#ダークセイヴァー
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●誰にでもは頼めない事
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。ダークセイヴァーにて、オブリビオンの出現が予知されました」
その日、猟兵達を集めたグリモア猟兵、エルネスト・ポラリス(f00066)は憂鬱な面持ちで話の口火を切った。
それは勿論、グリモアに予知されたオブリビオンの被害を想っての事……そう言うには、彼の表情はいささか以上に暗いものだ。
「……お気づきになられた方もいるかもしれませんが、今回の予知に関しては、お声がけさせていただく方を絞っております。少々、特殊な対応をお願いしますから」
暗い表情は変えぬまま、エルネストは言葉を続ける。
確かに、ここに集まった猟兵は皆、彼によって個別に声をかけられてきた。
ベースの中で大声を張り上げて猟兵を集めるわけにはいかない事情が、今回の事件にはあるのだろうか。
一度、口を閉ざし間を作った人狼は、再び言葉を続けて──。
「ええ、今回は。一つの村を滅ぼしてほしいのです」
その村は普通の村だった。
近くにある自然豊かな山のおかげで食糧事情が──ダークセイヴァーの割には──良かったり、異界から神隠しにあった者より伝わった服飾文化等、些細な特徴はあっても、その地の在り方に大きな影響を与えることもなく。
普通の人が暮らして、普通に人が支え合い。
ごく普通に、何の理由もなく吸血鬼に滅ぼされた村だった。
「今回のオブリビオンは、『村そのもの』です。もう誰も居ない無人の土地にて、とうの昔に滅ぼされた村の最後の日、炎に包まれる惨劇が何度も再現されています」
村そのものと言っても、オブリビオンとして現世に留まるための本体が存在する。
誰かの姿を借りて村に潜む本体を討ってしまえば、事態は解決だ。
そこまでの説明を受けて、猟兵達は首を傾げる。
今のところ、ただ変わったオブリビオンというだけだ。
エルネストがあそこまで神妙な顔をして猟兵を集めていた事を考えれば、それで終わりではないのだろう。
「はい、ここからが問題でして……再現されるのは村が滅んだその日。正攻法で行けば、村を滅ぼした吸血鬼の大群が出現し、皆さんにも牙を剥くことでしょう」
そうなれば、本体探しどころではない。
村を滅ぼすべく無限に現れる吸血鬼達との戦闘に突入すれば、選ばれた猟兵とて苦戦は必至なのだ。
正攻法で、行けば。
「解決手段はあるのです。『村』が求めるのは虐殺者であって、吸血鬼ではありません。つまり、吸血鬼の出現より早く、『代役』がいればそもそも吸血鬼は現れないのですから……」
「──かつての吸血鬼のごとく、逃げ惑うすべての村人達を殺める虐殺者。今回貴方達に求めるのは、その役目です」
村人達もオブリビオンの一部であるのは変わりない。
しかし、寸分たがわず最後の日を再現したその地においては、彼らは何の根拠もなく明日を信じていた人々そのものとして蘇っている。
剣を向ければ恐怖に震え、弓を引き絞れば大声でわめいて命乞いを始めるだろう、そんな人々だ。
「おそらく、多くの方にとって楽しい役目にはならないでしょう……それでも、世界を止めてしまうオブリビオンは、誰かが討たねばなりません」
言葉を締めくくったエルネストが、一旦荷物を整理して移動の準備を始める。
「……暫くしたら、グリモアを持ってお迎えに上がります。参加を躊躇う方は、どうぞ今のうちにお引き取りを」
その感情もまた、決して間違いではありませんから。
そう言い残した人狼が去っていき、場には猟兵達だけが残される。
少しだけ、お互いの顔を見合わせた彼らは、グリモアベースの出口に目を向けて──。
北辰
OPの閲覧ありがとうございます。
マジでダークなダークセイヴァーより北辰です。
【プレイングによっては不快な描写、後味の悪いリプレイになる可能性があります】。
そういうわけでダークセイヴァーにて村を焼きましょう。
OP内では声をかける相手を選んだとか言っていますが、特に参加制限とかは無いです。
集団戦→ボス戦→日常のフラグメント構成となっております。
●1章
再現された村の中、自分達が死んでいる事すら知らない村人達が平和に暮らしております。
このままでは吸血鬼軍団が現れてしまいますので、それに代わり村人達を殺め、村を滅ぼしていくのが皆様の役割です。
村人達は一応オブリビオンではありますが、戦意は無く力も弱いため、猟兵が苦戦することはまずないでしょう。
(ダイス判定によるシステム的な苦戦はあり得ます)
とりあえず村を破壊して村人を殺していれば仔細は問いません。
オブリビオンなんだからと淡々と殺めてもいいですし、悲鳴を上げ逃げ惑う姿に胸を痛めながら、少しでも苦痛を減らそうと頑張るのも良いでしょう。
虐殺たっのしー!! でもまったく問題ないです。
●2章
オブリビオンそのもの、『村』の核となっている人物との戦闘です。
生前の人格は残っておりますが、此方はオブリビオンとしての自覚があるので、しっかりユーベルコードを使って抵抗してきます。
●3章
無事にボスを討伐できたなら、村は消滅します。
残るのは小花が揺れる無人の野原のみ。
滅んだ村の痕跡は僅かに見られますが、すべては昔の話。
風化しかけた遺体が弔われることもなく、野ざらしになっています。
気が向けば、彼らのお墓でも作って差し上げてください。
グリモア猟兵のエルネスト・ポラリス(f00066)は、お声がけがあった場合のみお手伝いいたします。
単純に人手が足りない、ダークセイヴァーでの埋葬とか知らない等々、お困りの場合のお助け役です。
●プレイング受付
1章は4/6の8:31より。
それ以降は章移行後、半日以内に断章を公開いたしますので、それより受付をいたします。
それでは、猟兵としての務めを果たす皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『ずんび百姓と名を棄てられた村』
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POW : 良く来た。これでも食らえ。
【採れたて畑の野菜】【獲れたて山の獣】【獲れたて山の獣】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 遠慮はいらん、たくさんお食べ。
【山の様な新鮮なお野菜】【豊かな香りの瑞々しい果物】【この世界で養殖に成功した茸】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : まだまだありますぞ。お客人。
【大地を覆う野菜の群れ】【蔵を埋める燻製、漬物、発酵食品】【この世界ならではの葡萄の飲料(酒含む)】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:まっくろくろな
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●終わりの終わり
「あっこの娘さんは、まだ塞ぎこんでるのかねぇ」
「ああ、親が聞いてもなぁんにも答えず……早く元気な顔が見たいけどなぁ」
陽の差すことのない世界の片隅。
細々とした農作業の合間に、村人達がとりとめのない会話を交わすその風景。
昨日もこんな日常を過ごし、今日を経て明日へと続いていく。
そう信じていた彼らの日々はとうに終わっているのに、その終幕を延々と繰り返す。
「おい……なんか、村の入り口の方、明るくねぇか……?」
その終わりは、今日こそ真実に。
「はあ……はあっ……! くそっ、なんなんだよお前ら!」
火を放たれた家屋からは肉の焼ける匂いが。
侵入者に勇敢に立ち向かった父親の骸を抱きながら、目に涙を浮かべた少年が叫ぶ。
あまりに唐突に現れた彼らは、珍しい客人を笑顔で迎えようとした門番を斬って捨て、蹂躙を始めた。
何故こんなことを、自分達が何をしたというのか。
涙を流して何が変わるわけでもないのに、胸からこみあげる悲嘆と怒りを抑えられるわけもなく。
「金か、食いもんか!? 何が欲しいんだよ──この、人殺し共ォ!」
憎悪に満ちた瞳を見返す侵入者……猟兵は、その手に持った刃を振り上げて──。
セツナ・クラルス
オブリビオンを倒すのが私の使命
この程度で私の覚悟が揺らぐなんてありえないよ
『属性魔法』水+風で霧を発生
濃霧の中に『毒使い』にて強い鎮静作用を持つ毒を散布
なす術もなく昏倒する村人たちを鎌で、ナイフで――
時間をかけるつもりはない
苦しませるつもりもない
一瞬で彼らに永遠の安らぎを与えよう
こんなときに『医療知識』が役立つなんてね
……ふふ、皮肉なことだよ
薬の効きが悪く目覚めてしまう人もいるかもしれない
目が合えばいつも通りに微笑んで
――大丈夫だよ、これは夢だ
醒めない悪夢に冒されるのは辛かろう
……ねえ、私を信じて?
すべて私に委ねてくれないかい?
――最悪だ
吐き気がする
でも、私がやらねば
この世界のために
リーヴァルディ・カーライル
…ん。“あの人”から聞いた虐殺は、こんな光景だったのかな。
…辛くて、悲しくて、全部投げ出して…背を向けたくなる。
だけど此処で逃げたら、私が私を赦せなくなるから…。
…今を必死に生きる人達の為に、貴方達を殺す。
村人達が何かする前に吸血鬼化して限界突破した魔力を溜めてUCを発動
眠りの呪詛を宿した“闇の霧”を広域に放つ早業の精神攻撃を行い、
村人達を眠らせて1人ずつ大鎌で首をはねて回る
…悪戯に苦しませるつもりはないわ。
せめて幸福な夢の中で…終わらせてあげる。
…万が一、生き残っている村人がいたら“あの人”を連想してしまうかもしれない
彼の残像を気合いで振り切り、無言で重い引き金を引いて銃撃する
※アドリブ歓迎
●せめて最期は眠るように
焼け落ちていく家屋、響き渡る人々の悲鳴。
“あの人”から聞いた虐殺は、こんな光景だっただろうか。
大鎌を携え、既に事切れた村人達を眺めながら行くリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の瞳に、明らかな陰りが生じる。
当たり前にあった筈の幸福の喪失。
この場所にそれがあったのは遥か昔だとしても、今、再現された彼らの命に刃を突き立てるのは自分達なのだ。
辛くて苦しくて、自分ではない誰かに全てを押し付けて逃げ出してしまいたい。
だけど、此処で背を向けて逃げ出してしまえば、きっと自分は自分を赦せなくなってしまうのだ。
そう、自分を奮い立たせる彼女の瞳が紅く染まれば、どこからともなく現れるのは、光を呑み込む闇の霧。
吸血鬼の血を持って格段に強化された力で制御される魔霧は、逃げ惑う村人達に容易に追いつき、その意識を刈り取っていく。
先ほどまで、死の恐怖に怯えていたとは思えぬ安らかな顔で横たわる彼らを見下ろしながら、リーヴァルディは手に持った大鎌を振り上げる。
苦しませるつもりはない。最期はせめて、幸せな夢の中で。
そう胸中に浮かんだ言葉はあえて口には出さず、自身の迷いすらも断ち切るように、彼女はその刃を振り下ろす。
「逃げないわ……今を必死に生きる人達の為に、貴方達を殺す」
「ああ、オブリビオンを倒すのが私の使命──この程度で私の覚悟が揺らぐなんてありえないよ」
リーヴァルディの刃が振られ始めた地点より、更に村の中心部に近づいた広場。
自身にも言い聞かせるように呟いたセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)の周りに倒れ伏す村人達はまだ息をしており、その命が未だこの場所にある事を示している。
周囲に漂う霧に含まれているのは、常人ならば数滴でも昏倒するだろう強力な麻酔薬。
そして、彼の手に握られるのは掌にも収まるだろう小さなナイフであるが、十分な切れ味があるのなら、抵抗しない者の命を刈り取るなど、セツナにとってはあまりに簡単な事だ。
薬も、技術も、本来は人を救うためにセツナが身に着けた知識である。
それを、安楽の中での死を与える為に活用する現状の皮肉に、彼の顔にも乾いた笑みが浮かんでくる。
そんな中で、一組の男女が這うように逃げ出そうとしていることに気付いた。
薬の効き方にも個人差はある、不幸にも、彼らはこの霧で意識を手放すことができなかったのだろうか。
セツナの脳裏に浮かぶのは、恐怖を与えてしまう罪悪感と、どちらから対処するべきかという焦り。
しかし、その視界の端に現れた小さな影を、その手に握る『ソレ』が男へ向けられたのを見たのなら。
「――大丈夫だよ、これは夢だ」
静かに駆け出した彼は震える女へ近づき、優しく声をかけた。
よく見れば、まだ幼いとすら言える少女だった。
彼女は何が起きているのかすら分からないという様子で、セツナを見上げてくる。
悲鳴を上げないところを見るに、セツナが何をしていたのかの核心を目撃してはいないのだろう。
「……ねえ、私を信じて?」
だからこそ、まだその恐怖からは救ってやれるとセツナが言葉を続ける。
すべては悪い夢なのだと、目覚めればまたいつも通りの日常が始まるのだと語るセツナに縋るように、少女は毒に侵され満足に動かせない手足で這いよるのだ。
「うん、良い子だ」
座り込み、服の汚れなど気にするはずも無い彼が泥だらけの少女を抱き寄せ、その目を瞑らせる。
──タァーン。
そして、銃声が響いたのは、セツナが後ろ手に隠したナイフを新たな血で濡らした直後だった。
「……すまないね、一人、任せてしまって」
「ん。大丈夫……ずっと怯えさせるのも、可哀そうだもの」
セツナが振り返る先、リーヴァルディの表情は固いものだ。
此処が火に囲まれてなお暗いダークセイヴァーでなければ、その青白い表情もよく見えたろうが、今はフードが作る影がそれを隠してしまう。
絶望的な強者に追われ、それでもどうにか逃げ延びようとした少年。
その命を奪う為の引き金はあまりに重く、放たれた弾丸の反動は、嘘のように軽かった。
「続けましょう……まだ、終わってないのだから」
あるいは、いつかの“あの人”もあの少年のように逃げて行ったのだろうか。
自分が殺めた少年にその面影を重ねそうになる自分を振り切るように、彼女は言葉を紡ぐ。
「そうだね……私達がやらねば」
その声の震えに、セツナは気づいたのか。
どちらにしても、それを指摘することもせず、セツナもまた次の犠牲者の下へと歩を進めていく。
――最悪だ。
漏れそうになった感情を、吐き気と共に飲み込む彼らの歩む道に倒れる村人達。
その表情が眠るように安らかだった事は、果たして彼らの心の慰めになったのだろうか。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エスタシュ・ロックドア
大丈夫だぜ、大昔に取った杵柄みてぇなモンよ
しかもこいつらは自覚がねぇだけでオブリビオン
OK、泣こうが喚こうが鬼になれるさ
ま、元から角の生えた羅刹なわけだが
まずは適当に目の前の奴を何人か【怪力】で振るったフリントで叩き斬る
家屋に逃げ込んだらフリントでぶっ壊す
下敷きにしたら上からダメ押しで更に叩き斬る
逃げようとする奴ぁ、
しばらく走らせた後【範囲攻撃】で『群青業火』発動
後ろから焼いたり、業火を回り込ませて逃げ道を奪ったりして絶望に落とそうか
したら足を止めるだろ、そこをフリントで斬る
阿鼻叫喚を聞いてもなんともねぇが、
楽しくねぇ
仕事はやるがよ
ヴァンパイアの連中はよく飽きもせずこんなん続けられるもんだな
●焦熱地獄
故郷の老人共が熱心に信じていた地獄とは、例えばこんな光景なのだろうか?
炎に包まれる村を見るエスタシュ・ロックドア(碧眼の大鴉・f01818)の瞳は、どこか冷めた感情を孕んで周囲を見渡す。
悲鳴を上げて逃げ回る村人達は、自覚が無いオブリビオンだという。
存在そのものが害悪だ、猟兵である自分が屠る相手として、特に問題があるわけでもない。
いざ、心を鬼にして仕事に励むとしよう。
「ま、元から角の生えた羅刹なわけだが」
そんな軽口に応える者は、誰も居ないのだし。
殺戮は淡々と進められる。
鉄塊の如き巨大な剣が、枝か何かのように叩きつけられる。
羅刹の筋力で振るわれるそれは、逃げ遅れた数人の村人を容易く押しつぶし、周囲に血しぶきをまき散らす。
次は、家屋に逃げ込んだ連中だ。
やはりエスタシュが振るう剣の威力は絶大で、ダークセイヴァーの高くはない文明レベルの家など、押し入る必要もなく壊せてしまう。
しかし、此度の仕事は殺しきる事。
もう一度瓦礫と化した家屋に剣を振るえば、がきん、という金属音と共に残骸は一気に燃え上がる。
火打石と名付けた剣が、鍋か何かでも叩いたのだろう。
炎上する家からすぐ興味を失ったエスタシュが振り返れば、その視線に射抜かれた村人達が一目散に逃げだしていく。
当然、すぐにでも殺せてしまうのだが、あえて走らせることにした彼は、徒歩でそれを追うのだ。
──大昔に取った杵柄、獄卒のごとく振る舞う彼は、鉄の二輪には跨らない。
あれは、『エスタシュ』の宝物なのだから。
「な、なんでこんな炎が……!」
「ちくしょう、これじゃあ、もう俺たちどこにも……!」
「よう、鬼ごっこは終わりか?」
村人達は、やがて立ち止まる。
その終着点を知っていたエスタシュが声をかければ、人々は皆一様に絶望を浮かべた顔で振り返る。
もう、逃げ場はない。
エスタシュが放っていた群青色の業火に行く手を阻まれた以上、彼らに選べるのは、火に飛び込んで焼け死ぬか、この鬼に斬り殺されるかだけなのだから。
すべてを諦めた彼らは膝をつき、エスタシュは、やはり冷めた目で手に持った大剣をそこに振り下ろすのだった。
「ヴァンパイアの連中は、よく飽きもせずこんなん続けられるもんだな」
既にオブリビオンと化していた彼らの悲嘆にイチイチ胸を痛めるほど、自分は繊細ではない。
けれど、無力な人々を一方的に虐殺するこの仕事が楽しいかと言われれば、それもまたノーだ。
それを嬉々としてやるこの世界の支配者達。
ある意味では感心するなと一人呟くエスタシュの周りには、生きた人も無事な家屋も、何一つ残ってはいなかった。
成功
🔵🔵🔴
フィランサ・ロセウス
この村全体がオブリビオン?
それならみんな“好き”になっても怒られないのね!素敵!
いっぱい、いっぱい壊(あい)してあげるね♪
……何でこんなことをするのかって?
あなた達が“好き”だからよ♪
凶器は主に狩猟用のナイフ
さらに道すがら拾った農具に工具、石ころまで、あらゆるものを使って破壊の限りを尽くします
全ては彼女なりの愛情表現であり、
相手が泣きわめいても躊躇うどころか嬉々として手にかけていきます
唯一「妹を庇う兄」という状況には一瞬手を止めますが、彼らも“愛してあげる”のには変わりありません。
●溢れんばかりの愛情を
悲鳴、絶叫。
炎上、逃避、死。
村人の虐殺が進むこの地において、一人の少女が震えていた。
フィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)の、赤い瞳に映る風景。
「ああ、本当に……」
猟兵が人を殺している。
みんなが人を殺している。
この地に住まう人々はオブリビオンなのだから、それこそが今回の自分達の役目なのだ。
「……本当に! みんな“好き”になっても怒られないのね! 素敵!」
それはなんと素晴らしい事か!
歓喜に身を震わせていたフィランサは、しかしその直後にハッと目を見開く。
いけない、モタモタしていては、他の猟兵が殺しきってしまうかもしれない。
そう気づいたからには、抱き上げている村人とも別れなければ。
ああ、本当に名残惜しい。彼女は、この地で最初に愛を渡せた相手なのだから、もっと時間をかけて愛してあげたかった。
「ごめんね? もっといっぱい、いっぱい壊(あい)してあげたかったけど、行かなくちゃ!」
「ナァ……ナンェ……」
なんで、こんな事を。
とっくに歯を砕かれ、舌も引き裂かれた女が、瞼を失った瞳でフィランサへと問いかける。
「え? それは勿論──あなた達が“好き”だからよ♪」
それに、愛らしい笑顔で答えた少女は、ナイフを振り下ろしたその身体を優しく地に降ろし、軽い足取りで炎の中へと踏み込んだ。
拾った農作業用の農具、フォークのような形のそれを男に突き立てる。
シンプルにハンマーで頭蓋を砕くのも素晴らしいが、拾った石ころで丁寧に四肢を折っていくのも乙なもの。
ヴァンパイアによる虐殺の再現、より惨たらしく村人を殺めるという点において、フィランサは実に優秀な猟兵であった。
唯一彼女を悩ませたのは、愛すべき村人の多さ。
あまり、一人一人を深く愛してあげられない。
それは本当に悲しむべきことだったけれど、フィランサは自分を励まし、よく走りよく愛した。
そんな彼女は、また二人の獲物をみつけ、まずは捕らえる為にロープを放って……。
「あれ?」
「ぐうっ……に、逃げろ! 俺は良いから、はやく!」
「そ、そんな……できないよ、お兄ちゃん!」
片方が自分からロープに突っ込んだことで、二人纏めての捕獲とはならなかった。
会話から察するに兄妹だろうか、動きを封じられながらも妹を庇おうとする少年と、泣きながらそれに縋りつく妹。
「……あれあれ?」
なんだろう、何かがひっかかる。
心を直接引っかかれるような思考のノイズ。
けれども、それはすぐに彼女の『愛』に押し流されて。
「……すっごく仲がいいのね! 安心して、ちゃんと一緒に愛してあげる!」
再び笑顔を浮かべる彼女が振り上げるナイフからは、結局この兄妹も逃げ延びることはできなかった。
成功
🔵🔵🔴
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
救う為に滅ぼすだなんて滑稽な話だよね
村という舞台の役者として演じ続けさせられる人達を
休ませてあげるのがきっとせめてもの救い
…そう思わないとやってられない仕事だね
ゾンビ、亡霊、水晶屍人…
かつて「普通の人だったもの」を斬った事は幾度もあれど
普通の人そのものを相手にした事はあったかな
それがオブリビオンだと分かっていても
ここには俺の求める殺し合いは存在しない
UC使用し武器を蝶に変え
梓の炎によって一箇所に纏められた村人達に
蝶を放って眠るように逝かせる
俺は大丈夫だよ、梓
オブリビオンだから消えて無くなるんだろうか
それとも死体まで再現されるんだろうか
どちらにせよ確認はせず次へ向かう
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
殺されて尚、永久に吸血鬼の食い物にされるとはな
最初に滅ぼされる前に駆け付けてやりたかったが…
叶わない事を嘆いていても仕方ない
焔を成竜に変身させ
村人達を一箇所に追い込むように
ブレスを吐いて誘導していく
きっと今の焔は村を侵略しに来た
邪悪なドラゴンに映っているのだろうな
こんな事させて悪い、と謝り
UC使用、炎で取り囲み逃げ場を断つ
幻覚の炎だからこれで死ぬ事は無い
綾の蝶によってトドメをさしてもらう
傍から見たら一酸化炭素中毒で倒れたようなものだろうか
しかし直接自分の手で斬ったわけではないとはいえ
村人達を殺す役目を綾にさせてしまったのは心苦しい
せめて死に顔は安らかである事を願おう
●救いのないお話に、救いのある挿絵を
刃を向けられ、追い立てられ。
わあわあと喚きながら逃げ惑う村人達の哀れな姿を、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はサングラスの向こうから静かに見つめる。
死に怯え震えるその姿、グリモアの予知によれば、それはこの地で何回も繰り返されてきた過去の惨劇だ。
「殺されて尚、永久に吸血鬼の食い物にされるとはな」
その最初の悲劇に駆け付けてやれればと、思わないわけではないけれど。
それが叶うことは無いと知っているのだから、別の救いを与えてやるほかはない。
「休ませてあげるのがきっとせめてもの救い……そう思わないとやってられない仕事だね」
隣で呟く灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の言葉に、梓がこくりと頷いたのなら。
悲鳴の飛び交う燃え盛る村へと、新たな狩人達は足を踏み入れるのだった。
「オブリビオンとはいえ、普通の人そのものを相手にした事はあったかな……」
動く屍、彷徨う亡霊。
人であった者との交戦経験はあっても、ここまで『普通の人』のままの相手というのは、軽く探った綾の記憶にはない。
携えるハルバードは薄っすらと赤く光り始め、戦いの準備を整える綾の表情は決して明るいものではない。
柔らかい笑顔の奥底に凄惨な殺し合いへの渇望を秘める彼ではあるが、無力な獲物を一方的に嬲り殺して喜ぶような趣味は無い。
ならばせめて、死にゆく人々の苦痛を少しでも和らげてやる方法も悪くはないだろう。
彼の武器はその輪郭を保ったまま光の塊と化し、それを手に握る綾の視線は、静かに梓へと向けられる。
「ああ、こっちも準備はできてる……頼むぞ、焔」
「……キュー」
それに応える梓の傍らから夜空へ飛び立つのは、紅い鱗を纏う雄々しき飛竜。
翼を広げ、恐るべきドラゴンとして君臨する紅炎の竜は、しかし常のごとく幼い鳴き声を主へとかける。
それは、どこか梓を気遣うようで。
邪悪な怪物の役をさせてしまう罪悪感を見透かされたのだろうか、そう苦笑する梓の視線を受けながら焔は村の直上へと舞い上がり、その存在を示す大きな咆哮を響かせる。
「ド、ドラゴンだぁ! 炎を吐いているぞ!」
「逃げろ、焼き殺されちまう!」
当然、それを見た村人達は恐怖に青ざめながらも炎から逃げていく。
──それが、彼らを焼くことなど無いまやかしだとは知らぬまま。
当然ながら、炎に追われる彼らの逃げる先は梓が意図した通り、綾が待ち受ける狩り庭であり。
炎に追い詰められた村人達は震えながら、それでも苦痛は感じることなく崩れ落ちていく。
炎と同じ色をした、その蝶には気づかずに。
惨劇の象徴だからだろうか、死体は消えない。
しかし、綾はそれに関心を向けることなく、紅い蝶を手元へ集め、再びハルバードの形を取らせていく。
「……俺は大丈夫だよ、梓」
「ああ、そんな顔してたか、俺は」
合流してくる梓に向けられる綾の視線は確かに冷静なものであり、同時に相棒への心配を孕むもの。
今の殺戮において、村人を追い詰めたのは焔であり、手を下したのは綾。梓の手はまるで汚れていない。
だからこそ、梓の心は哀れな犠牲者に対するものだけではない、共に戦う友人達への罪悪感で重く締め付けられる。
人をよく好く竜に怪物のような振る舞いをさせ、自分が守ってやるべき男の手を汚させた。
自分達の適性を考えれば、これが最も効率的であり、それはすなわち村人達の恐怖を長引かせること無い手段であったことは分かっている。
それでも──。
「──救う為に滅ぼすだなんて、滑稽な話だよね」
唐突に発せられた綾の声が、梓の思考を断ち切る。
「この上、本体探しまでやらなきゃいけないなんて……俺は次を探すから、死体は梓が確認してよ」
「あ、ああ……」
こんな仕事で、そこまでやってられないと言うようにおざなりな態度をとる綾を見送りながら、梓は倒れる村人達へと視線を向ける。
その有様は確かに滑稽で。
苦痛も無く殺められた彼らの顔は、燃え盛る村の中で奇妙なほどに安らかな表情だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
スキアファール・イリャルギ
◎
【昏沈の景】で怪奇の姿を晒す
解読不能な鳴声でも出せばそれっぽいですかね
村を炎(属性攻撃)で焼き
人を見つけ次第捕え首を絞め――殺しましょう
彼らは過去の残滓
救えないなら情けは要らない
閉じた円環を断つ為には慈悲など要らない
頭では理解してます
それでも
己の自傷と歯軋りが止まらないのは、何故
……元より私は人殺しだ
幼い頃に怪奇を晒し大勢の人を狂死させた、大罪人だ
何とでも言ってくれ
化物、怪物、化生、魔物、幽霊、妖魔、魑魅魍魎――
この躰を表す言葉は数多く在れど
もう言われ慣れたし、聞き飽きた
村を芥の様に燃やし
命を花の様に手折る
私は怪奇で、影人間だ
吸血鬼の真似事など容易い
――嗚呼
でも忘れるな
私は人間で、怪奇人間だ
●人魔の天秤を傾けど
人が恐怖を覚えるのに必要なものは何か。
それは身を焦がす炎や、臓腑を貫くだろう刃に見出す危険性であったり、ひたひたと心に忍び寄る悍ましき悪意であったり。
人は、そこに自身に降りかかる悲劇を見出し、予測した時に恐怖するのだ。
ならば、それが不可能であれば?
まったく未知、まったく理解不能な事柄が相手であれば、人はそれを恐怖しないで済むのだろうか?
「エヌさ三そろけみサラかみ、あて口ぃm?」
「ひっ……、な、なんだお前ぇ……!」
これを見た者ならば、それが子供だましの偽りだとすぐにでも理解できるだろう。
ゆらゆらと蠢き、一定の形を取らない黒い影に浮かぶのは、無数の眼、無数の口。
その全ての視線に射抜かれた子供は、ガタガタと震えながら、まったく意味の分からぬ問いを投げかけてきた異形を涙ながらに見つめる。
逃げられるのならすぐにでもそうするのだが、コレを見た途端に抜けた腰は、まったくいう事を聞いてくれないのだ。
炎をまき散らしながら現れたそれは、身体の一部を細く引き伸ばしたかと思えば、そっと少年の首へと巻きつけていく。
逃げようにも逃げられない彼は、目に大粒の涙を浮かべ、目の前のナニカが自分達を助けに来てくれたのだと必死に思い込む。
そして。
ごきゃり、と硬いものが砕ける感触が影へと伝わる。
果たして、一気に首を絞められ絶命した彼は、自分の頸椎が砕ける音を聞いたのだろうか?
少なくとも影には──スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)には、知りようのない事だった。
この怪奇たる身体に向けられる感情には慣れたもの。
もっとも効率的に村人を殺せるだろう影の姿を晒しながら、スキアファールは死を振りまく。
家屋に炎を放てば逃げ遅れた誰かの悲鳴が聞こえ、影が村人を捕まえれば、その身体の脱力は彼らの絶命を伝えてくれる。
此処にいるすべては救えぬ過去の残滓であれば、猟兵たる彼がそれを討つのに慈悲などは要らない。
ああ、それでも。
人々を震えさせる怪声の合間に漏れる、歯ぎしりが止む気配はない。
外道、悪魔、怪物。
今わの際に彼らが遺す怨嗟の全てが、スキアファールには聞き飽きたものなのに。
元よりこの身は人殺し。
身に秘める怪奇によって数多の人々を狂気に落とし、死に追いやった大罪を思えば、この地での殺戮など誤差でしかない。
吸血鬼の真似事など容易い事。スキアファールは怪奇で、影人間なのだから。
「……ッ!」
だけど彼は。
芥の様に村を燃やし、その熱で自らの身を焦がす彼は。
花の様に命を手折り、その腕で自らの身を引き裂く彼は。
決して忘れてはいないのだ。
誰がどんな言葉をかけようと、自分がどう振る舞おうと。
スキアファールは人間であり、怪奇人間なのだという事を。
成功
🔵🔵🔴
ベスティア・クローヴェル
繰り返し死ぬことを強いられた村
蘇る度に記憶が無くなるとはいえ、その恐怖と絶望は筆舌に尽くし難い
彼等を救う為には本体を炙り出し、倒さなければならない
本体を炙り出すには、彼等を殺さなければならない
果たして私に出来るだろうか…
子供を庇って命乞いをする母親
家族を守ろうと怯えながらも立ち向かってくる人
必死に生きようとする彼等の目を見る度、刃を振るう事を躊躇する
私は少しでも多くの人を助けるために力を振るってきた
今、目の前にいる彼等には何の罪もない
私には彼等を殺すことが出来ない
…後はお任せた
出来るだけ苦しまないように、ね
そして私は目を閉じて、必死に耳を塞ぐことにする
これから起こる殺戮から目を逸らすために
●諦め
「なんだあいつ等、どっから出てきやがった!?」
「くそっ、家に火が……! 婆さんがまだ中に居るんだっ!」
巨大な剣が家屋を叩き潰す。
前触れもなく、突如出現した炎の巨人達はぐるりと村を取り囲む。
それを見上げ、もうどこにも逃げられないという事実を突きつけられた村人達は、皆一様に絶望の表情を浮かべる。
「はーっ、はーっ、はーっ……!」
故に、家屋の影に蹲り息を荒げる少女が、村の者でないと気づく者はいなかった。
ベスティア・クローヴェル(諦観の獣・f05323)は優秀な猟兵である。
命を焼べて燃え盛る炎を纏う彼女は、何時だって人の為に戦ってきて、それが正しいと信じてきた。
実際、我が身を顧みずに戦うベスティアはこれまで多くの命を救ったし、その姿はまさしく英雄的であった。
だからこそ、彼女は剣を手放すほかなかったのだ。
子供を庇って、命乞いをする母親が居た。
自分の事はどうなってもいいから子を見逃してくれと涙ながらに訴える女を、ベスティアは斬れなかった。
妻を守ろうと、怯えながらも立ち向かってきた夫が居た。
敵わぬだろうことなど分かっている筈なのに必死に家族を逃がそうとする男を、ベスティアは斬れなかった。
罪なき彼らはオブリビオンと化してしまっている。
既に救われない存在であるし、放置しておけばさらなる悲劇を引き起こしかねない。
それが分かっていても、ベスティアには殺せなかった。
だって彼女は、自分の命を諦める事には慣れていたけれど。
誰かの幸せを諦めて壊すことなど、したことがなかったのだから。
「はーっ、はーっ……っ、けほっごほ!」
過剰に吸い込み過ぎた空気で咳き込みながらも、ベスティアは必死に耳を塞ぐ。
ちゃんと呼吸をしないと、胸からこみ上げる罪悪感で窒息してしまいそうなのだ。
獣の耳はうんざりするほど良く聞こえ、おおげさな息を止めれば彼らの断末魔が聞こえてきそうなのだ。
固く閉じた目に浮かぶ涙、咳き込んだ生理的なもの以上に大粒なそれは、はて何のために流れているのか。
巨人達の殺戮は続く。
けれど、その主はやはり蹲り、自分が切り捨てる無辜の命の最期から、必死に目を逸らし続けていたのだった。
成功
🔵🔵🔴
黒城・魅夜
哀れむべき相手ではあってもすでに亡霊、存在するだけで世界を蝕むものならば、躊躇うべきではないでしょう。
元より私は咎人殺し、この手は既に血に塗れているのです……。
私は今ある世界の未来への希望をつなぐもの、故に。
……過去であるあなた方の虚ろな希望をここで断ち切ります。
怨嗟も呪詛も甘んじて受けましょう。
ええ……慣れて、いますから。
――けれど、せめて、安らかに。
私がいたぶって楽しむのは咎人のみなのですから。
胸を自ら突き刺した傷から噴き出した鮮血は胡蝶となり、村を覆うでしょう。
普通ならば邪悪な敵に残酷な悪夢を見せるこの蝶ですが、今はただ、静かな眠りに誘うのみ。
安らぎの中であなた方は塵に帰ります。
●グッドナイト
侵略者たる猟兵達は村をぐるりと囲むように迫り、慣れ親しんだ村の家々は激しく燃え盛る炎に飲み込まれていく。
追い立てられた村人達は怯えた表情で周囲を見渡し、また現れる猟兵の姿に恐怖する。
「た、頼むよっ見逃してくれよう!」
「なんでこんな……私達が何をしたって言うの……」
懇願、悲嘆、怨嗟に悲憤。
向けられる視線は皆絶望に染まり、炎に照らされる黒い女を見つめていた。
「…………」
彼らは、確かに哀れむべき存在なのだろう。
かつて無惨に滅ぼされただけでは終わらず、今なおその終焉を繰り返し、世界を蝕むオブリビオンとなってしまった彼ら。
もし、その始まりに自分達が居合わせたのなら手を差し伸べたのだろうけど、そうはならなかったから。
「私は今ある世界の未来への希望をつなぐもの、故に」
握り締める剣は短く、しかし人の肉を裂くには十分すぎる鋭さを持っていて。
その主たる彼女もまた、咎人達の血に濡れていて。
「……過去であるあなた方の虚ろな希望をここで断ち切ります」
怨嗟も呪詛も甘んじて受けよう。
元より血濡れた自分には慣れたもの、自分だからできることは、きっとある。
「――けれど、せめて、安らかに」
黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)だからできることが、此処にはある。
「……え?」
母親に抱えられ、怯えた様子で魅夜を見ていた子供の眼が見開かれる。
自分達を追い詰め、短剣を取り出した女。
しかし、その刃が貫いたのは、当の女の胸なのだから!
「私がいたぶるのは咎人のみ……あなた達じゃあ、ありま、せんから」
胸元からは鮮血が溢れ、言葉を紡ぐその口元からもこぽこぽと粘り気のある水音が漏れる。
それでも魅夜は笑っている。
痛みを伴うこの力なら、彼らを殺める自らの咎が少しは軽くなるような気もする。
何よりも、宙を舞う自らの血が変貌していくその様が、救われぬ彼らの安らぎとなるのだ。
「あれ……おかーさん、なんだか眠く……?」
「駄目だ、今寝たら……ああでも、なんて心地のよい……」
ダンピールの血から生まれる紅い胡蝶が、村人達を次々に眠らせていく。
悪夢を招く魅夜の僕は、しかし今だけはただ静かな眠りのみを彼らに贈る。
彼らが生きながらえることは許されないし、そもそも本来は既に死んだ村だ。
だけども、幾度も苦痛と恐怖の中で息絶えたであろう彼らに、最後の最期くらいは安らかな眠りを与えるくらいはしてやりたい。
ただ優しい微睡みに包まれる村人達は、やがてその身体を塵へと還され消えていく。
それを見送る、一人の少女。
最後の一人が消えるその時まで、魅夜は炎の中で彼らを見守っていた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
終焉が慈悲ですか…いえ
必要と判断し、無力な対象を虐殺する
経験は私も幾度もあります、手筈通りに
女帝の手から逃れた対象をセンサーでの●情報収集とスラスタでの●スライディング移動で逃走許さず
機体各部から複数伸ばし触手の様に●操縦するアンカー先端に装備したUCで逃げる人々を●串刺し
理由など知る必要はありません、存分にお恨み下さい
妻を庇う夫を、赤子を庇う母を
最後は取り落とした赤子を●優しく●ロープワークで回収し手の短剣で
…何が「慈悲」か
「過去」も泣き、笑い、愛を紡ぐ
それを知る上でこれが為せる以上、永遠に「理想」の「まがい物」
あの方が求める「白」とはお笑い草
結局、私は騎士を名乗る戦機なのでしょう
フォルター・ユングフラウ
【古城】で参加
【WIZ】
幾度も繰り返される終焉、か…下らぬな
ただでさえこの世界には、こんな惨劇が至る所に転がっているのだ
無駄に繰り返されても面倒というもの
土も、灰も、塵も…そしてこの者共にも、終焉は等しく訪れねばならぬ
さぁ、精々逃げ惑え
そして、願え─来世があれば、平穏な世界で安らかに暮らせる事を
UCを発動し、一瞬で終わらせてやる
逃れた者は、騎士に任せるとしよう
今はただ、剣を振るうと良い
その苦悩、後で確り聞こうではないか
…しかし、猟兵稼業とは因果なものよ
かつての所業を、再びこの手で成さねばならぬとはな
生者に鞭打ち甚振るのは好むが、死者に鞭打てども何も響きはせぬ
ああ、本当に酒が不味い
※アドリブ歓迎
●慈悲と呼ぶには
「酒が不味い」
玉座に座る黒髪の女。
支配者としての威風と自負を宿すその紅い眼差しは、己の感じる不愉快さを隠そうともしない。
杯を呷り、その瞳を一層細めたのなら、空になった杯はおもむろに村人達へと向けられる。
瞬間、響く轟音は、四百に迫ろうかという鉄の杭が大地に突き刺さった音。
恐怖を感じる暇も、悲鳴を上げる暇もなく肢体を粉砕された人々の残骸を見て、女はため息を吐く。
フォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)は、この地に訪れた猟兵の中でもとりわけ特異──かつてこの地を滅ぼした吸血鬼達に近い存在だ。
猟兵となってからはそのような機会も減りはしたが、それでも人民に鞭打ち甚振る愉悦を理解できないわけではない。
「……が、死者に鞭打てども何も響きはせぬな」
そうでなければ、わざわざユーベルコードまで使って即死させてやることもなかったろうに。
女帝はもう一度不機嫌そうに杯を傾け、ふと燃え盛る村の奥へと目を向ける。
自分は、まだこの程度の不愉快さで済むけれど。
「さて、あの騎士は……どのような剣を振るっているのやら」
薄汚れた騎士が居た。
白く美しい身体は、炎が生み出す煤がついてしまえば黒く穢れた鎧に見えて。
各部から伸びたアンカーにべったりとついた赤黒い汚れは、戦の勲章と呼べるはずも無い。
運よく女帝から逃れた……というより、機嫌を損ねた彼女がわざわざ追わなかった村人達を一人、また一人と追い詰めて殺めていくその姿は、まさしく殺戮の為の兵器であった。
「我ながら、なんと手際のよい……存分にお恨み下さい」
唯一、その意思を感じさせるのは、穏やかさの中に自己への侮蔑を孕んだ声。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、自身に課せられた残党処理の役目を非常に効率的にこなしていたのだった。
「くそっ、この化け物めっ! この先は通さねぇぞぉ!」
怯えながら、それでも決死の表情で鍬を振るってくる男が居たのでこれを殺した。
安楽の中で仕留める為の薬品を撃ち込まれた彼は、それでも数秒間だけトリテレイアにしがみつき、息絶えた。
「ま、まさか、あの人を……! 来るな、来ないでよ!!」
大切そうに何かを抱える女は一目散に逃げたので背後からアンカーで刺し殺した。
足から崩れ落ちる彼女は、それでも抱えた『それ』だけは手放すまいと、死してなお腕に抱き続けた。
「──うぇああぁぁ、おぎゃあぁぁ……」
『それ』をアンカーで抱き寄せて、そっと自分の腕に抱いてみた。
父母を殺めた当人に抱かれた『それ』は、それでも必死に生きようと声を張り上げる。
だけど全てを殺すのがトリテレイアの任務なので、彼は手に握った短剣を。
「おお、予想はしていたが、また酷い表情をしているな」
「……私に表情を作る機能はありませんよ、フォルター様」
ごうごうと燃え盛る炎の中。
合流してきたフォルターに答えるトリテレイアの声は、どこか力なきものだった。
それでも、彼女の耳に届くには十分。
もう、うるさいくらいに響いていた人々の悲鳴は無いのだから。
「しかし、まったくもって下らぬ。わざわざ終わったものを引っ張り出さんでも、この世界に惨劇などいくらでもあるというのに」
「ですが、この地に現れてしまった……ならば、真の終焉を与えるのが、慈悲というものでしょう」
そこまで言葉を紡いだトリテレイアに向けられるフォルターの視線が、少しだけ変化する。
呆れたような、哀れなものを見るような。
理論的な正しさを口にしたトリテレイアの、心の内の本音を見透かすようなその視線。
「──よい。今はただ、剣を振るうと良い。その苦悩、後で確り聞こうではないか」
だけど彼女はそれ以上の言葉はかけず、村の本体を探すべくまたトリテレイアから離れていく。
本体以外の村人は残っていないのだから、すぐにでも見つかるだろう。
そうなれば、この村の悲劇も終わらせてやれる、救ってやれるのだ。
「……何が救い、何が『慈悲』か」
きっと、自分が当事者でなければ、誰か別の者がこの任に就いていたのなら、もっと楽にそう言えるだろう。
傷ついた面持ちでグリモアベースに帰ってくる友人を迎え、こうするしかなかった、これが最善だったのだと綺麗事を言えたのだ。
だけど、トリテレイアは見てしまった。
自らに怯え、涙を流す『過去』を。
家族を安心させようと、必死に笑いかけていた『過去』を。
ごく当然に誰かを愛し、そして自分が踏みにじった『過去』を。
先ほど、フォルターに心を見透かされるような錯覚を覚えたが、あれはやはり錯覚なのだ。
あれを見て、このような事を為せる自分はやはり理想のまがい物。
かの女帝が如何に聡明であっても、無い心を見通せるはずもないのだから。
身体を見れば、煤と返り血で汚れたそれは、黒く赤く。
それは『白』とは程遠い、恐ろしい戦機の色だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『いつかの後悔』
|
POW : 終わりは夜とともに訪れて
【朝を迎えるまで消えることの無い炎】を降らせる事で、戦場全体が【その地に刻まれた惨状】と同じ環境に変化する。[その地に刻まれた惨状]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD : そして全ては灰になり
肉体の一部もしくは全部を【高熱の白炎】に変異させ、高熱の白炎の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ : けれど苦痛に終り無く
戦場全体に、【何度でも再生する村そのもの】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:黒江モノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「彼岸花・司狼」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●意.過去の不定の時を指す。以前の。終わった事。
一度目は、何が起こったかもわからなかった。
二度目も、『また』死ぬことに混乱していて、訳も分からぬまま殺された。
三度目は、お父さんとお母さんをどうにか説得して村を出ようとしたけれど、何故か私の足は外へと踏み出してくれなかった。
四度目は。五度目は。
彼らを見て、その言葉はすぐに頭に浮かんだ。
猟兵、とうに終わっている私達を、過去を狩る者達。
ああ、正義はきっと、彼らの側にあるのだろう。
終わりのない死に恐怖し、殺され続けるこの村を、彼らが終わらせてくれるのだろう。
だけど、だけどだ。
私はただ一つの感情を持ってそれを拒もう。
村の皆の、家族の苦しみが続くとわかってそれを拒もう。
だって私は。
「──死にたく、ない……!」
その言葉を肯定するように、村を覆っていた炎が、彼らへと襲いかかるのだった。
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
普通の人達を殺し、最後に残ったのも普通の女の子
これがいつものような只の凶悪なオブリビオンならば
心置きなく殺し合えたというのに
女の子によって作られた迷路を暫し見つめ
この迷路に閉じ込められているのは
きっとあの子自身なんだろうね
UC使用し、女の子目指し飛んでいく蝶についていき出口へ
村人達は蝶で眠らせるように殺したけど
「自分が殺した」という事実と感触を刻みつける為に
今回はナイフを構える
嗚呼、でもやっぱり怯える女の子に
ナイフを突き立てるだなんてキツいな…
そんな俺の心境を知ってか知らずかの
梓の気遣いに感謝を述べ覚悟を決める
最後にその目に映るのは
凶悪な殺人者ではなく
綺麗な紅い蝶でいて
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
この村の誰かの遺恨が
オブリビオン化したのだろうとは思っていたが
こんなに幼い少女だったとはな
どんな状況でも「死にたくない」と願うのは
普通の人間ならば当然だ
死ぬ事が救いだなんて
救う為に死んでくれだなんて
そう簡単に受け入れられるものじゃない
…それでも終わらせないといけない
あいつは互いが生きるか死ぬかの戦いを求める一方で
オブリビオンであっても命を尊ぶ一面もある
そんなあいつにまた重い罪を背負わせようとしている
俺がせめて出来ることは…
UC使用し、戦場をこの世界よりも暗黒の闇夜に変える
恐怖に怯える少女の顔を見なくていい
自分を殺そうとする男の顔を見せなくていい
闇の中で全てが終わるように
●この夜よりもなお深く
過去に滅んだ村がオブリビオンであるとして。
骸の海から迷い出てしまったその中心には、かつて此処に生きていた誰かが居るだろうことは分かっていた。
「とはいえ、こんなに幼い少女だったとはな……」
「いつものような只の凶悪なオブリビオンならば、まだ、ね」
対峙する少女を、やるせない表情で見つめる梓。
それに応える綾も、憂いを帯びた視線で少女を射抜く。
「こ、来ないで……来ないでよぉ!」
彼らの心に共通する憐憫。
しかし、怯える人狼にそれが伝わるはずも無く、涙ながらに叫んだ少女の姿は、一瞬にして二人の前から消えてしまう。
それを招いた、彼女を覆い隠してしまったもの。
地面から突如現れた壁は、よく見れば粗末な造りの民家のようにも見えて。
「…………」
「……当然だな。死ぬことが救いだとか、普通の人間が受け入れられるわけもない」
それでも、終わらせなければいけない悲劇が此処にはあるのだ。
自らの役目も、それ以外に道は無いと分かっていても、やりきれない感情は心に燻る。
ただ迷宮を見つめる綾も、自分にも言い聞かせるように呟く梓も、あの少女を、この無辜の村の悲劇を悼む気持ちはある。
けれども、それを抱えてなお戦わなければならない使命を、悲嘆を越えて戦う強さを彼らは持ってしまっているのだから。
「──行ってくるよ。この迷路から、あの子を解放してあげないと」
「ああ、頼んだぞ」
迷路に踏み入る綾の足取りは、見送る梓の眼差しは。
決して震えることなど無いのだ。
血沸き肉躍る殺し合いを求める一方で、たとえ相手が過去の亡霊であろうともその命に手を差し伸べようとする。
物騒な凶暴性と、分け隔てない優しさを持っている男が、梓の知る灰神楽・綾であった。
相反する筈の感情は、しかし彼の中では奇妙に両立していて、だからこそこの役目はさせたくはなかった。
だけど、他ならぬ綾がその罪の意識から逃げようとはしないだろう。
それならば、梓のすべきことは決まっている。
この村の終わりに加担する事への、決定的な引導を渡す役目を綾に背負わせてしまう事への罪悪感は、後で感じればいい。
今、すべきことはそうではなくて。
ただただ怯え、恐怖に震える少女の眼に、恐るべき半吸血鬼の姿が映らぬように。
刃を握り、自分の行いから逃げない男の眼に、震える少女が見えないように。
──闇が必要だ。
この世界を覆い続けるそれよりも暗く深い、優しい闇のヴェールが。
せめてそれくらいは贈ってもいいだろうと梓が見上げるダークセイヴァーの夜空。
そこからは、より暗い闇が、紅い光が、ゆっくりと降りてくるのであった。
「こ、これは……? なんで、蝶々が……」
「……ありがとう、梓」
迷宮の中、自分が呼び出した紅い蝶の導きにて少女の下へとたどり着いていた綾が、ぽつりと感謝を呟く。
その視界に映るのは、どこまでも続くような闇と、やはり紅い翅を羽ばたかせる蝶の群れ。
迷宮の外にいるだろう梓が、ユーベルコードを使ったのだ。少女の側からも、こちらの姿は見えていないだろう。
殺してしまう少女が、自分の眼に焼き付くだろうことはまだいい。それは、己が決着をつけるべき感情だ。
だけど、反対の側では。
無辜の少女がその最後に見る景色が、自分のような殺人者であるのは、あまりに哀れではないか。
これから為す罪を想う綾が、それでも第一に考えるのは手にかける少女の痛みと、それを僅かにでも和らげてくれるだろう友への感謝だった。
ここまでくれば、やる事は明確。
顔すら見えない暗闇の中でも、紅い蝶が導く先に、きっとあの震える子供がいて。
暗闇がすべてを覆い隠すとしても、それでも目を逸らしてはいけないものの為に、綾はその手に刃を握る。
「……お母さん」
暗闇の中に舞う赤色は、ゆらりゆらりと優しく少女を取り囲む。
その呟きを零した彼女がどんな表情をしていたのかは分からないけれど。
やはりコレはただの子供なのだと知った綾の手に。
ナイフが肉を裂く感触が、嫌になるほど鮮明に伝わった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エスタシュ・ロックドア
死にたくねぇか
そらそうだ
だからといって情けを掛けるわけにゃいかねぇ
なんの慰めにもならねぇのは分かっちゃいるが、
できるだけサクッと終わらせてやろーか
俺もとっとと仕事を終わらせてぇしな
その地に刻まれた惨状、ってこた
さっきの続きをやりゃいいのかぁね
襲ってくる炎にゃ【火炎耐性】【激痛耐性】【環境耐性】で対処
腹の内に業火を抱えた身だが、
なるほどこりゃ地味にいてぇ
【怪力】でフリントぶん回して『羅刹旋風』発動
普段なら無駄に周囲を巻き込むこたしねぇが、
あえて味方以外のなにがしかをフリントで破壊しつつ敵を追う
間合いに捉えたら【なぎ払い】【吹き飛ばし】
骸の海に還ろうぜ
少なくともここよりかはマシなはずだ
●鬼が来りて
「い、痛い……やだ、死にたくないよぉ……」
「死にたくねぇか、そらそうだ」
その眼差しに熱が灯ることは無く。
エスタシュの思考にあるのは、如何なる手段を用いれば、目の前の少女を早く絶命させられるかという事。
猟兵から受けた傷を抑え、震える少女に憐れみを覚えないわけでもない。
だけど、今この場で情けをかけて、それが何になるというのだ?
現世に残り続けるオブリビオンはいずれ世界を破滅へ導く。
それを知るエスタシュがオブリビオンを見逃すわけにはいかない。
何より、今、彼女達を真に殺した吸血鬼が現れないのは、エスタシュ達が居るからだ。
此処を生き延びたとしても、少女に待っているのはまた同じ悲劇の繰り返し。
ならば、やはり。
「できるだけ、サクッと終わらせてやろーか」
それだって、何の慰めにもならないのは、分かっているけれど。
「ああ、炎が、皆が……!」
「──なるほど、さっきの続きか」
炎の雨が降り注ぎ、村の景色が僅かに変わる。
先ほどまでも、この地には村人達の死体と、壊された家々があった。
しかし、破壊の規模が異様だ。
原型をまったく留めないまでに粉砕された家。
あえて即死をさせられなかったのだろう、苦悶の表情で息絶えた人々。
それは、エスタシュが先刻零したヴァンパイアへの疑問の回答。
無辜の村人を甚振り、彼らの故郷を破壊することを心底楽しんだのであろう虐殺の風景が、そこには再現されていた。
「なら、俺のやるべきことは……これか」
それを理解したエスタシュは、素早く自身の剣を振り回し始める。
大剣を軽々振るう羅刹に怯えた少女は一目散に逃げだすけれど、当然それをエスタシュが追う。
常の彼と違うのは、ユーベルコードの準備のために振るわれる剣が、不必要な破壊を振りまいている点だろう。
誰かの思い出が詰まった家を、既に息絶えた人を、エスタシュの剣は例外なく粉砕していく。
そのたびに、彼の肌を焦がす炎は、少しずつその勢いを弱めていくようで。
「ッ、ああっ!」
やがて、瓦礫に躓いたのか少女が転べば、彼我の間合いは一気に詰められる。
その哀れな姿に、しかしエスタシュは躊躇うことなく剣を振るう。
徹底的に虐殺の徒として振る舞う彼の剣は、この地そのものに押されているように早く鋭く。
「──骸の海に還ろうぜ。少なくとも、ここよりかはマシなはずだ」
それでも、その言葉は。
かつて彼女を殺めた無慈悲な吸血鬼とは、やはり決定的に異なるものであった。
成功
🔵🔵🔴
フォルター・ユングフラウ
【古城】
【SPD】
汝が……いや、貴様が“本体”か
その目は、己の運命を理解していると見える
であれば、話は早い
逃がしはせぬぞ
我のUCに反応して炎を放つであろうが、それがどうした
この炎が貴様達の無念や絶望であるならば、耐えられずして猟兵など務まるか
その想いで我の身を焦がし、焼き尽くしてみせろ
それを受けた上で…どこまでも、貴様を追い詰めよう
我が威厳に怯え、恐怖に震え、存分に恨め
間も無く、「救い」が「鋼の騎士」の姿をとって訪れるであろうよ─
騎士がUCを撃ち込めば、我も攻撃に転じる
UCを発動し、催眠・気絶・麻痺に絞って状態異常を与えてやる
小うるさい悲鳴は聞き飽きたのでな…これ以上、不愉快になりたくないのだ
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
格納銃器でUCを戦場に撃ち込み制御妨害
元の地形に戻し移動
フォルター様
申し訳ございませんが「追い立て役」をお願い致します
少女の逃走ルートや現在位置をセンサーで●見切り●スナイパー射撃で至近距離でUC炸裂、白炎化解除
ワイヤーアンカーを射出し拘束
貴女を、この村を終わらせる為、私達は訪れました
元から終わっていた…そう言う方も居るでしょう
ですが確かにこの村は存在しています
幸せに暮らしていた人々も、燃え盛る村も、貴女が生きたいと叫んだことも私のこの鋼の目でしかと見…記憶しました
その上で
現象ではなく、我が意志を持って
村を消し、貴女を殺します
…存分にお恨みください
女帝の慈悲を受けた少女に剣を振り下ろし
●悲劇と慈悲を忘れない
「痛い……熱い、死にたくない……!」
「ほう、汝が……いや、貴様が“本体”か」
少女の身体が白炎へと変わる。
痛みに震え、怯える彼女の眼差しはこれまで手にかけていた村人達と変わらずとも、その特異性は彼女こそがこの惨劇の中核にいるのだという事を如実に語っていた。
だからこそ、フォルターの認識も、無力な犠牲者から、猟兵の倒すべきオブリビオンへのソレとして変わっていく。
当然、その眼差しを受ける少女の側も、新たな猟兵の出現に一層の恐怖を顔に浮かべ、再び村々の迷宮を作り出しての逃走を図る。
けれども。
「そんな……なんで、元に……!?」
「……効果あり、もはやこの村は、ただの廃墟に過ぎません。申し訳ございませんが、『追い立て役』をお願いします、フォルター様」
機械騎士の操る兵器が、少女が唯一縋れるだろう奇跡すらも奪っていく。
トリテレイアの放った妨害粒子の中、村の迷宮化も不可能になった少女がそれでも逃げていくのを、女帝が追い始める。
一般人に過ぎない彼女だ。多少土地勘があれども、その逃走ルートを割り出すのは容易い事。
フォルターを見送ったトリテレイアは、焼け落ちる村の風景をそのレンズに留めるように、ゆっくりと歩み始めるのだった。
「はぁっ、はあっ……!」
炎に包まれる故郷の中、ニコリとも笑わぬ女の追跡から、少女は必死に逃げていく。
元々、戦いなどしたことが無かった少女に、オブリビオンとして得たユーベルコード無しでの戦闘など出来るはずも無く。
身体の各所にできた傷を庇いながらも懸命に生きようと走る少女を、フォルターはただ静かに追い詰める。
そんな中、少女は周りのある変化に気付いた。
先ほど、大きな騎士が放った礫。そこから現れ、自分の力を妨害した光る粒の数が少なくなってきていることに。
無論、遠い星の海で作られた兵器の性質など、彼女が知るはずも無い。
だが、このまま逃げ続けて生き延びられるなどとは少女も思わない。
再び、藁にも縋る思いでぐっと握りこぶしを作れば、その手は白い炎へと。
「ッ、これなら……!」
その炎が、自分達を焼いたそれと同じ起源を持つなど露知らず。
僅かな希望を見出した少女は、自分に迫る女へと振り返り、その腕を必死に突き出した。
ごうっと音を立てて繰り出される猛炎は、少女の願い通りにフォルターへと迫り。
「──え?」
避けようともしない彼女の身体を、一気に飲み込んだ。
どういう事だ、何故あの人は避けようともしなかった?
オブリビオンとして刻まれた本能で理解する。
彼女達が如何に強大な侵略者であろうとも、この炎はそれを脅かしうる力なのだ。
「……それがどうした」
少女は知らない。
フォルター・ユングフラウはダンピールである。
鬼の血を引く美しい肉体の強度は、人域を遥かに凌駕する。
フォルター・ユングフラウは女帝である。
生まれついたその時から君臨する事を当然として生きてきた彼女には、強大な魔力が満ち溢れている。
「この炎が、貴様達の無念や絶望であるならば」
そして、フォルター・ユングフラウは猟兵である。
何も正義の為に立つのではない、ただ血を求めて戦うだけ。
だけど、過去を狩るその使命に依りて此処に立つのであれば。
「──耐えられずして、猟兵など務まるか」
炎に焼かれた腕の痛みなどおくびにも出さず。
凛とした眼差しの彼女の歩みは、決して止まることは無い。
炎すら通じなかった少女が後ずさり、よろけて尻もちをつく。
それでも、フォルターの面持ちに情けが混じることは無い。
怯えればいい、震えればいい、恨めばいい。
『救い』となるのは、自分の役目ではないのだから。
「……貴女を、この村を終わらせる為、私達は訪れました」
「えっ、これは!?」
そして、それは現れる。
少女が知らずに近づいてしまっていた逃走予測地点。
そこで待っていたトリテレイアが、足元に仕込んでいた榴弾を炸裂させて少女の肉体を元に戻せば、すかさず放ったワイヤーは彼女の身体を拘束する。
捕らえて、改めて彼女は此処にいるのだと実感する。
もう終わっていた、救われない村であると言う者もいるのだろう。
だけど、トリテレイアは決めたのだ。
殺戮が始まる僅かな間に見た人々の笑みも、炎の中に消えゆく命も、生きたいという叫びも。
彼の鋼の目が見たこの地の出来事を、騎士は『記憶』すると決めた。
その上で。
「現象ではなく、我が意志を持って。村を消し、貴女を殺します」
どうか、恨んで欲しい。
そう続けようとした騎士は、しかし少女の変化に気付く。
「……小うるさい悲鳴は聞き飽きたのでな」
フォルターの手に残る昏い燐光。
彼女の操る魔術を受けた少女は、捕らえられながらも朦朧と意識を手放そうとしている。
トリテレイアの把握するそれとは異なる、不完全な、欠けている奇跡。
彼女はあくまで自分の為と言うだろうけど、確かに慈悲を与えられた少女を見つめて。
騎士は、剣を振り下ろした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セツナ・クラルス
「死にたくない」か
当然だよ
それを否定することなど誰にもできやしない
…それでも、私はこう答えるんだ
「その願いは叶わない」と――
此岸の闇を彼岸に持っていくのは苦しかろう
彼女の中に深く根付いた闇を可能な限り吐き出して貰いたい
此方から手を出すことはせず、
彼女に手を伸ばして
言葉も、攻撃も、すべて受け止めよう
攻撃の手が止まったら『破魔+毒使い』にて深い眠りに引き込み、破魔の力を宿した刃で刈り取ろう
私もいずれそちらに行くから
そのときまで、…また、ね?
「生きたい」という望みが罪なのだとしたら
この世に留まる全ての生き物は罪人なのかもしれないね
そうだとしたら
…そうだとしても
私は…――
●救われぬのは
白い炎となった身体は揺らぎ、燃え盛る。
常人ならばとうに倒れている傷を受けても、オブリビオンの本体であり、人外の身体を得てしまった少女は生へとしがみつく。
その、死にたくないという純粋な願い。それが間違っているなんて、誰にも否定はできない筈だ。
だけど、セツナは言わねばならない。
「その願いは叶わない」と――
オブリビオンとして振るわれる少女の炎。
白く眩いその熱は、戦いの経験を持たないその弱みを補うように激しく燃える。
全力でセツナへと抵抗する少女の表情は、しかし徐々に困惑の色を強めていた。
そして、その炎は止まり。
「……なんでっ、何もしてこないのっ!?」
ただ何もせず。
立ち尽くすセツナの身体は、痛々しいやけどが無数に広がる。
それでも、耐えかねたかのように叫ぶのは、少女の側。
問いへの返答はなく、セツナはただ静かに少女の側へと歩み寄る。
炎を止めた少女の悲痛な声が、己の選択が間違っていないことを教えてくれた。
無抵抗の相手を痛めつける、ただそれだけの事が彼女には耐えられなかった。
やはり彼女はただの村娘で、嘆きと怒りに心を任せなければ、敵を攻撃する事すら満足にできやしない。
ならば、己の役目は決まり切っている。
彼女の願いを叶えてやる事はできないけれど。
その心に巣くう闇を少しでも払うために、セツナは戦うべきなのだ。
「……私達は、君を殺すために来た。それでも、君を痛めつけるようなことはしたくない」
この村は、何も悪くないのだから。
そう言い放つセツナへ向ける少女の眼差しの色が変わる。
怒りだ。
オブリビオンが猟兵へ向ける本能的なものではない、少女が、目の前の男へと向ける怒りだ。
「──じゃあっ! なんでこんな事になるのよ!」
振るわれたのは、猛炎ではなく少女の細腕。
涙交じりの叫びと共に、娘の平手が容赦なくセツナの頬を撃ち抜く。
オブリビオンと言えども、その特殊性は炎と再生に寄ったもの。
人間の子供と大差のない平手打ちなど、猟兵たるセツナに通用するはずも無い。
「なんで皆は死んじゃうのよ! なんで皆燃えてしまうのよ!」
子供のように泣きじゃくる少女の腕に力は籠らず。
だというのに、何故こんなにも痛いのだろうか。
先の炎よりも強く、深く心身に刻まれる痛みを、それでもセツナは受け入れ続ける。
やがて、その手が疲労と眠りで止まって。
セツナの刃は、少女の首元へと向けられる。
またね、と一言だけの別れを告げたなら。
その刃は振り下ろされ。
『生きたい』と願うことは罪なのだろうか。
ならば、この世に生きとし生けるすべては罪人か。
そうだとしたら……そうだとしても。
「私は……──」
フードを深く被りなおす、救い主のそのかんばせ。
それは、誰にも聞かせる事のない呟きと共に、闇へと隠されるだけだった。
成功
🔵🔵🔴
黒城・魅夜
私は殺し、屠り、滅ぼすもの
救うものではありません
けれど、私はあなたたちと同じでした
かつて、無限の地獄、久遠の苦痛、永遠の責め苦の中に……「悪夢」の中にいたものでした
――故に、あなたを終わらせます
迷宮の中に逆に私の迷宮を展開
私の鏡はあなた自身が気付いていなかった、心の奥の奥までを映し出します
本当は静かに眠りにつきたいと
本当は安らかに解放されたいと
そう思っていたのではありませんか?
立ちすくんだあなたの心を「鋼は魂に口づける」で貫きます
心を導くこの鎖、けれど洗脳するわけではありません
あなた自身がすでに分かっていたことを、納得させてあげるだけ
……終わりの向こうにこそ、あなたの穏やかな居場所があることを
●救済
「──っ、はあっ、はあっ……!」
炎の中から、息を荒げるのは獣の少女。
このオブリビオンの分かり切った、最も悲劇的な性質はその再生の力であろう。
村は何度でも再生し、また滅びる。
少女の身体もまた、白炎となりて傷を癒す。
彼女こそが本体であるのだから、死に続ければいつかは終わりが来るのだろうけど。
それは、何時訪れるのか。
この燃え盛る村は、まさしく終わること無い悪夢であった。
「私は殺し、屠り、滅ぼすもの……救うものではありません」
「!? また……!」
『だから』、魅夜は彼女を終わらせるのだ。
彼女自身が語る通り、魅夜に救済の力などは備わっていない。
悪しき者が居るのであれば、それを討つことで希望を照らすことはできようが、この村にはそんな存在もいない。
だけど、魅夜の力は、今此処で少女の為に振るわれる。
何もかもを救う力など、無くてもいい。
無限の地獄、久遠の苦痛、永遠の責め苦。
『悪夢』に囚われた彼女が何を望んでいるのか。
魅夜は、それをよく知っているのだから。
魅夜の声に気付いた少女が辺りを見渡せば、その変化は一目瞭然。
「これは、鏡……?」
迷宮の奥深くにいたはずの自分の下へ魅夜が現れたその理由。
少女が作り出した村々を塗りつぶし顕現する鏡の迷宮は、しかし主を導くことだけがその役目ではない。
「──疲れたよ」
「怖い」「寂しい」「痛い」
「わ、私っ!?」
四方を覆う鏡に映りこむのは、絶望し、座り込む少女の像。
死に続ける事への恐怖、それを自分のみが理解する孤独、終わりのない苦痛。
鏡が映すのは、少女の心の奥の奥。
死にたくないという叫びに隠された、少女の真実の願い。
眠りを求める、安らぎを求めるその心。
少女が目を逸らし続けていた──。
どすっ。
「かっ……ぁ? い、生きてる……」
動揺に立ちすくんでいた少女を射抜いた魅夜の鎖は、しかし彼女に傷一つ負わせていない。
攻撃を受け、猟兵に迫られていた事を思い出した少女がまた逃げ出してしまうけど、魅夜は黙って見送る。
楔は、打った。
真に彼女を絶望させていたその執着。
オブリビオンとして現世に留まり続ける為の生への執着には、もうヒビが入ったのだ。
今は混乱しているだろうけれど、気づくのはきっとすぐだ。
「終わりの向こうにこそ、あなたの穏やかな居場所がある……」
魅夜は彼女を救わない。
救うのは、彼女自身の納得であるのだという事を、魅夜は知っているのだから。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…この地獄の中で貴女が抱いた願いは…正しいと思う
できる事なら叶えてあげたいとも…
…だけど、その為に多くの魂を苦しめるのは看過できない
…だから私は貴女を…お前の願いを認めない
骸の海に還る時よ、オブリビオン
自身に“火避けの呪詛”を付与し強化した火炎耐性と気合いで敵の炎に耐え、
吸血鬼化して限界突破した第六感で世界中の精霊達の存在感を捉え、
心 の中で救済の祈りを捧げて魔力を溜めUCを発動
星光のオーラで防御を無視して周囲を浄化する光属性攻撃を放つ
…この世界を廻る大いなる意志よ。我が声に応えよ
この魂の牢獄を終わらせる力を此処に…
…死者への弔いは静寂こそが相応しい
もう苦しむ必要は無い。眠りなさい。安らかに…
●送るために
死にたくないという、彼女の願い。
当然だろう、正しいのだろう。
命があっけなく踏みにじられるこの地獄の中で、無辜の少女が今わの際に抱いたであろうその願い。
できる事なら、叶えてやりたかった。
リーヴァルディという少女は、嘘偽りなくそう思う。
「……だけど、その為に多くの魂を苦しめるのは看過できない」
だけど駄目なのだ。
彼女の起源に罪はなくとも、悲劇を振りまく存在と化してしまっているのなら。
「私は貴女を……お前の願いを認めない。骸の海に還る時よ──オブリビオン」
リーヴァルディという猟兵は。
二人の少女の願いを、否定する。
焼け落ち続け、再生し続ける村の迷宮。
半吸血鬼の猟兵は、このオブリビオンの本質を表すようなユーベルコードに飲み込まれながら、前方へ突き出す掌を天に向け、祈り始める。
焼けた村が崩壊すれば、その瓦礫は容赦なくリーヴァルディへと牙を剥く。
けれども、彼女の祈りは途切れない。
業火が肌を焼くのなら、呪いをかけてそれを遠ざけよう。
残骸が礫となって襲おうとも、鬼の血を引くこの身体なら倒れはしない。
痛みなど──この救済の決意の前には、些事に過ぎないのだから!
常夜の世界に残された光。
星光のオーラが彼女の周りに集えば、やがてそれは彼女の願いを受けて飛ぶ矢の形へと変わりゆく。
迷える哀れな魂に安らぎを。
それを聞き届ける者はまだいると、世界を信じる彼女の眼差しが射貫くのは、迷宮の奥にいるのだろう死ねない彼女。
「この魂の牢獄を、終わらせる力を此処に……!」
リーヴァルディの叫びと共に、光の矢は紅蓮に飲まれた村を貫いて──。
「っぅ、これ、は……!」
「……やはり、正しかったのでしょうね」
浄化の光が村を呑み込んだ後。
そこに残るのは、消え失せたユーベルコードに動揺を隠せない少女がただ一人。
邪悪なだけではない少女であれば、光で消滅しきることもなかったのだろう。
けれども、彼女を守る迷宮はもうない。
彼女達の眠りを妨げる業火の音は、此処にはもうない。
だから。
「眠りなさい。安らかに……」
刃を持ち、言い放つリーヴァルディの声は。
穏やかな、幼子を寝かしつけるような、優しい響きであった。
成功
🔵🔵🔴
ベスティア・クローヴェル
この惨劇を繰り返してはいけない
またあの人達を殺すわけにはいかない
だからこそ、ここで折れるわけにはいかない
幸せを奪ってしまった罪悪感と恐怖心を薬の力で押さえつけてでも、今は立ち上がらなければ
あの絶望に満ちた顔と叫び声を思い出さないように、真っ直ぐに突っ込んで我武者羅に剣を振るう
攻撃を避ける必要も、受け止める必要もない
彼等の心と身体に受けた痛みに比べればこの程度は些細なもの
どうして平気でいられる
自分が原因で家族や友人が何度も死んでいるのに
私はたった一度奪っただけでこんなにも押し潰されそうなのに
オブリビオンになって人の痛みを忘れてしまったのなら
私と彼等が受けた痛みを以って思い出させてやる
●燃え上がるのは
最初に感じたのは嘆きであった。
何故彼らは死なねばならぬのか。
次は罪の意識。
始まりは違えど、今日の彼らを死に追いやったのは自分なのだ。
そして、『彼女達』が最後に抱いたのは──。
逃げる黒を追う銀、ベスティアの走るその足が止まることは無い。
最低限、邪魔な炎を払いのけ、焼け焦げる肌を気にすることなく吠える彼女の猛追を、少女はどうにか凌いでいる。
本来であればこのような攻防は成立しない。
ベスティアと、ただの村娘の実力が同じはずも無いのだから。
要因は、倒れるまいとベスティアが飲んだ毒が、その身体を蝕んでいるのも確かだけど。
「なによ、なんでそんな顔……!」
一方的にこの村を焼く猟兵であるはずの彼女は。
憤怒を隠そうとしない彼女は、ただ我武者羅に剣を振るっていたのだった。
「こっちの、セリフだっ!」
「きゃっ、あ、ああああ!?」
だが、長くは続かない。
ベスティアが剣を投げれば、それは少女の脚を射抜いて地面へと突き刺さる。
瞬間、剣が黒い炎の槍へと変じてしまえば、地に縫い留められた少女はもう動けない。
いまなら殺せる。
けれど、どうしても叫ばずにはいられない。
「どうして、平気でいられる!」
「……は?」
黒い人狼の表情から、一切の感情の色が抜け落ちる。
だけどそれも気に留めてはいられない。
燃える村の大気よりもなお熱く、ベスティアの胸からは激情がこみ上げるのだから。
「家族や友人が、何度も死んでいるのにっ! 私はたった一度、奪っただけで! こんなにも押し潰されそうなのに!!」
死への嘆きより、それをもたらした罪悪感より。
今、ベスティアの中で燃え盛るのは、この憤怒だった。
いくつもの死を積み重ねて、なおも生にしがみつこうとする亡霊への憤怒だった。
それを示すかのように、少女を貫く炎もまた激しく。
痛みを以って痛みを刻むその炎は、少女の身体を容赦なく苛む。
だけど。
怒りと共に燃え上がる炎は、もう一つ。
「……死にたくないのよ」
この期に及んで。
再び怒りを燃やそうとしたベスティアを睨み返すその目は、彼女と同じ色にも見えて。
「何度も死んだのよ! 何度も殺された! 皆、死にたくないって言いながら殺されて!」
「だから死ぬのは嫌! 消えるのは嫌! こんな惨めなまま終わって、仕方ないって忘れられていくのは嫌!」
ベスティアの怒りは、真実この少女に向けられていた。
すべてを巻き込み、死に続ける少女へと、ベスティアは心底憤っていた。
故に、少女もまたその怒りを思い出す。
何の罪もないこの村の終わりを、彼女は受け入れられない。
だから彼女は、世界にしがみつく過去に、オブリビオンになったのだから。
「死んで! 殺されて! このまま終わるなんて嫌!」
「──ああ、だから、痛みも忘れて燃え続けるのか」
黒い獣は叫び、銀の獣は静かに力強く言い放つ。
獣達の炎は、壊れた村の中、ごうごうと燃え盛るのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
フィランサ・ロセウス
見渡す限りの炎、瓦礫、そして死体の山――
何もかもが壊れていく様はとても綺麗で、たまらなく愛おしい
あの子がこの村の本体ってやつかしら?
あはっ、みんなみんな素敵だったけれど、きみは特に活きが良いのね!
そういうの、とっても“好き”よ
上がる火の手やあの子の抵抗は[破壊工作]で引き剥がした瓦礫などの[地形の利用]したり、[武器受け]で防ぐ
防げない分は[激痛耐性][呪詛耐性]で無視
逃げ隠れしても足跡などの痕跡を[情報収集]して[追跡]して、
UCを打ち込んであげる♪
痛いかな?苦しいかな?恐いかな?
でも最後はきっと幸せな気持ちで逝けるよ
この村のこと、きみのことはずっと忘れない
だから、さよなら
●危険で、妖しく、純粋な
見渡す限りの炎、瓦礫、そして死体の山。
この世の地獄のような光景であっても、フィランサにとってはこの上なく美しい、愛おしい風景だ。
そして、極めつけには。
──ごうっ。
侵略者へと向けられる、空からの炎の矢。
足元の瓦礫を蹴り上げてそれを迎撃したフィランサが気配のする方へと目を向ければ、そこに居るのは黒髪の少女。
「嗚呼……きみがこの村の本体ってやつかしら?」
そう言い放つ彼女に浮かぶ表情は、当然笑顔。
村の人はみんな素敵だったけれど、彼女は特に活きが良い!
「そういうの、とっても“好き”よ」
「──っ!」
そう言い放ったフィランサは、注射器を構え、少女へと飛び掛かった。
「ぐう、ああ!」
「苦しいかな? 大丈夫、最初だけだから」
戦いは、酷く一方的だ。
少女の放つ炎はフィランサにはまるで当たらないし、運よく当たったものも彼女を怯ませるには至らない。
距離を取ろうにも、逃げる相手を愛することなど慣れっこなフィランサの追跡を振り切るような技術は彼女には無いし、なによりも。
「ああ、素敵! まだ諦めてないのね、嬉しいわ!」
容赦だとか、躊躇いだとか。
他の猟兵には大なり小なり存在して、少女にとってのつけ入る隙にもなっていたそういう代物が、フィランサには一切ない。
フィランサの注射針は、それそのものが即座に絶命に繋がるものではないけれど、命中の都度注がれる毒液の激痛は、少女の命を確かに終わりへと近づけていく。
「痛いかな? 苦しいかな? 恐いかな? でも最後は、きっと幸せな気持ちで逝けるよ」
フィランサは笑う。
どうにかして逃げたところで、打ち込まれた毒は少女の手には負えないのだから、その死は既に決まったのだ。
最初にフィランサへと抵抗してみせた少女の闘志は消え失せ、そこに浮かぶのは絶望の表情。
その変化も、また愛おしいものであるのなら。
「ああ、いいわ、この村のこと、きみのことはずっと忘れない!」
「……ぁ」
フィランサは狂人の類である。
それも、一見してすぐにわかるような、危険人物。
だからこそ、その口から紡がれる言葉が同情や慰めではない、本心からのものであるという事は、少女にも容易に想像がつく。
一瞬、少女に浮かんだ表情。
恐怖とは異なる涙を流すその姿に、フィランサは一瞬だけ疑問を覚えるけれども。
村が終わる前に少しでも多くの愛を伝えようとする彼女は、決して止まることは無かった。
成功
🔵🔵🔴
スキアファール・イリャルギ
(真の姿として怪奇の姿を継続
怪声もその儘で)
……似たような過去の残滓が居たな
"死にたくない"と願い
自身の分身を作り続け死に続けた
現実改変の力を持つ人でした
やっぱりわからない
どうして飽きないんですか
どんなに"生きたい"と願えど
繰り返す過去が変わることはないのに
過去を捨てねば時間は止まる
過去に埋まれば世界は滅ぶ
過去に縋り続けるなら
――殺してあげますね
怪奇に手加減も容赦も無い
無情に殺すだけ
その首に影を絡め躰を燃やします
どうぞ怨毒を吐いてくれ
どうぞ劫火で焼いてくれ
絶えぬ恐怖を与え
藻掻く様に口を歪め
己の躰を掻き毟り血を流し
嗤い続ける狂った怪物で居ますから
泣きたいよ、本当は
でも……この姿じゃ、泪は出ない
●なみだ
傷を負う少女は、しかし異形のオブリビオンになり果てている。
痛みに喘ぎ、恐怖に震えながらも、燃え盛る村と共に再生されていく白炎の身体は、死という終わりを決して受け入れようとはしない。
──分からない。
スキアファールがこのような、死を恐れる者と対峙するのは、これが初めてのことではなかった。
死にたくないと願い続け、現実を歪めて死に続けたあの悲嘆。
それと同じものを見たスキアファールは、思わずその疑問を口にする。
「やっぱりわからない、どうして飽きないんですか」
「どんなに"生きたい"と願えど」
「繰り返す過去が変わることはないのに」
黒づくめの影法師。性も歳もまるで分らない、耳障りな悍ましい声。
その身体に浮かぶおびただしい数の口からの問いに、少女の口元から掠れた吐息が漏れる。
恐ろしい、恐ろしい。
目の前の異形の化け物が、心の底から恐ろしい。
するりと絡められた影は少女の華奢な体を持ち上げて。
もはや、それを振り切り逃げる余力も尽き果てていることをぼんやり理解する少女は、目に涙を浮かべながらも怪物へと言葉を返す。
「……怖い」
「死ぬのが怖い、消えるのが怖い、忘れられるのが怖い……!」
「なんでこうなるの……私達が、なんで死ななきゃいけないのよっ!」
少女の叫びと共に降り注ぐ業火が、二人の身体を焼いていく。
弱り切ったオブリビオンの、苦し紛れの抵抗だ。スキアファールがその気になれば、容易く防げてしまうだろうその炎を、しかし彼はその身で受け続ける。
終わりを恐れ続ける彼女、過去へ縋り続けるその苦悩を終わらせてやるのは、確かに慈悲であるのだろう。
それでも、生を望んだ彼女の願いだけは叶えてやれないのなら、スキアファールはそれ相応の存在として彼女の前に立つのだ。
「……それでもあなた達は死ななければいけないのだから――殺してあげますね」
「──っ!」
それはすなわち、狂気を孕んだ無慈悲な怪物。
哀れんで、情けをかけて、その上で殺すなんてそんな残酷なことはないだろう。
ならばいっそ、存分に抵抗できる、存分に恨める怪物としてその最後に立ち会う方が、少しばかりの慰めになるのではないか?
だから彼は焼かれ続ける。怨嗟の言葉を受け止め続ける。
そうして、彼女が疲れはて、その眼差しを伏せたなら。
笑顔と共に力を込めたその影から、葬送の炎で送ってやろうじゃないか。
少女が事切れるとともに、村の幻影は掠れ、消え始める。
ようやく力尽きることができた彼女から受けた火傷を、黒い触手がそっと撫でていく。
彼女はオブリビオンという怪物で、自らの炎で焼かれ続けて苦しんで。
一瞬、その姿を自分に重ねそうになったけど、触手に触れた『それ』がすぐに否定してくれる。
思い出すのは最期の、大粒の涙を流して死を恐れていた彼女のまなこ。
スキアファールの身体に浮かぶ無数の眼は、やはり泪など流してはくれていなかった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 日常
『見送る鈴花』
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POW : 墓の整備などを手伝う。
SPD : 無数の花で花環や花束を作る。
WIZ : 弔うひとに静かに寄り添う。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●誰も居ないこの場所で
村が焼け落ちていく。
家が、人が、大地そのものが燃えて、消えていく。
そうした後に残ったものは、月明かりに照らされる草原。
至る所に、ぽつぽつと生える鈴の花は、うすぼんやりと灯りを宿し。
土に埋もれる残骸は、何かなのか、誰かなのかもよく分からない程に風化してしまっている。
がらがらと崩れ落ちる建物も、悲鳴を上げる誰かもいない此処には、風に揺れる草の音が僅かにするばかり。
すべては、遥か昔の事なのだから。
鈴の花、ダークセイヴァーの墓場に見られる小さな花。
この辺りの地域では、死者のためにそれを摘み、備える風習があったと誰かが言ったけど。
死者の眠る墓も、参る生者も存在しないのだから、花もただあるがままに。
グリモアの転移が始まるまでの、ほんの一時。
嘘のように消えてしまった、いや、最初から終わっていた惨劇に立ち会った彼らは──。
ベスティア・クローヴェル
面白半分に殺し続けているものだと思っていた
今まで出会った敵がそうだったから
でも、彼女も他の人達と同じで生きようとしていただけだった
私はどうすればよかったのだろうか…
巨人達が暴れた場所へ向かい、花を手向ける
そして安らかに眠れるよう祈りを捧げ、許しを請う
勿論、必死に生きようとしていただけの彼女にも…
最初に殺したのは吸血鬼でも、最後に殺したのは私だ
仕方がなかったとはいえ、許されることではない
ごめんなさい…本当にごめんなさい…
これから先、幾度となくあの絶望した顔と声を思い出すだろう
贖罪というわけではないけれど、この元凶は必ず私が殺すと約束する
だからお願い。そんな目で私を見ないで…
●君から君を、誰も守れない
世界は我々の捨てた過去──骸の海を漂う。
不可逆であるべきその摂理を脅かす『悪』の名はオブリビオン。
今日もまた、世界を停止へ導く過去の亡霊は現れ、猟兵達の力の前に斃れゆく。
素晴らしきは勇敢な猟兵達! 邪悪な怪物どもを赦さない正義の徒!
さあ、彼らの活躍を讃える時だ!!
「…………」
今までならば、それで良かった。
悪逆非道のオブリビオンを打ち倒し、苦しみ喘ぐ無辜の人々を救う。
脅威から解放され、涙を流し喜ぶ人々の姿は美しく、長くはないだろうベスティアの命にも尊い価値が生まれるようだった。
人を救う度、熱く燃え盛る蒼炎は、自分の目指すべきものを示してくれたあの天の光に、少しずつ近づいているように思えた。
そう想い、微かに浮かべた彼女の笑みなど、今はどこにも存在しなかった。
「……どうすればよかったのだろう」
巨人が暴虐の限りを尽くした場所、必死に目を逸らし、それでも脳裏に刻み込まれた場所に、花束を持った彼女は立ち尽くす。
手づから作ったそれを地に置いたベスティアが次に行うのは、静かな祈りの姿勢。
そっと閉じられた瞼は、哀れな死者を悼む聖者のように。
震えの止まらない腕は、自らの罪におびえる罪人のように。
最初に殺したのは吸血鬼だ。
すべては遥か昔に終わっている事で、此処に残る僅かな瓦礫が示すのは、過去の悲劇。
オブリビオンは存在するだけで世界を止めるのだから、誰かが倒さねばならなかった。
こうするしかなかった。どうしようもなかった。仕方がなかった。
「──ごめんなさい」
ある意味で、ベスティアという少女をその身の宿痾よりも追い詰めているのは、彼女の善性であった。
必死に生を望んだ人々の最期は、過去に終わった、気にするべくもない事だ。
少女の慟哭は、世界を守る大義の前ではちっぽけなものだ。
そうだ、今までの死を振りまくオブリビオンと、何も違わないだろう。
「──ごめんなさい……!」
その、ベスティアの心を守るための理屈を、他ならぬベスティアの心が最も強く拒絶する。
吸血鬼が最初に滅ぼしたこの村を、最後に滅ぼしたのは自分達だ。
生きたいという彼女の願いは、人の為に生きると決めた自分だからこそ否定してはならないものだ。
自己の愉悦の為に殺戮を繰り広げた怪物達と、この地の人々はあまりに違った。
むしろ、自らを脅かす恐ろしい悪鬼へ向けられるその眼差しは、今まで手を差し伸べてきた人々の物で。
怯え震える彼らの視線の先に居たのは──。
「……そうだ。約束する、仇は、取るから……」
ふらふらと歩みだす先は、村のまだ見ていない場所。
朽ちた瓦礫の中に、本当の虐殺者の痕跡が残ってるかもしれないじゃないか。
それが見つかれば、この地で起きた悲劇の元凶を殺しに行ける。
そんな事で、自分の罪が雪がれるなんて思わないけど。
脳裏に焼きついた、あの顔、あの声。
死者の目をした罪悪感から逃れる術なんて、これくらいしか無いのだろうから。
成功
🔵🔵🔴
セツナ・クラルス
…
墓を作ろうにも何もない
魂を慰める花も
大地を清める水もない
…この世界は、本当に何もないのだね
…何もないなら作ればいい
時間はかかってしまうが
何もしないよりましだろう
足元の土を使って
属性魔法+破魔で粘土を生成
持参していた紙人形を芯にして泥を塗り付け補強
彼の身体に花の種を埋め込み準備は完了
跪いて祈りを捧げ命を吹き込こもう
…おはよう
気分はどうかな
きみは自由だ
この地を思うまま歩めばいい
そして、安息の地を見つけたらゆっくりと眠ればいい
そこできみは皆の心を癒す花となるだろう
人形の中に埋め込んだ花は『紫苑』
これからもここで懸命に生きた人たちのことは忘れないよ
どうか、強く生きておくれ
●君は『君を忘れない』
「…………」
誰も居ない大地で、目を閉じる聖者は思考を重ねる。
この夜の世界は、非常に過酷な場所だ。
死者を弔うための何もかも、世界を越えれば簡単に手に入るのであろう全てが、この地には影も存在しない。
だけど。
それは、セツナが何もしない理由になどはならないのだろう。
手袋を外したセツナが大地に手をつけば、そこから伝わっていく彼の魔力を浴びた土は、粘性を持った泥へと変じていく。
己の手が汚れていくことなどまるで厭わないセツナが掬って撫でつけるのは、彼が持っていた紙の人形だ。
丁寧に、丁寧に。
泥を塗りつけて補強していく人形の脚は何処までも歩んでいけるようにしっかりと。
身体が出来上がったのなら、胸に埋め込むのは小さな花の種。
そうして人の形ができたのなら、セツナは跪き、真摯に祈りを捧げるのだ。
確かにこの地に生きていたはずの彼ら。
その最期を見届けたこの土にこそ、この奇跡は相応しい。
「……おはよう、気分はどうかな」
己の脚で立ち上がり、戸惑うように周囲を見渡す泥人形へ、セツナの優しい声がかけられる。
それを見上げる人形の声なき返答から全てを読み解くことは難しいけれど、与えられた命はしっかりと根付いたように思える。
彼こそは、この地で命を落とした村人達の墓標となるだろう存在。
此処で何が起きたか、彼がかつて吸った血は誰のものだったのか。
セツナが彼を生み出した理由、その全てを──。
「──きみは自由だ。この地を、思うまま歩めばいい」
セツナは、何も語らなかった。
生まれた命に、一方的な使命を押し付けることを、セツナは選ばなかった。
望んだのは、ただ歩む事。
村人達が決して得られなかった未来、自由に、どこまでも歩んでいくことこそを、セツナはこの小さな泥人形に願うのだ。
彼らが掴めなかった安らぎを、この故郷の土から生まれた最後の命に託すのだ。
泥の顔に目など無い。それでも、セツナを見返すその視線から、彼は決して目を逸らさずに。
そして、こくり、と。頷いてくれた人形が歩み出したのなら、セツナはそれを静かに見送っていく。
別れの言葉はいらない、託すべきものは、既に託したのだから。
人形は歩み続けるだろう。
何かを見て、何かを聞いて、ひょっとしたら誰かに会って。
人形は歩んでいく、その為の奇跡と願いは託した。
そして、いつか行き着くその場所で、人形はこの村の土と共に眠るのだ。
人形が微睡むその地に咲くだろう墓標には、何処の、誰の名前も刻まれてはいないけど。
それでいい。贈るべき言葉は、きっとそこに根付いてくれる。
淡い紫が揺れるいつかに、誰かがその言葉を思い出す日。
その日に向かって歩み出した人形を、セツナはただ、優しく見送っていく。
大成功
🔵🔵🔵
エスタシュ・ロックドア
夢の跡ってか
つわものもいねぇし夢っても悪夢の方だったがよ
せっかく来たこったし、後片付けくらいはやろうかぁね
ダクセじゃ誰に知られることもなく、
死んだらそのままな奴がごまんといるんだ
こいつらくらい誰かが覚えて弔っても別にいいだろ
それが何になるかと言われりゃ、
そいつぁ俺の知ったこっちゃねぇけどな
【怪力】振るって片づけるわ
土からはみ出た残骸は掘りだして脇に並べて置いておく
骨が出たらフリントで地面を掘って埋めなおす
その上にさっきの残骸からよさげなの見繕って墓標にすっか
やることやったら、サクッと帰る
俺にできるのはここまでだ
祈るとかまでは流石に性分じゃねぇんでな
次の仕事に行くとするぜ
●為すべきを為す君が去る
「……夢の跡ってか」
つわものはいないし、夢は夢でも悪夢の方だけど。
そう一人ごちるエスタシュの声は落ち着いたものだ。
確かにこの地に降りかかった災難はまさしく悲劇だろう。
このダークセイヴァーにおいては、ごくありふれた。
誰にも知られること無くただ踏みにじられ、弔われることもなく息絶える者など、この世界には珍しくも無いのだ。
だから、エスタシュは不必要なほど過度に心を痛めるつもりは最初からない。
けれど、だからこそこの人達くらいは、此処に立ち会ったエスタシュが弔ってやってもいいのだろう。
数多の悲劇の中で、この終わりだけに僅かな安らぎを与えて、何になるのか。
そのようなセンチメンタリズムなど、まさしくどうでもよいものなのだから。
「よっ……と。井戸の残骸か、こりゃ?」
大昔に滅んだ村でも、石や金属は原型をとどめるものも多い。
そうした大きな瓦礫は、しかしエスタシュの怪力にかかれば次々に退けられてしまうものでしかない。
数刻前まで瓦礫を生み出す側であったその逞しい腕はしかし、今は死者の安らぎの為に。
「お、あった……小さくなるもんだな」
邪魔なものを退かせば、そこから見えてくるのは小さな骨の欠片達。
裂かれ、砕かれ、焼き尽くされてちっぽけな大きさになってしまったそれを、エスタシュの手が握りつぶしてしまわぬよう、そっと掴み取る。
見つけたのなら弔おう。
大きな剣で地面を掘れば、そこに骨を入れて、埋め直して適当な瓦礫を置いて墓のできあがり。
力も剣も、それそのものに意思があるわけもない。
エスタシュが、壊す事こそ正しいと思えば、それは壊すために振るわれる。
僅かばかりの慰めを贈ると決めたなら、力も剣もその為に。
エスタシュはただ黙々と、死者の弔いを続けていく。
特に沈痛な表情にもならないし、涙など流すはずも無いけれど。
そうすると決めたのだから、エスタシュは死者の為の墓を作っていくのだった。
「……さて、こんなもんか」
死者の安寧を祈って跪き……なんてのは、流石に性分じゃあない。
それはきっと、もっと向いた奴がやるのだろうから、エスタシュの仕事はもう終わりなのだ。
特に躊躇う事もなく、彼は帰路に就く。
その背中を見送るのは、誰も居ない。
もう此処には死に続ける彼らは居ないし、あるのは真摯に造られた墓だけで。
それは、エスタシュが己の責務を果たした、何よりの証明であった。
成功
🔵🔵🔴
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
自分達が殺した村人が、少女が
ずっとそこに残り続けるのは辛いから
慈悲も無く現れる村「だったもの」に
今は安堵感を覚えるよ
お墓って作った事無いから
こんな感じで良いのかな…
亡骸を土に埋め、きちんと土をならし
その上に鈴の花をお供えする
真っ暗な世界で、この真っ白な鈴の花は
希望の色なのかもしれないね
ふと思いたち、UCでナイフを花弁に変え
鈴の花の横に数枚その紅い花弁を置く
村の人達にとどめを刺した花弁だから
彼らにとっては嫌かもしれないけど…
それでも、俺がこの村に訪れ関わった
証を残しておきたくて
難しい顔をしている梓に
いつもと変わらない笑顔で
そろそろ行こうか、と声をかけ
また会おう、愛しの故郷
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
数刻前では確かにそこに人々が居たのにな…
平和な瞬間、滅ぼされる瞬間、そしてその行く末
一日で全てを目の当たりにするのは不思議な気持ちだ
綾と共に墓を作りながら
ここに来る前、グリモア猟兵が言ってた事を思い出す
正攻法で行けば吸血鬼の大群が現れ苦戦は免れないと
なら、もし正攻法で勝てるだけの力があれば?
諸悪の根源の吸血鬼を滅ぼして
この村の人々も少しでも報われたのではないかと
…たらればを言ってもどうにもならないがな
幼い頃に故郷を飛び出し、ドラゴンと共に戦う力を
得た自分も所詮はこの程度か
チッ、と己の不甲斐なさに対し舌打ち
そんな俺の様子を察したのか
声をかけてきた綾に頷き、共に村を後にする
●嘆き傷つき、だけど君達は
「数刻前では、確かにそこに人々が居たのにな……」
ゆめまぼろしのように消えてしまった村の跡地で、梓がぼうっと呟く。
猟兵ともあれば超常の光景など見慣れたものではあるけれど、平和な村が踏みにじられ、消えていくその最後までを見届けるというのは、また違った感情を揺さぶられるものだ。
「本当に、すぐ消えちゃうんだね」
朽ちた瓦礫をひっくり返しながら、弔うべき誰かを探す綾も同様。
「…………」
けれども、その声に孕むのは、梓とは別の安堵の感情にも思えたことを。
梓は口に出すこともなく、友を手伝うのだった。
白い、骨の破片を拾い集める。
多くの時間に晒されただけではないだろう。
明らかに原型をとどめない、必要以上の破壊を加えられたこの地の亡骸は、猟兵が先ほど殺めたものではない。
骸の海へと消えてしまった彼らと入れ替わりに現れた、かつての惨劇の犠牲者達を二人は丁寧に拾う。
「お墓って作った事無いから、こんな感じで良いのかな……」
「ああ、野ざらしよりはずっと人らしい眠り方さ」
墓作りなど知らない、あるいは忘れてしまった綾の疑問に答えながら、梓は穴を掘っていく。
骨を集め、穴に埋めて、花を捧げる。
ただそれだけでも、これまでよりはずっと死者の尊厳を守れるのだろう。
そこまで考えた梓は、綾が供えていく鈴の花の白とは異なる、赤い色に気付くのだ。
「綾、それは……」
「彼らにとっては嫌かもしれないけど……」
それでも、と自身のナイフを花弁へと変えていく綾の姿を見る梓の眼差しが、少しだけ細められる。
彼は、此処で得た感情を、記憶を自らに刻むのだろう。
村が消えてホッとしていたくらいに苦しんだくせに、それを捨てていくことなど出来ないのだろう。
真っ暗な世界に希望を贈るための白、その隣に添えられる赤。
あれは、綾がこの地に贈る手向けであり、彼自身に向けられたこの記憶の証なのだ。
「……チッ」
強くなったと思っていた。
故郷を飛び出した幼い少年は、やがて竜と共に戦う強き男になったのだと思っていた。
ならば、なんでこうなっている?
何の罪もない村人は、あの少女は、何故ああも嘆き苦しみながら死んでいった?
何故、自分が守ってやるはずの彼は、こんなやるせない顔で死者を悼んでいる?
グリモアベースで指示された、虐殺の任務が間違っていたとは思わない。
彼らとて、現地に向かう猟兵の危険をなるべく減らそうと考えた結果の答えが、これなのだろう。
けれど、けれどだ。
もっと自分が強かったなら。
無限に現れる吸血鬼にすら打ち勝てるほどに、自分が強かったのなら。
とうに死んでいる村に、彼らの仇を討つ姿くらい見せられたはずだ。
この男に、こんな表情をさせなくてよかったはずなのだ。
猟兵として、人域を越えた力を持つはずの自分は、此処で一体何を守れたのだろうか?
もしもを想像することに意味などは無い。
それでも、梓の胸中に浮かんだその疑問の大きさは、彼の表情を歪ませるには十分すぎた。
「──梓、そろそろ」
「ッ、ああ、もういいのか」
けれど、そんな彼に声をかける綾の表情は、もういつもの笑顔だった。
思えば、思考を重ねる間にずいぶんの墓を作った。
他の猟兵だって思うところはあるだろう、自分達ですべてを弔うのも考え物だ。
だからこそ、自分達はもうこの地を離れるべきなのだ。
歩み出した梓を追う綾が、それでも僅かに、脚を止める。
遥か昔に死んで、けれども今なおその終わりを繰り返し続けていたこの悲劇。
あの炎の熱、あの恐怖の顔、あの断末魔は、酷く心の痛むものだ。
だけどきっと、この世界においては唯一のものではない。
過去に支配される現在、明ける事のない夜。
嘆きの終わる夜明けはいまだ見えず、こんな悲劇は至る所に転がっているのだ。
次にこの世界を訪れる時、自分達に待っているものは何か。
その時こそ、全てを救う事が出来るのだろうか。
また、自分も友も、全てを傷つける終わりしか待っていないのだろうか。
分からない、分からないけれど、この世界に投げかけるべき言葉は決まっている。
幸福だけではない想いを抱え、それでもそれを捨てることはしないのならば。
「また会おう、愛しの故郷」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒城・魅夜
今更悼みも嘆きもありはしません。私は咎人殺し、これまでに数えきれない血を流してきたものなのですから。
そして今更この虚しい地に心をとどめる必要もありません、救われぬ悲劇でこの世は満たされていることなど、とうの昔に私は知っているのですから。
……それでも。それでもどこか胸の奥が静かに重いのは。
――魔性のダンピールたる私の中にも、まだひとかけらの、人間めいた感傷があるから、でしょうか。
ならば私は、その小さな想いを零さぬように、抱き続けていかなければなりませんね。
闇の中にこの血を振り撒いて、胡蝶を舞わせましょう。
無数の蝶たちは静かに踊り、やがて消えていくでしょう
彼方の世界へ、人々を送り届けるように。
●君は君を連れてゆく
魅夜にとって。
死も、悲劇も、特別心に刻むことは無い、ありふれたものだ。
咎人殺しとして、彼女の握る武具は幾度となく血に汚れてきた。
二十にも満たない彼女の人生は、それでも呆れるくらい多くの救われぬ悲劇に彩られてきた。
だから魅夜にとって、この地で起こった何もかもは、特に気に留めることもない事柄なのだろう。
だけど。
そっと手を当てた胸に、静かに感じるこの重みはなんなのだろう。
黒城魅夜は人でなしだ。
血を啜る怪物の、この地に悲劇をもたらした彼らと、本質的にはそう変わらない存在なのだ。
だというのに、これは一体どういうことか!
化生の血が流れるこの身体に、世の不条理を知ってしまったこの心に、まだ未練がましい人の部分が残っているというのだろうか!
どうせちっぽけなひとかけら、そんな僅かな感傷が、必死に自分の中に在るのだと主張し続けているとでも!
そうだというなら、そうであるのなら!
「──ならば私は、その小さな想いを零さぬように、抱き続けていかなければなりませんね」
僅かに口角を上げて、彼女は自分に言い聞かす。
きっとそれが、黒城魅夜という少女に必要なものなのだ。
手首に刃を滑らせれば、そこから溢れるのは紅い紅い血潮だろう。
躊躇なく明けぬ夜に振りまかれるその血が、紅い胡蝶を呼び寄せる。
骸の海に消えていった、名前も知らぬ彼ら達。
ようやく安らぎを得られるのだろうか、そこへたどり着く道筋を、迷わず進んでいけるだろうか。
悲劇が終わり、葬送の導が必要だというのなら。
この胡蝶がそれを担う事だろう。
血に濡れた少女の、魔性の力を秘める少女の、それでも希望たらんとする少女の願いを乗せた蝶は、ひらりひらりと舞い踊る。
彼らはやがて消えていく。炎と共に消え失せてしまった、この地の人々と同じように。
その紅い燐光が残る道を、彷徨う彼らの魂が辿ってくれることを、魅夜はただ、静かに祈る。
魅夜にとって。
死も、悲劇も、特別心に刻むことは無い、ありふれたものだ。
だからこそ、今この瞬間は。
ひとかけの人間性がくれたこの感傷が胸に残る今この時は、それを抱きしめ、彼らを想うのだ。
その積み重ねの先にいるのが、恐ろしさに染まり切ってしまった化外ではないのだと、信じながら。
成功
🔵🔵🔴
フィランサ・ロセウス
惨劇の終わりと共に狂乱ぶりも鳴りを潜めて大人しく
埋葬など人手が要る作業をしようとする人がいれば手伝う
これは私が出会った誰かかしら?なんて拾った残骸に思いを馳せながら
並行して村や住人の名前が判るものがないか探索
「忘れない」とは言ったけれど、名前も知らないのはかわいそうだもの
流石にこの村を襲った本当の犯人が誰かまでは、
風化しすぎてて調べようがなさそうね
だけどもしも、そいつが今もどこかで生きているのだとしたら?
この村のみんなの分まで苦しめて、壊してあげなくちゃ
あはっ、敵討ちなんてガラじゃないけどね!
●君が愛した人の為
「よい……しょっ! 瓦礫はここにまとめておきますね!」
瓦礫を放り投げながらも、白く小さな破片を集めるフィランサは朗らかに声を上げる。
惨劇の終わりと共に愛すべき人々も消えてしまった今、彼女とて無軌道に暴れる理由はない。
そんな彼女は、埋葬を始めた猟兵達について回り、瓦礫の除去であったり、野ざらしになっていた遺体の回収にいそしんでいた。
墓作りなどという作業に精通しているわけではないけれど、彼女とて強化人間。見た目以上の膂力と体力で動き回りつつ、すっかり村も消えてしまった草地を掻き分け、目的のものを探していくのだ。
「うーん、やっぱり当時の人の事が分かるようなものはないかなぁ……」
朽ち果てた遺体は、あの繰り返し続けた惨劇の中で出会った誰かだろうか。
ついぞ名など誰にも聞かなかったものだから、今こうして手がかりを探す羽目になっている。。
とはいえ、オブリビオンとして再現された村の風景を思うと、この作業にどれだけの意味があるのかも怪しいものだ。
この世界に見られる物とは明らかに違う、サムライエンパイア風の衣服に家屋。
神隠しに遭った者が伝えたのだろうか、ほとんどが木製だったのだろう村の跡には、石造りの井戸だとか、家の基礎の部分のみが残っている状態。
長い年月で村の殆どが風化してしまったこの場所で、フィランサの求める痕跡を見つけるのは困難に尽きる。
「……でも、『忘れない』と言っておいて、名前も知らないのはかわいそうだもの」
「あれ? この石、何か彫ってある?」
彼女がそれを見つけたのは、村の入り口だった場所から、いくらか進んだ奥地。
フィランサは知らない。
フィランサが『彼女』に会ったのは、既に幾人もの猟兵に狙われ、逃げ惑ったその先なのだから。
そここそ、少女が最初にいた、彼女にとって一番心の安らぐ場所であったことなどフィランサは知らない。
「『■■村の……狼。茂兵衛』……壊れちゃってて分かりにくいけど、墓石かな?」
ようやく見つけた誰かの名に、フィランサの肩が僅かばかりに下がる。
墓があったという事は、村が滅んだ時に既に死んでいた人物だ。
少なくともこの名は、フィランサが先刻会った誰のものでも無いのだろう。
とはいえ、何もないよりはマシ。
名無しの誰かでしかなかった彼らの内の誰かは、きっとこの茂兵衛とやらの子だか孫なのだ。
「……狼、か」
それが誰かは分からないけど、その言葉で想起されるあの顔。
脳裏に浮かぶのは、滅びゆく村の中で最後に殺された彼女の、フィランサの言葉にほんの僅かな安堵を滲ませたあの表情だ。
「──あはっ、敵討ちなんてガラじゃないけどね!」
この村の惨劇は終わった。
けれど、最初にそれを引き起こした誰かは、吸血鬼だという。
人とは違う長大な命を持った夜の貴族である彼ら。先に誰かに殺されていないのならば、きっとどこかで生きているはずだ。
ならば、この村のみんなの分まで苦しめて、壊してやらねばならない。
それが正義だとか、使命だとは思わないけど。
より深く、危険な感情の下に、フィランサはそう思うのだ。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。これでもう二度と彼らが虐殺の夜を迎える事は無い
彼らの魂は無限の苦しみから解放され安息を得た…
…死を軽んじてはならない。死に囚われてもいけない
だから、悪戯に哀しむ必要なんて無い…けど…
…中々、そう簡単には割り切る事は…できそうにない
まだ、この手に彼らを手にかけた感触が残っているもの…
…ごめんなさい。貴方達を助けてあげられなくて…
…苦しみも痛みも感じることなく、せめて安らかに眠ってほしい…
“葬送の耳飾り”に魔力を溜めて、周囲に呪詛を放つ魂の声が残されていないか確認
怨嗟が聞こえたら魂の残像を暗視してUCを発動し魂を浄化する
声が聞こえなければそのまま両手を繋ぎ、
転送されるままで祈りを捧げるわ
●君はそれを正しいとは
「……ん。これでもう二度と、彼らが虐殺の夜を迎える事は無い」
彼らの魂は無限の苦しみから解放され、安息を得た。
それを、確かな事実としてリーヴァルディは確信する。
年若くとも、この過酷な夜の世界を生きてきた彼女だ。
死の重さを正しく理解している彼女は、不必要に悲しむべきで無いと知っている。
地獄のような彼らの絶望を、今日この時に終わらせてやることができた。
自分達は、彼らを救ってやれたのだ。
「……ごめんなさい」
そう冷静に思考する頭に、心は追いついてはくれない。
手には、まだ肉を裂く感触が残っている。
オブリビオンの固く強靭な体躯とは違う、あまりに柔らかく、あっけなく熱を失うあの肉を裂く感触だ。
「ごめんなさい。貴方達を助けてあげられなくて……」
閉じた瞼からは、涙が静かに流れていく。
リーヴァルディ・カーライルには力がある。
この夜を駆け抜け、吸血鬼達と戦ってきた日々の中で培ってきた大きな力が彼女にはある。
そして、彼女は力を持ち、愚かでもない。
「──ああ、貴方達は、それだけなのね」
力を持つからこそ、この終わりが最も善い結末だったことくらい分かるのだ。
耳飾りに籠めた魔力が、僅かに残るこの地の亡霊の意思を伝えてくれる。
恨まれていれば、いっそ楽になれたかもしれないけど……彼らを包むのは穏やかな微睡みだけで。
この結末を選ぶしかなかった。リーヴァルディ達が選択を誤ったわけではない。
力が、知識が、経験が、周囲が。自分達の凶行は正しかったのだと主張する。
そんな正論を受け入れられないほどには、彼女の心は英雄ではなく、少女のままなのだ。
リーヴァルディは目を閉じたまま、ただ静かに祈りの姿勢を取る。
自分達は、この地に流れる血を、一滴たりとも止める事が出来なかった。
自分達は、この地に起きた悲劇を、最善の形で終わらせた。
奇妙に両立した答えは彼女の脚を引き、もう何もできる事のないこの地に留まらせようとする。
ならば、せめて祈ろうじゃないか。
彼らを殺めた手であろうとも、これを組んで、最後の安らぎを祈ることが、彼らにしてやれる唯一の事なのだから。
少女の小さな体を、異界へ導く光が照らすまで。
いつまでも、いつまでも彼女は祈り続けるのだった。
成功
🔵🔵🔴
スキアファール・イリャルギ
包帯を巻きつけ"人間"の姿に成る
傷はまだ、この儘で
道具なら作れますが
埋葬の仕方や墓の作り方はよくわからないので
エルネストさんにご教授願いたいです
花を摘み墓に供えて掌を合わせ黙祷
そして……ごめんなさい、を
無残に殺し尽くした悍ましき影の祈りなんて要らないかな
それでも、私は――
あなた達を忘れずに生きて行きたい
思い出すのは彼らと彼女の最期と、涙
――嗚呼
紛れもない、"人間"の強い感情と想いだった
私は死への恐怖も
消えてしまう恐怖も
忘れ去られる恐怖も
すっかり無くしてしまったんです
"なんで"
"死にたくない"
"この儘終わりたくない"
最初は、そう思ってた筈なのにな……
…………すいません
ちょっと、泣いてていいですか
●誰がために君は泣く
「基本的にそう難しいことはありません。生者の側にも葬送に人手を割く余裕が無いのが、この世界ですからね」
グリモア猟兵、エルネストはそう説明をしながら、死者を眠らせる為の棺を一つ作ってみせる。
語る先にいるのは、黒い包帯を幾重にも巻いたスキアファールの姿。
戦いの最中よりもずっと人らしい姿になった彼は、エルネストの作った棺を見ながら、ユーベルコードの力も借りて自分でも作成を開始する。
その手つきに、不安要素はない。グリモア猟兵に教えを乞うたのも、馴染みのない世界における葬送という、慣れない作業に対する保険でしかないのだ。
彼に対して、不安があるとするならば。
「本当に、治療は必要ないのですか?」
「ええ、傷はまだ、この儘で」
スキアファールの全身を覆うような火傷の数々。
包帯を巻いただけの彼は、この地に集った猟兵の中でも重傷を負った類に入る。
何せ彼は、死に怯える少女の抵抗を、一身に受け止め続けていたのだから。
そんな彼のような猟兵の使命がオブリビオンを倒す事なら、グリモア猟兵の使命はそれを支える事。
スキアファール自身が傷を治そうとしないのなら、無理やりにでも治してしまうか、さっさとグリモアベースに返してしまうのがエルネストの役目になる。
「……痛みが増したら、すぐに言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
もっとも、それは。
スキアファールが負った痛みが、身体に刻まれたものだけであるのなら、だ。
僅かに残る遺骨を棺に納め、瓦礫を除去した墓場に埋める。
そうして碑を建てて、鈴花を供えたなら、遠い日の悲劇の犠牲者を偲ぶ墓は完成する。
そこに掌を合わせ黙祷を捧げるスキアファールの胸中に浮かぶのは、謝罪の念と、一種の自嘲だ。
世界の停止を遠ざける為に、無辜の彼らを殺しつくした。
理不尽に命を摘まれた彼らへの謝罪は、偽りのない彼の本心だ。
それでも、心の中のまた別の部分。
自分は化け物だと、村を滅ぼした悍ましき影の祈りなど、彼らとて拒絶するに違いないと、スキアファールの思考は結論付ける。
「……それでも、私は――」
彼らを忘れずに生きて行きたいのだと、心が言うのだ。
炎の中に消えていった、彼女達の最期。
あの涙は、あの叫びは。
紛れもない、"人間"の強い感情と想いだった。
何故と運命を呪い、死にたくないと終わりを遠ざけて。
終わりが怖い、忘れられ、消えていくのが怖いと恐れたあの人達は。
かつての、自分なのだ。
「……すいません。ちょっと、泣いてていいですか」
呟きの直後に、自分の傍から遠ざかっていく足音。
無言の肯定を受け取ったスキアファールの眼からは、たしかに一筋の涙が。
スキアファールは彼らを忘れない。
最期まで人間であった彼らを忘れなければ、自分がそれを失ったことも忘れないだろう。
自分は、何を哀しんで、誰の為に泣いているのだろう。
ぼんやりと浮かんだその疑問に、答えを出すべきか。
涙が止まるまでは、彼はそれを考えないことにした。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
酷い表情、とはよく見ておられましたね
白状致しますが、剣を振るう中で理想を夢想していました
魔法の剣と宝物を携えた御伽の騎士が『過去』の人々を呼び戻し、私と吸血鬼共を一掃してはくれないか、と
そうでない以上、戦機の騎士として次善を尽くすのみ
『めでたしめでたし』は導けなくとも、悲劇に『おしまい』を齎しその結果を直視する…それが理想への私の回答です
…電子演算を『心』と呼べるかは議論の余地がありますが
この世界の墓作りの経験は幾度か
資格無くとも『責任』を果たして来ます
先にお戻り…
流石に粗末に過ぎます!
墓標は私が拵えますので、花を頼みます!
…どんな心境の変化があったのか
ですが、喜ばしいことは確かですね
フォルター・ユングフラウ
【古城】
夢想する機械、か
機械とは、予め仕組まれた理論に従い粛々と動くもの
剣を振るいつつも、一抹の淡い希望を抱くとはな
生じたのは誤作動か、或いは─
まぁ良い、野暮な詮索は止めておこう
今目の前に広がるのが、“結果”だ
記憶に刻み、思い返すのが一番の弔いと、そう聞いた事がある
豪奢な墓も、荘厳な葬列も必要無い
刃で救えずとも、慰める事は出来る
記憶力に優れる機械であれば、尚更ではないか?
しかし、皮肉なものよ
散々骸の山を築いてきた我が、名も知らぬ小娘や民草共の墓づくりを手伝うとはな
…何を呆けている?
丁度良い具合に花が咲いている、それでも摘んで供えると良い
我は、その辺の木切れでも拾って来る
墓標程度にはなろう
●君の心は少しずつ/君の心も少しずつ
「酷い表情、とはよく見ておられましたね」
適当な岩に腰かけたトリテレイアが口火を切る。
別段、機械である彼は立ち続けていたところで疲労など無いのだが、どこか、疲れたような感覚があったのだ。
ぽつり、ぽつり。
騎士が淡々と語るのは、剣を振るう中で見た夢だ。
思い描くのは自分とは似ても似つかない、強く、優しい理想の騎士。
彼が宝物から何かを取り出し振りまけば、哀れな村の火はたちどころに消え、無残に殺められた村人は、再び得た命に仰天する。
そして、彼らを、取りこぼしもなくすべての民を背に庇う彼は、魔法の剣を掲げ、悪しき吸血鬼達に立ち向かい、斬り捨てるのだ。
そんな誰かが来ることを、夢見た。
──倒れる悪の中に、許されるはずも無い自分の姿を夢見た。
「だけど、そうでない以上、戦機の騎士として次善を尽くすのみ」
悲劇は終わった。
夢想した彼とは程遠い自分達の手によって、『おしまい』は此処に記述された。
最後の仕事は、自分達が手にした結果から逃げない事。
それが、理想に対するトリテレイアの回答だった。
「(夢想する機械、か)」
聞き手に徹したフォルターの脳裏で、トリテレイアの夢が反芻される。
子供でももう少し現実味のある想像をするだろう、まさしく夢物語。
実に幼稚、実に無駄。トリテレイアの思考は、死にゆく彼らの恐怖を一片たりとて拭えぬ、現実逃避そのものだ。
・・・・・・・・・・・
だからそれは、彼が抱くはずのないものなのだ。
機械が持つ合理性とは、まるで正反対の場所に彼は立っている。
彼をそこへ連れて行ったものは何か?
正確な計算の中に生じた、一瞬の誤作動か。
あるいは、もっとかけがえのないものが──。
「……まぁ良い、野暮な詮索は止めておこう」
無粋でしかないし、彼にも自らのことより気にしているものがあるのだ。
この、自分達しかいない『結果』を、見つめなければいけない。
「記憶に刻み、思い返すのが一番の弔いと、そう聞いた事がある」
「ええ、忘れなければ人はその者の心に生き続けると、そう語る書物を見ました」
遥か昔に滅んだ村には、遺体も完全には残っていない。
僅かに残る骨片で作れるのはちっぽけな墓だろうが、それでいい。
この機械の騎士ならば、その小さな記憶を忘れるなどしないだろうから。
「……電子演算を『心』と呼べるかは、議論の余地がありますが」
「なら、否と結論が出たら忘れていいぞ」
だから今は覚えろと。
言外に下された命令は、悪い気分ではなかった。
「分かりました……この世界の墓作りの経験は幾度か。資格無くとも『責任』を果たして来ます、先にお戻り……」
「あい分かった。なら我は適当な木切れでも拾って来る」
墓標程度にはなろうと歩き出した彼女を、トリテレイアは止められなかった。
それどころか、小さすぎる木を拾ってきた女帝が目の前に来るまで、彼は完全にフリーズしていた。
「……何を呆けている?」
立ち上がったトリテレイアは、フォルターの倍近い体躯になる。
手は届くはずも無いので、丁度良く持っていた木の棒でぺしぺしと頭を叩いてやって、ようやく騎士は再起動する。
「──いや、墓標にする木をそんな扱っ、いえ、そもそも粗末過ぎ……何故っ!?」
「質問は一つにしろ、どこまで合理性を投げ捨てる気なのだ」
騒ぎ出したトリテレイアへ、露骨に不機嫌さを顔に浮かべたフォルターが答える。
けれどそれは、殺意を孕む女帝の顔ではなく、拗ねた娘のような表情で。
彼の狼狽も、分からなくも無い。
散々骸の山を築いてきた悪鬼が自分であり、彼もそれを知っている。
それが、名すら知らない小娘や凡夫の墓づくりを手伝うと言えば、当然驚くのだろう。
でも、驚き過ぎだ。うるさい。
「~~ッ、墓標は私が拵えますので、花を頼みます!」
「折角拾ってきてやったというに……まあよい、無骨な騎士では作り得ぬ弔花を仕立ててやろう」
そういったフォルターが、今度は花を摘むべく歩いていく。
見送るトリテレイアの胸中は穏やかではない。
そろそろ付き合いも長くなってきたかと思うからこそ、彼女にはあり得ないと思っていた行動には驚くしかない。
遠目の彼女が、花と共に蔓を引きちぎる。
リースでも作るのだろうか。確かに、そういった美的センスを問われるものは彼女の方が向いているのかもしれない。
電子の頭脳から墓標のデータを引き出しつつ見るその姿は、見れば見るほど不思議な姿で。
「やはり、木組みの土台も作ろう。さっき取り上げた木切れを返せ……む」
再び戻ってきた彼女が、此方を見上げる。
しまった、手が止まってしまっていた。
だけど、彼女の口から紡がれるのは、不愉快さを滲ませた叱咤ではなく。
「おお、此処に来てから初めてだな、汝が笑うのは」
「……やはり、よく見ておられますね」
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年05月02日
宿敵
『いつかの後悔』
を撃破!
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