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おいしいアリスの作り方

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●おいしいアリスの作り方
 アミューズ。
 前菜、オードブル。
 スープ。
 魚、ポワソン。
 口直し、ソルベ。
 肉、アントレ。
 デセール。
 カフェ・ブティフール。
 今日の味について今から言うよ、ようく聞いて覚えるんだよ。
 あんたたちはよく間違える。今日は間違えるんじゃないよ!
 さぁ、丁寧に仕上げて、夕食の時間にひとさらずつもっておいで!
 あたしはそれを一口ずつ食べるだけ。のこったものはあんたたちにあげるわ。
 あたしの食べ残しだけどね!

 高らかにその女は笑う。食事の時間は、ご機嫌だ。
 けれどそれまではイライラ、周囲にいら立ちをまき散らし手下としたものたちへと当たり散らす。
 いきのいいアリスをつかまえてきて、美味しく仕込むのよ! と声を荒げて。
「あ、あ、ありす」
「今日も、みつけなきゃ」
 おいしい、アリスを、みつけなきゃ。おいしくなってもらわなきゃ。
 そのありようを歪められた愉快な仲間達は、どこからかアリスを見つけてきて。
 アリスを美味しく、仕上げていく。
 おしゃべり鳥籠の中に入れ、下ごしらえを。たくさんの言葉という調味料を振りかけるのだ。
 ねぇひとり、さびしい? なにがあったの?
 きみはだめだね、きみはすばらしいね。きみはかわいいね、かわいいね、おいしそうだね。
 きみはひとり、ひとり、ひとりぼっち。どうしようもないだめなこだよ。
 向ける言葉は様々で。それは今日の、主の気分次第。
 鳥籠の中での下ごしらえが終わったなら、その彩られた感情のままに。
「ありす、ありす」
 おいしいひとさらになってねと、愉快な仲間たちは調理を始めるのだ。
 響くのは悲鳴。生きたままに、抱えた感情を色濃く持ったままに、引き裂かれ皿の上に――そう、半分生きたままに運ばれる。
 はくはくと、口を動かして。途切れる呼吸をどうにか繋げ、最後に抱えた想いを僅かに零すアリス。それを女は一口救い上げて、食べて笑うと、興味をなくし次と言う。
 その食べ残しを、食べてしまった愉快な仲間たちは――ああもう、助けられはしないものになり果てた。

●予知
 アリスラビリンスに向かってほしいと、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は零れかけた舌打ちを隠して紡いだ。
「皆にはの、アリスの身代わりになってきてほしいんじゃ」
 人を喰らう、オウガ。そのオウガに操られているのか、在り様をゆがめられたか。どちらかはわからないが、愉快な仲間たちがアリスを探し、捕まえて――料理をするのだと、言う。
 そういう予知をしたのだと。
「わしが送ったあたりにおれば、アリスと思われ捕まるじゃろう」
 本当にそうなのか、というところは愉快な仲間たちにはわからぬのだから。
 そして、連れていかれた先には豪奢な城がある。そこが、オウガの根城。
 しかし――皆が連れていかれるのは鳥籠の中。
 それもまた、愉快な仲間たちなのだ。
「おしゃべりする鳥籠は、きっと汝らに様々な言葉を向けてくるじゃろう」
 それが、下ごしらえ、味付けなのだという。
 その日のオウガの気分に合わせてその心を――彩っているのか、歪めていくのか。
 悲しみに浸すかもしれない。喜びに満ち溢れるかもしれない。
 とろりと、恍惚に蕩かされるかもしれない。痛みに、苦痛に追い落とされていくかもしれない。
 それは、どうなるかは――ここではわからぬのだと嵐吾は言う。
「全て視れんですまん。あちらで皆がどうなるのか、わしにもわからんのじゃよ」
 それでも行ってくれるなら、頼みたいと嵐吾は続け、その手のグリモアを輝かせるのだった。


志羽
 お目通しありがとうございます、志羽です。
 プレイング締め切り、受付方法などはお手数ですがマスターページの【簡易連絡】をご確認ください。
 全章、冒頭公開後からプレイングをいただければ幸いです。
 また、流血描写などがあると思いますので、苦手な方は参加しないことをお勧めします。
 おひとり様、もしくはおふたり様向けの依頼となっております。少人数運営の予定ですので、プレイングがお返しとなることもあります。
 その点ご理解の上、ご参加ください。

●シナリオについて
 第一章:冒険『籠の鳥のアリス』
 第二章:集団戦『アンメリー・フレンズ』
 第三章:ボス戦『???』
 以上の流れとなっております。

●最初に
 どの皿となるかをプレイングの最初に指定してください。
 被った場合は、プレイングにより判断させていただきます。
 ひとさら、おひとりさま(もしくはおふたりさま)という予定ですので、最少人数は8名様の運営となります。

●一章について
 皆様は掴まり、鳥籠に収まったところからのスタートとなります。
 おしゃべりの鳥籠は、下ごしらえとして皆様の心を彩るべく、様々な言葉を向けてきます。
 過去をほじくってさらに追い落とすものかもしれませんし、幸せな記憶を引き出すものかもしれません。それはプレイング次第です。
 また、二章であなたを調理するアンメリー・フレンズがやってきて言葉をかけていくこともあります。あなたの世話をしていくこともあります。
 それがどのようなものかは、味付けによりけりとなります。

●お願い
 お二人様の場合はご一緒する方がわかるように互いに【ID】を記入していただけると助かります。また、失効日が同じになるように調整していただけると非常に助かります。(続けて二章、三章参加の場合、IDについては必要ありません)
 ご協力よろしくお願いします。

 以上です。
 ご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『籠の鳥のアリス』

POW   :    力ずくで籠を破壊する

SPD   :    錠前を針などで開ける

WIZ   :    鍵を探して開ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●今日の、味
 本日の味が、告げられる。
 かしゃんかしゃなんとその扉を開いて、鳥籠たちは歌うのだ。
 アミューズ――続く料理を楽しみにさせる希望に満ちた心の味。
 これから何が起こるのか、わくわく楽し気な子はいる?
 オードブル――まずは軽めに優しい味のもの。けれど隠し味はそれに隠された一点の曇り。
 その心の内に、何かを欺いてでも抱えたようなアリスがいるかしら。
 スープ――滑らかな、幾重にも手間暇かけて作りあげ。その手間暇を全て悟った末の味。そう、これは諦念の味。もうすでに諦めているアリスがいるならここに。
 ポワソン――素材には軽めに手を入れて。魚は崩れやすいものもあるのだから。けれど纏わせるソースは、手を尽くして丁寧に扱って、そして最後の最後に貶めて味を決める。
 お魚さんはいるかしら? 大事にして、けれど最後に落とさなければ。そこでどんな心になるのかは、わからないけれど。
 ソルベ――冷たい一口。けれどそれで、今までの味をすっきりと忘れさせるそんな、強い味。それが爽やかなものであろうが、重く濃厚なものであろうが、どちらでもいい。とにかく、主張の強い味。
 こころにひとつ、強いものかかえたアリスであればいいかしら。
 アントレ――これは濃厚で、芳醇で。重厚なる味にしよう。じっくり、じわじわと仕上げていった味だ。それが楽しさに満ちていようとも、悲しさに満ちていようとも。その際まで追いつめて、追い上げて高めた味であればそれがどのような味付けであろうとも良しとしよう。
 素材の良さを引き上げていきましょう。きっとそれがいいもの、その子が抱えたものを大事にして、扱いましょう。
 デセール――どろどろに、甘いものがいい。甘い甘い、甘さの末に花咲いた、泥濘の一輪。それがたとえ枯れてしまったものであっても、それはそれで甘美なるもの。
 恋を、恋をしていた、恋をしているアリスはいない? その行く末が幸せなものでも、不幸せなものでも、どちらでもいいわ。
 カフェ・プティフール――これは全て食べ終わっての小休止。けれどあたしにとってはこれまでの味を思い返す時間。それは今までを思い出す、様々な味をひとつずつ、小さく添えていくだけ。
 きっときっといろんな味になるはずよ。さぁさぁ、上手に、料理していきましょう。



「アリスの下ごしらえ下ごしらえ」
「ああ、忙しくなる……さぁ、はやくはやく」
 私の中にアリスを入れて。お話しなきゃお話しなきゃ。
 ひとり入るくらいの大きさの鳥籠たちがかしゃんかしゃんと扉を開けて閉めて、音を立てる。
 言葉を交わしてその心を動かして――アリスのお話を聞いて、その心を導いて彩って。
 おいしいアリスになる最初の準備をしなければ。
「必要があればあなたたちも手伝うのよ」
 もし痛みが必要なら、それはあなたが。他者からの優しさが必要なら、それもあなたが。
 その言葉にアンメリー・フレンズはわかったわかったとこくこくと頷く。
 さぁ、アリスの下ごしらえの始まり。
●下ごしらえ
 今日は、アリスがたくさんいる。
 たくさんたくさん、いたから――いつもよりもたくさんの材料使って、豪華なフルコースにしよう。
 それをだれが言うたか。
 愉快な仲間たちは戸惑うのか、楽しそうなのか。
 今日も言の葉揺らがせ、心を下ごしらえしていく鳥籠たちの扉が開く。アンメリー・フレンズは自分があとで料理するアリスを連れてきた。
 そこに投げ込まれたアリスは誰も彼も――今日は、猟兵だ。
 
 
 フルコース。その最初の一皿目は――希望に満ちて。
 
 
真目・紅
とぷとぷ
曹達の尾を揺らし

最初の一皿
私たち猟兵のフルコース
さぁ召し上がれ

外の世界は存外野蛮
食べたり食べられたり
いつもしていたし、されていたね?

精気を与えたことはあるけれど
末期一息奪ったことはあるけれど
曹達の尾に食い付かれたことはないんだ
一体どんな心地だろう
ひとくち、ですっかり呑まれやしないかな

誰でもないみずであった頃より
大きな我々であった時より
狭い私の小さな瞳、そこに何より多くを映すなんて
きっと誰も知らなかった

私は我々よりも多くを知れるかしら
何かを成すというのは、たくさん動かすんだね
瞳も、手も、鰭も、心も

人魚はくるり、おおきな匙に収まろう
飾る花のひとつもおくれ
食欲そそるよな
潮気に似合う花が欲しい



●アミューズ~一品目
 とぷとぷ、曹達の尾を揺らし真目・紅(山海経・f26530)は鳥籠の中で不器用に羽ばたく。
「いらっしゃい、おいしそうね、あなたおいしそう」
 一皿目よ、最初のお皿よと鳥籠が歌う。
 紅は最初の一皿と――私たち猟兵のフルコースとゆうるり、空を游ぐ。
 それはどんなコースになるのか――紅は笑ってみせた。
 鳥籠が美味しくしてあげるというのだからこう返してあげるだけ。
「さぁ召し上がれ」
 外の世界は存外野蛮と知っている。遥か深海とは違う世界。東の国より空越えた、岩山聳える島とも、ここは違う世界。
 けれど、食べたり食べられたり、それは。
「いつもしていたし、されていたね?」
 どうしていたか。どうされていたか。
 紅は記憶を手繰り寄せる。
 精気を与えたことはあるけれど。
 末期一息奪ったことはあるけれど。
 ああ、これはないんだと笑み浮かべる。すると、それはなあに、教えてと鳥籠が訊ねる。
「曹達の尾に食い付かれたことはないんだ」
 ゆるり、動かす曹達の尾。
 とぷとぷ。とぷり。この自由な尾に食い付かれる――それは一体、と期待に満ちる。それを描く口端を隠すことはない。
「一体どんな心地だろう。ひとくち、ですっかり呑まれやしないかな」
 まるで恋するかのように零す乙女の銀の瞳が甘く輝くばかり。
 これは知らぬのだ。
 誰でもないみずであった頃より――大きな我々であった時より。
(「狭い私の小さな瞳、そこに何より多くを映すなんて」)
 きっと誰も知らなかった。
 知らなかったのに、知ってしまった。
「私は我々よりも多くを知れるかしら」
 何かを成すというのは、たくさん動かすんだねと紅は踊る。
 瞳も、手も、鰭も、心も――全て、全てで感じて得ていく世界。
 くるり、ねぇと手を伸ばす。
 収まるのなら、そう。おおきな匙がいいと鳥籠にねだる。
 おおきな匙、あるかしら。あった気もするわと鳥籠は紡ぐ。
 紅の担当の、アンメリー・フレンズを呼んで大きな匙を言づける。
 ゆるゆるのろのろ、鳥籠から離れていく前に紅は待ってと彼を呼び止めて。
 その手を伸ばしもう一つお願いを。
「飾る花のひとつもおくれ」
 飾る場所は髪かしら、それとも――一番最初にかじりついてほしい曹達の尾か。
 そのどちらにも飾る、けれど――食欲そそるよな。
「潮気に似合う花が欲しい」
 探してきて、飾って添えて頂戴、料理人さんと紅は紡ぐ。
 盛り付けは、大事なこと。
「あなた楽しそうね、おねだりをかなえてあげて」
 鳥籠は紡ぐ。
 最初の一皿、その一品になるあなたは、自分がどうなるかわかっているというのに希望に満ちている。
 どうぞ、その曹達の尾を齧れるようにおいしくしてもらいましょう。
 お花を飾って綺麗に並べて――始まりのお皿に乗るのにお誂え向き。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アール・ダファディル
【アミューズ】

≪彼女≫が興味津々に檻を揺らす横で金糸を繰り周囲を見回す
喋る鳥籠ははじめて見たな。退屈しのぎに丁度いい

鳥籠、お前は何かを食べたことが有るか?
俺はこの身になって体験したが中々に興味深い
愛し子らが楽しみにしていた理由も漸く理解出来た
面倒で不便極まりない行為だが活力漲る感覚は「生きて」いる気がする

故に食べられる経験も実に楽しみだ
初めてではない
嘗て愛い子らは美味しそうに俺たちを齧っていた
だがあの時とは違う。今抱くのは愚かしいまでの僅かな期待だ
食べる事により生を得られるのであれば、
食べられる事により「モノ」へ戻れるのでは無いかという、な

勘違いするな
俺はただ≪彼女≫と同じになりたいだけだ



●アミューズ~二品目
 かしゃんかしゃん。
 その音が楽しいのか、興味津々に檻を揺らすのは≪彼女≫だ。
 アール・ダファディル(ヤドリガミの人形遣い・f00052)はその横で金糸を繰りつつ、周囲を見回す。
「なにかなにか、珍しいものでもあるのかしら」
 珍しいというのなら――と、アールは視線を上へと向ける。
 頭上、おしゃべりなのはこの鳥籠の檻、そのてっぺんのようだ。
「喋る鳥籠ははじめて見たな。退屈しのぎに丁度いい」
「退屈? お喋りしましょう」
 わたしはあなたを下ごしらえするのよ、なんていう。
 あなたはアミューズ、一皿目。これからどんな料理が出てくるか、期待を募らせる希望のお皿になるのだからと。
 その言葉にそうかとアールは笑って、逆に問いかけるのだ。
「鳥籠、お前は何かを食べたことが有るか?」
「食べたこと? 鳥籠のわたしにはお喋りする口はあるけれど食べる口はないの」
 食べるって、どんな感じ? と問われアールは、俺はこの身になって体験したが中々に興味深いと返す。
「愛し子らが楽しみにしていた理由も漸く理解出来た」
 食べる。それはアールにとって、面倒で不便極まりない行為。
 人の身をとる前は、全く必要のない事だった。人の身になっては、それが必要である事となってしまった。
「だが活力漲る感覚は『生きて』いる気がする」
 故に食べられる経験も実に楽しみだとアールは瞳細める。
「食べられてみたいの? それが楽しみ?」
 食べられることは――初めてではないのだ。
 とてとてと、檻を揺らすことに飽きた≪彼女≫がアールの傍へと戻ってきて、その胸に飛び込んだ。
 ああ、この耳もそうだったなとアールは思い返す。
 嘗て愛い子らは美味しそうに俺たちを齧っていた。耳に手足、鼻先までもだ。
 だが。
(「あの時とは違う」)
 この身を得て、心に抱くのは愚かしいまでの僅かな期待だ。
 とろりと、甘やかな誘惑のようでもある、期待。
 ああ、それはどんな期待と鳥籠がささやく。
 食べる事により生を得られるのであれば――
「食べられる事により『モノ』へ戻れるのでは無いかという、な」
 この人の身が食べられてしまえばそこに残るのは、己の本質でもある。
 鳥籠は食べられたいのね、それが希望なのね。
 きっときっと、良いようになるわとその心をあおる。
 けれど、勘違いするなとアールは鳥籠の囁きをぴしゃりと跳ねのけるのだ。
「俺はただ」
 と、視線を向ける。腕の中、≪彼女≫はどうしたのというような表情だが瞳の輝きはきらきらとしていた。
 俺はただ――≪彼女≫と同じになりたいだけだ。
 このヤドリガミの、人の身が食べられてしまえば――『モノ』へとなれるかもしれない。
 淡い淡い、期待だ。
 彼女が同じくなれぬのなら、それなら――自分がなるまでと。
 鳥籠は紡ぐ。
 それは希望、期待。けれどちょっと変わったお味になりそうねと。
 でも満ちている、外に広く向かう希望ではなく、己の心に向かうその希望は食べたものにどんな顔をさせるのか。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 オードブルの皿にのる。
 一品、二品、三品、四品。それぞれ違う味に彩られていくことでしょう。
 見た目も、味も、同じなものはありはしない。
 
 
旭・まどか
舌に優しい、前菜の味
作品外と謳われるその肩書は、本来の役割から外れた僕とまるで同じ

到底主役には成れず
華々しく着飾るヒロインにも成れず
物語を統べる語り部にだって、成れっこ無い

何にも成れず
何にも在れず

意義無く意味無く無為に流れ征く時を過ごす事の
なんと愚かしい事か

優しい味で舌を慣らす、なんてまやかしだ
捕食者達は絶えず此の先を想い
只提供された物を―僕を、食すだけ

ぴりりと瞬きの間だけ得る刺激は
数回の咀嚼の後に彼方へ消える

僕と、同じ

記憶にも記録にも残らない
本来此処に在るべきでは無い僕の存在そのものは
正に“作品外”

―君の世界を想おう
星の向こうへ消えた君こそ生きるに相応しい

なのに何故


僕は、此処にいるんだろうか



●オードブル~一品目
 鳥籠の中は、特に何もなく。
 かしゃんと閉まる音に旭・まどか(MementoMori・f18469)は振り返る。
「あなたはどんなアリスなの?」
 おいしい、前菜になりましょう――そう、鳥籠は囁く。
 前菜、オードブル。今日は舌に優しい味。
 作品外と謳われるその肩書は、本来の役割から外れた僕とまるで同じとまどかは思う。
 まどかへと、鳥籠は話しかけ続けていた。
 あなたの話を聞かせて頂戴。どんなものを抱えているの。
 いいえ、隠しているのと。
 まどかはそれには答えずに、ついとその鳥籠を編む鉄を指先で撫でていく。
 到底主役には成れず。
 華々しく着飾るヒロインにも成れず。
「物語を統べる語り部にだって、成れっこ無い」
 ぽつり、零れてしまった。
 その言葉を鳥籠は拾い上げてしまうのだ。
「何になりたいの、語り部? でもそうじゃないのでしょう?」
 そう、確かにそうじゃないとまどかは思うが応えない。
「あなたが本当になりたいものは、なぁに? 私にだけ教えて頂戴、内緒にするわ」
 何になりたいのか――いや、それも違うのだとまどかは知っている。
 何にも成れず。
 何にも在れず。
 そうであることが――意義無く意味無く無為に流れ征く時を過ごす事の、なんと愚かしい事か。
 そうなりたくないのだ。
 何者になるかではない。何者であるかでもない。
 鳥籠の聲は心地いいものにはならない。
「優しい味で舌を慣らす、なんてまやかしだ」
 零した言葉に、そんなことないわ。優しい優しい、幸せな味になるのよと鳥籠は言う。
 けれど、ゆるくまどかは首を振る。
「捕食者達は絶えず此の先を想い、只提供された物を―僕を、食すだけ」
 ぴりりと瞬きの間だけ得る刺激は、数回の咀嚼の後に彼方へ消える。
 そういうものなのだ。
 それは――とまどかはゆっくりと瞳閉じていく。
 それは。
「僕と、同じ」
 あなたと、同じ?
 それは何が、何と、どういうものと畳みかけられる言葉。
 それはまどかの心を逆撫でていくものだ。
 記憶にも記録にも残らないと、まどかは己を思う。
(「本来此処に在るべきでは無い僕の存在そのものは――正に“作品外”」)
 ふ、と息を吐く。
 その吐息の意味するものは、何なのか。
 ――君の世界を想おう。
 星の向こうへ消えた君こそ生きるに相応しい――その言葉は誰から受け取ったのか。
 誰に向けられたのか。
 その言葉が、己の内にあるというのに。
(「なのに何故」)
 僕は、此処にいるんだろうか――答えの出ない問いかけを、己の内に落とし込む。
 鳥籠は紡ぐ。
 それはこれから、美味しくいただかれるためと。
 隠しているの、わからないという暗澹を。
 それは素敵な、隠し味。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケルスティン・フレデリクション
アリスのみがわり…できるかな?

お皿はかるめのオードブル
籠に閉じ込められたアリスのふり
何もわかっていないふりをするの
楽しいことをお話しよう。
私が、屋敷から連れ出され行った場所、明るくて素敵で、楽しい事がいっぱい。ともだちも、たくさん
…つらいこと?
わからない。家にいたときは、本を読んでたから寂しくなかったよ
…ほんとうに?
……さみしい、暗い檻の向こうからたのしそうな声がきこえるの。檻の中の高い窓から空が見える。広くて高い世界
檻の中が私の世界だと思ってた
つらくても、さみしくても、だれもこなくて、ないても、わたしのこえはきこえない
この鳥籠はそれに似ているね。
でも、貴方達が私の話を聞いてる。とてもうれしい



●オードブル~二品目
 こっち、こっちと手を引いていく。
 愉快な仲間たち、アンメリー・フレンズはケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)の手を引いて、鳥籠の中へと押し込めた。
「アリスのみがわり……できるかな?」
 見上げる鳥籠――この鉄柵からは逃げられない。
 お皿はかるめのひとつ。
 ケルスティンは閉じ込められたアリスのふり。
 何もわかっていない、アリスのふりだ。
 ねぇ、とケルスティンは鳥籠へと話しかける。鳥籠はお話しましょうと軽やかに。
「楽しいおはなしがいいわ」
 楽しいことを、たくさん。
 ケルスティンはあなたのことを教えてという鳥籠に、自分の事を教えていく。
「私が、屋敷から連れ出され行った場所、明るくて素敵で、楽しい事がいっぱい。ともだちも、たくさん」
 それは素敵な場所。
 いやなことなんて何もない、そんな場所の記憶は鮮やかなもの。
 けれど――それだけではオードブルになれないから。
 鳥籠は問いかけるのだ。
「楽しいこともたくさんあったのね。素敵、素敵よ。けれど、それだけではないでしょう?」
 そう、例えば――つらいこと。
「……つらいこと?」
 ケルスティンはきょとんとする。
 それは一体、何なのか。つらいとは、何なのか。
「わからない。家にいたときは、本を読んでたから寂しくなかったよ」
「寂しくない? うふふ、ふふふ。それはあなたが気付いてないだけじゃないかしら。ほんとうに、ほんとうに――」
 つらくなかったの?
 柔らかで優しい声が向けられる。
「……ほんとうに?」
 寂しく、なかっただろうか。
 ケルスティンは思う。ほんとうに――寂しくは。
 ふつり、と心にひとつ、灯ってしまう。
 ほんとうに――ほんとうは。
「……さみしい、暗い檻の向こうからたのしそうな声がきこえるの」
 檻の中の高い窓から空が見える。広くて高い世界。
 檻、と鳥籠の中にいることを意識して。そこからまた記憶が広がってしまう。
 鳥籠――檻。
 檻の中が私の世界だと思ってた。
「そう、あなたの世界ね。ここも、あなたの世界よ。鳥籠の中、閉じ込められて、まったく同じではないけれど同じでしょう? 似ているでしょう?」
 同じ、とケルスティンは反芻する。
 つらくても、さみしくても、だれもこなくて、ないても、わたしのこえはきこえない。
「――この鳥籠はそれに似ているね」
 そう、似ているのと鳥籠は歌う。
 その歌声は、けれどケルスティンの心を慰めるような。
「でも、貴方達が私の話を聞いてる。とてもうれしい」
 ひとりではない。お喋りする相手がいるのだから。
 鳥籠は紡ぐ。
 あなたの本音が零れて、けれど今は楽しそう。
 楽しい気持ちは心躍る味になることでしょう。けれど寂しさも知っている――それは本人も気づいていなかった彼女の味。
 けれどそれに気づいてしまったら――いったいどんな隠し味になっているのか。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
オードブル

嗚呼。前菜は軽く、後の味を引き立てる物でなければならない。

私にはとても大切な子がいる
春に嵐を運んで来る、お転婆な娘さ
彼女は私に光を注ぎ込んでくれた
まだまだ危なっかしく、不安定でね
それでも前を向く強かな娘

嗚呼。もうスパイスが欲しい?
仕様がない。
此処だけの話にしてくれよ。
私は彼女を――

喰い殺したい

私に愛を注ぎ、私を愛すると告げた君ごと貪る
嗚呼。君の唇から注がれる毒は、それはもう甘美であろうとも
君に喰われてしまうのもいいね。

愛したら喰いたくなる
愛し愛されたからこそ身の内で永遠に

けれどもそれから先の虚無も知っている
だからこそ彼女を欺き、味方を欺き、己すらも欺いて
ただの人で有り続けるのだ



●オードブル~三品目
 前菜になる貴方、どうぞこちらにと鳥籠が歌う。
 嗚呼、と榎本・英(人である・f22898)は落とすのだ。
 知っている。前菜は――軽く、後の味を引き立てる物でなければならない。
「あなたのお味はどうなのかしら。あなたの事を教えて下さる?」
 英を囲うその鳥籠はとても丁寧な物言いだ。
 私の事、と英は零し――ひとり、思い浮かべていた。
 語るのなら、あの子とのことが良い。
「私にはとても大切な子がいる」
「大切な子。素敵ね、どんな子なのかしら、教えてくださる?」
 かしゃん、と音を立て。鳥籠に背を預けて英は座る。
 小さく笑いながら――春に嵐を運んで来る、お転婆な娘さと答えるその声は踊るようなものだ。
「彼女は私に光を注ぎ込んでくれた。まだまだ危なっかしく、不安定でね」
 それでも前を向く強かな娘――英はその姿思い浮かべ瞳細めるのだ。
「素敵な素敵な――もしかしてもしかして。それは恋? 恋なのかしら」
 それもまた優しく素敵な味。けれどけれど――それだけでは少し弱い味と鳥籠が言う。
 恋というのなら、デセールの方が良かったのでは? けれど、あなたの語り口では、きっと望む甘さを得られないと。
 その鳥籠の言葉に英は笑い零す。
「嗚呼。もうスパイスが欲しい?」
「ええ、隠し持っているものがあるのなら、教えて頂戴。それが決め手になるのよ」
「仕様がない。此処だけの話にしてくれよ」
 秘め事だ。
 これは秘め事――鳥籠が、ええ、わかっているわとかしゃんとかすかに音立てる。
「私は彼女を――」
 喰い殺したい、と。
 うっそりと零れた。うっとりと零れた。
 私に愛を注ぎ、私を愛すると告げた君ごと貪る――英は己の唇を指でなぞる。
 そしてその指は唇から顎、喉をたどっていくのだ。
 この唇から――落ちていく。英の、身の内へと注がれて落ちていくのだ。
「嗚呼。君の唇から注がれる毒は、それはもう甘美であろうとも」
 君に喰われてしまうのもいいね、と思う。
 嗚呼、そう言葉向けたらどんな顔をしてしまうのだろうか。
 考えてしまうのだ。そして思ってしまうのだ。
 愛したら喰いたくなる。
 愛し愛されたからこそ身の内で永遠に――共に。
「それは幸せ? 貴方にとって優しいこと? それとももっと違うもの?」
 さぁ、どういうものだろうねと英は鳥籠に明確な答えを与えない。
 そうしたい、と思うものの。けれども、そこから先の虚無も知っているのだ。
 得るものはあるのだろう。
 けれど、そこから先に得るはずだったものを失ってしまうのも知っている。
 だからこそ、なのだ。
 彼女を欺き、味方を欺き、己すらも欺いて――ただの人で有り続けるのだ。
 ひとだよ、と英は僅かに表情柔らげて笑うのだろう。
 鳥籠は紡ぐ。
 ひとであるのね、ひとでなし。
 ひとでなしの、ひとである。
 大事なその子とお幸せに。お幸せに、なのかしら?
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
■オードブル

表情は穏やかに、態度や口調は柔らかく。
出過ぎず、いつの間にか入り込み。
信頼された事もあった。感謝された事も。情を交わした事も。
己も彼らへ、真実心寄せ乍…
“仕事”の瞬間、全てを利用し無に帰した。
罪悪感など無く、自他の情全て切り棄てて。

大切に想うひとが居る。
優しいと言われる度、かつてを思う。
知られてゆく、変えられてゆく己の奥深く、
明かしたくないと思い沸く。
過去を…
それ以上に、非道い願いを。

生きる事は役目だった。
君に出逢い、
死んでもいいと思ってしまった。

過ぎる程倖せを貰った。
誰より倖せで居て欲しい。
けれどもしその時が来たなら
――棘となりたい。
いたんでいて。
いつか誰かに抜かれる迄で良いから



●オードブル~四品目
 表情は穏やかにクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は鳥籠へと笑いかけるのだ。
「優しそうなあなた。そのお顔の下で何を思っているの?」
 隠し事はしないでいいのよ、話したいことがあれば話していいのよ。
 これはここだけの、内緒話――そんな風に、鳥籠は囁いてくる。
 クロトの今日の、最初の駆け引き相手はこの鳥籠だ。
 出過ぎず、いつの間にか入り込み。
 信頼された事もあった。感謝された事も。情を交わした事も。
 クロトは、それらを思い出して柔らかに笑う。
 この手に残る感触は微かに残っているのか――どうか。
「己も彼らへ、真実心寄せ乍……“仕事”の瞬間、全てを利用し無に帰した」
 罪悪感など無く、自他の情全て切り棄てて。
 心は動くことなんてなかったのだ。
 情など必要なく、簡単に扱えるものであった。そうであった、はずなのに。
 クロトの心には――あたたかに、灯のように。大切に想うひとが居るのだ。
 それを聞いた鳥籠は、まぁまぁと楽し気に声を零す。
「それはそれは、きっとあなたの味の決め手になるわ」
「そう? どうなるんでしょうね」
 優しいと言われる度、かつてを思う。
 情を切り捨てて、いたのに? 優しいと、思えるのだろうか。
 それは少しずつ、けれど大胆に。
 知られてゆく、変えられてゆく己の奥深く、それと同時に――明かしたくないと思い沸く。
「何を、明かしたくないの? 教えて、教えて?」
「過去を……それ以上に、非道い願いを」
 それは、どんな非道い、願い?
 優しく優しく、鳥籠は訊ねてくる。
 生きる事は役目だった――けれど、今は。
 君に出逢い、死んでもいいと思ってしまった。
 生きる事を放棄して、死んでもいいと思う。
 誰のために、何のために。
 そしてほかに、得たものは――過ぎる程の、倖せ。
 過ぎる程倖せを貰った。貰って、しまった――なのかもしれない。
 クロトは思うのだ。
 誰より倖せで居て欲しいと。
「それは、だあれ?」
 それは――君。思い浮かべる姿は一つだ。
 けれど、けれど――もし。もし、その時が来たなら。
 その時が来ることが良いことなのか、悪いことなのかはまだわからないけれども。
「どうしたの、どうしたの。何を、望んで隠しているの?」
「――棘となりたい」
 いたんでいて、と小さく零れ落ちた。
 もし、死んでもいいその時がきたら何を与えられるだろう。
 与えてしまうだろう。
 棘と、なれると思う? と鳥籠に訊ねてみる。
 いつか誰かに抜かれる迄で良いから――刺さり続けて、苛んで。
 鳥籠は紡ぐ。
 ええ、ええ。きっと素敵な棘になるわ。いいえ、きっとそうなるのはすぐよ、と。
 大切な、誰かの棘になりたい、あなた。
 真っすぐなようで歪んでいるあなた。間違いなく素敵な味になるわ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 スープはことこと、優しく緩やかに煮込んでいきましょう。
 骨子となる味はどの味かしら。
 バランスは大事。どれが強くても、弱くてもだめ。
 けれど絶妙な配分を見つけ出せば――この世に二つとない味になるでしょう。
 
 
ロキ・バロックヒート
★スープ

なるほどお相手は美食家なんだね
諦念?じゃあすべてを諦めてるかみさまはいかが?

大事な役割をもって生まれたのに
ほらこの首輪見てよ
封印されちゃってなんにもできないの
なんとかしようとしたけど無理
そのうち諦めたよ

あとね
永い時は全部零れ落ちるって教えてくれた
大事なものなんて気付けばなくなってる
なにも持てない
なんて無意味な生!
それなのに死ねないんだよね

ただ最近ね
それを終わらせるって約束した龍がいるんだ
でも残念
きっと無理だよ
神殺しなんて中々できるものじゃないよね
笑って言ってから
約束し合った小指がつきりと痛む
…あれ、おかしいなぁ
期待でもしているの?
果たされるわけないじゃない

あぁ
ぜんぶぜんぶ
どうでもいいよ



●スープ~一匙目
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はなるほどと笑って見せる。
 かしゃんと鳥籠に背中を預け、ずるりとしゃがみ込む様に座り込んだ。
「美食家なんだね」
「ええ、そうよ。だから美味しいスープになりましょう」
 手間暇かけて――己がどうなるか。諦念の。
 諦念? とロキは笑い、手を広げ。
「じゃあすべてを諦めてるかみさまはいかが?」
 なんて、鳥籠へと笑いかける。鳥籠は、諦めているあなた、あなたのことを教えて頂戴とさえずるのだ。
 ロキはいいよと緩く、笑み向ける。
 大事な役割をもって生まれたのに。
「ほらこの首輪見てよ」
 首にかかるそれを軽く引っ張って、ロキは本当にこれがねとため息まじり。
「封印されちゃってなんにもできないの。なんとかしようとしたけど無理」
「なんとか? それを外そうとしたのね。でも外れなかった。だからまだ、それを付けられてしまっているのね」
 そう、とロキは苦笑い。首にあるそれを、指でなぞりながら――こうなるのが当たり前だったよね、というように。
「そのうち諦めたよ」
 紡いだ言葉はあっけらかんとしていたのだ。
 そうなの、そうなのと鳥籠は頷くように。
「あとね、永い時は全部零れ落ちるって教えてくれた」
 持ち上げた手。その手は何かを受け止めるように――けれど、その指先からは何かが零れていくことをしっている。
 掌から逃げたのか、それとも仕方なく零れ落ちたのか。
 まぁ、ここにないのならどっちも同じ結果。
「大事なものなんて気付けばなくなってる」
 なにも持てない――なんて無意味な生!
 それなのに。それなのに――死ねないんだよねとロキは独り言ちる。
 死ねないとは、一体何なのか。それもわからなくなってくるくらい、死ねない。
 だがそこで、ロキの表情は曇らないのだ。
「ただ最近ね」
 それを終わらせるって約束した龍がいるんだ。
 芽生える、何か――でも残念、とロキはすぐに思ってしまった。
「きっと無理だよ」
 だってそう。己が簡単に殺せるものではないと、知っている。
「なぜ、どうしてそう思うの?」
 無垢な鳥籠の問いかけに、答えは簡単とロキはおどけて見せる。
「神殺しなんて中々できるものじゃないよね」
 笑って言ってから――つきり。何かが痛んだ、どこかが痛んだ。
 それは、ああここかとロキの視線が撫でる。
 約束し合った――小指。
 つきり、つきり。小さな痛みのくせに、すぐに消えていきそうな痛みのはずなのにずっとそこにある。
「……あれ、おかしいなぁ」
 こんな痛み、すぐに消えるようなものなのに――期待でもしているの?
 己が己に問いかけるかのように。
 けれどそんなことはないだろうとロキは瞳を細めるのだ。
「果たされるわけないじゃない」
 その唇から零れ落ちた言葉。こんな事、言うつもりはなかったのに――でも聞いているのは鳥籠だけだ。
 だから、いいかとロキは片膝抱えてうっそりと笑うのだ。
「あぁ、ぜんぶぜんぶ」
 どうでもいいよ――どこか、面白可笑しそうに。
 鳥籠は紡ぐ。
 諦めているわ。己の在り様に、約束に。
 ぜんぶぜんぶ、ひっくるめて諦めている。
 きっとどこにも動けない、いけないあなたは――己をよくわかっている。
 だからこその、諦念の味。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
スープ

諦めか…。
俺の場合は欲する事求める事だろうか。
焦がれて求め欲しても、必ずこの手をすり抜けていくのならば。だったら決して求めない欲しないと決めて。
どんなに自分の心が黒くなろうとも、自分の物にならない輝きをそばで見続けようと決めた。
短くともその間に味わった二度の失う痛みは十分なほどに、新しい想いと希望を塗りつぶす。

だから何も言わない。求めない。欲しない。
またなくすぐらいなら、なくす痛みを感じるぐらいなら、誰かを傷つけるかもしれないのなら。
だったら俺は元に戻る。人の身を解くことができなくとも、心を何も言わぬ物とすることはできる。



●スープ~二匙目
 鳥籠の中――黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は、その視線を一度、閉じてしまう。
 かしゃんかしゃんと、檻の扉の揺れる音が何かを揺らして、溶け込んでいくような感覚を与えていた。
 向けられる、その言葉は――優しいもの。
「どうしたの、何を考えているの?」
 私とお喋り、しましょうよと鳥籠が話かけてくる。
 そうしないと、美味しいスープに――手間暇かけた末の、諦念の味になれないわとさざめく様に紡ぐのだ。
「諦めか……」
 俺の場合は欲する事求める事だろうか、と瑞樹は思う。
 ひとそれぞれ諦めはあるのだろう。
 それが自分の場合は――と思った末の、答えだった。
「あなたは諦めているの? あなたの諦めはなあに?」
 すぐさま問いかけて教えて頂戴、教えて頂戴と鳥籠は言う。
 その問いかけに瑞樹は素直に、答えるのだ。
 するりするり、言葉は口から零れおちていくばかり。それは抱えていた想いの吐露だろうか。
「焦がれて求め欲しても、必ずこの手をすり抜けていくのならば。だったら決して求めない欲しないと決めて」
 どんなに自分の心が黒くなろうとも、自分の物にならない輝きをそばで見続けようと決めた。
 短くとも――その間に味わった二度の失う痛み。それは十分なほどに、新しい想いと希望を塗りつぶす。
 塗りつぶして、きたのだ。瑞樹の何かを、遠慮なく。
「だから何も言わない。求めない。欲しない」
 またなくすぐらいなら――なくす痛みを感じるぐらいなら。
 そして、誰かを傷つけるかもしれないのなら。
 そんなことに、なるくらいなら――瑞樹は瞳を、やっと開いた。
 閉じる前と、何も変わらぬ世界。
「だったら俺は」
 元に戻る。
「人の身を解くことができなくとも、心を何も言わぬ物とすることはできる」
「あなたは優しく、諦めているのね」
 鳥籠は紡ぐ。
 諦めている。優しく、諦めている。
 己がどうなってもいいと、諦めている。
 それはほかのものを、そして己を守る為の諦めと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

イフ・プリューシュ
そうね、イフがなるとしたら
スープ、かしら

ねえアンメリー、少しだけ、イフのおはなし、聞いてくれる?

イフは、すべてをあきらめたわけじゃない
けれど、どうしようもなく、
あきらめることしかできないものもあるわ

わすれてしまっていたことを思い出すたび、強くなっていく想い
大切なひとたちに、わすれられたくない
できればイフを、好きになってほしい
けれど、それは望んじゃいけないことだって思うの

死んでしまったイフの「いま」は、ただの生の残り香
イフのいのちは、幽霊みたいなものよ
いつか消えてしまうなら、その時誰も悲しまないように
それならば、「イフをあいして」なんて望むのは、まちがいでしょう?
だからイフは、諦めの中で笑うの



●スープ~三匙目
 いろんな料理になるという――イフ・プリューシュ(Myosotis Serenade・f25344)は鳥籠の中で、やっぱりスープと小さく笑った。
「ねえアンメリー、少しだけ、イフのおはなし、聞いてくれる?」
 鳥籠も、あなたもとここまで連れてきたアンメリー・フレンズも傍に。
 アンメリー・フレンズはどうしようどうしたらいいとうろうろ。すると鳥籠が一緒にお話しききましょうと声かける。
 イフがどうして、ここにいるのか。
「イフは、すべてをあきらめたわけじゃない」
 でも知っているのだ。
 諦めたわけじゃない――けれど、どうしようもなく、あきらめることしかできないものもあることを。
 イフの内に消えぬ炎があるのだ。
 それはわすれてしまっていたことを思い出すたび、強くなっていく想い。
 大切なひとたちに、わすれられたくない――そう思うのはきっと当たり前のことなのだろう。
 できればイフを、好きになってほしい――これもきっと、そうだろう。
「けれど、それは望んじゃいけないことだって思うの」
「どうして? どうして望んじゃいけないと思うの?」
「ありす、ありすは、だいじ」
 それは、とイフは――己を『イフ』と名付けたものは思うのだ。
 死んでしまったイフの「いま」は、ただの生の残り香。
 だから、これはきっとおまけみたいな時間なのだろう。
「イフのいのちは、幽霊みたいなものよ」
 いつか消えてしまうなら、その時誰も悲しまないように。
 きっとそうしたほうがいいと思うのだ。
 それならば、望むのは間違いだ。
『イフをあいして』――なんて望むのは。
「まちがいでしょう?」
 ねぇ、違う? と首をかしげて笑って見せるイフにアンメリー・フレンズは一緒に首をかしげる。
 言っていることはわかるようで、わかっていない。
 わかっているようで、わかっていないのだ。
「だからイフは、諦めの中で笑うの」
 小さな少女は互い違いの瞳を瞬かせ笑う。
 鳥籠は紡ぐ。
 生の残り香でも謳歌すればいいというのに、そうしない。
 そうしないのは、どうしてか――望むことが、間違いという。
 諦めている、己が誰かと本当にかかわって、いたことを遺すことを。
 辿る道など、この先にあとどれほどかと諦めている。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリザベス・ルーネート
母さま(f19129)と
ご一緒してくれるとは思わなかった
私には、救うことが生き甲斐だけれど、母さまには…

迷子にならないくらい混じってスープに溶け合うって
素敵ね、なんて。言えないけど
ナイショごとが増えてしまうわ

「…大丈夫よ、母さま」
アリスも母さまも、それから私もきっと救うんだから
「もう私は大きくなったのよ
母さまのこと、しっかり抱き締められるわ?」
あまーくあまく、抱き締めて囁くの
今の私を作ったカミサマが、恐々と注いでくれた年月は、
確かに甘く優しかったのだもの
ほら、声も賛成してくれてる

一柱と一人で、二人前になりたいなんて思わないわ
おんなじじゃないから、一緒にいたいの
きっと私たちは、一緒が丁度いい


ナシラ・アスワド
ベッツィー(f19130)と

エリーの手をしっかり掴んで、離れない為なら
挑む皿は“スープ”だろう

保護者然と発ったのに
目の前の仔を見失わないようにするのが精一杯
手を伸ばしているうちに、嫌な声ばかりが思考を埋めていく
「止めて、イヤだ、ボクのエリザベスを奪わないでよぅ…」
ボクは神なのに、こんなやつらに…触るなってば!

「キミは、キミは健やかに育たなくては、
 生きなければ、だってボクが生かしてしまったのだから…!」
過ぎたことをしてしまった後悔がずっと胸にある
でも、それ以上に彼女が生き生きと証明した日々を、
その日々をいとおしいと思ってしまうのを、消せない

ぐずぐずと涙が止まらない
しょっぱいスープになってしまう



●スープ~四匙目
 ご一緒してくれるとは思わなかったとエリザベス・ルーネート(星海の愛し仔・f19130)はナシラ・アスワド(不器用・f19129)を、母さまを見つめる。
(「私には、救うことが生き甲斐だけれど、母さまには……」)
 エリザベスよりも小さなナシラ。
 その小さな手が、自分の手をしっかり掴んでいる。
 それは離れない為。そして離れない為に――スープになるのだ。
「ことこと大事に大事に手をかけて、ゆっくりゆっくり火にかけていきましょう」
 鳥籠が歌うのは、ふたりの行く末だ。
 ゆっくりゆっくり、一緒になって混じっていくのと軽やかに歌われる。
 ナシラは、目の前の仔を見失わないようにするのが精一杯。
 保護者然と発ったのに――その心は一杯だ。
 何で一杯って、嫌な声ばかりで一杯なのだ。埋められていく、その心を。
「ことことことこと、けれど最初は――別に手を入れた方がいいのかしら。ふたつをしっかり混ぜて――一緒になったら素敵な味」
「止めて、イヤだ、ボクのエリザベスを奪わないでよぅ……」 奪わないわ、返してあげる。離れ離れになんてならないわ、迷子にもならないくらいに混じり合う。
 エリザベルは――素敵ね、と思えて紡ぎはしない。
 迷子にならないくらい混じってスープに溶け合うって、そんなこと。
 己をぎゅうと抱きしめて、見上げて。檻の外から手を伸ばしてくる、アンメリー・フレンズから、己を守ってくれている。
(「ボクは神なのに、こんなやつらに……触るなってば!」)
 本当に嫌だ、なんでこんなところに。けれどエリザベスが一緒にいる。おいていけるわけなどないのだ。
 そんなナシラに決していう事はない。ナイショごとが増えてしまうわ、と小さく小さく笑み含む。

「……大丈夫よ、母さま」
 アリスも母さまも、それから私もきっと救うんだから――どうしてここで笑むのか。
 ナシラの不安をかき消すように、エリザベスは言って手を伸ばす。
「もう私は大きくなったのよ。母さまのこと、しっかり抱き締められるわ?」
 ぎゅう、と抱きしめる。
 その耳元で、あまーくあまく、エリザベスは囁くのだ。
 抱きしめるその腕の優しさも温かさも、いまナシラだけに向けられたもの。
 今の私を作ったカミサマが、恐々と注いでくれた年月は、確かに甘く優しかったのだもの――エリザベスの言葉を受け取ってナシラは僅かに息を止め。
 けれど堰切ったように紡ぐのだ。
「キミは、キミは健やかに育たなくては、生きなければ、だってボクが生かしてしまったのだから……!」
 それは、後悔。ずっと抱いているそれのせいで零してしまった想い――でも、ある。
 過ぎたことをしてしまった後悔がずっと胸にあるのは確かなのだ。
(「でも、それ以上に」)
 今、己を優しく抱きしめるこの腕の持ち主が、エリザベスが生き生きと証明した日々を、その日々をいとおしいと思ってしまうのを、消せない。
 ナシラは消せないのだ。
 いとおしいと後悔の内に熱が灯ってしまったのだ。
 ふわりとエリザベスは笑う。
 一柱と一人で、二人前になりたいなんて思わないわと。
 おんなじじゃないから、一緒にいたいのと、柔らかに囁く。
「きっと私たちは、一緒が丁度いい」
 ねぇ、そうでしょうと笑いかけるのだ。
 またその笑みが――ナシラの心を擽っていく。
 ほろり、一筋零れたならばもう止まらない。
 ぐずぐずと涙が止まらない。溢れていくその雫をエリザベスは掬うのだけれど、やがて間に合わなくなってしまう。
 ああ、これでは――とちょっと困ったようにナシラは言うのだ。
「しょっぱいスープになってしまう」
 口をはさむ間もない。
 鳥籠は紡ぐ。
 ああもう、もう混ざりあってるじゃないのと。
 別々に仕立て上げる、その手間暇を掛けさせてくれないままに、別であるのにもう一緒。
 これはこれは――もう手が出せないものでもある?
 どうしましょう、私達が諦めねばならぬのでは?
 いいえいいえ、これに合わせて調理方法を変えましょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【スープ】
さあて、どうやって仕立ててくれるんだろうな?
肉を削いで煮詰めるのか
滴った血をブイヨン代わりにするのか

鳥籠の言葉を聞いているうちに幸せな気持ちが心を満たす
これは洗脳なのかな、そうじゃねえのかな
俺にとっちゃ、そもそも痛みはご褒美で
食べられる事は極上の幸せ、「だった」
うんと美味しくしてくれよ
テーブルの上でお行儀よく待っててあげる
よおく噛んで、たっぷり俺を味わって?

――でも、だぁめ
食材にだって相手を選ぶ権利くらいあるさ
俺を食べていいのは残さず美味しく食べてくれる人だけ
我儘な女王様にゃ血の一滴だって呉れてはやらねえ

アドリブOK/齟齬が生じる場合他参加者様を優先で



●スープ~五匙目
 さあて、どうやって仕立ててくれるんだろうな? と――ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は笑う。
 スープになるという。料理されるという。
 それはどんな経験になるのだろうか。まぁ、痛いのはきっと間違いないとジャスパーはうっすら笑むのだ。
 ああ、楽しみと。
「肉を削いで煮詰めるのか、滴った血をブイヨン代わりにするのか」
 何て零していると鳥籠が、どちらがいいの、どちらでもいいわと歌うのだ。
 あなたの好きなようにスープにしてあげる。
 けれど、一番素敵な状態で、調理されなきゃもったいないわ、だめなのよと。
 なるほどなるほど、その通り――歌うようなその声は、ジャスパーの何かを満たしていく。
 鉄の鳥籠、鋼のそれが歌っているというのにその声は心地よい。
 不思議と、幸せな気持ちがその心を満たしていく。
「これは洗脳なのかな、そうじゃねえのかな」
「洗脳? そんなことはしてないわ。ただおしゃべりしてるだけ」
 おしゃべり。
 たしかに、おしゃべりしてるだけだとジャスパーは笑う。
 それは本当に? と微かに思うのも淡く、消えて行ってしまう。
「おしゃべりしながら、どう料理するのか決めましょう」
 自分で決める、そんな材料があってもいいものよと鳥籠は言う。
 アンメリー・フレンズは、料理をする。けれどどうするかはよくよく考えていないのよと。
「もし私が動けるなら、きっと私が料理しているわ」
 けれど私は動けぬ鳥籠と歌う。
 痛いのがいやならとろとろに煮込みましょう。熱いかもしれないけれど。
 痛いのが大丈夫なら、あなたが言っていたようにまずお肉を削ぎましょうと。
「俺にとっちゃ、そもそも痛みはご褒美で」
 食べられる事は極上の幸せ、――いや、そうじゃないとジャスパーはふと、意識を覚醒させる。
 それは、『だった』だと。
 食べられる事は極上の幸せだった。それは過去のもの――だれかれ構わず食べられていいわけがない。
 けれど、料理されるは別に良い。
「うんと美味しくしてくれよ。テーブルの上でお行儀よく待っててあげる」
 食べられる時を。
 よおく噛んで、たっぷり俺を味わって? とジャスパーは零す。
「ええ、ええ。美味しく美味しく、してあげる。どこまでも手をかけて――」
 わたしたちのこわいこわい、あの方に食べていただきましょと鳥籠は言う。
 かしゃんかしゃん、音をたてて震えるようなそのそぶり。
 けれど鳥籠の主は――ジャスパーを食べて良い相手ではない。
「美味しく美味しく――でも、だぁめ」
 食材にだって相手を選ぶ権利くらいあるさとけらりと笑う。
 うん、だめとジャスパーは言う。
「俺を食べていいのは残さず美味しく食べてくれる人だけ」
 きっと食べてくれないだろ、と紡ぐ。
 鳥籠はそれを否定しない。そう、主たる女は――よくお残しをして、それを下げ渡すのだから。
「我儘な女王様にゃ血の一滴だって呉れてはやらねえ」
 そう、この身を食べさせて、あげる相手は自分で決める。
 食べてほしい人も自分で決める。きっとそれは、と細く笑み浮かぶばかり。
 その相手はここにはいない。料理されてやってもいいけれど、食べさせてはあげないよと言うのだ。
 鳥籠は紡ぐ。
 ああ、まだまだ手をかけられていない。もっともっと、美味しく仕上げなければ。
 もっともっと、おしゃべりをして。諦めて――美味しくいただかれるように、なってもらわなければ。
 そうしなければ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
スープ

鳥籠は私を囚う桜獄のよう

私は幸せ
愛しき人がいて咲き誇る笑顔がある
でも全部なくなるの

諦めている
私の未来
何時か三つ目の神と共に
領地の繁栄守るための神木たる桜樹とならればならない
誘七の始祖の桜龍の生まれ変わりの務め
私が生きるただ一つの意味
幸は手放すもの
貪欲に求め喰らってもなくなるの

とっくに諦めている

なのに
神とかわした約束の証の小指が痛む
神を殺す時、私も未来から救って貰うと約束したの
声はいつしか
三つ目の神の声に変わる
「信じる事を諦めなさい」
「あなたを信じてない」
「私だけはあなたを信じてる」
「諦めて一緒にいこう」

私に救われる資格などない

悪くないかもしれない
櫻となるのだって

花冷えの宵のように
心穏やか



●スープ~六匙目
 誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は思う。
 鳥籠は私を囚う桜獄のよう――ここは、どんな場所。
 あなたにとってどんな場所と鳥籠が囁いた。
 どんな場所かしらと呟けば、心に問いかけてと続く。
 心に――櫻宵の心に満つものは。
「私は幸せ」
「幸せでいっぱいなの?」
 鳥籠の問いかけが優しく響く。
 そう、いっぱい。
 愛しき人がいて咲き誇る笑顔がある。
 いまは、笑顔がある――でも全部なくなるのと、櫻宵は瞳を伏せた。
 櫻宵は、もうすでに諦めている。
 知っている、この先の未来を。辿らなければいけないその先を。
(「私の未来――」)
 何時か三つ目の神と共に、領地の繁栄守るための神木たる桜樹とならればならない。
 そうなると櫻宵は知っている。それから逃れられない事も。
 これは誘七の始祖の桜龍の生まれ変わりの務めなのだから。
 それは櫻宵にとって決して捨てられぬもの。
 だってそれは。
(「私が生きるただ一つの意味」)
 ひらり、と掌躍らせる。ああまるで、その指先から――零れていくのではなく。
 幸は手放さなければならない。どんなに手放したくなくても。
 貪欲に求め喰らってもなくなるのだから。
 だから、とっくに諦めている。
 なのに――つきり、つきり。
 手放していく、その手の、その指の一つが痛むのだ。
 それはどの指、と掌掲げて目の前にし触れていく。
 ああ、この指――それは神とかわした約束の証の、小指だった。
「約束? そう、約束したわ――約束した」
 どんな約束だったか、覚えているか確認だよと鳥籠が歌う。
 その約束は。
「神を殺す時、私も未来から救って貰うと約束したの」
 響く。それは鳥籠の声であるはずなのに、そう聞こえない。
 話している相手はだあれ? 鳥籠であるはずのなのにそうではない。
 三つ目の神の、声がすると櫻宵は思うのだ。
「信じる事を諦めなさい」
「あなたを信じてない」
「私だけはあなたを信じてる」
「諦めて一緒にいこう」
 諦めなければ。諦める、諦めていく、諦めた――諦めて、いる。
 櫻宵は知っている。
「私に救われる資格などない」
 それを、言葉にして零せば心の奥底に沈んでいくようだ。
 根を張っていく、その言葉がきっと諦めの形。
 ああ、けれどそれも――悪くないかもしれない。
「櫻となるのだって」
 悪くないかもしれない。
 悪くなんてないと、穏やかな声が聞こえた気がした。
 ふふ、と櫻宵は笑い零していた。
 花冷えの宵のように――心穏やか。
 鳥籠は紡ぐ。
 嗚呼、もう出来上がっている。
 穏やかに、諦めている――もうここから動けない、そんな子ね。
 これ以上手をかけては、逆に崩してしまうからそのままに、その時を待っていてと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 ポワソン、魚。
 丁寧に。丁寧に扱って――見た目も違う、味も違う。
 纏うソースがたとえ同じでも、違う味になる。けれどそれぞれにお似合いのソースを用意しましょう。
 みっつ、綺麗に並べたならば――それは美しい皿になる。
 
 
泡沫・うらら
・ポワソン

貴女が最初に食らうメインは、うち
どろりソースに絡まれて傀儡人魚は今日も謡う

大切に大切に扱うて
貴方のその手は優しかったけれど
それはうちが、“人魚”やったから

貴方が望んだ種族
貴方が欲した種族

求められていたのは“人魚”であって“うち”や無い

嗚呼、なんて、虚しいの

それやのにあんたの熱の籠った眼差しを
甘やかに話しかけられる言の葉を
勘違い、してしもたの

恋は、盲目

正常な判断力を失った曇った眸では
ほんとうは、見えへん――見えてへんかった、から

こうなってしもたんよ

海から引き上げられて
水槽の底へ墜ち
恋に堕ちた、愚かな女

纏うソースには慈悲を頂戴

うちの罪を赦して苦しみを取り払って
愉しみを、頂戴な



●ポワソン~一切目
 貴女が最初に食らうメインは、うち――泡沫・うらら(夢幻トロイカ・f11361)は鳥籠の中でひらりと身を翻す。
 鳥籠は美味しいソースを纏いましょうと歌うのだ。
 美味しいソース、それはどんなソース。
 ひらりと伸ばした白魚のその腕。ここにどろりと絡むソースを想像してみせる。
 ここに――絡むその味までは纏うまでわからないけれど傀儡人魚は今日も謡う。
 それはどこでも変わりはしない。けれど求めるものに応えてくれるから、ねだりもする。
「大切に大切に扱うて」
「どんなふうに、大切に? 教えて、教えて――あなたの大切」
 うちの大切は、と思い出す。
 貴方のその手は優しかったけれど――それはうちが、“人魚”やったから。
 だからそういう風に扱って。
 貴方が望んだ種族。
 貴方が欲した種族。
 望んだのは、欲したのは――“人魚”
 求められていたのは“人魚”であって“うち”や無い。
 大事に大切に――錯覚してしまうようなそれ。
 でも、それはうららだからではなかったのだ。
「嗚呼、なんて、虚しいの」
「そうね、そうね――虚しいわね。けれど、それだけじゃ、ないでしょう?」
 鳥籠が問いかける。どうしてだろうか、答えなければならないような気がしてしまう。
 そう、とうららは頷く。
 ちゃんと、わかっていたのだ。わかっていたのに。
「それやのにあんたの熱の籠った眼差しを、甘やかに話しかけられる言の葉を」
 勘違い、してしもたの――だって、それは仕方ないこと。
 きっとそうなる運命だった、なんて気持ちもあったのかもしれない。
 恋は、盲目。
 それしか見えなくなる。それが絶対、世界の真ん中。
 うちのおめめは、なんて指先で瞳をなぞる。
 正常な判断力を失った曇った眸では――見えるものも見えはしない。
「ほんとうに? みえていたの? みえていなかったの?」
「ほんとうは、見えへん――見えてへんかった、から」
 こうなってしもたんよと、零れた声に滲む想いは何なのか。
 水に揺蕩い宙を游ぐ。海に生きる為のその身は――地を歩むにはあまりにもそぐわない。
 あの自由な世界から、海から引き上げられて。
 水槽の底へ墜ち、たった一枚――されど一枚の、硬く強い、硝子の向こうに手は届かない。
「あなたは。あなたをどう思っているの? あなたはどんな――女なの?」
 その答えはするりとうららの口から泡のごとく吐き出される。
 恋に堕ちた、愚かな女。
「愚かな愚かな、でも素敵な――あなた。とってもとっても、美味しそうよ」
 美味しそうというならば――味にも注文を付けたいというもの。
 纏うソースには慈悲を頂戴とうららは紡ぐ。
「うちの罪を赦して苦しみを取り払って――愉しみを、頂戴な」
 ええ、ええと頷くように。
 鳥籠は紡ぐ。
 その慈悲は――見つかるかしら、あるかしら。与えない方がいいのではない? と小さく零れた。
 大丈夫、大丈夫。聞こえていないわ、大丈夫。
 お魚の、あなたをちゃんと、食べるわと。
 でも叶うなら、その前に――もっと深い場所に堕ちていきましょう。
 もっと良い味になれるわ。
 もっともっと、おしゃべりしましょう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮白・銀翠
この身体で乗るのはひとつだけ。ポワソン。

だって、この身は元をたどれば誰かに捌かれ誰かに並べられ誰かに食されるはずだった肉。
そう。きょうだいは皆誰かの胃袋へ落とされた。

供されるためのいきもの。あぁ。そう。わたくしは、
そう、なることが幸福であると、、、
わたくしを、食(あい)して、いただけると?
本当に?ほんとうに?

あぁ。だめ。そんな、甘い言葉。恍惚でとろけてしまう。
とろかされてしまう。ひた隠しにしてきた何かを引き摺りだされる。
喜悦で疼いてしまう。

…  あれ?けれどわたくしは、
わたくしは、遠いあの日に、終わりを拒んだはず、
あぁでも愛して。食して?くれるの?
わたくしだけを、あいしてくださるの?



●ポワソン~二切目
 鳥籠が、いらっしゃいと笑う。
 あなたのお話を聞かせて頂戴、あなたがどんなものなのか。
 浮白・銀翠(泡沫真珠・f02692)はふふと笑い零す。
 この身体で乗るのはひとつだけ。
 目麗しいその姿で生きる道の生まれた銀翠は、知っている。
 だって、この身は元をたどれば誰かに捌かれ誰かに並べられ誰かに食されるはずだった肉。
 けれど肉ではなく愛玩品となり。海も知らず、嵐を知らず。
 恋さえ知らないが、上手に愛でられることを銀翠は覚えた魚。
 ほかにも、同じ生まれのものたちがいたというのに――己のみが生きている。
「あなたのみ?」
「そう。きょうだいは皆誰かの胃袋へ落とされた」
「ああ、なら。あなたは最後のとっておきなのね」
 とっておき。最後の最後、きっと美味しく――そう、熟成されているに違いない。
「美味しく美味しく、食べていただきましょう。だってそれ、あなたの本懐でしょう?」
 本懐――その言葉がすとんと、銀翠の心の内に溶け落ちて広がっていく。
 供されるためのいきもの――あぁ。そう。
 ほとり。落ちた吐息が纏うのはしあわせな。
「わたくしは、」
 そう、なることが幸福であると――けれど。
「わたくしを、食(あい)して、いただけると?」
「ええ、ええ。最上の彩で、もてなしで、あなたを美しく美味しく料理にして」
「本当に? ほんとうに?」
「本当よ。ほんとうよ」
 心配しないで、何も迷うことなく――美味しくあなたはなれるのだから。
 きっと口に入るその瞬間はきっと幸せなものよ、と鳥籠が歌う。
「あぁ。だめ。そんな、甘い言葉。恍惚でとろけてしまう」
 とろけていいのよと鳥籠がさざめく。
 銀翠の声も歌う様だ。その声に鳥籠の声が重なって甘やかに。
 この声に――とろかされてしまう。歌う様ではあるが、金属のようなその声にひた隠しにしてきた何かを引き摺りだされる。
 引き摺りだされていく――けれど、ああと吐息は艶を帯びて。
 喜悦で疼いてしまう。
 心の底からあふれてしまう。
 隠れていたものが、隠していたものがどろりどろり、とろけて――このまま呑まれて浸ってさらけだして。
 けれどふと。
「……あれ?」
 けれど、とゆぅっくりと、心に落ちた何かがあった。
 わたくしは、と唇震えて言葉になる。
 どうしたのどうしたのと紡ぐ鳥籠の言葉は耳に届いてはいない。
「わたくしは、遠いあの日に、終わりを拒んだはず、」
「終わらないわ、心配ないわ」
 拒んだのではなくて受け入れているのよなんて無責任に歌う。
 ひたひたとその心に染み入らせるように。
「あなただけを愛して、美味しくいただくの」
「あぁでも愛して。食して? くれるの?」
 ええ、ええと鳥籠が頷く。
 あなただけよ、あなただけよ。その一口をいただくときは、あなただけと。
「わたくしだけを、あいしてくださるの?」
 鳥籠は紡ぐ。
 ああ、あともう少し。もう少し踏み込めばもっと美味しくなりそう。
 でも気を付けて、丁寧に扱わなければ。
 もっともっと――じっくりゆっくり。
 崩れてしまわぬように、優しく扱って美味しくなっていきましょう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オクタヴィアン・ヴィヴィ
【ポワソン】

ワタクシ達の美貌を引き立てるなら
そうネ、シャンパーニュ・ソースは用意できて?
畏れるbébéを傍らに、妖しく笑む

讚美は傲慢たるワタクシのスポット・ライト
誉めそやされて当然デショウ?

オーダー通りに落とそうと
嗚呼、憐れな仔
オマエには『見る目玉』がないからダロウ
と何処吹く風

けれど
もし
もしもワタクシのbébéを貶すなら

オマエ、今なんと言って…?
憤怒の形相で纏う黒炎は檻破壊する『全力魔法』

嗚呼、オマエに何がわかる?
bébé、
ワタクシの愛おしい仔、
その美しさを!

極上のポワソン(Poisson)をノゾムのだろう?
ナラバ味わわせてやろう
一口で死に到る、ワタクシという至極のプアゾン(Poison)を!



●ポワソン~三切目
 その者は、優雅に緩やかに。
 鳥籠よりもきっともっと別の場所が似合うだろうに、その下肢で鳥籠の檻を撫でる。
 料理されるというのなら――ワタクシ達の美貌を引き立てるならとオクタヴィアン・ヴィヴィ(ラ・メール・f26362)はしばし考えて。
「そうネ、シャンパーニュ・ソースは用意できて?」
 この場に居る事なんて別にどうということもない。
 この先どうなるかも予想は容易い。
 けれど、オクタヴィアンの傍ら――いくじなしのメンダコ、bébéはふるふる、いつもなら隠れる場所があるというのに、今日はオクタヴィアンの傍らしかない。
 傍らの存在感じながら妖しく笑むオクタヴィアンは、鳥籠の声を当然のごとく受けるばかり。
「美味しそうね、あなた」
「ええ、ワタクシがおいしくないわけないでしょう?」
「あなたにお似合いのシャンパーニュ・ソースを用意しましょう。けれど作れるかしら」
 ソースにするシャンパンをなんならここに持ってきて、味をみてあげるなんて、笑いながら。
 美味しい、素敵。そんな言葉は当たり前のものなのだ。
 讚美は傲慢たるワタクシのスポット・ライト――誉めそやされて当然デショウ?
 オクタヴィアンの心は一向に乱れず。
 鳥籠はいくつもいくつも声を投げかける。
「嗚呼、憐れな仔」
 オマエには『見る目玉』がないからダロウと何処吹く風。
 かしゃんかしゃんと鳥籠は焦りを含んだように歌う。
「あなた、あなた。夜の海原に満ちたあなた。どう料理したらいい? ぶつ切りなんて失礼ね、まるごとお鍋に放り込んでゆでるなんで、きっともっと失礼ね」
 その調理はスマートではなく、ソウネとオクタヴィアンも望まない。
 もっともっと、素敵に――でもどうしたらいいのかわからなくなってくる鳥籠。
 その鳥籠はbébéを見つけた。
 そうだわ、そうだわ。あの小さな子で、練習なさいとアンメリー・フレンズへと歌い上げた。
「練習……?」
「そう、あなたの前に、その小さな震える子で。小さで未熟に見える、その子で」
 美しくは見えなくて、美味しそうには見えなくて――けれど、使い道はあるのだと。
 いいでしょう、いいでしょう?
 あなたを上手に美味しくするために、その子で練習しましょうと鳥籠はアンメリー・フレンズを呼ぶ。
 けれどそれは――それはダメだった。オクタヴィアンの心を逆撫でるに十分すぎた。
「オマエ、今なんと言って……?」
 共に皿にのせるでもなく――そんな扱い認められるわけがない。
 この鳥籠は、わかっていない。
 悠然と浮かべられていた微笑みは憤怒の形相で、ちりりと黒炎が爆ぜた。
「きゃあああ!?」
 許す必要などない。
 だってbébéは――とてもとても、美しい。
「嗚呼、オマエに何がわかる?」
 料理されると一層震えるbébéをその腕にオクタヴィアンは吼えるのだ。
「bébé、ワタクシの愛おしい仔、その美しさを!」
 これ以上の美しさなどない。
 愛おしい、愛おしい――鳥籠の扉が炎ではねてガタガタと震えていく。
 大きな音になんだなんだとアンメリー・フレンズが集い始める。
 鳥籠は金切り声で歌って叫ぶ。
 早く早く、このお魚を料理してと。どんな方法だっていい。
 暴れはじめたそれをはやく、わたしから引き離してと。
 極上のポワソン(Poisson)をノゾムのだろう? と、笑いかける。
 けれどそれは決して穏やかなものではない。
「ナラバ味わわせてやろう」
 淡くブルーに染まるシャンパンピンクの瞳がぎらりぎらり、怒りを灯す。
 アンメリー・フレンズがほてほてと、己の血まみれの調理道具をもって次々と集まってきた。
「一口で死に到る、ワタクシという至極のプアゾン(Poison)を!」
 アンメリー・フレンズたちがとびかかる。
 推し潰すように抑え込むように――オクタヴィアンへと。
 けれどどんなになってもbébéを離しはしないのだ。
 鳥籠は紡ぐ。
 ああ、なんて素材!
 でも活きの良さは一番よ!
 けれどけれど、はやく私から離してお皿にのせて!
 わたしではもう、下ごしらえできないわ!

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 ソルベ、口直し。
 冷たい一口。二口。三口。
 舌の上で消えていくその味は、先の皿の味を忘れさせていく。
 どれも抱えた想いは、深く強く。
 
 
夕時雨・沙羅羅
ゆらり、ゆれる
己のこころ、奥の奥
求めてやまない、幾星霜
それが歌う雨、僕の存在
希求のソルベ

かなしくもある
変わり果てた同胞に
怒りもある
アリスを喰らうオウガに
それらを花弁散らすように落とすならば
蜜が溜まる芯には、求めるこころ
僕はきみの歌に呼ばれた
僕はきみの忘れ形見を心臓にした
僕は、きみを探し求めている
いつか、きっと、未来、ももとせ、幾星霜
きみの魂が巡るのを待っている

きみに綺麗な世界を見て欲しいから、宝石を飲み込む
きみが愛らしいものを見て笑って欲しいから、花を飲み込む
きみを美しいもので彩りたいから、僕が見た美しいものを飲み込む
いつか、きっと、きみに渡すために
水中(はらのなか)は、いくら求めても満ちない



●ソルベ~一口目
「冷たい冷たい、一口になりましょう。あなたは仕切り直し、全てさらってしまう味になるの」
 さぁさぁ、どんなお味――どんな心をお持ちなの。
 教えて頂戴と鳥籠が紡ぐ。
 夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)は、その身を揺蕩わせ。
 ゆらり、ゆれる――己のこころ、奥の奥。
 沙羅羅は求めてやまないのだ。
 それは、幾星霜――歌う、歌う。
 それが歌う雨、己の存在。
 希求なのだと沙羅羅は知っている。
 この世界は、沙羅羅の世界でもあるのだ。この国が、沙羅羅の居場所ではないけれど――そこの国でも、そう。同じなのだ。
 かなしくもある。それは、と視線を向けた先でアンメリー・フレンズがふらふら歩いている。
 ああ、変わり果てた同胞だ。
 怒りもある――アリスを喰らうオウガに。
 どうしてそうなってしまったのだろう。それも、わからない。
 かなしさも、怒りも――そのどちらも。もしかしたらもっと他の想いもあるかもしれない。
 それらを花弁散らすように落とすならば――蜜が溜まる芯には。
 そこにあるのは、求めるこころだろう。
「僕はきみの歌に呼ばれた」
「それはきっと素敵な歌だったのね」
「僕はきみの忘れ形見を心臓にした」
「それは――それは、そこにあるのね」
 沙羅羅の、胸の内。体の内――こわれたかいちゅうどけいがそこにある。
 ほかにも、そう――きみの、好きなもの。
「僕は、」
 吐息が泡のように吐き出される。
「あなたは、あなたは――どうしたいの、何をしたいの、何をしているの」
 鳥籠が歌うように問いかける。
 沙羅羅は探し求めて、いる。
「僕は、きみを探し求めている」
 夕時雨がしゃららと降る"――そう歌った、きみ。
 そう歌った、アリス。
 いつか、きっと、未来、ももとせ、幾星霜――どれだけでも待てるのだ。
「何を、待っているの?」
「――きみの魂が巡るのを待っている」
 だから僕は、と沙羅羅は己の身を見つめる。
「きみに綺麗な世界を見て欲しいから、宝石を飲み込む」
 それならもっと、宝石をあげると鳥籠が囁く。
「きみが愛らしいものを見て笑って欲しいから、花を飲み込む」 それならもっと、花をあげると鳥籠が歌う。
「どうしてどうして、飲み込むの?」
「それは」
 きみを美しいもので彩りたいから、僕が見た美しいものを飲み込む――沙羅羅は鳥籠の言葉に、答えていた。
 美しいものを飲み込んで、それを――いつか、きっと。
「きみに渡すために」
 まだまだ、足りない――この水中(はらのなか)は、いくら求めても満ちないと沙羅羅は紡ぐ。
 ならそれをまず、満たしましょう。アンメリー・フレンズ、美しいものをたくさん持ってきてと。
 鳥籠は紡ぐ。
 美しいものをたくさんもってきましょう。
 ええ、あなたが美しいと思ってものだけ、選んで頂戴と。
 それを得ればあなたの心も満ちるかしら。
 いいえいいえ、満ちてはいけないの。満ちはしないこともわかっているわ。
 まだ出会えないことをわかっているからこそ、いまの美味しそうなあなたなのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛鳥井・藤彦
【ソルベ】
鳥籠に人を入れるなんてええ趣味してはりますなぁ。
愛でる為やのうて、最高の食材に育てる為の檻とは。
まぁ解らんわけやない。
僕も最高の絵を描く為に、絵具の材料になる草花育てたりしますわ。
ああ、でもどないにええ絵具や筆使うても、描き手があかんかったらけったいな絵になってまうんよ。
描きたいものへの情熱、被写体への集中力、ほんでもってそれらを受け止められる技術と画材。
それらが揃って初めて最高の絵、至上の色彩が……なぁなぁ、僕の話ちゃんと聞いとる?
せや! 僕は元々青使うのが好きやったんだけど最近赤にハマっとってな。
僕を料理に仕立てるんなら、一等鮮やかな赤を添えて欲しいねん。
料理も見た目が肝心やで?



●ソルベ~二口目
 かしゃんと鳴く鳥籠。それを見て、飛鳥井・藤彦(春を描く・f14531)はまず笑うのだ。
「鳥籠に人を入れるなんてええ趣味してはりますなぁ」
 愛でる為やのうて、最高の食材に育てる為の檻とは。
 そう零せば、素敵でしょう? 素敵だと思うでしょうと、鳥籠は己を誇って歌い返す。
「まぁ解らんわけやない」
「あらあら、あなたも私と同じなの? 理解してくれて嬉しいわ。お友達にはなれないけれど、なれそうね」
 その言葉に藤彦は笑って返した。
 そうやね、僕は君にとって食材。お友達になれるわけがないとは言葉にせずに。
「僕も最高の絵を描く為に、絵具の材料になる草花育てたりしますわ」
「あらあら、手間をかけるのは大事なことよね。あなたは素敵な色をつくるためにそうしているのでしょう?」
 私は美味しく下ごしらえをしなければいけないの。
 隠しもしないその言葉。あなたはどれだけ美味しくなるのかしらと鳥籠は歌う。
 鳥籠の、いう事もわかるのだ。
 けれど藤彦は、またほかのことも知っている。
「ああ、でもどないにええ絵具や筆使うても、描き手があかんかったらけったいな絵になってまうんよ」
「そうね、そうね――わかるわ」
 アンメリー・フレンズは上手な子とそうでない子がいるのと鳥籠は言う。
 上手な子、それはなにがどう上手なのか。
 その意味を察しながらも藤彦は何も言わず、鳥籠の言葉に相槌うってみせるのだ。
「描きたいものへの情熱、被写体への集中力、ほんでもってそれらを受け止められる技術と画材」
「私はあなたを素敵に仕上げていくの。あなたが何を思っているのか、何をしたいのか――あなたの絵のよに、つくる色のようにしてあげる」
「それらが揃って初めて最高の絵、至上の色彩が……なぁなぁ、僕の話ちゃんと聞いとる?」
 聞いているわ、聞いているわと鳥かごは言う。
 ほんとやろかと聞き返せばくすくす笑うようにかしゃんかしゃんと鳥籠が音立てる。
「せや!  僕は元々青使うのが好きやったんだけど最近赤にハマっとってな」
 そう言って――藤彦は、ひとつおねがいと僅かに瞳細めて笑って見せる。
 鳥籠は、ええ。ええ、言ってみて。叶えられることなら叶えましょうと歌う。
「僕を料理に仕立てるんなら、一等鮮やかな赤を添えて欲しいねん」
 料理も見た目が肝心やで?
 僕が描く絵のようにとまでは言わんけど。それでも美味しい彩を添えてほしいと告げればお安い御用と歌って返した。
 あなたが望むなら、そのようにと。
 鳥籠は紡ぐ。
 赤い色を添えましょう――それはどんな赤がいいかしら。
 鮮やかな赤? それとも濃くて深い赤かしら。
 大丈夫よ、その色はあなたが一番納得できる色になるでしょう。
 だってその色、あなたが零すのだから。あなたが生み出す色なのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
ソルベ

食べるのは大好きだが、自分が料理になっても
はたして美味いんだろうか

「アリス」と呼ばれる度に、心が軋む
今の名の字をあてる前の、名
呼んでいてくれた人が――師匠がいなくなったこと、目の前で死んだこと
だから殺した原因達を、その場で争っていた者達を殺し尽したい
そんな殺意だけは消えない侭此処まで来てしまった
美しい世界に残したくて守ってくれた貴方の想いを受け止め、理解しているのに
殺意は静かにずっと残ってる

口に含んでようやく冷たさが沁みるような殺意なのだけど
残して貰った命だから、向けられる殺意にはこれ以上ない殺意と敵意を灯らせてしまう
そうだな、期待してくれていい
君達が望む強烈な味を、後程くれてやろうとも



●ソルベ~三口目
 尭海・有珠(殲蒼・f06286)は鳥籠を見上げていた。
 この鳥籠は下ごしらえをして――後で料理になるという。その材料は自分だ。
「食べるのは大好きだが、自分が料理になってもはたして美味いんだろうか」
 有珠は呟いて――その響きを反芻する。
 鳥籠のそばを行くアンメリー・フレンズがありす、ありすのじゅんびと何事か呟きながら歩いていた。
『アリス』と呼ばれる度に、心が軋む。
 それは『有珠』と。今の名の字をあてる前の、名だった。
「――アリス? どうしたの、アリス」
 有珠がその呼び方に思う事あるのを感じてか、鳥籠はその名を何度も紡ぐ。
 どうしたの、何を思っているの――その言葉に、有珠の心の中に引き出される姿があった。
『アリス』と呼んでいてくれた人――それは師匠。
 師匠がいなくなったこと。目の前で、死んだこと。
 ぽとり、零した言葉を鳥籠は――あおるのだ。
「どうしてどうして? どうして、その人死んでしまったの?」
「殺された――だから」
 殺した原因達を、その場で争っていたもの達を殺し尽くしたい。
 その想いがふつふつと。殺意だけは消えない侭、此処まで来てしまったと有珠は零す。
「美しい世界に残したくて守ってくれた貴方の想いを受け止め、理解しているのに」
 殺意は――静かに。ここに、ずっと消えず残っていると有珠は胸元に触れる。
 ここにあるであろう、心のうちにずっと、ずっとだ。
「いいのではなくて? 殺意を抱く。悪いことではないわ、悪くないわ」
「悪くない?」
「だってまだ、殺していないのでしょう?」
 想いを抱くことは悪いことではないわ――殺してしまったら、そうではないでしょうけど。
 その言葉を、当たり前だと有珠は思う。
 けれど、殺意を肯定された。
 口に含んでようやく冷たさが沁みるような殺意だというのに――わずかに熱がともった気もする。
「それに――復讐でしょう? 悪いことをした人たちを、懲らしめるのだから」
「復讐……」
 そう、復讐と鳥籠は歌う。
 理由があるのだからそれは間違っていないと。
 あなたは残されて、命をここに持っているのだから――鳥籠の歌に有珠は笑って、そうだなと頷いて見せる。
「残して貰った命だから、向けられる殺意にはこれ以上ない殺意と敵意を灯らせてしまう――それは」
 仕方ないことよ、当たり前のことよと鳥籠が背中を押す。
 有珠はよく歌う鳥籠だと思いながら言葉向ける。
「そうだな、期待してくれていい」
 君達が望む強烈な味を、後程くれてやろうとも――それは、胸の中に秘めて。
 それは鳥籠も知らぬもの。
 鳥籠は紡ぐ。
 殺意。それはどんな殺意――問うまでもなく冷えて、けれど熱がともっている。
 それを胸に抱えたあなたは、それを巡らせるなら強い心でないと。
 それを途中で、手折られぬように。手折らぬように上手にあつらえて。
 大丈夫、その心抱えたままに――美味しくいただかれるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 アントレ、肉。
 様々な肉が並ぶ。どれもこれも味わいは様々。いっぱいあって迷ってしまう。
 だったら長所を生かして、一口ずつの食材の良さを引き立てる調理をしていきましょう。
 クセが強過ぎたら、手を入れかねるかもしれないけれど。
 
 
メアリー・ベスレム
アントレ希望
太った豚より、のろまな牛より
跳ね回る野ウサギのジビエはいかが?
肉付きの良いお尻も扇情的なこの服も
オウガの食欲を誘う筈だから【誘惑】

捕まる前に一度【逃げ足】で
逃げる【演技】をしてみせて
こんなところで死にたくはないと示してみせる
ええ、もちろん逃げ切るわけにはいかないから
適当なところで無様に転げて
間抜けなアリスは「また」檻の中

反抗的に睨んでみせて
出しなさいよと喚いてもみせて
諦めずに脱出を試みて

苦痛も恥辱も耐え抜いて
絶望なんてしてあげない
そんな最期まで活きの良いアリスこそ
きっとお肉に相応しい

ええ、だけど一つだけ
殺意だけはひた隠しに
これが初めてではないのだから、きっと上手くやれる筈



●アントレ~一口目
「太った豚より、のろまな牛より、跳ね回る野ウサギのジビエはいかが?」
 アンメリー・フレンズがアリスを探している時――そう言って、メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は前に現れた。
「ありす、ありす」
「つかまえなきゃ」
 メアリーが纏う服は――オウガの食欲を誘うためのもの。
 肉付きの良いお尻。扇情的なこの服、その白い小さな尻尾もすべてが罠のようなもの。
 みつけたみつけたとアンメリー・フレンズが追いかけてくる。
 けれど、メアリーはぴょんと跳ねて逃げ回った――いや、逃げる演技をして見せた。
 それはこんなところで死にたくない、死ぬつもりはないと示すために。
 逃げ切るわけにはいかないともちろん知っている。だから――丁度いい、あの木の根に躓きましょうと上手にこけた。
 そこへアンメリー・フレンズがとびかかって抑え込む。
 鳥籠に入れられる前に、その腕をもう一度振り切ってみせたがすぐにつかまって。メアリーは檻の中だ。
「まぁまぁ。元気なアリス。大丈夫、何も怖いことなんてないわ」
「出しなさいよ!」
「出ても良いことはないの。ここでゆっくり過ごしていって」
 出せ、とメアリーはわめいて見せる。反抗的に鳥籠をにらんで見せて、諦めずに脱出しようとがしゃんがしゃんと扉掴んで揺らしていく。
「アリス、落ち着いて、大丈夫よ」
 この後美味しく料理されるだけ。
 聞いているわ、美味しい野ウサギのジビエになるのでしょう。
 ちゃあんとさばいて、網脂で巻いて焼いてしまう?
 鳥籠は調理の仕方も歌ってみせる。
 苦痛も恥辱も耐え抜いて――絶望なんてしてあげない。
 メアリーはその心づもりでここにいる。
 最後まで――いや、最期まで活きの良いアリスこそきっとお肉に相応しいと思うからだ。
「元気なアリス、その元気なままに料理されましょう」
「されないわよ」
 そんなこと言わないでと鳥籠は歌う。
 その歌をメアリーは心底腹立たしいというように喚いて見せた。
 けれど――喚くその下に隠したものがある。
(「ええ、だけど一つだけ」)
 殺意だけはひた隠しに――これが初めてではないのだから、きっと上手くやれる筈。
 上手に隠して、鳥籠に気づかれぬように活きの良いアリスを演じ続ける。
 鳥籠は紡ぐ。
 活きの良いアリスはこのまま、好きに過ごさせてあげて。
 わめいても私がかしゃかしゃ、音を立てるだけ。逃げられないわ、逃がさないわ。
 けれど、ここから連れ出すときは気を付けて。
 きっとまた逃げてしまうから!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
アントレ

鳥籠にひとりの自分
ヒトを喰らおうと待つ誰か
美味たれと囁き誘い導く声
その条件が胸を揺さぶる

嗚呼――
如何してこんなに心がざわつく
締め付けられる
忘れた過去が
この胸を突き上げてくるの?

あゝ嫌だ
あゝ怖い
思い出す事が

知りたいと語った日もあるのに
浮き上がる其れが死を見せるの
『誰か』を死に誘う歌を謡う
あの聲は……だって『私』――

そんな己を知ってか知らずか
鳥籠が囁く
想いだしたい?忘れたい?
望む様にすればいい
引き上げたい?沈めてしまう?
手伝いましょう

忘れてしまうの?
同じように
全部。全部。蓋をして
目も耳も塞いで――

その後は
また失ってしまうの?
0になってしまうの?
重ねた想い出も全部?

嫌だ『妾』は消えたくない!



●アントレ~二口目
 かしゃん。
 鳥籠の、扉が閉まる。
 ひとり、とティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は己のいる場所をくるり、見回す。
「あなたはどんなお味? どう料理したらいいかしら」
 その言葉にティルの心が、揺れる。
 ヒトを喰らおうと待つ誰か。美味たれと囁き誘い導く声がある。
 そろってしまったその二つがティルの胸を揺さぶるばかりだ。
「どうしたの、どうしたの? 何か心配事?」
 ストレスがあっては美味しくならないわ、話してごらんなさいと鳥籠が歌うのだ。
 それさえも、ティルにとっては苛むもの。
 僅かに唇が震えて嗚呼――零れる。
 如何してこんなに心がざわつく、締め付けられる。
 きゅう、とその場所を握りこむ様に掴む手が白んでいく。
 ティルには、記憶がない。壊れた籠から放たれて、過去持たぬ小鳥は目の前の道を行く――そんな日々を過ごしていた。
 けれど、今は、きっとこれは過去が迫っているのだ。
 頭もたげてその影を見せている。
(「忘れた過去が、この胸を突き上げてくるの?」)
 ティルにとっては初めての感覚。
 決して心地よい感覚ではない。
 あゝ嫌だ――じわりじわりと、這いあがってくるものが。
 あゝ怖い――突然、姿を現しそうなそれが。
 思い出すことが――嫌で、怖い。
 立ったままその動きとめて。鳥籠はどうしたの、どうしたのと問いかける。
 その言葉さえティルには届いていない。
 知りたいと語った日もあるのに、浮き上がる其れが――死を見せる。
 ぼんやりと、輪郭を失ったはずのものが浮き上がり始める。
『誰か』を死に誘う歌を謡う。
 その歌は、聲は――嗚呼と零れた。それは誰よりも、何よりもティルが一番、知っているもの。
「あの聲は……だって『私』――」
 小さな呟き。
 かすかに零れる吐息と共に鳥籠はティルを拾いあげて、囁くのだ。
「想いだしたい? 忘れたい?」
 どちらでもいいのよ、望む様にしなさいなと優しく。
 それともそれとも――引き上げたい? 沈めてしまう?
 それも、どちらでもいいのよ。手伝いましょうと鳥籠が歌う。
「忘れてしまうの?」
 同じように――全部。全部。
 そう、全部全部と鳥籠が歌う。
 全部、蓋をして目も耳も塞いで――それでもいいのよと鳥籠は囁く。
「忘れて、すべて塞いで――そのあとは」
「その、あとは?」
 そのあとはどうなるかしらと鳥籠は、それはあなた次第という。
 妾次第、とぽつり。ティルは零した。
 胸中に浮かび上がるのは一つだ。
「その後は」
「その後は?」
「また失ってしまうの?」
 問いかけに、鳥籠はそうねと頷いた。
 忘れてしまったのなら、真っ白でしょうと。
「0になってしまうの? 重ねた想い出も全部?」
 ええ、全部全部――鳥籠は、否定しない。肯定する。
 全部忘れてしまったなら、あなたは真っ白。
 これまでの繋がりもなにもかも、あなたは知らない。世界に一人ぼっちになるでしょうと。
 たとえ誰かがあなたを覚えていても、あなたはその人を失ってしまったのだから。
 だからすべて、失ったのと同じ。
「全て忘れてしまったら、あなたは――もう今のあなたではないかもしれないけれど」
 その言葉に身がかすかにふるえる。
 ティルは――嫌だと、零した。鳥籠はなぁにと聞き返す。
 ひとつ、息を吸って――ティルが向ける言葉。
「嫌だ『妾』は消えたくない!」
 忘れたことを閉じ込めて。そしてそれからを忘れたくはないとティルは叫ぶ。
 鳥籠は紡ぐ。
 今のあなたを大事にしましょうと。
 思い出す、思い出さない。私の知らないあなたを私は知らない。
 今のあなたも、忘れることはなく。
 あなたはあなたのまま、ここにいて。美味しく熟成していきましょう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエ・ウニ
アントレ

喋る籠か。
僕は何も揺るがないさ。

僕?ただの修繕屋だ。
そう、物を直す人。

何故か?
まだ使えるのに捨てられる物をどうにかしたくて。
……僕が物であり彼らは同胞だから、と言いたくないな。

直せば新しい主人に引き取られる。
物は使われてこそだろう。

それで幸せになるのか?
……幸せになって欲しいと、願っている。
僕には物の声を聞くことが出来ないから。

より不幸になったら?より酷く壊されたら?
本当はもう壊れたい物だったら?

僕のしている事は……。

くすくす聞こえる声が忌々しい。
大丈夫。そんな事はない。そんな筈がない筈だから。
だから僕の大切な誇りに触れるな。
既にやられる一方でボロボロだが、……それ以上に胸が痛い。



●アントレ~三口目
「いらっしゃい、アリス。どうぞゆっくりしていって」
 喋る籠か、とユエ・ウニ(繕結い・f04391)は零す。
 おしゃべりな鳥籠。これにどんな言葉向けられても。
(「僕は何も揺るがないさ」)
 そう思うのだ。
 鳥籠はあなたのことを教えて、教えてと歌う。
 あなたは何をしているの、何を思っているのと。
「僕? ただの修繕屋だ」
「修繕屋? 直すのね、何を直すのかしら」
「そう、物を直す人」
 ユエが直すものは主無き同胞、朽ちかけた同胞だ。
 どうして直すのと、鳥籠が言う。その言葉に何故か? とユエは片眉僅かにあげる。
「まだ使えるのに捨てられる物をどうにかしたくて」
 しかし――ユエの心中はそれだけではない。
(「……僕が物であり彼らは同胞だから、と言いたくないな」)
 ユエはヤドリガミだ。
 古び壊れかけの懐中時計――けれど人の身を得て。
 けれどそれをこの鳥籠に言う必要などはない。
「どうにかしてあげて、それでどうなるのかしら? どうするのかしら?」
「直せば新しい主人に引き取られる。物は使われてこそだろう」
 そうね、使われてこそというのはわかると鳥籠は言う。
 わたしだって使われてこそ――いままさに、あなたがいるから使われているしるしと。
 けれど――と鳥籠は言う。
「壊れた子は捨てられていくだけよ。だから壊れぬようにしているのに」
 直してもまた壊れて――それは、幸せ? 幸せになれるの?
 鳥籠が、教えて頂戴とユエに訊ねる。
「それで幸せになるのか? ……幸せになって欲しいと、願っている」
 僕には物の声を聞くことが出来ないから――願うしかできないのだ。
 ユエの心をかき乱すように――でもわからないわよと続けて言う。
「そうね、あなたの言うように直したとしても――新しい主が良いものとは限らない」
 より不幸になったら? より酷く壊されたら?
 そんな矢継ぎ早の言葉にユエは黙る。
 その言葉は、ユエの心を揺らすように続けられた。
「あなたは直すけれど――本当はもう壊れたい物だったら?」
 役目を終えて壊れるものかもしれない。それを長らえさせて何になるのかしらと――言って。
「あら、あらごめんなさい。あなたのしていることを否定するわけではないのよ」
 そういうものも、いるかもしれない――そういうお話よところころ軽やかな言い方がまた何かを逆撫でていくのだ。
「僕のしている事は……」
 くすくす、かしゃんかしゃんと僅かに鳥籠が音を奏でる。
 その声が、音が忌々しいとユエは表情を僅かに歪めた。
 そして深く、深く息を吐く。
(「大丈夫。そんな事はない。そんな筈がない筈だから」)
 己に言い聞かせるように心の内で呟く。
 言葉にしたら、きっとこの鳥籠は聞きつけてまたはやし立てるのだろうから。
「ねぇねぇ、わたしが壊れたら直してくださる? 捨てられるかもしれないけれど」
「――だから、僕の大事な誇りに触れるな」
 からかうような物言いだった。
 この鳥籠は、と悪態つくのも――無意味とみて呑み込んで。
 かき混ぜられて、穏やかではない。
(「既にやられる一方でボロボロだが、……それ以上に胸が痛い」)
 この鳥籠と、話していてはいけないとユエは思う。
 もう幾ら話掛けられても流してしまおうとそっぽをむいて。
 鳥籠は紡ぐ。
 揺らいでしまったかしら、ごめんなさいね。
 あなたのいう事もわかるのよ。けれど全てがそうとは言えないでしょう?
 わたしが言ったものはあるかもしれない。けれど、ふふ。きっとないわ。
 あなたの目に映る世界でそれはないのでしょうね。
 それでいいわ、あなたはそれで、きっといい。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンゲージ・ウェストエンド
[アントレ]

エニは人魚
不老長寿は人魚の肉
ねぇ人魚はおさかなだけど、お肉なんよ?

可愛い、綺麗、そゆのはいっつもたーくさん聞いてるもん
でもなぁ、おいしそは初めて言われた!

賛辞は当たり前、謗りは培われた自負には届かない
瞳きらきら輝かせ、歓喜も心が揺れる隙として
降り注ぐ声ときゃらきゃらお喋り

すこぅし小さいけんど、きっとやらかいよ
毎日たくさん泳いでるの
エニは海の人魚よぅ
いつもはおっきい水槽に居るの
綺麗な水の中、みんなが見てくれる

(エニは、ただはんぶんずつヒトとサカナなだけだから
人魚にね、なりたいの
エニを食べて死ななくなったなら、なれたかなぁ
まだならエニが食べて隠しちゃう

エニも死ななかったら人魚でしょ?)



●アントレ~四口目
「お肉になるのね、人魚さん」
 おいしそうな人魚さん、上手に料理されましょうと鳥籠が歌う。
 鳥籠の声に、そうとエンゲージ・ウェストエンド(糸・f00681)は笑って返す。
「エニは人魚、不老長寿は人魚の肉」
 ねぇ人魚はおさかなだけど、お肉なんよ? そう言って、ゆるりとエンゲージは鳥籠の中を游ぐ。
 眠たげな微笑みは一層深く。游げばその豊かな髪がふうわりと。そしてその美しい、パパラチアの鱗がきらきらと煌めくようだった。
 游いで、てっぺん、一番近くに顔寄せた。
「どうしたの、可愛い、おいしそうな人魚さん。それとも、私の知らない綺麗な色を纏う人魚さんかしら?」
 あなたの鱗の色は知らないわ、初めてみたわ綺麗ね。そして美味しそうと――また鳥籠は紡ぐのだ。
「可愛い、綺麗、そゆのはいっつもたーくさん聞いてるもん。でもなぁ、おいしそは初めて言われた!」
 エンゲージにとって賛辞は当たり前のもの。謗りは培われた自負には届かないもの。
 けれど、おいしそうは初めてだ。
 その言葉にエンゲージは瞳きらきら輝かせ、歓喜に心が揺れるのだ。
 それも――また隙。鳥籠はそれを見逃すことなくエンゲージに楽しいおしゃべりしましょうと声を重ねていく。
 あなたのお肉はやわらかいかしら。固くはないといいのだけれども。いいえきっと固くないわね。
 だってそんなに優雅に空を游ぐのだものと、鳥籠は歌う。
 エンゲージは尻尾を躍らせてゆるりと。自分の身が固いか柔らかいかなんて考えたことはなかった。
 その身を触ってみれば、やわらかさはちゃんとある。
「すこぅし小さいけんど、きっとやらかいよ。毎日たくさん泳いでるの」
 ユニは海の人魚よぅといつもどこにいるのかをエンゲージは鳥籠へと話す。
 いつもはおっきい水槽にいるの、と笑って。
「綺麗な水の中、みんなが見てくれる」
 みんなみんな、ユニをみていてくれるのと楽しい気持ちが溢れるのだ。
(「エニは、ただはんぶんずつヒトとサカナなだけだから。人魚にね、なりたいの」)
 人魚になるには――いや、人魚なら。
 そう思ってエンゲージがたどり着いた答えは、あるのだ。
 エニを食べて死ななくなったなら、なれたかなぁと小さく零す。
 鳥籠はその言葉を拾い上げて、どうかしら、なれるかしらと言うのだ。
 だぁれもまだわからない。
 でも――そう、とエンゲージは思っている。
(「まだならエニが食べて隠しちゃう」)
 エニも死ななかったら人魚でしょ? と無邪気に抱えた想い。
 おしゃべりを楽しくするだけでいい。
 鳥籠は紡ぐ。
 きゃらきゃらと楽しそうな声を響かせて。
 けれど――何かしら何かしら。すこうし気になる何かがあるのにわからない。
 けれどおいしそうと向ければその言葉に喜ぶのだから、もっとおいしくしてあげましょう。
 おいしく、食べてあげるのが――きっと一番。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【アントレ】
倫太郎殿(f07291)と参加

鳥籠の中で二人過ごす
寄り添い、手を繋いで

重厚とならば、私達の関係
私は物として長く生き、彼は限られた人生に生きる
不釣り合いながら、今は調和しているのは仕上げられたからこそ

共に過ごした一年は幸の多いものであり、時に苦悩する日々もあった
見知らぬ世界を巡り、世界の広さを思い知る
生まれた世界が戦火に巻き込まれ、戦う意味を己に問うた
そして先立つ彼等への憂い故に私から離れようとした彼

時に幸せに満ち、悲しみにも満ちた
その度に気付き、見出したものがあるからこその今
この先が如何なるものであれ高めていける

それでも最期は避けられない
その結末さえも、私達は受け入れている


篝・倫太郎
【アントレ】
夜彦(f01521)と

鳥籠の中で夜彦と過ごす
広くない鳥籠の中
身を寄せて手を繋いで

決して長くない歳月の中
目まぐるしく変化した末の今の俺達

変化の始まりは何処だったのか

強いと思ったこの人がただ強いだけじゃないと知った
あの時だったのかもしれない

でも、それでも
この人の隣で笑うのは置いて逝く事になる俺じゃないと思った
見送るばかりのこの人に寄り添うのは
見送る哀しみを識ってる、同じ長さの時を生きる人だと想った

その哀しみを分かち合えない俺は
この人の盾として生きることが叶えばいい
そう言い聞かせてた

けれど、それは互いが一歩踏み出せば
一変するもので……
そうして辿り着いたのが、今

至高で至福
それは、濃厚で芳醇



●アントレ~五口目
 決して広くはないのだ。
 その鳥籠の中で篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)と月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は手を繋いで、寄り添い過ごすのだ。
「仲良しさんね、あなたたち」
 鳥籠の声が降り注ぐ。ああどんな味を出すのかしら――そんな声を指して気に留めず。
 夜彦は思うのだ。私達の関係は――と。
(「私は物として長く生き、彼は限られた人生に生きる」)
 それは不釣り合いなもの。けれど今、調和しているのは仕上げられたからこそだ。
 それは決して長くない歳月の中、目まぐるしく変化した末の、今の自分たちと倫太郎も知っている。
 変化の始まりは――何処だったのか。
 倫太郎は夜彦を見て、嗚呼と思い至る。
(「強いと思ったこの人がただ強いだけじゃないと知った――あの時だったのかもしれない」)
 そして夜彦も、覚えている。
 共に過ごした一年は幸の多いものであり、時に苦悩する日々もあったことを。
「ねぇ、ねぇ仲良しさん。あなたたちが過ごした時間を教えて下さる?」
 そんな声に、ええいいですよと夜彦は言う。
「見知らぬ世界を巡り、世界の広さを思い知る」
 生まれた世界が戦火に巻き込まれ、戦う意味を己に問うた。
 そして先立つ彼等への憂い故に私から離れようとした彼――と、夜彦は倫太郎へと視線を向けた。
 けれど倫太郎もまた抱えたものがあるのだ。
(「この人の隣で笑うのは置いて逝く事になる俺じゃないと思った」)
 見送るばかりのこの人に寄り添うのは――見送る哀しみを識ってる、同じ長さの時を生きる人だと想った。
 その哀しみを分かち合えない俺は、と息詰まる想いも抱えたのだ。
(「この人の盾として生きることが叶えばいい。そう言い聞かせてた――時も、あった」)
 けれど、それは互いが一歩踏み出せば、一変するものだったのだ。
 そして一変したからこそ、辿り着いた今がある。
 夜彦も、それを知っているのだ。
 時に幸せに満ち、悲しみにも満ちた。
 その度に気付き、見出したものがあるからこその今――この先が如何なるものであれ高めていけるのだと。
 ふと、互いに笑いあう。言葉かわさずとも通じ合うものがあったのだ。
(「それでも最期は避けられない」)
 その結末さえも、私達は受け入れていると夜彦は微笑む。
 共にある時間は至高で至福で。
 それは、濃厚で芳醇なものなのだ。
 何物にも代えがたく。
 二人はただただ、微笑みあう。
 鳥籠は紡ぐ。
 手を掛けなくてもできあがっているのね、あなたたち。
 それなら何もしないほうがいいでしょう。
 けれど向ける言葉があるならば――美味しく、最期の仕上げを受け入れて、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
 
 デセール。
 ただただ、甘い一皿を。
 濃厚な甘さに打ちひしがれることもあるかもしれないけれど、それはただ泥のように沈んでいく、甘さの末を与えて頂戴。
 ただ甘く、終われるかはわからないけれど。
 
 
リル・ルリ
デセール

瓶詰め人魚は戀をした

常夜の底のグランギニョール
僕は残酷な愛の舞台を見て育った
あれは愛
これは哀
乞い請う―戀とはどんなもの?

突然咲いた

胸がいっぱいに薄紅が咲いて、苦しくて甘くてむずむずして、ずきずきして
どうしていいかわからない
あたたかな春のような戀

触れる指先が嬉しい
かわす笑顔が幸せ
過去も今も未来も全部ほしい
知りたくて
歌いたい
僕だけをみてほしい
嫉妬をする
もっとほしい
死ぬ程甘い薄紅に溺れる

戀は奪うもの
君に僕は奪われた
僕は君をうばいたかった
食べられてもよかった
甘い甘いあいをあげる
どろどろに愛して
戀して
奪う愛がとまらない

でもね
手遅れになる前に
奪う戀は与う愛になり胸の内に咲いて

咲かせ続けるよ
ずっとね



●デセール~一品目
 瓶詰め人魚は戀をした。
 それはどんな戀? 戀の話は大好きよ、ああでも私がお喋りしたら聞けないわ。
 鳥籠はお喋りやめて、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の話に聞き入る。
「僕は残酷な愛の舞台を見て育ったんだ」
 それは常夜の底のグランギニョールのおはなし。
 けれど鳥籠にそのおはなしは話さない。それはだいじなだいじな、ものだから。
 あれは愛。これは哀。
 乞い請う――戀とはどんなもの?
 リルにとってそれは、突然咲いたもの。
 リルの心に、突然現れて綻んだのだ。
「それは、それはどんな戀? お話して頂戴?」
 それは、とリルは紡ぐ。
「胸がいっぱいに薄紅が咲いて、苦しくて甘くてむずむずして、ずきずきして。どうしていいかわからない、あたたかな春のような戀」
 その触れる指先が嬉しい。
 かわす笑顔が幸せ。
 過去も今も未来も――全部欲しい。
「全部欲しい? よくばりさん。でもまだ、貰えてないのね、それはなんて悲しいの、寂しいの」
 あなたはこんなに綺麗でおいしそうなのに――鳥籠が嘆くように歌う。
 けれどリルはその声に流されることはない。
 知りたくて――歌いたい。
「僕だけを見てほしい」
「それは、ああ――それは」
 嫉妬ねと、鳥籠が楽し気に囁いた。
 そう、嫉妬だってリルは知っている。
 嫉妬を、する。
 もっともっと、ほしい。
 もっと触れて、囁いて。歌って、見つめて――死ぬ程甘い薄紅に溺れる。
 溺れていくのだ。
「戀って」
「戀って?」
 奪うものだね、とリルは小さく微笑んだ。
 君に僕は奪われた――そうっと瞼を下す。その裏に描く姿はただひとつだ。
 僕は、奪われているというのに――僕は君を、と。
「僕は君をうばいたかった」
 鳥籠は嫉妬も良いじゃない、奪えばいいじゃない。そういうものもあるわと歌う。
 その言葉に――リルは小さく笑って返した。
 食べられてもよかったとリルは零す。
 食べられても――うばえたならば。
 甘い甘いあいをあげて、どろどろに愛して。
 境界線がなくなるくらいに――戀して。
 奪う愛が、とまらないのだ。
 でも、そうじゃないともうリルは知っていた。
 それは――いろいろなものを、見て知ったからだろうか。
「でもね」
「でもね?」
「手遅れになる前に――内緒!」
 その先は、己の胸の内だけにしまい込む。
 鳥籠は教えて頂戴というけれどこれは誰に話すでもなく。
 リルだけが、向ける気持ちの形なのだから。
 奪う戀は与う愛になり胸の内に咲いている。
 それを――大切にしているのだ。
(「咲かせ続けるよ。ずっとね」)
 この胸の内にあるものを改めてリルは想う。
 鳥籠は紡ぐ。
 甘い――沈んでいく。そのはずのなのに穏やかな。
 奪われたというのに、静かな。けれど深く想っている。
 何を言わなくても、もっと甘さの深みにはまっていくと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・ジャック
・デセール

降り注ぐスパイスは何れも是もが的外れ
此の身を投じて捧げた籠の牢
貴様等の手腕はこの程度かと

鼻かけ嗤うも
鼓膜を震う音の羅列に浮かぶは青筋ひとつ

――何故貴様が其を、知っている

胸に秘めた唯一の名
己と彼女だけが知り得る其を
是幸いにと繰り返す

嗚呼
嗚呼

うるさい煩い五月蠅い!

力任せに檻揺らせど
アリスを捕う牢は頑丈で

愉快や愉快と耳打つ彼女の聲にすら
苛々と、ぐらぐらと


視界が白む
思考が焼き切れ腸が煮える

体内で産まれ征く熱は徐々に喉元迄迫り上がり
――嗚呼、

なつかしい


幾ばかり
遡った彼の日に得た甘さ

彼女の臓腑の味が、した



●デセール~二品目
 あなたの戀を教えて頂戴。
 それはきらきら輝くものかしら。それとも切ないものかしら。
 どんなものでも素敵なものだったのでしょう。
 それを教えて頂戴な――その声をジャック・ジャック(×××・f19642)は、いいや違うと思うだけで何も返さない。
 ずっとずっと、鳥籠はしゃべり続けている。休まる事もなく延々と。
 その声色は淡々と優しい物から少しずつ激しいものへと変わっていった。
 しかし降り注ぐ、そのスパイスは何れも是もが的外れだ。
 此の身を投じて捧げた籠の牢だというのに、貴様等の手腕はこの程度かとひとつ、息を吐く。
「戀は素敵ね、けれど甘さの深みにはまったらもう抜け出せないものよ。あなたもそういうものだったの?」
 ジャックは興味がないというように、視線を外し鼻かけ嗤う。何も響かぬというように。
 いくつもいくつも――鳥籠が言葉を連ねていくのだ。
 いくつもいくつも――鼓膜を震う音の羅列。
 どれもこれも無意味なものばかり。的外れで何も響かぬと、そう思っていたところに突然ひとつ、降ってくる。
 たったひとつ、その言葉。
 そのひとつに、ジャックは反応して青筋一つ。
 様変わりしたその様子に、鳥籠はぴたりとおしゃべりやめた。
「――何故貴様が其を、知っている」
 それは――胸に秘めた唯一の名。
 何物も触れることは能わない、己と彼女だけが知り得る其を何故知っていると。
 すると、是幸いにと繰り返す。
 繰り返して繰り返して、逆撫でていくその声。
 嗚呼――嗚呼。
「うるさい煩い五月蠅い!」
 その檻を力任せに乱暴に蹴りつけて揺らす。けれど檻はそれに動じず、まぁ野蛮と歌うばかりだ。
 愉快や愉快と耳打つ彼女の聲にすら――苛々と、ぐらぐらと。
 ジャックの何かがかき乱されている。
 視界が白む――思考が焼き切れ腸が煮える、そんな感覚だ。
 ふつふつと、どろどろと。
 体内で産まれ征く熱がある。それは徐々に腹からせりあがり喉元迄辿りつくのだ。
「――嗚呼、」
 なつかしい、と零れ落ちる。
 これは知っている。知っているから懐かしいのだ。
 幾ばかり、遡った彼の日に得た甘さが――再びここにある。
 これは何だったか。そうこれは、これは――これは。
(「彼女の臓腑の味が、した」)
 口許を、抑えたのは意識せずか。
 もう言葉は何もでないままだ。
 鳥籠は紡ぐ。
 あなたの心の深く深くにあるものに易く触れてしまってごめんなさいね。
 けれどけれど――あなたも戀の深みにはまっているのね。
 それはとてもとても、素敵なことよ、大丈夫。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

輝夜・星灯
◇デセール

誰かの身代わりになれるなら、と
常なら出来ないことと諦めただろう求みへ足を運んだ
だからこそ
万が一にも騙せれば良しと、それだけだったのに

籠の外からたくさんの聲が降ってくる
皆同じようなことを云う
聲、声、こえが、
『恋』を問う

恋?……私が?
それは終わったものだよ
わたしの恋した世界は死んだ
わたしが壊した
星だった『わたし』が
この手で!

それなのにどうして、
――私が、何に、こいしていると云うの
解らない、分からない、わからない!
何も、聴きたくない、
ぎゅうと小さく己が身を抱く
眸を閉じて耳を塞ぐ

こんな、
こんなにも穢れた想いが
あのひとの焦がれた『こい』だなんて
そんなわけ、ないでしょう

否定の言葉は、咽に閊えた儘



●デセール~三品目
 誰かの身代わりになれるなら、と――輝夜・星灯(ひとなりの錫・f07903)は、ここにいた。
 常なら出来ないことと諦めただろう求みへ足を運んだのだ。
 だからこそ、が一にも騙せれば良しと、それだけだったのに――それだけだった、はずなのに。
 鳥籠の外から、たくさんの聲が星灯へと降り注ぐ。
 その言葉は皆、同じようなことを云っているのだ。
 どれも違う、でもどれも同じ。
 聲、声、こえが、『恋』を問う。
 その『恋』というものは星灯にとってどんなものなのか。
 教えて、教えて――教えて頂戴。あなたのそれを、あなたの『恋』を。
「恋? ……私が?」
 思わず、不思議な顔をしてしまった。
 けれどすぐにそれは掻き消える。
 だってそれは、星灯にとっては終わったものなのだから。
「わたしの恋した世界は死んだ」
 わたしが壊したと、星灯は紡ぐ。
 それはどうして、なぜと鳥籠は問いかける。次々と投げられるそれに星灯は苛立ちを隠すことはなかった。
 なんでそんなことを言われ続けなければいけないと――募ってしまう。
「星だった『わたし』が、この手で!」
 これが望んだ答えと、言い放つばかり。
 己で壊した。そのはずなのに。
 それなのにどうして、と星灯は、表情歪ませる。
「それなのにどうして、――私が、何に、こいしていると云うの」
 そんなもの、わからないのだ。
「解らない、分からない、わからない!」
 その想いが言葉になって零れ落ちてしまう。
「けれど恋はしていたのでしょう? それはどんな? どんなもの?」
 まるでその心をえぐるように、興味本位というように言葉が向け荒れる。
「何も、聴きたくない、」
 そう言って、首を振り瞳を閉じて。ぎゅうと小さく己が身を抱いて。
 耳も塞ぐ――けれど、まだ聞こえる。
 ねぇ教えて。あなたの恋を、お願い教えてと。
(「こんな、こんなにも穢れた想いが」)
 あのひとの焦がれた『こい』だなんて――そんなわけ、ないでしょう。
 星灯は否定する。咽に閊えた儘、否定をする。
 小さく小さく零された言葉を抱えて。
 鳥籠は紡ぐ。
 恋を知っているのね、けれど触れたくないのね。
 それはどこまで、陥ったからかしら。
 もっとおしゃべりをして、そうっとそうっと聞き出さなければ。
 きっと甘い。甘いけれど――舌上に残る、苦さもありそうな。
 そんな予感がするのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 カフェ・ブティフール。
 アミューズから始まって、デセールまで楽しんで。
 これは小休止のひととき。
 一口の菓子には様々な味がのる。それに一杯を添えて。
 
 
ユーチャリス・アルケー
※カフェ・ブティフール

かしゃんと、檻が閉じる

砂漠で動物に齧られたこともあるし、
砂嵐にも陽にも晒され続けて
結局、この身が傷付くことはなかった
そう、無かったの
怖いことなど無かったの
ずっと、ずっと
独りさまよっていても、いつかあなたに逢えたのだから
あなたを看取り送っては、またあなたに出逢う
それが、わたくしの存在意義

だから、だから
閉じ込めないで
要らないなど言わないで
わたくしはいつまでも動けるわ
誰か死んでしまうのならわたくしが行かなくては
だって、だって
オアシスに辿り着けなかったら、せめて安寧に終わらなくては
果てるひとの手を握るの
眩んだ頭を横たえるの

わたくしの意味を、奪わないで
わたくしは、笑っていなくては



●カフェ・ブティフール~一口目
 かしゃんと、檻が閉じる音がした。
 これから――料理されるという。
 ユーチャリス・アルケー(楽園のうつしみ・f16096)は食べられるのかしら、とも思うのだ。
「さぁ、あなたも最後の一品よ。あなたはどんなアリスなの」
 お話聞かせて頂戴なと鳥籠は歌う。どんな時間を過ごしてきたのと。
 ユーチャリスは――思い返す。
「砂漠で動物に齧られたこともあるし、砂嵐にも陽にも晒され続けて」
 ああ、それでもと思う。
 それでも結局――この身が傷付くことはなかった。
 歯車機構は軋むこともなく、宙游ぎ魔導の心で人に沿い続けた人形。
 それがユーチャリスだ。
「傷つかないの? その体はずうっとそのまま?」
「そう、無かったの」
 怖いことなど無かったの。
 ずっとずっと、ずっと、そんなものは知らぬまま。
 独りさまよっていても、いつかあなたに逢えたのだから。
 あなたを看取り送っては、またあなたに出逢う――それが、わたくしの存在意義。
 ユーチャリスは言葉を紡ぐ。鳥籠はいくつもいくつも出会って別れて、また誰かと出会ったのねと歌う。
「ねぇでも、別れるのはさびしくなぁい? ねぇ、でも全部が幸せだった?」
 それは、それはとユーチャリスは口を引き結ぶ。それは僅かに震えていて、けれど――これは。
 別れて。出会う。そのためには――游がなければならないのだ。
 だから、だから――閉じ込めないで。
「要らないなど言わないで」
 そんなこと言わないわ、と鳥籠は言う。あなたはここに居て必要よ安心してと囁く。
 けれどその言葉は今、ユーチャリスに届かぬのだ。
「わたくしはいつまでも動けるわ」
 誰か死んでしまうのならわたくしが行かなくては――ユーチャリスはふるり。
 ゆっくりと首を振る。
「だって、だって。オアシスに辿り着けなかったら、せめて安寧に終わらなくては」
 そうっとその手を持ち上げる。
 この腕で、この手で――果てるひとの手を握るの。眩んだ頭を横たえるの。
「優しいわね、とても優しいわね、あなた」
 でもそれができなければどうするの、と鳥籠は少し意地悪なのだ。
 それができなければ――それは、あなたにとって。
「わたくしの意味を、奪わないで」
 問いかけに、ユーチャリスの声は僅かに震えていた。その両手でそうっと己の頬を包み込みたどる。
 今この顔は――どうあるのか。
「わたくしは、笑っていなくては」
 ええ、では一等素敵な笑みを浮かべて頂戴な。
 鳥籠は紡ぐ。
 長い時の間に様々な事があったのでしょう。
 アリス、大丈夫よ。
 私は鳥籠、その手は握れないけれど――アンメリー・フレンズが握ってくれるわ。
 その手を取って、眩んだ頭を横たえてあげるよう言っておくわ。
 あなたがしてきたこと、してあげるわ。
 きっとそれが素敵な終わり――だと思うのだけれど。
 アンメリー・フレンズがそれをできるか、わからないわ。もしできなかったら、ごめんなさいね。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
カフェ・ブティフール

もとめ続けた戀を結んだ
しりたいと望んだ愛を結わいだ
心も身体も痛くていたくて、痛いのに
駆ける足だけは止まりたくなかったの

ひとつを識るために見落としたもの
なゆから溢れおちてしまったもの
わたしが気づけていないものは、

つめたい夜の世界がみえる
常夜の果てにひとりきり
わたしを囲う真白の匣庭
何時しかひとり、ふたりと集まって
幾つもの世界の広さを
七つの彩のうつくしさを
ひとが懐く心の尊さを
なゆは、あの館で識っていった

嗚呼、そう。そうね
真白の館は何時しか十色に色づいた
駆けてゆくことに夢中だったわたし

わすれて、しまっていたの
あなたたちの優しさとぬくもりを
寄り添う声たちを
その、名前を

なんて愚かなの



●カフェ・ブティフール~二口目
 あなたのことを聞かせて頂戴。
 あなたはどんなアリスなの――鳥籠の歌に蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は微笑んで返した。
「なゆは、もとめ続けた戀を結んだの」
 しりたいと望んだ愛を結わいだ。
 それは、心も身体も痛くていたくて、痛いのに――駆ける足だけは止まりたくなかったの。
 七結は鳥籠の中でふわりと、その裾翻しくるりと回る。
 戀を知った娘の世界はきっと、変わったのだ。
 ひとつを識るために見落としたものがある。
「なゆから溢れおちてしまったもの――わたしが気づけていないものは、」
 それは、なぁにと鳥籠は問いかける。
 七結は何かしらと擽るようにかわしていく。
 つめたい夜の世界がみえる。
 それはどんな、つめたい夜の世界なの。教えて頂戴お嬢さん。
 常夜の果てにひとりきり――それは、わたしを囲う真白の匣庭。
 その、あなたを囲う真白の匣庭は、今はどうなの? あなたは相変わらず、ひとり?
 いいえ、そうではないわと首を振る。
 そこは、もうひとりきりの世界ではなくなっている。
 七結は己の傍にいる者たちの、姿を思い浮かべていた。
 何時しかひとり、ふたりと集まって、そして。こんなにも。
「幾つもの世界の広さを。七つの彩のうつくしさを」
 ひとが懐く心の尊さを――なゆは、あの館で識っていった。
「あなたは素敵な出会いを重ねていったのね。世界が色付くなんて幸せね、素敵ね」
 ねぇ、ねぇどんな色になっているのか教えて頂戴。
 知りたいわ、知りたいわと鳥籠は歌う。
「嗚呼、そう。そうね」
 教えてあげるわ。真白の館は何時しか十色に色づいた。
 駆けてゆくことに夢中だったわたしが、と。
 七結は言葉を切る。その続きは、その先は胸の中にあるものだから。
 言葉にする、間もなく。
(「わすれて、しまっていたの」)
 あなたたちの優しさとぬくもりを。
 寄り添う声たちを――その、名前を。
 それは――なんて、と。
 なんて。
「なんて愚かなの」
 七結の声に満ちる響きは、含まれたその想いは一言で表せるものではなく。
 鳥籠はそのいろを感じ取ってくすくす、小さく笑い零した。
 あなた、色々なものを抱えているわねと。
 鳥籠は紡ぐ。
 戀は素敵ね。それはあなたの糧になるのでしょう。
 駆け続けて、そして――足をふっと止めてしまったなら。
 傍にあったものに気づいてしまったのね。
 それはあなたにとって――いいえいいえ、きっとそれは言葉にしてはだめね。
 今のあなたが素敵で、おいしそうなのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『アンメリー・フレンズ』

POW   :    アフィッシュ・ストラクチャー
対象の攻撃を軽減する【醜くいびつに膨れ上がった異様に巨大な姿】に変身しつつ、【異形化した手足や所持している道具等】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    ポートマント・ビーイング
【周囲の仲間と合体する、又は合体させられる】事で【禍々しく歪んだ恐ろしい姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    スライシー・フルード
自身に【影響を及ぼしたオウガに由来する悪しき力】をまとい、高速移動と【状態異常を引きこす毒液や汚染された血等】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。

イラスト:まつもとけーた

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 鳥籠たちは歌っていた。
 このアリスはこんな子よ。こちらのアリスはもう出来上がっているわ。まだこのアリスは足りないかも。
 歌いながら、じゃあこうやって調理しましょうと決めていく。
 そしてそれを行うのは――アンメリー・フレンズだ。
 鳥籠の中から順番にアリスをだして、こっち、こっちと連れていく。
 鳥籠たちの声を、受け入れたもの、受け入れぬもの。何も響かぬもの、響いてしまったもの。
 それぞれ、その様子は様々だ。
 アンメリー・フレンズ、一体がひとりのアリスを受け持って、こっちと皿ごとに違う場所へ連れていく。
 そこは動く、調理場だ。同じような部屋が八つある。足元を見れば――それは、皿。
 がこん、と音がして足元が動き始める。そこは調理場というけれど調理道具などはなく。
 それに乗れば料理を食する主のもとへと歩まずとも運ばれていく時間。しかしアンメリー・フレンズにとっては調理の時間。
 あまり難しい調理はできないけれど、命じられたままにアリスをさばいて。
 皿の上にのせていく。焼くことできるものもいれば、できないものもいてとその能力は様々だ。
 しかし、主たるオウガに捧げるためにできるかぎりはしなければならない。
 アミューズは、その身を切って、綺麗にお皿に盛り付けましょう。
 よく切れる包丁を持っていきなさい。なければその体をつくり替えることなど容易いでしょう。
 オードブルは、重ねてテリーヌにしてしまうのはいかが?
 様々な味が重なるそれは楽しめると思うのよ。
 スープはすべてまとめてことこと煮込んでしまう? それとも、わけて数種類を並べる?
 諦念の味、けれどそれぞれ趣が違う様。どれもとろとろいに煮崩してあげましょう。
 ポワソンは、その身を切ってムニエル? それともパイ生地で包んでしまう? ソースもたっぷり纏わせましょう。衣をつけて揚げ焼きにするのも新しいかもしれないわ。
 それぞれ違う調理をして、ひとつのお皿にのせましょう。
 ソルベはその器も良く冷やして――決して溶けぬように。そのままでもいいし、トッピングをしてもいい。
 味に合わせて臨機応変にもりつけて。ああ、折角だから氷の器にしましょうか。調理場は冷たく整えて、凍えるほどに。
 アントレは煮込む? それとも焼く? じっくり火を通して最適な調理をしましょう。炎の扱いには気を付けて。
 焦がしたりしてはだめよ。難しいけれど、できるかしらアンメリー・フレンズ。
 デセールは見た目も美しくないといけない。丁寧に美しく盛り付ける。だからその身をあまり傷つけぬようにしてあげて。
 カフェ・ブティフールはひとくちサイズのものが集う。
 だからあの方の一口サイズに切り分けて、ひとつずつ違う誂えにしていきましょう。
 どれも上手に調理して――けれどアリスがあばれるならば、一息に仕留めておしまいなさい。
 ちょっとくらい崩れてしまっても、主は許してくださるでしょうから。
 さぁ美しく、その血をまき散らし皿を彩って。おいしそうに盛り付けましょう。
 動き出す、調理場がゆるゆると終わりへと向かっていく。
 大きな大きな皿の上――そこでアンメリー・フレンズはアリスへ、猟兵へとそれぞれの得物を向ける。
 己の身を変える者もいれば、作業は大変と数体が一緒になって動き出す。
 手荷物は鋭い刃。それはその身を切り裂くため。ごうと火を噴くものはあぶるため。
「ありす、ありす」
 これからおいしくなるしあげをしよう。
 アンメリー・フレンズはそれぞれ思うままの言葉を向ける。
 おいしそうだね、と。
 ちょっとのつまみ食いはしてもいい?
 
アール・ダファディル
【アミューズ】
奇妙な風合の輩に大人しく連れられながら周囲を見渡す
調理場と呼ぶには殺風景な様子に眉寄せ、ふんと鼻を鳴らした

いざ調理、と
包丁らしきを振り上げられたのを見、ようやく口を開く
――前言撤回だ
金の繰糸で刃を弾いては「やれやれ」と肩を竦めた
大人しく食べられてやるかと思っていたが調理法が気に喰わん
丸呑みや煮崩すならまだしも、切り分けるなんて言語道断
≪彼女≫と離れ離れになってしまう
それではなんの意味も無い……と言ってわかる頭はしていないか

無機質な室内を彩るように糸を張り巡らせる
応じて元気よく腕から飛び降りた妹に愉し気に微笑掛けた
Echo、待たせたね
アミューズの名に相応しき『お楽しみ』といこう


真目・紅
注文通りの匙には機嫌良く
花を選ぼうとすれば振り上げられる刃
ああ刻みに来るのは頂けない
切り離されたら私が私とはぐれてしまう

さぁ《在り方》を問おう
君は作るのがお好き?食べるのよりも?
頭の翼を広げ、飛んで避けよう
刃を掻い潜る距離で
君の答えが聞こえる距離で

何を作りたかったんだろう
主君への忠義かしら
君は誰のかたちを貰ったの?
ねぇ、ねぇ、教えてよ
何になりたかったのかい?

君も速くなっていったら
ぱしゃん、と摘まみ食いされてしまう
身を襲う痛みはなく、ぼんやりした寂しさばかり
私を作るものを、私の記憶を
食べられるのはそんなに─面白くないな

そうか
私は君にならないし
私は私として生きたい
食べられるよりは、食べる方が好きだ



●アミューズ~猟兵のバラバラ風、願い下げ味
 奇妙な風合いの輩だな、とアール・ダファディル(ヤドリガミの人形遣い・f00052)は思いつつ。
 こっち、こっちと言って不格好に歩むアンメリー・フレンズに連れられながら周囲を見渡してふんと鼻を鳴らす。
 調理場と呼ぶには殺風景な様子と眉を寄せてだ。
 がたんごとん、調理場のにぎやかさなど無く、誰かがここで調理された痕が残る、物騒な場所。
 そして、≪彼女≫は――とぷん、とぷり。
 大きな匙に乗った、真目・紅(山海経・f26530)の揺れる曹達の尾にご執心の様子でじぃと、ご機嫌に揺れる尾を見つめていた。
 紅は注文通りの大きな匙に身を沈め。曹達の尾だけは入らずゆらゆらと。
 その手には花いっぱいの籠。飾る花をどれにしようかと選んでいたのだ。
「おや、どれがいいと思う? 君も飾るかい?」
 と、紅は自分の尾を見つめるテディベアに籠を見せた。花が気になるという≪彼女≫にアールは仕方ないと傍へ一歩。
 しかし――アンメリー・フレンズたちもまた動き出す。
 がくん、と足元が揺れた。ゆるゆると動き始めた足元は、大きな皿。
 それはどこかへ運ばれていくものだ。
 ずるずる、アンメリー・フレンズが持ってくるのは巨大なナタか。
「ありす、ありすをきざんでならべる」
 それを――振り上げる。ゆっくりと、ゆっくりと持ち上げられていくそれを見てアールはようやく、口を開いた。
「――前言撤回だ」
 ひゅ、と揺らめいたのは金の繰糸。振り下ろされた刃をそれで弾く。
 アンメリー・フレンズは、刃を払ったのが糸だと理解できずに不思議そうな顔だ。
 その様子を目に、やれやれとアールは肩を竦めた。
「大人しく食べられてやるかと思っていたが」
 調理法が気に喰わん、とアールは憮然とした表情だ。
 丸呑みや煮崩すならまだしも、切り分けるなんて言語道断と零す。
 それがなぜ、気に入らないのかと言えば――理由は一つ。
「≪彼女≫と離れ離れになってしまう」
 アールが零すととてとてと、≪彼女≫がやってくる。
 切り刻まれて離れ離れなんて――今よりもっと、悪くなるばかり。望みは一層遠ざかるばかりだ。
 それでは――ダメなのだ。
「それではなんの意味も無い……と言ってわかる頭はしていないか」
 ふ、と息を吐く。その吐露を、紅は僅かにわかる心地だ。
 そして紅の方も、刃が振り下ろされ収まっていた匙がひっくり返された。
 ああ刻みに来るのはいただけない――鈍い刃の色を銀の瞳が捕らえて。
 切り離されたらさぁどうなるのか。
 答えはひとつ、私が私とはぐれてしまうと紅は游ぐ。
 さぁ≪在り方≫を問おうと、紅はアンメリー・フレンズと向き合った。
「君は作るのがお好き? 食べるのよりも?」
「つくる? たべる? どっちも、どっちもすき」
 そう、と紅は呟く。答えが返ると同時にふたつの色もつその髪が翼となって広がった。
 つかまえる、つかまえようとアンメリー・フレンズは集ってぶくぶくと膨らみ、歪んだ姿へとなり果てる。
 けれど、その動きは素早く。そのアンバランスさは不思議なものだ。
 風切って振り下ろされる刃が早い。それを掻い潜り、紅はまた問うのだ・
 何をつくりたかったんだろう――主君への忠義かしら。
「君は誰のかたちを貰ったの?」
 ねぇ、ねぇ、教えてよ――何になりたかったのかい?
 問いかけながら紅は空を跳ぶ。その双翼を羽ばたかせて。
 その視界の端にきらり、金色が踊った。
 無機質なこの場を彩るように張り巡らされた糸。それはアールが興じたものだ。
 ぴょんと、アールの腕から元気よく飛び降りた≪彼女≫――アールの妹。
 くるりとまわってアールを見上げる≪彼女≫へとアールは愉し気に微笑みかけた。
「Echo、待たせたね」
 アミューズの名に相応しき『お楽しみ』といこう――アールの声に≪彼女≫は跳ねてその糸の上を巡るのだ。
 そして紅も、飛翔の速度は変わらず、糸をよけていくのはなかなかに楽しい物。
 だがアンメリー・フレンズは二人を追いかけて、徐々に速度を上げていく。
「ありす、おいしいありす。ちょっとだけ、ちょっとだけかじる」
 手を伸ばす――ぎゅんっと伸びるてくると錯覚するようなその手。
 紅の尻尾を掴む様に伸ばされたそれが、ぱしゃんと音をたてた。
 曹達の尾がわずかに持っていかれ、それをあぁんとアンメリー・フレンズは口に運んでいる。
 身を襲う痛みはなかった。けれどぼんやりした寂しさばかりが募っている。
 それは――己をつくるもの。
 私をつくるものを、私の記憶をとひそやかにその瞳は細められた。
「――面白くないな」
 食べられるのはそんなに――面白くない。
 冷ややかに走る心が紅の中に生まれるのだ。
 そして目が覚めるかのようにそれに気づく。
「そうか。私は君にならないし」
 私は私として生きたい。
 そして何より――明確に、素直に理解した。
「食べられるよりは、食べる方が好きだ」
 バラバラに切り分けられるつもりは、紅もアールもない。
 琥珀の繰糸を纏い、アンメリー・フレンズの速さを超えてアールは動く。指先からきらきらと、繰糸が踊りアンメリー・フレンズの動きを狭めて、縛りあげていく。
 その繰糸を、紅は綺麗と眺めつつアンメリー・フレンズの視線をそちらから逸らせるのだ。
 鬼さん此方と、私の曹達は美味しかったと呼びかければもう一口と手が伸びる。
 けれど、もう捕まるようなことはない。
 くるりくるり、琥珀の繰糸がきりり、と締め上げて動きを止め――ふわりと大きな双翼がアンメリー・フレンズの精気を奪う。
 奪われて、ふにゃりと崩れ落ちていくアンメリー・フレンズ。
 そのアンメリー・フレンズへとアールの指先から続く金糸を経て、≪彼女≫がとどめととびかかったのだった。
 バラバラなどに、されることはなく。アミューズはできあがらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
美味しい僕に成れたら、僕が此処にいる意味の証明になる?
僕が此処にいる事の意義が――、見出せるんだろうか

ねぇ
それなら

とびきり“美味しく”してくれる?
君にはそれが、出来るんでしょう?

好い仔でいてあげる
君がそう望むなら大人しく他の食材と共に頂かれよう

“僕”を覚えていてだなんて、我が儘は言わない

だって折り重なり合いひとつの味を作るのが
僕――ぼくら、“オードブル”の仕事でしょう?

此の先を想い
胸を膨らませる為の、前菜

けれど
ぼくらがいるから主役が引き立つ
主菜の味が一等強く、華やかに、薫り立つんだ

ねぇ
それってきっと
とっても、素敵

ふふ
見つけた
見つけたよ

ぼくの“生きる”意味
ねぇ、屹度それって、間違っていないよね?


榎本・英
愚かだ
人の味は関わる人で決まる
意図的に調理をするものでも、引き出す物でもない

隠し味を問うあの籠は新米かな?
今後の為にもしっかりと躾けた方が良い

幾重にも重なる隠し味は、探す時がいっとう楽しく
見つけた物を舌の上で転がし、飲み込む瞬間こそが至福の時
あくまでもメインを引き立てる主張しない味

食材自らが味を教えるなど
自分で探し給え

嗚呼。笑いが込み上げて来る
愚か者
調理をするのは私の方だ
君たちを立派なテリーヌにしてあげよう
まずはその下品な口から
お喋りは隠し味にすらなれないからね

嗚呼。いけないね摘まみ食いかい
行儀の悪いその手も削ぎ落そう

味見はこの舌で
君の血は……不味い
調理方法を間違えたようだ
そこの君、あげるよ


クロト・ラトキエ
■オードブル


――何よりも君を想う。


己という歪…罪は。
当然の孤独…罰を。
疾うに受け入れていた。
生き残る程に独り往く、明けぬ夜と闇。

ひかりだった。
君のくれる光と熱に、救済われてしまった。

故に『その時』は、
君の希望を、意思を、幸福を――君の世界を、
崩さんとされる時に訪れるのだろう。
怖れは無い。
痛みだって、独りでは識る事など無かったんだ。

いつか誰かが抜いてゆくのか。
最期まで残りゆくのか。
棘、の…

その時は、今じゃない。

鳥籠曰く。
『間違いなく素敵な味』だそうですよ。
…手を加えるなど、無粋だと思いません?

鋼糸翻し機動削がんと放つ弐式。
アシエットを彩りましょう。
アンメリー・フレンズ等の返り血と毒をジュレに代え


ケルスティン・フレデリクション
お皿に連れて来られちゃった。
でも食べられちゃうのは、嫌だなぁ…
…おいしくないよ?
みんなも、おいしくないもん
痛む心ををぎゅっと抑え込んで。でも、自分ではそれが何でかわからないの。さみしい?…寂しいのかなぁ。

敵の攻撃は出来るだけ避けるよう頑張るよ。でも当たったら…【激痛耐性】で我慢…
武器は精霊銃のきらめき。
精霊の力を借りて【全体攻撃】を行うよ。
UCはこうか。勿忘草をひらひらさせて、攻撃するね。

あのね、…お話聞いてくれて、嬉しかったの。
お友達だったら良かったなぁ。



●オードブル~猟兵のテリーヌ、個性豊かな引き立て味
 アンメリー・フレンズたちは相談をしていた。
 オードブルの材料、どうすると。
 それぞれで手を入れて、肉片にして砕いて――潰して。
 そしてぎゅっと詰めていこう。そうしよう、それがいい――アンメリー・フレンズたちはそれぞれのアリスたちのもとへと向かう。

 お皿に連れて来られちゃった、とケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)はくるりと周囲を見回した。
「でも食べられちゃうのは、嫌だなぁ……おいしくないよ?」
「ありす、おいしい」
 ぽたり、よだれを零すアンメリー・フレンズ。慌てて拭うその様に、ケルスティンはふるりと首を振る。
「みんなも、おいしくないもん」
 ずきずき、痛む心がある。ぎゅっとそれを抑え込んで――でも、それがどうしてなのか。そしてなぜなのかはケルスティンはわからないのだ。
「さみしい? ……寂しいのかなぁ」
 ぽつり、零して――アンメリー・フレンズを見上げた。
 アンメリー・フレンズはどうしたの、どうしたのと首を傾げるばかり。
 それは心の底から心配しているというわけではないようだ。
 これから調理するアリスの味が変わってはいけないと、心配しているのだろう。
「ありす、ちょっとだけいたいかも」
 叫んでも、泣いてもいい。逃げてもいい――けれど、料理されてねなんて言われる。
 それをケルスティンは受け入れるわけにはいかないのだ。
 何の力を、纏っているのだろうか。アンメリー・フレンズが纏う邪悪な気配にケルスティンは一歩、引きそうになる。
 けれど、そうはいかないのだ。
 手に馴染む様に出来た小さな精霊銃を持って、ケルスティンはその形を変えていく。
 勿忘草をひらひらさせて――アンメリー・フレンズへ。
 ふわふわ、ひらひら、きらきら。
 花びらが踊る。アンメリー・フレンズを巻き込む様に広がって。
「あのね、……お話聞いてくれて、嬉しかったの」
 お友達だったら良かったなぁとケルスティンは言葉向ける。
 そうすれば、寂しくなかった? こんなことになってなかった?
 その問いかけの答えは、きっとこの先どこにもないのだろう。
 アンメリー・フレンズの向ける得物をケルスティンは打ち砕いて、オードブルになれなくてごめんねと紡ぐ。

 ――何よりも、君を想う。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はひとつ、息をつく。
 己という歪……罪は。
 当然の孤独…罰を。
 それを、クロトは疾うに受け入れていたのだ。
 生き残る程に独り往く、明けぬ夜と闇――その中で見つけてしまったのだ。
 ひかりだったのだ。
 君のくれる光と熱に、救済われてしまったと、瞼の裏に描く姿がある。
 だから、ここではない。
 故に『その時』は、と瞳を開く。その先の光景は――ここではない。
 違う、とクロトは僅かばかり笑い零した。苦笑のような、呆れのようなものだ。
(「故に『その時』は、君の希望を、意思を、幸福を――君の世界を、崩さんとされる時に訪れるのだろう」)
 怖れは無いと、クロトは思う。
(「痛みだって、独りでは識る事など無かったんだ」)
 その時が来たら、と描く。
 棘になれるだろうか。きっと、なるだろうと思う。
 けれどそれを――いつか誰かが抜いてゆくのか。
 それとも最期まで残りゆくのか。
(「棘、の……」)
 クロトの中にあるもの、ある想い。
 けれど――その時は、今じゃない。
 棘となる時は、場所はここではないのだ。
 のそのそと、クロトの前へアンメリー・フレンズがやってくる。
 その手にはごりごり、肉を潰すかのような道具をもって。
「鳥籠曰く。『間違いなく素敵な味』だそうですよ」
 クロトはだから、とその手を動かす。
 鋼糸を躍らせる。そして振るうのだ。
「……手を加えるなど、無粋だと思いません?」
 アシエットを彩りましょうと、クロトは微笑む。
 ぴしゃりと跳ねたのはアンメリー・フレンズの血だ。
 その返り血と毒とをジュレに代えて――皿の上に。

 動き出した、その皿の上で――旭・まどか(MementoMori・f18469)はぼんやり、考えていた。
(「美味しい僕に成れたら、僕が此処にいる意味の証明になる?)
 僕が此処にいる事の意義が――、見出せるんだろうか。
 もし、見いだせるのであれば、と思う。
 ねぇ、それなら――そう思ってつい、とアンメリー・フレンズのその端を引く。
「とびきり“美味しく”してくれる? 君にはそれが、出来るんでしょう?」
 その言葉に刻々と頷くアンメリー・フレンズ。
 おりょうり、まかせてとたどたどしく、笑っているのか――それとも、もっと別の表情か。
 好い仔でいてあげるとまどかは微笑む。
 君がそう望むなら大人しく他の食材と共に頂かれようと、何かがとろりと、溶け落ちたように。
(「“僕”を覚えていてだなんて、我が儘は言わない」)
 そう、だってとまどかは僅かに周囲に視線を巡らせる。
 この場所は、オードブルの皿の上。
「だって折り重なり合いひとつの味を作るのが。僕――ぼくら、“オードブル”の仕事でしょう?」
 問えばアンメリー・フレンズはそうそう、とこくこくと頷いた。
 此の先を想い――胸を膨らませる為の、前菜。
「ぼくらがいるから主役が引き立つ。主菜の味が一等強く、華やかに、薫り立つんだ」
 なくてはならないものだ。
 この皿が欠ければ、物足りなくなるのだろう。
 ねぇ、とまどかはうっそりと微笑む。
 それってきっと、とっても、素敵――ふふ、と笑い零れてしまうのが止められなかった。
 ふふ、ふふと次々に。それは喜び、なのかもしれない。
 見つけた、見つけたよとまどかはその唇を震わせた。
「ぼくの“生きる”意味」
 ねぇ、屹度それって、間違っていないよね?
 アンメリー・フレンズに問いかける――するとわかっているのか、いないのか。
 こくこくとただ頷くばかりだ。
 ありす、こっち。美味しくしてあげようと手を引いて。
「ありす、おいしくおいしく、なろうねぇ」
 そんな楽し気な、アンメリー・フレンズの声を耳に。

 愚かだ、と榎本・英(人である・f22898)はこの皿の上に立って零した。
 英走っている。人の味は、関わる人で決まるということを。
 意図的に調理をするものでも、引き出す物でもない。
 己を先ほどまで入れていたあの鳥籠は――新米かな? と思うのだ。
「今後の為にもしっかりと躾けた方が良い」
 それを誰がするかは――それをするものが、残るかどうかは分からないがと腹の内で思いつつ。
 けれどきっと、あの鳥籠や目の前のアンメリー・フレンズ、そしてその主とやらは、わかっていないのだろうと思う。
「ありす、ありすはこっちでじゅんばんに」
 それをまた、台無しにしそうな準備が整っている。
 それはアリスの、肉をすりつぶすためのものか。そして大きな型がある。
 濃い、香りだ。
 それは血の香りだろうか。強すぎるそれにやれやれというように英は肩を竦める。
「ありす、あれですりつぶし、ちょっとだけかたまりのこして、ぎゅってする」
「幾重にも重なる隠し味は、探す時がいっとう楽しく。見つけた物を舌の上で転がし、飲み込む瞬間こそが至福の時」
 あくまでもメインを引き立てる主張しない味がそれだというのに――これでは強すぎるのではないだろうかと。
「ありす? りょうりわかる? たりないか?」
 英の向けた言葉、表情に何か思ったか。アンメリー・フレンズは首を傾げて問いかける。
 けれど、いいやと首を振り。
「食材自らが味を教えるなど。自分で探し給え――いや」
 嗚呼、違うと英は思う。
 嗚呼、笑いが込み上げてくると。
「愚か者、調理をするのは私の方だ」
 君たちを立派なテリーヌにしてあげようと楽し気に。
「まずはその下品な口から。お喋りは隠し味にすらなれないからね」
 英のその手に糸切り鋏。ありす、何をもっているのとアンメリー・フレンズは首傾げる。
 こうするんだよ、と穏やかに――その瞳を輝かせて。
 ゆるりと動いたかのように見えて鋭く走る鈍い刃先。
 アンメリー・フレンズは不思議そうな顔をして、けれど後から感じたか。痛みに驚きわたわたとしていた。
 その口を裂くように走ったそれにアンメリー・フレンズは傷口を抑え、うずくまる。
「いたい、ありす」
 傷を治さなくてはとうろうろして。そして仲間を呼んでその身を重ねて歪になっていく。
 どこにいるの、と手を伸ばすそれは思いのほか早く。
 けれどそれも、英はその小さな刃で切り裂いてしまうのだ。
「嗚呼。いけないね摘まみ食いかい」
 行儀の悪いその手も削ぎ落そうと、しゃきんと僅かに刃の音。
 その刃にどろりと、アンメリー・フレンズの血が絡む。
 味見はこの舌で、と英はそれを掬い口へ。赤い色さえも鈍い。これは比べるもなく、答えは一つだ。
「君の血は……不味い」
 調理方法を間違えたようだ、と心底残念そうに英は紡ぐ。
 そこの君、あげるよと英は笑う。
 新たに集う、アンメリー・フレンズ。同類を食べるのか、それとも食べぬのか――それもまた、興味深い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸宵戯
スープ

…ロキ

は?
私はロキとの約束は守るわよ!
知ってるわその表情
期待してない信じてないっていう諦めの
そんな私には何も期待してないみたいな顔でよくも言えたものだわ

馬鹿にしないで頂戴
そんな餞別みたいな救いはいらない
何も果たせてないのに与えられるなんて
それなら私は桜になる未来を受け入れる
与えられるだけの救いなど屈辱
信じてくれないならそれでいい
約束は約束
私のやることも変わらない

何よ五月蝿いわね
今それどころじゃないの

約束を守ればいい
それだけ
別にロキが私を信じられないのもわかるもの
でも関係ない
私がそうしたいからそうするの

自分の末路は諦めたとしても
私は慾深いの
私は龍よ
約束は違えない

死ぬまで殺してやるわ


ロキ・バロックヒート
🌸宵戯
スープ

やぁ宵ちゃん奇遇だね
君はなにを諦めてるの
私を殺してくれる約束?なんて
宵ちゃんだけじゃないよ
私は誰でもなんにも期待しない
でも私を殺す約束が果たせなくても
どの道君が櫻にならないように救ってあげるから
それでいいでしょ
ずっとつらくて救われたいんじゃなかったの

あ、外野はちょっと黙っててよ
今大事な話をしているの
これは火よりも熱いもの

…私は望みを云うべきじゃなかった
諦めた覚悟は嫌いだ
苦く思う

でも
そうしたいからそうするのなら
話は別かもしれないね
ねぇかみさまを殺せるならやってみなよ
口端上げて挑発めいた笑い方

自分のことは諦めてるけど
龍が慾に自分に忠実なのは
誰よりも知っている
だから―それなら信じられる



●スープ~諦念と、慾
 くつくつと、大鍋は変わらず湯気をあげてそこにある。
 その淵へと――材料は挙げられていくのだ。その途中でアンメリー・フレンズと戦いになるものもいれば、その途中でなにもなくここまで上がってきたものもいる。
 この鍋の淵にあげられたのはその中で、煮込むため。
 そこで、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)とロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)の視線が咬み合った。
「……ロキ」
「やぁ宵ちゃん奇遇だね」
 ここにいるってことは、とロキは笑う。その金色の瞳を蕩かすように笑みを浮かべて。
「君はなにを諦めてるの。私を殺してくれる約束? なんて」
「は?」
 その言葉に、櫻宵は瞬いた。何を言っているのというように。
「私はロキとの約束は守るわよ!」
 知ってるわその表情と――櫻宵は表情歪ませる。
 知っている。期待してない、信じてない。
 そんな、諦めのみを浮かべた表情。
 けれどロキは、宵ちゃんだけじゃないよと紡ぐのだ。
「私は誰でもなんにも期待しない」
 それは櫻宵だから、ではないのだとロキは言う。ほかの、何もかもすべてに対してなのだと。
 長い長い――時の中で。おいて行かれていくだけの存在の、たどり着いた先なのだろう。
「でも私を殺す約束が果たせなくても、どの道君が櫻にならないように救ってあげるから」
 それでいいでしょ、という響きはどことなく投げやりで、ふつりと櫻宵の中に芽生えるものがあった。
「そんな私には何も期待してないみたいな顔でよくも言えたものだわ」
「ずっとつらくて救われたいんじゃなかったの」
 救われたい――それは、否定しないのだ。
 けれどこれは櫻宵の求めている掬いではない。
 馬鹿にしないで頂戴と、その言葉は生気に満ちている。ただ、それはまっとうなものではなくいら立ちを募らせたが故のものだ。
 けれど、苛立っても、怒ってもおかしくないのだろう。
「そんな餞別みたいな救いはいらない」
 何も果たせてないのに与えられるなんて――それなら、よっぽどマシ。
「それなら私は桜になる未来を受け入れる」
 そっちの方がまだと櫻宵は吐き捨てるように紡いだ。
「信じてくれないならそれでいい。約束は約束――私のやることも変わらない」
 にらみ合っては、いない。
 強い視線を向けているのは櫻宵で、ロキはそれを涼し気に受け流しているからだ。
 そこへアンメリー・フレンズがありすを鍋に落として煮込むとやってくる。
「ありす、はやく、なべの」
「あ、外野はちょっと黙っててよ。今大事な話をしているの」
 これは火よりも熱いもの――ここで邪魔されるわけにはいかないのだ。
 それは櫻宵も同じ。
「何よ五月蝿いわね。今それどころじゃないの」
 乱暴に払いのける。
 アンメリー・フレンズがバランスを失って大鍋の中へとどぼんと落ちた。
 ああ、いいね。私もそうしようとロキも近くのアンメリー・フレンズを鍋の中へ。
(「約束を守ればいい、それだけ」)
 そう思いながら、けれど言いたいことはあるのだ。
「別にロキが私を信じられないのもわかるもの」
 でも関係ないと櫻宵は言う。
 私がそうしたいからそうするの、と。
 そんな様子に胸の内で嘆息する。
(「……私は望みを云うべきじゃなかった」)
 諦めた覚悟は嫌いだ。苦い思いが――込み上げるのみだ。
 それは一層深く、なっていくのだ。
 でも、と。
 ロキの胸にはそれだけではなかったのだ。ふと笑いがわずかに、零れ落ちる。
「でも、そうしたいからそうするのなら話は別かもしれないね」
 ゆっくりと、口端が上がっていく。
 向けた笑みは挑発するようなものだ。
「ねぇかみさまを殺せるならやってみなよ」
 自分のことは――諦めている。どうにもならないとどん詰まりだ。
 櫻宵は笑う。それは今まで浮かべた笑みとは、違うものだ。
「自分の末路は諦めたとしても、私は慾深いの」
 私は龍よ、と言い放つ。
 約束は違えないと強く、静かであるのに凄絶な響きを持って。
 嗚呼、とロキは零す。
 そう、龍が慾に自分に忠実なのは誰よりも知っている。
「だから――それなら信じられる」
 それだけは信じていいもの。裏切らないのだから。
 死ぬまで殺してやるわと、櫻宵は突きつける。
 その喉元に、見えぬ刃を突き刺すように。
 一歩、二歩と互いに距離を縮める。先に踏み出したのはいったいどちらか。
 アンメリー・フレンズも。彼らの主も――どうでもいい。
 目の前にいる相手のみ見て、どうすべきが正しいか。
 アンメリー・フレンズたちのように言うならば――これは、味見の一時。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
おいしそうってのは、俺的に最ッ上級の誉め言葉なんだよな
気分屋な女王様よりはあんた達の方がよっぽど
――『愛して』くれそう

なあなあでもさ、折角ならさ
ひとつの『食材』をひとつの方法でしか味わわないのは勿体ねえだろ?
今、このまま、齧ってみねえ?
なんていうんだっけ――踊り食い?かな?
なァに、ちょっとくらいつまみ食いしたって
とろとろに煮込んじまえばばれやしねえさ

奴らには当然隠しておくが
俺の身体は予め【ユーフォリアの毒】で変化させてある
夢中になるくらい美味しいけど、食べたら最後
この世とは永遠におさらばだ

「さぁ、美味しィく召し上がれ?」


黒鵺・瑞樹
アドリブOK
スープ

さてと。優しい言葉は嬉しいよ。でもただ優しいだけの言葉は嫌いなんだ。
だってそれはただの、語りかける人間の自己満足じゃないか。優しく都合のいいように操り縛る拘束具のようなものだと思う。
でも感謝はしないとな。心の奥底に沈めておこうと思ってたけど、話す事で明確になった。
諦める事も諦めきれなくて、諦められない事も諦めて、ずっといろんな矛盾を抱えて。でもそれが俺自身だ。

存在感を消し目立たないようにしマヒ攻撃を乗せたUCで攻撃。代償は寿命。
敵の攻撃は第六感で感知し見切りで回避。回避しきれないものは黒鵺で受け流しカウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは毒・激痛耐性、オーラ防御で耐える。


ナシラ・アスワド
リズ、行くよ
ぐしぐし涙拭ってね

諦めか
ボクはヒトのお手本になれなかった
ヒトの子を星海の仔に換えてしまった
リジーは可能性を叶えていくのに、なのに…

ボクに力が無いと思い知っている
だけど認めたくない
そういうものだと思ってしまっている
これは、諦めなのか

わぁ無茶をするんじゃないですよぉリズベット
ボクはお荷物なんだから構わずお行き
頼もしい彼女に抱えられ振り回されながら、
腹立つ調理器具をハッキング
竜巻ぶつけて、えい!えい!
あっちいけよぉ!
うぇぇ料理人がしちゃいけない攻撃じゃない?!
ばっちいから触っちゃメッですよぉ
…おっと、昔の癖が

大丈夫
…ボクは大丈夫じゃないけどぉ
ボクらなら、大丈夫
一緒にうちに帰ろ、エリザベス


エリザベス・ルーネート
母さまは、無理をしないと良いのだけれど…

お邪魔にならないときは抱きかかえて、護りましょう
こんな機会、あんまり無いんです
ヒーローらしいところ、見て欲しいの
いいえ、私も一人で警戒するより戦い易いわ?
そのままぎゅーっとしていてね

折角ですもの、【内蔵兵器】のひとつを奮いましょ
命中精度を上げたスナイプ
足留め、迎撃、無効化、ね

いびつに膨れ上がった、アンバランスな姿
…姿が変わるのって、他のひとはどんな気持ちなのかしら
私はきれいな鰭を貰ったから気に入っているけれど…
ううん、母さまがくれたなら、黒く爛れた触手でも気に入ったわ

貰ったのは、躯じゃないの
私は母さまに未来を貰ったの
だから、何にも諦めることが出来ないわ


イフ・プリューシュ
イフは変わらずスープのお皿
こんにちはアンメリー
あなたもつぎはぎ、イフとおそろいね

煮溶けてしまうのもいいかもしれないけれど
すこし齧ってもかまわないけれど
でも、ここでお料理にされてしまう訳にはいかないわ

かけらになっても、帰りたい場所があるの
イフの味はあきらめの味
けれどイフは、だれかを愛することまで
諦めたわけじゃないのだから

忘れて欲しいと願うなら、よくないことよね
でも、たとえわがままでも
その願いだけは捨てられなかったの

だからカトレア、力を貸してね
UCでアンメリーを捕らえて
カトレアを操って攻撃を
彼女や他のひとを狙った攻撃は、イフがかばうわ

いのちを掛けたあなたのお料理
完成させてあげられなくてごめんなさい



●スープ~諦念の奥底の味
 こっち、と導かれる。
 鳥籠から出て向かう先に――鍋が見えた。
「ありす、こっちで、ことこと」
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は先を行くアンメリー・フレンズへと、視線向けていた。
「さてと。優しい言葉は嬉しいよ。でもただ優しいだけの言葉は嫌いなんだ」
 だってそれはただの、語りかける人間の自己満足じゃないか。
 それは――優しく都合のいいように操り縛る拘束具のような。
 そんなものだと、瑞樹は思うのだ。
 ほてほてと前をゆくものは、何も考えてはいなさそうだけれども。
 でも、と思う。
「でも感謝はしないとな。心の奥底に沈めておこうと思ってたけど、話す事で明確になった」
 言葉にすることで知ることもある。
 それは奥底に潜んでいたものなのだろう。
(「諦める事も諦めきれなくて、諦められない事も諦めて、ずっといろんな矛盾を抱えて。でもそれが俺自身だ」)
 それを知っただけでも、違うのだ。
 瑞樹は存在感を消し――目立たぬように。
 その瞳を輝かせ、アンメリー・フレンズへと距離詰める。己の寿命を代償として、向けた刃をひらめかせる。
 刃が黒い大振りなナイフ、それは瑞樹の本体だ。
 アンメリー・フレンズは突然向けられた刃に驚いて、近くにいる仲間たちへと声かける。
 集うアンメリー・フレンズたちは――その身を合わせ歪に、そして膨らんで肥大化していく。
 そんな彼らの前から姿を消し、そしてまた攻撃を叩きこむ。
 だが、その瞬間に手を伸ばし捕まえられた。
 握りつぶす、その力の圧を耐えながら瑞樹は攻撃を仕掛けていく。

 もうその鍋の一角では戦いが始まっている。
 それを目に、ナシラ・アスワド(不器用・f19129)はくしゃり、歪んだその表情の中でぐしぐし涙拭って。
「リズ、行くよ」
 そう紡ぐナシラを見つめ、エリザベス・ルーネート(星海の愛し仔・f19130)は思うのだ。
(「母さまは、無理をしないと良いのだけれど……」)
 そうっと、その横顔を伺う。
 諦めか、とナシラは思う。
(「ボクはヒトのお手本になれなかった」)
 ヒトの子を星海の仔に換えてしまった――と、ナシラはまた考え込んでしまう。
(「リジーは可能性を叶えていくのに、なのに……」)
 ふつふつと、ナシラの心にうずくまるものがある。
 ボクに力が無いと思い知っている――だけど認めたくない。
 そういうものだと思ってしまっている――これは、諦めなのか。
 その答えはきっと、誰に問うてもでるものではないのだろう。
 そんな、考えこんでしまったナシラをエリザベスは抱きかかえた。それが、ナシラの意識をエリザベスの傍に引き戻す。
「わぁ無茶をするんじゃないですよぉリズベット」
 けれど、エリザベスはいいえと首を振って笑うのだ。
「こんな機会、あんまり無いんです」
 ヒーローらしいところ、見て欲しいの――それは小さな、願い。
 ボクはお荷物なんだから構わずお行き、とナシラはぺしぺしと軽くたたく。
「いいえ、私も一人で警戒するより戦い易いわ?」
 そのままぎゅーっとしていてね、と言うものだからその言葉通りにナシラはしがみつく。
 そしてエリザベスは折角ですもの、と己の身の内にある兵器を奮う。
 命中精度を上げて――ねらい打つのだ。
 攻撃されている。材料に攻撃されている――アンメリー・フレンズはその身を歪に膨らませ、体の形を変えてくる。
 その手に大きな大きな、包丁を生み出して。
「……姿が変わるのって、他のひとはどんな気持ちなのかしら」
 その変わっていく様を目に、エリザベスは零す。
「私はきれいな鰭を貰ったから気に入っているけれど……」
 ぴちり、と床を叩く鰭。けれど、ううんとエリザベスはすぐに首を振る。
 今、己が得たのは鰭だったけれども――母さまがくれたなら、黒く爛れた触手でも気に入ったわと。
 そこへ、振り下ろされる――刃。
 二人一緒、離れることもない。けれどその調理器具、そのままにしておくわけにはいけない。
 ナシラは竜巻を生み出して――ぶつける。
「えい! えい! あっちいけよぉ!」
 そんな声を無視するかのように振り下ろされる大きな包丁。それはとても、乱暴な扱いだった。
「うぇぇ料理人がしちゃいけない攻撃じゃない?!」
 ばっちいから触っちゃメッですよぉと声上げて。はっとその口許をナシラは抑える。
「……おっと、昔の癖が」
 それはちょっとだけ、気まずいようなそうでないような、
不思議な感覚。
 そしてエリザベルはぶくぶくと、さらに歪んでいくアンメリー・フレンズたちの姿になんともいえぬ気持ちを抱いてしまう。
 彼らは、自分とは違うのだと。
(「貰ったのは、躯じゃないの」)
 私は母さまに未来を貰ったの――でもあなたたちは、違うのねと。
 未来を貰った――だから、何にも諦めることが出来ないわと、ナシラを抱く力がわずかに強まった。
「大丈夫……ボクは大丈夫じゃないけどぉ」
 ボクらなら、大丈夫とナシラは紡ぐ。
 一緒にうちに帰ろ、エリザベスと――小さく囁いた言葉にエリザベスは大きく頷いて、アンメリー・フレンズの手を払った。

「こんにちはアンメリー」
 次はどこにいけばいいのと問えば、あそこと示されたのは大鍋だ。
 イフ・プリューシュ(Myosotis Serenade・f25344)は、あそこねとアンメリー・フレンズと歩調を合わせる。
「あなたもつぎはぎ、イフとおそろいね」
「おそろい、おそろいの、ありす」
 ありすはあそこでとろとろに煮て蕩かすとアンメリー・フレンズは言う。
「煮溶けてしまうのもいいかもしれないけれど」
 けれど、それはダメなのだとイフは知っている。
「だめ? だめ?」
 だめ、とイフはアンメリー・フレンズへと頷く。
「すこし齧ってもかまわないけれど。でも、ここでお料理にされてしまう訳にはいかないわ」
 だって、とイフは小さく零す。瞬いて、その先を――思い描いて。
「かけらになっても、帰りたい場所があるの」
 イフの味はあきらめの味。
 けれどイフは、とアンメリー・フレンズへと笑いかける。
「イフは、だれかを愛することまで諦めたわけじゃないの」
 忘れて欲しいと願うなら、よくないことよね――問うても、アンメリー・フレンズは首を傾げるばかり。
 わからないのねとイフは小さく落として。
「でも、たとえわがままでもその願いだけは捨てられなかったの」
 だから、とイフはぎゅうと抱きしめる。
 はじめて目覚めたときから一緒のおともだち、カトレアを。
「カトレア、力を貸してね」
 ここはイフの箱庭――金色の光がアンメリー・フレンズを照らし、うごめく四季の花々が伸びていく。
 アンメリー・フレンズは鍋にいれちゃだめと慌てているよう。
 そこへ、イフはカトレアを操って攻撃仕掛ける。
「いのちを掛けたあなたのお料理。完成させてあげられなくてごめんなさい」
 でもそれは完成させちゃ、いけないものじゃない? と思いながら。

 すごい鍋とジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は笑う。
「ありす、おいしそうな、ありす。ここでにこんであっちいく」
 ジャスパーの前にいるアンメリー・フレンズは、大鍋を見てそしてずぅっとその先を指さした。
 そこに、皿があるのだと。
 へぇ、とジャスパーはそちらを見て、ほとりと零す。
「おいしそうってのは、俺的に最ッ上級の誉め言葉なんだよな」
 そう言って――アンメリー・フレンズへと視線向ける。どうした、どうしたとアンメリー・フレンズは首を傾げていた。
「気分屋な女王様よりはあんた達の方がよっぽど――『愛して』くれそう」
 愛して? とまた首を傾げる。
 その意味がわからないのだ。アンメリー・フレンズがわかるのは――おいしいか、おいしくないか。
 どう料理したらいいのかということくらい。
 おいしいアリスは、鍋に入れて――煮込んでと。そんな言葉をアンメリー・フレンズは繰り返す。
「なあなあでもさ、折角ならさ」
 そんなアンメリー・フレンズへと、ジャスパーは誘いを、かけるのだ。
「ひとつの『食材』をひとつの方法でしか味わわないのは勿体ねえだろ?」
 すっと、その腕を差し出す。
 目の前の、腕。ふんふんとアンメリー・フレンズが鼻を鳴らす。
「今、このまま、齧ってみねえ?」
「かじ、る?」
「なんていうんだっけ――踊り食い? かな?」
 その腕と、ジャスパーを交互にアンメリー・フレンズは見遣る。その口に己の指をくわえて涎をだらだら、たらしながら。
「なァに、ちょっとくらいつまみ食いしたって。とろとろに煮込んじまえばばれやしねえさ」
 ひどく、優しい誘惑。その表情も柔らかなのだ。
 あうあう、と困ったような声を零しながらアンメリー・フレンズはそろりと、ジャスパーの手に触れた。
 その様を、ジャスパーはただ見つめている。
 当然、隠しておくことだが――ジャスパーの体は、すでに猛毒。多幸感を齎す猛毒の塊となっているのだ。
「さぁ、美味しィく召し上がれ?」
 あぁん、と大きく開いた口――ばくりとアンメリー・フレンズは齧る。
 ぶちり、ぶちり。最初は僅かであったのにもっともっとと、その肉を食む量が増えていく。
「おいしい! おいしいぃ!」
 けれど――その声を最後に。
 夢中になるほど、美味しいけど、一口食めば最後。
 この世とは永遠におさらばだ。
 アンメリー・フレンズはそのままそこに崩れ落ち――鍋の中へとどぼん。
 ついでに俺の血もちょっとスパイスであげる、と零れるそれをジャスパーは鍋へと、注いだ。
 これでこのスープは――諦念に毒の味。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

泡沫・うらら
ふふ、いけない子
つまみ食いをご所望やなんて

きっと其がバレてしもたら
コワイコワイ女王様が、あんたらの首を撥ねに来るえ?

こわい
恐いねぇ…
嗚呼、強い、こはい

ふふ

食べ残しは嫌やの?
ええ、そう
いつだって一口目が一番美味やから

たまにはて思う気持ちも、ええ、ええ、わかりますよ


こっちへいらっしゃい
そう、もっと、もっと近くへ

彼の人の眼差しから隠れて、ひっそりと
イケナイ内緒事を、犯しましょう?

ヒトとサカナの合わい

絶えず絹衣に秘された此のあわいなら
皿に乗ろうと彼女の目にも触れんから
ええそう、一口だけよ

あなたのとっておきを、うちに


――ふふ
嗚呼なんて、可哀想な子

“人魚”は惑わせ、唆すいきものよ

おひとつ賢くならはった?


オクタヴィアン・ヴィヴィ
【ポワソン】

ちりり
燻る焔は未だ腑をめぐるけれど
震えるbébéの背を撫で上げて

それで、
このワタクシに
釣り合う料理法<ドレス>は決まったのかい?

傷つけられれば
どろり、ぽたぽた
黒いソーダ水溢れ

オマエ、食事のマナーも知らないノ?
教えてやろうと手招く『誘惑』
ワタクシは美味しいワ
オマエの舌がとろけてなくなるくらい

ワタクシはやわらかくて上質で
血の滴るようなレアがいいノ
けれどオマエはよおく焼いた方が良さそうだ

『全力魔法』、黒く踊る焔はめくらまし
愛しいbébéに騎乗して
追いかける敵を誘導できたなら

『モスケンの大禍』
その味もわからぬほど一口で
呑み込んでしまおう

美しく、美しく!
ワタクシを仕上げて御覧?


浮白・銀翠
ああ。嬉しかったのに。漸くと、願いが叶うと思ったのに。
得物を持つ方を目にして落胆を隠せません。

食(あい)していただくのはわたくしの本懐。
それを否定はいたしません。
背骨から這い上がる悦は欲を肯定いたしましょう。

でもね。違うの。
この肢体に刃を突き立てるのは、
わたくしが愛した方でないと嫌。
この肉を食むのは、わたくしが選ぶと、
ひとりきりになったときに決めたの。

「お前じゃない」

百年の恋すら醒めてしまう。
ああ。憎らしい。
糸を繰り寄せて人形を呼び出しいっそ嘆いてしまいそう。

浪漫のひとつ紡げずこの肉を捌こうと?
口説き落とすなら最後まで丁寧になさいな。
十把一絡げで振り上げた刃に差し上げる肉などなくてよ?



●ポワソン~高貴なお魚、お高い一口風
 大きな皿が――ひとつ。
 それぞれ違う料理にしたてあげ、ひとつの皿に混ざらぬように綺麗においしく、並べていこうとアンメリー・フレンズは決めていた。

「ありす、こっち。おいしそうな、ありす」
 じゅるり、と涎をふく。だらだら零れるのを、何度も何度も。
 その様子に泡沫・うらら(夢幻トロイカ・f11361)は穏やかに吐息を零すかのように微笑んだ。
「ふふ、いけない子。つまみ食いをご所望やなんて」
 ゆうるり、うららはアンメリー・フレンズの周囲を泳ぐ。
 それはまるで誘惑するように。
「きっと其がバレてしもたら、コワイコワイ女王様が、あんたらの首を撥ねに来るえ?」
 そっと、囁けば――カタカタガタガタとアンメリー・フレンズは震えて、しない、しないと呟くのだ。
「こわい。恐いねぇ……嗚呼、強い、こはい」
 囁く。
 それは――うらら自身も怖がっている、ようでそうではなく。ただアンメリー・フレンズをあおっているだけなのだ。
 ふふ、とうららは笑い零す。
 さてはて、どちらが――調理する方なのか。
「食べ残しは嫌やの?」
 いやいやと首を振る。それはいつも、アンメリー・フレンズが与えられているものだ。
「ええ、そう。いつだって一口目が一番美味やから」
 たまにはて思う気持ちも、ええ、ええ、わかりますよ――うららの言葉はアンメリー・フレンズへと魔法のように染みていくのだ。
 その唇は、やわらかく弧を描いて――笑みをかたどる。
「こっちへいらっしゃい」
 手招けば、アンメリー・フレンズは控えめに一歩、二歩と近づいてくる。
 そう、もっと、もっと近くへ――手招きにふらりふらり。
 彼の人の眼差しから隠れて、ひっそりと。
「イケナイ内緒事を、犯しましょう?」
 優しく、紡ぐ。うららに誘われるままにアンメリー・フレンズは近づいて。
 ヒトとサカナの合わい――うららは、微笑むのだ。
 絶えず絹衣に秘された此のあわいなら皿に乗ろうと彼女の目にも触れんから――けれど、ええそう。
 ええそう、一口だけよ、と柔しく柔らかに。
「あなたのとっておきを、うちに」
 うららの囁きにひとくちだけ、ひとくちだけとアンメリー・フレンズは何度もつぶやくのだ。
 そうして、本当にひと口だけ。一口食べて――アンメリー・フレンズは時を止めるのだ。
「――ふふ」
 嗚呼なんて、可哀想な子と、己の下で蹲り動かなくなるそれをただ見つめて。
 笑い零すが表情は。
「“人魚”は惑わせ、唆すいきものよ」
 おひとつ賢くならはった?
 そう問いかけて、嗚呼と落とす。もうなぁんも、聞こえんかったねぇと。
 お魚のムニエルの代わりに――アンメリー・フレンズが皿に乗る。

 暴れるのだからパイで包んで焼いてしまう――閉じ込めて、おとなしくさせるのだ。
 ちりり、ちりり。
 燻る焔は未だ腑をめぐる。けれどオクタヴィアン・ヴィヴィ(ラ・メール・f26362)はそれを抑え込み、震えるbébéの背を撫で上げ、アンメリー・フレンズへと視線を向ける。
「それで、このワタクシに」
 釣り合う料理法<ドレス>は決まったのかい?
 問いかけに、パイでつつむ、つつんでやく、とアンメリー・フレンズは答えた。
「パイつつむ。まず、切る」
 その身の一部をナイフに変えて振り下ろす。
 鈍い銀色のひらめきがオクタヴィアンの身を切り裂いた。そこから――どろり、ぽたぽた。
 黒いソーダ水が溢れていく。
「オマエ、食事のマナーも知らないノ?」
 知らないのナラ、教えてやろうと手招く。
 それは『誘惑』だ。海の底へと誘うようなもの。
 ワタクシは美味しいワと笑って、招く。
 オマエの舌がとろけてなくなるくらい――その意味を、果たしてアンメリー・フレンズは理解しているのか。
「ワタクシはやわらかくて上質で、血の滴るようなレアがいいノ」
 食べるのなら、それが一番おいしくて。焼き加減はなかなか、難しい。
 火の通りは、とても大事。けれどオマエはよおく焼いた方が良さそうだと――黒く踊る焔がアンメリー・フレンズを包み込んだ。
 けれどそれはめくらまし。
 愛しいbébéと呼んでその背に乗って。さぁ、こっちこっちと逃げてみせる。
 そしてオクタヴィアンの指先が生み出すのは何か。
 それは昏海の大渦潮。濁流のかいながアンメリー・フレンズを抱きしめる。
 その味もわからぬほど一口で、アンメリー・フレンズを飲み込んでしまうのだ。
「美しく、美しく! ワタクシを仕上げて御覧?」
 つぎの料理人はダレかしら! 言うけれど誰もやってはきはしない。
 ざぁんねん、なんていうオクタヴィアンの足元には、大渦潮で散らばったべとべとのパイ生地が散らばるのみ。

 ぺたぺたと可愛らしい足音。
 その反面――巨大で凶悪な、包丁と思われるものを持ったアンメリー・フレンズが浮白・銀翠(泡沫真珠・f02692)の前にもやってくる。
 その、鈍い色を目にして銀翠は落胆を隠せなかった。
「ああ。嬉しかったのに。漸くと、願いが叶うと思ったのに」
 そうでは、ない。その得物をもったものは――やはり、違うのだ。
 食(あい)していただくのはわたくしの本懐――それを、銀翠は否定はしない。
 食(あい)される――と、そう思うだけで。背骨から這い上がる悦が生まれる。
 まぎれもなく、これが欲なのだという肯定だ。
 けれど、と。銀翠はゆるりと首を振る。そうではないのだと。
「でもね。違うの」
 この肢体に刃を突き立てるのは、とするりと銀翠の指は己の身を撫でていく。
「わたくしが愛した方でないと嫌」
 この肉を食むのは、わたくしが選ぶと、ひとりきりになったときに決めたのと――落胆をして、己の在り方を、望みを願いを、確認して。
「お前じゃない」
 百年の恋すら醒めてしまう――銀翠の声は冷えていた。
「ああ。憎らしい」
 その次の声は、熱を怯えていた。けれどそれは浮かれたものではない。
 その指先がぎこちなく動く。そこに糸は結ばれてはおらず、糸を繰り寄せて人形を呼び出しいっそ嘆いてしまいとうと思ったのに。
 けれど、銀翠の気持ちなどお構いなしにアンメリー・フレンズはその刃を振り下ろそうとするのだ。
 それを、すいと銀翠は避けて。
「浪漫のひとつ紡げずこの肉を捌こうと?」
 口説き落とすなら最後まで丁寧になさいなと僅かに苛立ちさえ含んで投げかける。
 それができるかどうか、わからないけれど。
「十把一絡げで振り上げた刃に差し上げる肉などなくてよ?」
 決して安い肉などではない。
 捧げる相手は選ばねばならぬ肉なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛鳥井・藤彦
【ソルベ】
凍てつく空気で手が悴む思うたら大間違いやで。
心頭滅却すれば火もまた涼し言いますやろ?
この程度の寒さで筆が持てへんなんておもろくない冗談や。

此度描きますは蘭花(デンファレ)。
氷の器に盛られたソルベに飾ればええ感じになる花ですわ。
せやけど普通の食用花とは違います。
馨しく匂いたち、忙しくなく動き回る料理人擬きの足を止める魔性の花。
食めば食むほど、愛でれば愛でるほど、その香りは脳髄を魂を溶かす。
「えろうすんまへんなぁ、僕の方が料理上手やったみたいで」
にっこり笑って動きの鈍った相手を大筆で滅多打ち。
砕いて混ぜて凍らせて。
綺麗に盛り付け、赤いソースをかけて花を飾って。
極彩色のソルベの出来上がり。


夕時雨・沙羅羅
冬の池は薄氷が張る
いつもの水面、いつもの寒さ
氷菓は冬の塊のよう
巡る四季を持ち出して
きれいで、かわいい
ソルベは好き
だけど、これは好きになれそうにない

それにしても、思わぬ収穫があったな
この宝石が、花が、どこから来たかは今は見ぬふりをしよう
はらに入ればいつかはアリスに届くから
きっと、必ず
その為にも、アリスの魂を慰められるように
きらり、きらり、透ける身体に煌めきが咲く

僕が求めるのはアリスだけ
だから、僕を食べて良いのも愛しいアリスだけ
摘み食いする卑しい手には雫が跳ねるぞ
冷えた雨は痛いだろ
僕にはアリスだけ
アリスだけなんだ
……触れた記憶も無いけれど
笑顔の記憶も無いけれど
る、ら、ら、
ひとつなぞって、うたうだけ


尭海・有珠
凍る世界でバラバラにされるのは私では無くお前達さ
切って潰して混ぜて冷やすのも良いだろうが
下手に手をかけゲテモノを料理する気はない
美味しく食べられもしないのだから、手早く始末しようじゃないか

敵の手足や道具は剣と杖で弾き、逸らす
密度を高め、鋭さを増し威力を高めた氷の≪憂戚の楔≫で貫き動きを止め
撒き散らした血もワタも何もかもが凍りつくように冷気と殺意を振り撒き
そうさ、序でに調理される恐怖もお前達も味わってみてはどうだ?

お前達は復讐の相手じゃない
だが私は黙って死や痛みを受け入れる人間でもない

…仕方ないことなのだろう?殺意に殺意と敵意で返すことは

悪いな、盛り付けは得意じゃないんだとトドメの一撃を降らせる



●ソルベ~何より凍える三種盛
  その場所は――今までと世界が違うかのように。
 肌を刺すような冷たい気配。必要以上に冷やされているのは、それが必要あるからだ。
 ガタガタと動いていく足元。少し背の高い透明なグラスが見える。
 それは人が余裕で収まるサイズの、美しい氷の器だ。それが冷えて白んでいるのがわかる。
 冬の池は、薄氷が張る。
 いつもの水面、いつもの寒さ――氷菓は冬の塊のよう。
 夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)は巡る四季を持ち出して。
 きれいで、かわいい――ソルベは好き。
「だけど、」
 これは好きになれそうにないと思う。
 アンメリー・フレンズはその身をふかふかの毛で覆って寒さをしのぐ。
 その手に抱えた籠の中には様々なものが――あったのだ。
 けれどそれは沙羅羅が選び終えた残り物。
「それにしても、思わぬ収穫があったな」
 この宝石が、花が、どこから来たかは今は見ぬふりをしようと沙羅羅は瞳伏せる。
 いくつか、惹かれたものをいただいて。このはらの中へと招いたのだ。
(「はらに入ればいつかはアリスに届くから――きっと、必ず」)
 その為にも、アリスの魂を慰められるようにと沙羅羅は思う。
 そう、思うたびにきらり、きらり。透ける身体に煌めきが咲いて、そして散ってまた咲くのだ。
 寒い、けれどもと飛鳥井・藤彦(春を描く・f14531)は小さく笑った。
「凍てつく空気で手が悴む思うたら大間違いやで」
 ひんやりと、刺すような痛みがあるのは確かだ。けれど藤彦はそれを気にもかけない。
 アンメリー・フレンズはもふもふとした姿を得てこの寒さに耐性を得ているようだ。
「アリス、凍える? カチコチ、かたいのは、ダメ」
「心頭滅却すれば火もまた涼し言いますやろ?」
 この程度の寒さで筆が持てへんなんておもろくない冗談やと、絵師の矜持が藤彦の芯でもあるのだ。
「まぁ大人しゅうソルベになる気はないんや」
 言って――身の丈ほどある青い大筆を振るう。ふ、と口端に笑み浮かべてだ。
「此度描きますは――蘭花」
 氷の器に盛られたソルベに飾ればええ感じになる花ですわと、空にその花を描いていく。けれど――それはただ描かれるだけのものではない。
「せやけど普通の食用花とは違います」
 馨しく匂いたち、忙しくなく動き回る料理人擬きの足を止める魔性の花。
 ふわりと馨る――それを深く吸い込んだアンメリー・フレンズはふらふら、おぼつかぬ足取りだ。
 食めば食むほど、愛でれば愛でるほど、その香りは脳髄を、魂を溶かす。
 そういうものを、藤彦は描いたのだ。
 ずず、と一体のアンメリー・フレンズが動く。けれどその動きは、周囲に広がる香りのせいだろうか、鈍く重い。
 そして夢見るような心地の表情を、している。
 沙羅羅の前に現れたそれがさぁ、とぶんぶんと振り回しているのは泡だて器だ。
「ぐちゃって、つぶして、まぜて、ひやす」
 おいしくつくる、ソルベとたどたどしく紡ぐ。
 ソルベを食べる――けれどそれは、オウガであって決して沙羅羅の求めるアリスではない。
「あじみはすこし。すこしなら、だいじょうぶ」
「僕が求めるのはアリスだけ。だから、僕を食べて良いのも愛しいアリスだけ」
 だから、と沙羅羅は言う。
 ちょっとだけ、と伸びてくるその手。その手へと僅かに視線を滑らせて。
「摘み食いする卑しい手には雫が跳ねるぞ」
 アンメリー・フレンズの手を小さな雨粒が貫いた。その場所から凍り付く。沙羅羅の弾いた水から凍り付いてアンメリー・フレンズを捕らえていくのだ。
「つめたい、いたい」
「冷えた雨は痛いだろ」
 僕にはアリスだけ。アリスだけなんだ、と沙羅羅は紡ぐ。
 アリス――アリスに、触れた記憶も無いけれど。
 求めてやまぬものなのだ。
 笑顔の記憶も、無いけれど――その『アリス』という存在を追いかけて、出会うために。
 沙羅羅の唇がかすかに動いて、震える。
「る、ら、ら、」
 音を紡いで、それは繋がって歌になっていくのだ。
 ひとつなぞって、うたうだけ。
 歌いながら、水が魚の形をとってゆうるり、游ぐ。
 けれど――それは目の前のアンメリー・フレンズを貫くのだ。
 これは綺麗な氷の彫像になるけれど。
「はらにははいらない。それに」
 アリスはきっと、好きじゃない。
 やがてアンメリー・フレンズは砕けて、きらきらと沙羅羅の足元へと散っていく。
 きらきら、と散っていく――そのかけらが転がって尭海・有珠(殲蒼・f06286)の足元にも届く。
 ああ、あのアンメリー・フレンズはバラバラになったのかと。
 そして有珠の前にもアンメリー・フレンズはいるのだ。
「凍る世界でバラバラにされるのは私では無くお前達さ」
 先にバラバラになった仲間のように、と有珠は微笑んで。
 切って潰して混ぜて冷やすのも良いだろうが――下手に手をかけゲテモノを料理する気はない。
 それにどうみても、このアンメリー・フレンズというのは食するものではないのだ。
 美味しく食べられもしないのだから、手早く始末しようじゃないかと、向かってくるその手を有珠は『海』の宝珠を抱く青い仕込み杖でその手を払い飛ばした。
 その身を、違うものに変えて大きくしたアンメリー・フレンズはひどくアンバランスだ。
「来たれ、世界の滴。凝れよ、奔れ――≪憂戚の楔≫」 言の葉を紡ぐ。言の葉が導く。
 その密度を高め、鋭さを増し威力を高めていくのだ。
 何もない空に冷気を纏って生み出される氷が、ただ素直に真っすぐに、アンメリー・フレンズへと振り落とされた。
 その身を裂き、びしゃりと跳ねたのはアンメリー・フレンズの中身だ。血に縫い留めるように穿たれたが故に、アンメリー・フレンズは動けない。
 何もかもが凍りつくように冷気と――そして殺意を振りまいて。
「いたい、ううぅ、いた」
「そうさ、序でに調理される恐怖もお前達も味わってみてはどうだ?」
 もう一つ、と生み出された氷が突き刺さった。
 アンメリー・フレンズは呻く。その声がひどく、耳障りだった。
(「お前達は復讐の相手じゃない」)
 だが私は、と有珠は思うのだ。
(「黙って死や痛みを受け入れる人間でもない」)
 けれど――料理をする、と。殺意を向けられたのだ。「……仕方ないことなのだろう? 殺意に殺意と敵意で返すことは」
 言葉を向ける。けれどもう、はくはくと口を動かすのみでアンメリー・フレンズは発する言葉を持たないのだ。
「悪いな、盛り付けは得意じゃないんだ」
 絶えるのなら早い方がいい。
 新たに一つ、氷の楔を生み出して――有珠はその最後の呼吸を凍らせてしまうのだった。
 アンメリー・フレンズの数が減る。
 その様子を遠めに見て、そして――己の前にアンメリー・フレンズへと藤彦は視線向けるのだ。
「えろうすんまへんなぁ、僕の方が料理上手やったみたいで」
 にっこり笑って大筆を軽々と、藤彦は振るう。
 動きの鈍ったアンメリー・フレンズをその大筆で滅多打ちだ。
 寒い、寒いこの場所で、砕いてしまおう。
 そして混ぜて、凍らせてしまえば完成一歩手前だ。
「あの器でええかなぁ」
 綺麗に盛り付け、赤いソースをかけて花を飾って。
 うん、なかなかいい出来上がりと藤彦は微笑む――極彩色のソルベの出来上がり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【アントレ/華禱】

なるほど、先程は品定めを
次は調理法……と
易々と調理をされるつもりはありませんがね

倫太郎殿の拘束術を合図に行動
拘束された敵を優先して狙います
破魔の力を宿した刃にて2回攻撃による手数重視
拘束を巨大にて解かれたり抵抗する敵が居れば
なぎ払った後に衝撃波にて突き飛ばして距離を離す

その後、カウンターで早業の二刀流剣舞『襲嵐』
カウンター対象に斬撃を当て、その対象を中心に嵐を作り出して周囲を巻き込む
残った敵を倫太郎殿と狙いを合わせて掃討

鳥籠の話では私達は完成されているようで
貴方達が手を加える必要はないようです
これ以上、私達の場所に踏み入る事は許されない
……早々にお引き取りください


篝・倫太郎
【アントレ/華禱】

煮込まれるのも、焼かれるのもお断り
無論、仕上げもお断りってな

拘束術使用
射程内の総ての敵に鎖による先制攻撃と拘束
巨大化などで拘束が解けた場合は再度拘束
同時に華焔刀で夜彦と同一の対象を攻撃

鳥籠から聞いたろ?
俺達は手を掛ける必要がないレベルで『出来上がった逸品』だってな
その出来上がり具合、その身にしっかり教えてやるよ

俺と、俺の花簪の至高も至福も……
お前ら如きが容易く触れて良いもんじゃねぇってコト
しかりと知って、骸の海に還りな

二撃目以降はフェイントも交ぜつつ
陽動の意味も込めて派手に動く

身動き取れねぇだろ?
これは俺の得意技でな……動きたきゃ、俺を倒すこった

敵の攻撃は見切りと残像で回避


ユエ・ウニ
アントレ

まるで揺れる鳥籠と同じ様に。一度揺らげば止まらない

傷ついたアンメリー・フレンズに問いかけられる
人形やぬいぐるみなら直せるよ
綿が出たならそれを詰めて
ほつれたならそれを縫おう
足りない部品は作れば良い

傷ついたアンメリー・フレンズは?
……アンタ達は……
突き刺さるのは言葉かそれとも刃か

直す事は出来る
でも、歪められた愉快な仲間達は……直しても僕達が倒す事になる

直す筈が壊してしまう
あの鳥籠の言葉が蘇る

もうそっぽも向けない、耳も塞げない
どうして、何故、襲われて、直して、早く、
囲まれて願われて切られて焼かれて追い詰められていく
まるで悪夢の様に

時を止めて悪魔を呼ぼう
お前も僕を嗤うのか、影

炙られる、何もかも


ティル・レーヴェ
アントレ

鳥籠から放たれた
導かれた先は動く皿
あゝしっかりしなくては

大丈夫、大丈夫
今は浮かぶ過去を押し込んで
此処の誘い手は私じゃないわ
大丈夫、大丈夫
『妾』は『妾』のまま
其れを証明する為に
喰われるわけにはいかないの
あゝゆかぬのじゃ

摘み食いはご法度よ
迫る相手へ対峙する
あゝでも――
いつものようには謳えない
囀る声が震えてしまう

あゝ此の侭では……
抱く恐怖で現れた子へ身を寄せて
――お願い、力を貸して

貫く力は彼らに託し
浮かんだ過去を沈めるように
乱れた己を鎮めるように
同じ皿で戦う味方へ癒しを送る

背に華咲く聖痕は
他を癒す代わり痛みを伴うけれど
其れが今は己を律す心を保つ
その力を咲かせ奮って
この身に意味があるならば――


メアリー・ベスレム
引き続きアントレ

まぁ、お肉だけでもこんなにたくさん!
アリスがとっておきの一皿じゃなかったの?
話が違うわ、と不貞腐れ

つまみ食いだなんて、お行儀が悪いのね
えぇ、もちろん
ここで食べられてなんかあげないけれど

残念ながら赤ワインはないけれど
ソース代わりの血の香り、【血塗れメアリ】で身に纏い
美味しいお肉と【誘惑】してみせ
あぁ、でも高速移動というのなら
すぐ捕まってしまうかしら?

そうしてつまみ食われるその瞬間
【物を隠す】しておいた刃物で【咄嗟の一撃】

殺されたくない、食べられたくない
その気持ちは、初めてこの世界に来た時と同じだけれど
あの時よりもずっと上手く殺せる
人食いを楽しむオウガは、メアリがみんな殺すんだから


エンゲージ・ウェストエンド
鳥籠に切り取られた空間、あそこは水槽みたいに泳げたけんど
外に、陸に、出されたら
飛べないエニは、這いずるしか出来ないん

そいたら出番やねぇ
陸で動くんなら、エニのバイク!
水の中の次に自由だもん
エニはなぁ、いーっぱい出来ることある
もうね、選べるの

だからね、どっちが食べられるか勝負ね?
いろいろ混じったみたいな子と駆け競べ
あん…アンメリー・フレンズちゃん?
おなまえなんやろ

変わらずきゃらきゃら笑んでは、負ける気など無いと加速して
食われなければ証明出来ないけれど、死ぬとは微塵も感じない
傷を付けられても、髪より赤い血が溢れても、恐れはしない
軟らかな肉も、瑞々しい膓も、炙られる為ではなく、泳ぐためにあるのだから



●アントレ~多種多様なる饗宴、猟兵風
「鳥籠に切り取られた空間、あそこは水槽みたいに泳げたけんど」
 ぷぅ、と頬を僅かに膨らませてエンゲージ・ウェストエンド(糸・f00681)は己の身の不便さを僅かに思うのだ。
 外に、陸に、出されたら――そうしたら、游ぐ事はできなくて。
 飛べないのだから、地を這いずるしか、出来ないのだ。
 けれど、ぱっと顔を上げて、そいたら出番やねぇと声を躍らせる。
「陸で動くんなら、エニのバイク!」
 皿の上であろうとも、例えほかの場所であろうともそれがあれば水の中の次に、自由。
「ばいく? ばいく、たべれる?」
「たべちゃだめ!」
 もう、そればっかりとエンゲージは思う。アンメリー・フレンズはごはんの事しか考えてないと。
 それは――なんて不自由。
「エニはなぁ、いーっぱい出来ることある。もうね、選べるの」
 だからね、とエンゲージは笑いかける。
 だから――
「だからね、どっちが食べられるか勝負ね?」
 一番かけっこ早そうな子はどのこ?
 視線を巡らせれば――その足が2本ではなく、8本もある子がいる。いろいろ混じったようなその体はもうぐちゃぐちゃでよくわからないものだ。
 その子のもとへと、エンゲージはバイクを滑らせて。
「あん……アンメリー・フレンズちゃん? おなまえなんやろ」
「なまえ? なまえ??」
 なまえってなぁに、おいしいの?
 そう返されて、どうやろねとエンゲージは唸る。
 けれどそれを想うのもわずかの間。
 先に走り出したアンメリー・フレンズをエンゲージはフライングと追いかける。
 早く、早く――頬を打つ風の感触。負ける気などないと加速して、追いついて。
 今この時が楽しいというように、笑っている。
 食われなければ証明出来ないけれど、死ぬとは微塵も感じない。
 はやい、はやいと歪に歪ませた腕が後ろから伸びてくる。その爪に引っ掻かれて、傷ついて。
 その髪より赤い血が風に乗って零れていっても、痛みはわずか。
 恐れはしない。
 障害物のようにごうごうと炎が向けられようとも。
 軟らかな肉も、瑞々しい膓も、炙られる為ではなく――泳ぐためにあるのだから。
 水の中ならもっと早く、動けるはず。
 バイクがあるから自由だけれども――やっぱり、陸の世界は。
 ちょっとだけ、不自由と僅かに思う。

 その身を焼くのだろうか。巨大な鉄板。それはじゅうじゅうと熱されている。
 そして煮込むための鍋や、オーブンと様々な調理器具も並ぶ。
 それを見て月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は。
「なるほど、先程は品定めを。次は調理法……と」
 易々と調理をされるつもりはありませんがねと、夜彦は傍ら、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)へと視線向ける。
「煮込まれるのも、焼かれるのもお断り。無論、仕上げもお断りってな」
 二人の目の前、大きな血まみれナイフと赤黒いものがたくさんついた肉叩きを持った――いや、その手に焼いてくっつけたアンメリー・フレンズがやってくる。
「まず、きる。つぎ、たたく」
 やわらかくしておいしくする、とアンメリー・フレンズは零す。
「つぶす? それともみんち?」
「倫太郎殿、潰すのとミンチはどう違うのでしょう」
 私には同じになるようにしか思えないのですが、と夜彦の視線は肉叩きへと向く。
 誰かの肉片がこびりついてとれなくて。そしてそれが手とも一体になっているような。
 確かに、と倫太郎は言って視線一つ。
 見えない鎖を、目の前のアンメリー・フレンズへと投げ放った。
 それが絡みつき、動きをとどめる。
 その隙に夜彦は踏み込んで、破魔の力を乗せた刃で二度、くるりと身を躍らせて切りつける。
「いたい! きられるのは、きらい」
 その痛みに反応するように、アンメリー・フレンズはその身を膨らませて、倫太郎の戒めを千切ってしまう。
 けれど、再度と放たれる鎖。それに再び囚われて、アンメリー・フレンズはぐぬぬと唸るのだ。
「身動き取れねぇだろ? これは俺の得意技でな……動きたきゃ、俺を倒すこった」
 そして夜彦は迫る別の一体を蹴り飛ばし、夜禱と、霞瑞刀 [ 嵐 ]の二刀を以て斬撃を放つ。
 飛来するそれが、無数の傷跡を生み出してアンメリー・フレンズを切り裂き、嵐をつくり吹き荒れた。
「鳥籠から聞いたろ?」
 その様子に倫太郎は笑うのだ。
「俺達は手を掛ける必要がないレベルで『出来上がった逸品』だってな」
 その出来上がり具合、その身にしっかり教えてやるよと踏み込んで、華焔刀を振るうのだ。
 なぁ、と夜彦へと倫太郎が笑いかければええ、と頷きひとつ。
「鳥籠の話では私達は完成されているようで、貴方達が手を加える必要はないようです」
 そう言って――夜彦は冷えた声で落とすのだ。
「これ以上、私達の場所に踏み入る事は許されない……早々にお引き取りください」
 倫太郎は、そうだなと思うのだ。
(「俺と、俺の花簪の至高も至福も……」)
 それは二人だけのものなのだから。
「お前ら如きが容易く触れて良いもんじゃねぇってコト」
 しかりと知って、骸の海に還りなとその刃は振るわれる。

 かしゃんと錠の開く音。
 鳥籠から放たれ、どこへいくのか――その先は動く皿の上。
 ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)はその道行を確りとみるためにもと瞼を震わせた。
「あゝしっかりしなくては」
 大丈夫、大丈夫と己に言い聞かせる。
 今は、浮かぶ過去を押し込んで――そう、過去ではなく今なのだと。
(「此処の誘い手は私じゃないわ」)
 だから、大丈夫。
 大丈夫、大丈夫――何度も、何度も繰り返す。
『妾』は『妾』のまま――其れを証明する為に。
 喰われるわけにはいかないのと、未だ瞳は揺らめきを抱くがわずかに強さを秘めて。
(「喰われるわけには――あゝゆかぬのじゃ」)
 揺らいでいた足元が僅かに強さを以て。
 それはこの場所が動いているからではなく、ティルの心に芽生えたものがあったからか。
 目の前、アンメリー・フレンズはしゃん、しゃんと音を立てながらその己の手と繋がる刃を研いでいる。
 やけにぎらついた綺麗な、その刃を掲げて、うんうんと頷くアンメリー・フレンズ。
「おにく、きる。あじみ、だいじ」
 ちょっとだけ、ちょっとだけ――とじりじり迫ってくる。
「摘み食いはご法度よ」
 簡単に食べられてなんて、やらないとティルは思う。
(「あゝでも――」)
 震える。喉が震えてしまう。きっとここにいる者たちにはわからないほどの。けれど己だけがわかってしまうほどの――微かな、震え。
 けれどそれでもうダメなのだ。
いつものようには謳えない。囀る声が震えてしまう。
 そうっと、喉を抑えたその指までも震えている。
 あゝ、と擦れる。その零れる者さえも震えて。
(「此の侭では……」)
 ひたひたと、ティルの心に湧き出て広がるそれは恐怖。
 その恐怖に呼ばれたか――恐怖を払うためか。
 額に宝石の角を一本有した、背に翼持つ獣がティルの傍へと寄り添った。
 その温もりがわずかに心を落ち着かせる。ティルは身を寄せて紡ぐ。
「――お願い、力を貸して」
 貫くための力をティルは託す。
 そしてぎゅうと祈るように手を合わせて、浮かんだ過去を沈めるように。
 そして、乱れた己を鎮めるように癒しの力を巡らせ始める。
 ちりりと痛みが生まれる。その痛みはどこかといえば、背だ。
 背中に花咲く聖痕が痛みをもって教えてくれる。
 ほかの誰かをいやす――その痛みが今は、ティルがここにあらねばならぬと、己を律す心を保つもの。
(「この身に意味があるならば――」)
 この力を咲かせ奮って。
 痛みがまるで、許しのよう。ここにいていいのだと、教えてくれる。

 それは、まるで揺れる鳥籠と同じ様に。
 ユエ・ウニ(繕結い・f04391)は僅かに表情曇らせていた。
 一度揺らげば止まらない、それをどうにもすることはできるのかもしれないけれど、いまはできず。
 ほてほてとユエの前にやってきたのは傷ついたアンメリー・フレンズだった。
 その身は、焼けただれている。炎を扱うのだろうか、その手はバーナーのようなものとくっついてもう離れることはなさそうだ。そしてもう一方には、歪に刃の欠けたナイフを持っている。
 その手を、アンメリー・フレンズはまるで見せつけるかのようにふりふりと動かして。
「にんぎょうやぬいぐるみなら、なおせる」
「……そうだな」
「わたがでた、ら」
 詰めて。
「ほつれた、なら」
 縫い繕って。
 足りない部分は作ればよいと、ユエはすぐに思うことができる。
 どうしたらいいか、わかるのだ。
 答えてやれば、そうそうとアンメリー・フレンズはこくこくと嬉しそうに、頷いている。
「じゃあ」
 じゃあ――ぼく、は?
 きずついた、ぼくは――アンメリー・フレンズ、は?
 どうしたらいい? どうすればいい?
 その問いかけにユエの喉は僅かに引き攣った。
「……アンタ達は……」
 その先の言葉を、ユエは紡げない。
 そっかぁ、と笑ったアンメリー・フレンズがその刃を、振り下ろす。
 向けられた言葉を飲み込んでいたユエは一瞬反応が送れ、それが空だの一部を削っていく。
「りょうり、おにく、きって、あぶって、あぶって」
 一人じゃ大変と零せばどこからか、手伝いにきたよとその体はくっついてまた歪に膨れ上がっていく。
 じわり、零れるその血を、傷をユエは抑えた。
 じくじくとした痛みが何かを、ざわつかせている。
「――直す事は出来る」
「なおせる?」
 ゆっくり、紡いだ言葉にアンメリー・フレンズは嬉しそうに零す。
 けがは、やけどはいたいからと。
 そう、直す事はできるのだ。
(「でも、歪められた愉快な仲間達は……直しても僕達が倒す事になる」)
 その続きを、胸の中で故は紡ぐ。
 言葉にしていいのか、僅かの迷いがあったからだ。
 そして心の中に落とされたものが大きく波紋を描いていくのだ。
 直す筈が壊してしまう――あの、鳥籠の言葉は溶け落ちるように蘇る。
 気付いてしまったらもう見ないふりができないように。
 もうそっぽも向けない、耳も塞げないのだ。
 目の前にはアンメリー・フレンズがいるだけ。
 きって、きって、やいてと楽しそうに言いながら――刃の次は炎が向けられる。
 どうして、何故、襲われて、直して、早く、――駆け巡る、何かがユエを浸して。
 囲まれて願われて切られて焼かれて追い詰められていく――それはまるで、悪夢の様に。
 いや、悪夢なのだ。
 時を止めて悪魔を呼ぼうと、ユエは思う。契約した陰の悪魔――今、それがここに必要だ。
 けれど。
「お前も僕を嗤うのか、影」
 残忍で嗜虐的。その割に人好きでお喋りな悪魔は一体何と紡いだか。
 炙られる、何もかも――アンメリー・フレンズの炎などまるで火遊び。
 けれどその傷はいえていく。誰かの癒しの力が満ちて。
 己の身は痛くはないというのに――心は別だ。
 向けられた炎は熱い。けれど――それでは焼き尽くせぬはずだというのに。
 何かが、心の内を焼いていく、その痛みがユエを苛んで苦しめる。
 その正体に名を付けられぬままに。

 ひとり、ふたり――いっぱいいる。
 同じ皿の上にのるもの達の姿にメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は頬を膨らませ不満を露わにする。
「まぁ、お肉だけでもこんなにたくさん! アリスがとっておきの一皿じゃなかったの?」
 話が違うわ、と不貞腐れ。ふいっとアンメリー・フレンズの視線からご機嫌斜めと視線逸らす。
「ありす、たくさん、つかう」
 アンメリー・フレンズがそう言って――ちょっとだけと舌なめずり。
 これだけいるのだから、ちょっとだけつまみ食いと手の刃を振り下ろす。
 その一刀をメアリーは後ろに飛びのいて、避けた。
「つまみ食いだなんて、お行儀が悪いのね」
 それを避けられたアンメリー・フレンズはじぃとメアリーを見つめにげないで、にげないでと繰り返す。
 おいしく、たべてあげるから、と。
「えぇ、もちろん。ここで食べられてなんかあげないけれど」
 ここで食べられるわけがないとメアリーは知っている。
 残念ながら赤ワインはないけれど――ソース代わりに血の香り。
 甘い甘い血の、臭い――その香にいいにおいとアンメリー・フレンズはごくりと喉鳴らす。
 いまは、おいしいお肉。それを食べるのだ、食べるのだと――アンメリー・フレンズが素早く手を動かす。
 捕まってしまうかしら? ――その瞬間に隠しておいた刃物で咄嗟の一撃を見舞う。
 延ばされた手をメアリーは切り落とし、己が纏う血とは違う、その香にわずかに瞳細める。
 殺されたくない、食べられたくない――それは初めてこの世界に来た時と同じ気持ち。
 けれど、あの時よりも。
「もっと、ずっと――上手く殺せる」
 今だって、綺麗に切り落とすことができた。
 うで、うでと転がったそれを探すアンメリー・フレンズへとメアリーは迫る。
「人食いを楽しむオウガは、メアリがみんな殺すんだから」
 一口だって食べさせてはあげないと、アンメリー・フレンズへと刃が振り下ろされる。
 料理するものが、肉の塊になって。けれど、メアリーはそれを皿の上に乗る料理とはしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

輝夜・星灯
衷を苛む籠の言葉
息詰まるような苦しみの中ですら
――お前達は、まずそうだね
歪で醜いその躯
まるで私の想いみたいで
視るに堪えない

所詮は写し身、贋の躰
生身を庇わぬ道理無し
負う痛傷も気になど留めず
真赫な毒の帳を降ろす
ああ、痛い
薄笑さえ込み上げる
過去なんぞ、そこで指でも銜えておけよ

       わたし
初めての恋は、 星 が壊した
あの国だけが世界だった
あの街だけが恋だった
今は違う

私はばけもの
こいも、あいも、分からない
それでいい
人になんか成れなくても
きみがいとしいと、ただそれだけで

ふたたびのこいは、この『世界』に捧ぐ
きみと、きみに色を齎した『今』に誓って
世界を侵すものへと、報復するだけの力を
――ひとの仔たちへ


ジャック・ジャック
蹴れど揺らせど響かなかった忌まわしい檻
耳障りなその聲を、その歌を、
もう二度と奏でてくれるなと無機物の命を散らす

斬る
断る
截る

只、機械的に
唯、何の感情も無く

――否、

胸内から沸き上がり、喉震うこの感情は、
高揚、愉悦、――そして、歓喜

嗚呼、嗚呼、
何と
何として

こんなにも、『   』


無彩の色に灯るイロ
飛び散るアカと息絶ゆアカが、酷く、愉快や、愉快

さぁ、踊り狂おうぜ
貴様等は其が、好きなんだろう?


リル・ルリ
デセール

甘やかなあいを纏ったならば、僕はきっと砂糖の海だって泳げるお砂糖人魚
甘くてしょっぱい初恋の、ソルトアイスにとろり桜の蜂蜜を纏わせた
ピリリと辛いスパイスは嫉妬かな

甘くて美味しい愛に戀が食べたいの?
美しいだろう
美味しいだろう
めちゃくちゃにしてしまいたい位
でも、だめ

戀を知ったから、恋の歌は熱く燃え上がる
愛をしったから、愛の歌は心揺さぶる華を咲かせる
これは君にはあげられないよ
僕の戀も愛も、唯一のためのものだから
他の誰がなんと言ってもこれは変わらない

泡沫の守りのオーラを漂わせたなら
歌おうか
あぶくにならなかった人魚の「恋の歌」
奪うもの全て焼き尽くして
コトコト煮込んであげる

君は美味しくなさそうだけど



●デセール~甘やかなるかな、美しきかな
 鳥籠の、扉が開く――蹴れど揺らせど響かなかった忌まわしい檻が素直に開いて、ジャック・ジャック(×××・f19642)は舌打ち一つ。
 苛立ち隠さずに落とした。
 耳障りなその聲を、その歌を、もう二度と奏でてくれるなとその手にもつは断ちきるもの。
 斬る。音をなぞるように刃が走る。
 断る。音を追い越すように刃が跳ねる。
 截る。音は僅かに鈍く強く刃が撫でる。
 その細い線を綺麗になぞり、不愉快な聲は悲鳴に代わって消えていく。
 それをもう、耳障りとも思わぬように只、機械的に。
 そこに感情が――何の感情も無く――の、はずだった。
(「――否、」)
 胸内から沸き上がり、身の内を撫でていくような。
 喉震う。そして口端がわずかに上がるようなこの感情は。
 その、名は何だったか――ジャックはそれをたどる。
 たどって、そしてたどりつく。
 高揚、愉悦、――そして、歓喜。
 それはゆっくりと這い上がってくる。生暖かく、けれど心地良いような。
「嗚呼、嗚呼、」
 細く零れた吐息は、やがて芯を以てジャックの口から零れ落ちるのだ。
「何と」
 何として――こんなにも、『   』
 音には、それはならず。
 のそのそと近づいて、己をおいしくつくろうとするアンメリー・フレンズへと、ジャックは振るう。
 ひゅっと空を切る音とともにイロが跳ねた。
 それは何色だろうか。
 無彩の色に灯るイロ――アカだ。
 飛び散るアカと息絶ゆアカが、酷く、愉快や、愉快。
 口端上げて笑って。ありすありすと柔い言葉を向け乍ら切りかかってくるアンメリー・フレンズをその手によく馴染むものでバラバラにして。
 ぼとりぼとり。それが零す色が描くものは不規則だ。

 衷を苛む籠の言葉に――輝夜・星灯(ひとなりの錫・f07903)はため息のように、吐息を零す。
 息詰まるような苦しみの中ですら、アンメリー・フレンズたちはきっと何も変わらぬままあるのだろう。
「――お前達は、まずそうだね」
 歪で醜いその躯。それはまるで――と、星灯は眉をきつく寄せて。
(「まるで私の想いみたいで視るに堪えない」)
 視線を逸らしたい。けれど逸らしてはいけなくて、勿忘草の色は揺らめいた。
 アンメリー・フレンズは、おいしく、あまくとのそのそと動く。
 その手にもっているのはナイフ。これで身を削いで、細かくして生地に練り込む、なんて言っているのだ。
 そしてそれを振り下ろす。
 星灯の身、肉を削ぎ落し骨をのけると遠慮なく的確に向けてくる攻撃がある。
 しかし所詮は写し身、贋の躰と星灯は知っている。
 生身を庇わぬ道理無し。負う痛傷も気になど留めずただその懐に踏み込んだ。
 真赫な毒の帳を降ろす――その瞬間に走る痛みだけは、しかし本物だ。
「ああ、痛い」
 薄っすらと、笑みさえ込み上げる――痛い。痛いから、大丈夫だと思えてしまうのだ。
「過去なんぞ、そこで指でも銜えておけよ」
 ほとりと、星灯は零す。
        わたし
 初めての恋は、 星 が壊した。
 あの国だけが世界だった――嘗て。
 あの街だけが恋だった――嘗て。
 けれど、今は――違う。
 星灯は、知ってしまった。そして得てしまったのだ。
(「私はばけもの」)
 ばけものだから――こいも、あいも、分からない。
 それでいいと口端を上げてゆるやかに笑む。
 たとえそうであったとしても。
(「人になんか成れなくても――きみがいとしいと、ただそれだけで」)
 ふたたび、なのだ。
 ふたたびのこい。それを、この『世界』に捧ぐと星灯は決めている。
 ふと閉じた瞼の裏に――何よりも鮮やかに、思い描くその姿にわずかに、微笑んだ。

 甘やかなあいを纏ったならば、僕はきっと砂糖の海だって泳げるお砂糖人魚。
「甘くてしょっぱい初恋の、ソルトアイスにとろり桜の蜂蜜を纏わせた」
 ピリリと辛いスパイスは嫉妬かな、とリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は小さく笑ってみせる。
 こいもあいも――最初はただそのうわばみを知っていただけで。
 けれど今は、ずうっとふかく、沈んだ先にリルはいるのだろう。
 アンメリー・フレンズがおいしい、おいしくする、とたどたどしく紡ぐ中でリルは首傾げ。
「甘くて美味しい愛に戀が食べたいの?」
 それはきっと――ううん、絶対にとリルは首を振る。
 美しいだろう。
 美味しいだろう。
 めちゃくちゃにしてしまいたい位の――誘惑。
「でも、だめ」
 それはだめとリルはもう知っていた。
 戀を知ったから、恋の歌は熱く燃え上がる。
 紡ぐ声すら、変わっていないようでいて、わずかに変わっていくのだろう。
 愛をしったから、愛の歌は心揺さぶる華を咲かせる。
 揺さぶりたいのは――と、その姿を思い浮かべアンメリー・フレンズへとリルは笑いかける。
「これは君にはあげられないよ」
 君にも、君にも――君たちの、主にも。
「僕の戀も愛も、唯一のためのものだから」
 ぎゅうと胸元を抑える。ここに、形はないけれど確かにある。
 リルの中にある想い――他の誰がなんと言ってもこれは変わらないと、強く想うものがある。
 ふわりと、泡沫の守りのオーラを漂わせて、ゆっくりと歌い始める。
 リルが歌うのは――あぶくにならなかった人魚の『恋の歌』だ。
 奪うもの全て焼き尽くして、コトコト煮込んであげるとリルは言って――ああでもと思うのだ。
「君は美味しくなさそうだけど」
 蕩ける程に甘く、熱く。やきつくす蠱惑の歌声がアンメリー・フレンズを揺らす。
 燃え上がる、その歌で燃え上がる灼熱の色も赤。

 その歌声は、耳障りではなかった。
 鳥籠のそれとは違う歌にジャックは顔を顰めずふと愉し気に笑ってみせる。
「さぁ、踊り狂おうぜ」
 貴様等は其が、好きなんだろう? と、男はすでに踊らせているというのに。
 それはまるで、円舞曲が始まったと、いうように。
「きみと、きみに色を齎した『今』に誓って」
 世界を侵すものへと、報復するだけの力を――ひとの仔たちへと、『ひと』に成ったばけものは手向ける。
 何もつながらないようでいて、どこかは繋がって、続いて。
 甘い、ただただ泥のように甘いはずだった皿はそれだけではなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
あたたかく染む思い出たち
やさしい声、ぬくもり
その名前たち

わすれてはいけないもの
わたしを振り返るための小休止
濃いめに淹れたにがい紅茶
あまく解ける、しあわせは如何?

なゆを切り刻むの
嗚呼、そう。いたいことね
愚かものには痛みが必要かしら
わたしはどんな作品になれるのでしょう
どうぞお好きなよう、

――いいえ。ダメよ
痛いことはいやだと知った
このいのちを生きたいと望んだばかり
いきてゆくと、告げたの

もう見失わない
それがむつかしいことでも
わすれたくないの
溢れ落とさぬように抱きたい
この身体も、記憶たちも
切り刻ませたりしない

これが、わたしというひとりよ
なゆが結いだ尊い縁たち
ひとしずくの苦味も
ひと欠片のあまさもあげないわ


ユーチャリス・アルケー
失せた閉塞感に息をつく
胸膨らます必要もないのにそう、出来ている
汚辱はレースの端すら染めなくて
けれどその害意、或いは無関心が、身を苛む
愛し愛されるための人形なのだから

わたくしは、あなたの最期の為の人形
わたくしの元へ来るひとは、最期へ向かうひと
あなたも、そうなのよね

自動人形は機能回復をする
己の定義に従う
ゆうらり空游ぐのを止め、横たうひとを受け止めるところへ
地に侍り、来たるヒトを迎える

よく頑張ったわね
ここが終着点、あなたの旅のおしまい
もう、暴れなくて良いのよ
向けられる手を握り包みましょう
混乱するのは、よくあることよ

わたくしは、花嫁人形
全身の愛を、あなたへ

伴侶に出逢えたのだもの
わたくしは今が一番幸せ



●カフェ・ブティフール~最後の味の、決め手
 鳥籠の言葉が――蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)を揺らしていた。
 あたたかく染む思い出たちも。
 やさしい声、ぬくもり――その名前たち。
 それは、わすれてはいけないもの。
 これは――わたしを振り返るための小休止。
 ここで口にしなければいけないのは、甘い甘い、優しい味の恍惚とするような紅茶では――ないと七結は微笑む。
「濃いめに淹れたにがい紅茶ね」
 あまく解ける、しあわせは如何?
 その問いかけに応えられるものは、ここにはいない。
 さいごのひとさらの、じゅんびとアンメリー・フレンズは大きなスプーンにフォーク。大きなカップも準備する。
 それはひとがひとり、収まるには――十分すぎる大きさだ。
 そして、おさらのうえに、のせるんだと。ぎざぎざのナイフを持ったアンメリー・フレンズがやってくる。
 ひとくちパイのうえに、とっぴんぐする、なんてどうするのかを告げながら。
「なゆを切り刻むの」
「きざむ、なまのまま、のせる。いたい?」
「嗚呼、そう。いたいことね」
 痛い――痛みが、生まれる。
 愚かものには痛みが必要かしらと七結は零すのだ。
 お皿の上に、最後の一皿。菓子として――並ぶ。
 わたしはどんな作品になれるのでしょうと首を傾げつつ、どうぞお好きなよう、と微笑んだ。
 微笑んで――いいえ、と首を振る。
 そうではない、と何かが七結を引き戻す。
「――いいえ。ダメよ」
 痛いことはいやだと知ったのだ。
 このいのちを生きたいと望んだばかり――いきてゆくと、告げたのだから。
 ここで無為に傷つけて、決して失うわけにはいかないものなのだから。
「もう見失わない」
 それがむつかしいことでも、わすれたくないの。
 七結の声は小さくとも、強さを秘めて。
 溢れ落とさぬように抱きたいと、ぎゅうとその身を抱きしめる。
 この身体も、記憶たちも――切り刻ませたりしない。
「でも、ありす、きざんでおかしになる」
 アンメリー・フレンズは鋭いナイフの切っ先を向けてくる。
 それを向けないでと七結は躱して――その手に、黒鍵刀を持つのだ。
「これが、わたしというひとりよ」
 なゆが結いだ尊い縁たち――それは目には見えぬものだけれど、しっかりとここにある。繋がっている。
「ひとしずくの苦味も、ひと欠片のあまさもあげないわ」
 あなたたちにあげるのなんてもったいない。
 全部、なゆがもっていたいからと――微笑んで。
 アンメリー・フレンズの刃を弾いて七結は己の身を、守る。

 深く、深く零れ落ちた。
 失せた閉塞感に息をつき、ユーチャリス・アルケー(楽園のうつしみ・f16096)はゆっくりと瞳を伏せて己が身を想うのだ。
 胸膨らます必要もないのにそう、出来ている。
 汚辱はレースの端すら染めなくて――けれどその害意、或いは無関心が、身を苛む。
 それは何故か――それは、ユーチャリスが愛し愛されるための人形なのだから。
 ゆっくりと動いてやってくるアンメリー・フレンズ。
 その片方の手はナイフ。もう一方の手はフォークが、くっついている。
「ありす、さいごのおさらに、のせる、ありす」
 その言葉に、ええとユーチャリスは頷く。
「わたくしは、あなたの最期の為の人形」
 わたくしの元へ来るひとは、最期へ向かうひと。
 だれもかれもがそうだった。だから、この目の前にいるアンメリー・フレンズも、そうなのだ。
「あなたも、そうなのよね」
 そう、告げるがアンメリー・フレンズは首を傾げる。
 なにが、というようにだ。向けられた言葉を理解できるほどのものが、アンメリー・フレンズにはないのだろう。
 おりょうり、おりょうりといって刃をユーチャリスへと手向ける。
 肩から深く、切り落とすかのように。
 それは間違いなく、ユーチャリスの身を切り裂いて。
 けれど、ユーチャリスは。自動人形は機能回復をする。己の定義に従うために。
 ゆうらり空游ぐのを止め、横たうひとを受け止めるところへ先にたどり着く。
 地に侍り、来たるヒトを迎えるために。
「うん? ん?」
 アンメリー・フレンズは。どうしてと不思議そう。
 ユーチャリスは手を伸ばし――紡ぐ。
「目指す場所へ辿り着けないのならば、旅の終わりはせめて納得していなくては」
 心よりの、慈愛。それはこのアンメリー・フレンズが初めて向けられたものなのだろう。
 何か理解できない。けれど嫌なものではない――そんな、動揺。
「よく頑張ったわね」
 ここが終着点、あなたの旅のおしまいと、やさしく柔らかに紡ぐ。
「もう、暴れなくて良いのよ」
 これはいらないのよと、触れるナイフとフォーク。
 この手を握ることはできないけれどとユーチャリスはその手であるものにふれて、握り包む。
 不思議そうな、理解できないとうろたえているアンメリー・フレンズへと笑いかけて。
「混乱するのは、よくあることよ」
 そして――言葉を、向ける。
 わたくしは、花嫁人形――全身の愛を、あなたへ。
 きょろきょろと、あたりを見回す。
 その姿に間違いなく、あなたよとユーチャリスは小さく微笑んで。
「伴侶に出逢えたのだもの。わたくしは今が一番幸せ」
 伴侶、という言葉もアンメリー・フレンズはわからぬのだ。
 けれどなにか、特別な響きにうっとりとしている様子。
 そのまま傍に――座ればあとは蹲るようにその姿が消えていく。
 ひとではない、オウガの――アンメリー・フレンズ。
 僅かの間の幸せのあとに落ちるこの感情の名前は、ただ一つではなく。

 これが、己であると告げ。己であるがゆえに、過ぎ去っていくものもある。
 けれど零れてもすべてではなく――残るものがあるとも、知っている。
 それぞれ同じものなどひとつたりともないのだけれども。
 どれがおいしいかも、ひとそれぞれ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『邪悪な継母』

POW   :    お前達!奴らをさっさと仕留めるんだよ!!!
自身の【所有する高価な宝石・指輪・貴金属】を代償に、【レベル×1体の武装したアリスの亡霊】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【剣・槍・斧・弓・盾】で戦う。
SPD   :    腹が減ったぁ?これでも食っときな!!!
【殺したアリスの血肉を使ったフルコース料理】を給仕している間、戦場にいる殺したアリスの血肉を使ったフルコース料理を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    お前達!死んでもあたしを護るんだよ!!!
戦闘力のない、レベル×1体の【殺害したアリス達の亡霊】を召喚する。応援や助言、技能「【かばう・盾受け・武器受け】」を使った支援をしてくれる。

イラスト:渡辺純子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それぞれの皿の行きつく先。
 そこは晩餐を楽しむための部屋。きらきら輝く豪奢なシャンデリアがまず目に入った。
 テーブルも椅子も、一等高級品なのだろう。
 しかしそれは――猟兵たちが常日頃使うものより果てしなく大きい。
「りょうり、きた、はこぶ、はこぶ」
 と、猟兵たちの乗る皿を持ち上げたのは――巨大な、ぶくぶくに大きく膨らんだアンメリー・フレンズ。
 それは何を考えるでもなくすぐさま、その皿をテーブルの上へと置いた。
 次々とやってくる皿にアンメリー・フレンズは首を傾げる。いつもはもうすこし、あいだがある、ような。それを不思議と思うのもわずかでまぁいいかとテーブルへ。
 やってきたのだからならべるだけ。
 そうこの場の主――邪悪な継母の前へと。
「……なんだぁい、これは」
 くぐもった、不機嫌そうな声を響かせる。
 巨大な椅子に、偉そうに座る、巨大な女。それは前に並べられた皿へとぐいと顔を近づけて覗き込む。
 ぎょろりぎょろり。その瞳が猟兵たちを検閲するように動いていた。
 そして、片眉を吊り上げて。
「まだ出来上がってないじゃないか!」
 巨大な顔がさらに近づいて、苛立った声をあげる。
 そしてもう一度料理するんだよ! と騒ぎ――いいや、と首をふる。
「いつもコースだが今日は踊り食いもいいかもしれないね!」
 そう言って笑いながら宝石をぎらぎら纏わせたその手を伸ばしてくる。
 けれどその手に捕まる猟兵たちではなく――抗えば。
「あたしに食べられる気はないってことかい? あははは、おいしくなってるんだろう? 食べられるのがしあわせだろう!」
 その手に付けた指輪を投げ捨てれば、テーブルへと亡霊が並ぶ。
 それはこの、邪悪な継母が食べたアリスたち。その姿が完全にあるものも、足がないもの、手がないもの。
 齧られた、その姿のままにそれぞれ武器をもち、ふらふらとしながら猟兵たちへと迫る。
「ああああああ、けどね、けどね、やはり腹はすくんだよ!」
 アンメリー・フレンズ! と大声で呼びつける。
 さっきのフルコース、その残りでいいからもっておいでと叫んで喚き散らす。
 さっきの、というのはアンメリー・フレンズたちへと下げ渡したものだ。
 それはいつ食べたものなのか、そんなこともどうでもいいのだろう。
「あたしの楽しみ! その食事を、邪魔するのも許されないんだよ! お前たち、あたしを守りな! 死んでもあたしをだよ! もう、死んでるけどね!」
 あはははと笑いながら、持ってこさせた料理を摘まむ邪悪な継母。ひくり、とまだ動くアリスさえしる。
 こときれる間際の味は格別だねぇ、と口端から滴った血を拭い、笑って次なる料理ができあがるのを待つのだ。
 テーブルの上、皿の上――そこで始まる戦いは様々なもの。
 立ちはだかる無数のアリスの亡霊たちをかわして邪悪な継母へと刃を突き立てねばならないようだった。
泡沫・うらら
貴女があの子らの女王様?
浅慮なあの子らにお似合いのお誂え向きなクイーンね

あの子らったらつまみ食いをしたがって
ダラダラ涎が溢れて垂れて
とってもとぉっても――軽佻でしたよ、ええ

それもこれもあんたが圧政を敷いているからね
抑えつけられ脅え
可哀想
人魚が何たるかすら考える余裕が無かったんやから
他に相応しい形容があるとでも?

貴女の大きなお声と粗雑な食べ方はとても、不快よ
木偶――という言葉をご存知?

どれだけ身体が大きくても
その力を生かせへんのやったら意味あらへんよ

食滓に任せててええの?
よぉく、ご覧になって

あの子らも、貴女も、そう
ほぉらその手その足その身体
貴女のその大きなおめめさえ、もう1mmだって、動かせない



 皿の上でゆらり――その姿をゆらめかせて。
「貴女があの子らの女王様?」
 泡沫・うらら(夢幻トロイカ・f11361)はふふ、と笑い零す。
 下から上へと、視線を向ける。
 ただ大きいだけね、と零して。威厳があるわけでもなく、ひれ伏そうという気にもならぬ、その姿。その前に、そうする相手でもないのだが。
「浅慮なあの子らにお似合いのお誂え向きなクイーンね」
 その、うららの嘲るような声に――ぎょろりと、継母は視線を向ける。
「随分生意気な子がいるようだね! どうせ食べられてしまうっていうのにさ!」
 アンメリー・フレンズは料理もできないのか! と、ぎゃあぎゃあと喚くばかり。
 うららは、まぁと小さく零して――アンメリー・フレンズ、あの子のことねと笑うのだ。
「あの子らったらつまみ食いをしたがって」
 ダラダラ涎が溢れて垂れて。
「とってもとぉっても――軽佻でしたよ、ええ」
 どうして、そんな子だったのかしら。
 答えは簡単とうららは継母を見上げるのだ。
「それもこれもあんたが圧政を敷いているからね」
 抑えつけられ脅え――可哀想。
 可哀想なアンメリー・フレンズ。もう、その子はいないけれど。
「あたしのモンをつまみ食いしようとしたなんて! そんなのは踏みつぶしてしまうよ!」
 そう、だんだんと足踏みをする。継母の浅はかさが透けて見えるその様子にただ人魚の女は笑っているのに、冷えた視線を向けるのだ。
「人魚が何たるかすら考える余裕が無かったんやから、他に相応しい形容があるとでも?」
 乱雑に持ってこさせた料理を掴んで、継母は口へと放りなげてくちゃくちゃと。いやだわ、とうららは眉を顰めるのだ。
 その食べ方には優美さもなにもない。
「貴女の大きなお声と粗雑な食べ方はとても、不快よ。木偶――という言葉をご存知?」
 うららの言葉は継母の神経を逆撫でていく。不愉快、不機嫌といった顔を継母は隠しはしない。
「どれだけ身体が大きくてもその力を生かせへんのやったら意味あらへんよ」
 そして、とうとう継母は怒りをあらわにアリスたちに命じるのだ。
 己付けている宝石を投げて、早くその人魚を刻んでしまいな! と剣を持ったアリスへと。
 その様子を面白可笑しそうに――ふふ、と。
「食滓に任せててええの? よぉく、ご覧になって」
 あの子らも、貴女も、そうと。
 人魚の娘はたおやかに。
「ほぉらその手その足その身体、貴女のその大きなおめめさえ、もう1mmだって、動かせない」
 話しながらもその指先で編んだ雪の結晶がくるくるとまるで遊ぶかのように踊っている。
 それがふれたものたちは――その身を僅かずつにでも凍らせて。
 自由を奪われているのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
死して尚、使役するなんてな
悪趣味が過ぎるぜ
俺らは喰われるつもりはねぇし
相手は選びてぇもんよ

拘束術使用
射程内の総ての敵に鎖での先制攻撃と拘束
同時に華焔刀でなぎ払い

まずはアリスの亡霊
叶うなら継母にも一撃くれてやる

拘束が解ける気配があるなら
再度拘束術を使用して自由にさせない

派手に立ち回って
継母の意識を惹き付ける
邪魔だと思わせるコトが出来りゃいい
継母にゃ、出来るなら一撃くらいは入れてぇけど
陽動と牽制が出来りゃいいさ

さって、下拵えは出来たぜ?
喰わねぇけど、終わるのはあんたの方だ

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防いでカウンター

当分、コース料理はいいかな!
や、喰う予定もねぇけどさ


月舘・夜彦
【華禱】
命を奪われ、安らかに眠る事も許されず戦わされる
……喰われる苦しみも味わって頂きましょう

穢れを喰らう刀、嵐
彼の力を以て

アリスの亡霊には抜刀術『断ち風』
嵐の刀で早業の破魔の力を付与した2回攻撃併せなぎ払い
倫太郎殿の拘束術で身動きが出来ない者を優先、次に周囲

この刀は「殺す」のではなく穢れを喰らい「祓う」
そして貴方達を操る継母の邪念も喰らう
苦しかったでしょう……もう、戦わなくて良いのです
私達は貴方達を解放し彼女を倒します

亡霊を対応後、誘導している倫太郎殿に加勢
彼に気が向いている隙を狙い先制攻撃の早業にて夜禱と嵐の二刀にて攻撃
接近の合間の攻撃は残像と見切りにて回避

食は贅沢過ぎない方が良いのですよ



 その身の動きをとどめた、アリスの亡霊たち。継母も、誰かの術かその身を凍らされ動きが鈍くままならず。いらだちを見せていた。
 けれど、その手の宝飾品をとり投げてさらに手数を増やす。まだまだその数は多いのだ。
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)はああ、と明らかに不愉快そうに表情変えて。
「死して尚、使役するなんてな。悪趣味が過ぎるぜ」
「命を奪われ、安らかに眠る事も許されず戦わされる」
 と、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)もまた静かに、嫌悪感を露わにしていた。
「俺らは喰われるつもりはねぇし」
 もしそうであったとしても、相手は選びてぇもんよと倫太郎は紡ぐ。
「……喰われる苦しみも味わって頂きましょう」
 穢れを喰らう刀、嵐――彼の力を以てと夜彦は構える。
 その様に倫太郎は、思うところがあるんだなと小さく笑って、ああと頷いた。
 行く手を塞ぐように立ちふさがるアリス達へと倫太郎が見えぬ鎖を放ち、動きを制する。
 そして動き制した亡霊たちを華焔刀で薙ぎ払った。
 叶うなら継母にも一撃、と思ったがまだ遠い。今は目の前のアリスの亡霊たちだ。
 高速され、亡霊たちは動けない。動こうとすら、もうしないものもいる。
 そして夜彦も、破魔の力を籠めた霞瑞刀 [ 嵐 ]にて一撃を見舞う。
「――喰らえ、嵐」
 それは穢れや邪心のみを斬る一刀だ。
 向かってくる亡霊を切り伏せれば、亡霊たちの戒めが解かれていくのだろう。
 その手に持つ武器をとりおとし、そのままその姿を消していく。
 消えていくその表情は、わずかに安らいでいるようでもあった。
(「この刀は『殺す』のではなく穢れを喰らい『祓う』」)
 そして貴方達を操る継母の邪念も喰らうと、消えていく亡霊を、アリスの少女を夜彦は見送る。
「苦しかったでしょう……もう、戦わなくて良いのです」
 私達は貴方達を解放し彼女を倒します、だからもういいのですと夜彦は亡霊たちを助けていくのだ。
 そして、そうしやすいように。
 倫太郎は派手に立ち回って継母の意識を惹きつけるよう動く。ほかにも猟兵たちはおり継母の気の向く先はくるくる変わっている。
「出来るなら一撃くらいは入れてぇけど」
 今は、陽動と牽制が出来りゃいいさと倫太郎は駆けながら亡霊たちを捕まえていくのだ。
「さって、下拵えは出来たぜ? 喰わねぇけど、終わるのはあんたの方だ」
 そして――行く手を塞いでいたアリスの亡霊たちの数が減り。
 夜彦、と倫太郎は名を呼ぶ。それだけで意思は通じるのだ。
「当分、コース料理はいいかな! や、喰う予定もねぇけどさ」
「食は贅沢過ぎない方が良いのですよ」
 言って、夜彦は接敵する。見上げるばかりの大きな、継母。
 その身へを夜禱と嵐の二刀を以て切りつける、その瞬間は見えぬ鎖も絡みついて動きをとどめた時。
 時間はわずかであれども、夜彦にとってはそれで十分だった。そしてそのことを倫太郎も知っているのだから任せられる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
食べられるのはそりゃ好きだけど
食材にだって喰われる相手を選ぶ権利はあんだよ
あんたがコキ使ってる奴らの方が
「おいしい」をちゃんと理解していたぜ

『ゲヘナの紅』で身体を炎で包み肉弾戦を仕掛ける
極力亡霊は無視して本体に接近するが
一人も巻き込まねえってのは無理だろうな
悪ィけど、聖者だからって成仏させるような力はねェぞ
俺に出来るのはあんたらを縛り付けてるこいつをぶちのめす事だけだ

常と変わらずへらり嗤うが
両手の十字傷が鈍く痛む
――胸糞悪ィ、さっさと片ァつけるぜ
怒りを燃料に燃え滾る炎を叩きつける
傷は【激痛耐性】でスルー



「ああ、食べられるだけのくせに! 生意気な!」
 凍えるその身、それに攻撃受けて痛む場所をわざと振り動かして継母は金切り声を上げるのだ。
 その声にジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は半眼で見上げ。
「食べられるのはそりゃ好きだけど、食材にだって喰われる相手を選ぶ権利はあんだよ」
 あんたがコキ使ってる奴らの方が『おいしい』をちゃんと理解していたぜとジャスパーは齧らせてやったその場所を撫でて。
 けれど――あの、アンメリー・フレンズと違って。この目の前の巨大な、継母はどうにもいただけない。
 ただ消費するだけの継母に、ジャスパーは喰われてやる気はないのだ。
 込み上げるのは、この継母への怒りだ。
 この女は駄目だと、ジャスパーの内で燻り燃え上がるものがある。
 熱が灯る。高まる、どこまでもだ。
 そこから炎が生まれ、ジャスパーの体を包みこんでいく。
 ごう、と燃える焔は――美しく。継母は瞳見開いて、そのまま踊り食いするのも面白そうだね! と笑うのだ。
「お前達、捕まえるんだよ! それを抑え込むんだよ、そしたらあたしがつまみ上げて、食っちまうからね!」
 しかし簡単につかまるわけもない。
 ふらりふらり、己の方へ向かってきた亡霊たちを無視して、その間を抜けるようにジャスパーは進む。
 けれど――その炎は傍ら通るだけでも亡霊たちを焼いて、滅して。
 一人も巻き込まない、なんてことはなかった。それはジャスパーもわかっていたこと。
「悪ィけど、聖者だからって成仏させるような力はねェぞ」
 そういうのは他のやつに頼みなとジャスパーは言う。そういうことができるやつもいるようだからと。
 その魂の行きつく先はどこかはわからない。けれど――この場から、あの継母より解放されるときは訪れるのだと教えてやる。
「俺に出来るのはあんたらを縛り付けてるこいつをぶちのめす事だけだ」
 へらりと、常と変わらず嗤ってぐっと握る拳。
 その両手の十字傷が、鈍く痛む。己の炎に焼かれているから、なんてことはなく。攻撃も直接受けているから、というわけでもなく。
 巨大な継母。その腕に飛び乗って駆けあがる。その派手な服もジャスパーが駆けあげれば燃えていくのだ。
「――胸糞悪ィ、さっさと片ァつけるぜ」
 怒りを燃料に燃え滾る炎。その炎をその、横っ面に叩き込めたら――多少は気分も晴れるだろうか。
 そこまでたどり着く前に払われてしまう可能性ももちろんある。
 けれど、それを思い描いたならば心も晴れる。
 痛みを与えられても過ぎ去るように流して。継母の肩までたどり着けば勢いよく踏切って、ジャスパーはその頬へと拳を手向けた。
 継母は熱い、痛いと喚いて巨大な手を振り回す。
 それに叩かれジャスパーは痛手を負うものの、口端あげて。
 もう一回いけば、もっといい顔になっかなァと一層炎を巡らせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケルスティン・フレデリクション
…アリスは、みんなはたべものじゃないもん。
だから、たべちゃだめ!

たくさんの亡霊アリスには目を伏せて
どうしてこんなにひどいこができるの
みんなは、いきてたのに…。
ごめんね、いたくないように、がんばるから…
氷の【属性攻撃】【全力魔法】【範囲攻撃】
でアリス達を凍らせて動きを止めるね。
敵には【ひかりのしらべ】で光の一撃を。

敵からの攻撃は【第六感】で避けつつ当たれば【激痛耐性】で我慢

助けられなかった過去のアリス達には手を合わせて。

【連携&アドリブ歓迎】



 継母はぎりぎり、歯噛みするような音を立てていた。
 苛立っているのだ。機嫌よく食事を、と思っていたところ食事はできていない。
 できてない上に、己を攻撃してくるのだから。
「ああ、ほんとうに! おとなしく食われてればいいんだよ! アリスたちみたいにね!」
 その言葉に、ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)は違う、と首を横にふる。
「……アリスは、みんなはたべものじゃないもん。だから、たべちゃだめ!」
 継母の召喚した、アリスの亡霊たち。
 その姿には目を伏せて、ケルスティンは継母へと投げかける。
「どうしてこんなにひどいこができるの。みんなは、いきてたのに……」
「ひどい? あたしにとってはあたり前のことさ!」
 ああ、話はまったく通じないのだとケルスティンは知る。
 そして自分の方へと向かってくる亡霊たちの姿にごめんね、と紡ぐのだ。
「いたくないように、がんばるから……」
 傷つけたくない。けれど、その足は止めたい。
 亡霊たちに向けて、痛くないようにと思いながら全力で魔法を紡ぐ。
 地を走る、氷の力が亡霊たちの足元を凍らせて動きをとどめる。
 その間に――継母へと。
「ぴかぴか、くるくる、ふわふわ」
 指先を向ける。その先示した方へと天からの光が降り注ぐ。
 ぎゃあと継母は潰れたような声をあげて、ぎょろりぎょろりと目玉を回しどこからと。光放ったものを探していた。
 けれど、その指先はすでに降ろされていてみつかりはしない。
 癇癪起こすかのように継母はテーブルをばしばしと叩く。そこに亡霊たちがいてもおかまいなくだ。
 叩かれたアリスたちは消えていってしまう。自分で呼んだというのにこれはとケルスティンは痛まし気な表情を向け。
 助けられない――そんな過去のアリス達へとケルスティンはそっと手を合わせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
嗚呼
折角
見出せると、“其処ならば”と安堵、したのに

目の前に在る醜悪ないきものを眇め
アレの中に収まるのは本懐では無いか、と

為れば
執る手はひとつ

おいで
僕を元の世界へ帰して

決して明るくはない
静けさばかりが苛むあの場所へ

帰ろう
ねぇ
僕らには未だ“其処”へ辿り着くには途が足りなさすぎるんだ

問いかけに応じる様な咆哮ひとつ
皿の数よりもずっと多い
多方から押し寄せる亡霊達が征く手を阻もうとも
落ち着いて一体一体――ひとりひとり屠り続ければ
途は自ずと拓かれる筈だから

既に居亡くなった者達よ
君達を、解放してあげる
ゆっくりお眠り
そして願わくは、君達が新たな世界で生きられますように
乞い、願おう
それが僕らのせめてもの餞だから



 お世辞にも上品、などという言葉とは程遠い――邪悪な継母を前に旭・まどか(MementoMori・f18469)は心底、といったようにため息を零した。
 嗚呼――折角。
 見出せると、“其処ならば”と安堵、したのに――こんな。
 残念すぎる。淡い期待であったのに、酷く裏切られてしまったような感覚。それはまどか自身が勝手に抱いたものでもあったけれど、それでも。
 目の前のこの――醜悪ないきもの。
 金糸の合間から除くその瞳が、眇められる。
 アレの中に収まるのは本懐では無いか――アレでいいわけがない。
 為れば、執る手はひとつと、まどかはふわりと微笑む。優しく弱く、翳りとともに。
「おいで。僕を元の世界へ帰して」
 あるべき世界。そこを、まどかは思い浮かべる。
 決して明るくはない――静けさばかりが苛むあの場所。
 そこが、まどかがまだいるべき場所なのだ。
「帰ろう、ねぇ」
 誘いをかける。
 邪悪な継母によって食べられ、それでもまたここに縫い留められているアリスたち。
 継母のもとへはいかせないと、立ちふさがる。
 だらりと垂れた腕は、どうにかつながっているほど。誰に齧られたか、とまでは問わない。
 何処に、とアリスたちの瞳が揺らめいている。うつろな、光の無い――死に沈んだものたちの瞳。
「お前達! あたしを守るんだよ!」
 その継母の声に追い立てられるようにアリスたちが動き始める。
「僕らには未だ“其処”へ辿り着くには途が足りなさすぎるんだ」
 咆哮ひとつ、応じるように。けれどその意思は、縛られたまま。
 多方から向かってくる亡霊のアリスたち。
 とびかかってくる――その一体に、まどかは落ち着いて対する。
 ひとりずつでいい。ひとり、ひとりだ。
 向かってくるならば屠るだけ。少し撫でてやれば亡霊たちは消えていく。
 ひとり、ふたりと数が減れば途は自ずと拓かれる筈だからと、まどかは知っているのだから。
 けれどまだ、行く手は塞がれていく。
 既に居亡くなった者達よと、まどかは囁くように紡ぐ。
「君達を、解放してあげる」
 ゆっくりお眠り――ここはいるべき場所ではないと、教えて。
 そして――願わくは。
「君達が新たな世界で生きられますように」
 乞い、願うばかりだ。
 もうここにはいないのだから、救うことは――再度、終わらせてあげるだけだろう。
 それが。
「それが僕らのせめてもの餞だから」
 もう君達はここで行き止まり、終わっているんだよと教えていく。
 教えて、この場より屠り。新たな円環に戻れるようにまどかは願う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛鳥井・藤彦
嗚呼、なんちゅう醜い婆や。
見た目の話だけやのうて、魂もえらい酷い色で……吐き気がしてくるわ。

ため息をついて頭を振り。
魔法の大筆を構えて『屑箱の嘆き』を発動。

目には目を、歯には歯を、亡霊には亡霊を。
あわれなアリス達には慰めと安らぎを、強欲な婆には悔恨と苦痛を。

「いくら隠れたって無駄や。こいつらは僕が一等不愉快やと思うた奴を追いかける」

無数の亡霊の内、何体かはあわれなアリス達をかいくぐって醜悪な婆の元に辿りつき、頭から食らいつくことを期待。

「今度はそっちが料理される番や。せやけど犬も喰わん餌になるかもしれへんなぁ」

嫣然と微笑み首を傾げて婆を見下ろし、侮蔑の言葉を容赦なく。



 じっと見つめることなど、飛鳥井・藤彦(春を描く・f14531)にはできなかった。
 その瞳に映る継母の姿は。
「嗚呼、なんちゅう醜い婆や」
 それはただ、見た目の話だけではない。
 藤彦の、その瞳に映る――魂の色、それも。
「えらい酷い色で……吐き気がしてくるわ」
 ため息が落ちる。頭を振って、藤彦は身の丈ほどある青い大筆を構えた。
 あれに対してこの筆、振るわねばならぬのも――わずかばかり億劫な。
 あんな、醜悪なものに対さねばならぬ失望に不快感に。ないまぜの感情をもって藤彦は描くのだ。
 それが、力になるのだから。
「目には目を、歯には歯を、亡霊には亡霊を」
 あわれなアリス達には慰めと安らぎを、強欲な婆には悔恨と苦痛をと、描き切る。
 未完のまま打ち捨てられた絵画の亡霊を描く藤彦。
 それは命を得たかのように、この場を自由に駆け抜ける。
 アリスたちに命じて、継母は邪魔をさせようとするけれど。
「いくら隠れたって無駄や。こいつらは僕が一等不愉快やと思うた奴を追いかける」
 その間を縫うように、継母へと迫る藤彦の亡霊たち。
 アリスを捕まえてしまう亡霊もいるのだが、それは道筋を作るためだ。
 全部でなくてもいい。けれど、ひとつふたつ――その頭へとたどり着いて食らいついてくれんやろかと、それを期待する。
 きっとその醜悪な顔が、もっと歪に、ゆがんでしまうだろうけれど。
 けれどきっと、今までこの継母が重ねてきたことはそれだけではあがなえぬ程なのだと思う。
 そうでなければ――こんなにも、アリスの亡霊が現れるはずがない。
 いったいどれほどのアリスを、皿の上に乗せて。喰らって、半端に打ち捨ててきたのか。
 すべて綺麗に平らげられたアリスはきっといない。それは目の前に現れたアリスたちの姿で明らかだ。
 けれど、その報いは今、巡って――継母の首へと手をかけている。
「今度はそっちが料理される番や。せやけど犬も喰わん餌になるかもしれへんなぁ」
 嫣然と微笑み首を傾げて。
 藤彦はゆうるり、口の端を上げて侮蔑の言葉を容赦なく向ける。
 その苛立ちは、怒りは調味料に、おいしい味付けになるやろか。
 まったくなりそうにないわぁと、笑って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

ヤドリガミだからこそ、食事は楽しみなのはまだわかる。でもただ食い散らかすだけってのはいただけないな。
姿形同様、ひどく、醜い。

存在感を消し目立たないよう立ち回り、UC炎陽の炎で召喚された亡霊を支援の武器防具ごと焼き払う。
たたらの神の、不浄厭離でもあるこの炎で何もかも焼き尽くす。せめて解放されるように願いを込めて。
ある程度道を開けたら継母に接近し、マヒ攻撃を乗せた暗殺攻撃を仕掛ける。
敵の攻撃は第六感で感知し見切りで回避。回避しきれないものは黒鵺で受け流しカウンターを叩き込む。
それでも喰らうものオーラ防御、激痛耐性で耐える。



 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はわからないと、思うのだ。
 ヤドリガミだからこそ、食事は楽しみなのはまだわかる。
 人の身を得て、その大事さを知ることができたからだろうか。それは物であったころはわからないことだった。
「でもただ食い散らかすだけってのはいただけないな」
 姿形同様、ひどく、醜いと、瑞樹はその表情を歪める。
 この、目の前の巨大な継母――これとは絶対に相いれないのだと思って。
 瑞樹は己の存在感を消し、目立たないように立ちまわる。
 それでも、この場にアリスの亡霊は多く。
「炎よすべてをなぎ払え!」
 清めの炎を持って、瑞樹は亡霊たちが手に持つ武器ごと、燃え上がらせる。
 炎に抱かれ、アリスの亡霊たちは身もだえて、そしてその姿を消していく。
 けれどまたあらたなアリスの亡霊たちが行く手をふさいでいくのだ。
「たたらの神の、不浄厭離でもあるこの炎で何もかも焼き尽くす」
 せめて解放されるように――願いを込めて。
 それでも、また現れる。機械的に、次々と継母が亡霊たちを呼び込むのだ。
 継母へと続く道が開けるのは僅かの間。
 そこへ滑り込むように瑞樹は走り込んで接近する。そして麻痺を乗せた攻撃を、その両の手にもつ二刀でもって叩き込んだ。
「あ゛っ!? どこからだい!?」
 姿を現すんだよ! と喚くがそれを聞き入れることも無く。
 ばたばたと癇癪起こして暴れる、その手の動きを見切り、回避して躱す。
 触れそうになれば黒鵺で受け流して――巨大ゆえに、一撃では決まらない。
 浅かったかと、再び瑞樹はその時を伺うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
いやあ、とても饗されていたね
これだけ饗されているのだから相応の物は与えなければならない

ただ、もっとまともな料理人を雇った方が良いのではないかな?
あれでは素材を生かしきれない
私だってこの通り、調理されないままだ
所で、ワインはいらないかい?

君はとても下品だ

器は持って食べる事
持てないのならその手はいらない

口に物を入れたまま喋らない事
守れないのなら料理人のように舌を削ぎ落とす

出された物を残すなど言語道断
君が喰った食材たちも
味を楽しんで貰えなかったのだろう

嗚呼。先程のワインはアンメリー・フレンズの血さ
あれは酷いね
もっと発酵させた方が良かったかな?
発酵させても不味いだろう

さて、帰ろう
美味しい食事が食べたい


蘭・七結
嗚呼、なんて喧しい声
食事は静かに楽しむものでしょう
そんなに見つめないでちょうだい
あなたの眸は、つめたい

――そう。あなたたちは
そのこころを愚弄された
屠り喰われた果てに棄てられた
今もなお囚われているだなんて
なんて痛ましくてかなしいの
身を賭して守護するものは、そのひと?

剣も盾もあなたたちには必要ない
この“あか”ですべて攫いましょう
花の嵐で薙ぎ払ってゆく
だいじょうぶ。もういいの
眠っていいの

足を止めてそうと振り返る
もう一度歩み出すための小休止
深呼吸ひとつ、眸をひらく
幾つもの彩を懐いて歩んでゆく

切っ掛けをありがとう
あなたの籠に感謝をするわ
けれど、わたしは止まらない
歩みを止めたくないの
あなたに喰わせるものか



「いやあ、とても饗されていたね」
 これだけ饗されているのだから相応の物は与えなければならないと、榎本・英(人である・f22898)は紡いでへらりと笑って見せた。
 けれど、足りないものばかりだ。
「ただ、もっとまともな料理人を雇った方が良いのではないかな?」
 あれでは素材を生かしきれない、私だってこの通り、調理されないままだと両の手を広げて見せる。
 その言葉にぎょろりと目玉を動かして、継母は苛立ちを見せていた。
「うるさいよ! いいんだよ、あたしは素材の味を楽しんでいたんだからね!」
「所で、ワインはいらないかい?」
 言って英は小さなワイン瓶をゆらり、揺らす。
「ワイン~? もちろん飲むよ。お前たちの血でも作ってね!」
 ワインのあかはきっときれいないろになるでしょうけれども、と思うのだが、それよりもその声が耳に就く。
「嗚呼、なんて喧しい声。食事は静かに楽しむものでしょう」
 そうではないかしら、ねぇ? と蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は英に笑いかける。
「大勢で賑やかに食べる食事もあるけれど、確かにここであれば」
 静かに楽しむものだね、と英は笑って。そして――君はとても下品だ、と継母へと向ける。
 そして七結も継母へと視線を向けて。
「そんなに見つめないでちょうだい。あなたの眸は、つめたい」
 なゆ、好きではないわと小さく零れる。
 継母はその指から手から、ぎらぎら輝く宝石着いた装飾品を外し投げ放つ。
 それよって召喚されるアリスたちの亡霊たち。
「あたしの食べたおいしいアリスたち! 全部倒してしまうんだよ!」
 その姿を、七結は静かに、どんな顔をしているの、あなたたちと見つめる。
「――そう。あなたたちは、そのこころを愚弄された」
 その体が完全であるものはいない。
 屠り喰われた果てに棄てられた、今もなお囚われているだなんてと。
「なんて痛ましくてかなしいの。身を賭して守護するものは、そのひと?」
 そのひとでいいの、と問いかけるが応えはない。
 縛られているアリスたちは答えることも許されていないのだ。
 嗚呼、なんてかわいそうな。
 剣も盾もあなたたちには必要ない――七結はあかい牡丹一華をひらり、躍らせる。
「この“あか”ですべて攫いましょう」
 花の嵐で薙ぎ払う。綺麗、と思えるこころが残っていればよいのだけれどと微笑んで。
「だいじょうぶ。もういいの。眠っていいの」
 この“あか”に抱かれて、眠ってしまいなさいと七結は言葉送る。
 視界の中で、“あか”でが踊っていた。
 英はその亡霊たちと、そして継母を交互に見遣って、本当にマナーがなっていないと紡ぐ。
 そして己の著書を開けば――情念の獣がその腕を伸ばす。その、指を。
「器は持って食べる事」
 持てないのならその手はいらない。情念の獣の指先の前に亡霊が現れて、しかしその腕は一本ではない。
 アリスをかいくぐり、継母へと触れる。その瞬間、破壊されぐらりと体勢崩れればまたその場所も近くなり触れやすい。
「口に物を入れたまま喋らない事」
 守れないのなら料理人のように舌を削ぎ落とす。そのお喋りはいらないと口許へ。
「出された物を残すなど言語道断。君が喰った食材たちも」
 と、英は亡霊たちへと視線を向け瞼を伏せる。
「味を楽しんで貰えなかったのだろう」
 折角、料理として――けれどそれを食するものがこれでは。
 ため息まじり、言って英はそうそうと思いだす。
「嗚呼。先程のワインはアンメリー・フレンズの血さ」
 あれは酷いね、とその味思い出して英はううんと唸る。どうすればあれがもっと美味しくなっただろうか――そんなことにも興味を持ってしまうのだ。
「もっと発酵させた方が良かったかな?」
 それもどうなのだろうか。あれを発酵させたならば――いや。
「発酵させても不味いだろう」
 あの味はどうしてもどうにもなるまいと英は零す。
「さて、帰ろう。美味しい食事が食べたい」
 人を喰うとはどのようなことか。料理されるとはどのようなことか。
 この継母では高揚するほどに満たされることもなかったのだ。
 相手は選ばないといけないね、と英は紡ぐ。
 七結は、そうねと笑って。
 足を止めて、振り返ること。
 もう一度、歩み出すための小休止。瞳を伏せて、深呼吸ひとつ。
 眸をひらく。ひらいて、幾つもの彩を懐いて歩んでゆくのだと七結は知る。
 その切っ掛けを与えてくれたのは――継母のもつ、あのさえずる鳥籠だった。
「切っ掛けをありがとう。あなたではなくて、あなたの籠に感謝をするわ」
 けれど、わたしは止まらないと七結はゆるやかに笑って見せて。
「歩みを止めたくないの。あなたに喰わせるものか」
 わたしはあなたの口に入ることはないわと七結はあかを躍らせて継母へと向ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
まぁ、大きなおば様
子供みたいに癇癪立てて
豚さんみたいに大食らい
さぞたくさんアリスの血を流してきたのね

周囲に流された血から【血の声の武器】を形成
もう死んでしまったアリス達に容赦はしないけれど
何か言いたい事があるのなら
遺したい声があるのなら【聞き耳】立てて
あなた達の分まで伝えに行ってあげるから
食べられたくなんかなかったその思いは、きっとメアリと同じハズだもの

【逃げ足】で捕まらないよう立ち回り
美味しくお肉を食べたいなら、運動するのも大事でしょう?
そうやって引きずり回して疲れさせ、動きが鈍ったその瞬間
【ジャンプ】で跳び付き、突き立てて
アリス達の【呪詛】をたっぷり籠めた血の刃
どうぞ美味しく召し上がれ



 アリスの亡霊たちが塞がるが――それでも、猟兵たちの攻撃は届く。
 そのことに、継母は苛立ち声を荒立てるのだ。
 さっさと殺せ、しっかり守れというように。
「まぁ、大きなおば様」
 子供みたいに癇癪立てて、豚さんみたいに大食らい。
 メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は見上げて、笑っていた。
「さぞたくさんアリスの血を流してきたのね」
 その血を、この場に流れる血を借りましょうとメアリーは紡ぐ。
「あなたが挙げさせた声、骨の髄まで響かせてあげる」
 血の刃が生まれていく。それを乗せるのは肉切り包丁? それよりもっと受け止めるに良いものがある。
 臆病者の刃に集っていく。いくら綺麗に掃除しても、この場にこびりついているものはあるのだ。
 声を、聴いてあげるとメアリーは向かう。
 アリスの亡霊たちが立ちふさがる。けれどもう命の無いものたちに容赦はしない。
「何か言いたい事があるのなら」
 遺したい声があるのなら――聞いてあげるから。
 あなた達の分まで伝えに行ってあげるから。
 その表情は生気なく、怯えか、怒りか、嘆きか。様々なのだ。
 こうしてまだ縛られて使われていることも。
 食べられたくなんかなかったその思いは。
(「きっとメアリと同じハズだもの」)
 目の前から動かない。そんな亡霊たちへと刃を振るう。
 手を伸ばす、武器をゆっくり持ち上げる。アリスの亡霊たちの動き、その間をメアリーは捕まらぬ様立ち回り、継母へと近づいていく。
「ちょこまかしてるアリスがいるよ! はやく捕まえな!」
 継母がメアリーの姿を見つけて声あげる。けれどメアリーはあははと笑って駆け抜ける。
「美味しくお肉を食べたいなら、運動するのも大事でしょう?」
 おなかを減らせば美味しさも一層。
 継母は動くのを追いかけようと動くが追いつけず。その手が下がってテーブル叩く、その瞬間にメアリーは高々と跳躍した。
 飛び上がったのはその手の上。
「メアリがごちそうしてあげる!」
 そして――突き立てる刃。
 この場に集う、この場で果てたアリス達の呪詛をたぁっぷり籠めた血の刃だ。
「どうぞ美味しく召し上がれ」
 突き立てて、わずかに刃をぐり、と動かしてその傷を広げる。
 ぎゃあ! と継母のひしゃげた叫び。
 その声に――おいしいみたいね、とメアリはうっそりと微笑む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
此処で力を揮おうが
過去を変える事は出来はしない
嘗ての誰かも
亡霊となったアリスも
失った命は戻らない

其れでも
妾として生きたいと望むから
亡霊として縛られた貴女達を
解放する事を願うから

だから
震えている場合ではない
墓場鳥とて歌える囀れる
ナハティガルらしく
穏やかな終わりへと葬送しよう

だから、どうか
妾が妾らしく囀れるよう
力を貸して欲しい
支えとさせて欲しい

鞄の内
想い出の品々へと指先巡らせ
そう……重ねてきた日々が
出会った縁が傍に在る
大丈夫

亡霊として縛られたアリス達
喚ばれし其方らの力をも糧として

願わくば――
彼岸の果てに新たな生がある事を
その先に幸ある事を
輪廻の存在だけは嘗てと同じく信じ乍ら

さぁ
其方らへの鎮魂歌じゃ



 ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は、わかっている。
 此処で力を揮おうが、過去を変える事は出来はしないということを。
 過ぎ去ったもの。それを振り返ることはできてもやり直すことはできない。
 それは命も、同じ。
 嘗ての――誰かも。
 そして今、ティルの目の前にいる亡霊となったアリスたちもだ。
「失った命は」
 戻らないのじゃ、と――ティルの細い声が落ちる。
 瞼を僅かに震わせて、其れでも。
 其れでも、妾として生きたいと望むから。ティルはまっすぐ、目の前のアリス達の姿を見て。
「亡霊として縛られた貴女達を、解放する事を願うから」
 様々な言葉を受けて、揺らいで。
 知って、感じて。
 けれど、望みがあるのだから、願いがあるのだからと籠の鳥であった少女はこの場に立てた、立っていた。
 だから、震えている場合ではないと瞳開いて。
「墓場鳥とて歌える囀れる」
 ナハティガルらしく、と細い指で己の喉に触れた。
 響く、声があるのだからこのアリスの亡霊たちを穏やかな終わりへと葬送しようと前を向く。
 けれど、その心全てが前へと向いているわけではなく。かすかに不安と、引き摺られかけるものもあるのだ。
 その言葉にできぬものを、見て見ぬふりはせず。だが真っすぐ、ひとりでそれを受け止め切るには心の強さはない。
(「だから、どうか」)
 そっと、ティルの指先が触れるものたちがある。
(「妾が妾らしく囀れるよう力を貸して欲しい」)
 支えとさせて欲しい――それは鞄の内にあるものたち。
 鈴生り、鈴鳴る、花の歌――君の綻ぶ唇へ、と親愛なる彼から貰ったもの。
 そらうつしの瞳、魔法の望遠鏡――小麦色の肌に亜麻色の瞳の、彼女から。
 あまく咲うのは菫のひと花に触れれば、大好きな彼女のいろを思い出す。
 触れて、思う。
 想い出の品々へと指先巡らせ――ここに確かなものがあるとティルを支える。
 崩れはしないものが己の側にも、己の内にもあるのだと。
(「そう……重ねてきた日々が」)
 出会った縁が傍に在る。
 それはティルが今のティルとなってから紡いだ時間、記憶。過去だ。
 そして失われはしないもの。
「大丈夫」
 凛として、立つ。
 震えそうになる心は、今は隅っこに追いやって。亡霊として縛られたアリス達へと視線を向けるティル。
「喚ばれし其方らの力をも糧として」
 その、痛みも何もかもを――と受け止める。
 聖光満ちる、花々で包まれる聖衣を纏って、ティルは痛みを引き受ける。
 それは今共に戦っている猟兵たちのものも。
「願わくば――」
 彼岸の果てに新たな生がある事をと、亡霊たちの果て。その行先をティルは願うのだ。
 その先に、幸ある事を。
 輪廻の存在だけは嘗てと同じく信じ乍ら、ティルは微かに微笑んだ。
「さぁ、其方らへの鎮魂歌じゃ」
 安らかに眠るが良いと囀って、ティルは一歩を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエ・ウニ
……酷い気分だ
けれど、頼まれたからにはこなさないとな

アリスを食べる時点で趣味が悪いと思っていたが、食べ方も汚いんだなアンタ
時間を止め、邪悪な継母は影に攻撃させよう
お前のやりたい様にすれば良い
残忍に傷を抉る様な攻撃を重ねさせよう
影はアイツに集中しろ

時間の流れは遅いのなら、僕はその時間さえ止めてしまおう
止まった時の中でさえ、僕らの動きは遅いままだが攻撃するには問題ないだろう

アリスの幽霊やアンメリー・フレンズが邪魔をするなら
人形を使って庇わせて妨害する

この場から早く離れたい一心で、心を無にして悪魔と人形を操ろう
力の入った指先に伝わる振動は、人形が何かを切った事を伝えていて
もう何も考えるな、僕



「……酷い気分だ」
 けれど、頼まれたからにはこなさないとなとユエ・ウニ(繕結い・f04391)は一呼吸。それは己の心をなだめていくようでもあった。
 響く声は耳障りの悪いもの。
 持ってこさせたという皿の上は血まみれでぐちゃぐちゃだ。そもそも、アリスを食べる、なんてところでまずユエが理解するところはないのだが。
「アリスを食べる時点で趣味が悪いと思っていたが、食べ方も汚いんだなアンタ」
 ユエは己の本体たる懐中時計を輝かせ時間をとめる。
 ぴたり、継母の動きがとまって――影、と一声。
「お前のやりたい様にすれば良い」
 残忍に傷を抉るような攻撃を重ねて。アイツに集中しろ、と戦いの自由を与える。
 影はユエから離れて継母の巨体の上をすべるように傷を増やしていくのだ。
 けれど動きは遅く鈍い。継母の興じるものに手を付ける気などはない弊害だ。
 その時さえも、ユエは止めて――止まった時の中であれば動き遅くとも攻撃するには問題はない。
 だが、アリスの亡霊たちがユエの前には現れる。
 机の端から、盤面を覗き込むアンメリー・フレンズは手出しする気は今の所、無い様だ。けれどそれもいつまでか。
 興味はある、そして口端から零す涎を啜る音。いつ、その手を伸ばしてきてもおかしくはないと見える。
 ユエは人形操って、アリス達の攻撃がほかの仲間たちへも向かぬように妨害する。
 そしてアンメリー・フレンズの動向にも気を向けて。
 そのすべてが、できるわけではないが――それでも。一端を引き受ければほかの猟兵たちも戦いやすくなるはず。
 何より、この戦いを早く終わらせたいのだ。
 この場から早く離れたい――心を無にして、ユエは悪魔と人形を操る。
 操る、力の入った指先に伝わる振動。人形が何かを切ったことを伝えてくる微細なもの。
「――もう」
 何も考えるな、僕とユエは呟く。
 己に言い聞かせるように。己の心が揺らがぬように。
 早く終われと願う、その時は止まったままに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーチャリス・アルケー
あなたも過ぎ去ったひとたちと共に在るのかしら
でも、それは共に在るとは言えないわね
愛さなくては、置き去らなくては
歩みを止めたものと、止まれないものと
違うもの同士が添うのだから

居並ぶ亡霊に、送った姿を思い起こして
わたくしのいつか送ったあなた、アリスと呼ばれていたあなたも、居たわね
奪われたあなたたちに、今日はわたくしたちを守ってとお願いを
死んでも護れとは言わないけれど
わたくしは、死んでもあなたたちを愛しているわ
あと少しだけ
済ましたら、眠りましょう

残念ね、お腹を空かせたあなた
あなたはわたくしだけを見てはくれないから
わたくしの伴侶ではないの
安寧のお仕舞いは、無いのね
終わりのない、目的の無い旅を続けるのね



 巨大な継母の動きは鈍い。時を止められたようだ、けれどそれを振り払って再び動き出すような鈍さだった。
「あなたも過ぎ去ったひとたちと共に在るのかしら」
 ユーチャリス・アルケー(楽園のうつしみ・f16096)は教えて頂戴、と紡ぐ。
 けれど――ああ、違うとすぐに気づいた。
 問いかけて答えを待つ間も無くだ。
「でも、それは共に在るとは言えないわね」
 愛さなくては、置き去らなくては。
 歩みを止めたものと、止まれないものと――違うもの同士が添うのだから。
 けれど、この継母にはそういった想いは何もないのだろう。
 ユーチャリスの前に亡霊たちが並ぶ。
 その表情、その姿。喜びなどは何もないと思う姿ばかりだ。
 そして、己が送ったもの達の姿を思い起こす。
「わたくしのいつか送ったあなた、アリスと呼ばれていたあなたも、居たわね」
 けれど、目の前のアリスの亡霊たちはユーチャリスが知っているもの達とは違う。
 ではここで――上書きを行えば。
 奪われた、あなたたち。そうっと手を伸ばす。
「今日はわたくしたちを守って」
 継母のもつものをそのまま鏡で返すように願う。
 けれど違うのは、死んでも護れとは言わないこと。
「わたくしは、死んでもあなたたちを愛しているわ」
 あと少しだけ――すべて終わったら、すべて済ましたら。
 眠りましょうとユーチャリスは紡ぐ。
 その刃を――共に継母へと。
 継母は己に刃を向けてくるアリスの亡霊たちへと片眉吊り上げて睨みつける。
 あたしから逃げられると思ってるのかい!? と荒々しい声と共に。
「残念ね、お腹を空かせたあなた」
 あなたはわたくしだけを見てはくれないから、わたくしの伴侶ではないの。
 あなたの見ているものは、何かしらとユーチャリスは紡ぐ。
 それが己でないことを、この場の誰でもないということを――感じながら。
「安寧のお仕舞いは、無いのね」
 ぽつり、零す。
 終わりのない、目的の無い旅を続けるのねと――その先を想って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
踊り食いとはまた工夫も品も無い…。
まぁ僕、今の侭で上出来ですし?
良いお味かとは思いますが
――なぁんて。
調子出て来ました。自負は置いておき。
貴女に食い散らかされるのはちょっと…。
痛みすら甘美に昇華する程上手に、愛情もって食べて頂けなくちゃあ…
裡から侵す毒となっても知りませんよ?

近接武器は移動速度に間合い。攻撃の予備動作、軌跡。
面倒な弓も、加えて矢を番え引き放つ間。
見切り、経験に照らし躱し、
調度にワイヤーフック掛け空中も利用し継母への距離を詰め。
…あの大きさ、絶つには厄介か…
なら。
UCで鋼糸の攻撃力強化。
狙うはあの図体を支える、足首。

死んでるのに、死んでも守れって…
それ言ってて無理って判りません?



 ああ、腹が減る! と猟兵たちの相手をしつつ、継母は零す。
 そして目についたのだというようにクロト・ラトキエ(TTX・f00472)へと手を伸ばすが、それは躱された。
「あたしに食べられたくないっていうのかい!」
 その言葉に当たり前でしょうとクロトは僅かに瞳細めて。
「踊り食いとはまた工夫も品も無い……」
 まぁ僕、今の侭で上出来ですし? とクロトは微笑み向ける。
「良いお味かとは思いますが――なぁんて」
 いつもの調子だ。この継母に、何かしら向きになることも――抱える想いもない。
 いや、あるにはあるのだがそれは僅かの刹那に抱く程度のものだ。
 ずぅっと抱える程の、重いものではない。
 自負は置いておき、いくら良い味であろうともいやなものはいやである。
「貴女に食い散らかされるのはちょっと……」
 その食べ方では、食べられてやるわけにはいかない。
 そもそもこんな相手に食べられてやるつもりもない。
 そう、食べられるのであれば。
「痛みすら甘美に昇華する程上手に、愛情もって食べて頂けなくちゃあ……」
 ふ、と口端は笑みをかたどる。
 クロトが思い描いた姿は、ひとつなのだ。
「裡から侵す毒となっても知りませんよ?」
 継母がばらりと指輪をまき散らす。それを糧に呼び出されるアリスの亡霊たち。
 亡霊たちへとクロトは迫る。剣や斧といったものを持つものたちの動きはゆるやかだ。
 間合いを詰め、その動作を読んで詰める。面倒な弓も、矢を番え引き放つまでの間であれば叩き落とすのも容易い。
 今まで重ねた経験も照らし躱し。
 ひゅっと風切り走らせたて。ワイヤーフック掛け空中も利用し距離を詰める。
 すると、
「……あの大きさ、絶つには厄介か……」
 なら、と極めて細く――けれど丈夫な鋼糸の攻撃力をあげて。
 狙うのならばとクロトが瞳向けたのはその足首。
 あの図体を支えているそこに傷負えば、様々なものが崩れ始めるだろうと。
 けれど、その前に亡霊たちもまだいるのだ。
「はやく! そいつら捕まえるんだよ! 煩い羽虫から守りな!」
 死んでもね! と継母が声を荒げる。
 その声にクロトはおかしなことをいうと思うのだ。
「死んでるのに、死んでも守れって……それ言ってて無理って判りません?」
 言っても理解はできなさそうですけどと笑ってクロトは足元へと向かう。
 そして放つ鋼糸が、その足首をぎりりと締め上げてゆっくりとその肉を断っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリザベス・ルーネート
母さまと

めいめいの調理は戦力の分断みたい
嫌なかんじ、なんて
もう全体すべてがイヤな敵ね!
コースが並べば饗宴ではなく猟兵の布陣だと、知らしめてやりましょう

勇んだ矢先、母さまを裂く色に喉が潰れたような息しか出ない
この距離で、目の前で
敵が強大で、悪辣で、そんなことは求めてなかったの
すくみそうになるのに、母さまはナイフを奮っていく
どうして?なんで出来るの?

ヒーローは、わるい敵が居るから輝くのではないの
守りたいものがあるから輝くんだから…!
きんいろの、星のオーラで翔びましょう
おぞましいものに早さを奪われるなら、
もっともっと疾くなれば良い…!

…違うわ、あんなの怖くないの
でも母さまが傷付くのは、こわい


ナシラ・アスワド
エリザベスと

ちょっと斥けただけじゃまだまだ降り掛かってくる
並ぶ皿にああ反吐が出る
早くエリーを降ろしたいけれど…コース料理なら伸びる手も想定しやすい
連続攻撃をプログラミングしておこう

ぐぅ、ううう!
ヒトとは違う身なのに、同じように血が流れる
この痛みが同じなのかは、知りたくもない
一万年譲って嫌気が差して食われたいとか気の迷いがある年もあるかも分からないけどでもボクの仔を喰わせる!ものかぁ!
プログラムを放って、今度はボクが攻勢に
握り込んだナイフで腱を断とう
避けられても構わない
だって一人じゃありませんからねぇ

ボクのエリザベスは、食材なんかじゃない
この仔は、無力じゃない
…ああ、お願いですよリズ、泣かないで



 ちょっと斥けただけじゃまだまだ降り掛かってくるとナシラ・アスワド(不器用・f19129)は思うのだ。
 並ぶさらにああと零れた吐息。反吐が出る、とは奥歯で噛み潰して。
 そして傍らのエリザベス・ルーネート(星海の愛し仔・f19130)を見上げるのだ。
(「早くエリーを降ろしたいけれど……コース料理なら伸びる手も想定しやすい」)
 己に連続攻撃をプログラミングして、いつでももう、戦える。
「めいめいの調理は戦力の分断みたい」
 嫌なかんじ、なんて――と、エリザベスは零して。いいえと首を振る。
「もう全体すべてがイヤな敵ね!」
 けれど、バラバラだった皿はここで一つになり。
 コースが並べば饗宴ではなく猟兵の布陣だと、知らしめてやりましょうと拳握るエリザベス。
 ね、かあさま! と意気込んで、勇んだ矢先だ。
 振り下ろされる鈍い色。ナシラの身を引き裂くもの、そして零れ落ちる血。
 呻いて、その場に崩れ落ちる。
「ぐぅ、ううう!」
「っ……!!」
 継母の振り下ろした爪がナシラを裂いたのだ。
 そのまま、握って食べてしまうよと持ち上げて。
 溢れ落ちた色。それに喉が潰れたような息しか、エリザベスは出せない。
 体が硬直して、この場から動けなくなる永遠の一瞬の、訪れだ。
 この距離で、目の前で――かあさまの、身を。
 敵が強大で、悪辣で、そんなことは求めてなかったのと竦んでしまう。
 だというのに。
(「ヒトとは違う身なのに、同じように血が流れる」)
 この痛みが同じなのかは、知りたくもないとナシラは歯噛みして。
「おいしそうだね! 食べごろだよ! そっちのもすぐ食べてあげるからね!」
「一万年譲って嫌気が差して食われたいとか気の迷いがある年もあるかも分からないけどでもボクの仔を喰わせる! ものかぁ!」
 今、と先ほど編んだプログラムが動き始める。
 振るうナイフ、今度はナシラが攻勢に出る番だ。
 握り込んだナイフがその手を切りつけ緩む。落ちる、その身をエリザベスが受け止めた。
(「どうして? なんで出来るの?」)
 やっと動いたその体。エリザベスはナシラへと不安げな瞳を僅かに。
 ナシラはふと笑うのだ。
「だって一人じゃありませんからねぇ」
 一緒にいる、と伝えるのだ。そして――エリザベスの心にある想い。
 ヒーローは、わるい敵が居るから輝くのではないの――と。
「守りたいものがあるから輝くんだから……!」
 その守りたいものは、今は腕の内に。
 きらきらと、輝く黄金をエリザベスは纏う。星のオーラでもって飛翔するのだ。
「おぞましいものに早さを奪われるなら、もっともっと疾くなれば良い……!」
 その腕が向けられてもそれ以上の速さで避けて、跳んで。
(「……違うわ、あんなの怖くないの」)
 でも、と思う。
 でも母さまが傷付くのは、こわい――だから傷つけさせない、守ると誓って。
 その様を、ナシラは見つめるのだ。
(「ボクのエリザベスは、食材なんかじゃない」)
 この仔は、無力じゃないと瞳細めて、まぶし気に。
(「……ああ、お願いですよリズ、泣かないで」)
 傷ついて、恐ろしくこわく。けれどこれ以上はと、己で御せない涙一粒。
 零れ落ちるのをナシラはそっと掬い上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

輝夜・星灯
眸に映った誰かの骸
未だ痙る者さえ居て
喉を駆けるは言い知れぬ嘔気
口から零せたのは蔑如だけで

醜悪漉した汚い肉
穢れた血ばかり啜る私も
貴様の血など口にしない
意味のひとつも与えてやらん
疾く去ね
只無為に、死ね
奪った命も贖えない、其の軽い魂を殺してやる

この場崩れようと構わない
断罪の光、激情の儘に落す
仲間さえ無事なら其れで良い
傷も、痛みも、構うものか
霊賜わす傷は私の罪
悪寄越す疵は義の証
受け止めて、刀と駆ける

アリス、躯痛在る君たち
せめて其の今際が苦しいものでないよう
手当も、介錯だって、何でもしてあげる
骸の瞼は恭しく下ろすと約束する
アリス、躯も亡い君たち
嘗て、さきを夢見た命に哭くこと
少しだけ、ゆるしてはくれない?



「材料のくせに! 食事の邪魔をして!」
 金切り声を響かせる、継母。傷を負いながらも乱暴に伸ばすその手の先、その皿は――血にまみれている。
 視点の定まらぬ瞳、ゆれるその手。
 輝夜・星灯(ひとなりの錫・f07903)の眸に映った、誰かの骸。躯でないものも、いるのかもしれない。
 光の無い鈍い瞳と視線が合った気さえする。ぶらり、ふれる手は継母が皿に手を伸ばしたからか、それとも――未だ痙る者さえ、居るのかもしれない。。
 息が詰まる一瞬、喉を駆けるは言い知れぬ嘔気だった。
 僅かに、口から零せたのは蔑如だけ。
 臭い。それがまず意識を撫でてくるのだ。
 醜悪漉した汚い肉を、食する継母。それに共に興じるなんてことはもちろんない。
「あんたたちも食べるかい? いいやこの美味さはわからないだろうけどね!」
 継母の力が及ぶ。動きが鈍くなるのは、その力ゆえか。
 それともその醜悪さに意識が揺れてしまうからか。
 穢れた血ばかり啜る私も、と星灯は静かに、視線向ける。
「貴様の血など口にしない」
 意味のひとつも与えてやらんと、星灯は一呼吸。
「疾く去ね。只無為に、死ね」
 奪った命も贖えない、其の軽い魂を殺してやると星灯は宿した勿忘草を向け。そして夢幻をつまびく指伸ばして。
 この場が崩れようとも、構わない。
 その指先が辿るのは、断罪の光だ。
 星灯はその心の儘に、激情の儘に継母へと、振るい落とす。
 遥か遠くの空から――星の光が継母を貫く。料理へと伸ばしたその手を、ふんぞり返って座るその脚を。
「ぎゃあ!」
 その星の光は、仲間を避けて落ちる。
 己の側に落ちた光にわずかに焼かれる感覚を得つつも。
(「傷も、痛みも、構うものか」)
 霊賜わす傷は私の罪――と。
 悪寄越す疵は義の証――と。
 星灯の心にはすでに、定まっているのだ。
 受け止めて、刀と駆けるのみ。
 鈍かった動きの圧制が終わり、星灯は一歩踏み出した。
 その視界の中、皿の上の乗るアリス達もあった。
「アリス、躯痛在る君たち」
 せめて其の今際が苦しいものでないよう――そう、星灯は願うのだ。
 アリス達にこの思いは届くのだろうか。
 ふと、目が合った気がして。そしてその唇が動いている気がして。
「――わかった」
 手当も、介錯だって、何でもしてあげる。
 骸の瞼は恭しく下ろすと約束すると告げるその言葉は届いているのかどうか。
 けれど、わずかに安堵したようにも見えるのだ。
 そして立ちふさがる亡霊たちの姿もある。
「アリス、躯も亡い君たち」
 嘗て、さきを夢見た命に哭くこと――少しだけ、ゆるしてはくれない?
 問いかけても、返事はない。反応が薄いのだ。
 死してこの場にとどめられたアリス達へと星灯は肉薄する。
 星の光を導いて、落として。亡霊たちも救うために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夕時雨・沙羅羅
アリス
叶うなら、オウガのいないアリスラビリンスで笑って過ごして欲しかった
いつでも願う、来訪者たちの幸福を
楽しんでくれるアリスを帰したくないと我儘を抱いてもしまうけど
でも
魂だけでも帰れるなら、本来の世界が幸せなら、今は帰したい
水は空を地を巡り、猟兵は世界を巡るから
きっといつか、きみたちの世界に僕は行くから

だからアリス、欠けたきみたちを僕が食べよう
その魂をはらに抱いて、故郷を探して世界を巡ろう
きっとそれが慰めになると
笑ってくれるはずだと信じて

…ああ、思い出した
僕は食べられるより、食べるほうが好きなんだ
でも、食べたいのはきれいなものだけ
お前は嫌い
許さない
雨で押し流してしまえばその煩い鳴き声も止むか?



 アリス、と夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)は――亡霊となった彼女たちへと紡ぐ。
 死して、もうここに体は無く。彼女らが幸せに、感じる心もあるのかどうか。
 叶うなら、オウガのいないアリスラビリンスで笑って過ごして欲しかった――そう沙羅羅は思うのだ。
 沙羅羅は、このアリスラビリンスにずぅっといる。
 そして訪れる者たち、それがアリスだ。
 そんなアリス達を想う心は、強く。
 沙羅羅はいつでも、願っているのだ。この来訪者たちの幸福を。
 楽しんでくれるアリスを帰したくないと我儘を抱いてもしまうけど――でも。
 もうこの目の前の彼女たちは、生きてはいない。しかし縛られて、ここにいる。
 それがこのアリス達にとって幸せであるわけがない。
 帰ることも、帰らぬことも自由だ。けれど、帰れない状況は、生み出してはいけない。
「魂だけでも帰れるなら」
 本来の世界が幸せなら、今は帰したいと沙羅羅は願うのだ。
 此処で別れても水は空を地を巡り。そして猟兵である己は世界を巡るから。巡ることが、できるから。
「きっといつか、きみたちの世界に僕は行くから」
 沙羅羅の金の瞳が、一度伏せられる。
 ふたたび、開かれたその時には心がもう定まっている。
「だからアリス、欠けたきみたちを僕が食べよう」
 その魂をはらに抱いて、故郷を探して世界を巡ろうと紡ぐ。
 きっとそれが慰めになると――笑ってくれるはずだと信じて。
 もう応える術を持たぬアリスたち。それでも、きっとと沙羅羅は思う。
 アリスたちを平らげて――迎えいれて。
「……ああ、思い出した」
 ぽつりと、沙羅羅は零す。
「僕は食べられるより、食べるほうが好きなんだ」
 でも、食べたいのはきれいなものだけ――そう言って、視線を向けた先は継母だ。
 その唇が、言葉を紡ぐ。
「お前は嫌い」
 許さない――その声は静かに広がる波紋のように。
「雨で押し流してしまえばその煩い鳴き声も止むか?」
 早く終わらせて、そしてと沙羅羅は思う。
 こんな場所から、アリス達を早く連れ出したいと。
 おおきな水のさかなに身を変えて、このままどこかに泳いでいけたら良いのにと思いもする。こんな場所から、連れだしてしまいたいと。
 けれど、押し流そうと淡く光る飛沫を纏って。そして雨降るくじらの歌と共に沙羅羅は継母へと攻撃かけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🐟🌸🎲

噫、なんだか諦めていたのが馬鹿みたい!
龍は約束を守るもの
思いっきりロキに噛み付いてやったんだから!

あら!リル
今日は一段と甘くてとてもおいしそうね
ええ、歌って頂戴
うふふ
アリスのフルコースは私も食べてみたいわ
ロキも興味あるでしょう?
今際の際が最も美味なのは同意――いたい!リルったら、尾鰭ビンタはいやっ

なかったことにされてしまうのは些か残念だけれど
破魔の桜を吹雪かせなぎ払い、衝撃波と共に霊を斬り祓う
一口、味見はいいでしょう?
「喰華」
私の桜と成りなさい
その方がずぅっときれい
継母さん
今度はあなたを料理しましょう
あなたが諦める番よ
綺麗に捌いてあげる
どうか私を満たして頂戴

いい加減、お腹がすいたの


リル・ルリ
🐟🌸🎲

きっと今の僕は蕩ける蜜のよう
甘やかな想いも、愛も全部全部大切に抱いて游ぐんだから
それにこれは、継母なんかが食べていいものじゃない

櫻!ロキ!
2人はすーぷ?何を諦めたのだろう?
こんなののご馳走になる為に、なんて
諦めて欲しくないな
……大丈夫そうならいいんだけれど

歌にとかすのは鼓舞
ふふ
じゃあ僕は2人のために歌うよ

破魔をとかした水泡のオーラで櫻宵とロキを包んで守って
甘やかな歌をご馳走しよう

アリスのフルコース?
言うと思った
またそんな!尾鰭ビンタをされたいの?
ロキもなんか言ってやって
ダメだよ
【薇の歌】で全てなかったことにする

そうだね
次は君が甘くなる番かな
そんな不味そうなデセールは食べたくないけど


ロキ・バロックヒート
🐟🌸🎲

えーほらちゃぁんと出来上がっているよ?
べつに齧ってもいいけど
齧られたら怒られそう
ふふ

やぁリルくん
とっても甘やかな匂いがするなぁ
君なら一口食べてみたいかも
リルくんは優しいねぇ
誰かがなにを諦めたかなんて
聞いてもろくでもないことじゃないかな
噛み付かれたのは面白かったけどさ

アリスのフルコース?いいね
どんなお味がするのかな
でも櫻宵ちゃんがビンタされそ
あぁ一口食べる前になかったことになっちゃった
残念

リルくんの歌はこんな地獄でもとってもきれい
守ってくれてありがとうね
龍の料理を手伝ってあげるよ
影の黒槍で刻めば少しは食べやすくなりそう
ちょっとこっちは食指が働かないな

だからねぇ
君のことも諦めてあげるよ



「噫、なんだか諦めていたのが馬鹿みたい!」
 誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は龍は約束を守るものとロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)へと瞳細めて紡ぐのだ。
 ふたり、顔を合わせた時の張りつめたものはわずかに和らいでいる。
 その櫻宵の視界の中でゆうらりと。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の尾鰭が揺らめいた。
(「きっと今の僕は蕩ける蜜のよう」)
 甘やかな想いも、愛も全部全部大切に抱いて游ぐんだから――それにこれは、継母なんかが食べていいものじゃないとリルは思うのだ。
 そして。
「櫻! ロキ!」
「あら! リル。今日は一段と甘くてとてもおいしそうね」
「やぁリルくん。とっても甘やかな匂いがするなぁ」
 確かに、とロキは頷いて。
 君なら一口食べてみたいかも、なんていう。
 それをやだよ、とリルはぴしゃりと跳ねのけて――二人がいる皿を見る。
「2人はすーぷ?」
 何を諦めたのだろう? とは言葉にせず問わず。
 さて、とロキが見上げた先には継母だ。
 まだ料理できてない、などと言っていたかと思って
「えーほらちゃぁんと出来上がっているよ?」
 べつに齧ってもいいけど、齧られたら怒られそうとロキはふふと笑い零す。
 ね、と視線向けたのは先程、己に刃向けた相手。
 そんな二人を前にリルは考え込んでしまって。
 出来上がっているという、それはもう諦めてしまったのだろうか。
「こんなののご馳走になる為に、なんて」
 諦めて欲しくないなと思う。
(「……大丈夫そうならいいんだけれど」)
 と、思うその心をロキは見透かして、ふふと笑い零すのだ。
「リルくんは優しいねぇ」
 誰かがなにを諦めたかなんて、聞いてもろくでもないことじゃないかなとかわすように。これ以上は問えぬように。
 まるで知らない方が幸せだよと、線を引かれたかのように。
「噛み付かれたのは面白かったけどさ」
「思いっきりロキに噛み付いてやったんだから!」
 ふん、と櫻宵は僅かに機嫌も良くなっている。いや、二人ともすっきりしている、とでもいうのか。
 それは僅かにころしあいしあったからか。
 リルは瞬いて、ふふと笑い零す。大丈夫、と――思ったから。
「じゃあ僕は2人のために歌うよ」
 リルが歌にとかすのは鼓舞。
 櫻宵はええ、と微笑む。
「ええ、歌って頂戴」
 その歌の心地良きことを知っているから。
 破魔を溶かして、水泡オーラで二人を包んで守って。
 甘やかな歌をご馳走しよう――歌う、歌う。
 その歌声は――以前とは何かが違う。それはリルが様々なことを知ったからだろうか。
 そして刃を向ける相手は継母だ。
「うふふ。アリスのフルコースは私も食べてみたいわ」
 ロキも興味あるでしょう? と問いかける。
「アリスのフルコース? いいね」
 どんなお味がするのかな、とロキは言う。
 その声にぴくり、と先に反応したのはぴるりと震えた尾鰭だ。
 それには――今際の際が最も美味なのは同意するのだけれど。
 なんて言葉を、リルは許さない。
 言うと思った、と尾鰭揺らめかす。その気配をすでに感じ取っていたのはロキで櫻宵はまだ気づいていなかったのだ。
 櫻宵ちゃんがビンタされそ、とロキが思ったその時に。
「またそんな! 尾鰭ビンタをされたいの?」
「――いたい! リルったら、尾鰭ビンタはいやっ」
 そう言うがべしんとその尾鰭が振るわれる。
 されたいの? の間にすでに尾鰭ビンタ一回目。二度目が欲しい? とリルはむすっとした顔だ。
「ロキもなんか言ってやって」
 と――言ったけれどリルはううんと首を振る。
 その先を、ダメだよと。
「――揺蕩う泡沫は夢 紡ぐ歌は泡沫 ゆらり、巻き戻す時の秒針 夢の泡沫、瞬く間に眠らせて。そう《何も無かった》」
 何も――ないことにした。それがリルが紡いだ歌の力。
「あぁ一口食べる前になかったことになっちゃった。残念」
 なかったことにされてしまうのは些か残念だけれど――今はまだ、きっと。
 早い、その時ではないのだと心に落とし込む。
 守りを得て、ロキは笑っている。それをもたらした歌に瞳細めて思うのだ。
(「リルくんの歌はこんな地獄でもとってもきれい」)
 守ってくれてありがとうね、と紡いで今度は櫻宵に視線向ける。
「手伝ってあげるよ」
 竜の料理をね、とロキは紡いで視線一つ投げるのだ。
 そこに込めるのは破壊するという意志。
「刻めば少しは食べやすくなりそう」
 影より無数に出でるいびつな黒槍が継母を貫いて、突き刺して。
 ぎゃあとその身を傷つけられれば継母も悲鳴あげる。
 その声はロキの好みではなく。
「ちょっとこっちは食指が働かないな」
 だからねぇ、君のことも諦めてあげるよ――と、神ゆえに。
 その傲慢さをもって、無邪気に。そして陽気に静かに紡がれた。
 その傍らをふわり、破魔の桜を吹雪かせて、櫻宵の一歩は深く。衝撃波と共に、アリスの亡霊たちを斬り、そして祓う。
 彼女たちがあの継母より解き放たれるように。
「一口、味見はいいでしょう?」
 ねぇ、と嗤う。
 想愛絢爛に戀ひ綴る――私の桜にお成りなさい。
 私の桜と、成りなさい。
 蠱惑の龍眼が開かれる。その瞳で睨み落とすは桜獄。
 意思蕩かして、吸収して。己が桜花として咲かせる呪いを手向けるのだ。
 その方がずぅっときれいと櫻宵はくすり、笑い零す。
 その身から枝が手を伸ばし花を咲かせ――徐々に広がっていく。
「継母さん、今度はあなたを料理しましょう」
 あなたが諦める番よと。
 綺麗に捌いてあげると櫻宵は刃向ける。
「そうだね。次は君が甘くなる番かな」
 そんな不味そうなデセールは食べたくないけど、とリルは言う。
 食べるなら、美味しいデセールがいい。
 甘くて蕩ける――戀の味のように。
 けれどこの継母はそうはならない。甘さはないのにまるで、こいをするように櫻宵は。
「どうか私を満たして頂戴」
 いい加減、お腹がすいたのと己を空腹を一時だけでも、埋めるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・ジャック
嗚呼――、漸く、この不快な宴席は幕引きかと
下劣な主賓に重厚な三番目の獲物を構え
狙い、研ぐ気配は鋭敏に

向かい来る巨手や木偶の調理人
既に潰えた少女の夢さえも
“彼女”の助力の前では水泡に帰す

怪力で以ってハチェットと成り得た伐つモノは
罅入る巨躯を討つに適し
振り下ろすに時を要そうとも
此の地が持つ引力には抗えまい

――嗚呼、直に終わらせる

ついさっきまで愉悦に浸っていたと思いきや
厭きたと片頬膨らすや秋空よりも移り気で

君が飽くまで、呼んでやろう
ふたりきりのあの場所で

君の名を呼んで良いのは、この世で唯一
俺、ただひとりなのだから



 男はため息のように、零す。
「嗚呼――、漸く、この不快な宴席は幕引きか」
 男の、ジャック・ジャック(×××・f19642)の手には継母へと――下劣な主賓には似合いの重厚な三番目の得物。
 重く。けれど狙い、研ぐ気配は鋭敏に。
 鈍く、その刃の煌めきが目を引いたか。継母の手が伸びてくる。
 まっすぐ――けれど、それも。
『わたしの、あなた』
 ジャックの耳には届くのだ。“彼女”の第六感をもって知らされるその攻撃を。
 それは継母からの攻撃だけでなく。
 ちろりちろり、テーブルの端で見つめる視線。バレなければ良いだろうかとそうっと手を伸ばしてくる――アンメリー・フレンズ。
 その指先を、まず潰すように叩き切る。
 木偶の料理人が、とジャックの視線が撫でて。次に向かってくるのはすでに潰えた少女たち。
 この、継母に喰われたアリスたちの亡霊だ。
 けれど彼女らがまた向かってきてもジャックに手は届かないのだ。
 届かぬように“彼女”が囁く。その助力の前ではいかに攻め立てようとも水泡に帰すのだ。
 ジャックが振るう、三番目。怪力で以って持ち上げて、振り下ろして。
 ハチェットと成り得た伐つモノは、とジャックはその先向けるのだ。
 この威容は、異様は――その、皺入る巨躯を討つためのもの。
 それをふるうに時間はかかる。振り上げて、振り下ろして――それに時を要そうとも。
「此の地が持つ引力には抗えまい」
 振り下ろすのは、簡単な事だ。
 己が力を乗せるのではなく、すべてが自然と乗せてくれるのだから。
 継母の動きとジャックの動きが重なって、かみ合う瞬間に継母がひしゃがれた叫びを零す。
 腕一本、まず深く。首を狙いたいがそれはまだ遠い場所だった。
 ジャックの側で、“彼女”が紡ぐ言葉はジャックだけのもの。
「――嗚呼、直に終わらせる」
 ついさっきまで、浮かべていた表情とがらりと変わる。
 愉悦に浸っていたと思いきや――厭きた、と。片頬膨らすや、秋空よりも移り気。
 ふ、と僅かに口端上げて笑むも“彼女”だけのものだ。
 君が飽くまで、呼んでやろう。ふたりきりのあの場所で――囁きは誰にも聞こえぬ声。
 君の名を呼んで良いのは、この世で唯一――俺、ただひとりなのだからと。
 終わりももう、近そうだともう男の意識の向く先は“彼女”だけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
死なせて尚、解放してもやらないのか
こんな奴、守る価値も義理もないだろうに
お前達も…可哀想にというには傲慢だろうか

亡霊は≪剥片の戯≫で押しのけ蹴散らし足止めする
殺した方が解放されるのも早いだろうが、苦しませるのも本意じゃないんだよな

弱くても、搾取される謂れはないんだよ
誰も彼も。『アリス』も。
喰われる側の人間にしかなれなかったとしても
死んで迄お前みたいなヤツにその魂を弄ばれてたまるか

高速・多重詠唱による≪剥片の戯≫を束ねて邪悪な継母に放つ
出来ることなら、コイツの顔を拳で一度思い切り殴り飛ばしてから
頭部に重点的にUCで攻撃
もう食べる口など、その頭部など要らないだろ
そしてどうか霊をせめて解放したいんだ



 死なせて尚、解放してもやらないのかと尭海・有珠(殲蒼・f06286)は継母を見上げる。
 ほかの猟兵たちからも次々に攻撃うけて、豪奢な服もなにもかも継母にはもう見合わぬみすぼらしいものになり果てる。
 それでもまだ、己の威容にすがるようなそれは滑稽なものに見えるのだ。
「こんな奴、守る価値も義理もないだろうに」
 ただただうるさい、その声も。そして醜い在り様も。
「お前達も……可哀想にというには傲慢だろうか」
 そして、そんな存在を守れとこの場にとどめ置かれているアリス達へと、視線を向ける。
 向かってくるアリスたちを正面から、受け止めて。
「来たれ、世界の滴。群れよ、奔れ――『剥片の戯』」
 有珠は、亡霊たちを押しのけ蹴散らし足止めする。
 けれど、引き戻されたその魂。
(「殺した方が解放されるのも早いだろうが、苦しませるのも本意じゃないんだよな」)
 僅かに、その魂を殺してしまうには引っ掛かりがある。
 お前たちは、と有珠は思うのだ。
 弱かったのだろうか、何を思ってここにいるのか。
「弱くても、搾取される謂れはないんだよ」
 誰も彼も。『アリス』も。
 零しながら有珠は走る。その亡霊たちの間を向けて、向かう先は、狙うものはひとつだ。
「喰われる側の人間にしかなれなかったとしても」
 死んで迄お前みたいなヤツにその魂を弄ばれてたまるかと心にある想い。
 紡ぎ、多重に重ねて。そして魔法の薄刃がいくつもいくつも束ねて放つ。
 継母の巨体に突き刺さり、そして痛みに身を伏せるようにテーブルに突っ伏した。
 嗚呼、今ならと有珠は思う。まだ少し届かない。けれど薄刃を僅かばかりの足場にして、拳を握り込んでその顔に叩き込む。
 継母は顔に与えられた痛みに呻いて。
「もう食べる口など、その頭部など要らないだろ」
 有珠はその頭へと重点的に薄刃を放つ。
 確実に、攻撃は募りダメージを与え継母の焦りがもうずっと零れ続けていた。
 この継母が倒れれば――霊たちはきっと解き放たれる。
 有珠はそれを、望んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オクタヴィアン・ヴィヴィ
マァ、
上がるのは感嘆
豪奢なつくりはダンスホールに相応しい

椅子に座って嗜むディナーは御仕舞い
喰うか、喰われるか
最後の晩餐といこうじゃないか

アリスの亡霊達はbébéに『捕縛』させたり、『全力魔法』で相手になるワ
傷付けばどろりと黒いソーダ水を見せつけるように滴らせ『誘惑』し
隙をついて そうね、
跳び込む先はお喋りな口
捕まったならソレモ好都合
その舌先目掛けて『コレールの熾火』纏い、落下
サァ、極上のワタクシ<プアゾン>を召し上がれ!

けれどオマエは
ワタクシの舌には合わないワ

御粗末様デシタ



 マァ、と上がるのは感嘆だ。
 視線巡らすこの場所。豪奢なつくりはダンスホールに相応しいとオクタヴィアン・ヴィヴィ(ラ・メール・f26362)は笑って――けれど、今はそんな優雅な時間ではないのだ。
「椅子に座って嗜むディナーは御仕舞い」
 くるりと回ってオクタヴィアンは、その瞳に剣呑な光を宿らせる。
「喰うか、喰われるか――最後の晩餐といこうじゃないか」
 ねぇ、と笑いかけるのは今まで後ろに。いや、今も後ろに隠れているbébéだ。
 ふらりふらり、オクタヴィアンの前にもアリスの亡霊たちが武器もって。
 あの巨大な継母を守ろうと命じられて動く。その継母はもう――いつ倒れてもおかしくはない。
 捕縛をお願い、と傍らから邪魔しにくるアリスをbébéが制して。そしてオクタヴィアンも全力で魔法を手向けて相手になるのだ。
 けれど全てを、払いのけられる事もなく。その身を傷つけられれば、その身より溢れる黒いソーダ水。
 それを手ですくいあげて、オクタヴィアンは見せつけるように滴らせ、誘惑するのだ。
 こっちに視線を向けて――魅力的でしょう、美味しそうでしょうと。
 猟兵たちとの戦い。疲弊していく継母――鈍くなっていく、その中で魅力的な香り。
 手を伸ばすのが億劫だと継母は身を伏せてそのまま齧りつこうとしてくる。食べて、そう己を回復するためにもと。
「お喋りな口」
 そちらから来てくれるなんて、好都合――とオクタヴィアンは笑うのだ。
「アラ、オマエ――無事で済むと思ッテ?」
 その舌先に、オクタヴィアンの<憤怒>を具現化した黒の炎を纏って踊り込む。
「サァ、極上のワタクシ<プアゾン>を召し上がれ!」
 黒く、燃え上がる炎を纏っているなど継母は思わず。焼かれるその痛みに継母は叫び声をあげた。
 けれどもう遅い。
 その舌は焼いて、落とされて。ごぶりと血があふれ出す。
 その口の中、燃え上がり――その中でオクタヴィアンは笑っていた。
「けれどオマエは、ワタクシの舌には合わないワ」
 御粗末様デシタ、と零すが継母はもう応える術を持たず。
 口を、そして喉を掻きむしるようにしてテーブルの上へと突っ伏した。
 ああ、ああと苦し気な声を絞り落して、やがて継母は動きを止めた。
 そしてすっと――消えていく、アリスの亡霊たち。武器を取り落し、言葉はなくとも表情は失われていようとも。それでも、亡霊たちには喜びがあった。
 やっと、終わったのだと――いうように。
 それは継母の命が途切れた、印でもある。
 アリスを捕まえ、食していた継母。ああ、もう動かないのかとアンメリー・フレンズが恐る恐る継母へと近づいてつんつんとつつく。
 アリスのあじを知ってしまったそれも、残しておくわけにはいかず。
 やがてこの場に立つのは猟兵だけとなり、この場所は――忘れ去られていくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月17日


挿絵イラスト