ブリングス・ザ・オーダーオブフィアー・ジ・オブリビオン
#アポカリプスヘル
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●フレッシュ・オレンジ・リフレッシュ!
数刻前の快晴が嘘のように、昼にも関わらず暗雲垂れ込め影に覆われた荒野を、一時凌ぎの仮拠点と構えた廃墟からサングラス越しに睨み上げる。
黒い肌に大柄な男は髪を剃りあげ、自らの顔に入れた黒のトライバルタトゥーが翼のように広がっている。
軍属上がりか、どこかの部隊に所属しているであろう衣服と装備に身を固めた男の後ろで、同じような服装の禿頭が手を後ろに回し直立不動で待機する。
だかそれも、部屋に近づく足音に気付くと扉もない出入口へ向きを変えた。
「くそっ、離せ!」
「なんだってこんなことを!」
「やかましい!」
にわかに騒がしくなった廊下から聞こえる打撲音。
「サー、お連れしました。入室の許可を、サー!」
「…………」
同じく軍属らしい服装に口調。言葉に応えるべく振り返ったその者は、サングラスを外す。後方で落ちる雷に逆光となっても負けぬ威厳に満ちたその眼光が、口から血を流す男たちを震え上がらせた。
視線を下げて、サングラスの曇りを拭き取りかけ直す姿に、部屋に立つ禿頭は頷き、入室の許可を出す。
戦闘服に蹴り倒された男二人はどちらも作業服で油に汚れ、銃を突きつけられる様は場違いである。一般であれば悪夢的な光景と言えるだろう。
ここがアポカリプスヘルでなければ、だ。ここであれば日常的な光景となる。
「『国民』が何の用だ」
「…………!」
サングラスの男に代わるように問うのは、元から部屋にいた禿頭だ。
国民。
その言葉に男たちは奥歯を噛み締める。
「ふざけるな、なにが国民だ! 俺たちはあんなもの認め──」
「その締まりのない口から垂れるうんうんの前と後に『サー』をつけんか馬鹿者ォ!」
「へぐぅ!?」
「兄弟ィーッ!?」
顔面に鉄骨入りの厚底ブーツを容赦なく叩き込まれ、埃っぽい床に蹴り転がされる男その一。
禿頭を睨み付け、倒れた男の身を案じても、すべき事はひとつと声を張り上げる男のその二。
「サー、俺たちは国民だなんて認めてないサー!」
「まずは挙手して発言の許可を貰えゴミ屑どもォ!」
「おぼぉう!」
「兄弟ィーッ!」
自分と同じく蹴り転がされた相棒に悲鳴を上げる男その一。二人は視線を合わせ、どちらが発言するかのアイコンタクトを取る。
結局、押し付けられたのは男のその一。痛みに震えながらも身を起こすと、右手を上げる。
「サー、発言の許可をお願い致します、サー」
「…………」
部屋の隅のテーブルから小瓶を取り出すサングラスに対して、代わる禿頭が許可を出す。
「サ、サー。我々は国民になったということを承知しておりません、サー!」
「貴様らが王に嘆願できる立場だと思っているのかゴミ屑ぅ! サーの後はイエスとサーだけ垂れろ!」
「ひぎゃあ!」
「サー、だと思ったサー!」
再び蹴り転がされたその一の姿にその二が叫ぶ。話が進まねえ。
静かになった二人へ、王と呼ばれた男は小瓶を掲げた。
「これは『ハカセチャレンジ! スグヌケール君すぺしゃるぷらす』、脱毛剤だ」
はあ。
「オレンジに十万倍希釈することで頭皮だけを溶かす溶剤になる」
つまり?
「今からお前たちの頭皮をとろけさせる」
鬼畜の所業。
突っ込み所溢れる言葉にも暴力の前に縮こまっていた男たちであるが、そんな物を目の当たりにして黙ってはいられない。
「サーイェッサー! それさすがにヤバいサー!」
「サー、やるのはこの男でお願イェッサー!」
「黙らんか貴様ら!」
男らが痛めつけられている間に非常に非情なる手際の良さで次々とオレンジを搾る禿頭。
恐怖の間に広がる爽やかな香り。王は荒れる荒野へ視線を戻し、誰ともなく呟く。
「この世界は混沌だ。人は飢えて獣となり、秩序は失われた。
獣であるならば御すに要するは恐怖。混沌を晴らす為の秩序は、恐怖によって敷かれる」
そして。
「恐怖は人々から希望を奪い、絶望をもたらす。絶望はあらゆる感情を鈍化させてしまう。恐怖ですらも」
「ああぁあ、止めてーっ!」
うるさいぞ男その一。
「メリハリが必要なのだ。国民たちよ、貴様らにはこの世界の安定の為、安寧の為、秩序の為。献上してもらう。
──モフモフを……!」
は?
「ぐあああッ! 頭の奥までリフレッシューッ!」
「サー、兄弟ィエッサーッ!」
男その二は大樽で頭皮をとろけさせたその一に涙を浮かべる。仲間を犠牲にして伸びた命は楽しめたか?
続く男が投入される間、その一から抜けた毛髪を王へ捧げる禿頭。
オレンジの香りが漂うそれを受け取る王は厳かに頷き、毛質を確認した後、再び禿頭へと返す。
果汁まみれを触って何がわかるのさ?
「技術者たちに急がせろ。我らが威光、『鎧王』の完成を」
『サー、イエス・サー!』
王の言葉に一糸乱れぬ統一の敬礼。
それはいいんだけどさ、毛をどうする話なのこれ?
●何かよく分からないけどヤバいんス!
と、言う訳で。
お集まり頂いた猟兵諸君がアポカリプスヘルの危機的予知映像を観賞している間、初めて見た恵方巻きの匂いを嗅いだり食べ方について吟味していたシュゼ・レッドカラー(牙ある野生、双拳を持ちて食らいつく。・f25319)。
ようやく皆の視線に気付いたか、ばつも悪く誤魔化しの笑みを見せる。
「……えーっと、えーっと……み、皆さんにはレースに参加して貰いたいんス!」
レース。
カンペ片手のシュゼによれば、本件の発端は三つの拠点の緩衝地帯となる地域、その利権を決めるレースの告知にあると言う。
長らくレイダーによる占拠が行われていたこの地域。流れの奪還者により解放されたというが、実際はこのレースを提案したのが彼のレイダーたちである。
緩衝地帯を交流拠点へ、平和的解決を唱いつつ、各拠点の代表者とそのリーダーを選出するためのレースとなるが、レイダーの参加車両は戦車だ。
「レイダーはオブリビオン、ルール通りにするつもりはないみたいっス。でも、この戦車が曲者なんスよ!」
彼らの戦車、とても戦闘用とは思えない見た目なのだ。
その名も『いぬせんしゃ』。わんこ型である。恐怖はどこ行った。
「なんでこんな回りくどいことしてるのかわからないんスけど、レース中はレイダーも攻撃しないっス。
先にしかけたらこっちが悪者扱いされるから注意っスよ!」
つまり、最初はレースに集中し、連中が尻尾を出してからの対処となる。
表では平和な解決方法ということ、地域発展に役立つことからお祭り騒ぎで参加者も多い。
中にはマシンはあるものの乗り手がいない、整備工がいないなどあるので、猟兵もそれらに参加することが可能である。
ドライバーとして己の腕を見せつけるも良し、メカニックとして自分好みの車両を作るも良し、はたまた実況・解説に回るも良し。
「前半戦はお祭りっス! どうせならここでも勝ちといくっスよーっ!」
握り拳を突き上げて、シュゼは猟兵の勝利を願った。
頭ちきん
頭ちきんです。
アポカリプスヘルにおける拠点の制圧戦となります。
第一章における戦闘行為は、この地域における猟兵への信頼度の低下、ひいては各拠点の協調性を著しく損ない、文明復興への土台が崩れてしまうので厳禁となります。
が、目的はレイダーキング討伐にありますので、シナリオの成否に関わる点ではありません。
それでは、本シナリオの説明を行います。
一章ではレイダー拠点地域でレースを行います。
ドライバー、メカニック、あるいは実況解説観戦者などの立ち位置でご参加ください。戦闘行為は厳禁です。
二章は集団戦です。レース参加者や観戦者など、非戦闘員が多い中での戦いとなります。
彼らは戦闘能力がありませんので、巻き添えに注意してください。
三章はボス戦となります。二章から登場しますが、鉄壁の守りの為、集団戦を乗り越えてからでないと攻撃できないので注意して下さい。
注意事項。
アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
これらが嫌な場合は明記をお願いします。
グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
第1章 冒険
『ドラッグレース』
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POW : ドライバーとして参加
SPD : メカニックとして参加
WIZ : 観戦や解説として楽しむ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●祭りだワッショイ!
打ち上げられる花火、鳴り響くファンファーレ。
集う人々はその熱気に浮かれ、賑わう荒野を熱く色付ける。
「北の拠点ンン、血和輪倉津謝呪(チワワクラッシャーズ)、ドライバーもメカニックも急募してんぞコラアァッ!」
イキリーゼントが現れた!
「辛気臭い北の宣伝なんかしてんじゃないよ! 栗鼠無礼道(リスブレイド)、南の拠点も人手を募集してるよ!」
レディースが現れた!
「んだコラ南のぉ、やる気かワレェ!」
「やかましいわ北ァ、邪魔臭い髪しくさって! 女だからってなめてんじゃないよ!」
「……クキキキキ……所詮は弱者……! ……よく吠える……!
西の拠点、宇佐散御守利隊(うささんみまもりたい)も募集してるよ……クキキキキ……!」
不審者も現れた!
火花を散らす三者、勝利の栄冠は誰の手に渡るのか。
そして猟兵はどのチームに属するのか。無所属? そんな席ないんで勘弁してつかーさい。
浮かれ気分の輩どもを差し置いて、現れるオブリビオンの集団は今はまだ影もなし。レース開始まで、あと僅かである。
・レース参加猟兵は北、南、西のチームに振り分けられます。ご希望がない場合はランダムとなります。
・勝敗もランダムとなりますが、マシンの名前、特性、必殺技(!)などがあれば場が盛り上がるでしょう。
・解説、実況などはそのプレイングに沿ったスーパープレイやアクシデントが発生します。
御園・桜花
●第四の壁、多めに壊しとけ
その日、御園桜花は考えた
私は心情系だ
ギャグを読むのは大好きだが自分がするのは苦手極まる
しかし、それでは何時まで経っても○○○○氏に勝てる日が来ない
「次は勝つ!」
●そして次がやってきた
「私に足りないのはリングネームならぬドライブネームだと思います。転生キ○ガイ殲滅系とかオブリビオンスマッシャーとかどうでしょう」
世紀末ヒャッハー系に売り込む桜花
「ところで走行中のドライバーを眠らせるとか目前の道路に穴を開けるとかネジを抜くとか得意ですが、これは戦闘に入りますか」
「何方か私を拾って下さい」
●そしてお任せ猛レース
「UCスキル、全部非戦闘行為であれば運転に突っ込みます!」
…あれ?
神酒坂・恭二郎
「いい気合だね、北の大将。ドライバーに需要はあるかい?」
リーゼントのナイスガイに着流し姿で声をかける
くだくだしい言葉は要らない
【覇気】に満ちた不敵な笑み
ハガネのように引き締まった肉体を見れば、口笛の一つと共に、やるかもしれないと思わせることだろう
「それじゃあ、今回の俺の相棒を見せてくれ」
レース方針は【早業】のハンドリングテクニックを活かして、モンスターマシンを乗りこなす
ただし地元レースに不慣れなので、序盤から中盤にかけては一歩二歩他チームに先行を許す【覚悟】で、その間にこの地とレースのコツの【見切り】を得たい
終盤は不利な後方から追い上げをかける
“勝負師”の腕の見せ所だ
「さぁて、行こうかね相棒」
●どーすれば勝敗が決するの!? 教えて○○○○氏!
その日、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は考えていた。
(私はいわゆる『心情系』ですの。ギャグを読むのは大好きですが、自分がするのは苦手極まります。
でも、それでは何時まで経っても○○○○氏に勝てる日は来ません)
次は勝つ。彼女はそう考えていた。○○○○氏とは一体、誰なのか。自らの名前を入れてぴったりな方は驚いただろう。つまり君が○○○○氏だ。
では君、この勝ち負けの条件を教えてくれませんかね。
などと言っている間にも『次』はやってくる。
グリモア猟兵に導かれ、グリモアベースの一画から熱気漂う荒野へと誘われた桜花。懐に忍ばせていたハチマキを頭に巻きつつ、口論する三人へと声をかけた。
「あの、ドライバーを探しておいでだとおうかがいしましたが、まだ募集中ですか?」
「あン?」
振り返るイキリーゼントに続き、レディースと不審者も桜花へと目を向ける。桜花はドライバーに向かなさそうなメイド服姿で、おっとりとした雰囲気は荒事にも応じるように見えはすまい。
しかし頭に巻いたハチマキの『第四の壁をぶっ壊す。』の文言と絶妙に据わった瞳が全体の雰囲気を猟奇的なものへと変じている。
「な、なんだいアンタ、カチコミかい!?」
気圧されながらも威圧しようと睨むレディースに、ドライバーとしてレースに参加したいのだと訴える桜花。
「いやでもなんかあからさまに眼がイっちゃってるしなぁ」
「ドライバーとしての腕前も怪しいもんだ」
「……クキキキキ……! ……いわゆる不審人物……!」
揃いも揃って色物が言ってくれるじゃん?
一般成人ならば自らの自信を喪失しそうな相手からの言葉であるが、この程度でへこたれないのが猟兵である。
「はっきり言いまして、腕に自信はあります。それでも私に足りないなら、それはリングネームならぬドライブネームだと思います」
「いや待って何の話?」
キャラを忘れて目をぱちくりさせる不審者に、桜花は演技かかって腕を開く。
「ドライバーに相応しい名前です。転生キチガイ殲滅系○かオブリビオンスマッシャーとかどうでしょう」
伏せ字仕事しろ。
ずずいと詰め寄る桜花の圧に、ずざざと後退る三人組。しかしここで男を見せたのはやはりと言うべきかイキリーゼント。
押しに押す桜花を突っぱねるように手を前に出し、漢は仁王立つ。
「おうおうおう、威勢のいいところだがよう! ドライバーとしての格ぅ、本当にあんのかコラァア!」
ドライバーの格なんて単語、今しか出てないと思います。
桜花はこれを、腕力ではなくドライバーとして物事を解決する実力を持っているのか、と解釈したようだ。
「……戦闘は厳禁……そうですね……。走行中のドライバーを眠らせるとか目前の道路に穴を開けるとかネジを抜くとか得意ですが、これは戦闘に入りますか?」
「お前の特技は大事故を起こす事か!?」
「やっぱ怖いよ! ネンネのフリしたサイコだよ!」
取り乱すイキリーゼントとレディース。普通はそうなる。しかし不審者はここで余裕の笑みを見せるとどこからともなくプラカードを取り出し、桜花へ手渡した。
「……『何方か私を拾って下さい』……?」
「そう、それを持ってどこかこう……段ボール的な……そんな物に入っていれば誰かが拾ってくれる……というわけさ……!」
「おおい西のォ、膝が笑っとるぜィ!」
「だぁっせぇえ~っ!」
「もぉおう! 黙ってろよ北も南も~!」
やんややんや。ははーん、さてはお前ら仲良しさんだな?
桜花はここに居場所が無いと考えたのか、プラカードを胸に抱いてひっそりとその場から離れる。
その寂しげな後ろ姿を見つめる者が一人、観衆の中から離れるのに気付いた者はいなかった。
●スペース剣豪はドライバーとしても豪の者?
しかし先程の喧騒、それも客呼びには十分な効果だ。声高に響くそれらに惹かれるように、つぎに三人の前へふらりと現れるのは着流し姿の男。
「いい気合だね、北の大将」
「あぁン?」
呼び掛けられた言葉に振り返るその先に、男、神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)は不適な笑みを浮かべて佇む。
「ドライバーに需要はあるかい?」
「むっ、ぬぅう!?」
先程の相手が相手であっただけに睨み付け、威嚇するイキリーゼントに対して太い笑みを崩さぬ恭二郎。リーゼントの下から流れる落ちた汗が目に入り、北の男はようやく目を逸らした。
自信に満ち溢れたその顔は、ともすれば悪巧みする顔にも見える。だが多くを語らず平静とイキリーゼントの威嚇を受け切った、それが恭二郎という男を物語る。
「ひゅ~、あいつのガンつけを流しやがった」
口笛を吹くレディース。しかしイキリーゼントの内心は穏やかではない。
笑みを向けられた彼にしか分からないが、恭二郎から放たれる覇気による重圧をその身に受けたのだ。たった一人の人間を前にしながら戦車の砲身に狙いを定められたような、重圧と絶望感。
衣服から覗く鋼の如きその鍛え抜かれた体が、恭二郎の中身も伴う実力者だと示している。イキリーゼントは肩から力を抜くと怯んだ自らに渇を入れるよう、声を張り上げた。
「ドライバーとしての格ゥ、この俺に見せろやコラアァッ!」
「……クキキキキ……! あっち向いて……言え……!」
何故か南の不審者に大量の唾を飛ばす北のイキリーゼント。ブルってんじゃんね。おう南の、汚いから唾拭けよ。
ドライバーの格、というものが相変わらず分からないが。恭二郎はふむと頷くと右手にコインを三枚ほど、イキリーゼントへ渡す。
そこらの出店で配られていた、形も不揃いの安物だ。
「なんだぁ、賄賂かコラ。こんなものが通じると思ってンのかぁ!?」
「話は最後まで聞きなよ、北の大将。ちょいと、ポケットにしまうなって」
普通に受け取るつもりだった様子のイキリーゼントへ、レディースと不審者の冷たい視線が突き刺さる。
空気の悪さに耐えきれず、と言った様子で渋々とポケットから取り出す。何してんだ大将。
「まあ見てなよ、瞬きは禁物だ」
「おう?」
刹那。
水平に流れる恭二郎の左手がイキリーゼントの手に触れるか否か、といった位置で三枚のコインを弾く。
左手は更に加速し、弾かれたコインを一枚ずつ上方へと跳ね上げた後、更にそれを片手で届かぬ距離に飛ぶ前にと受け止めて、イキリーゼントの手へ自らの手ごと押し付ける。
全て左手、瞬く間すらありはしない出来事だ。
「? 今……ん……?」
状況を飲み込めていないレディースは基より、イキリーゼントもその動きの全てを把握していた訳ではないが、コインの動きは手の感触から理解しているようだ。
言葉もなくじわりと脂汗を全身に浮かべるイキリーゼントへ、恭二郎は笑みを深くする。
「いいか、右から表・裏・裏、だ」
「…………! こ、これはっ、確かに俺から見て右から表・裏・裏!」
退けた恭二郎の左手、自らの手に並ぶコインに驚愕する。
何という早業と見切りの極致か。
(…………、本当は俺から見てだったんだけど)
一枚しか当たってないじゃないの。
しかしそこは勝負に打ち勝ったという所だろう、イキリーゼントはその速度、正確さ、そして動体視力にドライバーとしての格とやらを見出だしたようで、自らの名を語りつつ力強く右手を差し出した。
恭二郎もまた、それを受けて自らの名を伝える。
「神酒坂・恭二郎、今はスペース剣豪の神酒坂だ。よろしくな」
「北の拠点んん、俺たちはお前を激烈に歓迎するぜィ!」
それじゃあ、今回の俺の相棒を見せてくれ。
すっかりとイキリーゼントに気に入られた恭二郎は背中を叩かれながら言うと、男はご機嫌の笑みを見せた。
「お前にゃ特別だァ、最強の勝斗美血和輪(カットビチワワ)、見せてやるよコラァア!」
なんかチワワが可哀想になるお名前ですね。
仲良く場を離れる二人に、中々の強敵が北の拠点についてしまったと唸るレディース。
「くそっ、こうしちゃいられないよ! 南の拠点、最後の一秒まで募集してるからね!」
「……クキキキキ……余り物には副が有る……! 西の拠点、まだまだ募集中だよ……でも怖い人は止めてくれよ……クキキキキ……!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アシェラ・ヘリオース
「これは見応えがあるな。私は解説のアシェラ・ヘリオースだ」
部下達を展開しレースを撮影させ、【メカニック】で展開した空間ホログラフにレース映像を展開させる
観戦の基本は例年通りの目視だが、近くから映すレース風景と解説テロップを挟んで分かり易さを追求しておく。士官時代には良く作戦のプレゼンをしていたので、慣れた作業だ
「さて、各々のチームのマシンとドライバーを説明しておこう」
【情報収集】で得た、各チームの特徴を紹介していく
マシン名や特性、必殺技は入念にしておこう
後は【礼儀作法】で仲良くなった実況に対し、適宜必要な解説を飛ばしていく
たまにはこう言うイベントも良い物だ
連中が出てくるまで楽しませてもらおう
フォーネリアス・スカーレット
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
オブリビオンは皆殺しにするが、まずはレースで殺す! 陣営は……南でいいか。
「規約は確認したが狼で出場してはいけないという項目は無かった。よって、アズールで出場するのは問題ない。いいな?」
アズールは狼故に、高低差や障害物に強い。しかし、直線での速度となると車両には劣るだろう。
特殊技として獄守手がある。高所やコーナーに引っかける事でロープワークで移動できる。投げるのは私だが、アズールのウェアにロープを繋げているので一緒に移動できる。
まだ殺さない。まだ、殺せない……最終的に、全員殺す為には。
化野・花鵺
狐、中空を見上げて鼻をすんすんした
「なんかこれ、せぇふく臭がするぅ。カヤ、勘に賭けてみるぅ」
狐、今回も依頼を聞かず参加した
「ふーん、お祭りかぁ。きっと楽しんだもの 勝ちだよねぇ。よーし、カヤ1番せぇふくぽいところの応援団に参加するぅ」
狐、「フォックスファイア」を花火代わりに打ち上げ応援盛り上げ
「頑張れー!優勝したらカヤがイイコトして上げるぅ!」
狐、自分のチームのドライバーを誘惑
ドライバーのやる気をかきたてる
イイコト=誘惑した相手に制服着用させ、カヤが相手を視姦すること。実行して喜ぶのはカヤだけ
「優勝が決まる頃にはせぇふくさんが来るかなぁ。早くせぇふくさんが来るといいなぁ。ワクワク、ワクワク」
レイ・オブライト
は? ちわ……うさ……まあなんだっていい
マシンを貸せ。オレがドライバーだ
所属が西ならジェットによるジャンプ可能なうさ改造バイク『藻Q藻Q宇佐魔煮亜』あたり。正直どこでもいい
必殺技ってのはなんだ
これはぶつかって死んだだろうなっつう場面で
【選択UC】で衝撃緩和。欠けたパーツの代わり自分の骨でも捻じ込んで走り出すゾンビバイク……とかんな立て付けでいくか
車にゃあ違いねえんだろう?
エンジンをかけてハンドルを握る。なんてこたねえ
止め方なんてのは知らなくとも、止まる予定もねえんでな
※
アドリブ歓迎。UC=戦闘行為なら使用しない
運転技術に関しては人体諸共派手にクラッシュして盛り上げるくらいしか役に立たない
●厄介事かはお好みで。
「……ちわ……?」
物騒とも無害とも取れぬ名の叫びを聞いて、男は眉を潜めた。強い陽射しに帽子の直し、レイ・オブライト(steel・f25854)はその身に巻かれた鎖を鳴らす。
(いかにも強者ってぇ感じじゃないか!)
レディースが目を輝かせてレイに駆け寄るも、不審者の差し出した足に躓き盛大にすっ転んだ。痛そう。
その間に不審者はレイへ駆け寄るとその精悍な体躯を無遠慮に見つめる。
「……クキキキキ……いい体だ……! アウトローよりも荒れ地に馴染んでいる……レース参加が希望なら我らが西の……」
「いやそれより、あの女は大丈夫なのか?」
「うるぁあ! 人をすっ転ばしてなに抜け駆けしてんのさ!」
「……クキキキキ……見ての通り、だ……!」
まあ見ての通り元気だけどお前がすっ転がした事実は消えないぞ?
どこからともなく取り出した釘バットを振るうレディースを、難なくかわす不審者。こいつはムカっ腹である。
「茶番はいい、オレはレースに参加したいんだ」
「だったらあたいら、南の拠点の栗鼠無礼道に入りな! 見たろ、こいつの汚い手口。西の奴らは実力がないからこんな事をするのさ」
「……何を言う……! 所詮、勝てばよかろうこそアポカリプスヘル……負け犬の遠吠え……!
見ただろう、結果が全てのこの世界……宇佐散御守利隊こそ……真の強者……!」
下衆ぅい!
それぞれの相手を下にするアピールに頭は痛むが、それ以前に彼らのチームの名前にレイは当惑したようだ。とは言え、それも一瞬のこと。
「は? りす……うさ……まあ、なんだっていい」
こちらを放って火花を散らす両者に小さく肩を竦める。素より彼らのチームに関心がある訳でもない。
レイは初めに声をかけた西の不審者率いる宇佐散御守利隊への参加を決めた。
まさかの敗北に崩れ落ちたレディース。お前は悪くないけどタイミングが悪かったよ、うん。
「マシンを貸せ。オレがドライバーだ」
「……クキキキキ……! ……任せろ……飛びきりの物を用意させてやる……おい!」
「……はっ……!」
不審者の言葉に応え、顔色の悪い学者風の男が姿を見せる。彼は瓶底のような分厚い眼鏡をくいくいくいくいとしつこく位置直ししつつ、こちらへどうぞとレイを離れへ連れて行く。
そこには西の拠点、宇佐散御守利隊のメンバーが各々のマシンの調整を行う姿があった。
「ほう」
各者から整備されるマシンの数々。悪路をものともしないであろう巨大な四輪駆動から、細く、耐久値は低そうながらも速度において並び立つ者はいないと思える二輪など、レイを満足させるには十分だった。
とは言え、そもそも彼に秀でた運転技術などはないが。
「……ふっふふふ……その体、一目見て分かったよ。君はデッドマンだろう?」
継ぎ接ぎだらけの体。場所によっては血の通わぬ肌。
眼鏡をくいくいくいくいしながら怪しい笑みを浮かべる男に、レイは肯定もせずに腕を組む。見た通りに受け取れということだろう。同時に余計な問答をするつもりはないとの意思表明でもある。
学者風はその様子に怪しい笑みを浮かべたまま眼鏡をくいくいくいくいと直し。眼鏡変えろよおめえ鬱陶しいなモヤシ野郎。
「君のその強靭な体と、最強の超電駆動装置【ヴォルテックエンジン】に相応しい完璧な相性のマシンを紹介しよう。
これが西の秘密兵器、人力駆動併用ヴォルテックエンジン搭載型三輪車、『藻Q藻Q宇佐魔煮亜(もきゅもきゅうさまにあ)』だーっ!」
「!」
ばばんと見せたそのマシン。
ハンドル中央にはシンプルなうさぎの顔が設けられ。その駆動部は分かりやすいペダル式。前輪ひとつ、後輪ふたつ、女の子に人気の出そうな桃色の車体を余りにも簡素なパイプの組み合わせで作られたある意味ではモンスターマシン。
シートの下で脈動する光を放つヴォルテックエンジンを搭載したそれに、レイは言葉を失った。
決してそういった乗り物に対して理解や知識がある訳ではない。訳ではないが、それでも周囲の車両に対して目劣りするそれに、「本気か?」とばかりの視線を眼鏡くい助に向ける。
「……ふっふふふ……安心したまえ。初動こそ人力であるがこの藻Q藻Q宇佐魔煮亜、ヴォルテックエンジンを使えば超電導により、かつて存在したリニアと呼ばれるマシンに匹敵する超加速を発揮するのだ!」
凄いけどコーナー曲がれない奴じゃんそれ。三輪車がリニア加速しても明らかなオーバースペックでコースアウトだぞ。
「なるほど、それはまた凄い技術が使われているようだな」
熱気の中に響く涼やかな声。
くい助とレイがそちらへ視線を向けると、各マシンやドライバーたちを興味深く見つめる女の姿があった。
「なんだね、北か南のスパイかな?」
「む、そうではないぞ。名乗りが遅れて失礼した。私はアシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)お祭りに参加しに来ただけさ。
……しかし……」
立ち並ぶそうそうたる顔ぶれに、彼ら全てがレースに参加するのかと思わず唸る。
ひとつの拠点でこの数ならば、その総数はいかほどのものか。
「これは見応えがあるな。私は解説にでも回ろうか」
「ああ、それはいい。各地に中継しているから、解説者や実況が足りてないと我らが西の拠点はもちろん、他の拠点の人々も嘆いていたんだ」
アシェラの言葉にくい助は喜んだようで大きく頷く。そうと決まれば早速インタビューと、その矛先が向けられるのは藻Q藻Q宇佐魔煮亜とレイ・オブライトだ。
「……ふっふふふ……! このマシンの名は藻Q藻Q宇佐魔煮亜!
搭載したヴォルテックエンジンにより強力無比な加速を誇る! あと禁忌の技術によりジャンプできるし、ハンドルの部分のうささんの表情が変わるのだ!」
「最後の機能は必要なのか?」
「当然!」
至極真っ当な意見に力強く返すくい助。アシェラはその様子に「今回の事件は終始こんな感じなのだろうか」と何か悟った目を見せた。
続いてはやはり、ドライバーであるレイだ。
「レースへの意気込みや必殺技などあれば」
「必殺技ってのはなんだ。
…………、これはぶつかって死んだだろうなっつう場面でも、必ず立ち上がって完走する自信があるぜ。特にこんな簡素な作りのマシン? なら、どれだけ欠けようとも走らせる『準備』がある。
ゾンビバイク、とかそんなんでどうだ?」
「なるほど。いや十分だよ、ありがとうレイさん」
鋭い眼光の下に笑みを見せて、アシェラは踵を返す。他のドライバーたちとも言葉を交わすその後ろ姿を見送って、レイはくい助に目を向けた。
「相当なご自慢のマシンのようだが、車にゃあ違いねえんだろう?」
「ああ、だが気をつけてくれよ。こいつの真価は恐らく、君の想像しているようなレベルじゃあないぞ」
心配する、というよりは得意気なくい助の言葉にレイは鼻を鳴らし、エンジンをかけてハンドルを握る。
「なんてこたねえ。止め方なんてのは知らなくとも、止まる予定もねえんでな」
帽子を脱ぎ、髪を撫で付けたレイはそれだけ答えると藻Q藻Q宇佐魔煮亜に跨がった。
●ご自慢のマシン(何でもOK!)でご参加下さい。
人々集う荒野の上に、現れるは熱気をもものともしない鎧姿。
フォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)は砂塵に巻き上がる深紅のスカーフをそのままに、人々の集まる拠点を見つめる。
元々がオブリビオンの拠点、決戦の地ともなり得るそれに彼女の注意力は割かれ、お留守となった足に何かが触れる。
「すまない。……む……?」
「いえ、こちらこそ。……あら……?」
交わした視線に浮かぶ疑問符。
以前、猟兵として共に戦った仲間である桜花を認めてフォーネリアスは小首を傾げた。
段ボール的な紙製の箱の中にこじんまりとして『何方か私を拾って下さい』とのプラカードを抱く姿。フォーネリアスは彼女の姿に、あるいは深く関わってはいけないと考えたのか、あるいは哀れんだのか、水の入ったボトルを段ボールへ投げ入れた。
「ありがとうございます」
「強く生きろ」
短い言葉のやり取りに優しさが漂う。まさかこれでレースに参加するつもりとは思うまい。
フォーネリアスは先を進み、人混みをかき分け、目当てとなるレース参加を呼び掛ける者を見つけた。それぞれが最終調整に入る中、未だ戦力増強を諦めていない南の拠点、栗鼠無礼道のレディースだ。
オブリビオンは皆殺しにする。それがフォーネリアスの誓い。しかし、だからと言って狂戦士のように無条件に飛びかかるほと、理性を失っている訳でもない。
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
「! ま、まさか、レース参加の希望者かい!?」
まずはレースで殺す。鎧の隙間からぬらりと光る紅の瞳に「ぴッ」と情けない声を上げるレディース。
残る陣営は南しかなかった為、特に拘りもなかったフォーネリアスは栗鼠無礼道への参加を決定したようだ。
「ま、まあ参加すんならあたいら南の拠点、栗鼠無礼道を選んで正解さ!」
お前しかいないじゃんね。
思わず出そうになった言葉を飲み込んで、フォーネリアスはこっちだと案内するレディースに付いていく。
「見て腰を抜かすなよ、オブリビオンスレイヤー。可愛さと可憐さ、そして凶暴さを兼ね備えたあたいら栗鼠無礼道のマシンの数々を!」
「断る」
「えっ、なんて?」
ふんすと鼻を鳴らす自信満々のレディースをたったの一語で切り捨てたフォーネリアス。
あまりにも予想外の言葉に目を瞬くレディースへ、チラシに書かれたレースの参加要綱に記された文字。
「このレース、自由な参加が認められているな」
「あ、ああ。自前のマシンでもあるのかい? そんなら話は早いがさ」
きちんとした整備は必要だ。優秀なメカニックによる熟練の技を見せてやろうではないかとレディースは挑発的な笑みを見せる。
しかし。
「規約は確認したが狼で出場してはいけないという項目は無かった」
「ん?」
「よって、アズールで出場するのは問題ない」
「え、は? いやいや待て待て」
「いいね?」
「アッハイ」
ぐっと寄せられた攻撃的な兜に押され、レディースは顔を背けて肯定するしかなかった。
フォーネリアスは彼女の答えに満足そうに頷くと、その身に宿す復讐の炎を滾らせる。
「行くぞ、アズール」
【孤狼召喚】。薄く透けた体に青白い炎を纏い、現れたるは巨大な狼。
静かに佇むそれに颯爽と跨がるフォーネリアスを、レディースは輝く瞳で見上げた。
「な、……なんてモンスターマシン……! 勝てる、これなら勝てるぜーっ!」
マシン、要らないよ。
威風漂うそれに、フォーネリアスは【D社製巻き上げ機構付きフックロープ】を繋ぐ。自らの手段を活用する為、そう、勝つ為にフォーネリアスもまた準備を進めた。
●未知なるせぇふくを夢に求めて。
時はしばし戻りてグリモアベース。
「どうせならここでも勝ちといくっスよーっ!」
握り拳を突き上げたグリモア猟兵に倣うように、中空を見上げる狐が一匹。
可愛らしく鼻をすんすんと鳴らし、小首を傾げた後にぷるぷると体を震わせた。
「なんかこれ、せぇふく臭がするぅ。カヤ、勘に賭けてみるぅ」
もしかしてこの狐、何一つ話を聞いていないのでは?
謎の匂いを嗅ぎ付けて、狐こと化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)は絶望の大地へ足を踏み入れる。
希望であるせぇふくを求めて。
「ふむ。そうだな、機材はこちらにまとめておけ。応援スペースはその近くだ。観客席は即席で構わん、まだまだ増やすぞ」
転移したその場所で、アシェラ・ヘリオースによるユーベルコード、【黒騎招来(サモン・ダークナイツ)】により現れた闇鋼製の騎士ユニットたちが彼女の命に従い解説席や観戦席の設営を行っている。
小型ながらもてきぱきと効率よく作業を進めていくそれらに、周囲の大人も舌を巻く。
「なにしてるのぉ?」
「ん、ああ。今日、行われるレースの準備だ。たまにはこういうイベントもいいものだからな。皆が楽しみにしているし、こちらも楽しませて貰おうと思ったのさ」
なるほど、つまりはお祭りか。
アシェラの様子に花鵺も笑みを見せる。
「じゃあ、きっと楽しんだもの勝ちだよねぇ。よーし、カヤ一番せぇふくぽいところの応援団に参加するぅ」
「せぇふく?」
「うん!」
アシェラは虚空を見上げて小さく唸る。
制服、ではなかろうが、それらしく見える者はいたと。
「ええーっ、誰、誰~?」
「この方だ」
設置され、浮遊するホログラフの動作確認ついでにインタビュー映像を流す。
その映像に眉根を寄せて、疑問符を浮かべる狐。しかし、他に映る者にせぇふくっぽい人々は見当たらない。
「ん~。じゃあカヤ、このチームを応援するね!」
「ああ、しっかり盛り上げてやってくれ」
胸元に両の拳を作る花鵺にアシェラは答えて準備に戻る。
花鵺はユーベルコードを始動、【フォックスファイア】で色とりどりの狐火を打ち上げる。この荒野と晴れた空にも目立つように色の調整を行いながら、体の動きの確認まで余念がない。
「よーし、それじゃカヤ行ってくるね!」
優勝が決まる頃にはせぇふくさんが来るだろうか。
早くせぇふくさんが来るといいなぁ。
「ワクワク、ワクワク」
期待に胸を膨らませ、軽やかな足取りで駆ける花鵺。
レース開始まで、もう時間はない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
櫟・陽里
レースいえーい!この雰囲気最高だな!
会場をフラフラしてるだけで心が満たされイイ笑顔
なあなあ俺、超役に立つぜ?どっかのチームで拾ってくれよー(お任せ)
俺は根っからレーサーだし、ある程度はメカニック知識もあるし、乗り物に搭載するロケットエンジン貸せるし!
レース用語もバッチリだから解説だってお手のもの!
レースに関われるだけで最高だ、便利に使ってくれよ
いいかー戦う以上は少しの緩みも許さねぇ
マシンは完璧だろうな?
地形のデータは集めたな?
スタート前は入念にイメージトレーニングだぞ
0.1秒でも速くなる可能性があるなら全ッ部試せよ
ロケットエンジン最大出力で!全力走行!ゴールできりゃ良いんだぶっ壊れちまえ!
●ウィ・シャル・オーバーカム!
荒野の熱気に絆されて、思わず捻り踏み込むのはアクセル。
気筒から唸りと共に吐き出される高熱の音は、鋼の唸りに応えて大地を揺らす。
熱と鋼と重低音。祭りと呼ぶに相応しい。
「レース、いえーい! この雰囲気最高だな!」
会場をフラフラと歩けば、各所で油まみれにマシンを弄るのに男女のさかいなどなく。誰も彼もがレースの勝利を目指して真剣な顔で人とマシンに向き合う姿。
そんな光景を流し見るだけで心が満たされ、思わず笑顔に変わるのは櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)。
「なあなあ俺、超役に立つぜ? どっかのチームで拾ってくれよー」
並ぶマシンに目を輝かせて、あれやこれやと話しかける陽里に対し、露骨に嫌な顔をする者、苦笑する者と反応は様々だ。
「あぁン?」
そんな中に陽里を真正面から見返したのは天に挑むかのようなイキリーゼント。
「役に立つ、だぁ? おうコラ。お前メカニック出来んのかよ!?」
威嚇的な態度。イキリーゼントの言葉にお祭り気分であった陽里もいささか腹を立てたようで、眉を潜めると突きつけられたリーゼントを払い除ける。フランスパンみたいに硬いぜ!
「俺は根っからレーサーだし、ある程度はメカニック知識もあるし、乗り物に搭載するロケットエンジンだって貸せるし!
レース用語もバッチリだから解説だってお手のもの、絶対に役立てる自信がある!
だけどな、そういう態度ならこっちから願い下げってもんだ」
腕を組む陽里にイキリーゼントは鼻白む。マシンに乗り手、整備班とすでに彼の所属する北の拠点の人手は一杯一杯だ。
優秀問わず猫の手も借りたいのが正直な所だ。自らのチームを勝利へ導く為、イキリーゼントは重い頭を臼に突く杵の如く勢い良く振り下ろす。
「すまねえ流れのォ! ここは俺の頭を地面にコスってやっから許してくれやオイ! 今は一人でも手助けが欲しいんだ、頼むぜコラァア!」
荒れた大地をさっさか掃くリーゼントに、イキリーゼントの口調がこうなのかと陽里は頬を掻く。
「引っ掛かる所はあるけど、あんたの気持ちは分かったぜ。レースに関われるだけで最高だ、便利に使ってくれよ」
「おう、感謝すんゼェエ!」
差し出した右手を音を立てて握り、イキリーゼントは早速だとばかりに彼をマシンの元へ案内する。道中で陽里の名を聞きつつ、彼らが着いた場所には見事な金ぴかの一本ブツ、もといパツキンのリーゼントを乗せた真っ黒な四駆の姿があった。
隣では恭二郎がどんな代物かとタイヤやマシンの各所を確認している。
「よう相棒! メカニックを連れて来たぜェ!」
誰が相棒だコラ。
「あっちはドライバーの神酒坂・恭二郎。こっちはメカニック、櫟・陽里だ。よろしく頼むぜコラァア!」
いちいち威嚇しないと喋れないのかおうコラ。
そんなイキリーゼントは傍らに置き、恭二郎と陽里は互いに手を握る。視線を逸らさぬ瞳の奥に、息づく闘志を確認し合う二人。
どうやら、語る必要はないようだと陽里は頷いた。
「それで、見てもらいたいマシンってのはこいつだな」
黒い車体は手入れが行き届いて、この世界の物にしては綺麗な仕上がりがどれだけ大切にされているのか分かるというものだ。
それだけに、このマシンに足りないものも見えてしまう。
「まるで見せ物の玩具だな」
「あぁン!? 俺の勝斗美血和輪にケチつけようってかコラァア!」
「これは確かにあんたが大事に『育てた』マシンなんだろうが、見てくれ良くきちんと収まって、限界に挑戦したカスタムをされてねえ──勝負への執念、魂を賭けられてないマシンなんだよ!
着せ替えごっこならいざ知らず、互いにしのぎを削るレースに出るべきマシンじゃねえって事だ!」
「──ぬぁ……ぬぁあにぃいいっ!?」
雷の直撃を受けたかのような衝撃を見せて、へたりとイキリーゼントが片膝を着く。車にリーゼント乗せといて本気のつもりだったのかよ。
しかし、だからこそ魂を入れればこのマシンは化ける。
「こいつは燃えてきたぜ。
いいかー、戦う以上は少しの緩みも許さねぇ。マシンは俺が完璧に仕上げてやる。地形のデータはもちろん集めたな?」
「そんなものは無いぞ?」
さも当然とばかりにイキリーゼント。あまりにあまりにもなその発言に目を丸くする陽里。
彼の言葉によればこのレース、あくまで領土問題に関わる権力を平和的に取得する為のもの。三周するコースの前情報を受けてギリギリのギリギリを攻める事は命に関わる。
そのようになってはこのレースの趣旨に反するのだ。だからこそ、コースの前情報は一切無く、誰もが警戒し結果、平和的かつ安全に完走する。
限度のあることではあるが、その理念こそ三つの拠点がこのレースを支持するに至った経緯なのだろう。
しかし、発起人が問題を起こすつもりのオブリビオンである以上、彼らの想いは踏みにじられる事となる。
「とは言え、参ったな。これじゃやれる事が限られる」
「俺はハンドル捌きには自信があるつもりだよ。どんなモンスターマシンだって乗りこなして見せるさ。だからここは、先行を許す覚悟で、終盤から巻き返しといきたいね」
恭二郎は自らの胸を叩き、その顔に高い自信を覗かせる。
確かに、それは良い手だ。それだけに他のドライバーも同じ選択をする者が多くなるだろう。
そこで他と差をつけるのはドライバーの技術は勿論、マシンの性能による。
「良し、分かったよ恭二郎。どんなモンスターマシンにも乗りこなすっていうあんたの言葉、信じるぜ。
この立派なトサカの勝斗美血和輪を獰猛なモンスターに変えてやる。スタート前は入念にイメージトレーニングしていてくれよ!
そうさ、0.1秒でも速くなる可能性があるなら、レース中に全ッ部試せよ。コースの中じゃ、あんたしかマシンは頼れないんだぜ?」
ぶっ壊れる覚悟で。
陽里の言葉に、イキリーゼントも覚悟を決めて頷いた。マシンの全てを、この二人に託したのだ。
「さあ、時間がない。一気に仕上げといくかぁ!」
袖をまくり、工具箱を用意して、陽里は嬉しそうに声を上げた。
大成功
🔵🔵🔵
メグレス・ラットマリッジ
アポヘルの住民、そして観客としてレースを盛り上げましょう
郷に入りては郷に従う、右も左もヒャッハーであれば私も同じテンションで臨みます
東がヌーの大移動に阻まれれば
小動物を模したマシンでは待つ事しかできないことを嘆き
西に何故かいが栗がばらまかれていれば
パンクを恐れたレーサー達のドライビングテクニックに刮目します
これらの事故が必ず起きるとは限りませんがね!
それにしてもあな情けなや!
姿が見えぬということは、もしや尻尾を撒いて逃げたか御園桜花!
(宿命のライバル的な発言をするが恐らく一方通行の関係)
●世紀末救世ビ少女伝説。
三つの拠点の緩衝地域争奪戦。平和的なレースと言えど、内容としてはこのようなもの。これを聞いて血肉を沸かす住民が当然いるのが、このアポカリプスヘルである。
アシェラのユーベルコードによって制作された観客席にも、背中に怪しげな大型タンクをくくりつけ、下卑た笑みを浮かべるやたらと露出度の高い大柄な男たちがいた。
「かーっ、風に乗ってやって来たごみ屑を袋に入れるこの感触ぅ、たまらねえぜ~!」
「汚物は消毒だーッ! 見ろ、砂埃にまみれたベンチがアルコールでピッカピカになりやがるぜぇーッ!?」
「汚れたばかりは落ち易い上によォー、三拠点が力を合わせて出した平和募金で買った業務用アルコールスプレーを背負って消毒してるとよ~ッ、気分がスカーッとするぜーッ!」
『ヒャッハーッ!』
…………。
下卑た笑みとか言ってごめん。疑ってごめんね。
楽しそうに会場の清掃を行うおっさんどものお陰でアシェラの召喚した騎士ユニットたちも、ジェスチャーで冗談を楽しむ程度の余裕も出来ているようだ。サボってはいないよね。
「ゲヒヒヒヒ、このキレイになったベンチに気持ち良く人が座るってことを考えると、それだけでハイになりそうだぜーッ!
…………、ん?」
お前らええ加減にせえよという程に怪しい言葉を溢すおっさんズの内の一人が、ベンチの隙間に倒れこんだお爺さんを見かけた。
即座にすかさず駆け寄るとお爺さんをお姫様抱っこで助け出し、ゲッスい笑みを見せる。
「ジジィ~! 喉が渇く前から水を飲めと言っただろうがァ~!
経口補水液を飲みやがれーッ!」
「……はぐぐ……ち、違う……違うんじゃあ……っ」
息も荒く、追い詰められた様子のお爺さん。まさか、予知とは違い早い段階でオブリビオンがその牙を剥いたというのか。
震える手で指を向けるお爺さんに、何かを感じとり、恐る恐ると振り返るヒャッハーおじさんたち。
「…………、はうっ!?」
「……は、はわわ……!」
「はああああ、こっ、これはぁあぁあ!?」
驚きに目を見開き、言葉を失うおっさんども。彼らの見た光景とは、倒れたお爺さんと同年代の人を並べた人間ピラミッド。
総勢二十一名、その頂点に頬杖をつく女。そう、オブリビオン──ではなく。
猟兵である。不遜な態度で片側の口角引き上げてにたりと笑い、下郎を見下ろしている。
「き、貴様、一体何者だ!」
「私ですか? 私の名はメグレス・ラットマリッジ(襤褸帽子・f07070)、十四歳の普通の美少女ですよ」
「うっく!?」
ニヤリ。
笑う美少女に思わず後退るおっさん。自ら美少女と名乗る者が普通とは思えない。それが傍目に少女と呼べない風貌ならば尚更だ。
しかし、このままおめおめと引き下がる訳にはいかない。ボロボロのフェルト帽を片手で回すその者に、おっさんは腕の中のお爺さんを思う。
「ビ少女だか何だか知らんが、亀の甲より年の功という言葉を知らんのか! こんな無礼をする奴があるかよォーッ!
おめえの血は何色だぁー!?」
「……ふっ……何を言い出すかと思えば戯けた事を……見なさい!」
『はうううっ!?』
メグレスが右足を揺らすと、人間ピラミッドの右半分のも揺れてお爺さんたちが声を上げる。
大変だと顔を青くしたおっさんズであったが、見る見る内に血色の良くなっていく顔と肌艶すら甦る枯れ枝の如き老体の変化に驚愕する。
「こ、これは!?」
「クックックックックッ。この人間ピラミッドは鋼の如く固くなった老体の足腰肩にピンポイントで美少女の荷重を加え伝播させる事で、その山となった人々のコリを解す究極の業。
これぞ『何斗天晴鍼不要』秘奥義、『老体山美重飛翔台』ィィィ!」
「な、なんとあっぱれな業だァ~!?」
「こ、これぞ人の叡智の結晶、人々を救う世紀末の業! 老いあるところに何斗ありとはこの事かっ!?」
「いや知りませんけど」
盛り上がるおっさんズに返すメグレスであるが、もう彼らには届いていないようだ。
まあ、それはどうでもいいのだとばかりに悦びの声を上げる老体の山に座り直し、不遜な態度で頬杖をつく。
視線の先ではスタート地点にレース参加者らが集まり始めている。
その中にグリモア猟兵の予知で存在を知らされた、わんこ型の戦車も見受けられる。今度こそ、オブリビオンの登場だ。
彼らに対して先手を打ったのはアシェラだった。インタビューという形式で接近する彼女は、可愛らしくもきりりとした目を持つ戦車から降り立つ戦闘服姿にマイクを向ける。
「アシェラ・ヘリオースだ。貴方たちがこの地域のレイダーを一掃したという、流れの奪還者かな?」
「…………!? あ、ああ、そうだ」
イェーガーとオブリビオンは互いに一目でその存在を理解できる特性がある。不倶戴天の敵として、本能的に対立する存在であるにも関わらず自制し、アシェラの対応に乗る所を鑑みれば、即座に行動を起こすつもりがないことは明白だ。
「参加マシンはこの戦車を? レースに向くとは思えないが」
「あくまで我々はレイダーを討伐しただけの流れ者。戦闘用のマシンはあってもレース用のマシンなどない。この戦車もこの祭りの為にこのような見てくれに改造しただけで、勝敗などは現地の人々に任せれば良いのだ」
良いこと言ってるけど嘘なんだよなぁ。
アシェラは彼らを慕うレース参加者の様子を見て、それが本心であればと残念そうに頷く。
そのまま男はアシェラの用意したホログラフ投影機を利用してコースの解説を始めた。
「本レース会場は、レイダーが拠点としていたこの廃墟の周りで執り行う。現在、私の部下がカラーコーンやバリケード、白線を引きコースの明示を行っている所だ。
私の持ってきた用紙だが、これがコースのミニマップになる。スタート直後、直線後に急激なヘアピンカーブ、というか百度近くの折れ線コースがあるので、無理なスタートダッシュは自粛して欲しい。
続いて緩いコーナーの先にヘアピンカーブ、更にその先には地形を活かした急勾配の上り・下り坂だ。ここを抜ければ一直線、ゴールという訳だ。
コースは三周、各自、無理なく怪我のないよう参加を願う」
頭を下げる。
会場から沸く拍手や指笛に手を振り、戦車へ戻る男を見送り、アシェラもまた解説席へ向かった。第一接触としては十分だろう。猟兵がいる、それを敵へ知らしめればいいのだ。
同時にアシェラは部下たるユニットをコースの各所に配置、見所となる場所をピックアップして観戦できるよう、ホログラフで男の見せたミニマップのデータと共に映像を空に浮かべた。
レース開始に向けて着々と進む会場の様子。しかしメグレスは不機嫌に親指の爪を噛む。
(あな情けなや! 姿が見えぬということは、もしや尻尾を撒いて逃げたか御園・桜花!)
すみませんその人、まだ外でプラカード持ってます。いやいねーな。誰かに拾われたのか。
宿命のライバル的な発言で執着心を見せる世紀末的ビ少女。彼女の想いは届くのか。
●飛び入り参戦!
『何方か私を拾って下さい』。
桜花の掲げるプラカードは視線を集めつつも、なぜか皆が遠巻きに離れる中でフォーネリアスを除いてただ一人、近づく者がいた。
ごっついサングラスに爆発したようなアフロヘアー、立派に割れた顎とピッチピチのエナメル質な光沢を持つ短パン。胸元の大きく開いたシャツからセクシャルハラスメントな胸毛をモロ出しする男。
「アナタの目、どこかアタシに似てるわネ」
立てた小指をそのままに、サングラスを外せば大きく円らな潤いある瞳が現れた。本当に似ているのが目だけで良かった。
一体何者なのだろうか。疑問に感じた桜花が口を開く前に、「分かっているから」と手を前に出して制止するアフロ。こいつ絶対に面倒な奴だぞ、間違いない。
「アナタの覚悟、さっき見させてもらったワ。でもダメ。アナタの想いを受け取れる力なんて、彼らにはないもの。だからワタシが手を貸してあげる。
……このゴッドハンドを自称する神メカニック、マイケル・ツバルコフ・ジョイマンが……!」
自称かよ。名前無駄にかっこいいな。
「ちなみにこのプリチーな瞳と名前を縮めて『プリケツのジョー』とガキんちょに呼ばれているワ」
それ顎(ジョー)に対する悪口だろ。
サングラスをかけ直すプリケツのジョー。しかしこの男、各チームへコネがあるようで、自らのマシンを使い上手いこと桜花を参戦させてくれるというのだ。
お礼を言おうとする桜花を再び遮り、礼はまだ早いと不敵に笑う。
「アナタのドライブネーム、中々良かったワ。でもそれだけじゃダメ。アナタの内から迸るおサイコなフインキを表現し切れていない。
そう、アナタに相応しい名前。それは、……『全ての転生を吟う者(マサクゥル・メロディ)』、ネ……!」
「分かりづらいのでオブリビオンスマッシャーがいいです」
「ンーマッ! 遠慮のない小娘だこと! けどその正直さがスキ!
ワタシのマシンで痺れさせてあげるんだから、覚えてなさい!」
よく分からない捨て台詞を吐き、足を左右に開く独特な走り方で人混みへ消えるプリケツ。彼の尻はピッチピチの短パンでヒップライン丸見えであったが、特にプリプリではなかった。
桜花はよいしょと立ち上がり、近くを清掃していたモヒカンに段ボールを渡すとコースへ急ぐ。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『いぬせんしゃ』
|
POW : きゅらきゅら
【キャタピラを全速力で稼働させた】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【他のいぬせんしゃ】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : むれのきずな
自身が【自身や仲間の危機】を感じると、レベル×1体の【いぬせんしゃ】が召喚される。いぬせんしゃは自身や仲間の危機を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : いぬせんしゃキャノン
単純で重い【いぬせんしゃキャノン】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
イラスト:くずもちルー
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
・前章のレース本編を本日夜から明日の朝にかけて本章に投稿致します。
リプレイの受付は投稿後(4/25)からとなります、大変申し訳ありません。
●緩衝地帯杯、交流地域化権利争奪戦レース開始!
「ふれーっ、ふれーっ、うーさーさーん、ふれっふれっ、宇佐散御守利隊、ゴーゴーゴー!」
熱い陽射しにも負けず、花鵺の応援歌が響く傍らに並ぶのはアシェラより拝借した騎士ユニットたちが、更にヒャッハー楽団より拝借した楽器で盛り上げている。
お手玉のように打ち上げた色とりどりのフォックスファイアが空中で大きく色づけば、会場中から歓声が上がった。
「えへへ。みんな、頑張れー! 優勝したらカヤがイイコトして上げるぅ!」
『うひょーっ!』
花鵺の言葉に沸き立つ宇佐散御守利隊の面々。そう、花鵺が応援を決めたのは西の拠点で、その決め手となったのは何処と無く番長っぽいとされたレイの存在による。
当のレイは厳ついエンジンを搭載した三輪車に跨がっている。ハンドルについたデフォルメ調のうささんはくい助から渡された人参をもきゅもきゅしている。
半端じゃねーな禁忌の技術。
「いいかい、本体のヴォルテックエンジンが起動に耐えられるのは一回だけだ。最終ラップで使用するんだよ……ふっふふふ……」
「分かったよ、了解だ」
レイは脱いだ帽子をうさぎの頭に乗せる。
「短い間だが、頼むぜ相棒」
くい助が離れるのを見送る隣では、とてもレーシングカーとは思えない激しい音をマフラーから吐き出すリーゼント車の姿。
「……こりゃとんでもないマシンだね……!」
ドライバーの恭二郎が思わず呟いたのはその音ではなく、一踏みで駆け上がるエンジンの回転数だ。
ゾッキー仕様の修正までは手が回せなかったと助手席の陽里は顔をしかめつつ。
「説明の通り、このもう一つのレバーをシフトすればきっかり四秒後に秘密兵器の起動準備が整う。後はレバー横のスイッチでいつでも行ける。
コースが分からない手前起動時間は短いが、状況に合わせてパージ機能を利用してくれ。後は任せたぜ!」
「ああ!」
差し出された手を握れば、デッドウェイトとなる陽里は降車する。託すべきは託すべき者へ。
そんな彼らより遥か後方にいるのは、この多種多様なマシンが集まる中でも一際目立つ青の炎を噴き上げるアズールと、どぎついショッキングピンクに塗り固められた細長いレーシングカー。
「調子はどうだ、オブリビオンスマッシャー=サン」
「ええ、とってもいいです、フォーネリアスさ──、オブリビオンスレイヤー=サン」
慌てて呼び名を訂正するオブリビオンスマッシャーこと桜花。フォーネリアスはどこか満足そうに頷いて、敵の気配に落ち着きを無くすアズールを宥める。
「まだ殺さない。まだ、殺せない……最終的に、全員殺す為には……。
アズール、お前も邪魔が入るのは嫌だろう?」
「……なにあのコ……」
怪しい雰囲気を醸すフォーネリアスに引き気味のプリケツ野郎。
気を取り直して桜花へマシンの操縦方法を説明する。特別なことなどない、状況、コースに合わせて的確な判断をマシンが下し、それに合わせた機能を使用するのだ。
マイケルさん本当に神様やんけ。
「でもマシンの性能が誤魔化せないのは直線コース。最高速度を追求したマシンじゃないワ、後はアナタ次第よ」
「はい、ありがとうございます」
幸運を、と車体を軽く叩いてケツを向けるジョー。今、車がぷるるんと揺れましたけどどうなってるんですかね?
スタート地点からドライバー以外の人々が離れるのを見計らい、マイクのスイッチを入れるのはアシェラだ。
「長い準備期間を経て、ようやく始まるは緩衝地帯杯、交流地域化権利争奪戦!
実況は各参加チームのリーダー、解説はこの私、アシェラ・ヘリオースが担当する。よろしく頼みます」
「よろしく頼むぜコラアァ!」
「あ、ああ、よろしく」
「……クキキキキ……よろしく……、南のはどうしたのだ?」
テンションの低いレディースはさておき、アシェラはインタビューした参加者の中でも、リーダーたちが特に注目としたマシンとドライバーの紹介を行う。
「先ずはエントリーナンバー十八番、北の拠点、チーム血和輪倉津謝呪より勝斗美血和輪だ。
今回のレース参加マシンでも珍しい四駆の登場だ。黒いボディーにリーダーのイキリーゼント氏の魂を宿したかのような車上のリーゼントが特徴だな。高い加速力とトップスピード、四駆の安定したコーナリング性能とハイレベルでまとまった高水準のモンスターマシン。ゾッキー仕様の騒音構造にメカニック、櫟・陽里による特別追加装備があるとのこと、必見だな。
ドライバーは神酒坂・恭二郎。イキリーゼント氏も驚きのハンドスピードと鋼の肉体の持ち主だ。そのテクニックとタフさで見事、モンスターマシンを乗りこなすだろう」
紹介を受けてアクセルを踏み込み鋼の遠吠えを会場中に響かせる。ヘッドホンをつけた恭二郎が運転席から顔と手を出して拳を掲げれば、会場中から黄色い声が駆け巡る。
おっさんの黄色い声は止めて欲しいです。
「続いてエントリーナンバー五十三番、宇佐散御守利隊代表、藻Q藻Q宇佐魔煮亜! 可愛い!
三輪車は意外にも多く見かける本レースで、まさかの人力加速マシン。最早マシンが何なのかと哲学的な考えに引き込む恐るべきマシンだが、その特徴はヴォルテックエンジン搭載による、知る人ならば正気を疑うリニア並みの速度の実現とジャンプ機能、そして人参すら食べるウサギヘッド! 可愛い!
また、このチームには化野・花鵺による応援が行われているぞ。プリティマシンに跨がるのはレイ・オブライト。トレードマークの帽子をウサギヘッドに乗せているな。デッドマンの特性を活かした不死鳥の如きタフネスにより、どんなアクシデントが起きても完走すると豪語する。自己申告によればアクシデントでクラッシュして会場を盛り上げる程度のドライビングスキルがないとのことだ」
「なにぃ!?」
初耳の情報に目を見開く不審者。確認しなかった自らの不出来を呪え。
「がんばれー、レイさ~ん!」
フォックスファイアをポンポンのように両手に灯してチアリーディングを披露する花鵺。可愛い。
レイは雇い主の驚きに興味なく、しかしながら名指しで応援されて無視を決め込むほど無礼な人間でもなく。花鵺の言葉に応えて片手を上げれば、彼女の興奮も最高潮だ。
「エントリーナンバー百十一番、南の拠点はチーム栗鼠無礼道、アズールだ。
彼女もまた本レース唯一の存在となる生き物(マシン)となる。透けた体に青白い炎を身に纏う巨大な狼。その横顔は凛々しく、甲冑を着た騎手(ドライバー)を背に乗せた姿は神々しさすら感じられる。また、アズールは生き物故に最高速度で見劣りするものの、四足という特徴から高低差や障害物への対応力が勝利への鍵となるだろう。
騎手はオブリビオンスレイヤー=サン。甲冑を着たその姿は世紀末を越えたマッポーカリプスめいたアトモスフィアを纏っている。アズールのウェアに装着したフックロープはコーナリングにも実際有効な。どこまでその特性を活かせるかにかかっていると言っても過言じゃないだろう」
「オブリビオンは皆殺しだ!」
刃を抜くフォーネリアス。ちょっとやめないか。
殺る気に溢れたフォーネリアスのアピール後、アシェラは最後にともう一人の栗鼠無礼道のメンバーを紹介する。
「最後は栗鼠無礼道への飛び入り参加、マシンの性能、ドライバー、共に謎のエントリーナンバー六百六十六!
どぎついピンクが特徴的なマシン、グラッツェ・ケツプリ、ドライバーはオブリビオンスマッシャー=サン!」
『は?』
アシェラの言葉にイキリーゼントと不審者の目がレディースに向けられる。小さくなる彼女は、あいつが乗っているなど知らなかったのだと語るが後の祭りである。死人が出てもその言い訳通用すると思ってるの?
様々な波乱を予期させる本大会、誰かが調子に乗って長々と書き連ねた為に中々と走り出さなかったレース遂にスタートです。
●ニュービー、サンシタに用はない!
参加人数の多さから、とてもマシンレースとは思えない混雑ぶりを見せるスタート地点。
「前列はどう後続の追撃をかわすか、後続はどう前列へ割り込むか、スタートで勝負が決まると言っても過言じゃねえぜェエエ!」
「しかし速度を上げれば即クラッシュの第一コーナー、地獄の折れ線百度カーブがあります。最初にしてクライマックスとも言えるこの難所をどう潜り抜けるのかが見物だな」
イキリーゼントの言葉にアシェラ。ここでホログラフに大きな数字が現れる。スタートへのカウントダウンだ。
「あ、あれは!?」
と、ここでまさかの動き、マシンから降りたのは桜花。その姿を認めてジジイ・ピラミッドの頂点から静観していたメグレスは思わず立ち上がる。足下のお爺さんが悲鳴あげてるから止めたげて。
動揺するのはレディースはもちろん、他の参加者も同等だ。
「今こそ、私は勝つ!」
ならはよ運転席戻れ。
第四の壁をぶっ壊すハチマキが風に揺れ、強い瞳が虚空を睨み上げれば彼女を中心として突如、舞い上がる桜の花弁。
「これはまさか……ユーベルコード……!?」
その本質を見抜いたアシェラの言葉に呼応するように、花弁は竜巻となってスタート地点を覆う。
カウントダウン、残り数秒。急ぎ運転席へ戻る桜花。花弁によりスタート地点の様相すら視認出来ぬ中で無情にも開始のブザーが鳴り響く。
「……クキキキキ……! 妨害工作のつもりか。だが……奴は後列の中でも特に後方……影響を受けるのは必至……! 作戦を誤ったな!」
しかし、どうしたことか。ブザーが鳴り止んでも花弁を突き抜ける参加者が見当たらない。
「! 【桜の癒し】か!」
「知っているのかい、アシェラ?」
桜の癒し。桜吹雪を起こし、術者の指定した対象を眠らせその傷を癒す支援系のユーベルコード。
しかし使い所を変えてさえしまえば。
「ああっと、花弁を突き抜けて一番乗りはオブリビオンスレイヤー、アズール! 僅かに遅れてレイの藻Q藻Q宇佐魔煮亜!
そこから更に遅れて渦中のオブリビオンスマッシャー、グラッツェ・ケツプリが追い上げ──、あ、藻Q藻Q宇佐魔煮亜抜かれたぞ!」
「い、一体、どうなったんじゃコラアァ!」
動揺するイキリーゼント。桜の吹雪が晴れればそこには殆どの参加者が爆睡する姿が見受けられる。
四輪故に動かぬ他マシンの間を抜けるのに時間のかかった恭二郎は、眠気に下がる瞼を擦り上げ、とんでもないことをやってくれてものだと舌を打つ。
「なるほど。走り出す前に眠らせちまえば怪我人はいない。考えたね、オブリビオンスマッシャー!」
「スポーツマンシップが欠片もないよぉ!」
褒めるレディースに嘆く不審者。しかし走る者は勝負を諦めていない。
大量のモブはいぬせんしゃが全てコース上から撤去し、その間にも第一関門へ迫るのはフォーネリアスと桜花だ。
互いにトップスピードに特化した性能でないものの、やはりマシンとしての性能かアズールを追い抜くのはグラッツェ・ケツプリ。
「その速度、アクセルべた踏みと見た。それで曲がれるのか、あのカーブを!」
「なんの、やらいでか!」
迫る壁にハンドルを切る桜花。その瞬間、タイヤから大量のマーガリンが分泌される。
これぞグラッツェ・ケツプリに秘められし機能のひとつ、強制ドリフト。天然由来の成分で路上に放置しても実際安心だ。
「ひゃああああっ!?」
己の油脂で大回転する運転席に桜花の悲鳴が木霊する。その回転はえっらい速度でのコーナリングを実現し、ほぼ減速せずに地獄の折れ線百度カーブを突破した。
「……あり得ねえぜ……」
己の目で見た光景が信じられずに思わず呟く陽里。
後続となるフォーネリアスはアズールをげんそくさせつつフックロープを投擲、ユーベルコード【獄守手】を始動、フック先端を地獄めいた鉤爪手へと変形させてカーブ内側へ固定。
「ぬぅん!」
繋ぐロープを引き締めて、アズールのコーナリングを補助、彼女もまたそれに従い体を傾け、更に壁を蹴る事で加速、グラッツェ・ケツプリを猛追する。
「何かマシンレースとしての常識が崩れる展開だが、それに引っ張られる訳にゃいかないねえッ!」
藻Q藻Q宇佐魔煮亜を抜き去った勝斗美血和輪。ギアを下げエンジンブレーキによる減速を行いつつ、僅かな触れ幅に合わせてハンドブレーキを上げ、見事なドリフトでコーナーを。
「うおっ!?」
なんと、ここ一番でマーガリンにタイヤを取られた勝斗美血和輪。しかし速度をしっかり落としていたお陰で大事に至らず、ヒヤリハットは生じつつも第一関門を無事にクリアー。
「うおおおおっ、いいぞ恭二郎ぅう!」
やかましく吠えるイキリーゼント。
ここで残る参加者の中で最下位となったレイ・オブライトも遂に第一関門へと到達する。デッドマンとしての特性か桜花の妨害も物ともせず、車体の小ささを活かして早い対応を見せたレイだったがいかんせんマシンが悪すぎる。ウサギヘッド寝てるけどこれエンジンかかってなくね?
しかしそれでもさすがは猟兵、圧倒的に足りていないがそれでも人力とは思えない速度だ。
「……余り認めたくないが……そのスピードなら曲がれる……! 不安なら減速してもいい……とにかくアクシデントを防ぐんだ……!」
キコキコキコキコ。
ペダルを踏み込みながらレイは思う。
(どうやって減速するんだ?)
「クラアァアァアッシュ! 壁に激突ーッ! 漕ぐことに集中し過ぎたかレイ・オブライト、アクシデント発生だ!」
「あああ終わったぁあーっ!」
膝から崩れ落ちる不審者。派手に壁にぶつかりタイヤを撥ね飛ばした藻Q藻Q宇佐魔煮亜。
普通ならばここで終わりだろう。しかし彼は自らを、どんな状況でも完走する自信があると評したのだ。
上がる白煙からゆらりと立ち上がり、頭から溢す血液をそのまま藻Q藻Q宇佐魔煮亜へと歩み寄る。
飛んだタイヤを拾うと自らの腹から突き出た肋骨をへし折ってシャーシ代わりにタイヤを繋ぎ止めて何事もなかったかのように跨がると帽子を被る。
「ちょま、これ、グロ!?」
「デッドマンの特性を派手に活かしているな。恐らくは自らのユーベルコード、【Undead(デイ・アフター・デイ)】を使用しダメージを軽減。
更に欠損したパーツ、つまり肉体を己のマシンの補強に使ったか。うさぎさんも衝撃で起きたようだ、涙目可愛い」
「なんであんたは冷静なんだい! ……冷静なんだよね……?」
語られる内容の最後の言葉はともかく、アシェラの解説は的確だ。
血にまみれながらも颯爽と走り出す姿はやはり喧嘩番長といった姿に見えるでもあり、花鵺は黄色い声を上げてフォックスファイアを打ち上げる。
特大の狐火は空で弾けるとレイの名を描き、花鵺のチアリーディングにも熱が入る。
「ふれーっ、ふれーっ、うーさーうーさー! ふれっ、ふれっ、レーイ、ふれっ、ふれっ、オブライトっ、ゴー!」
ウサギヘッドが起きたお陰か加速、最高速共に上がったようで、レイは大きく遅れながらも先頭を目指す。
一方、第二の難関に先に到達したのはやはり、桜花のグラッツェ・ケツプリ。今回もまた大量のマーガリンによる強制ドリフトを起動するも速度と回転が合わずに壁へと叩きつけられる。
しかし。
「…………!? な、なんだ……車が……ぷるるん、と……!」
驚愕する不審者。それもそのはず、壁に叩きつけられた車体は独特の弾力を有し、ぷるぷると震えるだけで傷すらなくヘアピンカーブを突破したのだ。
「これは恐らく、仮説だがプリンを模した弾性パターンを形状記憶した特殊合金をフレームに使用している。こんなことが出来るのは天才と呼ぶに他はない。
だが」
わかる方も天才だと思う。驚愕の解説を行いお役目を全うするアシェラ。彼女の予測する弱点があった。
「そう、それは……弾性限界……! 全てのコーナーでぶつかっていてはアタシのケツプリ・フレームはもたないワ。あのコの成長に全てがかかってるの!」
客席で呟くプリケツ。美味しい所をもってくんじゃない。
二番手であるフォーネリアスは第一関門と同じ手でヘアピンカーブを抜けるが、こちらは先程よりは緩いため速度を落とさずにしっかりとついていく。
それでもここで追い上げを見せたのは恭二郎の勝斗美血和輪だろう。コース中心を離れて壁に接触したグラッツェ・ケツプリ、これによりコースのアウトラインにマーガリンが敷かれたことで第一関門程の苦もなく完璧なコーナリングでカーブへイン。
ドリフトにより内角に対して直角となった車体、後輪が前輪よりも進行方向へ流れると同時にハンドルを切り返しアクセルを踏み込む。
爆音をあげて人見知りのチワワの如くきゃんきゃん吠えた相棒と共に一気にコーナーを抜けた。
「むうっ!」
遂には捕捉されたかとフォーネリアスが唸り、アズールへ激を飛ばして加速させる。
レイは速度の差もあって普通にヘアピンカーブを抜けた。
●アクシデント勃発! 激しい首位争いにロックオン!
「そろそろいい頃合いかしら」
烈火の如く熱い闘争に沸き上がる歓声と熱風に対して冷ややかな目線。世紀末的ビ少女メグレスは豊満なお胸の間からトランシーバーを取り出すとどこそこへ無線をかける。
「私です、十四歳の普通のお姉さんですよ。コード・ベロニカ、始動して下さい。オーバー」
『はあ? ベロ、ベロ、なんですかいの? もう一度お願いしますしますよう、お、おーばーちゃん?』
「少女っつってんですよジジイ。いいから繋ぎ止めてるヌーを放してください、オーバー」
『はあ、はあ、わかったでよう。おーい、そこのロープ切』
ぷつり、と無線が切れる。良く使い方が分かっていないようだがそれも相手がお爺さん故なので怒らないでいただきたい。
ところでメグレスさん何かやましいことをしてません?
「さあ、見せてもらおうか御園・桜花。荒れ狂うヌーの群れを前にして、如何にして状況を打開するのか。
ククククク、とは言え小動物を模したも同じマシンなど、ムーの大移動の前には待つことしかできないでしょう。己が無力を嘆き、ただ待つ姿が目に浮かびます!
おーっほっほっほっほっほっ!」
お乳を揺らし高笑い。モヒカンたちは不気味そうに悶え喘ぐお爺さんたちの上でふんぞり返るビ少女を見上げていた。
レースでは激しい高低差に車体を浮かし、ハンドルを取られながらも未だに首位を守る桜花が見える。とは言え後続にはフォーネリアスと恭二郎が迫っており、フォーネリアスなどは勝斗美血和輪に抜かれないよう、車体の前をアズールで位置取ることでなんとか順位を守っているが、坂道を越えれば抜かれるだろう。
一進一退の攻防を繰り広げつつも首位へ迫る二人に気を取られる桜花。次の瞬間、道を遮る巨影に急ブレーキを踏む。
コースを横切るムーの群れだ。彼らはその巨体をもて余すように、悠々自適とその辺の草を噛んでいる。荒れ狂う、ねえ。
しかし、どちらにしろ車の通るスペースはない。いくらなんでも彼らを轢くわけには、というよりも車が途中で止まるのも目に見える。
同じくその光景を目の当たりにして減速する恭二郎。
「こりゃあ、運営だとかそういった方向で撤去した方がいいんじゃないのかい?」
「いいえ、その必要はありません」
窓から顔を出す彼の言葉を否定するアシェラ。眉を潜めた恭二郎、その後方から気合を一声、フォーネリアスがアズールと共にムーの群れへと加速する。
「道を拓け、アズールッ!」
主たる、そして想いを一つとするフォーネリアスの言葉に応え、灼熱の如き咆哮を放つ。
喉から迸る唸りからの遠吠えは、平和を謳歌するムーたちに恐怖を呼び覚まし、方々へ散開させる。アズールは逃げるムーの間に、或いはその背に鋭い爪を突き立てコースを進む。
「す、凄いですオブリビオンスレイヤー=サン!」
「あんなのはマシンじゃ出来ない芸当だ!」
スタート地点を抜け、二周目にして一気に首位へ踊り出たフォーネリアス。追随するのはグラッツェ・ケツプリと勝斗美血和輪。しかしここでも細長い車体を活かして群れの間を縫う桜花と、ぶつかれば車だけでなくムーへ傷を与えてしまうことから減速するせざるを得ない恭二郎とに差が生まれてしまう。
勢いのついたフォーネリアスは第一コーナーを稲妻の如く壁を蹴り、反射するようにジグザグに走行、コーナー出口へ突き立てたフックロープを使い速度を増してカーブを抜ける。
桜花も一周目と同じく車体を回転、後部を僅かに掠めながらコーナリングに成功。追う恭二郎はドリフトの入りをコーナーよりも手前で行い、十分に速度を落としつつ危なげなく第一関門を突破する。
一周目とは違う動きに、陽里は目を光らせた。
(調整をかけたな。三周目に全てをかけるつもりか!)
そして、彼らからは大きく遅れてレイ・オブライト。二周目は更に速度を上げて壁へと突き刺さる。
哀れ藻Q藻Q宇佐魔煮亜は大クラッシュ、車体も真っ二つになったその姿に会場の雰囲気が冷え込むも。
「よっこいせ」
「うおっ、うおおおおっ、生きてた! 本当に不死身だぞあれ!」
「ていうかもういい、走るな! 見てて心臓がもたねえ!」
観客のご心配の言葉を受けつつも、ねじまがった腕の骨を車体に繋ぎ止めて修理を行い、何事もなかったかのように颯爽と走り出す鋼のメンタル。
「だ、駄目だぁ、もう無理だぁ」
完全に心の折れた不審者はさておき、アシェラは顎に手を添えて思案する。
先程と前回のクラッシュ、壁に飛び込む場所とタイミングが全く同じだ。ただ、その直前に曲がろうとする揺らぎがホログラフのデータに記されている。
(レイさんも何かに向けてタイミングを調整している? まだまだひっくり返るな、このレースは)
コース先頭。しばらくは首位を守るフォーネリアスであったが、二台に終われては死角もあり、性能差から遂に逆転を許してしまう。
しかしここで逆転させたのはグラッツェ・ケツプリ、同じチームを勝利に導くべく、勝斗美血和輪の妨害を優先した結果だ。
さすがの恭二郎も連携されては分が悪い。
しかし差し掛かった第二コーナー。ここでまさかのドリフトミス。
「わっ、わわっ!?」
壁に叩きつけられたグラッツェ・ケツプリは大きく跳ねて、桜花はなんとか軌道を戻すも危うい所だ。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
「──あれはおそらく……」
「マーガリンが、切れたのね」
誰だお前。
動揺するレディースへの説明に割って入ったプリケツのジョーに、思わずアシェラが睨み付ける。
しかし構わず目立ちたがりやのケツ顎おじさんは話を進めた。
「第一コーナーは超☆難関。二周目におケツをかすったときから思っていたワ。アレを越えるために大量のマーガリンを使ったはずよ。そしてレース半ばにそれが切れ、更には今の衝撃。
間違いなく、次の最終ラップ、オブリビオンスマッシャー=サンの地力で第一関門のカーブを成功させなければドロップアウトは確実だワ!」
だそうです。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。摘まみ出してくれ」
「あんちょっとなにすんのヨッ!」
騎兵ユニットにあっさり摘まみ出されるマイケルを見送り、レースは更に加熱する。
「頑張ってー、番長さぁあん! 勝ったらカヤがイイコトしたげるから~ぁっ!」
「イイコトってのに興味はねえが」
声援に対し、太い笑みを見せるレイ。
「ようやく体が暖まってきたぜ。いつでもいけるな、藻Q藻Q宇佐魔煮亜?」
『モッキュ!』
お前喋れるのかよ藻Q藻Q宇佐魔煮亜。
レイの言葉にキリリと顔を引き締める。君も人間で言えば胴体真っ二つとかなってるんだから、あんまり無茶しちゃ駄目だぞ。
加速していく三輪車は、すでに普通の乗用車の速度を超えている。
そして、物語は運命の最終ラップへ突入した。
●決着ぅう! でもこれ前座なんでしょう?
最終ラップへ一番先に突入したのはオブリビオンスマッシャー=サンこと御園・桜花、グラッツェ・ケツプリだ。
そのまま第一関門へ向けて加速する彼女の瞳には、覚悟が見て取れた。
曲がる。
その言葉を、勝つ為に、自らの魂に刻み付ける。
狙うコースはそう、今まで自分がコースに焼き付けたマーガリン。その滑りを利用した慣性ドリフトはしかし、アウトコースぎりぎりを滑走する。
(……曲がれっ……曲がれっ……!)
祈りは天に通ずるか。否、そうではない。ルームミラーに映るハチマキの文字が桜花を突き動かす。
そう、自分で決めたのだ。第四の壁を──運命をぶっ壊すと。ならば最期まで、己の意志で。
「負けて堪るかァァーッ!」
車体側面を壁にこすってバックミラーが弾け飛び。
だが、桜花は見事に第一コーナーを突破して見せた。
「……やるねえ……!」
その熱い走りを見て火が点かないはずはない。【勝負師】としての恭二郎は笑みを見せた。
フォーネリアスと共に突入した最終ラップ。しかし、疲れを見せたアズールと幅広の直線コースでは勝斗美血和輪を抑え切れない。
「悪いけど、行かして貰うぜ」
車体を振りフェイントをかけ、アズールの動きを吊り逆からその脇をすり抜ける。
思わず歯噛みするフォーネリアスだが、まだ諦める訳にはいかない。
勝斗美血和輪のリーゼントへフックロープを投擲しようとして、止める。
(これ以上、アズールに無理をさせる訳にはいかないか)
激しい攻防を繰り広げたアズールを後方に、急加速する恭二郎。
「な、なんだ? おう恭二郎、早まるんじゃねえぞコラ!」
「これは、勝負に出たか紙酒坂・恭二郎」
先程までの速度とは桁が違う。アクセル全開のそれはコーナーに突入する車のそれではない。しかし、ここまでするという彼の勝負への拘りは凄まじい集中力を発揮する。
「──ぶちかませ、恭二郎!」
陽里の言葉。
思考が加速し、周囲がスローに感じる虚実の狭間で、恭二郎はハンドルを切った。それはコーナーは遥かに遠い。しかし、滑走する車は恭二郎のハンドル裁きで車体を横にしたまま前進、地獄の折れ線百度カーブへ突入する。
同時にシフトレバーを下げれば、真っ二つに割けて横に広がるリーゼント。
その瞬間、ぴったりと。
道へ向けて平行にした勝斗美血和輪のギアを上げ、車上のリーゼントからマズルが覗くと最大出力で発進。ロケットエンジンに点火し、シートに恭二郎を縛りつけるような強烈な速度を記録する。
殺人的加速で恭二郎がカーブを抜けると同時に第一コーナーへ突撃した者がいた。
それはフォーネリアス、アズールではない。信じられない追い上げを見せたレイと藻Q藻Q宇佐魔煮亜である。
その速度にものを言わせ、コーナーに差し掛かると同時にマシンを跳躍、空中で腕力にものを言わせ車体の向きを変えたレイは、あろうことか壁をその足一本で蹴りつけ、全ての衝撃を支える。
今まで彼がクラッシュした地点で、攻撃的に瞳を輝かせ、熱い息吹を唇から漏らし、蹴り抜いた一撃はコースを破壊。
その反動は、藻Q藻Q宇佐魔煮亜を更に加速させる。
「え、嘘、抜けた? マジかっ、よおぉー!」
「コラあ恭二郎! 俺の魂真っ二つにしたんだ、ぜってぇ勝てよぉーっ!」
「逃げきれりゃ勝ちだよオブリビオンスマッシャー=サン! あんたにもう、全ッ部、託したからねぇ!」
「まさか、まさかの大接戦! ここで三つのチームが凌ぎを削る大混戦、果たして勝つのはどっちだーっ!」
「ふぁいと~っ、せぇふくだよーっ!」
「行けぇ! 桜花! ぶっち切れやーッ!」
デッドヒートに盛り上がりを見せる会場に、思わず立ち上がり叫んでいたビ少女ははたと我に返るとジジイ・ピラミッドに座り直しこほんと咳払い。
おバスト様の間から再びトランシーバーを取り出す。
「私です、十四歳の普通のお姉さんですよ。プロジェクト・ゴールデンアクスを始動して下さい、オーバー」
『あー、ごる、ごる、ゴルフ~ですかな? いやぁ、わしゃクラブも持ってませんぞい。ちなみにワシはビ少女さんのような熟女さんが好きだでや。おーばぁ』
「少女っつってんですよクソジジイ。脳ミソぶち撒かれたくなかったら背中の栗とっととばら蒔いて撤収してくださいな」
栗?
ぽちり。無線を切る。今こそ最後の難関だ。
緩いカーブを抜けた先のヘアピンカーブ目前で、コース外に倒れこむ複数の老人。空になった篭から撒かれたであろう大量の毬栗がコースを占拠していた。
毬栗なんてアポヘルにあるのかって? 目の前にある光景が全てだ。
「!」
唐突の毬栗の群れに思わず減速したグラッツェ・ケツプリの脇を猛スピードですり抜ける勝斗美血和輪。四輪であれば確実に踏むであろう群れを前に、恭二郎は小刻みなハンドルの切り返しで車体を揺らす。
「な、なんじゃコラァアア!?」
思わずイキリーゼントすらも叫んだその姿、片輪走行である。この速度でそれを行うテクニックと集中力の異端さとくれば。
もちろんただのマシンで可能な芸当ではない僅かなハンドルの動きも追随する陽里のメンテナンスあってこそだ。
そのような姿を見て、使うべきはここだと藻Q藻Q宇佐魔煮亜のヴォルテックエンジンを起動させる。帯電するマシンに自らの雷を宿す。
それは原始の咆哮をだった。
『おおおおおおおおおおおおおおっ!』
ウサギヘッドと共に放つ魂の叫びはヴォルテックエンジンの力を呼び覚まし、強力無比な電磁場を発生させる。
ウサギヘッドから放たれた怪光が道を貫きレールとなって、藻Q藻Q宇佐魔煮亜を地面から僅かに浮かし、滑走する。
一瞬だけだ。瞬くだけの光。だがその瞬きがあれば十分過ぎる。
浮いた車体は毬栗を越え、光に消えいくウサギヘッドは相棒であるレイに微笑んだ。
この光の、導く先へ。
「ああ、お前の見せてくれた光と共に、お前を作ってくれた奴らにオレたちの光を見せてやる!」
並ぶ二つのマシン、交差する二人の男の視線。
語るべきはない。何故なら目指すは、ゴールにあるからだ。
『いぃけええぇぇぇぇえっ!!』
二つのマシンが坂を上り、風となった。
●さ、本編を始めよう!
「すまない、アズール」
疲弊した様子の孤狼を撫でると、荒い息をそのままに面を舐めて答えてくれる。優しい炎に包まれた相棒を、フォーネリアスは労った。
「チョーさん、せっかくマシンを貸してくれたのに、申し訳ないです」
「いいのヨ、アンタが無事で。力一杯走って、少しはスッキリしたかしら?」
「それはどうかなぁ」
「ンーマッ! ここは頷く所でしょ、でもそういう素直さがスキ!」
磨耗したグラッツェ・ケツプリ。ドライビングテクニックのない桜花を助け、成長させてくれた名機であるが、もう、とても使える状態じゃないだろう。
「あんたたち、よくやってくれたよ。…………、ありがとう。本当は関係ないはずなのに、ここまでやってくれてさ」
レディースもまた、二人の健闘を誉め称えた。
「正直、無理だと思ってたからぁ、ひぐっ、うっ、さ、最後のぉ、まき、まっ、巻き返しはぁ、凄くてぇ」
泣くなよ不審者。
うんうん、といった様子で肩を叩く花鵺に支えられた彼はさておき、レイは相変わらず眼鏡をくいくいくいくいしているくい助の元へ向かう。
「すまないな、一歩、及ばずだ」
「ふっふふふ。なあに、君のお陰でいいデータが取れた。藻Q藻Q宇佐魔煮亜もきっと、君の役にたてて喜んでるさ」
「そんなもんかね」
顔を背けて頬を掻く。視線の先には高台に立つ恭二郎の姿があった。
「恭二郎よ、他の奴らは確かに強かった。そうそう勝てる相手じゃねえ。そんな奴らをねじ伏せて勝ち上がったお前には血和輪倉津謝呪より友血和輪の称号をくれてやるぞコラ。
お前に何かあった時、すぐに駆けつけてやるぜェエ。俺たちはもう、ダチだからよう!」
「ありがとう、北の大将。そして、陽里。お前さんのメンテのお陰でここまでこれたよ」
「持ち上げ過ぎだ。こりゃ、あんたの実力だぜ」
本日何度目かの握手。それでもこうして固く結びたいほどの感謝の気持ち、信頼の証。
「……うう、ウサギヘッド……。こほん、それでは宴もたけなわ、優勝した神酒坂・恭二郎の所属する北の拠点、血和輪倉津謝呪をこの地域の権利者として──」
突如、轟音。
ウサギヘッドの最後を涙ながらに乗り越えたアシェラの言葉を、砲撃音が遮った。
驚き目を向けた人々の中心で、続々といぬせんしゃが廃墟から姿を表す。
「おうおうおう、一体どういうことだ、こいつあよう!」
「どうもこうもない。我が『国民』たちよ。そしてイキリーゼント君。国民を纏めるリーダーになった気分はいかがかな?」
先程のコース説明を行った男だ。
国民などと、何の話だと狼狽える人々に、男は笑って言葉が足りないことを詫びた。
「そのままさ、国民諸君。君たちは選ばれたのだ、我らが王に、支配されるべき民として。そしてイキリーゼント君は君たちをまとめるリーダーとして、選ばれた。実に民主的じゃないか!」
「訳わかんねえぞコラァア! なんで俺たちが王とかいうのに支配されなきゃなんねんだ、アァン!?」
それは、王が力を持つ者だからだ。
男が指を鳴らすと、傍らのいぬせんしゃが見物人へ砲身を向ける。しかし。
「つまらない真似をしないで下さる?」
「おごっ!?」
突如として背後に現れたメグレスが、男を抱き締めるようにその胸に【艶消しのトマホーク】を突き立てる。
死は、いつだってすぐ側にある。
死角から死角へと瞬時に移動するユーベルコード【黄泉渡り(テリブル)】によりてあっさりと絶命した男を突き放し、メグレスは斧を振り上げた。
「皆さん、この者たちは貴方たちを支配する為にこの大会を開いたのです。今すぐお逃げ下さい!」
ビ少女の言葉が荒野に響き、人々を逃走へ駆り立てる。続々と集まるいぬせんしゃな国民たる現地の人々ではなく、敵である猟兵へ砲身を向けた。
●過去から這う者、未来から来る者。
数十ものいぬせんしゃが会場に現れた時、最後に姿を見せたのは異質な、黒いいぬせんしゃだった。
その全身は毛に包まれてもっさりとしており、何とも言えない姿を見せる。
このいぬせんしゃから姿を見せたのはサングラスを欠けた大柄な黒人男性。屈強な体には余す所なく重量ある筋肉が搭載され、それだけでも異様な迫力を持つ。
身の回りは他のいぬせんしゃにより警護され、傍目にもその男こそがレイダーキングと察するに問題ないだろう。
彼は、怯みなくこちらを睨む猟兵たちに、サングラスを外す。
「恐怖とは、過去より生まれる」
サングラスをその手に乗せて。呟くような、しかしはっきりとした意志の強さを感じさせる声音だった。
「経験から、あるいは未経験故に、恐怖とは過去を糧として生まれるもの。そして希望は、無知からくる浅はかな夢、そう、未来を糧として生まれてくる。
予知に縋り、確定もせぬ未来の為に希望となるか、イェーガー。過去より起こる我らオブリビオンを、恐怖と断じるか、イェーガー」
ならば、それも良いだろう。
己が手の内のサングラスを握り砕き、男は猟兵たちを見つめる。
「貴様ら希望は必要な犠牲だ。恐怖を敷く為の犠牲。恐怖から起こる秩序の為の犠牲。
抵抗するのだ、諦観し絶望する者を救う為。お前たちの活躍は愚者の愚行ではなく勇ある者の愛ある働きとして人々の胸に刻まれる。人々はそれを希望とするだろう、また新たな牙が現れるはず、と。
そして堕落する。牙をもがれ爪を折られ、他者に依存する。希望がある限り諦めない。明日を夢見ることは今日が終わらない恐怖を呼び覚ます。
メリハリが必要なのだ、イェーガー。全ては、恐怖ある秩序の為に」
『サー、イエス・サー!』
男の言葉にいぬせんしゃから声が響く。
狂える信徒たちを率いる荒野の王は、膝まずく者たちにより未だ刃は届かない。まずは彼らを討ち、そして王を倒すのだ。
…………、所で君たち、なんでそんなものに乗ってんの?
・集団戦です。敵戦力はいぬせんしゃのみ、鉄壁の守りによりレイダーキングとはまだ闘えません。
・会場の人々は逃走を開始しており、避難誘導の必要はありませんが周囲にいるので巻き込まないように注意して下さい。
・敵は国民となる現地の人々を襲いませんが、巻き込むことについて何も思っておりません。
・シナリオの目的はあくまでレイダーキング討伐のため、地元住民をどのように利用してもシナリオの成否には関わりません。
アシェラ・ヘリオース
「素晴らしいレースの後に、何とも無粋な乱入だな荒野の王。だが、その戦車は可愛いと思う」
スーツ姿のまま、円盾程の大きさの風車手裏剣を構える
方針は【先制攻撃】で近接系の味方が接敵する前に攻撃をかける
すなわち
「黒渦」に膨大量のフォースを注ぎ込んで巨大化し、敵陣へと投げ放つ
【念動力】で操作し戦場を攪拌、【継続ダメージ】で装甲を砕く【鎧砕き】で敵戦車隊の防御を減衰したい
それを三度繰り返す
「こんな所か……後は任せる」
後は一歩下がって【オーラ防御】を展開し、後方から【戦闘知識】で戦況を把握しつつ、収束フォースによる【砲撃】を【誘導弾】で曲射し、前線の援護を行いたい
デザインは可愛らしいのに勿体ない事だ
フォーネリアス・スカーレット
「そうか、知らん」
既に空高く跳躍して天板から戦車を貫いて殺す。
「貴様の独りよがりの理屈など知らぬしどうでもいい。私は貴様らを皆殺しに来ただけだ……ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
騎乗戦闘向けに調達したオベリスクめいた巨大槍を手に棒高跳びめいて跳躍。上から貫いて殺す。
「アズール!」
距離が遠い相手にはアズールを呼び寄せて背に跨り、騎兵突撃によって貫く。
「そうだな、優勝争いに入れなかったのは残念ではあったが……オブリビオンに負けていなければ構わなかった。だから、最後は手を抜いた。余力で勝てる戦いでもなかったしな」
前座で体力を使い果たす様な愚は犯さん。
「オブリビオンは皆殺しだ」
●対決、いぬせんしゃ!
「素晴らしいレースの後に、何とも無粋な乱入だな荒野の王」
言葉だけを残し、悠然ともっさり戦車へ戻る男へアシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)は告げる。
解説姿であったスーツを着込んだままで構えるのは円盾ほどの大きさの風車手裏剣【黒渦】。
「だが、その戦車は可愛いと思う」
思わず呟いたのは本心だろう。しばし視線を向けたものの、結局は何も言わずいぬせんしゃに戻った荒野の王。彼の者と入れ代わりに姿を表した禿頭の男は、何故か得意満面の笑みを浮かべている。
「それ見たことか、可愛かろう! これぞ我らが王の言葉にあるメリとハリ!
汝、恐怖に屈して絶望するならば、汝、癒しによりて救われ給え!
そう、癒しなのだ……可愛さとは……そして、それを更に増強するもの、それがモフモフである!」
まあ、後半は理解できる。
「平和を築く為のレースを、準備した我らがこの身を持って粉砕することで、全ては我らが一存によって決まるという武力と恐怖をその身に刻み! そして!
我らの与える癒しによって絶望に屈することなく、恐怖を享受し続けるのだーっ! うははははははははぁ~っ!」
テンションたけーなこのハゲ。
よく分からない理論をぶちまけているが、要は取らぬ狸の皮算用、机上の空論を地で行くつもりなのだろう。問題はそれを大真面目に実現しようとしている事だ。
彼らが企む恐怖の秩序実現の為に、そして実現したその秩序にどれだけの血が流されるのか。
「そして、覇道にかかずらう小事は、我らが鉄血を持ちて撃滅すべし!
勇猛なる兵士諸君、突撃である!」
『サー、イエス・サー!』
硬派な言葉を受けて気合充填、おとぼけた顔で走り始めるいぬせんしゃの一群。
「そうか」
その突端に颯爽と降り立つのは赤い風、否、フォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)だ。
「ぬう! 王の悲願に横槍を入れる悪しき尖兵め、我ら万雷の覚悟を持って──」
「知らん」
いぬせんしゃの頭頂に降り立つ鎧姿に、慌てる男の言葉を一蹴、装甲を易々と引き裂く長大な槍がさながらオベリスクめいていぬせんしゃの頭上に君臨する。
フォーネリアスの【貫キ殺ス】という意志を愚直に表したようなこの槍に、男はそれ以上、ただの一言も喋れずに絶命した。
「貴様らの独りよがりな理屈など知らぬしどうでもいい。私は貴様らを……皆殺しに来ただけだ……!
ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
「あ、挨拶だと!? こんな戦術レベルの戦いの最中に何を!」
彼女の名乗りに絶叫する。分かるまい、彼らオブリビオンには。
オブリビオンと同じくユーベルコードを使用する猟兵は、互いに天敵、相容れぬ存在ながら世界の理を超越した共通点を持つ。
彼らが彼らである為に、イクサを行う猟兵にとってアイサツとは神聖不可侵の行為。UDCアース創世の書、古事記にもそう書いてある。
アイサツをされれば返さねばならない。それができないからこそ彼らはオブリビオンであり、それを出来る人としての実際礼節を持つ彼らこそ猟兵なのだ。
本当かって? 正否は聞かぬ。欺瞞!
「ニンジャスレイヤー=サン!」
「! アズール!」
アシェラの呼び掛けに行動を察したフォーネリアスは右手を掲げ、志を共にする心の友の名を叫ぶ。
そもそもが騎乗戦闘向けに調達したオベリスクめいた巨大槍。いぬせんしゃより抜くと同時に棒高跳びめいて跳躍、彼女の呼び声に応えた蒼炎の孤狼へ跨がり前線を離脱する。
「黒気注入、臨界突破」
フォーネリアスが前線を乱す間に、超高速回転する黒渦に膨大量のフォースを注入し巨大化させる。
腕を引き、大きく振り被るアシェラの眼光鋭く。
「……さぁ……、一息で決めるぞ」
敵陣へと真っ直ぐに放たれた巨刃。
「うぅぬれ、あれが如きは礫に過ぎん! 後方のイェーガーごと砲火によって散華せよ!」
「イエス・サー!」
『サー、イエス・サー!』
どことなくやる気に満ち溢れたいぬせんしゃの口部から伸びる大量の砲身を向けられ、しかしアシェラは焦りを見せずに不敵な笑みを見せる。
果たしてそう、上手くいくものかと。
巨大手裏剣はアシェラの念動力により向きを変えると、迫る砲弾を斜めに弾き返す。
「な、なんだとぉ!?」
或いは裂き、あるいは避け、放たれる砲弾を無効化しつつ迫る鋼の旋風は、次々といぬせんしゃを襲う。
一度の突撃によって完全に敵陣を撹乱すれば、二度目の突撃によりいぬせんしゃの履帯を破壊。
三度目の突撃は動きが止まったことで鋼の棺桶と化したいぬせんしゃを貫き、搭乗者をずたぼろの細切れに切り裂いた。
「…………。こんな所か。後は任せる」
回転する巨刃も一撃ごとにフォースを失い、元の大きさへと戻ったそれを投げ放った姿勢のまま受け止める。
アシェラは一歩下がるとオーラを膜状に展開、防御の姿勢を見せた。後方から戦況を把握しつつ、収束フォースによる前線の援護を行う様子だ。
「ええい、……味方機が邪魔で後続部隊が前に出られん……!
やるなイェーガー! だがこの程度の些事で我らが王を煩わせる訳にはいかんのだ!」
叫ぶ禿頭の号令を受けて、最早動けぬいぬせんしゃを後続のいぬせんしゃが押し上げる。
めきめきと凛々しい顔が泣くように歪んでいくのは悲哀すら感じる。
デザインは可愛らしいのに、勿体ないことだ。
アシェラはひっそりと溜め息を吐きつつも、その掌にフォースを収束させた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイ・オブライト
はじめはよ、まどろっこしい話だと思っちゃいたが
この戦い(レース)をぶち壊すってなら
今は……ちょいと譲れねえな
突進には衝撃波をぶつけ瓦礫やマシンの破片類もキャタピラに噛ませ、勢い削いだ状態で真っ向から受け止める。負傷は想定内。周りに避難途中の奴がいりゃあ尚更だ
第一、間合いに飛び込んできてくれるたぁ楽でいい
【一撃必殺】
装甲に穴を開け内部で属性攻撃の電流を炸裂
爆発するなり好きに退場しな
爆風やらが現地民に降りかかるなら衝撃波で散らす。逃げてった後の道は壁でも殴りつけデカい瓦礫で塞ぎ、流れ弾防いでもいい
いぬか……
言っとくがオレの藻Q藻Q宇佐魔煮亜の方がイカしてたぜ
勝ちにいくタフさが足りねえ、てめえらには
神酒坂・恭二郎
「中々に可愛らしい見かけだが、やる事は可愛らしくないねぇ」
迫りくる戦車達を見回し息を吐く
荒野の王さんをやっつける前に、一仕事こなさねばなるまい
まずは相手に近づく必要がある
足のある猟兵さんに乗せてもらうか、風桜子による【トンネル堀り】で塹壕を掘って相手が近づくのを待つかだ
間合いが詰まれば、手拭に風桜子を通し、包み込むような【オーラ防御】で砲弾をいなすか、鞭のように砲台に絡ませて戦車に飛び乗ったりしよう
こう言うのは【覚悟】あるのみだ
「悪いね。戦車は上の装甲が薄い」
銀河一文字を【早業】で一閃し【鎧無視攻撃】で両断を試みたい
上手くいくなら、この調子で他の戦車も屠っていこう
●悪意を通すな! いぬせんしゃの猛撃!
「ここは我らにお任せを、ケンヤ・ゲハ補佐官!」
「むむっ、その声は!」
いぬせんしゃたちが前進にすら悪戦苦闘している中、歯噛みする禿頭へ声が上がる。
見れば廃墟からではなく、別方向から現れるいぬせんしゃの姿。伏兵、というよりは増援か。
頂上部を開き現れた男はゲハ補佐官に向かって敬礼。
「試作超能力強化小隊隊長、ネコスキー軍曹か!」
「イエッサー! ネコスキー軍曹以下コネコネカワイイ部隊総勢二十三機、我らが王の危機を前に合流であります!」
誇らしげに胸を張る彼に続き磨きに磨き上げられた褐色の迷彩柄をしたいぬせんしゃが陽の光を照り返す。
ねこせんしゃ持ってこい。
「お馬鹿ッ!」
「グワーッ!」
ナムサン!
禿補佐官のいぬせんしゃの砲撃が、ネコスキー軍曹を略式処刑する。彼に一体なんの落ち度があったのか?
「我らが傅く荒野を治めるべき王が、危機に陥ることなどあるものか! 不敬である、故の処罰!」
ヤンナルネ。
味方にも厳しい態度はプラス評価。その程度で処刑しちゃうのはマイナス評価。やはり外道は外道である。
「ネコスキー軍曹亡き今、貴様らコネコネカワイイ部隊は我が指揮下に入る。総員、砲撃用意! 先行部隊を援護せよ!」
『サー、イエッサー!』
君たち超能力を活かそうとは思わないの?
続々と向けられる砲口を前としても、レイ・オブライト(steel・f25854)は一切の動揺を見せずに自然体のままで敵意に向き合う。
「初めはよ、まどろっこしい話だと思っちゃいたが」
閉じた瞼の裏に浮かぶ激闘と激突の数々。想いに浸るにはごく短時間の間の出来事であったが、思い返すには十分過ぎる濃密な時間でもある。
「この『戦い(レース)』をぶち壊すってなら……今は……ちょいと譲れねえな」
「ほざけイェーガー! 発射!」
ゲハ補佐官の令により、比喩でなく次々と口から火を吹くコネコネカワイイ部隊所属のいぬせんしゃたち。
迫る砲弾に乗る殺気にレイは即座に反応。開眼すると同時に踏み砕いた瓦礫を盾に壁と立て、その砲撃を防ぐ。
「いい反応だ」
レイの対応を称賛しつつ、アシェラの放ったフォースは彼の頭上を抜け、放物線を描き迫るいぬせんしゃに突き刺さった。
レイは壁とした瓦礫を更に蹴り砕き、直後に撃ち込んだ拳で散弾の如く戦車へ攻撃。その礫だけでも破壊的な威力がある上に、キャタピラが噛めば更に足止めとなる。
その影から飛び出すのは青白い炎を纏うアズールと、その背に跨がるフォーネリアス、そして神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)だ。
「中々に可愛らしい見かけだが、やることは可愛らしくないねぇ」
同胞を踏み潰しなが、迫りくるいぬせんしゃを見回し息を吐く。荒野の王とやらをやっつける前に、一仕事こなさねばなるまいと意気込む恭二郎は、それはさておきと透けた体のアズールの背中を撫でた。
「あの激戦の後だって言うのに、元気だねぇ」
「そうだな。……優勝争いに入れなかったのは残念ではあったが……オブリビオンに負けていなければ構わなかった。だから、最後は手を抜いた」
余力で勝てる戦いでもなかったしな、と溢す。恭二郎の乗る勝斗美血和輪に最後の追撃を行わなかったのも、後に控える戦いの為。
「前座で体力を使い果たす様な愚は犯さん」
「なるほど。なら、ここは俺に任せて貰おうか!」
次弾装填。
黒き鉄の壁となって迫る第二斉射。無機物の暴力を前に一歩と退かぬ覚悟で恭二郎は手拭いを抜く。【スペース手拭い】と呼ばれる宇宙素材で仕上げられた逸品だ。風桜子、即ちフォースを流すことで拡縮自在の変化を見せる。
神酒坂風桜子一刀流を掲げる恭二郎からすれば、これひとつで局面を切り抜ける装具となり得る。
風桜子を通しオーラを集中すれば、アズールはマントを棚引かせる騎馬の如く敵陣へ突撃、遅い来る砲弾を恭二郎の手捌きで千変万化を見せた手拭いの波が次々と絡めとる。
「ワザマエ!」
その手練れに感嘆の言葉を漏らすフォーネリアス。恭二郎は得意気に口許を歪めると、絡め取った砲弾をあらぬ方向へと弾き飛ばし、あるいはいぬせんしゃへと返す。
「オブリビオンスレイヤー=サン!」
突破口を開く恭二郎の呼び声に応えてアズールを跳躍させる。
恭二郎もまた、アズールの背から更に跳ぶと彼女たちとは別方向の敵目掛けて手拭いをしならせる。
鞭の如く変化した手拭いを砲身に巻き付けていぬせんしゃへと降り立てば、スペースシップワールドにおいても名匠と唱われた、銀河・流星の鍛え上げた大業物、銀河一文字を一閃する。
「悪いね。戦車は上の装甲が薄い」
まるで竹を割るように一刀両断する恭二郎だが、その瞬間を待っていたとばかりに放たれる砲弾。味方の巻き添えなど考えていない、撃滅こそを優先する態度。
しかし。
「見え見えだ、そんなものは」
射撃直後、或いは直前の砲身ごとアシェラの放つフォースが横薙ぎに破壊していく。
レイが壁となることで後ろに引いたアシェラは戦場を冷静に見回し、要所要所に的確な援護射撃を行う。
「馬鹿者ォッ! 突撃部隊、そんな奴らは早く踏み潰すのだ!
コネコネカワイイ部隊、弾幕薄いぞ、何やってるの! ヅラでも被り直しているのか!」
カツラへの風評被害は止めて頂きたく存じ上げます。
迫るいぬせんしゃから目をそらし、禿野郎の命令で動きを加速するコネコネカワイイ部隊へアシェラは鋭い視線を送る。
「砲撃しながらの両翼への展開──、包囲殲滅のつもりか。……片方は私が抑えられるが……、オブリビオンスレイヤー=サン!」
「言われるまでもない」
アシェラの叫びのその前に、遂にはコネコネカワイイ部隊へと肉薄したフォーネリアス。
猛々しく吠えるアズールの背でぬらりと赤い眼光を放ち、手にした槍でいぬせんしゃの搭乗席を貫く。
「オブリビオンは皆殺しだ」
冷徹な言葉と全身から放たれる抑えようもない殺気は、敵の覚悟を鈍らせるには十分過ぎる力を持っていた。
彼らとは別に、レイの活躍で勢いを殺されながらも前進を続けていた突撃いぬせんしゃ部隊。
レイは砂塵を巻き上げて突撃するそれらを相手に帽子を目深に被り直すと、両足を広げて腰を落とす。
真っ向からその突進を受け止めたのだ。
度重なるクラッシュで傷ついた体は悲鳴をあげるように軋み、苦痛を煽る。
「無謀なりしイェーガー、我ら鉄血の進撃を止める術などありはしない。このまま踏み潰してくれるッ。
いぬせんしゃーっ、ファイッ!」
『おーっ!』
後続のいぬせんしゃが更にいぬせんしゃを押し上げて、一気に荷重を増大させる。その質量を前に地面を抉り後退させられるレイ。
押さえ込んだ腕に伝わる負荷が肩の骨を痛めても、その体は抵抗を止めず、足の骨が割れても避ける意志は見せず。
「まだ抵抗するか! 諦めて踏み潰されろ!」
「ぐ、……く……! 後ろにゃあまだまだ避難の途中の奴らがいるんだ、尚更諦められねえぜ」
「その覚悟や良し! 我らが王の覇道の為に、否、この世界の秩序の為の礎となるが良い!」
分かっていないな。
増していく重みを前に、にやりと笑う。
「守る為の覚悟なんぞしちゃいない」
「ぐくっ、負け惜しみを──」
「第一、間合いに飛び込んできてくれるたぁ楽でいい」
何だと。
訝し気な言葉を上げる暇もなく。
その身に稲妻を見せた【覇気】を纏い、振り被る拳はいぬせんしゃを真正面から引き裂く。それはさながら拳型の徹甲弾。
【一撃必殺】。装甲に穴を開けたレイの拳はヴォルテックエンジンにより内部で超電流を炸裂、後続のいぬせんしゃごと連鎖して大爆発を引き起こした。
「疾ッ!」
左の拳で放つ衝撃波が後方へと飛び散る金属片を撃ち落とし、逃走する現地民への被害を無くす。
一瞬にして黒煙も払われた青空の下、レイは未だに数あるいぬせんしゃを見据えた。
「……いぬか……。
言っとくがオレの藻Q藻Q宇佐魔煮亜の方がイカしてたぜ。勝ちにいくタフさが足りねえ、てめえらには」
敵を打ち砕いた右の拳を開く。そこには相棒であった藻Q藻Q宇佐魔煮亜の【ピンクの金属片】が帯電し、力強く輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「よく来て下さいました、メグレスさん」
「人には越えねばならぬものがあるのです…海とか山とか親とか借金とか!今の私はダンゴ虫以下、通天閣を超えお笑い界の大空に抹香鯨のように轟き羽ばたく…その決意の表れです」
「私は今だけ生まれ変わります…お笑い界のヨッシャー・イクゾウに!見届けて下さい、メグレスさん」
「スーだかヌーだか犬駄戦車だか知りませんが。今日の私の滑りっぷりを物理的に邪魔しようなど、神が許しても私が許しません」
メグレスさんの横で桜鋼扇に破魔と電撃の属性乗せ突っ込む
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
犬戦車に触れたら敵凝視
「これ…もしや人毛?まさか…全身?」
「破廉恥な破廉恥な」
距離取りUC連打に切替
化野・花鵺
「ハゲってせぇふくかなぁ。お坊さんは剃髪だしぃ、軍人さんも短髪だしぃ、でもあれだけでせぇふくっていうのもなぁ…うーんうーん」
狐、目を眇めて敵を眺めた
「ここで悩んでても解決しないしぃ、間近で舐めるように見たら別の発見があるかもしれないしぃ。カヤもっと近くに行ってじっくり観察するぅ」
依頼を全く覚えていない狐、私欲で敵の粉砕を決めた
「カヤはあっちに行きたいのぉ!邪魔すんなバカァ!」
「フォックスファイア」連射
敵の親玉のところまで道を開こうとする
1発でだめなら何発も融合させて巨大な狐火をぶつける
敵の攻撃は衝撃波でそらす
「犬の癖に妾の邪魔をしようなど、無知蒙昧も甚だしい。疾く去んでしまえ、ホーッホッホホ」
メグレス・ラットマリッジ
桜花さん、その鉢巻はいつも巻いているので?
いや、面白いなと思いまして……(抑えた感想)
なるほど?
(何やら桜花さんは殻を破ろうとしている
応援すべきか正気に戻すべきか)
いや、もう賽は振ってしまったようですね
招待された私は観客の礼儀を果たすとしましょう
どうなろうと最後まで見届けますよ
この場の大勢が私達を勇気ある者と認識している
ならそのように振る舞わねばならない、か弱いこの身で突進を受け止めましょう
ただしマーガリンに塗れた地点で! 踏ん張りの効かない車体を渾身の力でひっくり返してやります(UC)
ヌーを集めた苦労に比べれば、犬の百や二百どうってことは――ない!
これ人毛なんですか、悪趣味ですね(慣れてる)
●破壊せよ鉄壁!
現れた多くの敵を前に、地元民の避難を誘導していたメグレス・ラットマリッジ(襤褸帽子・f07070)は絶景だと腰に手を置く。
「よく来て下さいました、メグレスさん」
焼けた土の荒野を踏む独特な音を響かせて、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はメグレスの隣に並び立つ。
彼女らの他にも避難ルートの明示や案内を行っていた者がいたようで、後程合流できるだろう。先に戻ってきた二人は前線で絶賛活躍中の猟兵たちの姿を見つめている。
別の戦場でも面識のあるこの二人。特にビ少女ことメグレスは先のレースにおいて噛ませに近いライバルキャラのような言動をしていた訳であるが。
ふっ、と不敵な笑みを浮かべて横の桜花へ顔を向ける。
「!」
顔を戻す。
彼女の額に巻くハチマキとただならざる雰囲気に気圧されて、不自然な沈黙。
「ところで、桜花さん」
こほんと小さく咳払い。名前を呼ばれて振り向く桜花に対してメグレスは敵へ向けた視線を変えず。
戦士として良い覚悟と言えなくもないが。
「そのハチマキはいつも巻いているので?
……いや、面白いなと思いまして……」
人の覚悟を面白がってるんじゃねーぞ。抑えた感想に、メグレスが桜花と顔を合わせないのは戦場の覚悟でも何でもなく、そのハチマキ故と確定する。
『第四の壁をぶっ壊す。』ハチマキ。今もしっかりと頭に巻いたパーラーメイド・桜花。
馬鹿野郎お前友達ならもっとはっきり言ってやらないと最後に傷つくのは本人なんだぞ!
そんな彼女の内心の葛藤を知らず、あるいは知っていて触れないのか、メグレスの感想に彼女も瞼を下ろして息を吐く。
「人には、越えねばならぬものがあるのです」
ほほう。いや何の話?
くわ、と両眼を開き胸元に震える握り拳。燃える瞳は前を見つつも敵を見ている訳ではなく、桜花は吼える。
「海とか山とか親とか借金とか!
今の私などは所詮ダンゴ虫以下。……通天閣を超えお笑い界の大空に抹香鯨のように轟き羽ばたく……その決意の表れです!」
なるほど。
「なるほど?」
疑問符つけた所で答えられる人はいないので止めてくれませんかね?
豊かなお胸の下に腕を組み、全く分かっていない表情でメグレス。見据える先は違えど、ときおり流れる爆風に髪を揺らす二人の顔は凛々しく美しい。
会話の内容がつくづく悔やまれるシーンである。
「私は今だけ生まれ変わります……お笑い界のヨッシャー・イクゾウに……! 見届けて下さい、メグレスさん!」
え、見届けなきゃならないの? とばかりに目を見開くビ少女の横から、桜花は桜の刻印が成された【桜鋼扇】を構えて走り出す。
恐らくはきっとたぶん確実にそうだと思われる帝都一のお笑い芸人のはずと推察したヨッシャー・イクゾウを目標とする桜花。その時点で戦いの理由が彼女だけずれている気もするが、きっと今の心境に寄り添う人物なのであろう。
まさか田舎あるあるを曲に韻を踏む歌手などであるはずもない。
「むむむっ、新手か!」
フォーネリアスや恭二郎とは別方向からの敵の出現に禿頭補佐官は自らのいぬせんしゃを回頭、迎撃の準備が整う間にと砲撃する。
「スーだかヌーだか犬駄戦車だか知りませんが」
スーでもねぇ、ヌーでもねぇ、犬でもねぇなら駄目戦車、とばかりに韻を踏みつつ迫る敵影に放たれた砲弾。それを目にしても進路は変えず、正に紙一重でするりとかわす。耳の横を通り抜ける風の音に見向きもせず、桜花は扇を薙いで硝煙を切り裂いた。
「今日の私の滑りっぷりを物理的に邪魔しようなど、神が許しても私が許しません!」
滑るとか言うの止めてよ、こっちに刺さるんだよ。
「我らをあのような珍妙なアクシデントのひとつにする気か貴様!?」
ヌーの大移動と同列にされて思わずツッコミ、もとい正論を叫ぶハゲ野郎。お気持ちは察するに余りあります。
(何やら桜花さんは自身の殻を破ろうとしているようね。応援すべきか正気に戻すべきか)
桜鋼扇に雷光を纏わせ、足場をとられて動けなくなったいぬせんしゃの装甲を次々と引き裂く鬼神の働きぶり。
その背中を見つめて思案するメグレス。普通に考えて正気でないと思うなら応援する選択肢はないよね。
(いえ、もう賽は振られてしまったようですね)
時、既に遅し。後悔先に立たず、アブハチトラズ。
「招待された私は観客の礼儀を果たすとしましょう。どうなろうと最後まで見届けますよ」
にっこりと微笑む世紀末熟女的ビ少女。そうだ、このメグレス・ラットマリッジという女、自分から美少女などと名乗る時点で彼女もまた正気ではなかったのだ。
骸の海とは別口のケイオスの海より放たれた獣は、何もこの二人だけではない。
瓦礫の上で四足の獣の如く座るのは化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)。
「ハゲってせぇふくかなぁ」
おいおいおい、この娘もぶっ飛んでるぞ。
両のこめかみに指を当て、うんうん唸る狐。
「お坊さんは剃髪だしぃ、軍人さんも短髪だしぃ、……でもあれだけでせぇふくっていうのもなぁ……うーんうーん」
それらが考慮に出るなら相当なストライクゾーンを誇るようではあるが、彼女のフェチ道もさすがに自然現象までをも内包するには至らないようだ。
ハゲに悩む男子諸氏は泣いていい。慈悲はない。
しかしここで狐、目を眇めて敵を見つめる。走り寄る桜花へ向けて新たないぬせんしゃを並べ壁とするおハゲ。中々のやり手であるが、花鵺にとっては見るに邪魔な障害物でしかない。
「ここで悩んでても解決しないしぃ、間近で舐めるように見たら別の発見があるかもしれないしぃ」
ハゲを舐めるように見るとかどんな羞恥プレイだよ。止めてよ。
「カヤもっと近くに行ってじっくり観察するぅ」
だから止めろってんだ狐。
もはや依頼を全く覚えていない、むしろ最初から聞いてなどいなかったのではないかと思える私利私欲で、前に立ちはだかる敵の粉砕を決める。
すてててて、と勢い良く駆けていく後ろ姿を見送り、ここはひとまず援護かと【ロングボウ】を構えるメグレス。
何の変哲もない狩猟用の弓矢だ。もちろん、これでいぬせんしゃの装甲を抜こうなどと考えてはいない。
「また新手か──何だ凄い寒気がするぞこいつ!? カウカウメチャスコ部隊、奴を近づけるな!」
『モウ、イエッサー!』
桜花の壁と立ちはだかるいぬせんしゃの砲身が光る。君たちどうあっても犬を部隊名に使わないつもりだな。
「まずはその可愛いお目々を」
ほぼ同時という早業で放たれた二本の矢は正確にいぬせんしゃの両眼、つまりは照準潜望鏡を撃つ。
本気であれば貫くこともできたかも知れないが、優先すべきはそこではない。
「うひぃっ!」
突然の飛来物に照準を誘導する乗組員が思わず身を縮こませる。
目を保護しようとする人の習性を逆手に、速度を重視した矢の狙撃がいぬせんしゃの目を文字通り奪っていく。
「ありがとうございます、メグレスさん!」
その間に火花を散らし、鋼扇で砲身を切り落とす桜花。
敵の攻撃手段を零とした訳ではないが、突進だけならば対処も易いとの判断だ。更に斬撃とともに放たれる強力な雷撃がその車体を駆け回り、内部の計器を焼き潰す。
中のオブリビオンにまで影響を与えられないだろうが、しばらくは時間を稼げるだろう。
「カヤはあっちに行きたいのぉ! 邪魔すんなバカァ!」
補佐官命令によって立ち塞がるいぬせんしゃへ、フォックスファイアを連射する歌鵺。
今度は次々と上がる爆炎が壁となり、目を塞がれたいぬせんしゃの動きが止まる。
止めを刺さずにひた走る歌鵺を見る限り、敵の親玉たるいぬせんしゃ黒もっさバージョンまでの道を開こうとしているようだ。
「ふうっ。どうやら私の元ではないようだ。…………!?
我らが王へ直接、向かおうというのか! 愚劣極まる、貴様らイェーガーは尊厳を知らないのか、うッ!?」
「あら惜しい」
歌鵺の目的に気づくと慌て声を張り上げるケンヤ・ゲハは、間もなく飛来した矢を素手で掴み取る。
惜しいと評し笑みを浮かべたメグレスであるが、その瞳に宿る凶暴な光は彼を敵として認識したようだ。正面からとはいえ混戦の中、矢を素手で防ぐなど尋常の動きではない。
しかし、彼女たちが纏う空気を変えたのはそれが理由ではない。
「尊厳を知らない? その、人としての尊厳を踏みにじろうしている貴方がたが、そんな言葉を使うのですか?」
「カヤよく分かんないけどぉ、今のハゲの人の言ってることは違う気がするぅ」
炎を切り裂き走り跳ぶ二人の猟兵。しかし、その眼前につきつけられたのは大量の砲口。
「間に合ったか我が懐刀、マチガイル部隊!」
対空迎撃能力が完璧な名前は止めろ。
彼らの時間稼ぎの間に黒もっさ後方の守りを固めていたいぬせんしゃを回していたのだ。派手な攻撃によりその細部の動きが猟兵らの目に写っていなかったが、猟兵の健闘により荒野の王を守護する鉄壁が崩れ始めたのは確かだ。
だが、それを前にこの光景。
「薙ぎ払え!」
ゲハ補佐官の号令が降された。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
櫟・陽里
いやーもう…さいっこう!
規格外なレース展開、ターンごとに大爆笑だったわー
よっしゃ相棒!こっからは俺らも大暴れしてやろーぜ!
相棒をオフロード二輪型にし悪路もなんのその
ジャンプやドリフト、地面の特性を利用
土埃で目眩ししたり
搭載シールドを展開して人々を庇ったり
バイクは機動力のある盾にもなるだろ?
取り残された人を掻っ攫って逃すとかさ
Side by sideを発動
戦車の攻撃をライディングテクでかわし
自分のタイミングで安全な角度から戦車に接触
火花を散らして戦車自体を無理矢理燃やしてやる!
戦車同士も協力するらしいけど…
猟兵だってもちろん協力できるんだぜ!
…できるよな?みんな個性すげーけど…(やや不安になる)
●崩滅、いぬせんしゃ!
放たれた鉄の轟きに、直撃を予想し防御の体勢を取る桜花と歌鵺。
その前方に滑り込む影ひとつ。直後に起きた爆煙に、ゲハ補佐官はご満悦の笑みを浮かべた。
「……直撃である……! 今! 王に逆らう不敬の輩、二匹を罰したのだ。残る虫けらを撃滅させ、国民を恐怖のズンドコに陥れるのだ!」
『サー、イエッサー!』
直撃じゃないんだよね。
沸き立つ煙の中から唸るのは鋼鉄の鼓動。煙幕を引き裂いて現れたのは【空力デバイス付きシールド】によって見事、砲弾を防ぎ切った二輪のバイク、【RA13SS/P-GP JET】こと『ライ』に股がる櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)の姿があった。
「ビックリしたぁ!」
「あ、ありがとうございます、陽里さん!」
「良いってこと! それより、口閉じてなよ!」
後部にしがみつく二人をそのまま、いぬせんしゃを足場に荒野に降り立つライ。陽里はアクセル全開、前輪はブレーキできっちりと固定しながら後輪を高速回転させる。
荒れ地を削って巻き上げた土埃を即席の煙幕が後方のマチガイル部隊への牽制となるのだ。
(さいっこうだったなー、さっきのレースは!)
敵を前にしても陽里の心を占めるのは先程の大会だった。
各自、腕によりをかけて調整したマシンとドライバーが真剣勝負でぶつかり合う。出来ればドライバーとして参加したかったものだと思えるほど。
規格外なレース展開に仰天のマシン構成。ターン毎に大爆笑してしまう程の、レーサーとしての陽里の予想を遥かに超えた内容だった。それは彼の心に火を点けるには十分過ぎたのだ。
「よっしゃ相棒! こっからは俺らも大暴れしてやろーぜ!」
車体を安定させると同時にロケットスタート、狼の如く迫るそれに禿頭は頭髪と違い色濃く焦りの表情を見せた。
「まだ来るか。アテゥーマー部隊、迫る敵を撃滅せよ!」
黒もっさいぬせんしゃ前方を守るいぬせんしゃ部隊。両目をきらりと輝かせると開いた口から砲身を見せる。
先程のようにビームシールドを使えば問題なく攻撃を防げるはずだが、その分、動きを止められてしまう。ならばこそ。
「振り落とされないよう、しっかり掴んでてくれよなッ!」
「はーい!」
「わわわっ」
発射される砲弾へ真っ向から、しかしハンドルを切ると同時にほぼ真横になった車体は、それでも軌道を変えることはなく、車体を横倒ししたのではないかと思える角度で滑走する。
並列発射された砲弾をスライディングでかわし、同時にユーベルコード【Side by side(サイド・バイ・サイド)】を始動、車体から弾ける火花が赤く輝き、ライの軌跡が荒野を燃やす。
「火花散るレース、楽しもうぜ!」
「うぬれぇえ、かくなる上は──、突撃する! アテゥーマー部隊は私に続け!」
『サー、イエス・サー!』
「モウ、あ違った」
「略式処刑」
響く銃声。カウカウメチャスコ部隊の掛け声を間違えて使用した兵士の末路はいぬせんしゃ内での出来事なので分からないが、ヤバレカバレもかくやとばかりの突撃である。
しかし敵は車両ひとつ、鋼鉄の馬が並び走る姿は効果的な手段であるのは間違いない。
まあ、その鋼鉄の馬が当て馬となるのは名前からして予想に易いよね。問題はどうやってそれを切り抜けるかだ。
「猟兵ってのは互いに結び付いて戦う存在なのさ。それこそマシンとドライバーみたいにな。
いぬせんしゃ同士も協力するらしいけど、猟兵だって勿論、協力できるんだぜ!
…………、できるよな?」
思わずサイドミラーで相棒にしがみつく二人を見つめる。今回の依頼に参加する猟兵の皆さんの中でもすんげー個性持ちだからね、不安になるのも仕方ないね。
「まあいいや。一気に行く、やつらの側面を抜けるから、よろしく頼むぜ!」
「任せてください!」
「せぇふくせぇふく~!」
ライの頭上、正確には歌鵺の頭上に生成された狐火が集う。それぞれが融合して巨大な狐火と化すそれに驚異を覚える補佐官であるが、まさか今さら停まれるはずもなく。
先頭を走るゲハのいぬせんしゃに触れるか触れないかの間で右にハンドルを切り、そのまま三角形状に陣を組むいぬせんしゃの側面を駆け抜ける。
炎の軌跡は波となって視界を塞ぎ、飛び散る火花はいぬせんしゃを炎に包み込む。
「あつゥい!」
燃え上がるその死角を利用してライから跳び降りる桜花と花鵺。特に花鵺は補佐官たちの頭上を取ると巨大化させた狐火を直下へ叩きつけた。
犬の癖に妾の邪魔をしようなどと。
先程までと様相を変えて、蔑む目を向ける。止めてよ、上からの目線でしかも蔑むのはゲハ補佐官の頭皮がマズいから!
「無知蒙昧も甚だしい。疾く去んでしまえ、ホーッホッホホ!」
高笑いする歌鵺の足元で、巨大な狐火がいぬせんしゃの装甲を熔解し陣形を瓦解させる。
続いて起こる爆発に吹き飛ばされたゲハ補佐官のいぬせんしゃ。こいつ、毛根は情けない癖にしつこいぞ!
「く、く、くうぅうう! このケンヤ・ゲハがついていながら突破を許すとは。ええい、他の部隊は何をしている!?」
やーい無能禿げー。
悔しがる補佐官が改めて見回す戦場で、砲撃の邪魔をしていたメグレスへ裁きの一撃とばかり、ようやく近接したいぬせんしゃが突進をかける所であった。
「くたばるがいい、スブタめぇえっ!」
「この十四歳の普通のお姉さんに向かって雌豚と呼ばない殊勝さは認めますが酢豚は酢豚で非常に腹立たしい物言いですね」
凄い早口。いささかカチンと来ているご様子のメグレスであるが、退く気はないようでその両手を前方へかざす。
「まさか押し留めるつもりか、このカウカウメチャスコ部隊一の巨漢、キングモウター上等兵の乗るいぬせんしゃを!」
「乗ってる人の重さが三桁でも誤差にしかならないでしょうに」
数々の妨害を乗り越え、テンションマックスのきゅらきゅらいぬせんしゃへ冷静に返す。
王と呼ばれる者の言葉によれば、この場の大勢が彼女たち猟兵を勇気ある者と認識している。実際、メグレスたちが助けた地元民は皆、救い手の如く瞳を輝かせていた。
「ならそのように振る舞わねばならない、か弱いこの身でその突進、受け止めましょう」
目の前のキングモウター以外は多分誰もか弱いと思ってないと思う。
「ぐはははは! 潰れよスブタァ!
…………!?」
調子に乗る上等兵であったが、いぬせんしゃの走行に乱れが生じて目を見開く。
そこは今までレースでコーナリングが行われていた場所、そう、マーガリンに塗れた地点である。
グラッツェ・ケツプリにより撒き散らされたマーガリンにより、まともな走行すらできずに暴走するいぬせんしゃを前に、ゆっくりと腰を落とす。
「私の黄金の右が、『骨(フレーム)』を砕く音はもう聞かないと決めたのに!」
翳した両手を振り切り、大地を軸足で深く割りつつ放たれた右の蹴撃はいぬせんしゃを真っ向から迎撃する。
脂質により踏ん張りの効かない車体へ、渾身のユーベルコード【肉斬骨砕(テリブル)】を始動。
「ヌーを集めた苦労に比べれば、犬の百や二百どうってことはなーい!」
それいぬせんしゃの前でも言えるの? ……言ってるんだもんなぁ……。
「んンぬあぁあああっ!」
咆哮。
右足で受け止めた超重量を、そのまま蹴り飛ばす。……蹴り飛ばしちゃうんだもんなぁ……。
「ば、馬鹿なーっ!?」
きりもみ回転して宙を舞ういぬせんしゃは、そのままコネコネカワイイ部隊へと落下、その戦力を巻き込んで爆発四散する。
勇気はか弱い女性を悪魔へと変貌させる、これが世界の真理である。
●PPtoWin!
「ば、馬鹿な……こんな……こんなことが……!」
次々と破壊され、突破されていくいぬせんしゃ部隊の姿に信じられないとばかりの表情を見せるのはケンヤ・ゲハである。
爆散して噴き上がる炎は壁となり、突撃部隊の全てが破壊されたことも相まってそれ以上の前進を受け付けないとの猟兵の意思にも見える。
そして猟兵たちは、それを雄弁に語るように炎を背として歩む。
「残るはあの黒いもっさりしたいぬせんしゃと、幾らもないな」
アシェラはテニスコート収束させていたフォースを霧散させる。
「戦いとしては楽な方だったかも知れないな」
両手を合わせて指の骨を鳴らすレイは冷たい光を瞳に宿し。
「局地的な事件にこれだけ猟兵が揃えばねぇ」
言葉に哀れみを見せながらも同情の念は皆無の恭二郎。
「だが、本丸はこの先だ」
溢れ出る殺気を抑えもせずにフォーネリアスは呟き、傍らに従うアズールは低く唸る。
四人と一匹から迫る重圧に乾いた喉。固い生唾を無理に飲み下してゲハはそれでも笑みを浮かべる。
それは強張った、痛々しいものであったが。
「例え貴様ら不埒者が何人束になろうと、例え我らがどれだけ追い詰められようと!
この身に宿す忠義の心がひとつあらば、熱く脈打つ鼓動とともに赤き爆弾として貴様らを撃滅せしむる! かかってこいイェーガー、我らに降伏など有り得ぬ!」
自爆発言しといてかかってこいと申すかオブリビオン。
もはや動かぬいぬせんしゃから半身だけ出して、ゲハ補佐官の強がりには思わずメグレスも溜め息を吐く。
「……これ……もしや人毛? まさか……全身……?」
「はっ!?」
後方からの呟く声に気付き振り向く禿頭。そこには先の突撃による混乱の隙に黒もっさいぬせんしゃの毛に触れる桜花の姿。
「破廉恥な破廉恥な!」
その異様さに慌てて離れる桜花はユーベルコードにより目視叶わぬ風の精霊を喚び起こす。
「森の妖精、風の精霊。私の願いを叶えておくれ。代わりに一つ、お前の気ままに付き合おう。……おいでおいで、シルフィード……!
【シルフの召喚】!」
生み出された風の刃が黒もっさいぬせんしゃの人毛を切り裂いていく。
しかし、その装甲を傷つけることはできない。正確には本体に触れる前に軌道が変えられているのだ。次々と切り落とされる人毛の下に、赤い紋章が不気味に輝く。
「や、やめっ、おい止めんかメイドコラ!」
「それ人毛なんですか、悪趣味ですね」
叫ぶゲハはさておき、すっかり慣れた様子のメグレス。
しかし直撃を避ける機能とは。普通であればあの紋章にこそ何らかの意味があるはずだが。
アシェラはここではたと気付き、残るいぬせんしゃを破壊していた花鵺に声をかける。
「花鵺さん、あの黒いいぬせんしゃを燃やしてしまえばせぇふくさんが出てくるかも知れません」
「ほんとぉ!?」
「はーっ!?」
せぇふくのワードですっかりいつもの笑みを見せる狐。その頭上に大量の狐火を浮かべる。
「いや待って貴様ら本当に待って!」
「燃えちゃえぇ!」
放たれた火玉の群れが、一気に人毛の毛玉を燃え上がらせる。
炎につつまれたいぬせんしゃは他のものと違わず、特にそれらしいペイントがされているわけでもない。唯一、額に描かれた紋章を除けば、だ。
炙る火がぐねとうねり、光を大きく屈折させるのはやはり、特殊な施しがされていると理解できる。
「う、ぅ我らが聖域を!」
猟兵たちへと、目を大きく開き声を張り上げるケンヤ・ゲハ。引き連った笑みを見せて右手に起爆装置と思わしきスイッチを握る。
「撃滅ぅ!」
響く火薬の炸裂音。しかしそれは余りに小さく、衝撃をもってゲハ補佐官は右手を見下ろす。
握っていたはずのスイッチは消え、代わりに風穴の空いたその掌。
「せっかく先行したんだ、ポールポジションは譲らねえ」
鼻をすすり、嘯く陽里。
呆然とこちらへ顔を向けたゲハの額を直後に撃ち抜く。
ライに股がったまま握る拳銃の有効射程ぎりぎりの距離で、銃口から棚引く硝煙を吹き消す。
「そのまま逃げ切らせて貰うぜ」
【PPtoWin】、彼の言葉を誇張するように、下ろした拳銃のステッカーチューンが嫌に眩しく陽射しを反射させていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『荒野の王』
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POW : 覇王の刻印(ロード・オブ・ハイペリア)
全身を【覇王の刻印のもたらす超重力の力場】で覆い、自身の【混沌の荒野を恐怖で統治し、秩序を築く意志】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : この私こそが我が軍の保有する最強の力なのだよ
【戦車砲を軽く弾き返す無敵の肉体と反応速度】【伝説の黙示録CQCと冷静沈着な判断力】【片手に持った支援重火器による激烈な弾幕】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 殲滅が望みならば応えよう
【執務を行う陸上戦艦“凱王”を殲滅形態】に変形し、自身の【持つ統治者としての最後の慈悲の一欠片】を代償に、自身の【指揮する機甲死人大隊と試作超能力強化小隊】を強化する。
イラスト:タヌギモ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「才堂・紅葉」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●荒野の王、起つ。
炎に包まれるいぬせんしゃの中で、王は補佐官の最期を聞いた。その忠義の精神を、彼は忘れることはないだろう。
ただ、強いて言うならば、そう、彼は力が足りなかったのだ。共に秩序を築く上で、恐怖を植える力が。
『我らが王よ、発言の許可を!』
「…………。認めよう」
車載モニターでの中で恭しく頭を下げる白衣の男。その白衣の下の戦闘服なんとかなりません?
彼は王の目を真っ直ぐ見据えて述べる。凱王の起動を。
「凱王は未だに未完成と聞いているが」
『凱王は現状、百パーセントの能力を発揮します! ハゲにはそれがわからんのです!』
「…………」
言葉を慎めよ白衣。
しかしスキンヘッドと禿はまた違うもの。この者もまた功名心から急いてことを訴えている訳ではないのだ。
全ては王の為に。それに尽きる。
「よかろう、起動するのだ。凱王を」
『サー、イエス・サー!』
王の言葉に敬礼する白衣。ややの間をおいて、レース会場全体を激しい揺れが襲った。
荒れ地には亀裂が走り、廃墟は崩れ、地下より現れるは彼らが執務を行う真の本拠地、陸上戦艦『凱王』である。
巨大な戦艦の出現に身構える猟兵たち。いぬせんしゃに刻まれた紋章が消えると王は、自らの座す戦車を素手で引き裂いてその身を見せた。
再び外へ現れた王に炎は寄り付きもせず、歩むその眼光が猟兵らを貫く。
搭載された火砲を猟兵たちへと向ける凱王を背に、それすらも上回る圧倒的な存在感。顔の左に翼の如く広がるトライバルタトゥーを指で撫でる。
吹き荒ぶ風の砂礫に瞬きすらせず、外套をはためかせた王はククリナイフに近しい独特な形状の大型ナイフを抜く。
それを前に、誰もが思うだろう。今までの相手とは比肩にならぬ彼の戦闘能力を。
凱王から放たれる死人の群れ。それすらにも頼ろうとせず後に退かぬ、正に王を名乗るに相応しい覇気を前に、猟兵たちは強敵との戦いへ覚悟を決めた。
・レイダーキング、荒野の王とのボス戦となります。接近戦においてもかなりの強さを誇る強敵です。
・荒野の王の後方では陸上戦艦凱王が援護射撃を行います。百パーセントの能力を発揮しますが、砲門を破壊することは可能です。
・死人たちは荒野の王を守り、猟兵の動きを止めに向かいますが、ユーベルコードによる強化前は蹴散らせる程度です。
・本章において、試作超能力強化小隊はいぬせんしゃに乗っていたので登場しません。
・地元民の避難は完了しています。破壊されたいぬせんしゃの残骸を利用可能です。『自由に』戦い、敵を撃滅して下さい。
フォーネリアス・スカーレット
「デカくて面倒だな」
あのハゲは後回しだ。猟兵は私一人じゃない、誰かが仕留めるだろう。私はあのデカブツを殺す。
まずはアズールに乗り貫キ殺スを構えて接近し、砲門から貫いて殺す。潰し終えたら駆動系に貫キ殺スを噛ませて動きを止め、神喰いで破壊する。元々対艦用の武器だ、好都合だろう。
いくら私でもこのデカブツを外からの攻撃でスクラップにしようと思う程狂ってはいない。使えそうだしな。入り口はどこかにある筈だ、探し出して乗り込み、内部のオブリビオンを皆殺しにする。
「逃がさん。オブリビオンは皆殺しだ。例外は無い」
中に居るのがオブリビオンでなければ殺しはしないが、拘束でもしておくか。
化野・花鵺
「ホントだー!戦車が消えたら軍人さん出たー!」
狐、一気にテンションがあがった
「いいよね、敵がせぇふくって最高だよね!ハスハスしても密着しても怒られないんだよ!」
狐、○○ハラ認定なことを言い出した
「軍人さんも世界せぇふくに興味あるの?カヤとおんなじだね!せぇふくいいよね最高だよね!」
「わーい、カヤも軍人さんと遊ぶー!」
狐、野生の勘で攻撃をかいくぐり荒野の王に「七星七縛符」
そのまま背中に張りついたり足元をくぐり抜けて胴に張りついたり符を張りながら思う存分密着とハスハスを堪能する
「さすがアポヘルのお祭りだけあるよねぇ、カヤ堪能したぁ」
狐、最後まで依頼を理解せず欲望を満たしてツヤツヤになって帰還した
●陽気者と殺戮者。
猟兵各々が激戦へ向けて覚悟を固める中、場違いに明るい声が上がる。
「ホントだー! 戦車が消えたら軍人さん出たー!」
士気が上がるのはいいことだけど、なんかテンションの種類おかしくないですかね。
やる気を見せて鮮やかな緑の目を輝かせる化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)は、隣に並ぶ甲冑姿の肩をバンバンと叩く。
「いいよね、敵がせぇふくって最高だよね! ハスハスしても密着しても怒られないんだよ!」
それ中年親父が言ったら確実にセクハラ認定されるやつ。いやもう腕を後ろに回されちゃうね。
しかしここでその興奮をぶつけられたフォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)は、衝撃に体を揺らしながら意外にも同意する。
「ああ。オブリビオンは全て殺す。無論、あやつも殺す。だから密着してもハスハスしても問題はない」
発想が居直り強盗のそれ。
しかし、オブリビオンに対して敵意を超えた憎悪と復讐心を持つ彼女にとって、それ以上のことなど無いのだろう。
敵であれば、オブリビオンであれば、最終的に殺しさえすれば良いのだ。その赤き眼光に迷いは無い。
二人の女から異なる熱い視線を受けても感情の揺らぎを一切見せない巨兵は、油断なく、隙もなく摺り足で間合いを狭めてくる。
体格差を便りとしていない動きだ。となれば、見た目通りに軍隊式の格闘術を戦闘に織り込んで来るだろう。体格便りの戦法でないとは言え、実際に接近戦を行えば体格差は露骨に反映されるものだ。
その後方にきらりと光る火炎花。
即座に反応したフォーネリアスが突き飛ばす前に花鵺もその場から離れており、散った二人のいた場所へと突き刺さる砲弾が派手に炎を噴き上げた。
後方に鎮座し、こちらを狙う凱王。その凱王から放たれる死人の群れ。
そして、壁の如く聳える男。
「流石にこうもデカくては面倒だな」
あのハゲは後回しだ、と即座の状況判断を見せたフォーネリアス。スキンヘッドとおハゲを一緒にするんじゃあないぞ。
敵の戦力もさることながら、彼女たち猟兵とて孤独に戦っている訳ではない。自分一人が抜けた所で他の猟兵が仕留めるだろうと、フォーネリアスは目標を更なるデカブツ、凱王へと切り替えた。
「アズール!」
その名を呼べば虚空より、青白い炎の中から現れた薄く透けた孤狼。
先程、数多くのいぬせんしゃの装甲を破壊した貫キ殺スを構えて、相棒に乗り込んむフォーネリアス。高野の王から離れるように駆けるそれらの姿に、狙いは凱王と察して破壊されたいぬせんしゃの砲身を引き抜く。
「邪魔だ」
近代兵器で武装した機甲死人大隊貫き、あるいはアズールによって文字通り蹴散らす。死人らしい緩慢な動きで銃を向けるも全く対応できないそれらの群れを突破する最中、後方より杭で打たれたような、強烈な殺気を感じて軌道を変える。
応えたアズールの尻尾を掠めて飛来した砲弾が荒野に着弾、周囲の死人を巻き込んだ。
肩越しに振り返ればいぬせんしゃの砲身を肩に、更に引き抜いた発射機構を素手で操る男の姿があった。さすがに一人、一射だけで砲身を捨てる王に対して戻る真似はしない。
(……そーっと……)
すでに背後に忍び寄る歌鵺がいたからだ。
護符を片手に気配を殺したつもりであったが、隠し切れない呼気の荒らさ。護符を貼り付けようと手を伸ばせばぐるりと回る男の体。回転ドアの如く回避されればその首筋へと刃が振り下ろされる。
「はっ!」
耳をぴんと立て、こちらも体を回し、獣のしなやかさで地を跳ねる。死角からの一撃を野生の勘か、見事にかわす。
触れたと思いし刃に血の痕は無く、歌鵺に向けられたのは王の鋭い両眼。
「なるほど。やはり我が征服の道を阻むのは貴様らか、イェーガー」
「軍人さんも世界せぇふくに興味あるの? カヤとおんなじだね!」
歌鵺の言葉に眉を上げる王様。その娘のせぇふくは色々と前提が違うんです。
言葉の真意を図りかねる男のことなど気にも留めず、狐はうんうんと頷いた。
「せぇふくいいよね最高だよね! やっぱり分かる人には分かるんだよ、嬉しいなぁ」
あかん。
どっちの意味になってもアブない人たちの会話にしかなってない。…………、そもそもアブない人たちだったから正しかったわ。
荒野の王は、ひとつ息を吐くと再びナイフを構える。
「凱王をモフモフに出来なかった今、お前は我が配下に相応しいと思ったが」
あんたそんなこと考えてたの?
「やはりイェーガーは駄目だ。我が手で討ち果たさなくては、気が済まん」
彼の覇道に飛ぶ羽虫であれば、そのような対応も出来ただろう。
だが相手は猟兵。オブリビオンとイェーガーの敵対性は、彼の考えを否定している。
「…………」
引き締められていく場の雰囲気に、歌鵺も目を細めると懐から護符を取り出す。
狩る者と狩られる者、果たしてどちらがその役に回るのか。
「いつまでそうしている気だ。貴様は覇道を歩む王の前に立っているのだ。挑むのならば、来い」
「わかったぁ! わーい、カヤも軍人さんと遊ぶー!」
刃物持った相手に来いと言われて尻尾を振る奴があるか。
しかし無防備に近づいたに見えて空を走る銀閃を潜り抜け、牽制とは言え接近を阻む膝蹴りを、体をそらすだけで避ける歌鵺の身のこなしも相当なものだ。
「てやぁーっ!」
隙と見て突き出す護符に触れないよう、歌鵺の右腕を捕まえにかかった王の左手。彼女はかかったとばかりに目を輝かせると護符を離して腕を引き、代わりに左手で護符を掴み直す。
なるばとばかりに跳ね上がる右のナイフ。煌めく一筋の間を捉えた緑の瞳は、刀身側面に左肘を当てて捻るように軌道を変え。
「!?」
その隙に距離を更に縮めた王の足払いと腕固め。捻る方向に合わせて柔らかな身を跳躍してその戒めから抜け出す歌鵺。
ひらひらと護符が地に落ちて、それが一秒にも満たぬ僅かな間であることを物語る。
強い。しかし、ここで退く訳にはいかない。
(まだせぇふくを堪能してないんだもん!)
本当にブレないな。その執念の矛先を別の所に向けたらと思うとそら恐ろしい。
対する男も必当必殺の技をかわされたことで、彼女に対する警戒心を上げたようだ。遂には戦場へ追い付いた死人大隊を横に、邪魔が増えたかと唸る歌鵺へ構えを見せた。
睨み合う両者の後方では、接近するアズールへ火線を集中させる凱王の姿があった。
『ええい、ちょこまかと! 逆徒の犬如きにこの凱王が煩わされるなど!』
「勝手に配下に置くな」
激昂する技術部の男の声が響くのは外部スピーカー。駆け抜ける青き狼に跨がる赤眼の騎士は、次々と凱王がその身に築いた砲台を破壊していく。
鉄の塊を易々と貫き通すのは、武器は勿論、相棒であるアズールの加速も大きいだろう。近接用の散弾発射台なども備えられているようだが、人手が足りないのか全てが機能している訳ではないようだ。
とは言え、いくらフォーネリアスでもこの質量差、外からの攻撃で完全破壊など考えるほど破滅的ではない。
(何より、使えそうだしな)
戦闘後にまで気を回す彼女だが、すべきことを忘れている訳でもないのだ。装甲に設けられた外部点検用の扉を見つけるとアズールと共に突撃、隔壁を破壊する。
「デカブツは内部から殺す」
凱王に浸入したフォーネリアスの右目がぬらりと赤く輝く。
殺戮者のエントリーだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アシェラ・ヘリオース
「やっている事はともかく、その威風は本物だな」
改めて見直せば、隙の無い布陣だ
最前線に立つ姿は戦術の外道に見えて、あの男自体が正しく最高戦力なのだろう
方針は、陸上戦艦の撃破だ
味方には強力な者がそろっているが、あの巨大な敵を相手にするなら己が向いている
それに、あの砲撃を捌きながら戦うのはかなり厳しいだろう
序盤戦は後方より【集団戦術】で指揮を取り、死人兵を赤光の連射で蹴散らす【砲撃、誘導弾、範囲攻撃】
中盤戦で味方の猟兵を援護しつつ【空中戦】で迂回、隙を見て一息に陸上戦艦へと飛びたい
距離を詰めれば「真の姿」の近衛装束をまとい、【念動力】で渾身の赤槍でその中核を【吹き飛ばす】
「ここまでか。後は任せる」
神酒坂・恭二郎
「お前さんは一角の統治者だろう。あの大砲をここの連中に向けるのは、一体どう言う了見だ?」
一つ問う
その返答で【覚悟】を決めよう
何はともあれ接近だ。誰かに乗せてもらうか、足を借りよう
「スペース手拭」を振り回し、あるいは蹴りで死人兵を蹴散らして近接したい【ロープワーク、グラップル】
自分の仕事は奴を飛ばせない事だ
【残像】を残して肉薄し、一瞬の【早業】の太刀の【乱れ打ち】で奴を釘付けにしたい
「ちっ……どう言う動体視力だよ」
奴の重力場を風桜子の【オーラ防御】で相殺し、奴が包囲を嫌って飛ぶ隙を【見切る】
【衝撃波】で飛翔して追撃、【覇気】を纏った全身全霊の一刀を狙おう
「悪ぃが、今のあんたにゃ負けられねぇのさ」
●赤光と白刃。
後方より閃く赤い光。
歌鵺の頭上や脇を飛び越えて敵陣へと着弾するのは、アシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)の攻撃だ。
戦場に次々と赤い花を咲かせて死人たちを蹴散らしていく。それは荒野の王に対しても例外では無かったが。
「防げ」
たった一言、短いその言葉。強化装甲を盾とした自らの体でアシェラの攻撃を防ぐ死人兵たち。眼前での光景に、さすがに接近はまずいかと歌鵺は後退する。
その後退を援護すべく両者の間を砲撃し、光と砂塵で撹乱するアシェラ。
王は、退くのならば退くが良いとばかりに追撃を行わず、ただこちらへの攻め手が少なくなったところを見繕って前進する。
「部下の体を盾にする、か。今回の事件といいやっている事はともかく、その威風は本物だな」
誰しもが絶望し、卑屈に生きる道を選択に入れるであろうアポカリプスヘル。そんな選択など決して取らず、弱者の存在を気にも留めず、強者としての佇まいのままに生きたであろう男の態度は王と呼ぶに相応しい。だからこそ心酔する者もいるのだろう。
そしてその自信を支えているのは己の強さ。盾とした死人たちはその場にいたから利用したに過ぎず、前進するその足に彼らと共に行く様子はない。
(そう考えれば改めて見直しても、隙の無い布陣だ)
司令塔であり最大権力の男が最前線に立つ姿は、戦術の外道に見える。だがその態度が示す通り、あの男自体が正しく最高戦力なのだろう。
敵陣を粉砕する槌であり楔。だからその後に部下たちが続く。撃ち込まれた一撃を更に深く打ち込む為に。
続いてアシェラの赤い瞳は凱王へ向けられる。今は接近するフォーネリアスに向けて攻撃がなされ、こちらへの被害はないがいつ再開されてもおかしくはない。
「歌鵺さん。このまま援護するから、合図を出したらもう一度接近戦を頼む。恭二郎さんも行けそうか?」
「うん、わかったぁ!」
「おう、任せてくれ」
それぞれの返事を受けて頷く。敵の言動からして、この王は崇められるほどの存在だ。それを巻き込むような砲撃を行うことは無いだろうというアシェラの判断だ。
とは言え確実性は無い。自らに絶対の自信があるからこそ援護射撃を強要することも有り得る。
あの砲撃を捌きながら戦うのはかなり厳しいだろう。
(やはり、私も陸上戦艦の撃破に向かうべきだな。
味方には強力な者が揃っているが、あの巨大な敵を相手にするなら己が向いている)
計らずもフォーネリアスによる敵戦艦への攻撃が陽動として効果を出している間に仲間を接近させ、肉の壁となるも厭わない死人兵を倒す。
その後、隙を見て凱王へ向かいフォーネリアスと協力して戦艦を破壊するのだ。
方針を定めたアシェラは小さく息を飲み、敵と味方の間に爆撃していたフォースの光を、敵陣へと向ける。
「行ってくれ!」
アシェラの言葉を受けて同時に走る二人。対して王は迫る赤光に足を止めることもしなければ瞬きすらせず、彼に追い付こうと後ろに続く死人兵の一人を掴まえて光へ投じる。
苛烈に輝く爆光を頭上に、神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)は思わず舌を打つ。これで敵の目にこちらの動きは丸見えだ。
一切躊躇のない非情な手段であるが、即座に対応した手腕は認めるべきだろう。故に解せぬ態度でもある。
「お前さんは一角の統治者だろう」
再び投擲される死人をスペース手拭いで絡め弾き、その面に憤りを見せる。
「あの大砲をここの連中に向けるのは、一体どう言う了見だ?」
抜刀。
同時に敵へと抜き打つ居合の術は、男のナイフにあっさりと阻まれる。だがそれも想定の内。
先の問いも含め、喧嘩を売る一打に過ぎない。
「…………」
荒野の王は殺気を伴わぬ一太刀に宣戦布告と悟ったのだろう。受け止めた刃を傾けて跳ね除けつつも、すぐに刃を引いて体勢を崩すこともない恭二郎を前に足を止め、その目を真っ直ぐに見返す。
「この世界は混沌だ。人は飢えて獣となり、秩序は失われた。
獣であるならば御すに要するは恐怖。混沌を晴らす為の秩序は、恐怖によって敷かれる」
動物を調教するように。
それは確かに、秩序を取り戻す上で最も効果的で、最も早く成果を上げる手段だ。それで救われる人々も確かにいるだろう。
だが、暴力による恐怖政治など、新たなる暴力を押さえ弾圧する、終わりのない閉ざされた世界を招くだけだ。
この男の一存の為に人々の可能性を奪わせる訳にはいかない。何よりも、目の前で国民と称しながら奴隷のように圧殺するのも厭わないこの男の存在を、認める訳にはいかない。
敵は強い。だが、それを前にして最早、退くつもりもない。
覚悟を決めた恭二郎は刃を引き、陽の構えを取る。スペースシップワールドの【ネビュラ着流し】は伝統的かつその世界らしい独特の雰囲気の成された着流しだ。特別頑丈などではなく、しかし実戦において不利とされる陽の構えをその装具で見せたのは、防御に頼らない覚悟の表れである。
刃を自らの体に隠すことで一手を見せぬ軌跡が、荒野の王を裂くという自信。あえて言うならば宣告だろうか。その身から放たれる剣気が彼の間合いを満たすように十分に拡がったことを看破して、王は左手を前に、逆手にナイフを握る右手を胸元へ構えた。
互いに間合いを図るよう動くことはない。結ばれた両者の瞳は石の如く周囲の雰囲気を重く固めていた。
「カヤの邪魔すんなぁ!」
その後ろでは死人兵を相手に見事な高度で歌鵺のドロップキックが炸裂。
一瞬の呼吸の間を置いて。
身を屈めて走る荒野の王へ、逆に後方へと大きく一歩下がりつつ、ナイフを持たぬ左半身へ向けた横薙ぎの一刀。
「──なっ……!」
突進のスピードが僅かに上回った荒野の王。彼の刃が届く前にその握り手を押し留め、巨体を恭二郎の懐へ捩じ込む。
やられる。
閃く白刃に腹を裂かれる瞬間が脳裏に浮かんだ直後、不自然な程にぴたりと動きが止まる。
「…………、ぷぅ~。間に合ったぁ」
額の汗を拭う狐。
獲物を狙う際こそが最大の隙。男の背に護符を貼り付け【七星七縛符】のユーベルコードによりその動きを縛った歌鵺はにっこりと笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「強敵を倒すには、バンクシーンと強敵(とも)との協力が必須…そういうことですね、美少女戦士メグレスさん!」
くるくる回りながら半仮面つけUC「鏡心華盆」
メグレスさんのUCコピー
2人でタイミング合わせレイダーに「招雷」
「受けなさい荒野の王!美少女戦士メグレスと美少女仮面レイダータタキャーのW必殺!」
「往生せいやー!」
「この荒野を制すには、ドーパミンがだばだば溢れる人の笑顔が必要なのです。つまり…お笑いサイキョー!」
「貴方がまだ荒野の王を目指すなら…どうぞ骸の海で、ノリツッコミを覚えてお戻りを」
ラヂオ体○っぽい歌を歌いつつ葬送
「四次元の壁破りは今回のみ、タタキャーは今回のみの夢なのです」
顔隠し逃走
メグレス・ラットマリッジ
私は流れに生きる顔の無い女
ツッコミはついて来れそうもないので置いてきました
「この力、伊達で王を自称しているわけではないようですね」
「私は美少女ですが、戦士ではなくせめて狩人と呼んで欲しい」
UCを使用し桜花さんの銀盆にUC複製
掛け声と共にもう一度発動
力を合わせ二人分の落雷を禿頭に叩きつけます
「応とも、美少女タタキャー。
奴がすべるのは人か頭か! 我らが恐怖を以て試してくれるわ!」
「血塗られたモフモフからは悲しみしか生まれない、その不毛さが分からない者は己の影に飲まれる事になる」
最後まで見届ける、私がそう決めた
この針のむしろから逃げるなど許しませんよ(手をつなぐ14)
「逃がさん……お前だけは……」
●仮面と戦士と狩人と。
ナイフを薙ぐ直前の姿で静止して。
「悪いね、助かったよ歌鵺さん」
荒野の王より刀の間合いだけ離れ、恭二郎は額の汗を拭う。
かなり危ない所であったが、形勢逆転だと刀を握り直す。刃を男へ向けたまま腕を捻り顔の高さまで持っていき、霞の構えへと変じた姿。
狙うは踏み込みと同時の斬り下ろし。
深々と肺から息を搾る恭二郎であったが、まるでオブリビオンを守るかの如くその前に立つのは、他でもない歌鵺の姿である。
「!? どうしたんだい、歌鵺さん?」
「ダメだよぅ。せっかくのお祭りなんだよ、思いっきりハスハスしなくちゃ!」
「へっ?」
何言ってるんだ狐。
戸惑う恭二郎を他所に、不動の大男へすがりつく。横をすり抜け背後から抱きついたり、かと思えば股下を潜り抜けて胴に張りついたり、とにかくハスハスふんすふんすと手触り肌触りもついでに確認しながら至福に顔を蕩けさせる。
端から見ると珍妙かつ恐怖すら伴う光景だ。
「何をしている!?」
「……えぇ、と……」
空を駆けつつ、荒野の王へ集う死人たちを赤光で吹き飛ばしていたアシェラは、思わず声を張り上げた。
こちらとて非常に答えるのが難しい状況だ。恍惚として、最早周りの言葉など耳に入らない狐を見据えて恭二郎。
しかし、そう長くも続かない。歌鵺の放つユーベルコードは自らの寿命を犠牲に対象の動きを止める、非常に強力な代物だ。故にここまで他に意識を割いていてはあと数分と持つはずもない。
急いで止めをくれてやりたい所だが、それには彼女が邪魔だ。
流石に困り果て刃を下げた恭二郎の後方から、場近いな高笑いが響く。今度は何よ?
嫌な予感を覚えた恭二郎。振り返る先に地元民の救助活動を行っていたアシェラの騎士ユニットたちがスポットライトを点灯する。お前らまで何してるんだ。
照明を浴びて、浮かび上がる二人の後ろ姿。独特な、どこか見覚えのある全身タイツ姿はそう、幼き頃に誰もが見たであろうヒーローシリーズの番組を模した物だからなのか。
「幻朧桜の咲き誇る陰で、悪の笑いが木霊する。時から時に泣く人々の涙を背負って異界の始末!
美少女仮面レイダータタキャー、お呼びとあらば即、参上!」
「美少女狩人メグレスさんもいるわよ!」
呼んでねえよ。台詞の終わりにそれぞれがくるくると回って振り返り、きらりと取るは宿命の決めポーズ。背後に騎士ユニットたちの仕込んだ桜色と赤色の煙が炸裂して立ち上ぼり、綺麗に華麗なるフィニッシュを決めた。
ピンクを中心とした全身タイツに顔の上半分を覆う仮面の御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。並ぶはどう見ても悪役の赤と黒の全身タイツにいつものボロとなったフェルト帽を被るメグレス・ラットマリッジ(襤褸帽子・f07070)。
「…………。何をしているんだオブリビオンスマッシャー=サン、メグレスさん。あとお前たち」
声音も低く額を押さえたアシェラに、ヤベ、見つかったとばかりに散り逃げる騎士ユニット。可愛い。
「私はもはや十四歳のただのお姉さん、メグレスさんではありません。流れに流れて生きる顔の無い女。
ツッコミは置いてきました。この戦いについて来れそうもないのでね」
「アシェラさん。私はオブリビオンスマッシャー=サンではありません。美少女仮面レイダータタキャーです!」
知らんがな。がっくりと肩を落とす恭二郎とアシェラの両者。草葉で泣いているであろうオブリビオンスマッシャー=サンとプリケツのジョーはさておき、メグレスはハスハスされるレイダーキングを睨み付ける。
「この力、伊達で王を自称しているわけではないようですね」
もう少し早く出てきてその台詞を言って貰いたかったよメグレスさん。
「なるほど。つまり強敵を倒すには、バンクシーンと『強敵(とも)』との協力が必須……そういうことですね……!
美少女戦士メグレスさん!」
なんとブレストヒートする展開であることか。でもその設定を出すのが急すぎて周囲の人々は目が点になるぞ。
いや、ビ少女さんレースの観客してた頃から後々仲間になる幹部級の悪者ムーブしてたわ。あえて言おう、この発想は無かったと。
「私は美少女ですが、戦士ではなくせめて狩人と呼んで欲しい」
アーチャーという自らの職業に持つ誇り故か、桜花の言葉をしっかりと訂正するメグレス。再度申すも知らんがな。
「さて。少し離れていて下さい、少年」
「俺、そんな歳に見えるのかい?」
すっかり変身ヒーローに成り切った桜花に、頬をひきつらせながらも二人の道を開ける恭二郎。その圧力に屈したというよりも、これでも彼女たちは歴戦の猟兵なのだ。その腕を信頼したというのが正しい。
ふざけているだけなら兎も角、前へと進む者に口を挟むことはアシェラもしない。
この間にも死人の先発部隊を完全に破壊したアシェラは、そのまま凱王へと向かう。フォーネリアスが沈黙させた砲台を潜り抜け、死人大隊の送り出される入口をフォースで破壊していく。
その光景は最早、完勝への布石と見えたが。
(嫌な予感がする。先を急がなくては!)
アシェラの胸の中に燻る不安は増大する一方だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイ・オブライト
死人は属性攻撃(電気)伝わす衝撃波や鎖鞭で薙ぎ払い王を目指す
要所要所で引っ張ったり踏んづけたりしとけば、死肉も弾除けや足場程にゃ役立つか? 悪ぃな、急いでんだ
王が見えたら、電流込め蹴りつけるいぬせんしゃ砲弾はご挨拶まで。別方向から壁を蹴り間合いへ
『覇気』纏う格闘で打ち合う
限界を突破しても立ち向かい続ける覚悟はコイツの言う希望とやらに近しいか?
だがひとつ違うな。オレなら次の奴に託しはしねえ、その意味が解るか
這い蹲ろうと王の片足でも掴めりゃいい
……アンタみたく分かりやすい恐怖が湧いてくれて嬉しいね
でなきゃ、オレにだって起きる意味がねえからよ
ヴォルテックエンジン以外全て代償に【Vortex】
また来な
●衝撃。
「さすがアポヘルのお祭りだけあるよねぇ、カヤ堪能したぁ」
ほっこりとした顔で荒野の王より離れる歌鵺。それは良かったとばかりだが、恭二郎はすぐにその場から離れるように指示する。
何故か。それはもちろん、巻き添えを食わない為だ。
「貴方は自分の影にさえ、怯えることとなる」
右手を天へと掲げるビ少女狩人メグレス。同時に晴れ渡っていた空に暗雲が立ち込め始めた。まるで、猟兵たちがグリモア猟兵の予知に見た光景だ。
黒々と空に横たわる雲の間に何度も閃光が走り、メグレスは天を睨み付ける。
「……何斗天晴鍼不要……【招雷(テリブル)】……!
とあああああっ!」
その右手に落ちた光の束を掌に押し留め、投げ放つは光の白刃。
受け止めるは荒野の王ではない、桜、否、レイダータタキャー。
「破魔の銀盆は貴方を映す鏡ですの。貴方の心根も、……術も……映し盗らせて頂きます!」
構えるは退魔刀と同じくして製作された【破魔の銀盆】である。見事、メグレスより放たれた雷を受け止めて、その手中に雷を収める。
【鏡心華盆】。破魔の銀盆でユーベルコードを受け止めることで、その性質を複製し使用できる技。
レイダータタキャーとメグレスは互いに見つめ合い頷くと、左手と右手にその手を繋ぐ。今こそ、合体技を放つ時!
「タタキャー・サンダーッ!」
「メグレス・サンダーッ!」
互いに掲げたその手に落ちるは桜色の稲妻とドス黒い稲妻。
「美少女の美しき魂がッ!」
「邪悪な心を打ち砕くッ!」
「えっ、えっ、なになに?」
「いいから早く、放れな!」
始まる演出に耳をぴこぴこさせる歌鵺を、恭二郎が無理やり荒野の王から引き離す。
その間にも漲る力は互いの両手より溢れて大地を抉り、酸素を焦がす。壊滅的な威力が二人の周囲に溢れて竜巻の如く巻き上がり。
レイダータタキャーとメグレスの双眸が未だに動けぬレイダーキングを捉える。
『びゅーちほーガール、マーブルストォォォオムッ!!』
ピンクと黒がない交ぜとなった雷撃が重きエネルギーの一条となり、王へ直撃する。
炸裂した光は音を轟かせ、その周囲を粉砕した。巻き上がる砂埃に確かな手応えを感じて、再び互いに目を合わせて頷く二人。
どうでもいいけどガールって歳じゃないよね?
「こりゃあ、とんでもない威力だ。ユーベルコードが重なるとこうもパワーが出るのか」
しかし。
恭二郎は額の汗を拭い、砂埃の向こう側を睨み付ける。それは、砂塵を引き裂き現れた。スキンヘッドの頭頂から噴煙の如く湯気を上げて、口からも煙を吐く。
内蔵を破壊されたのか、焼けた臭いを体内から放ちながらも、よろめいたのはただの一歩だけ。
ずしりと重く、たたらを踏んだ男は背筋を伸ばし、息を吐く。
再び動けるようになったかと実感を確かめるように握る左の拳を見下ろして、両眼が落涙する赤に頬から顎を染める。
「中々だな、イェーガー。どうやら、この私が諸君らを甘く見過ぎていたようだ」
次に踏み出す足には、もう震えすらない。歩む巨兵を前に、必殺技を正面から受け止められて驚愕するレイダータタキャー。
「ば、馬鹿なっ? 完璧な止めシーンだったはず!」
「これはアレね、いわゆるお約束を破って強敵感を倍増させる……つまり……私たちは噛ませ犬にされたのよ!」
そういう演出大好きなの!
「ぐぬぬ、これでは勝ち目がない!」
「とは言え、負けるつもりもないんでね」
後退るレイダータタキャー、メグレスを庇うように荒野の王との間に入る恭二郎。その手には緩く握る銀河一文字。不適な笑みを浮かべて脱力して立つその姿に、王もまた、笑みを浮かべる。
それはこの男が初めて見せる表情だった。
「敗けを知りながらも我が前に立つか」
「言い訳はしないさ。だが、だからって立つのを諦めるにも刀を投げるにも早過ぎる。
刀が振れるなら戦うだけさ」
指の一本一本をしっかりと握り、八相に構える恭二郎。戦法を変えたかと悟りつつも、王は構えを見せずに悠然と腕を組む。
「余裕じゃないか」
「そうでもない。こちらも戦術を変えるだけの事だ。
そう──、殲滅が望みなら応えよう」
拳を掲げる。
手の甲に赤き紋章を輝かせた王の言葉に答えるように、後方に鎮座していた凱王が、その身を浮上させる所であった。
時は僅かに遡り凱王船内。アズールと共に侵攻するフォーネリアスの前に立ち塞がるのは、明らかに戦闘に適していない技術部らしき白衣の者共だ。
猟兵である以上、彼らがオブリビオンであることは一目で確認出来ており、見敵必殺とばかりの快進撃だ。
凱王の戦力を外に回しているからこその手薄さと考えるフォーネリアスだが、ただ闇雲に走り回っている訳ではない。
彼ら白衣のオブリビオンが出てくる先に向かっている。たどり着くはおそらく制御室、あるいは動力室。どちらにせよこの艦を墜とすに必要な攻撃箇所だ。
走る足跡に蒼炎を残し、果たして獣と共に雪崩れ込んだのは様々な計器の並ぶ制御室であった。
「お、おのれ、こうも簡単に辿り着くとは!」
「簡単とは言わん。ただひたすらに、道を食らい進んだまで」
「気に食わん物言いだな!」
敵意を燃やすオブリビオンに対し、気にしたことではないとばかりにその胸を貫キ殺スで抉る。
「この戦艦は撃墜する。…………、コントロールパネルを適当に潰しておくか」
「ぐ、ぐぶっ、く、……くっくっ……ははははは!」
まだ生きていたのか。
血の泡を吹いて笑う白衣の男に対し、再び殺意を見せるフォーネリアス。男は迫る彼女の鼻先に、壊れた端末を突きつける。
「こ、これは、自動操縦……の……リモコン・スイッチ……! オンにして、破壊した……もはや、止められん……この凱王はな……!」
「知ったことか」
冷たい言葉は刃となって、男の首を斬り落とす。それと同時だった、凱王が傾いだのは。
一方、外では凱王を破壊すべく空を飛んでいたアシェラ。敵性戦艦を前に真の姿、黒を基調とした近衛装束を身に纏い、炎の如く揺らめき立つ赤いオーラを見せる。
その手に持つのはフォースを極限まで圧縮することで結晶化した赤槍【破天槍】。
それ単体でも既に危険な状態である為に、それに見合った破壊力を有する。これを用いてフォーネリアスが破壊していなかった各砲台を粉砕しているのだが。
(このように巨大な戦艦を相手に外装をいくら破壊した所で意味はない。撃墜するためにはその中核を吹き飛ばさなければ)
しかし、その場所が分からないのだ。
そこで思い起こしたのが未だに戦場を彷徨く彼女の部下たち。彼らを使えばあるいは、と。
「! …………、何だ?」
鳴動する大気。上昇する周囲の気温。
アシェラの視線の下、音をたてて浮上する陸上戦艦・凱王。立ち上がるように身を起こしたそれは、巨大な人型機動兵器へと変形していた。
●迎撃と強襲。
「よし、もう十分だ」
騎士ユニットたちに度重なる事故と戦闘で傷ついた体の補修をしてもらい、レイ・オブライト(steel・f25854)は寝かせていた体を起こす。
未だに完璧とは言えないが、それが戦場の常というものだ。脇に置いていた帽子を被り、戦況の変わった戦場へと向かう。
立ち上がる戦艦が新たな砲身を見せ、それを遠くから破壊するアシェラの様子が見える。更に言えば凱王の頂上部分から放たれる雷撃が武装する死人たちへ直撃しているようだが。
(同士討ち……じゃねえな……何だありゃあ?)
雷を受けると同時に走り出す彼らを見ていると、どうやら機甲死人大隊を強化するもののようだ。
当初はアシェラがゾンビを対応していたが、人型となった凱王を正面にしている状態ではそうもいくまい。
で、あれば。
体に巻き付いていた鎖鞭を解き放つ。地を叩く銀の鎖は【枷】。目覚めの日のまま欠けた楔であったものだ。
歩むレイの姿に気づいた死人たちは、突撃する方向を彼へと変える。レイは装甲に身を包み、牙の如くナイフを構えたそれらに対しても表情変えることなく、大地を打つ鎖に雷光が弾けた。
「悪ぃな、急いでんだ」
彼のヴォルテックエンジンから放たれる電撃に、装甲などは何の意味も成さない。
横薙ぎに振るわれた一撃は、ただただ突撃する死人たちに触れると同時に電撃を放ち、その脳髄を灼き焦がす。
一瞬で破壊された死人を踏みつけて足場代わりに、恭二郎と戦う荒野の王を睨み付けた。
「……う~ん……!」
空に咲くは砲火の華。大地を揺らすは蛮勇なる戦士の咆哮。最初は応援をしていた様子の歌鵺だったが、十分に堪能したとばかりに背伸びをすると、元の世界に還るかと踵を返すのは花鵺である。
その様子を傍目に気付いたレイダータタキャー。
「むむっ、帰投する気配有り。ならば私も!
四次元の壁破りは今回のみ、レイダータタキャーは今回のみの夢なのです」
仮面で顔を隠したまま花鵺を追う彼女の手が、がっしと誰かに捕まれる。
「ひゃっ?」
「きゃあっ」
つい目の前に揺れる振袖を掴んでしまい、花鵺と共に倒れ込む。見れば彼女の右手、握る手がもうひとつ。
にっこにこの笑みを見せるビ少女狩人さんは、数値だけで言えば厨二病真っ盛りの手を繋ぐ技能。いわば腕相撲押し相撲に通ずる技術。
それに対応する能力を持たないレイダータタキャーが逃れられるはずもなく。
「最後まで見届ける、私がそう決めました。
この針のむしろから逃げるなど許しませんよ……逃がさん……お前だけは……」
ひえっ。
ドス黒いオーラを放つビ少女狩人にレイダータタキャーは冷や汗を見せる。迷惑そうに振袖を掴む手を剥がそうとする歌鵺に、嫌々するようにすがりつく姿は遠目に見れば仲睦まじくいちゃこらする女学生の青春時代だろうか。
「三人っ、ともっ! よ、余裕っ、あったらこっちもっ! 手伝ってもらいたい、ねぇ!」
呼吸の間も乱されて、滑り込む白刃に顔を青ざめさせる恭二郎。
風の如く迫り蛇の如く軌道を自由自在に操る斬撃は、時に喉元を時に手首を狙い、嫌らしく絡み付く。残る左の掌打も顎や心臓など衝撃を真っ直ぐに通すように的確なタイミングで放たれて、かわすのは至難の業だ。
だが、かわしている。
先と比べて明らかに速度を増した敵の攻め手。だがそれは両の手に映した覇王の紋章による超重力の力場で自らを覆い、力の働く方向を変えることで初速を上げ、一撃の破壊力をも
増している。
しかし、かくいう恭二郎も負けてはいない。覇王を丸ごと自らの風桜子で覆い、オーラによる防御で包囲しているのだ。
その中でもこれだけ動ける敵の地力は正に冷や汗ものだが、お陰で重力の波を察知し、敵の軌先を読むに至る。
同時にそれは、重力を操る敵の飛翔を封じる手でもある。これだけの相手を地上に縛り付けることで、攻撃の種類を格段に減らしているのだ。
が、敵もそれを理解した上での接近戦。恭二郎はその刃、もしくは手を刈り取るべく覇王にも迫る早業で突きや武器の撃ち落としを狙うも、全ていなされている。
(タイミングを狙った攻撃は読まれているな。何千何万と訓練した者が到達する境地のように、自分の攻撃の弱点をしっかりと押さえている。……隙がない……!)
このままでは埒が明かない。
恭二郎は下から掬い上げるような刃の一撃に合わせて、やや動作の大きな振り下ろしで打ち合いを狙う格好を見せた。
この達人級の戦いにおいて、このような隙を見せるなどあってはならない失態だ。逆に言えばこれが相手を釣る為の虚の技だとすぐに知れる。
だが、それでも反応しなければ武器を撃ち落とされるのは明白。つまり結局は、餌を食うしかないのだ。
「ふっ」
一瞬の駆け引きに笑みを見せて、覇王は刃を加速させる。どうせ罠を食うなら食い破る、その豪気が挙動に宿る。
しかしその動き、重みを先んじて察しているのだ。恭二郎は握り手を返して軌道を跳ね、更に利き脚を後方に滑らせることで身を後ろに置く。
覇王の振り上げに合わせて完全にその間合いを外し、霞の構えへと変じた恭二郎。
直後に放たれるは神速の突き。
目を狙う点の如き一撃を、僅かに首を捻るだけでかわす覇王。そのまま手元で返して横薙ぎの一撃に変え首筋を狙うが、その頃には体勢を立て直した覇王の振り下ろしが、銀河一文字と絡み動きを止める。
「──ちっ……どう言う動体視力だよ」
「君も中々の反応速度だ。勘も良い、良い戦士だ」
だからこそ。
刃に添えたまま恭二郎の手元へナイフを滑らせる覇王。その巨体も全身し、岩に迫られるような圧迫感。防御へ移ろうとした恭二郎の引き足を、厚底のブーツが踏みつける。
(……しまっ……!)
「敵の多くの選択肢を見えるが故に、多くを対処出来る選択をする。逆に言えば、こちらの読みが通り安くなる訳だ」
地面に縫い付けられた足を退けず、体勢を僅かに崩しながらも刃で防御を見せた恭二郎。その刃をナイフで押さえつけ、動きを封じた恭二郎の胸部へ痛烈な掌底が打ち込まれた。
衝撃に揺れる体。肺に伝わる威力に先の戦闘も合わせて呼吸を乱していた恭二郎には重い一撃となる。
直後に放たれたアッパーを間一髪でかわし、お返しの間接蹴りを足を上げて防御する男。戒めを解かれて後退する恭二郎。
刃の間合いを超えて離れたことは即ち、覇王の戒めをも解かれたことを意味し、恭二郎が押し負けたとも。
味わい慣れた勝利に口許を歪めるでもなく、油断なく恭二郎を睨み付ける覇王。
その横っ面に、いぬせんしゃの砲弾が叩きつけられた。
●
変形したことで艦内の様子が変わったことに驚きつつも、オブリビオンの技術故に何が起こってもおかしくはなかったと取り乱す様子もないオブリビオンスレイヤー、フォーネリアス・スカーレット。
年のためにコントロールルームをめちゃくちゃに破壊したものの戦艦の動きに変化なく、最早、脱出すべきと道を探す彼女の前に、どこから侵入したのかアシェラの騎士ユニットが姿を見せる。
「お前は、確かアシェラ・ヘリオースの。どうしたんだ?」
アズールを止めればホログラフを広げる騎士ユニット。そこには凱王を相手に空中戦を行うアシェラの姿があった。
『オブリビオンスレイヤー=サン、無事だったか!』
「そちらは大変そうだな、アシェラ」
『構わん、空中戦での陽動ならむしろ私がやるべき事だ。それより、動力室を探して、私の部下をそこへ連れていってくれないか』
連続発射される誘導弾。白煙が迫る山のようになる圧倒的数に対してもバレルロールでかわしつつ、反撃のフォースが発射口を破壊する。
衝撃に踏ん張るアズールを落ち着けつつ、フォーネリアスはふむと頷く。
「動力を止める訳か。こいつを連れていくのは隔壁などを突破する為か?」
『違う、隔壁などあればあなたの力で突破して欲しい。動力炉ひとつを止めた所で補助装置が動くのは目に見えている。
私の部下を連れていってくれれば位置情報を転送してくれるから、そこに向けて最大威力のユーベルコードを放つ。配力線を伝って連鎖爆発を引き起こすんだ。そうすれば、この凱王を完全に機能停止できるはずだ』
なるほど。
頷くフォーネリアスは、ホログラフを切る騎士ユニットをフックロープで拾い上げるとアズールの頭に乗せ、再び貫キ殺スを構える。
「熱源探知は可能か? 出来るならば隔壁と言わず床と言わず、全て粉砕して最短距離を駆け抜けるぞ」
フォーネリアスの言葉に指差すユニットの可愛らしい動きを見て、そこはアナログなのかと独り言つつ。
「行くぞアズール、最後の頑張りだ」
壁を破壊すべく、アズールと共に突撃した。
完全に不意を突かれたのだろう、覇王の頭部に直撃した砲弾は接触と同時に電流を発生させ、雷管を焼き切り炸裂する。
オーラ防御で遅い来る鉄の破片を防ぎ、恭二郎は撃ち込まれた攻撃ににやりと笑う。
そう、猟兵は一人で戦っている訳ではないのだ。振り向けば視線の先、砲弾を蹴り飛ばした足を下ろして、死人を重ねて作った高台からとびおりるレイ。
「助かったよ」
「今のはただの挨拶だ。まだまだこれからさ、借りを返すのは」
爆発にも弾かれた程度で、ゆっくりと向き直る男の頑丈さには寒気を覚える。レイは帽子を脱いでいぬせんしゃの残骸に立て掛けると、その身に闘気を纏う。
覇王は、鼻から流れ落ちる鼻血を勢い良く吹き出して血抜きする。その間も並ぶ二人から目を離さない。
敵は強い。二人がかりでも勝利を掴めるかとすればわからないのが実際のところだ。だが、決して届かない相手ではない。恭二郎を強敵と感じたからこそ、周りからの一撃を察せないほどに集中していたのだから。
「どうするんだ、王様よ。お前の部下は全部片付いた。頼みの綱の凱王とやらもオレたちの仲間を相手に手一杯だ、直に決着だろうな。
アンタはもう、裸の王様だ」
「分からないのか。この私こそが、我が軍の保有する最強の力なのだよ」
倒れた死人かろ重機関住を軽々と引き抜く。左腕一本で構え、右手にもつナイフをくるりと回す。
一瞬の沈黙。
猟兵とオブリビオンの間を抜ける砂の風に反応を見せることもなく、最初の一歩を踏み出したのはレイだった。
続いて恭二郎がそれに続く。
張り詰める空気が悲鳴を上げるように、西陽の照りつける光が蜃気楼を発生させる。
「ですから、ここはもう一度、必殺技をドカンといくべきなんですよ」
「なるほど、負け演出からの勝利演出、熱い展開ですね、メグレスさん!」
「……う~ん……カヤ、もう帰りたいんだけどぉ」
『まだ駄目ッ!』
君ら本当に凄いよ。
●勝者と敗北者。
騎士ユニットによる先導を受けて、アズールの突進力と貫キ殺スの貫通力で次々と艦内を破壊し最短距離で高い熱源反応の場所、動力室へ向かうフォーネリアス。
彼の先導は非常に優れており、目的の場所に辿り着くまでそう時間はかからなかった。もちろんそこには、フォーネリアスらの活躍あってこそだが。
「フル稼働、と言った所か」
壁を開くと同時に流れ出た熱風と轟音に、浮いた汗が鎧を伝う。アズールから飛び降りた騎士ユニットが位置情報を送信したのを確認して、フォーネリアスはその場から脱出した。
外ではアシェラが風を引き裂き迫る巨腕をすんででかわし、迫る砲弾を収束したフォースで迎撃、誘爆させる。
次々と装甲を展開し内蔵兵器を使用する凱王も、それらを潰され手数を大幅に減らしている。それでも、未だに必殺の一撃を放つ隙がない。
(オブリビオンスレイヤー=サンは上手くやってくれた、後は私が!)
迫る蹴りを辛くもかわす、が乱れた気流に体を流され、体勢を立て直す間に膝部分から覗く機関砲から、鉛の礫が雨の如く乱射された。
「──……っ!」
まさかの瞬間。
騎士ユニットに誘導され、駆けつけたアズールが凱王の腕から飛び降り、アシェラを連れ去っていく。
先程まで彼女たちのいた場所を抜ける銃撃に、お礼を述べるアシェラをフォーネリアスは止める。
「奴を仕留めてからだ。私たちが囮になる。後は任せたぞ」
「! …………、ああ、任せてくれ!」
凱王の装甲上を駆け回り、照準を散らすことでその火線に大きな隙が生じる。
「私に残存する全てのフォースを、この一撃に込める!」
頭上に掲げた破天槍に、全ての力を収束させる。
再び黒雲が呼ばれ陰る空は、やがて竜巻を起こすように渦を巻いて破天槍の切っ先に吸い込まれていく。
「……黒気収束臨界突破……破天が一槍をここに示さん……!」
臨界を超えて万象を刺し穿つ力を持ちしその一撃、ユーベルコード。
「──【絶・破天槍(フェイタリティ・ブラストスピア)】!!」
解放された一撃は凱王の動力炉をするりと抜けて。
その軌道に炸裂する爆光が人型兵器を巻き込み、広範囲に渡る大爆発すらもその軌道に乗せて運び去ってしまった。
力を失い、落下するアシェラを受け止めて、フォーネリアスは破壊の跡を振り返る。
大地を大きく抉る破壊の跡は地平線まで続いていた。
「凄まじいな、これは」
「ああ。代わりにもう、動けそうもない。……ありがとう……助かったよ」
「どういたしまして。お前には、オブリビオンデストロイヤの称号を与えた方がいいかもしれんな」
「…………」
それは辞退したい。
その言葉を飲み込んで、アシェラはぎこちない笑みを浮かべた。
背後に炸裂した光を確認するでもなく、上がった息を整えながら次撃を打ち込むという無茶を行う恭二郎。
重機関銃の多銃身の間に絡め取る覇王。そのまま天へと跳ね上げようとしたその横っ面を殴りつけるレイ。
僅かな隙に捩じ込まれた拳を首を捻ってかわすも、続く脇腹へのボディアッパー、本命の一撃がその身をくの字に折る。
その瞬間を見逃さずに砲身の一分を斬り飛ばして戒めを抜けた恭二郎は、疲弊した体に渇を入れ、横薙ぎの一太刀を入れた。
たたらを踏むような無様な回避で致命傷は避けたものの、額を斬り出血する覇王。
追撃をと踏み込んだレイの軸足にローキックを放ち、その動きを押し止めつつ重機関銃でレイの頭を殴り付け、離すと同時に空いた左手へ投げて渡したナイフを掴み、迫る恭二郎へ投擲する。
瞬間を見切り、最小限の動きでかわすも覇王の接近は早く、その掌打が恭二郎の鼻先を捉えた。
その後ろに追い縋るレイ。
既に彼らが戦い始めて、どれだけの時間が経ったろうか。
(限界を突破しても立ち向かい続ける覚悟は、コイツの言う希望とやらに近しいか?)
打てども返され、返されども打つ。二対一の状況にも退かず、それでも上手な敵に連携をもって食らいつき。
「だがひとつ違うな。オレなら次の奴に託しはしねえ、その意味が解るか?」
「──がああぁあぁあっ!!」
遂に吼えた覇王が、その身を振り回す。体格を活かした、否、体格だけに頼ったその身の動きは、終焉を意味していた。
僅かに離れた隙間を見て、空へと駆ける巨駆。その瞬間を待ち構えていた恭二郎。
衝撃波を利用してほぼ同時に翔んだ彼は、銀河一文字に覇気を纏わせる。
「悪ぃが、今のあんたにゃ負けられねぇのさ」
全ての風桜子を代償に、刃に纏う荒々しい覇気を、涼やかな風の如き一陣の風桜子へと変じる。
それは正に涼やかに澄み渡る風の如し。
「──神酒坂風桜子一刀流は【涼風】の太刀……ってなもんかね」
閃く手に殺気なく。
深々と腹を斬られて、大量の血を溢す。荒野へと墜落し、しかしそれでもなおと立ち上がるその姿。
腹から溢れる命の残滓すら気にも止めず、荒ぶる息をそのままに、それでもこの男は立ち上がった。
手心など無用の相手に、最大限までその手に落雷を収束させるはレイダータタキャーとメグレス。
互いの手を結び覇王へとひた走る。虚ろな瞳に力を宿し、迫る敵の前に笑みを見せた男は、右手を胸元に、左手を頭上に構えを見せた。
「この荒野を制すのは、貴方の言う恐怖ではありません!
ドーパミンがだばだば溢れる人の笑顔が必要なのです。……つまり……お笑いサイキョー!」
そんな笑顔は嫌だ。
しかし二つの闘魂を一つとした二人は最早、止められない。先んじて放たれた掌打を屈みかわした二人はその手に収束した雷を更に圧縮すべく握り締める。
「受けなさい荒野の王! 美少女戦士メグレスと美少女仮面レイダータタキャーのダブル必殺!」
「美少女狩人メグレスだけど応とも、美少女タタキャー。
奴が『すべる』は人か頭か! 我らが恐怖を以て試してくれるわ!」
「往生せいやー!」
喋っている内容はこの際、隣に置くとしてもその気合は凄まじく、包まれた雷は拳と共に零距離で覇王へと叩きつけられた。
肉の爆ぜ、焼ける臭いとともにその巨体が吹き飛ばされる。
「分かったかい、王様よ。這い蹲ろうと王の片足でも掴めりゃいいって事が」
弾き飛ばされたその先で、足を開き腰を落とすはレイ・オブライト。その身に設けたヴォルテックスエンジンが唸りを上げて、その体から稲妻さえ生じる。
「……アンタみたく……分かりやすい恐怖が湧いてくれて嬉しいね。
でなきゃ、オレにだって起きる意味がねえからよ」
最期の一発、付き合えよ。
眼球すらも爆ぜ熔けたその顔に、最早、こちらの言葉が届いているかはわからない。それでも、だからこそ、猟兵たちがそれぞれ全力で紡いだものを絞めるべく。
「がんばれーっ、せぇふくさーんっ!」
【Vortex(デッドマンズ・スパーク)】。心臓であり魂でもあるヴォルテックスエンジンだけを残し、総てを代償にエネルギーへと取り換えた一撃は。
この絶望の大地に恐怖の秩序を敷かんとした荒野の王を完全に消滅させた。
また来な。
もし戦えられるなら、次こそは一対一でも超えてみせるとの意気込みを、焼けた空の熱風に乗せて。
●そして、猟兵たちは。
「……貴方がまだ荒野の王を目指すなら……どうぞ骸の海で、ノリツッコミを覚えてお戻りを」
「血塗られたモフモフからは悲しみしか生まれない、その不毛さが分からない者は己の影に飲まれる事になる」
太陽が血を流し出したように真っ赤な夕焼けに、レイダータタキャーとメグレスは呟く。
終始なんというか、そんな感じの態度であった彼女たちであるが、その志は一貫し、脅威を前に屈せぬ力は凄まじいものであった。
歌鵺はせぇふくであったレイがエンジンのみになってしまったこともあり、せぇふく欲も満たされて既に帰還している。
「最後までいて、外の皆に何か言ってから帰っても良さそうだけど」
「いや、レイさんも、私もこの有り様ですし。下手な心配をかける前に今回ばかりは我々も、早く撤退した方が良さそうですよ」
「確かにな」
すっかりくたびれた様子の恭二郎。同じく全力を吐き出して未だにフォーネリアスに抱かれたままのアシェラは恥ずかしそうにしつつ。当のフォーネリアスは全く気にする様子もなく短く答えた。
「還りは部下と行く。助かったよ、オブリビオンスレイヤー=サン」
「ああ。それでは、またな。オブリビオンスマッシャー=サン」
「いいえ、私はただの通りすがりの美少女仮面レイダータタキャーです」
「いいから、もう帰りましょう桜花。お姉さん疲れたわ。特に腰がしんどい」
自らの世界に還る猟兵たちを見送る恭二郎。今回の事件は、地元民にも猟兵の名が語り継がれることはないだろう。ただ後日、様子を見に来た人々がこの有り様を見て、語り継ぐのだ。
恐怖を打ち破る勇ある者の働きを。
「このアポカリプスヘルにも希望の灯はある。……ってね……」
物言わぬヴォルテックスエンジンを拾い上げ、恭二郎もまた絶望の、否、希望の芽生えつつある荒野を後にした。
大成功
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