【旅団】ゴールデンウィーク・スクランブル
これは旅団シナリオです。
旅団『恋華荘』の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えないショートシナリオです。
●ここではないどこかの温泉郷
「そういえば、ゴールデンウィーク……今年は何も予定ありませんでしたね」
などという彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)の呟きが、今回の騒動の始まりだった。
いつもの恋華荘といえば、いつもの恋華荘である。
さて、今更だが恋華荘は女子寮だ。
元温泉旅館という建物を最大限に活かし、温泉入り放題だったり、大食堂での食事つきだったりと、かなり快適な生活を送れるようになっている。
それを支えている1人が、管理人であるいちごだ。
普段のいちごの生活を見てみると、かなりのオーバーワークと言える。
早朝に起きて、寮生の朝食の準備をし、日中は学校に行ったり、あるいは猟兵としての仕事をしたり、夕方帰ってくれば夕食の準備をして、夜は夜でローカルアイドルとしての芸能仕事に出かけていく。
休日は休日で、管理人としての寮の作業があるため休む暇もない。
いちごを慕う寮生たちも、この働き過ぎにはいつも気をもんでいるのだが、いちごにそれを言っても笑顔で大丈夫ですなどと答えるので困ったものなのだ。
そんな中、学校が休みで、アイドルとしての仕事もない、寮の仕事も最低限しかない、そんな奇跡のように時間の空いた5連休が、今年の5月2日から6日までの間というわけだ。
なので寮生は一致団結して、この期間はいちごを休ませてあげよう、と誓い合っていた。
……ただし、一部の寮生は。
5日もあるのだし、半日くらいは遊びに誘ってもいいよね?
などと抜け駆けを企んでしまったのだ。
かくして、そんな抜け駆けを企んでこっそりいちごを誘った寮生たちが多くいたために、いちごの最も忙しい5日間が幕を開けてしまうのだった……。
雅瑠璃
こんにちは。またはこんばんは。
雅です。
というわけで恋華荘の旅団シナリオになります。
なので当然ですが、参加可能なのは恋華荘の団員だけです。ご了承ください。
前回前々回は、大人数での宴会でしたが、今回はデートシナリオにしてみました。
と言っても、ただ2人きりで普通にデートなんかさせません!(笑)
半日デートを勝ち取れるかは、他の寮生を出し抜けるかにかかっています!(笑)
というわけで、今回のルールです。
基本的には、半日のデートプランをプレイングに書いていただくことになります。
その際、どこの時間帯なのかを【必ず冒頭に】記載してください。
選べる時間帯は以下の10パターンです。
【2日昼】【2日夜】
【3日昼】【3日夜】
【4日昼】【4日夜】
【5日昼】【5日夜】
【6日昼】【6日夜】
この中から一つ選んでください。
なお、寮生同士での談合や相談は禁止です!【重要】
他の参加者の出方を推理して、見事、人のいない時間帯を選ぶことができたら、2人きりのデートリプレイになります。
ただし、他の参加者とかちあった場合は、集団で遊びに行くリプレイになるか、いちごが無理矢理お互いの所を行ったり来たりで掛け持ちする気まぐれでオレンジなリプレイになるでしょう(笑)
デートスポットですが、恋華荘のある龍神温泉郷には、色々な場所があります。
ショッピングモール(服屋、本屋、CDショップ、ゲームショップ、食事処等)
アミューズメントパーク(ゲーセン、カラオケ、映画館、ボウリング等)
その他、動物園や遊園地、屋内プールやプラネタリウム等。
思いつくものはだいたいあると思います。あることにします。
ちなみに半日デートなので、遠出や旅行はダメですよ。
さて、OPにもありますが、日時は今度のGWの5連休を想定。
執筆も連休中に行いますので、プレイングの提出は、5月2日8:31~3日8:30までの間にお願いします。この間に提出していただけると、締め切りが連休最終日の6日の朝になりますので。
それまでは旅団で相談等してもらえればいいと思います。
質問等があれば旅団のスレでお願いします。
それではプレイングお待ちしています。
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フロウヴェル・ゼフィツェン
【2日昼】にお誘いするの。
急に暑くなってきたし、プールに行こうと思うの。
水着は去年の水着コンのを着るけど…ちょっときつくなった気がするの。胸だけじゃなくて全体的に。
だから夏には買い換えるつもりだけど…いちご、ベルにどんな水着着て欲しい…?
流れるプールの流れに任せてのんびりしたり、ウォータースライダーで遊んだりするの。
いちごのコトだから、とらぶるも起こりそうだけど…ベルはうぇるかむなの。
プールの後は、近くのカフェで一息つくの。
アレやりたいの、一つのドリンクを二本のストローで飲むやつ。
これこそ恋人同士、って感じがするの…♪
…いちごは、楽しんでる?
なんか微妙に疲れてる感じだけど。
●5月2日・昼
ゴールデンウィークの連休初日。
恋華荘の住人達も思い思いに休暇を楽しんでいる。
もちろん猟兵としての仕事に赴くものもいるが、それ以外は取り立てて何もない平穏な5連休の始まり……であった。
それはもちろん、恋華荘の管理人たる彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)も例外ではなく。
何より、普段は管理人に学生にアイドルに猟兵にと4足の草鞋を履いて、オーバーワーク気味の日常を送っている彼にとっては、猟兵以外に何の予定もないこの5連休は本当に平穏な休日のはずだった。
ワーカホリックの傾向もある彼は、せっかくだからこの間は猟兵としての仕事に集中しようか……などとも考えたりもしたのだが、ちゃんと休んでくれと皆に言われているので、大人しく部屋にいた。
そんな彼のもとに、最初の訪問者がやってきたのだった。
「いちご、今いるの?」
コンコンというノックと共に、管理人室の扉を開けて顔を見せたのは、寮の住人の1人でいちごガチ勢の一人でもあるフロウヴェル・ゼフィツェン(時溢れ想満ちて・f01233)、通称ベルその人だった。
「ああ、ベルさん。どうしました?」
もちろんその訪問を断るようないちごではなく、ベルは管理人室に入ってくる。
普段は同じく管理人室に同居している妹が、いちごに近付く女性を警戒というか威嚇したりもするのだが、幸い今日は妹も不在なので、ベルも安心して部屋に入ってこれる。
「ん。いちご、この連休の間予定ないって聞いたの」
「ええ、そうですね。私としてはこんな暇な時間はなんだか落ち着かないんですけれど……」
連休の予定を問われて苦笑気味に答えるいちご。
暇なのが落ち着かないのはそうなのだが、いちごに休みをあげようと、恋華荘のスタッフ側の面々を中心に気を配ってくれた結果なので、せっかくの休みはのんびりさせてもらおうと思っている……なんてことをベルに話していく。
「ん。よかったの。
えとね、最近急に熱くなったから、プールに行こうと思ったの。いちごも一緒してくれる?」
そんないちごにベルが切り出したのは、恋華荘のある龍神温泉郷のアミューズメント施設に隣接してある全天候型屋内プールへの誘いだった。
確かに先日までの春らしい気候をすっ飛ばして、いきなり夏日になっているこの連休なら、プールというのはいい選択かもしれない。
「いいですよ。一緒に行きましょうか」
断る理由もないいちごは、ベルと2人でプールに出かけたのだった。
「そういえば、水着は去年のですか?」
「ん……それが、ちょっときつくなった気がするの。胸だけじゃなくて全体的に」
「ああ……ベルさん成長期ですものねぇ」
プールへと赴く道中、2人はそんな会話をしていた。
いちごの方は、最近海の世界に行くことも多かったので、すぐに昨年の水着を用意できたが、ベルはどうやら用意はしてみたもののきつく、仕方ないのでプールでレンタルをするつもりらしい。
「いちごのご飯が美味しいから、ついつい食べ過ぎちゃうの。そんなに太ったわけじゃないと思うけど……」
「成長期だからですよ。全然太った感じはありません。むしろますますプロポーション良くなってると思いますよ?」
中学生の年齢にしては早熟気味なグラマラスボディのベルだが、ストレートにいちごに褒められるとそれはそれで嬉しくて頬も朱に染まる。いちごはいちごでこういうセリフをさらりと自然に言えるものだから……この天然が。困ったものです。
「じゃあ、いちご、ベルにどんな水着着て欲しい……?」
夏には買い替えるつもりだし、その参考にしたいという事もあり、いちごはベルのレンタル水着を選ぶのに付き合う事にした。
「ベルさん、昨年のワンピースも、お人形さんみたいですごく可愛らしかったですけれど……」
「ありがとなの♪」
人形のような容姿とはまさにベルのためにある言葉だろう。白い肌に銀の髪、そしてそれに合わせたような白いドレス風の水着はとても可愛らしかった。
だけれども、それとは別に見てみたいとなれば。
「せっかくスタイルいいのですから、もっとそれを強調してみてもいいかもしれないですね。ビキニとか……」
「いちごはそういうの見たいの?」
見たいか見たくないかと言われたら、見たいに決まっている。たとえ着ている水着がフリフリの女物(しかもバッチリ似合っている)だとしても、いちごだって健全な男子なのだから。
「私は見たいですけれど、あまり人に見せたくはないかもしれませんね?」
「ん、ベルも、いちごにだけ見てほしいの」
ぽっと頬を軽く染め、なんだかんだでイチャイチャと水着を選んでいる2人だった。
結局、あまり大胆ではないものの、いちごのリクエスト通りビキニの水着をレンタルしてきたベルである。
「ひゃーーーーっ?!」
「思ったより、早いのっ?!」
さっそくウォータースライダーに挑戦してみた2人だったが、そこまで大きなものではないから……と油断していたら意外とスピードが出て、ベルはギュッといちごに抱きついたまま滑り落ちていく。
着水の際にお約束のようにビキニのブラがずれかけて、慌てて隠すためにいちごが正面から抱きつくなど、やっぱりいちごと一緒にプールに行くと何かしらとらぶるは起こる運命らしい。
「す、すみません……」
「大丈夫、ベルはうぇるかむなの」
……水着を直すよりも、そのまま抱き合う方を選んだベルであった。
その後も、のんびりと流れるプールでぷかぷか浮かび流されながら(しかも2人でひとつのバナナボートを使っていたので、ぴったりくっついた状態で)、やっぱり水落ちしていちごがベルの身体を掴んだりとか、まぁ、いちいち指摘するのもアレなとらぶるはあったようだが、おおむね仲良く2人きりの時間を堪能していた。
そしてしばらく後のプールサイドでは。
注文したトロピカルドリンク(恋人仕様で1つのグラスに2本御ストローのやつ)を仲良く飲んでいる2人の姿があった。
「ん♪ これこそ恋人同士、って感じがするの……♪」
「ふふ、ベルさんが楽しんでくれてよかったです」
もともとベルが誘ったデートだというのに、いちごが逆にベルを楽しませるためにいろいろ気を使っていた様子。
それに気づいたベルは、少しだけ申し訳なさそうにいちごの顔を覗き込む。
「……いちごは、楽しんでる?」
もともと普段疲れているいちごを癒したいと思って誘ったのに、かえって気疲れさせているのではないか、と心配そうなベルの顔に、いちごは安心させるように微笑みかけるのだった。
「とても楽しかったですよ。ベルさんのおかげです」
「それならよかったの♪」
いちごの言葉に安心したように、ベルは今日一番の満面の笑みを見せるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
●5月2日・夜
この日の昼、いちごがデートを楽しんでいたという話は、瞬く間に恋華荘の中に伝わった。
かくして恋華荘内のいちごガチ勢を中心に、自分もいちごを誘おうとそれぞれが抜け駆けを狙って、いちごに誘いをかけていく。
「え、えぇ……?!」
もちろんかけられた声が多いため、様々ところでブッキングしてしまって、いちごはどうやって対処すればいいのか頭を悩ますことになった。
「どうしましょう……」
断ればいいなどと言ってはいけない。
すべて全力で受け止めて応えるのが、いちごという人物なのだから。
今はまだ、嵐の前の静けさといった感じで、5月2日の夜は更けていく……。
ミラ・グリンネル
【3日昼】
芝生のある大きい公園でピクニック
お弁当食べたり身体を動かして遊んだりする
「イチゴ、遊びに行きますヨ!」
疲れが見え始めたイチゴの手を取り公園に行きマス
手作りのお弁当も持参デス。ミラも簡単な料理ぐらいなら出来るデスヨ?
軽めの散策をして、売店でお酒も買って、楽しいお昼の時間デス!
こうやって温かい日差しの下で食べるお弁当はとても美味しいデスヨネ
そんなミラのこと見つめてどうしたデス?食べさせて欲しいデス?
※アルコールでちょっと艶っぽく
食後はボール遊びでもしまショウ!
ミラの躍動感溢れる身体を見て照れなくても良いデスヨ?
※服装はラフな感じで色々と目のやり場に困る感じ
誰かと被ったら絡みアドリブお任せ
高原・美弥子
【3日昼】
いちごとデート!この機会を逃さずしてどうする!
他の人と被った場合は、まぁあんまりいちごのこと引っ張りまわさないで、ゆっくり遊びに行こうって感じにしたいかな?
GWまでとらぶるまみれだと気が休まらないだろうしね
あ、被った場合の行先は相手側に合わせるよー
本命の独占できた場合は、んふふ
動物園か水族館とか、あんまり動き回らないで見て癒される場所に行こう
デートらしいチョイスだし、いちごは休ませないといけないから動物園で可愛いもふもふか、水族館で綺麗な水の世界かで癒し空間をプレゼントだよ!
これでいちごの好感度アップだね!デートの定番だから、あたしも嬉しいし!
今ぐらいとらぶるお休みしてもいいんだよ?
●5月3日・昼
「いちごとデート! この機会を逃さずしてどうする!」
この機会を逃してなるものかと気合を入れて管理人室に向かっているのは、いちごの恋人の1人と称する高原・美弥子(ファイアフォックスのファイアブラッド・f10469)だ。
何せ恋人の1人をいくら自称しようとしても、いちごの周りには女性が多い。2人きりになる機会など滅多にない。
なればこそ、こういう機会は逃したくない。
「普段疲れ気味のいちごだしね……行くなら落ち着いて見て回れるところかなー?
動物園でのもふもふとか、水族館の水の空間とかで、癒してあげれたらいいなぁ」
それに、いかにもデートって感じの場所だしね!と内心力説する美弥子である。
ゴールデンウィークくらいは、とらぶるもおやすみでいいと思うのだ。
「いーちーごー……って、あれっ?!」
そして管理人室にやってきた美弥子が見たのは、別の女性と仲睦まじく手を繋いで出かけようとしているいちごの姿だった……。
「イチゴ、遊びに行きますヨ!」
「ま、待ってくださいっ、そんな引っ張らないでっ?!」
いちごの手を引いて今にも連れ出そうとしていたのは、恋華荘が誇るド迫力アメリカン娘、ミラ・グリンネル(妖狐の精霊術士・f05737)だった。
アメリカンサイズのグラマラスボディを薄着に包んでいる彼女。恋華荘の中には彼女以上のサイズの持ち主もいるにはいるが、それでも彼女のお餅の存在感はかなりのものである。それが無防備にもノースリーブのワイシャツ(ボタンは全部止めていない)でかろうじて包んでいるのだ。これがまた目の毒レベルでゆっさゆっさ揺れる。
「イチゴは普段からお疲れデスからネ! たまにはのんびりピクニックとかで癒しの時間が必要デスヨ♪」
よく見るとミラは、片手にバスケットを持参していた。
思惑としては公園で軽く散策でもしてから、お弁当でも食べようという所か。
(「普段イチゴのご飯ばっかりデスけど、ミラも簡単な料理ぐらいなら出来るデスヨ?」)
さすがに手作りお弁当持参はちょっとは照れ臭いのか、そのことはまだ口には出さないが、楽しそうな、そして何かを期待するような笑顔は、いちごを癒したいと同時に自分も2人きりを狙っていることの証左だろうか。
そうしていちごを管理人室から連れ出したところで、ミラと美弥子の目がバッチリと合った。
「「あっ……」」
あちゃーという顔で頭を抱えるいちごである。
そもそも夕べ両者から明日の昼に遊びに行こうと言われた時、時間調整して両方ともなんて考えたのが良くなかったのだ、と言っておこう。
それでも、まだこの日の2人はまだ楽な方ですよ?
「ミラさん、いちごをどこに連れていくつもり?」
「ミヤコこそ、いちごとナニするつもりデス?」
一触即発のようににらみ合う2人の妖狐。そしてその傍らでおろおろしているもう1人の妖狐。
だけれども、そんな緊張は長続きはしなかった。
「まぁ、行先はちょっと違うけど、考えてたことはだいたい一緒みたいだしね」
「イチゴを癒すためのお出かけデスから、ケンカはノーサンキューデス」
「あんまりいちごのこと引っ張りまわさないで、ゆっくり遊びに行こうか?」
「デスネ!」
共にいちごにのんびりとした時間をあげようと考えていたこともあって、2人はあっさりと意気投合。
両側からいちごの腕をとって挟み込むようにして、3人で出かけることにしたのだった。
「え、ええと、2人がそれでいいなら……」
「2人きりはまたの機会にね!」
「デスヨ!」
というわけで、やってきたのは、恋華荘の最寄り駅から電車で一駅といった立地にある動物園だ。
園内には、動物たちと触れ合えるコーナーや、ピクニックや写生で賑わう公園もあり、ここ1か所で2人の考えていたデートコースが満たせるのだ。
「さ、いちご、まずはのんびり見まわろうか」
ぎゅむぎゅむ。
「まずは動物見ながら、1周するデスヨ!」
むぎゅむぎゅ。
両側から腕を組まれて3人4脚のような体勢で園内散策となった3人。
もちろんいちごの腕をとってしがみついている2人だ、いちごの腕には寮h鎖の胸が押し付けられている。ミラの特大サイズはもちろん、それほどではないにしても美弥子もそれなりにある方だ。恋華荘にはなぜか、巨乳と平坦の両極端が多い中、美弥子は珍しく普通サイズと言ってもいいだろう。
「3人デートにはなったけど、動物園とかデートの定番だし、なんか普通にデートってだけでうれしいし!」
とは、美弥子の弁である。
もちろん本音を言えば2人できたかったというのはあるが、それは贅沢を言っても仕方ない事だろうか。
ついでに、ミラとブッキングしたときにケンカもせずいちごを癒すことを第一に考えての行動は好感度アップしたよね?なんてこともチラッと考えてはいたりするが……まぁそれについてはいちごもミラも気づいていないので触れないでおこうか。
順路通りに様々な動物を見ていく3人。
ライオンの吠え声に驚いたり、サル山のサルたちの行動に笑ったり、キリンの頭を見上げて首が疲れたり、ゾウさんのパオーンを見て何かを連想したりと、それぞれに一喜一憂しては楽しんでいる。
さすがに3人腕組み状態で動くのも疲れてきたので、普通に3人並んで歩いてお喋るにも花が開いていた。
「あ、あっちでもふもふできるみたいデスヨ!」
「そうそう、あそこがここの動物園の目玉なの。いこいこ!」
やがて、動物園に来た最大の目的であるふれあいパークという看板が見えてきた。
ここでは子犬や子猫、子ウサギ、子ぎつねなどと直接触れ合える場所だ。
「わぁ……人懐っこいですねぇ♪」
3人が入っていくとすぐに近くに寄ってくる人懐っこい動物たちに、いちごの顔も思わず緩む。
ひょいっと腕の中に飛び込んできた子ぎつねの、もふもふ尻尾を幸せそうな笑顔で撫でているいちごだった。
美弥子もミラも、そんないちごの様子を眺めて、嬉しそうに笑顔を向ける。
向けるのだが……子ぎつねの尻尾をもふもふするくらいなら、自分の尻尾でも……とは少しだけ思ってしまう妖狐2人だったとか。
「ああ、もふもふ堪能しました……♪」
「イチゴすごく嬉しそうデスヨ」
「あはは。確かに動物たち可愛かったものねぇ」
結局3人とももふもふは十分堪能したらしい。
ミラが抱きしめると胸に埋もれてジタバタもがく子ウサギがいたり、それを助けようとしたいちごがミラの胸とお約束なことがあったり、悪戯子猫が美弥子のスカートの中に入り込んだり、やっぱりそれを捕まえようとしたいちごとお約束なことがあったりと、まぁ、十分楽しめたようではある。
「でもいちご、今ぐらいとらぶるお休みしてもいいんだよ?」
「ご、ごめんなさい……」
苦笑する美弥子に、恐縮するいちごだった。
「じゃ、そろそろお弁当食べマショウ!」
というミラの言葉に従い、3人は園内の公園スペースに向かう。
そこでピクニックシートを引いて、3人で腰かけ、バスケットから取り出したのはミラのお手製のお弁当。
「これ、ミラさんが?」
「ミラだってこれくらいは作れるデスヨ。イチゴほどじゃないデスけど」
「いえいえ、十分美味しそうですよー」
おにぎりとサンドイッチに簡単なおかずといったピクニック弁当だ。いや、よく見るとおにぎりの代わりにおはぎなのが、餅好きのミラらしいか。
「……って、あれ、お酒も?」
「アハハ。さすがに飲むのはミラだけデスヨ? 早くイチゴと飲めるようになりたいデスけどネ!」
いつの間に園内の売店で買い込んでいたのか、お酒を取り出し1人飲み始める、3人の中で唯一成人済みのミラであった。
未成年の2人はお酒は飲めないので、お茶を飲みつつ、お弁当に手を出していく。
「ん、美味しい」
「はい、美味しいです♪」
ミヤコといちごからの感想も上々で、柄にもなく照れているミラであった。
頬が朱に染まっているのは、……まぁ、こんなに早く酔いが回ってきたわけではないとは言っておこうか。
食後、そのままシートに座ってのんびりしているいちごをそのままに、ミラと美弥子は食後の運動にと、ミラの発案でボール遊びを始めた。
2人でぽんぽーんとトスを上げボールを繋いでいく。
「いちごも一休みしたら混ざらない?」
「それとも、ミラの揺れるお餅見ていたいデスカ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて一度を煽るミラ。当然ミラの無防備な恰好では、軽く走ったり跳ねたりするだけでも、そりゃものすごい勢いで揺れる。目のやり場に困る。
「むっ。まさかいちご、座って休むって言ったのはミラさんの胸見るため?」
「違いますよっ?!」
「どうせあたしはミラさんほどは揺れませんよっ、だ!」
真っ赤になって否定するいちごの顔に、美弥子の渾身のスパイクが決まるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
静宮・あかね
【3日夜】
※いちご&ゆのかに馴れ馴れしい京言葉
※他者に静かな標準語
ホンマ気張りすぎやわ…あんじょうしてぇな
でもウチも付き合い長いさかい
ゆのかはん程やのぅても…少しは、なぁ?(くす)
今日は川魚料理の店を押さえてみたんよ、いちごはん♪
(鰻重、スッポン鍋など、強壮系の贅沢食材が多い)
…なんでぇって、精つけてもらわななぁ?
いちごはんモテモテやし仕事もようさんあるさかい、
お得意はんとしても馴染みとしても、心配なんよ?
え?抱いてほしいとか…そんなんやないって、いけずやわぁ♪
…まぁ、気にはなるんよ?
おなごとして、ウチはどないなモンやろ
付き合い長いけど、他の娘みたいなコトないし…
折角やさかい、言うてみてぇな?
●5月3日・夜
昼のデートで癒されて恋華荘の管理人室へと帰ってきたいちごを、1人の少女が出迎える。
「休みや聞いてたんやけど、出かけてはったん?
いちごはん、ホンマ気張りすぎやわ……あんじょうしてぇな?」
管理人室の扉の脇に立っていちごの帰りを待っていたのは、はんなりとした京都弁の少女、静宮・あかね(海慈屋の若き六代目・f26442)だった。
「あ、あかねさん。来てたんですか」
あかねは、恋華荘にとってはよくお世話になっている仕入れ業者の娘だ。今はその六代目を継いで、恋華荘で大量に消費される食糧の仕入れを一手に担っている。
その出自ゆえ、あかねはもちろん恋華荘の寮生ではないのだが、あかねの親の代から、旅館時代の恋華荘との取引があったこともあり、恋華荘の女将や、もちろんいちごとも昔からの顔なじみ、いわば幼馴染という関係である。
「来てたんですか……ではないやろ? 今夜迎えに行くて、連絡してたやんか?」
「え、ええ、そうでしたけど……約束していた時間よりはまだ早いかなと」
そのあかねは今回、いちごのゴールデンウィークの話を耳に挟んだので、少し時間をもらおうかとわざわざ夜にやってきたわけだ。耳の早さはさすが商人というところだろうか。
「まぁまぁ。ウチも付き合い長いさかい女将はん程やのぅても……少しは、なぁ?」
「少しは、何ですかー?!」
馴れ馴れしく身体を寄せて、腕を絡めてくるあかねの仕草に顔を赤くしながら、いちごは何とか逃げ道を探す。
が、まぁ、当然逃げられるわけはなく。
恋華荘に戻ってきたばかりのいちごだったが、そのままあかねに拉致されるように寮の外へと連れ出されるのでした。
「それで、どこに行くんです?」
さすがに連れ出されるまでは抵抗していたいちごも、寮の外に出てしまえばもう覚悟も決まる。
普段通り幼馴染同士の気安い関係のまま、街の通りを歩いている。
地方の温泉郷とはいえ、格の高い旅館もあるし、そうなると付近に立ち並ぶ食事処の中にはそこそこ高級な料亭的な店もある。今回2人が目指しているのはそういうお店だ。
「せっかくやしね、今日は川魚料理の店を押さえてみたんよ、いちごはん♪」
「高いんじゃないですか?」
地元なのでもちろん、どこの店のことかは理解しているいちごが、驚いたように問いかけるが、あかねは全く気にするそぶりもなく、柔らかな笑顔を見せるのだった。
「ええて、ええて。今日はウチのおごりや。気にせんとき?」
いちごは猟兵仕事での収入もあるので特にお金には困っていない。
なので、むしろ商売人のあかねに大金つかわせるのが申し訳なくて、食事代を申し出るのだが、それは結局あかねにやんわりと断られる。
曰く。今日はいちごのために用意したものなので、受け取ってくれないとかえって困るとの事。
というわけで2人は、ちょっと立派な料亭にて夕食をすることになった。
「ん~。さすがに美味しいですねぇ」
出てくる料理はさすがの高級品で、自身が料理上手であるいちごの舌をも唸らせるものだった。
「いちごはんの口にあってよかったわぁ」
「でもこれ、なにかメニューに意図とかありません?」
目の前にある料理は、鰻重だったり、すっぽん鍋だったり……まぁいわゆる強壮系の精のつく料理ばかりだったりするからだ。
「……そらなぁ、精つけてもらわななぁ?」
にやぁっといい笑顔を見せるあかねだった。
「ど、どういう意味ですか……?」
いちごはさすがに背筋がぞくっとして、声を震わせて問いを返す。
いちごとあかねは幼馴染とはいえ、今まで特に男女を意識するようなことはなかった……はずだ。と、いちごは思う。どちらかというと取引の付き合いできていたことの多いあかねは、自分よりも恋華荘の女将さんとの方が仲がいいはずだし、と首をひねる。
だが、あかねはそんないちごの頭に浮かぶハテナマークはまるで気にせずに、ほんのり頬を朱に染めた色っぽい貌を見せて、いちごをからかうように言うのだった。
「いちごはんモテモテやし仕事もようさんあるさかい、お得意はんとしても馴染みとしても、心配なんよ?」
「そ、そうですか……それだけ、ですか?」
表情からは更に裏がありそうな気がして、いちごはもう少し引き下がってみる。
「ほんまやよ? ふふっ。抱いてほしいとか……そんなんやないって」
からかうように楽しそうにけらけらと笑うあかね。
「いちごはん、いけずやわぁ♪」
……と、その表情からは一応からかいがメインであることは読み取れる。
なので少しだけいちごは安心して、料理の味を楽しむことにした。
したのだが、あかねは、軽く、少しだけ色っぽく吐息を吐いて、軽く頬を染めながら続けるのだった。
「……まぁ、気にはなるんよ?」
「えっ?」
声のトーンからからかいの色が消えたので、いちごは改めてあかねの方をまじまじと見る。
「おなごとして、ウチはどないなモンやろ?」
「ど、どないなと言われましても……」
いちごの脳内では、これ以上聞いてはいけないという警戒警報が鳴り響いているのだが、だからといって真剣な想いならば答えなければと、受け止めなければと真面目に考えてしまうのが、いちごのいい所でもありダメな所でもあり。
「ウチら付き合い長いけど、他の娘みたいなコトないし……折角やさかい、言うてみてぇな?」
他の娘みたいな……というのはつまり、いちごと色々と、詳しい事は言及を避けるが、まぁそういう事である。
「そ、それはまぁ、付き合いは長いですけど、商取引のついでみたいなことも多かったですし……あかねさんに魅力がないとかそういう事ではないですけど、でも、特に考えたことはないですし……」
「なして、考えたことないん?」
さらに踏み込むあかねに、いちごは答えに詰まってしまった。
何故と言われても、あえて言うのならあかねと親密に付き合うようになったのが、旅館が恋華荘に様変わりして、あかねが六代目を継いで、それからのことなので、意識することがあるとしたらこれから、という事になるのだろうか。
そのようなことを、しどろもどろになりながらいちごは語る。
それを聞いているあかねの方はどうなのかは、いちごにはうかがい知れないが。
「……なるほどなぁ。ほんなら、ウチももっと積極的に絡んでいかないとやねぇ♪」
「お、お手柔らかにお願いします……」
あかねの言葉に苦笑しつつ、とりあえずこの方面お話はここまで。
あとは2人で料理に舌鼓を打ったり、お互いのことを色々話したりと、仲良く会食をするのだった。
大成功
🔵🔵🔵
白雪・まゆ
【4日昼】
おねーちゃんとでーとのちゃんすなのです!
ここはやっぱり思い出の地下室……としてしまいますと、
おねーちゃんが引きそうなので、スイーツ食い倒れツアーなのです!
『よいとまけ』は外せないとしましても、これは前菜
今回のメインは、インドのお菓子なのです!
『グラブジャムン』と『ラスグッラ』という激甘スイーツが、凄いらしいので、
インド料理店に、おねーちゃんといっしょに食べに行きたいのですよ。
あああああ。これ、これなのです!
頭の芯までシロップ漬けになるようなこの甘さ!
やっぱりこのくらい甘くないとダメですよね!
あれ? おねーちゃん?
なんでこめかみとか押さえているのです?
も一個、あーん、しますですか?
白銀・ゆのか
【4日目昼】
二人きり…そう言えばいちごのお世話の時間以外、あんまり二人っきりって…なかったわね。
寧ろお世話の時間も大体他の人も一緒…
…叶うならどうか、たまには二人っきりで、お買い物とかしたいな。
(ダブった場合)
あははは…ま、流石にそんな都合のいい事はないか~。
でも、お買い物がしたいのは(こいのかの宿泊人数てきにも)ほんとのことだし、こうなったら皆でお出かけついでに買い出し、しちゃいましょ♪
…またいつか、今度は二人で、ね?
(二人の場合)
というわけで…いちご、乗って乗って!
こんな事もあろうかと、二輪の免許をとっちゃった。
いちごを後ろに乗せて、お買い物先までドライブです♪
腰から手…放しちゃ…め、よ?
●5月4日・昼
「2人きり……そう言えばいちごのお世話の時間以外、あんまり2人っきりって……なかったわね」
恋華荘の若女将たる白銀・ゆのか(恋華荘の若女将・f01487)は、そんなことを考えながら、管理人室へと続く廊下を歩いていた。
そもそも、いちごが捨て子として白銀神社……ゆのかの実家の境内に捨てられていた時からの付き合いで、いちごとは最も古くからの仲であるゆのかだ。地縛霊が出現するよりも、酔いどれの女医が住み着くよりも、生き別れの双子の妹と再会するよりも、先に隣にいたのはゆのかなのだ。それを考えると、恋華荘が女子寮になってからあまり2人きりになれていないのは、やはり寂しい。
「寧ろお世話の時間も大体他の人も一緒……だものねぇ……」
住人が増えて賑やかになるのは歓迎なのだが、それでもいちごとの時間を考えると、このままずっと2人でも良かった……などと少しは思ってしまう。
「うん。いちごもこの連休中は手が空いてるんだし、こないだ二輪の免許も取ったところだし、いちごを後ろに乗せてお買い物とかしたいな」
叶うならどうか、たまには2人っきりで……。
そう願いつつ、ゆのかはいちごの住む管理人室へと向かっていった。
さてその頃、恋華荘の地下室では、ひとりの少女が気合を入れまくっていた。
「おねーちゃんとでーとのちゃんすなのです!」
もちろん(?)こんな場所をホームとしている少女など、恋華荘には1人しかいない。言うまでもなく白雪・まゆ(月のように太陽のように・f25357)その人だ。
さすがに今は地下室から出て、普通に部屋を借りているまゆなのだが、今でも時々思い出の地下室と称して、何かるごとにここに入り込んでいたりする。
念のために言っておくが、恋華荘に怪しい地下室があるわけではない。ここは単なる地下の貯蔵庫で、恋華荘で大量に消費される食材の保管場所というだけだ。
だが、一時期怪しい施設から救出され、追手から身を隠すためにこの場所で匿われていた経験のあるまゆにとっては、ここでおねーちゃんと慕ういちごに世話をしてもらったこともあって、ここが思い出の場所となっているのだ。
「……でも、ここででーととか言ったら、おねーちゃんに引かれてしまうのです」
解せないとでも言いたげな表情のまゆだが、さすがに当たり前だ。いちごにはそんな監禁とかペット調教とかの趣味はないのだから……。
「ここで飼ってもらうのが、いちばんのしあわせですのに……」
……ダメだこの子。早くなんとかしないと。
「しかたないですし、おねーちゃんに飼ってもらうのはまた今度にして、今日はスイーツ食い倒れツアーなのです!」
とりあえず地下から出る気になって一安心。やりたいことを見つけて、まゆはおねーちゃんを誘うために地上へと戻るのだった。
「それじゃ、いちご。後ろに乗って?」
「はい、えっと……」
いちごとの2人きりの買い物だとウキウキ気分のゆのかは、買ったばかりの新車のバイクの後ろにいちごを乗せる。
「躊躇わなくていいから、ちゃんと捕まって、腰から手……放しちゃ、メッ、よ?」
「は、はい……」
さすがにバイクのタンデムともなれば、背後からゆのかの身体にぎゅっと抱きつくような格好になる。いちごとしても照れるし、それを促すゆのかだってやっぱり少しは恥ずかしい。それでもたまにしかない2人きりの時間ならば、そういう密着も嬉しいもので……。
「あーっ! まゆを置いてお出かけ、ずるいのです!」
……なんて、バイクのタンデムで照れて戸惑っている間に、まゆにみつかったのでした。
「あははは……ま、流石にそんな都合のいい事はないか~」
トホホという感じで、でもやっぱりこうなるのかとどこか予想していた展開に、ゆのかは肩を落とすのだった。
なお、ここからのまゆの行動は、さすがにゆのかも予想外ではあった。
「まゆもおねーちゃんにぎゅってするのです!」
「「えっ?!」」
猪突猛進突撃娘のまゆは、そのまま2人がタンデムしているバイクの、更に後ろにぴょこんと飛び乗ってきたのだった。
そのまま後部座席の更に後ろの隙間に座ると、ぎゅむーっといちごに抱きついてくる。いわば3ケツ、バイクの3人乗り状態。もちろん道交法違反である。
「ちょ、ちょっとまゆちゃん、3人乗りはダメなのよーっ?!」
「降りてくださいー?!」
「でもでも、ゆのかさんだけおねーちゃんにぎゅーしてもらうのずるいのですっ!」
この後まゆを引き剥がして、3人で歩いてお出かけするまで、しばしの時間がかかったという。
「こうなったら皆でお出かけついでに買い出し、しちゃいましょ♪」
というわけで、頭を切り替えたゆのかの発案のもと、3人での買い出しとなった。ちなみに恋華荘の女将と管理人なので、そのあたりどうにも買い物の方向性も所帯じみている。主に寮で使う消耗品の補充である。
「荷物持ちなら任せるのです!」
「あはは、頼りにしてますよ」
まゆとしても、おねーちゃんと2人きりではなくなったが、そもそも一緒のお出かけの時点で嬉しいので、3人一緒の組み合わせも特に問題はないようだ。そして実際小柄な体に見合わぬ力持ちのまゆなので、荷物持ちとしては実に最適な存在だったりする。忠犬のようにいちごの傍にいて命令を待っているので、余計なものに目移りしないという意味でもありがたい。
「買い物はもう終わりなのですか?」
「ですねぇ……だいたい必要なものは買えましたよね、ゆのかさん?」
「うん、これくらいで大丈夫だと思うのよ」
ショッピングモール内のホームセンターやドラッグストアをはしごして色々買い込んできた3人は、買ったものをひとまとめにして、寮への配送を頼むことにする。
「それじゃ、買い物付き合ってくれたお礼に、次はまゆさんのいきたいところに行きましょうか?」
「いいのですかっ!」
「うん。付き合ってくれたお礼なのよ」
やったーと全身で喜びを表現するまゆ。
こういっては何だが、同年代3人でのデートと言うよりは、いちごゆのか夫婦に娘のまゆと言っても違和感のない構図であった。
「今回のメインは、インドのお菓子なのです!」
というまゆの主張のまま、モール内にあるインド料理店へとやってきた3人。
座席に案内され、まゆが張り切って3人分のスイーツを注文する。
「『グラブジャムン』と『ラスグッラ』というスイーツが、凄いらしいので、おねーちゃんといっしょに食べに来たかったのですよ!」
「インドのスイーツですか……?」
料理名人のいちごをもってしても、さすがにインドスイーツは専門外だった。ゆのかに振ってもピンと来ないようで首を横に振っている。
ただ、ものが何なのかはわからなくても、まゆの味の好みは知っているはずなので、警戒はしておくべきだったかもしれない。
運ばれてきたお菓子は2つ。それが山盛り。
スポンジ生地を丸く整形して油で揚げたようなグラブジャムン。
「ボールドーナツみたいな感じかしら?」
もう一つはスポンジ生地をシロップに漬けたような、同じく丸いお菓子ラスグッラ。
「こちらも似たような感じですね……どれどれ?」
特に警戒せずひとつ摘まんで口に入れるいちご。
一口入れただけで染み出すシロップ。脳天にまで突き抜けるような駄々甘さ。
「あああああ。これ、これなのです!
頭の芯までシロップ漬けになるようなこの甘さ!
やっぱりこのくらい甘くないとダメですよね!」
超絶甘党のまゆは大歓喜で、ひょいパクひょいパクと次々とシロップまみれでつゆだくシロップのその2種の菓子を口に入れては満面の笑みを見せていた。
が、さすがにいちごもゆのかも、この甘さは想定外で、一口口に入れたところでピシッと固まってしまっていた。
「あれ? おねーちゃん? ゆのかさん?
なんでこめかみとか押さえているのです?」
「い、いえ、これはさすがに予想外の味でしたから……」
「そ、そうなのよ、ちょっとびっくりしただけ、なのよぅ……」
2人とも何とか笑顔は崩さずに、まゆに応える。
幸い、という言い方が適切かどうかはわからないが、この2種とも、食べた瞬間も甘いし、噛んでいるうちに後味も甘くなってくるし、飲み込むころには脳天を貫くほどの強力な甘さにはなるものの、決してまずいわけではない。ただ強烈に甘いだけなので、その甘さがいいという人にはたまらないのだろう。まゆのように。
「も一個、あーん、しますですか?」
「は、はい、お願いします」
そして、これほどの甘さはさすがにきついものの、まゆの笑顔を裏切れないいちごは、笑顔を保ったまま、まゆのあーんを繰り返し受けて、甘さ以外を感じなくなるほどに堪能したのであったとさ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アンナ・オルデンドルフ
【4日夜】
多分被るだろうと思いつつ、いちごさんをディナーにお誘いしてみます。
ちょっとおしゃれなレストランでごちそうを、って考えますね。
メニューはフレンチのコース料理を。
もっとも、ワインは飲めないのでグレープジュースで乾杯、ですが。
おいしい料理に舌鼓を打ちながら、素敵な時間を過ごすつもりです。
そしてデザートは、ストロベリーパイで。
その上には"For You"と書かれたチョコレートが乗ってたり。
何か、一緒にいられるだけで幸せです。
被ったときはご一緒にどうぞとばかりにレストランにお誘いしてみます。
被った人の分は私が出しますということも相手に告げつつ、
みなさんで楽しい時間を過ごせるとよいですね。
叢雲・黄泉
【4日夜】
「……なるほど。メランからの情報通り、あなたが私の探し求める邪神のようですね。その妖気、覚えがあります」
私を半吸血鬼にした邪神……
目の前の 彩波いちごという少女から、その邪神の妖気を感じ取ります。
「長い年月をかけて、ようやく見つけました……
彩波いちご、殺します……」
【血統覚醒】で吸血鬼因子を活性化。両腕を異形に変化させつつ【ブラッドガイスト】で血の刀を生成。【妖剣解放】で高速移動しつつ衝撃波で攻撃します。
「邪神……彩波いちご、私の全力攻撃はどうですか?
……なっ、無傷!?」
自動反撃の触手とスライムに襲いかかられ……
心に深いトラウマを植え付けられるのでした。
「にゅるにゅる、嫌……」
織笠・アシュリン
【4日夜】
折角だし、温泉郷ならではの場所行こうよ!
というわけで、射的場コースにいちごを誘うね!
この日のために買ってきた、浴衣と厚底下駄で決める!
髪も横ポニーじゃなくてちゃんとしたポニーにして、
「……そ、その、似合うかな?」
顔を赤らめつつ感想を聞いてみたいかな
※浴衣は、いつものブラウスのような薄青の生地に、白く染め抜かれた星と空飛ぶ魔女の模様があしらわれたデザイン
というわけで一緒にコルク銃を構えて、
「ねぇ、あの的をどっちが先に落とせるか競争しようよ!」
景品(大きな猫のぬいぐるみ)を取れるように頑張る!
結果に一喜一憂しつつ……
真剣ないちごの横顔を見ちゃって、胸を高鳴らせるよ
セナ・レッドスピア
【4日夜】
最近は暑くなるのが早いです…
ここはいちごさんに涼んでもらうために
夜のプールにお誘いしちゃいます
最初の方はスライダーで一緒に滑ったり
波打つプールで一緒に遊んだり
疲れも出ちゃうはずの後半は
腰掛ける所のあるプールで
イルミネーションや花火を見ながら
飲み物を手に、のんびり過ごしていきます
その時に、いちごさんから迫られちゃうかも!?
その時はドキドキいっぱいに受け入れちゃいます
もし、かぶっちゃった人がいたら、その人がおっけーでしたら
そちらにご一緒して、その人とも仲良く過ごしたいですっ
場所もその人の希望した所でっ
(もしも今までご一緒して仲良くなれた人だったら
思い切ってプールにお誘いしちゃうかも?)
●5月4日・夜
甘々(物理)な買い物から帰ってきた後、いちごは頭を悩ませていた。
この夜、3人の寮生からの誘いを受けていたのだが、どうしても時間と場所的に全員一緒には難しいのだ。優柔不断にも断ることができず、勢いに押されてOKしたのが悪いと言えばその通りなのだが……。
「となると、あの方法しかないですかねぇ……」
幸いにしてこの手段は、寮生にはまだ見せたことのない新しい能力なので……今回くらいは誤魔化せるだろう。
「まぁ、まずは時間の被っていない約束から……」
いちごは期待に応えたいという少しの決意と、いっぱいの申し訳なさを抱えたまま出かけていくのだった。
「あ、いちごさん。約束の時間にはまだ早いですけど……?」
出かけた先、目的地まで行く途中の道中で、セナ・レッドスピア(blood to blood・f03195)とばったり出会った。
なお、セナとの約束の時間までまだ1時間以上ある。
「せ、セナさんこそ、早いですね」
「えっと、なんとなく寮にいるのも落ち着かなかったのでっ」
いちごは内心慌てつつも笑顔で話しかけ、セナは顔を赤くしながら答える。
このあと1時間ほど後には待ち合わせて夜のプールで遊ぼうと誘いを受けていたわけなのだが、セナはどうやらただ待っているのも落ち着かなくて、時間よりも早くから待つつもりで出てきたらしい。
「最近は暑くなるのも早いですし、涼みに行くなら早い方がいいかなと……早く会えましたし、このままプールに行きますかっ?」
「えっと、それは……」
顔を赤くしながらもずいっと迫ってくるセナに、一瞬押されて頷きそうになるも、そういうわけにもいかない事情が今のいちごにはあるわけで。
「あ、やっぱり被ってしまいましたか……」
その事情が、2人に声をかけてきた。
本来の、この時間の待ち合わせ相手のアンナ・オルデンドルフ(真っ直ぐな瞳・f17536)である。
「あ、アンナさん……」
「待ち合わせ場所に来なかったので、少し探してしまいましたよ」
本来この時間は、アンナの予約していたレストランでの食事の予定だった。
そのレストランは、セナが向かおうとしていた屋内プール施設からも近い位置にあったため、待ち合わせ場所も比較的近場だったわけである。
「えっ、あっっ……ごめんなさいっ。お邪魔だったみたいですっ」
いちごが自分のために来たわけではないと理解して、恥ずかしさと少しの寂しさで真っ赤になったセナは、邪魔してはいけないとこの場を去ろうとする。
「ま、待ってください、セナさんっ」
反射的にセナの手をとり引き留めてしまういちご。
このままいかせてしまったら、食事のあとの待ち合わせにも来ないだろうと予想される、譲りがちなセナの性格を慮っての行動ではある。が、アンナとのデートを前にして、別の女のことをにかけるという、修羅場待ったなしの構図だ。
もっとも、こういう時誰も見捨てないのがいちごだという事は、アンナだってセナだって理解はしている。だから、軽くため息を吐いてアンナは言う。
「まぁ、被ってしまったのは私達も原因ですし、それなら3人で楽しみましょう。セナさんもご一緒にどうぞ?」
「で、でもでもっ……」
「私の予定は食事だけですし、その後はセナさんの予定でいかがです?」
アンナからのその提案に、増えた分の食事代は自分が持つとまで言われては、セナも断れない。
かくして3人で、フレンチレストランのコース料理を楽しむことになった。
「ワイン代わりのグレープジュースですが、まずは乾杯」
「「乾杯」」
せっかくだから楽しみましょうとのアンナの言葉に頷き、3人で乾杯から始まる食事会。
次々と出されてくるフレンチ料理に舌鼓を打ちながら、普段あまり接点のないアンナとセナもいちごを介しての会話で打ち解けていく。
「美味しいですっ」
「ふふ、口にあってよかったです。いちごさんはどうですか?」
「もちろん美味しいですよ。……どうすればこれ作れるのかなぁ、なんて色々考えてしまいますけど」
めったに食べられない豪華な料理と、料理人らしいいちごの感想に、アンナも、緊張の解けたセナも、明るい笑い声をあげる。
そんな和やかな食事会は、あっという間に料理はつき、最後のデザートの時間になった。
「本当は2人きりになれればと思って用意したデザートなので、少し恥ずかしいですけどね」
「あっ、すみません、混ざってしまってっ」
「いえいえ、誘ったのはこっちもですから。それより、そういう事情なので、見て笑わないでくださいね?」
アンナとセナがそんなやり取りをしている間に運ばれてきたデザートは、いちごにちなんでのストロベリーパイだった。しかもその上には『For You』と書かれたチョコレートが乗ってたりする。
「アンナさん、これは……」
「ふふ、いつものお礼ですよ。なんだか、こうして一緒に過ごせるだけで幸せですから、そのお礼、でしょうか」
アンナからの素直な好意を贈られて、いちごのみならず、セナまで照れて赤面してしまうのだった。
美味しいパイを食べてレストランを出た後は、今度はセナの予定の時間。
「食事盛り上がりましたから、少し時間遅くなってしまいましたけど、改めてプールに行きましょう」
「え、ええ……」
セナは、何かそわそわと時間を気にしているいちごの手を引いて、屋内プールへと向かっていった。いちごにとっては先日ゴールデンウィークの初日にも来たところだ。
「アンナさんもご一緒にですっ」
「それでは私もお供しますね……あ、でも水着はどうしましょう?」
セナはさらにアンナも当然のように誘う。
水着に関してはレンタルもあるから問題ないと、食事の間にすっかり打ち解けた2人はいちごに断りを入れて水着のレンタルへと向かうのだった。
「私は着替えて先に行っていますね」
時間を気にしていたいちご、ある意味ホッと胸をなでおろして、2人とはいったん別行動をとることにする。
同時刻。温泉街の射的場。
龍神温泉郷は基本的には古い温泉街である。
最近は時代の流れからから広いショッピングモールやアミューズメントパークなどもできているが、温泉旅館の立ち並ぶあたりに目を向ければ昔ながらの見せもまだけっこう残っていたりする。
射的場はその一つ。
今日では縁日の出店くらいでしか見かけることのないコルク銃を使っての遊戯場も、この街ではまだ現役なのだ。
そしてその店の付近に、浴衣姿の織笠・アシュリン(魔女系ネットラジオパーソナリティ・f14609)が佇んでいた。
「いちご遅いなぁ……まだかなぁ?」
せっかくのいちごとのデートならと、用意した浴衣に身を包み、髪型も変え、そわそわと待っている。
そこに、急いできたのか息を切らせて、いちごが駆けてやってきた。
「すみません、遅くなりまして……」
「遅いよ、もー……」
先ほどまでプールで着替えていたはずのいちごが、遠く離れたこの場に何故、という種明かしはあとにしよう。
「今日は浴衣なんですね」
「……ど、どうかな? 似合うかな?」
「魔女柄の浴衣とは、いかにもアシュリンさんらしくてよく似合ってます。それと髪型も、今日はポニーテールなんですね。とても可愛らしいですよ」
相変わらず自然に人をほめられるいちごである。
とはいえ欲しかった相手からの誉め言葉に、アシュリンは真っ赤になるのだった。
2人はそのまま、射的場に入りコルク銃を手にする。
目の前には大小さまざまな景品の数々。
「ねぇ、あの的をどっちが先に落とせるか競争しようよ!」
「あの大きなぬいぐるみですか? いいですよ」
アシュリンが示したのは、可愛らしい大きな猫のぬいぐるみ。コルク銃の威力ではそう簡単に落ちないだろうと思われる重量感があり、恐らくは客引き用のメインの品だろう。
「あーっ、当たったのに」
「さすがアシュリンさん、狙いは正確ですね。一度でダメなら何度でも当てるんですよ」
1発1発の結果に一喜一憂し、気が付けば積んであったコインも数を減らしていく。それでも2人は狙いを定めたからには諦めない。ぬいぐるみが欲しいなら、とってあげたいですね、と真剣に狙いを定めるいちごの姿を見ながら、アシュリンも何故か胸がドキドキしているのだった。
同時刻。プールにて。
「お待たせしました、いちごさん。水着選び時間かかってしまって……」
「ここで休んでいたんですね。探しましたですっ」
結局競泳水着をレンタルしてきたアンナと、こちらは自前の黒いビキニに身を包んできたセナが、ビーチサイドの椅子に腰かけて休んでいたいちごを見つけて近づいてくる。
いちごは軽く微笑みを返して、こちらですよというように手を上げた。
「スライダーとか、波のプールとかで思いっきり羽を伸ばしてもいいかもですけどっ」
「もうすぐ花火も始まるみたいですから、まずはのんびりとその見物にしましょうか」
というアンナの言葉に頷き、3人は流れるプールにフロートマットを浮かべて、のんびりと流されながら花火見物をするのだった。
同時刻。射的場のある温泉街の路地にて。
「やったぁ、とれるとは思わなかったー♪」
大きな猫のぬいぐるみを抱きしめながら、満面の笑みでアシュリンは歩いている。
「結構お金もかかっちゃいましたけどね」
「でも、普通に買うよりは絶対安かったし!」
結局連コインの犠牲を伴ってしまったが、狙っていた大きなぬいぐるみはとれたらしい。最終的に落としたのは、いちごが撃った銃という事もあり、競争には負けてしまったが、いちごからのプレゼントだと、アシュリンはご満悦だった。
そうして2人で寮に戻って歩いている帰り道。
昔ながらの温泉街のであるこのあたりは、街の中心部からは少々外れていることもあり夜には人気も少なくなる。恋華荘はそこからも少し離れた位置にあるため、なおのこと人気は少なく、街灯も少ない。
だからこそ、彼女が潜んでいたことには気づかなかった。
「……なるほど。メランからの情報通り。その妖気、覚えがあります」
「えっ?! 誰っ?!」
一瞬、いちごと2人きりでいるので、他の寮生に見つかったのかと慌てるアシュリンだが、そうではない。
……いや、一応手続き上は寮生には違いない事は、管理人のいちごは知っているのだが、アシュリンには全く馴染みのない顔だ。
「あなたが私の探し求める邪神のようですね」
禍々しい赤い異形となった腕に血のような朱い剣を持つクールな少女。
叢雲・黄泉(ヴァンパイアハンター・f27086)がそこにいた。
「長い年月をかけて、ようやく見つけました……彩波いちご、殺します……」
最近入居した商人の少女メランの紹介で、今日転居の書類を受理したばかりということもあり、一応顔だけはいちごも知っている。
だが、殺されるような覚えは、いちごにはもちろんない。いつか刺されるぞとはよく言われているいちごだが、そもそも初対面の彼女とそんな事情があるはずもない。
「叢雲・黄泉さん……いきなりどういうことですかっ?!」
「問答無用。邪神……彩波いちご、私の全力攻撃で、塵に還りなさい!」
黄泉は、いちごの言葉など聞かず、いちごを邪神と呼んでその力を解放する。
己にある吸血鬼の力を【血統覚醒】で活性化し異形と化した両腕の力を増し、更に【ブラッドガイスト】で生み出した血の刀を構え、【妖剣解放】による高速移動しつつの衝撃波を伴う一撃。
「アシュリンさんにげてっ!」
いちごは慌てて、いまだこの展開についてこれずに呆然としているアシュリンを突き飛ばし、寮に逃げるように指示するが、元より黄泉の狙いはいちご1人。アシュリンのことなど見てはいない。
衝撃波がいちごを包み込む。
「やりましたか……なっ、無傷!?」
だが、いちごは咄嗟に自らの影から召喚した触手を盾にしてその衝撃波を受け止めていた。残念だが、これでもいちごは猟兵としての実力もかなりのもの。ドジってトラブる事さえなければ、こんな不意打ちひとつくらいはどうにかなるのだ。
「どうして私を狙ったのか、聞かせてもらいますよっ!」
アシュリンがすでに逃げていることを確認したいちごは、そのまま召喚した触手を操り、黄泉を捕まえようと襲い掛からせた。
もちろんこれから引っ越してくる予定の猟兵だと思っているので、手荒なことはしないように触手の攻撃は手加減させているのだが……逆に傷つけないように手加減をすることにとよって、絡みついての拷問のような格好になってしまう。ある意味触手プレイ的な。
あっという間に囚われて敗北した黄泉は、触手によって心にトラウマを植え付けられてしまったのだった……。
「にゅるにゅる、嫌……」
その後。プールにて。
(「黄泉さんの話を聞いてすっかり時間が経ってしまいました……分身は誤魔化せていたでしょうか……?」)
黄泉を捕らえ、アシュリンと別れたいちごは再びプールに戻ってきていた。
さて、種明かしをすると、いちごが同時に存在して見えたのは、いちごが最近使えるようになった【異界の回廊】というユーベルコードのおかげだ。
異界を通じて自身の分身をその場に残しつつ別の仲間の所に瞬間移動できるこの術の力で、プールで2人が着替えている間に分身をプールサイドに残して、アシュリンとの待ち合わせの射的場へと移動してたのである。
分身はある程度自立行動できるとはいえ、しょせんは幻。
誤魔化すような事になってごめんなさいと内心謝りつつ、いちごはその分身と瞬時に入れ替わる形でプールに戻った。
「えっ? ええええぇええぇ?!」
戻ったら戻ったで、セナに抱きつかれたままウォータースライダーの中にいた。
さすがに心の準備も何もなかったいちごは、状況がよくわからないままセナに抱きついて、一緒に滑り落ちる。
先ほどまで疲れからか大人しかった(とセナたちは認識していた)いちごが、急に抱きついてくるものだから、セナの心臓が急にどきんと早鐘をうった。
どっぼーーーん。
そのまま2人抱き合ったまま着水。
抱き合ったまま水面に顔を出し、見つめ合う2人。
「す、すみません、セナさん。咄嗟のことでつい……」
いつの間にか花火も終わり、流れるプールからスライダーへと移動してきて遊び始めたところだ、というのは分身の状況を知らないいちごにはわからないことだが、いきなり戻ってきてみればセナと抱き合っていたという状況はさすがに気まずい。
「い、いえ……」
でもセナとしては、急にいちごに抱きしめられ、言い換えればいちごに迫られたことで色々とドキドキが限界突破している。
赤面したまま目を閉じて受け入れ態勢になるセナの姿に、逆にいちごの方もドキドキと顔が赤くなり……そしてそのまま2人の顔が近付く……わけはなかった。
「2人とも、私も見ているんですからね?」
「「?!」」
迎えに来たアンナのツッコミに、慌ててばっと離れる2人だったとさ。
同時刻。寮近くの裏路地。
「おのれ邪神……おのれ彩波いちご……絶対殺します……ああっ、にゅるにゅるだめぇ……いやぁ……」
ひとまず事情を聴きだされた黄泉は、そのまま触手に絡まれたまま放置されていたのだった……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【5日昼】
えっと、デートってことだけど、
恋華荘の中でもいいんだよね。
デートって言うのにはちょっと違うかもだけど、
いちごさんとのんびりしたいなーって思うよ。。
場所は、わたしのお部屋がいいかな。
もちろん、前の日までにしっっっかりお掃除しておくよ。
いちごさんが来るのは、もちろん初めてじゃなけど、
あらためて、ってなるとすっごい緊張するね。
いつもごはん作ってもらってるから、
今日はわたしの手料理を食べてもらおう。
ちょっと辛めかもだけど、抑えめでいくよ!
ごはん食べたら膝枕! もちろん耳かきのオプション付き!
そのままいちごさんにお昼寝とかしてもらえたら嬉しいな。
寝顔をみながら、ほんわか幸せ感じちゃいます!
●5月5日・昼
前日の夜、いろんな意味で疲れたいちごは、管理人室のベッドでぐったりとしていた。
ちなみに一応触手に絡まれた人は回収して部屋をあてがい引っ越し作業を夜中に済ませている。
その手伝いをしてくれた妹も今は出かけているので、いちごは1人で身体を休めていた。この時間は特に約束はなかったはず……と。
「夜の約束、こっちの時間に早めてもらってもいいですかねぇ……」
今夜も忙しくなりそうだなと思いつつ、今は休憩をしていたのだが……。
コンコン。
「いちごさん、いるー?」
ノックの音ともに、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が管理人室を訪れたのだ。
「あ、はい。理緒さんですか。いますよー」
来客が来ればぐったりなどしていられない。ぱぱっと起き上がり、理緒を笑顔で出迎えるいちごである。
「えっとね、いちごさん、今時間空いているなら、デートに誘ってもいいのかなぁ、って」
いちごの都合はどうだろうと、恐る恐るといった感じの上目遣いで聞いてくる理緒。まるで散歩に連れてってとおねだりする忠犬のよう……と言ったら失礼か。
「今は時間空いていますから、構いませんよ?
それでどこに行きますか?」
先ほどまでの疲れをまるで感じさせず、笑顔でいちごは返事をするのだった。
でも、いつもいちごのことを見ている理緒には、いちごが無理をしているというのはお見通し。
「なんだかいちごさん疲れてるみたい? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。……あ、でも、遠出はちょっと厳しいかもですけど」
遠出が厳しいのは、体力よりも時間的な問題ではあるのだが、理緒はそのあたりの解釈違いは気付かず、それならばと考えていたことを提案することにした。
「じゃ、じゃぁさ、わたしの部屋に来ない?」
その、聞きようによってはあまりにも大胆な発言に、いちごは真っ赤になってしまうのだった。
女の子の部屋に招待という、ある意味青春の嬉し恥ずかしイベントではあるのだが、残念ながらというか、いちごは寮の管理人なので、整備や清掃のために寮生の部屋に入ったりすることもある。
もちろん理緒の部屋に入るのだって初めてではない。というか理緒が引きこもっていた時期には、食事を届けに毎日のようにやってきていたわけなのだし。
そうでなくても日常的に家族同然で同じ建物の中で暮らしているのだから、意味合い的には文字通りの意味で部屋に遊びに行く程度でしかなかった。
それでも理緒は、改めて部屋に招待となると、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしているし、前日には部屋の掃除を頑張ってもいた。隅々までしっかりと。恋焦がれる相手にだらしない姿は見せられないのだ。
「お邪魔しまーす……」
理緒の部屋の扉を開けて、隣にいる理緒に挨拶をして部屋に入る。
「えへへ、いらっしゃいませっ。あらためて、ってなると、なんだかすっごい緊張するね」
「ほんとですね」
なんだか赤面しながら見つめ合ってしまう2人であった。
「えっとね、いつもいちごさんにごはん作ってもらってるから、今日はわたしの手料理を食べてもらおうかなって」
そういって理緒は、冷蔵庫から作っておいた料理を取り出すと、レンジで温め始める。
ちなみに恋華荘は、元旅館という事もあって、部屋にキッチン設備は存在しない。冷蔵庫などは各自が持ち込んでいるが、基本的に部屋で火を扱うことはできない。なので食堂の厨房を使って料理を作ってここまで運んできたという事になる。厨房の責任者であるいちごがそれを知らなかったという事は、女将に頼んだか、あるいは仲のいい地縛霊に頼んだか……。
「私がごはん作ってるのは、お仕事だからですし、そんな気にしなくても。
でも、理緒さんの手料理楽しみです♪」
「えへへ。あ、一応、辛さは控えめにしたからね!」
理緒の味の好みが超辛党で、普段からマイ七味やマイ山葵を持ち歩いていることを知っているいちごは、少しだけ辛さを警戒していたのだが、さすがに理緒もそこはいちごの好みに合わせるくらいはする。
とはいえ温め直され運ばれてきた料理は、やはり赤かった。
テーブルの上に並べられたのは、エビチリと麻婆豆腐。まぁ、標準的な赤さなので、極端に激辛ということはないだろう。
「いちごさんほど美味しくないかもしれないけど、食べてくれる、かな?」
「はい、もちろん、いただきますよ」
にこっと笑顔でいちごは頷き、しばし理緒の手料理を楽しむことになった。
「えっと、はい、いちごさん。あーん」
「あ、あーん」
スプーンでひと掬いした麻婆豆腐を、理緒はふーふーと息を吹きかけて冷まし、いちごの前に差し出す。
いちごは赤くなりながらも素直に口を開け、食べさせてもらった。
「どう、かな?」
「美味しいです」
「よかったー♪」
味の方も程よい辛さで十分に美味しい。
いちごの料理に比べると自信のなかった理緒ではあるが、誰かと比べるようないちごではないし、理緒の頑張りが感じられるので、十分満足のいく食事だった。
「ご馳走さまでした」
「お粗末さまでしたっ」
あーんと互いに食べさせ合いっこしながらの食事も終わり、食器を片付けたあと、理緒は今度は座布団の上に正座して、ぽんぽんと自分の膝を叩く。
「いちごさん疲れてるみたいだから、ひ、膝枕とか、どうかな?」
さすがにそれを誘う方も恥ずかしいらしい。真っ赤になって、それでも勇気を出して言ってみた。
「耳かきもあるよっ」
「え、えっと、それでは、お願いします」
そしていちごもまた真っ赤になってしまうが……でも疲れているのも確かなので、厚意には甘えることにする。
いちごは言われるままに横になり、理緒の膝の上に頭を乗せて……。
「ひゃ……」
「あわわ、すみません、変なところ触ってしまいましたか?」
「う、ううん。いちごさんがわたしの膝の上にいるって思ったら、つい声出ちゃっただけだから……」
ぼしゅんと頭から湯気話吹き出しそうなくらい耳まで真っ赤にしている理緒である。
「えっと、それじゃ耳掃除、するね?」
「お願いします……」
お互いまだ顔はまだ赤いが、手つきはしっかりと、膝の上に横になっているいちごの狐耳の中に耳かきを入れる。
「いちごさんの狐の耳、もふもふで手触りいいよねー」
「く、くすぐったいから、あまり触らないで……」
えへへと楽しそうに笑いながら、理緒は丁寧にいちごの耳掃除をしていく。
膝枕の上で頭や耳を撫でられながらのんびりと耳掻きしてもらっている間に、疲れからかいちごは次第にうとうととし始めた。
「……すみません。理緒さん、なんだか眠たく……」
「んー、いいよ。このまま休んで、いちごさん。いつも無理してるんだから」
やがていちごは、理緒の膝の上で静かに寝息をたてはじめ、理緒は幸せそうな顔をして、いちごの寝顔を見ながら頭を撫でているのだった。
大成功
🔵🔵🔵
パニーニャ・エルシード
【5日夜】
メイン…「パニーニャ」
サブ…『アザレア』
「いちごって管理人としてもオーバーワークだと思うのよね…」
『うん、私位もっとのんびり生きててもいいと思う…』
「アザレアはのんびりじゃなくてだらけてるっていうのよ…」
というわけで、デートとは名ばかりの…いちごちゃんまったり作戦…命名アザレア…をやっちゃおうかなって。
『近くの自然公園…寝転がるのにベスト…夜になると星が良く見える。…ごくごくまれに流れ星も』
「アタシが寝てる間に、妙に葉っぱくっ付いてたのはそれかっ!?」
ま…いちごを抱き枕(サンドイッチ)に、3人で星空観賞会できたら、ゆっくり…できるわよね?
被ってもまぁ…その子も巻き込んじゃえば、ね?
如月・水花
【5日夜】
特に狙われやすそうなのは頭と後ろ、そして真ん中。
そして、そこを避けようとその間の部分を狙おうとしている人たち。
とすれば狙うべきは…更にその間!ここです!
夜というのもあるので、疲れてるいちごくんをねぎらうためにもお食事にでも行ってみたいですね?
私の国は水が豊富で、水産物もよく取れて名産品として名高かったんですよ。
まあ…もう、オブリビオンによって滅ぼされちゃったんですけどね…。
でも、こうしていちごくんに拾ってもらえて、こうやって一緒にいられて…本当に幸せなの。
だから、いっぱい恩返しさせてね?
本当にいい雰囲気になっちゃったら…二人きりだし、後で「お誘い」してみても、いいかな?
蒼龍院・静葉
WIZ【5日目夜】
「いちご殿が休み、と……休日ならばここは妾が動くも一興かえ。」
場所は恋華荘の屋上(又は屋根)、時は夜遅く。
色々場所は考えたのじゃがあまり動かすのは心身疲れる事もあろう。
故に『拠点でのんびりする』も有りかと……見よ、丁度十三夜月じゃよ。
「星々の輝きとゆっくり寛ぐ時間も良きかな。ささ、冷たい麦茶とお菓子も用意した故のんびり過ごそうぞ?」
と麦茶入りのピッチャーからコップに茶を注ぎ渡し。傍らには他の飲み物や沢山のお菓子、軽食の数々をタッパー等に携えて。
他の者と被りかえ、良き良き。気にせず共に過ごすもまた一興じゃよ。
アドリブ他自由にじゃ。
●5月5日・夜
昼間ゆったりとした時間を過ごせたいちごは、体力的にもだいぶん回復してきた様子。
だけれども、今夜の約束を考えると……場合によってはまた分身と瞬間移動を駆使しなければいけないかもしれない。
「えっと、今夜の約束は……」
「いちごちゃんって管理人としてもオーバーワークだと思うのよね……」
「うん、私くらいもっとのんびり生きててもいいと思う……」
「アザレアはのんびりじゃなくてだらけてるっていうのよ……」
額の宝石の色以外は瓜二つな2人が、相談しながら恋華荘の廊下を歩いていた。
パニーニャ・エルシード(現世と隠世の栞花・f15849)と【オルタナティブ・ダブル】で出てきた別人格のアザレアのコンビだ。
元が一つに交じり合ってしまった別々の人間だという彼女たちなので、分身して2人で行動することが非常に多い。
そんな2人の目的はもちろん、デートとは名ばかりの『いちごちゃんまったり作戦』である。(命名はアザレア)
「で、いちごちゃんをどこに連れていく? あまり遠くは疲れさせちゃうだろうし……」
「近くの自然公園とか……? 寝転がるのにベスト」
「アタシが寝てる間に、妙に葉っぱくっ付いてたのはそれかっ!?」
やっぱり賑やかなコンビではある。
そんな2人が管理人室に向かっていると、目的の場所につく前に、バッタリと同じようにそちらへ向かおうとしていた人に遭遇した。
「いちご殿が休み、と……休日ならばここは妾が動くも一興かえ」
そんなことを呟きながら、蒼龍院・静葉(蒼闇の果てに着きし妖狐の戦巫女・f06375)もまた恋華荘の廊下を歩いていた。
普段はいちごを中心とした賑やかな面々とは距離を置き、遠目で眺めているのが常の静葉なのだが、それはそれとしていちごのことは気にっているので、たまにはこうして気が向いて、いちごを癒したいなんて思う事もある。
「夜も遅いし、あまり動かすのは心身疲れる事もあろうから……拠点でのんびりするのもありかのう。屋根の上にでもあがれば良い月も見れそうじゃ」
などと計画しながら管理人室に向かっていた静葉だが、ちょうどバッタリパニーニャ&アザレアのコンビと遭遇したわけである。
「おや、被りかえ」
「あちゃー、考えること被っちゃった」
静葉もパニーニャも、相手が同じことを考えていただろうとはすぐに察する。
さてどうしたものかと逡巡したが……アザレアの言葉であっさり方針は決まるのだった。
「被ったならまぁ……巻き込んじゃえば?」
「ふむ。それもまた良き良き。共に過ごすもまた一興じゃな」
遠出はせずに、のんびりと夜空を眺めて過ごそうと、考えていたことはほぼ同じだったので、すんなりと意気投合できたともいう。
というわけで3人は手を組んで、いちごを迎えに行くのだった。
(「5日間あると言っても、みんな最初とか最後とかは狙うだろうし……そこを避けようとしたら、真ん中ってことになる……とすれば狙うべきは……更にその間! つまり今夜が狙い目です!」)
割とガチ目に他の人を出し抜いて2人きりを狙っている如月・水花(輝き秘めし水宝玉の姫・f03483)である。
「疲れてるいちごくんを労うためにも……お食事にでも行ってみたいかな?」
水が豊富で水産物が名物だった今は亡き故郷のことを思い出し、お寿司でも食べに行こうかなどと考えつつ、水花は管理人室の扉をノックした。
「いちごくん、そろそろ準備いいかな?」
「あ、水花さん。かまいませんよ。お出かけですよね?」
もちろん、事前にこの時間なら空いているだろうと約束を滑り込ませていた水花だ。いちごの方でも問題はなかった。いや他に声をかけてくれていた人のことも考えると問題はあるのだが……。
「うん、これから外で食事でもどうかなって。いちごくんにはいっぱいお世話になってるから、恩返しさせてね。お姉さんが奢っちゃうよ」
故郷が滅びた後、偶然いちごに出会い助けられてここにやってきた水花にとって、いちごが傍にいる日々はそれだけで幸せだった。だけれども、たまにはこうしてもっと近づいて恩返しをしたい。恩返しとは決して助けて貰って恋華荘に連れてきてもらった事ではない、日々の幸せに対する恩返しでもあるのだ。
「奢りなんて申し訳ないですよ……?」
「いいのいいの。たまにはお姉さんに任せてよ」
それにせっかくの2人きりなんだし、と、耳元で囁くよう続けるのだった。
2人は温泉街の中でもちょっと高級な回らないお寿司屋さんの暖簾をくぐっていた。
いちごは、この店は高いのではと危惧するのだが、水花はいいからいいからといちごの背中を押し中へと連れ込む。
事前に水花が予約していたお座敷の席へと案内された2人は、あえて向かい合う席ではなく、隣同士で腰かけて座り、並べられたお寿司をいただくことにする。
「お寿司ですか……確か水花さんの故郷はお魚とかよくとれていたんでしたっけ?」
「うん。だから、世界は違うけど、故郷と同じような料理で、いちごくんをもてなしたいなって思って」
いちごくんに助けてもらったこと、ずっと忘れてないよと、水花は笑顔を見せた。
滅びた故郷のことを笑顔で語れるようになった水花を見て、いちごも安心する。恋華荘での暮らしが水花にとって良いものだったという証左だからだ。
もっとも、その大部分を自分が担っているというのはあまり意識していないのがいちごであるけれども。
「こうやって一緒にいられて、本当に今は幸せなの」
そういってはにかむ水花の笑顔が本当に眩しくて、隣同士で座っているからそれを間近で見せられたいちごは、ドキッとさせられ赤面するのだった。
「ちゃんとわたし相手でもそんな顔してくれるんだ」
「そ、それはまぁ……水花さんの笑顔が素敵だから……」
「ふふ、嬉しいな。それじゃ、はい、あーん」
いちごの照れを引き出せて上機嫌な水花は、更に積極的に、素手でお寿司を掴むとそのままいちごに食べさせようと差し出してきた。
「え、えっと、あ、あーん……」
「ふふっ。わたしの指ごと食べてくれてもいいんだよ?」
パクっと口に入れたところでそんなことを言われたものだから、いちごは思わずむせてしまう。
「ああ、ごめん、いちごくん。大丈夫?」
「え、ええ……すみません」
慌てた水花にお茶を飲ませてもらい一息ついたところで、いちごは真っ赤になって、急にそんな事言い出すからと抗議するのだが……水花は少しだけ頬を染めつつも笑顔でいうのだった。
「だって、いちごくん、なかなかわたしのことは食べてくれないんだもん」
「だからそういう事言うのはですね?!」
真っ赤になるいちごを見て、楽しそうにくすくすと笑う水花だった。
そんなちょっとした騒ぎはありつつも、水花といちごの楽しい食事会は進んでいく。
一通り食べ終わったあと、予約していたお座敷の時間はまだ残っているからと、少しのんびりすることにした。
「どうする、いちごくん、追加オーダーでも頼む……?」
そう傍らのいちごに声をかけた水花だったが、当のいちごは連日の疲れからか、水花の肩に寄り掛かるようにしてうとうとと船を漕ぎ始めていた。
「……お疲れなんだね、いちごくん。いいよ、肩くらい貸してあげるから、このまま少し休んでね」
「すみません……」
そうしていちごは少し目を閉じる……。
「ん、目覚めたかの?」
いちごが意識を覚醒させると、そこは静葉の膝の上だった。
「いちごちゃん、やっぱり疲れてたみたいね」
「私は寝顔見れて満足だけど」
パニーニャとアザレアも、同じ顔で別の表情をして、目覚めたいちごの顔を覗き込む。
「どうせならこっちの胸枕使ってくれても良かったのよ、いちご?」
「……って、アザレアは変な事言わない?!」
相変わらずのコンビではあるが、そのやり取りがいちごの頭をだんだん覚醒させていく。
3人の顔を見まわして、いちごはあらためて今の状況を確認するのだった。
賢明な読者はもうお分かりかもしれないが、この夜のいちごは、分身と瞬間移動を駆使してパニーニャ&アザレア&静葉と、水花との2組とそれぞれ別に行動していたわけである。
まずは先に誘いに来ていた3人と一緒に、恋華荘近くの自然公園へ出かけていた。
「いちごちゃんはいつもお疲れだからね、たまにはのんびりとね?」
「こうやって寝っ転がって、星空観賞っていうのもいいものよ?」
「うむ。星々の輝きとゆっくり寛ぐ時間も良きかな。ほれ、膝くらいは貸すから、ゆっくりとするがよい」
という感じで3人に勧められ、静葉の膝を枕にし両側から川の字のようにパニーニャとアザレアが抱きつくような格好で芝生の上に寝転ぶことにした。
「うわぁ……確かにこんな星空、最近はゆっくり見る事もありませんでしたよね」
「うむうむ。そうじゃろう。今宵は丁度十三夜月じゃ。乙なものじゃろう?」
膝を貸した静葉が、ゆっくりといちごの頭を撫でながら、夜空の月を見れば。
「ここは夜になると星が良く見える。……ごくごくまれに流れ星も」
「あ、ちょうど流れた。願い事願い事っ……」
左右から寄りそうパニーニャとアザレアが、温もりと柔らかさを与えながら、すテロで一緒になって空の光景を楽しんで。
そんな穏やかな時間を楽しんでいると、あっという間に、いちごも船を漕ぎ始めて……。
「冷たい麦茶とお菓子も用意している故、小腹がすいたらそれも……おや?」
「あら、いちごちゃんおやすみ?」
「やっぱり普段から疲れてるのよね」
むにゃむにゃと何かを呟きながら、いちごは軽く寝息をたてはじめたのだった。
……という事にして、実はそのまま【異界の回廊】による分身と入れ替わりの瞬間移動で公園を抜け出し、管理人室に戻っていたいちごであった。
その後、迎えに来た水花と合流し、お寿司屋での食事を終え、そこでもやはりうとうと……という形で再び分身と入れ替わって公園に戻ってきたところである。
「す、すみません……意識飛ばしてしまって……」
そういって跳ね起きるいちご。
意識を飛ばしたの意味が多少違う気はするが、一応間違ってはいない……かもしれない。
もっとも、先程まで分身に膝枕&添い寝をしていた3人は特にそれには気づかず、普通に眠ってしまっていただけだと理解しているだろう。
実際膝枕も2人の抱き枕(抱かれ枕?)も、いちごは短時間とはいえちゃんと堪能していたので、置きあがったところで真っ赤になっている。
「ふふ、眠気覚ましに冷たい麦茶などどうじゃ?」
「軽いおつまみも用意してあるわよ」
「ありがとうございます。すみません」
静葉からコップを受けとり、いつの間にかアザレアが広げたお菓子やたぱーづめの軽食などもあり、そのままいちごと3人は、しばしのんびりと夜のピクニックを楽しむことにしたのだった。
ちなみに、水花のもとに残してきた分身はというと。
そのまま座席の終わりの時間まで起きなかったために、水花がおんぶして帰ることになり……静葉たちと別れたいちごが再び分身と入れ替わった時に水花の背中の上だったことでたいそう慌てたそうな。
「ふふ……いちごくんぐっすりだったよ?
なんなら……このままどこか泊まれるところでゆっくり、寝ちゃう?」
そんな水花からの意味深なお誘いに、いちごは真っ赤になるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
保戸島・まぐろ
【6日昼】
「ねえいちご! ちょっと手伝ってほしいのよ!」
という感じで強引に誘おうとする理由は、巨大パフェのフードファイトの助っ人。
まぐろはいろいろと考えた結果、このプログラムでデートをしようと思ったのだ。
二人で巨大パフェをはさみ、二人で食べる。
これ以上のいちゃいちゃはない!
まぐろはフードファイターなのできっと難なく食べる。
いちごはへろへろになるに違いないので、頼ってくれるはず。
そんな目論見。
「いちご、私に任せてもいいわよ!」
なんて言ってたけど、出てきた巨大パフェは……。
最後までなんとか食べきるとは思うけど、かなりいちごには負担をかけるかもしれないわね。
「ごめんね、いちご」
ルネ・アッシュフォード
時間帯は【6日昼】を指定
●プレイング
待ち合わせはショッピングモールの服屋で少し早めに来て待っちゃうね
遅刻してきても気にせずに、そのままデートに
そのまま服屋にはいって軽く見たり、試着したりその時に感想も
似合ってるなど褒められたら上機嫌で嬉しそうに返します
多少時間を潰したら、水族館へ。そこまで行くときには手をつないで向かいます、いろんなお魚さんをキラキラとした目で見ながら、時折いちごちゃんの表情を見て、楽しそうなら安堵して疲れてそうならイスに座らせるなどして回ります。最後にイルカのショーを見て解散に別れ際はちょっと寂しそうにしながら別れます。他の人と被ったら残念しそうにしつつその人に合わせます
ネウィラ・カーレンベート
【6日昼】
温泉郷内にある小さな庭園。
『連休も終盤、色々お回りになって少しお疲れでしょう。ハーブティで癒やされませんか?』
ティーポットをいくつか。
『こちらはハイビスカス、ローズヒップ、オレンジピールをブレンドしたフルーティなもの。
こちらはペパーミントにステビアで甘味を与えたもの。
消化器系に良いマロウにジンジャーを加えたものもありますよ』
選んで頂いたお茶をカップに淹れいちごさんへお出しします。
『お口に合えばいいのですが……いかがですか?』
と、効能のメモがテーブルからハラリ…
"マロウ:粘膜保護・抗炎症・強壮…"
強壮!
『あっ!違うんです!そんなつもりで用意したわけではー!』
と真っ赤になってあわあわ
ヴィクトーリヤ・ルビンスカヤ
【6日昼】
※ユベコで分裂
●クト
お休み最後の日だし、クトとトーリでお誘いよ
良さげなお洋服のショップがあったから、
忙しくてもせめて可愛く気分晴れないかなって思うの
呪われてたっていちごちゃんも女の子だものね(ぎゅむふにゅ)
ほらほら、線が細いからコレとかいいと思うのよ?
(パステルブルーのフリル入りドレスを試着させようと…)
●トーリ
はい、ロリータショップを提案したのは私ですのよ
可愛いいちごさんで癒やされたい気分でしたし♪
というわけで私はいちごさんの退路を断ちますわ
なんなら一緒にハグだって♪(ぎゅむふにゅ)
ほらほら、クトがいちごさんの事を心配してますわよ?
ああ♪いちごさんを愛でたい、愛でられたいですわ…♪
産土・水咲
【6日昼】
きっと連日のあれこれで疲れてるはずですし
いちごさんが癒されるような所でご一緒できたら…
と、快眠&リラックスキャンペーンを行っている
プラネタリウムへお誘いします
比較的人が少ないエリアの席で
ほんのり涼しく、サンダルウッドの香りのアロマが炊かれた館内で
ゆっくり星を見ながら過ごしていきます
(周りに配慮して)小さな声で色々囁き合っている内に
どっちかが眠くなっちゃって…
もし私が起きていられたら、いちごさんの寝顔に微笑みながら
私も眠っちゃいます
もしほかの人とかぶっちゃったら、その人の希望を優先&
大丈夫そうだったらご一緒したいです
…どうして最終日の昼に、ですか?
…最後の夜は、きっと…だと思いますし?
●5月6日・昼
昨日は昼も夜ものんびりで、昼も夜も転寝をしてしまっていたいちご。そのうちの一部は瞬間移動のために残した分身だとは言えども、やはり疲れが溜まってはいるのだろう。予定のない休日の連休だったはずが、連日のお誘いで東奔西走しているのだから。
そしてそんな状況で迎えた連休最終日。
「今日は……どうしましょうね……?」
いちごは、自分の優柔不断と安請け合いを呪いつつ、誘ってくれた大切な人たちへの罪悪感も抱えながら、頭を悩ませるのだった。
「いちごさん、連日のあれこれで疲れてますでしょう?」
「そういうわけでも……これでも仕事がない分楽ですし……」
「ダメですよ、そんな強がりを言っては。連休も終盤ですし、色々お回りになっていましたし」
いちごは現在、産土・水咲(泉神と混ざりし凍の巫女・f23546)とネウィラ・カーレンベート(銀糸の術士・f00275)の2人と一緒に、温泉郷の郊外へと向かって歩いていた。目的地にはいくつかの施設が隣接していて、例えば水族館、例えば植物園、そして今回の目的地であるプラネタリウムなどがある。
プランタリウムは、水咲の提案だ。そこでのんびりと星の光で安らいだ後、ネウィラの提案で、併設されている植物園のハーブ園でのんびりとお茶をしよう、という予定になっている。
もちろんこんな状況になったのは、2人からの誘いの時間が被ってしまったからではあるのだが、2人ともここのところ昼も夜も出かけていたいちごの様子を見ていたので、いちごに癒しの時間を与えたいと、時間被ったのも縁なので一緒に協力し用となって、今の状況になっている。
「すみません、なんだか行先も気を使ってもらっているような……」
「いいんですよ。いちごさんは普段から頑張ってますから、そのお礼ですし」
恐縮するいちごに、そう言って左からネウィラが微笑みかければ、右からは水咲が手を引っ張ってプラネタリウムへと連れてていく。
「それに、連休も最終日ですから、きっとこの後も最後の夜を狙ってくる人はいるひとはいるでしょうしね」
……だからこの時間ならあるいは……と思ったんですけど。という内心は、口には出さない水咲である。いちごを癒すことが最大の目的だからいいとはいえ、やっぱり本音を言えば2人きりにはなりたかったことには違いはない。
「あ、あはは……」
そして水咲の言葉には、ちょっと乾いた笑いの出てしまういちごだった。
プラネタリウムの後方のゆったりした席に、3人並んで座る。
「前の方だと、見上げる首が疲れてしまいますからね」
なので普通は後ろの方が席は混んでいるものだが、たまたまこの席は3人掛けで他と離れて独立している席だったため、3人だけでのんびりと過ごせそうだ。
「今このプラネタリウムでは。快眠&リラックスキャンペーンを行っているんですよ」
……とは、ここに来ることを主導した水咲の弁。
「なるほど、それでこのアロマの香りなんですね」
ほんのりと涼しい館内には、サンダルウッドの香りのアロマが炊かれ、ゆったりとした音楽も流れている。ともすれば、星の瞬きと解説のアナウンスを子守唄に眠りに落ちてしまいそうなほどに。
「水咲さんは星に詳しいんですか?」
「星は見ていると落ち着きますけれど、特別詳しいというわけでは……」
「ネウィラさんは……?」
「私ですか? 私は、少しくらいなら……ですけれど」
「ではあれは……」
周りに迷惑にならないような小声ではあるけれども、しばらくは3人で、それなりに星々についての会話が弾んでいた。
だが、アロマの効果か、それとも日々の疲れからか、次第にいちごがうとうとし始める。
「すみません……なんだか眠く……」
「いちごさん、お疲れですものね」
そのまま軽く寝息をたてはじめたいちごの寝顔を、微笑みながら見ていた水咲だが、やがてその水咲も少しずつ瞼を閉じていった……。
「あらあら……」
2人が仲良く寄り添って目を閉じたのを、ネウィラは微笑みつつ眺めているのだった。
同時刻。ショッピングモール。
既に読者は想像ついていただろうが、眠りに落ちたはずのいちごは、【異界の回廊】で寝ている分身をその場に残して、こちらに転移してきたのである。
「えっと、待ち合わせ時間にはギリギリ……」
そして次の待ち合わせ場所へと向かおうとしたところで、予想外の相手に捕まってしまうのだった。
「見つけたわ、いちご! ちょっと手伝ってほしいのよ!」
「えっ?!」
元気よく駆けつけていちごをがっしと捕まえたのは、保戸島・まぐろ(無敵艦隊・f03298)だった。出遅れはしたものの、いちごをデートに誘うチャンスと聞いて探していたのである。
「まぐろさん、手伝ってと言うのは……?」
「これよ、これ!」
まぐろが見せたチラシには、『ゴールデンウイーク限定カップル用巨大パフェ』という記載があった。もちろんこのショッピングモール内のカフェにおける特別メニューだ。
「これは挑戦するしかないでしょう!」
「えっ、あ、は、はい、そうですね」
ずずずいっと迫ってくるまぐろの勢いに圧されて、こくこくと頷く事しかできないいちごであった。
というわけでカフェの中に入った2人。
注文した巨大パフェを待つまでの間、いちごはこっそりとポケットの中のスマホから、待ち合わせ相手に少し遅れるとメールをするのだった。
「いちご? 何かそわそわしてるけど大丈夫?」
「え、ええ、大丈夫です。それにしても巨大って言っても一体どれくらいなんでしょうね……?」
噂をすれば、デデンッと巨大なパフェが2人の前に置かれるのだった。
それは金魚鉢……どころかバケツサイズの容器の上に盛りに盛った、正面に座るお互いの顔が見えないくらいの巨大さだった。
一応はカップル用を名乗っているだけあって、盛り付けは非常に可愛らしくファンシーだ。ただ、普通のカップル2人ではこの量は食べきれないだろう。
「こ、これは……」
「30分で食べれば無料よ、いちご。挑戦する以上は完食するからね!」
気合を入れてスプーンを握るまぐろに対し、いちごはさすがに冷や汗をかいているのだった。
(「でも30分ほど遅れるとメールしたわけですし、何としても完食しなくては…」)
いちごも、いろんな意味で決意を込めて、パフェの山との戦いを始めるのだった。
「いちご、私に任せてもいいわよ!」
自信満々でそういうまぐろは、フードファイターらしくパクパクパクと勢いよくパフェを食べていく。
とはいえ、小柄なまぐろのこと、当然身体の大きさに合わせて胃袋の容量というものもあるので……。
(「……とは言ったものの、これはけっこうきついかも……」)
カップル用だというのに、あーんして食べさせ合うような余裕もない。いや、無料狙いの時間制限を考えなければ大丈夫なのだろうが。
まぐろの思惑としては、いちごが食べきれなくて頼ってきたりすれば、助ける代わりにあーんしてもらったりとか、イチャイチャできるかも、なんて考えていたのだが……そんな余裕はないかもしれない。
繰り返して言うが、無料狙いの時間制限さえ忘れれば、そういう余裕はあるのだが……勝負事となると熱くなるまぐろにそれは無理な話だった。
結局なんとか時間内に食べきった2人は、達成者カップルとしてカフェにしばらく写真が飾られることとなった。
記念撮影と商品の粗品を受け取ってカフェを出たところで、いちごがさすがにお手洗いに行きたいと申し出る。
「すみません、さすがに、ちょっとお腹きつくて……」
「うん、ごめんねいちご。さすがにあの量は私も予想外で……」
「いえ、いいんですよ、まぐろさん。美味しかったですし、まぐろさんと一緒に全力でチャレンジするのは楽しいですから」
にこっと笑いつつも、断りを入れてトイレに消えるいちごであった。
「いちごくん、遅いのね」
「さっき遅れるとメールもありましたし、もう少し待ちましょう」
「ええ。それにまぁ、私たちが早くからきているっていうのもあるんだしね」
待ち合わせ場所のブティックの前では、ヴィクトーリヤ・ルビンスカヤ(スターナイトクルセイダー・f18623)の分身↓2つの人格、クトとトーリ、それとルネ・アッシュフォード(妖狐の剣豪・f00601)の3人が、いちごの到着を待っていた。
クト&トーリとルネは、それぞれ別にいちごにデートの話を申し出たのだが、たまたま指定した時間が同じ上に、共に行き先がブティックだという事もあって、相談の結果3人……人格的には4人で一緒に行こうと話がまとまったのである。
(「ほんとは2人きりになりたかったし、被っちゃったのは残念だったけどね……」)
内心ではそう苦笑するルネだが、それでも苺も一緒のお買い物となるとやっぱり楽しみではあるのだ。
「遅れてすみません。待ちましたか?」
そこに息を切らせて駆けこんでくるいちご。
息を切らせているのは、限界まで食べた後に瞬間移動したからではあるのだが、ルネ達には急いできたからに見える。
「ううん、大丈夫。わたしたちが早く着きすぎちゃったのもあるしね」
「うんうん。大丈夫なのよ、いちごちゃん」
「それでは、行きましょうか。可愛く着飾れば、気分も晴れて癒されるというものです♪」
「えっ。着るの私なんですかっ?!」
4人でブティックに入った後、トーリが主体となっていちごにあれこれと服を持ってくる。
「ロリータショップを提案したのは私ですのよ。可愛いいちごさんで癒やされたい気分でしたし♪」
とは、トーリの弁だ。
「私の服を見てもらおうかなって思ってたけど、いちごちゃんの可愛い姿は、私も見たいものね」
と、ルネもまたニコニコ笑顔で次々と試着用に衣装を持ってきたりする。
「い、いえ、どうせなら皆さんの服選びの方が……」
「ダメなのよ。いちごちゃんだって可愛いの気ないと勿体ないのよ」
逃げようとしてもクトが抱きつくようにしてフリフリのドレスを持ってくるし、トーリもまた抱きつくようにして退路を断ってくるので、最早チェックメイトであった。
ひとまずクトに渡されたパステルブルーのフリル入りドレスを手に、逃げるように試着室に入るいちごだった。
「いちごさん、着替え手伝いましょうか♪」
「大丈夫ですからっ?!」
同時刻。カフェ付近のゲームセンターにて。
「すみません、まぐろさん、待たせてしまって……」
「ほんと遅かったわよ、大丈夫?」
試着室から瞬間移動して抜け出してきたいちごは、トイレに行く間ゲームセンターで待ってもらっていたまぐろのもとへとようやく帰ってきていた。
もちろんまぐろ的には、先程無理して食べたパフェのせいで、トイレにこもっていたのだと思っているし、自分がさっきまでゲームに熱中していたので声をかけられなかったのだろうとも思っている。
「それで、この後どうします、まぐろさん」
「んー、そうね……もう少しここで遊んでいこっか?」
巨大パフェ以外は特にプランの無かったまぐろだったので、もうしばらくゲームセンターで過ごすことにした。
「可愛いのよ、いちごちゃん♪」(ぎゅむっ)
「ああ♪ このいちごさんは愛でたいですわ♪」(むぎゅふにゅ)
先程から、試着して出てくるたびに、左右からクトとトーリのサンドイッチを喰らっているいちごである。真っ赤になって口をパクパクするばかりで何も言えず、それがまた可愛いと2人にむぎゅられている。
「もぉ。さっきから2人とも、いちごちゃんが何も言えなくなってるわよ?」
ルネはそう言って諫めるのだが、そのルネ自身も可愛らしく着飾ったいちごを見ると可愛らしさに蕩けているのだから、あまり抑えにはなっていなかったりする。
「あ、あの、そろそろ私じゃなくて、皆さんの服もですね……?」
そして散々着せ替え人形にされていたいちごも、ようやく真っ赤な顔でそういうのだった。
……もちろんこれは、まぐろがゲームに集中している間に分身と入れ替わって戻ったためである。
「そうね。それじゃお姉さんの服を選んでもらおうかな?」
そういって、今度はルネがいちごを引っ張りまわして服選びに入るのだった。
「どう、かな?」
いちごのコーディネートの大人びた春らしい服に着替えて出てきたルネは、かるくっほを染めていちごに問いかけた。
「綺麗です。とてもよくお似合いですよ」
いちごがルネに似合うと思って選んだ服なのだから、似合うのは当たり前だろう。
だけども、やっぱりいちごから褒められると嬉しくなる。
そしてそんなルネを見ると、トーリとクトも羨ましくなり、次は私といちごにねだるのだった。
「ん……あ、あれ、ここは……?」
「あ、ようやくお目覚めですか。よく眠っていましたよ」
目が覚めたいちごは、いつの間にかプラネタリウムに併設されてる植物園のカフェの椅子に腰かけていた。
そんないちごの様子を、ネウィラが笑顔で覗き込んでいる。
「私も、プラネタリウムでは気持ちよくてちょっと寝ちゃいましたけど、いちごさんはもっとすやすやと。快眠キャンペーンは伊達じゃなかったですね」
隣には苦笑したような笑顔の水咲もいる。
どうやら眠ったままプラネタリウムの上映時間は終わり、その後は夢うつつのまま2人につられれてここに来たらしい。
……もちろん、それは本人ではなく分身が、だが。
あのあといちごは、ゲームセンターのまぐろと、ブティックで試着のルネとクト&トーリの間を行ったり来たりと瞬間移動を繰り返しながら、偶然を装って合流し(その際いちごが掛け持ちしていたことは何とか誤魔化した模様)、今は5人で水族館に向けて移動している。その移動中、分身を残してこちらに戻ってきたというわけだ。
「よく眠れていたみたいですし、なら、次は気分がすっきり癒されるハーブティなどいかがですか?」
ネウィラは、いちごにそういっていくつかのハーブティを進めてくる。
このカフェでは、植物園で育てられている様々な種類のハーブを選んで楽しむことができるのだ。
「こちらはハイビスカス、ローズヒップ、オレンジピールをブレンドしたフルーティなもの。こちらはペパーミントにステビアで甘味を与えたもの。消化器系に良いマロウにジンジャーを加えたものもありますよ?」
効能と合わせて色々説明するネウィラに、いちごも水咲も感心するばかり。
2人ともそれぞれに、リラックス効果や疲労回復効果のあるハーブを選ぶと、ネウィラは慣れた手つきでカップに注ぐ。
「お口に合えばいいのですが……いかがですか?」
「ん、美味しいです」
いちごの笑顔に、良かったですと安心したネウィラの懐から、一枚のメモがひらりと落ちた。
「あら、何でしょう……?」
そのメモは水咲の手に渡り、水咲は内容を確認する。
「えっと……マロウ、効能は粘膜保護、抗炎症、強壮……強壮?!」
「えっ?」
マロウは、先程ブレンドした際に、ネウィラが特別にといちごにいれたハーブであった。
「あっ! 違うんです! そんなつもりで用意したわけではー!」
真っ赤になって慌てるネウィラであったとさ。
「ほら、いちごちゃん、こっちこっち。イルカのショーはじまるよ」
「あっ、そんなに慌てなくてもっ」
水族館に到着した面々は、仲良く水槽の中の魚を眺め、楽しんでいた。
ちなみに、ネウィラの自爆のすぐ後、ハーブ園から出たところで、隣接する水族館に向かっていたルネ達と合流することになったのだ。
もちろん、先程はルネもクトもトーリもまぐろも、なんとなく誤魔化されてはいたものの、今度はこちらの水咲とネウィラともとなるとさすがに誤魔化しは効かない。
いちごは観念して瞬間移動のネタ晴らしをし、ごめんなさいと頭を下げる。
怒られることも嫌われることも覚悟していたいちごではあるが、まぁこの状況になったのは、自分たちが時間を被せてしまったことも原因だという事で、みんな苦笑するしかなかったのだった。
もちろん、約束の時間がブッキングしたなら、ちゃんとそのことは言いなさいと、そう叱られてはいる。
というわけで、合流を果たした後の今は、ルネがいちごと手を繋いで引っ張りつつ、イルカショーを目指して移動しているところだ。
合流後は、クトやトーリがまぐろと意気投合したり、水咲とネウィラも仲良くなっていたりしたこともあって、主にいちごとルネがペアのようになっていた。
水槽を見て一喜一憂しながら、いちごの楽しそうな笑顔を見て、ルネも安心したように微笑みかける。
「よかった、楽しんでくれてるみたいで」
「えっ? いえいえ、十分楽しんでますよ」
ルネの安心したようにぽそっとでたつぶやきが聞こえ、いちごは思わず問い返す。
「うん、いちごちゃんはそう言ってくれるとは思っていたけど、でもやっぱり疲れているのかなって。ブティックで色々試着していた時とか、水族館に来るまでの道中とか、分身と入れ替わって別の所に行ってたんでしょ?」
さすがに分身のことにまでは言われるまで気付いていなかったようだが、それでも分身に代わっている間の反応の違いはちゃんと察していた様子。
「えと……すみません」
「あ、ううん、こんな状況だったし、仕方ないよ。
結局なんだかんだで大人数になっちゃったしね」
苦笑しつつも、少しだけ寂しそうな、申し訳なさそうなルネの笑顔だった。寂しそうは2人きりじゃなかったことへの。申し訳なさそうは大人数で気疲れさせたかな?というところか。
「いえ、皆さん気遣ってくれてましたし、私は皆さんと一緒できて嬉しかったですよ……その分、分身でごまかしていた時間が申し訳なかったのですけど……」
ルネにも、もちろんクトやトーリやまぐろにもネウィラや水咲にも、お礼の気持ちを込めて、いちごは笑顔を見せる。
「ん、それならよかったのよ。いっぱい振り回しちゃったけど、元気になれたなら、万々歳なの」
「ですわね。いちごさんの気晴らしになってくれたなら、私達は嬉しいですわ」
「そうそう、もちろん私達も楽しかったしね!」
クトもトーリもまぐろも、そう言っていちごに笑顔を向けた。
「アロマやハーブの効果も、少しはあったみたいですし、それなら私達も嬉しいです」
「でも、次からはちゃんと被った時は言ってくださいよ?」
ネウィラも水咲も、笑顔でいちごを気遣うと同時に、次はちゃんと考えてと釘を刺した。
「は、はいっ」
恐縮するいちごを見てひとしきり笑った後、総勢7人となった集団は、イルカショーの席に座る。
この大騒ぎの時間の最後を飾るイルカショーは、とても楽しかったそうな。
大成功
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アイ・リスパー
【6日夜】
「連休最後の夜ですね……
いちごさんには、連休明けからも元気に働いてもらえるように、元気になってもらいましょう」
まずはいちごさんと二人で、レストランで夜景を見ながら食事です。
事前に精の付く料理を予約して、いちごさんに元気になってもらいましょう。
「いちごさん、いつもお料理ありがとうございます。
……ほんとは手料理でお返ししたかったんですけど、これで許してくださいね?」
その後は今日のメインイベント。
予約していたホテルにいちごさんを連れ込みます。
「いちごさん、今日はたっぷりサービスしますので、元気になってくださいね?
じゃあ、私は先にシャワー浴びてきますから……」
長い夜に期待するのでした。
霧沢・仁美
【6日夜】にいちごくんをお誘いするよ。
…被ってなければ良いけど。
まずはショッピングモールでお買い物デート。
CDショップでいちごくんのCD探したり。ローカルアイドルってコトだから地元のお店にならあるかなって。
後は服を色々見たり。夏物あったらそろそろ買っておきたいよね。
…試着の過程とかでなんかとらぶる起こりそうだけど…さ、流石にちょっと恥ずかしいな。
その後はお食事処で晩ご飯を。
折角のデートだし、少し高めのものを食べてみたいかな…!
あ、お金は大丈夫。猟兵のお仕事で稼げてるしね。
最後は折角だし、いちごくんを恋華荘に送って行こうかなと。
色々あったけど、うん、楽しかったかな。
いちごくんは…楽しめた?
●5月6日・夜
昼の大人数での水族館からの帰り、いちごは皆と別れて1人でショッピングモールへと戻ってきていた。
というのも、次の約束の待ち合わせがあるからだ。
先程の大人数掛け持ちの際に、【異界の回廊】での掛け持ちをばらしたこともあり、恋華荘に戻ったら、ここまでそれでいったり来たりしていた面々にも説明して詫びなければ……などと考えていることもあるので、せめて次の待ち合わせまでは瞬間移動は使わずに普通に歩いて移動することにしていた。
……ちなみに多少時間はズレているとはいえ、この夜も2件約束はあったりする。
「いちごくん、まだかな? ……誰かとかぶってなければいいけど」
待ち合わせ場所には、既に霧沢・仁美(普通でありたい女子高生・f02862)が立っていた。
仁美は恋華荘の住人ではない。ないが、いちごと仲が良く、恋華荘にもよく遊びに来るので、寮生の間でもすっかりなじみの存在である。……そしてもちろん、恋華荘に通っている理由も、一部にはいろいろ察せられている節はあったりする。
恋華荘で暮らしていないとはいえ、ここ数日のいちごの様子は既に耳に挟んでいたので、自分も誘ってはみたものの、誰かとブッキングしていない自信はない。
「恋華荘に住んでいたら、他の人がどう動くか予想とかできたのかな……?」
そんなことも考えるが……まぁ、寮生同士でも考えが被ってしまうというのは、ここまでの数日を見ての通りではあった。
「こんばんは、仁美さん。お待たせしちゃいました?」
「あ、ううん。大丈夫だよ」
そして、ようやくいちごがこの場にやってくる。
遅れたことを謝罪はするも、たぶん大変だったんだろうなぁ……となんとなく察していた仁美は苦笑しつつ許すのだった。
「ところで、いちごくん、この時間誰かと被ったりしてなかった?」
「えっ、と……今は、被ってないです。大丈夫です」
仁美の問いに対して、今は、という含みのある返事。
なにせつい先ほどまでブッキング地獄変だったいちごである。その際に叱られたので、被ったのなら被ったとちゃんという事にはしたわけだが……今の時間は被っていないこと自体は本当である。
「今は?」
「えっと、……あと1時間半くらいしたら、食事の約束が……」
追及されて正直に言ういちごに、やっぱりかと苦笑するしかない仁美である。
ライバルは多いから仕方ないよねと自分を納得させた仁美は、とりあえず今の時間は自分だけのものだからと、いちごと腕を組んでしばし買い物デートを楽しむことにしたのだった。
「えっ、私のCDですか……?」
「うん、地元になら置いているかなって思って」
ローカルアイドルもやっているいちごなので、もちろんその歌を収録したCDくらいは発売されている。
といっても基本はインディーズレーベルのため一般流通はされていない。購入するなら通販を頼むか、あるいは仁美の予想通り地元のCDショップを見るかという事になるわけだ。
「確かにありますけど……」
「あ、これだね。ふふ、いちごくん、写真写りいいなぁ……すごい美少女だよね」
平積みされていたのですぐに件のCDは見つかった。
そのジャケットに移っているのは、美少女にしか見えないいちごの写真。アイドルとしては女性扱いでの活動になる(というか性別をあえて言及していないのでみんな女の子だと思っている)ので、本当に可愛らしい写真になっている。
仁美は可愛いと褒めてくれるのだが、いちごとしてはやっぱり知り合いに目の前で見られるのはどうしても恥ずかしいのだった。
「えっと、やっぱりそれ欲しいんですか……?」
「うん、もちろん。CDあれば、家にいてもいちごくんの声が聞こえるしね」
笑顔でそんなことを言われると、真っ赤になるしかないいちごだった。
その後はまだ時間もあるという事で、モール内のブティックに向かう2人。
いちごが昼間行っていたところとは別の店で、こちらはカジュアルな普段着を置いてある店だ。
「夏物あったらそろそろ買っておきたいよね」
「ですねぇ……最近急に熱くなってきましたしね」
仁美的には、昨年よりもさらに成長している(特に胸がまた大きくなっている)ので、新しい服を買わなければ着るものがないという事情もある。いちごもそれは察しているけれども、あえて口にするようなデリカシーの無い真似はしない。
「これ、いい感じだけど、サイズあるかな……?」
「試着させてもらったらどうでしょう?」
いいものを見つけても、胸のサイズ的に切れるかどうかというのは、仁美にとっては毎回の問題ではあった。
というわけで更衣室に向かって試着してみるのだが……。
「きゃっ?!」
「どうしました?! ……あっ」
中から聞こえた仁美の悲鳴に、思わずカーテンを開けて飛び込んでしまういちご。
仁美の悲鳴の理由は、やっぱり胸がきつくて服が張り裂けそうになったことによるものだった。そしていちごが飛び込んだことに驚いて振り向いた瞬間、服が引き裂かれ、いちごにそこを披露してしまうわ、慌てたいちごが転んでそこに飛び込んでしまって掴んでしまうわと……ある意味いつもの光景も繰り広げられたのだった。
「……いちごくんだからいいけど、……さ、流石にちょっと恥ずかしいな」
「ごめんなさい」
結局、服の弁償も含めて、2人で色々夏物の洋服を買っている間に時間はきて、2人は龍神温泉郷でも唯一のホテルのレストランを目指して歩いていた。
それは、仁美が買い物のあとは、せっかくのデートだしいいものでも食べたいなと考えていた、というのももちろんあるのだが。
「それで、いちごくん。こんな高い場所で、誰と待ち合わせなの?」
「えっと、それはですね……あ、もう来ているみたいです」
仁美を連れて待ち合わせ場所に向かうと……そこには、いちごか来るのを今か今かと待っていたアイ・リスパー(電脳の天使・f07909)の姿があった。
「連休最後の夜ですし……いちごさんには、連休明けからも元気に働いてもらえるように、元気になってもらいましょう」
今回のゴールデンウィークに向けて、アイはそう心に誓っていた。
なので、連休最終日の、それも一番遅い時間に、いちごとのデートをセッティングしたのだ。
いちごへの想いを自覚し、それがいちごにも伝わっている今、アイは遠慮なんかしない。
本当はいつも美味しいご飯を作ってもらっているお礼に手料理でもてなしたいところだけど、料理の出来ない自分ではそれは叶わない。ならばとるべき手段はひとつ、夜景を見ながらの豪華ディナー。さらにはその後の一夜まで、アイはお得意の万能コンピュータでシミュレートして、完璧なデートプランを練り上げたつもりだった。
「いちごさんっ……って、えっ? 仁美さん?」
……万能コンピュータに、ライバルの動向はインプットされていなかった。
「いちごさん、どうして仁美さんと一緒なんですかっ?!」
「そ、それはですね……」
プランがガラガラと音を立てて崩れていったアイは、絶望的な顔でいちごに掴みかかると、がくがくと首を揺らしながら問い詰めていた。
「お、落ち着いて、アイさん。あたしは、ここまでいちごくんを送ってきただけだから」
それを仁美が宥める。
本音を言うなら、仁美も買い物のあとは食事を楽しんでから別れたいなと思ってはいた。だが、それが被ってしまっていたことを事前に聞いていたため、せめてそこまで送ってから別れようということでここまで来たのだ。ついでに、次の……そして時間的には最後であろう待ち合わせ相手が誰なのかも知りたかったし。
「送ってきた、だけですか?」
「うん。次の食事の時間は約束があるからって、あたしは予定被っちゃったから、ここまでかなって」
肩をすくめつつも笑顔でそういう仁美に、今度はかえってアイの方が恐縮してしまう。
アイだって、いちごを想う人が多いのは知っているし仁美もその一人だとは思っている。特に仁美は、感情的な意味でも胸的な意味でも最強クラスのライバルだと認識していた。
そんな彼女が、自分もまだ一緒したいだろうに譲ってくれるという。
それはそれで罪悪感を覚えてしまうアイだった。
だから。
「えっと、それでは食事、一緒しませんか、仁美さん」
「アイさん?!」
アイは仁美を引き留めた。
さすがにアイのこの行動は、いちごも予想外だったようで驚いている。
いちごとしては、仁美をこのまま返すのも忍びない、でもアイとの約束はある、と、どうしようか悩んでいたところなので、アイの方から言い出したのは渡りに船ともいえるのだが……。
「え、いいの。だっていちごくんとデートだったんでしょう?」
「ええ、まぁ、どうせ誰かと被るんじゃないかなとは予想していましたし……」
嘘である。先ほどの演算結果もそうだったが、ライバルの動向は入力し忘れていたのだから。
それでも、笑顔でそういうアイの姿に、仁美も微笑みを返して、ありがとうと厚意を受け取るのだった。
「2人がそれでいいなら……でも本当にごめんなさい、こんなブッキングさせてしまって」
「まぁ、今回はあたし達がみんな抜けがけ狙ったせいでもあるから、しかたないよ」
「でもでも、いちごさんは反省してくださいねっ」
からかうようなアイの口調に、いちごも苦笑しながらはいと頷くのだった。
「手料理でなくてごめんなさい、いちごさん。でも、いつもご飯作ってくれるお礼です。これで許してくださいね?」
「許すも何も……それよりこんな豪華なディナー、高かったんじゃありません?」
運ばれてきた料理は、ホテルのレストランに恥じない豪勢なものだった。
アイの奢りではあるが、まともに食べれば相当な額になるだろう。仁美も乱入した自分の分は払うと言ったのだが、誘ったのはこちらですからとアイには固辞された。
「美味しいものを食べて、明日からの休み明けも頑張ってほしいですからね」
「本当にありがとうございます」
豪華なディナーのおかげか、舌も滑らかになり、いちご、アイ、仁美の3人は、その後も和気あいあいと会話を楽しんでいる。
なんだかんだ言ってもいちごという共通の話題があるのだから、盛り上がらないわけもなく、ライバル同士といっても仲が悪いわけではないのだから、なおのこと。
「いちごさん、結局この連休ほとんど休めなかったんじゃありません?」
「みんな今みたいにブッキングしてたりするのかな?」
「あはは……それはひとまずノーコメントで。でも、皆さんが楽しんでくれるなら、私の苦労なんて大したことではないんですよ」
そういっていつものように笑ういちごに、アイと仁美は顔を見合わせて苦笑するのだった。
「それじゃ、あたしはそろそろ帰るね。いちごくんもアイさんもありがとう」
「……いいんですか、この後、私は……」
食事のあと、2人に別れを告げて帰ろうとする仁美を、アイは引き留めてはみるが。
「いいのいいの、もともとあたしの予定は食事までだったし。ここから先はアイさんの時間だよ」
「ならせめて、そこまで送って……」
「いいから、いちごくんはアイさんと一緒にいなきゃ、ね?」
せめて駅まで送ろうかといういちごの申し出も断り、仁美は2人に別れを告げて去っていく。
最後にアイの耳元で囁いて。
「料理、精のつくものばかりだったよね。この後がんばってね、アイさん」
そうして、いちごとアイの2人だけになった。
「えっと、それではアイさん、この後は……?」
「このホテルに、部屋をとってあるんです……泊って、いきましょう?」
時間が時間だけにくるかもとは思っていたいちごも、いざ誘われると顔が真っ赤になる。
それは、誘ったアイも同じだ。やっぱりいくら好きな相手とはいえ、女子の方からこういうのは勇気がいる。
お互い赤面したままの見つめ合いが少しの間続いたが、やがて、いちごがアイの手をとる。
「えっ……」
「それでは、行きましょうか、アイさん?」
「はいっ」
2人は手を繋いで、予約した部屋へと向かっていった。
そして、部屋に入ると。
「いちごさん、今日はたっぷりサービスしますので、元気になってくださいね?
じゃあ、私は先にシャワー浴びてきますから……」
「さ、サービスって……」
「な、なな、内緒ですっ」
部屋に入るなり、アイはそう言ってシャワー室へと飛び込んでいく。
2人とも肌を重ねるのは何もこれが初めてではない。
だけれども、こんな場所で改めてとなると、やはりどうしても意識してしまう。
急いでシャワー室に飛び込んだアイも、あるいは照れ隠しだったのかもしれない。
「あーあ、やっぱり最後まで一緒してもよかったかな……?」
1人の帰り道、仁美はそんなことを想う。
それは意地悪も過ぎるだろうと思うけれども、やはり残念なのは残念なのだ。
まだ夜は長い。
いちごとアイは恋華荘に帰るのは朝になるのだろう。
頑張ってねと、仁美は、今回だけはライバルにエールを送るのだった。
長い夜の出来事は想像にお任せしよう。
ともあれ、いちごの激動の5連休は、こうして過ぎていったのである。
大成功
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