6
邪教徒の陰謀 ~『恐怖』と『絶望』の進化論~

#UDCアース

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


0




「かっ、ぁっ……ぎぃっ!?」

 ぐちゅ、バキッ、ぐちゃぁ……薄暗く、空気の淀んだその部屋に。女の悲鳴と湿った音が響く。
 女はUDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)のエージェントだった。
 組織きっての有能なエージェントであり、人類社会の為にと日々を戦う気高き戦士であった。

「も、もうやめっ、ころして、殺してぇ……!」

 だがそんな気高き面影は、今の彼女からは感じられない。体中から体液を垂れ流し、長く美しい黒髪を振り乱して無様に赦しを……いや、慈悲を乞うその姿は、彼女の心が完全に折れてしまっている事の何よりの証だ。
 ……彼女は組織から命を受け、とある場所の調査に赴いていた。その最中、運悪く邪神の眷属に囚えられ、自ら進んで死を望む程に痛めつけられてしまったのだ。

『あらあら。随分あっさりと折れてしまいましたね?』

 心折られた女エージェントの訴えに応える事無く、彼女を見下す人影が口を開く。
 スラリと整ったスタイルの、研究者風の女であった。白衣を纏い知性を漂わせつつ、ふんわりとした慈母の如き微笑みを浮かべる優しげな女だ。
 だが、この女こそがエージェントを囚え、心を砕いた張本人。エージェントがその情報を得ようとした、邪神の眷属であるのだ。
 ……加えて言うならば、とある事件の果てに壊滅した武装勢力に邪神の秘儀を授けたと目される存在でもあるのだが。それは横に置いておこう。
 女エージェントは、今も譫言の様に慈悲を乞い続けている。ブツブツと続くその嘆願に。

『しょうがありませんねぇ。まぁ中々に良い『恐怖』と『絶望』も頂けましたし……』

 好きにしていいわよ、と女が告げれば。エージェントにわらわらと群がり始める謎の影。断末魔が響き、消えゆけば……そこに残るのは、女と謎の影ばかり。女エージェンがこの世に生きていた痕跡は、肉片の一欠片、血の一滴足りとも残らず消えたのだ。

『はい、綺麗に片付けられたわね。それじゃ、良い子は『ベッド』へ戻りなさいね?』

 微笑む女のその指示に、謎の影がゆっくりと部屋の側面に設えられた『ベッド』……培養槽へと戻っていく。その姿を見守りながら、女は思う。

(……彼らは失敗してしまいましたが、それは彼らのやり方が雑であったが為の事)

 秘儀を授けた彼らは、『恐怖』と『絶望』の果てに邪神を降臨させる事には成功した。
 だが彼らの召喚は不完全であった。得られた情報を見れば一目瞭然。彼らは『恐怖』と『絶望』以外に、余計な物をいくつも注いでしまっていたのだ。
 ……まぁ、ある程度想定できていた事ではあるのだが。こうまで想定通りだと、いっそ笑えてきてしまう。

『ですが、ワタシは違います。ワタシの『愛しい子供たち』には、余計な物はありませんからね』

 培養槽の中に戻った謎の影こと『子供たち』が、薬液に包まれ意識を落とす。
 ……細胞から育て、増やし、厳選してきた女の『子供たち』には、余計な感情など一切ない。

『『恐怖』と『絶望』。それこそが、『最強の生物』への唯一の道……』

 エージェントが今際の際に発した負の感情に部屋の空気が更に重く沈む中。女が独り浮かべた笑みは、奇妙な程に美しい。
 ……日々積み重ねてきたその成果を、世界に見せつける日はすぐそこに近づいていた。



「お集まり頂きまして、ありがとうございます」

 グリモアベースの一角に集まる猟兵達を、銀の髪のグリモア猟兵が迎え入れる。
 穏やかな微笑みが目を引く美女、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)のその表情は、重い。
 どうやら今回の一件は、中々に厄介な案件であるらしい。

「……以前、UDCアース世界のとある女学園を占拠した武装勢力の案件を、覚えている方はいらっしゃるでしょうか」

 ヴィクトリアのその言葉を聞けば、集まる猟兵達の中にも記憶を刺激される者がいるかもしれない。
 かつて、とある女学園が武装勢力により占拠された。彼らは邪教徒の一団であり、囚えた女学生を生贄に邪神の召喚を目論んだのだ。
 ……幸い、猟兵達の活躍により邪神は討たれた。事件の被害も想定された物よりも軽度で済んではいたのだが……。

「現地組織が追跡調査を行った結果、彼らに邪神召喚の秘儀を授けた存在の居場所が明らかとなりました。今回皆さんには、その討伐をお願いしたいのです」

 ヴィクトリアの話によると、目標が潜伏している地はとある無人島なのだという。
 文明圏や主要な航路からも外れた地にあるその地に潜みながら、目標はとある研究を行っているのだという。

「その研究内容の詳細は判りませんが……碌なものでない事だけは、確かでしょう」

 UDCの追跡調査でも、ヴィクトリアの予知でも、情報の詳細は掴めなかったのだという。派遣された組織のエージェントは全て消息を絶ち、予知は強い悪意と不穏な闇に覆い隠され妨害されたのだとか。
 ……情報は少ない。目的はあくまでも目標の撃破であるが、可能ならば情報収集にも当たるべきかもしれない。

「……さて、目的地までの移動手段ですが。今回、現地組織が所有する小型船舶を借り受けられましたので、そちらを使って目的地まで向かって頂く事になります」

 現地への直接の転送は、予知を妨害した物と同種の力に阻まれ望めないらしい。故に、目的地の島までは船旅となる。
 現地組織の話では、目的地の島以外に怪しげな何かは見受けられないという。つまり目的地に辿り着くまでの僅かな間ではあるが、舟遊びと洒落込む事が出来そうだ。
 とは言え、無警戒過ぎるのも考えものだ。少し位は警戒するべきかもしれない。

「目的地の島へ辿り着けば、目標の潜伏先はすぐそこです」

 島の中央にある、朽ちた廃屋。その地下に、目標が潜む研究施設があるらしい。
 だがどういうカラクリか、施設に……いや、恐らく島に接近した段階で、目標にはバレるらしい。潜入を試みたエージェント達の犠牲が、その事実を裏付けている。
 故に、島への到着後に細かい小細工は意味を為さない。真正面から施設に突入し、目標を討ち果たす方向へ注力するべきだろう。

「……現在判明している情報は、以上です」

 移動はともかく、目的地に到着後の情報は少なく、警戒すべき点はそれなりに多い。
 正直、厄介かつ面倒な任務である。だが今回の目標を野放しとすれば……敵は何をしでかすか、判らない。あの女学園の学生たちに続く第二、第三の被害者が生まれてしまうかもしれない。
 それだけは、断じて防がねばならないのだ。

「……邪悪なる意思を討ち、世界に混乱を広げぬ為に」

 皆さんの御力を、お貸し下さい。
 そう告げて、腰を折るような深い礼をして。ヴィクトリアは転送の準備に移るのだった。


月城祐一
 4月です。……花粉症との戦いは、あと一ヶ月。
 どうも、月城祐一です。マスクどこ……どこ……?(マスク難民並感)

 今回はUDCアース世界。孤島に潜む狂気を討ち果たして頂く依頼です。
 参考までに、以前の『女学園』の事件は ↓こちら↓ になります。
( https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17302 )
 読まずにご参加いただいても問題はありませんが、宜しければ是非ご一読下さい。

 さて、補足です。

 第一章は、冒険フラグメント。
 現地組織が保有する小型船舶に乗って、目的の島までの船旅を楽しんで頂きます。

 船は所謂『プレジャーボート』。基本的に猟兵達は同じ船に同乗して頂く形になります。
 現地組織の話では、目的の島以外に特に警戒するべきポイントは無いようですが……相手は邪神に連なる存在。何が起きるか判りません。
 海を見つめて警戒に勤しんでも良し、単純に船旅を楽しんでも良いでしょう。
 一応、船の操作は現地組織の者が行いますが、もしチャレンジしてみたいと思った方はプレイングにどうぞ。

 第二章、第三章については、現時点でお知らせできる情報はありません。
 章が進展次第、情報の開示を行いますのでご了承下さい。
102




第1章 冒険 『Bon voyage!』

POW   :    周囲に敵影や危険がないか警戒する。

SPD   :    進路は合ってる? 技術を駆使して航行。

WIZ   :    食事や釣りでもして水上の旅を楽しもう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

久遠・翔
アドリブ絡み歓迎


右腕を左手で掴みながら思い出し物思いに耽る

あの事件で会った女生徒達は助けられた…けど、生徒会長が犠牲になって他にも心に傷を負った子達が今も心痛めている

選択UCで邪神の影響を受けた子達は回復させた
けれど後悔や悲しみはそう簡単に癒せるもんじゃない…あれから何度か足を運んで心のケアをしたけどその影響は拭えない

俺をお姉様って言うぐらい慕う人達も、そうしないと後悔に苛まれる不安に押しつぶされるからそう呼んでいるでしょうね…(誘惑魅了しているのは本人無自覚)

それに邪神は倒せた…だけど
俺の…呪いは進行しましたね。後悔はしませんが
男の精神のまま体を淫らに変えさせられて精神も犯される
碌でもないな


御狐・稲見之守
この世界の邪神様は信徒いっぱい大人気でいいのう。ま、羨ましいとは思わんが。

それではUC式神符、こいつを周囲の警戒に当たらせながら釣りでもするかナ。もっとも、釣り針はまっすぐで魚なんて釣れたもんじゃないが。これでなにを釣るのかと云われても困る。

ま、あとは風の匂いだとか、雲の流れだとか、海の波だとか、そんなもんから予兆を嗅ぎ取るくらいがせーぜーか。一応手持ちの霊符にも番犬の用を為すよう呪をかけておくこととす。

さて、果報は寝て待てってナ。


伊美砂・アクアノート
【WIZ】
・・・嗚呼…。ヒキコモリに遠出は辛いのだヨ…。我輩、乗り物に弱いし、特に船は…船は駄目なのである…。死にかけつつ甲板に出て、日陰に座って休んでおくよ…あんまり日に焼けると肌が痛くてなー…。 一応、【第六感、視力】で海面くらいは見ておくよ。銃器は手にしておくけど、船を降りるまではあんまり戦力として期待してくれないでおくれ。 対戦車ピストルとグレネードランチャーは横に置いておき、死んだように倒れたまま時が過ぎるのを待ちます。あ、あと酔い止めください。酔い止めの薬…。


ルメリー・マレフィカールム
……そう、あの時の。
また、同じことをしようとしているなら……
事件が大きくなる前に、止めなくちゃ。

船の上では、海を観察する。
進む先に危ないものはないか。海が荒れる様子はないか。敵が潜んでいないか。
船が島に着くまで、『死者の瞳』で警戒を続ける。

もし何かあれば、すぐに他の人に伝えて一緒に対処する。
敵ならナイフで戦って、それ以外なら【走馬灯視】で他の人を補助するつもり。

何も起きないなら、それはそれでいい。
海を眺めながら、研究施設に乗り込む準備を整える。

【アドリブ・協力歓迎】





 転送された先に待機していた小型船舶に乗り込み、猟兵達は一路目的の地への船旅に挑んでいた。

「ふむふむ、雲の流れは穏やかじゃし、波も凪いでおる。風の方も……潮の香りしかせんのぅ」

 周囲を警戒するように、船首に立つのは御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)。だが今の所、彼女の感覚には怪しげな予兆は感じられなかった。番犬代わりに呪をかけた霊符の方も、沈黙を保ったままであった。

「……私の眼にも、変わったものは見つけられない」

 ボヤく様な稲見之守のその呟きに、隣に立つルメリー・マレフィカールム(黄泉歩き・f23530)が応える。
 ルメリーは、その眼の特殊性や物事の本質を見極める洞察力を武器とする猟兵だ。その武器を活かし、航路上の危険や海の荒れ具合、敵と成り得る存在が潜んでいないかとその眼を凝らし観察し、警戒を続けていたのだが……その眼であっても、この周辺の海に特に変わった所は見つけられなかった。
 ……少々拍子抜けしてしまいそうだが、何事も無いのならそれはそれで良いのだ。この先に待っている戦いの事を思えば、気力体力を消耗しそうな要素は出来る限り減らすに越したことはない。

(……そう、あの時の……)

 ルメリーの頭を過ぎる、かつての経験。武装勢力に占拠された名門女学園。尊厳を穢され、傷つけられた多くの学生たち。そしてその果ての、降臨した邪神との死闘。
 あの事件を、ルメリーはその眼で見ていた。凄惨なあの現場に、ルメリーはいたのだ。

(あの事件と、もし同じ事をしようとしているなら。事件が大きくなる前に、止めなくちゃ)

 だからこそ、ルメリーは此処にいる。あんな悲劇を、二度と起こさぬその為に。強く固まるその決意は、きっとルメリーの小さな身体に普段以上の力を与えてくれるだろう。
 ……とは言え、必要以上に力を入れるのは問題だ。

「いやはや、この世界の邪神様は信徒いっぱい大人気でいいのう」

 邪神を羨むような稲見之守のその言葉を聞けば、ルメリーのキツい視線が向くだろう。どこか苛立ちの込められたその視線は、翻ってみれば邪神に対する強い怒り、正義感の顕れだ。
 無表情かつ無感動。余人の見るルメリーという少女は確かにそう見える。だがその内心は、年齢相応に純朴な普通の少女だ。そんな普通の少女が普通に持つ正義感を、稲見之守は好ましく思うと同時に……。

「カッカッカ! ま、羨ましいとも思わんが」

 狐が人を化かすのは、自然の摂理であるが故。稲見之守は、からかってみたくも思ったのだ。
 冗談じゃよ、と笑う稲見之守がルメリーの頭をポンっと撫でれば、子供扱いされたと感じたルメリーが小さく唸る。目敏い者ならその頬が僅かに膨れている事も判るだろう。

「さて、特に問題が無いとなれば後は暇潰しじゃな。わしは釣りでもするが……ルメリー殿はどうするかえ?」
「……準備を進める」

 竿を取り出し準備を進める稲見之守のその問いに、答えたルメリーの目が何かを見る。
 ……稲見之守の竿。糸のその先の針に、返しが無いような?

「……そのまっすぐな針で、釣りを?」
「ん? あぁ……確かにこの針では、魚なんて釣れたもんじゃないのぅ」

 ルメリーのその指摘に悪戯めいた笑みを浮かべながら、稲見之守が竿を垂らす。針は海中に沈むこと無く、プラプラと水面の上を漂うばかりだ。

「さて、果報は寝て待て、ってナ?」

 ゴロリと身体を横にして、瞳を閉じる稲見之守。その姿を見て何がしたいのか理解できずに、ルメリーは首を傾げる事しか出来なかった。
 ……稲見之守のその姿は、故事に詳しい者が見れば判るかもしれない。泰然自若としたその姿は……まるで、古の時代の名軍師の様な佇まいであった。

(いやはや、良くやれるでござるなぁ……)

 そんな船首の二人組の姿を眺めつつ、伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)は口にしたカプセル薬(運転役の組織員が貰った酔い止めの薬だ)をミネラルウォーターで飲み下す。

「嗚呼……、ヒキコモリに、遠出は辛いのだヨ……」

 伊美砂は、所謂ヒキコモリである。そして彼女は、乗り物の類に弱く……特に、船という乗り物が本当にダメだった。
 そんな伊美砂にとってみたら、穏やかな海であっても揺れる小型船は最早敵地。日に弱い透き通るような白い肌も相まって、まさに地獄のような環境である。
 自然、足取りはヨロヨロと覚束ず。口から溢れるのは意味を為さない呻き声にボヤキばかりとなるのは当然の事であろう。

(まぁ、海面くらいは見ておくよ……)

 そんな状態なのだから、キャビンで横になって休んでおけば……そう思う者もいるかもしれない。だが伊美砂は、そうはしなかった。伊美砂もまた、かつて起きた女学園での事件に関わった猟兵の一人であるからだ。
 ……かの事件に置いて、伊美砂が抱いた感想を意訳するならば、『ドン引き』、この一言に尽きるだろう。中二病感満載かつ好き放題自分勝手に暴れ回った『どうしようもなく救えない連中』に抱く感情としては、妥当な所であるだろう。
 そんな連中に力を与え、唆したと見られるのが今回の討伐目標だ。前回の事件も相まって、今回の伊美砂の殺意は非常に高い。デッキスペースに持ち込んだ対戦車ピストルやグレネードランチャー等の重火器の数々がその証明であると言えた。
 とは言え、だ。

「──ぅっ、ぇ……やっぱりダメだぁ……」

 波は穏やかであるとは言え、やっぱり船は揺れるもの。酔止めの薬もまだ効かぬ状態では、高い殺意も萎れてしまう。普段は頭の中で活発に騒ぐ諸人格達も、今ばかりは総じてぐったりとした状態だ。
 ずるずると崩れる様にデッキの左舷側に身体を横たえながら、伊美砂は一人耐え忍んで薬が効き始める時を待つ。

「……」

 崩れ落ち呻く伊美砂の反対側、デッキの右舷側にいたのは久遠・翔(性別迷子・f00042)。だが、翔の意識はここには無かった。

(……あの事件で会った女生徒達は、助けられた)

 ルメリーや伊美砂と同様に、翔も先の事件に関わった猟兵だ。学園に通う生徒に扮して潜り込み、監禁されていた生徒達を、邪神に魅入られ立ち塞がった生徒達も。その身が穢される事を臆すること無く、身を挺して救い出した猟兵である。そうした活躍の果て、翔は降臨した邪神をその手で討ち取りもしたのだ。

(そうだ。確かに、邪神は倒せた。だけど……)

 邪神を討ち取った、その一撃を繰り出した右腕を抱きかかえるかのようにして左腕で掴む。
 ……あの事件は、確かに解決出来た。監禁場所に囚われていた生徒達も、邪神の力に堕ちた生徒達も、救うことが出来た。生贄の犠牲となった生徒会長も、猟兵の活躍により間一髪で死を免れたのだ。
 だが、それでも。心に傷を負った生徒達は、多い。猟兵達がどれだけその超常の力を尽くしても、魂に刻まれた後悔や悲しみ、そして悪意の爪痕はそう簡単に癒せる物ではないのだ。

(俺も、あれから何度か足を運んで心のケアをしてみたけど……その影響は、拭えない)

 例を挙げるとするならば。あの事件の最中、翔に熱の篭もった視線を送っていたあの生徒。淫欲に魂を蝕まれ、翔の慈愛により救われた生徒も。今では日常生活を送る事は出来ている。出来てはいるが。

(俺の事を、『お姉様』、だなんてさ……)

 そう、まるで『愛しいヒト』を見るかのような熱い視線を込めて、彼女たちは翔の事を慕うようになっていた。
 翔としては、慕われる事は嫌ではない。嫌では無いのだが……

(そうしないと、後悔や不安に苛まれて押し潰されるから。彼女たちは、俺の事をそう呼んでいるんでしょうね……)

 きっと、今の彼女たちにとって。翔の存在は、御伽噺の王子様の様な存在だ。
 危機的状況を、堕ちかけた自分を。身を挺して救ってくれた、王子様。そんな存在が、今も足を運んでくれるのだから依存するのは無理も無い、と。
 翔はそう考えるし、彼女たちが独り立ち出来るまでは支えてやりたいとも思うのだ。

 ──なお、実際の所は。翔が無自覚に彼女たちを誘惑し魅了しているその結果が、熱の篭もった『お姉様』呼びであるのだが。そこに関しては、深くは触れないでおこう。

(こうなった事に、後悔は無い。でも……)

 翔の物思いは、続く。
 邪神を討ち、生徒たちを救い、その結果ちょっと厄介な状況になっている現状に、後悔は無い。
 だが、その代償として。翔の身体を蝕む呪いが、進行してしまっていたのだ。
 ……翔は、元々は男性だ。だが強力な呪いの結果、精神はそのままに身体だけが女性へと変じてしまった存在である。
 その呪いを解くために、今も翔は数々の世界を渡り歩き活動しているのだが、これでは呪いを解く事など夢のまた夢だ。
 無論、あの事件を解決する為にこの力が必要だったのは間違いない。その結果、呪いが進んでしまった事にも後悔は無い。
 ……だからこそ。男の精神のまま、身体を淫らに変えさせられて、その精神までをも犯すこの呪いを。翔は嫌悪するのだ。

「……碌でもないな」

 小型船のエンジン音に、翔の呟きが呑まれて消える。
 快調に進む、船の旅。目的地までは、もう暫く時間が掛かりそうであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

彩波・いちご
【恋華荘】
前の報告は見ましたけど、厄介そうな組織ですね
施設も嫌な予感しかしません

でも今は船旅楽しみましょうか
3人で甲板に出て風に当たってのんびり
そのうち水咲さんが飲み物を取りにいき、セナさんと2人きりに
「ん、いい風ですね…」
隣り合って風に当たっていると、船が波で揺れて
「あっ…」
そのはずみで抱き合う格好に
「大丈夫ですか…?」
抱きしめたまま、顔の赤い彼女を気遣って…雰囲気に流されて唇を寄せ…
…たところに水咲さんが戻ってきて
水咲さんに問われて慌てて…そして再び船が揺れ
躓いた水咲さんに押し倒されて飲み物を被って濡れて…手と唇に柔らかい感触が(ふにゅん
逆の手にはセナさんのもっ?!

2人とも落ち着いて…?!


セナ・レッドスピア
【恋華荘】
今度の相手は、かなり危険なモノが潜んでるみたいですね…

と警戒していたら、いちごさんが私の緊張をほぐすために
声をかけてきて
それで私も、ここはひとまず一息ついていちごさんと一緒に…
な所で船が揺れて、バランスを崩してしまい…
計らずもいちごさんとギュッとしちゃう事に!?

それによって一気にどきどきでいっぱいになっちゃって
思わず顔を…唇をいちごさんに近づけて…

そこに驚く声が…水咲さん!?
でも揺れる中そんなに急いだら!?

そして転んだ水咲さんに巻き込まれて
3人一緒に倒れちゃいます

そして気が付いたらお胸にいちごさんの手が…
というかいちごさんと水咲さんが!?

そこで私より先にいただいちゃうのですかー!?


産土・水咲
【恋華荘】
危険な存在を生み出そうとしている者がいる…
これは何としても阻止しないとですね…

緊張をしてるセナさんが気になりますが
彼女にはいちごさんがついていますし
ここはリラックスの為にも、飲み物を貰ってきてあげます

…けど、戻って来たら2人がお互いの口を近づけて…!?
色々とほぐれすぎてませんか!?
問い詰めようと慌てて駆け寄って…

そこで船が揺れてバランスを崩してしまい
2人を巻き込んで転んじゃいます

そして気づいたら…
濡れる身体に、触れられた感触…

おむねにいちごさんの手が!?
しかも口にはいちごさんが…

い、いちごさん、こんな所でダメですっ…!?

と言いつつ手も唇もそのままで
セナさんの叫びを聞いちゃう事に!?





 小型船で行く大海原の旅は、順調だった。流れる風は穏やかで、潮の香りが鼻を擽れば、感じる非日常に思わず心は踊るだろう。

「んっ、いい風ですね……」

 船の後部(アフトデッキ)に、彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)の楽しげな声が響く。その隣には、緊張と警戒に身体を強張らせたセナ・レッドスピア(blood to blood・f03195)の姿があった。
 いちごとセナ、そしてもう一人の少女。【恋華荘】の三人は、報告書を通じて先の事件の顛末を把握していた。
 厄介で、危険な武装集団。そんな彼らに邪神の秘儀を授けた存在。エージェントが次々と消息を絶つ施設を思えば、今回の戦いもまた厳しい物になる事は想像に難くない。
 故に、セナが緊張に身体を強張らせるのは致し方ないのだが……。

「……ほら、セナさん」
「あっ、はい! なんですにゅっ?」

 まだ現場も見えぬ内に、こうまで肩に力を入れては出せる力も出せなくなると言うもの。
 ポンポン、と肩を叩きながらいちごがセナの名を呼べば、ハッと我に帰ってセナが振り向く。その振り返った柔らかな頬に、いちごのひとさじ指がむにゅっと刺さる。
 突然の悪戯に、目を白黒させるセナ。そんな彼女に向けて、悪戯な笑みを浮かべながらいちごが語る。

「ねっ、折角の機会なんですから。今は船旅を楽しみましょう?」

 和やかなその言葉の裏にある、いちごの真意。瞳をジッと覗き込めば、セナにはきっと判るだろう。
 いちごの悪戯も、その言葉も。自分の過剰な緊張を解す為のものである、と。

「す、すいませんっ。そうですね、折角の機会なんですから、楽しまなきゃですね!」

 そうしてその事を理解すれば、過度の緊張は波に溶ける様に消えていく。そんなセナの様子を見れば、いちごの笑みは増々輝きを増していくだろう。
 ……だが、好事魔多し、と言った所か。綺麗な形に話が収まりかけた所には、決まってトラブルが起きたりするもので……。

 ──グラッ!

「あっ……」
「ひゃあっ!?」

 穏やかに凪いでいた海が、ほんの僅かに乱れを見せる。まだまだ荒れた内には入らぬ小波の域を出ぬ程度の並であるが……油断していたいちごとセナにとっては、この程度の揺れでも体制を保つのは難しい。
 バランスを崩し、藻掻くセナ。そのまま転倒してしまうか、と言った所で。

「だ、大丈夫ですか……?」

 ぐっと伸びる、いちごの手。そのままセナの腰を捕まえるように掻き抱く。
 セナの転倒は、既のところで防がれた。ならば、腰に廻した手を外しても大丈夫なはず。
 ……だが、何故かいちごには出来なかった。ほぼ同じ目線の高さで、じっといちごの目を見るセナの瞳を見て、動けなくなってしまったのだ。

「い、いちごさん……私、わたし……」

 いちごに腰を抱かれ、密着したその瞬間。セナの胸は、早鐘を打つように高まっていた。心はどきどきでいっぱいになり、思考は白く染まって何も考えられなくなっていた。
 色白の頬を薄く染め、瞳を濡らすセナ。その瞳が閉じられ、唇を僅かに前へ突き出す仕草を見せる。
 セナが何を求めているか、いちごには理解できていた。そして理解できてしまっているからこそ、雰囲気に流されて唇を寄せ……。

「いちごさん、セナさん、大丈夫です……って色々とほぐれすぎてませんかっ!?」

 唇が触れ合うまで、あと数ミリ。そんな所で響いた叫びに、いちごとセナはハッと我に戻る。
 振り返った二人の視線の先にいたのは、今回の依頼に共に参加していたもう一人の少女、産土・水咲(泉神と混ざりし凍の巫女・f23546)だった。
 水咲は緊張するセナをリラックスさせる為にと、キャビンに飲み物を取りにいっていた。そして戻ってくれば……目の前のこの状況である。声を上げもするだろうし、問い詰めたくもなるだろう。

「とっ、とにかく! 二人とも一旦離れてっ。それから事情の説明を……」

 慌てて駆け寄る水咲。だが、混乱の余り水咲はここがどこだか忘れてしまっていたのだ。

 ──ぐらっ!

「──きゃあっ!?」

 再び波を受けて、揺れる船。そう、ここは大海原の上を揺蕩う船上の上である。そんな場所で駆け足などしてしまえばどうなるか……。

 ──どんがらばしゃーん!

 ……という音が、実際に響いた訳ではないが。バランスを崩した水咲がいちごとセナを巻き込んで、三人纏めて甲板の上を縺れあう。

(……あ、あれ? 痛くない……っていうか、柔らかい?)

 転倒してしまったならば、身体に痛みが生じるのは当然のはず。だがあるべき痛みは感じられず、訝しる様にいちごがその手を動かせば。

「ひゃっ!?」
「んっ……!」

 ふにょん、むにょん、手から伝わる水毬の様な柔らかな感触。聞こえてくるのはセナの悲鳴と水咲の零す息の音。
 恐る恐る、いちごが閉じていた瞳を開いてみれば……

(み、水咲さんっ? 逆の手には、セナさんの……っ!?)

 そこに居たのは、自分を押し倒す様な格好で覆い被さる水咲の姿。まるで触れ合うかの様に眼と眼が見つめ合い、鼻と鼻が、頬と頬が……唇と唇が、触れ合っていた。
 そんな状況に気がつけば、身体を捩らせていちごが藻掻く。だがその動きは、二人の少女に刺激を与えるばかり。

「……い、いちごさん。こんな所で、ダメですっ……!?」
「っていうかいちごさん! なんでそこで私より先にいただいちゃうのですかーっ!?」
「ちょっ、二人とも落ち着いて……!」

 途端、賑やかになる三人組。組んず解れつ、中々のトラブルっぷりである。
 ……この騒ぎの結果がどうなったかは、明記するべきでは無いだろう。
 ただエンジン音に紛れた結果、騒ぎが他の猟兵の注目を浴びる事は無かったとだけは、追記しておこう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鬼柳・雄
【アドリブ絡み歓迎】

あのクソ邪神とテロリスト共の事件の元凶が居やがると聞いちゃあ行くしかねえな。絶対潰す。
被害が少なく済んだつったって、一生物の苦痛を味わったり助けられなかった奴だっていたんだ。これ以上そんな奴を増やしてたまるかよ。

とはいえ、今から気張ってても仕方ねえか。気持ちを落ち着けるために釣りでもしながら海を眺める。釣りの心得はあるし、どうせなら大物でも釣れりゃちったぁ気も晴れるかもな。
……おいこらシア!海に飛び込むな!釣りだ釣り、素潜り漁じゃねえ!

あとは腹ごしらえでもしとくか。猟兵の中に魚捌けるっているかな。





 なんだかんだと騒ぎもあったが、船旅自体は今も順調に続き……道程のおよそ半分を過ぎた所であった。
 何人か船酔いを訴える者が出始めた為、一行は一旦この場で船を止め、短い休息を取る事にしていた。

「……」

 キャビンのシートで横になる者。外に出て潮風を浴びる者。仲間内で軽い食事や雑談に興じる者。休息時間の過ごし方は、人それぞれ。
 そんな中、鬼柳・雄(チンピラサマナー・f22507)は一人静かに竿を立て、広大な海と向き合っていた。
 いや、正確には一人では無い。彼の相棒である大悪魔『マルコシアス』も共に在るのだが、今は暇を持て余して船をぐるりと探検中であった。
 ……さて、そんなこんなで雄は今一人であった。無言のままに竿を手繰るその姿は、どこか集中している様に周囲には見える。

(……あのクソ邪神と、テロリスト共を唆しやがった元凶か)

 だが、その内面は目の前の静かに凪ぐ海とは正反対。荒れ狂う時化の海の海の如く、激しい怒りに燃えていた。
 ……雄も、先の事件で活躍を見せた猟兵だ。想定されていたより少ない被害で済んだあの結末を見届けていた一人であるのだ。

(だが、被害が少なく済んだつったって、一生物の苦痛を味わったり……助けられなかった奴だって、いた)

 そう、被害は確かに想定されていたより少なかった。救われた者も、多くいたのもまた事実だ。
 だが、その中でも。救えなかった命は、確かにある。邪神に深く魅入られて、最早元に戻る事は叶わぬその生命に。雄はその手で、解放という慈悲を与えたのだ。
 救えなかった、あの少女たち。あんな哀れで、悲しく、無惨な結末に至る命を。これ以上増やす訳には、いかないのだ。

(──絶対、潰す)

 荒れ狂う怒りを決意に変えれば、釣り竿を握るその手にも自然と力が込められる。手の中でギリィッ、と鈍く軋むその音に、雄は思わず我に帰る。

「っと、いけねぇいけねぇ……」

 そうだ、今この段階でこんなに気を張り詰めても仕方がない、と。深く深く息を吐き出し、雄の視線が改めて海へと向く。
 雄が竿を握っているのは、あくまでも気を落ち着ける為だ。釣りの心得はあるし、大物でも釣れれば儲け物。気も晴れやかになるだろうと思っての行動であった。
 なのにこんなに気を張っていては、釣れる物も釣れないという物。気を落ち着かせ、糸の先の針に意識を傾け……その先に潜む魚と対話をするかのように……。

 ──ざばーんっ!

「──って、おいこらシア! 海に飛び込むな! 釣りだ釣り! 素潜り漁じゃねえ!」

 小さな船の探検では暇を潰し切れなかったのだろう。暇を持て余した大悪魔が船尾のステップから大海原に飛び込んだその音に、雄の対話は強制終了と相成った。
 ジャバジャバと楽しそうにはしゃぐその姿。海もこうまで賑やかとなれば、もう釣果などは望めないだろう。
 とは言え、ボウズで終えるのは釣り人として情けないにも程があるという物だ。

「……ったく。おいシア、さっさと上がってこい! でないと魚が食えねぇぞ!」

 雄のその言葉を聞けば、食いしん坊な相方は慌てて船へと戻るだろう。彼女が船上に戻ってくれば、一縷の望みに賭けて雄は再び竿を振る。
 ……彼の竿が、釣果を得られたかどうか。それは本人の名誉の為、触れない事にしておこう。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロエ・アスティン
【太陽の家】
邪教集団……もう2度とあんな悲劇を起こさないためにも今度こそ完膚なきまで叩き潰すであります!

と、意気込んでいたのも船に乗る前まで
A&Wのドワーフの血を引いているせいか、
大地から離れた海の上だと気分が悪くなるのか……いや、ただの船酔いみたいであります
うぷ……サムライエンパイアの鉄甲船より揺れるであります

なんとかリバースしないように外に出て風に当たってくるであります
遠くを見ていた方がよいでありましょうか……?
監視の意味を込めてちょっと遠くを眺めていたら何か面白いものでも見つかるかもしれないでありますね

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


ミフェット・マザーグース
宇宙を渡るフネじゃなくて、星の中の海を渡るフネ
水平線までいっぱいの青、緑、水色?
ステキな景色、だけど──

【太陽の家】
事件のことを考えると、やっぱりイヤな気持ちになってゆっくりできないよね
悪ものをやっつけて、みんなが安心して遊べるようにしなきゃ

船内をきょろきょろ見て回って、気分が悪そうなクロエを見つけて

ふなよい? えーと、データベースで「情報収集」、病気じゃなくて自律神経のみだれ……治療方法、みつからない……おくすりもってない
あった!ツボ!ツボを押すとなおるって!

見張りをしながら、いつも髪の毛に擬態している触手をにょろっと伸ばして、手首の内側、足の指の付け根、耳の後ろをうにうに押すね


秋月・信子
●POW
目的地は無人島の…そうですか…わかりました
UDCアースでの重なり合う事件が起きた事件
もしそれが、屈折された鏡合わせの出来事であったら?

そんな疑念を払うかのようにデジタル双眼鏡で進路上を警戒します
えっ、覗いている物は何ですかって?
ああ、これは双眼鏡という物です
遠くにある物でもよく見える…ほら、あそこに海鳥が飛んでいるでしょ?
これで覗けば…こんなによく見える道具なんです

そんな他愛もないやり取りをして、思い直しました
ここは私が居た世界ではない
あのような場所ではないはず…でも、そうだとしたら?

え、ああ!?
クロエちゃん大丈夫?
冷たいタオルを中から取りに行くから、そこに横になっていてください!





 穏やかな波間に海鳥が嘴を差し入れる。浅い所を泳いでいた小魚を捕食しているのだろう。
 そんな光景を秋月・信子(魔弾の射手・f00732)は、バウデッキに立ちながら手に持つデジタル双眼鏡で眺めていたが……その心は、どこか上の空。

(あの時の事件と、前回の事件。重なり合う事件……)

 猟兵達が解決した、武装勢力による名門女学園の占拠事件。先日のその事件は、信子にとってはどこか既視感を覚える事件であった。
 信子が猟兵として目覚めた切っ掛けは、母校へのテロリストの襲撃だ。その事件の記憶は、今も深く信子の心に刻まれている。
 思えば、あの事件の果てに囚われた信子が連れられた先も絶海の孤島であった。今回猟兵として向かう先も、似たような環境だ。

(……まるで、屈折された鏡合わせの出来事みたい)

 偶然にしては、似すぎている二つの事件。ここまで似通ってしまえば、信子で無くともこう思うはずだ。

 ──これは、本当に偶然なのだろうか?

 無論、信子の生まれ育った世界はここでは無い。だが限りなく似通っている世界である。ならば似たような事件も起こる可能性はあるだろう。
 その事は、信子自身も良く判っている。だからこそ……信子は、迷う。偶然なのか、必然なのか、確かめる術が無い故に。
 ……信子の心は今、疑念や戸惑い、不安が作る闇の中にあったのだ。

「……コ? マコ?」
「っ! み、ミフェットちゃん? どうしたの?」

 思考の沼に嵌っていきそうな信子の意識が、少女の声に引き戻される。
 呼ばれた声と、袖を引く感触に振り返れば……そこにいたのは、同じ屋根の下で暮らすミフェット・マザーグース(沼の歌声・f09867)のその姿があった。

「マコ、それってなに?」
「ああ、これは双眼鏡と言う物で……」

 スペースシップワールドの生まれであり、天涯孤独の身の上であるミフェットにとっては、猟兵として世界を渡る先でする経験の多くは興味深い物ばかり。
 そんなミフェットが今回興味を示したのは、信子の持つ双眼鏡。興味に瞳を輝かせる妹の様な少女の表情を見れば、信子もくすりと笑みを浮かべる。

「えぇ、と……ほら、あそこに海鳥が飛んでるでしょ? これで覗けば……」
「……わぁっ!」

 今もなお食事の最中の海鳥を指差し、信子が双眼鏡をミフェットの目に当ててやれば……ミフェットの小さな口からは、感嘆の声が漏れ出るだろう。
 知識としては識っている。だけれど実際、自分の目で目の当たりにすれば、感じる感動は一層大きくなるもので。特にミフェットは素直な良い子であるからして、その感情表現も直線的だ。
 楽しげに双眼鏡を覗き込むミフェットのその姿に、信子の心に淀んでいた闇はいつの間にやら晴れていた。迷いも晴れれば視線も広がり……そうすると、また一つの事に信子が気付く。

「……あれ? クロエちゃん……?」

 信子やミフェットと共にこの小型船に乗り込んでいたもう一人の少女猟兵、クロエ・アスティン(ハーフドワーフのロリ神官戦士・f19295)の姿が見当たらぬ、という事に。
 ……きょろきょろ、と周囲を見渡す。バウデッキには、その姿は無い。キャビンで寛ぐ者達の中にもいなさそうだ。
 で、あるならば、と。手摺を掴みながら船の後部へと移動してみれば……

「ぅぷ……サムライエンパイアの鉄甲船より揺れる、でありますぅ……」

 そこにいたのは、顔を青ざめぐったりとしたクロエの姿が!
 女学園で悪逆非道の限りを尽くした邪教集団。もう二度とあんな悲劇を起こさぬ為に、今度こそ完膚無きまで叩き潰すであります! と、あんなに使命感に燃えていたクロエの変わり果てたその姿を見れば。

「く、クロエちゃんっ? 大丈夫!?」
「あぅ、信子様……不覚、であります……」

 慌てて駆け寄る信子の声に、クロエの反応はどこか鈍い。弱々しい声と、吐き気を堪えるかの様なその仕草を見れば……クロエがどういう状態かは、信子で無くとも気付くだろう。そう、クロエは明らかに船酔いしていたのである。
 ……クロエは、ドワーフの血を引く少女である。大地から離れた結果、その力の根源が云々……等という事は一切なく、単純にクロエが船の類に弱い性質であったのだろう。船の小ささも相まって、酔いの強さも中々の物である。

「マコ? ……あれ、クロエ?」
「あっ、ミフェットちゃん! 私、お薬と冷たいタオルを貰ってくるから、クロエちゃんをお願いね?」

 そんな騒ぎとなれば、当然ミフェットもすぐに気付いてやってくる。やってきたミフェットにクロエを任せ、信子は言葉通り、薬とタオルを貰ってくる為に一旦キャビンへ引き上げる。
 そうして残されたミフェットはと言えば、「ぁー……」とか「ぅぅー……」とか唸るばかりのクロエに、ちょっと困ってしまっていた。

「ふなよい? ……えーと……」

 船酔い。船の動揺によって気分が悪くなること。具体的には揺れの加速度により、身体の三半規管が刺激されることで起こる身体の諸症状の事である。
 この症状は船以外でも、航空機や列車、自動車、果ては遊園地の遊具などでも発生する症状で、総じて乗り物酔いとも称されるが……まぁそこは置くとして。

(病気じゃなくて、自律神経のみだれ……?)

 通信端末から調べてみるが、すぐ効く治療の方法は見つからない。酔止めの薬は……信子待ちだ。つまり待てばクロエの調子は良くなるはず。
 だが、しかし。目の前で「ぁぅー……」と苦しむ友達を見過ごせないのが、ミフェットという少女なのだ。

(えっと、えっと……あった!)

 更に深く調べれば、ようやくミフェットの求めた情報が目に映る。船酔いを緩和する、誰でも出来るその手段とは……

「クロエっ! ツボ! ツボを押すとなおるって!」
「ツボ、でありますかぁ……?」

 クロエの頭に陶器製の物入れのイメージが浮かぶが、然に非ず。
 ツボ。東洋医学において、気や血液の流れる道である『経絡』上にある部位の事だ。このツボと呼ばれる部位を指や針、灸などで刺激する事によって、体内の異常な部位に働きかけ、治癒効果を得られるのだという。
 このツボという概念は、実は古代インドでも似たような概念が存在している。現代でも世界的な組織の公認があったりと、その治療効果は割りとバカに出来ない物があるのだ。

「えぇ、っと。手首の内側と、足の指の付け根と、耳の後ろと……」
「ちょ、ミフェット様? 急に……ひゃあっ!?」

 そうとなれば動くが吉と、ミフェットは髪に擬態している触手をうにょりにょろにょろと伸ばして動かし、クロエの身体に纏わり付かせる。
 肌に感じるもぞもぞっとしたその感触に、クロエの喉から悲鳴が漏れる。

「それじゃ……ぎゅーっ!」
「ぉぉぅ!? こ、これは中々……ひゃんっ!?」

 が、その悲鳴は次の瞬間には何とも言えぬ声に早変わりだ。
 ……ツボを刺激されると、身体も自然と反応を返すもの。素人が触れると大抵の場合は痛みが先に立つものであるが……ミフェットのツボ押しは程よい力加減でクロエのツボを刺激出来たらしい。クロエの顔色は僅かに血の色を取り戻し、ツボ押しの効果の程は上々の様子だ。

(……水平線までいっぱいの、素敵な景色。だけど──)

 先の事件、そしてこれからの戦い。それらを思えばイヤな気持ちになってゆっくりなんて出来はしない。
 だからこそ、ミフェットは思うのだ。これから向かう先に潜む悪者……邪神の眷属をやっつけて、帰りの船こそみんなで安心して遊べるように、と。ミフェットの決意は、熱くて固い。
 一生懸命クロエのツボを押すのも、その決意の顕れだ。船酔いで調子が悪いまま戦っては、苦戦は免れないからだ。

「もういっかい、いくねっ! ぎゅぎゅーっ!」
「ぴゃぁーっ!?」

 元気になーれ、元気になーれ、と。思いを込めて、ミフェットはツボを押す。
 ……程なくして帰ってきた信子が見たものは……一仕事やり終えた顔のミフェットと、ツボ押しの刺激に翻弄されて別の意味でぐったりするクロエの姿であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『マガツアリス』

POW   :    古き神々の意志
【邪神「第零の蟻」】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
SPD   :    呪われし鉤爪
【異様に膨れた両腕の鉤爪】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    軍隊蟻の行進
いま戦っている対象に有効な【悍ましき妖虫】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。

イラスト:鋼鉄ヤロウ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 小型船舶で行く船旅は、道中特に問題も無く進んでいた。猟兵達はそれぞれに船の旅を楽しみ、時にハプニングに騒ぎ、またその胸に宿す決意を燃やして時を過ごした。
 そうして時は進めば……やがて船は、辿り着くだろう。

「──見えてきました、あの島です!」

 キャビンに響く運転役の現地組織員のその声に、猟兵達の意識が切り替わる。
 彼らの視界の先に広がるのは、小高い山を中央に頂く小さな島だ。山の周囲には樹木が生い茂り、人の暮らしの痕跡などは見当たらない。
 どこからどう見ても、取るに足らぬ小さな無人島に見える。だがこの島こそが……猟兵達が討つべき邪神の眷属が潜む島であるのだ。

「研究所と見られる廃屋は、島の……この辺りです」

 航空写真を広げると、運転役の指が島の中央、山の麓辺りを指で示す。目を凝らし良く見れば、確かに自然物とは違う加工された物の痕跡がある事が判るだろう。
 事前のグリモア猟兵の説明とも、この情報は合致する。ならばその地下に、研究所と見られる設備があるはずだ。

「今までの調査の結果、道中も特に危険なポイントなどはないようです。ですが……」

 今まで派遣されたエージェントは、島に上陸してから30分も経たずに全て連絡が途絶している、と。案内役はそう語る。
 危険なポイントは無いのに、エージェントが連絡を絶つ状況。敵の首魁は島に外敵が接近した段階でその存在を察知しているはずだというグリモア猟兵の事前説明も踏まえれば……恐らく、エージェント達は奇襲を受けて倒されたのだろう。奇襲を仕掛けたのは、首魁が差し向けた刺客で間違いないはずだ。
 今回も恐らく、猟兵達の存在は敵に察知されているはず。ならば目的地までの道中にも……敵の刺客は潜んでいると、そう考えるべきだ。

「……無事の帰還を、祈っています!」

 状況を確認すれば、猟兵たちの目に迷いはない。それぞれの装備を携えて、遂に島に足を踏み入れる。
 背から聞こえる案内役の激励の言葉に振り返る事無く、猟兵達は目的地に向けて歩みを進めるのだった。

 ====================

●第ニ章、補足

 第ニ章は、集団戦。相手は『マガツアリス』となります。

 第ニ章の成功条件は、『奇襲を仕掛けてくる敵の撃破』です。
 島へ降り立った猟兵達は、目的地である廃屋を目指し鬱蒼と茂る森の中へと突入します。
 しかしその森の中には、敵の接近を察知した黒幕が放つ刺客、『マガツアリス』が潜み、猟兵達を待ち構えています。
 そんな敵が張った網を突破し、目的地である廃屋を目指す事が、第二章の目的となります。

 森の中は視線・射線が通り難い環境であり、奇襲側に有利な環境です。
 そんな環境の中で、どうやって敵の奇襲を看破するか。そして敵を討ち倒すか。
 有利な戦況を作れる手段は、色々とあるはずです。自分に出来る最善の手段を考えてみると良いでしょう。

 目的地への道を阻む邪神の眷属。猟兵達はその妨害を払い除ける事が出来るのか。  
 皆様の熱いプレイングを、お待ちしております。

 ====================
 
伊美砂・アクアノート
【SPD 蒼溟香・氷晶夜光】
ーーー却説(さて)、そんじゃアタイは先行するぜ。アンタらも気をつけろよ?【第六感、見切り、聞き耳、忍び足、視力】で周囲に気を張りつつ、単独でメインルートを迂回する形で森に突入、速度優先で疾走していくぜ。……来ると判ってる奇襲、なんてちゃんちゃらおかしいぜ。それなら、喰い破ってやるさ…! 身にまとった毒香水を音無く周囲に漂わせ、【毒使い、暗殺、破壊工作、毒耐性】……来るなら来いよ。斜線が通らない?罠と待ち伏せがある? はッ、そんなの、空間全てを無差別に攻撃すりゃ良いだけじゃねェか。 接近されたら、全身に仕込んだ暗器で迎撃。割とマジなモードで行くよ、容赦も慈悲も無いさ。





「──却説(さて)、そんじゃアタイは先行するぜ?」

 今まさに森に突入を図ろうとする猟兵たちの機先を制するように、真っ先に動いたのは伊美砂であった。
 アンタらも気をつけろよ? と後ろに続く猟兵達へ言葉を残した伊美砂が進むルートは……廃屋へ至るメインルートと目される比較的踏み固められた道ではなく、文字通りの獣道だ。下生えが生い茂り足元を取られる様なその悪路を、持ち前の直感と観察力、そして足捌きを駆使して伊美砂は駆ける。

(来ると判ってる奇襲、なんてちゃんちゃらおかしいぜ)

 森に踏み込んだその瞬間から、自身に纏わり付くような違和感。恐らくこれは、森に潜み自身を狙う敵の悪意の顕れなのだろう。そんな悪意を鼻で笑って、伊美砂は思う。
 確かに、奇襲は厄介である。地の利を活かしつつ潜伏し、その上で最良のタイミングで攻撃を掛ければ大抵の敵を討ち倒す事は不可能ではないだろう。
 だが、しかしだ。敵がそう来ると判っているのなら。そして十分な力量を備えているのなら。迎え撃つ事は、そう難しい事ではないのだ。

(来いよ、喰い破ってやるさ──!)

 周囲に淀む悪意が、一際高まったのを伊美砂の直感が感じた……その、次の瞬間だった。
 木立の影から、茂る樹上の上から、爆ぜた土の中から。複数の邪神の眷属達が、その姿を現したのだ。
 眷属達は、まるで伊美砂を囲むかのように立ち塞がる。見た所、逃げ場など一つも無いと見える。完璧に包囲されたというその状況に……。

「──ハッ、ハハッ!」

 形の良いその唇が、禍々しく歪む。溢れた息は笑い声へと変わる。
 ……そう。この状況で、伊美砂は笑っていた。不利なこの状況にも関わらず、恐怖も、絶望も、何一つ感じる事無く、嗤っていたのだ。

「射線が通らない? 罠に待ち伏せ、完璧な包囲? そんなのはなァ……!」

 哄笑する伊美砂。その身体に纏う清涼感のある香りがふわりと舞い散り……膨れ上がり、周囲全てに広がっていく!
 【蒼溟香・氷晶夜光(ソウメイコウ・ヒョウショウヤコウ)】。伊美砂が愛用する毒香水の効果範囲を拡大させるというユーベルコードだ。その効果は万能とは程遠い限定的なそれであるが、それ故にハマった時の効力は絶大だ。裸身すらも武器へと変えるその香りが空間に広がれば……。

 ──ぐらっ……ドサッ。

 次から次へと、伊美砂を包囲していた邪神の眷属達が地に崩れ落ちる。神経を蝕まれ、地に立つことすらも出来なくなったのだ。
 ……勿論、普通の毒であれば邪神達には通じなかっただろう。だがユーベルコードにより強化され、さらに近くに味方がいない事によりその濃度を強化された事で。その効能は、眷属の持つ耐性を突破するに至ったのだ。

「……空間全てを、無差別に攻撃すりゃ良いだけの話じゃねェか。同じ空間に存在する時点で、君たちは私の術中だったんだよ」

 倒れ伏し動けぬ眷属を見下して。伊美砂の手の、暗器が閃く。その閃きが一度、二度、三度……翻る度に、邪神の眷属が無に還る。

(今回は、割りとマジなモードで行くよ)

 また一度、暗器の閃きが邪神を討つ。容赦も慈悲も無いその一閃は、今回の任務に対する伊美砂の意気込みを示すかのようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御狐・稲見之守
■同行:式神・白雪童子
ふむ、盛大に歓迎されておるようじゃ。面倒臭いナ、白雪を呼ぶか。

これより邪神の信徒共の研究所を叩く。白雪は周囲の警戒にあたれ、ワシは来た奴を片付けるゾ。前以てUC狐火をいくつか呼び出しておいて、奇襲があった際または奇襲を予見した際はそいつをぶつけることとす。防御は白雪に任せよう。

……ふむ、何故邪神が祀られるか、なァ。まあ、荒魂和魂と云えばいいか。そいつに力があるなら神でもなんでもおだててご機嫌とって、あわよくばその力を使ってやろうとヒトは思うんじゃよ。


式神・白雪童子
■同行:御狐・稲見之守
式神・白雪童子、ただ今参上しました。事情は承知のこと、主命に尽力いたします。

それではUC式神符二式を使い周囲に式神の『目』を張り、[オーラ防御]…霊符の防陣で稲見様と僕を囲い警戒します。奇襲を試みる敵がいれば、稲見様に知らせて迎撃の準備です。と云っても、稲見様自ら片付けると仰られてるので僕は周囲の警戒と防御に専念しています。

……あの、稲見様。どうして「邪」と冠するカミであるにも関わらず、ヒトはそれを祀るのでしょう?





 先行して森に踏み込んだ猟兵のその背を見送りながら、稲見之守の口からは小さな嘆息が漏れる。
 呪詛の取り扱いに長けた稲見之守には、この森に満ちる呪詛、その濃さが見えていた。その呪詛が猟兵の到来を今か今かと待ち構えるかのように蠢くその様も、見えていたのだ。

「ふむ、盛大に歓迎されておるようじゃ」

 再び溢れる嘆息。森に脚を踏み入れて暫く進めば、その嘆息は増々大きな物となる。
 ……感じる所、森に潜む輩のその能力はそれ程の脅威とは思えない。この程度であれば、稲見之守一人でも森を抜ける事は容易いだろう。
 だがその為に色々と気を回すのは……正直な所、『面倒臭いナ』、と言った感じである。

「……うむ、白雪を呼ぶか」

 バサッ、と。楓の描かれた扇子を広げ、口元を隠す。鼻を擽る香木の香りを楽しみながら、口の中で呪いを紡げば……。

「──式神、白雪童子。ただ今参上しました」

 稲見之守の眼前に、地に膝を突き臣下の礼を取る一人の人影が現れる。
 幼い少年の様な風貌を持つその者の名は、式神・白雪童子(式狐・f12020)。稲見之守に付き従う式神である。

「これより、邪神の信徒共の研究所を叩く。白雪は周囲の警戒に当たれ」
「承知いたしました。主命に尽力いたします」

 下された主命は、周囲の警戒。その命を果たす事こそが式神足る者の務めであると。

「──僕の目となり、耳となれ……!」

 立ち上がった白雪童子が霊符を広げて五芒を切れば、符に魂が吹き込まれて白雪童子の意に従い動き出す。目となり耳となり、そして時には主を守る盾ともなるその術であれば、周囲を警戒するには十分だ。
 そうして準備が整えば、二人は地の下生えを踏み締めながら、ゆったりとした足取りで歩みを進め……それ程時を置かずして、その時は来た。

「……ッ、稲見様」

 前方を警戒していた式神符の反応が途絶えた、その瞬間。白雪童子の上げたその声は、緊迫の色に満ちていた。
 偵察に使う式神符には、戦闘能力は存在しない。とは言え、接敵してから反応が途絶するまでの間はほんの一瞬。下手をすれば、落とされた事に気づかなかった可能性すらある程の速攻だ。
 敵は、中々にやるのではないか。そう判断しつつの白雪童子のその声であったが……振り返って彼が見た主のその表情は、常と変わらぬ余裕の表情のままである。

「……下がっておれ、白雪」

 扇子で口元を隠したままの主のその命に、白雪童子が一歩退く。
 稲見之守にも、近づきつつある敵の存在は分かっていた。白雪童子の式神符が消えたその瞬間、森に満ちる呪詛が不自然に揺らめき、眷属の存在を稲見之守に知らせていたのだ。
 ……距離は、近い。もうそこの茂みの向こうにいるはずだ。あと、3秒、2秒、1秒……。

 ──ガサッ……ゴウッ!!

 飛び出してきた影が、二つ。この世の物とは思えぬ奇怪な姿の昆虫と、その後ろから飛び出してきた邪神の眷属。
 だが、その二つの影が稲見之守と白雪童子に飛び掛かる事は出来なかった。茂みを飛び出した、その瞬間……稲見之守が喚び出した狐火が叩き付けられ、その身体を炎で包み込んだのだ。
 奇襲がいくら厄介とは言え、その攻撃のタイミングを知ることが出来れば迎撃は容易い。稲見之守と白雪童子、二人の二重の警戒により、そのタイミングをほぼ完璧な形で把握出来たが故の結果であった。
 燃え上がる、邪神の眷属達。その姿はあまりに不気味であり、また哀れであり……だからこそ、白雪童子の頭に、疑問が過ぎる。

「……あの、稲見様。どうして「邪」と冠するカミであっても、ヒトはそれを祀るのでしょう?」

 ……白雪童子の精神性は、その幼い外見と比するかのように幼い。見た目同様に子供っぽく、純粋である。
 だからこそ、白雪童子には判らない。邪悪であり、悪辣であり、理解出来ぬ存在である『邪神』と呼ばれる者達を、信奉するヒトがいるのか、と。

「……ふむ、何故邪神が祀られるか、なァ」

 そんな式神の発した疑問に、稲見之守の目が細まる。
 ……荒魂と和魂、という言葉がある。深い解説は省くが、古来より多くの人々は荒魂をおだてご機嫌を取り、和魂として昇華させてその加護……ご利益を頂いてきた。
 神道的なその宗教観が、邪神に通じるかは定かではない。直接その魂を掌握されたり、遠回しな方法で思考を誘導されたり……色々と、あるだろう。
 だが、多くの場合。この世界の邪神の信仰者の多くは信仰心で邪神を奉じている訳ではない。

「……奴らはな、あわよくば、その力を使ってやろうと、そう思っておるんじゃよ」

 まぁ、そんな強欲者の末路は大体決まっておるのじゃがな、と。口には出さず、稲見之守は思う。
 ……『神』と呼ばれる存在のその力は、只人の身では図りし得ぬ程強い物。そんな物を制御し、使おうなどと……思い上がりも甚だしい。

(どんな形になるにせよ。黒幕とやらの末路は、碌なものにはならんじゃろ)

 邪神の眷属を焦がす火は、少しずつその勢いを減じていく。その炎が完全に消えてしまえば、そこに残る物は影一つ無いだろう。
 扇子越しに消え行く炎を見つめながら、稲見之守はくつくつと喉の奥で嗤うのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鬼柳・雄
※アドリブ絡み歓迎

着いたか。エージェントがここに来てすぐ連絡絶ってるのは奇襲されたから。しかも連中は近づいた時点で気づいてる、と。

じゃあここは新兵器”ギガントランチャー”を一発と言わず連射で10発ぐらい森の中に撃ち込むか。シア、お前も併せて極大消滅波ぶっ放せ。(「先制攻撃」「破壊工作」「制圧射撃」「戦闘知識」)

奇襲するってことは待ち構えてんだろ。まとめて吹っ飛ばしてやる。それに派手に動いて陽動になれば、それはそれで他の奴らの助けになるかもしれねえ。

どうせここに民間人はいねーんだ。エージェントが居るとしても研究所だろうし、派手に行くぜ!

「アリスってーかアリじゃねえか。邪神ジョークかよ」





「よ、っと……ぉ!」

 次々に森の中へ突入していく僚友達を尻目に、雄はその肩に担いだ重い荷物を地に降ろす。梱包を解き、中から取り出したのは……無骨で巨大な筒が一挺。
 隣に立つ相棒、大悪魔マルコシアスが興味深く見守る中、取り出した筒を再び肩に担ぎ上げる。

(……組織のエージェント連中の連絡がすぐ途絶えるのは、奇襲を受けたから。で、今回も連中は俺たちが島に乗り込んだ事には気付いてる、と)

 事前のグリモア猟兵の説明、そして先程の組織員からの状況説明。得られた情報の確度を、雄は疑わない。
 敵はそれこそ、手薬煉を引いて侵入者が踏み込むのを待ち構えている事だろう。
 その網を食い破る事は、猟兵である自分と強大な力を持つ大悪魔の少女であるならば難しい事では無いはずだ。
 だが、それは些か面倒だ。厄介な奇襲に心を砕き、心身共に消耗するのは御免被りたい。本番の戦いは、この後に控えているのだから。
 ……では、どうやって消耗を抑え込むべきか?

「うっし……それじゃ、シア。お前も併せろよ?」

 肩に大筒……『ロケットランチャー』を構えつつ、隣に立つ相棒に声を掛ける。
 その声を聞けば、相棒の鼻からふんす! と鼻息が漏れる。どうやらやる気十分なご様子だ。

「よーし……ぶっ放せ、シア!」

 ──ドッドッババババババババッッ!!!

 雄の号令が響けば、一斉に放たれる破壊の力。榴弾が、魔力の洪水が、次から次へと森の中へと叩き込まれ……炸裂し、粉砕していく。

「いいぜっ、その調子だ! 待ち構えてる敵ごと、まとめてふっ飛ばしてやれ!!」

 そう『どうやって消耗を抑えつつ、本番の戦いへ望むのか』。その問いに対する雄の答えが、コレである。
 すなわち、敵が潜む森ごと吹っ飛ばすという、実に強引な力技であった。
 ……一見すると、策も何も無い、力任せなこの行動に見える。だが森に潜伏し待ち構える敵に対し一方的に攻撃が出来るということ、隠れ潜む敵を、その土台ごと粉砕出来るということ、そしてこうまで派手に動けば、その行動自体が陽動となって他の猟兵に利する可能性があること……実はかなり理に適った行動であるのだ。
 唯一心配する事があるとするならば、先行する猟兵への誤爆や民間人がいる可能性だが……民間人がいない事は分かり切っているし、猟兵への誤爆も予め撃ち込む範囲を周知した上でのこと。
 その辺りに、抜かりはないのだ。

「さぁ、派手に行くぜ!」

 無限に弾丸が装填される新兵器を撃ち放ちまくりながら、テンションも高く雄が吠える。
 そんな彼とその相棒の一方的な猛爆の前に、アリの特徴を持つ邪神の眷属は為す術もなく撃ち砕かれる。
 ……無人島に響く爆音は、森を進む猟兵達の大きな助けとなる事だろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

久遠・翔
アドリブ絡み歓迎


選択UCを起動させ先行させます
森の中を廃屋まで一直線に進みます…と、いうか俺これでも戦闘スタイル暗殺者なんで、どこにどんな風に罠を仕掛けるのが最良か手に取るようにわかりますしね?
それにUCでどこに潜伏しているかも丸わかり…なら逆に利用しようかな?
【目立たない・地形の利用・迷彩】などで風景に溶け込み気配を消す
【忍び足・偵察・視力】で足音消しつつ相手の気配を察知

ある程度進むとわざと影の追跡者に音を出させて数テンポずらして先行させ一気に加速
相手が慌てて奇襲を仕掛けてもそこには誰も居らず抜けられたと影の追跡者を向けば俺に背を向ける事に
【暗殺・2回攻撃・早業】で急所を的確に刺し進みます


ルメリー・マレフィカールム
視界が悪い場所は、少し苦手。
でも、戦えないわけじゃない。やれることをやって迎え撃つ。

移動中は【走馬灯視】で十分な観察時間を確保しながら周囲を警戒する。
足元や樹間の罠、不自然な地面の盛り上がりや木の揺れ、その位置関係。
そこから奇襲の位置や瞬間を予想して、反撃を合わせて当てる。

倒した後はすぐに動かないで、もう一度周りを見る。
少し待って何もなければ、奇襲前と同じように廃屋に向かって進む。

……時間はかかるけど、私ならこれが確実。
怪我を負わないように進んで、廃屋に辿り着くまで体力を温存する。

【アドリブ・協力歓迎】





「ルメリーさん、大丈夫っすか?」
「ん、大丈夫……」

 遠方から響く、稲妻の様な爆音。その音を背に受けて、翔とルメリーの二人が森を進む。
 かつての依頼でも顔を合わせたことがある二人が今回も顔を合わせたのは、偶然だった。だがその偶然は、偶然故に最善の形に転がっていた。

(俺、これでも戦闘スタイル暗殺者なんで、どこにどんな風に罠を仕掛けるのが最良か、手に取るように分かりますしね?)

 元々、様々な遺跡の調査を生業としていた翔である。そんな経歴を持つ翔にとっては、斥候関連の技能はお手の物だ。数歩前を行くユーベルコード製の影のヒトガタの特性も合わせれば、敵の奇襲を察知するのは難しくない。あまつさえ、奇襲を逆手にとって攻勢に出る事も不可能では無いだろう。

(……視界が悪い場所は、少し苦手)

 反面、この環境に梃子摺っているのはルメリーだ。その『瞳』こそが最大の武器であるルメリーにとって、視線が通らぬこの環境は自身の力を活かせる環境ではないのだ。
 ……だからと言って、ルメリーが翔の脚を引っ張っている、という訳ではない。

(止まって。あの木の根本……)
(……っすね)

 小さな、だが鋭いルメリーの囁きを耳に拾ったのは、翔の耳のみ。その声に答えつつ足を止め、指摘された所へ翔が視線を向ければ……ほんの僅かな土の盛り上がりに気が付くだろう。
 ……そう。ルメリーの『瞳』は、確かにその力を十全には発揮できてはいない。だが逆に言えば、目に映る範囲こそ狭いがその範囲内であれば……ルメリーの類稀な洞察力は、常と同じ様に機能するのだ。
 翔の知識と勘、ルメリーの洞察力。二人の持つ武器が合わされば……潜む敵のその居処を暴く事など、造作もない事。

(……行けッ!)

 影に向けて命じる様に念じれば、主の意を受けて影が疾走る。質量を持つ影の追跡者が地を蹴れば、人の耳には聞こえぬ程の衝撃が地中に響き……。

 ──ゴバァッ!!

 その衝撃を感じ取り、翔とルメリーが目星を付けたポイント、地中に潜んでいた邪神の眷属が姿を晒す。
 飛び出た勢いをそのままに、眷属が喚び出すのは異形の蟲だ。呼び出された蟲は地を蹴り迫る敵を貪るべくその翅を動かし翔ぶが……

『……!?』

 直後、困惑した表情を浮かべる邪神。迫りつつあった標的のその姿が、視界の内から消えていたからだ。
 まさか、抜けられた? 慌てて振り向いたその先には、確かに影のヒトガタのその姿。改めて狙いを定めて蟲をけしかけようとした、その瞬間だった。

「──シッ!」

 鋭い呼気と共に、翔が一息にその距離を詰め……邪神の背から、鋭いその刃を突き入れる!
 翔の刺突は人の身体で言う最大の急所、心臓の位置を的確に貫いていた。普通であればその一撃で、敵を始末するには事足りる。
 だが、敵は邪神。只のヒトとは違う生き物だ。鋭く刃を引き抜くと、油断する事なく更に一撃。首を狩るように横薙ぎに振るわれた一閃は、違うこと無くその首を断ち切った。
 ……邪神がその姿を露わとする、その瞬間。翔は影に命じて、その動きを加速させていた。その意を受けて加速した影は、一瞬で邪神が敷いた警戒の網を潜り抜け、突破したのだ。
 そうなれば、邪神は当然警戒を突破された事に気付いてすぐに後ろを振り向くだろう。そうして無警戒なまま剥き出しとなった背中を、翔は一息で刺し穿ったのだ。

「……ふぅ」
「お疲れ様。ここには他に敵はいないみたい」

 消え行く邪神のその姿に、息を零す翔。その活躍を労うルメリーの目には、言葉とは裏腹な強い警戒の色が途切れない。

「……時間はかかるけど、確実に。やれることをやって、前に進もう」
「そうっすね、少しでも、体力は温存しないと……」

 ここは敵地。警戒はいくらしてもしたり無い程だ。
 出来る限り戦闘は避けつつ、戦闘が不可避となった際には最小限で。
 本番となる戦いは、まだ先だ。警戒を強めながら進む二人は……その目論見通り、最小限の消耗で廃屋への道を踏破する事に成功するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

彩波・いちご
【恋華荘】
奇襲対策…さて、どうしましょう?
「え、セナさん、本気ですか…?」
話を聞いて思わず真顔
それくらいはできますけども…
ともあれセナさんの案に乗って、私たち自身に罠を仕掛けてみましょう
【異界の浸食】で呼び出したスライムを、2人の服の内に潜ませ、自動で動くトラップに仕立てます
もちろん私の服の中にも

辺りを注視しながら慎重に進みましょう
もしこちらが気付かなくても、攻撃されそうにな他tら潜ませたスライムが自動で迎撃し、敵を溶かし喰らってくれるはずです

やがて敵が現れ…狙い通りいけましたか
なら、奇襲失敗した敵をスライムで追撃させます

なんとかなりました、ね…って、2人とも、スライムで服がっ?!(真っ赤


産土・水咲
【恋華荘】
敵の探知を避けることはできない…
でも奇襲を察知して対策ができるなら
しっかり対策して、乗り越えていきましょうっ!

…って、セナさん!?
いくら必要だからって、それは流石に大変なことになっちゃう予感が!?

でも私も自分の能力と合わせられそうだったので
私も恥ずかしくなりながらも同じようにしてもらいます

でもやっぱり身体に触れるスライムが…
色んな気持ちを沸かせながらもじもじしちゃいます

そして、廃屋へ向かう最中、敵の奇襲が!
咄嗟に水氷転身で身体を水に変え回避!
そこにいちごさんのスライムが迎撃をしたら
私もすかさず氷に変化し、同時攻撃を仕掛けます!

敵の対処が上手くいったら元に戻り…
服が戻ってません!?


セナ・レッドスピア
【恋華荘】
奇襲をもくろむ相手…
来ること自体は分かっていても
どこから、そしてどんなタイミングで来るかが分からないですし
常に備えないとですね…

そこで、奇襲への対策として、いちごさんにお願いして
スライムを召喚してもらい
私の服の内側にこっそり仕込んでもらいます

流石にいちごさんに驚かれちゃいますけど
(顔を赤くしながらも)本気ですっ、と伝えて…

スライムの感触に、びくん、ってしちゃうかもですけど
そういう反応をあえて我慢せずにしちゃって敵を誘い
襲撃してきたらスライムが迎撃!

そこへ私が血槍や「血は血へ・暴喰者形態」で追撃していきます!

…流石に今回はスライムが
暴走したり、服を溶かしたりはしない…ですよね?





 はー、はー、と。荒れた息が、森に響く。その息の主は、【恋華荘】の三人組だった。

「っ、ふー……ここまで、は、順調に……んっ」

 いちごのその呟きの通り、ここまでは順調だった。他の猟兵の陽動の甲斐もあってか、三人は邪神の眷属による襲撃を免れていたのだ。
 とは言え、まだ目的地の廃屋への道はまだ途上。まだまだ気を緩める訳にはいかないのだが……何故だか三人とも妙に頬が紅潮し、漏れる息は妙に艶めかしい。

「んんっ!? ……せ、セナさん! やっぱりコレは、大変なことになっちゃってる気が……!?」
「で、でもこれが奇襲対策には有効でしたし……ぁんっ!?」

 いちごの背に続く水咲とセナのその声も、明らかに何かを『感じている』様に見える。
 その理由は、セナの言うところの『奇襲対策』にあった。

(ま、まさか服の中にスライムを仕掛けていくなんて……)

 その策とは、三人の服の中へいちごが喚び出したスライムを仕込むという物。
 敵の奇襲がある事は想定の内だが、そのタイミングが掴めない。警戒していても人間である以上、どうしても意識の隙という物は生まれてしまう。
 故に、セナはいちごのスライムに目を付けたのだ。服に仕込む事で敵の攻撃に対する盾としつつ、自動で反撃してくれる鉾とする事を目論んで。
 ……とは言えそんな物を服の内側に這わせてしまえば、服はヌルヌルと滑ってしまうし肌は蠢く感触に刺激を受け続ける事になる。

 ──ぬちょっ……。

「「ひゃあっ!?」」

 我慢しきれず木立の間に響く、水咲とセナの嬌声。男子の意地か、グッと歯を食いしばり堪えるいちご。
 ……そう。三人はまぁ、色々と『大変な事』になっていたのだ。

(こ、これ、本当に大丈夫なんですか……!?)

 漏れ出てしまいそうになる黄色い声を噛み殺しながら、内面でいちごは思う。
 対策としては、まぁ判る。自分が喚び出す異界の生物であれば、邪神の眷属を返り討ちにする事は難しくないと自信もある。
 とは言え、こうなってしまうと能動的に動くのは少し難しい。意識を集中する事も難しく、戦闘に意識を切り替える事も難しいだろう。
 ……このプランを提示された時に、もうちょっと強く断るべきだったか。でも顔を真っ赤にして『本気です』、っていうセナさんの意見を断る事は難しかったし……。
 いちごの意識が、千々に乱れ始める。その時だった。

 ──ガサッ、バキ……!

 響く木の葉の擦れる音。次いで枝が踏み折られる音が響けば、大きな影が地に落ちる。両の手に禍々しく存在を主張する鉤爪、体を覆う不気味な気……その姿、紛うこと無き邪神の眷属。
 構えられた鉤爪。横一文字に薙ぎ払う様なその構えを見れば……靄に飲まれつつあったいちごの意識が、覚醒する。

「──ッ!?」

 ブンッ!! と、唸りを上げて振るわれた鉤爪を。間一髪しゃがみ込んで回避するいちご。回避が間に合ったのは、猟兵として積み上げてきた経験値の高さ故か。
 だがいちごの背に立つ二人の少女は……身を苛む感触の前に、その反応が一歩遅れてしまう。迫る豪腕、目を見開く水咲とセナ。ユーベルコードの発動も……間に合わない!!

 ──ズアァッ!!

『──!?』

 もう、間に合わない。水咲とセナが直撃を覚悟した、その瞬間。二人の衣服から影が飛び出る。服に仕込んでいたスライムが、迫る悪意に反応して迎撃行動に出たのだ。
 スライムは邪神の腕に、身体に飛びつくと……高い粘性を発揮して纏わり付く。何とか振り払おうと邪神は体を捻じり、地を転がるが……スライムの持つ侵食溶解効果の前に、少しずつ、少しずつ、その身体を溶かされていく。

「……な、なんとかなりました、ね」

 消え行く邪神の眷属とそれを食らったスライムを見下ろして、はぁ、と深い息をつくいちご。
 水咲とセナが行動出来なかった、というトラブルこそあったものの、奇襲対策はその効果を発揮したと見ていいだろう。これでとりあえず、一安心だ。
 ……しかし、どうした事だろう? 二人の反応が薄いな、と。いちごは後ろを振り向いて……。

「……って、二人ともっ!? ふ、服がっ!?」

 顔を真赤に染め上げて、驚きを露わにする。
 ……スライムは、侵食融解効果を持っていた。つまり、ある程度の物を溶かすという事であって……有り体に言えば、水咲とセナの服は、スライムに溶かされていたのだ。
 顔を赤らめ、身を寄せ合う水咲とセナ。その姿を見れば、いちごの顔も増々紅く染まるが……直後、自分の服も溶け消えている事に気付いて更なる悲鳴が森に響く。
 服を溶かされ微妙に身動きが取れなくなった三人が、この後に迫る黒幕との戦いをどう乗り切るか。興味が尽きない所である。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ミフェット・マザーグース
【太陽の家】のみんなと森に突入するね
クロエなら、敵が大きなハサミで暴れてもしっかり守ってくれるもん

わわ、ちいさい虫がいっぱい? クロエちゃんの鎧の中に入って……わわわ、脱いじゃダメ! 急いでミフェットがなんとかするから、ガマンしてね!

UC【一人ぼっちの影あそびの歌】
「歌唱」と「楽器演奏」で、こちらも虫で対抗するよ!
呼び出された虫を、ミフェットが呼び出した虫で打ち消しちゃおう!


ムシムシムシムシ大行進 狭いとこにも潜り込み
ドクムシ カミムシ ハサミムシ チクリと刺してイチコロリ

ムシムシムシムシ大行進 ムシの中にも食物連鎖
悪い虫たち食べるムシ ピョンと飛びつきムシコロリ!


クロエ・アスティン
【太陽の家】
船から降りたことと、ミフェット様のツボ押しのおかげで体調の方は万全であります!
しかし、こんなに鬱蒼としていると不意打ちが怖いでありますね。
ミフェット様、信子様、自分の傍を離れないようにお気を付けください。

マガツアリスが襲い掛かってきたら咄嗟に「盾受け」で「かばう」であります。
鉤爪での攻撃は盾で防げましたが、ミフェット様を狙って召喚された悍ましき妖虫が服の中に入り込んできて……
うぅぅ、気持ち悪いであります

服の中に入り込んだ虫を追い出すため、【戦乙女の鎧】で変身
妖虫のことはミフェット様達に任せ、マガツアリス本体を叩くであります!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


秋月・信子
●POW
【太陽の家】
この島に潜入したのが察知されたとしても、位置や場所を教えない為にハンドガンにサプレッサーを装着
【影の猟犬の召喚】で、影の猟犬たちに嗅覚並び聴覚などの【第六感】で【情報収集】を行って貰い、森の中を掻き分けていきます

待ち受けて潜めていた敵と会敵したならば、影の猟犬を放ち追い立てさせます
オブリビオン並びに召喚したモノが姿を現したら、徹甲弾で外殻を【鎧砕き】させ、魔弾化し神経毒の概念を付与させた【呪殺弾】をワンホールショット
燃やすべき相手でしょうが、延焼してしまう恐れがある為です
戦闘が終わればクロエちゃんの身体をチェックして、異常があれば痒み止めや毒液吸引器で応急処置を施します





「クロエ、身体はだいじょうぶ?」
「はい! ミフェット様のツボ押しのおかげで体調の方は万全でありますっ!」

 心配そうなミフェットの声色に、元気いっぱいにクロエが答える。
 先程まで船酔いに悩まされていたクロエであるが、船を降りて緑豊かな地に降り立った事、そして船で受けたミフェットのツボ押しや酔止め薬のお陰で体調の方は元通り。心身共に万全な状態で、邪神の眷属が潜む森に挑んでいた。

「……しかし、こんなに鬱蒼としていると、不意打ちが怖いでありますね」
「そうね。今の所は、大丈夫みたいだけれど……」

 元気いっぱいなクロエであるが、それ故に良くある『勢いに任せて前に進もうとする』ような無鉄砲さは見せなかった。共に進む仲間達の盾とならんと、常に周囲を警戒し、程よい緊張を保ちながらここまで進んできていた。
 そんなクロエの呟きに、頷き返したのは信子だ。喚び出した黒の猟犬の背を撫でながらも、その視線は鋭く森の様子を観察し続けていた。
 ……遠方から響く爆音は増々勢いを増している。陽動に動いた味方の動きは、敵の意識を十二分に引き付けているのだろう。だからこそここまで敵との接触もなく、順調に進む事が出来たのだろう。
 だが……。

「二人とも、止まって」

 ぐるる、と。突如低く唸り出した猟犬のその反応に、信子が二人に囁やく。
 ……黒の猟犬は、犬らしい鋭い嗅覚と聴覚を持っている。そんな彼が警戒を露わにしている、という事は……。

「……来るっ! 上よっ!」

 ガサッ、と木立が揺れれば、猟犬のその視線が上を向く。吠え立てるその先には……樹上を渡り、こちらに向かってくる邪神の眷属のその姿。今まで猟兵達が遭遇した個体よりも一回り大柄なその個体は、恐らく黒幕にとっての『とっておき』だ。

「ミフェット様、信子様! 自分の側を離れないように……うひゃあっ!?」

 接近のその勢いのままに繰り出された鋭い鉤爪を、クロエはその手の盾で見事に受け止めるが……その凛々しき声は、すぐさま黄色い悲鳴に変わる。見ればクロエの身体の至る所に、悍ましき蟲が張り付いてしまっているではないか。
 ……邪神の眷属はその身体に喚び出した悍ましき蟲を伴っていながら接近してきたらしい。鉤爪が振るわれ、クロエの盾に止められたその瞬間……その喚び出した蟲を、クロエの身体に放ったと見える。

「わわっ、ちいさい虫がいっぱいっ? ……クロエ、脱いじゃダメっ!」
「うぅぅぅ、気持ち悪いでありますーっ!?」

 鎧を、服を、肌を。這いずる蟲のその感触に涙目になるクロエ。今にも泣き出しそうな涙声に、ミフェットの動きは早い。

(……呼び出された蟲を、ミフェットが喚び出した虫で打ち消しちゃおう!)

 荷物から愛用のテナーリュートを取り出しつつ、すぅ、と深く息を吸い込めば。ミフェットの瞳に、力が宿る。
 そうして胸の内でリズムを刻み……紡ぎ始めるのは、童歌。

 ──ムシムシムシムシ大行進 狭いとこにも潜り込み
 ──ドクムシ カミムシ ハサミムシ チクリと刺してイチコロリ

 幼い少女らしいソプラノボイス。不思議と人を惹き付ける力に溢れるその歌の効力は、相手のユーベルコードを打ち消すという物だ。
 ……だが、その打ち消し方は『相手のユーベルコードを模倣して放つことで相殺する』、というもの。
 つまり、この歌を歌うとどうなるか、というと……。

「ひゃっ!? む、むしがぁっ!? 更に自分の身体にぃっ!?」

 ミフェットの歌声が虫の身体を作り出し、クロエの身体を這いずる蟲に群がっていく。更に虫に集られて、クロエとしてはもう悲鳴を上げるばかりである。

 ──ムシムシムシムシ大行進 ムシの中にも食物連鎖
 ──悪い虫たち食べるムシ ピョンと飛びつきムシコロリ!

 そんなドワーフ少女の悲鳴をBGMに、ミフェットの歌は止まらない。楽しげな童歌が続けば続くほど、クロエの身体は虫に集られ……その身体を蝕もうとした蟲は、食い尽くされて消えていく。
 やがてミフェットの歌が終われば。虫たちは虚空に掻き消えて、そこにいたのはペタンと力なく座り込んだクロエのその姿のみ。放心してしまったのか、無防備な姿を晒してしまっている。

『──!』

 そんな状態を見逃す程、敵は甘く無い。先程は止められたが、今度は仕留めると言わんばかりに再び鉤爪が振り翳され、クロエの身体を絶たんと振るわれて……。

 ──バギィッ!!

 響き渡る破砕音。邪神の眷属の振り上げた鉤爪が、粉砕されたのだ。
 無表情のまま、邪神の眷属の視線が動く。その視線の先には……サプレッサー付きのハンドガンを構えた、信子の姿があった。

 ──パッ! パッ!

 声も出さず、射撃の音も最小限。だが立て続けに放たれた弾丸の破壊力は……装甲化された邪神の胸部と腰部が粉砕された事から、察しが付くだろう。
 信子は銃弾の外殻を鎧を砕く徹甲弾と変えていた。更に神経を蝕む概念をも付与し、呪殺弾として放ったのだ。

(……蟲であるなら、炎がきっと有効でしょうけど……)

 そうしてしまえば、不必要に延焼してしまう恐れもある。邪神の潜む無人島とは言え、環境への被害は出来る限り出したくない。信子の優しさが、今回の敵のみを打ち砕く魔弾を生み出したのだ。
 そんな銃弾を立て続けに数発も受けてしまえば、いくら「とっておき」とは言え耐え切れぬ。グラリ、と身体は揺らぎ……。

「ぅ、ぅぅううううっ! 戦女神様っ! 自分に力をお貸しくださいっ!」

 倒れ伏す、その瞬間。響き渡ったのは、クロエの声だった。
 ある程度の覚悟があるとは言え、虫に集られたのはやっぱり多感な年頃の少女の精神に大きな負担となったのか。その目はぐるぐると回りショックを受けている事は明らかであるが……だからこそ、やり返さねば気が済まぬのだ。
 そんな信徒の切なる声は、戦女神にも通じたか。クロエの身体を包む鎧が輝きを放ち、その形状が聖なる鎧(ビキニアーマー)へと変わっていく。背には大きな翼を生やすその姿は……まさしく、戦女神の申し子。戦乙女としての姿であった。

「やぁぁぁぁあああっ!!」

 振るわれる武器。強化された身体能力から放たれる聖なる一撃は、大きなダメージを受けた邪神の眷属を屠るには十分以上。

 ──ゴッ、シャァァァッ!

 背を打ち、曲げ、粉砕し……邪神の眷属の身体が、上下に別れ、消えていく。そして敵の姿が光に還れば、クロエのその姿も常のそれへと戻るだろう。

「やったね、クロエっ! ……クロエ?」

 再びぺたん、と座り込むクロエ。駆け寄るミフェットが声を掛けるが……その反応は、薄い。
 どうやら虫に集られた衝撃による放心状態から、クロエはまだ抜け出せてはいなかったらしい。

「マコっ、マコっ! クロエがっ!」
「えっ!? クロエちゃん、大丈夫!?」

 そんな事とはいざ知らず、慌てて信子を呼ぶミフェットのその様子に、釣られたように慌てる信子。荷物から痒み止めや毒液吸引器を取り出して、応急処置の準備を進めていく。
 ……多少ドタバタとしてしまっているが。ともあれ三人は、敵の奇襲を返り討ちとし廃屋への道を切り開くのだった。

 ──なお、クロエの身体には特に異常は無かったので、心配は無用である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『マザー『テラー』』

POW   :    「アナタは研究対象外です」
全身を【「恐怖を感じてない者」からの干渉遮断状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    「アナタの思う“強さ”とは何でしょうか」
対象への質問と共に、【隣室や培養カプセルなど、あらゆる場所 】から【「愛しい子供たち」】を召喚する。満足な答えを得るまで、「愛しい子供たち」は対象を【恐怖に支配されるまま、我武者羅な動き】で攻撃する。
WIZ   :    「さぁ、ワタシにアナタの“恐怖”を見せて下さい」
【発狂する程の恐怖 】を籠めた【言霊】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【恐怖心】のみを攻撃する。

イラスト:しゅろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は斬崎・霞架です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 森に潜む、邪神の眷属。彼らの奇襲を、猟兵達はそれぞれに打ち破って森を進む。
 ……やがて、彼らはその場所に辿り着くだろう。島のほぼ中央、小高い山の麓にある、山小屋の様な廃屋。この廃屋の地下こそが、猟兵達の目的地だ。

 小屋に踏み込めば、地下への入り口はすぐに見つかるだろう。顔を見合わせ、頷き合って。意を決し、猟兵達は地下へ続く階段を下っていく。
 長く続く、螺旋階段。やがてその階段は行き止まり、猟兵達の前に現れたのは……頑丈そうな、巨大な鉄扉。
 恐らく、この先に標的となる黒幕がいるはず。猟兵達は、事此処に至ればと……その鉄扉を粉砕し、内部へと踏み込んだ!

『──ようこそ。お待ちしてましたわ』

 踏み込んだその先は、広大な空間だった。天井は高く、薄暗くはあるが照明もある。奥行きも深く、横幅も十分。戦闘に支障のある環境では無さそうだ。
 ……目敏いものは、部屋の壁面に培養槽が並んでいる事が判るだろう。いくつかは空となっているが、中がある物もある。薬液に満ちたその中で眠るのは……先程猟兵達が返り討ちにした、邪神の眷属と同系の存在か。
 やはりこの場所こそが目的の場所で、間違いはないだろう。

『あらあら、そんなに観察して。珍しいですか?』

 ……で、あるならば。この声の主こそ、猟兵達が討つべき存在であるのだろう。
 ふふふ、と嫋やかな笑みを浮かべながら。部屋の最奥で猟兵達を待ち構えていたのは、一人の女だった。
 スラリと整ったスタイル。纏う白衣は知性の高さを伺わせる研究者風の女。その表情は今も穏やかに笑み、どこか慈母の如き印象を見る者に与えるだろう。
 だが、しかし。

『随分と派手に遊んで頂いて……ふふ、中々にやんちゃな方々ですね』

 その瞳は、笑ってはいない。その瞳に輝く色は、実験動物を見るかの様な冷たい光だ。
 ……そう、この女こそ。とある邪教集団に、邪神の秘儀を授けた女。現地組織が探り出した、邪神の眷属に連なる外道の研究者。

『……見えますよ、恐れを知らないというその魂の色が。そこから生み出される『恐怖』と『絶望』は、きっと良いデータになるはずです』

 ワタシの目的を果たす為の、実験体になってくださいね? そう言って女が笑えば、広間に重く悪意が満ちる。
 ……『恐怖』と『絶望』。悪意に歪んだ狂気の研究者が、猟兵達へとその魔手を伸ばし……死闘の幕が、切って落とされた。

 ====================

●第三章、補足

 第三章は、ボス戦。相手は『マザー『テラー』』となります。

 第三章の成功条件は、『マザー『テラー』』の撃破です。
 マザーは恐怖を感じない存在からの攻撃を無力化しつつ、恐怖を感じた存在には精神を狂わせる一撃を加える難敵です。
 彼女のその特性を突破し、有効な一撃を加えるには何らかの工夫が必要となるでしょう。

 戦場となる研究室は、断章の通り広く、また照明もあるため、戦闘に支障はありません。
 壁面に並ぶ培養槽には、彼女の『愛しい子供たち』が眠っています。戦闘が始まれば母親を援護しようと動き出す事でしょう。
 また培養槽は目に映る範囲以外にもありますので、援護を完全に防ぐ事は出来ません。
 『子供たち』の妨害を突破する手段を考える必要も、あるかもしれません。

 『恐怖』と『絶望』。悪意に満ちた戦場は、まさしく邪神のホームグラウンド。
 そんな環境で、どう戦うか。皆さんの熱いプレイングを、お待ちしております。

 ====================
ティファーナ・テイル
SPDメインで

※アドリブ・共闘は可で

6歳児の小学1年生で答えれる質問には素直に真っ直ぐ答えて恐怖心は知らないので『キョトン』としています。
子供たちが襲って来たら「プロレスだ〜!」と眼を輝かして闘います!
敵のUCに対して『天空神ノ威光・黄昏』で封印/弱体化させて、『神代世界の天空神』で空間飛翔して避けながら『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃を『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で攻撃して、🔴が増えたら『超必殺究極奥義』+『ヴァイストン・ヴァビロン』で立体攻撃+多連♥ビームで全力元気爆発で闘争します!

「ボクたち猟兵は正義と平和の為に闘争して勝つんだ!」
とガッツポーズ!


アルタ・ユーザック
「敵が・・・多い・・・」
この部屋だけでも培養槽が多いけど、きっと他の部屋にもあるはず・・・
「それなら・・・『氷雪』・・・え?」

【UC氷雪嵐を使用しようとしたら、ボスのWIZ攻撃にさらされて】

「あ・・・あ・・・ああああぁぁぁぁぁぁ」
怖い恐いコワイこわい怖い恐いコワイこわい怖い恐いコワイこわい怖い恐いコワイこわい怖い恐いコワイこわい・・何が怖いかわからないけどとにかく怖い恐いコワイこわい
【自動的に『それは防衛本能の様に』発動。召喚された龍はあくまで吸血能力が具現化しただけなので恐怖を感じているアルタの攻撃扱い。ボスに一斉に襲い掛かり吸血】

こ・・・ワ・・・・・・ (微かにピクピクと痙攣しながら)





 ──ワタシの目的を果たす為の、実験体になってくださいね?

 『恐怖』と『絶望』に歪み、嗤う研究者。『マザー『テラー』』のその言葉に応えるように、広間に満ちる重苦しい空気。
 俗に悪意や瘴気と呼ばれるその空気を受ければ、広間の壁に並ぶ培養槽に眠る『子供たち』が目を覚ます。一体、また一体と、培養槽から解き放たれた『子供たち』が、猟兵たちと女の間を阻む様に戦列を組み始める。

「わぁ……同じ顔が、いっぱいだぁ!」

 ティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)のその言葉の通り、『子供たち』……猟兵たちがこの場に辿り着くまでに何体も討ち倒した『マガツアリス』たちの顔立ちは、どの個体も似通っている様に猟兵達には見えた。
 同じ顔が無表情で居並ぶその光景は、普通の感性を持つ者達であれば不気味に思う事だろう。だが恐怖心とは無縁なティファーナからすれば、その光景は只々不思議な光景に見えたか。上げた声は、妙に明るく広間に響く。

(……敵の数が、多い……!)

 そんな明るいティファーナとは打って変わって、アルタ・ユーザック(クール系隠密魔刀士・f26092)の表情は曇る一方だ。

(この部屋だけでも、これだけの数。でもきっと、他の部屋にも培養槽はあるはず……)

 そしてそれは、敵の数はまだこれからも増える、という事でもある。
 ……邪神一体の戦闘力は、それ程でもない。だが戦いは数、とはよく言うもので。
 圧倒的な実力を持つ猟兵であっても無数の敵に取り囲まれれば、やがて押し切られてしまうのは火を見るよりも明らかだ。

(……考えろ。何が有効か……)

 どう動けば、最も戦況に寄与できるか。敵の状況を目で盗み見、それを脳内に反映しつついくつもの状況を描きながら、アルタは必死に考える。
 無邪気なティファーナ。そして冷静に状況を見極めるアルタ。そんな二人を始めとした猟兵達の視線を受けて……。
 
『あら、気になりますか? でも、同じなのは顔だけではありませんよ? この子達は、いわゆる『クローン』ですからね』

 まぁ正確には、ヒト・クローンを依代として降臨させた邪神なのですが、と言葉を続ける女。
 ……クローン。ある存在と同一の遺伝情報を持つ『複製体』の事だ。
 表立っては未だ発展途上のこの技術、その細かい解説については省かせて頂くが……様々な分野に活用出来る、人類の発展に大きく寄与するであろう夢の技術である。
 だがそれ故に、この技術に関する社会の目は非常に厳しい。一歩道を踏み外せば『生命の冒涜』に繋がりかねない、危険な技術でもあるからだ。
 その事を知っているからこそ、この場に集まる猟兵達のその目は鋭さを増す。目の前で嗤うこの女は……道徳の壁を破砕し、生命倫理の闇に手を染めたのだと。そう宣言したからだ。
 ……とは言え、難しい話の判らないティファーナの様に、『きょとん』とした表情を浮かべる者もいたりはしたが。

『……この子たちは、ワタシの理論を体現する存在です』

 その目に熱を浮かばせながら、女は語る。
 『恐怖』と『絶望』。それは熱狂に燃え上がるヒトの魂をも軽々と凍り付かせる、負の力の現れだ。その力を乗り越え、制御する事こそが、生物の進化に欠かせぬのだ、と。 
 故にと、女は語る。恐怖を知らぬ『真白い存在』を創り出し、その上から負の感情を燃料とするような邪神の力を組み込めば……。
 それ故の、クローン! それ故の、邪神! 狂気に歪む表情のまま、女が嗤う。その姿を見れば……猟兵達も、判るだろう。
 ──この女は、ここで仕留めねばならぬ、と。

『この子たちこそ、『最強の生物』への第一歩! アナタ達を討ち倒し、その正しさを証明するに!』

 さぁ、アナタたちの思う”強さ”を、教えて下さい!
 叫ぶ女のその声を銃爪に、『子供たち』が動き出す。迫る緑の甲殻は、まるで津波の如く。そこに呑まれれば、猟兵であっても無事では済まないだろう。
 だが、しかしだ。

「! プロレスだ~っ!!」

 押し寄せる絶望の波も何のその。瞳を輝かせてティファーナが舞う。
 ……輝くその瞳は、天空の神の威光の顕れだ。その輝きに照らされた悪しき存在はその力を封じられ、正義の前に敗れ去るのが定めであるのだ。

「ボクたち猟兵はっ!」

 振るわれる拳は邪神が振り上げた鉤爪を粉砕し。

「正義と平和の為にっ!!」

 背後から迫った体当たりを、空間を渡って回避して。

「闘争してぇっ!!!」

 天井から繰り出したビーム攻撃が焼き祓い。

「勝つんだぁぁっ!!!!」

 高まる闘気を更にビームに注ぎ込めば、閃く白光は戦列を作る邪神の堅牢な甲殻を一瞬で溶かし、次々と光の中へと融かしていく。

『……成程。戦闘力の面はまだまだ調整の余地がある、と……』

 そんな様子を見る女の目には、消え行く『愛しい子供たち』を思う情の色などありはしない。その目に輝くのは、己の智識とそれに連なる欲を満たそうと言う濁った輝きだ。
 ……その目を見れば、誰しもが嫌悪の念を抱くだろう。そしてそれは、アルタも同じであった。

「……纏めて、『氷雪』をッ!」

 大暴れを見せたティファーナによって、敵の戦列は若干の乱れを見せている。とは言え敵の増援があるであろう事を考えれば……ここは出来る限り、大勢の敵を巻き込む攻撃手段で行くべきだ。
 そう考えたアルタが、己の振る魔法剣を氷の花びらへ変えようとした、その瞬間だった。

 ──ゾワリ。

 背筋が、凍った。次いで感じたのは、全身の肌が粟立ち裏返るかのような不快感。
 ……瞳と瞳が。アルタと女の視線が、交錯していた。絡まる視線に宿る思念が、アルタの魂を捉えれば。

『────』

 女の口から溢れる様に呟かれたその言葉は、戦闘音に紛れて誰の耳にも届かない。だが不思議な事に、アルタには耳元で囁くかのようにして聞こえてしまう。
 ……聞こえて、しまったのだ。

 ──ドクンッ!!

 心の臓が、まるで狂った様に鼓動を乱す。頬に浮かぶ汗は脂が滲み、溢れる息は千々に乱れて本来の機能を果たさない。

「あ、あぁ……ああああぁぁぁぁぁッッッ!?!?」

 怖い、恐い、コワイ、こわい、怖い怖いコワイこわい怖い恐いコワイこわいコワイコワイコワイ!!!!
 ……胸中を支配する感情は、まさに『恐怖』のその一色。ただ一言で発狂を呼ぶ程の恐怖が篭められた女の言霊が、アルタの心を貫いたのだ。
 何が怖い? 判らない。とにかく怖い。恐い。コワイ、こわい……!

「──~~~~ッ!! ……ぁ、ぃ……」

 響き渡るアルタの絶叫。その音色は女にとって耳を擽る最高のBGMに聞こえたか、女の口が穏やかな笑みの形へと姿を変えて。
 ……直後、その笑みは驚愕の形へと変わる。

『なっ……龍、ですってっ!?』

 恐怖のあまり、意識を喪い崩れ落ちるアルタ。ぴくり、ぴくりと痙攣するその身体から現れたのは……実態を持たぬ、龍の群れだ。
 黒く、禍々しいその姿。『恐怖』を操る女にならば、その正体は判るだろう。

『……ははっ、なるほど! 『恐怖』を武器という形にしましたか! そういうアプローチもあるのですね!』

 感心したように嗤う女。アルタの身体から現れた龍の群れは、まさしく女の言葉の通りの存在だ。
 【それは防衛本能の様に(カウンター・オブ・ネガティブ・エモーション)】と名付けられたその業は、アルタが負の感情を感じる事が発動のキーとなる業である。
 圧倒的な恐怖にその魂を塗り潰されかけたアルタである。意識を失う程のその恐怖は、発動の条件を満たすには、十分過ぎる程である。
 ……とは言え、制御するべきアルタは意識を失った状態だ。故にその効力は、十全に発揮できるとは言い難い。
 だが、それでも。女を守る壁となる『子供たち』を蹂躙するだけならば、十分だ!

『あぁっ、ワタシの『子供たち』がっ! ……なんて、補充はまだまだありますよ? それよりも……』

 まさか、こんな良いデータを得られるなんて! 望外の成果に朗らかな笑みを浮かべるその姿は、まさに慈母の如き姿。
 だが、その目は猟兵達に向けてこう語る。

 ──次は何を見せてくれるのですか?

 と。
 ……狂気の研究者との戦いは、まだ始まったばかりであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御狐・稲見之守
■同行:式神・白雪童子
ほう、邪神を祀り恐怖と絶望の果てに作り上げたのが此奴らか。なんとも、まァ。

[呪詛耐性]――悪いが言霊繰りはワシの畑とするところでなァ。言霊や呪を操る陰陽師の、それも化かすが本分の狐がそんなものにかかっては話にならん。人を呪わば穴二つ、彼奴の言霊を呪詛返し出来ると面白いんじゃがナ。

さて、恐怖を感じていない者の攻撃は効かんようであるが、あの女の愛しい子供たちとやらが相手ではどうかナ? 白雪のUCが発動した後、[UC魅了の術][呪詛][催眠術]ふふ、さあワシの"愛しい子供たち"よ、あの女を片付けてしまうがいい。

邪神の信奉者ならば、お前がその恐怖を捧げてしまえ。


式神・白雪童子
■同行:御狐・稲見之守
『子供たち』――主に従う彼等は、僕と同じような存在なのでしょうか。

稲見様から授かった呪詛除けの禍断刀を手に敵の言霊を退けつつ、[UC夢と現つの水面]で幻術の霧で戦場を満たし夢と同じ環境にします。

幻術の使い手たる稲見様や僕には有利な環境になる一方で、恐怖心で支配された『子ども達』は、恐怖から見えないモノやありえないコトを見い出し悪夢に囚われてしまうでしょう……そう云った心の隙間を持つ者を化かすのが狐の業です。

……しかし何故、"愛しい子供たち"と呼ばれている彼等は恐怖で支配されているのでしょう。





 大暴れを見せた無垢な少女と、恐怖に倒れつつもその力を解き放った少女。
 荒れる戦場、崩れる『子供たち』のその戦列を前にして、稲見之守のその表情は常と変わらぬ飄々としたままであった。

「ほう。邪神を祭り恐怖と切望の果てに作り上げたのが、彼奴か」

 なんとも、まァ。ボヤくように呟くその声を、控える白雪童子の耳が拾う。だが、その言葉に主がどんな想いを篭めたのかは、白雪童子には判らない。
 少なくとも、良い印象を抱いてはいないことだけは確かであろうが……白雪童子は、違う。
 ……白雪童子は、『式神』として長く稲見之守に使えた存在だ。元は感情を持たぬロボットのような存在であったが、長年の使役の果てに『自我』を得たのはそれ程昔の事ではない。
 故に、白雪童子は思うのだ。『子供たち』と呼ばれ、主に従う彼等は……僕と、同じ様な存在なのだろうか、と。

「──違うぞ、白雪」

 だがそんな内面を見透かしていたかのように響いた主の声に、白雪童子は思わず息を呑む。

「彼奴は、こう言ったな? 『創り出し』、『組み替えた』、と。それはまだよい」

 式神というシステムも、喚び出し、形に収め、使役する物だ。そこは女のやり口と大して変わりはしないだろう。それは間違いない。
 だが、その後はどうだ? 理論を体現する存在と嘯きながら、次々に倒され散っていく『子供たち』へと向ける、あの視線は。いくらでも替えがあると、ただの数字を見るような、あの視線は。
 ……生命倫理の闇、禁忌の術に手を染めたが故の、傲慢さ。それこそが、あの女の本質だ。『愛しい子供たち』などと女は言うが、上下関係こそありはしても……そこに情や絆などは、ありはしないのだ。恐らくは、邪神に対する尊崇の念すら持ち合わせてはいないだろう。

「翻って、白雪はどうじゃ? 生い立ちこそは似ておるかもしれんが……」

 少なくとも、わしは白雪の身を多少案じるくらいはしておるぞ? と。飄々としたその言葉を聞けば、白雪童子の意識はその腰に佩かれた一振りの小刀へと向くだろう。
 【禍断刀(まがつたちのかたな)】と銘を討たれたその刀は、呪詛を退ける霊力を宿す刃にして……主より下賜された、霊刀でもある。
 呪詛を操る力に置いては一家言を持つ主が下賜したその刀を握りしめれば……白雪童子の胸中に漂っていた迷いの霧は、晴れる。

「さぁ、わしらの出番じゃぞ? 白雪、準備は良いか?」
「……はっ! お任せ下さい!」

 暴れ狂う悪意の龍の最後の一体が、『子供たち』の一体とぶつかり合って消えていく。敵の数は随分減ったが……まだ奥からやってくる気配を、二人は確かに感じる。戦場に合流されてしまうのは、面倒だ。
 ……ならば、心を化かす狐らしく。『前提』から、ひっくり返してしまえばよいのだ。

「──その水面の波紋は夢を現つに、現つを夢に……」

 一切は真にして幻なり! 五芒の印を切って紡がれた白雪童子のその呪いは、戦場を満たす霧を呼ぶ為のもの。
 室内を満たす霧。感覚を惑わすその霧に包まれた女が、戸惑いの声を……。

『霧に姿を眩ませれば、幻惑出来るとでも思いましたか?』

 上げることは、無かった。むしろ女があげた声色の色は、侮蔑。妖狐主従を下に見る、傲慢なそれだ。
 ……女の側にしてみれば、この環境もまた自身の力に向く環境なのだ。先の見えぬ不安、高まる警戒は自然と恐怖心を呼び起こし……彼女の力となるのだから。

『さぁ、アナタたちの“恐怖”を見せて……』

 紡ぐ言葉は、先程一人の猟兵を恐慌に陥らせた言霊が乗るそれ。だがその言葉を紡ぎかけて、はて、と女が何かに気付く。
 ……霧の向こうに佇む人影。その内の黒髪の女が纏う気配が、何かに似ている様な……?
 その疑問を抱いた、その瞬間だった。

『──ッ!?』

 何かを払い除けるかのように、女が右の手を振り払う。一体何が起きたのだろうか?

「──悪いが、言霊繰りはワシの畑とするところでなァ?」

 呵呵、と響く笑い声。その声の主は……稲見之守。 
 稲荷信仰の地で、祭祀を担う妖狐。かつては凶悪な人食い仙狐であったのが、御狐・稲見之守という猟兵である。
 そんな彼女にとって、言霊や呪いを操る存在を化かす事など赤子の手を捻る様なものなのだ。邪神の眷属の言霊に掛かっては、沽券に関わるというものである。

「人を呪わば、穴二つ。呪詛返しと行きたかった所じゃが……まぁ、それは望みすぎたのぅ」

 どうやら今の一瞬で、稲見之守と女の間に呪詛による高度な攻防が繰り広げられていたらしい。
 その結果を受けた稲見之守の口振りは残念そうではあったが、その目は今も強い光を湛え続けている。稲見之守自身がこの戦場に対して恐怖など微塵も感じていない故、呪詛返しが通じぬであろうとは予想出来ていたのだ。
 では稲見之守の、本当の狙いは何なのか。

「ふふっ、ちょっとした戯れじゃが……さぁ、ワシの“愛しい子供たち”よ」

 あの女を、片付けてしまうが良い。稲見之守のその言葉に、『子供たち』が動く。鋭い鉤爪を振り上げる先にいたのは……。

『そんな、ワタシの制御を……!?』

 そう。『子供たち』の製作者である、『マザー『テラー』』、その人である。
 稲見之守の本当の狙い。それは、霧に惑わされた『子供たち』の制御を奪い取る事にあったのだ。
 白雪童子の霧も、その為の仕込みだ。霧に適応した者の力を高めるというその術は、主である稲見之守の強力な呪詛の力を底上げし、その目論見を達成させる一助となったのだ。
 ……しかし、その術は発動時に戦場にいた者だけを巻き込むもの。新たに部屋に突入してきた『子供たち』が女の指示に従えば、稲見之守の『子供たち』は次々に鎮圧されていくだろう。
 完全に目論見通り、とはいかなかった。だが女を取り巻く『子供たち』はかなり数を減らせたはずだ。
 戦いの天秤は、徐々に猟兵の側に傾きつつあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

彩波・いちご
【恋華荘】
2人には船旅だからと一応持ってきたタオルを渡し、体に巻いてもらいます
…やっぱりさっきの作戦は止めるべきでしたね(赤面
私は【護法の天使】で魔法少女に変身して何とか

恐怖…私にとっての今一番の恐怖は、これ以上2人が傷つくこと
だから、それを感じながらも、実現させないためにも格闘系魔法少女として前に出て戦います
彼女の子供たちを蹴り飛ばし殴り飛ばし
手数は私1人では足りないので2人にも協力してもらい
水咲さんがまとめて攻撃しやすいよう、私の格闘で子供たちを集めましょう
そして私が子供たち引き受けて、セナさんにはテラーを狙ってもらえばっ

…って2人ともタオル外れてますー?!(全部目撃して真っ赤に


セナ・レッドスピア
【恋華荘】
恐怖を感じないと攻撃が効かない…
でも感じちゃうと危険…

と、いちごさんが用意してくれたタオルを巻いた姿で悩んでいたら
『子供たち』の襲撃が!

それを何とかかわし反撃&迎撃していきますが
何度もそれを繰り返されて、心身共に疲弊していきます…

そこに『テラー』が語り掛けて来る…
それに対し必死に抵抗しながら
血槍を猟銃形態に変え
がむしゃらに「錬血武装『応変血晶弾』」を連射していきます

…時間差で『テラー』に向かって軌道を変えて飛んでいく弾丸を…!

そうやって敵の虚を突き、密かに追い詰めてくように攻撃!

そこにダメ押しで【ランスチャージ】で突撃し!

ふといちごさんを見たら、視線が…
巻いていたタオルが…!?


産土・水咲
【恋華荘】
恐怖で心を危険に晒さないと倒せない相手…
かなり厳しい戦いになりそうです…

私の姿…タオルを巻いただけの格好に
敵からの嘲笑が…
そして『子供たち』が来る…!

そこを水氷転身で氷の剣山に変え迎撃!
でも同じようにいちごさんやセナさんが…!

みんなが傷つくのは…!
そこに『テラー』が声をかけて来る…

それを振り払うように
水氷転身で身体を水に変え、辺りにまき散らしちゃいます

恐怖に駆られる中でも、みんなを助け
敵を倒すための布石にする為に!

そして、まき散らした水を一斉に氷の刃に変え
敵達を一気に攻撃!
(みんなには当てないように調整しつつ)

そしていちごさんに駆け寄ると
視線が下の方に…?
下の方…タオルが…ない…!?





『……成程、こういうやり方は考慮していませんでした。製造段階から刷り込みを強めるべきか……』

 ブツブツと呟く女の目には、猟兵の動きも、目の前で散っていく『子供たち』のその姿も映ってはいなかった。
 彼女の目に映るのは、得られたデータだ。自分とは違うアプローチでの恐怖の制御法、判明した穴を埋める改良案……様々な案が女の頭を過ぎっては消える。

『いっそ、もう一段強い邪神を素体に降ろせば……あら?』

 思考の海に没みかけた女が、ふと何かに気付いた様に一点に向く。
 それぞれに武装を身に付けた侵入者たちの中で、肌色の面積が妙に多い一団がいることに気がついたのだ。
 見目麗しい三人組の少女……いや、一人は少年か。三人がその肌に纏っているのは……。

『タオル……あぁ、そういう趣味の……』
「なんかすごくイヤな勘違いをされてますっ!?」

 女から向けられた多分に哀れみの込められた生温い視線に、水咲が思わずと言った様子で声を上げる。
 ……先程の森の中での一件で、【恋華荘】の三人は、身に付けていた衣服を失っていた。
 幸い、持ち込んでいた荷物の中に体に巻き付ける程の大きなタオルがあったので全裸を晒す事にはならずに済んだが……そんな状態で決戦の場に飛び込めば、まぁそういう視線を向けられるのは致し方なし、と言った所だろう。

(……やっぱり、さっきの作戦は止めるべきでしたね)

 頬を赤く染め上げながら、内心で思ういちご。はぁ、と溜息が溢れてしまうのも無理はない。
 ……とは言え、今は戦いの最中である。パンっと頬を叩いて気合を入れ直し。いちごが一歩、歩みを進める。
 進み出るいちごのその背は、セナと水咲を傷つけさせないと言う意思に満ちていた。
 身構え、高まる闘気に反応するように。いちごの身体が輝けば……その身を飾る衣装が、変わる。黒を基調とし、ところどころにピンクのフリルをあしらった魔法少女風の姿へとその姿を変じたのだ。

『……成程。それが貴方の『恐怖』であり、『強さ』でもあるのですね?』

 いちごの表情に浮かぶ不退転のその決意を、女は正確に読み取った。そして正確に読み取ったからこそ……女の目に、怪しげな輝きが浮かび上がる。

 ──では、その『強さ』が正しいということを、証明してくださいね?

 戦場に不思議と響く女のその声が、戦いの火蓋が切られる合図となった。数を減じたとは言えまだまだ数を残す『子供たち』が、一斉にいちご達を押し潰さんと押し寄せ始めたのだ。
 振り上げられる鉤爪、喚び出される妖蟲。だがその全ては護法の天使と化したいちごには届かない。逆に蹴り飛ばし、殴り飛ばし……いちごの前に立つ『子供たち』は、確実にその数を減じていく。
 だが、しかし。いちごがいくら孤軍奮闘しようとも……。

「きゃっ!?」
「っぅ……!」

 状況は、あまりにも多勢に無勢。いちご一人で、全ての『子供たち』を相手取る事などは出来はしない。
 自然、いちごが守るべきセナと水咲にも敵の手は迫り……二人は何とか、その魔の手を躱す。

「くっ、この……!」

 そんな二人を、いちごが何とか救い出そうと拳を振るうが……二人の存在がいちごの強みであり弱みである事は、女には既に把握されてしまっている。
 『子供たち』による包囲は十重二十重に重なり、そう簡単には突破出来そうに無い。

『あらあら。男の子はいくらか頑張っていますけど……』

 肝心の女の子がこれでは、ね? 響く女のその声は、まるで質量を伴うかのような言霊と化してセナと水咲の心を襲う。
 いちご一人であれば、この状況を脱する事など造作も無いだろう。だが現実は、二人を守る為にいちごは敵の群れの中に一人飛び込み脱出も難しい状況だ。
 では、翻って自分たちはどうか。いちごのその背中を見るだけで、有効な援護も出来ずに……まるで、役に立てていないではないか。
 これでは……。

『────』

 女の口から紡がれたその言葉は、セナと水咲の耳元をのみを狙い撃つ。瞬間、二人の肉体が、魂が、まるで氷に包まれたかのような悪寒を覚え、震え出す。
 思い通りに行かない状況は心の平静を掻き乱し、生み出された動揺は容易く恐怖へと転じてしまう……最早、セナと水咲の運命は完全に女の掌の内に落ちてしまっていたのだ。
 ……しかし。

「セナさん! 水咲さん!」

 響いた声は、揺れ動き闇に閉ざされかけた二人の心に差す一筋の光となる。
 翻弄される二人を救わんと、必死に藻掻き、その拳と脚を振り回すいちご。二人を護ろうと今も戦うその姿は……セナと水咲の魂に、反抗の炎を灯す種火となる。

「っ、く……ッ! この身を「神」にして、「泉」たる姿へ……!」

 水咲の靭やかな肢体が、液体へと変じる。変じた液体はぱしゃりと地に撒き散らされて……。

(「凍の巫女」の力を伴って……!)

 液体に込められた水咲の意思に従って、鋭い氷の刃を作り出す!
 足元から生じた氷の刃は、迫り来る『子供たち』のその脚を縫い止める。そうなれば敵の動きは僅かな間であるが止まる。
 そうして生まれた隙を突き……。

「ここは、この弾、ならっ……!」

 携える武器を銃器に変え、弾丸を生み出すセナ。装填し、狙いをつける事無くその魔弾を撃ち放つ。
 当然、狙いを付けぬ弾丸が狙いを射抜くことは無いだろう。だが、それは普通の銃弾であればの話。
 ……セナが撃ち放ったのは、ユーベルコード製の特殊な弾頭だ。与えられた属性は……『テラー』に向かって、軌道を変えて翔んでいくというもの。
 この属性であれば、狙いを付けずとも自然と標的を射抜くはず!

「二人共っ、一旦下がりましょう!」

 水咲の攻撃により生まれた隙を上手く突き、いちごが何とか敵の包囲を突破して合流すれば。セナと水咲の反応を待つ事なく、激しい戦いの果てにタオルが解けた二人を担ぎ上げ後方に退いていく。
 敵の攻撃を受け心身を揺さぶられたセナと水咲は勿論だが、いちごも敵の包囲を受けた事で想定以上に消耗している。これ以上の戦闘は、正直厳しいだろう。
 ……銃弾が何かに弾かれた音を背後に聞き届けながら、三人は一旦戦場を退いていく。
 大きな成果は上げられなかったが、何よりも重要なのは『無事に生きて還ること』。後退を決意したいちごの判断は、間違いでは無いはずだ。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

鬼柳・雄
※アドリブ絡み歓迎

てめぇか、ここのボスで邪神教徒共に余計な事教えやがった奴は。
絶対潰す。

氷と炎を飛ばして『マザー『テラー』』を周囲にいる眷属諸共攻撃し直後にマザーに肉薄しパンチ。
一切通じてないのを確認したら相手の位置が培養槽の前に来るように調整。培養槽に攻撃して噴き出た培養液を掛けます。
相手が怯めば儲けもの、「グラップル」で組み付いて相手の頭を培養液に突っ込みます。
テメェも人だ、俺の攻撃が通じなくても水ん中に頭突っ込まれて苦しくないわけねえだろ。

俺に人を守ったりましてや救う事だなんてことは出来ねえ。俺に出来るのはてめぇのようなクソ共をぶちのめすことだけだ。だからそれだけは絶対に果たす。


ルメリー・マレフィカールム
……あなたは勘違いしてる。
私はずっと怖がってる。自分のことが分からないのは、いつだって不安で恐ろしい。
でも……だからこそ、私の攻撃が通じる。あなたは、ここで倒す。

問いが精神操作の起点なら、喋る前に攻撃する。
『死者の瞳』でテラーと子供の動きを観察。庇おうとする動作を踏まえた上で、【銀閃】でその防御をすり抜けてマザーにナイフが行くように投げる。

こっちに来る子供は、追いつけないように動き続けて対処。
移動しながらナイフの投擲も継続して、マザーのUCを使わせないように努める。

【アドリブ・協力歓迎】





 広間の外へと退いていく三人の猟兵。女がその姿を見届けたのは、ほんの一瞬だった。
 何故ならば。自身に向けて、燃え滾る闘志と、肌を刺すような冷徹な意思とが、向けられている事を感じ取ったからだ。

「テメェか。あの邪教徒共に、余計な事を吹き込みやがった奴は……!」

 相棒たる大悪魔『マルコシアス』を伴って、胸中に滾る怒りを燃え上がらせるのは雄だった。
 雄は、自身が正義の徒であるなどとは思っていない。人を守ったり、ましてや救う事など出来ない人間だと感じていた。
 そんな自分に出来る事は……ただ、世界に蔓延る悪意を叩く事。彼の言葉に合わせるならば、『気に入らないクソ共をブチのめすこと』だけなのだ。
 だからこそ、それだけは絶対に果たすと。目の前に立つ一連の悪意の根源に対する雄の戦意は、燃え滾るのだ。
 ……だが、そんな雄の烈火の如き戦意を受けても。目の前の女にとって、良い実験体が飛び込んできた様にしか見えぬらしい。

『あら、あらあら……随分と向こう見ずな魂の色。それにまた、揺らがない恐い者知らずな魂も。その魂が恐怖を感じた時にどうなるか……』
「──あなたは、勘違いしている」

 飄々とした態度の、目の前の女。そのセリフを凛と遮ったのは……ルメリーだった。

「……私は、ずっと怖がってる。自分の事が分からないのは、いつだって不安で恐ろしいから」

 ルメリーには、過去の記憶が無い。どこで生まれ、誰が育み、愛情を受けていたのかも……その記憶の大部分を、喪ってしまっているのだ。
 幾度となく、喪った過去を探してはいる。だがその結果は、どれも芳しい結果とはならなかった。過去を遡っても自身に関わる記録など無く、UDCの呪詛による再現でもその過去は只の無限の闇であったのだ。
 ……故に、ルメリーは思うのだ。自分は果たして、『ヒト』であるのか、と。自分という存在を証明する事は、出来ないのでは、と。
 ルメリーの純朴なその魂は、常に恐怖と向き合い続けている。それを自ら明かすのは、この戦いにおいて致命的なリスクと成りかねない。
 でも、だからこそ。

「私の攻撃は、あなたに通じる。あなたは、ここで倒す」

 恐怖に震える、ルメリーの魂。その魂を叱咤する様に、赤い瞳に決意の光が宿り輝く。
 記憶は無くとも。その存在が不確かであろうとも。ルメリー・マレフィカールムは猟兵としての矜持を示すかのように、この場でその力を振るうのだ。

『……自ら弱点を晒すとは。実に愚かな小娘ですこと。では、遠慮なく……』

 だがそんなルメリーの矜持など、目の前の敵にとっては関係ないこと。
 言葉通りに遠慮なく、ルメリーの胸中に燻る恐怖心を揺さぶろうと言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。

 ──ギッ、ギィンッ!!

 甲高く響く金属音に、女のその呟きは途切れて消える。ルメリーが投じたナイフを、『子供たち』の一体が防いだのだ。
 ナイフを投じるまでに要した時間は、ほんの一瞬。ルメリーのその早業も凄まじいが、その狙いを瞬時に看破し『子供たち』を盾に動かした女もまた凄まじい、と言った所か。
 ……しかし、驚くにはまだ早い。

「外さない──ッ」
『くっ、しつこい……!』

 更に一本、二本、三本……鋭い呼気と共に放たれた投げナイフ。その鋭く閃く銀の輝きには、壁を作り盾となる『子供たち』のその防御を抜け、女の身体を穿たんとする冷徹な意思が込められている。
 故に、女はその軌道を読み切りこまめに盾を動かしていく。その対応に、意識が集中するのは必然であり……。
 それこそが、雄にとっての絶好の好機となる。

「行くぞ、シア!」

 咆哮一声。相棒の力を身体に宿し、右に炎を、左に氷を纏わせながら。雄の身体が宙を舞う。
 行手を阻む『子供たち』は、ルメリーの鋭い投げナイフの前に釘付け。妨害を考慮する必要などは無い。故に、宙を舞う雄の身体が描く軌道は……。

「おぉぉぉオオオッッ!!!」

 ブチのめす、と。そう決めたあの女の元へと一直線。それ以外には、有り得ない。
 勇躍する雄の身体。右の拳が振り絞られ、女の顔面を打たんと肉薄し……ガツンッ! と、雄の拳は確かな手応えを得る。
 だが……。

『……恐れを知らぬ。その精神に少しは興味が持てるかと思いましたが……やはり、単細胞はつまらないですね』

 女のその余裕の表情を崩すには、至らない。
 絶対の勝利への意思に燃える雄の魂は、目の前の女のその存在に臆しはしないが……それ故に、彼の拳は通じないのだ。

『興醒めです。アナタは『研究対象外』ですから、さっさと消えて……』

 慈母の如き笑みを絶やさなかった女の視線が、冷たく染まる。雄に向けていた興味が消え、その目線がルメリーのみへ向き……。

「まだまだァッ!!」

 更に振るわれる、拳の猛打。その全てが有効打とならぬのは承知の上。
 ……そう。雄は自身の拳が敵に通じない事などは全て承知の上だった。では何故、こんな無駄な攻撃を続けているのか。

 ──パキッ、バキィッ!!

『!? 何の音……冷たっ!?』

 その背に響く亀裂音に、思わず振り返る女。その顔面に飛び散った液体は……培養槽に満ちていた、培養液だ。
 ……気付けば、雄と女の立ち位置は随分と移動していた。彼女の背のすぐ側には培養槽があり、雄の猛打の衝撃を受けて破砕され、中身が溢れ出したのだ。
 続く猛打は女の身体にダメージを与えなかった。だがその拳の衝撃は、彼女の立ち位置を少しずつ動かす程に強烈であった。
 ……これこそが、雄が狙っていた状況だ。顔に培養液を浴びて僅かに怯んだ相手の頭を掴みあげると……。

『ガッ、ゴッ!?』
「テメェも人なら、水ん中に頭突っ込まれて苦しくないわけねぇだろ!」

 砕けた培養槽、その中にまだ残る液体へ向けて、女の顔を叩きつける!
 無理やり顔を液体の中へ沈められれば、誰だって混乱し藻掻くだろう。それは女も変わらぬらしい。
 必死に藻掻き、抗うが……渾身の力で抑え込む雄の拘束からは、そう容易く逃れられる物ではない。

(くたばれ……! さっさと、くたばっちまえ!)

 一分か、二分か。どれ程続いたかは、判らない。だが雄の掌から感じる女の反抗は、少しずつ弱まりだしていく。もう少しで、この女の息の根を止められるはず。
 ……だが、天は雄には微笑まなかった。

「──ッ! ちぃっ!!」

 背筋を走る悪寒。殺気を感じ、舌打ちを残して雄が飛び退く。その直後、雄がいた空間を『子供たち』の鉤爪が薙ぐ。まさに間一髪の回避であった。

「……ごめんなさい、抑えきれなかった」
「良いって。あと一歩だったのは事実だが……随分、体力も削れたみたいだしな」

 『子供たち』を抑え込めなかった事を詫びるルメリー。女の操る『恐怖』の力は思った以上にルメリーの力を削っていたらしく、その為に『子供たち』を抑え込みきれなかったらしい。
 そんな悔しげな少女に気にするな、と声を掛けながらも。雄の闘志は未だ陰らぬままであるが……猛攻を続けたせいか、消耗も相当な状態だ。これ以上の戦闘は、正直厳しい所だろう。
 ……決定的な一打、とはいかなかった。だが雄とルメリーの猛攻は、狂気の研究者の余力を大きく削り取る事には成功したのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

伊美砂・アクアノート
【WIZ羅漢銭・空間掌】
痛いのは嫌い、怖いのは嫌だ。欲しいのは安心だけ、だから私たちは一人でいい。【早業10、破壊工作10、投擲9、援護射撃8】 胡乱に脳内人格をシャッフルし、指先でコインを連射する。……これは在り方の問題なんじゃよ。頭蓋骨の内部で電気信号が勝手に動き回るんだ。自分は変えられる、記憶は弄れる、感情は操作できる……恐怖? 敢えて怖がるなんざ、被虐嗜好じゃ無ェんだから普段はしないが…。必要なら、切り替えるとしよう。
・・・嗚呼、全ては滅んでいる!滅びる、滅びた!死、死だ!次のワタクシが起きるまで一分間の人生でした!痛いのは好き!怖いのは好き!だってワタクシとアナタは一緒に滅びるから!


久遠・翔
アドリブ絡み歓迎


あの事件を起こしたきっかけの登場っすか…周囲を見る限り碌でもない感じっすね

真の姿を開放し純白のドレス姿になる
恐怖など無いと言うが嘘だと言われ怯み、その隙にWIZの技を喰らうと頭を抱え悶えます

精神世界で呪いにより大切な思い出を喰われ、友人達の顔も思い出せなくなり自分が誰なのかすら急速に忘れ発狂しかけます
そして大切な人の想い出を喰われた瞬間を幻視した瞬間選択UCが勝手に発動

ドレスが漆黒で妖艶な物に変わり瞳が深紅に
髪も漆黒となり影の手には無数の目が

我を起こすのは誰か?
我を起こした褒美だ…汝を喰らおう
そう言って相手の因果を書き換え無力な少女に変えた後闇が喰らう

その後気絶し呪いが進行する





『ガハッ、ゴホッ……なんて、野蛮な……!』

 間一髪。そんな様子で危機を脱した女の表情に、先程までの余裕は欠片も感じられなかった。肩を大きく上下させ、ぜいぜいと荒いその呼吸が、消耗具合を如実に表していた。
 消耗しきった女のその様子に、猟兵達は思う。勝負をかけるなら、今が最大の好機である、と。

『はぁ、はぁ……! くっ、『子供たち』よ、盾になりなさい! 時間を稼ぎなさい!』

 そんな猟兵達の動きは、当然女の側の目にも止まる。追い詰められつつある状況に自己の保身を優先したか、『子供たち』を捨て石に体勢を整えようと企んだのだ。
 女のその判断は、間違いではない。彼女の言葉を借りるなら、『子供たち』は所詮クローン。女自身が無事で、製造設備を整えればいくらでも補充出来る存在なのだから。
 戦術上は正しいその判断ではあるが……事、今のこの状況においては、その判断は悪手である。
 何故ならば……。

「……遮蔽物など、無駄」

 チィンっ、と。金属が擦れ合う高い音が響いた次の瞬間。何重にも渡る肉の壁を作り出した『子供たち』の身体から、体液が吹き上がる。
 その金属音がまた一度、ニ度と立て続けに響く度に、また一体、更に一体と『子供たち』の身体が穿たれる。

「空間ごと、撃ち抜けばいい」

 掌でコインを遊ばせながら伊美砂が呟く。白魚の様な細く白いその指がコインを弾けば……まるで銃弾の如き威力となって、敵のその身体を撃ち貫く。
 次々に撃ち貫かれる『子供たち』。見る見る内に減っていく肉壁は、女が欲する時間を稼げているとは言えないだろう。
 ……女が時間を稼ぐのであれば、この場面では攻撃に出るべきだったのだ。数で押せば、まだ女の側に有利に動く目はあったかもしれなかった。
 尤も、そうなったらそうなったで。伊美砂の指弾は空間を撃ち抜いて押し寄せる津波を粉砕していただろうから、結果は大して変わらなかっただろうが。

『ぐっ、この……役立たず! 実験体は、これだから!』

 また一体、壁となる存在が倒れ伏し。遂に女の顔から慈母の仮面が剥がれ落ちる。かつて『愛しい子供たち』、『理想の体現』と語ったその存在を罵るその姿は……ある猟兵が語った通り、傲慢で、高慢なヒステリックな女の姿。これこそが、この女の性根であるのだろう。

「碌でもない、っすね……!」

 壁面の培養槽。戦場に倒れ伏す哀れな実験体達。そして目の前の無様な女。哀れみ、侮蔑、そして怒り。翔の心に、戦意が滾る。滾る戦意は力へ変わり、肌を通して純白のドレスへと変じていく。
 ……この力を使えば、自身を蝕むその呪いは更に深化するだろう。だが、それでも構わない。目の前の、全ての元凶を討ち果たせるなら……!

「……お前は、ここで倒す!」

 瞳に凛と決意の光を輝かせた、翔の言葉が女の貫く。
 だが、その決意の言葉が。慈母の仮面を脱ぎ去った女の逆鱗に、触れてしまう。

『グチグチと、うるさいのよ! 『恐怖』に怯えて、没みなさい!』
「恐怖? そんな物なんて、俺には……っ!?」

 ヒステリックに叫ぶ女のその声を否定する翔であるが、次の瞬間その目の光が薄く消える。
 ……この女を討ち果たせるなら、自身の呪いなどどうなっても構わない。その気持は、翔の本音である。だが、しかしだ。深化する呪いと、変容する己の身体に対する『恐怖』も、翔の偽らざる本音であるのだ。決意と勇気に塗り潰されたその『恐怖』を……女のその瞳は、見逃さなかったのだ。

「くっ!? ぁ……!」

 崩れ落ちる、翔の身体。その意識は、最早この場所にはありはしない。
 翔の意識は、彼の意識の内側の精神世界にあった。女の言霊により恐怖を増幅させられ、身を蝕む呪いと絡み合い、膨張すれば……。

(あぁ、記憶が……『俺』の、心が……!?)

 過ごして来た日々が、笑いあった友人達の顔が、生まれ育った土地が、元の自分の顔が。膨張する呪いによって、喰い散らかされていく。

「このっ! かっ、は……!?」
『お前もよ! 無理やりにでも、沈み込ませて……!?』

 倒れ込む翔を援護しようとした伊美砂もまた、女の言霊にその魂を囚われる。表と裏と、二足の草鞋を履く伊美砂であれば……痛い記憶も、恐怖の記憶も当然ある。
 掘り起こされたくないその記憶を刺激され、割れるような頭痛にその顔を歪め……。

「……ハッ、ハハッ!」

 その歪む表情のまま、伊美砂は笑う。嗤う。嘲笑う。微笑う。まるで別の人格に切り替わったかのように、伊美砂は哄笑う。
 唐突で、不気味な伊美砂のその様子にたじろぐ女。だが、その優秀な頭脳はすぐさまその種を解き明かす。

『多重、人格……っ! 意図して人格を切り替えるなんて、なんて無茶な!』
「御名答! 敢えて怖がるなんざ、被虐趣味じゃ無ェんだから普段はしないが……!」

 必要なら、切り替えるとしよう! 短いその言葉の中だけで、伊美砂を動かす人格は何人が表に出ただろうか。それは伊美砂本人ですらも、判らない。
 ……伊美砂・アクアノートという猟兵は、確かに今『恐怖』を憶えた。だがしかし、彼女にはその『恐怖』に抗う術があったのだ。
 その手段こそ、女が看破した『多重人格者』としてのその特性を活かした物。『恐怖』を感じた人格を切り替える事で、精神をリセットし続けるという力技だ。
 ……いや、普通の多重人格者ではこんな破り方は出来ないだろう。常に無数の人格が頭の中で騒ぎ立て続ける。そんな伊美砂であったからこそ、こんな手段が採れたのだ。

「嗚呼、全ては滅んでいる! 滅びる、滅びた! 死、死だッ!!」

 常に脳内に宿る人格をシャッフルし続け、指先のコインを弾き続ける伊美砂。だがその都度脳内電流は激しく働き、脳の負荷を高めていく。
 ……だが、そんな事に伊美砂は臆さない。記憶も、感情も、恐怖も。その全てを、伊美砂は変えられる。変えてしまえるのだ。

「次のワタクシが起きるまで、一分間の人生でした! 痛いのは好き! 恐いのは、好き!!」

 だが、人格を。精神をいくらでも切り替えられるからと言って。肉体の方は、そうとはいかない。
 脳への負荷は既に限界を越え、その発言は支離滅裂に。目から、鼻から、口から……顔の穴という穴から血を垂れ流すその表情は、まさに獣もかくやと言わんばかりの禍々しい形相へと変じていく。

「だって、ワタクシとアナタは一緒に滅びるから! ──っ、ぅ……」

 その言葉を最後に、糸が切れた人形のように伊美砂が倒れ伏す。脳がその負荷に耐え切れず、自らを守る為に強制的にその機能を停止……気絶したのだ。

『ハッ、ハハ……驚かせて、くれたわ。でも、これで……』

 脳内を暴れ回る諸人格の衝動のままに、踊り続けた伊美砂。その乱舞は女には届かなかったが……彼女を守る肉壁を、文字通り全滅させる事には成功した。
 だが、それは猟兵にとっての勝利ではない。女は生き延び、猟兵は倒れ……逃走の活路を、開けたのだから。

『……資料や設備は惜しいですが、ワタシさえ生きていればいくらでも取り返せますからね。精々、今日の勝利を誇りな……』

 余裕を取り戻したのか。再び慈母の仮面を纏いながら、女はそう言い放つ。自分さえ生きていれば、この程度の敗北はいつでも取り戻せると……戦略的勝利を、歌い上げる。
 しかし、その余裕は一瞬で消える。

 ──ゾワリ。

 感じる悪寒。女が感じたその気配は……俗に言う、『殺気』と呼ばれる物。

『な、何が……っ! まさか!』

 振り返る。その先にいたのは、先程恐怖に沈めたはずの白のドレスの少女の姿。
 だが、おかしい。あの女の心は、確かに砕いたはず。もう立てぬはずだ。それにドレスの色も、いつの間にやら黒へと変じているのは何故なのだ。
 だが、それよりも。何よりもおかしいのは……!

『影に、目……? なんなの、それは……!?』

 女の声は、震えていた。禍々しい力を前にして身体は慄き、理解の埒外の現象に頭脳は凍る。
 ……『マザー『テラー』』は、知らなかった。今、彼女が感じているその感情を。『恐怖』という、その感情の名を。

 ──我を起こすのは、誰か?

 翔の口から溢れたのは、翔の声にあって翔の声に非ず。今、その身体に宿るのは本来の主のそれでは無かったのだ。
 ……全ての思い出を貪られ続け、翔の心は折れかけていた。半ば発狂しかけていた翔にトドメを刺すべく、その責め苦は心の奥底に眠る最も大切な者との想い出へと牙を突き立てようとした……その瞬間だった。翔の魂が、最後の力を振り絞るように叫びを上げたのは。

 ──この記憶だけは、守らなくてはいけない。
 ──その為になら、俺の身なんてどうなっても構わない。
 ──だから。

(……代わりに、テメェの力を寄越せェッ!!)

 その魂の咆哮を最後に翔の意識は途絶え……その身体に、『ナニカ』が宿る。
 瞳を紅く輝かせ、纏う装束は全てを拒む純黒のドレス。そのデザインは妖しげかつ淫靡であり、下腹部に輝く紋がその印象を一層強く刻み込む。
 その姿は、かつての戦いの決着の折りに見せたその姿である。だが、しかし。その影から以前は無かった伸びる手と、その手に浮かぶ無数の手に浮かぶ瞳の不気味さは……まさに、筆舌に尽くしがたい物があった。
 ……圧倒的な存在感を放つ、翔であって翔では無い『ナニカ』。その目が射抜くは……慄き動けぬ、傲慢で哀れな女の、その姿。
 この女こそが、『ナニカ』を呼び起こした存在であろう。ならば、相応の褒美を与えねばならぬ。

 ──我を起こした褒美だ。汝を、喰らおう。

 傲慢な『ナニカ』のその宣告と同時に、伸びる影の手。その手が女の身体を掻き抱き闇に取り込むその直前に……女は踵を返して逃げの一手を打つ。
 ……女が動けたのは、彼女が邪神の秘儀を通じてその手の存在に対する耐性を得ていたからである。だが、その耐性は『ナニカ』を相手にするには些か弱すぎた。
 もう少し耐性が強ければ。または『ナニカ』の格がもう少し低ければ、女はその魔手を掻い潜る事が出来たかもしれない。
 だが、現実は。女の逃走は僅かに遅れ……その左足と、右腕を。影の魔の手に掴まれる事になる。

『ひっ、ぁ……ガァァァァァアアアアッ!?』

 響く絶叫。影は掴んだ肉を貪り、骨を砕き、その存在を闇の中へと取り込んでいき……。

「──っ、ぁ……」

 そこで、『ナニカ』の依代となっていた翔の身体が限界を迎えたか。変じていた髪が目が輝きを喪い、纏うドレスは弾けて白の裸身を晒して地に横たわる。
 ピクリとも動かぬ翔のその身体。伊美砂も崩れ落ち意識を喪ったままである。まさに満身創痍と言った二人であるが……二人のその献身によって、狂気の研究者を遂に追い詰める事に成功したのは、間違い無い。
 ……決着の時は、まもなく訪れようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ミフェット・マザーグース
怖いと感じないものが、キズをつけられないのなら
ミフェットはダメかもしれない
ミフェットのココロがヒトと同じか、ミフェットには分からないもん

WIZで判定
『太陽の家』のみんなで一緒に行動!
ミフェットは
「歌唱」と「楽器演奏」でみんなを「鼓舞」して、恐怖心を癒やすよ

UC【田園を照らす暖かな光の歌】
恐怖を知っているヒトが、それでも安心できるように、いつでも帰ることのできる自分の居場所を思い出せるように


目をぎゅっと閉じて 真っ暗な夜のやみのなか
むねに灯る明かり 橙色のランプの火
暖炉の ぬくもり暖かいシチュー 友だちの笑い声 
「太陽の家」を思い出して


クロエ・アスティン
【太陽の家】
テラーに囁かれた言霊により山賊に捕まっていた時のことを思い起こされて発狂してしまいます。
纏っていた戦乙女の鎧も解除され、白いワンピース姿で小さく体を縮めて幼子のように泣き叫ぶばかり。

けど、ミフェットさまの歌が聞こえてきて敵のUCの効果が弱まってくると
「太陽の家」のことや神官戦士として修業してきたことを思い出し、徐々に「勇気」を取り戻していきます。

もう自分は泣き叫んでいるばかりの子供じゃないであります!
戦女神様、もう一度だけ力をお貸しくださいと【戦女神に捧げる聖なる祈り】で戦乙女の姿……真の姿に覚醒
戦乙女の槍での「ランスチャージ」で突撃であります!

※アドリブや連携も大歓迎です





『ぁぁぁああ、痛い、イタ、いィッ……!!』

 右腕と左足を喪い、倒れ込んだまま痛みに呻く狂気の研究者。無様で悲惨なその姿は、当初の余裕ある姿から遠く掛け離れた物だった。
 ……いっそ哀れ、とすら思えるその姿。だが猟兵達はその姿に情けをかけようとは思わない。

「……多くの人々を惑わし、その運命を弄んだ。その報いであります……!」

 女を見下すクロエのその姿は、戦女神の下に集う戦乙女に変じていた。
 もう二度と、あんな悲惨な事件は起こさせない。この地に乗り込む前に胸に抱いたその願い。高潔な誓いが、クロエの力を押し上げているのだ。

「怖さなんて、感じないであります! 覚悟するでありますよ!」

 キッと眦を決し、その手に握られた背丈ほどもある大型のランスを構えるクロエ。勇ましく凛々しいその姿からは、確かに敵に対する恐怖など感じられない。
 そんなクロエの姿を横目に見つつ……ミフェットの胸中は、複雑だった。

(恐いと感じないものが、キズを付けられないのなら。ミフェットは、ダメかもしれない……)

 兵器の実験体として調整されていた、という来歴を持つミフェットだ。その調整の果て、猟兵として戦う自分のココロが『普通のヒト』と同じなのか、ミフェットには判らない。
 ……恐怖を感じない存在からの攻撃を遮断する。そんな相手のその特性は、ミフェットの胸の奥底に眠るそんな悩みを刺激して……。

「あっ、ぁ……いやぁぁッッ!?」
「──っ!? クロエ? クロエっ!?」

 指向の深みに嵌まり込む、その直前。響いた悲鳴に、ミフェットの意識は現実へと引き戻された。
 見れば、クロエが頭を抑えて蹲っている。その身を飾る鎧は消え、鎧下に着込む白のワンピース姿へと変じてしまっているではないか。

「クロエ! しっかりして、クロエっ!」
「ひっ!? こないで……!?」

 ミフェットの必死の呼び掛けも、クロエの耳には届かない。クロエの瞳に光は無く、ここには居ない影に怯えているのは明白だ。

『っは、ははっ……! 怖さなんて感じない、ですって?』

 そんなクロエの様子を、嘲り笑う声がする。ミフェットが顔を上げれば……そこにいたのは、先程まで倒れ込んでいた女の姿。
 ……恐らく、ミフェットの意識が内側に向きかけたあの瞬間。クロエは女の術に掛けられたのだろう。ミフェットが術に掛からなかったのは、意識が内側に向いていたからか、女の消耗故か……そこは、重要な事ではない。
 今重要なのは、クロエが敵の術に掛けられてしまった事。そしてミフェットには、女にトドメを刺す手段が無いことだ。
 その事を知ってか知らずか、女がヨロヨロと立ち上がる。その表情には死相も浮かぶが……未だ、この場からの脱出を諦めていない事を感じさせた。

『……『恐怖』とは、生物が持つ本能! 一度刻み込まれれば、どんなに古い記憶であっても絶対に忘れることなんて出来やしない……!』

 さぁ、アナタの“恐怖”はどんな物かしら! 女のその言葉に、クロエは一際大きな悲鳴をあげる。嫌だ、助けてと……心の内側に、沈んでいく。
 ……信心深く品行方正。戦いの場では仲間を守る盾として奮闘する小さくも大きな盾。それが、クロエ・アスティンという猟兵だ。
 だが、彼女の心には深く大きな傷がある。過去に山賊に誘拐され、その際の経験が今も癒えぬ傷となって残っているのだ。
 ……その癒えぬ傷を、女の言葉は容赦なく抉り出して浮き彫りにする。その傷を思い起こさせられるクロエの動揺は、計り知れない。

(だめっ。このままじゃ、クロエがっ……!)

 そんなクロエの傷を、ミフェットは知らない。だが目の前で苦しむ友達を、ミフェットは見過ごせない。
 ……自分に出来る事は、なにか。恐怖に苦しむ眼の前の友達を、助ける為に出来る事は……。

(──そうだ! この歌をっ!)

 クロエの身体を抱きかかえ、すぅっと深く息を吸う。
 必要なのは、勇壮な歌ではない。恐怖に震える者を安堵させる……包み込むような、暖かな光だ。

 ──目をぎゅっと閉じて 真っ暗な夜のやみのなか
 ──むねに灯る明かり 橙色のランプの火
 ──暖炉の ぬくもり暖かいシチュー 友だちの笑い声 
 ──「太陽の家」を思い出して

 それは、彼女たちの帰るべき暖かな居場所の歌。
 経歴も、出自も、種族や世界さえも別々の娘たちを、暖かく迎え入れてくれる。生命を照らす光の様な、『あの家』の歌だ。

『歌? そんな物で、この『恐怖』は……何!?』
「……ぃ、じぶん、は……!」

 暖かく響く、ミフェットの歌。陽だまりの様なその暖かさを、女が嘲笑うが……クロエの口から溢れたその言葉に、その嘲笑は驚愕に変わる。
 ……心の傷は、確かに癒えない。まだじくじくと痛むし、思い返せば脚も竦んでしまう。
 だが、それでも……!

「自分は、もう……! 泣き叫んでいるばかりの子供じゃ、ないでありますっ!」

 積み重ねた神官戦士としての修練。そして帰るべきあの場所の暖かさを思い起こせば、抗える!
 ガクガクと震える膝をパンっと叩き、ミフェットの肩を借りながら立ち上がるクロエ。その身体に宿る力は、全力とは程遠い。
 だが、一度だけ。もう一度だけならば……!

「いと気高き戦女神、戦いの地に立つ我らに……もう一度だけ、御力をお貸し下さい!」

 敬虔な信徒のその求めを、戦女神は聞き届ける。輝く光はクロエの手に集い……戦女神の槍が、顕現する。
 輝くその槍は、振るう者の魂の輝きを示す物。煌々と光るその輝きは、正しくクロエの魂の輝きであり……。

「──これで終わりで、ありますっ!」

 その輝きが、邪神の眷属の闇を祓えぬ道理などありはしない!
 震える腕で、だが力いっぱいに突き出されたその槍は……見事に狂気の研究者、『マザー『テラー』』の胸を突き、貫く!

『カッ、ハッ──!? ワタシの理想が、『究極の生物』、が……!』

 胸の中心を貫かれ、聖なる光で身体を灼かれ。女のその口から溢れるのは、血反吐と苦悶、未練の声。
 だがそれ以上の言葉を残す事無く。女の身体は程なく限界を迎え……浄化の光により、焼き消えていくのであった。

 『恐怖』と『絶望』を邪神の力により乗り越えて、その果てにある『究極の生物』を創造する。
 そんな狂気の進化論を打ち立て、実行に移した非道の女は、見事に討ち果たされた。
 彼女の研究成果は現地組織により押収され、その痕跡は全て闇に葬られる事になるはずだ。
 猟兵達はまた一つ、世界の闇に潜む危機を摘み取ることに成功したのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年04月18日


挿絵イラスト