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シャーキスタドールの要塞

作者：一二三四五六

●グリモアベースにて
「やあやあ猟兵諸君。くるるちゃんの召集に集まってくれて感謝するねっ」
　グリモアベースに集まった猟兵達を前に腕を広げ、鏡繰・くるる（属性過積載型バーチャル男の娘・f00144）は愛らしい笑顔と共に元気よく切り出した。
「今回は、グリードオーシャンで、コンキスタドールの要塞を攻略してもらうよ！」
　世界に点在する数多の島のうちの一つ、アポカリプスヘルから『落ちて来た』島。その島の中央には、とある強力なメガリスが存在している。
「メガリスの名は『母なる海の小瓶』。名前の通りの小さな瓶で、蓋を開けると、数ｍほどの竜巻が発生する。そしてその竜巻の中から、使用者が望んだ海棲動物を一定時間ごとに誕生させる、と言う力を持っているんだ」
　誕生した動物は通常より能力が高い上に、メガリス使用者の命令を忠実に守る。これを利用して、コンキスタドールは『鮫』の軍団を作ろうとしているのだ。
「十分な戦力を整えたら、他の島への侵略に打って出るつもりみたいだ。当然、これを黙って見ている訳には行かないよね！」
　鮫軍団が完成する前に、なんとしてもコンキスタドールを倒し、この野望を阻止しなければならない。

「要塞の入り口には、『霊猫の芳香使い』と呼ばれるコンキスタドールがいるよ。キマイラフューチャーから来たキマイラの末裔で、ジャコウネコの特徴を持っている女性達だ」
　彼女達は、『匂い』を扱う事を得意としている。この匂いにより、生み出した鮫を調教し、より高度な命令を聞かせられるように躾けているようだ。
　戦闘の際は手にしたメガリス『麝香の杖』から芳香を放つ事で、こちらを撹乱したり、逆に自身を興奮状態にする事で攻撃力を強化したりする。
「芳香使い達もそれなりに強いコンキスタドールだけど、彼女達の周囲には、メガリスから生まれた鮫達がウヨウヨと泳いでるから、そっちにも気をつけて。コンキスタドールは倒せたけど鮫に食べられました、とか洒落にならないからね！」
　まあ、いくらメガリス製で強化されているとはいえ、鮫はあくまで鮫。コンキスタドールではないので、対策はそこまで難しくないだろう。無対策で突っ込むのは流石に危険だが。

「要塞の中央では、コンキスタドールのボスが待っている。『ルル・クラドセラキー』……暗黒鮫魔術師の異名を持つ、死霊術士にして鮫魔術士の少女だよ」
　相棒である巨大ゾンビ鮫の『ロドリゲスちゃん』や、禍々しい触手を生やしたゾンビ鮫の軍団を従える、強力な鮫魔術士だ。ゾンビ鮫達は飛行可能であり、広い部屋を縦横無尽に飛び回って襲いかかってくる。
「本人は近接戦闘があまり得意じゃないようだけど、杖からは麻痺の効果を持つ暗黒ビームを発射してくるから注意して。もし痺れたら、無防備な所を鮫に食べられちゃうかもしれないからね」

　ルルを倒す事に成功しても、それで終わりと言う訳ではない。ルルは倒される時に、死なばもろともとばかりに『母なる海の小瓶』を破壊する。
「破壊された『母なる海の小瓶』は、通常使用時とは比べ物にならない巨大な竜巻を発生させる。その竜巻から、指定された生物……つまり鮫を大量に撒き散らしながら、どんどん大きくなっていくんだ」
　最終的に竜巻は、島全体を呑み込むぐらい大きくなると言う。巻き込まれたらひとたまりもないし、竜巻から飛び散る鮫に襲われるのも危険だ。また、竜巻によって設備が破壊される事で、爆発が生じたりもする。
　こうなったらとにかく、全力で竜巻と鮫から逃げるしかない。海岸までくれば、鉄甲船に乗って島を脱出出来る。

「……それにしてもボク今回、鮫って何回言ったかな……ま、まあ、とにかく」
　説明を終えたくるるは猟兵達を見渡し、ビシッとポーズを決める。
「それじゃあ、ばっちり解決してきてね。良い知らせを待ってるよ」

●鮫の要塞
　島の海岸線に乗り付けた、鉄甲船『白桃丸』。そこから飛び出した猟兵達は、予知の情報に従って島内に侵入する。
　目的の入り江に辿り着いた猟兵達が発見したのは、大きな洞窟の入り口と、その周囲を悠々と泳ぐ鮫達。
「猟兵！？　何故こんな所に……わたくし達の企みを察知したと言う事ですの！？」
　猟兵の気配を察知し、洞窟の中から飛び出してきたコンキスタドール――芳香使い達は、一斉にその杖を構えた。芳しい香りが、杖の先の香炉から、彼女達自身の肉体から広がっていく。
「ですが、迂闊にこの島にやって来た事、後悔させてあげますわ。わたくし達の芳香と、この可愛い鮫達で、あなた方を葬り去って差し上げますわ！」

第1章 集団戦 『霊猫の芳香使い』

POW   :    バーサーカー・パヒューム 自身の【冷静さ】を代償に、【濃縮された理性を奪う芳香】を籠めた一撃を放つ。自分にとって冷静さを失う代償が大きい程、威力は上昇する。 SPD   :    シベトン・パフ 【香炉付きの杖】から【激しい混乱、興奮作用を持つ呪いの芳香】を放ち、【自傷や同士討ちをさせること】により対象の動きを一時的に封じる。 WIZ   :    カースド・パフューマー 【呪詛と毒が入り混じった対象の苦手な芳香】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【反応と好み】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。 イラスト：メロソ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「初陣だけど、なかなか厄介そうな依頼だね？」
　芳香使い達を前にして、やや芝居がかった態度で笑みを浮かべるスプラ。その手を前にかざすと、セイレーンの肉体であるソーダ水が滴り落ちる。
「けれど鮫使いに負ける訳にはいかないね。鮫風船使いの戦い方を見せてあげようじゃないか！」
　滴り落ちた雫は空気を含んで次々と膨らみ、サメ型のフロートに変わっていく。その一匹に飛び乗ると、彼女は一気に、芳香使い達へと襲いかかった。
「そのような遊具でっ！」
　一見すればファンシーでコミカルな光景、芳香使いが侮るのも無理はない。麝香の杖を高くかざせば、溢れる香りが周囲の鮫を興奮させる。
「さあ、喰らいついてやりなさい！」
　海面から跳躍し、鮫風船の一つに喰い付く鮫。当然、風船はあっさりと弾け――。
「ふふふ。さあ、変われ！」
「っ！？」
　その弾けたソーダ水が鮫の身体に浸透すると、今度はそちらが風船に変化する。
「僕の身体で作ったそれは特別製でね。可愛らしい姿に変えてしまうのさ」
「くっ、妙な力を……！」
　せっかく生み出した鮫を風船に変えられては堪らないと、慌てて鮫達を引かせようとする芳香使い。
　だが、彼女達が杖を掲げても匂いは鮫に届く事はない。彼らは最初の命令を忠実に守り続け、次々と風船に噛み付いては、風船に変えられていく。
「っ、これはっ！？」
「鮫との連携はなかなか厄介だけれど……その程度でわたし達は止められないわ！」
　杖と鮫との間を隔てるのは、フレミアの生み出した念動の壁。作り上げた見えない密室の中に匂いを閉じ込めてしまう。
「くっ、このような小細工などっ」
　芳香使い達は再び杖を掲げ、別の香りを生じさせようとする。だがそれより早く、フレミアは可愛らしいドレスを身に纏った。
「ダメよ、そんな余計な物は外して？」
　そのドレスは、過去に戦ったオブリビオンの記憶と力を纏っている。優美に舞えば、そのドレスから舞い散る花粉が、壁を突き抜けて芳香使い達を包み込む。
「くっ……！？」
　強烈な催眠を齎す花粉を浴び、杖を取り落とす芳香使い達。その身を覆う装束を脱ぎ捨てたい衝動に必死に抗う。
「ふふ、足元がお留守よ……素敵なプランターにしてあげるわね♪」
「あっ、あっ！？」
　そんな彼女達に、黒い植物の茎が絡みついた。その身から養分を吸い取り、愛らしい白い花を咲かせる毒花。
　芳香使い達の身体が、その毒花を飾る石のプランターへと変化していく。
「ふふ、素敵ね。その白い花がよく似合うわ♪」
「このっ……まだですわっ！」
　なんとか杖を落とさず耐えた一部の芳香使い達は、興奮の香りで己の理性を奪う事で催眠に抗う。赤く目を輝かせ、目の前の見えざる壁を打ち砕いて飛びかかって来ようとするが――。
「おっと、隙だらけだっ！」
「っ！？」
　見えない密室から飛び出した彼女達を待っていたのは、鮫風船を騎馬の如く操って飛びかかったスプラの、鋭いレイピアの一閃。刃が閃いて急所を貫くと、香りにとらわれる前に素早く離れる。
「香りを武器にできるのは貴女達だけじゃないわ……さぁ、甘い夢の中で眠りなさい」
「それとも可愛らしい姿に変えてあげようか？　いくつ出来るか見物だね！」
　花粉の甘い香りに包まれて石となり、あるいは鮫風船に襲われて斑点模様の鮫風船に変わっていく芳香使い達。
　その数を一人も減らす事なく、『生きた』芳香使いだけが姿を消していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「竜巻あるところにサメあり。サメあるところに竜巻あり。自然の摂理ですよね！」
　芳香も届かない遠距離でそう言い切った後、ふと考え込むシャーロット。
「……いや、でもメガリス絡みだと人工判定ですかねぇ。ビミョーなところです」
「自然でも、人工でも問題ないっぽい。何故なら……」
　同様に遠距離に陣取った鬼燈が、隣で高らかに宣言する。その指を組み合わせ、複雑な印を形作れば、周囲に現れるのは無数の――シャチ。
「海の真の王者はシャチだから！　シャチを崇めよ！」
「ふん……シャチなどと邪道な。サメ達に喰らい尽くされるがいいですわ！」
　声に気づいた芳香使い達は、杖を掲げて芳香を操り、サメ達に指令を送る。こちらに芳香は届かない距離とて、迫る鮫の速度は凄まじく――。
「さあ、一斉射撃なのです！」
「えええええ！？」
　そして鮫達は、シャチの背に装着されたガトリングレールガンの弾幕によって薙ぎ払われた。
「どこがシャチ！？」
「僕が訓練した忍鯱だからね！　仕方ないのです！」
　一切悪びれず、自信満々に胸を張る鬼燈。忍鯱達は強化外骨格とレールガンで武装し、鮫達を容赦なく削っていく。
「……というかサメには他のこと言えませんよね」
　鮫魔術師として多くの鮫を見てきたシャーロットは、首を傾げて突っ込みを入れる。まあ呟きなので芳香使いには聞こえなかったようだが、別に聞かせたい訳でもない。
「それにサメ以外にもいろいろと……その一端、味わって頂くとしましょう」
　言葉の代わりに放った『それ』が、するすると水中を泳いでいく。弾幕に撹乱される鮫達の合間に、細い身体を割り込ませ――バチンッ！！
「！？」
　突然の閃光。雷でも落ちたかと錯覚するほどの衝撃が響き、サメ達が痺れて海面に浮かぶ。
「と、このように。デンキウナギも侮れないのですよ？」
　鮫の合間を泳ぐそれも、少々並ならぬ姿。桁外れの長い胴体と、タキオン粒子による通信機能を持ち、高圧電流を放つ生きたスタンガンでもある。
「ならば、これならっ……！」
　鮫だけをけしかけても無駄と見た芳香使いは、サメの背に直接騎乗してこちらに迫ってくる。弾幕を掻い潜り、杖を掲げてこちらに芳香を放とうと――。
「近づけないっぽーい！」
「あぐっ！？」
　レールガンの弾幕に紛れて放たれた鬼燈の棒手裏剣が、芳香使いの脚に突き刺さる。呪詛を受けて脚力が失われ、落馬ならぬ落鮫する芳香使い。
　そして落ちれば海の中、そこに潜むのは当然――。
「ひとつ教えて差し上げましょう……大抵の生物には、電気がよく効くのです！」
「あががががががががっ！？」
　骨まで見えそうな強烈な電撃を受ける、芳香使い。大きく痙攣し、まっ黒焦げになって完全に動きを止める。
「あなたが猫であり、デンキウナギではなかった……それが敗因ですよ」
「もしくはシャチだったら、ワンチャンあったかもっぽい？」
　騎手を失った鮫達も、シャチにたかられその肉を噛みちぎられていく。主従揃って、鮫ならぬ海棲生物に屈していくコンキスタドール達。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「鮫を悪用する者など、この私が許さないであります！」
　鮫魔術士として、怒りを露わに芳香使いを見やる深波。相棒の鮫であるあかぎも、彼女の怒りに呼応して相手を威嚇する。
「行きますよ、あかぎ君！　月夜殿！　うる殿！　鮫を悪用する者どもに、天誅を！」
「流石鮫達の隊長を務めるだけあって、かなり張り切ってるようだな、深波先輩……！」
　その気合の入りっぷりに感心した様子の月夜。そして深海人であるうるもまた、久々の海の依頼とあってテンションが高い。
「うーちゃんもはりきっちゃうよ！」
「そうだな、私も、しっかりと手助けさせてもらおう」
　２人の気合に負けじと月夜も気合を入れれば、その言葉に微笑むうる。
「うん、よろしくね、つっきー！」
「ああ、よろしく頼む、うるさん……って、つっきー！？」
　突然愛称で呼ばれた事に驚き、入れた気合もどこかへ吹き飛ぶ月夜。だがうるは気にせず、美波の方にも視線を向ける。
「これでおたからがあれば言うことないんだけど、みなみんがおたからの代わりってことでいいよね」
「……どういう意味でありましょうや？」
　真面目な美波は、うるをジト目で睨みつける。そしてその視線は、月夜の方にも。
「月夜殿も、何故頷いているでありますか？」
「え？　あ、いや、それは……ほ、ほら、敵だよ！」
　振られて慌てる月夜は、誤魔化すように視線を反らした。納得いかない深波だが、敵が来ているのは事実と、気合を入れ直す。
「では、この話は後ほど改めて――鮫機動部隊抜錨！　我に続け―っ！」
　彼女の背後に召喚されるのは、メガロドン級の大型鮫。その巨体に見合った大きな顎が開かれると、中から小さな鮫が大量に飛び出してくる。
「艦載機鮫！　攻撃開始！」
「おー。うーちゃん海の子なんだけど、サメさんは奥が深い」
　ピラニア級の鮫群が、相手の鮫へと機銃を斉射していく。統率の取れたその動きに興味を抱いたうるは、ふと疑問を抱いて問いかける。
「猫さんは匂いだけど、みなみんはどうやってるの？」
「私の鮫機動部隊は忠義ゆえに従うのでありますよ」
　なるほど、と頷き一つ。納得したうるは、にっこりと……ちょっと悪戯めいた笑みを浮かべた。
「うーちゃんなら、みなみんに『お・ね・が・い♪』ってされたら言うこと聞いちゃうけどね！」
「そんな媚びた言葉は言いませんよ！？」
　思わぬ言葉に驚き、再びうるを睨みつける美波。今度も月夜を一緒に睨む。
「月夜殿は何も言わずとも手伝ってくれましょうな？」
「……ああ、もちろん」
　解答までにほんの僅かに『間』が有ったのは、集中のためか、別の理由か。造られた神器の鏡をかざし、敵群を映し出す月夜。
「その芳香を野放しにはしない」
　鏡に映し出されるのは、杖を掲げる芳香使い達。だがそれが光で一瞬白く染まると、映し出された芳香使い達は杖を下げている。
　そして、現実でも。下げられた杖から芳香が放たれる事はない。
「この鏡は移ろう時を映し出す。その力は相殺させてもらう……！」
「流石、月夜殿の手助けは心強いでりますな」
　活躍する月夜と、それに称賛を送る深波。それを見たうるは、焦りの表情を浮かべる。
「う、うーちゃんも、言わなくても手伝うよ！」
　深い濃赤の装飾が刻まれたラッパ銃を構えると、鮫達を散弾で攻撃していくうる。乱れ撃つ銃弾は、鮫達を近づけない。
「つっきーまではいかせないよ！」
「ありがとう、うるさん」
　先程見せた鏡の力で、敵は月夜へ重点的に狙いを定めたようだ。それをうるが弾幕で遠ざけていく。
「やはり、うる殿も頼もしい。お二人の援護があれば無敵でありますな！」
「そうでしょ！」
　褒められた事に胸を張りつつ、ほっとした様子を見せるうる。安全が確保された月夜はその両手に剣を――疑造神器たる霊力剣を握りしめる。
「２人との共闘は初めてだけど、問題はないようだ。ならばこのまま、決めに行かせてもらおうか……！」
「そうでありますな。鮫を悪用する者に裁きを！」
　巨大鮫が大きな口を再び開くと、そこに設置されたのは主砲の砲門。そして月夜が剣をかざせば、金の月の如くさらに眩く輝く。
「鮫機動部隊、砲門開け！　てぇーっ！！」
　放たれるは艦砲射撃。破壊が戦場へと降り注ぎ、鮫達を、芳香使い達を吹き飛ばす。
「――斬り捨てる……！」
　そして、その砲撃から逃れた敵を、月夜の手の中にある月が薙ぐ――それに遅れ、紫の影がもう１度敵を薙ぎ払い、断ち切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「海賊！　そしてサメ！　これはボクへの挑戦だね！」
　コンキスタドールと、彼らの操る鮫を前にして、メラメラと燃え上がるシャーリー。
　スペーススク水姿で堂々と、大きな胸を張ってポーズを決める。
「困った時のサメ頼みっ！　宇宙海賊シャークトルネード参上！」
　高らかに名乗りを決め……そして、ちらっ、ちらっ、と後ろに視線を向ける。
「え？　待て、俺も名乗る流れかこれ！？」
　その視線が自分に向けられたものと気づき、思わず表情を強張らせるウィーリィ。慌てて確認すれば、帰ってくるのは、じーっ、と言う催促の視線。
「え、えーっと……」
　それどころかコンキスタドール達すら、彼が名乗るものと判断して視線を集中させる。無邪気な少女の視線と、刺すような美女達の視線――さらには鮫達すらこちらを見ているような気がする。
「くっ……ほ、炎の料理人、鉄鍋のウィーリィ！　こ、これでいいか？」
「うんっ、それじゃあいこう、ウィーリィくんっ！」
　注目を集めすぎて妙に恥ずかしく、少し火照った顔のウィーリィ。それでもシャーリーがとても満足そうなので、まあ良いか、とも思う。
「名乗りは終わったかしら……では、死になさい！」
「そうはいかないよっ！」
　無論コンキスタドール達は、名乗りが終われば何の遠慮もない。杖をかざして芳香を操り、鮫を襲いかからせて来る。
　その前に立ちはだかり、ばっ、と両手を広げて向けるシャーリー。
「っ……これはっ！？」
　手を向けられた鮫達は、突進の動きを鈍らせる。なにか不思議な力――と言う訳でもない、目を凝らして海を見れば、張り巡らされた仕掛け網。
「一網打尽、だよっ！」
「くっ、そんなもの、食い破ってしまいなさいっ！」
　芳香使い達は杖を掲げ、鮫達を凶暴化させようとする――だが、その芳香をかき消すように、別の匂いが周囲を満たした。
「こ、これはっ！？」
「料理は五感で味わうもの。当然匂いでも、だっ！」
　ツンと鼻をつくような、香ばしい匂い。ウィーリィが周囲にばらまく芳しいスパイスが強い香りを発し、芳香を阻害する。
「言っただろう、炎の料理人だって。料理は魔法、お前達のメガリスにも負けない！」
　言い放ち燃え上がる、紅蓮の炎。龍の姿をしたそれが、網に絡まり右往左往する鮫達を焼き払う。
「シャーリー、そっちはどうだっ！」
「こっちも準備万端だよ！」
　そしてその間に、シャーリーもサメ型パワードスーツを身に纏い、空中から戦場を見渡した。銃と接続してエネルギーを送り込むと、雨の如く降り注ぐ熱線。
「全部、吹き飛ばすよっ！」
　ウィーリィの炎で熱くなっていた海水がさらなる熱を浴びる事で、一気に蒸発する。その蒸気が完全に吹き散らされる芳香。
　そしてその蒸気に紛れ、芳香使いへと肉薄するウィーリィ。
「さあ、いっくよー！　ウィーリィくんっ！」
「おうっ！」
　敵陣へと降り注ぐ熱線、その合間を縫って駆けるウィーリィの包丁捌き。息のあった連携が、芳香使い達を薙ぎ払う。
「きゃああああっ！？」
　悲鳴を上げ、次々と崩れ落ちていく、コンキスタドール達。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「鮫軍団とは穏やかじゃないぜ……くるるの言う通り止めなきゃな」
　芳香使い達を毅然と睨みつけるウタ。だがその強い視線の中に、一抹の哀れみを混じらせる。
「けど、呪いの秘宝に手を出してコンキスタドールになっちまったことは、哀れだな。何か事情があったのかもしんないけど……」
「あら、お気遣い感謝しますわ」
　だが、それに、芳香使いは杖を掲げて答えた。溢れる芳香を浴びた鮫達は、凶暴化してこちらへ襲いかかってくる。
「わたくし達を憐れむなら……どうぞ、このまま鮫の餌になってくださいましっ！」
「くっ……そう言う訳にはいかないぜっ！」
　哀れみも同情も、今の彼女たちにはもう届かない。それを悟ると覚悟を決め、その身体から血を噴き上げる。血は燃え上がり獄炎となって、飛びかかってくる鮫を焼き尽くす。
「身体能力が高い鮫に外部からの高知能な命令が加わる……危険な相手ね」
　鮫達の凶暴さを見て、警戒を強めるイヴェッタ。瞬きほどの間に、着衣を別のメイド服に着替え、芳香使い達へと間合を詰める。
「早急に殲滅させてもらうわ！」
「殲滅されるのはそちらの方ですわ！」
　杖を再び掲げ、今度は芳香をこちらに向けて放ってくる芳香使い達。イヴェッタを包み込む、甘くも危険な香り。
「すんすん……ん、香ばしい感じね。勿体ないわ、アロマなら悪くないのに」
「っ、何……！？」
　だがイヴェッタは動じる事なく、むしろ鼻を鳴らしてその香りを味わう。自らの技が効かない事に動揺する芳香使い。
「このメイド服は、呪いに詳しいUDC組織製の戦闘メイド服よ。ちゃちな呪いなんかが効く訳ないでしょ？」
「くっ……ならば、もっと強い匂いをっ……！！」
　さらに杖を握る手に力を籠める芳香使い、だが当然それを見守る義理はない。ウタも一気に間合いを詰める。
「こ、このっ！？」
「そんなもの、俺には届かないぜ！」
　当然こちらにも芳香を飛ばしてくるが、その芳香はウタには届かない。彼の纏う獄炎が上昇気流を生み出し、空気の壁で阻んでいく。
「もう元に戻せないんなら、せめて……さっさと骸の海へ還してやるっ！」
「きゃ、ああああっ！？」
　梵字の刻まれた、焔摩天の刃。炎を纏った巨大な剣が、目の前の芳香使いに振り下ろされる。
　咄嗟に杖で防御を図る芳香使いだが、その重く燃え盛る斬撃の前には、杖ごと身体を両断するだけだ。
「ちょうど良いわね、使わせてもらうわ」
　断ち切られて落ちた杖は、イヴェッタが拾い上げ、鮫達へと放り投げた。芳香使いに躾けられた鮫達は匂いに敏感で――すなわち呪いの芳香にも過敏に反応し、同士討ちを始める。
「こ、このっ……」
「あら、効果覿面。もっと投げ込んであげましょう」
　そのためには杖が必要だと、イヴェッタはスカートから素早く機関銃を取り出した。こちらに杖を向けようとする芳香使いの腹に、銃口を押し付け引き金を引く。
「がっ……！」
「武器は相手に奪われたらどれだけ危険か、そのリスクをどれだけ減らすかも重要よ」
　相手の取り落とした杖を拾い上げ、講義しながら鮫へと投げつける。
「……まあ、もう聞こえないでしょうけど」
　至近距離から銃弾を喰らった芳香使いは、崩れ落ち、骸の海へ帰っていく。それを見て肩をすくめるイヴェッタ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「宙を泳ぐ鮫は何度見ても慣れませんねー……」
　芳香で興奮状態に陥り、水面から跳び上がってくる鮫。その鼻っ面を美脚で蹴り抜いて撃ち落としながら、肩を竦めぼやくフラニィ。
「まあ、調教師の方を倒せば良いだけ、まだまだ大人しいですわ、ねっ！」
「きゃっ！？」
　白翼の羽ばたきで芳香を吹き散らしながら急降下し、すれ違いざま、芳香使いに斧槍を一閃。体勢を崩した所に、マイクロミサイルで追い打ち――そのミサイルが、閃光と轟音を発する。
「っ、くぅぅっ……なんですの！？」
「……あらあら、飼い慣らされてるはずの鮫がずいぶんと荒ぶってますねえ」
　目と耳を潰され、苦悶に身を捩る芳香使い。それ以上に苦しみのたうつのは鮫達だ。その姿を遮光バイザー越しに見下ろし、首をかしげるフラニィ。
「――皆さん、躾が足りなかったのでは？」
「こ、このっ……い、いい加減にっ！！？」
　怒りに燃える芳香使いだが、生憎と耳栓もしているのでよく聞こえない。斧槍を前に出すと、その身に円錐状の斥力バリアを纏う。
「まあ、その真っ赤なお顔を見れば……だいたい予想はつきますがっ！」
「っ……くぅぅぅぅぅっ！？」
　ようやく視覚や聴覚が回復して来た芳香使い達の元へ、再びの急降下。今度はバーニアの出力を上昇させ、高速で敵陣を駆け抜ける。
　斥力バリアによる強烈なチャージを受け、鮫もろともに派手に舞い飛んでいく芳香使い達――飛べない彼女達が墜落するより早く、飛び回っては串刺しにして、幾度となく蹴散らしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「なんて扇情的なジャコウネコちゃん達かしら……♪」
　芳香使い達を見つめ、うっとりとした表情を浮かべるルル。
「貴女達のコピ・ルアクが飲みたいわ……いや流石に冗談よ、ドン引きしないで」
「ち、近づかないで頂戴っ！」
　明らかに嫌悪の表情で杖を掲げ、鮫をけしかける芳香使い。だがルルは、鮫にはあまり興味はない。
「でも、あなたの匂いは嗅ぎたいわっ！」
「っ！？」
　服を脱ぎ捨て、代わりに月下香の花弁を纏うと、鮫を完全に無視しての急接近。音速で間合いを詰めると、全身を相手の身体に擦り付ける。
「うふふ、もふもふと素敵な感触だわ……♪」
「んっ……は、離れなさいっ、このっ……！」
　毛皮の感触と、その奥の肉感を味わい昂るルル。芳香使いは激しく暴れ、抵抗して杖を振る。
「ん～～～っ♪　いい匂いっ……♪」
　だがむしろルルは大きく息を吸い込み、その匂いを味わう。呪いの香りを自ら取り込むほど、より一層に興奮するほどに、その愛欲を、力を高めていく。
「こ、このっ……やめっ……い、いい加減にっ、くぅぅっ！？」
　顔を真っ赤に染め必死に逃れようと拒み、今度は杖を鮫達へと向ける芳香使い。主が邪魔で助けに入れなかった鮫達は、興奮状態となると見境なく迫ってくる。
「あら、もう、無粋な邪魔はお断り、よ♪」
　それを阻むように、展開される、ルルの吹雪。その冷気で鮫を遠ざけながら、ルルはその身体をどこまでも堪能せんと擦り付ける。
「うふふ、これも貴女と同じ獣人オブリビオンの力よ。彼女と同じように、あなたも骨の髄まで愛してあげる♪」
「何っ……やっ……知らない、そんな、んん～～っ！？」
　吹雪渦巻くその中心で、芳香使いの高い悲鳴が響き渡る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「海の世界は初めてだなあ」
　その背に広がるイヌワシの翼で空に舞い上がると、グリードオーシャンの風を全身に味わう鷲穂。山岳地帯で生まれ育った獣人である彼にとっては馴染みのない潮風だが、なかなか心地よい。
「相手のキマイラも美人だ。美人がたくさんいるのは良いな」
「鷲兄、鷲兄」
　芳香使いの姿にも満足気に微笑む彼の裾を引き、必死に注意を促すのはエリオ。オラトリオの翼をピンと立てて、緊張に身体を強張らせている。
「ん？　どうした、エリオ？」
「ええ、たしかに潮風が良いですね。相手に綺麗なお姉さんなのも分かります」
　そこに異論はない。ないのだが、それを楽しんでいる余裕はない。何しろ――。
「周り見て。鮫なんですよね！」
「おお。元気だなぁ」
　芳香使いの放つ匂いで興奮し、凄まじい速度で海を駆け巡る鮫達。海面から勢いよく飛び上がり大きな顎を広げてくる。鷲穂の、エイベックス――大型哺乳類の下半身も、その顎に噛みつかれたらひとたまりもないだろう。
「元気だなぁ、じゃないですっ！？」
　だと言うのに、この期に及んでなお呑気過ぎる兄貴分の態度に、悲鳴すら上げながら鬱金の鎌をその鮫へ突きつけるエリオ。鎌は勢いよく弾けて、鈴蘭の花へと変わる。
「近づかないでくださいっ！」
　吹き荒れる花弁の嵐が、鮫を呑み込んで海面へと叩き落とした。おお、と感心した声を上げてそれを見やる鷲穂は、その剛翼を一気に肥大化させた。
「やるな、エリオ。俺も鮫は怖いし、近づかないでおこう」
　どこまで本気なのか陽気さを崩さず、だが力強くその剛翼を羽ばたかせる。放たれる羽根は、一枚一枚が強大な剣の如く。
「っ……くぅぅっ！？」
「美人さんをズタズタにするのは悪い気もするが、これ以上鮫をけしかけられても困るしな」
　全身を切り裂かれ、崩れ落ちていく芳香使い達。だが彼女たちも杖を掲げて反抗してくる。
「む、匂いが……」
「ああ、もうっ、鮫に猫に忙しいな！」
　杖から立ち上り、上空まで香ってくるその匂いに、反射的に息を止めて口と鼻を覆う鷲穂。その間にエリオが銃を構える。
「それに……僕、この匂い嫌いです」
　確かに甘い芳香ではあるが、そこに秘められた悪意を感じ取ってか眉を寄せる。妖精から授かりし銃の引き金を引けば、迸るは渦巻く突風。
「おとなしくしていてください、猫お姉さんっ！」
「しないなら、無理にでもおとなしくなってもらうしかないな」
　風が匂いを吹き散らして遠ざける間に、鷲穂は槍を手にして思い切り振りかぶった。腕に力をこめ、狙いを定め……それを阻止せんと、鮫が襲いかかってくる。
「――それっ！」
「っ……！？」
　一切動じる事なく、剛力で投げ放たれる槍。それは、飛びかかってきた鮫の口内を貫通し、そのまま芳香使いの心臓を深々と貫いた。
「こっちもです！」
　仲間が倒れた事に動揺する他の芳香使いは、体勢を建て直される前に一気に仕留めにかかる。エリオの銃から打ち込まれる呪殺の弾丸に、次々と崩れ落ちていく芳香使い達。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第2章 ボス戦 『暗黒鮫魔術師『ルル・クラドセラキー』』

POW   :    ロドリゲスちゃん……おいで…… 自身の身長の2倍の【飛翔能力を持つ巨大なゾンビ鮫】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。 SPD   :    あいつを……やっつけて…… 【魔杖の髑髏から放つ、マヒ効果の暗黒ビーム】が命中した対象に対し、高威力高命中の【巨大ゾンビ鮫『ロドリゲスちゃん』】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。 WIZ   :    深淵より来たれ……混沌の使徒…… 召喚したレベル×1体の【ゾンビ鮫】に【禍々しき触手】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。 イラスト：TFJ， 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　芳香使い達と、その操る鮫を退けて洞窟内へと侵入した猟兵達。
　海が奥まで流れ込む長い通路を抜けると、突然開けた所に出た。高い天井の隙間から陽光が差し込む、明るく広い空間。その中央では、メガリスの小瓶から竜巻が生じている。
　その竜巻の中から、今まさに産み落とされる鮫。異様とも言える光景――それを間近で見つめる、幼い少女。
「……だれ？」
　猟兵達に気づくと、少女はメガリスの蓋を閉じて懐にしまい込む。そしてこちらに向き直る姿は愛らしく……だがその身に纏う陰鬱な邪気は隠しようがない。
「あなたたち……ルルのじゃまをするの？」
　髑髏の飾られた杖を掲げれば、より鮮明になる邪気。目に見えるほどの昏きオーラと、下がっていく体感温度。そしてその邪気によって、周囲の空間に次々と開かれる門。
「じゃまはさせない……深淵より来たれ……混沌の使徒……」
　門から姿を現すのは、無数の鮫。ただしそれは全身から血を流し、肉を腐敗させ――それでもなお動き続けるゾンビ鮫の軍団だ。
「ロドリゲスちゃん……おいで……」
　最後にひときわ大きな門から飛び出した大型のゾンビ鮫を従えると、少女――暗黒鮫魔術師ルルは、猟兵達に向けて宣言する。
「あなたたち……ぜんいん、鮫の餌にしてあげる……」




「スク水！　そしてサメ！　これはボクへの挑戦だね！」
　ルルの姿に対抗心を燃やし、そのスペーススク水を強調しながら指を突きつけるシャーリー。テンション高く、堂々とポーズを決める。
「困った時のサメ頼みっ！宇宙海賊シャークトルネー……」
「いや名乗りはもういいからな！？」
　そこに素早くツッコミを入れるウィーリィ。また付き合わされては堪らないと言う意味合いが、多分に含まれているのは間違いない。
「え、そう？　うん、じゃあ名乗りは省略っ、早速行くよっ！」
　サメ型宇宙バイクに飛び乗ったシャーリーは、そのアクセルを踏んで一気に加速する。それを撃ち落とすべく、魔杖を掲げるルル。
「ちょこまか……うっとうしい……」
「遅い遅いっ！　そんなんじゃハイメガシャークのスピードにはついてこれないよ！」
　鋭くハンドルを切って放たれる暗黒ビームを回避しながら、片手を離し熱線銃を握る。走りながらでも、巧みな狙い撃ち。
「く……ルルを、まもって……」
　ルルはロドリゲスの巨体を盾にしながら、その影から暗黒ビームを乱れ撃つ。そんな激しい射撃戦の裏で、ゾンビ鮫達も猟兵達へと襲いかかる。
「鮫料理か……いや、流石にゾンビは煮ても焼いても食えそうにないな」
　それを、炎を操って迎え撃つウィーリィ。ゾンビ鮫の身体を、厨師の火が炙り焼く。
「それでもこれ以上近づいてくるなら、まとめて料理してやるぞっ！」
　こちらに迫る禍々しい触手を一気に焼き尽くしながら、さらに火力を高めていくウィーリィ。ゾンビと言えど炎を畏れるのは生物の本能か、警戒を強めて後退する鮫達。
「あっ……じゃまっ……」
　そして、その後退こそがウィーリィの狙い。鮫達はシャーリーとルルの間に割って入る形となり、視界と射線が遮られる。
「もう……退いて……」
「チャンスっ、そこだよっ！」
　怒ったように鮫達に指示を送り、前を開けさせる……ルルだがそれは当然、シャーリーからの射線も再び通ると言う事。バイクの脚を止め、鮫達が退くと同時に銃を連射する。
「きゃっ！？」
　動きながらよりも遥かに正確な狙いで、降り注いでいく熱線。その熱に、ルルは小さな悲鳴を漏らし、苦痛に身を捩る。
「ロドリゲスちゃん……！」
「おっと、させるかっ！」
　再び大型ゾンビ鮫を盾にしようとするルルだが、晒された隙を逃すつもりはない。鮫を追い払った炎を、今度はルルめがけて放つウィーリィ。
「あ、ああっ……」
　炎に包まれ、さらなる苦痛に呻くルル。激しく暴れながら暗黒ビームを乱射するが、その合間をかいくぐってウィーリィ自身も接近する。
「こいつも……喰らえっ！」
「きゃああああっ！？」
　そして燃え盛るルルの身体に、研ぎ澄まされた包丁での鋭い二連撃。炎にも切れ味を鈍らせる事なく、深い傷を２本、刻みつけた。
「い、いいかげんに……してっ……」
　のたうってなんとか炎を消し、ゾンビ鮫達を盾に下がるルル。息のあがった様子で、こちらを憎々しげに睨みつけて来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「腐った海産物の臭いとか……ちょっと勘弁願いたいモノですけれども」
「みんなは、くさくない……ちゃんと、処置してる……」
　フラニィのぼやきを聞き咎め、怒って睨みつけてくるルル。
「そうは言っても……慣れているだけではありませんの？」
　防腐処置は行われていても、臭いが完全に消える訳ではない。嫌そうに眉を寄せると、浄化の炎をゾンビ鮫達へと浴びせていく。
「消毒して差し上げますわ！」
「よけいな、おせわ……」
　鮫達への罵倒に怒ったのか、ルルは魔杖を掲げて暗黒ビームを次々と放っていく。巧みに白翼を羽ばたかせ、急旋回を繰り返してそれを回避するフラニィ。
「なるほど、このビームに当たらなければ良いんだね？　なら、こうだっ！」
　それを見たスプラは、ありったけの鮫風船を周囲にばらまいていく。飛び回る鮫風船の一つへ飛び乗り、思い切り蹴っての跳躍。
「さあ、この動きに突いて来れるかなっ！」
「む……うっとうしい……！」
　鮫風船の間を巧みに飛び回りながら、間合いを詰めるスプラ。ルルの方も暗黒ビームで鮫風船を破壊しながら、スプラに狙いを定める。
「こっちだよっ！　この動き、簡単に捉えられないだろう！」
「むぅぅぅ……」
　だがスプラの方も、急激な方向転換と加速を繰り返してそれを回避し続ける。徐々に足場が減っていっても、不規則な動きを崩さない。
　なかなか捉えられない事に向きになるルル――と、その背後から迫るフラニィ。
「っ……ロドリゲスちゃん……！」
「っ、あまりクロスレンジで斬り結びたくはないのですけど……っ！」
　発見されて迎撃を差し向けられても、飛翔による接近を止める事はない。ただ、迫りくるゾンビ鮫の臭いを過敏に感じ取り、嫌悪に表情を歪める。
「ええいっ……お下がりなさいっ！」
「っ、ああっ！？」
　神聖なる炎を纏いし斬撃が、ゾンビ鮫の身体を十字に裂いた。生命力を共有するルルの方も、痛みを感じて動きを止める。
「今だっ！」
　その隙を逃さず、スプラは鮫風船を強く踏みしめ、バネのようにその身を弛める。弾力を解放すれば、その身は砲弾と化して、マントをなびかせながらの急接近。
「そこ……もらったよっ！」
「っ、あっ……！？」
　スプラの手にしたレイピアが、光を輝く。繰り出した一閃が胸元に突き刺さり、ルルは身体をのけぞらせ――。
「さあ、それではたーっぷり……召し上がれ！」
「ぐ、ぶぅっ……！？」
　その無防備なお腹に、フラニィのハンマーが叩き込まれる。胸元からは血を流し、口からは唾液を吐き出しながら、地面を転がっていくルル。
「この臭い、外気に晒す程度じゃ抜けそうにもないですねえ……」
「……僕からは、ノーコメントにしておくよ」
　それを見送りながら、自らの身体を――ロドリゲスの返り血を浴びた身体を見下ろしぼやくフラニィ。
　スプラは肩を竦めて視線を反らしつつ……ゾンビ鮫と直接切り結ばなくて良かったと、口には出さずに心で呟くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「出遅れたー！　遅れを取り戻すべく頑張るよ！」
　他の猟兵達に遅れて、広間に辿り着いた陽菜。急いで宝珠の力を起動させれば、力の対価として内臓に痛みを感じる。
「うぐぐ……な、なんか、き、つ……ぐぷっ……」
　先の戦争で力を使いすぎたせいか、以前より痛みが激しい。体内の傷口をこじ開けられているような感覚に呻きを漏らしながら、左手で剣を構える。
「はぁ、はぁ……い、くよっ……！」
「っ……！？」
　ルルを強く睨めば、繋がれる痛覚のリンク。未知の感覚に涙を浮かべてお腹を抑えるルル。
「いた、い……っ！？」
「ハラワタを掻き回される痛みを味わうのは……うぐっ、初めてかなっ！？」
　ぐちゃぐちゃと、湿った鈍い音が響き渡る度、ルルの幼い身体が跳ねる。もちろん、陽菜が行っているのは痛覚の『共有』、こちらも痛みが激しい。
「でもっ……隙だらけだよっ！」
　その痛みに耐えて、一気に間合いを詰める。振りかぶった剣の刀身は、禍々しい漆黒。
「っ！？」
　だが、ルルに斬りかかる寸前、ゾンビ鮫達が一気に迫る。咄嗟に視線を向けるもゾンビに痛覚はないのか、動きが鈍らない。
「なら……こう、だっ……！！」
「っ……ああっ！？」
　だが、せっかく掴んだ好機は逃せない。鮫達に怯む事なく、一気に踏み込んで間合を詰めての、斬撃。
　肩を僅かに食いちぎられながらも繰り出したそれは、ルルの身体に幻ではない深い刀傷を刻みつけた。
「う、うっ……これ以上は、やばいかも……」
　痛みにのたうつルルだが、陽菜の方もこれ以上は限界だ。口の中に広がる血の味に呻くと、これ以上鮫に食われる前に離脱する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「貴女もルルって名前なのね！」
　自身と同じ愛称を持つ少女を熱い視線で見つめるドゥルール。その愛が身を昂らせ、一気に間合を詰める。
「しかも死霊術士でツインテ仲間。運命を感じるわ♪」
「うんめい……？」
　不思議そうに首を傾げたルルは、無造作に魔杖を掲げた。先端から迸る暗黒ビーム。
「あなたのうんめいは……ロドリゲスちゃんのえさ……」
「っ！？」
　黒い光に縛られたドゥルールへと、巨大なゾンビ鮫が巨大な顎を開く。がぶり、とその口を閉じれば、半ばから身体が食いちぎられ――。
「大丈夫。貴女の友達を傷つけたりはしないわ」
「っ！？」
　響いた声は頭上から。降り注ぐ光の槍がルルと巨大鮫の影を貫くと、その動きを縛る。
「私も死霊達を傷つけられたら悲しいもの。だから、優しく、ね？」
「なん、でっ……あっ……！！」
　逃れようともがく幼い身体を抱きしめ、豊かな胸を押し付ける。全身に手を這わせながら、熱い視線で顔を覗き込んでいく。
「さっきのは残像よ……これが死霊術の極み。素晴らしいでしょう？」
「んっ……んんっ！」
　その身に宿る全ての死霊がドゥルールに力を貸し、残像を生み出すほどのスピードを与える。無論、か弱いルルの抵抗など押さえつけるほどのパワーも。
「ルル、貴女だけは逃がさない。私達の楽園で永遠に幸福に暮らすの――」
「んっ……んっ……ん～～っ……！」
　唇を重ねれば、目を見開き、白い顔を真っ赤に染めるルル。口の端から吐息を零し、脚をばたつかせる。
　そんな彼女の生命力をキスで吸い上げ……ドゥルールに宿る無数のオブリビオンの死霊達の列へと、その魂を加えさせていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「鮫魔術に死霊魔術、それに……その触手サメ。ＵＤＣ方面のシャーマニズムにも通ずるモノを感じます」
　無数のゾンビ鮫を従えた鮫魔術士の同志に、目を輝かせるシャーロット。
「さすがは暗黒鮫魔術師と名高いルルさ――ひゃうっ！？」
「なに？」
　だが、無論あちらはそんな事は知った事ではない。ゾンビ鮫にたかられそうになり、慌てて身体を水に変えて回避する。
「え、攻撃とかしてくるんですか！？　いまはサメトークをするターンだったと思うんですけど！」
「サメトーク？」
　上半身だけ元に戻して抗議すると、不思議そうに首を傾げるルル。しばし考え込むと、鮫達とシャーロットを順に指差す。
「これ、サメ……あなた、えさ……」
「身も蓋もないっ！？」
　嘆くシャーロットに代わり、次に声をかけるのはイヴェッタ。ゾンビ鮫とルル――特にそのツインテールやスク水（ご丁寧にひらがな名札つき）――に、交互に視線を向ける。
「欧米のＢ級スプラッター映画に、日本特有萌え属性……何というか古今東西オタクの塊ね」
「もえ？」
　理解できないのか首を傾げるルル。良くわからないなりにイヴェッタへと――その大胆に谷間を露出したセパレートのメイド服に視線を向けて来る。
「……いや確かに私も人の事は言えないけど」
「……よくわからないけど、えさにする」
　なんとなくイラッと来たのか、鮫達をけしかけてくるルル。それを迎え撃つのは、ソーシャルレーザーの光。
「餌になる訳にはいかないわね！」
　狙いはゾンビ鮫達から生えた禍々しい触手。触手を焼かれた鮫達は、飛べずに次々と落下していくゾンビ鮫達。
「それがあなた達の力の源なのでしょう？　だったらっ……」
　数で迫るゾンビ鮫達だが、イヴェッタは体内サーバーを加速する事でそれに対処する。処理速度の向上により、狙いをつける時間は最小限、それでいて狙いは精密に。
「これで、まな板の上の鯉……鯉？　よっ！」
「むぅ……ロドリゲスちゃん……」
　次々と落下していくゾンビ鮫達。小物では無理と見たルルは、大型ゾンビ鮫をけしかけてくる。こちらは触手が生えている訳ではない、といって本体を狙うにはあまりに大きすぎ――。
「サメバトルですね！　鮫魔術と他の体系のコラボをあつかえるのは、わたしも同じですよ！」
　そこで、落ち込んでいたシャーロットが立ち直る。魔術を展開すれば、書き換えられていく目の前の空間。
「電脳魔術、足すことの、鮫魔術――電・脳・鮫・魔・術！」　
　生じた溶岩の竜巻が、ロドリゲスの行く手を阻んだ。熱と風で巨大ゾンビ鮫を飲み込んでいき……。
「溶岩とは地のエネルギー。竜巻とは天のエネルギー。そして――」
　そして、その竜巻から飛び出すのは、鮫。クセナカンサス――古代の鮫が、溶岩の中を泳ぎ回る。
「そしてサメは海のエネルギー。これぞ、三・位・一・体ッ！」
「いみがわからない……くっ！？」
　泳ぎながら、頭部の棘がロドリゲスを突き刺す。そこに流れる毒は、生命力を共有するルルをも蝕み、火傷の痛みと共に動きを止めて。
「ゾンビに鮫だって、十分、良くわからないわよっ……！！」
「っ……か、はっ……！？」
　その瞬間、ソーシャルレーザーから迸る光。白桃丸の船員達から力を借りたイヴェッタの最大の一撃が、ルルを呑み込む。
　まともにそれを浴び、勢いよく吹き飛ばされて壁に叩きつけられるルル。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「可愛い女の子！　水着似合ってますねぇ」
「なんだ、彼女みたいなのが好みかぁ」
　ルルの姿にテンションを上げるエリオの姿に、納得したように頷く鷲穂。
「鷲兄だってさっき猫お姉さんに色目使ってたじゃないですか」
「まあ、そりゃそうだけど」
　自分ばかりが非難される謂れはないと言い返す――と、そこに迫ってくる巨大なゾンビ鮫。
「怖っ！」
「ロドリゲスちゃんは……かわいい……」
　思わず飛び退いたエリオに対して不満そうな声を上げるルル。巨大鮫は一気に加速し、喰らいついてきて――。
「可愛い……ってのは、同意し難い所があるが」
　その脳天に、重い衝撃。いつのまにか回り込んでいた鷲穂が、無骨な金剛杵を思い切り叩きつける。
「まあ、友達だって言うなら、優しく送ってやろう」
「いらない……！」
　生命力を共有しているルルは、頭を抑えて痛がりながら睨んでくる。暴れて背の鷲穂を振り落とさんとするロドリゲス。
「そっちは頼みますよ、鷲兄。ちゃんと抑えててくださいね！」
「よーし、任せとけ」
　念押ししながら、エリオが召喚するのは一台の馬車。そこから降り立つのは、逝く事すらできない咎人の霊達。
「ゾンビには同じようなものぶつければ良いんですよ」
　鉄球と鎖に繋がれた囚人達は、鮫達を取り囲み、飛びかかっていく。熾烈な激突――には興味を示さず、白翼を広げルルへと間合いを詰めるエリオ。
「彼らは咎人ですから、罪の分だけ働くのが仕事です……さてっ」
「っ！？」
　その鎌を振るえば、放たれる衝撃波がルルの身体を薙ぎ払う。苦痛に動きを止めた彼女の身体に降りていく霜。
「あっ、くっ……これ、はっ……」
「大丈夫、貴女にも慈悲はありますよ」
　必死に逃れようともがく身体が、凍りついていく。慌てて巨大鮫に目を向ければ……その身体に真っ向から指を食い込ませる鷲穂。
「――これは慈悲だ」
　激しく暴れる巨大鮫を見つめ、哀れみの視線を向ける。掲げた左手に握られた無骨な鉄塊。
「海が故郷だろう。過去の海に還るといい」
「安心してください。下で、咎人たちが受け止めてくれますから――」
　それを一息に振り下ろし、深く突き刺すと同時に、エリオもまた大鎌を振るい、凍りついたルルの身体を打ち砕く。
「……じひなんて……いらないっ……！」
「おっと……っ！？」
　だが、ルルはあくまで慈悲を拒み、激しく暴れて逃れた。無理やり逃れた事で全身にひび割れのような傷が刻まれ、血を噴き出し、こちらを憎々しげに睨みつけてくる。
「……鮫って怖いよなぁ。海中じゃ手も足も出ないしな」
　同様に巨大鮫も血を噴き上げながら激しく暴れ出す。無理をせず飛び退きながら、巨体をのたうたせるその姿に目をやる鷲穂。
「俺、陸の生物で良かった」
「いや、あんな非常識な鮫は海中にもそうはいないと思いますが」
　そもそも鮫は飛ばないだろう、とエリオが突っ込みを入れる。そして、苦痛に悶えながらもなお戦おうとするルル達に目をやり、ため息と共に首を振った。
「慈悲を拒んだところで……もうどこにもいけないでしょうに」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「シャチを崇めよ！」
　両手で印を組みながら、高らかに宣言する鬼燈。その傍らに、多くのシャチが召喚される。
　さっきみたような光景である。
「……あ、これ前回の焼き直しではないですよ？　ここからが新展開なのです」
　最後に姿を現したのは、巨大なシャチ。配下を従えた偉大なるシャチの女王の上に飛び乗り、堂々と胸を張る。
「時代はサメよりシャチ。海の真の王者はシャチだから！」
「……シャチよりもサメ……サメの方がかわいい……」
　苛立ちを隠さず、鮫達をけしかけてくるルル。無数の鮫と、女王配下のシャチ軍団が激突していく。
「みんな……サメのえさ……！」
「うーん、可愛い子なのだけど、ちょっと趣味が変わってるわよねぇ」
　そんな様子を見て首をかしげるフレミア――彼女が跨るのは蒼い鷲獅子。かつて従えた眷属の上から、ゾンビ鮫達を見下ろす。
「飛行能力を得た所で……空の生き物であるこの子に、ついて来れるかしら！」
「っ……」
　その羽ばたきと共に放たれる冷気が、ゾンビ鮫達を包み込む。抜けて来ても、フレミア自らが凍結の魔弾を下し、冷たく真っ白に凍りつかせていく。
「この極寒で、ただでさえ体温の無いゾンビ鮫が運動能力を保てるかしら？」
「く……まだ……」
　鮫達を迎え撃たれても、ルルは魔杖を掲げて暗黒ビームを放つ。強く羽ばたき、素早い飛行と旋回で回避する鷲獅子。
「おとなしく……えさになれ……！」
「元々の“ルル”は、もう何処にもいないんだよな――此処にいるのはただのコンキスタドール、か」
　猟兵達に憎しみを向けるその姿に、哀れみを抱くウタ。彼女の生前の事など、もはや知る事はできない、ならば。
「今、骸の海へ送り届けてやる。それが俺達に出来る、せめてものことだから！」
「なにを……よけいなことを……！」
　咄嗟に爆炎を足元に放ち、反動で跳躍して暗黒ビームを回避する。空中で襲いかかってくる鮫達には、炎壁による防御。
「この炎で、送ってやるぜ……！」
　迂闊に壁へ突っ込んできた鮫に対しては、その全身を獄炎で包み込む。触手も牙も、その全てを、炎の中に埋葬していく。
「ルルの……さめたちを……！」
　ゾンビ鮫達が次々と落とされ、怒りに燃えるルル。鬼燈のシャチも、超音波を放ってズタズタに斬り裂いていく。
「集団戦ならイケルイケル！」
「このまま全員凍りつかせてあげるわ」
　血を噴き上げるゾンビ鮫達だが、鷲獅子の放つ冷気でその血すらも凍結する。鷲獅子の背の上で、ルルに視線を注ぎ微笑むフレミア。
「この極寒でただでさえ、貴女もその格好では寒いでしょうに。抱きしめて温めてあげても良いわよ♪」
「いらないっ……！　ルルのともだちは、さめだけっ……ロドリゲスッ！」
　その甘い視線を拒絶し、ルルは魔杖を高く掲げる。主をその背に乗せ、猟兵達へと荒々しく襲いかかる巨大鮫。
「さて……殺るかっ！」
「きゃっ！」
　その前に立ちはだかるのは、女王シャチに騎乗した鬼燈。魔剣を構えると、暗黒ビームを逆手の逆手の棒手裏剣で牽制する。
「手は出させないっぽいっ」
「よし……今だっ……！」
　ルルが動きを止めたのを見て、ウタも足元で再び爆炎を起こす。矢の如く飛び出しながら、その手に構えるは、獄炎纏う巨大剣。
「これで――断つっ！」
「薙ぎ払えっ……！！」
　鬼燈とウタ、２人が巨大鮫を挟むように、その横を駆け抜ける。すれ違いざま、突き立てられる魔剣と焔剣。
「これも、とっておくといいですよっ！」
「あ、あああああっ！？」
　二振りの剣が、鮫の身体を裂いていく。さらにすれ違いざま、鰓孔に突き刺さるダメ押しの棒手裏剣。
　ロドリゲスが崩れ落ちていくのに合わせ、生命力を根こそぎ奪い取られて悲鳴を上げるルル。
「焔摩様のお迎えだ、骸の海まで案内してやる――」
「っ……」
　ウタの振り抜いた刃は、そのまま、巨大鮫を焼き焦がしながら突き抜けて。
　その小さな身体を、真一文字に断ち切った。

「骸の海で、安らかにな……」
　剣をギターに持ち替え、崩れ落ちるルルを想って鎮魂曲を爪弾くウタ。フレミアも憐れむように彼女の亡骸を見下ろす。
「勿体なかったわね、可愛かったのに……っと」
　その身体が消滅し、骸の海に還っていく――と同時に、その懐にしまわれていたメガリスも砕け散った。風が、ゆっくりと立ち上り始める。
「そんな事言っている場合じゃなかったわ」
「そうだな、急ぐぜっ！」
　慌てて背を向け、その場を立ち去る猟兵達。その背後で、風はどんどん強く、大きく膨れ上がっていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第3章 冒険 『爆発・冒険・大脱出』

POW   :    壁を破壊するなど、力任せに脱出する SPD   :    隠された扉や通気口などを利用して、素早く脱出する WIZ   :    被害を遅らせるような仕掛けを用意して、脱出までの時間を稼ぐ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　ルルの死によって破壊されたメガリス――『母なる海の小瓶』から、竜巻が立ち昇った。凄まじい速度で巨大化したそれは、天を衝くほどにそびえ立つ。
　『高さ』は無論、『広さ』もだ。先程までいた広間全てを飲み込むほどに成長し、さらにぐんぐんと広がっていく。
　逃げ出した猟兵達の背を追ってくる竜巻。コンキスタドールの用意したのであろう施設も巻き込まれ、あちらこちらで爆発の音が響く。

　そして――鮫だ。
　竜巻から鮫が生み出され、風に吹き飛ばされて空から降り注ぐ。世にも珍しい鮫の雨が、島全体に降り注ぐ。
　その鮫はあくまで普通の鮫であり、自分で飛ぶ事はできないが――降って来ると言うだけで十分恐ろしい。巨体に激突されればひとたまりもないし、落下の勢いで噛みつかれたらただではすまない。
　それに島のあちこちが水没しており、着水後に泳いで追いかけて来るモノ達もいる。

　竜巻と鮫の追撃を掻い潜り、先に待機している鉄甲船にたどり着かなければ、竜巻に飲まれるか、海の藻屑となるか、鮫の餌となるか。どの道好ましい結果にはならないだろう。
　なんとしても、逃げ切らなければならない――！




「はぁ、はぁ、倒せたけども……この状況やばいよね！」
　息を切らしながら必死に走り、竜巻から逃げる陽菜。背中に荒れ狂う風を感じるが、振り向いている暇もない。
「サメも、やばっ……！」
　今の所周囲に降り注ぐだけだが、いつ自分に飛びかかってくるとも分からない。このままでは、風に飲まれるかサメに食われるか。何かしらの手段が必要だ。
「でも……」
　走りながら、そっとお腹を抑える。これまでの戦いでさんざん宝珠の力を引き出した事で内臓はすでに滅茶苦茶、下手に力を引き出せば、激痛が――。
「……でもっ！　どのみちここでお陀仏なんて選択肢はないよっ！」
　覚悟を決め、その瞳を赤く輝かせる。口いっぱいに広がる血の味。
「ぐ、うぅぅっっ……！」
　全身に汗を滲ませながら、加速して一気に竜巻を引き剥がす。だがしばらくいくと、目の前に立ちはだかる壁。手にした剣では、打ち砕くには心許ない。
「ああ、もうっ……鈍器なら良かったのに！」
　宝珠を起動し、壁に剣を叩きつける。その破壊力の代償は――無論、自身の内臓。
「く、ぁっ……！！」
　自分の腹の中がどうなっているのか、分かってしまうほどの痛み。必死に突き進むが、限度を越えた反動の痛みで目の前がぼんやりと霞んでいく。
「…………」
　薄れていく意識。その中で痛みだけが鮮明だ。降り注ぐサメを本能だけで斬り裂いて、それでまた痛みが増していく。
「どざえもんは……い……やぁ……」
　走っているつもりでも、脚が次第に動かなくなる。竜巻に巻き込まれて、崩れていく地面。その身体が海に沈み、呑み込まれ――。
「ちょっと、大丈夫っ！？」
　完全に藻屑となるその寸前、鉤爪が彼女の身体を鷲掴みにした。そのまま空中へと連れ去り、間一髪でサメの牙から救い出す。
「生きて……は、いるわね、良かった」
　陽菜を空に攫ったのは、フレミアの鷲獅子だ。その背の上から見下ろし、眉を寄せる。
「でも、大分酷いわね……シュテル、しばらく制御をお願い」
『承知しました、お嬢様。お力をお借りします』
　念動力で陽菜の身体を浮かせ、鷲獅子の背に乗せる。彼女が陽菜に意識を向ける間、降り注ぐサメを迎撃するのは知恵ある魔杖の役目だ。
『お嬢様には指一本触れさせは――いえ、指はありませんか』
　フレミアの撃ち出す魔力弾を正確に制御し、迫りくるサメ達を魔力弾で打ち砕くシュテル。飛び散る返り血も見えない防御壁に阻まれ、こちらに来る事はない。
「落ち着いた所で、早い内に手当してあげたいわね……鷲獅子、全速力！」
　陽菜の様子を確かめたフレミアは、彼女の身体を優しく抱きしめながら呼びかける。嘶きで答えた鷲獅子は、翼をはためかせて一気に加速した。
「全く……予測はされてた事態だけど、厄介なコトね……！」
　荒れ狂う竜巻の吸い込む力を、全力の羽ばたきで引き離していく鷲獅子。だが風は引き離せても、猛スピードで降り注ぐ鮫が尽きる事はない。
「何なのよこの鮫。身の安全とか全く考えてないのかしら……！？」
『それを考える知恵も無いのでしょう。お嬢様、どうかお気をつけを』
　シュテルに注ぐ魔力をさらに強めながら、鮫達を睨みつけるフレミア。杖は主の魔力を打ち出し、こちらに降り注ぐ鮫を的確に打ち砕き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「シャチを崇めよ！　って、そんな場合じゃないっぽい！」
　三度ポーズを決めて堂々と宣言する――のを中断し、その身をナノメタルで覆っていく鬼燈。
「流れ的にはシャチでいくべきなんだろうけど、それにこだわって脱出失敗とか笑えないからね！」
　全身が重装甲に覆われると、背面ブースターが唸りを上げた。一気に加速し、竜巻を引き離して真っ直ぐに突き進む。
「あと、シャチの方が優れてるって、もう証明完了してるしね！」
　そこは大事らしい。
「それはさておいてっ、邪魔ですよっ！」
　立ちはだかる洞窟の壁に右腕を思い切り叩きつけると、生命力を燃料にしてパイルバンカーを撃ち込む。杭が壁にめり込み、一面にヒビが入り、音を立てて崩れ落ちた。
「逃げるなら最短距離で突き進めば良いだけ。大丈夫、イケルイケル！」
　突進力で邪魔な瓦礫も吹き飛ばし、飛び散る鮫は轢き潰す。邪魔する者を全て無視し、ひたすらまっすぐに突撃する。
「……む？」
　上から降り注ぐ鮫も装甲で弾いて進んでいた鬼燈だが、鮫は思い切り牙を立てて来た。厚い装甲と防御力場によって牙が通る事はないものの、喰いついたまま離れない。
「痛くはないけど鬱陶しいっぽい！」
「なら任せてくれっ！」
　そこに飛び込んでくるのは一匹の鮫――ではなく、サメ型のフロート。その背に乗っているのはスプラ。
「――――」
　風の影響を極限まで抑えるべく、身体を張り付かせるほどに姿勢を低くする。フロートと自身を一体とするように――風景を置き去りにするほどの加速の中で、右手のレイピアの切っ先だけに意識を集中させる。
「そこだっ！」
　一切減速せずに、レイピアを真っ直ぐに突き出す。その刀身が放つ輝きと共に、まるでそれは雷光のよう。
　僅かたりとも狙いを違う事なくサメの急所を貫く一撃。貫かれたサメは、力を失い、地面へと落ちていく。
「おー。助かったっぽい！」
「礼は良いよ、こういう時はお互い様さ。それより……」
　ちらりと肩越しに視線を向ければ、竜巻はさらに大きさを増している。そこから降り注ぐサメの数も。
　ここまで突き進んで引き離した筈なのに、まるで離れているようには見えない。
「今は逃げる事を考えた方が良さそうだ！」
「そうするのですよ！」
　サメを攻撃させるために弱めていたブースターを再び全力で吹かし、ぐんぐんと突き進む鬼燈。スプラもそれに追随し、サメ型フロートを加速する。
「これは……跳ぶっぽい！」
「ああっ！」
　目の前の岩がすぐには砕けないと見た鬼燈は、足裏のブースターで大きく跳躍、それを飛び超える。スプラも、激突スレスレを進む事で荒れ狂う風から逃れ、速度を緩めない。
　そんな２人の駆け抜けたすぐ後、地面が崩れ、海に飲み込まれていく。
「急ぐですよー！」
「脱出まで、気を抜かずに行こうじゃないか！」
　海に落ちたサメ達は、すぐに泳ぎながら追いかけて来る。それを全速力で引き離していく２人。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「竜巻！　そしてサメ！　……って、サメはもうこりごりだよー！」
「……お、おう、そうだな」
　バイクに乗って竜巻から逃げていくシャーリーの悲痛な叫びに、後部座席で微妙な表情を浮かべるウィーリィ。
「……世にも珍しいはずなのに、割と日常的な気がするのはなぜなんだろうな」
　なぜと言うか、今跨っているのがサメ型バイクな時点で。
「ん？　ウィーリィくん、なんか言ったー！？」
「いや、とにかく脱出だ！」
　バイクの周囲を飛び回るのは、ウィーリィの放った紅蓮の炎龍。風の流れを読み、こちらに飛んでくる鮫だけを的確に撃ち落としていく。
「降ってくる鮫はこっちに任せろっ！」
「うんっ！　じゃあ、行くよっ、ハイメガシャークッ！」
　シャーリーはバイクに呼びかけながらアクセルをさらに強く踏み込み、一気に加速。瓦礫の隙間を巧みに駆け抜ける。
　だがそんな彼女達の行く手を阻むように、大量に乱立する大型の瓦礫、そして地面の上でのたうつ鮫達。
「っ……ウィーリィくん、しっかり捕まって！」
「おうっ！」
　だが、アクセルを緩める事はない。僅かな隙間を駆け抜け、車体を倒して急カーブ。暗がりから飛んでくる鮫達も冷静に回避。
　ウィーリィの服が瓦礫を掠めるほどにギリギリのコース取りで、目まぐるしく変わる状況に合わせてバイクを動かす。
「よし、抜けたっ……っとっ！？」
　なんとか密集地帯を抜け出せば、次に待っているのは巨大な壁。今度は片手をハンドルから離し、熱線銃を握りしめる。
「……そこだっ！」
　ヒビの入った部分に狙いを定め、あらん限りの熱線を叩き込む。衝撃を受けて広がるヒビ……だが砕くには足りない。
「ウィーリィくん、あとはっ……」
「ああ、任せろっ！！」
　だが取っ掛かりとしては十分。ウィーリィが炎龍を操り、そのヒビめがけて力いっぱい叩きつけた。衝撃が広がったヒビを通して、壁全体に広がっていく。
「いっ……けぇぇぇぇぇっ！」
　姿勢を低くし頭を下げながら、バイクをウィリーさせる。ヒビだらけの壁に前輪を叩きつけると、音を立てて壁が崩れ、そのまま突き抜けて強行突破する。
「おっと……っ！？」
　壁を突き抜けた直後、今度は砕けた瓦礫が降り注いで来た。炎龍は壁破壊で力を使い果たしてすでになく、再度呼び出すには時間がない。
「ならこうだっ！」
　咄嗟にウィーリィが包丁を一振り。生み出される衝撃波が瓦礫を吹き飛ばした。そこまでしてようやく脅威が去り、深く息を吐く２人。
「まだ油断は出来ないが……一応危険な所は抜けたみたいだな」
「うんっ、すっごい……アクション映画みたいだったね！」
　次々と襲いかかってくる危険を抜けた高揚からか、目を輝かせるシャーリー。そんな様子に、ウィーリィも笑いながら同意する。
「まったく。最後までクライマックスだな……じゃあ、エンドロールまで気を抜かずに行くかっ」
「うん、ここでバッドエンドは嫌だよねっ！」
　アクセルを緩める事なく、鮫を、竜巻を引き離し、バイクは突き進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「狐の雨は見るが……鮫の雨って面白いな……初めて見たぞ」
　降り注ぐ鮫を避けながら、感心した表情で空を見上げる鷲穂。
「なんかの前触れか？　グリードオーシャンすごいな」
「前触れって言うか、今まさに、なにか起きてる最中じゃないですかねー……はは」
　その呑気さとは対照的に、乾いた笑いを浮かべるエリオ。いや、むしろ泣きそうだ。
「あとは帰るだけなのに、簡単に帰れないの笑える……」
「泣くなよお……泣く前に鮫をどうにかしないと生きて帰れないぞ。な！」
　イヌワシの翼が力強く羽ばたき、アイベックスの四つ足が空を蹴立てる。鮫の雨を本能的にかわし続けながら、まっすぐに突き進んでいく。
「生きて帰るまでが依頼だしな。しっかり捕まってろよ！」
「もちろんです、ボクは本気ですよ！」
　ここで落ちたら助からないと分かっているエリオは、両腕両脚で全力をもって鷲穂の背にしがみつく。全力過ぎて少し痛いぐらいだが、空気抵抗をへらすために腰の翼を畳んでまで捕まる必死さを感じ取れば、何も言わず翼をさらに羽ばたかせる。
「よし、じゃあ一気に飛ばすぞっ！」
「はいぃっ！」
　竜巻の吸い寄せる力に逆らい、力強く前進を続ける鷲穂。降り注ぐ鮫の数は増していくが、それを巧みにかわし続ける。
　そんな彼の進路上へと、巻き上げられた大きな瓦礫が降ってくる。
「おっと……それなら、こう、だっ！」
「っ……！」
　すかさず前足を振り上げ、蹄を叩きつける。渾身の力で瓦礫を打ち砕き、前進を止めずに突き進む。
「うぅ、酔いそう……」
　だが、蹴り砕いた衝撃が全身に伝わったエリオは、呻きを漏らす。青褪めた顔でちらりと後ろを見れば、引き離しても遠ざかった気がしない巨大竜巻。
「……うぅっ、も、もうっ、ほんと、全力出しますよっ！　鷲兄っ！」
「おぅっ！」
　素早い詠唱から背後に風の魔法を放つエリオ。その風の反動を翼に受け、鷲穂はさらに加速する。
　ついでに鮫も風で吹き飛ばし、一気に竜巻を引き離し――。
「……オエッ」
　そして、加速でさらに増した揺れと、その状態で幾度となく繰り返す詠唱。酔いはさらに増し、頭がふらふらして来た。
「おいおい、髪には吐いてくれるなよ」
「やだなあ、鷲兄の綺麗な毛並みに吐きませんて」
　そこは安心してほしいと、笑顔で答えるエリオ。まだ顔は青いのが少し不安だが。
「なら良いんだが。しかし、いやあ、楽しかったなあ」
　そんな必死の加速のおかげで大分竜巻を引き離したので、少しは余裕が出来ると、改めて笑みを浮かべ、今回の依頼を振り返る鷲穂。
「でも、水中生物の縄張りだと、やっぱり戦闘手段は考えなきゃいけないなあ……」
「戦闘の反省も良いけど、まだ脱出中なの忘れないでくださいね！」
　だが、エリオにとっては、船に付くまで余裕などない。鷲穂の服の裾を引いて注意を促す。
「分かった分かった。じゃあもう１度飛ばすぞっ！」
「え、いや、これ以上揺れるのは……うぅ、わ、分かりましたよ！」
　諦めと共に詠唱を再開するエリオ。彼の呻く声を置き去りにする速度で、鷲穂は飛んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「にゃはは、映画のクライマックスみたいで楽しいにゃ～☆」
「映画なら確かに楽しいけど、自分で体験するのはさすがに心臓に悪いわよ！」
　呑気に笑う別人格の自分に、悲鳴に似た叫びをぶつけるイヴェッタ。全力疾走で竜巻から逃げながら、突き進んでいく。
「それよりっ！　ちゃんと前！　前見てなさい！」
「だいじょぶ、オーダーは承知してるにゃ。帰るまでが奪還者のミッションにゃ☆」
　低反動の機関銃を振り回し、前の方へ降り注ぐ邪魔な鮫達を撃ち砕く分身。それを見て主人格のイヴェッタも、追ってくる鮫達へと銃弾をばらまいていく。
「その恥ずかしい語尾はともかく……仕事の腕は信頼してるわよ、私自身なんだから！」
「任せるにゃ～☆」
　前後を分担しつつ、全力疾走する２人のイヴェッタ。そんな彼女たちに並走し、ウタも全力で脱出を図る。
「流石に、凄い風、だなっ……！」
　荒れ狂う竜巻はさらに巨大さを増し、大分離れているにも関わらず、身体が浮き上がりそうになる。その風を阻むべく、彼は全身に獄炎を纏う。
「炎は、何も燃やすだけが能じゃないぜっ！」
　燃え盛る炎が生み出すのは気流、熱された空気の壁が竜巻に抗う。どんどん強くなっていく暴風に対抗するように、さらに炎を強く、そして仲間達を守るように広範囲に広げていく。
「鮫も、か……こっちに来るなっ！」
　その炎の一部で壁を作って近づいてくる鮫達を追い払う。だが数が多い、全てを追い払う事はできず、一部が構わずこちらに突っ込んでくる。
「普通の生き物だし殺すまではしたくないんだが……！」
「ほんと、私達を襲う暇があるならあんた達も竜巻から逃げなさいよ！」
　大きくなっていく竜巻のサイズに比例して、鮫の数も、凶暴性も増しているようだ。イヴェッタがぼやけば、彼女の分身がソーシャルレーザーを構える。
「だったらこれでいくにゃ☆」
　彼女が狙いを定めたのは鮫――ではなく、その横の壁。よく見れば裂け目が出来ており、そこから覗くのは火花を散らす機械。
「全部、吹き飛べにゃーっ☆」
　高火力のレーザーが叩き込まれ、機械の内部にエネルギーが駆け巡る。動力部に到達すると同時に――大爆発。
「これで鮫も吹き飛んだにゃ☆」
「じゃあ後は……こいつだっ！！」
　当然爆発で瓦礫が飛び散ってくるが、それはウタが獄炎を叩きつける。吹き飛ばす――と言うより消し飛ばすほどの火力で道を開く。
　さらに、上空からも砲撃。溶け切らない大きな瓦礫にミサイルが直撃し、粉々に砕けていく。
「まあある意味お約束とはいえ……面倒ですねえ」
　撃ち込んだのはフラニィだ。地上を見下ろし援護しながら、白翼を羽ばたかせて突き進む。
　降り注ぐ瓦礫や鮫は、スラスターの推力を偏向させて回避。空戦には慣れている、この程度の障害をかわすのは造作もない。いや鮫をかわす機会は流石にそうはないが、まあそこは応用で。
「さて、あと少し……と言う所ですがー？」
　とはいえ、もうすぐ海岸が近い。それは同時に、竜巻が一番大きくなっている状態でもある。降り注ぐ瓦礫も、後ろに引っ張られる力も増す。
「ここからはこの辺りをぶち抜いた方が速そうですね……？」
　飛翔ビットを周囲に、円錐状に展開する。広角気味に広げたそこから発生させるのは、斥力のバリア。
「さて、加速しますので気をつけて……それと後ろは頼みますわねー？」
「ええ、任されました」
　声をかけられたのは、シャーロット。フラニィのワイヤーで吊り下げられて運ばれる彼女は、竜巻の方を見ながら両腕を広げる。
「サメ竜巻にあらがうには、必要なものがあります！　賢明な視聴者のみなさんなら、もちろんご存知でしょう」
　視聴者が誰の事か、誰に言っているのかはともかく、堂に入ったセールストーク。流通サービス『サメール』を運営する経営者として、己の商品をプレゼンする。
「それは叡智の結晶であり、それは文明の精粋であり、それとはすなわち――武器！」
　聞く者がいれば、思わず聞き惚れてしまいそうだ。まあ、この状況で聞く者がいるかは別の話として。
「とはいえそこらに転がってるチェーンソーでは、ちょっと物足りませんね。ならば！」
　そうして召喚したのは……何故か、イワシ。より正確に言えばマイワシ。だが疑問を呈するものはおらず、そして彼女自身も自信を崩す事はない。
「相手が竜巻であっても！　それがメガリスの激甚なエネルギーで生み出された物だとしても！　所詮エネルギーである事に変わりはありません！」
　むしろトークは最高潮に。高まったテンションと共に、シャーロットは竜巻を指差す。そして――その指の先へ、空中を泳ぎ突進する。
「なら！　こちらも大火力で応じればよし！　反物質製マイワシ、とくと見なさい！」
　イワシはそのまま竜巻に飲み込まれ、そして――生じる爆発。空飛ぶ鮫に引けを取らない無茶な兵器によって、竜巻が揺らぐ。
「いかがですか。消すまではいかなくとも、これで……」
「ええ、十分ですわねー……！」
　僅かに風力が弱まり、障害の鮫も減った。それを逃さず、フラニィは一気に加速した。円錐が真っ直ぐに空を突き進み、吊り下げられたシャーロットが垂直になるぐらいの速度でまっすぐに突き進む。
　無論減ったとはいえなお降り注ぐ瓦礫や鮫……それを阻むは斥力バリア。軽いものは弾き飛ばし、重いモノもバリアの表面に張り付いて――。
「ええ、この程度、些細なことかと！」
　壁すれすれを飛翔する事で、張り付いた鮫が岩肌でガリガリと摺り下ろされる。肉片や返り血は斥力で吹き飛ばされ、返り血一滴浴びる事はない。
「これで……到着っ」
　ようやく白桃丸の甲板に降り立つフラニィ、そしてシャーロット。
「こっちも、だっ！」
「これで全員よね……船を出して！」
　砂浜の水没部分からは、爆炎をジェット代わりに泳いで鮫を追い払ったウタが跳び上がり、イヴェッタ達と共に甲板に飛び乗る。他の猟兵達も到着している事を確認すると、船員達に声をかけるイヴェッタ。
　船から離れても、竜巻は渦巻いていたが……島全域を飲み込みしばらくすると、ゆっくりとその勢いを衰えさせていった。
「随分と鮫が多い海域になっちまったな……」
　竜巻が消えれば、島全体が水没してしまい、岩があちらこちらに突き出した海だけが広がる。そして死んだ鮫も多いが、生き残った鮫がうようよと泳ぎ回っており……。
「あー楽しかった、帰ったら映画見ておかわりにゃ☆」
「映画はしばらく見たくないわよ……」
　そんな様子を見てはしゃぐ分身の姿に、げっそりとした表情を浮かべるイヴェッタ。
「ま、これで一件落着、ってとこか」
　依頼成功の祝いに、ギターを爪弾くウタ。陽気な音楽と共に、白桃丸は鮫達の残る海域を後にした――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2020年06月07日