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ネームレス・ペイン

#UDCアース #感染型UDC

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 昼間でも、灯りを点けない家の中は仄暗い。
 翳るキッチン、シンクの前でグラスに注いだ水道水を見つめる。
 二か月も過ぎた。
 ママの靴が、崖の上で見つかった日から。
 中学に上がって、後輩が出来て。
 良い先輩しなさいよ、なんて言った時にはもう決めていたのだろうか。
 いなくなると。
 パパは今日も遅くなるのだろう。
 揺れる水を見つめて思う。
 ママは苦しかったんだろうか。
 手が滑る。
 シンクの角にグラスがぶつかって、割れて砕け散る。
 新聞紙は、机の上にある。タオルは、取っ手に下がっている。
 切れると、思いながらもグラスに手を伸ばす。
 指先が切れる。
 大きな破片をつまむ。
 タオルを引っ掻いてみると、ざりざりと削れる。
 ついと、垂れる血がタオルに染みついている。
 お風呂を入れよう。
 そうして、手首を切ろう。
 そう思った。
 日光が何かに遮られた。
 暗がりが深くなる。
 振り向いて、そこにいたのは機械だった。
 機械の人型だった。

「あなたは、何か言ってるの?」

 知っている。
 噂を聞いている。
 死にたいと思う人に現れる、何か。
 私が危ないんじゃない、なんて、冗談話を聞いた。
 冗談、ではなかったらしい。
 そっと手を伸ばす。
 それを求めている、そんな気がした。

「うん、教えて」


「こんなうわさ知ってる?」

「死にたくなったら、迎えに来るんだって」

「黒い、黒い」

「何者でもない、何者にかなりたかった」

「そんなまだ誰でもない、トモダチ」

「ねえ」

「どうして、私ってこんなに醜くて、汚くて、大嫌いなんだろう」

「だから、死のうと思うの」


 とある団地の景色だった。
 その予知は、単純に結果を示唆している。
「連続自殺が起きようとしている、という事だよ」
 集団自殺とは少し違う。
 たまたま、近い場所で、同じ頃合いに、自殺するのだ。
 ルーダスは、ふん、と鼻を鳴らして、耳をハタハタと揺らした。
 笑って言う。
「そんな偶然、そうそう起きるものでは無い。そうだろう」
 オブリビオン、この世界でUDCと呼ばれるものの、影響だ。
 噂の元凶となったUDC。
 そして、その噂によって引き寄せられた黒い鎧のUDC。
 それらを撃滅し、UDCの煽情によって自殺しようとしている被害者たちを止めなければいけない。
「まずは、団地の中庭、マンションルーム、非常階段、屋上。そこらに出現するUDCを撃滅する」
 それが最初の一歩だ、とルーダスは短く告げた。


オーガ

 とある団地で起こる事件です。

 各章ごとに断章を挟みます。

 よろしくお願いします。

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第1章 集団戦 『ジャガーノーツ』

POW   :    I'm JUGGERNAUT.
いま戦っている対象に有効な【能力を持つネームド個体のジャガーノート】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    You are JUGGERNAUT.
自身が操縦する【子供に寄生する同族化装置(破壊で解除可)】の【寄生候補の探索力・捕獲力・洗脳力・操作力】と【ジャガーノート化完了迄のダウンロード速度】を増強する。
WIZ   :    We are JUGGERNAUTS.
【増援】を呼ぶ。【電子の亜空間】から【強力なネームド個体のジャガーノート】を放ち、【更に非ネームド個体の軍隊からの援護射撃】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:tel

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 無数に現れたソレは、休日の昼下がり。団地で穏やかに過ごしていた子供たちの元へと姿を表した。
 ノイズが走る。
 いや、それは声なのだ。その音を理解する脳が、システムが、存在しないゆえ雑音にしか聞こえない。
 それと同一になれば、語りかける声も理解できるのだろうが……。

 それはすなわち、彼らの側へと堕ちていくことに他ならないのだ。

 それでも、そうと知っていても、その手を握ろうとするまだ幼い手が、あった。


 団地の至るところに出現するジャガーノーツとの戦闘です。
 少年少女への接触を阻害し、撃滅してください。

 一般の人が過ごす住居の中での戦闘です。
 狭い場所も多いですが、破壊は最小限にした方が混乱、被害は少ないはずです。

 フレーバー程度判定には関係ないですがですが、団地の中庭、マンションルーム、廊下、非常階段、屋上など。
 希望があれば、場所指定ください。

 連携はなんとなくするかもしれません、適当に書きます。

 よろしくお願いいたします。
箒星・仄々
誰しも心に闇はあるでしょう
故に時には道に迷い
死を想うこともあるかも知れません

それを唆すUDCさんの何と卑劣な事か
骸の海へお還し
子供達を護り抜きますよ~

目立たぬよう魔法の迷彩を纏い忍び足
感覚を研ぎ澄ませ団地内を探索
雀さんや猫さんがいれば聞いてみましょう

UDCを発見したら迷彩解除しつつ疾風を纏い加速
残像を残しながら接敵
早業で抜刀
込めた属性魔力で輝くKナーゲルを一閃
柄頭の鈴がちりん
敵内部に刃から魔力を放ち仕留めます

ネームドが呼ばれたら異なる属性に切り替えて攻撃

風の魔力の高機動や炎や水の盾で回避

貴方と同化なんて絶対にさせません
子供達の命を
命が創り上げていく未来の灯を
消させやしません!


プアゾン・フィエブル
今でなくてもいいのに。
いつか、行き着く場所は同じなのに。
待てなかったのかな。
だとしたら死に損なわせてしまいますね。

(非常階段の近く)
迷彩のステルスウォールで子ども達の防護。
催眠術、思考鈍麻と催眠効果の薬物散布。
“その黒いオトモダチから逃げて頂戴。
団地外の安全な場所まで。”
邪魔したことは許さなくていい。
けど死は、いつか自然にやってくるものだから。
(だからワタシも
逢いたい人のところに、まだ行かないの)

機械のUDCなら【Lolitaの温度】をあげる。
ハッキングと毒使い、basiliskから自壊ウィルスを投与。
時間稼ぎ、投与した毒が回るまで、厄介な能力を躱し耐える。
ワタシ、待つのは嫌いじゃないのです。



 なんとなく、非常階段から外を見てみた。
 なんて青いそら。
 教科書に載っていたそんな言葉が、何故か頭に浮かぶ。
 嫌だなあ、と思うのは何度目か。自分が可愛くない事は知っている。ただそれをからかうのは別なんだと、正直に言えたのならこんな気持ちにはならないだろう。
 馬鹿らしいのは、自分だ。
 結局自分がこうだから。
 手すりから、少し顔を覗かせてみる。6階の高さ。
 死のう、と身を乗り出して、後ろに立つ何かに気付いた。
「……」
 ここではないどこかの景色を反射してみせる黒い機械人形。
 明らかな異常、それでも少女は、乗り出した体を床に下ろしていた。逃げる事もせず、ただ、伸ばされる手を取ろうとして。
「……逃げなきゃ?」
 何故かそう感じた。恐怖もなく、ただ漠然と、離れなくちゃいけないような、そんな気がして伸ばした腕を引っ込めていた。
 くるりと、踵を返した少女へと、黒が、ジャガーノーツが逃すまいと、腕を伸ばす。
 その瞬間、ジャガーノーツの動きが止まる。
 ザ、ザザザッ! とノイズが走り、軋むような音と共に、まるで目の前にいる少女を見失ったかのように。
 腕が止まり、視覚ではなく、熱源のセンサーを起動するより早く。

 ――にゃあ、と。

 一匹のねこが鳴いた。
「ああ」
 トン、と軽い音がした。踊り場の手すりの上に上階から降り立つ影。
「そこでしたか」
 階段の中へと身を躍らせた黒い毛並みのケットシーが踊り場から一気に階段を駆け上がり、白刃が閃いた。
 刻まれた箒星が瞬いて、ビュ、ジ……と、鞘から放たれた刃が、一直線に黒い機体の胸の中心を、刺し――貫く!
 下から突き上げるようになったその攻撃に、ジャガーノーツは反応できない。
 いや、回避を放棄したのか? 仄々が僅かに勘ぐったその瞬間。
 ザザ、ッ、とジャガーノーツの輪郭がぶれる。
 ――動く。仄々は即座に察知した。
「吹き、飛びなさい……ッ」
ジャガーノーツの個体が行動を起こす前に、鮮烈な突剣でジャガーノーツの体内に突き立った刃が唸りを上げる。
 ド、パ――ッ!
 凝縮した強烈な爆炎が無数の爪となって、貫いた刃の周囲を、つまりはジャガーノーツの胸を木っ端みじんに切り裂いては、その無数の爪の破裂によって衝撃を巻き散らしたのだ。
 大穴を開け、階段に叩きつけられたジャガーノーツの個体の停止を確認しながら、自らの衝撃に弾かれた仄々は、くるり、と身軽に空中で体を操作し、階段に着地する。
 動かぬ機体を一瞥し、背後を振り返るが、……そこに少女の姿は無かった。
「行ってくれましたか」
 言葉を言い終わらぬうちに。
 背に悪寒が走り、ギ、バゥッ!! と張り詰めた金属の叫びが上がっていた。
「ッ!」
 振り返った先にいたのは、ジャガーノーツなのだろう。
 一言で言えば、粗雑なポリゴンテクスチャをまとめて人型に辛うじて成型した様な物体。頭、手、足。それしか認識できないような荒いポリゴン人形が、仄々に手を伸ばそうとして、仄々とそれの間に張られたワイヤーに阻まれているのだ。
 強靭な金属の綱が軋み上げている。
 阻まれたワイヤーに失敗を悟ったのか、ダンッと上段へと飛び上がる。その体はギ、ギギギッと、瞬く間にポリゴンは細かく面を増やし、解像度を増し。
「そう来ますか」
 そして、胴体よりも太い腕を持つ、重厚な機獣が姿を現した。
 倒れたジャガーノーツの個体が消えている。いや、その体を素材に再構成されているのか。
 ザザッ!
 ノイズが走る。
 先手必勝、仄々が駆ける!
 再度階段を駆け上がり、ジャガーノーツへと肉薄した瞬間。いかにも鈍重そうな腕の先端が、ボッ!! とジェットが噴き上がり拳が、発射された。
 瞬時に、風の盾を展開。迫る拳を食い止めんとし、しかし、瞬く間に拳が風を突き破る。
「くッ!」
 自分の体に風の破裂を浴びせて、咄嗟に仄々は背後へと吹き飛んだ。ワイヤーに足を掛け、衝撃を殺す。
(足りない? ……いや、今のは)
 容易く風の盾をぶち破る拳。四指の付け根から逆向きに開く三角の噴射口からのジェット噴射による強引な加速。
 だが、ただ威力が強大なのではない。仄々は、掴んだ石が、手の中で砂に解けるような感覚を覚えていた。
(固定化した魔力の拡散、ですか)
 厄介だ。強化を崩され、重量差で押し切られる。
 ――だが。
「子供たちの命を……」
 命が創り上げていく未来の灯を。
「消させやしませんッ!」
 駆け上がる。張られたワイヤーを足場に階段を一気に跳び、風を体を纏わせる。ド、ッと天井を蹴り飛ばして急加速し、肉薄する仄々に振るわれる拳を、激流の円盾で弾く。
 拮抗はほんの一瞬。
 ゾブ、と魔力をほどく拳が盾を突き破り迫る。が、そこに既に仄々はおらず、更に加速し拳が振るわれた反対側へと回り込んでいる。
 耐久力を高めたカウンター特化、仄々の読みは正しかった。
 だが、両腕のジェットが火を噴き、彼の剣が走るよりも早く腕が彼を捉えんと迫りくる!
(間に――)
 合わない。そう悟った瞬間。
 振り抜かれんとしていた腕のパーツが、さながらジェットの脅威に耐え切れなかったかのように吹き飛び、腕部が自らを破壊する。
「――ッ!」
 生まれた致命的な隙。
 そこに仄々は体を滑り込ませる。駆けるは風纏う刃。
 キ、ン。快音が上がる。
 その刃を妨げるものは何もなく、ジャガーノーツの胴体を見事に両断せしめていた。
「助かりました」
 倒れ、消えゆくジャガーノーツの個体を油断なく観察しながら、仄々は徐に礼を述べた。
 仄々の声に、下階の階段の折り返しから一人の子供が姿を現した。誰かがそこにいるというのは分かっていた。
 少女がジャガーノーツに背を向けた、あの行動を自然に取るとは考えづらい。少女の行動を操作した誰かがいる。それが彼だ。
 いやそれだけではなく、ワイヤーで奇襲を阻み、最後の攻撃の時、動きが乱れたのもそのワイヤーの先端のシリンジから打ち込んだ自壊ウイルスによるものだ。
「いいえ」彼は、プアゾン・フィエブル(lolita bug.・f13549)は緩やかに首を振った。「こちらこそ」
 プアゾンからすれば、補助に回っただけなのだ。直接ジャガーノーツを妨げたのは仄々であって、礼を言われる程ではない。
 故に、プアゾンはそうアンニュイに返し、すれ違った少女へと思いを馳せる。
「待てなかったのかな」
「……?」
 首を傾げた仄々が首を傾げるのに、プアゾンは「いつか」と言う。
「行き着く場所は同じなのに」
 やがて死は訪れる。いつか自然にやってくる。
 それでも彼女が、今、死のうとしたという事は。
 つまりは。
 プアゾンたちは、彼女たちに死に損なわせてしまっているのだろうか。
 それは、只管に少女の意思を尊重しようとする彼だからこその意見だったのかもしれない。
 反して仄々は、緩やかに首を振っていた。
「誰しも、心に闇はあるものですからね」
 魔法剣を鞘へと納めながら、音に索敵を行いながらも柔く言う。
「迷い、恐れ、そして道を急いでしまったのでしょう」
 それが、間違いなのだと気付いていても。
 髭をすこし動かして、少女の無事を祈る仄々の言葉に、プアゾンは静かに頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無間・わだち
だめですよ
それについていっちゃ
大丈夫だから、俺の後ろに来て
そう
これは鬼ごっこです
振り向かず、遠くまで走ってください
【優しさ

目線を合わせ静かに穏やかに語りかけて
我儘を言うなら強引にでも子供達を敵から引き剥がす
【救助活動

救助後は中庭や屋上など
なるべく広い場所で相対
敵勢へラムプを振って誘き寄せ
破壊は最小限に留めることを意識し
鈍器に変形・巨大化した偽神兵器で殴り壊す
味方が周囲に居なければ三回ぶん殴る
【蹂躙

なんだその見た目は
バグった玩具の巨大ロボですか
わくわくする年でもないんで
棄てますよ、ポンコツ

敵の攻撃はなるべく躱しつつ
回避不可と判断すれば全て受けた上で攻撃に繋げる
【激痛耐性、継戦能力


城島・侑士
アドリブ連携◎

連続自殺ね…
ホラー作家としてはなかなかに興味深いネタではあるが
実際に誰かが…子供が死ぬのは放ってはおけないな

団地内なので銃の使用はやめてボウガンにしておく
UDCは少年少女を狙うんなら
まずは団地の中庭か非常階段へ向かおう
UDCと子供との接触は絶対に阻止する
悪いが邪魔させてもらうぜ
UC咎力封じでジャガーノーツの動きを封じボウガンで乱れ撃ち
矢が子供や建物に当らないよう慎重に狙い撃つ
敵からの攻撃は残像で回避するかオーラ防御で凌ぐ

しかしこいつ、ロボットアニメにでも出てきそうなフォルムだな
そんな姿をしてるのは子供に取り入り易くする為なんだろうか?

敵を撃破したら他のジャガーノーツを探索&撃破へ



 ふらり、と。
 少女は空の霞を見上げながら、立ち上がる。
 中庭に面したマンションの出入り口、その段差に腰かけていた少女は何かに導かれるようにして歩き出した矢先に、目の前に現れた人影に足を止めた。
「……」
 いや、人、の影と言っていいのか。
 機械だ、輪郭が時折液晶を割ったような乱れ方をする人型の機械。
 ザ、ザザ――ッ。走るノイズに、少女は手を伸ばした。
 機械も手を伸ばす。まるで互いを繋ぎ、重ね合わせようとするように掌が触れ合う。
 その寸前。
「だめですよ」
 背後から少女の肩に触れる手があった。
「それについていっちゃ」
 ゾ、バンッ!!
 声とほぼ同時に、飛来したボウガンの矢が機械の、ジャガーノーツの腕を阻むように突き立つ。
 伸ばした腕の先を弾き、半ばにしゃがんだ片膝を砕き、瞬く間に矢を中心に枷が湧き出てその動きを止め。
「大丈夫だから」と、つぎはぎの男性、無間・わだち(泥犂・f24410)が、少女の視界からジャガーノーツを隠すように、前にしゃがみこんで視線を合わせる。
「これは鬼ごっこです。振り向かず、遠くまで走ってください」
 直後。放たれた第三射が、ジャガーノーツの頭蓋を撃ち抜いた。

 スナイパーは非常階段にいた。二階と一階の間。高さは無いが発見したジャガーノーツの姿に、駆けよるよりも早く狙撃する事を選んだ城島・侑士(怪談文士・f18993)は、ボウガンに次の矢を装填しながら、安堵の息を吐いた。
「間に合ったか」
 視界に揺れるプラチナの光沢を帯びた髪を少し邪険に、首を振るう。
 連続自殺に、惨劇に逢う子供。
 ホラー小説家である彼にとって、小説のネタとしてなら興味深い話だが、実際に目にするというのであれば話は別。
「実際に子供が死ぬのは――」
 放ってはおけない。
 その手が触れる前に矢を打ち込めてよかった、と。
「――ッ!」
 探索へと移ろうとした彼の頭頂に、何か、殺意の塊が落とされた。
 ゴ、ァッ!!
 立ち上ったオーラにソレの軌道を逸らす。
「っと、場所が悪いか」
 侑士は、咄嗟に階段の手すりから身を躍らせていた。
 狭い場所、背後を取られては、ボウガンを構える侑士には不利。周囲に子供はいない、その個体は障害排除が目的のはずだ。

「う……、ぇ?」
 少女の表情は、混乱に溢れていた。
 それは、突如現れた機械やわだちに対してではなく、機械を撃ち抜いたボウガンの矢にでもなく。
 自らの腕に憑りついた時計のような何かに対してだった。
 ブブ、ッ……! と玩具メーカーが特撮のグッズとして作ったような造形のそれが、ジャガーノーツを包む電子的な黒いスクリーンでもって少女の肌を染め上げている。腕時計じみた機械から染み出すように、時折輪郭にブロックノイズを発生させながら驚異的なスピードで腕を、胸を、体を侵食していく。
「……っ」
 いつの間に。そんな疑問も疎かに、わだちの脳は即座に体を動かしていた。偽神兵器、夜叉を四つ指の腕じみた形態に変形させると、少女の腕を痛めぬように捩じ切る。
 ビキキ、と歪な音とともに腕の機械が砕けるとともに、少女を覆わんとしていた黒が霧散する。
「え、あ……の」
 見上げる少女に、わだちは左右で色の違う笑みを浮かべて、その背を押した。
「さ、行って」

 予想は正しかったようだ。
 階段から中庭へと飛び降りた侑士は、半月状の刃を腕に装着したジャガーノーツが自分を追ってきたことに確信する。
「は、邪魔して悪いな」
 反省する気も更々ないが。
 ズン、と中庭に降りたジャガーノーツに言い放つ。
「しかし、ロボットアニメにでも出てきそうなフォルムしやがって」
「――ああ、成程」
 悪態に、返事が返る。と同時に、ゴ、ゾガッ!! と鈍い衝撃音が駆け抜けた。
 大砲の如く勢いで吹き飛ばされたジャガーノーツの一体が、侑士を追ってきた個体と激突し、きりもみしながら吹き飛んでいったのだ。
「既視感、みたいなのはそれですか」
 剥いで継いだような縫合の残る腕で緑の髪をかき上げて、わだちが巨大化させた夜叉を引きずるように持ち、納得の声を上げる。
「バグった玩具の巨大ロボ。ああ、しっくりきますね」
「子供に取り入り易くする為、かな」
 吹き飛んだジャガーノーツは、ギギリ、と黒を交わらせて、歪に交わった一体として起き上がる。
 膨らんだ腕から覗く砲口。地面を揺らす程の轟音と共に放たれた砲弾に、わだちが前へ出て、少女を救ったそれとはまったくの別物にしか見えない巨大な鈍器と化した夜叉を、豪快に振り上げた。
 ご、ガァン!! 衝撃が散って、放たれた黒の砲弾が上空に打ちあがり、塵と化す。と同時に、侑士が乱れ撃った矢がジャガーノーツを穿ち、質量保存を無視するように変形した矢がその場に機械の人影を縫い留めていた。
「それは、また悪趣味な。……まあでも」
 頭上に振り上げた夜叉をそのままに、わだちは溜息を吐く。鈍重だったそれが輪をかけて質量を増す。もはや、柱と呼ぶほどに膨れ上がった偽神兵器を、わだちは重さのままに、侑士の拘束に動けないジャガーノーツの頭上へと落とした。
「わくわくする年でもないんで」
 ズ、ズン……ッ! 沈み込む音とジャガーノーツが拉げ、砕ける音が混ざる破壊音が、無慈悲に団地の中庭に響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
やれやれ、面倒ですね。こんなの調査するまでもないでしょうし…自殺なんて何も残らんでしょう。やるなら原因消す方がいいと思うんですけどね

まあ、その辺は後でいいや。今は現状見てやるべき事をしましょうか
化け明かしなミミック。全ては夢現…お前らが現実に干渉する事はないんですよ

自分は衝撃波込めた弾を使って、戦闘知識、視力、第六感で相手を見切り、各部位破壊を狙ってやりましょうか。多分全部吹っ飛ばしてやれば死ぬでしょうし
ロープ引っ掛けて移動とか地形の利用もしつつ、駆け回っていきましょうか!
(アドリブ絡み歓迎)


渦雷・ユキテル
へえ、連続自殺ですか
限りなーく殺人に近い予感しますけど
やっぱり直接見てみなきゃ!

大きな武器振り回すタイプじゃないんで
廊下か非常階段に向かいますね
敵を見つけたらご挨拶に電撃の【属性攻撃】【マヒ攻撃】
指の先からバチッと放って

一撃じゃ仕留めるの難しいと思うんで接近戦に持ち込みます
大切な身体に傷は付けたくないんで
観察眼活かした【見切り】で身を屈めたり極力躱す方向で
……拳銃も使っちゃいましょっか。流石に身一つじゃ無理です
装甲薄そうな場所や関節狙い【零距離射撃】
マヒ攻撃で隙をついて後ろに回り込んだり手数と素早さ活かします
乙女たるもの、戦う時だって軽やかでいたいので

※絡み・アドリブ歓迎です


多々羅・赤銅
ガキに手ぇ出すと
鬼が来るぜ。

狭ぇしガキもいるしであんま刀振り回すにゃ向いてないな!子供たちを《かばい》つつ逃げ道へ送り出すよう立ち回る、ほれ気を付けてな。このなんかゲームのバグみてえなおばけは、こっちで退治しとくからさ!
ああしかし、有効な個体を出されてるだけあってやり難い。見切り受け流せど、斬らば崩壊するような非常階段ってのもまあ、あいまって!

飛び散る血に、笑う。
お前にはきっと守れない『子供の決まり事/ルール』を告げようか
『お前もさっさと、お家に帰んな』

神変奇特にてダメージを起こした箇所へ、鎧無視斬撃
うんうん 帰るとこなんざ無いよなあ
されど、鬼が子供を捕まえたら遊びは終い。気ぃつけて還りな。



 薄暗い部屋の中。
 開けっぱなしのベランダに続く窓から吹き込む風がカーテンを靡かせている。
 玄関から真っ直ぐ進んだリビングで少年は、手に持った包丁に自分の顔を反射させていた。
 何かに気付いたように顔を上げる。その細い首に、切っ先を滑らせよう動かした時、その鏡面に何かが映ったのだ。
 見上げた先にいたのは、黒い機械の人。
 いや、人の機械、という方がしっくりくるか。
 それは少年に手を伸ばす。
 カーテンから漏れる光に、さながらに死に彩られた絵画じみた光景に。
「全く、馬鹿々々しい」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は、そう言い放っていた。
 室内に落ちる光を遮るように、ベランダの縁に足を畳むように降り立った彼は、おもちゃめいたカラフルなモデルガンの銃口を人型へと向ける。
 自殺したところで、何も残らない。空虚に壊れた死体が残るだけだ。
 そこに何の価値もありはしないというのに。
 つまりは無駄の極みでしかない。
「そうでしょう?」
 拓哉は肩に噛みついてしがみつく箱状の異形を気にすることなく、引き金を引いた。

 取っ手を捻り、予想した鍵の抵抗無く開いたドアに「おっと」と声を上げる。
「ちょっと、無用心じゃないですかー?」
 防犯面を意識したような造りではないマンションだというのに、鍵を掛けないという危機管理意識の低さに渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は憂いを覚えた。
「まあ」
 がちゃり、とユキテルは遠慮無くドアを開ける。オブリビオンの気配があったので、緊急回避的にそっち優先だ。
「お邪魔するんです――」
 ゴ、ガッ!!
 けど。と続けようとしたユキテルの言葉はそんな衝撃音によって遮られた。
 中を覗こうと開いた隙間に、何かが高速で迫りくる光景をみたユキテルは、咄嗟にドアを全開にして身を翻す。 
「ひゅ、あっぶない」
 ドガっ、と廊下の壁に衝突したのは、黒い人影。腹に銃痕と衝撃の跡を残して、ギギ、とすぐに体を動かそうとしている。
 その額に、ラメと濃い紅で彩ったネイルが、す、と触れた。
「びっくりしたじゃないですか」
 全く、しょうがない人ですね、とばかりにツンとつつく。
 バヅ。
 注ぎ込まれた雷撃にジャガーノーツの全身が跳ねた。二、三度活きの良い魚のように痙攣したジャガーノーツは沈黙する。
 やっぱり、他の猟兵に強烈なのを貰っていたんだろう。
「さて、と」
 しゃらんと振り返った。
 包丁を持つ少年。このジャガーノーツが標的とした人間だろう。
「放っておくのもアレですよねえ」
 そう少し肩をすくませて、ユキテルは今度こそ住居に足を踏み入れたのだった。

 自ら命を断つ。
 それを馬鹿々々しいと評した拓哉ではあるが。
「寄って集ってガキ狙いやがってよォ! もっと斬って殺して楽しい相手がいんじゃん!? 私とか、私とか私とかさぁ!」
 あれほどに活きが良いのもそれはそれで、と思わざるを得なかった。
 ガン、カ、ガンッ! と床が高鳴る。
 一緒に飛び降りようねー、と非常階段から身を乗り出していた子どもに現れたジャガーノーツに対して、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は、人がすれ違うのには困らないか程度の狭さの非常階段で、子どもを庇いながら戦うという選択肢を取っていた。
 左右でリーチの違う刃を振るうジャガーノーツ。その状況で二体を相手取れば流石に劣勢にもなるというもので。
「……ッ」
 庇う子らは、怯えて動けないでいた。もはや自殺しようとしていたのが嘘のようでもある。
 どうにも、ジャガーノーツを伸さなければ、子ども達も安全に動かせない。無理に走らせても、赤銅が片一方の攻撃に対処する間に、背を裂かれかねない。
 止めどなく流れるように連携をとるジャガーノーツは、成る程、鬼退治にきた武士のようでもあり。

「助けましょう!」
 拓哉は廊下の手すりに手をかけ、ダンっ、と乗り越えた。
 4階の高さ。床などは無く、当然拓哉の体は自由落下に囚われるはずだった、が。
 ガクン、と空中で拓哉の体が揺れる。ロープを柱に巻き付け、それで体を支え、壁を走り抜けていく!
「さあ」
 出番だ、とばかりに肩に噛みついたままの箱形の異形、ミミックが拓哉の頭上へとよじ登る。
「化け明かしなミミック……!」
 さて、その異形は本当にそこにいるのか、それとも誰もが見れる夢幻なのか。
 それは拓哉自身にも知る由はないが。
 見えるという事は、存在しているということに似ている。
 先んじて拓哉の頭を蹴って非常階段へと飛び込んだミミックが、姿を無数の太陽へと変え。
「目をつぶってください!」
 ギカ、ッ!
 瞬間、真っ白に覆い尽くさんばかりの閃光が弾けた!

 視界の端で何かが瞬いた気がした。
 まあ、特に気にすることもなく。
 ユキテルは、少年の手から奪い取った包丁を、キッチンのスタンドに戻す。
 そして、ふう、とひとつ息をついて。

 ――徐に、虚空へと銃口を向けた。

 斜めを見上げるように言う。
「音を消せば、バレないって思いました?」
 見えぬ、音もない亡霊めいたそれ、ジャガーノーツへと告げる。
 視線を浴びて、観察され生きてきたユキテルにとって、何かしらの感情のある視線など、僅かに離れて交わされる悪口にも似て感知しやすいものだ。
 見られている。そう気付いたなら、窓から玄関にまで通る風のわずかな乱れに、そこに何かがいることなど手に取るように分かる。
 ゴ、ァ!
 屈んだ瞬間のユキテルの頭上を、重い何かが過ぎ去った。見えないが、陽光に照らされる漂う埃の動きでそれが短刀、ナイフのようなものと判断した。
 懐へ飛び込む。刃の軌跡、視線の高さ、床の沈み。人の形を崩していないのなら、音と姿を捉えられなくとも、関節の位置やらは想像に難くない。
 パチン、と指を鳴らして弾ける雷電で体の自由を奪い、肩を撃ち抜く。弾丸が貫通しないよう角度を調節したそれは狙いを違わず、空間にブロックノイズが走る。
 衝撃にか電気にか、迷彩の解けたジャガーノーツへと、ユキテルは銃を突き付け。
 パン、と弾いた。

 動きが乱れる。
 溢れた光は、狂気を呼び起こし、同時に惹き付ける、灼陽の熱光。
 子どもと赤銅には狂気は向けずとも、眩さはどうにも出来ない。
 ジャガーノーツを含め、全員の動きが瞬間、拓哉は階段に飛び込んで柱に足をつけて衝撃を和らげ。同時に衝撃を込めた弾丸をジャガーノーツの一体へと撃ち込んだ。
 両腕の付け根には爆ぜた衝撃が、二本の武器を奪い、さらに胸の中心に着弾した弾丸がその機体を、大きく階段の外へと弾き飛ばしていた。
「全身をもぎ取れば、流石に堪えるでしょう?」
 二丁のモデルガン、極近用のノットをしまい、汎用的なバレッフへと持ち変えて狙いを定めて。
 外して建物を壊す心配の無い空中の標的へと、無数の弾丸が駆け抜けた。

 目をつむれ、と言われても片目で生活する赤銅には中々頷きがたい話だった。
 頷きがたいだけで、素直に瞑るのだが。
 これだけ切り結んでいると、目を瞑っていてもある程度動きは読める。
「……そ、こ!」
 閃光の直前振るわれた刃を弾き飛ばして、赤銅は飛び込んできた拓哉が、ジャガーノーツの一体を吹き飛ばしてくれるのを目の端で捉えた。
 連携の止めどない攻撃がなければ、隙はいくらでも出来る。いや、集中する隙さえ出来ればそれで良い。
 悲しいかな、赤銅の全身の傷はジャガーノーツに刻まれたもので、つまり、既にジャガーノーツには赤銅の血が跳ねて、塗れてすらいるわけで。
「よし、ルールだ、イイ子ちゃん!」
 びしっ、と赤銅の指がジャガーノーツを指し示す。
「お家に帰んな」
 ゴ、ッ!
 ジャガーノーツの刃が駆ける。赤銅の首を跳ねんと迫り来る。
 だが。
「帰るとこなんざ無いよなあ」
 守れるはずもない約束が生むほんの僅かな傷が、その動きに精細さを欠かせる事もある。
 軋むように揺れた剣筋に身を踊らせて、赤銅は渾身に刃を振るった。
 研ぎ澄まされた刃は、斬るという現象を押し付ける。装甲など意味をなくし、薙いだ一振りで腕が飛び上がる。
 刀を握らぬ手が伸びる。
 ブロックノイズを走らせる肩の傷口を掴んだ赤銅が、ジャガーノーツの体をぐ、と引き寄せて。
「つーかまーえた」
 抱き寄せるように、凄惨な刃の突きがジャガーノーツの首へと飛び込んで、貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(ザザッ)
"死にたくなったら迎えに来る"など。その様な都合のいい存在ではないだろうに。

――ああ。少なくとも新たな犠牲など出してやるものか。
行くぞロク。任務を開始する、オーヴァ。

(ザザッ)
遠距離攻撃遮断、かつ雷電無効の個体。確かに本機では相手にしづらい――が。

任せた相棒。
君のは本機が相手取る。

隠密性、敏捷性。それを駆使し本機を出し抜きロクの元へ行こうとするのだろう。

――だが、"そうはならなかった"のだ。
予測力を強化。敵の行動経路を算出し狙撃。(学習力×戦闘知識×見切り×スナイパー)

許しは乞わない。
ただ、お前をそうした者には必ず報いを齎す。
それだけは約束しよう。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

おれ、あれが嫌いだ
すごく、すごく、嫌いだ
……あの病葉には、誰も連れて行かせない。

(己の前に立ち塞がるなら、炎が通らず
近寄らせない機敏さと隠密性を持つものだろうか)
…任せる。任せろ。
おーば。

(相対する病葉を取り替えて挑む)
(遠くからの攻撃が当たらないのなら【目立たない】よう【地形利用】して接近
【野生の勘】で隙を狙い【ダッシュ】で肉薄
「燹咬」で弾や雷を阻む【鎧を砕き】【焼却】する)

……きっとこどもだった、誰か。
(間に合わなくて。救えなくて、)
ごめんね。



 死にたくなったら迎えに来る。
 まるで天使かのようだ。
 優しく正しき心を持つ無垢なる者を導く天上の存在かのようだ。
 その様な都合のいい存在ではないだろうに。随分と殊勝な働きをするものだ。
 よほど、都合が良いのだろう。
「ジャック」
 強引に弓で弦を掻き切るような、がさついた声がする。
 慣れたはずのそれにそう感じるのは、その声が常に聴いているよりも苦痛に満ちた抑揚に震えているからか。
 自ら死ぬため。廊下から身を投げようとした子供を引きずり下ろした彼女は、噛みしめた歯をぎりぎりと鳴らすように睨み上げる。
 廊下の前後に黒い機体が立っている。
 理解が出来ない。わけではないのだ。きっと。
 ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は知っている。人と言う物の営みを。
 食われる、殺される、病に倒れる、空腹に狂う。それであるなら、ロクはそれが命だと、生きるという事だと、頷くだろう。
 渦巻く瘴気にも似た何かを纏うその鉄の人型を睨む。
「おれ、あれが嫌いだ」
 だが。
 むしろ生気を滾らせて死へと飛び込まんとするその活力を、ロクはほんの僅かに理解してしまう。
「……嫌いだ」
「ああ」
(ザザッ)とノイズを走らせながら、人の言葉を発した鎧が呼びかけに応える。短い言葉、それでもそこに浮かばせた意識を読み取った『彼』にロクは、少し、楽に息をした。
 ロクは、剣鉈を握り、震える腕を抑えて傍らの相棒に視線を泳がせた。
 その眼窩に当たるゴーグル部分に光る赤は、景色を一枚剥がしたような光沢を見せる機械が時折放つ電流じみた空間の罅に似ていると、彼自身気付いているのだろう。
 ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)はジャガーノーツを観察している。
「――ああ、少なくとも新たな犠牲など出してやるものか」
 赤い亀裂じみた雷電を走らせたジャガーノートの周囲に武装が浮かぶ。複合砲塔の遠隔操作型砲台。
「行くぞロク。任務を開始する、オーヴァ」
 
 放たれた数条の赫光に逆らうようにロクは、駆け出した。前方はロクが、後方の敵はジャックがそれぞれを迎え撃つ。
 そして、ロクが肉薄するその瞬間に。

 ――眼前にいたはずのジャガーノーツの姿が消えた。

「……っ!」
 頭上。
 ドゴァ……っ!
 姿が変わりつつあるジャガーノーツが、どうやってかロクの背後へと回りこみ、天井から降っては、蹴りを放っていたのだ。
 剣鉈、閃煌で防ぎ、弾き飛ばされたロクが手すりを掴んで勢いを回転へと変えて廊下へと戻る時には、またしてもその姿を感じ取れなくなり。
 視線を左右に揺らして、正面へと戻した。その眼前に、ロクの眼を奪わんと貫き手が迫っていた。

 ブブ、ッ――。
 輪郭がぶれる。膨れ上がるように、いや、縮まっていくように、世界がグラフィックバグを起こすように、低ポリゴンの泡と化す。
 恐るべき速度で、体が組み上がっていく。
(ザザッ)
(ザ、ザザ)
 ジャガーノートの聴覚に何かが語り掛ける。言葉にも満たない、意思。
 それは名前だった。
『ジャガーノート・ディープ』『ジャガーノート・シャロウ』
 そう、理解した。
「そうか」
 ネームド個体への換装、いや進化か。それが完了する前にとジャガーノートは砲塔から光線を吐き出した。
 ギュカッ!! 走る光は、その体には至らない。
 丸い輪郭を持ったジャガーノーツ、『ディープ』が、赫光をかき消したのか。分解される、いや、共振現象のように自壊が発生していた。
「……ッ」
 揺らぐ環光。
 ギュ、パッ!!
『どうした、どうした!』
 指を収納した半球の拳から、天使の輪を縦向きにしたような赤がジャガーノートへと放たれた。
『分かるだろう、まだ足りない、足りないんだ』
 何を渇望しているのか分からない。きっとその声もジャガーノートへの問いかけではない。
「煩い奴だな」
 放った雷撃は、掻き消されもせず、鎧を跳ねては無力化される。
「お前は本機を何だと思っている」
 放たれる輪は、強打の衝撃を鎧の中に反響させてくる。
「お前は私を誰だと思っている」
 それは彼の名が示している。
『ジャガーノート』
 そうだ。
 それは、ジャガーノーツと存在を等しくする群れの個体の証。
 だが。
「ジャック」
 と額から血を流したロクはそう呼んだ。
「ああ、任せた相棒」
 衝撃に全身を痛めるジャックはそう返す。
 彼の攻撃はジャガーノート・ディープに届かない。
 彼女の攻撃はジャガーノート・シャロウに届かない。
 ならば、入れ替えればいい。
 ス、ダンッ、と跳び退がってきたロクと背を合わせ、反転する。
 いや。
 反撃に転じるのだ。

「任せる、任された」
 駆ける。
 ゴ、と床がロクの体を前へ、前へと押し飛ばす。ぴり、と毛先が痺れる。ジャックの攻撃を打ち消した領域。匂いのようなものだ。
 ならば、打ち消されるそれの発生源たる己が突っ込めば、それは意味を為さない。乱打される輪光を躱し、滑り、跳び、時に潜り抜けて。
「ああ――」
 背後に崩れる瓦礫の音を少し聞く。笑うような音だった。猛る轟炎がジャックの攻撃を防ぎ続けた不可視の防壁を突き破る。
「お前、嬉しいのか」
 生気に満ちた死だった。暴れるのが嬉しいのか、死ぬのが嬉しいのか。それは分からないが。
 鎧に艶焔の牙が突き立つ。
 ド、バガ――ッ!!
 柄に手を当て、更に押し込む、と同時に火炎を吹き上げた。白熱に煽られた体内の空気が、肉体が、機械が、炎となって丸みを帯びた鎧に罅を生んで、その隙間から溢れ出す。
 爆ぜる音に紛らせて、ロクは声を発した。
 ――。
 擦れた声は、歪む空気を僅かに奮わせて消えた。

 ロクを追い、そしてジャックへと肉薄してきたシャロウへとジャックは動く事は無かった。ロクの本能と直結した感知能力をも翻弄する機動性、隠密性。ジャックがそれに挑むのは間違いだ。
 故に。
 聞こえるのは、雑音に混ざる信号だ。
『ぼくは』
 ザザ、と聞きなれた雑音が走る。その声は、己の物ではない。
 ジャックは、『ジャガーノート』としての経験を引き出した。ジャックはジャガーノートと言う物を知っている。ネームドであるならばそれなりに個性を持つが、それでもその根幹に備わるものは変わらない。
 バ、ガ――ッ!
『友達に』
 雷電が弾けた。走る赤雷の網がシャロウの動きの幅を狭め、誘いに飛び込んだシャロウを赫光が貫く。
(ザザッ)
『なりたかった』
 ディープとはまた違う。ネームドに至らしめる思いが砕けて散る。
「許しは乞わない」
(ザザッ)
 ただ、お前をそうした者には必ず報いを齎す。
「それだけは約束しよう」
(ザザッ)
『……』
(ザ――)
 最後に走るノイズは、言語にもならぬ音でしかなかった。ただ、最後にシャロウは首を振った。そんな気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『正気と狂気の狭間』

POW   :    気合で一喝、拳で語る

SPD   :    早口で怒涛の説得、騙されている証拠を見つけてくる

WIZ   :    情理を尽くして説得、洗脳解除を試みる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 戦闘の余波。
 だが、それでも周囲が騒ぎになることは無かった。自殺を止めた子供たちの姿はいつの間にか消えている。
 結界、もしくは異空間。
 大気中を走る静電気と、空を霞ませる塵が舞台を作っているのだ。
 猟兵たちの舞台ではない。
 死を選ぼうとする者の舞台。
 ただ、その主は、そうあるべくして眠っている。



 屋上。
 きっと、私のせいだ。
 お母さんが死んだのは。私の日常がおかしくなったのは。
 だから、こんな私は死んでしまえばいい。

 階段。
 おれは爪の隙間から溢れる血が好きだった。口に含めば鉄の味に喉奥から這い上がる吐き気が好きだった。
 気持ちが悪い。普通じゃない。
 やめなさいと頬を張られても結局は同じ。
 そんな自分は嫌いだった。死んでしまえと思うほど。

 四階、室内。
 わたしの体が嫌い。
 寝ても覚めても、体に残る感触が嫌い。理解するまでに時間がかかった。理解なんてしなければよかった。
 バカだったんだ。
 だから。
 汚れされた体を捨ててしまえるなら、それが一番だった。

 一階、室内。
 イジメはよくない。僕はそう思わない。
 形にならない悪意がある。靴箱に何か入れられたり、机に落書きがあったり、そんな事はなかった。
 ただ助けてもらえない疎外感と、毒を呑むように強要されるような圧迫感。
 それに納得する僕は、誰より自分が嫌いなんだ。


 隔離された団地を包む異常な空気。雰囲気。
 それが拡散したUDCそのものであるなら。
 それが呼び覚ます情動に駆られ、強く影響された彼らを止めることが、UDCへと近付く手段足り得るだろう。
 猟兵達は、それぞれに動き出した。

●第二章。
 説得したりする場面です。
 場所を指定くださると助かります。

 少ない採用になるかと思われます。
 UDCの影響を強く受けた少年少女の自殺を止めてください。
 彼らに、UDCの行う自殺衝動に抵抗させることで、ボスを出現させることができます。

 武力で制圧することも可能ですが、自殺への意思を挫かなければ、UDCの影響、この空間からは逃れられません。

 まあ好きにかきます。
 好きにプレイングお願いします。

 よろしくお願いします。
渦雷・ユキテル
四階、室内
無理やり出るのは難しそうですね、此処
精々上手く【言いくるめ】ます

本当、気持ち悪い
ああ、あなたじゃなくて、と安心させるよう微笑み
人って酷いことが起きると自他の境界が曖昧になるんですよ
理解に時間がかかるのも一種の防衛本能
"怪我"を抑えるための賢いやり方です
汚くて気持ち悪くて愚かなのは
あなたを利用した人のほうですよね?

怒りを引き出す方に持っていきます
相手をどうにかしたいなら手伝いましょうかとも

心からの言葉じゃありません
だけど大事なのってあたしの気持ちより
この子が納得できるか、止まれるかどうかでしょ

お手伝いについては半分本気
……嫌いなんです、子供を消費するのって

※絡み・アドリブ歓迎



 酸い匂いがバスルームに浮かんでいる。
 喉が焼ける痛みと汚い体の中身。
 汗と胃液にべたついた口元を拭って、浴槽の中に半分ほどに張った水に顔を映してみる。
 綺麗なままで歪んだ顔。
 吐き気がこみ上げる。何も考えられないように絡まった思考が、歯を溶かしているようにざらざらと舌を痺れさせている。
 映る顔はどこまでも自分で、それでも自分が思っていたよりも自分じゃない。
 ちぐはぐだった。ありたい自分と結局ここにある自分の乖離がどうしようもなく。
「……本当、気持ち悪い」
 少女は、思う。
 だが、声にそれを発したのは彼女ではなく、その後ろにいつの間にか立っていた誰かだった。

 渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は、開けっ放しのバスルームのドアから覗く少女の背を見つめていた。
 静電気と塵に囲まれたこの空間は、無理やり出るのは難しいかもしれない。いや、ユキテルだけであれば簡単だ。
 ただ、目の前の少女を放っておいて立ち去るような自分を想像もできないし、したくもない。
 だから、迷いはなかった。
「……本当、気持ち悪い」
 バッ! と浴槽に手をついたままに振りむいた少女の表情が、酷く醜く歪む。
「ああ、あなたじゃなくてですね?」
 ユキテルは振り向いた彼女の隣にしゃがみこんで浴槽の縁に肘をついた。酸の匂いを発する液体に足裏が汚れる事も気にしない。
 この体を汚したくはなくとも、少女の隣に行きたいという気持ちに嫌悪など掻き消えていた。
 感情を逆撫でし、意識を強制的に自らへと向けさせたユキテルは、ほんの少しだけ自嘲に口元を冷たく引き結ぶ。怒りを押しつけている自覚はあった。
「……、だれ……ですか」
 弱弱しい口調に、しかし、強い語気。静かに、警戒と言うよりも憎悪を感じる声。
「そうですね、通りすがりの不法侵入者ですかね」
 くるくると、張った水の上で拳銃を回して、ユキテルは少女の表情を見た。
 僅かに驚いたような表情で、拳銃を眺めながらも恐怖は無く、額を浴槽の縁に押し付けた彼女に、やっぱり、と瞼を細めた。感情が、擦り切れている。
「人って酷いことが起きると自他の境界が曖昧になるんですよ」
「……」
「私が私じゃないように感じて、私に何があっても他人事でいられる」
 一種の防衛本能だ。理解を遅らせるのも、『怪我』を抑える為の賢さだ。
 でも、間違っている。ユキテルはそう告げた。
「汚くて気持ち悪くて愚かなのは」
 しみ込ませるように。
「あなたを利用した人の方ですよね」
 熱に、油を注ぐように、ゆるりとした口調で言葉を響かせる。
「どうにかしたいなら、手伝いますよ?」
「……」
 胡乱気な目が返される。回していた銃を止めて、天井の換気扇に銃口を向ける。
「なんで? 関係ないでしょ」
 ノートの切れ端を汚く千切って書きなぐったような言葉だった。
 ユキテルは、浴室の壁の鏡に手を伸ばす。
「嫌いなんです、子供を消費するのって」
 ユキテルの顔の映る鏡面に垂れていた雫を親指で拭えば、首を切るように水が線を引いた。
「……わたし、……」
 少女が、顔を上げた。

 ああ、怒っている。
 鏡ごしに、目の前の不法侵入者の眼を見た瞬間に、気付いた。
 どうして怒らないのか、どうして憎まないのか。
 きっとわたしは、信じてなかった。本当はバカじゃない。都合のいい存在である事を受け入れて、大人しく振舞っている。――今もそうだ。
 それを彼女は笑ったふりをして怒っている。なんて理不尽だ、なんて自分勝手か。
 勝手に怒って、勝手に決めつけて、恨んでいいだなんて囁いてくる。悪魔のような人間だ。
「わたし……あなたみたいな人、大っ嫌い」
 馬鹿らしくなって、睨みつけて言ってやった。
 久しぶりに笑った気がする。きっと可愛い笑い方じゃなかったけど。
 いつの間にか不法侵入者の姿は忽然と消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
…ふうん?あのノイズどもは案内人だったのかね
さてここは…階段かな

っとやあ少年。こんにちは
何かありましたか?こんな怪しさ満点のおにーさんでも良ければ話でも聞きますよ

…そうですね、君の場合はきっと生きてる実感が欲しかったのではないですかね
別に鉄の味が好きではないのでしょう?その味を知って、嗚咽を堪えてまだ自分は生きている…そういう強烈な実感に安心してるのではないですか?
…生きている証明を感じたいってのは難しい話ですからね

ま、確かに言えることはただ一つ。ここで死んじゃったら何も始まりませんよ
最初ははっきりと自分の意志を伝えてみるのもいいかもしれません
案外簡単に見つかったりしますしね

アドリブ絡み歓迎)


城島・侑士
アドリブ◎

階段へ

自分の血はそんなに旨くないよ
驚かせないよう静かに声をかける
血が好きなのかい?
それとも自分を傷つけるのが好き?
警戒されないようコミュ力で静かに話しかける
おかしいとは思わないさ
おじさんも血を飲むからね

人間でも吸血衝動を持つ奴がいるのは知っている
そういった性癖だったり自傷も兼ねてる心の病だったり…
しかし彼は吸血種族ではないよな
そうだったら話は早いんだが

彼の言葉に耳を傾ける
特殊な衝動も否定しない
でも自殺願望は捨てさせる
普通じゃない自分が嫌いだからこの世から消えてしまいたい?
それは本心?
…普通じゃなくとも俺はいいと思うがね
俺だって普通じゃない
変わり者同士仲良くしようぜ
さぁこっちにおいで



 指を嚙む。
 慣れたルーチン。歯で傷つけた傷から染み出した血を吸い上げた。
 鉄の味が鼻を過ぎていって、心臓の辺りへと微かに痛みを走らせる。人前ではしないようにしている。
 非常階段。あんまり人の来ない踊り場でしゃがみこんで、赤いそれを嘗める。
 それでも、隠れてそうした後は指に歯型が残る。何かを嚙んでいないと落ち着かない。
 そうした痕跡が、抑えきれない自分の醜さを映し出している。
 くつくつ、と笑いがこみ上げる。血の味を拒絶して肺が震えている。気持ち悪い。これで笑っている自分は、変なものだから。
 自分を好きな自分が嫌いな自分がどうしても自分を好きになれない。
「自分の血はそんなに旨くないよ」
 そんな声が階段の上から降りてきた。

「……」
 城島・侑士(怪談文士・f18993)は、返されたその視線に困ったな、と頬を掻いた。
 その眼は、見知らぬ人間への警戒心や、その行動のうしろめたさ、なんてものは殆ど無かった。
 侑士の相手をするのが面倒くさい、ただそれだけが浮かんでいる。
「血が好きなのかい? それとも自分を傷つけるのが好き?」
「……別に」
 誤魔化しの返事で視線が泳ぐ。分かりやすい、と侑士は表情の変化に注視しながら、怒るわけじゃない、と笑って見せた。
「おかしいとは思わないさ」
「……何言ってんの、おかしいに決まってんじゃん」
「そうかな?」
 侑士は、柔和な笑みを心掛けながら少年を観察する。
 身体特徴は、普通の人間だ。
 中学生程度か。吸血種族のようなものではない事は分かる。
 とはいえ、人間にも吸血衝動を持つ者はいる事は知っている。職業柄、そういった文献や論文に触れる機会は多い。
 だから、そういった性癖や、自傷も兼ねてる心の病などから来る衝動も決して無いものでは無い。
「おかしいのは嫌?」侑士は刺激しないように一段足を下す。「普通じゃなくとも俺はいいと思うがね」
「……」
「例えば」
 と侑士は自分の胸に手を置いて「俺だって普通じゃない」あっけらかんと言い放った。
「変わり者同士仲良くしようぜ。さぁこっちにおいで」
 それに何を思ったのか。面倒くさい、という感情は消え失せ、確かな恐怖の表情を僅かに見せて、少年は逃げるように踊り場から下って行こうとして。
「……っ」
「おっと、……あー、やあ、何かありましたか?」
 少年は、踊り場を挟んで下りの階段にいたもう一人の猟兵と鉢合わせ、三段ほど下って、出鼻を挫かれていた。
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は、明らかに彼の問いかけを訝しむ少年の視線を受け止め。
「……はは」
 ごめんなさい。と相好を崩して拓哉は謝っていた。
「まあ、うん、聞いてました」
 何かあったのか、などと問いかけるまでもなく、侑士との会話が聞こえないはずがない距離なのだから。自ら怪しさを上乗せしてしまった事に、しまったなあ、と思いながら、さてどうしようかと考える。
 少年は、逃げようとした先にいた拓哉に警戒しながらも、どうするか手をこまねいているようだった。その意識を。
「……君は、別に鉄の味が好きではないのでしょう?」
 拓哉の声が引き付けた。
「……」
「その味を知って、嗚咽を堪えて……、そういう強烈な実感に安心してるのではないですか?」
 まあ、自分の想像でしかないですけどね。そう前置きして、拓哉は首を傾げながら告げた。
「君の場合はきっと生きてる実感が欲しかったのではないですかね?」
 生きている証明。というのは結構難しい話だろうと、思う。
 死んだことが無ければ、生きている状況以外をしらないのだから。
「……」
 答えは返らない。いや、彼が正解を知っているはずもない。だから、何も言えないでいるのだろう。今彼が上にも下にも、動けないでいるように。
 ああ、と拓哉は、漸くどうするかを決めた。
 階段を上る。
「ま、確かに言えることはただ一つ、ここで死んじゃったら何も始まりませんよ」
 少年の隣を通り過ぎながら、語り掛ける。
「最初ははっきりと自分の意志を伝えてみるのもいいかもしれません」
 解決策は案外簡単に見つかったりしますしね。と、踊り場に足を着けて、拓哉は振り返る。
 階段を下りる道を示した拓哉に、少年は迷いながらも階段を下りていく。
「――」
 少年が振り返る。
 見上げるのは二人の大人。
 少年が口を開くのを、二人は静かに見守っていた。

「あんた」
 普通じゃなくてもいい。そう言った淡い髪色の大人を見上げて言う。
「頭、おかしいんじゃねえの?」
 どうしても言わないと、胸の中に煙が渦巻いているような感覚があった。何かが崩れて消えるような不安があった。
 言い放って、その反応を見る前に背を向けて階段を逃げていく。
 あの大人が言った言葉は嘘じゃない、本心の言葉。どうしてかは知らないが気にかけてくれていたのも分かるが、それでも、いやそれ故に、意味が分からなかった。
 普通じゃなくていいはずがないのに。
 立ち止まって、音を聞く。階段を追い駆けてくる音が無い事を確認してから、階段に腰を下ろして指を食んだ。
「……」
 血の味が広がる事に安心して、そしてもう一人の大人が言っていた言葉を思い返す。
「……生きてる、実感とか知らないけど」
 こうして、自分が安心しようと、落ち着こうとしているのだという事に初めて、気付く。
 そうか、と納得する。
 やっぱりそれを好きにはなれないけれど、どことなく、それは自然な感情のような気がした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無間・わだち
屋上の少女へ

あなたのせいじゃないなんて
きっと散々言われてるんでしょう
おれも、そうでした

でも
そんなの慰めにもならないんですよね
だって、一番責めているのが
自分自身なんだから

おかしくなった日常の話
聞いてもいいですか
言いたくなければ、言わなくてもいい

生きてたってどうにもならないけど
死んでみたって、案外どうにもならないよ
信じてくれるかはわからないけど

泣いて喚くことはしましたか
十分に、泣き腫らしましたか
おれは
散々泣いて喚いて
結局ここに居るけど
少しだけ、楽にはなりましたよ

苦しみを抱えて生きるのが
どれだけ修羅の道かをわかっていて
それでも彼女に強いるのは
ただの我儘でエゴだ

おれは
あなたに死んでほしくないと思うよ


ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(屋上。今にも飛び降りそうな一人の娘がいる。声を掛ける。)

(ザザッ)

死を願うか。
「死ぬのは自分で良かった」と
君も思うか。
"僕"もそう願った事は何度もある。

だが君の願う君の死は
他の誰かも望むものか?

君の友は。親は。
君の大事な人は
君の死を願っているだろうか。

(飛び降りる前に相棒が駆けつけ、彼女を止めてくれるだろう。――最悪、誤って足元を踏み外しても。"MOON FORCE"で宇宙空間の如く、緩やかに相棒と少女を下ろす事はできる)

罪は生きても背負える。
――けれど死んでは
贖罪以外の全てを失う。君が大事な人が望んでいたかもしれない何かも。
それをどうか
今一度思い返してくれ。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

――ああァァアアア!!!
(落ちようとする彼女を見るなり「惨喝」で【恐怖を与え】竦ませて
【ダッシュ】で彼女に飛び付き引き留める
それでも落ちてしまうなら
ともに落ちて【かばおう】)

(かみさまの為に落ちたあの子みたいに
間に合わないのは、また奪われるのは、いやだ)

なあ。
罪が、あると、思うのなら。
それを持ったまま、それを想って、生きることが
…何かになるんじゃ、ないのか。

母親は。
キミのせいにしたかったなら、キミに、
未来の話なんて、しなかったと思うんだよ。
……キミは。母親のこと。知らないで消えて、いいのか?



 痛い。
 浅く斬り続けた手首が、捲れた傷が熱を倦んでいる。
 きっとこれでは、私は死ねないと、分かってしまった。どうしても意気地のない私が死ぬなら、もっと大きなもので私を壊さないといけない。
 きっと、ママもそうだったんだろう。
 今なら少し、気持ちがわかる。
 痛い。
 この感情が痛みを消してくれるなんて事は無かった。傷つけた手首は痛いままだ。滑る手で手すりを掴んで、体重を外へと傾ける。
 足場が消える。凍り付いた肺が息を吸いこんで、屋上の床を見ていた視線が空を見上げる。
 くすんだ塵に、青色が透けて見えた。
「――ぁ」
 風がうねる声が聞こえた。
「あァァアアアッ!!」
 炎が猛るひび割れが聞こえた。
 腕を、何かが掴んだ。
 
 痛い。
 胸が痛い。感傷、などと単語で表すには足りず、しかし、それ以上にふさわしい言葉を知らない。
 肋骨が軋みを上げて巨大な手となって心臓を掴むような痛みだ。
 それは、少女の行動を止めようとした声なのか、自らの感情を制御しようとした理性による声なのか。
 それは分からないけれど。
 ほんの一瞬。少女の足が屋上の縁を踏んだ。その一瞬。
 ズ、だんッ!! と床を叩く。
 俊敏に駆け寄ったロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)の腕が少女のそれを掴み、繋ぎ止めたはずの刹那。
「……っ!」
 少女の手が、途端、短い悲鳴と共に跳ね上がった。血にぬめる腕にロクの指が滑り抜けていく。きっと、それは少女の意思ではなく、傷が走らせた痛みが反射的に腕を動かしていたのだ。
 傾いていく。
「あ」
 駄目だ。
 フェンスに身を乗り出しても、もう届かない。
 落ちるその憂いだ瞳が、いつか見た微笑みに変わっていく。
 ――ああ、もうどうしようもないんだな。と悟りを得たような笑みだ。
 駄目だ。ロクの体は気付けば宙に浮いて、少女の体を抱きしめていた。浮遊感が遅れてやってくる。
 直下のベランダの縁が迫りくるのを見て、ロクは壁を蹴った。マンションが離れていく。掴むものも何もなく、ただ落ちていく。このままただ、二人潰れるばかりだ。
 どうしようもない、と笑みを浮かべる事はしない。勝手に動いて、勝手に死にかけて。
 それを傲慢だと言われても、何と言われても。
 その終わりは、不快だから。
 喉を嗄らし、叫んだ。
「――ジャックッ!!!」

「全く――」
 伸ばした腕の先で、プログラムを走らせる。
 相対座標確定、誤差軽微、修正、目標固定。
「無茶をする」
 断理離反(ユーベルコード)――実行(イグゼキュート)。

「……なあ」
 放った豪炎に地面が僅かに焦げている。
「罪が、あると、思うのなら。それを持ったまま、それを想って、生きることが」
 質量を失い、しかし慣性のままに地面へと落ちる体を、炎の上げた気流で浮かせて軟着陸したロクは、少女を地面に下ろしながら語り掛けていた。
「……何かになるんじゃ、ないのか」
 死んでいない事に呆然とする少女の表情に、ロクは苛立ちを滲ませながら、見下ろし告げる。
「……」
 返る答えは無い。
 くしゃり、と顔を歪ませて少女は、ただロクを見上げるだけだった。
「死ぬのは自分で良かった、と」
 そうして、暫く重い沈黙が下りて、発せられた声は第三者のものだった。ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は、問う。
 君もそう思うのかと。
 黙ったままに、少女は俯いて首を横へと振る。
 返された否定に、ジャックが思うのは安堵だった。どうしようもない、この感情を抱かずにいてくれているのだと。
「君の願う君の死は、他の誰かも望むものか?」
 
「友達がいるだろう。親が、いるだろう。大切な人は、君の……」
 母親は。
「未来の話なんて、しなかったと思うんだよ」
 ロクは、軋む喉を小さく叫ばせた。
「キミのせいにしたかったなら、そんな話、しなかった」
「……ぃ、や」
 罪は生きても背負える。
 ジャックが、静かに落ち着かせるように、
「けれど、死んでは……、贖罪以外の全てを失う」
 君が大事な人が望んでいたかもしれない何かも、消え失せる。それでいいのか、と。ただ、前を向けと告げるジャックに、少女が額に両手を重ねて蹲り。
「やめて!!」
 叫んだ。悲痛の叫びを上げる。
「……ママの話、なんて、しないでッ!!」
 その叫びに返ったのは。
「やめませんよ」
 断言だった。

 無間・わだち(泥犂・f24410)は、少女の前に片膝をついてしゃがみこんだ。膝に肘をついて、言葉の容赦のなさに息を呑む少女の顔を覗き込むように。
「聞いてもいいですか、あなたの話、おかしくなった日常の話を」
 もちろん、話したくなければ話さなくてもいい。少女が息を吸う音に、今度はわだちがそう続けようとした口を閉ざす。
 思春期の反発心か。やめないと断言したわだちに激情を浴びせかけるように、堰を切った。
「勝手に死んで!! 無茶苦茶にして!! それでなんで私が、嫌な、……ッ」
 叫んで、少女は言葉を呑み込んだ。口を押えて、膝の間に頭を埋めるように、閉じ篭ってしまう。
 わだちは、その先を追及しない。
 きっと、その言いかけた言葉は、それだけは言わないようにと押さえ続けた想いだから。それを吐き出させてしまえば何かが変わる。その確信はありながら、その痛みを変えたくなかった。
「あなたのせいじゃないですよ、なんて……そんなの慰めにもならないんですよね」
 わだちは頬に走る、既に癒着しきった傷の縫合に指を添わす。
「おれも、そうでした」
 肩を震わせる。その言葉のまるで響かない空虚さには、軽蔑すら覚える。それを言った人達にではなく、響きもしない自分に対して。
「結局、自分が一番、自分を責めてるんですから」
 だから死んでみたって、案外どうにもならないよ。
「泣いて喚くことはしましたか」
 誰かに、気付いてほしいと叫んだ事は。
「十分に、泣き腫らしましたか」
 気が済むまで、自分の為を思った事は。
 きっと、無いのだろう。
「散々泣いて喚いて結局ここに居るけど。少しだけ、楽にはなりましたよ」
「……」
 少し、膝に埋まった頭が動く。わだちは、続ける。
「ええ、苦しいですよ、あなたが怖がる通り」
 それを抱えて生きるのは、苦痛だ。それを知っている。
「だから――これは、我儘。ただの身勝手なエゴだ」

 沈黙がやってきた。
 それから、何分か経った後に顔を上げる。
 そこは、いつも通りの団地の裏庭で。
「おれたちは、あなたに死んでほしくないと、そう思うよ」
 最後、聞こえた言葉に、傷も無いのに痛む腕を握り締めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『シープ』』

POW   :    自傷性帯電幻象
【凝縮体を構成する塵からの放電による幻覚】を披露した指定の全対象に【自身を恨み、憎み、傷付け殺したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    塵雷凝縮顕現体
【凝縮体】に変形し、自身の【無敵性】を代償に、自身の【幻覚能力】を強化する。
WIZ   :    完了型消失憧憬
【静電気を纏う塵】を降らせる事で、戦場全体が【かつて自殺した者の心象風景】と同じ環境に変化する。[かつて自殺した者の心象風景]に適応した者の行動成功率が上昇する。

イラスト:烏鷺山

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルーダス・アルゲナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 それは意思を持たぬ集合体だった。
 だが、それ意思から生まれた存在だった。
 自害、自傷。それを意識した電気信号が過去となり灰と混ざりあった小さな塊がそれであった。
 それはいつかの幻を見せる。
 過ぎ去った救えぬ遺志の幻を。


 それは静かに形を取っていく。
 誰もいない屋上。

 己が己を憎むに値する姿が、声が、言葉が、そこに立っている。


 第三章。
 自分の憎悪を引き出す幻(自分だったり他人だったり)の姿を取るシープとの対峙です。
 自分の憎悪を許すも許さないも自由です。

 自殺を防いだので、戦闘は弱いです。幻を打ち破れば勝利です。

 描写は個別、もしくは連携別となります。

 お好きにプレイングください。多分好きに書きます。

 宜しくお願いします。
 
無間・わだち
そこに居たのは
五体満足の頃の俺
何ひとつ苦労せず
何ひとつ知らず
何ひとつ喪わず
望みの全てが叶っていた
傲慢で、幼い心だ

ああ
そうだな

俺は、俺が憎いよ
でも
嫌いじゃないんだ、きっと

つぎはぎの躰は誇りなんかじゃない
でも、あの子がくれたものを
粗末にだけはしたくない

俺が俺を憎むことを
あの子は許してくれるから
俺は、お前の悼みを、許すよ

無意識に自分からこぼれる笑みは
いつも、あの子を感じられる

自分を自分で抱きしめてなんてやりませんよ
そんなの、要らないでしょ

手を、伸ばすだけです
この身がばらけても、繋いでくれるものがある

こんなのを優しさと呼ぶには
我儘が過ぎるから

だけどこの熱が、喪われたあなた達のいつかに
届きますように



 一人の少年の話だ。
 少年と成年の狭間の歳の頃合いの男性の話だ。
 目の前にいるのは自分自身だ。
 慣れた姿だ。
 今の姿ではない、姿だ。
 継ぎはぎはなく、わだちがわだちとして全てを持っている姿。
 何ひとつ苦労せず。
 何ひとつ知らず。
 何ひとつ喪わず。
 全てが叶っていた。
 歩み寄っていく。
 継ぎはぎの無い彼はただ立っている。
 自然体にわだちを迎え入れようとしている。
 憎いのか。
 残る数歩に思う。
 腕を伸ばせばその体を抱きしめられる距離に至り。
 しかし、その心臓の上に手を伸ばす。
 さして鍛えてもいない胸板が、わだちの指先を硬く迎えた。
 ズグリ、と指が沈む。肉を溶かすように、骨を穿つように伸ばした手の纏う焦熱が幻とそれを生む塵を焼き散らしている。
「――憎いですよ」
 俺は、俺のことが。
 満ちているという傲慢が。その幼い心が。
 心臓から渦を巻き散りゆく、継ぎはぎの無い自分の姿を見つめる。互いの瞳に映るのは、喜怒哀楽のそのどれでもない。いや、幻の瞳はただ今のわだちを反しているだけか。
「でも、嫌いというわけでもないんですよ」
 感情を浮かばせることはない、それは表情が薄い、というそれではなく。
 理解、という無感情が齎す感情の色だ。
 ボ、ブグ、と熱の泡が弾けるような音が手首までの感覚を喪失させて、肩から先に激痛を走らせる。
「……」
 強烈な痛みが、僅かに頬を緩ませる。莫迦げているけれど。
 わだちはこの継ぎはぎを、誇りとしているか。
 断言できるのは。
 この彼女のくれたもので辛うじて人の形を保っている体を、その姿そのものを誇らしく思ったことは無い。
 ただ、彼女の想いだけは、この醜い体に生きている。いや、生きているなんて肌触りのいい言葉で飾る事は嫌気がさす。
 紛れもなく死んでいる。死に続けている。
 死に続けて、それでも尚、わだちを生かしている。
 わだちはそれを疎みながら、敬っている。
 ゆえにイエス、でありノーだ。
「あの子は許してくれるから」
 俺が俺を憎むことを。
 この削ぎ落すような痛みは、優しさと呼ぶには歪に過ぎる。
 自分を、そして世界を焼く極熱は。自分を痛みつけて、世界を痛みつけるこの熱は、我儘でしかない。
「――」
 渦を巻く境目が、耐えきれずに炎を上げ始める。幻の奥にある塵の体が瞬く間に燃え上がっていく。
 悼む。目の前の存在を生んだ痛み、その失われたいつかにその熱の欠片が届いてくれるようにと。
 継ぎはぎの無いわだちが、僅かに笑んで消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
…ああ。そういう。小さな憎悪達の塊…ってとこですかね。日常に走るノイズのような、世界からはじき出された感覚のような…

まあ、うん。俺の形を模倣してるのなら、こうして対峙して分かってるでしょうけど、おにーさん基本的に憎悪とかどうでもいいんですよね。まあ、確かに何もなさない自分に意味などないと思ってますけど…こうして猟兵として活動してる時点で意味などないことになりますから。それ以外はまあ、救えたらいいなくらいです

それじゃまあ、そういうわけで。あんたは悪いモノだっただろうけど、危険を知らせるって意味ではいいモノだったのかもしれませんね(衝撃波を込めた弾で撃つ)

(アドリブ絡み歓迎)



 揺れる。
 戸惑うように。
 向こう側に立つ自分に、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は所在なさげに、靴を先をコツコツと鳴らした。
「うん、……まあ、そうですよね」
 ありのままの自分がそこにいる。
 だからと言って拓哉がその姿に憎悪を思い浮かべるかと言われれば、そういうわけでもない。
 そもそも、拓哉自身そう言った感情を強く持たない人間なのだ。過剰な期待もしなければ、分不相応な願いを抱くことも無い。
「言ってしまえば、おにーさんはどうでもいいんですよね」
 自分が特別な存在だとも、他者を圧倒する魅力があるとも思ってはいない。
 目の前に現れた幻は、ほんの少し、何も為さない自分への戒めめいた像なのかもしれない。とはいえ、それを拒絶するか、と言われるとそれも違うのだ。
「そりゃ、何も出来ないより出来る方が断然良いですけど、それはそれでしょ?」
 やれるからやっている。自然体に、そうあるのだからそうあろうとしている。
 救えるものがあるから、救っている。
 拓哉にとって、ごく当然の当たり前でしかない。
 だからもし、拓哉が本当に何も為せないのだとしても、それが憎悪の種となる事はきっとない。
 それを受け入れて、やれることをやれる範囲でやるだけだ。
「そういうわけなんです」
 銃口を向ける。
「多分、あんたは悪いモノだっただろうけど」
 拓哉は、自らの喉を突こうと包丁を見つめる少年の姿を思い返す。拓哉が拓哉の価値観でもって、理解はしがたくとも助けた姿。
 この塵雲が無ければ、彼は包丁を握らなかったのか。そう問われるなら答えは明白だ。
「それは分からない」
 もしかしたら、ただ遅れていただけで、止められるという経験なく自らを突き殺していたかもしれない。
 とするなら。
「危険を知らせるって意味ではいいモノだったのかもしれませんね」
 銃が衝撃に震える。
 駆けた弾丸が、衝撃波をうねらせて幻へと吸い込まれていく。
 そうなら、いつかは少しは理解が出来るのかもしれない、と発砲の痺れに目を細めた先で。
 溢れた衝撃波が塵雷を吹き飛ばしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
羊の様な形をした物体に武器を向ける…が
羊は一瞬で俺の姿になり
それと同時に怒りの感情に心が支配される
何だ…幻覚か?
それにこの感情はなんだ?
精神にも作用するのか?

息をするのも苦しいくらいの圧迫感
頭の中はどす黒い感情であっという間に埋め尽くされる
憎い憎い
誰が憎い?
俺だ
俺が憎い

人でなしのくせに家族なんて作って
読み書きもまともに出来なかった奴隷のくせに作家先生と呼ばれて
真っ当な人間になったつもりか?
笑わせる!

目の前にいる幻の俺が言う

うるさい
そんなこと俺が一番よくわかってんだよ
それでもあいつは…こんな俺でもいいって言ってくれたんだ

左手の指輪を見つめる
僅かだが心が落ち着いてくる
深呼吸して連弩を構える

…あばよ



 ボウガンを構える。
 それが散っていけば終わりだと理解したままに、塵纏う雷に武器を突きつける。
「……」
 城島・侑士(怪談文士・f18993)は、差し伸べていたボウガンの先を思わずに揺らした。
 グ、ゾ、と捻じれた塵の雲が、いつの間にか侑士の姿を取っていたのだ。
『人間』になれたつもりか?
 それが、そう口を開いた。
 喉を晒すように、見下した瞳が下瞼に欠けて藍色が歪む。
 いや、果たしてそれが声を発したのか。
 怒りに震える喉が、その言葉を吐き出しているようにすら思えた。
「家族なんて作って社会に馴染んだ振りをして」
 それは、ずっとこの肺の奥に、心臓の中に、蠢き続けている怒りだ。
「文字なんて道具を手に入れて、作家先生だなんて張りぼてで飾り立てられて、それを認められて」
 読み書きもできなかった奴隷が、そうして優越感に浸っている。
 心地のいい憎悪の声だ。
 だってそうだろう、それは侑士の中にあるもので、押し込めていた。そんなものを吐き出してくれるその存在は。
 労せず心を広げ、苦悩せず潰しても異常者とは為されないだろうその存在は。
「それで、人間になったつもりか?」
 は、と嘲笑が暗く地面へと落ちる。
「笑わせる」
 零れた言葉に、侑士はまっすぐにその男の顔を見上げた。
 欠片も笑ってやしない。
 己が己に向ける憎悪を、そうして現れたそれに向ける。これが心地いいと言わずして何というのか。
 侑士は、ぞぞわ、と口内に虫が走るような嗜虐が起こす掻痒感に頬を緩める。
 憎い。
 頭の中を真っ黒い岩が跳ねまわるように、憎悪に痛みを発している。
 憎い。
 誰が憎いのか。
「ああ、俺が憎い」
 頭をその感情だけが覆いつくしていく。何も見えない。
 許せない。
 それを否定したくて仕方がない。否定して、拒絶して。
「いや」
 ――違う。
 視界の端に、光る何かが見えた。
 侑士の指に通した、指輪。
「……そうだな」
 それを拒絶するのは心地が良い。いつだって反発は正しい手応えを反してくれるような感覚を奮い起こしてくれる。
 だけれど。
「それでもあいつは……こんな俺でもいいって言ってくれたんだ」
 でも、今はそんな事をしなくたってもいい。
 ぜいぜいと、いつの間にか逸っていた息を落ち着かせる。揺れていた照準が、鎮まった肩が固定する。
 心はまだ、黒いそれが渦を巻いている。
 だが、その引き金に指をかけて深呼吸をすれば、その感情が体を震わせる事は無かった。
「あばよ」
 もう、その声は必要がないと。
 左手を柔く握りながら、侑士は引き金を引いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
ご立派な白衣、歳も性別も定まらない姿
まるで何人も混ざり合ってるみたい
実際大勢いたから誰になるか迷ったのかも

まあ誰でも一緒です。誰でもないんです
あなたと私。研究員と実験体。それだけでしょう?
そう笑ってやりたかったのに昔みたいに俯いちゃった

――ああ、嫌になる
結果が良ければ残す、と生死を決める傲慢な男
何度目か数え飽きた手術の後。頑張ったねなんて微笑む女
だけど誰も真っ直ぐには私の目を見ようとしない
汚いものみたいに。可哀想なものみたいに
彼らに認めてほしいだなんて思ってた馬鹿な自分が一番嫌い

歩み寄って手を伸ばし
御大層な研究の成果、ユーベルコードをあげる

許せないのは中身だけ
この身体は愛しいの

※アドリブ等歓迎



「あれ、お久しぶりじゃないですかー」
 掌を振って、渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は白衣を着たその人影に、フレンドリーに話しかける。
「元気にしてました? そうじゃなかったらあたしとしては嬉しいんですけど。なんて」
 腰を折って、上目遣いにその影を見上げる。
 体格も、顔立ちも、定まっていない。まるで読んだことのある文章を思い出そうとして似た言葉が浮かんでは消えるように、老若男女が重なって移ろっていく
 変わらないのは、その着ている白衣だけ。
 御大層な人間の証。
「まあ、誰だって変わらないんですけどね」
 見上げていた視線を瞑って、首を横に振って肩を揺らす。
 研究員と実験体。彼らとユキテル。その関係性に個を示す記号はあってないものだ。
「ねえ、聞いてるんですか? って言っても聞いてないですよね」
 声に表情の一つ変えもしない、その研究員の顔をユキテルは見上げて。
「――ぁ、」
 声を零す。
 下りた視線を受けて、その腕が掴む薄い板状にペンを置いたその動きに。
 ノ、グ――と。
 凍る手が心臓を掴んだような喉を這い落ちていく感覚に、ユキテルはいつのまにか研究員の眼ではなく、無機質な床を見つめていた。
 脂汗が顎を伝う。
 トントン、とバインダーをペン先が叩く音に、知らずにはいられない『結果』を求めて震える瞳孔のままに、その存在を仰ぎ見た。
 息を呑む。
 ユキテルの両目が別々の物を見ているように、像が重なる。パーツごとが複数のジグソーパズルのピースを無理やりに詰め込み完成させたように。
 男の顔と女の顔が、若い顔と老いた顔が、同時に浮かんでは、別々の言葉を喋り出す。
「この程度か」
「あら、ちょっと」
「これ以降促進が見られないなら」
「少し良くなったんじゃない?」
「廃棄だな」
「頑張ったじゃない」
「サンプルを増やす段階ではない」
「痛かったでしょう? 偉いわねえ」
 その視線の全てが、ユキテルを見てはいなかった。いや、見てはいる。視覚的に、観察して時に純粋に愛情すら覗かせて、分析している。
「……ああ、嫌になる」
 ユキテルは、そう呟いた。
 彼らからユキテルに向かう全ては、人としてユキテルを見るものでは無い。その差異は、潰したストローの袋にジュースを一滴零して伸びるその動きに、分析するか、可愛いというか。その次元でしかない。
 そうして、汚れたゴミだと捨てるのだ。こんな所に可哀そうだと、ゴミ箱に投げ入れるのだ。
「ええ、見せてあげます」
 ユキテルはその両腕を伸ばした。
「これが、貴方たちの御大層な研究の成果ですよ」
 ゾガッ!
 憎い全てを焼く轟雷が瞬いた。ユキテルの体を傷つける事なく、塵を砕いて殺していく。
 白衣の無い姿が、白衣に重なる。研究員に、彼らに認めてほしいと願っていた愚か者。
 研究員の顔に埋もれるその誰かの姿は、瞬く間に白光の中に崩れて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
(いくつかの姿が見えた。)
(無骨な、まだ獣めいていた装甲。それとは別に、それより悍しい、刺のように無数の兵器を生やした「怪物」としての姿。そして、ただの、線の細い、髪の長い――眼鏡もまだ掛けてない頃の、「僕」。)

(いっそ笑ってしまいそうなほどに。僕は僕が嫌いなんだなと 改めて思うんだ。嗚呼、そうだ。「死ぬのは僕で良かったのに」。)

(――ザザッ)
けど "そうはならなかった"んだよ。

僕が願った僕の死は――
僕の好きな誰かは"そうは願ってない"のを。僕はもう。知ってるから。

――だから。生きるんだ。

――ごめんな。

(――あやまったのは。
僕の方か。ハル。君の方か。

どっちだろうな。なぁ。)

(――ザザッ)



 そこにいるのは、機獣だ。
 怯えを得たような武骨な機械の体。

 そこにいるのは、怪物だ。
 刺のように無数の兵器を生やした強者の体。

 そこにいるのは、少年だ。
 線が細い、髪が長い、眼鏡も欠けていない、――僕だ。

 ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)は、フィルターを幾つも重ねたように重複して存在するその幻をじ、と見つめていた。
 ここまでの少年少女に、大体の傾向は見えている。
 自らを憎悪するように、自ら命を絶とうとするように、そうした幻覚と感情の増幅を行う。それがあの塵と雷の羊が持つ『機能』なのだろう。
 そうして、その影響下で、ジャックの目の前に現れたのが、当機の、私の、僕の、自分たちのかつての姿だというのであれば。
 いっそ笑ってしまう程に。
 ジャックというものを明々と映し出している。
 傷の無い、本来あるべき姿。外れず、混ざらず。その脚が踏み締めている大地が、どんな悲劇と血肉で固められているのかを想像すらできないのだろう。
 その姿が、ジャックに憎悪を齎すというのであれば、いっそ笑ってしまう程に。
 僕は僕が嫌いなんだな。
 仮面の奥に、声が閉じ込められる。
(ザザ、ッ)
 ノイズを吐き出す。
 溜息を吐くように、外界へとジャックという意思を滲みだす。
 そうだ。本来ジャックが、ジャックこそが、悲劇と血肉となってその地面に埋もれているべきなのだ。当然、その地面を足蹴に駆ける事を当たり前と享受する事など許されない。
 少女が否定した問いかけに、ジャックは頷く。
(ザ、ッザザ)
 嗚呼。
 思う。その姿に、そう在りえてしまった姿に、改めて思う。
"死ぬのは僕で良かったのに"、と。
「けれど、そうはならなかったんだ」
 そう在ってしまったのはジャックであり、それは覆らない。
「私が願った"私の死"は――」
 少女に語った言葉が、自分に返る。
 少女が持ち合わせていなかった、ジャックが抱くどうしようもない感情が、今は導きを齎している。
 言葉を閉ざし、開く。
 これは、僕の言葉だ。
「僕はもう、……知ってるから」
 見据えるのは、自分たちの姿だ。
「僕の好きな誰かは――"そうは願ってない"こと」
 だから、生きる。
 そうして、意思が音になる。

 ――ごめんな。

 放たれた光線が、幻たちを薙いだ。穿った赤光が塵を消し飛ばして消えていく。
 残滓が瞬く。
 ああ、今。消える幻を見つめながら乾く喉を上下させる。
 今、あやまったのは。
「僕の方か。……ハル、君の方か」
 どっちだろうな。
 パリ、と赤い火花の残滓が最後に一つ弾けて消える。
 胸に空いた空虚を埋めるように吐き出した笑いに、返るのは短いノイズの電子音だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
(塵が降り、地獄が萌える)

(ひとがひとを喰らう
罵う、嘲笑う、組み敷く、嬲る、殴る、引き裂く
悍ましい行いの中から聞こえるものはひとつだ
己には、うつくしいうたにしか聞こえない悲鳴)

……弱いものを、強いものは喰らっていい
それを、森は、ゆるしている

(憎悪を煽る、あらゆる罪の光景と
まるでかみさまを讃えるようなうたと
ひとの創り出した羊が、こちらを見ていた)

…違うよな
わかってるよ
お前たちが、キミたちが、
"そうはなりたくなかった"ってことは

(ああ、なんて、きもちわるい
なにもかも
憎悪する、それに理由を探す、己ですらも)

(炎を降らす。地獄を燃やす。)
……全部、消えてくれ
(結局は、直視したくないだけなんだ)



 ひとだ。
 他者を組み敷き、その喉笛に牙を立てるそれを見る。

 ひとだ。
 狂ったように笑いながら内臓を掻き出し、恭悦に涙を流すそれを見る。

 ひとだ。
 正常に手を取り合って、その輪の中心の誰かを蹴り潰すそれを見る。

「ああ」
 錆を引き裂く、端子の壊れた声が感嘆に濡れた音を響かせる。
 叫喚。勝手に肺へと滑り込んで、心臓をかき乱して、顎を引き抜くような絶叫が満ちている。
 満ちては、咲き誇っている。その腕を広げて、赤黒い何かを育んでいる。
 ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)はそんな轟音にしびれる舌先を少し噛んでいた。
 酔いしれてしまいそうになる。
 この心地のいい絶叫が、骨を震わせる感情に酔いしれてしまいそうになる自分を抑えつける。
「……弱いものを、強いものは喰らっていい」
 そうして、世界は出来ている。そうして、森は生きている。
 だから、この光景も、ロクが否定するものでは無い。
 それを、森はゆるしているのだから。
「ッ」
 噛んだ舌の先から、鉄の味が広がって喉を火傷させるようだ。
 罪だ。
 罪が芽吹いている。おぞましい光景に絶叫が響いて、拒絶が、鼓膜を叩く。岩で頭蓋を砕く音が哄笑を割って響き、艶然と吐き出される嬌声の下で人が溺れ死んでいる。
 憎悪を煽る光景に、不協和音の讃美歌が響き渡る。
 聞くな、と脳が熱を持つ。
 この幻に心地良さを覚える自らを、ロクは只管に嫌悪して、憎悪する。
 悪性。ならば殺せと、衝動が走る。
「……ああ」
 そうして理解する。
「違うよな。わかってるよ」
 絶望なのだ。醜さを知って、それと自らが同じ存在である事への絶望が、人を殺すのだ。
"そうはなりたくなかった"
 そうなってしまう自らを、否定しきれずに。
「ぜんぶ、憎んで、しんだのか」
 きもちわるい。ロクはこみ上げる吐き気に、思わずに笑う。
 誰もが、この惨状の一部となりえる。
 そう、ロクとて――。
 衝撃が全てを包んだ。いや、それは衝撃ではなく、そう紛う程の絶叫だ。
 ――ギ、ア、ァ、アアぁァアああッッ!!
 笑っていた全てが、泣いていた全てが、苦悶と擯斥に喉を裂くように叫び、地獄の合唱がロクを貫く。
「――ッ」
 息が詰まる。憎悪が、ロクの体を埋め尽くし、骨も内臓も何もかもを押し潰しているような洪水に、空気の無い肺からせり上がった何かが喉を震わせる。
 全部、――消えてしまえ。
 目を背けるように体を圧し曲げて吐き出した声に、閉じた瞼の裏で光源が躍って反射光が瞬く。
 絶叫が、轟音に巻かれて消えていく。
「――ァ、ッ」
 目を開けて、息を吸う。
 枯れた喉を焼けた空気が焦がして、痛みに咳き込んだロクは、火に満ちた屋上に立っていた。
 だが、それも揺らぐ。炎の熱にではなく。炎も、塵の羊も、罪悪のひとも、揺らいで消えていく。
 ロクはもう一度咳き込んで、乾いた頬をガシガシと擦り、消えゆく幻を見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 遠ざかっていく。
 死を望んで生きている声が遠のいていく。
 それが嬉しいと考える。
 意思を持たぬそれは考えない。
 ただあるようにそうして幻を見せる。
 自分で問うておいて、その問を否定されて嬉しいと考えるのは、無数に束なって個を無くした意思の欠片なのか。
 意思なき声。
 声なき痛み。
 それが、静かに遠ざかっていく。
 何も変える事の出来ない、過去の遺物だ。
 意思なきそれは、価値の判別をしない。
 それが死であろうと。
 それが生であろうと。
 ただ、世界を覆い壊しながら、名も無き痛みに引かれて、幻に問う。
 死の意味があったのか、生の意味があったのか。
 何も変わる事の出来ない、過去の産物だ。
 故に、正者に問いかける。
 死を導く残骸は、その答えを、知らない。

最終結果:成功

完成日:2020年06月13日


挿絵イラスト