●ふわふわ無重力――オリビア&ユリア
魔法のウサギ穴をくぐればそこは別の世界。ここは複数の小さな『世界』が繋がり合う不思議な迷宮、アリスラビリンス。
ある薄暗い世界で、魔法のウサギ穴からヒトデのような星形の『愉快な仲間たち』が荷物を背負いながらゾロゾロ出てきていた。
彼らはオウガへの隷属から逃れるためまっさらな『不思議の国』へ逃れてきた『愉快な仲間たち』だ。
魔法のウサギ穴から出るや体がふわりと浮き始めてわたわたと慌てる彼ら。しかしやがて落ち着いて灯りに火をともして視界を確保していく。
地面はあるが木はクネクネと上も下も分からずに曲がって伸び、空には淡く光る月がある。
灯した火はその場で丸くなり安定せず、ときおり吹くそよ風がふわりと荷物をどこかへ流そうとする。
けれどこの世界では土や石は、重力があるように地面に向かって落ちていき、水は湧き出たそばから空へゆっくり浮いていく。
たどり着いたこの場所は、薄暗くも不思議な無重力の世界。
続けて魔法のウサギ穴から銀髪ロングヘアーな少女がひとり、顔を出した。するとヒトデのひとりが彼女へとお礼を言う。
どうやら彼女――通りがかった『アリス』が、彼らを助けたらしい。
「私だけじゃない。ひとりだと難しかった」
そう答えた少女の体もまたふわりと浮いてしまう。
そこへ魔法のウサギ穴から出てくる二人目の『アリス』の少女。
「あら、ここは無重力なのね。ユリアはこういうの初めてかしら」
「オリビア……普通はこういうの、経験しない」
二人目の少女――金髪ツインテールのオリビアはすぐさま近くの木に掴まると、銀髪のユリアの手を取り近くの木へと捕まらせる。
「Cпасибо(スパシーバ)。ありがと……」
「どういたしまして。私のほうが一年分お姉さんなんだから。遠慮しなくてもいいのよ」
オリビアはそう言うと周囲を見渡した。
不慣れな無重力の中でヒトデたちは曲りくねる木々を足場にして、荷物をくくりつけたり、テントを張ろうとして四苦八苦しているようだ。
「ユリア、私たちも手伝いましょう!」
新しいまっさらな世界。けれどふわふわうすぐらいせかい。
不慣れな環境で『愉快な仲間たち』による新たな国作りが始まった。
――しかしこの引っ越しはすでにオウガに知られており、オウガがこの国に現れるのは時間の問題だった……。
●不思議の国の建設を手伝おう!
「集まってくださり、ありがとうございます! アリスと呼ばれる方がオウガに襲撃されてしまう未来が視えました」
グリモア猟兵のユーノ・エスメラルダ(f10751)はグリモアベースに集まってくれた猟兵たちにぺこりとお辞儀をすると説明を始めた。
「場所は『アリスラビリンス』です。ここでは『アリス』と呼ばれる方がおり、元の記憶を失いながらも元の世界に帰る『扉』を探して旅をしているのですが……アリスラビリンスには、このアリスを食べる『オウガ』というオブリビオンが存在します」
アリスラビリンスについてかるく説明をしたユーノは、続けてノートとペンを取り出し絵で詳しい説明を開始する。
描かれたのは、クマみたいな二足で立つ獣……のようなキグルミのような?
「まず襲撃してくるオブリビオンですが、見えたのはこんな感じのクマさんでした。ですが、中にアリスの方が入っいている様子なのです……。何がどうなって、こうなるのか分かりませんが、戦い方に気をつける必要はありそうです」
アリスに取り付くか取り込むか……いずれにせよ厄介なオウガのようだ。
「そして、場所です!」
続けて描かれたのは、宇宙のような暗い空間。
「ここは薄暗い無重力の世界のようです。ほんのり月明かりがありますが、影は真っ暗で視界はよくありません。まだ誰も住んでいなかった世界に『愉快な仲間たち』とアリスのお二人がやってきたばかりの状態で、今は愉快な仲間たちの新たな生活の場を作ろうとしています。地面があり木とか生えてたりしてますが、無重力です!」
続けて描かれたのは、立ち上がったヒトデのような星型の生物と、銀髪と金髪の二人の少女。
「アリスのお二人はユーベルコードを扱えるようで、金髪の方が『サイコキネシス』、銀髪の方が『桜の癒やし』を使えるようです。そして、引っ越ししてきた愉快な仲間たちがこちらの星型のヒトデさんです」
新たな住人となるのは、口や目がなくても見たり食べたりできる感じのファジーな存在のようだ。
「そして、皆さんにお願いしたいことになります」
続けて描かれたのは、家。
「この移住者たちの国つくりを、アリスの方と一緒に手伝っていただきたいのです。ただ手伝うのではなく、オウガの襲撃があったときの対応も行いやすいような工夫もすると今後に備えられると思います」
まずは灯りだろうか? 無重力に合わせた足場や移動手段の確保もしておくと良いかもしれない。
「一通り作り終えてみんなが疲れた頃に、オウガは動き出すようです。何かがあって二人のアリスのうち片方が取り込まれる様子でしたが……まわりの信頼を得つつ、オウガへの警戒と対応を進める形になると思います」
●オウガという驚異から守るために
「予知で解った内容は、これでぜんぶです。愉快な仲間たちのみなさんと旅をしているアリスのお二人を守るため。そしてこのオブリビオンを倒すために、皆さんの力を貸してください」
ユーノは説明に用いたノートを仕舞うと、祈りと共に魔法陣が展開した……この上に乗れば、目的の世界へ転移できるだろう。
「ユーノはみなさんを転移させなければならないので、同行はできません……。どうか、みなさまに幸運がありますように……」
ウノ アキラ
はじめましての方は初めまして。そしてこんにちわ。
雨の日の合間に夏を感じる季節、だんだんと雲が印象的に見える季節になってきたと感じます。ウノ アキラです。
このオープニングに興味を持っていただき、ありがとうございます。
●お得情報
マスター紹介ページにもあるとおり執筆は主に土日になるので、プレイングを安定して受け付けられるのが【毎週木曜の8時30分から土曜の午後まで】の間になりますことをご了承ください。
章がクリアにならず引き続き参加を募る場合も木曜から土曜にかけてが採用しやすいです。
他にもマスター紹介のページは一読頂けると文字数を少し節約できるかもしれません。
●依頼について
アリスラビリンスの依頼となります。
一章が冒険。二章も冒険。三章はボス戦となります。
ざっくりとケイ素(Si)が地面へ、水(H2O)が空へみたいな感じですが、プレイングで言及がなければその時の雰囲気で決める程度の要素です。
一章と二章は冒険です。
灯りを設置しつつ生活や防衛に便利なものを作ります。
この冒険での準備や工夫は三章で活用できるプレイングボーナスとなります。
見やすくて便利な場所になるほど三章の難易度は下がるでしょう。
二章もプレイヤー側は引き続き作業をして構いません。
三章はボス戦です。
疲れたアリスが熟睡すると、服のようなオウガが現れて乗っ取ります。
オウガがアリスに接触できなかった場合は、そこらへんのヒトデさんが乗っ取られます。
アリスは次のユーベルコードを会得しています。ボスに対してはあまり効果が出ないことにご注意ください。
オリビア(金髪ツインテ―ル)
【サイコキネシス】
見えない【サイキックエナジー】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
ユリア(銀髪ロング)
【桜の癒やし】
【桜の花吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
二人の性格や能力については以下のシナリオも参考になると思います。
『迷宮内のデスゲーム〜伸ばした手は〜』
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=21799
よろしくお願いしします。
第1章 日常
『最初の灯』
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POW : 石や菓子を削り出す
SPD : 不思議な素材を組み合わせる
WIZ : 光る花や葉を生み出す
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ふわふわ浮くくらい世界
地面はあるが木はクネクネと上も下も分からずに曲がって伸び、空には淡く光る月がある。
灯した火はその場で丸くなり安定せず、ときおり吹くそよ風がふわりと荷物をどこかへ流そうとする。
けれどこの世界では土や石は、重力があるように地面に向かって落ちていき、水は湧き出たそばから空へゆっくり浮いていく。
ここは、そんな薄暗い無重力っぽい感じの不思議の世界。
木々に囲また地面の方は月光が遮られ塗りつぶされたように暗いが、明かりがあれば十分な明るさになるだろう。
この世界の特性を生かせば、面白く便利なものも作れそうだ。
さて、まずは何をしよう。
村崎・ゆかり
こんにちは、アリスさんたち。いつか会ったわね。改めてよろしく。
まずは灯りからか。先が長いわね、この世界。
「式神使い」で、鶴を折って飛ばし、空間の一点に固定させてから角灯を引っかける。これを何度も繰り返せば、それなりの灯りになるでしょ。
清きは上へ、濁りしは下へ。この世界、両儀が分かれつつあるところなのかしら?
とにかく、地面を確認しないとね。
落ちてくる砂礫は『鎧装豪腕』を傘にして避け、「地形耐性」と「地形の利用」で、家を作ることが出来るかどうか検討する。
そもそも、あのヒトデの住む家ってどんなものなのよ? 取りあえず一人はここへ連れてこないと話にならない。
ねえ、あなたたちの家ってどんなものか教えて。
アンジェ・アリスナイト
[&&&]
(スカートを押さえながらふわふわと)
これはまた、宇宙に浮いているようで不思議な世界ですね。しかし酸素と水には困らないとはいえ無重力の生活は大変そうです。宇宙ステーションでもそうですが特にお風呂や洗濯、それに……こほんっ。
『光あれ』、一先ずアリスナイトの想像力を具現化する力を以て手元に明かりを、そして地面を月重力程度に動けるよう自分をイメージします。
[UC無限の可能性]続けて暗闇を優しく照らす光の精霊達を想像力の具現化で創造してみます。寂しがりやでこの世界の住人についていき、明かり代わりになりましょう。
月光蝶、とでも名付けましょうかね。
マリオン・ライカート
&&&
・心情
アリスラビリンスだからと言われたらそれ迄だけど…
夢見心地な無重力?の感覚と相まって不思議な国だね
睡眠は死に近づく状態と言うし、ここは常夜の国なのかもしれないね
・行動
二人共、久し振りだね
少し顔を合わせただけだけど憶えてるかな?
ボクも手伝うよ
そうだな…噴水をライトアップするみたいな感じで空に昇る水に灯りを添わせたられたらイルミネーションみたいで素敵じゃないかな?
防衛に活かす場合も、光源を覆ってしまえば意図的に暗闇を作れるから意表も付き易い筈さ
あとは…そうだね
ロープを張り巡らした立体的な移動経路なんてどうかな?
ロープに沿って浮かべば行先も把握し易いし、降りる時は石を抱けば降り易いと思うよ
エドゥアルト・ルーデル
&&&
デュフフ…(真後ろを漂いながら)
また会ったでござるな元気?間に挟まりに来たでござるよ!
テントはある、周りは薄暗い…アレを言わざるを得ない
おい【知らない人】
いいか、ここをキャンプ地とする
我々は今からこのまっくら暗い暗い森の中でテントを張るって言ってるんだ!
無重力で浮く縦の空間を生かした住まい作りを目指したいでござるな
木と木を縄梯子で結んで移動をしやすく
テントはあえて地面に立てず木を支柱代わりに展張する事でなるべく広めの空間を作りたいでござるな
うーむ縦横に伸ばした縄梯子がちょっとしたアスレチックめいてるでござるね
二人とも遊んでみても良いですぞ!
●最初の灯
ふしぎなふしぎなくらい世界。
月あかりと曲がりくねった木々の森の合間にポゥと不思議な光が灯った。
「『光あれ』」
そう言葉を発したアンジェ・アリスナイト(銀糸篇・f28306)の、包むようにかざした両手に光が生まれる。
それは『アリスナイト』が持つ魔法のようなチカラ――想像力の具現化。
他の世界でいう市販の道具や一般の魔法程度には効果があるその能力を使い、アンジェは光を産み出した。
続いてアンジェは創造した光にユーベルコード『無限の可能性』で生命を与える。
「この光の精霊たちはこの世界の住人に寄り添い、暗い手元を照らす良き隣人となりましょう」
やがて命を宿した光はひらりひらりと蝶のようにアンジェの周囲を舞う。
その舞う光は月明かりの届かない闇へと光を届かせ、アンジェの姿を闇から浮かび上がらせた。
青い瞳と金の髪、そして腰に下げたレイピア状の『幻想剣』を身に着けるアンジェは光の蝶たちへ微笑みかける。
「くすっ、月光蝶、とでも名付けましょうかね。さて……」
アンジェは、スカートを押さえながらふわふわと座っていた木の枝から降り立った。
「月重力程度に動けるよう自分をイメージしてみましたが……上手くいったようですね」
アンジェは自身のジョブが持つ『想像力』の力を使いこなしている様子だ。
「それにしても……これはまた、宇宙に浮いているようで不思議な世界ですね」
そう感想を漏らすと、アンジェは光の蝶をヒトデたち『愉快な仲間たち』へ届けるために移動を始めていく。
「これで、当面はそれなりの灯りになるでしょ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は自身が操る式神に角灯――ランプを中に入れた、四面をガラスで貼ったもの――を持たせていった。
折り鶴のような姿の式神たちは、無重力の中で角灯が風に飛ばされないよう暗い場所で静止する。
「まずは灯りからか。先が長いわね、この世界」
●旅先の出会い
この世界へ降り立った猟兵たちによって、周辺は次第に明るさを得ていった。
月灯りが合間に差し込む真っ暗な森。
そこかしこに存在していた無を連想させる漆黒が光で塗りつぶされていく。
「あら、蝶々だわ。ねえ見て、ユリア。光る蝶々がいるわ!」
アンジェが生み出した光の精霊に興味津々で近づいていくオリビア。
それを止めようとしたユリアだったが、蝶を従えるアンジェの仕草に害意がなさそうと見るや遠慮がちに近づいていく。
オリビアはアンジェへ声をかけた。
「こんにちは。あなたは『アリス』? それとも『猟兵』? その蝶々、素敵ね!」
「くすっ、こんにちは。私は猟兵よ。さぁ月光蝶を明かり代わりにおひとつどうぞ。今はこの世界に引っ越してきた住人たちにこの精霊を配っている所なの」
アンジェがそう答えると、光の蝶が一匹ずつひらひらとオリビアとユリアのまわりを飛んで灯りとなった。
「素敵だわ。手元や足元を照らしてくれるのね!」
はしゃぐオリビア。その声に気が付いたゆかりが二人のアリスへ声をかけた。
「こんにちは、アリスさんたち。いつか会ったわね。改めてよろしく」
ゆかりはかつて『デスゲーム』の会場で主催者のオブリビオンと戦ったときに、この二人と顔を合わせている。
「まあ、また会えるだなんて! ええ、こちらこそよろしくお願いするわ。この前は、ありがとう」
「ん……どうも」
見知った顔に挨拶を返すオリビアとユリア。
そしてオリビアの元気な声を聞いて集まってきたのはゆかりだけではなかった。
「二人共、久し振りだね。少し顔を合わせただけだけど憶えてるかな?」
マリオン・ライカート(Noblesse Oblige・f20806)も木々に掴まりながらふわふわと近づき合流をする。
五人はそれぞれ自己紹介を軽く交わした。
特にオリビアはこの出会いに上機嫌だ。
「三人が手伝ってくれるのなら、とっても心強いわ。きっとオウガが現れてもへっちゃらね!」
●次は何を作ろう?
旅先の出会いに胸が躍るオリビア。
そんな彼女の背後にヌゥと大柄な影が現れた。
「デュフフ……」
「でゅふ?」
漂ってきた気配と声にオリビアが振り向くと眼前にはエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)の髭づらの顔。
「――――!!!!?」
声なき悲鳴をあげるオリビア。そんな彼女へエドゥアルトはのほほんと挨拶をするのだった。
「また会ったでござるな元気? 間に挟まりに来――」
ドゴッ。
その頭部を瓶を握りしめたユリアの打撃が襲う。
「オリビア、大丈夫? 変なことされてない?」
「ええ……って、エドゥアルトじゃないの! 大丈夫!?」
ユリアの非力な攻撃はエドゥアルトに全く効いていないのだが、痛そうに振舞うエドゥアルトをオリビアは心配する。
「たんこぶは出来ていないようね。良かったわ……。ユリア、いきなり暴力だなんてダメじゃないの。あなたは手が早いからお姉さんとして心配よ」
こうして灯りを配置しつつ合流した面々は、移住者たち――ヒトデの姿をした『愉快な仲間たち』――の国つくりを手伝うためにアイディアを出し合っていった。
「そうだね……ロープを張り巡らした立体的な移動経路なんてどうかな? 行き先に合わせて張り巡らせておけば迷子になりにくく把握し易いと思うんだ」
マリオンの提案にエドゥアルトも乗る。
「木と木を結ぶ感じでござるな。縄梯子も使えば安定しますぞ」
そこへ光る蝶を配り終えたアンジェが戻ってきた。
「ロープや縄梯子なら、私がアリスナイトの力で具現化しましょう。強度が足りなければ、あとでもう一度ちゃんと作れば良いでしょうし……」
アンジェは想像力の具現化でロープ作ってみせる。
「しかし酸素と水には困らないとはいえ無重力の生活は大変そうです。宇宙ステーションでもそうですが特にお風呂や洗濯、それに……こほんっ」
トイレと言おうとして言葉に詰まり、咳払いで誤魔化すアンジェ。
ゆかりも作るべき家について考える。
「そもそも、あのヒトデの住む家ってどんなものなのよ? 取りあえず一人はここへ連れてこないと話にならない」
その疑問についてマリオンも頷く。
「当面は彼らが持参しているテントで良さそうだけれど……折角なら何か作りたくはあるね。彼らのテント設営を手伝いながら聞いてみようか」
●どんな家にしよう?
そんなわけでヒトデたちを手伝いながら必要なものを聞いてみることになった猟兵たち。
灯りで改善されたとはいえ月明かりが遮られる森の中はまだいくらかうす暗い。
「テントはある、周りは薄暗い……アレを言わざるを得ない」
真面目な顔でそう呟いたエドゥアルトは、ユーベルコードで呼び出した『知らない人』へテント道具を渡す。
「おい『知らない人』。いいか、ここをキャンプ地とする」
そう言い渡された『知らない人』は。
「メシより宿か……」
と、何かを思い出すように呟きながら無重力空間で木を支柱代わりにテントの生地を広げようとする。
そんな『知らない人』の傍らでエドゥアルトはヒトデのひとりとお茶をしながらどんな住処が良いか聞いていった。
「飲み物を飲む時はこうやって上下さかさまが安定しますな。折角だから無重力で浮く縦の空間を生かした住まい作りを目指したいでござるが」
「水路も地面とは逆向きに空の方を下として作るのが良さそうですね。合わせて炊事場や食事をする場所も水の関係で空が下になると使いやすそうです」
ティーカップでお茶をひと口のみながら、ヒトデは答える。
その近くで別のヒトデを手伝いテントと格闘する『アリス』たち年少組。
どこかほっこりする少女たちの姿にエドゥアルトはニッコリ。
「ハァ……助け合う少女たちのやりとり尊いよぉ……」
「和んでる場合か! ヒゲ! おい! ヒゲ!」
ひとり懸命にテントを組み立てていた『知らない人』は不慣れな無重力の中で態勢を崩し空中でキリモミ回転していた。
ゆかりもまたヒトデのひとりに普段の住まいについて問いかける。
「ねえ、あなたたちの家ってどんなものか教えて」
「ふかふかのベッドと、水があれば最低限の空間ですね。水を汲んでおける場所が欲しいところですが……」
そう答えるヒトデ。たまに料理も作るらしいが、それも味と触感を楽しむもので最低限の栄養は水のみで良いらしい。
話を聞いたゆかりはさらに周辺を散策する。
木は曲がりくねってはいるが他の世界と同じ様に伐採して使えそうだ。
しかし曲がっているために長さが必要な素材は作れないだろう。
他にもゆかりはこの世界の奇妙な特徴に気が付いた。
水がふわりと空へ流れて登っていく『水の川』があるように、砂礫が空から地面へゆっくり流れて落ちる『砂の川』があったのだ。
「清きは上へ、濁りしは下へ。この世界、両儀が分かれつつあるところなのかしら?」
ゆかりはソレを陰陽を含む易学の概念に当てはめる。
砂の川の流れに乗って地面へ移動するとゆかりは地面をさらに確認していく。
そこはゴツゴツとした岩の合間に砂が入り込み、場所によっては粘土が積み重なっていた。
「地面に家を建てられるかと思ったけど……岩の隙間に杭を打ち込めればなんとかって所かしらね」
●夜の国に息づく命
周囲に最低限の灯りが設置され、木々の間にはロープや縄梯子で張り巡らされた『道』が出来てきた。
そしてロープの道が結ぶ木の周辺にはヒトデたちの当面の住まいとなるテントが設営されていく。
最低限の住まいが徐々に整っていった。
そんな中、テント設営を手伝いながらマリオンは式神たちが持つ角灯を遮るような仕掛けを一部に施していく。
それは、括り付けた石により地面へと垂れるロープを引っ張ると枝がしなって灯りを隠し、木々の隙間の一部を漆黒の闇へと戻す……という仕掛けだ。
「これで意図的に暗闇を作れるから、意表を突きたいときに活かせる筈さ」
工作を終えたマリオンは木々を伝って森の上へ顔を出した。
吹き抜けるそよ風を受けながら、マリオンは改めてこの世界を見渡す。
「アリスラビリンスだからと言われたらそれ迄だけど……夢見心地な無重力? の感覚と相まって不思議な国だね」
上からは森のあちこちに灯りが見えるが、灯りが届いていない未開拓の部分は月明かりが届かず漆黒の闇となっている。
空には雲ひとつなく、星さえも無く。
澄み渡った薄明るい空と大きな月がこの世界の神秘さを伝えていた。
「夜の世界か……睡眠は死に近づく状態と言うし、ここは常夜の……死後の世界に近いのかもしれないね……」
けれどその世界は、今後は移住してきた愉快な仲間たちが生きていく世界となる。
今後の開拓が進めば、きっと賑やかになっていくことだろう。
「――そうだ」
マリオンはふとした思いつきを実行するためにヒトデのひとりから灯りを譲り受けた。
防水のカンテラに火をともし、紐を括り付けると空へとゆっくり上る『水の川』のひとつに流していく。
すると水の中で輝く炎の光が川の中で広がりうっすらと輝く水の柱となった。
「うん、空に昇る水がライトアップされた噴水みたいだ。イルミネーションみたいで素敵じゃないかな?」
その淡い光はどことなく移住者のヒトデたちを連想させる……その存在が疑似生物だとしても、生きるために移住してきた『愉快な仲間たち』はこの世界の暗闇に負けずに輝いていくことだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
第2章 日常
『おひるねびより』
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POW : ぽかぽかひなた
SPD : そよそよこかげ
WIZ : すやすやすやり
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●二章についてのお知らせ
一章へのご参加、ありがとうございます。
引き続き二章のプレイングの受付は予定通りに木曜の07月09日(木)からとなる見込みです。
途中参加も問題ありません。特に言及がなければ初めから居た扱いになります。
よろしくお願いいたします。
●ひとやすみ
猟兵たちの手伝いもあり、星形の『愉快な仲間たち』――ヒトデたちが持ち込んだテントの設置は完了した。
これで当面の寝る場所は何とかなるだろう。
月明かりが届かない場所は光の蝶が周囲を飛んで照らし、水汲みなどの必要な経路にはロープと縄梯子が渡されて迷わずに移動しやすくなっている。
そして要所に括り付けられた角灯が街灯のように視界を確保していた。
ここまで数時間ほど作業が続いたが、空は相変わらず大きな月が輝いており夜が明ける気配はない。
やはりここは昼が存在しない世界なのだろう。
「ふわぁぁ……」
やがて疲れたアリスの二人からあくびが出てくる。
ヒトデたちも、今日の作業はここまでとそれぞれテントに入って休み始めていた。
引っ越しの移動をしてきた初日なこともあり、彼らは一様に疲れている。
事前に聞いた情報ではやがてオウガが現れるらしいが……まだ時間はありそうだ。
魔法のウサギ穴は既に閉じており、次にどこに現れるのか分からないためオウガに対して先手を取ることは出来ないだろう。
このまま周囲を警戒しても良いし、そのまま起きて作業を続けるのも良いかもしれない。
――さて、何をしよう。
村崎・ゆかり
ヒトデとアリスはおやすみか。
それじゃ、今のうちに防禦施設も作っちゃおう。
笑鬼召喚。今回は静かに作業を頼むわよ。
作るのは、そうね、螺旋状の城壁。無重力状態だから、侵攻阻止よりも、そこに身を潜めて攻撃を防ぐもの。これを、アリスたちが仮の寝場所にしてるところを守るように。
堀は今回使えないわね。
城郭を即興で築けるかしら? 出来ればヒトデたちが永住出来るようなのがいい。
城壁が破られた後の最終防衛線ね。巨大な岩の上に城郭が乗る感じだけど、時間的に厳しいかしらね?
せめて物見の塔だけでもあれば。
こんな施設、無用で終わればいいんだけど、世の中ままならないわね。
最後に黒鴉の式を放って、オウガの襲来に備えましょう。
アンジェ・アリスナイト
この国、なんと呼びましょうね? そのまま月の沈まぬ国や常夜の国など、アリスのおふたりはどうでしょうか…と、おねむのようなので毛布をかけてそっとしておきましょう。
折角ですからテントを出て紅茶を呑みながら天体観測でもしてみましょうか。と言っても機材はありませんが月の方角と星の位置くらいは記録できます。
月が沈まず移動しないならば暫定的にそちらを北と定義して良いでしょうし、天体の運行があるならば北極星となる星を見つけたいところです。
特徴的な星やその並びがあれば星名や星座として名前を付けるのも面白いかもしれません。ニュートン、ヴェルヌ、ツィオルコフスキー、ゴダード…私が名付けると少し味気ないかもですが。
マリオン・ライカート
&&&
・心情
夜しかない世界…か
きっとこの世界の『夜の女王』は遍く総てを抱きしめてくれるのだろうね
だから、今はお休み
・行動
皆お疲れ様
疲れを貯めたままだとミスを誘発するから休める時には休むのも大切だよ
ただ、オウガがいつ来るか分からない状態だと気持ちも休まらない…かな?
うーん
それなら…あれならどうかな?
ボクは皆が安心できる様に少し作業してくるけど、先に休んでて
うん?
通り道に糸と瓶と鈴で警報装置を仕掛けてくるのさ
瓶の中に仕込む事で風では鈴が鳴らないから、糸に何か触れた時だけ鈴が鳴るわけさ
敵の出現と場所の把握ができるようになるのは利点だと思うよ
じゃあ行ってくるよ
作業が終わったらボクも少し仮眠を取ろうかな
エドゥアルト・ルーデル
&&&
勿論休息でござるよ
必要な時に休むのも良い兵士の条件ですぞ
そういう訳でささっ二人共拙者の左右に!何って添い寝ですぞ!一緒に寝ますぞードゥフフフ!
あの後なんやかんや追い出されたので二人が寝付くまで暇つぶしでもするか…
重力を計算に入れながら四方に【UAV】を飛ばして周辺のマッピングでござるよ
オウガの警戒以外にも受け取った情報で周辺の地図の一つでも作成でもしておけば何かしら役立つだろう
無重力な世界なら変なランドマークもありそうでござるな
そういえば呼び出した【知らない人】は何処に…夜食作ってる…
大丈夫かよそれちゃんと食えるやつでござるか?
さて…二人の寝顔を見守る仕事に戻るか!写真に収めないとネ!
●おねむの時間
あちこちに張り巡らされてアスレチックの様になっているロープの経路。
そのロープを伝って、ヒトデ――『愉快な仲間たち』と『アリス』の二人がふわりふわりと移動していく。
「そーれ!」
「待って、オリビア」
自身のサイキックエナジーで慣性を制御するオリビアに対し、ユリアはまだ慣れないのかぎこちない。
しかし、アスレチックのように遊びまわる二人を見るにこの無重力な空間の足場としては十分機能している様だ。
「アンジェもやってみない? 壊れないかどうか確認するのも、大事よ?」
オリビアは耐久チェックという名の遊びに年齢の近いアンジェ・アリスナイト(銀糸篇・f28306)を誘う。
その誘いに対してアンジェは微笑みながら首を横に振った。
「お誘いに感謝します。けれど、私は遠慮しますね……あなた達もスカートにはお気をつけて」
「えっ、あっ」
「……!」
慌てて服の裾を抑えるオリビアとユリア。二人は恥ずかしそうに木の枝へと移動すると、アンジェの傍へと座った。
アンジェはそんな二人に視線を向けてほほ笑むと、そよ風に誘われるように空を見上げる。
何時間も経ったというのに空には変わらぬ月が浮かんでいた。
月の明るさで良く見えないが、この世界にも星はあるのだろうか?
「この国、なんと呼びましょうね?」
アンジェの口からぽつりと言葉が漏れ出る。
「……そのまま『月の沈まぬ国』や『常夜の国』など、おふたりはどうでしょうか」
その問いかけに返ってきたのは、肩に触れる温かい肌。
旅に続く大工仕事や遊びに疲れたのだろう……オリビアとユリアの二人は、この年頃の子にありがちな電池が切れたような眠りへと落ちていた。
「……と、おねむのようですね」
二人が風で飛ばされてしまわぬようにと手を取るとアンジェは二人をテントの中へと連れていく。
「おやすみなさい」
アンジェは二人に毛布をそっとかけるとテントの外へと戻っていった。
●防衛用の設備を
「ええ、今はまだ安全ですが他の国がそうだったように、ここもやがてオウガが現れるかもしれませんし。ひと休みして起きたらまた作業を再開したいと思っています」
数人のヒトデと村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)が話し合いをしている。
その内容は――。
「だったら、後と言わず今のうちに防御のための施設も作っちゃいましょう」
ゆかりはそう言うと作業の手として式神の群を召喚した。
「汝ら、陣を敷き壕を巡らせ郭を築くものなり――笑鬼召喚!」
現れたのは、馬鹿笑いする子鬼の姿をした式神の群れ。
『がははははっ!!』
召喚された式神たちは周囲の木を伐採して空間を作り、地面へ積もる岩を砕いて焼いては石灰を取り出し砦の材料を作っていく。
砂の川の砂と石灰を混ぜて水と合わせ、積み上げた岩の隙間に詰めて壁の補強にしていった。
その拠点を作る手際にヒトデたちは感心する。
「これは早い……それに、丈夫そうな壁ですね。すみません、私達はそろそろ疲れて眠いので、後はお任せして先に休ませてもらいます」
ヒトデたちはそう言うと、建設中の壁の中の木々……テントを設置した木へと向かっていった。
その先には、アンジェに連れられてテントへ向かう『アリス』の二人の姿もある。
「ヒトデとアリスはおやすみか」
ゆかりは、召喚した小鬼たちに静かに作業するよう指示を伝えた。
水源となる水の川を中心にヒトデたちがテントを張った複数の木々を囲むように城壁が構築されていく。
城壁で囲まれたこの一帯に入るには、視界を隠す木々ではなく隠れる場が一切ない空へ身を晒す必要があるだろう。
その上空を見上げればそこには、空へとゆっくり流れて登る水の川と空からゆっくり流れ落ちる砂の川。
城壁で囲まれた内部には光る蝶がひらひらと舞い、そこかしこに設置され角灯が月に頼らない光を生み出している。
その光は、闇を淡く照らしていた。
ある程度かたちになった城壁を見上げて、ゆかりは呟く。
「こんな施設、無用で終わればいいんだけど、世の中ままならないわね」
続けてゆかりは黒い烏のような式神を放った。
それは、残る空からの侵入を警戒するため。
●合間の一幕
一方ここはテントの中。
アンジェがかけた毛布に包まれ、二人の『アリス』はスヤスヤと眠っていた。
そんなオリビアとユリアの二人の間がもぞりと動く。
「ドゥフ……必要な時に休むのも良い兵士の条件ですぞ」
毛布をかぶる二人の間から顔を出したのは、間に挟まりに来たエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)。
二人に添い寝する形になっておりエドゥアルトの表情はニッコニコだ。
両脇に体温を感じならが幸せそうに目をつぶるエドゥアルト。
ふとユリアの寝言が聞こえてきた……そのか細い声が呼ぶのは、パパとママ。
やがて寝言と共にユリアの目が覚めた。
目が合う真横の髭ヅラ。
エドゥアルトの口角がニィと上がる。
「お目覚めですかな?」
――ユリアの絶叫が響いた。
「キャアアア!?」
テントで休んでいるハズの『アリス』の悲鳴を聞き、マリオン・ライカート(Noblesse Oblige・f20806)が駆け付ける。
「何があったんだい!」
剣を抜き臨戦態勢で駆け付けたマリオン。その目に飛び込んできた光景は――エドゥアルトを踏みつけながらマッチを手に小瓶の燃料アルコールをエドゥアルトにかけようとするユリアと、それを必死に止めるオリビアの姿だった。
「ダメよ、ユリア! 落ち着きなさい!」
「Капец(カペーツ)! 最悪の目覚め……! この変態は、転生すら許されない!」
「アフゥン! 銀髪ロリの小さなおみあしが拙者の顔にっ!」
思わずその場に立ち尽くすマリオン。その姿に気づいたオリビアは助けを求めた。
「マリオン、ちょうど良かったわ。ユリアを止めるのを手伝って欲しいの!」
「え、ああ、うん。解ったよ」
顔も思い出せないほどおぼろ気な記憶……そんな夢で見た親と間違えた気恥ずかしさもあり(もっともユリアはそんな事はいっさい言わなかったが)、彼女が落ち着くまでにいくらかの時間を要するのだった。
●ひとりじゃない
「さっきは、取り乱した……もう大丈夫」
「それは良かった。疲れを貯めたままだとミスを誘発するから休めそうなら今は休むのをお勧めするよ」
マリオンはそう言うと、二人へ毛布を渡す。
毛布をギュッと抱き寄せたユリアだが、目は冴えてしまっているようだ。
「ただ、オウガ……とかがいつ来るか分からない状態だと気持ちも休まらない、かな? うーん」
すこし考えた末、マリオンは安心を増す方法を思いついた。
「それなら……あれならどうかな? このテントのまわりのロープや木……通り道なんかに糸と瓶と鈴で警報装置を仕掛けてくるよ。これで不用意に近づく者が居ればすぐにわかるはずさ」
その言葉を聞いてもどこか不満気なユリア。そんなユリアをオリビアはぎゅっと抱きしめた。
「きっと、また夢を見たんだわ。目が覚めると寂しくなるのよね」
「夢……?」
マリオンの問いに、オリビアが答える。
「時々、夢で忘れていたことをちょっとだけ思い出すのよね。知らない人、けれど大切な人。だから、思い出せなくて不安になるの」
抱き寄せるオリビアの服を、ユリアはギュッと握った。
まるで無くしてしまわない様に。
「大丈夫、私はいなくなったりしないわ。……だって、独りはつらいもの……」
そうユリアを慰めるオリビアの言葉は、まるで自分自身に言い聞かせる様でもあった。
(忘れていたこと……知らない人、けれど大切な人……か)
その言葉をマリオンは思わず反芻する。
二人の『アリス』と同様にマリオンもまた自身の記憶が無い。そのため二人に自身の経験を重ねてしまう。
「それじゃあ、ボクは皆が安心できる様に少し作業してくるから、先に休んでて。じゃあ行ってくるよ」
そう言うとマリオンは二人のテントを後にした。
外は変わらず夜のまま。
周囲には建築中の城壁がそそり立ち侵入経路を空に限定させている。
(夜しかない世界……か)
もしこの世界に、オウガではない別の統べる存在がいるのだとしたら。このうす暗さは脅威から彼女たちを隠してくれるのだろうか。
それは見ない方が良いものや、忘れた方が良いものを隠してくれるのだろうか。
(この世界の『夜の女王』は遍く総てを抱きしめてくれるのだろうね……少なくともほんのひと時を平穏に眠るくらいなら許してくれるはずさ)
――だから、今はお休み。
●それぞれの休息
「あの後なんやかんやで追い出されたでござるな……主にユリアたんに」
そう呟きながら無人航空機『UAV』を四方へ飛ばすエドゥアルト。
彼は重力を考慮しながらそれらを飛ばし、城壁の内外を地図にしていった。
(オウガの警戒ついでに地図の一つでも作成しておけば何かしら役立つだろう)
ランドマークになりそうな特徴的な地形は……やはり空へと流れる水の川と、空から降りてくる砂の川だろうか。
水の川の中にはよく見ると魚が泳いでいる。探せば他の生物も居そうだ。
そんな川の水源付近でエドゥアルトが召喚していた『知らない人』がなにやら料理をしていた。
「何してんの? 『知らない人』」
水と土以外は無重力になるこの世界。火には上も下もなく、火力の低いキャンプ用のガスコンロは火が丸くなって鍋まで届いていない。
鍋をふるうたびに食材がふわりと浮く環境で『知らない人』は酒の瓶を片手にやたらフランぺにこだわってなかなか温まらない鍋や食材と格闘していた。
付近には先に茹でたパスタが放置され、ふやけつつも乾燥しモチモチした物体へ変わり始めている……。
その様子に一抹の不安を感じたエドゥアルト。
「大丈夫かよそれちゃんと食えるやつでござるか?」
と思わず問いかけたが『知らない人』は「絵的に外せない」「おみまいするぞー」などと上機嫌に料理を進めている。
一方で、アンジェは紅茶を飲みながら夜空を眺めていた。
彼女はアリスナイトの『想像力』によるチカラで疑似的な重力を創造し無理のないティータイムと天体観測を実現している。
「特徴的な星やその並びがあれば星名や星座として名前を付けるのも面白いかもしれませんね……」
空へと昇った水がその登った先でキラキラと広がり星のように散っている。
「この世界の水や土の循環は、どのようになっているのでしょうか……月も全く移動ませんし、不思議な世界だけに何の理屈も無く無限に湧き出ているのかもしれませんね」
アンジェは空に浮かぶ星のような水塊へ名前をつけていった。
「ニュートン、ヴェルヌ、ツィオルコフスキー、ゴダード……少し、味気ないですかね」
この世界は、訪れた時からずっと寝静まったように静かだった。
風が吹き抜けると葉が擦れる音がサラサラと鳴り、耳をすませば流れる水や砂がサラサラと鳴る。
この物語の舞台は、なんと物静かなのだろう。
そして舞台は再び『アリス』の二人が眠るテントの近くへ。
ちょうどそこには二人の様子を見に来たエドゥアルトの姿があった。
「さて……二人の寝顔を見守る仕事に戻るか!」
と追い出されたテントへニコニコと戻っていくエドゥアルトだったが……テントの中を覗くや彼の目つきが変わる。
――そこには、既に『オウガ』が入り込んでいた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『クマずきんちゃん』
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POW : 心細いクマずきんちゃんは猟兵に抱きついた。
【背骨が折れるほど強力なアリスの抱きつき】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : しかし、頭巾は装飾だった。
防具を0.05秒で着替える事ができる。また、着用中の防具の初期技能を「100レベル」で使用できる。
WIZ : 猟兵さんはアリスの仲間ですよね?
敵を【自身の意思とは関係なく怪力】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●三章についてのお知らせ
二章へのご参加、ありがとうございます。
引き続き三章のプレイングの受付は予定通りに木曜の07月16日(木)からとなる見込みです。
途中参加も問題ありません。特に言及がなければ初めから居た扱いになります。
よろしくお願いいたします。
●登場! クマずきん
寝ていたはずの二人の『アリス』のオリビアとユリア。
そのうち片方……『オリビア』が居ない。
代わりに立っているのはクマの様なキグルミ……。
「がおー! クマずきんちゃん登場なのです!」
そう言いながらクマの威嚇のポーズをとる『クマずきん』の体、それは……寝ているオリビアだった。
このオウガは本体がフード付きの毛皮になっており、誰かに『着られる』ことでその本領を発揮する。
そしてここまで布切れの振りをしてヒトデたちの荷物に紛れ忍び込んでいたオウガは今、寝ていた『アリス』の体を手に入れた。
もしこのオウガを攻撃して本体以外に当たってしまえば、オリビアの体も傷ついてしまうだろう。
「寝ているもうひとりを食べるため安全な場所へ持っていこうとしたのに、いきなり猟兵に見つかってしまったのです……しかし、猟兵たちよ! アリスを取り込んだこのクマ頭巾ちゃんを攻撃できるですか!?」
その声に、あまり寝つけていなかったユリアが目を覚ます。
「う……オリ、ビア……?」
名を呼ばれたオリビアは疲れからまだぐっすり寝ていた。
そんなオウガを着た状態のオリビアの体を操る『クマずきん』は寝ぼけるユリアを抱えると逃げ出そうとする――。
付近に仕掛けられていた警報がチリンチリンと鈴の音を鳴り響かせた。
赤嶺・愛(サポート)
『世界が平和になりますように』
人間のパラディン×シーフの女の子です。
普段の口調は「平和を愛する(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、怒った時は「憤怒(私、あなた、~さん、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格は明るく、人と話す事が好きで
平和的な解決を望む優しい性格の女の子ですが
戦う事でしか依頼を成功出来ない時は戦う事も厭わないです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
レティシャ・プリエール(サポート)
プライド高く気の強い、ウィルオウィスプの女の子です
●依頼傾向
人助けのために魔法の力を使いたい
最終目的は知識の探求であるため、心情的に複雑な依頼でも割り切る
基本敵に同情はしません
カクリヨは例外。同胞を助けるために戦います
●戦闘
「いいわ。私の魔法、見せてあげる」
敵を観察し理論を立て、後方から魔法で攻撃することを得意とするタイプ
仲間が戦う様子を見るなどして敵の隙、弱点を伺ってから
UCで攻撃します
自信家すぎてミスすることも多々あるので、
敵の攻撃に危機一髪などの演出もOKです
仲間に助けてもらった時は強がりつつお礼を言います
「別に、助けてほしいなんて言ってないし……!」
その他、連携やアドリブお任せします
村崎・ゆかり
くっ、オウガをあたしたちが運び込んでいたなんて!
この失態、挽回してみせるわ。
「全力魔法」で「結界術」展開。オウガを逃がすことのなうように。
いま助けるわ、オリビア!
「破魔」と「浄化」の七星七縛符で、オウガの攻撃を封じる。
痛いだろうけど、我慢してね、オリビア。
薙刀の石突きで、「衝撃波」を伴った「なぎ払い」。
「降霊」「呪詛」をオウガ『だけ』に仕掛けて、攻撃や回避の成功率をダウンさせる。いままで喰らってきた『アリス』たちの怨念が、あなたの手足を縛っていくわ。自業自得よ。
もういいでしょう。
「全力魔法」「破魔」「浄化」「神罰」炎の「属性攻撃」で、オウガの本体だけを燃やし尽くす。
オリビア、どうか無事でいて!
アンジェ・アリスナイト
アリスを取り込んだこのクマ頭巾ちゃんを攻撃できるか……ですか。ええ、できますとも。
起動せよ、詠唱兵器――幻想剣『ファンタスマゴリア』
[UC閃光]を以てクマ頭巾を怯ませたならば、幻想剣の魔鍵としての力……体を傷付けずに心のみを貫く[破魔]の刃を以てオリビアさんやユリアさんを傷付けることなく彼の者を攻撃しましょう。
なにかと動きづらい世界ですが、重力があるように地に足をつけて移動したり…逆に無重力を利用して飛び上がったりと自分の動きをイメージして相手を翻弄したり、その攻撃をかわしてコチラが優位になるといいですね。
可能ならば捕まっているユリアさんを逃したいところです。お嬢さん、お逃げなさい……なんて。
マリオン・ライカート
&&&
・心情
…やられたよ
オウガの悪辣さを甘く見ていたのは失策だったね
でも、まだ取り戻せる
・行動
主要な灯りを全て落とすよ
ボク達も追跡が困難になりそうだけれど、仕掛けておいた鈴の音を頼りに追跡出来る筈さ
四方を囲う防壁が鳥籠として機能するから、視界を閉ざす事で逃げ切ったと敵の油断も誘えると思うよ
…逃走中にユリア嬢の方に移る可能性もあるから気を付けないとね
『ドレスアップ・プリンセス』で変身「します」
飛行中はこの世界の重力に影響を受け難い筈です
そしてこの世界では「布が浮く」
重力に引かれ浮かび上がるオウガを攻撃、または揺らめく布を掴み引き剥がす事も出来る筈です
それに、壁から逃げる先は空しかありませんからね
エドゥアルト・ルーデル
&&&
あら可愛い
写真撮っとこ
【抱きつき】と言いつつベアハッグだこれ!ペラペラになっちまうーッ!まあむしろ自分からペラペラになるんだが
全身を【ドット絵】に変換!ペラッペラなボディを活かして抱きついてくるオリビア氏の腕の隙間から頭部と頭巾の隙間に潜り込みますぞ!
待てよ…これひょっとして拙者がクマ頭巾を被ってることになる…?がおーでござる!ユリア氏がおーでござる!
冗談はさておき腕だけ実体化しクマ頭巾を内側からナイフなりでザクザクと刺す!これでオリビア氏は傷つけずに頭巾を解体でござるよ
解体が終わったら…エド頭巾でござる!このまま頭上で魔法少女モノのマスコットのように暮らすんだい!!
●逃走! クマずきん
猟兵たちがオウガに対する対策を施していたころ、テントの暗闇の中でもぞりと動く布があった。
それは頭巾のようなオウガ、『クマずきんちゃん』……かつて愉快な仲間だった存在がオウガになったパターンの様だ。
移住してきたヒトデたちの荷物に紛れていたオウガは寝ていた『アリス』のオリビアへ近づくと、するりと頭にかぶさり、身体の主導権を乗っ取っていく。
そこへ現れる第一発見者のエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)。
「あら可愛い」
テントの中を覗いた彼は、その目つきがほんわかしたものへ変わった。
おもむろに取り出したのは、寝顔を撮影しようと思って持っていたカメラ。エドゥアルトはそのカメラでパシャリと写真を撮り始める。
そのカメラの光と音にびっくりしたクマずきんは反射的にクマの威嚇のポーズをとるのだった。
「がおー!」
しかし悲しいかなその威嚇は可愛いだけ。テントの中には撮影音が鳴り響く。
「デュフフッ、良いですぞ良いですぞ~! あっ、ちょっと目線くだされ」
なおも威嚇を続けるクマずきんであったがその騒がしさにやがてユリアが目を覚ますと、寝ぼける獲物を確保して『クマずきんちゃん』は逃げ出した。
逃げたオウガを目で追いながらエドゥアルトは無人航空機で作成していた地図を冷静に取り出す。
「さて、城壁もあって遠くへは行けないはずでござるが」
テントを出たクマずきんは周囲に仕掛けられていた警報装置にさっそく引っかかり、チリンチリンと鈴の音を鳴らしながら逃げていく。
「うひゃぁ!? 何なのです、この世界は!?」
外に出てみればそこは重力がなく身体が浮く不安定な世界。
寝ぼけるユリアを抱えながら、必死にロープを伝い逃げていく『クマずきんちゃん』。
少しでも暗く見つかりにくい方へと逃げていくが、しかしそれはすぐに城壁によって防がれてしまった。
「壁が……これでは逃げられないのですーっ!?」
灯りが少ない城壁の付近で抜け道がないか右往左往するクマずきん。
やがて異変に気付いたユリアが抱えられた腕の中で抵抗を始めた。
「むー……!」
「こら、暴れるなです! わわ……地面に踏ん張れない……!」
そうこうしていると、態勢を崩して空中でくるくる回り始めるクマずきんの周囲に青白い炎がぽつぽつと現れて周囲をぐるりと囲んだ。
その炎はクマずきんを照らし薄暗い空間に姿をくっきりと浮かび上がらせる。
「な……こんどは何なのです!?」
……『アリス』を確保したオウガは、猟兵たちが事前に行っていた各種の対策によりその逃走に失敗した。
●包囲網の構築
本体が頭巾であるこのオウガは、寝ている『アリス』のひとりであるオリビアの体を乗っ取った訳だが、欲張ってもう一人の『アリス』のユリアを抱えて逃げたことでその抵抗を受けていた。
「あなた、誰……オリビアだけど、違う」
「がうう……!? こら、引っ張るなです! 頭巾や裾をひっぱるなぁあ!?」
「むにゃ……小型のお船の曲芸だぁ~」
まだ夢の中のオリビアと、その身体を動かし抵抗するクマずきん、そして抵抗をするユリア。
逃走を拒む城壁の前で無重力のなかくるくる回る二人(三人?)だったが、青白い炎が現れて周囲を取り囲んだ。
それは、サポートとして来ているレティシャ・プリエール(西洋妖怪のレトロウィザード・f28126)が放ったユーベルコードの炎。
「……触れない方が身のためよ。私の炎は、ちょっと熱いから」
この場に先に着いたのはレティシャだけではない。
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)も一緒だ。
彼女は事前に放っていた黒い鳥の式神でオウガの逃走を追跡することで真っ先に追いついていたのだ。
「そのフードが本体? テントからいきなり出てきたってことは、荷物に紛れていたって訳ね」
オウガが紛れていると気づかずテントへ運び込んだことを悔やむゆかり。
「この失態、挽回してみせるわ」
すぐさま放たれたのは無数の、白紙のトランプのような霊符『白一色』。
放たれた霊符による捕縛――ユーベルコード『七星七縛符』でクマずきんを着た『アリス』の体を捕縛するとゆかりは逃げる手段を減らそうと、洗脳や幻惑を打ち消す破魔や浄化を込めた結界を張り巡らせる。
万が一の小細工が仮にあったとしてもこれでは手が出ないだろう。
捕縛から抜け出そうともがく『クマずきんちゃん』だが……。
「今だ! 炎を消して!」
マリオン・ライカート(Noblesse Oblige・f20806)の声に合わせレティシャの青白い炎が一斉に消えた。
これにより炎に照らされた明るさに目が慣れていたクマずきんの視界が奪われる。
「今度は何なので――ぐぎゃあ!?」
闇に驚くクマずきんの眼前に、真っ白な閃光が奔った。
目を焼くような光にクマずきんは頭の頭巾の目のような部位――そこがおそらく本体の目なのだろう――を抑える。
この光はアンジェ・アリスナイト(銀糸篇・f28306)の手から放たれたユーベルコードによる目眩まし。
続けてアンジェの声が響く。
「起動せよ、詠唱兵器――幻想剣『ファンタスマゴリア』」
アンジェは動きの止まったクマずきんへ向け、精神のみを貫く幻想剣を振った。
●一人目の人質奪還
動きや攻撃を『七星七縛符』で封じられ、さらに視界までも奪われた『クマずきんちゃん』にはアンジェが振るう剣に対抗する術がない。
「起動せよ、詠唱兵器――幻想剣『ファンタスマゴリア』」
迫る攻撃の気配にクマずきんは声を上げた。
「ま、待つのです! このまま攻撃したらこの『アリス』も……」
「『アリス』を取り込んだこのクマ頭巾ちゃんを攻撃できるか……ですか」
「そう、そうなのです!」
「ええ、できますとも」
アンジェはクマずきんの言葉を意に介さず、魔鍵としての力である精神のみを傷つける刃を振るう。
その攻撃はオリビアの精神を傷付けない様に被さる頭巾――オウガの本体のみを削ぐように振るわれた。
「ぎゃあ!?」
思わぬダメージにクマずきんによる制御が弱まり、頭巾を着た身体――寝たままのオリビアがすこし脱力する。
そこへ、サポートとして来ている赤嶺・愛(愛を広める騎士・f08508)が飛び込んだ。
「今だっ!」
ユーベルコード『優しき闘気』により聖なるオーラを纏った愛は、高速移動で素早くクマずきんからユリアを奪い返す。
「怪我は無い? 大丈夫?」
「Спасибо(スパシーバ)……どうも」
「いえいえ、どういたしまして」
人見知りを発揮するユリアに対し、人と話すのが好きな愛は気を悪くせずニコニコと答えるのだった。
一人目の人質の奪還が上手くいきマリオンは胸をなでおろす。
「上手くいって良かった。鈴の音が聞こえたときにすぐこの辺の灯りを落としておいたんだ。狙い通りに暗い方へ移動してくれたね」
このあたり一帯はマリオンによって意図して事前に灯りが落とされていたのだ。
「捕まっていたユリアさんを取り戻せしましたし、残るはオリビアさんですね」
アンジェはそう言うと再び『幻想剣』を構える。
その言葉に頷きマリオンも光り輝く細身の剣『天光剣:Lumiere』を輝かせて周囲の視界を確保した。
「そうだね。やられた、オウガを甘く見ていた、と思ったけれど……でも、まだ取り戻せる」
そして愛もオウガを逃がすまいといつでも動けるよう身構える。
「うん、そして出来るだけ傷つけないように……戦わないと、だね」
もしも戦わずに済むならばと普段から考える愛だが、今回はオウガという捕食者とアリスという餌の関係が根っこにある。戦いは避けられそうにない。
ゆかりもオウガを逃がさぬよう結界による障壁の維持と『七星七縛符』の維持に命を削っていた。
「いま助けるわ、オリビア」
●クマずきん第二ラウンド
「がおーっ!!」
――ビリビリと音を立て『七星七縛符』が破られた。
この怪力は『クマずきんちゃん』自身が元から持っているもの。
それは生前の、愉快な仲間だった頃から持っていた能力だったのだろう。
そうやって、強引に捕縛が破られたその時だった。
「ん……なぁに、もう朝ぁ……?」
オリビアが目を覚ました。
しかし今の身体の支配権はかぶった頭巾――『クマずきんちゃん』が持っている。
「あら? ここは外かしら、どうして私こんな所に」
「多勢に無勢なのです……! えーい!」
「あら? 今の声は誰かしら? それに身体が勝手に……」
困惑するオリビアをよそに、近くの木の太い枝を怪力で折ると振り回し結界の障壁ごと付近を破壊し始めるクマずきん。
「あわわわ、どうして木を振り回しているのかしら。危ないわ! みんな逃げて……!」
「次は霊符もはじき返してやるです! 同じ手が通じるとは思わないことですよ!」
それは当人の意思と無関係に行われる怪力による攻撃。
下手に近づけない状況にマリオンが言葉を漏らした。
「厄介だね……四方を囲う防壁が鳥籠として機能するから確かにオウガは逃げられないけれど、近づけなければ頭巾を取ることができない」
すると、ここまで敵の言動を観察していたレティシャが名乗り出た。
「ここは私に任せて」
再びクマずきんを取り囲む青白い炎、ユーベルコード『死者の松明』。
「……縛り付ければ頭巾が密着し脱がせられない、かといって自由にさせておけばあの怪力が襲ってくる。なら……これはどうかしら」
「そ、そんなことをしたら、アリスも一緒に焼けるですよ! 猟兵さんはアリスの仲間ですよね!?」
レティシャは構わず炎を放った。
「わわ。せ、背中と頭に火がっ…………あら、あまり熱くないわ……?」
それは意志を持つように個別に動き四方からクマずきんの背と頭――オリビアが来ているオウガの本体――へ燃え移っていく……そして、その延焼はコントロールされていた。
「これが私の魔法よ」
『延焼分を任意に消せる』炎が器用にクマずきんの本体の『表面』だけを焼いている。
「あつ、熱いのですー!?」
クマずきんは本能のままに『水の川』へ向かって飛びあがった。
「逃が『しません』……!」
マリオンは豪華絢爛なドレス姿――ユーベルコード『ドレスアップ・プリンセス』によるもの――へ変身すると、花びらを舞い散らせながら飛翔してクマずきんを追う。
愛も地を蹴り、木を伝い、無重力の空へと高速で身を躍らせその後を追った。
「私も。全力で追うよ!」
二人がオウガを追って向かう『水の川』……それは空へ向かってゆっくりと流れていた。
その『水の川』の流れに身を任せゆらゆらと空へ昇る人影がひとつ。
「ハァイ、ジョージィ」
ザブン、と顔を出したのは不気味な笑顔の髭面――水中装備に身を包んだエドゥアルトだった。
●二人目の人質奪還
「きゃあああ!?」
「ぬあーっ!! 邪魔なのですー!!!」
思わぬ場からの登場に驚くオリビアと、水へ飛び込もうと必死な『クマずきんちゃん』。
クマずきんは眼前に現れたエドゥアルトに怒りの抱きつき攻撃を放った。
「ぐえーっ! ベアハッグだこれ! ペラペラになっちまうーッ!」
「早く、くたばるのですよっ!」
「やめて! 彼が死んでしまうわ!」
オリビアによる『サイコキネシス』での抵抗も、この怪力の前には微々たる効果しかなく締め上げられていくエドゥアルト。しかし……。
「まあむしろ自分からペラペラになるんだが」
さっきまで苦しんでいた態度は何だったのか。けろりとした真顔でこう言ったエドゥアルトの体がペラペラになっていく。それはユーベルコードによる自身の二次元への……ドット絵への変化。
「……んんん!? 今度は何がおこったのです!?」
「拙者はフリーSOZAIですぞー」
などと供述しながらオリビアと『クマずきんちゃん』の隙間へぬるりと入っていくエドゥアルト。
「え、何? 背中がなんだかくすぐったいわ」
「やめるのです! クマ頭巾ちゃんとアリスの間に入るな! なのです!!」
そのままクマずきんを『着てしまう』エドゥアルト。
エドゥアルトが間に挟まったことでクマずきんの支配からオリビアが解放された。
「この隙に二人目の『アリス』も返させてもらうよ」
すかさず愛が木から高速で飛び上がり、オリビアをキャッチする。
オリビアを回収した愛はすぐさま盾でオウガを警戒するが、オウガはペラペラしたエドゥアルトに『着られた』ことでうまく動けずペラペラしていた。
そこへドレス姿のマリオンが飛翔して追いつく。
「これで、オリビアさんもユリアさんのお二人とも救出完了ですね」
「マリオンなの……? お願い、エドゥアルトが私の代わりにオウガに……」
「大丈夫、私達に任せてください」
マリオンは、オリビアと彼女をかばう愛の二人を地面の方へとゆっくり押し返した。
二人の『アリス』を無事に救出し、残るのはオウガの本体である頭巾のみ。
その頭巾も四肢らしい四肢を得られず空中でなにやらもがいている。
マリオンはプリンセスの姿のまま、無重力の空中でオウガと対峙した。
「……あとは倒すだけですね」
●こうしてクマは退治されたのでした
「解体の時間だオラッ!」
腕だけを三次元に戻したエドゥアルトは、焦げた『クマずきんちゃん』の一部をナイフで切り裂こうとする。
「ぎゃあ、やめるです!!!」
「ぐぬ……っ!」
対するクマずきんは自分を被るエドゥアルトの身体の制御を乗っ取ろうと試みる。
そんな、ふわふわりと浮きながらぐるぐるまわって戦う布をガシリと掴む腕。
「このまま身体を乗っ取らせる訳にはいきません」
マリオンだ。『ドレスアップ・プリンセス』で変身し飛翔能力を得ているマリオンはドット絵になったエドゥアルトと争っているクマずきんを掴むと、切り裂く途中のままのナイフへ手を伸ばてクマずきんの布地を引き裂く。
「「ぐえーっ!?」」
この攻撃により『クマずきんちゃん』に大きなダメージが入った様だ。
動きがすこしぐったりしたクマずきんの頭部を掴むと、マリオンはそのままドット絵のエドゥアルトを引きはがしてクマずきんを無力化する。
「これであなたはただの頭巾です。壁から逃げる先は空しかありませんし、逃げ場のない地面の方へ戻ってもらいますよ」
そう言うとマリオンはクマずきんを地面の方へと投げた。
推進力を持たないものは無重力の場では思う様に動けない……クマずきんはそのまま真っ直ぐに、慣性のままゆかりとアンジェが待ち構える場へと流されていった。
するとゆかりがさっそく薙刀による衝撃波を浴びせる。
なぎ払うこの一撃に込めるのは、過去にこのクマずきんの犠牲になった『アリス』の霊の呪詛。
「いままで喰らってきた『アリス』たちの怨念が、あなたの手足を縛っていくわ」
「う、うまく動けないのです……!」
降霊で呼び寄せられたひとりの亡霊に呪詛をかけられて動きが鈍くなったクマずきん。これでは隙を見て誰かの身体を奪うことも難しい。
「さて、攻撃の続きですね」
続けて迫るのはアンジェとその手に持つ幻想剣『ファンタスマゴリア』。
彼女はアリスナイトの想像力を具現化する能力を応用して自身の動きを具現化させた。
それは、時に重力があるように地を蹴って走り、時に木々や地面を蹴り無重力空間を飛び回る……そのようにアンジェはクマずきんの接触を避け斬撃を行っていく。
(なにかと動きづらい世界ですが……)
アンジェは自身のイメージから生み出した機動力で優位性を作り出して幻想剣でクマずきんを切り裂いていく。
「が、がう……」
ここまでの猛攻でほとんど虫の息となった『クマずきんちゃん』。その姿を見たゆかりは。
「もういいでしょう」
と言うと白紙のトランプのような霊符へ炎の力をこめて放った。
もはや動く元気もない『クマずきんちゃん』。
クマずきんはそのまま焼かれて、消えていった……。
その炎は、死後にオウガになってしまったことに下された罰の様でもあった。
●
こうして、まっさらな新しい『不思議の国』は最初のオウガの襲撃から救われた。
オウガ――オブリビオンを倒すという目的を達した猟兵たちは、このあと二人の『アリス』や住民のヒトデたちに別れを告げて帰ることになる。
移住してきたヒトデたちは猟兵たちが作った設備を元に、今後もオウガの襲来に備えていくだろう。
二人の『アリス』も、新たな魔法のウサギ穴が見つけて旅を再開していくはずだ。
このアリスラビリンスに今日があり、明日が訪れる限り、彼らあるいは彼女たちとはこのアリスラビリンスのどこかで再び会えることだろう。
成功
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