帝竜戦役⑪〜滅龍演義『猟兵、無限瀑布に女禍を討つ』
「アックス&ウィザーズでの帝竜戦役、順調に戦線を押し上げているな。猟兵の皆の奮戦に感謝している」
集まった猟兵達にまずはねぎらいの言葉を口にすると、仙堂・十来は群竜大陸の地図を広げ、そのほぼ中央部に位置した巨大な滝へと指を向ける。
「そして、帝竜の一体たる『女禍』の所在が明らかになった。かの群竜大陸より地上まで雨として降り注ぐ無限氾濫瀑布を住処としている――金色の金属で構成された体躯を持ちながら、飛翔する『黄金飛翔竜』、それが『女禍』だ」
帝竜の中でも女禍は特に過去と死を『確定しているがゆえに絶対の概念』としてオブリビオンこそが世界の主だと主張し、未来や生命を『世界を汚す不確定要素』として忌み嫌っている。
ゆえにとてつもなく巨大な瀑布でありながら、その水には一切の生命の存在を許さない。
おそらくは帝竜の中でもかなりの好戦性を誇るであろう、全長10kmの金属竜――それが帝竜女禍だ。
「戦場は瀑布上になる。遠距離攻撃や飛行や水中移動の手段が必要になるだろう。その上で女禍の先制攻撃に耐え、あるいは潜り抜け、戦いを挑む必要がある」
もしも女禍を取り逃し、アックス&ウィザーズの大地に降りられるようなことがあれば、生命を憎むかの帝竜が何をするか――無論、通り道に虐殺が起きるだろう。
そこから新たなオブリビオンが生まれることも、女禍にとってはむしろ喜ばしいことでしかない。『過去』の残滓であるオブリビオンこそが、世界にとって正しい存在だと信じているのだから。
「明らかに強敵、激戦になるのは確実だろう。だがアックス&ウィザーズの人々を守るためにも、この戦争に勝利するためにも、必ず制圧しなければならない……どうか、よろしく頼む」
再び猟兵達を見回して深く一礼すると、十来は群竜大陸への転移の準備へと取り掛かった。
炉端侠庵
颯爽とようやく帝竜戦役に参戦。
炉端侠庵です。
今回は戦争シナリオなので1章完結、プレイングボーナス条件は『敵のユーベルコードへの対処法を編み出す』です。
知性ある生命体を全て殺す光にどう対処するのかとか超楽しみにしてます!
もちろん他のユーベルコードへの対処もとても楽しみです!
ちなみに敵の名前は『おんなへん』ではなく『しめすへん』の女『禍』なんですね。
プレイングで間違っていてもリプレイではしれっと修正しますのでご安心ください。
それでは、よろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『帝竜女禍』
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POW : 抗体霊波光線
【宝珠から、知性ある生命体全てを殺す光】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : まことのあるじ
【八尾を備えた、物言わぬ妖狐の女性】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
WIZ : 災厄の嵐
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
イラスト:佐々木なの
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
秋月・信子
・SPD
未来や生命が『世界を汚す不確定要素』…
いいえ、断じて違います
不確定だからこそ…希望という未来があるのです
戦場は水源地と上空
それなら、スーツの反重力装置を作動
これで【空中戦】と【水中機動】に対応させ、水上を【ダッシュ】空中を【ジャンプ】します
帝竜の攻撃は【情報収集】した解析を元に回避し、操る妖狐を銃で牽制します
…姉さん
『はいはい。分かってるわよ、手伝えば良いんでしょ?』
私のオルタ、影の二重身とお互いに【援護射撃】をしあって、帝竜を、妖狐に攻撃を与えていきます
『じゃ、そろそろ決めるわよ。狙いはガラクタの眼よ』
【破魔】と【呪殺弾】
相反する魔弾を同時に撃ち、反作用によるダメージを与えましょう
シン・コーエン
妲己如きに操られる女禍か、主従揃って雑魚ぞろいだな<嘲笑>。
お前らの様な雑魚共が思い上がらぬ様、生きる者達の力を教えてやろう!(と、冷静に怒って参戦)
戦場は瀑布上なので、【空中浮遊・自身への念動力・空中戦】により空を自在に舞って行動。
女禍の攻撃は【第六感と見切り】で予測して回避し、避けきれない場合のみ【灼星剣による武器受けとオーラ防御】で防ぐ。
本当に危ない時は【残像】を作って攻撃受けさせて回避。
UC使用可能になれば、縦10㎝×横10㎝×長さ7.6キロの灼星剣皇を創造。
(フォースセイバーなので重さ無し)
灼星剣皇に【光の属性攻撃】を纏わせ、【衝撃波を伴う鎧無視攻撃&2回攻撃】で斬り下げ斬り上げる!
ナァト・イガル
【連携・アドリブ歓迎】
ああ、やっと『悪いドラゴン』らしいのが出てきたわね。
既に生を終えたものが、未だ生きる世界へ干渉しようだなんて……往生際が悪いにも程があるわ。
終わりという概念を理解できないのかしら?
「巴さん、お願いね」
UCを発動、巨大化した巴さんに【騎乗】して空から向かうわ。
敵の攻撃は【第六感・偵察・見切り】で回避、もしくは聖痕による【盾受け】で凌ぎましょう。
これまたも巨大だけれど、なるべく戦場全体を俯瞰しながら
他の猟兵への援護も視野にいれた立ち回りを心がけたいわね。
【祈り・破魔・範囲攻撃・多重詠唱】を込めた光の矢で
妖狐とともに女禍を狙うわ。外れても目眩ましとして、いくらか役立つはずよ。
轟音が響く。
それは群竜大陸から地上まで続く無限氾濫瀑布が立てる水音であり、『それだけ』であった。
本来ならば瀑布という過酷な環境であれ、水域であれば数多の生物が棲む。けれどこの澄み渡った滝からは、一切の生命の気配が消えていた。
ただ一体。
悠然と瀑布の上に佇む、陽光を弾く巨大な黄金飛翔竜。長さ10kmの金属にて構築されたオブリビオン。未来と生命を忌む帝竜『女禍』。
その鋭い切っ先を無数に並べた頭上に、言葉もなく八の尾を持つ妖狐の女が足を組んで腰掛けている。命ある者全てを厭う女禍がその頭上を許す以上、かの妖狐も真っ当な『生き物』ではないのだろう――。
「妲己如きに操られる女禍か、主従揃って雑魚ぞろいだな」
シン・コーエンが嘲るように鼻を鳴らし笑い捨てる。女禍という名、複数の尾を持つ妖狐、それはUDCアースなど、幾つかの世界に伝わる物語。その中で語られる『女禍』は女神であり、眷属として仕える『妖狐』は妲己という名であった。
まるで帝竜女禍の頭を玉座のように扱うあの妖狐からは、主従が逆転しているようにも見えるけれど――。
「お前らの様な雑魚共が思い上がらぬ様、生きる者達の力を教えてやろう!」
自らサイキックエナジーにて作り上げた深紅に輝く『灼星剣』を手にさっと岸を蹴ったシンは、嘲笑を浮かべながらもその目にはっきりと怒りを宿していた。
ひらりと岸を蹴り、念動による飛行にて瀑布上の空中を滑り抜ける。かっと開いた女禍の口を180度オーバーの方向転換であっさりと避け、さらにその軌道を邪魔するように閃く爪の間を抜ける。それ自体が鋭利な刃物たる鱗を纏った体当たりを抜け、駄目押しとばかりに振るわれた尾の一撃を灼星剣の輝きを増しサイキックエナジーを一つ所に集めて弾く。
怒りはある。けれどそれはあくまで冷静に、彼の戦闘勘を研ぎ澄ませていた。
確かに八尾の妖狐という操縦者を得て、女禍の動きのキレは増している。それでも、長さ10kmというとてつもない巨体だ。
身長180cmそこそこのシンが念動力による完璧な機動性で動けば、サイズ差の分だけかえって女禍が狙いを定めるのが難しくなる。
「巴さん、お願いね」
そしてひらりと体長3m、翼長にして6mほどの白きカラス『巴さん』に騎乗したナァト・イガルも、ひらりと軽やかに女禍の顎から逃れていた。ユーベルコード『聖者の騎行』にて通常のカラスと同じサイズからナァトを乗せることが可能な丈となっても、滑空と飛行を自在に切り替えて飛び回る巴さんは軽やかに女禍の大振りな攻撃の間を抜けていく。
「やっと『悪いドラゴン』らしいのが出てきたわね。既に生を終えたものが、まだ生きる世界へ干渉しようだなんて……往生際が悪いにも程があるわ」
漆黒の肌と髪は人間とは異なるタールの質感に艶めき、その身を覆うのはとりどりの色にて作られた衣装。ナァルは身体の形を自由に変えられる種族『ブラックタール』ではあるが、素敵な布や衣装に惹かれてほとんどの時間を人型に、様々な衣装を纏って過ごしている、吟遊詩人であり生まれながらの聖者でもある存在だ。
生を謳歌し命を楽しみ、同じように生命を歌で慰め癒す者。そんなナァルにとって、帝竜女禍の思考とは相容れぬものでしかない。
「終わりという概念を理解できないのかしら」
奏でる曲とていつかは終わる。
美しい布とていつかは破れる。
そして己の命とて、無限というわけではない。けれど、ゆえにこそ――、
「未来や生命が『世界を汚す不確定要素……』いいえ、断じて違います」
フィルムスーツ『アサルトバニー』に備え付けられた反重力装置を起動、斥力を展開し、瀑布の流れの上を駆け抜けながら秋月・信子は確信を持ってそう口を開く。
――元は女子高に通うごく普通の文学少女だった信子がガンスリンガーとしての天賦を目覚めさせ、今では猟兵としてかつての自分のような無辜の人々を助ける側になっている。そこに至るまでの苦労もあれば、今でも元いた世界への望郷に駆られることもある。けれど。
「不確定だからこそ……希望という未来があるのです」
足を止めぬままその巨体とすれ違いがてら、頭上へと陣取る妖狐に銃口を向ける。空中へと階段を踏むかのように駆け昇って爪の一撃を回避し、マグナムリボルバー『スイーパー』の引き金を引く。元から十分な威力と射程を持つ大型拳銃を、信子の能力である『魔弾』で補強すれば、女禍よりは遥かに小さき目標たる頭上の妖狐にすら容易に狙いを定め、さっと女禍の肉体を操って回避するも金属の鱗に食い込み傷を穿つ。ばたつかせた尾が逆側にいたナァトに当たる前に、光の魔法陣が彼女の聖痕から盾となるべく現れた。
「巴さん、右へ……!」
金色の尾の先端と、並行にすれ違うようにと呼びかければ白き翼はナァトの想定通りに羽ばたき、風を捕まえて進行方向を変えた。魔法陣の盾で受ける、というよりは力を流し、そのまま巴さんには高度を上げるようにと伝えた。頭部とのすれ違いに合わせ、歌うように囁いた祈りと共に光の弓を引き輝く矢を続けざまに放つ。矢の雨となった光は当たらずとも目眩ましとなる――そして女禍の肉体の大きさならば、大多数は当たる。
破魔の祈りを、存分に籠めた神聖な光の矢が。
「小癪……不完全なる存在のくせに、小癪な……!」
その目が、戦場全体を見られるようさらに上昇するナァトをきっと見据えた。光に眩まされてはいても、今は妲己の補助もある。けれど。
「……姉さん」
『はいはい。分かってるわよ、手伝えば良いんでしょ?』
確かに1人で駆けていたはずの信子に、次の瞬間『影』より現れた、彼女と瓜二つの姿が重なり合うように駆けていた。互いの距離をある程度は変えつつ、信子がメインの攻撃に回れば『姉さん』と呼んだ――オルタたる影の二重身が援護射撃にて補助をする。逆に信子の攻撃が回避されれば、その避けた先には姉の銃弾が待っている。
女禍の巨体からしてみれば、猟兵達など人から見たら羽虫くらいの大きさに過ぎないだろう。
けれど――時に人間すら殺す毒や病を持ち、それでいて捕まえようとしても容易に手の中から逃げていく。それが人にとっての羽虫であるならば、女禍にとっては猟兵だ。
『じゃ、そろそろ決めるわよ。狙いは――』
信子の銃口に純白に輝く光が宿る。
影の二重身たる姉の銃口に漆黒を孕む闇が宿る。
片や破魔。
片や呪殺。
狙うは同じ、
『ガラクタの眼よ』
銃声。
もはや1発にしか聞こえぬまでに重なった銃声、全く同じ箇所を狙う銃弾は、正反対の性質を宿したまま女禍の巨大な瞳へと着弾。
次の瞬間、明らかに弾丸の威力に見合わぬ音を立てて爆ぜた。
「アアアアアアア――!!」
金属を擦り立てるかのような悲鳴が響く。破魔の魔弾と呪殺の魔弾が反発し打ち消し合おうとするエネルギーの余波は、単なる銃撃を遥かに超える破壊力を生んだ。
妲己の操作をもってして数瞬、女禍の動きが止まるほど。
――その数瞬で良かった。
「我が剣よ、無限の想念の元、全てを超越せし剣皇として顕現せよ!」
それまで女禍の攻撃を回避しつつ機を狙っていたシンの手の中で、深紅の輝きが遥か空を切って伸びていく。『灼星剣皇』となったサイキックエナジーの刀身は女禍の全長の半ばを超え、およそ4分の3まで伸びて止まった。さらにその輝きを増す『灼星剣皇』を、シンは思い切り斜め上から振り下ろした。
「喰らえッ!」
サイキックエナジーの刀身はその金属の身体を安々と斬り裂き、体内にまで衝撃波を叩き込む。10kmの長身を7km半の刃が斬り裂き――さらに手首を返して斬り上げる!
重さや鋭さではなく、『力場』の剣だからこそできる大技に、黄金の口が悲鳴を上げる。
「許さぬ――許さぬ許さぬ許さぬ、所詮は世界を汚すだけの生命ごときが――!」
瀑布に叩きつけられた尾から飛沫と言うには激しすぎる水の奔流が跳ねる。その速さに離脱の遅れた信子の前に、急降下したナァトが魔法陣を盾にして割り込んだ。
「ありがとうございます!」
「感謝するわ」
重なり合う同じ音色の2つの声に、ナァトは青色の片目をつぶって応えてみせた。
徐々に傷つきつつある女禍は、むしろ怒りによって敵意を燃え立たせているかのように見える。
だがその頭上からは、八尾の妖狐の姿は消えていた――。
大成功
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鎧坂・灯理
移動は念動力による高速飛行
先制攻撃には『炎駒』を開き、内側に隠れることでガード
光さえ当たらなければいい その光は生命体だけを殺す
理論的には傘で防げるはずだ
とはいえ命の危機に瀕したので私はとてもストレスを感じた
これを切り離す
強力で巨大な怪馬として空中を駆けろ 奴の顔を蹴り飛ばせ
その隙に『朱雀』を戦車砲に変化させ、念動力で支えて射撃
高速徹甲弾の連射で奴に穴を開けてやる
他者に易々と洗脳される程度の知性でよくもまあ
厚顔無恥にも程があるというものだ 生きていて恥ずかしくないのか
その程度の自我で竜を名乗るな ブチ殺してやる
セゲル・スヴェアボルグ
可能なら、あの宝玉のコントロールを奪いたいところだな。
そうなると、接近は必須なわけだが……
全身を鎧で覆って、盾を構えて突っ込めば何とかなるか?
接近自体は普通に飛べばいいだけの話だしな。
体に直接光が当たらなければ、致命傷ということにはならんだろう。
なので、まずは即座に装備を一斉具現化だ。
ついでに奴自身の支配権も奪えたらいいが、流石にデカすぎるか。
体の一部か、行動を制限できれば僥倖だな。
何回か重ね掛けして鎖を増やせば、どこかしらはいけるだろう。
奴自身一部がを使えれば、ダメージは折り紙付きだ。
その間、俺は守りに徹していればいいしな。
ついでに庇えるやつもいれば庇いに行くか。
鞍馬・景正
知性体を殺す光、と。
問答無用の鬼札が如き能力ですが、怯んで諦めてはそれこそ敵の思う壺。
掻い潜る目を探しましょう。
◆対策
戦場に降り立ったら――流れに乗った【水中機動】により全速力で泳いでいきます。
出来れば女禍の反対方向へ! 一目散に!
目指すは宝珠の光の射程外。
間に合わなければ水中に潜って光を散らしつつ、剣気による【オーラ防御】で軽減。
仮に貫通しても、今の私に知性要素など皆無ですから効き目も薄いでしょう。多分。
◆攻撃
どれだけ無様でも反撃の隙さえ稼げれば良し。
好機と見れば振り返り、【怪力】で弓弦を絞り【紅葉賀】を射放ちましょう。
常に変幻して燃え盛る焔こそ、不確定にして命ある者からの馳走と思われよ。
「その光は生命体だけを殺す、ならば光さえ当たらなければいい」
しかし全方位への閃光を、いかにして防ぐのか。
鎧坂・灯理はニィと笑い、可変武傘『炎駒』を広げてみせた。
閉じて杖、開けば盾、撃てば銃、抜けば刀……暗器といか仕込み傘というか、いやむしろ立派に武器である。
が、今回は真っ当に傘として役立った。
「理論的には傘で防げるはずだ」
そうだね!!
この光、無生物を貫通するとかそういう要素は確かに聞いていない。理論上防げるはずである。
なお防げた。
「体に直接光が当たらなければ、致命傷ということにはならんだろう」
同じ発想に至ったセゲル・スヴェアボルグは、堅牢なる全身鎧に本来は片手で振るうことも出来ぬような大盾、それにメインウェポンたる錨斧『イースヴィーグ』まで、プログラム化してあった装備を一斉に具現化した。サイバーテクノロジは彼曰く『後学のために駅前で習った程度』とのことだが、この装備のプログラム化と具現化は戦いに便利なので大変気に入り重宝している。
生命体を殺す光を大盾で完全回避しつつ、装備の重さを感じさせぬ挙動で飛翔し接近を試みるセゲル。
――さて。その頃もう1人、この光へと挑む者がいた。
水中に。
(知性体を殺す光、と。問答無用の鬼札が如き能力ですが、怯んで諦めてはそれこそ敵の思う壺。掻い潜る目は――)
というわけで女禍の反対方向に向けて、景正は全速力で泳いでいた。
ちなみに泳法は武家の嗜みである。着衣だろうと、何なら鎧を着ていようといざとなれば飛び込み、泳ぎ、潜水とて問題はない。サムライエンパイアは水資源豊かな世界であり、つまりは泳がなきゃいけない機会が多いのだ。
景正とて例外ではない。むしろもはや水泳というよりは水中機動と形容すべきレベルと言えよう。さらに光の範囲から逃れ切れないと思った瞬間、一切の躊躇なく景正は体に力を籠めて完全に潜水した。
念のため剣気を纏って防御もしてはいるが、その光は水面で弾かれ景正までは通っていなかった。
直接光の届かぬ場所までは泳ぎきれなかったが、一定以上の角度で光が水面を叩いても全て反射し水中までは及ばない。
(仮に貫通しても、今の私に知性要素など皆無ですから効き目も薄いでしょう。多分)
いやそれはどうだろう。
知性ってどっちかっていうと変動しないステータスだと思うんだよなぁ。確かに普段からバトルジャンキーだけど皆無ってことはないと思うんだよなぁ。
ちなみに理性要素がないかって言われると、今の景正にはちょっとあまりないかもしれない。
というわけで傘、防具、水面をそれぞれ遮蔽として殺戮の光を防ぎきった猟兵達。
「とはいえ命の危機に瀕したので私はとてもストレスを感じた」
無論それはそうだが、普段から戦場というストレスに身を晒すことの多い灯理がわざわざそれを言うには理由がある。
「溜め込むのは良くないからな、このストレスを切り離す」
ユーベルコード『抑圧の怪馬』、それは己の感じたストレスを分離し、八本の脚を持つ怪物馬へと変化させる心術である。
この怪物に理性はなく、速く動く物を無差別攻撃し続けるという厄介な特性はあるが――この場合、最も速く目立って怪物馬の標的となるだろう存在は、どう考えても女禍だ。
おそらく怪馬の進路でも塞がない限りは猟兵達に目移りすることもあるまい。
「空中を駆けろ、奴の顔を蹴り飛ばせ」
その命令は通じずとも、その通りに怪馬は空を凄まじい勢いで駆け抜けた。まさに高速で飛翔する女禍の頭部へと向かって。
その間にも灯理は今度は変形銃器たる『朱雀』を戦車砲へと変えて狙いを付けた。
本来はもちろん生身の人間が持つような武器ではないが、怪力にプラスして念動力を銃架代わりにして補強。戦車の装甲すらぶち抜く高速徹甲弾は人型の敵であれば明らかにオーバースペックだが、総金属製と思しき帝竜女禍を穿つには火力はあって損ということはないだろう。
「ええい、忌々しい! 生命の感情などという不確定極まりないものが!」
超耐久力と超攻撃力を誇る怪馬に容赦なく蹴られ噛みつかれ、苛立った声を女禍が上げる。その間にも数秒ごとに銃声――というよりは轟音が響き、戦車砲から発される徹甲弾が金色の鱗を穿っていく。
ちなみにストレスを切り離して解き放った灯理自身は、非常に気分爽快とばかりの顔でどんどん装填と発射を繰り返していた。
「できれば奴自身の支配権も奪えたらいいが……流石にデカすぎるか」
金色の瞳が大盾の向こうからぎらりと輝く。薄く切り裂いた腕の内側から鮮血が迸り、真紅色の爆発が起きる。
『承従タル対者』――威風に溢れ軽々と輝くセゲルの眼光と鮮血にて、それに当てられた者を服従させる不可視の『鎖』で繋ぐユーベルコード。本来であればまともに命中すれば敵そのものを服従させることが可能であるが、女禍の巨体に対しては一部の支配権を奪う、という形でそれが発揮された。
それでも鎖一本分、数mの部位がまともに動かないだけであれば、10kmという巨体はそれをあっさりと無視出来ただろう。
だからこそ、気付かなかったのだ。
その支配を無視し続けていた女禍が気づいた頃にはもはや尾部の端から400mほどの支配権を奪われ、その尾を用いて自らを攻撃させられている。その間にもセゲルは大盾にて女禍の攻撃を防ぎつつ、時には射撃直後で反動を抑えるのに手一杯の灯理に向かおうとした一撃を庇いつつ、隙あらば眼光と鮮血にて服従する部位を増やし続ける。
「小賢しいことを、生命如きが……!」
「他者に易々と支配される程度の知性でよくもまあ、厚顔無恥にも程があるというものだ。生きていて恥ずかしくないのか」
「生きてはおらん! 我はオブリビオンだ! 帝竜女禍であるぞ!」
灯理の嘲笑に過剰に反応したのとて、余裕のなさだと気付いているのだろうか――。
「その程度の自我で竜を名乗るな、ブチ殺してやる」
また徹甲弾を装填、発射。射程も威力も十分な上に、灯理から見れば女禍はもはや「引き金を引けば当たる」レベルの巨大な的でしかない。
――そして。
彼女が気にも留めなかった場所から、それは届いた。
「……焼き滅ぼさむ、天の火もがも」
目一杯引き絞った弓弦を放す。五人張りの剛弓は、虎落笛(もがりぶえ)の銘の通り真冬の風が吹き抜けるかのような鋭い弦打音を立てた。
紅葉賀。ただ一矢の火矢である。
けれどただ一矢のために無様であろうと逃げ泳ぎ、反撃の隙を待ち、五人がかりでようやく弦を張ることができる弓を羅刹の豪腕にて引き絞り、燃え盛る焔を乗せて放つ。
その一矢は猟兵への恨みに叫ぶ女禍の口腔へと吸い込まれ、轟と音を立てて燃え上がった。
「常に変幻して燃え盛る焔こそ、不確定にして命ある者からの馳走と思われよ」
――知性体の歴史、文明の始まりに、多くの世界では『火』の存在があったと言われている。
知性体を殺す光に対する、それはまさに景正の返答であり。
憎しみに満ちた女禍の視線はいつしか単なる『汚れ』を見る目から、明らかに『脅威』への警戒へと変わっていた――。
大成功
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村崎・ゆかり
見渡す限り渺々とした絶景だけど、これは生命がいないからこその光景なのね。
今まで戦ってきたオブリビオンの中にも、オブリビオンこそが正しいなんて相手はいなかったわ。女禍は、間違いなく狂ってる……。
飛鉢法で戦場に突入。
「空中戦」で体勢を維持し、「全力魔法」の「オーラ防御」で災厄の嵐を耐えきりましょう。
嵐の切れ間に入ったら、女禍に炎の「属性攻撃」「範囲攻撃」「破魔」で一発ガツンとね。
全長十キロ。ガルシェンほどじゃないけど、馬鹿でかい。潰すならやっぱり頭よね。
「全力魔法」「破魔」の七星七縛符を女禍の頭部に仕掛けて、ユーベルコードを封じられたら急接近。薙刀でその目を「串刺し」にしてその奥の機構も破壊する。
響・夜姫
帝竜戦役(どらごんたべほうだい)。
「……美味しくなさそう」
先制の一発は、受ける。
何故なら、自動発動で治療するユーベルコードがあるので。
その上で、女禍の頭の上に射出。頭に乗るイメージ。
あとは、【零距離射撃】。
装備中の二丁拳銃とサバーニャの全砲門で【一斉発射/2回攻撃/鎧無視攻撃/鎧砕き/部位破壊/傷口をえぐる】といった物理破壊系の技能を使ってふぁいやー。
敵の光による攻撃は、
「女禍。美味しくなさそうだけど。知性ある生命体を殺す光に……自分は耐えられる?」
角や鱗の影に隠れた上でサバーニャを盾の様に連結し【武器受け/オーラ防御】ついでに【生命力吸収】。
……美味しくなかった。なんとなくそんな感じ。
ハルア・ガーラント
相馬(f23529)と
過去も死も見方によって一瞬で形と意味を変えます。絶対なんて、ない!
【WIZ】
やってやります!
飛翔し強い意志で[覚悟し限界突破、祈る]ように手を組み集中。巨大な水塊を瀑布から[念動力]で切り取り持ち上げます。水塊に[オーラを行き渡らせた防御]効果を付与し[銀曜銃]へ要請。
この輝きをあなたの光で吸い取って。
[咎人の鎖]で銃を持ち魔弾を発射、闇色の水塊に。相馬と自らを守るように設置し自然災害と光を遮ります。
その後UC発動、水の抵抗や呼吸の悪影響を無効化。敵の攻撃は[第六感]で予感し飛翔して回避。攻撃はせず、味方を[かばったり運搬]して援護や囮役に徹します。
う、力の使い過ぎかな。
鬼桐・相馬
ハルア(f23517)と
そうだな、生死不明の対象を探し続けるより、いっそ――
【POW】
[ヘキサドラゴン]に[騎乗し空中浮遊]し思う横でハルアの声に我に返る。
水塊に[オーラを送り込み防御]の助けとしよう。[冥府の槍]にも炎を強く纏わせ[武器受け]の構え、透過した攻撃の威力減衰を。
その後黒竜と共に接敵。UC発動[ヘヴィクロスボウ]で敵の目を狙い[ジャバウォックの鉤爪]を射出、楔を埋め込むと同時に敵頭部へ移動。[傷口を抉る]ように攻撃、楔を体内に張り巡らせたら爆破。敵の攻撃はその身体の継ぎ目へ身を隠す。
外骨殻、それは骨代わりである事が多い。内部は柔らかいんじゃないか。
※他の猟兵との連携・アドリブ歓迎
怨恨を存分に乗せた咆哮が、流れる水面にすら抗う波を作るほどに響き渡る。
見渡す限り渺々とした絶景だけど、これは生命がいないからこその光景――そう見れば、ただ無機質に水が流れ、落ちるその景色は村崎・ゆかりにむしろ不気味な、寒々とした印象を与えた。
そしてその不気味さを放つのは、この瀑布の主も同じ。そう、ゆかりには感じられる。
「今まで戦ってきたオブリビオンの中にも、オブリビオンこそがこれほど正しいなんて言う相手はいなかったわ。女禍は、間違いなく狂ってる……」
自分が正しい、ならば存在した。自分達の組織や主君が正しい、もいた。とりあえず強ければ正しいみたいな割と雑な奴も存在した。
けれど、ここまで生命そのものを否定し、死、過去、そしてその結晶たるオブリビオンを全肯定するという存在は、全く異質な狂信を感じさせる。
その生命へ、未来への憎しみに満ちた巨躯全体を視界に収める位置で、ヘキサドラゴンへと騎乗した鬼桐・相馬はその在り方に思いを馳せ――その思考を、己の内へと向けていく。
「そうだな、生死不明の対象を探し続けるより、いっそ――」
どこか精神の奥深く暗い場所まですぅっと下がっていきそうな思案に、けれど普段から共に戦う相棒の、普段よりずっと強い声ではっと現実に引き戻された。
「過去も死も、見方によって一瞬で形と意味を変えます」
ハルア・ガーランドが隣で、やはり女禍の巨体を見詰めて呟く。水の流れ落ちる音に紛れようやく聞こえるほどの声ではあるが、けれど。
常よりもずっと強く聞こえる。指が手の甲に食い込むほどに力を籠め手を組んだ、純白の翼と柔らかに輝く花を持つ少女の声が。
「絶対なんて――ない!」
そうだ。
相馬もハルアも、決して明るい幼少期を送ってきたわけではない。それでも。
過去の経験を経て、越えて、そして今の自分があるのは間違いない。過去と未来は、どちらも生命の軌跡だ。無論それは、死に至るまで続き――そして、今の己の在り方によって、同じ過去であってもおそらくは全く異なる意味を持つはずなのだ。
相馬の金色の瞳から、すっと迷いが消えた。掴んだ冥府の槍からゆらりと蒼黒き悪意の炎が常よりもさらに強く燃え上がる。それと同時に思考が明晰になっていくのを相馬は感じていた。
冥府の槍は持ち主の、そして標的の悪意を喰らう。悪意によって冷静な判断力が曇っていると思えばその分を槍に流し、逆に攻撃力へ偏らせたいと思えばその分精神へと悪意の比率を傾ける。今は――槍へと流す時だ。
そして冷静になった頭でふと考える。ハルアにこうして流れかけた思考を引き戻されるのは、珍しいと。
相馬の騎乗するヘキサドラゴン『モモ』の漆黒と対になるような純白の翼で羽ばたきながら、ハルアはじっと瀑布の流れへと目を落とす。祈りへと意志を集中させるかのように、一定の静かな呼吸を繰り返す。
ふと、地上からの呟きが耳に入った。棒読み気味ながらも、ある意味やたらと本心とか実感の籠もった声。
君臨する全長10kmの金属製巨躯を、見上げながら。
「帝竜戦役(どらごんたべほうだい)。……美味しくなさそう」
響・夜姫の表情の薄い唇が、ぼそりと言った言葉に思わずハルアはふっと微笑んだ。
力の入りすぎていた肩から余分な緊張が抜ける。心の中で、覚悟を決める最後のピースがかちりと音を立てて嵌ったように感じられた。
ちらりと隣の相馬と目を合わせる。相馬とモモ、二対の瞳がハルアの新緑の瞳と見つめ合い、頷く。
「やってやります!」
再び集中し、瀑布から巨大な水塊を『切り離す』。ゆっくりと水の塊を浮上させながら、己の魔力を行き渡らせて守りの力を付与し、相馬が送り込んだ防御のオーラと魔力の波動を合わせ守りの力を高めていく。その間に咎人の鎖を手の代わりに操って銀曜銃の照準を合わせる。
「この輝きを、あなたの光で吸い取って……」
白色に金の装飾を施した美しい銃には、光の精霊が住み着いている。ハルアの願いに応え、銀の銃身が一際輝き――鎖の先が引き金を引いた。
光の魔弾が水塊を貫き――魔弾が一際輝く中、逆に水は徐々に闇の色へと変わっていく。
水のあるべき『光を通す』性質を、魔弾が奪い取ったのだ。光の力を奪った魔弾が輝きながら排出され、そこには『光を奪う』水の巨大な塊が残る。
ハルア自身と相馬、ヘキサドラゴン――そして猟兵達の、まずは女禍に向かう前方へと展開。生命体を殺す光、竜巻と化して向かってくる水流、その両方を受け止める。
そして、一気に水塊全体で仲間達を包み込みながら。
「天獄の祝福、この地に降らせましょう」
ユーベルコード『ヘブンリーブレス』、純白の無数の羽が舞う。空中に、そして漆黒の水中へも吸い込まれるように――。
通常の空気中にいるかのように、呼吸と挙動、そして視界が確保される。敵からは変わらず遮蔽となり、味方は地形から影響を受けることのない祝福の地を作り上げる。
「ノウマク サマンタ ブッダナーム バーヤベ スヴァーハー……風天よ! 天吹き渡る其の風の効験を、ひととき我に貸し与え給え!」
そして一度漆黒の水塊を殺戮の光からの遮蔽として借りたゆかりは、すぐさま空を飛ぶ鉄の大鉢を呼び出し飛び乗っていた。戦巫女の盛装は守護や破魔の霊力を華麗な装飾に宿し、それでいて動きやすい。瀑布から作り出した氷塊――女禍としては小粒なのだろう、けれど人の頭ほどもあるそれが激しい雹の如く降り注ぐ中、ぱっとゆかりは数枚の符を飛ばした。十二天が一尊、風天の力を借りるは戦装束と飛鉢ばかりではなく、白紙のトランプを模した符『白一色』も、そして薙刀『紫揚羽』もだ。風の呪力を纏った符でオーラの盾を作り、それをゆかり自身の呪力を全力で解放して支える。氷塊を跳ね除け、流し、その勢いのまま近づいていく。
「全長10km。ガルシェンほどじゃないけど、馬鹿でかい」
呟きつつ、氷塊の連撃が過ぎ去ったのを確かめてその間に再び符を解き放つ。炎の咒を宿した符が風の呪力に煽られて常より強く燃え上がった。そのまま風でコントロールして破魔の炎となった符を飛ばし、轟音立てて燃え上がらせる。巨体の一部に過ぎずとも、オブリビオンたる存在、そして熱伝導の良い金属の肉体には十分な効果だ。
そして。
「私は、だいたいふめつー」
抑揚がないゆえに、かえって気の抜けた声が聞こえる。
女禍の頭上から。
「馬鹿な、貴様はあの光をまともに受けたはず……!」
そう、夜姫はあえて闇色の水の守りを断って、真正面から殺戮の光を受けたのだ。
そして戦闘不能まで追い込まれ――ユーベルコード『不死鳥は炎の中で何度でも蘇る』が発動した。
戦闘不能時の自動発動。
負傷全てを一瞬で回復した上に自身を強化し、さらに任意の場所に射出可能。
なお回復と射出のために夜姫を収容するのは炎色の土管である。
「てれってー」
なんとなく特定の画面とか音声とかポーズを想像してしまうかもしれないが、それは皆さんの頭の中で脳内再生してほしい。
大事なのは。
任意の場所ってことは女禍の頭上にどかっと乗っかることもできちゃうってことなのである。
「ところで女禍。美味しくなさそうだけど。知性ある生命体を殺す光に……自分は耐えられる?」
しれっと角の上に隠れて機動浮遊砲盾『サバーニャ』を盾形態で接続しつつ、夜姫がぼそっと煽る。
「当たり前だろう、オブリビオンは生命体とは違う!」
ちょっとだけ、夜姫はちぇ、という顔をした。
夜姫を狙ったついでに女禍が自分でダメージ受けたら面白いのに、とか明らかに思ってる顔だった。
仕方ないので盾形態のままサバーニャを宝珠に向けて、影に隠れて抗体霊波光線をやり過ごす。女禍までだいぶ近づいていたゆかりも隠れられるように、盾の展開は大きめにしておいた。
すっ、とゆかりが宝珠の輝きとタイミングを合わせてサバーニャの影に入り込む。「助かったわ」と言い残すと、そのタイミングでゆかりはぱっと七枚の符を解き放った。
北斗七星の七つ星と、一致する形――魔を破りその力を封じる『七星七縛符』。
「おのれ……おのれ、こうも我を愚弄するか、『猟兵』……ッ!」
ユーベルコードを封じられた女禍がその身をくねらせ振るった爪を、ゆかりはあっっさりと飛鉢を停止状態から最大速度にしてかわし、夜姫はそのままサバーニャで受け止めた。
「……美味しくなかった」
一応、生命力を吸収してみた感想とばかりに夜姫は(普段より比較的)つまらなさそうに呟く。
そもそも生命力の味がしない。味気ない。例えて言うならダンボールの味がするお粥とかそういう。
期待はそもそもしていなかった。
でも。
期待以上に単に『美味しくなかった』ので、夜姫はちょっと切ない溜息をついたのであった。
闇色の水塊が、動く。
猟兵達からは空を飛んで行くハルアとヘキサドラゴン『モモ』に乗った相馬が見えたが、女禍にとっては動く漆黒の水である。
ところで『モモ』というヘキサドラゴンの名は、羅刹たる相馬の愛竜だから鬼といえば桃太郎、ついでにこの子の好物でもあるし、という割と単純な名付けであったが。
実は桃の木、桃の実は魔除けの力が強い。
なので守りに特化した水の防壁とは、ある意味さらなる好相性だった。元々水圧の影響は受けないが、いっそ空気を飛ぶより快適なほどの勢いでモモはその速度を増す。
狙うは右目。ちょうどゆかりが、左目へと急接近をかけたところだった。
「疾っ!」
飛鉢の加速を付けた薙刀を腰溜めに構えたゆかりが、その姿勢を崩さぬまま左目へ。
接敵しつつヘヴィクロスボウを構えた相馬が冥府の炎をフックワイヤー『ジャバウォックの鉤爪』へと延焼させ、片手と肩で保持し支えるとそのまま引き金を引く。本来ならば射撃にも両手を要するサイズのクロスボウだが、相馬の怪力と適切な保持姿勢ならば片手での発射も可能だ。
「その身の内から冥府を知れ」
そしてゆかりの突きと同時に、右目へと突き刺さる矢じり――そして纏わせた、冥府の炎による楔。
「ガッ、ァ、ァアアアアアア!!」
もはや言葉ともならない金属音のような絶叫。ゆかりは目の奥まで貫いた薙刀をさらに抉るように回し突き込み、相馬はユーベルコード『炮烙棘』によって撃ち込んだ楔を無数に分岐させ女禍の体内を引き裂きながら、自分はモモと共に頭上へと回る。
そこでは夜姫がサバーニャを砲架斉射形態へと切り替えつつ、聖魔の拳銃を両手に構えて零距離で女禍の頭頂部に突きつけていた。
「ふぁいやー」
気の抜けたような合図と共に、けれど容赦のない轟音が女禍の頭頂に無数の穴を穿つ。2丁拳銃はもう当てっぱなしでずっと撃っているが、サバーニャからの砲撃は流石に若干ずつ逸れる。ので、端からがんがん相馬が冥府の槍を使って抉っておいた。
がっ、と音を立てて目とその奥の機構を破壊し続けていたゆかりの息が明らかに上がっていく。七星七縛符の維持は、術者の生命力を削る。――そしてそれは、巨大な水をそのまま防壁として維持しつつ、ユーベルコードを封じられてもなお暴れようとする女禍から動き回って仲間達を庇っているハルアも同じだ。寿命までは行かずとも、もはや気を失いそうなほどの魔力を維持し続けている。
そこまで力を尽くした破魔と封印が、破られる前に。
撃ち込んだ楔が、10kmの全身に行き渡るのを相馬は感じ――蒼黒き炎を、燃え上がらせた。
全身の全ての黒楔で。
一斉に。
死こそが正しいと言う帝竜に、冥府の炎の爆発を。
炮烙――さる物語によれば、それは『女禍の配下である妖狐』が編み出した処刑法であると語られている。
その名を冠したユーベルコードが帝竜女禍を葬るとは、一種の皮肉でもあった。
爆ぜる女禍から飛び降りた夜姫を、タイミングを合わせてゆかりが飛鉢で受け止め地上へと送り届ける。闇色に染まっていた水の壁が、次の瞬間単なる水へと戻って瀑布へと戻り落ちた。
「う、力の使い過ぎ……かな」
なんとかその場に羽ばたいて残っていたハルアが、ふっと力を失って水面へ向かって半ば自然落下していく――その下にモモが羽ばたき入り込むと、相馬がその体を受け止めた。
新緑と金色の瞳が一瞬見つめ合い、安心したようにふっと新緑の目に瞼が落ち、ハルアの体から力が抜ける。心配したように振り向こうとするモモに、大丈夫だ、と相馬が声を掛けた。魔力は相当消耗しているが――そう。
無事に、帝竜女禍を倒したのだ。その力の一端を削ぎ落とし、帝竜が一の最期へと繋げた。
瀑布の上に今、一時ながらも静寂が――そして1つの勝利が訪れた。
大成功
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