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路傍の石はどこにある?

#アポカリプスヘル #【Q】 #ストレイト・ロード

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#アポカリプスヘル
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#【Q】
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#ストレイト・ロード


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●春
 春が来ようとしている。
 見渡す視界に、花はない。
 風はかわいて、冷えていた。下から上に吹き抜ければ砂埃が巻き上げられて空の青をくすませた。

 荒野が広がっている。
 旅の轍はやがて砂に呑まれて消えていく。人の気配を遺していた小屋が壊れていく。

 誰もいない。ここには、誰もいない。
 道もない。進むべき目的地も還る場所もない。
 語り合う声もない。世界に忘れられし誰かの声をきく者もいない。
 風に掬い上げられ弄ばれ千切れて飛んでいく紙片。何かが書いてあったけれど、それももうわからない。
 地に落ちて砂と石に塗れて、やがて埋もれて朽ちていく。
 誰にも知られず、朽ちていく。

 ――春。

●9番目の道造り
 場所は、グリモアベース。
 猟兵たちが集う場所。依頼を探す者、依頼から戻ってきたばかりの者。依頼から帰ってくる友を出迎える者。
「花見ができる依頼にチームで行こう」
 仲の良さそうなチームが笑い合い、歩いていく。季節は、もうすぐ春だ。世界によってはきっと儚くも麗しい花が咲いているだろう――そんなグリモアベースに「あなた」がいた。そして、声をかけられた。
「貴方様に、お仕事をお願いしたいのでございます。荒野での肉体労働に加えて敵との戦闘が多く予想されるお仕事でございます」
 振り向くとルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が土下座をしている。
「アポカリプスヘル拠点間の交通網を復活させる、というお仕事でございます」
 しずしずと顔をあげた少年は貴方ただひとりを完全にロックオンした様子でひたりと見つめ、真剣なまなざしで依頼の説明を始めた。

「世界、アポカリプスヘルの拠点(ベース)は孤立しています。その孤立拠点を舗装道路でつなぐ、という試みがあるのでございます」
 儀式魔術【Q】の成功によりそれが可能になったと説明する少年は、数え間違いがなければ今回が9番目の道になると付け足した。そして、カンペを読む。
「道中には荒れ地や地割れ、オブリビオン等の障害が存在するので、道路を敷設しつつ、それらを排除していきましょう。舗装の種類はマカダム舗装(砕石舗装)という、砕石をローラーで圧し固めたものになります。まだ、アスファルトやコンクリートは確保できません」

「現時点では、まだ「ハイウェイ」や「トンネル」を敷設する事はできません。資材の問題に加え、敷設後にそれらを警護する人員を割くことができないからです。舗装道路はある程度、オブリビオンやオブリビオン・ストームによって「壊される」ことも想定済みで敷設します。何度壊されても、諦めなければやがて道は定着することを期待しているのです」

 カンペを読み終えた少年はお弁当を差し出しながら自身の予知を語る。
「最初に転移する出発地点は、『拠点エルヴィン』。南にございます『拠点スター・デムリア』に向かい、まっすぐに道を敷設していただきます。
 旅の途中、敵の襲撃が予知できております。壊れかけた小屋が目印となりましょう。もちろん、予知し切れていない突発的なゾンビやレイダーの襲撃がないとも言い切れません。ご注意を」

 ――仕事を受けてくださいますか? と、グリモア猟兵が問いかけの視線を向ける。

「……華の無いお仕事でございます」
 ルベルは尻尾を揺らして微笑んだ。
「汗臭く、泥に塗れて――負傷もあるかもしれません。敵は、鋼鉄を纏っていたり空から弾を降らせて来たりするかもしれません」

「けれど、大切なお仕事でございます」

 ルベルはそう言って頭を下げた。
「だから、貴方様にお願いをいたします。どうぞよろしくお願いいたします」

 春が来る。
 見る者がいなければ誰にも知られぬ物語がある。

 路傍の石は、どこにある?

 沢山の世界。
 広い世界の片隅で――、
 空と大地と、敵と味方と、過去と現在と。未知と未来に繋がる冒険のはじまり、はじまり。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回はアポカリプスヘルでの初めてのシナリオです。
 このシナリオフレームで得た🔵は記録されています。その総数に応じて交通網の復活度が決まり、より高度で強固な道路を敷設できるようになります。

 1章は冒険です。荒野を切り拓いていきましょう。
 2章は集団戦です。
 3章はボス戦です。

●プレイング募集期間
 全章通してシステム的に受付可能であれば受付しています。

 キャラクター様の個性やプレイヤー様の自由な発想を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『荒野を切り開け』

POW   :    道路を敷く為、荒れた地面の整地を行う

SPD   :    鋭い調査や直感によって、周囲の危険を避ける

WIZ   :    知恵や知識によって、最適な交通ルートを割り出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ミスト・ペルメオス
【SPD】

障害物の破砕ならばともかく、道を敷くのは流石に…。
…せめて、周囲の安全確保に協力します。

愛機たる機械鎧(人型機動兵器)を駆って参戦。
マシンヘルムやデバイスを介して念動力を活用、機体をフルコントロールしつつ。

愛機はあくまで機動兵器。流石に道路敷設までは対応しにくい。
故にスラスターを活用して飛び回りながらの偵察・哨戒を実施。
レーダーやセンサーも利用しつつの上空からの調査ならば、危険な地形や敵対者の早期発見もしやすいだろうと想定。
情報は音声や発光通信で他者と共有、作戦に活かせるように。
また敵対者が現れれば率先して急行、飛び回りながらの射撃戦によって掃討する。

※他の方との共闘等、歓迎です


トリテレイア・ゼロナイン
(食事不要だが疑似飲食機能はあるので折角だからと弁当を受け取り)

拠点間の物流や交流を確保する道…たとえ破壊されても、現地の人々が再度復元する階となれるでしょう
…贅沢を言えば花壇…防衛拠点も欲しい所ですが、種を撒かねば芽も花も実も無いのですから

●騎乗する機械馬の●怪力でローラーを牽引
UCで放った妖精ロボで周囲を、遠隔●操縦する機械飛竜…(ヒーローズEの技術提供でHE戦争から実戦投入)ロシナンテⅢで上空から●情報収集

周囲の索敵もそうですが、空からの計測で道を真っ直ぐに舗装できているかこれで正確にわかる筈です

小規模の敵性存在を発見すれば自身はローラーを牽引しつつ遠隔●操縦する機械竜の単装砲で排除


月凪・ハルマ
気にしない気にしない。猟兵だからって、
派手に目立つ仕事ばかりじゃないって

―それじゃ、いきますか

◆SPD
人手の必要な力仕事とくれば、このUCで決まりだろ
って訳で皆、出番だ!(UC発動)

召喚したゴーレム達は
・ルート上にある障害物を撤去するグループ
・ローラーで舗装するグループ
・周囲の警備に当たるグループ
の三つに分けて運用する

なお、今回召喚するゴーレム達は敵や地雷等の危険物を
早期発見できるよう、【メカニック】技能でセンサー類を強化
データは俺の装備してるスマホに送信するように設定して
それらを逐一チェック(【情報収集】)しながら作業を進める

あとは大型機動装甲車・玄武を移動式の休憩場所として
提供するとしよう



●ハロー、ワールド!
「気にしない気にしない。猟兵だからって、派手に目立つ仕事ばかりじゃないって――それじゃ、いきますか」

 太陽に照らされる荒野に淡く光が瞬いて、猟兵達が現れる。そして、大型のバスも――ハルマが大所帯の猟兵チームをサポートするため提供したバスである。
「大型機動装甲車だ。名前は玄武」
 月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)がそう言ってバスを紹介する。

「拠点間の物流や交流を確保する道……たとえ破壊されても、現地の人々が再度復元する階となれるでしょう」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は出現地点北方に聳える建物に緑色のセンサーを向けた。人の気配が多数ある。
「あちらが拠点『エルヴィン』のようですね」

 長身のトリテレイアの隣に並ぶミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)は自身の倍はあろうかというウォーマシンを見上げるようにして頷いた。
「出発地点への到着を確認、これより任務にあたります」
 呟いた少年はふと思案顔でメンバーをチェックした。
「障害物の破砕ならばともかく、道を敷くのは流石に……。……せめて、周囲の安全確保に協力します」
「適材適所といいますから、互いの得意分野で補い合いましょうミスト様」
「ええ、そうですね」
 ミストが同意して乗り込むのはスタイリッシュな漆黒の機械鎧ブラックバード。愛機をフルコントロールする少年はスラスターを吹かせて飛び上がる。
「上空から見てみます」
「お気をつけて。こちらも愛機を出しましょう」
 トリテレイアがいそいそと自身の所有機を披露する背にハルマの声が被る。
「人手の必要な力仕事とくれば、このユーベルコードで決まりだろ」
 帽子のつばを引き口元に笑みを浮かべるのはハルマ。発動したユーベルコードは『魔導機兵連隊』(レジメント・オブ・ゴーレム)。
「って訳で皆、出番だ!」
 少年の前に71体のゴーレムが召喚される。

「Aグループはルート上の障害物を撤去、Bグループはローラーで舗装を担当、Cグループは周囲の警備だ」
 ハルマがゴーレムに役割を分担させてきびきびと各グループを出発させた。


 こうして、猟兵チームは各々が作戦行動を開始した。
 時刻は昼過ぎである。


「……贅沢を言えば花壇……防衛拠点も欲しい所ですが、種を撒かねば芽も花も実も無いのですから」
 トリテレイアが巨大な機械馬にローラーを牽引させている。ロシナンテⅡという名で呼ばれる機械馬は清潔感溢れる白い装甲を陽光に気高く耀かせ、使い手の期待に応えて仕事をしている。
 上空を忙しなく行き来して情報収集しているのは妖精を模したロボ。そして悠々と飛翔して広範囲に注目を集めているのは機械飛竜のロシナンテⅢだ。
「飛竜タイプのロシナンテⅢはヒーローズアースの技術提供を受けて生まれたのですよ」
 戦争の思い出を語りながら弁当箱を開けて黄色い卵焼きを口元に運ぶトリテレイア。ウォーマシンであるトリテレイアに食事による栄養摂取は不要なはずだが、なんとこの高機能マシンは疑似飲食機能を備えているのだ。
「少し焦げているようですね……」
 卵焼きは若干焦げていた。
「ですが、食するのには問題ないレベルです」
 一方、隣に座る帽子を被った少年ハルマはスマホをチェックしながら一口サイズのライスボールを口に運んでいた。
「ゴーレムはセンサー類を強化してあるんだ。で、データはこのスマホに送信されてくるってわけで……ライスボールの具は明太子かな、これ」
「色々な具があるようですね」
「そうですね、あっと、拠点エルヴィンで騒ぎが起きているようですね――別の猟兵の方が対応中なので、大丈夫そうですが」
「この辺りの地図とか状況図を作った方がいいんじゃないっすかね。結構敵が多いような」
 弁当をぱくぱくと食べながら2人はのんびりと情報を共有しながらマップの作製にとりかかった。


●???
「あれは何だ?」
 上空を悠々と飛翔する巨大な機械飛竜。
 遠目にも存在感のある飛竜を見て騒ぐ者たちがいた。

「どうも『エルヴィン』の周辺に妙な一団が現れたようです」
「『エルヴィン』は今戦える連中が出払っているんじゃなかったのかい。『スター・デムリア』からまた逃亡者でも出てたのか?」
「お嬢、それがどうも『エルヴィン』『スター・デムリア』どちらの者でもないみたいでさ」
「どこか他から流れてきた奪還者の一団か? ……よくわからないが邪魔だねえ」
「しかも、連中『スター・デムリア』に向けて進んでいやがる」

 へえ、と呟いた『お嬢』の髪を乾いた風がさらりと揺らした。ママン・ヒアルラが綺麗だと愛でてくれる自慢の髪だ。
「動かせる兵はどれくらいある?」
 好戦的に目を輝かせ、『お嬢』が傍らの側近にきいた。
「お嬢、今はスター・デムリア攻略に加えてエルヴィンにまで兵を割いてるんですぜ。これ以上は拠点を守る兵が足りなくなっちまう」
「そうか。うんうん、そうだな。じゃあ残ってる兵の半分を出そう」
 『お嬢』は歯をむき出して笑った。
「それと、例の空飛ぶデカブツも『スター・デムリア』攻略に使っちまおう。兵器ってのは使わなきゃただの鉄屑さ」


●遭遇・レイダー戦
 上空を飛翔して周囲を偵察していたミストには味方2人の会話音声が届いていた。2人の言葉の隙間を縫うようにしてミストが音声を送る。
「私が確認した情報を送ります。出現地点の北で現在少数のレイダーが拠点エルヴィンを襲撃中、少数の猟兵が対応中、じきに全撃破の見込み。
 西に毒沼を確認、南には襲撃予測地点と思われる『小屋』を確認。小屋から数メートルに屍人一体確認、西に向けて低速移動中」
「屍人は進路的に放置しても作戦に支障がなさそうですね」
 仲間の声が音声通信で返ってくる。返答するより先にマシンヘルムの奥の瞳が眇められ、ミストは戦術プログラムを起動していた。
 プログラム『ハイマニューバ』により機体が眼にも止まらぬ速度で地上に滑り降りる。一迅の風が吹き抜けるように黒い機体が奔りながら主武器ビームキャノンが火を吹けば進行方向の戦車が数台撃破される。
「民間人を連れたレイダーの小隊を確認」
 言いながら展開するビームシールドが敵小隊からの銃弾の雨を防いでいる。
「奪還者か!」
「たった一機だ。落としちまえ!」
 レイダーが吠えている。戦車が数台、獣タイプの機械兵が1体。数えながらミストのブラックバードはビームアサルトライフルを撃ちながら地を抉るように高速で奔り、跳んだ。
「落とせ! そのデカブツを接近させるな!」
「――もう遅い!」
 ブラックバードの手にはカイアス・ブレイカーが抜かれていた。雷霆の如く小隊に斬り込む黒き人型機動兵器は重力を感じさせぬ起動で長大な刀剣を振る。金属同士が重く衝突する悲鳴に似た音が響き渡り、破片が飛び散った――敵戦車と機体が破壊されていく。

 敵小隊リーダー格と思われる禿頭の男が頭を掻きむしり、怒鳴った。
「ええい、こんな辺境に何故お前のような手練れがいる!? そ、そうだ。その腕を見込んで『喰賊団エデン』の幹部に口利きをしてやろう。近くに『団長ヒアルラ』の三番目の養女『チュート』様が治める『エデン・スリー』がある。どうだ、俺たちと手を結ばないか」
「クウゾクダン、エデン?」
 聞きなれない単語の数々に反応を返すミスト。禿頭男はにやりと笑い、手に持っていたスイッチをカチリと起動した。
「――なんて美味い話があると思ったか! 馬鹿め!」
 一瞬遅れてブラックバードの至近にあった獣タイプが爆発する。自爆装置を起動されたのだろう。
「ははははは!! やってやった!」
 禿頭男が騙し討ちをしてやったと高笑いをして――固まった。
「やっ……、」
「何をです?」
 冷静な少年の声が響く。傷ひとつない黒き人型機動兵器が飛び上がり、青空を背に地上の敵を睥睨していた。背後からは味方トリテレイアが遠隔操縦する機械竜が駆けつける。地上ではハルマのゴーレム団も近付いていた。
「は、は……」
「お前達は『エデン』という組織ということですね?」
 確認するミストを守るように飛んできた機械竜がくわりと大口を開け、口部内に搭載されていた単装砲から援護射撃を放った。
「ひ、ひぃっ!!」
 禿頭頭が泡を食って逃亡を開始する。背を撃ち抜こうとする仲間の機体をミストが静止した。
「逃がして追跡し、拠点『エデン・スリー』の位置を特定しましょう」
 通信を介して味方が案じている。
「民間人が」
 その視界の隅には縛られ震えあがる民間人の少女がいた。よく見ると怪我をしている。
「救出した民間人が負傷しています。治療できる猟兵さんの所に連れて行きますから、ユーベルコードの準備をお願いします」
「敵レイダーは現在西に向かって逃走中です。近くに拠点があるなら今後のためにも制圧しておいたほうが良いでしょうね」
 トリテレイアが妖精ロボの視界情報と周辺の地図を見比べている。ハルマが先刻ブラックバードから共有された小屋地点の情報を注視して呟いた。
「予知にあった小屋地点の襲撃と関係があるかもしれない――、なあ、見てくれないか? 移動中の屍人が向かう方角とレイダーが逃げる方角が一致してると思うんだ」
「小屋と屍人について調べた方が良いでしょうか? どなたか調査に動ける方はいらっしゃいますか」
 通信を介して仲間猟兵たちに情報が共有される。
 動けますよ、と名乗り上げた者が小屋に向かって移動を始める。

 空からはトリテレイアの妖精ロボ、地上からはハルマのゴーレムが禿頭男を追跡し、ミストは負傷した少女を保護して仲間猟兵のもとへと向かうのであった。

「もちろん、道も作っていかなければね。なんだか忙しくなってきたなあ」
 ハルマが帽子を被り直してゴーレムを指揮する。ゴーレムたちが土煙をたててズンズンと動き回り、道を作っていく仲間たちを守るために警備の陣を厚くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キアラン・カーター
たとえ地味な仕事でも誰かの役に立つのなら素晴らしい事だね。
……と言っても力仕事では僕は貢献できないから、僕らしい仕事をしようかな。

UC【薬師の歌】でみんなの疲れや傷を癒すよ。
華の無い仕事だと彼は言っていたけれど、だったら僕が華を添えよう。
僕は力もないし戦闘でも役に立てないけど、僕の歌でみんなの心身を癒せればいいな。

とはいえ最低限のお手伝いはしなきゃね。
道具を運んだり、敷設ルートのアドバイスも求められれば。
こう見えて旅慣れてるから多少は役に立てるかも。

疲れた、なんて……この世界の人たちや頑張ってる仲間の事を思えば口が裂けても言えないね。
僕も頑張らなきゃ。


エミリロット・エカルネージュ
この世紀末世界も、復興に着手出来る段階まで進んだのかな?

それならボクも、出来る範囲で手伝おうかな……確かマカダム舗装って方法で道路をつくるんだったっけ

●POW
【霊芝餃薬剄法】を自分や依頼参加者に『範囲攻撃』で付与し、ボク自身や依頼参加者の技能を強化した後

マカダム舗装に必要な石を『怪力』で運搬し『鎧無視攻撃』を込め、原型が残る様に『グラップル』による拳や尻尾や蹴りで砕き

その石の破片を『怪力』で運搬し舗装する道のルートに撒いてローラーして貰う様に動くよ

この手の作業は初めてだけど、こんな感じで間違ってないのかな?

作業中に怪我人が出たら、霊芝餃薬勁法を使い治癒を施さなきゃ

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎



●癒し手2人
「たとえ地味な仕事でも誰かの役に立つのなら素晴らしい事だね……と言っても力仕事では僕は貢献できないから、僕らしい仕事をしようかな」
 繊細な容姿のキアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が穏やかに微笑む。
「この世紀末世界も、復興に着手出来る段階まで進んだのかな? それならボクも、出来る範囲で手伝おうかな……」
 ふわふわの耳と羽を揺らしてエミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)が同意した、その瞬間。

「怪我をしている民間人がいます。治療できる猟兵さんはいますか?」
 仲間猟兵の声が通信で響く。

 2人は同時に治療が可能だと名乗り上げた。そして、程なくして民間人が運ばれてきたのであった。

●タリアの願い
 仲間猟兵が連れて来たのは、10歳前後の少女だった。レイダーに捕まっていたのだという少女は襤褸切れのように引き裂かれた服に血を滲ませ、蒼褪めて震えていた。

「これはいけない」
 キアランが少女の惨状に眉を寄せて息を吸い、歌を歌い始めた。それはこの血塗れた少女が横たわる荒野風景を教会に幻視させてしまうほど美しく清らかで優しい歌だった。音階を辿る声は性別を見失うほど可憐で透き通っている。空気を震わせる歌声が奇跡の波涛となり、横たわる少女の傷を塞いでいく。紛れもない奇跡がそこにあった。――奇跡の歌、すなわちユーベルコードである。その歌の名を『薬師の歌(ピーアン)』と云う。

「う……」
 少女が小さく呻き、薄っすらと目を開けた。顔色が大分よくなっている。
「気が付いた?」
 キアランが歌を中断して優しいまなざしを向けると、少女はぱちぱちと何度も瞬きをした。目の前にいる青年は普段見ている大人たちとは比べ物にならないくらい美しく、清らかで人間離れしている。少女は夢心地で呟いた。
「て、てんしさま……? あたし、しんじゃった?」
「死んでないよ、大丈夫。ボクたちが怪我を治すから心配しないで」
 エミリロットが「あーん」と言って少女に茸餃子を食べさせた。
「おいしい」
 少女が眼を丸くして起き上がる。
「それに、元気がわいてきたみたい!」
「医食同源、食は薬なり。治癒と増強効果のある霊芝が入っていて、霊力が活力を呼ぶんだよ」
 『霊芝餃薬勁法』というユーベルコードである。キアランが「そういう技もあるんだね」と興味津々で頷き、歌をもう一度紡いだ。
「その歌は、ボクの疲労も癒してくれるね――この子、任せるよ」
 少女をキアランに任せてエミリロットが他猟兵のサポートに呼ばれて走っていく。



「確かマカダム舗装って方法で道路をつくるんだったっけ」
 エミリロットは他の猟兵たちにも『霊芝餃薬剄法』を付与して全員を強化し、自身も仲間と一緒に石を運搬する。
 通信回路からはキアランの報告が流れてくる。

「少女は完全に回復したよ。名前はタリアといって、拠点『エルヴィン』のリーダーの娘だそうだ。
 父である『エルヴィン』氏――名前はリーダーが代々受け継いでそう名乗るものらしい――が出かけるのを後から追いかけようとしてレイダーに捕まった、というような話をしている……の、かなあ。あまり要領を得なくて……」

 自信が薄そうなキアランの声をききながらエミリロットは長いスカートを翻して蹴りを放ち、素早く石を砕いていく。頭の高い位置で白リボンで束ねた苺色の髪がぴょこんと元気に揺れ、金色の瞳はきらきらと陽光に煌めいた。
「この石の破片を舗装する道のルートに撒いていけばいいかな?」
(この手の作業は初めてだけど、こんな感じで間違ってないのかな?)
 エミリロットが仲間に尋ねれば、「たぶんそれでOK」とふわっとした返答が返ってくる。メンバーの中に舗装のプロはいない。皆、同じような知識で時折一緒に頭を突き合わせて手順を調べたりしながら作業を進めていた。

 キアランの声が続いている。
「民間人の少女は、拠点『エルヴィン』に送った方がよさそうだね。誰かお願いできるかな」
 仲間が名乗り上げ、少女が拠点へと護送されていく。

「おねーちゃん」
 通信回路から少女の声がきこえた。
 エミリロットが汗を拭い、手を止める。
「ボク?」
 通信に返事を送ると少女が嬉しそうな声を返してくる。
「おねーちゃん、さっきのすっごくおいしかった。ありがとう! あんなのはじめて――ねえ、パパのお仕事を助けてくれる?」
「タリアちゃんだっけ」
「うん」
 エミリロットにはちりりと背に疼くような嫌な予感があった。その父というのが既に死んでいるのではないか、と、そんな第六感めいたものである。
「……」
「あのね、タリアはわかってるの」
 少女がまっすぐな声を響かせた。
「パパは、いつも戦ってて、いつ死ぬかわからないってタリアは毎日言われてた。パパ、多分戻ってこれないって言って出ていったの。だからね、パパを助けてなんて言わないから。パパのお仕事を、助けてくれる?」
 少女はそう「お願い」をしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

草野・千秋
誰もいなくなんてないですよ
ここには僕ら猟兵が、奪還者がやってきました
この荒れ果てた大地に救いをもたらすために
誰も見てないかもしれない?
そんなの関係ないです
これが僕らの役目ですし
いつかこの地獄の地に道が出来て
人々が便利に使って、それで皆さんの笑顔が溢れたら、それでいいんです

アポカリプスヘル拠点間の交通網を復興させるんですね?
道路を敷設に力を貸しましょう
文字通り、力です
僕のちょっと怪力には自信あるんですよ

荒れ地に地割れには気をつけましょう
オブリビオンにも勿論警戒を忘れません
戦闘知識+第六感で警戒しつつ
南に向かって道を整地



●小屋

 通信回路を通して仲間の声が聞こえている。
「誰も見てない、ね。まあ、苦労して作った道がすぐに朽ちてしまうかもしれない、無駄な徒労になってしまうかもしれないというのは――覚悟して、粘り強く作り続ける姿勢でいたほうがいいんだろうね」
「誰も見てないとか、無駄かもしれないとか、そんなの関係ないです。これが僕らの役目ですし、いつかこの地獄の地に道が出来て人々が便利に使って、それで皆さんの笑顔が溢れたら、それでいいんです」
 僕は怪力には自信があるんですよ、と笑って優しげな容姿に似合わぬパワーを奮っていた草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)は、仲間猟兵の要請をきいて二つの拠点の中間地点、壊れかけの小屋に単身で向かった。理由はシンプルで、その時点で最も近くにいたのが千秋だったのだ。

「ああ……」
 祈るようにそっと手を組み、眼鏡の奥の瞳が切なく伏せられる。小屋の中には数体の死体があった。這いずるようにして血の跡がある。

 千秋の指が血に塗れた一冊のノートを拾い上げた。持ち主の名は『エルヴィン』と書かれている。ぱらりとめくるページには日記のようなものが綴られていた。
 千秋が読み上げる。

「数日前、ズタボロの一団が拠点に辿り着いた。南からやってきたのだという一団は、自分達の拠点がレイダーに襲われて逃げて来たのだという」

「助けを求められ、拠点は揉めた。こっちだってギリギリで日々を生きている。拠点の護りだけで手いっぱいだ。だが、死んだ妻によく似た女が――『レイム』が必死に仲間を助けてほしいと言う。自分だけでも助けに戻るなんて言う。彼女はフラスコチャイルド、遺伝子操作によって造られた、超能力を操るクローン人間だ。俺の妻もそうだった。私情だとはわかっているが、俺は彼女を助けたい」

「俺の義志が厚いと勘違いした連中がついてきやがった。それでこそ英雄なんて持ち上げて、バケモノみたいな連中が囲んでる見ず知らずの拠点に死にに行こうってんだ。良い奴らだ。男ってもんはああでなきゃいけない。俺はあんな風にはなれなかった。それをずっと隠して生きてきた。いつも怯えて、打算塗れで、今も亡くなった妻と恐らく同じ遺伝子だってだけの理由で見ず知らずの女のケツ追いかけて自分の拠点を危険に晒してる。俺は英雄なんかじゃない、大馬鹿野郎だ」

「レイダーが襲ってきた。待ち伏せしてやがったんだ。恐ろしい、あの獣どもが仲間を殺し、生き残りも攫って行った。少し休んだら俺は仲間の奪還に向かう。休めばこんな傷どうってことないさ。仲間を助けにいくんだ。ああ、それなのに娘の事がしきりに思い出されて帰りたくて仕方ない、俺は仲間より今娘の所に帰って、娘をひっつかんで逃げたい。どこへ? どこかへ。どこかに行くんだ、戦いのないところへ。

 いや、
 仲間を助けるんだ。助けにいく」

 千秋の指が文字を辿る。日記はそこで途絶え、夥しい血の跡が小屋の外へと続いて。

「一体、屍人が小屋地点から敵拠点に向けて移動中です……」
 通信を介して味方の声がする。

 思い出したのは、予知語りの風景だった。
 壊れた小屋。
 紙が飛んでいく。
 誰にも知られず朽ちていく。

「――誰もいなくなんてないですよ」
 青年の声は、生者のいない小屋に優しく響いた。
「ここには僕ら猟兵が、奪還者がやってきました」

 その声は、通信を介して仲間たちにも聞こえている。
「この荒れ果てた大地に救いをもたらすために」

 声は神聖な誓いのように、壊れかけた小屋の中に満ちる埃っぽく血なまぐさい空気を震わせた。ノートを大切に抱く胸は鉄と肉がまじりあうサイボーグの身体。その胸が熱く滾る――敵への怒りと、現地の民を守りたいという志で千秋の心が今、静かに燃えていた。
 伏せていた瞳が西を視る。


 ――血の跡がべったりと這いずり続く、其の先へ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハロ・シエラ
なるほど、確かに車両の豊富な世界ではしっかりした道路が必要でしょうね。
ただ、特殊な技術も無い私に出来る事はあまりないのがネックですね。
ここは一つ、文字通り道を切り開くとします。
ただの平地であれば楽なのでしょうが、きっと岩やら瓦礫やらがあるでしょう。
私はそれをユーベルコードで斬り【怪力】で取り除きます。
細かく切り刻んで運びやすくするのもいいでしょう。
物によっては地面の亀裂を埋めたり渡ったり材料になる物もあるかも知れません。
そう言う物は使いやすい形に斬る事も出来ると思います。
後の技術的な事は他の皆さんにお任せするとしましょう。
【学習力】でそういう事も幾らかは見て覚えられるとは思いますけどね。


ヴェロニカ・アイアンサイズ
【POW】※アドリブ・連携歓迎

…何もコンクリートで舗装された道路だけが道じゃねえさ。歩きやすい所に自然と人の流れができて、地面が踏み固められるのを繰り返せば、簡単には消えない道が勝手に出来上がる訳だ。
ま、それを短時間でやっちまうのが、文明の叡智ってヤツだな。(パワードスーツに搭乗し、【操縦】【怪力】で比較的きれいなドラム缶に土や砂をぎっしり詰めていく。その光景に周囲がざわつくが、横倒しにしてローラーのように押し始めるとがっかりしたような声が上がる。)

…こんなもんか。よし、ちょっと休憩だ。(パワードスーツから降りてタバコに火をつける。望郷心を唄った曲を口ずさみ、今はない故郷に思いを馳せる。)



●拠点『エルヴィン』

 昼時の太陽が燦燦と地上を照らす中、細剣の軌跡がならず者を『骸の海』へと還していく。
「そこは私の間合いです」
 凛としたハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)の声。背を狙おうと別の敵が岩陰から銃を構え――、
「グアッ」
 飛んできた銃弾に悲鳴をあげた。
「フン、コソコソ隠れて女の背を狙うたぁクソッタレな野郎だぜ」
 独特のフォルムのマシンガンを構えたヴェロニカ・アイアンサイズ(コモンウェルスのミラクルサバイバー・f25587)。ハロが艶やかな長髪を揺らして振り向けば、ヴェロニカは口角をあげて頷いた。
「状況終了」
 時刻は昼を少し過ぎた頃。転移地点から北にある拠点『エルヴィン』が何者かに襲撃されている知らせを受け、ハロとヴェロニカの2人が急行し、拠点を襲撃していたならず者軍団を撃退したのである。

「あ、あなたたちは一体?」
 拠点から数人の民間人が現れて問いかける。
 ハロが背伸びをするように背筋を正し、生真面目な表情で事情を告げるのをヴェロニカは保護者のような眼で見守った。
「お話がすでにいっていると思うのですが、私たちは、南に向かう道を作りに来た猟兵です」
「道? 猟兵?」
 民間人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして小柄なハロを見つめていた。
「おっと、これは……話がされてないオチか?」
 作戦はすでに開始され、周辺一帯で各猟兵が動いている。ヴェロニカは金髪をくしゃりと掻いてハロの隣に並び、改めて事情を説明するのであった。


●望郷

「道を作る。そんな無駄な事を。だいたい、アンタらはこの拠点と何の関係もない余所者じゃないか」
「それに、この付近は今特に物騒でそれどころじゃないんだよ。この間の暗黒の竜巻(ストーム)で『エデン・スリー』とかいう変な集団が近くで暴れるようになっちまってね」
 エルヴィンの人々は拠点に引き籠ってしまった。

「あまり現地の方は協力的じゃないみたいですね」
 ハロがそう言いながらもレイピアを奮い、岩を砕いていた。
「!? なんだあの娘は。さっきもならず者を倒していたが、只者じゃないぞ」
 遠くから様子を窺っていた拠点の人々が目を瞠る。

「……この世界は、車両の豊富な世界のようです。しっかりした道路があるのとないのとでは、色々とやはり違ってくるのでしょうね」
「……何もコンクリートで舗装された道路だけが道じゃねえさ。歩きやすい所に自然と人の流れができて、地面が踏み固められるのを繰り返せば、簡単には消えない道が勝手に出来上がる訳だ」
 ヴェロニカがパワードスーツに搭乗してきれいなドラム缶に土や砂をぎっしり詰めていく。周囲がそれを視てざわざわとしていた。
「悪天候にぬかるむのを厭い、馬や車両を走らせやすいようにと整えていく――ま、それを短時間でやっちまうのが、文明の叡智ってヤツだな」
「ヴェロニカさん、そのドラム缶は……」
 ハロが仲間の技術を見て学ぼうと生真面目な顔で作業を見つめる。
「こうする」
 ヴェロニカがドラム缶を横倒しにして押し始めると周囲からはがっかりしたような声があがった。
(なるほどです、あれが噂の……マカダムローラーでしょうか。ですが、皆さんは何故かがっかりしたような反応をしているような?)
 周囲の様子に首をかしげながらもハロがしっかりとヴェロニカを見習い、ドラム缶に自分が生成した砕石を入れていく。
「あ、いや、それはローラーにしなくていいぜ」
「あ、そうですか?」
 見守る人々には何処かぎこちない姉妹のようにも映る2人。その周囲にはいつしか同じ作戦に参加する猟兵たちが集まりつつあった。

「特殊な技術も無い私に出来る事はあまりないのがネックですが」
 言いながらハロが岩を崩し、瓦礫を細かく切り刻む。華奢な少女の外見からは想像し難い絶技は、ユーベルコードなのだとヴェロニカにはわかる。
「それだけできりゃ十分――……、こんなもんか。よし、ちょっと休憩だ」
 進捗を見てヴェロニカがパワードスーツから降りると、まだ高い日差しに短い金髪がきらきらと輝いた。手ごろな岩に腰かけ取り出すのは手巻きのタバコ。様々な銘柄の葉をブレンドした彼女だけのウェイストランド・ブレンドだ。
「私は、もう少し」
 ハロが汗を拭いながらレイピアを奮い続けている。ヴェロニカの目には少女が微笑ましくも危うげに見えた。
「休憩は取れるタイミングで取れ。ぶっ通しでやるより効率は上がるぜ」
「……」
 ちらりと赤い瞳が仲間を見る。
 元少年兵のハロの瞳には、ヴェロニカには大人のベテラン兵の余裕が見える。その横顔がタバコの煙のヴェールの向こうでどこか遠い瞳をしていた。
 ふわりと息を吐き口ずさむ。
「♪嵐が吹き抜ける天国と地獄の狭間に夢見るは
 当たり前に明日を信じたちっぽけな家
 ♪あの屋根の下、見飽きた壁に囲まれて、小さな扉に鍵をかけ
 窮屈なテーブル囲んで笑い合う

 ♪生と死の綱渡りに必要なのは
 生きる勇気と死ぬ覚悟

 ♪ああ、夢の中で握ったろうか
 二度と戻らぬ大切な……」

 ハロがレイピアをおさめて隣に座る。
 水筒の水をひとくち飲めば、少し土の味がした。無言で座る耳に仲間の口ずさむ歌が穏やかに届き、風がそよそよと2人の髪を揺らして青空にむかって駆けあがる。
 土埃を巻き上げながら。

 時間がゆったりと過ぎていく。
 タバコの煙がゆらゆらと踊る中、春に芽吹く緑のような色をした瞳が人間らしい感情を見せてずっとずっと遠くを視ているようだった。

 その温かな色を見つめながら、「その故郷はきっともうないのだ」と少女は思ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ミア・ミュラー
アポカリプスヘル、初めて来たけど、思ったよりずっと荒れてる、ね。これはなかなか、大変そう。けど、諦めなければ何とかなるって、わたし知ってる、よ。

んー、力仕事はあんまり得意じゃないから、わたしは地面を調べてみる、ね。魔法を使って、杖の先から風のドリルみたいなやつを作って伸ばして、地面に穴をあけて下がどうなってるか、調べる。ボーリング調査みたいな、感じ。下から水が出てきたり、空洞だったりするところは避けた方がいい、かな。ん、せっかくだから長持ちする道路を作りたい、よね。
綺麗な花も、ちゃんと土いじりをしてるから咲くんだ、よね。だから、これも大切な、仕事。ん、わたしもまだまだ頑張る、よ。


千波・せら
地味な仕事だけど、これはとっても大切な事だと思うんだ。
道を切り開く、それこそ希望だと思う。

脆い身体だけど、心は強いよ!
敵が来ても大丈夫
この世界の道を作るから。
ね、見てて。

レプリカクラフトで整地しやすいように小さな爆弾を仕掛けようかな。
敵が来てもこれで撃退するよ。
大きな石なんかは私だけじゃどうにもならないから
こうやって爆弾を仕掛けて運びやすい大きさにする。

重たい物もきっと運べない。
無力だけど無力じゃないってところを見せなきゃね!
私が運べる物を運んで、それから道を整えて。

困っている子がいたら手伝いもしたいな。
物を作ることは得意だから
何か欲しいものがあったら教えてね。
この世界にも春を届けよう!


夢咲・向日葵
●心情
・道路づくりかー。道は大事だよね。
・地面に関することならばシャイニーソレイユの出番だね。地面の整地なら、わたしが大地にお願いすればなんとかなるね。
・魔法王女の力は夢見る力。戦うだけが全てじゃないのよ。
・それじゃあ、始めようか。道路づくり。わたしだってシャチえもんや師匠が居なくても一人で任務をこなせるんだからね。

●道路づくり
・魔法王女(黄)に変身。地面を操る魔法で地面を整地して道路を作っていくよ。プリンセスの魔法は想像と創造の力。わたしの思い描くように地面は変わる。(属性攻撃(地))で石の道を想像して創造するよ。
・他の人が砕石で道を作れるように材料用の石も地面操作で作っておこうかな。



●青空の下の『灰色のソラ』

「アポカリプスヘル、初めて来たけど、思ったよりずっと荒れてる、ね。これはなかなか、大変そう」
 青空の下で金色の髪をさらさらと風に遊ばせながらミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)が呟いた。
 愛らしい少女の貌(かんばせ)からは感情が読み取りにくい。けれど。
「けど、諦めなければ何とかなるって、わたし知ってる、よ」
 その声を聞く仲間たちにはその優しい心が伝わった。

「道路づくりかー。道は大事だよね」
 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)が緊張した様子もなくウンウンと頷いた。その姿はすでに変身を終えておひさまの化身のように華やかだ。
「地面に関することならばシャイニーソレイユの出番だよ!」
「シャイニーソレイユ?」
 仲間の問いかけに向日葵が自身満々の顔をする。
「わたしは輝く大地の魔法王女、シャイニーソレイユ! 魔法王女の力は夢見る力。戦うだけが全てじゃないのよ」
 パチンとウインクするシャイニーソレイユ(向日葵)。

「それじゃあ、始めようか。道路づくり。わたしだってシャチえもんや師匠が居なくても一人で任務をこなせるんだからね」
 名前を呼べば青空に2人の顔が浮かぶようだ。駆けだしの頃に隣についていてくれた先輩は、今日はいない。今日は「成長したひまちゃん、ひとりでもできるもん」なのだ。

「キミたちは、まったく無駄なことをしているよ」
 そんな二人に声がかけられた。
「んっ?」
 見ると、大きな灰色の猫が利発そうな目で猟兵たちを見ている。
「か、賢い動物さんかな?」
「ボクはエルヴィンの友、『灰色のソラ』と呼ばれているよ」
 猫はキトンブルーの瞳をくりくりさせて語る。
「この拠点は詰んでいるのさ。
 戦闘ができる男どもがトチ狂って出ていったんだ。南にあるっていう見ず知らずの拠点をレイダーから助ける、なんて言ってね――できやしないのに。
 この拠点にはもう、自己防衛するだけの戦力すらほとんどない。なのに、敵に拠点の存在が捕捉されて狙われている……キミたちが創っている道も、壊されておしまいさ」
 だから、さっさとやめてしまうといいよ。
 灰色のソラがそう言って頭を振った。

「ソラ、というんだね」
 青空の欠片がふってきたみたいに透き通った少女の声がふってきた。
「!」
 転移してきた少女は、きらきらとした蒼水晶が輝く千波・せら(Clione・f20106)。硬質なはずの水晶結晶がふわふわと少女のまわりを漂って、風が止まったみたいに周囲が不思議と穏やかな空気に包まれる。
 そんな――控えめながら不思議な存在感のある、少女だった。
「敵が来ても大丈夫」
 指を口元にあてて、せらが安心させるように微笑んだ。

「うん、敵を倒しちゃうから大丈夫だよ」
「わたしたちは、戦える。そのために来たのが、ここにいる猟兵たち」
 向日葵とミアが並んで頷いた。

 ひげをそよそよさせるソラ。
 せらはにっこりと笑って言の葉を紡ぐ。
「道を切り開く、それこそ希望だと思う」
 ――地味な仕事だけど、これはとっても大切な事だと思うんだ。

「希望……そんな言葉、ボクらには眩しすぎて、遠すぎるんだよ。生き物は脆い、儚い。夢見て握った拳が簡単に力を失って屍になっていく――」
 そのやりとりを、拠点『エルヴィン』の人々もまたひっそりと見守っていた。ある者は地面を見つめ、ある者は天を仰いで。
「脆い身体だけど、心は強いよ!」
 せらの声が彼らの耳にはっきりと届く。

「年端もいかない少女ばかりじゃねえか」
 全身に包帯を巻いた爺さんが呻くように言った。
「じいじ、お怪我痛いの」
 ちいさな子供が震える爺さんの手を握る。

 ふわりと風が吹く。
「この世界の道を作るから。ね、見てて」
 せらの声が優しく人々の心を揺さぶった。

「好きにしろよ」
「俺たちは、止めたんだ。知らねえぞ」
 人々はそう言いながらもじっと猟兵たちの作業を見守った。


●はじまりの道

「んー、力仕事はあんまり得意じゃないから、わたしは地面を調べてみる、ね」
 ミアが杖を地面に向ける。
「あ、いいなあ!」
 向日葵が杖を見て眼をキラキラさせた。気品溢れる金色のハートの真ん中にローズピンクの宝石がぷらぷら揺れて、同じ色のダイヤの宝石が杖先に煌めいている。ダイヤの根元を守るように左右を飾るは黒スグリに似たスペードマーク。
「可愛い杖!」
 向日葵のはしゃいだ声を背景にミアの杖先からは渦巻く風のドリルが生成されていた。風のドリルはぎゅんぎゅんと地面に穴を開けていく。

「ボーリング調査みたいな、感じ」
「ボーリング?」
「ここに道を作って大丈夫か、調べてる」
「そうなんだ」
「下から水が出てきたり、空洞だったりするところは避けた方がいい、かな」
「あ、それはわかる! ちょっと何かあったらすぐボロが出ちゃう欠陥道路になっちゃうもんね」
「ん、せっかくだから長持ちする道路を作りたい、よね」
 明るいやりとりが青空の下で響き渡る。
 せらは灰色の猫の視線を背に感じながらレプリカクラフトでちいさな爆弾を仕掛けていく。
「それは、爆弾?」
「敵が来てもこれで撃退するよ。それに」
 仲間猟兵のゴーレムが拠点のまわりに並んでいく。
「仲間も、守ってくれる」
「……頼んでないのに」
 不思議そうなソラの声。くすくす、とせらが笑う。
「ソラは、頼んでないのに私たちに『忠告』をしたよ。どうして」
「……」
「きっと、おんなじだね」
 ふわり、水晶が揺れて陽光にきらきら煌いた。
「ああ、おんなじだね」
 ソラが困ったように笑った。
「――ボクたちは、キミたちは『こんな風におんなじだから』……誰かが死ぬととても悲しいんだ」
「死なないよ」

 さらさらと砂が足元を流れていく。流しているのは、少し冷たくて乾いた風だった。
「そうだよ、死んだりしないよ!」
 溌溂と声を張り上げて、シャイニーソレイユ(向日葵)が地面を整地して道路を作っていく。
「プリンセスの魔法は想像と創造の力。わたしの思い描くように地面は変わるんだよ」
 胸に手をあててイメージすれば大地が向日葵に応えて変化する。不思議な力で石の道ができていく。

 ――周囲に仲間がいるときは、ひとりで仕事を完結させるんじゃない。
「うん、わかってるよ」
 頭の中によぎる先輩猟兵の声に微笑み、向日葵は地面を操作して材料用の石も生成した。
「材料、つかってね」
 ドォン! 爆発音が数度して、せらが「こっちも、運びやすい大きさにしたよ」と小さな石を運ぶ。


「あんな細い腕の娘っ子たちが頑張ってるんだ」
 拠点から数人が出てきて、手伝いを申し出た。
「怪我をしているのに」
「こんな怪我なめときゃ治るわい」
「メカニックのジジだってワシより年寄りで腰も折れてるのに戦いにいったんじゃ。ワシだって負けてられんわい」
「臆病者のセストールが戦いに行ったんだ。俺だってじっとしてられねえさ」
 ボロボロの身体を引きずるようにして、けれど我先にと胸を張り『エルヴィン』の民が石に手を伸ばす。

「綺麗な花も、ちゃんと土いじりをしてるから咲くんだ、よね。だから、これも大切な、仕事」
 精巧につくられた人形のようなミアの顔が無表情に地面を見つめている。そのまなざしは真剣だ。
「うん。大切な仕事。がんばろう――この世界にも春を届けよう!」
 せらが手を伸ばした。
「お、いいね。円陣組んでえいえいおーってしよ」
 シャイニーソレイユ(向日葵)が手を重ね、ミアに誘いかけるように微笑んだ。
「ん、わたしもまだまだ頑張る、よ」
 表情は変えないまま、ミアがコクリと頷いて手を伸ばす。
 3人娘の手が重なって、「頑張ろう」と声を合わせれば周囲の民間人が皆怪我を忘れたように明るい顔をした。

 灰色のソラはそんな人々を愛しそうな目で見て、猟兵仲間が提供したバス(玄武)にひょいと乗る。
 そして、呟いた。

「ボクは、もう誰も死ぬところを見たくない」

 道が少しずつ出来ていく。ゆっくり、ゆっくりと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
今度は道を作る、ね
最近猟兵の仕事として色々と何かを作る機会があって楽しいわ
全体的に進展するといいわね

『我が工房に帳は落ちず』、まずは地質の調査…【情報収集】よ、地形に適した工事をしないとね
そして…資材は無理でも、機材はUCで一時的に呼ぶ関係上、私なら何とかなるわ
工兵達を対象に『我が紡ぐは戦装束』、呼び出すのは工事に使う重機
…装備と言うか乗機だけど、まぁ大丈夫よ…兵器だから少し攻撃力は高いかもしれないけれどね
ふふっ…道路の敷設も私の魔導蒸気兵器達の手にかかれば簡単よ
さぁ、しっかりと進めてしまいましょう
…あ、私自身の仕事は情報の処理と工兵達への指示よ?さすがに力仕事はできないわ

※アドリブ・絡み歓迎


エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎

うむうむ、何事も小さな事から少しずつ積み重ねていかぬとな。
さて、わしも出来る事からお手伝いするかの。
まずは資材が必要じゃな。【精霊石】の力を借りて地の精霊を呼び出し付近の岩や瓦礫を砕いて砕石を作り出す。
次に【秘伝の篠笛】を吹き鳴らし狼の群れを呼び出して荷車を曳いて運搬するのじゃ。
(地面に手をつき)
後は地均しじゃな、地の精霊よ地面を一度砂に変換して操り平滑にしておくれ。

おお、狼達よ運搬ご苦労じゃったな。
砕石は風の精霊にお願いして荷車から直接風に変換して操り道に均一に敷き均すとするか。
砕石に戻す前にしっかり噛み合わせて固めぬといかぬな。
うむ、この調子で道を伸ばしていくのじゃ!


ビスマス・テルマール
オブリビオンストームと言う、邪魔極まりないのがある中で、その光明が見つかったのなら

……それを進めない手は無いですね、なめろう布教も些かこの世界だと進めにくいですし。

農業は辛うじてあるので、南瓜や茄子は使えますけど、それ以外がキツイですし。

●POW
事前に『料理』して持参した南瓜のなめろうをウルシさんに『大食い』させ

ウルシ・ファランクス発動
巨大化したウルシさんにユーベルコードの副産物に生成された【南瓜のなめろうビームローラー】を使って『怪力』で道の舗装をして貰っちゃいましょうか

一休みの休憩時には事前に『料理』して持参した【南瓜のなめろうの和風ロールサンド】を皆さんに配膳



※アドリブ絡み掛け合い大歓迎



●未来を見据えて
 拠点から少し離れた地点でも作業が進められていた。

「オブリビオンストームと言う、邪魔極まりないのがある中で、その光明が見つかったのなら……それを進めない手は無いですね、なめろう布教も些かこの世界だと進めにくいですし」
 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が思案気に呟いた。
「農業は辛うじてあるので、南瓜や茄子は使えますけど、それ以外がキツイですし」
 将来的にはこの世界にもなめろうを布教したい。ビスマスはそう考えているのだった。

「今度は道を作る、ね。最近猟兵の仕事として色々と何かを作る機会があって楽しいわ。全体的に進展するといいわね」
 エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は成長する事がない幼い面差しにどこかお姉さんめいた微笑みを浮かべた。
「うむうむ、何事も小さな事から少しずつ積み重ねていかぬとな。
さて、わしも出来る事からお手伝いするかの」
 連れている巨大な狼を優しく撫でてエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)が頷いた。
 白狼マニトゥはエウトティアに応えるように軽く顎を引き、尻尾を揺らした。


●合流
 拠点から伸びた道を通り仲間猟兵のバス(玄武)が到着する。乗っていた猟兵仲間や民間人の作業協力者が降りて合流すれば、大所帯となった。
「怪我をしている方は、まず治療しましょう」
 仲間猟兵がそう言って怪我人の治療にあたっている。

「はいウルシさん、南瓜のなめろうですよ」
 ビスマスがしゃがみこみ、連れている支援機ウルシに大食いをさせている。はぐはぐとなめろうと食べるウルシはズンズンと巨大化していく。
「な、なんだあれは」
 民間人が驚いている。
「これは『ウルシ・ファランクス』といってわたしのユーベルコードです」
 ビスマスは律義に解説をしながら人々に南瓜のなめろうの和風ロールサンドを振舞った。
「皆さんのために料理したんです。もしよかったらどうぞ。そちらの猫さんも」
「美味い!」
「これはイケるな」
 民間人たちが大喜びしている。
 一方、声をかけられた猫『灰色のソラ』はバス(玄武)の上によじ登りツンとそっぽを向いていた。
「ジジの奴め、この料理を食わずに行っちまうとは勿体なかったのう」
「セストールがこの料理を食ったら一瞬でお嬢ちゃんに惚れちまうだろうな!」
「ジジさんにセストールさん、ですか」
 ビスマスが尋ねればエルヴィンの民が口々に彼らの戦士について教えてくれる。
「ジジはヨボヨボの爺さんだが、なかなか腕の良いメカニックでな」
「うちの拠点で一番の戦車乗りがセストールなんだ。惚れっぽい野郎で女と見れば片っ端から口説いてまわる困った奴でな」

 そんなやりとりを背景に猟兵たちの作業は進んでいた。
「まずは資材が必要じゃな」
 エウトティアが不思議な光を帯びた精霊石を優しく撫でる。しゅるりと石から蔦が伸び、巫女に傅くは地精霊。
 炎の瞳を気高く煌かせ、エウトティアは地精霊に付近の岩や瓦礫を砕かせた。
「これを砕石とするのじゃ」

「ウルシさん、道の舗装をお願いしますね」
 ビスマスが優しくお願いをして巨大化したウルシが南瓜のなめろうビームローラーを引いていく。
「不思議なローラーね……食べられるのかしら?」
 エメラがウルシの引くローラーに軽く首を傾げながら自身もユーベルコードを発動させた。
「『我が工房に帳は落ちず』」
 幼い声が気高く命じると、71体の魔導蒸気工兵が現れる。エメラは元UDC所属の情報戦要員だ。身体能力はあまり高くないが、高い電子戦能力で知られており、魔導蒸気機械技術者としては超一流である。
「まずは地質の調査……、地形に適した工事をしないとね」
 調査をしながら通信を介して離れた場所の仲間と情報を共有してみれば、拠点『エルヴィン』付近でも地質の調査を担当する猟兵がいるようだった。
「同じ事を考えている仲間もいるみたいね――必要な兵器の選定終了……」
 エメラが魔導蒸気工兵に兵器の換装を行っている。
「この世界は、猟兵の通常の運搬量を越える「異世界の物資」は、オブリビオン・ストームを呼び寄せてしまうのよね。けれど、ユーベルコードで魔導蒸気工兵に必要な換装をする分には問題ないわ」
 たぶん、と付け足しながらエメラが呼び出していたのは工事用重機。
「……装備と言うか乗機だけど、まぁ大丈夫よ……兵器だから少し攻撃力は高いかもしれないけれどね」

「ふふっ……道路の敷設も私の魔導蒸気兵器達の手にかかれば簡単よ。さぁ、しっかりと進めてしまいましょう」
 指揮をするエメラの長い髪を風がふわふわと揺らして荒野を駆けまわる。
「風の精霊が踊っておるの」
 エウトティアが楽しそうに笑い、秘伝の篠笛を口にあてた。

 ――♪
 召喚の笛音に誘われ、狼の群れが現れた。マニトゥがボスのような貌で群れの前に立ち、エウトティアはマニトゥに寄り添って群れに指示を出す。
「荷車を曳いて運搬するのじゃ」
「わぅーん」
「あおー!」
「に¨ゃっ!?」
 狼たちは元気いっぱいに運搬作業に取り掛かり、バス(玄武)の上によじ登って作業を視ていた賢い猫の『灰色のソラ』が尻尾をぶわっとさせて少し怯えた様子を見せた。

「案ずるな、襲い掛かったりはせぬ」
 エウトティアは『灰色のソラ』を安堵させるように言葉をかけて地面に手をついた。
「地の精霊よ、地面を一度砂に変換して操り平滑にしておくれ」
 精霊は巫女の願いをきき、地均しをしてくれる。
「そして風の精霊には、敷き均し作業もお願いしたいのじゃ」
 地精霊の仕事ぶりを見守りながらエウトティアは風精霊にも依頼をする。実力の高さあってこそできる芸当であった。

「わぅ、わぅ」
「おお、狼達よ運搬ご苦労じゃったな」
 エウトティアのもとには一仕事を終えた狼たちが集まっていた。いずれも目をキラキラさせて「褒めて褒めて!」と尻尾を振っている。
「うむ、この調子で道を伸ばしていくのじゃ!」


●襲撃予想地点『壊れかけた小屋』
「この地点では、敵襲が予想されています」
 猟兵たちはここまでの情報を共有していた。目の前には『壊れかけた小屋』がある。
 小屋では、先行した猟兵によりエルヴィンの日記と数体の遺体が発見されていた。民間人たちが泣きながら拠点へと遺体を引き取っていく。

「ほら、ね。みんな簡単に死んでしまうんだ。いつものことさ」
 灰色のソラはぴょこりと地面に降りて拠点に戻っていくバスと民間人たちを見送った。
 そして、西を視る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『機餓獣兵』

POW   :    Carnivore Machine
戦闘中に食べた【生者の血肉】の量と質に応じて【餓獣機関の作用が活性化。機動性向上により】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    Code of Lykaia
【捕食と破壊を求める餓狼の如き様態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    Bestial Analyzer
【命を舐め取る獣舌と、獣牙による噛みつき】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●1章のまとめ
「現在地点は襲撃が予想されている地点、『壊れかけた小屋』だ」
 猟兵たちが小屋の外に集まり情報共有をしている。

「北にある出発拠点『エルヴィン』は、現在自拠点を守る戦力すらおぼつかない。理由は、数日前に辿り着いた難民から救援要請を受けて彼らにとって見知らぬ拠点である拠点『スター・デムリア』を助けるため、戦力を出したからだ」

「南にある最終目的拠点『スター・デムリア』は敵レイダー団『エデン・スリー』の軍勢に襲われていて、今現時点で戦況がどうなっているのかわかりません。脱出した難民の言によると救援が無いと陥落してしまうのは間違いないようですが」

「西に敵拠点が発見されています。毒沼に囲まれて怯え立つ砦……『喰賊団エデン』の分団『エデン・スリー』の拠点です。敵首魁は『チュート』という女性という事まで判明しています。敵はこの世界のオブリビオンストームによりオブリビオンに変貌したようです」

「この小屋にあった日記によると、『エルヴィン』の一行は途中で襲撃に遭い、一部メンバーが『エデン・スリー』に攫われた模様。エルヴィンと思われる屍人が敵拠点に向かっていきました」

 今後の方針を練る猟兵たちに偵察に当たっていた味方から知らせが齎される。
「『エデン・スリー』が道を破壊するために機餓獣兵の群れをこちらに向かわせています。それに、屍人を発見したようで――」

●2章オープニング
1、毒沼の中のエデン・スリー
 拠点屋上に巨大な十字架が並べられていた。よく視れば、十字架には人が磔にされている。
 うら若き女性は少女タリアとよく似た容姿を持つ『レイム』。
 枯れ木のような体をぐったりさせているのはメカニック爺さんの『ジジ』。
 精悍な顔に悔しそうな表情を浮かべているのは『セストール』。

「ッハ、ハハハ! 見ろよあのゾンビ野郎、溺れてやがる」
 長い艶髪を風に靡かせて『チュート』が地上を見下ろし、腕を振る。よく視ればその腕は機械化され、先端が銃となっていた。
 ダン、ダン、ダン!
 重い破裂音が周囲一帯の空気を震わせた。『エデン・スリー』の拠点から一斉に放たれた銃弾が毒沼に幾つもの飛沫を生む。
 ずぶ、ずぶと身を穢し毒に蝕まれながら沼を渡ろうとしていた屍人の身体が爆ぜて跳ぶ。悲鳴はなかった。ただ、腕が千切れて跳んでいき、はらわたがずるりと空中で抜け落ちて毒沼に落ちた。臓腑とお別れした胴体はそれでも起き上がり、続く銃弾に撃ち抜かれてまたバウンドした。
「はっ、アーーーッハハハ!! ゴムまりかよ! おい、ゾンビ英雄! ここまで来てみろ、好きな女にお前の腐れソーセージいれさせてやるぜ? 果たして使い物になるかねえ!」
 チュートが笑い転げながらレイムの髪を掴み、十字架に頭を打ち据えた。
「なあ、アンタ。あのゾンビ、アンタのせいであんなバケモノになっちまったぜ。責任とってやれよぉ!!」

「う、う、う……」
 片腕しかなくなった屍人が肩を使い這いずりながら毒沼に再び浸かっていく。その瞳には生前のような理性の光はもはやない。残っているのは妄執だった。

 前に進まなければならない。
 あの十字架のもとに行き、
 ――そして、それから何をすればいいのかは、もうわからなかった。

 銃弾の雨が降り注ぎ、絶望の航海を彩った。


2、灰色の防衛戦
「我々は小屋を経由して北に向かいながら道を破壊する。連中の作った道を全て破壊し、最後は拠点『エルヴィン』。かの拠点を制圧する」
 『エデン・スリー』を出発した機餓獣兵の群れが怒涛の勢いで荒野を駆ける。群れの後方ではミストにより一度は撃退された禿頭男が指揮を執っていた。
 その目前に一匹の猫が立ち塞がった。

「この先には行かせない! みんながつくった道は、壊させない。壊すところも、誰かが死ぬところも、もう見たくない」
 『灰色のソラ』である。猫には、特別戦闘能力があるわけではない。猫は――ただ、全身から切なる想いを溢れさせるようにして戦場に立っていた。
「もういやだ。もう、いやなんだ」
 悲しみに揺れる瞳は死を見つめていた。

「なんだ、こんな猫一匹。石ころみたいなものだ。ギャハハハハ! ――やってしまえ!」
 機餓獣兵が牙を剥く。
 鋭い牙から粘りけのある唾液が糸を引き、肉と鉄が混ざり合う体が不自然な機動力を見せて『邪魔者』を排除するために飛び掛かる!


💠2章のプレイングにつきまして
 1章のご参加ありがとうございます。
 2章では、「1、毒沼の中のエデン・スリー」「2、灰色の防衛戦」どちらかを選択して戦場にかけつけ、味方を助けたり敵と戦うことができます。
 ※「参加者の選択が偏った時が心配」という方はご安心ください。仕様変更によりサポート猟兵が5回まで手動で呼べるようになっており、もしどちらかの戦場が人員不足な場合、サポートを呼んでピンチに対応する救済策を用意しております。
 お好きな戦場を選び、好みのプレイングを書き、のびのびとご活躍くださると嬉しいです。
 プレイング募集の期間は特に設けません。プレイング送信後8時30分を機に1日がカウントされ、4日目に失効となります。最初に来たプレイングが失効されるまでに執筆は行いますので、目安にして頂くと良いかなと思います。
 それでは、よろしくお願いいたします。
純・ハイト(サポート)
勝つ事を考えて、自身を含めて全てを駒として考えて手段を択ばずに、使える物全て使って任務に参加して戦う。
エレメンタル・ファンタジアはトラウマはあるが、トラウマよりも敵は全て殲滅と考えているために問題無しに使える。
主にユーベルコードの力で軍隊を操り戦闘を指揮して戦うが、他のユーベルコードが有利に動くならそっちを優先して使う。


エダ・サルファー(サポート)
アックス&ウィザーズ出身の聖職者で冒険者です。
義侠心が強く直情的な傾向があります。
一方で、冒険者としての経験から割り切るのも切り替えるのも早いです。
自分の思想や信条、信仰を押し付けることはしません。
他人のそれも基本的に否定はしません。
聖職者っぽいことはたまにします。
難しいことを考えるのが苦手で、大抵のことは力と祈りで解決できると言って憚りません。
とはいえ、必要とあらば多少は頭を使う努力をします。
戦闘スタイルは格闘で、ユーベルコードは状況とノリで指定のものをどれでも使います。
ただ、ここぞでは必殺聖拳突きを使うことが多いです。

以上を基本の傾向として、状況に応じて適当に動かしていただければ幸いです。


メガ・ホーン(サポート)
●俺はメガちゃん。楽しい音楽ブリキロボだぜ!

●困った人がいたら即参上! 【サウンド・オブ・パワー】で仲間を応援するぜ。攻め手が足りないなら戦闘回路スイッチオン! 胸の大砲で砲撃しまくってやる!

●戦場でないなら【ミュージックキュア】の演奏やパフォーマンスで場を和ませ、皆で歌ったりするのもいいな。何か音が出ればそれが音楽さ!

●改心させられそうな敵も中にはいる。その時は【メガチャンキック】で目を覚まさせてやるけど……どうしようもねぇ悪には【シャークタイフーン】でお仕置きだ!

●ノリのいいキャラですが根は超真面目です。アドリブや連携も歓迎です。よろしくお願いします。


タリアルド・キャバルステッド(サポート)
戦闘では冷静に相手を分析するように務め、状況に応じて前衛・後衛と求められているポジションで戦います。

前衛の場合は「HEROIC」で身体能力を強化し、魔力を帯びた打撃攻撃をメインに使用します。
後衛の場合は「TORNADO」または「COOL EFFECT」を適宜使用します。



※アドリブ・連携等のあらゆる絡みを歓迎します


ローズ・ベルシュタイン(サポート)
『さぁ、楽しませて下さいますわよね。』
 人間のマジックナイト×電脳魔術士、16歳の女です。
 普段の口調は「高飛車なお嬢様(私、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」、宿敵には「薔薇の棘(私、あなた、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格は高飛車なお嬢様風の偉そうな感じ
花が好きで、特に薔薇が大好き
武器は、主にルーンソードや精霊銃で戦う。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●サポートチーム『じえめたろ』の「サポート登録をしていたらブラックな任務に当たった件について」

 空気がひんやりと冷えていた。物音と人の声が遠く聞こえる。上を見れば天井があった。広い通路だ。扉と階段と、――。
「ここは……」
 青年の声。軍服を纏ったフェアリーの純・ハイト(数の召喚と大魔法を使うフェアリー・f05649)だ。
「全員、いますの? 私たちは今、どこに……」
 薄暗い通路に少し心配そうに響くのは少女の声。見れば、いかにもお嬢様といったローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)が座り込んでいる。
「あまり大きな声は出さない方がよいかもしれません」
 転移の拍子に少し乱れた灰色の髪を手で整えながらタリアルド・キャバルステッド(紳士服のヤドリガミ・f25640)が囁く。
「ミュージックはまだやめとくか」
 玩具めいた雰囲気のウォーマシン、メガ・ホーン(サウンドマシーン・f13834)がカクリと四角い首を傾けた。
「詳しい状況はわからないけど、現場到着ってことでいいんだよね?」
 眼鏡の奥の大きな目をパチパチさせてエダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)が周囲を探る。

 5人は、「ピンチになった依頼に即応します」というサポート登録をした猟兵たちだった。偶然集まったメンバーは何の縁か、ろくな説明もないまま「ピンチなので出動願います」と呼ばれて現地に飛ばされたのである。

「この中に状況がわかる人、いる?」
「世界は、――ここは何処?」
「敵はどこだ」
 戸惑いがちながら即席チームのメンバーが立ち上がり、それぞれの武装を確認する。
「歩いていたら敵が出てくるんじゃないか」
 メガが「それとも爆音ミュージックをならして釣ってみるか」と尋ねている。
「声がする方向を偵察し、状況を確認してみましょうか」
 タリアルドがそっと安全策を提案した。
「良いですわね。それと……チーム名を決めましょう」
 ローズがドレスの裾についた埃を払いながら微笑んだ。
「こちらハイト、誰でもいいから聞こえていたら支援砲撃を頼む……誰でもいいから」
 所属組合に連絡を取っていたハイトが「ここは狭くて戦車が使いにくそうですね」と呟く。

 コツ、コツ、コツ……。
 足音がする。
「誰か階段を下りてくるみたい」
 全員が顔を見合わせた。
 無言の目配せののち、5人が物陰に身を隠す。
 階段から姿を現したのは、薄汚れた大柄な男だった。猟兵の目には、彼がオブリビオンだとすぐにわかった。
「マッキャベさまーぁ、パプコ持ってきましたぜぇ」
 パプコと呼ばれる謎の物体Xを持った大柄な男が5人に気付かず走っていき、通路の先の扉を開けて入っていく。
 5人は男の後を追い、扉の中を覗きこんだ。

「こ、これは!」
 そこは、だだっ広い空間だった。広い空間には幾つもの鉄檻があり、現地人と思われる人々が囚われている。それだけではない。真ん中の空間には謎の巨大な装置があり、装置から伸びている大きな長い木の棒を襤褸を纏った傷だらけの人々が数人がかりでつかみ、ぐーるぐると回しているのだ……!!
「はあ、はあ。も、もうだめだ」
 疲労が限界に達したと思われる1人が棒から手を放して座り込む。すると、「監督」というたすきをかけた男が――彼もまたオブリビオンだと5人にはわかった――鞭を打つ。
「サボるなあ! もっともっと棒をまわせえい!」
「う、うわあっ」
 壁際ではギラギラした装飾品の山の上に造られた無駄に豪華でセンスの悪い椅子がある。椅子の後ろには「デス・マス太」と書かれた旗が掲げられていた。そして、そんな椅子には少し不似合いな感じで真面目そうな雰囲気をした青年が足でキーボードを叩きながらパプコを食べている。
 傍らでぺこぺこしているのが先ほどの大柄な男なので、彼がマッキャベさまなのだろう。
 広い空間の至るところに、獣のような機械のような姿をした兵が見える。兵はなかなかの戦闘力に思われた。
「オラッ! 休まずベルを鳴らせーーーーっ!」
「う、うぅっ」
 チリンチリンチリン!
 「ベル係」という名札を胸につけた女性が涙目でチャリンコのベルを連打している。

「これはひどい」
「通報します?」
「どこに……?」
「ガレージのお問い合わせとか」
 5人が呻いた。
「でも、これで任務がわかったぜ。要するにこのオブリビオンどもを倒して虐げられている民を解放するんだな」
 5人の中で一番素早く行動したのは、ローズだった。

「何をしているんですの!」
 凛然と声をあげ、夕陽色の髪を揺らしてローズが薔薇の花弁を周囲に巻き上げると、タリアルドが咄嗟に風を起こした。
「除湿の風が、戦友の導きとなりますように」
 タリアルドのユーベルコード『TORNADO(トルネード)』の風に導かれ、ローズのユーベルコード『風が導く薔薇の舞踏(ローゼ・ヴィント)』が鮮やかに舞い踊る。

「祭りの開始だぜ!」
 メガが早速演奏を開始した。
「ようオブリビオンども! 俺はメガちゃん。楽しい音楽ブリキロボだぜ!」
 ユーベルコード『サウンド・オブ・パワー』が力強く鳴り響く。

「♪それにしても
 ♪ここは何処なんだ……!」
 周囲に視線を巡らせれば、仲間たちの目には共感が宿っていた。
 共感した仲間たちの戦闘力がググンとアップする!
「♪チーム名は
 ♪みんなの名前から一文字取って
 ♪じ え め た ろ チームに決定だ!」

「敵襲! 敵襲だ!」
 空間内が騒然となる。
「た、助けが来た……!?」
 棒をまわしていた人々が夢心地で呟き、床にへたりこんだ。

「ガアアアアアッ!!」
 獣兵が牙を剥き、機械混じりの身体から怪音を鳴らしながら5人に向かう。振り上げるは鋭く長い爪である。
「仕事がはっきりしてなにより。じゃあ、倒すぜ!」
 ポニーテールを揺らしてエダが姿勢低く爪を掻い潜り、一息で獣兵の懐に潜り込む。
「さあ、聞いて驚け!!」
 祈りを込めてパシンと手を叩けば派手な破裂音と衝撃波が生まれる。
「ぐ、グワアアアアアアアッ!?」
「な、なんだあれはっ」
 ガタッと椅子から立ち上がり、マッキャベさまが目を見開いている。
「これが聖職者式猫騙しだ!」
「くっ、負けていられない……」
 マッキャベさまが側近を連れて戦闘に加わった。
「デス・マスアターック! キャラロストビーーーームッ」
 ビームと言いながらパンチを繰り出すマッキャベさま。
「そんなのビームじゃないですわ!」
 ローズが自信満々の笑顔で技を否定した。
「ビームっていうのは、こういうのを言うんですの!」

 示す先にはハイトがいる。
 小さなフェアリー・ハイトが敵に向ける目には烈しい敵対心と狂気が滲む。
「ビームとは違いますが」
 仲間の言葉に丁寧にツッコミのような訂正を入れつつもハイトがスナイパーライフルを敵群に向ける。すると、世界線を越えて彼の所属する組合からの支援砲撃が降ってきた。

 ッドオオオオオオーーーーーン!!

「っぎゃあああああああっ!?」
「これは、ネタ依頼でしょうか……」
 爆音というには派手すぎる音が空間を突き抜けた。

「あ、あなたたちは一体……」
「それは実は、こちらも問いたいのですが」
 恐る恐る声をかけてくる囚われの民を救出しながらハイトは「ん?」と首を傾げた。
「揺れが続いています」
 タリアルドが右手から冷気を放ち獣兵を凍らせながら呟いた。
「外からの衝撃のようです。……外からこの建物を攻撃している人がいる……のでしょうか?」
「あ、あう。あうあう。ふええ……」
 ベルをチリチリ鳴らし続けていた女性の手を優しく取り、ローズが微笑んだ。
「助けに来ましたわ。もう、ベルを鳴らさなくてもいいんですの」
「ほ、ほんとうですか」
 メガが空気を読んでしっとりした曲調に切り替えている。
「♪俺の……、怒りが~……
 ♪嵐をぅぉ~……
 ♪呼、ぶ、ぜ」
「歌詞は熱いのになんだかしんみりしたメロディが!」
 エダが戦闘力を増しながら拳に祈りを込めている。
「その心、へし折ってやる!!」
「ああっ、さっきパプコで上げたモチベーションが!!」
 バキィッ!
「ぐあああああっ、や、ら、れ、たーっ」
 説明的セリフと共に吹き飛ぶマッキャベさま(優しい!)。

「どういう敵なのかはわからないままでしたが、敵なのは確か」
 ハイトが『狂気の人形劇』を発動させて315体もの血塗れ人形を召喚している。
「我に付き従うフェアリー達よ、戦いの時は来た! 全軍出撃せよ‼」
 そして、空間を埋め尽くすほどのフェアリーの精兵霊を召喚している。少し狭そうにしながら霊たちは揃いのライフルを構え……。
「霊界に住まう兵士達よ我が呼びかけに応えて現れろ」
「ハイトさん、ちょっと」
「もう隙間がないくらい召喚されて……」
「あっあの」
 5師団もの騎士霊とドラゴン霊の1師団が「物理法則なんて知らない」とばかりに現れた!
「あと戦車もやっぱり乗りたいので」
 完全に戦闘モードのハイトは狂気溢れる声で軍勢に総攻撃を命じ、ダメ押しに戦車を出した。
「過剰戦力うぅぅぅぅ!!」
 獣兵が駆逐され、部屋中のオブリビオンたちが倒されていく。

 やがて、戦いは終わった。
「オブリビオンは全て倒したようですね」
 タリアルドが檻の中の人々を解放してまわると、囚われていた男性が頬を染めながら礼を言う。
「強いんだなアンタら。どこの誰か知らないが……」
「私にもよくわからないのですが、多分外に味方がいます」

「サポート依頼って何があるかわからないですわね」
 ローズが戦場を視私、薔薇の扉に人々を誘った。
「この扉に触れると、一時的に安全な薔薇庭園に匿うことができますわ。味方と合流できてから外に出れば安心ですの」
「綺麗な扉だな。こんなの観たことねえや」
 救われた民が驚いている。
「それにあんたも。綺麗なドレスに、きめ細やかな肌、まるで空想の世界の姫さんが現実に飛び出てきたみたいだ」

「もう砲撃は止めていいですよ。ストップ。ストップでいいです。きいてます?」
 ハイトがライフルを抑えて組合に連絡を取っている。ライフルを向けた先には時折砲撃が迸り。
「待て待て。それ以上は」
 メガが呼んだ鮫がビチビチと砲撃を追跡してはガジガジと齧って相殺していた。
「それにしても、外からの攻撃もなかなか激しいな。このままじゃ此処も危ない」
 外で一体何が起きているのか、建物全体がぐらぐらと揺れたり悲鳴が聞こえたり、何処かが倒壊する音が響いて居たり。
「ここは危険な戦場だね。囚われてた人たちを連れて脱出しよう」
 エダがへたりこんでいた男性民間人の手を掴む。
「く、くおおっ!?」
「う、うん?」
「あ、あんたみたいに強い娘に、て、手なんか繋がれたら惚れちまう!」
「はあっ!?」
 民間人は強者に惚れっぽいようだった。
「あ、ここアポカリプスヘルかもしれない」
「「ああ」」
 一つの謎が解けた瞬間であった。

 民間人全員を連れて5人チームが脱出する。
「うわあ、ここは」
 建物の外には、燃えるような夕焼け空と禍々しい毒沼が広がっていた。

「――味方猟兵がいました」
 タリアルドが空を示す。5人が仰ぎ見ると、空高く飛翔する機械飛竜と格闘少女、ぴかぴか光りながら高威力の砲撃を放つ少女――、

「サポートチームですか? こっちに仮設救護場をつくりました。来てください」
 少年ニンジャがそう言ってコンタクトを取ってくる。

「救ってくださってありがとうございました。あなたたちは何者なんですか? まるで、奇跡です」
 救護場に到着して医療担当と思われる少年の治療を受けながら、救われた民間人たちが5人に問いかけた。
 5人は互いに顔を合わせた。
 5人は、偶然招集された即席チームだ。
 この任務が結局どういう任務なのかも、現地チーム本隊の事も良く知らない。
 だが、互いの能力については短い時間作戦行動を共にして少しだけ把握した。人となりも、多少掴んだように思う――、
 皆の目が笑った。
 そして、5人は声を揃えた。

「「サポートチーム、『じえめたろ』!」

 それは、二度と結成されないであろうたった一度きりのチーム。皆の心の中に残ったり残らなかったりするかもしれない、そんなヤンチャな冒険の一幕。
 こうしてサポートチームは任務を成功に終えたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

キアラン・カーター
2、灰色の防衛戦

UC【慈母の歌】で『ソラ』に襲い掛かる機餓獣兵を眠らせて【時間稼ぎ】するよ。
ケガは無いかい?さあ、今のうちに逃げよう。【逃げ足】

たった一人で敵の大群に立ち向かうなんて、君には勇気があるね。
僕とは大違いだ。でも、僕もみんなを守りたい……その気持ちは一緒さ。
さて、戦いに戻らなくちゃ。君は安全な場所で待っていて。

前線に戻ったら引き続きユーベルコードで敵を眠らせていくよ。
僕はこの程度の足止めしかできないけど、戦闘が得意な猟兵なら十分活用してくれるはず。


エミリロット・エカルネージュ
●戦場
毒沼の中のエデン・スリー

●SPD
タリアちゃんのお父さんと捕らわれてる人達の救出をしながら戦うけど

もしあの子のお父さんが手遅れになってしまっていたら最悪の場合はそれ相応の事は

その代わり頼まれた事はこなして見せる

皆を助け、貴方を止められるのは……ボク達だ!

開幕UCを『早業』で発動
錬成したコピーの半分は『誘導弾』の『乱れ撃ち』でボクの援護とチュールへの牽制

残り半分は十字架に付けられた人達を救出し『怪力』で安全な所へ運搬

ボクは『空中戦』で宙を『ダッシュ』しながら『第六感』で『見切り』『残像』で回避しつつ麺棒モードのシャオロン(本物)で『2回攻撃・グラップル』しつつ撹乱

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


草野・千秋
「2、灰色の防衛戦」

(飼い猫と同じ名前の猫。家の事を少し思い出し)
オブリビオン……ソラさんを『石ころみたいなもの』なんて言うな
この世に軽んじていい命なんてない
それはこの地獄の地も他の世界も同じだ

ソラさん、僕だってこの先には行かせない気持ちは一緒です
皆で頑張って道を作った甲斐がありましたね

(機餓獣兵を見る。自分と似た不完全な肉体。嫌悪感を覚え)

UC【冷たい雨に撃て、約束の銃弾を】を展開、敵を掃射
範囲攻撃、2回攻撃、スナイパーで薙ぎ払います
敵は僕らに噛みついてくるようだ
ならば敵の口に向けて一斉発射しよう
敵攻撃は戦闘知識、視力、第六感でかわし
盾受け、激痛耐性で耐える
周りに攻撃がおよぶようならかばう


月凪・ハルマ
……屍人になっても、か

大丈夫。助けますよ、必ず

※戦場選択→毒沼のエデン・スリー

◆SPD

【迷彩】で姿を隠し、【武器改造】で手裏剣に麻痺毒を付与
その後【忍び足】で気付かれないようにチュートに接近
上記の手裏剣を【投擲】した後、【早業】で破砕錨・天墜の
エンジン起動。【捨て身の一撃】で弾き飛ばし、その隙に
人質を解放する

できれば3人には自力で逃げてもらいたいが、無理そうなら
【大神降臨】。同戦場内で、尚且つ敵との距離が
できるだけ離れている猟兵を選択して其処へ一緒に跳ぶ

その後は【見切り】【武器受け】【第六感】で自身や人質への
攻撃を防ぎつつ、ともに安全圏まで移動

必要なら【医術】と携帯式医療キットで治療もしよう


ビスマス・テルマール
●戦場
灰色の防衛戦

●POW
先行隊の方々の事も気になりますが

貴方の素振りも気になったので

そう言う気高く意地らしい心意気を見た以上

お節介焼かせて貰いますが

『オーラ防御』と『激痛耐性』で備えつつソラさんを『かばう』し『怪力』と『武器受け』で受け流しつつ『早業』で攻撃力重視でUC発動し【オーマグロ】を転送し装着

【蒼鉛式納豆餅ビーム砲】を『範囲攻撃・2回攻撃』で『なぎ払う』様に『属性攻撃(味噌)』と『鎧無視攻撃』を込め敵の口を『スナイパー』する様狙い

餅と納豆のネバネバで塞ぎ

これ以上人の血肉を喰らわせない様一掃を

味噌については
せめてものなめろう要素ですよ
味噌と納豆相性良いですし

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


チェリカ・ロンド
1.エデン・スリー

全身に【光気】を纒い、【空中浮遊】で毒沼の上へ
屍人の英雄を見下ろす
「大丈夫。あなたの意志は、私たちが継ぐわ」
(ブチギレ)
「レイダー、破壊しか能がない奴らね。でも奇遇だわ。私も、作るより壊す方が得意なの」

【光気】を高めて自己強化
まずは挨拶代わりの【チェリカ砲】。砦の壁に大穴開けてやるわ!
敵が怯んだら一気に砦に飛び込む。銃弾は光気の【衝撃波】で吹き飛ばし、被弾しても【激痛耐性】で我慢
【空中戦】も交えて立ち回り、敵を【ルーンソード改】で斬る
いっぺんにかかってきたら【全力魔法】の【チェリカ砲】でまとめてボコるわ!

「アンタらに慈悲なんてない。私の光で消し飛びなさいッ!」

アドリブ連携歓迎


夢咲・向日葵
〇心情
・そこに大地があって、そこに人が歩き続ける限り、道はなくならないの。
・大丈夫、道もキミ達も、ここに道を作りたいっていう夢見る気持ちも、みんなみんな、守ってみせる。大地の魔法王女としてね

〇戦闘
・黄色の魔法王女で戦闘。黄色の魔法王女は、強く強く自分の夢を信じ抜くことでより強力な大地の力を引き出せるの。強い覚悟を持って戦うの
・ソレイユシールドを想像から創造して展開。猫さんや、他の守らないといけない人達をオーラ防御&盾受けで守るよ。
・攻撃については、敵の足元にプリンセスチェインを想像して創造。重力の鎖で動きを止めた所に、地属性の鎧通しパンチを撃ち込むよ。
「あなた達の悪意に、わたしたちは負けない」


ミア・ミュラー
2、灰色の防衛戦に参加希望

あなたが誰かが死ぬのを見たくないように、わたしも誰かが……あなたが死ぬのは、見たくない。ん、戦うのも仕事だから、ここは任せて、ね?
わたしは【雷盾】でソラさんや他の人を守ったり援護する、よ。材料の無機物はたくさん転がってる、ね。ん、石ころだって、道になったりこうして魔法の材料になったり、役に立つんだ、よ。敵は噛みつきとか爪とか、接近戦が得意そうだから、盾で防いで感電させたり、盾から雷を撃って敵の動きを封じよう、かな。生身でも機械でも、雷はよく通る、はず。とどめは他の人に、お任せ。
わたしたちを手伝ってくれた、エルヴィンの人たちを助けるためにも、敵はここで、全滅させる……!


ミスト・ペルメオス
【SPD】
「2、灰色の防衛戦」

恐れるな。
お前達の番が来ただけだ。そうだろう。

逡巡したが『エルヴィン』防衛に向かう。自身と愛機には適する役目と判断。
マシンヘルムやデバイスを介して念動力を活用、愛機をフルコントロール。
スラスター出力最大、全速力で飛翔し敵集団に向かう。

立体的な戦闘機動を行いつつ、有効射程内に敵集団を捉え次第攻撃開始。
携行火器と迎撃装備の制圧射撃で動きを制し、直後に主兵装の砲撃を叩き込む。
こちらに向かってくる、好都合。
数の暴力、強化形態。構わない。片っ端から撃ち抜いて捻じ伏せる。蹂躙する。

全てを焼き尽くす【“黒い鳥”】の再現。
遥か過去の伝説には及ばずとも。

※他の方との共闘等、歓迎です


エメラ・アーヴェスピア
あら、1つの依頼で二面作戦と言うのは珍しいわね
同僚さん達がどちらを選ぶかは気になるわね
戦力が偏らないといいのだけれど…

私は防衛戦の方に向かうわ
障害物のない広い場所で、敵の大軍が自分から向かってくる…
これ以上なく私向きの戦場よ…敵も最近見た奴で、遠距離攻撃をしてこない事は判っているわ
それじゃあやりましょうか…『この場は既に我が陣地』!
味方の後方に砲台を並べ、接近する前に撃滅すべく砲弾を撃ち続けるわよ
道があるのならそこは外すべきよね…まぁわざと穴を開ければ、そこを同僚さん達が暴れるでしょう
…悪いけど、只今ここは工事中よ…お引き取り願うわ

※アドリブ・絡み歓迎


エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎

さて、どちらも喫緊の対応が必要なようじゃな。
わしは「2、灰色の防衛戦」の方へ行くが、【秘伝の篠笛】を吹き鳴らし狼の群れを呼び出して足のない者に機動力を提供しておくかの。

さて、急ぐのじゃ。
まずは【巨狼マニトゥ】に【騎乗】し、【疾風の凱歌】で自己と同行者の速度を強化して駆けつけるとするかの。
(動物使い+鼓舞+団体行動)
到着したら更に増速して狼の群れと共に『機餓獣兵』へ突撃するのじゃ。
狼達にけん制を任せて敵の注意を引き、マニトゥの爪や牙で『機餓獣兵』をスクラップにしてやるわい。
わしはUCで味方を強化し、【風】を纏わせた【誘導】矢で『獣舌や噛みつき』を迎撃し【援護射撃】するのじゃ。


トリテレイア・ゼロナイン
(小屋にて数体の死体を確認し)
…何故、「一人だけ」屍人に?

手当した痕跡●情報収集
過去入手し普段不要な凍結UC●世界知識解凍
もし治療に意図せず「失われた禁断の技術」を使用したならば…
可能性は低くとも「それ」があるやも

騎士では無く探偵か研究者ですね、これは…

調査後
竜に●騎乗しエデン・スリーへ

あの屍人、やはりやけに動きますね
アンカーでサルベージ
回収後人質保護を最優先し戦闘参加

諦めるのは早いかもしれません
屍人の身体を回収
小屋、又は拠点内収奪物にあった場合「それ」を投与
治療能力を持つ仲間に協力要請

命の有無?
いいえ
その存在が何を意図し為すかが重要です
為したい「衝動」があるならば
目覚めるべきですよ

デッドマン


ヴェロニカ・アイアンサイズ
【POW】【2、灰色の防衛戦】に参戦 ※アドリブ・連携歓迎

見えてきたぜ。機餓獣兵と…あれは猫か?クソっ!間に合え!(『灰色のソラ』の前に割って入り【かばう】、敵の攻撃を装甲と【激痛耐性】で凌ぐ)
畜生!装甲が傷だらけじゃねえか!整備だって楽じゃねえんだぞクソッタレ!(『GAU-127』の【2回攻撃】【制圧射撃】【鎧砕き】攻撃をオーバーキル気味に撃ち込む)
っ!そっちか!(死角から近づいた敵を【第六感】で察知、がっぷり四つに組みあう)
…フン、文明の最期の徒花、パワードスーツをお前らみたいな屑鉄と一緒にするなよ!(【怪力】で組み伏せ、関節を引きちぎる)

…やれやれ、ちょっとは文明的な戦い方をさせてくれ。


ハロ・シエラ
2,灰色の防衛戦に参加

敵が襲い来ると言うのなら、ここは工事現場から戦場となります。
そこの猫さんには悪いですが、破壊も死も免れないでしょう。
どちらかと言えば、私はそちらをもたらす方が得意ですしね。

さて、ここはまず【ダッシュ】して速く動き、敵を【おびき寄せ】ましょう。
動きを【見切り】敵の攻撃を回避しながら引き付け、時折【カウンター】でダメージを与えておきます。
ここは【オーラ防御】と【激痛耐性】も必要になるかも知れませんね。
そうして敵を十分味方や道から遠ざけ、更に自分に引き付けたら、ユーベルコードでまとめて【なぎ払い】ましょう。
範囲内が敵だけならば遠慮は要りません。
その魂までも焼き尽くして見せます。



●夕暮れ
 捨てられる過去がある。
 過去を覚えているのは、仲間たち。

 ――ちいさな子供たちだった。みんな、そうだった。
 たったひとりの大人を中心に縋るようにして。
 けれど、けれど、その大人だって。不安そうにしていたんだ。

 世界は、残酷だった。
 小さな拠点は絶えず危機に晒され、助けは来ない。
 みんな、死んでいき。生き残りはみんな、武器を取る。
 生き残る。種を繋ぐ。
 お行儀のよい事なんて、言ってられない。

 ――人類は、そんな世界を生きているのだから。
「正義なんてくそくらえだ」
 そんなものは、無力なのだと彼女は知っているのだから。嵐に向かってみんなが笑った。生まれ変わろうと言って両腕を広げた。
 ――人類のままでいる必要があるだろうか。
 ちっぽけな足で、手で、
 だけど、知恵がある。技術がある。
 自然な世界に抗うんだと誰かが言って、それが積み重なって技術が高まった。オーバーテクノロジーは、力だ。

 生きるため、戦うための、力だ。


●戦場へ
「さて、どちらも喫緊の対応が必要なようじゃな」
 エウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)が秘伝の篠笛を吹き鳴らして狼の群れを呼び出している。
「急ぐのじゃろ」
 乗っても構わないのだ、と狼がぺたりと腹を地につけて騎乗を待っている。
「ふわふわの毛並み……わ、待って」
 キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が血気盛んな狼に振り下ろされそうになり、必死な声をあげた。
「戦場は別になるけど、お互いがんばろうね」
 エミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)が別の狼に騎乗してキアランに笑いかけた。
「皆さん、どうか無事でまた会いましょう」
 草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)が律義なことに「お世話になります」と自分を乗せてくれる狼に挨拶をしている。
「それじゃ、いきますか。……こっちの戦場は、どうもサポートが動いてるみたいだ」
 月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が帽子の下の目に真剣な色を宿して呟いた。
「サポート猟兵チームさんですか。現地でうまく合流できるとよいですが」
 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が狼になめろう料理を食べさせている。
「ハロ! 偶然ね!」
 チェリカ・ロンド(聖なる光のバーゲンセール・f05395)が少し離れた狼に手を振った。
「チェリカさん!」
 視線の先で狼に乗るハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は赤い瞳を一瞬大きく見開き、隣へと狼を走らせた。

「狼さんが安全に奔れるように大地を整えるね」
 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)が進行方向の道を整えていく。
「ん。みんなで作った道、護ろう……!」
 ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)がちょこんと狼の背に乗りながら道の先に決意の目を向ける。
「二面作戦ね。こちらの戦場は任せて」
 エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)が魔導蒸気兵の軍団を指揮しながら微笑んだ。

 仲間たちが一人また一人、狼に跨って出発していく。

「『エルヴィン』防衛に向かいます。自身と愛機には適する役目と判断しました」
 逡巡ののちミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)が防衛戦に向かっていく。
「直進すれば防衛戦場に巻き込まれますから、別働隊は進路をずらしたほうがいいでしょう。最適ルートを探ります」
 言いながら見下ろす地上ではヴェロニカ・アイアンサイズ(コモンウェルスのミラクルサバイバー・f25587)がパワードスーツで道を急いでいる。

「さて、マニトゥ。わしらも急ぐのじゃ」
「わぅ!」
 巨狼マニトゥに跨り、エウトティアが疾風の凱歌を風に流した。巫女が謡う声は大地と風の脈動を感じさせる独特の音程で高く低く響き渡り、駆ける狼が目を爛々とさせて勇み速度を上げていく。

 駆けよ、駆けよ
 風となり
 吾らの足で疾く駆けよ
「わおおぉーーーーんっ」
 狼たちが吠えている。
「あぅぉぉぉぉぉぉ!」
「わぅ~~!」
 歌っているのじゃろうか、とエウトティアは頬を緩めた。

「さあ、征こうぞ。――戦場へ!」
 先頭で輝く笑顔で手を振れば、沈みゆく太陽がぎらぎらと照り付けて手の輪郭を赤く縁どる――生きている。
 マニトゥが駆けるのに合わせて低く上下する視界に戦場が見える。

「わ、わわ。わわわあっ……」
 息を弾ませハフハフと興奮した様子の狼が一頭、凄い速度で先走る。乗せているのは前線適正が低そうな青年だった。
「さ、さきに。いきま、す、うぁっ」
 狼の背に必死にしがみつきながらキアランが駆けていく。
「ぉーい、大丈夫かよ」
 パワードスーツがその後を追いかけていく。一行の上空ではブラックバードがエデン・スリーに向かう別動隊と連携して最適ルートをガイドしていた。

「マニトゥ、こちらも速度をあげるのじゃ」
 ふわふわの首にぎゅっと縋るように手をまわしエウトティアが請えば、マニトゥが速度をあげた。風精霊が一行を祝福するように踊っている。


●灰色の防衛戦・1
 雲が後ろに流れていく。
 それは、時間の流れを感じさせた。
 世界は生きている――ヴェロニカは仲間と駆ける道の先に目を凝らして速度をあげた。
「見えてきたぜ。機餓獣兵と……あれは」

 ――敵の軍勢と、猫だ。

 ヴェロニカが駆るはPS-60D 装甲パワードスーツ。駆けつけた戦場に見えるは敵に囲まれ、今まさに凶爪に身を裂かれようとする一匹の『賢い動物(猫)』。
「クソっ! 間に合え!」
 地を蹴る脚が大きな音を立て、砂を撒き散らしてヴェロニカが跳躍する。衝突は一瞬だった。『灰色のソラ』の前に割って入ったヴェロニカを衝撃が襲うも、緑色の目は怯まず前を睨んで悪態をついた。
「っ! キミは――キミたちは!?」
「お前らは、道を作ってた連中か!」
 ソラが驚愕の声をあげ、禿頭男が敵意を向ける。
「畜生! 装甲が傷だらけじゃねえか!」
 パワードスーツ用に改良されたガトリングガンが苛烈に火を噴いた。轟音の中ヴェロニカの罵声が響く。愛すべき重機関銃用の.50 Cal弾が滂沱と敵を沈めていく――オーバーキルだ。
「整備だって楽じゃねえんだぞクソッタレ!」
 通信を介して同戦場および別戦場の仲間たちが同意を示す。彼らは毎度毎度、作戦が終わるたびに破損した機体を――時には赤字になりながら――整備しているのだ。
 上空から援護射撃がされている。それを感じながらヴェロニカは射撃を掻い潜り次々と飛び掛かってくる鋼鉄混じりの獣兵に集中する。

 荒野が茜色に染まっている。
 空の色を変えているのは地平線に近づいて落ちる日の光だ。高く君臨する時には蒼穹に我関せずとばかりに耀いているのに、沈む時には周囲を自分色に染めずにいられない、そんな太陽だ。

 ――世界が染まっていく、夕暮れに。

「ま、まにあっ……ありがとう……狼さん」
「わふ!」
 やんちゃな狼からよろりと降りて純白の聖外衣が翻る。ゆったりとした袖を揺らし、キアランが讃美歌集のページを開く。
 風が正面から後ろへ流れていく。向かい風だ。味方が既に戦っていた。焦燥に青年の柳眉が寄る。
(ユーベルコードの相性がいまいち、かな。この数の多さ……半数がせいぜいかもしれない)
 前線での戦闘は苦手だ。キアランは目を瞑り、短く聖句を唱えた。風が前髪を揺らして、なぜか思い出したのは幼い頃に拾った天使の羽根だった。
 真っ白で綺麗で、やわらかで――それはキアランの『特別』だ。
 前方で猫を庇って奮戦するパワードスーツの背に白い羽根が視えた気がして、キアランは祈るように口を開いた。
「♪しずけき このとき」
 最初のフレーズがするりと口を突いた。声に奇跡が宿ると最初に言われたのはいつだっただろう。
 キアランは選ばれたのだ。
 人々を救済するために、選ばれたのだ。
 砂塵に塗れて、敵の軍勢が視界一杯に溢れている。
「♪母の胸に抱かれ 眠り給う いと安く」
 ヴェロニカと猫に飛び掛かろうとしていた最前線の機餓獣兵が微睡みに誘われて崩れ落ちた。後続が来る――『慈母の歌(ララバイ)』は効果範囲が限られている。キアランは歌いながら猫に近づいた。

「♪Sleep in heavenly peace,
 Sleep in heavenly peace.」

 飛び掛かろうとした機餓獣兵が次々と眠りに落ちていく。
「ヒュウ♪」
 ヴェロニカの口笛が聞こえた。
 歌は、効いている――キアランは『灰色のソラ』を後ろに引っ張りながらホッと息を吐く。後続の味方が駆けつけてくるのがわかったからだ。
「ケガは無いかい? さあ、今のうちに逃げよう」
 空からブラックバードが、地上からは狼の群れと魔導蒸気兵が駆けつけた。
「かかれいっ」
 エウトティアの号令で狼の群れが突撃している。マニトゥがエウトティアに近寄る敵に勇敢に体当たりし、爪と牙で引き裂いている。
 エウトティア本人が操るは風の加護厚き自由なる矢。援護の矢は仲間を狙う敵を的確に撃ち抜き、地に沈めていく。
「もう、大丈夫」
 神に愛されし声が砂塵に声を置く。
「ん。みんな、守るためにきた」
 ミアが無表情に言った。表情は乏しいけれど、彼女が優しい心で仲間のために戦おうとしているのを、もうみんなが知っている。


●毒沼の中のエデン・スリー・1
 もう一方の戦場『エデン・スリー』では、駆けつけた戦場風景に仲間たちが一瞬言葉を失った。
 一面に広がる毒の沼。拠点から降り注ぐ銃弾の雨と悪意に満ちた哄笑。

「た、」
 屍人が口を開く。どぷりと毒を飲みながら。
「……り、あ」
 娘の名を呼び、力尽きる。

 蒼の飛天柳風が茜に染まる空に反抗するように涼やかに揺れ。
「……屍人になっても、か」
 ハルマが呟く声が一行の沈黙の終わりを導いた。
「大丈夫。助けますよ、必ず」
 一瞬身を沈めたのが視認できたが、その後は視えなかった。茜色に薄明の風に溶けるように少年の姿が消える。

 雲が光を下から浴びて暖色の衣を纏ったように鮮やかだ。そんな逢魔が時――、
 雲が鬱々と流れる空にラベンダーパープルの髪が二条の滝のように揺れた。長いツインテールを元気いっぱいに揺らす少女、チェリカは夕まぐれに煌めく一等星のように全身に光気を纏って毒沼の上に浮遊する。
「大丈夫」
 幼さと甘やかさの混じるソプラノボイスが戦場に降る。見下ろす瞳は夕暮れよりも鮮やかなキャンディ・キルシェ・アイ。映るのは力尽きた様子で毒沼に浮かぶ屍人の英雄。
「……大丈夫。あなたの意志は、私たちが継ぐわ」
 静かな声を捧げる口元には八重歯が覗く――ダンピールだ。
「なんだ、ちっちぇのが浮いて居やがる。見ろよ」
 拠点のレイダー達が指を差し、チェリカの光る全身を舐め回すように見つめた。
「ちいせえがイイ体してやがる。おい、あの娘は殺さず捕まえろよ」
 下卑た声が幾つも上がり――、強まる光気に気付いてぴたりと止まった。

「レイダー、破壊しか能がない奴らね」
 よく通る少女の声が沸々とした怒りを湛えている。今にもバクハツしそうな――、
「なんかパチパチした光の珠みたいなのを抱えてやがるぞ」
「おい、なんかヤバそうだぞ!?」
「でも奇遇だわ。私も、作るより壊す方が得意なの」
 チャーミングにパチリとウインクをして、少女の腕が突き出された。直後、両掌から光砲が放たれる。
「チェ、リ、カ、砲ぅぅぅぅッ!」
 戦場に迸る眩い光! 誰が視ても大技だ!
「「ギエエエエッ!?」」

 ドオオォオォォォン!!

 ブチギレチェリカの挨拶代わりの光撃が爆音を轟かせて拠点砦に大穴を開けた!
「今のは挨拶代わりよ」
 流星の如く光の尾を引き、チェリカが銃弾を光気で弾き飛ばしていく。ぎり、と奥歯を噛み締め衝撃に耐えながら砦に飛び込んで虹の光を放つルーンソード(改)を右に薙げば、魔力が十分に乗った聖虹の鋼線が綺麗な断面を見せて敵の骨肉を断ち、鮮やかな血花を咲かせた。
「アンタらに慈悲なんてない。私の光で消し飛びなさいッ!」
 激情と共にチェリカの全身から魔力が迸る。
「ま、またアレが来るぞぉッ!? 逃げろおおおおっ!!」
「逃がさないわ!」
 先ほどよりも高出力の豪快すぎるチェリカ砲が周囲一帯を明るく照らすほどの威力で放たれる!

「――今、チェリカ砲が当たる前に拠点内部で爆発音があったな」
 ハルマが耳聡く聞き分けて呟く。
「サポートチームは内部にいる……?」
(そうか、上に連れていかれてる以外に中にも囚われている人がいたのかも?)
 推察したハルマはチェリカに通信で情報を共有する。
「建物を壊し過ぎないように気を付けて。たぶん、サポートチームに民間人が救出されてる最中だ」
「りぉうかいよ!」
「力強くて頼もしい返事でなにより」

(みんな……大胆な特攻! それなら、ボクも)
「コピー・オンっ!」
 エミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)がシャオロンをユーベルコードで複製した。シャオロンは麺棒型の竜騎士の槍だ。小竜形態をとることもできる。この時コピーしたシャオロンはビーム餃子気弾を発射可能な棒餃功筒を装備していた。複製した数は――本来67体のはずが、27体。ユーベルコードの相性が若干低く若干数が不足したが、生成速度はかなりのものだ。
「味方もいるから、この数でもいけるはず……!」
 エミリロットがシャオロンの半数に援護射撃を命じ、半数を民間人の救出に向かわせる。

「タリアちゃんのお父さんは……」
 エミリロットが屍人を見る。
 夕陽に染まる世界を抱きしめるようにエミリロットの翼が羽搏いた。宙駆けるドラゴニアン少女は拠点からの銃弾を危なげなく空中で見切り、避けながら敵兵を攪乱している。
「もう、わからないだろうけど」
 毒沼がゴポリと泡を立てて屍人を呑み込もうとしている。
「ボクはタリアちゃんに頼まれて来たんだよ――皆を助け、貴方を止められるのは……ボク達だ!」
 突如現れた猟兵たちの姿に十字架に磔にされた3人が眼を見開いている。
「た、助けが来た、のか? ……何処から。あと可愛い」
 セストールがごくりと喉を鳴らす。問いかけるような視線にレイムは首を振った。
「私たちの仲間ではないわ。それにセストール、貴方」
「わしらの拠点の奴でもない。これは、そうか! わかったぞい!」
 ジジがカッと歯をむき出した。
「わしが長年「キャワイイ孫がほしいのう」とお星さまに願っておったのがついに叶ったのじゃな!」
「てめえら黙れ!」
 チュートが髪を振り乱して十字架の3人に銃口を向けた。
「そんな都合のいい助けなんて――許さねえ」


●灰色の防衛戦・2
「両戦場ともに、どうやら間に合ったようですね」
 絶えず援護射撃を放ちながらマシンヘルムの内側でミストの中性的な顔が冷静に戦況を見定めている。
 駆る機体は愛機ブラックバード。ミストが右と思えば右に動き、上と念じれば上へと動く――、
「完全制御 <<フルコントロール>>」
 全高9mの人型機動兵器は彼の出身世界の技術の結晶だ。味方には頼もしく敵には恐ろしいその姿に気付いて、禿頭男が眼を剥いた。
「ゲェッ! あ、あの黒い機体は――奴だ!」
「ミスト・ペルメオス、ブラックバード。防衛戦に参加します」
 風が吹き抜けた。そう思った数瞬後には機餓獣兵が数体蹴散らされている!
「オーバーテクノロジー! ママンの飛行船よりヤベェ……!!」
「飛行船?」
 敵が銃口を向け、機餓獣兵が爪を振ろうとした先でブラックバードは直角に飛び上がり夕空高くに飛翔している。
「なんだよその動きは!」
 空に向けた敵の目が巨大なブラックバードを見失う。気付けばその姿は地表低くを抉るように疾けて制圧射撃を放っている!
「と、止めろ! 誰か奴を止めろ!」
「恐れるな。お前達の番が来ただけだ。そうだろう」
 飛び掛かる兵にミストの目が眇められる。
「こちらに向かってくる、好都合」
 ――全て撃ち抜く。
「蹂躙する」
 操者の念がタイムラグなく愛機の動きに直結する。純粋な力による蹂躙に狂気の声があがった。
「チキチョウめ! 俺みてぇなゲスクズ野郎にも意地ってもんがあるんだよおぉぉぉ!!」
 禿頭男が血走った目で吠えながら銃を乱射している。
「あのデカいのを落とせ! 中のパイロットを引きずり出せ! 兵器がなければあんなガキ! ――く、くそっ、疾すぎる!」

 ――全てを焼き尽くす【“黒い鳥”】の再現。
 ――遥か過去の伝説には及ばずとも。

 太陽が沈むのを見下ろしながらブラックバードが飛ぶ。
「お見事ね。私も負けてられないわ」
 地上ではエメラが昂然と敵群を見つめていた。
「障害物のない広い場所で、敵の大軍が自分から向かってくる……これ以上なく私向きの戦場よ……」
 愛らしく笑みを浮かべ、ゆったりしたドレスの裾を軽く持ち上げてエメラは微笑んだ。貴婦人が見れば夢中で愛でずにいられないであろう上質な人形めいた顔をキラキラと光を反射する長い髪がゆるく揺れて彩っている。エメラルドの耀き宿す大きな目は敵兵団をしかと見つめた。
「それじゃあやりましょうか……『この場は既に我が陣地』!」
 永遠に幼いままの細い腕が悠然と横に振られる。老練な指揮者のようにも見えるその仕草にエメラが操る黄金の砲台兵器群が一糸乱れぬ挙動で砲弾を撃ちだした。
 ダダダダダッ!
 ドォン! ドォン!
「ギャンッ!」
「ギャアアアッ」
 鼓膜をじんじん言わせるような腹の底に響く重い発射音と着弾後の爆音、悲鳴が戦場に溢れる。聞き慣れぬ者であれば咄嗟に耳を抑えて恐怖に体を固くしてしまいそうなものだが、エメラは悠然と髪を風に流して戦場を俯瞰していた。
「……悪いけど、只今ここは工事中よ……お引き取り願うわ」
 微笑んで呟き、すぐにハッとした様子で味方に警告を発する。
「ヴェロニカさん!」
「っ! そっちか!」
 ほぼ同時。ヴェロニカの脳が警鐘を鳴らし、大口を開ける機餓獣兵に両腕を伸ばしてがっぷりと組み合った。
「こいつめ!」
 ぎりぎりと押し合う両機。装甲がみしりと音を立てるのを耳にヴェロニカが口の端を釣り上げた。
「フン!」
「グアッ!!」
 ぐっと足元の土が落ち窪み、恐るべきパワーでヴェロニカが敵兵を組み伏せて腹部に脚を押さえつけ、強引に腕関節を引き千切る。
「文明の最期の徒花、パワードスーツをお前らみたいな屑鉄と一緒にするなよ!」
「アアアアアアアアッ!!」
 機械と血肉が飛び散って悲鳴が生まれる。
「……やれやれ、ちょっとは文明的な戦い方をさせてくれ」
 自身に向けて飛び掛かる兵を一機蹴り飛ばしながらヴェロニカが肩を竦めた。

「御無事ですか」
 ブラックバードが恐ろしく冷静な声を放ちながら上空を飛んでいる。
「あん? オレがやられるわけねえだろ、心配してくれたのかい坊や」
「それはもちろん――無事を確認、当機は前に出ます」


●壊れかけた小屋
 仲間たちが戦場に向かう中、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は小屋にいた。
「……何故、「一人だけ」屍人に?」
 トリテレイアが無人の小屋を探りながら凍結データを解凍する。血痕、肉片、散乱した荷物――、身の丈285.2cmのウォーマシンは若干窮屈そうに膝を折り、ベッドの下に転がっていた容器を拾い上げた。α-115K/100yと記載された四角い容器は硬質なホウ珪酸硝子で生型されている。上部が細長く伸び、先端は溶閉して保存されていただろうか。使用済みの容器の内側に残る液体は――、

「失われた禁断の技術」

 聞く者がいない小屋にトリテレイアの声が響く。

(騎士では無く探偵か研究者ですね、これは……)
 騎士であれば、一も二もなく戦場に駆けていただろうか。トリテレイアは己の本質がやはり理想とは乖離しているのだと思い、外へと続く血痕を見た。同時に記憶データが再生される。妖精ロボが中継で齎した映像は、這いずる屍人が敵に幾度も撃たれては起き上がり沼を渡ろうと藻掻く姿が映っている。

「あの屍人、やはりやけに動きますね」


●毒沼の中のエデン・スリー・2
「敵襲だ!」
 拠点『エデン・スリー』が蜂の巣をつついたような騒ぎに陥っている。内側と外側と、共に猟兵たちが暴れている。
「派手にやってるなー」
 周囲に溶け込むように迷彩を纏い、忍んでいるハルマの手には手裏剣が握られている。四方向に鋭い角を持つ星に似た手裏剣には麻痺毒が仕込まれていた。
「敵襲! 敵襲だッ!」
 拠点を守る兵が慌ただしく動く背後を音もなくハルマが駆けていく。敵兵には一切見咎められることなく拠点内の陰から陰へと走り抜け、その身は屋上へ。

(ああ、いるいる)

 長い髪を振り乱し、チュートが吠えている。
(……隙だらけだ)
 ハルマが手裏剣を放つ。正確無比な投擲は鋭く風を斬り、悲鳴があがるより先にブーストエンジンで加速した破砕錨が叩きつけられる。身を守ることを捨て渾身を籠めたハルマの一撃は高き跳躍と共に体重を乗せて振り下ろされ、天が堕ちてきたような衝撃を与えた。
「――ッ!!」
 ほぼ同時の手裏剣と破砕錨の痛撃をまともに喰らったチュートから耳をつんざくような声があがる。
「今のうちに!」
 ハルマが仲間に声をかける。
「シャオロン、十字架から3人を解放して」
 エミリロットの号令でシャオロンが十字架に集まった。
「ち、地下に。仲間たちが捕らえられているんだ」
 セストールがエミリロットに惹かれるように頬を染めながら言った。この世界の民は、人類の生存本能ゆえか、優秀な奪還者を恋愛対象として強く求める性質があるのだ。
「そっちは別動隊が対応してくれてる、と思う」
 ハルマが揺れ続ける拠点に「壊れそう」と呟きながら笑った。
「……いやホント。派手にやってるなあ」
 ひゅうっと吹き抜ける風が帽子を飛ばそうとして、少年の手が「おっと」と楽しそうに風の悪戯を防いだ。
「防衛チームの戦況は?」
 通信機で問えば、離れた戦場で戦う仲間が頼もしい声を返してくれる。


●灰色の防衛戦・3
「こちら防衛チーム・千秋です。ソラさんは無事です。仲間も――揃っています、作戦は順調です」
(ソラさん、というんですね)
 薄茶色の髪がさらさらと風に揺れる。千秋は仲間とソラを守るために前に出ながら飼い猫の『ソラ』を思い出していた。UDC事件がきっかけで引き取った子猫のソラは、千秋の愛情を受けてすくすくと育っている。
 ――みゃあ。
 愛らしい声を思い出して。
「わぉーん」
 けれど、現実に傍で鳴くのは狼だった。
「ふふ、狼さんもお疲れ様です」
 千秋がふわりと微笑むと狼がゆるく尾を揺らす。この狼も、ここまでの道を共に駆けた友だ。
「狼さんは、エウトティアさんの傍に戻ってください。乗せてくださってありがとうございました」
 ふわふわの狼の背を労うように撫でて、視線が敵に向けられる。仲間に向ける時と異なり双眸には強い敵対心と闘志が籠められていた。
「オブリビオン……ソラさんを『石ころみたいなもの』なんて言うな」
 眼鏡の奥の瞳が宝石めいて煌き澄んでいる。優しい青年の瞳は敵に向けられた瞬間スイッチが切り替わったように凛としたヒーローの魂を見せていた。
「この世に軽んじていい命なんてない。それはこの地獄の地も他の世界も同じだ」

「みんな、助けに来てくれたんだね――道を守りに来たんだね」
 呟くソラの耳には千秋の声が届いていた。敵に向けるのとは異なり、あたたかで優しい声だ。
「ソラさん、僕だってこの先には行かせない気持ちは一緒です。皆で頑張って道を作った甲斐がありましたね」

 ――みんなで守りましょう。

 ソラには、そう語る千秋の背が大きく見える。
 仲間が一人また一人、駆けつけてくる。ソラを連れて下がるキアランと交代するように前に出て、俄かに防衛ラインが構築された。

「先行隊の方々の事も気になりますが貴方の素振りも気になったので」
 ビスマスが淑やかに微笑んだ。
「そう言う気高く意地らしい心意気を見た以上お節介焼かせて貰いますが」

「そこに大地があって、そこに人が歩き続ける限り、道はなくならないの」
 柔らかな声がかけられた。
 見れば、おひさまを宿したように明るい瞳がソラを見ている――シャイニーソレイユ・向日葵だ。
「大丈夫、道もキミ達も、ここに道を作りたいっていう夢見る気持ちも、みんなみんな、守ってみせる。大地の魔法王女としてね」

「敵が襲い来ると言うのなら、ここは工事現場から戦場となります」
 ハロが砂塵荒れる戦場に黒髪を揺らして駆けている。真紅の絆で結ばれたチェリカが別の戦場に対応している――だから、ハロも自分の戦場を駆けるのだ。
 時折通信機から威勢の良い少女の声が聞こえて、ハロは頬を緩める。そして、レイピアを静かに抜いた。

 すれ違う一瞬、ソラが視えた。
 けれど、ハロの瞳はただ前を視る。
(そこの猫さんには悪いですが、破壊も死も免れないでしょう)
 熟れた林檎が枝から落ちるが如く。
 ハロは赤い瞳に世界を映して、無造作に左にステップを踏む。一瞬前まで居た位置を敵兵の爪が通り過ぎていくのを待つまでもなく前へ足を進め、跳んだ。
 身軽な身体が追い風を受けて夕陽の中に戦刃を走らせる。

 ――どちらかと言えば、私はそちらをもたらす方が得意ですしね。
『――チェリカ砲っ!』
 声が聞こえる。
「……ふふ」
 きっと元気に飛び回っている。空を背負うように輝いている。ハロにはその姿が、目に浮かぶようにわかるのだ。
「いきます」
 だから、ハロの脚は全力で地を蹴って戦場を走るのだ。


●毒沼の中のエデン・スリー・3
「どちらの戦場も、人員は足りたようですね」
 機械飛竜「ロシナンテⅢ」が豪快に羽ばたき飛翔している。妖精を肩に乗せ騎乗するトリテレイアは『エデン・スリー』を見下ろした。
「見つけました、――見つけましたよ」
 センサーが捉えたのは、沈みゆく屍人。

 機械飛竜が高度を下げてワイヤーアンカーを垂らす。
「私たちがこの世界に来なければ、貴方は此処で沈んで誰にも知られず朽ちていく運命だったのでしょうか。あの日記も誰かに知られることなく――」
 屍人を回収したトリテレイアは、燃えるような空を駆けた。

 戦場の空は、冷えていた。
 世界には色が溢れているようだった。
 飛竜が力強く羽ばたくごとに景色は後ろに流れていく。なのに、空はあまり変わり映えがしない。

 燃えるような空の名を彼は知っている。
 知っていて、任務の成功のためには意味がないものだと告げる自分と、それでも意味があるのだと囁く自分がいる。

 ――それが不思議と心地よいのだ。

 近付く拠点を見下ろしてトリテレイアが声を降らせる。
「邪魔はさせませんよ」
「ッ、あれは! 機械飛竜……でかいな」
 チュートが傍で見る機械飛竜に少女のような眼を向けよろよろと近寄った。
「オーバー・テクノロジー」
 両腕を無防備に開き、抱っこをねだる子供のようにして女が笑う。
「うはあ、なんてスゲエ技術力だ。人類は空だって飛べる。ああ、そうさ――ママンが言ってた。飛べたんだ。アタシらは。飛べるんだ」
 その声をきいてトリテレイアは「この道の陰にも物語があったのだ」と知るのであった。そして、呟いた。
「それは、そうですね。これは物語ではないのですから」
 現実世界を生きる人々はひとりひとりが主役だ。ひとりひとり、その人の人生が――『物語』が、あるのだ。

「敵の注意が逸れてる? よくわからないけど、脱出する」
 ハルマが人質の3人に腕を廻してユーベルコードを発動させる。『大神降臨』は安定した完成度で奇跡を起こす――巨大な黒狼が導くようにして、一瞬でハルマと3人が仲間猟兵のもとへとテレポートを果たした。そこには、転移されてきたハルマのバス(玄武)が待っていた。
「急ごしらえだけど救護場をここに決める。と、あれはサポートチーム……」
 ハルマが拠点から脱出してきた猟兵たちを発見し、サポートチームにコンタクトを取っている。
「サポートチームですか? こっちに仮設救護場をつくりました。来てください」

 人質が消えた戦場でチェリカとエミリロットがチュート目掛けて駆けていく。
「首魁を見つけたわ!」
「逃がさない!」

「お嬢!」
 配下が駆けつけて壁になろうとするも、2人の猟兵に次々と蹴散らされていく。
「ボクは餃心拳のエミリロット!」
 餃子の拳が燃えている。
「歯ぁ食いしばりなさいっ!」
 エミリロットの拳と合わせての至近距離からの光砲に撃ち抜かれ、チュートの身体が屋上から毒沼に落ちていく。
「はは、ははは! ははは……」
 血交じりの唾液を引きながら笑い堕ちる瞳はじっと天を見ていた。
「だが、もう遅い。エデンの飛行兵器は放たれた、さ」
「飛行兵器?」
 トリテレイアの聴覚センサーが一言一句を聞き留めていた。


●灰色の防衛戦・4
「『エデン・スリー』では、人質を救出できたようですね!」
 燃えるような色に染まりゆく世界の色を結晶が反射しながら仲間を庇い、敵の獰猛な牙をあやすように受け流しながらビスマスがユーベルコードを発動させた。
 ――『Namerou Heart Omaguro!』
 起動音と共に出現したのは。
「海と沖膾の鮪の覇者! オーマグロです!」
 クロマグロ型水陸両用鎧装オーマグロを装着したビスマスが蒼鉛式ご当地ビーム砲とご当地キック用ビスマスブレードを気高く掲げて蒼鉛式納豆餅ビーム砲を撃つ!
「味噌で味付けをしています。お餅と納豆のネバネバがあなたの口を塞いで――他の血肉なんてもう食べる気も起こさせませんっ!」
 なんということだ! 機餓獣兵がネバネバに魅了されている!
「味噌については、せめてものなめろう要素ですよ――味噌と納豆相性良いですし」
 丁寧に解説をするビスマス。
「味噌がなめろう要素……お、俺にはわからねえ!」
 敵が混乱していた。
「なめろうは、美味しいですよ」
 千秋が敵に言い聞かせるように真面目な顔でコメントをするとビスマスが嬉しそうにニコニコした。
「駄菓子も美味しいですよね」

 そんな和やか(?)なやりとりの中、ミアがそっとソラの頭を撫でていた。
「あなたが誰かが死ぬのを見たくないように、わたしも誰かが……あなたが死ぬのは、見たくない」
 あどけなさが滲む声がぽつりと空に響いた。大きな猫の毛をやわやわ撫でる手は優しく、繊細だ。
「キミも戦うのか」
 ソラが心配そうに声をかければ、少女は事もなげに頷いた。
「ん、戦うのも仕事だから、ここは任せて、ね?」
「……けがを、しないでくれると約束してくれる?」
 キトンブルーの目が問えばミアは安心させるようにほんの僅かに口元に緩く笑みを浮かべた。
 長い冬に凍える地面が芽吹き春を知らせるような、そんな初々しい控えめな笑顔だ。
「笑った」
 ソラがそう言って笑った。
「キミ、笑うとすごく可愛い。もっと笑ってほしいな」
「……ん」
 ミアが無表情に戻った。その小さな耳たぶがすこしだけ赤く染まっていて、ソラは嬉しそうに喉を鳴らしたのだった。

 燃えるような夕焼けが視界一杯に広がっている。
 太陽が地平線に沈む中、茜に染まりながら戦いが展開されている。それを視てミアが思い出すのは友と語った未来の話。

 ―― 猟兵のみんなが頑張れば、アポカリプスヘブンにだってできるかも。

 ――是非目指したいです!

 ――いい響きですね。文明復興の暁にはそう呼ばれるようになれば素敵です。

「数がどんなに多くても、負けませんよ」
 勇ましく言い放つ千秋に向けて機餓獣兵が二足をバネのように動かして跳ぶように迫り、爪を上から振り下ろす。三本の鋼鉄が赤き血交じりの凶線を描く軌道を千秋の目は冷静に見定める。
「改造されているんですね、」
 言いながら千秋は右半身を引いて右回りに廻転するように爪を躱した。同時に起動するのは「秩序の崩壊」の名を持つ対UDC用自動詠唱機構付き銃火器。
「その肉体は――」
 端正な顔が嫌悪に歪む。円舞曲を共にするように機餓獣兵がぎゅんと方向転換をして体当たりをするように千秋に突っ込み、至近で口を開けた。ぬらりと光り糸を引く獣の唾液に、口腔にびっしりと生えた鋭い牙。
「不完全な、身体」
 まるで自分のよう――千秋が嫌悪感に突き動かされるように敵の口に銃口を向けた。
「千秋さん!」
 仲間が心配そうな声をあげているのがわかる。それがわかるから、千秋は笑った。
「大丈夫ですよ……!」
 誇り高く発砲音が響く。一斉発射すれば敵が痛々しい悲鳴をあげて散華した。
「畳み掛けます!」
 仲間が傍にいる。それが千秋のやりきれない気持ちを和らげてくれるように思えた。心には、篤志が湧いてくる。眼差しには勇気の灯が。佇む背は気高く、ヒーロー然として見えるだろう。

 千秋のユーベルコード『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』。熟達の技能のもと展開された全武装の一斉発射は周囲の仲間が圧倒されるほどの烈しさで周囲の敵を撃破していく。

「続くわ。弾幕を!」
 エメラが指示を出し、砲弾の雨を降らせた。

 仲間の勇姿に向日葵も懸命な目をして力を奮う。
「みんなを守りたい――ソレイユシールド!」
 プリンセス・ガントレットに護られた指がちょこんと摘まむのは魔法王女のマギカドレス。ポニーテールが揺れる頭にはハート頂くティアラが輝く。向日葵が強くイメージして展開するのは光耀くソレイユシールド。花弁が広がり強き意志をそのまま耐久力と変えたように敵の牙を阻めば機餓獣兵が忌々し気に首を振る――飢えた獣の唸り声が次の瞬間驚愕に塗り潰される。
「ギャンッ!?」
「プリンセスチェインが悪意を縛るわ」
 シャイニーソレイユ・向日葵が大地の力を宿した煌めく鎖を次々と奔らせ、敵兵に絡ませていく。ドレスをひらりと翻し、シャイニーソレイユがパンチを撃ち込む。
「あなた達の悪意に、『わたしたち』は負けない!」
 向日葵は、仲間の存在を強く意識していた。
 大地の上でみんなが一緒に戦っている。それが全身で感じられる。離れた戦場も、同じ空と大地で繋がっている。それが心で感じられる。
「みんなで、勝つよ!」
 声は高らかに戦場に響くのだった。

 ブラックバードが滑るように敵の群れに襲い掛かり、暴れている。

 味方が戦う姿をキアランとソラが並んでみていた。
「たった一人で敵の大群に立ち向かうなんて、君には勇気があるね。僕とは大違いだ」
 ソラは無言で傍らの青年を見上げた。猫を見下ろす瞳がふわりと微笑んだ。
「ただ、自暴自棄になっていただけさ。自殺しようとしたようなもので――あんなのは、勇気じゃ、ない」
 ソラがそう言ってヒゲを揺らした。
「そうかな、それでも――僕はあの群れの前にひとりで立ち塞がるのは『勇気』が必要だと思うんだ。僕が同じことをしようとするのを想像するとね」
 穏やかに言葉を返す青年が纏う衣の白さと気配がやわらかく清らかで、ソラには目の前の青年が教会の奥で一切の汚れから守られているべきに思えた。
 それなのに。
「さて、戦いに戻らなくちゃ。君は安全な場所で待っていて」
 キアランはそう言って白い衣をはたはたと風に揺らして歩いていく。前へ。
「どうして? 『大違い』だって言ったじゃないか。それは、」
 ソラが目を見開いて背に声をかける。キアランは振り返ることなく笑った。
「僕もみんなを守りたい……その気持ちは一緒なのさ」
 その背中を見て、ソラは「この青年もまた『戦う者』なのだ」と知るのであった。


●毒沼の中のエデン・スリー・4
「拠点の地下に他の民間人も捕らえられていたのね」
「怪我をしてる人もいるみたい。手分けして治療しよう」
 チェリカとエミリロットがサポートチームが民間人を連れ出しているのを見て手を貸している。サポートチームには、ユーベルコード『フェアリーランド』のオリジナル版(異次元に匿い、安全な場所で出す)の使い手がいたようだ。しかし、中にはユーベルコードで匿いきれなかったのか肩を貸されて歩いたり抱え上げられて運ばれる人もいた。
「トリテレイア、その機械竜で怪我人を運べるわね?」
「もちろんですチェリカ様」
「ハルマくん、ユーベルコードで怪我人を運ぶのを手伝ってくれるかな?」
「ああ、んじゃエミリロットさんの位置にテレポートするんで、仮設の応急治療所にいてくれるかな」
「りょうかい!」
 慌ただしく動く猟兵たちを見て救出されたセストール、レイム、ジジが助力を申し出る。
「俺はな、戦場は実はちっとばかし苦手なんだ。だが、ボインちゃんもぺったん娘も両方好きだ――俺を犬と呼んでくれ」
 大柄なセストールがそう言って女性陣のパシリとなる。
「セストールはビビリで色呆けしておるんだが腕は悪くないんじゃ。孫よ」
 ジジは勝手に猟兵たちを孫と呼び始めた。
「でかい孫じゃの」
「私も孫ですか」
 トリテレイアが屍人を仮設テントの隅に寝かせるとジジはなんともいえない顔をした。
「みんな、孫じゃ」
 その瞳の端に光るものを見てレイムがそっと目を逸らした。
「ごめんなさい。貴方達を戦いに巻き込んでしまって……」


●灰色の防衛戦・6
 戦場にキアランの歌が響いている。
「♪しずけきこのゆうべに 母が待つ家に」
 いつの間にかすっかり日は落ちて辺りは暗くなっていた。
「♪……このよるに」

 優しい歌声が仲間たちの心に寄り添うように燈火を燈してくれる。可憐な歌声は性別というものを感じさせない。神に祝福された奇跡の声、というのがまさにぴったりの声だった。この歌声を聞けば信仰心のない者でも信仰に目覚めてしまいそうだ、と皆が思う――会心の歌声だ。

「ん、頑張るよ――わたしたちを手伝ってくれた、エルヴィンの人たちを助けるためにも、敵はここで、全滅させる……!」
 ミアの瞳が優しさに煌めいた。風にリボンが揺れて、プリンセスハートがとくんと鼓動を刻む。スートロッドが掲げられれば魔法のチカラが高まって、雷の盾が生成される。
「ギャアアアアッ!!」
 ユーベルコードの『雷盾(サンダー・シールド)』がソラを追う敵の前に割り込んでバチバチと電光を放ちながら敵を弾き飛ばした。
「『石ころ』がみんなを守るチカラになる」
「石ころがチカラだと!? どういうことだ……ッ」
 禿頭男が銃を乱射しながら吠えている。放たれた銃弾は盾に悉く防がれ、其の先に届く事はなかった。
「ん、わたしが展開してる盾は、無機物を材料としてる」
 静かに語る少女の足元には無数の石が転がっているのだ。その意味を理解して禿頭男が青ざめた。
「……!!」
「石ころだって、道になったりこうして魔法の材料になったり、役に立つんだ、よ」

「こちらは粗方片付けました。あとは、リーダーと思しき其の男ですが」
 ミストが状況を知らせると、ハロが飛び出した。
「敵ヘッドを倒しましょう。それで、終わります」

「そこの敵ヘッド。私が相手になります――こっちです」
「お、俺の頭がつるつるだって!?」
「そんなこと言ってません」
 掠めた牙からオーラを巡らせて身を守りながらハロが故意に隙を見せれば、敵兵が獲物を狩らんと集ってくる。
「ほ、ほう。仲間と離れて――デートの誘いか。可愛いじゃねえか」
 禿頭男が下卑た視線をハロの脚に向けている。
「はい。逃げ場はありません」
 見返すハロの目は味方との距離を計っていた。範囲内が敵だけならば遠慮は要らない、――と。
「邪魔者はいねえ! おいちゃんとたんまりあそぼうな」
 両手をワキワキとさせる男にハロがレイピアを差し出した。
「お? そいつでチクチクするのかい」
 飛び回る人型兵器や見た事も無い超能力の数々に比べればなんて可愛らしい――禿頭男が少女をデレデレと見ていると、ぶわりと炎が渦巻いた。
「はっ?」
「その魂までも焼き尽くして見せます」
 ハロがユーベルコード『フレイム・スローワー』を撃ち放てば、斬撃が灼熱の波涛となる。高威力の炎禍が周囲73mを焼き尽くし、炎霧が晴れた時そこには焼き焦げた禿頭の残骸に背を向けるハロの姿があった。
 戻る先には地上に降りて周囲を警戒する仲間たちがいる。見える範囲の戦場に動く敵は、ない。


「状況、終了」
 防衛戦が終わりを迎える。


●毒沼の中のエデン・スリー・5
「酷い傷だ。……間に合ってよかった」
 ハルマが携帯式の医療キットを広げてテキパキと民間人の傷の処置をする背後に機械飛竜が降り立った。
 動かぬ屍人を地に下ろし、トリテレイアが傍らに膝をつく。騎士を模したヘルムから覗く緑色センサーが人のような温度で――今は不思議な感情に揺れていた。
 手にした薬剤を無機質な鋼鉄の手が躊躇なく屍体に投与する。

「……何をしているか訊いても?」
 仲間の声に頷く白い騎士姿は人間らしくもあり、そうでもない。触れればひやりと冷たく硬い――高き戦闘力と演算力を持つ機械騎士。
「そいつ、もう死んでる……だろ……」
「いいえ」

 砂埃が細かく舞う。いつの間にか夜の帳が降りて、太陽に変わって空を支配するのは自然の月光だった。
 名も知れぬ幾億の星を共として――手を伸ばせば届きそうなほどに美しく冴えている。上空の空気が澄んでいるのだろうか。
 高き技術力を持つ文明が栄えていた頃も、果たしてこんな星空が臨めただろうか。

 トリテレイアは通信回線を開き、淡々と言葉を紡ぐ。
「治療能力を持つ方に力を貸していただきたいのですが、お願いできますでしょうか?」

 機械騎士の『瞳』が残酷なほど静謐に屍体を見据えていた。

 ――その存在が何を意図し為すかが重要です。

「為したい「衝動」があるならば、目覚めるべきですよ。
 ……デッドマン」


●合流
 二方面作戦を成功させた猟兵たちが合流している。
 壊れかけた小屋を南に通過した道に、二つに分かれた仮設テントが用意されていた。民間人治療用テントと、猟兵が使う休息・作戦会議用テントだ。ハルマのバス(玄武)が治療を終えた民間人を拠点エルヴィンに運んでいく。


●選択
「自然に任せるなら、そのまま土に還してやるもよかろうが……」
 エウトティアがマニトゥに背を預けて思案する。
「デッドマン。そいつが『なりかけ』だって言うのかい」
 ヴェロニカが年少の猟兵に毛布を配りながら煙草を咥えた。

 屍人を寝かせたテントには数人が集まっている。
 ハロとチェリカは同じ毛布にくるまって仲間たちの話し合いをきいていた。

「治療行為に有効なのは、ユーベルコードだけではないわ」
 エメラがぽつりと呟いた。その身体は、機械化されて成長が止まっている。
「っ、そんな、デッドマンの存在は知っていますが彼を治療……。この状態から?」
 改造手術を施された経験を持つ千秋が唇を震わせた。
「その薬は、その……勝手に……本人の承諾なく……?」
「薬は発見時、すでに多量投与済の状態でした。レイダーに襲われて負傷した際、絶命するまでの間に本人ないし別の者が治療に意図せず「失われた禁断の技術」を使用した可能性を考えています」
「治療行為に有効なのは、ユーベルコードだけではないわ」
 エメラがもう一度言った。
「そうでしょうね。ユーベルコードも有効でしょうし。他にも、アイテムとか……技能とか……」
「彼を生かそうと思えばできる。そう思うのです。いかがでしょう。彼をデッドマンとして復活させ、娘さんのもとに帰してあげませんか」
 ――選択の夜である。


●進軍
 明朝、皆の力で作り上げた道を通って拠点エルヴィンが再編成した義勇兵団が駆けつけた。
「まだ見ぬ拠点『スター・デムリア』は目と鼻の先ときく。共に未来の友を助けにいこう!」
 猟兵の女性陣をちらちら見て無駄に格好つけながらセストールがエルヴィンの戦士たちの先頭に立つ。
「あいつ、さっきまでブルブル震えておったんじゃ」
 こそりとジジ爺さんが囁き、ウインクをした。
「皆さん、ありがとうございます」
 レイムは丁寧に頭を下げて礼を言い、故郷の方角に必死な目を向ける。

「『スター・デムリア』は廃屋を修繕した都市の周囲に自然の岩の防壁を持つ天然城塞。岩壁に幾つもの外敵迎撃用砲門が備えられ、堀を巡らせて接近する敵を人力で迎え撃つ。内側都市には農園があるわ……、防衛に徹している限り数週間は保つ。けれど、敵の戦力が思っていた以上に多くて、長くは保たないと都市リーダーが判断を下し――何か飛んでいる……」
 遠い空に浮かぶ異物に気付き、言葉が止まる。

 近付くにつれ、状況が明確に把握される。
「……飛行兵器!」
「……飛行船!」
 トリテレイアとミストが同時に呟いた。

 青空に歪な存在感を発しながら飛ぶ舟は、それ自体がオブリビオンなのだと猟兵の目には判る。ゆらゆらと瘴気混じりの煙を吐きながら拠点上空を目指す巨大な敵は、時折煙の中に幻影めいたものを投影しながら下部砲門を都市に向けていた。
「あれが上から攻撃をしたら、上からの攻撃に無防備な都市はなすすべもなく蹂躙されてしまうわ」
 レイムが蒼白になった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『武装飛行船』

POW   :    光の雨
【レーザー光線による激しい弾幕】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    鉄の雨
自身が装備する【ホーミングミサイル】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    炎の雨
レベル×5本の【炎】属性の【ナパーム弾】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●拠点『スター・デムリア』に夜はあけて
 敵軍団に囲まれた岩壁の内側。スター・デムリアの人々が暁光の中を慌ただしく動いている。
「岩砦の外はどうなっているの?」
 不安そうな中年女性が大根をぎゅっと抱えている。
「おはよう奥さん。その大根美味しく料理してくれよ」
 女性の肩を抱いて家に戻し、防衛任務を仲間と交代して引き揚げてきた夫がくたびれた椅子に座る。煙草代わりに萎びた草をくわえて、夫が木札をテーブルに置いた。
「捥ぎ取ってきた。次の脱出メンバーに俺たちが入る」
「拠点を離脱するのね」
「東門から出て南へ向かう予定だ。新たな拠点となる場所を探して、少数での行くあてのない旅になる。だが、此処に留まって全滅するよりかは良い――俺たちの遺伝子と記憶を次世代に引き継ぐ。全滅すれば『スター・デムリア』は消えてしまう。あったことすら気付かれず、俺たちの歴史が消えてしまう。
 誰かが生き延びてくれる可能性……例え生き延びる者が結果としてゼロでも、『可能性』が希望になる。希望を胸にひとは戦い、可能性を夢見て死ねるんだ」
 孤立無援の拠点は少しずつ我が身を切り離し、未来への可能性を紡ごうとしていた。

「大変だ! 空を見ろ!」
 外から声がしたのはその時だった。
「何事だ!?」
「あ、あれは何だ……ッ」
「飛行兵器!? あんなものが敵に」

 外には絶望が待っていた。
 強固な防護壁を易々と越える高度で、巨大な敵兵器が悠々と上空から接近して来る。
「だめだ、あれは――対処できない」
 それは紛れもない『終幕』だった。

「――たす、けて……」
 カタカタと総身を震わせ、絶望の中で誰かが呟く。
 応える事が出来る者は、壁の内側にはいなかった。


💠3章のプレイングにつきまして
 2章のご参加ありがとうございます。
 3章は、拠点『スター・デムリア』を襲撃しようとしている飛行船を「拠点に到着するまでの間に」なんらかの方法で無力化・撃破する事が目標となります。
 飛行船はユーベルコード以外に『幻影を揺らめかせる煙』を吐いています。希望する方はプレイングで「幻影で何が見えるか」を指定することができます。(キャラクターの過去や好きなものを「こんな幻が見える、リアクションはこんな感じ」と記載して貴方のキャラクターの掘り下げに使ったり、「現地NPC『名前』のエピソードが視える、敵NPC『名前』の過去が視える」と記載して隠しエピソードを発掘したりできます)もちろん、幻影ギミックをスルーして普通に戦っても大丈夫です。

 ※単純にボス敵とバトルを楽しむだけでも大丈夫ですが、2章までの冒険の結果、おまけ要素が2つ追加されましたのでご紹介します。

 一つ目は、屍人『エルヴィン』の救済です。
 屍人『エルヴィン』は2章のプレイングによりデッドマンとしての復活が可能となりました。
 デッドマンとしての復活を望む方は、有効と思われる「ユーベルコード」もしくは「技能」もしくは「アイテム」もしくは「そのほか自由な発想」にてNPCの未来を導いてください。

 二つ目は、拠点エルヴィンからの民間人義勇団の戦いです。
 民間人義勇団が拠点『スター・デムリア』を囲む敵レイダー軍団に向かっていきます。支援なしの素の実力だと彼らは敵軍団に負けてしまいますが、猟兵が言葉やユーベルコードで鼓舞したり一緒に戦えば勝てます。地上戦となりますので、「空を飛んでいる敵に攻撃を届ける方法が思いつかない、どう対応したらわからない」という方にもおすすめです。

 プレイング募集期間は2章と同様に、最初に来たプレイングが失効する前に執筆させて頂きます。
 それでは、皆さんのプレイで辿り着いたラストエピソード。どうぞよろしくお願いいたします。
月凪・ハルマ
※『エルヴィン』
彼を蘇らせるのが、正しいことかは分からない

けどその可能性を完全に否定してしまうと、
この世界の住人でもあるデッドマンの存在自体を
否定することになっちゃうしな

まぁ、今の俺に出来るのは【医術】で肉体の損傷を
できるだけ修復しておくことくらいだけど

◆SPD

※NPC『ジジ』のエピソードが視える

……今のは

いや、考えるのは後だ。今はデカブツを止めないと

ミサイルは軌道・着弾点を【見切り】、【武器改造】で
爆破機能を付与した手裏剣を【投擲】して迎撃

爆炎に紛れ、隙を見て【ガジェットショータイム】
携帯型の地対空ミサイルランチャーを召喚して
飛行船の機関部を狙い撃つ

止まらなければ、もう一発(【2回攻撃】)だ


草野・千秋
幻影を揺らめかせる煙で見えるのは亡くした母と、母によく似た妹の姿
僕はもう仇を取って乗り越えた、はずなのに

僕は確かに見ました
、エルヴィンさんがかつて『人間』であった頃の記憶
やっぱり義志が厚かったのかもですね、エルヴィンさん
自分が死ぬかもしれない状況で人に優しくするって
そうそうできることではないです
仲間を助けに行って、それで……
エルヴィンさん、あなたの身も心も朽ちさせはしません
誰もいなくなんてないんです、僕達がいます
春は誕生と再生の季節
未来はあるはず、娘さんだっているのですから
UC【Aubade】+歌唱を使用

拠点の義勇団さん達は勇気+歌唱+鼓舞で応援
可能であれば空中戦+スナイパーで駆け付ける


エミリロット・エカルネージュ
●POW:屍人エルウィンの復活

そのままだとUCが彼がデッドマンとして復活するのに必要な部分を【状態異常】と攻撃しちゃいそうだから

彼に『属性攻撃(バイパス)』と『念動力』を込めて触れ彼に霊的に接続し『第六感』で『情報収集』しながら魂か意思の残滓か、それらしきモノを探る

見つけたらレイムさんと
居たらタリアちゃんにボクに触れて貰い、エルウィンさんに戻って来てと願って貰い

ボクがその想いを『念動力』で『属性攻撃(バイパス)』を通して送る、これで衝動を誘えれば良いけど

衝動により復活の可能性があるなら、コレと一緒にUCの治癒の霊力を、魂か意思の残滓に直接送り込むよ


※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


ビスマス・テルマール
●幻影の思い出
ビスマス結晶の塊なガタイの良い男性クリスタリアン(なめろうを教えてくれた人)にハワイアンなめろう(味噌を切らしバナナで代用してた)を勧められ

人の善意を思い出す一幕

あの頃は、親にネグレクト
学校ではイジメに耐え兼ね、行方眩ましてたので


●POW
『早業』でUC発動し三色の鎧装を生成し装着

『激痛耐性・オーラ防御』で備え

『第六感』で攻撃を『見切り』『残像』で撹乱しつつ『空中戦』を展開し

『誘導弾』と『属性攻撃(餅)』を込めた『一斉発射』で火器関係を『部位破壊』

火器が少なくなったら
なめろうフォースセイバーを船に付き刺し
『残像・ダッシュ』しつつ魚を捌く様に解体『料理』を

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎

(屍人に精霊石を握らせ)
万物はいつか滅び精霊の下へ還るものじゃ。このまま安息を得るのも悪くないと思うが…死に抗うのも人の性かの
まあよい【精霊石】を持っておくがよいぞ。お主が望むなら精霊が力になってくれよう

(戦場に立ち)
【ノアの長杖】の力を借りて精霊を召喚、【細流の調べ】を【歌い】【鼓舞】する
恐怖と戦う『スター・デムリア』の人々に少しばかりの安らぎを、脅威に立ち向かう義勇団の勇士に僅かばかりの助力を、そして娘を想い死に抗う唯の父親へ
精霊よ、歌声を風にのせて全ての戦場へ安寧の歌を届けるのじゃ

(歌の後)
【風術】を篭めた【誘導】矢を天に放ち、遥か彼方の飛行船の至近で風術を暴走させる


エダ・サルファー
うむ!正直状況はよくわかってないが、ここまで来たら最後までサポートしなきゃ女がすたるってもんよ!

そんなわけで聖職者な私としては、屍人の救済をしないとね。
他の世界なら弔うってことだけど、この世界なら別の形もあるわけで。

ここには彼の想いが、心が、魂が留まっている。
ならばあとは肉体を目覚めさせることだ。
肉体が目覚めれば魂も再び目を覚ますってもんよ!
だからこのドワーフ式賦活術で、無理矢理にでも目覚めてもらおうか!
さあ昂ぶれ筋肉!目覚めよ肉体!そしてその声に応えろ魂!
あなたの終わりはここじゃない!
今こそ死を超え再び立ち上がる時だ!
為したいことがあるんだろ?
守りたいものがあるんだろ?
なら、己が手を伸ばせ!


チェリカ・ロンド
【深紅の絆】飛行船へ

(スター・デムリアの人々が虐殺される幻影が見える)
……あんなこと、許せるわけがないわ。絶対止めないと!
ハロ、私たちでやるわよ!

【超聖者】になり、ハロの手を取って一緒に空へ
敵のレーザー弾幕は【光気】の【衝撃波】で吹き飛ばしつつ、被弾は【激痛耐性】で踏ん張るわ。ハロと一緒なら、絶対に負けない!
二人で力を高めつつ、ハロの剣の間合いに届いたら、彼女を飛行船目掛けてぶん投げる!
ハロの一太刀に合わせて、私は【力溜め】した光【属性攻撃】マシマシの【全力魔法】で【超チェリカ砲】をぶちかましてやるわ!

私とハロの全力全開の一撃で、骸の海に墜落しなさい!

その後、ハロはちゃんと受け止めるわよ!


ハロ・シエラ
【深紅の絆】飛行船へ
この光景は、幻影……チェリカさんにも見えますか。
ええ、許せませんね。
この大きさに飛行能力、一人だったなら諦めたかも知れませんが……二人なら、私達なら止められます。
まずはチェリカさんに上空へ連れて行ってもらいます。
レーザーやナパームの対応を任せてしまうのは心苦しいですが、今は【オーラ防御】で手助けするくらいしか出来ません。
上空で投げて貰ったら【空中戦】の要領で宙を舞い、位置を調整します。
後は超チェリカ砲に合わせ、【気合い】と全力を込めたユーベルコードで【鎧無視攻撃】の一撃を加えてやりましょう。
そう、私達の全力に、斬れない物はありません!
……あ、出来たら後で受け止めて下さい。


タリアルド・キャバルステッド
大体の状況は理解しました。サポートチームとして突然の参加でしたが、乗りかかった船です。最後までお手伝い致します。

民間人義勇団の戦いが気になりますね。
この過酷な世界で仕方ないことではありますが、彼らの衣服はどれも汚れ、破れていて見ていて辛いのです。
見た目でレイダー達に舐められない為にも、キッチリした服装で戦いに望んでほしいところ。「SILVER GHOST」でスーツや靴をコピーし義勇団の皆さんに着て頂きましょう。
あ、サイズは魔力で各自に合わせて調整できます。

あとは己で戦って頂きますがいざとなればコピーしたスーツを私が操ることで皆さんを宙に浮かせたりできます。頑張れば飛行船まで届くかもしれません。


エメラ・アーヴェスピア
…デッドマン関連の事は同僚さん達に任せましょう
相手の兵器、と言うのも気になるし…防衛の準備をしましょう

何あれすごく調べたいわ…!…こほんっ
…仕事、しましょうか…
まずは私を起点に魔導蒸気兵器で同僚さん達の通信網を形成
あらゆる手段を用いて【情報収集】を行い、今回の作戦のオペレートをするわ
次に同じ要領で義勇団の通信網を確立、こちらもオペレート
ソーシャルディーヴァじみた事をしているけれど、私なら問題なく戦況把握しつつ指示が可能よ
そして最後…『我が砲火は未来の為に』、複数の対空砲を呼び出すわ
レーザーは少し大変かも知れないけれど他の攻撃も含め十分迎撃できる筈
私の兵器の力、教えてあげるわ

※アドリブ・絡み歓迎


ミア・ミュラー
いくら道を作って守っても、その先に何もなければ意味ない、よね。だから、あの船を壊してあっちの拠点の人たちを、守る。

ん、ソラさんに怪我しないでって言われたし、わたしは目立たないように遠くからあの船を攻撃しよう、かな。船も大きいし、わたしは目も良いし走るのも得意だから、敵を見失うことはない、よね。船がしっかり見えるように、距離を取りながら詠唱して【流星群】を放つ、よ。あの飛行船のさらに上から、星を降らせてあげる。そういえば流れ星も宇宙の石ころみたいなもの、なんだっけ。
ん、こんな風に、諦めなければ必ず救いがあるんだ、よ。わたしも、そうだった。だから拠点のみんなも諦めないでこれからも、頑張って?


夢咲・向日葵
●心情
・うわわっ…。飛行船なのよ。飛んでる‥‥。となると…飛ばないとダメか。こうなったら覚悟を決めて飛ぶのよ。高い所嫌いだし、怖いけど。白の魔法王女ならばやれるの!

●戦闘
・白に変身
・ソレイユシールドを展開。炎の雨を光の盾で防ぎながら飛翔。時折盾を足場にして急加速しながらどんどん上へと上がっていく。
・幻影で見えるのは桜の花。桜の花はママを象徴する花。ママはモデルでお洒落で、ちょっと苦手だけど。でも、いつも、しゃんとしなさいってひまちゃんを励ましてくれるのよ。だから、高い所でも、負けないの。
・飛行船の上をとったらソレイユシールドから光属性魔法を連射して、最後は光属性鎧破壊のパンチをするのよ


キアラン・カーター
主よ、どうか我らをお守りください。……あの飛行船から街を守らなくちゃ。

この世界にいるはずないと分かっているのに、あの姿は……あぁ、紛れもなく父と母だ。
二人の喜ぶ顔が見たくて、よく歌ってみせたんだけど……その度に殴られて、罵られて……。
お前は呪われた子だなんて……当時はなぜ僕を嫌うのか分からなかったけど、今は少しだけ分かる。
みんなは奇跡だっていうけど、二人にとっては……。

だからこそ歌おう。この歌は呪いではなく奇跡なんだと、二人に届くように。
皆にあの兵器を倒す力を。人々を守る力を。そのためならどんな苦痛も耐えよう。歌い続けよう。
だから、たとえ幻でも……笑ってよ、父さん……母さん……。


トリテレイア・ゼロナイン
ジジ様の協力
世界知識・UCを元に押収資材からアイテム【ヴォルテックエンジン】設計再現試行

兵器には竜に騎乗
レーザー銃座配置を見切り空中戦で躱し上空から接近
飛び降りレーザー盾受けし取り付き侵入

チュートの過去
垣間見

…人は空の果て
星の海にも至れるのですよ

ですがこの歪んだ夢
今を生きる人々の為に墜とします

制御室へ侵入
怪力と銃器で制圧
アンカー先端ジャックのハッキング情報収集UCで操縦試行

スター(略への墜落リスク軽減
限界時
竜操縦
飛び降り時回収

指導者、父としては不適当な行動でした

…回収し人外への蘇生を提案した私では責められませんが
今後恨んでも結構

…存在が何であれ意志は可能性です
この世界の良き未来を築いてください


ミスト・ペルメオス
【POW】

間に合わせろッ、ブラックバード!

引き続き愛機たる機械鎧を駆って参戦。空中戦もまた愛機の本領と意気込んで。
どこか古めかしい印象を抱く飛行船。しかしあれもオブリビオンならば相当な脅威、全力で挑む。

【フォースド・アサルト】起動、限界稼働状態に移行。出力最大、全力で飛翔して飛行船に迫る。
対空砲火は時に極超音速すら叩き出す立体的な戦闘機動で振り切り、或いは機体に纏わせた2種の障壁により凌ぐ。
回避または防御を行いながらも積極的に攻撃。可変速ビームキャノンをモード切り替えしつつ断続的に叩きこむ。
弾速に秀でた射撃で対空兵装や動力部を穿ち、威力に優れた砲撃で船体を破砕する!

※他の方との共闘等、歓迎です


ヴェロニカ・アイアンサイズ
※アドリブ・連携歓迎
【民間人義勇団を援護する】

…おいおい、冗談キツいぜ。対空攻撃も出来なくはねえけど…あの火力バカ相手じゃ先に力尽きるのはこっちだな。わりぃ、オレは得意分野で戦わせてもらうぜ。
(義勇団に合流して先頭に立つ)オレが敵の攻撃を引き付けながら防御線をブチ破ってやる!お前らは残った敵を掃討しながら戦線を押し上げてくれ!慎重すぎるくらいでいい、勇気と蛮勇は違うからな。死なない様に死ぬ気で戦え!
それから…もし恐怖に負けそうになったらこう叫べ。『Ad Victoriam』ってな!行くぜ!Ad Victoriam!
(レイダーの群れに単身突貫。【2回攻撃】【制圧射撃】【怪力】で暴れ回る。)



●9番目の道の傍
 幼子が銀の砂を藍色の天鵞絨にぶちまけたような絶景が頭上に広がっている。
 春が来ようとしていた。
 風はかわいて、冷えていた。
 下から上に吹き抜ければ砂埃が巻き上げられて――、

 天の下、広い荒野の片隅に同じ景色を見ながら今、皆が生きている。道を少しだけ外れて、皆でつくった道の傍。
 手を目いっぱい伸ばしても星には届かないと皆がわかっていて、けれど夢を見てもいいじゃないかと誰かが云う。

 そんな選択の夜だった。


●選択の夜
「大体の状況は理解しました。サポートチームとして突然の参加でしたが、乗りかかった船です。最後までお手伝い致します」
 タリアルド・キャバルステッド(紳士服のヤドリガミ・f25640)がエダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)と共に本隊に合流した。
「仲間が増えましたね。とても頼もしいです」
「これが通信機よ」
 エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)が合流したメンバーに通信機を配った。エダとタリアルドが2人、揃いの通信機を手に微笑む。
「よぉし、もう一仕事」
「ええ、仕事は完璧に」


 エルヴィンの傍らに膝をつき顔を覗き込むのは、エウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)。
 巫女の声は厳かながらも微睡む幼子に語り掛けるように優しい。
「万物はいつか滅び精霊の下へ還るものじゃ。このまま安息を得るのも悪くないと思うが……死に抗うのも人の性かの」
 背でゆらりと尻尾が揺れる。
「まあよい。精霊石を持っておくがよいぞ」
 エウトティアは微笑み、エルヴィンの手に精霊石を握らせた。
「お主が望むなら精霊が力になってくれよう」
「み、巫女さぁぁぁん!!」
 セストールが感極まったようにエウトティアに抱きつこうとしてしばかれていた。

(彼を蘇らせるのが、正しいことかは分からない)
 月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が医術の腕を奮い、エルヴィンの肉体を診ている。
(けどその可能性を完全に否定してしまうと、この世界の住人でもあるデッドマンの存在自体を否定することになっちゃうしな)
「まぁ、今の俺に出来るのは肉体の損傷をできるだけ修復しておくことくらいだけど」
 何人もの怪我人を治療したことはあるが、ここまで損傷した『怪我人』は初めてかもしれない。ハルマは額に滲む汗をぐいっと拭い。
「俺の子を産んでくれえええええっ、いや、いっそ俺が気合で産む!」
「セストールさんはちょっと黙って」

「彼を救える……なら!」
 エミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)がきゅっと眉をあげる。
「助けるよ!」
 エミリロットの手がそっとエルヴィンに触れる。金の瞳が集中するように瞑られた。
(魂か、意思の残滓か――それらしきモノを)
 霊的にエルヴィンと接続したエミリロットがエルヴィンの魂を手繰り寄せるように念を送る。
「――見つけた!!」
 エミリロットの声に弾けるように皆が顔を見合わせる。

「僕は確かに見ました、エルヴィンさんがかつて『人間』であった頃の記憶」
 千秋が力強く頷きながら呟く。

「やっぱり義志が厚かったのかもですね、エルヴィンさん。自分が死ぬかもしれない状況で人に優しくするってそうそうできることではないです――仲間を助けに行って、それで……」
 青年の瞳が哀しく揺れた。見つけた、とエミリロットが言った。エルヴィンはまだ『いる』のだ。
 今度こそ、と思う。
 言葉を届かせたい、……と。
「エルヴィンさん、あなたの身も心も朽ちさせはしません。誰もいなくなんてないんです、僕達がいます」
 そう、ひとりじゃない――、千秋が周囲を見る。幾つもの目がエルヴィンに注がれていた。

「春は誕生と再生の季節。未来はあるはず、娘さんだっているのですから」
 優しい声が歌を紡ぐ。
 助けに来たんです。助けは、来たんです。
 そう祈るように念じて、歌が紡がれる。一度切りの歌だ。録音もなく、歌い手raduの動画として披露することもない。ただ、一度切り。
(あなたのために)

 ♪朝が来て、別れが来るのなら一日のはじまりの朝なんていらない……、

 朝は暫しの別れでしかないのだと祈るように千秋が歌えば、エルヴィンの身体から邪悪なものが抜け落ちていくようだった。

「レイムさん」
 エミリロットの声にレイムが頷き、片方の手を繋ぐ。
「一緒に、念じて」

 ――戻ってきて、と。

「――私で、どれほどの効果があるか。でも、少しでも何か良い影響が与えられるなら」
 レイムが其れでも必死に念じれば、ジジやセストールもエミリロットの肩に手を置いた。
「戻ってこい、エルヴィン。お前が戻ってこねえと俺がエルヴィンを名乗ることになっちまいそうなんだぜ」
「馬鹿な孫め、説教してやるわい」
 猟兵たちが1人1人手を伸ばし、皆がエミリロットに触れながら念を送る。
「みんなの想いを、贈るよ」
 エミリロットが真剣な目で呟き、全員の想いをエルヴィンに届けた。
「――……娘さんにもとに帰りたいんだよね」

「タリアちゃんが待ってるから!!」
 叫ぶように声を放てばビクリと大きくエルヴィンの身体が跳ねた。

「衝動を誘えた――いける」
 エミリロットが霊力を籠める。

「うむ! 正直状況はよくわかってないが、ここまで来たら最後までサポートしなきゃ女がすたるってもんよ!」
 エダが横たわるエルヴィンに近づいた。
「そういえば、エダ様は聖職者でいらっしゃいましたか」
 偶然同じ作戦に参加する事になったコロニーの同僚トリテレイアに手を振り、エダは頷いた。
「他の世界なら弔うってことだけど、この世界なら別の形もあるわけで――救済をしないとね」
 教義によっては問答無用で昇天させるような聖職者もいたかもしれない。だが、エダはそうではなかった。
「ここには彼の想いが、心が、魂が留まっている。ならばあとは肉体を目覚めさせることだ」
 快活な漆黒の瞳は救いの未来を見つめて笑う。
「肉体が目覚めれば魂も再び目を覚ますってもんよ!」
 無理矢理にでも目覚めてもらおうか! と明るく言い放ち、掌をかざして発動させるのは『ドワーフ式賦活術』だ。

「さあ昂ぶれ筋肉! 目覚めよ肉体! そしてその声に応えろ魂!」
 熱い声がエルヴィンの筋肉を震わせる。肉体に活力を奮い起こし、魂に呼びかける。
「あなたの終わりはここじゃない!
 今こそ死を超え再び立ち上がる時だ!」

 エダの声に合わせてエミリロットが声をかけている。
「そうだよ! もっと熱くなって! 『諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!!』だよ!」
「え、エミリロットさんがシュウゾウに――じゃあ僕もシジミがトゥルルとか言った方がいいでしょうかっ?」
 千秋がハッと声を重ねた。
「み、見てください、なめろうの苗。これ…根っこですよこれ」
「なめろうの苗ってなんですか」
「なぬっ孫が生えてくる苗じゃと!?」

 そんな空気の中エダが声をかけつづけた。メンタルが強い。
「為したいことがあるんだろ?
 守りたいものがあるんだろ?
 ――なら、己が手を伸ばせ!」

 とくん、と一つ脈打って、心臓が動き出した。
「う……」
 手が伸びる。
 指先が触れるか触れないか。
 その迷い子のようなごつい手をエダはぎゅっと握り締めた。そして、皆が破顔する。

「「やった……!」」


「指導者、父としては不適当な行動でした」
 理性の色を濃く浮かべるエルヴィンに静かに言葉を置いて長身が腰を折る。
「……回収し人外への蘇生を提案した私では責められませんが。今後恨んでも結構」
 騎士らしき立ち居振る舞いを意識しながら、その道をいつも外れてしまうように彼には思えた。
「……存在が何であれ意志は可能性です。この世界の良き未来を築いてください」
 けれど、外れた道の先に咲く花を見つけるたびに彼は思うのだ。彼も、彼が生きる世界も一本道の単純な物語ではないのだ、と。

 人々の声に湧くテントを後にしたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はジジのもとを訪れた。明朝の出撃のために忙しく働く背にはエルヴィンの復活に対する歓びが滲む。設計図を見せればその眼が大きく見開かれた。

「押収資材から再現できるはずです」
「孫よ! 一晩でこの老体に成し遂げろいうのか!?」
 言いながらも袖を捲ってやる気を出すジジ。軽い靴音を鳴らして輪に加わったのはエメラだった。
「その話、私も一枚噛ませてもらうわ!」

 ――夜が更けて、朝が来る。


●義勇団は道を往く
 自身を起点に魔導蒸気兵器で通信網を形成したエメラが義勇兵と猟兵に声を届けている。
「お嬢さんはソーシャルディーヴァなの?」
 レイムがエメラの力に尊崇の声をあげている。
「いいえ、ソーシャルディーヴァではないわ。けれど、私なら問題なく戦況把握しつつ指示が可能よ」
 その瞳には気負った様子はない。ただ、実力に裏付けられた自信がある。

「おはようございます」
 タリアルドは戦闘に備える民間人義勇団のもとに赴いた。
(この過酷な世界で仕方ないことではありますが……)
 人々の衣服はどれも汚れ、破れている。紳士服のヤドリガミであるタリアルドの目にはそれが見ていて辛い。
「別嬪さんじゃねえか。お、俺にアレか、幸運をくれるのか」
 セストールが鼻の下を伸ばしている。
「幸運……?」
「ほれ、あれよあれ。頬にチュッてしてくれるとかお守りくれるとか」
 周囲の義勇兵が見守る中、タリアルドは首を振りユーベルコードを発動させた。
「見た目でレイダー達に舐められないよう幽玄に スター・デムリアの民に勝利や希望を感じさせるよう婉麗に」
 ユーベルコード『SILVER GHOST』により複製されたスーツや靴が現れると人々は皆ふしぎな技に驚愕の声を出して目を丸くした。
「キッチリした服装で戦いに望んでほしいと思って準備しました。――これが私から皆さんへのお守りで、幸運です」
 青空の下でタリアルドの灰色の髪が艶やかに煌めいた。

「こりゃすげえ!」
「生地がしっかりしてる……見ろよ」
「こんなきれいな服を着て戦うのか!? も、もったいねえ」
 数分後、義勇団は揃いのスーツに身を固めて互いの姿を視ては笑ったり誇らしげに背筋を伸ばしたりしていた。

「皆さん、よくお似合いです」
 タリアルドが皆を見て微笑む。

「着心地がいい」
「なんだろう、背筋がピンとなる感覚だ」
 喜ぶ人々を見てタリアルドは彼女自身を大切に着てくれた男性を思い出し、そっと胸に手を当てる。燈るのはあたたかな想い。
「あとは己で戦って頂きますが、いざとなれば」
 支援します、という言葉を続けようとした時、セストールが大声でそれを遮った。
「じゅうぶんっ、だっ! 俺たちは、これでもうじゅうっぶんに! 戦える!!」
 周囲の義勇兵が「格好つけてら」と笑っている。陽光が明るく彼らを照らして、タリアルドはくすくすと微笑う。
「お気をつけて」
「ああ。勝利を掴んでくるぜ!!」
 サポートチームが救出した義勇兵たちが胸を張り戦場に向かっていく。

 千秋の歌声が戦場に響いている。
 歌い手でもある青年の声が少し甘く伸び、朝露を愛でるように切なく優しく旋律を奏でれば人々の心に勇気が燈る。


●Ad Victoriam!
 ヴェロニカ・アイアンサイズ(コモンウェルスのミラクルサバイバー・f25587)が義勇団の先頭に立っている。これから敵軍団にぶつかろうという緊張を漲らせる戦士たちに視線を巡らせ、一人に目を留めた。震える指先で古ぼけたコインを弄る少年兵。
「それは?」
「!」
 緑色の目が自分を視ている事に気付き、少年兵がコインを見せる。
「死んだオヤジがくれた」
「そうか」
 顎をクイ、と逸らして「ちょっと投げてみろ」とコイントスを誘えば少年兵がおずおずとコインを投げる。周囲で義勇兵が見守る中、蒼穹にコインがくるくる回転しながら飛んで、落ちて。少年の手が隠す。
「表だ」
 ヴェロニカが云う。
「……!!」
 少年が手を開けてコインを皆に見せる。表だ。
「ツイてるぜ」
 煙草の煙をくゆらせながらヴェロニカがニィと笑う。

「オレが敵の攻撃を引き付けながら防御線をブチ破ってやる! お前らは残った敵を掃討しながら戦線を押し上げてくれ!」
 ヴェロニカが声を張り上げている。義勇兵が闘志漲る瞳でそれを視ていた。
「慎重すぎるくらいでいい、勇気と蛮勇は違うからな。死なない様に死ぬ気で戦え!」
 コインを握りしめた少年兵が眦を釣り上げて戦う男の顔をしている。それを視てヴェロニカはふと優しい目を見せた。
「それから……もし恐怖に負けそうになったらこう叫べ。『Ad Victoriam』ってな!」
 姿勢を正して拳を握った片腕で胸に手を当て、ヴェロニカが叫ぶ。見様見真似で義勇兵たちが同じ仕草をして誇らしげに声を張り上げた。勝利のために、という意味だと教えてやれば皆の目に力が増した。
「「アド――、『Ad Victoriam』!!」」
 声は不揃いで、仕草もてんでばらばらだ。なっちゃいねえ。ヴェロニカは笑った。ああ、上等だ。こいつらが綺麗に揃ってたら気持ち悪いってもんさ!


「行くぜ! Ad Victoriam!」

「「『Ad Victoriam』!」」


 声が力強く響く。腹の底から声を出し、人々が前に進む――、
「揃ってんじゃねえか!」
 ヴェロニカはもう一度笑った。


●未来の友に旗揺らせ
「勝利を――」

 ちりん、と涼やかな鈴音鳴らし、エウトティアが長い杖を掲げた。樹齢千年の胡桃の霊木の枝からつくられた『ノアの長杖』は精霊力を通しやすい。
 杖に導かれるように召喚される精霊に目を細め、瑞々しい気が満ちる中エウトティアが歌を紡ぐ。

 ♪蜜を求めて花廻る
 ♪蝶々が川面に姿を映して
 ♪髪結い娘が春を見つめるように息を呑む

 さらさら、さらり。
 金色の髪が揺れて流れて、赤い瞳が微笑めば風精霊が嬉しそうにはしゃいでくるくると舞いながら声を遠くへ遠くへ運んでいく。

「奪還者だ」
 砦の内側でそんな声を誰かがあげた。
「――外で誰かが戦っている!」
「助けが来た。……助けが来たんだ!」
 声が次々とあがる。

「敵が来た!」
「なんだって」
 レイダー軍団もまた騒いでいる。彼らが視るのは、仲間レイダーが破壊したはずの道を通り、落とした拠点からやってきた倒したはずの義勇団。
 誇らしげにタリアルドのスーツに身を包み、掲げるは在り合わせの布でつくったボロ旗だ。
 友の名を書いた義勇の旗が風孕み高く振られて、砦の民の目にはっきりと意志が伝わる。

「あ、あなた……」
 中年女性が目から涙を溢れさせながら伴侶を見れば、旦那が破顔した。歓びを溢れさせたように愛情たっぷりのハグをして、女性の耳元を武者震いを伴う声が擽った。
「どうやら脱出はなしになりそうだ。こうしちゃいられない、俺も行ってくるよ」
 砦の内側に希望の灯が燈り、疲労を忘れたように人々が動き出す。
「外の連中と共に敵を駆逐しよう!」
「おい知ってたか、この荒野によ、俺たちを救おうって連中がいるんだってよ!」
「見ろあのオンボロ旗! 一生懸命振ってやがる。こっちも何か振ってやれ! ばあちゃんのパンツでいいからとにかく振れ!」

 スター・デムリアの砦に振られる何かを視てエメラが「?」というマークを頭の上に一瞬浮かべた。
「ぱんつを振ってるわ」
 通信回路を介して情報が味方全員に齎される。
「……ぱんつはともかく、作戦開始よ」

 拠点が息を吹き返したように勢いを取り戻して地上のレイダー軍団へと砲撃を浴びせる。
 猟兵の歌声を聞きながら砦の内と外が呼応し、レイダー軍団を圧倒していった。

「ハロー、ハロー! 未来の友よ!」
「助けに行こう、助けに来たぞ、助けはあるぞ、コンチキショウ!」
「いくら道を作って守っても、その先に何もなければ意味ない、よね。だから、あの船を壊してあっちの拠点の人たちを、守る」

 ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)が蒼穹を視た。
「……飛行船、近付いてる」
 飛行船が幻影の煙で空の青を汚しながら飛んでいる。
「止める、よ」
 頭を冠の如く飾るホワイトブリムの端がふわりと揺れる。三色のボタン飾りが日差しに煌めく。
「気を付けて」
 エメラの声にミアは頷く。
「ん、ソラさんに怪我しないでって言われたし」

 ――走るのは、得意。

 過去を失い逃げていた時の事を思い出しながら、ミアが地を蹴る。愉快な仲間たちは此処にはいない。猟兵は――たくさん、いる。
「わたしも、猟兵」
 陽光に金髪が煌めいて跳ねるように揺れ、幻を視る事も忘れるくらい鮮やかに世界が後ろに流れていく。

 単身突貫したヴェロニカが敵兵を豪快にぶん投げ、射撃を放ったかと思えば銃身で敵の攻撃を受けてパンチを繰り出し、暴れまわっている。少年兵がその背を守ろうと必死な顔で敵を撃っている。ミアは素早く回り込み、少年兵を狙うレイダーに魔法の星を落とした。
「ん。あとで『あなた』にもあげる」
 蒼穹に飛ぶ飛行船を見上げて呟きながら。


●飛行船はゆったりと
 進軍を開始した地上の軍団が敵レイダー軍と交戦している。拠点からは援護射撃が飛び、蒼穹には地上の喧騒に我関せずとばかりにゆったり近付く飛行船。

「あの兵器は……おいおい、冗談キツいぜ」
 ヴェロニカが空飛ぶ飛行船兵器に顔をしかめた。
「対空攻撃も出来なくはねえけど……あの火力バカ相手じゃ先に力尽きるのはこっちだな。わりぃ、オレは得意分野で戦わせてもらうぜ」
 レイダーをまとめてぶん投げ、銃を撃ちながらヴェロニカが言い放てばエメラが即座に声を返した。
「問題ないわ。私たちはチーム。役割分担で勝利を掴む――あ、あど」
「フン?」
「Ad Victoriam」
 エメラが呟くと、ヴェロニカが笑った。
「ハハ」
 太陽が昇る。快晴だ。
 笑い声に誘われたように風が吹く。風は、空気だ。動かなければ存在すら忘れてしまう――、
 びゅう。ひゅう。
 風がざらりと砂を運んで煙と領域争いをするように蒼穹の色を出したり隠されたりしていた。

「うわわっ……。飛行船なのよ。飛んでる……」
 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)がおっかなびっくり空を視る。
「ふふふ、あれすごく調べたいわ……!」
 エメラが緑の瞳をキラキラさせていた。無邪気な子供といった風情で空を見上げ、飛行船に手を伸ばしそうになる。
「エメラさん?」
「……こほんっ」
 仲間の声にハッとしたエメラはふるふると首を横に振った。
「……仕事、しましょうか……」
 技術者のサガである。共感を覚えた猟兵が数人「わかりますよ」と呟いていた。
「バ、バルス!」
 向日葵が思わず口走る。飛行船に変化はない。
 周囲をちらりと見てから向日葵は真面目な顔で作戦を考えた。
「となると……飛ばないとダメか。こうなったら覚悟を決めて飛ぶのよ」
 向日葵は覚悟を決めて白の魔法王女へと変身する。白銀の髪は白い砂糖細工みたいにきらきらして、小さなハートのティアラがピュアな輝きを添える。首元に咲くように純白の花飾りが揺れて、穢れを知らない白いフリルが幾重に花開くドレスが可憐に少女の身体を引き立てる。

「高い所嫌いだし、怖いけど。白の魔法王女ならばやれるの!」
 ソレイユシールドを頭上に展開して炎の雨を防ぎながら飛翔する向日葵の耳に仲間の声が届く。
「バルス!」
「!」
「言いたくなりました」
「うん! わかる!」
 優しい青年の声。千秋が妹に語り掛けるような声色で向日葵を応援した。
「気を付けてください」
「わかったよ!」

「主よ、どうか我らをお守りください」
 キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)の口をついて出たのは祈りの言葉だった。為すすべもない現実に奇跡を願うように戦慄く手が――聖衣の裾を抑える。
「……あの飛行船から街を守らなくちゃ」
 自分たちが。自分が。
 青年は歩き出す。

「射程に入った! 野郎、撃ってきやがったぞ!」
 声が耳朶を打つ。
「あれを拠点に近づけちゃいけないっ」
 雨と煙が世界に降り注ぎ、騒然とした世界の中に幻が渦巻く。

「間に合わせろッ、ブラックバード!」
 ミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)が愛機ブラックバードを駆り地上から迸る雷鳴の如く天翔ける。
「飛行船……」
 宇宙世界の技術に親しむミストにはレトロに感じられる。古めかしい――、
「しかしあれもオブリビオンならば相当な脅威」
(全力で挑む!)
 ミストが『フォースド・アサルト』を起動する。
「最大稼働ッ」
 限界まで能力を発揮させればマシンヘルム・バイザーの内側に羅列された各数値が踊るように大きな振れ幅で変動する。負荷が大きい。稼働可能時間の残りがカウントがされるのを確認しながら少年は吠えた。
「行くぞッ!」

 黒き機体が駆ける中、煙が幻影を振り撒いている。


●祈り
「あの姿は……」
 煙の中に並んで立つのは男女の姿。
 この世界にいるはずないと分かっているのに。
「あぁ」
 紛れもなく父と母だ。
 思った刹那、音と光が意識を奪う。
「!」
 爆風が突拍子もなく体を吹き飛ばした。直撃ではなかった。少し離れた場所に落ちたのだ――おそらく、敵の降らせた凶弾が。聖衣も髪も土で汚しながらキアランは半身を起こした。
 見上げた先に父と母がいる。
 ――その眼。
 その眼を見た瞬間、世界から音も色も消えていくようだった。

 二人の喜ぶ顔が見たくて、よく歌ってみせた。子供の自分は、そうだった。視界が揺れる。立ち上がろうとして、長い衣の裾がぐしゃぐしゃに乱れて土塗れだと気付いた。頬にも泥がついている――、
 2人が手を振り上げ、足をあげる。
「!!」
 思わずぎゅっと目を瞑る。衝撃はなかった。当たり前だ、幻影なのだ。けれど、心の中では確かに過去に受けた痛みが再発していた。歌うたび殴られ、罵られた痛みが。
 ――お前は呪われた子だ。
 声が聞こえる。目を開ければ、彼らがいる。
「……当時はなぜ僕を嫌うのか分からなかったけど、今は少しだけ分かる」
 呟く声は青年の自分。
 ――痛い。痛い、どうして。
 泣き叫ぶ声はきっと、過去。
「みんなは奇跡だっていうけど、二人にとっては……」
 キアランはゆっくりと立ち上がる。身体のあちこちが痛い――けれど、立ち上がることができる自分を知っていた。

「だからこそ歌おう」
 ――この歌は呪いではなく奇跡なんだと、二人に届くように。

 キアランが息を吸う。

 最初のフレーズは勇ましいというには勢い過剰に歌われた。決まった旋律を美しく辿るのと違う、己の激情を表現するような歌声で、頭のかたい批評家が集うコンクルであればきっとボロクソに叩かれたことであろう――なのに、ただ美しいだけの旋律よりも熱く胸に迫る。これが歌というものの本質なのだと皆が感じずにいられない、そんな歌だ。

(皆にあの兵器を倒す力を。人々を守る力を。そのためならどんな苦痛も耐えよう。歌い続けよう)
 志は厚く、慈愛を胸に崇高に神の僕として――、
(だから、たとえ幻でも……笑ってよ、父さん……母さん……)
 本当は、ただそれだけなのに。

 主よ、どうか。
    救ってください。
        ――この心を。

●遊色
「これは、幻……ですね」
 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が周囲の煙の中に懐かしい姿を視ていた。
 彼女自身と同じようなビスマス結晶の輝き、ガタイの良いクリスタリアンの男性。
「味噌を切らしてしまって」
 バナナで代用したんだ、と言いながら勧めてくれるのはハワイアンなめろうだ。

「ごちそうさまでした」
 幻影だと理解しながらビスマスは丁寧に頭を下げた。

 ――親にネグレクトされた少女だった。
 ――学校ではイジメられて。

 行方を晦ましたビスマスは、石ころのような自分を感じていた。そして、そんな自分を視てくれた人をおっかなびっくり見つめて。
「……美味しかったです」
 その時ビスマスは、ようやく人の善意に触れたのだった。
 胸の中に咲くやわらかな花のような気持ちは、春に似てビスマスの心に希望を燈す――、
「今度はわたしが」
 呟いて自分の手を視る。きっと、できるだろうと思いながら。


 そうしている間にも、煙が幻影を撒いている。


●桜
 飛行船に近づく向日葵は桜の花を視ていた。
 ちら、ちらと視界に舞う花弁。儚げで、やわらかく、小さくて――、
 向日葵の心をきゅうきゅうとさせた。
「っ、……ママ……」
 声が零れる。自分の声が迷子の子供みたいで、向日葵は胸元で手を握った。
 足元にシールドを置いて、トン、と蹴る。上へ。上へいくんだ。

 ――桜が舞うそらへ。

 桜の花は、ママを象徴する花だ。

「向日葵さん? 大丈夫ですか?」
 お兄さんみたいな千秋の声が通信を介して心配する気持ちを伝えてくれる。だから、向日葵は小さく声を返した。視線は上に向けたまま。
「っ、ママは」
 向日葵がそらに語り掛けるように揺れる声を紡いだ。
「! 幻影が」
「ママはモデルでお洒落で、ちょっと苦手だけど。でも、いつも、しゃんとしなさいってひまちゃんを励ましてくれるのよ」
「……」
 しゃくりあげるように泣きそうな声が零れて、止まらない。だけど、上昇する速度も緩めない。ほら――またひとつ、シールドを蹴って。うえに上がっていく。

「だから、高い所でも、負けないの」
 ――負けない。魔法王女だもん。


●傷
 向日葵を心配していた千秋にも幻影が襲い掛かる。

「あ……」
 ちいさく声を零したのは草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)。眼鏡の奥の瞳が見つめるのは、幻影。幻影だと理性ではわかっていた。
 ――僕はもう仇を取って乗り越えた、はずなのに。
 胸を抑える手が震えていた。千秋はぎゅっと拳を固めた。力を籠める――そうしないと、手を伸ばしてしまいそうだった。
 煙の中に見えるのは、懐かしい姿。
「ッ、……」
 唇を噛みしめたのは、名前を呼んでしまいそうだったから。眼尻が熱を持ったようにじんじんとする。けれど、目を逸らしたくはなかった。
「……っ、ふ……」
 ゆるく首を振る。感情の箍をしかと填め直すように。
 揺れる瞳に映る幻は、母と妹だった。
 大切な家族だ。失った二人だ。二度と同じ時間を過ごすことができない、亡くなった家族だ――、
(僕はもう仇を取って乗り越えた、はずなのに)

 仲間の声が聞こえる。
「……大丈夫です」
 眼鏡の奥に隠すように目を伏せて千秋は微笑う。穏やかに声を紡ぎ、微笑みを形だけ浮かべれば――幻が晴れていく。
「大丈夫です」
 深い傷を心の奥の奥に仕舞いこむようにして微笑み、千秋はもう一度言った。その傷がじくじくと痛み続けて、心が叫んでいた。
 千鳥――僕は、戦える。


 飛行船が幻影の煙を濛々と吐いている。
「悪を、駆逐する」
 ――それは、誓いだ。


●死
 ハルマが視るのは、満天の星を背負うようにして動かなくなった戦車。拠点まであと少しのところで止まった戦車に向かって若きジジがよろめきながら走ってくる――、

「エルヴィン!」
 ハッチを開けて悲壮な目がジジを見て笑った。
「――父さん」
 ただいま。声を為すことなく唇が動いて血を吐いた。
「今これを」
 震える手で取り出す『それ』を戦車乗りは拒んだ。拒んで、死んだ。

「……今のは」
 幻だ。ハルマが頭を振った。頭を振りながら、思う。彼がまだ自由に体を動かせなかった時のような感覚だ、と。

(今は、動ける。助けることができる)
「考えるのは後だ。今はデカブツを止めないと」
 低空を奔るミサイルに気付いてハルマが身を伏せる。伏せた上をミサイルが凄まじい勢いで通過していく。
「際どい――、っと!?」
 風が唸るのを感じてハルマは体を右へと転がして続くミサイルを回避した。
「これ、さっき避けたミサイルか!」
 勢いを生かして跳ね起き、目を見開く。虚空を通過したミサイルがぐるりと方向転換して再びハルマを狙い飛んでくる!
「生き物みたいだな!」
 視界の外側から風を切る音が聞こえる。ミサイルは一つではないのだと脳が警鐘を鳴らした。
 幻影に紛れて雨が降っていた。真っ直ぐに急降下したかと思えば気紛れを起こしたようにぐんにゃりと曲がり、煙を撒いて歓ぶようにぐるり廻ってまた降りていく――予測を裏切る不規則な軌道で降る雨は一つ一つがまるで。
「いっそ生き物だと思えば見切りやすいかも」
 近くにいる体温を追うように追尾する軌道を見切って地面を転がりながら放つは改造手裏剣だ。ハルマが手ずから改造した手裏剣は追い縋るミサイルの歪な軌道に割り込んで衝突し、時を要さず爆発した。爆発の向こうから新しいミサイルが飛んでくる。
「これはきつい!」
 ユーベルコードを使う暇もない。手裏剣を連続で投擲しながら爆炎に紛れて隙を窺うハルマに仲間の援護が届く。
「っ、この光るのは」
 蒼穹を見上げれば、きらきら輝くシールドを降らせた向日葵がぱちりとウインクをするようだった。距離があっても不思議とはっきりとわかる。
「ども」
 帽子のつばをクイと引き、笑顔を浮かべて少年は右に跳ねる。
「雨、烈しいな」
 けれど、じきに収まるだろう。
 仲間がたくさん動いているのだから。
「止めよう」
 ――そして、自分も。
 ハルマは挑戦的に飛行船を見た。


●賽は微笑まない
 煙が視界一杯を埋め尽くす。

 視えたのは、予知にも似た悲劇――拠点上空に差し掛かった飛行船が砦の迎撃射撃の範囲外から悠々とミサイルを放ち、レーザーを降らせ、ナパーム弾を撃つ。
 光と鉄が無慈悲に終幕を告げる雨となり、地上が炎に包まれた……。
 逃げ惑う人々が爆風に飛んで、崩れる建物に巻き込まれてその姿を消していく。消し炭のようになった者もいる。べろりと火傷した皮膚を引きずって破片と血に塗れて灼けた肺腑に苦しみ首を掻きむしりながら死んでいく人々……、
「この光景は、幻影……チェリカさんにも見えますか」
 ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)が呟く。
「……あんなこと、許せるわけがないわ」
「ええ、許せませんね」
 悲鳴が聞こえてくる――、
「絶対止めないと! ハロ、私たちでやるわよ!」
 黄金色の光を纏い、金髪の超聖者に覚醒したチェリカ・ロンド(聖なる光のバーゲンセール・f05395)が手を差しだした。
(この大きさに飛行能力、一人だったなら諦めたかも知れませんが……)
 ハロが確りとチェリカの手を取った。
(二人なら)
「私達なら止められます。連れて行ってください」

 ――煙を越えて、高く色づく蒼穹へ。

 握った温度が熱を伝える。体温が近くて鼓動が心地よくリズムを刻んで、足が軽やかに地を蹴った。
 黄金色の光が二人を包むように耀いて、チェリカがハロを連れて空を飛ぶ。

「いってこぉい!」
 声援を受けてヴォルテックエンジンを搭載した機械飛竜が力強く羽搏いた。
「空中でぶっ壊れても気合で飛ぶんじゃぞ!」
 ジジが笑顔で手を振っている。
「壊れたりしないわ。私が手伝ったのよ? 50%くらいかしら」
「意外と低いようで――」
「実は、正確には47%」
 とにかく、飛竜は飛んだ。
 ブォンッ、バキィッ、ガッ、ガガガガッ
 不穏な音が聞こえたのは全員が聞かなかったことにした。

「47%……」

 こっそりと気にしながらトリテレイアがレーザーの雨の中を突っ込んでいく。『鋼の擬似天眼(マルチセンサー・フルアクティブモード)』を発動させて。
 賽は投げられた。具体的に言うと86だ。
「――ですが、目星は付きました」
「付いてない気がします」
「危ない危ない」
 見切り切れなかったレーザーを仲間が捌いてくれている。
 幻影を抜けた仲間たちが同じそらに同じ未来を見つめて。
「トリテレイアマン! 新しい賽よ!」
「新種のヒーローですか」
 レーザーとミサイルの雨の中、仲間たちが笑っている。
「私はこれから内部に侵入し、進路を変えるつもりです」
「内部に侵入?」
 ミストが作戦のすり合わせをしながら最大出力のサイキック・シールドとエネルギーバリアを展開して敵レーザーを防いでいる。
 魔法ではない。技術だ。
 ミサイルが追いかけてくる。それも技術だ。ブラックバードの輪郭がぶれて消えた。跳ぶという感覚をミストは知っていた。ここは地上世界だが、少年は銀河を翔る船団の一員だ。彼は戦争を知っていた。冷えた星間に刹那交差する死線を知っていた。
 ミサイルはいかにも遅い。相手をする暇もない――ブラックバードは左に直角に曲がり、速度を落とすどころか加速しながら高度を上げ右に旋回した。敵ミサイルが左に曲がろうとする頃にはミサイルより遥かに右にいる。追随できるはずもない。ブラックバードは極超音速すら叩き出すのだ――ミストにとっては単なる事実。誇るようなものでもない。単純にスペックの差、文明レベルの差でもある。
 速度がまた疾くなる。マッハ5.0を越えて立体的な戦闘機動が完全に追尾を振り切り、飛行船とすれ違うようにして可変速ビームキャノンを叩きこむ。
 機械鎧に2門装備したジェネレータ直結型の可変速ビームキャノンが対艦モードで放たれる。相手には防護シールドすらないのか、と思いながら。
「――落とせる」
 それは確信だった。そのままでも、落とせる。確信を抱きつつ、ミストは迎撃に切り替えた。
「3分です。それ以上は投機の稼働限界となります」

 彼らの下では混戦が広げられていた。


『Namerou Hearts tuna! banana! Avocado!』

 機械音が鳴り響く。
「この音は、ビスマスさん」
 仲間たちが云う声に擽ったいような気がして微笑みながらビスマスが「一緒に行きます」と告げた。全身は『トリニティ・ナメローズマバア』で『鮪』『アボカド』『バナナ』の三種の鎧装を装着している。

 偶然にも、仲間たちの中に有翼種族者はいなかった。だが、メンバー1人1人を思い出してビスマスは思うのだ。
(わたしたちは、自由に飛ぶことができる……)

(わたし、空を――知っています)

 蒼穹に光線が奔る。隙間が見つけられないほどの激しい光の雨が鎧を穿たんと押し寄せる。
「く、」
(回避する隙間が見つかりませんが)
「僕も援護しますから」
 懸命な声が耳に届く。見れば、当たり前のように助け合い互いに互いを護り合う仲間たちがいる。千秋が飛翔し、狙撃援護をしている。トリテレイアが「あまり守る用途に使う機会がなくて」と言いながら盾を広げている。「賽を増やします?」と冷静な声で冗談か本気かわからないことを言いながらミストが援護してくれている。向日葵がはしゃぐように笑って、その声が明るいおひさまのようだった。
 通信を介して地上の仲間たちの声も届く。義勇兵の声が響いている。
「Ad Victoriam! Ad Victoriam!」
「勝利のために、という意味らしいです」
 千秋が微笑み、蒼穹を駆ける皆が声を揃えた。
「それじゃあ――、」

「「Ad Victoriam!」」

「私たちも、」
 チェリカとハロ、少女2人が顔を合わせて笑う。
「「Ad Victoriam!」」
 その2人に向けてもレーザー光線が激しく降り注ぐ。
「すごい弾幕……!」
(レーザーやナパームの対応を任せてしまうのは心苦しいですが)
 ハロがぎゅっと眉を寄せ、オーラをチェリカの光に重ねた。
(手助けするくらいしか、出来ません……!)
 オーラに溢れる心を感じ取り、チェリカが光波を弾幕に向けた。
「任せて。踏ん張るわ!」
 幾筋もの光線を吹き飛ばし、時折飛ばしきれない光線に傷付きながら蒼穹の中を2人が流れ星のように飛ぶ。
「チェリカさん……チェリカさん」
 掠める光線が傷を増やしていく。ハロをぎゅっと抱き寄せて守るようにしながらチェリカが口の端をあげた。
「痛くないわ」
 ほんとよ、と悪戯に笑う腕の中にあたたかな温度を感じる。艶やかな黒髪が乱れて風に遊ばれていて、それがとても綺麗だとチェリカは目を細めた。
 雨が降っていた。
 脈打つ鼓動を止めてやろう、体温を奪って冷たくしてやろうという悪意に満ちた雨だった。
「ハロと一緒なら絶対に負けない!」
 言い放つ声が一際大きな光波となって悪意を跳ね返す。煙が晴れて周囲は真っ青だ。雲は何処に行ったんだろう――きっと一緒に吹き飛んだんだ、と思いながらハロはチェリカが少しでも傷つかずに済むようにとオーラを重ねて巡らせた。


●チュート・リアル
「フォローに感謝します、おかげで接近できました」
 上空から飛行船に接近したトリテレイアが機械飛竜から飛び降りがっしりと飛行船に取り付いた。
 ビスマスがなめろうフォースセイバーを船に付き刺している。
「こじ開けます!」
 結晶の軌跡を空に引きながら高速飛翔するビスマスが魚を捌く様に仲間が進む道を切り拓く!

「カウントダウン」
 ミストが外でカウントしながら戦っている。
「内部構造データ解析、情報を送ります」

「3分も時間をかけませんよ」
 揺れる船体側面をじりじりと移動したトリテレイアは仲間が開けた穴から飛行船内部へと侵入する。
「一緒に!」
 チェリカとハロが飛び込んだ。
「ついていきます」
「1人だとまた苦戦しそうになるかもしれませんしね」
「賽何個使う?」
 ビスマスと千秋と向日葵がついてくる。飛行船の内部は、無人だった。隊列を為して走る通路に幻影が踊る。踊りながら、後ろへ――過去に捨てられていく。


 皆が共有する景色は、いつかの彼女。

「死んで来世に期待? 今はどうすんのぉ?」
 何人ものならず者の中心にチュートがいた。
「ここにはいないが、ママンと仲間たちがいる、あたしらは孤立してない」
 ――さあ、あの嵐に向かっていけ、人間なんてやめちまえ!
 指す嵐にならず者を投げ込んで。
 オブリビオンと化して起き上がる者、倒れたままの者。
 チュートがじっと見つめている。
「孤立なんて、してない」


 ガタン!
 現実の音が聴覚を塗り替えて全員が息をつく。
「ありました、制御室です!」
 制御室を発見した猟兵たちは互いの視線を交差させ、制圧していく。機体から直結するアンカーの先端ジャックがトリテレイアの意志でハッキングを試行して。
「大丈夫? もう一個賽いる?」
「……」
 仲間たちの微妙な視線を意識しながらトリテレイアが飛行船の進路を変えた。
「落ちる場所を被害を抑える場所に」


●敵を見ろ
「ゼエゼエ、あのぱんつにッ、向かっていけぇーーーっ!!」
 義勇団が果敢にレイダーと戦っている。

「アポカリプスヘルで築かれた拳術の技術体系は恐ろしいね、薄荷餃霊剣が……こんな技になっちゃうんだから」
 エミリロットが薄荷餃裂拳を撃っている。
「アポカリプスヘルにそんな技術が……」
 ハルマが手裏剣を投げ、爆発を生んだ。
 巨狼マニトゥがエウトティアを守り、奮戦している。

「タリアルド、あの時のユーベルコードをまた頼むよ!」
 エダが前線に弾丸めいて飛び出し、くっと身を屈めて銃弾をやり過ごしてから跳んだ。高い跳躍に弾が殺到し、凍る。
「エダさん、なかなか無茶をしますね」
 そでの無い側の腕をしなやかに振り、タリアルドがユーベルコードで竜巻と冷気を操って銃弾から戦友を守った。
「頼りにしてるよ、相棒!」
「組むのは二度目ですけどね」
 エダがドワーフ式震脚を放てば地が割れる。
「ぶっ飛べええええええっ!!」
 続いて放つドロップキックに炎があがる。
「守りましょう、その道を」
 タリアルドはふわりと微笑み、援護を続けた。

 ミアがタリアルドを狙う敵兵に気付き、魔法の流星を降らせた。
「ああ! ありがとう!」
 エダが礼を告げる。
「ん。助け合い」
「ありがとうございます」
 タリアルドが3人の周囲に風の護りを巡らせた。

「はあ、はあ」
 民間人義勇兵に疲労が濃くのしかかる。それは、砦の内側で援護射撃を続けるスター・デムリアの民も同様だ。
「し、しんどいな」
 思わず呟いたセストール。キアランが頷きながらも汗を拭い、全身を土埃で汚しながら歌っている――、
「ひょろっちいのに、なんであんなに頑張れるんだ」
 義勇兵たちが見たのは猟兵と彼らの差だ。目に見えない戦闘力の差が今やはっきりと見えていた。

「敵を見ろ」
 そんな彼らにヴェロニカが怒号を飛ばす。
「敵は誰だ?」
 言いながら頭突きをするように敵の懐に飛び込んで脇をひっつかみ、組倒す――緑の瞳は戦いに染められて銃声を遠く聞く。
 倒さなければ倒される。
 ――まだ死ぬわけにはいかないの。
「わああああああああああっ!!」
 少年兵が声を振り絞り、敵に向かっていく。
「あんなぱんつ、いらねええええっ!!」
「実は俺もそう思ってた!!」
 セストールが叫び返して義勇兵たちが再び前線を押していく――勢いをより増して。
「スター・デムリアのあほーーーーっ!」
「なんだと、ばあちゃんのぱんつをバカにするなーーーーっ!?」
 2つの拠点が怒号を交わし合う。
 肉声でやりとりが交わせるほど、距離は近かった。


●Time
「そろそろ落とさないといけないわ」
 エメラが天を睨む。そして、ふと気づいた。
「……進路が変わった! 侵入班が成功したのね」
 飛行船が方向を変え、下が無人の荒野に向かっていく。

「さて、向こうにも手助けをするかのう」
 エウトティアが風精霊に笑いかけながら風矢を天に放った。風の道標を得て矢は飛行船に接近し、風に変わって飛行船を押していく。

「あの位置なら、落としても被害はない!」
 汗に張り付いた黒い髪を指先で軽く払いながらハルマが『ガジェットショータイム』を発動させた。一瞬後、ハルマが構えるのは携帯型の地対空ミサイルランチャー。
「相性抜群だろ」
 肌で感じるユーベルコードの完成度。
「それは、携帯式防空ミサイルシステム!」
 仲間の声に頷きながらハルマがミサイルランチャーをぶっ放せば、狙い違わず飛行船の機関部が狙い撃たれる――聴覚を塗り潰す破壊音と爆発音。火煙を発生させながら飛行船の高度が落ちる――地上の民間人や猟兵仲間が眼を瞠るほどのクリティカル・ヒット!
「あ、中にいる仲間は脱出を」


●脱出
 断続的に船体が爆発を起こして揺れている。
「そろそろ限界のようですね」
 見渡せば味方が脱出口として壁を開けている。
「力技が凄い」
 猟兵にはよくあることである。仲間たちは一斉に飛行船を脱出した。
 蒼穹に飛び出していく。
「「「Ad Victoriam!」」
 打ち合わせをしたわけでもないのに全員が声を揃えた。勝利の喝采にも似た音が空に満ち、風を全身に受けて陽光の中見出したのは……。


 嵐の中に何人も飛び込んでいく景色。
 同じように腕を広げ、わらって。
 声が聞こえる。
 嵐の中を少女が両腕を広げて哂っている。
「力だ。力が視える。可能性がみえるよ!
 アハ、ハハハハ!! アハハハハハ!!
 みんなッ、みて」

 みんなも、そうでしょ?

 と、その瞳が周囲をみて限界まで見開かれる。
「……みん、な?」


 少女の思った未来は得られなかったのだ。
 トリテレイアは呟いた。
「……人は空の果て、星の海にも至れるのですよ」
 声は不思議と優しく響くようだった。
「ですがこの歪んだ夢」
 あの時、彼女がそうしたように蒼穹を見上げる。落ちながら。
「今を生きる人々の為に墜とします」
 飛行船が落ちていく。自分も落ちていく。
 彼女の時と違い、機械飛竜は颯爽と飛んで近付いて、彼の体を掬い上げた。


「全員の脱出を確認」
 ブラックバードが対拠点モードの可変速ビームキャノンを撃っている。
「こちらミスト。――破砕します!」
 高出力キャノンは飛行船の装甲を嘲笑うように命中し、貫通して蒼穹の向こうに光の筋をつくり――、
 ほぼ同じタイミングで仲間たちが攻撃をあわせている。

「力を合わせるよ!」
 飛行船の上に飛び上がった向日葵がソレイユシールドから光魔法を連射している。
「できる。当たる――当てる!」
 向日葵が飛行船に向けて光のパンチを繰り出した。
「魔法王女・シャイニーソレイユブロンシュは、夢見る心を守る一輪の大花! みんなの夢みる心がわたしの力になる!」

「地上戦もじき終わるようね――ここで全力を出すわ」
 エメラが対空砲を合わせている。
「『我が砲火は未来の為に』――私の兵器の力、教えてあげるわ!」
 煙を押しのけるようにして砲撃が飛んでいく。

「ん。『あなた』の番」
 快走の首飾りの加護を受け、ミアが風と一体化したように軽やかに地上を駆けている。その目がしっかりと飛行船を捉えている。距離はかなり遠い。だが。
「集え」
 少女の声が詠唱を開始する。
「集え、空を揺蕩う不滅の理……」

 長い髪がふわりと揺れる。スートロッドが不思議な力にキラキラと輝いた。

 ――星を降らせてあげる。

 ミアの瞳が『敵』を見つめる。
「邪を滅ぼす、光となりて降り注げ」
 飛行船のさらに上から魔法の流れ星が降り注ぐ。『流星群』が降ってくる。飛行船が回避や迎撃をする暇もなく、流れ星が次々と船体に命中し、穴を開けていく。

「そういえば流れ星も宇宙の石ころみたいなもの、なんだっけ」
 飛行船を見守りながらミアが呟く。
 
「味方の攻撃にあわせるわ」
「はい」
 チェリカとハロが脱出したばかりの飛行船を追い、速度をあげる。風がぐいぐいと飛行船を流していく――仲間の技だ。
「――間合いです」
「わかったわ!」
 チェリカがハロを全力で投げる。前に押し出すような力に勢いを得てハロが空中をくるりと舞う。抜剣したレイピアが一呼吸を待たずに巨大に変形していく。ありったけの力を籠めてハロはチェリカの大技にタイミングを合わせた。

 蒼穹を光の渦に変えて集めて解き放つようなチェリカの『超チェリカ砲』が飛行船に向かって放たれた。
「これが私の全力全開! ハァァァァァァァッ!!」
 もはや破壊の奔流と化した極大の聖なる光に誘われるようにハロが『スターブレイカー』を撃ち放つ。
「ちぇえすとぉおぉおぉおぉぉぉぉ!」
 光が溢れる世界にレイピアが振られる。
(――全力でッ!)
「私達の全力に、斬れない物はありません!」
「私とハロの全力全開の一撃で、骸の海に墜落しなさい!」
 ほぼ全ての体力と魔力を注ぎ込んだ一撃が――命中した。確かな手ごたえにハロが力を籠めてレイピアを進めていく。勢いよく刃を進めて、突然視界が弾けたように白くなった。爆発したのだとわかったのは一瞬後。


「あ」
 その一瞬。
 空白が世界を彩った。


「――ッ」
 ゴムが世界と自分との間に膜を張ったような聴覚に少女の声が聞こえた。ハッと気付くと落ちていた。重力が身体を下へと引いて、蒼穹に吸い込まれるようだった。下に落ちている。体がその勢いに悲鳴をあげていた。
「――ロ!!」
 聴覚が拾い上げた声。同時に蒼穹から光が降って近付いてくる。ギュンッと急接近した光が黄金色の少女のかたちをしていて、ハロは手を伸ばした。
「ハ ロ !!」
 泣きそうな顔をしている、と思った。
 必死な顔がまっすぐに視ている瞳には自分が映っていた。
 伸ばした手ごと全身を掻き抱くようにして受け止められる――チェリカが落下するハロを抱きしめた。
 緩まる落下速度は地上に降る。
 ゆったり、ゆったり。
 春の星みたいに2人、降りていく。
「チェリカさん。ちゃんと、受け止めてくれたんですね」
 信じてました、と囁いて指を伸ばし、頬を拭う。煤だろうか、土泥だろうか、白い肌がべったり汚れて、きっと自分も同じ様相だろうと思いながらハロは笑った。
「もちろんよ……!」
 同じ色の瞳が目を合わせ、微笑む。宝石よりもキラキラ輝く色が燃えているみたいで、美しかった。


●フレンド・シップ
 地上では義勇団が勝利をおさめて湧いていた。
「勝ったどー!!」
「スター・デムリアのバーカ!」
「なんだと名前も告げないアホ拠点が!」
 勝利に人々が湧いている。
「なんだか喧嘩してない? 大丈夫?」
「きっと大丈夫でしょう……」
 砦から出てきた人々が明るい表情で走り寄り、二つの拠点の民が笑い合いながら情報交換をしている。

「ん、こんな風に、諦めなければ必ず救いがあるんだ、よ。わたしも、そうだった」
 ミアがソラの頭をそっと撫でて人々に視線を移した。
「だから拠点のみんなも諦めないでこれからも、頑張って?」

 猟兵たちが集まり、義勇団と自分たちの傷を癒して戦後処理に奔走している。
「作戦は成功ですね」
「お疲れ様!」

「エルヴィンに帰るぞー」
 セストールが頬に紅いもみじめいた手形をつくりながら旗を振る。
「孫が増えたわい」
 ジジが眼を細めて笑った。
「道は何度も壊されてしまうでしょうけど、お互いの側の道を修繕し合い、助け合って生きていきましょう」
 レイムがエルヴィンに帰る人々に手を振った。


 真新しい道が続いている。北へ。


●父と娘のエンディング
 拠点が見えてくる。
 その拠点が詰んでいると言った猫は、ヒゲを風になびかせて世界を見た。青空が広く、どこまでも続いている。

 空が青いのは、何故だろう。
 そんなことを考えながら見つめる先で、父と娘が互いを見つけて、今。

「パパ、パパ……!」
「タリア!」

 北からパタパタと必死に足を動かして、泣きじゃくりながら娘が。
 南から未だぎこちない体を情念で動かして、必死な顔で父が。

 猟兵が見守る中、
 しっかりと抱き合った。


●End

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月21日


挿絵イラスト