11
闇に灯火を

#ダークセイヴァー #人類砦 #闇の救済者

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー
🔒
#人類砦
🔒
#闇の救済者


0




●落ちたばかりの種火は
 ダークセイヴァーの渓谷の奥。崖の中腹に存在する古い年代の遺跡のそばに、ひなびた寒村が存在していた。それは、遙か昔に一度ヴァンパイアの襲撃に遭い、遠い昔に皆殺しにされた人の死体ばかりが転がる、一度は完全に死した村。
 しかし、その死体が土や埃に還った頃。この世界で立ち向かった猟兵たちによる活躍が始まった。ヴァンパイア――オブビリオンが排除される瞬間を目の当たりにした者、またはそれを噂話で聞いた者たちは、いつしかこの世界に『希望』という概念を、その胸に抱き始めていた。
 かくして、ヴァンパイアたちも忘れ去った遺跡の見える寒村に、その光を胸にした人々が集まり始めた。
 それは、命すらも軽々しく奪い上げて君臨する存在に、いつか反旗を翻す為。身を潜め、姿を隠しながらも絶望から立ち上がった人々が、打倒を夢見てまだ弱い牙を研ぐ場所。
 各地に点々と現れ始めたそれは、いつしか『人類砦』と呼ばれるようになっていた。

●グリモアベースにおいて
「ダークセイヴァーにおける『人類砦』の一つが、オブビリオンによって破壊される」
 猟兵に招集を掛けて、第一声。レスティア・ヴァーユ(オラトリオのシンフォニア・f16853)は、集まった猟兵たちに端的にそう告げた。
「予知では、凄惨たる有り様だった。そこにいた人々は、一撃で死ねるならばまだ良い方。迂闊に生き残ったものは死ぬまでいたぶられ、五体を生きたまま引き裂かれる者もいた」
 淡々と事実を紡いでいくが、それを予知する事で、体感に近く目撃したレスティアの顔から色が退けている。
「敵は、無数の巨大なゴーレム。そして、それに指示を出すヴァンパイア――オブビリオンがいた。
 言葉では聞き取れなかったが、知性の薄いゴーレムに虐殺の指示を与えていたのは、間違いなくそのヴァンパイアだろう」

 凄惨な光景だけが脳裏をかすめるが、欲しいのは猟兵たちに有利となる情報であると、レスティアは記憶から情報を引き出していく。
「予知を目にした際には、既にヴァンパイアはそばにある遺跡にその姿を見せていた。
 そこから村にゴーレムを放ち、人々の惨劇を愉しんでいたのであろうと思われる。
 ヴァンパイアを引き出すには、まずは邪魔をされぬよう暴虐を尽くすゴーレムを破壊し尽くす必要があるだろう」

 そうして記憶に残る予知の情報を全て伝えきり、レスティアは猟兵たちに向かい、深く頭を下げた。
「――悲劇を止めたい。どうか宜しく頼む」


春待ち猫
 こんにちは。新米マスターの春待ち猫と申します。
 第六猟兵ニ回目のシナリオということで、まだまだ緊張のし通しですが、どうかよろしくお願い致します。

 今回は、第1章が集団戦。第2章がボス戦。第3章が日常となっております。
 章内の概略は以下となります。

 ○第1章:人々を虐殺の渦中に陥れようと、指示を受けて遺跡から降りて来る、無数のゴーレムたちと戦闘になります。
 ゴーレムたちはまだ村の中には辿り着いていませんが、実際に戦闘に入るのは村侵入のの瀬戸際です。その為、村の人々は敵の気配に気付いていますが、既に退路もなく村を出ることが出来ないでいます。
 ○第2章:遺跡にいる、ゴーレムに人々の虐殺を命じていたオブビリオンとの戦闘です。
 ○第3章:無事にボスを倒した際、また過酷な生活に戻る前に、一時の安らぎと活気のため小さな祭りが行われる予定です。
(第3章のプレイングによる【POW】【SPD】【WIZ】はゆるやかにて問題ありません)

 それでは、どうかよろしくお願い致します。
58




第1章 集団戦 『グレイブヤードゴーレム』

POW   :    なぐる
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    ふみくだく
【踏みつけ】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の土塊を取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    さけぶ
【すべてをこわしたい】という願いを【背中の棺群】の【怨霊】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

地籠・凌牙
【乱入連携アドリブ諸々歓迎】
一匹でも侵入を許したら終わりだな……かといってこっちが戦って飛び火してもダメだしな。一定以上の距離を保たねえと……

まずは【指定UC】を使って鎖で無理やり引っ張る!【怪力】舐めんな、ゴーレムだろうが引っ張り切ってやる。
可能な限り村から距離を取って戦うぜ。
脚を鎖で引っかけて転ばして、その脚を【鎧砕き】の要領で砕いてやればゴーレムとはいえ簡単には動けるようにゃならねえハズだ。
俺のユーベルコードは範囲向きじゃねえから、一匹ずつ【おびき寄せ】て確実に仕留めていくぜ。


リューイン・ランサード
墓場から棺桶と怨霊背負って現れるゴーレムですか。
悪趣味ですね。
人々を護る為にも倒さないと。

UCでドラグーンを呼び出して乗り込み、村の外側でゴーレム達を迎撃します。
敵の攻撃は【第六感と見切り】で予測して回避し、躱しきれない攻撃は【ビームシールド盾受けとオーラ防御】とドラグーンのチタンの鎧で防ぐ。
その上でエーテルソード巨大化版に【炎の属性攻撃】を纏っての【2回攻撃・なぎ払い・範囲攻撃】でゴーレム達を纏めて焼き斬る。

敵の数に包囲されそうなら翼を使った【空中戦】で宙を舞って逃れ、敵頭上から【炎の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱・範囲攻撃】による極大炎球を放って、一気に燃やし尽くす!

ここは抜かせませんよ!



「墓場から棺桶と怨霊背負って現れるゴーレムですか。
 ――悪趣味ですね」
 村から少し離れて、遺跡と村との中間より村を見下ろした、リューイン・ランサード(竜の雛・f13950)は、丁度、背中に無数もの棺桶を背負い、一体一体が小さな山のようにも感じる『グレイブヤードゴーレム』の姿を目にしていた。
 その有り様は、間違いなく怨念が成せるものだと心が告げている。
「人々を護る為にも倒さないと」
 心に傾けた決意と共に、リューインはユーベルコードを発動させた。
『大地の精髄よ、此処に集いて不壊の盾と成れ。』――静かに律せられた心で紡がれる言の葉で【守護騎士「ドラグーン」召喚(シュゴキシドラグーンショウカン)】を成立させる。現れたものは、背中から乗り込んだリューインの動きを完全トレースする、その背丈の二倍はあろうかという、チタン鋼の有翼騎士だ。
 遺跡からはただならぬ気配を感じ、一人で近づくのは危険だと判断して、リューインはまだ村へ向かう途中のゴーレムの群れの中へと、警戒しながら身を置いた。
 そこに待ち構えていたと言わんばかりの殺気が、ドラグーンへと集中する。
「――」
 ふと、ドラグーンの内部でそれを操るリューインの『サークレット』が、小さく弾けるような音を立てた。反射的にその場からドラグーンで飛び退けば、死角からのゴーレムによる拳が、ほんの瞬間まで自分が立っていた所に、猛撃を伴い振り抜けるところだった。
 攻撃が当たらない。沈まない有翼騎士にしびれを切らせたのか、数でドラグーンを囲まんと、複数のゴーレムによる一斉の拳が迫る。だが、それらはリューインの動きに沿って巨大化した『フローティング・ビームシールド』と、戦場で身に付けている『光絹のスカーフ』の力を伴って、やはりドラグーンの身に届きもしない。
 しかしゴーレムの巨躯は、その数が多くなるにつれて、少しずつドラグーンの可動範囲を狭めていった。致命的ではないがその拳は、チタンの鎧をかすめ始める。
「これで――!」
 それでも、ドラグーンがリューインの所持と同じくした巨大化したエーテルソードを振りかざす。同時に、内部でリューインが被っている『キャスケット』からの情報が、即座にそれを使った攻撃の最適解を叩き出す。
 ――エーテルソードの白金の刀身が、炎を纏い灼熱に染め上がる。リューインは自分を取り囲もうとするゴーレムたちを、その剣で複数体を巻き込み袈裟斬りに、そして返す刃で真横になぎ払った。
 そこには、熱と斬撃で稼働不能となった無数のゴーレムと、残火となった炎の筋だけが残され消えた。
「ここは抜かせませんよ!」
 ゴーレムへの宣告。リューインの決意が、強く戦場へと掲げられた。

「うお! 派手にやってやがるな!」
 村の外に身を置き、巨大な金属の騎士を駆るリューインの存在に、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)も、今村に集まった人々が直面している危機に比べれば、あまりにも脆弱としか言いようもない柵から身を乗り出し、その光景を目にしていた。
 こちらも急ぎ周囲を見渡せば、ゴーレムの数はあまりに多く、そして一匹が大きいのが目に入る。動きが鈍足である事が唯一の救いだが、一匹でも村に入れてしまえば、その体躯から致命打を与えるのには時間が掛かり、その隙に確実に被害が出るであろう事がありありと想像出来る。
「一匹でも侵入を許したら終わりだな……かといってこっちが戦って飛び火してもダメだしな。一定以上の距離を保たねえと……」
 考えを呟き纏めながら、凌牙は柵に手を掛け勢い良く乗り越えた。
 複数の敵からの注意を向ける為にも、多数を攻撃するすべがあればと思ったが、凌牙の技はほぼ全てが単体に対する一撃確殺の為にある。逆に囲まれては対処出来ずに不利となることは間違いない。
「――よし」
 急ぎ、思案を巡らせていた複数の条件が整った場所を探し出す。そして凌牙は、己の生まれ持った特性である『穢れを喰らう黒き竜性(ファウルネシヴォア・ネグロドラゴン)』を使用した。
 この凌牙が持つ特性は、生まれつき『不運や呪いなど、沸き上がる穢れ』を覇気にも近しい形で喰い上げるものだ。
 凝視する。この場にいるゴーレム全てが、今『人間にとっての、不幸という穢れの温床』だ。その中で、一番穢れが濃厚な個体を対象に絞って、凌牙はその穢れを貪った。
 自身の異変に気付いたゴーレムが、目に付いた凌牙へと迫り来る。同時に、凌牙の喰らった穢れは、その身体の中で猛りへと変化した。
 一体のおびき出しに成功し、向かってくるゴーレムへ向けて、凌牙はユーベルコード【ドラゴニアン・チェイン】を発動させる。
「おおぉっ!!」
 先の覇気の猛りが、身に纏うオーラへと昇華される。雄叫びと共に敵に手を突き出せば、そこから伸びたオーラがゴーレムに直撃し爆発を起こし。同時にそれは鎖の形を伴って、先端を楔の如く敵の身体に抉り込ませていた。
「捕まえたぜ!」
 凌牙が手から伸びる鎖を掴み、その腕に『黒竜の爪牙』を宿した。その豪然たる力を容赦無く揮って、ゴーレムを自分の元へと引き寄せる。近づいたゴーレムが不安定な体勢から拳を振るおうとするが、その瞬間だけ引き寄せた鎖を緩めれば、敵は更に体勢を崩して、その攻撃は彼方の方へと突き抜けた。
 攻撃の飛び火がないよう、離れつつも村が視認出来る距離を維持し、伸ばした鎖で敵の足を絡めれば、驚くほどあっけなく敵は地面に転がった。
 無防備になった脚に、凌牙は黒竜の爪牙を宿した力任せに叩き振り下ろす。金属ですら破壊するそれに岩程度のものが形を保っていられるはずもなく、その脚は見事に粉砕された。
 そのまま苛烈ながらも流れる仕草で、もがくゴーレムの頭部を打ち砕く――ゴーレムはようやく沈黙した。
「よっしゃ! 次!!」
 だが休んでいられる暇はない。凌牙は再び駆け出した。理不尽の罪過を産む、更なる『穢れ』を喰らう為に。

「……っ、敵の数が――」
 凌牙から距離を取り、村に被害が及ばぬよう多勢を引きつけるように戦っていた、リューインの駆るドラグーンの動きが突如重くなった。
 ドラグーンの両足にゴーレムがまとわりついている。腕にも、翼にも。ここまで可動部に完全に取り付かれてしまっては、これ以上ドラグーンで戦う事は不可能だ。
「ここまでですね……!」
 リューインは乗り込んでいた背中から、己の翼を広げ、風の精霊力による恩寵を受けた『エアリエルクロース』と共にドラグーンから離脱し、上空へと飛び退いた。
 空から見れば、村の外からほんの少し離れたところへ、一際ゴーレムたちの群れている場所が目に入る。
 同時に見えたのは、単独ながらも確実にゴーレムの動きを阻害し、村への侵入を妨げている凌牙の姿。
 同じ年若き猟兵の姿に、リューインは可能な限りの声で凌牙へ伝える。
「ゴーレムの一角を燃やします!
 その場から離れ――いえ、その場から動かないでください!」
「わ、分かった! 絶対当てるなよ!」
 ――今、村からさして離れていない凌牙に当たるということは、村の人々の命が危ういという事実に直結する。狙いを外せば惨事では済まない。
 その判断、そして覚悟を決めた上で、リューインは所持していた濃紺のサファイア『ベルベット・ブルー』を手に、溜め込まれた魔力の枷を解き放った。爆発するような魔力の奔流は、身に付けていたお守り『透角』の効果を余すことなく顕現させ、その身体になだれ込んでいく。
 リューインが、片手を大きく空へと掲げた。人によっては夜空に太陽が現れたと錯覚をすることだろう。
 高速詠唱で生み出され、全魔力を込められた極大の火球が、空から地上へ叩き落とされる。それは村への直撃を避け、少し離れたゴーレムの群れを見事に焼き払った。

 視界の一部が焼け野原になった空間を見ながら、凌牙がその圧巻とも取れる光景に思わず舌を巻く。
 だが、その焼け跡に、僅かだがまだもがき蠢くものがいる事に気がついた。
「しぶとく残っている奴らがいやがるな。
 あと何体……いや、次だ!」
 凌牙は僅かな不安を振り払うように、新たに気合いを入れ直して、再びゴーレムへと対峙する。
 まだ、ゴーレムの群れは止まらない――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…私は声無き声、音無き嘆きを聞き届けるもの
…聞くが良い。この地に縛られし、いまだ鎮まらぬ魂達よ

…今、再びこの地に血が流れようとしている
…いつかの貴方達と同様に、罪無き人達が蹂躙されようとしている

…それに否を唱えるならば。汝らの無念を晴らす事を望むのならば…
我に従え。汝らの願い、この私が引き受けよう…!

左眼の聖痕に魔力を溜め周囲の霊魂を暗視してUCを発動
全身を限界突破した呪詛のオーラで防御して空中戦を行い、
残像が生じる早業で敵陣に切り込んで大鎌を連続でなぎ払い、
闇属性攻撃の斬撃で敵を乱れ撃つ

…ん。ここから先は救世の御旗の下に人々が集う希望の地よ
お前達が軽々しく足を踏み入れて良い場所では無いと知れ



 朽ちて僅かに形を残すばかりとなった見張り櫓の縁に、少女――リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は立っていた。
 眼下では、既に他の猟兵たちによる戦闘が始まっている。だが、その閉じた瞳には静謐さを湛えたままに、リーヴァルディは無言で『葬送の耳飾り』に意識を向けていた。
(……私は声無き声、音無き嘆きを聞き届けるもの……)
 暗視の中、閉じた瞳に映るのは闇を示した死者の領域。
(……聞くが良い。この地に縛られし、いまだ鎮まらぬ魂達よ)
 語り掛けるは『グレイブヤードゴーレム』が生み出されたであろう、過去に惨殺された死者たちが眠っていたこの大地。
(……今、再びこの地に血が流れようとしている。
 ……いつかの貴方達と同様に、罪無き人達が蹂躙されようとしている)
 風も吹かぬ中、その言葉に突如沸き立った憎悪がリーヴァルディの髪を僅かに揺らした。この地で犠牲となった死者たちが、高波のように語り掛けて来る。
 ――ユルセナイ、ユルセナイ、ユルセナイ。
(……それに否を唱えるならば。
 汝らの無念を晴らす事を望むのならば……)
 耐性の無い人間ならば、既に発狂しているであろう亡霊たちの声に、更にリーヴァルディは言葉を重ねる。
 ――そして。彼女の声を聞いた死者たちは理解した。今自分たちに語り掛けるこの者は、
「我に従え。汝らの願い、この私が引き受けよう……!」
 自分たちの、非力なる嘆きを『力』に変える事が出来るのだと。

 閉じていたリーヴァルディの瞳が大きく見開かれた。
 その紫の瞳が、死の世界と現実とを重ね取る。そして、彼女は力強く己のユーベルコードを発動させた。
 ユーベルコード【代行者の羈束・断末魔の瞳(レムナント・ゴーストイグニッション)】――左目に名も無き神の刻印として刻まれた聖痕が、鮮血にも似た鮮やかさを伴い輝き、死の国にも行けず彷徨っていたこの地の亡霊全てを吸収し始めた。
 吸収された亡霊たちは混乱したようにリーヴァルディの身体を包み込み、暴風として吹き荒れる。
 これは本来ならば、強制的に怨念を喰らい、それを力とするユーベルコードだ。しかし先の交渉の末、能力強化の為に身に纏う死者の霊魂は、今、リーヴァルディと同じ目的を願い、叶える事を望んでいる。
 故に、そこに従わせる為の強制力はなく、そして能力に制限を掛ける必要もない。
 風が止んだ――そこには、取り込んだ霊魂たちと完全な精神同調を示し、むしろその助力にすら近い状態を受けて、己の戦闘能力を爆発的に跳ね上げたリーヴァルディの姿があった。

 通常と違う感覚のユーベルコード。己の姿を確認するように、リーヴァルディは今着用している『黎明礼装』と、ショールに姿を変えた『ユリスカーラの呪影布』に目を落とした。
 そして、ふと手に触れたのは、とある『呼符』――お守り程度にはなるであろう。逆に言えばお守り程度にしかならないのかも知れない。だが、彼女にはそれ以上に大切なもの――リーヴァルディはその呼符を手に、揺蕩う呪詛に方向性を持たせ、オーラによる防御装甲という概念を与える。
 そして、死神という概念の名で呼ばれる漆黒の巨大鎌『過去を刻むもの』を手にすると、ついにリーヴァルディは櫓の縁を蹴り空へと身を躍らせた。
『限定解放・血の翼』が、背中で鮮血のような深紅と共に花開く。それはユーベルコードと共に、空中での移動戦闘を可能にし、リーヴァルディは躊躇いなくゴーレムの群れへと飛び込んだ。
 中空を駆ける速度は、もはやゴーレムたちには捉えられない。限定的な吸血鬼化により限界突破したその身体は、更なる加速と共に、人の目には残像までも残していく。
 そして『精霊石の宝石飾り』が一瞬きの輝きを放つ間に。リーヴァルディがゴーレムの群れを抜けた後には、真空刃のように複数からなぎ払われて切り裂かれたもの、石突きや鎌の背で乱れ打たれ原形を留めていないなど、わななくような闇の属性を纏わせた、どれ一つゴーレムの形をしていない岩塊のみが散乱していた。

 そして巨大なゴーレムたちに、荒れ狂う斬撃を息一つ乱すことなく浴びせ、リーヴァルディは村の入り口の前に舞い降りる。
 人々が、まだ被害なく無事であること。それだけを確認して小さく息をついた。
「……ん。
 ここから先は救世の御旗の下に人々が集う希望の地よ。
 ――お前達が軽々しく足を踏み入れて良い場所では無いと知れ」
 正面からのリーヴァルディの宣告を聞く事も無く、ゴーレムがその拳を振り下ろそうとする。
 しかし、それは彼女の元へと辿り着く前に、大鎌によって腕どころか胴までも、二つに斬り弾き飛ばされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
人々の胸に芽生え始めた希望を摘み取ることは私が許しません。
人類砦を護る為に、私も惜しみなく力を揮いましょう。

【拠点防御】は得意分野です。護る為の戦いでこそ暗黒騎士は真価を発揮します。
UC【黒風の蹂躙】を発動。身体能力を【限界突破】により強化します。
敵集団へ暗黒剣による【なぎ払い】を行い、それにより発生する【衝撃波】で敵に【範囲攻撃】します。

敵の【ふみくだく】は【武器受け】で受け止めます。
土塊を取り込むことができなければ戦闘力の強化もできないでしょう。
そのまま【怪力】で押し返し、体勢を崩した隙に反撃を行います。



 猟兵たちの活躍により、少しずつ活路が見いだされたかに思われる中、不意に『グレイブヤードゴーレム』が村の柵を破壊しようとする音が響き渡った。
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は震え上がる村人たちを安心させる為に、集まり何も出来ないでいる皆の前に立つ。
「人々の胸に芽生え始めた希望を摘み取ることは私が許しません。
 人類砦を護る為に、私も惜しみなく力を揮いましょう」
 それは、この場にいる全ての人を護る証明の言葉。
 セシリアがその場から、爆ぜるように足を踏み出し、破壊されようとする柵に取り付くゴーレムの前に立ちはだかった。
『暗黒を解き放ち、嵐となって全てを破壊する』――高らかに上げられた宣誓の言葉。セシリアの言葉をまるで待ち焦がれていたかのように、ユーベルコード【黒風の蹂躙(ブラックランページ)】が発動された。
 身に付けている呪われし暗黒の鎧が、業火にも似た黒炎を吹き上げた。そして、その身を燃やし尽くすかのように、セシリアの身体を取り巻いていく。
「――っ」
 それは呪いに身を蝕ませる代わりに、深く冥い暗黒の力を得る能力。ユーベルコードにより身体の枷を取り払い、己の能力を加速させると、セシリアは眼前のゴーレムの頭上に駆け上がり『暗黒剣ダークスレイヤー』で敵の頭頂から胴体に向けて真下に剣を突き立てた。頭部と胴体を破壊されたゴーレムが、その場に岩の塊となって壊れた柵を塞ぐ。
 拠点の防御に成功したセシリアは、そのまま剣を引き抜くと、敵の群れの前に降り立った。

 セシリアが、その向こうにいた無数のゴーレムたちと対峙する。その中で一体のゴーレムが、こちらに向かい巨大な足を振り上げた。
 下敷きになればひとたまりも無く、だが躱したとて、この場の怨念を含む土で作られたその身体は、再度足を付ければ土を取り込み更なる強化を図ることだろう。
「それなら――!」
 既にセシリアの手の一部とも言える、暗黒剣ダークスレイヤーが闇色の光を放った。剣の禍々しい刀身から生み出される黒は明瞭な力場と化して、掲げられた先に振り下ろされた足を正面から受け止める。
 火花の代わりに漆黒のオーラが歪み、滲み出る墨のように溢れていく。踏み潰した感覚の無いことを不思議に思ったゴーレムが、その場に更に力を掛ける。しかし、それが崩れる気配は一切無い。
 そのまま身体に満ち溢れる力を奮い、セシリアがゴーレムの足を押し退ける。バランスを崩した巨躯を、容赦無くダークスレイヤーで斬り上げ鋭い蹴りで吹き飛ばすと、その身体は斬り跡に沿って鋭く二つに割れて崩れ落ちた。
 一拍の呼吸を置いて、セシリアが真横に剣を構える。呼応するようにダークスレイヤーの闇が爆発するように膨れ上がった。
「はぁっ!!」
 駆け抜けた剣筋に沿って、ユーベルコードに乗せられた苛烈とも言える闇の衝撃波がゴーレムたちの間を奔る。
 後には、根こそぎ存在を奪われ崩れた岩塊の先に、その根源のいる遺跡の影が見えた。
 一時のものであろう。だが、今広がる視野は、ゴーレムたちの減少を確かに感じさせるものであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアドール・シュシュ
【希蕾】ア〇
村人の避難優先

裏で糸を操る黒幕…
命を踏み躙るなんて許せないのよ
人の嘆き哀しみは楽しくないのだわ(目伏せ

楽しい嬉しい以外の感情は
抱く事は出来ても
記憶から零れてしまう
けれど
今だけは

希望を潰えさせはしないのよ
すくうわ
総て

隣の成長した霞架見て頷く
ドレス翻し後方支援
高速詠唱で【華水晶の宴】使用
62体召喚
僅かな光でも一角獣は煌く
3体合体させ背に乗り移動
霞架へは5体合わせた一角獣を

老人や子供、負傷者中心に一角獣の背に乗せ安全な場所へ逃がす
残りで挟撃
角で強烈な攻撃

鋭敏な音の誘導弾で複数の敵おびき寄せ
竪琴で麻痺絡む銀河の旋律を高らかに奏でる(楽器演奏・マヒ攻撃
村人から注意逸らす
敵の攻撃は一角獣で防御


斬崎・霞架
【希蕾】
ア○

折角生まれた希望が潰えてしまうのを見過ごしては、猟兵の名折れでしょうか。
……何より、麗しく心優しくも意外と我の強いお姫様は、放っておかないでしょうしね。

【POW】

村人たちを避難させる時間を稼ぎましょう。
おや、マリアさんの一角獣を貸してくださると。
…ふふ、では参りましょうか。(一角獣で駆けり前に出る)

鬼砕きを振るい、ゴーレムを砕く。
鎧砕きの要領ならば可能でしょう。
多くを砕けば、注意を引き易くもなるでしょう。
…とは言え、直ぐ駆け付け守れるようにしますが。

敵が集まるなら、刻死:吼を展開し【極光】による範囲攻撃で一掃しましょう。
…不粋な土塊、マリアさん達には指一本触れさせませんよ。


クレア・フォースフェンサー
すまぬ、到着が少し遅れたようじゃの。

しかし、何と巨大な土人形どもじゃ。
それをこれだけ送り込んでくるとは、村を一つ滅ぼすためにしては大仰すぎるの。
わしら猟兵が来ることを見越してのことか、或いは、この村にわしらの知らぬ何かがあるのか。
まぁ、それらのことは後で訊くとしようぞ。

108の光珠を展開し、土人形どもの位置を把握。
数は多いが、動きがさほど早くないのが救いじゃな。
あれだけ大きければ、仲間に当たる心配もいらんというもの。
【能力破壊】を込めた光矢をもって破壊してゆこうぞ。

土人形を全て破壊できたならば、棺群から溢れ出した怨霊を光剣でもって断ち切ろう。
おぬしらの眠りを妨げた者は、必ず滅ぼすと約束しよう。



「裏で糸を操る黒幕……」
 村の境界で各猟兵たちによる激しい戦いが繰り広げられている。村に降り立ったマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は、その禍々しい気配を隠そうともしない遺跡の方へと目をやった。
 何かがいる。こちらを見ている。
「命を踏み躙るなんて許せないのよ。
 人の嘆き哀しみは楽しくないのだわ」
 マリアドールの心に悲しみに焼き付いていく。だが、俯く瞳もその心も、おそらく敵に届くことはないであろう。
 それでも、猟兵がいなければ、とっくに無残な骸と化していた村の人々の瞳は、まだ希望の光を消してはいない。
(折角生まれた希望が潰えてしまうのを見過ごしては、猟兵の名折れでしょうか。
 ……何より)
 村にいたの人々の様子を目の端で窺いながら、斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)は心に呟く。
 降ろした視線の先には、傍らに立つ小さな華水晶の君――
「楽しい嬉しい以外の感情は……。
 抱く事は出来ても、記憶から零れてしまう」
 マリアドールの心は、つらく、悲しく、苦しい心を保持できない。あっても一時、手から砂が零れるように消えてしまう。
 しかし、それでも。
「けれど……。
 今だけは」
 鈴を鳴らすような儚かった声音が、凛と響いた。
「希望を潰えさせはしないのよ。
 すくうわ。
 総て」
 この場に伝えられたその言葉も思いも、そのような彼女の考えも気質も。最初から、全てを理解していたかのように霞架は頷き、マリアドールに向かい微笑む。
「――では、村人たちを避難させる時間を稼ぎましょう」
 ゴーレムたちを殲滅させるよりも先に、人の心を優先させた霞架に、マリアドールは微かに感じ入る心で頷いた。

 周囲を見渡し、軽く戦況を認識した後、マリアドールはすぐに今いる村の中に、大きなだだ広い場所を見つけると『純真の華飾衣(ライン・クライト)』をふわりと翻しながらそこに駆け寄り『茉莉花の歌環(アンゲルス・ディーバ)』へと意識を向けた。
 蕾のような翡翠色のドレスが揺れて花咲くように広がる。紡がれるは、ユーベルコード【華水晶の宴(ベリルフラワー・パルティータ)】――純白のジャスミンを模したイヤリングが、マリアドールの歌声を花の香のように周囲に広げていく。
 高速詠唱を伴っているとは思えない心地の良い歌でありながら、しかしその効果は、即その場の空間に数多の光を生みだした。
 眩しい光が一度爆ぜてそして退く。するとそこには、白く光り輝く一角獣の群れがあった。
『可愛い可愛い一角獣さん、いらっしゃい――さぁ、マリアに見せて頂戴? 合わさりし時に目覚める真の力を』
 マリアドールの語り掛けによって、小さく左前足に数字が刻印された一角獣が、光の珠となって他と重なり、その数字と大きさを増していく。
 これから戦場を駆ける事を前提に、自分の為に三体重ねた一角獣を用意する。同時に霞架に向けては、五体合わせた一角獣を具現化させた。
「おや、マリアさんの一角獣を貸してくださると」
 譲り受けた霞架の一角獣は、美麗ながらも戦場で乗り潰れる心配もない程の逞しさで満ちていた。
 マリアドールが、決意の籠もった眼差しでこくりと頷く。
「……ふふ、では参りましょうか」
 そして霞架は身を翻して一角獣に跨がると、鉄鎚『鬼砕き』と呼称される大剣を携え、ゴーレムが待ち構える戦場へと飛び出した。

「すまぬ、到着が少し遅れたようじゃの」
 戦況に明かりが見え始めている。それは喜ばしい事だが――クレア・フォースフェンサー(UDC執行人・f09175)は既に土岩の塊となったゴーレムたちの合間を観察するように歩いていた。
「しかし、何と巨大な土人形どもじゃ。
 それをこれだけ送り込んでくるとは、村を一つ滅ぼすためにしては大仰すぎるの」
 クレアもまた、この事件の根源がいる遺跡へと目を向ける。姿は見えない。だが、悪意があることを隠しもしない、オブリビオンの視線が向けられるのを感じ取る。
「わしら猟兵が来ることを見越してのことか、或いは、この村にわしらの知らぬ何かがあるのか。
 ――まぁ、それらのことは後で訊くとしようぞ」
 戦況は明らかにこちらに傾きつつある。だが、この状況では一箇所の洩れが惨劇へと繋がることもあるだろう。
 クレアは攻防の優位を図り索敵にも利用できる百八の個数からなる、ふわりと輝く『光珠』を、村を中心に全方位へと解き放った。

「はっ!」
 霞架は、細く鋭い刃という弱点が敢えて作られていない、飾り気もない大剣を振りかざす。それはもはや剣の形をしているだけの、重量と硬度による暴力を体現した『鉄槌』と呼ぶに相応しい性能を模していた。
 一角獣に跨がり周囲のゴーレムたちを攪乱しながら、鎧砕きの容量と同じく『鬼砕き』の暴威を一点に集中させ、その足や腕を確実に砕いていく。
 すべては、マリアドールが村にいる人々との時間を稼ぐ為。
 残りに限りが見え始めたゴーレムたちが、霞架の方へと向かってくる。完全に思惑通り。霞架は、容赦なく更にゴーレムへと『鬼砕き』を振り下ろした。

「ふむ、数は多いが、動きがさほど早くないのが救いじゃな」
 周囲に蛍火のように動きながらも明るく灯る『光珠』の情報を一手に引き受けながら、クレアが敵の情報の整理をしていく。
「あれだけ大きければ、仲間に当たる心配もいらんというもの、じゃが」
 不意にゆらりと、その背後にゴーレムが立った。
 斜め上に振り上げられ、クレアをなぎ倒さんとした拳は、既に『光珠』から得ていた情報と、クレアが魂の経験上感じ取った殺気によって完全に見切られ、見事に空振りに終わった。
「――ここまで遅いと、いささか……いや、今は言うまい」
 敵が空振りするその様子を、クレアは瞬時に『フライト・ドライブ』を使用した上空からの光景として眺めていた。
 目標を失ったゴーレムが右往左往する。しかし、上に気付いた時には、遅い。
『デストロイ・コード』――クレアが『光弓』を手にユーベルコード【能力破壊(デストロイ・コード)】を発動させた。
 光の矢が、目の前にいたゴーレムのユーベルコードの核を貫き無力化させると共に、閃光と共に敵の体を四散させた。
『光珠』による情報処理が加速する。クレアは更なる目標を見つけると躊躇わず次の一矢を放った。

「少し、敵が増えてきたでしょうか」
 引きつけには成功している。しかし万が一、別行動を取っているマリアドールに何かあれば、霞架にとっては取り返しが付かない。
「……とは言え、直ぐ駆け付け守れるようにしますが」
 しかし中途半端に敵が集まって来た。まだこの程度の数では一掃するにも時が早い。
 マリアドールとゴーレム、戦場で思考を掛け持つとするならば、今が一番厄介な状態――瞬間、側を光の矢が迸った。こちらを巻き込まない的確な距離で、ゴーレムが崩れ落ちる。
「おや、これは――」
 遠くから放たれた光の一撃。
 自分一人では、どのみちこの場すべてのゴーレムを屠ることは出来ない。ならばこれは、素直に受け取るべきことだろう。
 他のゴーレムの拳による一撃を見切り、霞架は今駆ける速度を乗せて雪刀『梅花』の早業を見舞うと、一角獣の速度を更に跳ね上げた。

「みんな乗ったかしら? 乗ってないひとはいない?」
 マリアドールの言葉に、小さくも人を乗せられる体躯の一角獣に跨がった人々が頷いた。
 老人や子供、負傷者を中心に、順番に安全な場所へ逃がしていく。それを見届けて、マリアドールは残った一角獣と共にその反対側へと走り出した。
 駆けながら『黄金律の竪琴(エルドラド・ハルモニア)』を膝乗せが出来るサイズへと変化させる。
 既に少数だが村の人々の方へと向かおうとしているゴーレムたちに、一弦を弾いた。マリアドールの弾き奏でた鋭利な音が、指向性を持って敵へと突き立てるように響き渡る。ゴーレムたちがそれに反応するように足を止めた。
「これなら――」
 引き留めることが出来れば、後は出来る事を全力で――マリアドールの祈りに応えて、無心の内に『祈焔の石と薄氷鳥』が紅色の光を放つ。
 可能な限り離れると、マリアドールは一角獣を降りて『黄金律の竪琴(エルドラド・ハルモニア)』を黄昏色へと染まるコンサートハープへのサイズへと変化させた。
 弦を弾く都度、鋭い流れ星の軌跡のように音が弾けてゴーレムへと突き刺さる。ゴーレムたちはまるで音の原因を探すかのようにマリアドールの方へと寄ってきた。
 意識を引き寄せてしまえば、そこからは完全にサウンドソルジャーの領域だ。マリアドールは大きく息を吸うと、つま弾く音色に合わせて歌を紡ぎ始める。
 奏でられるのは、ダークセイヴァーでは安心して碌に見ることもかなわない透き通った優しい夜空。そこに謳われる音は空に煌めく銀の星々。
 遠くも美しい輝く天宙を思わせる銀河の旋律は、まるで聴き入るかのようにゴーレムたちから攻撃の手を奪う。
 その音色にあぶれたゴーレムがメロディを邪魔するように、マリアドールを踏みつぶさんと片足を上げる。しかし、マリアドールは歌うことを止めようとはしない。
 代わりにその想いに応えるように、先に挟撃を指示されていた一角獣たちが、ゴーレムが軸にしていた足を狙いその鋭い角で粉々に粉砕していった。

 ――ゴーレムたちが、マリアドールの元へと集まりつつある。遠くには村の人々を乗せているのであろう一角獣の光が微かに見えた。
 少し離れた所にいる敵は、すべて曲に聴き入るように動きを止めているが、それらは旋律が止まった瞬間に一斉にマリアドールへと襲い掛かってくることだろう。
「マリアさん!」
 それを見た霞架が駆ける。一角獣が風を追い抜くほどの最大速度で走る中で、振り落とされる可能性も考えずに、その上で激しい音を立てて巨大な砲撃を思わせる形状の『刻死:吼』を躊躇いなく展開させる。
 一角獣が、大きく弧を描き方向を反転させる。
 村の人々を巻き込まないよう。そして、霞架が連れ立っていたゴーレムたちとマリアドールが引き寄せていた敵が直線上に重なった瞬間――霞架は全力でユーベルコードを発動させた。
【極光(バーストレイ)】――揺蕩うような幽霧の白と闇より深い黒が乱雑に混じり合う呪詛を最大出力で撃ち放つ。単純かつ怖ろしい密度を交えたビーム状の砲撃は、直線上の全てのものを吹き飛ばし、遙か彼方の森をもぎ取るように刮ぎ取った。
「……不粋な土塊、マリアさん達には指一本触れさせませんよ」
 これでほぼ殲滅し尽くしたであろう。敵の姿が殆ど、見えないことを確認すると、霞架は深く息をつき、急いでその無事を確認する為に、マリアドールの元へと戻ることにした。

「――これで、最後じゃな」
 群れからあぶれた敵を優先的に狙っていたクレアが、目の前の確かに最後となる一体に対して、光の速さで矢を射抜いた。同時に遠くで、巨大なエネルギー塊が駆け抜ける。
「派手にやりおるのぅ。これが若さと……ん?」
 しみじみと呟き掛けたその時。ふと、高見から目にしていたゴーレムの背中、正確には背中に同化させた棺の山から、紫色のもやが立ちこめているのがクレアの目に映し出された。
 すぐに、それがゴーレムという枷が外れても尚身動きが取れないでいる怨霊である事を理解する。
 ――クレアはゆっくりとその正面に降り立つ。
 数秒の無言。そして、クレアは手にした『光剣』で、その行き場を完全になくした怨霊を斬り裂いた。
 それはあまりにも儚く、紙切れのようにも感じられた。だが、それは確かに『人』であった存在なのだ。
「……おぬしらの眠りを妨げた者は、必ず滅ぼすと約束しよう」

 これで、もう障害はない。
 残すのは、ここに更なる悲劇を生もうとした、オブリビオンという存在のみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『紅薔薇卿エディア』

POW   :    呪ワレシ赤薔薇ノ種
レベル分の1秒で【対象の内部で炸裂する魔銃の呪詛弾】を発射できる。
SPD   :    土人形ニ生ケル赤薔薇
【レベル×5個に複製した魔槍による投射攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【全くの同時に魔銃から撃ち出される四発の弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    高貴ナル我ニ花束ヲ
【魔槍による神速の一撃】が命中した対象を爆破し、更に互いを【吸血行為を行う為の呪術的なライン】で繋ぐ。

イラスト:水城こさめ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は七那原・望です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(第2章プレイングは『7/17(金)8:31~』より受付開始となります。
 少し間が空いてしまいますが、ご検討をいただけましたら幸いでございます。開始時刻までに、断章の追加を行わせていただきます。
 また、試験的に受付期間を設けてみました。詳しくはマスターページにてご確認ください)
 
 
 
 
 崖の中腹にある年代を感じさせる遺跡の前に、その男――否、艶やかな紅の髪を束ね流した男装の麗人は立っていた。
『紅薔薇卿エディア』――今の自分にある記憶はこの名前と、ヴァンパイアである己の戦い方、そして『胸を心地良く揺るがす惨劇』のみ。
 骸の海から泡の如く浮かび上がって形成されたオブリビオンは、極めて不完全な形で、過去の姿を映し出した。
 故に、この紅薔薇卿エディアは、己の過去も経歴すらも覚えてはいない。

 しかし、紅薔薇卿エディアは『紅い、人間による血の薔薇が見たい』と思った。
 偶然にして目にした遺跡の眼下には、理由の知れない、ただ無力な人間たちが集まっている。
 試しに紅薔薇卿エディアは、心のままに多数の死者の魂を巻き込んだゴーレムを作って送り込んだ。
 ――結果は、期待外れだ。
 猟兵たちの活躍によって、人間ではなく先にゴーレムの方が土くれとなってしまった。
「――美しくないな」
 ただの土くれに、もはや用は無い。

 だが、それを言い放った紅薔薇卿エディアは、今こちらへ向かってくる猟兵たちを『自らの手を奮って美しく殺してみせる』という興を見つけ、表は冷静を装いつつもその胸を大きく高鳴らせた。
 そして――猟兵たちを皆殺しに出来れば、きっと何かを思い出せるかも知れないという僅かな希望も寄せて。

 遺跡まで集まった猟兵を出迎えるように、遺跡の手前で紅薔薇卿エディアは装飾の施された魔力と装飾が込められた魔槍と魔銃を手にして、高らかに謳い上げた。
「ようこそ。余興は愉しんでいただけただろうか?
 だが、戯れもここまでだ。お前たちは、私が美しく血の色に染め上げよう。
 さて……お前たちにしか上げられない、美しい断末魔を期待しようか」
斬崎・霞架
【希蕾】
ア○

随分と素敵な趣味をお持ちですね。
ですが残念、中々理解され難いもののようですよ。
…ええ、僕も含めて。

【WIZ】

(マリアの行動に瞠目するも、直ぐに笑みを浮かべて)
ええ、勿論ですとも。
後ろは、お任せ致しますよ。(傅きマリアの手にキスを落とす)

刻死:吼から【呪詛弾】、梅花から【早業】の斬撃。
遠近を使い分けつつ相手の動きを【見切り】捌く。

呪術で繋ぎ、吸血を行う。良い攻撃ですね。
…ですが、逃れられないのは貴女も同様です。
敢えて攻撃を受け、【愚かなる最善策】を発動。
強化した【呪詛】を逆に相手に送り込む。

命を奪うなとは言いません。それは無理です。
…ですがそれは、決して楽しむものであってはならない。


マリアドール・シュシュ
【希蕾】ア○
他連×

何と醜い事
その紅を美しいと言える紅薔薇卿…あなたも
命(はな)を摘み取らせはしないわ
終幕としましょう(ケープ羽織り直し
轟くは祈りの詩(うた)
わたしの旋律(せかい)で幸色に塗り替えるのよ

霞架、後ろはマリアに任せて頂戴(霞架の両頬包み額こつん
前だけを見据えて
あなたの強さを成長を魅せて頂戴

(余す事無く見届けたい
どんなあなたでも
護られてばかりは…マリア、いやよ)
恋は人知れず育つ

…!霞架ったら(頬染めるもすぐ敵見据え

後衛
霞架の死角を音の誘導弾で演奏攻撃
骸の海へのカウントダウン
竪琴で奏でる麻痺の糸絡む最終楽章の音色に苛烈さ増す
高速詠唱で歌環を変換し【茉莉花の雨】使用
世界を謳う

後は託すのよ



「――随分と素敵な趣味をお持ちですね」
 口火を切った斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)の言葉に、薔薇卿エディアはそのままの意味として、疑いなく頷いた。彼女は、本心から『オブリビオン』としてそこに在り、純粋なその存在に道徳も倫理もありはしない。
「ですが残念、中々理解され難いもののようですよ」
 霞架が隣に立つマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)の表情を見やる。その顔は、霞架の想像通りのものだった。
「……ええ、僕も含めて」
「何? お前達は、人間達による悲鳴を、惨劇を、その果てにある血の紅を美しくないと」
 遠回しに断言された否定に紅薔薇卿エディアの貌が僅かに引き攣る。
「――何と醜い事。
 その紅を美しいと言える紅薔薇卿……あなたも」
 それを断じるようにマリアドールが告げる。
「命(はな)を、摘み取らせはしないわ」
 マリアドールにとって、音楽と共に語られる命は、自分の世界に美しく咲き誇る華である。それを戯れにこの存在に摘み取らせるようなことはあってはならない。
「なるほど。互いに理解の余地はないと言うことか」
 ふわりと紅薔薇卿エディアから殺意が漂う。それは、まるで薔薇の香と血が交わるかのように。
「霞架、後ろはマリアに任せて頂戴」
 そう告げたマリアドールは、そっと高い位置にある霞架の両頬に手を添えた。霞架が思わず視線を合わせるように屈むと、小さく柔らかい手がそっと頬を包み込む。
 そして、こつんと霞架の額にマリアドールのそれが合わさった。相手の体温が伝わってくる。それは、確かな己の存在を示す証。
「前だけを見据えて。
 あなたの強さを、成長を魅せて頂戴」
 マリアドールからの不意の所作に、霞架の金の瞳が驚きに見開かれ、そこに確かに相手を映す。
(余す事無く見届けたい。
 どんなあなたでも、護られてばかりは……マリア、いやよ)
 無自覚のままに浮かぶ想い。マリアドールの言葉にならない切なる願いは、届いただろうか。届いてしまっただろうか。ただ、霞架はその答えを語る事なく、倖せを表情に映して微笑んだ。
「――ええ、勿論ですとも。
 後ろは、お任せ致しますよ」
 霞架は屈んでいただけの状態から、躊躇いなく片膝を地につけ、頬にあったマリアドールの手を優しく取る。そして、その手の甲へと己の意志を静かに誓約するようにキスをした。
 マリアドールの頬が、瞬時に薄紅の花を思わせる色へと染まる。
「……! 霞架ったら――」
 マリアドールに走った動揺から、すぐに気を引き締め直して紅薔薇卿エディアへと向き直る。
「今生の別れは済ませたか」
 敵の魔槍が、その一撃を確かめるように、一度掲げられた先の空気を切り裂いた。
「……これで、終幕としましょう」
 熾烈な戦いとなるのは疑いようもない。マリアドールが海のように深い青色をしたケープを羽織り直す。
 戦闘の火蓋が切って落とされた。

 邪悪な呪詛を隠そうともしない、霞架の右手に装着されている黒の鉄甲、刻死『エングレイヴ』が、瞬時に『刻死:吼』へと形状を変えて展開される。
 砲撃としてそこから放たれるのは、いかなる神話生物にも傷を与える事ができる呪詛弾。それを初撃として、躊躇いなく轟音と共に紅薔薇卿エディアへと撃ち放つ。
「当たるわけがないだろう。このようなものが」
 伝わる嘲笑と共に、砲撃が華麗に躱される。しかし、それは霞架が自分の間合いを詰める為の布石でしかない。紅薔薇卿エディアが砲撃を躱した先、そこに待ち構えていたかのように、霞架はその身を投げ打つように飛び込み、雪刀『梅花』による純白の一撃を閃かせた。本能的に身をよじった紅薔薇卿エディアの服が切り裂かれ僅かにその血を滲ませる。
「よくも!」
 激昂しつつも紅薔薇卿エディアが、至近では見えない霞架の死角へとユーベルコード【高貴ナル我ニ花束ヲ】の布石となる『魔槍による神速の一撃』を放とうとする。胴へと的確に狙われた魔槍は喰らえば大怪我では済まない――だが、そこに音速の矢が駆けた。
 霞架の背後、己の身長よりも大きい『黄金律の竪琴(エルドラド・ハルモニア)』の傍らで、マリアドールが弦を打ち弾いていく。その都度、まるで針のように鋭利な音が紅薔薇卿エディアの魔槍を持つ腕を直撃し、敵の動きを一時的に麻痺させた。その隙に霞架は背後へと飛び退き、敵の攻撃の回避に成功した。
「邪魔だ!」
 紅薔薇卿エディアが高らかに叫ぶ。霞架へと魔銃から数発の通常弾を放つと同時に、その対象をマリアドールへと変更し、その距離を一気に詰めた。
 振り下ろされる『魔槍による神速の一撃』――それを、自らよりもマリアドールを優先した霞架は、己が身に弾丸を受けながらも、その間に割り込み、紅の魔槍を刻死『エングレイヴ』で受け止めた。
「霞架!!」
「――ッ!!」
 黒き鉄甲が爆発と共に激しい熱を持つ。同時に敵のユーベルコード【高貴ナル我ニ花束ヲ】により、鉄甲と相手の魔槍を持つ腕に、紅色をした茨の一筋が現れ絡みついた。それは繋がる相手から強制的に吸血行為を扱うヴァンパイアの呪術式。
「呪術で繋ぎ、吸血を行う。良い攻撃ですね」
「フ、ならばこれで骨と皮にしてやろう!」
「……ですが、逃れられないのは貴女も同様です」
「何っ?」
『呪いよ巡れ。我が身に巡れ。巡り廻って勝利を齎せ。』――霞架の唇が呪言を紡ぐ。そしてユーベルコード【愚かなる最善策(インビンシブル・アンサー)】が発動した。
 右手の黒鉄甲が音を立て、そこから吹き上げた『呪詛』を霞架が一身に受け止める。まるで血の代わりとするかのように呪詛は全身を駆けめぐり、己の能力強化と共に、霞架は己の血を吸い上げようとしていた絡みつく茨へと、逆に爆発的な量の呪詛を流し込んだ。
「ガッ――!」
 想定もしていなかった反撃に紅薔薇卿エディアがその身を仰け反らせた。錯乱の中で悶えるように、反射的に紅の茨から霞架を解放する。
「よくも」
 すぐに体勢を立て直した紅薔薇卿エディアが、今度は魔銃による狙いを定めようとする。
 しかしその腕は、黄昏色の音の糸によって優しく絡め取られた。
「なっ……!」
 いつから響いていたのだろう、紅薔薇卿エディアが霞架に気を取られている隙に、弾けるように奏でられ続けていた竪琴の旋律には、いつしか鈴が響くような柔らかい歌声が添えられていた。それが曲調を変え少しずつ紡がれる度に、楽章を越えられる都度に、大きく存在感を増していた事を、紅薔薇卿エディアは全く気づかなかった。
 浸蝕されている――音に完全に縛られた紅薔薇卿エディアの混乱を余所に、更にメロディは綴られる。
 奏でられる最終楽章――そこに響き轟くは、存在を懸けた祈りの詩。
 紡ぎ重ねられる旋律の形をした彼女の『世界』は、目の前の敵を否定し塗り潰すかのように広がり、その場を『幸福』という色に染めてオブリビオンを浸蝕していく。
 同時に、蕾が一斉に花開くかのように『茉莉花の歌環(アンゲルス・ディーバ)』によって響き渡った詩が、奏でられていた竪琴の音色を上回った。
 世界を謳う詩に編み込まれた高速詠唱と共に、霞架の背後でマリアドールのユーベルコード【茉莉花の雨(ヤースミーン)】が発動する。

「――命を奪うなとは言いません。それは無理です」
 霞架は告げる。生きている限り、命は命を喰らい続ける。人が肉を喰らい、ヴァンパイアが血を求めるように。そうでなければ命は存在することすら許されない。
 たとえ、愛しい存在が世界の楽園を謳っても、この世界の事実だけは覆せない。
「……ですがそれは、決して楽しむものであってはならない」
 ――ならば、せめてその意に少しでも添えるように。
 その想いを残し、己の能力の反動として、霞架がその場に昏睡状態となって倒れ伏す。
 いつしか竪琴による音は消えていた。しかし、己を拘束していた麻痺攻撃から抜け出した紅薔薇卿エディアが、己の自由を取り戻す前に、
『ハルモニアの華と共に咲き匂いましょう舞い踊りましょう――さぁ、マリアに見せて頂戴? 神が与えし万物を』
 マリアドールの竪琴が変化した、ジャスミンを象る無数の水晶で出来た花びらが、倒れた霞架を守るようにその上空を鋭く舞い滑り、紅薔薇卿エディアの身体を一斉に切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

地籠・凌牙
【連携アドリブ乱入諸々歓迎】
こんなクソッタレな侵略蹂躙が余興だ?随分とタチの悪いジョークが好きなオブリビオンだな……てめえみたいな奴が一番許せねえんだよ俺は!
絶対に報いを受けさせてやる……!

【呪詛耐性】があるからある程度の呪詛を喰らおうがそのまま攻撃し続けられるハズだ。
防御は捨てて【指定UC】を使って真っ向から攻撃を仕掛けるぜ!
てめえの自分勝手な都合で村の人たちがどんだけ苦しんだか思い知らせてやる!
この炎の熱はお前に好き勝手された連中の怒りだ!血の一滴も骨の一本も残さず焼き尽くすまでこの炎は止まらないぜ!
血の色を見せてやる義理も筋合いもねえからな!



「少し……思い出せたような、気がするぞ」
 先の攻撃で、全身に鋭い傷を負った紅薔薇卿エディアが貌を庇っていた両手を降ろす。
 水晶の花びらが消え、紅薔薇卿エディアの四肢には鋭くも無数の裂傷だけが残っていた。
 上半身の紫紺の服に血が滲み更なる濃色を示すのを、紅薔薇卿エディアはじっと見つめていた。まるで、目の前に自分の存在を狩る者がいることなど、どうでも良いことのように。
「随分とタチの悪いジョークが好きなオブリビオンだな……!」
 その様子を見ていた地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が気迫と共に吼える。
 凌牙は見ていた。震え上がる村にいた人々を。過去に死した存在の棺を背負い、更に死人を増やそうとしたゴーレムたちを。それを、目の前のオブリビオンは『余興』と言った。更に、今ともなれば、既に忘れ去った過去であるとでも言わんばかりに、敵は自分についた傷を凝視している。
 散り入った弱き存在の過去を。その踏み躙った強き者に刻みつけること――それを、凌牙は今までずっと己という存在に課してきた。
 目にしてきた悲劇があった――看過する理由など何処にも無い。
「こんなクソッタレな侵略蹂躙が余興だ? ……てめえみたいな奴が一番許せねえんだよ俺は!
 絶対に報いを受けさせてやる……!」
「報い? 先刻から面白い事を言う。
 ――代わりにお前の叫びを聞いてやろう。さあ、存分に啼き喚け!」
 既に受けた傷を気にする事も無く、紅薔薇卿エディアは、薔薇の色に染まった刃を持つ魔槍で凌牙のいた場所を横薙ぎに切り裂いた。すぐ側には、むき出しになった上方に迫り上げる崖の絶壁。目にしただけでは、逃げ場はないと思われた。
 しかし凌牙は一目で、その岩の有り様を把握すると、足場を確保出来る歩順を一瞬で把握し、軽々とその崖を勢い良く駆け上がった。その最中に、凌牙は己の怒りと共に、覇気にも似た己の特性『《穢れを喰らう黒き竜性(ファウルネシヴォア・ネグロドラゴン)》』を露わにする。人間に対する不運、穢れを喰らう特性は、その身に相手から喰らう呪詛の耐性を持つ。凌牙はそれ一つに身を懸けた。
「てめえの自分勝手な都合で、村の人たちがどんだけ苦しんだか思い知らせてやる!」
 凌牙は敵の胸中に『黒竜の爪牙』を叩き込むべく岩壁を蹴り、そこから躊躇いなく飛び降りた。
「――っ!」
 動揺した紅薔薇卿エディアは、とっさに武器を魔銃に切り替えると、ほぼ至近距離からユーベルコード【呪ワレシ赤薔薇ノ種】を撃ち放つ。
 凌牙の左拳を、内部で炸裂する呪詛弾がかすめた。直撃こそしなかったものの、微かに擦りすり抜けたその瞬間に、紅色の弾は拳を砕かんとする勢いで炸裂し、凌牙の左手の甲に纏う黒鱗を剥ぎ取った。
 左手を潰した――紅薔薇卿エディアは確かにそう認識する。しかしその瞬間、認識に相反するように、凌牙の左拳からは、地獄とも形容できよう憤怒による炎が噴き出した。
 凌牙のユーベルコード【煉獄の黒き逆鱗(インフェルノ・ドラゴネスアウトレイジ)】――鱗を剥がして噴出する拳に纏った紅蓮の炎が、肩端と紅色の髪の一部を打ち抜いた。
「――!」
 紅薔薇卿エディアが声にならない叫びと共に、オブリビオン故なのか延焼こそしないが消えることもない炎を消そうと手を翳す。
 しかし、すぐにそれが『消せない』ことを悟ると、紅薔薇卿エディアは初めて見せる鬼のような形相で凌牙を睨み付けた。
「血の色を見せてやる義理も筋合いもねえからな!
 この炎の熱はお前に好き勝手された連中の怒りだ! 血の一滴も骨の一本も残さず焼き尽くすまでこの炎は止まらないぜ!」
 任意での消去は、ユーベルコードの効果が切れるまでの永遠を意味する。
 紅薔薇卿エディアは、何かを覚悟したように一部が炎に染まった自分の髪を掴み上げ、根元から一気に自分の魔槍で切り放った。
 周囲に炎と共に、薔薇花びらのように髪が散る。
「だが……まだ、負けはしない」
 そう、嘯くように告げられた紅薔薇卿エディアの貌には、うっすらと鬼人の如き微笑が浮かんでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

クレア・フォースフェンサー
おぬしからは悪意のようなものを感じておったのだが、少し違ったようじゃの
人の血に心が躍る――おぬしは、そうあれとこの世に生まれてきたのじゃろう
憎むべきは、おぬしのような者を生み出すこの世界の在り方なのやもしれぬな

しかし、わしもぬしらを倒す者として呼ばれ、この剣と身体とを預かっておる身
生まれてすぐですまぬが、骸の海に還ってもらうぞ

呪詛弾や魔槍は掠るだけで致命傷となる惧れがある
攻撃を見切り、光珠や光剣で弾きつつ接敵
光剣に【能力破壊】の力を乗せ、痛みを感じさせぬよう魂魄を斬る

生まれたばかりのおぬしに何ら罪はない
ただ、おぬしの存在を認められぬわしら猟兵という存在がいた
ただ、それだけじゃ



「……貴様らの血を見ること無く、終わる事など無いと知れ……」
 ゆらりと、肩端に炎を滲ませながら紅薔薇卿エディアが背を正す。炎は激しく燃える事はないが、ユーベルコードの効果が消えない限り、決して消失することもない。
 ただ、今にも顔を焼かんと燻る炎で肩ごとくべられながら、それでも紅薔薇卿エディアは、人ではまず浮かべられないであろう整った相貌で微笑んだ。
「……思い出すには、まだ足りん。この欠けた心を愉楽に揺り動かす為にも、疾く、貴様らの血を差し出すがいい」
 笑みを浮かべ、氷のような口調でそう謳うように告げた紅薔薇卿エディアは、魔銃の銃口をクレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)へと向けて、何の気負いもなく引き金を引き放った。
 所作一つ、そして発砲された弾丸に到るまで。そこには予兆も殺気も、何も感じ取ることは出来なかった。まるで呼吸でもするように。それは猟兵たちに身構える気配も与えず、あまりに自然に違和なく行われた行動だった。
「――おぬしからは悪意のようなものを感じておったのだが、少し違ったようじゃの」
 しかし、狙われたクレアは身を翻すだけで銃弾の一撃を躱してみせる。
「人の血に心が躍る――おぬしは、そうあれとこの世に生まれてきたのじゃろう。
 憎むべきは、おぬしのような者を生み出すこの世界の在り方なのやもしれぬな」
「……」
 オブリビオンは『骸の海』から滲み出た、排斥された『過去』という概念の一欠片。一度受肉したそれは、宿命として世界を滅亡に導くように出来ている。
 その意味では、オブリビオンの概念は、世界に『かくあれ』と認められているのだと。そうであったとしても何らおかしな事ではない。
「しかし、わしもぬしらを『倒す者』として呼ばれ、この剣と身体とを預かっておる身」
 本来、この『クレア・フォースフェンサー』という美が追及された身体に、老武者である自分が魂として宿るものではなかったという事実は、改めて自我を得てすぐに制作者の反応から理解した。
 しかし、その使命は変わらない――『猟兵』としてオブリビオンを倒す。その意味だけは。
 故に、
「生まれてすぐですまぬが、骸の海に還ってもらうぞ」
 オブリビオンと猟兵は、決して相容れる事はない。

 先ほど、蛍火の柔らかさで漂った『光珠』の光が、今は鋭い閃光のような光を放ち、紅薔薇卿エディアを攪乱する。
「――甘いな!」
 それでも、紅薔薇卿エディアは攻撃の手を休めない。その狭間を縫うように放たれる、魔槍によるなぎ払いと、魔銃によるユーベルコード【呪ワレシ赤薔薇ノ種】による同時攻撃をクレアは紙一重で見切っていく。
 しかしその狭間、僅かに揺らいだ風による布のたわみで被弾した純白の外套が、呪詛弾の炸裂と同時に切り裂かれた。完全に避けたつもりであったが、それよりも先にクレアは危惧する。
 攻撃の呪詛に邪魔されているのか、ナノマシンによる修復を可能とするはずの布が、切り口を薔薇の紅に染めたまま復元される様子がない。
「……ふむ。これは」
 その一撃で、クレアは紅薔薇卿エディアの所持する武器が、触れるだけで致命傷となり得る可能性について思案する。
「ならば――」
 クレアは敵を正面に一度、黄玉のように輝く両目を閉じた。
 発動させるは、クレアの身体機能ではなく、その老練なる魂が所持する『至見流』と呼ばれる見切りの術。それは敵の攻撃だけではない、その魔法や根源にある魂や概念に到るまで見切る事を可能とする秘技の領域。
「見えた……!」
 クレアが眼を見開いた、その瞬間。まるで体感では時が止まったかのように、敵へ到るルートが、まるで光の線のように煌めいた。
 刹那の瞬き。クレアは躊躇いなくそのラインへ身を投じた。ただ直感にも似た感覚をもたらす、瞬く時間の刹那を駆け抜ければ、クレアは完全なる無傷で紅薔薇卿エディアの元へと辿り着いていた。
 攻撃に躊躇いはない。途中手にした『光剣』に、己のユーベルコード【能力破壊(デストロイ・コード)】を乗せて、クレアは紅薔薇卿エディアのユーベルコードの核を斬り撃った。
「……!」
 紅薔薇卿エディアが想定していた痛覚は、不思議なまでに反応しない。
 だが、代わりにそこに残されたのは、まるで魂が削られるような感覚だった。
「生まれたばかりのおぬしに何ら罪はない。
 ただ、おぬしの存在を認められぬわしら猟兵という存在がいた。
 ただ……それだけじゃ」
 クレアの言葉と共に、急所こそ逸らしはしたものの、今まで膝を折らなかった紅薔薇卿エディアが、ぐらりと崩れ、よろめくように地に両手を突いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
戯れはここまでだというその言葉、そのままあなたに返します。
この村を護る為にも一切の油断なく全力であなたを葬りましょう。

【視力】【見切り】で発射される呪詛弾を捕捉、【オーラ防御】を展開してそれを防ぎます。
さらに【呪詛耐性】により弾丸に籠められた呪いそのものを無効化します。
この程度の攻撃で私を止められるとでも?では次はこちらから行きます。

UC【闇の解放】を発動。お前相手には過ぎた力だが……言っただろう?全力で葬ると。
素早く【切り込み】、暗黒剣による【重量攻撃】でやつを叩き潰す。
単純であるが故も最も破壊力の高い一撃だ。そう易々と防げると思うな。



「く……」
 一度大地に突いた両手。紅薔薇卿エディアの手からこぼれ落ちた武器は、彼女の爪が血を滲ませ地面を抉るように再び握り戻された。
「うおぉああああ!!」
 覚束ないままに、立ち上がった紅薔薇卿エディアが雄叫びを上げる。その傷付けられた魂を、欠けた記憶を魔性の炎で埋めるかのように。
「あくまで――私の消滅を図るか、宿敵ども!」
 鮮烈な叫びが場を貫く。そこには紅薔薇卿エディアがヴァンパイアの本性を剥き出しにして、仁王立ちと呼ぶに相応しい気迫と共に立っていた。
 肩に焼き付く炎が美麗な顔の一部を炙る。だが、それすらも気にする様子一つなく、鬼のように武器を振りかざす。
 それを目に、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は、吸血鬼よりも修羅の様相を呈した紅薔薇卿エディアの前に立ち塞がった。
「戯れはここまでだというその言葉、そのままあなたに返します。
 この村を護る為にも一切の油断なく全力であなたを葬りましょう」
 凛とした静かな怒りを灯した言葉が響く。
「良い。許そう――貴様らに、それが成せるのならばなぁ!」
 場に猛る声とほぼ重なるように、紅薔薇卿エディアはユーベルコード【呪ワレシ赤薔薇ノ種】が発動させた。ユーベルコードによって構えられた深紅の銃から、呪詛弾の発砲に到るまで、その速さは一秒では余りあるほど。人によっては認識し、捉える事すらもままならないそれを、セシリアは己の身をかこむ『暗黒の兜』越しに『魔除けのアリスバンド』の力を借りて完全に捕捉した。
 ほぼ瞬息の間、セシリアの身から沸き上がっている闇が、確実に心臓へと狙いを定められた呪詛弾を捕え包む。そこから共に炸裂しようとする呪詛は、指元にある暖かい力と共に編み解かれるように霧散した。
 ユーベルコードの完全なる無効化に、紅薔薇卿エディアが驚きに目を剥く。
「この程度の攻撃で私を止められるとでも?
 では――次はこちらから行きます」
 ユーベルコードを防ぎ切ったセシリアの言葉が、告死にも近しく響き渡る。
『暗黒よ……この命を捧げよう。私に全てを護る力を!』――それは覚悟と共に謳われし言葉――セシリアのユーベルコード【闇の解放(ダークアンリーシュ)】が発動された。
 瞬間『暗黒の鎧』から揺蕩っていた『暗黒』が激しく噴き上がり、そしてその全てがセシリアの総てと同化するように吸収されていく。
「……っ、――」
 漆黒の闇が完全に身体と一体化する。それはセシリアを、今まで見せなかった真の暗黒の力を覚醒させ『闇の化身』へと変貌させた。今まで見せていた銀の瞳に、鮮やかなレッドスピネルの輝きが宿る。
 セシリア自身も、身体に爆発的な力が宿るのが感じられる。だが『闇の化身』と化した精神は闇に汚染され、心を奪い、セシリアの寿命を容赦無く削り取る。この技は、もはや禁忌と呼ぶにも等しいものだ。
「お前相手には過ぎた力だが……」
 両手剣としても規格外の『暗黒剣ダークスレイヤー』を、セシリアは片手持ちで紅薔薇卿エディアへと向けてなぎ払った。だが、それを容易いと受け止めた魔槍の方が悲鳴を上げ、慌てて紅薔薇卿エディアはその身ごと距離を取る。
「言っただろう? 全力で葬ると」
 セシリアは、それだけの威力を見せた『暗黒剣ダークスレイヤー』を、改めて両手で構えて、敵を逃すことの無いよう捕捉した。
 闇の化身としての身体は、暗黒剣を手にしても尚軽い。むしろ無ければ心許ないほど、腕の一部であるかのような錯覚すら受ける。その尋常ではない力は、極大とも言える剣と共に、風のように紅薔薇卿エディアの元へと切り込んだ。
「――!」
 振り上げた『暗黒剣ダークスレイヤー』が黒炎を吹き舞わせる。セシリアはそれに加重と共にした勢いを乗せ、一気に紅薔薇卿エディアの元へと、叩き付けるように振り下ろした。
「単純であるが故、最も破壊力の高い一撃だ。そう易々と防げると思うな」
 暗黒のエネルギーが地面に無数のひび割れを走らせる。
 紅薔薇卿エディアは、一撃を躱しきれずに、一旦はその魔槍でいなそうとする。
 だが、その破壊力は紅薔薇卿エディアをごとその身体を容赦なく弾き飛ばし、相手の胸にはっきりとした深い裂傷を刻み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リューイン・ランサード
彼女が元凶ですか、人々の命と希望を護る為にも、ここで倒します!
(強そうなので少し怖いですが<汗>。)

へたれさを心の底に押し込んで真の姿に変身。

敵の魔銃の攻撃は【第六感】で予測し、【破魔と呪詛耐性】を施したフローティングビームシールドによる【盾受け】で弾きます。
魔槍の攻撃は【第六感】で予測し、翼による【空中戦と見切り】によって回避。
いずれも身体には【オーラ防御】展開。

その上でUC:オリジナル・ライト使用。
全てを光に変換する光の剣を掲げ、【残像】による分身で幻惑しつつ、【空中戦】で一気に接近、【光の属性攻撃】で更に強化した上での【2回攻撃】で、一気に斬り裂いて消滅させます!
「ここから消え去れ!」



「……ふ、は……紅い……! 私の血も、かようなまでに紅いとはな!」
 先の、総てを圧殺する一撃の直撃を免れたとはいえ、紅薔薇卿エディアが己の胸に受けた傷は決して軽微なものではなかった。抉られたような裂傷に手を当て、そして己の目で確認した血の赤に嬉々とした表情を灯す。
 その場に、紅薔薇卿エディアの哄笑が響き渡った。最初に見た姿を覚えていれば、それは明らかに傷を負いすぎたが故の錯乱とも思われただろう。
 だが。それでも紅薔薇卿エディアは、先の攻撃でその柄を歪ませて尚、獰猛な牙にも似た魔槍を構え直した。
「彼女が元凶ですか……!」
 ゴーレムの掃討と、村にいた人々が避難した事を確認したリューイン・ランサード(竜の雛・f13950)が、その飛行能力で険しい崖を越え、敵の前へと着地する。
「あと少し……あと少しで思い出せそうな気がする……!
 贄はお前か、私にその血を捧げてみせよ!」
 紅薔薇卿エディアの挙動はもはや獣にも近かった。こちらへと飛び掛かって放った、魔槍による不意打ちにも近い一撃を、リューインは『サークレット』から伝わる本能的な警告に従い、とっさに中空へと身を翻すように飛翔し躱し切る。
 ――もう、敵の目は真っ当な色をしていない。今からそれと対峙するという、思わず弱音と共に、胸に溢れそうになる不安一色に染まる恐怖を、リューインは必死に心の中で抑え込む。
「人々の命と希望を護る為にも、ここで倒します!」
 倒す。むしろ倒さなければならない。思わず怖くて半泣きになりそうな決意を、口に出すことで自分に強く言い聞かせた。
 そして、リューインは一つ頷くと、覚悟と共に指にしていた『龍刻の指輪』を己の顔の前に高く掲げた。
 龍が彫られた瑠璃から放たれたオーラが、一瞬の瞬きと共に全身を包み込む。そして、封印を破るようにそれが掻き消えた先には――金色に光を放つ二股の龍の尾。三対の輝ける光の羽根。そしてドラゴニアンとして今まで無かった角を伴い、真の姿へと覚醒を遂げたリューインの姿があった。
「フ、小僧! 見掛け倒しではない事を期待するぞ!」
 紅薔薇卿エディアが魔銃から、リューインの全身とその周囲を狙って、銃弾をばらまくように撃ち散らす。そして最後の一撃に、その胴体へとユーベルコード【呪ワレシ赤薔薇ノ種】を発動させた。
「……っ、させません!」
 真の姿であろうとも、敵のユーベルコードが直撃すればただではすまない。とっさに『光絹のスカーフ』からオーラによる自己防御を広げ通常の弾丸から身を守る。
 その隙にリューインは、自分の前に展開した『フローティング・ビームシールド』に『霊符』を急ぎ、添えるように近づけた。霊符の一枚は瞬時に燃えつき、ビームシールドに強力な破魔の力が付与される。
 そして、敵のユーベルコードの防御一点に絞ったビームシールドは、敵の真の狙いである最後の呪詛弾を受け止めると、破魔の力で炸裂すらも許さず、そのまま完全に無力化させた。
「こしゃくな!」
 動きが荒々しいままに振るわれる魔槍も、上空へと退避されてしまっては当てようがない。
「これで、終わりです!」
 リューインが両腰に備えていた、刀身にルーンが刻まれ魔力を帯びる『エーテルソード』と、明澄たる純粋な水の流れを光としてその刀身に纏う『流水剣』を抜き放つ。そして両手にしていた剣を重ね合わせれば、二本の剣はそれが本来の姿であるかのように、溢れた零れた光の中で一つへと重なり始めた。
『始原の元素と光の剣よ、今此処に一つとなり、全てを光に帰す創世の光として降臨せよ!』――乞い求めたリューインの言葉に応え、ユーベルコード【オリジナル・ライト(オリジナル・ライト)】が発動する。今まで封印されていた二振の剣が、今、直視できない程の輝きを纏う、一振りの光の剣へと顕現された。
「光如きに惑わされるとでも――何……っ!」
 光の集約が収まる前に、紅薔薇卿エディアが魔槍と共にリューインの元へと身を躍らせる。しかし、光の見せたものはここにはない残像だった。
 魔槍が空を切る中、リューインは空中を駆けその背後へと回り込む。
 同時に『光のお守り』がリューインの意志に添うように、光の剣に更なる精霊の加護を注ぎ、剣に宿る『全てを光に変換する創世の光』の概念を確固たるものとした。
「ここから消え去れ!」
 炸裂する光の奔流。創世の光――その主であるリューインは、光流に翻弄された紅薔薇卿エディアの身体に、血を流すことすら許さない光の十字を確かな手応えと共に刻み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
ア◎

ああ、アレス
お前となら怖い物なんか何もねえ

ハッ…!悪いがこちとらお前の為に囀ってやる声は持ち合わせてねぇんだ
歌うは【望みを叶える呪い歌】
靴に風属性の魔力を送り
足元で旋風を炸裂させて一気に加速
重心を低く
敵の視界から逃れるように
アレスが引き付けてくれてる分を生かして距離を詰め
まずは2回攻撃
敵の攻撃を見切り避けたらアレスの元へ
悪ぃ…でっかいのは任せたぜ
守りの全てはアレスに託して
真っすぐ前を捕える
守ってくれるその背中を支えるような気持ちで
剣を持ってない手で後ろからそっと触れ

ああ、任せな!
こっからは俺の仕事だ
名前を呼ばれた瞬間、旋風を炸裂
ジャンプでアレスを飛び越えたら
全力の斬撃をくれてやる!


アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎

ゴーレム達をけしかけていたのは彼女のようだね
…何処か朧げな存在のように感じるな
だが、僕達に向けてくる戦意ははっきりとしている
ならば…僕達も本気で行こう、セリオス!

僕が相手になろう!と声を上げ
敵の意識を僕に引き付けるように光属性を纏わせた剣から光の衝撃波を放ち
距離を詰め、剣で打ち込む
攻撃は見切って盾で防ごう

魔槍の数が増えればかばうようにセリオスの前へ出る
ああ、任せて
後ろには絶対に通させない!
覚悟と共に盾を最大サイズにし【天廻聖盾】を展開
降り注ぐ槍も銃弾も
衝撃にも耐えて
全て受け止めてみせる!

そしてこのまま魔槍と銃弾を撃ち返させてもらおう
隙を作り出し、彼の剣を届かせる為に!
――セリオス!



『存在の全てを光に変換する』創世の輝きが刻まれた紅薔薇卿エディアの身体から、直撃を受けた肩ごと左腕が地に落ちた。血を流す事すら許されず、他の猟兵が焼いた燃え盛る炎ごと、重い音を立てて落ちた腕はそのまま灰になって消えていく。
「……尚、動くのか……この躰は……」
 膝をつき、俯いた顔から表情は窺えない。しかし、人であれば致命的な傷を数多負いながらも、未だ滅ぶことのない紅薔薇卿エディアの呟きが小さく響いた。
「ゴーレム達をけしかけていたのは彼女のようだね」
 遺跡にアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)とセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が駆け付ける。一歩早かったアレクシスは、その敵の呟きを確かに耳にした。
 ゴーレムに村を襲わせる挙行から敵はどれほどのものかと構えていた心は、実際に目にした姿に見て、それを警戒心から違和感という呼称に差し替えた。
 アレクシスの今見る紅薔薇卿エディアの存在は、まるで今まで目にしてきたオブリビオンの中でも、ヴァンパイアと呼ぶよりは、むしろ霞ゆく亡霊のように感じられるのだ。
「……思い出した、気がする。
 だが……貴様らだけは、宿敵――生かして帰すわけには、いかぬ!」
 紅薔薇卿エディアが吼えた。一度魔銃を腰のホルスターに収め、残った右腕に魔槍を手にする。
「僕達に向けてくる戦意ははっきりとしている。
 ならば……僕達も本気で行こう、セリオス!」
 決意を伴い盾をかざしたアレクシスの声に、両脇の鞘に据えられた剣の柄に触れてセリオスが応えた。
「ああ、アレス。
 お前となら怖い物なんか何もねえ」
 共に戦場を駆ければ失う物など何も無い――セリオスのサファイアブルーの瞳が昂揚に輝いた。

「さあ、泣き乞い叫べ! その断末魔で、我が道を照らすがいい!!」
 身を翻し一気に飛び込んで来た紅薔薇卿エディアの魔槍の一撃を、セリオスが大きく飛び退いて躱す。
「ハッ……! 悪いがこちとらお前の為に囀ってやる声は持ち合わせてねぇんだ」
 敵の言葉を一笑に付すると、セリオスは敵を見据えたまま躊躇わずユーベルコードを発動させた。
『歌声に応えろ、力を貸せ。俺の望みのままに』
 それは、十年に渡る憎しみと共に、堪え忍んだ雌伏の果てに初めて手に入れた力。根源の魔力に紐付けられた旋律は、聞く者総てを魅了し鼓舞する深淵から生まれし力。それは、己が囲われし鳥籠を切り裂いた時、再誕という祝福と共に生まれ謳われた――使い続けるほどに、己の命を削る【望みを叶える呪い歌(アズ・アイ・ウィッシュ)】――

「僕が相手になろう!」
 セリオスのユーベルコードの発動タイミングに合わせて、アレクシスが戦場に勇ましく響く声で紅薔薇卿エディアへと宣戦布告を放つ。
 その顔の半分に火傷を負いながら、紅薔薇卿エディアがその口に弧を描きアレクシスの方へと向き直る。
 敵の捕捉から外れたセリオスが、歌により励起された根源の魔力を纏い、その属性の一つである風属性の力を、魔力をエネルギーに変換するブーツ『エールスーリエ』へと流し込んだ。
 極めて狭い領域で、足元に業風が爆ぜる音。その加速を付けた旋風に乗り、セリオスは更に敵の視界から消えるように駆け出した。
「こっちだ!」
 同時にアレクシスが鞘から抜き放った、白銀の刀身を持つバスタードソード『赤星』が煌めきを見せる。空気を鳴らすように主の意志に呼応した『赤星』は、その刀身に鋭くも神々しい暁光の光を宿した。そして振るわれた剣筋に沿って、一陣の光のようにも錯覚する衝撃波が敵に向かって放たれる。
「……っ!」
 紅薔薇卿エディアは、何とかそれを魔槍の片手で凌ぎ受け止める。その動きを止めた瞬間を見計らい、アレクシスは身に纏いはためく『青星の祈り』が受ける空気の流れを見極めながら、一気に敵との距離を詰めた。
 執念故か、片手でもその動きを鈍らせる様子のない紅の魔槍と、アレクシスの『赤星』が、激しい剣戟の音を鳴り渡らせる。
 片手でも油断のしようがない紅薔薇卿エディアの斧捌きを、アレクシスは左手に掲げる麗しい『早天の盾』を大型盾の形状のままに防ぎ切る。
「――がら空きだぜ!」
 瞬間、紅薔薇卿エディアの背後、何も無かったはずの空間に突如気配が現れた。
 それは、完全に紅薔薇卿エディアの気配探知の外にいたセリオスの姿。一度姿を消し、逃げでもしたかと気にも留めなかった――正確には気に留める余裕も無かった。
 完全に虚を突かれた紅薔薇卿エディアの背後で、ユーベルコードの高速移動と共に、セリオスが抜き放った綺羅星の輝きを宿した剣『青星』と『星の瞬き』が、立て続けに敵に剣筋を奔らせる。
「ぐぁァ!!」
 紅薔薇卿エディアから絶叫が上がり、よろめいた身体が片膝をつく。それでも、片手に奮われる斧は狂ったようにその猛りを留める事はない。
『ラピスラズリの撚糸』が風もないのに揺れた気がした――それに伴い気付いた、背後に涌くように現れた斬撃を、セリオスはすんでのところで躱しきる。
 セリオスとアレクシスは、瞬間的に視線を合わせると、戦況立て直しの為に一度敵から大きく距離を取った。
「……」
 もはや紅薔薇卿エディアが、何を言っているのかも聞き取れない。しかし、背中から滴る紅で新たな血の池を作りながら、二人を目にした敵の瞳は、胡乱ながらもまだ鮮烈な光を放っていた。
「来る……!」
 アレクシスの言葉通り、紅薔薇卿エディアは地に置いた魔槍を上空高くへと放り投げる――瞬間、一斉に空に数多展開された、複製された魔槍の数々が視界を埋め尽くすように現れた。
 それはまるで、空に数え切れないほど無数の鮮やかな紅薔薇が咲いたかのようだった。
 ユーベルコード【土人形ニ生ケル赤薔薇】――上空を咲く薔薇斧の園の下で、紅薔薇卿エディアは最後に確殺の為の銃を構える。
「悪ぃ……でっかいのは任せたぜ」
「――ああ、任せて」
 セリオスを庇うように、アレクシスが一歩その前に出る。
「後ろには絶対に通させない!」
 決意と覚悟がアレクシスに力を与える。地に突き立てた大きさを可変出来る『早天の盾』が『背後に立つ存在を守護する概念』として最大にまで巨大化し守護範囲を拡張させた。
『我が盾は、守るべき者の為に!』
 アレクシスのユーベルコード【天廻聖盾(テンカイセイジュン)】が発動した。響き渡る宣誓と共に、硬質の音を立て、盾から神聖性すらをも感じさせる暁に輝く守護結界が張り巡らされる。
 同時に、上空から二人に向けて深紅の魔槍が降り注いだ。
「く……っ!」
 複製とはいえ、無数の戦斧の雨が降り注ぐ。魔槍だけならばこの守護結界でも問題なく捌き切れたかも知れない。しかし、その斧の雨に付随する真なる魔銃による追撃が、少しずつ確実に暁の結界を欠けさせては激しく削り取った。
 激しい衝撃が、見る間にアレクシスを消耗させていく。
「……」
 その背後に立つセリオスは、ただ、それを見ていた。見ることしか、今は出来ることはないのだ。それ故に、せめてアレクシスと同じ世界を見る為に、その正面を強く凝視する。
 激しい防戦が続く。アレクシスから僅かな呻き声が洩れた。しかし、彼がここで倒れれば、二人揃って敵に命諸共刈り取られるだろう。
 ――せめて、守ってくれるその背中を支えることが出来たなら――燐光を放つ『青星』に触れていない手で、せめても、と。そっとアレクシスの背中に触れて、セリオスはただ願う。
「……!」
 ふと受けた、背中に触れる手の感触を、アレクシスは確かに感じ取った。守護障壁は限界に近い。それでもまだ、守るべき者が後ろに立つならば。
「全て――受け止めてみせる!」
 守護障壁がその場に朝焼けの光を再現するように輝きを増し、紅薔薇卿エディアが最後に放った魔弾を受け尽くした。
 罅の入った結界が大きく撓む。しかし、その機能を失うことなく、ユーベルコードの術式に則り、今まで呑み込んで来た魔槍と魔弾を一斉に紅薔薇卿エディアへと撃ち返した。
 動けない紅薔薇卿エディアに既に回避する術はない。範囲攻撃として跳ね返された攻撃が雨のように降り注ぐ。
 やむことのない武器の雨。それでも尚、アレクシスはその中にまだ消えることのない敵視を感じ取る。
「――セリオス!」
 だが、その為に。こうして自分は完全な隙を作り出した。
 総ては、セリオスの剣を敵に届かせる為に。
「ああ、任せな!」
 ブーツ『エールスーリエ』に巻き込んだ旋風を炸裂させて、セリオスは前にいたアレクシスの肩に手を置き、そこを起点に一気に飛び越え上空へと身を曝す。
 魔槍の雨が消えた、最後の一筋。セリオスは手にした『青星』を流れ星の煌めきと共に、それを己の真下にいる紅薔薇卿エディアへと振り下ろした。

「……ああ」
 最後の斬撃を受けた紅薔薇卿エディアが、辛うじて声を上げた。
 胴体には何本もの魔槍が突き刺さっていた。四肢もまともに残っているものを数えた方が早い有り様だ。
 小さく、紅薔薇卿エディアは呟いた。
「思い、出した……このような、わたしは――ただのバケモノ、だ……」
 ザァッと、その全身が。身体を貫いていた武器が。総てが灰となり、音を立てて消えていく。
 それが――紅薔薇卿エディアの最後だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『失われた祭事の復活』

POW   :    櫓を建てる、祭りの資材を運ぶなど

SPD   :    祭りの準備をする、料理を作るなど

WIZ   :    祭りの企画をする、出し物を考えるなど

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(第2章ありがとうございました! 第3章プレイングは『7/22(水)8:31開始~7/24(金)8:31迄』を目安に受付を行わせていただきます。
 開始時刻までに、断章の追加を可能な限り早くに行わせていただきますので、是非併せてご覧いただければ幸いでございます)
 
 
 
 猟兵たちの活躍によって、村に集まっていた人々は誰一人として欠けることなく、再びこの村へと戻ってくることができた。
「もう無理だと思っていた! ありがとよ! ありがとよ!!」
 ダークセイヴァーの人々に猟兵の概念は理解出来ないが、それでも自分たちの命を救い、今ここにいる彼らが心より歓迎するべき客である事だけは良く分かる。
「なあ、村の被害も殆どねぇし、これならやろうとしていた『鎮魂の祭』りが開けるんじゃねぇか?」
 村にいた人々――『人類砦』として集まった中の一人がそう提言する。
 話によると『鎮魂の祭り』というのは、過去ここに住んでいた村の人々の魂鎮めと、これからの『人類砦』への加護を祈願する目的で行われようとしていた祭りであるらしい。
 だが、具体的な祭りの内容まではろくに決まっていないままにこの度の襲撃を受け、現状、準備らしい準備すらも出来ていないとのことだ。
「準備はこれからなんだが、あんたたちも何かやって行かないかい?」
 手伝ってもらうこともあるかも知れんが、祭りにあんたたちが参加してくれれば、きっと昔ここに住んでいた人たちも喜んでくれるに違いない!」
 全ての準備が整えば、当面の脅威が完全に去った今、祭りは小さな規模ながらも、飲食なども交えて賑やかに行われる予定らしい。
 この祭りは、当座とはいえ今ここが平和になった証明ともいえるもの――多少の手伝いも含めて、ここを去る前に共に祭りを楽しむのも一興であろう。
バジル・サラザール(サポート)
『毒を盛って毒で制す、なんてね』
『大丈夫!?』
『あまり無理はしないでね』

年齢 32歳 女 7月25日生まれ
外見 167.6cm 青い瞳 緑髪 普通の肌
特徴 手足が長い 長髪 面倒見がいい 爬虫類が好き 胸が小さい
口調 女性的 私、相手の名前+ちゃん、ね、よ、なの、かしら?

下半身が蛇とのキマイラな闇医者×UDCエージェント
いわゆるラミア
バジリスク型UDCを宿しているらしい
表の顔は薬剤師、本人曰く薬剤師が本業
その割には大抵変な薬を作っている
毒や薬の扱いに長けている
医術の心得で簡単な治療も可能
マッドサイエンティストだが、怪我した人をほおっておけない一面も

アドリブ、連携歓迎



 激戦の果てに辿り着いた勝利。しかし、それ故に味方側の猟兵にも負傷した者は少なくなかった。
 崖の中腹の遺跡前にて。特化は毒薬だが表向きはきちんと医に携わる者として、バジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)は一見スーツケースかと思われた中から、急ぎ、見る間にベッド付きの簡易無菌室へと展開する『ポータブル調剤室』を用意する。そして、蛇の巻き付いた杯をモチーフにあしらわれた『ヒュギエイアの薬箱』を手にすると、戦闘で怪我を負った猟兵たちを一人ずつ診てまわった。
「……これで一通り、かしらね」
 治療完了。これで後の行動に支障をきたす者はいないだろう。忘れ物がないか確認した後、バジルは治療現場として広げていた空間を再びスーツケースに収納すると、念の為、他にも怪我人はいないかを確認する為に、村の方へと向かうことにした。

 村に降りると、バジルは村にいた人類砦の人々によって『鎮魂の祭り』が行われるらしいと耳にした。少し急すぎるのではとも思ったが、以前から準備自体は進んでおり、何よりぜひ通りすがりの旅人たち――猟兵も交えて祭りをしたいという人々の強い意志がそこにはあった。
 確かに、そのくらいのバイタリティーがなければ、この世界で人類砦と呼ばれる存在を築く事も出来なかったであろう。そう思案すると、さっそく祭りにむけてあくせくと動き始めている人々に、バジルは感銘と共に納得の面差しを向けた。
「さて、任務としてはこれで終了かしらね」
 怪我人もなし、オブリビオンもいない。ならば、後は帰るだけ――バジルがそう思った瞬間、後ろの方から、先ほど通り掛かった時に今にも崩壊しそうだと思っていた、古い壊れかけの櫓が激しく崩れる音がした。
「――!?」
 危ないとは思っていたが、まさか自分のすぐ側でとは。慌てて振り返ると、そこには立ちすくむ数名の人々の姿があった。
「大丈夫!?」
 バジルは急ぎその場に駆け寄り、人々に声を掛ける。確認の為に上を見上げれば、櫓は完全に根元から砕けており、更に木材を降らすことはなさそうだ。
「足が……!」
 幸いにも降ってきた木材の下敷きになった人はいないようだが、代わりに落ちた木材が跳ねて足にぶつかったのか、その場に男が一人座り込んでいる。足の傾きからして、どうやら骨折しているらしい様子が見て取れた。
「ちょっといいかしら?」
 バジルが動揺が隠せないでいる人の中に急ぎ、一歩足を進めれば男との間に空間が出来る。
 バジルは男の傍に屈み、しばらく傷を診ると、少し考えた後すぐに己のユーベルコードを発動させた。
【白蛇の鎖(サーペントチェイン)】――白蛇の形をした光の鎖が現れ、男の足に触れると、仄かな光と共に怪我があっという間に治癒される。
 痛みが引く男の表情を見て、それを察した周囲から歓声が上がった。
 このユーベルコードはバジル自身の疲労と引き換えだが、この村は薬もなければ、当然現代的な医療にも明るくはない。そのような環境下で、自然治癒に任せるのが怖ろしい以上、これが最善の手段だろうと思われた。
「痛みが消えた……! おお……有難うございます!!」
「怪我は完全に治っているはずだけれども、あまり無理はしないでね」
「はい! あの、お医者さまでいらっしゃいますよね? これからの祭りにご参加いただけませんか! 是非おもてなしをさせてください!!」
 顔を嬉々と輝かせた男につられるように、周囲のバジルを見る眼差しもきらきらとした羨望へと変わっている。
「正確には医者じゃないんだけれども……まあ、いいかしら」
 後は帰るだけ――だったが。少し長い夜と心の籠もった祭りを堪能するのも悪くない。バジルは人の笑顔と共に頷いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

地籠・凌牙
【乱入アドリブ連携諸々歓迎】
……祭りか。うん、どーしたもんかな。いや、嫌いじゃねえが……大分穢れが溜まってるからうっかり動けばトラブルがやってきそうなんだよな~……あ゛っ(何らかの資材とかそんなんが雪崩込んできたりとかするだろうので巻き込まれてからすぐに出て)
あーこれ村人見てるよな?まあそんなんだから俺は離れたとこから眺めるだけにしとくよ。手伝いたいけど多分これはヤバい。
とはいって何もしないのもアレだし、【指定UC】で村の人らに刻印を渡しておこうか。せめて少しの間でも平和に過ごせるように穢れをそのまま俺がもらっていくよ。
祈願のお祭りだし、それっぽいことをしたっていいだろうしな。


クレア・フォースフェンサー
人の血に歓喜するヴァンパイア
8人掛かりで倒せるあのような者が次々と生まれ落ちるというのじゃから、恐ろしい世界よな
しかしだからこそ、此度の祭りは村の者皆が楽しむべきじゃな

祭りとは言え、見張りをなくすことはできぬであろう
わしが代わりをし、皆には祭りにゆかせよう

村の周囲に光珠を展開し、ゆっくりと回転させながら索敵
無骨な光じゃが、枯れ木も山の賑わいという奴じゃな
これらの光に近場の魔物が呼び寄せられるならば好都合。今のうちに掃討しておこうぞ

わしに付き合う奇特な者がおったなら……そうじゃな。マシン・ビークルで作成した光盤で、周辺地形の把握を兼ねた空中散歩にでも誘おうかの
しっかり掴まっておれよ?



 夜が明ける時間となってもまだ暗いダークセイヴァーの世界において。それでも猟兵たちは勝利を掴んだ。
 敵オブリビオンの消滅を受けて、いつしかクレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)の外套に残り続けていた損傷も、既にナノマシンによる修復で跡形もなく消えている。
「……しかし」
 クレアは今回の戦闘をじっと振り返る。人の血に歓喜するヴァンパイア――八人掛かりで倒した敵が、今この瞬間も、ここに限らず次々と生まれ落ちているのだと。
 そう思えば『骸の海』は――この全ての世界のシステムは、なんとぞっとしないものであるだろう。
「いや……だからこそ、祭りは必要じゃ」
 ダークセイヴァーの世界そのものが、治安が良いとは言いがたい。まだこの周囲にも危険が潜んでいるかも知れず、警戒すべき事柄が残っているかも知れない。
 それでも、だからこそ今開かれようとしている祭りは必要な物だ。
「此度の祭りは村の者皆が楽しむべきじゃな」
 ならば、自分が全ての危機的要因を取り除けば良いだけのこと。クレアはそれらの浮かんだ不安要素を排除すべく、人々へ己の祭りへの参加辞退の旨を伝えた。
 それを聞いた人々からは、感謝よりも驚きと否定が先に出た。せっかく人類砦を――自分たちを守ってくれた功労者をねぎらえないという申し訳なさとして、切々とした思いが、次々とクレアへと告げられる。
 それをクレアは気持ちだけ受け取って、微笑みながら柔らかく告げた。
「なに、適材適所と言う言葉もある。それに――ならば賑やかしにこのような趣向はどうじゃ?」
 クレアは百八に連なった、先の戦場とは異なり戯れにきらきらと光っている『光珠』を、村を中心に一斉にその内外へとふわりと中空へと広げてみせる。
「無骨な光じゃが、枯れ木も山の賑わいという奴じゃな」
「わーいっ、光るたまー! きれいーっ!」
 その煌めきに子供達が喜んで捕まえようと遊び始める。それは、昏い闇に怯えきって久しい人類砦の大人たちの心も温かくさせた。
 同時に『光珠』はその全てがクレアの知覚のサポートを行うものでもある。こうして、ゆっくりと動き回るそれらに何も知らない人々は喜び、共にクレアからしても、不意の悲劇を生まない為の最善を敷くことができた。

「……祭りか。うん、どーしたもんかな」
 傍らでは、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が、極めて胸中複雑な様子で、活気だってきた人類砦の人々の様子を眺めていた。
「あ……やはり、旅の方をお引き留めしたのは……」
 凌牙の様子を見た人類砦の娘が、心配そうに声を掛けてくる。
「あ、いや、嫌いじゃねえが……」
 凌牙が己の身体を視界に入れる。目に入るのは己の能力『《穢れを喰らう黒き竜性(ファウルネシヴォア・ネグロドラゴン)》』によって、敵から喰らい尽くした『呪いや不運を喰らい尽くして、それが黒く蓄積された』自分の身体。
「――大分穢れが溜まってるから、うっかり動けばトラブルがやってきそうなんだよな~……」
 それが不安で動くのが躊躇われる。何事もなければ資材運びでもと思い、凌牙がそちらに近づいた瞬間、
「って、あ――」
 立て掛けてあった資材の一部が、雪崩の如く凌牙の元へと落ちてくる――『やっぱり』語尾に含まれた声は、知ってたと言わんばかりに濁って響いた。
 木材は破格的なまでに激しい音を立てて、凌牙の真上から降ってくる。
「痛ててて!! ――だ、大丈夫! 大丈夫だって!!」
 中にも丸太じみたいものも混じっているが、これで死ぬほど猟兵はやわではない。周囲の悲鳴をおさえるように、慌てて無事を示すように声を張り上げながら、凌牙は木材の中から無傷で這い出した。
「まあそんなんだから、俺は離れたとこから眺めるだけにしとくよ。手伝いたいけど多分これはヤバい」
 周囲の心配する声を『怪我してないから!』と説得して抜け出れば、それを光珠で見て様子を見に来たクレアと顔を合わせた。
「木材が崩れたと来てみたのじゃが、心配はなさそうじゃの」
「ああ、おかげさまで無傷無傷」
「……ふむ」
 クレアが、しばし凌牙の姿を見て考える。
「その身に喰らった穢れが起こすトラブルか、丁度よいの。
 おぬし、少し付き合わんか。なに、悪いようにはせん」
「いや、今の俺は――」
「むしろこの上ないほどに、今のおぬしの存在は好都合じゃ。一緒に空中散歩でもどうじゃ? 決して退屈はさせんぞ、約束じゃ」
 そう告げて、クレアが飛行能力を持つナノマシンからなる『マシン・ビークル』から円形状の光盤を作り出して、凌牙を招く。
 話し方は老武人を思わせても、目に映るのは同年代の美少女。それだけならば凌牙も僅かなりとはいえ警戒心が湧くものだが、相手はそれ以上に先ほど戦場を共にした武芸の手練れであり、己の仲間である事も既に証明されている。ならば、と少しの躊躇いの後、凌牙はクレアと共に光盤の上に乗った。
「しっかり掴まっておれよ?」
 その言葉は、意味深だった。

 村から少し離れた先、周囲を風のように駆け抜けた後に光盤の残光が残る。
 そして、その後を追い掛けるかのように――モンスター化した獣たちの群れが。
「ぎゃあ! なんでこんなにいやがるー!!」
「やはりのう。おぬしの溜め込んだ穢れに反応して、全部出てきおったか。
 有難い。功労じゃな。さて――これから今のうちに全部殲滅するが、おぬしの体力は残っておるか?」
「あ、当たり前だ! 馬鹿にするな!!」
「いい返事じゃ。では――始めようかの」
 光盤が消えるようにナノマシン状態に戻り、気が付けば敵が嵐のように迫って来る。隣のクレアは、既に輝かしい光剣を湛えて準備は完璧だ。
『あれ、戦闘ってもう終わったんじゃなかっけ……?』凌牙の疑問は、敵の足音と共に霞のように消え去った――

 そして、敵を蹴散らしても平時と変わらないクレアと、よろめきながらも無事にやり過ごした凌牙が村に戻ってくると、ちょうど鎮魂の祭りが始まったばかりだった。
「ふむ、多少は良い運動になったかのう。これで、モンスターはあらかた狩り尽くしたはずじゃが。
 引き続き警戒はしておくとしようか。しかし、おぬしのお陰で予想以上の敵があぶり出せたのう。礼を言おうぞ」
「ま、まぁ、生きて人の役に立ってりゃ……」
 今生きていれば、万事よし――少し想定外すぎる出来事だったが、そう言い聞かせれば心は少し落ち着いた。
 引き続き、この祭りがつつがなく過ごせるようにと、心なし嬉しそうにクレアが再び見張りへと戻る。
 祭りはシンプルだが光に照らされて村全体が仄かに明るい。そして目に映る人々の笑顔も、どれも明るかった。
 自分たちは、もうすぐここを立ち去る。それでもこの人類砦の為に、何か出来る事はあるだろうか。
 ふと、凌牙は自分のユーベルコードの一つにあたりを付ける。
『【喰穢】祝福の標(ファウルネシヴォア・セレブラール)』――自らの言葉に同意した存在から穢れを喰らい貰い受けることで、逆説的に対象に幸福の兆しを与えるユーベルコード。少しだけ、復讐者として、自分らしくないかもしれない、と心のどこかで僅かにかすめる。
 しかし、せめてこの祭りの時くらい。ここの人々の笑顔を祝福する真似くらいなら、赦されてもいいだろうと、ほんの少しだけ思えたから。
「おーい! せっかくの祈願の祭りに、ちょっとしたまじないとかどうだ?
 劇的に幸せになれるとかじゃねえけど、毎日が少し平和に過ごせるような……そんなやつなんだけどよ」
 ――人類砦の人々に、それは予想以上の歓待をもって受け入れられた。
 それは刹那の幸福などよりも、今の自分たちにはもっとずっと大切なものなのだと。人類砦の人々は、笑顔でそう告げたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

斬崎・霞架
【希蕾】
ア○

無事に解決して何より。
僕がマリアさんの王子様…?
ふふ、それは光栄ですね。お姫様(微笑みを浮かべ傅き

鎮魂の祭りですか。
…そうですね。失ったものは戻らなくても
今と、これからには可能性があるのですから。

マリアさんは歌うのですね。それは良い。
となれば、僕はそれを最大限サポートしなくては。

なるべく多くに届くよう会場の設営、
他に出し物を考えている方との連絡と段取りの相談。
足りない人手は村の人の手を借りましょう。
やるのだから全力で。手抜きは致しませんよ。ふふ。

…僕も一緒に、ですか?
マリアさんの歌に合わせられる程のものではないのですが…。
そうですね、ご一緒しましょうか。
出来るならば、皆さんで。


マリアドール・シュシュ
【希蕾】ア多め〇
連×

霞架、さっきはありがとう(自分の手の甲触り
マリアの王子様みたいだったの(言って自分で照れ
もうっまた!

鎮魂祭…
マリアに出来る事は、せめて歌とハープ演奏でその魂が救われるよう祈るだけなのよ
マリアはきっと憶えていられないから
代わりに霞架
あなたが今日のこの祭を
忘れないでいて頂戴
刻んで

散った命(はな)は元には戻らないけれど
それでも人は前へ進む事が出来るわ
見出せた光を
束の間とはいえ掴んだ平和を
胸に抱いて

設営の準備手伝う
【シンフォニック・キュア】使用
はれやかな詩(うた)を楽しく謳う
不安を拭う様に
祈りの加護を竪琴の清らかで優しい音色に乗せ
霞架や村人達と共に歌い願う

茉莉花の幸福を
お休みなさい



 村の準備は、思ったよりも早くに進んでいく。
 安全地帯から戻ってきた人々は、先の危機を前にしても心折れる事なく、むしろ危機の去った今の喜びを隠す様子もなく祭りの準備を始めていた。
「無事に解決して何より」
 斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)が、その様子に満足げに辺りを見渡す。
「ええ。まるで明るく光る花のつぼみのよう」
 マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)が同意するように言葉を寄せた。
「あのね、霞架」
 伝わってくる活気の傍らで、マリアドールがそっと自らの右手の甲を、左手でそっと支えるように目に触れさせる。思い起こせばそっと頬が柔らかい桜色に染まる。
「霞架……さっきはありがとう。
 ……マリアの、王子様みたいだったの」
 ほんの僅かな勇気を出して、手の甲へ目を向けたまま霞架への思いの丈を口にすれば、その言葉は自分の想像以上に辿々しく。自分の声で聞いた想いに何一つ間違っていないのに、ただ恥ずかしくて頬を薄紅へと染めていく。
「僕がマリアさんの王子様……?」
 同時にそれを聞いた霞架も、言葉に心をとられたかのように少しの間、瞬きを忘れた。振り返れば、ほんの僅か程度には大仰な仕草だったかも知れない。しかし、それも含めて、全て自分の心に従ったまでであったから。
「ふふ、それは光栄ですね。お姫様」
 今も霞架はこの胸に抱く倖せと微笑みを共に、マリアドールが大切そうに触れている手をそっと取り、躊躇うことなく傅いてみせる。
「もうっまた!」
 マリアドールの透き通った肌が、一気に林檎を思わせるほど可愛らしい紅色へと染まりきった。

「鎮魂の祭り、ですか」
 まるで元が廃村であったことを忘れそうな活気の中で、二人は人類砦の人から、その祭りの主旨を聞いた。
 話をした快活な人物が、眩しい表情で告げる。
「ああ、これからの希望の為に、前を向かなきゃいけねぇからな!」
「……そうですね。失ったものは戻らなくても
 今と、これからには可能性があるのですから」
 霞架がその眩しさに一度瞑目し、そしてゆっくりと瞳を開けて同意する。
「あんたたちも、もし良かったら参加してくれよ! この人間砦を守ってくれた人なら大歓迎だ!」
「鎮魂祭……」
 相手の様子とは対照的に、少し心に陰を落とした様子で、マリアドールが呟くように口にした。
「マリアに出来る事は、せめて歌とハープ演奏でその魂が救われるよう祈るだけなのよ」
「マリアさんは歌うのですね。それは良い。となれば、僕はそれを最大限サポートしなくては」
 霞架の声が心なし遠くから聞こえる。前を向く為の祭りと聞いたマリアドールの心は、先ほどから小波のような哀しみに揺れていた。
 その理由は分かっている。だが、それでも尚、心に浮かぶ切なさが胸を打って仕方がない。
「霞架」
 マリアドールは静かに語り掛ける。
「マリアはきっと憶えていられないから」
 霞架はその言葉に、すぐにマリアドールが何を言わんとしているか理解した。
「代わりに霞架……あなたが今日のこの祭を忘れないでいて頂戴――刻んで」
 それは『世界に溢れる幸なる感情』の中でしか生きる事を赦されない、マリアドールという少女の、あまりにも重い切なる願い。
「――ええ、確かに」
 霞架は、それに確約として頷いた。その重みを、代わりに背負う約束をした。
「散った命(はな)は元には戻らないけれど。
 それでも人は前へ進む事が出来るわ」
 深い悲しみや絶望の先にも、人は光を見いだし歩む事が出来る――その輝きを、その尊さを。忘れてしまう哀しみすらも消滅してしまう、この哀愁は消えないけれども。
 それでも、洞窟を抜けた先に見出せた光を、束の間とはいえ掴んだ平和を。
 今だけは、その目映さを胸に抱いてマリアドールは前を見据えた――

「そうですね、まずは……声が届くような会場の設営」
 まず一つ、決めた霞架の行動は流れるように早かった。
 マリアドールが歌うのであれば、その歌声は人類砦の人々に余すところなく聞いてもらいたい。霞架は、辺りを見渡して、作られようとしているその場が祭りで多目的に使われる舞台を模したものだと分かると、率先してその手伝いに回った。
 その合間に、霞架が猟兵――今回村を守った旅人の中に、過去の鎮魂と未来の希望を、歌に届けたいという存在がいることを伝え、マリアドールがその手伝いに出ると、手伝ってくれる人類砦の人々は、その声が天高く、そして鮮明に正面へと広がるようにその仕上がりを整えてくれた。
 同時に、霞架は他にも出し物を考えている存在がいることを知ると、その人々と段取りの相談をし始めた。互いが与えるであろう出し物への影響を考えた末で、順番が立て続けとならないようにしっかりと話し合い、そこに見事なまでの折り合いを付けていく。
 それら全ての段取りを終えて霞架が手を掛けた舞台は、他の準備よりも遙かに早く、そして見て分かるほど、手の込んだものだった。
「やるのだから全力で。手抜きは致しませんよ。ふふ」
 思わず小さく笑みが零れる。マリアドールが歌うのだから、このくらいは当然であり当たり前なのだと。他の誰にも言わない代わりに、霞架は心の中で満足げにこっそりと自分に誇ってみせた――

 そして暗い昼が過ぎて、再び夜。祭りが始まった。
 周囲の松明が、眩しすぎず辺りを照らす中、作られた舞台に『黄金律の竪琴(エルドラド・ハルモニア)』を用意したマリアドールが現れた。
「ここにいる人たちの、みんなで一緒に歌ってほしいのだわ。……もちろん、霞架も一緒に」
「……僕も一緒に、ですか?
 マリアさんの歌に合わせられる程のものではないのですが……」
 歌の心得のない霞架に、それでも、とマリアドールが笑顔で促す。
「俺たちも、歌なんて殆ど知らねぇし……」
 動揺を隠しきれない、おそらく人類砦の上役であろう人物も、困ったようにそう告げる。
「歌は、本当は歌詞もメロディがなくても、心があれば歌えるのだわ。旋律は心のしるべ。だから、歌えると思うのよ」
 天使のような微笑みがそう告げる。それなら、と上役が舞台の前で祭りの飲食を楽しむ人々に皆で歌ってほしいという主旨を告げて、二人は舞台の上に上がった。
 演奏が始まった。見た人々が、大きく設置された『黄金律の竪琴(エルドラド・ハルモニア)』から、つま弾くごとに音が、まるで華が生まれ咲き落ちていくかのように、立て続けに奏でられていく。まるでダークセイヴァーでは百年の単位で久しく無かった、軽やかな春風が吹いたかのようだった。
 小さな歓声が上がる中、マリアドールは添えるように『茉莉花の歌環(アンゲルス・ディーバ)』と共に歌声として、己のユーベルコード【シンフォニック・キュア】を歌い始める。まるで清涼な空気を纏う清水のような優しさをもって歌声は村へと響いていく。
 祈りの加護を伝える音色として完成された歌声――霞架が、それに戸惑い一向に歌い出せずにいると、マリアドールは笑顔で、既に添えるだけとなっていた副旋律のハープから片手を伸ばし、そっと霞架の方へと差し出した。
「……」
 マリアドールの意が分かる――霞架は、僅かな勇気と共にその小さな手を取ると、美しすぎる旋律の邪魔をしないようにと、己の声を乗せた。
 すぐに不安は杞憂と分かる。その声は、人々がシンプルなメロディに少しずつ、重ね始めた祈りと希望と共に、一つに溶け合い確かな音として、その場に広がっていった。

 斉唱にも近い規模に広がった合唱が終わろうとしている。
 歌声の核であった、マリアドールの歌唱も終わり、後は竪琴の音が名残を残すかのように数節を残すのみ。
 ――ふと、マリアドールが、ゆっくりと己の瞳を閉じた。
『茉莉花の幸福を……。
 ――お休みなさい』
 霞架は、最後に小さく紡がれた唇を見た。
 その金の瞳が再び開かれた時には、もう彼女はここで起きた事件の殆どを覚えてはいないだろう。
 それでも、霞架は忘れない。
 マリアドールが、この場で映した感情は。悲しみを抱き絶望に触れ、それでも『人は、苦しんでも前に進むことが出来るのだ』という眩しさに染めた希望は――確かにそこにあったのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
ア◎
手先も器用じゃねぇし
力仕事くらいしかできねぇけど
逆に言やソレはできるわけだ
歌で身体強化
重たい荷物も細腕でひょいっと持って
ほら、そっちのも貸しな
できる範囲で手伝おう

けど祭りの内容決まってねぇんだよなぁ?
ならさ、アレス

アレスと二人、故郷の鎮魂祭を真似る
剣を構えるアレスの隣
恭しく膝をついて鎮魂歌を
ホントはもっとたくさん音を重ねるもんだけど…
祈ってるのは、一人じゃないから
ソレならきっと届くだろ

チラッと見上げた光に照らされたアレスの顔は
昔見た光景のようで
でもソレとは違って
胸に過るのは哀愁と愛おしさ

死んでいった者たちに安らかな眠りを
生きているものたちに、明日に祈りを
――お前と生きる未来に  を


アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎

僕は料理を手伝おう
できる限り今使える材料で
少しでも皆の気持ちが明るくなれればと
味は勿論見た目にも工夫を施そう

セリオスの提案に少し考え
…うん、祭りが始まったらやろう

これは故郷の習わしだけど…僕達からはそれを
幼い頃に見た故郷の騎士達のように
剣を真っ直ぐに構え
祈りを捧げるように掲げる
今此処で祈りを捧げる剣はこれしかないけれど
…大丈夫
傍らには歌があるから

ここからは僕のアレンジ
【生まれながらの光】をセリオスの歌に乗せるように
村全体に届くように放とう
過去に眠る魂に静かな安息を
現在を生きる人々に明日への希望を
…それから、
そばにいるセリオスを一瞬だけ見る
…君と生きる未来に、――…
歌を、微かに重ねる



「さて、手伝いと言っても何処から始めたもんか」
 人類砦の人々がせわしなく準備に勤しむ光景を眺めながら、何から手を付けたものかとセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が口を開く。
「なまじ手伝えそうな事が多い分、迷ってしまうね」
 アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)も似たような感想と共に辺りを見渡す。
 その時ふと、アレクシスの鼻孔を微かに馴染みのある香りがくすぐった。これは、料理の匂いだ。
 そちらの方へ目を向ければ、根菜類を煮込む匂いが、壁が壊れて中が剥き出しになっている家から漂ってくる。
「料理を作っているんですか?」
 アレクシスたちがそちらに足を向けて声を掛ける。すると、壊れかけた竈に入れた火で鍋を煮立たせていた人が手を止めて、少し困った様子を滲ませながらも、愛想良く笑い掛けて来た。
「ああ。人類砦の皆と、旅人さんたちへと振る舞う為に作っているんだが、人類砦で一番料理が上手いのが俺だけという状態でね。人手が足りなくて、少し間に合うか心配だよ」
「人手ですか――もしそうでしたら、僕で宜しければ手伝いましょうか。料理の心得も、少しでしたら」
「おお! それは凄く助かるよ! ありがとう!」
「お、アレスの方が先にやること決まった感じか。じゃ俺も、もう少し外見てくるわ」
「ああ、セリオス。また後で合流しよう」
 外に出るセリオスの背中を見送って、アレクシスは隣の人から、今回の祭りで使える食材の量を聞き、改めて気分を切り替えた。いつも料理の時に使っている愛着あるエプロンを心の中で着け料理と向き合う。
 確認すれば、やはり質素には違いないが、この中に少ないとは言え非常に貴重な調味料があることに気付く。口に運ぶものに味が付いていれば、それだけでも人の心は明るくなる。……ならば、あとは心尽くしだけということだろう。
 そうした思案に思いを馳せながら、さっそくアレクシスは下ごしらえ中の野菜を、素材が無駄にならないように考え尽くした中で、見た目可愛らしく見目も楽しくなるようにカットし始めた。

「さぁて、と」
 こうして、相方のアレクシスが先にその手腕を奮う先を見つけてしまったセリオスは、改めてどうしたものかと外を歩きながら考えを巡らせた。
 自分は手先が器用なわけではない。むしろ生活力的なものは壊滅的で、出来る事と言えば、力仕事くらいしかないのだが。
「……逆に言や、ソレはできるわけだ」
 ふと魔法のように降ってきた解にセリオスは納得と共に頷いた。
 さっそく人々の集まりから、少し離れた所に一人立つ。
 目を閉じ、思い浮かべるのは光り輝く友のユーベルコード。その中に立つ自らをイメージして小声で囁くように光に交わる歌の一部を奏でれば、ふわりと自分の身体が軽くなった気がした。
 そして元来た道を戻る。通りすがりに、大の大人が二人掛かりで材木を運んでいた人々を目にして、
「貸してみな」
 セリオスは、それを片腕でひょいと持ち上げてみせた。
「だ、大丈夫ですかっ?」
 驚く男たちを後目に、セリオスの細身の身体が躊躇いなく木材を肩に担ぎ上げる。
「おう、これならもう一つくらいいけるな。
 ほら。そっちのも貸しな」
「あ、ありがとうございます!」
 そうして、セリオスの方も十二分に祭りの為、人々の大きな助けとなった後。人類砦の人々の手伝いをあらかた終えたセリオスとアレクシスは、再び大きな問題も無く合流することが出来た。
 遠くには、舞台らしきものが出来上がっているのも目に入る。
「そういや、飲み食いするとは聞いてっけど何をやるかまでは決まってねぇんだよなぁ?」
「確か……舞台で、歌を披露する予定の人がいるとは聞いたかな。他にも自由に何かをするなら舞台を使って良いとも」
 その言葉に、一瞬ピンときた様子でセリオスの瞳が輝いた。
「――ならさ、アレス」
 セリオスの提案が続く。それからしばらく考えていたアレクシスは、少しの間を置いて同意するように頷いた。
「……うん、それは良いね。祭りが始まったらやろう」
「なら、せっかくだからあの舞台も使わせてもらおうぜ。どうせやるんだ、良く見える方がいいに決まってるしな」

 そして、祭りが始まった。
 猟兵――人類砦を救った旅人が催し物をするということで、人々の目は舞台に釘付けになっている。
 アレクシスとセリオスがやろうと決めたのは、自分たちの故郷の鎮魂祭の模倣だった。武器を手に取り戦いに身を投じ、そして二度と戻ることのなかった誇り高き騎士や、民たちへの追悼と祈り。
 アレクシスは舞台の中央に立ち、幼い頃に目にしたその情景を思い出す。腰の鞘から抜いた『赤星』がするりと音を立て、村の夜に暁光の残光を放った。それだけで、人々がその美しさにため息をつく。帯のように後に引く光をそのままに、アレクシスは剣を正面に構え、そこに深い祈りを込めて高い空へと剣を掲げた。
 ――歌が聞こえる。両膝をついたセリオスが己の傍らで祈りに殉じるように歌い始める。それは孤高を感じさせながらも、今だけは死した人々を慈しむように包む声――
 過去の記憶ならば、鎮魂祭に掲げられる剣は、圧巻と呼ぶに相応しい何本とも知れぬほどの数があったが、今この場で捧げられる剣はこの一つのみ。
 それでも、アレクシスには戸惑う心細さはない。
 ……大丈夫。
 傍らには、想いを同じくする歌があるから。
 祈りに黙したまま、アレクシスは傍らに響くセリオスの歌声に寄り添わせるように、己のユーベルコード【生まれながらの光】を発動させた。
『赤星』と共に、目視が可能なほどに優しい光が、歌声と共に村全体に広がっていく。
 威力は拡散させているが、それでも反動でうっすらとアレクシスに疲労の色が見え始める。だが、それもまた今確かに感じ入る事の出来る、祈りの証明の一つでもあった。

 まるで朝焼けが溶け落ちていくように、暁の光を零すアレクシスの剣の傍らで、セリオスはそれをさらに遠くへと伝えるように歌を響かせる。
 アレクシスと同じ故郷で一緒に見た景色。その時耳にした音は、もっと広がりがあり、重なりがあり、空を突き抜ける高さがあった。
 自分の声を以てしても、その鎮魂の儀式に匹敵するかは分からない。それでも――祈っているのは、自分一人ではない。自分もアレクシスも、今この場で自分の歌声を聞き入れている人々も、命の形は違えどその思いが同じであれば。
 それは、きっと――届くと、そう思えるのだ。
 歌の狭間で、セリオスは目蓋の隙間に射し込んだ光の眩さの中にあるアレクシスの姿を見上げるように目に映す。
 面影は昔に目にした幼い姿を彷彿とさせたが、すぐに差し替わった現実は、同時に十と二年の空白をセリオスにそっと差し出した。
 遠い、幸せだった過去には戻れない。
 だが同時に、ここには過去の感傷以上に、今『相手が、確かに存在している』という愛おしさが湧き立った。
 時の代替は出来ず、でも、だからこそ良いのだと――セリオスは再び蒼珠の瞳を閉じた。
 そして、入れ違いにアレクシスがうっすらと瞼を開ける。そこには、総ての為に歌に想いをそそぎ奏でるセリオスの姿が目に入った。心揺さぶられる旋律を受けて、アレクシスはそっと歌声に合わせるかのように、小さく唇を動かした。
 誰にも届かないほどの小声で、それでも確かに溢れ返りそうな想いを重ねて。

 ――セリオスは祈る。
 死んでいった者たちに安らかな眠りを。
 生きているものたちに、明日に祈りを。
 ――アレクシスは願う。
 過去に眠る魂に静かな安息を。
 現在を生きる人々に明日への希望を。

 そして、全霊を込めた祈りと願いの狭間にて、無意識に願わずにはいられなかった。
 ……君と生きる未来に、――……
 ――お前と生きる未来に『  』を。

 互いに具体的な形として認識が出来ないほどの、淡い夢のような願い。
 祈りを確約とするには、未だ様々な物が足りずに最後まで紡げなかった言葉。共にあると心から誓っても、互いにその身に降り注ぐのは光だけではないであろう。
 それでもどうか、一番身近に生きる存在として、せめて願う事だけでも赦されるのならば。
 同じ生き筋を歩むと決めた二人の未来に――どうか輝かしい祝福があらんことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月25日
宿敵 『紅薔薇卿エディア』 を撃破!


挿絵イラスト