カフェ『君影草』で逢いましょう
●偽りの逢瀬
もうすぐ春がやってくる。ショーウィンドウに飾られた春物の服が、桜モチーフの雑貨が、春の小旅行を誘うポスターが。それら全てが彼女のいない春の虚しさを際立たせ、四方から闇に包まれていくような気持ちになってくる。
(ああ、どうして貴女はいないの。貴女が好きな桜が咲く時期が迫っているというのに)
気が付けば、彼女が好きだった桜の樹が良く見えるカフェに来ていた。そのカフェも亡くなった彼女の後を追うように看板をおろし、廃墟と化している。本来ならば誰も立ち入れないよう封鎖されているはずだが、何故か扉は簡単に開き、ふらりと何かに誘われるように店内へと足を踏み入れた。荒れ果ててはいたが、彼女と二人、下校途中や休日に訪れたカフェの面影はしっかりと残っている。
「どうして……」
彼女だけがいない、そう呟くはずだった言の葉が虚空に消える。かつて二人がお気に入りだった窓際の席。埃をかぶった椅子に、彼女が、死んだはずの親友が座っている。
夢でも見ているのだろうか。震える足取りで近づき、向かいの席に腰を下ろす。彼女は一言も話さない。しかし、昔と同じ笑顔を浮かべて、こちらの言葉に相槌を打つように頷いてくれる。
「逢いたかった、ずっと逢いたかったのよ、美咲……」
たとえ夢でも幻でも良い。明日もまたこのカフェへ来よう。大切な親友に、また逢う為に……。
●噂をすれば影
「逢いたいヒトに逢えるカフェがある。そんな噂、知ってるかい?」
九条・真昼(嗤ヒ袋・f06543)が手元のグリモアを弄りながらニヤニヤ嗤う。最近、UDCアースの東京を中心にそんな噂が流れ、SNSを通じて急速に拡散されているという。
「それこそ最初は東京某区の某廃カフェって話だったのが、噂として拡散されていく内に話がぼやけて該当する場所や類似話がクソみたいに増えちまったみたいなんだよねー」
そうして更に自称目撃者やら体験談が増えて、噂は世界中に広まりつつあるという。
「今回の仕事はこの噂の元になった感染型UDCを始末すること」
感染型UDCと呼称されたそのオブリビオンは、それを見た人間、それを噂話やSNSで広めた人間、その広まった噂を知った人間全ての『精神エネルギー』を餌として、大量の配下を生み出す危険極まりない存在だ。真昼はピッと指を一本立て、仕事の流れを説明する。
「もう噂はかなり広まってるんで、配下の発生は防げない。だから、まずはこの大量の配下を片付けて欲しい。あ、配下はわざわざ探さなくても、俺がちゃーんと奴らがいそうな場所に送ってあげるから安心してよ」
つまり最初の仕事は難しいことを考えず、配下との戦闘に集中できるということ。幸い配下は数こそ多いが一体一体はさほど強くないと情報を付け足し、キシシと嗤いながら真昼は二本目の指を立てた。
「次に噂の出元であり感染型UDCの棲み処、元祖・逢いたいヒトに逢えるカフェの調査ね。凡その場所のあたりはつけてあるけど、実際に足を踏み入れないことには詳細は解らないから。それと、噂を広めちまった感染型UDC第一発見者の女子高生が行方不明になってる。もし現場で見つけたら保護してあげてよ」
要は猟兵が身を以って噂の現象を体験して調査せよ、ということ。行方不明の女子高生の保護は必須ではないので、あくまでも余裕があればと補足された。そして真昼の三本目の指が立てられる。
「最後に今回のお仕事の目的、噂を発生させた感染型UDCの討伐。噂が本当なら、大分捻くれた攻撃仕掛けてくると思うんだよねー。すっごく逢いたいヒトがいるような人は特に気を付けてよ」
気を付けてと言う言葉とは裏腹に、真昼の不健康そうな顔には愉し気な笑みがありありと浮かんでいる。性格の悪さを隠そうともせず、真昼はにこやかに手を振って猟兵達の転送を開始した。
依藤ピリカ
こんにちは、依藤ピリカです。
一章は戦闘、二章は心情、三章は心情+戦闘に重きを置いて描写させて頂きたいと思います。通しで参加しなくても全く問題ありませんので、いずれかの章だけ参加という形も大歓迎です。
一章:集団戦で純戦系ですので、思いきりやっちゃって下さい。
二章:調査パートですが、廃カフェで逢いたいと望む相手の幻影を見る心情中心パートです。POWなどの選択肢はお気になさらずにプレをお書き下さい。亡くなった方でも生きている方でも、どこかにいる怨敵でもご自由に。ヒトと表記しておりますが、種族問いません。合わせプレでお互いの幻影を見ることも可能です。OPに出てきた女子高生の保護プレに関しては、希望者のみお書き下さい。
三章:ボス戦です。二章に参加されていた場合、そこで見た幻影の内容も踏まえた内容にしたいと考えております。二章に参加されていない場合、プレで逢いたいと望む相手をご指定頂きたく。
OP公開と同時にプレ受付を開始します。キャパが小さいので少数採用になるかもしれません。追加連絡事項が出来ましたら、マスターページにて。それでは、よろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『シャーマンズゴースト・ボーン・リボーン』
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POW : クロウボーン・ライダー
自身の身長の2倍の【白骨化した馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD : サイキックボーン・パレード
【念力で操った自分自身の骨】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : ストーンエイジ
【杖の先端に嵌った宝玉】から【物体を石化させる光線】を放ち、【石化】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:fumi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
杜鬼・クロウ
アドリブ、怪我歓迎
逢いたい人、ねェ
俺には”もう”いねェから、なんら問題ねェな
幻や夢の中で逢瀬を重ねた主とお嬢
ケジメはつけた
思い残すコトは、ねェ
ハズなンだが
俺でない別の…(ざわつく
何か忘れてる?
誰かに、逢いたいのか…?
(誰が?誰に?
朧げに浮かぶ二人の青年
不遜で冷淡な金髪と優しい銀髪が微か脳裏に
コイツら前にも現れた…)
緩く首振り
煙草揉み消し戦闘態勢
ち、今は雑魚をボコすのに専念する
派手にぶちかますぜ、オラァ!
剣の風圧で押し返す
黒外套が舞う
挑発し【聖獣の呼応】使用
玄夜叉に風宿し竜巻の如く敵放りあげ自分もジャンプ
空中で十字斬り(属性攻撃・2回攻撃
鎌鼬の様に切り刻む
敵の攻撃は第六感・見切り
宝玉狙い部位破壊
●闇夜に舞烏
深夜の東京、某所。街の喧騒が遠い、住宅街の中にある公園に杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)はいた。
逢いたいヒトに逢える。かつての自分なら、その噂は少なからず心を乱すものだったに違いない。そんなことを考えながら懐から取り出した箱を軽く指で叩き、一本咥えて火を点ける。そして、紫煙を燻らせながら眼前に群がる異形の徒を見据えた。
余裕のある佇まいだが、そこに油断はない。気怠げに煙草を喫んでいるが、纏う空気は抜き身の刃のそれだ。
(ケジメはつけた。思い残したことはねェ。もう、いねェはずだ。逢いたいヒトなンざ)
クロウは猟兵として数多の戦場を駆け、幾つもの世界を渡った。夢か幻かとも思う中で、大切だった彼の人達とも逢瀬を重ね、己の心には整理をつけることが出来た。そのはずなのに。
(……俺は何を忘れている?)
噂話を耳にしてからクロウの中で何かが引っ掛かっていた。言いようのない気持ち悪さに眉間に皺を寄せ、じりじりと近づいてくる異形の徒を牽制するように愛剣・玄夜叉を構える。
(逢いたい……誰が、誰に……?)
これは果たして己の記憶なのか、望みなのか、感情なのか。出所の解らない想念に苛立っていると、朧げな二人の青年の姿が脳裏を過る。
「チッ……!」
緩く頭を振り、咥えていた煙草を吐き捨てると靴底で忌々し気に揉み消した。何が引っ掛かっているのか己でも解からないのは癪だが、今は雑魚を片付けるのが先決だ。
「遊んでやる。かかってこいよ」
黒く染められた爪が目を惹く長い指を立て、口の端を吊り上げてこれ見よがしに挑発すれば異形の徒の群れは先ほどまでの慎重さを忘れたかのように一斉に飛び掛かってくる。想定通りの動きにクロウの笑みが深く、獰猛なものになった。
『!?』
異形の徒達が不意に増えた気配に驚き、後退しようとしたがもう遅い。挑発に応じたのを切欠に、クロウの背後には朱の鳥が大きく翼を広げて現界していた。【聖獣の呼応】。破魔の力を宿したその鳥はその鮮やかな朱の羽根を無数に飛ばし、異形の徒達の肉のない体を容赦なく切り裂く。
「派手にぶちかますぜ、オラァ!!」
風を纏った玄夜叉の一閃で異形の徒達が纏めて吹き飛ばされ、竜巻と共に舞い上がる。それを追うように外套を黒翼のようにはためかせ、クロウも跳んだ。鳥の翼が風を切るような鋭さを以って、宙でも迷いなく繰り出された剣戟は十字を描いて骨の体を砕く。
しかし、全ての敵を倒しきるには相手の数が多すぎた。剣の届かぬ場所にいた討ち洩らし数体が手にした杖をクロウに向け、聞きとれない言語で妖しげな術を紡ぎ、放とうとしている。
「甘ェよ」
クロウは焦るでもなく、目を細めて異形の徒が持つ杖に嵌められた宝玉を見遣る。そしてもう一閃、本来なら間合いの外にいるはずの敵に向かって玄夜叉を振り抜く。
――スパァンッ!
小気味よい音を立ててクロウを狙っていた者達が構えていた杖の宝玉が全て、鎌鼬の如き一撃で真っ二つに割れた。そして宝玉に続き、ズルリと異形の徒達の頭が中央から上下にずれてゆく。
斯くして、空から地に五体満足で降り立ったのはクロウ一人だった。辺りにはもう蠢く異形の徒の姿はない。砕け、散らばった骨の欠片も全て溶けるように消えていった。
(それにしても……)
二本目の煙草を咥え、星のない空を見上げる。宙で戦っている最中に、ふと思い出したのは二人の青年の色彩だった。不遜で冷淡な金髪と、優し気な銀髪。
「……前にも、見た気がすンだよな」
煙を吐き出し、ガシガシと射干玉の髪を乱暴に掻く。未だ得られぬ答えは、噂の場所へと赴けば得られるのだろうか。冷たい夜風に流された紫煙を見送り、クロウは公園を後にした。
大成功
🔵🔵🔵
フラム・フロラシオン
POW/アドリブ合流◎
逢いたい人、か
ヒメに会いたいな。もうずっと会ってないもの
会ったらきっとまた傷つけちゃう
…だから、幻でもいいから会いたいな!
だって、幻なら、傷つけてもヒメじゃないもの!
でも、それにはまず、この子たちを倒さなきゃいけないんだね
おいで、わたしとあそぼ
骨の騎士なんて、わたしの剣でバラバラにしてあげる!
UC【トリニティ・エンハンス】で剣に炎を纏わせて
攻撃力重視の【属性攻撃】を叩きこむよ
多少の反撃は避けずに受けて、真正面から全力でなぎ払うね!
肉を斬らせて骨を断つ、だよ
本当に骨だけどね!
それにしても、沢山いるんだね
あははっ、楽しいな
いっぱい遊んでね!
●憂さ晴らしの戯れに
本当は、大切な人の傍で時を共にし、この想いを捧げ、絆を育み、満たされたかった。だが、それは叶わぬ願い。
「ヒメに逢いたいな……」
人気のない夜の街を歩くフラム・フロラシオン(the locked heaven・f25875)の薄紅色の髪が夜風にたなびく。髪をかきあげ、少女が想うのは只一人の主人、己が騎士として剣を捧げし姫君のこと。
(でも、逢ったらまた傷つけちゃう)
守るべき存在から離れ、ずっと逢えていないのはフラムにかけられた『呪い』のせいだ。
(逢いたい逢いたい逢いたい逢ったら思い切り抱き締めて、そして)
つい考えてしまう過激な愛情表現、そして独占欲を迸らせた妄想。フラムはその愛らしい顔に恍惚とした笑みを浮かべてぶるりと身を震わせ、腕を抱く。
「だめだめ、ヒメに逢うのはこの呪いを解いてから」
彼女のことを考えれば自然と足取りも気持ちも軽くなる。街灯の少ない昏い道を踊るように歩きながら、鼻唄を歌う。
「でもでも、やっぱり逢いたいな、幻でも良いから」
むしろ幻が良い、というのがフラムの本音かもしれない。幻ならホンモノじゃない。ヒメであってヒメじゃない。傷つけても大丈夫なヒメだから、逢っても大丈夫。そういう理屈だ。
上機嫌に歩いていたフラムの足が、ピタリと止まる。視線の先にはカチ、カチと点滅する街灯……その灯りの下で蠢く影があった。
「ヒメの幻に逢う為には、まずはあなた達を倒さなきゃいけないんだよね」
動く骨、異形の徒がカチカチと歯を鳴らし、落ち窪んだ眼窩に妖しい光を宿してこちらを窺っている。その数は、一、二、三……闇の中から次々に姿を現し、フラムの周りを取り囲んでゆく。中には白骨化した馬に騎乗した者までいる。
「おいで、わたしとあそぼ」
まるで遊び相手がいない子どもを誘うように笑って、手を差し伸べる代わりに剣を抜いた。トリニティ・エンハンスで炎の魔力を流した刀身はフラムの瞳のように赤く煌めき、闇を、蠢く異形の徒を照らす。
不敵な笑みを浮かべたフラムが剣を水平に構え、タンッと硬い地を蹴る。一足で異形の徒との間合いを詰め、炎を纏った剣が骨の体を穿つ。
「あははっ、愉しいなぁ」
攻撃力重視で強化した剣は刺突の一撃で硬い骨を粉砕し、一瞬で骨馬を焼き焦がす。その勢いと威力は脅威だったが、異形の徒達は数に物を言わせ、四方八方から反撃を試みる。しかし、フラムはその身を多少傷つけられても臆することなくダンスを踊るように華麗なターンを決める。同時に炎を纏った剣で周囲を薙ぎ払い、襲い掛かってきた異形の徒を纏めて塀や電柱、街灯に叩きつけた。派手な音と共に骨の体を次々と崩され、灰となっていく異形の徒達。
そうしてそれなりの数を無力化したはずなのだが、闇の奥から一体、また一体と増援が現れる。しかし、フラムには全く疲労の色は見えない。攻撃が掠めて血が一筋垂れる頬を指で拭い、その指を舐めて剣を構え直す。
「まだ遊んでくれるの? 良かった! じゃあいっぱい遊んでね!」
とても、とても愉し気な笑みを浮かべてフラムは剣を振るい続けた。……遊び相手もとい憂さ晴らしの相手が、一体もいなくなるまで。
大成功
🔵🔵🔵
有栖川・夏介
逢いたいヒトか、逢いたくないヒトなら……それなりに思いつきますけどね。
そもそも、命を奪っておいて逢いたいなどと、願う資格もないですし……。
所持しているチェス駒とぬいぐるみに何となく触れてみる。
…ええ、私は私の仕事を全うしましょう。
「お茶会セット」から針とナイフを取り出し構える。
大きく動いて敵を引きつけるのも手ですが、それは他の方に任せまますか。
……。
息を、気配を、心を殺して、暗殺者のように
「……サヨナラの時間です」
目立たないように動き、背後から敵を狙う
杖を持つ手を、動き回る足を、狙い定める瞳をもつ頭を狙って素早く仕留める
敵の攻撃は野生の勘で危機察知して見切り
囲まれたら【何でもない今日に】で応戦
●時間殺し
キィ、キィと錆びた鉄鎖が軋んだ音を立てる。住宅街の中の人気のない公園で、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は椅子代わりにブランコに腰かけて夜の闇を赤い瞳で見つめていた。
(……逢いたいヒトか)
考えてみるが、パッと出てくる顔はない。逢いたくないヒトの方ならそれなりに思いつくのは、処刑人という生業故か。
(そもそも、願う資格もないでしょう)
目を瞑り思い出すのは、絶望で塗りつぶされた顔、憤怒に染まった顔、悲哀に濡れた顔、苦痛に歪む顔。刑を執行された者達の最期の姿。
そういう顔にしたのは自分で、最期を飾ったのも他ならぬ自分自身。
(ああ、でも最近はそういう顔もあまり見ていない気がしますね)
処刑人としての腕が上がったお陰か、対象を苦しませずに、否、死ぬという恐怖すら与えずに処すことが出来るようになったから。
そっと瞼を開けば膝の上に乗せた煤けた小さな兎のぬいぐるみと目が合った。古い血の痕跡を指で撫でるが、当然のように汚れは消えない。
つまりはそういうこと。
どんなに腕を上げ、痛みも苦しみも恐怖も与えなくなったとしても。処刑人として積み上げてきた屍の数と、業は消えることはない。
夏介が兎をしまって己という存在を再認識していると、不意に周囲の闇が濃密な気配を孕む。ブランコの周囲は街灯が照らす灯りで明るいが、それが届かぬ場所に何かが蠢く気配がする。
「……ええ、私は私の仕事をしましょう」
ブランコから腰を上げ、服の上からそっとポケットの中にしまった白騎士のチェス駒に触れる。そしておもむろに取り出したのは『お茶会セット』。それを機に、闇の中で機を窺っていた異形の徒は骨馬を駆り、一見無防備に見える夏介へと飛び掛かってきた。
『!?』
しかしその強襲は空ぶりに終わる。灯りの下で佇んでいた夏介の姿が、煙のように消えていた。強襲した異形の徒の背後で、ガラリと骨が崩れる音がする。振り返れば同胞だったものが、無惨な姿で散らばっていた。
無音、無風。極限まで無駄な力を抜いたその動きは、闇に溶け込む様にして異形の徒達の背後をとることを可能にする。ガシャガシャと派手に骨が擦れる音を立てていることも仇になったのだろう。異形の徒達の攻撃は夏介に容易に見切られ、対して彼らは夏介の姿を捉えることができないまま翻弄される。
(直立二足歩行をしているということは、人間と類似した骨格を持っているということ)
たとえ肉や臓腑を持たぬ骨だけの異形とて、人間を似た構造をしているのなら……夏介にとってやりやすいことこの上ない。シルバーのバターナイフを骨と骨の隙間に滑りこませ、くいっと軽く力を入れるだけで容易にバラバラに出来るのだ。勿論、夏介だからこそ出来る技術なのだが。
「夜の茶会もここまでです」
異形の徒達が数の暴力で夏介を取り囲み、圧し潰そうとした時だった。バターナイフと同じく『お茶会セット』の一つである、無数の穴あきソーサー……もとい、チャクラムが夏介の周囲に群がった全てに襲いかかる。高速で回転するそれは、異形の徒を構成する骨の継ぎ目という継ぎ目全てを分断し、あっという間にあたりには物言わぬ骨の山が積み上げられていた。何でもない今日に乾杯するような狂った茶会にしては、呆気ない幕切れ。
「鴉と書き物机が似ているのは何故か」
夜風に飛ばされながら溶けるように消えた骨片を眺め、夏介は誰に問うでもなく一人ごちる。その問いに意味はない。その問いに正答はない。逢いたいヒトがいるのか、逢いたいと願って良いのか。自分自身では答えが出ない夏介と同じように。
大成功
🔵🔵🔵
天星・暁音
【天星零と参加】
逢いたい人…ねぇ?
別に零がいるだけでいいから特には思いつかないなあ
うーん…考えてみてもやっぱり思い浮かばないや
まあとにかく先ずは敵の排除だよね
先ずは属性を切り替えて苦手な攻撃探して、苦手を見つけたらその属性で光線落としまくるよ
援護射撃も撃ち込むから後ろは気にしなくて大丈夫だよ
零の後ろは俺が護るからね
UCで攻撃しつつ近づくものは銀糸や銃撃で倒します
零を狙う敵を優先的に倒していきつつ他の猟兵も支援援護が必要ならばします
スキル、UC、アイテム使えるものがあればご自由にどうぞ
天星・零
enigmaで夕夜と共に
【戦闘知識+世界知識+情報収集+追跡+第六感】で戦況、弱点や死角を把握し戦闘
※防御は星天の書-零-で【オーラ防御】
零
三人で連携し遠距離は十の死とグレイヴ・ロウを戦況に合わせ使用
近接はØ
夕夜
Punishment Blasterとグレイヴ・ロウを敵背後から出現させ騙し討ちを仕掛ける
上記武器とØで3人と連携し戦闘
「さて、終わりにしようか。夕夜、暁音頼んだよ」
『おう!暁音、支援するぜ!派手に行くぜぇ!』
零が敵の周囲に十の死の轢死の骸で岩を出現させて敵の周りに壁を作ったあと、夕夜が指定UCで敵を叩きつけたり暁音のUCの攻撃範囲内に移動
口調ステシ(零は暁音と夕夜と話す時は素の口調)
●三重奏
天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)と、彼の持つもう一つの人格を実体化させた夕夜、そして天星・暁音(貫く想い・f02508)の三人は廃墟と化した工場の中へと足を踏み入れた。噂の出処である店からそう遠くない場所にあるらしいそこは、感染型UDCが生み出した大量の配下オブリビオンの巣窟になっているらしい。
「僕は零と夕夜がいるだけでいいから、特に逢いたいヒトなんて思いつかないんだけど」
零と夕夜の間に立つ暁音は二人にそう洩らして、埃臭い空気に小さく咳払いする。恐怖を齎す存在であっても嫌いになれず、他者の痛みや苦しみを抱えてしまう暁音だったが、それでも誰よりも大切で逢いたいと思う存在は今傍らにいる彼、今は『彼ら』だが、だけだった。
手探りで零が壁のスイッチを押せば、何故か電気が通っていたようで白い蛍光灯がまばらに点き、工場の中が見渡せるようになった。カチカチと忙しなく点滅する灯りの下、異形の徒の姿も露になる。それを機にこれ以上噂話について考える必要はないと暁音は思考を切換え、星杖シュテルシアを構えた。
「先ずは脅威の排除かな」
「ああ、そうだね」
周囲を冷静に見渡し、様々な知識と観察眼を以って戦場の把握に努めていた零が虚空からØを引き抜き、穏やかな声音で応える。
『数だけは無駄に多いみてーだけど、俺達の敵じゃないだろ』
不敵な笑みを浮かべた夕夜が手を伸ばせば、地面から突き上げるようにグレイヴ・ロウが姿を現す。
迷いも躊躇もない臨戦態勢の三人を妖しい眼光を宿した異形の徒の群れが取り囲む。
廃工場の中はガラクタと化した大型機械もいくらか残ってはいたが、天井はかなり高く、足場も悪くないし、リーチのある武器をある程度自由に振り回せる広さがあった。つまり、戦闘のし易さ、連携の取り易さは申し分のない戦場だと判断した零は早速十の死の中から轢死の骸を呼び出して異形の徒の周りに岩壁を作る。岩壁に対し、石化の術は意味は成さない。骨馬に騎乗し飛び越えようとするものもいたが、高さがそれを邪魔をする。
「頼んだよ、夕夜」
『おう! 派手に行くぜぇ!!』
グレイヴ・ロウを棒高跳びのポールのように使い、夕夜は岩壁の上に躍り出るように派手に高く跳んだ。
『さぁ、愉しい時間の始まりだ!』
夕夜が宙から岩壁に取り囲まれた異形の徒達を指をさせば、【Karmic Retribution】が発動。骨の体がひしゃげるほどの勢いで、異形の徒達は岩壁や床に叩きつけられる。
しかし数が多いだけあって、全ての敵を岩壁で囲むことが出来なかった。機械の陰から飛び出してきた異形の徒達は宙で身動きが取り辛くなっている夕夜と、厄介な技を使うことでヘイトを集めた零に骨を飛ばして攻撃を仕掛けようとする。
「させないよ。二人は俺が護るんだから」
愛らしい顔を凛と引き締め、暁音は歌うように詠唱する。
「遥か彼方より全ての境を越えて、神威を此処に天翔けて来たれ。虹の制裁!!」
杖の先に厳かな聖なる光が集い、聖属性が付与された虹色の光線が無数に放たれる。それは零と夕夜に向けられた攻撃ごと異形の徒を光で浄化し、骨の体を灰にしてゆく。
「ありがとう、暁音」
にっこり笑い、零は暁音の背後に迫っていた異形の徒に虚空から呼びだしたØを深々と突き立てる。勿論暁音には傷一つ、汚れ一つない。刺された方の異形の徒は何が起きたか解らないといった様子で、ずるりと崩れ落ちる。零の手にあったはずの剣が、何故か背後から己を貫いたのだから。
『あー! それ俺やりたかったやつー!』
宙から地上に華麗な着地を見せ、不満げな声をあげる夕夜。その背後から先ほど潰したはずの異形の徒がカタカタと震える手だけを持ちあげて杖を構え、石化の術を放とうとしていた。
『Bang!』
しかし、それは未遂に終わる。夕夜が振り返ることなく虚空から呼び出したPunishment Blasterの砲撃が死に損ないを消し去ったからだ。
「もうそろそろ終わりにしようか」
『だな』
「うん」
零の言葉に夕夜と暁音が頷き、夕夜は人差し指で狙いを定め、暁音は再び杖を高く掲げる。残された異形の徒達はそこで自分達がある程度纏まった場所に誘導されていたことに気付く。しかし、気付いた時にはもう遅い。夕夜の【Karmic Retribution】で地べたに這い蹲らせられ、零の作った岩壁に囲まれ……そこは最早処刑台だ。逃げることも避けることも叶わず、暁音の【最終審判の時・虹の制裁】が注がれる。
斯くして、一分の隙もない三重奏によって異形の徒の群れは屠られたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『行方不明少女の捜索』
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POW : あらゆる人、動物、無機物に聞き込みを行う、羞恥心にさえ耐えれば効率は一番よいのかもしれない
SPD : 彼女の残留魔力が部屋には残っている
WIZ : 魔力の総量次第では「魔方陣」を再び作動させることが出来るかもしれない
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
天星・零
【天星・暁音と参加】
「逢いたい人ね…。悩むことでもないな…会いたい人は数多いこそあれ逢いたいと思えるのは…」
『一人しかいねぇな。まぁ、側にいてくれてるから会う必要もねぇんだけどな』
現れるのは側にいる家族。
零も夕夜もやっぱりかと言う顔で驚きもせず。
逆に暁音が出した自分の幻影に微笑みつつ
「逢いたいと思う人は同じか。やっぱり、こうやって見てみると嬉しいね」
『あぁ!やっぱり、お互いに変わらねぇな!
』
「けど、やっぱり…」
『本当の暁音が一番だ。』
「だから、もう幻影はいらないよ。」
『ありがとな…』
その後は、暁音とその場を後にします
この間誰もいなければ零は真の姿をとります
天星・暁音
【天星・零と参加】
逢いたい人…か…まあそうだよね
俺が逢いたい人なんて零と夕夜だよね
だって他には本当思いつかないもの…
でも、流石に姿形はそっくりだよね
まあだから何って話でもないんだけど…
だってねえ
偽物は偽物だからね…
…んむ、零と夕夜も俺に逢いたいってそう思ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりちょっと恥ずかしい…かな…(照れ笑い)
「でも…ごめんね。偽物に興味もないし用もないんだ。俺の零と夕夜はこの二人たけだからね」
「んみゅ…うん。俺も本物の零と夕夜がいいよ」
●家族
天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)と天星・暁音(貫く想い・f02508)、そして零の実体化したもう一つの人格である夕夜の三人が件の廃カフェに一歩足を踏み入れれば、喫茶店然としていた朽ちた内装が瞬く間に変わっていく。その様子は正に世界が塗り替えられたかのようだった。
「会いたい人は数多こそあれ、逢いたいと思えるのは……」
『一人しかいねぇな。まぁ、側にいてくれてるから会う必要もねぇんだけどな』
「うん。だって他には本当思いつかないもの」
目の前に広がった光景は三人が見慣れたものだった。家族で暮らしている家のリビングが、間取りも家具も小物の位置すらそのままに、正確に再現されていたのだ。
そしてソファに腰かけ、こちらに笑顔を向けているのもまた見慣れた顔。まるで大きな鏡がそこにあるかのように、傍らに立つ家族と瓜二つの姿がそこにあった。姿だけでない。纏う空気にも違和感がないし、安心する匂いも暖かさもそのままだ。
ここまで精巧に再現されれば普通なら多少なりとも心動かされるのだろうが、三人の反応は淡泊だ。何故なら本物がすぐ手の届く隣にいるのだから。感心こそすれど、戸惑う余地はこれっぽっちもない。家族で顔を見合わせ、やっぱりねという反応を見せた後笑みが同時に零れる。
「やっぱりといえばやっぱりなんだけど。でも、こうやって見ると嬉しいね」
暁音の逢いたいという気持ちに反応して現れたと思われる自分の幻影を見て零は嬉しそうに目を細める。
『お互いに変わらねぇな』
夕夜も満足そうな顔で幻影の自分と暁音に近づき、まじまじと眺める。そんな二人に、本物の暁音は頬を染めて、はにかんだ。
「……んむ、零と夕夜も俺に逢いたいってそう思ってくれるのは嬉しいけど。ちょっと、恥ずかしい……かな」
互いの想いを再確認するかのような光景がくすぐったい気がして、少し落ち着かないのは確かだ。それでも。
「偽物は偽物だからね。『君達』には興味もないし、用はないんだ」
たとえ目の前で微笑んでいる零が人前で演じる偽りの姿ではなく、真の姿をとっていたとしても。暁音にとっての零と夕夜は隣に立つ二人だけ。
暁音は毅然とした態度でキッパリと幻影に決別の言葉を投げかけ、きゅっと両隣にある手を握る。
「ああ、僕も同感」
『本当の暁音が一番だ』
小さな手を握り返し、零と夕夜の虹彩異色の瞳が幻影の暁音をまっすぐと射貫く。本物の暁音に向けられる視線にはない冷たさがそこにはあった。
零と夕夜、二人の想いが、声が重なる。
「『だから、もう幻影はいらない』よ」
もし、大切な家族が傍にいなかったのなら。手の届かぬ所にあったのなら、偽りの家族を求めただろうか。
零と夕夜の言葉を聞いて、ふとそんな疑問が暁音の脳裏を過る。しかし、すぐに軽く頭を振って追い払った。
「……俺も、本物の零と夕夜がいいよ」
大切なものは、本物の家族だけ。二人の手を握る暁音の手に力が入る。
そうして全く靡く様子がない三人に対し、それまで優しい笑みを浮かべていた幻影達の顔からスッと表情が消える。否、正確に言うのなら口元は微笑んでいるが……その目は伽藍堂だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フラム・フロラシオン
カフェに入ると、現れるのはわたしとよく似た姿
ううん、違う、これはヒメ
服も、髪型も、鏡を見た様に似てるけれど、当たり前だね
離れてもヒメを忘れないために、わたしがこの姿に『なった』んだから
長い耳だけはどうしようもなかったけど
ね、こんなわたしだけど
ヒメの事が大好きなのは、本当だよ
…なんて、本人を前にして言っても、きっと相変わらず本気に取って貰えないだろうから
この言葉はあなたとわたしだけの秘密、なんて
さて、おとなしくしてようと思ったけど、やっぱり限界みたいだ
建物は壊さないように気をつけるから
ね、遊んで、ヒメ!
そう言って、剣を抜くよ
いつものヒメなら遊んでくれるだろうけど
このニセモノは、どうするのかな
●鏡姫に囁く
朧月が浮かび、ほのかに花の香りがする風が静かに吹く夜。フラム・フロラシオン(the locked heaven・f25875)はそっと朽ちたカフェに足を踏み入れる。
先客の気配があったはずだが、不思議なことに店内には誰もいない。フラムと、フラムに良く似たもう1人を除いて。
「……ヒメ」
まるで鏡に写った姿のようにフラムによく似た少女。
しかし、その耳はエルフのような長さはなく、浮かべた笑みもどこか雰囲気が異なる。それもそのはず。
彼女こそフラムの逢いたいひと。
離れていても、忘れたくないひと。
その為にフラムは彼女……ヒメの姿を模したのだから。
フラムが目の前のヒメに手を伸ばせば、ヒメもまたフラムに手を伸ばしてくる。鏡越しに自分と手を合わせるように掌を重ねて、小首を傾げて微笑む。
「服も、髪型も、髪飾りも……耳以外は全部一緒だよ。ヒメ」
幻影だと解っていても恋しい貴女。
大切で愛しくて、守りたい貴女。
しかし、呪われたフラムはヒメを守る騎士ではなく、牙を剥く狂犬になってしまった。呪いは恋心を狂気じみた凶器へと変え、愛しい人を傷つけずにはいられない体にした。
自分だけのものにしたくて、自分だけを見つめてほしくて。
疼く心をヒメの傍で抑えるのは難しかった。
「こんなわたしだけど……ヒメの事が大好きなのは、本当だよ。大好き。大好きだよ、ヒメ」
ヒメの頬を撫でながら、フラムはかつて本気にはして貰えなかった言葉を繰り返す。
本気にはして貰えなかったが、拒絶されたわけではない。ヒメがフラムを遠ざけたわけではなく、フラムがヒメから距離を取っただけ。呪いに蝕まれていても、辛うじて残った理性がそうさせた。
逢いたくて逢いたくて逢いたくて、でも、今はまだ逢えないのだという現実が歯痒くて。ニセモノだと解っていても、本物のヒメに伝えたい想いが、言葉が、口をつく。
「この言葉は『あなた』とわたしだけの秘密」
目の前に立つヒメの桜色の唇に人差し指で触れ、小さく微笑む。本物のヒメに伝えても、きっと相変わらず本気にはしてくれないだろうから。
そうしてひそやかに仮初の邂逅を楽しんでいたフラムだったが、やはり胸の奥から徐々に湧き上がる衝動は抑えきれなかった。
「ね、遊んで、ヒメ!」
我慢できず、無邪気に笑って魔力を帯びた剣を佩く。
(本物のヒメなら遊んでくれるけど……このニセモノは、どうするのかな)
僅かな期待に胸を踊らせ、剣先を向ければカツンと刃が合わさる硬い感触が手に伝わる。
窓から差し込む淡い月明かりに照らされ、笑顔で剣を構える「ヒメ」の姿がそこにあった。
大成功
🔵🔵🔵
幸村・リヒト
アドリブ◎
会いたい人…いるにはいるが
ここはひとつ件の女学生に会いたいと願ってみるべきか?
しかしそれで偽物に当たっても面倒だな
地道に探すとするか
人名が最優先だ
幸いにも灯りには困らんしな
女学生を見つけたら生きているかを確認しよう
一目でも会いたい
その気持ち、俺もわからんでもない
思うのは広い背中
将校マントをはためかせ
ドンと構えた
自分にとって最強の男
親父殿…
――ああ、よくにておるが
やはり偽物なのだろう
本物のあの人のマントは
今、ここにある
肩のマントをぐっと握り
目の前の男を睨み付ける
それでも口元が笑ってしまうのは…しかたがないだろう
幻と言えど、親父殿に会えたのだから
俺がどこまで追い付けたのか
好奇心が疼くのだ
●その背中にたなびくものは
春の月がすっかり雲の影に隠れ、その淡い光が届かなくなった廃カフェに別の光が差し込んだ。
その光は月光より力強く、どちらかといえば陽光に近い。
「ここが噂の……行方不明の女学生もこの中にいるだろうか」
小さな呟き光と共にカフェ『君影草』に足を踏み入れたのは學徒兵、幸村・リヒト(District hero・f22827)。
そして店に差し込んだ光の正体はリヒトの後光であった。その強さや明るさはリヒト自身の感情によって変わる。噂の真偽より人命救助を優先する優しきリヒトの心に影響されてか、光は力強くも柔らかく、温かい。強すぎない明るさは店内を程よく照らし、その灯りを頼りにリヒトは廃カフェの奥へと足を進めながら店内を見渡す。
「あれは……」
リヒトの赤い瞳がカフェの窓際に仕切りで区切られて並ぶ二人席、その中の一つから通路に向かって放り出された白い手に釘付けになる。
「もし、もし、お嬢さん」
足早に駆け寄り、片膝をついて肩を揺らして話しかければ、ぐったりとした様子で椅子に腰かけていた制服姿の少女が僅かに身動ぐ。顔色は悪いが、呼吸や心拍に問題は無さそうだ。大事ないことにほっと胸を撫でおろし、リヒトは自分より背丈のある少女を軽々と担ぎあげる。
(ここはきっと敵の胎の中。恐らく外の方が安全であろう)
幸い妨害は起きず、速やかに少女を外へと運びだして店の前に立つ桜の根元にそっと横たわらせた。
「……美咲、待って、美咲」
意識がまだ朦朧としている少女が譫言のように呟き、虚空へと手を伸ばす。
「一目でも逢いたい。その気持ち、解らんでもない」
虚空に伸ばされた少女の手を両手でやんわりと包み込み、その手を静かに下ろさせたリヒトはマントをひるがえして再びカフェの中へと舞い戻った。
少女を真に助ける為には彼女を衰弱させた原因を絶たねばならない。
しかし、戻ってきたのはそれだけが目的ではない。
扉を潜り、瞼を閉じて強く思う。今でも目に焼き付いている、桜吹雪の舞う中、広い背中にはためく将校マント。
「……親父殿」
リヒトが瞼を開けばそこは朽ちたカフェではなく、いつか彼の人と共に歩いた帝都の桜並木で。目の前にあるのは、今でも憧れてやまない背中。
誰よりも力強くて頼もしい、自分にとって最強の男の背中がそこにあった。
(ああ、でも……)
嫌でも解ってしまう。これは偽りの背中だと。
記憶そのままの光景が眼前に広がっているが、彼の人が遺したマントは今ここにある。自分にはまだ大きな将校マントを肩越しにぐっと握りしめ、リヒトは真っ直ぐ前を見据える。その口元に浮かんでいるのは、紛うことなき不敵な笑み。
「たとえ偽り、幻でも親父殿と再び相見えることが出来たのは僥倖」
リヒトが憧憬に誘われたのは、センチメンタルな感情などではなく、好奇心だったのだ。
自身がこの背中にどこまで追い付けたのか、それを試したいと心の底から疼く。
その背中はただ指を咥えて見つめるものではない、そのマントは縋るものではない。
――お前も早くこのマントに相応しい背の持ち主になるんだな。
そう笑って手袋を嵌めた手でリヒトの頭をくしゃくしゃにした彼の人の声が脳裏に蘇る。
そして目の前の背中が声もなくマントをはためかせて振り返るのと同時に、リヒト自身もマントをはためかせ、退魔刀に手をかけて腰を落とした。
「さぁさぁ、『親父殿』! 久方ぶりに為敢うていただきましょう!」
己の背が受け継いだマントに相応しいものになったかを試す、またとない好機。昂る気持ちは後光を明るく、強く、煌めかせた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『メリュジーヌ』
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POW : 願望の逢瀬
自身が戦闘で瀕死になると【相対した者の望んだ存在】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 来世での逢瀬
単純で重い【蹴り】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ : 切望の逢瀬
対象の攻撃を軽減する【相対した者の望んだ存在】に変身しつつ、【相対した者の望んだ言葉を呪詛として言葉】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:pamyuu
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アハト・ナハト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
逢いたかっタのでショウ?
そしテ話したかっタ? 抱き締めたかっタ? 謝りたかっタ? アア、それトモ殺したかっタのかしラ?
モウ一度、■■■と。何度でも、何度でも、■■したかっタ?
ええ、叶えてあげまショウ。叶えてあげまショウ。
その希ミ、その願イ。
アナタの想イそのままニ、アナタ方の目の前ニ映シ出してあげまショウ。
月の淡い光が感染型UDCの本拠地である廃カフェに差し込む。
朽ちた店の中で猟兵達が対峙するのは、感染型UDC本体であるオブリビオン。
しかし、その姿は貴方が良く知っているもの。貴方が……逢いたかった、そのヒトだった。
逢いたかったヒトの姿で、逢いたかったヒトと同じ動きで、逢いたかったヒトと同じ技で。
オブリビオンは猟兵達の目の前に立ちはだかる。
忘れないデ、忘れないデ。
モウ一度、■■■と一緒ニ、夢のようナひと時を楽しみまショウ?
有栖川・夏介
■逢いたい相手
白騎士のチェス駒の持ち主だった女性。領主に命じられるままに命を奪った、かつての処刑対象。
笑顔が印象的な、逢いたくて逢いたくない相手。
…貴女の姿をしているということは、私はどこかで逢いたいと願ってしまっていたのでしょうね。
…それでも、敵であるのなら、
「もう一度、貴女を処刑します」
処刑人の剣を構えて対峙。
【白騎士の導き】で動きを察知。
元々、少し術が使えるだけの普通の少女だったのだから、攻撃を避けるのは容易。
隙をうかがって、剣にちからをこめ…首をはねる。
なぜ、貴女は最期まで笑顔でいられたのか。今でも俺には理解できない。
チェス駒をじっと見つめる。どこまでも真っ白なその駒が、怖い。
●追憶の盤上
彼女は、術が少し使えるだけの普通の少女だった。
あと思い出せるのは、チェスが得意なことと、美しく長い髪。そして笑顔が印象的だったこと。その笑顔は、嗜虐的で残忍な嘲笑や媚び諂うような下卑た笑み、涙混じりの狂笑とは全く違う、無邪気で楽し気で……優しい笑顔だったから。
有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)の故郷である宵闇に支配された世界にそぐわぬ笑顔を持った少女が残酷な領主の目に留まってしまったのは、ありふれた悲劇という名の日常だったと思う。
(……悲しいと思ったこともないくせに)
処刑対象となった彼女を、領主の命ずるがまま迷いなく夏介は殺した。その過去に感傷も抱かない、抱けない自分自身を夏介は心底軽蔑する。
そう、感傷に浸ることなんてないはずなのに。
何故か今目の前に立つ少女は、確かに息絶える最後までいつもと変わらぬ微笑みをたたえていた彼女だった。
「ただ、解らなかった」
逢いたいと願った理由が自分でも解らない。どちらかというと逢いたくないと思っていたはずなのに。またあの笑顔が見たかったのか、それとも。
「何故、最後まで笑っていられたのか」
笑顔の理由が知りたかったのか。
つい最近も、笑顔で自分に殺された人間がいたから……そんな疑問がわいてしまったのかもしれない。
しかし、今目の前にいる彼女はオブリビオンで、敵で、かつてと同じ処刑対象。疑問の答えを探すよりもまず、しなければいけないことがある。
「もう一度、貴女を処刑します」
夏介は無表情のまま処刑人の剣を構え、迷いなく少女の首を刎ねんと床を蹴る。その速さは普通の少女に反応できるものではない。
しかし、彼女はその攻撃を紙一重で躱した。処刑人の剣が触れた、絹糸のような髪が一筋、はらりと床に落ちる。同時に少女が術で呼び出した白の騎士と黒の騎士が夏介の背後から斬りかかってきた。
「……その一手は見えました」
後ろを振り返ることなく、夏介は正面の少女に向けていた剣の柄を手の中で回す。その剣先はまるで当たり前のように白の騎士の腹を突き刺した。正確に表現するならば、向けられた切っ先に白い騎士が飛び込んできたのだ。
黒の騎士は咄嗟に夏介から距離を取り直そうとするが、白の騎士の腹から剣を抜いた夏介が振り向きざまに剣を振るえば、やはり剣の軌道上に飛び込んできた黒の騎士の首が跳んだ。
術が使えても、少し未来が視えても、少女はやはり普通の少女で。その攻撃をいなすことも、その動きを先読みした手を打つことも夏介にとっては造作もなかった。
「チェックです」
夏介が剣を握る手に力が籠る。少女は笑顔のまま、夏介に向かって手を伸ばした。
そんな少女に対し、一切の躊躇なく首を刎ねる。……少女の頭と胴体が離れるその刹那。夏介の脳裏にあの日の記憶が鮮明に蘇った。
『だって……ですもの』
白と黒と赤で構成される己の世界で稀有な、鮮やかな記憶。その記憶と目の前の光景がだぶる。
『……だから、良いかなって』
最後の最期まで、彼女は鮮やかで、笑顔だった。
『これ、貴方に差し上げるわ』
彼女が笑顔と共に遺したのは、白騎士の駒。チェス盤も盤上の駒達も赤い血の海に沈んでしまったけれど、彼女の手にあったその駒だけは白いままだった。
かつての少女を模したオブリビオンの姿は消え、朽ちた店に一人残った夏介は掌の中の白騎士の駒をじっと見るつめる。
(やっぱり解らない)
もう一度対峙すれば笑顔の理由が解るかもしれないと思ったが、そんなことはなく。彼女が遺した最期の言葉もはっきりとは思い出せない。
ただ一つ再認識したことがあるとすれば、それは。
「……怖い」
血の赤にも、絶望の黒にも染まることのない、どこまでも真っ白なこの駒が怖いということだけだ。
その白と彼女の笑顔が重なって、胸に走るのは鈍い痛み。僅かに眉間に皺を寄せた夏介は、痛みに耐えるように掌の中の駒をぎゅっと握りしめた。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
アドリブ捏造歓迎
俺でない誰かが逢いたいと願うあの二人の記憶は
やはり何も思い出せねェ
恐らく杜鬼クロウでは無い記憶
ならば
俺が一目でも逢瀬を望んだ人でも現れるのだろうか
主の妻(外見全部お任せ
お嬢(主の娘であり弟の主)の母親にあたる
元々のカイトの主は奥方
亡き後、お嬢へと継がれた
鏡(カイト)の力を使う度に使い手の命を蝕む為長生き出来なかった
倖せなだけの日常風景が見たかった
主と奥方とお嬢
禍鬼もなりを潜めた優しい世界
所詮幻
儚く消える(何かの花が枯れる
カイトはいつも置いていかれる側
だから俺は
俺だけは
紫さん…お嬢の母親
俺には馴染みがない親という…否、主がそうなのか
悪ィが、偽物には用はねェ
消えてくれ(剣で一薙ぎ
●泡沫の玻璃花
自分の記憶にはない。それでも逢いたいヒトがいる。
(やはり何も思い出せねェ)
頭の中の引き出しをどれだけ漁ってもはっきりとした記憶は出てこない。自分ではない誰かが逢いたいと願うヒト達の思い出。
(それでも目の前に現れるのだろうか)
淡い期待のようなものを胸に杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は廃カフェへと足を踏み入れた。
埃臭い、倉庫にも似たその空気をクロウはよく知っている気がする。とはいえ、知っているのは此処よりも清浄な空気だったとは思う。
自分は、杜鬼クロウとなる前の器は、大切に、それは大切に扱われてきたという自覚がある。
(……でも、アイツは)
己の片割れへと想いを馳せた時、朽ちた店内は姿を変えた。
今は遠き彼の地、一面の燕子花に囲まれた社の前へと。
そして気が付けば、クロウの目の前にかつての主と……主を挟む様に二人の女性が立っていた。
一人は己の片割れの現在の姿に良く似た年若い娘。もう一人はそれより年嵩だが色褪せぬ美貌を持ち、光絹に包まれた何かを大切そうに抱えた婦人。
血の繋がった母子なのだろう、二人ともどこか似通った面差しをしている。しかし娘が可憐で華奢な十五夜草ならば、婦人は清廉さと艶やかさを兼ね備えた玉蝉花を思わせる容姿だ。
(お嬢と……紫さん)
彼女達が己の主の愛した奥方と娘であり、己の片割れにとっての主達であることをクロウは察する。
二人とも、いや、主を含めた三人は、互いを見遣ってとても幸せそうな笑みをたたえている。光絹の中身が片割れの本体ならば、きっと彼も心穏やかだっただろう。
これは杜鬼クロウの記憶ではない。
器の記憶でもない。
何故なら。
(紫さんは長生き出来なかった。このお嬢の歳まで、健やかに立って笑って過ごすことは叶わなかったはず)
己の片割れである鏡を使う度、使用者の命は削られた。主の奥方も、次の主となった娘も、務めを果たさんと鏡を使い続けて早くにこの世を去っていった。そして鏡自身もまた、使われる度に曇っていって……。
そのことに主が心を痛めていた、それは『知って』いる。
(禍鬼さえいなければ、こんな倖せな日常を自分も見れたのだろうか。アイツだって……)
主に相次いで置いて逝かれて、器本来の『命』も削られて。磨耗して、歪んでしまった片割れを想い、クロウは奥歯を噛み締める。
そんなクロウに、奥方が優しく微笑みかけた。細められた菫色の目の下には泣き黒子が一つ。射干玉の髪を耳にかけながら小首を傾げ、言葉を発しない唇を読めば『おいで』と言っているのが解る。
「……違ェ」
その微笑も、その手も、倖せで優しい時間も居場所も、自分が欲しいものではない。
「そいつは主と、お嬢と……アイツにくれてやれなきゃ、意味ねぇンだよ」
クロウが拒絶の言葉と共に剣へと手をかければ、社の周りに咲き誇っていた燕子花達が一斉に枯れ落ちる。
主と娘の姿も溶けるように崩れ、奥方だけが一人困ったような笑みを浮かべて立っていた。白魚のような手で抱えていた光絹を解き、クロウがよく知る玻璃鏡を向けてくる。
「ッ!!」
たとえ幻でも、それは度し難い光景だった。反射的に抜いた剣が一凪ぎで玻璃鏡ごと奥方を切り裂く。
「偽物には用がねェ。……消えてくれ」
加減容赦なき一撃によって偽りの片割れと奥方の全身に罅が入り、そして粉々に崩れ落ちて消えた。音もなく。
(アイツはいつも置いていかれる側。だから俺は……俺だけは)
剣を納め、煙草を咥えて廃カフェを出れば春の夜風がクロウの耳を飾る菫青石のピアスを揺らした。
それはまるで、『忘れないで』『一人にしないで』と必死に語り掛けるかのように。
大成功
🔵🔵🔵
幸村・リヒト
アドリブ◎
■逢いたい人:親父殿、養父
武器:刀
技:~の型とついているUCは親父殿に教わったもの
真っ直ぐ見据え目の前の相手から目をそらさない
例えソレが偽りとて
余所見をしていて倒せる相手とは思ってはおらぬ
さぁ、相手はどうでるか
死ぬ程体に刻み込んだ型
その足運びを『見切り』躱す
癖のひとつも見逃さぬ
見ること、感じることこそが大事なのだと学習させてくれたのは親父殿だろう
さりとて、避ける一方ではどうにもならぬ
俺が攻撃を見切れるのだ
相手もまたしかり…っと考えた方がよいだろうな
ならば…【この命つきるとも】
手数を増やして無理やり刃を届かせるまでよ!
ぐっと深く踏み込んで
今度は斬るために相手を見る
少しは、貴方に届いたか
●櫻下之剣戟
(一瞬でも目を離せば、斬られる)
幸村・リヒト(District hero・f22827)は刀を構え、瞬き一つせずにじっと目の前の将校を……かつて自分を拾い、育ててくれた養父であり剣の師の幻影と対峙した。
オブリビオンが作り出した幻の帝都の桜並木は広く、足場も整っており、剣を振るうには申し分ない。ただ一つ障害があるとするならば、風に舞う桜の花弁が視界を遮ってしまうことだろうか。
(喩え偽りとはいえ……親父殿の写し。余所見をしていて勝てる相手ではない)
桜の花弁に惑わされずに一挙手一投足、癖のひとつも見逃さないように。周囲に霊気を樹根のように張り巡らせ、目で見て、耳を澄ませ、肌で感じる。
幻影の養父は正眼の構えをとり、迷いのない足運びで間合いを詰めてきた。ブーツの爪先、剣先、そして視線からもこのまま真っ直ぐ突いてくるように見える。
しかし。
(視えた!!)
一瞬、相手の剣先がリヒトから見て右へ、僅かに、花弁による錯覚かと思う僅差で揺れた。次の瞬間、踏み込みと同時に突きではなく横凪ぎの一閃が襲ってくる。それを見切り、紙一重で躱すと連撃を撃ち込まれるのを避けるようにバックステップで間合いを取り直す。
「見ること、感じることこそが大事なのだと学ばせてくれたのは親父殿だろう!」
死ぬ思いで体に刻み込んだ型と共に覚えたことが実戦で活かせて、堪らず笑いが洩れる。しかし油断してはいけない。相手はすかさず間合いを詰め直し、振り切った刀は刃を返すことなくリヒトに迫る。斬撃ではなく、刀の峰による打撃。峰打ちというには生温い。それは骨を砕くに足る一撃だ。<壱ノ型>清暉一閃の対になる型、<裏ノ壱>蝕甚一刀。
(壱ノ型から裏ノ壱、ならば次は……)
次の手を読んだ上で、避けるのではなく、刀を立てて強打を受ける。真正面からぶつかれば刀が腕ごと折られるのは必至。呼吸を整えて無駄な力を抜き、半身と足をずらして力を受け流すことで次の型への流れを断つ。
「避けてばかりでは埒があきませぬからな」
刃を流され、一瞬だが相手の懐が開く。
(飛び込んでくるのは向こうも承知のことだろう)
こちらが相手の動きを読めるように、向こうもこちらの動きを読むのは容易いだろう。リヒトに剣を教えたのは目の前にいる養父なのだから。だが、今のリヒトと、かつての養父が知っているリヒトは違う。
「とくとご覧あれ!!」
懐へ飛び込めば、容赦のない蹴撃がリヒトの腹にめり込む……はずであった。しかし、そうはならなかった。幻影の顔に僅かにだが、驚愕の表情が浮かぶ。
歯を見せ不敵に笑うリヒトの後光が、強く、白く、眼を焼くほど眩く辺りを照らした。その光が蹴撃を繰り出す前に刹那の迷いを生み出す。そして刹那に捻じ込まれたのは、リヒトの命を削った渾身の九連撃。
「この技は本物の親父殿も知らなんだ」
身を捩り相手の膝頭が腹を抉るより速く、前へ、前へと進んで無理やり届かせた刃。
「【この命つきるとも】……届きたかった、貴方に」
痛みも、寿命が削れるのも怖くはない。養父との別れも、哀しくはあったがマントを受け継いだ以上立ち止まらぬと決めた。
「……親父殿は、横顔も男前ですな」
ぐらりと前へと倒れ込む幻影の養父を抱き止め、その横顔を見る。そこに浮かんでいたのは苦悶の表情ではなく、悪童じみた大人らしからぬ笑顔で。
『調子に乗るなよ、小童』
懐かしい声が聞こえたかと思うと、腕の中の養父は桜の花弁となって消えていた。
大成功
🔵🔵🔵
天星・暁音
零と連携
まあ、俺の逢いたい相手は何時だって零な訳だから…
当然出てくるのは零だよね
まあ何にせよ偽物に用はないんだよね
ごめんね
「ふふ、そうだね。俺も本物がいいよ」
最後撫でられて照れて顔赤くしながらちょっと俯きつつ気持ち良さそうに
「えへへ…ありがと…」
「天翔けて氷晶の光よ集え。我らが意の元に終焉齎す氷結の息吹を降らせよ。走れ氷晶法陣、静寂に沈み凍てつけ!タンペート・ネージュ!(氷牙葬嵐刃)」
指定UCの魔法陣に零の指定UCのブレスを当てて氷の力を付加して魔法陣に氷を纏わせて其処から放つ氷の刃と吹雪で凍てつかせてそこに零が追い打ちをかける合体応用UCを使います
アドリブ歓迎
スキル、UC、アイテムご自由に
天星・零
暁音と連携
他の人が居なければ零は真の姿
『つまらないな、つまらないね。
どんなに取り繕っても偽物さ。』
『僕は本当のあんたと遊びたい。僕達と遊ぼうよ。』
enigmaで夕夜と
お互いと暁音、指定UC(人型)と連携し戦闘
弱点や死角を把握、敵の行動予測し防御、回避
零
遠距離はグレイヴ・ロウ
近接はØ
夕夜
Punishment Blasterとグレイヴ・ロウを遠距離で攻撃
近接はØ
UCと暁音の連携後、最後に夕夜と同時に交差してX字にØ敵を斬る協力技
『過去とか未来だとかどうでもいい。現在を家族と共に生きるだけ…。僕はもう一人じゃない、本当の家族がいるからね』
戦闘後、指定UCと暁音を二人で撫でる
UCの口調は秘密の設定
●幻影を屠る四重奏
天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)とenigmaで実体化させた零の別人格である夕夜、そして天星・暁音(貫く想い・f02508)の三人が廃カフェで対峙したのは、三人が想定していた通り『自分達』であった。一度は崩れた幻影が、改めて精巧に再現・構築されている。
見慣れた表情で、見慣れた武器を構え。こちらが容赦なく戦う思考であることを読んでか、向こうも穏やかな表情ながら完全に臨戦態勢であることが肌を刺すような空気で解る。
「当然といったら当然だよね」
暁音がふぅと小さくため息をついた横で零は苦笑して肩を竦め、夕夜は頭の後ろで手を組み退屈そうな半眼で自分達の幻影を見遣った。
ただ一つ先ほどと違うことがあるとすれば、周囲の光景が元の廃カフェの店内でも、我が家のリビングルームでもなく、『何もない』真っ暗な空間だということ。
一面の闇に包み込まれているような空間だというのに不思議と視界はハッキリしており、対峙する相手も隣にいる家族の顔もはっきり解る。
零も暁音も目の前の幻影に強い思い入れはなく、ただ倒す対象として見做しているせいだろうか。戦いやすい場所が良い、という思いを汲んだ結果なのかもしれない。
「本物が隣にいる以上、偽物って解りきってるし。『だから何?』って感じじゃね?」
「そうだね。このまま3対3で戦うのも退屈だし……おいで、ルー」
零が虚空へと手を差し伸べ、力ある言葉を紡ぐ。喚ぶのは、命凍らせる氷霧の銀狼。虚空に浮かんだ青白い魔法陣から姿を現したのは、光る白銀の毛並みを持つ狼……の耳と尾を持った人狼の少年だった。
『つまらないな、つまらないね。どんなに取り繕っても偽物さ』
ルーと呼ばれた人狼は幻影の零達を感情の籠らない瞳で一瞥し、見た目相応の少年らしい声音で呟いた。
「そう、偽物には用はないんだよ。ごめんね」
謝罪の言葉を口にしながらも星杖シュテルシアを構え、暁音は凛とした声で詠唱を始める。同時に幻影の暁音もまた詠唱を開始していた。実際には幻影は声を発していない。しかし、その唇の動きは暁音本人の唇の動きと重なるところがある。二人は同じ系統の術を放とうとしているのだろう。
そして、零と夕夜の二人は幻影の暁音が術を発動する前に倒そうと動き出す。しかしそれは幻影の二人も同じのようで。解りやすい相手の動きに、零と夕夜は小さく笑う。
「読みやすいなんてものじゃないね」
「ホントホント」
互いの、自分のやり方は熟知している。本物と幻影どちらも零のグレイヴ・ロウがロングレンジを抑え、夕夜のØでクロスレンジを制することで生まれた膠着状態。一進一退の攻防に見えるが、幻影になくて、本物にはある手札が存在する以上本物が負ける要素はどこにもない。
「さて、暁音の準備も整ったみたいだし、いこうか」
零の声にルーは黙って頷き、夕夜が暁音に視線を遣れば待機していた暁音が頷き返す。
「天翔けて氷晶の光よ集え。我らが意の元に終焉齎す氷結の息吹を降らせよ。走れ氷晶法陣、静寂に沈み凍てつけ!」
澱みなく紡がれた、澄んだ暁音の声が高らかに響く。その声に応え、星杖シュテルシアはその煌めきを増しながら宙に巨大な白く発光する魔法陣を描き出した。
「ルー!」
それと同時に呼びかけに応えたルーが咆哮と共に絶対零度の吹雪を放つ。
幻影の零と夕夜は瞬時にルーへと攻撃の矛先を向けた。暁音の攻撃は暁音の攻撃で相殺出来ると考えたからこその行動だ。
しかし、それは見事に的が外れていた。
「「!?」」
ルーの吹雪は幻影達をスルーし、暁音の描いた魔法陣へと魔力を惜しみなく注いだのだ。氷の力が付与された星の魔法陣は白から青白い光へと変化し、周囲の空気が冴え冴えとしたものになる。
「タンペート・ネージュ!(氷牙葬嵐刃)」
暁音とルーが力を合わせて生み出した凍てついた星々の奔流が、幻影の暁音が生み出した星々を圧倒し、幻影達に容赦なく降り注ぐ。そして、動きの止まった彼らを零と夕夜、二人のØが交差するように次々と斬り伏せていった。
斬り刻まれた幻影達の姿が崩れ、オブリビオン本来の姿が垣間見える。
『本当のアンタと遊びたかったな』
ルーの呟きに、オブリビオンは驚いたような、そして困ったような笑みを浮かべて消えた。周囲の光景も元の廃カフェへと戻っていく。
「過去とか未来だとかどうでもいい。現在を家族と共に生きるだけ……。僕はもう一人じゃない、本当の家族がいるからね」
零が夕夜と一緒に暁音とルーの頭を撫でる。その顔と眼差しは戦闘中に見せた笑みとは全く違う、とても優しいものだ。
大好きな手に撫でられ、頬を染めて俯きながらも気持ちよさそうに暁音は零に擦り寄り、そっと服の裾を掴む。
「……ありがと」
暁音の隣でルーもまた気持ちよさそうな顔をして尻尾をぱたぱたさせている。二人の微笑ましい様子に零と夕夜は顔を見合わせ、顔を一層柔らかく綻ばせるのであった。今此処にある確かな倖せを、深く、深く、噛み締めるように。
大成功
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クレア・フォースフェンサー
わしが今一番会いたい者か
それは、おぬし自身じゃな
噂を広げ、人々から精気を集める。そして、配下の魔物を増やす
なるほど、そこまでは分かった。その後、おぬしは一体何をしたいのかの
おぬしは、欧州の伝承にあるメリュジーヌとは異なるようじゃ
ならば、おぬしにはおぬし自身の物語があるのじゃろう
それを教えて貰えると嬉しいのじゃがな
いや何、最後におぬしを斬るということに何ら変わりはない
ただ、相手が何者なのかも知らずに斬るのは気が引けるという、わしの我が儘じゃ
じゃが、幻影ではない、おぬし自身のことを知る者が一人くらいおっても良いのではないかの?
【能力無効】により幻影を打破。光剣をもって斬り伏せよう
●誰でもない、アナタに
クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)は願った。
他の誰でもない。『彼女』に逢うことを。
「わしは、おぬし自身に逢いたい」
打算ではなく、純粋な望みだった。
そして感染型UDCの本体、その本来の姿と相見えたいというクレアの願いに対する答えとして、朽ちたカフェに水で出来たような美しい女が姿を現した。
所々に竜種や魚類を思わせるヒレを生やした女性らしい曲線を描く肢体。波をレースに仕立てたようなドレスを纏い、周囲には大小様々な形をした水泡が漂っている。艶めいた唇は笑みを形作り、声なき笑い声が聞こえるようだった。
「水妖……メリュジーヌの類か」
欧州では有名な伝承の一つであるメリュジーヌ。週に一日だけ下半身が蛇、あるいは魚になる呪いを受けた美女の哀しい物語。愛する人に誓約を破られ、化け物と罵られ、城を放逐された果てに人の枠から外れた存在だ。
今回の感染型UDCのやり口とメリュジーヌの伝承にこれといった接点はない。だからこそクレアは気になった。
「おぬしは一体どんな物語を抱えているのか。それを知らずして斬るというのは、わしの流儀ではなくてな」
オブリビオンの蛮行に理由や因縁などない場合も多い。しかし、その有無を確認し、有るというならそれを知った上で全てのしがらみを一刀両断することこそ己が為すべきこととクレアは心得ていた。
メリュジーヌは声を発さない。しかし唇の動きで何を言おうとしているか察することは可能だった。
――逢いたかっタ――
口元は笑っているが、その目はどこか哀しそうで。水の体は淡い月光の下、憂いにうち震えていた。
「成程。精気を集め、仲間を増やしたのはおぬしの意志というより副次的なもの……というところかのう」
クレアの目の前に立つこのメリュジーヌの目的は噂を広め、ただ自分に逢いに来てくれる人を増やすことのようだった。逢ってどうするかという、その先はない。感染型UDCである自覚もなく、噂を広めることで己の力が増大していることにも頓着していない。
「そういえば伝承のメリュジーヌも放逐後、城に戻ることがあったと聞く」
人の枠から外れても、人から裏切られても、人を想う心を忘れることが出来なかった哀しい女。
きっと彼女は存在する限りこれからもずっと誰かを待ち続け、誰かに逢いたい人を呼び寄せて仮初の逢瀬を繰り返すのだろう。それが人の命を奪うとしても。
――逢いたイ、逢いタい、逢イたい――
メリュジーヌは声なき叫びと共にクレアの記憶から『誰か』の姿に成ろうとするが、【能力無効(アンチ・コード)】がそれを妨げる。『誰か』の姿で呪詛を吐き出すことも出来ず、メリュジーヌははらはらと涙を零した。
「おぬしの物語、想念……わしが確と受け止めた」
金色の双眸で姿の定まらぬメリュジーヌを見据え、クレアは腰を落とす。恐ろしい程に整った顔に、憐憫の情などは微塵も浮かんではいない。ただ美しく、泰然とした笑みがそこにはあった。
「引導を渡そう」
力強い踏み込みと同時に抜かれた光剣は、文字通り目にも映らぬ速さ、達人の業を以ってメリュジーヌを斬り伏せた。水の体が斬られた部位から霧のように消えてゆく。
――逢いたかっタの、誰カに――
「ああ。だが、わしで終いじゃ」
メリュジーヌが縋るように伸ばした手は、光剣を納めて背を向けたクレアに届くことはなく。感染型UDCのいなくなったカフェ『君影草』は何の変哲もない廃カフェへと戻った。広まった噂も次第に立ち消え、人々の記憶から消えてゆくだろう。
こうして、猟兵達の活躍により感染型UDCの脅威の一つは消え去ったのだった。
哀れな女の物語の終わりと共に。
大成功
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