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帝竜戦役⑫〜さよならひみつきち

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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●さよならひみつきち
 無数に張り巡らされた蜘蛛の糸が邪魔をして、深い渓谷には光が射さない。もしかしたら永遠に続くのではないか、そう思えるほどの闇に包まれていたけれど。

 闇の奥底から聞こえてくるのは、楽しげなこども達のわらい声。

 戦場には不釣り合いなそれが、妙に心をざわつかせる。その先へと歩みを進めれば見えてくる、あたたかな空間。不思議な不思議な、ひみつきち。
 おいでおいでと呼びかける、やわく軽やかな声の主は誰だろう。

 ねぇ、あそぼうよ。ここにいようよ。

 ――ずっと、ずっと。

●おさないまぼろし
「戦争お疲れ様です。皆さんのおかげで、群竜大陸の踏破もかなり進んでいます」
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)は無表情で挨拶すると、今回の戦場について説明を始める。
「皆さんに向かってもらうのは、『時蜘蛛の峡谷』と呼ばれる深い谷です。この谷を縄張りとするオブリビオン全てには、手足が増え、自らの寿命を消費して頑丈な糸を紡ぐ『時蜘蛛』と呼ばれる怪物に変貌しています」
 猟兵の一人が、つまりその怪物と化したオブリビオンを倒せばいいのかと問うと、羅刹の少女は何故か首を横に振る。不思議そうな顔をした猟兵達に、グリモア猟兵は今度はこくりと頷く。
「はい、確かにほろぼしてほしいのです。ただし、皆さんは普通の戦いができません。時蜘蛛の糸に触れた者は全員幼児化……こどもになってしまうのです」
 これは面倒なことになりそうだと猟兵達が確信すれば、たからの眉もほんの少し寄っていて、無表情はどことなくしかめっ面のようになる。
「こどもになった時は、思考も一緒に幼くなります。同時に、皆さんが培ってきた実戦経験も奪われてしまいます。糸は既にあらゆる場所に張り巡らされており、恐らく糸を躱して戦うことは不可能でしょう」
 倒してしまえば幼児化は治り、実戦経験も元に戻ると少女は言う。

「怪物になったオブリビオンですが、ツリーハウスの形をしています。アックス&ウィザーズの忘れ去られた遊び場のようですが、それがどうして時蜘蛛の渓谷に来てしまったのかはわかりません。ただ、こどもになった皆さんを様々な方法で誘惑し、永遠に閉じ込めようとしてくるでしょう」
 それはとても楽しい場所かもしれないし、愛してくれる誰かを模倣するかもしれない。例えそのような記憶や記録がなくとも、幼い心を揺さぶってくるだろう。
「きっと、さみしがりなのでしょう。ですから皆さんは、ツリーハウスで思い思いに過ごしてくれて構いません」
 幼少期に戻って遊んでもいい、一休みついでの昼寝をしてもいい、愛してくれる誰かを想っても待ってみるのもいい。けれどそれは、あくまでまぼろし。戦争を戦い抜く猟兵達の、ひとときの夢。
「『此処から出ること』――それだけは絶対に忘れないでください。それさえ忘れずにいれば、自然と敵の力は弱まります。最後は必ず、ひみつきちとバイバイしてください」

 転送の用意をしながら、グリモア猟兵は思い出したように口を開く。
「蜘蛛糸には若返りの効果が若干残っているようですよ、ひと巻きで金貨950枚の価値だとか。皆さんのこども姿を見られないのは残念ですが、帰る時はたからをお姉ちゃんだと思ってついてきてくださいね」
 それはごめんだと猟兵達がきっぱり断ると、たからはそうですか、とさして残念そうな顔もしない。
 雪と色硝子の向こう側で、ひみつきちが猟兵達を手招いている。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●注意事項
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「帝竜戦役」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 プレイングボーナス:幼児化への対抗策を考える。

 プレイング受付は5月14日(日)朝8時31分以降から。

 幼児化時のそれまでの記憶の有無、年齢などは自由です。
 特に記載ない場合の口調は、全て「ひらがな多め」に改変されます。
 リプレイの雰囲気は、各プレイングに合わせて都度変わります。
 いずれもご希望あれば明記して頂けると幸いです。

 戦争シナリオのため、書ききれるだけの受付になります。
 また構成にもよりますが、再送のお手間をおかけすることもあります。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『ぼくらのひみつきち』

POW   :    『つれてかないで、おいてかないで』
単純で重い【風圧】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    『あそぼうあそぼう、いつまでも』
【風の囁き】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    『ねんねこねんね、おやすみよいこ』
小さな【木の洞】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【幻想的なゆりかご】で、いつでも外に出られる。
👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハルツ・ノウゼンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【受付開始の曜日が間違っていました、ただしくは(木)から、現在受付中です】
フィーナ・シェフィールド
ツリーハウス…わたし、入るの初めてです!
どんな所か、楽しみです。

こんこん、ごめんください、おじゃましますね♪

幼児化する前に【悠久に響く幻想曲】で召喚しておいた楽団の小人さんと一緒にツリーハウスに入ったら、楽しく演奏して、自由なひと時を過ごします。

「らん、らんらら、らんらんらん♪」
ツリーハウスさんにもお歌を聴かせてあげますね♪
一緒に歌えたらもっと楽しいのに…

時間を忘れて楽しんでいる中で、ふと気づいたインストルメントに刻まれた小さな傷。
積み重ねてきたレッスンの日々と、待っているファンのことを思い出して、ツリーハウスを後にしますね。

バイバイ、優しい秘密基地さん…優しい時間を、ありがとうございました。



 深い闇をつくりだしたのは谷そのものか、蜘蛛の糸か。そんなことはきっと、今はもうどうでもいい話。
 猟兵達を幼い姿に変えて、ひみつきちはこども達を手招いた。

 ツリーハウスに入るのは初めて。どんな所か期待に胸を膨らませ、フィーナ・シェフィールドは木のドアをこんこんノック。
「ごめんください、おじゃましますね♪」
 キィ、と開いたドアの向こう側は、外から見た時よりも広く思える。それがちいさくなったからかはわからないけれど、一人で遊ぶのはもったいない。
 彼女の気持ちを代弁するように足音も立てずになだれ込んだのは、少女の背丈よりもうんとちいさな楽団員達。糸に触れる前に呼びだした小人達は、それぞれ手にした楽器を鳴らして、幼い歌姫を急かす。
 くいくい、と紫の髪をひっぱるのは、カスタネットを手にした小人さん。はやくはやく、待ちきれないよ。
「そうですね、えんそうかいをはじめましょう」
 いつもより大きな愛用デバイスの鍵盤に指を置いて、ぽんと一音。次の音を鳴らせば、待ちかねていた楽団員達が音色を奏でだす。
「らん、らんらら、らんらんらん♪」
 透明な歌声は、生まれついての両親からの贈り物。普段よりもあどけないけれど、そのきよらかさは今も昔も変わらない。
 さみしがりのツリーハウスに、お歌を聴かせてあげたくて。一緒に歌えたならもっと楽しいのに、とちょっぴり残念で。
 ちいさくおおきな音楽隊と一緒に、フィーナは時間も忘れて楽しくうたう。ふと目に入ったのは、デバイスに刻まれたいくつものちいさな傷。
 思い出されたのは、これまでのレッスンの日々、待っているファンの顔。
 ――そう、演奏会はおしまいの時間。
「バイバイ、優しい秘密基地さん。楽しんでくれましたか?」
 優しい時間をありがとうございました、と歌姫は次の舞台へ向かう。

成功 🔵​🔵​🔴​

シズホ・トヒソズマ
突入したら子供になってしまいましゅ!
おや、身なりのいい男の人と女の人がいましゅね?というかパパとママでしゅね
あー、なるほど、『そこまで』遡ってしまうのでしゅか…
うん、いいでちょう!遊びましょうパパ!ママ!

パパとママと存分に遊びましゅ

と、腕のカラーブレスレットを見て思い出しましゅ。手首に合わせて変形するので小さくなっても落ちないのでしゅ!
ごめんなしゃい、私には待ってくれる友人達、そしてこれをくれた大切な恋人がいるんです
久し振りに遊べて楽しかったです
でも、過去は過去
ですから……さようなら

ツリーハウスしゃん、ありがとうございまちた!
もう今後は悪い事するように出てきちゃいけましぇんよ!
と手を振りましゅ



 ひみつきちへと足を踏み込めば、こどもになるのはヒーローマスクのシズホ・トヒソズマも同じ。全身スーツと共にあっという間に縮んだ宿主の身体に驚きつつも、それはそれで面白い。
「おや」
 ツリーハウスの前で手を振っている、身なりの男性と女性の二人組。というか、確かに見覚えのある顔だった。
「パパとママでしゅね」
 あー、なるほど、と少女はちいさく唸る。ひみつきちのまぼろしは、『そこまで』遡ってしまうのだ。
「うん、いいでちょう! 遊びましょうパパ! ママ!」
 両親の元へ駆けだす足取りはいつもよりずっと軽くて、軽すぎるから足がもつれてしまって。転びかけたすんでのところで、そっと大きな手がシズホを支えた。
 パパとの追いかけっこは私の勝ち、ブランコを押してくれるママはやさしい笑顔。遊び疲れてうとうとと眠気がやってきた時、ささやくような子守唄。
 もう眠ってしまおうか、瞼を閉じる前に見えたのは、ちいさな腕にぴったりとはまったままのカラーブレスレット。
 瞬間、蘇ってくるこれまでの記憶が、眠りに誘われていた少女を覚醒させた。
「……ごめんなしゃい、パパ、ママ」
 ちいさな掌が二人の手を握って、少女は両親にたどたどしく謝る。
「私には待ってくれる友人達、そしてこれをくれた大切な恋人がいるんです」
 舌ったらずの言葉遣いは、いつしか二十歳の女のそれ。重ねた年月は、いつしか両親との日々をゆうに越えていた。
「久し振りに遊べて楽しかったです」
 でも、過去は過去。ですから、
「――さようなら」
 最後に抱きしめてくれたまぼろしのあたたかさを確かめて、ひみつきちにも別れを告げる。
「ありがとうございまちた! もう今後は悪い事するように出てきちゃいけましぇんよ!」
 手を振る姿は、徐々に元のシズホへと戻っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・セカンドカラー
おやすみなさい。
ゆめ。
ゆめをみる。
おきたときにはおぼえていない、でも、きっと、しあわせなゆめ。
幻想的なゆりかごでわたしはただただまどろむ。
おきたらかえろう、だってここは秘密基地。あそぶためのばしょでくらすためのばしょではないのだもの。
かえしたくない?でも、だめよ、だってほら保護者(視聴者)が迎えにきたもの。さぁ、貴腐神様、わたしをおぶってくださいな。遊び疲れた私はその背で眠る。だから、私は知らないわ、貴腐神様が時蜘蛛に、どのような慈悲を与えたかなんて。
だから、おやすみなさい、よいゆめを。



 ひみつきちを支える木の根元、ちいさな洞の中。覗いたアリス・セカンドカラーのおさない掌が触れた向こう側は、虹色にかがやく星空の世界。
 まぼろしの生み出した幻想の中にふわりと落下していく少女の心に恐怖はない。だってなんだか不思議で、ヘンテコでおかしいんだもの。
 ぽすんと軽い音を立てて落ちた場所は、やわらかな毛布とクッションの海。そのまま沈みこんでしまいそうなゆりかごはゆらゆら揺れて、アリスを眠りの国へといざなう。
「おやすみなさい」
 誰に告げるでもなく口からもれたあいさつと一緒に、少女はゆめをみる。
 そのゆめがどんなものかは、彼女だけのもの。おきたときにはおぼえていない、でも、きっと、しあわせな。
 微睡みの中で泳ぎながらも、少女の意識は大事なことをしっかりと覚えていた。
 おきたらかえろう、だってここはひみつきち。
 ――あそぶためのばしょで、くらすためのばしょではないのだもの。
 虹色の空がきらめいて、星の花々が咲き乱れる。子守唄をうたう声はいつまでもやさしいまま。
 ――ここにいて、眠っていて、いとし子よ。
 眠る少女を返したくないゆりかごの元へ、彼女の保護者が迎えに来る。そっと眠りの国のアリスをおぶった神様の背中で、まだ寝ぼけたままの少女はくすくすと笑みを浮かべる。
 少女は知らない、神様が時蜘蛛の与えた慈悲の姿など。
 だって、遊び疲れて家に帰るこども達は、おそろしい獣の末路なんて知らなくていいのだから。
 おやすみなさい、よいゆめを。

成功 🔵​🔵​🔴​

アスカ・ユークレース
(体の何処かにペンで【じかんになったら かえること】と書いておく)

幼児化
のんびりぽやぽやした性格
好奇心旺盛
口調
ね?よ?なの?

木登りしたりかくれんぼしたり
そのうち疲れておひるね
目が覚めふと事前に書いたメモが目に止まる
あら?何かしらね、このらくがき…(しばらく見つめ)

……そうだわ、かえらないと。
どこに?わからない、でもここじゃない。とにかく、かえらないと…



 アスカ・ユークレースが左腕にペンで記したのは、『じかんになったら かえること』。幼くなっても読めるように、その文字は全てひらがなで。一歩足を踏み出せば、みるみるうちに視界は狭く歩幅はちいさく。
「わぁ……!」
 ツリーハウスの入口に辿り着けば、少女は歓声をあげる。階段を一生懸命えっちらおっちら、到着した木の上には、小屋がいくつかある様子。
 キィと扉を開けて覗いてみれば、かくれんぼをせがむ声。
「いいよ、あそぼ」
 わたしがかくれるから、あなたはわたしをみつけてね。姿の見えないだれかにほんわかと笑って、アスカは静かに走りだす。
 あまり大きな音を出したら見つかってしまうから、そうっとそうっと。はたと目についたのは、もっと空に近い樹々の先。
 ここには好奇心を止める野暮な大人なんて居ない。身体はとても軽いから、あっという間に空に近付く。息を潜めて、もういいよ。
 ――どこかな、どこかな。
 くすくす笑って身を縮こませていると、残念そうな声が耳を通る。
 ――降参、降参。出てきてよ。
「わたしのかち! ふふ、たのしいね」
 遊び疲れてもれたあくびと、子守唄が眠りを誘う。暗闇の中でも、ひなたぼっこみたいにあたたかい。ほんの少しだけ、とお昼寝の時間がゆっくり流れていく。
 どれほど眠っていたかはわからない。ふと目が覚めて、次は何をしようかと迷った視線が落ちた先は左腕。
「なにかしら、このらくがき……」
 暫く見つめていれば、ああ、とアスカは思い出す。
「そうだわ、かえらないと」
 ――どこに?
 わからない、でもここじゃない。
「とにかく、かえらないと……」
 はやく、ここじゃないどこかへ。訳もなくさみしくて、焦燥感がつのるの。
 青白く輝くノイズが乱れて、少女はひみつきちを飛び出す。

成功 🔵​🔵​🔴​

アース・ゼノビア
【庭】6歳

木の上に、こもれびがきらきらの
「もっとひみつきち」を見つけたんだ
オズとおれは、とべるけど
ルゥ―に木のぼりはあぶないね

(ルゥ―の手を片手ずつ握り
せぇので飛ぶも
力及ばず持ち上がらない)

あぁ…ほら泣かないで
だめだよオズ、やさしくしなきゃ
ルゥ―、はいリンゴ
これできげんなおしてね

つたはしごを手伝って
やっと三人でのぼれた!
がんばったらおなかすいたな…
ここはきもちいいけど、ごはんつくれないね
火をつかったらかじになっちゃう

おれ?いまのきぶんは……カボチャプリン!
ふたりが作ってくれるの?
ふふ…うれしい(はにかんで)
ひつじのソテーと、アップルパイ
おれもがんばるね

暗くなるまえに帰ろうか
明日また遊びにこよう


ルゥー・ブランシュ
【庭】ろくさい!
おおきなおおきな木のおうち!
よろしくねって挨拶してたら二人は上へ

いいところみつけたんだと、あーすが右を
オレたちだけのひみつだぞって、おずが左
るぅーだって、いっぱい、じめんをけったの…

なのに…るぅーおもくないもんっ!
涙のあとのりんごさん
あーすと似ててやさしく甘くて笑顔になるの
でもね、おずもやさしいの
(るぅーの知ってる秘密その1

がんばってのぼった「ひみつのもっとひみつのばしょ!」
すごくここは気持ちがよくて
ふたりとずっと、ここにいたい―

けど

これは、きっとりんごのきおく
暖かな魔法に抱かれ育った庭の木の―

あたしね、あーすの作るパイも好き!
うん、おず、かえったらいっしょにぷりんも作ろうね!


オズウェルド・ソルクラヴィス
【庭】6歳くらい
転送前に
大樹と砦を胸に留め―

りっぱな木のおうちに目を見開いて感嘆し
小さな翼をばっさばさ
もっと上に、あーすと見つけた陽がきらきらする「ひみつのばしょ」
ちっこい桜にも見せたくて二人で手を取って飛んでみるけど、上手くいかず

おまえ、おもいぞっていったら、すぐ泣くしな…

しかたねぇなーと
見つけた蔦を枝にぐるぐる

ほら、オレのかたもつかえよ

ようやくみんなで登りきったら、やったな、とちっちゃく笑顔

ごろんしてお空みて
ぐーとお腹が鳴れば
思い出した『ひつじのそてー』

あーすはなにがくいたいんだ?
かわりに、オレたちでそいつをつくるぞ

そうだ、かえるばしょができたんだ

胸に留めた道しるべ
迷わず振り向かず帰り道─



 それは渓谷へと降り立つ前のこと、オズウェルド・ソルクラヴィスが胸に留めたのは、巨木に立つ石造りの要塞。忘れてはいけない場所を確かめ、青年は少年へと姿を変える。
「おおきなおおきな木のおうち!」
 こんにちは、とひみつきちに挨拶したのはルゥー・ブランシュ。いつもはこども扱いされる彼女だけど、今の姿は二人と同じ六歳程度。
「おぉ……」
「おおきなひみつきちだね」
 感嘆の声をあげて、オズウェルドはすぐさまちいさな宵明の翼をはばたかせる。それはアース・ゼノビアも同じで、ふわりと澄蒼の翼は木々の上で。
「あっ」
 ひみつきちに挨拶しているうちに居なくなった友達を探して、ルゥーは辺りをきょろきょろ。
「あーす、おず、どこぉ……」
 不安そうな声に気付いたのか、ごめんねと謝るアースとどこか得意げなオズが彼女の元へ戻ってくる。
「こもれびがきらきらの『もっとひみつきち』を見つけたんだ」
「ここよりもっと上だ、きらきらだぞ」
 彼女に木登りは危ないから。翼を持たぬ太白桜に手を差し伸ばし、右手をアースが、左手をオズがひっぱりあげる。二人に合わせて何度もツリーハウスの床を蹴るルゥーだったけれど、幼い少年達の力では彼女を空へ届けられない。
「おまえ、おもいぞっていったら、すぐ泣くしな……」
「うぅ、うぅぅ……るぅーおもくないもんっ!」
「だめだよオズ、やさしくしなきゃ」
 言わなきゃいいのに言ってしまうのは、こどもゆえに。じわりと滲む涙の粒、泣かないでと宥めるアースが取りだしたのは、
「はいリンゴ」
 きげんなおして、と差し出された真っ赤な果実はルゥーのお気に入り。アースによく似てやさしく甘いその味は、ひと口かじるだけで少女を笑顔にしてしまう。
「しかたねぇなー」
 アースがルゥーをなだめている間、オズウェルドはふと目についた蔦を太い枝に巻きつけていく。
「これで登れるだろ」
 即席の蔦はしごは存外丈夫で、身体の軽いルゥーならへっちゃら。うんしょ、とよじ登る少女の隣へと宵明が寄り添う。
「オレのかたもつかえよ」
 ほら、とくっつけた左肩をルゥーの右腕が支えにすれば、アースは足が落っこちないように注意してそばで澄蒼をぱたぱた。
 ちょっと意地悪な口のオズが、アースと同じくらいやさしいのは、ルゥーの知ってる秘密そのいち。
「やったぁ!」
 登りきった頂上にあったのは、木々にしっかりと床板が打ちつけられた『ひみつのもっとひみつのばしょ』。思わず万歳してはしゃぐルゥーに、がんばったね、と拍手するアースと、やったな、とちいさく笑みをこぼすオズウェルド。
 木漏れ日がきらめく世界で、オズウェルドはごろんと横になる。深い闇の中に違いないのに、三人の視界に広がるのは晴れ渡った青空。
「きもちいいね」
「ねむくなりそうだよね」
「……ん」
 さんにんいっしょに、ずっとずっと、ここにいたい。想いはひとつだったけれど、ぐぅ、と鳴ったお腹の音も、きっとさんにんいっしょ。
「がんばったらおなかすいたな……ここはきもちいいけど、ごはんつくれないね」
 火を使ったら火事になっちゃう、と呟いたアースにルゥーがこくりと頷いて。
「……ひつじのそてー」
「あ、いいなぁ」
 お気に入りの料理を思い浮かべたオズウェルドがそう呟いてしまえば、アースも思わず口に出してしまう。
「あーすはなにがくいたいんだ? かわりに、オレたちでそいつをつくるぞ」
「おれ? いまのきぶんは……カボチャプリン!」
 ルゥーも食べかけのリンゴをもうひと口。暖かな魔法に抱かれ育った庭の木に実る果実の記憶が、蘇る。
「あたしね、あーすの作るパイもすき! おず、かえったらいっしょにぷりんも作ろうね!」
「おう」
「ふふ、うれし。おれもがんばるね」
 太白桜に宵明がこたえれば、澄蒼がはにかんで笑む。三人の胸には、帰るべき我が家の灯りがともる――そうだ、かえるばしょができたんだ。
「暗くなるまえに帰ろうか」
「うん、帰ろ」
「ああ――帰ろう」
 迷わないで、振り向かない帰り道。また明日、あそぼうね。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎
9歳

ひみつきち…!(きらきら)
上はどんなけしきが見えるんだろう
…え、空に?うーん、手はとどかないと思うよ…?
空とおなじ色
その言葉に僕も少しうれしくなる

…って!そんなに上っちゃあぶないよ!
ッセリオス!!
落ちてくる彼を両手で受け止めようとする…けど
うわああ!?
いつもならちゃんと受け止められるのに
そのまま二人一緒にごろごろと

せ、セリオス、だいじょうぶかい?
僕はだいじょうぶ
はあ…君がぶじでよかった
…え?ちょ、セリオス?わあっ!?
もう…!お返しだ!
転がるようにじゃれ…遊んで
君も、と葉っぱを取ってあげて

楽しい、けど
そろそろかえらなきゃ
立ち上がって手を差し出す
いっしょにかえろう。セリオス


セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
8歳さん

木上に家がある!
秘密基地に目をキラキラ輝かせ
もっと上の方までいきゃ空に手がとどくかもしれねぇぞ
ははっ、たとえだって
でも近いとうれしいじゃんアレスとおんなじ色!
笑いながら細い手足を動かして
するする上に登って行く

ぅお!?
グラッと体が傾けば
そのまま下へまっ逆さま
受け止めようとしてくれてるアレスを巻き込んで地面に転がって
はー、びっくりした!
アレスもけがないか?
俺はへーきだって
大丈夫そうな声聞いたら楽しくなってきた
よぉしアレスをたしかめてやる!
ごろんごろんと二人で転がりながらじゃれあって
ははっアレス、はっぱついてるぞ
お互いの葉っぱを取り合う

うん、かえろう
しっかり手を繋いで一緒に



「木の上に家がある!」
 幼い二人の少年が、立派な作りのツリーハウスを見上げて目をきらきらと輝かせている。
 セリオス・アリスがはしゃぐ隣、アレクシス・ミラもわくわくを抑えきれない様子。
「上はどんなけしきが見えるんだろう」
 アレクシスの言葉によし、と頷いて、セリオスは迷わず梯子に手をかける。小さな身体はすぐさまひみつきちまで辿り着いて、追いかけるようにアレクシスも梯子をのぼる。
「高いね」
「まだ上があるぜ!」
 小屋の並び立つ床を踏みしめて、アレクシスはきょろきょろ。セリオスが指さす先、木々のてっぺんはまだまだ遠い。
「もっと上の方までいきゃ、空に手がとどくかもしれねぇぞ」
「うーん、手はとどかないと思うよ……?」
 こてんと首を傾げたアレクシスに、セリオスはたとえ話だと笑う。
「でも近いとうれしいじゃんアレスとおんなじ色!」
 空とおなじ色。だいすきな友達の何気ないほめ言葉がうれしくて、ふにゃりとアレクシスの口元がほころぶ。
 笑いながらも、セリオスは元気いっぱい。細い手足を動かして、アレクシスの気付かぬうちに、するすると木の上へと登っていく。それはそれは――ちょっと危なっかしいほどに。
「って! そんなに上っちゃあぶないよ!」
「ぅお!?」
 友達の言葉はすでに時遅し。ぐらりと傾く身体はひゅっと音を立てることなく真っ逆さま。
「ッセリオス!!」
 落ちてくる彼を受け止めようとするも、ここに普段の騎士アレクシスは居ない。九歳の少年には、同じ年頃の友達を受け止めるだけの力はなく。
「うわああ!?」
 ツリーハウスから派手に落下した二人は、ごろごろと原っぱを転がる。むくりと起きあがったセリオスはぱちぱちと瞬きしながらも、どこか楽しげ。
「はー、びっくりした!」
「せ、セリオス、だいじょうぶかい?」
 おろおろと気にかける友達を、セリオスは安心させようと腕を伸ばして両手をぐぅぱぁ。
「俺はへーきだって、アレスもけがないか?」
「僕はだいじょうぶ……はあ……君がぶじでよかった」
 安心してもれたため息と大丈夫そうな声を聞けば、なんだか楽しくなってきた八歳児。にぃ、と笑ったセリオスの顔に、ちょっぴりいやな予感がするアレクシス。
「よぉしアレスをたしかめてやる!」
「……え? ちょ、セリオス? わあっ!?」
 がばっとアレクシスに抱きついて、あっちこっちをこちょこちょ、わしわし、ごろんごろん。勿論、アレクシスだってやられっぱなしはごめんだ。
「もう……! お返しだ!」
「おわっ!」
 じゃれあう二人は転がって、原っぱでけらけらと笑いあう。
「ははっアレス、はっぱついてるぞ」
「君も」
 お互いの葉っぱを取りながら、楽しい時間を満喫するけれど。いつまでも続けるわけにはいかなくて。
「楽しい、けど――そろそろかえらなきゃ」
「――ああ、そうだな」
 先に立ち上がったアレクシスが差し出した手を、セリオスは迷わず掴んで立ち上がる。
「いっしょにかえろう。セリオス」
「うん、かえろう」
 もう二度と離さぬように繋いだ手。朝空の瞳と青宵の瞳は、いつしか互いの成長を見ていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スキアファール・イリャルギ
……えぇと、コローロ
記憶なかったらごめん、何とかして
(と、事前にUCで呼んでお願い)


(で、現地。
5歳ぐらいで記憶ナシ
怪奇人間になる前で
まだ背もデカくなかったので)

……わ、っぷ
(自分の服と包帯に溺れていた!)

≪コローロは慌てるように明滅するしかない!≫

……?
(なんとか抜け出したらひかりを見つけた)

≪コローロは
何とか彼の為になりたいと思って
光ったり色を生み出して進む道を示したり
一生懸命頑張ってみる≫

(なにを伝えたいのだろう?
ひかりには声が無い
でも一緒にいると不思議と心地良い)

ついていけば、いいの?

(そういえば
此処から出なきゃいけないような
なんでだっけ?

このひかりと一緒に歩いたらわかるのかなぁ)



「……えぇと、コローロ」
 スキアファール・イリャルギがぽつりと呼びかければ、瞬くひかりが現れる。
「記憶なかったらごめん、何とかして」
 シンプルで曖昧すぎるお願いを、ぱちぱちと輝くことでひかりは応えた。スキアファールの予想通り、現地に降りてしまえば彼の心は身体と共にちいさくなっていた。
「……わ、っぷ」
 そう、文字通りちいさくなっていたからには、異様に高い背に合わせて作られた服と大量の黒い包帯に溺れてしまうわけで。
 ひかりには主の予想外の危機をどうすることもできず、ただ慌てるようにちかちかと火花を瞬かせるだけ。幼い腕がわたわたと動いて、布の海からぱっと頭を出す。
 ようやく抜け出した少年の視界に広がっていたのは、闇の中で明るく浮かぶひみつきちと、それよりも明るくかがやくひかり。
 はて、と不思議そうに首を傾げる少年の力になりたくて、ひかりは赤、青、黄色と次々に色を変える。
「きれいだね」
 そう答えた少年に近付いて、ひかりはまた彩をともす。そうして少しだけ離れたかと思うと、また火花めいた輝きをはなつ。
 声のないひかりは、なにを伝えたいのだろう? でも、一緒にいると不思議と心地良い。
「ついていけば、いいの?」
 そう呟くと、返事するようにそれは瞬いて。だけど同時に、聞こえてくるささやき声。
 ――ねぇ、ここに居ようよ。
「でも」
 ささやき声よりもやさしいあかりが、スキアファールを導こうとしている。少年には、ひかりのあたたかさがひどく懐かしかった。
 そういえば、此処から出なきゃいけないような。
「なんでだっけ?」
 わからない、でも。このひかりと一緒に歩いたらわかるのかなぁ。
 ずるりと黒い包帯と衣服の海を巻きつけて、ちいさな足はひかりの方角へと踏み出す。耳に届くさみしげな声は、もう聴こえなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

火阿風・光毅
【ワイルドハント】
アドリブ連携歓迎
幼子になるか
俺達賢い動物の場合はどうなるやらだね

生後3か月のゴールデンレトリバーの子犬に
~のおにーちゃん、~のおねーちゃんと呼ぶ
人懐っこい性格で遊びたがり
飼い主の事はおねーちゃんと呼んでいた

えへへ~見た事のないおにーちゃんおねーちゃんがいる~
ねえねえあそんで~

ボールを加え遊びをねだったり遊んでーと裾を加えたりして絡む
遊んでる内に無意識にUC発動
呼び出した仲間も子犬姿
皆でボールを追いかけたりわちゃわちゃと他の人に絡んだり

ぼくはおねーちゃんの所に帰らないとだめなんだ
かいぬしを泣かせていいのは一度だけ
それ以外は犬のなおれってとーさんも言ってたんだー
だからまたねー?


白斑・物九郎
【ワイルドハント】



・己の幼児期というものを知らない
・ただ幼児化した今この時は、――眉間の皺が今より少しは少ない顔のガキになる

・常時そっけないツラ
・日当たりのいい場所でハンモックに揺られて昼寝することにしか興味が無い

・まあオドオドしたヤツ(鈴鹿)が寄って来たら、静かにしてる分には傍に居させてもいい
・なつっこい犬(火阿風)が近付いて来たら、尻尾でじゃらしてやらないでもない
・ただし山羊(リダン)がバズーカで昼寝の妨害して来たら、

「おたくらぜんいん、おもてにでなさいや」
>>>キレる<<<

・お外に出たら、知識経験が無くとも【野生の勘】が悟る
・自分達はワイルドハントで、このひみつきちを狩りに来たのだ、と


国栖ヶ谷・鈴鹿
【ワイルドハント】

アドリブOK

『秘密基地で』

・子供の頃のぼくは、自分に自信がなくって、友達がずっと欲しいと思ってた。だから、みんなと一緒に遊びたくってぴったり着いていく子だったと思う。

・不思議な子達と、ぼくも一緒に遊んでも良い?不安そうに顔を伺って、おてんばな女の子についていって、言葉の話せるわんこと一緒に遊ぶ、ちょっと奇妙で暖かいひとときに、ぱぁっと光が溢れてくる。 のんびりやな男の子に悪戯しようとするリダンに恐る恐る見てると、やっぱり怒りだして、ぼくも一目散に。

・さよならの時、ぼくは思い出す。ぼくはもう一人じゃない、だから胸を張って言える、「さようなら、ぼくは自分の場所に帰るよ」


リダン・ムグルエギ
【ワイルドハント】の人達は
普段キマフュのペントハウスっていう「秘密基地」で遊んでる面子なの
子供化したらどうなるか…興味深いわね

ビルじゃない!
コンコンしても何もでない!
へんなのー?

子供の頃のアタシは…動画大好きキマフュ脳の子ね
大人の今はあまり動かず喋り倒すアタシだけど
当時は駆ける跳ねる悪戯する撮りまくり、ね

いいよ!一緒にあそぼ、キミも、ワンチャンも!
ボール投げる、任せてー
…キミはボール、くわえないの?

寝てる子いるし…
うん、次は寝起きバズーカで遊ぼ!

よーし、けんかだね
お外でしよ!

この「ひみつきち」とのお別れは簡単よ
だって。アタシの秘密基地は…今、皆と共にあるんだもの
場所代の支払いよろしく、ぶっちー



 時蜘蛛の糸に例外はない。それが特異な人間ハイカラさんであろうと、キマイラであろうと、賢い動物であろうと。
「……どこだろ、ここ」
 国栖ヶ谷・鈴鹿は両手を胸に押しつけて、不安な気持ちをおさえこむ。知らない場所は少しだけこわいけど、なんだかあたたかな気持ちにもなるの。気持ちのいい風が吹いているし、見上げたハンモックから細い尻尾がゆらゆら。
 そこでお昼寝しているのは白斑・物九郎。幼い顔に寄った眉間のシワがいつもより少ないことを、此処に居る仲間達は誰一人として覚えていない。ふと、元気な高い声が聞こえてきて、鈴鹿はそちらへと視線を遣る。
「ビルじゃない! コンコンしても何もでない!」
 へんなのー? と首を傾げてツリーハウスをコンコンしているのはリダン・ムグルエギ。見慣れた未来都市のビルディングはひとつもなくて、樹につくられた木製のひみつきちは、少女の好奇心をわき立たせる。
 突然、きゃんきゃんと子犬の鳴く声がするものだから、振り返ってみればそこには尻尾をぶんぶん振っているちいさなゴールデンレトリバー。
「えへへ~見たことないおねーちゃんがいる~ねぇねぇ、あそんであそんで~」
 せがむ火阿風・光毅も、今は生後三ヶ月。どこからか持ってきたボールをくわえては落として、お腹すら見せる。リダンはボールを受け取って、わしわしと光毅のお腹を撫でる。
「いいよ、ワンチャン。ボール投げでしょ、まかせてー」
 あの、とちいさな声がリダンを呼び止める。首を傾げるリダンと、ボールを今か今かと待ちわびる光毅に、鈴鹿は勇気を出して自分の願いを伝えた。
「ぼくも、一緒にあそんでもいい?」
 自信のないあの頃に戻ってしまった少女には、遊んでくれる友達が居なくって。不安な気持ちが表情に出ていたのか、リダンはにこりと笑って鈴鹿の手をひく。
「いいよ!一緒にあそぼ、キミも、ワンチャンも!」
「わぁい、あそんで~」
 鈴鹿の服の裾を咥えて、子犬もはやくはやくと尻尾を振る。ちら、とハンモックで眠る物九郎を見上げたけれど、我関せずといった様子。
「きみは、あそばないの?」
「……おれぁひるねしてたいんだ、あそぶならあいつらとにしなせぇ」
 少しだけさみしかったけど、言葉を返してくれたから。ほわり口元に笑みをこぼして、鈴鹿は二人と一緒に走りだす。
 えい、とリダンが投げたボールを追いかける光毅が無意識に呼びだした仲間の群れも、今は愛らしい子犬達ばかり。いきなり増えた子犬達に目をぱちくりさせた少女二人に一斉にじゃれついて、少女達はきゃあきゃあ楽しげな悲鳴をあげる。
「おにいちゃんもあそんで~」
 少女と仲間達から離れて、光毅は物九郎の眠るハンモックの真下でくぅんとひと鳴き。少年は無視を決め込むこともできたけど、細い尻尾を垂らしてふりふり。
「わふっ」
 ふりふり、ぶんぶん。ふりふり、ひゅんひゅん。子犬には魅力的なそれが目の前で踊るものだから、思わず光毅は捕まえようと駆け回る。
「あ、寝てる子がいる」
 ハンモックの下ではしゃぐ光毅を見つけたリダンが、うたた寝を続ける物九郎の存在に気付く。んーと暫く考え込んで、うん、と何か決めた様子の彼女に鈴鹿が尋ねる。
「どうしたの?」
「次は寝起きバズーカで遊ぼ!」
「ねお、ばずーか……?」
 それなあに、と訊くよりもはやく、どこからか現れたおもちゃめいたバズーカ。ガシャコンと構えて、さん、にぃ、いち。ぼふん。
 白い煙がふきだして、鈴鹿はきゃあと身をかがめる。光毅も驚いてその場から飛び跳ねると、静かにむくりと起きたのは物九郎。
「あははは、おはよ!」
 けらけらと笑うリダンに、それまで黙っていた物九郎が口を開いて。
「おたくらぜんいん――おもてにでなさいや」
 ぷち、と何かがキレた音がして、追いかけっこが始まった。猫のすばやさで皆を追いかけ回す物九郎の動きも、きゃあきゃあはしゃぐリダンの声も、走るのが楽しくてたまらない光毅の姿も、なんだかとってもうれしくて、鈴鹿はつられて逃げ回る。
 ああ、すっごくたのしい。だけどもう、おしまいの時間は近付いていて。もうそろそろ帰らなきゃ、そう言ったのは誰だったか。
「ぼくはおねーちゃんの所に帰らないとだめなんだ」
 かいぬしを泣かせていいのは一度だけ。それ以外は犬のなおれってとーさんも言ってた。
 だからまたねー? と尻尾を振った光毅の背中を、鈴鹿がやさしく撫でる。それぞれの記憶が、少しずつ戻りつつあった。
 少女はもう一人じゃない、だから胸を張って言える。
「さようなら、ぼくは自分の場所に帰るよ」
 この『ひみつきち』とのお別れはとっても簡単。だってアタシの秘密基地は――今、皆と共にあるんだもの。
「場所代の支払いよろしく、ぶっちー」
 リダンに託されて、物九郎の野生の勘がすべてを悟る。
 ――自分達はワイルドハントで、このひみつきちを狩りに来たのだ、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草守・珂奈芽
広い、すっごい!
ワクワクするままに、UCも使って大冒険するのさー!
木の枝さ利用して縦横無尽に駆ける、楽しいしかっこよくない?
「ふははー、風のように駆け回るぞー!」

勢いで登った先のブランコに乗って、精霊さんに押させてどんどん加速!
「たっのしー!お空とんでるみたい!」
勢いに乗って跳び出して、神通力で軟着陸。怖いけど気持ちいい!
体が脆いからって周りに止められてた昔が嘘みたい!

…あ、でも兄ちゃんはブランコから空に飛べたんだよなあ。翼でバサーッと。
うーん、飛べたら絶対楽しいよね。でも今のわたしじゃまだ無理。
…よし、戦争に勝ってからの新しい目標だ。
それじゃ、わたしはもう行くよ。また楽しく遊ぶために!



「広い、すっごい!」
 十三歳の普段でも、背は低いほうだけれど。こどもに戻った草守・珂奈芽にとって、ツリーハウスの広さはわくわくしてしまうほどだった。
「よーし、精霊さん、あっそびっましょ!」
 この状況を楽しまない手はないだろう。呼びだした精霊達はくるくると少女の周囲で舞い踊り、珂奈芽はえいや、と枝葉に手をかける。
 しっかり掴まってよじ登れば、次の枝へと器用につたっていく。縦横無尽に駆けまわる身体は羽のように軽くて、それでいてとっても丈夫。
 勢いで登りきった先にブランコを見つけたら、それはもう乗ってみる以外の選択肢なんてない。
「精霊さん、押して押して! もっと!」
 ぶわりと風の音がして、ブランコは振り子のようにどんどん大きく揺れていく。加速していく自分の身体はまるで、
「たっのしー! お空とんでるみたい!」
 そう、竜人の家族達と同じ力を持ったようで。勢いに乗ったまま飛び出して、危うく派手に転びそうな瞬間、覚えた神通力でやわく着陸。少女を気遣う精霊達とは裏腹に、珂奈芽はきゃあきゃあはしゃいで笑い声をあげた。
「怖いけど気持ちいい! 体が脆いからって周りに止められてた昔が嘘みたい!」
 過保護な大人達に制止されたあの頃よりも、少女はうんと強くなった。だけど、まだ足りない。
「……兄ちゃんはブランコから空に飛べたんだよなあ。翼でバサーッと」
 ぱたぱたと両手を動かしてみたけれど、ちいさな腕に羽は一枚もついていない。背中に立派な両翼をつけた兄の姿を思い出す。
「うーん、飛べたら絶対楽しいよね」
 でも、今のわたしじゃまだ無理だから。よし、とひとり頷いて決意する。
「戦争に勝ってからの新しい目標だ」
 叶えてみせる、新しい夢のひとつ。そのためにも、このひみつきちとはもうお別れ。
「それじゃ、わたしはもう行くよ。また楽しく遊ぶために!」
 手を振る蛍石の煌めきには、迷いなどひとつもなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

穂結・神楽耶
【炊事課】
口調:むすび、~の、~なの
3歳程度、赤い着物、本体を背負う、うさぎのあみぐるみを抱く
記憶は断片的

…ひみつきち、なの?
むすび、こーゆーのはじめて! わくわく!
ニルくんきょーくん、いそいで行くの!
はやく行かないと日がくれちゃうの!
今のうちにいっぱいあそぶの!

むすび、あそぶのはじめてだけど…
ニルくんもみつけるし、きょーくんにまけないの!
それとも、あったかいからおひるね?
“あんぜん”?ならゆっくり休めるの。
きょーくん、ニルくんにくっつくとすずしいの!

あっ…モコ!?
まってにげないで、どこに行っちゃ……

…そっか、おそと…
かえったあとも、
またあしたも、そのつぎの日も。
いっしょにあそんでくれる?


鳴宮・匡
【炊事課】


◆幼児化
5歳、記憶は断片的、精神は外見相応
一人称は「おれ」
よく笑いよく喋る人懐っこい子供



だいじょーぶだぞ、ニル
おそとのことなら おれにまかせろ!
(二人の手をぐいぐい引っ張って先陣を切る)

はしるのもとくいだし かくれるのもみつけるのもとくいだ
ちゃんとかくれなきゃ“うたれる”ってししょーが言ってた!
おうちのなかなら“あんぜん”だから
おひるねもしていいって!

たくさんあそんで、いっぱいやすんで
ずうっとここにいたいけど
かえらなきゃ、って
それはわかってて

ニルもむすびもたのしそうで、ちょっとさびしいけど

また、いつでもあえるから
かえりみちもいっしょだから、だいじょうぶ
きょうはわらって「またあした」


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【炊事課】
(5歳ほど。無表情、言葉をほとんど喋れず鸚鵡返しが多い。警戒心が強い。時折獣のように唸る)
(一人称「わたし」。記憶は二人のことを除き曖昧)

ひみつきち
きょー、むすび、きをつけて
あぶない……かも
(周囲を警戒しながらついて行く)

(育った牢よりずっと広い中を見渡し、無意識に隅っこを探す)
はしるの、なれてない、けど
かくれんぼ、は……とくいだ
きょーは、なにがとくい?

ともだちも
あったかいとこで、ねるのも
……はじめてだ
(外で遊べるのは滅多にないことだったから、楽しくて尻尾が揺れる)

(むすびの問いに目を伏せる)
あたりまえ――だ
わたしたち、は
……かえっても、ともだち、だろ

(手を繋いで、皆で一緒に帰ろう)



 こども達を惹きつけるひみつきちの魅力は、穂結・神楽耶をも虜にしてしまう。本体の刀を背負って、うさぎのあみぐるみを抱きしめながら少女は友達を手招く。
「むすび、こーゆーのはじめて! ニルくんきょーくん、いそいで行くの!」
「う……むすび、きをつけて。あぶない……かも」
 わくわくとした表情の神楽耶とは裏腹に、ニルズヘッグ・ニヴルヘイムはぐる、と獣のように唸る。無表情に不安がにじみ出ているニルズヘッグの手をぱっとつかんで、鳴宮・匡は笑う。
「だいじょーぶだぞ、ニル。おそとのことなら、おれにまかせろ!」
 神楽耶の手もつかんで、匡は二人をひっぱるようにひみつきちへと先陣を切った。神楽耶はそれすらも楽しいようで、転びそうになりながらも一生懸命追いかける。
「はやく行かないと日がくれちゃうの! 今のうちにいっぱいあそぶの!」
 梯子を登って辿り着いた先は、ちいさな視界には広大な広場に見えた。ニルズヘッグにとっては育った牢よりもずっとずっと広いものだから、なんだか居心地が悪い。無意識に隅っこの陰を探してしまう彼の隣で、匡がはきはきと声をあげる。
「ふたりとも、はしるのすきか? おにごっこしようぜ」
「むすび、おにごっこしたことない! ニルくんは?」
 う、と唸って、ニルズヘッグはぽつりぽつりと返す。
「はしるの、なれてない、けど。かくれんぼ、は……とくいだ」
 すごいすごいと二人がはしゃげば、きょーとむすびは? とニルズヘッグは尋ねる。
「はしるのもとくいだし、かくれるのもみつけるのもとくいだ」
 ちゃんとかくれなきゃ“うたれる”ってししょーが言ってた。だから匡にとって、ししょーに褒められるくらいかくれんぼは得意なこと。
「むすび、はじめてだけど……ニルくんもみつけるし、きょーくんにまけないの!」
 ならば決まりとばかりに始まったじゃんけん大会。ぐう、ぐぅ、ちょきで、鬼は神楽耶。いちからとおまで数えて、ひみつきちのあちこちを探し始める。
 木のてっぺん、小屋の裏、梯子の下。太刀を引きずりながらも、少女はとてとてひみつきちを歩き回る。
 隠れるのが得意だと言った通り、二人はなかなか見つからなかったけど。相棒のうさぎが一緒に探してくれたから、服の裾やおひさまの影でみぃつけた。
 鬼をくるくると交代しては、三人で繰り返すかくれんぼ。次第にこども達に降ってくるのは、やわらかいおひさまのにおい。
「あったかいから、おひるねしたくなっちゃうの」
 匡が目をこする神楽耶の手をひいて、ニルズヘッグは神楽耶の背中をそっと押す。ししょーが言ってた、おうちのなかなら“あんぜん”だから、おひるねもしていいって。
 木漏れ日がかがやく床に、三人そろって寝そべる。ぽかぽかとあたたかくて、匡はくふりと笑みが零れてしまう。
「ともだちも、あったかいとこで、ねるのも……はじめてだ」
 外で遊べるのは滅多になくて、竜の尻尾がちいさく揺れる。そんなニルズヘッグにくっつくと、焔を宿した少女にとってひんやりしていて涼しい。
 たくさんあそんで、いっぱいやすんで、ずうっとここにいたい。ニルもむすびもたのしそうで、でも、帰らなきゃいけないことは、匡はよくわかっていた。
 ふいに、相棒のうさぎがぴょこんと神楽耶の胸元から抜け出して、勝手にすたすたどこへやら。
「モコ!? まってにげないで、どこに行っちゃ……」
 あ、と。少女も忘れちゃいけない約束を思い出す。本当の、おそとに出ないといけない。だから、ねぇ、と二人に問うた。
「かえったあとも、またあしたも、そのつぎの日も――いっしょにあそんでくれる?」
 むすびのさみしげな声に、ニルは目を伏せた。
「あたりまえ――だ。わたしたち、は……かえっても、ともだち、だろ」
 ニルがむすびの手を握って、もう片方の手をきょーに伸ばす。きょーが迷わず握り返して、笑う。
「だいじょうぶだ。また、いつでもあえるから。かえりみちもいっしょだから――だいじょうぶ」
 だって大丈夫、三人は明日も、そのまた明日も、きっと。だから、
 ――またあした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鸙野・灰二
マルガリタ/f06257 と

成長するヤドリガミも居ると云うことだ
お前と目線の高さが変わらんのは、新鮮で面白い

然しこの姿で刀を三振り佩くのは難儀だな
抱えて歩くにも苦労する、身軽なことは確かだが
狭い所を抜け、枝の上を歩いて、先行く背中を追いかける
隙間や物陰を覗き込んで隠れた姿を探す
そんな所に居たのか
はぐれては危ない、見える所に居て呉れ

子供同士でこうして遊ぶのは初めてだ
ただ思いつくままに歩いて走ッて、それだけのことがこんなに楽しかったとは知らなんだ
子供とは面白いな、マルガリタよ

……ああ、少し休んだら共に帰ろう
お前とこうしているのは楽しいが、俺は箱の中より外が良い

次は何をして遊ぼうか


マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と

君にもそんな小さい頃があったんだ
見上げなくても顔が見えるの、変な感じだな

好きに過ごせって言われたけど、一応調べとこうか。オブリビオンだし
あ、小さいとこんな狭いとこも通れるよ。枝の上を歩いても折れないし
隙間や物陰に隠れるのも簡単だし
……やっぱ一つくらい持ってあげた方がいいかな?
ごめんごめん、こっちだよ

子供同士でこんなふうに遊んだこと、ある?俺はないからすごく新鮮
本来の目的を忘れてる気がするけど……まあいいか、楽しいし

うーん、疲れたしちょっとだけ休もう
……そうだ、一休みしたらちゃんと帰らないとね
何でかな、ずっと閉じ込められてるのって、寂しい気がしたんだ

外に出たら、また遊ぼうよ



 人間である自分がこどもに戻るのはわかる、けれどヤドリガミの彼の幼い頃とは? マルガリタ・トンプソンの疑問は、目の前に居るちいさく愛らしい見た目に縮んだ鸙野・灰二の姿で解決した。
「君にもそんな小さい頃があったんだ」
「成長するヤドリガミも居ると云うことだ」
 見上げなくても顔が見えるのは変な感じ、と少女が感想を告げれば、少年は目線の高さが変わらないのは新鮮で面白いと返して。
 さて、自由に過ごせと言われたものの、仮にもこのひみつきちはオブリビオン。
「一応調べとこうか」
 とんとん、と床板を軽く蹴ってみても軋むことはなく、今の二人なら壊れることはなさそう。マルガリタは、あ、と発見した木々の隙間を潜り抜ける。
「小さいとこんな狭いとこも通れるね」
 普段以上に軽い身体で枝の上へと飛び乗っても、どれだけ歩こうと折れる気配もない。
 ひょいひょいと簡単にあらゆる狭い場所をくぐり抜けていくマルガリタの後ろを、灰二は三振りの刀と一緒にとてとてと追いかける。とはいえ、刀の大きさは普段と変わらない。抱えて歩くのも一苦労で、すぐに少女の姿を見失ってしまった。
 きょろきょろと隙間や物陰を覗き込んでは、少女の行方を探す。やっぱりかくれんぼは彼女の方が有利だったろうか、と少女の名を呼んだ。
「マルガリタ」
「呼んだ? ごめんごめん、こっちだよ」
 ぱ、とマルガリタが顔を出したのは屋根の上。そんな所に居たのか、と灰二が目を瞬きすれば、少女は刀を抱える姿にうーんと首を傾げる。
「……やっぱ一つくらい持ってあげた方がいいかな?」
「構わん、気にするな」
 屋根から軽いステップで飛び降りて、少女はうんと大きく伸びをする。そうして笑みを零して、少年に尋ねた。
「子供同士でこんなふうに遊んだこと、ある?」
 俺はないからすごく新鮮、とマルガリタが笑うと、灰二もこくりと頷いて。
「こうして遊ぶのは初めてだ」
 ただ思いつくままに歩いて走って、それだけのことがこんなに楽しかったとは知らなんだ。
「子供とは面白いな、マルガリタよ」
「……そうだね。本来の目的を忘れてる気がするけど……まあいいか、楽しいし」
 幼い頃に遊んだことのない少年少女は、ふたりでツリーハウスを駆け回る。おいかけっこにかくれんぼ、木登りに影踏みの次は何をしようか。
 そんな風に、それなりにひみつきちを探検し尽くして、互いにだいぶ疲れてきた様子。小屋の中で並んで座ってひとやすみしていると、外からは小鳥の鳴き声が聴こえる。
「一休みしたらちゃんと帰らないとね」
 眠い目をこすりながら、少女は忘れちゃいけない約束を口にする。
「何でかな、ずっと閉じ込められてるのって――寂しい気がしたんだ」
「……ああ、少し休んだら共に帰ろう」
 少しだけ少年の目元が緩くなって、マルガリタには彼がふにゃりと笑んだように見えた。
「お前とこうしているのは楽しいが、俺は箱の中より外が良い」
「うん――外に出たら、また遊ぼうよ」
「ああ、次は何をして遊ぼうか」
 外に出たって、だいすきなきみとなら、きっと楽しいに決まっているから。
 ふたり、ちいさな約束をして、ほんのひとときだけ眠りに落ちる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ステラ・カガミ
みんなにおうたをうたったり、おどりをみせてあげるの。
あたしのうたやおどりでみんながよろこんでくれるとあたしもうれしいから。
おとうさん、おかあさんまできてくれたんだ!ずっとあいたかっんだよ!!
(幼い頃に両親を亡くしてずっと1人で生きてきました)
あたしのとびきりのおうたとおどりをみせたげるね。
いつかみせたげようとおもって、ずっとがんばってたんだ。
ずっとここにいたいけど、ここにいつづけちゃいけないんだ。
あたしのうたやおどりをみたいひとはいっぱいいるし、もっといろんなところをみてみたいから。
いつかまたあえたら、がんばったねってほめてくれたらうれしいな。



 草木がそよぐ原っぱに立つツリーハウスに居たのはステラ・カガミだけではなく、彼女を囲む大勢の観客だった。
 ほんの少し照れながらも、おさない少女は歌を口ずさむ。風と光を纏うように踊る姿は、こどもながらに神秘的な佇まいをしていて。
 拍手と歓声に湧く舞台の上で、ステラの声はどんどん大きく伸びやかに。軽やかなステップと共に、次々と様々な曲を披露していく。
 あたしのうたやおどりで、みんながよろこんでくれると、あたしもうれしい。それだけのことが彼女の力になったから、ここまでずっと歌い踊り続けてきた。
「え……」
 ふいに目に留まった男性と女性の姿。見間違えることなんてない、だいすきな人達の顔。
「おとうさん! おかあさん! ずっとあいたかったんだよ!!」
 とうに亡くした二人のまぼろしは、あの頃と変わらぬまま、あの頃にもどったステラを抱きしめる。
「うれしい、うれしいよ! あたしのとびきりのおうたとおどり、みせたげるね」
 だって、いつかみせたげようとおもって、ずっとがんばってたんだ。
 微笑みを浮かべて頷く両親の前で、とっておきを披露する。それは人を愛し、音楽を愛して生き続ける、とある歌うたいのお話。
 舞台の熱狂が最高潮の中、歌う喜びを知る少女は、別れの時が近付いていることも知っていた。
「ずっとここにいたいけど、ここにいつづけちゃいけないんだ」
 たどたどしい、あどけない言葉で舞台の幕は降りようとしている。あたしのうたやおどりをみたいひとのために、もっとせかいをみるために。
 だから、いつかまた会えたなら。
「がんばったねって、ほめてくれたらうれしいな」
 たとえまぼろしでも、手を振る両親の笑顔を忘れることはないだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

誘名・櫻宵
🌸宵戯
WIZ

ちいたく!
角の桜はまだ蕾
その姿は桜のお姫様のよう

ろき!
…?
おめめがみえないの
わたちはここ
細い手を握り
ここだと教えるようぎゅうとする
細いからだに重い首輪が痛々しい
ここがほっぺ
おめめでここがお口
父上たちは叩くことしかしなかったほっぺはやわこい
ぺろりと舐めらる
くすぐったい!
はるのかおり、よく覚えておいて
おいしいよ
あとであげる

ひみつきちなんてワクワク
ろきの手をひいて歩いて
よりそっておはなしをする
わたち
もっとろきのこと知りたいな

ろきは元はひとだったの?
するわけないわ
どちらでもろきだもの

わたち
べんきょしかしてなかったの
ろき、あそぼ!
そしたら
きちにばいばいして、わたちたちのおうちにかえらなきゃ


ロキ・バロックヒート
🌸宵戯
WIZ

糸に触れてちっちゃく
まだひとだった頃の姿に
みすぼらしく痩せ細ってる
光失せた眼は黒色に
重い首輪は嵌ったまま
ちょっとがっかり

まっくら
でもこれがぼくの世界だった
さよ、どこ
触れたぬくもりを握り返して
さよが見えないよぅ
見えないからなくなりそう
やだ
手をはなさないで
あっちこっちぺたぺた
おいしそうないいにおい
叩かれてるの?かわいそう
ほっぺをぺろり
はる?っておいしいの?
たべてもいい?

秘密基地に手を引かれ
よりそってくっついてお話

もとはひと、なの
ひみつがだんだん、さよに明かされていく
かみさまじゃないってがっかりしない?
…よかった

おべんきょ?したことないや
ばいばいしてあそびにいこうよ
いっぱいあそぼね
さよ



 それは、まだ彼がひとだった頃の姿。みすぼらしく痩せ細った腕で、ロキ・バロックヒートは首元に触れる。重い首輪が嵌ったままなのが見えずともわかって、ちょっとがっかり。
 金色にひかっていたはずの瞳はまっくろで、何ひとつ視えないまっくらな世界。だけどそれが、ちいさなロキには当たり前だった。
「さよ、どこ」
 おびえるように震わせた声が、たいせつなあの子を呼ぶ。暗闇の中で伸ばした手が、ふいにあたたかなものに触れる。
「ろき!」
 はらはらと零れて咲いているはずの角の桜はまだまだ蕾で、薄紅を身をまとう姿は桜のお姫様。誘名・櫻宵がいとおしいあの子の細い手を握ると、ロキは泣き出しそうな声できゅっと握り返す。
「見えない、さよが見えないよぅ」
「おめめがみえないの?」
 櫻宵が尋ねると、ロキはこくりと頷く。見えないから、なくなりそう。さよが、なくなってしまう。
「やだ、やだ。はなさないで」
 この手を、はなさないで。弱々しくほろほろと零れるお願いに応えるように、櫻宵はぎゅっと手を握る。
「わたちはここ、ここよ」
 痩せっぽちの身体を傷つける、重い首輪が痛々しくて。櫻宵はロキの空いた片手を、そっと自分の頬へと持っていく。
「ここがほっぺ」
 ぺた、ぺた。
「ここがおめめで、ここがお口」
 ぺたぺた、ぺたん。厳格な父親達は叩くことしかしなかった頬は、しろくうすくやわらかい。ロキには見えなかったけれど、とってもいいにおいがしたから――ぺろり。
「ひゃ! ふふ、くすぐったい!」
「おいしそう」
「これは、はるのかおり。よく覚えておいて」
 はるっておいしいの? おいしいよ、あとであげる。
 ロキが転ばぬように、ぶつからぬように。細い手をかたくにぎって、櫻宵はひみつきちのドアを開ける。二人のこどもは寄り添って、ひみつひみつの内緒話。
「わたち、もっとろきのこと知りたいな」
「ぼくのこと」
「そう、ろきのこと」
 つないだ手を離すことなく、櫻宵はロキに問うて。しばらくしてから、ロキが口を開く。
「……あのね、ぼく。もとはひと、なの」
「そうなの」
「かみさまじゃないって、がっかりしない?」
 ひとつ、ふたつ、さよに明かされていくぼくのひみつ。こわくてつい訊いてしまったけれど、桜のお姫様はまさか、と笑った。
「するわけないわ、どちらでもろきだもの」
 わたちのだいすきなろきは、どんな姿でもだいすきなまま。だから櫻宵も、ひみつをひとつ。
「わたち、べんきょしかしてなかったの。あそんだこと、ないの」
 おべんきょ? と小首を傾げて、ロキはゆっくりと櫻宵の頬に触れる。
「したことないや。ねぇ、さよ、おべんきょ、ばいばいしてあそびにいこうよ」
「――そうね、そうね! ろき、あそぼ!」
 櫻宵もロキの頬に触れて、二人はくすくすと笑い合う。
「いっぱいあそぼね、さよ」
「ええ、ろき。そしたら、きちにばいばいして、わたちたちのおうちにかえらなきゃ」
 帰り道はとっくにわかってる。手をつないでいれば、迷子になんてならない。
 ――だからそれまでは、二人でうんとあそぼう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・アンダーウッド
わぁい♪ちっちゃくなっちゃった!
アルファ(からくり人形の個体名)とおなじくらいだね。なにしようかな......そうだ!アルファ、ボクとくみてをしようよ。こんなきかいはめったにないからさ♪

αに組手の相手をして貰い、徒手による近接戦闘を行う。
やぁ。フッ。セイッ!
始めこそノロノロとした弱々しい動きから徐々にキレのある力強い動きになっていく。

ありがとう、アルファ♪
さぁて、そろそろかえるもしよう。
ボクがいちばんやりたいことは、だれかをえがおにさせることだからね♪



「わぁい、ちっちゃくなっちゃった!」
 クラウン・アンダーウッドは、縮んだ腕や脚を自分の絡繰人形と比較してみる。
「アルファとおなじくらいだね。なにしようかな」
 ヤドリガミにとってこどもになるなんて、通常ならばありえない出来事。それなら満喫しなくては損だろう。うーん、と暫く考え込んで、そうだ、と手をたたく。
「アルファ、ボクとくみてをしようよ。こんなきかいはめったにないからさ♪」
 ひみつきちが見守る原っぱで、絡繰はカタカタ音を立てて少年と対峙する。そよぐ風が心地よい中で、クラウンも絡繰も同時に地面を蹴った。
「やぁっ」
 迷わず放つ拳は軽々と防がれて、逆に絡繰から強烈な蹴りが入る。風を切る音と共に身を躱して、腕をねじ伏せる。
 ちいさな身体に慣れていない最初の頃は、のろのろとした弱々しい動きに絡繰が合わせる形だったけれど、次第に感覚に慣れてきたクラウンの猛攻が続く。
「セイッ!」
 キレのある力強い攻撃が、身体を捻った勢いで絡繰を地面へと落とす。勿論壊すつもりはなく、勝負がついたところで力をゆるめて、ボクの勝ち。
「ありがとう、アルファ♪」
 どこもこわれてないよね、とあちこちを確かめると、絡繰自身も問題ないと返事するようにカタカタ鳴る。
「さぁて、そろそろかえるとしようか」
 思いっきり動いて満足したクラウンの耳に、ふいに届いたさみしげな声。
 ――もっと、あそぼうよ。
「……みまもってくれてありがとう。でもね、ボクがいちばんやりたいことは、ここではできないんだ」
 クラウンのやりたいこと、それは。
「だれかをえがおにさせることだから♪」
 道化師は旅立つ、次に出会うだれかを笑顔にするために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
寧(f22642)と
記憶なし/7人きょうだいの家の長男坊

知らないところで
おとうさんもおかあさんもきょうだいも、みんないない
でも、知らないおんなのこがいた

迷子なの?
って声をかけたけど話しちゃダメなんだって

でもこの子、きっとさみしいんだ
ぼくも泣きそうだったけど、でも、ぼくはいちばんお兄ちゃんだからがんばらないと

いっしょにおとうさんとおかあさんを探してあげる
たかいたかい木にのぼったら、きっとすぐ見つかるよ

木にのぼったら思い出した
ここから出なきゃ
ここからバイバイしたら、きみともバイバイしないといけないのかな

やすこちゃん
おなまえ、おしえてくれたから
きっとまたみつけるよ
ぼくはときじ
ぼくのこともみつけてね


花仰木・寧
十雉さん(f23050)と
記憶なし/軍人一家で厳しく躾けられた子

おとうさま、おかあさま……?

迷子だとわかれば、恐ろしさに身がすくむ
ひとりになんてなったことがない
眠れない夜でも、女中のねえやが布団に入れてくれた

知らないひとと話しちゃだめなの
お外はあぶないって、おとうさまが

泣いてはいけないの
人前で泣くのははずかしいって、おかあさまが

まいごなんて、きっとおこられる
帝都育ちは森もこわくて、ひとりもこわくて
彼の手をとって恐る恐るたかいたかい木をのぼる

わからない
わたし、……わからない

あのね、わたし、やすこ
つれてきてくれて、ありがとう

(名乗った名は、捨てた名。もう誰も呼ばない名前)



 ふわり、緑のにおいがする。おひさまのにおいもする。だけど桜のにおいがしないし、薄紅の花びらもない。ここは、どこかしら。
「おとうさま、おかあさま……?」
 それまでの記憶は喪われて、いまや花仰木・寧は迷子のあどけない少女でしかなかった。ひとりになんてなったことがない。眠れない夜だって、女中のねえやが布団に入れてくれたのだもの。
「ねぇ、きみ」
 ふいに呼び止められて、びくりと肩が跳ねる。振り向けば、不思議そうに少女を見つめる幼い宵雛花・十雉が居た。
 知らないところで、両親もきょうだいも、みんないない。だけれど、知らないおんなのこが一人。
「迷子なの?」
 首を傾げる少年に、少女は怯えるようにあ、う、と言葉を濁す。しばらくして、ちいさな声が少年の耳に届く。
「し、知らないひとと、話しちゃだめなの。お外はあぶないって、おとうさまが」
 そうなんだ、と返したけれど、彼には少女の瞳が潤んでいるのがわかった。彼女自身も自分の視界が滲んでいるのがわかったみたいで。
「泣いてはいけないの。人前で泣くのははずかしいって、おかあさまが」
 ああ、でも、こわくて不安で、おそろしい。ぽろりと零れた涙を懸命にぬぐう少女の姿に、少年も泣きそうだったけれど。
 この子、きっとさみしいんだ。自分も不安でたまらなかったけど、ぼくはいちばんお兄ちゃん。お兄ちゃんだから、がんばらないと。
「いっしょにおとうさんとおかあさんを探してあげる」
 高い木にのぼったら、きっとすぐに見つかるからと、木に登った少年は少女へ手を伸ばす。
 まいごなんて、きっとおこられる。帝都育ちは森もこわくて、でもひとりもこわくって。少女は恐る恐る、彼の手をとった。
 ちいさなふたつの身体は一生懸命木を登り、そうして辿り着いた太い枝に、二人並んで座る。さっきよりも緑のにおいが濃くなって、見えないはずのおひさまがまぶしい。
「すごい、遠くまでよく見えるよ」
「……高いのね」
「まだこわい?」
 少年の問いに、少女はおずおずと頷く。だけど、
「……おひさまの、やさしいにおいがするわ」
 そう返せば、少年もそうだね、と笑って。ふいに彼の頭によぎったのは、忘れちゃいけない大切なこと。そう、思い出した。
「ぼく、ここから出なきゃ。きみも、ここから出なきゃいけないんだ」
「わたしも?」
「うん。……ここからバイバイしたら、きみともバイバイしないといけないのかな」
 それはなんだかさみしくって、嫌だな、と思ったから。少女に思わず問うてしまったけれど。彼女は小さく首を振る。
「わからない。わたし……わからない」
 ちいさな唇をふるわせてこぼした言葉を拾いあげて、そう、と少年は返す。ほんの少しだけ沈黙が続いて、少女が口をひらいた。
「あのね、わたし、やすこ。つれてきてくれて、ありがとう」
 名乗った名を、捨ててしまって幾年月過ぎたろう。そんなことも忘れて、やすこは少年に感謝を告げる。
 やすこちゃん、と繰り返して。少年は嬉しそうににっこりと笑う。
「おなまえ、おしえてくれたから。きっとまたみつけるよ」
「ほんと?」
「うん、ぼくはときじ。やすこちゃん、ぼくのこともみつけてね」
 ときじくん、と繰り返して、ずっと泣き出しそうだった顔が花ひらく。
「みつけるわ、ときじくん。わたし、みつける」
 きっと、必ず見つけるから。ゆびきりをして、二人は笑った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
あっカホくん(f15753)
そんなトコロでちいさくなって、何してるの?
こっちで遊ぼうぜ、ほらほら早く早く

カホくんはなにがスキ?なにがしたい?
キミのことをおしえてよ

……ふうん、キミもいろいろと大変なんだ~
わたしも王子様だから、走り回ったり木にのぼったりしちゃダメっていわれる
だからカホくんのきもち、すこしわかるかも
本を読むのもいいけど、わたしとも遊んでよ~

これかい?そう、ちいさな剣だけれど、本物
父上がくれたの
ほんとうはもっと大きくてカッコいい剣がほしいんだけど…

これ見たいの?こっちにおいで!

ツリーハウスから降りるように促して

ふふー。見るだけだよ
これはわたしだけの剣だから
これでいつかみんなを守るんだ


臥待・夏報
ひあっ突然なに!
……お前(エドガーくん/f21503)、よく僕を見つけたな
(木の上の葉っぱの中に引きこもって、目立たないように本を読んでいた)

……スキなもの
考えたことなかったな
ここまで木を登るのは楽しかったよ
家じゃ、男の子みたいな遊びしちゃダメって言われるけど
女の子の遊びって嫌い、だから、本を読んでるの

へえ、本物の王子様でも大人のいうことは同じなんだな
……その剣も、本物?
子供でも使えるの?

(おっかなびっくり木から降りて)
うお、ちいさいけどホントに剣だ。すごい。飾ってあるだけのカタナと全然違う
見るだけ? 触っちゃだめ?

……ちぇっ
ここから出たら
大人になったら
僕にもいつか、僕だけの剣が見つかるのかな



 緑のにおいと、小鳥のさえずり。おひさまが眩しくて、少年はぱちりと目を開ける。狭い視界いっぱいに広がるツリーハウスの梯子を登って、エドガー・ブライトマンは声をあげる。
「おぉい、だれかいない?」
 応える声はどこにもなく、だけど頭上に確かなだれかの気配。見上げてみれば、見知った顔の女の子。
「あっカホくん。そんなトコロでちいさくなって、何してるの?」
「ひあっ突然なに!」
 木漏れ日と木陰のモザイクに紛れて本を読んでいた臥待・夏報は、突然名前を呼ばれて肩をびくりとふるわせる。誰にも見つからないように、ちいさく縮こまっていたのに。
「……お前、よく僕を見つけたな」
 じと、と少年を見下ろす表情に、エドガーはおや、と違和感を覚える。どうやら彼女にこちらの記憶はないらしく、そもそも自分の記憶も、彼女の存在以外はなんだかあやふや。まぁいいや、とそんなことより遊び相手に手を振る。
「こっちで遊ぼうぜ、ほらほら早く早く」
「お断りだね」
「えぇ」
 つんと口をとがらせる少女に、少年は次の手を打つ。
「じゃ、カホくんはなにがスキ? なにがしたい?」
「……スキなもの」
 キミのことをおしえてよ。こちらを見上げてはふわりと笑う少年の言葉に、少女は読んでいた本のページを指でなぞる。
「考えたことなかったな」
 ぽつりぽつりと零れる言葉は、ひどくつまらなそうでいて。頬を膨らませはしなかったものの、あたたかい陽射しで満ちたひみつきちには似合わない表情だった。
「ここまで木を登るのは楽しかったよ。家じゃ、男の子みたいな遊びしちゃダメって言われるけど」
 女の子の遊びって嫌い、だから、本を読んでるの。そう語る夏報の話を黙々と聴いていたエドガーが、ふうんと相槌を打つ。
 キミもいろいろと大変なんだ、と続けて、うんうんと頷いてみせる。
「わたしも王子様だから、走り回ったり木にのぼったりしちゃダメっていわれる。だからカホくんのきもち、すこしわかるかも」
「……王子様?」
 怪訝そうな夏報とは正反対の笑顔で、そうだよ、ともう一度彼女に手を振って。
「本を読むのもいいけど、わたしとも遊んでよ~」
 どうやら本物の王子様でも、大人がこどもにいうことは同じらしい。ふと彼の腰に下げられた剣の鞘がきらりと光ったのが、少女の興味を引いた。
「……その剣も、本物? 子供でも使えるの?」
 夏報の指差す先が自分の剣だと気付いて、エドガーはこれかい? と小首を傾げる。
「そう、ちいさな剣だけれど、本物。父上がくれたの」
 ほんとうは、もっと大きくてカッコいい剣がほしいけれど。これが見たいならおいでと手招きすれば、少女はおっかなびっくり木を降りてきた。
「うお、ちいさいけどホントに剣だ。すごい」
 すらりと抜かれた刃はおひさまを反射して、見ただけでするどい切れ味がわかる。家や博物館に飾ってあるだけのカタナとは全然違う。
「見るだけ? 触っちゃだめ?」
「ふふー。見るだけだよ。これはわたしだけの剣だから」
 どことなく得意げなエドガーと、ちぇっと拗ねたように残念がる夏報。
「これでいつかみんなを守るんだ」
 夢を語る彼の瞳はかがやいていて、今度は夏報はふぅんと相槌を打つ。続けて彼女の口から出たのは、少女のちいさな願いだろうか。
「ここから出たら、大人になったら、」
 ――僕にもいつか、僕だけの剣が見つかるのかな。
「見つかるといいね、キミだけの剣が」
 エドガーがそう笑ったのは、あやふやな記憶の中の夏報がそこに居たからだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎
姿は肌色は今より白っぽく
髪や瞳の宝石部位は水色と白の中間ぐらいの色合いの藍玉
ようはクリスタリアン寄り
記憶も共に巻き戻り戻る年齢は五歳前後、夢を得た後の兎乃君

秘密基地で遊べるらしく、入ればすっかり幼児状態

なんだおまえ!すっごいな!まるでいきてるみたいにうごけるんだな!

秘密基地をどたどた走り、楽しく騒がしく遊び続ける
縄跳びゲームにトランプetc.
それでも帰る時間は訪れる。

たしかにまだまだあそびたりねぇ!
でもぼくさまはな、いつかちょうつっよいさいっきょーのまじゅつしになるんだ!そのためにも、かえらねぇと!
じゃあな、きち!楽しかった!

……なんだかひどく懐かしい気分だったな
戻れた後に想うのだ



 蜘蛛の糸が齎したまきもどりは姿だけに留まらない。記憶もすっかり五歳の頃に戻った兎乃・零時は、楽しそうなひみつきちに大はしゃぎ。
「おもしろそうだ! でもだれもいないのか?」
 膚の色は十五の今よりも透明なくらい白くて、アクアマリンの髪も瞳もあわい藍玉。少しでも転べばひび割れてしまいそうな宝石の姿だけれど、探検の邪魔をする大人はどこにもいない。
 小屋の中を覗くと、ふわりと耳に入ってくるささやき声。
 ――ねぇ、あそぼうよ。
「いいぜ、あそぼう! でもおまえ、どこにいるんだ?」
 このままでは遊べない。姿の見えぬだれかに呼びかけると、目の前にはらりと積まれたトランプの山。
「なんだおまえ! すっごいな! まるでいきてるみたいにうごけるんだな!」
 しんけいすいじゃくって知ってるか? と呼びかければ、トランプの山は勝手に全て裏返しに。姿見えぬだれかとのゲームが始まって、零時が飽きた頃を見計らったように大きな駒の玩具が転がりでる。
「なんでもでてくるんだな!」
 外に出た零時の目の前には、木と木の間に繋がれた縄。少年が近付くと、縄は自然と回り始めて、ならばと中へお入んなさい。
 相棒の紙兎のように飛び跳ねる零時に合わせるように、縄はぐるぐる回り続ける。ひゃっかいとべるまでがんばるぞ、なんて気合いを入れれば聴こえる笑い声。
 けれど彼にも、帰る時間は訪れる。
 ――行っちゃうの?
「ああ」
 ――楽しくなかった?
「そんなことないぞ! 楽しかった!」
 ――じゃあ、もっとあそぼうよ。
「たしかにまだまだあそびたりねぇ! でもぼくさまはな、いつかちょうつっよいさいっきょーのまじゅつしになるんだ!」
 夢を得たこどもは誰よりもまっすぐで、止められるものはここにはいない。
「そのためにも、かえらねぇと!」
 じゃあな、きち! と手を振る少年は、戻れた後に想う。ひどく懐かしい気分だったことを。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛瑠璃・優歌
【家出】
(シナリオID:21531で負った大怪我が治るまでと家出中)
幼くなろうと猟兵の仕事を完遂するだけと思ってた

異母弟が居た
「…ひめ?」
可愛いあたしの弟
だけど今は
「…っ来ちゃだめ!」
ごめんね
ひどいお姉ちゃんだ
でも
「まだ、まだ帰らないのっ」
じわじわ涙が出る
「…おかしいの、」
小さくなったら解けちゃった包帯
もう傷なんてないのに
「痛いの」
「暗くなると怖い声がする」
「こんな弱い子、皆困っちゃう」
お母さんを守れない子
お家の、恥
「だから…!」
本当は甘えたい
でもあたしは強くなくちゃ
お姉ちゃんだから
お母さんの為立派なスタァに…
「ぇうっ?」
怒られて、る?
わかんない、けど
「一緒…」
温かい手を離そうとは思わなかった


梅小路・尚姫
【家出】
幼い姿になった自身にも、泣いて拒絶する幼い義姉の姿に戸惑うことはなく、言葉に耳を傾け嘆息一つ。

全く世話の焼ける義姉さんだな。
小さくても大きくても一緒。

誰が困るの?
誰が強くなれって言ったの?

「他人の気持ちや願いを勝手にきめるな!」
「自分の願いを、夢を否定するな!」

強くなりたいのも守りたいのも甘えたいのも自分の願いだろう。
その願いに誰かを絡めて、自分で自分を虐めて、怖がって。
それじゃあずっと痛いままで前に進めないじゃないか。

「帰るよ。夢も道も、見失ったら探せば良いんだから」

まっすぐ義姉さんを見据えて手を差し伸べ、外へと連れ出す。

「一緒に探してあげるよ。姉さん一人じゃ放っておけないもん」



 赤い海、吸血鬼の嗤い声、竜の咆哮、死のにおい。それら全てが少女の身も心も傷つけて、壊れてしまいそうだった。けれどそんな痛みに気付かぬふりをして、今日も雛瑠璃・優歌は戦場に降り立ったつもりだった。
 たとえ幼くなろうとも、猟兵の仕事を完遂するだけと思ってた。けれど、ひみつきちは戦場とは思えぬあたたかさで少女を迎えたものだから。
「姉さん」
「……ひめ?」
 呼び止めたのは、たった一人が使うその呼び名。ふるえる声で次に出たのは拒絶の言葉だった。
「……っ来ちゃだめ!」
 ああ、ごめんね。ひどいお姉ちゃんだ。弟はそれ以上近付くことはなく、優歌の言葉を待っている。そんな気がしたから、ぽつりぽつりと口を開く。
「まだ、まだ帰らないのっ」
 熱くなる目頭、つんと痛くなる鼻の奥。ゆるんでにじんだ狭い視界。
「おかしいの、」
 ちいさくなったらほどけちゃった包帯の下は、もう傷なんてとっくにないのに。
「痛いの」
 抉られたような銃創。お腹を貫いた弾丸の痕。ひりひりと、ずきずきと痛むまぼろし。
「暗くなると怖い声がする」
 骸の上で嗤う化け物、苦しむ誰かの助けを呼ぶ叫び。何度も催してしまう吐き気。
「こんな弱い子、皆困っちゃう」
 堰をきったように溢れだす涙の行方はわからなくて、ただあたしはお母さんを守れない子――お家の、恥。
「う、ぁ、ぐす……だから……ッ」
 本当は甘えたい、でもあたしは強くなくちゃ。だってあたしはお姉ちゃんだから、お母さんの為に立派なスタァに、
「誰が困るの? 誰が強くなれって言ったの?」
「え……」
 ちいさくなった自分のことも、身体をきつく抱きしめてわんわん泣きじゃくる懐かしい姿の姉にも、戸惑いはなかった。
 梅小路・尚姫はただ、長い長い溜息をつく。本当に、ちいさくてもおおきくても、世話の焼ける義姉さんだな。
「他人の気持ちや願いを勝手にきめるな!」
 そうして一喝。
「自分の願いを、夢を否定するな!」
 いいや、もう二喝。
「強くなりたいのも、守りたいのも甘えたいのも、自分の願いだろう。その願いに誰かを絡めて、自分で自分を虐めて、怖がって。それじゃあ、ずっと痛いままで――前に進めないじゃないか」
 尚姫には、家出の原因となった戦いで、姉がどのような地獄を見たのかは詳細になどわからない。そもそも、自分にはもう居ない母への想いとは異なる、姉の本当の母への想いも、お家を守るべき血筋が誰なのかも、姉と自分の夢も、互いに完璧に理解しあえる訳ではないから。
 けれど、彼女はひとりぼっちで痛いまま。こどもにならなければ、こんな泣き言ひとつ言えないままなんて。そんなのは、あんまりにもかなしくって――ひどく、さみしくなってしまう。
 おとうとの言葉に、少女はぽかんと口を開けている。随分と間抜けな顔だな、なんて思いながら、少年はまっすぐにあねの瑠璃雛菊の瞳を見据える。
「帰るよ。夢も道も、見失ったら探せば良いんだから」
 差し伸ばされた手と一重梅の眼差しを交互に見つめて、優歌はそっと手をつなぐ。
「一緒に探してあげるよ。姉さん一人じゃ放っておけないもん」
 一緒、と繰り返すと、尚姫は頷いてひかりの方へと姉を連れてゆく。おさないままの優歌には、怒られていた理由がよくわからなかったけれど。
 その温かい手を、離そうとは思わなかった。


 猟兵達を取り巻く糸の魔法は、しずかに解けてゆく。
 まぼろしに別れを告げ旅立つ彼らに、ひみつきちがさみしそうに言葉を残した。

 ――ばいばい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年05月20日


挿絵イラスト