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帝竜戦役①~夕焼けの森は、魂を吸う

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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 夕焼けで赤く染まった森が鳴いている。
 血のような色合いは、不吉な雰囲気を隠しきれないままに。

 さわさわ、さわさわ。

 風のひとつ、ないというのに木々の葉が音を立てる。
 波打つように。手と手が重なり合うように。もしかしたら、何処か遠くへと誘おうとするかのように。

 さわさわ、さわさわ。

 真っ赤に染まった森の木の葉が鳴いている。泣いている。
 無いのだ、亡いのだとと音を涙のように零し続けている。
 悲しい程に綺麗で。
 おぞましい程の膨大な数で。

 さわさわ、さわさわ。

 耳から五感を犯し、距離感も方向感覚も、そして時間感覚も無くすような、音の波。重なる旋律によって犯されていく意識を、うっすらと感じ取る。
 夢か現つか。
 ただ、美しいだけの悪夢ではないのかと。
 揺れる木の葉たちは、何かが足りない。何かに飢えていると、囁き続けている。
 立ち並ぶ木々は亡霊なのかもしれない。
 尽きはせぬ悔恨と妄念を抱き、満たされない魂を震わせているのだ。
 きっと今が夕暮れでなくてもこうなのだろう。
 ここは魂喰らいの森。
 血を啜るように、魂を啜る場所。
 その中で、ひっそりと立つ女は、やはり鳴いている。
 両手と袖で顔を隠しながら、それでも身から悲憤を立ち上らせながら。

――ああ、こんなに美しくあればいいのに。

 美しくありたいのだと、醜女は泣いている。

――ああ、みな贄となればいいのに。
 
 真の美と、不滅の為に生け贄を求める鬼女として、ふらり、ゆらりと。

 さわさわと鳴き続ける森は、美しい魂を求めて、泣いている。
 悲しみと、怒りと、恨みの赤に染まって。
 新たにこの地に踏み入れたモノの魂啜り、貪らんと、森は泣き止むことを知らずに。
 
 
 さわさわ、さわさわ。
 さわさわ、さわさわ。
 ……さわ。



「さて、この度は大きな事件のようですね」
 ゆったりとしたお礼と口調で迎えるのは、秋穂・紗織(木花吐息・f18825)だ。
 群竜大陸を巡る戦いを『大きな事件』といって微笑むのは、彼女の性質なのだろう。ふわり、ゆったりとした調子は決して崩さず、小首を傾げながら説明を続ける。
「今回、皆さんにお願いしたいのは『魂喰らいの森』と呼ばれている場所です」
 今から赴けば夕暮れには辿り着くだろう。
 夜の時刻に森という立地は宜しくなく、かといって、一夜を待つというのも戦では大変なことだ。
「生物の魂を喰らい啜る動植物たちの生える森。そこに住まう『森の門番』という存在の排除が目的となります」
 魂喰らいの森の加護か、それとも呪詛というべきだろうか。
 住まう『森の門番』のユーベルコードには通常の効果に加え、『魂をすする』というものが付与される。
「何かしらの楽しい思い出、記憶。そういったものを強く念じれば、『魂すすりの効果』に対抗できる筈です。今までの自分の、或いは仲間たちのそれを強く想い描きながら戦えば、きっと皆さんなら大丈夫の筈です」
 特にこの夕焼けで染まる森のせいか。
 美しいという感情は、赤い景色の中で浮かび、呼び起こされやいだろうとも。
 周囲を見て、感じるだけでもいい。
 いいや、もっと美しい雪景色や、雨に濡れた紫陽花なんていうものを浮かべてもいいだろう。すぐに来る月の姿はしらじらとして、不吉を払うほどに清いはず。
「本当に手に入らないものを、強く求めて魂はなく……ということかもしれませんね。さらに、美しいという価値観、美しいと思う記憶、自分の美観、美学。そういったものは強く、確かに描けるというもの」
 戦う猟兵であればこそ、自分の中の美しいものへの思い、情念、そういったものは強いのだろうと、紗織はくすりと笑って。
「この森など、怖くない。とても素敵な、美しい、或いは、優しいものがこの胸にはあるのだと、示して、教えてあげましょう」
 それこそ、この戦の先駆け、先陣を飾るに相応しい筈だと、紗織は送り出した。


遙月
 初めまして、この度、第六猟兵MSとして初めてシナリオを出させて頂きます、遙月と申します。
 群竜大陸の戦争っ、ということで幾度か躊躇っていたのに背を押されて、こうしてシナリオを出させて頂いております。
 ……いきなり戦争とはと、私も強気に出ていると思いますが、心情系と戦闘を両立できそうでしたので、ついと。

 『魂を啜る森』に、『想い描くモノと感情』で対抗するこのシナリオ。
 心情系や情景系を強くした戦闘ものとしてかいていければいいなと思っております。

 夕焼けよりも私はこれが好き。
 これもいいけれど、こちらがもっと好き。
 いやいや、景色なんかより、戦うことのほうの心躍る。

 そんな、皆様のキャラにとっての心、感情、強く念じる心情。
 そういったものを是非、ぶつけてきてくださいませっ。
 ひとつひとつ、全て、そのキャラ様にしかないものです。
 未熟者ながら全力で向き合わせて頂きますので、どうぞ、お付き合いお願い致します。

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 プレイングボーナス……楽しい思い出を強く心に念じ、魂すすりに対抗する。
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第1章 ボス戦 『不死なる醜女ヒンメンベルク』

POW   :    アメアリア・セルヴォ
【自身の血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【炎の魔槍グッシレンヤ】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    ファーン・ド・モルファーン
【魔眼より飛ぶ火花】が命中した対象に対し、高威力高命中の【大地より召喚した複数の凶刃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    ソンゾボルト・ユーゴッド
レベル×5体の、小型の戦闘用【従魔】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。

イラスト:FMI

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハララァ・ヘッタベッサです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

須藤・莉亜
「良い感じに染まってる森じゃない?僕の好きな真っ赤な血の色だねぇ。」
血を啜る鬼である僕が、敵さんの血を奪わせてもらうよ。

不死者の血統のUCを発動し吸血鬼化して戦う。敵さんが召喚した従魔の生命力を奪い自身の傷を治しながら、強化された戦闘能力を駆使して敵さんの【吸血】を狙って行くよ。

楽しい楽しい、敵さんとの戦いの中で血を奪った思い出。決して癒える事はないであろう渇きの中で、いっときでも喉が潤うのは本当にいい思い出だよ。
「不死者の血はどういう味なんだろ?熟成されてたりするのかな?」



 ゆらりと。
 細い男の指先が挟む煙草の先より流れたのは白か、灰色か。
 ひたくれないの景色の中で、小さな煙が揺れる。
「良い感じに染まっているんじゃない?」
 鬼女と魂喰らいの木々が泣き続けるこの場で、血を啜る鬼たる須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が紫色の瞳を泳がせる。
 のんびりとした声は、けれど、魂を啜る森に劣らない不吉さを匂わせて、煙草の残り香とともに周囲に満ちていく。
 気負いはない。緊張など微塵もない。
「僕の好きな真っ赤な血の色だねぇ。」
 けれど確かに、隠しきれない興奮が、指先から捨てられた煙草の火種のように燻っている。

――敵なら、その身に宿す血の悉く、吸い付くしていいんだろう。

 胸の奥底に眠らせていた吸血衝動が脈打ち、莉亜の瞳が金色へと変わっていく。真実の吸血鬼へと変貌し、血と生命力を奪い尽くさんと長く伸びた犬歯が唇の奥からその姿を見せる。
 反応したのは醜女が感じたのは脅威なのか、恐怖なのか、それは判らない。
 だが、自らの影から呼び起こした無数の従魔を莉亜へと殺到させる。無数の影の従魔は、莉亜の身に触れようと腕を伸ばす。
 確かに傷つけた。血も流れて、夕焼けに溶けた。だというのに。
「足りないね、君たちじゃ」
 そう、足りない。今、佇む莉亜は不死者の血統そのもの。
 受けた傷が、略奪する生命力で瞬く間に癒える。いいや、傷つけた側の筈の従魔たちが、莉亜に触れれば、まるで灰のように散っていく。
 生命力を奪うオーラが強すぎて、群れである従魔如きではどうしようもないのだ。触れて傷つけた途端、逆に吸い尽くされて、莉亜をより強くさせていくだけ。
「足りない、足りない、足りないよ」
 過去に傷つけ、傷つけられ。血を啜った記憶が莉亜の脳裏に蘇る。
 その鮮やかさは、何時まで立っても色褪せぬ鮮血。
 決して満たされず、抱き続ける飢えだからこそ――幾らでも飲み干すことのできる、赤き潤い。煙草では無理だ。酒での酔いなんて浅すぎる。
 そんな深き渇きと、衝動を知っている。身と魂に刻まれている。
 なのに、どうしてたかが魂啜りの動植物の効果で、莉亜の魂が蝕まれることがあるだろうか。
「敵さん、敵さん」
 群がる影の従魔を引き裂くように。けれど、ただゆったりと歩みながら、語りかける。傷ついた、傷つけられた。その度に触れたモノの生命力、存在を吸い尽くしながら。
「不死者の血はどういう味なんだろ? 熟成されてたりするのかな?」
 欲しいのは命ではなく、魂でもなく、血なのだ。
 傷つけられて流した分より多くの。そして、限りなく、不死者たるものの血を吸うべく、白い大鎌が振りかざされる。

 するりと、風が巻き起こり。

 飛び散る血飛沫は、いつものようにその赤さで、ほんの僅かな間、莉亜の渇きを潤していく。
 けれどそれは夕日のように、ほんの短い間だからと――二転、三転と、『血飲み子』の刃が続けて繰り出されていった。
 吸血の鬼の飢えは、渇きは、求める想いは、決して満たされないからこそ、幾度となく斬閃を描き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエシア・ファンダーヌ
楽しい思い出、かぁ

私の出身はこのアックス&ウィザーズ
幼い頃から長い間、この世界を巡ってきた
辛いことも悲しいこともたくさんあったよ
けれど、それだけじゃなかった
人々から感謝されたときは心が暖まったし、隠された宝物を見つけたときは嬉しかった
なにより、この広い世界を知っていくことは楽しかった
私の中には、この地で築いた愛おしくて、美しくて、楽しかった思い出があるから

……だから、こんな入り口で立ち止まるわけにはいかないんだよ
幻影顕現・炎竜を詠唱
実戦で使うのは初めてだけど――最悪、制御出来なくてもいいか
断言するよ。キミの炎よりこの子の炎のほうが強い
さぁ、焔で呑み込んであげるよ

※アドリブ歓迎



「何かひとつを……なんて」
 振り返せば、溢れんばかりに。
 思い出せば、ほろり、ほろりと幾らでも。
「決められない。定められないよ。どれもこれも、大切な思い出なんだから」
 それがノエシア・ファンダーヌ(夕闇に溶けゆく・f03589)のこのアックス&ウィザーズでの世界の思い出たちなのだ。
 幼い頃から続く旅の中、ひとつだけで完結するものなんてない。
 人から手を握られて感謝される、暖かな幸せもあった。宝物を見付けた時は喜びできらきらと輝くようだった時もる。
 勿論、悲しいことも。辛くて、苦しくて、やるせないことも。
 だからだろうか。
 ノエシアの唇がきゅっ、と強く結ばれたのは。
「どれも抱いていく。想い描く。私の魂を形作り、彩るものなんです。決して『魂啜り』だなんて、されたくない大切なもの」
 眼鏡の奥、追憶から戻ったオレンジ色の瞳で目の前の赤い様を見つめる。
 これがどれだけの渇きと飢えを抱いたとしても関係ない。過去の残滓はすべからく消えるべき。
 広い世界には、まだ、まだ、知りたいことや知るべき明日が待ち受けているのだから。
「……だから、こんな入り口で立ち止まるわけにはいかないんだよ」


 さあ、小さな一歩を踏み出して。
 情熱と見果てぬ夢をもって、炎の竜と成して紡ごう。
 夕暮れの赤より美しい、心の色彩をもって。

 この地で築き、積み上げられた、愛しい想いは決して揺るがない。
 さわさわと鳴る木の葉たちを燃やしながら、想像より創造されるフレイムドラゴンの幻影。だが、影だなんて決して言わせない。
 積み重ねてきたものが違うのだ。触れてきた感情の熱量に嘘、偽りはないのだ。
 ならば、森を焼き払いながらもその姿を浮かばせる火竜はただの幻なんかじゃない。
 そんなこと、この炎の前では誰も口に出来ない。
『我が手繰るは猛き竜の幻、泡沫の炎獄。我が魔を喰らい、顕れよ――』
 辛くて、悲しくて、冷たくなった心を温める炎を。
 嬉しくて、幸せで、弾んで跳ねる心のままに踊る竜を。

 さあ、これが私の創造。
 初めてだとしても、経験と体験はどれも真実だから。
 魂を喰らう森を焼き払う火竜が此処にある。

 疑念などない。迷いも躊躇いも。
 ならば、例え実戦で操るのが初めてだとしても、暴走したりなどしない。
 いいや、むしろと。
『――――』
 嘶くように空を見つめるフレイムドラゴン。
 それはノエシアの、この大地が大切だという思いに同意し、共感し、声を鳴き響かせるようで。
「……有り難う、君もこの世界を大事に思ってくれるんだね」
 錯覚ではない、この想いこそ、魂なのだと胸に手をあてるノエシア。
 火竜の攻勢が一瞬止まっていたのは、創造主であり、共感者であり、友に戦うノエシアの指示を……一緒に戦おうと、合図を待ったから。
「いこう。まだ、まだ、旅の先があるんだよ」
 オレンジの瞳には決意。腕がもちあげられ、魂を啜ろうとしたオブリビアンへと、すっと指が向けられる。
 そこには己が血を代償に封印を解き、火炎の魔槍を掲げる不死者の姿があれど、ノエシアと火竜の動きは止まらない。止められない。
 恐れなんて、ひとけらもないのだ。  
 炎を圧縮した魔槍の穂先で迎え撃とうとするが、ただ殺傷性を増しただけの不純な炎に、記憶の焔が負ける筈がない。
「断言するよ。キミの炎よりこの子の炎のほうが強い」
「さぁ、焔で呑み込んであげるよ」
 ごうっ、と竜の疾走と共に深紅の焔が咲き乱れた。
 続けた旅路での出来事のひとつ、ひとつ。
 記憶が集まって紡がれた火竜は、まるで流れる星のように。
「さぁ、焔で呑み込んであげるよ」
 魂啜りの森の中を、駆け抜ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルード・シリウス
魂喰らいの森か。以前、別の依頼で乗り込んだ事があったが、成る程…ここを突破しねぇと、本命の獲物にありつけねえ訳か。それじゃあ、先ずは門番諸共喰らいながら突き進むか

敵の魔槍による攻撃を、軌道と攻撃のタイミングを見切り、残像を囮にしつつ回避しながら接近。その過程で多少なりとも傷を負うだろうがお構い無しだ
接近出来たら、【掴撃】の一撃を以て相手の血肉を抉り取り、同時に捕食と生命力吸収の能力を以て受けた傷を癒し糧とする。

楽しい思い出、そいつなら決まってる
気の置ける仲間と共に過ごす居場所での日々、そして…戦場で強敵と殺り合い、そいつを倒して喰らった時の事。
そいつは今この時も、そしてこれからも続くものだ


ナターシャ・フォーサイス
WIZ
森の門番、魂を啜る呪詛…ですか。
何故そのような力を持つに至ったのか、気にはなりますが。
彼女もまた哀れな魂であるならば、我々も使徒として責を果たすとき。

啓示を受ける前の記憶など捨てて久しいですが…
以降であるならば。
それは、こうして皆様を楽園への道行きへ導いている時でしょう。
私は使徒として、未だ至ることの叶わぬ身。
ですが、皆様がそこに至れるようお力添えをすることはできます。
それは私にとって至上の幸福。
救われ至る皆様を見届けることの、なんと満たされることか。
そして貴女もまた、我らより先に至ることができるのです。
あぁ、なんと幸福なのでしょう!

まだ至れぬ楽園の一端とともに、旅立ちといたしましょう。



さわさわと。ざわざわと。
 鳴いている森が、門番の断末魔へと変わり始める。
 猟兵たちの確かな魂に、囓りて啜る隙間などはしない。
 幾度となく攻撃をしかけ、負傷させ、繰り返される攻防は常に猟兵優勢。魂啜りの効果に耐えられては、いや、それだけの想いを抱かれては、ただの過去の残滓が戦況を覆す事などできはしないのだ。
「お前が門番か」
 問い掛けるルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)の瞳に宿る戦意、その剣呑な煌めきは獣のよう。
 情を知らぬ。想いは判らぬ。頼るべき記憶もないのならば、今、剣戟を交えるこの刹那こそが全て。
 狂戦士というべきか、それとも、武芸者の果てともいうべきか。
 少なくとも、鬼といわれる類いであることには間違いはない。
 だからこそ血を代償に、炎の魔槍の封印を解く不死者の女。
 烈火纏うにして疾風の如き刺突。風鳴らせ、火散らせる魔槍の連閃。
『――――』
 だからこそ、当たらないルードの体術こそ恐ろしい。槍の軌道とタイミングを見切り、残像を産むほどの緩急をつけて狙いを絞らせない。
 体幹の強さ。脚の強力。双方と経験、感覚を持って成す動きだ。
「いい腕だな。喰らい甲斐があるぜ」
 が、突破できない。槍の間合いの内側に踏み込めない。腕を掠めた穂先が浅い傷跡を付けられ、そこから魂啜りが発動……しかけるが。
「お前みたいな強い奴との殺し合いが、俺にとっての想いだ。そいつらを喰らって出来たものが、魂だ。そう易々と、俺と殺し合った奴らを蝕むことはできる訳ないだろう」
 戦意というよりは鬼気。今まで打ち倒した者達との記憶こそが魂。
 そう定めるルードの魂の芯までは届く筈がない。
「まあ、乱雑な。彼女もまた、哀れな、救いを求める魂に他ならないというのに」
 その後方からなげかけられたのはナターシャ・フォーサイスの声だ。
 聖職者のように丁寧。教会のミサのように優雅。
 だが戦場であることを忘れぬ立ち回りは、彼女の口にする救済が一般から著しく離れていることを示しているだろう。
 事実、その手に携える聖祓鎌「シャングリラ」――罰を祓い、楽園へと導くそれを構える姿に隙などありはしない。その状態で、霊力を練り上げ続けている。
「私は未だ、楽園に辿り着けぬ身。ですが、故にこそ、その道行きを助け、導き、辿り着く為のお力添えをするのです」
 そう、ナータシャのユーベルコードは複数効果、かつ、巨大。
 ならばこそ、効果的に放つに機会と溜めが必要なのだ。
 だからこそ、聖句を詠いあげるように、想いと祈りを籠めて言葉を紡ぐ。
「私にとっての至上の至福。それは、哀れなる貴女が、貴女の魂が、楽園へと到り、救われることを見ること」
 その救済とは。
 そも哀れとはなんたる定義か。
 言葉は狂信の如き熱を帯び、決して、他に否と言わせない。
 それこそ信念。それこそ理想。それこそ、楽園なのだとナターシャは全身全霊で叫んでいるのだ。
「そして、貴女もまた、私達より先に楽園に到ることができるのでしょう。ああ、そのなんたる至福か。これこそ福音、これこそ祝福、これこそ救済」
 頭上で旋回する聖祓鎌。
 まるで呪文を詠うように流れたそれが、すぅ、と清らかな光を天へと走らせ。
「……なんという幸福」
 恍惚というには真剣過ぎる。
 狂気というには定義が曖昧。
 これぞ狂信者の技と心。声と歌。光あれと届き、天より振らせたのは幾多もの天使だ。
 不死者も従魔を放つが、その悉くが天使たちの翼から発する聖なる光によって動きを封じられ、主たる醜女もその動きと、魔槍の勢いが減衰する。
「封印できないのは、私の力の至らなさですね。申し訳御座いません、もっと、丁寧に優しく、導くことができずに」
 つまり、ナターシャの言葉は、死の世界へと誘うということ。
 過ぎたる信仰。命より上位の価値と概念をもった、狂信である事の証左だ。
 それに気づいているのか、気づいていないのか。いや、その手の一切を頓着せず、槍捌きが緩んだ一瞬にルードはその間合いを踏破する。
「いや、十分だ」
 疾走の勢いをそのままに、自らの暴食剣は魔槍にぶつけて地面に埋もれさせ、ルードは肩よりタックルを仕掛け、勢いと剛力で相手の体勢を崩す。
 暴食剣、魔槍。強引な身当てのせいでともに片手で半端な握り。共に武器を捨てたような姿だが、ルードにとっては違う。
 武を極めたものは、得物なしであれ、その身が凶器と化す。ルードにとっては都合がいい得物があれど、全身が凶器であり、闘争と殺戮の為のモノだ。
「これから続いていくものだ。俺にとって、上手い飯くって、日常で笑って、こうして、お前みたいな強い奴の力を貪っていくこともな……だから」
 体勢の崩れた不死者。そこに突き刺さるのはルードの右の掌底だ。
 息の触れ合うような至近距離からの迫撃。
 しかも、ルードの掌には体内の第二の心臓、血核の力が集まっている。
 激しい飢餓と引き換えに剛力を引き出すそれ。
 その飢餓は魂啜りのそれに似て、だが、明確に抗うもののない暴力と蹂躙をもたらすのだ。
 避けるも身を逸らすもできない。急所へと叩き込まれた拳は、むしろ食い千切る獣の顎の如く。大気と音の壁を砕き、血肉と骨を爆ぜさせる、人体が奏でたと思えない轟音が響き渡った。
「悪いが、そいつは貰っていくぜ……」
 血肉を食い千切るように貫き、握り絞めて不死者の、存在の核を握り絞めて引き摺り出すルード。同時、消える間際のオブリビアンから捕食と生命吸収を発動させ、傷を負っていた身体を癒やすのも忘れない。
 なぜならば。
「お前を突破してもまだ門番。本命の獲物にはありつけねぇんだろう。だったらお前の力も奪って、喰らって、もっていってやる。本命の龍目指して、その道中諸共、全て喰らって、最後は――」
 帝龍の命さえ、喰らってやると、獰猛に笑うルード。
 むしろ、帝龍の命に届く一撃を産む為に、己の力になれと。
 奪い、喰らい、自らのものにして進む道こそがルードの魂の在り方なのだから。
 それまでは共に、俺の力になれと、勝者の特権で告げるのだ。
「――最後は、ええ、全てを救ってあげないといけませんね」
 一方のナターシャは優雅に、上品に微笑むばかりだ。
 この戦争で幾つの命を『救う』ことになるのか。そればかりを考え、思っている。
 その様は夢見る乙女とさえいっていい。けれど、けれど。
 何処までも、機械の歯車が食い違っているように、ナターシャの救済への思いは止まらない。止めるものも、いはしない。
「さあ、魂啜りの森。これ自体を救ってあげませんと」
「まだまだ、戦いは序盤だからな。食い足りない」
 かたや救済。
 かたや暴食。
 美しいものをと泣いていたオブリビアンはもうおらず。
 風もないのに鳴る木の葉も、ついぞ何処に潰えて。
 斜陽は落ちる。夕暮れは速く、そして、月がしろい貌をのぞかせた。
 鏡のようなそれに、各々は、何を思うのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月02日


挿絵イラスト