るまで、イリーツァに観察されていた。

(引き金となる行動が要るならば、対処可能だ)
 研ぎ澄まされた竜の五感で標的の動きを見極めたイリーツァは、頸動脈を切られるよりも一瞬速く、携帯していた大口径リボルバーによる【玉穿ち】の射撃を仕掛ける。
 拳銃と呼ぶにはあまりに巨大な銃から放たれた60口径マグナム弾は、象の頭蓋さえ容易く砕く。刃物を首筋に当てた人狼の腕を吹き飛ばすには、十分過ぎる威力だった。
「ギャッ!?」
 腹の底まで響くような発砲音が轟くたびに、イリーツァの視界にいた人狼の腕が飛ぶ。標的の体内構造から魔素の流れまで把握し、弱点となる"芯"を見抜く彼の感覚から、逃れる術はない。

「よ、よくも――ッ!!」
 腕を失った人狼たちは足で刃物を拾い上げ、なおも戦う姿勢を見せるが。イリーツァにしてみれば、敵が足を使うならば足も落とす、ただそれだけのことに過ぎなかった。
(苦しませる必要は無い)
 腕、そして足と順番に四肢を撃ち抜いて戦闘力を奪った後は、速やかに頭を潰して片付ける。弄ぶつもりはなく、情けをかけるつもりもなく。彼はただ約定に従って粛々と、オブリビオンと成り果てた銀狼軍に引導を渡していく。

「たとえ……俺たちが死んでも……勝つのは俺たちだ……」
 頭蓋を砕かれる末期の瞬間、ひとりの人狼が零した言葉がイリーツァの耳に残る。
 その直後、市街地を迂回してきた人狼兵の別働隊が、背後から彼に襲い掛かった。
「貰ったッ!」
 銃撃に晒される味方を囮にしての奇襲。彼らの首筋には一人残らず血の線が刻まれており、既に最終戦闘形態への変身と引き換えに余命幾許もないのは明らかであった。

「背後とて隙は無い」
 だが、彼らにとっては決死の覚悟の不意打ちでさえ、イリーツァの鋭敏な五感を欺くことはできなかった。彼は振り向きざまに「竜宮の柩杖」と竜尾を振るい、背後に迫った敵群を薙ぎ払う。
「ぐ、がぁッ!?」
 卓越した古竜の怪力に、洗練された武技を重ねた一撃。銃剣付きのマスケットを構えた兵士たちはそのひと薙ぎで残らず打ちのめされ、地面を這いつくばる事になった。

「私は古いが、近代の武器を使える。近代の武術を使える。時の止まった貴様等には決して負けん」
 古竜たるイリーツァが銀狼軍を圧倒しているのは、単なる格の違いだけではない。銃器や武術といった新しい時代の力も我がものとする適応力。それはオブリビオンには決して無いものだ。
「ましてや死者が命を懸けた所で、結果は変わらん」
 地に伏せた人狼たちに、彼は容赦なく止めを刺す。文字通りの死力を尽くした攻勢でさえ、彼にとってはなんら怖れるものではなく――この結末は最初から"視えて"いた。

「再殺だ 一体も残さん」

 古竜の鋭き眼光が届くところに、オブリビオンの跳梁は許されず。
 ただ、骸の海に還った人狼の屍だけが、そこに遺るのみであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
元レジスタンスのオブリビオンか。
討伐しようとした吸血鬼に使役されてしまったってのは悲劇だね。
骸の海に返して解放してあげるのがせめてもの救いかな。
ハッピーエンドではないけど、ひとつのお話として終わらせることはできるよね。

地中に埋めておいたビー玉を触手に変換し、絡めとって武器を使えないようにしていくよ。

キミたちがやりたかったのは、こういうことじゃないでしょ。
いちおう、自決をふせぐために触手を口に入れるか。

それじゃあ、いくよ。骸の海へ返す、光の全力魔法だ。



「元レジスタンスのオブリビオンか。討伐しようとした吸血鬼に使役されてしまったってのは悲劇だね」
 かつての在り方から真逆の立場に堕とされた銀狼軍を見て、アリスは悲しげに目を伏せる。その生命を賭けて絶望に立ち向かった彼らの物語は、バッドエンドを迎えてもなお終わることを許されなかった。
「骸の海に返して解放してあげるのがせめてもの救いかな」
 相手がこちらに近付いてきたところで、彼女は【アナロジーメタモルフォーゼ】を発動。まるで種が芽吹くように、予め地面に埋めておいたビー玉が触手に変換され、一斉に敵軍に襲い掛かった。

「なんだ、これはっ!?」
 地面のあちこちから突如出現した触手に、銀狼軍の兵士たちはにわかに困惑する。
 すかさず触手群はアリスの意のままに敵のマスケットを絡めとり、発砲を封じた。
「ハッピーエンドではないけど、ひとつのお話として終わらせることはできるよね」
 射撃を受けないようにした上で敵の進行を押さえつつ、情報妖精はウィザードロッド型端末を手に魔力を練り始める。この悲しき後日談にピリオドを打つための、最大級の魔法を放つために。

「そうは、させるか……っ!」
 少女の周りに魔力が集まっていくのを感じた人狼たちは【抹殺の意思】を発動して触手の拘束を振りほどこうとする。それは戦闘後の確実な死を代償として力を得る、捨て身のユーベルコードである。
「キミたちがやりたかったのは、こういうことじゃないでしょ」
「ぐむ、ッ!?」
 アリスは寸前で彼らの口に触手を突っ込んで自決を防ぐ。代償さえ支払わせなければ銀狼軍のユーベルコードは発動しない――本来の敵であるヴァンパイアに対してならともかく、ここで猟兵や民間人相手に彼らが無為に命を擲つのは、見過ごせなかった。

「それじゃあ、いくよ」
 術式を完成させたアリスがロッドを掲げると、目も眩むほどの閃光が戦場を照らす。
 それは哀れなるオブリビオンを骸の海へ返す、光の全力魔法。またたく間に銀狼軍を包みこんだその輝きは、痛みや苦しみを与えることなく彼らを消し去っていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ……っ!!!!!」
 最期に哀しげな遠吠えだけを遺して、人狼たちは消滅する。彼らがいた場所に墓標のように突き立つマスケット銃が、銀狼軍という物語のエンディングを示していた。
 その光景を眺めて、アリスは静かに黙祷を捧げる。ハッピーエンドのように甘くはない、けれども口に残る苦味のある物語を、しっかりと噛みしめながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン、次から次へと趣味の悪い…
奴に一撃を入れるのが本当に楽しみになってくるな、まったく

装備武器で敵集団に銃弾を叩き込みつつ移動
距離を保ちダッシュやジャンプで敵の攻撃を避け、狭く細い路地裏に誘い込む
集団での銃撃は細い路地に入り込めば威力が半減する
同士討ちすら厭わないと言うならそれはそれで敵の数が減るしな

過去の勇者と言えど容赦はしない…
だが、お前達が守りたかったものは、私達が必ず守る

あらかじめデゼス・ポアを路地裏に先行させて、狭い通路に無数の操り糸を張り巡らしたらUCを発動
一気に糸を引き絞り、間隔を狭めて集団を切り刻む

眠れ、銀狼達よ
お前達の誇りを汚した報いは、必ず奴に受けさせてやる


鏡島・嵐
――ッ!
(戦うことへの恐怖とあまりに理不尽な仕打ちへの憤怒が心を満たし)
……言いてえことはいっぱいあるけど、先にこいつらを何とかしねえと。

〈スナイパー〉よろしく精度を引き上げた〈援護射撃〉で、他の味方の攻撃を補助。〈第六感〉で適切なタイミングを〈見切り〉、決定的な瞬間を作れるように立ち回る。
相手の攻撃は〈フェイント〉を混ぜた〈目潰し〉や〈武器落とし〉でインターセプト。
攻撃力を強化してくるようなら、ユーベルコードで打ち消す。この後のこともあるから、消耗は最小限度にしねえとだ。

かつて吸血鬼に抗ったってことは、おれらの先達ってことになるんか。
……許してくれとは言わねえ。だけど越えさせてもらう。



「――ッ!」
 戦うことへの恐怖と、あまりに理不尽な仕打ちへの憤怒が心を満たし、嵐の喉を詰まらせる。かつての矜持を奪われ、己の命すら顧みない殺戮を行う銀狼軍の兵士たち――それは『絶望の集合体』に続いて、彼にとっては最悪の悪夢に等しかった。
「……言いてえことはいっぱいあるけど、先にこいつらを何とかしねえと」
「フン、次から次へと趣味の悪い……奴に一撃を入れるのが本当に楽しみになってくるな、まったく」
 瞳に怒りの炎を点した嵐に、キリカもまた低い声で同意する。この事件の元凶に対する敵意を漲らせる猟兵たちの様子を、『絶望卿』は愛おしそうに見つめ続けていた。

「進め! 進め! 進め!」
 マスケット銃で武装した人狼たちは、一糸乱れぬ連携で銃撃を仕掛けながら距離を詰めてくる。嵐とキリカはそれぞれの射撃武器を駆使して応戦しながら、じりじりと敵を引きつけるように後退していく。
「かつて吸血鬼に抗ったってことは、おれらの先達ってことになるんか」
「過去の勇者と言えど容赦はしない……だが、お前達が守りたかったものは、私達が必ず守る」
 絶え間なく銃声を響かせる"シルコン・シジョン"と"シガールQ1210"、そしてスナイパーのように精度を高めたスリングショットの援護射撃が、敵の接近を遅滞させる。銃剣による白兵戦に持ち込まれないよう、有利な距離を保ちながら、ふたりは敵部隊を狭く細い路地裏に誘い込もうとしていた。

(集団での銃撃は細い路地に入り込めば威力が半減する)
 数の優位とはそれを活かせるだけの広いスペースがあってこそ最大の効果を発揮するのだと、戦場傭兵であるキリカは熟知していた。道幅が狭く対峙できる人数の限られる路地裏は、少数で多勢を倒すにはまさにうってつけの地形だ。
「怯むな! 突っ込め!」
 だが死を怖れることを知らぬ銀狼軍は、後続からの銃撃を浴びることも厭わず路地裏に吶喊してくる。同士討ち覚悟の弾幕と銃剣突撃による連携――相打ちになることも覚悟で、ただ敵を倒すことしか考えていない戦法だ。
「……本当に死ぬのが怖くないのかよ」
 やるせない感情を噛みしめながら、嵐はスリングの弦を引き絞る。フェイントを交えながら後方の射手の目や銃口を狙い撃つことで、敵の銃撃をインターセプトする。
 だが、それでも全ての攻撃を阻止することはできない。標的たる猟兵たちを睨めつける彼らの瞳は、ギラつくような殺意で爛々と輝いていた。

「死を怖れるな。命を惜しむな。ただ我らの敵を倒すことだけを考えろ」
 異様なまでの執念をもって攻勢を続ける人狼たちは、猟兵の反撃を、あるいは味方の銃弾を受けて次々と斃れていく。だが犠牲となった者の命は【シルバーバレット】となって、残された同胞の戦闘力を飛躍的に高めることになる。
「同士討ちすら厭わないと言うならそれはそれで敵の数が減る……だが残った敵はより強大になる、か」
 これまでと明らかに動きの変わった敵の攻勢を、キリカは健脚を活かした疾走と跳躍で回避する。本人だけでなく装備のほうも【抹殺の意思】で強化されているらしい――味方と己の命も犠牲にした銀の弾丸の高速連射は、次第に猟兵たちを追い詰める。

「鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界。彼方と此方は触れ合うこと能わず。……幻遊びはお終いだ」
 だがその時、嵐の唱えた【逆転結界・魔鏡幻像】が発動し、召喚された鏡に映し出された古錆びたマスケット銃と鉛の弾丸が、銀狼軍のユーベルコードを打ち消した。
「この後のこともあるから、消耗は最小限度にしねえとだ」
「なに……っ?!」
 彼は既に『絶望卿』との戦いを見据えている。ここで深手を負うわけにはいかない。
 強化を解除された人狼たちが戸惑いの声を上げ、暴風のようだった攻勢が弱まる。嵐の第六感は今このタイミングこそが、反撃に転じる決定的な瞬間だと告げていた。

「……許してくれとは言わねえ。だけど越えさせてもらう。今だ!」
「ああ、分かった」
 嵐の決意が作りあげた好機を逃さずに、キリカは【マリオン・マキャブル】を発動。路地裏の暗がりからオペラマスクを被った呪いの人形"デゼス・ポア"が現れ、幼子のようにも老婆のようにも聞こえる奇怪な笑い声を上げる。
「キヒヒヒヒヒヒッ」
 この人形はキリカたちがここに来る前から先行して、自らの操り糸を張り巡らせていた。視認が困難なほど細く強靭なこの糸は、狭い通路において凶悪なトラップと化す。

「眠れ、銀狼達よ。お前達の誇りを汚した報いは、必ず奴に受けさせてやる」
 誓いを込めた宣告と共にキリカが五指をぐっと手元に引けば、引き絞られた糸が敵集団の全方位から迫る。いつしか路地裏の奥深くまで侵攻していた銀狼軍は、逃げることも敵わず切り刻まれていく。
「があぁぁぁぁぁ―――ッ!!!!」
 断末魔の絶叫を遺し、血に染まった糸に絡まれたまま、息絶える人狼の戦士たち。
 その最期は苦痛であったか、あるいは解放の安らぎであったか――それは本人たちにしか分からぬことであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
吸血鬼に反逆した者が今度はその配下に成り果てるなんて…皮肉ね。
生前の自身からすれば不本意でしょうに

【虜の軍勢】でハーベスター、ジョーカー、エビルウィッチ、異国の少女剣士、光の断罪者、『雪女』雪華を召喚。雪花含む眷属達を【吸血姫の契り】で超強化。

異国の少女剣士は【縮地法】、ハーベスターは【収穫の時や瞬時の首狩り】、ジョーカーは【ブラックレディやレッドドッグ】で前衛。
雪花は【とにかくふぶいてみる】や凍結の吐息、エビルウィッチは【ファイアー・ボール】、光の断罪者は【光の断罪者】、『雪女』雪華は【氷柱散華】で後衛。
連携して敵の殲滅を命じるわ

本命が残ってる以上、消耗は避けたいの。ここは任せるわ、貴女達!



「吸血鬼に反逆した者が今度はその配下に成り果てるなんて……皮肉ね。生前の自身からすれば不本意でしょうに」
 オブリビオンとなってしまった彼らはそんな違和感を抱くことすらないのか。未来への叛逆者と化した銀狼軍を前にして、フレミアは憐れむような眼差しを向ける。
 だが何れにせよここで彼らに未来を蹂躙させるわけにはいかない。『絶望卿』の軍勢に対して同じ軍勢で対抗すべく、紅の吸血姫は【虜の軍勢】を喚び寄せる。

「お呼びですか、我らが主よ」
 世界の隔たりを超えて現れたのは、ハーベスター、ジョーカー、エビルウィッチ、異国の少女剣士、光の断罪者、『雪女』雪華。これに普段から伴っている雪女見習いの「雪花」を加えた面々に、フレミアは自らの血と魔力を少しずつ分け与える。
「フレミア・レイブラッドが血の契約を交わします。汝等、我が剣となるならば、吸血姫の名において我が力を与えましょう」
 主従の間で交わされる【吸血姫の契り】によって、吸血鬼化した眷属たちの力は一時的に超強化される。血のように紅い魔力を纏った彼女らは迫り来る銀狼軍と対峙し、それぞれの武器や魔術の構えを取った。

「本命が残ってる以上、消耗は避けたいの。ここは任せるわ、貴女達!」
「「「お任せを!」」」
 主君が号令を発すると、喚ばれた者の中から前衛能力に長けた眷属らが飛び出す。
 【縮地法】にて瞬間移動した異国の少女剣士が敵陣を斬り払い、隊列が乱れたところに大鎌を構えたハーベスターとジョーカーが襲い掛かる。生命を収穫する死神を思わせる彼女らの一撃は、断末魔の悲鳴すら上げさせずに人狼たちの首を刈り取った。

「何だ、こいつらは……」
「怯むな! 反撃するぞ!」
 猟兵とは異質な力を持った虜の軍勢に戸惑いながらも、銀狼軍の兵士たちは自らの頸動脈をかき切って【決死の覚悟】を示す。余命と引き換えに最終戦闘形態となった彼らのスピードと反応速度は、ともすれば吸血鬼化した眷属たちにすら匹敵する。
「止まるな、戦え、心臓が動いている限り!」
 微塵も死を怖れることのない人狼たちの攻勢は、前衛の眷属を次第に押し込んでいく。
 だが前線が決壊するかに思われたその瞬間、後方から残っていた眷属たちが一斉に支援攻撃を開始する。

「おねぇさまの手はわずらわせないのー」
 フレミアの眷属の中でも筆頭格である雪花が【とにかくふぶいてみる】と、凍てつく氷の吐息とともに極寒の吹雪が吹き荒れ、銀狼軍の兵士たちを凍りつかせていく。
「な、なんだこの寒さは、っ!?」
 氷結によって敵の攻勢が止まった隙を突いて、雪華が【氷柱散華】で大量の氷柱や氷刃を降り注がせ、光の断罪者が破壊の光を浴びせ、エビルウィッチが【ファイアー・ボール】を叩き込む。
「ぐああァァァァァッ!!!?」
 冷気と閃光と爆炎の三重奏を喰らった人狼たちは堪らず悲鳴を上げ。そこに体勢を立て直した前衛組も加わり、後衛組の支援を受けながら敵部隊を切り刻んでいく。

「いいわ、その調子よ」
 虜の軍勢が巧みな連携で敵を殲滅していく姿を、フレミアは満足そうに見守っていた。
 愛しい眷属たちが頑張ってくれているお陰で、主君は力を温存できている。本命である『絶望卿』を舞台に引きずり出すその時まで、彼女は牙を研ぎ続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
過去に吸血鬼へ立ち向かった勇者達…云わば、過去の闇の救済者達、だね…。

貴方達の魂、今度はわたし達が救済する…!
【unlimitedΩ】を展開…。
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で進撃して来る敵軍をまとめて呪詛で薙ぎ払い、同時に【unlimitedΩ】の連続斉射で敵軍を一気に仕留めて行くよ…。
敵の銃弾はアンサラー【呪詛、オーラ防御、武器受け、カウンター】で反射…。
銃剣による斬撃や刺突は動きを【見切り】、凶太刀による高速化で回避・斬り捨てるかバルムンクで銃剣ごと叩き斬るよ…。

未来の為に戦った貴方達に未来を奪わせたりはしない…。
必ず、この世界の未来は守ってみせる…。



「過去に吸血鬼へ立ち向かった勇者達……云わば、過去の闇の救済者達、だね……」
 今や歴史にも残されていない遠い昔、今の自分たちのようにヴァンパイアと戦っていた銀狼軍への敬意を胸に、璃奈は呪槍・黒桜を構える。命を賭して圧政に叛逆した彼らの生き様を、こんな最低のカタチで侮辱させるわけにはいかない。
「貴方達の魂、今度はわたし達が救済する……!」
 静かな、しかし力強い言葉と共に【Unlimited curse blades Ω】が展開され、"終焉"の属性を帯びた無数の魔剣・妖刀の現身が彼女の周囲を舞う。そこから迸る呪力の波動は、大気をビリビリと震わせるほどであった。

「救済だと……? 俺たちにそんなものは必要ない。ただ戦い、殺すだけだ」
 銀狼軍の兵士たちは揺らがぬ【抹殺の意思】を銃に込めてトリガーを引く。この戦いが終われば死んでも構わないという覚悟と代償が、旧式のマスケット銃にあり得ざる形態を与え、不可能なはずの超高速連射を可能にする。
「昔の貴方達は、そんな風じゃなかったはず……」
 降り注ぐ銃弾の嵐に対して璃奈が振るったのは、報復の魔剣「アンサラー」。その幅広の刃に籠められた魔力が受け止めた敵意を跳ね返し、銃弾を射手の元に反射する。
「ぐぁ……ッ!!?」
 自らが放った銃弾にその身を撃ち抜かれ、蜂の巣となって倒れ伏していく人狼たち。
 だが生き残った者らはそれに臆したふうもなく、仲間の屍を踏み越えて進撃を続ける。

「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
 顕現させた魔剣たちへの呼びかけと同時に璃奈が黒桜を振るうと、解放された呪力が黒い桜吹雪のように戦場を吹き荒び、斉射された終焉の魔剣たちと共に敵軍を薙いだ。
「があぁぁぁぁぁッ!!!?」
 巫女の力によって極限まで呪力を高められた斉射を受けて、無事で済む者はいない。終焉の刃に貫かれた人狼は断末魔の絶叫を上げ、塵一つ残すことなく現世から滅び去った。

「未来の為に戦った貴方達に未来を奪わせたりはしない……」
 呪槍から魔剣と妖刀に武器を持ち替え、終焉の魔剣の斉射を続けながら、銀狼軍に語りかける璃奈。かつての矜持と使命を歪められた彼らをここで解き放つためにも、その刃は決して容赦することは無い。
「う……うるさい……ッ!!」
 満身創痍になりながらも魔剣の嵐を抜けてきた人狼の兵士が銃剣を突き出す。魔剣の巫女はその動きを素早く見切ると、妖刀・九尾乃凶太刀の呪力で加速し、刺突を回避。稲妻のような速さで踏み込みながら、反対の手に構えた魔剣「バルムンク」を振るう。

「必ず、この世界の未来は守ってみせる……」

 竜さえ屠る魔剣の一閃が、銃剣ごと敵を叩き斬る。血飛沫を上げて倒れ伏した人狼の戦士は、虚ろな眼差しで璃奈を見つめると、声を絞り出すために喉を震わせて。
「そう……か。俺たちは……もう、休んでいいんだな……」
 事切れる瞬間、正気に戻った彼の表情に浮かんでいたのは、安堵の感情であった。
 それは、自分たちに代わって未来の為に戦う、この時代の勇者たち――猟兵の力を知ったからこその、安堵だったのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
アルマが演説している間に、ちゃぶだいを城壁の門に置いた。偶然か功を奏し、ちゃぶだいがつっかい棒になっている。瓢箪から駒とはこの事。

――ドンドンッ!

「開けなさいよ!」
「そんな叩くと周りに迷惑ですよ、カビパン歌います!私は癒し系~♪」
緊迫している状況を尻目に変な歌を熱唱するのであった。

壊れた門から凄い数の人狼が迫る。
戦に天地人の理あり。数で負けているので天と地をとる必要がある。故にカビパンはまず、地の利をとるために奔走した。天は彼女に味方する。

理想的な高台が見つかったのだ。
そしてカビパンはリサイタルを再開。
もう開幕からここはカビパンワールド。
変な歌を聴かされながら、人狼達は苦しんで倒れていった。



「ふふふ……すごい、すごいわ。猟兵の力がこれほどのものだなんて」
 眼下で繰り広げられる猟兵と銀狼軍の戦いを、まるで舞台の演目のように『絶望卿』アルマ・アークナイツは楽しんでいた。散っていく兵士たちの命、希望に満ちあふれた猟兵たちの勇姿、その全てが彼女にとっては愛おしくて堪らない遊戯であった。
「もっと、もっと見せてほしいわ。兵士ならまだまだ沢山いるもの――あら?」
 彼女は指を鳴らして新たな敵を外から呼び寄せようとする。だが、合図とともに市街に雪崩込むはずの銀狼軍はやってこない。城門の前に立て掛けられたちゃぶ台が、つっかい棒になって門が開くのを妨げていたのだ。

「おい、なんだこれは、開けろ!」
「そんな叩くと周りに迷惑ですよ、カビパン歌います! 私は癒し系~♪」
 ドンドンッ! と城門が叩かれるのをよそに、つっかい棒をした犯人であるカビパンは呑気に変な歌を熱唱する。彼女としてはちゃぶ台をそこに置いたのはほんの偶然だったのだが、瓢箪から駒とはこのことだろう。
「馬鹿にしているのか、俺たちを!」
 市街ではすでに戦いが繰り広げられているというのに、緊迫した状況を尻目にカビパンは徹底して空気を読まない。【ハリセンで叩かずにはいられない女】の作りだすギャグの世界に、シリアスは不要だと言わんばかりである。

「殺せ! 殺せ!」
 【抹殺の意思】を滾らせた人狼の銃声が門の向こうから響く。つっかい棒になっていたちゃぶ台は蜂の巣になって砕け散り、壊れた門をこじ開けて大勢の人狼が姿を現す。
「お前のどこが癒し系だ!」
「文句は最後まで聞いてからにしてください!」
 カビパンはバシバシとハリセンを振り回しながら脱兎のごとく逃げる。戦に天地人の理あり――数で負けているので天と地をとる必要がある。ゆえに彼女はまず地の利を取るために、人狼たちから追われながら市街地を奔走するのであった。

 ――果たして天運とギャグの女神はカビパンに味方する。
 高すぎず低すぎず、理想的な感じの高台が見つかったのだ。

「これこれ、こういうのを探してたのよ!」
 カビパンはすかさず高台によじ登ると、聖杖をマイクに見立ててリサイタルを再開する。
 ここはもう開幕から既にカビパンワールド真っ只中。彼女のギャグセンスを理解できない者にはあまりに辛い世界。一度は『絶望の集合体』すらぶっ倒したほどである。

「だ……だから何なんだ、この歌は……」
「耳が腐る……人狼になったことを……恨む……ぜ……」
 ノリノリで熱唱するカビパンの変な歌を聴かされながら、ギャグ耐性のない銀狼軍の兵士たちは一人、また一人と苦しんで倒れていく。死ぬ覚悟などとうにできていたはずの彼らも、まさかギャグに殺されるとは思ってもみなかっただろう。
「ご静聴、ありがとうございましたー! それじゃあアンコールいきます!」
「もうやめろ……ッ!!」
 死屍累々のカビパンリサイタルは、それからも歌い手が飽きるまで続いたという。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

一糸乱れぬ行軍、精強な部隊のようじゃな。
こちらの土俵に引きずり込んで少しずつ数を削っていくとするかな。
まずは精霊に請い、戦場一帯に雨を降らせるのじゃ。
マスケット銃は雨に弱いと聞いた事がある、これで少なくとも射撃の手間は増えるじゃろう。
(UCの力で周囲を草原に変え、風の精霊の力でこちらを風下にする)
さて、これでここら一帯はわしの庭になった、こやつ等に狩りと言うものを見せてやろう。
【目立たない】よう草むらに身を潜め、手製の短弓に【銀の属性】を纏わせた矢をつがえて、地を這うように草にまぎれて【追跡】し眉間を打ち抜いては位置を悟られぬように場所を変えて人狼を一人ずつ狩っていくのじゃ。



「一糸乱れぬ行軍、精強な部隊のようじゃな」
 猟兵たちによって次々と友軍を撃破されてもなお、けして陣容を崩さない銀狼軍を見て、エウトティアはふむと思案する。死すらも恐れぬオブリビオンの兵士たち、これを打ち破るには並大抵のことでは足りるまい。
「こちらの土俵に引きずり込んで少しずつ数を削っていくとするかな」
 そう言うやいなや彼女は霊木の枝より作られた「ノアの長杖」を手に、精霊たちに再び助力を請う。にわかに戦場にはひゅうと爽やかな風が吹き、夜空を覆う暗雲からは、ぽたり、ぽたり、と雨の雫が落ちてくる。

「精霊よ、森羅を育む恵みの雨を!」
 巫女姫の願いに応えた【精霊の慈雨】は、血塗られた都市を洗い流すかのように戦場全域に降り注ぐ。無論それは、射撃体勢に入っていた銀狼軍の兵士たちの元にも。
「不味い、雨が……」
 マスケット銃は雨に弱い。着火部分が湿ってしまったり、弾薬が濡れてしまうと発砲が不可能になるのだ。勿論、濡れにくいようカバーするなどの対策は施しているが、このような突発的な雨に対してはそれも万全とはいかない。

「これで少なくとも射撃の手間は増えるじゃろう」
 敵兵が雨を凌ぐために狼狽えている間に、エウトティアはさらに風の精霊に呼びかけ、自分のいるところが風下になるように気流を変える。いや、風の流れだけではない――戦場の風景そのものが、精霊たちの力によって一変しようとしていた。
「な……どこだ、ここは……?」
 銀狼軍の兵士たちが気付いた時には、ここはもう闇夜の市街地ではなかった。
 現れたのは何処までも広がる緑の草原――エウトティアの故郷の風景だった。

「さて、これでここら一帯はわしの庭になった、こやつ等に狩りと言うものを見せてやろう」
 エウトティアは長杖から短弓に得物を持ち替えると、姿勢を低くして草むらの中に身を潜める。この草原での狩りのやり方は、戦場にいる誰よりも彼女が熟知している。
「くそっ、どこに隠れた!」
 ようやくマスケット銃に雨除けを取り付けた兵士たちは、今度は標的を見つけられずに焦ることになる。狼の鼻や耳をひくつかせても、足音どころか匂いひとつしない。エウトティアが事前にこちらを風下にしていたのはこういう訳だったのだ。

(ここからはお前たちが獲物として狩られる番じゃよ)
 地を這うように草にまぎれて敵に接近し、手製の短弓に銀の属性を纏わせた矢を番えるエウトティア。静かに狙い定めて放たれた一射は、過たずに人狼の眉間を撃ち抜いた。
「ぎゃ……っ」
「そこかっ!?」
 仲間が倒れたのを見て、兵士たちは矢が飛んできた方向に銃撃を浴びせるが、その時にはもう彼女は移動している。位置を悟られぬように一射ごとに場所を変えて、草原の只中で右往左往する連中を、一人ずつ順番に狩っていく。

(屋敷で領主を討つのではなく、野山で獣を狩るのならわしのほうが上手じゃな)
 きっと銀狼軍が生前に戦ってきた相手は、エウトティアほど野外での潜伏術や気配の消し方に長けてはいなかっただろう。自然の環境を味方につけた巫女姫の戦い方は、彼らにとって未知のものだ。
「どこだ、一体どこにいる……ぎゃッ!?」
 完全に相手の土俵に引き込まれた人狼たちは、本来の実力を発揮することもできぬまま、エウトティアの銀の矢によってことごとく狩り尽くされていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
城壁の上のアルマさんに剣の切先を向け
……そこで見てるだけなのもあと少しですよ
あなたが恋する猟兵の力、目に焼き付けるといいです

流れる血を焔に変えて
弾丸の雨に負けないくらいの杭の雨を投げます【投擲】【焼却】
さらに傷が増えようとも、絶対に引いたりしない【覚悟】
私の焔の雨は、傷が増えるほど激しくなる

雨と共に距離を詰め、敵の前線に飛び込む
接近戦だと、弾は使い難いやろ?
確かに早い……けど、早いだけでは『with』と私は倒せませんよ
『wanderer』での蹴撃も織り交ぜ、敵の連携を切り崩したいです

あなた達が掴もうとしても掴めなかった希望
私達が絶対に掴んでみせます
だから、安心して骸の海に還ってください



「ああ、ああ、本当に素敵……愛おしくってたまらないわ、あなたたち」
 都市で繰り広げられる猟兵と銀狼軍の死闘を、恍惚とした顔で観劇する『絶望卿』。
 相変わらず高みの見物を決め込んでいる彼女に、結希が『with』の切っ先を向ける。
「……そこで見てるだけなのもあと少しですよ。あなたが恋する猟兵の力、目に焼き付けるといいです」
「ふふふ。ええ、そうさせてもらうわ。あなたはどんな美しい姿を見せてくれるの?」
 漆黒の刃にも劣らぬ鋭い視線を突きつけられても『絶望卿』の態度は変わらない。城壁の上から猟兵たちを見つめる眼差しは、狂おしいまでの恋情と悪意だ。

「進め、撃て、進め、撃て。俺たちに退路なんてありはしない」
 結希たちの元に迫るのは銀狼軍の人狼たち。【決死の覚悟】を固めた彼らは一糸乱れぬ動きでマスケット銃を構えると、剣の間合いの外から一斉射撃を仕掛けてくる。
 ここは遮蔽となるものも少なく、数え切れないほどの弾丸の雨の全てを避けきることは不可能。ならばと彼女は敢えて銃撃を受けながら、流れる血を紅蓮の焔に変える。
「『狙って当てる』んやなくて、『狙わなくても当たる』って思えば大丈夫って、教えて貰いました」
 焔は無数の杭を形作り、"絶対当たる"という自己暗示のもと、必中の擲弾となって放たれる。弾丸の雨にも負けないよう、強く激しく降り注ぐ【焔の雨】が、戦場を赫々と染め上げていく。

「熱ッ!? 何だあいつは、身体から火を噴いて……!?」
 全身の傷口から焔を迸らせながら距離を詰めてくる結希の姿に、人狼たちは驚愕する。
 それは銀狼軍から受けた銃撃の傷。あるいは『絶望の集合体』から人々を救うために負った傷。彼女の放つ焔の雨は、傷が増えるほど激しさを増していく。
(どれだけ傷が増えようとも、絶対に引いたりしない)
 痛みを覚悟で捻じ伏せながら『with』と一緒に戦場を駆ける。焔の雨で銃弾の雨を相殺して、敵の前線まで飛び込んだ少女は、傷だらけの姿でにこりと微笑んでみせた。

「接近戦だと、弾は使い難いやろ?」
 この距離は自分と『with』が得意とするステージ。ぶおんと熱風を巻き上げながら振るわれた漆黒の一閃が、前線にいた数名の人狼をまとめて薙ぎ払う。
 彼女の言葉どおり、ここまで近付かれてしまえばマスケット銃では逆に狙いづらい。だが銀狼軍の兵士とて、ただ離れて撃つだけが能の弱卒ではない。
「舐めるなよッ」
 決死の覚悟によって最終戦闘形態に変身した人狼たちは、目を見張るほどの敏捷性で大剣の斬撃を躱すと、銃剣による刺突を繰り出してくる。動くたびに彼らの首筋からはポタポタと血が流れ、残り僅かな寿命が凄まじい速度で消費されていく。

「確かに早い……けど、早いだけでは『with』と私は倒せませんよ」
 自らの命を擲った人狼たちの猛攻に対して、結希は再び漆黒の大剣を振るう――と見せかけて、蒸気魔導式ブーツ「wanderer」による強化された蹴撃を繰り出す。
「ッ!?」
 見たことのないパターンの攻撃に反応が一瞬遅れる人狼。斬撃と蹴撃を織り交ぜた結希の戦法は相手に次の攻撃を読み辛くさせ、少しずつ敵の連携を切り崩していく。
 どんなに敵の数が多くとも、自分と『with』のコンビの連携に勝るものはいないと信じるからこそ。彼女は傷の痛みも忘れて踊るように剣を振るい、敵を蹴り倒していく。

「あなた達が掴もうとしても掴めなかった希望、私達が絶対に掴んでみせます」
 焔の雨の中心で『with』と共に踊りながら、結希が口にしたのは人狼たちへの約束。
 絶望の中に消えていった彼らとは違う未来を手にしてみせるという、自分自身への誓い。
「だから、安心して骸の海に還ってください」
「―――あぁ、お前たちなら、できるのかもな」
 漆黒の剣に斬り伏せられる刹那、ひとりの人狼が見せた表情はどこか穏やかなもので。
 歪められた矜持から解放され、かつての勇者たちは骸の海に還っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
※アドリブ連携歓迎

人狼……いいえ、あれはオブリビオン
きっとパパみたいに戦っていた人たちだったのね
だけど、今は……倒すしかない
わたし自身を奮い立たせて、覚悟を決めるわ

自ら血を振り撒きながら戦うのなら
相手が来るまで待てばいい
闇に紛れ空中浮遊。あの人たちは感覚でわたしを察知するでしょう
そこが狙いよ。空へ飛び掛かる瞬間に隙が出来る筈
【人狼咆哮】――わたしだって、人狼の子です!

わたしの動きに反応するならば
ぎりぎりまで引き寄せて咄嗟のカウンターを
炎の属性を込めたシリウスの棺で叩き返すの
血が焼き固められれば変身が解除されるかも
追い撃ちが出来るならば、全力高速詠唱の青い炎を
ごめんなさい、でも……終わりにする!



(人狼……いいえ、あれはオブリビオン。きっとパパみたいに戦っていた人たちだったのね)
 星ひとつない夜空を浮遊しながら、セシリーは戦いの様子を眺めている。自らの命を擲ちながら、決死の覚悟で戦い続ける銀狼軍の兵士たち――その哀しき勇姿は父である"白狼"を彼女に想い起こさせた。
(だけど、今は……倒すしかない)
 彼らはもう戦うべき相手を忘れてしまった。誇り高き狼から吸血鬼の走狗と成り果ててしまった者たちを終わらない戦いから解放するために――己自身を奮い立たせ、セシリーは覚悟を決める。

(自ら血を振り撒きながら戦うのなら、相手が来るまで待てばいい)
 セシリーはただ黙して戦いを眺めていただけではない。たとえ夜闇に紛れようとも、彼らの耳と鼻は必ず獲物の居場所を探り当てるだろう。だからこそ備えていた。
 自らも鼻を利かせて、近付いてくる血の匂いを捉え。それが恐るべき疾さで近付いてくる人狼たちであることを察知すると、シリウスの棺を手に身構える。
「何処にいようとも、我ら人狼の牙からは決して逃れられぬ」
 自らの余命を対価にした【決死の覚悟】で驚異的なスピードを獲得した銀狼軍の兵士たちは、空を翔けるが如き跳躍力で空中のセシリーに飛び掛かった。銃弾で撃ち落とすのではなく、銃剣を突き立てる――彼らがその行動に出たのは人狼としての矜持か。

(そこが狙いよ)
 相手がそう来るであろうことを、セシリーは読んでいた。空へ飛び掛かる瞬間ならば、もう身を躱すことはできない。生じた僅かな隙を逃すことなく、彼女は叫んだ。
「――わたしだって、人狼の子です!」
 夜気を引き裂く渾身の【人狼咆哮】。音圧が生み出す激しい衝撃波が周囲を薙ぎ、彼女に襲い掛からんとした銀狼軍の兵士を吹き飛ばす。攻撃に全霊を傾けた無防備な一瞬を狙われただけに、そのダメージは甚大だった。

「ッ、ぐ……ま……まだだ……ッ」
 それでも、人狼たちの幾人かはまだ息の根が残っている。死を恐れぬ彼らは命尽きぬ限り膝を屈することはなく、同胞の屍を踏み越えて、再びマスケット銃を構え直した。
 次はもう同じ攻撃を仕掛けても反応されるだろう。セシリーはぎゅっと杖を握りしめながら距離を取ろうとするが、それ以上のスピードで敵は猛襲してくる。
「同族であろうとも容赦はしないぞ!」
「それは、わたしも同じです……!」
 市街地の建物の壁や屋根を足場にして、縦横無尽に駆ける人狼。その刃が、再び獲物の首筋に届こうとした時――セシリーは咄嗟にシリウスの棺に青い炎を込め、カウンターの一撃を叩き込んだ。

「グゥ……ッ!」
 蒼炎を纏った呪杖が人狼の血肉を焼く。セシリーの狙いは敵を叩き返すだけではなく、炎による止血を行うことで銀狼軍のユーベルコードを解除しようとしていた。
 【決死の覚悟】の発動トリガーである頸動脈の切断。そこから流れる血を強引に焼き固められたことで、彼らの驚異的なスピードの要因である最終戦闘形態の力は失われた。

「ごめんなさい、でも……終わりにする!」
 敵の動きが鈍った――正確には元に戻ったこの好機を逃すはずがない。セシリーは素早く呪文を唱えると、シリウスの棺に込めた炎の属性を全力解放。闇を払う青き炎の奔流で、銀狼軍を呑み込んだ。
「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!!!」
 蒼炎の中で燃え尽きていく銀狼軍。残るのは断末魔の残響と、ほんの一握りの灰のみ。
 これでもう、彼らが未来への叛逆者となることはない――そう信じながら、セシリーはそっと黙祷を捧げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
私は殺し、屠り、滅ぼすもの
救うものではありません
あなた方がいかにかつては気高く尊崇すべき戦士であったとしても
今は単に外道の隷下

早業・範囲攻撃で鎖を舞わせ、銃弾の雨を防ぎ
見切りと残像・第六感で回避行動を行いながら
UCを発動

……見えますか?
あなたたち自身の心の深奥が
この鏡の迷宮はその心を映し出す
忘れ果て、捨て去ったはずのものであってもね
鏡に映るのはあなたたちのかつての雄姿
かつての誉れ、かつての覚悟です

それを思い出したならばあなたたちは斬り裂かれ、塵へ帰ります
無論慈悲などではありません
私はただ滅ぼすものに過ぎないのですから
決して死にゆく者にかつての誇りを取り戻してあげたわけではありません……



「私は殺し、屠り、滅ぼすもの。救うものではありません」
 前方より迫る銀狼軍の人狼たちに向けて、魅夜は敢えて酷薄な口調でそう宣言する。
 その手元で、悪夢を塗り固めたように黒い鈎付きの鎖がじゃらりと音を立てて揺れる。
「あなた方がいかにかつては気高く尊崇すべき戦士であったとしても、今は単に外道の隷下」
 牙を向ける相手を見誤った輩にかける情けは不要。そう言わんばかりの殺気を放つ彼女に、ヴァンパイアの走狗たちも躊躇なくマスケットの銃口を向けた。

「ああ、俺たちはここで死ぬだろう。だが先に死ぬのはお前らのほうだ」
 明確な【抹殺の意思】と共に放たれる銀狼軍の一斉射撃。確実な死と引き換えにした常識ではあり得ないほどの高速連射を、魅夜は108本の「呪いと絆」を駆使して凌ぐ。
「さあ、それはどうでしょうか」
 黒い少女の周りを囲うように舞う鎖の束が、銃弾の雨を弾き返す。その間に彼女は咏うように詠唱を紡ぐと、戦場全体を自らの力で侵蝕してユーベルコードを発動する。

「時より遠く記憶より遥かにただ見つめよ狂気と哀を」
 【鏡の森に追憶の哀しき葉は舞い落ちる】。夜闇に包まれた市街地はその瞬間に消え去り、鏡でできた迷宮が魅夜と銀狼軍の兵士たちを取り込むように現出する。
「な……なんだ、これは……?」
 思わず発砲の手を止めて、人狼たちは辺りを見回す。壁も、床も、天井も、どちらを見ても映し出されるのは己自身の姿。ただしそれは「現在の」彼らの姿とは少しだけ違っていた。

「……見えますか? あなたたち自身の心の深奥が」
 この鏡の迷宮は、囚えた者の心の深奥を映し出す。オブリビオンとなった本人が忘れ果て、捨て去ったはずのものであっても、隠し立てすることは絶対にできない。
「これは……俺たちなのか?」
「いや違う……けれど……」
 鏡に映るのは銀狼軍の生前の姿。弱き者たちの明日のために、絶望的な戦いに身を投じていった――未来ではなく、圧政への叛逆者であった頃の彼らは、今とほとんど姿形は変わらないのに、その表情は勇ましく、希望に満ちあふれていた。

「それがあなたたちのかつての勇姿。かつての誉れ、かつての覚悟です」
 迷宮の中心で魅夜は告げる。人狼たちがどんなに顔を背けようとしても、鏡が映す真実から目を逸らすことはできない。絶望に屈することなく戦い続けた、鏡の中の輝かしい姿こそが本来の自分で――ここにいる自分たちこそが『過去』の虚像なのだと。
「……あぁ、そうか。俺たちは……」
 それを思い出した時、人狼たちの心身はバラバラに切り裂かれ、塵に還っていく。
 おそらく苦痛は無かったのだろう。彼らの表情はまるで憑き物が落ちたようだった。

「慈悲などではありません」
 自分以外に誰もいなくなった迷宮で、魅夜はぽつりと呟く。私はただ滅ぼすものに過ぎないのですから、と――それはまるで自分自身に言い聞かせているようでもあり。
「決して死にゆく者にかつての誇りを取り戻してあげたわけではありません……」
 その述懐が、本心であるのか、あるいは虚勢なのかを判じられる者はいない。
 迷宮に映りこんだ自身の鏡像から目を背けるように、彼女はそっと瞼を閉じた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
この世界で戦う者の1人として、先駆者であるあなたたちを敬います。
それ故に、吸血鬼の走狗となったあなたたちを倒すことに躊躇はしません。

決死の覚悟に優れた連携、【絶対零度の射手】でも手が足りなそうですが、今この場にいるのは猟兵とオブリビオンのみ。
であれば……加減は必要ありませんね。

【絶対氷域】を使用、絶対零度の冷気で半径80m内の敵を凍てつかせます。攻撃範囲は私の周囲の空間全て。何人でどう連携しようと、逃しはしません。

あちらの武器はマスケット銃、絶対氷域の範囲外からや凍り付くギリギリまで接近してから発砲されることもあるでしょうが、見切り回避を。追撃はせずに避けることを重視し、倒れるのを待ちます。



「この世界で戦う者の1人として、先駆者であるあなたたちを敬います」
 マスケット銃を構えた人狼の群れに対して、自身も愛用のマスケット銃を向けながらセルマは語る。敵である吸血鬼の強大さと横暴を身に沁みて理解するがゆえに、彼女にとって銀狼軍とは尊敬に値する先達であった。
「それ故に、吸血鬼の走狗となったあなたたちを倒すことに躊躇はしません」
 守るべき人々に銃を向け、未来に反逆する先駆者の姿などこれ以上見たくはない。
 氷のように冷たい宣告は、ここで彼らを終わらせるというセルマの決意の現れだった。

「止まるな、進め、我らの牙を敵に突き立てろ!」
 標的を見つけた銀狼軍の人狼たちは、自らの手で頸動脈をかき切り【決死の覚悟】を示す。あと数刻の命と引き換えに絶大な疾さを得た彼らは、一糸乱れぬ動きでセルマを包囲し距離を詰めてくる。
(決死の覚悟に優れた連携、【絶対零度の射手】でも手が足りなそうですが、今この場にいるのは猟兵とオブリビオンのみ)
 相手の練度を改めて評価しながら、セルマは周囲に視線を巡らせる。猟兵たちによる懸命な救助活動が功を奏した結果、都市にいた住民は全員が避難を完了している。

「であれば……加減は必要ありませんね」
 『絶望の集合体』との戦いで抑えていた分を解き放つように、セルマが発動したのは【絶対氷域】。全てを凍てつかせる絶対零度の冷気が、彼女を中心として極寒の渦を巻く。
「なぁッ……!!?」
 包囲を狭めようとしていた人狼たちが寒気を感じた時にはもう遅かった。市街地はまたたく間に氷に包まれ、地面と氷結した足は一歩も動かせず。狼の毛皮など関係なく沁み込んでくる冷気が、骨の髄まで彼らを凍らせる。

「ッ、下がれ!」
 幸運にも絶対氷域の中心から遠くにいた兵士たちは、持ち前のスピードと反応速度で攻撃範囲の外へと逃れる。セルマを中心とした半径80mの空間はすでに、彼女以外に動くものの居ない氷獄と化していた。
「何人でどう連携しようと、逃しはしません」
 数の力も練度も問答無用でねじ伏せる驚異的な制圧力。油断なくマスケットを構えたまま彼女が歩を進めれば、その分だけ冷気の領域も広がり、凍てつく風が戦場に吹き荒れる。

「こいつ……ッ!」
 銀狼軍は凍り付くギリギリの距離からマスケットでの銃撃を加えるが、そう来るであろうことを読んでいたセルマは落ち着いて回避する。型は異なるとはいえ同じマスケット使い、射線や弾道を見切るのは彼女にとって容易いものだった。
「あなたたちは、ここで終わりです」
 セルマが回避に徹している間も絶対氷域は続いている。発砲音は冷たい風にかき消され、一面の銀世界が牙を剥く。彼女自身が追撃するまでもなく、勝敗はすでに決していた。
「ぅ……ぁ……馬鹿、な……」
 冷気に包まれた人狼たちは氷の大地に倒れ伏し、二度と立ち上がることは無かった。凍りついたマスケット銃を墓標のように遺して、その骸はあるべき処に還っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
フローズヴィトニル、ここまでありがとう

魔狼を還し敵の真ん中に降り立ちましょう
【血色結界】を発動
そこから伸びる血糸を操作し
敵の銃口を反らして攻撃を妨げましょう
死を前提とした戦いは不毛です
先程の集合体と同じ、死は終わりです
だからボクは伝えましょう

死に逃げる戦いが次に繋がることはない

血糸の結界で敵を縛り上げ
鞭剣と魔銃で撃ち抜いていく

敵の銃撃は結界で妨げ
血糸の合間を駆け抜けて避けましょう

これは皮肉かもしれませんね……
だって、ボクはヴァンパイアではないけれど
こうして血を武器に戦っている
それもヴァンパイアを倒そうとした過去の亡霊を相手に……

アドリブ歓迎



「フローズヴィトニル、ここまでありがとう」
 『絶望の集合体』を討つために力を貸してくれた魔狼を送還し、一人になったアウレリアは白と黒の翼を広げて敵陣の真ん中に降り立つ。精強なる銀狼軍を相手にその行動は、集中砲火を浴びる危険も承知の上で。
「この命に代えても、敵は殺す……!!」
 鬼気迫るほどの【抹殺の意思】を込めて装備の封印を解く人狼たち。高速連射形態へと変化したマスケットの銃口が、四方八方からオラトリオの少女に向けられた。

「死を前提とした戦いは不毛です」
 目前の殺意に怯えることなく、アウレリアは【血色結界】を発動。踊るような指先の動きに合わせて周囲の無機物が魔法の血糸「レージング」に変化し、兵士たちの銃に巻きつく。
「なッ?!」
 くいと引っ張られた血糸に銃口を反らされ、放たれた弾丸はあらぬ方向に飛んでいく。
 降りてきた相手を包囲した状況から一転、今度は銀狼軍のほうが、張り巡らされた血糸の結界に包囲される立場となっていた。

「先程の集合体と同じ、死は終わりです」
 無数の血糸を操作しながらアウレリアは語る。あの『絶望の集合体』と同じように、己の命を顧みない銀狼軍も「死」というまやかしに囚われている。だからこそ彼女は伝える。
「死に逃げる戦いが次に繋がることはない」
「何を……ッ!」
 自分たちが逃避していると言われたように感じて、人狼たちは怒りに震える。その激昂を抑え込むように血糸の結界が彼らを縛り上げ、動きを封じた隙にアウレリアは魔銃「ヴィスカム-sigel-」のトリガーを引いた。

「が……ッ!」
 ヤドリギの精霊を宿した光弾が、人狼の眉間を撃ち抜く。その直後、鞭剣「ソード・グレイプニル-thorn-」の斬撃が敵陣を薙ぎ払い、血糸をより深い朱で染め上げる。
「アナタたちの戦いにも、ボクが終わりを与えましょう」
 彼女の戦い方はまるで踊っているように華麗で、しかしその刃と弾丸は的確に標的の命を奪う。人狼たちは銃剣で縛めを切り、反撃の斉射を仕掛けるが、その尽くは束ねられた血糸の結界によって妨げられた。

(これは皮肉かもしれませんね……)
 張り巡らせた血糸の合間を駆け抜けながらアウレリアは思う。窮地に陥ろうとも決して退こうとしない相手を見つめ、倒れゆく人狼の血で戦場を朱に染めながら。
(だって、ボクはヴァンパイアではないけれど、こうして血を武器に戦っている。それもヴァンパイアを倒そうとした過去の亡霊を相手に……)
 あるいは生前の彼らも、こんな戦いをしていたのだろうか。血を支配する強大な敵と戦ううちに、いつしか彼らは死を前提とした戦いしか出来なくなったのかもしれない。

「アナタたちがどんな想いで戦っていたのかは知らない。だけど、ここまでです」
 死と引き換えに多くのヴァンパイアを討ち、しかしそれ故に後世に残ることのできなかった銀狼軍。歴史の果てより蘇った『過去』を、アウレリアは粛々と殲滅する。
 やがて血色結界の内に立つ者は彼女ひとりになり――倒れ伏した人狼たちの骸を、鮮やかな血の糸が飾っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリスティアーネ・アステローペ
ええ、確かに素敵な勇者達ね
そういう手合いなら相応の敬意を以て相対しましょうか

貫通力を高めて《串刺し》にして熱で《傷口をえぐる》タイプと
着弾時に《衝撃波》を放ち周囲を《吹き飛ばし》攻撃するタイプの【ウィザード・ミサイル】をカンパヌラの内部で《多重詠唱》し構築

まずは前者をマルツェラを使った《高速詠唱》による《先制攻撃》で足止めを
タイミングをずらさせて弾幕を薄くさせれば《闇に紛れる》なり《オーラ防御》なりで防げるでしょう
とはいえ、その程度で完全に止めるのはいないでしょうし、後者を放って追撃ね
吹き飛ばして隊伍を崩した後は一人一人お相手するわ

一切の損害も出させずに殲滅することが彼らへの敬意でしょう?



「ええ、確かに素敵な勇者達ね」
 命を惜しむことなく敵を討つ。揺るぎない決死の覚悟と【抹殺の意思】に裏打ちされた銀狼軍の力と意志を、クリスティアーネは高く評価する。今やその矜持は歪んでしまっているが、生前の彼らは確かに"勇者"と呼ぶに値する戦士だったのだろう。
「そういう手合いなら相応の敬意を以て相対しましょうか」
 そう言って彼女は水晶珠「流転せしカンパヌラ」の内部で幾つもの術式を織り上げていく。魔力の高まりを感じた銀狼軍は高速連射形態に変化したマスケット銃を構え、一斉射撃の体制をとった。

「放て――!!」
 部隊長の人狼が号令を発する刹那、クリスティアーネは魔杖短剣"空を仰ぐマルツェラ"を抜き放つと、構築した【ウィザード・ミサイル】の術式を起動させた。
「先手は頂くわ」
 鍔元に仕込まれたトリガーを引くと触媒となる特殊弾が炸裂し、詠唱という過程を省略した術式は百を超える炎の矢となって、銀狼軍の兵士たちに襲い掛かった。
「っがぁッ!?」
「あ、熱ッ!!」
 通常のウィザード・ミサイルよりも貫通力を高められたそれは、杭のように標的の身体に突き刺さり、高熱で内側から傷を抉る。一斉攻撃前に足止めをくらったことで、兵士たちの隊列は大きく乱れた。

「やってくれたなッ!」
 炎の矢に焦がされながらも人狼たちは銃を撃ってくるが、タイミングの揃っていない弾幕くらい何とでも対処できる。クリスティアーネは闇に紛れて身を翻しながらオーラの防壁を展開し、まばらな弾丸の雨を防ぎきった。
「とはいえ、この程度で完全に止めるのはいないでしょうしね」
 敵の健在を確認すると、彼女はすぐさまカンパヌラの内部で構築していたもうひとつの術式で追撃する。放たれたのは一見すれば先と同様のウィザード・ミサイルだが、今度の矢は着弾すると爆発を起こし、衝撃波で周囲の敵を吹き飛ばした。

「さっきとは違う……!?」
 また貫通矢かと思って身構えていた人狼たちは、予想外の衝撃を受けて隊伍を崩す。この状況ではもはや数の利を活かすことはできず、連携を取ることも困難である。
 クリスティアーネはこの機を逃さず、吹き飛ばした敵を一人一人相手にしていく。
「これで終わりよ」
「な、めるなぁっ!」
 全身に大火傷を負いながらも人狼が放った銃剣の刺突は、救済者フランツィスカの刃に払われ。颶風を帯びた断頭の一閃が、かつての勇者の首を刎ね飛ばした。

(一切の損害も出させずに殲滅することが彼らへの敬意でしょう?)
 彼らを敬意に値する勇者と認めるからこそ、クリスティアーネは妥協しない。この後に『絶望卿』との戦いが控えているのも考えれば、ここで損害を出す訳にいかないのも事実だ。
 かくして処刑人は傷ひとつ負うこともなく。戦場に踊る炎の矢と救済の刃は、堕ちし銀狼たちを尽く骸の海へと還していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
次から次へと、よく手が尽きないものだ。
本命のためにも、余力は残しておきたいが……さて、許してくれる相手かどうか。

『法界悋気』で雷の奔流を生み出し、銃剣もろとも敵を押し流すぞ。
封印を解くと言っても、素材までは変わらないだろう。銃剣ならば金属が使われているはずだし、つまり──武器を手放させるには、十分な条件だ。軍と言えど非武装では、僕らに太刀打ちできまいよ。
いささか威力が強すぎるかもしれんが、避難が済んでいるのだ。遠慮する必要もない。

勇者たちよ、その志は引き継ごう。
だからもう、戦う必要はないのだ。
同胞とともに、故郷や家族を夢見て眠れ。

※アドリブ&絡み歓迎


トリテレイア・ゼロナイン
見世物を強請る子供の理屈…今までよくもこの地を治められたものです
何処で『発散』していたのか考えたくもありません

中、後衛の味方を●かばうようにUCを使用し敵中突撃

銀の弾丸…私は聖にも魔にも縁遠き身
押し通らせていただきます

大盾の●盾受けで弾丸弾き、剣や盾の●なぎ払いで射撃体勢とる部隊一掃
人狼の身体能力活かした近接攻撃も側面、背後だろうとセンサーでの●情報収集で●見切り●怪力●武器受けで防御、●シールドバッシュで迎撃

前線で注目集め味方の行動や攻撃を援護

この悲壮な戦いぶり…生前の彼らの決意と遺志が偲ばれます

終わらせましょう、『茶番劇』を
そうでなければ、これまで弄ばれた誰も彼も浮かばれません


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

う、っわあ…
一軍丸ごと総死兵、神風上等のガンギマリとかタチ悪いなんてもんじゃないわねぇ…
めんどくさいなあもう…

強化、ってのがどの程度なのかは知らないけど。人狼なんだし、多少は感覚鋭いわよねぇ?
閃光、音響に催涙手榴弾、●圧殺でバラ撒いて○援護射撃しましょ。
こういうのは覚悟云々の精神論でどうにかできるものじゃないもの、中々に効くでしょぉ?隙を晒した奴から順番に仕留めていくわねぇ。
陣形や連携がグチャメチャになれば、それはもう統制された「軍」じゃなくてただ数が多いだけの「群」だもの。なんとでもなるわぁ。



「見世物を強請る子供の理屈……今までよくもこの地を治められたものです」
 何処で『発散』していたのか考えたくもありません――と、『絶望卿』について語るトリテレイアの口調には嫌悪感がありありと満ちている。かのヴァンパイアの歪んだ嗜好に、これまで裏で付き合わされた人間は一体どれだけいたのだろうか。
「次から次へと、よく手が尽きないものだ」
 シェーラの口ぶりからも『絶望卿』への厭気が滲んでいる。都市一つを呑み込むほどの『絶望の集合体』の次は、矜持を歪められたかつての勇者たち。よくもここまで人を不快にさせられるものだと、嫌な意味で感動さえしそうになる。

「本命のためにも、余力は残しておきたいが……さて、許してくれる相手かどうか」
「一軍丸ごと総死兵、神風上等のガンギマリとかタチ悪いなんてもんじゃないわねぇ……めんどくさいなあもう……」
 彩色銃技の構えを取るシェーラに合わせて、クレインクィン「アンダラ」にグレネードを装填しながらティオレンシアも言う。倒しても倒しても仲間の屍を踏み越えて戦い続ける、そういった狂気じみた輩こそが戦場では一番始末に負えないのだ。
「死を怖れるな。俺たちの死は仲間のための銀の弾丸となり、敵を討つ力になる」
 【抹殺の意思】を込めたマスケット銃を高速連射形態に変化させ、一斉攻撃の構えを取る銀狼軍。自身の命さえユーベルコードの代償としてしまう彼らは、この戦いから"生き延びる"ことなど一切考えていなかった。

「私が先行します! 後は頼みましたよ」
 射手である味方2人をかばうように、先陣を切ったのはトリテレイア。儀礼剣と大盾を振りかざし、スラスターから炎を噴射しながら猛進する【機械騎士の突撃】は、敵部隊の注目を集めるのに十分な迫力があった。
「撃てッ!!」
 嵐のように降り注ぐ銀狼軍の一斉射撃。仲間の命を代償にして超強化された【シルバー・バレット】の弾幕は、余すことなく機械騎士をターゲットとして殺到する。

「銀の弾丸……私は聖にも魔にも縁遠き身。押し通らせていただきます」
 視界を覆い尽くすような白銀の弾幕を、トリテレイアは大盾ひとつで受け止める。
 科学の力で造られた重質量の盾は、銀弾を徹すことなく弾き返す。傘を前に差して豪雨の中を駆けるように、彼は突撃モードの出力にものを言わせて距離を詰める。
「お覚悟を!」
「ぐあッ!!?」
 突撃の勢いのままに振るわれた剣と盾が、射撃体勢を取っていた人狼たちを薙ぎ倒す。
 前列を崩された銀狼軍はすぐに陣形を立て直そうとするが、彼らの注目が機械騎士に集まっている内に、後方では他の猟兵たちが攻撃準備を整えていた。

「余すことなく、漏らすことなく。万象一切を掌中に──」
 シェーラが唱えたのは【彩色銃技・法界悋気】。世界に満ちる精霊たちに呼びかけ、属性と自然の合成現象を起こす――今回、彼が生み出したのは「雷」の「奔流」。目も眩まんばかりの雷光が、怒涛の勢いで銀狼軍の兵士たちに襲い掛かる。
(封印を解くと言っても、素材までは変わらないだろう。銃剣ならば金属が使われているはずだ)
 ユーベルコードによって引き起こされた事象とはいえ、電流は自然の摂理に沿ってより流れやすいほうに向かう。先の鋭く尖った金属製の銃剣などは、その最たるもの。
「つまり──武器を手放させるには、十分な条件だ」
「なんだ、この力は……ッがあぁぁぁぁッ!!!!」
 銃剣に落ちた雷から脳髄まで痺れるほどの凄まじい電圧を受け、感電した人狼たちは堪らずマスケット銃を放り出す。雷の奔流から逃れるためにはそれしか無かったとはいえ、最大の武器を自ら放棄してしまった戦力低下は大きい。

「軍と言えど非武装では、僕らに太刀打ちできまいよ」
「ッ、舐めるなよ……人狼の爪牙の鋭さを味わうといい!」
 銃を失った人狼たちは牙を剥き出しにして唸り、獣のように姿勢を低くして飛び掛かる構えを見せる。ユーベルコードにより強化された人狼の身体能力ならば、確かにそれは並大抵の兵器よりも危険な凶器となろう。
「噛み殺してやる―――ッ」
「やらせないわよぉ」
 だがその瞬間、ティオレンシアのクレインクィンから射出されたグレネードが炸裂する。それは殺傷力を重視したものではなく、閃光、音響、催涙――敵の肉体ではなく五感にダメージを与える攻撃だ。

「強化、ってのがどの程度なのかは知らないけど。人狼なんだし、多少は感覚鋭いわよねぇ?」
 獣の感覚を逆手にとったティオレンシアの【圧殺】は、果たして狙い通りの効果を見せた。音と光と匂いの暴力を五感に叩きつけられた人狼たちは、目と耳と鼻を押さえて悶絶する。
「あが、っがあぁぁっ!!?!」
 これ以上ないほどの援護射撃に、すかさず追撃を合わせたのは前衛のトリテレイア。ウォーマシンの怪力にものを言わせた儀礼剣の斬撃が、前後不覚の人狼を斬り伏せた。

「よ、ぐ、も……やっで、ぐれだなぁ……ッ!!」
 耳朶や目から血を流しながら、人狼たちはそれでも憤怒の形相で襲い掛かってくる。五感を狂わされた状態では立っているのさえ辛いだろうに、這ってでも敵に喰らいついてやるという執念と気迫が、彼らを衝き動かしていた。
(この悲壮な戦いぶり……生前の彼らの決意と遺志が偲ばれます)
 決死の覚悟を見せる人狼たちに哀悼の念を抱きながら、トリテレイアは盾を構え直す。射撃であれ白兵であれ敵の攻撃を全て引き受け、後衛を守るのが前衛としての役目だ。
「俺たちは勝つ……絶対に、この命に代えても……ッ!」
 人狼たちは立ちはだかる騎士の周りを取り囲み、死角から隙をうかがう構えを取る。包囲と各個撃破という集団戦の基本だが、この窮地においても連携が取れているのは流石の練度を感じさせる。

 ――だが、後方からばら撒かれた二度目のグレネードが、その戦法を瓦解させる。
 閃光、音響、催涙。ただでさえ重症を負った人狼たちの五感への追い打ちである。
「こういうのは覚悟云々の精神論でどうにかできるものじゃないもの、中々に効くでしょぉ?」
「ぎいぃぃぃッ!? や、め、ろぉぉぉッ!!?」
 敵の連携が崩れた隙を突いて、即座にトリテレイアが動く。高性能なマルチセンサーを搭載した彼は過剰な五感への刺激をカットしながら、側面や背後の敵も正確に把握することが可能だった。
「どうか、安らかに」
 苦し紛れに振るわれた爪牙を剣で受け止めて、機械騎士が繰り出すは渾身のシールドバッシュ。重戦車の突撃にも等しい衝撃が、人狼の勇士を彼方へと吹き飛ばした。

「う、ぐ、ぁ……ま、まだ……俺たちは、まだ……」
 生き残っている人狼たちも、既に陣形を立て直せるほどの余裕はなくなっていた。雷の奔流による銃器喪失と、圧殺による五感へのダメージが彼らに重くのしかかる。
「陣形や連携がグチャメチャになれば、それはもう統制された『軍』じゃなくてただ数が多いだけの『群』だもの。なんとでもなるわぁ」
 ティオレンシアは愛用のリボルバー「オブシディアン」で、隙を晒した敵から順に撃ち抜いていく。正確無比なその射撃の腕前は、標的の急所を決して逃さなかった。

「勇者たちよ、その志は引き継ごう。だからもう、戦う必要はないのだ」
 完全に瓦解した銀狼軍に引導を渡すべく放たれたのは、シェーラによる二度目の【法界悋気】。先の攻撃の比ではない規模の雷の奔流が、少年の意志に呼応して奔る。
 いささか威力が強すぎるかもしれないがが、避難は済んでいるのだ。遠慮する必要もない――勇者たちの戦いに幕を引くには、これくらい華々しい一撃が相応しかろう。
「同胞とともに、故郷や家族を夢見て眠れ」
「ぁ―――」
 最期の瞬間、視界を真っ白に染める閃光の中に、彼らは何を見たのか。雷の奔流に呑まれた人狼たちは跡形もなく消滅し、戦いの業から解放されて眠りにつくのだった。

「終わらせましょう、『茶番劇』を。そうでなければ、これまで弄ばれた誰も彼も浮かばれません」
 トリテレイアは消えていった勇士たちに黙祷を捧げたのち、都市の城壁に佇む『絶望卿』を睨みつける。シェーラも、ティオレンシアも、その言葉にこくりと強く頷く。
 市街に放たれた人狼軍の兵士も少なくなっている。己の嗜好のために多くの人々を巻き込んだ忌まわしき元凶と、決着をつける時はいよいよ迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

幻武・極
やれやれ、オブリビオンだからって命を粗末にって、キミ達はオブリビオンになるまえからその戦法を取っているんだっけ、どのみち感心しないよ。

さて、命を代償にしているならその生命力を吸収してみるかな。
告死武装を纏い突撃するよ。
銀の弾丸は告死武装にも相性が悪いから受けはせずに躱していくよ。
密集した中での銃撃戦をキミたちはできるのかな?



「やれやれ、オブリビオンだからって命を粗末にって、キミ達はオブリビオンになるまえからその戦法を取っているんだっけ、どのみち感心しないよ」
 仲間の屍を踏み越えて、まるで死にに向かうように戦う銀狼軍の兵士たちを見て、極はため息をひとつ。命は投げ捨てるもの、と言わんばかりの彼らの戦い方は、最高の武術を追い求める彼女とは相容れないもののようだ。
「誰にどう思われようと関係ない。勝つことさえできればいい……!」
 自らの命を代償に、ひとりの人狼が【シルバーバレット】を発動する。力を託された彼の同胞らは銀の弾丸を装填したマスケット銃を構え、一斉射撃を開始した。

「ザラキエル、キミの告死の力を使わせてもらうよ」
 飛来する白銀の弾幕を前にして、極は真の姿の解放と共に【告死武装】を身に纏った。
 死を司りし天使の力をその身に帯びた彼女は、翼が生えたような身軽な動きで銃弾を回避する。
(銀の弾丸は告死武装にも相性が悪いからね)
 受けるのではなく躱す。武装具により強化された身体能力を活かして砲火をかいくぐり、敵の陣地へと突撃していくその勇士は、さながら無双ゲームの主役のようで。どよめく人狼たちをぶん殴れる距離まで近付くと、極は笑いながら拳を握る。

「密集した中での銃撃戦をキミたちはできるのかな?」
「ッ、こいつ……!」
 マスケットで撃つには近すぎる間合いに踏み込まれ、銀狼軍はやむなく銃剣による白兵戦の構えに移行する。ユーベルコードで超強化された戦闘力があれば、遅れは取らないと思ったのだろうが――強化されているのは極も同じだった。
「まだまだだね」
 これまでの激戦で流された血と死の量に呼応するかのように、ザラキエルの告死武装は力を増す。突き出される刃はそれにより容易く弾かれるか受け流され、攻撃直後のがら空きになった懐へと極はさらに一歩。武装具に包まれた拳を全力で叩き込む。

「さて、命を代償にしているならその生命力を吸収してみるかな」
「な、ッ、ぐあぁぁぁぁッ!!?!」
 その拳打は単純な打撃力もさることながら、触れた者の生命力を奪う特性を併せ持つ。代償とする"命"そのものを吸われてしまえば【シルバーバレット】を遺すこともできない――断末魔の悲鳴を上げて、人狼の肉体は干からびた塵と化した。
「なに……っ」
 死を覚悟してきた者たちとて、同胞のその死に様には思わず瞠目する。その動揺の隙を突いて、極はさらに敵陣の奥深くへと踏み込みながら、拳や蹴りを見舞っていく。

「どうせ粗末にする命なら、ボクが貰っていくよ」
 告死武具を通じて吸い上げた人狼たちの生命力で、さらに自らを強化しながら。
 孤高なる羅刹の武術家は銀狼軍の陣中をかき乱し、戦果を重ねていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メアリー・ベスレム
まぁ、あなた達メアリとおんなじね
メアリと同じ獣の病で
敵を殺す為なら命だって使ってみせる
そんなつもりの命でも
オブリビオンに使われるのは哀れという他ないかしら
えぇ、だけれど安心して?
あなた達もあの子も、メアリが殺してあげるから

狂月の徴で【ヴォーパルの獣】に変身し
数を相手に【逃げ足】で捕まらないよう立ち回り
【野生の勘】で致命傷を避け【継戦能力】を発揮
【部位破壊】【傷口をえぐる】で首を狙って、さらに出血させ
あるいはそのまま首を刎ねる

温かな血は冷えた体にちょうどいいけれど
あなた達の血を浴びてもあまり楽しくはないものね
愛(よくぼう)理由に弄び、観劇気取りの性悪頭巾
あなたの血ならどうかしら?



「まぁ、あなた達メアリとおんなじね」
 マスケットと銃剣で武装した半人半獣の戦士たち――死をも恐れぬ銀狼軍の戦う姿を、親近感を覚えながら見つめるメアリー。それは相手が同じ人狼だからというだけではなく、その血腥い生き様、あるいは死に様に対する共感だった。
「メアリと同じ獣の病で、敵を殺す為なら命だって使ってみせる。そんなつもりの命でも、オブリビオンに使われるのは哀れという他ないかしら」
 生前の矜持や戦うべき相手を忘れ、走狗と成り果てた彼らに憐れみの眼差しを向けて。少女は狩られる者のヴェールを脱ぎ捨て、獣としての特徴を露わにする。

「えぇ、だけれど安心して? あなた達もあの子も、メアリが殺してあげるから」
 掲げるのは「狂月の徴」。人狼病の罹患者に満月と同じ狂気をもたらす呪わしき聖印の力によって、メアリーは己の病状を一時的に進行させ【ヴォーパルの獣】に変身する。
 しなやかな腕や脚が蒼白の獣毛に覆われていき、赤い瞳は狂気をたたえて爛々と輝く。半獣半人となった彼女の姿は怖気をふるうほどに凶暴で、美しい。
「さぁ、素敵な夜を始めましょう?」
 笑いながら牙をさらけ出した獣は、ぐっと両脚に力を込めて走り出す。病の進行と引き換えに手に入れたそのスピードは、常人には目にすることさえ叶わぬほどに疾い。

「お前も、俺たちと同じ、獣か……!」
 同族の匂いを嗅ぎ取った銀狼軍の人狼たちは、銃剣で自らの頸動脈をかき切ると【決死の覚悟】を見せる。死の瀬戸際で最終戦闘形態と化した彼らの反応速度は、半獣化したメアリーの動きさえも知覚する。
「敵になるのなら、同族であろうとも殺す!」
「いいわ、その気でなければ張り合いもないもの」
 マスケット銃の弾丸が頬を掠めていく。メアリーは流れる血を拭うこともせずに、多勢を相手に捕まらぬようスピードを上げる。足元の影すらも置いていくようなその逃げ足は、同時に獲物との距離を詰めるための疾走でもあった。

「狩られるのはメアリかあなた達か。気が狂うくらいに踊り明かしましょう」
 野生の勘で弾幕の切れ目を見抜き、地を這うような低い姿勢で戦場を駆け抜け――爪牙と刃の間合いに踏み込んだメアリーは、その疾さを殺すことなく肉切り包丁を振るう。
「―――ッ」
 人狼の兵士に辛うじて視えたのは、無骨な刃が描く三日月のような軌跡が、自身の首元に届くところまでだった。【決死の覚悟】の証である頸動脈の傷を的確に抉ったその一撃は、噴水のような出血と共に狼の首を刎ね飛ばす。
「さあ、次はだあれ?」
 鮮血をその身に浴びながら、ヴォーパルの獣は返す刀で次の獲物の首を狙う。悲鳴や遺言を残す間もない早業に、銀狼軍の人狼たちは銃剣で応戦しようとするも――その刃が獣を捉えることはなく、ことごとく首を刎ねられる末路を辿った。

「温かな血は冷えた体にちょうどいいけれど、あなた達の血を浴びてもあまり楽しくはないものね」
 嵐のような狩猟を終えたメアリーは、全身を真っ赤な返り血で染め上げながら、首と胴の分かれた人狼たちの骸の上に佇む。その胸の内は血の高揚で満たされてはいたものの、胸のすくような達成感とは程遠い。
「愛(よくぼう)理由に弄び、観劇気取りの性悪頭巾。あなたの血ならどうかしら?」
 次の獲物を探す彼女の瞳は、城壁の上からこちらを見ている『絶望卿』を捉える。
 殺意と獣性を秘めた狼の視線に射抜かれた赤頭巾の吸血鬼は、ぞくりと身震いしながら、歪んだ微笑みを返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「どこまでも好き勝手を言ってくれる。
だが、ここまで来たんだ。
最後まで付き合ってやるよ。」
吸血鬼に立ち向かった者がその手駒にされるのは
本意じゃないだろう。
なら、ここで止めるのが彼らへの弔いか。

先程の戦いでの消耗、そして目の前の敵を倒しても
最後に絶望卿が控えている。
此処は魔力の消費もダメージも抑えたいところだが…。

冥雷顕迅唱を発動。
落雷と雷弾を発生させるが狙いは直接攻撃ではなく
雷撃の威力は抑え大気を雷で満たし。
大気中の電気を利用した【範囲攻撃】の【マヒ攻撃】で
銀狼軍の動きを封じ。
マスケット銃に電気を流す事で内部の火薬を誘爆。
その間にデモニックロッドから闇の魔弾を
頭目掛けて放ち確実に一撃で仕留める。



「どこまでも好き勝手を言ってくれる。だが、ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやるよ」
 傲慢に周囲を弄ぶ『絶望卿』への怒りを吐き捨てながら、フォルクは黒杖「デモニックロッド」を構える。『絶望の集合体』に続いて現れた銀狼軍の人狼たち、彼らを破りさえすれば此度の元凶にようやく手が届く。
(吸血鬼に立ち向かった者がその手駒にされるのは本意じゃないだろう。なら、ここで止めるのが彼らへの弔いか)
 忌むべき宿敵の走狗と化した彼らにはフードの奥から憐憫の視線を送りながらも、手を抜くつもりは微塵もない。相手方も【抹殺の意思】を露わにしてフォルクを睨みつけ、高速連射形態に変化したマスケットの銃口を向けてくる。

(先程の戦いでの消耗、そして目の前の敵を倒しても最後に絶望卿が控えている。此処は魔力の消費もダメージも抑えたいところだが……)
 フォルクは現時点での残存魔力や本命との戦いも見据えた戦法を素早く導き出すと、敵部隊が一斉射撃を開始するよりも僅かに速く【冥雷顕迅唱】を発動させた。
「上天に在りし幽世の門。秘めたる力を雷と成し。その荒ぶる閃光、我が意のままに獣の如く牙を剥け」
 掲げた杖先から放たれるのは雷弾、そして空からは落雷が降る。それらは直接敵を狙ったものではなく、広く戦場に拡散して稲光を散らし、大気を雷で満たしていく。

「なんだ……っがぁっ!?」
 大気中に拡散した雷はフォルクの意のままに戦場を奔り、巨大な檻のように銀狼軍を包囲する。範囲を重視したために威力こそ抑えめだが、その電圧は触れたものを感電させるのには十分だ。
「悪いが、そのまま動けないでいてもらおう」
 麻痺により敵の動きを封じたフォルクは、そのまま雷の操作に意識を集中する。力を増した電気はより流れやすい方に向かい、マスケット銃に取り付けられた銃剣からその本体へ、さらに内部に籠められた火薬へと通電し、誘爆を引き起こした。

「ぐぉッ?! な、銃がッ!!」
 人狼たちの手元で突然マスケット銃が暴発し、爆風と破片が彼らに傷を負わせる。そのダメージ自体もけして小さくはないが、それ以上に武器が破損したのは大きい。
 フォルクはこの機を逃さずデモニックロッドに魔力を喰わせ、部隊の指揮官と思しき人狼に狙いをつけて、凝縮した闇の魔弾を撃ち出した。
(確実に一撃で仕留める)
 そんな静かな気迫と過たず、魔弾は人狼たちの頭目の胸を撃ち抜き、心臓に風穴を空ける。いかに統率された軍団といえども、指揮する者を失えば混乱をきたすのは必定だ。

「どうか、安らかに眠ってくれ」
 武器も連携も失った銀狼軍は、もはやフォルクにとって怖れるようなものでは無かった。
 葬送の意を込めて杖を振れば、大気を満たす雷の嵐が敵陣へと降り注ぎ、残された人狼たちは頭目の後を追うようにばたばたと地に倒れ伏していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…戯れ言を。そんな事の為に街を滅ぼそうとするなんて…

…良いわ。見たいというならば、好きなだけ見せてあげる
そしてその身に刻むが良い、吸血鬼狩りの業を…

UCを発動して16人の吸血鬼狩人を召喚し全員に“隠れ身の呪詛”を付与
第六感に干渉して殺気や気合いを絶ち存在感を消して闇に紛れ、
今までの戦闘知識から連携が取れる配置に付き、
敵の死角から魔力を溜めた矢弾の雨を乱れ撃つ

…敵は人狼兵、周囲の住人は既に避難している
あの吸血鬼を狩る前に障害を排除して

…かつて圧政に立ち向かった誇り高き狼達が、
吸血鬼の傀儡に堕する現状は貴方達とて本意では無いはず

…死を以てその呪わしき命運から開放してあげる
眠りなさい、安らかに…



「ああ、なんて素敵なの! あなたたちが抗う姿を、もっとわたしに見せて!」
「……戯れ言を。そんな事の為に街を滅ぼそうとするなんて……」
 城壁から歓喜の声を上げる『絶望卿』を睨みつけ、リーヴァルディは漆黒の大鎌をぎゅっと握り締める。この事件に巻き込まれた都市の住人、救援に駆けつけた猟兵たち、絶望を撒く配下のオブリビオン――あの女吸血鬼の態度は、その全てを玩弄している。
「……良いわ。見たいというならば、好きなだけ見せてあげる。そしてその身に刻むが良い、吸血鬼狩りの業を……」
 怒りに震える少女の周囲に血の陣が描かれ、その中から黒衣を纏った人影が姿を現す。【吸血鬼狩りの業・血盟の型】により召喚された彼らは、リーヴァルディが手ずからその業を伝えた吸血鬼狩人の弟子たちだ。

「……敵は人狼兵、周囲の住人は既に避難している。あの吸血鬼を狩る前に障害を排除して」
 リーヴァルディは弟子たちに"隠れ身の呪詛"を付与して端的な現状説明と指示を告げる。狩人たちは余計な口を挟むことなく静かに頷くと、闇に紛れて戦場から姿を消した。
 呪詛により殺気や存在感を完全に絶ち消した彼らは、人狼の第六感すらも欺いて各所に潜伏し、敵を射程に収めながら連携を取れる配置につく。今までに多くの吸血鬼や魔物を狩ってきたリーヴァルディの戦闘知識は、弟子たちにも教示されていた。

(……皆、配置に付いたわね)
 リーヴァルディ自身もまた、破壊された家屋の物陰に身を潜めつつ、大鎌から「吸血鬼狩りの銃・改」に装備を持ち替えている。既に魔力を溜めて装填済みの二連装マスケット銃の照準は、まだこちらに気付いていない銀狼軍の兵士たちに向けられていた。
(……かつて圧政に立ち向かった誇り高き狼達が、吸血鬼の傀儡に堕する現状は貴方達とて本意では無いはず)
 本来の矜持も使命も歪み果て、未来への叛逆者と化した銀狼軍を、誰よりも許せないのは生前の彼ら自身であろう。意義の失われてしまった闘争に幕を引くために、少女はトリガーを引き絞る。

「……死を以てその呪わしき命運から開放してあげる。眠りなさい、安らかに……」
 夜の街に轟く発砲音。それと同時に各地に潜伏していた吸血鬼狩人たちが、銀狼軍の死角より一斉に矢弾を乱れ撃つ。それまで全く察知できなかった相手からの奇襲に、敵は大混乱に陥った。
「敵襲っ?!」
「一体何処から……ぐぁッ!!」
 反応も回避も間に合わず、魔力の籠もった矢弾の雨に射抜かれていく人狼たち。【決死の覚悟】による速度強化も、それを発動するための猶予がなければ無意味だった。

「お……お前たちは……何者だ……」
「……我ら、夜と闇を終わらせる者なり」
 血塗れで倒れていく人狼たちに誰何され、リーヴァルディは静かな調子で答える。
 この世界を救済する誓いを胸に、吸血鬼狩りの業を振るう狩人たち。その姿に、吸血鬼の圧政と戦ったかつての勇士たちは何を思ったか――地に伏せた屍の目は、眩しいものを見たように細められていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
ヘイト稼ぎに2章からお出ましとはご苦労なことじゃナ。それではアレの貧困な想像力をひっくり返しに行くとするか。

[UC魂喰らいの森]人払は済んでいる、遠慮はいらんナ。挨拶がわりに魂喰らいの森を顕現させて銀狼軍の魂を啜らせてしまおう。勇者達には悪いが、玉砕覚悟で来られてはかなわん。マスケットには霊符で[オーラ防御]の結界を張って備えることとす。さあ、魂喰らい達がやってくるぞ。ふふ。

ごきげんよう絶望卿、『魂喰卿』御狐稲見之守である。楽しそうで結構なことであるが、そんなに猟兵の活躍がお望みなら喜んで討ち取られちゃくれんかナ?



「ヘイト稼ぎに早くからお出ましとはご苦労なことじゃナ」
 配下もまだ残っているうちから姿を見せた敵の親玉に皮肉を浴びせ、稲見之守はすうと目を細める。これもまた猟兵たちの怒りを煽ることで、その戦いをより輝かせるための策略なのだとすれば、一貫しているだけに尚更たちが悪い。
「それではアレの貧困な想像力をひっくり返しに行くとするか」
 己の為した所業が招いた者たちが一体どれほどの実力を秘めているのか、観客気取りの愚か者に教えてやるために。モノノ怪神はゆるりと笑みを浮かべながらも剣呑な気配を纏う。

「人払は済んでいる、遠慮はいらんナ」
 『絶望卿』の走狗と成り果てた銀狼軍の兵士たちと対峙すると、稲見之守は挨拶代わりに幻術の霧を放つ。それは激戦で破壊された都市の風景を覆い隠し、代わりに彼女の領土である【魂喰らいの森】を顕現させた。
「何だ、この森は……?」
 人狼たちがそれをただの森林ではないと悟ったのは、獣の直感によるものか。異世界アックス&ウィザーズの群竜大陸に存在するこの森は、繁茂する植物から生息する動物に至るすべてが"生物の魂"を喰らう性質を有していた。

「っ……意識が……遠く……」
 草木に触れるだけで感じる強烈な脱力感。森という巨大な怪物の胃袋に呑み込まれた銀狼軍は、何をしなくともじわじわと魂を蝕まれていく。森の領主である稲見之守が、直接手を下す必要さえない。
(楽しい思い出を振り返れば、魂喰らいに抵抗できるのじゃが)
 それを教えてやるつもりは稲見之守には無かったし、もし人狼たちがそれを知っていたとして意味はあったかどうか。この闇に包まれた世界で、仲間も己も犠牲にしながら絶望的な戦いに身を投じてきた戦士たちに、"楽しい思い出"など皆無だったろう。

「くそッ……まだだ。せめて、お前だけでも道連れに……!」
 絶体絶命の窮地に陥れども、銀狼軍から【抹殺の意思】は失われず。生還を放棄した彼らは残された気力を振り絞って、形態変化させたマスケット銃のトリガーを引く。
 幻術の森に銃声が轟き、数え切れないほどの銃弾が稲見之守に降り注ぐ。しかし彼女は予め敵の反撃に備えて、自らの周囲に結界を張っていた。
「勇者達には悪いが、玉砕覚悟で来られてはかなわん」
 四方に配した霊符から発せられるオーラの輝きが、鉛玉の雨を弾き返す。人狼たちの決死の抵抗は彼女に傷一つ付けられなかったばかりか、逆に音によって森に棲まう者たちの注意を集める結果となった。

「さあ、魂喰らい達がやってくるぞ。ふふ」
 銃声に引きつけられた獣や虫や鳥たちが、森のあちこちから銀狼軍に殺到する。たとえ小さな羽虫一匹でも、それらは全て生者の魂を喰らうモノ。いかに勇猛な兵士でも、銃と銃剣だけで抵抗しきれるものではない。
「くそッ、やめろ、っ、やめ―――ッ!!!!!」
 人狼たちの必死の叫びは、群がる動植物に呑み込まれる。森に静寂が戻るのを待ってから稲見之守が術を解除すると、そこには抜け殻となった彼らの肉体だけが残されていた。

「ごきげんよう絶望卿、『魂喰卿』御狐稲見之守である」
 元の市街地の風景が戻ってくると、稲見之守は改めてこの事件の元凶に挨拶する。
 魂喰らいの森の中で起こったことも、彼女は見ていたのだろう。人智を超えた異郷を支配する『魂喰卿』の力に、驚嘆と歓喜の混じった笑みを浮かべている。
「楽しそうで結構なことであるが、そんなに猟兵の活躍がお望みなら喜んで討ち取られちゃくれんかナ?」
「ふふ、そうね、それもいいかしら。あなたたちがわたしを魂の芯まで恋い焦がらせてくれるのなら……ね♪」
 森に喰われた人狼たちが、どうやら彼女が使役する最後の銀狼軍だったようだ。
 全ての配下を失った『絶望卿』は、稲見之守の挑発に愛おしげな眼差しで応えながら、城壁よりその身を躍らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『絶望卿』アルマ・アークナイツ』

POW   :    死が貴方を連れ去るまで
【ユーベルコードを強制停止する血鎖の鞭】が命中した対象を爆破し、更に互いを【自身の負傷の全てを相手に転写する呪いの鎖】で繋ぐ。
SPD   :    “とかく一目惚れとは暴力の如く”
自身の【行動時間をレベル倍速化する巨大魔方陣】が輝く間、【超怪力を用いて操る重量レベルtの魔剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    鮮血の恋歌
【殺意を戦闘力そのものに変える無数の殺戮剣】を降らせる事で、戦場全体が【全ての者に一時的な不死を与える悪鬼の地獄】と同じ環境に変化する。[全ての者に一時的な不死を与える悪鬼の地獄]に適応した者の行動成功率が上昇する。

イラスト:らぬき

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「ほんとうに素晴らしい戦いだったわ。こんなに心が踊ったのは初めてよ」

 とん、と軽い靴音を立てて、赤頭巾とマントを纏った少女が市街地に降り立つ。
 『絶望の集合体』も『銀狼軍』も討ち倒した猟兵たちと、全ての配下を失った『絶望卿』は、ついに同じ目線で相見えることとなった。

「あなたたちの武勇に心からの称賛と敬意を。そして謝らなければいけないわ。あなたたちの相手をするには、あの銀狼軍ですら力不足だったみたい」

 まるで淑女のようにスカートをつまんで頭を下げる。オブリビオンが猟兵に謝るとは稀有なことだが、その謝罪の基準はまったく他者の共感を得られないものだ。己が踏み躙ってきた生命への罪悪感など、彼女はこれっぽっちも感じてはいない。

「あなたたちの勇姿をほんとうに輝かせるためには……もっと大きな絶望がいるわ」

 もっともっと、猟兵たちが絶望に抗う姿を見たい。その輝きを心に焼き付けたい。
 恋する乙女の表情で、吸血鬼の娘は巨大な魔剣をその手に取る。彼女の身の丈を上回るほどに巨大なそれは、彼女の遊興の犠牲となった者達の血に濡れていた。

「『絶望卿』アルマ・アークナイツ。不肖ながら、あなたたちへの最後の"絶望"を務めさせて頂くわ」

 その小柄な身体から放たれる殺気は本物。どんなに可憐な容姿でも隠しきれない禍々しい気配が、本能的な危機感を猟兵たちに抱かせる。
 今夜戦ったどのオブリビオンよりも――それらを全て束にしたよりも、おそらく彼女は強い。ひとつの領を治めるヴァンパイアとして相応しいだけの力を備えている。

「どうか最期の瞬間まで、わたしをあなたたちの輝きで焦がして。絶望に抗い続けるあなたたちの美しさで、わたしの心を満たして」

 その果てにどちらかが死ぬことになっても、彼女にとっては些細なことなのだろう。
 時に挫けながらも力強く立ち上がり、絶望と戦う人の輝かしい姿"のみ"が、彼女の愛する対象なのだ。

 純真にして無垢、それゆえに醜悪にして残酷。
 ここで『絶望卿』を止めなければ、また多くの命が踏み躙られるだろう。
 歪み果てた恋を終わらせるために、猟兵たちは残された力を振り絞った。
アリス・フォーサイス
そうだね。黒幕が倒されるところまでがお話。その覚悟はできているみたいだね。

それがキミの『恋』なのかな。
もし、キミが猟兵としてこの世界に生まれていたなら友達になれそうなのに、残念だよ。

輝かしいクライマックスのために、全力で挑むよ。
魔剣による超速攻撃をファデエフポポフゴーストによる瞬間移動を繰り返すことで避けていく。危険度は上がるけど、見極めながら、距離をつめてくよ。肉を切らせて骨をたつ。少し切られてもかまうもんか。全力魔法を込めた拳を叩き込んであげる。



「そうだね。黒幕が倒されるところまでがお話。その覚悟はできているみたいだね」
 幕引きのために姿を現した今回の元凶――『絶望卿』アルマ・アークナイツに、アリスはにこりと笑いかける。希望にあふれる物語を好物とする彼女は、この場にいる猟兵の中でも敵の動機を深く理解する者のひとりだった。
「それがキミの『恋』なのかな。もし、キミが猟兵としてこの世界に生まれていたなら友達になれそうなのに、残念だよ」
「そうかしら。でもわたしは敵同士で良かったと思うわ。こうして向かい合ったほうが、あなたたちの輝きがよく見えるもの」
 アルマはうっとりとした顔で微笑みを返すと、血に染まる魔剣を振り上げる。
 希望に恋い焦がれる『絶望卿』との決戦の火蓋は、ここに切って落とされた。

「輝かしいクライマックスのために、全力で挑むよ」
「ええ、そうでないと。わたしも最初から全力よ!」
 【とかく一目惚れとは暴力の如く】。アルマの周りを光り輝く巨大な魔法陣が囲い、行動時間を飛躍的に加速させる。初手からユーベルコードを切ってきた敵に対して、アリスはまっすぐに接近戦を挑んだ。
「さあ、わたしという絶望に抗ってみせて!」
 繰り出された斬撃は刹那のうちに九度。振るわれる魔剣の重量は100トンをゆうに超える、吸血鬼の超怪力なくしてはとても扱えない代物。その超高速と超質量を併せた乱舞は、一瞬のうちにアリスの身体をバラバラに切り刻んだ――かに、見えた。

「それは残像だよ」
 致死の斬撃を受ける寸前、アリスは【ファデエフポポフゴースト】による瞬間移動で難を逃れていた。情報の世界を羽ばたく妖精としての真骨頂、己の身体の量子化である。
 それを見たアルマは「まあ!」と歓喜の笑みを浮かべながら、なおも魔剣による超速攻撃を放つ。対するアリスも得意の情報分析で相手の動きを見極めながら、瞬間移動を繰り返して攻撃を避けていく。

「あははっ、すごい、今のは絶対当たったと思ったのに! こんなのって初めて!」
 瞬きする間もないミリ秒単位の攻防。興奮の度合いを増していくアルマの乱舞を、アリスは躱しながら少しずつ距離を詰めている。ただでさえひとつの読み違いが即座に命取りとなる中で敵に接近することは、それだけ危険度が上がるのも承知の上でだ。
(肉を切らせて骨をたつ。少し切られてもかまうもんか)
 量子化から次の量子化までの一瞬に、魔剣の刃が身体を掠める。ほんのすこし掠めただけなのに、ざっくりと切り裂かれた肌には血が滲む。それでもアリスは前へ、前へ。最高のクライマックスを味わうためには、ここで黒幕から退くことだけはできない。

「これがボクの全力だよ」
 何十度目かになる瞬間移動。量子のゆらぎに乗って斬撃をくぐり抜けたアリスの身体は、魔剣の間合いの内側で実体化する。手を伸ばせば触れられる距離で、ついに敵を目前に捉えた彼女は、残されたありったけの魔力を込めて小さな拳を握りしめる。
「素敵――!」
 行動の倍速化を回避に活かせば、あるいは回避できたかもしれない。しかし捨て身の覚悟でここまでやって来た少女が、絶望に抗う全身全霊の一撃を受け止めない、などという選択肢は『絶望卿』には慮外の事だった。

「っ、あぁ!! 熱くて、眩しくて、痛い……ッ!」
 渾身の力で叩きつけられた拳から情報妖精の全魔力が解き放たれ、『絶望卿』を吹き飛ばす。あまりの衝撃に魔法陣から光は消え、受け身も取れずに地を転がる吸血鬼。
 それは悪しき吸血鬼という「黒幕」を死のエンドロールに導く一撃。アリスも、アルマも、お互いにそれを理解しているがゆえに――双方の表情はどこか満足げだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カビパン・カピパン
「ほんと「見てあの子、私の若い頃にそっくり!」
アルマの言葉を遮り、開口一発おばちゃんギャグ。

「ぎゃははは!」
一人で笑い出すカビパン。

「あなたたちの武「ハリセン見て!動いとるやろ、生きてる生きてる~」
「あなたたちの勇「んもぅ~掃除が大変、ギャグが散らばって」
「『絶望卿』ア「あなた、私の代わりにトイレいっトイレなんちゃって」
「どうか最期の「やっぱりあの子、私の若い頃にそっくり!ほら見て見て!!」

鮮血の恋歌でいくら戦場が変化しようとも、カビパンワールドで上書きされてしまう。
ここはギャグの地獄。マイブームのおばちゃんギャグを一人で言って一人でウケているカビパン。
アルマの歪み果てた恋は急激に冷めた。



「ああ、ああ、素晴らしいわ! やっぱりわたしの見立ては間違っていなかった!」
 猟兵の攻撃を初めてその身に受けた『絶望卿』アルマは、ぽたぽたと血を零しながらも喜びに満ちた顔をしていた。絶望に抗う者を求めて呼び込んだ相手――その猟兵がこれほどまでに強く、輝かしい者たちだとは思ってもみなかったのだろう。
「ほんと「見てあの子、私の若い頃にそっくり!」
 だがその時、熱に浮かされたような彼女の口上を、ふいに誰かの声が遮る。井戸端のおばちゃんが若い子相手にする定番のギャグを言い放ったのは、やはりあのハリセン女教皇こと、カビパンであった。

「ぎゃははは!」
 自分で言ったギャグに一人でバカ受けして、バシバシと地面を叩く【ハリセンで叩かずにはいられない女】。アルマはそんな彼女をちらりと一瞥して――何も見なかったことにして話を続けることにした。
「さあ、もっともっとわたしに、あなたたちの武「ハリセン見て! 動いとるやろ、生きてる生きてる~」
 が、口上を言い切る前に、再び空気の読めないカビパンのおばちゃんギャグが割り込んでくる。一人でボケて一人でウケる、無敵の自給自足ギャグマシーンと化した彼女は、もう誰にも止められなかった。

「あ、あなたたちの勇「んもぅ~掃除が大変、ギャグが散らばって」
「わ、わたしは『絶望卿』ア「あなた、私の代わりにトイレいっトイレなんちゃって」
「…………どうか最期の「やっぱりあの子、私の若い頃にそっくり! ほら見て見て!!」

「もう! なんなのよあなたは! わたしにも喋らせてったら!」
 最初は無視するつもりでいたアルマも、何度も何度も話の腰を折られるうちにとうとうキレた。怒りと共に降り注ぐ【鮮血の恋歌】の殺戮剣が、戦場を血腥い悪鬼の地獄へと塗り替えようとするが――。
「ぎゃははははは!」
 カビパンの爆笑とハリセン音が響くと、それらは全て彼女の世界観に上書きされる。
 ここはギャグの地獄。独特のペースから繰り出されるマイブームのおばちゃんギャグを延々と聞かされるという、控えめにいっても絶対堕ちたくないタイプの地獄である。

「もうやだこの子! ノリを合わせてくれない子は嫌いよ!」
 これにはアルマも愛想が尽きたか、相手するだけ無駄だと悟ったか。個々に居たら自分までおかしくなりそうだと、ぷんぷんと頬を膨らませてギャグ地獄から退散していく。
 狂愛に生きる吸血鬼の歪み果てた恋すら冷めるカビパンのギャグ。それはある意味偉業かもしれないが、果たして意図しされていたかどうかは――本人のみぞ知る、である。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルク・リア
真の姿を解放。
血煙の様な禍々しいオーラを纏い。
「ご丁寧な自己紹介痛み入る。
ならば、このフォルク。
如何な絶望も打ち払うと約束しよう。」
より『殺意』を持つ様に
相手の流儀に従う言葉を選ぶ。

鮮血の恋歌に
「地獄か。
しかし、死霊使いの俺には地獄は遊び場だよ。」
地獄では負の力こそ正義。そして魂に干渉する力がより生きる。
ならこの【呪詛】が力を持つ筈。

冥理影玉で呪装銃「カオスエンペラー」の呪詛を強化し攻撃。
敵の攻撃をギリギリ躱し傷を負いつつ
「これが絶望とは温いものだ。まさか手加減してくれてるのか?
もしそうでも、このまま呪い殺すだけだが。」

敵の殺意が最大まで高まったら誘いの魔眼を発動。
「言った筈だ。呪い殺すと。」



「ご丁寧な自己紹介痛み入る。ならば、このフォルク。如何な絶望も打ち払うと約束しよう」
 より『殺意』を持つ様に、相手の流儀に従う言葉を選びながら、フォルクは真の姿を解放する。血煙の様な禍々しいオーラを纏い、手には闇の宝珠「冥理影玉」を携えたその佇まいは、皮肉にも闇に覆われたこの世界とよく似合っている。
「期待しているわ、闇と血を纏うひと。あなたはどんなふうに絶望(わたし)に抗ってくれるのかしら」
 『絶望卿』アルマは期待と殺気に満ちた視線をフォルクに向けながら、小さな唇で【鮮血の恋歌】を紡ぐ。狂おしいまでの恋情を表現した禍歌に導かれて、無数の殺戮剣が戦場に降り注いだ。

「ここはもう悪鬼の地獄。心ゆくまで殺し合いましょう」
 異国の伝承に語られる剣山刀樹のごとく、地を埋め尽くした刀剣は戦場の環境を一変させる。濃密な闇の魔力に満たされたこの領域上では、敵味方を含めた全ての者は死ぬことすら許されず、永遠に殺し合う定めを負う。
「地獄か。しかし、死霊使いの俺には地獄は遊び場だよ」
 しかしこの世ならざる環境下に置かれても、フォルクは至って冷静だった。地獄に適応できる者は吸血鬼ばかりではない。生と死にまつわる呪法に精通した死霊術士は、その叡智をもって地獄に順応する。

(地獄では負の力こそ正義。そして魂に干渉する力がより生きる。ならこの呪詛が力を持つ筈)
 フォルクは冥理影玉に封じていた呪いを呪装銃「カオスエンペラー」に送り、トリガーを引く。放たれた死霊の弾丸は呪いによって強化され、標的の吸血鬼を射抜いた。
「っく……! すごいわ、地獄に堕ちても怯えないどころか、すぐ順応するなんて!」
 呪弾は確かにアルマにダメージを与えたが、地獄により不死となった彼女は怯むことなく反撃の魔剣を振るう。小柄な少女の体躯には見合わない、豪快な横薙ぎの斬撃を、フォルクはギリギリで間合いを見切って身を躱す。

「これが絶望とは温いものだ。まさか手加減してくれてるのか?」
 魔剣の切っ先が僅かに掠め、フォルクの胸から鮮血が散る。だが彼はそんな傷などまるで堪えていない風を装い、フードの下で薄い笑みを浮かべてアルマを挑発する。
「もしそうでも、このまま呪い殺すだけだが」
「ふふ、できるかしら? その前に切り刻まれてしまうかもしれないわよ……?」
 アルマの恋は殺意と裏表。不敵なフォルクの態度に恋情をかき立てられる程、彼に絶望を与えたいという殺意も高まっていく――そして死霊術士であるフォルクは、そんな敵の負の感情さえも自らの力に変えるのだ。

「常世を彷徨う数多の怨霊よ。禍々しき力を宿すものよ、その呪詛を解き放ち。混沌の眼に写る魂を混沌の底へと誘い連れ去れ」
 『絶望卿』の殺意が最大まで高まった頃合いをみて、フォルクが発動したのは【誘いの魔眼】。禍々しい血煙のオーラの中から、不気味な無数の赤眼が浮かび上がる。
 その眼光に射すくめられたアルマは、ふいに全身を針で刺されるような激痛と、足下の覚束なさを感じ――振り回した魔剣の重みに流されるように、地面に倒れ込んだ。

「ぇ……あ、あれ? ど、ぅ、なったの?」
「言った筈だ。呪い殺すと」
 冷たい声色で淡々と告げられたフォルクの言葉も、今のアルマにはよく聞こえない。
 魔眼の視線に込められた呪詛は、標的の肉体と精神、そして五感を同時に蝕む。平衡感覚すら狂わされた彼女は立ち上がることもできず、芋虫のように地を這うばかりだ。
「ぁ、は……痛いわ、苦しいわ……こんなの、いつ以来かしら……!」
 自らの築いた地獄により死を否定された『絶望卿』は、呪いによる終わりのない苦しみを味わうことになる。だが悶絶必至の痛みを受けてなお、彼女の口元に宿るのは恍惚の笑みであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
住民は避難済み
味方の心配は無用
なれば――ボクも本気の切り札でキミと相対しよう、絶望卿!
希望という名の輝きがキミを砕くだろう!

滅多なことでは使えない鬼札【オーバーキル・ドライブ】を発動
過剰強化形態の性能と手持ち武装の総動員でもって絶望卿に挑みかかっていくよ
「ターゲット確認。平和の敵を……破壊する!」

相手の鎖に触れるとユーベルコードが、強化が消えてしまう
ならば触れても問題ないもので迎撃するしかあるまいよ
魔法弾で、水で、ロケット弾で、間に合わないなら動輪剣を投げて
何度も迫る血鎖の鞭を撃ち落としながら絶望卿に急接近
最後に残ったスコップを頸骨目掛けてフルスイング
「ハアァァァァッ!」



「住民は避難済み、味方の心配は無用」
 戦場の状況を改めて確認してから、ジュリアは総身に気魄を漲らせる。ようやく辿り着いた元凶との対峙において、憂慮すべきものや障害物はもう何ひとつ存在しない。
「なれば――ボクも本気の切り札でキミと相対しよう、絶望卿!」
 先の銀狼軍との戦いからずっと、彼女のボイラーの出力は上がりっぱなしであり、身体からは蒸気の煙が積乱雲のように立ち上っている。蒸気機関車のヤドリガミと言えども明らかな異常出力――彼女はそれを、さらにもう一段階引き上げる。

「安全機構、全て停止。燃料追加投入。――もう、絶対に止まらないよ!」
 【オーバーキル・ドライブ】。それはジュリアのユーベルコードの中でも滅多に使用されることのない大技。機関圧力の安全域を超えた超過駆動状態に移行し、立ちはだかる全てを駆逐する――守るべきモノが側にある時には絶対に使えない鬼札だ。
「まぁ……!!」
 噴火した火山の如く放出されるボイラーの炎と蒸気。爛々と輝く橙色の瞳。今にも爆発しそうなエネルギーを全身に漲らせながら、視線はただまっすぐに正面の敵だけを見据える。その触れがたいほどの勇姿に、思わず『絶望卿』が感嘆の声を上げた。

「ターゲット確認。平和の敵を……破壊する!」
 ずしりと大地を踏みしめながら、走り出したジュリア――もとい「オーバーキル」は等身大の蒸気機関車さながらに、猛烈な勢いで正面のターゲットに挑み掛かる。
 対する『絶望卿』アルマは魔剣と繋がった血鎖を鞭のように操って、近付いてくる暴走機関車を迎え撃つ。
「なんて美しいのかしら! だけどまだよ、まだ足りないわ!」
 【死が貴方を連れ去るまで】吸血鬼の狂愛は止まらない。彼女の振るう血鎖にはユーベルコードを強制停止させる力があり、これに触れてしまえば折角のジュリアの強化も解除されてしまう恐れがあった。

(ならば触れても問題ないもので迎撃するしかあるまいよ)
 圧倒的出力と引き換えに理性を失った現在のジュリアに、あまり高度な判断は難しい。彼女は襲い掛かってきた血鎖の鞭に、半ば反射的に手持ちの武装の照準を向けた。
 右手には精霊銃『No.4』、左手には高圧放水銃。轟音と共に乱射される魔法弾と水圧が、呪いの血鎖を弾き飛ばす。
「流石ね。なら、これはどうかしら!」
 アルマは愉しげに笑いながら、今度は4本もの血鎖を同時に振るう。対するジュリアは弾切れになった銃を投げ捨てたかと思えば、4連詠唱ロケットランチャー「ML106」をぶっ放し、四方からの攻撃をロケット弾で吹き飛ばした。

「キミが絶望を名乗り、人々の平和を脅かすのなら」
 何度も迫る血鎖の鞭を、手持ちの武装を総動員して撃ち落としながら『絶望卿』に急接近するジュリア。今の彼女の脳内に後退の二文字はなく、いかなる猛攻も彼女の前進を止められはしない。
「希望という名の輝きがキミを砕くだろう!」
「あら……砕かれるのは、どちらかしら!」
 アルマが振るった最後の血鎖を、ジュリアは咄嗟に動輪剣を投げつけて弾き返す。
 これで彼女の手元にある武器も、黒光りする大型のスコップがひとつだけ。最後に残ったその一本を、あらん限りの力で振りかぶって――。

「ハアァァァァッ!」

 裂帛の気合を込めた渾身のフルスイングが、『絶望卿』の首にクリーンヒットする。
 頸骨が砕ける鈍い音が響き、その身体は野球ボールのようにふっ飛ばされると、何度も地面をバウンドして、最後に壊れた家屋の壁に叩きつけられる。
「かは……ッ!!! ふ、ふ、そう、これが、希望、なのね……」
 首がへんな方向にねじ曲がった状態で、それでも恍惚とした笑みを浮かべる様子は不気味だが。オーバーキルの一撃が、その名に恥じぬ痛打を与えたのは確かだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎
●SPD



ワイルドハント、白斑物九郎
超速・超重の獲物を狩りに来た


・【バニシングドライブ】発動
・小細工一切無し
・のっけから下駄も脱いで、宙に【残像】を刻む程の超々々最高速を以って対抗する(限界突破)

・こちらの得物は鈍器――【怪力】でブン回す巨大な魔鍵
・鍵の先端パターン形状を用い、受け、超重量をまともに掛けられるよりも先に流すように捌く(武器受け+なぎ払い)
・目で追い切れなかった敵の挙動や機先は【野生の勘】で察知し喰らい付いていく

・敵の得物の造作と、その取り回しとを戦闘に並行し観察(情報収集)
・攻撃の基点がその魔剣だと言うならば、その魔剣を操る手を、手首を、握力の起点と見た指を狙い澄まして打ち込む



「ふふ、ふふふ、遠くから見ていたのとは大違いだわ……これが猟兵の力なのね」
 折れ曲がった頸骨を元の位置に戻しながら、笑みを絶やすことのない『絶望卿』アルマ。猟兵たちの実力をその身で実感することで、歪んだ恋心をさらに昂ぶらせていく彼女の元に、また一人新たな猟兵が姿を見せる。
「あら……あなたのことは見覚えがないわね?」
 だらけた甚平を着たその黒猫のキマイラは、これまでの戦いでは表立った行動を見せていなかった。だがその瞳に宿る闘志は、他の猟兵にもゆめゆめ劣るものでは無い。

「ワイルドハント、白斑物九郎。超速・超重の獲物を狩りに来た」
 手元に開いたモザイク状の空間から巨大な魔鍵をニュッと取り出して、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は名乗りを上げる。下駄を脱ぎ捨てて素足となり、猛獣を思わせる低い姿勢から、敵に飛び掛かる構えを見せる。
「『絶望卿』アルマ・アークナイツ。真っ向勝負も嫌いじゃないわ」
 名乗りを返した赤頭巾の吸血鬼は身の丈よりも大きな魔剣を構え直すと、行動を倍速化させる魔法陣を描く。人外ゆえの純粋な"力"を以って"絶望"を示す――抗う者たちの勇姿を輝かせるために、彼女が好む手段のひとつだ。

「ザ・レフトハンド――【残像】ON」
 相手が構えを取ったのを見ると、物九郎は【バニシングドライブ】を発動し、初速から小細工なしの全力疾走で襲い掛かる。対するアルマも一切の加減をせず、倍速化と超怪力を最大限発揮した9連撃を見舞う。
「あなたのことも大好きよ……だから、簡単には壊れないでね?」
 【とかく一目惚れとは暴力の如く】の乱舞は1撃1撃が必殺の威力を秘めている――だが、ただ疾く重いだけでは物九郎を殺すことはできない。左腕の刻印から力を引き出し、限界を超えた超々々最高速に達した彼は、宙に残像を刻みながら敵の猛攻をかいくぐる。

「てめぇこそワイルドハントの狩りを舐めねぇほうがいい」
 物九郎がブン回すのは巨大な魔鍵。まともに受け止めるには些か分の悪い超重量の魔剣を、鍵の先端パターン形状を用いて受け、押し潰されるよりも先に流すように捌く。
 巧みな受け流しと高速機動で必殺の乱舞に対抗しながら、その眼はじっと敵の得物の造作と、その取り回しとを観察している。
「全てのオブリビオンを狩り尽くすのが、俺めの信条ッスから」
「ふふ、勇ましいのね。それならもっともっと抗ってみせて!」
 歓喜する『絶望卿』の剣速はさらに勢いを増して、いよいよ目で追うのも困難になる。刹那でも反応が遅れれば真っ二つにされるであろう緊張感の中、物九郎は第六感を研ぎ澄ませて敵の挙動に喰らいつく。

「―――そこだ」
 1分にも満たない時間に何十という攻防を交わした果てに、物九郎が見切ったのは刹那の好機。9連撃の直後に生じるほんの一瞬の隙を突いて、反撃の魔鍵を打ち込む。
 攻撃の基点がその魔剣だと言うならば、その魔剣を握る手を、手首を、握力の起点とみた指を。狙い澄ました一撃で的確にダメージを与える。
「っ!!」
 重く正確な打撃を受けたアルマの手元が狂い、魔剣の斬撃があらぬ方向へと流れる。ここぞとばかりに物九郎はさらに加速して、がら空きになった胴体に超速の一撃を食らわせる。

「かは……っ!!!!」
 くの字に折れた『絶望卿』の身体が崩れ落ち、魔剣が手から落ちる。
 超速・超重の対決を制したのは、ワイルドハントの猟団長だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
みんな、よくやってくれたわ!後は下がってなさい

良いわ、貴女に存分に見せてあげる…わたし達の希望を掴む戦いを!

【吸血姫の覚醒】真の姿を解放。
敵の血鎖の鞭に当らない様に真祖の魔力を用いた爆破と雷撃の魔術【属性攻撃、高速・多重詠唱、全力魔法、誘導弾】で迎撃し、超高速で一気に接近。
至近距離からも敵に押し当てる様に魔力弾を撃ち込んで吹き飛ばし→超高速飛行で追いついて魔槍【怪力、早業】による叩き落としを繰り出して攻撃。
更に魔槍に付着した敵の血を【吸血】を取り込み力を更に上げつつ、その魔力で限界以上に力を注いだ【限界突破、力溜め】【神槍グングニル】を発動。
全力の一撃を叩き込んであげるわ!
消し飛びなさい!



「みんな、よくやってくれたわ! 後は下がってなさい」
 銀狼軍撃退のために奮闘した眷属たちを労い、その主人たるフレミアが前線に立つ。
 残る敵は『絶望卿』アルマ・アークナイツただ一人――自らの歪んだ恋心のために多くの者たちを絶望に堕としてきた悪鬼は、深手を負いながらも楽しげに笑っている。
「ああ、戦う猟兵の姿とはなんて美しいのかしら……でも、まだよ、まだこのくらいじゃわたしは満たされない」
 絶望に抗う姿に恋い焦がれ、しかして尽きることのない狂愛。握りなおした魔剣を支えに立ち上がった彼女の気迫は、今だ衰えてはいなかった。

「良いわ、貴女に存分に見せてあげる……わたし達の希望を掴む戦いを!」
 狂愛の吸血鬼にその勇姿を示さんと、真紅の吸血姫は【吸血姫の覚醒】を発動する。
 その瞬間、爆発的な勢いで魔力が解放され、背中からは4対の真紅の翼が生え、背丈も伸びて17~8歳ほどの年格好に成長する。美しさと威厳を兼ね備えたこの姿こそ、真祖の血統に連なるフレミアの真の姿である。
「その血のにおい……そう、それなら見せて貰うわ。道を違えし我らの同胞よ!」
 半吸血鬼とは思えないほど"濃い"血の力を感じ取ったアルマは、全力をもって血鎖の鞭を振るう。ユーベルコードを強制停止させ、自らの負傷を転写する【死が貴方を連れ去るまで】の呪鎖は、決まれば戦況をひっくり返しかねない"絶望"の一撃だ。

「あの鎖にだけは当たらないようにしないとね」
 フレミアが呪文を唱えると、真祖の魔力が爆炎や雷撃となって敵の攻撃を迎え撃つ。覚醒状態を解除する呪いの血鎖は厄介だが、ようは触らなければいいだけのことだ。
 初撃を散らし、次の血鎖が放たれるる間隙を突いて4対の翼を広げる。ふわりと浮き上がった吸血姫は瞬間移動と見紛うほどの速度で、一気に敵の至近距離に飛び込んだ。

「まぁ……!」
 驚嘆の声を上げる敵に呪いの血鎖を振るわせる隙を与えず、フレミアは彼女の胸元に掌を押し当てる。そこから撃ち込まれた魔力弾がゼロ距離からアルマを吹き飛ばした。
「まだまだ、終わらないわよ」
 宙に舞い上げられた敵を追ってフレミアも空へ。その飛翔速度はあっという間に相手を追い抜き、今度は高所から魔槍「ドラグ・グングニル」による一撃を繰り出す。
 覚醒時のフレミアの膂力は高位の竜種にも匹敵する。それを無防備な空中で受けたアルマの身体は隕石のような速度で叩き落され、大地に小さなクレーターを穿った。

「ダンピールとは思えない力……これが真祖の血統の力なの……?」
 クレーターの底からすぐさまアルマは立ち上がるが、その身に刻まれたダメージはけして小さくはない。苦痛と感動に身を震わせながら顔を上げると、そこには目も眩むような真紅の輝きがあった。
「あなたの力も使わせて貰うわよ」
 フレミアは魔槍に付着したアルマの血を取り込み、自らの力をさらに底上げする。限界を超えた膨大な魔力は体内での行き場を失い、まるで炎のように彼女の周りを揺らめいていた。

「全てを滅ぼせ、神殺しの槍……」
 フレミアはその溢れかえるほどの力の全てをドラグ・グングニルへと注いで【神槍グングニル】を発動する。魔槍に魔力を超圧縮することで形成される巨大な真紅の槍は、畏怖すら覚えさせるほどの威圧感をもって燦然と輝く。
「あぁ……この輝きは……なんて綺麗なの……!」
 『絶望卿』は動けない。いかなる絶望をも滅ぼさんとする、この美しい"力"から逃れようという考えは、そもそも無かった。ただただ陶然とした表情で立ち尽くす彼女を襲うのは、神さえ殺す無双の一撃。

「全力の一撃を叩き込んであげるわ! 消し飛びなさい!」
 フレミアが投げこんだ神槍は過たず『絶望卿』に突き刺さり、その威力を解き放つ。
 爆発的な衝撃波とともに真紅の閃光が城塞都市を照らし――戦場には巨大なクレーターが穿たれ、ボロボロの姿になった吸血鬼がその底に倒れ伏していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

傲慢じゃな、そうやって自分の快楽の為に他者を踏み躙り続けるのか?
今宵を最後にこの戯れは終わらせてくれるわ。

如何に早く動こうとも総てを同時に対処できぬじゃろう。
マニトゥ、他の猟兵の攻撃に合わせて攻め立てよ。
わしも(技能:属性攻撃)【陽属性】を宿した【追跡】する矢を連射して皆を【援護射撃】するのじゃ。
多方面からの攻撃で注意を分散させ、【野生の勘】を研ぎ澄まして注意深くタイミングをはかり、意識がそれた瞬間を【見切って】攻撃するかの。
地の精霊と心を通わせて地面を操り『絶望卿』の足を地に縫いとめるのじゃ。
今じゃマニトゥ、遠慮は要らぬあの慮外者をお主の牙で引き裂いてやれ。


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

ああ…存分に満たしてやるさ
お前に弄ばれた者達の呪詛と苦痛を、はち切れるほどその身に叩き込んでな

デゼス・ポアを浮かせてUCを発動
先の戦いで喰らったオブリビオン達の残滓を取り込んで呪詛の獣に変身
超強化されたダッシュで敵に肉薄し、鉤爪で敵を切り裂き攻撃する

私からもお前に与えてやろう
淀んで腐ったその命を刈り取られるという絶望【デゼス・ポア】をな

敵のUCは見切りで回避するか身に纏う呪詛で受け止める
そして9回目の攻撃が終わると同時にカウンターで鉤爪の一撃を叩き込んだら代償で身体が潰れる前に後続に繋ごう

今を生きる人々は、どんな絶望も必ず乗り越えられる
お前がその光に焦がれるのも、今日で最後だ



「あぁ、素敵……こんなに沢山の輝きが見られて、わたし、とっても幸せよ」
 ボロボロになった頭巾とマントを被りなおしながら、うっとりと微笑む『絶望卿』アルマ。劣勢に立たされていながらその様子に焦りは微塵もなく、輝きを見たいという衝動が傷ついた身体を動かしている。
「でもまだ満たされないわ……もっともっとわたしは輝きを目に焼き付けたい」
「傲慢じゃな、そうやって自分の快楽の為に他者を踏み躙り続けるのか?」
 飽くなき狂愛をその身に秘めたヴァンパイアに、エウトティアが厳しい目を向ける。
 相手からの返答は笑顔。生きている限りこの怪物は輝きを追い求めて、人々に絶望を与え続けるのだろう。

「ああ……存分に満たしてやるさ。お前に弄ばれた者達の呪詛と苦痛を、はち切れるほどその身に叩き込んでな」
 静かな怒りの籠もった低い声音でそう告げたのはキリカ。その傍らにはデゼス・ポアが浮かび、禍々しい呪詛と共に「キャハハハハハハ」と無邪気な哄笑を発している。
 そしてエウトティアも巨狼マニトゥの背から降りると、手製の弓に番えた矢を標的に向ける。
「今宵を最後にこの戯れは終わらせてくれるわ」
「ふふ、あなたたちならできるかしら? 宴はまだまだこれからよ!」
 2人の敵意を受けた『絶望卿』は笑みを深めると【とかく一目惚れとは暴力の如く】を発動。強化の魔法陣で自らの行動時間を倍速し、身の丈よりも大きな超重量の魔剣を軽々と持ち上げる。

「狂乱の声を上げろ、デゼス・ポア。貴様の喰らった苦痛と憤怒、呪詛の言葉を全て私に宿せ」
 キリカはこれまでの戦いでデゼス・ポアが喰らったオブリビオンの残滓を纏い【呪詛の獣】へと変身する。人形とほぼ一体化した影響か、その衣装は胸元や袖にフリルのついたドレスに変わり、顔にはデゼス・ポアと同じオペラマスクが装着される。
「さあ、存分に味わうといい」
 美しき獣と化したキリカは踊るように軽やかな、それでいて俊敏な動作で『絶望卿』に迫り、両手に備えられた巨大な鉤爪を振るう。銀狼軍の人狼たちと『絶望の集合体』の残滓より形作られたその一撃は、怨敵の身体をざっくりと引き裂く。

「あの子たちにもう用は無いと思っていたけど。こんなふうに牙を剥かれるなんてね」
 常に笑顔を絶やさなかったアルマが、初めて不快げに顔をしかめる。受けた傷には構わず反撃の魔剣を振るおうとするが、そうはさせじと飛び掛かる白い影があった。
「今じゃマニトゥ、他の猟兵の攻撃に合わせて攻め立てよ」
 騎手を降ろしたことで全力を出せるようになったマニトゥによる【巨狼猛襲】。疾風のごとき速さで強襲する白き狼の爪牙が、呪詛の獣が与えた傷をさらに深く抉った。
 堪らず敵が後退すれば、後方よりエウトティア本人が追撃を仕掛け。ヴァンパイアにとって天敵となる陽の属性を込めた矢がアルマを追跡し、その急所へと突き刺さる。

「なんて見事な連携……! あぁ、もっとよく見せて頂戴!」
 アルマは猟兵たちの勇姿に歓喜しながら、目にも止まらぬ早業で魔剣を振るう。吸血鬼の超怪力なくしては扱えない超重量かつ超高速の9連撃は、しかし本来の脅威を発揮しきれずにいた。
「如何に早く動こうとも総てを同時に対処できぬじゃろう」
 キリカとマニトゥとエウトティア、三者による多方面からの攻撃で注意が分散した結果、攻撃の対象もそれぞれに振り分けられることになり、精度も大幅に下がっている。
 元々剣の間合いの外にいたエウトティアは言うに及ばず。巨狼マニトゥも獣の機敏さをもって超速の斬撃をかいくぐり、無傷のまま攻撃を凌いでいた。

「私からもお前に与えてやろう」
 そしてキリカは剣の軌道を見切りながら身に纏った呪詛で斬撃を受け流し、9回目の攻撃が終わるのと同時に反撃に転じた。呪わしきオブリビオンの残滓を利用することで得た力の全てを込めて、剣の間合いから敵の懐へと飛び込み、鉤爪を一閃。
「淀んで腐ったその命を刈り取られるという絶望【デゼス・ポア】をな」
「あぐ……っ!!!!」
 呪詛を帯びた一撃が『絶望卿』を深々と切り裂き、苦痛を帯びた悲鳴が漏れる。
 かなりの深手を与えたのには違いない――だがその力には代償もある。世界を呪うオブリビオンの残滓を宿すということは、自らの精神をそれに蝕まれるということだ。

(ここが引き際か)
 呪縛の代償で身体が潰れてしまう前に、キリカは後続に繋ごうと後退しようとする。
 アルマからすればみすみすそれを許す理由はない。超重の魔剣を構えなおすと、今度はキリカ1人に対象を絞った9連撃を繰り出そうとするが――それは他の猟兵から彼女の意識が逸れたことを意味していた。

「地の精霊よ、邪悪を捕らえよ!」
 研ぎ澄まされた野生の勘により、ここが勝機と見切ったエウトティアが叫ぶ。彼女と心を通わせた精霊たちは地面のうねりを引き起こし、『絶望卿』の足を地に縫い止めた。
「なにが……っ?!」
 急に足を取られたせいでアルマは攻撃の機会を逸し、魔剣の刃は虚しく空を切る。
 どんなに強大なスピードとパワーを誇る敵でも、こうなってしまえばただの的だ。
「今じゃマニトゥ、遠慮は要らぬ。あの慮外者をお主の牙で引き裂いてやれ」
 巫女姫の指示に応えて白き巨狼は咆哮し、その鋭き牙が『絶望卿』に突き立てられる。
 舞い散る血飛沫と少女の悲鳴。いかに屈強な吸血鬼といえども、蓄積したダメージは既に無視できない域に達していた。

「今を生きる人々は、どんな絶望も必ず乗り越えられる。お前がその光に焦がれるのも、今日で最後だ」
 引き裂かれていく『絶望卿』に冷たい視線を残し、キリカは前線から後退していく。
 ここで自分が仕留められずとも、後に続く猟兵たちが必ずこの絶望に引導を渡す。彼女が口にしたのは、そう信じているからこその言葉だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
絶望等、覚えが無い
希望を知らんからな

暴力には暴力を返そう
柩杖を構え、魔剣を弾く
魔方陣が輝く間、相殺に徹し
相手の行動を見極め、隙を突き
怪力で大きく弾いた瞬間に、
思い切り踏み込み、蹴撃を実行
胴体を切断するつもりで行く

私に輝き等無い
挫ける事も無い
オブリビオンは殺す
其れが約定だ 従うだけだ



「絶望等、覚えが無い。希望を知らんからな」
 朱に染まっていく吸血鬼を冷たい眼差しで睨め付けながら、イリーツァが淡々と呟く。
 絶望に抗う姿が見たいだの、輝きを愛しているだのと。相手は勝手に盛り上がっているが彼にとっては意図せぬこと。"約定"に縛られし古竜は只、己のルールに従う。
「あら、つれないわ。ストイックなひともわたしは好きよ?」
 血塗れの『絶望卿』は不気味なほどに愉しげな笑みを浮かべながら魔剣を振り上げる。倍速化の魔法陣が再び展開され【とかく一目惚れとは暴力の如く】が発動する。

「さあ、あなたはどう抗うの!?」
「暴力には暴力を返そう」
 アルマは迅雷の速さで距離を詰めると、超重量の魔剣による超高速斬撃を放つ。地面ごと真っ二つにするような力任せの轟撃を、イリーツァは竜宮の柩杖で弾き返す。
 敵の飛び道具やユーベルコードを反射、あるいは相殺する【野分返し】の技法。一呼吸するうちに九度放たれる吸血鬼の猛攻は凄まじいが、使い慣れた鋼杖でそれを捌き切る古竜の技巧と速度もまた驚嘆に値する。
「すごい、すごいわ! それなら、これは――」
「通さん」
 どの角度からどんな太刀筋で攻められようとも、全て弾く。魔法陣が輝く間、イリーツァは相殺に徹して敵の行動を見極めながら、反撃を仕掛けるための機を窺っていた。

(確かに速い。そして重い。だが技としては卓越している訳では無い)
 アルマの戦い方は鍛えられた戦士というよりは、怪物としての純然たる力を押し付けるタイプだ。その膂力と速度だけで大概の相手を鏖殺できるのも事実だが、言ってしまえば"力任せ"なだけに隙も多い。
(人間なら、そのまま捻じ伏せられるだろうが)
 人外であるのはイリーツァも同じこと。動きが雑になった隙を突いて、古竜の膂力を込めた一撃を相手の斬撃に合わせれば、100トンをゆうに超える魔剣が大きく弾き上げられた。

「まぁ……! わたしが、力負けするなんて……!」
 信じられないといった顔で目を丸くするアルマ。魔剣を弾かれ体勢が大きく乱れた、その瞬間にイリーツァは思い切り踏み込む。剣と杖の間合いから、格闘の間合いに。
「私に輝き等無い。挫ける事も無い」
 あくまでも淡々と無感動に告げながら、己の五体に力を込める。ここからは"手加減"は無しだ――目の前の吸血鬼が"力任せ"の攻めを得意とするように、古竜たる彼は武器を捨てた時にこそ最大の暴威を発揮する。

「オブリビオンは殺す 其れが約定だ 従うだけだ」

 豪と唸りを上げる渾身の蹴撃が、がら空きになった標的の胴体に叩き込まれる。
 小細工を捨てた古竜イリーツァによる単純な一撃。それを受けた『絶望卿』の躯は弾丸のように吹き飛ばされ、悲鳴を上げる間もなく建物に激突――そのまま壁を突き破り、何軒もの家屋に大穴を空けたうえで、ようやく止まった。
(胴体を切断するつもりで行ったが)
 流石に相手も怪物か、今ので身体がバラバラになっていないのは大した耐久力だ。しかし手応えはあった――再び地面を踏んだイリーツァの蹴り足は、吸血鬼の返り血で真っ赤に染まっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
私も、猟兵が好きなんです
どんな絶望にも立ち向かう、光のような存在
私の持てる希望の全てで、あなたに抗います

『with』を抱きしめ、自己暗示の深みに沈む
大丈夫…私には貴方がいる
貴方がいる限り、私の心は砕けない
愛する貴方が、護ってくれるから

『with』———私のそばに居てね

真の姿解放
心にあるのは絶対的自信と勝利への意思のみ
真白く輝く『with』は絶望を払い【怪力】【重量攻撃】
背負う焔は激しく燃える
他の誰でもない、私が未来に進む為の力【勇気】
『with』と私が勝てればそれでいい【覚悟】
骸の海に還せるものなら、還してみろ

UC発動
あなたが猟兵に恋する想いと、私が『with』を愛する想い
どちらが強いかな?



「あ、はは、は……! 素敵よ、ほんとうに凄いのね、猟兵って!」
 破壊された建物の瓦礫を押しのけて、再び立ち上がる『絶望卿』アルマ。脊椎を折られたか体幹のバランスが良くないようで、フラフラとよろめく様はまるで幽鬼のようだが――血まみれの口元に張り付いた笑みが、その不気味さをより強調している。
「こんなのを見せられたら、わたし、ますます好きになっちゃうわ!」
「奇遇ですね。私も、猟兵が好きなんです」
 そんな彼女にも怖気を感じることなく、目前に立ちはだかったのは結希と『with』。
 結希にとっての猟兵とは、どんな絶望にも立ち向かう、光のような存在。自分もこの宿命に選ばれたひとりとして、そうありたい、そうなりたいと願っている。

「私の持てる希望の全てで、あなたに抗います」
「いいわ! さぁ見せて頂戴、あなたの輝きを!」
 【とかく一目惚れとは暴力の如く】。頭上に巨大な魔法陣を輝かせたアルマの行動速度は倍速化し、人間には到底扱えない超重量の魔剣を軽々と持ち上げる。狂愛と裏返しの殺意が自分に突き刺さるのを感じて、結希はぎゅっと『with』を抱きしめた。
「大丈夫……私には貴方がいる」
 愛する剣の重みを全身で感じながら、少女の意識は自己暗示の深みへと沈む。物凄い速さで近付いてくる敵の姿も、地獄と化した戦場の光景も、その瞳にはもう映らない。
 音も聞こえない。血の匂いもしない。感じるのは冷たくて熱い『with』の感触だけ。
(貴方がいる限り、私の心は砕けない。愛する貴方が、護ってくれるから)
 たったひとりの相手に注いだ、盲目的なまでに純粋な愛。何よりも信じ、誰よりも愛する、漆黒の大剣が彼女の想いを受け止めたとき――その刃は真白に染まる。

「『with』———私のそばに居てね」

 【Close with Tales】。真白き魔剣と化した『with』の輝きに照らされ、結希の姿が変わっていく。風になびくは恋人と揃いの白髪と白装束、背負うは紅蓮の炎翼――真の姿を解放した少女が目を開くと、そこには剣を振り下ろさんとする吸血鬼がいた。
「なんて綺麗なの! まるで天使様のよう!」
 称賛の言葉を口にしながらも斬撃に容赦はなく。現実世界ではほんの刹那の間、暗示の海に潜っていた結希は改めて闘志を燃え上がらせ、覚醒した『with』を振るった。

「あなたが猟兵に恋する想いと、私が『with』を愛する想い。どちらが強いかな?」
 瞬きする間もないほどの超高速で、激しい剣戟を繰り広げる結希とアルマ。魔法陣により加速した吸血鬼の剣速は人智の領域をとうに超えているが、対する結希と『with』の斬撃も物理法則を無視した予測不能の域に達している。
「より想いが強いほうが勝つっていうの? それなら、負けられないわね!」
 口元には微笑を、瞳には狂気をたたえて、超重量の魔剣を振るうアルマ。単純な膂力や運動能力だけを見ればまだ、彼女のほうが優勢だろう――しかし結希は自分と『with』が負けるとは微塵も考えていなかった。

「『with』がいる限り、私は負けない」
 結希の心にあるのは絶対的自信と勝利への意思のみ。真白く輝く『with』は絶望を払い、凄まじい重量を誇る『絶望卿』の魔剣とも互角に――否、それ以上に渡り合う。
 感情の昂りに呼応して背負う焔は激しく燃え上がり、踏み込む彼女の背を後押しする。
「これは他の誰でもない、私が未来に進む為の力」
 『with』と私が勝てればそれでいいという、自己中心的だが確かな"芯"を持った勇気と覚悟。抱く想いの全てが斬撃に"重さ"を与え、吸血鬼の攻撃を徐々に押し返していく。

「骸の海に還せるものなら、還してみろ」
「―――ッ!!!」
 何十合という剣戟の果てに、真白き大剣が超重の魔剣をアルマの手から弾き飛ばす。
 その直後、結希は残された全力を込めて『with』を握り締めると、今宵最高の連撃を繰り出した。

「ここで物語は終わりです。おやすみなさい」

 物理法則を捻じ曲げ、9方向から同時に放たれる9度の斬撃。もはや純白の光としか認識できない軌跡が網膜に焼き付いた直後――『絶望卿』の全身から鮮血が噴き出す。
「……ああ、とても愛おしい。でも今は、ちょっとだけ悔しいわ」
 狂える吸血鬼の恋心を捻じ伏せたのは、結希の『with』への純粋なる愛。その事実を噛みしめたアルマは苦い笑みを浮かべながら、がくりとその場に崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
私の前で希望を弄んだ外道がかつてもいました
共に悪夢の底で嘆くがいいでしょう、私を怒らせたことをね
その愚者の名は――アルダワの大魔王

馬鹿力だけの剣など恐れるに足りません
「早業」「見切り」「第六感」で回避しつつ
呪力(「オーラ防御」)で構築したスクリーンへ「残像」を投影
そちらへ攻撃を「誘惑」します

その技の欠点は魔法陣が輝く間という条件
先ほど斬り裂いたこの目からはまだ血が流れています
この血を霧と化し、塗りつぶしてしまえば輝きなど消えます

そして同時にこの霧はあなたを包み込みその五感を鈍らせて
その汚らわしい身体を内側から引き裂くのです

さあ抗ってごらんなさい、絶望に
真なる絶望がどんなものかも知らぬ愚かな小娘



「私の前で希望を弄んだ外道がかつてもいました」
 闇の奥から響いてくるような冷徹な声音で、魅夜は深手を負った『絶望卿』に告げる。
 彼女が語るその愚者の名は――アルダワの大魔王。人々の願い、望み、祈り、すなわち希望を糧として、世界を喰らいつくさんとしたオブリビオン・フォーミュラ。
「共に悪夢の底で嘆くがいいでしょう、私を怒らせたことをね」
「ふふ……怒った顔も素敵よ。もっとイジワルしたくなるわ」
 冷たい殺気を放つ悪夢の鎖使いに対して、血塗れの吸血鬼は三日月のように口の端を吊り上げ、地面に突き刺さっていた魔剣を引き抜くと、大きな魔法陣を空中に描いた。

「『絶望卿』と呼ばれたわたしに、一体どんな悪夢を見せてくれるのかしら!」
 【とかく一目惚れとは暴力の如く】、行動時間を倍速化させたアルマは一瞬で白兵戦の間合いに踏み込む。吸血鬼の超怪力をもって振り下ろされる魔剣の乱舞はとても受け止められないほどに重く、そして速い――しかし魅夜の眼差しは冷淡なままで。
「馬鹿力だけの剣など恐れるに足りません」
 しょせんは人外の力にものを言わせただけの粗雑な剣技。歴戦の猟兵である彼女は刹那の見切りと第六感で攻撃を回避すると、周囲に呪力によるスクリーンを構築し、そこに自らの像を投影させる。

「これは……?」
 アルマの目には魅夜が分身したように見える。投影された残像のどれかに本物が紛れているのだろうが――いちいちそれを探し出すよりも、彼女は全て薙ぎ払うことにした。
 ユーベルコードの作用で加速した攻撃速度をもってすれば、それは難しいことではない。魔剣を振るえば9度の斬撃がほとんど同時に放たれ、残像を細切れにしていく。
(そう、あなたはそうするでしょうね)
 魅夜からすれば、残像によって敵の攻撃をそちらに誘導することさえできれば十分だった。9連撃全てが殺到すればさすがに凌ぎ切れるかどうかは分からなかったが、矛先が逸れてしまえばその隙に彼女は反撃の手を打つことができる。

「鮮血の屍衣を纏いし呪いの鋼、喰らい尽くせ汚濁の魂」
 口ずさむは【血に霞みし世界に祝福を捧げよ硝子の心臓】。先刻の戦いで自ら切り裂いた目から、涙のように流れ落ちる血が、紅い濃霧と化して戦場を包み込んでいく。
「分身の次は目くらまし? かくれんぼでもしたいのかしら」
 魅夜の意図が掴めずにアルマは首をかしげるが、異変は間を置かずにやってきた。
 まるで鉛の枷でも付けられたかのように、ずしりと身体が重く、思うように動けなくなる。正確にはそれは、重くなったというより「元に戻った」と言うべきか。

「その技の欠点は魔法陣が輝く間という条件。霧で塗りつぶしてしまえば輝きなど消えます」
 魅夜が鮮血の濃霧を放った狙いのひとつは敵のユーベルコードを解除すること。魔法陣の輝きが遮られれば行動時間の倍速化も失われ、アルマの行動速度は元に戻る。
 加えてこの霧には五感を鈍らせる作用もある。完全に術中に嵌められたアルマは前後左右の方向も分からなくなり、魅夜の姿を完全に見失っていた。
「どこ……どこに行ったの?! これじゃあ輝きが見れないわ!」
 ぶんぶんと巨大な魔剣を振り回しても、鮮血の霧はまとわり付くように晴れない。ただ1人この領域内の状況を把握できる魅夜は、無様な姿を晒す敵に冷笑を浮かべていた。

「さあ抗ってごらんなさい、絶望に。真なる絶望がどんなものかも知らぬ愚かな小娘」
 魅夜の宣告と同時に、霧の領域を介して呪いと絆の鎖が標的の体内へと転移し、その汚らわしい身体を内側から引き裂く。いかに強靭な肉体を持つ吸血鬼とはいえ、内側から血肉や臓腑を掻き回されるその苦痛は、筆舌に尽くしがたいものだった。
「ぎ、いぃぃぃぃぃぃぃッ!!!?!」
 耳をつんざくような金切り声を上げて、鮮血の濃霧の中をのたうち回るアルマ。
 これこそが真なる悪夢、真なる絶望であると、漆黒の瞳がそれを見下ろしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

才堂・紅葉
「ったく……好き勝手ね、お姫様」
血化粧を纏い絶望卿と対峙する
背負った無念による呪縛を、【気合い、呪詛耐性】で力に満ちた笑みに変える

方針は、脱力による回避
奴の攻撃はマトモな攻防の成立する速さと重さではない
風に舞う木の葉のように回避に徹する。UCで超強化された戦闘力でもきつい時間だ【グラップル、見切り、戦闘知識、野生の勘、激痛耐性】

勝機は奴の武器に触れた瞬間
「コードハイペリア」
真の姿にて超重量の武器に超重力【属性攻撃】で【捕縛】

「届け物よ」
銀の弾丸をリボルバーで早撃ちして隙を作り【スナイパー、早業】
一瞬の隙間に踏み込み、心臓に杭をぶち込む一撃【封印を解く、衝撃波、部位破壊、吹き飛ばし】を狙う



「ふ、ふふ、すごいわ……でも、まだよ、もっと、もっとわたしに見せて……!」
 濃霧の領域から辛くも脱出した『絶望卿』アルマは、ふらふらと力ない足取りで都市を彷徨いながら、引きつったような笑みを口元に浮かべる。絶望に抗う猟兵たちの輝きを、幾度もその身で浴びてなお、満足していない様子だった。
「ったく……好き勝手ね、お姫様」
 そんな彼女の前に現れたのは、人狼の返り血で血化粧を纏った紅葉。走狗として散った銀狼軍の無念を背負った彼女は、心身にまとわりつく呪縛を気合いで克服し、力に満ちた笑みに変える。

「弔い合戦は柄じゃあないんだけど……」
 【対戦車杭打銃“楔”】を構え、杭として装填された超偽神兵器の欠片を活性化。強まる呪縛と引き換えに力を手に入れた紅葉は、その矛先を元凶である吸血鬼に向ける。
「死んでいった人たちの想いを背負って戦う? いいわね、とても輝いているわ!」
「あなたにそれを言う資格はないでしょうに」
 すうと目を細める紅葉の前で、アルマは血塗られた魔剣を片手に輝く魔法陣を描き――直後、弾丸のような速さで加速し、近接戦の間合いまで一気に飛び込んできた。

「さあ、もっと輝いてみせて!」
 人外の膂力から繰り出される超高速の連続攻撃。マトモな攻防の成立する速さと重さではないと判断した紅葉は、ふっと全身の力を抜くと柳の枝のように身体を揺らす。
 体得したCQCの技術による、脱力による回避。相手の動きを見切ったうえで最小限の動作のみを行い、身体を真っ二つにされる寸前で身を躱す。
(ユーベルコードで超強化された戦闘力でもきつい時間だ)
 瞬きする暇もないほどの超速の乱舞を相手に、ゆらりゆらりと回避に徹するその様子は、まるで風に舞う木の葉のよう。僅かな読み違いが即死に繋がる緊張感を噛みしめながら、紅葉は細い勝機の糸をたぐり寄せる。

「面白い技を使うのね。でも避けているだけじゃ絶望(わたし)は倒せないわよ!」
 アルマは一向に反撃する気配を見せない相手を挑発しながら魔剣を振るう。ゆうに100トンを超える超重量の鉄の塊を、まるで小剣のように軽々と扱う様は、可憐な見た目に反して彼女がバケモノであることを強く実感させる。
(迂闊に触れれば、掠めただけでもただじゃ済まないでしょうね)
 しくじれば恐らくは致命傷――それでも紅葉は怖気付くことなく踏み込んだ。敵が斬撃を放つために魔剣を振りかぶる"溜め"のタイミングに狙いを定めて、手を伸ばす。
 冷たい金属の刀身に指先が触れたその瞬間こそ、彼女が掴み取った勝機だった。

「コードハイペリア」
「なにを―――ッ!?」
 手の甲に紋章が浮かび上がり、紅葉の髪が紅色に染まる。再び真の姿となった彼女はありったけの魔力を重力操作に注ぎ込み、アルマの武器にかかる重力を増大させた。
 ただでさえ超重量を誇る魔剣に超重力がのしかかればどうなるか。その重さは吸血鬼の怪力をもってしても支えきれるものではなくなり、刀身がズシンと地面にめり込む。
「お、重いっ?! なにこれっ!?」
 重すぎる武器に手を取られる形でアルマの動きが止まる。その機を逃さず紅葉はホルスターから古びたリボルバーを抜くと、素早く狙いをつけてトリガーを引いた。

「届け物よ」
 放たれるは銀の弾丸。散りゆく銀狼軍の戦士から託された、彼らの矜持と命の結晶。
 死してなお遺る叛逆の覚悟が込められた【シルバー・バレット】は、過たずに圧制者を撃ち抜き――そこに生じる一瞬の隙を突いて、踏み込んだ紅葉の"楔"が唸る。
「しっかり胸に刻みなさい」
「がは―――ッ!!!!!」
 死せる者達の無念を乗せた杭打銃の一撃は『絶望卿』の胸をぶち抜き、心臓を貫く。
 衝撃により吹き飛ばされたその躯は建物の壁に叩きつけられ、鮮血の痕を残しながら力なく崩れ落ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
貴女とは決定的に相容れられないね…。
その貴女の身勝手な嗜好と考えで多くの人達が被害にあった…それを赦すわけにはいかない…。
これ以上の絶望はわたし達が止める…。

【九尾化・天照】封印解放…。
敵の超重量の魔剣の攻撃を【見切り・第六感】と光速化で回避しつつ、凶太刀と神太刀による斬撃で応戦…。
敵の渾身の一撃をに合わせて【呪詛、オーラ防御、武器受け、カウンター、早業】アンサラーによる反射で大威力攻撃を反射…。
更に天照の力で一点に集束し【呪詛と破魔】の力を加えた大威力の光呪のレーザーを照射して追撃…。

敵がレーザーを防御した隙を突いて光速で接近し、その魔剣ごと渾身のバルムンクの一撃で叩き斬ってあげるよ…!



「貴女とは決定的に相容れられないね……」
 そう静かに呟きながら『絶望卿』を見つめる璃奈の瞳には、冷たい怒りが宿っていた。自らの狂愛を満たすために人々に絶望をもたらさんとする、かの吸血鬼の行動原理は彼女にとって絶対に見過ごせないものだ。
「その貴女の身勝手な嗜好と考えで多くの人達が被害にあった……それを赦すわけにはいかない……」
 この都市に暮らしていた人々を始めとして、これまでに犠牲となった者たち――それに手駒として利用された『絶望の集合体』や銀狼軍の人狼たち。全ての魂に想いを馳せながら、魔剣の巫女は二振りの妖刀を抜き放つ。

「これ以上の絶望はわたし達が止める……」
「ふふ、ふ……そうこないと。わたしという絶望に抗いなさい、猟兵よ!」
 『絶望卿』アルマは歓喜をこめて叫ぶと、まだ心臓に穿たれた傷の再生も終わらぬうちから倍速化の魔法陣を描きなおし、真っ向から攻撃を仕掛けてくる。地面に刺さっていた魔剣を引き抜き、力任せに叩きつけてくる様は、獲物を見つけた飢獣のようだ。
「我らに仇成す全ての敵に太陽の裁きを……封印解放……!」
 超高速と超重量を兼ね備えたその一撃は、しかし手応えなく空を切る。刹那の見切りで【九尾化・天照】を発動した璃奈は光の速さでその場から飛び退き、致命の斬撃を回避していた。

「貴女がどんなに加速しても、光の速さは超えられない……」
 封印を解いた璃奈の髪と毛並みは金色に染まり、妖狐の証である尾は九本に増える。直視すれば目を灼かれるほどの輝きを身に纏ったその姿は、闇夜に包まれたこの世界では拝むことの叶わない、太陽の化身の如しであった。
「あぁ……懐かしいわ! 太陽なんてもう二度と見ることもないと思っていたのに!」
 吸血鬼にとっては大敵である太陽の光。しかしアルマはその輝きさえも愛おしいと言わんばかりに魔剣を振るう。【とかく一目惚れとは暴力の如く】繰り出される猛攻を璃奈は光速化によって躱し、妖刀・九尾乃凶太刀と九尾乃神太刀で応戦する。

「あなた、とっても素敵よ! もっとよく見せて!」
「見たければ見せてあげる……」
 陽光に目が眩んだアルマの暴威をすり抜けながら、璃奈が見舞うは二刀の斬撃。凶太刀が秘める呪力は使い手を加速させ、神太刀の刃には不死性や再生能力を封じる神殺しの力が宿る。どちらもこの吸血鬼相手には相性のいい武器だ。
 みるみるうちにアルマの身体は血に染まっていくが、高揚した彼女の精神は痛みすら感じていないのか、狂ったように歓喜の笑みを浮かべながら魔剣を振りかぶる。

「これなら、どうかしら!」
 武器の重量と自らの超怪力を活かした、大上段からの振り下ろし。シンプルだがそれ故に破壊力の高い渾身の一撃に対して、璃奈は素早く妖刀を鞘に納めると魔剣「アンサラー」を抜き放つ。
「その一撃、そのまま返すよ……」
「ん、なぁッ!?」
 アンサラーに籠められた報復の魔力は、敵の攻撃の威力をそのまま反射する。二本の魔剣が火花を散らした直後、吹き飛ばされたのは攻撃を仕掛けたアルマの方だった。

「今のは、一体――熱ぅッ!!」
「逃さない……」
 敵に状況を把握する暇を与えずに追撃を仕掛ける璃奈。天照の力によって操作された光は呪詛と破魔の力を加えて一点に集束され、大威力のレーザーとなって放たれる。
 闇を切り裂く光呪の照射を、アルマは咄嗟に魔剣を盾として受け止めるが、直撃を防いでもなおその輝きは吸血鬼を焼く。そして彼女が防御に回った隙を突いて、今度は璃奈自身が光の速さで急接近し、渾身の一撃を叩き込む。

「その魔剣ごと叩き斬ってあげるよ……!」
 振るうは竜殺しの魔剣「バルムンク」。璃奈が祀る中でも特段の切れ味と呪いを宿したその刃は、盾となった超重の魔剣を物ともせず叩き折り『絶望卿』を斬り伏せた。
「が、は……ッ!! さすがに、眩しすぎたかな……っ」
 半分ほどの流さになった魔剣にもたれかかりながら、がくりと膝をつくアルマ。その身体には肩から腰にかけて深い傷が刻まれ、流れ出した血は大地を真っ赤に染めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
私も騎士道譚や御伽噺は好みます
絶望的な災いに立ち向かう人の、騎士の雄々しきこと!
ええ、憧れます

その過程で流れた血と涙を考慮に入れなければ

『魂の輝き』など…現実に無い方が良いのです
貴女が鬱屈し、私/騎士/戦機が不要となる世に近づける為に
幕を下ろさせてもらいます

血鎖の鞭を盾を犠牲に防御
鞭は防げましたが…損傷、ならば

遠隔●操縦で呼ぶ機械馬と合体、戦闘続行
●ロープワークで操るワイヤで捕縛
全格納銃器を頭部に●だまし討ちし●目潰し

生憎、『頭/コア』は別に『目/センサー』は複数ありまして

ワイヤ巻き取り
怪力で損壊した首を刎ね

紛い物ですが、デュラハンとして告死させてもらいます
観劇したいと首を生やすなら、幾度でも



「私も騎士道譚や御伽噺は好みます。絶望的な災いに立ち向かう人の、騎士の雄々しきこと!」
 御伽噺の騎士に憧れた、機械仕掛けの騎士はそう語る。弱者を護り、悪を討ち、絶望を跳ねのけて、みんなの笑顔と「めでたし、めでたし」で締めくくる――そんな陳腐な物語に焦がれたからこそ、トリテレイアは今ここにいる。
「ええ、憧れます――その過程で流れた血と涙を考慮に入れなければ」
 現実と御伽噺は違う。たとえ災いに勝利したとしても、その裏側には名前も知られない数多の人々の悲劇がある。どんなに立派な騎士でも、偉大な英雄でも取り戻せない大切なものが、そこに含まれていることを彼は知っている。

「『魂の輝き』など……現実に無い方が良いのです」
 それは『絶望卿』アルマの執着を否定すると共に、彼自身の憧れへの皮肉でもあった。
 絶望を乗り越えようとする人々の心は確かに尊く美しいものだ。しかしそれを煌めかせる絶望という闇は、そもそも存在しないほうが良いに決まっている。
「貴女が鬱屈し、私が、騎士が、戦機が不要となる世に近づける為に、幕を下ろさせてもらいます」
「……あなたの言うことはつまらないわ。だけどどうしてかしら。それを口にするあなたは、とても輝いて見えるの」
 静かに剣と盾を構える機械騎士をじっと見つめながら、狂愛の吸血鬼は折れた魔剣と血鎖の鞭を構える。この絶望と希望の物語をいつまでも見ていたいと望む者と、それに終止符を打たんとする者。平行線を辿る両者の信念は激突する。

「幕を下ろすには、それに相応しい役者が要るわ。あなたがそれに足るものか、見せて頂戴!」
 芝居がかった調子で微笑みを浮かべながら、アルマは血鎖の鞭を力任せに振るう。トリテレイアは大盾を前にして防御するが、直撃の瞬間に起こる爆発が彼を打ちのめす。
 はなから盾は犠牲にするつもりでいた。鞭と爆風の衝撃のほとんどはそちらで受け止められたものの、呪いの血鎖はそのまま生物のように騎士の機体に巻き付く。
「死が貴方を連れ去るまで、放さないわ!」
 アルマが高らかにそう叫んだ瞬間、彼女の受けた負傷がトリテレイアに転写される。
 人間ならとうに息絶えているはずの、猟兵たちから受けた"輝き"のオンパレード。その全てが機械騎士のボディを破壊していく。

「鞭は防げましたが……損傷、ならば」
 穿突、裂傷、圧壊。転写された様々なダメージを冷静にモニタリングすると、トリテレイアはロシナンテⅡを遠隔操縦で呼びよせ、損傷を受けた部位を自らパージする。
「損傷部位強制排除。ロシナンテⅡ、ドッキングモード!」
 機械白馬と合体することで損傷を補修し、戦闘続行を可能とする【機械騎士は愛馬と共に】。人馬一体となったその勇姿は神話に登場するケンタウロスの如く、連結された二機の動力が唸りを上げる。

「へえ。自分の馬とひとつになるなんて、面白いことをするのね」
「騎士として、倒れるわけにはいかないのです……!」
 トリテレイアは機体各部に内蔵されたワイヤーアンカーを射出し、敵の拘束を試みる。
 アルマはそれを避けようともしない。いくら損傷を修復しても呪いの鎖の繋がりが切れていない限り、彼女が受けたダメージは全てトリテレイア本人に転写される。
「捕まっちゃった。でもどうするの? わたしを攻撃すれば、あなたも――」
「無論、決まっています」
 しかし騎士に躊躇は無かった。頭部、肩部、そして両腕部に搭載された全ての格納銃器を展開し、捕縛した目標に照準を合わせ。相手が思わず目を見張るのにも構わず、一斉射撃を叩き込む。

「――――ッ!!?!」
 アルマの頭部に集中した銃弾の雨は、彼女の眉間や眼球を撃ち抜く。その損傷は呪鎖を通じてトリテレイアにも転写され、頭部のカメラアイから光が消える――しかし彼にはまだ敵の姿が"視えて"いたし、頭に銃槍を開けられても思考は正常だった。
「な、ぜ……っ」
「生憎、『頭(コア)』は別に『目(センサー)』は複数ありまして」
 ウォーマシンであるトリテレイアにとっては、頭部も生産・交換・更新が可能なパーツのひとつに過ぎない。全身のマルチセンサーと胴体のコアユニットが無事であれば、頭ひとつが潰れた程度なら問題なく戦闘は可能だ。

「紛い物ですが、デュラハンとして告死させてもらいます」
 トリテレイアはすかさずワイヤーを巻き取り、呆然としているアルマを引き寄せる。
 接近戦の間合いまで引き込んだ瞬間、儀礼用長剣を一閃。切れ味はさほどでも無いが、機械騎士の怪力で振るわれたそれは、損壊した首を刎ねるには十分だった。
「――――ッ!!!」
 潰れた目をかっと見開いたまま、吸血鬼の首が宙を舞う。それと同時にトリテレイアの頭部も切断されるが――やはり首が落ちた程度では、彼の戦闘になんら支障はない。

「観劇したいと首を生やすなら、幾度でも」
 首なしの人馬騎士となったトリテレイアは、血に染まった儀礼剣を突き付ける。
 敵もまた人外の生命力を持つ吸血鬼、一度首を刎ねた程度では死ぬことはあるまい。だからこそ彼は容赦なく、残された胴体に追撃を仕掛けていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
ッ、なんて奴だ……! 自分が満たされるためなら何でもアリかよ!
こういう奴がたまにいるから、戦うんはすごく怖ぇってのに……!

ともかく、皆ここで潰れるわけにはいかねーし、潰されたくもねえよな。
《大海の姫の恋歌》で皆が受けたダメージを癒しながら、〈援護射撃〉を撃ったり〈鼓舞〉して戦線を支えることに注力。
相手の攻撃のタイミングを〈見切り〉、決定的な瞬間を狙って〈武器落とし〉や〈目潰し〉を仕掛けて攻撃を失敗させることで、被害を減らすようにする。
ここまで来たら、我慢比べも上等だ。

別にテメエを悦ばせたいから立ち上がるんじゃねえ。
他の皆はともかく、おれは逃げて後悔したくねえからやってるだけだ!


メアリー・ベスレム
むかし誰かが言ったらしいわ
「絶望は臆病者に勇気を与える」って
確かにそれって素敵な事ね?
それまで食い物にされてきただけの人間でも
追い詰められたらオブリビオンに刃を届かせる事ができるかもしれない
そういう事だもの
とても素敵で尊くて、えぇ、だからこそ
あなたなんかに愉しまれるのは不本意ね

さぁ、心行くまで殺し合いましょう?
一時的な不死とやらをおぞましいけれど受け入れて
【血塗れメアリ】で血臭まとい
【激痛耐性】で負傷も気にせず
血管狙いの【部位破壊】で返り血浴びて
【傷口をえぐり】さらなる血を流させて
臆病者の刃を振るう
返り血を浴びれば浴びる程に
メアリは強くなれるんだから
最後まで立っているのは果たしてどちらかしら?



「ふふ、ふふふ、あはははははは……!!」
 胴体から切り落とされた『絶望卿』の首が、狂ったような哄笑を上げる。そこに含まれているのは純粋なる歓喜。自分という絶望をここまで追い詰めるほどに抗ってくれる強者たちの輝きに、彼女は心から感動に打ち震えていた。
「ほんとうに、あなたたちは何度でもわたしの予想を超えてくれる……! ああ、まだよ、まだ! 輝きはまだ消えていないのに、死んでなんていられないわ!」
 彼女の紡ぐ【鮮血の恋歌】に導かれ、無数の殺戮剣が降り注ぐ。悪鬼の地獄へと塗り替えられた戦場で一時的な不死を手に入れたアルマは、失った肉体を再生させて起き上がった。

「ッ、なんて奴だ……! 自分が満たされるためなら何でもアリかよ!」
 魂の輝きを見るために多くの人々を絶望に堕とし、今度は自分の死すら否定してみせた『絶望卿』の有り様に、嵐は戦慄を抑えきれなかった。この分ではあと何回首を刎ねても心臓を貫いても、このバケモノは喜々として立ち上がってきそうである。
「こういう奴がたまにいるから、戦うんはすごく怖ぇってのに……!」
 その不死性よりも異常極まる精神性のほうが、嵐に恐怖を抱かせる。それでも退くわけにはいかないと踏みとどまってはいるが、それは足が震えて動けないだけではないのか、本人にすら分からなかった。

「さあ、もっと輝いて! 絶望(わたし)はそのためにここにいるのよ!」
 殺戮剣に埋め尽くされた戦場で、無邪気な子供のように呼びかけるアルマ。その光景はまさに絶望と狂気を体現しており、抗う者たちにとっての障害として立ちはだかる。
「むかし誰かが言ったらしいわ。『絶望は臆病者に勇気を与える』って」
 そんな狂愛の吸血鬼に、ふと語りかけたのはメアリーだった。全身に濃厚な血の臭いを纏った彼女は、かつて名も無きアリスが反抗の為に振るった「臆病者の刃」を持って敵に近付いていく。不意をつくでもなく、強襲するでもなく、ただ正面からまっすぐに。

「確かにそれって素敵な事ね? それまで食い物にされてきただけの人間でも、追い詰められたらオブリビオンに刃を届かせる事ができるかもしれない。そういう事だもの」
 彼女の脳裏にふとよぎるのは、先刻殺し合ったばかりの同胞たちの姿。あの叛逆者たちも生前はそういった力なき者たちだったのかもしれない。絶望に苛まれた人間が、覚悟を決めて抗うことでしか生まれない力もある。それは確かに事実だ。
「とても素敵で尊くて、えぇ、だからこそ――あなたなんかに愉しまれるのは不本意ね」
「不本意なら、あなたはどうするのかしら?」
 にっこりと笑みを浮かべる吸血鬼の目の前に、返り血を浴びた【血塗れメアリ】が立つ。手を伸ばせば触れ合えるほどの距離から、彼女は艶やかで凶暴な笑みを返して。

「さぁ、心行くまで殺し合いましょう?」

 臆病者の刃が振り下ろされ、折れた魔剣が叩きつけられ、互いの身体を同時に断つ。
 噴き出した鮮血が大地を真っ赤に濡らすが、どちらも斃れることはない。アルマと同様にメアリーも、悪鬼の地獄がもたらすおぞましき不死性を受け入れて、一時的に死なない――否、死ねない身体となっていた。
「あはははは! そうこないとね!」
 心底楽しそうに哄笑しながら、アルマは力任せに魔剣を振り回す。どうせ死なないのなら、防御も、回避も、する必要はない――そういう戦い方こそがこの環境に適しているのだと見て取ったメアリーも、負けじと攻撃にのみ専念して刃を振るう。

「……ともかく、皆ここで潰れるわけにはいかねーし、潰されたくもねえよな」
 壮絶な"殺し合い"を始めたふたりを生唾を飲んで見守りながら、嵐はメアリーの援護に当たる。死なないとはいえ血が流れば疲労もするし動きも鈍る、ならばそれを少しでも和らげようと【大海の姫の恋歌】を発動する。
「怖いけど、頼むぜ。アンタに倒れられたら戦線が崩れちまう」
 召喚された人魚の紡ぐ哀しげで切ない歌声が、共感した者の心身を癒す。目の前の敵に集中するため振り返る余裕もないメアリーは、狼の尾をぱたりと振って感謝を示した。

「ここまで来たら、我慢比べも上等だ」
 人魚に癒やしの歌を継続させながら、嵐は拾った瓦礫の弾をスリングショットに装填する。その手はまだ震えているが、目はしっかりと敵から逸らさずに前を向いている。
「絶望は臆病者に勇気を与える……か」
 彼は臆病者だ。それは誰よりも彼自身が身に染みるほど分かっている。けれど、そんな彼がまだ逃げずに頑張っていられるのは、心のどこかに勇気が眠っているから――震え上がるほどの絶望を前にしてこそ、人の勇気の本質は試される。

「まだ、まだよ、まだ! もっと楽しみましょう、もっと殺し合いましょう!!」
 敵と己の血で身体を紅く染め上げながら、なおも恍惚とした表情で戦い続けるアルマ。
 彼女がまたも魔剣を振り下ろそうとした瞬間、飛来したスリングの弾丸が目と剣に命中した。
「――ッ!?」
 視界を潰され、魔剣が空を切る。この機を逃さずに攻勢を強めたのはメアリーだ。
 相手と負けず劣らず全身を紅く染めた彼女は、むせ返るほどの血の臭いを纏って臆病者の刃を振るう。その速さ、力強さは、戦いが始まった時よりもずっと増している。

「返り血を浴びれば浴びる程にメアリは強くなれるんだから」
 甘い甘い血の臭いが、獣となったメアリーを酔わせる。吸血鬼と言えども身体のつくりはヒトに近い、どこを切ればたくさん血が噴き出すのか、彼女はよく知っている。
 負傷を気にせずひたすらに血管を裂き、傷口を抉って、さらなる流血とともに敵の生命力を奪う。向こうはただ失うばかりだが、彼女には回復の手段もあるのだ。
 それでも1人なら火力の差で押し負けていたかもしれないが――後ろから聞こえてくる儚い人魚の歌声が、痛みを遥かに癒やし去ってくれる。これなら何も心配はない。
「最後まで立っているのは果たしてどちらかしら?」
「っ……たしかに、ちょっと分が悪い、かしらっ」
 今度はメアリーが相手を煽る番だった。まるで動きが鈍らないどころか鋭さを増していく人狼の斬撃に対し、不死性にかまけて血を流しすぎた吸血鬼は、いつもなら軽々と振るえるはずの剣に重さを感じていた。

「ふふ……こんなにわたしが追い詰められるなんて。どんな絶望にも抗い、何度でも立ち上がる……やっぱり、あなたたち猟兵は素敵だわ」
「別にテメエを悦ばせたいから立ち上がるんじゃねえ」
 劣勢を自覚しながらも恍惚とした笑みを浮かべるアルマ。称賛とも自己陶酔ともつかないその言葉を、嵐は真っ向から拒絶する。スリングショットを引き絞る力に怒りが籠もり、手の震えがぴたりと止まった。
「他の皆はともかく、おれは逃げて後悔したくねえからやってるだけだ!」
 ここでコイツを倒さなければ、きっとまた多くの人が死ぬか、死ぬより辛い目にあう――そんな後悔をしないために、守りたいものを守るために、彼は勇気を振り絞る。
 放たれた弾丸は的確に標的の急所や目を捉え、敵が怯んだ隙を突いてメアリーがさらなる斬撃を浴びせる。
「わたしたちの、勝ちね」
「……ッ!!」
 おびただしい量の出血で戦場に血の海を作り、ついにアルマががくりと膝をつく。
 戦いの流れはもはや完全に、猟兵たちの側に傾いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
…この手の手合いって、「自分がやられる姿」でも興奮できるからホントにタチ悪いのよねぇ…

ただでさえやたら強力なのに、単純に手数が増えるってのは正直キツいわねぇ…
なら、攻撃自体の脅威度を下げちゃいましょ。
●縊殺で対処の選択肢を削って単調な攻撃を誘発させるわぁ。
ただ振り回すだけなら〇見切るのも多少は楽になるはず。
どれだけ手数が増えようと、当たらなければ無いのと一緒よねぇ。

銀の弾丸に刻むルーンはダエグ・シゲル・ユル。
「黎明」の「陽光」をもって「訣別」の証とするわぁ。
「自分が打ち倒される」なんて、文字通り絶頂モノでしょうねぇ、きっと。
結局どうあがいてもご褒美なんだもの。ホント、相手するだけ損よねぇ…



「あぁ……最高だわ。こんなにも強く、そして美しい輝きを見られるなんて」
 自らの身体から溢れた血の海に膝を突きながら、不気味な笑みを浮かべる『絶望卿』。
 明らかに追い詰められていながら、まるで焦りや不安を見せない彼女の態度に、ティオレンシアは眉をひそめる。
「……この手の手合いって、『自分がやられる姿』でも興奮できるからホントにタチ悪いのよねぇ……」
 あの吸血鬼からすれば、人々が自分という『絶望』に抗う様子を愛でることができれば、その果てに自分が死のうともお構いなしなのだろう。生き死にの全てが自己満足の塊という、巻き込まれる側からすれば迷惑極まりない輩だ。

「あら……そんなに嫌そうな顔をしないで? もっと楽しませて頂戴な……?」
 血塗れのアルマはゆらぁり、と幽鬼のように立ち上がると、折れた魔剣を担ぎ上げる。足下の血溜まりが巨大な魔法陣を描き、行動時間を倍速化させる術式が起動する。
 【とかく一目惚れとは暴力の如く】。狂愛のままに殺意を振り撒くその執念は未だ絶えず、次なる標的に向かって獣のように飛び掛かってくる。
(ただでさえやたら強力なのに、単純に手数が増えるってのは正直キツいわねぇ……なら、攻撃自体の脅威度を下げちゃいましょ)
 敵が近付いてくるのに合わせて、ティオレンシアが放ったのは【縊殺】の銃撃。ルーンの補助を受けたオブシディアンの弾丸が、銀色に煌めきながら敵に襲い掛かる。

「まぁ、綺麗ね!」
 星のように輝く銃弾の雨に目を引きつけられたアルマは、魔剣を横薙ぎに振るってそれを吹き飛ばす。生来の超怪力に加えて倍速化まで付与された超高速の乱舞は、音速を超える弾丸を切り払うことさえ可能とした。
「それじゃあ、わたしからもお返しよ!」
 アルマはそのまま距離を詰めると、今度はティオレンシアをなで斬りにしようと剣を振るう。しかしそれは弾丸を切り払ったのと同じ、右から左に薙ぐだけの単純な斬撃。
 【縊殺】は単にダメージを与えるための攻撃ではなく、敵の心理的な対処の択を削り、動きを読みやすくする布石としての一手。ルーンの曳光弾に魅せられた吸血鬼の思考は単純化し、咄嗟に目の前のものを薙ぎ払うことしか考えていなかった。

(ただ振り回すだけなら見切るのも多少は楽になるはず)
 敵は強化と種族性による圧倒的な身体能力を誇るが、剣技に卓越しているわけではない。狂乱した猛獣のような単調な攻撃を、ティオレンシアはひらりと紙一重で躱す。
「どれだけ手数が増えようと、当たらなければ無いのと一緒よねぇ」
「あら、あらあら?」
 刹那のうちに九度放たれる必殺の斬撃。しかしその全ては空を切り、勢い余ったアルマの身体が宙を泳ぐ。自分の攻撃の反動でよろめくとは、平気そうにしていても負傷は相当に堪えているらしい――愚かな敵が見せた隙を、ティオレンシアは逃さない。

「悪いけど、あなたのお遊びにこれ以上付き合うつもりはないのよねぇ」
 無駄のない動作で大剣の間合いの内側に踏み込み、オブシディアンの銃口を向ける。
 装填されているのは魔を討ち祓う銀の弾丸。刻まれたルーンはダエグ・シゲル・ユル。
「『黎明』の『陽光』をもって『訣別』の証とするわぁ」
 外しようのない距離から放たれた一射は銀光の弾道を描き、吸い込まれるように標的の胸を射抜く。吸血鬼にとっては天敵となる太陽の力と、ティオレンシアからの拒絶の意志を叩きつけられたアルマは、口元を歪め――。
「あはっ――♪」
 苦しげに口から血を吐きながら、それでもなお笑う。刻々と死に近付いていく肉体とは裏腹に、その精神はかつてないほどの高揚感と陶酔に満ちあふれていた。

「『自分が打ち倒される』なんて、文字通り絶頂モノでしょうねぇ、きっと」
 相性最悪の一撃を食らってもなお喜々としている吸血鬼を見て、ティオレンシアは心底嫌そうに顔をしかめつつも、手慣れた動作で銃をリロードし追撃の銀弾を叩き込む。
「結局どうあがいてもご褒美なんだもの。ホント、相手するだけ損よねぇ……」
 正直さっさと力尽きて欲しいという厭気が、その声色にはありありと浮かんでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
それがあなたの望みに沿うというのは業腹ですが……いいでしょう。あなたは、ここで殺す。

使っていられる時間に制限のあるユーベルコードですが機を狙う余裕はありませんね。
【ニヴルヘイム】を使用し戦闘を。あの巨大な剣では小回りは利かないでしょうし、袖口に仕込んだナイフの投擲で嫌がらせをしつつ、周囲を覆う冷気で敵の動きを鈍らせ、振るわれる魔剣を見切り避けながら銃剣と零距離射撃による接近戦を。

こちらも強化されているとはいえ特に膂力は大きく負けている、フィンブルヴェトを弾かれたり掴まれたりするかもしれませんが、その際は逆にチャンス、クイックドロウしたデリンジャー二丁で絶対零度の弾丸を撃ちこみます。



「あはははははは……っ! そう、その調子よ! 絶望(わたし)をもっと楽しませて! 絶望(わたし)にもっと抗ってみせて!」
 着実に死に追い詰められていても『絶望卿』アルマが歓喜の笑みを絶やすことはない。
 狂愛の押し付けに呆れと不快感を覚えつつも、セルマは愛銃フィンブルヴェトを構える。
「それがあなたの望みに沿うというのは業腹ですが……いいでしょう。あなたは、ここで殺す」
 銃身の先端に取り付けられているのは銃剣「アルマス」。氷のように研ぎ澄まされた刃を敵に突きつけながら、絶対零度の射手は【ニヴルヘイム】を発動する。

「使っていられる時間に制限のあるユーベルコードですが、機を狙う余裕はありませんね」
 【絶対氷域】の時と同様、あるいはそれ以上の冷気がセルマを覆う。身体能力を飛躍的に増強し、戦闘力を超強化する虎の子の手札だが、その強力さの代償に有効時間は僅か1分39秒と短い。
「私が限界を迎えるのが先か、あなたが斃れるのが先か……勝負といきましょうか」
「いいわね! そうやって自分を追い詰めながら戦う姿も、わたしは大好きよ!」
 アルマも空中に血の魔法陣を描き【とかく一目惚れとは暴力の如く】で自らを強化する。種族由来の超怪力に加えて行動時間倍化による超高速で、正面から相手を捻じ伏せる構えだ。

「いくわよ!」
 中程から折れた魔剣を振り上げて、猛然と標的に突っ込んでいくアルマ。対するセルマは袖口に仕込んだスローイングナイフを放ち、斬り掛かりのタイミングを妨害する。
「確かに速くて重いですが、芸はないですね」
「きゃっ?!」
 反射的にナイフを避けたところに銃剣による追撃。倍速化で躱そうとするアルマだが、セルマが放つ冷気は地面や周囲の建造物もろとも吸血鬼の肉体さえ凍て付かせる。
 動きが鈍った瞬間に突き込まれた「アルマス」の刃が、槍のように吸血鬼の胸を穿った。

「まず、ひとつ」
「っ……!!」
 すかさずセルマは銃剣を突き刺した状態からトリガーを引き、零距離射撃を叩き込む。
 ニヴルヘイムの効力は術者自身だけでなく装備にも及ぶ。絶対零度の冷気を宿し超強化された弾丸は、氷結の華を咲かせながら吸血鬼の身体に大きな風穴を空けた。
「やる、わね……そうこなくっちゃ……!」
 だが、それでもまだ敵は倒れない。血塗れの顔でにやりと笑ったアルマは身体が凍り付くのも構わず、己を貫いているマスケットの銃身をがしりと掴む。セルマが押しても引いても、万力で固定されたかのように銃はぴくりとも動かなくなった。

(こちらも強化されているとはいえ、特に膂力は大きく負けている)
 接近戦を仕掛けたところを狙われて、こちらの武器を弾かれるなり掴まれるなりされるのは、当初から危惧していた事態だった。片手でフィンブルヴェトを押さえ込んだ敵は、もう一方の手で超重量の魔剣を軽々と持ち上げ、反撃を仕掛けてくる。
「今度はわたしの番よ!」
 人外の重さと速さを兼ね備えたその剣にかかれば、人間を真っ二つにするのは容易いことだろう――だが、必殺の斬撃が振り下ろされるまさにその瞬間、セルマは愛銃を手放すと疾風のごとく身を翻した。

「その際は逆にチャンスです」
 武器を掴まれるのを危惧していたということは、その対策も用意してきたということ。
 魔剣を躱したセルマのスカートの裾が翻り、その中から二丁のデリンジャーが現れる。
「―――!!」
 振り下ろした直後の魔剣と、掴んだままの銃剣。両腕が完全に塞がった状態のアルマは窮地を悟ったが、もう遅い。増強された身体能力による神速のクイックドロウでデリンジャーを構えたセルマが、無防備な標的に絶対零度の弾丸を撃ちこむ。
「ふたつ、みっつ」
 二発の氷弾は過たず吸血鬼の肉体を捉え、凄まじい冷気により凍結、そして破砕する。
 鮮血の混じった紅い氷に包まれたアルマには、悲鳴を上げることさえできなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
戦闘知識と第六感を頼りに敵の乱れ撃ちから命中する剣だけ見切り、
怪力任せに大鎌をなぎ払う早業のカウンターで迎撃

…確かに速くて鋭いけど無駄よ。
殺気を隠そうともしない攻撃に当たりはしない

UCを発動し眼前に展開した呪詛を暴走させる魔法陣に、
数多の絶望を喰らった大鎌を魔法陣に突き立て魔力を溜め武器改造

…今までお前が振り撒いてきた怨嗟と憎悪と絶望を、
余さず纏めて叩き返してあげるわ、絶望卿

大鎌を取り込み限界突破した黒炎のオーラで防御した黒炎鳥を放ち、
空中戦機動で敵に切り込み自爆する闇属性攻撃を行い、
敵UCで再生して再自爆する2回攻撃で傷口を抉る

…果たしてお前は、最期まで絶望に抗い続ける事ができるかしら?



「痛い……冷たい、熱い、苦しい、激しい……あぁ、なんて美しい……!」
 猟兵たちの"輝き"を幾度となくその身に受け、既に満身創痍の『絶望卿』は感極まったように叫ぶ。剣は折れどもその身は未だ屈さず、戦場を地獄に変える【鮮血の恋歌】によって一時的な不死性を自らに付与。彼女はまだまだ戦い続けるつもりだった。
「……醜い執着も、ここまでくると面倒ね」
 その醜態を見たリーヴァルディはふうと小さく溜息をひとつ吐き、黒の大鎌を構え直す。このまま奴が絶望を振り撒き続けるのなら、その業を刈り取るのが彼女の使命だ。

「あぁ、もっとよ、もっと……わたしはまだ満足していないわ!」
 歪愛の吸血鬼は狂ったように笑うと、折れた魔剣を構えて突っ込んでくる。一瞬のうちに繰り出されるのは超重・超速の連撃――当たれば致命傷は免れえないであろう必殺の乱れ撃ちを、しかしリーヴァルディは舞うように避ける。
「……確かに速くて鋭いけど無駄よ。殺気を隠そうともしない攻撃に当たりはしない」
 それは狩人としての知識と第六感に裏打ちされた吸血鬼狩りの業。幾つもの斬撃の中から自分に命中するものだけを見切り、弧を描いた回避の動きを大鎌を振るう動作へと繋げ、カウンターのなぎ払いを見舞う。

「あぐ……っ!」
 反撃の一閃に腹を裂かれ、苦痛に呻きながら体勢を乱すアルマ。その隙にリーヴァルディは眼前に呪詛を暴走させる血の魔法陣を展開し【限定解放・血の獄鳥】を発動する。
「……今までお前が振り撒いてきた怨嗟と憎悪と絶望を、余さず纏めて叩き返してあげるわ、絶望卿」
 禍々しい真紅の輝きを発する魔法陣に、彼女が突き立てるのは数多の絶望を喰らってきた"過去を刻むもの"。その刃に溜め込まれた魔力と怨念が極限まで増幅され、黒炎のオーラとなって燃え上がる。

「……限定解放。呪いを纏い翔べ、血の獄鳥……!」
 黒の大鎌を取り込むことで、限界を超えて強化されたユーベルコードの一撃――血の魔法陣の中から現れたのは、リーヴァルディの魂に刻まれた呪いを具現化した、黒炎の獄鳥だった。
「な……なんなの、これは……っ!?」
 幾多の呪詛や怨念を糧として羽ばたく、その漆黒の威容にアルマが戦慄する間もなく。
 術者の意に応じて翔び立った黒炎鳥は一直線に標的に切り込み、その身に宿した闇の力を爆発的に解き放った。

「……果たしてお前は、最期まで絶望に抗い続ける事ができるかしら?」
 かつて『絶望卿』が撒いた怨嗟と憎悪と絶望の火種。リーヴァルディの手で刈り取られ、より大きく焚き付けられたそれは今、『絶望卿』自身を焼く断罪の業火となった。
「あ、あぁぁぁぁ……っ!! い、嫌……こんなの、美しくない……っ!!」
 それまで猟兵の"輝き"を讃美し続けていたアルマの口から、初めて拒絶と否定の言葉が漏れた。何故ならばこの炎は"抗うもの"ではなく『絶望』そのもの。過去を断ち切り未来を切り開くために、リーヴァルディは闇をもって闇を制することも厭わない。
 獲物である吸血鬼を睨め付けるその眼差しは、どこまでも鋭く、そして冷たかった。

「こんな、もの……いやぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!!」
 黒炎となって爆ぜたリーヴァルディの血の獄鳥は、『絶望卿』が敷いた戦場の法則――悪鬼の地獄による一時的な不死性によって再生すると、再び自爆攻撃を仕掛ける。
 焼かれた傷を更に焦がされる、終わりのない業火の責め苦。自らも不死性により死ぬことを許されないアルマは、正しく因果応報の地獄を延々と味わい続けることになった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリー・アリッサム
抗う姿が美しいなんて、違うわ
それともあなたは、みじめな生き方をしてたの?
戦う人々を羨むような……いえ
そうして死んだのよね、あなたも!

【無幻刃問】――死霊を纏った大領主を召喚し、絶望卿へぶつける
死霊の呪詛で魔方陣を曇らせて
大領主の十字剣で魔剣を捌く
これで少しは絶望卿の術を弱められるわ

そして問いかけるわ
答えて……あなたはかつて、どう絶望したのかしら?
あなたが答えられるまで、剣戟は終わらない!

それは希望を殺す呪いになる筈
答えられても答えられなくても、彼女の力を奪える筈、だから
大領主と死霊に攻撃をさせながら
わたし自身も特大の蒼い炎の球を作り出すわ
時間を掛けて、最後の一手として
この絶望を焼き焦がす為に!



「抗う姿が美しいなんて、違うわ」
 絶望の獄炎の中でもがくアルマへと、静かに芯のある声音で語りかけたのはセシリー。
 無理に絶望を押し付けて戦わせなくても、人はみな心に希望の輝きを抱いている。本当に美しいのは抗う姿そのものではないのに、彼女は希望の尊さを理解していない。
「それともあなたは、みじめな生き方をしてたの? 戦う人々を羨むような……いえ、そうして死んだのよね、あなたも!」
 オブリビオンとなる以前、遠き日の彼女のルーツを想像しながら、セシリーはシリウスの棺を構える。その頭にあしらわれたオーブが星の光を放ち、呪力を増大させていく。

「わたしが、みじめですって……? 違う、わたしはただ、絶望に抗う人たちを愛しているだけ……!」
 アルマは苛立ちの混じった声でセシリーの言葉を否定すると、獄炎を振り払って【とかく一目惚れとは暴力の如く】を発動する。大地に描かれた魔法陣が行動速度を加速させ、満身創痍の身体に再び力が満ちていく。
「あなたの言葉は不愉快だわ……わたしのことより、あなたの抗う姿を見せてよ」
 殺気を込めて魔剣を突きつけられても、セシリーは怯まない。掲げた呪杖の光はさらに増し、その光に誘われるように死霊の群れが彼女の周囲を舞う。黒雲のごとく蟠ったその中より姿を現したのは、貴人の装束と黄金の十字剣を帯びた、1人の男だった。

「答えて……あなたはかつて、どう絶望したのかしら?」
 その問いかけと共に、死霊纏いし「大領主」が前に出る。セシリーの両親を葬った宿敵にして、喪った愛する人を求めた果てに狂気へと堕ちたその男は、その彷徨える魂をセシリーに掬われた。そして今、かつての凶刃は死霊術士の力となる。
「なにを――っ」
「……答えて!」
 重ねて問いを迫るセシリー。その叫びに後押しされるように「大領主」は剣を抜き、戸惑っているアルマに斬り掛かる。黄金の剣戟が肉を裂き、背後に纏わりつく死霊の呪詛が魔法陣の輝きを曇らせる。

「くっ……術式が……」
 魔法陣の輝きが失せれば倍速化の効果も弱まる。動きの鈍ったアルマは苦し紛れに超重の魔剣を振り回すが、ただ怪力に任せただけの斬撃は大領主の十字剣に容易く捌かれる。狂気に堕ちてなお幾人もの猟兵を相手取った、その剣戟の冴えは今も健在だ。
「あなたが答えられるまで、剣戟は終わらない!」
 静かなる殺意と共に剣を振るう大領主と、問いを叩きつけるセシリーの【無幻刃問】。質問をトリガーとして起動したこのユーベルコードは、対象者から満足いく答えを得られるまで継続する。

「わ……わたしの、絶望……? そんな……そんなものは……」
 アルマは答えられなかった。オブリビオンと化した現在の彼女には生前の記憶の一部が欠落している。かつての自分がどう生きて、なぜ絶望に抗う人々に執着するのか――その理由さえも分からないことに、彼女は今の今まで気付いてすらいなかった。
「わたしは……わたしは『絶望卿』! 絶望を与えることはあっても、絶望なんてしたことはない!」
 その返答が虚勢なのはセシリーの耳にも明らかだった。答えに納得できない以上、大領主と死霊の攻撃は止まらず、逆に動揺したアルマの動きは精彩を欠くようになる。
 過去を質すセシリーの問いかけは、『絶望卿』にとって希望を殺す呪いになったのだ。

「絶望を忘れてしまったあなたは、絶望そのものになってしまったのね」
 セシリーはどこか哀しげな眼差しでアルマを見つめながら、杖先に蒼い炎を燃え上がらせる。大領主と死霊の攻勢が敵を抑えている間、呪力を送り続けてきたそれは、凄まじい熱量を秘めた特大の火球となった。
「これがわたしの最後の一手。この絶望を焼き焦がす為に!」
 高らかな宣言とともに放たれる蒼炎。全霊を込めて作り上げた"焼き焦がすもの"の炎撃は、過たずに『絶望卿』に命中し――肉を焼き、骨を焦がし、血を蒸発させる。
「――――ッ!!!!!?!」
 蒼炎に包まれたアルマは悲鳴を上げる舌まで灼かれ、灼熱の苦痛にのたうち回る。
 それはさながら彷徨える魂を冥府へと導くための、葬送の炎のようでもあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シェーラ・ミレディ
愛らしい容姿に似合わぬ悪癖……それも、僕とは相容れぬ趣味だなぁ。
絶望を跳ね除け、立ち上がる者が見据える先にこそ希望があるのだ!

降り注ぐ剣を踊るように躱し、我が身を蝕む不死の呪いを、明日を生きるという祈りや呪詛(+呪詛耐性)で防ぐぞ。
敵と視線が合えば、銃口を向けて『片恋の病』。
皮肉の効いた名前だろう?
恋なんて、片方だけの想いではままならぬものさ。
放たれた弾丸は、まるで導かれるように敵の心臓を射抜くだろう。悪鬼の地獄より彼女にもたらされる仮初の不死を、破魔の弾丸で撃ち砕く。

悲劇や挫折を経て、それでも屈することなき信念や正義。
お前の好む輝きが、お前を滅ぼす刃となるのだ!

※アドリブ&絡み歓迎


御狐・稲見之守
絶望卿よ、悪いが絶望に抗う輝きならば他に相応しい役者達がいてなァ。

志半ばにして散った勇者達よ、願うならば応えよう。魂を死神に売り渡してでも、眼前の仇敵を討たんとするならば。

[UC魂喰らいの森]魂を喰らうた銀狼軍を『森の番人』として森と共に顕現。先程の戦いで散り逝った他の銀狼軍の魂も啜り兵列に加えよう。ここは我が魂喰らいの森、森の番人たる兵共ゆえ易々とやられるものか。

さあ歴史の彼方より圧政への反逆者達の真なる帰還である。鬨の声を上げ銃を取れ。彼奴を銀の弾丸で貫き、銃剣を突き立てよ。絶望に抗い反旗を翻すは今ぞ。

命捨つる戦い方しか出来ぬ不器用な者達であるが、せめてその本懐を叶えようではないか。



「ぐ、ぅ……はは、ははは……見事よ。やっぱりあなたたちは美しい」
 全身を炎に焼き焦がされたアルマは、半死半生の有様で引きつるように笑みを作る。
 恐らくはもう、逆転の機は薄いであろうことを彼女も理解している。絶望に抗う猟兵たちの実力は彼女の予想を遥かに上回るもので、あまりにも強く、そして眩しかった。
「だからいつまでも眺めていたいの……もっとあなたたちに焦れさせてほしいの!」
 狂愛のままに紡がれる【鮮血の恋歌】が、再び戦場を地獄に変える。空からは無数の殺戮剣が降り注ぎ、血に染まった都市を破壊していき――その中心に立つ吸血鬼の肉体が少しずつ再生していく。

「愛らしい容姿に似合わぬ悪癖……それも、僕とは相容れぬ趣味だなぁ」
 降り注ぐ剣を踊るように躱しながら、シェーラは鋭い目つきで『絶望卿』を睨む。どうも向こうは人が絶望に抗う姿にご執心のようだが、彼に言わせてみればその嗜好は見るべき焦点を間違えている。
「絶望を跳ね除け、立ち上がる者が見据える先にこそ希望があるのだ!」
 その希望に向かって駆けるからこそ人は強く、美しい。真に見据えるべきものを知る少年は、悪鬼の地獄がもたらす不死の呪いに、我が身を蝕まれまいと振り払う。
 不死だの永遠だのと言ったものは、裏を返せば停滞だ。明日を生きるという祈りが胸にある限り、彼の心身がそのような仮初の不死に囚われることは決してない。

「立ち上がる者が、見据える先……? そこにいるのは、絶望(わたし)だけよ!」
 立ちはだかる『絶望卿』が殺意を漲らせると、剣山刀樹のごとく突き立てられた殺戮剣が彼女に力を与える。一時的な不死性に加えて戦闘力の増大は、満身創痍の彼女を未だ油断ならざる脅威と成さしめていた。
「さあ、絶望(わたし)に抗いなさい。あなたたちの魂の輝きを見せて――」
「絶望卿よ、悪いが絶望に抗う輝きならば他に相応しい役者達がいてなァ」
 不気味に笑うアルマの言葉を遮ったのは、稲見之守。童女姿に威厳ある佇まいを見せる彼女がふわりと扇子を仰ぐと、再び幻術の霧が立ち込め【魂喰らいの森】が顕現する。

「志半ばにして散った勇者達よ、願うならば応えよう。魂を死神に売り渡してでも、眼前の仇敵を討たんとするならば」
 霧にけぶる森の奥から姿を現したのは、ただの動植物ではなかった。白銀の毛並みに黒の戦装束を纏い、銃剣とマスケット銃で武装した人狼の戦士団――蜂起する銀狼軍。
 稲見之守の領域に魂を喰われた者たちは、ただ消えるのではなく「森の番人」となる。先程の戦いで散り逝った者たちの魂も啜り戦列に加え入れることで、滅びたはずの軍団はここに今ひとときの勇姿を再臨させる。

「さあ歴史の彼方より圧政への反逆者達の真なる帰還である。鬨の声を上げ銃を取れ」
 走狗の呪縛より解き放たれし人狼たちは、天を衝くような遠吠えを轟かせ、銃剣を突き上げる。その総身に満ちる殺意は、彼らが本来戦うべき仇敵――吸血鬼ただ1人に向けられていた。
「彼奴を銀の弾丸で貫き、銃剣を突き立てよ。絶望に抗い反旗を翻すは今ぞ」
「「「ウオオォォォォォォォォ――――ッ!!!!!!」」」
 稲見之守が厳かに号令を発すると、銀狼軍は鬨の声とともに一斉突撃を開始する。死を恐れることなく絶望に立ち向かう、研ぎ澄まされた刃と銀の弾丸が敵に殺到した。

「あはっ……そう、あなたたちもわたしを楽しませてくれるのね!!」
 誇りを取り戻した銀狼軍の攻勢を目にしたアルマは、まるで子供のように目を輝かせ。
 高まる恋慕の情と共に膨れ上がった殺意は彼女の戦闘力をさらに増大させ、折れた魔剣のひと薙ぎで幾人もの人狼が両断される――だが銀狼軍の進撃は止まらない。
「ここは我が魂喰らいの森、森の番人たる兵共ゆえ易々とやられるものか」
 仲間の屍を踏み越えて、決死の覚悟で敵に肉迫するという捨て身の戦法は、森の番人となった今も健在。次々と突き立てられる銃剣と銀弾を、アルマは甘んじて受ける。
 稲見之守とアルマ、2人のユーベルコードがせめぎ合う戦場は悪鬼の地獄と魂喰らいの森が複合した世にも怪奇な領域と化していた。一時的な不死性が維持されている以上、たとえ致命傷を負ってもアルマが死ぬことはない。

「あはっ、あはははははっ! もっと、もっと楽しませて!」
「随分楽しそうだな、絶望卿。だがそれはお前の自己満足だ」
 血みどろになりながら銀狼軍と剣を交える吸血鬼に、シェーラが冷たく声をかける。
 その言葉にアルマが思わず振り返ると――宝石のような紫瞳と、昏い銃口と目が合った。
「"この思いのひとかけでも、あなたが感じてくれたなら。それだけでわたしは報われるのです"」
 そう囁きながらトリガーを引く。放たれた弾丸は敵味方入り乱れる戦場の中であらゆる障害と距離をものともせず、まるで導かれるように狙い定めた相手の心臓を射抜いた。

「か、は……っ!!?!」
 胸に開いた銃創を押さえ、喀血しながらその場にうずくまるアルマ。受けたのはたった一発の弾丸、だがその一発に込められていた破魔の力は、悪鬼の地獄より彼女にもたらされる仮初の不死を撃ち砕き、致命的なダメージを負わせていた。
「この技の名は『片恋の病』。皮肉の効いた名前だろう? 恋なんて、片方だけの想いではままならぬものさ」
 それは身勝手な恋心で絶望を振り撒くアルマに対する、シェーラからの痛烈な意趣返しだった。どんなに彼女が歪んだ愛を人々に向けようとも、応える者のいない想いが成就することはない――ここに居る誰の生命も未来も、思い通りになりはしない。

「悲劇や挫折を経て、それでも屈することなき信念や正義。お前の好む輝きが、お前を滅ぼす刃となるのだ!」
 力強い意志を込めて再度放たれた弾丸が、眩い輝きを纏って『絶望卿』を撃ち抜く。
 それは弾丸に宿る精霊の力にして、シェーラの想いの力。その光に導かれるようにして、銀狼軍の残存兵力が一斉攻撃を開始する。
「命捨つる戦い方しか出来ぬ不器用な者達であるが、せめてその本懐を叶えようではないか」
 敵の不死性が破壊されたまたとない好機を、稲見之守が見逃すはずもなかった。怨敵に対する執念と殺意に滾った人狼たちの猛攻が、文字通りに敵を八つ裂きにする。

「あ、は……この、輝きに、滅ぼされるのなら……悪くは、ないわ……♪」
 数え切れないほどの銃撃と刺突を受けながら、アルマは恍惚とした笑みを浮かべる。
 この戦いの果てに、最高の輝きを見られるのなら。もはや彼女にとって己の生死など些細なことであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

幻武・極
へぇ、銀狼軍がボク達の相手に役不足ね。
それじゃあ、キミの相手ならどうかな?
彼等の死を覚悟した戦術はキミのユーベルコードの影響下ならとんでもない力を発揮するんだよ。
不死のフィールドで決死のユーベルコード、味わってみなよ。



「へぇ、銀狼軍がボク達の相手に役不足ね。それじゃあ、キミの相手ならどうかな?」
 絶望卿の【鮮血の恋歌】が作り出した悪鬼の地獄で、不敵な笑みを見せる極。無数の殺戮剣が突き立てられた戦場で、彼女は新たに手元に加えた【持ち駒】を披露する。
「この局面だとキミ達を使うのがよさそうだね」
 陽炎のように揺らめきながら現れるのは、先刻極に倒された銀狼軍の兵士たちの霊。
 牙を剥き出しにして唸る人狼の目は、マスケット銃に備え付けられた銃剣の切っ先は、本来彼らが立ち向かうべき敵――忌まわしき吸血鬼に向けられている。

「ふふ……そう、よね……あなたたちも、絶望に抗う者だものね……!」
 血に染まった『絶望卿』アルマは猟奇的な笑みを浮かべながら、向かってくる人狼の群れと対峙する。彼らが自らの配下ではなくなり、圧政への叛逆者として自身に牙を剥くのは、彼女にとって歓迎すべき出来事である。
「さあ見せてくれるかしら! かつて我ら吸血鬼すらも屠ったその力を!」
 みなぎる殺意を刃に乗せて、折れた魔剣を一閃。悪鬼の地獄に適応したアルマの攻撃はただの1振りで幾人もの人狼をなぎ倒し、斬り捨て、地に伏せさせる。すでに半死半生の身でありながら、その身を衝き動かす"狂愛"という名の執念は凄まじい。

 ――だが、こと執念が物を言う戦いであれば、銀狼軍の兵士たちも負けてはいない。
 吸血鬼の魔剣に斬り伏せられたはずの人狼たちは、血塗れの身体をむくりと起こすと、再び敵に襲い掛かる。【決死の覚悟】と【抹殺の意志】を胸に、同胞の命を代償にした【シルバーバレット】を弾倉に込めて。
「彼等の死を覚悟した戦術は、キミのユーベルコードの影響下ならとんでもない力を発揮するんだよ」
 領域内の存在に一時的な不死を与える悪鬼の戦場では、敵に殺されても、あるいは自死を試みても、絶対に"死ねない"。自らの命と引き換えに力を発揮する銀狼軍のユーベルコードは、この環境に完全に適応していた。

「不死のフィールドで決死のユーベルコード、味わってみなよ」
 にやりと笑う極の指揮の元、不死身の兵団と化した銀狼軍が一斉突撃を開始する。
 首を刎ねられようが、心臓を潰されようが、彼らはもう止まらない。どうせ死ねないのなら死に放題だとばかりに、惜しみなく強化された銃剣や銀弾の攻撃がアルマを襲う。
「ふ、ふふ……! これがそう、そうなのね……これこそがあの……!!」
 はるかな昔、その生命と引き換えに幾多の吸血鬼を討ったという伝説の戦士たち。
 その真価をその身で味わうことになった『絶望卿』は、歓喜に満ちた表情のまま、地獄の大地に倒れ伏すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
奏でよう
絶望を否定し、希望を紡ぐ
私の中の光の歌を

ボクは絶望なんて見飽きています
でも、その絶望の中から希望を見つけました
だから絶望卿、お前の絶望には染まらない

【深淵から響く魂の歌】を地獄の中から奏でましょう

不死なんて必要ない
本当は争いなんて必要ない
この世界に絶望なんて必要ない

だからこの地獄を内から食い破り
それを証明してみせる

歌と共に放つのは破魔の銃弾
魔銃にボクの破魔の力を限界まで
いえ、それ以上にこめて
敵ごとこの地獄を撃ち抜く

ボクのように既に絶望に染まったことのある者はどう写るのでしょう
その絶望から希望を見つけた者をどう思うのでしょう

私は、もう立ち止まらない
希望の光、その先に進むまでは

アドリブ歓迎



「ボクは絶望なんて見飽きています。でも、その絶望の中から希望を見つけました」
 仮面の奥の目を細め、『絶望卿』を名乗る血塗れのヴァンパイアを静かに見つめながら、アウレリアが口を開く。終わりのない絶望の中をさまよった果て、昏い闇の底から掬い上げた希望の光が、その瞳の奥に宿っている。
「だから絶望卿、お前の絶望には染まらない」
 その言葉は拒絶か、あるいは訣別か。揺るぎのない決意を示す少女の眼差しに、狂愛の吸血鬼は何を感じ取ったか――これまでとは違う冷ややかな笑みを浮かべた。

「絶望から希望を見出す、とても素敵なことね。でもその希望もまた絶望に呑まれない保障はないわ? 儚い光を守りたければ、抗って、抗って、抗い続けないと」
 血に濡れた唇から紡がれるのは【鮮血の恋歌】。曇天より降り注いだ無数の殺戮剣が不気味な光を放ち、悪鬼の地獄と化した戦場を血腥い気配で満たしていく。
「わたしはもっとあなたたちの抗う姿が見たい。だからそのために地獄を作るわ――さあ、殺し合いましょう。終わりのない絶望の中でこそ、希望は最も輝くのだから!」
 仮初の不死をもたらす地獄の中心で、アルマは高らかに叫びながら剣を取る。
 人の最も輝かしい姿を見るためならば、彼女はそれ以外の全てを踏み潰す。

「不死なんて必要ない。本当は争いなんて必要ない。この世界に絶望なんて必要ない」
 絶望の体現者として立ちはだかるアルマの全てを、アウレリアは真っ向から否定する。
 悪鬼の地獄に取り込まれても心は揺らがない。こんなことをしなくても希望は最初からそこにあるのだと、それを見出すことのできた今だからこそ彼女は確信を持てる。
「だからこの地獄を内から食い破り、それを証明してみせる」
「できるのかしら、あなたに?」
 挑発的に口元を歪めるアルマの前で、憂愛の歌い手は胸に手を当ててそっと瞼を閉じると――魂の奥底から湧き上がる旋律を、【深淵から響く魂の歌】を奏で始めた。

(奏でよう。絶望を否定し、希望を紡ぐ、私の中の光の歌を)
 それは忘れてしまっていた過去の残照。記憶には失われても心の奥底でずっと眠っていた、母の奏でた歌。幼き日に耳にした旋律は現在のアウレリアの希望となって、悪鬼の戦場に響き渡っていく。
「これは―――!!!」
 戦場を満たしていた血腥い空気が消える。突き立てられた殺戮剣が朽ち果てていく。
 アウレリアの魂の歌が鮮血の恋歌をかき消していく光景を、アルマは驚愕とともに目の当たりにする。

(ボクのように既に絶望に染まったことのある者はどう写るのでしょう。その絶望から希望を見つけた者をどう思うのでしょう)
 問いかけても答えは返ってこないだろうと思いながら、アウレリアは目を開ける。
 崩壊していく地獄で狼狽えるアルマの姿は弱々しく、しかしその目は輝いていた。
「これが、あなたの希望だというの? なんて、なんて美しい……!!」
 一度は絶望に染まり、そこから再起した者が見せた輝き。それはまさしく『絶望卿』が最も愛する人の姿だった。剣を振るうことすら忘れた彼女は光の歌に聞き惚れ、陶酔するように立ち尽くしている。

「これがボクの、私の証明です」
 アウレリアは魔銃ヴィスカムを構えると、無防備な隙を晒す吸血鬼に狙いをつける。
 その弾丸に歌と共に込めるのは破魔の力。己に宿る力を限界まで――否、それ以上に注いで、この地獄を"絶望"ごと撃ち抜くための力に変える。

「私は、もう立ち止まらない――希望の光、その先に進むまでは」

 全身全霊を賭けて放たれた破魔の銃弾は、流星のごとき一条の閃光となって。
 その輝きが『絶望卿』を射抜いた瞬間、全ての殺戮剣が音を立てて砕け散る。
「そう……絶望(わたし)を超えていくのね、あなたたちは」
 愛おしそうな表情を浮かべながら、心臓に穴の空いた吸血鬼はがくりと膝を突く。
 己の地獄を真っ向から否定され、打ち破られた今、彼女の終焉の刻は間近だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリスティアーネ・アステローペ
やっとのお出ましね
「『断罪者』にして『朧月の魔』クリスティアーネ・アステローペ。あなたの刑吏を務めさせてもらいましょう」
随分と久しぶりな【血統覚醒】による能力解放の後名乗りを返して

血鎖はフランツィスカの纏う風で打ち払い(《武器受け》+《衝撃波》)
呪いの鎖までかけられたなら《破魔》の《祈り》を宿したエヴェリーナで断ち切り応戦
武器に着いた彼女の血を指で拭い口元へ。美味しいのだけど、これっぽっちじゃ物足りないわね
足を《串刺し》にして動きを止めたら【エヴェリーナ、その慈悲深く】
終わらせましょう

「断罪者たるアステローペのクリスティアーネより絶望卿アルマ・アークナイツへ」
「"汝が魂に、永き救いと安寧を"」



「なかなかしつこい手を使う相手だったけれど、いよいよこれで最後ね」
 絶望の死霊と人狼の勇者たちを葬り去って、やっとお出ましになった此度の元凶を前に。クリスティアーネは【血統覚醒】を発動し、その身に秘めるヴァンパイアの能力を解放すると、『絶望卿』アルマ・アークナイツに名乗りを返す。
「『断罪者』にして『朧月の魔』クリスティアーネ・アステローペ。あなたの刑吏を務めさせてもらいましょう」
 これをするのも随分と久しぶりだと、真紅に染まった瞳を輝かせ、これまでの敵の血に染まった"救済者フランツィスカ"を担ぐその佇まいは、まさに夜闇の処刑人であった。

「同胞の血を継ぐ者が、わたしの処刑を務めるなんてね。それも悪くないかし……ら!」
 今や立つことさえままならない様子のアルマは、皮肉げな笑みを浮かべながら血鎖の鞭を振るう。一目で満身創痍と分かる肉体とは裏腹に、その目は異様なまでの高揚感に満ちあふれ、狂気と恋慕の情念でクリスティアーネを見つめている。
「だけど最後まで付き合ってもらうわ。死があなたを連れ去るまで!!」
 ユーベルコードを強制停止させる効果のあるその一撃を、クリスティアーネはフランツィスカの纏う風で打ち払う。接触の瞬間に生じる爆風も衝撃波で押し流し、敵を刃の間合いに収めるべく、一歩前に。

「残念だけど、そこまでは付き合えないわね」
 淡々と受け流しながらフランツィスカを振り下ろさんとするクリスティアーネ。しかしアルマは執念深くも身を躱し、握っていたもう一本の血鎖の鞭を彼女に叩きつける。
 クリスティアーネは咄嗟に斧槍の柄でそれを受け止めるが、それを待っていたとばかりに呪いの鎖が絡みつく。既に限界までダメージを負っているアルマの負傷の全てをここで転写されれば、いかな猟兵と言えども命の保障はない。

「さあ、一緒に逝きましょう! 死という絶望に抗うあなたの姿を見せて!」
 繋げられた鎖を通じて、自らの苦痛を、流血を、負傷を送り込もうとするアルマ。
 だがその刹那、クリスティアーネは斧槍を手放し、魔杖斬首剣"慈悲深きエヴェリーナ"を抜き放った。
「な――ッ!?」
 死者を弔うための破魔の祈りを宿した刃は、呪詛にて編まれた鎖を断ち切り、返す刀で敵を斬る。驚愕に目を見開いたアルマの身体から、真っ赤な鮮血が散った。

「美味しいのだけど、これっぽっちじゃ物足りないわね」
 クリスティアーネは刃に付いたアルマの血を指で拭い口元へ運び、その甘美な味わいに艶やかな笑みを見せる。再び鎖鞭を振るう暇を与えず、血の魔力から杭を生成し、敵の足下へ。
「っ、あ……!!」
 呪詛と祈りを纏う血杭は、標的の足の甲を貫通するとそのまま地面に縫い付ける。
 これでもう彼女は逃げられない。串刺しの苦痛にうずくまった吸血鬼が見上げたものは、朧月の輝きを受けて煌めく、処刑人の刃。

「断罪者たるアステローペのクリスティアーネより絶望卿アルマ・アークナイツへ」

 数多の人々を絶望に巻き込んだ咎人に、クリスティアーネが執行するのは斬首刑。
 【エヴェリーナ、その慈悲深く】――首を落とすことに特化したがゆえに、その剣に切っ先はなく。刀身に刻まれた魔術紋の煌めきは、確実なる致死を約束するもの。

「"汝が魂に、永き救いと安寧を"」

 一切の無駄を削ぎ落とした斬撃は、それゆえに流麗で。
 祈りを囁く処刑人の剣が、吸血鬼の首を刎ね飛ばした。

「――ああ、美しい。その輝きを、わたしは、いつまでも、ずっと――」

 それが『絶望卿』アルマ・アークナイツの唇が紡いだ、最期の言葉だった。
 刎ねられた首も、地に伏せた胴体も、灰となって土に還り、後には何も残らない。
 しんと耳鳴りがするような静寂が、戦いの終焉を物語っていた。


 かくして『絶望卿』の恋心がもたらした絶望の連鎖は、ここに断ち切られた。
 いかなる絶望にも屈しない猟兵たちの"輝き"は、この闇に包まれた世界を今日も少しずつ、希望の光で照らしていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月19日


挿絵イラスト