恋獄カレヰド~珠瓏館殺人事件
#サクラミラージュ
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――優しい陽光を透かして、ふんわりと幻想的に浮かび上がるのは極彩色のステンドグラス。
椿に藤、薔薇や百合――草花の意匠を施されたそれらは大正浪漫の薫りに溢れ、鮮やかな色硝子がそこかしこで煌めくさまは、まるで万華鏡のなかを覗いているかのよう。
(「さあ……優しく、抱きしめてあげる」)
ふわり――何処からか迷い込んだ桜の花びらは、極彩色の硝子花に誘われたのだろうか。ゆったりとした時間が流れるかに思えたその場所で、ぐるりと舞台が入れ替わるように光が明滅した。
(「何度でも、何度でも」)
――あたたかな陽の光は、妖しき月の光へと。極彩色の煌めきは退廃の美を宿し、かすかな秘め事を彩りつつも、夢幻の彼方へと追いやっていく。
(「赦しを得られぬなら、救ってあげる」)
生まれなかったいのち、かたちに出来なかった想い――傷つきながらも彷徨い続けるもの達へ、せめてひと時の安らぎを。
(「だから……ねえ、死んで頂戴?」)
――花に惑い、花に酔い、花に微睡んで。そうしてあなたを造り替えて、わたしが産み直してあげるから。
ふわり――迷い込んだ桜の花びらが、極彩色のひかりのなかで、淡雪のようにじゅわりと溶けた。
「瀟洒なお屋敷で、ゆったりとしたひと時を過ごしてみませんか……そんな不思議な招待状が、数名の男女に届いたのだそうです」
それが、或る洋館で起きる筈だった神隠し事件の先触れで――アストリット・クロイゼルング(幻想ローレライ・f11071)が説明する所によると、実際は影朧による連続殺人事件らしいのだが。
「でも……事前に事件を予知出来ましたので、先回りをしてお屋敷へ行くのを止めるよう、お願いしたのです」
よって殺人事件を未然に防ぐことができ、めでたしめでたし――と、流石にこれで終わりと言うのも寂しいかも知れないと、アストリットは曖昧に笑う。
「やっぱり元凶の影朧を何とかしないと、また同じ事件が起きると思いますし……そこで、皆さんに殺人事件の被害者になって貰えれば、と思いまして」
自分から殺されに行くとなると、ちょっと勇気が要るかも知れないけれど――猟兵である皆ならば、普通のひとが死ぬようなトリックでも、何とか出来るのではないかと期待して。アストリットは事件の舞台となる館について、香を焚き染めた招待状を広げつつ説明をしていった。
「……其処は、『珠瓏館』と言うのだそうです。奇矯な建築家が手掛けたとされ、館内の至るところが極彩色のステンドグラスで彩られているみたいです」
一歩足を踏み入れれば、溢れんばかりの色彩と光の洪水が出迎えてくれて、まるで万華鏡のなかに飛び込んでしまったような感覚を味わえるだろう。アール・ヌーヴォー調の内装に、ゆったりとした管弦楽の調べが重なる様は、正に大正浪漫――しかし、優雅な館には後ろ暗い噂も付きまとうものだ。
「何でも元々、館は遊郭だったものを改装したとも言われていて……その頃の情念が染み込んでいるとか、入ったら二度と出て来られないとか、物騒な謂れもあるようなのです」
――ちなみに見事なステンドグラスの数々も、遊郭時代から存在していたらしく。仕掛けや隠し部屋の類も、今なお硝子の裏側に眠っているのかも知れない。
「ま、まあ……そんな感じで、上流階級のひとびとが会食や密会に使用していたそうですので、被害者役を演じるのであれば、そんな感じの設定で振る舞えば良さそうですよねっ」
例えば、人目を忍んで逢瀬を重ねる恋人たち――身分違いの恋だとか、公に出来ない禁断の関係だとか。国民的スタアのお忍びに、文豪先生の執筆取材――退廃趣味の華族に、意味ありげな過去を持つ使用人などなど、雰囲気に合いそうなら好きに決めて良さそうだ。
「そうして館で優雅に過ごしているうちに、影朧が事件を起こしますので、そこは受けて立って『死んだふり』をしてくださいね」
――恐らくは深夜、かつての遊郭のような背徳のにおいを漂わせて。昼間とは趣を異にする、妖しきステンドグラスの灯りの元で死の罠が発動するのだろう。
「ステンドグラスの迷宮に囚われて、離れ離れになる。或いは色硝子の輝きに幻惑されて、殺し殺される……そんな、心につけ込むような罠だと思います、が」
それでも先ずは、極彩の館でのひと時を楽しむこと。『恋人』のお芝居を、ロマンティックに演じてみて欲しい――そんな風に告げたアストリットの向こうで、万華鏡のような光が揺らめいていた。
柚烏
柚烏と申します。春らしい雰囲気のシナリオを……と考えた結果、サクラミラージュでの殺人館のお誘いとなりました。殺人と言いつつロマンス寄りで、猟奇要素は余り無いと思います(血の代わりに、花びらが舞うイメージです)
●シナリオの流れ
殺人事件が起きる予定の館へ、被害者役として乗り込み、罠にかかって死んだふりをして黒幕の影朧をおびき出します。第1章の『日常』では、被害者の演技をして館でのひと時を楽しんでください。第2章の『冒険』で事件が起きますので罠にかかった振りを、第3章の『ボス戦』にて影朧と対決します。
●第1章について
極彩色のステンドグラスが美しい『珠瓏館』にて、優雅なひと時を過ごして下さい。何かあれば使用人が応対し、食事や演奏、舞踏会なんかも手配してくれます。オープニング文章の通り、恋人同士の演技をするのがお薦めですが、おひとり様で『ここにはいない想い人』のことを考えながら参加するのも大丈夫です。
●注意点など
ロマンス寄りの雰囲気になるかと思います。お色気要素はふんわりした空気感のみで、直接的な描写は行いませんのでご注意ください。未成年の飲酒・喫煙描写もNGとなります。
●プレイング受付につきまして
お手数かけますが、マスターページやツイッターで告知を行いますので、そちらを一度ご確認の上、送って頂けますと助かります。此方のスケジュールの都合などで、新しい章に進んだ場合でも、プレイング受付までにお時間を頂く場合があります。
きらびやかでいながら、ほんのり背徳と退廃が漂うような殺人事件を演出出来たらなと思っております。それではよろしくお願いします。
第1章 日常
『極彩の館』
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POW : 細かいことは気にせず力いっぱい楽しむ。
SPD : その場に馴染めるよう気を使いつつ楽しむ。
WIZ : 何かハイカラな楽しみ方を思いついてみる。
イラスト:cari
👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
榎本・英
【春嵐】
山高帽にステッキと紳士めいた格好で君の隣に並ぼう
どう見ても私が文豪とは思えまい
掬い上げる君の左手
小指の証をそっとなぞり
嗚呼。いかにも何か起こりそうな場所だね
次の話に持って来いだ
演技は必要ない
いつものようにその手を絡めて結び、捕らえる
君にだけ聞こえるように耳元で囁けば良い
見て御覧あのステンドグラス
とても美しいが、光の加減で武器にもなり得る
それからあちらの食事
毒が仕込まれているかもしれないね
夜に突然息苦しく、なんて事もあるのだよ
失礼。少々興奮しているようだ
しかし、誰もこんな事を話しているとは思うまい
さて、なゆ
こうして追い詰められた君は
どうやって逃げる?
嗚呼。刺激的な話になりそうだ
蘭・七結
【春嵐】
あかい着物に紫紺の袴姿、あなたの隣に
見慣れぬ装い。常とはたがうものだけれど
声と指さきの熱はあなたのまま
綴り手としての姿ははじめて
眸の中にどんな物語を紡ぐのかしら
しらないあなたを心へと記す
演ずることはやめたの
ぬくもりを絡めて縫いつける
なゆの声があなたへと届いてほしい
まろい耳へと想いを紡ぐわ
極彩の硝子、とてもきれいね
嗚呼。なんてまばゆいの
心惹かれる間に刺されてしまいそう
遅効性の毒がじわり滲んで
内側から喰われる感覚は如何かしら
あまい誘いと惑わしに満ちている
ふふ。どうぞ続けてちょうだい
“もしも”のお話は何時だって愉しい
逃げる、だなんて
背を向けるのは終いとしたの
惨劇の結びを攫ってみせるわ、英さん
其れはまるで――花を求めて彷徨う蝶々を、そっと優しく招き入れるかのように。極彩色の煌めきを宿した洋館の、重厚な扉がゆっくりと開けば、柔らかな陽光が広間を満たしていった。
(「――……嗚呼」)
その時、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の瞳に飛び込んで来たのは、鮮やかな紅硝子の花だったのかも知れない。瞬きと同時、吹き荒れる春風が少女の髪を攫っていくと――咄嗟に手を伸ばした七結を支えるようにして、傍らの紳士が優雅にステッキを叩いた。
「おっと、大丈夫かい?」
「……ええ、有難う」
ふんわりとした髪を山高帽のなかに収めた、隣に立つ榎本・英(人である・f22898)は、眼鏡の奥のまなざしを細めて面白そうに笑う。常とはたがう、見慣れぬ装いをした彼だったけれど――その眸と声は変わらずにいることが、七結のこころをほろりと解してくれた。
「それにしても、此処は、」
――やがて彼女の肩に置かれた、英の片手がするりと滑っていけば。髪を押さえたままの七結の手を掬い上げた彼は、左の小指にゆわいだ暁の証をそっとなぞって、意味ありげにこう囁く。
「……いかにも、何か起こりそうな場所だね」
「ふふ」
次の話に持って来いだ――なんて微笑む彼が、綴り手としての貌を見せている様子に、七結はつい興味を惹かれてしまう。指さきに伝わる熱は普段と変わらないのに、いま目の前に居る英は、何だかしらないひとのよう――。
(「眸の中に、あなたはどんな物語を紡ぐのかしら」)
と、其処で。触れ合う手と手に力が籠ると、戯れる蝶のように、ふたりの指先は追われ捕らえて――そうしていつしか、そろそろと絡まり合っていく。
「……あ、」
(「演技は必要ない」)
――いつもどおり、隣の少女にだけ聞こえるように。耳元に囁かれた声にゆっくりと頷いた七結もまた、演ずることを止め、嫋やかな仕草で英のエスコートを受けていった。
「見て御覧、あのステンドグラス……とても美しいが、光の加減で武器にもなり得る」
「ええ、とてもきれいね。極彩の硝子……なんてまばゆいの」
色とりどりのひかりの海に抱かれて、ゆらゆらと揺れる紫紺の袴はまるで、鮮やかな熱帯魚の尾鰭のよう。嗚呼、心惹かれる間に刺されてしまいそう――そんな風にささめく声もまた、心地良い潮騒の調べを思わせるのに。
「それからあちらの食事。毒が仕込まれているかもしれないね」
「まあ、恐ろしい」
「夜に突然息苦しく、なんて事もあるのだよ」
――交わすことばの切れ端は、余りに物騒で。なのにふたりは心底楽しそうに話すものだから、きっと館に居るひとびとは誰も気づいていまい。
「……遅効性の毒がじわり滲んで、内側から喰われる感覚は如何かしら」
「と……失礼。少々興奮しているようだ」
ぬくもりを絡めて、しっかりと縫いつけるようにして。あまい誘いと惑わしに満ちたやりとりを、尚も続けていた彼らであったが――やがて我に返った様子で、英がこほんと咳払いをする。
「ふふ。どうぞ続けてちょうだい」
だって『もしも』の話は、何時だって愉しいのだからと。こんどは、英のまろい耳へ向けて想いを紡いだ七結のもと、『ならば』と彼が甘い問いかけを発した。
「……さて、なゆ。こうして追い詰められた君は、どうやって逃げる?」
「……逃げる、だなんて」
身をよじるようにして、絡めた指から逃げるかに思えた七結だったが――今度は自ずから、英の小指を握りしめて、魅惑的な笑みを浮かべつつきっぱりと告げた。
「背を向けるのは終いとしたの。惨劇の結びを攫ってみせるわ、英さん」
なゆの声が、あなたへと届いてほしい――そんな想いの籠った答えに、英はくつりと笑って空を仰ぐ。ああ、彼の乙女は――ゲルトルートは、これから一体どんな物語を紡いでくれるのだろう。
「……嗚呼。刺激的な話になりそうだ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
殺人事件と聞いて参りましたが、探偵としてのわたくしはしばしお休みですわね
あちらが尻尾を出すまでは、無害な登場人物を演じさせて頂きましょう
演じる設定:ちょっとワガママな良い所のお嬢様
一度会っただけのイケメン実業家(仮名:藤原/改変可)に恋をしている
「もう、藤原様が見えられるという話だったからわざわざ参りましたのに!どうしてあの方がいらっしゃらないのですか!」
「ああ、いつになったらお会いできるのかしら。昨年の園遊会以来、一度もお話できていませんわ…。次はお食事に誘って下さると仰っていたのに」
(物憂げにため息などつきつつ)
「お仕事で多忙とは聞いていますけど、こうも待ちぼうけが続くと胸が苦しいです…」
――女性のうつくしさを花に喩えるのは、ありふれたことなのかも知れないけれど。軽やかに館の門をくぐった、鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)の姿は、正に可憐な桜そのものだった。
「珠瓏館にようこそ、お嬢様」
恭しく出迎える館のメイドに、番傘をくるりと回して鷹揚に頷く仕草も堂に入ったもの。良家の令嬢らしい、つんと澄ました雰囲気を漂わせつつ、雪風は大仰に溜息を零してから唇を開く。
「もう……藤原様が見えられるという話だったから、わざわざ参りましたのに!」
愛らしい瞳をちょっぴり曇らせて、招待状を取り出した彼女は、想い人に会いたい一心でこの館へとやって来た――そんな、無害な登場人物を演じさせて貰うことにしたらしい。
「藤原様……ですか。その御方は」
「今をときめく、イケメン実業家なのですわ! ああもう、どうしてあの方がいらっしゃらないのですか!」
雪風曰く――藤原とは一度会っただけなのだが、その時から恋をしてしまい、ずっと再会を夢みていたのだとか。さらさらと流れ落ちる雫の髪、その奥で微かに伏せられた彼女の睫毛は、粉雪のように震えていた。
「……ああ、いつになったらお会いできるのかしら」
「鈴桜様……」
ああ、唇を尖らせる仕草すらも、愛らしくていじらしい――雪風を応接間に案内した、メイドの女性もそう思ったらしく、『お辛いでしょうね』と気遣わしげな声をかけてきて。やがて、あたたかな湯気の立つ紅茶が運ばれてくると、雪風はカップを手にぽつりぽつりと彼との馴れ初めを語り始めていた。
「ああ、昨年の園遊会以来、一度もお話できていませんわ……。次は、お食事に誘って下さると仰っていたのに」
――と。その物憂げな横顔を彩るようにして、耳元で揺れる桜の枝からはらりと、花びらが落ちて宙に舞う。
「……あ」
精緻な髪飾りかと思われたそれは、本物の桜であったらしく――顔色を変えたメイドが、咄嗟に花びらへと手を伸ばそうとするものの。
「どうか、なさいまして?」
何でもないことのように、にっこりと微笑む雪風の様子にばつが悪くなったのか、そのままメイドはそそくさと退出していった。
(「……殺人事件と聞いて参りましたが、尻尾を出しかけましたわね」)
その様子を見送った雪風は、メイドの女性から伝わってくる気配が、影朧のものと似ていることに思い至ったらしい。恐らく、館はすべて影朧の影響下にある――使用人たちも操られ、都合のいいよう『お芝居』の登場人物として、仕立て上げられているのだろう。
「探偵としてのわたくしは、しばしお休みかと思っていたのですけど……ね」
宙を漂う花びらが、穢れを受けてどす黒く変色しているのを確かめながら、雪風は架空の『藤原様』に向けてそっと想いを告げた。
「お仕事で多忙とは聞いていますけど、こうも待ちぼうけが続くと胸が苦しいです……」
大成功
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氏家・禄郎
ネリー(f23814)と共に
北方諸侯に名高い女王陛下
私はその侍従を仰せつかった下級将校
若くも知識ある陛下に帝都中を振り回されて夜会へ
陸軍略礼装にサーベルを下げて
今は女王陛下の守役
ステンドグラスの舞台
陛下の肩にショールをかける
「ミネルバ陛下、夜は冷えます。お身体を冷やさないよう」
なのに陛下は私を物陰へ、お連れなさる
「ミネルバ陛下、いけません。小官はいつか戦野で貴女のために死ぬ身。陛下の邪魔にしかなりませぬ」
けれど陛下は命令される
ならば、心を打ち明けよう
「愛しき女王陛下……いやネリー。この氏家・禄郎、一目会ったときからお慕い申しておりました」
膝をつき、手の甲に接吻
これが唯一許されるであろうこと
ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と
『雪の女王』の異名持つ、北方諸侯の若き女王…っていう設定でいいかしら
外交のために訪れた帝都で退屈していたけれど
侍従につけられた軍人サンが気に入って散々振り回しているうちに
彼をひとりの「男」として意識するようになってしまって
素敵な夜会ね、青と白のイブニングドレスで場に恥じないように
…ふふ、ありがとうロクロウ。あなたは本当によくできた軍人サン
「それとも、お仕事とは別の気遣いかしら?」
そう言ってそっと大きな手を取って物陰へ導き二人きり
今はプライベートよ、陛下はやめて頂戴――わかるでしょ?
愛称で呼ばれることが、まっすぐな想いが嬉しくて
お芝居だってことも忘れてしまいそうよ、禄郎
それは陽が翳り、夜の帳が靜かに降りてきた頃のこと。春らしからぬ、冷え冷えとした空気を纏いながら、ふたりの客人が珠瓏館へと足を踏み入れていた。
「……ミネルバ陛下、こちらに」
柔和な表情で手を差し伸べる、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)に促されて、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)の靴音が大理石の広間に反響する。
「ふぅん……帝都にも、こんなお屋敷があったなんて」
――彼女こそが『雪の女王』の異名を持つ、北方諸侯に名高き女王陛下。今はお忍びで帝都を散策しているとは言え、ミネルバからはその肩書きに相応しい、氷のような威厳とうつくしさが伝わってくるけれど。
「……ふふ、ありがとうロクロウ」
外套を脱ぎ捨て、夜会のドレスに身を包んだ彼女は、氷細工のような儚さも覗かせており――禄郎はミネルバの肩にふわりと、労わるようにシルクのショールをかけていた。
「夜は冷えます。お身体を冷やさないよう」
「本当にあなたは、よくできた軍人サンだこと」
その時、禄郎ならば気づいたに違いない。琥珀のようなミネルバの瞳が、熟したみたいに色づき潤んでいったことを。異国の若き女王陛下と、その侍従を仰せつかった下級将校――ただ、それだけの関係だったふたりに、身を焦がすような情熱が生まれていったことを。
「それとも……お仕事とは、別の気遣いかしら?」
「……っ」
――瞬く間にこころを酔わせていく、極上の蒸留酒めいたミネルバの瞳と声。禄郎の大きな手に重ねられた、彼女の手はひどく華奢であるのに、何故だかそれを振り払うことが出来なかった。
「ミネルバ陛下、いけません、」
あとは物陰に導いていく彼女の、されるがまま――そっと触れ合うふたりの姿は、極彩色の硝子のひかりが、直ぐにまぼろしへと変えてくれて。
「小官は、いつか戦野で貴女のために死ぬ身。……陛下の邪魔にしかなりませぬ」
そんな実直さに溢れた禄郎の訴えも、遠くから聞こえてくる音楽に紛れてしまい、微かに空気を震わせることしか出来なかった。
「今はプライベートよ、陛下はやめて頂戴――」
ああ、勇ましき帝国軍人――その礼装を彩るサーベルにそっと指を滑らせたミネルバは、それを外すように目配せして、彼を守役の務めから解放する。
「……わかるでしょ?」
――そう、今はひとりの男性として。ただ『禄郎』として触れ合えるようにと。その女王陛下の『命令』に従うことにした禄郎は、己の心を正直に打ち明けるべく居住まいを正した。
「愛しき女王陛下……いやネリー。この氏家・禄郎、一目会ったときからお慕い申しておりました」
相手は、若くも知識ある女王陛下――外交のために訪れた帝都で、退屈そうにしていたミネルバだ。だけど、そんな彼女に振り回されるのは楽しくて、いつしか禄郎のほうも気持ちを抑えることが出来なくなっていたのだろう。
(「これが唯一、私に許されるであろうこと」)
彼女の心を受け容れ、秘めた想いを伝えるために。膝をついたままで禄郎は、恭しくミネルバの手の甲へと接吻をすると――薄闇のなかで、青と白のイブニングドレスが蠱惑的に波打ち、極彩色の海に溺れていく。
――これは、演技だ。でも愛を知り、新たな世界を知ったふたりの想いは、決して偽りなんかじゃなかったから。
(「お芝居だってことも忘れてしまいそうよ、禄郎」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アイシャ・ラブラドライト
ジノ(f17484)と
口調→華やぐ風
ジノの肩に乗って一緒にステンドグラスを見る
わぁ…すごく綺麗
いろんな色のガラスを通した光に包まれると
不思議な気持ちになるね
私は、これを作った人は
愛したお花を光で表現したかったんだろうなって思うよ
そうだジノ、こういう場だからちょっとおめかししよう
いそいそとボタンを留めて、ネクタイを整える
これでよし…うん、かっこいい
いつものも好きだけどね
そうだね、お料理美味しそう
私はすぐお腹いっぱいになっちゃうから
分けっこしよう
デザートを食べているとき、ふと思い付いて
ジノ、はい、どうぞ
とクッキーを差し出して口もとまで持っていく
えへへ…美味しい?
ちゃんと恋人同士に見えてたら嬉しいな
ジノーヴィー・マルス
アイシャ((f19187)と
お、おお……何かすげー館に来たなこれ。何か、色使いが凄まじいというか。
これをデザインした奴は当時何を考えていたんだろう…。
しかしどうも……こう、こんな館を見ると裏の部分というか、具体的に言うなら隠し扉とか、そういうのを探しちまいそうだなぁ。
…でも探すと使用人に睨まれそうだ。素直にメシでも食ってよう。アイシャもどうよ、見た感じ美味そうなの揃ってるぜ。
…え、おめかし?…苦手だけどなぁ、きちっと着るの。でも、アイシャに服装を直されるの、ちょっと悪くねえ気分だ。
食い物も分け合いながら食うか。
差し出されたクッキーも、ちと照れるが食うぜ。
わぁ――と華やぐ風のような、アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)の声が陽光のなかに溶けていくと、極彩色の硝子花がちかちかと瞬いて客人たちを出迎える。
「お、おお……何かすげー館にきたなこれ」
着崩したスーツ姿のまま、ふらりと館を訪れたジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)からも、ついそんな呟きが零れてしまったけれど――彼の肩の上では、うっとりとした様子のアイシャが、色とりどりの光たちに手を伸ばしていた。
「すごく綺麗だね、ジノ」
「まあ、色使いが凄まじいというか何というか」
先ほどから瞬きを繰り返しているジノーヴィーは、溢れんばかりの色彩に少なからず圧倒されたのだろう。奇矯な建築家とやらが、当時何を考えていたのか――想いを巡らせてはみるものの、切れ切れに浮かぶのは碌でもない想像ばかりだった。
(「しかしどうも……なあ、裏の部分というか」)
――例えば華美に彩られた装飾の陰で、忌まわしい何かを覆い隠しているような。毒を秘めたうつくしき花が、じっと獲物を物色しているような、そんな居心地の悪さを感じてしまうのだ。
(「具体的に言うなら、隠し扉とかになるんだろうけど」)
気怠いまなざしで、ちらりとステンドグラスの並ぶ廊下を見遣ったジノーヴィーだったが――向こう側からやって来た使用人を認めると、何事も無かったかのようにアイシャの頭を優しく撫でた。
「……でも、ここで探すと睨まれそうだ。素直にメシでも食ってよう」
アイシャもどうよと目配せすれば、視界の端できらきらと、若草色の髪が踊って光の粉が舞う。見れば、透き通った翅を羽ばたかせた彼女は、ジノーヴィーの身なりを整えようと動き出したらしい。
「そうだジノ、こういう場だからちょっとおめかししよう」
「……え、おめかし? って苦手だけどなぁ、きちっと着るの」
――無造作に開いていたボタンをいそいそと留めて、よれたネクタイもきっちり整えて。やがて「これでよし」と頷いたアイシャの貌がふんわり綻ぶと、ジノーヴィーの方もくすぐったい気持ちになっていった。
(「でも、アイシャに服装を直されるの、ちょっと悪くねえ気分だ」)
「……うん、かっこいい。いつものも好きだけどね」
そんな、そよ風みたいなアイシャの呟きにも――サロンに置かれたお茶菓子を差し出すことで、気恥ずかしさを誤魔化したりもして。
「うん、見た感じ美味そうなのが揃ってるな」
「そうだね、でも私は……すぐお腹いっぱいになっちゃうから」
――そう言えば、ちいさなフェアリーであるアイシャにとって、クッキーひとつでも大分量があるのだったと、己の物忘れの酷さに頭を抱えてしまうジノーヴィーである。
「あ、悪い……気が利かなくて」
「そうだ、分けっこしよう。ジノ、はい、どうぞ」
と、其処で、手にしたクッキーを半分に割ったアイシャが、欠片をそろそろとジノーヴィーの口もとに持っていき――ぱくり。
「……ん、美味い」
香ばしいバターとアーモンドの馨りが鼻をくすぐるなか、ほろりとした甘さが口いっぱいに広がっていけば、いつしか照れも何処かへ飛んで行った。
(「そうか……こうして、分け合えば」)
ねえ――あたたかな空気が満ちる屋敷の一角で、うたうようなアイシャの囁きが、ジノーヴィーのこころに優しく染み渡っていく。
「私はね、これを作った人は、愛したお花を光で表現したかったんだろうなって思うよ」
いろんな色の硝子を通して降り注ぐ、光たちの祝福を受けて微笑む彼女の姿は、余りにも神々しく――綺麗、なんてありふれた言葉では、想いを伝え切れないような気がして。
(「ちゃんと、恋人同士に見えてたら嬉しいな」)
――けれど、そんな彼女の願いならば叶えることが出来たのだろうと、ジノーヴィーは思った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティル・レーヴェ
オズ殿(f01136)と
己が演じるは良家の娘
幼き頃から共に在る彼は
いつも自分を支えてくれる
そんな彼を恋しく想う様になったのは
いつからかしら
煌びやかなステンドグラスに
藤の瞳を奪われて
はしゃぎ乍ら振り返る
オズ、オズ、凄いわ!素敵ね!
差し出された手を見つめ乍ら
其れを取るのは少し待ち
――ねぇ、オズ
今だけ、今だけでいいのよ
『お嬢様』なんて呼ばないで
私の名前を呼んで頂戴
今此処でだけは
肩書きなんて必要ないの
……それは、我儘かしら?
貴方にとってまだ私は幼子?
切なげに問うて見上げた其の空色は
今どんな色を映しているの?
『彼』の目配せ受ければ微笑んで
バッチリじゃよ
役を忘れ思わず妾の心も跳ねゆく程に
……なんて、のぅ!
オズ・ケストナー
ティル(f07995)の執事役
わあ、という声を飲み込んで
手を差し出しエスコート
ええ、きれいですねお嬢様
ステンドグラスの光を浴びる彼女に目を細め
その髪や羽に光が踊るから
眩しいくらいです
期待していなかったわけじゃない
誰もお嬢様とわたしのことを知らない場所でなら
手を取るのに別の意味があっても
気に留めるものはいないだろうと
見上げるあなたの前で膝を折れば
その藤色にはわたしが映る
わたしの目にも、あたり前のように
――ティル
口にすれば喜びが溢れる
待つばかりの手を今は伸ばして
柔く握る
どうか不安に思わないで
執事ではないわたしは
いつだってあなたに触れたがっているのだから
ってかんじで、だいじょうぶかな?
こそっと目配せ
優美な翼をそっと寛げながら、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)のドレスがくるり――つぼみのように踊って、花に変わる。
「オズ、オズ、凄いわ! 素敵ね!」
――ティルの目に飛び込んで来た、煌びやかなステンドグラスは藤の花。自分の瞳と同じいろをしたそれに、瞬く間にこころ奪われて、振り返った相貌にもきらきらとした光が宿っていた。
(「わあ……」)
その光景に圧倒されていたのは、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)も同じ。窓だけでなく、館の至る所に煌めく極彩色の装飾は、合わせ鏡の世界へと彼らを連れていってくれるかのようで――。
「……ええ、きれいですねお嬢様」
上気した頬を誤魔化すように、オズは緩くかぶりを振ると、恭しくティルに手を差し出してエスコートを申し出たのだった。
「眩しい、くらいです」
そう――ステンドグラスの光を浴びて、此方に微笑みかけてくれるティルは、余りにも神々しい。淡く儚げな髪や翼に降り注ぐ光は、彼女が動くたびに色合いを変えて、踊るように弾けていくから。
(「ほんとうに」)
――そんなふたりのお芝居の役は、良家の娘とその執事。幼いころからティルに仕えるオズは、いつも彼女を支えてくれた頼もしい存在であり。
(「そんな彼を、恋しく想う様になったのは……いつからかしら」)
ふたりの距離は縮まっていったのに、身分と言う名の壁は変わらず――今も無情に立ちはだかっていたのだ。
「――ねぇ、オズ」
だから、差し出された彼の手を見つめたまま、ティルは少し考えるような仕草で待っていて。
「今だけ、今だけでいいのよ」
『お嬢様』なんて呼ばないで。私の名前を呼んで頂戴、と。凛とした振る舞いのなかに、微かに縋るような不安を滲ませて、紫と青の瞳がゆっくりと交わっていった。
「今此処でだけは、肩書きなんて必要ないの。……それは、我儘かしら?」
さらさら揺れる鈴蘭の花が、極彩色のひかりに揺られて、刻一刻と色彩を変えていく。ああ、手を伸ばしても、もはや面影を追うことしか出来ないのだろう――変わらないと思っていたものだって、いつかは遠ざかり儚く消えてしまうのだと、訴えかけるように。
(「期待して、いなかったわけじゃない」)
今此処でだけ――そんな誘惑に心揺さぶられるオズだって、夢をみていたのだ。誰も自分たちのことを知らない場所でなら、手を取るのに別の意味があっても、気に留めるものはいないだろうと。
「……貴方にとって、まだ私は幼子?」
――見上げるティルと目線を合わせるように、そっと膝を折ってみれば、その藤色の瞳に自分が映っていることが分かって安堵する。
「――ティル、」
「其の空色は、今どんな色を映しているの?」
「ティル」
きっとオズの目にも、あたり前のようにティルが居て。愛しいひとの名を口にすれば、尽きぬ泉のように喜びが溢れてきた。
「どうか、不安に思わないで。執事ではないわたしは、いつだって……あなたに触れたがっているのだから」
だから、今は――待つばかりだった手を伸ばして、彼女の手を柔く握るのだ。
「……ってかんじで、だいじょうぶかな?」
「バッチリじゃよ。役を忘れ、思わず妾の心も跳ねゆく程に」
やがて、こそっと目配せをしたオズに頷くと、相手役のティルは愛嬌たっぷりに微笑んでみせた。
「……なんて、のぅ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
🌸宵戯
個室もきれいだね
恋人ごっこだって
ふふ
髪が短いの新鮮だねかっこいいって頬触って遊ぶ
手を取られたり腕の中にすっぽり収まって
どきりとする
あれ?なんかへんだな
なんか顔があつくて
宵ちゃんの顔がまともに見れない
いつもの褒め言葉もなんか気恥ずかしい
応えにはぬくもりがほしい、なんて
…ほんとのことは言えないから
え?キス?
唇にはダメ!…だけど頬ならいいよ
なんだか擽ったい
あついのがバレてないといいな
えいって宵ちゃんの体を押して倒して
仕返しみたいに額に口付けをおとす
そうだよ祝福
拗ねたようになったのは気のせい
恋なんかわかんない
かみさまに教えてよ
ねぇ
恋はやっぱり羨ましいな
でもどこか哀しみを感じ取って
そっと寄り添う
誘名・櫻宵
🌸宵戯
個室のステンドグラスも見事だわ
美しいね
ロキ
噫、ロキの瞳の方が美しいか
髪を撫で
頬に触れ遊ぶ指先に微笑む
物珍しい?
こっちにおいで
細い手を掴み引き腕の中に閉じ込める
ロキって意外と小柄ね
噫―桜に染ってかあいらしいわ
今一時
私達は戀人なのだから
ねぇ
なにしてほしい?
つうと愛でるように背筋に指を這わせ応えを求む
金蜜を覗き込めば
ふふ
可愛いかみさま
じゃあ口付けをあげる
ええ、ええ
勿論―頬に(柔く触れるのは唇の真横
おや、積極的
額に触れた仕返しは神様からの祝福かしら
擽ったくて嬉しいな
拗ねたロキの頬をつつく
戀をしりたいならば
教えてあげようか?
私のかみさま
いとしいとしと、いうこころを
なんて
戀など
するべきではないのに
館に並ぶ扉のひとつを、ふたり一緒に開いて――そうして何事も無かったかのように、そろりと閉じてしまえば。あとは極彩色のひかりが、ふたりの姿をうつくしく彩って、新たな華へと変えてくれる。
「へぇ、個室もきれいだね」
「本当……客間かしら、ステンドグラスも見事だわ」
――大正浪漫を体現したかのような、和と洋が入り混じった館の一室で、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)のことばに頷くのは、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)で。
「美しいね、ロキ。……噫、」
格子窓から射し込む陽の光ですらも、現と夢を曖昧にしていくなかで――蜂蜜色の瞳がゆらゆらと、櫻宵を誘うように妖しく揺れていた。
「ロキの瞳の方が美しいか」
「ふふ」
衒いなくそんな言葉を掛けながら、仔猫を愛でるように彼の黒髪へ指先を絡めていると、櫻宵の頬にも悪戯な指が伸びてきて。
「恋人ごっこだって」
「さっき、あたし達を案内したメイドだって、頬を染めていたわよ?」
己の滑らかな頬を摘まんだ相手に、艶やかな微笑みで応えた櫻宵のほうも、本気か冗談か分からぬ口ぶりでこう呟くのだ。
「恋人同士に見えたのかしら。どっちがお気に召したのかしらね――って、物珍しい?」
「うん、髪が短いの新鮮だね。かっこいい」
桜鼠色をした髪へと、手を伸ばしたロキに「こっちにおいで」と囁きながら――櫻宵はそのまま、彼の細い手を掴んで腕のなかに閉じ込める。
「……ロキって意外と小柄ね」
(「あれ?」)
――余りにもうつくしいふたりは、そうしていると性別の境界さえ曖昧になっていって、抱きしめられたロキの頬はいつしか、じわりと不思議な熱を帯びていったのだった。
「なんかへんだな……顔が、あつくて」
「噫――桜に染って、かあいらしいわ」
からからと笑う櫻宵のこえを聞くだけで、背筋がくすぐったくなる心地がして――彼の顔がまともに見られない。いつもの褒め言葉を口にするのだって、何だか気恥ずかしい思いがする。
「ねぇ、今一時……私達は戀人なのだから」
――なにしてほしい? いじらしい懇願を引き出すように、つうと櫻宵の指が愛でるように背中をなぞれば、ロキはただ無言でかぶりを振ることしか出来なかった。
(「っ、応えにはぬくもりがほしい、なんて……」)
ほんとのことは、どうしても言えない――そんな、くすぐったさを必死に耐えている彼を見た櫻宵は、その金蜜の瞳を覗き込んで、甘い言葉を口にする。
「ふふ、可愛いかみさま。じゃあ口付けをあげる」
「え? キス? 唇にはダメ! ……だけど、頬ならいいよ」
ええ、ええ――それは勿論。そう言って、唇の真横に柔く触れた櫻宵に仕返しするみたいに、ロキは思い切って「えいっ」と彼の体を押して、その額に口づけをおとしていた。
「おや、積極的……神様からの、祝福かしら」
「そうだよ、祝福」
拗ねたようになったのは、気のせいだ。決して櫻宵が余裕たっぷりで、自分は顔の熱さを隠すので精一杯なのが悔しいから――じゃない。
「……恋なんかわかんない。かみさまに教えてよ、ねぇ」
そんなロキの頬をつつきながら、櫻宵は微笑む。戀をしりたいならば、教えてあげようかと――。
「私のかみさま。いとしいとしと、いうこころを」
ロキの言う恋と、櫻宵が告げた戀は、ことばは同じでも秘めた想いが違う。それは、狂い咲く屠桜そのもの――貪婪に贄を求め、貪り食らうことにも似ている。
「……なんて。戀など、するべきではないのに」
断ち切ることの出来ない想いを引きずって、小指だけじゃ足りない――あなたの総てが、欲しいのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
ステンドグラスに興味があって来てみたんだが…。
髪を下ろし女物の和装。薄手のストールをベールのようにかぶるように羽織る。
表情が見えない様にしとけばうっかりわくわくしても隠せるはず。あと性別が出やすい首や手・肩幅をごまかす。
…男物で隠すとなると仮面ぐらいだろ?さすがにそれは被害者役とはいえ、そこまで怪しい人物にはなりたくない。それに性別から変えた方がうっかりは少ない気がする。(変装・演技)
しかし雰囲気はいいな。元遊郭って話らしいが本当だとしても暗い物ばかりじゃなかっただろうに。
キラキラした光に思い起こす人物はいるけども、それにはそっとかぶりをふる。
奥底に沈め求めないと決めたから。
――何かに導かれるようにして、珠瓏館の門をくぐった者も居る。瀟洒なステンドグラスを一目見ようと訪れた、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)も、いつの間にか館の景色に馴染んで、そのうつくしさに華を添えていた。
「……成程、雰囲気はいいな」
薄手のストールをヴェール代わりに羽織り、表情を隠して佇む瑞樹の姿は、如何にも訳ありと言った様子であり――その手の客人を大勢迎えて来た使用人も、直ぐに彼の事情を察したらしく、恭しく応対を行ってくれた。
(「実際、来る筈だった招待客も、恋愛絡みの悩みを抱えた者が多かったそうだし……」)
例えば、瑞樹が変装したみたいにお忍びでやって来て、此処で恋人と再会をしたりする者も、居たのかも知れない。ちなみに、上品な着物を着こなして見事な淑女に化けた彼のことを、使用人たちは全く疑っていないようだ。
(「まあ、色々と工夫はした訳なんだが」)
男性としての骨格が出やすい、首や手――肩幅などの露出を極力減らし、事件の『被害者役』として違和感なく振る舞うこと。
流石に、男性のまま顔まで隠すとなると仮面を被るしかなくて、そうなれば不審人物と化すことは避けられなかった。
「さすがにそれは……いやいや」
――うっかりは、可能な限り避けた方が良い。銀色の降ろし髪が、ヴェール越しにさらさらと陽光を弾く様子を確かめながら、瑞樹はメイドの淹れてくれた紅茶を一口啜る。
「珠瓏館……じゅろうかん、と呼ぶのだったか」
世間話のついでに聞いたところによると、その名もまた遊郭時代の名残りがあるのかも知れない。宝石のようにきらきらして、うつくしく澄んだ音色が響く館――恐らくは、ステンドグラスになぞらえたものか。
「元遊郭って話らしいが、本当だとしても暗い物ばかりじゃなかっただろうに……」
艶やかな着物と化粧で着飾った女性たちの姿に、憧れるものも居ただろう。絢爛豪華な世界に、響き渡る楽の音――人が創り出し、残したものを慈しむことの出来る瑞樹だからこそ、その輝きのもとに大切な誰かを想うことだってあるのだ。
「……いや」
――それでも。かぶりをふった彼は、燦々と降りしきる陽射しのなかの幻影に、そっと別れを告げた。それはこころの奥底に沈めて、求めないと決めたのだから。
大成功
🔵🔵🔵
リオン・エストレア
【蒼紅】
身分の違う許されぬ恋
俺はたった1人に目を奪われた
それが良いことではないと知りながら
カレヰドに映るその心を閉じ込めて
公にせぬ様に振舞ってきた
それが今回の”設定”
俺達がオブリビオンをおびきだす為の…
それが本当であってくれたら、なんて
彼女の手を取ってエスコートを
それは主たる俺の役目だ
彼女の目に本当に映るものは俺なのだろうか
その目の先にあるのは俺じゃない何かな気がして
とても苦しくて辛い
彼女を縛り付けることなどしてはいけないのに
縋る彼女をそっと抱きしめる
それは俺自身も縋るように
お前が居なくなってしまえば、俺は…
何にも無い、何も残らない
離さぬように、渡さぬように手を伸ばした
どうか、俺だけを見てくれ
ルーチェ・ムート
【蒼紅】
キミは大きな館の主人
ボクは夜の蝶
身分違いの恋をした
叶わないはずだったのに
公の場で恋人として振る舞う訳にいかない
万華鏡の中に閉じ込めた恋心
っていう設定を忘れるくらいに綺麗な場所
えへへ、ありがとう
えすこーとに手慣れてるような気がする
格好いいな
ふと想像する
キミと本当に密かに会わなくてはいけなくなったら
――胸が苦しい
寂しくて痛くて
視界がぼやける
ひとときの逢瀬じゃ足りない
キミが此処に居るんだって確かめさせて
手を伸ばせば与えてもらえる、だいすきな温もり
(けど、いつかキミに本物の恋人が出来たら)
なんでこんなに苦しいんだろう
恋って?恋人って?
わからない、痛いよ
もっとぎゅってして
キミしか見えないくらいに
くるりくるりと、硝子の花が咲いては散っていくように――極彩色の欠片たちは惹かれ合い、混ざりながらも弾けて消える。
「……カレヰド」
――千変万化のうつくしき世界。けれど、そのうつくしさは鏡合わせの光景が何処までも続く、閉じられた世界のものだった。
「それって何だか……鳥籠みたいだね」
身分違いの恋をした、お屋敷の主人と夜の蝶――それが、リオン・エストレア(永遠に昏き”蒼”の残響・f19256)とルーチェ・ムート(无色透鳴のラフォリア・f10134)の交わした、今回のお芝居の『設定』だった。
(「でも、それが本当であってくれたら、なんて」)
たったひとりに目を奪われて、それが良いことではないと知りながらも、許されぬ恋に翻弄されるリオンと。それが叶わぬ想いだと気付いても、一途に彼を慕い続けるルーチェと。
「……えへへ、ありがとう」
それでも弾む足取りで、リオンの手を取って歩き出すルーチェは、お芝居の設定を忘れてしまうほど極彩色の世界に魅入られていたのだろう。
(「そうだ……公の場では、恋人として振る舞う訳にはいかないんだっけ」)
――そんな約束事も、ふたりだけの秘密だと思えば心はときめいてしまうもので。
「えすこーと……に、手慣れてるような気がする」
「それは、まぁ。主たる俺の役目だからな」
吹き抜けのホールに広がる階段を、ふたり一緒に上っていけば、頭上にはステンドグラスの輝きが虹のように広がっていた。
「わぁ、綺麗……」
「本当だ、見事なものだな」
降り注ぐひかりのなかでリオンを見つめるルーチェは、やっぱり格好いいな――なんて思いながらも、もしこのお芝居が本当のことだったらと、つい想像してしまったらしい。
(「……キミと本当に、こうして密かに会わなくてはいけなくなったら」)
――途端に、ぎゅっと胸が苦しくなって、どうしようもない寂しさと痛みがこみ上げてきて目頭が熱くなる。
(「っ……いや、だ」)
視界がぼやけていくなか思うのは、ひとときの逢瀬なんかじゃ足りないと言うことで――縋るようにリオンの手を取れば、逞しい腕が彼女を抱きしめてくれた。
「ねぇ。キミが此処に居るんだって、確かめさせて」
手を伸ばせば与えてもらえる、だいすきな温もり。その安らぎに甘えてしまう自分が、狡いと思ったけど止めることが出来なくて。
(「……けど、いつかキミに本物の恋人が出来たら」)
――演技の筈なのに、なんでこんなに胸が苦しくなるんだろう、と。それは、ルーチェを見つめるリオンだって同じようだった。
(「彼女の目に本当に映るものは、俺なのだろうか」)
紅のなかで煌めく蒼は、刻々と移り変わっていく万華鏡の世界を思わせて――リオンじゃない誰かの姿が、時折過ぎってしまうような気がして。
(「その目の先にあるのは……俺じゃない、何か?」)
それが苦しくて辛いのだと訴えてくる、自分のこころの弱さに嫌気が差す。ああ、彼女を縛り付けることなどしてはいけないのに――。
「恋って? 恋人って? わからない、痛いよ」
それでもルーチェの瞳に浮かんだ、真珠のような涙をそっと拭いながら、リオンは縋る彼女を精一杯抱きしめる。
「お前が居なくなってしまえば、俺は……」
何にも無い、何も残らないのだと訴えるリオンはその時、彼自身もルーチェに縋っていたのだ。離さぬように――渡さぬように手を伸ばし、どうか自分だけを見ていてくれと乞いながら。
「もっとぎゅってして……キミしか、見えないくらいに」
万華鏡に閉じ込めたこころは、恋心。カレヰドのなかでくるくると、数多の想いをあなたに告げる。
――それは珠瓏館に咲いた、或る恋のはなし。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薄荷・千夜子
【藤結】
こちらこそよろしくお願いしますね、と微笑んで
演じるのは大学講師と教え子
そして潜める恋心で
桜色のドレスを思わせるようなワンピースに藤の花の髪飾りでお洒落をして
どうです?いつもより大人っぽく見えませんか?とくすくす笑って
その呼び方は『先生』の時にしてくださいね『リウォさん』
今日は先生と生徒じゃないんですよと抗議の視線
手を取ってステンドグラスが輝く中を並んで歩く
賛辞に照れたのを誤魔化すように笑って藤のステンドグラスの前で立ち止まり
私、藤の花が好きなんですよ
リウォさんにもプレゼントです
藤の花言葉は『恋に酔う』で…と藤の花を模したブレスレットをリウォさんに付けて
彼の言葉に頷いて手を取ります
リウォ・ジルイ
【藤結】
薄荷さんとは初顔合わせなのだが
俺のような男が相手で問題ないか?
年相応の経験はあるからエスコートさせてもらおうか
役柄は大学講師と教え子
仕立ての良いスーツにロングコートでそれらしく
立場上露わにできぬ慕情を胸に
会って思わず感嘆の溜息
薄荷さん見違えたネ
抗議されて千代子と呼び直す
今回はこの呼び方で通す
館の中を連れ立って歩く
ステンドグラスの影の中
君の綺麗な横顔が工芸品のようだネ
と思ったことは口にする
ブレスレットを付けられて素直に驚く
恋に?
ふっと微笑み
君の髪飾りとお揃いだネ
返礼の品は生憎用意がないが
君と過ごす時間が有意義であるよう努めよう
千代子の手を取り
まずは食事でも
そのあとは舞踏会に案内しよう
初顔合わせの相手と共に演じるのは、殺人事件の被害者役――しかも恋人同士の関係とあっては、普通のひとならば臆してしまうものだけれど。
「……俺のような男が相手で問題ないか?」
「大丈夫ですよ、こちらこそよろしくお願いします」
そんな、静かなリウォ・ジルイ(The Wall・f17183)の問いかけに、薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)はふんわりと微笑んで、凛と背筋を正したのだった。
「……と、どうです? いつもより大人っぽく見えませんか?」
――極彩色のステンドグラスが並ぶ、館の廊下を歩き始めれば、もうふたりは恋するもの達に変わっていく。演じるのは大学講師とその教え子で、背伸びをすれば届くかもしれない、ほんのり甘い恋を囁き合う。
「薄荷さん、見違えたネ」
「その呼び方は、『先生』の時にしてくださいね」
いつもと違うお洒落をして、プライベートで会った風を演出しながら、くすくすと笑う千夜子の髪では藤の花が揺れていて。
「……『リウォさん』、今日は生徒と先生じゃないんですよ」
秘密の関係を唇に乗せて、ちょっぴり抗議の視線を向けてみれば――リウォは再度、感嘆の溜息を吐きながら、愛らしい教え子の手を取って歩き出した。
「では、千夜子――エスコートさせてもらおうか」
年相応の経験はあるから、と紳士的な仕草で歩を進めていく本日の彼の装いは、仕立ての良いスーツにロングコート。すらりと背が高く、柔和で細面なリウォはきっと、大学でも女生徒に人気があるんだろうな――なんて千夜子は考えてしまう。
「ふふ、千夜子。君の綺麗な横顔は、工芸品のようだネ」
「えっ、せんせ……じゃなくてリウォさん! いきなり何ですか」
それでも、ステンドグラスの生み出す光と影が、夢幻のようにふたりの行く先を彩っていくなかで――何の衒いも無くリウォがそんな賛辞を贈るものだから。千夜子は照れた顔を誤魔化すように笑って、高鳴る鼓動を懸命に抑えなければならなかった。
(「……これは、不意打ちです」)
――廊下の薄闇が有難いと思いながら、桜色のワンピースをふわりと花のように翻して、彼女が足を止めたのは藤のステンドグラスの前。
「私、藤の花が好きなんですよ。だから……リウォさんにもプレゼントです」
何気ない風を装って――けれど、とびっきりの勇気を出してリウォの手を取った千夜子は、其処へ藤の花を模したブレスレットを付けて、秘めた自身の想いを告げる。
「藤の花言葉は、『恋に酔う』……」
「恋に?」
そう――興味深そうに小首を傾げたリウォの、頬についた大きな傷痕さえ、千夜子の知らない過去を教えてくれるようでどきどきしてしまうから。そんな彼女の想いを知ってか知らずか、リウォはふっと微笑むと、千夜子の髪を飾る藤の花へと手を伸ばしていた。
「君の髪飾りとお揃いだネ」
「……っ、ずるいですよ、その言葉は……」
返礼の品は生憎用意がないが、君と過ごす時間が有意義であるように努めようと。悠然と頷いてエスコートを続ける彼は、やっぱり大人なのだと思うけれど。
――それでもリウォも千夜子と同じ。立場上、露わにできぬ慕情を胸にしつつも、潜める恋心をそっとステンドグラスのひかりに溶かしていくのだ。
「さぁ、まずは食事でも……そのあとは舞踏会に案内しよう」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
【五万円】
極彩に染まる一室に漂うのは甘い空気
まるで映画のワンシーンのよう
だが使用人が立ち去ればそれは一瞬で瓦解する
嘘つけ、笑ってんじゃねーか…。
ハッ、これで金払うヤツがいるってんなら有難く貰うが?
おい…写真撮るなら金払えよ。
シャッター音に悪態つく
鮮やかな色合いの着物と羽織
パールのイヤリングにレースの手袋
和に洋をアレンジして加えた装いは正しくハイカラ
ご丁寧に紅まで引いているのは真の手引きで仕立てられたもの
えぇ、もちろん。
今日は素敵な日にして下さるんでしょう、真さん?
引き寄せられた腕の中視線を合わせ
目を細め笑みを作るなど容易い
嘘で固めた演技は得意だ
忘れられない一日にして頂戴。
形の良い口元が弧を描く
久澄・真
【五万円】
暫く食事は用意しなくていい
二人の時間を愉しみたい
と使用人へ言伝てたのがつい先程
足音が遠ざかれば堪え切れずに肩揺らし
ククッ
いやぁほんっと綺麗な女になったなぁジェイ
それで金取れんじゃねぇの?
なんてグラスに酒を注ぎながら「男」の姿を見てはまた笑う
カシャとなったのは携帯カメラのシャッター音
合わせ誂えた服装はスーツスタイル
シャツにネクタイ、ベスト
袖は捲ってシャツガーターと至ってシンプル
ほら
恋人ごっこ、するんだろ?
寄せられる相手の身体
腰に手をあて引き寄せれば随分と達者な演技に口角あげて
満足するまで付き合ってやるよ
ただし、お前も俺を満足させろよ?
極彩色の中閉じ込めたその金眼に
クツリと再び笑み浮かべ
人目を忍ぶように館を訪れた恋人たちの様子に、使用人は直ぐに事情を察し、彼らを二階の客間へと案内してくれた。
「……暫く食事は用意しなくていい。二人の時間を愉しみたい」
そんな言伝をして、ティーセットを運んできたメイドを下がらせたのがつい先程のこと。クラシックなワゴンの上で、あたたかな湯気を立てる紅茶もそのままにさせて、久澄・真(○●○・f13102)は扉の前でそっと耳を澄ませている。
こつ、こつ――遠ざかっていく足音を確認し、部屋の近くからひとの気配が消えたことに溜息を漏らすと、真は改めて客室の様子に視線を巡らせた。
――其処は、極彩に染まる一室で。色とりどりの硝子を隔てて射し込む陽光は、月の光のように儚くて、薄闇のなかにそっと秘密を塗りこめてしまえそうだ。
「……、……っ」
漂う沈黙さえも、何時しか甘い空気に変わっていくなかで――不意にくつくつと真の肩が小刻みに揺れて、其処へ押し殺した笑い声まで加わっていく。
「ククッ……ハハハ……ッ!」
「……おい」
つい堪え切れず、と言った様子の真に向けて、ドスの利いた声で睨みを効かせるのは、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)だった。先程までは、映画のワンシーンのような光景を演じていたと言うのに――ジェイの方も寛いだ雰囲気で、今は寝台に足を投げ出している。
「いやぁほんっと、綺麗な女になったなぁジェイ。それで金取れんじゃねぇの?」
白い八重歯を覗かせて笑った真の言葉通り、今のジェイは見事な女の姿に化けており、何処からどう見ても上流階級のレディにしか見えないのだから恐ろしい。
「ハッ、これで金払うヤツがいるってんなら有難く貰うが?」
が――口を開けばいつもの彼で、悪態を吐く仕草がアンバランスなぶん、倒錯的な魅力も漂ってきてしまって。
「いやいや、居るだろ絶対。……くくっ」
「嘘つけ、笑ってんじゃねーか……」
やがて窮屈そうに着物の衿に指をかけたジェイが、鮮やかな色合いの羽織を隅へ追いやっていると――急にパシャリと、携帯カメラのシャッター音がして顔をしかめてしまった。
「おい……写真撮るなら金払えよ」
わざとらしく悪態をついてみせても、真のほうはどこ吹く風だ。今も硝子戸に並んでいたボトルをひとつ掴んで、紅茶を横目にグラスに酒を注いでいる。
「ったく、誰の手引きで仕立てられたと思って――」
「ほら、」
かぶりを振ったジェイの耳元で、真珠のイヤリングが滑らかな輝きを放ったその時、力強い真の腕が彼の身体を引き寄せていった。
「恋人ごっこ、するんだろ?」
――ジェイの衣装に合わせて誂えた、シンプルなスーツ。捲った袖に覗くガーターひとつで、誠実な印象を与えてしまうのだから、ずるいと思う。
「……ええ、もちろん」
だから――ジェイのほうも惜しみなく、嘘で固めた演技で彼に応えていくのだ。引き寄せられた腕のなか、意味ありげに視線を交わして、華のように笑ってやる。
「今日は素敵な日にして下さるんでしょう、真さん?」
ご丁寧に紅まで引かされた唇が、魅惑的な弧を描き――レースの手袋に包まれた指先は、彼の黒い肌を確かめるように、丁寧にその輪郭をなぞっていく。
「……随分と達者な演技だな。なら、」
戯れに腰へ手を当てて、更にジェイの身体を引き寄せながら、真はくつりと口角を上げて『お芝居』を続けていった。
「満足するまで付き合ってやるよ。ただし、お前も俺を満足させろよ?」
――瓦解した筈の甘い空気が、再びほんのりと色づいていくなかで、極彩色のひかりを閉じこめた金瞳が妖しく揺れて、偽りの恋に酔う。
「ええ、忘れられない一日にして頂戴」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
たまにはふたりきりもええじゃろ、虚(眼帯撫でつつ)
恋人ごっこかぁ
恋人を亡くした者を――恋人は、亡くしてはおらんけど紡いでみせよ
綺麗なステンドグラスじゃね
椿、藤、薔薇も、百合も――どの花を見ても思い出す
汝と様々な花を見た時間があった
傍らに立って、共に見ることはもうできぬけれどいつも共にある
ああ、汝に名を呼ばれる事ももう叶わぬな
独り言のように右眼の虚へ語り掛け
わしはひとりじゃが汝がおるから独りではなく
嘗ては、わしの傍らには汝を宿しておった最初の主がおった
わしにとっては恩人の、汝の主はもうおらぬし
汝も弱り、わしの右眼におるしかない
汝はわしの名紡ぐ事できぬから
たまにはわしが――と、汝の名を呼びたいんよ
――たまには、ふたりっきりもええじゃろう。そんな終夜・嵐吾(灰青・f05366)の呟きに、応えたものの姿は見えかったけれど。
「……虚」
右目を覆う眼帯に、そう声をかけて静かに指を伸ばした時――ぞわりと春の風が身をよじり、啜り泣くように震えていった気配がした。
(「恋人ごっこかぁ」)
例え、この場所に相手が居なくても。否、居ないからこそ紡げる想いもある。そうして嵐吾は、恋人を亡くしたものの姿を思い浮かべて、それをゆっくりと自分の輪郭に重ね合わせていった。
(「――恋人は、亡くしてはおらんけど」)
それでも、もう二度と叶わなくなった想いならある。うつくしき花々のステンドグラスが、極彩色のひかりを投げかける回廊を歩きながら、嵐吾は季節の草花を指折り数えて追憶に浸る。
「椿、藤、薔薇も、百合も――懐かしいのう」
春の今ならば、石楠花に華蘇芳。もしかしたら馬酔木の花もまだ咲いているかも知れない。あなたと二人で旅をしましょう、そんな花言葉を思い出しながら嵐吾の足取りは、過去から未来へと進んでいく。
「……どの花を見ても思い出す。汝と様々な花を見た時間があった」
――傍らに立って、共に見ることはもうできぬけれどいつも共にある。きっと、愛するひとを亡くしたものはそんな想いを抱いて、前へ進んでいこうとするのだろう。
「ああ、汝に名を呼ばれる事ももう叶わぬな」
時折、やるせない現実に胸を軋ませながら――独り言のようにそう言ったあと、右眼の刻印に触れた嵐吾の姿はぼやけ、演者と役のあいだを彷徨って。
「わしはひとりじゃが、汝がおるから独りではなく」
――光と影のなかを踊るように這っていく黒茨は、万華鏡の硝子が生んだ、まぼろしに過ぎない。
「……嘗ては、最初の主もおったのじゃが」
虚を宿していた嘗ての主、嵐吾にとっての恩人であるそのひとは――今はもう居ない。弱った虚もまた、嵐吾の右眼に宿ったまま、花の香に包まれて惰眠を貪っているのだから。
「のう、汝はわしの名紡ぐ事できぬから。たまにはわしが、」
ふと思い出した、馬酔木のもうひとつの花言葉。それは献身だったなと呟きながら、嵐吾の穏やかな声が館に吸い込まれ、花のようにぱっと散った。
「――汝の名を呼びたいんよ」
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
えくるん(f07720)と参加。
演技中はエクル様と呼称。
ここでの関係は許嫁。
わたしは良家の令嬢で、家のしきたりで結婚するまでは目隠しを着用しているという事にします。
服装も立場と場に見合ったドレス。
使用人に演奏をお願いし、エクル様と二人きりで、ダンスに不慣れな彼をリードしながら社交ダンスを【踊り】、語らいます。
いいの。エクル様。あなたと出会えてわたしは救われたの。だから、わたしの残りの人生は全部あなたに捧げたいの。これからもずっとあなたに尽くしたいの。
お願い、エクル様。どうか、どうか、これから先もずっと、あなたの側にいさせて?
許嫁という立場は演技だけれど、この気持ち、彼への愛は偽りのない本心。
七那原・エクル
七那原・望(f04836)と参加
望とは家同士が決めた許嫁って設定。ボクが婿養子として望の家に嫁ぐらしいよ。これも設定だけど
その場にふさわしい正装で参加
ダンスなんてしたことないからおぼつかない足取りであたふたしちゃうかも。ダンスに慣れている望にリードされちゃうかも
望はまだ幼いのにボクに尽くしてくれる。献身的な愛を向けてくれるのは嬉しいけどボクはそれに応えることができるのだろうか?
彼女はまだまだ可能性に満ちているはずなのに、ボクが縛ってしまいその機会を奪ってしまって良いのだろうかと思っちゃう
――比翼連理、と言う言葉がある。男女の仲睦まじいことを喩えたらしいが、ホールにやって来た七那原・望(封印されし果実・f04836)たちの姿を見た使用人は、真っ先にその言葉を思い浮かべたのだろう。
「エクル様……!」
「望、こっちへ」
フリルのたっぷりあしらわれた、ドレスの裾を上品に摘まんで、許嫁の七那原・エクル(ツインズキャスト・f07720)にお辞儀をする望の顔は、目隠しによって覆われてしまっている。
それは良家の令嬢である彼女の家の、厳格なしきたり故のことらしいが――恐らくは心を許した相手にしか、その素顔を見せてはならぬ等と、言い聞かせられているのかも知れない。
「家同士が決めた許嫁、か……まだ望は幼いのに」
「そんな、エクル様だって大変でしょうに」
一方で正装に身を包み、視界の遮られた望をエスコートするエクルのほうも、未だ少女のような愛らしさが抜け切れていないと言うのに。背筋を伸ばした彼は、婚約者に相応しい男性であろうと、懸命に努力しているように見えた。
「ボクが婿養子として、望の家に嫁ぐことを言ってるの? ……それは良いんだよ」
――お芝居の設定を確かめ合いながら、ふたりはいつもと違う『望』と『エクル』を演じていって。互いに想い合う気持ちは変わらないのに、そうしていると立場やしきたりと言うものが、如何に重く横たわっているのかを実感してしまう。
「さ、今は踊ろう――ダンスは不慣れだけど」
「ふふ、では私がリードしますね」
そうして望が、辺りに控えていた使用人たちに合図をすれば――緩やかなワルツの演奏がホールを満たしていって、ふたりだけの舞踏会がそっと幕を開けていく。
(「……えくるん」)
――言葉遣いもエクルの呼び方も、普段とは違う。これは演技だと理解しているのに、いつものように彼の名前を呼ぶことが出来ないのが、望にはちょっぴり寂しく思えた。
(「……望はまだ幼いのに、ボクに尽くしてくれる」)
そう、おぼつかない足取りでステップを踏むエクルを、こうしてさり気なくリードしてくれるように。本当はまだまだ我儘を言っても良いのに、大人びた所のある望は――物分かりが良すぎて不安になってしまうのだ。
(「献身的な愛を向けてくれるのは、嬉しいけど」)
――果たして自分は、エクルは。それに応えることが出来るのだろうかと自問する。
「ねぇ、望。キミはまだまだ可能性に満ちているはずなんだ。だけど……」
ヴァイオリンの旋律に合わせて、望の手を取るエクルは――直後、誠実な瞳を微かに曇らせて、彼女にだけ聞こえる声で囁いていた。
「ボクが縛って、その機会を奪ってしまって良いのだろうか……そうも思ってしまうんだ」
頭上に煌めくシャンデリアの光を受けて、ふたりがワルツを踊るたびにゆらゆらと、ステンドグラスの色彩も移ろっていくのだから。
「……いいの。エクル様」
それでも――かぶりを振った望は、すでに決意をしていたのだとにっこり微笑んで、エクルの手に指を絡めつつ囁いた。
「あなたと出会えてわたしは救われたの。だから」
――今の立場は演技。だけど、この気持ちは。彼への愛は偽りのない本心だったから。
「わたしの残りの人生は、全部あなたに捧げたいの。……これからも、ずっとあなたに尽くしたいの」
別々の根を持つ木の枝が、やがてひとつに繋がって伸びていくように――片翼の鳥が一体となって空を舞うように、エクルと共に生きていきたいと思うから。
「お願い、エクル様。どうか、どうか……」
――これから先もずっと、あなたの側にいさせて?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
華折・黒羽
静かな部屋の中で寝転がり
煌めく極彩色を見上げる
手元には招待状が二枚
けれどここには俺一人
この日を迎える直前に
あの人は天国に行ってしまった
使用人の人にはそう話した
…嘘じゃない
だってあなたはもう居ないんだもんな
朔様
ぽつり零して眸を閉じる
黄昏を背に見たあなたの顔が
桜散る中で見たあなたの笑顔が
瞼の裏に焼き付いている
沢山、考えた
色んな事を、思った
そのどれもが
俺があなたに恋していたのだと言う事実を突きつけた
喪って初めて自覚するなんて
情けないな…
もう目を背けるのはやめるよ
ちゃんと前に進む為に
俺を見つけてくれてありがとう
俺に家族を、笑顔を、幸せを与えてくれた
大好きなあなた
朔、俺はあなたに
──恋してました
静かな館の部屋でひとり、寝転がってみながら――華折・黒羽(掬折・f10471)の頭上では、万華鏡のような極彩色が、煌めくひかりを投げかけてくれていた。
――かさり。乾いた音を立てて、彼の指先から落ちていった招待状。二枚あった其れを、咄嗟に黒猫の爪が掠めてしまいそうになったけれど。
(「ああ……ここには、俺一人だった」)
ふと我に返ってしまえばぱたり、寝台に埋もれてしまった腕が、酷く重く感じて瞬きをする。
『この日を迎える直前に、あの人は天国に行ってしまった』
珠瓏館にやって来た黒羽が、応対した使用人に告げたその言葉は――お芝居の演技ではあったけれど、半分は真実だった。
「……嘘じゃない。だって」
ぽつり、零れた声は、あの頃のものと変わっていただろうか。眸を閉じれば瞼に過ぎる、いつかの黄昏がやけに眩しくて、吐き出した溜息はわずかに涙の味がした。
「あなたは、もう居ないんだもんな」
――黄昏がくるりと色合いを変えていけば、次に蘇ったのは桜散る景色。焼きついたあの人の笑顔が、過去のままで足踏みしているのが歯がゆくて、もう一度息を吐く。
「……朔様」
瞼の裏から、ほんの少し視線をずらして目を開けば、ゆらゆらとレースのカーテンが、水面のひかりのように揺らめいていた。
(「沢山、考えた。色んな事を、思った」)
思考の海に沈んでいく黒羽が、やがて突き付けられたのは――そのどれもが『あなた』に恋していたと言う事実、そのものだったのだから。
「喪って初めて自覚するなんて、情けないな……」
それでも、彼は気付けたのだ。故に、もう目を背けるのはやめるよと呟いて、この『お芝居』をちゃんと前に進む為の転機にする。
(「俺を見つけてくれて、ありがとう」)
――遠い追憶の彼方で、はらはらと舞う桜の花は『あなた』が咲かせてくれたもの。
(「俺に家族を、笑顔を、幸せを与えてくれた……大好きなあなた」)
――それを散らさぬように、これからは自分が護り、育ていくから。
「朔、俺はあなたに」
――恋してました。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟🐰
わぁ、綺麗だね!フレズ、見てご覧よ!
煌びやかなステンドグラス、極彩色に心が咲いて満開になるようだ
小さな手をとり、ほほ笑みかける
僕はちゃんと、えすこと、できてる?
現の世界に負けぬくらい艶やかな、虹彩の万華鏡の中をゆるり游ぎ進めば――とめられて
きょとりと首を傾げる
え?
ここに座ればいいの?
可愛らしい画家に言われるとおりに座り、微笑む
ふふ、僕を描いてくれるなんて嬉しいな
生きたインテリア、見世物、美しさこそが価値
僕は元よりこういう人魚だ
観られることには慣れている
君にはどう見える?
愛で煌めいて咲くなんて
とても素敵だ
この極彩色のように
あいは様々な意味と色と痛みと幸を持っている
ねぇ
僕の愛は描けたかい?
フレズローゼ・クォレクロニカ
🐟🐰
ひゃあ綺麗!!
声を上げてから隣を振り向いて、息を飲む
絢爛豪華、色彩万華鏡
煌びやかな光の洪水
その光を映して笑う
何よりも美しい白珠の人魚
まろやかな螺鈿の鱗に極彩が照り
七彩をかいて游ぐヴェールの尾鰭
まさに芸術
ボク、こんな綺麗なの初めて見た……
その手がボクの手を握っているなんて
游ぐ姿に思わず声を上げる
ねぇリルくん!ボクに君を描かせて
はやく描かせてよ!
微笑む姿も美しい宝石のよう
常闇の夜、残酷劇の舞台で歌っていた至宝の人魚―かの吸血鬼の座長が育て上げた宝石
美しい命
愛が輝かせてる
ボクのまだしらない「あい」
あいって何?
キミを描きあげたらボクにもわかるかな?
だって今、この美しい人魚は
ボクの恋人なんだから
「わぁ、綺麗だね! フレズ、見てご覧よ!」
煌びやかなステンドグラスが彩る、お屋敷のなかを泳ぐように歩いて行けば――極彩色のひかりに照らされた、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の尾鰭も螺鈿のように煌めいて、フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)を不思議の国へと誘っていく。
「ひゃあ綺麗!!」
色とりどりの硝子が形づくる花たちは、幾何学模様みたいな無限の広がりを見せてくれるから――万華鏡のなかに飛び込んだような心地がして、思わず彼女は愛らしい声を上げてしまったのだった。
「絢爛豪華って、こんな景色のことを言うのかな?」
そんな光の洪水は、フレズローゼが用いる岩絵具の欠片が、きらきらと降り注いでいるみたいで。今ここで絵筆を取り出したなら、一体どんな色が吸い込まれていくのだろう。
「ね、リルく――」
そんなことを思いながら、リルの方を振り向いたフレズローゼは、はっと息を呑んで目の前の光景に見入ってしまっていた。
「うん、フレズ?」
――眩い光に祝福されて、お伽噺の人魚みたいに微笑んでいるリルが、余りにもうつくしくて。白珠の鱗が弾く極彩は、まろやかな曲線を描いて無限に虹を生み出していくものだから、まさに芸術と言って良かった。
「ボク、こんな綺麗なの初めて見た……」
そんな彼が、自分の手を握ってくれている。笑いかけてくれていることが夢みたいで、フレズローゼの瞳もいつしか、蜂蜜みたいに蕩けていく。
「……僕はちゃんと、えすこと、できてる?」
けれどそんなリルは、彼女の相手役を上手く務められているのかが、気になっている様子で――そっと小首を傾げた視界の端では、七彩をかいて游ぐヴェールの尾鰭が、刻一刻と色合いを変えていくものだから。
「ねぇリルくん! ボクに君を描かせて」
――思わず声を上げてしまったフレズローゼは、やっぱり絵描くのが何よりも好きな画家だったのだ。はやく描かせてよ、と急かす彼女の脳裏では、リルをモチーフにしたスケッチが、既に何枚も出来上がっていたのだろう。
「え? ここに座ればいいの?」
そうして館の一室を即席のアトリエにして、可愛らしい画家が勧めるままマホガニーの椅子に腰かけたリルも、モデルとしての勝手は分かっているらしい。
「……ふふ、僕を描いてくれるなんて嬉しいな」
――生きたインテリア、見世物、美しさこそが価値。そう、元より硝子の匣舟のなかで舞台を演じ続けてきた人魚は、観られることには慣れているのだ。
(「君にはどう見える?」)
うつくしい宝石みたいに微笑みながら、うっとりとフレズローゼの心へ、そんな風に問いかければ――極彩色に咲く心は一体どんな花に変わって、彼女に『あい』を囁いてくれるのだろう。
(「ボクのまだしらない……あいって何?」)
常闇の夜、残酷劇の舞台で歌っていた至宝の人魚――かの吸血鬼の座長が育て上げた、宝石。美しい命。其れを愛が輝かせている。
「愛で煌めいて咲くなんて、とても素敵だ」
現の世界に負けぬくらい艶やかな、虹彩の万華鏡を覗き込めば、様々な色を見せてくれる。様々な色と意味と――そして痛みと幸を持っているのが、あいなのだとリルは言う。
「ね、キミを描きあげたらボクにもわかるかな?」
リルルリ、リルルリルルリ――何処かで聴いた囀りは、あいを歌ったものだったのかも知れない。
「……ねぇ、僕の愛は描けたかい?」
無心で絵筆を滑らせるフレズローゼはきっと、にっこり微笑んで頷くことだろう。これは、ふたりだけのお芝居で、彼女の傍に居る美しい人魚は――。
「……うん。だって今の君は、」
――ボクの、恋人なんだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・蒼夜
将校服に身を固めて洋館へと足を踏み入れる
彼女がいるのでは無いか?
そう思い辺りを見渡す
彼女は桜が好きでこの哀しい悲劇な事にほっとけない性格だ
きっと参加してるのでは無いかと探す
ふと見る美しいステンドグラス
藤の花、昔はこの花が嫌いだった
母と呼ぶ者が俺似た藤は嫌いだとそう言った
桜の下で出逢った彼女は桜も藤も好きだと言った
何気ない一言、そんなつもりも無かったのだろう
だけど俺は嬉しい言葉だった
だから彼女の笑顔を護りたいと思った
この気持ちが何であれ彼女が幸せになれるのなら俺は…
もう一つの桜が揺れる
嗚呼、あの子も桜だったな
父親違いの妹、一度だけ大人になり出逢った
何か俺に言おうとしてたが
何処に行ったのか
幻朧桜のかおりを微かに引き連れて、羅刹の若者が館の門をくぐる。きっちりと着こなした将校服は、彼の実直さを物語っているかのようで――黒と白、その腰に佩いた刀が、何かを求めるかの如く刃を震わせた。
(「此処に、彼女がいるのでは無いか?」)
ふとそう思ったのは、朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)にとって確信に近いものだった。そう、彼女は桜が好きだから――自分がそうであったように、花びらが誘われるようにそろそろと、此処へ足を運んでいるのかも知れない。
(「そうだ……元より彼女は、哀しい事を放っておけない性格をしているのだから」)
――きっと、館に渦巻く情念を敏感に感じ取って、人知れず涙を流しているのだろう。そう考えてしまったら蒼夜の足は、彼女を探して館のなかを彷徨っていた。
「……あれは」
と――つい、或るステンドグラスの前で足を止めてしまった彼は、硝子が形づくる藤の花を確かめると、僅かに瞳を曇らせて溜息を吐く。
(「藤か……昔は、この花が嫌いだった」)
鮮やかな色をした、綺麗な花を咲かせるそれが――自分に似ているから嫌いなのだと。母と呼ぶ者が、嘗て蒼夜に放った言葉は、今も時折こころに爪を立てていくのだった。
(「それでも――」)
ひらり――何処からか舞い込んできた、桜の花びらを手にとった蒼夜は、『彼女』の笑顔を思い出す。
(「彼女は桜も……藤も、好きだと言った」)
きっとそれは何気ない一言で、彼を慰めようとかそんなつもりも無かったのだろう。だけど、本心から好きだと言ってくれたその言葉が嬉しくて、それから蒼夜は彼女の笑顔を護りたいと思うようになったのだ。
――この気持ちが果たして、恋と呼べるものなのかは分からない。けれど。
「それが何であれ。彼女が幸せになれるのなら、俺は……」
もうひとつ――記憶のなかの桜が揺れて、浮かび上がったのは、嗚呼。
「あの子も桜だったな、……父親違いの妹で」
一度だけ大人になり出逢った彼女は、その時何かを蒼夜に伝えたがっているようにも見えた。
「……何処に、行ったのか」
大成功
🔵🔵🔵
花川・小町
【花守】
身分違いの逃避行――私は元々籠の鳥、或いは日陰に咲いた名も無き花
早い話が廓に売られた、まよいごにしてみなしご
そんな私を拾ってくれた、照らしてくれた貴方――身請けしてもらったあの日から、日に日に想いは募りに募って――燃え盛る炎のような大輪となって心を焦がして――けれど、貴方には婚約者がいて
――嗚呼、だから今日は夢のよう
貴方とこんな風に過ごせるなんて
静かに二人きりの時間と酒宴に耽り、幸いを心行くまで味わって――此処まで忍んできた罪悪感は、貴方の微笑みを見た瞬間に掻き消えて
今はもう、たまらなく幸いで穏やかな気持ちで心満たされてるわ
(ふふ、なぁんて――まぁ、偶にはこういう演技も愉しいものね)
佳月・清宵
【花守】
我が身は華族の跡取り
地位にも財産にも恵まれ、何不自由ない日々を送っていた
そんな中で見つけた蝶に、花に、不思議と目を奪われ――気付けば心も奪われて――表向きは使用人として迎えながら、密やかに惹かれ合い、早幾ばくか
漸く訪れたこの機会
全てを捨て去り、代わって唯一つを連れ去る様にして、此処まで来た逃避行
誰にも邪魔はさせるまい
夢じゃねぇさ――叶わぬと嗤われる様な夢すらも、お前の為なら現にしてみせる
二人だけの宴
同じ酒を、同じ景色を、同じ時間を――同じ気持ちで愉しむ、何にも変えがたい幸い
嗚呼、もっと笑顔を見せろ
其さえあれば、もう何も――
(茶番にしちゃあ上等――流石気の置けぬ悪友様、随分な遊び様で)
身分違いの逃避行――其れは口にしてしまえばありふれた話で、けれど不思議とひとの心をくすぐるもの。
「……私は元々籠の鳥。或いは日陰に咲いた、名も無き花」
射干玉の髪を彩る、椿の花にそっと手を伸ばした花川・小町(花遊・f03026)の姿を照らすのは、アール・ヌーヴォーの洋燈の仄かな灯りのみ。
「早い話が廓に売られた、まよいごにしてみなしごで――でも」
「そんな花に、蝶に、不思議と目を奪われた」
しゃらり――澄んだ金細工の音色と共に、彼女の髪を撫でていくのは、佳月・清宵(霞・f14015)で。退廃のかおりを色濃く纏う彼の役柄は、地位にも財産にも恵まれ、何不自由ない日々を送っていた、華族の跡取り息子なのであった。
「ええ、こんな私を見つけてくれて。そして拾って、照らしてくれた貴方」
「気づけば心も奪われていたのだ、何を迷うことがある」
さらさらと指のあいだを滑り落ちていく髪から、艶めかしいうなじが覗いていけば――洋燈のシェードで踊る蝶たちが、小町の肌へちいさな影を落としていく。
(「身請けしてもらったあの日から、日に日に想いは募りに募って」)
――表向きは、清宵の屋敷の使用人。そのなかで密やかに惹かれ合って、早幾何か。
(「燃え盛る炎のような、大輪となって心を焦がして――」)
微かな衣擦れの音と共に消えていった蝶たちはきっと、恋の炎に呑まれてしまったのだろう。だって清宵には既に婚約者がいて、行き場を失ったふたりの熱はずっとこうして燻ぶり続けていたのだから。
「でも……嗚呼、だから今日は夢のよう」
サイドテーブルに並んだふたつのグラスのなかで、からから音を立てる氷の粒と。仄かに甘いお酒の薫りを吸い込みながら、ふたりきりの時間と酒宴に耽る。
「……貴方と、こんな風に過ごせるなんて」
「夢じゃねぇさ」
漸く訪れたこの機会に、清宵だって全てを捨て去る覚悟で――それに代わって、唯一つを連れ去る様に此処まで来たのだ。
「だから、誰にも邪魔はさせるまい」
此処まで忍んできた逃避行への罪悪感は、そんな清宵の微笑みを見た瞬間に掻き消えて。ああ、幸いを心行くまで味わっても良いのだと――たまらなく穏やかな気持ちで、心満たされていった小町はゆっくりと、清宵の腕に抱かれて金色の瞳を細めていった。
「――そう、叶わぬと嗤われる様な夢すらも、お前の為なら現にしてみせる」
それは二人だけの宴。同じ酒を、同じ景色を、同じ時間を――同じ気持ちで愉しむ。そんな、何にも変えがたい幸いに溺れそうになりながら、ふたりのまなざしには何処か悪戯っぽい光が見え隠れする。
(「ふふ、なぁんて……まぁ、偶にはこういう演技も愉しいものね」)
(「まぁ、茶番にしちゃあ上等か。流石、気の置けぬ悪友様だ。……随分な遊び様で」)
くすくすと、真面目に演技をしている互いを見つめて、ちょっぴり吹き出しそうになるのを抑えつつ――儘ならぬ恋に翻弄され、涙を流した者たちが確かに居たことを、小町も清宵も分かっていたのだ。
「嗚呼、もっと笑顔を見せろ。其さえあれば、もう何も――」
だから――万華鏡の世界に囚われた恋遊びは、もう少し続いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
東雲・咲夜
瀟洒な佇まいに極彩が連なる様は天国への旅路のよう
藤霞柄の訪問着の許、柔い感触を踏みしめ
くれなゐの途を徒に辿る
春光溢るるサンルーム
雀彩の椅子に休まれば
紅茶を一つ、おくれやす
馳せる想いの往先は『月』と『太陽』
昏く重く、鎖の如く
巫女である此魂に出づる醜惡たる秘めごと
曝け出す本性に、束縛、支配、雁字搦めの戀心
血肉を分けた貴方だからこそ
底無しに溺れ、求められたくて
打って変るは温かな陽だまり
朔夜を燈す祈望の導
月の片割れで在るが故、太陽が無ければ耀けない此身は
喩え交わえずとも絶えぬ愛惜に満ち満ちて
ささやかな熱にさえ初心に焦がれてしまう
…此れをきっと、愛と云うのね
醜やかな女
ええ、此では何時か刺されてしまうわ
春光が溢れるサンルームは、東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)が暮らす館を、ほんの少し思い起こさせた。
「……ふふ。このまま、微睡んでしまいそうや」
瀟洒な佇まいにはレトロモダンの空気が漂い、極彩色のステンドグラスから射し込むひかりの筋道は、夢幻のように幾つも連なっていって――まるで天国への旅路を、咲夜に見せてくれるかのよう。
やがて藤霞の着物が、そうっと椅子の背もたれを掠めていけば、愛らしい雀の飾りが「休んでいって」と囁くように、裾を引いて手招きをした。
「紅茶を一つ、おくれやす」
はんなりとした咲夜の物腰に、館の使用人が直ぐにお茶会の用意をすると、ふんわり甘い匂いがサンルームに漂っていく。余りに優しくて、穏やかな世界が桜の姫を取り巻いていると言うのに――彼女が想うのは、神々に身を捧げた巫女である筈の、己が宿した情愛だった。
(「ああ、ほんまに……昏く、重い」)
――その肉体にも魂にも、見えない鎖が巻き付いていて、なのに自分はそれを嬉しいと感じてしまう。清らかな貌の裡で、束縛と支配に溺れてしまって。幾ら禁忌だと咎められようが、求められたいと願ってしまう。
(「……血肉を分けた、貴方だからこそ」)
底無しに――堕ちていきたい、愛し続けたい。曝け出す本性はどろどろと、まるで己に流れる血のように熱くて、誰かのこころを惑わしてしまう。
(「ああ……」)
醜惡たる秘めごとに目を背けたとして、雁字搦めの戀心はそのままで――媚態を晒す自分の姿は、きっと倖せに満ちているのだろうと分かるから。
――でも、比翼月からふっと目を逸らしてしまえば、打って変って温かな陽だまりが咲夜を包む。
(「太陽……。朔夜を燈す、祈望の導」)
自分は月の片割れで在るが故、其の身は太陽が無ければ輝けぬ。それが喩え交わえずとも、絶えぬ愛惜に満ち満ちても――月は太陽に、ささやかな熱にさえ初心に焦がれてしまうのだろう。
「――此れをきっと、ひとは愛と云うのね」
彼女が馳せる想いの往先は『月』と『太陽』、戀と愛のはざまで満ちては欠けて、移ろうひかりは何処へ向かうのかと、柔い感触を踏みしめて徒に彷徨う。
「……本当に、醜やかな女」
――くれなゐの途を辿って行けば、昼と夜が入れ替わり、己のこころさえも曖昧になってしまうから。
「ええ、此では何時か刺されてしまうわ」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『朧遊郭』
|
POW : 街々を巡って忍耐強く現れるのを待つ
SPD : 噂を集めて出現する場所を探る
WIZ : 過去の事件・伝説・伝承から遊郭の正体を探る
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
珠瓏館に集ったひとびとの、恋願うこころを感じて悦びに震えるように――妖しいまでの輝きを放つステンドグラスは、迷える蝶を更に奥へ、秘めやかな世界へと誘っていく。
(「何でも元々、この館は遊郭だったらしくて」)
――そんな、嘘か真か分からぬ噂にくすりと笑い合った先刻と、館の雰囲気は一変していた。しぃんと静まり返った内部にひとの気配は無く、ふと部屋の扉に手を掛けたところで、世界がぐるりと反転する。
(「あ――……」)
まるで万華鏡のなかを覗き込んだみたいに、椿の花が唐菖蒲にかたちを変えて、気付けば見たことのない廊下へ足を踏み出していた。
(「ここは、何処」)
――そうして控えめな愛が、密会と言う名の花言葉に変わっていけば。先ほどまでとは違うその世界では、瞬きをすると極彩色の煌めきが、無限廻廊のような広がりを見せていった。
ざわ、ざわざわ――何処からか吹き込んでくる春の風は、こころを急かすように揺れていき、お芝居で演じていた想い人の元へ、早く帰り着きたいと願ってしまう。
(「なのに、どうして――」)
焦れば焦るほど、足はもつれて。煌びやかな遊郭の幻想がゆらゆらと、硝子の奥にちらついて涙が零れそうになる。嘗ての妓楼、夜見世の景色。格子構えの向こうに、あなたの姿を探してしまう。
(「会いたい、逢いたい」)
なのに、ああ――知らないひとの腕に抱かれて微笑む、あなたの姿が見えてしまうから。こんな哀しみを抱えたまま、彷徨い続けるのは余りに酷であると、そう思った所で視界が開けた。
「ようこそ、朧遊郭へ」
耳元で囁かれた声は、ひとのものではないようだったが、不思議な慈愛に満ちていた。此の世の果て、まぼろしのように現れては消える其処で、あなた達はひとつになって生まれ変わることが出来る――そんな蠱惑的な囁きが、最期に残っていた理性をぐずぐずと溶かしていった。
「だから……ねえ、死んで頂戴?」
死に方はお望みの儘に。花束に隠されたナイフもあれば、綺麗な硝子瓶に入った毒もある。あなたが願うのなら、愛しいひとの首を絞めてもいいし――浴槽のなかで溺れながら、眠るように死んでもいい。
「いずれにせよ、入ったら二度と戻れないのだから」
――花に惑い、花に酔い、花に微睡んで。外八文字を描く艶やかな花魁道中が、死出の旅路に赴いていく。
🌸🌸🌺🌸🌸🌺🌸🌸🌺🌸🌸🌺
●第2章補足
・夜を迎えた珠瓏館にて、いよいよ影朧が殺人事件を起こしていきます。何かの拍子で、ステンドグラスに隠された通路に迷い込んだ猟兵さんは、嘗ての『朧遊郭』の気配に心を惑わされ、どんどん「愛する人と一緒に死にたい」「死ねば結ばれてひとつになれる」という気持ちになっていきます。
・通路の先に、死ぬために必要な道具が置かれてありますので、どんな殺人(自殺)を演出するかをプレイングに書いて下さい。一応、舞台は影朧の影響下にありますので、本当に死なない工夫があればより安全です。
●朧遊郭について
・ステンドグラスにふわっと遊郭みたいな光景が過ぎったり、華やかな喧騒が幻聴のように聞こえてきます。自分が馴染みの客か遊女になって、慕う相手を探し続けている……そんな風に心が惑わされてしまうようです。
・合同プレイングの場合、お連れ様と一緒でも離れ離れになっていても、どちらでも大丈夫です。それでも時折ステンドグラスには、違う誰かと寄り添う相手の姿が見えたりして「自分だけのものにしたい」と言う、独占欲が殺意へ変わっていってしまうようです。
第2章プレイング受付は『4月26日 朝8:31~』からの受付と致します。成功数に達した辺りで締切日の告知をしますので、ゆっくりプレイングを考えてみて下さいね。
🦍🦍🍌🦍🦍(ウホホッ)🦍🦍🍌🦍🦍
蘭・七結
【春嵐】
唇に刷かれた微熱
指さきに絡めて紅を見下ろす
あかいあかいいっとうの彩
気付いていないと、思っているの
誰かに笑むあなたがみえる
あなたがわらうなら、それでいい
―――、
ほんとうに?
まやかしのみな底に惑う
なんて滑稽なのかしら
惨劇の結びはいらない
結んでしまう、その間際
あなたごと攫って逝くから
左小指の傷痕を抉りあかを零す
手の甲で紅を拭って
点ずるのはわたしの鮮紅
誰かの、などではなく
わたしという“あか”を乗せて
あなたの我儘なら幾つでも
とびきりの笑みとくちづけを降らす
唇に移ろうあかいろに胸が騒ぐの
嗚呼。鮮やかに、あまく痛む
だいじょうぶ
“もしも”なんてあげない
なゆは毒だけれど
あなたの薬でもあるのでしょう
英さん
榎本・英
【春嵐】
犯人はどうやって相手に悟られずに殺人を犯すのか
君に見せてあげよう
君の唇に紅だと偽り塗りこむ毒
艶やかに光り誘惑をする
極彩色の硝子に映る君は知らない者と寄り添う
嗚呼。君も、
最期に我儘を聞いてくれるかい?
死ぬなら誰かのぬくもり
君の腕の中が良い
寒いのも、寂しいのも嫌だ
たっぷりと毒を塗り込んだ唇は柘榴よりも甘美だ
愛で死ぬなら甘いくちづけで死にたい
そうして抱きしめたら
あとは君の背後から心臓を目掛けて、突き刺す
犯人はこうやって一時の夢に溺れさせ、殺す
最初から独占出来ない事など知っている
湧き上がる殺意もまやかしだ
降り注ぐあかは胸を焦がす味
心臓は外したが私に毒の耐性などない
上手くやってくれよ
なゆ
柔らかな陽光に包まれていた日中とは一変し、今の珠瓏館に広がるのは、背徳の薫りを孕んだ闇であり――あえかな月の光を透かした色硝子が、榎本・英(人である・f22898)の姿を、妖しく幻想的に浮かび上がらせていく。
「……先刻の話の、続きをしようか」
ステンドグラスの仕掛け扉にも、特に驚いた素振りは見せていないようではあるが、滑らかに言の葉を紡ぐ彼の様子は、何処か熱に浮かされているようでもあった。
「犯人は、どうやって相手に悟られずに殺人を犯すのか――」
かつり、かつりと鳴っていた規則正しい靴音が、其処で不意に途切れると――極彩色のなかで蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が、微かに息を呑んだのが伝わって来る。
「君に、見せてあげよう」
嗚呼、陶器みたいな七結の肌は、ひととは思えぬ程に繊細でうつくしくて。指を伸ばせばひんやりと、己の微熱を吸い取って色づいていく様を、満足そうに見守った英はこう囁く。
「ほら、この紅だ」
指さきで艶やかに光るその色彩は、月明かりの下で妖しく輝いて誘惑してくるかのよう。そうして七結の唇をなぞるように、ゆっくりと英の指が紅を刷いていくと――あかいあかいいっとうの彩が絡まる其処へ、いつしか七結の指も伸ばされて、微かな吐息が重なり合う。
「……気付いていないと、思っているの」
――紅だと言った其れが、ほんとうは毒であることを。自分たちを取り巻く極彩色の硝子に、違う誰かと寄り添う互いの姿を認めながらも、ふたりは切なげに微笑み合って言葉を交わす。
(「嗚呼。君も、」)
誰かに笑む、あなたがみえる――それでも。
(「あなたがわらうなら、それでいい」)
―――、ほんとうに? みな底からささめく声が波紋を生めば、なんて滑稽なのかしらと七結の唇から笑みが零れた。否――惨劇の結びはいらないのだと、背を向けるのは終いとしたのだと、つい先ほど自分は英に告げたではないか。
(「そう……結んでしまう、その間際」)
――左小指の傷痕を抉って、零れたあかをそっと舐め取るようにして。手の甲で唇の紅を拭い、其処へと点ずるのは己の鮮紅。
(「あなたごと攫って逝くから」)
甘い鉄錆の味がじんわりと広がっていくなかで、とびきりの笑みを浮かべた七結のくちづけが、蜜のような毒となって英に降り注いでいった。
(「誰かの、などではなく――」)
――それは、わたしという『あか』を乗せて。そうして、口移しの死を分け合った英の身体がぐらりと傾いでいけば、彼は最期に我儘を聞いてくれないかと七結に訴える。
「死ぬなら誰かのぬくもりで、君の腕の中が良い」
寒いのも、寂しいのも嫌だと呟く英の姿は、彼の言うとおり人、そのものであるのだろう。勿論、あなたの我儘なら幾つでもと、応える七結も既にひとへと堕ちていったのだから、躊躇う素振りは見せなかった。
「……愛で死ぬなら、甘いくちづけで死にたい」
(「嗚呼。鮮やかに、あまく痛む」)
たっぷりと毒を塗り込んだ唇は、柘榴よりも甘美で。尚も唇に移ろうあかいろに胸が騒ぐのを覚えながら、七結を抱きしめた英の腕が、不意に銀の煌めきを宿して、翻る。
「犯人、はこうやって、」
そう、最初から独占出来ない事など知っているし、湧き上がる殺意もまやかしなのだから――。
「一時の夢に溺れさせ、殺す――」
――背後から忍び寄ったその凶器は、一息に七結の心臓を突き刺していて。降り注ぐあかを浴びた英もまた、胸を焦がすような熱に苛まれたらしく、直後に握りしめた筆を力無く床に落としていた。
(「上手くやってくれよ、なゆ」)
(「ええ。だいじょうぶ」)
どうやら英は、上手く急所を外してくれたようで――七結のほうも、己の血が彼を救ってくれることを信じながら、重たげな瞼をそろそろと閉じていく。
(「……『もしも』なんてあげない」)
――ねえ、英さん。なゆは毒だけれど。
(「あなたの薬でも、あるのでしょうから」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
女装のまま(変装・演技可能な限り継続)
あぁだめだ、一緒なんてだめだ。
落ちつけ。ここには一人で来たんだ。相手は来ない、ここにはいない。
こんな独占欲に支配されるぐらいなら自分を殺してしまいたい。
あぁそうだそれならできる。かつてそうやって自分を殺したじゃないか。
そう思いだしていっときでも冷静になれれば。(狂気耐性)
咄嗟的に目についた刃物で胸を突くふりをし倒れこむ。
この心を殺すには、突くには胸じゃない。そして今じゃない。真に殺すにはきちんと見極めないと。
だけど今この時だけは殺してしまったように忘れてしまいたい。
それに…
一つになっては恋焦がれる事も出来ないだろうに。触れ合う喜びも得られない。
――だめだ、と己に強く言い聞かせても、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)の足は、何かに急き立てられるように歩みを進めていた。
(「あぁ、一緒になんてだめだ」)
夜を迎えた館で、ふとした拍子に手を触れたステンドグラス。その煌めきに、瑞樹が目を奪われたと思った瞬間、周囲の景色は変わってしまっていて。
(「落ち着け。……ここには一人で来たんだ」)
やがて――昼間に思い起こしていた、嘗ての遊郭の姿をなぞらえるように、硝子越しの景色が万華鏡みたいに移り変わっていったのだ。
「相手は来ない、ここにはいない――」
言葉を舌に乗せて吐き出してみれば、ほんの僅かに理性が戻って来るような気がしたけれど。
(「本当に、そうかしら?」)
くすくすと、極彩色の世界で声がする。瑞樹の知らない『誰か』の声は、死の向こう側でひとつになれると囁いて、彼のこころを惑わしていく。
(「迷うことなどないのよ。恋が、戀になるのなら」)
(「縺れ、絡まった想いの糸を――ひと思いに断ち切るようにして」)
(「あなた自身を、殺せばいいの」)
四方から降り注ぐ声に、意識が引きずられそうになってしまうのを、瑞樹は薄手のストールをきつく握りしめることで耐えていた。屋敷を訪れた時のままの姿をしている彼を、女性だと思っているのかもしれないが――掛けられる声は、不思議と優しいような気がして戸惑ってしまう。
「……ああ。こんな独占欲に支配される、ぐらいなら」
ゆるゆると顔を上げれば、ステンドグラスの煌めきに混じって、刃物の光が見え隠れしていて。震える瑞樹の手は、それでも慣れた様子でナイフの柄を握りしめていた。
「自分を、殺してしまいたい」
――あぁ、そうだ。それなら出来る。だって、嘗てもそうやって自分を殺したじゃないか。
(「――……っ!」)
咄嗟に思い出した記憶は、狂気に呑まれそうになった瑞樹を押しとどめて、その心にいっときの冷静さを取り戻させる。
(「そう、だ……この心を殺すには、突くには胸じゃない」)
俯いた表情の下では、意志を取り戻した青の瞳が、真に殺すべきものを見極めており――躊躇なく振り下ろされたように見えた刃は、寸での所で急所を逸れて、艶やかな着物に深紅の花を散らしていた。
(「そして今じゃない、だけど」)
倒れ込むその姿を見届けた『誰か』の気配が、急速に遠ざかっていくなか、瑞樹は思う――今この時だけは、殺してしまったように忘れてしまいたい。
(「それに……一つになっては、恋焦がれる事も出来ないだろうに」)
――ああ。それでは、触れ合う喜びも得られはしないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ルーチェ・ムート
【蒼紅】
惑いの万華鏡
理性があるうちに紡ぐ歌詞
体を傷付ける事は出来ない紅鎖を具現化
そうだね、甘い秘め事を演出しよう
纏わり付く声
最初に対策をしておいて良かった
意識が引き摺られる
リオンは馴染みの客で
恋人が
―――そう、恋人が出来てしまう
キミが他の人を抱き締めて
やだ、
嫌だよ
胸が苦しくて痛くて
涙が止まらない
どうして
その腕はボクだけの
ボク以外に優しく触らないで
愛しげに見ないで
そんな甘い声を
耐えられない
いいよね?
互いの体を貫く紅鎖
キミとならどこまでも
蒼の炎に安心する
温もりに漸く戻った理性
鎖は見えているだけ
痛みも傷跡もない
それでも
リオンに包まれて終われるならいいと思った
ずっと傍にいる
いつかの誓いを永久に結ぶ
リオン・エストレア
【蒼紅】
そろそろ惑わせの時がやってくる
思いついた俺の案を耳元で囁く
せめて1度死ぬなら
少しくらい良い演出をしたいだろう?
朦朧とする意識の中
朧気な夢を見る
彼女に恋人が出来る夢
酷く暗く、酷く重い
直視できない
苦しい、辛い
考えただけでも…
こんなにも俺はお前を想っているのに
お前は何処か遠くを見て振り向きもしない
いつか俺は棄てられてしまう
そんな事になるくらいなら
貫く鎖を引き蒼い焔の中へ誘う
共に火葬され闇へと溶けよう
俺はずっとお前の傍に居る
お前もずっと俺の傍に…
俺達の死こそがその誓いを物語るのだから
だが
死霊への命令にてその焔に熱は無く
心中を演出するだけ
本当に彼女を傷つけたなら
それこそ俺は自分を焼き尽くすだろう
階下で靜かに時を刻み続ける、柱時計の音に耳を澄ませるリオン・エストレア(永遠に昏き”蒼”の残響・f19256)は、迫る刻限を前にちいさく深呼吸をしていた。
(「……そろそろか」)
――長針と短針が交わる真夜中に、きっと惑わせの時はやって来るのだろう。所在無さげに階段の手すりに身を預ける、ルーチェ・ムート(无色透鳴のラフォリア・f10134)の耳元へ、リオンがそっと何かを囁いたその時、午前零時を告げる鐘の音がホールに木霊する。
「時間が……」
お伽噺では魔法が解けてしまう時間だけれど、ふたりのお芝居はこれからが本番なのだ――昼間と同じように、ルーチェをエスコートしていくリオンは、身分違いの恋人たちを演じようと、高貴な笑みにほんの僅かな悲哀を滲ませて天を仰いだ。
「……せめて一度死ぬのなら、少しくらい良い演出をしたいだろう?」
「そうだね、甘い秘め事を演出しよう」
ふたりだけの内緒話を囁き合う間にも、広間を彩るステンドグラスのひとつが揺らめき、万華鏡のように色彩を変えていく。ああ、迷い路に引きずり込まれてしまうのだと――未だ理性があるうちに、ルーチェが紡いだ歌詞が紅の鎖を具現化して、ふたりを繋ぐ縁とした。
(「あ、――……意識、が……」)
硝子に映された過去――朧遊郭の光景に重なるようにして、三味線混じりの喧騒が押し寄せてくる。次第に意識が朦朧としていくなかで、鎖から伝わってくる互いの気配を手繰り寄せながら、ふたりはカレヰドの幻惑に向き合っていった。
(「――朧気な夢を見る」)
そうしてリオンが目にしたのは、ルーチェに恋人が出来る夢。酷く暗くて、酷く重い、彼にとっては直視できないもの。
(「苦しい、辛い。考えただけでも……」)
お芝居と現実が入れ替わり、リオンは立場のある主人になっていき、公の場でルーチェを恋人と呼べないもどかしさに苦悩する。
(「こんなにも、俺はお前を想っているのに」)
――だけど彼女は、何処か遠くを見て振り向きもしない。ああ、分かっていた筈じゃないか。彼女の目に本当に映るものは、自分ではない何かなのかも知れないのだと。
(「彼女を縛り付けることなど、してはいけない」)
でも――ほら、棄てられてしまっただろうと、リオンの心に囁く声は、一方のルーチェにも甘い毒を注ぎ込んでいた。
(「リオン、どこ……? ああ、リオンは馴染みの客で」)
うつくしい夜の蝶に変わったルーチェが向かう先、極彩色の花に祝福されたリオンが、彼女とは違う誰かに愛を囁いている。
(「恋人が―――そう、恋人が出来てしまう」)
リオンが他の人を抱き締めて、愛しげに見つめて――甘い声が自分とは違う名前を呼ぶのに、耐えられなかった。
「やだ、嫌だよ……!」
胸が苦しくて痛くて、涙が止まらない。どうしてと叫んでも、硝子の向こう側のリオンは気付いてくれない。
「……その腕は、ボクだけの。ボク以外に、優しく触らないで」
――だから、いいよね? と。そんなルーチェの問いかけに、紅の鎖がちりりと熱を持った。
(「ああ、そんな事になるくらいなら」)
刹那、背中を押すように震えた鎖が、互いの身体を一気に貫けば――紅を握りしめたリオンが微笑んで、蒼い焔の中にルーチェを誘う。
「共に火葬され、闇へと溶けよう――」
俺はずっとお前の傍に居るのだと、ルーチェの肌を焦がす焔は口づけのように熱くて、安らぎのなかで涙が溢れていった。
「うん、キミとならどこまでも……」
そう、俺達の死こそがその誓いを物語るのだから。そんな蒼紅の祝福を受けて、命を散らしていったかに思われたふたりであったが――温もりが伝う鎖を手繰り寄せていけば、漸く戻った理性が死を回避してくれたことを教えてくれた。
(「痛みも、痕跡もない」)
――ルーチェの生み出した紅鎖は、体を傷つけることを出来なくさせるもので。リオンが死霊に命じて放った焔もまた、心中を演出するものに過ぎなかったのだ。
(「それでも……」)
本当に彼女を傷つけたのなら、それこそ自分は自分自身を焼き尽くすだろうとリオンは思う。否――リオンに包まれて終われるならいいと思ったと、ルーチェは思う。
(「ずっと傍にいる」)
――いつかの誓いを永久に、結ぶ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と
仰々しいイブニングドレスにお別れして、純白のドレスを身にまとえば
禄郎と二人きり、ベッドの上にちょんと座って
ああ、あなたがいつもかっちり着込んでいた
その軍服を脱ぐってことは、なんてぼんやり思いながら
「当然よ……あなたの決意に敬意と感謝を、なんてね」
もう堅苦しい立ち居振る舞いはいらないわね
禄郎が軍人サンを辞めたなら、わたしも女王を捨てましょう
誰からも祝福されなくたって構わない
髪を結うリボンを解いて禄郎に託して、あとはされるがままよ
「お願い、もう絶対にわたしを離さないで」
これでわたしたち、ひとつになれるのね
さあ、さあ――死んでしまいましょう
ふふ、どこまでが演技か分かるかしらね?
氏家・禄郎
ネリー(f23814)と
喧騒の中、僕らはベッドの上で二人きり
白いドレス姿の彼女の前で
軍服を脱ぎ、シャツ姿で向き直る
「ネリー、ネリー……いいんだね」
もう女王と呼ばなくなっていた
女王と武官だった関係は最早男と女
けれど、これが許される世の中でもないことを知っている
……だから
「ちょっと痛いよ」
手に入れたナイフをスッと彼女の手首に入れて
自分にも傷を入れる
彼女のリボンで二人がかりで手首を縛れば
「もう、離れられない……離さない」
「生まれ変わっても一緒だよ、ネリー」
唇を重ね、死に全てを委ねる、残るのは繋いだ手の感触だけ
……実は、ただ軽く切って赤ワインぶちまけたのは内緒だよ
ああ、演技さ
彼女にかけた言葉以外はね
果たして何時から、恋人たちは朧遊郭へ迷い込んでいたのだろうか。想いが通じた喜びによって、色づいた世界は余りに綺麗で――とろりと潤んだミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)の瞳は、隣に座る氏家・禄郎(探偵屋・f22632)の凛々しい姿を、余すところ無く捉えようと熱を帯びていく。
「……ああ、ネリー」
『雪の女王』の異名を持つ、異国の女王陛下としてではなく、ただの女として自分の名を呼んでくれる禄郎が、愛しくて堪らなかった。
「ネリー……いいんだね」
普段は落ち着いた様子の彼が、縋るようにミネルバの名を繰り返すたび――彼女の冷徹な『女王』としてのこころは、淡雪のように溶けていってしまう。
「当然よ……」
それでも僅かな威厳を保ちながら、鷹揚に頷いたミネルバは、そっと寝台に手をついたまま禄郎の方へと向き直っていた。さっきまでのふたりとは違う、新たなふたりに生まれ変わる為に――既に仰々しいイブニングドレスに別れを告げたミネルバは、花嫁のような純白のドレスを身に纏っていて。
(「ああ、あなたも――」)
やがて――かっちりとした軍服を着込んだままだった禄郎の方も、意を決した様子で、その忠義の証である衣装を脱ぎ捨てていったのだった。
「あなたの決意に敬意と感謝を、なんてね」
「これで……もう、女王と武官だった関係は終わりだ」
堅苦しい立ち振る舞いも要らないわね、と頷いたミネルバの腕が、ゆっくりと禄郎に伸ばされていくなかで、ステンドグラスの向こうからは夜見世の喧騒が響いてくる。
(「最早、ただの男と女」)
禄郎が軍人を辞めたように、ミネルバも女王であることを捨てる覚悟でこうしている――そのことを、ふたりは決して後悔しないだろうけれど。
「……誰からも、祝福されなくたって構わないから」
そう囁いた姿がいじらしくて。同時に、それが許される世の中でないことも知っているから――禄郎はミネルバを強く抱きしめたまま、うわ言のように彼女の名前を呟いていた。
「……お願い、もう絶対に、」
その情熱的な抱擁に応えるようにして、ミネルバの手が己の髪を結うリボンをしゅるりと解いていけば、もう後はされるがままだ。
「わたしを、離さないで……」
「分かった、ちょっと痛いけれど――」
直後――寝台に忍ばせていたナイフを手にした禄郎は、すっと彼女の手首に刃を奔らせると、返す勢いで自分の肌も斬り裂いていた。
「もう、離れられない……離さない」
――そうして、ミネルバから受け取ったリボンで一緒に手首を縛っていけば、其処から溢れ出す紅の雫がふたりの姿を情熱的に彩っていく。
「これで……生まれ変わっても一緒だよ、ネリー」
「ええ、わたしたち、ひとつになれるのね」
秘めた想いを溶かすように唇を重ね合い、禁断の恋に溺れたふたりは死に全てを委ねていき――やがて繋いだ手の感触を惜しむように、甘い吐息が零れて赤の海に沈んでいった。
(「さあ、さあ――死んでしまいましょう」)
ふふ、と伏したまま悪戯っぽく微笑むミネルバは、どこまでが演技なのか分かるかしらと、試すように辺りの様子を窺っていて。血潮の代わりに赤ワインをぶちまけた禄郎もまた、そんな彼女に頷いて薄闇のなかでほくそ笑む。
(「ああ、演技さ。……彼女にかけた言葉以外はね」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
🌸宵戯
一緒に迷い込む
へぇ私を買ってくれるの?
旦那様とか言った方がいい?なんて
でも手を絡めて触れたってどこか空虚
どうやったら君が手に入るんだろう
そういえばなにかを手に入れようとしたことがない
こいびと、
ちがう
これは恋じゃない
恋なんかじゃない
認めたらきっとこの甘さが吐き出したい程苦くすらなる
こんなの知りたくない
甘い愛だけ頂戴
抜け出せないぐらいの愛を
あぁいやだ
独占欲なんか持ちたくない
どうせこの手から零れ落ちてしまうのに
持たぬようにと諦めてるのに
戀は毒林檎
齧ったらきっとこのこころを殺す
ねぇどうしたらいい
零れる前にこのままひとつになりたい
互いの首に手をかけて絞め合う
ねぇずっと私を見ていて
おねがいだよ
櫻宵
誘名・櫻宵
🌸宵戯
幻想遊郭を歩む
懐かしい
あの頃は私が花魁
ロキが馴染みで
あなたが私を買いに来た
今度は私が買ってあげようか?
そうだね
今はあなたの旦那様
絡めた指に触れる熱
虚ろなんて寂しいわ
私達は戀人なのだから求めてもいいんだよ?
私はここにいる
想い悩む様も可愛らしいこと
苦いものなどないわ
欲しいなら手を伸ばせばいい
貪婪に
貪慾に
甘いものだけたべて愛に浸って
零れ溢れる愛ならば幾らでも
でも
戀は喰らうものじゃない
あれは毒林檎
食べてはいけないよ、ロキ
そこには死しかない
そんな顔をしないでおくれ
頬を撫でて笑む
零れる前にすくいあげて
息が詰まるほどの愛を頂戴
首に手をかけ絞める
赫い桜を咲かせてあげる
噫、見ているよ
ロキ
ずっと
終わるまで
月夜に映し出されていくのは、ステンドグラスの向こうの朧遊郭――手を伸ばせば届きそうなのに、格子越しの光景も賑やかな喧騒も、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)にとっては、酷く遠い。
「あぁ、懐かしいわね」
極彩色の無限廻廊を並んで歩く、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)のほうは、楽しそうに歩みを進めているけれど――艶やかに笑う彼が手招く先に、待ち受けているのが何であるのか、確かめるのが怖くて眩暈がする。
「あの頃は私が花魁、ロキが馴染みで……。あなたが私を、買いに来た」
――そう、以前もこうして恋人ごっこをした。戯れのように愛を囁き、蜜のしたたる花を食んでは甘い夢に溺れていって。
「……今度は、私が買ってあげようか?」
「へぇ、私を買ってくれるの?」
旦那様とか言った方がいい? なんて――甘えるように櫻宵を見つめても、ロキのこころは震えていた。彼の咲かせる枝垂れ桜の薄紅が、うつくしいと思っているのに。綺麗だよと囁いて、退廃と享楽の果実を味わい尽くしたいと、そう思っているのに。
「そうだね……今はあなたの旦那様」
――絡めた指に伝わる熱は、火傷しそうなくらい熱かったのに、空虚なこころは変わらなかった。花冷えの気配に身体を震わせたロキの元へ、幻想の雪がちらついていく。
「……でも、櫻宵。どこか虚ろなんだ。どうやったら、君が手に入るんだろう」
「あら、虚ろなんて寂しいわ」
思い悩むその姿も可愛らしいのだと、嫣然と微笑みながら――私はここにいる、と櫻宵は囁く。
「私達は戀人なのだから、求めてもいいんだよ?」
「――……あぁ」
こいびと、と唇の紡いだその言葉は、櫻宵と自分のものとでは意味が違うのだ――そのことに気付いたロキは愕然として、駄々をこねるみたいにかぶりを振った。
(「そう言えば……なにかを手に入れようとしたことが、ない」)
ちがう、こいびと。櫻宵が言っているのは、恋ではなく戀で。いとしいとしと乞う気持ちを、抑えきれなくなってしまうような――そんな醜いこころを曝け出してまで自分を求めてしまえと、櫻宵は誘っているのだ。
(「これは恋じゃない、恋なんかじゃない」)
――髪を撫でる手も背筋を伝う指先も、先刻と変わらないのに。それを認めてしまったら、この甘さが吐き出したいほど苦いものに変わってしまうから。
「こんなの知りたくない……甘い愛だけ頂戴」
「苦いものなどないわ、ロキ。欲しいなら、手を伸ばせばいい――」
頬を撫でる櫻宵の指は、艶めかしい蛇にも似ていた。貪婪に、貪慾に――甘いものだけたべて愛に浸ってと、禁断の果実のもとへロキをそそのかす、誘惑の化身。
「頂戴、抜け出せないぐらいの愛を」
「ええ、零れ溢れる愛ならば幾らでも」
あぁ、いやだ――独占欲なんか持ちたくない。どうせこの手から零れ落ちてしまうのに、だからこそ持たぬようにと諦めてるのに。
「……でも、戀は喰らうものじゃない」
――だと言うのに。自分から誘っておいて、櫻宵はロキの耳元で、こんなことを最後に囁くのだ。
「あれは毒林檎。食べてはいけないよ、ロキ」
そこには死しかなくて、齧ったらきっとこのこころを殺すから――だけど、其れをとうに味わってしまった彼はもう、貪り尽くすことを止められはしない。
「ねぇ、どうしたらいい。零れる前にこのままひとつになりたい」
「……あぁ、そんな顔をしないでおくれ」
熱い吐息がかかるほどに顔を近づけた、ロキの指先が櫻宵の首を捉えて――絞める。その姿に苦痛より先に愛おしさがこみ上げて来て、櫻宵の方もうっとりと微笑んだまま、彼の首に手を掛けていた。
「だったら……零れる前にすくいあげて、息が詰まるほどの愛を頂戴」
――赫い桜を咲かせてあげる、と。そんな万華鏡のなかで繰り広げられる秘めやかな宵戯を見つめるのは、互いの瞳だけなのだから。
「ねぇずっと私を見ていて。おねがいだよ、櫻宵」
「噫、見ているよ、ロキ。……ずっと」
終わるまで――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フレズローゼ・クォレクロニカ
🐟🐰
戀は色彩万華鏡
こんな美しい人魚がいるなんて
こんな綺麗な人魚が生きてるなんて
感激と感動がやまないよ
何枚も絵を描いて
照れたように微笑むリルくんの可愛らしい姿が目に心に焼き付いて
それでもとまらぬのは求める心
もっと見せておくれよ!
いいな
いいな
ほしいな
この宝石が
綺麗な人魚
美しいあいが
戀が―ボクの初恋だった櫻はこの人魚の手の内
幸せ?
いいな
羨ましいな
ほしいな
でもね
今だけはわたしのもの
そして今を縫いとめたらずっとになる
リルくんごとあの櫻もわたしの
大鎌を振りかざす
リルくん!綺麗な剥製になっておくれ
残念
泡になっちゃった
綺麗な愛の欠片
大切に硝子瓶に閉じ込めて抱きしめる
極彩色に堕ちるこいに笑って
毒の絵具を煽る
リル・ルリ
🐟🐰
愛は世界に彩をつける
あいをしり僕の世界は極彩色へと変わったのだから
戀が咲いて散ってまるで桜のよう
褒めてくれるなんて嬉しいな
可愛らしいフレズの瞳にそう美しく映っている
でもこれは僕の美しさじゃない
愛のおかげ
愛をもらうと綺麗になれる
世界が歓迎してくれてるって思うんだ
単純だろ?
花は愛でられると美しく咲くんだ
幸せそうに微笑んで
それから彼女の言葉に口閉ざす
フレズの初恋は僕が貰ってしまったから
嗚呼
しあわせだとも
独占したい花は
もう独占してる
欲しいの?
ごめんね
大鎌かわしうつせみ歌って泡となる
この身ならあげる
でも―
戀は奪うものでも堕ちるものでもない
もっとしあわせなもの
極彩色に揺蕩う泡沫の中
静かに
瞳を閉じる
――愛は世界に彩をつけると、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は言った。そうして館の一室に生まれたアトリエでは、めくるめく美と愛をかたちにしようと、フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)が、尚も陶酔した表情でキャンバスに向かっていた。
(「ああ、こんな美しい人魚がいるなんて」)
陽が落ちて、辺りが夜の闇に包まれても――仄かな洋燈の灯りの元で微笑むリルは、新たな魅力をフレズローゼに教えてくれる。
(「こんな綺麗な人魚が、生きてるなんて」)
はらはらと何枚も、リルを描いた絵が床へ落ちていったけれど、それを拾う暇も惜しいと言うように筆を動かして。そんな感激と感動がやまない彼女に向けて、リルは笑みを絶やさずに――尾鰭をそっと震わせながら、あいを歌い続けていた。
「褒めてくれるなんて、嬉しいな」
「だって、本当にリルくんは可愛らしいから。もっと、ねぇもっと見せておくれよ!」
照れたようなその姿が、目に心に焼き付いて離れないけれど。フレズローゼの逸るこころは、もう彼を求めることを止められなかった。
「……可愛らしいフレズの瞳に、そう美しく映っているのなら。それは僕の美しさじゃない」
ぇ、と瞬きをする少女の瞼に、立ち上がったリルはゆっくり指を滑らせると――愛のおかげ、と囁いて月彩の瞳に秘密を溶かしていく。
「愛をもらうと綺麗になれる。……世界が歓迎してくれてるって、思うんだ」
「……あ、い?」
「単純だろ?」
絵筆を握りしめたまま、夢みるように小首を傾げるフレズローゼの姿だって、極彩色の世界がうつくしく彩ってくれているのだ。
「花は愛でられると、美しく咲くんだ」
だから――きっと、ふたりは気付かなかったのだろう。互いの瞳に揺れる、あやういまでの輝きを。
「いいな、いいな。……ほしいな」
愛のなかに紛れた戀が咲いて散っていく様もまた、色彩万華鏡が魅せた、うつくしい櫻のまぼろしで。
「この宝石が。綺麗な人魚」
――其処にフレズローゼが、初恋のひとの姿を見出してしまっても、おかしくはなかったのだろう。
「美しいあいが、戀が――……」
ああ――ボクの初恋だった櫻は、この人魚の手の内。ごっこ遊びなんかじゃなくて、本当に彼は手にしてしまったから。
「……ねぇ、幸せ?」
「嗚呼、しあわせだとも」
「いいな、羨ましいな」
ガタン、とイーゼルが倒れた音がしたけれど、もうフレズローゼは構わなかった。幸せそうに微笑むリルを組み敷いて、その美貌を真正面から捉えたまま、秘めた想いを吐き出していく。
「……でもね、今だけはわたしのもの。そして今を縫いとめたら、ずっとになる」
「ううん、独占したい花は、もう独占してる。それに――」
魔法のように現れた、フレズローゼの大鎌に動揺することも無く、ゆるゆるとかぶりを振ったリルは――変わらぬうつくしさを湛えたままで、愛をうたうのだ。
「フレズの初恋は、僕が貰ってしまったから」
「リルくん!」
――綺麗な剥製になっておくれ、と。時すらも断つ薔薇の大鎌が、リルの首を刎ねようと一閃すれば、うつせみの歌が響き渡って、直後にきれいな涙へ変わる。
(「ごめんね」)
(「リルくんごと、あの櫻も。わたしの……!」)
泡沫のように儚く消えていった人魚の輪郭をなぞるようにして、フレズローゼの指は綺麗な愛の欠片を拾い集め、大切に硝子瓶のなかへと閉じ込めていった。
「……残念、泡になっちゃった」
この身ならあげる、と最期にリルは言ったけれど――極彩色に堕ちたこいを思えば、引き攣れた笑みが零れてしまう。
「……ほしいな」
――やがて、フレズローゼも毒の絵具を煽って、静かに目を閉じていけば。
(「戀は奪うものでも、堕ちるものでもない」)
――極彩色に揺蕩う泡沫のなか、春蕩け硝子が奏でる、何処か哀しく澄んだ音色が聴こえたような気がした。
(「もっと、しあわせなもの」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
ああ、藤原様……藤原様……
どうして会いに来て下さらないの……
わたくしは貴方を想って胸が張り裂けそうなのにっ……!
(髪を振り乱し)
と、熱に浮かされたようにうわ言を呟きながら夜の館を彷徨います
無論演技ですが
これでステンドグラスの隠し通路に自然に迷い込めるでしょう
「死ねば……死ねばあの方は会いに来てくれるでしょうか?死したわたくしを納めた棺の前で、涙の一つも零してくれるかしら……」
「そう、今世で会いに来て頂けないなら来世で……冥土にてあの方が来るのを待つのです」
(毒の小瓶を煽る……ふりで、喉元に仕込んだ袋に落とし)
(ふふ
探偵として死体を検分したことはありますが、死体のふりをするのは初めてですわね)
「ああ、藤原様……藤原様……」
夜の闇に包まれた屋敷に響く、あえかな声――覚束ない足取りで、亡霊のように彷徨い歩く鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)の姿は、昼間の溌剌さを欠いていた。
「どうして会いに来て下さらないの……」
――恋は病、と言うものの。想い人に焦がれる余り、譫言を呟く今の彼女を見てしまえば、館のメイドなどは血相を変えて駆けつけてくることだろう。
「ああ、わたくしは――」
深雪を思わせる髪をおどろに振り乱す雪風の、はらはらと零れ落ちる涙が、緑葉に光るしずくのように煌めいている。
「わたくしは、貴方を想って胸が張り裂けそうなのにっ……!」
其れは正に、悲運の令嬢そのものであり――仮面を被ってその役柄を完璧に演じきっている雪風は、哀しみに濡れた瞳の奥で、冷静に辺りの様子を窺っていたのだった。
(「これで、恐らくは……向こうも動く筈」)
その彼女の読み通り、廊下を照らす幾つものステンドグラスのひとつが、不意に歪んでかたちを変えていく。万華鏡か、寄木細工か――機械仕掛けで入れ替わっていく花が、くるりと回転して現れた廊下は、もしかしたら遊郭の時代に使われたものの名残なのかも知れない。
(「……なるほど。密会用の仕掛け、と言った所でしょうか」)
――こうして人目を忍んで、密かに相手の元へと通ったものが居て。けれど叶わぬ想いが積もりに積もって、傷つき虐げられた者たちが影朧になったのか。
「死ねば……死ねばあの方は、会いに来てくれるでしょうか?」
ぽつり――暗闇の向こうへ問いかける雪風に、応えるように空気が震えれば。直後、眩暈を覚えるような春の嵐が吹き荒れて、彼女の髪を飾る桜の花びらを攫っていこうとする。
「ああ、死したわたくしを納めた棺の前で、涙の一つも零してくれるかしら……」
(「ええ、勿論よ。だから、怖がることなんかないの」)
ひととは違う声が、くすくすと手招きをしたその先に――極彩色のひかりに紛れるようにして、きらりと光るものを雪風は見つけた。
「……そう、今世で会いに来て頂けないなら来世で」
こころを惑わす声に流されないよう、意識を確りと保ちつつも。用意された毒の小瓶を一気に煽った雪風は、至福の表情を浮かべながら、ゆっくりとその場に崩れ落ちていったのだった。
「……冥土にてあの方が来るのを待つのです」
無論、本当に飲むことなどせず、喉元に仕込んだ袋に落としているのだが――まさか客自らが殺人を偽装するよう振る舞っているとは、向こうだって夢にも思わないだろう。
(「ふふ、探偵として死体を検分したことはありますが」)
――こうして死体のふりをするのは、初めてですわね。
大成功
🔵🔵🔵
ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と。
やっぱりあった、隠し通路。ステンドグラスに隠してあったとはな。
しかし、通路に入ったは良いけどここからどうするか…。
まぁ、何か賑やかそうな所行けば大丈夫だよな。
しかし、ステンドグラスに映るのは何なんだ。アイシャが居るってのはわかってるんだが、寄り添ってる奴は知らねえ。誰だ。
おいおい……俺以外の野郎とそんなくっつくんじゃねぇよ。寂しいだろ。
…一緒に死んでくれよ。そうするしか方法ねえよ。
毒を飲んで…か。それもいいな。
その瓶を受け取ろうとして、少し思う。今死ぬ必要あるか?
でも死ななきゃ、死ななきゃ駄目だ…死――
(ジノは眠りについた。一度だけ、眠る直前に聞いた言葉を反芻して)
アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調→華やぐ風
他の人と寄り添う姿を見て
悲しい気持ちになる
ねぇジノ、あの人誰?
今は恋人の演技中
尋ねてやきもち焼いたって不自然じゃないよね
すごく嫌
そんなに何度も見せないで
でも現実には私にそれを嫌と言う資格はない
いっそ消えてしまいたい
でもジノは一緒に死のうと言ってくれる
最後まで、優しいね
演技だってわかっていても、やきもち焼いてくれるの嬉しいよ
毒を一緒に飲もうと言い瓶を渡す
その手がふれて我に返る
なぜ死ぬ必要があるんだろう
こんなに近くに居るのに
ジノ、愛してるよ
と言って瓶を取り上げ
桜吹雪を起こしジノを眠らせ
私も近くに横たわり死んだフリをする
きっと桜吹雪に隠れて2人で毒を飲んだようにみえる
「……やっぱりあった」
館の者たちが寝静まり、辺りが奇妙な静寂に包まれた頃のこと――ジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)は、昼間目星を付けていた、廊下に並ぶステンドグラスのひとつと向き合っていた。
「隠し扉……ここの裏がそうなんだな」
硝子の枠を叩いてみれば、壁とは違う空洞があるのが伝わってきて。ジノーヴィーの肩に乗ったアイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)も、ちいさく息を呑んで色硝子の向こうに目を凝らす。
「ジノ、気をつけてね」
「ああ、神隠しの殺人事件……その真相に迫るとしよう」
――そうして、仄かな洋燈の灯りだけを頼りに、ステンドグラスに隠された仕掛けを探っていくと。花びらの部分の出っ張りに触れたジノーヴィーの前で、硝子の花のかたちが万華鏡のように移り変わっていった。
「……随分と凝ってるな。建築家の細工か?」
「分からない、けど……厭な感じがする」
くるりと回転した隠し扉の先は、館の内部である筈なのに、何故だか妙に息苦しい。欲望の入り混じった喧騒と人いきれ――甘い香や白粉のにおいに、目眩がしてくる。
「さてと、どうするか……まぁ、何か賑やかそうな所に行けば大丈夫だよな」
くせの強い髪を無造作に掻き上げつつ、ジノーヴィーは隣のアイシャにそう声を掛けたのだが――いつもなら直ぐに返ってくる微風みたいな声が、この時ばかりは聞こえてこなかった。
「……アイシャ?」
「ねぇジノ、」
何度か彼女の名前を呼んでみれば、ようやく暗闇の向こうから声がする。と――其処では、妖しく輝くステンドグラスの前に立ち尽くすアイシャが、肩を震わせ泣くのを必死に堪えていたのだった。
「あの人誰?」
「あの人、って……ステンドグラスの中か?」
彼女の目の前にあるステンドグラス――其処に映っている光景を目にしたジノーヴィーもまた、息を呑む。アイシャと居る筈の自分が其処には居らず、知らない誰かが隣に寄り添って微笑んでいる――。
「知らねえ、誰だ。おいおい……俺以外の野郎とそんなくっつくんじゃねぇよ」
寂しいだろ、と呼びかけるジノーヴィーにも、アイシャは無言でかぶりを振ることしか出来なかった。違う――アイシャが硝子越しに見ているのは、他の人と寄り添うジノーヴィーなのだ。
(「すごく嫌、そんなに何度も見せないで」)
――今は恋人の演技中。だから彼に尋ねてやきもちを焼いたって、何ら不自然ではない筈なのに。
(「悲しい気持ちが、溢れてくる。……なのに」)
現実の自分は、それを嫌と言う資格がないのだと気付いてしまえば、己の身勝手なこころに嫌気が差した。
「いっそ……消えてしまいたいのに」
「アイシャ、……なら、一緒に」
死んでくれよ、とジノーヴィーは言う。そうするしか方法はないと。だけど――ひとりじゃないと不器用に告げた彼が、最後まで優しかったからアイシャは微笑んでいた。
「ありがとう、ジノ。演技だってわかっていても、やきもち焼いてくれるの嬉しいよ」
やがて、アイシャは――死へ誘うように、妖しく輝いていた毒の小瓶を手に取ると、一緒に飲もうと告げてジノーヴィーと向き合う。
「毒を飲んで……か。それもいいな」
――その、手と手が触れた瞬間。ほんの一瞬我に返ったアイシャは、なぜ死ぬ必要があるんだろうと自問する。だって彼は、こんなにも近くに居るのに。
「でも死ななきゃ、死ななきゃ駄目だ……死――」
しかし、そんなうわ言のようなジノーヴィーの声が聴こえてくると、甘い夢に溺れていくのも悪くはないと思ってしまって。
「ジノ、愛してるよ――」
――毒の小瓶を手にしたまま、アイシャが生み出していくのは、甘いあまい花吹雪。そうして花びらに包まれて横たわってしまえば、ふたり一緒に毒を飲んで、眠るように死んでいったようにみえるだろう。
(「アイ、シャ……?」)
眠る直前、ジノーヴィーが聞いた彼女の言葉も――そんな甘い夢の、悪戯にしてしまえるから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リウォ・ジルイ
【藤結】
気づいた時には手遅れで
つないでいた手は空を切り
いつの間にか一人きり
千夜子の姿を探す
知らない男と睦まじくしている彼女とすれ違う
予想していたはずなのに感情の乱れに翻弄される
待て
理性に命令させる
千夜子は遊郭の女ではない
経歴を俺は知っているはずだ
現役時代には物の怪や祟りと相対して来た
この幻覚も同類だ
感情の乱れは治らないが
身体のコントロールだけは取り戻す
千夜子と再会したら
衝動を抑えつつ
耳許で囁く
俺たちは最初から演技していたはずだ
これが芝居だと忘れるな
彼女の理性を信頼して
その手にかかる
苦痛を感じるが意識が途切れるほどではない
倒れて死んだフリをする
さて敵はどいつだ?
薄荷・千夜子
【藤結】
繋がれていたはずの手が気付けば一人
目に映るのは女学生に囲まれている彼の姿や、年の近い女性と寄り添う姿
彼に惹かれる女学生がいてもおかしくありません
年の離れた自分より近い方の方が話が合うのでは?
えぇ、でも…他の方に渡すわけにはいきませんよね?
そんな黒い感情とともにそっと藤の髪飾り『藤巡華簪』を髪から抜いてリウォさんを探します
リウォさん!
見つけたら駆け寄り彼の囁きに頷いて
藤の花言葉「決して離れない」もあるのですよ
貴方は誰にも渡しません
そう言って髪飾りから伸びる藤の花をロープのように使い絞め殺す
藤の花で首の間に作る隙間は見えないように
倒れたリウォさんを見て自身は用意された毒杯で後追い【毒耐性】
ふたりきりで食事をして、屋敷の広間でダンスを踊って。教師と生徒、禁断の恋を演じていたリウォ・ジルイ(The Wall・f17183)たちは、藤の花言葉の通り――恋に酔っていたのだろう。
「……?」
部屋へと戻る廊下を歩いていたその時、ひかりの加減の所為か眩暈がしたような気がして、ふとリウォが足を止めてみれば。
「千夜、子?」
繋いでいた筈の手が虚しく空を切り、彼は薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)と離れ離れになってしまっていたのだった。
(「……おかしい。気配が、妙だ」)
深紅の絨毯が広がる廊下は、先ほどよりも闇が濃くなっている気がしたし――等間隔にひかりを投げかけるテンドグラスも、妖しい輝きのなかに良からぬものを秘めて、リウォのこころを惑わそうとしているかのようだ。
(「どこではぐれた? 彼女は何処に――」)
きっと、千夜子の方だって突然一人きりになって、心細い思いをしているに違いない。そう思ったリウォは元来た通路を振り返って、彼女の姿を探すことにしたのだが。
「あ、千夜……」
直後――極彩色のひかりを浴びて艶やかに、大人びた表情で微笑む千夜子とすれ違い、思いもよらない感情の乱れに翻弄されてしまう。
(「待て、これは予想していた筈だ」)
――別人格を呼び起こし、己の姿を俯瞰するようにして理性を取り戻そうとするものの、リウォの胸に広がった厭な感覚は消えてくれない。
(「千夜子は、遊郭の女ではない」)
そのことは紛れもない事実だと言うのに、この場所に立っているとどんどん現実感が無くなっていく。知らない男と一緒に居る彼女が、その髪で揺れる藤の花飾りが――リウォを酔わせて、おかしくさせていく。
(「そうだ……現役時代には、物の怪や祟りと相対して来た」)
エージェントとして怪異と向き合っていた頃だって、正気を削られることなど幾らでもあった。この幻覚も同類なのだと己に言い聞かせて、どうにか身体のコントロールだけは取り戻したリウォだったが――同じ頃に千夜子の方も、彼の幻影に悩まされていたらしい。
「え、リウォ……さん?」
――彼女の目に映るのは、大勢の女学生に囲まれたリウォの姿で。そればかりか、年の近い女性までもが彼に寄り添う光景に、千夜子の胸が引き裂かれそうな痛みを訴えてくる。
「そう、ですよね……彼に惹かれる生徒がいても、おかしくないですし……」
それに、やっぱり――年の離れた自分よりも、もっと大人の女性の方が、リウォにはお似合いなのかも知れなくて。
「えぇ、でも……でも、やっぱり、」
溌剌とした表情で笑みを作って、物分かりの良い女性を演じようとしても、黒い感情が溢れていくのを止められなかった。そうして、そっと藤の髪飾りに手を伸ばした千夜子は、視線の先にリウォの姿を認めると――一直線に、彼の元へと駆け寄っていく。
「……他の方に渡すわけにはいきませんよね? リウォさん」
「千夜子……!」
――衝動を必死に抑えるリウォの方も、其処で千夜子の異変に気付いたらしい。影朧の起こす惨劇から逃れようと、彼が千夜子の耳元にそっと囁けば。
(「俺たちは、最初から演技していたはずだ。これが芝居だと忘れるな」)
――無言で頷いた千夜子の方も、藤巡華簪の蔓を伸ばして、リウォの首を一気に締め上げていったのだった。
「藤の花言葉には、『決して離れない』もあるのですよ――」
貴方は誰にも渡しません、と。きっぱりと告げる千夜子の瞳には、理性の輝きが戻っており――そのまま彼女は、上手く藤の花に隙間を生み出してリウォを無力化し、自身も毒杯をあおって崩れ落ちていく。
――嗚呼、人外を相手にするよりも厄介なものだと溜息を吐きながら、リウォはこれから姿を現すであろう影朧の気配を、意識を研ぎ澄ませながら探っていた。
(「……さて、敵はどいつだ?」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
あれ、ティル(f07995)
どこにいっちゃったんだろう
『お嬢様』が名家のご子息と話されている
はにかんで手を取る姿
夢から覚めたのかもしれない
わたしがただ、一番近しい男性だっただけで
苦しい
なによりもお嬢様の幸せを願う心は
確かにあるはずなのに
見ていられない
こんなことではお傍にいられない
気づけば目の前にお嬢様が
あんな顔を見た後ではもう名前を呼べなかった
浮かない顔ですね
お嬢様の好きな紅茶を淹れましょうか
彼の前ではあんなに嬉しそうだったのに
やはり、わたしでは駄目だということなのだろう
望まれるまま蜂蜜を落とす
どうぞ
倒れるあなたの手を握る
どうして
わたしも共に
飲みかけの紅茶を呷る
苦しむふりで
ハンカチに吐き毒耐性
ティル・レーヴェ
オズ殿(f01136)?
探せど彼は居ない
ひとりの瞳に映るのは
愛しい彼が
彼と同じ年頃の女性に添う姿
あゝあんな顔
私は知らない
あゝあんなに頬を寄せて
やめて
やめて
貴方の空に私以外を映さないで
揺れる心に囁きが聞こえる
死が永遠と言うのなら
彼が私だけを見てくれるなら――
現れた小瓶を手に取った
甘い甘い毒の
気付けば彼が傍にいる
常の微笑みを浮かべて
さっき見せた其れとは違う
名前も呼んでくれないのね
ええ、お願い
少しね、疲れちゃったの
ねぇオズ
この小瓶の蜂蜜を入れてくれる?
そう
永遠となれるなら
貴方の手でと願ったの
これで貴方は私を忘れない
演じ乍らも『己』を失わぬ様心は強く
小瓶の毒は摩り替え
無理なら毒使いの技で薄め耐性で抵抗
素敵だね、とふたりで笑い合った世界は、闇のなかでも月の光を弾いて、きらきらとうつくしく輝いていた――その筈、だったのに。
「……あれ、ティル」
オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が、ふと目を離してしまった瞬間に、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)の姿は合わせ鏡の向こうに揺らめき、小鳥のように見えなくなってしまう。
「どこに、いっちゃったんだろう」
ティルの色彩をわずかに残した、ステンドグラスの欠片にそっと指を滑らせてみれば――オズの瞳のなかで、ぱっと彼女の笑顔が花咲き、直ぐに消えた。
「……あ、『お嬢様』……」
――そう言えば、お芝居を続けていたんだと思い出し、ティルのことを呼び直したオズだったけれど。高貴な笑みを浮かべた彼女は、オズではない誰かと楽しそうに話していて、此方の方を見てはくれない。
(「誰なんだろう。名家のご子息……?」)
それが誰にせよ、執事に過ぎない自分よりも相応しいのは確かであり――ティルがはにかんで『誰か』の手を取る姿を認めてしまえば、目を背けていた現実に、世界が色彩を失っていった。
(「ああ……夢から、覚めたのかもしれない」)
――わたしがただ、一番近しい男性だっただけ。ふたり一緒に、未だ見ぬ恋に胸をときめかせていただけ。なのに、どうして。
「……苦しい」
なによりも、彼女の――お嬢様の幸せを願う心は確かにあるはずなのに、見ていられないと思ってしまう自分のこころが恨めしい。
(「こんなことではお傍にいられない」)
血も涙も流せない人形であるオズだけど、その相貌は確かに涙で濡れているようにも見えてしまって――そんな極彩色の世界ではティルもまた、迷子のような瞳を瞬きさせて、泣くのを必死に堪えていたのだった。
「……オズ。どうして」
――ひとりきりで彷徨っていた、彼女の瞳に映し出されるのは、愛しい彼が同じ年頃の女性に添う姿。
(「あゝあんな顔、私は知らない」)
――其処には執事としての顔ではなく、ちょっぴり幼さを滲ませながら、無邪気に微笑むオズが居て。
(「あゝあんなに頬を寄せて」)
令嬢であるティルに対して、触れるのを許された境界線を易々と越えて――オズは見知らぬ女性に愛を囁き、幸せそうに手を伸ばしている。
(「やめて、やめて」)
――ああ、其の空色は今、どんな色を映しているの?
(「貴方の空に、私以外を映さないで」)
いつしかティルの揺れる心に忍び寄っていった気配は、死が永遠なのだと囁いて彼女を誘う。
(「そうね、彼が私だけを見てくれるなら――」)
極彩色の煌めきが集まってかたちを取った小瓶を手にしても、特に驚くことはしなかった。これは甘い甘い毒なのだと理解したティルは、気付けば隣に立っていたオズに、形式だけの会釈をしていた。
「……、……その、」
(「名前も呼んでくれないのね」)
――さっき見せた其れとは違う、執事としての完璧な笑み。しかしオズの方も、先ほどのティルの微笑みがちらついて、彼女の名を口にすることが出来なかったのだ。
「浮かない顔ですね、お嬢様の好きな紅茶を淹れましょうか」
「ええ、お願い。……少しね、疲れちゃったの」
互いの想いがすれ違ったまま、上辺だけの会話を続けながら。やがて小瓶を手にしたティルは、其れをそっとオズに握らせて、総てを終わりにしようと力無く微笑んでいた。
「ねぇオズ、この小瓶の蜂蜜を入れてくれる?」
――ああ、お嬢様。彼の前ではあんなに嬉しそうだったのに。
「……どうぞ」
――やはり、わたしでは駄目だということなのだろう。
ぽとり落とされていく甘い蜜を、ぼんやりと見つめながら――ふたりは同時に紅茶のカップを手にして、そっと一口啜っていく。
「そう、永遠となれるなら」
――がしゃりと陶器のカップが割れる音と共に、その場に崩れ落ちたのはティルだった。どうしてと呻くオズもまた、ハンカチを取り出し咳き込んでいく傍らで、陶然とした表情のまま彼女は言う。
「貴方の手でと、願ったの」
けれど、惑いながらも『己』を失わずにいたふたりは、影で毒を摩り替え上手く吐き出し、訪れる死を回避していたのだった。
「……これで貴方は、私を忘れない」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
【五万円】
極彩の煌めきが幻想と現実の境目を溶かしていく
『愛』なんて不確なものは、俺にはよく分からない。
映る景色を見る度に、知らぬ感情が胸の内を満たして変にざわつく
不安、焦燥、悲哀、嫉妬
そんな感情が沸き起こる事に戸惑う
……ハハ、なんだこれ…。
この感情が『愛』から来るものなら
酷く『苦しい』ものだった
執着心から真へ手を伸ばし、掴んだ腕ごと引き倒す
女の演技も忘れてただ惑わされるまま
…なぁ、俺と一緒に死んでみる?
一緒に死んでと希う俺は、きっと酷い顔をしているに違いない
毒に侵された身体は力なく突っ伏し息も絶え絶え
はは…本当、かよ…。
細い声。薄れる意識の中、苦痛に歪んだ顔で笑う
聞こえた言葉にどこか安堵した
久澄・真
【五万円】
詭弁でも何でもない
単なる事実として「愛」なんて知らない
客観視は得意だ
俺は生まれた頃から人としての感情の大部分が欠落している
強制的に愛の機微与えられている今でさえ
面倒で非効率的だと結論付け
けれど不思議なもので
引き倒され仰ぎ見た連れの表情を見れば
ああ、殺されるのも悪くは無い なんて
けど、受け身は好きじゃねぇ
道具の中から取るフリですり替えた毒仕込みの煙草
見下ろす顔に手伸ばし引き寄せ
吸って顔面へと吐き出した毒煙
こいつの歪んだ表情を見るのは何度目か
霞み始める思考の端でくつり笑む
熱烈なお誘いにご褒美だ
死んでやるよ、一緒にな
解毒薬仕込んだ死霊蛇竜の牙
頃合い見計らってどちらにも噛み付くよう
事前に指示
昼とも夜とも知れぬ薄い闇が、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)と久澄・真(○●○・f13102)の間に横たわり、流れる時間までもが微睡んでいくと。
(「……満足するまで付き合ってやる、か」)
――微かに聴こえてきた喧騒には、男女の戯れのものも紛れているのだろう。極彩色の煌めきが、幻想と現実の境目を溶かしていくなかで、ジェイの唇が何かを囁くように震えて、喘ぐ。
(「が――『愛』なんて不確かなものは、俺にはよく分からない」)
其れは、目の前に居る真だって似たようなものであり――否、彼の方は詭弁でも何でもなく、単なる事実として『愛』を知らないのだと言う。
(「客観視は得意だ、だから」)
生まれた頃から人としての感情、その大部分が欠落しているのだ、と。こうして強制的に、愛の機微を与えられている今でさえも、真は嘲笑うように口の端を歪めて、こう結論づけてしまうのだ。
(「面倒で、非効率的だ」)
「……ハハ、ッ」
――だったら、ステンドグラスに映る景色を見る度に、こうして心をざわつかせてしまうジェイは、何だと言うのだ。
(「不安、焦燥、悲哀、嫉妬――……」)
知らぬ感情が溢れて、胸の内を満たして――けれどその一つ一つに戸惑いながら、沸き起こる想いを必死で受け止めているジェイの姿も、彼はくだらないと言って嗤うのか。
「……ハハ、なんだこれ……」
一緒に嗤えれば良かったのに、同じものを彼と同じように受け止められないことが、何故こんなにも悔しくて――真を遠くに、感じてしまうのか。
「この感情が『愛』から来るものなら――」
ああ――それは酷く『苦しい』ものだったと、ジェイは女の演技をするのも忘れて、無我夢中で真に向かって手を伸ばしていた。
「……なぁ、」
執着心の赴くまま、ただ惑わされるがままに、掴んだ腕ごと引き倒す。きっと酷い顔をしているに違いなかったが、そんなジェイを仰ぎ見る真の様子が、どうしてか優しく思えてぞくりとした。
「俺と一緒に死んでみる?」
死をこいねがうジェイの、そのひたむきな姿を見れば――ああ、殺されるのも悪くは無い、なんて。そんな風に思えるのだから、本当に愛と言うものは理解し難い。
「……けど、受け身は好きじゃねぇ」
直後、そろりと伸ばした手のなかで、こっそり毒仕込みの煙草をすり替えてから――真はジェイの顔を引き寄せ、その顔面目掛けてふっと毒煙を吐き出していたのだった。
「熱烈なお誘いにご褒美だ。死んでやるよ、一緒にな」
「はは……本当、かよ……」
――毒に侵されていくジェイの身体が、やがて力無く突っ伏して荒い息を吐き出していけば。真の方も、霞み始めた思考の端でくつりと微笑んでから、呼び出した死霊蛇竜を肌に這わせつつ瞼を閉じていった。
(「全く、こいつの歪んだ表情を見るのは何度目か」)
ああ、頃合いを見計らって、解毒薬を仕込んだ蛇の牙がふたりへ噛みつくよう命じてあるから。苦痛に歪んだ貌で、それでも安堵したように微笑むジェイの唇をそっと指でなぞり――真もまた仮初の死に、落ちていくのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七那原・望
えくるん(f07720)と参加
事前に【Laminas pro vobis】で防御力重視の上、【全力魔法】で毒を始めとする各種死因に対応した耐性を付与した礼服、或いは下着をえくるんの分も含めて用意しておき、着用。
また、アマービレでねこさんを呼んでおき、いざという時の回復をお願いします。
エクル様、お茶にしませんか?とても良い茶葉を頂いたのです。
淹れた紅茶はどちらのものも毒入り。
例え人生の全てを捧げたとしてもどちらかの最期は孤独。
でもこれなら最期も、天国でも、来世でも、ずっと貴方の側にいられるのです。
エクル様と一緒に紅茶を飲んだら、そのまま薄れる意識に全て委ねましょう。
貴方を愛しています。エクル様。
七那原・エクル
七那原・望(f04836)
事前にユーベルコードで医術に長けた小さな白銀ドラゴンさん達を喚んでおいて。ボクらに異常があったときに速やかに救助活動を行い解毒処置をしてもらうよ
いまのこの幸せな一時が永遠にとどめておきたい。このさき辛いことがたくさん起きてボクと望の仲が裂かれてしまうかもしれないし。ずっといられる保証もない。死んでしまえばこの瞬間は永遠のものになる。なんて思いつつ用意された紅茶にお砂糖を入れるフリをしつつ隙をみて毒を投入します。
望とはさ…本当の意味でずっと寄り添うことはできないよね…いつかは寿命が尽きて塵になって…サヨナラ。そんな悲しい結末が待っているのならいっそのこと…
(「わたしは望む……」)
赤く輝く水晶より生まれた、祈りを籠めし礼装を身に纏い、七那原・望(封印されし果実・f04836)がステンドグラスの廻廊にふわりと舞い降りていく。
「エクル様、どうぞこちらに」
そうして鈴のついたタクトを優雅に振って、友達のねこさんと一緒に恋人を出迎えれば、七那原・エクル(ツインズキャスト・f07720)がきょろきょろと、何処か落ち着かない素振りで望の方へとやって来たのだった。
「望、その……僕は」
「まずは、お茶にしませんか? とても良い茶葉を頂いたのです」
――白銀の竜たちを従えたエクルは、惑わしのステンドグラスのひかりの中に、望のまぼろしを幾つも見てきたのだろう。戸惑うように揺れる彼の瞳は、信じていた筈の永遠を見失って、今この瞬間をとどめておきたいと妖しい熱を帯びていた。
「……うん、この一時が幸せなら」
それを切り取って、永遠のものにしてしまえばいい――この先に辛いことがたくさん起きて、エクルと望の仲が引き裂かれてしまうかも知れないし、ふたりがずっと一緒に居られる保証だってないのだ。
「だって、望とはさ……本当の意味で、ずっと寄り添うことはできないよね……」
生まれた世界も、種族も違うふたりだ。いつものエクルだったら、そんなことは気にも留めなかっただろうけど、知らない誰かと寄り添う望の姿を見てしまえば、不安な気持ちがとめどなく襲ってくる。
「いつかは寿命が尽きて、塵になって……サヨナラだ」
かちゃり、と――紅茶を淹れる望の指先が、微かに震えていたことにも気づかないまま、ふたりのこころはすれ違い、綺麗な終わりを求めて極彩色の世界を彷徨っていくのだった。
(「そう……例え人生の全てを捧げたとしても、どちらかの最期は孤独」)
目隠しの先で、一体エクルがどんな表情をしているのか――見えなくて良かった、と言うように望はかぶりを振る。それでも、平静を装って淹れた紅茶はどちらのものにも毒を入れて、望は真夜中のティータイムにエクルを誘っていった。
「さぁ、どうぞ、エクル様」
「ああ……ありがとう、望」
――冷えた身体をじんわりと温めてくれる紅茶を、ふたり一緒に味わいながら。吐き出した吐息が混じり合い、やがて甘いかおりが覚めない眠りを運んで来てくれる。
「……死んでしまえば、この瞬間は永遠のものになる」
紅茶に砂糖を加えるように、更にエクルが毒を混ぜて死を深めていけば――望も静かに微笑みながら、彼の加えた毒を啜って、嬉しそうに空を仰いだ。
「でも、これなら。最期も、天国でも、来世でも……ずっと貴方の側にいられるのですね」
そう、ふたり離れ離れになってしまう――そんな悲しい結末が待っているのなら、いっそのこと。そうしてエクルに折り重なるようにして倒れていった望は、薄れゆく意識のなかで最後の台詞を口にする。
「貴方を愛しています。エクル様……」
――うつくしい心中物語は、これでおしまい。後はふたりを護る礼装と白銀竜たちが、何事も無かったかのように体内の毒を浄化してくれることだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花川・小町
【花守】
恋しい姿を見失い、また独り――廓の籠に舞い戻ったよう
どこにいるのと彷徨う程に、貴方が遠ざかる錯覚
婚約者と微笑み合う姿がちらついて――おかしくなってしまいそう
(此は芝居と解っているのに、酷く心が酔っていく――)
格子に閉ざされた私の手は届かない
嫌よ、嫌
すがる様に伸ばした手が掴んだのは――彼ではなく、一つの小瓶
嗚呼、此を彼と分かち合えたなら――
そう思った瞬間に現れた貴方
駆け寄れば自ずと心は同じと解って、微笑み
もう離さない、離れないで
指切りしながら一息に毒煽り、共に夢の淵へ
(此は演技――けれど全てが偽りでもなく、籠の鳥であったのは本当
私は元々、儚く散った廓の娘の鏡写しで――嗚呼、なんて茶番劇)
佳月・清宵
【花守】
隣に在った温もりと引き離され、代わりに見えるは夢か現か――煌びやかなれど、酷く虚しく映る廓の光景
幾ら探せどあの花の笑みは見つからず――遂には見知らぬ富豪と寄り添う幻が過る
(芝居の続きだというのに、悪酔いの様な酷い感覚――)
誰にも渡しはしない――狂おしくてならない
幻を振り払う様に駆ければ、か細く響く声
聞き間違い様もない――漸くまた巡り逢えた
握る小瓶は、そういうものか――もう独り苦しみを味わわせたりはしない
何処までも共にと指絡め、何もかも分かち合い――誰にも邪魔されぬ所まで、二人きりで
(共に毒は耐性で殺せども――酷く頭が痛むのは、嘗ての何かが過るからか
さて、互いに誰と重ねているのか――)
――夢幻の輝きに彩られた世界は、瞬きをする度にかたちを変えて、花川・小町(花遊・f03026)を誘うように揺れていったけれど。
(「嗚呼、恋しい姿を見失い、また独り――」)
先ほどまで共に過ごしていた筈の、佳月・清宵(霞・f14015)の姿は其処に無く、戯れで耽っていた恋遊びにさえ、彼女のこころは初心な少女のように翻弄されてしまう。
(「廓の籠に、舞い戻ったよう」)
万華鏡のステンドグラスは煌びやかに見えて、その実何処へも行くことが出来ない、閉ざされた世界だ。鏡合わせの廻廊を彷徨ってみても、出口は無く――どこにいるのと手を伸ばすほどに、清宵の姿は無数の欠片に変わって、小町の元から遠ざかっていく。
(「……此れは芝居であると、解っているのに」)
――居る筈のない婚約者と微笑み合う、清宵の姿がちらついておかしくなる。どろどろと濁った情念が小町の肺を満たして、身体の隅々にまで行き渡っていけば、甘い破滅への誘いにじぃんと脳が痺れていった。
(「酷く心が酔っていく――」)
格子に閉ざされた見世のなかから、愛しいひとを求めて手を伸ばすのに、届かぬ溜息はきらきらと辺りに散って、蒔絵のように辺りの景色を彩っていくばかり。
(「嫌よ、嫌」)
やがて、すがる様に伸ばした手が掴んだのは――彼ではなく、一つの小瓶で。嗚呼、と小町が救いの其れを眺めてうっとりと微笑んだ時、清宵の方も漸く夢うつつの世界から、彼女を見つけて安堵したようだった。
(「……煌びやかなれど、酷く虚しく映る廓の光景」)
隣に在った温もりと引き離されて、夢とも現とも知れぬ世界を彷徨う彼も、愛しいひとの幻影に惑い、熱に浮かされたような貌をしていて。
(「幾ら探せど、あの花の笑みは見つからず――」)
――硝子に時折過ぎる小町の姿は、尚も清宵のこころを激しく燃え上がらせていくのに。芝居の続きを演じているだけだと言うのに、悪酔いの様な酷い感覚が清宵の足取りを鈍らせて、くらくらと眩暈までしてくる。
(「嗚呼、誰にも渡しはしない」)
遂には、見知らぬ富豪と寄り添う彼女のまぼろしが過ぎった所で、清宵の狂おしい想いは一気に溢れ出していった。幻影を振り払うようにして駆け出せば、か細く響いてくる声は――ああ。
(「聞き間違い様もない――漸くまた巡り逢えた」)
再び巡り合った相手の心は同じであると、自ずと理解できたから、自然と笑みが浮かぶ。握りしめた小瓶の意図も分かったうえで、清宵は小町と指を絡め合い、何処までも共に逝こうと指切りをした。
「もう独り、苦しみを味わわせたりはしない」
「もう離さない、離れないで……」
何もかも分かち合い――誰にも邪魔されぬ所まで、二人きりで。そうして一気に小瓶の毒を煽ったふたりは、共に夢の淵へ旅立つべく、ゆっくりと身体の力を抜いて極彩色の世界に沈んでいく。
――此は演技で、共に毒は耐性で凌いでいるものの。酷く頭が痛むのは、その全てが偽りでは無く、嘗ての何かが過ぎるからだろうか。
(「籠の鳥であったのは本当で。私は元々、儚く散った廓の娘の鏡写しで――」)
さて、互いに誰と重ねているのやら――そんな清宵の呟きが聞こえてきたような気がして、小町はふっと、自嘲気味に溜息を漏らした。
(「――嗚呼、なんて茶番劇」)
大成功
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華折・黒羽
目を逸らさない
それが幻だとしても
自分の心から目を背ける事は
もうしない
知らぬ人と手を取り合う姿
嗚呼そうだ
あなたにはそういう道も在ったのかもしれない
ひとりの女性として
ひとつきりの恋をして幸福になる
湧き上がる感情が嫉妬と独占欲だと
恋心を受け止めた今なら解る
振り向いたあなたが共にと誘う甘言にも
恐れず身を委ねられる
大丈夫
俺はあなたを
そして俺を信じてくれている大切な人達を
信じてる
道は違えないさ
泣き虫くろばからは
いい加減卒業しないとな
氷の桜花弁に急速に冷やされる空気
手に取った小刀は迷い無く己の心臓へ
倒れ伏す時間がどこかゆっくりと感じられた
目には目を歯には歯を
幻には、幻を
─蜃気楼という現象を、知っていますか?
目を逸らさない、と華折・黒羽(掬折・f10471)は強く思う。例えそれが幻だとしても、未だ『お芝居』の続きを演じるにしても――彼は前に進む為に、此処へ来たのだから。
(「自分の心から目を背ける事は、もうしない」)
極彩色の煌めきが黒羽を誘い、そのこころを惑わそうと妖しく揺らめいていたが、其れも彼にとっては馴染みのある光景だったのかも知れない。
(「嗚呼、そうだ」)
――見失った幸いを探してひとり彷徨い歩く、昏い昏い道があったのは確かだから。漆黒の毛並みを震わせて、けものと人間の狭間で揺れ動きながら、自分にとっての唯一を求め続けていた、その過去は変わらないのだから。
(「あなたには――」)
――夢幻のカレヰドを覗き込めば、黒羽の前には知らぬ人と手を取り合う、大切なひとの姿があって。
(「そういう道も、在ったのかもしれない」)
ひとりの女性として、ひとつきりの恋をして幸福になる――そんな、ごく当たり前の幸せを掴んだ彼女の道が、黒羽の進む道とは決して交わらない現実に、抑えきれない程のどす黒い感情が湧き上がっていく。
(「……だが、今なら解る」)
彼女に抱いた想いが、恋と呼べるものであり。故に今の感情は、嫉妬と独占欲の顕れであることを確かに受け止めた黒羽は、逃げ出したりなどしなかった。
「大丈夫」
振り向いた『あなた』が笑顔で笑って、共に死のうと囁いても。その甘言に惑わされること無く、恐れずに身を委ねることが出来るから。
「俺は、あなたを、」
そして――自分を信じてくれている、大切な人達を。
「……信じてる。道は違えないさ」
追憶の彼方で舞う桜の花びらが、はらはらと雨のように降り注いでいくなかで、いつかの夢もまた花開いていく。
「泣き虫くろばからは、いい加減卒業しないとな」
其処へふと――紛れ込んだ氷の花びらが、辺りの空気を急速に冷やしていけば。桜隠しの六花に導かれるようにして、黒羽の手に握られた小刀が翻り、迷い無く己の心臓目掛けて吸い込まれていった。
(「目には目を、歯には歯を」)
倒れ伏す時間を、どこかゆっくりと感じていきながらも――黒羽の口もとが不意に笑みを形づくって、極彩色の世界に溶けていく。
(「……幻には、幻を」)
ああ、何処からがうつつで、どこからがゆめであったのかも分からぬまま、彼は言う。
「――蜃気楼という現象を、知っていますか?」
大成功
🔵🔵🔵
東雲・咲夜
此命奪うは愛する『貴方』?戀した『あなた』?
時に焦がれ燻るは胸中に咲く炎之華
ゆぅらり…かたち定まらぬ熱情の揺らぎ
ええ、此がわたし
やわい貌彩に秘蜜をひと匙、甘ぁくとかして
博愛の水面化には熾烈とも呼べる蒼い炎海
なれば、此身ごと燃やしてしまいませう
瞬きすら惜しむ一刻
指先撫ぜる陽の耀が轟轟と呻りわたしを包む
あつい、くるしい…――
酸素を求めひずんだ桜唇
虚空をもがく櫻爪
溢れた泪が頬を伝う事無く昇華され
漸く訪れる散華のとき
神々と交わした契りが
己への傷ひとつ赦してはくれないけれど
噫、此の儘灰となれたのなら
其はなんて…素敵なことかしら
陽が昇り、月が沈む此の世界
穹と云う名のわたしは
愛に生き、戀に散るのだから…
ああ――恋に焦がれて彷徨う姫が向かった先は、果たして月か太陽か。ゆらりゆぅらり、踏み出した足元さえおぼつかぬ、東雲・咲夜(桜妃・水守姫・f00865)の行く先で、極彩色の硝子がちりりと熱を持っていく。
(「此命奪うは愛する『貴方』? 戀した『あなた』?」)
想いを寄せるひとの姿は、彼女が瞬きする間も万華鏡のように移り変わって――けれどその姿を眺めているだけで、咲夜の胸ではあやうい熱が呼び覚まされていって、じりじりと燻りながら花ひらく時を待っていた。
(「かたちが定まらぬ、これは――」)
――ゆら、ゆらと熱情の揺らぎが炎之華に変わっていくのを感じながら、咲夜がステンドグラスを見上げたその時。愛しい『誰か』に寄り添う、見知らぬ女性の顔が自分の顔に変わり、甘い声にたっぷり毒を含ませてころころと笑いだす。
(「ええ、此がわたし。ほら、見て」)
「ぁ、やめ、て……!」
――やわい貌彩に秘蜜をひと匙、甘ぁくとかして。博愛の水面化には、熾烈とも呼べる蒼い炎海を滾らせて、誰かに求められることをずぅっと待ち望んでいる。
(「ほんとうに、醜やかな女で。刺されてしまうと、あなただって思うでしょう」)
愛をまぶして取り繕っていても、その身の裡は狂気じみた情に溢れていて、愛するひとに本性を曝け出すことなど、とてもとても出来やしないだろうから――。
(「なれば、此身ごと燃やしてしまいませう」)
「あ、あつ……い」
――そんな瞬きすら惜しむ一刻に、硝子越しの指先で撫ぜる陽の耀が、轟轟と呻って咲夜を包んでいった。
「あつい、くるしい――……」
酸素を求めひずんだ桜唇も、虚空をもがく櫻爪も――溢れた泪が頬を伝うことも無く、瞬く間に昇華されていって、巫女は生きた火柱と化していく。
「た、すけ――」
だと言うのに、神々と交わした契りとは残酷なもの。気の遠くなるような苦しみを味わいながらも、咲夜の肌は傷ひとつ赦されず、うつくしいまま火之華となって咲くことを強いられている。
(「噫、此の儘灰となれたのなら」)
――迷い込んだ此処は陽が昇り、月が沈むまぼろしの世界。そこで穹と云う名になった彼女は愛に生き、戀に散るのがさだめなのだから。
(「其はなんて……素敵なことかしら」)
漸く訪れる散華のとき――極彩色の硝子にぱっと桜銀糸の髪が散って、藍眸から溢れた雫は空のいろを映して儚げに輝いていた。
大成功
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終夜・嵐吾
んん、何処じゃここ
迷い込んでしまったか、招かれたか
一歩進むごとにさざめくような変な感覚
右瞳の虚がおるような感覚も鈍い
やな感じじゃなぁ…
それに、こみ上げるものが寂しさを撫でていくような
不快感ではないが違和感のあるような心地にむず痒ささえある
華やかな光景と、格子が見えた
その向こうにおったり、せんかなぁと探してしまっている
あの女はもうおらんのに。おらんから、か
ああ、亡くしてしまったのなら会いにいけばええだけか
しかしな、生きよと言われてしもたから、己でやる気にはなれん
じゃから、虚好きにしてええよ
汝に殺されるならば許されよう
これはフリじゃから―手加減はしてくれるじゃろうけど、本気でも、まぁ、ええか
「……んん」
――花の香がしたと思ったのは、果たして夢であったのだろうか。ぐるりと辺りを見渡した終夜・嵐吾(灰青・f05366)の、視界一杯に広がるステンドグラスの煌めきは、陽の下で見ていた時のものとは趣を異にしていた。
「迷い込んでしまったか、……招かれたか」
ひとを惑わす幻術の類となれば、妖狐である彼には馴染み深いものではあるのだが――一歩進むごとに背筋を伝う、さざめくような不思議な感覚に、灰青の尾がぶわりと震えて瞬きをする。
「やな感じじゃなぁ……」
無意識のうちに、右瞳の眼帯に触れていた手を元に戻しつつ、其処に居る虚の気配をなぞってはみたものの。その感覚がどうにも鈍いような気もするし、それに嵐吾の勘が告げているのだ。
「ふぅむ、不快感ではないが……違和感のあるような心地、という奴か」
――むず痒ささえ感じてしまうそれは、彼のこころの繊細な部分を暴いていって、こみ上げてくるもので寂しさを撫でていくような心地がする。
「……随分前に、通り過ぎたと思ったんじゃが」
感傷、と言う奴だろう。ふにゃりと柔らかな笑みを浮かべる嵐吾が、嘗て荒れていた頃のこと――思い返すと恥ずかしくなって、丸まってしまいたくなるあれに近い。
「お――」
と、硝子のなかにふと過ぎった、華やかな光景を認めて立ち止まってみれば。朱塗りの格子の向こう側で微笑む、何人もの女たちの姿を目で追っていった嵐吾は、自分が探していた相手の正体に思い至って、微かな溜息を零していた。
「あの女は、もうおらんのに。……おらんから、か」
それでも――懐かしそうに彷徨う視線は馴染みの姿を追い求め、気付けば極彩色の世界から抜け出せなくなってしまう。
「ああ……そうか、亡くしてしまったのなら」
刹那、琥珀色の瞳に映し出された姿は、嵐吾の見たいと願った彼女のものであったのか。
「会いにいけばええだけか」
――しかし、彼は嘗て『生きよ』と言われてしまったから、己の手で幕を降ろす気にはなれなくて。
「じゃから、虚。好きにしてええよ」
右瞳を戒める、花の香がふっと消えたと思った時には既にもう、目覚めた虚の主が自分に向かって黒茨を這わせており――。
「汝に殺されるならば、許されよう」
忍び寄る影の蔦に囚われ、ゆっくりと目を閉じていくなかで嵐吾は、誰かに名を呼ばれた気がして息を呑んだ。ああ、これはあくまで『フリ』であり――だから彼も手加減はしてくれるだろうけど。
(「……本気でも、まぁ、ええか」)
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ホシガネ』
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POW : 再誕
自身の【取り込んだ影朧数体】を代償に、【抱く天体より産み落とした合成影朧一体】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【元となった影朧と同じ攻撃手段】で戦う。
SPD : 再来
自身が戦闘で瀕死になると【抱く天体より取り込まれていた影朧全て】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 再生
【抱く天体】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、抱く天体から何度でも発動できる。
イラスト:あも井
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ミザール・クローヴン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――しのぶれど、色に出でにけり、わが恋は。
そんなうたを思わせるように、極彩色の館に花開いた幾つもの恋は――ほのかに色づき硝子に溶けて、夢幻のいろどりに頬を染めながら、やがて激しく散っていく。
(「綺麗……ねぇ本当に、きれいねぇ」)
きらきらと輝く恋が、昏い熱を孕んだ戀に変わる様も。愛しい相手ごと食らい尽くして、いのちの灯が鮮やかに燃え尽きていく様も――ああ、星が生まれて消えていくみたいに、儚くもうつくしいのだから。
(「……救って、あげられるかしら」)
――桜の癒しを得られなかった、可哀想な影朧たち。叶わぬ願いに傷ついて、死後の安息を得られなかった彼らをもう一度、産み直すことが出来るだろうか。
(「ええ、きっと。だってこんなに、いのちが捧げられたのだもの」)
もし上手くいかなくたって、繰り返せばいい。何度でも、何度でも――彼らが星になれる、その時まで。
そうして――一連の殺人を満足そうに見届けた、黒幕の影朧がゆっくりと姿を現すと、無限廻廊のステンドグラスが粉々に砕けて現実が戻ってきた。
これで、珠瓏館に招かれた客人は皆亡くなった筈だと言うのに、館に息づく気配は消えるばかりか、益々強くなっていく。
(「――……ッ!」)
違う、彼らは死んでなどいなかった――恋心に翻弄されて殺意を募らせていった、あの姿は決して偽りなどではなかった筈なのに。偽りなどでは、あってはならないのに――!
(「騙し、た?」)
――否、全てがまやかしで、自分をおびき寄せる為の演技であったのだとしたら。ああ初めから、鏡合わせの迷宮に迷い込んでいたのは、此方の方であったのか。
(「酷い、酷いひどいひどい」)
ひとの言葉を忘れ、純粋な願いだけを抱きしめた影朧は――辺りで啜り泣く同胞たちを取り込んで、輝く天体のなかで孵化を促していく。
(「赦さないゆるさない……ユルサナイ」)
しかし――造り替えては産み直そうと足掻くホシガネもまた、桜の癒しを求めていた。何故ならば、何度星を夢みても、彼女の願いは届かない。
(「ユル、ユ……ゥ、ァ、ァァァ!!!!」)
偽りの転生に阻まれて、彼女に取り込まれてしまった影朧たちと共に、傷ついた魂を震わせている。だから。
――恋は戀に、再び恋へ。恋獄カレヰドの、終幕のときだ。
🌸🌸🌺🌸🌸🌺🌸🌸🌺🌸🌸🌺
●第3章補足
・一連の殺人を引き起こした、黒幕の影朧とのバトルです。彼女を説得しつつ戦うことで、転生の可能性も出て来ると思います。
・お芝居を止めて普段通り戦ってもいいですし、演技を続けたままで「死んだと思ったけど、恋する気持ちが奇跡を起こしたのさ」的に、ラブラブっぽさをアピールすることでも、影朧の説得に繋がるかと思います。
第3章プレイング受付は『5月6日 朝8:31~』からの受付と致します。成功数に達した辺りで締切日の告知をしますので、ゆっくりプレイングを考えてみて下さいね。
🦍🦍🍌🦍🦍(ウホホッ)🦍🦍🍌🦍🦍
ロキ・バロックヒート
🌸宵戯
手を払う
私はなにを欲しがったの
あの首のあかい印がこわい
神が欲を抱くなんて
救いは欲であってはならない
それにどうせ全て喪うのに
言葉がいたい
話せるわけない
認めるぐらいなら腐ってもいい
なのに
なにが欲しいのなんて
よくもまぁ君が云えたものだよね
ひどい
じゃあ云ってあげる
櫻宵を頂戴
その魂を頂戴
壊してやりたい
本当にわからなかったの
ばかなの?
いいよ、って
そんな返事にすら餓えきった心が満ちる
もう戻れない
あぁ堕ちていく
でもさっきより随分気分がいい
死んだ方がマシだけどさ
はは
後悔したらいい
共に地獄に堕ちたらいい
呪詛でも紡ぐしかない
ねぇ
かみさまを堕とした責任をとってよ
櫻宵の首を噛む
これは恋じゃない
ひとのような醜い欲
誘名・櫻宵
🌸宵戯
甘い愛だけ欲しいといったのに
手を払うだなんて
酷いな
首のあかはロキがつけたの
ほらみて
綺麗な華だよ
ほら
逃げないで教えて
慾を認めて受け入れて
慾なんて持って当たり前
腐らせる前に話して頂戴
ねぇ
あなたは何が欲しいの?
言ってくれないとわからない
教えて
私が受け入れる
なんだ…ロキ
私が欲しかったの
いいよ
神さまの欲しいものをあげる
綺麗に咲かせて愛でて
甘く壊してくれるなら
わからなかったよ
本当さ
後悔なんてない
責任はとるよ
私のところまで堕ちてきてくれたんだもの
ありがとう
かみさま
哀しい星の聲に撫でるよう刀を這わせ斬り裂いて
哀しみごと喰らい綺麗な桜に変える
求む戀のように咲いて散れ
極彩色にひずむ甘露な慾は
噫なんと美しい
霞む視界のなか、細い首にかけた手を払いのけて、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)はこみ上げてくる吐き気を懸命に堪えていた。
(「私は、なにを欲しがったの」)
――一緒にお芝居をしていた、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)の方は、未だ夢の世界を彷徨っているかのように、ロキに蠱惑的なまなざしを向けていたけれど。
(「あの首の、あかい印がこわい」)
己の刻んだ戀のあかしが、櫻宵の首へ蛇のように絡みつく様が、浅ましい欲望を曝け出しているようで身震いがした。
「……甘い愛だけ欲しいといったのに、手を払うだなんて」
――酷いな、と。先ほどまで死にかけていたとは思えぬ位に、櫻宵はうつくしく優しい笑みを浮かべて、ロキに残酷な現実を突きつける。
「ほら、首のあかはロキがつけたの。みて、綺麗な華だよ」
「――……っ!?」
振り払った筈の手を再び櫻宵が捉えてしまえば、其れを自身の白い首に押し当てて――赫い桜みたいな手のあとを愛おしげになぞりながら、ロキの耳元で更に愛を囁いていく。
「ほら、逃げないで教えて。慾を認めて受け入れて」
(「駄目、神が欲を抱くなんて」)
「慾なんて持って当たり前、腐らせる前に話して頂戴。……ねぇ」
(「救いは欲であってはならない」)
祝福である筈の眩き光が、ホシガネの抱く天体に吸い込まれていったが、恐らくは彼女の力として再生されていったのだろう。取り込まれていた影朧たちが一気に溢れ出していく傍らで、櫻宵が貪婪に舌なめずりをした。
「……あなたは何が欲しいの?」
(「話せるわけない」)
――どうせ、言ったところで全てを喪うのに。吐き出す言葉はいたくて、ロキのこころを無慈悲に切り刻んでいってしまうのに。
「言ってくれないとわからない、教えて。……私が受け入れる」
(「認めるぐらいなら、腐ってもいい」)
熟れ過ぎた林檎が、自らの重みに耐えかねて落ちていくみたいに――ぐずぐずに溶けて、消えていってしまえばいい。そんなロキの想いを櫻宵は知っていて、それでもなにが欲しいのと訊いているのであれば。
「よくもまぁ君が云えたものだよね、……ひどい」
影朧たちの再来が押し寄せてくるなか、ロキの指は桜の花びらを摘まんで、唇をくすぐりつつもあかい舌を覗かせていく。
「じゃあ云ってあげる。櫻宵を頂戴、その魂を頂戴」
――そうして見せつけるように、花びらを食んで。退廃に誘う狂神の本性を露わにした彼は、龍眼を解放した櫻宵を掻き抱き、花開く桜を次々に貪っていった。
「――壊してやりたい」
「なんだ……ロキ、私が欲しかったの」
「……本当にわからなかったの、ばかなの?」
「わからなかったよ、本当さ」
意思蕩かす蠱惑のまなざしが、生まれ落ちた影朧の力を吸収し、桜花に変える呪――櫻宵の喰華によって咲いた花びらからは、蕩けるほどに甘い蜜が滴りロキの心を潤していく。
「いいよ、神さまの欲しいものをあげる」
「……いいよ、って」
あっさりと頷いた櫻宵に溜息を吐きながらも、餓えきった心が歓喜に震えているのが分かったから――もう、戻れない。
「綺麗に咲かせて愛でて。甘く壊してくれるなら」
(「あぁ、堕ちていく」)
でも、さっきよりは随分気分がいいのは確かで――それでも、死んだ方がマシなのだろうけど。生憎、神さまとは死ねない、厄介極まる存在なのだ。
「はは……後悔したらいい、共に地獄に堕ちたらいい」
――ホシガネの再生が収まったところで、ロキの降らせた祝福のひかりが呪詛と化して、星を灼く。天体の力を封じたのを認めた彼はそのまま、櫻宵の首に這う華ごと、その肌を噛んでいた。
「……ねぇ、かみさまを堕とした責任をとってよ」
「後悔なんてない、責任はとるよ」
哀しい星の聲に撫でるよう刀を這わせ、斬り裂いて――哀しみごと喰らい、綺麗な桜に変えてあげるから。
「……ありがとう、かみさま」
――私のところまで、堕ちてきてくれて。
求む戀のように咲いて、散っていく影朧を見据える櫻宵の許――極彩色にひずむ甘露な慾は、噫なんと美しいのかと、溜息を吐くなかでロキは想う。
(「これは恋じゃない」)
――これは、ひとのような醜い、欲。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
【春嵐】
めざめの春が降り注いで
凍える冬を、眠りを解いてゆく
まっかな唇はほろ苦くて心を食む
なゆは死なないわ
いきたいと告げたもの
しらないあなたも、英さんよ
どんな姿を、表情をしていても
その眸を忘れないわ
あかく染まる指さきをあなたの口許に
痕を刻んだあなたの指さきをこの唇へ
もう一度。この牙を沈めたのなら
にがく、あまく、滲むでしょう
結いだあかいいとのさき
さくらのように咲う春のひと
ほうっておけないのは、今も変わらない
あたたかな言葉が胸に染む
ひとつの物語の結び
死だけが救済ではないと
おわりを綴らないと信じている
最悪の終幕を攫いましょう
春を奏でる嵐を此処に
いっとうのあかをご覧あれ
あなたのことは、心へと刻みましょう
榎本・英
【春嵐】
こうして犯人は生き延びて機を伺いまた――
唇の残り香がこの身を甘く蝕む
元より君は毒でも薬でもない、なゆだ
君もまたあそこで知らない私を見たのだろう
この指に刻まれた証を君の口に
君に刻んだ小指の証はこの口に
赤く、甘く、満たされる
安心して呉れ
君と云う人は私を虜にしてやまない
解毒剤が無くとも死にやしないさ
ただ、思わぬ褒美を沢山貰えた
さて、物語もいよいよ終盤だが君は彼女を救いたいかい?
私はそうだね、死は救いではないと思うよ
ゆえに彼女とは相容れない
願いは己の手で叶えるもの
人の生とは一度きり
私に出来る事は君を忘れず、見届ける事
死は救いではない
だから、見守ろう。君の行く末を。
――はらり、と。音も無く舞い落ちていくのは、紅いあかい牡丹一華。其れがふっと、榎本・英(人である・f22898)の唇をくすぐるように掠めていけば、伏せられた睫毛がかすかに震えて、緋色の瞳が貌を覗かせていく。
「こうして、犯人は生き延びて機を伺いまた――」
降り注ぐめざめの春の気配を受けて、凍える冬の眠りがじわりと解けていくなかで、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の唇は尚もあかく色づき、誘うようにちいさく震えていた。
「……ええ、なゆは死なないわ」
ほろ苦くて、こころを食むそれの残り香が、七結を抱きしめたままの英を包み込んで――その身を甘く蝕もうとも。そろそろと伸ばされた指はあかに染まって、彼の口許をいとおしげになぞっていく。
「いきたいと告げたもの」
「それに元より、君は毒でも薬でもない……なゆだ」
――君もまた、あそこで知らない私を見たのだろう、と。静かに尋ねた英にかぶりを振った七結は、阿片のような気怠さに身を浸しながらも、彼の指さきと眸を交互に見つめて吐息を吐いた。
「……しらないあなたも、英さんよ」
どんな姿を、表情をしていても、その眸を忘れたりなどしないから。痕を刻んだ左小指にもう一度、この牙をゆっくり沈めたのならば――ああ、あかいいとが絡まって、ふたりを結わう呪いに変わる。
(「にがく、あまく、滲むでしょう」)
(「赤く、甘く、満たされる」)
――だけど、唇を伝う甘美な雫よりも、あたたかなものは英の言葉。互いに死を願った先ほどのお芝居についても、七結が気に病むことは何もないのだと、彼はさくらのように咲っていた。
「解毒剤が無くとも死にやしないさ。……ただ、思わぬ褒美を沢山貰えた」
(「ほうっておけないのは、今も変わらない。けれど」)
「『世の中に実に美しいものが沢山あることを思うと、自分は死ねなかった』……だから、安心して呉れ、」
ヘッセの言葉を口ずさむ英のこえが、七結の胸にじわりと染み込んでいくなかで、ホシガネの抱いた天体が新たな影朧を産み落としていったけれど。
「君と云う人は、私を虜にしてやまない――」
――死を乗り越えて結ばれたふたりの前には、まな紅の華颰が吹き荒れて、影朧たちの侵攻をものともしない。
「……さて、物語もいよいよ終盤だが。君は彼女を救いたいかい?」
そうして英の生み出す獣の指が、影朧を消滅させ塵に還していくのを見守りながら、七結は決断した。ひとつの物語の結び、其れは――死だけが救済ではないのだと、彼に告げて。
「おわりを綴らないと、信じている」
「私もそうだね、……ゆえに彼女とは相容れない」
――願いは己の手で叶えるもの。人の生とは一度きり。そんなひとのこころを高らかに歌い上げながら、英と七結は最悪の終幕を攫うべく、春を奏でる嵐を辺りに呼び起こしていった。
「いっとうのあかを、ご覧あれ――」
――知っているかい。春の嵐がやってきて、人はようやくめざめたそうだ。そんな英のことばに導かれるように、天が咲いて、春が降る。
(「あなたのことは、心へと刻みましょう」)
自分たちに出来ることは、彼らを忘れず見届けること。だから――。
「……見守ろう。君の行く末を」
大成功
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アイシャ・ラブラドライト
f17484ジノと
口調→華やぐ風 敵には通常口調
POW
さっきの言葉ジノはどう思ったかな
目覚めたジノはいつもと変わらない様子で
きっと覚えていないんだろうと思い込む
ホシガネさん
どうしてこうなってしまったのでしょう
他の影朧たちを救ってあげたい、その想い自体は美しいのに
貴女は人を想うことができる美しいひと
転生すればその先で幸せを掴めると私は信じています
悲しいことの繰り返しはもう終わりにしましょう
ジノが影朧の体力を削ってくれている間にUCで
椿に藤、薔薇や百合…
影朧を見守っていたステンドグラスに描かれた花々の精を創造する
花の精は各々の花吹雪を散らせて戦う
花たちの祝福が少しでも影朧の魂の助けになりますように
ジノーヴィー・マルス
アイシャ((f19187)と。
SPD
ふぅ……よく寝た。しかし、寝ちまう前の記憶がほぼねぇ。…ま、平常運転だな、俺からすれば。
しかし……寝る前に聞いた一言だけは、何故か鮮明に覚えてんだ。
…あれ、もしかしたら状況を上手く脱する方便…だったのか?いやそれとも、マジ?
俺の希望としてはこう……やっぱ、マジであってほしいんだけど…あー聞けねえ…!
っていうかそれどころじゃねえ敵さんが来るんだよ集中集中!
まずは瀕死になるまで手早く攻撃。
奴さんが影朧共を呼び出したタイミングで「分身使って楽する」
Vendettaでなにも考えずに鉛玉垂れ流しだ。
俺はこうやって戦うから、説得は任せたぜ…!
ふぅわりと、ジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)の鼻先をくすぐる花吹雪は、瞬きをする間に儚く消えていった。
「ふぅ……よく寝た。しかし何だ、まぁ」
何故、こうして館の床で寝ているのだろうか――その前の記憶が一切なかったのだが、物忘れが激しい自分にとっては、これが平常運転であると思い直す。
「アイシャの方は大丈夫か……って、どうした」
「え、えっと! 何でもないよ」
其処で、寄り添うように眠りに落ちていた、アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)の様子を窺ったジノーヴィーは、彼女が何か思い悩んでいるような気がして頭を掻いた。
「あー……もしかして、寝る前に何かあったか」
「さっきの、……ううん、やっぱりいい」
と――透き通るフェアリーの翅を羽ばたかせ、ひらりと空へ舞い上がったアイシャの元へ、ホシガネの産み落とした影朧が襲い掛かると。素早くガトリングガンを構えたジノーヴィーは、彼女が攻撃を受けるよりも先に、影朧の肉体に鉛弾を叩き込んでいたのだった。
「あ、ありがとう」
――そうしていつもと変わらぬ素振りで、戦いを始めたジノーヴィーに、安堵と不満がない交ぜになった顔を覗かせたアイシャは、眠りに落ちる前のことを思い出していたのだろう。
(「さっきの言葉……きっと、ジノは覚えていないんだろうな」)
ジノ、愛してるよ――それは、ふたり一緒に死を迎えたお芝居の台詞だったけれど、何もかもが無かったことになると言うのも寂しいもので。
「しかし……寝る前に聞いた一言だけは、何故か鮮明に覚えてんだ」
「――……!」
「……あれ、もしかしたら状況を上手く脱する方便……だったのか? いやそれとも、マジ?」
――なのに、最期の言葉だけはしっかりとジノーヴィーが覚えていたものだから、アイシャの翠瞳は大きく見開かれて、気まずそうに辺りを見回してしまう。
(「俺の希望としてはこう……やっぱ、マジであってほしいんだけど……あー、聞けねえ……!」)
しかし、二人がやきもきしている間にも、取り込まれた影朧たちは次々に召喚されていく。今度は数を増やした彼らに向けて、分身を生み出すことで対抗したジノーヴィーは、考える暇も惜しいと言わんばかりに引き金を引いたのだった。
「っていうかそれどころじゃねえ、敵さんが来るんだよ集中集中!」
直後、蒸気機関を搭載したガトリングガンが唸りをあげて、迫る影朧の群れを一掃していけば――その隙を突いてアイシャの方は、本体であるホシガネに向けて想いを届けようと声を響かせる。
「……ホシガネさん。どうして、こうなってしまったのでしょう」
――自身も傷つきながら、それでも他の影朧たちを救ってあげたいと願う。その想い自体は、とても美しいと思うのに。
「そう、貴女は人を想うことができる美しい……そして、優しいひと」
だけど、今のままではその想いは報われない。桜の精の癒やしを受けて転生をすれば、その先で幸せを掴める筈だからと、アイシャはホシガネに訴えていく。
「貴女のような人が、報われるように……私は願っていますから」
椿に藤、薔薇や百合――珠瓏館のステンドグラスに描かれた花々から、アイシャが創造したのは花の精。影朧たちを見守っていた色硝子が、光輝く花吹雪と化していく様子を見守りながら、彼女は彼らの助けになれるようにと強く願う。
「花たちの祝福が、その魂の救いとなるように。悲しいことの繰り返しは、もう終わりにしましょう――」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
ティル(f07995)と
頬に当たる雫で目覚める
おじょう、さま?
ふふ
体を離したら額を合わせ涙を拭い
わたしも、いつかティルが離れると思ってしまったら
息ができないほどに苦しかった
だから、死んでも構わない、と
でも、例え苦しくても
傍で涙を拭えるわたしでありたい
あなたに笑顔で生きてほしい
そう思います
また、逢えてよかった
わたしこそ、勇気が足りなくてごめんなさい
もう離しません
きみも、焦がれた人がいるの?
心から好きな人がいたのかな
ティルの言葉に笑み
だれかを救おうとするやさしいきみ
きみも、星に――
ううん、また誰かと出会うための姿に変われるよ
わたしたちがこうしてまた笑いあえたみたいに
再生はUC相殺
魔鍵で傷つけず攻撃
ティル・レーヴェ
オズ殿(f01136)と
演技続行
う……と微かに目を開ける
私は、死んだのではなかったの?
我儘な想いに心を燃やして
隣に横たわるオズの姿に血の気が引く
あゝ嫌よ、嫌
私だけ目覚めるなんて
目を、目を開けてオズ!
零す涙が頬を濡らして
彼が意識取り戻したなら
その身を柔く抱きしめて
オズ……
私ね馬鹿なの
どんな形でも
今を終わらせてでも
貴方と一緒にって
でも、でも……
そうじゃなかった
私が側に居たいのは
愛してるのは今ここにいるオズなの
酷いことして、我儘で
ごめんなさい
生まれ変わりを魅せたのは
そこで星抱く貴女?
私達は今の儘で大丈夫
其れよりも
真に救われたいのは
生まれ変わりたいのは
貴女なのではない?
もう大丈夫
貴女が救われていいのよ
(「う……」)
鈍い痛みを訴えてくる頭を、意志の力で押さえつけたティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は、ゆっくりと瞳を開いて辺りを見回していた。
(「私は、死んだのではなかったの?」)
演技と本当の自分がゆらゆらと入れ替わっていくなかで、確かに毒をあおって倒れた筈――そう、我儘な想いに心を燃やして、彼が自分だけを見てくれるように。
「――……、オズ!」
その、愛しい執事の姿を思い浮かべた瞬間、ティルは隣に横たわっているオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)に気づき、夢中で彼の名前を呼んでいた。
「あゝ嫌よ、嫌。私だけ目覚めるなんて」
――血の気がすっと引いていき、指先も凍えるように冷たくなっていく。なのに、ティルの瞼の奥はじぃんと熱を持って、鼓動と共に溢れ出す切ない想いが、涙に溶けて静かに頬をつたっていったのだ。
「目を、目を開けてオズ!」
あたたかな雫は、桜に降る雨のようで――頬を濡らす其のぬくもりに、漸く目覚めのときを迎えたオズは、空色の瞳にティルを映してふんわりと微笑んでいた。
「……おじょう、さま?」
「オズ……」
――その身を柔く抱きしめて、そっと身体を離したあとは、額を合わせ涙を拭って。そうすれば、ぎこちなかった空気は何処かへと飛んで行き、ふふといつもの笑みが戻って来る。
「オズ……私ね馬鹿なの。どんな形でも、今を終わらせてでも、貴方と一緒にって」
でも、でも――ことばは泉のように尽きることが無く、涙を拭われたティルの頬は、瑞々しい薔薇色に色づいていた。
「……そうじゃなかった。私が側に居たいのは、愛してるのは――今ここにいるオズなの」
――それなのに、お芝居とは言え酷いことをして、我儘でごめんなさい、と。内気なこころを精一杯奮い立たせて、想いを伝えたティルの元へ、オズの優しい手が伸ばされていく。
「わたしも、いつかティルが離れると思ってしまったら……息ができないほどに苦しかった」
死んでも構わないと、あの時は確かにそう思ってしまったのだと言うオズは、愛しい令嬢の髪をそっと撫でながら笑顔で告げた。
「でも、例え苦しくても……傍で涙を拭えるわたしでありたい。あなたに笑顔で生きてほしい」
だから――また、逢えてよかった。悲恋のものがたりが最高のハッピーエンドに変わっていくなかで、ホシガネの瞳に宿っていたのは、悔恨か憧憬か。
「わたしこそ、勇気が足りなくてごめんなさい。……もう離しません」
ォ、アアアァァ、ァァ――抱く天体が不吉な輝きを放ち再生が始まろうとするが、オズもティルももう惑わされたりはしない。正確に天体を模倣し、再生のちからを相殺していくオズと息を合わせて、ティルの花弁がホシガネを包み込んでいき、あたたかな抱擁を影朧たちに贈る。
「生まれ変わりを魅せたのは、そこで星抱く貴女?」
「……きみも、焦がれた人がいるの? 心から好きな人がいたのかな」
暴走し、ひとの言葉を忘れたホシガネであったが――きっと、ふたりの問いは確かなものだったのだろう。
「私達は、今の儘で大丈夫。でも……其れよりも、真に救われたいのは、生まれ変わりたいのは、」
こんなにまでして、恋するこころや死後の幸せに執着し、殺人の趣向にまで取り入れる位なのだから。
「……貴女なのではない?」
――ぁ、ァァ。抱くように両手を広げ、慈しみの眼差しをホシガネに向けるティルは、貴女が救われてもいいのだと囁き、心の闇に数多の花弁を降らせていった。
「だれかを救おうとするやさしいきみ。きみも、星に――」
そんなティルの言葉に、笑みを見せたオズもまた――安らかに逝けるようにと祈りを籠めながら、心を貫く魔鍵を振りかざして昏い闇に立ち向かっていく。
「ううん、また誰かと出会うための姿に変われるよ」
――わたしたちがこうしてまた、笑いあえたみたいに。
大成功
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黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
騙したのはそっちの方だろ、死ねば一緒になれるなんてさ。
それにこの気持ちは違う…きっと違う。俺は恋だとは認めない。
勝手な上から目線の赦しもいらない。壊れるその時まで、全部全部抱えていく。
UC月華で真の姿に。自分自身へのUCならコピーもできないだろう。
存在感を消し目立たないように立ち回り、隙を見てマヒ攻撃を乗せた暗殺攻撃を仕掛ける。
マヒは通れば上等。
相手の攻撃は基本第六感による見切りで回避を試みるが、回避しきれないものは本体である黒鵺で武器受けしカウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御で軽減、かつ激痛耐性でもって戦闘を継続する。
鈴桜・雪風
(演技終了)
やっとお会いできましたね、影朧
この様な場を設けて恋を哀に、愛を憎に変えて殺し合わせていた動機、今こそ開陳する頃合いです
「夜は恋と愛の舞台ですもの。貴女の動機もそれに類するのでは?」
――貴女にも、手に入らなかった愛があったのでは?
それに心が耐えられず、命を奪った……自分か相手かを手に掛けた
残念ですが此処でこのような事を繰り返したとて、貴女は理解者を得られませんし、貴女の行いが正しかったと証明されるわけではないのです
「人の心とはげにままならぬもの。自分の心も、相手の心も。変えようと思って変えられることは殆どありません」
「だから――契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは」
愛憎渦巻く殺人事件は、一先ずここでお終いであり――犯人が姿を現したのだから、此方も正体を明かして種明かしをするとしよう。
「……やっとお会いできましたね、影朧」
毒を飲んで亡くなった筈の、鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)が、何ごとも無かったかのように顔を見せると。自刃したかに思われた、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)の方も、直ぐに二刀を構えて影朧と向き合っていた。
「この様な場を設けて恋を哀に、愛を憎に変えて殺し合わせていた動機……今こそ開陳する頃合いです」
――物語に登場する名探偵のごとく、朗々と口上を述べていく雪風の姿に、ホシガネも圧倒されているのだろうか。抱く天体が不安定に明滅し、虚ろな瞳は何かを言いたげに館のステンドグラスを見つめている。
「夜は恋と愛の舞台ですもの。貴女の動機もそれに類するのでは?」
と――青色の髪をくしゃと掻き上げた雪風の、続く言葉を受けて、取り込まれていた影朧たちがざわめきだした。ああ、おお、と啜り泣く声は、自分たちの哀しみや苦しみを必死に訴えているようで――桜の精である雪風の癒しを求めて、凝り固まった呪詛が花びらを塵に変えていく。
「――貴女にも、手に入らなかった愛があったのでは?」
(「――……ッ!!?」)
声にならない叫びが広間に響き渡った直後、再誕した影朧の一体が雪風に襲い掛かった。しかし、こうなることは予め分かっていたことで――つまりは。
「……『此の世に不可思議など有り得ない』、ですよ」
そう淡々と告げる雪風の向かいでは、背後から奇襲を仕掛けた瑞樹が、麻痺を纏わせた黒鵺の刃をホシガネに突き立てていて。
「だがな、騙したのはそっちの方だろ。……死ねば一緒になれるなんてさ」
――その身に月読尊の分霊を降ろし、瞳の色を違えた瑞樹は、再生を行おうとするホシガネに尚も胡の一撃を叩き込んで、抱く天体の力を封じていった。
(「それに、この気持ちは違う……きっと違う。俺は恋だとは認めない」)
器物に魂が宿った存在であるヤドリガミが、持ち主を想うのは別におかしなことでは無い――ステンドグラスの許で演じたお芝居だって、瑞樹の心につけ込んだ邪悪なものでしか無い。
「そう、きっとそれは嘗ての貴女が辿った道」
勘を頼りに影朧の攻撃を躱しつつ、隙を突いて黒鵺で本体のホシガネを狙う――そんな瑞樹を援護する雪風もまた、自らの役目を果たそうと説得を続けていた。
「それに心が耐えられず、命を奪った……自分か相手かを手に掛けた」
(「アアァァァ!! 止め、テ」)
――己の罪と向き合わされ、絶叫を響かせる影朧たちの姿は痛ましかったが、これも転生を迎える為には必要なことだと割り切って、整然と理論立てて説得を行う。それが雪風のやり方だったから、ここで止める訳にはいかない。
「残念ですが……此処でこのような事を繰り返したとて、貴女は理解者を得られませんし」
――そう、勝手な上から目線の赦しもいらない。壊れるその時まで、全部全部抱えていくと、瑞樹はありったけの想いを籠めて月華を振るう。
「貴女の行いが正しかったと、証明されるわけではないのです」
――ああ、人の心とはげにままならぬもの。自分の心も、相手の心も。変えようと思って変えられることは、殆ど無いのだと呟く雪風は、彼女たちが新たな輪廻に導かれるよう、桜花と共に歌を贈る。
「だから――契りきな、かたみに袖をしぼりつつ、末の松山、波越さじとは」
大成功
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ルーチェ・ムート
【蒼紅】
終わりなき万華鏡
ごめんね、塗り替えさせて貰うよ
これで少しは冷静になってくれるといいんだけど
死んだと思った
死んでいいとも
だけどそれじゃ、悲しいまま
満たされないんだ
生きて添い遂げたい
それが本当の願いだから
キミの戀は地獄や天国にない
キミの恋は此処にあるでしょ?
キミは、何が欲しかったの?
望んだものは、何だったの?
もう一度、よく思い出してみて
舞う花弁を影朧へ
その花の花言葉は色々あるけど
純粋って意味もあるらしいよ
キミはきっと純粋過ぎたんだ
リオンの手を握って、指先を絡める
ボクは彼と生きていく未来が欲しい
転生した彼じゃなく今の彼が好きだから
こうしていられることが幸せなんだ
もう硝子を覗くのはやめよう?
リオン・エストレア
【蒼紅】
戀という感情は重く、そして苦しい
死を持って共に溶けるなら
それで良いと思ってしまった
されど恋という感情が
生きて共に居たいと言う想いが
俺達を死ぬ運命から
生存する仕掛けへと変えた
想いはそれほど、死を持たずして強い
お前達の心は
お前達の想いは
万華鏡の中で燻る様な物では無いだろう?
ルーチェの絡めた指先から熱が伝わる
死して共にあることも悪くは無いが
それでも生きて共に居る事が…
だからお前達も
悲しき夢から覚めてくれ
1人で目覚められないのなら
俺達も手を貸してやる
”Dear”
此れは、お前達に捧げる祈りの焔
この焔がどうか、お前達の導とならん事を
祈りの焔で全て焼き尽くす
次に生まれ変わる、道標の光となるよう祈って
紅の鎖に繋がれたまま、蒼き焔で灼き尽くされていった恋人たち――そう、それで全てが終わったかのように見えた。でも。
(「死んだと思った。……死んでいいとも」)
蒼炎の揺らめきが万華鏡に吸い込まれ、紅のひかりもまた無数の欠片となって辺りに降り注いでいくなかで、ルーチェ・ムート(无色透鳴のラフォリア・f10134)は傷ひとつ無い姿のまま、広間に現れたホシガネと向き合っていた。
「……だけどそれじゃ、悲しいまま。満たされないんだ」
(「そう、俺も――死を持って共に溶けるなら、それで良いと」)
ゆっくりとかぶりを振るリオン・エストレア(永遠に昏き”蒼”の残響・f19256)の方にも、先ほどまで苛まれていた劫火の跡は無く――ただ、その蒼の瞳に靜かな熱を残すのみで。
「されど恋という感情が、生きて共に居たいと言う想いが……俺達を死ぬ運命から、生存する仕掛けへと変えた」
そんなリオンの言葉を受けて、哀しみに溢れていたお芝居が、幸せな結末に向かって続いていくことを感じ取ったルーチェは、極彩色の舞台に駆け上がって愛をうたう。
「生きて添い遂げたい、それが本当の願いだから」
「ああ、想いはそれほど、死を持たずして強い」
――きっと傷ついた影朧たちは、仲間を求めてずっと泣き叫んでいて。ホシガネもまた、彼らがひとつになって生まれ変われるように、何度でもこうして罪を重ねていくのだろう。
「でも……キミの戀は、地獄や天国にない。キミの恋は此処にあるでしょ?」
終わりなき万華鏡の世界を塗り替えるように、「ごめんね」と呟いたルーチェの指先で、ふわりと甘く薫るのは白百合の花。
(「これで、少しは冷静になってくれるといいんだけど」)
呪詛や悪意を打ち消していくその花びらが、ホシガネ達を囲むように迷宮をかたち作っていけば――リオンも祈りを籠めたうつくしき炎を生み出して、暗闇に立ち向かう意志を齎していく。
「キミは、何が欲しかったの? 望んだものは、何だったの? ……もう一度、よく思い出してみて」
「お前達の心は、お前達の想いは……万華鏡の中で燻る様な物では無いだろう?」
――出口を求めて彷徨う影朧たちは、まるで先ほどまでのリオンとルーチェのよう。けれど白百合の迷宮がこころを惑わすことは決して無く、彼らを照らす蒼い炎は前へ進む為の力になってくれるのだ。
「その花の花言葉は色々あるけど、純粋って意味もあるらしいよ」
はらはら舞う白百合の花びらで、影朧を祝福していくルーチェは、きっと純粋過ぎたんだねと言って切なそうに微笑む。そんななかでも、リオンの手を握って指先を絡めていけば――確かなぬくもりが、幸せが此処にあるのだと分かったから。
「……ボクは、彼と生きていく未来が欲しい。転生した彼じゃなく、今の彼が好きだから」
「死して共にあることも、悪くは無いが。それでも生きて共に居る事が……」
――見つめ合う紅と蒼の瞳に映るのは、もうお屋敷の主人と夜の蝶では無く、いつも通りのリオンとルーチェだった。ああ戀という感情は重く、そして苦しいものであったが、此処からは猟兵として影朧の転生を導いていこう。
「……だからお前達も、悲しき夢から覚めてくれ。一人で目覚められないのなら、俺達も手を貸してやる」
Dear――彼らに捧げる祈りの焔の名をそっと呟けば、蒼き焔が一層輝いて闇を照らしていく。全てを焼き尽くす其れが、次に生まれ変わる道標の光となるようにと願いながら、リオンとルーチェの声が影朧たちのこころを鼓舞していく。
「この焔がどうか、お前達の導とならん事を」
――こうしていられることが幸せで。ほら、出口はひとつしかないんだから、もう迷うことなんてない。
「……もう硝子を覗くのはやめよう?」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
氏家・禄郎
ネリー(f23814)と
夢のような時間をありがとう
(帽子をかぶり、コートを羽織る)
さて、影朧
騙して悪いがギムレットの時間だ
『思考』
残念だが命を引き換えに癒しは得られない
恋は人を燃え上がらせ、愛は人を安らげる
だが、死は闇を生むのみ
お前がやっていたのは闇を生み、影を呼び、朧を作り出す
悲しい自己満足だ
故に……このままではお前達は誰一人救われない
だからこそ問おう
君は人に恋をしたね?
人の愛に安らぎを見出し、戀に身をやつした
でも時間だ、人が眠りを必要とするように影朧も眠りが必要だ
おやすみ、かわいそうな人
そして、行こうネリー
探偵屋の時間だ
影朧にも子守唄が必要だ
(タイミングを合わせ拳銃弾を全て影朧に叩き込む)
ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と
夢のような時間をありがとう、って言うのは皮肉かしら?
ともあれ、騙してごめんなさいね
(早着替えでこの舞台にふさわしい袴姿へと、腰には拳銃)
自分の救いをまずは考えなさいよ、バカな子ね
他の影朧まで巻き込んで破滅していくなんて、ひどい話
歪なあなたが、他の誰かを救えるだなんてとんだ思い上がりだわ
だから、わたしたちが代わりに、あなたたちに救いをあげましょう
――勘違いしないでよね、あの夢のようなひと時のお返しよ
借りは作らない主義なの、それはこの探偵の師匠がよく知ってるわ
ええ、禄郎――【探偵屋】
まだてんでなってない銃の腕だけど
心を合わせて、教わった通りにありったけをくれてやるわね
――むせ返るような血のにおいが、芳醇な赤ワインのものであると気づいた時。紅の雫をたっぷりと吸ったシーツが一気に翻ると、其処には舞台に相応しい装いに姿を変えた、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)とミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)が、銃を手に影朧と向き合っていたのだった。
「……夢のような時間をありがとう」
「って、そう言うのは皮肉かしら? ともあれ、騙してごめんなさいね」
女王陛下と青年将校の姿が、瞬く間に赤に溶けて見えなくなってしまうなか――万華鏡のように新たな像を結んでいったのは、真実を追い求める探偵たち。
「さて、影朧。騙して悪いがギムレットの時間だ」
帽子を被りコートを羽織った禄郎の姿は、昔ながらの探偵そのもので、そんな彼の呟いた言葉にミネルバは、無意識の内に腰の拳銃へと手を伸ばしていた。
(「……ギムレット、ね」)
――いつだったか、彼が教えてくれた気がする。其れは昔のハードボイルド小説にあった、お別れを告げる言葉だった筈。そうして取り込んだ影朧たちを、尚も新たな影朧として産み落としていくホシガネに向かい、禄郎の声が端的に真実を告げていく。
「残念だが、命を引き換えに癒しは得られない。恋は人を燃え上がらせ、愛は人を安らげる。……だが」
館で起きたことを思い起こしながら、思考を巡らせていく禄郎は――其れを身を以て体験したからこそ、犯人にこう断言できた。
「死は、闇を生むのみ。……お前がやっていたのは闇を生み、影を呼び、朧を作り出す、」
それ以上言うなと叫ぶように、合成影朧が威嚇を行ってきたが、構うことはない。飛び散っていった呪詛の塊を拳銃で撃ち落としつつ、禄郎はホシガネたち影朧へ、事件の真相を打ち明けていった。
「悲しい自己満足だ」
(「――……ぅぅッッッ!!」)
身を引き裂かれんばかりの聲をあげて、抱かれた天体が瞬き火の粉を散らしていったけれど、それに慄くこと無くミネルバは一歩を踏み出していく。
「……自分の救いをまずは考えなさいよ、バカな子ね」
――戦うことしか知らなかった自分が、こうして敵対者と向き合っているのが不思議で、でも口にしていく言葉は、紛れもない彼女の本心だ。
「他の影朧まで巻き込んで破滅していくなんて、ひどい話。……歪なあなたが、他の誰かを救えるだなんてとんだ思い上がりだわ」
「まぁ、故に……このままではお前達は、誰一人救われないだろうか」
とん、と袴を翻して、更に一歩を踏み出すミネルバの隣に、重なった足音は禄郎のもの。
「だからこそ問おう、……君は人に恋をしたね?」
――彼は影朧に訊ねている。だけどその時、ミネルバの鼓動も僅かに跳ねて、味わったことのないギムレットの薫りが、ふわりと鼻をくすぐったような気がした。
「人の愛に安らぎを見出し、戀に身をやつした」
でも――人が眠りを必要とするように、影朧も眠りが必要で、その時間が来たのだと禄郎は言う。
「だから……わたしたちが、代わりに」
思い上がりかも知れないけれど――恋を知った自分たちなら、あなたたちに救いをあげられるとミネルバも続けて、禄郎から手渡された銃の照準を合わせていった。
「――勘違いしないでよね、あの夢のようなひと時のお返しよ。借りは作らない主義なの」
縋るようなまなざしを向けるホシガネ達へ、咄嗟に口にした言葉にいつかの名残を見せながら。探偵屋の師匠とその弟子は、彼らに子守唄を聴かせるべく銃の引き金に手をかける。
「おやすみ、かわいそうな人。……そして、行こうネリー」
「ええ、禄郎――『探偵屋』、まだてんでなってない銃の腕だけど」
――心を合わせて、教わった通りにありったけを。長いお別れを、彼らに贈ろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
偽りでもだましたでもなく、ちゃぁんと抱えておる気持ちではあるんじゃけど
でもそれで終われるほど、わしの気持ちも何もかも、易くなくてなぁ
けど、虚ぉ、汝ちょっと本気じゃったな
あとでちゃんとお話しよな
さて、問題はこの目の前の子よ
繰り返せばよい事など、何もない
違うんじゃよ。一度きりだからこそ美しいんじゃ、きっとな
それが恋でも、戀でも
消えてしまっても、それでええと思って抱いた想いじゃなかろうか
わしはそう思うんじゃけど、それもひとそれぞれか
言うとることがわかるなら、次の生に向かって解き放たれよ
その、連れだった影朧らと共に
向かってくるなら三爪で引き裂いて
痛い想いも戀のうちじゃろ
幸せだけとも限らんものな
華折・黒羽
救ってあげられるんですか?
あなたが今抱きかかえている人達
全てを
想いの形は
色は
それぞれ違う
あなたが俺達を招いたあの極彩色の様に
想いの形が違えば開く花の姿も異なる
色が違えば薫るにおいも同じでは無い
例えばそれを何度繰り返したとて
誰かの命で賄う道は既にその人の道とは言えない
そしてまた
迷う想いが
悔いる魂が増えるだけ
空っぽにしてやり直したその願いが
いったい誰を救えるというんですか?
守ること
救うことの難しさを知っている
…いや
教えてもらった
此れまで救えなかった幾つもの命に
俺はもう目を逸らさない
傷を隠さない
あの人達が生きていた証だから
この傷も全て抱えて
進むんだ
俺は真っ直ぐ
己の道を歩みます
─あなたはどうしますか?
赦さない、と告げたホシガネはきっと、自分が罠に嵌められたことよりも――恋が演じられた、お芝居のものだと知って怒りを募らせているのだろうと、終夜・嵐吾(灰青・f05366)には何となく理解出来たけれど。
「……偽りでもだましたでもなく、ちゃぁんと抱えておる気持ちではあるんじゃけど」
でも――それで終われるほど、嵐吾の気持ちも何もかもは、易くないのだ。そう、珠瓏館で過ごした一夜だけで、その想いの全てが明かされる訳では無く。
「けど、虚ぉ、……汝ちょっと本気じゃったな」
先ほど、己を戒めていった黒茨の様子を思い出した彼は、にこやかな笑みを浮かべつつ眼帯を撫でて、「あとでちゃんとお話しよな」と釘を刺すことも忘れない。
「ま、それはともかくとして。……問題はこの目の前の子よ」
「……ですね」
そうして一転して、怜悧な表情となった嵐吾の隣では、華折・黒羽(掬折・f10471)も影朧と向き合い、この事件を終わらせるべく考えを巡らせているようだった。彼らに残された救いである、転生――やり直せるかどうかは、自分たちの言葉に掛かっている。
「……救ってあげられるんですか? あなたが今抱きかかえている人達、全てを」
輝く天体を抱き、数多の影朧を取り込んでいくホシガネに向かい、声を掛けて。頭上で煌めくステンドグラスは、こんな時だと言うのに変わらずうつくしいのが、黒羽のこころを震わせる。
「想いの形は、色は――それぞれ違う」
――あなたが俺達を招いた、あの極彩色の様に。吐き出す言葉が連れてきたのは、ほろ苦い恋の記憶だったけれど、黒羽と嵐吾のそれは全く別のものだろう。
「想いの形が違えば、開く花の姿も異なる。……色が違えば、薫るにおいも同じでは無い」
黒き茨に締め付けられて、軋んでいくホシガネの天体もまた、茨を模倣し再生を始めていったけれど――嵐吾の身喰は、そのままでは終わらない。
「……繰り返せばよい事など、何もない」
己の身を這うことを許し、黒き獣の一部と化した腕を振り下ろして――戯れに喰らい、引き裂いていく。
「違うんじゃよ。一度きりだからこそ美しいんじゃ、きっとな」
――それが恋でも、戀でも。まぁ、痛い想いも戀のうちだ。幸せだけとも限らんものだと嘯いて、嵐吾は抗う影朧たちをねじ伏せていった。
「そう……例えばそれを、何度繰り返したとて。誰かの命で賄う道は、既にその人の道とは言えない」
その最中にも、広間に広がっていった氷点下の冷気は、黒羽が自決を演じた時の蜃気楼とは違う、はっきりとした魔力の宿ったもので。
「そしてまた、迷う想いが……悔いる魂が増えるだけ」
冬纏う符を片手に、黒羽の翳した屠からは氷花織の破片が舞い、極彩色のひかりを弾いて無限の色彩を生み出していく。
「空っぽにしてやり直したその願いが、いったい誰を救えるというんですか?」
――守ること、救うことの難しさを知っている。否、教えて貰った。此れまで救えなかった幾つもの命があって、だからこそ黒羽はもう目を逸らさない。
「傷を隠さない、あの人達が生きていた証だから」
この傷も全て抱えて進むのだと告げる、彼の黒剣がホシガネを氷の花群で包み込んでいくなかで、唸りをあげたのは嵐吾の三爪だった。
「……それに、のぅ。恋も戀も、消えてしまっても、それでええと思って抱いた想いじゃなかろうか」
あくまでそれは自分の考えであって、ひとそれぞれではあるだろうが――でも、言っていることが分かるのであれば、次の生に向かって解き放たれると良い。
「その、連れだった影朧らと共に」
「……俺は真っ直ぐ、己の道を歩みます」
――ならば、あなたはどうしますか?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薄荷・千夜子
【藤結】
嘘も貫き通せば真実です
誰かのための嘘ならば演じ切ってみせましょう
死んで一緒にとも思いましたが、今世で会えた一期一会
ならば私は私のままリウォさんと生きたいと…えぇ、欲深いのです
貴女の願いもいつか叶えられますよう、桜の導きがありますように
貴女のその優しさは間違いではないと思うから
気を引くのはお任せください
ふっと微笑んで視線で合図
そのままふわりとスカートをひらめかせて軽やかなステップでUC発動
【破魔】と【祈り】を込めた藤の花雨と浄化の舞を踊りながら
此度の藤は貴女へと
藤の花言葉には『優しさ』もあるのですよ
貴女が優しさに包まれて桜の元へと迎えますよう
リウォ・ジルイ
【藤結】
演技を続けよう
千代子の手を引いて
死んで添い遂げるより生きてこそだろう
こうして再び伴に歩めることを幸せに感じるよ
こいつが敵か
放って置けば殺人を犯していた相手と思うと義憤を感じる
恋愛は観賞用じゃねえ
花火みたいに散るものでもねえ
結びついたら簡単に離れるものじゃないんだよ
すまん地が出た
千代子はこんな相手でも赦すというのか
優しいのだな
では転生を目指して戦いを開始する
黒鍵を片手に四本両手で八本
コートの下からずらりと抜き出し構える
相手のUCに対して
カウンターでUC発動
もう一人の私も同じ武器を構え挟み撃ちにする
千代子の補助で動きが止まる機会を見逃さず
一斉に攻撃を仕掛ける
千代子の藤は美しいな
これは本音だ
真犯人の影朧をおびき出すことに成功したのだから、殺人事件を巡るお芝居は、もうお終いにしても良かったのかも知れないけれど――。
「……演技を続けよう」
「ええ、嘘も貫き通せば真実です」
それが誰かのための嘘ならば、演じ切ってみせましょう、と――リウォ・ジルイ(The Wall・f17183)と薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)は、恋人同士のお芝居を続けたまま、影朧を産み続けるホシガネを鎮めようと駆け出していく。
「まぁ、死んで添い遂げるより生きてこそだろう」
「私も、死んで一緒にとも思いましたが、今世で会えた一期一会……ならば、」
もう、その手を離さないと告げるかのように、千夜子の手を引いていくリウォの姿は、非業の死を遂げた影朧たちが夢みていた、幸福な結末だったのだろう。
「私は私のままリウォさんと生きたいと……えぇ、欲深いのです」
「俺の方こそ。……こうして再び伴に歩めることを、幸せに感じるよ」
にっこり笑い、互いを見つめ合うふたりに向かって、ホシガネの天体に取り込まれていた影朧たちが一気に押し寄せていくが――黒鍵を取り出したリウォの瞳が不意に細められると、殺気を孕んだ声が辺りの空気を震わせていった。
「……こいつが敵か。放って置けば殺人を犯していた相手と思うと、義憤を感じるが」
コートの下にずらりとぶら下がる、左右四対の十字剣――退魔術式が編み込まれたそれを器用に操ろうと、もう一人のリウォも召喚してホシガネを包囲していけば。
「恋愛は観賞用じゃねえ、花火みたいに散るものでもねえ。……結びついたら、簡単に離れるものじゃないんだよ」
思わず地が出てしまったことを気まずそうにしつつ、彼は説得を行う千夜子の様子を窺っていた。
「それでも……貴女のその優しさは、間違いではないと思うから」
そう言って手を差し伸べる彼女は、誰かを照らせるようにと願い続ける、眩い太陽を思わせて。そんな最中でもホシガネの気を引く役目を買って出た千夜子は、微笑みのなかにリウォへの合図を忍ばせつつ、ふわりとスカートを翻して浄化の舞を踊っていく。
「貴女の願いもいつか叶えられますよう、桜の導きがありますように――」
――軽やかなステップと共に降り注いでいくのは、闇を祓う藤の花雨。操花術式のひとつである雨花藤扇は影朧たちのこころを震わせ、いつまでもこの舞を見続けていたいと言う感情を生み出し、凝り固まった復讐心を洗い流していった。
「……此度の藤は貴女へと。藤の花言葉には『優しさ』もあるのですよ」
恋に酔う、決して離れない、そして――花が秘めた幾つもの想いをそっと囁く千夜子は、影朧が優しさに包まれて桜の元へと迎えられるよう、藤の雨にひたむきな祈りを籠めていく。
「千夜子は、こんな相手でも赦すというのか……優しいのだな」
――あくまでも任務をこなそうと動くリウォとは、事件に対する心構えも違う。怪異の質が違うと言えばそれまでだが、ならばこの世界の流儀に従って、自分も行くとしよう。
「……では。転生を目指して戦いを開始する」
再来した影朧たちを見据え、黒鍵を構えたもう一人のリウォとホシガネを挟み撃ちにし、千夜子の舞によって生まれた隙を――見逃さない。
「ああ、千夜子の藤は美しいな――」
――そうして降り注ぐ藤の花雨を受けて、一気に全ての黒鍵を放出したリウォもまた、いつまでもこの光景を見続けていたいと言う感情に囚われていたのだろう。
(「これは、本音だ」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
【五万円】
ぼんやりする意識の中、数度咳き込み
本当に死んでるんじゃないかと真を見る
変な術で感情がぐちゃぐちゃになって
クソ恥ずかしいことを口走った気がする
…説明すんなクソ……、死にてぇ…。
正常な思考の今は羞恥で死にそうだった
ふらりと立ち上がり、
手にしたのは『厄災の匣ハヌヱ』
愛ってなんだよ?
問いと共に放たれたのは凶悪な蟲
分からないからこそ"答え"が気になる
……さぁ…、どうだろうな…。
本当は知っている感情なのに
気づいていないだけなのか…
自分のことなのによく分からない
昔からそうだった
与えられてもよく分からなかったから
誰かに教えて欲しい
あれが"愛"って感情なら…俺は怖ーよ。
とてもじゃないが、手に負えない
久澄・真
【五万円】
咳き込む音に目を開けば
こちらを見る視線
俺を押し倒して熱烈なお誘いをした挙句
寄り添って一緒に死んだお気持ちは?
わざとらしく事細かに説明しにやにや
さっき死んだばかりだろ
と返す言葉
蛇竜を腕に巻き付かせ
立ち上がれば毒の名残か少しふらつくも些末事
ああ、それは俺も聞きたいねぇ
死んで尚縛り付けられる位
恋や愛なんつーのはイイもんなのか?
つか、
ああなるならお前もわりかし知ってんじゃねぇの?ジェイ
敵の術中時でさえ非効率としか思わなかった自分とは違って
…まあいいや
ひとまず終わらせるか
次の仕事もある
行け
蛇竜と共に死霊騎士も呼び出し
湧いてくる影朧へと差し向けた
ま、手に負えるもんなら
こいつらもこうなってねぇよな
――紫煙を吹きかけられて、身体に力が入らなくなったと思ったら、次に目を覚ましたのは冷たい床の上だった。
(「……あぁ、何だこれ」)
泥のような眠りから浮上していくジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は、未だぼんやりした意識の中で形を成さない思考を捏ねくり回す。この感覚は、そう――大して効かない薬をかっ喰らって、変に身体が怠くなった時に似ている気がした。
「――……ッ」
直後、反射的に痙攣を起こした喉が咳き込んで、久澄・真(○●○・f13102)の姿がジェイの視界に入ってくる。固く目を閉じた彼からは、普段の悪辣さが感じられなくて――ああ、とジェイは重たい頭に手を当てて溜息を吐いた。
「本当に、死んでるんじゃないか」
「……俺を押し倒して熱烈なお誘いをした挙句、寄り添って一緒に死んだお気持ちは?」
と、其処で真の瞳が不意に開けば、いつも通りの軽口までもがすらすらと零れていく。ぐふっ、と再びジェイが咳き込むと、先ほどの記憶が断片的に蘇ってきて頭を抱えたくなった。
「変な術で感情がぐちゃぐちゃになって、クソ恥ずかしいことを口走った気がする……って、……説明すんなクソ……、死にてぇ……」
「さっき死んだばかりだろ」
尻すぼみになっていく声に混じる、彼の羞恥を満足そうに確かめた真は、にやにやと八重歯を覗かせて笑っていたものの――立ち上がった身体は微かにふらついており、腕に巻き付いた蛇竜が、ちろりと舌を覗かせて獲物を睨みつけていた。
「……愛ってなんだよ?」
――隣でゆっくりと立ち上がる、ジェイの手に握られていたのは厄災の匣。その問いかけは影朧へと向けたものであり、彼が満足な答えを得たと思うまで、ハヌヱから湧き出した黒燐虫の群れは、獲物を貪り喰らうことを止めはしない。
(「分からないからこそ、『答え』が気になる」)
不確かな感情――それは、偽りの死を迎える間際であっても、ジェイの指からするりと零れ落ちていった。目まぐるしく色合いを変えて、ほんとうの形が掴めない其れに、「ああ」と真も頷き死霊を操っていく。
「それは俺も聞きたいねぇ。死んで尚縛り付けられる位、恋や愛なんつーのはイイもんなのか?」
「……さぁ……、どうだろうな……」
――頭上で煌めくステンドグラスを見上げてみれば、何かが心を震わせたような気もしたが。自分のことなのによく分からない。本当は知っている感情なのに、気づいていないだけなのか。
「……昔からそうだった。与えられても、よく分からなかったから」
誰かに教えて欲しい――と言う言葉は、厄災を運ぶ蟲たちの音に紛れさせておくことにした。真あたりに聞かれたら面倒だ。さっきみたいに事細かに説明でもされてしまったら、本当に死んでしまう。
「つか、ああなるなら、お前もわりかし知ってんじゃねぇの? ジェイ」
「……聞こえてたのかよ」
――何食わぬ顔で死霊の騎士を召喚し、湧き出していく影朧たちに差し向ける真へ、ジェイの舌打ちをする声が聞こえてくる。
(「術中時でさえ、非効率としか思わなかった自分とは違って」)
欠落したこころではきっと、その答えを導き出すことなど出来やしない――しかし、まぁいい。
(「ひとまず終わらせる」)
次の仕事もあると気持ちを切り替えた真は、ホシガネの再生を止める為に蛇竜の牙を突き立てていく。
「あれが『愛』って感情なら……俺は怖ーよ。とてもじゃないが、手に負えない」
「ま、手に負えるもんなら、……こいつらも、こうなってねぇよな」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花川・小町
【花守】
そうね
これ以上は悪酔いになってしまう
其こそ、毒だわ
――此処からは素面で、向き合いましょうか
ああ、でも――今もきっと心は同じね?
技能とUCで防御専念
縺れてしまった絲と心が、言の葉で解ける迄
――そう、好きなだけぶつけると良いわ
何度でも、何度でも――抱えた全て、せめて一緒に抱きとめましょう
(嘗ては叶わなかった事――あの娘にはしてあげられなかった事――過去は変えられずとも、せめて今は、未来は――)
身分を偽った事は御免なさいね
でも、ええ――心には、偽りはない
全ては、貴女達をこの籠の外へと連れ出す為に
泡沫の夢は、もうお仕舞い――夢を現に、昇華しましょう
星より硝子より煌めく日々を、掴みに向かって――
佳月・清宵
【花守】
もう溺れも飲まれもしない――
さて、夢も酔いも醒めたな
戯れに身を焦がして大火傷なんざ笑えねぇ
後は現と仕事に戻るのみ
――まぁ、最後まで付き合ってやるさ
縺れた糸を分ける為
技能尽くして防御専念
戀とは言葉と心で絲を縒り合わすもの――
いつかのこの女の言がふと過り、紡ぐ
本来の意はともあれ、如何にもらしい解釈
言葉を失い、心を乱し、縺れ拗れて傷付いたもの
其を再び紡ぎ直さんという心意気を買って此処へ来た
其は真実
(嘗ての己は終ぞ成せずに裂いた――その二の舞だけは演じまい)
騙して悪いな
許さずとも良い
だが手前自身と抱えた連中はもう赦せ――赦されるだろう、桜にも
過去の悲歎を繰り返し、未来を閉ざし続ける時にゃ幕引を
澄んだ音を立てて、硝子の小瓶が砕け散っていくと――極彩色の喧騒は遠ざかり、見慣れた館の広間が視界に入ってくる。
(「もう、溺れも飲まれもしない――」)
硝子の向こうに誰かの姿を追い求めるのも、誰かの姿を重ねて偽りの恋に耽るのも、佳月・清宵(霞・f14015)と花川・小町(花遊・f03026)は、此処で終わりにすることにした。
「さて、夢も酔いも醒めたな。……戯れに身を焦がして、大火傷なんざ笑えねぇ」
「……そうね。これ以上は悪酔いになってしまう」
――其こそが毒であり、だから此処からは素面で向き合いましょう、と。慣れた手つきで薙刀を構えていく、小町に頷いた清宵の方も、煙管を片手にゆらりと狐火を舞わせて影朧の群れをあしらっていく。
(「後は、現と仕事に戻るのみ」)
「ああ、でも――」
あくまでも相手の攻撃を受け止め、時には躱すことで防御に専念しているふたりは、ホシガネの再生による模倣を防いでいたようにも見えたのだが――。
「今もきっと心は同じね?」
「――まぁ、最後まで付き合ってやるさ」
その目的は、彼ら影朧の縺れた糸を分ける為。戀と言う文字が表すように、縺れてしまった絲と心を――言の葉を用いて解ける迄、清宵たちはこうして向き合うことを選んだのだった。
「――そう、好きなだけぶつけると良いわ」
巫覡載霊の舞によって神霊体に姿を変えた小町は、ちょっとやそっとの攻撃で怯みはしない。そうして刃から放たれる衝撃波を利用しつつ、迫る影朧を彼女が一気に押し返していけば。
「戀とは、言葉と心で絲を縒り合わすもの――だったか。……本来の意はともあれ、如何にもらしい解釈だ」
清宵の方は、いつかの小町が口にした言葉を再度紡ぎながら――妖しき美貌の元、幾つもの炎を操って影朧の動きを鈍らせていった。
「何度でも、何度でも――抱えた全て、せめて一緒に抱きとめましょう」
――それは、ホシガネの願いを受けて小町が紡いだ、彼女なりの言葉であり。
「身分を偽った事は御免なさいね。でも、ええ――心には、偽りはない」
輝く天体の生み出すひかりを弾き返す、澄んだ刃の奏でる音は、熱せられた鉄が新たないのちを吹き込まれていくように、高くたかく辺りに響いていった。
「全ては、貴女達をこの籠の外へと連れ出す為に」
「騙して悪いな、許さずとも良い」
――数多の狐火が集まって、一際強い熱を帯びた炎を抱いた清宵も、影朧を足止めしつつ言の葉を紡ぐ。言葉を失い、心を乱し、縺れ拗れて傷付いたもの――ホシガネと言う名をもつ其に向き合い、その魂が救われんことを願いながら。
「……其を再び紡ぎ直さんという、心意気を買って此処へ来た。其は真実」
ああ、ふたりが此処で演じたのは、確かに偽りのお芝居だったけれど。嘗ての記憶の叶わぬ想いは、此処で終わりにしようと誓ったのだ。
(「あの娘にはしてあげられなかった事――過去は変えられずとも、せめて今は、未来は――」)
(「嘗ての己は終ぞ成せずに裂いた――その二の舞だけは演じまい」)
――ホシガネに取り込まれた影朧たちの、哀しみとも安堵ともつかぬ聲が木霊していくなかを、狐火を宿した神霊の刃が翻っていくと。陽炎揺らめく軌跡は真っ直ぐに、偽りの再生を繰り返す星目掛けて吸い込まれていく。
「泡沫の夢は、もうお仕舞い――夢を現に、昇華しましょう」
星より硝子より煌めく日々を、掴みに向かって――そうして、過去の悲歎を繰り返し、未来を閉ざし続ける時に幕引きを。
「ああ、手前自身と抱えた連中はもう赦せ――赦されるだろう、桜にも」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七那原・望
えくるん(f07720)と参加
確かに心中してしまえば彼を永遠に繋ぎ止めておくことが出来るかもしれない。
でも、眠りに堕ちる時に思ったのです。例えどんなに困難でも、やっぱりわたしは彼と生きたい。
エクル様は……えくるんはいつだってわたしに教えてくれました。世界はこんなにも光(きぼう)に満ちているんだって。
だから、あなたの救いはわたし達には必要ありません。
どんなに苦しくても、えくるんと一緒に笑い合って生きたいのです。
全ての望みを込めて、【全力魔法】の【Lux desire】を。
あなたを愛しています。えくるん。
だから、これからもわたしと一緒に生きてほしいの。
わたしに、幸せをいっぱい教えてね。
七那原・エクル
七那原・望(f04836)と参加
おまえの目論見通りになってやるもんかっ!
沈んだ意識の底でボクのことをずっと傍らで応援してくれてきたもうひとつの人格に怒られちゃったよ
望を愛すると誓ったのなら、最期まで貫き通せ。護るものができたその結果、いまよりも弱くなったとしてもそれは本当の弱さじゃないって。「意志」が折れたときそれが本当の弱さとなると。
ボクはもう迷いません、望と同じ時間を歩んで、人生の最期には楽しかったと胸を張って逝けるような人生を歩ませてあげたい
戦闘はEディレーションガンを撃ち込んで行動を妨害、その隙にユーベルコードで攻撃するよ
死んでしまえば、この瞬間は永遠のものになる――毒を飲んで眠りに落ちていく前に、七那原・エクル(ツインズキャスト・f07720)のこころを惑わした声は、そう囁いて笑っていたように思う。
「……おまえの目論見通りになってやるもんかっ!」
しかしエクルの中には、もうひとつの人格も確かに存在していて――ずっと傍で応援してきてくれた『彼女』は、彼を叱りつけてこう言ったのだ。
「望を愛すると誓ったのなら、最期まで貫き通せ……か」
沈んでいく意識のなかで、そんな厳しくも優しい声が響いてくれば、エクルの瞳がぱちりと開いて力が戻って来る。
(「ありがと、ヒメ」)
そうして――同じ肉体を共有する彼女にちいさく頷き、銃を構えたエクルの後ろでは、七那原・望(封印されし果実・f04836)もまた、仮初の死からゆっくりと目覚めていたのだった。
「……確かに心中してしまえば、彼を永遠に繋ぎ止めておくことが出来るかもしれない」
ふたりを死に誘った殺人事件の犯人――ホシガネに向かって、大人びた様子で告げる彼女はもう、不確かな未来に怯えるか弱い令嬢では無い。
「でも、眠りに堕ちる時に思ったのです。……例えどんなに困難でも、やっぱりわたしは彼と生きたい」
――孤独な最期を憂い、死んでひとつになることに希望を見いだしても。ホシガネの抱く天体に取り込まれた影朧たちが、幸せになるとは思えなかったから。
「それに、ね。護るものができたその結果、いまよりも弱くなったとしても……それは、本当の弱さじゃないって」
恋する気持ちは、時にひとを強くもするし弱くもさせる――だけど、本当の弱さは『意志』が折れてしまった時にやって来るのだと、エクルは言う。
「だから――ボクはもう迷いません」
何度産み直してやり直そうとも、それは彼にとっての救いでは決してない。エクルの手のなかの小型電子砲――Eディレーションガンが、ホシガネの周囲に電磁フィールドを生み出すと、直後に放たれた機械槍が、超加速を得てその天体に吸い込まれていく。
「エクル様は……えくるんは、いつだってわたしに教えてくれました。世界はこんなにも、光(きぼう)に満ちているんだって」
天使の翼を広げながら、全ての魔力を光にこめていく望も、迷うことはしなかった。あなたの救いは、わたし達には必要ない――そうきっぱりと告げた彼女は、眼帯越しの瞳を、ふっと和らげるようにしてエクルの方を見つめる。
「……どんなに苦しくても、えくるんと一緒に笑い合って生きたいのです」
――エクルの槍撃が貫いたホシガネの天体目掛け、全てを押し流す勢いで迫っていく光の奔流。其処へ全ての望みをこめながら、少女は灯火に向けて愛を囁いていた。
「あなたを愛しています。えくるん。……だから、これからもわたしと一緒に生きてほしいの」
「ああ、望と同じ時間を歩んで……人生の最期には、楽しかったと胸を張って逝けるような、そんな人生を歩ませてあげたい」
「……ありが、とう」
――わたしに、幸せをいっぱい教えてね。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・蒼夜
【藤桜】
俺は彼女の姿を探す
きっと彼女ことだ
例えコレが芝居だとしても一人で悩み苦しみ、そして
俺の事じゃ無くてもいい、
彼女が選んだ道が幸せなら俺は喜んで送りだそう
でも一人で消えようする道なら拒む
それが彼女の希望だったとして
紅く染まる彼女を見つける
咲夜、と名を呼び
駆け寄り手を差し伸べる
藤乱舞
藤が舞、彼女を護り攻撃する
俺は彼女の騎士、どんな時でも傍で守ると誓った
君も
次に転生したら君を愛し護る人が現れるはず
もし居なかったとしても君の騎士にはなれないけど俺が護る事は出来るから
だから安心してお眠り
東雲・咲夜
【藤桜】
ふと、耳を撫ぜる聲
振り返る眸が捉えた藤彩の姿
そうくん?どうして……
指と指が結わう馴染みの縁
瞬間、あこぎな『わたし』を心奥へ押籠める
風に解ける炎之華
彼は、此の戀衣を知っているけれど…
ああ、噫…騙してしもて堪忍どす
せやけど心は本物やから
ほんまのほんまに此の命、愛恋に捧ぐ想いよ
極彩硝子の粒子が宛ら細氷の如く
燦めきながら風神霊のかいなに抱かれて
征く手を阻む影朧に纏わう
うちの戀なぁ、ほんまの意味では実らへんの
禁じられとるもんやから
全力で戀して、愛して、喩え其れが儚く散っても
後悔だけはせえへん
一度きりやからこそ此の心は咲き満ちる
あんさんは優しいんやね
大丈夫、痛みすら愛おしいの
せやから…おやすみやす
――珠瓏館を彷徨い歩き、『彼女』の姿を探し求めるのは朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)。極彩色のまぼろしが消え去っていき、影朧の気配が益々濃くなっていくなかでも、桜のような彼女の微笑みを、未だ蒼夜は目にしていない。
(「ああ、きっと」)
館の門をくぐった時よりも、予感はどんどん強くなっている。思い浮かべた彼女の貌は、降りしきる雨のような哀しみに濡れていて――蒼夜が手を伸ばしたところで、もう遅いのかも知れないけれど。
(「……例えコレが芝居だとしても、彼女は一人で悩み苦しんでいた筈で、そして」)
館が招く殺人は、愛しい相手にこころ惑わされて、自らの手で死を選ぶように仕向けられると聞いた。しかし彼女の視た其れが、自分の姿で無くてもいい。
(「彼女が選んだ道が幸せなら……俺は喜んで送りだそう。でも」)
一人で消えようとする道を選んでしまうのなら――靴音も荒く駆け出した扉の向こう、蒼夜の目に飛び込んで来たのは、儚くも艶やかに燃え上がる銀桜だった。
(「その道を、拒む――喩えそれが、彼女の希望だったとして」)
ゆらゆらと燃える炎之華のなかで、きらりと光った空色の涙は、決して蒼夜の見たかったものでは無かったのだから。
「……咲夜!」
――紅に染まった、彼女の名を呼ぶ。そのまま駆け寄って、力一杯彼女を引き寄せていく。
(「ぁ――……」)
轟轟と呻く炎の向こうで不意に懐かしい聲が響いて、東雲・咲夜(桜妃・水守姫・f00865)の耳を撫ぜていったような気がした。
「そう、くん?」
振り返る眸が捉えていった、霞む景色のなかで揺れる藤彩は、彼女が見知った幼馴染のもので――今よりも幼い彼が、涙を堪えているようにも見えてしまったから。咲夜は伸ばされた蒼夜の手をぎゅっと握りしめて、その胸のなかへと飛び込んでいく。
「どうして……」
直後――指と指が結わうふたりの縁によって、瞬く間に炎之華が風に溶けていったけれど、咲夜の抱く想いは変わらない。尚もあこぎな『わたし』が嘲笑いそうになるのを、必死に心奥へと押し込めていく彼女の傍で、うつくしく降り注いでいったのは紫藤の花びらだ。
(「そうくんは、うちの戀衣を知っている、けど……」)
「……俺は彼女の騎士、どんな時でも傍で守ると誓った」
――咲夜に襲い掛かろうとした星産みの影朧が、藤乱舞の一太刀の元に斬り伏せられていくなか、蒼夜はホシガネに向かって説得の言葉を投げかけていた。
「君も……次に転生したら、君を愛し護る人が現れるはず。……もし居なかったとしても」
なんで、なんでその娘ばかりと、影朧たちがあげる怨嗟の聲にもたじろぐこと無く――蒼夜の舞わせる藤の花びらは邪を祓い、再生の力を封じて咲夜を護る。
「君の騎士にはなれないけど、俺が護る事は出来るから……だから、安心してお眠り」
「ああ、噫……騙してしもて堪忍どす、せやけどっ」
――心は本物だから、と。此の命は愛恋に捧ぐ想いだとホシガネへ訴える咲夜も、風神霊を召喚し極彩硝子の粒子を舞わせ、往く手を阻む影朧の動きを封じていった。
「……うちの戀なぁ、ほんまの意味では実らへんの。禁じられとるもんやから」
きらきらと宙に踊る硝子たちは、さながら細氷の如く煌めいていて。虚ろなホシガネの瞳と視線が交わったところで、慈悲のまなざしを向けた咲夜は――魂を眠りへと誘う大国主大神の光華を、影朧の胸に咲かせていく。
「全力で戀して、愛して……喩え其れが儚く散っても、後悔だけはせえへん」
――ああ、一度きりだからこそ此の心は咲き満ちる。だから、優しい貴女も後悔しない一度きりの恋を、生まれ変わってまたして欲しい。
「大丈夫、痛みすら愛おしいの。せやから……おやすみやす」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟🐰
嗚呼、フレズ
泣かないで
フレズには泣き顔よりも笑顔が似合う
指で涙をすくい笑む
何言ってるの
フレズは愛されているじゃない
櫻宵は君のこと心配してるしレディになって欲しいっていってるし不器用な癖に懸命に愛して育ててるよ
それに姉妹だって館の皆もいる
君は愛を手にしてる
それに気がつけないのは
君が、この世界をいつか捨てるつもりだから
愛さないようにしている、よね?
ふふ、そうして
僕だってフレズがだいすきだよ
嗚呼、哀しい愛も
悲しい恋もとかしてしまお
弔いのよう歌うのは「望春の歌」
優しい星がまた巡れるように
今度は君が救われる番だ
命を捧げても慰めにはならないんだから
笑う少女に安堵して
描かれる希望に歌を添えて響かせる
フレズローゼ・クォレクロニカ
🐟🐰
星が瞬き小瓶が割れる
舞う白の人魚に見蕩れて涙が零れて落ち
堕ちたものはかえらない
こんなにも君が綺麗なのは
その身に注がれた愛
君自身が抱いている―愛の
ボクはそんなのわからない
パパもママもどこかへ行ってしまって、故郷にも帰れなくて……
でも
それでもこの見知らぬ世界で
ボク―わたしは
あいされたからここにいる
不器用に愛して育ててくれた龍がいるから
受け入れてくれる皆が
痛いことついてくるね、リルくん
いつか故郷に帰るから
わたしはこの世界を愛さないようにしてるって
でもそれもおしまい
わたしは注がれた愛に報いるよ
歌と共に花描き咲かす
さぁ!恋も戀もなんのその!
哀しい星を嘆きを全部
絶望から希望の極彩色に塗り替えよう!
――きらきら輝く人魚の涙を閉じこめた、硝子の小瓶が落ちて割れる。何処か遠い空で星が瞬いた気がして、フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)は思わず目をこすってみたけれど、滲んだ視界でヴェールのように揺らめいたのは、変わらぬ美を湛えた白い人魚の姿だった。
「……ああ、やっぱり綺麗だなぁ」
からん、と転がっていった大鎌にも目をくれず、フレズローゼの両目から止め処なく涙が溢れていくなかで――リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は首を刎ねられる前と同じ、見惚れるような笑みを浮かべていた。
「嗚呼、フレズ。泣かないで――」
フレズには泣き顔よりも笑顔が似合うと言って、そっと指で涙をすくってくれるリルはやっぱり綺麗で、愛でられるのに相応しい存在だと、フレズローゼも分かっている。なのに――。
「駄目だよ、リルくん。……堕ちたものはかえらない」
そんなリルの指を握りしめたまま、ふるふると苺ミルクの髪を揺らす少女は、衝動に任せて彼を襲ってしまった事実に、肩を震わせて泣いていた。
「こんなにも君が綺麗なのは、その身に注がれた愛と。それから、君自身が抱いている――愛の、」
――愛。そんなのボクには分からないと、フレズローゼは言う。パパもママもどこかへ行ってしまって、故郷にも帰れなくて。こんな酷いことをしてしまった自分を、愛してくれるひとなんてもう居ないのだと、弾けた涙の向こうで影朧が手招きをする。
「……何言ってるの。フレズは愛されているじゃない」
だけど――何でもないことのようにリルは、愛はすぐ傍にあるのだと言って、何度でも彼女の涙をぬぐってくれるのだ。
「櫻宵は君のこと心配してるし、レディになって欲しいっていってるし……不器用な癖に、懸命に愛して育ててるよ。それに、」
姉妹だって館の皆もいる――君は愛を手にしているのだと、指折り数えて教えてくれるリルの言葉が、フレズローゼの胸にすとんと降りてきて。
「……それに気がつけないのは、君が、この世界をいつか捨てるつもりだから。愛さないようにしている、よね?」
「そう、でも……それでも、この見知らぬ世界で」
――いつしか彼女の瞳に映る世界は、再び鮮やかな色彩を取り戻して、未だ見ぬうつくしさを教えてくれる。
「ボク――わたしは、あいされたからここにいる」
不器用に愛して育ててくれた龍がいるから、受け入れてくれる皆がいるから。痛いところを突かれたと、リルに苦笑してみせるフレズローゼだったけれど――涙を拭ったその貌は晴れやかで、沢山の愛を絵描く喜びに満ち溢れていたのだった。
「いつか故郷に帰るから、わたしはこの世界を愛さないようにしてるって……でも、それもおしまい。わたしは注がれた愛に報いるよ」
「……ふふ、そうして」
僕だってフレズがだいすきだよと、その手を取るリルもまた、共に花描き咲かす為に、弔いの歌をホシガネたち影朧へと贈る。
(「嗚呼、哀しい愛も、悲しい恋もとかしてしまお」)
――さあ、心に咲く薄紅を風に委ねて散らせよう。望春の歌が桜吹雪を呼んで、未だ未練を完全に断ち切れぬ影朧を、心地良い眠りに誘っていけば。
「さぁ! 恋も戀もなんのその! 哀しい星を嘆きを全部、絶望から希望の極彩色に塗り替えよう!」
魔法石を砕いて絵の具にしていくフレズローゼは、筆を滑らせ色とりどりの花を描き、天から降り注ぐ再生の力も相殺しながら希望のひかりに変えていく。
「優しい星がまた巡れるように……今度は、君が救われる番だ」
――命を捧げても、慰めにはならない。でも、愛をもらうと綺麗になれるから。
「……世界が歓迎してくれてるって思うんだ、だっけ?」
「そう、……単純だろ?」
そう言って笑い合う、フレズローゼとリルに背中を押されるようにして――桜花舞う春のなかで歌と花に祝福された魂たちは、再び誰かと巡り合う為、新たな未来へ向けて旅立っていった。
(「……恋と戀のはざまをうつろう、恋獄カレヰド」)
それは、恐ろしくも哀しい――けれど、それよりももっと、しあわせなもの。
大成功
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