帝竜戦役⑨〜終焉に抗う勇士達へ
●望まぬ再誕
毒の霧蔓延る沼沢地。
生々流転沼と呼ばれるその地に、それは居た。
『わたしは、待っています』
彼のものの名は、ガルシェン。
原初の獣。創世の巨獣。
そう、呼ばれていた。
『わたしに、『再孵化』以前の記憶はありません。
わたしは本当に、かつて界を渡るものだったのでしょうか。
そして本当に、このように逞しく、美しい姿をしていたのでしょうか』
はじまりのけものは己に問う。
答えは出ない。
答える者もない。
けれど、それでも分かることがひとつだけあった。
『誰かがわたしを殺してくれなければ、わたしは世界を殺してしまう』
存在してはならないもの。
破壊の力に充ちたもの。
何れ世界を殺すもの。
それが今の己だ。
『わたしは、待っています。
わたしを殺してくれる勇士の訪れを』
強大な力を内に抱いたけものは、滅びを願う。
意思だけでは抑えきれぬそれが世界を殺す前に、誰かが己を屠ってくれることを。
望まぬ再誕を遂げた己の終焉を。
いつまでも、いつまでも。
●原初の獣
「グリモアベースへようこそ。――本日は、手短に本題を述べさせていただきます」
グリモア猟兵、オブリビオーネ・オブザーバトリィ(忘れられた観測所・f24606)は集った猟兵達へと一礼すると、周囲の情景をとある沼沢地のものに変化させ、告げる。
「本日の新着情報は戦争に関わるもの――アックス&ウィザーズのものになります」
帝竜戦役――アックス&ウィザーズの命運を賭け、群竜大陸を舞台に繰り広げられる大戦争。
立ち塞がるはオブリビオン・フォーミュラ『帝竜ヴァルギリオス』率いる配下達。
ヴァルギリオスに『再孵化』され、その眷属と化した『帝竜』である。
「これより向かっていただく先は、生々流転沼と呼ばれる沼沢地です」
毒ガスが蔓延する広大な沼沢地。其処に『創世巨獣』の異名を持つ帝竜『ガルシェン』が居るのだと、電子の娘は語る。
絶大な生命力。何十kmにも及ぶ巨大な体躯。その体内では、ありとあらゆる生命の進化と絶滅が絶えず繰り返されているのだと言われている。
「相手は巨大にして強大。幾人もの犠牲を払って、漸く届くか届かないか。……厳しい戦いになるでしょう」
あまりの巨躯、加えて強力な数々のちからを持つ故に、初撃を躱すことも、ガルシェンより先に行動することも不可能だろう。
如何にして攻撃を凌ぎ、反撃に出るか。その対策なしでは、戦場に立ち続けることすら難しい。
予測される攻撃は3つ。
更なる巨大化からの強力な一撃。
体内に生息している、毒を持った巨大生物の召喚。
そして、飲み込んだもの諸共自爆する習性を持つ、飛翔能力持ちのスライムの召喚だ。
「それと……これは、不確かな情報なのですが。……このガルシェンですが、どうやら……自らの滅びを望んでいるようでして、」
詳細や真意は分かりかねますが、と付け足して、オブリビオーネはそれ以上の言葉を濁した。
「では、準備の出来た方からお送りします。……どうか、ご武運を」
オブリビオーネのグリモアが輝きを増していく。
生と死が巡る地への道が、開かれる。
鱈梅
こんにちは、鱈梅です。
創世巨獣って言われたら、もう、はい。
精一杯努めさせていただきますので、どうぞ宜しくお願い致します。
●このシナリオについて
こちらは『アックス&ウィザーズ』の『戦争シナリオ』になります。
1章完結の特殊なシナリオとなっております。
●戦闘について
帝竜ガルシェンは、通常の敵よりも強大です。難易度相応の判定を致します。
必ず先制攻撃してくるため、いかに防御して反撃するか等、作戦が重要になります。
初撃を躱すことは出来ず、事前にユーベルコードを使用する等の準備も不可能です。
対策なしでは厳しい戦いになります。ご注意下さい。
●プレイングボーナスについて
『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす。』
これに基づく行動をすることで、戦況が有利になります。
キャパ等に限りがある&遅筆のため、先着順ではなく、フィーリングがバシッとあった方優先での最小人数採用になるかと思います。
可能な期間内であれば、再送はいつでも歓迎しております。
それでは皆様のプレイング、お待ちしております。
第1章 ボス戦
『帝竜ガルシェン』
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POW : 創世巨獣ガルシェン
【獣の因子】を使用する事で、【巨大な薔薇】を生やした、自身の身長の3倍の【創世巨獣形態】に変身する。
SPD : アンチイェーガー・ギガンティス
いま戦っている対象に有効な【猟兵を殺す毒を宿した『新種の巨大生物』】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : 防衛捕食細胞の創造
召喚したレベル×1体の【外敵を飲み込み自爆する『巨大スライム』】に【虫を思わせる薄羽】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
イラスト:桜木バンビ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ルテネス・エストレア
望まぬ再誕、願う終焉
あなたの心のままに、願いを叶えましょう
何も思わないわけじゃない
考えたいことは沢山あるけれど、今此処であなたを倒さなければいけない
星の魔導書を開いて、わたしの魔力を注ぎ防御の魔法を展開
【全力魔法】の防御魔法で攻撃を防ぐわ
死力を尽くすべきは今
聖なる星の加護をわたしに
幾重の白き光をわたしの周囲へと巡らせ、あらゆる攻撃から身を護る結界を張りましょう
浄化の力も付与して毒への対処もするわ
攻撃を凌ぎきったら魔導書に込めた魔力を攻撃魔法へと転換
招くはすべてを焼き尽くす炎の嵐
これはあなたの世界を焼き尽くす炎
神話の時代の災厄を此処に
わたしの【全力魔法】を以てあなたの物語を終焉へと導きましょう
死之宮・謡
アドリブ歓迎
UDCで前に見たゲームみたいな状況だな…
中々愉しそうじゃないか…
そもそも私の趣味じゃあないんだ…少しくらい愉しませてくれたって良いだろう?
さぁ狩りの時間だ…
・WIZ
スライム共には幻術(呪詛・全力魔法・占星術)による攪乱で対処しながらクレイアスターの黒爆矢(属性攻撃)で射落としていく
その後【七血人】を呼び、狩猟開始
各々の武器を手に征かせながら自分は再び距離を取りクレイアスターを触媒に魔法砲撃で削りに行く
十分な距離を取り回避を優先しながら戦闘
ハルア・ガーラント
自ら死を願うなんて。でも――それが望みなんですね。
【WIZ】
まずは巨大スライムです。飛翔し[銀曜銃]を構え光の精霊さんへ依頼。
あの薄羽を損傷させる散弾状の魔弾を[誘導弾]でお願いします。
撃墜し沼地に落としてしまいましょう。[空中戦]ならわたしにも翼がある、負けません。……怖くは、あるけど。
敵の大きさに身震いしつつも[勇気]を振り絞ります。
その体内、生態系が成立しているならそのバランスはとても繊細なものではないのかな。
身体を魔力による[オーラ防御]で守りながら敵の口元でUC発動。味方にも戦闘力上昇の祝福を与えて貰いつつ、内部へと繋がる口内を総攻撃。わたしも[援護射撃]。
あなたの願い、叶えるから。
●劫火
『この世界に存在してはならないもの。それが、今のわたしです』
生まれて、死んで。
また生まれて、死んで。
いのち奪う毒霧が蔓延したその地で、原初のけものは待っていた。
溢れ出る生命力。
国ひとつ覆ってしまえそうなほどに巨大な体躯。
数多のいきものが、絶えず生命のサイクルを繰り返す体内。
最早、けものこそがひとつの国で、ひとつの小さな世界だった。
『この力はもう、意思だけではとても抑えきれない』
けものは――帝竜となったガルシェンは、現れた猟兵達に静かに告げる。
その吐息ひとつで樹々が揺れる。
『わたしは願っています。あなたがたが、わたしの待ち望んでいた者達であることを』
ガルシェンの周囲に、夥しい数の防衛機構が次々と創造されていく。
昆虫を思わせる薄羽に、てらてらとぬめりを帯びた身体。巨大なスライムに似た、外敵を捕食する細胞群。
『どうか、止めてください――わたしが世界を殺してしまう前に』
おぞましい羽音が聴覚を侵す。
宿主の願いを嘲笑うかのように、捕食細胞達が一斉に猟兵達へと殺到する。
「UDCで前に見たゲームみたいな状況だな……」
眼前の光景に怯むそぶりすら見せず、死之宮・謡(狂魔王・f13193)は可笑しそうに呟いた。
「中々、愉しそうじゃないか」
形の良い唇が弧を描く。笑み含む声色も、蠱惑的な光を宿す瞳も、その言葉が決して虚勢で放たれたものではないと語っている。
「そもそも私の趣味じゃあないんだ……少しくらい愉しませてくれたって良いだろう?」
一番速い群れに向けて、構えた大弓を引き絞る。
この数ならば、何処を射っても当たるだろう。
巧みに幻術を織り交ぜ、時に撹乱しながら、謡は己に向かってくる細胞達へと矢を放つ。
射落とされた細胞が、次々と周囲の細胞を巻き込んで爆炎と共に爆ぜていく。
「――血ヲ撒キ散ラセ、闇ノ住人ヨ我ガ友ヨ、来リテ己等ガ殺意ヲ解キ放テ――」
第一波を凌ぎ切った謡は、闇ノ国より7人の殺戮者――七血人を喚び出す。
「さぁ、狩りの時間だ――」
七血人に前方を任せ、再び大弓に矢を番えながら、謡は獰猛に笑った。
(……自ら死を願うなんて、)
爆風ではためく髪の隙間。ハルア・ガーラント(オラトリオのバロックメイカー・f23517)の目が伏せられる。
存在してはならないと。
この世に生まれたことが間違いであると、再誕したけものは語った。
じくり、胸の奥が痛みだす。
いつか感じた絶望が重なる。
「でも――それが望みなんですね」
迷いを払うように呟いて。ハルアは手にした小型銃へと魔力を集中しながら、其処に住まう光の精霊へと祈りを捧げる。
主の願いに呼応するように、淡く銃が光を纏う。
(怖くは、あるけど……!)
装填を確認したハルアは一気に中空へと飛翔すると、敵の層が厚い場所へ散弾状の魔弾を撃ち込んだ。
ばら撒かれた弾で薄羽を損傷した細胞達は、為す術もなく沼地へと墜ちていく。
「空中戦なら、負けません!」
震える身体を叱咤して、ハルアは次の群れへと銃口を向けた。
「……、……妙だな」
撃墜された細胞達を見て、謡は小さな違和感を覚えていた。
爆発の呪を込めた己の矢に射抜かれたものだけでなく、ハルアの魔弾を呑み込んだ細胞までもが爆ぜている。
だが、薄羽を撃ち抜かれたものを見る限り、ハルアの弾にはそのような呪が組み込まれている様子はない。
それにハルアも気付いたのだろう。彼女の表情に険しいものが混じる。
「自爆能力……!」
2人は出立前に得た情報を思い出す。
――飲み込んだもの諸共自爆する習性を持つスライムの召喚。
正解だと示すように、ハルアの目の前で七血人のひとりが細胞に呑み込まれた。
次瞬、爆炎がハルアへと襲い掛かる。細胞が七血人ごと爆発したのだ。
「――ッ!」
咄嗟に魔力で身体を覆いダメージは抑えたが、爆風に煽られハルアの体勢が大きく崩れた。
その隙を突いて、今度はハルアを捕食せんと細胞達が凄まじい速度で押し寄せてくる。
「あ、」
死が迫ってくる。
こんなにも呆気なく、簡単に。
身体が自分のものではないみたいだ。目を閉じることすら出来ない。
(こわい、)
停止した思考に、蒼い炎が灯る。
終わった。
そう、思った。
「させないわ」
鈴を転がしたような声が、力強く告げる。
次いで、本の開く音。
「聖なる星の加護をわたしたちに――」
ルテネス・エストレア(Estrellita・f16335)の注いだ魔力が、幾重もの光のヴェールとなって魔導書から溢れ出す。
それは猟兵達を柔らかく包み込むと、あらゆる攻撃から身を護る強固な壁へと変わった。
(望まぬ再誕、願う終焉)
極大の結界を維持しながら、ルテネスはガルシェンへと視線を移す。
何も思わないわけじゃない。
考えたいことは沢山ある。
けれど今は、思いを馳せるよりも先にすることがある。
(此処であなたを倒さなければ、大いなる災厄と化してしまうなら)
捕食細胞達は、主に害為すもの達を結界ごと呑み込み滅ぼさんと、べちゃべちゃと嫌な音を立てて光の壁に貼り付いては、自爆を繰り返す。
少しでも気を抜けば壁を破られてしまいかねない。
ルテネスは持てる魔力の全てを魔導書に流し込み、懸命にそれらを押し止める。
(死力を尽くすべきは、今)
原初のけものが作り出した防衛機構と、ひとの手により作られた導きの小さな星。
同じ『護りの力』の衝突。そのギリギリの攻防の果て。
場を制したのは――ルテネスだった。
「あなたの心のままに、願いを叶えましょう」
特攻により数を減らした細胞達の攻撃がほんの僅かに途切れた、その一瞬。
ルテネスは即座に展開していた魔法を、防御のそれから攻撃へと切り替える。
「――神話の時代の災厄を、此処に」
魔導書より招くは、すべてを焼き尽くす炎の嵐。
ガルシェンごと細胞達を呑み込む終末の大火。
「これは、あなたの世界を焼き尽くす炎」
劫火は世界を――物語を終焉へと導かんと燃え盛る。
謡もまた、残っている七血人と共に総攻撃を仕掛ける。
「さぁ喰らわせろ、奪わせろ、壊させろ――世界は私の食卓で遊技場だ。お前とて例外ではない!」
燃え残った捕食細胞達を七血人に散らさせながら、謡は十分に距離を取り、
大弓を触媒に魔法砲撃でガルシェン本体のいのちを削ぎにかかる。
明けぬ夜の魔力が、終焉の炎に混じり、その色を漆黒へと染める。
「わたし、ここで退くわけにはいかないんです……絶対に!」
体勢を立て直したハルアも2人に続いて、ガルシェンの口元へと回り込み、高らかに歌う。
髪彩る月下美人に似た花がハルアの歌声を増幅し、世界へと響かせる。
紡ぐは天使言語による英雄歌。喚ぶは英霊達を乗せた大艦隊。
敵対者に罰を、その味方には祝福を。
ガルシェンの口内へ一斉掃射を叩き込みながら、ハルアは祈りと共に歌い続ける。
(あなたの願い、叶えるから!)
だが、
世界裂く咆哮。
再生を始める身体。
猟兵達の全力の攻撃を受けても尚、その絶大なる生命力が、けものに死を許さない。
「あれだけの攻撃を受けても、まだ……!」
「創世巨獣の名を冠すだけあるということか。……まだまだ愉しめそうだな」
「それならば、何度でも導きましょう。……結びましょう、あなたの物語を」
3人は再び武器を構えると、ガルシェンに終焉を与えるべく動き出した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
神酒坂・恭二郎
こいつはでかい
地上に置いて、今まで見た何よりもでかい相手だ
しかし、怯む訳には行かない
己の存在で世界を傷つけまいとする巨竜の心意気に、応えて見せねばスペース剣豪の名折れだからだ
先制で巨大化する勢いに巻き込まれぬよう、風桜子の【衝撃波】を足裏で弾けさせ、【残像】を残すほどの【早業】で小刻みに空中を跳ねる。あるいは「スペース手拭い」を伸ばして巨竜の薔薇に引っ掛けて凌ぎたい
人心地をつけば銀河剣聖の教えを思い出す
巨大な存在はそれが巨大である程に、常に支える力が働いている
刃の及ばぬ巨体は斬れぬ。だがそれを断ち切れば、巨体はたちまち自壊するのだと
「優しい巨竜さん。不肖の弟子の身なれど、あんたに一刀仕る」
郁芽・瑞莉
己を識っているからこそ、世界を護る為にと抱く終焉への願い……。
私達が骸なる海へと還しましょう。
気高くも優しい巨獣が世界を破壊する醜い獣へと堕ちる前に!!
巨大化し襲い来る攻撃はドーピングによる身体能力の限界突破、
残像と迷彩によるフェイントで避けつつ、
第六感による見切りでその巨体に取り付いて回避。
その後昔の自分を降ろしつつ溜めていた力、
魔力の封印を解除して更にリミッターを外して。
取り付いた身体をダッシュで頭上まで駆け上がったら。
排除しようとする攻撃に合わせてカウンター。
戦いで収集した情報を元に戦闘知識を掛け合わせて相手の防御を抜く、
早業の串刺しを眉間に。追撃の2回攻撃で破魔の衝撃波で傷口を抉るわ!
●巨獣
その身を劫火で焼かれても尚、原初の獣は倒れない。
じわじわと再生を始める身体に、ガルシェンは哀しげに目を伏せた。
『まだ、足りない』
生命力が、与えられた損傷を上回る。
己を色濃く取り巻き始めた死のにおいに、ガルシェンという『世界』を守ろうと身体が自動的に反応する。
けものの意思を、身体が裏切る。
『――!! ――――――ッ!!』
創世の咆哮。
耳を劈くようなそれに、びりびりと大気が震える。
身体に薔薇が花開く。
只でさえ巨大であった体躯は更に質量を増して、広大な沼沢地を覆い尽くしていく。
――創世巨獣。
畏怖を声色に乗せて、誰かがぽつり、呟いた。
対したものの強大さに、多くのものがひととき動きを止める。
「……こいつは、でかい」
神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)もまた、変貌を遂げたガルシェンを見上げ、思わずそう零した。
地上に置いて、今まで見た何よりも巨大な相手。
しかし、怯むわけには行かない。怯んではいられない。
帝竜と化した己の存在を呪い、世界を傷つけまいと死を願う、眼前の巨獣。
人として。
猟兵として。
スペース剣豪を名乗る者として。
(その心意気に、応えて見せねば)
そうでなくては、名折れにも程がある。
尚も巨大化を続けるガルシェンの勢いに巻き込まれぬよう、恭二郎は風桜子を足裏と手に持った手拭いへと集中させる。
そのまま素早く空中へと跳ね上がると、風桜子により強度と長さを増した手拭いを、投縄の要領で巨獣の薔薇の一部へと巻き付けた。
刹那。
巨獣の内に渦巻く破壊の力が、巨獣のいのちを脅かすもの達へと容赦なく振るわれる。
「っはは……これは、ちいとばかし……!」
体動で巨獣の身体に激しく叩きつけられ、風圧で大きく煽られながらも、恭二郎は巨獣に食らい付き暴虐の嵐が弱まる時を待つのだった。
(己を識っているからこそ、世界を護る為にと抱く終焉への願い……)
襲い来る攻撃を積み重ねた経験と勘で躱しながら、郁芽・瑞莉(陽炎の戦巫女・f00305)は近くにあった巨木の残骸を足場に、巨獣に向かって跳んだ。
こんなもの、一撃でも喰らえば一溜まりもないのは考えずとも分かる。
限界を超え悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、瑞莉はへし折られ吹き飛ばされていく樹々を飛び石代わりに、ガルシェンの巨体へと降り立った。
(私達が、骸なる海へと還しましょう――気高くも優しい巨獣が、世界を破壊する醜い獣へと堕ちる前に!!)
瑞莉は、決意と共にがっしりとガルシェンの身体に取り付き、攻撃が緩むタイミングを図る。
今振り落とされれば生命の保証はない。
巨獣の猛攻に加え、眼下には毒ガスでぼこぼこと不気味に泡立つ沼が見える。
元来、長居は危険な地。気を付けるべきはガルシェンだけではないのだ。
『――――ッ!、――――…………』
変化し終えたのだろう。
膨張が止まり、激しかった揺れが収まっていく。
待ち望んでいた機だ。
同時に、瑞莉が動いた。
「――昔の私。申し訳ありませんが、今一度お力を借りますね」
いつの間にか手元に現れた、美しい装飾の長剣――十束剣の柄をぐっと握り締める。
残された時間を代償に、過去の残滓が瑞莉の中に流れ込む。
「……良いんだよ私。謝らなくて。選ばれし者の力、ご覧あれ……ってね!!」
生命の危機に瀕した時にのみ現れるそれは、瑞莉に秘められた力を、失われし瑞莉の記憶を呼び覚ます。
「郁芽 瑞莉、推して参る!」
瑞莉は、己に封じていた力全てを解き放ち、元の3倍程度まで膨れ上がったガルシェンの身体を一気に駆け上がると、人間の限界を超えた速度で数十km離れた頭部へと走り出す。
向かうは顔面。どのような生き物でも、比較的弱い部位。
巨獣にとっては僅かな身動ぎや、身体を軽く掻くような行為であろうと、人の身には天変地異も同じ。
時に受け流し、時にカウンターを叩き込んで緊急回避しながら、瑞莉はついに目的の場所へと辿り着く。
「此処だッ!」
瑞莉はガルシェンの眉間へと、思い切り体重を乗せて十束剣を突き刺した。
そのまま、剣先に送り込んだ破魔の呪を爆発させる。
『――――――ッ!!』
柔らかい場所を抉られる苦痛に、ガルシェンの咆哮が響いた。
一方、恭二郎は危険を承知でガルシェンの足元へと降り立っていた。
巨大化が収まり、人心地をついた時。
恭二郎は師である銀河剣聖の教えを思い出していた。
(……『巨大な存在はそれが巨大である程に、常に支える力が働いている』、か)
刃の及ばぬ巨体は斬れぬ。
だが、それを断ち切れば、巨体はたちまち自壊するのだと。
この巨獣の場合は、
(見定めろ)
チャンスはそう無い。
再度苛烈な攻撃が飛んでくる前に。己がそれに潰される前に。
『――――――ッ!!』
その時、ガルシェンの身体が大きく傾いだ。
瑞莉の攻撃により、苦痛で暴れ回るガルシェンの重心が、不安定なものとなる。
生まれたその一点を、恭二郎は見逃さなかった。
「優しい巨竜さん。――不肖の弟子の身なれど、あんたに一刀仕る」
すぅ、と恭二郎は構えを取る。
見たのは過去に只一度。
だが、今も褪せぬ生涯の記憶。
「一刀は万刀に化し、万刀は一刀に帰す――」
想像する。
創造する。
星喰いの怪物をも両断せしめし、銀河剣聖の秘剣、一乃太刀の型。
それを、今、この場に。
――銀河一文字。
その一閃が、見事に巨体の支えを断ち切った。
けれど、それでも。
地に沈んでも、尚、死を許されぬ巨獣は生きていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
幻武・極
いやあ、デカいね。
これだけデカいと町どころか都市がすっぽり入ってしまいそうな大きさだね。
そして、ここから3倍の大きさになるんでしょ。
まいっちゃうね。
でも、キミが世界を殺してしまう終焉はボク達猟兵がボコるしかないよね。
これだけ大きいと羅刹旋風でも一撃で倒すのは無理だから、何度でも打ち込まさせてもらうよ。
あと、キミとんでもなく硬い装甲を持っていそうだから鎧砕きのブレイクはさせてもらうよ。
アルドユガ・フラルフラル
たとえ世界を殺すものであれ
生あるものはただそれだけで肯定されねばならぬと王として想う
まして貴様はおそらく何処かの世界では善なる母にして父
だが…
超巨体に圧倒されつつも勇気覚悟切り込みをもって前へ
空中戦毒耐性の低空飛行で毒沼突破
敵先制へ見切りフェイント第六感リミッター解除
小兵としての機動の限りで足掻く
掠めても大打撃だが
オーラ防御限界突破激痛耐性継戦能力で耐え
攻撃後の毒飛沫に紛れ上昇接近
UC+カウンター見切り空中戦毒耐性
そして余の眼には不思議と異物としか映らなかった薔薇へ
捨て身の一撃を鎧無視攻撃で叩き込む!
…だが原初の獣よ
世界の為に死を望むことこそが貴様の矜持、生き様であるのならば
余はそれを叶えたい
●勇士
『――!! ――――――ッ!!』
穿たれ、抉られ、断ち切られ、沈み。
それでも死は訪れない。
願う終焉はまだ遠い。
『――――――――!!』
枯れかけた薔薇が再び咲き誇る。
縮みかけた身体が膨張を始める。
再生。
再生。
再生。
再生。
生々流転の中心で、けものは生の咆哮を上げる。
本能は生を求め、理性は死を求めて暴れている。
(たとえ世界を殺すものであれ、)
生あるものは、ただそれだけで肯定されねばならぬ。
王の末裔と自身を称する幼子は――アルドユガ・フラルフラル(とっとこ冒険道・f18741)は、王として想う。
(まして貴様は、おそらく――)
此処ではない、何処か別の世界。
或いは別の次元の、善なる母であり、父である存在。
きっとこの獣は、そういう類のものだ。
「……だが、」
真紅の外套を翻し、しろがねの剣を携えて。アルドユガは金色のひかりと共に空へと舞い上がる。
毒霧を躱し、時に耐えながら、少年はできる限り低く低く翔ぶ。
見つからぬように、宙藻掻く巨獣の前足が下手に打つからぬように。
『――――――!! ――――――!!』
けものの悲痛な叫びが耳を支配する。
「貴様がそれを願うなら!」
風圧だけで吹き飛ばされそうになる。
小柄な身体を、ほんの僅かにガルシェンの爪先が掠める。
服が大きく避け、激痛が走る。
「ッ、この程度で余が退くと思うかッ!!」
痛みなど気合で捩じ伏せて。それでも、アルドユガは翔び続ける。
目指すは原初の獣の鼻先。己の言葉が届く場所だ。
「いやあ、デカいね」
幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は魔鍵を軽く振り、準備運動を行いながら、原初の獣を見上げ、笑った。
どこか楽しげにも見える、その強気な笑みは、どんなに強大な敵を目の前にしようと変わらない。
「これだけデカいと、町どころか都市がすっぽり入ってしまいそうな大きさだね」
もしかしたら、中に国だって築けるかもしれない。骨なんて良い壁になるだろう。
「だってのに、更にデカくなるのかい?……まいっちゃうね」
少し縮んだと思ったらこれだ。最初の3倍はあるだろうか。
いやはや全く、これでは蟻と象どころではない。
「……でも、キミが世界を殺してしまうなら」
くるくると魔鍵を回す。風が巻き起こる。
ざりり、と地を踏みしめる。
「そんな終焉は、ボク達猟兵がボコるしかないよね」
ぱしりと柄を掴むと、極はガルシェンへ向かって全速力で駆け出した。
特に策があるわけではないが、何度も只管に打ち込めば、いつかは届くだろう。
壁はそうやって壊すものだ。
そんな大胆不敵な羅刹は運も味方につけていた。
「おっと!」
近くにあった大木が吹き飛ばされる。
岩が地面から引き剥がされて、先程まで居た場所へと突き刺さる。
偶然に偶然が重なり、極は目立った外傷を受けることもなく、すべて紙一重で巨獣の攻撃を躱しながらガルシェンの胸に当たるであろう場所へ身体を滑り込ませた。
「心臓の真上って――結構痛いよね」
多くの生き物の弱点は心臓だ。
稀にそうでないものも居なくはないが、試す価値はある。
極は全体重を乗せて、硬い装甲を砕きながら、心臓があるであろう場所へと魔鍵を突き刺した。
「流石に、そんな内部まで届くとは思ってないけど――ねッ!」
出来る限り、身体全体を沈めてまで、極は奥深くまで柄を押し込む。
暴れるけものに弾き飛ばされそうになるも、極がその手を離すことはなかった。
その頃、アルドユガもまた巨獣の鼻先へと辿り着いていた。
「原初の獣よ!」
上がった毒飛沫に紛れながらガルシェンの眼前へ向けて急上昇すると、アルドユガは呼び掛ける。
恐れが無いわけではない。
少年を突き動かすのは、その身に抱いた勇気と覚悟。そして、王の矜持。
金色のひかりが、少年の想いに、意志の力に呼応して、その輝きを増していく。
「世界の為に死を望むことこそが貴様の矜持、生き様であるのならば!」
アルドユガの視線が、巨獣の身体に咲く薔薇へと移る。
息を呑むほど美しい薔薇であるが、不思議なことに、アルドユガにはそれが禍々しいものにしか見えなかった。
だから、
「余は……それを叶えたい!」
小さな王は、薔薇へ向けて己の全力を叩き込む。
彼の全霊を乗せた捨て身の一撃が。しろがねの剣が、異形の薔薇を根本から断つ。
『―――――――――ッ!!』
薔薇が地に落ちる。けものの叫びが響く。
その時、猟兵のひとりが気付いた。
――再生する速度が落ちている。
長い戦いの果て。
漸く、けものに待ち望んだ終焉が訪れようとしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)
聞こえてきたよ
悲しい声。もう自分じゃどうしようもないって声
わかったよ
わたしも、あなたを殺してあげる
先制攻撃には防御を取る
負傷するだろう、毒沼もわたしを苛むだろう
けれどそれでいい
命の危機に瀕すれば、それがトリガーになるのだから
そして、わたしは終わりを告げるの
【開花の時は来たれり、我は天地囲う世界樹なり】
限界無く拡がり続ける「神体」は、傷も毒も跳ね除けて、彼の前へと並び立つ
終わりの世界樹。世界の最後に聳え立つ破滅の大樹
わたしはただ終わらせたいだけ。それ以上は望みたくない
だってめでたしの後には、穏やかであるべきだもの
世界を壊し、輪廻を断って
一緒に、眠りましょう?
●大樹
『―――――ッ、――――ッ!!!!』
落とされた薔薇を自ら踏み散らしながら、巨獣が吼える。
それに合わせ、三度蘇る身体。
先程薔薇があった場所からはめりめりと新たな蕾が顔を出し、今ひとたび鮮やかな花を咲かせる。
それでも、今までの勢いはもう無い。
度重なる猟兵達の猛攻に、再生が追いつかなくなっているのだ。
「――悲しい声、」
アウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は吼え続けるガルシェンを見上げ、柔らかく微笑む。
だいじょうぶ。
聞こえているよ。
聞こえてきたよ。
もう、自分じゃどうしようもないって、必死に叫ぶあなたの声が。
「わかったよ」
御伽噺の怪物は、敢えて毒沼を踏みしめながら、飛んでくる巨獣の一撃を受け止める。
あまりの重さに、潰された身体が悲鳴を上げる。
けれど、それでいい。
骨が砕けようと、肉が裂けようと、毒が身体を蝕もうと、いのちの終わりが見えそうになろうと。
それこそが、アウルの力を呼び覚ます鍵だった。
「――あ――ぁ――a――A――iyA――AAAAAAAAAA!!!!」
終わりを告げる産声が響く。
世界樹が花開く。
聖なる怪物は、星喰らう女神へと生まれ変わる。
(だいじょうぶ、)
理性を手放す間際。
巨獣を見据え、星の花嫁は咲いかける。
(わたしはただ終わらせたいだけ)
傷の痛みも、毒の苦しさも、最早感じない。
(わたしも、あなたを殺してあげる)
留まるところを知らずに拡がり続ける枝葉が、ガルシェンをもその腕に抱こうと伸ばされる。
(だってめでたしの後には、穏やかであるべきだもの)
『――――――ッ!!!!』
それを反射的に跳ね除け、創世の巨獣は足掻く。
あれは『終わり』だ。
世界を壊し、輪廻を断つものだ。
星の最期に聳え立つ、破滅の大樹だ。
すべてを呑み込み、優しく見守る揺り籠だ。
『――!! ――――――ッ!!』
本能的な恐怖で抵抗するガルシェンへと、アウルは周囲の樹々の生命力を糧に立ち向かう。
養分に身体が歓喜の声を上げ、神体が天地囲う世界樹へと更に近付いていく。
(だいじょうぶ、)
知っているよ。
分かっているよ。
つらいのも、こわいのも。
たくさん、たくさん、見てきたよ。
何度も何度も、聞いてきたよ。
今まで出会ったあなたから。今目の前に居るあなたから。
だから、ねぇ。
(あなたも一緒に、眠りましょう?)
ガルシェンの巨体が抑え込まれる。
はじまりの巨獣が、おわりの女神によってその生命を削がれていく。
ついに、すべてが決すると思われた、その刹那。
ガルシェンという『世界』を失うまいとする、体内廻るいのち達の最後の抵抗が、それを阻んだ。
成功
🔵🔵🔴
エンティ・シェア
あんたも死にたがりか。奇遇だな。俺もだ
まぁ、あんたほど切実ではないかもしれねーな
それでも、気持ちはわかるつもりだから。終わらせてやるよ
猟兵を殺す毒ってやつを受けてみたい気もするけど…
俺だけの身体じゃねーし、できるだけ死ぬ前に片付けねーとな
避けれる攻撃は避けて。受けても、耐性で暫くは動けることを願おうか
生き物には生き物。餌時で虎の子をありったけ喚んで
全部合体だ。でっかくなって、挑んでやれ
生き物同士でじゃれ合ってる間に本体を少しでも叩いておく
その辺は「僕」に頼るわ。できるだけがっつり突き刺さる拷問具を
望むなら、未練なく
最期を実感させてやろう
あんたの意志が、間違いなく世界を守ったんだと、刻んでやれ
忠海・雷火
先ずは地形利用
沼に生える木々を縫うように走り、巨大スライムの動きを少しでも鈍らせ、且つお互いが邪魔で身動きが取り難くなるよう仕向ける
突出してくるスライムに対しては、翅を狙い短刀を投擲する事で足止め
囲まれてどうにもならぬ状況になれば、スライムをなるべく周囲に集めてから沼に飛び込み
水ごと飲ませる事で自爆の衝撃を少しでも軽減しつつ、周囲の他スライムも巻き込ませ数を減らす
痛みは耐性と気合で堪えUC発動
残るスライムがいればエネルギー体で食い滅ぼし、吸収した生命力で回復しながらガルシェンへ接近
腹部の隙間から体内へ侵入。原初、生と死の巨獣、その存在の概念に終焉を……永遠の滅びを齎そう
それが望みとあれば、尚更
●終局
からだ廻るいのち達が、けものを生かそうと必死に足掻く。
親を、国を、世界を壊されまいと、最後の抵抗を試みる。
体内の中で繰り返される、進化と絶滅のサイクル。
それ等が、ガルシェンを守るために、自分達が生きるために出した答え。
環境への適応。
生き残るための最適解――猟兵達の天敵となる、新たなる生命の創造。
『――――……、』
母であり父であるけものは、己の終焉に抗う子どもたちを阻めない。
それどころか、子どもたちを生かそうと、けものの意思とは裏腹に身体が無意識に反応する。
「あれは、」
忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)の目に映ったのは、戦いの始めに見た光景。
空を埋め尽くす程の数の、薄羽を持つスライム状の生き物達。外敵を呑み込み自爆する、捕食細胞の群れ。
防衛機構の再起動。
その厄介さは、先程間近で目にしたから、よく分かっているつもりだ。
(ならば、取る策は)
周囲へと素早く目を走らせ、倒壊を免れた樹々が多い箇所を見つけると、雷火は一目散に駆け出した。
それに気付いた細胞達の一部が、一斉に雷火を追い始める。
「……掛かったわね」
雷火は、沼に生える樹々の間を縫うように走る。
選び取るのは、自分ひとり分の隙間しか無いような、出来るだけ細く狭いルート。
突出して追ってくる細胞に対しては、翅を狙って短刀を投擲し、足止めしながら徐々にガルシェン本体へと近付いていく。
(吉と出るか、凶と出るか……)
ちらり、背後へと視線を向けてみれば、樹々や互いの身体に阻まれて、思うような身動きが取れなくなっている細胞達の姿が見えた。
細胞達の巨体にとって、雷火の通ってきたルートは狭すぎたのだ。
痺れを切らした細胞のひとつが、周りの仲間ごと己を阻む樹々を呑み込み自爆する。
幾らかの犠牲を出すのと引き換えに、道を開くことを選んだようだ。
開いた風穴から、細胞達が勢いよく噴き出してくる。
それを確認すると、雷火は手近な沼へと飛び込んだ。
有毒ガス噴き出す沼だ、ひとの身では、そう長くは居られない。
だが、ただ囲まれ嬲られるよりは、幾分かマシだ。
ぼちゃぼちゃと雷火に続いて沼へと飛び込んできた細胞達が、沼の水ごと雷火を包む。
(――狂える力、沸き立つ混沌よ)
数多の仲間を巻き込みながらも、漸く捕らえた猟兵を滅しようと、細胞は迷わず自爆することを選ぶ。
(我が身が浴びる意志の主こそ汝の贄、)
雷火は、覚悟を決めて目を閉じる。
(汝の渇きを刹那彩る響音なり――)
轟音。
衝撃。
激痛。
水により多少緩和されたとはいえ、その威力は相当なものだ。
それでも、そのすべてを受け止め、気力を振り絞り耐え切って。雷火はUDCを纏うように解き放つ。
荒れ狂うエネルギー体型のUDCが、雷火の受けた負の感情を糧に力を増していく。
残っていた細胞達を喰い滅ぼし、吸収した生命力で自身の傷を癒やしながら、雷火は陸へと這い上がる。
ガルシェンという存在をも喰らうために。
時を同じくして。
「あんたも死にたがりか……奇遇だな、俺もだ」
エンティ・シェア(欠片・f00526)は地に沈むガルシェンへと素っ気なく語り掛ける。
ガルシェンの目がゆるり、エンティへと向けられる。
「まぁ、あんたほど切実ではないかもしれねーな」
視線を受けて、エンティは――『俺』は、軽く肩を竦めた。
だって、存在していたところで、世界を滅ぼしちまうわけでもないし。
それでも、気持ちはわかるつもりだから。
「終わらせてやるよ」
無愛想に、されど真摯に巨獣へと告げながら、『俺』は眼前の敵へと向き直る。
この世に新たに誕生したばかりの、たった1匹だけの巨大生物。
猟兵達を討ち滅ぼすためだけに生まれ落ちた、それ。
事前の予知では毒持ちだと言っていたが、このような状況で生まれたのであれば、どのような耐性を持っていたのであれ受け切れる保証はない。
(……俺だけの身体じゃねーし、)
己は空の箱を共有する者の1人。
1つの器に内包されるは、3つの人格。故に、背負う命も3人分。
受けたらどうなるか、未知の毒への好奇心はあれど、実際に試そうとする程、己も愚かではない。
「できるだけ、死ぬ前に片付けねーとな」
若干残念ではあるが、避けれる攻撃は避けて。受けても、耐性で暫くは動けることを願おうか。
さて、それではどうしたものか。矢張り、生き物には生き物か。
ああ、それが良い。そうしよう。そろそろ腹も減ってるだろう、食事の時間にするとしよう。
この世は弱肉強食だ。……どちらが勝つかは、分からないが。
「――全力で、喰らってこい」
『俺』の声を合図に、愛らしくも猛々しい虎の子達が喚び出される。
「全部合体だ。でっかくなって、挑んでやれ」
次いで下される号令。主人の命を受けた虎の子達が、従順に寄り集まっていく。
巨大生物と並ぶと豆粒に等しかったはずのそれは、たちまち雄々しく成長を遂げていく。
肉球に68と刻印される頃には、最早最初の面影はなく。互角に対峙できるであろう巨躯の虎へと変化していた。
忠実なる獣は、咆哮と共に主人の敵へと飛び掛かる。
「そこで仲良く遊んでな」
猛虎と巨大生物が闘う音を背に、『俺』は巨獣の頭部へとその足を向けた。
『わたしは、待っていました。わたしを殺してくれる勇士の訪れを』
猟兵達の全力を受け続け、終わりの女神にいのちの殆どを吸い尽くされて息も絶え絶えのガルシェンは、腹部に雷火の、眼前に『俺』の気配を感じながら、穏やかに告げる。
『わたしは、願っていました。……あなたがたが、わたしの待ち望んでいた者達であることを』
どんなに自動機構が巨獣を生かそうとしても、ガルシェンの意思は変わらない。
『……どうか、殺してください』
「それが望みとあれば。……その存在の概念に終焉を、永遠の滅びを齎そう」
雷火は頷くと、未だ塞がり切らぬ腹部の裂け目を通り、巨獣の体内へと歩を進める。
「……選手交代だ」
最も穿ちやすい箇所を探し終えた『俺』も『僕』へとそう呼び掛ける。止めを刺すのに丁度良い武具を扱えるのは、彼の方だから。
「あんたの意志が、間違いなく世界を守ったんだ」
交代しきる間際にその一言を残して、『俺』はその役目を終える。
『わたしは、待っていました――』
内と外、それぞれから同時にガルシェンのいのちを絶つ一撃が放たれる。
原初の獣。生と死の巨獣。長い長い生。望まぬ再誕。
それでも尚、いのちを育み、最期まで見守り続けたけものに、漸く安寧が訪れる。
混沌と化す群竜大陸。目指す終焉は未だ遠く。
骸の海へと還っていく創世のけものを見届けると、勇士達は次なる戦場へと向かうのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴