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いもむし大好き仙狐さん

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●仙狐さんの日常
 迷いの森の奥の奥。そこには一社の社があった。
 住んでいるのは一人の仙狐。今日も和らいだ日差しの中で配下の蟲を愛でている。
「いも右衛門は今日も皮がツヤツヤでいいねえ……。これ、いも三郎、しっぽをモフモフするでない。おや、いも之丞、お腹が空いたのかい? 済まないねえ、今日はあまり餌がないんだよ」
 妖気が滲む蟲の皮膚をさすさす、つんつんとスキンシップを取りながら様子を見て回る。
 さて、この仙狐の今の悩みは、蟲達に与える餌が少なくなってしまったこと。
 蟲達の餌、それは――。
「最近人里に噂が広まって、この森にも人が来ないねえ。……いっそ、町に行ってしまおうか。ふふふ……それが早そうだねえ」

●ミドリでウニョウニョのヤベーやつ
「蟲です……蟲が来るんです……」
 ロザリア・ムーンドロップ(月夜の雫・f00270)の表情はどんより。目に見えてテンションが低そうだ。
「すみません。今回の『悪夢』は色々強烈だったので……」
 猟兵達には差し障りのない部分だけを大まかに伝えていたが、ロザリア自身が視た予知の全貌はもっと壮絶だったものに違いない。
 ロザリアは普段持ち歩いている『ぐりもあのーと』を足元に置くと、両頬をパン、と叩いて気合を入れた。
「気を取り直していきましょう! 今回事件が起こるのは『サムライエンパイア』の世界ですね! そこのとある場所にある森の中に潜むオブリビオンの仙狐が、配下の蟲を連れて人里に降りてこようとしているんです!」
 足元に置いた『ぐりもあのーと』を拾い上げ、中に書いてきた情報を猟兵達に説明していく。
「今から向かえば仙狐が人里に降りる前に倒すことができると思うんですが、この森が厄介です。仙狐が森に何重にも幻術をかけているため、まずはそれを攻略しながら進まないといけません」
 何の策も持たずに入ってしまうと、真っ直ぐ進んでいるつもりが同じところをぐるぐる回っていたり、逆方向に戻っていたり。森の中で延々と迷ってしまうそうだ。
「幻術を攻略できたら、森の深部に入ることができるはずです。そこには仙狐の配下の蟲がうじゃうじゃですから、それを何とかして駆除してください」
 森の深部は蟲の生息域。どうあがいても遭遇は免れないので、いっそ全滅させる勢いで倒していったほうがよさそうだ。
「駆除が終われば、森の最奥にある社に辿り着けるはずですから、後は仙狐を撃破ですね。全て終われば蟲の脅威から人里が救われます! よろしくお願いします!!」
 今日のロザリアの締めは、なんだかいつもより力がこもっていた。


沙雪海都
 今の時期は寒いですねえ。虫の季節ではないと思うんですが皆様如何お過ごしでしょうか。
 沙雪海都(さゆきかいと)です。
 今回は『サムライエンパイア』での事件になります。結構世界を回ってきましたね。

●第1章でやること
 通称迷いの森、と現地では呼ばれている仙狐の幻術がかけられた森です。
 気合でも技量でも解析でもよいです。何とかして突破しましょう。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『神の座へ至る迷いの森道』

POW   :    気合で攻略する

SPD   :    技量を駆使して攻略する

WIZ   :    幻術の性質を解析して攻略する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

幻武・極
へえ、幻術がかけられた森ねえ。
幻術なんて目で見て進もうとするからかかってしまうんだよ。
こうして目をつむって、肌で感じる風の流れや実際に存在する木や岩の触覚を頼りに進めばいいのさ。


深緋・椿
【WlZ】
うう…うじゃうじゃとした虫は苦手じゃ…早々に解決せねばな

先ずは目印になる紐を5色ほど50本ほど用意して、進みながら樹に紐をくくりつけ、同じ場所に出たら色違いの紐を結わえていく。
繰り返し行って幻術の性質を調査するかの


シホ・イオア
森を抜けないとたどり着けないのか。
空から一気にーってわけにはいかないのね。

破魔で幻術を解呪できたりしないかなー?
試すだけ試してみようか。

最終手段は力技
マイ・キャッスルで前方にまっすぐな道を作りつつ突破。
作った道に沿っていけば方向感覚が狂わされても大丈夫なハズ。
この方法だと森を傷つけるからやりたくないんだけどね。


ティエル・ティエリエル
「蟲!ボクも蜘蛛とかはちょっと苦手かな!翅に蜘蛛の巣が引っかかって大変なんだ☆」

幻術の掛かった森でも動物さんは住んでいるよね?
「動物と話す」技能を使って、出会った動物さんから話を聞いて情報収集だよ!
きっと危ない場所に近づかないように、オブリビオンが餌を集めにくる場所とか知ってるかも!

それにイザとなったら【スカイステッパー】と背中の翅を羽ばたかせて森の上空に飛び出すよ!
太陽を確認して方角を再確認だよ(>ω<)


ヴィゼア・パズル
蝗害…とはまた違ったヴィジュアルになりそうだな…。さて、迷いの森で虫狩り…方角を頼りに歩く事にしよう
【WIZ】使用アドリブ絡み歓迎
幻術なら視覚や聴覚になんらかの影響を与える物質や術式を使っているのか、それとも樹々そのものを動かしているのか。
【追跡】にて注意深く観察し、社の主や蟲の痕跡を探ろう。
【爆轟】で一直線に地面へ道を作り進む。振り返り方角を確認
其れを繰り返し探索を行おうか。……しかし蟲…どんな形状なのだろうな…少し、興味が湧いてしまう。
敵へは容赦無く【二回攻撃】で100発を越える弾丸の雨を降らせようか


スピレイル・ナトゥア
「害虫駆除業者になったつもりはなかったのですが、まさか蟲型のオブリビオンさんが出てくるとは」
蟲さんの大きさがどれくらいかは知りませんが、すべてを全滅させるとなると見落としを出さないようにするのが大変そうです
ですが、私が猟兵になった目的の『みんなが楽しそうに笑う世界を見るため』を達成するためには絶対に倒さなければならない敵です
ここはひとつ気合をいれて迷いの森を攻略するとしましょう
【第六感】に任せて進み続ければ、きっとどこかに辿り着くはずです
それに、まあ、もし辿り着けなかったとしても、他の猟兵のひとたちが戦闘を開始したら、その音を頼りに深部まで辿り着けるのではないでしょうか
きっとなんとかなります!



●力を合わせて幻術に挑め!
 迷いの森。そこに一度足を踏み入れれば、決して帰ってくることができない。
 この森で人が失踪するようになってから、里では専らこの呼び名で恐れられていた。
 だが、それは一人の仙狐の仕業。解決のためにグリモア猟兵が呼びかけ、応じた者達が今、この森の中に集まっていた。
「うう……うじゃうじゃとした虫は苦手じゃ……早々に解決せねばな」
 グリモア猟兵の説明にあった言葉から光景を想像してしまい、思わず身震い。深緋・椿(深窓の紅椿・f05123)はおぼつかない足取りで進む。
「蟲! ボクも蜘蛛とかはちょっと苦手かな! 翅に蜘蛛の巣が引っかかって大変なんだ☆」
 椿の少し前を飛んでいたティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が、くるっと回って椿に同調した。
「蜘蛛の巣は妾も嫌じゃの。髪に絡むと取るのが大変じゃ……」
 種族は違えど、似たような悩みもあるものだ。
「害虫駆除業者になったつもりはなかったのですが、まさか蟲型のオブリビオンさんが出てくるとは」
 後方を歩くスピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)も蟲が気になる様子。ただ、嫌悪、忌避といった感情はなく、自身の目的である『みんなが楽しそうに笑う世界を見る』ことを実現するために、心の中に作戦の成功を誓う。
「蝗害……とはまた違ったヴィジュアルになりそうだな……」
 蟲が集まる様を思い浮かべるヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)。グリモア猟兵の話を聞く限り、配下の蟲は跳ぶタイプではなく、這うタイプ。それはそれで壮絶な光景なのだが、ヴィゼアはどこかそれを望むかのように不敵な笑みを見せていた。
「へえ、幻術がかけられた森ねえ」
「ここを抜けないとたどり着けないなんて、厄介だねー」
 先頭を歩いているのは、幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)とシホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)の二人。彼女たちは他のメンバーと違い、今いるこの森に関心を向けていた。
「空から一気にーってわけにはいかないのかな?」
 シホはふと空を見上げる。迷いの森も、天空まで続く構造物ではない。フェアリーなら飛ぶことで惑わされず進めるのではないか。そんな考えが頭をよぎった。
「あ、ボクも似たようなことを考えてたんだよ! 一緒にやってみない?」
 極とシホのやりとりが聞こえ、ティエルが後ろから提案を投げかけた。ティエル自身はいざという時の手段として考えていたが、同じく翅をもつ者なら、行きつくところも同じようだ。
「アイデアは実行してこそ価値が生まれる。成功すれば僥倖、失敗しても『空からでは突破できない』という結果が得られるわけだからな」
「なんでも思いついたら試してみないとね」
 ヴィゼアや極、それに他の仲間も同意して、試しにシホとティエルの二人が森の上空へ抜け出してみることにした。他の四人に見守られながら空高く上がっていく。
 そして、ぴょん、と森から飛び出した二人が見たものは。
「えー? こんなに広いの!?」
 シホが思わず驚愕の声を上げた。一面深緑に塗り潰された大地。そこはまるで樹木の絨毯。太陽は空に燦々と輝き、その光を受けて絨毯は所々、キラキラ光っているように見えた。
 もちろん、仙狐の社は見えるはずもなく。飛び回って探すにしても、ここまで均一な色が広がってしまうと、少しでも動けば同じところに戻ってこられないように思えた。
「これじゃあ、空から探すのは難しそうだね。でも、太陽の位置を確認できたのはよかったよ! ちゃんと方角を覚えておかないとね♪」
 ティエルがしっかりと太陽の方角を確認し、二人はゆっくりと降下して仲間の元に戻っていく。
「やっぱり無理だったよ」
「それは残念じゃったの」
「辺り一面緑ばっかり。でも、太陽の方角はわかったから、森の中を進むときに役に立つと思うよ!」
「そうですね。森に幻術がかけられていても、太陽の動きは変えられないでしょうし、道標によさそうです」
 期待があった手段ではなかったが、結果、一つ迷いの森攻略の糸口をつかんだ。
 そしてもう一つ。
「……あれ、あの木に結んであるの、何かな?」
 シホが気付く。すぐ近くの木に、赤い紐が結び付けられていた。
「あれは妾が結わえたのじゃ。ああしておけば一度通った道かどうかがわかるからの。幻術の性質を調査するのにも役立つはずじゃ」
 ほれ、と椿が見せたのは五色の紐の束。もし同じところを通るようであれば、別の色の紐を結んで何度通ったかの目印にするとのことだ。
「そろそろ幻術への対策を考えておくべきだな。私も周囲を注意深く観察するようにしよう」
「じゃあ、ボクは動物を探してみるよ。皆も、もし見つけたら教えてね♪」
 ヴィゼアとティエルも、考えてきた幻術対策を講じることにして、六人は移動を再開する。
 途中、椿は一定間隔で紐を結び、常に真っ直ぐ歩くように心がけていた。
 だが――。
「……あれ? あの木に見えるの……」
 スピレイルが指差す先に、赤い何かが見える。天然の樹木しかないこの森にある赤と言えば。
「妾が結わえた紐じゃの……ということは、同じ場所に戻ってきたということかえ?」
 近寄って確認すると、確かに紐だった。ここに丁度最初に紐を結んだ場所。ひとまず椿は予定通り、今度は青い紐を結んでいった。
「さて、ここからだ。私たちは、戻ってきたのか?」
 ヴィゼアが疑問を投げかける。自分たちがどうやって再びここに来たのか。それが幻術の性質を解き明かす鍵になるのだ。
 しばし考え込む六人。すると、
「……そうです、ティエルさん、太陽の方角を確認してきてくれませんか?」
「あ、そうだね! ボク、見てくるよ!」
 ティエルは空中をジャンプして空に舞い上がり、またすぐ降りて戻ってくる。
「太陽の方角はほとんど同じだったよ!」
「じゃあ、ボク達は、ここに最初と同じ方向からやってきた、ってことなのかな?」
「そうなるのぅ。だとすると……」
「真っ直ぐ進んでたつもりだったけど、ぐるっと回ってきちゃった、ってことだよね☆」
 シホが結論付ける。気付けばぐるり回って元通り。今、六人を襲っている幻術の性質は、同じ場所をぐるぐると回らせるもののようだ。
「このまま進んでも同じことの繰り返しになるが……」
 ヴィゼアはここまで足元を注視しながら歩いてきたが、今のところ社の主や蟲の痕跡は見つかっていない。
 蟲は森の深部にいる。ここはまだ、森の浅い場所、ということなのだろう。
「シホ、やってみたいことがあるから、試してみるよ!」
 幻術突破の一番手に、シホが名乗りを挙げた。ホバリングのように空中に留まり、ゆっくりと深呼吸。周囲に漂う力の流れを感じ取っていく。
 仲間達と歩いているときは気が付かなかったが、ここには異質な力の流れがある。触れれば火傷してしまいそうな、危険な力。仙狐が仕掛けた幻術だろう。
 シホは自身に流れる魔力を集めていく。全身から両手へ。体の前で、ろくろを回すようなイメージで手を構え、その中心に魔力を集中させる。
 後は、仙狐の力のどこに魔力をぶつけていくか。力も常に一定ではない。生じる揺らぎ、その弱い部分を叩くのだ。
「……そこだよ!」
 一瞬見えた力の減衰。そこに向けて、破魔の技術を以って魔力を弾き出した。
 二つの力の衝突により生じた虹色の光。仙狐の力とシホの魔力が衝突して発生したものだが、仲間達には突如光が落ちてきたように見えたことだろう。眩さに目を覆ったり閉じたりと皆戸惑う中、シホだけは力を込め続けて。
 バン、と強烈な破裂音と共に光が散っていく。
「……どうですか?」
「うん、多分いけたかな。これで、この幻術から抜けられると思うよ!」
「じゃあ、進んでみよう」
 六人は極の声に合わせて、森を直進して抜けていく。これまでの道をまた通って幻術通りに戻ってしまうのであれば、すぐに椿が結んだ赤い紐が見えてくるはずだ。
 だが、六人が手分けして周囲を確認しても、紐はどこにも見当たらない。
「これは……突破した、ということなのか?」
「そうみたいだね♪ シホ、ありがとう!」
「シホの力で何とかできてよかったー。一応最後の手段もあったけど、森を傷つける可能性もあったから、あまり使いたくなかったんだよね☆」
 シホとティエル、二人のフェアリーが宙をくるくる舞いながら喜びを分かち合う。
 ただ、これはまだ始まりなのだ。
「まず一つ、と言ったところだな。あのグリモア猟兵は、『仙狐は森に何重も幻術をかけている』と言っていた。私達が崩すべき幻術は、おそらくこの先も出てくるだろう」
「そうじゃの……妾はまた紐を結わえておくとするかのぅ」
 椿はこの場で新たな木に赤い紐を結んでいく。この作業、地味に見えて、幻術の性質を見抜くのになかなか有効なのだ。
 椿が紐を結び終えたところで、六人はまた進んでいく。同じように椿は等間隔で紐を結び、他の仲間は動物を探しながら、ヴィゼアは痕跡を探る。
「……あれ? あの木の上にいるの、リスじゃないかな?」
 ふと視線を上に向けた極が、木の枝の上をちょろちょろと走る動物を見つけた。六人の存在に気付いたか、その動物、リスがピタリと木の枝の上で固まって動かない。
 おそらく歓迎されているわけではない。むしろ、思わぬ侵入者に警戒しているようにも見えたが。
「よーし、ボクの出番だね♪」
 ティエルは躊躇わずリスの目の前まで飛んでいく。普通の人間であればすぐさま逃げ出されてしまうのだろうが、ティエルは体の大きさがそんなに変わらないフェアリーだ。リスは固まったまま、待ち構えているようにも見えた。
「こんにちは! ちょっとお話しようよ!」
 動物と話す技術を使い、元気に挨拶。心を開き、リスに語り掛けていく。
 下から見守る仲間達。少しばかり話し、ティエルは最後にリスに手を振って戻ってきた。
「聞いてきたよ! 『この先には進めないからここに住んでる』だって」
「この先には進めない、ですか……どういうことでしょうか?」
「わからぬのぅ……とりあえず、進んでみればいい気がするのじゃ」
「蟲については、何か言ってなかったのか?」
「それも聞いてみたけど、あの子はそういうの、見たことないって言ってたよ。ここはまだ蟲の生息域の外、ってことじゃないかな」
 森の中を着実に進んではいるはずだが、まだまだ長い、ということか。
「この先には進めない、っていうのが気になるけど……ボク達には進むしかないんだよね」
「そうですね……行きましょう」
 リスの言葉は頭の隅に置き、先へ進む。相変わらず椿は紐を結んでいたが。
「……あ! 椿が結んだ紐、見~つけた♪」
 ティエルが先のほうに飛び、結ばれた紐を掴みに行った。
「また、ぐるぐる回って戻されてるのかのぅ」
 椿は赤い紐の隣に、新たに青い紐を結んでいく。その間、ヴィゼアはじっと木の根元を見つめて。
「……いや、ここは、あのリスと別れてからすぐ結んだ場所だ。先の幻術に比べ、戻されるのが早すぎる」
 結んだ紐だけでは判断しづらかったが、ヴィゼアは痕跡を探るため、地面を注視していた。木の根元の苔の生え方を覚えていたのだ。
「なら、別の幻術、ということでしょうか?」
「そうかもしれないな。もう少し、このまま進んでみるのがいいだろう」
 新たな幻術の性質を特定するため、青い紐を結んだ状態で、六人は同じ方向に歩いていく。
 すると、すぐに赤い紐と青い紐の二つが結ばれた木が見えてきた。
「……同じだな」
 ヴィゼアが確認し、幻術の性質が見えてくる。
「ということは……先へ進んでいるように見えて、同じところに戻されている……ループしている、ということですね」
「だから『この先は進めない』なんだね! ティエルちゃんが言ってたリスの言葉の通りだね♪」
 二つ目の幻術。さて、猟兵達はどう挑むか。
「ここはボクの出番だね。幻術なんて目で見て進もうとするからかかってしまうんだよ」
 今度は極が、六人の先頭に立っておもむろに目を閉じる。目の前の物に惑わされるな――そう自分に言い聞かせて。
「皆、ボクが進むからついてきて」
 背後にいる五人に向けて、極は目を閉じたまま話しかけた。
 視覚を封じた分、触覚を研ぎ澄ませる。わずかな風の流れも感じ取れるように。
 一歩、踏み出す。ふわっとした感触が足元から伝わってきた。不思議な感触だ。さらに一歩。こちらも、なんだか空中を歩いているような、反発のない妙な感覚。
「ごめん、皆、ボクは今、歩いているのかな?」
「極ちゃんはちゃんと歩いてるよ!」
 シホの声を聞き、理解した。
「わかったよ。これは認識阻害じゃない、幻視だね。おそらくボク達は、真っ直ぐ進んでるように見えて、実は一歩も進んでいない。同じ場所でずっと足踏みをしているような状態だと思うよ」
「視覚から、他の感覚にも影響を与えることで、あたかも前に進んでいるように思わせていた、ということか」
「ならば解決策は……妾達も、目を閉じればいいということかのぅ」
「そうなるね。ボクがこのまま先導するから、皆は手をつないで目を閉じておいて」
 全員で手をつなぎ、暗闇の中を極が導く。空いたもう片方の手を伸ばし、近くの木に触れていく。見えなくとも、そこにはあったりなかったり。その真実を、触覚で手繰り寄せるのだ。
 この時、全員が目を閉じていたため誰もわからなかったが、彼らは木の幹を貫通して歩くという極めて奇妙な芸当をやってのけていた。
 もちろん、それは幻なのだが。
 自ら進むのではなく、何かを支えに体を強引に寄せていく。そんな不思議な移動を繰り返し、足元の感覚がしっかり戻ってくるのを感じた。
「……この辺で多分大丈夫だよ」
 極の声に従い、全員が光を取り戻していく。その場所は依然森の中だが、紐の目印がない場所だ。
 囚われた空間の中では、見通せば青い紐が結ばれた木が見えたはずだ。それくらい間隔が短かったように思えた。
 だが、六人で探しても、周りに紐が結ばれた木は一つも見えてこない。
「ボク達、ちゃんと幻術から抜け出せた、ってことでいいんだよね☆」
「そのようだ。だが、目を閉じていたせいで、方向が狂った可能性があるな。ティエル、太陽の位置確認を頼めるか?」
「任せて!」
 三度、ティエルは空へ往く。
「太陽は、あっちのほうにあったよ!」
 降りてきたティエルがピッと指で示す。最初の時の進行方向と太陽の位置を思い出せば、正しい方向が導けるはず――。
「角度的には、向こうのほう……あれ?」
 スピレイルは一旦方向を見定めるも、何か違和感を覚えた。変なものが見えたとか、音が聞こえたとか、そういうことではない。もっと別の、根拠のない直感がスピレイルの意識に待ったをかけていた。
「スピレイルちゃん?」
「え? あ、すみません……。私達が向かうべき方向は、こっちのような気がします」
 スピレイルの脳内警鐘が唯一鳴り響かない方向。その先を見る。どうしてその方向なのか、スピレイル自身がまだ理解できていなかったが、その方向が正解だ、と頭の奥底から湧き上がる声のようなものを信じることにした。
「なら、早く進んだ方がよさそうだね。まだ先がありそうだから、時間をかけないようにしないと」
 極が音頭を取り、六人は動く。
 さて、スピレイルの違和感の正体だが――それは時間が関係している。
 太陽は時間と共に空を移動する。そのため、太陽を頼りに方角を再確認する場合、時間経過を考慮しなければならなくなる。
 二つの幻術を突破する間に経過した時間。それによる真の道筋からのずれ。それこそが、違和感の正体。
 それに気づき、正しく道を示したのは、スピレイルの第六感だった。
 ここまでの道のり、幻術にかかった、という感覚はほとんど覚えることなくやってきた。そのため、六人は一層警戒しながら先を目指している。その最中、
「……ようやく見つけたぞ」
 ヴィゼアが足を止め、しゃがみ込んで地面の落ち葉や小石を払っていく。
「それは……何かえ?」
「何かが這った跡だな……だいぶ前だろうが、かなり大きなものが通ったんだろう。この大きさで、『這うもの』と言えば、一つしかないな」
「蟲……ですね。大きさがわかりませんでしたが、もしこれがそうだとすると……発見するのは、難しくはなさそうでしょうか」
 スピレイルもじっくり観察する。蟲の大きさについては気がかりな部分もあったので、大まかな目安となるものを発見できて、内心ほっとしていた。
「この大きさの蟲……どんな形状なのだろうな……少し、興味が湧いてきた」
 ヴィゼアはヴィゼアで、敵への興味、そして邂逅すれば免れない戦闘に向けての意欲を見せた。遭遇すれば、百発を超える弾丸の雨を降らせよう――そんなことを考えて。
 発見できた蟲の痕跡は今のところこの一つ。おそらく生息域からはぐれたものが、たまたまここを通ったのだろう、と結論付けて、この場を離れることにした。
 結んで、探して、進み続けて。森の深部に辿り着くまで、この作業は変わらない。椿が持つ紐も、真っ先に結ぶ赤色はもう残り少ない。
「あれ、シホ達、また同じところに出ちゃったのかな?」
 順調に進んでいたように見えて、気付けば敵の術中。こればかりは、どうしても回避することができていない。新たな幻術に惑わされ、同じ道に辿り着いてしまっていたようだ。
「今回のは、多分最初の時と同じような感じだよね」
「そうじゃの……もう少し、様子を見ておいたほうがよさそうじゃ」
 椿が結ぶ紐が青色に変わった。しばらく歩き、青色を結ぶ。そんな作業を何度か繰り返して。
「あ、青色の紐のところに戻ってきましたね」
 ぐるりと戻ってきたように、赤と青の紐が結ばれた木が見えた。
「最初と同じ幻術ってことなのかな? だったら、シホがもう一回『アレ』をやれば、解決だね♪」
「いや……ちょっと待ってほしい。済まないが、もう一周してもいいだろうか」
 ティエルも、そして他の仲間達も最初と同じ幻術のように思っていたが、ヴィゼアだけは別の考えを持っていた。
「妾は構わんのじゃが……」
 椿はひとまず、新しく黄色の紐を結ぶ。
「この幻術が、最初とは違うもの、ってことなのかな?」
「あくまで可能性だが……それを確信に変えるためには、もう一度、ここに戻ってくる必要がある」
「よくわかんないけど、違ってたらシホがまた破魔をやってみるから、別にいいよー」
 わかっている対処法がある、ということで他の仲間も難色を示すことはなかった。
 そしてまた、同じ場所に戻ってくる。黄色の紐も少しだけ減った。
「ヴィゼアさん、何かわかりましたか」
「ああ……この幻術は最初のものとは違う。空間自体が、歪められているんだ」
「なんじゃと?」
 ヴィゼアが告げる不可思議な事実は、他の仲間達を驚かせた。
 ヴィゼアが見ていたのは、地面の印と紐が結ばれた木との位置関係。この場所を訪れるたびに、地面の雰囲気が何となく変わっていることに気付いたヴィゼアは、黄色の紐を結んだ時に分かりやすく地面に印をつけて、もう一周した時の位置を確認したのだ。
「最初のものは『自分達が曲がるように動いていた』、今は『自分達は真っ直ぐ進んでいたが、周りが曲がっていた』ということだ。その証拠に――」
 ヴィゼアは仲間から距離を取るように歩き、
『傘すら貫く雨を与えん』
 詠唱と共に現れる、実に百発の鎌鼬属性の高気圧弾。それらを全て一つに合わせて、真正面にぶっ放した。
 一発でもそれなりの高威力。それを百発まとめ上げた超々高気圧弾は地面を激しくえぐりながら――ぎゅんと急激に曲がってどこかに消えていく。
「わ! 凄い! 曲がった!」
 シホが目をキラキラ輝かせながらヴィゼアのユーベルコード【爆轟】を堪能していたが、問題なのはまさにそこで、
「曲がったのは私の意思ではない。空間自体が歪んでいるからこそ、『真っ直ぐ飛ぶはずのものが曲がる』ということだ」
「ということは、この抉れた地面が森の深部へと続く道、ということでしょうか」
「そうなるな」
「なるほどのぅ。話を聞けばわかるのじゃが、そこに気付くとは見事の一言じゃ」
 新たな道が切り拓かれた。抉れた地面はある種舗装されているようなもので、小石や枯れ枝などを気にせず歩けるのは楽だった。
 見た目には曲がっているのだが、きっと先へ繋がっている。そう信じて進み続けた先に見えたものは――。
「ひぃ、な、なんかいるのじゃ! うじゃうじゃいるのじゃあ!!」
 木々の間に蠢く巨大な何かが複数見えて、椿は悲鳴を上げていた。
「もしかして、蟲なのかな? うーん……あれは、蜘蛛とかとはちょっと別の意味で苦手になりそうかも……」
「ここが深部、ということか……待ちわびたぞ」
「ボクの武術が通用する相手なのかな……見た目はちょっと気になるけど、楽しみだね」
「もしこの森を荒らしてるんだったら、許せないよね!」
「迷いの森は攻略できました。ここからは力と力の勝負、気合を入れていきましょう!」
 仙狐の幻術を見事に突破した猟兵達は、次なる敵へと向かっていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『腐怪の蟲』

POW   :    腐敗の瘴気
【腐敗の瘴気 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    粘着糸
【尻尾から発射する粘着糸 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    腐敗の溶解液
【口から発射する腐敗の溶解液 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を腐らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蟲
 森の深部に住む蟲は、ひどく腹を空かせていた。
 蟲の主食――それは人間だ。森に迷い込む者を仙狐が捕らえ、蟲に与える。
 生きが良いほど味も良い。故に、蟲は生きたまま人間を食すことを好んだ。

 さて、腹を空かせた蟲達の元に、人間がやってきた。
 中には人間とは違うように見える者の姿もあるような気がするが――空腹の蟲にとって、それは問題にならない。
 向かってくる者を食らう。今、蟲達の中にあるのは、腹を満たしたいという欲求だけだった。
深緋・椿
気味の悪い物はさっさと片付けるに限る…

まずは厄介な能力封じのため七星七縛符を使用し仲間を補佐
その後は2回攻撃を使用しながら札の効果が切れぬようちゅういをはらわなければな…


シホ・イオア
まずは数を減らしていきたいな
仲間との連携は重視して
シホが使うのはホーリー・レイン
「属性攻撃」「破魔」も絡めてみよう
腐敗の瘴気に対抗したり
腐った大地を浄化できるかもしれないからね

敵の攻撃は「残像」「見切り」を駆使して回避
糸も溶解液も受けたら飛べなくなりそうだし頑張って避けるよ!

輝石解放、サファイア!浄化の力をここに示せ!


スピレイル・ナトゥア
「……これはダメなやつです。ここまでガチで蟲だとは思いませんでした」
前に都会の本屋で偶然見かけた、女性がとても酷いことをされる本を思い出してしまいます
トラウマを刺激されて震えて動けなくなってしまいます
このままではきっと粘着糸に捕縛されてしまうことでしょう
仲間の猟兵たちが、かばったり介抱してくれたりすると良いのですが……
さておき、みんなのおかげで正気を取り戻しました
あれは絶対に全滅させなきゃいけないオブリビオンです
私の力では本来複数の精霊を扱うことはできませんが、時間をかけて精霊の力を暴走させることでそれを可能にします
「汚物は消毒って、こういうときに使う言葉なんだって実感しました。消えなさい!」


幻武・極
蟲がいっぱいいるね。
この蟲達が人里に降りたら大変だね。
ここできっちりと倒していこう。

ボクはバトルキャラクターズを使用して戦っていくよ。
粘着糸の攻撃はバトルキャラクターズが防ぐよ。
キミ達が捕獲したのは、ボクの残像さ。って気分だね。


ティエル・ティエリエル
「あれがオブリビオンが飼っている蟲……?うわぁ、ボクの知ってるどの虫さんよりも気持ち悪いや」
オブリビオンの蟲に嫌悪感を抱くけど、「勇気」を振り絞って駆除に乗り出すよ。

得意の【SPD】を活かした戦い方をするよ!
【スカイステッパー】と背中の翅を羽ばたかせて蟲達の頭上からのヒット&アウェイ、「空中戦」で縦横無尽に飛び回るよ♪

敵の【粘着糸】は「見切り」で回避するけど……
もし当たっちゃったら「わー、ボク、美味しくなんてないよ!」とレイピアで糸を切ってなんとか逃れようとするよ!



●迷いの森の蟲退治
 ――ぐちゅり、ぐちゅり。
 口から零れた赤い粘液の溜まりを這う蟲が、一匹、二匹、三匹……。
 猟兵達は数えてみたが、夢に出られると困るので五匹を超えたところで数えるのをやめた。
 極彩色の幼虫の体。大きさは遠目から見ても一般的な人間の身長は超えているだろうことがわかる。
「あれがオブリビオンが飼っている蟲……? うわぁ、ボクの知ってるどの虫さんよりも気持ち悪いや」
 ティエルは木の陰からそっと様子を覗いていたが、すぐに振り返ってぷるぷると震えていた。
「そうじゃのぅ……気味の悪い物はさっさと片付けるに限る……」
 椿もこの手の蟲が群れる様を見るのは得意ではない。存在だけ確認して一旦その身を引っ込めていたが、ティエルが震えながら戻ってきたのでそっと手の上に乗せて、指で頭をなでていた。
「蟲がいっぱいいるね……この蟲達が人里に降りたら大変だね。ここできっちりと倒していこう」
「しっかりみんなで連携すれば大丈夫だよ! まずは数を減らしていけるといいね♪」
 極とシホの二人はティエルと対照的で、蟲達の様子を伺いながら、平気な顔で作戦を考えている。
 そして、震えるどころか、蟲を一目見てそれからピクリとも動かないのが。
「……これはダメなやつです。ここまでガチで蟲だとは思いませんでした」
 スピレイルの顔から血の気が完全に引いて、今や外見はゾンビ状態。脳裏にある日の記憶が蘇る。
 そこは都会の『本屋』だった。都会の『本屋』は大きい。バリエーションも豊富だ。何かのジャンルに特化したような店舗もある。見つからないものは、おそらく無い。
 彼女も何らかの理由で『本屋』を訪れた。何かを探しに来たはずなのだが、そこで偶然にも見てしまった。開いてしまった。閉ざされた禁断の世界の扉を。
 その中にいたのは、今目の前に見えているような蟲だったような。スピレイルにとって強烈すぎる刺激はかえってトラウマとなり、焼き付いた像は幼い心を守るためにフィルターがかけられぼやけていた。
「おや、大丈夫かえ?」
「スピレイルちゃん、顔が青いよ!?」
 椿とシホが身を案じ、声をかける。二人の声を聞き、顔を動かす程度だが体が動いた。
「うぅ……あの蟲を見ていると、トラウマが……」
「何か辛いことでもあったのかな? ボク達もいるから、安心しなよ」
「ボクもあの蟲は見ててすっごく嫌だけど、みんなと一緒なら、戦える気がしてくるんだ。スピレイルは一人じゃないんだよ!」
 どんな状況でも平静を保っていられる極の姿は頼もしかった。ティエルも怖がっていた側ではあったが、自分は猟兵だ、という自負を胸に、勇気を振り絞って蟲に立ち向かおうとしている。
 仲間の存在は大きな心の支えとなり、スピレイルはようやく落ち着きを取り戻す。感触を確かめるように、両手を握って開いて。
 万全とはいかないまでも、蟲に向かっていけるだけの力は出るようだ。
「みんな……ありがとう」
 不安は残るが、これ以上時間を取ってしまっては仙狐を倒す機会を失うことにも繋がりかねない。スピレイルは覚悟を決める。
「……あれは絶対に全滅させなきゃいけないオブリビオンです。いきましょう!」
 五人はそれぞれ顔を見合わせた後、揃って一つ頷いて、蟲の住処に飛び込んでいった。

 その中でも、やはり一つ抜け出ていたのは極とシホだった。真っ先に蟲達の前に躍り出ると、速攻を仕掛けて先手を取る。
『輝石解放、サファイア! 邪なるものを消し飛ばし、浄化の力をここに示せ!』
 シホの周囲に、ほよん、ほよんと現れた無数の水球。時を止めて雨粒の形を映したかのような光景は、シホが鳴らす指の音と共に動き出した。抑止の力から解放された水球は弾丸の如く放射状に弾け跳び、蟲達の顔を、腹を、容赦なく打ちのめしていく。
「ボクのゲーム武術を味わってもらうよ!」
 極は二十体のゲームキャラクターを周囲に召喚。蟲達へと次々に差し向けながら、自らも突撃していく。拳を握り締めて襲い掛かる極へ噛み付こうと頭を突き出したのを、極は踏み台にして、蟲の背へと鋭い突きを叩き込んだ。
「キュウルルルゥゥゥ」
 金属をこすりつけるような耳障りな悲鳴。だが、蟲達もなかなか倒れない。五人を敵と見るや、皮膚から黒紫色の腐敗の瘴気を一斉に放ち、辺り一面を満たそうとする。
 数が数だ。戦場への回りが早い。皆が咄嗟に口元を覆う中、
「その能力は厄介じゃの。封じさせてもらうのじゃ」
 瘴気の中を輝く護符が闇を裂くように飛んでいき、蟲の体にべたりと張り付いた。そこから伸びる光の縄が蟲の体に何重にも巻き付いて、動きと共に瘴気の発生も封じていく。
 椿は手にした二枚の護符を器用に二方向へ撃ち、次々に蟲達の動きを封じていく。瘴気の発生源を抑え込んだところに、ティエルが真上から落ちてきた。
 フェアリーの飛行能力に【スカイステッパー】を合わせて瘴気が届かぬ高高度まで飛び上がり、急降下の中、『風鳴りのレイピア』を振りかざす。
「ボクが小さいからって油断してると、痛い目見るよ!」
 紫色の頭目掛けてレイピアを突き立て、深々と刺さったところですぐさま急上昇。さらに次の標的へまた急降下して複眼散らばる頭を狙う。
 蟲達の頭上の空間を有効に使ったティエルのヒット&アウェイは、得意とする素早さと磨かれた空中戦の技術が存分に生かされた。目にも留まらぬ速さで次々と蟲達を仕留める様は、地上に閃く迅雷の如し。その動きは戦場の空気を激しくかき混ぜて、瘴気を振り払っていった。
「ルルルゥゥゥ!!」
 蟲達の鳴声が変化する。それは仲間への呼び声。森に散在していた蟲達が仲間の要請に応じ、猟兵達へ殺到しようとしていた。
「数を減らそうと思ってたけど、逆に増えちゃった!?」
「ちょっとこれは、まずい展開では……?」
「そうでもないんじゃないかな? わざわざ向こうから集まってくれてるんだ。一網打尽にするチャンスだと思うよ」
「こう多いと大変じゃの……何とか札の効果は切らさぬようにする故、攻撃は皆に任せるのじゃ」
 椿は仲間の動きに合わせて護符を撒いていく。なるべく狙いを合わせるようにして、護符が効力を発揮する時間を最小限に。
 椿の護符は使いすぎると寿命を大きく削ってしまう。ただ数を撒けばいい、という代物ではないのだ。
「椿ちゃん! 向こうの蟲を纏めて狙うから、ちょっとだけお願い!」
「任せるのじゃ!」
 声を掛け合い、動きに勢いがついてきた。護符が蟲達の動きを縛り、その隙にシホが破魔の力を込めた特大の水球を撃ち込んだ。強化された水の力は撒き散らされた腐敗の溶解液ごと蟲達を溺れさせ、大地を浄化していった。
「攻撃なら私も任せて下さい! あ、でも時間が少し欲しいです!」
 スピレイルは精霊術士だが、まだ複数の精霊を扱える域には至っていない。それでも、時間をかけて力を増幅、暴走させることにより、精霊達の大いなる力を利用することができるのだ。
 なるべく戦場の隅で意識を集中させ、精霊の力を集めていく。攻めと守りが両立しているからこそ、スピレイルは自分がすべきことに集中できていた。
「シュウウ……ルルルルゥ!!」
 何やらまた蟲の鳴声が変わる。一匹の蟲が発した声で蟲達が一斉にくるんと体を丸め、尻尾から粘着糸を発射してきた。
「わわっ!? ボク、美味しくなんてないよ!」
 絡めとられてはたまらない。狙われたティエルは必死に飛んで粘着糸を避ける。蟲達の尻尾の方向から粘着糸の軌道を見切っていくが、蟲達は数で追い詰めようとする。
「おっと、寄ってたかって一人をいじめるなんて、キミ達、趣味が悪いね」
 他の蟲を相手に魔法拳で焼いて冷やして切り刻んで、と大立ち回りを見せていた極が粘着糸攻撃に気付き、召喚していたゲームキャラクターをティエルの周りに飛び込ませた。
 数には数。盾となったゲームキャラクター達は瞬く間に白い粘着糸塗れとなったが、稼いだ時間でティエルはその場を脱し、手近な蟲へ恨みも込めながら、レイピアで皮膚を突き割っていく。
 すると、ティエルを取り逃がした腹いせか、蟲達は極を次の標的として、再び粘着糸を飛ばしてきた。シャワーのように降り注ぐ粘着糸。しかし極はそれを見ても動揺することなく、瞬時にゲームキャラクターを再召喚。囮にして粘着糸を受けさせ、極は一人、間を詰める。
「残念だったね。キミ達が捕獲したのは……ボクの残像さ!」
 次の粘着糸は間に合わない。極の接近を許した蟲は顎が砕けるほどのアッパーを受けて宙を舞った。
「……よし、そろそろいけそうです!」
 スピレイルの声に、他の四人が新たな動きを見せた。シホとティエルは真上から蟲達の裏へ回り込み、水球、そしてレイピアでうまく蟲達を押し込んでいく。
 極もゲームキャラクター達と共に、打撃を加えて蟲達を強引に運んだ。
 そして、一か所へぎっちりと集められた蟲達へ、椿が護符をこの時ばかりは大盤振る舞い。四方から包むように蟲達を縛り上げて離さない。
 残る全ての蟲達で作られた巨大な蟲ボール。そこにスピレイルが『精霊印の突撃銃』を向けて。
「決めるのじゃ!」
「いきます! 汚物は消毒って、こういうときに使う言葉なんだって実感しました。消えなさい!」
 引き金を引く。
『荒れ狂う力を野に放て!』
 銃口が決壊したかのように溢れ出る三色の光が混ざり合い、奔流となって蟲ボールを飲み込んでいく。それは超高速連続攻撃が織り成す銃弾の嵐。蟲の体を溶かすようにして開けられた穴はまるで虫食いのよう。
「ルル……ルルゥ……」
 蟲の鳴声に力が無い。常に食う立場にあった蟲達は、今初めて、食われる恐怖を実感した――のかもしれない。
 蟲が光に食われた果てには、ひらりはらりと椿の護符が舞い落ちる。
「これでこの森から、蟲は消えたのかのぅ」
 この一帯の蟲は全て退治した。ここにいた蟲達が遠くの仲間も呼び集め、それらを全て倒したことで、森にいる蟲は全滅した……はずだ。
「全滅してるといいですけど……」
「きっと大丈夫だよ! もしどこかで見つけたら、その時はまたやっつけちゃえばいいよね☆」
 初めは少々恐怖する姿も見せていたティエルも、こうして蟲を倒したことが自信に繋がり、今はやる気に満ち溢れた様子で飛び回っている。
 特有の不快な鳴声も全く聞こえない。いざとなれば撃退することを心に決め、五人は満を持して仙狐がいるであろう社へと向かっていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『傾国の白仙狐』

POW   :    その精、喰ろうてやろうぞ
【全身】から【魅了の術】を放ち、【幻惑】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    出でよ我が僕、死ぬまで遊んでおやり
【自身に従属する妖狐】の霊を召喚する。これは【剣】や【電撃】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    妾の炎に焼かれて死ぬがよい
レベル×1個の【狐火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御狐・稲見之守です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怒りの仙狐
 森の蟲達が何者かに倒された。社にいる仙狐は知ることになる。
「よくも……よくも……!」
 人間は無力だ、と侮っていた。まさか、この森に乗り込んで、蟲を滅ぼす者がいようとは。
 仙狐は社の屋根に乗り、妖術を纏い、飛び立っていく。
 蟲を滅ぼした者達を殲滅するために。
深緋・椿
漸く飼い主のお出ましかの、よくあのような虫を飼えた物じゃ
野放しにしておけばまた虫たちを飼い出す可能性が高い…
悪いがここで倒させて貰うのじゃ!


基本的な動きは仲間の援護に回る、仙狐と言うだけあって攻撃は厄介故、札を使うしかないの…ちと使いすぎだが、背に腹はかえられぬからな。


シホ・イオア
聖痕が教えてくれる
犠牲になった人々の痛みと祈りを!
貴方は此処で、シホ達が倒す!

仙狐が虫を失った悲しみも分かるので
憎しみや怒りの感情では戦いません
これ以上抗う力を持たない者たちの犠牲を出さないために、です。

輝石解放、ルビー!炎よ、邪悪を焼き尽くせ!
「鎧無視攻撃」「衝撃波」で少しでもダメージを上乗せ
敵の攻撃は「残像」「見切り」で避ける
魅了には聖痕の痛みと「祈り」で対抗
仲間がかかったら「鼓舞」と「破魔」でフォローしてみる

戦闘後は社の確認
何かあったら困るし後始末もしないとね


スピレイル・ナトゥア
私のなかで、仙狐さんは蟲を使っていかがわしいことをしている破廉恥なオブリビオンさんに確定しました
そんなオブリビオンさんには世界のため、私の精神の安定のためにこの世界から消えていただくとしましょう
精霊樹の弓による遠距離からの【スナイパー】で前衛のみなさんを【援護射撃】しながら、仙狐さんの隙を伺います
「あなたがいかがわしいことを隠すために隠していた森に勝手に入ったことは謝ります。ですが、こっちは丸呑みにされるかと思いました。怖かった……怖かったんですからね!」
土の精霊さんを宿したゴーレムに仙狐さんを丸呑みにしてもらうことも考えましたが、今回は呪われし精霊の眼に【呪詛】をのせて確実に倒すとしましょう


ティエル・ティエリエル
「あー、何かやってきたよ!きっと、あいつが蟲の飼い主だね!これ以上迷惑な蟲なんて増やさせないよ!」
レイピアをびしっと突きつけて宣戦布告だよ!大量の蟲たちをやっつけて自信満々だよ☆

大量の狐火を空中で「見切り」「空中戦」で避けながら攻撃の隙をうかがうよ!
相手の注意を逸らせるようにボクは頭上からの攻撃を心がけるよ♪

むむぅ、それにしてもやっぱり蟲達の飼い主だけあって一筋縄ではいかないね!
ようし、みんなが傷ついてきたらとっておきのユーベルコード【小さな妖精の輪舞】でみんなの傷を治していくよ☆


幻武・極
キミがあの蟲達の飼主だね。
悪いけど人に危害を加えるようなものを野放しにしておけないから退治させてもらったよ。

キミも人に危害を加えるつもりなんでしょ。
キミも退治させてもらうよ。

模倣武術で相手の技をコピーさせてもらうよ。
キミほどの火力ではないけど、狐火を纏った炎の武術を受けてみな。



●妖術・狐火を破れ
 草を踏む音が鳴る。葉が擦れる音が響く。仙狐の配下の蟲を倒した猟兵達は、足早に仙狐の社へ向かっていた。
(仙狐さんは蟲を使っていかがわしいことをしている破廉恥なオブリビオンさんに確定しました)
 蟲はひどいことをする道具。そして、仙狐はそれを操り、よからぬことを日々行っている。
 先の蟲との戦いで過去の恐怖を酷く抉られた彼女の中では、『いかがわしい悪者』という仙狐のイメージが着々と組み上がっていた。
 迷いの森をひた走る五人の猟兵達に言葉はない。だが、仙狐との戦いに賭ける思いはそれぞれが胸に秘めている。
 社はまだ見えてこない。五人の足が徐に回転数を上げる――刹那、空が真紅に燃えた。
「貴様等かぁ!!」
「――!! 上だよ!!」
 枝葉を焼き散らしながら降り注ぐ狐火。上空を気にかけていたティエルがいち早く仙狐の襲撃に気付き、警告を発した。ただ降り注ぐだけかと思えば、仙狐の妖術に操られ宙を自由に漂い五人を追っていく。
「漸く飼い主のお出ましかの……!」
 椿は狐火の追撃を逃れながら、未だ宙にある仙狐へ向けて護符を放った。つむじ風に巻き上げられるかのように空へ昇り、仙狐を狙う。
「これしき……なっ!?」
 眼前に迫った護符を指で挟み取る仙狐。だが、護符の効力は触れただけで生じ、仙狐の体を捕縛する。仙狐は護符の力に抗わなければならず、猟兵達を襲う狐火は力を失って萎み消えていった。
 纏わりつく光を引きちぎると護符ごと握り潰し、仙狐は地上へと降りてくる。狐火に追われ散り散りになった猟兵達だったが、今は仙狐を取り囲むように位置していた。 
「キミがあの蟲達の飼主だね。悪いけど人に危害を加えるようなものを野放しにしておけないから退治させてもらったよ」
 極の言葉に仙狐は反応しない。ただ、金と銀に妖しく光る瞳の中には憤怒の炎が燃え上がる。
「キミも人に危害を加えるつもりなんでしょ。キミも退治させてもらうよ」
 淡々とした宣告。仙狐が何を思うかは知る由もない。ただあるのは、仙狐がこれまで人を手に掛け、逃せばその被害がさらに広がるという事実。極にとって仙狐を倒すための理由はそれだけで十分だった。
「聖痕が教えてくれる……犠牲になった人々の痛みと祈りを! 貴方は此処で、シホ達が倒す!」
 この森に迷い込み、失踪した人は皆、この仙狐と蟲の犠牲となったのだ。彼らが死の間際に何を感じ、何を思ったか。直接聞くことはできないが、この仙狐と向き合えば、その念が聖痕を通してひしひしと伝わってくる。
 一方、グリモア猟兵から伝えられた情景の一部にあった、蟲を愛で、慈しむ仙狐の姿。その心の在り方には、敵味方の垣根を越えて共感できる部分もあった。だからこそ、蟲を失った悲しみ、蟲を滅ぼした自分たちへの怒りは理解できる。
 互いの怒りを突き合わせた先にあるものは、きっと悲しい。故に、たとえ仙狐の所業がどんなに非道であろうとも、シホは仙狐に怒りを向けることはない。ただ、人々が安心して暮らせる世を願い、立ち向かう。
「よくあのような虫を飼えたものじゃ。野放しにしておけばまた虫たちを飼い出す可能性が高いのぅ……」
 椿は先の戦闘において蟲が蠢いていた様子を思い起こして眉を顰める。蟲に寵愛を注ぐ仙狐の嗜好はやはり理解しがたいものがあった。
「悪いがここで倒させて貰うのじゃ!」
 椿は追加の護符を取る。過度な使用は身を滅ぼすことに繋がるが……狐火に見たように、攻撃は強力。敵を封じ、味方を生かすには避けられない選択だった。
「やってきたね、蟲の飼い主! これ以上迷惑な蟲なんて増やさせないよ!」
 ティエルはレイピアをびしっと突きつけて仙狐に宣戦布告。この森に群れていた大量の蟲達も、そのレイピアで倒してきたのだ。その自信がティエルの態度に大きく表れ、心なしかその体も普段よりちょっぴり大きく見えた。
「オブリビオンさんには世界のため、私の精神の安定のためにこの世界から消えていただくとしましょう」
 一旦は仲間の協力で乗り越えはしたが、完全に打ち勝つためには、その根源を断ち、精神の安寧を取り戻さねばならない。それ即ち、この世界の住民の安寧も取り戻すことになるのだ。
 仙狐はじっと立ったまま、五人の決意の言葉を聞いていた。そのどれもが敵対する意思の表れ。だが、それらは仙狐にとって何の意味も持たない。
「言いたいことはそれだけか……? ならば、その志半ばに果てるがよい!」
 仙狐の体から放たれる妖力の圧が五人の体にかかっていく。仙狐の周囲、地面に走り始めた炎の渦から対空射撃のように狐火が飛び出し、一直線に襲い掛かった。
 五人とも一旦は回避するが、狐火は仙狐に操られ、執拗に追い回す。
「ぬぅ……よさぬか!」
 椿は再び護符を飛ばす。狐火は次々に射出され、戦場に弾幕が出来上がりつつあった。それを掻い潜りながらの、死角からの投擲だった――が。
「甘いわっ!」
 仙狐は狐火の一つを合わせ、護符を焼く。性質は理解した。同じ手をそのまま食うわけもない。
「動きを封じて殴ればいい……なんて簡単にはいかないよね。なら、ボクはそれを『模倣』するよ」
 戦場はすでに狐火の嵐模様。そこに極はあえて体ごと飛び込んで炎を浴びた。無論急所はしっかり守り、嵐の中、仙狐に迫る。
『キミの武術は覚えさせてもらったよ。これが幻武流『模倣武術』』
 仙狐のユーベルコードを記録した鍵型のメモリを取り、デバイスに勢いよく突き刺した。デバイスが起動し放つ光を全身に受け、極の体が読み込んでいく。
「炎には炎だよ」
 間合いを詰めている。極は狐火をあえて飛ばさず身に纏った。
「小癪な!」
 仙狐は狐火を極の背後へ誘導するが、極は軽やかに炎で叩き落しつつ、流れのままに踏み込んで掌底を仙狐の鳩尾へ打ち込んだ。胸元から大きく開いた仙狐の着物の隙間に掌が滑り込み、仙狐の体へと突き刺さる。
「ぐうぅっ……!」
 極の力に押し込まれ、仙狐の体が後ずさる。
「シホはこれで対抗だよ!」
 見切りを発揮し、残像が残るほどの素早い動きで狐火を避けていたシホが、極の攻めに合わせるようにユーベルコードを放つ。
『輝石解放、ルビー! 愛の炎よ、優雅に舞い踊れ!』
 シホが操るは紅い『愛』の炎。仙狐の狐火と似て非なる性質を持つ炎が嵐の中に突撃していった。狙いは真っ直ぐ仙狐のみ。
「小娘ぇ……っ!」
 仙狐も操る狐火を集めて迎撃の意思を見せた。操れる炎の数は仙狐のほうが倍以上。だが、針に糸を通すような精度で操るシホの炎のいくつかが仙狐の狐火をうまく掻い潜り、仙狐の体に撃ち込まれた。
 ただその体を焼くのみならず、シホの炎は質量を持って仙狐を痛めつける。狐火を操る際に放たれていた妖力の壁も突き抜ける一撃は仙狐の精神を乱し、狐火の操作精度を揺さぶっていた。仙狐まで届かなかったものも狐火を相殺したことにより、嵐の勢いがいくらか和らいでいる。
「よーし、今だね♪」
 ここが絶好の攻め時と見て、ティエルは空中で急反転。これまで飛び回りながら仙狐の攻撃を潜り抜けていたが、弱まった瞬間を狙い一気に仙狐へ迫る。
 仙狐が宙に伸ばした手をティエルは間一髪で掻い潜り、仙狐の左肩を斬り裂いた。捕まればたちまち握り潰されそうだが、やはり小さく素早いと捕らえること自体が難しい。
 それからもティエルは細かく攻撃を加えながら仙狐の頭上を飛び回り、注意を向けさせつつ仙狐の戦力を削ぎにかかる。
「羽虫の如き分際で……っ!」
 ティエルの存在を鬱陶しく感じ、仙狐は動きながら新たな狐火を放つ。短い周回軌道で仙狐を守り、更なるティエルの接近を阻んでいた。
 そこに射掛けられたのは『精霊樹の弓』の矢だ。スピレイルは極力狐火の嵐に巻き込まれないよう距離を取り、ティエルの仕掛けを援護するように矢を放っていた。
「あなたがいかがわしいことを隠すために隠していた森に勝手に入ったことは謝ります。ですが、こっちは丸呑みにされるかと思いました。怖かった……怖かったんですからね!」
「知らぬわっ!!」
 着地点のない言葉の応酬。スピレイルの必死の訴えは、仙狐のたった一言によって一蹴されてしまった。実際仙狐からしてみれば、いかがわしいという謂れのない評判も、それによってスピレイルが被った精神被害も言いがかりのようなものだ。
 スピレイルは恨みのこもった矢をちくちくと飛ばしていく。そのどれもが狐火の嵐に巻き込まれていくが、矢一本につき狐火一つを奪い取れるなら十分だ。狙撃手の技量は高く、急所を的確に狙われた仙狐は否が応でも矢を撃ち落とさなければならなかった。
「貴様っ……!」
 スピレイルの矢は思いの外目障りだった。狙撃精度もそうだが、遠い間合いにスピレイルが構えているのが厄介だ。仙狐の狐火は数も多く強力だが、それでも操れる炎の数には限りがある。他の猟兵達も迫る中、内側の攻撃密度を落とすのはリスクがあった。
 だが、仙狐も力の全てを見せてはいない。
「妾を本気にさせるとはな……!」
 仙狐の着物がにわかにはためく。妖力の突風が波紋のように広がり、晒された猟兵達は一瞬ぞくりと寒気を覚えた。だが、それに反して周囲の大気は一気に加熱される。
 仙狐は新たな狐火を生み出したが、数が尋常ではなかった。絶え間なく生み出される炎は仙狐の防御壁を厚く、攻撃の手を苛烈に変えた。
 急激な熱量の変化。ティエルが差し向けたレイピアは炎に呑まれて溶けそうになり、慌てて引っ込めて距離を置く。極が写し取った狐火も力の増幅には対応しきれず、新たに生まれた渦の流れに巻き込まれないよう退路を確保するのが精いっぱいだった。
 炎は椿、シホ、スピレイルの三人にも向けられる。椿は防御、回避に専念し、狐火をいくらか引きつけるように動いていた。シホは愛の炎で、スピレイルは矢で相殺を図るが、数に押されいくつかはその場を離れて回避する。
「妾の護符が決まればのぅ……」
 今は護符一枚通すだけの隙間も見つからない。椿は仙狐に自分の存在を意識させつつ、仲間を信じるしかなかった。
「むむぅ、それにしてもやっぱり蟲達の飼い主だけあって一筋縄ではいかないね! みんな、怪我はないかな?」
「えぇ、ギリギリ大丈夫です……けど、やっぱり親玉ですね」
「シホも大丈夫! あ、でも極ちゃんがちょっと攻撃を受けてたんじゃないかな?」
「相手の技をコピーするためだけどね。ちゃんと防御はしてるから、そんなに痛いわけじゃないよ」
「でも、一応治しておいたほうがいいよね!」
 ティエルは極の真上に飛んで、
『ボクの翅の粉には傷を癒す力があるんだよ☆ それじゃあ、いっくよー!』
 翅を羽ばたかせながらくるくると天使の輪を描くように回り、妖精の粉を振りまいた。極の体に降り掛かった粉は雪解けのように浸透し、治療効果を表していく。
「ありがとう。よし、もうひと頑張りだね」
 仙狐が本気を出してきた。裏を返せば、これを崩せば勝機が見えるということだが。
「ここまで来たら、後は総力戦ですね。何とかしてあの術を破りましょう」
「椿ちゃんの護符が決まれば一気にいけそうだね♪ シホ、頑張るよ!」
「世話をかけるのじゃ……」
「気にしなくていいよ! ここまでみんなで力を合わせてきたんだから、ボクたちなら大丈夫!」
 声を掛け合い、結束を固める五人へ、仙狐は忌々しい視線を向けた。
「何人でかかってこようと、妾の前では意味を成さぬ! ゆくぞ!」
 仙狐が作り上げる狐火の壁。そこから弾丸のように炎が飛び出す。自由自在に飛行するところは変わらず、猟兵達を追い立てる。五人は纏まって倒されぬよう散らばって、
「まずは私から……弓では一歩足りないようなので、これです!」
 スピレイルはカッと目を見開く。それは呪われた精霊の眼。念を込めるように呪詛を乗せて、
『いま真の眼を開きましょう。私は運命を視る忌み子。何人たりともこの御手からは逃れられない……!』
 狐火の壁の先、仙狐の周りに浮かぶ新たな蒼い螺旋の帯は、スピレイルにのみ視認できる仙狐の運命。その先を呪詛でじわじわと焼き払い、死の時を近づけていく。
「ぐぅぅ……貴様、何を……!」
 仙狐が目に見えて苦しみだした。スピレイルが焼き払う運命が何らかの形で仙狐に影響を及ぼしているのだろう。妖力を以ってしてもスピレイルの力を跳ね除けることができず、狐火のバランスが乱れる。
「今だね♪ 愛の炎よ、もう一度、優雅に舞い踊れ!」
 シホが歪んだ狐火の壁に向けて愛の炎を放っていく。本来なら二十個まで個別に操作できる炎を一つに纏め、砲弾のように撃ち出した。シホの体の何倍にも膨れ上がった炎は小さな狐火を撒き散らすだけでは止めきれず、仙狐の護りにガツンとぶち当たり、一つ大きな穴を開けた。
「やりおって……!」
 穴を埋めるように仙狐は炎を集めていくが、必然、他が薄くなる。それを見越して、極が同時に詰めていた。
「キミほどの火力ではないけど、狐火を纏った炎の武術を受けてみな」
 拳に模倣した狐火を宿した渾身の一撃。腰を落とし、下段から力を溜めて、炎が薄くなった部分を見極めて打ち出した。炎が炎を溶かすかの如く、極の拳は壁をずるりと抜けた。
 瑕疵ができた壁は脆く、崩れ落ちて仙狐の姿が露になる。
「今じゃ!」
 そこに椿が渾身の力で護符を仙狐に向け放った。この瞬間なら仙狐まで十分届く。
「何度やっても――」
 一直線に飛来する護符を焼こうと炎を向けた矢先、極が仙狐の視界に割り込むように動いた。
「もう一撃だよ」
 極が逆の拳に力を込める。その動きに一瞬仙狐が逡巡した。極の攻撃力は一度味わっている。護符に意識を集中しすぎてまともに受けてしまえば、大ダメージは避けられない。
 だが、その逡巡そのものが命取り。椿の護符は一投目より速く、仙狐の隙を突くには十分だった。
「しまっ――」
 護符が腕に巻き付き、そこから仙狐の体の自由を奪っていく。さらに、極が一段深くから逆の拳を見舞い、無防備の腹をしたたかに打ち据えた。
「おごっ……」
 狐火の勢いが弱まっていく。もはや仙狐を取り囲むものは壁とは言えず、炎が疎らに宙を漂う。
「貴様っ……貴様等ぁぁっっ!!」
 仙狐は護符を腕ごと残っていた炎に突っ込んで焼き、さらに狐火を操る妖力を強め、極を始め猟兵達へ飛ばす。だが、それは無理のある賭け。度重なる攻撃を受け、仙狐は猟兵達を追い切れずにいた。
「私が味わった恐怖、そっくりお返しします!」
 そこへ再び放たれるスピレイルの矢。仙狐は守れず、腕や腹に矢を浴びる。
「犠牲になった人々は、こんな気持ちを味わっていたんだよ!」
 わずかでも仙狐が追いつめられる恐怖を知り、後悔や反省の弁を述べるのであれば、多少なりとも犠牲者が報われるかもしれない。
 シホは言葉と共に愛の炎を放った。仙狐の守りは機能せず、炎は仙狐の体を衝撃で砕いていく。
 言葉で果たして何かが伝わるのか。儚い期待ではあったが、シホが何のために戦っているのかということを示すためにも、言わねばならなかった。
「ふざけるなっ! 妾が……妾がっ……!」
 足が体を支えきれず、ぐらりと仙狐の体が傾く。
「これで終わりにするのじゃ!」
 椿はさらに護符を飛ばす。大気の中で揺れながらも確実に仙狐を捉え、一枚、二枚、三枚、四枚。両腕、両足をまず確実に。そこから上半身、下半身、さらに首、頭を縛り付け、仙狐を完全な磔状態の人形へと変えた。
「トドメだよ!!」
 ティエルの姿は空にあった。レイピアを真下に向け、自身も真っ逆さまに落ちるように降下して仙狐の眉間に狙いを定める。
「やめろ……やめろおおぉぉぉぉ!!!」
 切っ先がずぶりと仙狐の眉間を突き、勢いのままにその体を縦に裂いた。中心に一本深い筋が通された仙狐は最後の叫びの形のまま、焦点の定まらない瞳はそのまま光を失っていく。
 椿の護符の効果が切れ、解放された仙狐の亡骸は地面に放り出されるように崩れ落ちていった。

 シホの提案で、五人はさらに森の奥、仙狐が拠点としていた社を訪れていた。何かあっては困る、と念入りに調べてみたが、蟲の気配などもなく、生活の痕跡も目立ったものは見当たらない。
「うーん……仙狐は本当にここで過ごしていたのでしょうか?」
「よくわからないけど、オブリビオンだし、ボク達が生きていくのとはまた違った感じなのかもね」
「じゃあここは、本当にただの社、ってことになるのかな?」
「そうじゃの……もしかしたら、社そのものは近隣の里の者が作って、あの仙狐はそれをたまたま使っていただけ、かもしれぬのぅ」
「何かあれば壊しちゃうとかも考えてたけど、それならきっと、残しておいたほうがいいよね」
 仙狐は倒し、幻術は解けたはずだ。この森が、また里の人間に愛される森に戻ることを願い、猟兵達は社をそのままに、森から帰還したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月27日


挿絵イラスト