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帝竜戦役④〜勇者の伝説と追想の茸

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸 #人魚と勇者の伝説

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 幾つもの勇者の伝説を追うことから、発見された群竜大陸。
 魂喰らいの森を越え、皆殺しの荒野を踏破した、猟兵達の前に広がるのは。
「毒の胞子を放つキノコが生えた『万毒の群生地』だ」
 九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は道行きを示して苦笑する。
 この大陸には、何事もなく先に進める道はないらしい。
「この辺りに放たれる胞子……毒は、幻覚を見せるものらしくてね。
 誰かの過去の光景が、まるで現実のように目の前に広がるんだとか」
 誰か、とは自分であるかもしれないし、見知った他の人かもしれない。
 幻覚はとてもリアルで、そしてこちらの言動に反応すらする。
 もしかしたら過去の光景を変えることすらできるかもしれない。
 しかし、それでも幻覚は幻覚。
 本当に過去を変えることなどできるはずもないし。
 過去の幻視に囚われてしまえば、群生地を抜け出せなくなってしまうだろう。
「そこを通るには、毒への対策が何かしら必要だ」
 そしてもちろん、群生地にはオブリビオンもいる。
 暗殺妖精と呼ばれるフェアリー達は、その名の通り、猟兵達を暗殺するべく、群生地へと集まってきていたのだが。
 どうやらオブリビオンにも胞子の毒は有効らしい。
 何かしらの幻覚を見て、暗殺の動きが鈍っているのだとか。
「こちらがきちんと毒に対応できていれば、軽くあしらえるだろうね」
 ゆえに、注意すべきは毒であり、過去の幻視だと改めて言って。
「気を付けて行ってきな」
 夏梅はにやりと笑って猟兵達を送り出した。

 様々な形のキノコが群生する地を、暗殺妖精は飛び行く。
 群竜大陸に侵攻してくる者を倒せと命を受け。
 何も考えずに。何も考えられずに。
 ただただ命令に従って暗殺せんと群生地を行く。
 そこに、ふわり、と不思議な光が舞った。
 まるで雪のように小さく、まるで綿毛のように軽く、まるで羽虫のように漂って。
 ふわり、ふわりと次々に、ぼんやりとした光が舞い上がっていく。
 それはキノコの胞子。
 過去を見せる幻惑の毒。
 洗脳され、投薬を受け、名前と記憶を奪われた暗殺妖精を、胞子はふわりと覆い。
 フェアリーが誘拐される前の過去を見せる。
 友と共に楽しく暮らしていた過去を。
 両親に囲まれ慈しまれていた過去を。
 暗殺など知らずに笑っていた過去を。
「一緒にいるのは、私?」
「愛されているのは、私?」
「笑っているのは、私?」
 奪われたはずの記憶に心を囚われて。
 失くしたはずの感情を揺さぶられて。
 暗殺妖精は群生地で、淡い光に囲まれ、ふわりと漂う。


佐和
 こんにちは。サワです。
 綺麗なキノコほど毒を持つとか。

 胞子の毒で、誰かの過去を見ることができます。
 自分のものでも知人のものでも大丈夫ですが、知人の過去の場合、相手方の了承が得られていないと判断した時は描写が曖昧なものになります。
 同行者がいる場合は、指定いただければ、皆で同じ幻覚が見れます。
 毒は五感に作用するため、幻覚と相互干渉が可能です。
 ただし、幻覚に囚われすぎるとその場から進めなくなりますのでご注意ください。

 戦闘は『暗殺妖精』との集団戦です。
 猟兵が近づくと、幸せな幻覚に入ってきた邪魔者として攻撃してきます。
 幻覚に囚われてはいるので、奇襲等は容易いです。

 尚、当シナリオには特別なプレイングボーナスが設定されています。
 それに基づく行動をすると判定が有利になります。

 【プレイングボーナス】幻覚毒への対抗法を考える。

 それでは、追想のキノコを、どうぞ。
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第1章 集団戦 『暗殺妖精』

POW   :    スキルオーバーリミット「妖精暗殺術」
【気配を猟兵に感じさせない状態】に変形し、自身の【暗殺実行後の生存率】を代償に、自身の【「暗殺」の技能レベル】を強化する。
SPD   :    暗殺技能・魔法罠即席設計
いま戦っている対象に有効な【魔法で作成したトラップ】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    暗殺技能・虚構群衆召喚
戦闘力のない、レベル×1体の【二乗の数までの現地人・生物を模したデコイ】を召喚する。応援や助言、技能「【群衆偽装】」を使った支援をしてくれる。

イラスト:sio

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャルロット・クリスティア
……我ながら、未練がましいものです。
焼かれる前の故郷。圧政の下、貧しいながらに支え合って暮らしていた村。
僅かな明日の希望に賭けて、その日のささやかな幸せを祝いながら生きていたあの頃。

……まぁ、未練がましいからこそ、こうしていられるのかもしれませんが。
銃を強く握りしめれば、決意が蘇る。

これ以上、誰かの日常が……私のように、奪われることが無いように。
私は戦い続けなきゃいけないので。こんな所で立ち止まってはいられませんよ。

そちらは……どうやら揺らいでいるようですね。
気配を消しきれていない。であるならば捉えることは容易です。
一射で体勢を崩し二射目で獲る。
機関銃なので弾数は十分、手早くやらせて頂きますよ



 それは、ダークセイヴァーでは珍しくない、貧しい村だった。
 実りの少ない畑と数少なくしか育てられない家畜で、細々と命を繋ぐ片田舎。
 ヴァンパイアの圧政に苦しみ、でもその中で支え合って暮らしていた人々。
『見て見て。お花がさいたよ。きれいだね』
 小さな女の子が母親の手を引いて、家の裏に生えた葉の少ない木を指差す。
 枯木のようにごつごつした木肌だが、その奥にはまだ生命の息吹が残っていて。
『もっとさくかな?』
 女の子の顔が輝くと、母親にも小さな笑みが浮かぶ。
 他に蕾は見えないし、今の枝葉を維持するのが精一杯に見える古木。
 それでも、小さくとも花は美しく、その次を思わせるものだから。
『いっぱいさいて、実がなるといいね』
『そうね』
 そうやって、ささやかな幸せを祝いながら生きていた。
 苦しい日が続く中で、僅かな明日の希望に賭けて。
「……我ながら、未練がましいものです」
 そんな光景を眺めたシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は、青い瞳に複雑な色を灯し、細める。
 懐かしい景色が広がるここは、シャルロットの故郷ではなく。
 群竜大陸に広がる『万毒の群生地』。
 無数に生えたキノコが、幻覚毒の胞子で見せる過去の光景だった。
 ゆえに、シャルロットは知っている。
 貧しくもささやかな幸せを大切にしていたこの村に、粛清が訪れることを。
 何もかも焼かれてなくなってしまうことを。
(「……まぁ、未練がましいからこそ、こうしていられるのかもしれませんが」)
 マギテック・マシンガンを強く握り締め、シャルロットは村の幻影を見た。
 未練と思しき感傷と共に蘇るのは、あの時の決意。
 これ以上、誰かの日常が失われることが無いように。
 私のように、奪われる者が生まれないように。
(「私は戦い続けなきゃいけない」)
 改めて、心に誓って。
「こんな所で立ち止まってはいられませんよ」
 シャルロットは幻覚を打ち払い、元のキノコだらけの地を見やる。
「そちらは……どうやら揺らいでいるようですね」
 そこにいたのは、黒づくめのフェアリー。
 個を消すかのように目深に被ったフードで顔を隠し。
 目立たないように艶の消された短剣を手にした暗殺妖精。
 だが、その視線は、暗殺対象であるだろうシャルロットを捉えることはなく。
 虚空を眺めて呆然と立ち尽くしていた。
「あれは、私?」
「一緒にいるのは、誰?」
「知らない。でも……知っている?」
 シャルロットと同じように、幻覚毒で過去を見せられているのだろう。
 しかし、シャルロットとは異なり、妖精は過去に囚われて。
 暗殺のために気配を消すどころか、姿を隠さなければならないという意識さえなく。
 無防備な状態で、その身を晒す。
 だからシャルロットは、静かに機関銃を構えて。
「手早くやらせて頂きますよ」
 暗殺妖精を彼らの忘れた過去へと送り返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

亞東・霧亥
・幻覚
毎朝の軍議が始まる。
最近の報告は、魔物と邪竜の被害者がほとんど。
今日はこの邪竜を討伐しに行こうか。
手を伸ばそうとして・・・頭にのし掛かる鋼鉄の塊。
メタルウィンド、お前、主人の頭を寝床にするなと何度言わせれば・・・ん?子竜?
ああ、そうか。

【UC】+毒耐性、毒使い、医術
慌ただしくも輝かしい日々は、過去のもの。
技術を駆使して毒の中和剤を調合、混濁する意識を覚醒。
さあ、前に、進もう。

・忍び足、暗殺、串刺し
恍惚とした顔で飛び回る妖精に音もなく近付き、刺殺。



『……!』
 誰かに名を呼ばれて、亞東・霧亥(峻刻・f05789)はハッと顔を上げた。
 広い机の上には、びっしりと文字が書かれた紙が重ね置かれ。
 その周りを囲んで置かれた椅子に、軍服を着た者達が座っている。
 それは霧亥も同じ。
 同じ軍服を着て、同じように椅子の1つに座り。
 皆と軍議を行うのが毎朝の決まりだから。
『起きてます?』
「大丈夫だ」
 隣の席からかけられた、少しからかうような笑みを含んだ声に応えてから。
 霧亥は報告の続きを促すように、深く頷いて見せた。
 軍議の最中に気を散らすとは。
 気合いを入れ直して、霧亥は今度こそ報告に集中して耳を傾ける。
 伝えられる情報は幾つかあるものの。
 その内容は、魔物と邪竜の被害がほとんど。
 壊されたもの。奪われたもの。喪ったもの。
 報告に胸を痛めつつ、だが、冷静に状況を分析する。
 それはこの場に居る皆が同じだっただろう。
 淡々と重ねられる言葉には、突き放すような冷淡な響きは、ない。
 そうして全ての報告が終われば、行動計画に議題が移る。
 毎朝の変わらぬ流れ。
 繰り返される日々。
 霧亥は軽く手を上げ、皆の視線を集めると、その手を伸ばして。
「今日はこの邪竜を討伐しに行……」
 その時、言葉を遮るように、バサリと頭に何かがのしかかった。
「メタルウィンド」
 慣れた重さと感覚に、霧亥は振り仰ぐまでもなくその名を呼ぶ。
 金属の翼を持つ小型のドラゴンは、ゆえに長く飛ぶことができず。
 疲れるといつも霧亥の頭に降り立ってくるのだから。
「お前、主人の頭を寝床にするなと何度言わせれば……」
 呆れたような声と共にドラゴンを窘めながら、ようやく振り仰ぎ。
「……子竜?」
 黒い瞳に映ったその姿に、霧亥の中で何かが繋がった。
 懐かしい朝の光景。
 慌ただしくも輝かしい日々。
 もう繰り返すことのない時間。
「ああ、そうか」
 これは、キノコが放つ毒の胞子が見せる、幻覚の過去だと理解して。
 今の霧亥は、群竜大陸を進む猟兵であると思い出して。
「『この痛みは過去の記憶。幻痛に怯えて足を止めるな』……」
 あえて受けた毒から、その医術や知識、技術を駆使して解析し、中和剤を作り出した。
 混濁していた意識がより覚醒するのを感じながら。
 さらに、ユーベルコードで身体能力を増大させて。
 幻覚毒を打ち払った霧亥に、黒髪から飛び離れたメタルウィンドが、喜ぶように、寄り添うように宙を舞う。
「さあ。前に、進もう」
 そして、万毒の群生地を進んだ霧亥は。
 幻覚毒の過去に囚われ、恍惚の表情で飛び回る暗殺妖精に音もなく近づくと、逆に暗殺するように、次々と刺殺していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※スライム形態

◆行動
暗殺者が失われた過去に囚われ
あまつさえ縋り付くとは滑稽を通り越して哀れですね

まぁ、毒の胞子やキノコを少しずつ【捕食】して
並外れた【毒耐性】を更に環境に適応させた私にはさして効果はありませんが……
この光景は悪くありません、ささやかですが褒美をあげますよ
(妖精達の過去を覗き見て)

【毒使い】による催眠毒を精製して
【黄衣の蜜酒】で深い眠りへと誘いましょう
大丈夫、痛くも怖くもありません
地脈により【生命力吸収】し、その身は骸の海へ還しますが
貴方達が心から望んだ、優しくも覚めない夢は最後まできちんと紡ぎますよ?
先程良いものを見せて貰いましたからね

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブOK



 万毒の群生地で垣間見えるのは、自身の過去だけではない。
 黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)の目前に広がるのは、見覚えのない光景だった。
 穏やかな空気が満ち、鮮やかに花が咲き乱れる彩の地。
 そこに舞い踊るのは、小さなフェアリー達。
 辛いことなど何もないような、晴れやかな笑顔で。
 大好きな仲間と共に居る時間を心から楽しむように。
 フェアリー達は、花と踊り、風に舞う。
「……あれは、私?」
 ぽつりと言葉を零したのは、黒づくめの暗殺妖精。
 呆然としたその視線の先には、半ばフードに隠されたのと同じ顔が笑っている。
 それは、当たり前だった幸せな日常。
 暗殺妖精となるべく誘拐される前のフェアリーの世界。
 7班3番と番号ではなく、失った名前で呼ばれていた時間。
 洗脳と投薬で、記憶からすら奪われた過去。
 この地に群生するキノコが放つ毒の胞子によって、唐突に見せられた幻覚。
「私は……私は……!」
 突き付けられた光景に、失くしたはずの心が揺らぐ。
 戸惑い揺れるその姿は、もはや『暗殺妖精』ではなかったから。
「暗殺者が失われた過去に囚われ、あまつさえ縋り付くとは」
 ミコは、その動揺を見上げ、スライムのような漆黒の身体をぷるんと揺らした。
「滑稽を通り越して哀れですね」
 言うミコも、キノコやその胞子の只中にいる。
 だが、ブラックタールの身体でそれらを少しずつ捕食し、毒への耐性を得ることで環境に適応していったミコには、胞子の幻覚はさしたる効果は見せず。
 過去に囚われるどころか、傍観者のように他人の過去を覗き見して楽しめる程。
 何の憂いもなく仲間達と笑い合う、花畑のフェアリーと。
 それを見つめて愕然とする、黒づくめのフェアリー。
 相反する、だが同じ姿が並ぶのを見て。
「この光景は悪くありません。ささやかですが褒美をあげますよ」
 ぽよん、と身体を弾ませたミコは、ユーベルコードを発動させる。
「いあいあはすたあ…………あいあいはすたあ!」
 生み出されるのは、黄金の蜂蜜酒の酒精。
 催眠毒であるそれは、暗殺妖精を深い眠りへと誘い。
 そして、キノコの胞子すらも利用して、より深い幻覚を見せていった。
「大丈夫、痛くも怖くもありません」
 幻覚の元が変わっていることにも気づかないまま。
 暗殺妖精は、幸せな過去に深く深く囚われ、眠りに落ちる。
「良いものを見せて貰いましたからね。
 貴方達が心から望んだ、優しくも覚めない夢は最後まできちんと紡ぎますよ?」
 洗脳される前の時間へ。
 投薬により失った記憶の中へ。
 蜂蜜のように甘く誘い、酒のように溺れさせて。
 眠るうちに、生命力を吸収し尽くし、その身を骸の海へ還していった。
 過去を見ていた者が消えたからか、そこに広がっていた花畑は本来の姿であるキノコの群生地となり、また毒の胞子を漂わせる。
 ミコはぷるんと身体を震わせて、幻覚毒の捕食と適応を続けながら。
「さあ、次は誰のどんな過去が見えるでしょう?」
 スライムな身体で地面を流れるように進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ふと広がるのは、誰かの過去。
 流れが複雑で滝も多い川の一角での、出会いの記憶。

「アナタ、自殺志願者?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど……」
 転覆したのは簡素な船。
 川の大きさには不釣合いな、急流に耐えられない程の小さな船。
 助けられたのは、1人の冒険者。
 助けたのは、魚を連れた人魚。
「自殺したいなら、この子達のごはんにもらおうと思ったんだけど」
「肉食魚かぁ。食べられるのは困るな」
 群竜大陸を目指す勇者と、魚と共に住める地を探す人魚の出会い。
「あれ? 君は食べられたりしないの? 大丈夫?」
「……この子達は、友を食べたりしない。
 ちゃんと解ってる。こんな小舟でこの川を下ろうなんて無謀なアナタと違って」
「それについては弁解の余地もありません」
 淡々とした人魚に、だが勇者が浮かべるのは嬉しそうな笑顔。
「じゃあ、僕も友達になれば食べられないかな」
 驚く人魚に勇者が差し出したのは優しい掌。
「助けてくれてありがとう。
 そして、君も魚達も、僕と友達になってくれないかな?」
 川下に待つ温泉の村まで続く、2人の旅の始まりの物語。
尾守・夜野
一歩踏み出す度詳細を欠いたありし日の壊される前の日常が
息を吸い込んだ所でありし日の香りなどしない

助けたいと手を伸ばした先の人影が業火に包まれ歪んでいく

踏み出す
歪む
混ざる
悲鳴や爆ぜる音がこだます
何故助けられない
あの日と違い力はあるのに

あのひ…ちがうこれはいまで
おれはたすけられなくて
ちがうこんどこそ
あし
うごける
たすけないといけないのに
ちがう
あれはみんなじゃない
だってうでがあしがかおが
あぁあああ!

フラッシュバックする様々な角度からの地獄の光景
見せしめに足だのを壊された上で見せられた光景を思い出し
発狂
UC発動は負の感情
向かう先が「過去」ならば
敵に当たるだろうよ

故に毒にかかる事こそが
俺にとっての対策



 懐かしい村に、尾守・夜野(墓守・f05352)は1歩、足を踏み出した。
 道具や機械を使う村人達が、豊かな実りをもたらす畑で作業に汗を流し。
 あぜ道で子供達が走り回り、笑い声を響かせる。
 そろそろ食事の支度をと、女衆が畑仕事を切り上げ始め。
 それじゃあもう一仕事と、男衆がその日の仕上げに入る。
 誰かが、明日もいい天気になりそうだと空を見上げ。
 誰かが、病気もなく育っている作物の収穫時期を思い微笑む。
 また1歩、夜野はその光景へと歩を進める。
 在りし日の、日常。
 経た時間により詳細を欠いて尚、心に刻み込まれ続けている光景。
 1歩。1歩。
 夜野は歩み寄り、焦がれるように手を伸ばす。
 大きく吸い込んだ息に、穏やかな村の香りが……消えた。
 伸ばした白い手の先で。
 見開いた赤い瞳の前で。
 農村は一瞬にして業火に包まれる。
 畑作業をしていた人も、走り回っていた子供も。
 家に戻りかけた女も、空を見上げた者も。
 1歩。1歩。
 夜野が足を踏み出す度に、歪んでいく。
 狂信者に襲われた、最後の日の光景が混ざっていった。
(「あのひ……」)
 呆然と、目に映る惨劇に思考が鈍く巡る。
(「ちがうこれはいま」)
 悲鳴が耳をつんざいて、爆ぜる音がこだまする。
 それは、今の夜野に聞こえているもの。
(「おれはたすけられなくて……」)
 かつての無力な自分が見ていた光景。
 でも今の夜野なら、刻印を与えられた自分なら。
(「ちがうこんどこそ」)
 それなのに。
 戦う力を得ているのに。
 あの日と違って、力はあるのに。
 1歩。1歩。
 足は動ける。
 近づいていく。
 それなのに。
(「たすけないといけないのに」)
 助けようと動くことができない。
 だって、違う。
 ちがう。
(「あれはみんなじゃない」)
 助けるということは、目の前の人々が村の皆だと認めることになるから。
 片足を切り落とされた男が。
 爆発で腕を飛ばされた女が。
 殴られて顔を潰された子供が。
 共に村で暮らしていた皆だと認めることになるから。
(「みんなじゃない」)
 だってあしが。
 だってうでが。
 だってかおが。
 夜野自身も動けぬように足を腕を壊されて。
 その上で、見せしめとばかりに目の前で見せつけられた地獄の光景。
 業火と共に刻まれ、朧になりながらも消えない過去の記憶。
 それを再び、フラッシュバックするように、様々な角度から再現されて。
「あぁあああ!」
 夜野は発狂した。
 それと同時に、ユーベルコードが発動する。
 夜野の感情が負の方向に大きく揺らされることで生み出される力。
 あの日には持ち得なかった力。
「あああああああああ!」
 握り締めた怨剣村斬丸から一時的に解き放たれた人魂は、夜野の感情を揺らしたモノへと向かっていった。
 幻覚を見せる毒の成分を持つ、淡く輝く胞子へと。
 それを生み出し続ける、キノコの群生へと。
 そして、その幻覚毒の見せる過去に囚われていた戦闘妖精へと。
(「たすけたかった」)
 在りし日の夜野が思った願い事を。
(「たすけられたかった」)
 在りし日の夜野が欲した加護を。
 人魂は、歪んだ形で夜野に与えていく。
 生きろ、と。
 何故お前だけが、と。
 祝詞のように呪詛のように繰り返しながら。
 人魂は『過去』へと襲い掛かる。
 ……そうして、周囲が群生地でなくなったことで、夜野は現在へと戻ってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
義兄の瞬(f06558)と参加。

お互いの過去ですか・・・母さんと私に会うまえの瞬兄さんはちょっと見てみたいかも?構いませんか?(了承を得て、頭を撫でられ)はい、どんな事があっても戻って来ましょう!!約束です。(指切り)

見る幻覚は初めて兄さんとあった時、死んでいた方達が武器を傍らに置いて笑いながら夜ご飯。傭兵稼業だったようですから、戦地から戻って来た後でしょうか・・・あ、戦士だったお父さんに似ているような・・・(手を伸ばしかける)

ふと、兄さんの声で我に帰ります。そうです、私と母さん、兄さんが一緒にいるのが今の正しい在り方です。強い意志を持って、【範囲攻撃】化した煌きの神炎で敵を打ち払います。


神城・瞬
義妹の奏(f03210)

母さんと奏に会う前の僕の過去を見たい?必然的の僕は奏の過去を見る事になりますか。いいですよ。(奏の頭を撫で、微笑み)ええ、必ず、お互いの所に帰りましょう。

僕が見る風景は真宮のお父さんに奏が怒られている所。良く危ない所にいって怒られていたようですから。・・・でも今の奏のフォローをするのは僕の役目です。お父さん、奏の事は僕に任せて貰えますか。全力で奏の名前を呼びます。あるべき場所に戻す為に。

奏、気を取り直した様で。はい、母さんと奏と僕が共にいる事こそが現在です。【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】した氷晶の矢で敵を蹴散らします。さあ、戻りましょうか、母さんの所へ。



「過去が見える場所、ですか……」
 万毒の群生地を前にして、真宮・奏(絢爛の星・f03210)はぽつりと呟く。
 そこに生えるキノコの胞子には毒があり。
 この場所は過去の幻覚を生み出すのだと説明を受けていたから。
 過去、と奏は少し考えて、ぱっと顔を上げ隣を見上げた。
「母さんと私に会うまえの瞬兄さんはちょっと見てみたいかも?」
 ちょっと首を傾げて見せると、神城・瞬(清光の月・f06558)が穏やかに振り向く。
 さらりと流れる長い金色の髪も、優しい赤と金の瞳も、茶髪紫瞳の奏とは違う。
 それは、兄と慕い妹と慈しみつつも、2人が本当の兄妹ではないからで。
 両親を失った瞬が、奏の兄となったのは6歳の頃。
 つまりそれ以前の瞬は、奏の知らない時間だから。
「構いませんか?」
 紫色の瞳に好奇心を溢れさせて、でもその片隅に兄を気遣う色も少しだけ添えて、見上げてくる奏へと瞬はくすりと微笑みを返した。
「そうなると、必然的に僕は奏の過去を見る事になりますか?」
 瞬にとっても、妹となる前の奏は、知らない時間。
 興味がないと言えば嘘になる。
 それでも、勝手に見てしまうわけにはいかないだろうと、兄妹揃って同じ気遣いを見せつつ問い返せば、奏は迷いなく頷いた。
「いいですよ」
 笑顔を浮かべた奏の頭を、瞬の大きな手が優しく撫でていく。
 その心地よさに目を細めて。
 でも、奏は紫瞳に強い意志を湛えて、改めて瞬を見やると。
「どんな事があっても戻って来ましょう! 約束です」
 小指を立てた手を掲げる。
 瞬も、すぐに同じ手を差し出して。
「ええ、必ず、お互いの所に帰りましょう」
 絡み合った指は、約束を交わして切られた。
 そして兄妹は、淡い光の燈る群生地へと足を踏み入れる。
 その光こそがキノコの胞子であり、幻覚を見せる毒。
 そう気づいた時には、もう瞬の目の前の景色は変わっていて。
(「あれは幼い頃の奏、ですね」)
 小さな女の子の姿に、瞬は愛おし気に目を細めた。
 緩くくせのついた茶色い髪も、真っ直ぐな紫色の瞳も今と同じで。
 何かを我慢するかのような表情で、前に立つ男性を見上げている。
 会ったことのないその男性が誰だかは、何故か分かった。
(「……真宮のお父さん」)
 幼い奏の様子からか。
 母や奏が話を聞かせてくれていたからか。
 初めまして、よりも、お久しぶりです、と声をかけたくなってしまうような、どこか懐かしいような感覚で、瞬はその存在を認識する。
 でもそれは不快な感情ではないから。
 幼い奏に話しかけている男性を、瞬は穏やかに見つめた。
(「そういえば、良く危ない所にいって怒られていたと聞きましたね」)
 少しむくれたような奏の表情は、少し強い男性の口調は、そういうことなのだろう。
 それでも、機嫌を曲げつつも奏から父を嫌う雰囲気は見られず、男性の言動にも娘を想う気持ちが溢れていたから。
 こんな一時すらも幸せな時間だったのだろうと思う。
 瞬が会うことのできなかった、今は亡き『父』。
 母を愛し、奏を大切にしていた人。
 だけど。
「今の奏のフォローをするのは僕の役目です」
 これだけは譲れないから。
 瞬は幼い奏の横に立ち、男性へと真っ直ぐに告げる。
「お父さん、奏の事は僕に任せて貰えますか」
 それは、もし今会えたならば彼に伝えたいと思っていたこと。
 兄として、そして一人前になれたなら違う存在として。
 奏の側にいたいと願ったから。
 そんな瞬を、男性は少し驚いた顔で見つめ。
 そして瞬の服の端を掴んで寄り添う幼い奏に気付いて。
『頼むよ、瞬』
 優しく微笑んだその顔は、どこか奏に似ている気がした。
「……奏!」
 その頃、奏はどこかの里の広場に居た。
 中央で燃え盛る炎を囲んで座り込み、酒を酌み交わす者達。
 身に着けた武骨な防具と、傍らに置かれた武器から、戦士か傭兵かと思わせる。
 そこに家々から女性達が料理を運んで来て、さらにその場が盛り上がっていく。
 それを奏は、広場の片隅からじっと見つめ。
(「見覚えがある方です」)
 ふと、それに気付いた。
 どこで見たのかと記憶を探れば、蘇ってきたのは幼い瞬の姿で。
(「初めて兄さんと会った時の……」)
 そんな瞬の傍らで事切れていた人達の顔が、重なっていく。
 だとするならば、ここは瞬が生まれ育った隠れ里。
 傭兵稼業だったと聞いたから、これは戦地から戻って来たことを祝う宴だろう。
 戦いの勝利を、互いの無事を、讃えるように笑顔が交わされて。
 酒が料理が、燃え盛る祝炎が、それを彩る。
 でも、この里は今はない。
 何者かに襲撃され、瞬も両親を失うのだから。
 その結末である光景を、幼い頃の奏は見たのだから。
 失われる未来を待つ宴。
 その中で奏は、瞬の本当の父と思われる男性をじっと見つめて。
(「お父さんに似ているような……」)
 戦士だったという自分の父の姿を重ね見て、思わずふらりと歩き出す。
 求めるように縋るように、その手を伸ばしかけて。
「お父さ……」
「……奏!」
 そこに瞬の声が響いた。
 自分を支え、そしてあるべき場所に引き戻さんとする、強い声。
「そうです。私と母さん、兄さんが一緒にいるのが今の正しい在り方です」
 我に返った奏は、ぎゅっと手を引き戻すと、愛用の剣をしっかりと握り締める。
 守るという熱い信念の証たるブレイズソード。
 それを振り抜き、紫色の瞳に強い意志を込めると。
 奏の周囲に、幾つもの神炎が煌めいた。
 その白熱した煌めきは、胞子を焼き払い、幻影を打ち破って。
 奏を優しく見つめる瞬の姿を現す。
「ええ、母さんと奏と僕が共にいる事こそが現在です」
 奏の言葉を繰り返すように、同じ思いでいると伝えるように、そう告げて。
 瞬は数多の氷晶の矢を生み出し、微笑む。
「さあ、戻りましょうか。母さんの所へ」
「はい、兄さん」
 そして2人は息を合わせて、幻覚の胞子を、暗殺妖精を蹴散らして進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サモン・ザクラ
【竜雨】
白か灰、黒
色彩無い世界とは、幼き娘には酷なこと
これがお前の過去か、レイン

退屈か、そうさな
お前は生き、俺と此処に在るに至る
その過程を俺は退屈などとは言うまいよ

だが、友が望まぬ過去との邂逅
まして俺にもそれを齎す、その無粋は許されぬ

毒耐性、オーラ防御
備える力は駆使して挑もう
吸わぬ煙管から生んだ『遊火』で
気流作り胞子吹き飛ばし、或いは燃やす
過去の残香、焼き尽くしてくれる

吹雪に墜ちるなら俺が手に拾おうが、
今のお前は吹雪にも立ち向かうのだろう?
ならば俺はその身が寒さに凍えぬ様守ろう

今度こそ『友』を援けよう

見慣れぬ幻に、知る人影
見守る『友』に誓い駆ける

この煙管持つ竜人の、鮮やかな赤鱗に背を向け、今は


氷雫森・レイン
【竜雨】
敬愛する人の過去を覗き見たかったんじゃない
だから毒に侵された先、私達に見えたのが私の過去なのは寧ろ良い事だった
A&Wの某国
家々の屋根色が判らぬ程毎日雪が降る常冬の地とそれを只見下ろす石塔最上階の窓
殺風景な石の部屋
寒さを防ぐ結界に出入りをも禁じられ、時折訪れる白衣の人間達に色々尋ねられ飛ぶ様や魔法を見せる日々
やがて私は易く結界を破り窓の外へ出る
非道な実験も無い中の贅沢な選択
その対価
吹雪の中無力に墜ちた妖精は
「…終わりにしましょう。私でさえ死ぬ程退屈だったのに付き合わせて悪かったわ」
生きて此処に居る
だからもういいでしょう
焼け落ちる幻の奥に見えた同族へ冥土の土産にこの氷雨をあげる

「今の…?」



 毎日雪が降る常冬の地は、家々の屋根の色を白一色に変える。
 屋敷も、小屋も。通りも、広場も。白い雪が降り積もり。
 高い石塔の最上階から見下ろす景色を、白と黒、そして灰色だけにしていた。
 窓の外に広がる、色彩無い世界。
 といって、窓の内側が鮮やかな世界というわけもなく。
 石造りの部屋の中は酷く殺風景だった。
 寒さを防ぐ結界が、暖房を不要とし、そこに居る者の出入りすらも妨げる。
 何もなく、何も求めることのできない部屋。
 幼い娘には似つかわしくない、酷な世界。
「これがお前の過去か、レイン」
 静かに問うサモン・ザクラ(常磐・f06057)に、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は特に何も返事をしなかった。
 じっと見つめる先で、クリアブルーの4枚翅を広げたフェアリーがいる。
 網目模様のそれも美しいけれど。
 色白で繊細な肌が。さらりと揺れる青色の髪が。
 生気に乏しくも濡れた紫色の瞳が。
 氷細工の作品であるかのような、繊細な美を作り上げていた。
 色彩無い世界の唯一の色。
 石の部屋が、石塔がある理由。
 雪が降り続く世界に留まっていた妖精。
(「良かった」)
 かつての自身の姿を見つめ、レインは思う。
 幻覚を見せるキノコの胞子。
 その毒に侵されたからと、敬愛する人の過去を勝手に覗き見たくはなかったから。
(「見えたのが私の過去で良かった」)
 例えそれが……であっても。
 そして、過去の時間は進む。
 白衣の人間達が塔を訪れては、妖精に色々尋ね、魔法を乞うていった。
 問いに答え、そして魔法を見せて。
 それ以外にすることも、できることもない、殺風景な日々が続く。
 非道な実験が行われたわけではない。
 ただ妖精は、答えられることを答え、できることを見せていただけ。
 毎日。毎日。
 常冬の地の冬が終わらないのと同じように。
 何もなく、何も求めることのできない部屋で。
 ただそれだけが続いていく。
(「……それはとても」)
 ある日、妖精は窓の外へ出た。
 出入りを禁じられてはいたけれども、結界はいともた易く破れたから。
 狭い石の部屋から、広い外の世界へと飛び出す。
 何もなく、何も求めることのできない部屋とは違い。
 何でもあり、何でも得られる自由な世界。
 でもその自由には、寒さから守ってくれた結界も、安全な部屋もない。
 何もなかった部屋の、その『何も』の中には、危険も含まれていたのだから。
 贅沢な選択。
 だから、その対価か。
 吹雪の中、妖精は無力に墜ちた。
 レインはそんな妖精を、自身の過去を、静かに見下ろして。
「……終わりにしましょう」
 淡々と、サモンに告げる。
「私でさえ死ぬ程退屈だったのに付き合わせて悪かったわ」
 そう。妖精は退屈だったのだ。
 寒さのない部屋が。殺風景な世界が。変わりのない毎日が。
 だから、外へと出た。
 そして……生きてここに居る。
(「だからもういいでしょう」)
 レインは過去の幻影から目を反らすように、紫色の瞳を伏せた。
「退屈か……そうさな」
 その言葉を受けたサモンは、吹雪の中の妖精を、そして傍らに浮かぶレインを見て。
「お前は生き、俺と此処に在るに至る。
 その過程を俺は退屈などとは言うまいよ」
 過去を越え、友となってくれた者へ、伝える。
 それがどんなものであれ、今に至るものならば、否定することはないからと。
 それに、この過去との邂逅は、レインが望んだものではない。
 まして、サモンがそれを齎すような無粋が許されるとは思っていない。
 だからこそ。
 サモンは咥えた煙管から、藍色の遊火を生んだ。 
 幾つも生まれたその炎は、気流を作って胞子を吹き飛ばし、あるいは燃やしていく。
(「過去の残香、焼き尽くしてくれる」)
 焼け落ちていく幻。
 その向こうにいた暗殺妖精の姿に、無力な過去の妖精の姿が重なった。
「吹雪に墜ちるなら俺が手に拾おうが、今のお前は吹雪にも立ち向かうのだろう?」
 吸わぬ煙管を燻らせるように動かしながら、遊火を次々と操って。
 サモンは、レインを待つ。
「ならば俺はその身が寒さに凍えぬ様守ろう」
 その言葉に、レインは伏せていた顔を上げ、魔法を天へと打ち上げた。
 そこから降ってくるのは矢の雨。
 氷の属性で雹となり、伴う雷で光を纏った、氷雨の矢。
 レインの魂に残る、冬の世界の一欠片。
 炎に消えゆく過去の向こうに見えた、過去に囚われた同族への冥土の土産にと。
 幾つもの矢を降らせ続けて。
「今度こそ『友』を援けよう」
 その最中、サモンは消えゆく過去の中に駆け寄っていた。
 サモンにとっては見慣れぬ幻の中で、唯一知る人影へと。
 見守るような温かな紫瞳を向けて、誓うように告げる。
 過去の妖精へと。
 現在のレインへと続いていくように。
「今の……?」
 どこか呆然と呟くレインの声に、サモンは小さく微笑んだ。
 振り向くことはしない。
 誓うのは自身にでいいから。
 それ以上何も告げずに、また煙管を咥え、遊火を燻らせる。
 この煙管持つ竜人の、鮮やかな赤鱗に背を向け、今は……

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 ふと広がるのは、誰かの過去。
 流れが複雑で滝も多い川の一角での、交流の記憶。

「へえ。肉食魚でも、子供なら僕の手を啄むくらいでいいんだね」
 手を差し伸べた川の中で集まるのは小さな魚。
 何匹も群がって、削り食べるのは古い皮膚。
「くすぐったいよ」
 笑う勇者を、だが不思議そうに見る人魚。
「……アナタ、怖くないの?」
「何が?」
「人間を食べる魚が」
 心の底から分からないと伝えて来る双眸。
 それを見返す勇者の瞳に浮かぶのも、疑問。
「怖く、はないかな。むやみやたらに人間を襲うわけじゃないし」
 その間も優しく啄まれる手。
「それに、それを言ったら僕だって、魚を食べる人間だよ。怖くない?」
 そして返された問いに、見開かれる人魚の瞳。
 思いもよらなかった言葉。
 今まで会った人間からは出てこなかった問いかけ。
「お互い理解し合って、折り合いを付けられるなら、怖がる理由はないよ」
 優しい眼差しが向かう先は、水中の魚達。
 そして、目を瞬かせる人魚。
「それに、もう僕らは友達だしね」
 嘘偽りなく零れた笑顔。
 人魚の心の中で響いたのは、冷たく閉ざされていた何かが解ける、音。
エルネスト・リシュリュー
エリーカ(f03244)と
胞子に注意しつつ、エリーカを守る様に動く

毒を完全に排除する事は難しいけど、軽減は出来る
毒耐性、環境耐性を備えて大判の布で鼻と口を覆う
後ろで結べば両手が使える
風魔法…そうか、巻き上げて散らしてしまうのも手だね
その隙に俺が敵を薙ぎ払おう
吹き飛ばしも有効だといいけど

突然現れた魔物の群れ
新手か?…違う、これは
幼き頃話してくれた彼女の過去
言葉にするのも辛かったろう記憶
しかし、この光景は聞いていた以上の…
言葉が、息が、胸が詰まって咄嗟に彼女を抱き締める

大丈夫、大丈夫だよエリーカ
『祈望』に君への想いを込める
エリーカ、君を一人にはしない。必ずだ
君を護ると誓ったから
この誓いは揺るがない


エリーカ・エーベルヴァイン
エル(f19011)と

呼吸で吸ってしまうのは厄介ね
口元にハンカチ、毒と環境への耐性、オーラ防御
属性攻撃も風なら効果的かしら
ドーム状に巡らせて、大気の壁を作るの

ああ、でも

集落を襲った魔物の群れに、父と母を失った日
幼い私はただ抱き守られ、奪われただけだった
肌を伝う母の血が、段々と冷たくなって

幻覚よ
解っていても身が竦んで、膝からは力が抜けて

だけど

背から包んだ温もりに、体へと温度が戻る
おひさまの香りの、温かなひと
…どうしてあなたが泣くの、エル

仕方ないひと
でも、その優しさと言葉が力をくれるの
失わないわ
今度こそ

『白花群』地表一面に魔力を
炎の花よ、咲いて全てを焼き尽くして
エルと二人で先へ進むって決めたのよ



 淡く燈る光は、キノコの放つ毒の胞子。
 そう分かっていてもつい、綺麗、と思ってしまったエリーカ・エーベルヴァイン(花蕾・f03244)は、その感想を振り払うように赤い瞳を少しだけ伏せた。
「呼吸で吸ってしまうのは厄介ね」
 そう呟く口元に当てられたのは、繊細な花柄のレースが縁取る白いハンカチ。
 艶やかな唇を隠す布地は、できる限り毒を吸わないようにする対策で。
「軽減は出来るけど、完全に排除するのは難しいね」
 そう苦笑するエルネスト・リシュリュー(碧落・f19011)も、草木で染めの大判の布で口と鼻を覆っている。
 エリーカと違い、後ろで結び止めているのは、両手を空け、騎士としていつでも剣を振るえるようにだろう。
 けれども、辺りに充満した胞子の密度は濃く。
 エルネストが言うように、布程度では完全には防げていないから。
「属性攻撃も、風なら効果的かしら」
「風魔法?」
「ドーム状に巡らせて、大気の壁を作るの」
「そうか、巻き上げて散らしてしまうのも手だね」
 それならと口にしたエリーカの考えに、エルネストも賛同をみせて。
 じゃあ、と試しにやってみようとした、その時。
 突然、魔物の群れが現れた。
「新手か?」
 咄嗟に白銀剣を引き抜き、構えるエルネスト。
 でも、魔物達はエルネストに見向きもせず、集落へと向かっていた。
(「……集落?」)
 エルネストがいるのは、キノコだらけだったはずの場所。
 それがいつの間にか、幾つもの家が並び、人々が暮らす地になっていたから。
「違う、これは」
「幻覚よ」
 答えはエリーカが引き継いだ。
 しかしその声は、酷く強張っていて。
 だから、エルネストは気付く。
 この集落は。魔物の群れが襲ってくるこの光景は。
(「彼女の、過去」)
 それを話してくれたのは幼い頃のこと。
 言葉にするのも辛かったろう、彼女の両親が亡くなった日の記憶。
(「私はただ、守られていただけだった」)
 エリーカは、魔物に蹂躙されていく集落をじっと見つめる。
 まだ幼かった少女には、何が起きたのかも理解できず。
 ただ抱き守られて。
 ただ奪われただけだった。
 父の大きな背中が、遠ざかっていって。
 衝撃と共に母と一緒に地面に転がって。
 肌を伝い落ちる、温かな赤。
 それが段々と、冷たくなっていって……
(「私の、過去」)
 何をしても変わらない。
 どうあがいても変えられない。
 記憶の中だけに残っていたはずの光景。
 これは、毒の胞子で生み出された、あの日の幻覚。
 そう解っていても。
 身が竦む。
 膝に力が入らない。
 立っていることすら、できな……
「大丈夫、大丈夫だよエリーカ」
 ふわりと。
 優しい声と温もりが、エリーカをその背から包み込んできた。
 そっと守るように身体の前に回された力強い腕。
 背中をすっぽりと覆う広い胸板。
 そして、ほっとするおひさまの香り。
 エリーカは、温度が戻ってきたのを感じながら。
 身をよじり、エルネストの顔を見上げた。
「……どうしてあなたが泣くの、エル」
 濡れた緑色の瞳に、白い繊手を伸ばす。
 エルネストはその問いに答えようとするけれども。
 言葉が、息が、胸が詰まって。
 何も言えぬまま、今度は正面からエリーカを抱きしめた。
「大丈夫」
 紡ぎ出せたのは同じ言葉だけだったけれど。
 抱く腕に、伝わる体温に、想いを込める。
(「君が君らしくありますように」)
 願いは力となり、祈りはエリーカを支えて。
 エルネストは、誓う。
「エリーカ、君を1人にはしない。必ずだ」
 君を護ると。
 君に誓う。
(「この誓いは揺るがない」)
「仕方ないひと」
 エルネストに身を預けていたエリーカは、そう言って小さく微笑んだ。
 不器用な優しさと。
 飾らない言葉。
 それこそが、エリーカに力をくれるから。
(「失わないわ。今度こそ」)
 そっとその胸を押して、抱く腕から身体を離し。
 エリーカは1人で立つ。
 その背中を見守ってくれる存在を感じながら。
「此処は、炎群れ咲く白き花園」
 差し出した繊手の先を中心に、白花の如き白炎が無数に咲き乱れた。
「炎の花よ、咲いて全てを焼き尽くして」
 白き花は、集落を襲う魔物の群れを、その幻覚を生み出した胞子を、発生源たるキノコを、次々と燃やし消していき。
 その先で過去に囚われ、呆然と飛んでいた暗殺妖精をも飲み込んでいく。
「エルと2人で先へ進むって決めたのよ」
 白い花弁のように炎が舞い散る中で、さっと紫色の長髪を手で払い、赤い瞳で真っ直ぐに前を見据えるその美しい背中を、エルネストは目を細めて見守って。
 そして、その隣へと並ぶべく、足を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 ふと広がるのは、誰かの過去。
 流れが複雑で滝も多い川の一角での、絆の記憶。

「これでよく川を下ろうなんて考えたものね」
 魚達と共に小舟を支える人魚。
 ちらりと目を向けるのは、舟の上の勇者。
「まさか泳げないとは思わなかった」
「うん。僕もさすがに無謀だったかなって思ってる」
 続く激流に相応しくない程、簡素な舟。
 川の規模に相応しくない程、小さな舟。
 人魚達の助力がなければ、待つ結末は再びの転覆。
「でも、川を行くしか方法がなくて」
 それは人魚も既に聞いた目的。
 千の竜が住まうという忌まわしき群竜大陸。
 川を下った先にあると言われた決戦の地。
「そのために僕はここまで来たから」
「泳げないのにね」
 目標を真っ直ぐに見据える勇者。
 それをからかいながらも、愛おしそうに眺める人魚。
「本当に辿り着ける?」
「辿り着くよ。何があっても」
 どんな言葉にも揺らがぬ決意。
「友達が助けてくれてるしね。絶対、僕は辿り着く」
 迷いなく前を向く瞳。
「じゃあ、これをあげる」
 人魚から差し出されたのは、ペンダントに加工された雫型の小さな板。
 光に当たると不思議な七色に輝く、透明な人魚の鱗。
「御守りに持ってなさい」
 それは人魚の伝説。
 人魚が信じ、人魚を信じてくれた人間に与える加護。
「だからって泳げるようにはならないと思うけど」
「ありがとう」
 受け取って微笑む勇者。
 その胸元で輝く、2人の友情の証。
雛瑠璃・優歌
【天歌】
「これ…あたしの」
物心ついた時お母さんはもう弱ってた
愛情はずっと貰ってたけど
笑顔はすぐに萎んで溜息を吐く
お祖父様達はそんなお母さんが大事だからお父さんの事を悪く言う
あたしには何も言われない事が逆に怖くて
お母さんを笑顔に出来るスタァになると言って稽古場に通う事にした
家に居たくない
無力どころかあたしの存在が毒なのかもって思いたくなくて
自分の為の夢じゃない所為か稽古場の中では浮いて
先生に一番怒られるのもいつも…
「セレス…さん?…むぐ、」
良い香りのスカーフで目が覚めた
温かいおひさまみたいな言葉が降ってくる
…あたしはまだ、煌めける?
試してみたいと思った
「はいっ!」
UC発動
敵の生む真も偽も全て貫く


セレスタン・カリエラ
【天歌】
「こーら、しっかりなさい?」
意識はこちらに向いたかしら
これ以上胞子を吸わない様に、スカーフで鼻口を覆わないと
こんな風に人の過去を覗き見てしまうなんて…でも
「大丈夫よ、優歌ちゃん」
見えるものに言及はしない。野暮だもの
ただ、もう少しだけ自分に優しくなれるよう願って
「貴女は煌めくスタァよ。それは貴女の夢が素敵なものだから」
その切欠が、自分の為か、誰かの為か、或いはどちらを隠しているとして
それを厭う必要なんてないわ
「スタァは笑顔の為にいるのだもの」
他人と自分、どちらの笑顔の為にもね
「さ!行きましょ♪」
治癒なら生まれながらの光を持つアタシに任せてね
昏く見える未知すら、光を伴にすれば怖くないわよ!



 笑顔で子供を抱きしめる女性の姿があった。
 愛おしむように、慈しむように、幼い娘に愛情を注ぐけれども。
 その姿はベッドの上にあったから。
 すぐに笑顔はかげり、弱々しい身体からため息が零れる。
(「お母さん……」)
 ベッドの上の女性を見舞う老人の姿があった。
 大切な娘の身体を気遣って、励ますけれども。
 娘が弱っていたのは、娘の元に戻らぬ男のせいだったから。
 すぐに男への悪口が紡がれていく。
(「お祖父様……」)
 女性に抱きしめられ、老人を見上げる幼い子供の姿があった。
 暗い表情の母。
『お母さんをずっと笑顔にしたい』
 父を悪く言う祖父。
『あたしには何も言われない』
 何もできない自分の無力さに、自身の存在がそのものが毒となっているのかも、という考えすら浮かんできて。
 それを振り払うように、子供は稽古場に向かう。
『スタァになるの』
 母を笑顔に出来る存在になるために。
 自分が毒だと思われないために。
 ……家に居たくないがために。
『あたしは、スタァになる』
「これ……あたしの……」
 その過去を見せられた雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)はどこか呆然と呟く。
 目の前で稽古に励む子供は、優歌と同じさらりとした黒髪を揺らしていて。
 優歌と同じ青い瞳で必死に前を見ていた。
 見覚えのある稽古場で。
 何度もこなした練習を繰り返す。
『でも、スタァになるのは、自分のための夢じゃないから』
 母の笑顔のために。
 父が悪く言われないために。
 家の外に居るために。
『だからあたしは、皆と違う』
 稽古場で共に励む皆の中で、子供はいつもどこか浮いていて。
 だからからか、先生の怒声が一番飛ぶ先は子供だった。
『やっぱり、あたしは毒なんだ』
 鬱々とした感情が満ち、幻覚が歪んでいく。
 かつての暗い思いに、今の優歌も引きずられて。
 過去の幻視はその結末を変えていく。
『あたしは、スタァになれないんだ』
「こーら、しっかりなさい?」
 そこに、暗雲を晴らす光のように、明るい声が響いた。
 伸びて来た両の手が、優歌の頬を優しく包み、ぐいっと過去から反らさせて。
 ぼうっとした優歌の青い瞳に、唇と目尻に添えられた紅が鮮やかに映る。
「セレス……さん?」
「戻ってきたかしら?」
 にっこり笑ったセレスタン・カリエラ(路地裏の月灯・f22622)が少し首を傾げて問いかけると、白メッシュの入った漆黒の長髪が肩口からさらりと落ちた。
 セレスタンは、優歌の頬を軽く叩くようにして両手を離すと、その手で自身から紫色のスカーフを外して広げ。
「……むぐ」
 優歌の鼻口を覆うようにして、頭の後ろに手を回す。
(「こんな風に人の過去を覗き見てしまうなんて……」)
 優歌と同じ幻覚を見ていたことに、罪悪感を感じながら。
 スカーフが外れないように、キツくなりすぎないように、端を結んで。
(「だからって、見えたものに言及はしない。野暮だもの」)
 即席のマスクで幻覚毒の胞子を多少なりとも防ぐと、セレスタンは改めて優歌に向き合い、笑いかけた。
「大丈夫よ、優歌ちゃん」
 周囲を思い遣るあまりに自分を追い詰めてしまった、心優しい子供に。
 ただ、もう少しだけ、自分に優しくなれるよう願って。
「貴女は煌めくスタァよ。それは貴女の夢が素敵なものだから」
 迷いなく笑い、告げる。
 自分の為の夢でも、誰かの為の夢でもいい。
 それを隠していたとしても、厭う必要なんてない。
 だって、スタァは。
「スタァは笑顔の為にいるのだもの」
 他人と自分、どちらの笑顔の為にもいるものだから。
 他人も自分も、皆を笑顔にする存在なのだから。
(「あたしは……」)
 優歌の青い瞳に光が灯る。
 スカーフから漂う、優しい良い香りに包まれて。
 温かいおひさまみたいに降り注いでくる言葉を貰って。
(「……あたしはまだ、煌めける?」)
 試してみたい。
 その気持ちを強く抱きしめて。
 前を向いた優歌に、セレスタンは嬉しそうに笑った。
「さ! 行きましょ♪」
「はい、セレスさん」
 そして、スタァの原石は立ち上がる。
 白くぴったりとしたパンツルックに、黒いロングブーツと青いベストを合わせ。
 大きく翻すのは、銀糸の装飾で縁取られた青い上着と青いペリース。
 艶やかな長い黒髪はサイドで凛々しく1つに纏め。
 蒼玉製の両刃細剣を振るうその姿は、男装の麗人そのもの。
 舞台衣装に身を包んだ優歌は、空を飛ぶ鳥のように舞い歌い、進む。
「治療はアタシに任せてね」
 セレスタンは青い背中を優しく見つめ、その輝きで優歌を照らして。
「昏く見える未知すら、光を伴にすれば怖くないわよ!」
「はいっ!」
 スタァの剣は迷いなく、幻覚毒が生み出す偽も、暗殺妖精が迎え撃つ真も、全てを貫いて未来への道を切り開いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 ふと広がるのは、誰かの過去。
 流れが複雑で滝も多い川の一角での、別れの記憶。

「本当に、行かれるのですか?」
 申し訳なさそうに声をかけたのは初老の男性。
 川辺で振り向いたのは、旅支度を整えた勇者。
「あの子達をお願いします」
 村に喜ばれた魚。
 村に歓迎された人魚。
 残されていく者達。
「僕には、やるべきことがありますから」
 誰も支えない小さな舟。
 乗り込むのはただ1人の勇者。
「それに……」
「それに?」
 期待するように繰り返す男性。
 勇者が見せたのは、はにかむような笑顔。
「僕も欲しいな、って思ってしまったんです。
 全てを終えた後に帰る場所が。
 おかえり、って迎えてくれる人が。
 だから……」
 言いたくない別れの言葉。
 でも、確実とは言えない帰還。
 それでも、と抱いた望み。
 無意識のうちに握り締めた、胸元で輝く七色の欠片。
「行ってらっしゃい」
 男性も破顔して、深い首肯と共に紡ぎ出す、送る言葉。
 驚きの後、勇者が零したのもまた、笑顔。
「ありがとう。行ってきます」
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

群竜大陸の先に行き、そして少し戻り
何故か気になるこの場所へ
ん、そうねまつりん
ここは勇者に近い場所

一歩足を踏み入れると
…まつりん、どうしたの?
手を繋ぐと視界に広がる景色
これは、まつりんの見てる…人魚の勇者の過去?

知りたい
1人でここに向かった勇者の足取り、そして想い

でも過去に囚われ過ぎないように注意して
まつりん(しっぽを引っ張る)

妖精、幸せ?
楽しかった?嬉しかった?
その気持ちを過去形にしない為に
未来にもう一度幸せを紡ぐ為に
一旦骸の海に還ろう?

【Shall we Dance?】
トラップも何が作られるかゆっくり見れば対処出来る

最後は長槍にした灯る陽光で一突き


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。

群竜大陸の旅は続いてる。
『万毒の群生地』かあ。キノコ・キケン・ダメ!(ばってん)

できるだけ毒吸わないように、マスク装着!(すちゃ)
あ、あそこに何かいるね……暗殺妖精……?

あ。違う。
この村、前に来たことあるかも?

ここ、お肉食べる魚がいた川だ。
じゃあ、あれは妖精じゃなくて、人魚……?

ね、声を掛けたら、振り向きそうだよ?
最後に、一度だけ、声を掛けて行こうよ!

でもやっぱり、声を掛けずに川を渡る。
もうー! 幻覚なんだから、好きにすればいいのにー!!

なんか視界がぼやけて、現実に戻ってきた。
アンちゃん! 人魚の勇者が!?(ぐす)

暗殺妖精さんには、骸の海に戻ってもらって。
進もう?



「キノコ・キケン・ダメ!」
 ばってん、と腕をクロスさせる木元・祭莉(とっとこまつさんぽ?・f16554)を見て、木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)はくすりと微笑んだ。
「ん、そうねまつりん」
 キノコが群生するこの地には、淡い光が漂っている。
 それはキノコの胞子。
 過去の幻覚を見せる毒。
 それをできるだけ吸わないように、と祭莉がすちゃっとマスクを装着し。
 杏も倣って口元を覆い、周囲を見回した。
 何故だろうか。
 この場所が、酷く気になっていたから。
(「ここは勇者に近い場所」)
 追いかけて来た人魚の勇者が辿り着いたはずの場所だから。
 杏は、何かを求めるように視線を巡らせる。
「あれ?」
 先に反応を見せたのは祭莉の方だった。
「まつりん、どうしたの?」
「何か見えるよ。暗殺妖精かな?」
 問いかけと共に握ってきた杏の手を引いて。
 進む先に見えた人影に、首を傾げてとてとてと近づいていく。
「あ。違う」
 けれども、人影はフェアリーより格段に大きくて。
 農具を手にした人間達だということはすぐに分かった。
 気付けば、キノコだらけだったはずの景色は、穏やかな村のそれに変わっている。
 畑仕事を終えて集まってきた村人達が向かうのは、温泉の共同浴場。
 小さな魚が泳ぐ湯船に、笑顔を零して浸かっていく。
「この村、前に来たことあるかも?」
 どこか見覚えのある風景に、祭莉はまた首を傾げた。
 温泉で魚が泳ぐ村。
 はっと気付いて振り向くと、村の外れに大きな湖が見える。
 いや、湖ではない。
 酷く幅の広い、少し霧がかっているとはいえ向こう岸が見えない程大きな川。
「ここ、お肉食べる魚がいた川だ」
 きらきらと輝く水面の一部は、どうやら鱗のようで。
 ぱしゃり、と時折跳ねている。
「じゃあ、あれは……」
 祭莉が目を留めたのは、今まさに、川へと漕ぎ出そうとしていた小さな舟だった。
 乗っているのは、1人の勇者。
 ……人魚と共に旅した勇者は。
 人魚を村に残し、独りで旅を続けた……
 思い出されるのは、祭莉が妹と一緒に追っていた、人魚の勇者の伝説。
 だとするならば、これは勇者が人魚に黙って旅立つところで。
「最後に、1度だけ、声を掛けて行こうよ!」
 たまらず祭莉が声をかけると。
 緑色の長い髪をゆるく三つ編みにして肩にかけた勇者が、振り向く。
 驚くように緑色の瞳を見開くと。
 すぐに優し気な笑みを浮かべて首を横に振った。
『いいんだ』
 穏やかで、何の憂いもない笑顔。
『あの子達は、村に受け入れてもらえた。
 だからもう僕の役目は終わり。
 ここからは、僕だけが行くべき道だから』
 行く先を、川の向こうを真っ直ぐに見つめて。
 胸元に揺れる七色のペンダントを大切に握り締めて。
『全てが終わって、帰ってきたら。
 そうしたら、声をかけるよ』
 もう一度振り向いて、祭莉に笑いかける。
『ありがとう、少年』
 そして迷いなく漕ぎ出された小舟は、川の向こうへ小さくなっていく。
 遣る瀬無く、祭莉はそれを見送って。
 ふと気付くと、川岸に人魚の姿があった。
「ね、声を掛けたら、振り向きそうだよ?」
 声をかけると、赤い鱗を持つ人魚は祭莉へと振り仰ぎ。
 深い青色の長髪を横にゆっくりと振った。
『いや、いい』
 赤い瞳に湛えるのは、別離の哀しみ。
『考えたことがないわけじゃない。
 あの人とこの村で穏やかに暮らせたら、と』
 見えなくなっていく小舟に向けた、悲痛な思い。
『でも、それはきっともうあの人じゃない。
 引き止めたら、あの人はあの人じゃなくなる』
 けれど、手を伸ばすことはなく。
 静かに目を伏せて。
『だから、待つ。あの人が帰ってくるのを。
 例え、どんな姿になったとしても』
 もう一度顔を上げた時には、穏やかな笑みを浮かべていた。
『ありがとう、狼』
 そして人魚は川に背を向け、村へと向かう。
 離れて行く、勇者と人魚。
「もうー! 幻覚なんだから、好きにすればいいのにー!」
 ぐしゃぐしゃと祭莉は、短い赤茶の髪を片手でかき回した。
 元々クセのある元気な髪が、さらにわさわさと盛り上がる。
 そう。これは過去そのものではなく、過去の幻覚にしかすぎないと分かっている。
 今この場を変えても、過去は変わらないと理解している。
 でも。それでも。
 例え偽りでも、悔いのない別れをできればいいのにと。
 普段はぴんっと立っている狼耳をしゅんとさせて、祭莉は項垂れた。
「まつりん」
 そこに、呼びかけたのは聞き慣れた声。
 ふさふさな尻尾が軽く引っ張られる、慣れた感覚。
 誰が、と考えるまでもない。
 いつも隣にいてくれる、大切な双子の妹に振り向いて。
「アンちゃん! 人魚の勇者が!」
 銀の瞳に涙を湛えた祭莉の視界で、ぼやけた過去が消えていく。
 杏は、よしよし、と乱れた赤茶の髪を整えるように、優しく双子の兄の頭を撫でる。
 祭莉と同じ幻覚を、ずっと手を繋いでいた杏も共に見ていた。
 この群竜大陸へ向かった勇者の足取りを。
 その胸の内を。
 少しでも知りたいと願って。
 でもこれ以上は過去に囚われてしまうから。
 もっともっと、勇者を追いかけたい気持ちをぐっと我慢して。
 杏は、長槍にした灯る陽光を横に払った。
 巻き起こった風が毒を散らし、その向こうで淡い光に囲まれた暗殺妖精の姿を見せる。
「愛されているのは、私?」
「笑っているのは、私?」
 奪われたはずの記憶を見せられて。
 失くしたはずの感情を揺れ動かして。
 暗殺妖精は虚空を見つめ、過去に囚われていく。
「幸せ?」
 そこに、杏は歩み寄った。
 祭莉と繋いでいた手を離して。
 後ろから支えるような歌声が響いてくるのを聞きながら。
「楽しかった? 嬉しかった?」
 過去の思い出を見つめる暗殺妖精に問いかける。
 けれども答えは返らぬまま、妖精は戸惑いの表情で虚空を見つめ続けているから。
 取り戻したその気持ちを、過去形にしない為に。
 思い出せた幸せを、未来にもう一度紡ぐ為に。
「一旦骸の海に還ろう?」
 杏は、長槍を鋭く放ち、その小さな身体を一突きした。
 愛し愛されていた記憶があれば。
 共に笑い合った時の幸せな感情を覚えていれば。
 独りになってもきっと、悲しいだけの未来にはならないから。
 灯る陽光を握り締め、暗殺妖精を還した杏に。
 祭莉の手が、差し出された。
「進もう?」
「ん、一緒に行こう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 ふと広がるのは、誰かの過去。
 流れが複雑で滝も多い川の一角での、終わりの記憶。

「本当に、行かれるのですか?」
 申し訳なさそうに声をかけたのは年若い男性。
 川辺で振り向いたのは、勇者を待ち続けた人魚。
「あの子達を頼む」
 村に喜ばれた魚。
 世代を重ねて生まれ育った新たな友。
 残されていく者達。
「もう、この身体は限界だ」
 深い青色だった、今は白い髪の間から、ぽつりと零れた言葉。
 残された時間の短さを感じさせる声色。
「だから……」
「だから?」
 期待するように繰り返す男性。
 人魚が見せたのは、晴れやかな笑顔。
「水に戻る。
 そうすれば、ずっとあの人を待っていられる」
 例え、どんな姿になってもと決めた、誓い。
 言わなかった、別れの言葉。
 それは、帰還を待ち続けるという無言の約束。
「あの人はきっと帰ってくる。
 本懐を遂げて、この村へと。絶対に」
 揺らぐことなく信じる心。
 七色の欠片に込めた、決して変わることのない想い。
「だから、この川で待つ」
 人魚の身体が沈みゆき、波紋の広がる水面。
 悲愴ではない、むしろ温和な、微笑。
「行ってらっしゃい」
 男性も破顔して、深い首肯と共に紡ぎ出す、送る言葉。
 驚きの後、人魚が零したのもまた、笑顔。
「ありがとう。また、いつか」
文月・ネコ吉
現れるのは暗殺者だった頃の過去
目の前で楽しそうに話すのは何も知らないターゲット
そろそろ帰ると背を向けたアイツを俺が殺すのは数十秒後の話
恨みでもなく怒りでもなく
ただ仕事として日々の糧を得る為に

それしかないと思ってた
それが普通だと思ってた
だが違った
別の選択肢があった事を
今の俺なら知っている

ただ手を振って見送る
アイツは振り向き笑顔を返した

背を向け幻覚を払う
感傷に浸るのはここまでだ
暗殺者になる前の過去は俺にはない
だがコイツにとってそれが幸せなものであるのなら
その夢が覚める前に終わらせよう

幻惑に囚われたままの暗殺妖精に
背後から【忍び足】で近づき
影ノ刀の一撃で【暗殺】する

救えるなんて思っちゃいない
それでも



 そいつは、文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)の目の前で、楽しそうに話を続けていた。
 弾む声には何の杞憂もなく。
 時折相槌を打つだけのネコ吉に、機嫌よく笑みを深め、無防備に、話題を繋ぐ。
(「俺は暗殺者だというのに」)
 そいつ自身に恨みはない。
 怒りもない。
 ただ、仕事として日々の糧を得る為に……
 ネコ吉は、何も知らないターゲットに、また相槌を打った。
 数十秒後には、そいつは事切れている。
 ネコ吉の手によって、思いもよらないであろう終焉を迎える。
 晴れやかな笑顔を、一瞬にして、驚愕と恐怖とに変えて。
 終わる。
 それしかないと思ってた。
 それが普通だと思ってた。
 過去の、暗殺者だったネコ吉は。
(「だが違った」)
 幻覚毒がもたらす過去の中、ネコ吉は少しだけ青い瞳を細めた。
 今のネコ吉なら、知っている。
 別の選択肢があったことを。
『そろそろ帰るよ』
 笑顔のそいつはそう言って、ネコ吉に背を向ける。
 何の警戒もない背中に、刃を突き立てたのが、本当の過去。
 けれども。
 ネコ吉は、ただ手を振って、その背を見送った。
 途中で振り返ったそいつは、またネコ吉に笑顔を返した。
 記憶とは違う結末。
 今だからこそ選べたもの。
 あの時には選べなかった光景……
 ネコ吉は、偽りの過去に背を向け、体内から抜き出した黒い影の刀を振り抜く。
 払われた幻覚の向こうで、暗殺妖精が過去に囚われていた。
「幸せなのは、私?」
「嬉しいのは、私?」
 呆然と、ネコ吉には見えぬ幻覚を見て。
 凍り付いていた顔に、微かな笑みが浮かぶ。
(「暗殺者になる前、か」)
 ネコ吉には、その過去はない。
 だが暗殺妖精にとって、それが幸せなものであるならば。
(「その夢が覚める前に終わらせよう」)
 背後から音もなく忍び寄ったネコ吉は、影の刀で素早く小さく切り伏せる。
 幻惑に囚われたまま、気付かぬうちに逝けるように。
(「救えるなんて思っちゃいない」)
 それでも。
 夢の中にいるうちにと。
 さきほどの、振り返ったアイツの笑顔も思い出して。
 ネコ吉は静かに黒き刃を振るい、過去の幻覚ごと、暗殺妖精を送っていった。

 ……

 …………

 ……かつて。

 かつて、人魚と共に旅をしていた勇者がいた。
 けれども勇者は、群竜大陸に渡る前に、ある村で人魚と別れる。
 人魚の安全と幸せとを願って。
 必ず帰ると自分に誓って。
 けれども人魚の元に勇者は戻らず、人魚は勇者を追って村を出る。
 勇者にまた会いたいと願って。
 大切な人を想い、信じ抜いて。

 そして。
 形を変えていった、人魚と勇者の過去の伝承は。
 数多ある『勇者の伝説』の1つとなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月24日


挿絵イラスト