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極限航路

#サムライエンパイア #【Q】 #鉄甲船

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#サムライエンパイア
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#【Q】
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#鉄甲船


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●妖しい光
「サムライエンパイアに現れたレディ・オーシャンをすごいいっぱい倒したら、先の戦争でサルベージ&修復していた鉄甲船の船首からなんか紫色のビーム出てくるようになったでござる」
 なので興味本位にその光を辿ってみるのでござるよ、と祓月・清十郎(異邦ねこ・f16538)は割と大雑把かつそこそこ的確に現状を説明する。
「光が指し示す先は列島外洋。早速修理の終わった鉄甲船――そう、その名もイカした『かつぶし丸』に乗り込んで、大海原へ漕ぎ出すのでござる」
 名前(ネーミング)。
「自由に船の名をつけて良いと言われ、拙者も半月ほど悩みに悩み抜いたのでござるが、やはり船ならかつぶし『号』じゃなくて『丸』でござろう。ふふん、我ながら会心の名付けでござるでしょう」
 ……しかし、名前よりも頭を悩ませるのは、光が示す航路の方でござるけれど、と清十郎は難しい顔をした。
「気温は氷点下。風雪絶えず海は大時化、大小無数の流氷・氷山が行く手を阻む……そんな航路でござる」
 加えて幾ら攻撃力・防御力に優れていようと、鉄甲船は本来内海向けの戦闘船であり、そもそもこの世界には日本列島以外の『外つ国』が存在しない為、必然外洋航海技術・知識が発達する素地も無い。
「かつぶし丸の乗組員として手を上げてくれた命知らずの漢(やろう)共は、みな相応に熟練の水夫で御座るけれど、それでも想定外のアクシデントは起こるでござるでしょう。未知の航路を行くという事は、そう言う事でござる」
 災害はまた二次的に人災も招くもの。船の外側同様に、内側の様子も気にかけておくべきだろうと清十郎は言った。
「そんな訳で纏めると、勿体ないの精神から、一度水底へ沈んだオブリビオンの造りし船に乗り込んで、何処を指し示しているかも知れぬ謎の光を辿り、真冬の蝦夷地最北端より断然寒い大荒れ猛吹雪流氷付きの海域を、下手すると九州~琉球間より長い距離航行するんでござるなー」
 不安要素の過積載だ。本来ならこれで万事うまくいくと思う方がどうかしている。
「けれど、そんな道理をあっさりひっくり返し得るのがユーベルコードであり、そしてそれこそ猟兵にしか成し得ないお仕事でござろう」
 清十郎がグリモアを突っついて、ベースに映し出されたのは青い海を行く鉄甲船。
 どうやら、かつぶし丸は一足先に出航していたようだ。
「かつぶし丸の名付け主としては、船員含む全員の生還を信じているでござるよー。さ、それじゃ頑張って猟兵風の子ファイトの子でござる」


長谷部兼光
 優雅な船旅、とはいかないようです。

●目的
 未知の航路を進み、光の示す終点に辿り着く。

●かつぶし丸
 船長はヤドリガミ。乗組員の種族は色々。
 どれほどシリアスな場面に直面しようが名前は決して変わらずかつぶし丸です。

●備考
 プレイングの受付は、各章とも冒頭文追加後からになります。
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第1章 冒険 『脅威の海洋災害』

POW   :    肉体の力で体力任せに海洋災害に立ち向かいます

SPD   :    素早い行動力や、操船技術で海洋災害に立ち向かいます

WIZ   :    広範な知識や、素晴らしいアイデアなどで海洋災害に立ち向かいます

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●鉄火場・氷点下
 ……かつぶし丸が未知の外洋に進入して三日目の朝。
 うねる海は前日よりも更に荒れ、立っているのもやっとの状況下。そこへ不意に聞こえてきたのは、船体に何かが接触した衝撃音。猟兵達が宛がわれた客室から一歩外に出てみれば、水夫たちが吹雪の中を右に左に忙しなく、必死の形相で駆けずり回っていた。
「……いやはや。昨日までは俺達だけでもまだ何とかなったんだがね。ここから先は、やっぱり猟兵(センセイ)方の力を借りねぇとどうにもならねぇようで。無力なモンでさ」
 甲板へ集った猟兵にそう助けを求めたのは――浅黒金髪で、水夫の中でも一際長身の大男――船長だった。
「御覧の通り、船の内側じゃやれ突風で帆が破けただの、やれ海氷が船底(ふね)に穴開けただの、風邪拗らせて熱が出ただの、飯が凍っちまってクソ不味い櫓を漕ぐ力が出ないだの、今更怖気づいて陸に帰りたいだの、その他諸々もうてんやわんやの有様で」
 その上泣いて喚いたところで無数の流氷・氷山たちが道を開いてくれるはずもなく。このままでは延々と降りしきる内外のトラブルに耐え切れず、鉄甲船は乗組員諸共再び海の藻屑だろう。
「何処から何に手ェ付けたって構いませんや。クソ寒い癖何処も彼処も鉄火場で、笑っちまうくらい窮地ですからね――おらそこ! 死にたくなけりゃあ手ェ止めんな! 船体(ふね)にひっ付いた氷落とさねぇと重心崩れて沈んじまうぞぉ!」
 乗組員の不手際を認めるや否や、船長は猟兵達との会話も打ち切り、それまで軽薄だった相貌を鬼神の如く歪ませて、水夫たちに怒号を飛ばす。

 吹雪と氷海の深奥へ、かつぶし丸を誘う光。その先には未だ何も見えず。そしてこの程度の窮地などはまだまだ序の口に過ぎないのだろう。
 ……光の果てへ辿り着く為には、あらゆる災禍を振り切って、船を前に進ませなければならない。
ジャム・ジアム
アドリブ大歓迎

野郎ども、よーそろー。
大海原はロマンよね
ジアム、こういう大冒険、憧れてたの
初依頼がんばるわ
こう見えて、結構力持ちなのよ
モフモフのコートを着込まなきゃ

寒くて体を壊す船員さんも居そうね
彼らがいなきゃ始まらないでしょ?
ジアムの羽って大きく開くの
蔦が混じる明るい羽毛の羽よ
私たちの旅は邪魔させない
UC:バイオミック・オーバーロード
羽を巨大化させて冷たい波から
彼らを守るわ
仕事のため長く視界は遮らないように
話もちゃんと聞くのよ

船体の氷は
大量の針が束になった私の尻尾で削ってみる
船を傷つけないように
ジアムや仲間が
落ちないように気をつける

落ち着いたら暖まりたいわね
先に何が待っているのか
すごく楽しみよ


四宮・かごめ
※アドリブ・連携歓迎
それがし山育ちゆえ船は……うっ!!
(たたたたたた……)
(おろろろろろ……)

【POW】
UCの地形破壊がかつぶし丸に影響を与えなさそうな距離の氷山を、先行して排除するでござる。
【視力】でかつぶし丸の進路をあらかた見繕う。
なんか兵糧丸っぽいものを近くの船員に渡し、吹雪の中、覚束ない足取りで船外へと出ていくでこざる。そのまま帰って来なかったりはしないらしい。

竹把台明神を足場にして海上を【ジャンプ】で跳ね回り、流氷や氷山に接近。
降り立ち、その真上で鉈を抜き、真・唐竹割りを発動。
地形が破砕される前に、再びジャンプで次の流氷へ向かい、手当たり次第に破砕していくでござる。にんにん。


エスタシュ・ロックドア
(f01816)

数分前までは海上でかっこよくフリントぶん回して流氷を割り、
氷山を砕いていました
その時調子に乗って業火を使わなければ、
こんなことにはならなかったのです(ナレーション)

『群青業火』発動
非常に不服ながら船内でオーブンの真似事してるぜ
なんで俺がこんな事を
いやわかってる、わかってんだよ
鉄製とはいえ船とか言う海上の限られた生存圏で、
俺の意思一つで消火できっから失火の恐れもなく、
燃料の残りを気にしなくてもいいっつーのが、
とんでもなく便利だってこたぁよ

オイコラ椋だれがコンロか
かりっとジューシーにおいしくローストすっぞ
火加減は完璧だからな
後であったけぇメシやるからとっとと仕事してこい


六島・椋
(f01818)
【医術】の覚えはあるし、病のやつを診るとしようか
専門は骨だがいないよりマシだろ

自分自身に時間を使わなくていいよう『献身』
見た目は黒めだが害はないから安心しろ

熱があるとの話だが、
倦怠感があるなら氷で脇の下や首あたりを冷やす
この寒さなら氷には困らんだろ

咳で体力が削られるのも防いでおきたい
船員に、蜂蜜や湯を沸かせるものはあるか訊くか
あれば沸かして湿度を上げ、蜂蜜湯を飲ませる
まあ火はいざとなればアテがある
地獄のではあるが

あとは飯を食ってさっさと寝ろ
肺炎になったら骨が折れるどころじゃない
なに、温かい飯なら相棒がなんとかしてくれるだろ
なあコンロ……間違えたエスタ
こっちのは消化にいいやつでな


弦月・宵
揺れには慣れるしかない。気合だーっ
寒さ対策と凍ったご飯には、UC:ブレイズフレイムが役に立つ?
帆に穴とかは、オレが役立たず(不器用・料理下手)!
流氷を砕くのにも刀に纏わせた炎で斬って溶かすね

船底の穴はどのレベルだろ?
現場確認して釘と板で何とかできるなら力仕事は任せてね
へっへー!船員のおに―さんたちには負けないよ~?
明るく振る舞って、元気に仕事っ
おにーさんたちは海が好きなのかな?船が好き?
海の男って格好良いよね!
怖くても、仲間がいるんだからきっと大丈夫
…実はオレもちょっと怖い(へにゃと笑って)
オレのお守り、貸してあげるよ!-陽愛-ひめって言うんだ
UC:生まれながらの光は、へばっちゃうから最終手段


神崎・伽耶
猟兵風の子元気の子~♪
かつぶし丸、ひゃうぃごー!

こう見えてお姉さん、修羅場の経験豊富だよ♪
寒風の中で、マズイ物を美味しく食べる!
それができなきゃ、生きてられなかったからね!(謎のめぢから)

怪我人病人、寄っといで♪
定期的にパトロールして、応急手当するよん。
こう、舐めて縛っときゃ、大抵治る!
ハイ、次♪(ぺし)

なに工具が足りない?
任せて、複製作成~♪
職人も裸足で逃げ出す出来映えよね、木製だけど!

とまあ、大抵のコトは一時的に引き受けるから。
落ち着いて対応考えてね?
この旅路の運命は、結局キミたちの手腕にかかってるから!

ふふふ、あたしはどこにでもいるよ♪
寂しくなったら、遠慮なくお呼び?
一食分で手を打とう!


叢雲・源次
【煉鴉】
サムライエンパイアも戦争以来か…未知の外洋へ漕ぎ出すというのは浪漫溢れる案件ではあるが…波乱の予感しかせんな。グウェンドリン、少々長い旅になりそうだ…装備や携行品のチェックは念入りにやっておけ。聞けば、極寒の海…らしいのでな。

今の所、危険らしい危険といえばこの荒れに荒れ果てた海と船内状況か…備蓄の食糧が凍っているのならば俺の蒼炎が役に立つか。戦闘以外でもこうした使い道があるのは自分でも意外なものだ…(右の義眼から蒼炎が揺らめき立ち、凍った食料を温める。※食料の内容はお任せ。多少手を加えて美味しく食べられるようにします)
グウェンドリン、食事の用意が出来た。上がって来い。


グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
サムライエンパイア、ひさしぶりー
この世界……の、外洋、かぁ。何、あるんだろ。わくわく、どきどき
うん、備えて、備えすぎる、ことはないし、ね

あっ、床が。海氷、船底、突き抜けてる……ならば、私の、出番
(腕まくりをする)
腕っ節、だけは、自信がある
床、突き出した、海氷……を、踏んづけるように、足で、押す
氷、抜けたら、すかさず、板、置いて、塞ぐ
あとは、金槌と、釘で……
他に、力仕事、あるー?なんでも、おまかせー

む、いい匂い、する
(声を聞きつけ)はーい
夜、だと、もっと寒い。じゃあ、これ
(頭上に浮かび上がるBrigid of Kildare。攻撃魔法ではなく、最大限に弱めた熱と光で周囲を暖めて)




 鉄張りの船体に打ち付けるのは、白波氷風。熟練の船乗りですら気を抜けば転げてしまう大揺れの船上、しかし叢雲・源次(DEAD SET・f14403)はこんな揺れなど些細なものと、顔色一つ会えず堂々甲板を踏みしめて、平静を保ってみせる。
「思い返せば、サムライエンパイアでこの手の依頼に関わるのも戦争以来か……」
 源次がふと船尾側――来た航路(みち)を見遣る。当然、世界存亡の大戦の舞台となった日本列島の姿など氷海の遥か彼方に消えて影も形も見当たらず。だからこそか、経過した時間以上に、あの戦争で刃を振るった日々がひどく懐かしくも思えた。
「私も、サムライエンパイア、ひさしぶりー」
 源次の呟きに、甲板より数十センチほど離陸したグウェンドリン・グレンジャー(Moon Gray・f00712)がこくりと相槌を打つ。黒翼(つばさ)があるのだ。態々海の癇癪に付き合う必要も無いだろう。
「この世界……の、外洋、かぁ。何、あるんだろ。わくわく、どきどき」
 グウェンドリンは船首側――行くべき航路(みち)の、その先を眺める。紫色の光の先に在るものは、果たして地獄か天国か。
「確かに……未知の外洋へ漕ぎ出すというのは浪漫溢れる案件ではあるが……この海域(うみ)そのまま、波乱の予感しかせんな」
 源次の展開した攻性防壁が、容赦なく二人へ吹き付ける風雪を弾く。ここから先へ進む以上、あらゆる脅威が避けて通れないと言うのなら是非もない。
「聞きしに勝る極寒の海……か。グウェンドリン、少々長い旅になりそうだ……今の内装備や携行品のチェックは念入りにやっておけ」
「うん。色々やり始める前に、一旦、船室にもどって、みよー。備えて、備えすぎる、ことはないし、ね」
 三相女神の紋章と、青い光を放つラムプを携えて、グウェンドリンは吹雪く甲板を照らす。今の所はまだ辛うじて遠くの様子まで確認することも出来るが、このまま風が強まれば、それもどうなるかわからない。
「ああ。俺達はそのまま船内の面倒を見ることにしよう」
 そのまま此処に留まる仲間たちの姿を認めた二人は、船外の対処を彼らに託し、甲板を後にした。


「野郎ども、よーそろー」
「ヨーソロー!」
 防寒対策万全の、小柄な体躯にモフモフコートをしっかり着込んだジャム・ジアム(はりの子・f26053)がふわりとお決まりの台詞を投げ掛けてみれば、水夫たちは船縁に張り付いた氷を砕きつつ、予想以上の熱量で応えてくれる。こんな状況でも率先して外で動き回る男達だ。そこらの船乗りとは覚悟が違うのだろう。
「うんうん。大海原はロマンよね。ジアム、こういう大冒険、憧れてたの」
 そいつは俺達も同じでさぁと、水夫たちは笑う。誰も彼も今まで見て見ぬふりを決め込んできたが、実際サムライエンパイアで生まれ育った人間なら、外海に何があるか思いを馳せたことの無いやつはいない、と。
 幾ら吹雪と飛沫を被ろうが、決してめげずに立ち向かう。そんな彼らが居なければ、かつぶし丸は進まない。始まらないのだ。
 気持ちのいい人たちだ、と彼らを見てジャムは思う。
 故にこそ、猶更、今から初の依頼をこなそうとする自身の内に活力が満ちる。
「実はね。ジアムの羽って大きく開くの」
 蔦が融合した明色の羽。ジャムが自身のそれを律動させる度、徐々に羽は巨きくなり、やがてかつぶし丸を覆うほどのサイズへ変じる。
「……私たちの旅は邪魔させない」
 青の瞳が天を睨む。
 ――流氷、風雪、大波、小波。ジャムが羽に篭めたのは、船の行く手を阻む天敵たり得るそれらへの怒り。
 大海原を行く上で、それら全ては毒だろう。幾ら熱意があろうとも、長時間氷点下の冷気に晒され続ければ、いずれ体を壊してしまう。
 しかしそうはさせない。巨翼はかつぶし丸を包んで、吹き付ける寒風も、爆ぜる飛沫も代りに受け止める。
「さ、いまのうち」
 海が大きくうねる度、波飛沫が羽に浸み込み、嵐の如き突風が吹き荒ぶ度、雪が翼を真白に染め上げた。
 水夫たちを促すジャムの顔が不意に歪む。
 たかが氷雪、と馬鹿には出来ない。巨大化した羽が満遍なく凍てついたのなら、その重量は――。
「大丈夫。こう見えて、結構力持ちなのよ」
 まだ、余力はある。ジャムは自身を案じてくれる水夫たちへ笑みを返すと、大量の針が束になった大きな尻尾を伸ばし、船体を冒す氷達をこそぎ落す。
 同時、大きな羽が皆の視界を遮らないよう最適な位置を保つように動かし続け、
 ――そんなジャムの活躍をみた水夫たちは、負けじと喝を入れ直し。
 皆で力を合わせ重く纏わりつく氷を掃ったかつぶし丸はゆっくりと、しかし確実に氷海を進む。


「……っ!」
 ジャムが広げた大きな羽の内側で、それまで水夫に混じって氷を落としていた四宮・かごめ(たけのこ忍者・f12455)は、突如蒼白の顔色をして、最大最速全速力に羽の外まで脱出する。
 紫色の光を発する船首にほど近い位置。羽が遠くに離れていることを確認したかごめは安堵すると、
(「おろろろろろ……」)
 盛大に吐いた。
「大丈夫? そのまま我慢せず、全部吐いた方がきっと楽だよ」
「かたじけない……」
「いやいや。困ったときはお互い様だよ」
 かごめの不調を察し、水夫を伴って駆けつけた弦月・宵(マヨイゴ・f05409)が、背をさすってくれる。その優しさ、何より身に沁みた。
「実を言うと、それがし山育ちゆえ船は少々……でござる」
 宵の言う通り、吐き出すものを吐き出し、風に当たれば大分楽になった。
「見れば、宵殿はこの大揺れでも平気なご様子。何かコツなどがあればご教授していただきたく……」
「コツ? うーん、そうだなぁ……」
 宵は腕を組んで暫らく考え込み、
「やっぱりアレかな。慣れと気合?」
 春に咲く花の如き軽やかな笑みを浮かべ、はにかみつつもそう答えた。
「ううむ、なるほど。しかし、それがしがその領域に到達する為には、果てしない研鑽を積む必要がある予感がひしひしとするでござる」
 今すぐにの船酔い耐性獲得が不可能と悟ったかごめはどこか遠い目で氷海を見る。
 単純に呆けていると見せかけて、実の所かつぶし丸の進行方向上障害になりそうな流氷・氷山を粗方見繕い終えたかごめはふと気付く。
 そもそも船に乗らなければ船酔いにならないんじゃない? と。
 ――天啓だった。
「これを……!」
 そうと決まれば善は急げだ。宵の連れてきた船員へ、船に酔っていたが故、想定外に悲愴な雰囲気で、形見分けよろしくなんか兵糧丸っぽいものを渡し、
「あ、ちょっと……!?」
 宵の静止を振り切って、ただ意味深に儚く笑うと、吹雪の中、覚束ない足取りで船外にダイヴした。
 ――その後。再びかごめの姿を見たものは……。

「……多分。竹型の守護霊っぽい何かに乗っかる姿がちらっと見えたから大丈夫だとは思うけど……」
 普通に居た。
 宵は吹雪に消えたかごめの無事を祈ると、船の上方、大きく破けた帆を眺める。
 あれとて修復しなければならないが、不器用な自分の手には少々余る代物だ。無暗に触れればさらに大きく破いてしまうかもしれない。
 ともすれば、取り急ぎ、やるべきことはかつぶし丸付近に漂う流氷の排除だろう。
 ゆるりらゆらりや、宵は召喚した鉱物の結晶に乗り、船を出て海面付近まで近づくと、流氷目掛け炎を纏う幻鵺を一太刀を見舞った。

 竹型の守護霊っぽい何かが、かごめの意のまま、彼女の足下に現れては跳躍の為の足場となって、道なき道を強引に切り開く。
 幾度目かの跳躍(アシスト)で、目標の氷山に降り立ったかごめは、おもむろ腰鉈を引き抜いて振り翳すと、
「ん゛に゛ん゛っ!!!!」
 裂帛の気合と共に、巨大氷山の頂点へ思い切り振り下ろす。
 極々シンプルな、しかし竹を相手に何千何万回と繰り返し培われた精妙なる一撃は、刹那の間を置いて氷山に無数の罅を走らせ、跡形もなく細々に四散させる。
 唐竹割りを受けた氷山が完全に消滅する前に、かごめは次の流氷、次の氷山へ向かって飛び移り、その悉くを粉砕した。
 十か百か、無心に氷を砕く内、船酔いも完全に醒め、吹雪のヴェールの向こうから、聴こえてきたのは自分が奏でた物ならざる破砕音。
 刹那。無骨な鉄塊剣の切っ先が、雪の暗幕を切り裂いて、現れたのは羅刹の大男――エスタシュ・ロックドア(碧眼の大鴉・f01818)。
「よう。邪魔したかい?」
「いや、むしろ大歓迎でござる。にんにん」
 かごめは破砕の手を一切緩めず、エスタシュにそう返す。かつぶし丸の進路に立ちふさがる流氷・氷山の量ときたら、いっそ悪意を持って設置されたのではないかと疑う程に潤沢で、人手はいくらでも欲しい所だった。
「そりゃあ良かった。だったら遠慮なく――!」
 エスタシュは景気よく鉄塊剣(フリント)を振るい、破天荒な立ち回りで流氷を割り、剣の間合いに入った氷山を悉く砕いていく。
「物言わぬ氷塊相手に全力出すのも大人げねぇが――」
 不満を口にしながらも、強ち満更でもない表情を浮かべ、
「物量が物量だからな。出し惜しみは無しだ!」
 エスタシュは一息、全身に群青色の炎を纏う。
「拙者も遅れは取らないでござるよー」
 エスタシュの、本気の炎に呼応するように、籠目唄を吟じたかごめはもう一人の自分を呼び出すと、縦横無尽に氷海(うみ)を叩き割り、かつぶし丸はおっかなびっくりゆらゆらと、丹念に均された航路を行く。


 船内・医務室。
 盛大に揺れる床の上では横になる事すらままならないので、伽耶謹製・即席のハンモックに納められた病人たち。
 引っ切り無しに咳をして、やはり寒さに中てられたのだろう。六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)が試しに幾人かの額に触れると、漏れなく皆熱い。
「医術の覚えはある。まぁ、自分の専門は骨だが……いないよりマシだろ」
 珍しく、骨以外に『献身』の精神を見せた椋の身体から、突如黒い靄が現れ、彼女の全身を包む。
「うぉっ……死神!?」
「あぁ……病床の人間にはこの形(なり)自体が目の毒か……見た目は黒めだが害はないから安心しろ」
 さもなくば、目を瞑ってればいい。非戦闘行為に没頭している間に限り、この黒い靄は一切の攻撃やウィルスを無効化する完全無欠の防護服だ。
「熱はある……倦怠感は?」
 椋(いしゃ)の問いかけに、患者達は揃って首を縦に振る。素直で大変宜しい。
「なら、氷だ。こう……脇の下や首あたりを冷やせばいい」
「か、勘弁してくだせぇ。俺たちゃ寒さに中てられて寝込んでるんですぜ? 氷なんて今はもう、見たくも無ぇ」
「毒を以って何とやらだ。余分な熱を取らないと治るモノだって治らない」
 極寒の船内で、氷に困る道理も無く。医務室の隅に置かれた樽を覗き込めば、目一杯詰め込まれた飲料用の真水も案の定完全に凍り付いていた。椋はからくり糸伝いに、オボロの掌底で砕いたそれを清潔な布に包み、病人たちの患部に手早く巻き付ける。
 後は咳で無暗に体力を消耗するのも防いでおきたいが……。
「蜂蜜……いや、まず先に、湯を沸かせるものはあるだろうか」
 どっちもあるがこの揺れじゃあ竈なんて真っ当に使えやしないでしょう。病人の一人が咳がちにそう答えた。
「なに。材料があるならそれで十分。炎の方はちょっとした当てがある。まぁ、地獄のではあるが」
 言って、椋はちらと、ハンモックで気ままに寝そべる猫の骨格人形――アマネに目を遣った。

「ははは! 我ながら群青業火も絶好調! 漸く体ァ暖まってきた! 今ならどれだけデカい氷山が立ちはだかろうと――」
「――と言うお話だったのさ」
 突如背後より聞こえた相棒の声音。直後、思うさま氷山を焼き尽くしていたエスタシュは、声音の主――アマネの力で氷海へテレポートしてきた椋にがしっと後ろ首根を引っ掴まれる。
「おいおい、せっかく盛り上がって来たって時に、水を差すのは野暮ってもんだぜ?」
「竹把台明神」
「こっちも手が足り無くてな。悪いが強制送還だ」
「おいちょっと待て今の何だ」
「いや知らん」
 エスタシュの疑問をおざなりに、椋は折り返し彼を伴って船内へテレポートした。

「ふぅむ。それがしもそろそろ小休止がてら船に戻――いや、もうひと踏ん張りするでござる」
 暴れ馬よろしく四方へ激しく揺れるかつぶし丸をふと見てしまったかごめは……その揺れが治まるまで、もう少しだけ船外で頑張ることにした。

「……はぁ。なんで俺がこんな事を……」
 船内に拉致されたエスタシュは、氷海で暴れていた時とは打って変ってこれ以上ない位沈んだ表情で、全身から群青色の炎を焚く。全ては身から出たこの炎の仕業だろうか。
 その様相は碧眼の大鴉と呼ぶに程遠く、オーブンや暖炉のそれに近い。
 近いというか、実際に医務室を中心として船内を温めているので、悲しい事にオーブンや暖炉そのものと言っても過言では無かった。
「いやわかってる、わかってんだよ……」
 概ね鉄製とはいえ『船』と言う海上の極限られた生存圏にて、自分の意思一つで出火・消火・延焼全てコントロールできるが故に失火の恐れもなく、燃料=気合と言う挫けない限り夢の無限エネルギーなこの炎。とんでもなく便利すぎて使わない選択肢は無いだろう。火を船内で軽々と扱えるようになったのは、木造船の次の時代、近代に入ってからの話だ。
 ……そういう理屈はわかる。しかし感情的にはわかりたくない。が、これも男の意地と言うもので、エスタシュは不平不満をぐいと飲み込み、暖房役に徹することにした。
「あたたけぇ……」
「極楽だぁ」
「いや地獄の炎なんだけどな?」
 椋の作った蜂蜜湯を呷り、そして火にあたる水夫たちから、エスタシュは何だか拝まれ始めていた。
「さぁ、後は飯を食ってさっさと寝ろ。悪化して肺炎になったら骨が折れるどころじゃない」
 温かい飯なら相棒がなんとかしてくれるだろう、と椋はエスタシュへ視線を投げる。
「なあ、コンロ……」
「オイコラ椋。だれがコンロか。かりっとジューシーにおいしくローストすっぞ」
「間違えたエスタだった……しかしエスタ。コンロックドアと言うのはどうだろう」
「どうだろうじゃねぇよ。かりっとジューシーにおいしくローストすっぞ」
 エスタシュは、相棒の言に仕様もないと溜め息を吐き、
「火加減は完璧だからな。馬鹿なこと言ってないで後であったけぇメシやるからとっとと仕事してこい」
「ああ……こっちのは消化にいいやつでな」
 味の方も期待している、と、素っ気なく返すと、椋は再び靄を纏い、医療行為に没頭する。


「猟兵風の子元気の子~♪ かつぶし丸、ひゃうぃごー!」
 エスタシュの炎で寒さが和らいだとはいえ、それでも大揺れの船内で、平常どころかむしろ一層元気なのは神崎・伽耶(トラブルシーカー・f12535)。
 いっそ鼻歌交じりのステップを刻むほど軽やかに、かつマイペースで傾く船内を自在に闊歩する。
「こう見えてお姉さん、修羅場の経験豊富だよ♪ 寒風の中で、マズイ物を美味しく食べる! それができなきゃ、生きてられなかったからね!」
 くわわっ! っと、謎の眼力(めぢから)を帯びた黒の瞳を見開くと、それに圧倒された水夫たちは、何だか自分でもわからぬうちに、いつの間にやら伽耶へと拍手を送っていた。
「ふふふー。静粛に。せいしゅくにー。あたしはどこにでもいるよ♪ 寂しくなったら、遠慮なくお呼び?」
 言動の端々から読み取れる人生の経験値。
「そうだねぇ。何事もただとはいかないけれど……うん一食分で手を打とう!」
 果たして彼女は過去、どれだけ辛く厳しい道を歩んでいたのだろうか……?
 水夫の一人がそれを尋ねると、伽耶は、
「ふっふっふ、そこの所は企業秘密♪」
 ぺろりと悪戯な笑みをみせた。

「さてさてそれじゃあ真面目にお仕事! 怪我人病人、寄っといで♪」
 伽耶が定期的に船内をパトロールすれば、その度出るわ出るわ怪我人の山。
 突発的な大揺れで、打ち身、擦り傷、捻挫などなど、船員たちの怪我が絶える様子も無く。伽耶は魔法鞄から添え木、包帯、消毒剤に絆創膏、酔い止め薬などを取り出して、出会った怪我人全員に応急手当を施した。
「こう、舐めて縛っときゃ、大抵治る! ハイ、次♪」
 それこそが彼女の掲げる揺ぎ無き治療理念。ダメ押しに、ぺしっと気合を入れてやれば大体の怪我人がこれで治る。万一、重傷者を見つけた場合はアドリブで造った荷車に括りつけ、医務室へ宅配。
「良し♪ 今回も恙なく定期パトロール終了~! さあてそれじゃあ此処から先は……」
 パトロールを終えた伽耶は意味深な言葉を残し、船のさらに下層へと降りてゆく。

「ああクソっ! またデカいのが船底(ふね)に穴開けていきやがった!」
「空いた穴から魚が入ってきやがる!」
「おーい! 金槌何処だー?」
「資材足りねぇ! 誰か持ってこーい!」
 人の治療を粗方終えて。残るメインディッシュはかつぶし丸そのものの修繕だ。
「おっと、人知れず浮くか沈むかの瀬戸際だ。よし、工具の類が足りてないなら私に任せて。」
 そう口遊んでいる間にも、
「それ、複製作成~♪」
 伽耶は木槌、釘、板材等の精巧な木工製品を何処からともなく創り出し、物資を求める水夫たちへ手渡していく。
「どう? 職人も裸足で逃げ出す出来映えよね、木製だけど!」
 かつん、かつんと水夫たちが思い切り力を籠めて船底に振り下ろされ続ける木槌は――下手な金槌よりも頑丈で、決して壊れたりなどしなかった。

「……とまあ、大抵のコトは応急治療にせよ資材補充にせよ一時的に引き受けられるから。どんな時でも深呼吸。落ち着いて対応考えてね? この旅路の運命は、結局キミたちの手腕にかかってるから!」
 おう!と、男たちは勇ましい雄叫びで応えた。
 

「あっ、床が水浸し。海氷、船底、突き抜けてる……ならば、私の、出番」
 グウェンドリンは腕まくりをして、船底に突き刺さった海氷と相対する。水に濡れて煌く、覗き込めば向こう側が見えるほどにとても澄んだ氷。見ようによっては奇麗だが、大海原を行くかつぶし丸にとっては障害物でしかない。
 突き出した海氷の中心に足を置き、そして感じた違和感。
(「この、感触」)
 船底から見えない部分も勘定に入れるなら、かなりの大きさかも知れない。
 しかしグウェンドリンの怪力とて、見た目に寄らず。
 氷を踏みつける足に全神経を集中したグウェンドリンは意を決し、思い切り、全力で抵抗する氷を外に押し出した。
 一時的に、海氷が塞いでいた穴が開く。グウェンドリンはほんの一瞬、船底へ喜々として侵入してこようとする海水を念動力で押し留め、刹那、板材で穴を遮る。後は伽耶から渡された木槌と釘を美味い具合に打ち付けて、完了だ。
「腕っ節、だけは、自信がある。他に、力仕事、あるー? なんでも、おまかせー」
「それじゃこっちの氷もお願いしやす~!」
「わかったー」
「いやいや、散らばった部品なり備品なりを片さねぇと、俺達埋もれちまうよ!」
「りょーかーい」
「櫓の漕ぎ手が限界でぶっ倒れやがった! 誰か代りを……!」
「ひくて、あまたー」
 次々に舞い込む依頼(トラブル)。とりあえず余力のあるグウェンドリンは、全部引き受ける事にした。

 決して人を焼かず、船を壊さず。そのルールを遵守し、柔らかく船底を照らすのは、船内に帰還した宵の操る紅蓮の炎。
「うーん、ぎりぎり釘と板で何とかなるレベル……かな?」
 自身の目測だけでは少々自信が無かったが、なんとかなるでしょうよ、と、近くで修復作業に勤しむ水夫の言葉に背を押され、宵は紅蓮に燃える幻鵺で海氷を溶断し、その上から板材を撃ち付ける。
「ありがとう! けど、へっへー! 船員のおに―さんたちには負けないよ~?」
「いやぁ、こと船に関しちゃ、相手がセンセイ方と言えど負ける訳には行きませんや」
 と、宵の屈託ない笑みと明るい振る舞いに引っ張られ、苦境に在りながら、周囲の水夫たちも自然と笑みを浮かべて作業する。
 船底で働く彼らは凍えながらも健康そのもので、『光』の出番は無さそうだ。
「おにーさんたちは海が好きなのかな? 船が好き?」
「そりゃあ勿論、海も船も好きですよ。でもね、やっぱり一番好きなのは――」
 刹那。まだ塞ぎ切ってない船底の穴から、勢いよく魚が飛び出してきた。
「そう! 魚(コイツ)でさぁ」
 どっと、笑いが巻き起こる。
 やっぱり海の男って格好良い! 宵がそう言うと、男たちは柄にもなく照れ乍ら、煽てたってなにも出て来やしませんぜ、と破顔する。
「……今、こんなこと聞いちゃうのは悪いかもだけど、未知の海を行くのは怖くない?」
 恐る恐る、と言った調子で、宵は水夫たちに訊いた。
「正直言うとね、怖いですよ。光の先には化け物が大口開けて待ってるかもしれねぇ。でも、仲間も、この世界を救ったセンセイ方も一緒なら、なんとかなるって、そんな気するんでさ」
「……へへ。そうなんだ……実はオレもちょっと怖い」
 ばつの悪い様な、心の裡を吐露して安堵したような、はにかむような。色んな感情をない交ぜに、へにゃと笑った宵へ、水夫たちはきっとなんとかなるでしょうよ、と、根拠もなく笑い返す。
 気の良い水夫たちだったが、宵が自身のお守りを貸そうとしたときだけ、彼らは強く拒んだ。曰く、俺達には上等すぎる、と。
「その武器飾りは、しっかり持っていなせぇ。上手くは言えねぇが、きっとあんたの身を守ってくれるもんでさ」


 炊煙と、白米を炊いた時のあの香り。
 源次が厨房に足を踏み入れると、一足先にエスタシュが、誰に託されたか、兵糧丸を解いたみそ汁と、粥の準備をしていた。
 相も変わらず船内は激しく揺れているが、不思議と鍋から中身がこぼれる様子がない。
 側で転げる調理番曰く、この船の食器・調理器具類は、保温と、どんな大波の最中でも決して中身がこぼれない、云わば『酔い知らず』の法力が施された代物だという。
 何でも出港する際、そこの藩主に餞別として持たされたのだとか。
 センセイ方へ贈られたもんですから、自由に使ってやってくだせぇ、と調理番は言った。
「ならば、遠慮なく」
 エスタシュが厨房を退出した後、備蓄庫を覗けば、大半の食料が凍ったままだった。彼も炎を自在に操れるはずだが、恐らく必要以上の食材は意図的に解凍せずにおいたのだろう。
「俺の蒼炎……戦闘以外でもこうした使い道があるとはな」
 幾分不思議な心地だ。自分自身でも意外に思う。
 右の義眼から蒼炎が揺らめき立ち、食材たちを包むと、氷だけを溶かしていく。
 ……さて。数分前までは、この大揺れの船内で比較的安全に食べられるものなど精々握り飯くらいしかないと考えていたが、『酔い知らず』の大鍋と食器があるのなら、可能性は無限に広がる。
 蒼炎と共に、料理好きの血も騒ぐが……ここはやはり、鍋だろう。
 この悪天候の中、釣りした訳でも無かろうが、大波ゆえ、船上に打ち上げられたり、船底に空いた穴から飛び出してきた魚たちが、凍ったままやたらと備蓄されていた。
 ……未開の外洋。人の手が入っていないからこそ、魚たちにとって良い住処なのかもしれない。
 ともあれまずはだしを取り、魚はぶつ切りに。海老の背ワタもしっかりとって下ごしらえ。蟹の脚なども投入し、次いで野菜も入れたいところだったが、グウェンドリンは偏食だったか。ならばその分、魚を増やすとしよう。最後に隠し味として、UDCアース産、つまり遥か未来の調味料も少々。
「む、いい匂い、する」
 九部九厘出来た頃合いに、厨房のすぐ近くから見知った気配。
「グウェンドリン、食事の用意が出来た。一息入れるとしよう」
「はーい」
 出来上がったのは、具沢山の海鮮鍋。一口食べれば舌鼓。二口食べれば口許も綻び、三口目以降は体の芯から暖まる。
 こじゃれた修飾は要らない。要するに、美味なのだ。
「まだまだ、いっぱいある」
「鍋だからな。猟兵(なかま)達や水夫たちに振舞う準備も万端だ。単純だが、人間、美味いものを食べればその分士気が上がるものだろう」
「そっか。それじゃあ、私、差し入れ、持ってくー」
「ああ。頼む」
 そして、源次は再び追加分の料理に取り掛かり、グウェンドリンは椀にそっと蓋をして携え、厨房を後にした。


「……そっちは駄目よ」
 船体が大きく揺れた弾み、ジャムは外へ投げ出されそうになった水夫を巨翼で押し留めた。
 氷風は決して途切れることなく、むしろ勢いを増して、巨翼を蝕む。翼が、冷たい。
「差し入れ、まいどー」
 そんな折、どう言う訳だか箸と椀を持ったグウェンドリンが現れる。
 不思議と、この大波の最中でも椀の中身がこぼれる事はない様子。
「夜、が来る前に、どんどん寒くなってく。だから、これ」
 言って、グウェンドリンの頭上に顕現するのは、トリケトラ輝く女教皇(ホノオノセイジョ)。
 優しき女司教は、心地良き熱と光で船上を温め、ジャムの羽根に取りついた氷達を一滴残さず溶かしきる。翼に、再び自由が戻った。

 未だ状況は落ち着かないけれど、グウェンドリンのお陰で暖まることは出来た。
 一息ついたジャムは、紫色の光の先に思いを馳せる。
 この先に何が待っているのか……楽しみだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

納・正純
夕立/f14904
流氷割りか、良いね
あんなデカい氷を割るのは初めての体験だよ
幸いここには頼れる海の男たちがいる。『勝節丸』とは演技も良い。ここは一丁、広い海を相手にひと勝負と行こう

俺の仕事は仕上げだ
夕立がデカい流氷に式神を打ち込んだ後にUCを発動
複数の楔を打ち込まれた氷の脆いポイントを一発の魔弾で『狙い撃つ』
ハハ、怖いことを言うじゃないか。
仕込みが上々ならこれでいけるはずだが……どうかな?

今は春先だぜ?
だがまあ、降りかかる霜は払うとしようか
夕立に倣い、使える武装は全て使いながら右舷側の小さな流氷を砕いていく

おや、奇遇だね夕立。実は俺もさ。海の向こうにある未知を確かめに行くとしよう


矢来・夕立
手帳さん/f01867

流氷を割って航路を確保。

オレの仕事は下ごしらえです。
式紙『黒揺』を氷に穿って炸裂させる。
脆いポイントを複数作ります。
あとは真“撃ち”が上手くやるでしょ。やらなかったら殺す。

“氷山の一角”という言葉がありますね。
砕けた後の流氷も実はそう小さくはないと。
航行の上では脅威になりえるそうです。映画で見ました。
ですから、カケラになるまで削っていきましょう。
使える式紙は全部使う。手裏剣、蝙蝠、炸裂苦無、伸びる紙垂。
左舷側はオレが引き受けます。

…不思議には思っていましたよ。
海の果てには何もないと聞かされて育ちました。
この先に何があるのか。
それを知る為には、この船に沈まれては困るんです。



 吹き付ける白銀の風。その只中に在り、流れるようにはためくのは矢来・夕立(影・f14904)の羽織る夜来(つき)。
「……不思議には思っていましたよ。海の果てには何もないと聞かされて育ちました」
 甲板に立つ夕立の瞳が見据えるのは船首の先。航路(みち)を塞ぐ――堅牢な城塞が如き大きな氷山だ。
 あれが鉄甲船(ふね)に接触すれば、掠めただけでも只では済むまい。だが、光が氷山の更に奥へと伸びている以上、此処で止まる道理もなく。
「手帳さん。あの氷山、壊してしまいましょう」
 ならば、と夕立は事も無げ、顔色一つ変えずそう言った。
「流氷割りか、良いね。あんなデカい氷を割ろうってのは俺も初めての体験だよ」
 武者震いがするねぇ、と冗談交じりに笑いながら狙撃銃へ弾丸を篭め、夕立の言に納・正純(Insight・f01867)もまた飄々と言葉を返す。
 彼らにとってこの程度の障害など、真正面から砕くものに過ぎないのだ。
「なに、幸いここには頼れる海の男たちがいる。船の名も『勝節丸』とは縁起が良い」
 だから、船内のいざこざにはあえて目を向けない。正純は水夫たちの技量と、一度沈んで引き上げられた勝節丸の悪運に背を預け、
「さぁ、ここは一丁、広い海を相手にひと勝負と行こう」
 ただ一つ、水平線の果てまで広がる『海』の相手を務める事にした。
「良し。それじゃあ夕立。まずは頼んだ。下拵えが終わるまで、仕上げ係の俺は茶でも啜って待つことにする」
「どうぞご自由に。ですが、ただの下拵えにお茶を一口飲めるほどの時間も掛けるつもりはありませんよ」
 云って、夕立が取り出したのは苦無状の折り紙。
 無論、ただの非力な折り紙にあらず、その正体は忍が扱う式紙・黒揺。巷に転がる刃金などより尚鋭利で、その気になれば人体であれオブリビオンであれ、容易く切れる代物だ。
 嵐の如き向かい風。横殴りの飛沫。視界を遮る牡丹雪。しかし、『水にぬれた紙は役立たず』などと言うお粗末な結末は存在しない。夕立が投擲した無数の黒揺は、風断ち雪斬り、一つとして脱落する事無く氷山を穿ち、氷の内にて裂き乱れる。
「さて。あとは真“撃ち”が上手くやるでしょ。やりますよね? やらなかったら殺す」
「ハハ、怖いことを言うじゃないか。ま、俺もまだまだ知りたいし、死にたくないからな、死に物狂いで成し遂げるさ」
 正純は愛用の長距離用狙撃銃・L.E.A.K.を構え、氷山へ狙いを定める。スコープを覗き、頭の中で走らせるのは魔弾論理。
 波を読み、風を解き、現状(いま)を知る。夕立が随所に撃ち込んだ黒揺の影響で、縦横無尽に亀裂が走り、既に見た目ほどの頑丈さは無い筈だ。
 持ち得る知識(すべて)を注ぎ込み、真なる『式』へ至るまで、幾度も式を組み、壊し、直す。
 一度切りの勝負。その、至極(たった)の一射の為だけに、膨大な数字を積み上げきった果て、『解』を得た正純はただ、必然に、L.E.A.K.のトリガーを引く。いかに相手が大きかろうと、やることはいつもと変わらない。『照準に納めて、あとは撃つだけ』
「仕込みが上々ならこれでいけるはずだが……どうかな?」
 ――果たして。轟と放たれた魔弾は氷山の脆いポイントを貫き……城塞の如き巨大な氷山は爆ぜるような音を立てて四散・崩壊した。
「……まだまだ。“氷山の一角”という言葉がありますね。砕けた後の流氷も実はそう小さくはないと。航行の上では脅威になりえるそうです。映画で見ました」
 往時のサイズより、更に大きな水柱を立てて崩壊する氷山。夕立がそれをじいっと見つめると、彼の胸中を察したかのように、式紙・幸守の群れが水柱目掛けて飛び立った。
「ですから、カケラになるまで削っていきましょう」
 海の下に潜り込んだ蝙蝠たちが抜け目なく、未だ大岩程のサイズでごろごろ沈む『氷山の底』を砕き、水柱の消失と同時に作業を終えた彼らはそのまま、かつぶし丸の左舷につく。
「左舷側はオレが引き受けます」
 彼方まで広がる氷海を見れば、今し方砕いた氷山さえ、それこそ『氷山の一角』か。
 黒揺・幸守・水練・牙道・禍喰・朽縄。夕立は使える式紙を総動員し、左舷に迫る海氷を砕く。
「この先に何があるのか。それを知る為には、この船に沈まれては困るんです」
「おや、奇遇だね夕立。実は俺も同じ心境さ」
 正純は、式紙総動員へ合わせるように、式紙・秋与高を右舷に近づく流氷へ放つ。
「それじゃあ俺は右舷(みぎ)側だ。全く、陸じゃもう桜が咲いてる頃合いだろうに。だがまあ、降りかかる霜は払うとしようか」
 回転式拳銃片手、夕立に倣い、正純は知識と思考と判断力と、そして六発のワイルドキャットと共に右舷を守る。
「さぁ、海の向こうにある未知を確かめに行くとしよう」
 ありったけの流氷(こんなん)を前にして、しかし己の知識欲の赴くまま――正純は笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
いやーもう笑うしかない位にひっどい状況だね。
一つ一つ対処してかないと海の藻屑コース、そうなってこの氷の海にどぼんとか勘弁勘弁。
うん、本業の船乗りに比べたらあんまり大きな事はできないけれど頑張るとするよ。

対応は船に張り付いた氷の対処。
UC活用し時折流氷足場にしつつ、外側から船の全体をぐるりと跳び跳ねながら氷に対処。
寒さには陽だまりのオーラで対処。
特にかつぶし丸の側面にひっついた氷に符を張り付け炎の魔法で溶かしたり槍でどついて砕いたり。
偶然穴を塞ぐ形になっている場合は中から塞ぐまでは溶かさない方がいいかにゃー。
大きな流氷については符に爆発の魔法を込めて投げて砕いて船を守るよ。

※アドリブ絡み等お任せ



「いやーもう笑うしかない位にひっどい状況だねー」
 あっはっはーとクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)の演技じみた空笑い。
 船は大揺れ外は強風吹雪の横殴り。うっかりを気を抜いたら帽子どころか自分の身体ごとあっさり転がっていきそうな気がする。猫(サイズ)的に。言うまでも無く毛づくろいは封印しておこう。
 他の猟兵の活躍によって、かつぶし丸はなんやかんや順調? ……順調に進んでいるが、流氷に風雪に病気に腹減りに修理に弱気にその他、海の藻屑コースへ至る要因は常にそこかしこに在るのだから気が抜けない。
「この氷の海にドボンとか勘弁勘弁」
 最悪猟兵だけならグリモアで何とかなるのだが、水夫たちはそうもいかないし、そういう後味の悪い結末は今時流行るものでも無いだろう。
「うん、本業の船乗りに比べたらあんまり大きな事はできないけれど頑張るとするよ」
 と、決意を固めたのならば、先ずは防寒対策だ。正直この寒さは猫でもつらい。クーナは常春の如きあたたかな陽だまり(フォースオーラ)で全身を隈なく包みこむ。
 そうして右手にヴァン・フルールを、左手に魔術符を備え船縁に立ったクーナは、
「とうっ!」
 意を決し船外へ飛び出し、跳ねる。目的は船に張り付いた氷の対処だ。
 右舷と左舷を守る正純・夕立達の邪魔にならないよう、余りかつぶし丸からは距離を開けず、主に船の外側面装甲、水夫たちの届かない位置に付着した氷目掛け銀槍をどつく。
「どつく!」
 どつく。一撃で砕けなければ二撃・三撃目を叩き当て、容赦なくごりごりと削る様はまさに、
「……何だかしつこい油汚れと格闘してる気分」
 魔術符の扱いも抜け目なく、物理的手段では時間がかかりそうな箇所(こおり)に火の力を籠めた符を張り付けて、船体を傷つけない程度の威力に調節し発火・氷だけを溶かしてゆく。
「船に突き刺さってるけど、偶然穴を塞いでるっぽい氷は中の作業が終わるまで変に溶かさない方が良いのかにゃー? ちょっと怖いから次の周回までパスしとこう」
 時折ステップの回復目的で近場の流氷に降り立ちながら、付着した氷の位置を確認し、クーナは槍と符を手に船首、右舷、船尾、左舷の外周をぐるりと回ってかつぶし丸をメンテナンスする。
 そして船外の氷落としもおよそ三周目に差し掛かろうかと言う頃、吹雪に紛れて大きな流氷が船の進行方向すぐ近くに現れる。
「おっと、ごめんね。悪いけれどここで行き止まりだよ」
 クーナは即座、爆発の魔力を宿したした符を数枚流氷へ放ち、問答無用で破砕する。

「うん? 『吹雪に紛れて大きな流氷が突然目の前に現れた』……ここまで他の猟兵達の目を潜り抜けて? なんだか都合が良い、いや、悪すぎるような……?」
 クーナはふと思索する。
『未知の外洋が人を拒むように』。
 考えすぎかもしれないが……比喩ではなく、本当に何かが意思を持ってかつぶし丸の航海を拒んでいる気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【冬星】

さっっっむ!!!(レア度高いデカ声)
えっ、さむ、待ってジンガこっち!寒い!!(慌ててしっぽに引きずり込む)
ありがとジンガ……防寒して来たけど足りなかった……

うぅ……さっむい……
儚火喚んでぬくぬくしたいけどその前に玄火、燃やさないで熱だけ残して船の周りあったかくして……
【属性攻撃、範囲攻撃、全力魔法】で広く船を包み込んで【操縦】で温度調節
とにかくこれ以上寒くならないようにしないと、船員さんたちもしんどいだろうし……
あと僕も寒いめっちゃ寒い部屋帰りたい、帰ってるり遥のラーメン食べたい……

……へ?
あれ。カピバラさん……!?
……あ。あー、なるほどそっか立ち入り禁止のお風呂場……飼ってたのか……


ジンガ・ジンガ
【冬星】
ワーオ、極寒~
防寒具モリモリ持ってきといて大正解~
備えあれば憂いナシっしょ、だって未知のセカイに行くんだもの
さっすが俺様ちゃん……って、未夜ヤバそ
ほらほら、マフラーとコートの予備あるわよ、着な着な
俺様ちゃんで暖取るよりも確実だわよ

氷溶かすのは未夜にオマカセ
一応、俺様ちゃんも力自慢種族・羅刹の端くれ
ついでに【サバイバル】もイケちゃう死にたくないパワーに溢れたイケメンよ
船や帆の修理やら、氷落とすのやらを手伝いまショ

水夫ちゃん達もゲンキだしてよ
……、……あーあ、こっそり飼ってるのバレたくなかったんだけど、しゃーないか
しらはまちゃん、ごめんちょっと来て
ついでにアルダワのオトモダチも呼んできて!



 大波小波に翻弄される船の上。
 既に時刻の上では昼であるにも拘らず、かつぶし丸がどこまで行けど、僅かの切れ間すらない無い曇天が、陽の光を遮って雪と風を吹かせるものだから、むしろ寒さは増すばかり。
「ワーオ、極寒~。でも防寒具モリモリ持ってきといて大正解~」
 しかし、マフラー、コートに手袋帽子。おまけに少しお高めの懐炉もばっちり仕込んで、ジンガ・ジンガ(尋歌・f06126)の備えは万全。寒風氷風なんのそのだ。
「備えあれば憂いナシっしょ、だって未知のセカイに行くんだもの。そこの所はさっすが抜け目ない俺様ちゃん。さあさあ未夜も遠慮してないで、そんな俺様ちゃんを盛大に褒め……、って」
 すぐ隣に居る筈なのに、ノーリアクション通り越して全く応答が無い事を不思議に思ったジンガが振り向けば、そこには両腕組んで背を丸め、小さくなってぶるぶる震える三岐・未夜(迷い仔・f00134)の姿が。
「……さ」
「さ?」
「さっっっっむ!!!」
 人見知りにあるまじき、普段なら絶対出さないレベルの大声が、船上に木霊した。
「えっ、さむ、待って? ジンガこっち!寒い!!」
 この寒さ、最早手段を選んではいられない。未夜は慌ててふさふさの黒尻尾をジンガへ伸ばし、暖を取ろうともっふもふのそれに引きずり込む。
「未夜の尻尾に沈む俺様ちゃん。最早万全を超えたぬくさ……ってイケナイイケナイ。俺様ちゃんばっか暖まったってしょうがないじゃん?」
 寒がるもふもふに翻弄されながらも、ジンガは何とか迷彩柄のウェストポーチを開き、スペアの防寒具を取り出した。
「ほらほら。マフラーとコートの予備あるわよ、遠慮せず着な着な。俺様ちゃんで暖取るよりも確実だわよ」
 明らかにポーチそのものより取り出された防寒具の方が大きいが、気にしてはならない。
「ありがとジンガ……うぅ。防寒して来たけど足りなかった……」
 未夜は震えながらも渡されたコートを羽織り、悴む手先でマフラーを巻く。たったそれだけで、体感気温は天地の差。寒冷地に於いて厚着は正義なのだ。
「あ、でもちょっとぶかぶかしてる?」
「あーそっか。あくまで俺様ちゃんの予備なので、そこの所はゴアイキョウじゃんよ」

 追加の防寒具でさらなる寒冷耐性を獲得した未夜。これでもうどれだけ冷えようが凍り付こうがなんのその、
「うぅ、まだまださっむい……」
 とはいかず、結局のところ幾ら着こもうと氷点下の現実は一切揺らぎもしないのだから、寒いものは寒いのだ。
「儚火喚んでぬくぬくしたいけど……その前に」
 まずは船全体(ぜんいん)分の暖を確保するのが先だろう。
 未夜は甲板上に、黄昏色の大きな玄火(ハジメノヒ)を焚いて、それを64等分の火の玉に分け、ぐるりとかつぶし丸の外周を囲う。
 揺らめく炎の熱と光だけを取り出して、しかし火力は広範囲を暖めるため全力で、決して船を燃やしてしまわないように細心の注意を払い、火の玉たちを操縦する。
「とにかくこれ以上寒くならないようにしないと。船員さんたちもしんどいだろうし……」
 人力は無限の動力では無いのだ。体力の消耗を早めるだけの風雪は、可能な限り遮らなくてはならない。
 ……それにしても。自分以外にも炎の扱いに長けた猟兵は複数いるのに、船の温度は思うように上がってくれない。その事に多少引っ掛りを覚えるのだが……まずは船を持たせるのが先決だ。
「あと僕も寒いめっちゃ寒い部屋帰りたい、帰ってるり遥のラーメン食べたい……」
 満を持して召喚した儚火に抱き着いて、何の気なしに吐いた溜め息すら、冷たすぎて嫌になる。どんぶりから立ち上る湯気を、今ほど恋しく思ったことはないかもしれない。

「みーやー。こんな状況でラーメンなんて言うの反則じゃんよー。思わず俺様ちゃんも食べたくなってきちゃったわぁ」
 そんな訳だから、るり遥んトコでラーメンタカるのを最終目標に、本腰入れて頑張るとするじゃんよ、と、ジンガは破けた帆を見上げた。
 幸いマストが折れてる様子はなく、未夜が船を温めるついで氷を溶かしてくれたから、今なら帆を降ろして張り替えることが出来そうだ。
 水夫たちもそう思ったのだろう。早速帆を降ろし終えるが、しかしそこで手を止めてしまっている。やはりこの大揺れの中、帆を張り替えるのは至難の業なのだ。
「お困りの様子なら、俺様ちゃんが手伝うじゃんよ」
 立ち往生する水夫たちへ、ジンガは軽い調子で声を掛けた。
「いいんですかい?」
「いいんですよォ。ほら見てこのツノ。一応、俺様ちゃんも力自慢種族・羅刹の端くれ。ついでにサバイバルとかクライミングもそこそこイケちゃう、死にたくないパワーに溢れたイケメンよ?」
 にひひ、いつも通りの軽い笑み。
 それじゃあよろしく頼んます、と、水夫から船倉の位置を聞いたジンガは、早速四方に動く船の揺れなど気にも留めず駆け抜けて、大きな予備帆をマストの下まで引っ張り出してくる。
 水夫達が帆を交換している間、軽業師もかくやと言う速度でマストを上り、細かな損傷がないか一目確認し、
「おおー凄い絶景……って、結局雪と氷しか見えないわ」
 特に見どころも無かったので飛び降りて地上に帰還した。そうして風の弱まった頃合いを見計らって再び帆を上げる。のだが、これが中々に重労働で、ジンガを含む羅刹の水夫達が束になって掛かっても、再び帆を掲げ終えた頃合いには、元気なのはジンガのみ、他の水夫たちはへとへとに草臥れた有様だった。

「航路(たび)はまだまだここからじゃん? ほら、水夫ちゃん達もゲンキだしてよ」
 ジンガの言葉に、しかし水夫達はへぇ、と空返事。一仕事終えて、完全に気が抜けてしまったのだろう。これからも続くであろう災難を考えたのなら、それも当然なのかもしれない。
 今、彼らに必要なのはきっと、その背を押してくれる声援(エール)だ。
「えー……、あー……。うーん……あーあ、こっそり飼ってるのバレたくなかったんだけど、しゃーないか」
 水夫達を見かねたジンガは、暫しの葛藤の末、
「しらはまちゃん、ごめんちょっと来てー!」
 観念したようにその名を読んだ。
「……へ?」
 ジンガと付き合いの長いの未夜ですら、初めて聴いたその名前。きょとんとする未夜をよそに、ジンガのすぐそば、突如甲板に現れた光は収束し、そして、寒さも空気も全く読まず唐突に現れた、その存在こそこの状況を救うに相応しい救世主――。
「――えーんとりー!」
「あれ。カピバラさん……!?」
 かどうかはよくわからないカピバラだった。
「……あ。あー、なるほどそっか立ち入り禁止のお風呂場……飼ってたのか……」
 未夜がアルダワ旧校舎の依頼、そしてそれから帰ってきて以降の彼の行動をふと振り返ってみれば、幾つか思い当たるフシがある。
 今まで知らない風を装いつつ、ジンガはちゃっかりカピバラ(精霊)と契約していたのだ。
「さァさそれじゃついでにアルダワのオトモダチも呼んできて!」
「かーむおーん!」
 カピバラ――しらはまちゃんが大声で天にそう呼び掛けると、無意味に眩い光と共に、来るわ来るわ50以上のカピバラの群れ。
「びゅうびゅう」
「ゆらゆら」
「ごろごろ」
「ざぶん」
「どんぶらこ」
「ねぇジンガ。彼らの鳴き声を繋げると何だか未知のストーリーが展開されてない?」
 相変わらずマイペースかつ自由なげっ歯類(精霊)達だった。
 未夜がカピバラ達に触れてみると仄かにしっとり温かい。恐らく召喚されるギリギリまで温泉に入っていたものと思われる。
「ハーイ、皆揃ったところで~カピバラちゃん達――せーのっ!」
「やーれん!」
「そーらん!」
「はいっはいっ!」

 ジンガ指揮の元、ボイパ混じりにカピバラ達が謡う。
 そして懐かしき故郷(エンパイア)の船唄を聴いた水夫たちは熱く――再び、立ち上がるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
あははっ、こりゃすごいね
セイレーンの私でも身体の芯から凍りそうだぞ、なぁんて
この私が寒さなんぞに負ける訳ないだろ?
例え凍り付いていようが、大海原は私の遊び場さ

さぁて、船暮らしは慣れてるからね
私はゼーヴィントと一緒に船の氷取りの手伝いをして来るからさ、お前は道行きの氷を砕いて来てくれるかクヴェレ
嗚呼、良い子だね

UCでクヴェレを船前方へ、波を起こさないように気を付けさせながら大きめの流氷は砕いて溶かして小さく
海竜に波を起こすな、なんて朝飯前さ
うちのクヴェレは賢いから、安心して任せておくれよ

今更帰りたいだの情けないこと言ってんじゃないよ、海の男だろうがお前らは
私たち猟兵を信じな、必ず連れて行ってやる



「あははっ、こりゃすごいね!」
 終わりの見えぬ災禍(あらし)の中心で、しかしそれすら楽しむように、ルクス・カンタレッラ(青の果て・f26220)は凛然と笑う。
 この程度の風雪大揺れなど、自分にとっては精々微風・漣程度にすぎぬと甲板へ立つ彼女の振舞に、畏れは惑いの色は無く、氷海を見張るコーンフラワーブルーの瞳には、未知を求める冒険心が燻ぶっていた。
「けれども、まあ、中々やんちゃな海域だ。セイレーンの私でも流石に身体の芯から凍りそうだぞ……なぁんて」
 言いながら、ルクスは躊躇なく船外にその身を放り出し、
 そのままざぶんと、無防備に海へ落ちて行った。
 その『身投げ』があまりにも自然かつ一瞬に行われた物だから、水夫たちは思わず作業の手を止めて、ルクスの落ちた水面を覗き込む。
「はは。悪いね。心配させてしまったかい? けど、この私が寒さなんぞに負ける訳ないだろ?」
 だが、当のルクスは全く平気な様子で極寒の海を泳ぐ。その速度は海氷への対応で右往左往するかつぶし丸とは比較にならない。
 そのまま海を深く潜航すれば、海上(うえ)とは違う景色が見えてくる。
 未知なる外洋と雖も、海の中層以下は穏やかなもので、種々の魚が荒天など知らぬとばかり暢気に回遊しており、荒れているのはやはり海の上層。特にかつぶし丸の周辺は、異常気象の一言では片付けられぬほど荒れ狂っており、まるで水槽に浮かべた小船の模型を、第三者(かみ)の視点で苛め抜いているかのよう。
(「やっぱり何かがこっちを見ているんだろうね。だったら、いいさ。そんなに見たけりゃ目鼻のすぐ先まで船を持っていってやろう」)
 深層より、船上を目指し加速して、高く水面に飛び出たと同時、ルクスは船の前方を遮る流氷目掛けランスを擲つ。見事流氷を穿ったランスは直後本来の姿――深い青の鱗と銀の瞳を持つ小さな海竜――を取り戻す。
「私はゼーヴィントと一緒に船の氷取りの手伝いをして来るからさ、お前は道行きの氷を砕いて来てくれるか、『クヴェレ』」
 船首に復帰したルクス。吹雪越し、青(め)と銀(め)が交わり、クヴェレは深く頷いた。
「嗚呼、良い子だね」
 その言葉に歓喜するように、クヴェレは体は巨大化させると、一息に流氷を粉砕する。本来ならば衝撃に、大波の一つも立つところだが、クヴェレの仕事は正確で、忠実だ。ルクスがこれ以上波を立たせぬことを望むなら、クヴェレは朝飯前にそれを熟す。
「アスモデウスもつけておこう。船首(ふね)より前は任せたよ」
 海竜の奏でる了承の咆哮を聴いた後、ルクスは船縁に張り付いた氷を槍の形のゼーヴィントで払い落とし、船首を後にした。

 船尾に張り付いた氷を落としている最中、手慣れたもんですねェと水夫たちがルクスに話しかけてくる。
「まぁ、船暮らしは慣れてるからね。そっちだってそうだろ?」
 ルクスがそう返すと、水夫たちはいやはや如何にも陸が恋しくて、と覇気の無い顔で覇気の無い言葉を漏らす。
 彼らは先程まで熱く動いていた水夫達と交代した人員なのだろう。怖気づいているところを無理やり引っ張り出されでもしたのか、他の水夫達と比して、どうにもやる気がない様子。
 そんな腑抜けの水夫たちを前に、竜の形へ戻ったゼーヴィント――幼き暴君は、呆れと怒りをはらんだ翠の瞳で睨み、唸る。たじろぐ水夫達。
 そんな水夫を脅すゼーヴィントを強引に後ろへ引っ込めたルクスは、しかし暴君から彼らを守ったわけでは無く、
「……今更帰りたいだの情けないこと言ってんじゃないよ。外洋に出たいって、自分から志願したんだろ? 海の男だろうがお前らは」 
 なによりも、自分の腕に自信を持て、と水夫たちを一喝する。
 そしてお前らにはそしてお前らには、世界を救った英雄たちがついてるだろう、と。

「だから。私たち猟兵を信じな。光の果てのその『先』まで、必ず連れて行ってやる」

●小休止
 それまで白かった闇が、やがて黒色に入れ替わる。
 きっと分厚い雲の向こうで、外洋(ここ)へ侵入してから未だ一度も見ぬ太陽が、また知らずの内に沈んだのだ。
 夜が来てしばらく、揺れも吹雪も幾分和らぎ、猟兵達の助けを受けたかつぶし丸は、どうにかこうにか形を保ったまま、紫色の光を辿る。
「何とか峠は越えたのか、それとも嵐の前の静けさか。俺達にゃあどっちなのか皆目見当もつきませんが、今の内だ。センセイ方は休んどいてくだせぇ」
 今度は俺達が格好つける番ですぜ、と船長は笑う。
「なぁに心配ご無用! いざとなったらセンセイ方の後ろに即隠れる準備は万全ですからね! それに、この程度の波御し切れないようじゃ、海の男の名折れってモンでさぁ!」
 ……船長の言葉に水夫たちも笑いながら同調する。

 どうやら道ははまだ長い。
 今は水夫達に任せて暫し休息するとしよう。
 ――多少和らぎはしたが、それでもまだまだ揺れがひどいのは……我慢のしどころだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『水晶宮からの使者』

POW   :    サヨナラ。
自身に【望みを吸い増殖した怪火】をまとい、高速移動と【檻を出た者のトラウマ投影と夢の欠片】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    夢占い
小さな【浮遊する幻影の怪火】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【鍵の無い檻。望みを何でも投影する幻影空間】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    海火垂る
【細波の記憶を染めた青の怪火】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※次回冒頭文更新3月29日(日)予定。
●水夫の見た夢
 かつぶし丸が外洋を進んで七日目になったばかりの真夜中。
 揺れも吹雪も変わらず酷いがこの程度、と皆慣れ切った頃合いに、突如、進路を指し示す紫色の光より、無数の海月――誰が呼んだか、『水晶宮からの使者』達が現れ出ずる。
「ああん? なんだ、クラゲの火の玉か、脅かしやがって。こんなもん、近付きさえしなけりゃそのうち勝手に消え――」
 警戒を解き、安堵する船長。『何処にでも現れるが、近づかなければ勝手に消える』……熟練の船乗りならば、海月達の性質は良く知っている。海上で遭遇することなどそう珍しくない。
 慌てず、騒がず、ただ知らぬ振りを決め込んで、通り過ぎれば害は無い。そのルールさえ知っていれば、何より対処の容易いオブリビオン。故に、船長の反応は正しい――此処が列島すぐ近くの海であったならば。
 闇夜に揺蕩う海月達は、かつぶし丸を取り囲むと怪火を纏い、刹那。不意に船体が波ならぬ何かによって大きく揺れ、一切前に進めなくなった。
「な……んだぁ? 何が起こった!?」
「船長、蛸だ! 船尾に大蛸の脚が絡みついて船の動きを止めてやがる!」
「ちっ! 鉈なりなんなりでさっさと切り落としちまえ!」
 ――そうして幕を開けるのは、あやかし達の百鬼夜行。
「船長駄目だ大蛸だけじゃねぇ! 船の右舷(みぎ)と左舷(ひだり)にゃ数え切れねぇくらい柄杓を持った手が伸びて、船に海水(みず)を注いで止まらねぇ!」
「樽も桶も食器も鍋も総動員で全部掻き出せ! 船の中で溺れたく無けりゃあな!」
「この……どっからか聴こえる奇麗な歌声……聴き続けたらおかしくなっちまいそうだ……!」
「てめぇらも歌え! どうしようもない音痴な歌声で、奇麗な歌声掻き消しちまえ!」
「何だこりゃあ……氷山(やま)よりデカい海坊主共が船の前に顔を出して……!」
「馬鹿野郎! この船が何なのか忘れてんじゃねぇ! 砲弾なら腐るほどあるんだありったけ大砲ぶっぱなせ!」
 青の怪火が燃えて煌く程、あやかしたちもまた無数に投影され――それは最早、水夫たちが知る海月の動きではなかった。
 本来、近づかなければ勝手に消える筈の怪火達は明確に、意思を持って、此方を取り込もうと迫り来る。
「畜生め……このあやかしどもは、こいつらに取り殺された船乗りたちの、『とらうま』ってやつでしょう。虚か実かなんて関係ねぇ。狭っ苦しい船に乗ってぽつねんと大海原を流離えば、嫌が応にもそういうものは見えちまう」
 こいつら、命と引き換えに極楽を見せてくれるって聞きやす。もしも遭難して目の前にこいつらが現れたら……俺達だって触れずにいられる自信はねぇ、と船長は叫ぶ。

「まして今回は向こうから近付いてきてるんだ。センセイ方も気を付けておくんなせぇ。何せこんな寒い夜に見る夢は、格別心地が良いでしょうから……!」
 赤子を抱く母が如く、全てを許す菩薩が如く。柔く揺らめく怪火達を倒さなければ……先に進む事は叶わない。
ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

綺麗な、光。
水夫さん落ち着いて!猟兵の皆がいる、から……
ガラス蜘蛛・白銀の布を翻し
『しっぽの針』に指図しようと敵を見据えた瞬間、視界が揺れる

さむい、寒いわ
お腹もすいた。ああ、帰らなきゃ

夕日差す、古く傾いた屋根裏
燻された木の香りが好きだった
研究所から逃げた私を拾ったお人好し
名前は教えてくれなかったわ

だからいい子、えらい子って呼んだらね
怒るのよ

それはいい言葉だけど、こわい言葉だって。
あの甘くてしょっぱい卵のトースト
一緒に食べたいわ。ハムとチーズも添えて

異常を察した針たちが
私の目を覚ましてくれるはず

電撃を掌に集め、この寂しさを敵にぶつけるわ
すてきな夢を有難う
今会えぬあなた、幸せを信じてる



 夜空に響く幻怪なる歌声。
 大蛸の脚に締め付けられた船体(ふね)の軋む音。
 甲板に注がれた海水(みず)を踏み抜く水夫たちの跫。
 音。音。音。
 あらゆる怪異が交差し、奏でられるのは焦燥と言う名の不協和音。
 見知らぬ誰かのトラウマが、水夫達に新たな傷(トラウマ)を植え付けて、怖気を喚起させるのだ。
 彼らにとってそれは、大波や氷と言った物理的な障害よりも恐ろしく、それでも怪火に負けじと手を動かし、大声で張り叫ぶ。が、船の上は既に狂乱状態に近しい。
「水夫さん達落ち着いて! 猟兵の皆がいる、から……!」
 ジャムがなんとか水夫たちを宥めようと呼び掛けるものの、混乱は止まず、やはり元凶を断つしかないのだろう。
「……待ってて。今……!?」
 故に、と――その瞬間まで、ジャムは海月を倒すつもりだった。
 水蜘蛛の泡ごとき白銀の薄布(クロス)を翻し、『しっぽの針』達へ指示しようと敵を見据えたその刹那、ぐらり、視界が揺れる。
 何が起こったか。状況を確認しようとしきりに瞬いていた瞼はしかし、抗いようもなく重くなり、
(「綺麗な、光」)
 ジャムの意識を現実(よる)から切り離すように、幻影怪火は煌々と輝いて――。

 不意に、体を揺すられた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 大きな伸びをして、目をこすり、周囲を見回せば、そこは古く傾いた屋根裏。いつもの場所。見知った『その子』。
 差し込むあたたかな夕日。屋根裏に満ちる燻された木の香りが心地良い。
 うなされていたようだけれど、と、『その子』は心配そうに起き抜けの顔を覗き込んでくる。研究所から逃げたジャムを拾った、お人よしの、『その子』。ついさっき――眠る前だって一緒にいた筈なのに、なぜだか酷く懐かしく感じる。
 大丈夫、とジャムは西陽の中で微笑する。少し嫌な夢をみただけだから、と。
 怪物だらけの寒い寒い夜の海を行く夢。
 とても怖くて寂しかった。お腹が空いていたから、そんな夢を見てしまったのかしら、冗談めかしてジャムがそう言うと、『その子』は笑んで、すぐに夕食を用意してくれた。
 甘くてしょっぱい卵のトーストに、ハムとチーズも添えて。隠し味には『その子』との何気ない会話を少々。
 そろそろ名前を教えてよ。ジャムがそうせがんでも、『その子』はなんだかんだとはぐらかす。
 だったらこっちで好きに呼ぶわ。いい子がいい? えらい子がいい?
 その呼称には一片のからかいもなく、『その子』への純粋な感謝が込められたもの。
 けれどいい子と呼んでも、えらい子と呼んでも、何故だか『その子』は怒るのだ。
 曰く、それはいい言葉だけど、こわい言葉でもあると。
 それは何故? ジャムはその理由を既に知っていた気もしたし、全く知らないような気もした。
 どちらにせよ……もっと話がしたいがしたいと思った。他愛ない遣り取りを続けるだけでいい。このままずっとここに居たいと思った。
 しかし。トーストを頬張る寸前、『針』の一つがジャムの腕をちくりと刺す。
 次の瞬間。口に運んだトーストが、跡形もなく消えて失せ、陽は完全に落ちて夜。白雪が屋根裏中に吹き付けて、木の香りも潮の香りに置き換わる。
 ――ああ、そうか。ジャムは思い出す。ここは『檻』なのだ。蠱惑的で甘やかだが、逃げ出したはずの研究所と同じ『檻』。
 寒く、餓えて、真っ暗な夜の海。そんな悪い夢こそが、本当の現実で――。
 ……帰らなきゃ。ジャムがそう言うと、『その子』はいっておいで、と穏やかに返す。
 他の幻影(のぞみ)は砕けたのに、『その子』だけは何時までも優しくて。
 ……それでも。

「すてきな夢を有難う」
 果たして。鍵無き檻から脱出したジャムは暗がりを暴くように両掌へ電流を収束する。
 幻影を見せた海月達に憎悪は無い。怒りも無い。あるのはただ――。
 解放された電撃は空を裂いて雪を撃ち、あやかしから妖火に駆け抜けその全てを灼き切った。

「……今会えぬあなた、幸せを信じてる」
 あるのはただ、一抹の寂寥感。
 しんしんと、ジャムの零したその祈りは、一瞬の雷光と共に――夜闇へ溶けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

納・正純
夕立/f14904

前は任せた、夕立。見たものが虚か実かなんて関係ねェだろ?
大事なのは――先に手足を出したのは、あいつらだってコトだ。やり返してやろうぜ

・方針
船の高所に陣取り、接近を図る敵から順に夕立に斬り落としてもらう

敵が夕立へUCを発動したのを確認したら、こちらもUC発動
夕立を狙い撃ち、視覚を奪うことでトラウマの投影を打ち破る

その後は夕立の仕事のサポートに徹する

・台詞
トラウマってのは『俺たちの後ろで終わった過去』のことさ。俺たちが目指してるのは、変えようのないノスタルジーか?
先だけを見な、夕立。知りたいことはいつだって先にしかねえ。後ろを見る目は俺が撃ってやる。先に進もうぜ、この船とよ


矢来・夕立
手帳さん/f01867

端的に言うととても不愉快な敵です。
あれの群れにオレひとりを、
しかも真正面から向かわせるって言うんですか。最低ですね。

【竜檀】。刀であれ蹴りであれ、当たれば斬れます。
船に近いものから殺す。

トラウマってほど大したものじゃないです。
けど、積極的に思い出したい記憶でもない。
信を置いた相手に背後から刺された、なんてのは。

…思い出すより早く遮断してくれましたね。
また身内に撃たれるとは思いませんでしたけど。
目が見えないくらい、大したことじゃないです。
弾丸や環境の音を頼りに斬り続ける。

これは仕事であり、仕事ではない。
自分の意志でここまで来たんです。
「知りたい」と思って、この海へ。



「……まぁ、こうなるだろうな」
 前後左右、天地の重力(くべつ)すら無く、ただ真っ暗で何も無い空間。
 怪火に案内された『鍵の無い檻』の中で、正純は一人落胆の息を吐き出した。
 正純に望みがあるとするならば、それは何より『未知との邂逅』。正純自身の脳髄にすら刻まれていないモノを、海月達がどう読み取ってどう魅せてくれるのか若干興味もあったが、結局此方の望み(オーダー)は、彼らの手に余る類の物らしい。夢占いも儚いものだ。
 何も提供されない以上、此処に留まっていても仕様がない。前か上か、存在自体が覚束ない空間へ、L.E.A.K.を一発撃ちこんで、轟音と共に現実へ帰還する。
「おおい夕立、生きてるか?」
「死んでます」
「生きてるじゃないか」
 現実は、相変わらずの雪と揺れ。正純は甲板より更に高所、楼閣の上へ陣取って、自身と、夕立と、そして敵の位置を把握した。
「前は任せた、夕立。見たものが虚か実かなんて関係ねェだろ? 大事なのは――」
 言いながら、拳銃で柄杓の手を撃ち抜き、空気銃で蛸足一本を砕き飛ばす。
「先に手なり足なりを出したのは、あいつらだってコトだ。やり返してやろうぜ」
「――そうですね。端的に言うととても不愉快な敵です。なのでやり返すことには全面的に賛成しますが……」
 夕立は『災厄』片手、更に脇差雷花を引き抜いて、無数のあやかしと怪火を見据える。
「一人高い場所によじ登って、あれの群れにオレひとりを、しかも真正面から向かわせるって言うんですか。あれらに勝るとも劣らない位最低ですね。失望しました」
「なんてこった唐突に信頼度最底辺か。だがまぁ、そうした方が効率は良いだろう?」
「ええ。でしょうね」
 手始めに。夕立は海から左舷へ伸びる柄杓たちを、船首(はし)から船尾(はし)まで駆け抜け一刀のもとに竜檀し、ついで周囲を浮遊する幻影怪火達も真っ二つに蹴り殺す。
 檻の中に入る気もしない怪火達の扱いなどその程度。正純が怪火に入っていた頃合いに、夕立もまた怪火に触れてみたが、然したる感動があった訳でもなく、鍵の無い檻からの脱獄も容易すぎて逆に罠を疑うレベルだった。いずれにせよ、勝手に夢を占われる道理もない。
「寄らば斬るという奴です。まぁ……」
 己の危機を察したか、怪火を引っ込め、船上から震えて離脱しようとする海月へ、夕立は殺戮刃物を突き立てる。
「離れるのなら、こっちから近付いて斬るのみですが」
 二つに分かれる海の月。それでも未だ、船を囲う揺らめきは絶えず、青い月からは続々と、何処かの誰かのトラウマたちが生れ落ちる。
 ――トラウマ。
 何をいまさら。夕立は自嘲を隠さず刃を振るう。
 撃った斬った、騙し出し抜きの世界に長く接する身としては、最早並大抵の惨劇に動じることなどありはしない。ありはしないが、ただ一点。
 ……信を置いた相手に背後から刺された、あの記憶。
 積極的に思い出したいものでもないのに、トラウマと言うほど大した記憶(もの)でも無いのに、それでも一瞬脳裡を掠めたのは、怪異(トラウマ)達を相手にしているが故か。
 夕立と相対する海月達が、怪火を纏う。嫌な予感がした。檻の中へ入ったのは一瞬。だがその一瞬で、『それ』読み込み、共有されたのか。
 羽織越し、制服越し、恐ろしいほど背が冷たい。
 ――しかし。次の瞬刻夕立の背後を襲ったものは、『それ』では無かった。
 正純がスティムピストルより放った注射器弾。銃の名前とは裏腹、注射器内に満ちる薬液が、夕立の視覚を強制的に奪う。
 互換病理。単純な話だ。見えなければ、視覚的恐怖など投影しようもない。
「……本格的に思い出すより早く遮断してくれましたね。また身内に撃たれるとは思いませんでしたけど」
 夕立は光を失った赤茶の瞳を、正純へ向けた。
「らしくも無いな、夕立。トラウマってのは『俺たちの後ろで終わった過去』のことさ。俺たちが目指してるのは、変えようのないノスタルジーか?」
 好奇に満ちる金の瞳で、正純は夕立に返す。
「……今日に限って随分、年長者めいたことを言うじゃないですか」
「ああ。さっき失った信頼分くらいは早いトコ取り戻さないとな」
 正純は不敵に笑うと、黒色のリボルバーで、夕立の『それ』を投影できず不完全燃焼状態で漂う海月を撃ち落す。
「先だけを見な、夕立。知りたいことはいつだって先にしかねえ」
「一言一句正論ですが……こっちの視覚を閉じて置いて、それを言うのは暴論の類でしょう。けれど……」
 両手の先にはそれぞれ握り締めた刃の感覚。目が見えない程度、夕立にとって大した問題ではない。
 波飛沫。吹き荒ぶ風。猟兵と、水夫たちの喧騒。
 それらの裏側へ、自身の存在を紛れ込ませ、気配を消す。
「これは仕事であり、仕事ではない。自分の意志でここまで来たんです」
 失った視覚で、見据えるべきはただ一つ。
「『知りたい』と思って、この海へ。だから、邪魔はさせません」
 夕立は、何不自由なく思うさま、海月達を斬り伏せる。
「それでいい。後ろを見る目は俺が撃ってやる。先に進もうぜ、この船とよ」
 夕立の変わらぬ立ち回りを確かめた正純は、海火垂るを引き連れる海月目掛け記憶消去銃を狙い撃つ。折角夕立が真二つにしたものを、再びくっつけられては徒労も徒労だ。
 トラウマ、夢の欠片、そして海火垂る。その根源は全て、何かしらの記憶だ。ならばそれらを奪い去ってしまえばどうなるか。
 燃料が無ければ燃え盛る事などできはしない。案の定、記憶消去銃を撃けた海月達は熱を失いただ漂うだけのオブジェに過ぎず。
 今一度、何かに縋りつこうと実体すらない幻影の怪火を焚くものの、夕立の斬撃がそれを許す筈もなく。

 本体が切られれば――幻影は幻影のまま淡く消え失せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六島・椋
【骸と羅刹】
トラウマも夢も、自分にはあまり心当たりはないが
エスタはどうだ

燃える・極楽
つまりエスタの同類ということか
おや、見ないうちに縮んだな相棒(その辺の火に話しかける)

しかし、ふむ(怪火に触れ)
……チェンジ(脱出)

……極楽と言うからには、
さぞ素晴らしい骨に会えるのだろうと思ったが

形はあるが、積み重ねた時がない
形はなあ、美しいんだがなあ……
まあそもそも、入ったままのつもりはなかったが
人形たちや博物館の骨(かれ)らを放るつもりはない

さて、怪火が原因というなら、
漂わせた『揺曳』で覆い、消してやろう(【範囲攻撃】)
熱いかもしれないし、
靄は【激痛耐性】で痛覚を鈍らせておく

ところで海月は美味いんだろうか


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】

トラウマはともかく、夢にゃ溢れてるぜ
獄卒辞めて自由の身になるってな

いや地獄と極楽って似ても似つかねぇわ
おいこら相棒、俺が縮んだらお前にやる骨も減るがそれでも良いか
いやなに触ってんだ!

おかえり相棒、黄泉帰ったとこ悪ぃが仕事してくれや

俺ぁ面倒見た連中に手ぇ出されんのがいっとう我慢ならねぇからよ
使い渋ってた技能も解放
鴉衣を紡いで纏い【空中浮遊】【空中戦】
宙を踏んで走りつつ『群青業火』発動
業火を噴き上げ【範囲攻撃】
【怪力】でフリントを振るって【なぎ払い】【吹き飛ばし】
怪火を業火で呑んで、クラゲを掻き回してやらぁ

食えるクラゲもあるにゃあるが、こいつらはどうだかな



「トラウマに夢、か……」
 激動の船上で、あやかし達を遠目に眺めつつ、椋は骨格人形・オボロに体の支えを任せると、顎に手を当て、暫し考え込む。
「――やはり。自分にはあまり心当たりはないが……エスタはどうだ」
「トラウマはともかく、夢にゃ溢れてるぜ」
 エスタシュの背に蠢く荊蔓が、剥き出しの腕を傷つけ、そこから迸る地獄が長着を紡ぐ。
 完成した長着――鴉衣を纏ったエスタシュが、己の夢を語ろうとするその姿は、極寒の世界に在って何より熱く――。
「ほう。それは初耳。大きな夢なのかささやかな夢なのか見当もつかないが」
「聞いて驚けよ。俺の夢はな、獄卒辞めて自由の身になる事さ」
 エスタシュの大それた夢に、椋は指先を顎から額に移動させ、また暫し思案する。
「……いや。やめたければやめればいいんじゃないか」
「ふ。叶わないから夢って奴は尊いんだぜ……?」
 下手をするとオボロの眼窩より深くて黒(ブラック)そうな案件だったので、椋はあまりそこのところ触れない事にした。
「……まあいい。本題は怪火達だ。一つ一つは小粒だが、ここまで揃うと中々壮観じゃないか」
 椋は改めて状況を確認する。
 かつぶし丸を囲い照らす怪火達。優雅に漂う光源が、大混乱の現実を、嫌と言う程見せつけてくるのだから、成程確かに魔がさして、怪火の中に誘われてしまう事もあるのかもしれない。
「ふむ。燃える・極楽……なんてことだ。気付いてしまった。要素だけ抜き出すと見事に相棒と丸被りじゃないか。つまり……エスタの同類ということになるな」
「ならねぇーよ。地獄と極楽って似ても似つかねぇわ」
「ですなァ。最終的に人を取り殺すんならやはり向こうは地獄の炎。船をあっためてくれたセンセイの極楽の炎には及びもしませんや」
「いやだから逆だって」
「おや、しばらく見ないうちに随分縮んだな相棒」
「おいこら相棒!」
 急に水夫が会話に参加してきたせいで突っ込みが追いつかない。
 大蛸が揺する船の上、エスタシュはどうにかその辺の火に話しかける椋をひっ捕まえて息を整え、
「俺が縮んだらお前にやる骨も減るが……それでも良いのか?」
「ん、それは困る。せめて毎日きちんと一本は牛乳を飲んでほしい」
「むしろこれ以上大きくなれってか!?」
「まぁ、良いから落ち着くんだコンロック」
「最早誰だよ!?」
 椋はしゃあしゃあ、エスタシュを宥めると、
「しかし、ふむ……よっと」
「いやなに触ってんだ!」
 揺らめく怪火に視線を戻し、彼の注意を振り切って、おもむろ、それに触れた。

 気が付けば、ダークセイヴァーらしき墓地の真中。空に雷鳴轟くたび、墓の中から白骨が蘇り、椋を歓待する。
 一見すると、それらはとても美しい。形状(かたち)だけなら満点をくれてやってもいい。
 しかし、致命的に積み重ねた時が無い。それでは唯のカルシウムの塊だ。故に。その形と構成する物質が、骨格人形たちと百パーセント同じだとしても、彼らは骨(かれ)らになり得ない。
「形はなあ、美しいんだがなあ……」
 至極残念そうにつぶやきながら椋は墓地を後にする。
 元より入り浸るつもりも無かったし、現実の人形たちや博物館の骨らを捨てて惚けるつもりもない。
 つまり、
「……チェンジ」
 である。

「おう、おかえり相棒、黄泉帰ったとこ悪ぃが仕事してくれや」
 フリントを無造作に振り回して周囲の海月達を叩き落とし、粗方周囲を綺麗に掃いたエスタシュが、そろそろ打って出ちまおうぜ、と現実へ戻ってきたばかりの椋を急かす。
「ああ、わかった」
「話が早くて助かるぜ。俺ぁ、面倒見た連中に手ぇ出されんのがいっとう我慢ならねぇからよ……!」
 鴉衣を雪夜にはためかせ、エスタシュは甲板上から助走をつけて、吹雪舞う宙空へと跳躍する。
 眼下に氷海あろうとも、そのまま宙を踏みしめ疾走し、十把一絡げに海坊主を叩き潰した後、全身に、群青色の業火(じごく)を纏う。
「出し渋りは無しだ。てめぇらを潰すためなら、空でも何でも跳ねてやらぁ!」
 無造作に放り投げた銘酒・羅刹殺しをフリントで叩き割れば、鉄塊剣は地獄の罰を執行するが如き形に姿を変える。
 一度剣を振るえば海月達を薙ぎ払い、ニ振り目には遍く怪異を吹き飛ばし、三度振るったその瞬間、羅刹殺しを浴びた剣はそれでも足りぬと怪火を求め、雪も氷も、怪異も海月も――群青業火が全てを呑んだ。

「跳んでようが座っていようが、相も変わらず派手な炎だ」
 けれどこちらにとっては好都合。あれを囮に、静かに動き出すとしよう、と密か竜体骨格人形・ナガレの背に乗って出航した椋の姿は一瞬滲み、朧に霞む。
 そうして自身の内より現れた、揺曳する黒い靄を夜の闇に漂わせ、怪火を燃やすことに余念のない海月の、そっと、背後から覆い被さる。
 五感を持つ靄。海月を包んだ後の動きから察するに、あの怪火自体は見た目ほど熱くないのだろう。闇より暗いその色を、照らし払うだけの力もなく、線香花火が燃え尽きるように、やがて光が一つ消えた。
「もう少し広く、もう少し遠く。拡散するんだ。エスタと張り合う訳じゃないが、一息に、呑み込んでしまおう」
 椋の言葉に頷くように、形無き靄は、その体を大きく広げ、知覚さえ及ばぬうちに海月を絡め取り……静か、炎を吹き消していく。

「しかし海月か……美味いんだろうか」
 靄が海月を飲み込むさまを見てるうち、椋はふと呟いた
「さてな。食えるクラゲもあるにゃあるが、こいつらはどうだかな。態々食おうってヤツもそういないだろ……居ないよな?」
 そういや何時だったか迷宮攻略中にキノコ鍋つついた奴がいたな、とエスタシュは思い出す。
 絶対に居ないと断言できないところが、既に数万人いる猟兵の恐ろしい所だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

叢雲・源次
【煉鴉】

船乗り達の無念がオブリビオンとなったか…その境遇故にただ斬り捨てるのはいささか忍びないが…こちらとて命を賭して航路を進んでいる
過去の残滓に囚われている余裕はなく……是非もあるまい

グウェンドリン、お前は少々『力』というものを振るい過ぎている傾向にある。
それではお前の内に巣くうモノに、いずれ食われる可能性を高めるだけだ…力というのものはただ振るえば良いだけでは無い…

(右目から蒼き煉獄の炎が溢れたと思えば一瞬で広がり怪火も海水も一瞬で吹き飛ばし、同時に一気に踏み込み神速の抜刀にてオブリビオンを斬り捨てんとする)

(静かに刀を鞘に納めながら)
「御してこその力…それを『技』と呼ぶ…覚えておけ。」


グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
(漂う海の硝子細工達を眺めて)
……船乗り、の、心残り……なんだね
いつも、なら……灯りと、慰霊で、送るけど。ごめんね、今は、急ぎだから

(源次の言葉に頷き)
うん。力任せ、の、攻撃……しか、分からない
……全開で、戦う度、少しずつ、私の中の……の、何かが、『私』を、蝕むの、分かってた
(周囲に舞い散る、味方に力を齎す銀の花弁……これを顕現させる力もまた、身体に埋め込まれたモノに由来する。動けない分、敵と距離を取りつつ、腰の翼から引き抜いたEbony Featherを次々に投げて援護射撃)

(鮮やかなまでの抜刀を目の当たりにして)
……すごい

御してこその、力……私も、身につけなきゃ



 幾度消し飛ばされようと、あやかしたちの宴は終わらない。
 水夫たちの息が上がった隙を突き、柄杓は船に海水(みず)を注ぎ込み、蛸足八つを如何にか切り離したと思ったら、今度は倍の数の脚がかつぶし丸を締め付ける。
 清らか、しかし怪奇なる歌声は次第に大きくなり、海坊主たちは遂に半身を起こしその巨腕を船へ差し向けた。
「船乗り達の無念がオブリビオンに取り込まれたか……」
 源次が空を見上げれば、其処には海坊主の大きな掌。船の砲撃を浴びた都度揺らげども、一切止まらず、怪火の光さえ遮って、遂には船上へ大きな影を落とす。
「その境遇故にただ斬り捨てるのはいささか忍びないが……こちらとて命を賭して航路を進んでいる」
 対神打刀『灰ノ災厄』。源次は静か左の逆手でその柄に触れ、海坊主の掌がまさに船を掴もうとした瞬間、刹那の抜刀でそれを切断する。
「過去の残滓に囚われている余裕はなく……ならば、是非もあるまい」
 此方を悪く思うのならば、それを甘んじて受け入れよう。源次の刀は迷いなく、あやかし達を斬り伏せる。
「……船乗り、の、心残り……なんだね」
 暗闇をあてどもなく漂う海の硝子細工達に向けるグウェンドリンの眼差しは、憐憫。
「いつも、なら……灯りと、慰霊で、送るけど。ごめんね、今は、急ぎだから」
 せめて扱う武器達に、ささやかな浄化の属性(いのり)を籠めて。グウェンドリンは白雪に映える濡れ羽の黒翼(ブレード)を広げ、大振りにあやかし達を打ち祓う。
 ……或いは、それは捕食行動と呼んだ方がいいのかもしれない。一振り怪異を屠(たべ)る度、しかし動いた分だけ何かが餓え、その餓えを満たすために更なる『力』を行使する。
 そんなグウェンドリンの闘い方を見、その繰り返しの先にあるものを案じた源次は一旦、刀を鞘に戻し、戦意を解いて彼女に語り掛ける。
「グウェンドリン、お前は少々『力』というものを振るい過ぎている傾向にある」
「うん。力任せ、の、攻撃……しか、分からない」
 ばさり。周囲の時が止まったように、翼の羽搏きだけが二人の耳を打つ。
「それではお前の内に巣くうモノに、いずれ食われる可能性を高めるだけだ……『力』というのものはただ振るえば良いだけでは無い……」
 彼女の両親が、彼女に移植したと言う刻印とUDCの正体を源次が知る術はない。
 だが、UDCとはどのような性質の存在(モノ)なのか、それらと数え切れぬほど刃を交えてきた源次は良く知っている。
「……。……全開で、戦う度、少しずつ、私の中の……の、何かが、『私』を、蝕むの、分かってた」
 グウェンドリンを包む黒色の虚数物質。羽根や蝶の形をとっていたそれは、吹雪が一瞬彼女の姿を遮ったその間隙、銀色の花弁へ変じ、無数に分かれ、船上を舞い飛ぶ。
 それは自身の機動力(うごき)と防御力(まもり)を代償に、味方を強化するもの。
 これを顕現させる『力』もまた、身体に埋め込まれたモノに由来する。
 そして、たった17歳の少女に、オブリビオンを喰らうだけの『力』を与える、その大元は――。
 それを考えないわけでは無い。だが、今は。
 グウェンドリンはいつもよりずっとゆっくりした足取りで距離を取り、黒翼より引き抜いた羽根を、手裏剣の如く海月達へ投擲する。
「……如何にも、言葉だけではもどかしいな。俺もあまり口がうまい方ではない。故に――」
 今から一刀、披露しよう。源次は再び、刀に手を掛ける。足を前に半歩構えれば、ばしゃり、と甲板に注がれた水の音。
 今回掴むは対神太刀『黒ノ混沌』。
 赤の右眼を見開いて、戦場全域を睥睨すれば、眼より溢れた蒼き煉獄の炎が即座、視界に納めた全ての障害物(てき)へ燃え広がる。
 水夫は焼かず、船も灼かず、しかし怪火と海水は蒼炎が通った一瞬の内に蒸発し、あとに残るは夜の闇と、飛来する黒檀の羽根に阻まれ身動きのとれぬ海月達。
 煉獄に、花弁が舞う。花弁が源次の身体に戦ぐたび、グウェンドリンから受け取った力は太刀に乗り、
 刹那。
 一気の踏み込みと同時、『鞘』から電磁射出された神速の抜刀は、進路に連なる海月達を煉獄ごと斬り捨てた。

「……すごい」
 源次の、鮮やかなまでの抜刀術を目の当たりにしたグウェンドリンはただ――息を呑む。
 源次の肉体はサイボーグ。蒼の煉獄は超常の力。しかしそれらを従えているのは間違いなく、源次本人の『意思』の力なのだ。
「御してこその力……それを『技』と呼ぶ……覚えておけ。」
 源次は雑音一つ立てず太刀を納刀し、ゆるり紫色の光の先を見る。グウェンドリンに伝えるべき事は、すべて伝え終えた。

「御してこその、力……私も、身につけなきゃ」
 源次より教わった一つの極意。
 それをこれからどう使うかは……彼女次第だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
トラウマぁ?
別にそんなもんないぞ私は
何しろ私は満たされてるからな!

恐れ知らずに胸を張る
何しろ、今も昔も最高に楽しい
それに、望みの投影だなんてくだらない
望みなんて、自分の手で勝ち取るから楽しいのに
ただ諾々と与えられるそれに満足出来るような気質ではないし、それ以上に大切なものがあるのだから現実に帰らないなんて選択肢は欠片すらない
休日中に帰らないと坊ちゃんが心配するだろうが

行くぞクヴェレ、ゼーヴィント
ゼーヴィントを槍に戻して片手に、巨大化させた海竜の背に飛び乗って海月狩りだ!
槍と海竜の尾やブレスで薙ぎ払ったら、海に落ちた奴は海中まで追い掛けるさ
私はセイレーン、母なる水の中でこの私に敵うと思うなよ!



 何処をどう辿ってきたものか、ルクスがぐるり四方を見渡すと、いつの間にか唸るほどの金銀財宝に囲まれていた。
 何気なく持たれ掛かった柱は純金製。足踏む地面も無数の宝石。試しにきんきらの宝箱を開けてみれば、希少な金貨が数千枚。
「ははは! 成程こいつは豪勢で、随分景気がいい!」
 コインの一枚を手に取って、表裏をじっくり観察する。これ一枚で、一年飲み食いするのに困らない位の値打ちはあるだろう。そういうものが、文字通り足の踏み場もなく何処にでもあるのだ。
 まさにここは宝の山。黄金境の到達点。
「……だけど、くだらないね」
 手に取ったコインを親指で弾く。裏が出る、と思って投げれば百パーセント裏がでて、表が出る、と思って投げればどれだけ投げても『望み通り』に表の柄を出してくれる。まるでイカサマ師の小道具だ。
「つまらないよ。望みなんて、自分の手で勝ち取るから楽しいのに。結末(そこ)に至るまでの紆余曲折に泣いて笑うのも人生だろう?」
 恋歌より冒険譚を愛する海賊紳士として、深窓に押し込められた姫君の如く、ただ諾々と与えられる望み(それ)に満足出来して死んでゆけなどと言う与太は、どう足掻いても聞けない話。
 何より現実には、ルクスにとって望み(それ)以上に大切なものがあるのだから。最初から帰らないなんて選択肢は欠片すら有りはしない。
「全く。休日中に帰らないと、坊ちゃんが心配するだろうが」
 故に、アトラクションとしてはそこそこ面白かったよ、と社交辞令(チップ)だけをその場に残し、ルクスは鍵無き檻を去る。

 檻から飛び出したルクスを歓迎するのは、相も変わらず騒がしき鉄火場。
 相対する海月達は、檻の中に数秒でも入ったのなら占めたものと怪火を纏い、ルクスのトラウマを投影しようとする、が、海月が幾ら炎を燃やそうと、ルクスのそれはやって来ず……。
「トラウマぁ? 別にそんなもんないぞ私は。何しろ私は……満たされてるからな!」
 ルクスは恐れ知らずに堂々と胸を張る。なにをどう考えても、今も昔も最高に楽しい。涙を流した記憶など、精々笑い過ぎて腹の捩れた時か、起き抜け大欠伸をした時くらいのものだ。
「そう言う訳さ。幻影を見せただけ損したね」
 にやりと笑うルクスの姿にトラウマ投影を断念したか、海月達はかつぶし丸から遠く離れ、あやかし達を再投影する。
「それで刃が届かないって安堵してるなら、馬鹿げた話だね……行くぞクヴェレ、ゼーヴィント! 待ちに待った海月狩りだ!」
 仕様がない、ここはクヴェレに出番を譲ってやるかと少々不満そうに一鳴きした後、ゼーヴィントはランスに戻ってルクスの片手に収まり、クヴェレは反対、船から飛び降りて、主をその背に乗せられるほど巨大化する。
「さあ征け、私の騎士よ!」
 そして暗夜の氷海に、勇壮なる海鳴りの咆哮(こえ)が響く。
 怪火が揺らめき、大蛸と海坊主が徒党を組んでクヴェレへ迫るも、クヴェレの爪は蛸を裂き、大波引き連れ薙ぐ尾の一撃が、海坊主を打ち据える。
 咆哮が巻き起こす衝撃波は奇妙な歌声を圧倒・沈黙させ、無尽蔵に放たれる水のブレスが、有無も言わさず怪火達を消していく。
 クヴェレの起こす怒涛の渦中、ルクスはゼーヴィントと共に撃ち漏らしの怪火達を目聡く仕留め、さらに海中へ隠れようとする海月達をその身一つで容赦なく追い立てる。
 海中(みず)に逃げればやり過ごせるとは浅慮の極み。ルクスの追撃に気付いた海月達は急ぎあやかし達を投影するが、遅い。ルクスは動きの鈍いあやかしたちの防衛網をするりと抜けて、勢いそのまま海月達を穿つ。
「私はセイレーン、母なる水の中でこの私に敵うと思うなよ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

弦月・宵
やあ、久しぶり(クラゲたちに)
今日はどんな夢を届けに来たのかな、暖かな故郷…まだ着かない新大陸…
とても素敵だけど…それは夢じゃなくて、水面の先に見つけたいんだよね!

特別上手くはないけど、オレも船乗りの歌!一緒に歌いたいなっ
独りで浸る子守唄より、仲間と歌う奮起の歌の方が、
今はとても魅力的だよ!
誘われそうになってるヒトがいたら、歌いながら手をとって一緒に騒ぐ♪

寄ってくるクラゲには【UC:ブレイズフレイム】をプレゼント
剣に纏わせて片っ端から燃やしてく

見えるトラウマは沈んだ誰かのか、オレ自身のか…
底の知れない水の中は、怖い。
オレに宿ってる炎は、喪失の証。

だからこそ、船のヒトたちは誰も連れていかせない!



 行進曲、輪舞曲、賛美歌に鎮魂歌。
 音楽、と言う括りには、今や無数の種類(ジャンル)が有れど、言ってしまえばただの音の組み合わせ。
 しかしその組み合わせが、時に聴く者の勇気を奮い立たせ、時に恐怖を掻き立てる。
『音色』とは、何より容易く人の心を揺さぶるのだ。

 ……歌が聞こえる。
 美しき声音、澄んだ旋律。ずうっと遠い昔に、微睡みながら聴いた子守唄。しかし冷たく暗い船の外から送り込まれる水母の歌の本質は、幻惑。
 耳を塞いで作業は出来ぬ。歌声に当てられた水夫は鉈も桶も放り投げると、ふらふらと誘われるように船縁へ手を掛け――。
「――危ないっ!」
 間一髪。宵は身投げしようとする水夫の腕を掴んだ。
 瞬間、水夫は正気に立ち返り、大慌てで船縁から距離を取る。
「すいやせん。どうやら立ったまんま寝てたようで……お恥ずかしい」
「ううん、無事でよかった」
 水夫の無事に安堵の笑みを浮かべた宵は、眠気覚ましに歌おうよ、と周囲に提案する。
「特別上手くはないけど、オレも船乗りの歌! 一緒に歌いたいなっ」
「……へへ! 安心してくだせぇ。歌に関しちゃ俺達全員ド下手の横好きだ。ま、その分声量(こえ)だけは自信がありますがね!」
 船(ここ)は揺り籠じゃない。未知に挑む人間達の最前線だ。独りで浸る子守唄より、仲間と歌う奮起の歌の方が相応しい。
 水を掻き出しながら、鉈を振るいながら、水夫達は唄う。それは大海原を股に掛ける誇りの船唄。前言通りリズムも声音も笑ってしまう位酷いものだが、熱量だけは何にも負けず。
 最初は人前で歌う事に若干の気恥ずかしさを感じていた宵も、いつの間にか張り叫ぶほどの声で大騒ぐ。
 宴の如き明るさに惹かれたか、歌う海月はゆらゆら唄の近くまで集まって、脅かすように怪火を焚く。それでもなお水夫の唄は止まらない。ここで退けば、海の藻屑と化すだけだ。
「やあ、久しぶり」
 幻鵺を波山より引き抜き、歌と唄がぶつかり合う甲板(ぶたい)の上で、宵は海月達と対峙する。
「今日はどんな夢を届けに来たのかな? 暖かな故郷……まだ着かない新大陸……心地良い望みを、望むまま見せてくれる」
 討たれて、蘇って、向こうは覚えてないかもしれ無いが、彼らと戦った経験は既に幾度も。故に、手の内などは知れている。
「とても素敵だけど……それは夢じゃなくて、水面の先に見つけたいんだよね!」
 だからこそ、かつぶし丸は地獄の如き海を行くのだ。
 予め、傷つけておいた指先から炎が滴り、幻鵺を紅蓮に染め上げる。奴らが繰るトラウマは、果たして沈んだ誰かのか、それとも宵自身のものか。怪火を纏った海月達は、流星よりもなお早く、幾何学的な高速移動を繰り返し、無数の柄杓(うで)と強靭な大蛸(あし)を宵達目掛け投影する。
「望む所だよっ!」
 八方から来るのなら、片端から燃やすまで。紅蓮が燈る幻鵺は、怪火を寄せ付けないほど明々と燃え盛り、細波の記憶ごとトラウマたちを火葬した。
 焼き尽くされ、かりそめの光(いのち)を失った海月達は墜ちて逝く。
 落ちゆく先は底の知れない水の中。宵は釣られて覗き込む。虚でも実でも、本当に、何が出てきてもおかしくない深くて広いその海面。悲劇も喜劇も、そこに呑み込まれればきっともう戻っては来れない。
 だからこそ。宵に宿る炎は、喪失の証であるがゆえ。
 ――嗚呼、途切れた筈の子守歌が聞こえる。海月達はどうあっても、水夫達を辛く苦しい現実から引き離したくて仕方ないらしい。
 だが。
「……船のヒトたちは絶対に誰も連れていかせない!」
 何より水夫(なかま)を守るため、宵の地獄は、次々と襲い掛かる見せ掛けの夢を焼き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
海の向こうは極楽浄土、そんな話も聞いた事はあるけれども。
まあ私達が行きたいのはそんな場所じゃないし、こんな所で幻に捕らわれてる暇もない。
どれだけ幸福でも止まらなければいけないのなら――そこは私のいるべき場所じゃないからね。

見えるものは海の底の極楽浄土。
いかにも楽しそうで手を伸ばして触れたくなるほど。
もういなくなった皆も此方に手を伸ばして引き込もうと…うん幻だ。
よく見れば幻影の火、望みを映す空間。
望んで触れればしあわせに終われるだろうけどそれはダメ。
幻影の術者のクラゲを探しUCで滅多切りにして海にぶちまけてやろう。
…しあわせな望みだからこそ、あり得ないって事がわかるから。

※アドリブ絡み等お任せ



「海の向こうは極楽浄土、そんな話も聞いた事はあるけれども……」
 ……補陀落渡海。行者や骸を櫂も帆も無き船に乗せ、潮の流れのまま、海の果ての浄土に送るという。
 生身ならば捨て身行。骸ならば一種の水葬。いずれにせよ、それらは明確な死出の旅。
「まあ、私達が行きたいのはそんな場所じゃないし、こんな所で幻に捕らわれてる暇もない」
 小さな陽だまりの中でクーナは数度跳躍し、長靴の調子を確かめる。
 この船の、目指すところは捨て身じゃない。櫓も、帆も、砲弾も、そして船を進める水夫達も。荒海相手に足掻く手段は揃っているのだ。
 ならば船のもつ限り……光の果てかその先か、前へ前へと航海させてやるべきだろう。きっとお互い、水底(ひとところ)に沈んだままじっとしていられる性分では無いのだから。
「どれだけ幸福でも止まらなければいけないのなら――そこは私のいるべき場所じゃないからね」
 クーナはたん、と軽やかなステップ刻みかつぶし丸から離陸して、白雪荒ぶ夜の海を飛び跳ねる。
「実はね、私も雪と風の扱いには少し自信があるんだ」
 飛沫の海で、掲げた銀槍ヴァン・フルールが風花交じりに巻き起こすのは凍結と幻惑。
 凍てつき惑う海月達は容易く騎士猫を見失い、闇に紛れたクーナはその隙、細剣オラクルを閃かせ、海月達へ一刺し見舞う。
 氷を溶かすように、闇を照らすように、寄せ集まった海月達は一斉に怪火を焚いてクーナを捜す。
 そんなもの、と、はるか上空から海面すれすれへ急降下し、怪火にオラクルの切っ先を突き付けたその瞬間、
「これは……!?」
 クーナは海の底に極楽浄土を見る。その光景は、さながら美しき水晶宮。荒れに荒れる海の上とは正反対、花芽吹く春の如く穏やかで、病無く、禍無く。
 其処に写る、もういなくなった筈の皆が、誰も彼も幸福そうに笑い合い、此方においで、と無邪気に手を伸ばしてくる。
 思わずクーナも手を伸ばしかけ、しかし途中でぐいと拳を閉じ我に返る。
 ――ああ、これは幻。
 よくよく見れば何のことは無い幻影の火。あるいは、水平線の果てに極楽浄土を求めた誰かの夢の欠片なのかもしれない。
 ……いっそ望んで触れれば何もかもをしあわせに終わらせくれるだろうが、それだけは出来ない。温かなのはもう既に、陽だまり一つで充分だ。
「これは詐欺師の手口だよ。他人を極楽に誘うのなら、先ずは率先して自分が甘受してみるのが筋と言うものさ」
 今度は此方が捜す番。悪あがきにあやかしを寄越して来る海月達に用はない。
 クーナはルーンソードに溜め込んだ、風の属性を解放し、外れの海月を吹き飛ばす。
 見分け方は簡単だ。敵(こちら)ではなく、未だ海面(スクリーン)を注視している個体がそうだろう。
 人の望みを映す海月は、その心に何を望む。
 海面を踏み台に、目にも止まらぬヴァン・フルールの槍撃は旋風の如く、極楽映しの海月を微塵に刻んで海に散らす。
「……しあわせな望みだからこそ、あり得ないって事がわかるから」
 連撃の終わり、クーナはぽつりとそう呟いた。
 その槍捌きは――極楽を夢見た顔も知らぬ誰かに捧げる哀歌となって、かつぶし丸の航路(みち)を切り開く。

成功 🔵​🔵​🔴​

神崎・伽耶
これはこれは。
久しぶりに、良いモノ書けそうじゃないー?(るんるん)

大蛸の脚は食いでがありそうねー。
さあ、あんたたち!
根元から一刀両断、綺麗に捌いてね。
あんまり傷付けると、美味しくなくなるの!

あ、ちょうどいいわね。
あの柄杓もらっときましょ♪
鍋を混ぜるのにちょうど良さそう!

ね、あれ(海月)、食べるの無理かしらね。
ふふふ、じゃあ、賭ける?

んー、タコと合わせたのだと、少し淡泊すぎるかしらん?
まぁいいわ、収穫開始!(帽子を脱いで、鞭を抜き)

鞭を自由自在に振り回し、海月を絡め捕っていくわね!
幻影には誤魔化されないわよ、あたしの飯のタネー!

ふふ~ん♪
さ、水晶宮製の潮汁ができたわよ。
腹がはち切れるまでどうぞ♪



「――これはこれは。久しぶりに、良いモノ書けそうじゃないー?」
 伽耶は悪魔的にるんるん気分で、新しいいたずらを思いついた子供の様に、にまりと笑う。
 ……神崎・伽耶の本業は探索者。
 何を探索しているかと問われれば、面白そうなトラブルと、各地のご当地グルメのレポートで生計を立てている慢性貧乏人。
 ……そう。ご当地グルメ。グリュプスの魔法鞄の中身は呆れるほどに広けれど、少々マネ~的な手持ちが少なくなってきたので、ここは一発ガツンとインパクトのある記事を書き上げて、左団扇と洒落込みたい。
 つまり。勿体ぶるのもまどろっこしいので簡潔にぶっちゃけてしまえば、海月とあやかし頂きます。お食事的に。
「えっ、マジですかい?」
「うん、マジだけど?」
 食おうとするやつはここに居た。
 伽耶の発想に、流石に一歩後退る海の男たち。
 しかし男たちはそんじょそこらの海の男ではなく、勇猛果敢な海の男たちであったので、後退った分むしろ一歩踏み出して前のめりに、腹を括って覚悟を決め、伽耶の食レポに全力で付き合うつもりの様子。なんて付き合いの良いやつらだろう。
 因みに、『マジ』という言葉遣いは江戸時代からあるそうな。
「大蛸の脚は食いでがありそうねー。さあ、あんたたち! 根元から一刀両断、綺麗に捌いてね? あんまり傷付けると、美味しくなくなるの!」
「あい、あい、さー!」
 そんな訳で水夫の一人が大上段に鉈を構え、かつぶし丸にがっつり絡みつく大蛸の脚の一本を切り落とす。
 ……脚の一本と言えど、オブリビオンが投影したもの。本来なら水夫たち数人が束になってようやく切り落とせる……と言う代物に相違ない。それがなぜあっさり切れたのか。その答えは――無数に舞い飛ぶ銀色の花弁のみが知るところだろう。
「あ、ひらめいた。あの柄杓もらっときましょ♪ 鍋を混ぜるのにちょうど良さそう!」
 伽耶はのそり甲板を覗き込んできた柄杓の一本を鼻歌交じりに分捕った。柄杓を無くした手の幽霊は、健気にも『返して……』とハンドサインを送ってくるので、伽耶は仕方なし、そこら辺に転がっていた底抜けの柄杓を返してやる。
「後はそう……酔い知らずの鍋! 誰かお鍋持ってきて―♪」
 そうして水夫が鍋を取りに行っている間、伽耶は海月(メインディッシュ)漁に取り掛かる。
「ね、海月(あれ)、食べるの無理かしらね?」
「いやぁ、食った事ねぇんでわからねぇですや」
「ふふふ、じゃあ、賭ける?」
 ……とは言え、蛸と海月の組み合わせでは少々淡泊な気も。
 ――などと、伽耶がそう懸念していた折、海を割って、何者かが新たにざばんと現れる。
「蟹だぁ! 今度は船の右舷から蟹が顔を出しやがった!」
 何と言う天祐。これは俄然収穫のし甲斐がある。
 野晒しにならぬよう、本気の伽耶はゴーグルキャップを魔法鞄にしまい込み、ホルスターから鞭を抜く。
「幻影には誤魔化されないわよ、二つの意味であたしの飯のタネー!」
 意志を持つが如く自在に夜を泳ぐ鞭は、身の危険を察したか、矢鱈高速で逃げ回ろうとする海月達を容赦なく絡め取り、締め落とす。
 片手間にマスタードソードでぎっしり詰まった化け蟹の鋏を切り落とし、これで材料は揃った。
 後は届いた鍋へ具材をいい感じに投入(シュート)し、そして待つこと数十分。

「ふふ~ん♪ さ、水晶宮製の潮汁ができたわよ。腹がはち切れるまでどうぞ♪」
 はい。と言う訳でね、こちらが完成品になります。
 伽耶はとれとれの柄杓で人数分の椀に潮汁を注ぐ。現状船上がどんな有様になっているのか、この期に及んでそんな事を気にするようでは、この潮汁を食べる資格は無いと言えよう。
 水夫たちは恐る恐る、伽耶は堂々と、オブリビオンのカニとオクトパストラウマ添えオーシャンスープを口に運ぶ。
 果たしてそのお味は。

「……あっ。旨い」
 水夫たちの驚きの一言。
 ――意外とあっさりしてるが歯ごたえがあって美味かったという。

成功 🔵​🔵​🔴​

四宮・かごめ
※アドリブ連携歓迎
それがしは確か、右往左往する水夫に押される形で青い怪火に触れて……。
後はもう覚えてないでござる。

気が付いたら辺り一面花畑。
季節の花咲き乱れ、空には蒲公英の綿毛舞う、文字通りの極楽。

あっ、それがしと仲の良かった子供達(全員存命中)が遊びに誘っているので
ちょっと行ってくるでござる。
背が縮んだのも気付かず夢中で花畑を駆け回ったり、花冠を作り合ったり、隠れんぼしたり。

遊び疲れた頃にお地蔵様を見つけたでござる。にんにん。
その下に置かれた竹筒の中は空。

童心に帰って気を良くしたのか、花冠から花(苦無)を一本引き抜き、遠くから投げ入れようと試みる。

見事活けてご覧に入れますれば。
すこーん、と。



 何時からここに居たものか、気付けば見渡す限りの花畑。桜やつつじ、椿、菜の花、チューリップにラフレシアなど季節の花が咲き乱れ、爽やかな風がそよぐたび、蒲公英の綿毛を雲一つない青空へと運んでゆく。
 寒さも、暗さも、洒落にならなかった船の揺れも。柔らかな光差すこの場所に災禍の陰は微塵もなく、此処は正真正銘の極楽なのかもしれない。
「はて……それがしは確か……?」
 そんな極楽の中心で、自体を把握し切れていないかごめは此処に至るまでの経緯を思い出してみる。
 船体に注がれた海水をどうにかするために、厨房から何でもいいので目に付いた器を拝借したと思ったら、それはうどんとかそばの水を切るのにちょうどいい感じの竹笊だった。それでもなんとか柄杓達とのエンドレス海水バトルを繰り広げていた最中、船が大きく揺れた反動で、右往左往する水夫たちにおしくらまんじゅうよろしく弾かれた結果、青い怪火に触れてしまい……其処から先の事は覚えてない。
 ……覚えてないという事は、まぁ忘れてしまう程些細な出来事だったのだろう。それより今重要なのは、そこそこ大きい川の向こう岸で、昔仲の良かった子供達が此方に手を振っている事だ。
 そう。あれは、死別した……わけでも無く、いろいろ忙しくて最近疎遠気味な、そんな感じの面子である。
「おおー。久しぶりでござるー。いまそれがしもそっちに行くでござるよー」
 ここで出会ってしまったからには、仕様がない。諸々忘れてよし遊ぼう。
 かごめは笑顔で手を振り返し、うらぶれた感じを醸し出す船渡しの婆様へ、なけなし気味の六文銭を渡せばぶっきらぼうに櫂が返ってきた。船を漕ぐのはセルフサービスらしい。
 実質お駄賃をむしり取られただけだったが、それでもかごめはご機嫌気分に櫂を動かす。短気は損気。人生ゆっくりまったりと。
 ふと水面に映った自分の姿が物理的にとても幼くなってる気がしたが、まぁ、どうでもいい事だろう。
 いよいよ子供たちの待つ対岸に到着した後のかごめはもう、時間が立つのも忘れて好きなことをやりたい放題やりつくす腹積もり。
「あははー。まてまてでござるー」
 子供たちと一緒に花畑を駆け回ったり、
「うふふー、にんにん。どうでござる? 似合っているでござろうか?」
 互いに花冠を作り合ってまったり交換会をしてみたり、
「おおっと。見つかってしまったでござるねー。それじゃ今度は難度(ギア)を一段あげていくでござるよー。どろん!」
 最終的にとんでもない難度になるまでかくれんぼで遊び倒してみたり。
 そうしてすっかり遊び疲れたかごめが何処か腰を下ろせる場所がないかと探して見つけたのは、色とりどりの花に隠れてひっそり佇むお地蔵様。
 その足元には空の竹筒。もしかするとお供えされた時には羊羹とか入っていたのかも、と和菓子チックな思いを馳せつつ、童心に帰って気を良くしたかごめは、竹筒を横に倒してお地蔵様の頭に括りつけると、花冠から花を一本引き抜いて離れ、袂に片手を入れながら、豆粒ほどに見える遠間から竹筒の中に花を入れてみせると投擲予告する。
「さあてそれではお立会い。見事活けてご覧に入れますればっ!」
 狙いを定めたかごめは振り被り、
「にんにん!」
 全力で投げた。
 放たれた一輪の花は拉げる事無く真っ直ぐ、ジェット機さながらの速度と衝撃波で花畑を七色にかき混ぜつつも正確に、竹筒のど真ん中にすこーんと。
 ……命中しただけでは飽き足らず、極楽を突き破って現世まで到達すると、花という外装(げんえい)を振りほどき、真の姿を顕にした苦無は一切減速することなく、進路上の海月達を問答無用で轢き潰した。
 
 そうしてかごめは八割その場のノリで現実へ帰還する。
 辺りは暗黒。天から白雪、地は飛沫、そして何よりその手には竹の笊。
「どうやらそれがし、心地良い夢を見ていたようでござるな……」
 百鬼夜行の終わりも近い。あと一息、かごめは笊を握る腕に力を籠めると、
「うぉっと! センセイあぶねぇどいてくだせぇ!」
「……にん?」
 途端、船が大きく揺れた反動で、バランスを崩した水夫たちにおしくらまんじゅうよろしく弾かれてしまい、

 ――そしてその先には……青い怪火が。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジンガ・ジンガ
【冬星】
あン?
今度は百鬼夜行?

悪さしてるってコトは、実体あるんでしょーねェー
まァ、無くても、みィんな纏めてブッ倒しゃオールオッケーじゃん?

何度だって言いますけどォ
俺様ちゃんはね、死にたくねぇの
そもそも、ソレが望みなワケ
命と引き換えに叶えたらホンマツテントーじゃん?
……他の望み?
ヤダよ、テメェらなんかに見せっかよ

準備運動がてら羅刹旋風
乱戦に紛れて【目立たない】よう【だまし討ち】の【先制攻撃】
船って地形や、不規則な揺れまで利用して(【地形の利用】)
【フェイント】かけつつ【2回攻撃】
相手の攻撃はよーく観察して【見切り、ダッシュ】で回避
俺様ちゃん、水晶宮とか知らねーから
骸の海へゴアンナイしとくわねェ!


三岐・未夜
【冬星】
うっわ、妖怪大戦争みたいになってる……
……意外と、怖くないなあ
何でかな
……相変わらずさっっむいのは寒いんだけど

これ実体あんの?
船に絡みついてるタコ足、ぶっ飛ばした方が良いと思う?
とりあえず何とかしよう
船員さんたち下がって!

僕、死ぬなら僕の全部を使い切ってからって、もう決めちゃったんだよ
だから、そう簡単に夢になんか浸ってやんない
僕の一片まで使い道は決まってる

【先制攻撃】、鋭利にした地属性の破魔矢で海月ごと纏めて狙撃
【属性攻撃、範囲攻撃、誘導弾、全力魔法、破魔】に更に【多重詠唱】ドーンッ!
ついでに【誘惑、催眠術、おびき寄せ】で同士討ちも狙ってみるよ
混乱すればジンガ狙う余裕もなくなるでしょ



「……あン? 今度は百鬼夜行? こりゃまたイヤガラセにかけては至れり尽くせりの豪華クルーズじゃんよ」
 愛用のダガー達を掌中でくるくる玩び、ジンガはさして興味もない風に、冷めた目つきであやかしと海月達を一瞥する。
「うっわ、妖怪大戦争みたいになってる……けど、意外と、怖くないなあ」
 何処を見てもわちゃわちゃしてて忙しそう、と言う感想を抱きながらも、未夜は至極冷静だった。猟兵としてそれなりに経験を積んできたからか、それとも相手が単なる幻影と知れているからか、彼らを見ても、自分でも意外なほどに平常(ふつう)だ。
「何でかな……相変わらずさっっむいのは寒いんだけど」
 無遠慮に上陸してくる波飛沫を何とか躱して、未夜は小刻みに震えながら自分の尻尾を自分に巻き付ける。幻影よりも寒さの方がまだ怖い。
「何でかって言ったら、未夜。そりゃあ俺様ちゃん(なかま)がついてるからじゃんよォ。独りじゃないってヤツ」
 何時もの軽い調子でどや顔に、ジンガは堂々自分を指差した。
「もちろんそれも一理ある、と思うけど、それ自分から言い出したら駄目な奴じゃない?」
 未夜の言葉に、俺様ちゃんセオリーなんかガンガン無視していくじゃんよ、とジンガは笑う。
「ところでこれって実体あんの? ジンガ、船に絡みついてるタコ足、ぶっ飛ばした方が良いと思う?」
「んー? 悪さしてるってコトは、実体あるんでしょーねェー。というか向こうでアヤカシどもを鍋にぶち込んで食べてるし」
 ジンガたちの丁度反対側、右舷甲板の一角で、どう言う訳だか鍋パーティを開いている一団が。
「あー、ほんとだ。みんな結構おいしそうに食べてる。おかわりまでして大盛況だ……」
「……俺様ちゃんは遠慮しとくじゃんよ。こういうロケーションでつつく鍋に良い記憶が無いっていうか、つついた記憶そのものが無いって言うか……」
 まァ、何にせよみィんな纏めてブッ倒しゃオールオッケーじゃん? 緩めのストレッチを終えたジンガは、乱戦の間隙を縫うように、二度三度、宙に放ったダガーをはしと捕まえ投擲し、駆け抜ける。
「……そうだね。とりあえず何とかしよう。船員さんたち下がって!」
 未夜は疾るジンガを背で見送ると、創り出した破魔矢の鏃を大地に由来する力に取り換え、船体に張り付く大蛸の脚を狙撃する。
 炎に非ず、水に非ず、純然たる硬度と鋭さをもつ大地の矢。一瞬で獲物に到達したそれは即座蛸脚を食い千切って吹き飛ばし、続く二射目以降の矢達は、海月達が何かを知覚するより前に、彼らを射抜いて屠り去る。
 一手遅れて夜闇に浮かび始める怪火たち。彼らが何かをしでかす前に、未夜もまた玄火を夜闇に放つ。揺らめく黄昏が帯びるのは、蠱惑の色。玄火に魅入られた海月達は寄せ集まると、互いに互いを傷つけあう。海月達に自我あるのなら、それこそトラウマになりそうな地獄絵図だ。
「こうやって混乱すれば、ジンガ狙う余裕もなくなるでしょ?」

「サンキューみーやー。こっちも負けてらんないじゃんよ!」
 海坊主と柄杓の幽霊が派手に格闘しているその裏で、ジンガは都合よく玄火におびき寄せられた海月達目掛け、思うさま散弾を叩き込む。
 響く銃声。浮足立っている海月達はジンガへ蛸墨を放つが、ジンガは波に煽られ大きく傾いた瞬間生まれた刹那の死角へ潜り込んでやり過ごし、船体の復原が済んだと同時、反撃に移る。
 前衛を討つ、と見せかけて一足飛びに後衛を切り刻み、海月が怪火を吐き出せば、その端から悉く潰していった。
「だからァ。何度だって言いますけどォ。俺様ちゃんはね、死にたくねぇの」
 我流の三枚おろしで、動き回る海月達を奇麗に処理していく。
「そもそも、ソレが望みなワケ。命と引き換えに叶えたらホンマツテントーじゃん? それなんてパラドックス?」
 まァ? アキカンとかペットボトルとか家庭ゴミと引き換えに見せてくれるっていうンなら? ワンチャン考えなくも無いけれど? ジンガのダガーは止まらない。
 まるきり幻影が効か無い事を悟った海月達は、何か次善の手は無いか、逡巡するように明滅する。
「何探ってんの? もしかして俺様ちゃんの他の望み? ……ヤダよ、テメェらなんかに見せっかよ」
 化けガニの大鋏が薙ぐように甲板を滑る。
 ジンガは鋏の速度を見切ると、助走(ダッシュ)からの跳躍でやり過ごし、すれ違いざま旧友(ロケットランチャー)を叩き込む。
「俺様ちゃん、水晶宮とか知らねーから。骸の海へゴアンナイしとくわねェ!」

 旧友の爆炎は蟹ごと多数の海月を吹き飛ばし、『範囲攻撃を得意とする未夜の感覚』で、残存敵は残りわずか。
 ならばもう、一息にやってしまおうと、未夜は破魔矢を一つに束ねる。
「……僕、死ぬなら僕の全部を使い切ってからって、もう決めちゃったんだよ」
 鏃達が見据える先は、真黒の天空。
「だから、そう簡単に夢になんか浸ってやんない……僕の一片まで使い道は決まってる……!」
 天に放たれた破魔の矢は、一瞬強く煌くと全方位に炸裂し、赤熱の超高速度で戦場全てへと降り注ぐ。
 天から降る土。即ち隕石――流星雨。
 未夜が誘導する無数のそれは、かつぶし丸を一切傷つけず、しかし『敵』と認識した全てを射落とし、

 そして海の月達も全て水底に沈み。
 百鬼夜行の乱痴気騒ぎも遂に終わる。

●夜明け
 空が白む。海月達を撃滅し、七日目の朝がやって来た。
 脅威を退けたと言え、また今日も、波と吹雪に揺られる一日か。誰もがそう思っていた矢先、見張りの水夫が興奮混じりの声で叫ぶ。
「船首の先を見てくだせぇ! あれは……!?」
 光の先。まだまだ距離はあるが、白雪越しにちらと見えるのは、巨大な紫色の光球。
「よくわかんねぇが、あれが終点……なのか?」
 怪訝そうに、船長が遠眼鏡を覗き込もうとした、その刹那。
 まるで機を見計らっていたような、強烈な吹雪がかつぶし丸を襲う。
 それは、これまでの旅路でも遭遇した事の無い烈風。しかし、不思議なことにかつぶし丸は一切揺るがず『凪いでいる』。
 状況が把握出来ぬまま、無尽蔵の雪達は数センチ先の視界すら白い闇で塗りつぶし――そして。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『雪女郎『白嶺』』

POW   :    白魔
自身が装備する【雪山 】を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する。
SPD   :    白羽
レベル×1体の、【漢数字で左胸 】に1と刻印された戦闘用【雪女】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    白滅
【巨大な通常攻撃 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の何もかもが雪で埋め尽くされ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ポーラリア・ベルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※次回冒頭文更新4月9日(木)予定。
●銀世界
「おいおい、こりゃあ……もしかしてまだ海月共がとらうま見せてんのか? それとも……八寒地獄に迷い込んじまったのか?」
 雪が弱まると同時、すぐさまかつぶし丸が置かれている現状を確認しようとした船長は、暫く双眸に飛び込んできた『その』光景が、現実の物であると認識出来なかった。
 櫓が動かない。船中から漕ぎ手の水夫達の混乱が聞こえる。当然だ。
 舵が効かない。舵から手を離した操舵手は異変を悟る。そもそも先程から、船は漣ほども揺れてはいない。
 櫓も。
 舵も。
 船も。
 そして海原も。
 ……数十秒前の吹雪。たったあれだけ短い烈風が――。
「ほんの数分目ェ離した隙に……『水平線が、彼方まで全部地平線に塗り替わって』やがる……!」
 そう。全ては等しく凍りつき、此処は最早海域(うみ)とは言えない。東西南北全方位、その果てまで、無尽に広がるのはどうしようもなく分厚い氷の野。
 ……否。あらゆる海氷、氷山、そして海が結合したものならば、この氷原はただ只管に大きな『山』の、その一角に過ぎぬのかもしれぬ。
 いずれにせよ、かつぶし丸は氷に閉ざされた。このままでは一寸とて進む事はままならない。
 再び白雪が吹き荒ぶ。霜雪、細雪、深雪、粉雪、牡丹雪、氷雪――あらゆる六華は紫色の光球を攫い、天衝く嵐となって人の姿を模る。
 ――それは、巨いなる吹雪の化身。雪山を統べる女王。
「デカすぎてこっから近くに居るのか遠くに居るのかすら判別つかねぇが……あの女郎、もしや富士の御山よりも……!?」
 小さな小さな船長の呟きが、巨大なる女郎の耳に入った道理はない。だが、女郎が凍てる瞳で此方を一瞥すれば、降りしきる白雪たちは無数の雪女(おんな)に変じ、冷ややか笑いかつぶし丸を強襲する。
「船長ォ!」
「俺に訊くな! 船乗りが山の化生の退治の仕方なんて知るワケねぇだろうが! とにかく撃て! ここで砲弾(たま)が尽きたって構いやしねぇ!」
 この大雪の中で、そう易々と照準(ねらい)などつきはしない。だが、抗わなければ蹂躙されるだけだ。
 五発に一か十に一か、まぐれに当たった砲弾が、雪女の上半身を吹き飛ばし、彼女を構成していた白雪が、そのまま散り散りに崩れゆく。
「野郎ども見たか!? 見たな!? 吹雪のカタマリだろうが形があるんならぶっ潰しようもあるってこった! 兎に角俺らは全力で船を保たせるぞ! ここまで来てぶっ壊れちまうなんて笑えもしねぇ!」
 あとはよろしく頼んます。極限の状況下にあって、水夫達はそれでも大笑する。猟兵達が女郎を倒すと、そう信じているからだ。

 吹雪も、氷原も、此処まで辿って来た航路の、それら全てを包んで指したものの名こそが雪女郎『白嶺』。その正体。
 故に、動かぬ船を守って戦うか、氷原を駆け女王を討つか、どちらであっても同じ事。
 必要なのは、決して折れず前へと進む心意気。
 彼女を除けば海もまた元の姿に戻るだろう。
 反抗の果てにのみこそ――道は切り開かれるのだ。
六島・椋
【骸と羅刹】
おお、あれはデカいな
君の態度くらいデカいんじゃないか、なあエスタ

特に声をかけることもなく、エスタのバイクの後ろに【騎乗】する
あれの相手は奴のほうが適役だろうからな
それにここであれば寒くない、一石二鳥だな

主な攻撃はエスタに任せる
後ろから【情報収集】して抜けられる場所を探し、道を示す

自分達を襲ってくる輩はこちらが担う
【早業・二回攻撃】で落とす
寒くなければ、骨らに動いてもらうための手もかじかまない
よかったな色男、モテモテじゃないか

さて、この白雪が女たちに変じるのだろう
【毒使い】で『揺曳』に毒を与えよう
その毒靄を周りに薄く広げ、雪に混じらせる
その雪が固まれば、勝手に服毒してくれるってわけだ


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】

何言ってんだ椋デケェのは器だぜ
地面ができたんならシンディーちゃんに【騎乗】【運転】
無理言って船に積んでもらってた
椋が後ろに乗ったら【ダッシュ】で発進だ

特に会話はしねぇがナビと防御を椋に任す
『群青業火』発動
ブルーフレアドレスに点火
火炎弾になって突っ込むぜ
もちろん相棒を焼かねぇよう適宜消火
戦闘機動は冬タイヤでも厳しいんであえて滑る
業火で融かした氷の上をジェットエンジンだけで操縦
【焼却】【範囲攻撃】かましながら女王に吶喊
拝謁の機会を賜りたくってなぁ!

敵の攻撃を受けたら【氷結耐性】【環境耐性】【激痛耐性】
ひたすら耐える
良い女だが数に任せて来られるんじゃぁな
やっぱ情緒ってもんが欲しいわ



 まだらに白く染まりつつあるかつぶし丸の甲板に立ち、椋は額に手を当て、降りしきる雪の……その最奥を覗く。
 紫光の終点、其処に座すのは富士より巨大な白雪たちの総領。
「おお、あれはデカいな。敢えて比べるとなると君の態度くらいデカいんじゃないか、なあエスタ」
「……おいおい、品行方正を絵に描いたようなモーテルのオーナー捕まえて、何言ってんだ椋。俺という羅刹を構成する上で、何よりデケェのは問答無用で器だぜ?」 
「その発言がもう既に態度デカくないか」
「いや。器のデカさの発露ってヤツだ」
 椋の言葉に豪快な笑みを返し、エスタシュは思い切り指笛を吹く。
 すると船内より聞こえてくるのはこの時代に有らざる大型二輪のエンジン音。指笛を聞きつけて、エスタシュの宇宙バイク・シンディーちゃんが船倉から独りで甲板まで上がって来たのだ。
「へへ、こんな事もあろうかとってな。無理言って船に積んでもらってた」
 船倉へ積み込む時、どころか、現在でもシンディーちゃんを見た水夫達は頭にクエスチョンマークを浮かべているが、丁寧に説明している時間は無い。実際にシンディーちゃん生き様(はしり)を一目見れば、この船の乗組員ならそれだけで凡その事情は理解出来る筈、だ。
「成程確かに準備が良い。さてと。それじゃあ――」
 椋は当然の様に、骨格人形たちと共にシンディーちゃんの後部座席へ騎乗する。
「念の為言っておくが、行先はコンディション最悪の大氷原だ。滑って転んで大怪我するかもしれないぜ?」
 エスタシュもシンディーちゃんに跨って、ハンドルを掴んだ。耳を劈く、しかし聞き慣れたエンジン音。車体は既に温かく、準備は万端だ。
「そうだな。一応雪避けにゴーグルは持ってきた。本来の用途ではないが」
 答えになってない。いや、椋にとって答えるまでも無く、今更野暮な問い掛けだったのだろう。信頼とはそういうものだ。
 轟、と氷河の中心に、地獄が奔った。群青色の業火は椋を、エスタシュを、そしてシンディーちゃんを包んで煌々と燃え盛る。
「ああ、やはり、後部座席(ここ)であれば寒くない……などと、暖取り目当て丸出しの発言には目を瞑って欲しい」
「何を。それこそ今更だろ。俺の器のデカさ舐めんなよ?」
 それじゃあ行くぜ、とエスタシュは一気にハンドルを回し、カタパルト宜しくアクセル全開で船尾から船首まで駆け抜け、勢いそのまま氷原へと飛び出した。

 向かい風の猛吹雪にやまぬ鳴動。氷原に出て最初、椋はそれをシンディーちゃん――バイクの物だと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
 突如として林立し始める氷山。前触れなく大口を開けるクレバス。まるで意思を持つかのように、氷原全体が、凍てつきながらも秒単位で形を変え襲い掛かってくる。
 一瞬で海を固め氷河を創り出したのが他ならぬあの女郎なら、それを手足の如く操る事など造作も無いという事か。
「右折」
「おう」
 最小限の応答で、椋は的確にエスタシュをナビゲートする。
 即座、律動する氷。もしもこのまま直進していたのなら、天嶮じみた氷山にぶつかるところだった。
「左」
「了解」
 直後。一瞬で消失する氷原。物理法則など無視をして、凍り付いていた大地が、瞬き一つ程度の時間で海に戻る。
 果たしてシンディーちゃんは海中もいける口だったろうか。そんな疑問をエスタシュへ飛ばすより前、此方が足を止めぬことに業を煮やしたか、数多の雪女たちがシンディーちゃんを取り囲む。
 此方が疾走し続けているにも関わらず、雪女たちは付かず離れずの距離を保ち、このまま速度で振り切るのは難しいだろう。
「だったらまずは、物理的に排除するとしよう」
 あの女郎に最大火力をぶつける為にも、エスタシュの体力は温存させておきたい。
 椋は蝙蝠の骨格人形・サカズキ達にナイフを持たせ解き放ち、彼女たちが『それ』と認識する前に、死角から叩き落としてゆく。
 暖かき、地獄の中での操演劇。寒くなければ、骨らに動いてもらうための手もかじかまない。そして氷点下の中で駆動する骨達には、そもそも熱さも寒さも無縁のものだ。
 サカズキ達が掻き切った彼女たちは、人の形から淡雪の如く解け四散し、しかしそう間を置かず、荒ぶ六花が新たな雪女を模る。
「よかったな色男、モテモテじゃないか」
 軽口を叩いて再びサカズキ達を飛翔させるが、恐らくこれではキリがない。
「……さて、この白雪が女たちに変じるのだろう」 
 もう一度雪女たちを片付けた直後、椋は自身の体から揺曳する靄を滲ませる。
 椋より『毒』を託されたその靄は、闇より暗いその容(からだ)を極限まで拡散し、吹雪に紛れ込む。
 そうして、六花が新たな雪女を模る時、人知れずその構成に混じった不可視の靄は、毒を巡らせ……。
 知らずの内に『服毒』していた雪女たち。白雪(からだ)は黒(どく)に侵食され、最早散る事も解けることも出来ず、人の形を保ったまま――停止する。

「良い女達だが……数に任せて来られるんじゃぁな。誰も彼もがそう言うの好きって訳じゃ無いんだぜ? やっぱこう、情緒ってもんが欲しいわ」
 エスタシュが気に掛けるのは炎の行方と白き暗幕に隠れる最終目的地。
 相棒を焼いてしまわぬ様、方向音痴にならぬよう。後の事は全て椋に任せる。
 シンディーちゃんには申し訳程度に冬タイヤを履かせているが、それでも方向転換が精々で、急な戦闘機動は厳しい。
 とにかく前へ進ませるしかないのだ。にも拘らず、雪女だの氷山だの雪渓だのが道を塞ぐのであればしようがない。
 業火に彩られたまま、エスタシュはシンディーちゃんを変形させる。此処から先は正真正銘の最高速度だ。
 ジェットエンジン・ブルーフレアドレスに燃料(ごうか)を注ぎ、排気孔から巻き上がった炎(ドレス)が黒色の雪女たちを焼却する。
 エスタシュから湧き出ずる業火は分厚い氷原すらも容易く融かし、アクセルを思い切り回せば、シンディーちゃんはその上を、完全開放されたジェットエンジンの出力のまま何処までも加速し疾走する。
 それは群青色の火炎弾だ。
「前方。このこのまま行くと氷山だ」
「解ってる。一気に昇り切ってやらぁ!」
 女郎が近い。右折も左折も後退も、しているだけの時間が惜しい。
 シンディーちゃんはエスタシュの意気に答えるように、二千メートル級の氷山を減速抜きで一気に駆け登り、そしてその頂点から空へと翔んだ。
 視界が拓ける。前に在るのは白嶺女郎ただ一峰。
 ふう、と女郎は息を吐く。それだけで、業火に直撃するのは絶対零度の猛吹雪。
 氷は炎に溶けゆくのみ、そんな道理すら覆す、単純な、そして圧倒的な技量(レベル)の差。
 気を抜けば己の地獄ごと、摩訶鉢特摩の最奥まで叩き落とされそうなその息吹を、寒さを、激痛を、エスタシュは椋へ及ばせないよう全力の業火で庇いながら歯を食いしばって一心に耐え、耐え、そして耐えきった。
 すでに吹雪は遥か彼方。ならば後は。
「遮二無二夢中になってここまで来たぜ! 何せ拝謁の機会を賜りたくってなぁ!」
 突っ込むだけだ。消え失せかかった群青業火は決して折れずに灼熱し、女王目掛けて吶喊する。

「このままぶち当たって女王サマを内から焼き尽くす! 帰るんだったら今の内だぜ、椋」
「真逆。しかし、富士より大きな女王の、その『毒』の致死量がどれほどの物なのか……想像もつかないな」
 斯くして、加速した火炎弾は女郎を射抜く槍へと変じ、疾風と共に彼女の身体を大きく抉る。
 群青色の炎の軌跡が、凍てつく空を焼き、至るべきその場所を眩く照らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

弦月・宵
海の上を駆けられるなら、
水に落ちる心配は少ない…かな?

甲板から飛び出して戦うよ
浮雲で浮力を確保しつつ雪上での機動を確保して、
攻撃は【UC:ゆるゆら】で。
吹雪に負けないように出来るだけ近づく
雪の中に混じって氷の塊とかが露出してないかな?
足場はしっかり見ておきたい

ピンチの時こそ笑え、…ってね
直撃は寒いし痛いから、接近時は出来るだけ
剣を盾にするか、力任せに振り抜いて風に切れ目を入れて進んで…
行けるならゼロ距離射撃でだって構わないよっ!

戦闘中は船乗りさんたちの声、聞こえないだろうけど…
一緒に歌ったんだから忘れない
かつぶし丸と一緒に、大海原を運んでくれた
お世話になりっぱなしじゃ、格好つかないもんね



 船から身を乗り出して直下の海……だった場所を見遣れば、純白色の地面が、今はもう随分近くに在る。かつぶし丸の船体の、その三割ほどは既に雪へ埋もれてしまっているのだ。
 直下より目を離し、宵は天を仰ぐ。雪が止む気配は無い。この吹雪を操る元凶をそのものを如何にかしなければ、如何にもならない予感がした。
「海の上を駆けられるなら、水に落ちる心配は少ない……かな?」
 この大氷河は敵である白嶺が創り出した物。油断はできないが、渡りに船の状況ではあるだろう。
 甲板で忙しなく働く水夫達へ手を振ると、宵は意を決し、かつぶし丸から飛び出した。
 腰部に装着した浮雲――魚の尾ヒレにも似た比翼を風に泳がせ空に浮く。隼の如き速度を得るわけでは無いが、地に降り積もった白雪は、ただそれだけで進攻の足枷になり得る。触れない術があるのなら、それに越したことは無い。
「……でも、やっぱり、楽には進ませてくれない……みたいだね?」
 触れ無いのならば、無理矢理にでも触れさせる。積りに積もった真っ新な、宵の周囲の未踏の白雪たちは人の形に変じ、凍てつかせようと手を伸ばす。
「悪いけど。その手を取るわけにはいかないんだ」
 ゆるりらゆらりや。宵はひらり雪女の魔手を躱すと、三百近い鉱物の結晶を召喚し、それぞれを雪女目掛けて投射する。大地の結晶たちは雪女より冷然と振舞い、問答無用で彼女たちを氷河に沈めた。
 それでも尚次から次へと現れる雪女たち。物量を頼みに攻めてくるが、それでも結晶の半分程度の数でしかない。物量負けする六花の軍勢を、構わず撃ち倒しながら強引に進めば、百数十の彼女たちは寄せ集まって一つに収束する。
 雪女の胸に刻まれた数と同じ量の結晶が、彼女目掛けて四方よりぶつかるが、未だ形を保ったまま倒れない。
 雪女が宵へと手を伸ばすと、その手は途中、数十に分裂し、面の範囲で迫り来る。が、宵は紙一重、浮雲の力を借りて上方へ飛び退き同時に抜刀した。
 恐らくこれが最強の雪女。だが、白嶺女郎を見据えれば、こんなところで苦戦してはいられない。躊躇わず、残る結晶全てもぶつけ、宵は一刀、雪女を両断する。
 直後。これでどうだと強がる間もなく吹き荒れるのは大狂風。その規模と威力は雪女たちの比ではなく、女郎本人の攻撃だろう。風が強すぎで、これ以上浮遊してはいられない。
 宵はまだ辛うじて露出していた氷塊の上へ不時着し、即座黒鉄の籠手を輝かせると、その氷塊の情報を読み取る。どうやら足場としては申し分ない様だ。
 氷風が吹き荒ぶ。幻鵺を盾に凌ぎ切ろうとするものの、到底防ぎ切るのは不可能で、痛いし、寒い。
 吹雪はやまない。いつしか思考も凍てつき、瞼を開く事すらままならなくなりかけたその刹那。脳裡を過ったのは、唄。
 どうしようもなく下手くそで、けれど熱意に満ち満ちた、あの船唄。
 ああ、そうだった、と宵は笑み、金の眼を開く。
 ……船唄は寒さが見せた幻聴だ。かつぶし丸は遠く、船乗りたちの声が聞こえる筈は無い。
 だが、彼らと共に歌った記憶は、幾ら白雪を重ねようと覆い隠せはしない。故に。
 宵は唄う。大海原を股に掛ける、誇りの船唄を。
「かつぶし丸と一緒に、大海原を運んでくれた……お世話になりっぱなしじゃ、格好つかないもんね!」
 唄が奮い立たせるのは炎。爆ぜる業火は宵を包み、幻鵺を紅蓮に染め上げ、火風のままに振るった一太刀は、遂に吹雪を切り裂いて、白嶺を間近に捉える。
 六花を焼いて揺蕩う火花が結晶に触れると、結晶もまた業火を受け継ぐ。無数の業火の中心で、宵は紅き幻鵺の切っ先を、白嶺女郎に突き付けた。
「いっけー!」
 地獄が拓くは新たな路。そうして大地の結晶達は、女郎を徹底的に打ち据えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叢雲・源次
【煉鴉】

グウェンドリン…先程言った俺の言葉、今一度反芻して貰う。
『御してこその力』…力を御すという事は、必ずしも消耗を抑えれば良いという訳ではない…使いどころを誤るな。という事だ

>Inferno_cylinder...ignition...
(抜いた対神太刀から蒼き炎が溢れ収束し今にも爆ぜんと煌々と光を放つ。『あれ程の雪山に対抗するには俺も相応の覚悟も持ってして挑まねばならんか…』八双に構えると同時に刀身から発する蒼炎がプラズマ化し長大な刃を形成)
「俺が払う。後はお前がやれ。グウェンドリン・グレンジャー。」

>RDY_BURST
(プラスマ化した蒼炎の光条が薙ぎ払われ雪山を冷気を消し飛ばさんとす)


グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】

(源次の言葉を思い出す。戦場だけど、目を閉じて深呼吸)
これ……が、インストラクション・ワン
使いどころ、見極める。なるほど
力と嘴、研ぎ澄ませば、スズメが、ヒグマを、殺す。金枝篇にも、そう書いて、あった

(蒼炎に消し飛ばされる雪山を見て)
これが、使いどころ。すごい

(腰から生やしたブレードを剣に見立て、より鋭利に研ぎ澄ます。乗せるのは炎属性。念動力で飛びながら、翼に力を込める)

(片方の翼を、対角線側に当たる肩へ伸ばすように動かす。もう片方の翼はそれを押さえつけるように)

(ぎち、と翼が軋む音。溜めた力を一気に振り抜く。さながら、振り下ろされる太刀。女王そのものを狙う捨て身の一撃)

お願い、溶けて



 無尽に降り注ぎ、無限に降り積もる白雪が固まり出来上がるのは、彫刻の如き整った美しき女化生。
 雪女たちは氷原に降り立った源次をぐるりと取り囲み、微笑する。それでいて密やかに凍気を伸ばし――無防備を誘い、難無く凍死させようと、そういう誘惑のつもりなのだろう。
「……美醜など。どうあれ立ち塞がるのなら是非もない」
 ただ一瞥。微笑む雪女を赤の瞳で睨めつける。直後、笑みを湛えた雪女は自身の身に何が起こったのか知らぬままに燃え尽きる。源次の右目から射出された熱線が、彼女を焼いたのだ。
 笑みを失い呆気に取られる残りの化生。血の通わぬ顔に怒気を浮かべて何やら源次へ掌を突き出すが、もう遅い。吹雪よりもなお吹き荒れる蒼い炎(あらし)が源次を中心に渦を巻き、蒼の煉獄は、雪女諸共全ての白雪を消滅させた。
 源次はそのまま微動だにせず蒼炎結界を維持し続ける。刀を抜くまでも無い相手。しかし数だけは多く、グウェンドリンとの話の邪魔だ。
「グウェンドリン……先程言った俺の言葉、今一度反芻して貰う」
 
 結界の内とはいえ、戦場に在って完全に目を瞑り、大きく深呼吸するグウェンドリン。一切の戦闘を考慮していない脱力状態に近く、動きと言えば源次の言葉に小さく相槌を打つ程度。
 目を瞑ればそこは暗闇。否、グウェンドリンは光りなき暗闇の中を凝視する。単純な視覚ではない。それは、己に巣くう『何か』を見透かす心の眼。
「あ……っ」
 思わずグウェンドリンを目を開く。闇の中で、自身を蝕む『それ』を初めて視たからだ。
 これまで正体の解らなかった『それ』。だが今は、朧気ながらもその形が分かる様な……。
 或いは、それは単なる視点の変化だろう。心眼前後で、身体能力の何が変わった訳でも無い。だが。『それ』を自らの心眼(め)で視認出来たことで、今なら――これまでできなかったことが出来るような気がした。
「これ……が、インストラクション・ワン」
「そう。『御してこその力』……力を御すという事は、必ずしも消耗を抑えれば良いという訳ではない……使いどころを誤るな。という事だ」
「使いどころ、見極める。なるほど」
 瞑想を終え、現実世界に舞い戻ったグウェンドリンは確信したように頷く。
「力と嘴、研ぎ澄ませば、スズメが、ヒグマを、殺す。金枝篇にも、そう書いて、あった」

「そうか。万能だな。金枝篇は」
 座学の次は実践だ、と、源次は蒼炎結界を消す。
 即座吹き付ける白雪と、殺到する雪女たち。だが、源次はもう、それらに意識を向けはしない。断ち切るべきは、ただ一つなのだから。
「だが。あれ程の雪山に対抗するには、俺も相応の覚悟も持ってして挑まねばならんか……!」
 地獄化した心臓から溢れる煉獄の炎。血液の如きそれを代償に、今、対神太刀の封印を解く。機械仕掛けの鞘より引き抜かれた『黒ノ混沌』、その刀身は、蒼き炎が迸り、収束し、今にも爆ぜんと煌々光を放つ。
 燃え盛る太刀に対して、自身の体は氷の如く凍えていく。炎は全て太刀に注いだ。ならば『こう』なるのは道理で、些事だろう。
 氷風に晒される腕を、それでも構わず動かして、八双に構えると同時、刀身から発する蒼炎が、熱の果て『炎』と言う枠すら一つの燃料にプラズマ化し、長大な刃を形成する。
「……俺が払う。後はお前がやれ。グウェンドリン・グレンジャー」
 そうして披露するのはただの一振り。横一文字の斬撃は、蒼炎の光条(プラズマ)となって吹雪を、雪女達を、曇天を、林立する山脈全てを薙ぎ払い、高き雪山と――そこに座す白嶺までをも諸共斬り伏せて、一瞬、海域から全ての冷気を掻き消した。

「……これが、使いどころ。すごい」
 蒼炎に消し飛ばされる雪山を見たグウェンドリンは感嘆する。
 しかし、見蕩れてばかりはいられない。あの蒼炎に勝る気概で臨まなければ、きっと真の意味で極意はつかめない。
 冷気の途絶えた氷原に、ひらりひらりと蝶が舞う。グウェンドリンは自身の腰部より伸びる黒翼を剣に見立て、感覚と翼そのものをより鋭利に研ぎ澄ます。
 グウェンドリンは黒翼を広げ地を蹴ると、冷気の消えた空を飛ぶ。
 目指すは『白嶺』、その頂きよりさらに高く。
 天を目指す黒翼はやがて炎に染まり、輝く翼が頂を制したその瞬間、グウェンドリンは片翼を、対角線側の肩へ伸ばすように動かす。もう片方の翼は、いまにも暴れ出さんとするそれを抑えつけるように。
 グウェンドリンの内に巣くう『それ』が、力を籠めた翼伝いに侵食してくる感覚。
 ……『御してこその力』。グウェンドリンは咄嗟、頭を振って侵食を払い、初めての拒絶に動揺した『それ』の隙をついて、刹那的に翼(やいば)へ、自分では引き出せない筈の『それ』の力をも載せる。
 ぎち、と翼の軋む音がした。ありったけを優に超えた力の過積載。これ以上は留められない。グウェンドリンは溜めた力を一気に振るう。それは、彼女が明確な意思を持って放つ『技』。
 さながら大上段から振り下ろされる炎の大太刀。女王そのものを取らんとする捨て身の一撃。


「……お願い、溶けて……!」
 断ち斬り、斬り払い、両断するグウェンドリンの一刀。天衝く程に巨大な女王の、頭の天辺から正中線に翼(かたな)傷を刻みこみ、そして女王は真二つに分かたれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 盛大に両断された女王は、その形を保てず吹雪となって四散するが、それも僅か数瞬の事。
 荒れ狂う白雪たちはすぐさま女郎へ変じてみせた。
 ……しかし、再構成されたその体躯は、先程よりも一回り縮んで見える。
 仮に。降り積もる白雪が無尽であったとしても。
 彼女の命は無限たり得ない。
矢来・夕立
【春雷】手帳さん

珍しく気が合いますね。オレも寒いのは嫌いです。
もっと言うなら白くて見晴らしのいい場所は大嫌いですよ。
が、どんな状況下であれ相手の目を盗むのが忍びの仕事です。
…それに、これから少し雨が降るでしょうし。

前線へ向かいます。
乗組員の皆さんはそのまま前方へ、砲撃と銃撃を続けてください。
オレのことは気にしなくて構いません。
じきに削られた氷雪や爆炎に紛れて見えなくなるでしょうが。
式紙を展開、接敵。的がデカいので、多めに。
【紙技・紙鳴】。

――立春も疾うに過ぎました。「季節感」って知ってますか?
もう冬が出張っていい時候じゃないんですよ。
じきにそう教えてくれます。…いや、忘れさせるんですが。


納・正純
【春雷】

極限航路の果ての果て、まさか最後の障害が冬による停滞とはね
新たな春へとたどり着く前に、ここで一丁雪下ろしといこうぜ、夕立。いかんせん寒いのは苦手でな

①氷原を駆けながら乗組員へ檄を飛ばして協力を要請し、先に出る夕立の援護射撃をしてもらう
②夕立の仕込みに続いてUC発動。敵から『冬という概念』を忘れさせ、敵の存在意義を奪うことで更に隙を作る
③参加できる全員で一斉攻撃

厳しい冬はいつか終わるものさ。春の訪れを告げる雷鳴と共にな。――俺たちがお前を忘れさせてやるよ
なあ野郎共、ここは海だぜ? 山の化生の好き放題、よもや許しておけねぇよなァ!?
雪解けは間近だぜ、撃ちまくれ! 今こそ越えるぞ、白嶺を!



「極限航路の果ての果て、まさか最後の障害が冬による停滞とはね」
 よっぽど先へ進ませたくないと見える。と、正純は甲板でひどく悪辣な笑みを浮かべた。
 かつぶし丸を阻めども、この程度の氷原(しょうがい)で、正純の知識欲は止められない。立ちはだかるなら、超えるまでだ。
「新たな春へとたどり着く前に、ここで一丁雪下ろしといこうぜ、夕立。いかんせん寒いのは苦手でな」
 煙草を燻らせている訳でも無いのに、吐き出す息が悉く白いのもそろそろ鬱陶しい。正純は打って出る前に、改めて、銃達の調子を確かめる。
「珍しく気が合いますね。手帳さん。オレも寒いのは嫌いです。もっと言うなら白くて見晴らしのいい場所は大嫌いですよ」
 かと言って、視覚(め)を潰されて真っ暗闇、と言うのも、あまり好きではありませんけどね。夕立は眼鏡に付着した六花を拭き取り、悠然と掛け直す。赤茶の瞳で見据えるのは、真白い女郎――冬の化身だ。
「何だ。もしかしてさっきの事、根に持ってるのか?」
「いいえ。単に圧(プレッシャー)をかけてるだけですよ」
「そいつは手厳しい。なに、その伊達眼鏡に適うくらいの働きはするともさ」
 穏やかに会話を続けながら、正純は不意に虚空へ空気銃を放つ。数瞬後、どさり、と、雪女だったであろう塊が甲板に落ちてくる。
 空を見上げれば、其処には女郎の凍えた視線。
「近い。睨まれてるな。この船を直接打つつもりか」
「関係ありません。どんな状況下であれ相手の目を盗むのが忍びの仕事ですから――それに、これから少し雨が降るでしょうし」

 鉄甲船の砲音に、夜来が靡く。彼我の距離をおおよそ把握し終えた夕立は、船員たちへそのまま何があっても砲撃と銃撃を続けるように言い含め、船首にて、野干の如く身を屈める。
「オレのことは気にしなくて構いません……と言っても、じきに削られた氷雪や爆炎に紛れて見えなくなるでしょうが」
 しかし、と夕立を案じる水夫達を、正純が静止する。夕立がそう言うのならそれで問題ないと、理解しているのだ。
 少しだけ長い瞬きの後、夕立は船を出て、氷河を駆ける。態々向こうから近付いてくれたお陰で、女郎まではそう遠くない、が、そこに辿り着くまでの守りは厚い。
 雪女たちの防衛網を突破するのは確定として、さて、どんな手段を用いたものかと逡巡していたその刹那、かつぶし丸より放たれた砲弾が、白雪たちの防御に人一人分の穴をあけ、夕立は其処へ便乗することにした。
 雷花を抜くと、進軍の邪魔となる必要最小限度の障害物のみを有無も言わせず無音の内に暗殺し、残りの始末を正純へ押し付ける。
 そうして辿り着いた女郎の膝元、
「――立春も疾うに過ぎました。『季節感』って知ってますか?」
 口ぶりとは裏腹、夕立は無数に揃えた千代紙風船の式紙を、優しく彼女へ放った。
「もう冬が出張っていい時候じゃないんですよ。じきにそう教えてくれます……いや、『忘れさせる』んですが。」
 ふわふわ柔らかく宙を進む暗色の千代紙風船は、女郎に接触すると、大きな雷鳴と強い閃光を発し、新雪よりも更に白く、海鳴りよりもさらに大きく、女郎の視覚(め)と聴覚(みみ)を奪った。

 時間は少々遡り、夕立が船を飛び出した直後。正純はかつぶし丸に迫る雪女を片手間に数人撃破し、銃弾をリロードする傍ら水夫達へ檄を飛ばす。
「なあ野郎共、ここは海だぜ? 山の化生の好き放題、よもや許しておけねぇよなァ!?」
 そいつは全くその通りでさ、と、水夫達は奮起する。
「そりゃあ見てくれはとんでもねぇ別嬪たちだが、あんな得体の知れ無ぇ奴らに俺達海の男が負ける訳には行かねぇ!」
「応よそうともその意気だ。兎に角撃って撃って撃ちまくれ! 何があっても砲火を絶やすな! 敵の防衛網に穴をあけろ!」
 凍てつく世界に熱く響く轟音。砲撃が一瞬でも防衛網に穴を開ければ、夕立は其処から容易く敵の懐へ潜り込むだろう。
 後は後詰めだ。正純も満を持して氷原へ降り立つと、リボルバー片手、手早く『残り』の雪女を掃討し、夕立のつけた足跡をなぞり駆け抜ける。
 そして、漸く見つけた夕立の、その向こうで光り轟く閃光と雷鳴。
 今はまだ、凍てる冬の雷。しかし、既に仕込みは万全だ。
「厳しい冬はいつか終わるものさ。春の訪れを告げる雷鳴と共にな。――俺たちがお前を忘れさせてやるよ」
 言って、正純は女郎の眉間目掛け、Disclose-μの引き金を引く。
 千代紙風船が視覚と聴覚を奪い、そして新たに放たれた銃弾が奪うのは、女郎を雪山を統べる女王たらしめる『冬という概念』。
 春雷。慈雨。冬を忘れた曇天が、温かな雨を降らせる。雨粒は冬(われ)を忘れ解けかけた女郎の身体に浸透し、じわりと溶けながら六花たちの分裂を食い止める。
 周囲の女たちも同様、たっぷり温かな雨粒を浴びてしまった白雪達の動きは鈍り、回避も攻撃も最早ままならない。『水を含んだ雪の重み』。それは、躰が大きければ大きいほどに――。
「さぁ! 雪解けは間近だぜ、撃ちまくれ! 今こそ越えるぞ、白嶺を!」
 不用意に、かつぶし丸の射程範囲まで近付いてきたのが命取りだ。
 この海域の全てが白嶺だというのなら、何処へ撃ってもその命に届くという事。
 慈雨は咆哮する弾雨を呼び、弾雨は雪女を粉砕した勢いそのまま女郎に炸裂する。
「何のことはない。此処まで来れば一番最初の繰り返しです。手帳さん。まさか外したりしませんよね?」
「ああ。どれだけ的が大きくなろうとも、照準に納めて、あとは撃つだけだ」
 富士の如きその体躯、大きすぎて外しようもない。夕立が間断なく苦無を疾らせれば、白嶺の内側、人目の及ばぬその場所に、密やか黒揺の花が咲き乱れ、
 正純は瞬時にして禁忌の領域まで練り上げた魔弾論理の導くまま、L.E.A.K.のトリガーに指を掛ける。
 
 放たれた弾丸は黒揺と共鳴し――女郎の体積を削り飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

雪は見て喜べる位がちょうど良いわ
美しいひと、小さくなって?

反撃に備え下船、瞳赤く白炎ゆらめく真の姿に
敵と巨大な一撃に警戒し
【見切り・氷結耐性・聞き耳】『ガラス蜘蛛』など駆使
攻撃をかわし風雪や衝撃に耐えるよう常に備える。
隙を見て『鼓腹』発動
油の入った釜か、炎を起こす石あたりに
変化して貰えるかしら

私は『護り現』で狸たちと武器を包み
連携して戦うわ
『謎のレモン』の蔦に『しっぽの針』を忍ばせる
敵を蔦で締め上げる前に凍り砕けるなら
隠した針で範囲攻撃
可能ならかち合わせ火花も
狸たち、少し助けてね

先の世界を見たいの
阻み、命を脅かすのなら御免なさい
サヨナラよ

……雪が溶けたなら、此処には何が残るのかしら


ルクス・カンタレッラ
やれやれ、化け物祭りの次は雪女かい?
寒さが平気な身で良かったよ、厚着しすぎも動きづらいからな

悪いな、水夫さん
私はちょっと船から離れるよ、大元狩りに行って来るから狩りの成果を期待して待っててくれ

往くぞ、クヴェレ!
ゼーヴィントの槍を手に、クヴェレの背に乗り空を往こうか
【先制攻撃、第六感】で敵より先に動いて、槍とクヴェレの攻撃で薙ぎ払うよ
敵の的は大きいんだからさ、ぱーっと豪快に行こうぜ

おっと、熱烈歓迎ありがとう
でも悪いな、私の命は売約済みなんだ
雪女に群がられればクヴェレの【カウンター】で払い除け、あくまで目標は雪女郎

クヴェレぶちかませ!
ははッ、山の怪異はさっさと山に消えやがれ!
この海は私らのもんさ!


クーナ・セラフィン
わあ、もうこれは一つ一つ砕くとか無理だね。
荒事はそんな得意じゃないからね。火力的なものは、うん。
でも元凶が分かるならばどうにかできる。
信頼してくれてる人達に、騎士として応えないとね。

氷原を走り化生の本体を探す。
巨大な攻撃なら他の人とは離れ走るのが多分吉。
雪が特に酷い方とか氷山とかの敵の目印あるなら其方へ走り、なければ船首の紫の光の先を目指す。
敵の攻撃にはちょこまかと走り躱すか、高く飛んで雪の塊を足場に跳ねたりして直撃回避。
その攻撃が腕型なら上に飛び乗って根本へと走ってみるかな。
落ちても雪が凄いならへーきへーき。
敵を見つけたらUC発動、花弁で幻惑する。
冬ももう終わりだよ。

※アドリブ絡み等お任せ



「わあ。もうこれは一つ一つ砕くとか無理だね」
 見渡す限りの銀世界に、クーナは甲板上で驚嘆交じりの吐息を零す。
 がしがしと、船に付着した氷を落とすだけで何とかなった数日前が懐かしい。
「……やれやれ、化け物祭りの次は雪女かい? 寒さが平気な身で良かったよ、厚着しすぎも動きづらいからな」
 ルクスは引き続き、全く普段通りの装いのまま気楽に伸びをして、忠実に付き従うクヴェレの喉をくすぐる。氷点下の寒さと言えど、光りすら差さぬ深海の環境に比べれば欠伸が出るというものだ。
「そうね。雪は見て喜べる位がちょうど良いわ」
 ジャム掌を広げ、六花を受け止める。温かな掌の上でさえ、それは消えず、降り積もり、全てを純白の下に覆い隠す悪意の一片。
「……雪が溶けたなら、此処には何が残るのかしら?」
 ジャムはぽつり疑問を口にする。海の果てに存在した紫色の光球。ただそれのみが、この海域の全てなのだろうか。
「そいつは当然、海が残る。荒海だろうが凍える海だろうが、命って奴は懲りもせず犇めいているもんだ。なのに王様気取りでインスタントに自分が生きる世界を凍らされちゃ、そいつらだって迷惑だろうさ」
 ジャムの言葉に応えた後、理屈だな、とルクスははにかむ。気に入らないからぶっとばす。その位、単純で良いだろうと。
「そうだね。元凶が分かるならばどうにかできる。信頼してくれてる人達に、私は騎士として応えるよ」
 銀槍片手に、クーナは帽子の鍔を微調整。吹き飛ばされないように真深く被り、全身に陽だまり色のオーラを纏う。
「それじゃあ私は海賊として応えるとしようか。悪いな、水夫さん。私らはちょっと船から離れるよ。大元狩りに行って来るから狩りの成果を期待して待っててくれ」
「お気をつけて!」
 見送る水夫たちを背に、ルクスは巨大化したクヴェレに飛び乗って、竜槍形態のゼーヴィントをその手に掴む。
「往くぞ、クヴェレ!」
 例え海が全て凍り付こうとも、空すら泳ぐクヴェレには、何の障害にもならない。
 ルクスは二匹の竜を従えて、真正面から堂々と、女郎に立ち向かう。
「……実を言うと、私は荒事そんな得意じゃないからね。特に火力的なものは、うん」
 だから正面は任せるよ、と、クーナは右舷側の甲板を蹴って氷原に飛び出す。
「私も、打って出るわ」
 少々後ろ髪を引かれつつ、ジャムも左舷からかつぶし丸を下船する。
 氷河を踏みしめたその瞬間。ジャムは白炎ゆらめく真の姿を顕にし、青から反転、紅に染まった両眼を瞬かせると、真白き世界を突き進む。
 道は違えど、目指す場所は皆一つ。

 空を行くルクス。その前方に立ちはだかるのは狂風と、無数の雪女。
「おっと、熱烈歓迎ありがとう。それじゃ派手にご挨拶と行こうじゃないか!」
 主の意思を汲んだクヴェレの爪撃が、前置き無く雪女を微塵に刻む。
 それでいいとルクスもまた頷くと、氷の抱擁を払い除け、すれ違いざまゼーヴィントを雪女に突き立てる。はらりと砕ける雪の塊。
「でも悪いな、私の命は売約済みなんだ」
 ルクスは不敵に笑って大胆にそう宣言する。しかし、それで聞き分ける雪女たちでは無い事は百も承知。
 主には指一本とて触れさせはせぬと、クヴェレは咆哮で周囲の狂風を弾いた後、長い尾を鞭のようにしならせ不届きな輩を叩き落とし、水のブレスにて全て跡形もなく洗い流す。
 如何に数でかかろうと、クヴェレの動きは止められない。押し留めようとする雪女達を蹂躙し、遂には女郎の目鼻の先まで迫る。
「クヴェレ。敵の的は大きいんだからさ、ぱーっと豪快に行こうぜ!」
 クヴェレは幽か頷くと、女郎の身体へ力を籠めて思い切り、鋭い爪を振り下ろした。

 唸るような音を立て、女郎の右腕がジャムの頭頂部すれすれを通過する。
 雪女が巻き起こす極寒のつむじ風を躱し、敢えて雪原に飛び込むと、ジャムは聞き耳を立て、敵と自身の現在位置を整理する。
 ……それにしても、寒い。魔力を纏う、銀の薄布(クロス)『ガラス蜘蛛』が寒気を遮断してくれるが、それでも悴む程度の寒さは残る。
 何か暖を、と思いを巡らせて、ふと脳裡に浮かぶのは――。
「お願い。きて、おいで、あなたたち!」
 あの剽軽な鼓腹。ジャムに喚ばれてどろんと現れたのは、優に五十匹を超える狸たち。
「いきなりで悪いのだけれども、油の入った釜か、炎を起こす石あたりに変化して貰えるかしら?」
 ジャムが彼らにお願いすると狸たちは、
「ぽんぽこ!」
 という謎の鳴き声を発し、頭に葉を乗せ一回転。釜や石に変じた。
 鳴き声に関しては寒さのせいで聞こえた幻聴かも知れない。忘れよう。
「狸たち、少し助けてね」
 ジャムは雪原から立ち上がると『護り現(オーラ)』で変化した狸たちを包む。
 本来戦闘力のない狸たちはそれによって雪女と渡り合うだけの力を得、釜が熱した油を振りまけば白羽は即座蒸発し、火打ちの石は油を極熱の炎に変え、炎はあらゆる六花を燃やす。
 そうしてジャムと狸は雪女たちを追い払い、ジャムは謎のレモンの蔦を女郎の足元から全身へ巻き付け、そのまま締め上げようとする。
 しかしレモンの蔦は氷り砕け――。

 クーナは氷原を駆ける。
 敵の注意がルクスとクヴェレへ向いてるうち、出来るだけ化生の本体との距離を詰めたい。
 だが、女郎の意識がどうであれ、天に地に、白雪が何処にでも存在している以上、何処からでも自動的に寄せ集まって形を成す雪女との接敵は避けられない。
「んー、出来れば余分な戦闘は避けたいところなんだけど、しょうがない」
 クーナに触れて撫でようと、雪女たちの手が伸びる。撫でられるのは嫌いでも無いが、それが氷点下の冷気を纏う妖手なら、話は別だ。
 氷柱の如く凍てつく掌たちをするりと交わし、爆裂の呪を籠めた魔術符をばら撒いて、起爆と同時、巻き起こった爆風で距離と高さを稼ぐ。
 高所から氷原を俯瞰しても、気紛れな猛吹雪が女郎の姿を隠す。
 目指すべきは特に酷く白雪が吹き荒れている地点か、それとも気高くそびえる氷山か。
(「……いいや」)
 あの女郎は一番初め、躰を形成する際に、紫色の光球を飲み込んだ。だから。目指すべき航路(みち)は、かつぶし丸が船首より光を放ったその瞬間から何一つ変わらない。
 巨大な何かが風を薙ぐ音。クーナの眼前、吹雪の奥から大蛇の如く顔を覗かせたのは、女郎の呆れるほどに巨きな右腕だ。
 クーナは宙を舞う雪女の頭を踏み台に跳躍し、女郎の右腕に取りついた。
「サイズ差だよ。山より大きな人型が、私(ケットシー)を掴もうなんて、難しいんじゃないのかな」
 右中指の先端に立ったクーナは鷹揚に、ぺろりと自身を毛繕い。
 その体から摩擦を無くし、一気に腕の付け根まで滑る。
 思った以上に速度が出て、ちょっと気を抜くとそのまま地面に落下しそうな勢いだが、まぁ、何処も彼処も雪だらけなのでへーきだろう。多分。
 吹雪を抜けた先に広がるは巨きな女郎の凍てる眼。
 クーナの滑降を阻止せんと、女郎は眷属たちを差し向けるが、しかし『風花は舞い散り』、幻の向こうへクーナを隠す。
「春雷も鳴り響いた。冬ももう、終わりだよ」
 女郎の肩を蹴ったクーナは、微睡む彼女の眼に銀槍を突き立てた。

 それは嵐の荒ぶ音か、それとも女郎の絶叫か、空が震え、仰け反る女郎を認めたジャムは、これを好機と火打ちの石(たぬき)達を女郎に撃ち込む。
 レモンの蔦は砕けた。しかしそこに忍ばせていた『針』達は健在だ。
 たぬきたちは女郎の全身に散らばる『針』達と合流すると、『針』とかち合い火花を起こす。
 幾度もの火花の末に炎を得た『針』達は、そのまま内部より白嶺を打ち崩し、蚕食する。
「先の世界を見たいの。阻み、命を脅かすのなら御免なさい。サヨナラよ。美しいひと、小さくなって?」

「相変わらずの我が物顔だ。気に入らないね」
 ゼーヴィントがそうごちるルクスの手を離れ、竜の形に戻って女郎を威嚇する。
 その身の内で暴れる『針』が、白嶺を構成する六花を焼き続け、女郎の身体はまた一段、縮む。 
 それでも女郎は涼し気に……白雪の集合体なら、そこに痛覚など無いのかもしれない。
「だが、いいさ。痛みも感情も無いってんなら、あと腐れなく吹っ飛ばせるってもんだ……クヴェレ! ぶちかませ!」
 何処までも主に忠実に。空を舞う海竜の咆哮は、白嶺を揺るがせ、その身から無数の白雪を剥離させる。
 もはやただの雪塊に近しい姿と成り果てた女郎を、しかしクヴェレは容赦なく、思い切り振るった尾の一撃で砕いた。
「ははッ、山の怪異はさっさと山に消えやがれ! この海は私らのもんさ!」

 分厚い氷原がぐらりと揺らぐ。
 航路を巡る戦いは、佳境を迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四宮・かごめ
※アドリブ連携歓迎
気が付いたら敵が消えていたでござる。
あと食事を摂ったら何故か酔わなかったので克服したものかと。
つまり今のそれがしは絶好調。
笹船に乗った気持ちで居るといいでござる(どどーん)

今回の任務:船の防衛
少々兵が足りない様子。幾らか回しまする。
――死霊槍兵、五十五。
かつぶし丸を守るよう、氷上に横に展開。
迫る雪女を食い止めて貰うでござる。
よく働くでござるよ。タダで。にんにん。

それがしは雪女に棒手裏剣を叩き込む。
かつぶし丸の上から打ち下ろすように。
戦線突破にござるか。こんなこともあろうかと懐に投げ銭が(ごそごそ)
……無いようなので鉈を抜いてダッシュで戦線の穴を塞ぎに行くでござる。

一刀参る。



 凍った海。巨大な女郎。空を舞う雪女。そしてそれらと激戦を繰り広げる猟兵達。
 マストの天辺、見張り台に上ったかごめは化け物じみた視力にて、戦場をつぶさに確認する。
「ふぅむ。どうやら少々、船を守る兵が足りていない様子」
 しかし不幸中の幸いか、自分がいる以上、物量的なフォローはそう難しい話ではない。
 かつぶし丸を失えば、全員が着のみ着のまま氷海を流離う事になる。船を守ると決めたなら、此処から先は決して失敗できぬ大仕事。
 故にかごめは泰然と腕を組み、目を瞑る。精神を研ぎ澄ませるのだ。
 ――そう。思い返せば、海月犇めくあの真夜中から此処に至るまでの記憶が曖昧。
 トラブルとアクシデントが重なった結果、現実と幻影空間を四往復位したところまでは覚えているのだが、現実に戻っては船に酔い、幻を見ては夢に酔い、最終的に正気を取り戻した際には、厨房にて余っていた兵糧丸と伽耶から貰ったであろう化けガニの身を一緒に煮込んだものを三杯位おかわりし終えた後だった。自分でも何でそうなっていたのかよくわからない。
 兎にも角にも蟹の分だけちょっとリッチな食事をとった結果、何時の間にやら全く船の揺れを感じなくなっていたので、なんやかんや食事療法で船酔いを解決した――と思ったら、なんと海自体が凍っていたという急転直下。
 根本的に船酔い体質が治ったわけでは無いのが残念だが、どうあれ船が揺れなくなったのであれば、かごめは即座に絶好調。笹船に乗ったつもりで居ると良いでござるよーと爽やかに水夫へ告げた後、嬉しさ隠さず小躍り気味の勢いで、マストを駆け登って今に至る。と言う訳だ。
「……何度回想してみても、あやふやな物はあやふやなまんまでござるな。仕方がないので未来(まえ)だけを見て進む事にするでござる」
 割り切ったかごめがにんにんにんと唱えながら如何にも忍びっぽい(実際忍びだが)手捌きで九字らしきものを切ると、額に天冠――日本の幽霊の九割が頭につけている三角のアレである――を巻いた落武者狩の死霊が五十五体現れて、ぐるり、船の外周の守備に就く。
「彼らは本当によく働くでござるよ。しかもタダで。にんにん」
「成程こりゃあなんて心強……いや、なんだか気持ち顔色悪そうじゃないですかい? 生気が無いというか」
「えっ、そんな事は。笑顔の絶えないアットホームな職場でござるよ?」
 死霊なので。顔色の悪さとテンションの低さにはご容赦していただきたく。
 実際、五十五体の死霊たちは棺桶に全身浸かって出棺直前みたいな容姿にも拘らず、勇猛に竹槍を振るい、雪女たちをかつぶし丸に近づけない。寒さを知らぬ死霊が竹槍を突き出せば、雪女たちは停滞せざるを得なかった。
「何とも見事な竹槍捌き……ですが、時折口から呪詛めいた言葉がこぼれている様な……」
 死霊なので。呪詛を吐き出すくらいは愛嬌とご容赦していただきたい。
 雪女が攻め、死霊が守るB級映画めいた背水の防衛戦。
 各所で均衡状態が生まれたその瞬間、かごめは見張り台より棒手裏剣を筍梅雨の如く打ち下ろし、侵攻(あし)を止めた雪女達へ端から順に叩き込む。
 そんなかごめの援護を含めた死霊の護りを、物量(かず)では押し切れないと悟ったか、雪女たちは合体し、力任せの強引に、防衛網を突破しようとする。
 かごめもまた死霊たちを合体させ、強化型雪女に対抗させるが、『合体数』(レベル)の差から、死霊達の分は悪く、善戦するものの、長期戦の末に突破を許してしまう。
 しかし、この程度の戦線突破など想定内。こんなこともあろうかと、かごめは懐に隠していたなけなしの六文銭を、
「……ごそごそにんにん? おや? 無いでござる?」
 どういう訳だか紛失してしまったので已む無くリーサルウェポン腰鉈を引き抜き、

「――四宮・かごめ。一刀参る」
 一変。マストを飛び降り、甲板を速く駆け、竹把台明神を踏み台に最至近距離まで一気に詰めて、大上段からかち割った。

 ……雪女だった塊が四散する。
 全ての雪が解けるまで、もう少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神崎・伽耶
遂に出たわね、ラスボス!
今回は、懐のあったか(くなりそう)なあたし。
寒さなんて、ぺぺぺのぺいっ、だわ!

ともかく。
全砲門開けー!
一斉砲撃ー!!(びしぃっ!)
味方の援護に守られて、お姉さん突撃だわ!

吹雪は鞭で斬り払い、船を背に庇いながら。
白嶺嬢の死角から、目立たないように駆け寄って。

あたしは何故、ここを昇らんと欲したか。
そこに女がいたからさあ!

ソードを振りかぶったまま、白嶺嬢の着物を攀じ登る!
船員たちの声が聞こえる場所で。

「さあ、年貢を納めていただきましょ!」

一声叫んで飛び、注意を引いて。
真の姿、闇色のシャドウに変化。

目(?)が合ったところで、一呼吸外して。
「来ると思った!?」

吹っ飛べ、どーん!



「遂に出たわね、ラスボス!」
 雪にも負けず寒さにも負けず、威風堂々かつぶし丸の船首に陣取り仁王立つ伽耶は、ずびし! と向こう見ずに白嶺女郎を指差した。
 そのまま降りしきる六花の一かけらを頬張ってみる。うん。まぁ、普通の雪だ。シロップとか鞄の中に有っただろうか。
 雪は普通だったが、先程の海月達の食感とか、なんだかちょっと夢現状態っぽかったかごめから蟹の身と物々交換で手に入れた兵糧丸のお陰で食レポのネタは十分、それで原稿料が得られれば、久方ぶりに懐が暖かく……なりそうな、そんな予感がする。
「色んな意味で、こんなところで凍っている訳には行かないし? 寒さなんて、ぺぺぺのぺいっ、だわ!」
 そんな伽耶の言葉を聞いてか聞かずか、女郎はじろり絶対零度の眼差しをかつぶし丸へ向けてくる。
「おおう、最初に比べると随分体積(からだ)小さくなってる感じだけど、まだまだやる気は衰えずか。そういう時はともかく――」
 悪戯めいた表情で、伽耶は船長へウインクを飛ばす。
 ウインクの意図を理解した船長は破顔して頷き、水夫たちに指示をして、『準備完了。あとはそちらのタイミングでどうぞ』と暑苦しいウインクを返してきた。
 それじゃあ早速。伽耶はにんまり笑みを浮かべると大きく息を吸い込んで、
「全砲門開けー! 一斉砲撃ー!!」
 本日幾度目かの轟音が、静寂の海域(うみ)に響く。
 かつぶし丸が火を噴いたと同時、伽耶は船首を飛び出して、女郎目掛け突撃する。
 そんな伽耶の突撃を、やはり阻むのは猛吹雪と雪女。
 伽耶は船を背に庇いながら、鞭で吹雪を斬り払い砲撃手たちの視界を確保して、ついで鉤爪付きワイヤーロープも振り回し、砲弾と共に雪女たちを砕く。
 ある程度雪女を片付けた後、かつぶし丸の砲撃はそのまま、白煙に紛れ白嶺の死角の死角に回り込む。そこから零の距離まで近づいて、白嶺の地上から一番近い下側端っこに鉤爪ワイヤーを引っ掛けると、伽耶はそこから白嶺嬢の着物を攀じ登る。
「あたしは何故、ここを昇らんと欲したか。それはね……そこに女がいたからさあ!」
 詰まるところ理屈では無い。浪漫なのだ。しかし、幾許かのクライミング技術を有し、更にこれまでの闘いで女郎の『背』が縮んでいるからと言って、その登攀は決して楽な路(ルート)ではない。
 其処は、回り始めた椋の毒が白雪を黒く染め、触れたら終わる立ち入り禁止の領域を作り、刺されば痛いジャムの『針』があちこちから顔を出し、雷は止むことなく、雪時々雨の天候で、空を飛ぶ海竜が白嶺を揺さぶり、謎の竹把台明神が通りすがる超上級者コース。おおなんという。シーズンでは無かったと言わざるを得ない。
 それでも伽耶はめげず、マスタードソードを振りかぶったまま、女郎の顔面、かつぶし丸から遠眼鏡で自分の雄姿が見えるギリギリの位置まで踏破して、
「さあ、年貢を納めていただきましょ!」
 自身満々啖呵を切ってロープ伝いに飛び跳ね挑発する。
 無論、伽耶のアクションに、女郎が何時までも黙っている筈もなく、女郎は伽耶を除けようと、自身の巨掌を差し向ける。
 が、刹那、伽耶はゴーグルを被って闇色の――シャドウチェイサーにもよく似た――真の姿に変じ、女郎の巨腕を躱して見せた。
 応酬に、ソードを突き立てようとする伽耶。しかし、そうはさせじと巨腕は解け、無数の雪女が剣の切っ先の邪魔をする。
 それでも伽耶は強引に……。
「――なーんて、来ると思った!?」
 闇が揺らめく。
 直前まで雪女を引き付けた伽耶は、ロープを繰って全く予想もつかない不規則的な軌道を描き、彼女達の守りが最も薄い位置に吶喊した。
「吹っ飛べ! どーん!!」
 全く想定していなかった不意の部分に攻撃を受けた女郎は、その体格差にも関わらず一方的に後退り、

「まだまだー! もっともっとー!」
 そこから伽耶は間髪入れず、かつぶし丸へ遠眼鏡越し指示を出し、極めつけの砲撃をありったけ女郎に叩き込んだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【冬星】
さっっっむ!
……また温度下がったし……ていうか海凍ってる……
天候・環境変動型のオブリビオンって、何でこうやることなすこと派手かな……

足場が出来たのは良いけど、滑りそうでやだなぁ……スパイクなんて履いて来てないし
ジンガ、僕はとりあえず船の上から狙撃に入るけど……ジンガどうする?降りるなら足元気を付けて

ありったけの炎でも掻き集めるかなー
破魔矢の属性を炎へ
【属性攻撃、全力魔法、多重詠唱】で火力と攻撃範囲を更に強化、【誘導弾、範囲攻撃、先制攻撃、操縦】で一斉掃射!
大丈夫、僕の矢は外れない
【おびき寄せ、誘惑、催眠術】で同士討ちも引き起こしつつ、自分への攻撃は【第六感、見切り、目潰し】で防ぐよ


ジンガ・ジンガ
【冬星】
あらまァ、いつの間に新大陸に着いたワケ?
違う?
まだ海?
ウッソだァー、一面氷原じゃーん?

俺様ちゃんは降りる一択
未夜の方こそ気ィつけてよねェ
船の床で滑って転ばないよーに

おー、滑る滑る
マトモに走るより、いっそ滑ってった方が早そーね
スケートの容量で、最大限に【地形の利用】させてもらいまショ

襲ってくる雪女ちゃん達を【見切り】華麗にいなしながら本丸へゴー!
全力【ダッシュ】の【逃げ足】も、滑るお蔭でいつもよりはやーい!
逃げると見せかけて、回り込んでの【フェイント・だまし討ち】も捗るゥ~

充分に親玉ちゃんに近付いたら
喚んだ大火力のオトモダチから【2回攻撃】のプレゼント
未夜が凍死する前にバイバイじゃん?



「あらまァ、いつの間に新大陸に着いたワケ?」
 アイマスクを額に、欠伸を一つ、ジンガはひょっこり客室から外へ顔を出し、そんなジンガへ水夫の一人が『いいえ、まだ着いていやせんぜ』と律義に首を振り返す。
「え? 違う? まだ海? またまたァ、ウッソだァー。だってさっきから船全然揺れてないじゃん?」
「て言うかやっぱりさっっっむ! ……絶対また温度下がったし……」
 ジンガより幾分先に甲板へ出ていた未夜は、防寒着で完全武装しつつ、それでもぶるぶると震えながら、船の外の景色を見遣る。
「あー……見てよジンガ。完全に海凍ってる……」
「……って、あらヤダホント、一面氷原じゃーん?」
「ああ駄目だ視覚的にもすっごい寒い……天候・環境変動型のオブリビオンって、何でこうやることなすこと矢鱈に派手かな……」
 呼吸をする度肺が冷たい。恐らくこの騒動の黒幕である、山脈の如き女郎。彼女を睨む未夜の眼差しに、若干、寒がりとしての恨みが籠る。
「うーん、足場が出来たのは良いけど、滑りそうでやだなぁ……スパイクなんて履いて来てないし」
 格好良く氷上へ降り立ったは良いものの、滑って転んで狙いを外す、なんて悲劇(コメディ)だ。船上からの目測で判断すると、女郎が高頻度で氷原を移動するにせよ、未夜の射程から外れる事は無いだろう。
「ジンガ、僕はとりあえず船の上から狙撃に入るけど……ジンガはどうする? 降りるなら足元気を付けてね」
 なので未夜は、何が何でも下船しないことに決めた。ここまで来たなら一蓮托生、女郎の用意した厚い凍りの海より、これまでの航海で大分ガタが来始めているかつぶし丸の甲板を、それでも尚信頼しよう。
「俺様ちゃん? 俺様ちゃんは降りる一択。未夜の方こそ気ィつけてよねェ。船の床で滑って転ばないよーに」
「うん、それは大丈夫。寒さ対策も兼ねて儚火に乗っかるから」
「そぉ? それじゃ儚火ちゃん、未夜の事ヨロシク~」
 喚び出された黒狐――儚火の頭をゆるゆる撫でて、ジンガは船を飛び出した。

「おー、滑る滑る。それだけで何だか楽しくなってくるんだから、俺様ちゃん我ながらチョロいわァ~。何ならこのまま遊び倒しても良いんだけど……」
 そう言う訳にはいかないよなァと、氷原に降りたジンガは、吹き荒ぶ雪女達と、その親玉である女郎を見上げる。
「さてと。こんだけツルツルなら、マトモに走るより、いっそ滑ってった方が早そーね。俺様ちゃん結構、スケートなんかもイケるクチじゃん?」
 利用できるものを利用しないなんて勿体ない。ジンガはスケートの要領で、氷原を滑る。目指すは敵の本丸だ。
 鏡の如き氷原(リンク)にて、口笛混じり右足を前に。左足を前に。時折体を傾けカーブして、気付けば全力で走るよりも倍の速度。
「わお、あらゆる美女が手を伸ばしてきてまで追っかけてきて、国民的スタァな気分」
 後方より追いすがる雪女たちを突き放し、前方に立ちふさがる雪女たちの攻撃を見切り、ジャンプからの回転(スピン)を交えつつ華麗にいなす。
「ゴメンねーこれで俺様ちゃん結構急いでるから。サインはまた今度じゃんよー」
 などと、多忙なアイドルよろしく手を振っておきながら、ジンガは突如、進路を変えて、振り切ったはずの雪女たちの背後へ回り込む。
「嘘嘘俺様ちゃんそんな冷血漢じゃないし。むしろサプライズタイムじゃん? 身体が雪にも拘らず、熱烈に追っかけてくれる雪女ちゃん達へ、とってもアッツイ旧友(トモダチ)からのプレゼント! やだ、超捗るゥ~!」
 ジンガは指をかちりとトリガーに、火炎放射銃で有無も言わさず雪女たちを全員焼き払い、六花が途絶えて暫し静かになった氷原を、再び口笛混じりで滑り行く。
 身体が溶(とろ)ける様なサプライズを追っかけ達に振りまきながら、やがて女郎の至近まで接近したジンガは火炎放射銃(きゅうゆう)に別れを告げて新たな友(ロケットランチャー)を二丁持ち、
「こんにちは大きな巨きな親玉ちゃん。ちょっと談笑とか交えて分かり合うのも吝かでは無いんだけど、ごめんウソ。未夜が寒がってるんで。凍死する前にバイバイじゃん?」
 女郎の応答などは特に求めていない。
 振り下ろされる巨腕にも、吐き出された狂風(いぶき)にも目もくれず、ジンガは弾数無限の大火力で、徹底的に女郎を焼却した。

「ジンガ、派手にやってるなぁ……」
 炸裂する光を眺めつつ、未夜は六花に隠れて四方より吹き付ける雪女の氷撃を、直感交じりに回避する。
 狙撃すると言っても、さあてどうした物だろう。白嶺女郎が消耗しているといえ、生半可な火力をぶつけるだけでは、徒に戦闘時間を伸ばすだけ。それは避けたい。何しろもう、寒すぎて。
「……一気に行くなら、やっぱりありったけの炎を掻き集めるかなー」
 そう閃いた未夜は、下準備に二十ほどの破魔矢を束ねて、空に撃ち出す。撃ち出された矢は何を射抜くことも無く、空の途中で強く光り輝き、燃え尽きた。
「さて、後は……」
 小競り合いを仕掛けてくる雪女たちが鬱陶しい。ジンガ回収用のレギオンをひっそり一機飛ばしつつ、海月達へそうやったように、目が眩む程に光る玄火を放ち、雪女たちを射撃の邪魔にならない位置へおびき寄せ、誘惑し、催眠の果て同士討ちさせる。これで障害物は無くなった。
 船首に立った未夜が、瞬刻、幾重無数の矢に火を燈したと同時、それを待っていたかの様に氷原(せんじょう)の各所で激しい炎が巻き起こる。
 群青、蒼炎、紅蓮、輝く翼、爆ぜる魔術符、釜の油と火打石――。
 そう。文字通りありったけの『炎』。
「大丈夫、僕の、僕達の矢は外れない」
 固唾を飲む船員達へ、安堵させるようにそう呟き、未夜は全てを籠めた破魔矢を放つ。
 無数の火矢が、船首より放たれる紫色の光を辿り、その終点――女郎の全身、『白嶺』と言う存在そのものを隈なく射抜き穿ち、そしてあらゆる炎が一つになって、海に降る六花たちを焼き尽くす。
 ――形を、眷属を、存在を、炎に葬られながら、それでも凛然と凍てつく女王のままであったのは、彼女の最期の抵抗だったのかもしれぬ。

 急速に、氷原(うみ)が融ける。女郎の死が、この海域を本来あるべき姿へと戻すのだ。

●異世界へ
 氷が消え、波も比較的穏やかに、曇天からはこれまで決して見ることがなかった陽光が射し込む。
 女郎の存在さえなければ、この航路が外海探検にあって一番易いルートだったのだろう。
 かつぶし丸の眼前には白が混じった紫色の光球。身を乗り出して覗き込めば、南国の島々が見えた気がした。
「よし、このまま球ァ目掛けて全速前進だ。どのみちこの船にゃもう列島に引き返すだけの耐久力(ちから)は無ぇ!」
 船長の号令に乗組員たちは応、と吼えるように返す。
「此処まで欠けた人間は?」
「居やせんぜ! センセイ方には感謝してもしきれねぇ!」
「残りの弾は?」
「素寒貧でさァ! またバケモンが出たらセンセイ方よろしく頼んます!」
「……故郷に別れは?」
「今更でさぁ!」
「はっ! 命知らずの馬鹿どもが! 聞くだけ野暮だったか。それじゃあ行こうぜ、俺達はこれから、海どころか世界を跨ぐんだ!」
 此処まで俺達を連れて来てくれて本当に感謝してます、と、船長は猟兵達に深々と頭を下げ、
 そうして、かつぶし丸は進む。

 光球に触れ、新たな世界へ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月19日


挿絵イラスト