帝竜戦役㉖~アナザーストーリー
●竜の孵化場
訪れた猟兵の姿を見つけ、ニュイ・ミヴ(新約・f02077)はすぐさまグリモアを光らせ始めた。それとともににゅっと跳ねて向き直り。
「連戦連勝! 快進撃、さすがのみなさんですっ。おかげで新たな脅威にも、早くに気付くことができました」
新たな脅威。否、再来というべきか。
帝竜ガイオウガより得た魔力を用いた帝竜再孵化儀式――これから向かってもらう、オブリビオンの強者を依代とした帝竜の蘇生を目論む儀式が行われている地の話を切り出す。
竜の孵化場。禍々しい竜の卵に眠る巨悪が、其処で時を待っているのだと。
「儀式の進みは半ばほど……とても強大な存在には違いありませんが、いまなら完全体になる前に止めることができます。みなさんが頑張って倒してきてくださった帝竜です、もう一度なんて許せません!」
熱の入った様子で語ったニュイはお辞儀をはさみ先を急いだ。
まず第一に、猟兵は竜の卵を破壊し中のオブリビオンを引き摺り出す必要がある。卵の周辺には悪魔じみた兵が湧き出始めており、妨害には注意したい。
第二は無論、オブリビオンの討伐。
「卵の中身はアークデーモンと呼ばれる個体のようです。鱗に覆われたりして、もっと強そうになっているかもしれません」
闇の魔法を使いこなす高位悪魔。帝竜化の影響により凄まじい力を得ており、今やその頑強な身体で肉弾戦をもこなしてみせるだろう。
単純にぶつかり合ったのではかすり傷では済まない。そこで利用したいのが、攻撃の通りやすい箇所――未だ防護の施されていない"逆鱗"の存在だ。
「どうやらそのオブリビオンにとって一番大切な部位に現れるとのこと。ここだ、とまではお伝え出来ず申し訳ないのですが、意識していただくと良いかと思うのです」
実際に相見え、戦ってこそ掴めてくるものもある筈だ。
とはいえ悠長に探っていられる相手ではないことも確かである。作戦に取り入れるか否かは、最終的に各々の判断に委ねられることとなる。
「みなさんの信じる戦いを、どうかお願いします。あっ、それと今回のアークデーモンを倒すと"帝竜の髄液"といって」
永遠の若さを授けるという、万色に鈍く輝く粘液を残す。若さの維持には定期的な摂取が必要となるが、一体分でも金貨1650枚の価値が――……。
音の終わりを待たずして溢れる光は、猟兵たちを戦地へと送り届けていた。
●アナザーストーリー
二階建ての家屋ほどはあろうか、幾筋もの血管が這う黒の卵が脈動する。
大地には震動が伝わる。心音のリズムだ。ひどくゆったりとした、何者も己を脅かすに足り得ぬと知る、強者ならではの。
『――ふん。些か尚早ではあるが、構わんだろう』
ぱきりと殻に罅を刻み、何重もの重低音が声となり響いた。
覗く金の瞳は強欲なものにとっての財宝の色であり、常に万人の頭上高く君臨する月と陽の色。
卵から溢れた毒液のような濁りがごぼごぼ広がり、ぬめる被膜を破って起き上がり始める二本角の悪魔たち。そのすべてが主の再誕を祝すべく血の贄を求め、ねじれた爪を鐘の如くに打ち鳴らした。
音の先には人影を捉えている。猟兵。彼らが勇者を名乗るなら、魔王が居なくては始まるまい? ――暗澹たる物語が!
『歓迎してやれ。そして不甲斐無き竜共に代わり、この我こそが闇の世を築いてやろうではないか。薫り高き死と破滅に満ちた、終わりなき終わりの世をな』
zino
ご覧いただきありがとうございます。
zinoと申します。よろしくお願いいたします。
今回は、戦いもクライマックスなアックス&ウィザーズへとご案内いたします。
●第一章について
当シナリオは一章完結の戦争シナリオです。
戦場は枯れ野。見晴らし良好。
流れは竜の卵の破壊→中から出て来たアークデーモンの討伐となります。
到着時点で卵の周辺には配下の悪魔が幾らか召喚済とします。これらは爪や牙で戦います。ボスを叩く、配下を引き受ける、その他立ち回りはご自由に。
なお、卵の破壊に関しては特にプレイングでご指定いただく必要はございません。通常の戦闘の延長で割れます。(ご指定いただいても、最初に接触する一チーム以外は破壊済となりリプレイに反映出来ない可能性が高いため)
強敵であり、成功以上でも負傷描写を濃くさせていただく場合がございます。
怪我をしても血は出ない等、特殊な体質の方は軽く触れていただけると安心です。
●プレイングボーナス
逆鱗の位置を推理し、攻撃すること。
●グループでのご参加について
一グループ三名様までとさせていただきます。
プレイング頭に【グループの合言葉】または【同行者のIDと普段の呼び名】をご記入ください。
●その他
シナリオ公開時よりプレイング受付開始。導入はございません。
戦争日程上、問題のないプレイングでもお戻しが発生する可能性がございます。
受付終了日時はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
第1章 ボス戦
『アークデーモン』
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POW : 妖星招来
【宙に描かれた巨大な魔法陣から放たれる隕石】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が大規模に変動する程の破壊が余派で発生し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 魔神の軍勢
【無数の生贄を捧げ、悪魔の軍勢を召喚する。】【その上で邪悪な神々に祈りを捧げ、】【悪魔の軍勢にそれぞれ邪神の加護】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 攻性魔法・多重発動
レベル分の1秒で【詠唱も動作も無しに、呪縛や破壊の中級魔法】を発射できる。
イラスト:イガラ
👑8
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アルル・アークライト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フランチェスカ・ヴァレンタイン
先ずは配下の掃討を
空中戦闘機動で戦場を舞い、重雷装ユニットからのマイクロミサイルの乱れ撃ちで爆撃と参りましょう
アークデーモンが現れましたら、アタリを付けた箇所に砲撃を浴びせて反応を見ます
さて、その金色の瞳か… はたまた悪魔の象徴たる禍々しい角か。――どちらでしょうね?
読みが外れた場合は焼夷弾頭のミサイルを一斉発射で浴びせてみたりも
どちらにせよ、咄嗟に庇う素振りを見せた箇所が逆鱗の位置、でしょうか
逆鱗の位置を見切りましたら、高速機動で間合いを詰めて逆鱗へ斧槍を叩き込み
穂先を向けてUCでのランスチャージを捩じ込んで差し上げましょう…!
「穿ち、裂きませ…! ハイペリオン――ディザスタァァァッッ!!」
バル・マスケレード
枯れ野となりゃ機動は限られる
故にUCによる未来視によって敵の攻撃を【見切り】回避を徹底
兵の掃討は最低限の【カウンター】による露払いに留め
【目立たない】よう、派手な行動は控え、親玉の観察を徹底
仮面である俺自身、そして宿主の未来視
言わば二つの視界で、逆鱗の場所が探れるって寸法だ
そして敵の召喚による代償。呪縛や毒で動きが鈍るなら観察し易くて良し
仮に出血するなら……そりゃ当然、体の一番脆い箇所からだよなァ!?
逆鱗を探り当てたなら銃を抜き、【クイックドロウ】の【スナイパー】じみた射撃をブチ込む!
悪ィな、生憎と勇者って柄じゃねェんだ。
俺達はテメエにとっての絶望。
終わりなき終わりの世の、そのまた《終焉》だ!
エンジ・カラカ
アァ……頭の悪そうなヤツらがいーっぱい。
いっぱいいるねェ
賢い君、賢い君、どーする?どーしよ。
うんうん、そうしよう。
おびき寄せで頭の悪そうな配下達を引き受ける。
まとめてやろうやろう
あのでかい角のヤツは強そう。
アイツがボスか
弱点はー、ココからじゃあ分からないなァ……。
アァ、分かってるサ
コレは弱そうなヤツラの相手だろう?
属性攻撃に毒使いは賢い君の毒
それをたーっぷりばら撒いて
徐々に動けなくする
コレはおびき寄せて支援に徹するンだ
でかいのは誰かがヤッてくれるはず
なんたって、オオカミの足は自慢の足ー。
アァ……おびき寄せてる間に毒沼を作っておくのもイイなァ…。
でかいヤツも入ればイイ
たーのしいなァ……。
ナイ・デス
侮れはしない……ですが。完全な帝竜化は、まだ
倒せない道理は、ない、ですね
……私は、勇者のパートナー。臆せず、挑みます!
【怪力ダッシュ】で素早く動き
【第六感見切り】避け
【鎧無視攻撃】鎧の手首足首から刃をだして、鎧無視。防御力無視な斬撃を放つ
隕石は……仲間いれば、我が身犠牲に【かばう】
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】本体無事なら、そのうち再生する
どんな痛みも死には繋がらない。痛みはあるけれど、怯まない
身体、物理的に動かなくても【念動力】で無理やり動かして
世界を、終わらせは、しません
そんな時間は、いらない。時間は、未来へ進む為のもの、です!
【生命力吸収】する光を、解き放つ
光(『クラウモノ』)が、取り返す
トリテレイア・ゼロナイン
帝竜全てを討ち果たしたとしても、この地で孵化する災厄を残してはおけません
A&Wの平穏を護る為、騎士として後顧の憂い、断たせていただきます
発射される隕石の只一点をUCを用いてワイヤーアンカーを接続した大盾を●怪力で鉄球宜しく●投擲●盾受けし相殺か粉砕
余波で装甲が損傷しましたか…ですが!
物資収納スペース内の煙幕手榴弾を投擲、●目潰し
すかさず全格納銃器での●だまし討ちで追撃
視界不良の状態で襲い来る攻撃
咄嗟に逆鱗をかばう防御態勢を取る筈
それをマルチセンサーでの熱源●情報収集で●見切り逆鱗の所在看破
スラスターでの●スライディング移動で接近
大地を●踏みつけ跳躍
この一瞬で!
UCでの剣の一閃で逆鱗のみを貫き
シリン・カービン
【SPD】
配下の悪魔達との戦闘は最小限。
残像によるフェイントを駆使して間をすり抜け、
アークデーモンの下へ急ぎます。
早い段階で仕掛けたいことがあるので。
逆鱗は恐らく目でしょう。
【賢者の影】を用いて確認します。
魔神の軍勢の攻撃を躱しながら影を伸ばし、
アークデーモンに問いかけます。
「あなたの目は逆鱗ですね?」
本当に目が逆鱗だった場合。
真実を答えればダメージは有りませんが、
逆鱗確定として目に攻撃を集中します。
嘘を言えば影がダメージを与えます。
逆鱗が目以外の場合、質問を変えて部位を絞り込みます。
結果は他の猟兵の目にも触れるでしょう。
早い段階で逆鱗の位置が確定出来れば、戦い易くなるはず。
帝竜の髄液、入手。
●
大気を裂く鋭い音は、おしゃべりはそこまでだと突きつけるが如く。
高空、白煙の尾を引きながら現れた無数の光が、仮初の王と向き合う猟兵らの頭上を飛び越えて地へと突き立った。
一瞬の閃光。橙の爆炎が幾多にも咲き、枯れ、そして黒く散らす。舞い躍る悪魔の血肉が弾む前から物語の外へと消し飛んでゆく。
それが、始まりだった。
「勇者は。守るものが、多いんです」
目まぐるしく変わる色にも染まらぬナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)が言葉とともに一歩前へ出た。それは独り言のように静かな、しかし、踏み出した足と同じだけ重みあるもの。
誰より身近な勇者がどれほどの痛みを乗り越えて戦い続け、帝竜どもを屠ってきたかを想う。
「だから、私が。勇者のパートナーが、いるんです」
彼女にこんなまがいものの相手を――"もう一度"などさせない。自分が、決して。ぐ、と沈ませたナイの身が跳ねるように駆けだした。
枯れ草を焦がす炎から起き上がり始める悪魔は、そのちいさな勇士に擦れ違い様に斬り飛ばされる。ナイが鎧に仕込み両手に揮う黒剣はちょうど彼らの膝ほどの高さに沈み、爆風に削られていた骨ごと肉を浚って。
「いち、に、アァ……頭の悪そうなヤツらがいーっぱい。いっぱいいるねェ」
賢い君、今日はどーする? どーしよ。うんうん、そうしよう。
這い蹲る有象無象をホップステップで踏み躙りながらはためくフードの奥、手元へ嗤いかけるエンジ・カラカ(六月・f06959)が身を低くした餓狼の如き走りで続く。否、もうひとり。シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)もまた、吹き抜ける一陣の風と化していた。
目指すは一段と罅の広がった巨大卵のみ。
策がある。逆鱗の秘密を急ぎ解き明かさんと、ぱちんとホルダーから抜いて閃かせる精霊猟刀は寄り付く爪を滑らすように受け流して置き去りにする。
煌々と輝く魔性の金と確かに眼差しが絡んだ。
常人ならば背筋を凍らせるであろうそれから、シリンは瞳を逸らさない。よく研がれたナイフに似てすうと細める双つ緑で、待っていろと、そう告げるのだ。
「初撃は上々ですね。――それでは。改めて歓迎、していただきましょうか」
先の爆撃の主、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は成果のほどを見下ろしてひとつ満足げに頷けば翼で宙を打ち、加速度を上げて焦げ臭い黒煙の中へ舞い込む。敵影を見失った悪魔が羽音に顔を上げたとき、そこにあるのは天使が携えるには随分と物々しい斧槍の切っ先。
すぱん、と、野菜を割るような軽い音だけ残して敵を断ち、同時にユニットから一斉射出されるマイクロミサイルは意志持つ蛇よろしく複雑な雷道を描いて翼人とともに自在に空を駆け巡る。
ときに離れ、ときに互いにかち合いより大きな爆発を齎して。
轟音を打ち上げながら凛々しく往くフランチェスカを、そしてなにより勇者への想いを口にしたナイを、バル・マスケレード(エンドブリンガー・f10010)はやや後方から見送っていた。
(「冒険者ってのは揃いも揃って」)
マスクの下でさざめく感情を宥める――或いは、分かっていると告げるみたく手を触れたバルはフードの端を引き下げると、指に引っ掛けくるり抜いたムーンダガーの煌めきを逆手に掴んで悪魔へ突き立てる。
視野外からの接近、視えているのはひとつではないから。
エンディングブレイク。"宿主"が備え持つ力は未来をも見通す。
「役不足なんだよ。一昨日来やがれ」
ぐらついたそれを鋭く蹴りつけどっ、と後方へ倒れた巨体が立てる土埃に紛れるようにして、ひとりとひとつも己の戦いのため進むのだ。勇者になどなり得なくとも、いつか抱いた憧憬のまま。
ひととき炎の失せた地を代わりに彩るは、エンジの放った赤い糸。
逆鱗の話を耳にしてすぐ、賢い狼は己の演ずべき役割を理解していた。躍るみたいに飛び込んだ先、群れて犇めく悪鬼だらけの人波は牢獄の中、命懸けの追いかけっこに興ずるかの感覚だ。――つまりは、懐かしき。
「ホラ、ほら。ソレじゃあコレはつかまらない! つかまるのはどんなヤツからか知ってるカ?」
知らない? しらない。だったら教えてあげようねェ。
目深に被った襤褸切れの作り出す陰影が、嗤う口元に口裂け狼を錯覚させる。いいや、はたして真実錯覚、であったろうか。結んで、結んで、絡め取った悪魔たちを前にぐわんと咆えた獣の一声は大気を振るえさせ、縛られ放題で耳の塞ぎようもない頭いくつかを音の圧で吹き飛ばす。
ばしゃばしゃとぬかるむ赤を水溜まりめいて踏み荒らし、襤褸を似合いの彩に染め上げ、尚も欲して指を振るう。繋がる愛しの赤が望むから。垂れ落ちる毒で汚された沼は、それをエンジが蹴り上げることで四方へ飛び散り悪魔たちの目を冒す。
アアァァ、オオォォォ――――。
苦悶の叫びが伝播してゆく最中を掻い潜ってゆく面々、いつしか空には暗色の円が描かれていた。
まるで地獄とを結ぶゲートが開かれたかの如く、突如として姿を見せるは巨大な星の欠片。アークデーモンの喚び出した隕石、これこそがふたつめの"歓迎"ということなのだろう。
『我を止める、と。ハッ。貴様らはいつの世もそうして夢を見、夢に潰えるのだな』
精々盛り上げてみせよ。響くは嘲りの声。
己が軍勢が屠られゆく様を歯牙にもかけず、高みから振り下ろす鉄槌――しかし。
「此方の台詞ですよ」
脅威が誰の頭上へ届くよりも早く、迅く、振るわれたより堅き誓いがあった。
それは騎士の誓いだ。機械が唯ひとつ生まれ持った、譲れぬ願い。討つべきモノのみを討ち、護るべきものを護る――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が地より空へ放り投げた大盾こそが大岩を粉砕する。
ごお、と、諸共綻び始める盾。限界を迎え燃えて千切れ飛ぶアンカーが衝撃の烈しさを物語っても、前へ。
出力を全開にした脚部スラスターで己よりちいさき者たちの前へと躍り出たウォーマシンは、その身をも第二の盾として巻き起こる余波を引き受けた。
「災厄よ。この地で孵化するというのならば、何度だってその夢を終わらせて差し上げましょう」
帝竜であれ魔王であれ、物語の結末は変わらない。変えさせない。
トリテレイアの記録にある御伽噺が――そして、記憶してゆく日々が正しく幸いであるように。
拳大では済まない礫がその装甲に傷をつけてゆく。熱で引き剥がされる塗装は、もしも人の肌であったなら骨まで露出させていただろう。「だが」と機械騎士は火花を上げて軋む腕を伸ばす。
露わとなった腕部スペースから投げ打つ煙幕手榴弾が地で跳ねた瞬間に、すべての搭載銃器をがしゃりと展開するのだ。
「――さあ」
「ええ。この好機、無駄になどしません!」
再び立ち込める煙のうち、守られたひとりであるフランチェスカは器用に焼け付く風を乗りこなし同様に"悪"へ砲身を向ける。
地と空、並ぶ数多の銃口は狩人の眼のように。ひとたびだけカッと光を迸らせて、真っ直ぐにその力を放出した。
銃撃の嵐と並走するかたちで飛び出す影がひとつ。
ナイもまた、その幼い身体に誰かの盾になれる大きな勇気を秘めていた。隕石の欠片たちを刃を以て迎え撃った手足は今や穴だらけで、駆ける足取りに流れ落つ血の灼熱感は絶え間ない。ヤドリガミだ。本体が無事である限りは本物の死を迎えることのない、そんな。
けれど――痛みは知っている。
(「こんなもの、怖くない」)
知るからこそ止まらない。
迫る眼前、脈打つ卵に喰らいついては爆ぜる銃弾砲弾たちに続く。散って咲く、花火のようだ。愛すべき、平和な地で見上げたその輝きを思い返しながら、口元に淡く笑みを浮かべるカミは腕を――薙ぐ。
硝子ドームが崩れ落ちるように。
無数の罅に装飾された卵はどくんと跳ねる鼓動を最後にして、砕け散る。
どろどろと零れ出す夥しい量の液体が波となって広がる中、煙を裂いて突き出たのは太い一本の腕であった。
『では、みっつめだ。勇者の友』
「っ、 ぁ」
速い。 咄嗟に身を捻って対応するナイの半身が五本指の筋を引いて縦に裂ける。
傾く、からだを気力で支え噴き出す己の血ごと刻む風に繰り出す黒剣はそれでも力強く、硬い鱗に覆われた爪と二度目には斬り結んだ。
弾みで大きく弾き飛ばされる少年が、次の瞬間、灼ける地面ですり下ろされることはない。
かねてからそこに在った影の如く。とっ、と合間に降り立った緑の装束の娘が、随分と軽くなってしまったその身を抱き留めて支えた。
「無茶をしますね。ですが、おかげで仕込めました」
注ぐ眼差しは柔らかく――シリンは、それから足元にある本物の影を大きく揺らがせて"始めることにした"。
ユーベルコード。呼応してアークデーモンの背後より伸び上がる賢者の影が、清き森に住まう鳥獣の姿を成して牙を立てる。
「答えていただきます。あなたの目は、逆鱗ですね?」
真実を口にしたのなら解放を。
虚偽を口にしたのなら痛みを。
――いずれにせよそれらすべては猟兵の糧となる、シリンの策であった。
『ほう? 我に斯様な欠落があるとでも?』
試してみろ、と魔神は牙を鳴らして嗤う。竜として生まれたてのこの悪は、己の全能を真実疑ってはいないらしい。纏わる影を六本の腕すべてで握り潰せば、先に広がった血の海より己が軍勢を呼び戻さんと念を飛ばす。
だが。 在るものを知らぬとは、それ自体が大きな欠落である。
「んじゃァ、存分に試させてもらうぜ」
笑い混じりの声が響いて。輪郭の朧な一発の銃弾が、その目元へ突き進む。
バルの射撃だ。バルは猟兵たちが悪魔の群れを相手取っている間から今まで、仮面である己自身と宿主の未来視、ふたつの視界で逆鱗を探り続けていた。
ナイの斬撃を弾いた腕ではない。
影に喰らいつかれた背でもない。
選択肢は徐々に狭まる。そして、アークデーモンが"代償"を支払うことで配下を召喚するその一動。現在では未だ輝くばかりの金瞳の奥に、赤き濁りが薄らと滲む未来を見逃しはしなかった。
もしも出血するならば、当然体の一番脆い箇所からだろう――己の勘を信じ。
『無駄なことを』
鞭のようにしなる竜尾の一振りが弾丸を払い落す。
しかしあまりに接近を許しすぎた。そこに込められた魔力によって、厚い鱗が数枚干乾びた風に崩れ落ちる。
「ヒューウ、良いのか? 庇っちまって、テメエの弱みを認めたことになんぞ?」
「また答えに近付きましたね。少なくとも尾でもない、と」
「カカッ! そういうこった」
早くも次なる影を巡らせるエルフの娘の隣、ヒーローマスクは悪魔より悪魔らしく笑ってみせるのだ。
ごぼりと泡の爆ぜる音。
『――……ふん』
アークデーモンの周囲の大地が盛り上がったかと思えば、いくつもの手が突き出した。それは広がる血の海に肉付けられるように厚みを増し、赤黒く尖った爪で各々身を起こす。
先ほどまで卵の周辺を護っていたものよりも大きな身体を持つ悪魔たち。主の敵へ立ち塞がるべく一歩前へと踏み出したその足首へ、同色の血の海に浸りきって見えなくなっていた赤糸が絡むもほぼ同時。
ぎゅうと肉まで割って劇毒を注ぐ。まるで獣獲りの罠だ。
「頭が悪い。そういうところだよ、なァ」
だが、捕らえる側こそ獣。エンジの囁きはひどく近くで響いたものと錯覚したろう、まるで糸そのものが揶揄するみたく――そして、"堕ちる"。
地獄へ逆戻り! 瞬く間に膝から下を融解させられた悪魔の数体がどしゃりと飛沫を上げ血だまりに沈んだとき、異変を察したアークデーモンは翼を広げ空へ逃れる。
『貴様』
「怒った? イイねェ、追っかけっこは歓迎ダ」
からからと笑い返すエンジは恐怖など疾うに置いてきた。何処へ置いてきたかも怪しい。暗く、湿った、薄汚い――本物の底で見上げる光に比べたなら、あーあこの月はどうにも子供騙しみたいで。
ぐおん、
撃ち込まれる尾の一打に飛び退りがてら左手を前へ、薬指に刻まれた血の輪っかを広げるエンジ。千切れそうで永劫千切れない、この具合が丁度良い。
「でも、まだコレが鬼」
腕を一振り。ばあっと宙へ飛び散る鮮血を追いかけて襲う賢い君の毒糸束が、アークデーモンを殴り返した。痛みのほどは大したことがないだろう。 それだって、いまは、まだ。
魔神の爪が忌々しげに縛めを切り裂いたとき、その背に襲い掛かるのは膨大な光の束だ。
オーバード・フルバーニア、イグニッション。舞い落つ白き羽根はまぼろしなどではなく。
「穿ち、裂きませ……! ハイペリオン――ディザスタァァァッッ!!」
より正確には、光と見えるほどに加速を乗せた白銀の穂先。ヴァルフレイア・ハルバードを抱くフランチェスカは空は己の戦場と、全体重と推進力をかけた一撃を叩き込む!
初めから逆鱗の位置を瞳であると推察していたその狙いに迷いはない。そして、カウンターに翳された腕へ対する恐れも。
『がアッ』
「ぐ、……ううあああ!」
押し、進める。腹を貫く爪に大きく広げた両翼は朱に染まれど。なに、先刻の借りを返すには良いだろう。
滲む瞳に確かに信を浮かべ――ぐらりと傾く翼人の下方より躍り出るトリテレイアがいるのだから。
「騎士として、引き継ぎ、断たせていただきます」
スラスターが巻き上げる血の海が目元を押さえるアークデーモンの視界を更に眩ませる。その、一瞬だ。たった一瞬にすべてを懸けるふたつめの槍は、踏みしめた地を蹴り上げて儀式剣を閃かせた。
数々の御伽噺を護り抜いてきた騎士道の象徴が、悪の爪を割り。
一閃、
機械騎士の精密なる演算が導き出した答えも、違わず魔神の逆鱗へと刻み込まれる。
『――、――――ッ羽虫どもが!』
「その羽虫からの改めての質問なのだけれど」
いいでしょうか?
外れへと撃ち出すアンカーに己を引かせ、跳ね除けんとす腕よりフランチェスカを抱え急速離脱を果たしたトリテレイアと入れ替わりすとんと落ちた声はシリン。
"あなたの目は逆鱗ですね"。
刃物同然言い切ってやったそれは、最早問いの形など為していない。
そうだ。
帝竜に至れぬ悪魔は身を以て知ってしまったのだ。得た筈の強大なる力に、見過ごせぬ欠けがあるということ。沈黙は、虚偽だ。纏わりつく影の牙を受け堅牢なる鱗が一枚、また一枚と剥ぎ落される。
だが――。
『だが――、それがどうした』
いずれにせよ群れる猟兵に敵う己ではないと歪んだ笑みを覗かせるアークデーモン。今だって視界は死屍累々の絶景ではないか! 血濡れた有翼の乙女、ボロボロの機兵、真っ先に転がした白い小僧も――――、
はたと。 そして、そこで漸く気付く。
小僧ことナイの姿は既に転がってなどいない事実を。
「……世界を、終わらせは、しません。 そんな時間は、いらない」
眩いばかりの光が、深く刻まれた裂け目からあたたかな彩やかさで零れていた。
ナイは二本足で地を踏みしめながらきっと顔を上げる。血よりも紅き双眸が静かに見開かれ、すべての光を解き放った。
「時間は、未来へ進む為のもの、です!」
くらうもの。
取り戻す、平和を。未来を。
『なあぁァァあア!?』
――闇色の魔神の身を光芒が劈く。竜の鱗でも防ぎ切れぬそれは身の内を直接灼かれるかの痛みをアークデーモンへ齎して、それこそ羽虫のように地へと墜とさせた。
だからこそ足音も高らかにバルは笑い飛ばした。
「勇者様の仲間を見誤るヤツの末路ってのは、どうしてこうも一本筋かね」
不思議には思わねェか? 突きつける銃口から既に蒸気は放たれている。悪が態勢を整えるよりも迅く翔け、次こそ血濡れ金のひとつへ吸い込まれた魔弾は数分前のヴィジョン通りの未来を掴み取って赤を濃くする。
まァしかし、歓迎だとか喜んでたとこ悪ィな、と。
言語化し難い叫びをBGMにバルは、こちとら生憎と勇者って柄じゃねェんだ。そう吐き捨てて次弾を込めた。
俺達はテメエにとっての絶望。
「終わりなき終わりの世の、そのまた《終焉》だ!」
――暴威、鳴り止む光とはまるで真逆。
それでいて、同じ未来を切り開くための力が迸る。
大成功
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朱酉・逢真
うへぇ、キッツいなァこりゃ。とはいえ猟兵の外まで被害がいくンなら、俺も気張らんとだ。なアにが薫り高き死と破滅だい。死にも破滅にもにおいなんざねえってんだ。趣味を否定はしねえがよ。
俺自身がドンパチやるにゃあ、この《宿》ァどうにも向いてねえ。なもんで、俺ァ補助にまわるぜ。ちょいと大技使うから、眷属たちよ湧き出して守ってくんな。ついでに周囲に権能で猛毒の結界を張っとくぜ。ボスはともかく、悪魔くれぇなら溶かしてやらァ。
呼び出すは俺の削られた権能。天よ燃えろ時よゆがめ。いまから76秒間だけ、この場の神は俺だ。悪魔の軍勢ぜんぶ溶かし滅してやる。ほかのやつらの道を作る。終わったら俺は動けなくなっから頼むぜ。
ヘンペル・トリックボックス
ふむ、この戦場、放っておくには余りに危険──早急に手を打つ必要がありますな。えぇ、紳士的に……!
術式比べも望むところではありますが、今回は大火力を叩き込むより一点突破が良。手持ちの『木行歳星符』で気流を操作し、砂塵に紛れながら【目立たない】ようにまずは観察、観察、観察です。【視力】を活かして戦闘中の敵の挙動を【見切り】、逆鱗の位置を【情報収集】。
判明次第、砂塵によるチャフをアークデーモンの周囲に展開して【暗殺】に移行。『仕込み杖』に【全力魔法】でありったけの【破魔】属性を付与し、一気呵成の【早業】で急所にUCを放ちます。
泣いても笑っても一撃離脱、状況を把握される前に砂塵へ姿を消すとしましょう。
クシナ・イリオム
アドリブ歓迎
熱烈な歓迎をどうも
でも、せっかくのところ悪いけど私は勇者じゃなくて暗殺者でね
この物語に暗澹さも勇猛さも必要ないよ
私がお前を終わらせる、それだけだ
【暗殺技能・魔力霊身変化】で悪魔の軍勢をすり抜け、敵に肉薄したところで実体化
悪魔の軍勢がアークデーモンのもとに戻ってくるまでの時間を使って暗殺妖精装備・竜の牙で敵を【暗殺】するよ
…これは内部から敵を破壊する暗器
あんたの弱点がどこだろうと関係ない
敵の肉弾攻撃は敵の身体から距離を離さないように回避して魔力を送り込むのに専念
いずれ私に致命打が届くかもしれないけど…それまでのわずかな時間で全身くまなく魔力を回し、お前の弱点までたどり着いてみせる…!
須藤・莉亜
「悪魔の血はそんなに吸ってないんだよねぇ、僕。」
先ずは前菜をしっかり味わって、その後にメインかな?
暴食蝙蝠のUCを発動し、身体を無数の蝙蝠に変える。先ずは配下の悪魔の血を頂きにかかるとしようか。
悪魔の血を奪い、それを元に蝙蝠の群れを更に増やしメインの敵さんに備える。
メインの敵さんには全方位から噛み付き、逆鱗の位置を探してみよう。
少しでも嫌がる素振りが見えたら、その周辺を噛み付きまくって更に位置を絞りにかかるかな。
敵さんの攻撃で蝙蝠の数が減ってきたら、配下の悪魔の血を吸いに行き補充するか事にしよう。
●
斯くして巨悪の卵は不完全なかたちで砕かれた。
後に続く者たちも、アークデーモンの身に刻まれた傷の程からその逆鱗を探ることが幾分容易になったろう。
尾を引く銃声を追うように空を翔るクシナ・イリオム(元・イリオム教団9班第4暗殺妖精・f00920)の羽音はごく密かなものだった。
神の祈りに喚ばわれたのだろう、行く手には悪魔どもが湧き出始める。
何度も見てきた光景によく似ていた。邪なるものを崇め、従い、意志なき力を揮う――潰えるべき、闇そのもの。
(「お礼を言ってあげなくっちゃな」)
――熱烈な歓迎をどうも。
でも、せっかくのところ悪いけど。
「私も勇者じゃなくて暗殺者でね。この物語に暗澹さも勇猛さも必要ないよ」
私がお前を終わらせる、それだけだ。 感情の浮かぬ顔色のうちで沸々と高めてゆく魔力は手にする竜の牙を先ずぼおと透けさせ、すぐにクシナ本人をも景色の中へと溶け込ませた。
暗殺技能の一・魔力霊身変化。
ただでさえちいさな妖精の身である。ひとたび見失ってしまえばそれまで、悪魔の意識はクシナから他――この戦場にあって違和を覚えるほど、ゆらりと散歩じみた足取りのふたつへ向けられた。
「なアにが薫り高き死と破滅だい。死にも破滅にもにおいなんざねえってんだ、趣味を否定はしねえがよ」
「もう血だらけだ。もったいない」
くらり? ああ、きっとそちらの方が相応しかろう。
朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)に須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)。なにせ見ての通り手ぶらなのだ。ぐるうっと見渡して吐く溜め息は似ていても、その指すところはまるで違う。
「なンだ、そっちはそっちでもうから腹減りかい。ぶっ倒れそうでまア」
「うん。結構働いてきたからさ、今ならぜーんぶ美味しく戴けそう」
――会話の不穏さに気付けたのならば、数秒延びる寿命もあったろうに。
程好い贄の気配だけ嗅ぎ取り嬉々と駆け来る悪魔へも、まったく、と。彼らの主へ向けるものと同様の呆れを隠さぬ逢真の羽織が、掴まれた端からぶわりと燃え上がる。 長い三つ編みが炎に一層黒々揺れて。
「ま、猟兵の外まで被害がいくンなら俺も気張らにゃならねえや。そこな兄さんと一緒に暫く相手してやってくんな」
なにもいない筈の空間へと当然のように声を掛けた。
否。 飛び散る火の粉が初めにいのちを作り上げたものと同じ、ぐずぐずと溢れ出る鳥獣の群れがある。空にハゲタカ、地にジャッカル。ともにひと鳴き、くり貫く嘴が目玉へ突き立てば、不心得者の腕は牙に噛み千切られる。
おまけで張られた猛毒の結界が滓をも排すれば、なるほど痕跡も残さない。
これにおっと、と眠たげな瞳を瞬いたのは莉亜。
「僕も始めないとなぁ」
オードブルがなくなってしまう――――呟くダンピールの輪郭が直後ぱ、と、解けて舞い散った。
空にもうひとつ黒を足そう。グラトニーファングズ、無数の蝙蝠に姿を変えて。
悪魔たちが主より施される筈であった超強化は半端なもので終わっていた。あちらでも次なる問題が生じたのだろう、とはいえ合流を図るにはこの場は地獄絵図が過ぎる。
それはざあ、ざあ吹き荒ぶ嵐だ。
何れの群れも個体ごとの力は捻り潰せる程だというのに、如何せん数が多い。使いこなすふたりの猟兵は当然そんなこと織り込み済みであった。なんなら口へ目へ飛び込んで死と引き換えに死を齎せよと、足し引き上手で割り切り上手。
(「どうせ最後には全部僕に返ってくるんだし」)
莉亜は血を吸い上げてただの肉になった悪魔を置き去りに、次へ。次へ次へ次へとグルメの旅を続ける。これはすこししょっぱい。こっちは甘い。そっちはどう? 吸血を繰り返すほどに数を増す蝙蝠たちは霧を連れ、先行くクシナの後を追ってゆく。
その頃には逢真の"暫く"も頃合い。
羽織の端から端まですっかり燃え広がった炎は黒く、今や形を変えさせている。逢真本人だって同様だ。獣でも、人でもこの世の何者でもない。境目に立つ逢真はそれならば――、
「いまから七十六秒間だけ、この場の神は俺だ」
三ツ目の、神。
凶星の異面。嘗て削られた必滅の権能が天を焦がして時を歪める。食い損ねも食いかけも己が眷属も一切合切、どろりと溶けて絶えてゆく。定められた終わりへ早送りする様相で、でろでろ、ぼとぼと。
「ってェわけで、隠れん坊も程々にしてパパッと仕上げてきてくれよ」
「おや、これはこれは」
此度の声も眷属?
――ではなく、語気に笑いを滲ませるヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)。いつしか、本当にいつしかこの場に"紛れ込んでいた"ワインレッドの男は手にした符を団扇のようにひらつかせ軽く会釈する。
「ご挨拶が遅れましたか」
気流操作を可能とする木行歳星符。
これにより巻き起こした砂塵に身を潜め安全圏からアークデーモンの観察を続けていたというわけだ。真っ向からの術式比べも望むところであったが、観察、観察。人間に対してもそうであるように、何かを良く見るということは大切であるとヘンペルは識る。
例えば――癖。回避へと移る一拍前に流れる目線。
六本の腕の可動域。話に聞く逆鱗なんてのは、そう、ああやって喰らいつき続ける者がいてこそ簡単になる答え。
視線の先では。
「それだけ腕があって妖精ひとり落とせないなんてね」
アークデーモンと対峙したなら手のひらに収まるどころか瞼へも入り込めそうなほどちいさなフェアリー、クシナが戦い続けている。
悪魔召喚へ意識を割く隙をついての肉薄、そこからの実体化は奇襲として功を奏していた。幸いにして配下は生まれる端から後方でお片付けされていたのだから尚の事、だ。
出会い頭のお礼は牙の一閃にて。
――殺しにきたよ、冷ややか囁く声にみっつの金がバラバラに動く様を間近に見た。
妖精大の得物と侮るなかれ。そのとき埋めた刃は、注ぐ魔力のあるがままに鱗の欠けた魔神のうちで大きく爆ぜたのだ。弾みは迎える拳の狙いを乱すほど、鮮烈な殺意を研いで。
以来、対格差と身に染み付いた暗殺術を駆使し翻弄している。が、クシナとて無傷とはいかない。当てずっぽうの拳が突風を引き起こすサイズ感なのだ、抗う羽ばたきに薄き翅は欠けてゆき、節々が悲鳴を上げる。
『次が終わりだ、猟兵』
(「いいや――まだ出来る」)
まだ、戦える。まだ戦っていたい、目指す安息のため、今は自分自身の意志で!
静かな覚悟は湖面のような瞳に宿る。逆鱗ならば既に見抜いていた。 そして、同じく見出したその一点を突くため音も無く迫る嵐の存在も。
さあああああ、と。
霧雨めいた細やかさの砂塵が一帯を撫で、クシナの姿をも瞬間、包み隠した。
『小細工を!』
魔神の拳が虚空を打つ。打って、突き出した腕の先、いいや上に、跳ねる砂粒とともに何かの重みを感じたときにはもう遅い。 視界一杯、嵐が運んだものは、
「――手品と言っていただきたいですな」
秘剣・影縫い。分厚い腕を綱渡りの足場とするならばあまりに手慣れた足運びで、一息に詰めたヘンペルが小洒落た仕込み杖の鯉口を切っていた。
魔なるものを祓う白銀の冴え渡り。 鱗の継ぎ目に角度を合わせ、見切った通りに手首を捻り。
横薙ぎの剣閃が合間の肌ごと並んだ金眼ふたつをまとめて裂き、退いたと見せかけ追撃のかたちで舞い込んだクシナの牙がその損傷を押し広げる。
「終わりはお前だ」
『グッ、ギ、イィィッ』
ばくん!
ふたりへ喰らいつかんとぞろり並んだアークデーモンの歯牙が縦に割れた。
間近で味わう絶叫とは鼓膜にも、この歳だ、きっと健康にだって良くない。こわごわと剽軽に示すように眉を上げ下げしたヘンペルは木行歳星符を唇に片手に杖、もう片手に傷だらけのクシナを――あくまで紳士的に――掴み取り、呼び込む砂塵へ飛び降りた。
「そへへは、よほしくろうそ」
じゃりりと砂ばかり食むこととなった魔神の怒気といえば背に刺さらんばかり! しかし仕掛け人は胡散臭く笑むのみで、入れ替わりに地から吹き上がる蝙蝠の群れへひとつ、お茶目なウインクなぞ飛ばして。
ヘンペルら狙い、荒れて迸る悪魔の闇魔法を散開して躱す曲芸を見せるそれは莉亜。やれやれ面倒なタイミングで来ちゃったなぁなんて思いながら、しかし漸くのメインディッシュを前に牙は疼く。
真新しい、ひときわ目立つ鮮血を零す目元は格別美味そうだ。
二手に分けた群れの一方を帯状に広げ敵を囲うかたちを取れば、どうしたって防御側の意識は分散する。先に攻撃に出た者たちが竜鱗のいくつかを剥がしておいてくれたことが尚、良かった。逆鱗からでなくとも血が吸える、最早目的の大部分は達成したといってもいい。
(「でもまぁ、此処まで来たし一応ね」)
血混じりの霧だ。
アークデーモンと次々散らされゆく蝙蝠とを超自然的に発生した濃霧が包み込む。めかくし、ごまかし、にぎやかしで、全方位一斉に羽音を鳴らせばさて。どれが最も間近の脅威か、分かる頃には牙の餌食。
直後破裂する我が身と引き換え、深々突き立った蝙蝠たちが目玉にもまた舌鼓を打った。
『フッ!』
減っては増え、増えては減り。かぶりを振って残る一匹をついに捉えた――かに見えた魔神の五本指が、そのとき前触れなく"溶ける"。
ざりざり引き摺る足音は眼下から。
「そらな、ひとつもにおわねえだろ」
ひとの器を超えた権能の代償として、吐いた血で口元はべったり真っ赤。それきりゆっくり崩れ落ちる逢真はけれども、最後まで沈まぬ三日月笑いを浮かべていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
リグ・アシュリーズ
あら、高位の悪魔なんて言っても意外とおめめは可愛いのね?
なんて軽口を叩きつつ、黒剣で応戦するわ!
逆鱗の位置は分からずとも、敵の動作から目星をつけられないかしら?
降り注ぐ隕石を見切って直撃をかわし、
そのまま粉塵に身を隠しながら岩を有効活用。
剣で砕いて回転斬りで鋭い破片を振りまき、砂礫の雨ならぬ隕石の雨。
大技撃って安心したかしら?
不意打ちで敵が防御姿勢を取ったら、無意識に庇うそぶりがないかを観察。
動体視力はそれなりに自信あるわ。
もしかして、その綺麗な目かしら?それとも――。
剣をひっさげダッシュ、そのまま鋭く斬り抜けるわ。
あいにく、勇者なんて柄じゃないの。
お行儀悪く、力ずくで掴み取らせてもらうわよ!
ニコラス・エスクード
竜に悪魔に魔王の誕生か
英雄譚か、はたまた御伽噺の類だな
なればそれらを打倒し、語り継ぐも一興か
物語りとは言い得て妙だろう
終末の世など唯の一つで事足りる
この双眸に焼き付き離れぬ
我が心底にて煮え滾る
嗚呼、唯の一つとて許されぬのだ
その野望を断ち切るに否などありはしない
矛足りえる者は多いだろう
なれば矛を届かせるが我が身の有り様だ
彼奴が軍勢生み出すのであれば
数には数にて当たるが良いだろう
我が身は盾、故に写し身も正しく
錬成カミヤドリにて築いた盾の群れと共に
悪魔の軍勢を抑えよう
彼奴が朽ちるまで耐えれば重畳
我が身尽きるが先であれば
この身の報復を全て乗せ、
最後の一刃を呉れてやろう
コノハ・ライゼ
イイわね、丁度悪魔のひとつでも欲しいと思ってたの
笑みひとつ、右人差し指の「Cerulean」に口付け槍の貌へと変え
配下は*マヒ攻撃乗せた*範囲攻撃で牽制するわネ
でもメインディッシュはあくまでアークデーモン
魔法陣には要注意カシラ
攻撃は動き*見切り致命傷避け、かすり傷なら敢えて受け*激痛耐性で凌いでくわ
弱点……分かり易くその金の目かしらネ、イイ彩だ
流れる血を槍へ与え【紅牙】の餌に、*カウンターで懐へ踏み込み狙ってくヨ
当てが外れても*情報収集と言動から読む*読心術でアタリ探ってきましょ
*2回攻撃で傷口をえぐるのを繰り返し、しっかり*捕食しこの腹に収めてアゲル
ついでに*生命力吸収で傷の分も補っとくねぇ
リオネル・エコーズ
魔王が生まれる場面ってこんな感じなのかな
…帝竜候補だったし間違ってもないか
きっと向こうからも俺がよく見える
前フリ無のUCや途中墜落防止の為、
全身をオーラ防御・呪詛耐性で守りながら
軌道変えつつボスがよく見える所まで減速無の飛翔を
邪魔する配下がいれば魔鍵で防御・精神攻撃
大本命のボスがはっきり見えたら
光属性と魔法を全力で籠めた流星を全方位から
でも一度に全部は贅沢過ぎ
まずは半分
どこを庇う?
さり気ない動作も見逃さないよう目を凝らす
判ればOrison使ってシンフォニアらしく大々的に広めよう
上で留めてた残りの流星も全部あげるよ
闇の世界っていうのは見慣れてる
だからこそ
この世界がそういうものに塗れるのは嫌なんだ
●
『……クク、くハハハハ! ここまでか? 次の勇者はどうした』
刻まれ、焦がされ、溶かされて。碌に役目を果たせなくなった指のいくつかを握り潰し。
やがてアークデーモンが上げたのは、勝ち誇るかの大笑だった。しかし拭えぬ苛立ちと、一種の、焦り――だろうか。それらは爪で己の身を掻き裂くという行為に現れる。
木を隠すなら森の中、「狙い目です」と示す風にひときわ赤黒く濁らされた逆鱗を暈すという魂胆。
その心理こそが追い込まれ始めたものの側とも認めずに、さあ来ぬのならばと、高みから振り下ろす同色の拳が倒れ伏したひとの身を叩き潰さんとする。
――――だが。
『……ほう?』
ぎちり、と。地を抉りながら飛び来て二者の間に突き刺さった白妙の円盾がひとつ。
そして、
「勇者なんて柄じゃないけどね、 」
「ちょうど悪魔のひとつでも欲しいと思ってたの」
続けざまに舞い込むが刃ふたつ。
リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)とコノハ・ライゼ(空々・f03130)はそれぞれの得物を交錯させて不躾な指を撥ね飛ばした。
結果、びしゃりと散ることになったのはオブリビオンの血だ。
『カアッ!』
呼気を荒げ紡がれる魔術が炸裂する一拍前に負傷者を掴み飛び退くふたりへの余波を、揺るぎなく押し出された盾が防ぐ。投擲した"己自身"を今一度構え直したニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)が、其処にいた。
竜に悪魔に魔王の誕生。英雄譚か、はたまた御伽噺の類――ならばそれらを打倒し語り継ぐも一興と。
「どうした。そこまでか」
物語りとは言い得て妙だ。
――本物の魔王が生まれる場面も、こんな感じなのかもしれない。
背に朝を知る翼を広げ空を突き進むリオネル・エコーズ(燦歌・f04185)は、高速で過ぎ行く眼下の有様にそんなことを思った。 ごぼごぼ泡立つ濁りの沼、血の池、這い出続ける手下の悪魔たち。
未だ伸びきっていない捩じれ爪が憎き天の御使いを引き摺り下ろさんと音を鳴らすも、そのどれもがリオネルの身を傷付けるに値しない。
「急いでるんだ」
直進するまま一度、二度と横転させる身体はドリルか戦闘機めいて諸々を風の渦に巻き込み、身に纏う加護と加護を繋ぎ合って弾き返してゆく。
減速は無しだ。 向かう先から衝撃波よろしく広がって雲ほど高くの頭上に描かれた巨大な魔法陣に、胸の裡、誓いをなぞる。
(「闇の世界は見慣れてる。だからこそ、この世界がそういうものに塗れるのは、――嫌なんだ」)
カッと眩く降り注ぎ始める隕石へいっそ突っ込まんばかりに高度を上げて、リオネルは。
抜き取る麗しき青の魔鍵を、ゆっくりと此方を振り仰いだアークデーモンへと突きつける。
「おまたせ。届けにきたよ」
メテオール・ライン。闇をも砕く極光の星を。
夜を前にして流るる光はその使い手ごと灼くほど明るく輝いた。
尾の色は白からやがて七彩へ。地上へと届く過程で、我が物顔で合間を進んでいた隕石たちをいくつもの破片へ割り削っては呑んでゆく。
『な、んだと?』
並ぶ盾も矛も、すべてまとめて圧し屠らんとした魔神の思惑は早くも乱されたこととなる。
見覚えのありまくる絶景にいち早く気付いたコノハは俄かに口角を吊り「さぁて」お食事開始、呟けば右人差し指に輪を描くCeruleanにくちづけた。途端、手のうち零れ落ちてかたちを為すは燻銀の骨董鍵――いいや、槍だ。握り込む、その槍に身の回りを一周させ先ず打ち据えるは、這い寄る美味くなさそうな外野ども。
「こき使われてンねぇ。オウサマが喰われるトコ、地面の底で眺めてなさいヨ」
「そうね、途中までなら案内してあげる」
余裕を感じさせる妖狐の軽口にからりと笑ったリグは、落石により舞い立ち始める粉塵へ飛び入って鉄塊の如きつるぎを振り抜いた。
遠心力の乗ったそれは配下の首を刎ねるにとどまらず、降り注ぐ岩を叩き殺し直すにも"十分"だ。なんなら蘇らせてさえみせる――己が手足として。
「大技撃って安心した、そっちのひともっ、ね!」
二回転半、鮮やかに躍るようなリグの斬り上げ。細かに、鋭利に、撒かれた礫は逆さに空へ向かう雨霰と化してアークデーモンを襲った。
数の減った手指ではすべてをいなすこともままならず。
『ぐッ』
一度おそれを知ってしまった魔神は、隠せぬ肉体の反射として逆鱗――目元を庇うのだ。
あら。高位の悪魔なんて言っても、意外と可愛いおめめをしてると思ったの。
同感。 リグとそのリグへ同調したコノハ、ふたりはどこか似た悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「もーっとよく見せてくれるかしら?」
「はっ、オレにもおひとつよっしく」
数多の飛来物に抉られ傷付いた身などまるで知らぬかの踏み込みで、跳んだ。
彼らへ追い縋ろうとより一層数を増やして蠢く配下。しかし不十分な贄は不完全な召喚に結び付き、強化の恩恵も霞んでいる。 その、真っ先に駆け出した頭を大盾が殴り潰す。
「行かせん」
ニコラスだ。
アークデーモンの爪を受け止め、魔法を受け止め、尚も立ち塞がる不動の甲冑騎士。
――終末の世など。
あらゆる戦いの余波で燃え焦げる戦場に重ね見る夜闇。
ぱちぱちと頽れ、或いは転がる悪魔たちが涙の筋で汚れた無辜の民の顔をしている様を想起する。双眸に焼き付いて離れぬ――心底にて煮え滾る、地獄を。
「嗚呼、唯の一つとて許されぬのだ」
あの野望を断ち切るに否などありはしない。 故に、錬成。カミヤドリ。
守護者の褪せぬ憤怒に呼応して、地を穿つ円盾はその数を増しながら城壁めいて横へ横へと広がった。我が身ひとつで軍勢を押し留めるという覚悟。なにより気高き魂の白は、降り止まぬ星々の光に照らされて。
たちまち磨り潰されるもの、よじ登らんとするもの、がりがりと爪を立てるもの。
本体たるニコラスへ飛び掛かっては数体まとめて打ち上げられるもの。
足並みを崩された悪魔たち。空から眺めていれば先の薄暗い世を想い痛む心ごと吹き飛ばしてくれそうな、壮観な――そしてなにより、頼もしき騎士の働きにそっと笑みを深めるリオネル。
「俺たちで、叶えていかなきゃね」
段階的に投入し様子を見ていた流星たちを引き連れ身を翻せば頭を下にして急降下、リグとコノハをまとめて相手取る所為で視野の狭まるアークデーモンへ突撃した。
シャワーよろしく注ぐ星々。
鱗に覆われた翼の隙間を貫いて、小さな穴から大きな穴へと手を取り合う人々にも似て広がってゆく傷。敢えてスレスレを掠めて飛ぶオラトリオに意識が逸れたのならば、魔神はどうやら中々学べぬらしい。
『落ちろ!』
「――ドッチが?」
リオネルを追う闇色の魔球を穂先で断ち割って、コノハ。
ぱっかりまた新た腕に"開かせた"傷口から溢る血を糧として剥く紅牙が、突き出す勢いそのままに金の瞳へ投げ込まれた。
『ガッ 、ぁ』
びぃィ、ィィイと突き抜けた奥の骨にまで食い込みCeruleanは揺られ。
たたらを踏んで後退するアークデーモンの三歩目ほどを、かまいたちの鋭さでリグのくろがねが斬り抜けた。死人に鞭打ち? だから言ったでしょう、勇者なんて柄じゃないって。
「お行儀悪く、力ずくで掴み取らせてもらうわよ!」
「ふはっ」
つくづく気が合うのかもしれない。
痛打に唸る魔神がリグを叩き潰すため撃ち込んだ拳へ横合いから飛び乗り駆け上るコノハは、たん、たんっと木登り遊びに興じる獣みたく軽い身のこなしで己の槍に手を触れる。
「お行儀悪くて大いに結構。オレももう一口いただいちゃおっと」
じゃナイと割にあわないもの。 迫り来る手指を映す大きな見開きお月様の彩を間近にうんと味わいながら、蹴りつける弾みで引き抜いたそれで、落下離脱の置き土産として横にも一筋の線を刻んでやった。
入れ替わり、最後の虹の流星は縫い留めるように悪魔の頭部を射貫いて――――。
ダンッ!!!!
『グ、ウ、ウゥゥゥゥ……なぜ、 』
力を得たのだ。膨大な、力を。
しかし、何故斯様な猟兵どもに遅れを取っている? 忌々しさも露わ、ぐらついたアークデーモンの巨大な拳が大地を殴る。その下に潰されたリグの姿は勿論無く、あちこちに傷を作りながらも颯爽と立つ旅の女は外套をはためかせ刃に纏わる血を払っていた。
「何故って」
「――ねぇ?」
傍らに着地したコノハはすっかり色艶の良い肌だ。奪われた分だけ奪い返したいのちの源は、味さえ度外視すればとても馴染む。
ふたりの後方ではリオネルがシンフォニックデバイス・Orisonを起動。星灯が導であるように、此方へと向かい来る次なる勇士たちへも見出した逆鱗の情報を伝達しておく用意周到さを見せている。
連携。
互いの隙を補い合う、ときには我が身をも投げ出して繋ぐバトンの圧倒的な差。
アークデーモンとて初めからひとりではなかった筈だ。
ざ、――と。 戦いが立てた土煙の向こうから姿を見せたニコラスが、この場においてのすべてを断ち切ってしまったというだけで。
「まるで敗残兵のようだな、魔王に焦がれた者よ」
黒塗りの鎧はあらゆる色を目立たせずとも、足元に続く夥しい血の跡がその奮戦を物語る。
そんな男が踏みしめるように一歩、また一歩と抜き身の剣を携え歩むのだ。ぴくり身を揺らしたアークデーモンは――魔法を唱えるでもない、隕石を喚ぶでもない、ただ怒り狂うままといった勢いで爪を薙いだ。
それを、交錯してぎゃりぎゃりと受け止めるふたつの刃。
コノハとリグ。ちょうど出合い頭とは矛盾逆の構図で。
「残しといたの。やっぱニコちゃんも一発殴りてぇと思ってサ」
「スカッとするよ、ってね」
笑えば。
「――、――気遣い痛み入る」
返す冑越しの声音は硬くも、どこか穏やかなものだった。
まるで似付かず、ごおごお空を哭かせて苛烈に喰らいつく鉄塊剣が一振り。逆鱗など知ったことか、皆が削ってきた腕の数本を叩き落とした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キトリ・フローエ
皆で力を合わせて戦いましょう!
新たな帝竜の誕生を何としても阻止しなくっちゃ!
あたしは配下へ
破魔と光の属性を乗せた空色の花嵐で範囲攻撃
皆がボスに集中できるよう倒していくわ
攻撃はちいさいあたしでもきっと全部は避けられないわよね
破魔を重ねたオーラ防御を展開させつつ
たとえ翅が傷ついたって風の力で飛んでみせるわ
配下に注力するつもりだけど
ボスに攻撃する機が僅かでもあったら
第六感とスナイパーを駆使して高速詠唱で空色の花嵐をもう一度
目が三つ?あるなら一つくらいは逆鱗だったりしないかしら?
お生憎様、この世界にはこれからたくさんの光溢れる未来が待ってるのよ
そのどれもを拝めず骸の海に還ってしまうなんて、可愛そうね!
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
ふふーん、帝竜やアルダワの魔王だってやっつけてきたボク達だもん!
そんな不完全な状態のお前になんて負けないぞ☆
召喚済みの配下の悪魔や魔神の軍勢を「敵を盾にする」で同士討ちを狙いながらかき分けてアークデーモンの元に向かうよ!
偉そうなこと言ってたみたいだけど邪神にお祈りを捧げるなんて大したことないのかな!
その腕やお目目は飾りなのかなとか挑発しながら「情報収集」して逆鱗の位置を探るね♪
相手の会話の中から逆鱗の位置が予想できたらその部位目掛けて【妖精の一刺し】で貫いちゃうぞ☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
月汰・呂拇
とんでもねえオーラだ……だからって怯むかよ!
気合い入れて行くぜ、オープンメガリス!
巨大化し空中浮遊/空中戦――音より早く飛び回り
衝撃波をばらまいて奴に切り込む!
狙いは隕石――俺に向かって飛ばしてきたら
リミッター解除し合体させたアックス+ロッドで
そのまま弾いて戦場の外へホームラン!
隕石がデカかろうとこっちもだ
オーラ防御で踏ん張ってカッ飛ばす
こうすりゃテメェ自身の戦闘力を上げられねえ!
そのまま音速で突撃かまして
テメェの全身ブチ砕いて焼き尽くしてくれる!
全部燃えれば逆鱗もよぅく焼けるだろうからな
例えズタボロになろうと絶対諦めねえぞ
俺はテメェらみたいな連中を
根こそぎブッ飛ばすってジジィに誓ったからな!
ヴィクトル・サリヴァン
何とも強そうで厄介だ。
でも悪は滅びるのが定め、全力で討ち倒させて貰うよ。
卵の中の悪魔を狙う。
周囲の配下は邪魔になるなら高速詠唱からの水属性魔法で水刃飛ばして刻んだり水の壁で足止めした所に銛で突く。
卵が割れたら高位悪魔への対処。
逆鱗の位置は額の位置にある金の瞳と推測。
魔法陣を展開しきる前、集中してるだろう瞬間に銛を投擲。
当ればかすり傷でも十分、UC発動し本命の水シャチに喰らいつかせる。
額が逆鱗でなくても悪魔の全身飲み込むように喰らいつかせその動きを妨害。
もし先に隕石落ちてきたら其方への迎撃優先。
隕石に銛投げ付けUC発動、隕石を噛み砕かせつつ包み込ませて余波を最小限に抑える。
※アドリブ絡み等お任せ
●
ありがとう! と、振った手まではさすがに届かないかもしれないけれど。
先行く猟兵らが掴んだ逆鱗についての伝達を受け取ったのは、同じくシンフォニアとしての適性を有するフェアリー、キトリ・フローエ(星導・f02354)であった。
皆が同じ目的の――この世界のために戦い続けているということ。
それを想うだけで、胸の裡には決して消えない燈が灯るように思うのだ。下級悪魔の爪撃をするりと掻い潜り、お互いに突き立てさせて高く低くと飛ぶ。
すり抜けた先ではティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)がせいやっとレイピアの目潰しで悪魔を仰け反らせているところで、その角の生えた後頭部へばこんと追撃の飛び蹴りを叩き込むキトリもまた、負けず劣らずのおてんば娘。
キトリがさらさら星屑の鱗粉を散らすなら、ティエルは春風の申し子のように生まれ持った王家の色彩をなびかせている。
「ね、逆鱗ってやっぱり実在するみたい。目のあたりだって話だわ」
「ほんと? ふふーん、帝竜やアルダワの魔王だってやっつけてきたボク達だもん! そんな不完全な状態のあいつになんて負けないぞ☆」
ひそひそ話ににこりと交わす笑み。
そんな最中にも襲い来る敵へ見舞うコンボ!
愛らしく、そして勇敢に前を向くふたりの妖精は縦横無尽に宙を翔け、目的の巨悪へとぐんぐん迫っている。
そこにふっ……と、とっても大きく暗い影が落ちたのは直ぐのことだった。
「?」
ひょこり、長耳を揺らしたティエルが空を仰げば遥か高きには。
禍々しい紋様の魔法陣。それから、ごうごうと燃える隕石が浮かんでいるではないか。
「……。…………出たー! 本物だ、本物の隕石っておっきいなー!」
「ちょっと待って、喜んでる場合じゃないわよ!」
育つ中で謳われてきた英雄譚には世界を滅ぼす星の力とそれを真っ向から叩き割る勇者の話なんてあるあるで、ついレイピアを握るティエルの手にも力がこもるというもの。
その手をびゃっと引いてキトリは羽ばたきを強めた。
ベルの力で直撃は逸らせても余波だけで消し飛んでしまいそう! 本当にそんな御伽噺があるのなら――いま目の当たりにしたい、と、思ったとき。
「オープン――メガリスッ!!」
願うなら叶うのだ。
ざあああああと焼け残りの枯れ草を躍らせ、ずっと迅く高空を過ぎるは隕石に及ばずとも大きな影。巨人――さらには原初の巨人に覚醒した、月汰・呂拇(ブラックフレイム・f27113)が身ひとつで一路、燃える球へと飛び立っていた。
びりびり伝わる邪悪な熱波に焼け焦げる? それがどうした!
近付くほどに肌身に感じる禍々しきオーラにだって怯まない。鎧う紫黒の装甲は、立ち向かい続ける意志の証だ。
「こいつは俺が止めなきゃだろ。そうだよなあ、ジジィ!」
がおんと咆えるかの声で自らへ喝を。振りかざす超合体アックスアンドロッド。そしてそのまま――渾身の力を以て、呂拇は歪な球体を殴りつけた。
ソニックブームじみた爆音が響き渡る。
砕け散る岩石が装甲の表面を好き勝手削ってゆく。だが、かち合わせるオーラで拮抗を続け踏ん張る呂拇がそれを顧みることはない。島のため戦い続けた英雄の勲章にまたすこし似てしまったかと、すこし笑うだけだ。
「や、ら、せっか、 っよおおお!!」
――カッ飛ばす。
狙いの場外ホームラン、決めてやってアークデーモンの強化をもご破算にした呂拇は満足げに拳を突き上げた。
「……本物だ?」
「……おっきいね」
妖精ふたりは束の間ぽかんとそのうつくしいアーチを眺めていたけれど。降り落つ欠片に、起き上がり来る軍勢に決して後れを取ることなく花杖を取り回すキトリ。
刹那、解き放つ精霊の友の力ははなびらの嵐となって一帯へ弾けた。
包みこまれるすべての脅威が、煌めきの彼方に呑まれてゆく。
振り返った魔神の憎々しげに細められる金の瞳を、覆い遮りゆく白と青の中、凛と真っ直ぐ睨み返して。
「あれ、俺の仕事減っちゃったかな。よかったよかった」
そんなキトリを大きな一歩で追い抜くかたちで、空を眺めつのそりと現れるシャチキマイラはヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)。なんなら隕石食べさせてやろうと思ったんだけど、そう嘘か真か紡ぐ足元の水溜まりにはちゃぽんと大きな背ビレが消えていった。
また後で、他のをね。手にする三又銛の石突でこつこつ二度のノックをして告げれば。
およそ前触れなど感じさせず生ずる魔法。微かな飛沫から長細い刃と変じた水滴が、あたりで身構えていた下級悪魔らをスパンと割った。
「そういうことだから、本命の仕事だ」
他方からの強襲を噴き上がる水の壁で押し返すと同時、突き出した銛が直々に目先の一体の胸元を貫いてお仲間ごと乱雑に薙ぎ倒す。
進み続ける猟兵らの前に軍勢の塀は次々に崩されて。
対峙したアークデーモンは、既に傷だらけだ。
『――ハ。貴様らも魔王討伐の命を受けた勇者とでも名乗るか?』
「名乗らないよ? だって魔王の器なんてここに居ないもん」
偉そうなこと言ってたみたいだけど、邪神にお祈りを捧げて手下を増やすなんて大したことないのかな!
ひゅるっ、微かな風の音を奏でて。地上の誰より早く飛び出したのは勇者ではない、しかし同じだけ勇猛果敢なプリンセス。 ティエルのレイピアは大きな目玉のひとつを突き刺さんとする。
苛立ちだ、確かにこめかみの血管を浮き立たせながら、アークデーモンは妖精を叩き落とすため五指を開く。
そしてそれをごおと振るうが――、直前で切っ先の向きを変えランスのように構え直したティエルは、針の穴に糸を通すかの細やかさで鱗の剥がれたてのひらの一点へと突き入れた。
『ぬ、 』
「目の中すっごくボロボロだね♪ 見えてるのかな? 他の目もすぐに同じにしてあげる!」
みっつすべてが逆鱗であってもなくても、順に潰せば後に残るのは暗闇だ。
振り解かれながらも意気揚々と言ってのけるティエルへと、その通り、とでも力強く同調するみたいに。空から豪速で突っ込んできた巨影が、生じつつあった闇魔法ごとアークデーモンを"攫っていった"。
文字通り。
轢き潰す――そんな表現も似合うだろう。
燃え盛る角を突き立てる呂拇渾身のタックルは、ともすれば枯れ野へ隕石以上のクレーターを刻み込みながら逆鱗もそれ以外も区別なく焼き焦がす。
『がッアアアアアア!?』
「ヘッ、そろそろよお、どつきあいの勝負でもしてえんじゃねえか?」
当然、装甲のうちの呂拇の生身もズタズタに傷付いていた。きっとあちこちの骨は砕け、押し留めきれぬ中身を溢れ出させているだろう。
だが――――拳を、固める。
あの日から、どんな困難にも絶対諦めないと握り続けている。
「やろうぜ。俺はテメェらみたいな連中を根こそぎブッ飛ばすって、ジジィに、 」
誓ったからな!
顔面へ、叩きつける炎のパンチが火柱を打ち立てた。
アークデーモンはすべての腕をクロスし盾とするが、ここに至るまで失った数本はあまりに大きく勢いを殺しきれない。鈍い音とともに頭蓋を変形させながらも、魔神級の意地がぎらりと三つ目を輝かせ。
『貴様から消し炭にしてくれるわァ!』
再びの妖星、招来。直上の空へと大魔法陣を展開し始める。
とはいえ、だ。 すこし盲目になり過ぎた。
この場には、海の狩人と名高きハンターが居合わせているというのに。
音、風、 最後に衝撃。
勇魚狩り――ヴィクトルの投擲した銛は速さ、そして名と見かけ通りの重量をまるごとパワーへ上乗せしてアークデーモンの肩口を抉り取る。
『!!』
「もう燃えるだけ燃えたみたいだし、冷やしていいよね」
ぱきんっ。
同じ側にあった角がまとめて砕け落ちるのが珊瑚みたいだ。ならば依然としてゆったり歩むキマイラ男の周辺に輪を描いて湧き出る水は、海そのものなのかもしれない。 狩りは、始まっている。
「続くわ!」
「ボクもっ」
先ほど巨人が起こした衝撃で辺りまでやって来ていた配下がほぼほぼ襤褸雑巾となったこともあり、そのすべてにしっかりとおやすみを言い渡してきたキトリの花嵐も遂に矛先を変える。
はなびらは飛び出したティエルの身をやさしく包み渦を巻いて、その加速に力を貸し。迎え撃つべく弾ける魔法球に裂かれようと、枯らされようと、キトリ自身の心がそうであるように繰り返し咲き初めては逆に相殺してゆく。
「お生憎様、この世界にはこれからたくさんの光溢れる未来が待ってるのよ。そのどれもを拝めず骸の海に還ってしまうなんて、可愛そうね!」
「お前の分も見ておくよ。ボクはいつもみんなのそばにいる、お姫様だから!」
ふたりの妖精の齎す魔法、刺突は想いを乗せて違わず魔神へ吸い込まれ。
きらめきのトンネルを目眩ましに利用した存在がもうひとつ。 碌に態勢を整える間も与えず、大口を開けて宙を泳ぐそれは、ヴィクトルの遣わした水が象るシャチだった。
「うーん。俺は特に贈る言葉とかもないけど」
さながらショーの一環みたいに。
「まあ、悪は滅びるのが定めってことで」
花吹雪の終端を切り裂いて、オブリビオンという餌へ荒れ狂い飛び掛かる暴威。
『このッ……』
魔法では分が悪い。中断されたあらゆる召喚は最早間に合わず。
襲い来る青の世界の中、空へ逃れんとす身を羽交い絞めに押し留めるズタボロの腕がある。
「言ったろ」
呂拇。
『なんッ――――』
轟音。
斯くして巨大シャチの咢はアークデーモンの額を噛み砕き。
もろともに砕かれし戦士もまた、誓いを守った、紛れもない勝者のひとりだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水衛・巽
祝福されぬ生誕など世の中にはいくらでもあるものですが
ここまで醜悪かつ望まれぬ誕生も珍しいですね
毒液?に触れないよう青龍に騎乗し
眷族は無視して死角から素早く接近する
水神にとってすべてを洗う水流など造作ない事
その面妖な液体もろとも拭い去ってあげましょう
横槍が入るなら第六感で知覚・方向を予測し回避
多少の被弾は覚悟の上です
――ああ、産まれたばかりなら名もないでしょうね
ご心配なく、貴方の名になど興味はない
私の興味は貴方の逆鱗にしかありませんので
さて それでは教えて貰いましょうか
貴方の泉門はどこにあるのでしょう
お仕着せのように眷族にまで揃えるくらいです
弱点は角と推察しますが、どうでしょうね
納・正純
【水の月】
夕立/f14904
なあ夕立よ、悪魔を殺した経験はあるかい?
そいつはありがたい。是非ご教授頂こうか、出来れば杭以外の道具を使うもので頼む
・方針
①
夕立に突出してもらい、配下を惹き付けてもらいながら首魁と踊ってもらう
その間こちらは首魁の観察を行い、逆鱗の位置を探る
②
敵が夕立に止めを刺そうとした瞬間にUC発動
それまでに得た情報の全てを駆使して逆鱗の位置を予想し、狙い撃つ
・台詞
作戦ってのは個々人の強みを活かしたシンプルなものが最も強い。
誰も自分の影は踏めないし、放たれた銀の弾は必ず悪魔を穿つもんだ。
捉えがたくある影に追いすがり、魔弾の射手を放置したのがお前の敗因さ。
――――さて、一発勝負だぜ。
矢来・夕立
【水の月】手帳さん/f01867
一回殺ったコトがあります。
教えてあげましょうか。悪魔狩りのやりかた。
前に出ます。
隠れず単独で、正面から。
惹きつけるにはバカのフリも必要です。
超不本意ですが、バカのフリに引っかかるバカどもを足蹴にするのは気分がいいですね。
【嗤躱身】。使える式は全部使って時間を稼ぐ。
本題。
悪魔をだまくらかすのに一番いい方法は、嘘をつかないことです。
奴らは疑う。
自分たちが騙す側だから、相手も騙してくると。
銀の弾丸がどこから飛んでくるのか、難しく考える。
間近から放たれるとすら思う。
…いちばん遠くからに決まってるのに。
――――あれ、一発勝負が好きなんですよ。
派手に賭けるぶん、外しません。
●
不思議なことにシャチが去っても水が引く素振りがない。
むしろその水嵩は増している。 度重なる痛撃に、退く者を追うことも忘れ暈けた頭を揺するアークデーモンは、しかしそれも眩暈の一種であると断じた。
己が追い込まれている現ですら、あの卵の中で見ているまぼろしであるのかもしれない。
望み、望まれた。
絶大なる力を。次なる支配者としての座を。勇者どもを挫く、至高の存在への転生を――――。
「分不相応。なのでしょう」
上方より落ちたひとの声は冷ややかなもの。
焚かれた香の煙のようにたなびく青龍の背に在りて、見下ろす水衛・巽(鬼祓・f01428)のしんとした眼差しは己の接近にひとたびとて警戒してみせなかった成り損ないを憐れむかの如く。
而して、罰するかの如く。
「それともまだ伸びしろがありますか? 暴かせていただきましょう、――青龍」
手は水神たる龍の鬣を撫ぜた。
応じ、開かれたその口が吐き出すものは清浄な水の気だ。鉄砲水の流れがそうであるように、足を止める一切を許しはせずに連れて消し去る麗しき暴力。
『……暴く、だと? 腹の中身を撒き散らすことになるのは其方よ、猟兵』
魔神は碌に機能しなくなった己が片翼を毟り取り、新たなしもべへの駄賃とする。水流との間にぼごべごと泡立つ被膜を生じさせれば自らは地を蹴りつけ後方へと跳んだ。
重なり響く産声の、臭気の、絵面のなんと悍ましいこと!
(「祝福されぬ生誕など世の中にはいくらでもあるものですが。ここまで醜悪かつ望まれぬ誕生も珍しい」)
だとして、見慣れていた。
幽鬼退治にこの手の景色はつきもの。僅かとて表情曇らせることなく、ごく平静に巽の指先が霊符の幾枚を引き抜き放つ。鋭利なナイフじみて降り注ぐなら、膜の下で身動きのとれぬうちから絶やしてしまうからおそろしい。 反対に水流は、顔を出したものから順に呑んで。
「本来ならば真っ先に真名を抜き取るところですが、――ああ、産まれたばかりでしたね。ご心配なく。貴方の名になど興味はない、私の興味は貴方の逆鱗にしかありませんので」
『囀れ!』
アークデーモン自身も、流されゆく弱き駒は次なる手までの堤防程度にしか思っておらぬのだろう。唱え上げていた祈りが実を結んだとき、より長大な爪を持つ背高が生まれ青龍へと掴みかかった。
ぎしりと主従の肉が抉れるが、致命打には至らない。手綱を握るは他でもない巽なのだ、吐息も零さず射すくめる瞳の彩がそのまま貫いた風に、お返しに叩き込む水流の方がよほど荒々しく魔性を抉り返し。
「お望み通り、いくらでも。さて、 それでは教えて貰いましょう」
貴方の泉門はどこにあるのか。
同時に、撃ち返す。 直線上に位置するアークデーモンなどボウリングのピンのようなもので、短時間のうち繰り返さざるを得なかった召喚により疲弊した精神がその判断を鈍らせた。
ふたつがぶつかり合い、下敷きになる僅かな間。
穿つ水流がその頭をしとど殴りつければ答え合わせの時間は近い。
お仕着せのように眷族にまで揃えるくらいだ、逆鱗とは角ではないかと巽は読んでいたけれど――頭部の時点であまりに痛がるものだから。
「ふふ、これでは頭部の何れだったのか。いえ、皆まで言わず、お静かに。答えはもうすぐそこなので」
『――――、 な』
●
「まぁた派手に暴れてくれたもんだな、水浸しじゃないか」
「池ポチャやめてくださいね」
「ハハハ」
そりゃあ互いにスナイパーが"やらかす"だなんて実際微塵とも思っちゃいない。適当な応酬は銜え煙草みたいなものだ。
なくたっていいが、なんとなくあるといい。
線を跨ぐだけで踏み越える日常の延長の戦場だから、「それじゃあうまくやろう」の代わり程度の。
――なあ夕立よ、悪魔を殺した経験はあるかい?
――一回殺ったコトがあります。教えてあげましょうか。悪魔狩りのやりかた。
――そいつはありがたい。是非ご教授頂こうか、出来れば杭以外の道具を使うもので頼む。
「どうも。勇者ですけど」
粗方綺麗にお掃除された泥濘は跳ね上げても気分が良い。
アークデーモンにとっての正面。足音を立て、矢来・夕立(影・f14904)はひとり歩み寄っていた。髪の毛と外套が風に揺れている。ポケットから折紙が零れた。几帳面に折り目のついた蝙蝠だった。
「まだ募集してます?」
――答え?
この、無策にも手ぶらで間合いに入った小僧が答えを出すだと?
『笑わせるッ! しかし……貴様らはどれも"そう"だからな』
とんでもない奥の手を隠し持っている筈なのだと、全力の魔神の拳が飛ぶ。 ああ、ついでに眼鏡と蝙蝠も飛ぶ。
貧血で倒れ込むに似て斜めに滑り落ち、程好いところで地を踏みしめた夕立はすれ違う腕の側面へ棒型手裏剣状の式を突き立てざっくり一筋走らせた。刺してさえおけばあちらで線を引いてくれるのだ、便利な文房具みたいに。
「笑ってどうぞ」
戦いで竜鱗の剥がれた箇所はすっかりただの巨大肉と変わらない。
アークデーモンの方はようやっと補充人員とコンタクトが取れたらしい、地の底より足首を掴み来る気配があった。僅かに片足引いて躱せば、代わりに夕立が掴ませるのは少し縦長な花の種。
振り撒いた黒揺はたちまち爆裂、花開く。
強化も間に合っていない下級悪魔を一時沈黙させるには十分な火力だ。
「オレも笑うので」
夕立を明確な脅威と捉え、お集まりの捩じれ爪が四肢を裂く。どうしてこんな痛いばかりの役を? それは勿論、バカのフリに引っかかるバカどもを足蹴にするのは、もっと気分が良いから。
――まず、悪魔をだまくらかすのに一番いい方法は、嘘をつかないことです。
――奴らは疑う。自分たちが騙す側だから、相手も騙してくると。
――だから、 "見えなくなる"。
(「ありゃあ嘘じゃなく?」)
勇者、笑う、インカム越しの少年の言葉の数々にくくっと笑いを噛み殺した納・正純(Insight・f01867)はL.E.A.K.――狙撃銃のスコープを覗いていた。
ありがたいことに離れれば離れるほど死体の山は残っていて、見通し抜群な夕立のダンス会場より随分潜み心地が良い。加えて陰陽師のおかげもあり此方はノーマークもノーマーク、絶好の観察日和というわけだ。
作戦の重点は、ああやって夕立少年が奮闘する間に正純側で逆鱗を探し出すことにある。
首から上だろうとは既に掴めていた。
(「で、角でもないと」)
ときに敢えて殴られ、引き付け、至近にて式神を投擲してみせる夕立の齎す情報をひとつずつ読み解いてゆく正純。
手のうちで共に時を待つ銃弾は一発。それを"だけ"と見るか"も"と見るか、はたまた"ちょうど"と見るかはそれぞれだろうが、正純はもうずっと三つ目の生き方をしている。
そしてその考えは、今日も変わることがないと知っている。
焦げ付く風が吹いて。
ゴミ捨て場の人形同然、投げ出された少年の身体は数回のバウンドを経て漸く止まる。
後を追うアークデーモンは肩から腕へといくつも刺し貫く式の手裏剣を引き抜いて、握り潰せばばらばらと放り捨てた。
『ちょこまかと手こずらせてくれたが。終わりのようだな』
影が差そうと夕立が身を起こす様子はない。
気絶していても不思議はない、あちこちの間接は好きに曲がっているし黒装束でも隠せぬくらいに全身血塗れだ。綺麗なものは顔くらいで、それだって今、振り下ろされる爪で引き裂かれる定めにある。
――はたしてそうだろうか?
「――――さて、一発勝負だぜ」
ひとつ。
彼方で瞬いた煌めきが否定する。
魔弾論理は計算の果て答えに辿り着いた。働き者を映す金目の、中でも一等綺麗なものをひとつ、正解のご褒美に分けて貰おうじゃあないか。
どっ、
と、アークデーモンの巨体が膝をつく。ぱたぱた血を撒き散らして、本当に抵抗なく、それこそ人形のように。
ちいさな銀の弾一発ちょうど、飛来していることにすら気付けずいたであろうそれが、己の意識をそのとき刈り取ったと知れるのは流る赤で視界が染まってからだ。
「どうだい? お味のほどは。捉えがたくある影に追いすがり、魔弾の射手を放置したのがお前の敗因さ」
「答えをひとりで出すとは、誰も一言も言ってませんしね」
嘘はついてません。
悠々歩み来た正純によいせと引っ張り上げられながら、血を吐き捨てた夕立は苦悶の声を上げ続ける悪魔へ、確かに笑ってやった。 鼻で、だが。
――で、道具でしたっけ。銀の弾丸ですよ。
――悪魔を殺すための術といえば、古来より一発のシルバーバレットと決まっているでしょう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
狭筵・桜人
私は配下を引き受けるので強そうなデカブツは強い人におまかせしようかなーと……
ちょっと待てよ。帝竜の髄液ってあっちのデカブツから採れるのでしたっけ。
……正義のために巨悪を討たねばなりませんね。
逆鱗、といえばあごの下ですっけ。
ちゃんと顎出てます?
……それよりもあの金の瞳、もしかして私が欲しているお宝では?
アレを攻撃したら中身が溢れてどさくさゲットアンドアウェイ出来ないかな(小声)
エレクトロレギオンを召喚。
【部位破壊】でアークデーモンの金の瞳を一点集中。特攻させます。
下手な鉄砲も数撃てば当たると言いますし。
ま、ダメでも数秒稼げれば誰かの役には立つでしょう。
私?隠れたり逃げ回ったり忙しく働いてますよ。
ヴィクティム・ウィンターミュート
オイオイ、ウィズワームで忙しいってのに…火事場泥棒か何かか?
こりゃまたテンプレートな悪魔だこって
…何を相手にしようが、しんどいことに変わりは無いさ
勝てばどんだけ死にかけてもオッケー、ってな
重要なのは、よく視ることだ
一番大切な部位が逆鱗になるのなら、当然そこへの警戒は強い
咄嗟に庇った部分、意図的に見えにくいようにしている部分、常に防御できるような部分
攻撃しながら徐々に絞り込んでいけばいい
さぁ行くぞ──『Undead』
俺を死に近づけてみろ、返礼は苛烈になっていくぜ
攻撃は回数を重視し、死なない程度にドレインもしておく
──情報を落とし過ぎたな、もう絞れた
トップスピードで接近、ナイフで逆鱗を貫こう
クロト・ラトキエ
勇者?残念っ、只の人でしたー。
…故に君は魔王たり得ず、物語は此処にて黙され潰える。
さぁ、茶番を始めましょう。
狙うは配下。
皆の道を拓く為。
序でに、魔神の軍勢とやらを呼べる程の生贄、潰しましょうか。
視線、踏み込み、速度。血や音、何に反応するか。
腕の振りに口元…
見切り、知識に照らし、躱しながらの誘き寄せ。
間合いに、可能な限り多くの配下を。
命さえあれば、傷など安い。
鋼糸を巻いては斬りて断つ2回攻撃、
一体一体と着実に数を減じつつ、狙うは――
岩場に欠片、高所が有れば尚僥倖。
攻撃に紛らせ鋼糸掛け、ボスがUCを使おうとするなら先に、放つ
――拾式
幾度でも邪魔しましょう。
古今東西、バッドエンドなど流行りませんから
鳴宮・匡
ひとつの禍根も残すわけにはいかない
この世界は、自分の守りたい場所だから
この“守りたい”って気持ちは
自分にとって大切だというだけの利己的なもので
きっと、綺麗なものじゃないけど
俺が自分で“こころ”から望んだことを
もう“偽物だ”なんて疑ったりしない
卵を破壊した瞬間から観察に徹し
他猟兵との交戦の様子、攻撃時や被弾時の動きを把握
逆鱗の位置が相手にとって大切な場所であるなら
意識的にしろ無意識にしろ、庇うような動きをするだろう
或いは行動の起点、要になる場所かもしれない
相手の攻撃を受け流しながら力を蓄え
目星をつけた箇所へ狙撃しながら反応を見ていく
それらしい箇所が割り出せたら
蓄積した分の力も使ってその一点を狙う
穂結・神楽耶
以前、別個体と相見えたことがありますが…
まるで別物の威ですね。
再孵化儀式…これで帝竜を増やされたら勝ち目は限りなく薄くなる。
ならばこそ。
ここで止めるのが筋というものでしょう。
参ります、【朱殷再燃】――!
逆鱗は大切に思っている部位。
ある程度の知能があるとしたらそこを守りたくなるのが性でしょう。
なので、
守りたくなるよう徹底的に焔責めして差し上げます。
こうやって嫌がらせれば、攻勢魔法もわたくしに向けたくなるでしょう?
本体さえ無事なら問題ありません。
炎熱の防御と肉体で受けましょう。
わたくしが倒せなくても、誰かが必ず果たしてくれる。
猟兵はひとりで勝たなくてもいいんです。
冥土の土産に覚えていってください!
●
しかし、それは、帝竜に至った筈の存在なのだ。
倒れかける身体を支え、あらゆる威容が奪われ減っていたとしても。
――死? まさか。赤黒い視界を赤紫の舌が拭った。ここからだ。嘗て創造主と崇めた邪神の聲がこれまでよりうんと明晰に木霊する。
おまえはつよい。
滅ぼせ、すべて。
『――――ここからだ、 猟兵ッ』
衝撃波が立つ。
闇の魔力を濃く孕んだそれが、一切を呑まんと奔る。
だが。
「似合わねえことしやがって」
「そういうのは、我々の方が適任でしょう?」
その死線へ進んで飛び込む者がいた。
朱殷の焔が波を焦がす。血濡れた赤を蹴り上げて、腕を伸ばす紫電が闇を裂いた。
ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)。ひしゃげた眼鏡を軽くパス。その主らをとっとと押しのけるかたちで各々の得物を振るったふたりの背後にだけ、真っ直ぐな安全地帯が伸びている。
すぐ両サイドではぐずぐず溶け消える有象無象の死体ときた。
「大体な、ウィズワームで忙しいってのに……悪魔だとよ? 火事場泥棒か何かか?」
「たまりませんよね。盤面をひっくり返そうなんて、神にでもなったつもりかと」
やれやれといった調子で言葉を交わしては、ゆっくり起き上がるアークデーモンを見据える。あちらもこちらを見ている。ならば始まるものはひとつしかない。
――己が身体を張ってもぎ取る勝利ならば、是非とも任せて欲しいのだ。
燃え盛れ。
「ここで止めるのが筋というものでしょう」
神楽耶の身から尚更に噴き上がる炎が、続けざまに撃ち込まれる魔法の球と喰らい合う。
白銀の刀身は今日だってうつくしく焼け残ってその手の中。りん、と、鈴の音。球をふたつに割り裂いて別々の方向へ過ぎ行かせながら、身を前へと押し進める。
炎の性質は破滅だ。
一歩後に自分の肌が溶け落ちるのを自覚する。
怖くないといえば嘘つきになる。燃やしたくないものが両手では足りぬくらい増えたから。抱えて歩くのは、重い。 なればこそ。
「その程度ですか」
奪わせない。
この場にも在る大切なそれらを奪わせないためなら、どれだけだって神に近付ける気がした。
此方へ、敵の、全意識を向けさせる。幾つも叩き斬れど豪雨の如く飛び来ては身を穿ってゆく闇に、ぎりと噛みしめる奥歯は悲鳴を零させず。けれど、ぽんっと肩に置かれた手に、弾かれた風に瞬く神楽耶の瞳は正直だ。
「分かる。分かるぜ? だがよ、俺にも見せ場をくれねえとだろ」
な、"同類"?
――Undead。 痛みと死との距離感とが儘、力へ転化するコード。
骸の海には片足突っ込んでるようなもの。ヴィクティムはそういったつくりの玩具みたいに、自分の中のギアをまた一段上げアークデーモンへ跳躍する。防御なぞ捨てているから大小様々な穴が刻まれてゆく。賦活に次ぐ賦活で身体の奥がキシキシ鳴いた。 それだけだ。
「俺を死に近付けてみろ」
情報落とし放題の奴の――それと眼鏡の――おかげで逆鱗の位置なんてのは既に知れているもので、じゃああと何が必要かっていえば、 それだけ。
筋道を開けろ。
滴る血でキーを打ち込め。
『叶えてやろう。ひと跳びに骸までな!』
「ああ――、イイねえ!」
突き入れるナイフを迎え蹴り上げてくる膝を、挟み込んだてのひらで打つヴィクティム。跳ね上がり、再び宙を舞う身体を捩じって投擲するナイフが一本。 アークデーモンの腕は難なくそれを掴み取り、圧し折らんとする。
『児戯を、 』
「掴んだな?」
だがそうはいかない。エクス・マキナ・ヴォイド――生体機械ナイフは伸びるのだ。指の数本ざりざりに断ち斬って、喰らいつく先はその喉元。
そして手品のように握ったままのもう一本。ふたつに分かれることだって出来るから。
「ハッカーってのは裏口探しもお得意でね」
ナメんじゃねーよ。 血塗れでニッと牙剥けば、着地する一本目を足場に返礼そのいち――――瞳へ、叩き込むエンターをくれてやった。
ぱち、
ぱち。
拍手にも近く火の粉の爆ぜる音はアークデーモンのすぐ足元。
「では、そのドアにご一緒させていただきます」
ヴィクティムを鷲掴まんとす腕をたちまち燃え上がらせ、神楽耶の瞳が爛々と輝いていた。同様に、刀身も。尤も、流血で曇る視界では碌に見えやしないだろう――触れるまで。
奔らせる焔は返礼そのにを早くも刻む。
●
やぁ~~なところに来てしまったものだ。
狭筵・桜人(不実の標・f15055)は思った。そして素直に自分の心を慰めてあげた。
「なんかあっついですね、卵の孵化に適温って感じで」
金が欲しい。
今回、帝竜の髄液とやらが例えば金貨一枚の価値ならばこのおどろおどろしい地に立つこともなかったろう。一歩踏み出す度になにかの骨か肉かを靴裏に感じ、べりりと剥がす繰り返し。
「卵と言えば、卵ゆでて売った方が高く売れそうじゃないですか? 珍味・帝竜ベビーとかいって」
あちこちで戦いの音が響いているというのに、何故かこの周りだけ矢鱈と静かだ。
偶々居合わせた鳴宮・匡(凪の海・f01612)も基本的に無駄口を叩かないものだから、一緒に走っているというのに、もうなんだか何を言っても独り言じみている。
「はぁっ、はあ、ていうかその装備してて足早……」
「喋るから疲れるんだろ」
アークデーモンの巨体。それとともに進行方向に燃え広がる赤黒きよく知る焔に、匡は銃のグリップに添わせた指へ今一度力を込める。
必要なすべてはここへ至るまでに見つめてきた。
ある意味では託された、それを無駄にするほど腑抜けた生き方はしていない。
(「そして、ひとつの禍根も残すわけにはいかない。この世界は、守りたい場所だから」)
"守りたい"。その気持ちは自分にとって大切だというだけの利己的なもので、きっと、綺麗なものではないけれど。
"こころ"から望んだことだ。自分自身で――もう"偽物だ"なんて疑えないほど強く、確かに。
「……ん、始めるから。あっちもこっちに気付くと思う」
「やっぱり私、配下の相手しようかなって。それで液の方は前みたいに鳴宮さん譲ってくれたりしてー」
「その担当はもう足りてるな、あの人に任せてれば背中に敵はいないよ」
えぇ? 誰ですかそれと桜人の問いに被さる具合で一発目は撃ち出された。同時に匡の足元からはゆうらりと影が漏れ広がる、シャドウ・スケイルの始まりだ。
「遠目にも気付くもんだなぁ」
あの人ことクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は頬を掻いた。
その指を覆う暗色の強化手袋はとっくに返り血で汚れている。アークデーモンへ急ぐものたちの足止めとなる可能性の高かった、ここらの諸々を掃除していたのは匡の読み通りにクロトであった。
「ま、ああ言われたからには多少気張らなきゃでしょう」
相手取るものがそれでも絶えぬのは、クロトが意識して誘い出してきていたから。
その分、親玉側の警護が甘くなると思えばすこしの苦労くらい安いものだ。――人型をしているのだから"躍る"相手が人間かそれ以外かということに、さしたる違いはない。
断てばいい。
突き出される爪を薄皮一枚躱せば屈んだ発条を利用して、下から上へと蹴りつけ"輪"と定めた内へ押し戻す。
「すみませんね。無駄は少なく済ませたいので」
――にっこり。
告げて、指先の動きのみで張り巡らせた糸を巻いたなら、鋼糸がすべてを刎ね上げた。
「さてと……、贄っぽいのは見当たらないけれど、ひとまず良いでしょう」
初めは別のものを捧げていたのかもしれないが。今となっては、弱かったり死にかけの悪魔を生贄とすることにより新たな悪魔でも召喚しているのか?
「だとしたら悪魔社会も大変なんですね」
特別に感情も滲ませず零せば後は、ぼとぼとと降り落ちる赤にも黒にも見向きもせず。すぐに踵を鳴らしてクロトは駆け出した。追うものは勿論、未だ聳える巨悪。
幾度でも邪魔しましょう。 古今東西、バッドエンドなど流行りませんから。
●
一方、その行先の戦いは加速していた。
アークデーモンへ痛烈な攻撃を贈ってやったとはいえ、一部吸い返してやったりもしたとはいえ、ヴィクティムも神楽耶も立っているのが不思議なくらいボロボロだ。それでいて合流時の第一声が、
「よっ」
「先に楽しませていただいてました」
なのだから。
この万年死に急ぎ、とは思いはしたものの――今日の戦いにかけるこころに関しては、ひとのことは言えそうにないから。
「とりあえず、間に合って良かった」
挨拶がてらに鱗の隙間へ数発入れてやった銃を俄かに下ろし、射手たる己が友らの前へと歩み出る。匡もまた、最終的にはどこかの誰かさんのように一発の銃弾にすべてを懸ける考えでいた。
『ぬぅん!』
アークデーモンはすぐさま新手に対応し、魔力で作り出された仄暗き光球が迎え撃たんと炸裂する。
匡とてもとよりすべて回避できるとは思っていない。ただすこし、拝借したいだけなのだ。――"その一発"を愛銃に込めるための、大きな力を。
「そっちも話が早くて助かるな」
佇む、匡の身にぐわりと湧き立つ影が球と喰らいあった。
この影こそが滅びを齎す黒、特性を殺し、自身の糧としてしまうユーベルコード。受け流し切れぬ分は痛みとして血肉を焼くが、――すべてをこちらで引き受けておけば、別の都合も丁度良い。
「おっかしいなぁ、なんでまたこんな超常パーティーに混ざり込んでるんでしょう」
それは匡とは別方向へ回り込み、髪をくしゃりとして嘆く桜人だった。
目の前の誰もが血みどろ。あーあ、あの頭上に輝く金の瞳を撃ち抜いたら髄液がどばどば零れてどさくさゲットアンドアウェイなんて夢をピュアなハートでずぅっと見ていたかった。
――この状況じゃあ本当に当てるっきゃない。
「やっちゃってください」
エレクトロレギオン、召喚。
ちゃんと顎は出ていたから、目標は変わらず黄金色のあの的だ。
じり、じ、と空間に電流を光らせて宙に浮かび出た数百の小型機械兵器らは一斉に銃口をアークデーモンへと向ける。 三つ目のうち視覚としてしっかり機能しているのは、今やひとつしか無いのかもしれない。ぎょろりと動いた瞳孔がそう感じさせる。
だとして、恐れを知らぬ機械らは光線を放って見舞う。
――ところでこうしたとき召喚というものは素晴らしい。
『ぐ、おぉぉッ……そうも死にたいかァ!』
「っまあそうきますよねぇ!」
しもべがせっせと働いている最中も、喚び出した側は好きなだけ逃げ回ることが出来るから。
桜人が飛び退いたその空間に呪縛の類だろうか、いくつもの紫の光輪が口を開いた。それはギザギザの回転刃で機械兵器を落としつつ、桜人の足首をも断たんと迫るが――。
十分たすかりました、と。
黒髪を靡かせて、炎の神が斬り捨てる。
「そういえば。わたくしからもひとつ、教えて差し上げますよ」
神楽耶はそのままレギオンらの放出する光に混ざり込み、一切の迷いなき走りで刀を前へ構える。跳ぶには朽ち過ぎた身体でも、これならあと一回分だけ、共に戦えるから。
そして、
鍔も埋まるほど深々突き立てた刃が二者を等しく焦がして繋ぐ。どちらかが溶け落ちるまでは離さない。そんな、覚悟で。
「――猟兵はひとりで勝たなくてもいいんです。冥土の土産に覚えていってください!」
それと、そこまで縋るほどのものじゃありませんよ。王だ神だの席なんて。
『ア゛アアア゛ァ゛!!』
天まで届けと火柱が上がった。
渦巻く炎が去ったところで、そこに五体満足の神楽耶の姿はない。だが、それで良いのだ。
皆が果たしてくれるから。
辛うじて刀を抜き捨てたはいいが、続く戦いの中で幾度と炎に煽られ、アークデーモンの身体では炭化して崩れ落ちる部位が増えてきた。
尾もそのひとつだ。
帝竜に似合いであったろう禍々しさをしていたそれも、灰になっては過去のこと。
『こんな、 ことが……力が、どこにあったのだ』
満身創痍のくせに猟兵どもは、皆が皆、一体。
金の瞳にはこのときついに怯えが過ってしまっただろう。それを否定するべく己が高位悪魔たる証である軍勢の召喚へ踏み切るアークデーモン。 代償としてごぼりと流れ出る血は最早見えもしない。
祈りの強さ故、だろうか。
すぐに傍らへ湧き出て起き上がろうとした配下らが、直後、立てた膝から順に賽の目状に弾け飛ぶ。
細い、微かな光の加減でやっとそこにあると認識できる程度に細い鋼糸が、すぱぱぱと入り込んでは断ったのだ。
「どうも。追加の勇者ー、でもなく残念っ、只の人でしたー」
拾式。 足音すら微か、ひょっこり顔を出すクロトの業だった。
"あっち"がとうとう暇になったんで助っ人ですと猟兵向けに朗らかに笑うクロトは、瞬きを一度挟んだあとにはアークデーモンへと底冷えのする眼差しを送る。
「……故に君は魔王たり得ず、物語は此処にて黙され潰える。さぁ、茶番を続けましょう」
糸は奴の身をも裂いている。焼けて鱗も剥がれた箇所の方が多くなった身にはさぞ沁みたことだろう、憎々しげな金眼が向くが。
我関せず。涼しい顔で血の球を散らして。
十本の指でクロトが奏でる死の旋律は、少なくともこの今において、軍勢の横槍を許すことはないだろう。
其処に道が続くのなら、彼らの戦いを。 彼らの思う儘に。
クロトの力量をよく知っていた匡は誰より早くアークデーモンだけへ意識を注ぎ、その逆鱗一点へと弾丸を送り込んでいた。
「……貰っとくな。残した分は、やるよ。 ヴィクティム」
影に闇に身を浸し高めた力は、ぐんにゃり金の月を歪めるほどの衝撃を与えて。
己が目で着弾を確と確認してから、内を駆け巡る痛みなどおくびにも出さず射線を譲る先を見た。
「――、――――ったく。どいつもこいつも」
ウィズ。
最高過ぎるだろう?
衝突音が響いた。 其処には、魔神の絶叫と最後の返礼を決めてやった人間様が綻びながらも笑うだけ。
周りみんなが酔っぱらえばどうしたって残るひとりは介抱役。後処理をする側にもなってほしいと「まったくですよ」溜め息混じり吐いた桜人が特攻させる、レギオンたちの羽音と閃光。
大成功
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アテナ・パラステール
【恋華荘】
「高位悪魔が帝竜化とは…一介の騎士としても見過ごせませんね」
アルテミスさん、アイリスさん、聖騎士の力見せてあげましょう
【姫騎士の誓い】にて戦乙女化し
アルテミスさんに続くように、白き翼で飛んでいきますわ
アイリスさんの守りは頼りにさせて貰いましょう
わたくしは光の剣を伸ばし、奴の放つ隕石を空中で切り払いながら進みます
捌ききれない隕石の破片が多少この身を傷つけても、決してひるみません!
そのまま空から急降下しつつ光の刃で唐竹に割ってやりましょう
「代々伝わる神の力を受けよ!聖なる光の剣にて滅びるがいい!」
奴の逆鱗、一番大切な部位…やはり急所…?
痕跡を見逃さずに、その場を推測して、斬りましょう
アルテミス・カリスト
【恋華荘】
「魔王ですか。正義の騎士として放置するわけにはいきませんね!
いきますよ、アテナさん、アイリスさん!」
背中の大剣を引き抜き【聖なる大剣】を発動。
聖なる光を放つ大剣を構え、ダッシュでグレーターデーモンの元まで一直線に進みます!
「邪魔する敵は容赦しませんっ!」
配下たちは大剣で斬り裂いて、魔王に決闘を挑みます!
魔王が召喚する隕石は武器で受け流しつつ、聖なるオーラでダメージを軽減!
魔法を放った隙をついたカウンターの一撃を怪力で叩き込みましょう!
敵が怯んだら、逆鱗らしき場所を探します。
「私の聖剣は、オブリビオンのみを斬り裂く聖なる剣です!
これを受けて下さいっ!」
逆鱗に剣を突き立てようとします。
アイリス・ヴォルフェルト
【恋華荘】
帝竜化する高位悪魔、魔王を自称するアークデーモン。そんな者は守護騎士として、聖騎士として見逃すわけにはいきません!
はい!行きましょう、アルテミス先輩、アテナさん!
魔王との戦いに神々も力を貸してくれます、【煌銀纏う至聖の騎士(クラスアップ・ロードパラディン)】です!
飛翔して2人に付いて行きます!
中級魔法の連射は避けられるものは避けて、そうでないのは強化された盾で防ぎます!それに2人への攻撃も可能なものは私が受けて護ります!
2人を止めたければ守護騎士である私から倒すことです、出来るならですが!
そのまま2人に合わせて、シールドバッシュでのぞけらせて逆鱗の位置を探してから誓いの剣で狙います!
●
戦火の大地にあってこそ、凛と麗しく咲く。
「高位悪魔が帝竜化とは……一介の騎士としても見過ごせません」
アテナ・パラステール(亡国の姫騎士・f24915)。
「ええ。正義の騎士として!」
アルテミス・カリスト(正義の騎士・f02293)。
「守護騎士として、聖騎士として……――! 行きましょう、アルテミス先輩、アテナさん!」
アイリス・ヴォルフェルト(守護騎士・f15339)。
肩を並べて己が信念の剣を抜く三人の少女騎士は視線を交わし、いざ、と頷き合った。
触れ合う剣先がかちんと音を立てそこに眠る力を揺り起こす。 アルテミスは光を放ち始めた一振りへ祈りを込める如くに指の腹で撫でると、手の甲、聖なる印を仄かに浮かばせ地を進む。
「では、また魔王の元で」
「隕石はお任せを。降り注ぐ前に止めてみせます! その……主にアテナさんが、ですけど、私も盾としてっ」
すこし大きく出てしまったかも。愛らしい一輪の花のようにはにかんで飛び立つアイリスもまた、その身を覆う騎士鎧を荘厳なものへと移ろわせていた。煌銀纏う至聖の騎士――熾天の座より賜った輝きは、剣を、盾を、心をどこまでも強くする。
「もっと胸を張ってください、アイリスさんが護ってくれるから迷わず剣を振るえるんですよ」
くすりと肩を揺らせば、頼もしきふたりにアテナは続く。
――姫騎士の誓い。
聖剣リヒト・シュヴェールトに宿りしあたたかな光がオーブのようにふうわり零れ散る。その導きに従うみたく、ぐんと大きく剣を引いてアテナは駆け出した。背には一対の白き翼がばさりと広がって、少女の歩みを一歩ごとに加速させる。
そして、血濡れた地を強く蹴りつけたアテナはひと跳びに高く舞い上がった。
すこし先を飛ぶアイリスが掲げる大盾で吹きつける熱風を逸らして。
「アテナさん!」
「はい!」
眼前、いよいよ迫る隕石に怯むどころかふたりは剣の柄を両手で握りしめ、息の合った掛け声とともに縦と横へと走らせる。
十字に切り開く視界が奇跡めいて砕け、割れた。
燃える礫が翼を引き裂こうと、細い手指を這おうと、向かう先への羽ばたきを決して弱めはしない。がくんと高度の下がりかけたアテナの手をアイリスはしっかり繋いで引き上げ「大丈夫ですか」と微笑みを添える。
己の身に鎧う聖なる加護を分け与えるのだ。
ほうっ、と――やさしい光に同じく笑みを返したアテナは「もちろんです」と次なる星を見据えた。負ける気など、すこしもしない。
「邪魔する敵は容赦しませんっ!」
地上ではアルテミスがばっさばっさと居並ぶ悪魔を斬り断ち駆ける。
空で隕石を引き受けてくれている分、アルテミスは己の最も得意なこと――目の前のオブリビオンをただ刻んで倒すことに集中していればいい。 華奢な身体は半ば振り回されるように大剣を扱うが、だからこそ敵の踏み込みを易々とは許さない。
闘志に呼応して剣は光を放出する。
触れた悪を悉く灼く、清く、正しい、一閃はさざなみにも似て広域を呑んでゆく。
『次から、次と、……』
渦中にて魔法陣を描き迎撃を続けるアークデーモンは、帝竜化以前の本能として彼女たちの持つ輝きを厭うようだった。半壊済といってもいい肉体を妖星が齎す邪気によって奮わせ、片側欠けた翼を威容を誇るためだけに広げる。
メキメキと血管を浮き立たせ。
『いいだろう。来い! 我は、王であるのだからな――!!』
「言われずともッ!」
踏み込むアルテミスの大剣と、突き出す爪とを交錯させた。
刹那の拮抗に数多もの力の衝突が巻き起こり、捲れる大地、磁石の如く弾き合う二者。
アルテミスの髪を結ぶリボンが風にふわりと解けて艶やかな金糸を舞わせた。くっ、と、息を吐いて地へ立てる剣で勢いを殺す少女は、しかしひとりではない。
「なんだ――案外、軽いのですね?」
だから。瞳に勇気を灯し笑ってみせる。
最中、ふわり白い羽根が舞い落ちて。
「そこまでです、アークデーモン!」
矢面に割り込んだアイリスのセイントシールドが追撃として寄越されていた魔炎を阻む。
赤く濁った金瞳を眇めた魔神は、直ちにより細かに数を増やした闇の球を撃ち放つ、 が。
そこに、もうひとり。
飛翔の勢いをそのまま活かした急降下、膨大な光を散らすアテナの剣が唐竹割りに振り下ろされる。
「代々伝わる神の力を受けよ! ――聖なる光の剣にて滅びるがいい!」
『グ、 ガアアアアッ!?』
闇をも恐れぬ突撃だ。
シャボン玉のように次々炸裂する魔法球はアテナをも食むけれど、信じているから怖くない。アテナの腕を掴んで引き戻し、誰より前へと躍り出ようとするアイリスのこと。
一瞬の隙と隠された真実をきっと掴んで、切り開いてくれるアルテミスのこと。
「そこぉっ!」
「守護騎士を前に……、それ以上が望めるものと、思わないことですね!」
不思議に湧き起こる怪力を込め、がら空きとなったアークデーモンの足を打ち据えてアテナの後退を助けるアルテミス。彼女と入れ替わり、ふたりを止めたければこの私から倒すことだと盾押すアイリスは声を上げた。出来るものならば、そう。
皆を覆わんと膨れ上がる闇の力を、同じだけ、否、それより力強い輝きが打ち消しゆけば。
『貴様ら、邪魔をォ!』
渾身のシールドバッシュを叩き込まれた側のアークデーモンが、足への痛打も響き大きく後退っては目を庇う仕草をする。
あまりに眩しいから――それだけではないと、先の手応えで感じ取っていたアテナは負傷を押して踏み切る。同じことを思い、既に飛び出していたアルテミスがひとつだけ、頷いた。
ぎゃりぎゃりと抉って刻む大地をも白く染め変える、
「見つけました。これは、オブリビオンのみを斬り裂く聖なる剣! 受けて下さいっ!」
ホーリー・ナイト・ブレード。邪悪を前に真価を発揮するアルテミスの大剣が、土を跳ね上げ、アテナの刻んだ軌跡を下から上へなぞるように斬り上げた。
剣閃は確と金の瞳を通り。
光の中で見えなくとも、騎士たちは互いの名前を呼ぶ!
さぁ、と、促すのだ。
「これで――」
「三つ目です!」
暴れる反撃の爪にがちりと剣を噛ませるアテナの脇を抜け、羽ばたきで詰め、最後に通されるのは誓いの剣。
アイリスの刺突が、魔王への夢を砕く道行きをぐっと押し進めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
んあ~やばそうなのでてきとるね
わしらは回りのやつらをお掃除しよか
逆鱗探すのめんどいしの
せーちゃん、背中は任せたからの
けど、たまぁにちょっかいかけたらごめんな、虚が
配下の悪魔は爪や牙で戦ってくるらしい
ならわしも虚の三爪を右手に借り、左手にはせーちゃんからもろた扇を
目につく敵狙って三爪振り払う
引き裂く場所をどこと狙うわけでもなく、射程に入れば抉って裂いて
時折扇で打ち据え、たまに足だして、せーちゃんのおる方に蹴り飛ばしてやろ
プレゼントじゃよ~
はは、熨斗つけて返されてしもた!
傷を負うも戦いの楽しみとて構わず
倒れるまでやってもええが、その前に皆が倒してしまいそうじゃ
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
此処まで辿り着いた今、新たな脅威は勘弁だな
ああ、では俺達は周囲の掃除を請け負おうか
有象無象をひたすら斬るというのも楽しいしな
俺の背も任せた、らんらん
虚と遊ぶのも楽しそうだが、お手柔らかにな(微笑み
右手に刀、左手に友と揃いの扇握り、開花桜乱にて強化
傷は厭わぬが、強化した見切りで致命傷は受けぬよう
扇で受け流し攻撃躱し
桜吹雪に紛れるよう残像で敵を攪乱
片っ端から刀で叩き斬っていく
友の爪の方が断然鋭く速い
それを隣で常に見ている故、敵の爪や牙になど捉えられはしない
軍勢喚ばれても全て斬り伏せるのみ
勿論、友からの贈物もな
そして熨斗をつけて返そうか(微笑み
存分に共に楽しもう、らんらん
●
――やばそうなのでてきてしもたなあ。
――ああ。此処まで辿り着いた今、新たな脅威は勘弁だ。
遠目にもずーんと禍々しく目立つアークデーモンを眺めての道中、そんな会話を交わした終夜・嵐吾(灰青・f05366)と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)のふたりも今や、敵陣の真っただ中。
選んだ"活かし方"は湧き出続ける悪魔の軍勢との大立ち回り!
逆鱗探すのめんどいしの、なんて嵐吾へ清史郎は、有象無象をひたすら斬る楽しさを挙げて賛同したものだった。
背中合わせ、信を置き任せられる互いがいるということは幸せだ。
「たまぁにちょっかいかけたらごめんな、虚が」
虚の主――常より嵐吾の右目に在るそれは此度、右肩を通って指先まで這い伝う黒き茨として目覚めている。幾重にも、さながら獣の鋭い爪だ。嵐吾自身の纏う柔和に隠された一部であるかのように、ひとたび揮えば豆腐よろしく悪魔たちを裂いて散らす。
「虚と遊ぶのも楽しそうだが、お手柔らかにな」
好き勝手飛び散らせるものが降りかかることはあれど、言って微笑んでみせた清史郎へここまでのところ害はない。
清史郎はその手に蒼桜綴を。枯れ野に落ちる夜の帳のように静かな蒼き刀身は、薙いだ途端に面持ちを変えて花を咲かす。淡紅の、さくら。 噴き出す血飛沫をどこかやさしい色へ透かせて。
「どうだ?」
「贅沢言うともうすこぅし裂き応えが欲しいかもしれん」
これでは虚の爪もとげやしない、なんて!
出会い頭の混乱を縫いたちまち数体寝かしつけてしまったふたりは、ぱっ、と、空いた左手に扇を開く。そこに咲くもまた雅やかな桜。はなびら散らし、視界を奪い、揃いの扇を手に舞い踊る様は祝いを捧ぐかの如く。
開花桜乱。
高められゆく神秘の力は、百年超えて巡る世を慈しみ、冴えた刃にこそ宿る。
清史郎の見舞う斬撃が花筏の波を起こせば――波間に消えるばかりの命の中、巻かれるものかと喰らいつき、るるるるる獣のように唸って牙剥く悪魔がひとふた。
「これなら?」
「そうそ、そーいうのをおくれ!」
迎える側はむしろ喜色。
身を翻し躍り出た嵐吾はしたたかに扇で打ち据えたその顎をがこりと外させて、どちらが獣としても上か教え込むかのようだ、己が意思以上に獰猛に喰い散らす右手へは「あちゃー」という具合で笑った。
楽しむほどに黒茨はざわざわ侵食を広げてゆく。
向かいの頭を刎ねながらちらっと肩越し、振り返った清史郎の瞳には微かに案じる色があったろうか。そういうときに限って目とは合うもので、ぱち、瞬いた嵐吾はそれからふふんと。
「退屈しとる? なら、プレゼントじゃよ~」
引っ掛け、転ばせ、更に蹴りつける悪魔を清史郎の側へ!
これには清史郎も悪戯っぽく口角を吊った。
「嬉しいな。ではお返しだ、それっ」
「――はは、熨斗つけて返されてしもた!」
戯れは、同時に頂き物を断ち斬って尚も続いてゆく。
此処でこれだけ働くことは、そのままアークデーモンの攻略に繋がる。最早戦況は総力戦状態にあるということ。矢継ぎ早に生み出される不完全な悪魔たちが、敵方の焦りのなによりの証明だ。
次第に、邪神への祈りが強まったか強力な個体が混ざるには混ざるが――。
「せーちゃん見とくれ、腕四本!」
「こっちは頭が双子だぞ、らんらん」
――ふたりはそれすらも茶請けみたいに味わって下す。
無論、無傷のままではない。装束はあちこち裂けているし、手足なんか歯形でいっぱいで。
だが、まだまだ。
(「負けてはいられないとも」)
ぞろりと滑り落ちていってしまいそうな手の中の刀を、清史郎は解く髪紐できゅきゅっと括りつけ押し留める。噛んだ端っこを離したとき、先ほどとは逆だ、なにやらにまりと見つめくる狐男の気配に振り返った。
こうして改めて眺めあってみれば、お互いまるで血化粧だ。
「男前が上がったの?」
「ん? ははっ、らんらんこそな」
返り血。己の血。相手の血。紛れもない死地で、明々ふたりは笑みを交わした。
扇を振るいて致命打を逸らす。残像がちらついて、滑らかに流れる清史郎の長髪が、斬り伏せる度にさらさらと歌うようだ。
ああ、右目の空洞が疼く。この場のすべてを、このまま倒れるまで楽しみ尽くしたって構わないが――その前にきっと巨悪は討たれてしまうだろう。確信めいたものを胸にしながら、嵐吾も新手へ飛び掛かる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸宵戯
気持ち悪い卵ねぇ
見るからに不味そうね
竜なのか悪魔なのか…どちらでもいい
殺してしまえば同じよ
魔王を倒す勇者様?
私は魔王に拐かされるお姫様でいいわ
美しい金色の瞳で欲しくなるわ
でもかみさまはご立腹
ロキの瞳の金のほうが私はすきよ
瞳が逆鱗、なるほどね
抉り出してあげなきゃ
硬い鱗は煩わしいけれど
私に斬れぬものなどない
頼もしい神様ね
よく観察して美味しそうな箇所を見極める
ねぇ頂戴瞳も血も肉も命も全部
私の桜になって頂戴
『愚華』
衝動のままに蹂躙して奪い尽くす
破魔の刃突き立てて
何度でもなぎはらい抉り裂いて斬り殺す
噫もっと!
ゆらり意識がゆれて
綺麗な金色がみえるわ
暫し眠るから
後は任せ…
は、恥ずかし…
けど礼は言うわ
ロキ・バロックヒート
🌸宵戯
竜の卵から悪魔が生まれるの?
取り替え子みたいだね
宵ちゃんはお姫様になりたいんだ
ふぅん
破滅と終わりは俺様の領分だよ
でも悪魔とその理想は相容れない
この有様を見ればわかる
ましてや魔王だなんて!
でも悪いけど勇者なんてタマじゃないんだよね
逆鱗はたぶんあの金色の瞳
悪魔のくせに月と太陽のように神を見下すなんて生意気じゃない?
【祝福】の光で悪魔の視力ごと灼いて
紛い物のお宝を潰してやりなよ宵ちゃん
悪魔なんかに後れをとっちゃ神の名が廃るからさ
ちょっと意地張って立っててあげる
なんてね
宵ちゃんが寝ちゃったら
お姫様抱っこして離脱
起きた時どんな反応するか楽しみだな
ぜーったいかわいい
ふふ
神を堕とした悪魔は君なのにね
●
そして、彼らの戦いの恩恵をまさに受けている者がふたり。
今や大地の模様の一部にまで崩れてしまった"卵"を見たときは、竜だか悪魔だか気持ち悪い上に不味そうなものだと眉を顰めたが――誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は、殺してしまえば同じ、と。
軍勢の介入しようがない一対ニのあいしあい、湧く心のまま屠桜の血桜を抜いたのだ。
「始めましょうよ、ロキっ!」
すこし後方で見送るロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は、ああ、此度の地獄絵図にもやっぱりあのこは綺麗だなぁなんて。
――竜の卵から悪魔が生まれる。取り替え子のような不思議なお話。
勇者様よりも、私は魔王に拐かされるお姫様でいいわ――櫻宵からはまぁよくその台詞に似合う艶やかな笑みを向けられたものだったが、 拐かされる、ね?
「ふふっ」
思い出し笑いをひとつ。
ポケットに入れた手を垂らしながら、ロキは桜花のあとを追う。
「近くで見るともっと美しい金色の瞳ね? やっぱりそこが一等美味しそう」
欲しくなる――、熱っぽい呼気を零しては地を進む竜巻のように花嵐を連れ、櫻宵は迎えの魔法を斬って散らす。瘴気だろうか、痛みなくともぴりぴりとした痺れだけが腕から肩へと這い上がる。
故に次へと揮う手がほんの僅か遅れてしまったとしても、 大丈夫。
「えー、金ならなんでもいいのー?」
俄かに頬を膨らませたロキが――わざとだけれど――その影を躍らせて桜龍の敵を食べてしまうから。
ぱくんっ、空間が切り取られたみたいに闇が闇を払拭する。
破滅と終わりは"こちら"の領分だ。
かといって悪魔ましてや魔王だなんての理想と相容れることが出来るほど、単純明快なうまれの中に無いのだけれど。 ああ、いっそ羨ましいったら。
「あらやきもち? 勿論すきよ、ロキのずうっと甘やかな蜜色の方が!」
ころころと鈴を転がすみたいに言ってのける櫻宵は反対に上機嫌。常より血狂いの気はあるが、愚華、血脈に宿す八岐大蛇の殺戮本能が燃ゆるほどに胸を焦がすのだ。
先の痺れなど早くも気にならない。
食べてしまった。
もっと欲しい。
足らない、足りない、あいが足りない!
「私はここよ!」
――十文字ほど整った太刀筋ではない、荒れ狂う龍のように宙滑るそれが数を増した呪縛の魔法をも消し飛ばしてゆく。
その度に、桜花も増す。
この地へ踏み行ったとき、遠目にもロキは逆鱗の箇所を推測していた。
件の金色の瞳。悪魔のくせに月と太陽のように神を見下すなんて生意気じゃない? と、彼が言うからこそ妙に説得力のある着眼点で。
「そうだね、じゃあ紛い物のお宝なんて潰してやりなよ。宵ちゃん」
――わたしのためにできるでしょう?
――ええ、もちろん。
どちらともなくにぃと笑えば。
遥か天より祝福の光が降る。
『紛い物はどちらであるか、消し去ってくれるわ』
アークデーモンは予備動作無しの魔法を広げ己が周囲に展開する。傍目には善と悪、光と闇だ。
うちを覗けばどちらも同じものだとして。
「なぁんだ、逃げないの? なら灼いてあげる。刃が通りやすいように、さ」
ロキはどこか興醒めした風に言った。 消すだなんて、やってみせてよ。
そして瞳のひとつまたたく間に、降らせる光の柱を幾本にも増やしてみせた。破滅、狂気、あいなんてどこにもなくって、触れてみたなら寒々しい光を。
「きれい」
――ほんのすこしだけ、血の熱であたためる春が吹く。
アークデーモンが空へと意識を割いたのはほんの数拍だろうが、あらゆる力の漲る櫻宵にはそれで十分だった。互いに殺し合う善悪のはざまへその身を躍らせて飛翔する。
そうして破魔の刃を力の限りに突き入れる。
私の桜になって頂戴?
淡い囁きに、鮮血とはなびらが咲き散った。
『ガアああァッ!』
「噫もっと!」
尋常ではない速さで刃を引き抜き、振り払わんとす魔神の腕を薙いで嬉々とし赤を浴びる櫻宵。
返す刃で逆側の爪を割り剥がし、起こした衝撃の波がまた数多の刃と化して魔神へあいを刻み込む。
防御についてはまるごとロキの光任せ。
ズタズタ、ズタズタと。 壮絶な、貪婪だ。
――――故に代償も大きい。
ふうっ、と。
爪と刀、三度弾き合った直後の櫻宵がそれまでになく花の終わりのように宙を舞う。
時間切れ。 アークデーモンはどこが口か怪しいほどに刻まれながらも、桜を八つ裂きにすべく破壊の魔法を撃ち出した。
とはいえ忘れてもらっては困る。
「その子、俺様のなんだよね」
紛い物には勿体無いと知れよ。稲妻が轟くかの様相で、一段と烈しく降った光がふたつを阻んだ。 ほんもの比べはロキの勝ち、今日もやっぱり死ねなくて。そして、殺せなくて。
隙に、落ち来る櫻宵をロキは抱き留め離脱する。所謂おひめさまだっこだ、起きたときどんな反応するか楽しみだなぁなんてそればかり。
「ぜーったいかわいい。……ふふ」
魔王に拐かされるお姫様、だっけ?
神を堕とした悪魔は君なのにね。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
f11024/かよさん
真っ先に目に飛び込んで来たのは
幾本もの禍々しい角
ならばいっそ
角を目掛けて駆けましょ、と構える符
何方が多く折れるか勝負、なんて
威容の風体と対峙する緊張の中でも
飄々と変わらぬ提案が可笑しくて
何をお願いされるのかしらと
ふくり笑み零すけれど
敵の強さを侮りはしない
高速で多重に紡ぐ詠唱は、鳥葬の調べ
五行の廻りを翼に纏い、悪魔へと喰らい付く
角を折れども痛撃を与えられぬ時は
煩わし気に払う挙動の敵へと疾く駆け
第六感を研ぎ澄ましながら
猛々しい悪魔の身体を覆う鱗の
鈍い光が他所とは違う耀きを示す部位を見切り
敵技は扇状に開いた符を薙いで衝撃波で払う
かよさんへ声を掛け抜刀
共に逆鱗を剥がしに行きましょ
境・花世
綾(f01786)と
魔王さまは随分己に誇りを持ってるみたいだ
それならその証をへし折ってあげようか
何せわたしたちは勇者だもの!
いかにも悪魔らしいあの角を
たくさん折ってきた方が勝ちだよ
そしたらお願いごと、聞いてくれる?
なんて、悪戯っぽくきみに持ちかけて
言うや否や爛漫に咲かせるは異形の花
命燃やすかろやかさで敵へ肉薄して
傷付くのさえ恐れずに削り取りに
もしも角が大切なものでないのなら、
他にも悪魔らしい場所を狙おうか
禍々しい尾、不気味に耀く眼球、それとも?
昏きものを視通す右の眸でよくよく見定めて
鮮やかな紅に染まる花びらで切り裂いてみせよう
並んで駆け出す足取りの跳ねるのは
きみが隣にいるから――こんなにも
●
苛立ちに満ちた、アークデーモンの咆哮が大気を震わせている。
当然といえよう。互いを補い合う、猟兵が見せる巧みな連携の数々を前に、幾度と手中に掴みかけながらも屠れたいのちは未だひとつと無い。
贄が必要なのだ。より強大なしもべを呼びつけるための、贄が。
その、血涙を流す濁った月が寄り添いて立つふたつの人影を捉えた。
「やあ、魔王さま。まだ折れちゃってないね?」
その誇り、と、小首を傾げて境・花世(はなひとや・f11024)。せっかくへし折りに来たのだもの、お望み通りの勇者として!
――いかにも悪魔らしい禍々しい角を、より多く折ってきた方の勝ち。
そんな約束を結んだふたりだったから。未だ健在である片側の角にやったと華やいでみせる花世の頼もしさときたら、隣り合う都槻・綾(糸遊・f01786)はふっと眦を緩め、始めましょと誘う指に触れる薄紗の霊符。
「ね。わたしが勝って、そしたらお願いごと、聞いてくれる?」
「何をお願いされるのかしら」
悪戯っぽく見上げてくる花世へと、楽しみが増えましたとだけ。敢えて解き明かさず淡く微笑む綾は言葉遊びに興ずるよう。
そんな彼だから、勝ちたくなる。
「うん。おたのしみ」
これより始まる血葬のため、爛漫と咲かせる八重牡丹が花世の身体をぶわりと覆いゆく。
身のうちに寄生するUDC、"絢爛たる百花の王"。力借り受けて飛び立つ一歩目は花吹雪を伴って力強い、二歩、三歩と踏むごとに香り立つ風が一面の血臭を過去へ流す。
それでいて。 この花が齎すものも、また、死だ。
『誇り――、貴様を手折ることで快癒するかもしれんな』
「あはっ、それなら無理ってことだ」
たんったんとかろやかに駆け来る花の女へアークデーモンは軍勢の余りをすかさず遣わすが、そもその余り自体があまりに少ない。どこぞの猟兵らが楽しく遊んでいるところとは露知らず、また女の花吹雪に異なる力が紛れ込んでいるとも知ること叶わず。
数多の牙が一度に襲ったかのように、花世に手を伸ばしたものたちがはなびらで切り裂かれる。
こちらは血葬の力。それではもうひとつは?
「私ともお相手してくださいな」
鳥葬。
薫風に吹き上げられる花絨毯の様相で、吹雪らと離れ高く空目指す鳥たちが羽搏つ。
霊符を抜き出したときから綾の詠唱は始まっていた。五行の廻りを纏う翼は色とりどりの彩に透け、しかしうつくしいばかりではない脅威を秘めてアークデーモンを直に襲う。
『!!』
振るう腕が群れの一部を叩き潰さんと落ちる。
しかし、小回りの利く鳥と巨体ではどうにも後者の分が悪い。潰した数の数倍は深々、風の刃が肉を削り落としていって。
ここで殺せぬということは、綾の狙いを叶えさせてしまうということ。
すぱんっと不気味なほど軽い音を鼓膜は捉えたろう。転げ落ちる角の、灼け付く痛みとともに。
『――ッッッ゛どこだ、術士』
「どこだろうね」
もし分かっても触れさせてはあげないよ。
ひたり。 つめたい手が、アークデーモンのこめかみに触れた。
次の一本がほろほろに穴だらけにされるのは直ぐのことだ。
群れて喰らう淡い紅色花弁は血を啜り上げ、綺麗なままで吹き荒ぶ。あかい、あまい、痛みなんてないみたいに。
『ぐうう!!』
「うーん、角も痛そうだけれど。やっぱりこっち?」
ひときわ艶やかに咲く右目の大輪と囁きばかり柔らかい。太い指に握りしめられる前に、爪先でかるくその肩を蹴りつけて花世はくるりと空へ身を投げた。
"こっち"?
置き土産のはなびらたちが金の瞳へ流れ込む。
『ギッ』
声にもならぬというものだ。心の臓が硝子片に満ち満ちるかの、悍ましい痛みならば。
悶絶するアークデーモンが当てずっぽうに放ち襲撃者を追う魔法は、中空に扇状に並べられた綾の符が薙いで打ち消し。ふうわり舞い落ちる花世はその腕によって抱き留められていた。ふれあいはそっと背を支えられる程度、けれど、お見事でしたとやさしく微笑む綾のかんばせは間近にまぶしすぎる。
「う、うんっ。 ありがとう綾、逆鱗は眼球だとおもう」
「なるほど。それでは角勝負の方は如何しましょう?」
しゅぱっと自分の足で立つ花世へと、ゆるゆる笑みを深める綾のそれは意地悪な質問だったかもしれない。敢えて此方に選択権を残すという、そういうところ――。
――続けよう、と花世は言い切った。
「それでね、眼球も計算に入れるってことにしよう」
「おや……ふふ、だとするとかよさんに一歩出遅れてしまいましたね」
もしかしてその心算で? なんて戯れのやり取りもまた楽しい。
根底には討伐への前向きな姿勢があるから、おしゃべりの間にもふたりはそれぞれの力で寄り付く配下を千々に散らした。
綾の手により冴える刀身がするりと抜き放たれる。
「では。共に逆鱗を剥がしに行きましょ」
本番へ、と言外に。
「負けないよ」
並んで駆け出す花世の足取りが、ひとりのときよりずっと跳ねた。
きみが隣にいるから――こんなにも。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エスパルダ・メア
【茹卵】
終わってもねえお伽噺を繰り返すなよ
戦いのために戦うんじゃねえ
戦う必要があるから武器を取る
そうだな、卵は壊して食っちまえ
ヒトは案外しぶといぜ
イディの足留めが効いた隙を縫ってアークデモンとの距離を詰めにかかる
ただ走るんじゃねえ
見ろ、聞け、傷は当然
他の奴らが殴り探るのを見て逆鱗の手掛かりを探す
逆鱗…勘だがその三つ目
一つ余計なモンが邪魔じゃねえか
教える声を耳に見つかったなら
逆鱗を氷の拳で殴り飛ばしに
落ちてくる流星は氷の属性攻撃織り交ぜていなすが
ふは、良い打ちっぷり
てめえはここでオシマイだ
流れ星にお願いってな
この世界の戦場はオレには故郷みたいなもんでね
帰りはイディに任せてある
ああ、楽しくやろうぜ
イディ・ナシュ
【茹卵】
生憎と終世の闇に覆われたところで
ひとは易々駆逐できる弱い生き物に非ず
けれどむざむざ荒らさせるのは
些か癪でございますから
心ゆくまで首魁との戦いに集中できるよう
周囲の小物の足止めを担います
大鶏を召喚したならば
手足を狙い何度でも固める為に戦場を回ります
牙に爪に膚を裂かれようと止まる気はなく
此度は、私が引き摺ってでも二人を連れ帰る役となりましょう
存分に力を揮ってらっしゃいませ
帰る場所は、故郷以外にもあるのです
腕力足らずならば
鶏に括り付けて運びますのでご心配なく
遠目でも探れるものはあるかもしれず
首魁がどこかを庇うような仕草を見せるなら
声をあげてお伝えを
…その明るさで、鋭さで
救う世界を見せて下さい
キディ・ナシュ
【茹卵】
破壊活動は大得意ですので
わたし達があなたを壊す方がきっと早いですよ
逆鱗をベリベリ剥がしに参りましょう!
探す先がどこにあるか不明ならば
人手は多い方がいいですね
さぁみんな一緒に行きましょう
エスパルダさんと、呼び出した3人と共に殴り込みです!
お腹に足に、大きな角?
怪我してもめげずに探します
今日はなんとおねえちゃんが運搬役ですので
お任せしましたよ――鶏さん!
見つけたらあそこですって
大きな声でお知らせしますね!
魔法陣からの流星は
スパナさんで思い切り吹き飛ばしましょう
怪力勝負!負けませんよ!
わたしは勇者なんかじゃ無いですけれど
友達の故郷を壊させたりなど致しませんとも!
ええ、楽しんで参りましょう!
●
次に現れたご一行は賑やかしく。
というよりも、その賑わいは主にキディ・ナシュ(未知・f00998)によるものだった。おててや頭の無いオママゴトのこどもを腕に抱いての行進、アークデーモンが見えた途端に「むっ」と声上げ前のめり。
「発見です! いざっ!」
ぴょいーんと腕の中から飛び降りるこどもたちとともに駆け出した。
犬の尾っぽのようにばたばたとツインテールが揺れている。途中でちらっと振り返る。……隣のイディ・ナシュ(廻宵話・f00651)の視線も感じたエスパルダ・メア(零氷・f16282)は首を振って。
「行くわ」
「ここ数日張り切っていましたものね。エスパルダ様の故郷を守るんだーっと」
「へっ、おでかけ前のガキかって」
茶化しはするが口元に浮かぶのは笑みである。ああ、その通り楽しくやろう。悪魔なんて入り込む隙のないくらい、ド派手に。
背中には暫くぶりの増員だろう、ひとならざるものの引き摺る足音。
ここからはそれこそ旅行のガイドブックみたいに、皆で取り決めていた役割分担をこなすだけだ。イディの手元では白蒙の書の頁が風も無いのにひとりでに捲られてゆく。
「じゃ、頼んだぜ。帰りのこともな?」
「ええ。存分に力を揮ってらっしゃいませ」
帰る場所は、故郷以外にもあるのです。
――前へと走り出すエスパルダ、後ろを振り向くイディ。
開かれた頁は"石礫鶏の鼻薬"の物語。解き放たれる蛇尾の怪鳥がけたたましい鳴き声で毒をバラ撒き始めた。硫黄のかおりのする吐息は、吸い込んだものたちをたちまち石へ変えてしまうおそろしい呪い。
悪魔の軍勢だって呼吸を止める術はない、それに統率もないものだから、前列の者の足が固まれば押し合いのドミノ倒しがあちこちで連鎖し始める。 抜け出るものもいるにはいて、イディへと爪を伸ばす資格を得るのはそうした一部だ。
「出来には個体差が大きいようですが。……」
使い捨ての性、ということか。
いいや、本日は余計なことを考えずに。持ち帰るべき物語がもっと後に待つのだと、微かに睫毛を震わせて瞼を押し上げたイディは分厚い魔導書の背で捩じれ爪を受け止めた。
がごっ。
本にあるまじき鈍い音がして。折れたのはなんと彼方の側!
「駄目ですよ。キディの頭より柔いのでは」
悶絶するその背後から、がぶり。 大鶏は悪魔を丸呑みにしてゆく。
『ヒトの、小娘如きが……何度も何度も!』
大地を揺らす拳。
みしりと罅割れの広がる足元にちょっと空を飛びながらも、気合いのほどは負けていない。跳ね上がった身体をフルに活かして振るわれる巨大スパナはキディのもの。
「ヒトに見えますか? ふふふ、そうでしょうとも!」
べこんっ! 着地先で大きな指を圧し折って。
なんたってキディは"最高傑作"。そしてそんなキディがステキと思い描くこどもたちも、だからこそ見かけによらぬ強い力を発揮してアークデーモンのあちこちに傷をつけている。
ヨランダ、ゾーイ、それからザカリー。
齧りついてみたり、殴りつけてみたり、引っ張ってみたり。きゃあきゃあはしゃぐ甲高い笑い声は遊園地で、アークデーモンの意識を右へ左へ攪乱する。
「破壊活動は大得意ですので。わたし達があなたを壊す方がきっと早いですよ」
宝(逆鱗)探しは人手が多ければ多いほど良い。
巨体が繰り出す攻撃の隙間、こどもたちとともに縫って走るのはエスパルダだ。良いこと言うじゃねえか、ちびっこが切った啖呵にニッとして「ヒトは案外しぶといぜ」と。
「終わってもねえお伽噺を繰り返すなよ。戦いのために戦うんじゃねえ、戦う必要があるから武器を取る――卵なんて壊して食っちまうのさ」
空に描かれた魔法陣からは邪なる隕石が迫り来る。
アークデーモンにしてみれば、その到来まで遊んでやれという魂胆だったのかもしれないが――――残念なことに、それは叶わない。
「なのでよぉぉく見ていてくださいね? これがあなたの未来ですっ!」
キキキキーッとブレーキを踏んだキディがあろうことか空へ向けてスパナを翳した。
そして、振る。 捉える、打つ。 やたら綺麗なフォームをして。
ものはスピードがつけばより大きなものすら砕くひとつの武器となる。削岩機じみた轟音で撃ち返された岩石が空の上で殺し合うのもつまり、魔法でもなんでもない現なのだ。 怪力という異能の前には。
「ふは、良い打ちっぷり」
エスパルダはキディの打撃にぴったり合わせ踏み広げた氷の波動で自身と、また彼女に降りかかる筈であった火の粉を軽減していた。触れる前から宙で凍り、黒や赤紫を閉じ込めてからから降り落ちる様は幻想的ですらあったろう。
これまでにも妖星を返される場面はあったが――この小娘が? 腕ふたつで? さすがに唖然とした様子で硬直するアークデーモンは、ぐじっ! 衝突時の暴風に乗って宙を舞い、頭上から眼球へ齧りつきに来ていたヨランダを見落としていた。
『グゥッ!?』
「いたそう……とっても痛そうですよエスパルダさん!」
「目、か。当たってたらしい、オレの勘」
殴りつけられるヨランダはべっしゃりと折れて大地へ刺さる。
キディもエスパルダもいつの間にやら傷と汚れだらけで、だが、辿り着いたのだ。
「そのご様子でしたら、帰り道もご自分の足で歩いていただけそうですね」
そっと、静かにイディが歩いてくる。
終世の闇に覆われたところで、ひとは易々駆逐できる弱い生き物に非ず。
それならば共にこの地へ来た、理由は――義妹のようにピカピカと語ることは出来ないけれど。
「なによりです。むざむざ荒らさせるのは、些か癪でございましたから」
"小物"を一手に引き受けふたりと同じかそれ以上に傷だらけなてのひらが、次なる一塊へと石化の沙汰を下した。
大鶏の鳴き声と吐息が色々なものを掻き消す中。
突き入れられた魔神の爪を散開して躱しエスパルダは、首尾良く敵の"足元側"に跳んだキディへしゅっしゅっと指差しジェスチャーを送った。
(「となると良い子のクラッシャーくん、こいつちょおっと頭が高いとは思わねえ?」)
「――おまかせあれっ!」
ぶおんっと風切る鋼の塊。スパナ。
ぶん殴られたアークデーモンの脛があまりに痛そうな陥没を見せ、膝は強制的に折れさせられる。おおかみさんにおすわりを言いつけるような、そんな塩梅だ。
慣れていますので! えへん!
「やっぱ末恐ろしいわ!」
楽しげに少女の力技を褒め称えれば、駆けるエスパルダは拳を今一度握り直す。ぴきりと厚い氷に罅走るかの音――事実、其処に氷は存在する。
イグニス・グラキエス、花開くに似て築き上げられる結晶が歩みに従い散り落ちた。
幾度となく焼かれてきた大地をさあさあ霜が覆う。
『ぬううううう!』
「あら……危ないですよ、そんなところで寝ていては」
ついた手の鱗を氷が剥がす。足りぬ腕が指が、抉れた肩が、何もかもがアークデーモンの即座に跳ね起きるという行動をすこしずつ難しくさせた。故に、特別狙いすましたわけでもないのだけれど――駆け回る怪鳥の毒息もおまけで届いてしまって。
びきりと苦しげに血管が暴れたときには、ああ、数秒はもう身動ぎひとつできぬだろう。
忠告しましたのに、という顔のイディは一気呵成に魔神の顔面へ殴りかかるエスパルダとキディを見つめていた。
(「――勇者などではないと、そう口にするでしょうけれど。私には、 」)
……その明るさで、鋭さで。
救う世界を見せて下さい。
「あっ、お願い事は間に合いました?」
『な、に――?』
「さっきのだよ。てめえはここでオシマイだ、流れ星にお願いってな」
叩き込まれたふたつの力は、巨体をも打ち上げる。
氷と陽――――どちらもとても澄み切って。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
花剣・耀子
ロカジくん/f04128
竜に悪魔。魔王様。
あたしは生憎と勇者様ではないから、サムライを名乗っておきましょう。
ロカジくんの役どころは何かしら。
緊張を軽口で散らして、布を解いた残骸剣を手にゆきましょう。
狙いはアークデーモン。
第一義は勿論討伐だけれども、諸般の事情で収入が必要なの。
どこかが逆鱗なのでしょう?
つまり、全部斬ればいずれ当たるということよ。
手応えの違うところが判ったらお知らせするわ。
判れば其処へと集中して、こじ開けて。鱗を花と散らしましょう。
隕石はなるべく避ける心積もりだけれども。
どうにもならなかったら、星屑になるまで斬るわね。
……斬った方が早いと思うの。
稼ぎが薬代にならないよう努めるわ。
ロカジ・ミナイ
耀子/f12822
サムライと名乗るのかい?いいねぇ
じゃあ僕は二匹目のサムライ
それかやたら腕の立つお代官様
狙うは金蔓一筋
耀子がめちゃめちゃ斬るって言うから
その間に配下を斬り伏せたりしておこう
真剣な女の邪魔はするもんじゃないから
一歩下がれば見える逆鱗もあるかもね
傷から出た血を妖刀にくれてやって
アークデーモンの弱点と目星をつけたとこへ雷一閃
外したって鱗を這う電気を払った辺りが次の目星
何度でも突いてやりゃいい
…ホラ、洋子も全部斬るって言ってるし
払える火の粉と隕石は払って避けて
やべぇのはロカジ打法で打ち返す
そう、星屑になるまで
…星屑?
…効率無視するタイプなんだね君は
いいよ、傷薬なら腐るほど持ってきたから
●
竜に悪魔。魔王様。
と来ればさて何を名乗ろうかと、勇者様ではない花剣・耀子(Tempest・f12822)は考えていた。
走る。 片手に握った残骸剣《フツノミタマ》は荒れる向かい風にすこしずつ布を解いてゆく。
「決めた。あたしはサムライ、ロカジくんの役どころは何かしら」
「いいねぇ。じゃあ僕は二匹目のサムライ、それかやたら腕の立つお代官様」
ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)はくつくつ喉を鳴らして話に乗る。「似合う」「どっちが?」続ける会話には耀子の緊張をほぐす以上の意味などない。
ボロボロになろうとも、否、だからこそといえるか。手負いの獣の抜け目無さで早くも空へ魔法陣を描き切るアークデーモンが、其処にいる。
「――斬るわ」
「参る、の方がそれっぽくないかい」
残骸剣を覆うすべての布が解けた。
白い包帯が風に攫われ、代わりに姿を見せたのは青と黒との二色の刀身。それを耀子はふたつの色が混ざり合うスピードで横へ引きながら飛び出した。曰く、"固いものほど良く斬れる"。 ごおと繰り出された蹴りの、その足指の爪と骨を触れ込み通りに断つ。
『グ、 』
「良かった。柔らかかったら困っていたわよ」
斬り抜けて、一拍遅れの風圧に押されながらも捻る身は敵を正面へ捉え直して。少女の瞳は半眼で、冗句か本心か境界が見えない。
故に熱き義憤に静かに燃えるようでいて、実のところ敵の姿に山盛り金貨を重ね見ているなど誰も気付きやしないだろう。
(「あの瞳……、値が付きそうね」)
諸般の事情で収入が必要、というやつだ。――第一義は勿論討伐だとして。
そんな、輪をかけてぐいぐい斬り込んでゆく耀子の様子を蹴撃からの回避を選び跳んでいたロカジはふぅむと見つめる。本日、何を隠そう金稼ぎに来たのだが。
(「真剣な女の邪魔はするもんじゃないか」)
迂闊に間合いへ入れば細かにされかねない。
一歩下がれば見える逆鱗もあるかもと、己は己で宝探しを始めることとする。まずはそこらで起き上がり始めた配下の相手だ。先の余波で腕についた切り傷、そこから垂れた血でしとやかに濡れる妖刀は鞘から抜く過程なく、戦場の熱気でややぬくもっている。
「おっ。君、健康ないい歯してるじゃない。ちょいと見せとくれよ」
剥かれる牙をへし折りながら、捻じ込む刀身に他人の血が混ざってゆく。
欠けた指で土を踏みしめ損ねバランスを崩したアークデーモンは、迫る耀子へ片翼を盾のように閉じて弾き返す。しかし綻ぶのは剣ではなく竜鱗の方だ、蓄積していた傷がざらざらと鮮血を零させた。
「やっぱり、そう」
耀子はひとりごちる。
"斬って斬れないものはない"。――全部斬っていればそのうち逆鱗に当たるし当たらなくても相手は死ぬ。シンプルな考えはそのまま迷いなき剣閃に反映されて、だからこそ速く、深かった。
『何を知った気か知らんが、なァ!』
「っ」
魔神の拳が飛ぶ。
耀子は膝を震わせながらも横へ構えた剣で受け切れば、ざりざりと押し込まれた際に生じた土煙の中を走る。
上体、だ。なにせ下半分はすべて試し終えてしまったから。
手応え、相手の反応。好き勝手斬っているようで情報は後にいくほど正確性を増し、選択肢を狭めさせる。沼の底を攫うように大きなてのひらが襲い掛かってきて、丁度良いと足場に、跳んだ。
「ハズレでも高そうだもの」
――テンペスト。
煙を裂いて撃ち放つ白刃は不意打ちのかたちで、アークデーモンの額、その瞳へ刻まれる。鱗の花が血と散って。
『ガアアアァァ!』
「そんじゃもいっちょ」
『ア゛、ア゛アアアアッッッ!?』
数多刻まれ続けてきた傷たちがそうさせるのだろう、判りやすい痛がりようを見せてくれた急所へ、ロカジもまた紫電一閃、誘雷血、迸るいかづちを斬撃セットで送り込む。ちょうどいい具合に前へと傾いてくれたから実にやりやすくて良かった。 着地した其処で、帯びた血を振り払う一動が周りの配下たちをも焦げ付かせて。
暴れ馬に振り落とされ、ひょっと降りて来た耀子へハイタッチを求めるロカジ。
「他にお金になりそうなところってあるかしら」
「ええ? いやぁ……薬だとかならやっぱり角? ウーン翼なんてのも良いのかなぁ」
しかし手は空振る。その耀子の唐突な問いにもロカジは、消えちゃうんじゃないかな等と夢の無いことは言わなかった。カウンセリングの基本だった。事実、いっしょに夢を見てみるのも悪くはない。斬り落とす楽しみが増えるから。
ふっ、と。
そのとき大きな影が頭上より落ちる。
召喚主が切り刻まれた今、遅い感もある妖星であった。
「おっとやべぇのが、 」
「星屑にしてしまいましょう」
応よとすぐさま眼前の雑魚など蹴倒せば、ロカジは五指を開け閉めして刀の柄をより深く握り直した。
手首のスナップでぐるりと一周させつつ半身を飛来物へ向け、構えるロカジ打法。
――の、フォームを披露したところで真横から斬撃が走りロカジの右半身には尖った礫が食い込んだ。ビューッと噴く血を美味そうに妖刀が啜りやがる。
見遣れば耀子が残像の生じるほどの迅さで残骸剣を振るっていた。 隕石を、削っている。
え、星屑って言ったよね? と尋ねたくなったロカジはここに来て察した。
「斬って――、星屑?」
「斬った方が早いと思って」
こくり。
「それに月の石なんて名前で売れそうよ」
なるほど?
「……いいよ、傷薬なら腐るほど持ってきたから」
「稼ぎが薬代にならないよう努めるわ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヴラディラウス・アルデバラン
類(f13398)と
紛い物の帝竜とはいえ
強敵相手は心も躍る
逆鱗。多くは顎の下と云うが、さて
首を掻くも目を潰すも愉快ではあろう
白馬に跨がり剣携え、紛い物の星を墜しに
一番大切な部位、となると
思い浮かぶは強欲のそれ故
無論敵を観察し、推理するのも怠らない
剣撃や氷の豪雨、竜巻を絶えず降らせば
庇う仕草も見られるだろう
攻撃はそれより速く駆け抜け
或いは剣で払う等して軽減
逆鱗の位置を確信、
或いは推理の目処が立ち次第
敵の意識が此方に向いていない条件の時に
類に鏡を束ねさせる
狙うは目
帝竜化とて逆鱗で無くとも
光による目潰しは効くはず
視界を封じたのち推理した部位を叩かんと
逆鱗が目そのものであるならば
そのまま月と日輪を墜す
冴島・類
※ヴラディラウスさん(f13849)と
竜と言うか悪魔祓いの体になってしまったかな
戦場を前にした、隣の涼やかなかんばせを見て
逆鱗、どこにあると思います?
よく喋り…己の力を誇る手合なら
見えてる場かも
あの月と日みたいに
ま、怪しいと思うの沢山攻めたら
庇うかもしれないですよね!
僕は、刃としてでなく支援を
配下と悪魔を苛立たせる為
破魔の薙ぎ払いで気を引いておき
逆手で鏡片放つ、刹那の速さの魔法でも
光で狙いをずらし
攻め手が集中できるよう、直撃はさせない
激しいのは、敵だけじゃない
はは、氷も剣も苛烈だな
相手が僅かでも嫌がる部位がないか注視
見切れば即共有
ヴラディラウスさんの意図に頷きひとつ
束ね、光に破魔も込め
届かせる
●
――竜、と言うか悪魔祓いの体になってしまったかな。
冴島・類(公孫樹・f13398)が呟けば、傍らのヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)は氷のような美貌のその口元を僅かに吊り、紛い物とて強敵相手は心も躍ると、こうべを垂れて出立を待つ白馬の首を撫でた。
相手が何れであれ変わらぬ冷静さ。その戦意。頼もしげに眺め見た類は次に眼差しを正面――健在とはとても呼べぬが、未だ脅威として立ち塞がるアークデーモンへと戻した。
「逆鱗、どこにあると思います? よく喋り……己の力を誇る手合なら、見えてる場かも。あの月と日みたいに」
「多くは顎の下と云うが、さて。首を掻くも目を潰すもまた愉快だろう」
答えればヴラディラウスは手綱を引き、鐙へ足をかけて馬の背へと乗り込む。
鞘よりすらりと引き抜くIstirの刀身は揮い手同様に氷雪の静けさをして、向かう先の斬るべき相手を映り込ませた。
「ま、怪しいと思うの沢山攻めたら庇うかもしれないですよね!」
暫し顎に手を添え唸っていた類ではあるが、早く斬って確かめたいと云わんばかりの傍らへふっと吐息零して頷いて。自らの両頬をぱんぱん、と叩いて気合を入れれば、いざ一歩。
「お好きなだけ斬ってしまってください。他のことは、お任せを」
「頼りにしている。――始めるとしよう」
先ずは強欲を溶かした紛い物の星を墜すべく。
白馬の嘶き、そして蹄の音が大地を蹴りつける。
死に塗れたこの地へも冬将軍が襲い来たかのように、駆け抜けるヴラディラウスが薙ぐ軌跡に従って振り撒かれるはルーンの齎す白き雪。悪魔らも死に際はうつくしく凍り付く。
必要最低限に道を開いて突き進むのは、続く類が追う手など許すことなく沈黙させるから。
振るわれる度に短刀は風刃を呼び、結晶巻き上げ冬をどこまでも広げる手伝いのよう。
『騎士と馬か? ――面白い』
妖星の到達により幾らか持ち直したのだろう、配下どもの奏でる断末魔、或いは沈黙を耳にアークデーモンはふたりへと向き直る。あらゆる部位を失えど、瞬時に唱え上げる魔法には衰えなく。
直後、ぱあんと幅広く空間に闇色の球が舞い踊る。
「此方で」
「ああ」
短い応酬。類が破魔を宿したひと薙ぎ、風の届く範囲の球を一度に断ち割ってみせれば自然とアークデーモンの注意はその脅威へ逸れることとなる。
『なに……?』
「騎士と馬だけでなく、登場人物に僕も加えてくださいよ」
そうだな、役名は手合わせしてみてそちらで決めてください。なんて嘯いてみせる類を、当然次なる魔法が襲う。己の力を誇る者にとって壊せぬ壁というものは苛立ちの源だ。――此方としては万々歳、それすらも読んでの行動だけれど。
閃輝鏡鳴、故に実現可能となるユーベルコードにより類の空いた手のうちには魔鏡の欠片が零れ出た。
それを腕を振るって振り撒けば煌めきは凍て風に乗り、広域へと流されながら力――、映り込んだものを不可思議に"ずらす"奇術を発揮する。
向かい来る魔法球がまるでふたりを望んで避けるかの角度で明後日の地面へと揺れ落ちる。その間にも、ヴラディラウスはアークデーモンへと到達していた。
「見せてもらうぞ」
『――チィ!』
剣の間合いに入らぬうちから呼び起こし、手向けてやる氷の豪雨が横殴りに魔神の身を貫いた。残り微かであった竜鱗はそうして削り下ろされ、青黒い魔族としての肌のみが露わとなる。
馬には速さを落とさせず、すれ違いざまに斬り結ぶようにヴラディラウスがまず一手。
銀閃は腿を裂いて吹きつける冬とともにその機動力を奪い取る。
『ッ』
アークデーモンは呪縛の魔法として光輪を放出しヴラディラウスの背を振り返るも、氷雪が濃く覆い隠した其処に溶け込む姿を見出すことは困難だ。
その一瞬の、視野の狭まり。
他方より流れ着く風刃に遅れを取るには、十分すぎる時間であった。
すぱぱぱぱと幾重に背へ斬撃が刻まれる。押し出されるように前へと飛ばされる魔神は、その巨体には足らぬ腕の本数で受け身を取り切れず、傷だらけの目元を残る腕で庇った。
『貴様ァ……やはり先に潰してやらねばならんなァ!』
「すみません、丁度良いところにいたもので」
類だ。 類はアークデーモンの側へなにやら微笑んで、頷き、手にした鏡片を束ね向き合うかたちとなっている魔神を、そこへ映した。
『!? ――これは、 』
まるで魂ごと吸い寄せられるかの如く、アークデーモンの視線は鏡から逃れられない。じりりと灼く破魔の痛みに脳髄までも掻き回され、魔鏡の有するもうひとつの側面がそうさせている、と気付く思考も奪われて。
「つまらんな。未だ顎も腹も割っていぬのだが」
それでも身を起こさんとしていたときだ。
かつり、 蹄鳴るは魔神のすぐ傍らより。尤も、視野を固定されている身で感じ取られるものは雪風と、その風を切る金属音と――――、
「引き延ばすものでもあるまいし、な」
次の刹那に深々差し込まれる、瞳――逆鱗への凍えるほどの刃。
今一度赤く染まる月と陽。
ひとつを残して黒く沈んだその強欲は、朽ちる時を間近にしている。
大成功
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ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
生まれたてというに無垢には程遠い
揺り籠に戻してやらねば
討つなら高みの見物や
死角を狙わんとする個体を
…師父、外されぬよう
巫山戯るに似た視線送り
諫められる前に駆ける
【封牙】用い、剣にて竜の全身を攻撃
地に這い、翼も使い
背後を取り、脳天へも打ち下ろす
剣を本命と見せ竜の爪で
或いは其の逆で
裂かれ砕かれようと攻め手は止めず
流れた血すら剣に纏わせ
目眩ましに飛礫とし
その身が庇う箇所を暴かんとする
さあ、何処だ
我が血で穢せぬのは
青の双つ星がそれを見抜く事を信じ
師へ放たれんとする魔法を盾となり妨害
存分に悩まれよ、などとは
流石に痩せ我慢と見抜かれようか
性根の悪い赤子共
未練など抱く前に去るがいい
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
彼奴等に揺り籠は退屈であろうよ
ほれ、たっぷり躾をくれてやると良い
…ふん、阿呆め
私を誰と思っておる?
従者の眼差しを一笑に付し、魔方陣を展開
高速詠唱で召喚するは【雷神の瞋恚】
周囲に群がる雑兵ごと神の裁可を下してやろうぞ
さて然し――護衛紛いの雑魚を蹴散らしつつ
ジジの雄姿を見据え、思索を巡らせる
視力を頼りに親玉の状況を事細かく観察する
ジジが易々と斃れるなぞ思っておらぬ
故に慎重に、従者の努力を無為にせぬよう
…さあ、貴様の弱点を私に示せ
呪縛は破魔と呪詛耐性で凌ぎ
魔術はオーラの守りで威力を削ぐ
血は出ぬ…が、この玉体は容易く砕けような
まあ多少は致し方ない
――この身が粉と帰す前に、殺す迄だ
●
アークデーモンの姿は、最早悪魔とも、竜とも呼びようのない成れの果てであった。
目はほぼ潰れ、手足は欠け、角に翼は落ち尾は途切れて鱗の影も形も無い。
だが二本の足は、未だ己が此処で死ぬ筈ではない存在であると信じているようだ。
――揺り籠へ戻してやる時間が来たらしい。
――彼奴等に揺り籠は退屈であろうよ。ほれ、たっぷり躾をくれてやると良い。
「……師父、外されぬよう」
「……ふん、阿呆め。私を誰と思っておる?」
巫山戯るに似た視線を交わしたジャハル・アルムリフ(f00995)がそれきり駆けてゆくのに、アルバ・アルフライラ(f00123)は常ながらの一笑に付し送り出した。
遠退く背の上に重ね描いて指が辿り、足元を含めた周囲には音も無く仄青き魔法陣が展開される。
最後の気力で喚びつけたといったところか、起き上がる雑兵らがジャハルを追わんとする様を視界に収めれば仕込み杖でつ、と指す。
慣れ親しんだ魔術の行使にはそれだけでいい。
「主よりも先に味わう誉をくれてやろう」
唱う、雷神の瞋恚。
空は高く暗雲を割って、天上より降り注ぐいかづちは死を許す神の裁可として。たちどころに幾筋もの光が正確に悪魔どものみを穿てば、黒焦げの土塊へと寝かしつける。
有象無象の相手は視界を遮る程々で良い。首魁との戦いこそを此処で見つめ、そして逆鱗という名の答えを見い出さねばなるまい。易々と斃れるなどと思ってはいないが――往く弟子の献身を無駄にせぬためと、しんとアルバは星の瞳を凝らす。
視線の先。
紛い物ではない、その手足に本物の竜鱗を纏わせ、ヒトから竜へと一歩近づいたジャハルはすれ違い様に手近なものなら引き裂いて。裁きの光をジグザグと縫い進み、荒れる風の如き飛翔は儘、アークデーモンへと辿り着く。
『竜、か』
「最後の相手が勇者ではなくすまないな」
だが。貴様に終わりを与えるに十分な者だとジャハルはつるぎを抜いた。
互いに、腕を振るう。
アークデーモンの手には爪など残っておらず、単純な拳の圧のみがジャハルを襲う。それを卓越した膂力が支える刃で流して斜め下方へと逸らせば、起こる風に身を飛ばし、ジャハルは己が竜翼を広げた。
封牙の力でヒトを外れ高められた力は空掴む羽ばたきの強さにも現れ、アークデーモンが腕を引き戻すよりもうんと早くその懐へ飛び込ませる。 或いは生まれたての奴であれば他の腕が庇えたやもしれぬが――はじめからおわりまでが一筋に記されている物語にイフなどありはしない。猟兵皆で繋いできた道が、結果として此処にあるだけだ。
撫で斬った刃に血飛沫が上がる。
有効打と知って突かぬのは、そこで止まらぬため。千切れた腕同士の合間からアークデーモンの背面まで抜け出たジャハルは振るう剣の重みを軸に反転、翼なきものの背へ連撃を刺し入れる。
『グ、ううぅぅッ』
叫び声を上げる気力も残ってはいまいか、だが、高空へと今一度魔法陣を広げながら魔神は竜へ追い縋る。振り返りざまの打ち上げる拳。
『寄越せ……! その力ァ!』
そしてがぱりと開かれた口も、今のジャハルは躱すことも出来たろう。しかし宙を蹴りつけて此方から飛び込むものがジャハルという男だ。 この今、痛みなど遠くのものであるのだから。
なにより――――。
「見ている、とは確かに云ったがな」
――アルバの魔法が常に傍らにあるという信頼。
少しは己が身を顧みよ、などと口にしてみせながらもこれまで以上に速く落ち来た雷光はアークデーモンの拳を矢のように貫通、炸裂した。
力無く焦げ落ちてゆく腕を視界の端にジャハルはふっと瞳を細めるのみ。今は、胸裡にて感謝を。
ならば対処するは牙のみで良いのだ。元々はさして獲物を噛み砕いたことなど無かったであろうそれに、噛ませた剣を力任せに引き下ろす。
舌を顎骨を砕き割り、刃は喉を裂いて下りた。
『――、――――!』
それでも尚、終わりを拒み、夢に縋るか。
藻掻くにも似て振り上げられるアークデーモンの手が周囲に闇の魔法球を黒々と灯らせれば。
「上だ、ジジ!」
ジャハルとは反対に戦場を眺め上げるアルバの声の直後に、隕石もが飛来する。
すかさず雷が大きなものを砕き割る。細かな破片が散りばめられて礫と化しジャハルの肌を抉るも、ジャハルはそれに止まるどころか、背の翼を大きく広げアルバへ向かわんとした魔法を受け止めることを優先した。
「な、 」
「存分に悩まれよ。……いや、今にも答えを届ける」
此度はこちらの血が飛沫く。
これ"が"いいのだ。
性根の悪い赤子共。未練など抱く前に去るがいい、と。
つるぎに伝わせた血をジャハルが横薙ぎで払えば、アークデーモンは最早碌に見えやしないだろう目をここまで繰り返し刻み付けられた痛み、最上たる恐怖、本能として庇う。――その一瞬、アルバが見逃す筈がないのだから。
星杖の先は導かれた一点を指す。
「潰えよ、貴様は所詮が物語の端役よ」
見開かれる金の瞳もいまや彩無く。
――裁きの雷光だけが、本物の月や陽によく似た輝きで弾けた。
●
斯くして帝竜に至る筈であった邪悪は、身の丈を超え抱えていた野望とともに砕かれた。
溢れ出た帝竜の髄液は、此度の戦いにおいては採取を挙手した者の手それぞれに分配され収まったことだろう。
後に残るは、呼び名など関係ない、命を賭して抗ったものたちが掴み取った一点の曇りもなき勝利のみ。
歴史の舞台の裏側、ひとつの物語は静かに幕を下ろす。
ハッピーエンドのうちに。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴