帝竜戦役⑤〜ふるさとのうた
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たぶん、誰もがもういちど故郷を目にしたかったと思う。
故郷の風の匂い。
故郷の食べ物。
故郷の音楽。
同じ空の下で生きてきた皆だけど、営みは皆違っていて。
行きあった勇者。それがとある一行になって、またどこかの一行と出会って。
あたしは船ん中で出会った老婦人に、精霊が宿る一本の杖を渡されたことが『始まり』だった。
あたしはフェアリーって種族で、ちょーっとだけ、精霊が見えるってだけだったんだよね。
旅の楽団でリュートを奏でる一人でしかなかったあたしは、これがきっかけで群竜大陸に向かうことになった。
勇者のおじさんも、勇者のおばさんも。
故郷では誰かの家族だったり、独りであっても何かを守るっていう想いが心にあったと思う。
勇者の皆はあたしに故郷の歌や曲を教えてくれて、あたしは色んな故郷の奏でを知った。
音楽を聴いた誰かが「故郷に帰れた気がする」って言って泣いた。
群竜大陸の戦いでは、皆が死んで、あたしも死んじゃって、ふと気付いたら、ドラゴンがいた。
杖の中の精霊はいなくなってて、でもしばらく一緒にいた精霊だから、分かるよ。精霊の気配、それを通して。
何人かの勇者が――ううん、たくさんかもしれない。このドラゴンに囚われてしまったってこと。
ドラゴンは眠っていて、この場所に残ったあたしは透き通るリュートで、覚えている限りの故郷の音楽を奏でたり歌ったり。ねえ、皆、聴こえてる……?
不思議とドラゴンは、長い間、起きなかった。
でもねでもね、さっきね。深く深~く眠ってたドラゴンは、誰かの存在に気付いたのか起きちゃった。
あたし、びっくりして隠れちゃったんだけど……え、マジどうしよ……。
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猟兵たちへ、冬原・イロハ(戦場の掃除ねこ・f10327)はぺこりとお辞儀をした。
「群竜大陸への攻略の日々が続いていますね、おつかれさまです。
毒キノコの群生地だったり、乱戦地帯だったり、危険なところがいっぱいですが、今回皆さんに向かってもらいたいのは『勇者の墓標』です」
昔、群竜大陸に渡った数千人の勇者さんたちが、当時のヴァルギリオスと相討ちになり全滅した場所だ。
「戦いは凄まじいものだったのでしょうね。大陸の一部を大きく穿ち、竪穴が出来ました。
そこには、勇者さんの残留思念が漂っているようです――というのも、ひとりの勇者さんを見つけまして……あ、いえ、生きているわけではなくって、残留思念なのですけれど」
その勇者はフェアリーの少女。破魔と護りの力を持ち、後方支援を行っていたという。
「名前は、カナカナさん。彼女の近くではドラゴンが眠っていたのですけど、群竜大陸が蘇った時から少しずつ眠りが浅くなっていってたようでして。
さっき、起きました」
イロハの言葉に、マジかーとなる猟兵たち。
「ご覧の通り、進行ルートの途中でのドラゴン復活。進撃を分断される形となってしまいますので、皆さんにはその対処をお願いしたいのです。
ドラゴン……呪骨竜アンフェールは死霊術や呪詛の類を司るドラゴンで、群竜大陸に渡った勇者たちの魂を束縛しているようです」
「……それは……」
とても悲しいことだ、と一人の猟兵が呟く。イロハはこくりと頷いた。
「撃破すれば、魂は解放されます。皆さんの今後の護りとなったり、魂は故郷に帰ったり、できるかもしれませんね。
けれども強い敵です。残留思念としているカナカナさんと心を通わせて、その力を借りて――いえ、力を合わせて敵を撃破しましょう。囚われている勇者さんたちの魂を、カナカナさんも救いたいはずです」
だから、どうかよろしくお願いします。と、イロハは再びぺこりとお辞儀をした。
「あ、そうだ。この戦場では『魂晶石』と呼ばれる石を手に入れることが出来そうですよ」
いつしかの激しい戦いの余波で生まれた、高純度の魔力結晶体だ。
きっと魂の輝きが移った結晶なのだろう。
「それは勇者たちの想いも詰まっているのかもしれませんね。――ええと、無粋ですが、金銭的な価値は金貨600枚ほどだそうで」
円にして600万くらい。
「余裕があれば採取もしてみても良いかもしれませんね。
では、皆さん、カナカナさんと、ドラゴンに囚われた勇者さんたちの魂をよろしくお願いしますね。――ご武運を」
そう言って、イロハは猟兵たちを送り出すのだった。
ねこあじ
ねこあじです。
今回はよろしくお願いします。
勇者の墓標でのプレイングボーナスは『勇者の残留思念と心を通わせ、そのパワーを借りる』というものになっています。
勇者・カナカナについて。
フェアリーの少女というか、ノリの良さげな女子。
人間サイズの杖とリュートを抱えて頑張ってました。
杖を使って破魔の力を広範の仲間に与え、魔防を高めつつな感じで戦っていました。
好きなことは、リュートの演奏。歌うこと。
彼女が持ってる杖は、シナリオ『コイ謳う旅路』に出てきた杖ですが、知らなくても大丈夫です。
大きく穿たれた竪穴、足場のある岩場での戦闘となります。
敵は大体飛行状態ですが、積極的に近寄って襲撃してくるので彼我の距離はあまり考えなくても大丈夫かと思います。
土日での執筆。
なるべく頑張りますが、人数によっては採用・不採用が出ます。
ご了承ください~。
第1章 ボス戦
『呪骨竜アンフェール』
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POW : ソウルプリズナー
【魂を囚われた勇者】の霊を召喚する。これは【武器】や【魔法】で攻撃する能力を持つ。
SPD : イーヴィルアイ
【魔眼から放たれる怪光線】が命中した対象を爆破し、更に互いを【魂を縛る呪詛の鎖】で繋ぐ。
WIZ : ミアズマブレス
【呪詛】を籠めた【ブレス】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂】のみを攻撃する。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「セシリア・サヴェージ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ベール・ヌイ
『無音鈴』を使った「ダンス」の舞をカナカナに奉納します
優しげで、でも楽しげな、そんな舞をおどりましょう
貴女の歌は、素敵で、それで踊れたら、きっと楽しいと思う
でも、それをするのには、邪魔があるから
どうか、力を貸して…囚われた魂も、もう寝かしてあげたから
踊りながら【不死鳥召喚】を起動、交渉は詠唱に書いてるから省略
燃やされ、肉を食われる痛みも、呪詛のブレスによる魂の痛みも「激痛耐性」で耐えます
「怠惰の悪魔より、命令する、囚われの魂に怠惰たる、安らぎを…眠りを」
地獄の炎で竜を燃やし、治癒の炎でヌイとカナカナと囚われた魂を治癒します
最後に終われば、また、舞で魂を見送りましょう
アドリブ等歓迎です
ソラスティベル・グラスラン
くっ、勇者たちの魂を弄び、あまつさえ傀儡として襲わせるとは
…皆さん、少々我慢してくださいね
貴方たちを元に戻すために…全力でぶっ飛ばさせていただきます!!
【盾受け・オーラ防御】で全力で守りを固め、突撃!
盾を構えた体当たりで吹き飛ばし、攻撃を【見切り】、
【怪力・範囲攻撃】の大斧で薙ぎ払いつつ、本体の竜へ向けて前へ、前へ
フェアリーの勇者さん!聞こえますか!
古の勇者がこのように操られるのを見るのは、わたしも辛いです!
貴方も救いたいのですよね…皆さんにまた、故郷を見せてあげたいですよね
力を貸してください、貴方のリュートが必要なんです
彼らの動きを止めてください!
わたしに、必殺の一撃を叩き込めるチャンスを!
鞍馬田・珠沙子
負かした相手の魂を無理矢理従わせるとは随分いい趣味してんじゃん。相手への最低限のリスペクトも守らねーシャバ僧は一発シメんのがケジメってもんでしょ。
カナカナちゃんだっけ?アタシは敵討ちなんてのは柄じゃないからコイツは私が気に入らないからぶっ殺す。アンタはそこで見ててもいいし一緒にぶん殴ってもいいしテン上げな歌うたってくれてもいい。やりたいようにやって。
召喚された勇者の霊に対しては相手の攻撃を形代で防御しつつ近付いて小朱雀で破邪の炎を纏わせながらの【闘魂注入】。
道半ばで散った勇者なら世界を救うっていう未練を果たせるチャンスなんだからわざわざ説得するまでもないでしょ。
そんで一緒にこのクズぶん殴る!!
ノイン・フィーバー
協力等なんでもOK
心情:勇者サン達ですカ。これは助けて気持ちよく天に昇って頂きたいですねェ
初手よりUCを発動
格闘アームに「ヒートプレート・ブレード」を装備し接近戦で
主に敵の視界を塞ぐように動いて、味方が攻撃しやすいようにする
イーヴィルアイはノイン自体は接近戦メインなので不都合なし
ブレス→無機物であるこの機体には無意味ですよォ! え、ワタシ? もちろん、滅茶苦茶効いてますガ何か。
倒した後:
あ、もしヨければ、ひとつ芸を見て頂けまセん? ほら、カナカナサンの曲をバックに一つ! あー、そんな時間はないですカ? 残念。
(言いながら、パチンと指を鳴らすと、多くの花弁が彼らを送るように風に乗って舞うだろう)
ガーネット・グレイローズ
ここが勇者の墓標か。私たちは、群竜大陸に旅立った勇者の伝説を追って、長い旅を続けてきた。感慨深いな。しかし、ここで起きた戦いに思いを馳せるのは後回しだ。
〈第六感〉で勇者カナカナの思念を感じ取れるかな。呪詛を操る竜を倒すため、彼女の助けが欲しい。
【パイロキネシス・α】を発動。サイキックの炎を〈念動力〉で操って攻撃だ。炎を結集し、頭部に叩き込んで〈焼却〉!敵のブレスは、〈戦闘知識〉を活かして対ビーム兵器戦の応用で回避。敵が操る〈呪詛〉の流れも上手く読み取りたい。
落ちている魂晶石…何かに活用できるか?たとえば、宇宙船の補助エンジンに応用したり…。メカたまこEXを飛ばし、〈宝探し〉機能で探させよう。
『忌々シキ、勇者ノ気配――……』
声を発すれば「呪骨竜アンフェール」の首骨に風が通る。
ヒュウヒュウ、ビュウビュウと奈落の底に抜けていく風のような音。
ドラゴンの気は禍々しく呪詛のように、その地を侵食していく。
そこへ数多の気配が降り立った。
「ここが勇者の墓標か」
凛とした声。
奈落にまで続くかのような穴の場に、先を照らすようなガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)の響き。アンフェールは視線を向ける。
『勇者――否……!』
アンフェールは言葉を切った。
ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)の僅かな羽ばたき一つに即応し、地に着けた四肢を回転させた。乗じて振り回された尾が黒翼の盾を打ち、硬質な音が勇者の墓標に響き渡る。
「はあっ!」
一旦、再び空へと打ち上げられたソラスティベルはそのまま大斧を落とすように振るい、自回転を促した。落下速度と遠心を乗せ回転斬りを放つ。
ガキンッ! と、骨と骨の間に喰いこませ、斧刃とソラスティベルを振り払うアンフェール。
その時、呪骨竜の視界を遮るようにサイキックエナジーの炎が駆けた。ガーネットだ。赤々と、煌々と輝く炎が一つ一つが意志を持つように舞い、踊り――そして一気に集束させドラゴンの頭部へと叩きつけられる。
『小賢シイ!!』
アンフェールの呪詛を籠めたブレスが叫びと共に吐き出されるも、ガーネットは炎を操り威力を削ぐ。弧を描きぐるぐると駆ける炎と、ブレスを引きつけるべく走り出したガーネット。彼女の動きは、接近する二人のためにあった。
「はい、到着ですヨ!」
宇宙バイク・ブーストスライガーに騎乗するノイン・フィーバー(テレビ顔のメカ野郎・f03434)がアンフェールの眼前へと。その後部座席には鞍馬田・珠沙子(SUTEGORO☆ONMYOJI・f26157)が。
周囲への注意が疎かになってしまったドラゴンの近すぎる間合いへと入ってきたノインとヒートプレート・ブレードに、アンフェールの視界は遮られてしまう。
『邪魔ダ!』
ガーネットへと放たれていたはずのブレスを阻害するノイン。ヒートプレート・ブレードで一撃を叩きこむ。
「フフフ。無機物であるブーストスライガーにその攻撃が効くとお思いですカ?」
「ノイン!」
「それはそれとして、ワタシ自身には滅茶苦茶効きますけどモ!!」
「ノイーーン!?」
そこそこ悲痛っぽいガーネットの叫び。
――まあそれも目くらましに次ぐ、目くらましのようなもので。
ノインが宇宙バイクを駆り、一気にアンフェールの頭上へと上がった。
「さあ、珠沙子サン!」
ノインの声と共に宇宙バイクから飛び降りた珠沙子――落ちる彼女に向かって召喚された勇者たちの霊が襲い掛かってくる。
懐から形代を撒いた珠沙子はその神の人形を繰り、勇者たちの攻撃を防ぐ。
珠沙子の目が据わった。握りこんだ小朱雀に霊力が注がれ、破邪の炎が噴き出した。
「このっ、クズが!!!」
珠沙子が振りかぶる。
呪骨竜アンフェールの顔部に気合いの一撃――ちなみに拳だった――が繰り出され、その衝撃にガタガタとアンフェールの全骨が揺れた。
千鳥足の如く、一歩二歩の後退。
だんっ! と着地した珠沙子は仁王立ちに。
「負かした相手の魂を無理矢理従わせるとは随分いい趣味してんじゃん。相手への最低限のリスペクトも守らねーシャバ僧は一発シメんのがケジメってもんでしょ!」
あぁん? という風に睨みつける珠沙子。
「ってコトで、カナカナちゃん!」
びくっと震える気配を確かに感じた。
「あっちだ」
既に第六感で勇者・カナカナの気配を掴んでいたガーネットが、指差す。
召喚された勇者たちを抑えるソラスティベルもまた声を張った。
「フェアリーの勇者さん! 聞こえますか!」
高く、高く、昔も今も、変わらぬ空へと響く声。
「古の勇者がこのように操られるのを見るのは、わたしも辛いです! ――貴方も、救いたいのですよね……皆さんにまた、故郷を見せてあげたいですよね」
「故郷の空は、青い――それは、今も、昔も、変わらずに。貴女たちが守ったから」
ベール・ヌイ(桃から産まれぬ狐姫・f07989)が言葉と共に無音鈴を振るえば、中の玉が無く音の鳴らないはず鈴が鳴る。
鈴を奏で、優しげで、でも楽しげな、そんな舞を披露するベール。
「貴女の歌は、素敵で、それで踊れたら、きっと楽しいと思う」
彼女のステップに呼応する鈴の音色。
「でも、楽しく踊るには、邪魔なドラゴンがいるから……」
音が足りない、とベールは言う。
アンフェールの攻撃は、最前線で戦うノインと珠沙子を傷つけていく。容赦のない攻撃は確かに殺すためのもの。
新たな勇ましき者を囚うこともできるだろう――。
「どうか、力を貸して……囚われた魂も、もう寝かせてあげたいから……」
『あたしにも戦う力があるのかな』
精霊を失ってしまった杖を持ち、残留思念となったカナカナがベールの言葉を受けて姿を現わす。
「貴方のリュートが必要なんですよ」
土属性の魔法を使い、ソラスティベルの足元を崩す勇者の攻撃。タンッと跳んだソラスティベルはカナカナを励ますように。
彼女の言葉に、そしてベールの軽やかな鈴の音に促され、一弦を弾くカナカナ。
『ハ! ハハハハハハハ!! 弱キ勇者ニ何ガ出来ルト、イウノカ!!』
『……! あたし、は』
アンフェールの哄笑。
一緒にいたはずのカナカナはアンフェールに囚われなかった。何故か。彼女自身は何の力も無かったからだ。
ドン! と上空で爆破音。
「それは違いますヨ」
ノイズ混じりのノインの声が落ちてくる。彼は魂を縛る呪詛の鎖を利用し、爆破されながらもアンフェールを一時的に繋ぎ止めている。
「芸はヒトの心へ働きかけるもの――そうでショウ?」
「貴方の音には力があります。それは前へ、前へと進む勇気を心に宿す音なんです」
ノインとソラスティベルの言葉に、一音、また一音。
――!
とろりとした、あたたかなリュートの音が、召喚された勇者の動きを止めた。
「……皆さん、少々我慢してくださいね。貴方たちを元に戻すために――全力でぶっ飛ばさせていただきます!!」
サンダラーに蒼の雷気を纏わせ、ソラスティベルが駆ける。
「カナカナちゃん、アタシは敵討ちなんてのは柄じゃないけど、コイツは私が気に入らないからぶっ殺す」
大きなドラゴンの動き一つ、避けるだけでも大変だ。珠沙子は息を切らし、それでも拳を叩きつけながらカナカナへと言う。
「アンタはそこで見ててもいいし、一緒にぶん殴ってもいいし、テン上げな歌うたってくれてもいい」
やりたいようにやって、と珠沙子はカナカナに背中を見せたまま戦い続ける。
音が連なれば音楽となる。
虚空を翔る蒼雷がアンフェールへと迫った。
「これぞ我が勇気の証明、至る戦火の最前線! ――今こそ応えて、蒼雷の竜よ!!」
蒼き雷気を纏う大戦斧の一閃。大威力の一撃が轟くも――不思議と楽の音色は裂かれることなく、猟兵たちの耳へと変わらず届く。
「大罪の内、怠惰の悪魔ベルフェゴールの名を借りて命ず」
ベールが何かを守るように、カナカナの音に添い詠唱をしていた。
「我が肉を喰らいて現われろ。汝は死より再生せし不死たる悪魔なり」
『アアアァァ忌々シキ! 忌々シキ!!!』
アンフェールが呪詛を籠めたブレスを辺りへと吐き出した。
――何故死なねばならなかったのか。
――恐ろしい地に向かわねばならなかったのか。
「残留思念の勇者たちの声……か」
ガーネットの呟き。
僅かな恐れを増大させ縛る呪詛が、勇者たちを囚う。
そんな呪詛の力から『彼ら』を守るのは、ベールだ。
「怠惰の悪魔より、命令する、囚われの魂に怠惰たる、安らぎを……眠りを……」
癒やしの炎は猟兵と勇者の魂を癒し、地獄の炎がアンフェールと呪詛の力を灼く。
それをより効率的に、ガーネットのサイキックエナジーの炎が導く。
「私たちは、群竜大陸に旅立った勇者の伝説を追って、長い旅を続けてきたんだ。そうして、この場に辿り着いた――」
感慨深く、カナカナが奏でる音と同じどこかとろりとした穏やかな声でガーネットが語りかける。
『旅。あたしたちの、足跡を追って……』
カナカナの爪弾く弦へ落とす目は、どこか遠くを見つめるものとなる。
誰かのための旅だった。
時流れ、未来の誰かのための旅だった。
墓標の上に広がる空は今も青い。
リュートの旋律は、誰かのふるさとのものへ――。
大成功
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神城・瞬
あ、ピエリスの杖を持ってるんですね。ウィニアさんが持っていて、大事に植えて育てた。精霊が見えるって事は僕の同志ですかね。僕もフルートを吹きますから、ぜひカナカナさんのリュートと合奏したい。囚われた魂、ぜひ解放して差し上げたい。
カナカナさんに会ったら精霊のフルートを取り出して、【楽器演奏】一緒に奏でないかとお誘いします。カナカナさんと音楽で繋いだ絆で、【オーラ防御】を併用して、魂を浸食するブレスにも耐え、【高速詠唱】【全力魔法】【魔力溜め】【多重詠唱】を併せた氷晶の矢で攻撃します。矢には【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】も乗せますね。
水貝・雁之助
故郷の歌かあ
そういうの本当癒されるし聞いてて嬉しいよね
僕も永久、義娘の遺した竜笛は大好きだし
竪穴という『地形を利用』し掘り易い箇所を『見切り』『トンネル堀り』で簡単な移動経路作成
其れを用いて移動したり岸壁等を盾にしながら敵の注意を引く為に囮になる
囮として目立つという意味合いの他にカナカナに絶対に帝竜達を倒すと勇者達の魂を故郷に返すという思いを伝える意味も兼ねて最愛の義娘の遺した竜笛による『楽器演奏』
其の隙に事前に呼び出した悉平太郎に竪穴という『地形を利用』し足場に使える突き出た岩を『見切り』跳躍しつつ上から奇襲
竜の巨体を『地形』に見立て『敵(自身の体)を盾にする』様にしつつ攻撃を繰り出し続ける
鈴木・志乃
UCは開幕でとりあえず発動
私も聞きたいな、カナカナさんの歌
あ、ごめんなさい。竜が起きちゃったの多分私達のせい。
またこいつらが悪さしようとしてるからさ、それを退治しに来た。
あとここで囚われてしまった勇者を、助けに来た。。
凄く素敵な奏者さんだったと伺ってます
良ければ貴方の歌を聞かせてもらえませんか。私、音楽大好きなんです。良ければ一緒に歌わせてもらえると、もっと嬉しい。
それでこの一帯の呪詛を、みんな祓いたいんです。
いきなりでごめんなさい。でも、私は貴方に引き受けて欲しい。
歌は私が合わせますから。
アド連歓迎
祈りと破魔を籠めた全力魔法の歌唱で
一切合切をなぎ払います!
クロス・シュバルツ
連携、アドリブ可
死者の魂を捕らえるドラゴン、か……随分と悪趣味な事です
この先に進むため、そして彼らの魂を開放する為に戦おう
あなたも、力を貸して欲しい
召喚された勇者の霊とは戦いたくないと思うけれど、そんな事を言える状況ではなし
それに、彼らにとっても不本意な状況だろうから……すみませんが討たせてもらいます
【闇夜の翼】を発動、闇を纏い飛翔状態へ
勇者の霊に対しては機動力を活かして掻き乱し、竜への道を阻む者を黒剣で攻撃
竜に対しては鎖を搦める事で機動力を削ぎ、黒剣で『鎧無視攻撃』『串刺し』『部位破壊』などで攻撃、翼の破壊を狙う
攻撃は『第六感』による回避、『オーラ防御』『激痛耐性』などで防御
ウィノラ・シュレミール
勇敢に戦った勇者達は、竜の呪いで故郷へと帰れない……
それは間違いなく悲劇です
ならば救ってみせましょう、素敵な勇者さんと共に!
まずはカナカナさんに挨拶を
私はウィノラと申します
一緒にいるのはレヒトにリンク
この子達と人形劇をしているのですよ
戦場であってもその気概に変わりはありません
良ければカナカナさんのリュートを聞かせていただけませんか?
それに合わせて戦ってみたいのです
演奏に合わせて、人形劇の【演劇】の技術で人形達を手繰ります
レヒトには鋏、リンクにはダガーを持たせ
空を飛びながら戦いましょう
目が合うのはよろしくないですね
相手の背面に回ることを意識しつつ攻撃していきます
皆様の魂は解放させてもらいますよ!
聴いたことのある旋律だったのだろう。
出てきたカナカナの音色は、召喚された勇者たちの動きを鈍くする。
「ごめんなさい。竜が起きちゃったの、多分私たちのせいです」
神光を纏い、カナカナの隣に立った鈴木・志乃(代行者・f12101)が言った。
カナカナは彼女を見上げ、目を瞬かせた。
『――またヴァルギリオスが悪さをしようとしているんだね』
カナカナの言葉にこくりと頷く志乃。
「あと、私たちはここで囚われてしまった勇者を助けに来ました。あのドラゴンを倒せば、解放されるって聞いて」
「死者の魂を捕らえるドラゴン、か……随分と悪趣味な事です」
クロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)が呟き、先陣を切った猟兵たちと戦う呪骨竜アンフェールを見据える。
「この先に進むため、そして彼らの魂を開放する為に戦おう――カナカナさん、あなたにも、力を貸して欲しいのです」
クロスの言葉に、カナカナは分かりやすく眉を八の字にした。
『でも、あたし……あたし自身には本当になんの力もないの』
力ある杖を携えていた。それだけだ。勇者として脆弱だからカナカナは他の勇者と違い、アンフェールに捨て置かれ囚われることはなかった。
「そうかなぁ、今奏でている誰かの故郷の音、そういうの本当に癒されるし聞いてて嬉しいと思うよ」
ほら、と示しながら水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)がのんびりとした口調で言う。
生前のカナカナがいた勇者一行。アンフェールが召喚した彼らの動きは鈍い。
「霊魂が反応している証拠だよ」
優しく、柔らかく、雁之助がカナカナへと声掛ける。
「カナカナさん」
神城・瞬(清光の月・f06558)は視線を合わせながら、銀製のフルートを手にした。示すように掲げて。
「一緒に奏でませんか?」
アンフェール周辺の呪詛は強い。勇者たちが抱えていた僅かな恐れを増幅させ、奈落へと引きずり込むような闇の気配。
それに打ち勝ち、払うのは心の強さであろう。
「一人より二人、二人より三人。音を重ねればきっとドラゴンの動きを阻害する力が生まれるはずです」
「私も、一緒に歌わせてください」
志乃がそっと手を挙げた。
「そしてカナカナさんも一緒に歌いませんか? 私、貴方の歌を聴いてみたい。音楽が大好きなんです――それでこの一帯の呪詛を、みんな祓いたいんです」
彼女の言葉に、僅かに目を輝かせ始めたカナカナ。瞬は微笑み、精霊のフルートを吹く。澄んだ音が一つ。新しい楽器の音に、ここにきて初めてカナカナは笑顔を見せた。
『楽しく合奏すれば、皆、強くなれるかな? なら、あたし、弾くよ!』
「これはこれは、素敵なセッションとなりそうです!」
見た目がちょっと不気味なぬいぐるみを抱えたウィノラ・シュレミール(天蓋花の人形劇・f26014)は、その場でくるりと回ってみせた。
「はじめまして、カナカナさん。私はウィノラと申します」
どこか演じるようにお辞儀をするウィノラは、ぬいぐるみ二体をそれぞれ掲げるように動かした。
「一緒にいるのはレヒトにリンク。この子達と人形劇をしているのですよ。
私も仲間に入れてくださいな。楽しい劇を披露してみせましょう!」
『それじゃあ、初めての人も歌って踊れる、花祭りの曲を!』
選ぶ曲は簡単な旋律の繰り返し。軽快で華やかなテンポの曲が奏でられる――。
『グオオオオオオオ!!!』
かつての戦いの一幕が再現されようとしていた――否、今ここにいる猟兵たちはかつての勇者たちを上回る者ばかり。
クロスは自身を蝕む闇のオーラを纏い、空を駆けた。
飛翔するアンフェールが咆哮を放ち威嚇する。同時に召喚される新たな勇者の霊。
ぐんっと首を振り回すアンフェールへと繋いだ罪茨が、クロスを更なる高さの空へと引き上げた。
(「召喚された勇者の霊とは戦いたくないと思うけれど、そんな事を言える状況ではなし――」)
反動に半ば振り回される形となったクロスへ迫る勇者の凶刃。
――すまない!! ――そんな声が聞こえた気がした。
黒羽を大鎌へと変化させたクロスは長柄を振るい、刃を絡めとるように。捻り、払うように霊を叩く。
落ちていく勇者の霊を包みこむは、あたたかな音楽であった。陽のような輝きであった。
カナカナの歌声と調和する志乃の歌声。祈りと破魔の力が、少しずつ囚う呪詛と恐れを払い、そして彼女自身が取り込んでいく――呪いの作用が反転していく。
呪骨竜の翼目掛け、クロスは刃を振るった。
『奈落ニ落チロ! 脆弱ナモノタチヨ!』
アンフェールの呪詛を籠めたブレスが周囲をなぎ払い、新たな侵食を起こした。
ブレスの向く先はカナカナにも。
「させませんよ」
瞬の放つ魔力に応じて氷塊が出現し、盾のようにブレスを弾く。そのまま氷塊は花開くように、氷晶の矢が放たれアンフェールの翼膜や眼窩を射貫く。
「僕も一曲~!」
花祭りの楽に彩りを与えるは雁之助の龍笛による即興演奏。ぴょんぴょんと岩場を駆け、岸壁から突き出した岩へ飛び移ったりしながらアンフェールの意識を散らし囮役をしている。
竪穴に木霊する龍笛の音は、アンフェールの骨を軋ませているようだ。堪らないといったように翼を広げ暴れはじめる呪骨竜。
その時、たしたしっ、たしんっと大地を弾くように猿神殺しの柴犬が高く鋭く跳躍した。
「悪逆を為せし非道の猿神を討ち滅ぼせし悉平太郎! いっけぇ!」
がうううっ! と噛みつき、牙で攻撃する猿神殺しの柴犬。翼骨に喰らいついた悉平太郎の攻撃とクロスの剣が片翼を破壊せんとする。
パン! と手を打つウィノラ。すると、レヒトが鋏を、リンクがダガーをかち合わせ音を立てた。
「勇敢に戦った勇者達は、竜の呪いで故郷へと帰れない……それは間違いなく悲劇です。ならば救ってみせましょう、素敵な勇者さんと共に!」
手にした刃物で、片翼膜を切り裂くレヒトとリンク。
シャキン、シャキン、ザクッと軽快な花祭りのテンポに合わせて刃音。
「呪詛を断ちましょう♪ はなれたココロを繋ぎましょう♪」
ウィノラが繰り演じるぬいぐるみの動きも、奏でられる音楽も、悉平太郎の軽い跳躍も未来へ飛翔を導くもの。
「うん、ここは音の響く会場だね。この調子で悪い竜を圧倒しようね」
空へ空へ、抜けていく音。竪穴の周りを掘ってあちこちから顔を出す雁之助が、聴こえ続けている演奏ににっこりとした。
掘った穴にヒュゥッと抜けるは奈落へ導く風音ではなく、ふるさとの大地へと導く音色。
(「聴こえますか」)
瞬はカナカナが背負う『ピエリスの杖』を見て、心の中で語りかけた。
奏でる曲は、杖が生まれた地のもので勇者の伝承を調べていた時に知った曲の一つ。
(「ウィニアさんと共に聴いたことがあるでしょう?」)
数多の命が散り、眠る勇者の墓標。
「これは――」
黒剣を振るうクロスが気付く。
この地にある魂晶石の力が彼らに呼応するのだろうか――繰り出す一撃がより鋭くなった、そんな手応えを感じたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
音楽はどの世界でも心を動かすものがあります
カナカナ殿もきっと美しい演奏をするのでしょうね
ずっと此処に居ようとも時は流れ、世の中も変わる
彼等が旅をしてきた世界を見せてあげる為にも解放しましょう
カナカナ殿、私達も貴女と想いは同じです
攻撃は基本破魔の力を付与させた刃にて
召喚された勇者には抜刀術『陣風』を使用
2回攻撃となぎ払いにて広範囲に攻撃
倫太郎殿の拘束術で拘束された敵を優先
勇者の霊を振り払った後、早業の鎧無視攻撃で竜を攻撃
隙を見てなぎ払いを併せ翼を斬り落とす
魂は軈て、生まれ変わるのならば
また旅も出来ましょう
此処で眠るよりも、心が躍りませんか?
倫太郎殿の頼みとならば、私はいつでもお供しますよ
篝・倫太郎
【華禱】
破魔と守りを施す杖
精霊に愛された彼女の……ウィニアの杖――
それを受け継いだカナカナ
彼女の演奏に心を癒した勇者達
その魂
それを束縛なんて冗談じゃねぇ
手を貸すぜ
あんたが慰めてきた魂
ここで自由にしてやろうぜ
拘束術使用
敵が圏内なのを確認したら先制攻撃と拘束
同時に破魔と鎧砕きを乗せた華焔刀でなぎ払い
刃先返して2回攻撃
ふざけてんじゃねぇぞ
勇者の魂を愚弄するのもいい加減にしやがれ
その魂は、てめぇ如きがどうこうしていいモンじゃねぇ
夜彦とカナカナが動き易いよう
派手に立ち回って陽動
仕掛ける好機を作るのが俺の仕事
夜彦、付き合ってくれてありがと
一方的とは言え知ってる勇者が関わるなら
見届けたかったから、ありがとな
カナカナ自身には何の力も無い。
けれども、彼女が紡ぐ音楽は呪骨竜アンフェールが召喚した勇者たちの動きを阻害している。
紡ぎは花祭りの曲から、子守唄へ。
『♪』
月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)が耳にした穏やかな音色は、ここが戦場でなければ聴き入っていたいほどであった。
柔らかな弦から多彩な音が次々に弾かれて、まさしく音の色。
「美しい音色ですね。――音楽はどの世界でも心を動かすものがあります」
『あ、ありがとうおにいさん。う、美しい音って言われたのは初めてかなぁ』
照れたように、カナカナが言う。
「恐らくですが、たくさん弾いた曲なのでしょう?」
一人になってから。
含まれた言葉に気付き、明らかに練度の違う曲を奏でながらカナカナは頷いた。
『みんな聴こえてたかなぁ』
――今の彼らに応える術はない。呟くカナカナの背には白い花が咲く杖が――今は空っぽのピエリスの杖。
「それがウィニアさんの杖か」
篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)の言葉に、カナカナはパッと顔を上げた。知っているの、という表情に倫太郎は頷いて見せる。
伝承を巡る旅路にて、魂のウィニアに会っていた彼は老婦人の面影を思い描く。
破魔と守りの杖。
(「それを受け継いだカナカナ、彼女の演奏に心を癒した勇者たち――その魂」)
それを束縛なんて冗談じゃねぇ。
「あんたが慰めてきた魂、ここで自由にしてやろうぜ」
『ココハ墓標――数多ノ勇者ガイル場所――』
アンフェールが新たな呪詛を行えば、奈落へと引きずり込むような闇の気配。
舌打ちした倫太郎が呪詛の侵食を喰い止めるべく、広範に災いを縛る見えない鎖を放つ。
アンフェールの骨体を縛る鎖を引き、一気に接敵する倫太郎。
『ハ! 勇者タチヨ! 猟兵ドモヲ殺セ! 呪エ!』
アンフェールの声に応じ、操られるように我が身に刃を立てた勇者の一人から呪詛が広がった。魔属性の攻撃。
「ふざけてんじゃねぇぞ――勇者の魂を愚弄するのもいい加減にしやがれ!」
破魔の力を宿した華焔刀を振るえば、長柄に描かれた焔も舞い踊るように。呪骨竜と刃がかち合い硬質な音を立てる。
柄の端を弾くように、刃先返した倫太郎が再度踏みこんでのなぎ払い。
「その魂は、てめぇ如きがどうこうしていいモンじゃねぇ」
カナカナの曲に、一瞬だけ止まる勇者たちの霊。その隙を夜彦は逃さない。
一気に彼我の距離をつめ、霊たちの胴を蒼銀が駆け抜けた。霞瑞刀、嵐の破魔の力が霊体を祓っていく。
「ずっと此処に居ようとも時は流れ、世の中も変わる」
同じ色の空が続いても、流れる雲はひと時として同じ時はなく。
(「彼等が旅をしてきた世界を見せてあげる為にも、解放しましょう」)
カナカナの紡ぐ旋律が変わる。風の町に伝わる葬送曲が、奈落へと続くような竪穴から空へと向かって行った。
「魂は軈て、生まれ変わるのならば、また旅も出来ましょう」
此処で眠るよりも、心が躍りませんか? ――曇り無き夜彦の刃は勇者の霊を導くように。
斬り上げた倫太郎の薙刀が、大振りを描く。ドラゴンの巨躯は少しずつ長柄の動きにつられ大きなものへとなっていった。戦の最中、それは舞いの如く。
大振りな動きの隙間に見出される斬線。刀を振るい、勇者とドラゴンの足回りを相手にしていた夜彦が斬り上げる。
『ガアアアァァ!?』
骨の砕ける大きな音。アンフェールがぐるり回転し、大地を叩く。次いで落ちる片翼。
夜彦のなぎ払いがドラゴンの片翼を切り落としたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジル・クリスティ
【恋華荘】
私は、気が付いたら宇宙にいて、この世界は知らないフェアリーだけど
それでもフェアリーなのだから、きっと最初はこの世界のどこかで生まれたんだと思う
だから…フェアリーが歌う故郷の歌、私はとても聞きたい
私にそんな記憶はないけれど、同じフェアリーとして君の分も戦うから
君の歌が聞きたい
理緒は、あの杖のこと知っているの?
だったら、そんな理緒の想いも私は守る
カナカナの想いも、理緒の心も、私の【Hyper Mega Buster】にのせて!
囚われた魂もこの一撃で全部解放してあげる!
これが私の故郷の、この世界にはない力!
邪悪な竜よ、消え去れぇぇ!
…魂晶石、見つかるかな?
私はいらないから、理緒が持つといい
菫宮・理緒
どこかで見たことのある杖……だね。
わたしが知っているのと同じものなら、それは想いの杖。
これはしっかりお手伝いしないといけないかな!
さ、カナカナさん、みんなの想いを紡ぎに行こう。
カナカナさんは、思いっきり歌ってね!
カナカナさんの歌は、みんなをとっても勇気づけてくれるし、
とってもたくさん力をくれるよ!
わたしは【等価具現】で防御して、
ジルさんが【Hyper Mega Buster】発射する時間を稼ぐよ。
そして魂を解放したら、
カナカナさんは歌でみんなを故郷へ帰してあげて欲しいな。
魂晶石、カナカナさんだけじゃなくて、
ウィニアさんの魂も入ってたりするのかな?
もしそうなら、大事にお守りにしたいなぁ……。
ジル・クリスティ(宇宙駆ける白銀の閃光・f26740)は、自身よりも少し身長の高いカナカナを見つめる。
残留思念のカナカナは、きょとりと目を瞬かせた。
『こんにちは』
「――こんにちは」
ジルと似たような翅。体のパーツも同じくらいの大きさ。
「はじめまして、カナカナさん」
どこか懐かしそうに、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)はカナカナを――そして杖を見て挨拶をした。
「それ、ウィニアさんが託してくれた杖……だよね?」
『ウィニアのおばあちゃんを知っているの?』
笑顔になるカナカナに、理緒もまた笑顔を返した。
「想いの杖だよね。そしてカナカナさんはみんなの想いを紡いでくれる――素敵な演奏だね」
緩やかなテンポの曲を爪弾きながらカナカナはどこか照れたように笑う。
『でも、あたし自身には何の力もないんだけどね』
呪骨竜アンフェールはカナカナを捨て置き、囚わなかった。それは彼女も知るところで――けれどもそんなことはないと理緒は首を振る。
「カナカナさんの歌は、みんなをとっても勇気づけてくれるし、とってもたくさん力をくれるよ!
――ほら、今弾いている曲も、ウィニアさんが教えてくれたものだよね?」
いつしか訪れた町で理緒はこの音色を耳にしたことがあった――きっと、ウィニアに教えてもらったのだ。
カナカナは頷く。
「きっとね、杖の精霊にも届いているよ。だから、あなたはこのまま思いっきり弾いて、歌っていて」
理緒とカナカナの会話を聞きながら、ジルの胸はどきどきとした。翅を動かしひらり舞う。
「カナカナ。私は、気が付いたら宇宙にいて、この世界のことを知らないフェアリーだけど」
今ある思いを伝えたい。ジルは言葉を少しずつ紡ぐ。
「それでもフェアリーなのだから、きっと最初はこの世界のどこかで生まれたんだと思う」
ふるさとの、おと。
柔らかな弦の音色に触れたジルの言葉に、カナカナは大きく目を見開いた。
「だから……フェアリーが歌う故郷の歌、私はとても聞きたい」
そっと手を掲げたカナカナは、そのままジルの頭に触れるように。感触は無かったけれども――。
「私にそんな記憶はないけれど、同じフェアリーとして君の分も戦うから――君の歌が聞きたい」
『それじゃあ、フェアリーの間で伝わる曲を、歌を、奏でるね』
この一曲は、あなたのために。
それは生まれたばかりのフェアリーへに向けた子守唄だった。
――涼しい風を受けて飛び、緑の大地でたくさん遊んで、花蜜を集めて、時々羊の背に乗ってゆらゆら散歩。
仲間の猟兵たちが施した術は、小さなカナカナの歌を遠くまで届ける。
――光を受ける翅はキラキラと。虹の跡を残し。
『苛立タシイ歌ダ……!』
呪詛を籠めたブレスで一帯をなぎ払わんとする呪骨竜アンフェール。奈落へと誘う呪詛に対し、
「同位、検索……具現化シークエンス起動――!」
呪詛を分析し、相殺するためのユーベルコードを理緒が展開する。闇の呪いに対するは、光の祝福。
『虫も、風も、ねむる夜。わたしもあなたも、月のヴェールに包まれて、すやすや、すやすや――おやすみなさい』
ふるさとの歌だ。カナカナの発音は不思議と耳に馴染み、いつもクールなジルの胸は熱くなった。
(「カナカナの想いも、あの杖のことを知ってこの戦いに挑んだ理緒の想いも」)
「守りたい。ううん、守る」
想いの強さは、心の強さ。
ロングレンジライフルモード変形し、バレル展開。
ジルの大口径荷電粒子砲が着々と準備を整えてゆく。エネルギーを充填し、ハイパー・メガ・バスターの最終セーフティーが解除され――砲口を狙い定めるジル。
「これが私の故郷の、この世界にはない力! 邪悪な竜へ、鉄槌を!」
『――!!』
ジルの声と共に、荷電粒子砲の一撃が放たれる。極大出力の粒子砲が呪縛に染まる磁場をもなぎ払うように、アンフェールへと叩きつけられた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
死者の魂を冒涜するのは許さない
安らかな眠りのために戦おう
それはピエリスの杖?
伝説を追って調査したことがあるから知ってるネ
縁が結べてうれしいよ
僕らはあの竜を倒しに来た
長く側にいたキミなら弱点などわかるだろうか?
カナカナと作戦会議をする
なるほど硬い敵ならこれがちょうどいいでしょ
とSilverBulletを準備
僕は遠距離から弱点を狙って狙撃する
ソヨゴは敵の近くで動きを止めて
カナカナさんが出来ることを聞いて補助を頼む
会議で決まった通りに戦闘する
寝起きのドラゴンにはきついお仕置きだネ!
弱点に向けて一撃
魂を解放したら目に見えるのだろうか
安らかに天に召されますよう
十字架を手繰り祈りを捧げる
城島・冬青
【橙翠】
魂の束縛なんて誰にも許されませんよ!
ギッタギタにぶっ倒してやります
しかしカナカナさんの持ってる杖ですが
どこかで見たような…
どこだっけ…?
それですアヤネさん!ピエリスの杖!
ではウィニアさんという方をご存知でしょうか?
2人の作戦会議にふんふん頷き
作戦了解
バッチリ足止めしますよ
UC夜歩くで加速上昇!
素早い動きで翻弄しつつこちらに注意を惹きつける
召喚された魂を囚われた勇者の姿には心が痛む
このぉ…死者を冒涜するなぁ!!
渾身の力を込めて衝撃波を放つ
戦闘後はカナカナさんに感謝を
魂晶石を入手できたら…
先日の竜胆石もあるし、どうしよう…
あ!換金して戦争で傷ついたこの世界のために使うってのはどうですかね?
泉宮・瑠碧
…そうですか
あの杖は此処へ辿り着き
…頑張っていたのですね
カナカナは、初めまして
ドリュアスと共に…私達の世界を守ってくれて、ありがとう
杖と託した想いを、受け取ってくれた事も
呪骨竜にも理由があれど
勇者の方々は解放します…ごめんなさい
私はリラを手に郷愁総奏
届くブレスは風の精霊で散らし
破魔も乗せて、呪詛を弾く様…
カナカナも誘い一緒に歌いましょう、様々な故郷の歌を
…これまでの歌もきっと、囚われた勇者達に届いていると
ドリュアス、お疲れ様…ウィニアや家族が、故郷で待っていますよ
カナカナの魂も、彼の地へ行ってみては
杖と想いを受け取った君も、彼らの家族だから
他の勇者達も…呪骨竜も、お疲れ様
勇者達へはありがとうも
シリン・カービン
かつてピエリスを宿した杖に目を細めます。
ウィニアが杖を託したフェアリー
きっとこの子の歌は多くの命を守ったのでしょう。
「カナカナ、勇者達を目覚めさせましょう。あなたなら出来る」
風の精霊に願い、カナカナの歌を竪穴中に響き渡らせ、
囚われた勇者の魂を呼び覚まします。共に戦おうと。
カナカナの歌は邪魔させない。
彼女を狙うブレスは身を以て防ぎます。
魂を削る攻撃であっても心が強ければ、
さほど効くものではありません。
まして、今は彼女の歌が励ましてくれている。
「勇者の魂よ、我が声に応えよ」
【スピリット・ブレッシング】で
勇者達の魂を精霊弾に招き入れます。
(ピエリス、行きますよ)
あいつを狩ってウィニアと帰りましょう。
鈍・小太刀
アナタがカナカナ、かな?かな?(さらっと親父ギャグ
ごめん、穴があったら入りたく…って、ここ竪穴だったわね(目逸らし
緊張解し共闘申し込む
想いはきっと一緒だから
光る鯨泳ぐ海色の【オーラ防御】を展開し
カナカナの杖に触れさせて貰いUC発動
ウィニアを呼ぶよ
約束したもんね連れて来るって
そして紡ぐのは
【呪詛耐性】と【破魔】の力を込めた『コイの謳』
杖とウィニアとカナカナと
3人の勇者の物語
迎えに来たよ
一緒に帰ろう
アナタ達の故郷へ
ピエリスと勿忘草の花吹雪と共に
呪詛の鎖を断ち切るよ
魂晶石あれば連れて帰りたい
囚われていた勇者達それぞれの故郷を巡り歩こう
あのピエリスの木の下へ
そしてカナカナの故郷へも
どんな国か楽しみだね
クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
『勇者の墓標』話には聞いていましたが、すごい竪穴ですね。
群竜大陸の中でも、ここを目指して来た人は、
多いのでは無いでしょうか。
カナカナさんはバードですか。ウィニアさんの杖もそうですが、大きい楽器ですね。
……。数ある勇者たちの中でも鎮魂の歌を歌える彼女だけが残されたのは、何かの縁なのかも知れませんね。
【役割:メイン盾(呪詛耐性)】
前衛に立って雷の矢を撃ち込みます。痺れは飛行に差し支えるでしょう。
音と光を強めにして、なるべく敵の注目を引き付けるようなタイミングで撃ちます。
本格的な反撃は味方の猟兵やカナカナさんの支援と同時になります。それまで一発でも多くミアズマブレスを引き受けます。
先に到着した猟兵たちの言葉や踊りを受けて、姿を現したカナカナ。
泉宮・瑠碧(月白・f04280)たちが勇者の墓標へと辿り着いた時、ここは既に戦場であったのに、カナカナは不思議とよく通る音をリュートで奏でていた。
「アナタがカナカナ、かな? かな?」
カナカナと呼んだ名の発音を再び上げて下げて、繰り返す鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)。――さらっと親父ギャグ――まあいつものことであるのだが。
「小太刀」
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)が「しょうがないですね」というどこか保護者のような声色で小太刀を呼ぶ。
「ごめん、穴があったら入りたく……って、ここ竪穴だったわね」
「ええと、奈落へは入っていけそうですよね……滑りに滑って奈落の底へ」
真っ逆さま。
竪穴を覗きこみながらのクララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)の言葉に「ひえっ」と背筋を伸ばす小太刀。戦闘音とは別に、ビュオォォォォと凄まじい風の音が竪穴に響き渡った。
「凄いタイミングだネ」
「コントですかね?」
アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)と城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)の実況解説のようなツッコミのような声。
『くっ、あっはははは、おねえさんたち、面白いね!』
カナカナが笑うとびよんと弦の音が外れて、フェアリーの少女は『やばば』とリュートを抱え直した。彼女たちの会話に、どこか気の抜けたような表情を初めて見せている。
爪弾くリュート。そしてカナカナが背負っているのは、白い花が咲く木杖。
その白い花を目にして、冬青は首を傾げた。
「この花、どこかで見たような……どこだっけ……?」
「カナカナ。それはピエリスの杖?」
「あっ、それですそれです、アヤネさん! カナカナさん、ウィニアさんという方をご存知でしょうか?」
『ウィニアのおばあちゃんを知っているの?』
疑問から疑問へ、くるくると変化していく話題だが集う女子たちは皆ついていく。
「ウィニアの伝説を追って調査したことがあるから、彼女のことは知ってるネ」
縁が結べてうれしいよ、とアヤネ。
そっと握手をするように、瑠碧が手を差し伸べた。ふと演奏が止まり、カナカナが思わずといったように手を差し出す。重なる手――実際に触れあうことは無かったけれども。
「カナカナは、初めまして。ドリュアスと共に……私達の世界を守ってくれて、ありがとう」
杖と託した想いを、受け取ってくれた事も――そう瑠碧が言う。
勇者としての力は無く、カナカナは囚われることなく呪骨竜アンフェールに捨て置かれた。
けれども勇者たちと共に歩んできた彼女もまた勇者なのだと、態度で言葉で示してきた猟兵たち。
実際その通りなのだろう。彼女が再び弾き始めたリュートと杖を見たシリンは柔らかに目を細めた。
(「ウィニアが杖を託したフェアリー。きっとこの子の歌は多くの命を守ったのでしょう」)
冒険を助ける「旅の導き手」――そんな性質を持つフェアリー。きっと彼女にも力があったはずだ。
「カナカナ、勇者達を目覚めさせましょう。あなたなら出来る」
アンフェールに囚われ操られている、召喚された勇者たちの霊は現状、時折、小さなカナカナの音楽に動きを阻害され――猟兵に祓われ、倒されていく。
シリンは風の精霊に願い、カナカナの歌を竪穴中に響き渡らせた。
仲間の呪詛祓いの力がその道を作ってくれていた。
「――……。数ある勇者たちの中でも鎮魂の歌を歌える彼女だけが残されたのは、何かの縁なのかも知れませんね」
戦いの結末が掴めたような。予感。予知。そんな感覚がクララの元に訪れた。
「そして、こうして私たちが集えたのも何かの縁なのでしょう」
その時々に繋がる縁――何度か同じ戦場で、共に戦った猟兵たちの姿はあちこちに。
「さて、カナカナ」
務めてアヤネは明るめの声を出した。
「長く側にいたキミなら、あのドラゴンの弱点などがわかるだろうか? 何でもいい。教えて欲しいな」
こうして始まる刹那の作戦会議。猟兵たちはそれぞれ動き出す。
『グオオオォォォォ!!』
飛翔するアンフェールが咆哮を放ち猟兵たちを威嚇する。
ビシビシと跳ねる小石は地が揺れた証拠。鋭い呼気の余波がクララの髪を嬲る。
新たな呪詛が行われ、奈落へと引きずり込むような闇の気配――されど様々な魔術で身を守っているクララには魔の力は効かないも同然であった。
前衛として立つクララが纏うのは雷気だ。
呪詛と祓う力と拮抗する戦場を劈く稲光と音。敵への目くらまし、意識を散らすその閃光。その元となるのは数多の軌跡を描く稲妻。雷の矢であった。
『生意気ナ――弱キモノ達ヨ……! ソノ身、闇ニ蝕マレルガ良イ!』
呪詛を籠めたブレスが発射される。
「ッ」
魂を攻撃するブレスを受け、一瞬跳ね上がるように、浮遊するクララ。それでも踏ん張れたのは守りの術のおかげだ。
そのままブレスはなぎ払われ猟兵たちの魂を傷つける――かのように見えた。
瑠碧を中心に、内包されていたものが爆発するように風が拡がる。
リラの柔らかな弦を爪弾く、瑠碧。その旋律はカナカナも知っているものだったようで、すぐに違う弦の音色、そして仲間のフルートの音色が重なる。
「カナカナも一緒に、歌い、奏でよう。様々な故郷の歌を」
瑠碧の言葉に微笑み頷いて、カナカナはリュートでポンと太鼓のような音を出した。ポン、ポポン。少しずつ軽快なリズムとなっていく。それが弦に被るとポーン、と不思議な音がした。
紡ぐ言の葉は、月の夜の踊り歌。
(「……囚われた勇者達にも、これまでの歌はちゃんと届いていたようですね」)」
瑠碧の祈りをこめた歌声は、仲間を癒すもの。
戦場を渡る歌声は召喚された勇者たちの知るものだったらしく、呻き声があちこちから上がり始めた。
「立って。共に戦いましょう――勇者たちよ」
凛としたシリンの声が重なる。召喚された勇者、いまだアンフェールが内包する勇者、彼らに届きますようにと祈りながら。
――「戦場へ侵食する呪詛もブレスも、心が強ければ、さほど効くものではありません」――とシリンは作戦会議の際、そう言った。
勇ましき心を持つ者たち。
(「まして、今は彼女の歌が励ましてくれている」)
ユーベルコード・夜歩くを発動させ、自身を黒蘭の花弁で覆う冬青が音速で駆ける。
アンフェールの頭部を中心に、時に敵を踏みつけて更なる飛翔。
『エエイ、煩ワシイ!! 役立タズ者ドモメ……!』
呻く勇者の霊を切り捨て、新たな霊を召喚するアンフェール。
冬青を囲うように召喚された霊が剣を、杖を掲げた。
――すまない、と動く唇を目にする冬青。思わず花髑髏の柄を握りしめた。
「このぉ……ッ、死者を冒涜するなぁ!!」
既に斬り落とされた呪骨竜の残る片翼へと衝撃波を放てば、鋭く強いそれは翼膜を煽った。バンッ! と張る帆のような音が轟く。
アンフェールの体が傾き、大きな隙ができた。
瞬間、龍の如き稲妻が空を駆ける――集束させたクララの雷の矢だ。
ドラゴンを穿つ轟音。数多の小さな光が戦場で弾け、大気を震わす。
「わわっ――あれ?」
間近にいた冬青が慌てて浮上するも、衝撃は無い。弾けた光は、そのまま散ることなく揺蕩う。
「――綺麗」
やや後方、そして高い場所で狙撃態勢に入っていたアヤネは呟き、SilverBulletのスコープを覗いた。
奈落のような闇色に薄く膜が張られたように。
光る鯨泳ぐ海色のオーラを広範に展開したのは小太刀。
彼女はカナカナの杖に触れ、祈り、関係の深い人物を呼ぶ。
(「忘られぬ想いよ、ここに――」)
ユーベルコードの力が道を示すのだ。
「約束したもんね。連れて来るって」
『――あっ、ウィニアのおばあちゃん……!?』
驚いたカナカナが、またびよんと弦を変に弾いた。
召喚された霊は、穏やかに微笑む老婦人。そう遠くない過去に会った人物。
久しぶり、と小太刀は微笑んだ。
「紡ごうよ、勇者の物語――ウィニアと、カナカナと、あと一人」
いるでしょう? と。
ピエリスと勿忘草の花吹雪――花ひとつひとつに破魔の力が込められて。拡がるはいつか訪れた森の香り。
「迎えに来たよ。一緒に帰ろう、アナタ達の故郷へ」
アンフェールの力を削ぐそれは、呪縛を断ち切っていくように。
「勇者の魂よ、我が声に応えよ」
スピリット・ブレッシング――力あるシリンの声に導かれ、魂が精霊猟銃の弾へと込められる。『誰』よりも早く訪れたのは、仄かに甘い香り。春の香りだ。
「……あいつを狩ってウィニアと帰りましょう」
呟きは愛用の銃にだけ聞こえる声量。引鉄を弾けば破壊力の増した精霊弾が発射され、アンフェールの胴を撃ち貫く。びくびくっと震えた竜体がピンと伸びた。
囚われていた魂が、弾の衝撃と共に敵の体隅々へと渡る。
胴の硬骨の風穴がヒュウッと鳴いた。奈落から吹き上がる風が抜け、耳を劈くものとなる。
鬣、翼膜、そしてアンフェールの眼窩が不気味な光を放ち――最期の抵抗。
勇者の墓標。その竪穴の上部。
戦場を俯瞰する位置に在ったアヤネは銃口を向けた。
骨の一つ一つが呪詛の塊――それは呪骨竜の強みであり、弱点でもある。
「寝起きのドラゴンにきついお仕置きを――チェックメイト」
ほぼ真下へと。重量10kgを超える大型ライフル「Silver Bullet」から放たれたUDC細胞炸裂弾が敵頭部から脊椎を綺麗に割り砕き、
『ガッ、アアァァァ!!!!』
呪骨竜アンフェールは爆発四散した。
●
勇者たちの魂が解放される――。
カナカナのように姿の見える残留思念であったり、光の海の残滓にその軌跡が見て取れたり。
様々な形で『彼ら』の存在を感じることができる。
(「安らかに天に召されますよう」)
アヤネは十字架を手繰り寄せ、祈りを捧げた。
「――勇者達……呪骨竜も、お疲れ様」
瑠碧もまた揺蕩う光に祈りを。
「そして……ありがとう」
リュートの音色が変わる。クララは音を辿り、そしてカナカナを見つけた。
鎮魂の曲。
おかえりなさい。旅立つあなたにさようなら。残るあなたには、ひとときのこもりうたを。
猟兵たちに見守られ、帰る勇者たちは、どこか賑やかな旅立ちとなる。
見送りの踊りに風が動き、手品師によって花舞う空へと。
帰り道を見失ってしまった者へは、歌える者、弾ける者がふるさとの道標に。
●
『うわ、惚気話がまた始まった』
ピエリスの杖の精霊、ドリュアスを見たカナカナは、うわって顔をした。
『あ~子供は見ちゃ駄目ダメ!』
「ええ!?」
「一体何が……?」
杖を地面に置いて、追い立てるようにカナカナが小太刀や瑠碧の背をぐいぐいとする。まあ感触は無いのだが。
「カナカナ。私は大人――」
『あたしからしてみれば、みんな子供だし~』
シリンの言いかける声にもばっさり。
「ええ!? ウィニアさんに挨拶しようと思ってたんですけど――」
『ソヨゴさん、しばらく放っ……二人っきりにしといたほうがいいと思うよー』
あ。と察するアヤネ。
「愛の語らい中かな?」
「…………成程」
ポンと手を打つクララ。
わいわいわいわい、一部の女子はちょっと観たい気もしつつまあ遠~くから見守る形におさまる――といっても精霊の姿が見える者以外は、ウィニアがわんこか何かを撫でているような動きに見えるだけであったが。
「カナカナさん、力を貸してくれてありがとうございました!」
にこっと笑顔の冬青。その手には魂晶石。
永くここにいたカナカナはオススメの石の場所を教えてくれた。
『これ、何かに使えるの?』
「ん~、先日手に入れた竜胆石もあるんですけどねぇ――換金して戦争で傷ついたこの世界のために使ったりできるんじゃないかと!」
『へ~……みんな元気?』
「この世界の人たちはパワフルだネ」
「逞しく生きてますよ」
うんうんと頷くアヤネと冬青の言葉に、どこかほっとしたようなカナカナ。
「私はね、魂晶石を連れて帰って、囚われていた勇者達それぞれの故郷を巡り歩こうと思ってるんだ」
そう言うのは小太刀だ。
「あのピエリスの木の下、そしてカナカナの故郷にもね。どんな国か楽しみだなぁ」
『故郷かぁ。あたしももう少ししたら、帰ろうかな』
どこか懐かしそうにカナカナがリュートを爪弾く。
「カナカナも、彼の地へ行ってみては? 杖と想いを受け取った君も、彼らの家族だろうし」
微笑み瑠碧が言う。その視線の先には、一時旅路を辿った者たちの姿。
家族。
その言葉に一瞬「にへら」とした笑みを浮かべたカナカナは、どこか照れくさそうにリュートの弦を弾くのだった。
大成功
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