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遥けき路よ、孤高なる輝星へ至れ

#アポカリプスヘル #【Q】 #ストレイト・ロード #戦争モノ

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#【Q】
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#ストレイト・ロード
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●旅人は星を仰ぐ
「道がありゃぁ、幾分かは楽なんだがなぁ」
「そんなもん、作ったところで野盗に引っぺがされるのがオチよ」
 終末混沌荒野アポカリプスヘル。徐々に陽が落ちつつある砂漠じみた大地を、二人の男が連れ立って歩いていた。彼らは物資回収を生業とする奪還者である。
 何度か行き来した道は勝手知ったる庭の様なもの。だがそれでも危険は常に付き纏い、決して気は抜けない。男としては相棒のボヤキに共感はするが、無いものをねだったところで仕方がなかった。
「無駄話する暇があるなら、さっさと足を動かす……」
「お、おい! 道路だ、上等なコンクリを使った道路だでよ!」
 相棒をどやしつけようとした矢先、泡を食った声が響き渡る。世迷い事を、そう呆れながら視線を向けると、行く手に硬質な灰色が広がっているのが見えた。
「んなバカな……ちょいと前に来たときはなかったぞ?」
「最近、荒野に道を敷く連中が居るって噂があった。きっとそいつらだべ」
 能天気な相棒とは裏腹に、男の眼は懐疑的だ。道を作るにしろ、こんなところを選ぶ意味がない。それによくよく見るとおかしな点もある。
「いや、こりゃ道路にしちゃ中途半端だし、幅がやけにでかい。路は路でもこれは恐らく……」
 滑走路じゃないか?
 そう漏らした瞬間、咳き込むような重低音が大気を震わせた。はっと音の源を見やると、滑走路の反対側に整備場と思しき建物が見える。重低音は徐々に唸りと回転数を上げ、音量を増大させながら近づいて来た。遠方より加速して接近する『ソレ』は、男たちに衝突するか否かのギリギリで機首を上げ、身体を地より離す。
 ーーそれは女だった。漆黒の軍服に身を包み、腕部と脚部にレシプロ機の機構を装備した、女軍人であった。
『…………』
「な、ぁ……?」
 離陸し、頭上スレスレを掠めるように飛翔してゆく女軍人と目が合う。まるで猛禽に射すくめられた野鼠の如く、男たちは遠のく姿を見送る事しかできなかった。
「何だったんだ、ありゃあ……」
「分らんが、たぶんお近づきになろうとしたら火傷をする手合いだぞ。急げ、早々にずらかるのが良さそうだ」
 踵を返し通り抜けようとする男の足元で、一瞬小石が弾けた。だがそれはおかしい。埃すらも許さぬよう病的なまでに掃き清められた滑走路上に、小石など見当たらない……視線を降ろすと、そこにはコンクリに穿たれた穴とうっすら昇る硝煙が見える。
 彼のニューロンが射撃者の存在を知覚するのと、第二射が放たれたのはほぼ同時であった。
「こ、攻撃!? 発砲音なんてどっからも」
「消音機を付けてるに決まってんだろ、ほらおいでなすったぞ!」
 さっと視線を走らせると、滑走路の反対側からわらわらと人影が現れる。病的に白い肌、恐らくはフラスコチャイルドと思われるものの、手足は機械化によって歪に歪んでおり、友好的な手合いとは到底思えなかった。
「捕まったらまずいよなぁ、アレ……」
「優雅に茶でも出してくれるように見えるなら残っていいぞ。俺は逃げるがなぁっ!」
 そうして二人組は一目散に逃げだしてゆく。そんな地上の喧騒を、女軍人は高空から見下ろしていた。
「誰も……」
 彼女の視線は下方から水平に、そして頭上へと。徐々に暮れてゆく陽の光に取って代わり、チラチラと星が瞬きだしている。
「誰も、居ないな……この空は。こんなに広いのに、何処にも続いていやしない」
 中空に浮かび続ける女の姿は、まるで孤高に輝く星のようであった。


「……と、いう訳で道路整備の時間だ。こればかりは現地の奪還者では荷が重そうだからね」
 グリモアベースに集った猟兵たちを前に、ユエイン・リュンコイスはまずそう口火を切った。彼女の手には第二次大戦期について記された文庫本が握られている。
「今回の舞台はアポカリプスヘル、目的は拠点間を結ぶ道路の敷設だ。それなりに続けているから、参加した人もいるんじゃないかな?」
 孤立した拠点間を繋ぐ、道路網の構築。始めは簡易的なマカダム舗装で、壊れることが大前提の頼りない物。だが繰り返し敷設し続ける事で、いずれは定着した街道となることを狙った活動である。
「今回の依頼も同様に、ある拠点間を繋ぐ道路の舗装をお願いしたいのだけれど……例に漏れず、進路上にオブリビオンの存在が確認された」
 拠点同士を直線で繋いだ丁度中間地点に、敵の基地と思しき施設が発見されたのである。当然、工事を行おうとすればそことかち合う形となるだろう。
「迂回路と言う手もあるけれど、どうやらその基地は簡易的な飛行場らしくてね。予想以上に足を延ばしてくる。敵の勢力圏を避けるのは正直言って現実的じゃない。ならいっそ、強引にでも退いて貰った方が手っ取り早いだろう」
 双方の拠点から出発し、前進しながら道路を敷設。中間地点で合流すると同時にオブリビオンが現れるのでこれと戦闘、殲滅を以て一先ず周辺の安全を確保する……と言うのが此度の流れとなる。
「敵は機械改造された歩兵部隊に、空戦を主体とした指揮官と言う編成の様だ。当然、指揮官戦の戦場は空になるだろうね」
 となれば飛行手段はあって困るものではないだろう。歩兵部隊殲滅後であれば、飛行場に格納されている航空機の奪取も狙える。無論、地上からの火砲支援とて有効だ。
「幸いにも周辺に一般人は存在していないし、道路も壊れやすいけれど同時に修繕も容易だ。つまり、存分に暴れても問題はないよ」
 一見すれば波打ち際に砂城を築くが如き行為。だが崩れてもなお積み上げれば、残るものは必ずある。
「人は協力するからこそ強みを発揮する存在だ。その第一歩を頼んだよ」
 そう話を締めくくると、ユエインは仲間たちを送り出すのであった。


月見月
 どうも皆さま、月見月でございます。
 此度の内容は道路敷設と部隊戦闘。OP画像の通り、軍事色強めのシナリオとなっております。Road to Base(拠点への道)、詰まりはRtBと言う訳でして。
 閑話休題、それでは補足と行きましょう。

●最終成功条件
 道路敷設の完遂、及び障害となる敵勢力の排除。

●第一章開始状況
 開始時刻は日の出頃、地形環境は乾燥し気温が高めの半砂漠地帯です。道で繋げる拠点のどちらからかスタートし、道路を舗装しながら進んで頂きます。資材等は各拠点から融通して貰うことが可能です。
 互いが合流する=敵基地付近に接近するまで、敵の妨害等はありません。ただし、巨大な岩や涸れた河、突発的に発生する砂塵に照り付ける日差し等が存在する為、それへの対策を行えばスムーズに作業を進められます。

●第二章以降について
 道路の敷設を大まかに終えると同時に、敵基地より機械化歩兵部隊が攻撃を仕掛けて来ますので撃退して下さい。それを終えれば指揮官戦へ移行、戦場は空となる見込みです。飛行手段等の確保は章移行時に改めて説明します。

●プレイング受付について
 OP公開後に断章を投下しますので、その情報も参考にしつつお送り頂けると幸いです。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『荒野を切り開け』

POW   :    道路を敷く為、荒れた地面の整地を行う

SPD   :    鋭い調査や直感によって、周囲の危険を避ける

WIZ   :    知恵や知識によって、最適な交通ルートを割り出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●払暁の出立
 ――陽が昇る。
 地平の果て、緋と黄土に染め上げられた大地の彼方より、ゆっくりと輝きが昇ってくる。朝焼けの長い光が宵闇を払い、夜明けの訪れを知らせていた。日中になればじりじりと照り付ける日差しに苦しめられるだろうが、今はまだ太陽は爽やかな輝きを魅せてくれている。文明が荒廃し、都市が荒野に沈み、じりじりと終末へ時計の針を進めていても、この輝きは変わらず良いものだった。

 出発点の二つの拠点それぞれに姿を見せた猟兵たち。彼らの背には、拠点の人々が苦しい懐事情を押して捻出してくれた資材が集積されている。道路を舗装してもすぐにまた破壊されてしまうだろう。だが、それでも残せるものはあるはずだと信じた人々のささやかな助力。決して無駄にすることは出来ない。
 到達すべき拠点は愚か、中間に在るはずの敵基地すらもこの地点から窺うことは出来ない。作業は恐らく、地道で長い時間が掛かるであろう。途中で厄介なアクシデントも起こるはずだ。しかし路とはそういうものなのかもしれない。千里に跨る街道も、その全ては僅かな一歩、小さな石塊を除くことから始まるのだから。

 長い一日になりそうだ。猟兵たちは改めて気合を入れつつ、作業に取り掛かるのであった。
檻神・百々女
ふふーん、これはトドメちゃんの最新術式の出番ですな?
SCRIPT ON!これこそトドメちゃんの求めた凡人のための術式よー!
電脳結界を複製して展開!乗っかれば空を飛べるし、触れてれば操れるし、しかもセットした術式まで誰でも使えちゃう凄くて新しくて、素敵な術具なのよ!
まー内蔵された霊力はトドメちゃんのだし、使ったらなくなっちゃうんだけど…でもほら、この試作型カートリッジも貸したげるから、少しはもつわよ。とはいえ、作業員も別段いないってのが今の最大の欠点か!まいっちゃうなぁ…。まぁいいや、簡単な結界術と警報装置仕込んで設置しながら作業しちゃおうかな、多少はマシでしょ



●技術の価値は持たざる人々にこそ
「長大な道路敷設……ふふーん、これはトドメちゃんの最新術式の出番ですな?」
 道路敷設、その第一歩を真っ先に踏み出したのは檻神・百々女(最新の退魔少女・f26051)であった。遥か遠くまで続く荒野を前に、彼女は臆するどころか寧ろ不敵な笑みを浮かべている。百々女がまず初めに行ったのは、材料の準備でも工具の確認でもなく……。
「SCRIPT ON! これこそトドメちゃんの求めた凡人のための術式よー!」
 周囲の安全確保という、ある意味工事で最も重要な要素についてであった。少女がパチリと指を鳴らした瞬間、幾つもの青みがかった透明な板が虚空に出現する。電脳化された結界、それらをワンアクションで瞬時に展開させる百々女独自のプログラムだ。
「電脳結界を複製して展開! 乗っかれば空を飛べるし、触れてれば複雑な手順なしで操れるし、しかもセットした術式まで誰でも使えちゃう凄くて新しくて、素敵な術具なのよ!」
 誇らしげに胸を張るのも、無理ならざることだろう。この術式は彼女の夢の第一歩にして、到達すべき理想の一端ともいえるのだから。技術を扱うのに才能も、努力も、資質も不要。高性能も多機能も誠に結構だが、最重視すべきは誰にでも扱える簡便性……と言うのが百々女の理念である。どんなに凄い技術でも、使える人間がいなければ宝の持ち腐れだ。口遊む凡人と言う単語は決して蔑みや見下しを意味してはいない、寧ろポジティブな意味合いが強かった。
「んー、そう言う意味ではトドメちゃんとこの世界の相性って結構悪くない感じ?」
 文明が崩壊し、技術や文化が喪失してしまったこの終末荒野において、彼女の価値観は確かにマッチしていると言えるだろう。文化の発展に必要なのは一人の天才的な才覚だが、社会の拡大を担うのは数多の大衆なのだから。勿論、越えるべきハードルがまだまだ多いのも事実ではあるが。
「まー内蔵された霊力はトドメちゃんのだし、使ったら当然なくなっちゃうんだけど……でもほら、この試作型カートリッジも貸したげれば、少しはもつはずよね!」
 取り出したのは電磁結界の維持に必要な霊力を保存する、シリンダー形状のカートリッジ。変換効率や保存能力にはまだまだ改良の余地があるものの、有ると無いとでは大違いだ。
 そうして上機嫌に説明する少女であったが、それに応えてくれる相手が居ないという状況に思わず苦笑が浮かぶ。
「とはいえ、作業員も別段いないってのが今の最大の欠点か! まいっちゃうなぁ……でも電磁結界も万能じゃないし、危険を考えると仕方がないわね」
 本音を言えば多くの人足を借り受けたいところだが、拠点の外は常に危険が渦巻いている。補修程度なら兎も角、一から敷設と成れば被害は避けられない。だからこそ猟兵たちの出番という訳だ。
「まぁいいや、簡単な結界術と警報装置仕込んで設置しながら作業しちゃおうかな。吹き曝しのままより多少はマシでしょ?」
 百々女は周囲へ警戒機能を付与した結界を柵代わりに建てつつ、砕いた石を結界で圧し潰しながら進んでゆく。今作れる道路は、こんな破壊前提の簡素なものでしかないかもしれない。だがここが道として定着すれば、今後人々が行き交う標となるだろう。そうすれば知識が共有され、技術が発展し、人々に遍くその恩恵が広がるはずなのだから。
 彼女はそんな未来を想像しながら、一歩一歩着実に路を築いてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ダビング・レコーズ
任務了解です
道路の敷設作業の後オブリビオンと交戦
出現する全ての脅威を殲滅し飛行場を制圧
周辺区域の制空権を掌握します

【POW・アドリブ連携歓迎】

実働部隊として道路敷設作業に従事します
パワーローダーフォームのアイガイオンとドッキング
当機自身を大型重機として運用
敷設予定地上の大岩や瓦礫等を撤去します
駆動系出力(怪力)のみで撤去不可能な程巨大な障害物は大型化したルナティクスで溶断
運搬可能なサイズまで分割し処理します
作戦領域は極めて劣悪な環境との事ですが、元来過酷な宇宙空間での戦闘を前提に設計されたウォーマシンならば問題は無いでしょう
飢えず乾かず疲労せず、ただ任務を遂行し続けるだけです


中津川・シナト
※アドリブ・連携歓迎
道路か……これだけの資材が託されるとは、猟兵ってのは大したもんだ。
この世界で暮らす一人として、一肌脱ごうじゃないか

整地作業を支援、資材運搬・防衛を重視
重機を再現できるあたしだけど、命を張ったこの資材を欠けさせるわけにはいかない
皆の支援の為にも、動く拠点になろう
【クロウラ】【ワーカー】を選択し【指定UC】で巨大トレーラーベース化
クレーンで資材の積み下ろしをスムーズに【運搬】
疲れたら車内に退避して休憩所にもなる
最後部にロードローラー機構を追加して通り道を整地

しかしこの世界は気まぐれだ
嵐がきたら【ランパート】で【拠点防御】状態になって資材や皆を守ろう

さぁて時間だ。気張っていこうか



●鋼鉄は砂塵を穿ち貫きゆく
 一方の拠点が道路敷設に着手したのとほぼ同時刻。もう一方の拠点でも転移してきた猟兵たちが作業を開始しようとしていた。
「道路か……これだけの資材が託されるとは、猟兵ってのは大したもんだ」
 朝日に長い影を作る資材の山を眺めながら、中津川・シナト(嵐の歯車 -救援屋-・f26112)は住民たちからの期待を改めて噛み締めていた。砕石舗装と言っても単に地面を押し固めれば良いという話ではない。基本材料の砕石とその間を埋める砂利に圧を掛けてがっちりと嚙み合わせることにより、初めて強固な路面を生み出せるのだ。当然、使用される砕石は重く、大量である。
「適した材料をこんだけ集めるってのも、一苦労だったろうに。ここまでして貰って見て見ぬ振りは出来ないしね。この世界で暮らす一人として、一肌脱ごうじゃないか」
「……当機も任務内容を了解しました」
 シナトの言葉へ、横に佇んでいた大柄なシルエットが相槌を打つ。朝日に白く照り輝く装甲の持ち主はダビング・レコーズ(RS01・f12341)である。各部のセンサーで敷設予定方面の情報を収集しつつ、取り纏めた行動内容を発声装置から出力してゆく。
「道路の敷設作業の後、オブリビオンと交戦。出現する全ての脅威を殲滅し飛行場を制圧、周辺区域の制空権を掌握し、これを以て道路付近の安全を確保します」
「その通り。織り込み済みとは言え、作って早々に壊されるのも気分のいいもんじゃないし、出来る限り長く残るに越したことは無いってね」
 ともあれ、敵の基地に到達するまでは直接的な介入を受けることは無い。完全に気を抜ける訳ではないが、少なくとも工事に集中は出来るだろう。ガシャリと、駆動音を響かせながらダビングが前へと歩み出る。
「当機は実働部隊として道路敷設作業に従事します。路面資材の供給、運搬を一任することは可能でしょうか?」
「お安い御用さ。あたしも重機を再現できるけど、命を張ったこの資材を欠けさせるわけにはいかない。皆の支援の為にも、動く拠点になろう」
 クロウラ、ワーカー、出番だよ。シナトがそう呼び掛けるや、ギアと呼ばれる二機の重機構が召喚され自らに組み込まれた機能を開放してゆく。クロウラは悪路の走破と物資の運搬を、ワーカーはクレーンを始めとする起重能力を展開しながら結合。瞬く間に巨大なトレーラーベースへと変形していった。
「資材を積み込みながら、すぐに使える様に下準備を進めておくよ。キミはその間に道路の地均しを頼んだ」
「了解しました。道路敷設予定地の地形状況を走査、障害物の撤去を開始します」
 シナトが機械群を操縦しコンテナへ資材を乗せつつ、袋や箱を開けて中身を取り出してゆくのを横目に、ダビングは見当をつけていた進路上の障害物群へと先行して近づいてゆく。
「大型岩石、三。倒木、四。破損した車両、二。当機の作業効率上昇の為、アイガイオンのパワーローダーフォームを使用します」
 ダビングの規格は人型の戦機としては大型の部類に入るだろう。だがそれでも、岩や車両の重量は決して侮れぬ。彼は速やかに最善手を導き出すと、呼び出した大型強化外骨格と自らを結合させた。更に一回り大きくなったダビングは障害物を抱え込むように持ち上げると、道路の脇へ次々と退かしてゆく。
「良し、邪魔っけなものが無くなったね。それじゃあこっちも始めるとしようか」
 仲間の働きを見届けたシナトは、障害物の取り除かれた地面へクレーンを使って砕石を降ろし、隙間へと小粒な石や砂利を流し込んでゆく。そうして材料を敷き詰め終えると、トレーラーを発進させる。其そのものの重量と後部に取り付けられたローラーによって、通り過ぎた後の地面は凹凸もなく滑らかに整えられてゆくのだった。
「この調子でいけば、そう時間は掛からずに済みそうだ」
「いえ……この岩は撤去に少しばかり時間が掛かりそうです」
 そうして二人は少しずつではあるが、順調に舗装距離を伸ばしてゆく。しかし、ある岩の前でダビングがトレーラーに合図を送って停止させた。目の前にあるのは一見すればこれまでと同じような岩である。しかし、彼の感覚機関は土中の様子までも手に取るように把握していた。
「表層に見えるのはほんの一部。氷山の様に、本体の大部分は土の中ですか。これを引き上げるのは現実的ではありません。となれば、運搬可能なサイズに溶断するしかないでしょう」
 ダビングは強化外骨格に搭載された荷電粒子ブレードを引き抜くと、月光を思わせる刃で動かせるサイズごとに切り分けてゆく。文字通り精密機械じみた正確さで手際よくカット作業を進めるも、岩はかなりの大きさだ。それなりに時間が掛かりそうであった。
「仕方ないけど、少しばかり足止めか……うん、あれは? っ、不味い!」
 やれやれと嘆息するシナトだったが、周囲へ視線を巡らせた途端に慌てたように声を上げた。彼女の視線の先に見えたのは、濛々と立ち込める褐色色の靄。
「デカい砂嵐がこっちに来ている、作業はいったん中断しよう。トレーラーの中は頑丈だ、中に居ればやり過ごせるさ。休憩と考えれば悪くはない」
「お気遣い感謝します。ですが退避はシナト様のみで問題ありません。当機は作業を継続します」
 苦々し気なシナトとは対照的に、ダビングの返答はどこまでも揺るぎない。彼は変わらず岩の溶断を続行しており、手を止める様子は無かった。
「作戦領域が極めて劣悪な環境というのは事前に承諾済みです。当機のような元来過酷な宇宙空間での戦闘を前提に設計されたウォーマシンであれば、砂嵐の中でも問題は無いでしょう。作業停止によるタイムロスは出来る限り避けるべきです」
 飢えず乾かず疲労せず、当機はただ任務を遂行し続けるだけです。そう告げるダビングにシナトは一瞬首を振るも、腹を括ったように頭を掻く。
「オーケー、分かったよ。だからと言って、はいそうですかって引っ込む訳にもいかないだろう。ランパート、頼んだよ!」
 姿を現す第三のギアはその名に違わぬ防御特化の性能を誇っている。ぐるりと己と仲間を覆う様に装甲を展開した瞬間、到達した砂嵐が二人を飲み込んだ。ザリザリとヤスリ掛けのような擦過音が響き、細かな砂が隙間より入り込んでくる。
「防護支援、感謝します。作業完了は砂嵐の通過とほぼ同時を予想」
「ぞっとしない時間だね……早く過ぎ去って欲しいよ」
 溶断音と風の唸りが暫しの間続き……そして止んだ。砂嵐が完全に過ぎ去ってから、シナトは防護を解除する。ばさりと積もった砂が零れると同時に、切り分けられた石塊がごろりと転がった。
「……砂嵐、埋没岩石。共に無力化を確認しました」
「やれやれ、これで舗装作業が再開できるね」
 再び顔を覗かせた太陽の下で体を伸ばしつつ、シナトはダビングへと笑みを向ける。
「さぁて、まだまだ先は長いよ。気張っていこうか」
「了解しました。着実に進行してゆきましょう」
 そうして二人は互いに協力しながら、舗装作業を進めてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュリア・ホワイト
交通網整備の重要性
道を引くことの意義
どちらも重々承知しているとも
……ところでこれ、線路じゃだめかい?
うん、言ってみただけさ。走る列車がないからしょうがない

さて、じゃあ早速道路整備をしよう
「とは言え道を引くのは列車の仕事じゃない。頼んだよ、スタッフさん達!」
【作業完了、確認ヨシ!】を発動
熟練整備士精霊さんを呼び出して道路の整備にかかってもらおう
なに?本来は機械整備専門?大丈夫、なんとかなるさ

もちろん、ボクも見ているだけじゃない
日差しが強くなってきたら【其は科学の象徴、期間と産業の友】を発動!
これをボクらの頭上に展開すれば日差しよけになるだろう


化野・花鵺
「軍人さんなら軍服だよねぇ。カヤも参加するぅ」
基地や軍という単語だけ聞き齧った狐、いつもの如く依頼半分聞き逃し参加した

狐、周囲をきょときょと見回した
「あれぇ、軍人さんがいないぃ。でもこれ見たことあるぅ。おじさーん、もしかして岩を吹っ飛ばす仕事はあるぅ?」
他で道路工事したことがあった狐、当たりをつけて奪還者に聞いてみた

「了解ー。それじゃカヤはダイナマイト代わりに頑張るぅ」
「フォックスファイア」をまとめて大きくして使用
道路工事の邪魔になるものをどんどん吹っ飛ばす
「エヘヘ、こーゆーのはカヤにお任せだよ」

「暑いぃ」
狐、狐の姿に戻ったらなお暑かったので、人型に戻って奪還者に布1枚借りて巻き付け作業した



●未開なる荒野を拓き、明日への道を引け
「交通網整備の重要性、道を引くことの意義。どちらも重々承知しているとも……ところで話は変わるのだけど、これ線路じゃだめかい? 手付かずの原野を見ると、何だかフロンティア精神が少しばかりくすぐられるのだけれど」
 先行して作業を行った仲間たちによって作られた舗装道路を辿り、最端部まで到達したジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は、目の前に広がる砂交じりの地平を眺めてそう独り言ちた。彼女は蒸気機関車のヤドリガミである。新大陸の例を始めとして、危険な荒野をひた走る蒸気機関鉄道と言うのはある種象徴的な光景だ。それ故に、どこか感じ入るものもあるのだろう。
「まぁ、仮に作ってもメンテナンス人員や警備体制もなし。野盗にとってはお宝が放置されているに等しいからね……うん、言ってみただけさ。そもそも走る列車がないからしょうがない」
 ジュリアの望みが叶うとすれば、もっと先の話になるだろう。人々の交流が活発化し、知識と技術が共有され、人類そのものが力を取り戻した果て。そんな未来に至るためにも、まずはこの道路を完成させねばなるまい。
「さて、じゃあ早速道路整備をしよう。とは言え道を引くのは列車の仕事じゃないからね。頼んだよ、スタッフさん達!」
 工事の原動力は一にも二にもマンパワー。ジュリアの呼びかけに応えて現れたのは、彼女の腰まで程の小柄なシルエット。機械整備に特化した妖精たちである。可愛らしい見た目ではあるものの腕前は熟練されている……のだが、その内の一体がやや小首を傾げながら汽車の服の裾を引いた。
 その眼はこう訴えている――これはちょっと求められている分野が違うのでは?
「なに? 本来は機械整備専門? 大丈夫、なんとかなるさ。さ、行っておいで」
 にっこりと笑うジュリアの態度から抗議に意味はないと察すると、妖精たちは腹を括ったように作業へと取り掛かってゆく。そうして荒野に石を砕く音、砂利を流し込む音、ローラーの地均し音が響き始めた。
「……あれぇ、軍人さんがいないぃ? でもこれ見たことあるぅ。確か、拠点と拠点の間に道路を作れば良いんだよねぇ?」
 とそんな折、後方から声を掛けられる。振り返るとそこには周囲をきょろきょろと見渡す化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)の姿があった。転送され初めて事情を呑み込んだという様子であるが、それもそのはずである。
(軍人さんなら軍服だよねぇ。なら、カヤも参加するぅ!)
 何を隠そう、彼女は無類の制服好き。敵指揮官が軍人であるならば当然軍服に身を包んでいるはずだという考えの元、説明を聞くのもそこそこに転送されてきたのだ。とは言え、花鵺も以前に同様の依頼を受けて居た為、今何をすべきかは把握できているようであった。
「って、おぉ~。それって駅員さんの制服、だよねぇ? いいねぇ、カッコいーねぇ!」
「はは、どうもありがとう。キミも手伝いに来てくれたのかな?」
「そうなんだけどぉ……カヤにもなにか出来る事ってあるかなぁ」
 ジュリアの服装に目を輝かせつつ、花鵺は作業現場へと視線を投げかける。そこでは整備員妖精たちが忙しなく行き交い、作業を着々と進めていた。専門外と訴えてはいたものの、その作業効率は中々のものである。
「妖精さーん、邪魔な岩を吹っ飛ばす仕事はあるぅ?」
 声を掛けられた妖精はいったん作業の手を止めて仲間と二言三言相談するや、ちょいちょいと手招きをしてきた。つられてそちらに近づいてゆくと、そこには大きな石塊が顔を覗かせている。これを退かさなければ、道路を歪に曲げて敷設しなければならないだろう。
「なるほど。この大きさとなると、スタッフたちではちょっと厳しいか」
「これを吹っ飛ばせいいのぉ? 了解ー。それじゃ、カヤはダイナマイト代わりに頑張るぅ」
 わらわらと後退してゆく妖精たちと入れ替わるように、花鵺が前へと歩み出る。彼女が腕を振るとぽつぽつと小さな狐火が生まれてゆく。その数、都合六十と六。
「う~ん、と。見えているところ以外にも、地面の下にけっこう大きな部分もあるみたいだから……これくらいは必要かなぁ」
 それらは互いに合体し合い、見る間にその大きさを増してゆく。地表に覗いている岩石と同程度の直径にまで成長させると、焔塊を投擲した。
「これなら……せーの、ドーンッ!」
 火球が岩石に触れた瞬間、内部に閉じ込められていた熱量が一気に解放されて膨れ上がる。その衝撃は見えている部分は当然、地面の下に隠れていた岩石本体すらも打ち砕き、周囲の土砂ごと抉りだす様に粉砕していった。
 余りの勢いに地面が振動し、濛々と土煙が立ち昇る。それらが晴れた時、それまで岩のあったはずの場所はぽっかりとすり鉢状のクレーターと化しているのであった。取り合えず、障害物の排除と言う目的自体は達成している。
『…………ヨシ!』
「いやまぁ、結果オーライかな。うん。それじゃあ引き続き頼むよ」
 安全確認の為、何故かヘルメットを被った猫妖精が近づき、地盤などを調べて問題ない旨を報告する。その言葉に一抹の不安を覚えつつも、ジュリアは彼らに作業の再開を命じた。
「エヘヘ、こーゆーのはカヤにお任せだよ。どんどん任せてくれて良いんだからぁ……お、っととと?」
 誇らしげに胸を張る花鵺。しかし、ぐらりとその身体が傾ぐ。よくよく見ると、その額には幾筋か汗が見て取れた。作業開始から既に時間が経過しており、太陽は徐々に中天へと近づいている。恐らく強まってきた日差しに当てられたのだろう。
「あ、暑いぃ。狐の姿に戻ればちょっとは涼しく……あ、駄目だ毛皮のせいでもっと暑くなるぅ」
「なるほど、日差しか。ボクも見ているだけじゃない。ここらで一働きしておこうか」
 その様子を見ていたジュリアはさっと上へ顔を上げて口を開くや、そこから灰色の煙が立ち上り始める。本来は敵の視界を奪う撹乱用だが、こうすれば日除け代わりにすることも出来た。空全てを覆うほどではないにしろ、頭上一帯に影が生まれて熱射を和らげてくれる。
「コホッ……これならどうかな?」
「あ、日差しが直射しないだけでも、結構楽かもぉ。ありがとー!」
 口を水筒の水で濯ぐジュリアの横で、花鵺が心地よさげに目を細める。彼女は次いでとばかりに手近な布を引き寄せると、それを服代わりに体へ巻き付けていた。通気性と言う点では普段着よりも良いはずだ。
「それじゃあ、どしどし道路を作っていこ~!」
「反対側からも進めているはずだし、遅れず定刻通りに進めたいところだね」
 トラブル対応に淀みなし。そうして二人は引き続き道路敷設工事を進めてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鞍馬・景正
道の敷設ですか――気の遠くなる作業ですね。

しかし……我が故郷である関東も遥か昔は荒野に等しい化外の地だったと伝え聞きますが、今でこそ天下の中心。

次の世代、そのまた次の世代への支えになれば御の字と言えましょうか。

◆敷設
愛馬に【騎乗】し、ある程度先の地点まで観察しましょう。

大岩程度なら【太阿の剣】で破砕し除けるでしょうが、涸れた河はその幅と深さに応じて橋を渡すか、避けた道を作るか。

そして地図に想定する道を書き起こしておき、付近の情報もついでに綴っておきましょう。
後々測量や整備など行う際、参考程度にはなる筈です。

して、舗装ですが……この"ろーらー"、なるものを【怪力】で引くか押せばいいのですか?


シキ・ジルモント
◆POW
進路上の邪魔な岩を砕いて道を拓く
手作業では時間がかかる、砕く際にはユーベルコードでの破壊を試みる
物資の運搬や先の偵察にはバイクを利用し、砂塵に視界を奪われないようゴーグルで目を守る

涸れた河に足止めされたら、通れる程度に埋め立てて整えたい
資材を節約する為、埋め立てにはさっき砕いた岩を利用する
本格的な橋をかけようとすれば時間も資材も必要だ、今はひとまず通れる程度でいい
それはこの道が完成してから改めて作っていくこともできるだろう

一気に全て完璧にと考えると途方もない、周囲と協力してできる事から一つずつ確実にこなしていく
…道を敷くのは慣れない作業だと思っていたが、案外性に合っているかもしれないな



●原野を踏破し、乾河を越え、前へ、前へ
「道の敷設ですか――気の遠くなる作業ですね。作業量だけでなく、その先も含めた上で」
 作業開始より数刻が過ぎ、地平線上に在った太陽は既に中天近くまで昇っている。乾いた風に混じる砂塵を首に巻いた布で防ぎながら、鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は愛馬に跨り周囲の偵察を行っていた。手元には簡素な地図が握られ、幾つもの文字が記されている。
 予想していたことだが、地形状況は劣悪の一言に尽きた。大岩や車両の残骸、照り付ける日差しに襲い来る砂嵐。それらは何とか対処できているものの、やはり乗り越えるのには少なからぬ時間が掛かる。景正は先行することによってそう言った障害物を把握し、取り除いておくべきだと考えていた。
「しかし……我が故郷である関東も遥か昔は荒野に等しい化外の地だったと伝え聞きますが、今でこそ天下の中心。それもひとえに道と基礎があればこそ。道を繋ぐことにより次の世代、そのまた次の世代への支えになれば御の字と言えましょうか」
 青年は己が父祖の労苦を想う。今でこそ徳川治世の政が江戸へ完全に移ったとはいえ、一昔前の関東と言えば魔境薩州ほどではないにしろ田舎の代名詞だった。それが今のように発展したのは、土地を切り開いた人々の努力あればこそ。景正としてはその姿勢に倣わぬ道理はなかった。
「……ここら辺の目ぼしい障害物は粗方片付けた。舗装自体は後続に任せて、もう少し進んでも良いだろうな」
 とそんな時、もう一つの機影が若武者へと近づいて来る。唸りを上げる内燃機関を抱いた鋼の騎馬、それに跨るのは同じように先行偵察を買って出たシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)だ。砂塵除けのゴーグルを反射させる彼の手には、銀色の愛銃が握られている。特注の弾丸による大威力射撃によって、岩石や鉄骸を問わず粉砕して回っていたのだ。
「ええ、そうした方が良いでしょうね。余り長居をしていると、日差しの影響も怖いですし」
「陽が落ちたら落ちたで冷え込みも激しいはずだ。どちらにせよ、時間は掛けるべきではないだろう。後続が速やかに作業へ移れるよう、クリアリングはしてし過ぎることはない」
 馬の嘶きと鉄騎の唸りが荒野に響く。景正とシキは土煙を曳きながら、緋色と黄土に染め上げられた大地を駆け抜ける。道中で見つけた障害物については刃で斬り断ち、銃弾で穿つことによって足を止めることなく排除していった。
 そうして二騎は暫し前へと進み続け……ある地点で同時に足を止める。
「涸れた河、か。水の匂いはしないから、地下水脈や地盤云々について考えなくていいのだけは幸運か」
 バイクのエンジンを止めて下りながら、嗅覚に意識を集中させるシキ。彼の言葉通り、二人の眼前には水が通わなくなって久しいであろう乾河が横切っていた。左右を見渡しても途切れている様子は無く、迂回は絶望的である。
「参りましたね……向こうの拠点と道を繋げるには、どうしてもここを突っ切らなければなりません。迂回路が取れそうにもないとなると、橋を架けるのが次善でしょうか」
「……いや、現状だとそれも難しいだろう。持ち込んでいる資材は飽くまで道路舗装用のものしか無い上、本格的な橋を架けるには時間も技術もない」
 景正の提案に、シキは愛車に括りつけた資材や道具を一瞥しつつ首を振る。橋を架けるとなれば鉄骨や木材等が必要となるが、今回それらの持ち合わせは無い。拠点に頼んだところで捻出できるかは望み薄である。
「となると、取れる手は大分限られてしまいますが」
「そうでもないさ。もっとシンプルにいこう。砕いた岩石の位置は記録してあるか?」
「それは勿論……ああ、成程。埋めるつもりですか」
 シキの言葉から景正はその意図を瞬時に読み解いた。向こう岸へと道を通すだけで在れば、穴と同じように河の一部分を埋めるだけでも当座は十二分。その為の材料も、彼ら自身の手で準備済みだ。
「今はひとまず通れる程度でいい。それ以上については、この道が完成してから改めて作っていくこともできるだろう」
「分かりました。ただ、量自体は十分でしょうが砕いたせいでどれも小粒です。何か、芯になり得る大きさのモノがあれば良いのですが……っと、これは」
 地図と実際の風景を見比べていた若武者は、少し乾河を下った岸辺に巨大な岩が迫り出しているのを発見する。現在地からの距離、ぱっと見の大きさ、丸みを帯びた形状。あれを核として砕石を積み上げる形で在れば、安定した足場を構築することも可能だろう。
「あの大岩を此処まで運べれば、作業が大分短縮できそうです」
「動かすのは紐でも括りつけて、レラとそちらの馬で引けば何とかなりそうだな。問題はどうやって埋まっているあれを取り出すかだが……」
 幸い、巨石は半身を飛び出させた形で埋没していた。周囲の土を崩し、衝撃を与えてやれば自ずと川底へ転がり落ちるだろう。シキは愛銃へ新たな弾倉を籠め直し、景正は太刀を鞘走らせる。
「こちらが楔を穿つ。槌の役目は任せた」
「巌を断つというのも武芸の誉れ。我が技の冴えを御覧に入れましょう」
 シキが銃を構えると同時に、景正が飛び出してゆく。人狼が尋常でない炸裂音と共に解き放った弾丸は合計三発。それらは仲間を追い越し、巨石の根元へ等間隔に着弾した。土埃を舞い上げながら、大質量がぐらりと傾ぐ。そこへ間髪入れずに距離を詰めた景正が飛び掛かる。
「是の剣は、金鉄の剛きより玉石の堅きまで、自由に伐れて天下に刃障になる物なし」
 ――太阿の剣、ここにあり。渾身の力を籠めて振りぬかれた一刀が、岩肌へと叩きつけられる。周辺地形すら歪ませる程の大威力を立て続けに浴びせられれば、さしもの大質量も踏み留まることは不可能。
 巨石は徐々に傾きの角度を増してゆくと、とうとう川底へごろりと転がり落ちてゆくのであった。
 
「ええと、あとはこの"ろーらー"なるもの、でしたか。この重しを引けば良いのですね?」
「ああ。下の様子はこちらで見ておくから、向こう岸までそのまま行ってくれ」
 巨石を叩き落したのち。景正とシキは巨石を道路の端まで運び、回収した砕石で組み合わせ終わると、最後の固め作業へと入っていた。景正がローラーで集積した岩を上から圧しつつ、万が一崩れぬよう下の様子をシキが見張っている。
(橋に限らず、一気に全て完璧にと考えると途方もないだろう。だから、周囲と協力してできる事から一つずつ確実にこなしていく……こういうのも悪くはない)
 道を敷くのは慣れない作業だと思っていたが、案外性に合っているかもしれないな。仲間の作業へ目を向けながら、人狼は胸の中でそう漏らす。ゆっくり時間を掛けてローラーを進めることで、がっちりと石同士が噛み合うのを感じられた。これならば耐久性は十分だろう。
「下は問題ない。これでまた先まで作業できるな」
「ついでに、川の正確な幅や深さも測量してあります。今はまだ手を付けられませんが、こうした情報も後々発展の役に立つはずですから」
 ローラーを引き終えた景正はうっすら汗を掻いているが、まだまだ余裕がある。二人は引き続き道路敷設の下準備を進めるべく、荒野を駆け抜けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アメリア・イアハッター
【空響】2名
この荒野の先に、飛行場があるんだよね
この世界の空を目指す人々が作った、空飛ぶ機械
とっても興味あるな!
ワンワンも興味あるでしょ?
それならほらほら、早く作って先に進みましょ!

宇宙バイク「エアハート」に跨り走行
運搬や敷設の諸々はワンワンに任せ、敷設予定地に障害物がないかを見て回る
その他機動力を活かし、連絡役や雑用もこなす
どれだけこき使われていても、飛行場へのワクワクから文句は言わない
誰かを後ろに乗せて送迎するのもOK

障害物があれば、飛び越えたりUCを発動して破壊したりどかしたり引っこ抜いたり
皆と協力しながら道路を完成させていこう

完成した道路って、バイクで思いっきり走ってもいい?
だめ?


フェーズ・ワン
【空響】2名
道路か、作ったことはなかったな
ちゃんと使えて、そんでもっていい音で車が走れるような道路を、一つ作ってみるか
あん?飛行機?
そりゃ興味あるが……確かに一台くらい貰ってもいいかもな

資材を積み込んだ改造バン「F.O.V.」に乗り、ゆっくり進めながら道路を敷設していく
道路の敷設にはUCを使って複製した人型自律兵器「タップ」を用いて人海戦術で進める
他の自律兵器には、拠点と車を往復してもらって残りの資材の運搬等を指示
地味だが確実にってな

嵐が来ればアメリアや味方がいれば車に乗ってもらい、やり過ごそう
居住性はまぁ、そこそこってとこだけどよ

思いっきり走るのは全部終わってからな
俺だって走りてぇんだからよ



●来たりて作り、過ぎしは駆けて
 時刻は丁度正午ごろ。いよいよもって照り付ける日差しが強くなる中、ジリジリと陽炎の揺らめく道路上に四角いシルエットが現れる。エンジンの快音を響かせて現れたのは、資材を満載した一台の改造バンだ。
「道路か、作ったことはなかったな。壊れるのが前提ってのは分かるが、それでもやるからにはキチンとしたものに越したことは無い。ちゃんと使えて、そんでもっていい音で車が走れるような道路を、一つ作ってみるか」
 ハンドルを握るフェーズ・ワン(快音響・f06673)は車体を通して伝わってくる路面状況を全身で感じ取っている。道路としてみれば現状は悪くはない。しかし音の響きと言う点では今一歩と言ったところ。自身の納得がいく道路作りというのも面白いだろうと彼は考えていた。
「話によるとこの荒野の先に、飛行場があるんだよね? この世界の空を目指す人々が作った、空飛ぶ機械……とっても興味あるな! ワンワンも興味あるでしょ?」
 一方、助手席に身を預けたアメリア・イアハッター(想空流・f01896)は道の先について思いを馳せていた。開け放たれた窓から風が流れ込み、被った赤い帽子がパタパタとはためく。彼女は空に強い憧憬を抱いていた。そして人が作り上げた鉄の翼にも、同じように。そう楽しげに問いかけてくるアメリアに、フェーズはふむと思案する。
「あん? 飛行機? レシプロでもジェットでも、中々良い音を出してくれそうだからな。そりゃ興味あるが……確かに一台くらい貰ってもいいかもな」
「それならほらほら、早く作って先に進みましょ!」
「オーケイ。丁度最端部に到着したようだし、そういうなら始めようぜ?」
 キュッとタイヤが路面と擦れながら停止する。仲間たちが作り上げた道路は此処までだ。その先を築くことが、二人の仕事。アメリアは勢いよく助手席から飛び出すと、自前の黒い流線形のバイクを取りして跨り、エンジンに火を入れる。
「道路の敷設作業はワンワンに任せるから、私はこの先の地形状況を見て来るよ。もし何か用事があれば呼んでね?」
「人手のアテならあるし、こっちもどんどん進めるつもりだからな。もし邪魔な岩やスクラップが在ったら、見つけ次第退かしてくれ」
 そうして二人は二手に分かれ、それぞれの仕事へと専念してゆく。遠のくアメリアの背を見送りながら、フェーズも車から降りるとぱちりと指を一つ鳴らした。
「作業内容としては地味だが、正確かつ確実にってな。その点、こいつらなら心配はない」
 荒野に出現するは数種類の機械群。人型を中心に、隼や犀の姿をしたメカが一機ずつ混じる。駆動音にまで拘ったフェーズ謹製の機械たちだ。彼らはそれぞれの機能に従い、荷物の運搬や舗装作業へと従事し始めてゆく。
「取り合えず、この周辺は特に問題もないか。ただこの調子だと、F.O.V.に詰め籠めた資材だと足り無さそうだな……」
 作業の進捗自体は極めて順調。しかしそれに比例して資材の消費も早くなる。どこかのタイミングで拠点側へ取りに戻るべきだろうかと懸念していると、周囲を見て回っていたアメリアが丁度戻ってきた。
「敷設予定のルートに幾つか大きめの穴が開いているみたい。塞ごうにもちょっと数が多そうだから、どの子か貸して欲しいんだけど駄目かな?」
「ああ、それならタップを何体か向かわせる。それよりも、持ってきた資材が底を付きそうだ。ウィンズとスピナーを付けるから、拠点までひとっ走りしてくれないか」
「資材の調達だね! 必要な種類と量を教えて、すぐに持ってくるから!」
 二言三言打ち合わせると、戻ってきて早々アメリアは機獣たちと共に元来た道を引き返してゆく。工事が進み拠点への距離も馬鹿にはならないが、彼女が不平を言う様子は無い。早く飛行場まで道を届かせたい。その想いが少女を突き動かしていた。
 そうして継続した舗装作業と資材調達の往復によって、道路は先へ先へと伸びてゆく。この調子ならば日が暮れる前に終われそうか。そうフェーズが思い掛けた矢先、何度目かの資材運搬から戻ってきたアメリアが慌てた様子で飛び込んできた。
「ちょ、ちょっとだけ不味いことになったかも!?」
「どうした、資材が無くなったのか?」
「そうじゃなくて、あれ!」
 フェーズの疑問にアメリアは地平線を指さす。その先には茶褐色の壁が、否、濛々と砂塵を巻き上げる砂嵐の先ぶれがあった。こうして視線を向けている最中にも、それらは急速な速度で二人の元へと迫ってきている。機械たちは兎も角、人の身で飲み込まれれば鑢にかけられたが如く削り殺される死の風だ。
「危なかったな、早めに見つけてくれて助かった。F.O.V.の中なら安全だ、一先ず過ぎ去るまでやり過ごすか」
「うう、作業が止まって道路の完成が遅れちゃう……」
「泣くな泣くな。その分のペースも稼げてるんだから、トータルではプラスになるって」
 嘆く友人を車内へ押し込みつつ、青年も続けて乗り込みドアを閉める。数秒の間を置いて、窓から見える風景が褐色に染め上げられる。同時にザリザリという不快な音が車内へと漏れ聞こえてきた。
「この音は、ちょいと微妙だな」
「……もしも、自由に空が飛べたなら。こんな砂嵐なんて気にせずに済むのかな」
 詰まらなさそうに膝を抱えるアメリアの呟きに、フェーズは微かに眉を上げる。彼女は窓の外へ顔を向けていたが、ガラスの反射越しにその表情を窺うことが出来た。肩を竦めつつ、彼は問い掛けに応ずる。
「ああ、そうだろうな。もしかしたら、地面を走る砂嵐だって悠々と眺められるかもしれないぜ」
「それは……それはとっても面白そうだね!」
 砂嵐の間、ふたりは取り留めのない言葉を交わし、過ぎ去ってからは道路舗装作業を再開してゆく。そうして開通までにはまだまだ遠いものの、彼らは区切りの良い部分まで工事を完了することが出来た。後ろを向くと、黒々とした真新しい直線が荒野に伸びているのが一望できる。
「随分長くなったねぇ……ねぇねぇねぇ、完成した道路って、バイクで思いっきり走ってもいい? だめ?」
「思いっきり走るのは全部終わってからな。俺だって走りてぇんだからよ。どうせなら、二人でツーリングしようぜ」
「あ、良いねぇそれ!」
 自分たちの成果を誇らしげに、楽しげに語るフェーズとアメリア。二人は更なる楽しみを胸に抱きながら、再び作業へと戻ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
【morgen・2】

…はぁ…眠い…
ああ、夜明けがきれい…ですね…
…大丈夫…すぐ本気出すので…

邪魔な岩はwithで砕いて進む
1人では大きすぎる岩なら、一駒さんと一緒にせーので砕く!
…はー、これを『ろばん』とかいうのに使うんですね?資材も節約出来て良いかも!さすがですっ

砂嵐が近づいて来たらUC発動
…一駒さんもうちょっとこっち来てください。吹き飛ばされたくなかったらっ
纏う風をバリアのように拡げ、一駒さんと自身を嵐から守ります
わ、ありがとう。まだまだ平気ですっ

…一駒さんはこの世界に来たのは初めてなんですよね
この道も、世界の希望の光になるんですよ
それを自分の手で作れるなんて、すごく素敵やと思いませんか?


一駒・丈一
【morgen・2】
相変わらず結希は朝が苦手か
見てみろ、荒野の日の出も良いものだぞ
一日は長い。本調子になるまでのんびりやろう

さて
結希と一緒に邪魔な岩を破壊して回ろう
俺はUC「罪業罰下」で、岩を一気に切り刻む
障害物の排除が主目的だが
砕いた岩を砕石として道路の下地に使えば、道の強度も増す。いわゆる路盤として転用しよう

っと、こんな時に砂嵐か
お言葉に甘えて、結希の風バリアで凌ごう
何時ぞやの相合い傘は気を使ったが、この状況下ではそうも言ってられん
先ほどから働きづめだが、大丈夫か?(そういって、水筒の水を差し出す)

そうだな。今はまだ微かな光でも、集えば人々の拠り所たり得る
よし、もう少々土木工事を頑張ろう



●明日を望み、『希望』へ向けて
 白々とした夜明けは過ぎ、さりとて昼間とも呼びきれぬ曖昧な時間帯。体を照らしゆく輝きを受けて、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は眠たそうに眼を凝りながら欠伸を噛み殺していた。
「……はぁ……眠い……」
「なんだ、相変わらず結希は朝が苦手か。見てみろ、荒野の日の出も良いものだぞ。人間、陽の光を浴びなきゃ目が覚めないからな」
「……大丈夫……すぐに本気出すので……もうちょっとだけ、時間があれば……」
 未だぼんやりとした雰囲気を纏う仲間の姿に、一駒・丈一(金眼の・f01005)は微苦笑を浮かべる。作業量は決して少ないとは言えない。だが別段期限がある訳でもないのだ、焦る必要もまた無いだろう。
「一日は長い。本調子になるまでのんびりやろう。良ければ糧食でも食べるか?」
「あれ、味がちょっと微妙じゃないですか……でも、頂きます」
 丈一から手渡された携帯食糧をもそもそと齧っていると、ようやく血が巡り始めたのか結希の瞳が常の快活さを取り戻してゆく。彼女は最後の一欠けらを口の中に放り込むと、手を拭ってから愛剣を引き抜いた。
「さて、と。腹ごなしも出来ましたし、作業を始めましょうか!」
「目が覚めたようで何よりだ。それじゃあぼちぼち始めるとしますか」
 頷きながら、丈一もまた杭と刀を両手に握りしめる。二人は共に肩を並べながら、道路の端から荒野へと降り立つのであった。

「えーと。確かこうして砕いた石を……『ろばん』とかいうのに使うんですね?」
「『路盤』だな。破壊と修繕が前提とは言え、強度を考えればそちらの方が良い」
 荒野に断続的な破砕音が響く。まず結希と丈一の二人が取り掛かったのは、大岩や倒木と言った敷設予定地上の障害物の排除からであった。斬撃が岩石を手ごろな大きさへと裁断し、大きなものに関しては杭を打ち込み罅を入れてから二人掛かりで一気に砕く。そして、その作業には更なる目的があった。
「道路の表面に石を敷いて押し固めるって方法もあるが、それだと鍍金と同じように壊れやすく剥がれやすい。少しばかり地面を掘り返してやって、砕石を埋め込んでやればそいつらが芯となって強度が増す。例え表層が剥がれても、路盤は残るって寸法だ」
 さらにその間へ目の細かい小石も流し込んでやれば、圧した時に隙間なく組み合わさってより強固になる。丈一はそう解説しながらも、手を止めることなく作業を続けている。拠点側が捻出してくれた資材の量は十分だが、同時に貴重なものだ。現地調達出来る素材で代用できるのであれば、それに越したことは無いだろう。
「おぉ~、それなら資材も節約出来て良いかも! さすがですっ!」
「ま、傭兵稼業なんざいつでも十分な準備が出来るとは限らんからな。場数を踏むうちに自然と身についただけだ」
 感嘆の声を漏らす少女に、男はやや照れくさそうに笑みを浮かべた。
 そうして二人は砕いた石を集め、地面を斬り抜き、砕石で埋め立てるという作業を繰り返してゆく。そんな中、真っ先に異変に気付いたのは結希であった。
「……吹いてくる風が熱を帯び始めた? 一駒さん、いったん作業を止めた方が良さそうです」
 彼女は手早く取り掛かっていた作業にキリを付けると、仲間の元へと走り寄る。何事かと顔を上げた男も、彼女の視線を追って事情を理解した。その先に見えるは、地を舐める様に迫り来る褐色の津波。
「っと、こんな時に砂嵐か。事前に聞いてはいたが、速度が予想よりもだいぶ早いな」
「……一駒さん。吹き飛ばされたくなかったら、もうちょっとこっち来てください。範囲からはみ出すと削り取られますよ!」
「オーケー、お言葉に甘えよう。何時ぞやの相合い傘は気を使ったが、この状況下ではそうも言ってられん」
 このような状況ではムードもへったくれもない。慌てて身を寄せ合い結希が暴風で周囲を覆うのと、砂嵐の到着はほぼ同時だった。一瞬にして辺り一面が褐色に染め上げられる。もし飲み込まれていれば飛び交う砂塵に削がれ、高熱で水分を奪い尽くされていただろう。
「ぞっとしないな、こいつは……ああ、そうだ。先ほどから働き詰めだが、大丈夫か? 今のうちに飲んでおくと良い」
「わ、ありがとう。まだまだ平気ですけど、有難く頂戴しますねっ」
 丈一から差し出された水筒に口をつけ、結希はゆっくりと中身を飲み干してゆく。汗の止まらぬ極東の温帯と違い、乾燥地帯は常に水分が蒸発し続ける。気付かぬうちに進行する脱水症状は死に直結する為、こまめな水分補給は実際大事だ。
「こんな状況だが気分は兎も角、体を休める時間くらいにはなるだろう。先は長いんだ、最初から飛ばす必要もないしな」
「工事の後は戦闘ですからねぇ……でもまぁ、準備運動としては丁度いいですよ」
 ともあれ、結希の纏う風にて防護は十二分。そうして暫し二人で佇んでいると、やがて砂嵐があけた。風を止めて周囲を見渡せばどこもかしこも砂まみれではあるものの、それでも道路の黒灰色の直線は黄土の中に見て取れる。
「ん~……」
 結希は強張った体を大きく伸ばしながら、そんな荒涼とした光景を眺める。ふと、彼女は丈一へと問いを投げかけた。
「……一駒さんはこの世界に来たのは初めてなんですよね?」
「ん? ああ、そうだな。これまではたまたまタイミングが合わなかったが」
 服についた微かな砂を叩いて払いつつ丈一は頷く。それを聞いてくるりと振り向いた結希の顔には、どこか期待に満ちた表情が浮かんでいた。
「この道も、いずれは世界の希望の光になるんですよ。それをこうして自分の手で作れるなんて、すごく素敵やと思いませんか?」
「そうだな。今はまだ微かな光でも、集えば人々の拠り所たり得る。星の輝きだって一個一個は小さいが、集まれば先を見通せるだけの明かりを齎してくれる……千里の道もまずは小さな一歩から、だ」
 少女の晴れやかな笑顔につられてか、男の顔にも自然と笑みが浮かんだ。丈一はパンとひとつ手を打って再び得物を取り出すと、砂に覆われた荒野へと向き直る。
「よし、もう少々土木工事を頑張ろう」
「はいっ。作業が止まっちゃった分を取り戻しつつ、より良い道路を作りましょう!」
 そうして再び、終末の荒野に小気味の良い破砕音が響き始めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御堂・銀
成程、道を敷けばよいと。
我は工兵の真似事は不得手なれど、手伝いであれば任せるがよい。
拠点よりの資材空輸、ついでに炎天を多少とも和らげる為に日陰になるか。
作業をするものの上を翔び、我が影を日除けにするのだ。
機関の臨界駆動による秘奥にて氷を生めば給水もできよう。道の脇に落とした氷塊を刀で削り砕いてかき氷でも馳走するか?
無味だが活力の足しにはなろう。



●空飛ぶ黒影、氷を降らし馳走する
「成程、荒野に道を敷けばよいと。我が本領は敵騎を断つ刃。故に工兵の真似事は不得手なれど、手伝いであれば任せるがよい」
 雲一つなく広がる蒼空に、墨を一滴落としたかのような黒影が舞う。背にはプロペラと蒸気式機関を備えた翼を広げ、それと接続された甲冑は戦国時代の武者甲冑を思わせる。しかしてそんな武骨な鎧より発せられるは、若い女の涼やかな声音。
 機甲甲冑の纏い手である御堂・銀(筑後御堂守月銀・f26080)はゆっくりと旋回しながら、眼下の情景へと視線を走らせていた。その手には普段握り締めている蒸騎銃や太刀の姿は無く、代わりに資材を満載した大袋が抱えられている。重量としては馬鹿にならないにも関わらず、その機動には些かの鈍りは見えなかった。
「壱、弐、参……肆に伍。少なくない数の同輩らが、此度の求めに応じ馳せ参じているようだな。だがしかし、彼らへの資材供給が追い付いておらぬと見える。石工の手妻は在らずとも、飛脚伝令の真似事程度であれば果たせよう」
 彼女はゆっくりと高度を下げると、地を舐めるような低空飛行で作業現場を縫い翔けてゆく。そうして残りの資材量が心許ない現場を見つけるや、詰まれた山へと己の抱えた物資を載せ加えていった。一度に運べる量はたかが知れているものの、そこは速度と柔軟な判断で補うことが可能だ。
「兵站に関してはこれで当座は凌げよう。とならば次なる懸念は同輩らの体力か。我には甲冑があるが、そうでない生身の身にこの日差しは堪えるだろう」
 続いて銀は主機出力を落とし、ゆっくりと自らの速度を減じてゆく。炎天下の作業はただ立っているだけでも体力を奪い去る。だが下に広がるのは何処まで行っても黄土と緋色の混じる乾いた大地のみ。屋根は元より、木陰の一つも見当たらない。如何な猟兵とて、これでは早晩倒れる者も現れよう。
「せめて我が身を影とし、一時だけでも熱射を遮る頼りとなれば良いが……いつまでも舞い続ける訳にもゆくまい。となればあとは、そうだな」
 女武者は作業者の上空を旋回し続ける事により、己自身を日除けにせんとする。直射日光を遮断すれば消耗は遥かに抑えられるものの、この方法では一度に影へ収められるのは多くて三人が精々。他に何か手が無いものかと思案した銀は、ポンとひとつ手を打った。彼女は蒸気機関の出力を臨界まで上昇させてゆく。だが生み出される熱量は速度ではなく、別の事象を成す為に収束を始めた。
「……黒天に 登らぬ夜の凍月よ 千代に八千代に君と眠らむ」
 口遊まれる詠唱。それが契機となって、生み出された力が地面へ落ちる影を経路として形を結ぶ。ぱきりと、音を立てて大地へ生じたのは一抱えもあるであろう巨大な氷柱である。使い手が許さぬ限り、決して溶けぬ無熔の凍気。これぞこの機甲甲冑が秘める異能、その一端であった。
「さて、これを水へと戻し飲料とするのも悪くはないが……より涼の取れる方が気分も良かろう」
 銀は氷柱のすぐ傍へと着陸すると、得物を鞘走らせる。そのまま目にも止まらぬ速さで幾度も刃を振るうや、氷柱は微塵に切り刻まれて細かな雪片へと変わってゆく。そうして出来上がったのは、まごう事なきかき氷であった。
「生憎と蜜の手持ちは無し。故に無味だが、この冷たさだけでも活力の足しにはなろう」
 彼女は作業現場の隅に置かれていたコップや水筒を見つけると、それを借りて氷を盛り付けてゆく。溶けずの氷は、口に運ぶ時までその冷たさを保ち続けるだろう。銀は盛り付け終わったそれらを両手に抱えると、仲間たちの元へと一服の涼を運んでゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
【路地裏】

さて、と
今回も、道路の敷設作業、だね
頑張っていこう

スマホのバベルをツバメの形状にして、空に飛ばしながら、作業開始
道の敷設自体は、じっくり丁寧に
石を運んだり、しっかり押しつぶして道にしたり、ね
環境耐性やサバイバル技能あるから、多少の悪環境でも構わずに、作業を進めよう

それと同時進行で、バベルに頼んで情報収集
情報収集、偵察、世界知識、撮影に視力
上空から、周辺の情報を集めるよ
今回は、敵の警戒をメインにだけど
それ以外にも、地形や環境、天気の情報も集めたいな
道は、作っただけじゃ無く、そこの情報も大事、だから
作った後、しっかり使い続けられるように、なるべく情報も集めよう


吉備・狐珀
【路地裏】

舗装した道ができたら移動が楽になりますよね。
皆さんの生活が少しでも楽になるのなら喜んで手伝います!

涸れた川って干上がっている間は交通路として使えますけど、一時的な豪雨や雨季の時は水流が出現するんですよね。
横切っている最中に突然水が流れてきて死者が出ることもあると聞いたことがあります。
氾濫することもあるかもしれませんし、うっかり道を作らないように気をつけないと。

黒狐のウカと白狐のウケにラクダに姿を変えてもらい資材を運びをお手伝い。
道路を利用する時に危険な目に合わないように地形をよく観察し、誘導するように資材を置いていきます。
何度も往復するから大変ですけど、ウカ、ウケ頑張りましょうね。


ファン・ティンタン
【WIZ】退廃の地に御伽話を
【路地裏】

文明の衰退した世界、か
過去、何かがそこに在った分、無いものねだりの一つもしたくなるものだね
……ま、求むるなら歩め、かな

例えば、流砂という事象がある
十全な科学の下では物理現象であると解明されているソレ
けれど、世界が、解釈が違えば異形の怪物に喰い付かれた様にも見えるらしいね

こんな世界だからこそ、生まれる逸話もある
漠然たる砂の地に巣くう巨蟲、とか

【精霊使役術】
想像は力を形作るよ
おいで、サンドワーム

眼前の障害を流砂の如きその大口で呑み込み排除していく砂の異形
砂の身を撒き散らすその巨躯は、征くだけで一筋の道を轢き、起伏を均していくだろう

恐るべき怪話も、語りようってね


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
後鬼の、体の方の故郷ではあるが、中身の方はアルダワ出身ゆえ初めてだったかな(制御システム代りにアルダワの鏡の精霊を憑依させています)
まあ、第二の故郷のようなものだと思って力を貸してくれ
……あと、何でしょうね、個人的に道を作るのは好きですね。四神相応的なあれで、私が担当せねば、という本能が刺激される気がするのです……(ここ口調変化)

【行動】
とりあえず重たいものは後鬼に【運搬】してもらうか。二足歩行ゆえそこまで重量は運べまいが、代りに悪路には強いだろう

おれの方は【式神召喚】を使用、本来こちらの式神は鳥型と違い影に潜むのだが、今は作業者を追跡しつつ体を広げ、直射日光を遮断する幕としよう


落浜・語
【路地裏】
前にこの世界来た時も、確か道路を敷設したなぁ……。
さ、今回もちゃんとお仕事しますかね。

と言ったって前にやったのと同じようなことをやるんだけれど。
UC『烏の背中』を使用。カラスの背中に乗せてもらいつつ、カラスと一緒に資材を運搬。
量はそこまで多く運べないかもしれないが、抱えて運ぶよりかは早いだろう。
ついでに敵の基地に近づかない程度に先回りして、進行方向に障害物となるものがあるかどうかを確認。
事前に分かれば、対策を立てる余裕とかもできるだろうし。
カラスにはこの後も頑張って貰う事になるだろうし、ちゃんとねぎらっておかないとな。



●人の繋がり、物の合わせに街の路
 道路舗装作業を開始してから、早半日が経とうとしている。陽はゆっくりと地平へ向けて下り始めていた。そんな照り続けた日差しの熱で陽炎が揺らめく中、五つの人影が道路の最端部に降り立つ。
「さて、と。今回も、道路の敷設作業、だね……大部分は、出来上がっているようだし、残りも頑張っていこう」
「前にこの世界来た時も、確か道路を敷設したなぁ……さ、今回もちゃんとお仕事しますかね。戦闘前の良い準備運動になるだろ」
 まず初めに姿を見せたのはペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)と落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)の二人で在った。彼らは以前にも道路敷設工事の依頼を受けており、今回この世界に立つのは二度目。吹き付ける熱風に青年たちは一瞬だけ顔を顰めるも、面食らわぬのはその経験のお陰か。
「文明の衰退した世界、か。過去、何かがそこに在った分、無いものねだりの一つもしたくなるものだね……砂の下か瓦礫の中か、はたまた廃墟の奥底か。ま、求むるなら歩め、かな」
 次いで現れたファン・ティンタン(天津華・f07547)は強烈な日差しに目を細めつつ、砂塵に覆われた大地を一瞥する。大岩や倒木に混じる紅は、錆に朽ち逝く鉄の骸。文明の名残も今は工事の障害物でしかないという事実に、一抹の寂寥感が胸を過ぎていった。
「舗装した道ができたら移動が楽になりますよね。例え幾度も壊れてしまう物だとしても、皆さんの生活が少しでも楽になるのなら喜んで手伝います!」
 対照的に吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)の声音は明るい。彼女も以前、物資調達の依頼を受けて大型冷蔵庫を探索した事があった。今日を生き延びる為の仕事と、より先の明日へと繋ぐ工事。この世界にとってはどちらも等しく重要であると理解しているからこその明るさなのだろう。
「後鬼の、体の方の故郷ではあるが、中身の方はアルダワ出身ゆえ初めてだったかな。見慣れぬ景色かもしれぬが、まあ、第二の故郷のようなものだと思って力を貸してくれ」
 そうして最後に現れたのは勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)であったが、彼は背後に武骨なシルエットを伴っていた。それは全身からうっすら燐光を放つ二脚機械。式神を制御系としたマシンウォーカ―だ。この世界由来の機体はきっと劣悪環境での作業にも十分耐えてくれるだろう。
「……あと、何でしょうね、個人的に道を作るのは好きですね。四神相応的なあれで、私が担当せねば、という本能が刺激される気がするのです……」
 ぽそりと付け加えた地口調の一言は、風に乗って溶けてゆく。風水と建築は切っても切れぬ間柄、もちろん道や通路も往々にして重要な要素を担っている。特に彼の司る属性は関りが顕著だ。抱く衝動もそれ故だろうか。
 ともあれ、残りの距離もそう長くはないはず。最後まで道を作りきってしまうべく、五人は手早く役割を分担すると、作業に着手し始めるのであった。

「まずは、周辺の警戒から、かな……砂嵐とか、怖いから、ね?」
「こっちとしてもやる事はそんなに前と変わらないかな。今度も頼むぞ、カラス」
 ペインの握るスマートフォンが音を立てて変形し、ツバメの姿を取った。その横では語が本来の姿へと戻った白首の鴉へと跨り、ポンポンと首筋を撫ぜ叩いている。上空からの偵察と物資の輸送、それが一人と二羽の仕事だ。
「量はそこまで多く運べないかもしれないが、この日差しの中えっちらおっちら抱えて動くよりかは早いだろう。他の連中が道路の途中途中に資材を集積してくれていたみたいだし、そこは回数で補うかね」
「……バベルも、情報収集、任せたよ? 異常だけじゃなくて、天候とか、風向きに地形の状況……きっとそういう積み重ねが、これから重要に、なってくると思うから」
 バサリと翼を広げて飛び立ってゆく語と鴉。その後を追わせるようペインが掌を頭上へと掲げると、留まっていた鉄燕も空へと舞いあがる。瞬く間に上昇し、蒼空に姿を溶け消えさせた仲間たちを見送ると、青年は地表へと視線を戻す。
「さて、と。自分も作業に、取り掛からなくちゃね……道路舗装に、適していそうなのは、と」
 敷設予定地に点在する障害物の排除、砕石の敷き詰めに路面の与圧。そうした作業内容を鑑みた結果、ペインの選んだ拷問具は膝砕きと抱え石の二つであった。どちらをどう使うかはもはや言わずもがなである。
「大気は乾燥して、日差しは厳しい……それでもヤドリガミ、だからね。このくらいなら、問題ない、かな」
「待て待て待て、無茶が効くとは言え進んでする必要もあるまい。粉砕した障害物の運搬であれば後鬼に任せてくれ。二足歩行ゆえそこまでの重量は運べまいが、代わりに走破性は悪くないはずだ。あとは、そうだな」
 そうして周囲の環境を気にせずに作業を開始しようとする指潰しへ、陰陽師が慌てて止めに入る。津雲としても重要な作業であることに否は無かったが、余計な消耗は禁物である。無理も無茶も、しなければならないとすればこの後だ。彼は仲間の支援に後鬼を遣わせつつも、更に手元で素早く印を組む。
「乾燥については水分補給程度が精々だが、日差しについては手がある。本来は陰に潜むものだが、こういう使い方も出来よう……救急如律令!」
 最後に錫杖で己の影を付いた瞬間、地面に広がる影が確かな質量を持って膨らんだと思うや、ペインの足元へと這い寄ってゆく。津雲が生み出した式神は己の身体を傘の様に広げると、仲間へと降り注ぐ直射日光を遮断し始めた。試しに青年が左右に動いても、それは付かず離れずぴったりと追従してくる。
「うむ、思った通りだな。これならば作業の邪魔にもならないだろう」
「うん……そう、だね。ありがとう」
「お互いさまと言うやつだ、気にするな」
 ペインは仲間の気遣いに柔らかく微笑を浮かべると、後鬼と式神を伴いながら工事へと戻ってゆく。
 一先ずはこれで大丈夫だろうと津雲もほっと胸を撫でおろしていると、やや離れた先で狐拍が困惑したように佇んでいるのが見えた。傍らには駱駝へと変じた黒白の狐たちが資材を背負って寄り添っていたが、彼らもその場で二の足を踏むばかり。何事かと思い歩み寄ると、相手も気付いたのか視線を向けてくる。
「そんなところに突っ立ってどうかしたのか……って、なるほど。これはまた厄介な」
「ええ。『これ』をどうすべきか、少しばかり途方に暮れていまして……」
 眉根を顰める津雲に、狐拍は困ったような苦笑を返す。彼らの目の前には干上がったと思しき河の跡が横切るように広がっていた。深さ、幅共に中々のもの。かつては立派な河川だったと想像できるが、こうなってしまっては無残の一言である。
「涸れた川って干上がっている間は交通路として使えますけど、一時的な豪雨や雨季の時は水流が出現するんですよね。余りに乾きすぎると、水が染み込んでいきませんから」
 横切っている最中に突然水が流れてきて死者が出ることもあると聞いたことがあります。そう続ける彼女の懸念は、決して過敏なものではない。砂漠に降った突発的な雨によって生じた鉄砲水、それに呑まれて溺れ死んだ旅人の話も頻度こそ少ないが珍しい悲劇ではないのだ。
「氾濫することもあるかもしれませんし、うっかり道を作らないようにしないといけないのですが……これでは」
「ものの見事に行く手を横断しているな。迂回できそうな箇所も近場には無し。だが元とは言え河は河。水に関するのであれば任せてくれ、少し視てみよう」
 津雲は川縁に屈みこむと地面へそっと掌を付ける。こうした河の場合、単に上流から水が下ってくるのではなく、地下部分に水脈が通っている場合も多い。そうなれば厄介さはより上昇するだろう。地盤の緩みや、遠くで降った雨の影響でいきなり水が噴き出す可能性があるからだ。
「……不幸中の幸いだな。水の気配は感じられん。一部分だけでもどうにか埋め立ててしまえば、当座を凌ぐことは可能だろう」
 津雲が読み取った限り、土中も含めて水が含まれている様子はなかった。これで懸案事項は一つ潰れたが、根本的な問題を解決しなければ文字通り先に進むことが出来ない。
「問題はその方法ですね。拠点の皆さんから譲り受けた資材は飽くまでも道路舗装分しかありませんから……」
「なら、その点についてはこっちでなんとかしようか」
 悩まし気に頭を突き合わせる二人へ声を掛けたのは、会話を途中から聞いていたファンだった。道路舗装予定のルートを一通り均し終え、彼女も乾河の存在に気付いたのだろう。
「要はこの河を埋め立ててしまえばいいんだろう」
「可能ですか……?」
「んー、『飲み込む』方が得意だろうけど、やってやれないことは無いだろうね。兎にも角にも試してみようか」
 狐拍の問い掛けに頷きながら、ファンは数歩後ろに下がる。それはこれより起こる現象がどの程度の規模かを知るが故だ。
「例えば、流砂という事象がある。十全な科学の下では、理論によって再現可能な物理現象であると解明されているソレ……けれど、世界が、解釈が違えば異形の怪物に喰い付かれた様にも見えるらしいね」
 科学的に見れば、流砂は世に流布するほど恐ろしい存在ではない。往々にして水よりも浮力が高く、身動きしなければ浮かんでいられる。だが一度恐怖に飲まれ藻掻いてしまえば、途端にそれらは粘体の如く振る舞い、不運な犠牲者を絡め取ってゆくだろう。知恵ある者には単なる土砂だが、無知なる者にとっては巨大な顎に等しい。
「こんな世界だからこそ、生まれる逸話もある。例えば、そう……漠然たる砂の地に巣くう巨蟲、とか」
 ファンが語りを続けるにつれ、さりさりと細やかな音が聞こえ始める。足元を見やれば砂粒が地表を細波の如く移動している様が見て取れた。風によるものか。否、その動きは明らかに大気の流れとは無関係に動いている。砂粒はファンの足元へと集い、そして。
「想像は力を形作るよ……おいで、サンドワーム」
 天上目掛け、一柱の砂が吹き上がった。まるで間欠泉じみたそれは曲線を描くと、乾河の底へと吸い込まれてゆく。その正体は人の想像力によって指向性を与えられた、砂の精霊たちの集合体である。
「ほう、砂喰らいの大長蟲か。これはまた巨大な」
「あの大きさなら大抵の岩なんかは地面ごと呑み込めるからね。さて、両岸一帯を食い崩して、河自体を埋め立ててしまおうか」
 大砂蟲は長大な躰をのたうたせながら、乾河の両側を打ち崩してゆく。乾き切った地面を崩壊させ、自らの重量を以て起伏を均し、凹型だった地形を緩やかな傾斜へと変えていった。そうして一通り作業を終えると、道路を通す予定地点で蜷局を巻き……。
「……で、後は呑み込んだ分を戻してあげれば」
 作業完了、ってね。術を説いた瞬間、内包した土砂ごと大砂蟲がその場へと崩れ落ちる。舞い上がった砂塵が消えると、そこには完全に埋め立てられた幅広の地面が広がっていた。
「おぉ……これなら道路が通せますね! 幅も十分で、仮に水が流れてきても持ちこたえられそうです」
「どんな恐るべき怪話も、捉え方と語りようってね」
「……おっと、少しばかり離れている間にお株を奪われかけちゃ堪らないってな!」
 あっという間の手際に顔を綻ばせる狐拍と少しばかり得意げなファン。二人の頭上にさっと影が差した。見上げた瞬間、降ろされた資材がドスンと言う音と共に地面を揺らす。次いで地に足を付けたのは身軽になった鴉とその背に跨る語であった。
「ご苦労様です、語さん。もうこちらまで来られたんですね」
「ペインの作業が大分順調そうだったからな。もうちょいでこっちまで到達しそうだったし、先んじて置いておこうと思って。タイミング的にも丁度良かったか」
 ガラリと運ばれたばかりの荷が音を立てる。地形状態も改善された今、こうして資材が届けばすぐにでも作業に着手できるだろう。狐拍は届けられた資材の中身を吟味しながら、駱駝へと変じた狐たちを呼び寄せる。
「今のうちに資材を必要な分量ごとに各所へ運んでしまいましょうか。一度に運べる量が少ないから何度も往復する必要があるかもしれませんけど、ウカ、ウケ頑張りましょうね?」
 追加の資材を背の瘤に引っ掛けた袋へと詰め込みながら、狐拍は二頭の手綱を引いて先導してゆく。大雑把に埋め立てられたとはいえ、流石に路面の細かな状況は粗さが目立つ。地面の凹凸や傾斜などに足を取られぬよう、少女は注意深く進みながら一定間隔で資材を置いてゆくのであった。
「何度も往復しないといけないのはこっちも同じだからな。さて、もう一働きしてくるとしますかね」
 仲間の作業を観察するのもそこそこに、語は鴉と共に再び空へと舞い戻ってゆく。と、空を舞う一人と一羽へ近づいてくる小さな影がある。それはペインの飛ばしたバベルであった。小さな翼はクルリと小さな体を捻らせて周囲を巡っている。
「お、お前さんもこっち方面に来ていたのか……そうだな、なら少しばかり寄り道でもしてみますか」
 噺家はふと思い立つと、鉄燕と共に進路を元来た方向ではなく正反対の方角へと向けた。それはつまり、敵の飛行場が存在であろう方面である。荷を降ろして身軽なうちに、少しでも情報を得ておきたいと言う狙いであった。
「ま、とは言えあんまり近づきすぎても危なっかしいからな。最後の区画を手早く終わらせられるよう、メインは地形状況とか障害物の観察で……」
 と、そこまで言いかけた時、語は視界の端に動く何かを見て取った。気になって目を凝らしてもそれは黒い点にしか見えない。だが鴉が警戒するようにカァと声を漏らし、鉄燕が無駄な羽ばたきを止める様子に、嫌な予感が彼の脳裏を過ぎる。
「もしかしてありゃあ……いや、だとしてもこの距離だ、気付くはずが」
 クルリと、まるで見せつける様に黒点は空中で円を描いた。それを見た瞬間、語はすぐさま鴉の首を巡らせて元来た方向へと踵を返す。あの動きが確かにこちらを意識した動きだと直感したからだ。
「おいおい、飛行機乗りは目が良いっていうが限度ってもんがあるだろ。こりゃあ、一気に最後まで工事を進めないと少しばかり危なそうだ。カラスも引き続き頑張ってもらう必要があるだろうな。その時は頼んだぜ?」
 語が労う様に鴉を撫でてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らす。幸い、地形情報自体は頭に叩き込むことが出来た。次に資材を届ける際、仲間たちと情報共有すれば良いだろう……今見た光景も含めて。
 そうして資材を取りに戻ってゆく語と途中で別れ、鉄燕は静かに高度を下げる。目指すは己の主の元。地上で作業をしていたペインも近づく翼に気付いたのか、そっと手を上げて鉄燕を受け止めた。
「おかえり……何か情報は、得られたかな?」
 休める様に翼を畳み、主を見上げる燕。投げかけてくる視線から、青年は彼が何を見聞きしたのかを感じ取る。
「……黒い鷲、ね」
 それが意味するところは恐らく一つだけ。ペインはスマートフォン状態へと戻った燕を懐へ仕舞うと、いま手を付けている場所の作業を終わらせてしまうべくより一層素早く働き始める。
 静かな創造に次ぐ、荒々しい闘争の気配。その予兆はひっそりと、だが着実に猟兵たちへと近づきつつあるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
例え道が破壊されたとしても、一から敷くのと修繕するのでは労力の差は歴然
この世界の復興の礎を築くという形で人々を護る為、騎士として助力したいものです

異世界の航空オブリビオンに備え故郷の軍需工場でHEの技術も組み込み製作して頂いた機械飛竜…AHの環境でも問題なく稼働し何より
遠隔●操縦で資材の航空輸送と天候や地形の●情報収集に当たらせます

マルチタスクはウォーマシンの特技
同時並行で地上では●怪力を活かした敷設やUCの大盾殴打で障害撤去作業
建設業は門外漢、粗さは他の方の助力が欲しい所ですね…

SSW出身の私もロシナンテⅢも●環境耐性は十分
後は飛竜で敵基地に刺激を与えないよう操作や偵察には慎重を期しましょう


セルマ・エンフィールド
うまく傷を少なく奪取できれば敵の飛行場も新たな拠点として使えそうですね。
まぁ、今はひとまず目の前のことから始めましょうか。

【冬の尖兵】を召喚。他の拠点からもらった資材の運搬と道路敷設予定地の整備をさせます。
敵の姿はまだ見えませんし、戦闘力よりも数を重視、合体はさせずⅠを75体で運用します。

氷の兵士たちに作業をさせている間私は『視力』を活かし周囲の様子を見ておきます。
敵の襲撃や砂塵の発生を早めに察知できれば色々と対応ができます。
砂塵が発生したら資材を『ロープワーク』でワイヤーで資材同士をまとめて吹き飛ばされないように。本来はナイフにくくり付けて使うものですが、使えるものは使いましょう。


エドゥアルト・ルーデル
力仕事は他に任せて後方支援ですぞ
今できてる道の中間ぐらいに簡易拠点を作って支援業務に勤しみますぞ
エーテルの風が吹いても大丈夫なぐらい頑丈なの作っちゃる

拠点ができ次第戦闘支援ツールで現実世界をちょちょっと書き換えればアラ不思議
手持ちの【UAV】の性能が雑に上がる上がる!見た目そのままにペイロード三倍!最高速度三倍!空中滞在時間三倍!
コイツを複数使えば色々と捗るでござるよ
砂利を輸送したり、上空待機させて気象観測させたり、炎天下の作業員に水筒を配ったり…
そういう訳でUAVの制御しなくちゃなんで今は動けないんでござるよそれが定めなんですぞホントダヨ

アレでござるな土木作業だと遊び心を発揮する場所がねぇな



●次なる戦い、遠き明日を望みて歩め
 時刻はとうに昼を過ぎ、徐々に傾く角度を増しつつある昼下がり。猟兵たちの活躍によって道路はその長さを増しつつあり、もはや背後にあった拠点の姿は見えなくなっている。距離的に考えれば、既に敵の基地の方が近くなっているだろう。
 築き上げた成果を振り返りつつ、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はその労力の程を推し量っていた。
「例え道が破壊されたとしても、一から敷くのと修繕するのでは労力の差は歴然。住民の皆様だけではこうもスムーズにいかなかったでしょう。この世界の復興の礎を築くという形で人々を護る為、騎士として助力したいものです」
「この先に在るという飛行場も、うまく傷の少ない状態で奪取できれば新たな拠点として使えそうですね。とは言えそれも取らぬ狸の皮算用。まぁ、今はひとまず目の前のことから始めましょうか」
 一方、隣に立つセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が視線を向けるのは道の先。飛行場という事で敵の防御も相応に強固であろうが、其処に眠る物資や設備はこの世界では早々手に入らぬ貴重な物ばかりだろう。可能であれば接収したいところだが、それを持ち帰るにも道は役立つはず。どのみち、今は作業を進めるのが先決だ。
「敷設作業中に襲撃を受ける心配はないとのこと。ですので警戒すべきは突発的な砂嵐でしょう。となれば……」
 作業を開始するにあたってトリテレイアが呼び出したのは、装甲と電子基板で構築された鋼の飛竜だった。情報収集は元より、超重量の主を乗せるほどの積載能力は物資運搬にも役立つ。主翼と内蔵バーニアを併用しながら、機竜は蒼空へと飛翔していった。
「異世界の航空オブリビオンに備え、故郷の軍需工場でヒーローズアースの技術も組み込み製作して頂いた機械飛竜……アポカリプスヘルの劣悪環境下でも問題なく稼働し何より」
 防塵、熱射、乾燥。共に問題なし。これであれば急に砂嵐が発生しても先んじて手を打つことが可能だろう。一先ずの安全は確保できたと見ると、セルマも作業へと本腰を入れるべく行動を開始する。
「それではこちらも人手を揃えてしまいましょうか。正確さは有るに越したことはありませんが、単純作業の効率は一にも二にも数ですからね」
 さっと手を一振りするやチラチラと氷の粒が舞い、それらを核として七十体を超す氷の兵士たちが生み出された。ふわりと、乾いた空気に白い靄が立ち昇る。彼らはテキパキと資材の荷解きを行うと、それぞれの役割ごとに分かれて作業に従事してゆく。
「主な構成は見た目通りの氷ですが、私の魔力も混ぜ込んでありますからね。すぐに溶けて動けなくなることもないでしょう」
「おお、これは助かりますね。建設業は門外漢故、どうしても細かなところに粗さが目立ってしまいそうでして……」
 マルチタスク、反復作業は疲れ知らずな機械の領分だ。しかし一方で、持ち合わせぬ機能に弱いのも事実。氷の兵士ならばそんな至らぬところを上手い具合に補ってくれるだろう。
「でしたら、障害物の除去や砕石の運び込みをお願いします。岩石を大まかに砕いて貰えれば、兵士たちに形を整えさせて資材に流用出来ますからね……ここまで前進してしまうと、資材運搬の手間も馬鹿になりませんから」
「確かにロシナンテⅢが居るとはいえ、空輸能力にも限界はありますからね……」
 資材は全てを抱えて運ぶには重く嵩張り、また数も多い。さりとて途中に集積しておくのも砂嵐による破損や窃盗の恐れがある。何か上手い方法が無いかと思案する二人の元へ。
「おおっと、これはグッドタイミングと言うやつですかな? 拙者に丁度いいナイスアイディアがありますぞ……!」
 第三者からの声が掛かる。二人が後ろを振り向くと、そこには迷彩服に身を包んだ髭面の男、エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)が不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
「要は資材をもっと近くに運び込み、かつ安全が確保できれば良いんでござるよな。それなら拙者が道路の中間地点に資材集積場を兼ねた簡易拠点を作りますぞ。拙者がそこに詰めつつUAVによる支援を行うので、安全面も問題ナッシング!」
 彼の提案は正に渡りに船だ。工事作業は何も工具を持って現場に立つだけではない。そう言った裏方の業務もまた地味だが重要な役割である。トリテレイアは暫し思案すると、納得がいったように頷いた。
「ふむ。作業人員自体は一先ず足りていますからね。申し訳ありませんがお願いできますか? 取り急ぎの移動にはロシナンテⅢをお貸ししますので」
「合点承知、エーテルの風が吹いても大丈夫なぐらい頑丈なの作っちゃる!」
 そうして騎士の呼び戻した機竜の背に乗ると、エドゥアルトは元来た道をとんぼ返りで戻ってゆく。その背を見送りつつ、残る二人も作業を再開してゆくのであった。

「おっとと、ここら辺で良いでござるよ。お前さんはそのまま拠点まで物資の回収を頼みますぞ。その間に簡易拠点を作っておりますのでな」
 エドゥアルトはある程度開けた場所を見つけて地面へ降りると、機竜をそのまま拠点へと向かわせた。そうして一人になると腕まくりをしながら空き地を一瞥する。
「さて、と。建物だなんだに資材を使うのも本末転倒でござる。雨が降るような気候でもなし、資材置き場については土壁とシートで囲えば十分ですな。となると拠点は……地下が良さげ、と」
 彼が地面に手を付けて意識を集中させると、ぼこりと地表が凹み塹壕じみた空間が形成された。これならば砂嵐に吹き飛ばされる心配もない。そこまで広くは無い上に彼自身の身動きも取りにくくなるが、元より走り回らずに済む役目である。
 彼は中に入って問題ないことを確認すると、続いて腕部に取り付けた戦闘支援ツールと持参したUAV機群を接続。次々とコマンドを入力してゆく。
「ふっふっふ、こいつで現実世界をちょちょっと書き換えればアラ不思議。UAVの性能が雑に上がる上がる! 見た目そのままにペイロード三倍! 最高速度三倍! 空中滞在時間三倍! これはもう赤く塗ってしまうべきですかな!」
 まるでゲームのプロアクションリプレイじみた技だが、現状では心強いことこの上ない。彼は機竜の後を追う様にUAVを飛び立たせ、物資の回収へと向かわせた。ある程度資材が纏まり次第、次は最端部へのピストン輸送が待っている。
「資材を輸送したり、上空待機させて気象観測させたり……コイツを複数使えば色々と捗るでござるよ。そういう訳でUAVの制御をしなくちゃなんで今は動けないんでござるよそれが定めなんですぞ!」
 ――ホントダヨ?
 誰に聞かせるともなしにそう独り言ちるエドゥアルト。当然ながら誰からもツッコミの入らぬ状況に、ちょっぴり哀しげに肩を落とすのであった。

「あちらも準備が整ったようで、資材の運搬が回り始めましたね」
「後顧の憂いなく作業に没頭できるというのは誠に有難いことです」
 エドゥアルトと別れて暫く経つと、機竜と共にUAVが資材を運び込み始めた。これにより材料不足で作業が出来なくなるという心配は無くなった。トリテレイアが大盾で岩にひびを入れ、騎士剣を振るい叩き割るとそれを氷兵士たちが回収。運び込まれた資材と共に道路へと埋め込んでゆく。
 そんな作業の中、セルマはやや先行し進行予定方向の様子を窺っていた。異変が無いか上空からも警戒しているとはいえ、見張る眼の数は多いに越したことは無い。狙撃手ならではの洞察力で舐める様に視線を巡らせてゆく。
(それに敵の基地ももう近い。何か予兆の様なものも得られるかもしれません、し……?)
 それは飽くまでも念のための行動だった。しかし一瞬、遠くの空に何かが横切ったような気がした。鳥にしては大きく、航空機にしては小さいように思える。
「あれは…………」
「ッ!? セルマ殿、お戻りを。ロシナンテⅢが砂嵐の発生を察知しました。退避行動を!」
 目を凝らそうとした瞬間、トリテレイアから警告が飛んできた。地平に視線を戻すと迫り来る砂塵の壁。空の何かは気になったものの、今は避難が先決だ。
「分かりました。ですがその前に、今ある資材をワイヤーで纏めてしまいましょう。本来はナイフを括りつける用ですが、吹き飛ばされて無駄にする余裕もありませんしね」
 時間は余りないが、かと言って放置することもしたくはない。セルマは兵士の手も借りて手早く応急処置を施すと、踵を返して走り出す。と、そんな彼女の頭上に影が差した。
『おおっと、水筒をお届けして好感度を稼ごうとしたら、ちょっとした修羅場でござるか!? 拙者のUAVに掴まりなされ、このまま簡易拠点まで運びますぞ!』
「すみません、助かります……!」
 スピーカーから聞こえてくるのはエドゥアルトの驚きを滲ませた声。彼の操作するUAVは水筒を放り出すとセルマの身体を持ち上げ、トリテレイアは自前の推進装置で道路を辿る。そのまま二人は簡易拠点へと辿り着くや、転がるように内部へと飛び込む。間一髪、迎え入れた傭兵が扉を閉めるのとほぼ同時に砂嵐が一帯を飲み込んだ。
「ひゅー、ギリギリのところでござったな。一瞬でも遅れていたらお陀仏ですぞ、これは」
「ともあれ、こうして簡易拠点を構築していて正解でしたね」
 砂嵐の音はこの中であれば遠い。安全を確認したエドゥアルトとトリテレイアは互いに顔を見合わせてほっと一息つく。しかし一方で、セルマの表情は張り詰めたままだった。
「どうしましたか、セルマ殿。工事の進捗について心配事……ではなさそうですね」
「ああ、いえ……実は」
 普段から交流のあるトリテレイアは仲間の異変にいち早く気付く。問いかけられた少女は避難前に見た『何か』について仲間たちへと話した。情報としては些細なものだったが、室内の空気が緊張を孕む。こうして振り返ってみれば、それが示すものなど一つしかなかった。
「……敵の基地ももう目前、そういった事も当然ありましょう。嵐が過ぎ去った後は作業と並行しつつ、慎重を期しながら偵察も行うべきですね」
「いやはや、いやはや。アレでござるな。こう土木作業ばかりだと遊び心を発揮する場所がねぇな、などと思ってござりましたが……」
 腕を組む騎士の横では、傭兵がお道化た様に肩を竦めている。その仕草も本心である一方で、彼の瞳には戦いに臨む戦士としての熱も滲んでいた。
「……あちらさんもそろそろ感づき始めてるってこと、か」
 ――面白くなりそうですなぁ。
 道路舗装もそろそろ終わりが見えてきた。猟兵たちも、あるいは敵側も次を見据えて動き出す頃合いという事なのだろう。三人は砂嵐が過ぎ去ると、早急に工事を完了すべく地下拠点より飛び出してゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』

POW   :    Quiet noise
【静穏型ガトリング砲から発射された砲弾 】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    戦術:欺瞞情報拡散
戦闘力のない【情報収集型無人機とダミーオブリビオン 】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【偽情報の流布などを行い、市民からの援助】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    AntieuvercodePulse【AP】
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【疑似代理神格型演算支援システム 】が出現してそれを180秒封じる。

イラスト:弐尾このむ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
第二章断章は22日(水)夜頃を予定。プレイング受付開始日時につきましても、その際に告知致します。
引き続きどうぞよろしくお願い致します。
●Side:Base
 そこは薄暗い室内だった。光源は計器のモニター類が発するバックライトのみ。少し距離が離れてしまえば互いの顔さえ見えなくなってしまうような暗がりの中を、幾つもの人影が忙しなく動き回っている。姿こそ不明瞭だが、姦しく囁き合う声だけは明瞭に闇へと反響していた。
「基地周辺に複数の人影在り。今度は二人じゃ済まないみたい」
「こりゃ、本格的な攻略に来られたね。あの奪還者、やっぱりきっちり仕留めとくべきだったかな。肝心の隊長は何処に行ったん?」
「休暇を取ってベガスに……ってのは冗談だけど、さっき気分転換に飛んでくるって言って離陸してたよ」
「またか。どんだけ探したってここらにお仲間の基地は無いし、隊長のBf109の航続距離なんてたかが知れてるのに」
「取り合えず航空支援要請を打っときますか。帰投時間がいつになるか分かりませんけど」
「つまり今回も、一先ずは私らだけで対処するってことで……あーあ、仕方がない」
 そんなやや気の抜けた言葉を最後に、絶えず上がっていた声がピタリと止まる。代わりに響くのは幾つもの硬質的な音。それは弾倉を銃に取り付ける結合音に、小型無人機の発するローター音や戦闘支援プログラムの起動音であり……詰まるところ、示されるのは明確な戦闘意志。
「「「それじゃあ、殺し合いますか」」」
 ばさりと防塵コートを羽織りながら、機械化を施された異形の歩兵たちは室外へと飛び出してゆくのであった。

●Side:Road
 日の出と共に両拠点より開始された工事は、陽が地平線のやや上へ差し掛かる頃には完了を迎えようとしていた。お互いの距離が縮まるにつれ双方の姿もはっきりと見える様になり、最後の砕石を地面へ埋め込み道路同士が繋がった瞬間には、ホッとした空気すら満ちてゆく。驚異的な速度であったとはいえほぼ一日掛かりの大仕事、達成感を感じるのも当然だ。
 しかし、今はまだ喜びに浸る時間ではないと彼らは知っていた。和やかな雰囲気は引潮の如く消えてゆき、代わりに火薬庫を思わせる緊張感が張り詰めてゆく。
 険しい表情で道路のすぐ脇へと視線を向ければ、そこに在るのは滑走路と屋根付きの整備場を備えた飛行場。周囲は有刺鉄線付きのフェンスで囲まれ、物々しい気配が内部で蠢いている。
 例え道路を完成させたとしても、此処が健在である限りは直ぐにでも破壊され、そうでなくとも道行く人々を脅かし続けるだろう。そんな状態を許してしまえば、今日の労苦は全て水の泡と化す。この世界の未来を繋げるため、そして実際に工事を行った者としても、そんな事態は看過できなかった。

 得物を鞘走らせ、銃器に弾丸を込め、術式を編む猟兵たち。彼らの戦意に反応するように、整備場内部から完全武装した歩兵たちが雪崩を打って飛び出してくる。飛行場を完全に制圧するには彼女らを全滅させる必要があるだろう。
 そうして戦端を開こうとした猟兵たちの間を一陣の風が通り抜けてゆく。彼らはそれが砂嵐の前兆であると身に染みて学んでいた。日が暮れて気温が下がり、昼間の様な暴威はなくなったはずだが、それでも視界を遮る程度の濃さはあるだろう。
 敵は目の前だけではない、この過酷な環境もまた立ちはだかり牙を剥く。だが怯むことなかれ……その無明を乗り越えた先にこそ、明日の光が待つはずなのだから。

※マスターより
 プレイング受付は23日(木)朝8:30より開始いたします。場合により再送をお願いする可能性がありますので、その際は別途個別にアナウンスさせて頂きます。
 第二章内容は航空基地を守る敵との集団戦です。戦場は時たま砂交じりの風が吹き、一時的に視界が不明瞭になる場合があります。大きなマイナス要素ではありませんが、砂嵐対策を盛り込めばプレイングにボーナスが発生します。
 それでは引き続きどうぞよろしくお願い致します。
檻神・百々女
ふふーん、トドメちゃんの術式は新しい段階に到達したのだっ!驚け慄け、これがカミサマの力よー、なーんて!
曇天の彼方でも砂塵が隠したって、太陽はいつだって天にある、だから希望を見失うこともないのよ!それを教えちゃうわーっ
SCRIPT ON!これが最新鋭の神降ろしよ!

(緋想天を起動させて前にガンガン出ていくスタイル。せっかく作った道路を壊したくもないし傷つけられたくもないから、一応は今まで延長してきた結界を起動しつつ神の火の火力を押し付けていく方針)


中津川・シナト
あたしは戦争屋じゃなくて救援屋なんだけどね……
ま、未来のヒトを助けるって事で気張りますか!

後衛部隊の防衛と心理戦を行う
【艤装展開・破】を維持しながら【カタパルト】で召喚した、通信機と多少の防塵効果もあるフィールド発生器を味方全員に配っておく
【ランパート】で遮蔽を作り、攻撃と嵐から味方を【かばう】【拠点防御】に備えよう

【指定UC】で敵の先陣を崩しつつ、得た情報を味方に共有
本番はその後

探査弾の効果と弱点はすぐに分かるだろう
怪しい弾道は迎撃してくるはずだ
それだけ注意と火線が逸れる
【カノン】で【フェイント】の【砲撃】を行いながら何度か同UCで攻撃

敵は情報攪乱も得意のようだけれど、心理戦はどうかな?



●戦端を開け、神なる眼と救援の徒
 姿を見せた機械化歩兵たちは、瞬く間に猟兵との距離を詰めてくる。接敵までおよそ十数秒。その僅かな時間すら無駄にはすまいと、真っ先に反応したのはシナトであった。彼女の背後に聳え立つは巨大なトレーラーベース。重厚さを湛えたそれは、正しく兵站を維持する橋頭保と呼ぶに相応しい威容である。
「飛行場基地の制圧、か。やれやれ、あたしは戦争屋じゃなくて救援屋なんだけどね……ま、未来のヒトを助けるって事で気張りますか!」
 戦闘状態へと移行したトレーラーは、操作者の指示に従いコンテナ部を開放してゆく。大空間から射出されるは幾つもの小型機械。それは装着者へ耐G能力を付与するフィールド発生器だ。加えて、多少ながらも防塵機能を搭載している。シナトが初手に選んだのは性急な攻撃よりも、更に先を見据えた防御構築であった。
「こいつらも厄介だけど、本命はこの後。工事作業の疲れだってあるだろうし、ここで余計な傷を負っている余裕はないんでね」
「おおー、装備するだけで誰にでも使える防御力場……これはトドメちゃんの電脳結界と近しい設計思想を感じちゃうわね! でも、こっちだって負けてないわよーっ!」
 と、シナトのすぐ傍から興味深そうな声が上がる。その源は貸与された発生器をしげしげと眺める百々女だ。技術の普遍・普及をモットーとする彼女にとってそれは好奇心をくすぐると同時に、ささやかな対抗意識を刺激したのだろう。少女は己の背後へと電脳結界を積み上げ、城壁の如く展開してゆく。
「これならちょっとやそっとの流れ弾が飛んできても、簡単には抜けないわよ! せっかく作った道路だもの、壊したくも傷つけられたくもないしね!」
「一先ず、守りはこれで十分だろうね。そら、おいでなすったよ!」
 そうして迎撃態勢を整え終えたのとほぼ同時に、敵が二人を射程圏内へと収めた。途端に始まるは発砲音すら微かにしか聞こえぬ、無音の弾幕射撃である。地面へと着弾し土煙を上げる攻撃への反応は、しかして両者ともに正反対な内容だった。
 即ち……百々女は気の力を刃へと変えながら前へと飛び出し、シナトは防御装甲を展開しながら飛び退った。彼女らは電脳結界と防衛機構によって弾丸を弾きながら、それぞれ応戦し始めてゆく。
「一発一発は確かに中々の威力かもしれないけど、ちょっと角度をつけてあげれば結構受け流せるのよね!」
 敵の火線は当然、切り込んでくる百々女へと集中し始める。彼女は浴びせられる砲弾を真正面からは受け止めず、傾斜をつけた結界によって後方へと弾道を逸らし、移動速度を緩めることなく肉薄してゆく。足を止める事は即座に死へ繋がると理解しているからだ。
「まずはひとりっ!」
 そうして手近な相手の懐へ飛び込むや、得物を一閃。ガトリング砲は絶大な火力を発揮するが、束ねられた銃身は重く、長い。その取り回しの悪さが災いし、ロクに反応も出来なかった歩兵が体を上下に分断されて崩れ落ちた。
「刃ひとつで飛び込んでくるとは、中々な命知らずだ。嫌いじゃないよ、そういうのは」
「でも、こっちの得物はガトリング砲だけじゃないんだよねぇ?」
 しかし、仲間が斃れたにも関わらず歩兵たちに動揺や怒りの色は無い。だが、振るわれる刃には無機質な殺意が確かに籠められている。前と左右、都合三方向から叩き込まれる斬撃を百々女は電脳結界で防ぐ、が。
「っぅ!? 刀身が分離……いや、伸びて結界を回り込んできたっ!」
「いわゆる蛇腹剣ってやつさ。壁持ちで守りの固い相手には、直線的な砲弾よりも曲線的な斬撃が効くってね」
 乾いた砂に舞い散った血が染み込んでゆく。紐で連結された刀身がまるで鞭の様に結界側面から回り込み、百々女へと刃を届かせたのだ。意識外からの攻撃に少女の足が一瞬だけ止まる。その瞬間を待ってましたとばかりに兵士たちが殺到し、敵を物量差で圧し潰そうとした……瞬間。
「戦いは数だってのは一理あるけど、こっちにとっては良い的でしかないんだ……探査弾、弾着いまっ!」
 両者の間へ、一発の砲弾が頭上より突き刺さった。それはシナトの放った砲撃の初弾。しかし、それは地面へ半ばめり込んだままで起爆する気配はない。思わず急制動を掛けた歩兵たちに迷いが生じる。砲弾は不発、追撃を続行すべきか。それとも何かの罠か。その躊躇により、今度は彼らが致命的な隙を生む側となった。
「今すぐ飛びな、対Gフィールドがあれば耐え切れるはずだよッ!」
「っ、オッケー! 電脳結界はただ壁にするだけじゃないんだからーっ!」
 シナトの叫びに百々女はすぐさま反応し、上へと跳躍する。足場代わりに展開した結界を蹴って上方へ逃れる少女と入れ替わるように、次弾が初弾の軌道をなぞりながら飛来した。
「先に撃った探査弾でキミらの位置は把握できた。である以上、一発たりとも外しはしないよ?」
 次弾は敵群の頭上へと差し掛かった瞬間、パカリと先端部の装甲を開放する。内部から飛び出すは数百発にも及ぶ小型爆弾。その正体は対集団用の誘導クラスター弾だ。これこそ探査弾によるサーチで敵の位置を把握し、続くクラスター弾を確実に叩き込む、必殺の二段砲撃である。斯くして、轟音と共に敵集団がごっそりと削り取られていった。
「五人は持っていかれたか、やるねぇ!」
「全員、土煙に紛れながら対空迎撃! 初撃を潰せば命中精度は落ちるはずだよ!」
 とは言え敵も馬鹿ではない。砲撃によって巻き上げられた粉塵に身を隠しながら、続けて飛んできた砲弾を撃ち落とし始める。
「流石にそれくらいは見抜いて来るか。だけど、これはまだ序の口。どうやら情報攪乱も得意のようだけれど、心理戦はどうかな?」
 尤も、その程度の対応などシナトも想定済みだ。彼女自身も砲撃機構を操り、探査とクラスターの嵐に通常の砲弾を織り交ぜてゆく。二択から三択となっただけで、迎撃の難易度は跳ね上がるだろう。
 そしてそれらに加え……更にもう一種。
「ふふーん、砂塵を隠れ蓑にするなんて考えたわね! でも、トドメちゃんの術式は既に新しい段階に到達したのだっ! 驚け慄け、これがカミサマの力よー、なーんて!」
 敵を睥睨するように見下ろしているのは百々女。彼女は離脱後に地面へと降りず、浮遊させた結界に乗って空中へ留まっていたのだ。砲弾が誤って当たらぬよう耐Gフィールドで逸らしつつ、シナトの探査弾から齎される情報を受け取ってゆく。今の彼女にとって、砂煙による視界不良など無いに等しかった。
「曇天の彼方でも砂塵が隠したって、太陽はいつだって変わらず天にある。だから、希望を見失うこともないのよ! それをとくと教えちゃうわーっ! SCRIPT ON!」
 これが最新鋭の神降ろしよ! 百々女が振り上げた手を勢いよく降ろした瞬間、無数の焔が地上へ降り注いでゆく。物理的な実体ではなく、気質を束ねた神威の焔。砲弾よりもなお迎撃が難しい灼熱に焼かれ、歩兵たちは回避を余儀なくされる。元より乱れつつあった陣形は、四つの飛翔体によってズタズタに引き裂かれてゆくのであった。
「ざっとこんなものかしらね! 姿が見えなくったって、避け切れないほど浴びせてあげれば問題ないわ!」
「ああ、上出来だろうね。ただ、討ち取ったのは敵の先陣。まだまだ油断はできないよ」
 胸を張りながら戻ってきた百々女を労いつつも、シナトは砂塵の向こう側を油断なく睨んでいた。緒戦の衝突は猟兵側が押しつつある。しかし、敵の主戦力はまだまだ健在。戦況次第では押し返される危険は十分あるだろう。
 斯くして二人はこの勢いを途切れさせぬよう、更なる攻撃を加えてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鞍馬・景正
あれが飛行基地――空への港ですか。
エンパイアでは到底模倣できるものではありませんが……もしあれば、民の暮らしも武士の戦も一変するでしょうね。

否、そも武士でなくても――余計な考えでした。

砂嵐には首巻で口を覆い、呼吸が妨げられぬよう。
無いよりはマシ程度ですが。

◆戦闘
【鬼騎乗崩】にてお相手致そう。
不規則な軌道で銃撃を躱しつつ、矢を合わせて応戦。

【視力】を凝らし、矢の飛距離から敵との間合を計算しつつ、暫しは応射と回避に専念。

やがて砂嵐が訪れれば、跳躍して敵陣に切り込み。
視界は効かずとも声、気配、向けられる殺気など【第六感】で悟り、その方向へ斬撃の【衝撃波】を。

後は砂嵐が晴れ、反撃されるより早く撤収。


御堂・銀
この風……嵐が来る、か。
されども我の任務は変わらぬ。この道を脅かさんとする者を討ち果たすのみ。
見たところ航空基地のようであるが飛行隊は不在か。航空戦力が居らぬならば、それは武者の独壇場よ。
月影にて砂塵を祓い、頭上より蒸騎銃にて敵兵を狙撃せん。射程の短な銃とて、上から撃ち降ろさば威力は十全、生身の歩兵が纏う装甲程度であれば無いも同然であろう。
万に一つも月影を破られることあらば、地に降りて銃弾の飛来せし方へ向かってこの刀で手当たりしだいに切り伏せるまで。
飛ばねば砂嵐如き、武者の装甲に影響を及ぼすものではない!



●双騎武者、地を駆け天を征け
 緒戦のぶつかり合いは猟兵側有利にて火蓋が切られた。降り注いだ数多の砲火により敵の先陣は突き崩され、本来発揮すべき衝撃力を失っている。此処が駆け時か。そう判断した景正は前線へ馬首を巡らせながら、己が切り込む敵の根城へ興味深そうに視線を向けていた。
「あれが飛行基地――空への港ですか。一見すれば平屋の蔵と幅広の路にしか見えませんが、行き来する先が空で在れば地上には寧ろ何もない方が良いのでしょう」
 海へと繰り出すそれと比べ、この場所は余計な突起や凹凸が排され、最低限の建物以外は全て平地に均されている。陸路とも海運ともまた異なる設計思想がそこにはあった。
「いまのエンパイアでは到底模倣できるものではありませんが……もしあれば、民の暮らしも武士の戦も一変するでしょうね。否、そも扱う者が武士でなくても――」
 一瞬、景正の脳裏にふと考えが過ぎる。個人の鍛錬や技量に関係なく、同等以上の結果を齎し得る道具の普及。飛行機に限らず、銃や車両という形でも彼はその一端を目の当たりにしている。その結果、朧桜帝都や邪神現代の歴史が、武を担う者がどう変遷していったのか。
 我知らず、頭上に広がる蒼天を仰ぎ見る若武者。その視界の中を……。
「……技術が進歩しようと、国の在り方が変じようと、変わらぬモノも世にはあろう。空より落ちた鉄石が甲冑へと鍛えられ、いまはこうして空を征く。なれど、我は我に変わりなし」
 天翔ける武者が通り過ぎていった。大空を切り裂き飛翔するのは、己が本体である機甲甲冑に身を包んだ銀である。彼女は地上の同輩へと声を掛けながら、高度の優位を生かして敵群へと射撃を浴びせかけてゆく。
 自身も普段から慣れ親しんでいる大鎧と、今しがた思いを巡らせた航空機が違和感なく融和した姿。その威容を目の当たりにした景正は一瞬目を見開くも、やがて地上へと視線を戻した。
「……どうやら、余計な考えでしたね。考え事はまた後にしましょう。今はただ、己の道を駆けるのみです」
 青年はグイと首布を引き上げて、砂塵除けに口元を覆う。愛騎の腹を蹴って繰り出せば、人馬は鏃の如く吶喊を開始してゆく。その表情にもう憂いの色は見当たらず、代わりに武家の継嗣と呼ぶに相応しい戦意が滲み出ているのであった。

「砲弾が止んだと思ったら、今度はサムライが飛んでくるとは」
「生身で飛ぶのはウチの隊長で見飽きてんだ、二人も要らないんだよねっ!」
 一方、先行して敵の頭上へと到達した銀を出迎えたのはガトリング砲の対空射撃であった。速度や軌道に緩急を付けながら巧みに避けるも、時たま命中する流れ弾が甲高い音を立てて弾かれてゆく。
「見たところ、航空基地のようであるが飛行隊は不在か。対空砲火は侮れぬとは言え、取り回しが良いとは言い難い様子。航空戦力が居らぬならば、それは武者の独壇場よ」
 ガトリング砲の直撃を受ければ、いかな機甲甲冑とて貫徹し得るだろう。しかし一方、それは手持ちで振り回すには重く、長い。砲口を頭上へ向け続ける必要があるのであれば猶更だ。加えて陣形が崩れており、弾幕の密度にもバラつきがある。
「射程の短な銃とて、上から撃ち降ろさば威力は十全。生身の歩兵が纏う装甲程度であれば無いも同然であろう。立て直される前に可能な限り数を減らしてしまおうか」
 そうした要素を味方につけながら、銀は頭上より敵を次々狙い撃つ。高度をそのまま威力へと変換、単発ながらも高い貫通力を生かして一体ずつ確実に沈黙させてゆく。敵としても高度の優位は身に染みて理解しているのだろう。ますます躍起になって撃ち落とそうと、火線を集中し始めた頃合いを見計らい――。
「ちぃっ、ちょこまかと鬱陶し……っ!?」
「空ばかり眺めているとは悠長な。頭上の敵にかまけて足元すら守れぬのであれば本末転倒、有難くその御首級を貰い受けよう!」
 風切り音を響かせて、愛馬に跨った景正による騎射が横合いより浴びせかけられた。相手の首筋へと吸い込まれるように突き立った鋭矢は、宣言通り一撃で命を貫き奪い去る。歩兵たちも慌てて騎馬武者へとガトリング砲を向け直して引き金を引くも、砲弾は相手の一瞬前に居た空間を虚しく通り過ぎるのみ。
「とは言え、人数と手数はどちらも敵方が上。やはり此処は待ちに徹する他なしか……いや、これは」
「この風……嵐が来る、か」
 まず一つ戦果を上げつつも、多勢を相手に機を伺っていた景正が何かに気付く。上空を旋回する銀も同様に訝し気な声を上げた。彼らが感じた大気の微かな変化、それは砂嵐発生の予兆に他ならない。果たして、ひゅうと一陣の風が吹いたかと思うや、瞬く間に飛行場全体が褐色に包まれてゆく。
「やはりか。されども、我の任務は変わらぬ。この道を脅かさんとする者を討ち果たすのみ。そちらはどうか、騎馬武者殿!」
「こちらも仔細無し、寧ろこの時を待っていた。砂塵による隠形は何も敵へのみ利するに在らず!」
 上空の眼から逃れるように、砂嵐の中へ身を隠してゆく敵歩兵たち。その光景を見下ろしていた銀からの問い掛けに対し、景正は敵の後を追う事で答えとした。
 飛び込んだ途端に視界全てが乾いた色で塗り潰され、風の唸りが耳に木霊する。一寸先も見えぬ状況、しかしてこれこそが景正の狙いだった。
(耳目が利かずとも、敵の発する気配や殺気を感じることは出来る。位置さえ分かればそれで十分。相手が同士討ちの可能性を常に恐れねばならぬ一方、こちらは己以外の全てが敵なれば!)
 弓矢から大小二振りの太刀へ得物を変えると、自らの感覚を頼りに当たるを幸いとばかりに刃を振り抜いてゆく。切っ先より生じた剣閃が砂塵を断つと同時に、向こう側に潜んでいた歩兵を切り捨てていった。
「……さて。敵なら兎も角、此方が同士討ちをする義理もなし。砂に覆われた無明、月の輝きにて照らして見せよう」
 ――かつ見れど、うとくもあるかな月影の、いたらぬ里もあらじと思へば。
 また、上空に陣取った銀とて砂嵐を前に手をこまねいているつもりはない。動力部から発せられた熱量が生み出すのは、冴え冴えとした月の輝き。その光が真下の砂嵐へと差し込むや、まるで刃で切り分けるが如く大気が澄み渡っていった。戦場を強制的に月夜へと変える異能の業。彼女はそうして照らし出された敵兵を着実に狩り立ててゆく。
「これはちょっと不味いかな……! でも、あれは高度が無いと意味がないと見たね」
「であればやるべき事は変わらない。撃ち落とせ、翼を抜けば揚力を得られないはず!」
 騎馬武者と機甲甲冑、脅威度を天秤にかけた結果、敵はまず後者の排除を優先した。バラバラと上がってくる射撃の狙いは揚力を生み出している主翼。たまさか墜とされる気など毛頭ないが、それでも姿勢でも打ち崩されれば厄介ではある。
「この砂嵐もそう長くは続くまい。であれば頃合いか。太刀合いを所望ならば是非もなし。飛ばねば砂嵐如き、武者の装甲に影響を及ぼすものではない!」
 決断するや否や、急降下と共に銀は腰に佩いた太刀を抜刀。砂塵へと飛び込みながら、すれ違いざまに敵の素っ首を叩き落とす。そうして彼女が地に足を付けた瞬間、予想通り今までの勢いが嘘の様に砂嵐が消え去っていった。
「なるほど、砂漠の天気とは山に劣らず変わりやすいものですね。ともあれ、こうなれば敵中に留まるのは得策ではないでしょう」
 得物を振るい血糊を払っていると、背後を守る様に騎馬へ跨ったままの景正が合流する。彼の握った双刃もまた、紅に薄く濡れていた。
「敵の撹乱と漸減は既に果たした。砂塵が消えた今、深追いは禁物であろう」
「ですね。それでは、もう一駆けと参りましょうか」
 戦果は上々。欲を掻いて余計な手傷を負っても詰まらない。二人は敵が体勢を立て直す前に離脱すべく、刃を振るって文字通り退路を斬り開きながら今一度戦場を駆け抜けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュリア・ホワイト
よしよし、ここからが本番
ここからがボクの仕事だ
「守って戦うのはヒーローの得意技さ。オーヴァードライブ、敵を迎撃する!」

敵は射撃装備の集団
統制射撃されると少々厄介か
なら強引にでも乱戦に持ち込ませてもらうよ!
敵の陣形をぶち破るつもりで【疾走れ、悪意よりも速く】を発動
突進して吹き飛ばしつつ接近戦に持ち込んであげよう
「さぁ、ボクの動輪剣とスコップ、どちらで倒されたいか選び給え!」

ん?砂嵐?
お行儀良く撃ち合うならまだしも、手を伸ばせば届く接近戦ではね
というか、乱戦狙いで少数でかき乱すボクには逆に有利だよ


ダビング・レコーズ
敵勢力を確認
戦闘行動を開始します

【POW・アドリブ連携歓迎】

ソリッドステート形態に変型
対地攻撃機として目標を掃討します

SS・WMを起動
兵装は荷電粒子速射砲(攻撃回数)を選択
高高度より強襲し展開する敵部隊を広範囲に及ぶ制圧射撃で薙ぎ払う一撃離脱を反復します
敵の対空攻撃には射線軌道を予測し速力とマニューバで回避しつつ捕捉を振り切り対処します

【砂嵐対策】

光学センサー及びレーダーが使用不可能な状況で闇雲に継戦しては弾薬の浪費だけでは無く同士討ちの危険性もあります
砂嵐の予兆を確認次第ウォーマシン形態に変型
建造物を背にEMフィールドとシールドで多重防御層を構築
視界状況が回復するまで防御に専念します



●鋼の鳥は地を穿ち、鉄の線路が敵を貫く
「先陣を切った連中が開戦早々ズタボロか……これは少しばかり相手を侮っていたかな」
「一度、戦線を整理した方が良さそうだ。飽くまでこっちが防衛側だし、不用意に前へ出て損害を受けるのも馬鹿らしいしね」
 まだ辛うじて動ける仲間を引きずりながら、敵部隊がじりじりと後退してゆく。緒戦は相手側が手痛い損害を被るという結果で終わったため、一先ず守りを固めることに決めたらしい。隊伍を組み直しながら砲口を向けてくる敵を前に、しかしてジュリアは不敵な笑みを浮かべていた。
「背には築き上げた道路、前には敵が蠢く秘密基地。よしよし、ここからが本番。ここからがボクの仕事だ」
 自らを英雄(ヒーロー)と称するならば、戦いを厭うことなどありえない。なればこそ、と意気込む少女と肩を並べる様に、ダビングの巨躯が一歩前へと進み出る。
「……友軍の交戦結果と当機が収集した情報の合致を確認。敵飛行場の整備場内に熱源反応は見当たりません。航空戦力の不在は確定的であると判断します」
 この戦闘に置いて最も警戒すべきは、敵の航空機によって頭上を抑えられること。しかし、整備場内に金属反応を検知するものの、エンジンに火が点る気配は一向にない。拠点を攻撃されているにも関わらず動きが無いとあっては、もはや間違いないだろう。
「現在、敵軍に航空機を操作可能な人員が不在であると推察。当機はソリッドステート形態へと変形し制空権を確保、その後は対地反復攻撃へと移行します」
「それなら、ボクは乱戦狙いで前に出ようかな。個人的に、地面を走る方が性に合っているからね。ああでも、敵は射撃装備の集団。がっちり守りを固められて統制射撃をされると少々厄介か。済まないけど、切り込みはお願いしても良いかな?」
「当機としては問題ありません。必要とあらば、先制攻撃後も適宜支援を行いましょう」
 お互いがどう動くのかを手早く打ち合わせれば、事前準備は完了だ。ジュリアが動輪を繋ぎ合わせた剣とスコップを構え、ダビングは己の変形機構を稼働させる。
「守って戦うのはヒーローの得意技さ。オーヴァードライブ、敵を迎撃する!」
「敵勢力を確認、戦術行動の事前想定を完了。戦闘行動を開始します」
 斯くして鋼の鳥は橙色に染まりつつある空へと飛び立ち、鉄の列車が敵陣目掛け出発するのであった。

「空飛ぶサムライの次はやたらとメカメカしい攻撃機……今日はお客さんがいっぱいだね」
「生憎、着陸どころか飛行許可も出してないんだ。早々にお帰り願おうか!」
 飛行形態と化して接近するダビングに対し、敵の反応は苛烈だった。先だって交戦した仲間が受けたのは疎らな対空砲火だったが、此度のは陣形を組んでいるだけあって弾幕と呼ぶに足る密度である。
「各砲口の仰角及び、射撃間隔を測定。それらに気象状況を加味した弾道予測、試算終了。これより回避行動へ移ります」
 しかし、ダビングには恐怖も動揺もなかった。機械そのものの冷徹さを以て敵の攻撃動作を瞬時に見分け、そこから砲弾の軌道を算出。か細い糸の様な空白地帯を見出すや、そこへと身体を滑り込ませてゆく。見上げる敵群からすれば、まるで砲弾がすり抜けているとすら思える紙一重の立体機動であった。
「かすりもしないってのは、流石に予想外だ……!」
「射程圏内に敵戦力を補足しました。兵装は荷電粒子速射砲を選択、照準固定完了。速射モードによる一斉射を行います」
 ――発射。
 歯噛みをする歩兵が最後に見たのは、瞬時に加速された荷電粒子の輝き。幾条もの光となって降り注いだエネルギーが敵陣で炸裂し、歩兵たちを吹き飛ばしてゆく。僅か数秒の攻撃にも関わらず敵陣地は一直線に地面を抉られ、無残にも左右で寸断されていた。
「第一斉射を終了しました。敵の追撃を振り切りつつ、再攻撃の準備に入ります」
「ありがとう、助かったよ。既に相手の陣地はガタついている、この一撃でぶち破ってあげようか!」
 大きな弧を描くように戦闘空域から離脱してゆくダビング。彼の支援攻撃に礼を述べながら、間髪入れずにジュリアが吶喊を敢行する。それはまるで雪を掻き分けるラッセル車が如く、凄まじい衝撃力と共に敵陣を貫いた。不運にも進路上に居た歩兵が防御姿勢を取る間もなく吹き飛ばされてゆく。
「キミたちだって半身は鉄製なんだ、これで終わるほどヤワじゃないだろう? さぁ、ボクの動輪剣とスコップ、どちらで倒されたいか選び給え!」
「……まったく、誰も彼も気軽に人様の庭へ踏み込んで来てくれるね。折角だ、その前にこちらの得物も味わっておくれよ!」
 だが敵の頑強さもさるもの。多少よろけながらも腰の剣を引き抜くや、それを鞭の如く分裂させながら振るってくる。リーチは相手の方が断然長い、しかしジュリアはその形状に目を付けた。
「なるほど、おもてなしを断るのは忍びない。それじゃあお礼に、ボクはどちらも使ってキミを討つとしよう!」
 咄嗟に動輪剣で蛇腹剣を防ぐと、ぐるりと刀身へ巻き付いてきた。だが、それこそが彼女の狙い。内蔵されたエンジンを駆動させた途端、蛇腹剣が動輪に巻き取られ歩兵が勢いよく引き寄せられてゆく。
「なっ、剣の奇天烈さでは負けないと思っていたけれど、なんとまぁ……!?」
「そしてこれは剣にも変形するスコップだ。そっちはまだ使ったことは無いけどね!」
 逆の手に握られしは煤けた一本の円匙。引き寄せる力も利用して繰り出された一撃は、相手の命ごと首を深々と切り裂いてゆくのであった。
「……威勢が良いのは結構だけど、両手を塞いでしまうのは迂闊に過ぎるかなっ!」
 鮮やかな手並みだったが、数秒とは言え手が共に塞がってしまう。それを好機と見た別の歩兵が仲間の骸ごと蜂の巣にせんと、ガトリング砲を構えて引き金を引く――。
「仲間への攻撃動作を確認、インターセプトを行います」
 直前、舞い戻ってきたダビングによる第二射を受けて吹き飛んだ。再び巻き上がる粉塵に紛れ、鋼の翼は人型形態へと戻りながら地面へ着陸する。
「あれ、降りてきたんだ。何かあったのかい?」
「砂嵐の発生を確認しました。光学センサー及びレーダーが使用不可能な状況で闇雲に継戦しては、弾薬の浪費だけでは無く同士討ちの危険性もあります。その為、当機は視界状況が回復するまで防御に専念します」
 ダビングが答え終わるか否かと言うタイミングで、チラチラと視界が褐色に霞み始めた。友軍誤射を危惧した彼はそのまま道路を守る様に仁王立つと、多積層大型実体盾と電磁障壁を展開。万全の防御態勢を整えた。
「なるほど、それはこっちとしても都合がいい。ボクも砂嵐の中じゃ敵味方の区別をつけにくいし、それに……キミは嵐の中でも目を惹いてくれそうだ」
 戦場が完全に砂嵐で覆われたと同時に、ジュリアが地を蹴って前へと飛び出してゆく。仲間とは正反対に、彼女は砂塵に乗じてより戦場を混乱させんと狙っていた。周囲の全ては敵、万が一ダビングに攻撃が当たってしまってもあの様子ならビクともしないだろう。
 そして、更にもう一つ。
「邪魔くさい攻撃機が降りてきた、今のうちに火力を叩き込め!」
 戦機の障壁が発する輝きは、砂嵐の中でもうっすら浮かんで見えた。それを目印に敵群はガトリング砲の一斉射を叩き込んでくる。
「EMフィールドへの負荷、許容範囲内です。防御続行に支障はありません」
「ちょっと気が引けるけど、少しの間だけ頼んだよ。これで手探りで探す手間が省ける」
 しかし幾ら静穏性に長けるとはいえ、それだけ撃てば射撃位置が推察できるというもの。ダビングが敵の眼を引き付けているうちに、ジュリアは手早く敵を刈り取ってゆく。動輪剣の駆動音も、敵の断末魔も、風の唸りに消えて誰にも届きはしなかった。
「……砂嵐の消滅を確認、EMフィールドを解除します」
「お疲れ様。お陰でこっちも大分動きやすかったよ」
 嵐が過ぎ去ると、二人の周囲に立っている者は居なかった。手近な敵は全てジュリアに斃され、半ば砂へ埋もれる様に骸を晒している。対して、猟兵たちに目立った傷は無い。
「さて、敵はまだまだ残っているからね。最終駅までノンストップで突き進もうか」
「当機も損傷は軽微、戦闘行動に支障はありません。任務を続行します」
 そうしてダビングとジュリアは更なる敵を求め、更に飛行場の奥へと歩を進めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆POW
さて、もう一仕事だ
砂嵐による視界不良を軽減する為、ゴーグルを装備したまま交戦
敵の武器は消音機能がついている
音ばかりに頼れない以上、視界を確保して回避や攻撃に利用する

晴れている内は反撃を最小限に留めて敵にこちらの姿をさらし、防戦に徹する
そうしながら釣られて出てきた敵の位置を記憶しておき、砂嵐が吹くと同時に敵に向かって走る
常に間合いを開けていた相手が、視界が悪くなった瞬間に急に接近すれば、敵の反応も多少遅れるだろう

その隙に反撃を試みる
攻撃対象は記憶しておいた敵の位置を元に、ゴーグルで確保した視界によって目視で探す
周囲の敵をなるべく多く巻き込んでユーベルコードを発動、『範囲攻撃』で一掃したい


トリテレイア・ゼロナイン
(地上戦と動力温存の為、機械飛竜は待機)

彼方は飛行場、此方は道路
領土、領域を巡って争うは原始の大地から星の海に至るまで変わることも無し…
互いに譲れぬのであれば真剣に向き合うのが騎士の礼儀というもの…参ります

視界不良だろうと●環境耐性が施されたマルチセンサーでの●情報収集は健在。さらに自己●ハッキングで●限界突破
砂塵の中から息遣い、砲身の駆動音、歩行の振動すら検知してみせましょう

UCを作動し攻撃を●盾受けからそのまま反射しつつ視認しやすいよう敵集団に接近し近接攻撃
盾を避けて攻撃されれば、砲口の向きを●見切り●武器受けで反射

砲弾銃弾、剣で捉えられなくば故郷で騎士は名乗れませんので



●砂塵の隠形、されど弾丸より逃れること能わず
「彼方は飛行場、此方は道路。領土、領域を巡って争うは原始の大地から星の海に至るまで変わることも無し……例えその身が人ならざる過去へ墜ちようとも、ですか」
「縄張り争いなんてものは、異なる二者が居さえすれば発生し得る。どこまで行っても生存競争から逃れられないというのは、少しばかり思うところが無い訳じゃないが」
 猟兵たちの攻勢により、徐々に道路から飛行場側へと戦線が押し上げられつつある。陣取りゲームじみたその動きに、トリテレイアとシキは目を細めながら言葉を交わし合う。なまじ人の生存できる環境が乏しいこの世界は、きっとそうした争いが他よりも苛烈かつ日常茶飯事なのかもしれなかった。
「とは言えここで退く理由もこちらにはない。さて、もう一仕事だ」
「互いに譲れぬのであれば、真剣に向き合うのが騎士の礼儀というもの……参ります」
 後へ引けぬ理由があれば、そこに善悪は存在しない。共存が望めぬ以上、勝つか負けるかの二者択一のみ。まずは機敏性に長けたシキが先手を打って動き出した。
「戦況は若干の劣勢、このままだと押し切られるかな? やはり、立て続けに頭を押さえられ続けたのが痛いね」
「隊長が帰投するまで時間を稼げれば、少なくともイーブンには持ってけるはずだ。持ちこたえろ!」
 今回はトリテレイアが機竜の温存を選択したため、頭上からの攻撃は無い。だが制空権を敵に握られ、陣形を組んだ端から立て続けに吹き飛ばされたのが余程堪えたのだろう。歩兵側も戦術の切り替えを決断していた。少数ごとに分散し、幾つもの火線を張りながら互いの死角をカバーし合う遅滞戦術である。
「当然、敵も馬鹿ではないか。不用意に突っ込めば、複数の射線で身動きを封じられる可能性が高い……少しばかり、誘いをかけてみるとしよう」
 地面を舐める様に身を屈めながら、シキは狙いを外す様に敵の周囲をジグザグに走り抜けてゆく。その合間合間に放つ銃弾の狙いは、敵の撃破ではなく炙り出しだ。敵の目的が時間稼ぎとは言え、こうも動き回られればいずれは焦れてくると踏んでの選択である。
「ふむ、であればこちらからも圧を掛けて見ましょうか。生半可な火力でこの大盾を抜けるとは思わないことです」
 仲間の意図を察したトリテレイアもまた、敵陣へと接近を開始する。シキが速度を活かすのであれば、彼が頼みとするのは生まれ持った頑強さ。前面を広くカバーする大盾に身を収めながら、じりじりと前進してゆく。その歩みは決して早いとは言えないが、着実に接近してくる巨躯は想像以上の圧力を感じさせた。
「どんなに固かろうと、当て続ければいずれは砕け散るに決まって……!」
「ええ、おっしゃることは尤もです。そう……当たれば、ですが」
 歩兵の叫びはあながち間違いではない。ガトリング砲の直撃を受け続ければ、如何な装甲とて破壊されてしまうだろう。間髪入れずに放たれた複数方向からの一斉射、それは大盾へと吸い込まれてゆき……まるで反発するかのように元来た軌道を跳ね返った。
「砲弾銃弾、剣で捉えられなくば故郷で騎士は名乗れませんので」
「なんだと、がぁああっ!?」
 砲弾は楔型に形状を変化させつつ砲口へ吸い込まれると、内部機構を破壊しながら使い手を地面へと縫い留めた。敵の攻撃を盾表面の偏向力場によって接触前に反射、追加加速と楔型への変形を以て、より威力を増大させて打ち返したのだ。
「自らの振るった暴威が己へと跳ね返る。これぞ因果応報というものです」
 反応出来なければ痛打を受け、避ければ相互カバーが崩れる。これ幸いにと一斉射を行った事も重なり、トリテレイアは分散していた敵をその場から強制的に移動させることに成功する。
「駄目だ、あの盾持ちには手を出すな! もう一人の足を潰すのを優先して!」
「残念だが、それももう遅い」
「っ、砂嵐か! だけどこれなら……!」
 シキの鋭敏な感覚は大気の微かな変化を捉えていた。気温の上昇と微かなノイズ音。刹那、急速に戦場が砂嵐に覆われ始める。これでシキを狙うのは難しくなるが、敵味方は互いの姿が見えなくなり、戦況はいったん仕切り直されるだろう。この隙に少しでも立て直しを計れれば、そう期待した歩兵の視界に。
「……お前たちの位置はすべて把握した。一人残らず、だ」
 一気に距離を詰めたシキの姿が現れた。状況が変化する一瞬、そこに生じた気の緩みを人狼は見逃さない。ゴーグルで砂粒を弾きながら、銃口は相手の額へと。目を剥く敵兵が撒き散らした鮮血も、褐色の風に溶けて消えてゆく。
「これから銃弾をばら撒く、当てるつもりは毛頭ないが用心してくれ。まぁ、どちらかと言えば俺が銃弾を跳ね返されないように、気を付けると言った方が正しいか」
「ご安心を、こちらもしっかりと『見えて』おりますので。同士討ちの心配は無用です」
 この砂嵐の中で相手も下手に身動きは取れないだろうが、速攻を掛けるに越したことは無い。シキが仲間へと警告を飛ばすと、落ち着き払った声が返ってくる。あの戦機が大丈夫だというのであれば、真実問題ないのだろう。シキは先刻焼き付けた記憶を、褐色の視界へと投影してゆく。
(動揺して多少は動いてはいるだろうが、そう大きな誤差は無いはず……そこへ風の影響も加味した場合、引き金を引くべきタイミングは)
 敵が居た場所、距離、体勢。克明に浮かび上がる記憶へ、風の流れや砂の濃度と言った情報を加味してゆく。素早くかつ確実に人狼は狩りの準備動作を済ませ。
(――いまっ!)
 瞬時に牙を剥いた。片足を軸としてその場で回転しながら、全周囲に向けて銃弾を叩き込んでゆく。見えぬ故、果たして命中し仕留めたかは確認できない。だが乾燥した風に血臭が混じり始めた事実が、何よりも戦果を物語っていた。
(幸いにも誤射は無かったが、目敏い奴が居るな。記憶よりも手ごたえが少ない……いや、これは)
 地面へ伏せたか、それとも移動したか、はたまた運良く外れたか。いずれにしろ、数人撃ち漏らしたことをシキは悟る。そして同時に、この砂嵐の中を移動する何かの存在を察知した。敵ではない、となれば思い当たる相手は一つだけ。
 その答え合わせをするかの如く、やがて砂嵐は過ぎ去ってゆき。
「何人生き残った!? 今のうちに後退、を……」
 その場に伏せて銃撃をやり過ごした歩兵が立ち上がり、仲間の安否を確認する。だがその声は途中で途切れた。しかしそれも無理はない。目の前に先ほどまでは無かった大盾が、壁の如く立ちはだかっていたのだから。
「少しばかり各センサーとプログラムに負担を掛けましたが……機械故、この程度の芸当はやってみせましょう」
 それはまごう事なき鋼鉄の騎士であった。彼は砂嵐にも関わらず各種センサーをフル稼働させ、更には情報分析プログラムを限界ギリギリまで酷使し、敵の位置情報を掴み取ったのだ。それを元に、シキの銃撃から逃れた相手を討ち取っていたのも彼である。
「盾が自慢のようだけどね……こいつとの相性は良くないだろう!」
 ガトリング砲を放り捨て、歩兵が抜き放つは蛇腹剣。鞭の如くしなるそれは盾に触れることなく、複雑な軌道を描きながら死角より鋼騎士を狙う。
「攻撃が砲火ばかりというのが些か残念でしたが、これは寧ろ重畳。やはり騎士であれば剣槍を以て勝敗を決するのが本懐と言うものでしょう!」
 しかし、その切っ先がトリテレイアに届くことは無かった。大盾とは逆の手に握られた儀礼用の長剣、その武骨な刀身が曲射斬撃を打ち払ったのである。蛇腹剣はその特性上、二の太刀を振るうのに若干のタイムラグが発生してしまう。その隙は余りにも無防備に過ぎた。
「それでは返礼といきましょう……然らば御免!」
 斬るというよりも半ば叩きつけるように、長剣の刀身が歩兵の肩口から胴へとめり込んだ。上半身の半ばで止まったそれを引き抜くと、力尽きた様に骸が地面へと倒れこむ。じわりと広がった紅も、すぐさま地面へと染み込んでいった。
「この近辺の敵勢力はこれで最後でしょうか?」
「ああ、そのようだ。とは言え、不穏な事を口走ってもいた。余り時間を掛けるべきではないだろう」
「隊長、ですね。ええ、航空戦力の追加は避けたいところです」
 戦闘もそろそろ中盤戦に差し掛かると言ったところか。此処から先は時間との勝負となるだろう。人狼と鋼騎士は休む間もなく、次なる敵へと向かってゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
【morgen・2】

隊長さんは空のお散歩中ですか?いいなぁ…
私達が来たのにまだ帰ってきてないなんて
よっぽど空が好きなんですね

一駒先生に教えて貰った杭投げの技、ここで披露します!
大丈夫…私なら、絶対当たる【投擲】
傷が増えるほど、私の焔の雨は激しくなる
2人分の杭の雨で、ドローン達を撃ち落とします

ね。霧の中で一緒に戦ったのを思い出しますねっ
背中に感じる信頼の重み
…私には全然見えないけど…大丈夫
一駒さんには見えているから
すごい…それが傭兵の勘、ですか…?
一駒さんの杭の投擲に合わせ、同じ場所を狙います

ありがとう。でも平気ですよ。痛く無いから【激痛耐性】
みんなで繋げた希望の道、絶対守りきろうねっ


一駒・丈一
【morgen・2】

敵のボスは不在か。
ある意味都合が良い。

先日、結希に杭投げの技を伝授したことだし、
実地訓練と行こう。

砂嵐の最中で視界が悪いが
先日のアルダワでも同じ状況だったな。
背中は結希に任せ…目を閉じ神経を研ぎ澄ませ
【戦闘知識】と【第六感】で周囲の「自然の音ではない異音」を探り当てる。
背後に居るのは信頼できる者故に集中できる。

敵の気配を察知することができれば、そこにUC『贖罪の雨』で杭を放つ。
…手応えあり、だ。結希、敵はそこだ!そこに続け様に放つんだ!

勘?まぁそんなところだ
にしても、傷口の焔から杭を放つとはな。お見事だ。もう免許皆伝かね
とはいえ、ひと段落したら、ちゃんと傷の手当てをしろよ?



●杭の雨は友を導き、焔の杭は敵を穿つ
「敵のボスは不在か、ある意味都合が良い。飛行場を守るってのに航空支援がないのは、些か同情するがな」
「隊長さんは空のお散歩中ですか? いいなぁ……私達が来たのにまだ帰ってきてないなんて、よっぽど空が好きなんですね」
 小手を翳して飛行場を眺める丈一の横では、結希がきょろきょろと橙色に染まりつつある空を見回していた。敵航空戦力の不在はもはや確定的だ。如何なる事情があるのかは定かではないが、猟兵たちにとっては幸いと言える。戦闘開始からある程度の時間が経っているにも拘らず、時たま襲い来る砂嵐を除けば空は穏やかなもの……否。
「あれはヘリコプター? いや、それにしては小さいですね。ドローンというやつですか」
 結希の視線の先で、蒼空に黒い点が幾つも生じる。下から見たシルエットは差し詰め×印。各先端部にローターが備え付けられており、微かな風切り音を立てていた。中心部に覗き見えるカメラのレンズが小刻みに収縮を繰り返している。
「ようやく飛行場らしいモノが出てきたが、恐らくは偵察用……いや、それだけじゃないか」
 情報収集の装備だと判断しかけ、丈一は違和感を覚える。カメラと動力だけにしてはサイズがやや大きい。その疑問へ答える様にドローンの下部が開いたと思うや、奇妙な布が垂れ下がる。それらは瞬く間に空気が注入されると、歩兵と瓜二つの姿となって地面へ落下していった。
「撹乱用のダミーバルーン、そしてカメラ付きのドローン。成程、狙いが読めてきたぞ。結希、傍を離れるな。多分、砂嵐が来るぞ」
「え、あ、はい!」
 丈一の警告を受けた結希が駆け寄った途端、予想通り瞬く間に視界が褐色で覆われ始める。それと同時に、揺らめくダミーもまた砂塵の向こう側へと消えてゆく。こうなってしまっては、敵影の真偽を推し量るのは至難の業だ。
『砂塵に乗じて敵が攻勢を掛けてきたぞ、持ちこたえられない!』
『済まないがこちらは撤退する。早くしろ、包囲されるぞ!』
 更に風音に混じって聞こえてくるのは切羽詰まった声。聞き覚えがある様にも思えたが、砂嵐を加味しても声質が悪い。恐らくは仲間の声をサンプリングした合成音声であろう。
「こちらはダミーの判別が付かず、攻撃に無駄が生じる。対する敵側はドローンのカメラを通じて戦場全体の動きを俯瞰し得る、と。加えて偽情報の流布。隠密と撹乱に長けるとはよく言ったものだな」
 丈一が仕掛けられた戦術をそう評した瞬間、ヒュンと風切り音が耳朶を打つ。一つではなく複数、だが発砲音は上がっていない。互いにはぐれてしまわぬよう最小限の動きで砲弾を避けるものの、避け切れなかった攻撃が腕や頬を掠め、細やかな血飛沫が砂塵に溶けてゆく。
「銃の静穏性も抜群。これへ馬鹿正直に付き合うのも手間か……先日、杭投げの技を伝授したことだし、今のうちに実地訓練と行こう。大物相手だとそんな暇は無いだろうしな」
 彼は背中合わせの生徒へそんな提案を投げかける。一息に来ないというのであれば、こちらもそれを利用してやろうという魂胆だ。師の不敵な目論見を悟ったのか、応ずる少女の声にも明るい色が混じる。
「分かりました! 一駒先生に教えて貰った杭投げの技、ここで披露します! でも、狙いはどうしますか?」
「それに関しては俺が探ろう。視界が効かなくても、やりようは幾らでもあるからな。代わりに、その間の守りは頼んだぞ?」
「ええ、任せてください!」
 そう言って丈一は静かに目を瞑り、反対に結希は褐色の風を睨み始めた。師が敵の気配を特定するまでの間、生徒が防御を一手に引き受ける。敵の射撃は発砲音もなく、至近距離に近づくまで察知も出来ない。しかし少女は手にした愛剣を振るい、砲弾を紙一重で切り捨て続けてゆく。だが仲間一人を庇っての行動だ、当然無傷とはいかなかった。徐々にではあるが、結希の肌へ刻まれる傷が増えてゆく。
「……砂嵐の最中で視界が悪いが、先日のアルダワでも同じ状況だったな」
 そんな彼女を慮ってか、ぽつりと丈一がそう漏らした。彼の言う先日のとはアルダワ魔王戦争の折、二人で挑んだ『濃煙決死戦場』での戦いについて。あの時も確かに視界が効かなかったと、結希も明るい声で頷く。
「ね。道路工事中の時もそうでしたけど、霧の中で一緒に戦ったのを思い出しますねっ」
「確か、敵は首なしの騎士だったか。あの時の経験が役立っていると思うと、少しばかり感慨深い」
 視界は不明瞭、周囲は敵だらけの上、地の利も向こうに味方している。だが、二人に恐れるものなど何もなかった。背中に感じる重みと熱が、お互いに対する信頼を確かに伝えてくれていたのだから。
(だから、この程度の痛みなんて……何でもないけん!)
 その前では少々の痛苦など如何ほどのものか。師の想いに応えるべく生徒は懸命に刃を振るい、射線を通すまいと立ち回る。そして師もそれに報いる為、より一層集中を深めてゆく。
『……敵の部隊が回り込んでいるぞ、気を付けろ!』
『敵機直上! 連中の指揮官が戻ってきた、そこは危険だぞ!?』
(……神経を研ぎ澄ませ。風の流れ、砂の音。どれも完全なランダムでなく、複雑ではあるが流れに沿っている。それに反する『自然の音ではない異音』を炙り出せ。ばら撒かれたダミーに惑わされるな)
 耳に届く偽りの声、足元から伝わる振動、大気に混じる匂い。それら全てに意識を伸ばし、丈一は隠れた違和感を探し出さんとする。実際には一分かそこらしか経過していないにも関わらず、体感時間ではまるで永遠にも思えた。そうして引き延ばされた時間感覚は……。
「……手応えあり、だ」
 敵の気配を探り当てた瞬間、現実速度へと引き戻された。彼はある一点へと視線を定めて異能を発動させると共に、弟子へと勢いよく指示を飛ばし始める。
「結希、敵はそこだ! そこへ向けて続け様に杭を放つんだ!」
 結希が狙いを定める標とするように、丈一は己の周囲に生み出した無数の杭を次々と撃ち出してゆく。その先導によって狙うべき方角は示された。だが杭の雨は少し離れた途端に嵐へ紛れてしまい、敵がどの距離に居るのかまでは分からない。
(……私には全然見えないけど……でも、大丈夫。一駒さんには見えているから)
 一瞬、結希の心の中で躊躇いが鎌首をもたげるも、すぐさまそれは打ち払われる。自らの仲間を、技術を伝えてくれた師を信頼していたが故に。ならば次に信ずるべきは、他ならぬ己自身だった。 
「大丈夫……私なら、絶対当たる。目は頼れないけれど、それでも問題ないはず」
 ――『狙って当てる』んやなくて、『狙わなくても当たる』って思えば大丈夫って、教えて貰いましたから。
 技術ではなく、心構えとして。目標を射抜く為の最も重要な教えを、彼女は既に受け取っていた。今も断続的に射撃が飛来し、結希の肌に傷を刻む。だが、その痛みに心揺れ動かされることなく精神を研ぎ澄まし、そして。
「……そこですっ!」
 傷口から噴き出した焔を指先で掬い取るや、砂煙の向こう側へ目掛けて投擲する。それは中空で膨れ上がると、炎で形成された無数の杭へと変じた。炎杭が砂色に溶け消えてから一拍の間を置き、何かが破裂するようなくぐもった音が響き渡る。例え見えずとも、それが彼らの戦果を伝えてくれていた。
 それを境に敵の攻撃はピタリと静止する。果たして本当にやったのか、その答え合わせをするようにゆっくりと砂嵐は通り過ぎてゆき……二人の視線の先に姿を見せたのは破壊されたドローンと、無数の杭に縫い留められ絶命した歩兵の姿であった。
「やった、やりましたよ一駒先生!」
「ああ、上出来だ」
 嬉し気に声を上げる生徒の姿に、師の顔にも思わず笑みが浮かぶ。そうして一頻り喜んだあと、結希は不思議そうに師と斃れた敵兵の間で視線を行き来させた。
「それにしても、すごいですね……これが傭兵の勘、ですか……?」
「勘? まぁ、そんなところだ。経験を積めば結希も段々身に着くようになるさ。にしても、傷口の焔から杭を放つとはな。お見事だ。もう免許皆伝かね」
 感心しながら生徒の頭をぽんぽんと叩く丈一だったが、そこで彼女の全身へ刻まれた傷跡に目が留まる。傷口は浅いが流れ出した血に砂がこびりつき、見ていてとても痛々しかった。
「とはいえ、まずは治療が先か。ひと段落したら、ちゃんと傷の手当てをしろよ?」
「ありがとう。でも平気ですよ、そんなに痛く無いから。まぁ、ちょっと見た目があれですけど」
 水筒の水で軽く傷口を濯いで拭うと、結希はふと思い出したように背後を見やる。視線の先には砂を被りながらも未だ傷ひとつない道路があった。その姿を見れば、不思議と戦い続ける為の気力が湧いてくる気がした。
「……みんなで繋げた希望の道、絶対守りきろうねっ!」
「ああ、そうだな。ここまで来たんだ、もうひと踏ん張りと行きますかね」
 そうして二人は互いに視線を交わし合いながら頷くと、更に前へ前へと歩を進めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェーズ・ワン
【空響】2名
残念がんなよ
飛行機飛んでたらそりゃもう敵さんだろうよ
だから今は何も飛んでなくていいんだよ
飛んでる味方はいるかも知んねーけど

戦場に着けばすぐさまUCを発動し、召喚したドローンを敵側、可能であれば敵近くの背後上空に送り込む
相手も情報機がいるそうだから、見つからぬ様に注意深く慎重に

ドローンが収集した情報を常にアメリアと共有し、人為的・自然的な砂嵐の中でも常に敵の位置が把握できる様にする
自身は宇宙バイク「F.O.B.」に乗って敵と砂嵐を挟んだ場所にいつつ、敵に捕捉されない様に位置を変え続ける
その間、自律兵器たちにはドローンの情報をリンクさせ、アメリアの援護をする様に攻撃させる


アメリア・イアハッター
【空響】2名
あった飛行場っぽいの!
でも何も飛んでない、かな?
残念

おっとそれもそうだね
それじゃ早く侵入して、飛行機を見に行こう!

砂嵐が脅威だというのなら、逆に利用しよう
なーに、風は私の友達だよ
UC発動
敵と自分達の間に竜巻をいくつも発生させ、人為的な砂嵐を起こす
自身はその竜巻の中に飛び込み機を伺う
ワンワンからの情報を受信次第、竜巻から飛び出し攻撃
高速で近寄り、思いっきり蹴っ飛ばしたりと、格闘戦に持ち込もう
敵に把握されたらすぐに竜巻の中に戻って、同じ事を繰り返す
手の内がバレる頃にはメカが来てくれるでしょうから、協力して攻撃だ!

天然物の砂嵐は竜巻をぶつけて防ぐか、飛び込めそうなら同様に利用しちゃおう



●嵐と共に来たりて討たん
 戦闘を開始してから、しばらくの後。猟兵たちは滑走路の中間地点をやや超える位置にまで、戦線を押し出すことに成功していた。時間の経過を示す様に、太陽は既にその身の中ほどまでを地平線の下へ沈めている。
 そんな中、夕暮れの日差しに長い影を伸ばしながら、灰色の路面へと姿を見せたのはアメリアとフェーズの二人で在った。
「あったね、飛行場っぽいの! でも何も飛んでない、かな? 愉しみにしてたのに、ちょっと残念……」
 上を見上げても橙と藍の入り混じった空が広がるのみ。機影は愚か、鳥の姿さえ見当たらない。がっくりと肩を落とすアメリアに、やれやれと首を振りながらフェーズが言葉を掛ける。
「残念がんなよ。飛行機が飛んでたらそりゃもう敵さんだろうよ……だから今は何も飛んでなくていいんだよ。まぁ、飛んでる味方はちらっと見えたけどな」
「おっとそれもそうだね。それじゃ早く侵入して、飛行機を見に行こう! 整備場の中なら、飛行機もあるはずだもんね!」
 青年の言葉で一転して少女の表情がぱあっと明るくなり、意気揚々と先を急ぎ始めた。友人ながらその切り替えの早さに舌を巻きつつも、彼はふと少し思案げな表情を浮かべる。飛行機とはまた違うものの、近しい存在が己の機械群にあったのを思い出したのだ。
「相手側のじゃ、ゆっくり見る暇なんてないだろうしな。砂嵐が来ればどうせ隠れちまうから、今のうちに……っと。ほら、いい子だ。行ってきな」
 フェーズが発進させたのは、保有しているサーチドローン【Look】の内の一機である。それは彼自らが改造を行った特別機であり、原型機の音響偽装に加え、周囲の景色と溶け込むような迷彩が施されていた。今回は砂漠地帯の夕暮れとあって、全体的に黄色がかった橙色のペイントで統一されている。その姿に、アメリアは目を輝かせた。
「おお~、飛んでるねぇ! この子もこの子で可愛いかも!」
「こいつを相手背後の上空へ回らせて情報を集めさせる。空に上がれば砂嵐も関係ないからな。こっちで得られた情報を取り纏めて連絡するから、前は頼めるか?」
「オッケー、任せてよ! パパッとやっつけちゃうんだから!」
 手早く打ち合わせると、二人と一機は三手に分かれた。ドローンは敵背後を取るために大きく弧を描きながら飛んでゆき、対してアメリアは敵陣目掛けて一直線に飛び出してゆく。それを見送ったフェーズも愛車のスペースバイク【F.O.B.】へと跨り、エンジンを掛ける。
「さぁて、作戦開始だ……!」
 そうして青年もまた少女の後を追う様に、心地よいエンジン音を上げながら走り始めるのであった。
 
「隊長はまだ戻ってこないのか……全く、どこまで足を延ばしているのやら」
「このままじゃ全域を制圧されるのも時間の問題か。次の砂嵐の到来予想まであと何分?」
「ドローンに観測させているけど、暫くは来る気配は無し。こっちも頼れそうにないね」
 油断なくガトリング砲を構え、周辺へ油断なく視線を向けている歩兵の一団。防衛に当たる彼女らの頭上を飛び交うドローンへ紛れ込むように、【Look】が音もなく接近する。漏れ聞こえる会話から、砂嵐の心配はしなくても良さそうな事が伺えた。
『……とまぁ、そう言う様子らしい。正面切っての立ち回りが難しそうなら、自律兵器たちに支援させることも出来るがどうする?』
「う~ん。砂嵐が脅威だというのなら、逆に利用しようかな。やって来るのを待つのもなんだし、自分で作っちゃおっと。なーに、風は私の友達だよ!」
 フェーズからの連絡を介してドローンが得た情報を聞きながら、アメリアは自身が取るべき手を決める。彼女は勢いよく飛び出すや、敵の前へと躊躇なく自らの身を晒した。
「っ、猟兵か。もうここまで来ていたとはね……!」
「撃て、撃てぇ!」
 俄かに殺気立ち、瞬時に銃撃を浴びせかけてくる歩兵たち。数十、数百もの弾丸が迫る中、しかして少女に焦りの色は無かった。
「残念だけど、それくらいなら全部巻き上げちゃうからね!」
 ふわりと一陣の風が吹き抜けたかと思うと、アメリアの身体が浮き上がる。彼女が舞う様に身体を翻した途端、その動きに合わせて幾条もの竜巻が発生。飛び込んで来た砲弾を全て絡め取り、頭上へと舞い上げていった。一拍の間をおいて、ボトボトと地面に鉄の塊が落ちてゆく。
「予想通り、この中なら安全だね!」
「風を操る異能か、これはまた厄介な……!」
 竜巻の中から聞こえてくるアメリアの声に、歩兵たちがバラバラと苛立ち交じりの銃撃を浴びせかけてゆく。しかし、時間経過と共にその数を増やしてゆく竜巻の前では焼け石に水だった。
 そうして弾倉内の砲弾を全て撃ち尽くし、リロードを行おうとする一瞬の隙。【Look】のカメラを通して敵を観察するフェーズがそんな好機を逃す理由などなかった。
『今なら相手の懐に飛び込める。行ってこい!』
「よーし、そっこーでケリをつける!」
 青年の声を合図として竜巻の中から飛び出すや、アメリアは指示された対象目掛けて飛び掛かる。銃本体と弾倉で両手が塞がっていた歩兵に出来ることは、驚愕に目を見開くことだけだった。相手の顔面へ蹴撃を叩き込み瞬時に沈黙させると、少女は相手が反応する前に再び竜巻の中へと舞い戻る。一瞬の早業を前に、敵は砲撃も斬撃も繰り出す暇さえなかった。
「よしよし、大成功。上手くいったねー!」
『この調子で行ければ一番良いんだけどな……問題は敵がそこまで甘いかどうか』
 己の戦果に満足げなアメリアに対して、フェーズは警戒を崩さない。敵もただやられっぱなしでいるはずもなく、いずれは何らかの対策を講じてくるだろう。それがいったいどのタイミングなのかを見極めるのも、彼の役割だった。
 だが、一方でアメリアが不安の色を見せる様子は微塵もない。それはひとえに、通信機越しの青年を信じるが故。
「もしピンチになった時は助けてね? 頼りにしてるから!」
「……オーケイ、心配するなよ。手は打ってあるからな、気にせず行ってこい!」
 引き続き、二人は竜巻の中より繰り返し奇襲を仕掛けてゆく。期待に応えるべくフェーズは可能な限りタイムラグがないように情報を伝え、それを元にアメリアが敵中を立ち回る。そうして二度、三度と立て続けに損害を与えてゆく……が。
「この竜巻にそこまでの高さは無い……中心部の眼をドローンで狙わせて! 突入させてから自壊すれば、内側から炙り出せるはず!」
「あちゃあ、とうとう手の内がバレちゃったか……!」
 四度目にして、遂に相手が突破口を見つけ出した。支援プログラムに操作された敵側ドローンが次々と竜巻上部より飛び込んでくるや、動力部へと過負荷を掛けて即席の爆弾と化してゆく。これ以上内部に留まっていては危ないと脱出したアメリアを、敵歩兵のガトリング砲が出迎えた。
「ようやくまともに姿を見せたね。竜巻さえ消え去ればこっちのものっ!」
『いいや、悪いが引き続き俺たちのターンだ。タップ、ウィンズ、スピナー、出番だぞ!』
 相手が引き金を引く直前、一条の光線によって機先を潰される。何事かと彼らが攻撃方向を見やれば、人型にサイとハヤブサ、三機のメカが突入してくるところであった。
 万が一敵の反撃にアメリアが晒された時、フォローさせるべくフェーズが予め待機させていたのだ。
「いやー、ちょっぴり焦ったけどもう一安心かな? 相手の注意も逸れたし、これならまた攻撃できそう!」
『ただ、そろそろ次の砂嵐が迫って来ているみたいだ。区切りも良いし、一当てしたら引き時だろうな』
「それじゃあ、それまでに倒せるだけ倒しちゃおう!」
 三機のメカと赤帽子の少女が、機械化された歩兵たちと乱戦を繰り広げる。その光景はやがて到来した砂嵐にゆっくりと覆い隠されてゆき……今再び晴れた時、その場に残っているのは倒れ伏した敵の骸だけだった。
 そこから少し視線を離してみれば、青年がバイク後部へと少女を乗せて走り去る姿が見える。二人は互いの戦果を称え合いながら、速やかにその場を離脱してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ファン・ティンタン
【WIZ】同時履行の抗弁権
【路地裏】

ふむ
砂嵐の件もあるし、砂の子達にはもう少し手伝ってもらおう
大砂蟲の巨体を生かした【なぎ払い】で【範囲攻撃】
機動戦でくるようなら指向性を持たせた砂嵐で【目潰し】して強襲しようか

……さて、唐突に語らせてもらうけれど
【精霊使役術】はある種契約の類でね
精霊達に任を負わせる代わりに、私は相応の対価を支払う必要がある
対価を払えないと“お願いを正しく遂行してもらえない”のが制御の難と言えるかな

で、だよ
術が阻害されると、私との魔力供給路も当然カットされる
あとは、餓えて荒れたる彼らと自由契約の時間だよ

私とて、風霊寄りの気紛れな彼らは御しにくい
【コミュ力】勝負の用意はいいかな?


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
おいでなすったか。

【戦術】
【符術・鳥葬】を使用。わざと対策が容易なUCを使い、罠をはる。
こちらの弱点は、当然一撃で消滅すること。であれば、ガトリングの弾幕や、爆薬などで広範囲の爆発を起こせば防げるだろう。

ただし、指摘だけでなく実証する必要があり、効果はUCを封じること。であれば、封じている間UCではなく技能で戦うさ。

まずUCにまぜ道具【式神】を砂嵐の影響の少ない上空へ飛ばし【偵察】。本人は砂嵐と【地形を利用】し姿を隠す。
相手の位置は【式神】で確認。日が暮れた今なら、発火炎が見えるだろう。そこへ向け【式神】から【衝撃波】を叩き込む。
これもすぐに対策されるだろうが、隙はつけるだろう。


吉備・狐珀
【路地裏】

完成した道を守るため、今後の安全を確保するため負けるわけにいきません

UC【青蓮蛍雪】使用
冷気を含んだ狐火を敵に向けて(一斉発射)し(先制攻撃)をしかける
狐火は操作可能ですが既の所で避けることは可能でしょう
近くで燃焼しても寒いだけですしね

命中するにこしたことはありませんが此度の目的はこの場の空気を冷やすこと
黒狐ウカの宝玉で強化された月代の風(属性攻撃)で強風を起こし、わざと砂嵐を発生させます
ガトリング砲は一定の速度で回さないと給弾不良を起こすそうです
砂山を一瞬で移動させる砂嵐がガトリング砲に降り積もったらどうなるでしょう?
あぁ、もしかしたら冷えすぎて凍り付いている可能性もありますね


落浜・語
【路地裏】
んー?さっき見たのとはまた違うようだが…
ま、どっちにしろやることは一緒だな

UC『白雪姫の贈り物』を使用
そもそも、これの発動条件自体が特定難しいと思うけどな。今までその条件を見破られたことはほとんどないし。大将に放っておかれるような抜けっぷりじゃ気付けやしねぇよ
煽りつつ、意識を向けると発動する事に気づかれた時点で円環も【投擲】、【念動力】で操作し【マヒ攻撃】を
ペリドットには、魔を祓うって言い伝えもある。一度当たっただけじゃ、オブリビオンって魔を祓えなくとも、仔龍の雷も上乗せすれば動きを止める位はできるだろ
意識向ければ焼かれ、向けなきゃ動けなくなる
さて、どっちを選ぶ?俺はどっちでもいいぞ


ペイン・フィン
【路地裏】


来たね。敵も、嵐も
………でも、まあ、なんとかなるよ、大丈夫

コードを使用
今回使うのはスタンガン"ニコラ・ライト"
嵐の中、互いに視界阻害されるけど、構わない
情報収集、世界知識を中心に、第六感、聞き耳、視力で索敵
範囲攻撃やなぎ払いも乗せて、仲間に攻撃が当たらないように気をつけながら、周囲を攻撃
嵐に関しては、環境耐性で
更に、迷彩と目立たないで、嵐に紛れて隠密しよう

………自慢の姉は、生物もそうだけど、機械の意識も落とすことができる
マヒと気絶攻撃に、ハッキングとメカニックを使用
周囲のドローンや機械化箇所をクラッキングして機能不全にしていこうか

あいにくだけど、ね
そちらの戦術は、封じさせて貰うよ



●砂色の大地に色彩は踊る
 昼下がりより開始された戦闘も既に終盤戦。飛行場滑走路の大部分を制圧し、残るは整備場とその前周部分の空間を残すのみ。太陽の色は既に白から濃い橙色へと変じ、長い影を投げかけている。傾きかけた戦況へと決定打を叩き込むべく、【路地裏野良同盟】の面々が前線へと姿を見せていた。
「さて、おいでなすったか。どうやら流石に追い詰められて必死と見える。依然此方が優位とは言え、気は抜けんな」
「んー? さっき見たのとはまた違うようだが、こっちは言わば後詰か……ま、どっちにしろやることは一緒だな」
 津雲と語の両名は肩を並べて敵の陣営を観察している。先行した仲間たちの活躍により敵の数は大きく減じている一方、守る範囲が狭まった影響で兵力の密度自体は先ほどよりも高まっていた。不用意に飛び込んでしまえば、濃密な弾幕射撃によって撃退されるであろうことは火を見るよりも明らかだ。
「……ですが、完成した道を守るため、そして今後の安全を確保するためにも負けるわけにいきません。決着までの残り数手、ここで詰め切ります」
 しかし狐珀は勿論、他の仲間たちにも退くという選択肢は無かった。例え眼前の敵がどれだけ強力でも、積み上げたものがどれほどか細くとも、此処で立ち向かうことが明日に繋がるのだと彼らは知っているのだから。
「……ん、来たね。敵も、嵐も」
 そんな中、ペインが仮面越しにピクリと眉を震わせながら遠方を見やる。そちらには今日何度目かになるかも分かぬ砂嵐の到来が見えた。日が暮れて気温が下がった影響か、密度と速度は昼間のそれよりも穏やか。しかし、視界を遮るには十分だろう。
「仕掛けるのと、同時に来そう、かな………でも、まあ、なんとかなるよ、大丈夫」
「ふむ、砂嵐が来ると言うなら、砂の子達にはもう少し手伝ってもらおう。そっちの方が動きやすいだろうしね。それに『落差』のあった方が、場合によっては都合も良い」
 精霊が形作る大砂蟲は元より砂を潜るモノ。砂中に近しい環境ならば、より活発に動けるだろうとファンは睨んでいた。そして、それが過ぎ去った後についても。
 そうして、砂嵐が戦場へ到来した。褐色の風が全てを覆い尽くし、その裡へと包み隠してゆく。五つの人影は霞みゆく景色に紛れながら、行動を開始するのであった。

「また砂嵐か……今日はよく吹くね」
「この隙に乗じて潜入してくるのが連中の手口だ。ドローンを上げよう。上からならこっちの視界は関係ない」
 飛行場を堅守している歩兵たちが、各々のドローンを上空へと上げてゆく。それらは途中でダミーバルーンを投下しつつ、より高度を上げていった。情報の収集を開始したドローンがまず真っ先に見つけたのは、空に浮かぶ幾つもの黒点。
「さて、これで目を潰せれば御の字だが、元が紙だからな。注意を惹けるだけでも戦果としては十分だろうよ」
 その正体は津雲が呼び出した鳥型の式神たちであった。まるで猛禽の如くそれらはドローン目掛けて襲い掛かると、紙の身体を活かして相手の表面へと張り付き動きを封じてゆく。不規則に揺れ動く無人機たちに、兵士側も猟兵の攻撃が始まったことを瞬時に悟る。
「ドローンが攻撃を受けているよ! これは……紙で出来た鳥?」
「ローターで引き裂くと作動不良の原因になるか。紙製なら耐久力が高いってこともないはず。対空弾幕を張りつつ、幾つかを自爆させて焼き払うぞ!」
 流石に敵の対応も迅速であった。演算支援プログラムの補助を受けて式神群の分布や動きを把握するや、最適な位置に居たドローンを動力の過稼働によって爆破。ごっそりと紙の鳥を焼き払いながら、撃ち漏らしも対空弾幕でズタズタに引き裂いていった。
「相討ちに出来たのは二つ、三つ……いや、四つか。まぁ、こんなものだろう。それよりも、これで『本命』を紛れ込ませる下地が出来たという訳だ」
 燃えかけの紙片が、自らの生み出す上昇気流でちらちらと落下する事なく舞い上がってゆく。既に迎撃は完了したとドローンたちは下へカメラを向けており、その中に紛れ込んだ無傷の式神には気付いていなかった。
 その一体は術式に依るものではなく、津雲が別個に用意した個体である。能力こそやや劣るが、それ故に揺らめく燃え滓との区別はつけにくい。陰陽師はそれを通じて、敵の動きを把握してゆく。
「今しばらくは隠形を継続しつつ情報を集めるとしよう。という訳で実働は任せたぞ、ペイン」
「……うん、了解。元々、視覚にはあんまり、頼っていなかった、からね。大まかな位置さえ教えてくれれば、それで」
 観測役に徹する津雲のすぐそばを、ペインが通り抜けていった。彼の胸元にも一枚式神が張り付いており、それを通じて仲間の得た情報が送られてくる。赤髪の青年は指示を元に砂塵の中を迷うことなく先行し、着実に獲物へと近づいてゆく。彼の狙いは砂嵐に乗じた各個撃破だ。
(ダミーも幾つか、混じっているね。でも、関係ないよ……それが生きて居るかどうか、なんて、すぐに分かるから)
 相手も頭上からペインの動きを追跡しているのだろう。砂煙の向こう側に時たま人影が見え、その幾つかが砲弾を差し向けてくる。攻撃して来ないのは恐らくダミーバルーンだ。しかし、彼がそれに引っかかることは無い。相手が血を流し得る者か否か、拷問器具が見抜けなければ話にならない。
「もうこんなところにまで……通しはしないよっ!」
 ペインは手近な相手を補足するや、間髪入れずに奇襲を掛ける。だが相手も接近を察知していたのか、蛇腹剣をしならせて間合いを取りつつ斬撃を放ってきた。一見して飛び道具を持たぬ青年を、遠間から安全に倒そうという狙いか。
「詳しくは、分からないけど……それ、金属製、だよね? ならきっと、触れただけでアウト、だよ」
 だが、此度は些か相性が悪かった。ペインの手に握られていたのは警棒型スタンガン『ニコラ・ライト』。棒部分で蛇腹剣を絡め取った瞬間、刀身を伝って電流が使い手へと流れ込んだ。ビクリと激しく痙攣したと思うや、相手はその場へと崩れ落ちる。
「あ、がっ……」
「機械化されている、だけあって……耐久力があるね。でも、無駄だよ。自慢の姉は、生物もそうだけど、機械の意識も落とすことができる、から」
 止めを刺すべく相手へ歩み寄るペイン。彼を見上げる歩兵が最後に見たのは、自らへ殺到する数十本もの電流警棒の凶悪な輝きであった。
「さて、次は……ん?」
『……この砂の中に何かいるぞ、危険だ! すぐに後退しろ!』
『ああああああ、助けれくれぇ!?』
 一人を倒し終え、次の敵へ向かおうとしたペインの元に切羽詰まった声や断末魔が聞こえてくる。一瞬だけ訝しむものの、ペインはその手の叫びなど既に聞き飽きていた。それが本物の絶叫か、それとも電子合成された欺瞞情報かを判断するなど彼には容易い。
「詰まらない、手だね……発生源はきっと、ドローン。あいにくだけど、そちらの戦術は、封じさせて貰うよ。クラッキングして、機能不全にしていこうか」
 やれやれと首を振るペインだったが、しかして次いで聞こえてきた声はやや趣が違っていた。
「ちょっと待て、この中に何かが、本当に居……ッ」
「……うん?」
 それは生の感情が混じった肉声。どうしたのかとそちらを見やると、砂塵の中を巨大な何かが蠢いているのが見えた。ああ、とペインは直ぐにその正体に思い当たる。『何か』の姿を、彼はつい先ほど見たばかりだったのだから。
「な、なに!? いったい何が起こっているの!」
「『何が』は分からないけど、『何か』が居る!?」
 一方の歩兵側は『何』に攻撃されているのか把握出来てはいなかった。砂嵐にカメラを向けても、移るのは砂塵の揺らぎのみ。次々と仲間の反応が途絶してゆく中、答え合わせをするように砂塵がゆっくりと晴れてゆく。
「あれ、意外と過ぎ去るのが早かったね。もうちょっとだけ、撹乱したかったんだけど」
 明瞭さを取り戻す視界の中、まず歩兵たちの目に飛び込んで来たのは白を基調としたファンの姿。肩を竦める彼女の周囲を、ぐるりと砂色の奔流が取り囲む。長く、太い身体を持つ蛇にも似た異形。それは工事作業の際にも従えていた大砂蟲であった。
「これの相手は歩兵任務の範疇じゃないと思うですよねぇ……!?」
 その威容を前に歩兵は攻めあぐね、張り詰めた緊張によって一瞬の空白が生じる。そんな奇妙な静寂に言葉を投げかけたのは、その操り手たる白き刃だった。
「……さて、唐突に語らせてもらうけれど、私の【精霊使役術】はある種契約の類でね。精霊達に任を負わせる代わりに、私は相応の対価を支払う必要がある。対価を払えないと“お願いを正しく遂行してもらえない”のが制御の難と言えるかな」
 この場合の対価は私の魔力だね。そう突然語り出したファンに、歩兵たちは思わず目配せをしあう。敵の言葉へ悠長に付き合う義理もない。ブラフの可能性はあるものの、わざわざ自分から弱点を晒すのであれば真偽を確かめるのも一手だ。外れたところで損は無しと、彼らはファン目掛けて射撃を放つ。
 大半は大砂蟲に飲まれ届かなかったが、抜けた数発は白刀を掠めた。致命には程遠いものの、その痛みは集中を乱すには十二分。すると途端に大砂蟲が身体をくねらせ、苦し気に悶え始めた。
「これは効いているはず……だよね?」
 歩兵たちは効果があったことにほくそ笑むが、やがてその様子がどこかおかしいことに気付く。相手の疑問符を無視しながら、ファンは言葉を続けた。
「で、だよ。今みたいに術の行使が阻害されると、私との魔力供給路も当然カットされる。あとは、餓えて荒れたる彼らと自由契約の時間だよ。私とて、風霊寄りの気紛れな彼らは御しにくい」
 コミュ力勝負の用意はいいかな? そう言葉を残しながら、ファンはその場から素早く飛び退った。刹那、彼女が居た場所へ大砂蟲の巨躯が叩きつけられる。その様子はまるで、水から引き揚げられて悶える魚にも似ていた。術式の暴走という文字が、その光景を見ていた全員の脳裏へ過ぎる。
 斯くしてここに、大砂蟲はある種の第三勢力と化して独自行動を開始する。対価として払われていた魔力が無い以上、そう時間を置かずに自壊すると思われるが、それまでは盤面へ残り続けて猛威を振るうだろう。
「魔力ぅ!? こっちは鉄と機械で出来てるんだ、そんなのないっての!」
「じゃあ交渉してみるか、口の立つヤツがまだ何人か残っていたよね?」
「良いアイディアだよ、モンゴリアンデスワーム語を習得しているヤツが居ないってことを除けばねッ!」
 途端に戦場は大混乱へ陥った。本能のままに暴れ狂う巨体は砂嵐以上の災害と言える。散り散りになりながらも反撃を試みる歩兵たち。だが、それはそれとして猟兵もまた攻撃を仕掛けて来ることを忘れてはならなかった。
「今度の連中は自滅願望でもあるの……!?」
「あーらら、大分派手にやったなぁ。ま、巻き込まれないように気を付けますかね」
「それなら、念のため後ほど目晦ましを再度張っておきましょうか。気休め程度ですが」
 堪らず戦場からの離脱を計る歩兵数名の行く手を凍てつく焔が遮る。ハッとそちらを見やれば、語と狐珀の二人が大砂蟲による混沌を横目に立ちはだかっていた。巨躯による蹂躙は強力だが、些か大味かつ味方も危うい。その為、彼らはこうして撃ち漏らしを防ぐべく周囲を張っていたのである。
「ちょっとそこを退いて貰えないかな。お互いに不味い状況だってのは見てわかるよね?」
「悪いがそいつは出来ない相談だな。それに、その足で何処に逃げるっていうんだ?」
 怒気交じりに告げてくる歩兵へ、語は皮肉気に肩を竦める。何を言っているのかと彼らがふと下を見れば、そこにはいつの間にか鉄の靴がぴったりと嵌められていた。いつの間に、と慌てて脱ぎにかかろうとしても時すでに遅し。
「何があるか確認したかい。じゃあ、そのまま炎上して、上手に踊ってくれ。何処にも行かずに死ぬまで、な」
 靴は瞬時に赤熱化すると、機械も生身も問わずに相手の足を焼いてゆく。常人であれば数秒と立っていられぬ痛みだが、そこは仮にも軍属。思い切り奥歯を噛み締めながら語を睨みつけてくる。
「何を、したぁ……ッ!?」
「さぁ、何だろうな。ただ、脱ごうとしても無駄だろうぜ。今まで仕掛けを見破られたことはほとんどないし、大将に放っておかれるような抜けっぷりじゃ、解除方法に気付けやしねぇよ」
 意識外より仕掛けられた手妻は確かに驚異的だ。しかしそれ故に、何らかの条件が必ずあるはず。煙を吹く鉄靴に悪戦苦闘しながら、歩兵はその絡繰りを見極めんとしていた。その狙いは間違ってはいない。間違ってない、のだが。
(『こっちに意識を向けること』が発動条件だなんて、普通は気付かないよな。仮に見破ったとしてもどうするかって話だし)
 表情には微塵にも出さないが、内心噺家は苦笑を浮かべる。この異能を破る方法があるとすれば発動条件の逆、意識を向けないことのみ。だが言うは易し気付くは難し、だ。
「だが、術者を討ち取れば、どのみち解除されるはずッ……!」
「いいえ、させません。足元が熱くてたまらないのでしょう? 少しばかり涼しくしてさしあげます」
 そんな状況で蛇腹剣を振るうのは困難だが、ガトリング砲の引き金を引くことぐらいは出来る。語を排除できれば自ずと鉄靴の縛めも解かれると踏み、砲口を向けてくる歩兵。
 だがそれを傍らに立つ狐珀が許すはずもなかった。ボワリと浮かび上がるのは、先ほども放った狐火の青白い焔。投擲されたそれがガトリング砲へ纏わりつくと、瞬く間に表面を霜で覆い尽くしてゆく。狐の焔は燃やすにあらず、触れたモノを凍てつかせる絶氷の輝きなり。
「そうなっては砲身が動くこともないでしょう。ですが、氷はいずれ溶けるもの。念には念を入れさせて頂きます……ウカ、月代、お願いしますね?」
 それでも狐像の少女が攻撃の手を緩める様子は無かった。黒狐の助力を得た月白色の仔竜が肩へと身を預けるや、ぷうと小さく息を吐く。口から漏れ出た直後はそよ風程度だったそれは見る間に勢いを増してゆき、狐火による寒暖差も相まって、いつしか先刻の砂嵐もかくやと言う凄まじさで砂塵を舞い上げ逆巻いてゆく。それらが収まった時、敵は例外なく砂埃に覆われていた。
「ガトリング砲は一定の速度で回さないと給弾不良を起こすそうです。砂山を一瞬で移動させる砂嵐が砲身や機関部へ入り込んだらどうなるでしょう? 頑丈さが求められるとは言え、精密機械である事に変わりはないはずです」
「AKあたりならまた話は違ってくるんだろうけど、全くッ!」
 たかが砂如きで故障や暴発など、と狐珀の言葉を無視することも可能ではあった。だが万が一という事もある。そして戦場の万が一とは、往々にして死へ直結するのだ。歩兵はその可能性を捨てきれなかった。
 だがその時、相手はふと気付く。鉄靴の発熱が弱まっていると。どういう事だと語へ視線を向けた途端、再び煙を上げて足を焼き始める。その瞬間、極限まで追い詰められた歩兵の思考回路が条件の一端へと指を掛けた。
「……視線、いや、それについて意識しているかどうか……?」
「おっと、悪いが考え事はそこまでだ」
 相手の考察を察知するや、語は己へ意識を向けさせ続けるべく橄欖石の円環を投擲する。そこへ襟首から顔を覗かせた鈍色の仔竜が雷の吐息を付与すると、刃は切り裂いた相手に身動ぎすら許さぬ戒めを与えていった。
「ペリドットには、魔を祓うって言い伝えもある。一度当たっただけじゃ、オブリビオンって魔を祓えなくとも、仔龍の雷も上乗せしたから動きを止める位はできるだろ。でまぁ、答え合わせをすると、おおよそ当たっているってところでな」
 倒れ伏した敵を見下ろしながら、語は種明かしを行う。それは相手が既に詰んだと確信したが故だ。その判断は間違っていない。
「意識を向ければ鉄靴に焼かれ、向けなきゃ円環を喰らって動けなくなる。さて、どっちを選ぶ? 俺はどっちでもいいぞ……って、おいおいおい!?」
「ぉ、おおッ!」
「っ、いけない……語さん、失礼しますっ!」
 だが、歩兵は最後の手段によって鉄靴から逃れようとした……即ち、足を切り落とすことによって。震える手で唯一残った武器である蛇腹剣を引っ掴むと、己の足首目掛けて突き立てんとする。語はそれを遮るべく再び円環を放とうとするが、狐珀にグイと後ろへ引っ張られて目論見は叶わない。だが、結果的にそれで正解だった。
 ――ゴォオオオオォォォォォッ!!
 大砂蟲の巨体が、歩兵を飲み込みながら通り過ぎていったからである。
「おおっと!? い、いったい何だよオイ!」
「恐らく、私たちの攻撃に魔力を感じたから……でしょうか」
 冷や汗をかく噺家に、狐像の少女は彼の背を支えつつ答える。大砂蟲は魔力を断たれ空腹状態だった。そこへ風と氷の霊力を含んだ嵐が吹き荒れ、微弱とは言え雷の吐息が混じり、更に駄目押しとばかりに焼けた鉄靴でよく炙られていたとあれば……きっとアレにとっては歩兵がさぞやご馳走に見えていたに違いない。
 大砂蟲の内部は砂や石、鉄屑が渦を巻いているはず。呑み込まれたものはシュレッダーやミキサーよりも酷い有様となっているであろうことは想像に難くなかった。
「焼けた鉄靴を履かせた俺が言うのもなんだけどよ……こりゃ酷いわ」
「……手間を掛けたみたいで済まないね。こちらとしても予想以上の暴れっぷりだったよ」
 引きつった笑みを浮かべる語へ、当の契約者であるファンが声を掛ける。普段飄々としている彼女だが、その言葉には苦笑の色が滲んでいた。
「あれは大丈夫なのでしょうか……?」
「たぶん問題はないはず。維持にはそれ相応の魔力が必要だから……ほら、崩れるよ」
 狐珀の問い掛けにファンが指差すと、今まさに大砂蟲がボロボロと全身を崩壊させてゆくところであった。魔力切れにより、形を保てなくなったのだろう。濛々とした土煙が周囲へと撒き散らされてゆく。
「ようやくデカ物がくたばったか……今のうちに、整備場まで後退を」
 これ幸いにと、僅かばかりの生き残りたちが整備場内部へ逃れようと踵を返し始める。だが彼女たちがそのまま建物内へ足を踏み入れることは無かった。
「如何な大砂の長蟲とて、天の鳥までは呑み込めはしなかった、と。そちらの動きは筒抜けでな、誰が生き残っているかまで把握済みだ」
「あなたたちに、次は無い、よ……選べる道も、戻るべき場所も、ね」
 ある者は衝撃波に吹き飛ばされ、ある者は雷撃で全身を焼き尽くされる。混迷を極める戦場の中、津雲とペインは戦況把握と各個撃破に徹し続け、敵の動きを完全に掌握していたのだ。二人は此処から誰も逃がす気など無く……ほどなくして、立っている者は五人を除いて一人残らず姿を消していた。
「……これで、大体終わった、かな?」
「ああ、大勢は決した。残るは整備場内の掃討だけだな」
 建物内に格納されている航空機は、この後の戦闘で活用できる可能性がある。万が一にでも立てこもる敵が自棄を起こす前に、出来れば無傷で手に入れておきたいところだ。
 完全制圧まで、残すところあと一手。五人は少しずつ疲労を覚え始めた体へ活を入れながら、整備場内へと足を踏み入れるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
うーん見た目は好み!だがしかーし!今日は本命が後に控えてるからな、ここは我慢でござるよ!

次に備えて準備があるから拙者の代わりに行かせるか、影の…【知らない人】だこれ!誰!?誰なの…怖いよぉ!
なんか召喚されちゃったこの知らない人を猟兵のフリをさせながら接近させ、拙者は狙撃できそうな地点で待機でござる
なんせ知らない人だからな…敵が猟兵だと誤認してUCの弱点を指摘されても何も困らんでござるね!UCが使えるのか拙者は知らんが
そもこの知らない人はUC製なのか、UCで召喚されたのかそこもわからん…

面倒になったら視界を共有し、見つからないように移動しながら適当に狙撃してれば片付くでござるな


化野・花鵺
「装備は兵隊さんぽいけどあれはせぇふくじゃないよねぇ。特殊部隊なこかなぁ」
狐、目を眇めた

「せっかくの基地なんだから普通の歩兵でいいじゃん、百歩譲って航空兵でもいいじゃん。実験部隊か特殊部隊か知らないけど…カヤの期待を返せぇ!」
狐、八つ当たりした

「フォックスファイア」で狐火まとめて大きくして投げつけ
一撃で骨まで焼き付くすのが目標
敵の攻撃は衝撃波でそらしたり野生の勘でよけたりオーラ防御で防いだりする
銃が引火するかもと思えば敵の銃狙って狐火を投げたりも

「カヤはせぇふくじゃない軍人さんには興味ないぃ。さっさと骸の海へ帰っちゃえ」
「次はバリバリのせぇふくさんが来てくれるといいなぁ」


セルマ・エンフィールド
指揮官は出てくる気配はありませんね。
今のうちに全て排除させてもらいましょう。

砂嵐で視界が……私が住んでいたところでは見ないものですし、慣れませんね。
まぁ、こちらも自然には発生することはそうありませんでしたが。
【吹雪の支配者】を使用し、砂嵐を吹雪へと変換します。砂嵐よりは慣れた環境ですし、何より自在に操ることができる。敵の視界と体温を奪い、凍てつかせます。

弱点を指摘は熱で対抗するか、あるいは有機物は変換できないということを突いてくるでしょうか。いずれにせよ封じるには「実証」が必要です。
吹雪への対策を実証している隙を見逃すほどお人よしではありません。フィンブルヴェトでその隙を狙い撃ち抜きます。



●焔と共に忍び入りて、吹雪を伴い狙い撃つ
 飛行場制圧戦は既に詰みの盤面へと差し掛かっていた。滑走路部分は既に全域が制圧され、残すは航空機が格納されているであろう整備場のみ。夕陽はほとんどが地平線の下へと沈み、辺りは急速に藍色の闇に包まれつつある。
「この期に及んで指揮官が出てくる気配はありませんね。どのような理由かは知りませんが、好都合です。今のうちに残党を全て排除させてもらいましょう」
 整備場の周りをぐるりと回りつつ、セルマは狙撃に適した位置を探していた。しかし、建物はどの窓もカーテンが閉め切られ、航空機が出入りするであろう場所には厳重なシャッターが下ろされている。破壊することも可能ではあるが、中の航空機が損傷する可能性を考えるとそれは最後の手段にしたかった。
「となると、中に潜入を試みるべきかもしれませんね。デリンジャー四丁とスローイングナイフで仕留めきれると良いのですが……いえ、あれは」
 侵入経路を探っていた狙撃手は整備場のある一点に目を止めた。裏手側のドアが、少しだけ開いている。それはまるで誰かが一度開けてから閉めるのが甘かったというような、そんな印象を受けた。
「……なるほど、室内についてはお任せして良さそうですね。それでは、こちらはこちらの仕事をこなしましょうか」
 戦力の追加投入と外部からの支援狙撃を天秤にかけ、セルマは後者を選んだ。彼女が建物内部に蠢く気配を感じ取りながら狙撃位置の調整をしていると、さぁっと砂交じりの風が吹く。それは今日一日で幾度となく見た、砂嵐の前兆。
「砂嵐で視界が……私が住んでいたところでは見ないものですし、こればかりは慣れませんね。まぁ、こちらも自然には発生することはそうありませんでしたが」
 ともあれ、これへの対処も既に考案済みである。恐らくそれが今日最後の砂嵐になるだろうと直感しながら、氷の少女はスコープを覗き込むのであった。

 一方の屋内。そろりそろりと忍び足で飛行場内へと侵入したのは花鵺とエドゥアルトの二人で在った。飛行場内にはまだ敵の残党が立てこもっており、音を立てるのは自殺行為である。しかし、それでも零れてしまう想いが制服フェチな少女にはあった。
「装備は兵隊さんぽいけど、あれはせぇふくじゃないよねぇ。特殊部隊なこかなぁ」
「年齢的には少年兵かもしれませぬぞ。元がフラスコチャイルドとの話なので、実年齢が一桁という可能性もあるでござるが……うーん、拙者的に見た目は好みなので無問題!」
 若干ジャンルは異なれど、エドゥアルトもその手の話が出来るタイプである。彼としては今回の相手に(ストライクゾーン的な意味で)不足は無かった。女の子と機械の組み合わせって良いよね、という塩梅である。しかし、花鵺からすれば眼鏡に適わなかったらしい。
「せっかくの基地なんだから普通の歩兵でいいじゃん、百歩譲って航空兵でもいいじゃん。特殊部隊だか少年兵だか知らないけど……カヤの期待を返せぇ!」
「あれもあれで、胸元とかセーラー服っぽいと思うんでござるがなぁ。まぁ、斯く言う拙者も今日は本命が後に控えてるからな、ここはお互い我慢の時でござるよ!」
 小声で嘆く少女を宥めすかしつつ、うむうむと頷き共感を示す傭兵。会話の内容は場違いという他ないが、二人の身のこなしは流石猟兵と言うべきか機敏そのものだ。現在、彼らは裏手口より屋内へと侵入した後、航空機が安置されているであろうガレージ手前の通路まで歩を進めていた。
「障害物を掻き集めてバリケードを作って! もうすぐそこまで来ているはずだよ!」
「隊長からの応答あり、現在全速力で帰投中。到着まであと六〇〇秒!」
「う~ん、持つかどうか怪しいねぇ……」
 そっと互いを隔てるドアに耳を当てれば、内部からは殺気立った喧騒が漏れ聞こえてくる。相手は徹底抗戦の構えを取っているらしく、更には敵指揮官の帰還という情報までが入ってきた。
「おお~、隊長さん帰ってくるんだ。いいねぇ~! 早く見たかったからねぇ!」
「拙者としても願ったり叶ったりでござるが、些かタイミングが……下手に希望を持たれると抵抗の激しさがダンチですからな。拙者も次に備えて準備があるから、ここはまず影の追跡者を代わりに偵察へ向かわせましょうぞ」
「うんうん、おじさんもそうすべきだと思うな! それじゃあ行って来るよ!」
 三人は手早く打ち合わせを行うや、敵情を窺うべく一人が扉を開けてするりと向こう側へと滑り込んでいった。固唾を飲んでそれを見送り終えると、残った花鵺とエドゥアルトは顔を見合わせる。
「……ねぇ、ところで今のおじさんはだれ?」
「ええっ、花鵺殿の知り合いではないのでござるか? てことは、知らない人だあれ! 誰!? ホントに誰なの……怖いよぉ!」
 自身が時たま、全く知らない人を呼び出してしまう事があるとエドゥアルトは自覚している。だが今回は呼んだ覚えも無い上、ナチュラルに会話へ混ざっていたことが普段以上に恐怖を際立たせていた。
 暫し恐れ戦く二人だったがおじさんはその違和感のなさを存分に発揮し、空間内部の動きを逐次伝えてくれた。
「いや、本当に何者なの……ともあれ、必要な情報は揃ったでござるな」
「こっちも準備オッケーだよぉ。それじゃあ、いくよ!」
 偵察が済めば後は雪崩れ込むのみ。待機時間を利用して狐火を最大まで育てた花鵺を先導するように、エドゥアルトが扉を蹴破り先陣を切って内部へ飛び込んでゆく。
「どうも、猟兵のカチコミでござるよ!」
「カヤはせぇふくじゃない軍人さんには興味ないぃ。だから、さっさと骸の海へ帰っちゃえ!」
「もう猟兵が此処まで……!?」
 平時ならば兎も角、不意の襲撃に対応し切れるほど今の歩兵たちに余裕は無かった。加えて各個撃破を恐れて固まっていたのも災いし、花鵺の放った特大の火球が歩兵たちを飲み込み炸裂してゆく。
 場所が場所のため誘爆の危険も当然あったが、そこは事前の偵察で狙うべきでない場所はピックアップ済み。故に炎は敵のみを燃やし尽くし、火が消えた後には溶けかけの鉄片だけが残っていた。
「っと、これで終われば良かったんだけど、まだ残ってるねぇ……!」
「は、はははっ! 笑うしかないとは正にこの事かな。とは言えこれでもう戦力差は絶望的……かくなる上は!」
 もはや残存する歩兵の数は十かそこら。仮に反撃を試みても、後は擦り潰されるだけだろう。もはや先が無いと腹を括ったと見るや、敵の一人がドラム缶へと取り付いた。表面に記載された内容物は航空機用の燃料。当然、可燃物だ。
「みすみす鹵獲されるくらいなら、この手でいっそ!」
「……申し訳ありませんが、それは不可能です」
 ガトリング砲で撃ち抜き着火しようとした瞬間、それまで内外を隔てていたシャッターが轟音を立てて打ち破られた。しかも内側へではなく、外へ向けて。代わりに吹き込んできたのは猛烈な吹雪だ。それに乗って、外からセルマの冷徹な声が届く。
「雪、だと……!? 馬鹿な、こんな乾燥地帯でっ」
「砂嵐よりは慣れた環境ですし、何より自在に操ることができますからね。環境を味方につけると言っても、何も合わせるだけが能ではありませんから」
 これこそがセルマの発動させた異能。周囲の無機物を一切合切吹雪に変換し、支配下へ置く業。シャッターもその能力を受けて、強制的に氷粒へと変えられたのだ。
 砂塵と比べ、雪は一粒が大きく粗い。故に射線を通すことはそう困難ではなかった。狙撃手は歩兵の額を撃ち抜くと同時に、横倒しに転がった航空燃料を凍てつかせてゆく。
「吹雪に対する対抗手段と言えば、シンプルに高熱を発生させること。対抗策を思いつくのは簡単でしょうが、封じるには『実証』……実際にそれを行うことが必要となります」
 タァン、と。再び銃声が響くと同時に、別のドラム缶へ駆け出しかけた歩兵が射殺される。相手が何を狙うかを分かれば、当てることなど彼女にとって児戯にも等しかった。
「……その隙を見逃すほど、私もお人よしではありません」
 外の吹雪をどうにかするのは現実的ではないと悟った歩兵たちは、屋内の奥へと活路を見出す。押し入ってきた相手をどうにか出来ればという淡い望みは、更なる銃声によって断ち切られた。響いたのはマスケット銃とは異なる、7.62ミリの発砲音。
「拙者のユーベルコードを見破ろうとしても無駄でござるよ。なんせ冗談抜きで知らない人だからな……弱点を指摘されても何も困らんでござるね! と言うか寧ろ拙者が知りたいでござるよ!?」
「か、は……っ」
 エドゥアルトの物言いは冗談めかしたそれにも関わらず、照準から発砲までの動作は豊富な経験に裏打ちされたもの。余裕とも取れるその振る舞いは、いっそ底知れなさを醸し出していた。
「そも、この知らない人はユーベルコード製なのか、それとも単に召喚されただけなのか、そこもわからん……てかどっちだろうと怖くない?」
「おじさんはこわくないよ!」
「待って本当に怖いんですけど誰か助けて!?」
 本人すら分からぬモノを他者が理解できる訳もなし。冷徹な傭兵としての技量と訳の分からなさに本能的な恐怖を感じ取ったのか、歩兵はエドゥアルトからも距離を取る。しかし、もう一方の花鵺の実力は突入時点で既に披露済み。組み易しなどとは断じて言えない。
 つまり、彼女らが進める道はもう何処にも残っていなかった。
「中も外も手詰まり……何か、何か手を、せめて一矢を!」
「分かってても理解したくないんだろうけどさぁ。ハッキリ言うよぉ?」
 これ以上の時間を掛けるのは無意味。花鵺は終わりを告げるべく、再び焔を解き放つ。
「……もう『詰んでる』んだよ、あなた達はねぇ」
「済みません、隊ちょ――ッ」
 狐の焔は最後の兵士を焼き払ってゆく。力尽きて斃れた肉体を舐め尽くし、今度は機械部すらも残らず溶かしていった。彼女らが居た痕跡を示すのは、床に残る微かな煤のみ。
 斯くして多少室内は荒れたものの、猟兵たちは格納庫に収められた航空機を無傷で鹵獲することに成功する。
「あーあ、次はバリバリのせぇふくさんが来てくれるといいなぁ。そこは隊長さんに期待するしかないよねぇ」
「花鵺殿はブレませんなぁ。拙者的にはやっぱりちょびっとだけ勿体ないかなと思わなかったり……ま、それはそれとしてレトロな航空機も中々に浪漫をくすぐられますなぁ!」
 飽くまで満足せぬ花鵺は深々と溜息をついているが、早々に切り替えたエドゥアルトは目を輝かせながら航空機の状態を確かめている。物は全てレトロなレシプロ機。ジェット戦闘機と比べれば性能には劣るものの、マメに整備されていたのか状態は非常に良かった。これならばすぐにでも飛ばせるだろう。
「戦闘に利用するにしろ、後々この世界の人々が活用するにしろ、それらは役に立ってくれそうですね……それこそ、もうすぐにでも」
 意外と早いご到着ですね。セルマは不穏な物言いと共に外へ出て空を仰ぐ。整備場の片隅でノイズを立てていた無線機からは、繰り返し歩兵へ呼び掛ける声が発せられている。始めはノイズ交じりだったそれが、徐々に明瞭となってゆく様子を彼女の聴覚が捉えていた。
 果たして……星が瞬き始めた藍色の空より、漆黒の機影が急速に飛行場へ接近してくるのが見えるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『燦然たれ希望の星』

POW   :    戦友たちよ、今再び共に征こう。
【Bf109戦闘機に搭乗した戦友】の霊を召喚する。これは【搭載武装】や【連携戦術】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    速度を保て、蒼空を目指せ。
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【空戦速度】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    翼はある。希望はどうか。
【かつて戦友から仮託された『必ずや勝利を』】という願いを【己自身】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:ヘッツァ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
第三章の断章及びプレイング受付告知は29日(水)の夜頃に投下予定です。
どうぞよろしくお願い致します。
●Ritter tanzt am Blauen himmel.
 上空へと飛来した黒き機影は、女であった。漆黒の軍服を身に纏い、手足にはレシプロ機を元にしたと思しき兵装を装備した軍人であった。彼女は金の髪を風になびかせながら、眼下の様子を窺う様に飛行場の周囲をゆっくりと旋廻してゆく。
 そうしてある地点で急激に高度を落としたかと思うや、地表から何かを拾い上げる。歪な人型のシルエット。それは飛行場の外延部で瀕死の重傷を負って倒れ込み、ただ緩慢と死を待っていた己の部下の一人であった。
「お、隊長ぉ……ようやくの、お戻りですか……」
「無事か、などとは……口が裂けても言えんな」
「そうですよぅ……こっちは、大変だったんですから」
 腕の中で朦朧と声を上げる部下に、指揮官は痛まし気な表情を浮かべる。歪んだ相貌から滲み出るのは謝罪と後悔の色。彼女は己の失態をまざまざと目の当たりしていた。
「……済まない」
「全くもう、謝るくらいなら、始めっから基地で待機してて下さいよぅ……貴女は、パイロットなんですから、ね?」
 指揮官の謝罪に対し歩兵は軽口を叩くものの、そこに怒りや憎しみと言った感情は籠められていなかった。
「機械化された手足じゃ、操縦桿を握るどころか、コックピットにだって入れやしない……あたしらじゃ隊長の部下には成れても、かつて消えてしまった『戦友』の代わりには、終ぞ成れませんでしたね」
 代わりに零れ落ちるのは、隠し切れない寂寥感。無残にも破壊された己が手を一瞥した後、歩兵は次いで飛行場へと視線を下ろす。其処は既に完全制圧され、立っている者は猟兵たちだけだ。
「……万が一、隊長がかつてのお仲間を見つけて、連れ帰って来た時用に整備してた機体も、全部鹵獲されちゃってますよ、きっと……せめて、最後は壊そうとは、したんですが」
 相手の方が一枚上手でしたね、力及ばす済みません。そう、逆に申し訳なさそうに謝罪され、指揮官は心底困ったという風に眉根を寄せる。それは本来こちらの台詞だと、言外に告げながら。
「……恨みごとの一つでもぶつけてくれれば、まだ気が楽なんだがな」
「ははは、じゃあ言ってやりません……代わりに、一つ頼みごとをば」
「なんだ?」
 ぐるりと、歩兵は首を回して指揮官へと向き直る。その瞳に宿るのは幼子が夜空に輝く星を仰ぎ見るような、ただただ純粋な憧憬の色。
「勝ってくださいよ。あたしらは流れ星なんざ、見たかないので」
「それは……」
 屈託のない笑顔を向けられ、思わず面食らう指揮官。歩兵は上官が二の句を継ぐよりも先に口を開き、お道化た様に欠けた手指で敬礼をして見せる。
「拒否権は無しで。最後の頼みなんですから……それじゃあ、重しになるのも、そろそろ申し訳ないんで……これにて、おさらばです」
 そうして歩兵は己を抱きかかえる腕を振り払い、宙空へ身を晒す。一瞬、指揮官はそれへと手を伸ばし掛けるも、寸前で思い留まった。
 ――輝く星に、どうか勝利を(ジークハイル・ヴィクトーリア)。
 落ち逝く部下の唇が、そう動いているのを見てしまったから。瞬きひとつするうちに、遠のく姿は夜闇に溶けて見えなくなった。指揮官は数秒だけ虚空へ視線を注いだ後、断ち切る様に身を翻す。部下との約定を果たす為、そして己が好敵手たちと向き合う為に。

 ――そうして。鉄十字の翼は猟兵たちの頭上、飛行場の空へと仁王立った。敵手たちをゆっくりと睥睨しながら、指揮官は口を開く。
「どうも初めまして、猟兵諸君。私がこの航空基地を預かる指揮官だ。どうやら、部下たちが散々世話になったようだな。だがこれも戦場の習いだ。互いが生きる為の必然故、その点について恨み言をぶつけるつもりはない」
 寧ろ、と。指揮官は自嘲気味に肩を竦め、溜息を吐く。
「押っ取り刀でのこのこと現れ、いったい何様だと諸君らは思うだろう。部下の窮地を放っておいて、今更素知らぬ顔でやって来るなどと。当然、軽率や無能の誹りも甘んじて受けよう……だが、私は『戦友』と約束してしまったのだ」
 長大な20ミリ機関砲の槓桿が引かれ、初弾が薬室へと送り込まれる。両脚部に内包されたエンジンが回転数を上げ、甲高い風切り音を響かせてゆく。それが示すものはたった一つ、明確な交戦意志だ。
「幸か不幸か、人望だけはあったらしい。故に、こちらも退くつもりはない」
 ――さぁ、最後の勝負と行こうか、猟兵諸君。
 孤高故に失った戦友を求め、求めるが故に戦友を取り零した、輝ける星。最早彼女と対等な位置に立てる存在は、猟兵たちを置いて他には居ない。
 明けぬ夜は無く、昼に消えぬ星も無し――この世界の明日を繋ぐため、今この時を以て孤高なる星を撃ち落とすのだ。

※マスターより
 プレイング受付は5月1日(金)朝8:30からとなります。GWを利用し執筆予定ですが、登場場面の兼ね合い等で再送をお願いする可能性があります。その際は別途ご連絡させて頂きます。
 第三章は夜間空中戦となります。もし飛行手段がない場合には鹵獲したレシプロ戦闘機を使用可能です。飽くまでフレーバーですが、乗りたい機種があればご指定下さい。勿論、対空砲火での迎撃も歓迎です。
 それでは引き続きどうぞよろしくお願い致します。
鞍馬・景正
あの凛呼たる態度、堂々たる武人の其れと見ました。
然らば、全力で応じるのみ。

だが我が飛翔の術は長く滞空できぬ故――砲術でお相手致す。

【堅甲利兵】にて兵を動員し、基地内の高射砲、対空機銃を確保。

弓隊と鉄砲隊は射手、観測手を務めるよう指示。
槍組は砲弾の運搬や装填、照空灯の操作などで支援を。

慣れぬ兵器に愚痴を吐かれようが、大筒や龕灯と同じと思え。

準備完了すれば、【暗視】の術で敵機を観察。
機動を【見切り】、【第六感】にも従って砲撃先を刀で指示。

当たらずとも僚機との連携を妨害し、味方の援護に繋げるべし。

……しかし良いな、あれ。欲しい。
いや違う、彼女がではなく航空機の事だ。
ふざけていないで次弾撃ち込め!


中津川・シナト
ちょいと大盤振る舞いしすぎたかな、アクトの維持は限界か…
いい加減起きなシーナ
『ぴーぴぽ!(はーい、おはよう!)』
…このエンジン音――来たか

離陸支援準備の後、敵への牽制と【偵察】

【艤装展開・序】で装備切り離しや小型化
機動離陸用に【スケーター】【クロウラ】でサイドカーに【カタパルト】を搭載した履帯バイクを【シーナ】に【操縦】させる
戦闘機の点検と必要なら発生器装着

自分も【スケーター】【ブレード】の敵に似た軽装空戦装備で射出
小銃状態の【カノン】で【探査弾】を混ぜ込み攻撃
当てるのは難しいが…味方に迎撃してもらうか、最悪、自分の翼に当てて効果範囲に入れ情報を転送

補給もなくここまで…これが軍人ってヤツなのか



●硝煙の砲火よ、飛び立つ翼に風を打て
 指揮官による堂々とした宣戦布告。それを受けて、俄かに戦闘態勢へと移行する猟兵たち。誰よりも早く行動を開始したのは、此度もまたシナトであった。
「ちょいと大盤振る舞いしすぎたかな、アクトの維持は限界か……いい加減起きな、シーナ。出番だよ!」
『ぴーぴぽ!(はーい、おはよう!)』
 彼女の呼びかけに応えて小気味の良い電子音を響かせるのは、シーナと呼ばれた球体状の多機能ロボットである。コロコロと転がりながら、球機は主を見上げて指示を求めた。
「【クロウラ】と【スケーター】、それに【カタパルト】を組み合わせるから、運転を頼むよ! まずは航空機の状態チェックと離陸支援だ。空を飛べなきゃ、そもそも同じ土俵に立てないからね!」
『ぴーぽ!(りょーかい!)』
 三つの用途をもつ機構群からそれぞれ必要な機能を抽出。サイドカー付き大型バイクの様な形状へ組み合わせると、それをシーナに操縦させつつ、シナト自身は機体確認と滑走路への運搬を急ピッチで進めてゆく。
(空へ飛ぶための翼は確保できたけど、細かな状態までは把握できてない。鹵獲品にブービートラップを、なんてのはベタ過ぎるけどそれだけに有効だ……飛行中にトラブルを起こして墜落、なんてゾッとしないからね)
 捻子一つ、配線一本。たった一つの部品に不具合が起こるだけで、故障は全体へと伝播する。幾ら相手が入念に整備を行っており、かつ猟兵が気を配って制圧したとしても、常に万が一と言う可能性は付き纏う。整備と点検はしてし過ぎるという事は無いのだ。
「重要箇所だけだけど、怪しい所は特になし。装着した発生器も問題ないね。良くこんな骨董品にここまで手を掛けたもんだ。済まないが有難く使わせて……っ、このエンジン音――来たか!」
 確認の終わった戦闘機を滑走路上へ牽引している最中、シナトの耳に甲高いエンジン音が飛び込んで来た。ハッと頭上を見やれば、急降下してくる機影が視界に映る。
「やっぱり、このタイミングを狙って来たか……!」
「航空機の一番の弱点は離着陸時と相場が決まっている。どれ程の名手、如何な名機とて、地上のままでは単なる的。それに、対地攻撃はスペイン内戦からの十八番なのでな!」
 指揮官は身体と同軸線上となるよう二十ミリ機関砲を構える。瞬間、滑走路上へ点線を描くように次々と土煙が上がってゆく。シナトも回避を試みるものの、航空機を牽いたままで機敏な動きが取れようはずもない。砲弾の軌跡が瞬く間に一人と一機へ迫り……。
「……先ほどの凛呼たる態度、堂々たる武人の其れと見ました。然らば、此方も全力で応じるのみ。地を這う虫と侮るなかれ!」
 ゴォオ、と。笛の旋律を思わせる風切り音と共に射かけられた鋭矢が、まるで牙剥く虎の如く指揮官へと襲い掛かった。敵の撃破と己の回避、それらを天秤にかけて後者を選んだ相手は身を翻して再び空へと舞い戻ってゆく。女軍人の視線は、射撃後も残心を維持する景正の姿を認めた。
「ありがとう、助かったよ。ただ、あのまま頭上を取られ続けたら、今度はこっちが飛行場制圧戦の二の舞になってしまうね……!」
「問題ない、それについてはこちらにも策がある。我が飛翔の術は長く滞空できぬ故――砲術にてお相手致す」
 景正は遠のいてゆく敵影を見据える。鳥の如く飛ぶことは叶わずとも、飛ぶ鳥を落とす意志が彼と『彼ら』には確かにあった。
「衆を闘わすこと、寡を闘わすが如きは形名是なり――鞍馬の統帥、御覧に入れる。皆の者、掛かれぇっ!」
 ――おおおおおおおおおおっっ!!
 景正が号令を掛けた瞬間、地を震わせるような鬨の声が上がる。次々と姿を見せるのは武者たちの幻影だ。七十余名を数える彼らは整備場へと殺到するや、奥より次々と長大な鉄塊を引きずり出してゆく。
『こりゃあまた、噂に聞く大友の国崩しより筒が大きそうじゃ!』
 彼らが見つけ出してきたのは夜間警戒用の投光器に四連装機銃、巨大な八八ミリ高射砲だった。恐らく、航空戦力や機甲兵器への対抗用として所持していたものだろう。歩兵たちが使用しなかったのは、火力と携行性の面からガトリング砲で十分と判断していた為か。もし使われていれば、ハルファヤ峠のマチルダ戦車も斯くやという有り様になっただろう。
「敵ながら恐ろしい物だが、これも塞翁が馬。有難く使わせて貰おう」
 元より目端の利く弓隊、鉄砲隊に観測と射撃を命じつつ、槍組は投光器の操作や弾薬の運搬へと徹する。夜空目掛けて幾条もの光柱が伸びてゆく様は、まるで白い鳥籠を思わせた。
「敵方、艮より巽に向けて旋廻中。相手は生半可な鳥などよりもよほど早い。鼻先より大分前を狙うべし……今だ、撃てっ!」
 景正の号令一下、大小様々な砲声が響き渡り、夜空に硝煙の花が咲いてゆく。だが相手は加減速と高度の昇降を巧みに操り、砲火を縫う様に飛翔を続けていた。更にはじわりと、指揮官の影からもう一つ機影が生じる。
「狙いは悪くはないが、旋廻や照準の動作に手間取りが見えるな。付け焼刃で墜とされるほど、私は甘くない……だが、そうだな」
 それは砂漠仕様のBf109F型であった。意志も自我もなくただ付き従う、記憶の再現体。二機は連携を取りつつ、再び攻撃軌道へと突入を開始する。
「虚ろな亡霊とは言え、技量に衰えはなし。さぁ、目標が増えても対応できるか!」
『こちらも不慣れとは言え、あれは中々の難物ですぞ! 燕や隼どころか、差し詰め鷲と言えましょう!』
「泣き言を吐くでない! 当たらずとも僚機との連携を妨害し、味方の援護に繋げるべし!」
 だが、刀を手に陣頭指揮を執る景正を嘲笑うか如く、二機は地上へと銃弾を降らせてゆく。敵の狙いは投光器。目が封じられれば、命中精度は更に低下するだろう。一つ、二つと光の柱が途絶え、より一層険しい表情を浮かべる景正の横合いから。
「全機、暖機まで完了! こっちも出撃するよ……さぁ、反撃開始だ!」
 カタパルトより射出されたシナトが、対空砲火の間隙を潜り抜けながら急上昇していった。景正の稼いだ時間により、格納機体は全て即時出撃可能状態にまで移行、滑走路上への駐機作業まで完了している。そうして手が空いて彼女は、自身へ空戦用装備を装着して迎撃に打って出たのだ。
「ほう、上がって来たか。その度胸は認めよう。しかし、僚機も無しに挑んできたのは迂闊だったな。それとも、腕前に余程自信があるのかね!」
「さて、どうだろうね。口で語るよりも、こっちで確かめた方が早いんじゃないの!」
 問い掛けに対し、返す答えは立て続けの銃声。携行可能な小銃形態に組み直した【カノン】を手に、シナトは射撃戦へと突入してゆく。円を描くように最適な射撃位置を奪い合いながらも、一方で彼女は内心苦笑を浮かべた。
(機動力はどっこいとは言え、技量と数の差はちょっと埋めがたいね。帰投直後で補給もないのにここまで……成程、これが軍人ってヤツなのか)
 こちらの銃撃を軽々躱す一方、相手はまるでシナトの動きが見える様に攻撃を叩き込んでくる。隙が無い訳ではないが、そこも僚機がすかさずカバーに入り鬱陶しいことこの上ない。耐Gフィールドのお陰で無茶な機動が出来るとはいえ、このままではジリ貧だ。
(流石に当てるのは難しい、か。となると……頼んだよ、シーナ)
 シナトは地上に残してきた相棒を想う。この事態を打破できるかどうかは、あの球機に掛かっている。問題は、果たしてそれまで己が持つかどうか。
「……気もそぞろだな。つれない態度は哀しくなるよ。いったい何を企んでいるのかね?」
「なにって勿論、そっちを一泡吹かせる算段さ!」
「おお、怖い怖い。であれば……その前に片付けてしまうとしよう」
 挑発的な物言いに、相手は敢えて乗ってきた。直線機動の長機と弧を描き側面から襲い掛かる僚機。二機による連携戦術で確実に敵を仕留めんと迫り来る。シナトはそのどちらに対しても銃弾をばら撒いてゆく。幾つかは命中するも、掠る程度でダメージは軽微だ。
「まずはスコア1、貰ったぞ!」
「……いいや。それはこっちの台詞さ!」
 両者が必中圏内に入った瞬間、凄まじい衝撃音と共に爆焔が広がった。だがそれはシナトからではない、援護体勢に入っていた僚機からである。攻撃の主は地上、砲口より硝煙を立ち昇らせる八八ミリ高射砲。対空砲火が直撃したのだ。
「なんだと、何が起こった!? こうも鮮やかに当てるなど……!」
「れーだー、というやつだったか。位置や軌道が予め分かっていれば、こちらとて当てるのもそう難しくはない」
 種明かしを行う景正の足元には、シーナが得意げに佇んでいた。シナトの放った銃弾にはサーチ機能を備えたものがあり、それらが地上の球機へ探査情報を送信。解析した結果を元に、景正指揮の対空砲火が炸裂したのだ。
「そして、ここまで近づけば幾ら機動力が在ろうとも!」
「っ、ぅうっ!」
 敵が必中であれば、こちらもまた必中。すかさず放たれたシナトの銃弾が指揮官の肩を貫通。堪らず相手はすれ違う様に回避していった。
「これだけやっても落とせぬとは……やはり良いな、あれ。欲しい」
『ああ、若もようやっとそのような年頃に……』
「いや待て。違うぞ、彼女がではなく航空機の事だ。ふざけていないで次弾撃ち込めッ!」
 多少余裕が生まれたのか、軽口を叩く兵をどやしつける景正。しかし、実際良い傾向ではある。滑走路上では、シナトに続くべく仲間が航空機に乗り込もうともしていた。
「……なるほど。確かにこれは侮れぬはずだ」
 そんな敵の様子を改めて観察しながら……指揮官はどこか楽しそうにそう呟くのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ダビング・レコーズ
これ程までの高機動兵器が存在していたとは
対抗するには限界性能を引き出す他無い
全システム、トゥルードライブ(真の姿解放)
ドッグファイト開始

【アドリブ連携損傷歓迎】

直線加速及び離脱ではソリッドステート
近距離旋回戦ではウォーマシン
両形態を都度切り替え戦闘を行います

捕捉すら瞬時に振り切る敵のスピードを潰さない限り決定打を与えるには到底至らないか
速射モードのセントルイスによる弾幕で牽制
更にスターダストで誘導弾への対処行動を誘発
挙動が僅かに鈍る瞬間を狙い最大速で突撃しシールドバッシュ
プラズマバーストで至近距離から高速・広範囲攻撃を実行
突撃時の被弾は全て許容
過程は関係無い
あの魔女を砕け散らせる事さえ出来れば


シキ・ジルモント
◆SPD
※希望機種:Fw190

よく整備されている
これだけの機体を何の為に…考えても仕方がないか
戦闘機に乗り『空中戦』を挑む

後ろに付かれたら水平に旋回するか、急上昇からの垂直旋回によって逆に敵の後ろを取る
宇宙バイクで何度も行った飛び方だ、タイミング等はそこから応用する

相手が急に速度を落としたら仕掛けてくると警戒
機関銃や機関砲で隙を与えず攻撃を続け、行動に移れないよう攪乱する
慣れない機銃では狙いをつけにくいが、一瞬動きを止められればいい
キャノピーを脱落させて射線を確保、ユーベルコードで敵を狙撃する(『スナイパー』)

…あんたを非難するつもりはない
だがこうして相対した以上、こちらも生きる為に戦うだけだ



●旧き黒翼、新しき銀閃
 機体の始動準備と対空陣地の展開により、飛行場そのものへ攻撃が通る可能性は極めて低くなった。滑走路の安全と離陸時間が確保されたことで、次なる翼が飛び立つ準備が整う。
「造られたのが数十年前とは思えないほど、どれもよく整備されている。これだけの機体をいったい何の為に……いや、考えても仕方がないか」
 シキは機体状態に感心しつつ、操縦席へと乗り込む。彼の選んだ機体はFw190。前方へ伸長したエンジン部を見るに、恐らくはD型だろうか。指揮官のBf109が速度重視のサラブレットだとすれば、こちらは頑健さが売りの軍馬だ。操縦桿を握り、エンジンの回転数を上げればゆっくりと機体が動き始める。
「っと、タイミングが被ったか。こちらが待つ、先に行ってくれ」
「お気遣い痛み入ります。垂直離陸も可能ですが、エネルギー効率を鑑みるに加速を行ってから離陸した方が消耗を抑えられると判断しました」
 順番を譲られ、滑走路へ侵入するのは白銀の機体。ソリッドステート形態へと変じたダビングである。先の飛行場制圧戦でも見せた姿であるが、今は装甲各部がスライドし、内部からは脈動するように蒼い輝きが漏れ出ていた。
「……よもやこの世界に、あれ程までの高機動兵器が存在していたとは。無駄な損耗を許容する遊びは愚か、対抗するには限界性能を引き出す他無し」
 それはダビングが自らの全性能を引き出すと決断をした証左に他ならない。冷徹な機械は相手がそれほどの戦力だと判断したのだ。
「全システム、トゥルードライブ――ドッグファイトを開始します」
「続けてこちらも離陸する。即席のロッテだが、うまくやって見せよう」
 そうしてダビングは宙間航行すら可能とするエンジンから蒼炎を噴き上がらせ、シキは軍馬の嘶きも高らかに地を蹴って空へと飛翔してゆくのであった。

「今度の相手はロッテか。一機は見慣れた機体だが、もう一機はジェット……ではないな。なるほど、どうやら変わらず気は抜けんようだ」
 滑走路から上がってくる二つの機影を、指揮官は瞬時に補足する。彼女はそのまま身体を傾けるや、グンと斜め下方向へ急降下を開始した。高度を速度エネルギーへ変換させつつ、離陸直後で速度の乗り切っていない敵の頭を押さえようというのだ。
「まずは小手調べ、これで墜ちてくれるなよ!」
「敵機、上方より降下を確認。相対速度、補正限界。ですが、そちらから近づいて来るのであれば好都合です」
 降り注ぐ砲弾はまるで吸い込まれるようにダビングの装甲へ着弾してゆく。被害報告のアラートを全て無視しつつ、戦機は彼我の距離が射程距離圏内に入った瞬間を見計らい。
「捕捉すら瞬時に振り切る敵のスピードを潰さない限り、決定打を与えるには到底至らない……その為ならば損傷は厭いません」
 人型の戦機形態へと強引に変形した。なまじ乗っていた速度が空気抵抗によって急速に減じられ、ミシミシと機体各部が軋みを上げる。だが疑似的な空中停止を成し遂げたことにより、強引に照準を合わせるだけの時間をもぎ取っていった。
「人型に変形する航空機、いやその逆かッ! 無茶苦茶な大道芸をするものだ!」
 引き続き指揮官が砲弾を浴びせかけるも、ダビングは既に銃口を向け終えていた。刹那、解き放たれた荷電粒子が夜闇を切り裂き、指揮官を削り取ってゆく。威力は牽制故に低いものの、目的である速度減は達成することに成功した。
「前面装甲、各関節部の損傷を計測……飛行行動に問題なし、任務を続行します」
「負担を掛けた様で済まないが、お陰で高度と速度が稼げた。ここからは一方的な展開になどさせん」
 航空機形態へと戻ったダビングと共にシキのFw190が上昇し、戦闘高度へと到達してゆく。一般常識として低空では空気が濃く、高空では薄い。それは空気抵抗の強弱に直結し、機動力を発揮できるか否かに関わってくるのだ。故に離陸後の高度を如何にして稼ぐかが課題だったが、辛くも初撃を躱すことが出来た。
 ちらりと後方を見やると敵方も降下によって再加速し、それを利用して高度を稼ぎ直している。これにて上下の差は無くなり、状況的優位はイーブンとなった。
「……今度はこちらから仕掛ける。巴戦も望むところだ」
「それでは当機が僚機を務めましょう」
 機体を旋回させ、二人は機首を敵へと向ける。先の攻防でまだ速度が乗り切っていないダビングが後方に回り、シキの駆るFw190が攻撃を担う。敵は対空砲火によって僚機を撃墜され、数的にはこちらが有利。その優位を生かさぬ理由は無かった。
「懐かしい機体だ、またこうして飛ぶ姿が見えようとはな。だが、果たして乗り手の腕は如何ほどか」
「空を飛んだ回数が乏しくとも、宙を駆けた経験に不足はない……!」
「宙か、それは期待できそうだ。さぁ、私の尻目掛けて着いてこい!」
 風防越しにシキが指揮官の姿を捉えると、相手は挑発するように両足を振って誘いをかけてくる。シキは照準器の中へと相手を収めるやトリガーを引き、機首の十三ミリ機銃及び主翼内の二十ミリ機関砲から弾丸を解き放つ。背後からの射撃に対し、指揮官はまるで後方にも目があるが如くくるりくるりと身を翻して弾丸を避ける。
(当てられずとも、速度を削げさえすればいい。最後に一撃、致命打を穿てればこちらの勝ちだ)
「ふむ、こちらの足を奪う腹積もりか? 良いだろう、そちらの思惑に乗ってやる。運動性の良さはこの身になってからの利点でな!」
 回避行動で速度を消費させ、動きが鈍ったところで一撃を。そう狙っていたシキの視界から次の瞬間、指揮官の姿が消えた。否、先ほどのダビングと同様、身体を広げて風を受け一瞬だけ大きく速度を減じさせたのである。キャノピー横を過ぎ去る黒影に気付けただけ、人狼の動体視力は驚嘆すべきだろう。
 斯くして、指揮官はシキとダビングの丁度中間地点へまんまと陣取った
「意趣返しというヤツだ。この位置ならば、後方の僚機も誤射を恐れて手出しは出来んだろう。かと言って位置を変えようとしても、その隙に貴様を撃ち落せる。無論、機体の脆弱部は余さず把握済みだ。さぁ、どうする!」
 相互の位置は逆転し、今度はシキが狙われる番となった。だが彼が取り乱す様子はない。指揮官と僚機の位置関係を確認しつつ、操縦桿を思い切り握り締める。
「無重力と重力下という違いはあれ、似た様な飛び方は宇宙バイクで何度も行っている。タイミングも応用可能だろう……軍馬の頑強さを思い起こさせてやれ」
 敵の射撃タイミングを見切り、シキは思い切り操縦桿を引く。それにより空力抵抗が大きく変わり、巻き上げられるように機体が反り上がった。各所が悲鳴を上げるも、Fw190はそれに耐え切り垂直旋廻を成し遂げる。完全に天地がひっくり返った視界の中、上/地面を見上げると目を剥く指揮官と視線が合った。
「なんとまぁ、無茶をするものだ……重力無き故の大胆さか!」
「これにて誤射の心配は無くなりましたね。砲弾のみならず、近代兵装もお相手頂きましょう。ターゲットロック。スターダスト、発射」
 これで憂いは無くなったとばかりに、待機していたダビングが翼下ポッドのハッチを開きマイクロミサイルを斉射してゆく。一発の威力は低くとも、その分弾数は多い。チャフもフレアも装備していない指揮官が逃れる方法は、直接射撃によるのみ。
「後ろへ向けて射撃出来るのも、生身特有の利だ。とは言え、こうも大量に追い縋られてはな!」
 口ではそう言いつつも、複雑な軌道を描く指揮官が銃口を揺らす度に、夜空へ焔の華が咲く。炸裂した火薬が爆煙を振りまき、白い靄が濛々と戦闘空域に充満し切った……瞬間。
「彼我速度の差異低下、及び友軍機の離脱を確認。ここが勝機と判断し、最大速で吶喊します」
 靄に紛れて接近していたダビングが、再び人型へと戻りながら指揮官に肉薄してゆく。飛び込んだ勢いを衝撃力へと転化しながら、戦機は手にした積層実体盾を叩きつけた。圧倒的重量差は流石に抗しきれず、女軍人の身体が吹き飛ばされる。
「航空戦で、格闘だと……タラン戦法でもあるまいに!」
 相手は悪態を吐きながら離脱を試みるも、この事態を想定していたダビングが先んじた。瞬時に周囲へ電磁障壁を展開するや、エネルギーをチャージ。バチリと蒼雷が迸るに至り、相手も戦機の狙いを悟る。
「貴様っ、こちらの銃撃で己の防護も完全ではあるまい! 自分も墜ちるつもりか!?」
「……過程の如何は関係無い。貴女の如き『魔女』を砕け散らせるという結果さえ得られれば、それで」
「待っ……!?」
 ――EMフィールド反転、リアクター出力強制開放。
 指揮官の制止は雷鳴によって掻き消された。眩い輝きが夜闇を塗り潰し、地上をも照らしてゆく。
 それが掻き消えた後、残された二つの人影は落下を開始した。初めにダビングが全身より煙を噴き上げながら崩れ落ち、次いでエンジンの停止した指揮官が墜ちてゆく。
「う、ぐ……まだ。まだ、墜ちる訳には、いかない……約束を、果たさねばっ!」
 だが指揮官は途中で意識を取り戻し、脚部を殴りつけて無理やり再始動させる。落下速度を利用して揚力を得、再び上昇しようと身体を引き起こした、彼女の視界で。
「……あんたを非難するつもりはない。だがこうして相対した以上、こちらも生きる為に戦うだけだ。善悪でも、優劣でもなく、明日へ至るために」
 キャノピーを脱落させ操縦席から身を出したシキの、人狼の手に握られた銀の銃口が瞬いた。姿勢、風速、高度、角度。それら全てを踏み越えて放たれた弾丸が、指揮官へと吸い込まれる。
「お、おおおおおおっ!」
 軍人は身を捻る。避け切れない。脇腹を貫く。痛みに歯を食いしばって耐えた。二つの機影は交錯する。指揮官は上空へ、人狼は地上へと。再び彼我の距離は開いてゆく。
「無事だろうが、仲間は一時離脱。こちらも風防が破損……どうやら、追撃は仲間に任せた方が良さそうか」
 操縦桿を握り直しつつ、シキは滑走路目掛けて機体を降下させ始める。地上から白煙が立ち昇っている場所を見やれば、再起動したダビングが立ち上がる姿が見えた。仲間の無事に一息つきながら、彼は着陸態勢を取るのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アメリア・イアハッター
【空響】2名
友達との約束なら、仕方ないよね
どっちも大切だもの
でも私も大切なものがあるんだ
だから、負けないよ!

空は飛ぶこともできなくはないけど、折角なら、ね、ね、ワンワン
わかってるよね?
ふふふ、よろしくね!

ワンワンが改造した戦闘機に乗り込み、空中戦を仕掛ける
自身は操縦に専念し、UCを用いて敵の攻撃を読み、避けながら機会を探る
ドッグファイトを仕掛けても人型の相手に後ろを取られる気しかしないので、アクロバティックな動きで敵に行動を読ませないようにしつつ、ワンワンに攻撃を任せる
敵が空戦速度を犠牲にするようであればこちらは速度をあげ、一撃離脱戦法で追い詰めていこう!

空で負けてなんてあげないんだから!


フェーズ・ワン
【空響】2名
へぇ、あんたの足についてる奴、いいねぇ
構造が気になるが、星を落とした後じゃそんな願いは叶わないかもな
残念だ
戦闘中にじっくり見ておきたいが、そんな暇あっかね

幸い味方が多いからな
ある程度改造の時間は貰えるだろ
まぁ任せておけって
どんなに乗り回してもぶっ壊れねぇようにしてやんよ

UC発動
速度強度を中心に戦闘機を改造
2人でも乗り込めるようにし、改造が間に合えば自身の席から攻撃できる銃座もとりつけ、完成次第出撃

操縦はアメリアに任せ、敵への攻撃に集中
取り付けた銃でとにかく弾をばらまき、アメリアが当てやすくしてくれた時には逃さぬように
後ろに取り付かれたり、隙があれば潜ませておいたウィンズを投入し攻撃



●比翼の鳥よ、星を目指して飛び上がれ
「……友達との約束なら、仕方ないよね。どっちも大切だもの」
 先に準備が完了した機体が離陸態勢に入るのを眺めながら、アメリアはそう小さく呟いた。拠点である飛行場を完全に制圧され、己の部下たちも既に全滅。そんな状況でも決して退くことのない姿に、彼女は朧げな敬意を覚えている。だが、それでも譲れぬものが猟兵たちにもあるのだ。
「でも私にも大切なものがあるんだ。だから、絶対に負けないよ!」
「その為にも、まずは足を用意しなきゃな。ある意味、この為に来たって側面もあるし」
 決意を新たにするアメリアの横では、フェーズが搭乗する航空機の品定めを行っていた。Bf109にFw190といった独逸軍機に加え、P51やスピットファイヤと言った名機たちも並んでいる。良くぞここまで集めたと舌を巻くと同時に、メカ好きとしての好奇心が俄かに疼きだす。そして、それはアメリアも同じだった。
「このままでも、空は飛ぶこともできなくはないけど、折角なら……ね、ね、ワンワン。わかってるよね?」
「幸い味方が多いからな、ある程度改造の時間も貰えるだろ。まぁ任せておけって……どんなに乗り回してもぶっ壊れねぇようにしてやんよ」
「ふふふ、よろしくね! 楽しみにしてるから!」
 既製品、量産機、大いに結構。しかしエースを相手取るのだ、ならばこちらも手を掛けたワンオフ機を用意するのが醍醐味と言うもの。仲間から期待を籠めた視線を向けられては、フェーズがそれに応じぬ理由もない。
 彼は二人で乗り込むことを考え、単座ではなく複座型の機体を選択する。そうして機体を前に腕まくりを一つすると、自前の機械部品を並べてゆく。
「二人で乗る場合、当然その分の重量が増える。なら、欲しいのは速度か。となるとエンジン回りに手を加えなきゃならないが、無茶をし過ぎれば故障の元だ……全体のバランスを取りつつ、どう持っていきたい方向へ伸ばしていくか。腕の見せ所だな」
 スパナを手に装甲版を外し、内部機構へとフェーズは手を加えてゆく。油の匂いと鋼鉄の感触に包まれながら、彼は手早く改造を進める。許された時間は先に戦闘している仲間が帰投してくるまでか。ちらりと上方へ視線を向ければ、夜空を裂く閃光が見える。
(あんたの足についてる奴、いいねぇ……そっちの構造も気になるが、星を落とした後じゃそんな願いは叶わないかもな。地面に落ちるなり、攻撃を受けるなり、まぁボロボロになってる可能性が大だろうが)
 考え方としては双発の戦闘機と言った所か。しかし、普通のレシプロ戦闘機と違ってエンジンは後方についている。それに、飛ぶための機構をどうやって足を収めるスペース込みで構築しているのか。正直言って、疑問と興味は尽きない。だがどうであれ、指揮官が無事に地面へ降り立つ姿など想像できなかった。
(そう思うと、実に残念だ。可能なら戦闘中にじっくり見ておきたいが……はてさて、そんな暇はあっかね?)
 敵に見とれて撃墜されましたでは笑い話にもならない。だが、そうした機会を僅かでも増やすべくフェーズは許す限りの改造を施してゆく。後方視界を確保しつつ、後部銃座を設置。嵩んだ重量による速度低下を補うべく、エンジン部の馬力を引き上げるよう改造を行い……先行していた仲間の機体が帰投し着陸態勢へ入る頃には、フェーズは改造作業を一通り終えていた。
「ふぅ……ま、こんなところだろ。これでそんじょそこらの機体より動けるはずだぜ?」
「おおー、すごいねぇ。カッコいい……!」
 手を加えられた機体に、アメリアは目を輝かせる。ぱっと見の外見としては後部に取り付けられた機銃座が目を惹く。英軍のデファイアントを彷彿とさせるが、内部構造から発揮性能まで段違いである。
「さって、滑走路も開いたようだし、俺たちも出撃するぞ。操縦は任せたぜ?」
「りょーかい! いっくよー、テイクオフ!」
 前方の操縦席にアメリアが、後方の銃座席へフェーズがそれぞれ乗り込むと、エンジンを始動。滑走路を駆け抜けながら、星目掛けて飛翔してゆくのであった。

「次の敵は通常の航空機か。妙な相手が多かったからな、どことなく安心感があるが……うん、機種はなんだ?」
 飛翔する二人を出迎えた指揮官は、脇腹の傷へ止血剤を振りかけつつ眉根を寄せる。基地に在る所有機は当然全て把握していたが、急接近する機影のシルエットには見覚えが無かった。
「それはそうだよ、これはワンワンが改造した特別製だからね!」
「原型機と同じと思ったら、痛い目を見るぜ?」
「成程、複座機か。ではその性能の程、確かめさせてもらおう!」
 急降下からの上昇軌道によって指揮官は敵機の背後を取るや、二十ミリ機関砲にて攻撃を開始する。アメリアが機体を振って射線を切るものの、数発が命中し甲高い音を響かせた。しかし、命中したのはどれも追加で施した装甲版部分。損傷は軽微である。
「念のため、防御面にも手を加えておいて助かったな……アメリア、一先ずこっちは気にしなくていい。思い切りぶん回してやれ!」
「オッケー! ワンワンが改造してくれた機体なんだもん、空で負けてなんてあげないんだから!」
 操縦席の少女がペダルを踏みこむや、エンジンが一気に回転数を上げてゆく。そのまま操縦桿を倒すと、大きく機体を傾けながら文字通り縦横無尽に動き始めた。
「随分と無茶な軌道を取るものだが……成程、特別製というのは伊達ではないか!」
 敵の動きを止めようと指揮官が立て続けに射撃を行うも、そのどれもが空を切るのみ。アメリアは機体を操作しつつ、相手の一挙手一投足によって生じる風の揺らぎを感じ、攻撃動作を見切っていた。そうして射線を掻い潜りつつ背後から引き剥がし、更にはジリジリと互いの距離を開けてゆく。
「風が全部教えてくれるから、あなたの攻撃はみんなお見通しだよ!」
「そいつは結構! だが、逃げてばかりでは勝負にならんぞ!」
 曲芸飛行によって致命打は悉く回避できるものの、それでは後部座席のフェーズが狙いを定めることが出来ない。我武者羅に弾をばら撒くことも可能だが、それも牽制以上の意味は成さぬだろう。積みこんだ弾薬にも限りがある以上、使いどころは見極める必要がある。
「確かに言う通りだね。なら、今度はこっちから仕掛けてみようか。ワンワン、いける?」
「勿論、タイミングはこっちが合わせる。やってくれ!」
 フェーズからの返事が来るや否や、アメリアは指揮官目掛けて機首を巡らせる。その軌道は敵の真正面、真っ向からぶつかり合う形だ。当然、相手としても狙いやすいことこの上ない。
「何を企んでいる? だが、好機であることに変わりなし!」
 如何なる奇策も砲火によってねじ伏せんと、指揮官は機関砲を構えて照準を定める。強烈な相対速度によって、瞬く間に彼我の距離は縮まってゆく。相手が射程圏内へと入った瞬間、引き金を引こうとして……。
「廻すよ……いまっ!」
 くるりと、アメリアが機体の上下を反転させた。放たれた砲弾が、虚しく虚空を通り過ぎてゆく。ハッと上を向いた指揮官と、後部座席のフェーズと視線が合う。同時に、彼の差し向けてきた連装機銃の銃口とも。
「こうでもしなきゃ、まともに狙いも合わせられそうにないからな!」
「よくもまぁ、無茶なタイミングでの連携を狙ったものだなッ!」
 寸分も違わぬタイミングで、彼は一斉射を浴びせかけた。次々と放たれる弾丸が雨あられとなって直下の指揮官へ降り注ぐ。刹那の交錯において吐き出された総数は、数十発は下るまい。
 そのまま速やかに離脱を計りながら、アメリアは仲間へ戦果を確認する。
「どう、当たった?」
「ああ、命中した。命中はした、が……やっぱり巧いな。あの土壇場で速度を落として、致命傷を避けてたぞ」
「でもそれなら、今は早さを取り戻そうとしているはず。復帰される前に畳みかけちゃおう!」
 端から一度で仕留めきれるとは思っていない。少女は再び機体を旋回させると、速度回復中であるはずの敵を求めて視線を巡らせる。だが、居ない。隠れる場所のないはずの空で、漆黒の機影は忽然と姿を消していた。
「嘘、一体どこに……!?」
「……ここだよ、お嬢さん」
 応ずる声は機体の後方から。思わずハッと背後を見やると、そこには尾翼へ手を掛けて機体にしがみつく指揮官の姿があった。それを見た瞬間、彼女は相手の取った行動を理解する。
「交差の一瞬でこっちに取り付いたの!? 下手をすれば衝突してバラバラになるのに、無茶なタイミングはいったいどっちなのかな!」
「だが、成功すれば何も問題あるまい。この至近距離ならば、銃座も使えんだろう?」
 相手も無傷では済まなかったのは、口元より伝う血を拭いながら、機関砲を構える。ここまで至れば外すことはまずあり得ず、機銃も懐まで入り込まれ応射することは不可能。
 だが、後部座席のフェーズに焦りは無かった。にやりと、敵を見据えながら不敵な笑みを浮かべる。
「確かに機銃は使えないな……機銃は、だが」
「なっ……!?」
 ぱちりと指を鳴らした瞬間、二条の輝きが指揮官を弾き飛ばす。目を剥く彼女の見たものは、二門の砲を背負った鋼隼の姿。ここぞというタイミングまで温存していた、フェーズの自律機械【ウィンズ】である。
「隠し玉とはな……だが、翼の一枚は頂くぞ!」
 不意の一手により引き剥がされるも、指揮官もただでは転ばない。機体の尾翼を破壊しながら、その場より離脱していった。
「一発かました代わりにやられたな。操縦に問題ないか?」
「うう~ん、着陸させるだけなら大丈夫。ただ、戦闘機動はちょっと難しいかも!」
「となると、一旦仕切り直しするしかないな……」
 アメリアの困り果てた様な返答に、フェーズも眉根を顰める。主翼と同じくらい尾翼が重要であることを理解している手前、無理を言う事など出来なかった。機体の着陸作業を少女へ任せつつ、青年は頭上を見やる。
 そこには未だ、漆黒の翼が悠々と飛び続けているのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

麻海・リィフ
アドリブ、即興連携歓迎

夜天の星なる将!
青天の嵐に不足なし!
いざやお相手仕る!

先制UC発動
一気に最高速まで加速、飛翔

主に翠光を使用
射程に入り次第念動衝撃波誘導弾にて範囲ごと薙ぎ払う

敵の攻撃は基本三種の盾を駆使して念動衝撃波オーラ防御などで受け
機を見切りカウンター念動衝撃波誘導弾で敵の武装や動力の部位破壊を狙ってスナイプ

空中浮遊ダッシュジャンプ残像スライディング等を駆使しドッグファイトを魅せる

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

過去を負って飛ぶか、星よ…
その覚悟見事!
なれど我等、明日を目指し飛ぶ夜明け!
暁の鐘を鳴らす者!

宵闇の幕を引かせてもらう!
最後は限界突破した機動で最大範囲射撃

終わったら 敬礼


ジュリア・ホワイト
やれやれ、夜間空中戦か
空を飛ぶ手段は無い、けど飛行機に頼るのも微妙にプライドがね

「だからまぁ、こうしよう!重武装モード展開!」

【ヘビーアームド・ウェポナイズ】で自身の射撃武装の射程を延長
地上から対空砲火を打ち上げてあげよう
精霊銃とML106ならこの戦いでも有効だよね
「地上からでも、星に届く!人は誰でも星に向かって手を伸ばすんだ!」
本体を捉えられるかどうかは向こうの技量次第かな
それでも戦友たちの亡霊を減らせれば、その分空で戦う味方が楽になる
「ああ、砲火の光がなければ見失いそうだ!次は投光器を用意すべきか!」
味方に当てなければなんとかなるとはいえ、流石に神経を使う!



●人よ。星へ手を伸ばし、飛びては至れ
「やれやれ、夜間空中戦か。向こうでは随分と派手にやっているようだ。ボクに空を飛ぶ手段は無い……のだけれど、飛行機に頼るのも微妙にプライドがね」
 滑走路より飛び立っていった仲間による航空戦闘。それを見上げるジュリアは苦笑と共に肩を竦めていた。飛行機が空を飛ぶのは当然、船が蒼空を航行するのも良しとしよう。だが、鉄道が軌条を離れるというのは、彼女的にはしっくりこなかった。
「だからまぁ、こうしよう! 重武装モード展開!」
 汽車の宣言と共に、汽笛の音が高らかに鳴り響く。高温蒸気を噴き上げながら、ジュリアは機動力と引き換えに、己が帯びる武装を一斉展開してゆく。携行式四連装ミサイルランチャー、暴徒撃退用高圧放水銃、漆黒の大型拳銃。それらの砲口は全て、仰角を限界ギリギリまで使い頭上へと向けられた。
「昔は装甲列車なんてのも相手にしていたんだよね? 少しばかり、地上の敵も懐かしんで貰おうか!」
「ふむ、そちらが対空砲火を担ってくれるのであれば、こちらは空へ向かうとしよう。なに、我は気にせずとも良い。味方の砲火も含め、精々踊りきって見せようぞ!」
 攻撃態勢を整えたジュリアの横合いより、蒼翠の騎士が天空目掛け飛翔する。謹製の光線砲を携えしは麻海・リィフ(晴嵐騎士・f23910)の姿だ。彼女は深緑と純白、二対四翼を羽ばたかせながら敵手へと挑み掛かってゆく。
「夜天の星なる将! 同じく騎士を名乗る者ならば、青天の嵐に不足なし! いざやお相手仕る!」
「……全く、休む間もなく新手か。良いだろう、首の騎士鉄十字が伊達ではないと教育してやる。来たれや戦友、我が虚ろな記憶の現身よ!」
 迎え撃つ指揮官が腕を一振りするや、じわりと夜闇へ滲むようにBf109の機影が現れる。それはエンジンを唸らせながら、銃弾を放ち始めた。だが、リィフが四翼を羽ばたかせた瞬間、彼女の姿が霞むように掻き消える。
「晴天の嵐、これぞその本領! さぁ、二機掛かりとは言え捉えきれるか!」
 弾道から離れた位置に姿を見せたリィフは、光線砲による応射をばら撒き敵の動きを牽制する。彼女は最高で時速マッハ五を超える速度を発揮することが可能だが、それに加えて要所要所での急加速も交えて敵のかく乱も狙っていた。
「成程、そういうことか。言葉通り遠慮はいらなさそうだ。それじゃあ、こちらも始めるとしよう!」
 それを地上より見守っていたジュリアも、心配は無くなったとばかりに戦闘へと参加する。ロケット弾が各発射孔より打ち出され、念誘導によって敵機目掛けて猛追を仕掛けてゆく。残念ながらどれも相手の連携によって迎撃されてしまったが、それも織り込み済みだ。
(やはり、そう易々と直撃は許してくれないか。だけど、力量の差はなんとなく見えた)
 予想通り、指揮官の技量はかなりの高さを誇っている。しかし、随伴している僚機の方はどうか。人型と単発機という形状の違いはあれ、どうしても一段か二段見劣りしているように思えた。
(本体に命中できなくても良い。戦友たちの亡霊を落とせれば、その分空で戦う味方が楽になる……とは言え、それも中々難しそうだ)
 しかし、夜間でただでさえ視界が悪い。その上指揮官は生身の為、こうして離れてしまえばその姿は極めて小さく捉えにくい。飛行場へ展開した味方によって投光器が引っ張り出されているが、戦闘の余波で破壊され数が減じている。
「ああ、砲火の光がなければ見失いそうだ! 次は自前で投光器を、もしくはいっそ照明弾でも用意すべきか!」
 空中で炸裂する火薬が放つ、石火の輝き。断続的に発生するそれらで敵味方のシルエットが映し出されていなければ、容易く姿を見失っているだろう。ジュリアは攻撃の手を途絶えさせぬよう、弾薬の装填が終わり次第順次攻撃を放ってゆく。
「……やれやれ、またぞろ騒々しくなってきたな。だがこれも見慣れたもの、懐かしくさえ思うよ」
「下ばかり見ているとは随分な余裕! 郷愁に浸るのも結構だが、我を片手間で相手出来ると思われるのは心外だな!」
 執拗に食らいついてくる僚機に銃撃を浴びせて振り払いながら、リィフは再び急加速を行い視覚外からの一撃を狙う。光線砲を構え、照準を定め、引き金に指を……。
「ああ、だから……その速さも、そろそろ慣れてきたんだ」
 掛ける、寸前。すうっと流れるような動作で二十ミリ機関砲が騎士へと向けられた。一瞬だけ早く、相手の砲口が火を噴く。リィフは攻撃を即時中断、避けられぬと悟るや三種の盾を瞬時に防御へと回し、砲弾を受け止める。咄嗟のガードが幸いしダメージは軽微であるものの、彼女は相手の反応速度に舌を巻く。
「こちらの機動をもう見切ったのか……!?」
「昔から偏差射撃が得意でね。自慢じゃないが、こちらが当てるのではなく敵が当たりに来るようだ、なんて言われてもいたよ。尤もそんなことを言ってくれる相手も、今じゃ一人も居なくなってしまったが」
 刹那の攻防により主導権は相手側へと流れる。機関砲の追撃に加え、援護に舞い戻った僚機が横合いからも攻撃を仕掛けて来た。しかし相手がロッテを組むように、リィフもまた単独ではない。
「少しばかり強引だけと、直撃よりはマシだろう。そこだっ!」
 友軍誤射の可能性も踏まえた上で、不利な流れを断ち切るべくジュリアが再度の弾幕で両者を引き剥がす。視界を遮る爆煙に舌打ちを一つすると、指揮官は身体を傾け地上目掛けて急降下を開始した。
「慣れと不快はまた別物だな。先にあの装甲列車を叩く、着いてこい!」
 主翼で風を切り裂きながら、二機は攻撃目標を変更する。汽車も手持ちの武装で迎撃を試みるも、高度を速度へと変換した突撃を捉えるのは並大抵のことではない。とは言え、武装展開した彼女の機動力は大幅に落ちている。それらを格納し切るよりも、敵の砲弾で貫かれるのが確実に先だろう。
「これは困ったな。でも、手が無い訳じゃないさ」
 しかし、ジュリアに焦りの色は見えない。彼女は放水銃の先端から高圧水流を噴き上がらせると、敵の進路目掛けて散布してゆく。
「水を使った目晦ましのつもりか!」
「半分だけアタリかな。忘れたのかい……こっちは『蒸気機関車』なんだ。だったら、目晦ましに使うものなんて一つしかないだろう?」
 敵の射程圏内へと捉えられる直前、ジュリアの全身から猛烈な勢いで蒸気が溢れ出る。それらは空中散布された水滴と反応、一瞬にして白い霧と化し地上一帯を覆い隠してしまう。白霧は汽車の姿を包み込むと同時に、地上までの目算すらも曖昧にする効果があった。
「地面への激突なぞ御免被る! 降下中止、機首を上げ……ッ!」
「地上からでも、星に届く! 人は誰でも星に向かって手を伸ばすんだ!」
 柔らかな白の中より突き出てくるは、黒々とした精霊銃。空へ舞い戻らんとした指揮官の瞳は、グリップに刻まれた『THINKER/思想家』という文字さえも読み取ることが出来た。
 連続して放たれた銃弾は指揮官の左脚部装甲を掠め、後に続いていた僚機のエンジン部を穿つ。動力を破壊された航空機は機首を上げることなく地面へと墜落、爆発を以て蒸気を吹き散らしてゆく。
「それは決して無駄でも無為でもない――いま、この瞬間の様に!」
 再び明瞭となった大地の上では、得物を構えたジュリアの決然とした姿が顕わになるのであった。
「何たる迂闊か……航空機が列車に墜とされるなど!」
「……ほう、それでは同じ空を飛ぶものであれば納得出来るのだな?」
 上昇軌道で舞い戻った指揮官を待ち受けるのは、四翼を羽ばたかせる騎士。相手よりも上方で砲口を突きつけるその姿は、奇しくも先ほどとは真逆の光景であった。
「失いし戦友を、旧き過去を負って飛ぶか、星よ……その覚悟見事! なれど我等、明日を目指し飛ぶ夜明け! 暁の鐘を鳴らす者!」
 光線砲内部より、緑がかった輝きが漏れ出る。それは内部へと収束された破壊力の程を暗に示していた。咄嗟に回避機動を試みる指揮官だが、この瞬間だけは速度が足りぬ。そして何よりも、放たれるのは光速の一条。如何に速き翼とて、輝きからは逃れ得まい。
「ち、ぃぃいいいいっ!?」
「この一撃を以て、宵闇の幕を引かせてもらう!」
 砲身から解放されるは、夜空を照らす破壊の光条。最大出力で吐き出されたそれは、回避すらも許さぬとばかりに夜空を埋め尽くす。リィフが薙ぎ払い終えた直後、光線砲は冷却のために内部から蒸気を排出して動作を停止させた。
「よもや、今のを凌ぐか。とは言え無傷ではあるまい」
 攻撃の瞬間、指揮官が選んだのは再度の降下。否、それはもう落下と言っても良い。速度無き状態で空を目指すよりも、地表スレスレまで下がってやり過ごすことを選んだのだ。しかし直撃ならずとも、破壊の光は確実に敵を焼いていた。
「落下紛いの回避など、飛行機乗りには屈辱だろうに。否、それを選べるが故のエースか。敵ながら天晴よ」
「それだけに手強いけれど……着実にダメージも与えられているはずだ」
 一旦地上へ降り立ち、敵へ敬意を表するリィフ。その横でジュリアが蒸気と汗を拭っている。敵は強敵なれど、無敵に在らず。二人は星へ手が届くことをこの戦いを通じて証明するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

檻神・百々女
ふふーん!今回もトドメちゃんの術式が大活躍よっ!
必要なら電脳結界に乗っちゃって!思考を読み取って飛んでくれるわー。
あとは結界もちゃんと起動するけど、その分リソースが減るから使うなら注意してね!
さーって、トドメちゃんも飛ぶわよーっ!

結界を打ち込んで動きを制限するわ、三次元戦闘で直接結界を打ち込んで切断、は流石に難しいと思うし。
トドメちゃんって意外と支援戦闘タイプなのよねー
折角だからアナタも最新の技術をたーっぷり味わっていってね!


化野・花鵺
「すごーいすごーい、かっこいー!美人のせぇふくさんだチョー燃えるー!」
狐、両手を叩いて大絶賛

「あ、でも敵だから倒さなきゃならないんだった。カヤの狐火じゃちょっと高さが不安かなぁ。お祖父さまに頼んじゃえ」

「偉大な天狐の召喚」使用
悠々と空中を駆ける天狐の風刃や雷撃に任せ地上で応援

「お祖父さまかっこいー!」
狐、目を皿のようにして地上から声援
但し祖父を応援しつつ敵の軍服を舐めるように見ているのは秘密

「はぁぁ、堪能したぁ。良い制服だったぁ。これで気合いをいれて道作り頑張るぅ」
依頼をきちんと聞かなくて道路工事専業依頼と思い込んでいた狐、また道路工事の手伝いを開始した



●科学の進歩と古刻の神秘、共に肩並べ
「おおー、すごーいすごーい、かっこいー! 美人のせぇふくさんだチョー燃えるー!」
 地上と上空で死闘が繰り広げられる中、別の意味で盛り上がっている少女が一人。花鵺はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、仲間たちと死闘を繰り広げる指揮官の姿に黄色い歓声を上げていた。彼女の視線はもう漆黒色の軍服に釘付けである。
「最初のピシッとした着こなしも格好良かったけどぉ、戦いでちょっとずつ乱れていくのもワイルドだねぇ!」
 それもそれで奇特な見方ではあるが、理屈で語り切れぬのが性癖であり趣味と言うもの。とは言え彼女も猟兵であることには変わりなく、観戦ばかりもしてもいられない。趣味を楽しむにもまずは義務を果たさねばならぬのが、社会の世知辛さだ。
「あ、でも敵だから倒さなきゃならないんだった。ただ、カヤの狐火じゃちょっと高さが不安かなぁ……」
 花鵺が放つ狐火の威力は、先の飛行場制圧戦で証明済みだ。しかし、幾ら何でも此処から上空までは遠すぎる。仮に射程距離の問題をクリアしたとしても、命中精度は期待するべくもない。さりとて彼女自身が空を飛ぶ術も、飛行機を飛ばす知識も無し。
 さてどうしたものかと思案する彼女は、ポンとひとつ手を打った。
「そうだ、ならお祖父さまに頼んじゃえ。不肖の孫にどうかお力添えを……助けて、お祖父さま!」
 自分が戦えぬなら、戦える誰かに頼ればよい。そう思い至った花鵺は手を組み合わせ祈りを捧ぐと、己の祖父へと助けを求める。すると俄かに彼女の周囲へポツポツと狐火が点り始め、焔が幻想存在の姿を浮かび上がらせてゆく。
「お祖父さま、飛べないカヤの代わりにおねが―い!」
 それは巨大な獣の姿。だが、単なる野生動物ではない。神域へ至るほどの年月を経た天狐であり、花鵺の祖父でもある。巨大な天狐はそっと孫娘の頭を鼻先で撫ぜると、軽やかに空飛ぶ鷲へ目掛け駆け上がっていった。如何な神獣、どれ程強大な存在で在ろうとも、やはり孫が可愛いのは万国共通なのだろう。
「流石、頼りになるねぇ……でも、此処からだと戦いぶりがちょっと見難いかなぁ」
 だが、幾ら巨体であるとはいえ、天の高みへと昇ってしまえばその姿は豆粒程度の大きさにしか見えない。況や、それよりも小さな指揮官など言わずもがな。祖父を見送りながら花鵺が困ったようにそう独り言ちていると、横から快活な声と共に助け船が差し伸べられた。
「ふふーん! それなら任せて頂戴! 今回もトドメちゃんの術式が大活躍よっ!」
 それは百々女が今回の作戦開始時から常に展開し続けている電脳結界である。守って良し、足場に良し、ある程度の重量なら乗せたまま飛行も可能。その上、誰でも扱えるという簡便さが売りの逸品だ。
「必要なら電脳結界に乗っちゃって! 思考を読み取って思うがままに飛んでくれるわー」
「おおぉ~、これならもっと近くでお祖父さまもせぇーふくも観察できる……! ありがとぉ~!」
 差し出された結界に花鵺が足を乗せると、ふわりと四角形が浮かび上がる。使い手の意志に反応して滑るように動くさまは、サーフボードを連想させた。自慢の発明品を見て目を輝かせてくれる姿に百々女も得意げな表情を浮かべる一方、注意点も忘れずに伝えておく。
「あとは結界もちゃんと起動するけど、その分リソースが減るから使うなら注意してね! 万が一霊力が切れたら、落っこちちゃうから!」
「お祖父さまは強いから、大丈夫なはずぅ……多分、きっと、めいびー!」
 頭上を見やれば、既に天狐が交戦を開始している。観戦するにしても、支援するにしても急ぐに越したことは無いだろう。
「オッケー! さーって、それじゃあトドメちゃんも飛ぶわよーっ!」
「よーし、れっつごー!」
 そうして二人の少女は威勢よく声を上げながら、電脳結界に乗って飛び立ってゆくのであった。

「フォックスハントは武芸の嗜みとは言え……よもや、逆に自分が獲物になる日が来ようとはな。想像もしなかったぞ!」
 一方、上空ではエンジンを思い切り吹かせながら指揮官が回避に徹していた。迫り来る爪や牙を紙一重で躱し、隙あらば機関砲を叩き込んでゆく。彼女の動きには戸惑いが見え隠れするものの、それも無理ないだろう。航空機に列車、同じ人ならまだしも、空を飛ぶ巨大狐を相手取った経験など在ろうはずもない。
「それに繰り出してくる攻撃はどれも厄介だ。私は兎も角、コイツは一度停止しているというのに」
 天狐の放つ雷撃が脚部に当たれば、エンジンは今度こそ完全に沈黙しかねない。また同時に繰り出される風の刃も、無色透明のため見切ることは極めて困難であった。相手の巨体も相まって、指揮官側も攻めあぐねているというのが実情である。
「……馬鹿正直にぶつかるのは自殺行為か。ここは初心に立ち返り、一撃離脱に徹して削り切るのが正着手だろう。幸い、小回りならこちらが優位だ」
 付き合ってはいられぬと、一先ず距離を取ろうとする指揮官。器用にもじりじりと後ろ向きに後退しながら、離脱の機を伺い……ゴツンと、背中に固い感触が触れた。ハッと振り返ると、そこに在ったのは青みがかった半透明な板。そんな場違いな存在がふわりと宙空に浮かんでいたのだ。
「っ、新手か!」
「ご明察! その正体はトドメちゃんの電脳結界なのでしたー!」
 言葉通り、その繰り手は百々女である。指揮官が小さく舌打ちしながらエンジンを吹かし急上昇するや、紙一重の差で風刃が結界に傷跡を刻み込む。退魔師は戦闘高度まで到達するや、足場用以外の電脳結界を動員し、相手の退路を断つように展開し始めたのだ。
「トドメちゃんって意外と支援戦闘タイプなのよねー。正直、直接結界を打ち込んで切断ってのが本当は理想だけれど、三次元戦闘じゃ流石に難しいと思うし……せめて動きくらいは封じさせてもらうわー!」
 百々女の行動は決して派手ではないものの、空に慣れた指揮官からすればある意味で天狐以上の脅威とも言えた。雲や嵐こそあれど、空に障害物と呼べるものは何もない。それが当たり前となっている相手からすれば、電脳結界は存在するだけで厄介この上ないのだ。
「電脳結界はそれだけじゃないし、リソースだってまだまだ残ってるから、覚悟して頂戴! 折角だからアナタも最新の技術をたーっぷり味わっていってね!」
「こちらの足を潰すと。忌々しいほどに的確だが、私にも意地というものがある。そう易々と狩れると思うなよ!」
 進路上へ次々と現れる結界を銃撃で強引に突破しつつ、天狐の追撃も紙一重で躱し切ってゆく指揮官。そんな雄々しい姿を花鵺があらゆる意味で見逃すはずもない。
「お祖父さまかっこいー! そこだー、いけー!」
 口では勿論、天狐を応援してはいる。しかし皿のように見開かれた瞳は、舐める様に指揮官の制服姿を堪能していた。加えて、心なしかちょっと息も荒くなっている。隣の百々女は電脳結界の操作へ意識を集中させており、それに気付かれる心配がない事だけは不幸中の幸いと言えるだろう。
「……成程、よくは分からんが多少は見えてきた。つまり、連中が狙い目という事か」
「あっ、不味いねぇ……多分、こっちに来るよぉ!?」
 そう、不幸中の幸いである。花鵺がじっくりと指揮官を観察していたが故に、かなりの距離があったにも関わらず相手の狙いをいち早く察知することが出来た。一瞬だけ交わった視線、そこから漏れ出たのは明確な殺意。
「お、お祖父さま、頑張ってー!?」
「お前たちを狙いさえすれば、この狐も防戦に回らざるを得んはずだ。航空機と同じく、動きを止めた獣ほど仕留めやすい獲物はいない!」
 天狐も敵の意図を見抜き、風の刃で迎撃を試みる。しかし、相手は被弾覚悟で吶喊してきた。不可視の斬撃が深々と指揮官の背を切り裂き鮮血を散らすも、僅かな間隙へと身をねじ込ませて強引に突破してゆく。
「『戦友』に願われたのだ、勝利をと! であればこの程度、やってみせよう!」
「わ、わわわっ!?」
 機関砲を構えた指揮官の姿が、見る間に視界内で大きくなってゆく。百々女の電脳結界は空域へ展開済み。手元へ戻すのは間に合わない。では狐火で迎撃するか、それとも避けるか、その判断を下す間もなく相手は花鵺を射程圏内へと収め。
「ちょっとだけごめん! でも、背に腹は代えられないから許してねー!」
 放たれた砲弾が、蒼き結界に防がれた。厄介な結界は全て出払っていたはず、そう目を剥く指揮官が見たのは、百々女に抱きかかえられた花鵺の姿。退魔師は仲間を己の結界上へ引っ張り込み、花鵺の足場用結界を防御へ転用したのだ。
「敵ながら機転が利く。よもや千載一遇の好機をこんな形で潰されるとはな!」
「代わりに、こっちも落っこちないのが精一杯だけどね! それじゃあ、一時撤退よー!」
 指揮官が再度攻撃を狙おうにも、狙いが露見した以上天狐がすかさず射線を潰してゆく。その隙に花鵺を抱えたまま、百々女は地面へと結界を降下させた。流石に一枚だけでは浮遊能力に支障が出てしまうのだ。
「ふー、今のは少しだけヒヤっとしたわね!」
 地面へ降り立ち、結界のリソースを確認すれば残量はギリギリ。危なかったと一息つく退魔師の横では狐娘が放心していた。恐怖によるもの、ではなくて。
「はぁぁ、堪能したぁ。良い制服だったぁ……これで気合いをいれて終わった後の道作りも頑張るぅ」
 超至近距離で制服を視れたことに対する、恍惚とした陶酔である。何とも暢気なものだと百々女は苦笑しつつ、道作りと言う単語に首を傾げた。彼女は知らない。花鵺がずっと、此度の依頼を道路工事専従だと思い込んでいることを。
 頭上ではコオォォと、未だ交戦を続ける天狐の叫びが木霊するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
【morgen・2】

隊員さん達にも凄く慕われてたみたいで
すごくいい隊長さんなんですね
この道を守るためにも、全力で戦わせて貰いますっ

絶対落とさないから。私を信じてください
一駒さんと手を繋ぎ、空へ飛びます【空中戦】

隊長さんの攻撃を回避する事に専念
避け切れなくても私が壁になります【激痛耐性】
どうですか?空も楽しくないですか?

相手のスピードが十分に落ち
私が隊長さんの上を取れるくらいになったら急上昇から急降下
一駒さんの手を離し突撃
夜に輝く焔の翼で注意を引きつけ
目眩しにもなれば、という狙い
本命は二撃目
一駒さん、お願い…!

一駒さんの手を空中で繋ぎ直します
きゃーっち!…あははっ。怖くなかったですかっ?


一駒・丈一
【morgen・2】

飛べる結希と手を繋ぎ空へ
若い娘と手を繋げるとは光栄だ…ここが苦手な空中でなければな!
俺の度胸がこの空より大きければ楽しめたのだろうがな。

UCで杭の雨を敵に浴びせる。敵の回避行動で減速させるのが狙いだ。
その後敵よりも急上昇し、一旦繋いだ手を放し、結希が先に降下し敵に体当たりだ。
これらで敵の意識を逸らし「行動の成功」抑止を狙う。意識外の事に対しては行動できんだろうしな。

本命はこれだ。俺が自然落下による時間差で敵へと降下し、刀で一閃し不意打ちをする

後は、落下の最中に空中で結希と手を繋ぎ直し地表との衝突を回避だ
回収してくれると信じてたよ。人の手の温もりでここまで安心したのは初めてだ



●手を取り合いて、飛べ戦友たちよ
 交戦の結果、ガクンと高度を落としながらも再び戦闘空域へ舞い上がってゆく指揮官。決して墜ちはすまいというその姿勢と理由に、結希は敵ながらある種の敬意を抱く。
「隊員さん達にも凄く慕われてたみたいで、すごくいい隊長さんなんですね。期待に応えようとして……でも、私達だって退けませんから。この道を守るためにも、せめて全力で戦わせて貰いますっ」
「敵に対する好悪と、戦いの要不要はまた別問題か……全く、戦場ってのはつくづく世知辛いもんだ」
 かつては傭兵を生業としていた経歴上、丈一もその手の話に覚えが無い訳ではないのだろう。そうして小さく息を吐く彼に向けて、少女がそっと手を差し伸べる。しかし対する傭兵の反応はと言えば、うっと呻きを漏らしどこか苦しげだ。
「……相手どころか、戦う状況を自分で選べないってのもまた侘しいな」
「絶対に一駒さんを落とさないから。その点は私を信じてください」
 ガリガリと頭を掻きむしると、観念したように丈一は目の前の手を取った。結希は添えられた手をしっかりと握り締めると、己の内側へと意識を落とし込んでゆく。イメージするは自らの真。すると少女の背に、ぽわりと紅蓮の双翼が浮かび上がる。焔が明確な輪郭を得るにつれ、二人はゆっくりと夜空へ向けて上昇していった。慣れぬ浮遊感に、丈一の表情が僅かに強張る。
「若い娘と手を繋げるとは光栄だ……ここが苦手な空中でなければな! 俺の度胸がこの空より大きければ楽しめたのだろうがなぁ」
「私は気持ち良くて割と好きなんですけどね。っと、焔の翼は目立ちますし、やっぱり気付かれちゃいますか」
 遠のく地面を男が見下ろす一方、少女は急速に接近する敵影を認めた。数度の交戦によってダメージを負っているものの、未だその戦闘力は健在。結希は丈一を振り落とさぬよう、握る掌に力を籠める。
「まずは回避に専念します。注意はしますけど、一駒さんもしっかり掴まってて下さいね!」
「了解。それじゃあ、こっちは攻撃を担当するとしますかね」
 風切り音と共に弾丸が飛来すると同時に、結希が翼を一打ちし戦闘機動へ突入する。返す刀で、丈一は周囲に杭を生み出すや立て続けにそれを射出してゆく。それはこれまでの戦闘で負った傷を反映してか、威力・数共に制圧戦時から増していた。
「これはまたなんと、荷を負っての戦闘か。他に幾らでもやりようがありそうなものを!」
「ふざけていると思いますか、隊長さん?」
「いいや。積んだ荷が爆弾とあれば、侮るつもりなどない。爆撃機(シュツーカ)の様なものだ!」
 仲間を抱えた結希が焔翼を羽ばたかせて飛翔し、杭を撃ち落としながら指揮官が追いすがる。巡行速度としては敵側の方が若干優勢。だが、絶えず丈一が杭を打ち込むことにより、それへの対処を強要させてジリジリと速度を削ってゆく。
「ところでどうですか、一駒さん? 空も楽しくないですか?」
「楽しい云々よりも、敵に追っかけられる緊張感の方がデカいな。その分、恐怖心も薄まっているから何とも言えんが……」
 ドッグファイトに興じつつ、ふと結希は悪戯っぽく問いかける。丈一の返答は歯切れこそ悪いものの、攻撃しながら会話を交わすだけの余裕があることを示していた。そのやり取りを杭雨越しに盗み見た指揮官は、現状のままでは埒が明かないと判断する
「これはいかんな、落とし切るにも数が多い。かと言って、避ければ距離を開けられると。となれば狙いは一つか」
「っぅ!? このタイミングで当てて来るとは、流石ですねっ」
 追従戦は一先ず杭の雨が競り勝った。堪らずコースを変えた指揮官だが、相手もただでは転ばない。身を捻って杭を紙一重で避けつつ、小刻みに三点射を放ってくる。数発が翼へ命中するも逆に溶かされ、飛行に支障はなし。然らばと狙いすまされた一射が、結希の左肩を貫いた。
「大丈夫か、結希!?」
「この程度、全然へっちゃらです! それよりも今ので距離を取れました。そろそろ仕掛けますが、良いですか!」
「こっちも既に腹を括ってあるからな。いつでも大丈夫だ、やってくれ!」
 一瞬体勢が崩れかけるも、結希は痛みを抑え込み体勢を立て直す。そのまま翼の焔を一層燃焼させるや、上昇気流を生み出し更なる高みへと舞い上がってゆく。
「手傷と引き換えに高度を取られたか。こちらも上がるぞっ!」
 すかさず指揮官も後を追うも、一秒で数百メートルを進むのが航空戦。数瞬の出遅れは如何とも埋めがたい差があった。しかし、その差が開き続けることはない……何故ならば。
「高度は十分……行きます!」
 上昇限界高度まで飛翔した瞬間、結希は身を翻して逆落としを決めたのである。煌々と翼を輝かせながら、少女は元来た軌道をとんぼ返りしてゆく。進路上には当然、猛追を駆けていた指揮官の姿が。両者の相対速度は恐らく亜音速へ手が掛かろうかというに段階まで高まっていた。
「工事作業くらいでしか使ってあげていませんでしたからね……本命のお相手ですよ、with!」
「盾の次は大剣か、今日はよくよく白兵戦を挑まれる日だな!」
 両手に漆黒の大剣を構え、猛然と挑み掛かかる結希。それに対し指揮官は咄嗟に直撃を避けるコースを取りながら、取り回しの利かぬ機関砲の代わりに腰元から拳銃を抜き放つ。
 重斬撃と零距離射撃、交差は一瞬。黒刃が金の髪を散らした一方、銃弾が相手の脇腹を穿つ光景を指揮官は確かに認めていた。
 すれ違い様に炎の光で視界を塗り潰され、その跡が今も彼女の瞳にちらついては居る。だが上手く凌ぎ切ったと、女軍人は不敵な笑みを浮かべ……。
「一瞬だけヒヤリとしたが、ダメージレースではこちらの……いや、待て」
 そこで、はたと気付く。相手の得物は大剣だった。しっかりとそれを保持しているのも確認した。でなければ、風圧で手の中からすっぽ抜けてしまうだろうから。そう、大剣の柄を、両の手で。
 であれば……その手を握っていた男は、いま何処に居る?
「……衝突で速度は奪われ、焔の翼で視界は塞がれた。そして、意識外からの不意打ち。認識していなければ、幾ら速度を得ていたところでアンタ自身が対応できないだろう」
 声が響く。下でもなければ横でもない。指揮官の上より男の声が降ってくる。ハッと頭上を見上げれば、正常に戻りつつある瞳が人影を捉えた。そこに居たのは頸断ちの介錯刀を鞘走らせた丈一の威容。
「飽くまでも比喩表現だったのだがな……本当に爆弾を抱えていたか!」
「ああ、この二の太刀こそが本命。驚く顔が見えて何よりだ」
 絡繰りを明かせば、急上昇した結希が丈一を更に上へと押し上げ自らは反転降下。焔翼の輝きと己の身体を使い、仲間の姿を覆い隠しつつ吶喊によって強引に敵を減速。交錯後、体勢を崩した敵へと傭兵が二の太刀を時間差で叩き込む……というのが、二人の作戦で在った。
 万が一敵に悟られれば丈一が格好の的になり、先んじた結希が致命打を負えば受け止める者が居なくなる。そんな綱渡りじみた連携を、二人はここまで押し込んだ。これもひとえに互いの信頼が成せる業。
「一駒さん、お願い……っ!」
「……ああ、任せておけ」
 少女の祈りが夜空に溶けてゆく。此処まで来て外すなど、それこそ在り得ない。吹き付ける風も、内臓が揺れるような浮遊感も、空に対する恐怖や焦りも、丈一の心を乱すことはなかった。在るのはただ研ぎ澄まされた一念のみ。
「……師匠が生徒の前で、情けない姿は見せらないよなぁッ!」
 介錯刀が振り下ろされる。右手に機関砲、左手に拳銃を握り締めていた指揮官に、その一刀を防ぐ手立ても、避ける暇もなく。
 ――斬ッ。
 冴え冴えとした剣閃が煌めき、鮮血の華が夜空に咲いた。脚部のエンジンが揚力を確保するものの、ぐらりと指揮官の肉体が傾ぐ。だがそれを確認するのもそこそこに、丈一は下へと視線を向けた。視線を巡らせ、結希の姿を探す。彼女が居なければ、そのまま地面へ真っ逆さまだ。
「結希、うまく掴んでくれよ……!」
「勿論ですよ、一駒さん! はい、きゃーっち!」
 全身へ吹き付ける突風に思わず嫌な汗を流す丈一。最悪の予感が脳裏を過ぎったその瞬間、そっと彼の手が柔らかな温もりに包まれる。落下が止まり、ほっと胸を撫で下ろしながら顔を上げれば、ケラケラと笑う結希の姿があった。
「あははっ。怖くなかったですかっ?」
「いや、回収してくれると信じてたよ。人の手の温もりでここまで安心したのは初めてだ。ただ、空を飛ぶなら次はもう少し穏やかな場所で頼む」
 そうして二人で一頻り軽口を叩いて人心地つくと、視線を頭上へと戻す。探すのは勿論、指揮官の機影だ。
「一駒さん、手応えはどうでしたか? ぱっと見、綺麗に決まったように見えましたけど」
「入りはしたが、敵も中々に強運のようでな。弾嚢内の弾倉に刃が当たってほんの少しだけ威力と軌道がズレた。恐らくまだ動けるだろう」
「運も実力の内、なんですかね……?」
 ともあれ、痛打を与えたのは確かである。同じ手が二度も通用する相手でもなし、二人は一度地上へ降りて仕切り直しを計る。その際、地面へ足がついた瞬間に丈一が思わず小さくため息を吐いていたのを、結希は見逃さない。
「……うん、どうした?」
「いいえ、なんでもありません!」
 訝しげな師匠の問い掛けに、生徒はクスリと笑みを零すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
互いが生きる為、その通りですね。
あなたが戦友や部下たちにとってどんな存在だろうと、私がやることは何も変わりません。この世界で人が生きるため、撃ち落とすのみです。

鳥の形の氷晶ゴーレムに乗り、空中戦を
願いの性質からして直接的に対抗するのは難しいですが……ならば勝利が荒唐無稽になるくらいまで有利な状況へ持ち込むだけです。

【シェイプ・オブ・フリーズ】を使用し、戦場に氷雨を降らせ、視力、見切り、暗視で敵の攻撃を避けることにまずは専念します
この氷雨であなたや足の兵装が凍結するか、あなたが私を撃ち落とすか。どちらが早いか……!

機体やエンジンに着氷しチャンスを作れたらフィンブルヴェトで氷の弾丸を撃ちこみます


トリテレイア・ゼロナイン
(飛竜に●騎乗●空中戦●暗視で視界良好)
承りました
この地を獲る者として、全力を以て相対させて頂きます

センサーの●情報収集で彼我の位置把握
頭部、肩部銃器を旋回銃座として牽制
同時に同士討ちの危険から連携戦術を崩す為、僚機に●怪力脚部爪や槍を用いた『格闘戦』敢行

あの機動、まさしくエース…
運動性、空戦経験は完全に彼方が上
後ろを…!

減速し回避後、背後を取る
と見せかけ装備捨て竜から飛び降り

空の星に届かぬならば…『手』を伸ばすまで!

奇策・暴挙で虚を突いた交錯時にUC射出し捕縛
巻き取り接近、空中で剣を一閃

…被撃墜という扱いでしょうね
まあ、宇宙の騎士としては上出来でしょうか
(落下しつつ遠隔操縦飛竜に回収)



●氷雨に打たれし星を掴め
「かはっ、ごほっ。今のは……下手をすれば、持っていかれていたな」
 漆黒の軍服は鮮血に濡れ、吐き出す息は苦痛で荒い。指揮官は痛み止めのアンプルを打ち込みながら、幸運と不運を秤に掛けて苦笑を浮かべる。死に損なった以上、戦い続けねばならない。約束を果たす為に。
「さて、相手もそう手は緩めて来まい。次は何処から……うん?」
 周囲に警戒を向けた直後、ポツリと雨粒が指揮官の頬を打つ。それは生ぬるい荒野の雨ではない。氷交じりの、芯まで身体を凍てつかせるような霙だ。この一帯の気候で、こんなものが降るなどまずあり得ない。ならば原因など一つしかなかった。
「……互いが生きる為の必然、その通りですね」
 ざぁざぁと本降りになり始めた氷雨の中、二つの機影が急速に接近してくる。雨垂れに打たれながら、氷そのもので出来た鳥の背に跨るは狙撃銃を手にしたセルマ。寒さに依ってか、ただでさえ真白い肌がさながら雪の如き色合いとなっている。
「あなたが戦友や部下たちにとってどんな存在だろうと、私がやることは何も変わりません。この世界で人が生きるため、撃ち落とすのみです」
「貴女の思想信条、私もしかと承りました。それを踏まえた上で、この地を獲る者として、全力を以て相対させて頂きます」
 その横へ肩を並べるのは、トリテレイアと彼の駆る機械飛竜の雄々しき姿。狙撃手ならざる常人ならば氷点下に至るこの空間で動くこともままならないが、鋼騎士にそんな心配は不要。恒星の灼熱から無明の暗黒まで存在する宇宙空間、そこで戦う為造られた身体はこの程度の冷気で動作を止めるほど軟ではない。
「全く、乾燥地帯向けの装備にこれとは何とも相性が悪い。派手な斬傷を負った身としては、些か以上に寒さが堪えるよ」
「ええ。当然、それを狙ってのことですから。願いの性質からして直接的に対抗するのは難しいですが……ならば、勝利が荒唐無稽になるくらいまで有利な状況へと持ち込むだけです」
 ぶるりと、指揮官の身体が震える。高空の寒さには慣れているとはいえ、これはまた別ベクトルの冷たさだった。手袋越しでも手がかじかみ始める。セルマの言う通り、機械部分も時間が経てば経つほど、動作不良の可能性が高まるだろう。
「これも武略の一環です。例え卑怯と評されようと……貴女はそうしなければならぬ強敵だと受け取って頂ければ」
「物は言い様だな。だが、そう言われて悪い気がしない私もつくづく度し難いやもしれん」
 そうして、双方が互いを射程距離圏内へと捉えた。トリテレイアの内部から機銃が競り上がり、セルマが愛銃を構え、指揮官が新たな弾倉を銃へと取り付ける。
「その娘がこの空の元凶ならば、護る騎士を乗り越えて浚って見せようか!」
 そうして三つの機影は戦闘機動へと移行する。まず先手を打ったのは指揮官側で在った。
「私とていつまでも二対一に甘んじているとは思わんことだ!」
 彼女が腕を振るうと傍らにBf109が出現し、長機の補佐へと回る。これにて数の上では対等だ。それを見たトリテレイアは一先ず敵機の連携を崩しにかかった。
「運動性、空戦経験は彼方の方が圧倒的に上。連携戦術を取られれば後れを取るのは明白です。まずはそれを突き崩さねば、突破口すらままなりません!」
 頭部、肩部の内蔵銃器を旋回させながら、鋼騎士は弾丸をばら撒いてゆく。威力は牽制故に決して高くはないが、本命は火線による相互連携の分断。各個撃破で在れば、まだ相手取りやすいという狙いであった。
「ジェット戦闘機に巨大な狐、お次はロボットの騎士と竜か! 次は宇宙人でも連れてくるんじゃないだろうな?」
「貴女からすれば、当たらずとも遠からずといったところでしょうか!」
 正確な射撃は戦機の得意分野、敵も巧みな軌道で避けるものの徐々にロッテの陣形に間が空き始める。更には時折、指揮官の動きが一瞬だけガクンと落ち込むのを、トリテレイアは見逃さなかった。
(あの機動、まさしくエース……ですが、セルマ殿の氷雨が着実に効果を発揮し始めている。相手の戦法は決して足を止めぬ一撃離脱、動きが鈍れば勝機は必ずあります!)
 万全状態であればエンジンを思い切り吹かし熱を生むことも出来ようが、今の状態でそれをやれば逆に負荷を掛け過ぎてしまうはず。故に相手の機動力はただ落ちゆくのみ。
 騎士らしからぬ戦法だと自嘲しながらも、それでもトリテレイアは冷徹に勝利への道筋を弾き出してゆく。だが相手は、別の方法にて事態の打破を計ってきた。
「……使い捨てる様で心苦しいが、全ては必要が求めること。許せ、友よ」
 敵のロッテが崩れる。だがそれは意図的なもの。僚機はエンジンが焼けつくレベルで回転数を上げると、竜騎士目掛けて吶喊を敢行してきたのだ。
「捨て身とは、お国柄が違いましょうッ!」
 不意の行動変化に回避は間に合わず、両機は空中にて正面衝突を引き起こした。だが直撃には至っていない。機械飛竜にマウントされた大型の馬上槍が、深々と敵機を刺し貫いていたからだ。だが相手は半壊状態のまま、我武者羅に機銃弾を吐き出してトリテレイアを食い止めようとする。
「これでは機動が……いや、それこそが狙い!?」
「気付いたところでもう遅い!」
 弾丸程度であれば、自前の装甲で耐え切ることも出来た。だが問題は敵そのものの重量。如何に空を飛ぶ機械とて、その大部分が金属製だ。総重量は優に二トンを超える。その上、馬上槍もがっちりと食い込んでおり引き抜くには手間が掛かるだろう。
 墜落せぬよう姿勢制御に追われるトリテレイアを尻目に、指揮官はその横を通り過ぎてゆく。狙いは当然、後方のセルマだ。
「この氷雨を解くには私を狙うのが最善手……ええ、予想はしていました」
「ほう、ではどうする?」
「時間はこちらの味方です。獲物が弱るのを待つのも、狩猟戦術の一つですからね」
 急速に接近してくる指揮官に、彼女が取ったのは逃げの一手だ。一見すれば消極的にも見えるが、この場においてその選択は正しい。こうして稼ぐ一分一秒が、降り注ぐ雨雫の一粒一粒が、全て敵を削り取る弾丸となるのだ。
「この氷雨であなたや足の兵装が凍結するか、あなたが私を撃ち落とすか。どちらが早いか……!」
「良いだろう、ならば勝負と行こうか!」
 氷鳥の翼がはためき、咳交じりのエンジン音がそれに続いてゆく。セルマの後方からは砲弾が絶え間なく飛来し、氷で出来た翼を端から打ち砕いてくる。だが氷雨が降り注ぐたびに、それらが凍り付いて傷口を補填していった。
「自己再生機能とは、とことんまでこの状況に適応しているなそちらは!」
「あなたもよく銃を撃ち続けられますね。既に表層へ霜が降りていてもおかしくは無いのですが」
「撃ち続けていれば銃身が熱を持つ。本来であれば金属疲労の原因になるが、この状況ならば寧ろ丁度いい温度だろうさ。武装が痛むことには変わりないがな!」
 環境と時間、その全てを味方につけたセルマは着実に敵の攻撃を凌いでゆく。だがその上で食らいついてくる敵も然るものと言えるだろう。しかし、拮抗状態ではいずれジリ貧となるのは目に見えていた。
「斯くなる上は……今だけは無理をしてもらうぞ!」
 指揮官は脚部を殴りつけると、強引にエンジン出力を上昇させる。散った戦友たちの想いを燃料に一時的な限界突破を行い、彼我の距離を縮めんと追い上げをかけてきた。
 至近距離からの砲弾が氷鳥の翼へ楔の様にめり込むや、内部から木っ端に打ち砕く。再生可能とは言え、修復までには時間が掛かる。低下した速度を取り戻すまでの数瞬、それだけあれば敵にとっては十分だった。
「そこ、貰った!」
「……こちらが、です! ようやく後ろを取ることが出来ました!」
 砲口を差し向けた瞬間、ガクンと指揮官の身体が揺れて照準がズレる。ハッと脚部を見やるとそこには絡みついたワイヤーが、そしてその先にトリテレイアの姿があった。彼は敵機の除去よりも仲間の救援を選択し、動きの鈍った機竜でどうにか接近するやワイヤー付き隠し腕で敵を捕縛したのである。
「竜の翼で空の星に届かぬならば……己が『手』を伸ばすまで!」
 次の瞬間、鋼騎士は機竜の背より夜空へと身を投じていた。ワイヤーが高速で巻き取られ、彼の重量を押し付けられた指揮官が下方へと引きずり降ろされる。
「馬鹿な、死ぬ気か!?」
 隠し腕を思い切り引き、長剣を振るうトリテレイア。咄嗟に指揮官は銃撃でワイヤーを破断するも、既にそこは騎士の間合いへと入っていた。
「仮にも騎士を名乗る者が、命を投げ出すことにどうして躊躇いがありましょうか!」
 重刃一閃。重々しい一撃が、女軍人の胴へと叩き込まれる。ミシリと骨の砕ける音が、得物越しに戦機の感覚センサーへと伝わってきた。先の歩兵は胴の半ばまでめり込んだことを考えれば、驚異的な耐久力。だがそれでも痛打であることに変わりはない。
「あ、ぐっ!? だが、これで一人消えたぞ……!」
 命綱の無くなったトリテレイアはそのまま地面へと落下してゆく。今度こそ狙撃手と決着を付けるべく、指揮官はエンジンを吹かそうとし……左のプロペラが回転を止めた。短時間で負荷を掛け過ぎたのだ。
「この、タイミングで……!」
「ええ、このタイミングを待っていました」
 頭上へ視線を走らせれば、完全に再生を終えた氷鳥へ跨ったセルマが直下へ向けて愛銃の銃口を向けていた。スコープ越しに両者の視線が交じり合う。
「得物を仕留めるにはやはり……弾丸を置いて他にはありません」
 発砲音が一つ響き、指揮官が身体を仰け反らせた。血混じりの氷片が夜空に舞い散る。だが命を射抜くまでには至らなかったのか、指揮官はよろめきつつも片肺のまま脱兎の如く逃走してゆく。
「仕留めきれませんでしたか。ですが、確実に手傷を与えられました。それよりも今はまず……」
 その後姿を一瞥しながらも、一先ずセルマは氷鳥を下降させる。落下した仲間の安否を確かめる為だ。しかし、そこまで降りずとも結果を確かめることが出来た。
「……これも被撃墜という扱いでしょうね。まあ、宇宙の騎士としては上出来でしょうか」
「良かった……そのまま地面まで落下せずに済んだようで何よりです」
 敵機を振り落とした機竜は、遠隔操縦によってきっちりと主の回収に成功していた。従騎の上で独り言ちる騎士の姿に、セルマはほっと胸を撫で下ろす。
 一方。凍てつく雨の中、一人飛び続ける指揮官。その翼は着実に傷み、追い詰められてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御堂・銀
来たか。その鉄十字……独逸の武人とお見受けする。
空中戦こそ武者の華。敵が手練であればなお誉れ。
我は大日本帝国陸軍が機甲武者、筑後御堂守月銀である。いざ尋常に!
見事に散った地上の英霊たちに我らが戦を見せつけようぞ!

我が望むはただ只管の高度優勢。回せ、上がれ、只管に夜天を突き進め。
天の上で一際眩く輝くものは何か。文明開化より幾年月、変わらず地を見守るものは何か。
星に非ず! 其の名は月!
月が昇るを止め得るものは無く、戦闘機が如何に攻めかかろうと我は止まらぬ。
有象無象を撃ち落とし、星と幾重も銃火を重ねて頂に至った時こそ決着を望もう。

――帝国陸軍空戦剣術 降月

夜明けに月が沈むのだ。星も共に来るがよい。



●輝星の銃火、銀月の剣閃
「はっ、はぁ……全く、実質一人相手に良くもこれだけの人数を揃えたものだ。戦いは数だとよく言うが、よくよく真理を突いている」
 連戦に次ぐ連戦、死闘に次ぐ死闘。それらによって、既に指揮官の全身はズタボロだ。きっちりと着込んでいた軍服は既に血に汚れ、両脚部の装甲版はあちこちが凹んでいる。時折エンジンも咳き込んでおり、いつ停止してもおかしくは無かった。だがそれでも、指揮官の瞳に映る戦意は些かも衰える気配がない。
「戦友を既に得ておりながら、それに気付かず取り零すとは。残っているのは、意志無き記憶の現身だけ。侘しいものだよ、つくづくな」
 彼女が腕を振るうと、新たなBf109が姿を見せる。満身創痍の長機と比べ、僚機の機体は新品そのもの。その操縦席に座る者は良く見知った相手だが、そこには自我も意志も無いことを指揮官は身に染みて知っていた。
「……さて、新手か」
 呟きと共に輝星の表情が引き締められる。新たな敵の到来を、戦闘機乗りの感覚が察知したのだ。果たして、夜空に輝く満月を背に一つの機影が戦闘空域へと侵入してくる。
 レシプロ機を思わせるエンジンを背負い、漆黒の機甲甲冑に身を包んだ姿にそっと指揮官は目を細めた。と同時に、ザリザリと無線機がノイズ交じりの音声を吐き出し始める。
「その鉄十字……独逸の武人とお見受けする。空中戦こそ武者の華。敵が手練であれば、なお誉れ」
「お褒めに預かり恐悦至極。些か見た目がみすぼらしくて恐縮だがね。そういうそちらは極東の武者と言った所か」
 互いを捉えた両機は、ゆっくりと弧を描くように旋廻を開始する。すぐに手は出さない。それは余りにも無粋であるが故。洋の東西を問わず、名乗りの礼儀は護られるべきだ。
「我は大日本帝国陸軍が機甲武者、筑後御堂守月銀である。いざ尋常なる死合いを所望す! 見事に散った地上の英霊たちに、我らが戦を見せつけようぞ!」
 堂々たる銀の口上に、輝星もまた朗々とした声にて応ずる。
「ならばこちらも是非は無し! 名はとうの昔に消え果て、今はただ輝く星と称される身。なれど我が戦友に魅せるとあらば、敵に背など見せられまい!」
 双騎の宣戦は果たされた。故に後は――剣林弾雨を以て語らうのみ。
 真円の軌跡は崩れ解け、彼らは猛然と戦闘機動へ移行してゆく。
「とは言え、連戦続きでこちらも疲弊している。この程度の援護、どうか卑怯などとは言ってくれるなよ!」
「無論! それらも踏み越え、この切っ先を届かせてみせん!」
 先手を取ったのは指揮官側。僚機を側面攻撃に回しつつ、自身は後方へと張り付き機関砲の斉射で狙い撃つ。全身を覆う装甲が甲高い音を響かせ、着弾の衝撃が銀の全身を揺らしてゆく。
(防御性能については当方が上。対して射程と運動性については敵方が優越。一撃離脱に徹されれば何れ削り墜とされる可能性が高し、と言った所か)
 銀は敵の挙動から、彼我のおおよその戦力差を分析する。彼女の手に握られている隕鉄刀、光芒千里であれば一刀の元に敵を屠る自信があった。しかし、相手の速度がそれを許さぬだろう。
 航空戦における戦闘概念、それは速度と高度に収束される。速力を以て高度を得、高度を消費し速度を纏う。そうして帯びたエネルギーは位置取り、回避、旋回等の戦闘行動によって都度消費されてゆく。
 故に空戦とはどちらがより熱量を稼ぎ、如何にして相手のそれを削り取り、地面へと叩き落すかという一種のマスゲームじみた側面を持つのだ。
「巴戦に勝機は乏しい。ならば、我が望むは――」
「仕掛ける気か。であれば機先を潰す。もう一度仕掛けるぞ!」
 銀が動く気配を察知したのか、輝星は僚機と共に連携して襲い掛かってくる。だが武者はその動きをこそ待っていた。後の先を抑える、その一瞬を。
「……回せ、上がれ、只管に夜天を突き進め! 望むは高みただ一つ!」
 機甲甲冑は身を翻して横合いから飛び込んで来た僚機を踏み砕くと、それを足場として強引に方向転換する。堪らず墜落する敵機を尻目に、狙うは圧倒的高度優勢。
「なん、だと! これも人型ゆえの機動だというのか!」
 驚愕の叫びすらも置き去りに、武者はただひたすらに上昇してゆく。
「天の上で一際眩く輝くものは何か。文明開化より幾年月、変わらず地を見守るものはいったい何か」
 ――星に非ず! 其の名は月!
 夜空の星よりなお煌々と。一切の欠けなき満月を背に、銀は刃を構える。ぐらりと体が傾ぎ、稼いだ高度を速度へ、破壊力へと急速に変換してゆく。
「月が昇るを止め得るものは無く、如何に攻めかかろうと我は止まらぬ。有象無象を撃ち落とし、星と幾重も銃火を重ねて頂に至った今この時にこそ、決着を望もう」
 これぞ必殺の威を籠めし一刀、その名は。
「夜明けに月が沈むのだ……星も共に来るがよい」
 ――帝国陸軍空戦剣術、降月。
 交錯は石火の瞬きが如く。月の軌跡が通り過ぎし後、ひらひらと大小の葉が舞う。否、それは輝星の纏いし機構が一部、左の脚部・腕部の翼であった。
「まだ、だ……!」
 指揮官は寸でのところで、致命傷は回避していた。だが翼と共に機械部の一部は持っていかれ、左腕からは滂沱と鮮血が噴出している。だがそんな状態になっても、輝星は墜ちる事を拒んでいた。
「まだ、私は……示せて、いないんだッ!」
 それが誰に対してなのか、分からぬ銀ではない。だが、語り掛ける言葉は無し。交えるのはただ白刃と銃弾のみ許される。
 故に武者は、その慟哭に耳を傾けるだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
【路地裏】

先ほどのフラスコチャイルドの子達が慕うのも納得な武人ですね。
果たさねばならない約束もあるようですが…。
だからといってこちらも譲るわけにはいきません。

真の姿になりて使用するUCは【稲荷大神秘文】
(祈り)を込めて祝詞を唱え(全力)でみんなを(鼓舞)します。ウケ、協力お願いしますね。
保食神ウケに霊力を底上げしてもらい(激痛耐性)の(オーラ防御)で仲間を(かばう)。
月代、ファン殿とペイン殿に銃弾が当たる前に飛んできた銃弾をウカの宝玉で風(属性攻撃)を強化し(衝撃波)で撃ち落して(空中戦)の(援護射撃)を。
同様に、もし機雷が撃ち落されそうになった時も(援護射撃)をお願いしますね。


ペイン・フィン
【路地裏】

ん……

人生、出会いも別れも、突然
戦場に身を置いているなら、尚更
……あまり、後悔を残すものじゃ無いよ

受け売り、だけどね

……貴女の、重し
自分たちが、今、終わらせるよ

真の姿を解放
赤い血霧のようなモノに包まれ、数歳程度幼くなる
そして、コードを使用
スマホのバベルの機械の翼を召喚し装備するよ

強化する技能は、空中浮遊、空中戦、オーラ防御
そして、ファンと手をつなぎ、空を跳ぶ

靴と翼、強化した技能で空の移動を補助
速度による空気の圧には、真の姿と強化したオーラ防御で耐える

速度は十全、空戦の妙は“彼ら”が教えてくれる、不足無し、だよ
貴女に、戦う理由があるように
自分たちも、仲間から、頼られている
負けない、よ


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
やれやれ、帰ったらまた大量に符を作らないとな。あいつを相手にしたら、戻ってくる式神はそう多くなさそうだ。

【戦闘】
再び【符術・鳥葬】を使用。語の人形をのせて飛び立つ。「おう、人形借りていくぜ」
吉備の祝詞による強化があっても鳥が戦闘機に追いつくこと自体は難しかろう。
だがそれでいい。語の言うように、周囲に展開し機雷として使えば相手の行動を阻害することは出来よう。バードストライクというわけだ。

さらに後鬼の【援護射撃】や【制圧射撃】で牽制だ。
なに、当たることは期待していない。注意を引いたり、あえて人形にあてて爆発を煙幕代わりに出来ればいい。

なにせ、こちらにも頼りになる戦友がいるものでね。


ファン・ティンタン
【POW】闘う為の者達
【路地裏】

あなたは、人かな、それとも兵器?
……いや、ちょっとした興味だよ
そこに意思があるなら、大した差はないし

【真の姿】にて【狙矢貫徹】
【手をつなぐ】ペインに全てを任せ、己は一振りの刃へ
器物の【封印を解く】事で【限界突破】した性能を彼に委ねる

【オーラ防御】と鋭敏化した【第六感】で最低限のフォローは入るけれど……
“この”地獄のような空での【情熱】的な【ダンス】、リードはペインに任せるからね?

【追跡】を撒く急減速【フェイント】、既に視てるよ
そして、御自慢の20mm機関砲、初速はどれ程だったかな?
残念ながら、どれもこれも、“遅い”
かつてじゃじゃ馬を御した、彼の燕に笑われるといい


落浜・語
【路地裏】
あぁ、さっき見かけたのは彼女か。
ま、なんにせよ、おかえり願うことに変わりはないからな。

狐珀の援護受けつつ、UC『人形行列』を使用。
このままじゃ、飛んでる相手に有効な手段にはならないんだが、そこは津雲さん、任せた。
津雲さんの式神で爆薬人形を運んでもらい爆撃ならぬ、空中機雷ってな。(爆破【属性攻撃】【範囲攻撃】)
ついでと言ったらなんだが、カラスに攪乱を頼む。
普通サイズのカラスは大きさ的に狙いを付けずらいだろうが、無理はしないでな。
合間を見て仔龍の雷を落とせたらなおいい、さて、そこまでの余裕があるかどうか。
こっちもこっちで、信頼できる仲間がいるんでね。負けるなんて事は、微塵も思いはしねぇな



●かつて間見えし我らが敵よ、今を歩む我が友よ
 夜空を征く指揮官の姿は、瀕死や死に体としか表現しようのない状態であった。全身には刀傷や銃創が幾つも刻まれ、流れた血によって軍服はべっとりと濡れている。脚部も片翼が寸断され、エンジンも一方は咳混じりに何とか動いているという有り様だ。
 だが、その眼に灯る戦意は尚も燦然と燃えていることだけは、地上からでも見て取れた。
「あぁ、さっき見かけたのは彼女か。短い間に随分と様変わりして……ま、なんにせよ、おかえり願うことに変わりはないからな」
「とは言え、手負いの獣はなんとやら。あいつを相手にしたら、戻ってくる式神はそう多くなさそうだ。やれやれ、帰ったらまた大量に符を作らないとな」
 敵の姿に憐れみを覚えるのは、この場合侮辱に当たるだろう。語は相手を全力で倒すべき敵と再認識しつつ、気合を入れ直している。その隣では、津雲が袂へと手を差し伸べて霊符の残数を指先で数えていた。先の制圧戦でもそれなりに消耗したが、此度はその比ではないだろう。だが出し惜しみをして勝てる敵でない事は彼も重々承知していた。
「先ほどのフラスコチャイルドの子達が慕うのも納得な武人ですね。何やら、果たさねばならない約束もあるようですが……だからといって、こちらも路を譲るわけにはいきません」
 先に交戦した歩兵の言動、そして漏れ聞こえた今際の遣り取り。狐珀もそこに思わぬ所が無いと言えば嘘になる。だが譲れぬものが在るのは彼女たちも同じだ。明日の灯火が過去の妄執に吹き消されることだけは、避けねばならなかった。
「そうだね。それに相手自身が遠慮は無用と言っているんだ。だったらこちらも、全力で当たらせて貰おう」
「ん……そうだね。それに、少しだけ、何とかできそう……だから」
 狐珀の言葉に、ファンとペインが頷きを返す。戦う事に変わりはないが、彼らには何か腹案がある様子であった。それがどの様な結果を齎すので在れ、恐らくマイナスにはならないだろう。
「さて、と。いつまでもこうしていても仕方がないし、打ち合わせ通りそろそろ始めるとしようか。狐珀、頼めるかい?」
「はい、お任せを。ウケ、協力お願いしますね?」
 ファンの問い掛けへ頷くと、狐像の少女が己の姿を変じさせてゆく。相貌を覆う様に白い狐面が現れ、周囲には青白い狐火が点々と浮かび上がる。纏う装束の裾丈も動きやすいよう短くなったのを確認すると、彼女はそっと口を開く。
「天狐地狐空狐赤狐白狐。稲荷の八霊五狐の神の光の玉なれば、浮世照らせし猛者達を守護し、慎み申す」
 朗々と紡がれるは天域に坐すモノへの祝詞。古くは天竺が荼枳尼天を祖とし、洋の東に至りては八百八万に席を連ねる神なる柱。鉾鈴を打ち鳴らし、厳かに舞を踏みゆけば、周囲に満ちるは清らかなる霊気の風。神使の獣が共に舞わば、それはより遠くへと届きゆく。
「空に七曜九星、以て天球を分かち二十八宿。夜天の守り、白日の守り。大成哉、賢成哉……稲荷秘文、慎み慎み白す」
 狐珀が大神への祈りを奏上し終えたとき、仲間たちの全身には大いなる存在の加護が付与されていた。行使する術、振るう刃の一つとっても常より精度が上がっているだろう。護りの維持のために祈りを続ける少女へ小さく目礼を送りながら、語は愛用の文楽人形を取り出す。
「よし、これならいつも以上の威力が期待できそうだ。相手は外人さんだしな、たまさかこれが爆弾だとは思わないだろ」
 繰り糸を手繰り、くるりと人形がその場で回れば、まるで万華鏡の如く瓜二つの姿がその場へ並ぶ。その数は三百と八十。それが宵闇の滑走路に並ぶとなれば、恐怖よりもまず壮観さが勝るだろう。とは言えソレらに飛行能力は無し。抱えて飛ぶには多すぎるが、その点も考えあってこそ。
「このままじゃ、飛んでる相手に有効な手段にはならないんだが……そこは津雲さん、任せた。ちょいと数は多いが、いけるかい?」
「おう、何とかなるだろう。少しばかり人形借りていくぜ」
 続いて、文楽人形群へと歩み寄ったのは陰陽師だ。彼は残数を確かめたばかりの霊符を虚空へとばら撒くや、剣指で素早く五芒星を切る。
「一体につき一枚、それも手持ち全てを使ってギリギリか。だが紙の鳥とは言え、式を籠めたもの。戦闘機への追従は兎も角、吉備の加護があるならば浮かばせるのに問題はなかろう」
 符から鳥へと形を取った式神たちは文楽人形へと取り付くや、空へ空へと舞い上がってゆく。サイズと重量的に機敏な動きこそ望めないが、高度を上げること自体は何とか出来ているようであった。それはそれでまた、使い途はあるというもの。ともあれ、本領を発揮できるのは完全に上り切ってからだろう。
「人形と式神も無事飛び立ったようだし、私たちも行こうか」
「ん……それじゃあ、バベル。宜しく、頼むよ?」
 今回、先の三人は地上からの戦闘支援を担う。対するファンとペインの役目は、空へ上がっての直接戦闘だ。二人は高空での戦闘に適応するため、それぞれ己の真の姿を開放してゆく。
 赤髪の青年は紅血の霧を纏い、その姿を幼き少年の姿へと。白き少女は己をただ一振りの白刃へと。そうしてペインは刃と変じたファンをそっと握り締めながら、もう片方の手でスマホを取り出す。ツバメの姿へと変じたそれは主の力を借り受けてひらりと舞うや、鋼の翼と化して背中へ収まった。ふと見ると、真の姿につられてか翼の下にはエンジンが設けられている。
「……うん。飛ぶには、問題ない、かな」
『こちらも準備完了済みだ。ここからは本来の刃としての役目を全うするとしよう』
 コオォ、と。エンジンは快調な唸りを上げている。青年の手中へ収まったファンもしっかりと掌に馴染んでいた。と、二人が飛び立つ直前に、語がふと思い出したようにポンと手を打つ。
「そうだ。なら、ものはついでだ。カラスも撹乱を頼めるか?」
 主の呼びかけに、肩へ留まった白首の鴉が任せろとばかりにカァと鳴いて応ずる。羽を打って飛び立つ黒翼と入れ替わりに、首元からは仔龍が顔を覗かせた。
「もしかしたら、出番があるかもしれないからな。同じように頼りにしているぜ?」
 頭を撫でられ、幼き龍は心地よさそうに目を瞑る。語としては負ける気など毛頭ないが、活用できる手は全て使うつもりであった。そして、それは仲間たちも同様だ。
「それじゃあ……いくよ」
 そうしてペインは仲間たちに見送られながら、手にした想い人と共に夜空目掛けて飛び上がってゆくのであった。

「……どうやら、いよいよ決着をつけるべく本腰を入れて来たか。地上に三、此方には一、いや、二と言って良いのかな。これは」
 浮上途中の式神たちを追い抜き、戦闘高度へと到達したペインとファン。上昇中に特段の妨害を受けることは無かったが、それは相手が能動的な策を講じる余力に乏しいことを暗に示していた。実際、敵の姿はそれを裏付けるに足る消耗振りである。
 訝し気な表情で出迎えた指揮官に、刀剣状態のファンが応じた。
『勿論。逆に聞くけれど、それならあなたは、人かな? それとも兵器?』
「軍人は組織の歯車だ、という返答で満足かな。推定お嬢さん(フロイライン)。して、その問いの意図は?」
『……いや、ちょっとした興味だよ。そこに意思があるなら、者か物かなんて大した差はないし』
「なるほど、君を見ていると非常に納得できる。」
 皮肉交じりの応酬は軽いジャブの様なもの。喋る刀を見ても軽口で返せるのは、竜騎士やら巨大な狐やらを見てきたからだろう。そうして仲間が一頻り喋り終えるのを待ってから、ペインが口を開いた。
「……戦友を、求めているんだよ、ね? 敵でも、部下でもない……対等な相手を」
「ああ。そうであるし、そうだった。尤も、みすみす取り零してしまったがね」
「人生……出会いも別れも、突然。戦場に身を置いているなら、尚更……あまり、後悔を残すものじゃ無いよ。じゃないとこうして、終わってからも、出てきてしまうから」
 ある人たちの受け売り、だけどね。そう零すペインの言葉に、指揮官も始めは若干の不快感を滲ませる。何を訳知り顔に、そう言いかけて彼女は口を閉じた。眼前の相手からは何処か懐かしいような、覚えのある雰囲気が感じられたからだ。
「……貴女の、重し。自分たちが、今、終わらせるよ」
「っ、貴様! その靴と翼、見た目は変わっているが、よもや……!?」
 何かに気付いた指揮官が咄嗟に制止を掛けるも、ペインは構わず戦闘機動へ突入する。口で言うよりも行動で示した方が分かりやすい、そう判断したからだ。
『魔力による防御障壁と直感で最低限のフォローは入れるけど……“この”地獄のような空での情熱的なダンス、リードはペインに任せるからね?』
「……うん。きっと、大丈夫。ファンのお陰で、速度は十全……それに、空戦の妙は“彼ら”が教えてくれる。不足無し、だよ」
 手元からの声にペインは穏やかな声で頷く。彼の意識は背の翼に、両足に履いた靴へと向けられる。如何にして空を飛ぶべきかを彼は既に知っていた。翼に搭載されたエンジンを唸らせると、僅か数秒でトップスピードまで加速してゆく。最高速度はマッハ6越え、それはかつての敵を優に凌駕していた。
「ジェット戦闘機、翼下双発……間違いない、その姿はMe262シュヴァルベ!」
 咄嗟に指揮官が銃撃を叩き込むも、圧倒的速度に自身の驚愕も相まって残像を貫くばかり。だが驚きも、すぐさま別の感情へと変わる。獰猛な、不敵な笑みへと。
「いまこうして貴様らが目の前に居るという事は、過程はどうあれ『そういう』ことなのだろう。であれば、情けない戦振りをどうして見せられようか!」
 出し惜しみは無しだとばかりに指揮官は僚機のBf109を召喚すると、ペインを追い始める。だが、両者の速度差は余りにも大き過ぎた。
「は、はははっ! 先刻も似た様な手合いを見たがそれ以上だな、最早笑うしかないぞ!」
 その速度故、機動はどうしても大回りになりやすい。ペインは強化された身体能力で風圧に耐えつつ、四肢を使って何とか制動を掛けながら敵を翻弄してゆく。高速下で機動方法は、かつての好敵手たちが教えてくれた。
 だが、主な攻撃手段はファンの白刀がメイン。ダメージを与えるにはどうしても接近する必要があった。当然、相手もその瞬間を狙いすましてくる。
「っちぃ、これも見切るか!」
「追跡を撒く急減速のフェイント、既に視てるよ。そして、御自慢の二十mm機関砲、初速はどれ程だったかな? ……残念ながら、どれもこれも、“遅い”。かつてじゃじゃ馬を御した、彼の燕に笑われるといい」
 しかし、それも対策済み。攻撃の予兆はファンによって見切られ、指揮官に出来るのは受ける斬傷をどこまで軽くできるかという事のみだ。
「全く。これでは鷲どころか、燕に狙われる虫だな。とは言え、英軍のソードフィッシュの例もある。小回りを活かして、精々小狡く立ち回……」
 対抗するには戦法を大きく変える必要がある。そう判断した指揮官は、より空気抵抗の高まる低空へ戦場を変えようと踵を返し。
「……なんだこれは?」
 固い何かにぶつかった。見るとそれは鮮やかな着物を纏い、白化粧を塗られた東洋風の人形。頭に取り付いた折り紙か何かでふわふわと宙に浮いている。おおよそ戦場に似つかわしくない存在に、指揮官の思考が一瞬止まったタイミングを見計らい。
『ま、コイツに関しても初見で見破れって方が酷だよな』
 カッと、それが内部から弾け飛んだ。空に濛々と煙が広がり、内部からちらちらと焔が覗く。体中を煤で汚しながら飛び出す指揮官が見たものは、戦闘空域一帯を埋め尽くす文楽人形の大群であった。
「爆弾を内蔵した人形だと……ブービートラップにしてはなんとも趣味が悪い!」
『おっと。罵るのは結構だが、それに引っかかってちゃ世話ないぜ。人形を使った爆撃ならぬ、空中機雷ってな』
 ゆらゆらと漂う文楽人形の内、指揮官の手近に居た個体が声を掛ける。それは人形の持ち主である語の声であった。吊り下げている式神を通じ、こうして地上から上空の戦況を把握しているのである。続けて、別の式神からは津雲の声が聞こえてきた。
『……ファンやペインが考えも無くお喋りに付き合っていたと思ったか? 狙いはアンタの注意を引いて、浮上するこれらを迎撃させないためだ。空は見通しが良すぎて、どうしたって目立つからな』
 対策を講じているとはいえ、語と津雲による空中機雷戦術はその散布数が肝だ。何かの拍子に叩き落とされたり、感づかれて移動されては全てが水の泡となる。故にわざわざ空戦組は先んじて高度を上げ、敵との会話に応じていたのだ。
『見ての通り、俺の式神は文楽人形を吊り下げるだけで手一杯だが……これだけ数があれば話は変わってくる。周囲に展開し機雷として使えば、そちらの行動を阻害することが出来よう。バードストライクのようなものさ』
「空中機雷だと……失敗兵器としての噂は聞いたことがあるが、よもやこんな方法で実戦投入するとは。しかし見た限り、どうやら即興の手妻。完璧と言う訳でもあるまい」
 忌々し気に舌打ちをしつつ、指揮官は機関砲を斉射して掃討を試みる。式神で浮遊させるのが限界とあれば、多少バランスが崩れただけでも容易く落下するはず。そうでなくとも一つを誘爆させれば、ドミノ倒しが如く一気に消えるだろうと目論んでいたのだが。
『……月代。ちょっと遠いかもしれませんが、お願いしますね? 心配しなくても大丈夫。ウカが支えてくれますから、どうか安心して下さい』
 第三の声が発せられた。砲弾が文楽人形へと触れる寸前、俄かに衝撃波が発生し鉄塊を叩き落としてゆく。しかし指揮官に驚きは無く、半ば予想していたといった風だ。それが決して偶然ではないことを、彼女は既に猟兵との戦闘経験から悟っていた。
「機雷など本来使い捨てだろうに、自衛能力まで備えさせるなど。費用対効果としては些か過剰すぎやしないかね?」
『実際問題、戦場は遥か空の上。それに一度種を知られてしまえば、同じ手は通用しないでしょう。故にこの一度で勝負を決するためにも、決して過剰な反応などではありません』
 呆れたように首を振る相手へ、狐珀が式神越しに至極真面目な理由を告げる。津雲の式神、語の文楽人形、どちらもそう容易くは補充出来ないものだ。再び上空へと送り出す隙も望めぬ以上、猟兵側からしたらこの一戦に全てを賭けるのは必定と言えた。
「奇策と呼べるが、それだけに嵌まった時は厄介この上ない。ああ、認めよう。これは酷く有効な手段だ」
 空飛ぶ文楽人形という冗談じみた光景だがその実、凶悪極まりない一手である。指揮官が本調子で在れば速度と射撃で切り抜けられただろうが、片肺状態ではそれも困難。もたもたと隙間を掻い潜っているうちに、ペインとファンに仕留められるのが関の山だ。
「……こう言った手段は、使い捨てる様で気が引けるのだがね。そうも言っていられんか」
 だからこそ、無傷で切り抜けるという選択肢を相手は捨てた。彼女が彼方へ視線を走らせると、空中待機していた僚機が反応する。敵機は一直線に上官の元へと突き進み始める……進路上の空中機雷を盛大に巻き込みながら。
「指揮官の仕事とは『どう兵を使い潰すか』と言うがな、こんなもの屈辱以外の何物でもない!」
『こいつはまた随分と無茶な手を取ったもんだ! 風でまた防御か、もしくは式神を操作して回避できるか!?』
 強引に機雷の群れを突っ切るBf109は見る間に爆発によって破壊されてゆく。その様子では数分も持たずに墜落するのが明らかだが、それまでにどれ程の機雷を巻き込むか分かったものではない。語を始めとした地上組の焦った声が、次々と式神から上がり始める。
『銃弾ならまだしも、あの質量ですと完全に防ぎきるのは、流石に……! 誤爆を防ぐだけでしたら、なんとか!』
『吉備は風を防御でなく式神の後押しに使ってくれ。流れに乗りさえすれば、まだ何とか直撃を避けられる!』
 黒狐と白幼龍の力を借り受けつつも対処へ手古摺る狐珀に、津雲が支援要請を飛ばしてゆく。幸いにも、敵は瞬く間に積み重なる損傷で、既にまともな進路調整など出来ない状態。現在の予測進路から位置をずらせれば、少なくとも数は温存出来る。
 問題はそれによって空中機雷の分布密度にバラつきが生じてしまう事。それは即ち、一部分とは言え指揮官が自由に動ける領域を取り戻したという事に他ならない。
「邪魔な障害物はこれで道を開けてくれた。さぁ、第二ラウンドといこうか!」
『一介の戦闘機乗りではなく、まさしく指揮官らしい戦術だね。だが、根本的な問題は解決していないよ』
 相手を機雷空域から逃すまいと、空戦組が再びの強襲を掛ける。ファンの言う通り、戦況はまだ若干傾きを戻したのみ。速度と言う絶対的な差にまだ変わりはない。ペインは白刀を構えたまま、先ほどと同じように接近しながら斬撃を放ち。
「……戦友が身を張ったんだ。私も身を切らねば格好がつくまい」
「っ、わざと攻撃を、受けて……っぅう!」
 二十ミリ機関砲を盾代わりに、超音速の吶喊を受け止めた。一気に全身へ伸し掛かるGに耐えながら、指揮官は腰元の拳銃を抜くや全弾を撃ち切るまでペインへと叩き込んでゆく。咄嗟にファンが障壁を張るも極至近弾を全て受けきるのは難しく、一発がペインの仮面に命中して跳ね返った。その隙を突き、輝星は頭を直下方向へと巡らせる。
「済まないが、先に地上から片付けさせてもらう!」
 降下するだけであれば、エンジンの調子は関係ない。自由落下を味方につけ、指揮官は一直線に地上の三人へと迫ってゆく。
「二段構えの戦術とはな……後鬼、牽制射を頼む。なに、当たらずともよい。速度を落とさせるか、人形へ当てて煙幕代わりに出来れば十分だ!」
 いったん式神の操作を中断し、津雲が二脚機を起動させる。搭載機銃による対空砲火を上げ、少しでも敵の勢いを減じさせんと抵抗を試みてゆく。時折、高度を下げた人形が誘爆するも、それを嘲笑うかのように指揮官は機関砲を構えた。
「察するに貴様があの要か。ようやく顔を合わせられたが、すぐにサヨウナラだ!」
「っ、させません!」
 地上目掛けて放たれた弾丸が、寸分たがわず陰陽師へと吸い込まれてゆく。しかし、それは半透明の障壁によって弾かれた。仲間を庇う様に前へと身を晒した狐珀が、決死の防御を展開して攻撃を一身に引き受けたのだ。
「攻撃は、通しませんっ! ウケもどうか、頑張って……!」
 狐珀も懸命に防御を維持するも、敵は同じ個所を狙い続け、障壁へ徐々にヒビが入ってゆく。その足元では白狐も抱えた巻物を通し全力で主へと霊力を捧げているものの、とうとう一部が割れ砕け、砲弾が少女の脇腹を掠めた。衣服と共に肉が抉られ、じわりと白い服が朱に染まるも、彼女が膝を屈することは決してない。
「今日一日、みんなで頑張って、明日へ繋げるために此処まで来たんです……こんなところで、絶対に終わらせはしません!」
 脳裏に過ぎるのは今日一日の工事風景。なけなしの資材を投げ打った人々と、共に作業を行った仲間たち。その情景の一つ一つが、彼女を支えていた。
「その意気や良し! だが、いつまで耐えきれる。そこの陰陽師も、逃げなくて良いのかね?」
 だが当然、相手もそれで退くことは無い。先程ファンのそれを破ったこともあってか、指揮官の言葉にも余裕が滲む。しかし、声を掛けられた津雲は肩を竦めて首を振った。
「その必要はあるまい。なにせ、こちらにも頼りになる戦友がいるものでね」
「上の二人か。だが、到着までもう数秒かかるぞ」
「それもある……だが、それだけじゃないさ」
 これが本当のバードストライクだ。
 瞬間、指揮官の視界を黒い何かが過ぎった。荒い布で擦られたが如く一時的に視界が霞み、思わず目を閉じてしまう。堪らず機首を上げた彼女は、視界の端に漆黒の翼を捉える。それは、白首の鴉。彼は語に頼まれた任を果たす機会を、粘り強く待ち続けていたのだ。
「よくやったカラス、そのまま離脱してくれ! さぁ、本当に出番が来たぞ」
 速やかに離脱してゆく鴉を狙う間もなく、頭上よりゴロリと重低音が響く。指揮官の直上では炸裂した人形の爆煙が寄せ集まり、小さな黒雲を形成していた。
「威力は小さいが雷は雷だ。ショートや炎上、グレムリンにはご注意をってな!」
 語の指示のもと、灰色の仔龍が天目掛けて小さく吼える。幼くとも龍は龍、天候操作の手妻に狂いは無く……迸った雷条が指揮官の脚部飛行装置へと降り注いだ。
「馬、鹿な……!? いったい、どこまでこちらの手を読んで……!?」
「と言っても、俺に出来るのはここまでだ。こっちもこっちで、信頼できる仲間がいるんでね。逃げるどころか、負けるなんて事は微塵も思いはしねぇな。と、いう訳で」
 トドメは任せたぜ、お二人さん?
 そして、指揮官の頭上へ影が差した。音すらも置き去りにし、天上より赤髪の青年と白き刃が飛来する。大気の壁を越えたその速度は、回避も防御も決して許しはしない。
『さっきは良くもやってくれたね。拳銃弾で破られるとは自信を無くしてしまうよ。だから……今度は逃げられると思うな』
「貴女に、戦う理由があるように。自分たちも、こうして仲間から、頼られている……それに、かつて乗り越えた燕にも、顔向けできない、から。だから、負けない、よ」
 必中にして必殺。ファンの刃を思わせる怜悧な宣告と、ペインの積み重ねた重みを感じさせる決意。打ち倒し、託された想いが彼等にはある。それらと共に振るわれた刺突が、指揮官の左太腿から足先までを深々と貫いた。
「――これに、負けたか。これを、良しとしたか。名も顔も知らぬ同胞よ……そして彼らに、己が力を認めさせたのか、諸君らは」
 左の飛行機構は完全に破壊された。内部の足も肉は愚か骨まで寸断され、動かす事すらままならぬだろう。だが、指揮官の瞳にはまだ光があった。戦意とはまた違った、そう、希望とも言うべき光が。
「羨ましい。ああ、羨ましいぞ全く。友と肩を並べて戦えるなど……だからこそ、済まないが此処へは墜ちれない。降りるべき場所は、此処じゃないんだ」
 ガォンと残ったエンジンを唸らせ無理やり白刀を抜き取るや、輝星は僅かに残った願いを掻き集めて再び空へと舞い上がる。だがそれは星の輝きと言うよりも、蝋燭が消える直前に放つ最後の煌めきと言った方が良かった。
 そうして一条の白煙を曳きながら、輝星は最後となるであろう飛行へと望んでゆくのだった

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
できれば一騎打ち希望

<<聞こえるかね?ルフトヴァッフェのお嬢さん>>
<<この最高の武器を使ってどちらがより強いのか答え合わせをしようじゃないか>>

基地の機体には目もくれず【軍用機】召喚でござる
機体はBf-109F、尾翼に三本線
同じ機体…機体?
拙者は他にUC無し
【操縦】技能だけを競おうじゃないの
天使とダンスだ!

性能は互角、しかし敵はある意味双発機…アレをやるか
敵の射線を避け縦横の旋回戦で焦らし、ワザとスキを見せてケツにつかせますぞ
シザーズで振り回し、互いに【空戦速度】を減らした所をループ
ある技でオーバーシュートさせ撃墜でござる
単座レシプロのみ許された、この世界では恐らく失われた秘技
捻り込みだ



●輝星よ、暁と共に還れ
 うっすらと、藍色の空が薄まってゆく。夜明けの時が近づいているのだ。徐々に消えゆく夜闇の中を、輝星はただ一人飛んでいた。全身と言う全身に斬傷と銃創が刻まれ、漆黒の軍服は血に染まりきっている。脚部の飛行機構は左脚側の大半が破壊され、内部の足も深々と切れ裂かれているのが垣間見えた。残っているもう一方も、時折不調を訴える様に咳き込んでいる。満身創痍、瀕死の死に体だと言えよう。
 だが、それでもまだ星は空に在った。
『……聞こえるかね? ルフトヴァッフェのお美しいお嬢さん?』
 ザリザリと、ノイズ交じりの音声を壊れかけた無線機が吐き出す。肩を貫かれ、力の入らぬ手でそれを掴むと、彼女は呼びかけに応えた。
「美しい、などと。この有様では皮肉にしかならんよ」
『いやいや、世辞なんかじゃない。戦う女ってのは誰だって美しいもんさ』
「褒めたところで、出せるものなど何もないぞ?」
 会話相手の軽妙な語り口に輝く星はフッと笑みを浮かべる。であればと、スピーカー越しに言葉が続く。
『だったら、一つお付き合い頂けると嬉しいね。この最高の武器を使ってどちらがより強いのか、答え合わせをしようじゃないか』
 言葉と共に、戦闘空域へ一機の機影が現れる。それは基地の戦闘機ではない。エンジン音も高らかに、悠然とその姿を晒すのは指揮官が纏うのと同種の機体。即ち、Bf109のF型。その尾翼にペイントされた三本線を認め、彼女はスッと目を細めた。
「こちらは告げる銘も既に擦り切れた身。一方的に尋ねるのは心苦しいが……そちらの名は?」
『エドゥアルト・ルーデル……なぁに、しがない戦場の傭兵でござるよ』
「ルーデル……ルーデルか。なるほど、通りで」
 腑に落ちた様に頷く輝星。彼女が思い起こす記憶は果たして自身のものか、それとも纏う機体に宿る記憶の残滓か。だが今この場において、そんな事は些末な違いなのだろう。
 指揮官は手にした機関砲の槓桿を引き、薬室内の弾丸を確かめる。それを合図に、エドゥアルトも距離を取って戦闘機動へと入った。両者が描き出すは、満月の如き真円の軌道。
『拙者の得物はこの機体のみ。それ以外に異能は無し。技能だけを競おうじゃないの』
「かたじけない、というのもおかしな話かもしれないが……だが、感謝しよう」
『良いってことよ。さぁ、始めよう。天使とダンスだ!』
 開戦を告げる叫びと共に、最後の決闘が幕を上げる。先手を打ったのは輝星側だ。
「技能と言えば、こればかりは誰にも負けない自信があってな。それが例え、こんな有り様であろうとも」
 左右の出力が著しく違っているのが嘘のように、輝星は巧みに姿勢を整えると機関砲を一斉射してゆく。相手の戦いぶりを観察し、事前に想定していたにも関わらず、エドゥアルトは機体が着弾の衝撃に揺れるのを感じた。
(手負いとは言え、偏差射撃の腕に衰えは無しか。それも踏まえた上で性能は互角、しかし敵はある意味双発機……なら『アレ』をやるか)
 相手の状態から言ってしまえば、ここでリスクを冒す必要はない。損傷的にも放置しているだけでいずれは墜落するだろう。そうでなくとも、隙を突く好機など幾らでも見つけられるはず。
 しかし、エドゥアルトはそれを良しとしなかった。泥臭い戦場にも、払うべき敬意というものはある。彼はこの好敵手へ幕を引くには、それに相応しい一手を演ずることが何よりの手向けだと心得ていたのである。
(本音を言えば、追われるよりも追いたい性分でござるが……今回ばかりは、な)
 彼は銃撃によって機体に不調が出た風を装い、敢えて隙を晒した。当然、相手もそれを見逃さない。まるで示し合わせたかのように輝星がピタリと背後へ張り付くと、傭兵はぐるりと機体を急旋回させる。
「まずはシザースだ。半壊状態の機体で着いてこれるか?」
「舐めるなよ。そちらも私のケツを狙いすぎて、失速しないように気を付けるんだな!」
 描かれるは二機による螺旋軌道。くるくると、まるで鋏の開閉が如く両機は互いの背を取り合う。優位な位置取りの確保と、失速の危険を天秤にかけるチキンレースじみた飛行。
 だが最終的にサイズ的な運動性の良さに加え、元より速度の低下している輝星側が旋廻内側を奪取し優位に立った。
「さぁ、どうした! 次は何を見せるつもりだ!」
「それを先に言っちゃあ詰まらない。お次はループだ!」
 グッと、エドゥアルドは機首を上げて垂直方向に旋廻する。ループ、つまりは宙返り。その場で回転することによって敵の背後を取る空戦技術だ。だが当然、相手もそうはさせじと追従してくる。上昇と共に機体の天地が入れ替わり、高度が頂点まで至った、瞬間。
(……いまだっ!)
 エドゥアルトはただでさえ低下していた速度を更に抑え込み、失速ギリギリの機体を横滑りさせる。そのまま高度を維持しつつ、斜め旋廻へと軌道を変更。後方の輝星を引き剥がすどころか、旋回半径差により相手を己の前へと押し出した。
 それは僅か一瞬の攻防。目を剥く指揮官は全ての機動が完了してから、己が一体何を仕掛けられたのかを悟る。
「これは、まさかっ……!?」
「知識では知っていても、実際にやられたのは初めてか? ああ、そうだ。これぞ単座レシプロ機にのみ許された、そしてこの世界では恐らく失われた秘技……」
 ――捻り込みだ。
 確固たる決意と共に、エドゥアルトは決着の一撃を放つ。相手と同じ二十ミリモーターカノンが火を噴き、必中必殺の砲弾を輝星へと叩き込んでゆく。もはや、相手にそれを避けるだけの余裕も余力もなかった。砕け散り、火を噴いて吹き飛ぶ脚部機構。見る間に落下してゆく指揮官は、しかしてどこか晴れやかな表情を浮かべていた。
「満足したかい、お嬢さん」
「ああ……実に、良いものを見せて貰った。見事だッ!」
 そうして、落ちる、堕ちる、墜ちる。星が地上へ向かって落下してゆき、そして。

「……駄目、だったか」
 指揮官の姿は飛行場の滑走路上にあった。脚部機構の不調により元々高度と速度が下がっていた事が幸いしたのだろう。荒々しい着陸だったものの、彼女は息を保ったまま地上へと辿り着いていた。
 だが、それもあと数分の命 仰向けに倒れ込み、最早指一本動かす気力さえない。見上げる空は、輝く星はどこまで遠い。だが、彼女の心はどこまでも穏やかだった。
「負けた……完敗だよ。ああ、だが、こればかりは許してくれるだろう? なぁ、戦友よ(カメラ―ド)」
 そう言って、彼女は横へと視線を移す。ある程度は片付けられたとはいえ、そこにはまだ歩兵たちの武装や機械部品等がちらほらと散らばっていた。
「全力を出すに足りえる強敵と相間見えた。あの時代の残滓に触れることも出来た」
 違う時代とはいえ、己の妄執へ正面から向き合ってくれる敵手が居た。
 違う世界とはいえ、かつての同胞を知る者達からその面影を垣間見た。
 違う人間とはいえ、聞き馴染んだ名から今はもう失伝されし技を見た。
 探し求め、追い求めた願いの一端が、其処へ確かに在ったのだ。
 であるならば。こうして、終わるのであれば。彼女はこう言わなくてはならない。
 胸元の勲章を握り締めつつ、輝く星は唇を動かす。
「黄の十四番機(ゲルベ・フィアツェーン)……」
 ――ああ、やっと。やっと、私は。
「………………Return To Base」
 還って来たぞ、戦友よ。
 ――そうして。一人きりの孤独な星は、ようやく帰投を果たすのであった。

 斯くして、最後の星が墜ちたことにより、建設された道路一帯の安全確保という任務は達成された。制圧した飛行場も、きっと拠点の人々が未来のために活用してくれるだろう。
 此処に猟兵たちの本依頼における全任務は完全に終了した。後はもう、帰還を果たすだけだ。
 地平線の下より昇りゆく朝日の輝きを背に、猟兵たちはそれぞれの戻るべき居場所へと帰って行くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月04日


挿絵イラスト