●逢魔ヶ時のすれ違い
「……お母さん?」
もはや顔も覚えていない幼少期に分かれた母親。顔は覚えていないが目の前に立っている女性が母親だということはなぜかわかる。
『あなたを産むんじゃなかった』
「―――え」
母が出ていったのは病気のせいだと父は言っていた。治ればまた一緒にいられるのだと。
だからずっとずっと待っていた。いつか会えると信じて顔も思い出せない母を待ち続けていた。
『あなたを産まなければ私はもっと長生きできた』
「お、かあ、さん?」
やっと会えた母の口から出てきたのは耳を塞ぎたくなる言葉。その可能性を考えなかったわけではない。だけど嘘だと信じたかった。自分のせいで母が病を患ったとは思いたくなかった。
しかし少女は大事なことを思い出す。
「お母さんは車椅子に乗ってたはず……」
そう、母は病状が進行し車椅子を使っていた。しかし今目の前にいる母は二本の脚でしっかりと立っている。その違和感に少女が気がついたとき、目の前にいたはずの母の姿は消えていた。
「今のは……?」
―――それはとある夕暮れの出来事。
●グリモアベースにて
「ちょっと聞いてほしい話があるの」
グリモアベースに集まった猟兵たちに向け、アンジェラ・アレクサンデル(音響操る再現術師・f18212)は開口一番そう言い放った。
「今回UDCアースで発見されたのは『感染型UDC』って呼ばれている特殊な個体。見た人はもちろん噂話とかSNSで自分のことを知った人間すべての精神エネルギーを餌にして大量の配下を作り上げる厄介な相手。いますぐに対処しないと取り返しのつかないことになるわ」
今回の噂は「夕暮れ時に目を瞑り、2歩進んでから振り返ると忘れたはずの誰かに会える」というものだった。
細部は脚色されて変わっているがほぼすべてのに共通する項目がこれ。ただの都市伝説にしか思えないが実際に忘れたはずの母と出会った少女の存在がこの話の信憑性を高めていた。
「どうやらその第一発見者の少女が危ないみたい。既に十分たまった精神エネルギーを代償に生み出された配下がその子の周りに大量発生するっていうのがアタシの予知よ」
まずはその少女を配下から守り、そして感染型UDCの噂がこれ以上広がる前にそれを討伐すること。それがアンジェラからの依頼の全貌だった。
「これは勘だけど今回はきっと一筋縄ではいかないはずよ。みんな気を引き締めて頂戴」
魔女の指先で描かれた数多の文字に彩られた円環が猟兵たちを戦場へと導いた。
灰色幽霊
どうも、灰色幽霊です。
今回は少々特殊な依頼となっております。
噂を元に発生したオブリビオンをまずは討伐していただき、その後元凶である感染型UDCも退治していただく、という流れです。
今回のオブリビオンの特性上、おそらく皆様は『忘れていた誰か』と垣間見えることでしょう。それが誰なのか、どんな相手なのかはご自分次第。皆様の忘れていた過去が紐解かれるかもしれません。
シナリオの状況や注意事項がMSページにございますので一読よろしくお願いします。
それでは皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『黄昏』
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POW : 【常時発動UC】逢魔ヶ時
自身の【黄昏時が進み、その終わりに自身が消える事】を代償に、【影から、影の犬などの有象無象が現れ、それ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【影の姿に応じた攻撃方法と無限湧きの数の力】で戦う。
SPD : 【常時発動UC】誰そ彼時
【破壊されても一瞬でも視線を外す、瞬きを】【した瞬間に元通りに修復されている理。】【他者から干渉を受けない強固な時間の流れ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 【常時発動UC】黄昏時
小さな【懐古などの物思いにより自らの心の内】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【黄昏の世界で、黄昏時の終わりを向かえる事】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●黄昏に染まる坂
「どうして!?」
時刻は既に19時を回った。冬に比べて日が伸びたとはいえこの時期ならばとっくに日が落ちているはずの時間帯。
「どうして太陽が沈まないの……」
しかし太陽は沈むことなく地平線にその身を半分だけ隠しそこに居続ける。
―――夕暮れが終わらない。
「夕暮れ……」
少女の脳裏に過るのは数日前に体験した奇妙な出来事。いるはずのない母と出会ったあの日のこと。もしかしたら、と少女が振り向いたその先に佇む一つの影。
にっこりとこちらに笑いかけるその影は懐かしい人の物だった。
※※※以下補足※※※
今回はプレイングに『忘れていた誰か』、『会いたい誰か』のことをお書きください。
関係性や過去に何があったのかも書いていただけるとありがたいです。
PSWはあまりお気になさらずに心情や過去に文字数を割いてくださいませ。
この夕暮れに足を踏み入れるた猟兵の前にはその誰かが現れます。
ここではその誰かと幸せな時間を過ごすことができるでしょう。
その時間は日が暮れぬ限り終わりません。
2章へ進むにはお別れを言う必要があります。
「また明日」
夕暮れは別れの時間なのですから。
波狼・拓哉
…時間的にはおかしい筈ですが、余り違和感ないですね。そういう罠?
しかし、これ撃ったら物理的壊れんのかな…ん?えーと…何処かでお会いしませんでしっけ…?え?あー!うっわ何年…何十年ぶりか!いやー久しぶり!
いやはやこんな所で出会うとは。…昔を思い出しますね。色々なことを知らず毎日毎日を楽しく過ごす…まさに平穏の日々ってやつでしたね
っと、短いけどそろそろ…あの頃みたいに『また明日』なんてね…また何処かで
…狂気と平穏は交わらず。いくら縁があろうとも、其方に俺が戻る事はもうないのです。名残惜しくはありますが…ま、今更ですね
しかし、なんて名前でしったけ…?
【忘れていた誰か:波狼が狂気に染まる前の友達】
●境界線の対岸で
「えーっと……時間的にはおかしいはずですがあまり違和感ないですね。そういう罠?」
終わらぬ夕暮れへと足を踏み入れた波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は周囲を一瞥し現状を確認する。夕暮れに足を踏み入れこそしたが敵意の類は全くと言っていいほど感じられない。この現象はただそこに在るだけらしい。
「しかし、これ撃ったら物理的に壊れんのかな……ん?」
物理的に破壊できなければここのルールに沿ってこの夕暮れを終わらせなければならない。そのためにもまず必要なのは情報収集。どうしたものかと頭を悩ませる拓哉の視界に写った一つの影。この距離だと誰かはまだわからないがどこかで会ったような、そんな気がする。
それを確かめるために拓哉は影に近づき声をかけた。
「えーと……どこかでお会いしませんでしたっけ?」
「ん? お前波浪か?」
「え? あー! うっわ何年……何十年ぶりか! いやー久しぶり!」
懐かしさを感じたのも当たり前。波浪が見つけた人影はここしばらく会うことのなかった友人。どうして会わなくなったのかも覚えていないが仲良くしていた記憶はある。こんなところで会ったのも何かの縁だろう。
この夕暮れの中に何故そんな人物がいるのか、そこに対する違和感は全くと言っていいほど存在していなかった。
「波浪は今何をやってるんだ?」
「あー……探偵だよ。父親の跡を継いだんだ」
「探偵ってかっけーな! 俺なんてただのサラリーマンだよ」
「かっこよくなんて無いって。結構大変なんだから……」
「そんなもんか?」
なんてことはないただの世間話。この世界のことなど何も知らずに毎日を友人たちとただ楽しく過ごしていたあの頃。何事もない平穏な日々。その片鱗が今もこうしてここにある。
『もし』拓哉が父から結晶を渡され無かったら。
『もし』探偵を継ぐことが無かったら。
『もし』猟兵になることが無かったら。
目の前の彼と今も変わらず笑いあっていたのかもしれない。
しかし、そうはならなったから拓哉は今ここにいる。そうでない道を拓哉は選んだ。
そして今もやらなければならないことがある。
「っと、やらなきゃいけないことがあったんだ」
「あ? そうだったのか。引き留めて悪かったな」
「いいって、いいって。また何処かで会えるといいな。また明日」
「おう、またな!」
狂気と平穏は交わることのない平行線。
かつての縁があろうとも交わることはない。拓哉がその境界線を越えることはありはしない。
名残惜しくはあるがかつての友人に別れを告げ拓哉は再び夕暮れの中を歩きだす。
「しかし、何て名前でしたっけ……?」
かつての友人を覚えていないほどの狂気に身を染めて、それでも拓哉は境界線の対岸を歩き続ける。
大成功
🔵🔵🔵
綴木・万里
会った覚えのない女性に覚えのない「●●」という名前で呼ばれる。
女性は万里が赤ん坊の頃に殺された母親、「●●」は本来名付けられていた名前。
本人はその後とある組織に密偵として仕込むために売り渡される。
一番古いのはその組織で行っていた訓練での【紅い】記憶。
あった覚えがないはずなのに妙に懐かしく思えます。
あなたはだれなのですか?なぜ僕を心配そうに見るのですか?
僕の名前は「●●」ではありません。僕は万里です。
あなたとは会ったこともないはずなのに、心配そうな顔に思わず
「僕は大丈夫です。安心してください。…さようなら」と言っていました。
最後に聞こえた声は何故か聞き覚えのある気がしました。
●親切で暖かな知らない人
「●●」
「はい?」
夕暮れに足を踏み入れた綴木・万里(影縫い・f01978)は見知らぬ女性に呼び止められた。どこかで会った記憶は一切ない。どうしてこんな場所にいるのかもわからないがどこか懐かしさだけは感じていた。
「ちゃんとご飯は食べてるの?」
「はい、おじいさんとおばあさんにはよくしてもらっています」
「それはよかったわ。●●は何が好きなのかしら?」
今にも泣きそうな顔をしながら心配そうに語り掛けてくるこの女性、彼女は万里の実の母親だった。
『●●』とは万里に本来名付けられるはずだった名前。しかしその名前は万里に付けられることなく母は何者かに殺害された。そして万里自身はとある組織に売り渡され、そこで密偵となるために数多の技を仕込まれた。万里が目的だったのか、ただのついでだったのか、今となっては母の死の真相もわからない。万里にとっての最も古い記憶はその組織で行われていた訓練での紅い記憶。
「風邪を引いたりはしてない? 夜は暖かくして眠らないとだめよ? ●●」
記憶にはなくとも万里は今確かに懐かしさを覚えていた。
誰なのかはわからない目の前の女性。
何故心配そうに万里を見るのかもわからない。
(でも……会ったことはないはずなのにその心配そうな顔を見ているとなんだか胸が苦しくなる)
そんな初めての感情に戸惑いながら万里は思わず口を開いてしまった。
「僕は大丈夫です。安心してください」
「……そう、それはよかったわ」
その一言で女性は安堵の笑みを浮かべる。何故かはわからないが万里はその顔を見て胸の奥が暖かくなった。
「もうこんなに大きくなったのね」
ずっとここにいるなんてできないことは万里も理解している。でも、できればここにずっといたい。目の前の女性ともっと話していたい。今まで自分が何をしてきたのか。それを全部話たい。
そんな願いが万里の胸の奥から湧き上がってくる。しかし、同時にそれではいけないと頭が訴えてくる。
この女性を悲しませてはいけない。そんな気がした。
「はい、だから僕はもう大丈夫です」
重ねて伝える大丈夫という言葉。それは目の前の女性と万里自身へ向けられる言葉。
「ええ、そうみたいね」
「だから……さようなら」
子はいつか親から独り立ちするもの。それが万里は人よりも早かっただけのこと。
過去にできなかったお別れを今ここで。
「―――、●●」
最後に耳に入った彼女の声。何故か万里はそれに聞き覚えのある気がしていた。
それはきっと母が子に語り掛け続けた言葉だったのだろう。
その言葉を胸に万里は親切で暖かな知らない人と別れ夕暮れの中を再び進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
寧宮・澪
会いたい人、に会える、ですか……。
師匠……アルダワで拾ってくれた養い親兼、シンフォニアの技術教えてくれた人。すごい癖字で、面倒くさがりで……ぶっきらぼうだけど、優しい師匠。
迷宮を見に行く、とあの人が出ていった後に私がいなくなったので、心配くらいしてくれたでしょか……。
結局それ以降、アルダワでも会えなかったんですが……どこいったんでしょー……。
またあの歌、聞きたいんですけどねー……子守唄代わりに歌ってくれた、師匠の歌。
聞けたら、きっと幸せなんでしょねー……。
……そう、聞こえるこの歌。
いつもぶっきらぼうなのに、歌は優しいんですよね。
……ずっと聞いてたいけれど、お別れを言いましょね……。
また、明日。
●懐かしい歌をもう一度
「……この歌は」
夕暮れを歩く寧宮・澪(澪標・f04690)の耳に飛び込んできたのは忘れもしない歌。
かつて子守唄の代わりに聞いていたこの歌。
もう一度聞きたいと思っても今まで聞くことができなかった歌。
「師匠……」
そう、この歌を澪に歌ってくれていたのはアルダワ魔法学園と呼ばれる世界で澪を拾い、親として育て、シンフォニアとしての技術を教えてくれた人。
「すごい癖字で、面倒くさがりで……ぶっきらぼうだけど、優しい師匠」
師匠が迷宮を見に行くと言って出ていった後に澪はそこからいなくなってしまった。その後に心配してくれたかもわからない。あとになってアルダワへ行っても結局会うことはできなかった。
だからこの歌も別れる前に聞いたのが最後。
アルダワにいるはずの師匠の歌が何故UDCアースで聞こえるのかはわからない。そして澪もそこに疑問を持つこともない。
師匠しか知らないはずの歌が聞こえるのならそこにはきっと師匠がいるはず。
「いつもぶっきらぼうなのに、歌は優しいんですよね」
歌の聞こえてくる方向に向かう澪の足取りは軽く、懐かしい歌に想いを馳せる。歌声に近づけば近づくほどその足は軽やかに。
もう二度と聞くことはできないと思っていた歌をこうして聞ける幸いを噛みしめて澪は歩く。
「―――あ」
そして見えたのは懐かしい背中。
分かたれてしまったあの日、迷宮を見に行くと言って出ていった時と何も変わらない優しい背中。
澪が会いたかった人が今ここにいる。
―――どこにいたんですか探したんですよー
―――私、歌も上手くなったんですよー
―――会いたかったんですよー、師匠
言いたいことはたくさんあるし、聞きたいこともたくさんある。
でも今はこの歌を聞いているだけでいい。この歌を聞けるのが幸せなのだ。言葉を重ねるよりも歌を聞いていたい。
澪はこの歌をもっと聞くために近くの手ごろな場所に腰を下ろす。
それからどれだけの時間が流れただろう。日の沈まないこの場所では時の進みがわかりづらい。
「……ずっと聞いてたいけれど」
そういうわけにもいかないことは澪が一番よくわかっていた。
「お別れを言いましょね……」
会えたことは嬉しいけれど、そのためにここに来たのではない。澪は再び立ち上がり師匠の背中に向けてたった一言。
「また、明日」
共に過ごしていた日々と同じように別れを告げて元来た道を歩いていく。
もう一度だけ聞こえた懐かしい歌が聞こえなくなるまで。
大成功
🔵🔵🔵
字無・さや
お坊さん。
流行病と戦でどこにも居場所の無くなったおらを拾ってくれたひと。
字を教えてくれた。手をつないだり、頭をなでてくれたひと。
大きくてあったけぇ手ぇしてたんだ。
おっとうやおっかあの事はおぼえてねえけど、お坊さんの事なら忘れたりしねぇ。
おらを庇って死んじまったはずなのに、どうしてそこにいるだ。
……なあ、お坊さん。もういっかいだけ、おらのあたまさなでてけれ。
そしたらおら、がんばれるから。
大丈夫だよ、おら一人でも歩けるだ。
……だから、さよなら。
いつかまた、ねはんで会えるべ。
そのときまで、さびしいけどさびしくねぇだ。
……朝は来るって、お坊さんも言ってたべ。
だから、この夕焼けも終わんなくっちゃなあ。
●ぬくもりを感じて
「……どうしてだ?」
夕暮れを進む字無・さや(只の“鞘”・f26730)の前に現れたのは忘れてしまった父や母ではなく、身寄りのないさやを育ててくれたお坊さんだった。
戦と流行病。さやのいた世界ではよくある話。さやの居場所はその2つによって奪われた。さやだけが特別なのではなくありふれたお話。
さやが他と違ったのは拾ってくれた人がいたことだろう。居場所のなくなったさやを拾ってくれたお坊さん。
学のないさやに字を教えてくれた。
親を失い悲しみに暮れるさやと手を繋いでくれた。
大丈夫だと言っていつもさやの頭を撫でてくれた。
とても大きくて暖かい手をしていたお坊さん。
とっても大切な人だったけれどさやを庇って死んでしまったお坊さん。
「どうしてここにいるだ」
そのお坊さんが何故ここにいるのか、さやにはそれがわからなかった。ただ夕暮れを進んできただけのはずなのに。
死んでしまった人とは会うことができない。それはさやも知っていた。なぜならそれを教えてくれたのは他でもない目の前にいるお坊さんだから。死は一時の別れ、人は死した後涅槃へと行きそこで再開する。
そう、お坊さんは言っていた。
ならここが涅槃なのかといえばそうではない。さやはまだ死んでいない。そのはずだった。
しかし正直なところそんなことはどうでもいい。今大事なのはもう会えないと思っていたお坊さんがさやの目の前にいるということ。
言いたいこともたくさんある。また一緒にいられたら。
だがそれは在ってはいけないこと。この沈まぬ夕暮れも消さなければならない。そのためにここへやって来たのだから。
それでも―――
「……なあ、お坊さん。もういっかいだけ、おらのあたまさなでてけれ」
さやのささやかな願いくらいを叶えてくれるだけの奇跡はあっていいはず。
この在ってはいけない幸いと決別するためのに。
さやの言葉を聞いてお坊さんの手がすっと頭へ伸びる。昔と変わらない大きくて暖かい手が大事なものを慈しむかのようにさやの頭を撫でる。
これでいい。これでさやは頑張れる。さや独りでも歩いて行ける。独りで歩くのは淋しいけれどこの暖かさがあれば寂しくない。
お坊さんも言っていた。絶対に朝は来る。明けぬ夜が無いように、終わらぬ夕焼けがあってはいけない。
「……ほんとはもっとなでてほしいけど……これで、さよならだ」
頭に伸びる手を優しく振りほどき、さやはお坊さんを追い越しまた夕暮れを進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
リインルイン・ミュール
暗い宙。出られない部屋。船の爆発
残る記憶はその程度ですが……
ウォーマシンらしき、見知らぬ影
でも、『レインルイン・ミュール』と呼ぶその音声を、ワタシは確かに知っていて――ふふ、文字しか記憶になかったのですが、それが正しい発音なんですネ
少しだけ、思い出しました
あの頃のワタシにとって、唯一の会話相手
回線越しに、色々な事を教えてくれましたね
記憶を喪失しても残っていた知識の一部は、きっとアナタから教わったものなのでショウ
でも、何故「姿」があるのですか?
ワタシ達の交流は、音声やテキストのやり取りだけ
アナタの姿を、一度も見た事はなかったのに
……幻でも、思い出させてくれた事には感謝しマス
サヨナラ、最初の友達
●久しぶり、初めまして、さようなら
『レインルイン・ミュール』
夕暮れの中、リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)を呼ぶウォーマシンらしき見知らぬ影。その姿に見覚えはないがその声には聞き覚えがある。
「――ふふ、文字しか記憶になかったのですが、それは正しい発音なんですネ」
その声を聞いてリインルインはほんの少しだけ失われた過去を思い出した。
暗い宙。出られない部屋。船の爆発。リインルインに残る記憶はその程度だが、リインルインの過去はそれだけではなかった。
昔もこの声で名前を呼ばれていた。独りぼっちだったレインルインの唯一の会話相手。リインルインが記憶を喪失しても残っていた知識の一部はきっとこの人から教えてもらったものなのだろう。零れ落ちても残るほどいろいろなことを教えてもらった。
しかしおかしい点が一つだけ。
2人の会話は常に回線越しで音声やテキストのやり取りだけだった。お互いの姿は一度も見たことがなかったはず。
『君はそんな姿だったのか』
「アナタこそ」
もしかしたらリインルインの未だ失われた記憶に答えがあるのかも知れない。
もしかしたらこの姿もリインルインの想像でしかないのかもしれない。
思い出せない以上、確認の方法は存在しない。
だがそんなことは些細なこと。名前を呼んでくれたその声をリインルインは知っている。きっとその記憶に間違いはない。たとえ幻だとしても思い出させてくれたことには感謝しよう。
「ワタシの記憶はまだまだ足りないデスがアナタのことは思い出しましタ」
『それはよかった』
実際に会うのは初めてだが回線上で重ねた時間は数えきれないほど。初めて会ったのだから話したいこともたくさんある。
しかしここに来たのはかつての友に会うためではない。この沈まぬ夕日を沈めるためにリインルインたちはここに来た。
無くした記憶の代わりに増えた思い出。それを全部伝えたらどんな顔をするのだろう。顔を合わせているのだから今はそれがわかる。だがそれは今すべきことではないこともリインルインは知っている。
久しぶりに忘れていた大切な人と会えた。
初めて顔を見せてくれたことには感謝しよう。
幻だとしても出会えてよかった。
『もう行くのか』
「ええ、行きマス」
『もう少し話さないか?』
「いいえ、もう十分デス。サヨナラ、最初の友達」
かつて名前を呼んでくれた最初の友達に別れを告げ、リインルインは夕暮れを再び進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『認識阻害の結界を打破せよ!』
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POW : ひたすら歩き回って探す
SPD : 違和感や不自然な点を見つける
WIZ : 魔術や魔法で隠された真実を暴く
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●日暮れの後に
気がつけば日は暮れていた。
第一発見者の少女も何が起こったのかはわからない様子ではあったが無事に保護された。その少女に話を聞くと
「夕方に橋の下でお母さんに会ったの」
本来会えぬはずの誰かと会うという不可思議な現象。それを引き起こしたのが感染型UDCの本体だろう。
今回の夕暮れも恐らくそのUDCから零れ落ちた力の欠片。片鱗でここまでの事態を引き起こせるのなら早急に手を打たねば取り返しのつかないことになる。
猟兵たちは少女から聞き出した橋の場所へと急行した。
●偽りのイマ
―――おかしい
現場へと辿り着いた猟兵たちがまず第一に感じたのは違和感。はっきりとしたことは言えないが何かがおかしい。それだけはわかる。
しかし違和感は歩を進めるごとに薄れていく。
―――これでいい
ここへは何をしに来たのか。それが思い出せない。
それどころか自分は何者だったのか。それも思い出せない。
―――誰/何が僕/私が何者なのか知っているのだろうか。
※※※以下補足※※※
今回は認識阻害の結界により猟兵は『自分が猟兵だということ』を忘れております。
とはいえ結界も完璧ではありません。些細な切欠で思い出せるでしょう。
大切な誰かの言葉。
大事な思い出の品。
心身に刻まれた傷。
それらがきっと思い出させてくれるはず。
忘れられない過去があるのでしょう。
忘れてはいけない理由があるのでしょう。
今回はプレイングに
『何故猟兵として戦っているのか』
『どうやってそれを思い出すのか』
をお書きください。
PSWはあまりお気になさらずに心情や過去に文字数を割いてくださいませ。
猟兵でない自分が何をしてるのかを書いてくださっても構いません。
「忘れても忘れられないモノがある」
あなたの理由はなんでしょう。
寧宮・澪
・何故猟兵として戦っているのか
うーんと……曖昧、ですねー……。
最初は成り行き、生きているうちに、生きていく手段として、なんとなくでしたから……。
今は、建前を言うなら……困っている人を、ほっときたくはないから、とか……オブリビオンは骸の海へ送るべきだから、とかでしょか……綺麗事で、弱い理由ですが。
・思い出す方法
何か謳えば、きっと思い出しますねー……歌はずっと一緒でしたから……戦っているときも、生きている間ずっと。いつでも、側に。
・何をしているか
寝て起きて、好きなことして、ぐーたら、してますねー……きっと今と一緒で。
ひょっとしたら師匠の側にまだいるのかもしれませんねー……。それは、それで。
●Song for you
「……あれ、ここどこですかねー」
寧宮・澪(澪標・f04690)は気がつけば見覚えのない場所にいた。ついさっきまで師匠と一緒にいたはず。にもかかわらず今は澪一人だけ。ここがどこかもわからないので上を見上げればそこにあるのは慣れ親しんだ蒸気と排気に覆われた空ではなく、きらきらと輝く夜空があった。
「綺麗ですねー……」
本来アルダワにいれば見ることのないであろう星空。しかし澪はそれを見るのは初めてではない、そんな気がしていた。いつかもこうして独りで空を見上げて星空を眺めていた……ような気がする。
ちょうどいい川原。葉っぱがついてしまうかもしれないがあとで掃えばいいだろう。澪は川原に寝そべりながらまだ空を見上げていた。
何故こんなところに独りでいるのかはわからない。だがこんなきれいな物を見てしまったら謳いたくなってしまう。心から溢れる旋律をそのままに、歌詞も何もないメロディーだけの歌を謳いだす。
「―――」
歌はいつでも澪と一緒だった。師匠と出会って、教えてもらってからずっと。いつでも側にいた。それだけは何があろうと変わらない。
「あ、流れ星」
変わったのは歌う場所だけ。今は師匠の隣ではなく、戦場で。過去から黄泉返った者たちを相手にするために歌を謳う。
「お仕事しましょか……師匠とはさっきお別れしましたし」
気がつけば歪められていた澪の認知は元に戻っていた。ここはアルダワではなくUDCアース。師匠はここにはいない。
そして猟兵としてやらなければならないことがある。
最初は成り行き、できるからやっていただけ。生きていく手段として手ごろだから。そんな理由で動いていた。
でも今はそれだけではない。
困っている人を放っておきたくない。
オブリビオンは骸の海へ送るべき。
他の猟兵との熱意も執念もないただのきれいごと。
これは理由として弱いかもしれない。しかしそれは正しい理由。そして澪が立ち上がる理由としては十分過ぎる。
放っておけないから人を助ける。人助けの理由はその程度で構わない。
立ち上がり、服についた葉っぱを掃った澪はもう惑わない。
認識阻害の結界はもはや意味をなさず、進むべき道も見えている。
「♪~」
星空の下、鼻歌と共に一人の猟兵は立ち上がる。
大成功
🔵🔵🔵
字無・さや
猟兵になったのは、正直なりゆきでしかねえだ。
気がついたら敵が勝手に死んでるだ。
猟兵でなけりゃとっくに野垂れ死んでるだ。
生きているのは誰かが助けてくれたから。
だからおらも誰かの生きていて良い理由をつくる。
みんな助けられるわけねえ。せめて一人でも多く。
其処に居て良いって言ってやりたかった。
抱えていた刀を握る手には何時の間にか痛いほど力が籠もる。
普段なら恐ろしくておらは震え慄くだろう。
でも今はあえて委ねる。
おらに力はねえが、手首に巻いた数珠に触れて思い出すだ。
おかしいなって気付く事はできるだ。
おらの代わりにそれ、斬ってくれろ!
『結界だろうが、まやかしだろうが
俺様に、斬れねえもんなんざねえんだよ』
●“さや”として
「はやくかえらねぇと」
字無・さや(只の“鞘”・f26730)はいつも通り、川原を歩いていた。いつもの様に傍らに刀を持って。
そこに何もおかしいところはない。いつものことだ。
―――強く握り過ぎた刀を持つ手に自分の爪が食い込んだ。
どうしてここにいるかはよく覚えてはいない。どうせ何も考えずに歩いているうちに迷ったのだろう、とさやは足早に川原を歩く。
とっくに日は沈んでいる。はやく帰らないと心配させてしまう。
「……? だれにだ?」
一体誰に心配をかけるのだろう。父や母? 確かにいた記憶はあるがもう顔も覚えてはいない。
―――刀を握る手に力が入り過ぎ、じくりと痛む。
そもそも何故自分が刀を持っているのか。そこにさやは違和感を感じていない。これはあって当たり前の物。少なくともさやはそう感じている。
しかし同時に刀を持つ手に力が入るこの状況が恐ろしいものなのだとも感じている。普段のさやならば震え慄くような状況。
だが、今はあえてこの状況に委ねることにした。心を落ち着けるためにそっと手首に巻いた『数珠』を触れて。
「数珠……ああ、おかしいだ。おっとうもおっかあもお坊さんももういない。ならおらはどこにけぇるだ?」
この数珠はお坊さんの形見。それがここにあるということはお坊さんはもういない。もうお別れしたのだ。
父も母も死に、お坊さんも死んでしまった。だからさやは猟兵になった。否、猟兵だった。この刀を握ったあの日から。
「おらはなにが起こってるかわからねぇ。だからおらの代わりに斬ってくれろ!」
『珍しいこともあるこった』
さやが刀を『妖刀マガツヒ』を抜き放つ。妖刀の意思がさやに流れ込み、身体を支配する。
そのまま振り上げられた刀はただ一直線に下ろされる。
音もなく斬る捨てられるセカイ。まやかしの結界が崩壊し現実へと帰還する。
『結界だろうが、まやかしだろうが俺様に、斬れねえもんなんざねえんだよ』
この妖刀を拾ったからこそさやは猟兵となった。それはただの成り行きでしかない。窮地に陥ると気づけばまわりはいつも血の海だった。
だがさやは今自分が生きている理由を知っている。生きているのは誰かが助けてくれたから。だからさやも誰かを助けて生きていていい理由を作る。
使える力は何でも使って一人でも多くの人のために。
其処に居て良いというために。
「さて、行くだ」
まやかしを斬り捨て、刀を携えた猟兵はまた歩き出す。
大成功
🔵🔵🔵
波狼・拓哉
…何処だここ。んー…何しに来たんだっけ?1人でブラブラしてたから、道覚えてないな
…また謎現象かよ。全く、独り立ちしてからロクな事起きてませんよ……何から独り立ちしたんだっけ
…まあ、いいや。多分そういうことなんでしょう。どうやら、お迎えも来たみたいです。動く箱とは恐れいりましたが…あ?どうせ最初から誰/何が僕/私が何者なのか知ってないんだから、気にすることはない?言ってくれますねー。ま、やるべき事はお前が知ってるんでしょう。現状が何とか出来りゃ何とかなりますしね、思い出せなくともどうとでも…そういや、猟兵でしたね。
(アドリブ絡み歓迎)
●狂気の果てで
「……何処だここ」
波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は気がつけば何処かわからない川原を一人歩いていた。
「こんな夜に……んー……何しに来たんだっけ? 1人でブラブラしてたから、道覚えてないな」
身に覚えのない場所を歩いているのも拓哉にとっては日常茶飯事。超常現象専門の探偵などそんなもの。独り立ちしてからロクなことが起きていない。
こういう時は何も考えずに事が起こるまで歩き続けるのが得策だと拓哉はこれまでの経験から知っていた。故に拓哉は星空の下をただ歩く。たった独りで。
猟兵にならずとも拓哉は探偵として超常現象追うのだろう。歪められたイマでもそれは変わらない。
―――違いがあるとすればイマ、拓哉の隣にはナニもいない。いつも隣にいたナニカがここにはいない。
「……箱?」
そんな拓哉の前に現れたのは箱。この場には明らかにそぐわない箱。記憶はなくとも探偵としての嗅覚が危険を告げる。しかし同時に心の奥底でどこか懐かしさをこの箱に感じている。
「ついて来いって?」
箱はまるで拓哉を先導するかのように歩き出す。箱が動くという超常現象。本来ならば無視をするものではないかもしれないが拓哉は心の奥底から湧き上がるオモイに従い箱についていく。
「しかし、動く箱とは恐れ入りました。え? どうせ何も覚えてないんだから気にすることはない? 言ってくれますねー」
川原に響くのは拓哉の声ただ一つ。しかし拓哉は確かに誰かと会話をしている。何も知らない人がその光景を見れば気が狂ったのかと思うだろう。
「ま、やるべき事はお前が知ってるんでしょう。現状が何とか出来りゃ何とかなりますしね、思い出せなくともどうとでも……」
箱に先導され、川原を歩き拓哉がたどり着いたのは少々広い河川敷。そこで箱は立ち止まると拓哉の方へと向き直す。
「ん?」
立ち止まった箱の蓋が開くとその中には黒い多面体の結晶。まるで手に取れと言っているかのようにそれは黒く光り輝いていた。
「これ―――」
黒い多面体の結晶に触れると同時に蘇る本来の記憶。これはつまり黒い多面体の結晶と波浪拓哉という人間が切っても切れない縁で結ばれているということだろう。この状況もかつての再現だった。
「……そういや俺、猟兵でしたね。ミミック! さていつも通りお願いしますよ……っと!」
記憶を取り戻した拓哉の言葉に従いミミックが偽りの結界を打ち破り拓哉は現実へと帰還する。狂気は偽りの過去でも変わらない。一度踏み入れた深淵からはそう易々と抜け出すことはできないのだから。
「それじゃ、いつも通りいきますか」
再び狂気へと身を委ね、また一人の猟兵が動き出す。
大成功
🔵🔵🔵
綴木・万里
何が「おかしい」ですか。
僕はこんな平和な世界なんてこの間初めて読んだ本などの作り物でしか知りません。
こんなに自然と僕が存在できる訳がない。
僕はまだ「兵器」のままです。
それでもおじいさんとおばあさんのおかげでようやく「人間」として少しは馴染めるようになったところです。
今の僕が猟兵として戦うのは、僕を「人間」としてみてくれるおじいさんとおばあさんの役に立ちたいからです。
お二人は「そんなことより、今は子供らしくよく学んでよく食べてよく遊んで寝なさい」と言いますが・・・。
●平和な世界と
気がつけば綴木・万里(影縫い・f01978)はいつもの様に縁側に座っていた。おじいさんとおばあさんは見当たらないがすぐに戻ってくるだろう。春にこそなったが日が落ちればまだ縁側は肌寒い。風邪を引かないうちに寝た方がいいだろう。
いつも2人にはよく学んでよく食べてよく遊んで寝なさい、と言われていることもある。読んでいた本を閉じ、自分の部屋へ戻ろうとした万里だったがふと違和感を覚えた。
「……?」
具体的になにが、と言われると上手く言語化できない。しかしここが自分のいるべき場所ではないような感覚があった。
そもそも何故自分はおじいさんとおばあさんと一緒にいるのか。そこの記憶も曖昧で、いつからか一緒に過ごしていた記憶しかない。
一度違和感を覚えてしまうとあとは疑問点が次々と湧いてくる。この平和な世界で過ごしていたはずの万里の記憶にいるのはおじいさんとおばあさんだけ。友達も先生もいた、という記憶はあるが顔も名前も思い出せない。
極めつけは万里自身の着ている服だった。まるで本に出てくる暗殺者の様な黒衣。今の今まではなんとも思っていなかったが明らかにこの平和な世界では異質だった。
「———僕はまだ兵器のままです」
この偽りの平和は万里の記憶から構成されたものなのだろう。故についこの間まで平和というものを知らなかった万里から生み出された世界はどこもかしこも造り物の様で歪だった。
万里は今まさに人としての総てを取り戻している最中。おじいさんとおばあさんの献身でやっと馴染み始めた段階。
「だからこそできることがあります。僕はおじいさんとおばあさんの役に立ちたい」
人間にしてくれた2人への恩返し、それこそ万里が猟兵として戦う理由。
偽りの平和の中で自身の存在理由を思い出したとき、気づけば周囲の景色は一変していた。縁側にいたはずの万里が立つのは河川敷。認識を阻害する結界を打ち破り、偽りのイマから万里は帰還した。
「子どもであると同時に僕は猟兵です。僕は僕にできることをします」
人間だからこそ困っている誰かは見過ごせないし、これから誰かが困るのならそれを未然に防ぎたいとも思う。万里は再び河川敷を川沿いに歩き始めた。ここへやって来た時と同じ様に。
兵器から人間へ、一人の猟兵は変わっていく。
大成功
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リインルイン・ミュール
ここは……宇宙船の、部屋?
ああ、扉の向こうにヒトが居る。何か哀しい事があったのだと、思念から読み取れます
ワタシはその悲哀から、癒しと祈りを織り込んだ歌を紡ぐ
哀しみが怒りでも、絶望でも同じ。時には船に迫る脅威を打ち払う為の歌を、求められるまま歌うのみ
ですが、強い違和感がありマス
他者に望まれ歌うものではなく、ワタシはワタシの意志で力ある歌を紡いでいた筈
そう、ヒトの為。救えるものを救う為に
でもそれは、ワタシがそうしたいと願ったから
何故願ったかの記憶は無くても、それが戦う理由だと、胸を張って言えマス
この幻はきっと、喪った過去の一部なのでショウ
爆ぜて滅びたという記憶だけが残っている、今はもう亡き船の、ね
●誰が為の歌
「ここは……宇宙船の、部屋?」
気がつけばリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)はどこかの宇宙船の部屋にいた。扉は閉ざされているがそこ先にヒトがいるということは思念から読み取れる。
そしてそのヒトはずっと哀しみに暮れている。リインルインはそのヒトの哀しみが少しでも癒える様に扉越しに癒しと祈りを織り込んだ歌を紡ぐ。
哀しみの理由が怒りでも、絶望でもリインルインのすることは変わらない。時には船に迫る脅威を打ち払うための歌を求められるがままに歌い続ける。
しかし歌を紡ぐリインルインは自身に強い違和感を覚えていた。望まれたから歌う。そこに何とも言い難い感情を抱いている。歌とは誰かに望まれて歌うものだっただろうか?
リインルインは誰かに望まれたからではなく、自分自身の意思で力ある歌を紡いでいたはず。それは救えるものを救うために、ヒトのために。リインルイン自身がそうしたいと願ったから。そのはずだった。
何故願ったのか、その記憶はない。だが救えるものを救いたいから戦っているということは微かに残った記憶の中でも断言できる。
気がつけば後は簡単だった。この船は、この光景は喪った記憶の一部なのだろう。爆ぜて滅びたという記憶だけが残る今はもう亡き船の記憶。
かつてここでリインルインが何をしていたのかは定かではないがきっとここでもリインルインは歌っていた。望まれたからかもしれないがヒトを救いたいという確固たる意志を持って。
「もう、歌も終わりマス」
気がつけば歌が終わりに向かうと共に周囲の空間も歪んでいた。それはリインルインの歌で認識阻害の結界が崩壊を始めた前兆。この幻も終わりが近い。ここで見た物が本当に失われた過去なのか、それともリインルインが創り出したただの幻なのかは過去のリインルインのみが知る。
「―――いきまショウ」
リインルインが歌い終わると同時に周囲の景色は一変し、宇宙船の中にいたはずのリインルインは星空の下にいた。これから先、哀しみに暮れるヒトを一人でも減らすためにリインルインはここにいる。自らの意思でここにいる。
偽りのイマ、記憶にないカコを抜け、リインルインは星空の下、川沿いに進んでいく。
過去の記憶を亡くしても、一人の猟兵はまた歌う。
大成功
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第3章 ボス戦
『歪神・嗚母以天』
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POW : 物心ついた頃から、そこに”ソレ”はいた。
予め【過去の記憶から今に至るまで共に過ごす】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : その時、君は誰も救えなかった。
【対象が忘れた危機に陥った過去の思い出】から【救いを求める誰かとして発した声】を放ち、【発生する災禍に巻き込む事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 問いましょう。あなたの罪は何時、何処で?
対象への質問と共に、【歪んだ浄瑠璃の鏡に映された忘却した過去】から【己を対象の犯した罪の被害者とした状況】を召喚する。満足な答えを得るまで、己を対象の犯した罪の被害者とした状況は対象を【忘却を責める呪詛】で攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「夷洞・みさき」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●オモヒデ
日も沈み、時刻は既に丑三つ時。
偽りのイマを越えた猟兵たちのいる川辺の対岸。そこにソレはいた。
「何故貴様たちは幸いの微睡を否定するのか……」
ソレは過去を想起させ、忘れていた罪を呼び起こす。
記憶から過去を遡り、目を背けていた罪を抉り取る。
沈まぬ夕日も幸いの微睡もソレから零れ落ちた力の欠片。
「ならば思い出すがいい、貴様らの罪を、な」
―――忘れていたはずの誰かに会える。
それはとても魅力的なことだろう。例えその人物が自身に罪を突きつけてきたとしても。会えないはずの誰かに会えるのだから。
この『感染型UDC』はここで食い止めねば瞬く間に世界中に広がり手が付けられなくなる。
だから、例え向き合うことを避けていた記憶の奥底に眠る罪を突きつけられたとしても立ち向かわなければいけない。
見知らぬ誰かを助けるために、自らが猟兵であるために。
「さぁ、貴様らの過去を曝け出そう」
―――猟兵たちは自らの過去と対峙する。
※※※以下補足※※※
今回はプレイングに『自らの罪』をお書きください。
目を背けていた過去、封印されていた記憶等、自覚のあるなしはどちらでも。
『歪神・嗚母以天』への攻撃は書いても書かなくても構いません。『自らの罪』に向き合い、乗り越えることができればそれだけでダメージが発生します。
PSWは傾向程度に。罪を糾弾されるという点は全て共通です。
心情や過去に文字数を割いてくださいませ。
糾弾する誰かを書いてくださっても構いません。
「過去は変わらず、罪は消えない。それでも―――」
あなたは罪を越え、何処へ向かうのか。
字無・さや
罪……生きてりゃあ、勝手に生えても来るだろうさ。
俺様より弱ェ奴は何人も斬ってやった。俺様より弱ぇのが悪いんだよ。
それが罪と言えば罪なんだろうさ。悔いているかって?
ンなワケねえだろ。過去が何匹ウジャウジャ涌いて来ようが。
俺様の行く手を阻むってンなら、何度だって斬って捨ててやる。
俺は何百回生まれ変わっても、斬って斬って斬りまくる。
日ノ本最強の剣を振るう邪魔する奴ぁ、誰であろうとも。
罪だかなんだか知らねぇが、過去の有象無象が現在進行系の俺様より強くて溜まるかよ。
今から俺様がそこを征く。どんだけ遮られたって構いやしねえ。
斬って捨てては押し通る。避けんじゃねえぞ、ぜってぇブチ殺す。
●何度問われ、何度繰り返しても
「貴様はどんな過去でも、何をしても常に人を殺している。それはもはや貴様に染み着いた罪という他ない」
字無・さや(ただの鞘・f26730)と対峙した嗚母以天はそう断言する。
幾度となく読み取ったさやの過去を繰り返し、違う選択をしたとしてもさやは刀を握り人を殺す。それだけはなにをしても変わらなかった。妖刀と出会い、立ちはだかるモノを斬り捨て、さやは生き続ける。
「弱ェ奴を斬っちまうことが罪? 俺様より弱ェのが悪いんだよ」
しかしそれをさやは悔いてなどいない。さやではなく妖刀の言葉かもしれないがそれはさやにとっても同じこと。
この世は弱肉強食、強くなければ生き残れない。だから強くなるために今日も刀を振るう。
「そうか……ならばその弱い者たちに貴様は負ける」
鏡が眩い光を放ち、伸びるさやの影から現れたのはかつて斬り捨てたモノの怨念たち。それは再び肉体を持ち、さやを地獄へ引きずり込もうと蠢いている。
『お前のせいで……』
『お前が……』
「ンなワケねえだろ。過去が何匹ウジャウジャ涌いて来ようが俺様の行く手を阻むってンなら、何度だって斬って捨ててやる」
罪だなんだと言われようとさやにとっては知ったことではないのだ。何もせず死を選ぶより、さやは罪だと言われようと足掻き続ける。相手が何であろうと抗い続ける。
さやが刀を振るえば過去の亡者たちの首が飛ぶ。湧き続けるのであれば何度でも斬り捨てる。
「……貴様には良心の呵責がないのか」
「あるわけねぇだろ。罪だかなんだか知らねぇが、過去の有象無象が現在進行系の俺様より強くてたまるかよ」
斬る、切る、キル。
嗚母以天に何を言われてもさやは止まらない。斬って捨てては押し通る。このくそったれなイマを写し出す鏡へたどり着くために。
「今から俺様がそこを征く。避けんじゃねえぞ、ぜってぇブチ殺す」
「まるで獣だな」
ただ真っ直ぐに、立ちはだかるモノは総て斬り捨て獣は進む。過去の亡者が湧き上がるよりも早くその首を切り落とし。一歩ずつ前へ進んでいく。日ノ本最強の剣であると声高に叫ぶために。その身に背負う罪すらも斬り捨てて。
「しかし貴様の刃はここまでは届かぬ。いくら最強を謳っても届かぬのならば意味はない」
無尽蔵に湧き上がる過去の亡者。それは確かにさやのこれまで積み重ねてきた罪の証なのだろう。亡者たちがいる限り、確かに嗚母以天までその刃が届くことはない。
そう思っていた。
「あぁ? 何を勘違いしてやがんだ。斬ったよ。とっくの昔にな」
「な―――」
亡者たちを斬り捨てる最中、既にさやの一閃は鏡に一撃を入れていた。
【我流・斬猫】、その神速の抜刀術が嗚母以天の抱く鏡に罅を一筋。
「こいつらが俺様の罪だってんなら全部叩き斬ってやる。それで俺様が最強だ」
振るう刀は止まらない。罪も全ても斬り裂いて。
大成功
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寧宮・澪
罪、罪ですかー……成したことは、その片面から見れば罪でしょね……。
ヒトの住む世界を守るためにオブリビオンを滅ぼすも。
その過程で救えなかった生命があることも。
私が生きるために奪ってきたもの。
生命活動する上で必要なもの。
人は、生まれながらに原罪を背負う……なんていう考えも、ありますねー……。
そういう意味では、罪にまみれてるんでしょね……。
でもですね、生きたいん、ですよー……精一杯、最後まで。
面倒でも、失っても。
あの日、拾われた時から、そう思えるようになったんですからー……その罪を、飲み込んで、乗り越えてみせましょー。
罪にとらわれて、立ち止まったりはできないですよー……。
謳え、【謳函】。
●たとえそれが罪だとしても
「貴様が成し得たこと、それは総て罪なのだ。自分たちが生きるために何かを滅ぼす。自分たちで選んだモノだけ救う。それらは総て罪」
「……」
確かに嗚母以天の言うことは間違っていない。寧宮・澪(澪標・f04690)は自らのこれまでを思い返してみれば罪まみれだった。
人は生きるために何かを奪わなければならず、自らの住む世界を護るためにオブリビオンを倒していることも見方によっては罪だろう。そして救えなかった命もある。
それは総て紛れもない澪の、人の罪。どこかで誰かが言っていた。人は、生まれながらに原罪を背負う。つまり生きているだけで罪らしい。
そういう意味では確かに人は、澪は罪にまみれているのだろう。
「確かにそうかもしれませんねー。でもですね、生きたいん、ですよー……精一杯、最後まで」
例え生きることが罪だとしても人は生きていたい。今まで自分のしてきたことが罪だと言われても今も生きている。
確かに生きることは面倒かもしれない。だけど簡単には投げだせない。
確かに生きることで何かを失うかもしれない。だけどまた何かを得る。
確かに生きることは罪かもしれない。だからその罪を背負って前へと進む。
「その想いこそが罪なのだ。エゴなのだ」
鏡が眩い光を放ち、伸びる澪の影から現れたのは明日を生きることができなかったモノの怨念たち。それは再び肉体を持ち、澪を地獄へ引きずり込もうと蠢いている。
「自らの罪と向き合うがいい」
『どうして……』
『おまえだけ……』
生きることができる者もいればどれだけ望んでもそれができない者がいるということも澪は知ってる。しかしだからと言って自分が生を投げ出すのは話が違う。今生きている者には生きられなかった者の分まで生きる義務がある。
「その罪を、飲み込んで、乗り越えてみせましょー」
あの日、師匠に拾われた時から澪は生きたいと思った。そう思えるようになった。
「罪にとらわれて、立ち止まったりはできないですよー……」
迫る亡者たち。澪はそっと小さな匣を取り出すとその蓋を開ける。それは澪の歌声が組み込まれたオルゴール。奏でるのは生きる糧となり、明日の尊さを知ろしめす、そんな歌。
その歌は明日を喪った亡者たちにも響き渡り思い出させる。明日は尊いからこそ皆求めたのだと。それは簡単に奪ってはいけないモノなのだと。
「―――何故だ」
亡者たちは澪に攻撃を加えることなく消えていく。それが何故なのか嗚母以天には理解できない。
―――がんばれよ
最後の亡者が消える瞬間、そんな言葉が聞こえた気がした。
「はい、がんばりましょー……」
響く歌は止まらない。罪も全ても背負い続け。
大成功
🔵🔵🔵
波狼・拓哉
…俺が今ここに存在してる。猟兵として活動してる分には正しいのかもしれませんが…ヒトとしての存在としては大間違い所かあり得てはいけなかったケースでしょうね
まーあれです。『過去に会う』『今を忘れる』…多分俺にはそっちのほうを突き詰める方が効果的でしたね。…『未来を捨てる』というのは未来があるやつにいうことですよ。元から未来の事を捨ててる奴には意味ねーです
過去に会えば罪も増えたでしょう。今を忘れれば罪も増えるでしょう。…けど曝け出された罪ほど意味のないものはないでしょう…どうせその罪は何も言わないのですから
…そして俺はその罪を自覚するから『ミミクリー』(擬態)を自称してるんです。ヒトぽい何かとしてね
●ヒトを自称するモノ
「貴様の罪、それは―――」
「あー、はいはい。いいです、聞くまでもないので」
罪を認めさせようとする嗚母以天の言葉を波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は遮り中断させる。己の罪など拓哉は当の昔に自覚している。今の拓哉は猟兵としては見れば正しい存在。しかしヒトとして見た時、そうはならない。
その身は狂気に堕ち、既に正気と言えるものはない。立ち振る舞いこそこれまでの経験から取り繕ってはいるが一皮剥けば顕れるのは真っ黒なナニカ。それは人の世に有り得てはいけなかったモノ。
例えば過去に会えば自覚していない罪も増えたかもしれない。
例えば今を忘れればまた別の罪ができたかもしれない。
しかし未来を捨てているモノに今の、未来の罪を問うても意味はない。自身の未来が亡きモノに未来の罪もまたありはしない。
拓哉にとって己の罪は既にさらけ出しているモノ。その罪は何も言わず、ただそこに在るのみ。
「貴様……ナニモノだ?」
そう、嗚母以天が問うてしまうのも無理はない。ヒトの道を外れ、狂気に身を委ね、罪を曝け出すソレは嗚母以天の知るヒトではない。
気づけば嗚母以天の足は一歩後退していた。
「俺? 俺は『ミミクリー』」
ミミクリー、それは擬態を意味する言葉。拓哉は自分を人に擬態するナニカだと呼称する。
己の罪を自覚するが故に。ヒトと共に在るために。
「貴様は存在そのものが罪! 消え失せよ!」
鏡が眩い光を放ち、伸びる拓哉の影から現れたの名状しがたいナニカ。黒い触手を伸ばし蠢くそれがこそが拓哉の罪の象徴ということだろう。
ソレは己を生み出した拓哉へと迫る。
「ミミック」
拓哉の呼び声で現れる箱型生命体。ミミックと呼ばれたそれは蠢くナニカを余すところなく喰らい尽くす。一度消えたそのナニカが再び現れることはなかった。
「俺自身が罪なのは俺が一番よく知ってるよ」
阻むモノがいなくなり、鏡へと向けられる拳銃。何の躊躇いもなく引かれた引き金は弾丸を放ち光を放つ鏡面へ突き刺さる。
甲高い音を立て、弾丸は鏡に罅を入れ何処かへ消える。
「だけどまだ止まるわけにはいかない」
狂気に堕ちたその身。罪も全てを呑み込んで。
大成功
🔵🔵🔵
綴木・万里
【自らの罪】
とある組織の兵器として数多の暗殺任務を担っていた。
命令されるがままに命を奪っていった。疑問や不満など微塵も抱かなかった。
だって自分は命令に従うように調整されたから。
今はそれが「いけないこと」だということは知っている。
ただ、僕はそれが「いけないこと」と教えてもらっただけで実際に自分では理解できてはいません。
おじいさんには「きちんとそれを理解して悔いて奪った命の数だけ誰かを助けられるようになりなさい」と言われました。
僕が誰かの命を奪った過去は変わらない。それでも僕はそれを抱えたままこれからも誰かを助けられる「人間」になりたいと思います。
(その他細かい点はお任せします。)
●かつて積み上げし罪
「貴様の罪は貴様が一番よく知っているだろう。何も考えず、ただ命令されるがままに人の命を奪う。それは愚かで最も許しがたい行為」
「―――」
それが罪だということは綴木・万里(影縫い・f01978)も知ってはいる。しかし今に至っても理解までたどり着いてはいない。
とある組織で兵器として数多の暗殺任務を担っていた。命令されればそれに従い、そこに疑問や不満は微塵も抱かぬ機械の様に。そうあるべしと調整されたから。機械は感情を抱かなかった。
しかし今ではかつての自分の行いがいけないことだと知っている。だがそれは知っているだけ。まだ人間になりかけの万里はそこで止まっている。育ててくれているおじいさんは『きちんとそれを理解して悔いて奪った命の数だけ誰かを助けられるようになりなさい』、と言ってくれた。
あから万里は今、理解の真っ最中なのだ。自分がかつて何をしたのか、その罪の重さを。
鏡が眩い光を放ち、伸びる万里の影から現れたのはかつて何も知らぬ万里が命を奪ったモノの怨念たち。それは再び肉体を持ち、万里を地獄へ引きずり込もうと蠢いている。
「無知は罪なのだ。かつての自分の行いを悔い改めるがいい」
迫る亡者たちを相手に反射的に伸びる妖刀。万里の身体に染み着いた暗殺者としての技術は意識せずとも万里を生き長らえさせる。
確かに無知は罪かもしれない。しかし知らなかったことは学び、理解することができる。万里は今その段階にいる。
「何故抗う。貴様の罪は清算するのだろう?」
確かにそうだ。万里は己の罪を償いたいと思っている。だがそれはこんな方法ではない。自分の死は自分の死でしかない。死ぬのではななく、救うことで罪を償いたい。
―――例え、それがどんな茨道だとしても。
だから今ここで死ぬわけにはいかない。
迫りくる亡者の群れを斬り捨て、薙ぎ払い、万里は死に抗う。
見知らぬ誰かの命を奪った過去は変わらない。それでも万里はその事実を抱えたままこれから生きていく。見知らぬ誰かを助けられる『人間』になるために。
その凶刃がまた亡者の首を飛ばす。一歩ずつ、一歩ずつ着実に万里の足は前へ進む。
鏡の見える位置までたどり着くと、取り出したのはいつも共にある手裏剣。万里の手から放たれたそれは光を放つ鏡面を叩き、一筋の日々を入れる。
「僕はまだ死ねません。人間になるまでは」
機械から人間へ。罪を背負って変わり行く。
大成功
🔵🔵🔵
リインルイン・ミュール
超常の力は激昂と共に荒れ狂い、積怨を帯びた滅びの歌が船に響く
営みは絶たれ、殆どのものは気付かぬまま命を落とし
歌で死なずに済んだものも、力に歪む船の爆発に巻かれ、宙へ吸われていく
船を。船に住まうヒトビトを、滅ぼしたのは──
鏡は歌った理由も、抱いていた想いも映さない
故にか、見聞きしても『思い出せないから』。実感はありませんネ
全身が騒めいて、それが恐らく真実だと理解は出来ても『忘れているものは、やはり忘れているのです』
それも罪といえば、そうなのでショウ
ですが、それらの罪は、戦う事を止める理由には……救える命を救わない理由にはなりません
ただ、今を生きるヒトビトの為に力を振るう
それが今のワタシの意思デス
●記憶にないカコ
「貴様の罪、忘れているそれを見せてやろう」
嗚母以天の言葉と共に鏡が映し出すのはリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)の覚えていない情景。否、忘れていた光景。
超常の力は激昂と共に荒れ狂い、積怨を帯びた滅びの歌が船に響く。
その船に住まう者たちの営みは絶たれ、殆どのものは気付かぬまま命を落とし、歌で死なずに済んだものも、力に歪む船の爆発に巻かれ、宙へ吸われていく。
その船を、船に住まうヒトビトを、滅ぼしたのは──。
朧げに覚えていた船が沈む光景、そして聞き覚えのある歌声。それがこの惨状の主が誰かを物語っていた。
「これが貴様の罪」
しかし鏡はあるがままを写すだけで歌った理由も、その時抱いていた想いも映さない。だからなのかこの光景を己の罪だと突き付けられても思い出せないリインルインに実感はなかった。たとえ全身が騒めいて、真実なのだろうと理解はできても忘れているものは、やはり忘れている。
鏡が眩い光を放ち、伸びるリインルインの影から現れたのは船と共に散っていったモノの怨念たち。それは再び肉体を持ち、リインルインを地獄へ引きずり込もうと蠢いている。
「ええ、きっそそうなのでショウ」
忘れていること、それすらもきっと罪なのだろう。
だが、だからと言って戦うことを、生きることを止める理由には―――救える命を救わない理由にはならない。ここで歩みを止める理由にはならない。
リインルインは【泡沫巡る創造の日】を発動し、周囲の物質を分解。サイキックエナジーへと変換する。今回はそれを再構成するのではなく、ただ純粋な力として行使する。亡者たちは弾き飛ばされ、残るのは嗚母以天という名の歪んだ神のみ。
「ただ、今を生きるヒトビトの為に力を振るう。それが今のワタシの意思デス」
かつての自分がどんな思いだったのかは記憶にない以上わからない。だからこそリインルインは今の自分が抱く想いを大事にしたいと思う。しかし忘却の彼方にある自らの罪、それもまた背負わなければいけないものなのだろう。
「貴様―――」
「だからあなたを倒しマス」
振るわれるサイキックエナジーが次に向かうのは嗚母以天の抱く鏡。未だ光を放ち続ける鏡面が見えない力によって軋み出す。
「ヒトビトのために」
カコよりイマを。忘却した罪も胸に秘め。
●誰ソ彼ノ想ヒ出ト 我ノ遥イ昔ノ過チ
「なぜだ……」
度重なる猟兵たちの抗いにより、鏡はもはや限界だった。音を立てて砕け散る硝子。もう鏡は何も写し出すことはない。
「貴様たちはなぜそうまでして抗う……」
その答えはきっと皆同じ。彼らは猟兵だから。なにかに抗い続けるからこその猟兵だから。
「わからぬ―――」
鏡の崩壊と共に嗚母以天の身体も塵となり消えていく。これで感染型UDCの脅威は去った。元凶が無くなれば噂も次第に収束するだろう。
時刻は既に明け方。
黄昏は過ぎ去り、夜は明け、今日もまた日が昇る。
―――いつもと変わらぬ今日がまたやってくる。
大成功
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