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生い茂る狂気

#ダークセイヴァー #異端の神々

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●軍勢を呑んだ森
 夜闇に飲まれ、月光すらも鬱蒼と茂る木々の天蓋に遮られた暗黒の森がある。
 異端の神々が統べる、吸血鬼たちをして手を出さぬ禁域の森だ。しかし過去、この森が禁域と定められる以前にはこの森に領地を接する吸血貴族が挙兵し、森を拓かんと大規模な開拓、侵攻を行ったことがある。
 しかし今では領主が軍の往来のため敷いた石畳は木の根に押しやられひび割れ苔生し、下草の隙間から微かにその名残を覗かせるのみ。その果てにあるという領主軍が築いた小さな砦も、今ではもう押し寄せる木々に呑み込まれつつあった。
 この砦を使っていたかつての領主軍は全滅したのだ。誰一人――領主も、その腹心にして至上の剣才を謳われた騎士も、徴収された兵卒も森を拓くための農民たちも、糧食を運ぶ軍馬の一頭すらも帰らなかった。
 それが史実であった。その後、空白となった領地を支配するべく現れた新たな領主が森への不可侵を定め、先代領主の失態が残した損失を穴埋めするかのように人々にさらなる重税を課し圧政を敷いたと記されている。
 けれど今、この禁忌の森に踏み込むものがある。

●狂気の渦巻く森の奥
「皆様にはこの森の安全確保をお願いしたいのでございます」
 スカートの裾を摘んでお辞儀をひとつ、フェイは集まった猟兵達にこれより向かうべき土地の大まかな来歴を語り終えた。
 ダークセイヴァー辺境。様々な理由で人々はおろか、彼の世界を統べる吸血鬼たちですら近寄らぬ神秘の土地。
 その調査は猟兵達による人々への支援の一つとして、すでに多くの辺境が解放されている、のだが。
「ええ、皆様の懸念通りこれは狂えるオブリビオン、異端の神々に連なる案件でございまして」
 フェイは辺境というワードに眉を動かした猟兵達にこくりと頷く。吸血鬼たちが触らずを貫くということは、それ以上の厄介が存在するということに等しい。つまりは異端の神による支配領域であるということ。
「どうにも、かつて挙兵した領主の軍勢は神を討ち滅ぼすところまでは行ったようなのですが……」
 例によって、その神々の狂気は領主軍の騎士の心身を狂わせ操り、狂乱した騎士によって軍勢は壊滅。神と一つになった騎士は今もなお領主軍が築いた砦を彷徨い続け、森に踏み入る者があればその狂気に満ちた嘆きで狂わせ、自らの――神の配下たるオブリビオンに喰わせてしまうらしい。
「この騎士を討てば森の安全は確保されましょう。ヴァンパイアも恐れる帰らずの森、領主の圧政から逃れる人々が隠れ住むにはこれ以上無い土地となるはずでございます」
 ですので、とフェイは手の上でスロットマシン型のグリモアをくるくると回しながらニヤリと笑んだ。
「一発、神さん退治と行こうやないか。砦の近くまではウチが送ったるさかい、中でうろついとる騎士をアンタらで張り倒して来てほしいねん」
 任せろと意気込む猟兵達に、フェイは満足げに頷いて。
「せやけど気をつけて欲しいんが、砦は随分前の建物やさかいあちこち崩れたり錆びついたりしとってな。普通には入られへん。現場の工夫でどうにかして欲しいんと、それから現着からこっち多分ひっきりなしに神さんの嘆きが聞こえてきよるはずやねん」
 猟兵と言えど、何の準備もなしに長時間聴き続ければ正気の保証はない神の叫び声。その対策をしっかりと施さねば、騎士の次は猟兵が森の主の代理人、という笑えない結末になりかねない。
「ま、アンタらやったらきっと大丈夫やろ。準備するに越したことは無いけどな、ビビってケツまくるような仕事でもあらへん。ほな――私から皆さんのご武運をお祈りさせていただきます」
 ひらりとスカートを翻したフェイの手の中で、グリモアが「777」の数字を叩き出す。
 小気味いい硬貨の溢れる音とともに、猟兵たちは戦地へと飛んだ。


紅星ざーりゃ
 こんにちは、紅星ざーりゃです。
 今回は久々の……一年ぶりのダークセイヴァーをお送りします。
 場所は辺境、鬱蒼と茂る森――の中に佇む、かつて異端の神と戦ったヴァンパイアが築いたらしい朽ちた砦となります。

 第一章はこの砦への侵入経路の形成となります。
 主なき砦の門は固く閉ざされ、崩れた城壁が侵入者を拒みます。
 門の鍵をどうにかして解錠してみる、城壁の登れそうな場所、あるいは隠し通路を探してみるなど、思いつく限りの方法で砦に侵入してください。
 ただしOPでフェイが言っていた通り、作業中はオブリビオンの叫びが皆さんに襲いかかります。
 狂気に囚われぬよう、しっかりと対策をお願いいたします。

 第二章では砦の内部に潜むオブリビオンと、第三章では神に魅入られ狂った騎士との戦いとなります。
 第三章においては騎士との意思疎通は不可能ですが、彼らの嘆きに応えるような想いを伝えられれば、何かが起こる可能性もあります。
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第1章 冒険 『侵入経路はどこにある?』

POW   :    周囲をくまなく探して回る

SPD   :    鍵開け穴開け道具と技術でこじ開けろ

WIZ   :    構造から入れそうな場所を予想する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 漆黒の闇。ほんの僅か数メートル先すら、目を凝らしてようやくといった劣悪な視界。
 だというのに、草木に侵略されたかつての領主軍の砦の威圧的なその姿は、猟兵達の視界に堂々と立ちふさがっていた。
 石積みの城壁はあちこちが突き破られ、捻じくれた木の幹が内外から好き勝手に出入りしている。
 その奥に聳える本館もあちこちが崩落しているようで、何より目を引くのはその中央からおそらく屋根を突き抜けて空へと伸びる一本の巨木。
 建物の高さ自体は低いものの、分厚く堅固な作りはその規模以上に城を大きく見せるもので、更には緑に覆われた砦とまるで一体化したような巨木が合わされば放棄され朽ち果ててなお難攻不落を想像させる。
 どうやって中に侵入したものか――猟兵達が手立てを模索し始めたその時、砦から伸びる木々の葉を震わせて嘆く声が聞こえた。
『――何故。何故、何故』
 何故と問う声は、千年の悲しみを背負っているようで。
 聞くもの達にさえ、言いようのない悲嘆を植え付ける狂気の呼び声だ。
 耳を貸してはならない。けれど、狂える異端の神の荒御魂を真に鎮めるならば、その何故に答えを捧げねばならぬだろう。
『何故――どうして、こんな――』
 前後不覚に陥りそうなほど黒い闇の中で、五感を狂わす嘆きの中で、猟兵たちは為すべきを為すために動き出す。
セシル・バーナード
吸血鬼でさえ手に負えなかった森の攻略か。気合い入ってきた。

ぼくは直接城壁破りはしない。その代わりに、オブリビオンの狂気の叫びに対抗しよう。

奏鳴楽団召喚。
「楽器演奏」「歌唱」で皆を「鼓舞」するシンフォニック・キュアを、シンフォニックデバイスを通して砦全体に流し、オブリビオンの狂気の叫びに味方が囚われるのを防ぐよ。

ぼくは第一ヴァイオリン担当。
曲目はヴァイオリンがオーケストラをリードする、穏やかな歌曲。
出身の世界ではメジャーなもの。

シンフォニック・キュアの効果で、狂気の侵食を早い段階で取り除く。
さあ、みんな、この曲で正気を保ってね。
奏鳴楽団を背後に並べて、第一ヴァイオリンらしい「パフォーマンス」を。




「吸血鬼でさえ手に負えなかった森か……」
 夜目の効くセシルをして見通せぬほど暗い森。見上げた頭上、幾重にも分厚く折り重なった枝葉の向こうには星すらもない曇天の夜空が微かに見え隠れしている。
 ぼう、と青白い狐火を掌の上に踊らせて、仄かな明かりを頼りに砦の周りをさくりさくりと草葉を踏みしめ歩いてみれば、かつての領主軍が往来していたのだろう朽ちた石畳の広場に行き当たった。
 さしもの木々もしっかりと敷き詰められ固められた石畳を完全に侵略し尽くす程の時間はなかったらしい。どうにか広場としての体裁を保つそこで、少年は砦に向かい合う。
 黒々とした夜闇に塗りつぶされた砦は、往時にはきっと篝火やランタンで人の――あるいは吸血鬼の――息遣いがあったのだろう。けれども今はそれも死に絶え、巨大な墓石のようであった。そこに絡みつく捻じ曲がった木々の生命力は、どうにも砦の持つ死の印象に対してアンバランスであって、奇妙なおぞましさを感じずには居られないほど。
 それでも、セシルはその砦に――砦の主に挑むとあって、その胸に闘志を静かに漲らせる。
「気合入ってきた。でもぼくの役目は城壁破りじゃない」
 狐火をふいとかき消して、見上げた城塞の奥から響く嘆きに耳を傾ける。
『何故――何故、こんなことを。――私はただ、斯く在りたかっただけなのに』
 その主が騎士なのか神なのか。どちらにしてももはや正気を失ったものの叫びは、言葉であっても言語ではない。
 ただ、その声にいいしれない悲しみを見たセシルは、静かに瞑目して声の主にささやかな祈りを捧ぐ。
「どうか貴方の悲しみが、僅かにでも癒えますように」
 悲嘆への慰みに、せめて歌を捧げよう。セシルの祈りに応えるように、様々な楽器がずらりと広場に現れる。
「それでは、奏鳴楽団でお贈り致します――」
 楽器各々が擬人化された姿で己を奏でるオーケストラ。セシルもバイオリンを構えて清らかで穏やかな音色を紡ぎ、彼らを牽引して曲を盛り上げてゆく。
 ありふれた、だからこそ万人の心に寄り添うメロディ。そこにそっと歌声を乗せればそれは狂気の叫びへの対抗となる。
 狂気の主に僅かな癒やしを。
 仲間たちが狂気に負けぬように――
 みんな、この曲で正気を保ってね。歌声に他者を思いやる心を添えて、セシルは暗闇の中歌い続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

エル・クーゴー
●SPD



帯域内に於ける断続的なデバフ効果の展開を観測しました
当機及び友軍の探索効率向上の為、これより当該地形効果に対するレジスト・プログラムの記述を開始します

躯体番号L-95
当機は電脳魔術による万象への無線接続_及び_解析・改竄に高い敵性を発揮します

――【万象改竄:電脳天球儀】、展開


・電脳魔術スキルをここに【限界突破】
・己の電脳世界から空間そのものへの【ハッキング】を実施

・帯域内に於ける『負』の概念を、己に刺さる物からもサンプリング(継戦能力+情報収集+学習力)

・解析完了した端から負荷の緩和を企図するコードを三次元そのものに書き込み、探索時間引き延ばしの為、オブリビオンの叫びに対する守りを布く


チトセ・シロガネ
こういう時こそ彼らの出番ネ!
ドローンのみんな!ウェイクアップヨ!(指パッチン)
UC【星屑従者】を発動ネ。

というわけで第六感と野生の感を頼りにドローン達に周辺の情報収集を頼んで経路を作っていくヨ。
障害物はボクが怪力で退いたり壊したりすればノープロブレムネ。

それにしてもさっきからノイジーな叫び声ネ。こんな大声を出すなんて近所迷惑ヨ。
(周辺を見て)近所にだれもいないケドネ。ハハッ!

ちょっとどういう奴なのか音声データをサンプリング……あっ、これ狂気チェックするヤツネ。狂気耐性でノイズキャンセルヨ。
UDCの素材で作った新しいボディの機能は正常にワークしている……のカナ?




「帯域内に於ける断続的なデバフ効果の展開を観測しました」
「続いて持続的なバフの展開を観測しました」
 無数のホロディスプレイを次から次に開いては観測情報の統合に忙しなく手指を踊らせるエル。
 ディスプレイが放つ蒼白の光にぼんやりと照らされた銀の髪と白い肌は、暗闇のなかにあってより儚い美しさを醸し出す。
「当機および友軍の探索効率向上の為、これより当該地形効果に対するレジスト・プログラムの記述を開始します」
 ――エル・クーゴ―。あるいは躯体番号L-95。ミレナリィドールにして腕利きの電脳魔術士である彼女は、電子を介してあらゆる事象を識り、紐解き、そして改竄することを得手とする。
「万象改竄:電脳天球儀、展開」
 その名の通り天球儀の如く彼女を中心に回るディスプレイを同時に使役し、嘆きの波長や周辺の地形や砦の構造物、その材質によって発生する共鳴まで、あらゆる方面から猟兵達の精神を蝕む嘆きを、その根底に眠る狂気の姿を暴くべく智慧の戦いに赴く人形の少女。
 彼女が静の戦いを繰り広げるのであれば、チトセの戦いは動のそれだ。
「こういうときこそ出番ネ! みんな! ウェイクアップヨ!!」
 エルの頭上、木々の枝を跳ぶように渡るチトセの声に応じて、分厚い雲を貫いて流星が降り注ぐ。
 否、それは星に非ず。星屑の如き輝きを伴い、星の如く輝く主に付き従うドローンは、チトセの猛禽めいた野生の直感によって暗黒の闇の中でもぶつかること無くまさに流星のように先行し、砦の内部に通じるルートを探して標となってゆく。
「ふーン、なるほどネ。そこから入れるノ、っト!」
 ドローンが張り付いた城壁。内側から木々に侵食されたそれは、なるほど突けば崩れそうな程度に風化しているように見える。
 とはいえ砦は砦。突けばと言っても破城槌の一つや二つは必要になるだろうし、それで壁を崩したとしても中で木の根がどんな絡み方をしているかわからない。
 四苦八苦して崩してみたところで結局石の壁が木の壁になっただけ――という結末にならないとも限らない、が。
「ノープロブレム、この程度ボクには朝飯前ネ! 夜だけド!!」
 ノンストップで樹上を駆け抜けた加速のままに、四肢の刃で城壁に連撃を叩き込む。
 速度をそのまま破壊力に加算した上、常人を遥かに上回る膂力で叩きつけられた攻撃で、風化した石の壁は粉々に吹き飛んだ――否、切り刻まれた。
 打撃であれば木の根をまで砕くことは叶わないだろう。斬撃であれば石の城壁を引き裂くことは至難であろう。
 だが、達人が尋常ならざる威力で放つそれは、石壁もろともに内部に走る根をも切り刻む。
 ぽっかりと空いた城壁の穴。そこから砦の内部に侵入できそうだと、チトセは満足げに鼻息をひとつ。
 ――が。
『嗚呼! 何故……! 私が何をしたというのか! ただ在るだけで――れねばならぬのか――!』
 声量を増した嘆きが、それまで相殺しあっていた猟兵の歌声をも上回る威力でチトセに襲いかかる。
「あーモウ、ノイジーな叫び声ネ!! 夜中にこんな大声出すなんて近所迷惑ヨ!」
 まあ、近所なんて無いけどネ。周囲を見回してから笑うチトセ。ふざけながらも聞こえる声をサンプリングして、ドローンを通じてエルにも共有しながら自分でも解析を試みる。
「あっ」
 ノイズを除去して耳を澄ませば、たちまちに狂気に呑まれそうになる。悲しい。悲しい。悲しい。ただ慎ましやかに生きていたかっただけなのに。
 それをすら許さぬという傲慢を、あるいはそれを許しては生きられぬという世界を、呪えど呪えど心は癒やされぬ。
「なんデ……なんでこんなコトするノ……――うわあっぶない、これ狂気チェックはいるヤツネ!」
 一瞬飲まれかけた心が、同じ狂気を扱うプロフェッショナルたるUDCの素材で作った義体がオートでスキャニングし思考ノイズを除去することで引き戻される。
 とはいえ、だ。短い間隔でこんな感情に引きずり込まれるのでは、とても内部に侵入するどころではない。
「新しいボディの機能が正常にワークしててもこれカー……困ったネ」
「――問題ありません」
 穴の前で腕を組んで対策を思案するチトセに届くエルの声。
「先程のデータでこの帯域内に於ける『負』の概念のサンプリングを完了しました。悲嘆、憎悪、憐憫――中和作業を開始します」
 エルが囁いたその瞬間、オブリビオンの狂気の叫びに抗うためのコードが砦を中心とした周囲一帯に刻み込まれた。
 声は声に。其れ以上の呪詛に非ず。それでも近くで聴き続ければ精神に変調を来すことはあろうが、砦に踏み込もうとしたその瞬間に正気を失い飲み込まれることは無くなったはずだ。
「随時アップデートを配信します。――友軍各位は順次敵拠点への浸透制圧を開始してください」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィーナ・ステラガーデン
適当な所まで杖に乗って空から侵入して
邪魔な草木は焼くなり刈り取って
崩れた城壁が邪魔なら爆破して侵入よ!華麗に!
道が無いなら道を作り出せばいいわ!

何故?(嘆きに対して)って知らないわよ!
もうちょっと静かに自問自答しなさいよ!近所迷惑よ!

そのまま火の球でも魔法で浮かしてずんずん道なりを前進して
邪魔があったら破壊活動に勤しむわ!

ってほんとうるさいわね声!同じことばっかり言って!
もうちょっとひねりなさいよ!
無視よ無視!
・・・うっさああああああああああい!!(UC)

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


イデアール・モラクス
【PPP】
フン、狂気を呼ぶ叫びか…このダークセイヴァーにおいてはむしろ正気こそ狂気であろう。
そも、私に正気などないがなぁ!

・行動
まずはUC【使い魔召喚】で我が使い魔たる人造フェアリーのヘレンを呼び出し、私の肩に乗せよう。
「私への付与魔術を絶やすなよ、後は…艶かしく囁け」
ヘレンに精神抵抗力を強化する魔術を私に絶えず付与するよう命令、更に正気を保つために耳元で艶かしく囁いてもらおう。
それを聞きながら私は『全力魔法・範囲攻撃』を用いて魔力探知を行い、進入路を探して突破口を開く。
「さぁ我が前に口を開けよ、奥を私に見せるのだ…」
進入路は見つけ次第開き、必要なら破壊してでも押し入る。

※アドリブ歓迎


アイ・リスパー
【PPP】
「聞くだけで精神に影響を与える声、ですか。
厄介ですが、味方の猟兵が分析してくれたデータがあればなんとかなります!」

【チューリングの神託機械】で電脳空間の万能コンピュータに接続。
情報処理能力を強化して【バタフライ効果】を起動します。

「マックスウェルの悪魔、ラプラスの悪魔、並列起動。
空気分子の運動エネルギーを精密制御。
味方に襲いかかる『声』を逆位相の音波で相殺します!」

周囲の仲間たちを守るように音波を制御して『声』を打ち消しましょう。
声の性質が変わるたびに随時アップデートに追従します。

「砦内部への進入路の確保は、頼れる仲間に任せましょう」

ここは私はサポートに徹することにします。


葛葉・アリス
【PPP】
ジャバウォックに乗ったまま皆と一緒に動くわ

異端の神ねぇ…神といえば私もだけど、狂った神なんて放置はできないものね
問題は狂気の声か…あまり聞き続けるのも良くないわね
私は多少は狂気耐性あるけど…【世界情報更新】で音が伝わらないように空気のパラメータでも弄った方がいいかしら?
…と思ったら、アイが音を相殺してくれてる?
ならそこは任せましょうか

では私はこの砦全体を電脳空間にて再現、侵入できそうな箇所を探すわね
壁を薄く書き換えて壊しやすくする?
施錠のフラグを書き換え鍵がない事にする?
情報を弄ることでのサポートに徹しましょうか
…あるいは私が直接書き換えて侵入経路作ってもいいしね
臨機応変に行きましょ




「聞くだけで精神に影響を与える声、ですか……」
 厄介ですね、と顎に手を宛て俯くアイ。
 目に見えない攻撃。ともすれば風が草葉を揺らすザワザワという葉擦れの音にまぎれて、今でも静かに心を蝕んでいるかもしれない。
 疑えば微かな物音でさえ怪しく思えてしまう。これは、叫びに囚われる前に精神をやられてしまいそうだ。
 けれど、仲間が分析してくれたデータがある。音波の波形というものは、それを知っていれば声と声でないものを切り分けることなど容易い。
 神託機械に接続し、その情報処理能力で周囲の音――空気の振動を微に入り細に入りすべて解析するアイ。
 その解析情報に突如ノイズが走る。
「フン、狂気を呼ぶ叫びだと……? この世界においてはむしろ正気こそが狂気であろうが。そも、私に正気など無いがなァ! アーッハッハッハ!!」
 ――イデアールだ。
 彼女のお馴染みの高笑いが、周囲の音を塗りつぶす。狂気なのはいいが解析の邪魔だけはしないでほしいなあ、と困った視線を向けるアイにフフンと笑い返す魔女。それは熱視線ではないのでそのわかったわかった後でたっぷり相手してやる的な顔をやめなさい。
「ていうか陸路じゃなきゃ駄目なの? 空から侵入して邪魔な草木は焼くなり刈り取って城壁は爆破して華麗に侵入すればいいじゃない!」
 一方でダチョウのような謎の生き物、ジャバウォックに跨るアリスに持論を熱く説く声の主はフィーナだ。
 道がないなら己の手で作り出せという彼女の言葉は一見して力強く頼もしいが、多分それ以上の事を考えていない。例えば火を放った結果森が丸ごと燃えたり、爆破した結果、響いた轟音で今の領主軍にこの森で何か異変が起こっていることを気取られたりして人が隠れ住むに適した環境が失われる可能性とか。
 そこにさえ目をつぶれば正論ではあるが、そこのリスクがちょっと大きすぎる。
「そもそも空を飛べるほど木のカーテンは薄くはないわよ。陸でも空でも不用意に火を点けて回るのは危険すぎるわ、そのやる気はもう少し取っておくことね」
 フィーナを宥めながらアリスが思うのは、かつて領主軍に討たれその騎士を乗っ取ったという異端の神についてだ。狂える荒御魂となれば放置はできない。その危険性は己も神であるアリスこそよく知っている。
 それも数百年とうらみつらみを残して現世に留まる怨念ともなれば、その狂気は多少の狂気には耐性のあるアリスといえど長くは保たないだろう。
 神の権能で電子的に再現した世界を書き換え、音の信号を遮断しようとしたところでちら、とアイを見たアリスは彼女も彼女なりに対策を立てようとしている姿に、ほうと小さく息を吐く。
「アイも同じことを考えていたようね。ならここは任せましょうか」
 ジャバウォックに跨った小さな神は、電子の世界を少しずつ広げながら砦に近づいていく。

「フフ……ヘレン、私への付与魔術を絶やすんじゃないぞ……」
 肩に座る小さな少女――人造のフェアリーにして使い魔のヘレンに精神を正常に保つための魔術――彼女の場合、正常が常人にとっては多少おかしい基準であるためこれは仲間には掛けられない――を詠唱させながら茂みを掻き分け、全力の探知魔法で進入路を探すイデアール。侵攻軍の拠点とはいえ、砦であれば隠し通路の一つや二つはあってしかるべきだ。
 その入口を探している彼女にとって、アイの対抗手段の完成を待つその一分一秒が金貨――あいや、見目麗しい少女との一時以上に惜しい。
「私の勘ではこの辺りに地下通路なりの入り口があるはずなんだがなぁ……おっとヘレン、詠唱が甘いぞ。もっと艶かしく囁くんだ」
 ヘレンの名誉のために言えば、かの人造妖精の詠唱は完璧であった。淡々と粛々と狂気を除去する魔法を紡ぐ彼女は、使い魔として一流であると言っても過言ではない。
 ただ、主はただの完璧には興味のない女だった。それをうっかり失念していたのが敗因だろう。頬を染め、恥じらうように色を帯びた声で詠唱を続ければイデアールはようやく満足して頷いた。
「何やってるんだか」
 アリスに咎められたので、召喚した火の玉は完全に照明器具としてずいずいと先を行くイデアールに続くフィーナ。その明かりを目印に、術式構築に全力を注ぐアイと彼女をピックアップしてジャバウォックに相乗りさせたアリスが続く。
「ていうかアイ、まだそのなんとかって魔法はできないの? そろそろ私の堪忍袋の緒がどうにかなりそうだわ!」
 切れる以外にどうなるというのか。ともあれ急かされてアイは最後の工程を駆け足で終わらせ、砦から滲む狂気の声に逆位相の音波を叩きつける。
「マックスウェルの悪魔、ラプラスの悪魔、並列起動。空気分子の運動エネルギーを精密制御しました。これで声の対策は大丈夫なはずです」
 相殺されかき消されれば、今まで葉擦れの音だと思っていた中にも嘆き声は混じっていたのだろう。暗闇の森は一層しんと静まり返っているように思えた。
「あとは随時アップデートと、声の解析に専念します。進入路の確保は任せました!」
「そういうことなら任せなさい。イデアール、あの様式の砦ならこの辺りに格子通路があるということで間違いないのね?」
「ん? ああ、おそらくはな。上級の指揮官が寝泊まりする部屋があの高くなっている所の真下あたりで、そこから直通の階段で地下まで降りてこっちに抜けて、石畳の方に逃げられるようになっている筈だ。普通の造りならな」
 ダークセイヴァーに詳しい魔女に砦の構造を再度確認したアリスは、広げた電脳の複製世界にそっと手を加えた。イデアールが言った通りの“普通の構造”を書き足したのである。
「そう、ありがと。フィーナ、その辺の茂みをちょっとだけ焼きなさい」
 え? なんで? と首を傾げるフィーナにいいから信じてやりなさいと促すアリス。言うとおりにフィーナが明かり代わりの火球を地面に押し付ければ、膝ほどの高さの茂みが燃え尽きその下に石で作られた扉が現れた。
「ほう、地下に降りる階段か? やはり“私の読みは当たった”ようだな?」
「そうね、見事な推理だったわ。さ、行きましょう」
 魔女と女神は互いにだけわかるように目配せを交わして石扉を押し上げる――
『――何故』
 その瞬間、アイの逆位相の波長でも殺しきれないほど幾重にも折り重なった狂気の叫びが溢れ出した。
 それを耐えながらどうにか覗き込んだ真っ暗な地下通路は、壁面や床を突き抜けて伸びる木の根に制圧されていた。細身の女性たちでも迅速に通り抜けることは困難だろう。ならば待つのは木の牢獄の中で狂い死ぬ末路だ。
『何故、何故――何故滅ぼされねばならなかったのですか』
 ただひとつ、彼女たちにとって僥倖だったのは。
『何故、争わずには居られないのですか』
 たとえ生木であろうとお構いなしに焼き払う、火炎魔術のエキスパートが此処に居たこと。
 そして彼女が、いよいよ苛立ちのピークを迎えつつあったことだろう。
「うるっさいわね! さっきからなぜなぜなぜなぜって同じことばっかり言って! 自問自答なら静かにやんなさい! 近所迷惑よ! それでも声に出すんならもう少し内容を捻りなさい!!」
 光源代わりに浮かべていた火の玉が一際大きく膨張し、そして手のひら大に収縮する。
『何故、言葉で――』
「うっさぁあああああああああい!!」
 火焔が、爆ぜた。圧縮された超高温の炎は、フィーナの魔術によって指向性を持って弾ける。
 地下通路を押し流すように勢いよく駆け抜ける炎の濁流が、通路を塞ぐ木の根を炭すら残さず焼き払った。
「……ふん! 皆行くわよ! さっさとこの煩いのを黙らせましょ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

織笠・アシュリン
【恋華荘】
狂気の森……どれだけの呪詛がここにあるんだろう
って、そこ、イチャイチャしなーい!
※いちごに異性として好意を持ってます

「何故」かぁ
ごめん。今は答えられない
けど、奥に行ければ……だから、通して!

みんなは下を探しているから、あたしは上に行こうかな
【月光翔ける魔女の装】で「箒」のライフルに乗って、上空からの偵察をするよ!
草木に視界を遮られない程度の低空飛行で……うわっぷ!
ともかく、上空でないと見えないものを見つけていくよ!
特に城壁の上の安全確認……
崩れてたり、崩れそうだったり、あるいは他の脅威を探したり……!
あと、もしもワイヤーとかを投げてくれるなら、掴んで引っ張り上げたりとかできるよ!


菫宮・理緒
【恋華荘】

ヴァンパイアすら触らない狂気の森、かぁ。
神は神でも、狂った神ってことだよね。
なら、なんの遠慮もいらないかな。

オブリビオンの叫びには【HMD-270】をしっかり装着して、
【狂気耐性】と【呪詛耐性】を上げていくよ。
あ、それと、いちごさんの手も、しっかり握っておこう。
これがいちばん効果あるよね!

「『何故』って言われても、ね。質問するなら、しっかりしてほしいな」

砦への入り口探しは、
【E.C.O.M.S】を使って【Octagonal Pyramid】を展開。
雪乃さんが階段を作ってくれるみたいなので、
城壁の低めのところや、足場がしっかりしてそうなところを探すね。
見つかったら雪乃さんにご報告だっ。


御影・雪乃
【恋華荘】の四人で
●ぼんやりと心情
存在の意味とか価値とか、他者からどう思われるかで決まったりして自分の意志と関係ないことはありますね
まあそれは今は考えることではないとして

二人ともいちゃついてないで、ほら行きますよ

●砦への侵入
壁、登れますでしょうか?
蔦とか木とか…あと雪とかで
『雪だるま軍団の召喚』でもして、階段になってもらいましょう

急勾配の階段なら、270個もあれば十分高さを稼げそうです

●狂気対策
トパーズの指輪を握りしめ自分を意識
自分に違和感があれば護身用ナイフで自分の手を刺し痛みで正気に戻すなど
狂気を学習して見切れたらもう少し楽なのですが


アドリブアレンジOKです


彩波・いちご
【恋華荘】
狂気の神…身体の中に邪神を宿す私には他人事じゃないんですよね…
そのおかげで狂気耐性はあるので、叫びに耐えることはできると思いますが…
ん、手をつなぐのです?
いいですよ、それで理緒さんが安心するなら
…いちゃついてるわけじゃないですってば

何故…ですか
その答えは私達はもっていないんです
それも見つけないといけませんね

まずは侵入できそうな場所を探しましょう
【異界の猟犬】を召喚し、理緒さんのドローンと手分けして周辺探索
登れそうな壁を見かけたら、雪乃さんの雪ダルマを足場にして、登っていきましょう
猟犬を先行させて登った先も偵察しつつ、私が先頭で
あとから登る仲間に手を差し出して
大丈夫、慎重にですよ?




「まずは侵入できそうな場所を探しましょう」
 リーダー格の少女――に紛うような少年、いちごの提案に各々頷く恋華荘の居住者達。
 兎にも角にも侵入経路の確保が最優先だ。この森に留まっていたとしても耳を打つ悲しげな問いかけへ答える手がかりすらありはしないのだから。
「『何故』って言われても、ね。質問するならしっかりしてほしいな」
「そうだね、けど砦の奥に行くことができれば、あの質問の意味もわかるかも」
 要領を得ない問いかけに困ったように眉を寄せる理緒。そして木々を震わす嘆きに同情するように悲しげな表情で、けれどその嘆きを癒やしてあげられるならばと決意を新たにするアシュリン。
 そんな二人の背中を眺めながら、雪乃はぼんやりと想う。
 ――存在の意味や価値は、自分がどう在りたいと願ったとしても他者からの評価で決まってしまうことが往々にしてある。そこに自分の意志が介在しないのなら、この嘆きの主は――
「まぁ、それは今考えることではないとして」
 ぎゅっと握りしめたトパーズの指輪の感触が、雪乃の心を此方側に引き止めてくれる。自分を想って贈られた大切な指輪に輝く宝石は、神の言葉を正しく伝えるとも、良くない思念を振り払ってくれるとも言われるそうだ。
「図らずもこの場においては最適なものになりましたね……いちごさん、私たちは壁から侵入しましょう」
「そうですね。崩れて登れそうになっているところがあると良いんですけど……」
 ウロウロと砦を一周して探すことも考えたが、女性たちを連れてまともな明かりもない森の中を歩き回ることはいちごには憚られた。なので彼は眷属たる影の猟犬を呼び出し指令を下す。
「城壁が崩れていたり、木が絡んで皆さんでも登れそうな場所を見つけたら教えて下さい」
「偵察なら任せてちょうだい! あたしひとっ飛びして上から見てくる!」
 猟犬を送り出したいちごにアピールするように、箒――もといライフルに跨ってふわりと浮かび上がるアシュリン。
 ともに戦う仲間として――ちょっと欲を言えばそれ以上のパートナーとして――彼に無いものを補えるポジションだという言外の主張もちょっとだけ混じっているもちろん早急に侵入口を見つけ出して神を今度こそ滅ぼすためという使命感も忘れていない。大体七対三くらいの割合だ。
「お願いします、アシュリンさん。空から見てもらえるともっと確実ですね」
 にこりと笑いかけるいちごにきゅんと胸を高鳴らせ、高度を上げたアシュリンは――そのまま鬱蒼と生い茂る枝葉に顔面から突っ込んだ。
「うわっぷ……うーん、あんまり高度が上げられないなあ。ともかく城壁の上の安全確認と登れそうな場所の探索、いってきまーす!」
 ひらりと飛んでいくアシュリンが夜闇に紛れて見えなくなった辺りで、理緒も配下のドローンの展開を完了していた。八角錐のそれらはアシュリンのように城壁を飛び越えられる高さまでは上がらないが、いちごの猟犬では不足する耳目を補うだけの数がある。
「でもってぜんぶ手動で制御するからには狂気対策もしっかりしなきゃだよね」
 耳目が増えるということは、それだけ嘆きの叫びに晒されるということでもある。
 ヘッドセットをしっかりと被り、普段からよく聴いている耳馴染みの良い――正気の象徴たる音楽を掛けて、少しでも心を平静に。
 その上で、理緒はいちごにそっと手を差し伸べた。
「狂気対策にはこれが一番効果があると思うんだ。いちごさん、手をつなごう?」
 人間の肌の感触、柔らかさ、暖かさ、息遣い。それが気を許せる相手ならばなおさらに、それは精神安定の特効薬となる。
 駄目かな? と問う理緒に、いちごはいいえと首を横に振った。
「いいですよ、それで理緒さんが安心するなら」
 きゅ、と握った手は、まだ冷たい冬の森の空気の中で、普段より暖かく感じられた。
「…………二人ともいちゃついてないで、私たちも城壁の周りを歩いてみますよ。ほら、行きましょう」
 その様子に微笑ましいような呆れたような、そのどちらとも取れる普段どおりの無表情で雪乃が割って入る。
「……いちゃついてるわけじゃないですってば」
「分かりましたからもう少し詰めてください。変に広がられると却って危ないです。転びますよ」
 微妙な距離を維持する少年少女の肩をぐっと寄せて、つかつかと暗い森を物ともせず進む雪乃。
 ふたりを追い越したその顔は微かに微笑んでいた。――アシュリンが戻ってくるのが楽しみだ。
 三人が歩きだしてほどなくして、猟犬が音もなく戻ってきた。城壁のやや低くなっている――周辺の木々によって崩されてしまったらしい――場所を見つけたのだ。理緒のドローンは現場に留まり、なるべく負担の少ないように登るルートを測量しているらしい。先んじてその城壁の上に着陸したアシュリンは現場の安全確保を行いつつ、前もって持たされていたワイヤーロープを上から垂らしてくれるらしい。
 ドローンの視界に手をふるアシュリンを見上げ、理緒はその旨をいちごと雪乃に伝える。
「なるほど、崩れた壁ですか。登れますでしょうか?」
「そのままとなるとちょっと難しそうですね。足場があれば良いんですけど……理緒さん、あのドローンで足場を組んだりとかってできますか?」
「うーん、それはちょっと難しいかなあ」
 どうやって登ったものか。ともあれ他に道も見つからないならば、そこから登る他に無いだろう。現場へと気持ち急ぎ足で向かった三人を、壁の上から迎えたアシュリンは。
「あーっ!! こらそこ、イチャイチャしなーい!!」
 気になる異性とぎゅっと手を繋ぎ、肩を寄せ合ってやってくる理緒の姿。
 みるみる頬を膨らませ、真っ赤になってへそを曲げるアシュリンに、たまらず雪乃は顔を背けてしまう。
 惚れた腫れたの甘酸っぱい駆け引きで拗ねるアシュリンが面白、もとい可愛らしくて頬が緩んでしまいそうだから。
「ですからいちゃついてるわけじゃないですってば!」
 至極真面目ないちごの説得で機嫌をちょっとずつ直したアシュリンが言うことには、この壁――石積みが雪崩れたように崩れ、緩やかなスロープになっている――は無秩序に崩れているおかげで上を歩くには少しばかり不安定で危険らしい。その上一同の身長では仮に一番上までたどり着いても、アシュリンの垂らすロープの先までギリギリ手が届きそうにない。 
「もう少し足場があれば良いんですが……雪乃さん、なんとかなりませんか?」
 猟犬を試しに先行させてみたら、ぐらつく岩に足を取られて転びそうになっていた。二本脚であれを越えるのは厳しそうだ。
「そうですね……なら、これを試してみましょう」
 どうにか表情を引き締めた雪乃が召喚するのは雪だるまだ。とはいえ変則、まるで階段のようにL字型の胴体をした変形雪だるま。これがぞろぞろと現れては組体操のようにスロープを形作る岩の隙間に嵌まり、あるいはその上に階段を組み上げて進入路を作り上げる。
「高さはこれで十分ですね。さ、行きましょう」
 見事に白く舗装された階段を、いちごを先頭に手を繋いだ理緒、そして雪乃と登っていく。
「大丈夫ですか? 慎重にですよ?」
 仲間を気遣ういちご。彼に手を引かれて難なくアシュリンのロープを掴み、引っ張り上げられる理緒。
 レディファーストです、と理緒の次は雪乃を城壁の上にあげて、いちごは最後にロープを自ら手繰って壁上へと登ってくる。
「ふぅ、これで全員ですね。……アシュリンさん、本当にありがとうございます。助かりました」
 にこり。先行して突入地点の安全確保、ひいては仲間たちの引き上げと大変な役割を担ってくれたアシュリンへの心からの労いの言葉。
 その一撃でアシュリンは撃沈する。もう理緒としっかり手を繋いでてズルい、羨ましい、なんて気持ちはどこへやら。
「えへへへ……まぁね、このくらいあたしに任せてよ!」
 幸せそうに頬を緩ませて、アシュリンはとんと胸を叩く。
 そこへ響く嘆きの声。
『共に――だけなのに――何故――』
 はっきりと聞こえた神の声。それが他人事ではない――我が身に神を宿すいちごは、表情をきりりと引き締める。
「あれが神の嘆きかぁ。神は神でも狂った神なら、何の遠慮もいらないかな」
「そうだね、この狂気の森に積み重なった呪詛をあたしたちが祓うんだ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

藤堂・遼子
異端の神の呼ぶ狂気ね
UDCの邪神とやりあったり依り代になったりしてる身からすれば、慣れ親しんだものよ
それでもずっと呼び声聞き続けるのは幾ら呪詛や狂気に耐性あっても鬱陶しいわ
だからまぁ対抗させてもらうわよ!目には目を、歯には歯を、狂気には狂気よ!
【邪神侵蝕変異】。犯せ侵せ冒せ!城壁を正気度削るような触手へと変える邪悪な神意にして神威で蹂躙せよ!
これで城壁を触手にすることで内部に侵入するわ。邪神の力で変異した触手だからそれ自体が狂気の産物だし、狂気の呼び声は触手から発せられる邪神の呪詛と狂気で相殺よ
他に障害物あっても触手で排除するわ
まぁ私は平気でも下手に味方が見たら二重の狂気に晒されるかもだけど




「異端の神の呼ぶ狂気ね……」
 それは遼子にとってすでに慣れ親しんだも同然の声音だった。
 そんな狂気に染まりきった狂信の輩によって心を歪められ、手足を失った彼女の心の奥底で燻る暗い炎を塗りつぶすには、この嘆きはあまりにもぬるい。
 どうしようもない悲嘆を感じる。
 それがどうした。この狭い森の中しか知らぬ、此処での事しか識らぬ神の嘆きは、それこそがこの世で最も嘆かわしい悲劇だと訴えるような声音を響かせる時点で薄っぺらく生ぬるい。
 この世には同等の悲劇がある。悲嘆がある。呪詛がある。狂気がある。
 それを見ず、識らず、そのくせにその存在を認めないような嘆きに屈するほど、遼子の心は正気に狂いきってはいない。
「共感も同情もしてあげたって構わないけどね。鬱陶しいのよその自分だけが、みたいな叫び声は!」
 見上げた城壁。堅固な石の壁は、主の閉ざされた心を示すかのように一分の隙もないように見える。だがそれにひたりと手を触れれば、そこから石はぞぶりと柔らかな物へと変わっていく。
「目には目を。歯には歯を。狂気には狂気を、よ。神意にして神威で蹂躙せよ!」
 犯せ。
 侵せ。
 冒せ。
 狂気の嘆きを踏みにじれ。
 神の牙城を突き崩せ。
 木々の神域を浸食せよ。
 組み上げられた石は肉に。絡みつく木々は管に。
 蠢く肉と触手の壁は、遼子の識るおぞましき神の領域そのものだ。
 それが神の砦を上書きするように現世に溢れ出す。
『何故――』
「ふん、弱々しいのよそんな叫び。もう聞こえなくなったわ」
 どくん、どくん。ぞぶり、ぶちゅ。
 どこか鼓動にも似た肉が蠢く湿った音が、砦の奥からの声を塗り潰す。
 その肉の壁に道を開けるよう命じて悠々と砦に進入した邪神の依代たる女は、自らとともにある超常のものによって掻き消される程度の嘆きを鼻で笑ってさらなる奥へ、嘆きの主の座する砦の中心へと踏みだした。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。何故、ね。滅ぼされた事を嘆いているのか、
それとも己の主を切り捨てた事を嘆いているのか…。

…あるいは全く別の理由かも知れないけど、私のすべき事に変わりはない。
その呪わしき生を終わらせてあげる。

事前に自我の存在感を増幅する“調律の呪詛”を付与
神の精神攻撃を狂気耐性を強化するオーラで防御して、
砦の近くや手袋の掌部に魔法陣を刻んでおく

第六感が危険や殺気を感じたら離脱するように心掛け、
今までの戦闘知識を基に崩落の危険が無いかを見切りUCを発動
掌に触れた扉や瓦礫等を異空間に収納して道を作るわ

…この世界では、これらも貴重な資源だもの。
後からここに来る人達の為にも、再利用できるなら利用しないと…。




『何故――何故こんな――』
 問いかける声は、きっと今を生きる誰かには向けられていない。
 すでに滅んでしまった誰かへの嘆きは、しかしてそれを耳にしたもの全てを狂わせる。
 そんな嘆きの中で、固く閉ざされた城門に血を塗りつけ魔法陣を描き終えた少女は静かに唇を震わせた。
「……開け、常夜の門」
 すると城門は僅かに軋みながら消えてゆくではないか。
 消滅――ではない。少女、リーヴァルディの描く血の魔法陣を介してもう一つの常夜の国、彼女の城へと送られたのだ。
「これだってこの世界では貴重な資源だもの。後からここに来る人達の為にも、再利用できるなら利用しないと……」
 ここまで朽ちた上に、防衛戦力すら居ない砦だ。壊して攻め入ることは容易かろう。けれどもこの城に巣食う神を滅ぼしたならば、いずれ吸血鬼の圧政から逃れるためこの森に集う人々が砦を再利用出来るように破壊を最小限に留める。それがリーヴァルディにこのような手段を選ばせた理由であった。
 吸血鬼狩り、リーヴァルディ。その名を伝聞でしか知らぬものは、大鎌で吸血鬼を刈り取る凄腕のヴァンパイア・ハンターだという認識しか無いだろう。
 だが、彼女はそうして後に続く人々の為にと手段を選ぶ思い遣りを持っている。
 そして敵が吸血鬼でないのなら、その一片はオブリビオンにも等しく与えられるだろう。
「何故、ね。滅ぼされたことを嘆いているのか、それとも己の主を切り捨てた事を嘆いているのか……」
 聞くところによれば、神に身体を奪われた騎士は主君も配下も等しく皆殺した
という。吸血鬼の配下の思うところに僅かにだって同情するつもりはないが、それでも騎士は騎士なりに仲間や主を愛していたはずだ。それを自らの手で斬って捨てたというならその悲しみは狂い堕ちるには余りあるだろう。
 あるいは嘆きが神の物ならば、領主軍との戦いで討ち滅ぼされた苦しみは想像に易い。ヴァンパイアたちのために滅ぼされる集落など、この世界ではありふれた光景だ。それが人のものか神のものかという違いしかありはしない。
「……あるいは全く別の理由かもしれないけど、私のすべきことに変わりはない。異端の神、その呪わしき生を終わらせてあげる」
 吸血鬼狩りとして、僅かなれど慈悲を。苦しみ悲しみに囚われた永劫の生をここで断ち切る為に、自らに呪詛を刻み響く嘆きを意志で抑え込んで、リーヴァルディは砦へと足を踏み入れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
う…、この声を聞いてから頭痛がして気持ち悪い…。…違う、呪詛天使が狂気を糧に私を乗っ取ろうとしているんだ。
そんな事になる前に…早く終わらせなきゃ。私がまだ私である為に。

私は翼があるから砦周辺を飛行し【視力】で視界を確保しながら、風の流れる大きい亀裂や【呪詛】等負の力が噴出する地点…侵入出来そうな場所を探そう。もし発見出来たら周囲にいる他の猟兵達にも伝えるよ。

狂気の呼び声は【狂気耐性】で耐える。…正直狂気だけなら問題ないけど、呪詛天使に乗っ取られ、力を増されるのだけは困る。だから…全力で抵抗しよう。




「う……気持ち悪い……」
 何故、何故、どうして、ただ神として在りたかっただけなのに。
 ただ人と共に歩みたかっただけなのに。
 それなのにどうして、何故。
 頭蓋の中で反響する神の嘆き。それが脳をどろどろになるまでかき混ぜるような頭痛になって、アンナの正気を蝕んでゆく。
 だが、その胸中に湧き上がるのは抑えきれない悲嘆ではない。神の嘆きはきっかけであっても、アンナの心を冒す瘴気そのものではないように感じられた。
「……違う、この声じゃない……私の中の呪詛天使が……」
 嘆きがきっかけでしかないならば、この苦痛の原因は己の中にある。となれば答えにたどり着くのはすぐだ。彼女の胸に宿るもう一つの魂が、昏く揺らめく怨念の化身が、神の嘆きにアンナの心が僅かに狂気の側に傾いたその一瞬を逃すまいと暴れているに違いない。
 負けてはいけない、とアンナは歯を食いしばって翼を広げる。
 乗っ取られては駄目だ。私が私であるために、この叫びに魂が屈する前に終わらせねばならない。
 痛む頭、失われつつある平衡感覚。その上空は低く、枝葉という障害物に満ちている。
 その上にほんの僅か先をも見えぬ程の夜の闇。飛行するには最悪の条件でも、それ以外の方法を悠長に模索するだけの余裕がないアンナは飛ばねばならない。飛ばないという選択肢は、もはや魂の死と同義である。
 舞い上がり、枝を躱して飛翔するアンナ。その飛行は往時の精細を欠いてはいるものの、あまりの苦しみに進路を誤るようなことはなく確りと砦を目指していた。
「風の流れは……呪詛の力の濃い所は……きっとそこが内部に通じているはず」
 城壁の内側、本館の周辺を飛び回るアンナは、ふと本館に接続して建てられた物見塔に入れそうな窓を発見する。
 硝子はもちろん、雨戸すらない窓を潜って中を確認してみれば、真っ暗ではあるが入って歩ける程度の空間は確保されているように見える。
外から見た構造が確かなら、少しばかり降りれば渡り廊下で砦の本館につながっている筈だ。
「ここからなら……入れるはずだよね……ッ」
 窓枠を乗り越え全身を塔に滑り込ませたアンナへと襲いかかる、反響してより威力を増した神の嘆き。
「くぅっ……この嘆きだけなら何とか出来る、はずだけど……!」
 外からの嘆きに加えて、内なる呪詛天使の魂を抑えねばならない。内外からとめどなくその心と身体を奪い取らんと襲いくる狂気に必死で抵抗しながら、アンナは暗闇の中石の螺旋階段を静かに降りてゆく。

苦戦 🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『フクロミノシタ』

POW   :    身とする蔓
【触れたものを植物に変化させる無数の蔓】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    魅を放つ香り
【本体の開く穴】から【生物を魅了する香り】を放ち、【恍惚とさせ引き寄せること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    実を作る
【自らの身体の一部に】【見たもの、香りを嗅いだ物を魅了する】【実を作りだすこと】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『――何故』
 神はかつて人とともにあった。
 人は神を敬い崇め、森の奥の神域にはみだりに近寄らず、年に一度神を祀る祝祭を開いて信仰を捧げていた。
 神は人を愛し慈しみ、眷属たる木々や獣と同じく森の恵みを与えてその健やかなる日々を支え守っていた。
『――なのに、何故』
 小さな集落はいつしか村に育ち、村は町に繋がり、町は都への道を拓いた。
 神と森を敬い、信仰によって豊穣を得ていた人々は、都の進んだ技術で神に頼らずとも豊かな暮らしを自らの手で得られるようになった。
 いつしか信仰は忘れられ、日常の守護者は神から都の領主へと入れ替わっていった。
 神はそれでも良かった。愛した者たちの子々孫々が健やかに、永久に繁栄するのならば。
『――何故、ただ在るだけの私を滅ぼすのですか』
 領主は領民にさらなる豊かさを約束し、触れられざる豊穣の土地たる神域の森を欲した。
 切り拓け。農地を作るのだ。他領に負けぬ豊かさが、翻って領主だけではない、民全ての暮らしを向上させる。
 異教の神を討ち滅ぼせ。異端の神罰など我らが神の御加護が打ち破るだろう。些末な神を畏れるな。
 そんな言葉とともに、ある日突然領主の軍が森に踏み込んできた。木々を斬り倒し、草花に火を放ち、獣には矢を射掛けて神域を目掛け森を食い荒らす吸血鬼の軍勢。
 その先頭を往くかつて愛した人々の子孫を見た時、神の怒りは悲しみへと変わったのだろう。
 不信心者への裁きを下すよりも、過ぎ去りしあの日々に戻りたい、と。
『共に生きたかっただけなのに、何故――』
 どこで運命の糸車が狂ったのか。
 神を守ろうと戦う獣や木々、眷属達が次々と領主軍に討たれていく。
 そうして神自身も、領主の騎士によってその存在を絶たれた――はずだった。

 砦へと踏み込んだ猟兵達の鼻腔を擽る果物のような甘い香り。
 それは嗅ぐものによって林檎のようであり、苺のようであり、桃のようでありあるいはオレンジやメロン、葡萄のようでもある。
 己の最も好む果実の匂い。それを脳が認識したその途端、誰かの記憶がフラッシュバックする。
 永い時の中で愛したものに裏切られた神の記憶。それこそが砦の奥で嘆き続けるものの正体なのだろう。
 ――そして、その悲しみは神すらも望まぬ形で結実した。
 死してなお悲しみに囚われ続ける神。それを守るように、砦のあちこちに根を張る植物がある。猟兵達の前に姿を現したそれは、抗いがたい程に至上の美味を予想させる丸々と張った実を実らせた木だ。
 その幹はまるで人のような形をしていて、全てが嘆き悲しむような人面に似た造形を持ち、個体によっては服や鎧の残滓を枝に引っ掛けている。
 そしてよくよく目を凝らせば、果実――目先の豊かさに目を奪われ近寄った愚か者を破滅へと誘う、赤黒い臓器のような袋が幹の陰に見え隠れしている。
 強靭な意志で果実の誘惑に抗わねば、実を求めるあまり袋の中に滑り落ちてしまう。そうなれば犠牲者もあの木々の一部として、神の嘆きを慰める者たちの仲間入りをすることになる。
 砦の庭に、室内に、狭い通路一杯に。猟兵を阻むために幹を蠕動させて立ち塞がる妖しげな果樹を突破して、猟兵達は神の下へとたどり着かねばならない。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。今のは狂気に陥る前の神の記憶…?
なるほど、嘆いていたのは貴方の方だったのね。
心から思うわ。出来るなら狂う前の貴方と会いたかったと…。

…この地は吸血鬼に虐げられている人々の為に使う。
…その方が今の状態より貴方の望みに叶うと、勝手に受け取らせてもらうわ。

“調律の呪詛”を維持(存在感、狂気耐性)して気合いを込め、
敵の精神攻撃を弾いて魔力を溜めた両手を繋ぎUCを発動

…現在と過去を繋ぐ楔を断つ。

過去の戦闘知識から石化属性攻撃の射程を暗視して見切り、
炎剣をなぎ払い黒炎のオーラで防御を無視する先制攻撃を放つ

…ごめんなさい。貴方達を助ける事はできない。
せめて苦しまずに天に召される事を祈っているわ…。




 城門を抜け、砦に踏み込んだリーヴァルディを迎えたのは闇だった。
 常夜の世界で、星明かりすらも木々に阻まれた森。さらにその奥に座する石の要塞は夜闇すら塗り潰すほど黒い闇に包まれている。
 その暗闇に目を凝らした彼女が視たのは、過去の残滓だ。
 愛した者たちの末裔によって滅ぼされた神。彼は、あるいは彼女は最後まで人への愛を貫き通して死んでいったのだろう。
 故に、この砦を飲み込む狂気は憎悪ではなく悲嘆なのだ。恩を忘れた人間への怒りよりも、もはや共に生きられぬことへの哀しみ。ああ、だとすれば。
「心から思うわ。出来るなら狂う前の貴方と会いたかったと……」
 嘆きの主、その正体を知りその哀しみの故を識ったリーヴァルディの胸中に湧き上がる悲しみ。されどそれは神の嘆きに呑まれたがためのものではない。
 在りし日の神とならば、吸血鬼の暴虐から人々を守るために手を取り合えたかもしれない。それほどに慈愛溢れる彼の神が喪われてしまったことが無念でならないのだ。
「――だからせめて。せめて、この地は吸血鬼に虐げられている人々の為に使う」
 狂い堕ちた神の牙城を、今を生きる人々の為に。最期まで人を愛し抜いた神もきっと、正気であったならば斯く望むであろうから。
「……勝手な解釈かもしれないけれど、その方が今よりずっと貴方の望みに叶うと思うから」
 己を己たらしめる呪詛をより強く意識すれば、過去の残影に乗って鼻腔を満たす甘ったるい香りに感覚を乱されることもない。
 祈るように両手を組み、此れより二度目の死を齎さんとされる神へせめてもの慰みを捧げたリーヴァルディ。
 暗闇に慣れたその目が捉えたのは嘆き悲しむ人面樹たちだ。誰もが神の慈愛を知り、己の愚昧を悔い、悲嘆の表情で神を慰む果樹へと果てた。兵士がいる。農民がいる。あるいは町人が、役人がいる。
 誰もがかつて人であった。今は違う。神を守る忠実な僕たちは、闇の中でも健やかに神への供物を実らせ永劫の懺悔に服しているのだ。
「……貴方達も過去に繋がれているのね」
 その言葉に返事はない。代わりに神を慰撫する仲間を増やすのだと伸ばされる蔦が、リーヴァルディの四肢を絡め取らんと闇より迫る。
 暗闇からの奇襲だ。生半な侵入者であればいとも容易く捕縛され、然る後に嘆く果樹が一つ増えたことだろう。だがリーヴァルディは歴戦の吸血鬼狩り、闇夜での戦いなど慣れている。
 ――闇に潜むものが奇襲を図ることなど砦に踏み込む前より承知。わかっていれば回避は易く、そしてひらりと蔦を躱した彼女の祈る両手の間から黒炎の剣が噴出する。
 ダンピール。吸血鬼の血を引く者が、人のために神を討つ。
 それはかつての戦いを彷彿とさせるが、そこに込められた祈りの強さが違うのだ。薙ぎ払われた炎の剣が生木を一瞬にして焼き尽くす。
「……ごめんなさい、貴方達を救ける事はできない。せめて苦しまず点に召されるよう祈っているわ」
 炭化してボロボロと崩れ去る果樹は、しかし神の永劫の嘆きを終わらせてやれる者たちの到来を知って逝ったのだ。
 彼らを過去に縫い止めていた悔悟の楔は絶たれ、その死出の旅路はきっと安らかなものになっただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
裏切られた哀しみか。ぼくはそういう想いを感じたことはないなぁ。愛する人たちは来たい時に来て、離れたくなったら離れる。ただそれだけのこと。ぼくは皆を愛しているからね。
見放されたなら、自分はその程度の存在だったと諦めるだけさ。
だけど、今はぼくを思ってくれる沢山の仲間―恋人―がいる。生きて帰るのが絶対だ。つまんない誘惑に乗るほど馬鹿じゃない。

奏鳴楽団顕現! 彼らに戦意をかき立て誘惑を打ち消す「鼓舞」の「楽器演奏」を行わせ、ぼくや仲間の意思を誘惑から守らせる。
勇壮なマーチがいいな。

それじゃ、奇怪な人面樹はフォックスファイアで焼いていこうか。マーチに合わせてリズミカルにいこう。
空間転移しつつ炎を撒くよ。




「裏切られた哀しみか。ぼくはそういう想いを感じたことはないなぁ」
 次々と猟兵達がルートを確保していくに至り、奏鳴楽団もまた行進を開始する。
 先頭を行くのはセシルだ。暗く静かな森に勇壮な行進曲を響かせて、少年と楽団員たちはまるで騎士たちの凱旋のように堂々と砦へと足を踏み入れた。
 途端、嘆きに加えて心をかき乱すのは甘い香り。狂おしいほどの哀しみを慰める為の甘露の匂いは、嘆きに侵されこの砦に踏み込んだものの魂をいかにも容易に囚えることだろう。そうしてその出処たる人面の果樹に引き寄せられ、実を求め手を伸ばしたが最期、神への供物を己が嘆きを癒やすために掠め取ろうとする不信心者も神のための果樹の仲間へと引き込まれるのだ。
 それが真に神の望みであったかは置いても、良く出来た罠だとセシルは感心したように頷きながら、至上の果実を実らせた不気味な人面樹に目を遣った。
 けれどセシルはそれを欲しいと思わない。神の思念の残滓を垣間見てなお、少年は微塵も動じなかった。
 愛する人に見返りを求めない。来たい時に来て、離れたくなったら離れればいい。ただそれだけのことだ。
 見放され、愛した人たちに刃を向けられたとすれば、その時は自分がその程度の存在だったと諦めるだけ。それが齢十歳の少年とは思えぬほど達観したセシルの与える愛だ。
 なるほど神話でも語られるように神というものは嫉妬深いものなのだろう。それでも自らが滅ぼされるまで人に愛を押し付けなかったこの森の主は、随分と優しい慈愛に満ちた神だったに違いない。
 そんな神でも自らの愛を忘れられ、愛した者の末裔によって滅ぼされたという哀しみは想像に余りある。だが、それを受け入れられず永い永い時を死しても嘆き続ける時点で、その愛はセシルの愛情観において己の愛に劣るものだ。
 劣る愛がもたらす哀に、どうして心を塗りつぶされよう。であるならば哀を慰める果実に至上の魅力を感じる道理も在りはしないのだ。
「ぼくは皆を愛している。皆もぼくを想ってくれる。たくさんの仲間――ううん、恋人がいるんだ。皆のところに生きて帰る、この約束を忘れてつまんない誘惑に乗るほどぼくは馬鹿じゃない」
 セシルの心を知ってか知らずか、踏み入る少年へと果実の誘惑を放つ人面の果樹たち。
 誘惑に乗って一口齧れば、至高の甘露が喉を潤すことだろう。あるいはセシルが永遠に愛を紡げるような、愛の熱情を燃え上がらせたりいつまでも若々しく生きられるような、知ればあらゆる権力者が求めるような霊薬めいた効果すら齎すのかもしれない。
 そんな突飛な空想をすら呼び起こすような、激烈な果実への希求を奏鳴楽団の奏でる行進曲が打ち消さんとするが、しかして楽団を持ってしても至近距離で、なおかつ嗅覚という対応外の感覚に訴える呼び声を相殺はしきれない。
「それでもぼくは約束を守る。ぼくはぼくの愛を裏切るつもりはないんだ」
 音楽に合わせて歩調を軽やかに。リズミカルに狐火を飛ばし、果実を焼き落として延焼で木々を燃やしてゆく。
 燃える人面樹を篝火代わりに、楽団は暗い砦を明るく照らして奥へ奥へと突き進む。

成功 🔵​🔵​🔴​

エル・クーゴー
●SPD



有害植物の群生を確認
ルート確保の為、駆除を開始します


・嗅覚に干渉されぬよう、敵の布陣地より遠巻きにポジショニング

・【合体強化マネギ】発動、69体召喚
・マニピュレーターより展開する【メカニック+武器改造】にて、マネギ全機を機雷化させる

・まずは第一陣、マネギ一体をデブの食欲の赴くままに妖樹へ差し向けてみる
・引き寄せられるに任せて接近、なんなら本体開口部へそのまんま転がり込ませた所で起爆操作を発信
・電脳世界を展開、戦況を随時モニタリングし、マネギ一体分の爆発力で妖樹をどの程度毀損出来るか計測

・爆発一回で妖樹一本を仕留められる火力を出せるよう、第二陣以降は頭数を適切に合体させたマネギを送り出す


チトセ・シロガネ
フルーツ狩りダネ!任せてよ!

見ても魅了、嗅いでも魅了はちょっと厄介ダネ。
視覚は眼のセンサーを閉鎖させて、第六感のセンサーをフルに使うネ。
それでも匂いはどうにもならないカラ……
気合で限界突破をして無我の境地に至るしかないネ。

刃に己の魂を乗せUC【破邪光芒】を発動。
暗い世界、クリアマインドの中で悲しき気配を感じ取り早業でスラッシュ!
悪いけど、ユーの一部にはなる気はないヨ……。




「有害植物の群生を確認」
「>ルート確保のため、駆除を開始します」
 チトセが貫いた城壁の穴、その縁に立つエルは眼下に蠢く人面の果樹園を走査し、直ちにそれらを有害植物と断定する。
 オブリビオンである――猟兵であれば誰だって理解できるその存在定義に加えて、人形であるエルをして抗いがたい欲求を呼び起こすその果実。これほどの魔性、人にとって益であろうはずもなし。
「フルーツ狩りダネ! 任せてヨ!!」
 エルの迅速な脅威査定を受けて胸を叩くチトセ。彼女の言う狩りは文字通りのハンティングとなるだろう。なにしろ迂闊に果実に手を伸ばせば、どんな災厄が降り注ぐか分かったものではない。得てして魔性の実というものはそれを掴み取ろうとする者に試練を課すのだから。
「この甘いニオイに見てるダケで涎がでちゃウ美味しそうな見た目……ちょっと厄介ダネ……」
 それを分かっていても、狩るべき幹より触れざるべき実に意識が向いてしまう。斯くなる上は視覚センサを閉鎖し、嗅覚は無我の境地にて強引に封殺し挑むしかないか。チトセが四肢に光刃を纏わせ、かろうじて意識に干渉するには至らないこの距離のうちに精神を研ぎ澄ませるべく目を閉じようとしたそのときだ。
「肯定します」
「>故に突入前の偵察を推奨。マネギを投入します」
 そぉい、と。
 寡黙な人形少女が、デブ猫を一匹果樹園へと投げ落とした。
 マスターユニットの暴挙に小さな羽を必死でパタパタして抵抗していたマネギだが、甘い香りに包まれるやだらしなく涎など垂らしながらむしろ急降下で果実に向かってゆく。
 猫にありながらデブの二つ名を取るほどのまんまるボディ。これを手に入れるには並大抵の食欲では及ぶまい。そんな群を抜いて食欲の強い飢えたデブ猫が、堅固な理性すら犯す果実の誘惑に二秒と耐えられるものか。
 爆速で果物堕ちしたマネギはその巨体に似合わぬ俊敏な機動で急降下、蔦の迎撃を巧みに回避して果実をはしりと咥えもぎ取った。
「おおー、やるじゃなイ」
 チトセの称賛もそこそこに、そのまま果実の下で大口を開ける臓腑めいた袋に突っ込んでった。
「…………ンンー??」
 駄目じゃん。チトセの頭上に浮かぶ疑問符。だがエルはそれでいいとばかりにホロスクリーン上に表示された、黒と黄色の縞模様で囲われた赤いボタンを無感情に押し込んだ。
 ――人面樹の袋が爆ぜる。内部からの爆発に袋は四散し、根本を大きく抉られた果樹は燻りながらめきめきとへし折れた。
 哀しみを浮かべた人面もこのときばかりは「は?」みたいな顔をしていたように見える。見えるだけだと思う。
「マネギ一体の爆発力で中型までの妖樹を破壊可能と判断しました」
「>戦域内の大型妖樹数を再計算。マネギの合体を開始します」
 割と忘れられがちだが、マネギは猫ではなく猫型ドローンである。故に内部に爆雷を仕込むことなど容易い芸当であるし、僚機と合体することでその破壊力を向上させることも可能だ。
 そうして追加で召喚され殲滅力を底上げした数十体のマネギ達。彼らは先行した哀れな同胞が辿った末路を知らぬまま、眼下の美味そうな果実に突撃し――可哀想な鳴き声とともに果樹園の至るところで爆発していった。
「エエ……?」
 チトセの困惑。精神集中どころではないが、マネギによる集団爆発によって甘い香りは火薬と硝煙の匂いが上書きされつつある。これはこれで魅了効果が減退したので結果的によし。
「と、とにかくボクもいくヨ! できるだけ無我で――」
 城壁から飛び降り、燃える庭園で未だに活動を続ける果樹に刃を振るう白き閃光。
 視界を閉じていても、思考を封殺していても、澄み渡る精神の中で果樹に取り込まれた人々が上げる声なき悲嘆の叫びはチトセの胸に届いている。
 神への贖罪。慰撫。後悔、哀しみ、それらの気配を光の刃で叩き斬る。それが彼らの救いに通じると信じて。
「悪いけど、ユーたちの一部になる気はないヨ……」
 それでも彼女は、全ての果樹を斬り倒し吹き飛ばした時言いようのないやるせなさを感じずにはいられなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
【PPP】
そんなものよりお肉をよこしなさいよお肉!
なんか香ってくる臭いとかやばそうな感じがするわね!
というわけで私は今回鼻声よ!
なんか見た感じやばい感じがするわね!
というわけで私は今回目も閉じるわ!

・・・何も見えないし臭いもよく分からないじゃない!どうすんのよこれ!
(杖をぶんぶんし壁とか探して方向確認しつつ)
でも私には耳がついているわ!そう!フィーナイヤーが!!
なんか怪しい音が聞こえたらそこに向かって【属性攻撃】による火球を放つわよ!
なんとなく仲間の助けとかあったり場所が確定できるようなことがあったら
そこに向かってUCで一気に焼き払うとするわ!

(アレンジ、アドリブ大歓迎!)


葛葉・アリス
【PPP】
私もこれで一応は神だからね
忘れられた神には同情するけど…忘れられるのも神の在り方
神なんて不要なら立ち去るものよ

…なんておセンチ、今の私には合わないわね

フッと笑い飛ばして
私はジャバウォックで駆けていくわ
神であるより前に、今の私はこの子たちの仲間
ジャバウォックに運動音痴の誰かさんを同乗させつつ
爪や嘴での砲撃で植物を撃っていく
好きな果物は苺だけど…間に合ってるから

どうせ皆は好きに動くでしょうけど
【戦場俯瞰遊戯】で盤面を整理して、適宜指示してあげるわ
こちらの駒も多いから、指揮のし甲斐もあるわね
ま、どこまで従うかは彼女たち次第だけど
従っても従わなくてもどちらでもいい、今の私はそれが楽しいのよ


アリシア・マクリントック
【PPP】
見るだけでも魅了するとはどれほどのものか気にはなりますが……好奇心のために危険を犯すことはありませんね。見なければいいのであれば……変身!ティターニアアーマー!

モニターを切ってレーダーで位置を把握すれば敵の術も効かないでしょう。気密もしっかりしていますし、これでバッチリです!遅れてきたぶんきっちり仕事をしませんとね!
実を作るのにはエネルギーがいるでしょうからそこを狙っていきたいところですが……生憎とティターニアアーマーのレーダーでは細かい形状や敵の狙いまでは把握できません。アリスさんの指示を頼りにしつつ、適当に潰してしまいましょう!


アイ・リスパー
【PPP】
「神を守る植物ですか……
どうやら、ここを突破しないと神とやらの元には行けないようですね!
ならば、無理にでも押し通るまでっ!」

【チューリングの神託機械】で情報処理能力を向上。
【バタフライ効果】で空気の壁を作り香りが漂ってこないようにシャットアウト。
【アインシュタイン・レンズ】による重力レンズで収束した光で植物を攻撃です。

「実を見ると魅了されるというならば、何も見なければいいだけです」

目をつぶったまま、周囲の状況は【ラプラスの悪魔】によるシミュレーションで状況把握すれば問題ありません。

「シミュレーション結果によれば、三歩先に岩が転がっていて
私はそれにつまづいて転びます!
……って、ええっ」


イデアール・モラクス
【PPP】
フン、まるで高位の呪いだ…視覚を惑わせ香りにすら毒があるとは。

・対処
「だが私には…いや、我々には無意味だったなぁ?」
目を閉じ、口のみで呼吸する事で敵に対応しながらUC【七星覇天煌】を『全力魔法』と『属性攻撃』で威力を増した上で『高速詠唱』を用い一瞬で行使、膨大な魔力光線の『一斉発射・制圧射撃』による『範囲攻撃』で前方全てを跡形も無く『なぎ払い』『蹂躙』する。
「目標、前方…殲滅執行!」
狙う必要もない、ただ私の前方を全て滅してから進めばよい。
私とフィーナを敵にしては、このような搦め手は無駄の一言。
「我々を止めるにはパワーが足りんな、紅き2つの悪魔を相手にするには!」

※アドリブ大歓迎




 苔むした暗い石の地下通路。地面に染み込んだ夜露がひたりひたりと滴り落ち、長い年月を掛けて穿った石畳の穴を踏み越えて、五人と一頭あるいは一羽がゆく。
 狭い通路を反響する嘆きは、その主が抱く哀しみを猟兵たちに幻視させる。それで止まる彼女らではないが、さりとてその想いを無視できぬ者とて居るのだ。
 たとえばアイを後ろに載せ、ジャバウォックに跨るアリス。
 彼女もまた神であるがゆえに、神として人を愛した嘆きの主の想いは理解できる。同情もする。人とは身勝手なもので、その裏切りによって滅びながらも世界を恨み祟ることなく人里離れた森の奥で嘆き続けるだけの神のなんと慈悲深きことか。
 されどもアリスはその嘆きを是としない。なぜならば。
「忘れられるのも神の在り方。人が神を不要とするなら立ち去るものよ」
 人が神域を犯してまで領主の掲げた文明の恵みを選んだのであれば、眷属を連れ別の土地へと移るべきだったのだ。抵抗しようとした眷属を止められなかった時点で、人に決別を言い渡された神は自らも人と決別するべきだった。
 とはいえ例えばその時その場に居た神が己であって、ジャバウォックの揺れに耐えるように自分より小さなアリスの背中にしがみつく少女が人間たちの先陣を切っていたならば。その時自分はどうしただろうか。果たして胸中に想う神の在り方を貫けるだろうか。
「――なんておセンチ、今の私には合わないわね」
 考えたって仕方のない空想を鼻で笑って払い除け、アリスはジャバウォックの手綱を握りしめる。
「……? アリスさん?」
 肩越しの声になんでもないと返して、ジャバウォックは地下を駆ける。
 狭い上に暗い通路では、安全のために徒歩とさして変わらぬ速度ではあるのだが。

 そうして駆け抜けた地下通路の終端。やはり使われることはなかったのだろう、固く閉ざされた石の扉を跳ね上げ砦の内部に雪崩込んだ一行が見たのは、領主軍の士官が使っていたのだろう豪奢な寝室の成れの果て。
 ビロードの絨毯には砂や埃が積もり重なり、シルクのベッドは腐り落ちている。
 部屋の隅に立てかけられた騎士の剣はもはや錆付き鞘から抜けることはあるまい。
 だが、それらより目を引くものがある。部屋の中央、乾いたボトルと割れたグラスが並ぶテーブルに寄り添うように椅子を巻き込み根を張る果樹。
 その幹には豪奢な衣服の残滓が絡まり、襟口の先には哀しみの表情を浮かべた壮年の男の顔が浮かんでいる。
 そしてその頭上に輝く血のように真っ赤な果実。それが放つ芳香と甘露を予想させる艷やかな見目は、猟兵達の心をすら惑わすほど。
「なによアレ! この匂いとかなんかヤバそうな感じするわね! 皆嗅いじゃ駄目よ!」
 唐突に都合よく鼻詰まりを起こしたフィーナが振り向き叫べば、後続の仲間たちも急ぎ袖やハンカチで口元を塞ぐ。
 これでよし。いかにも妖しげな果樹に向き直ったフィーナだが、その視線が果実に向いた瞬間抗いがたい渇きに襲われ今すぐにでも果実をもぎ取り齧りつきたい衝動が湧き上がった。
「見てもヤバいわね!! 目も閉じるわ!!」
 視認するのもまずい。即断で目を閉じるフィーナだが、運悪く朽ちた絨毯に足を引っ掛け尻餅をついてしまう。怪我こそ無いものの、目を閉じ嗅覚も鈍った今、妖しげな果樹がどこに居るのかわからなくなってしまった。
「……どうすんのよこれ!」
 杖をブンブン振り回して憤慨するフィーナ。このまま魔法を乱射するつもりかと地下通路出口まで退避する仲間たち。
「あれ? ちょっと皆? 皆居るのよね!? まさか私を置いてったりしてないわよね!?」
「ハッハッハ、当然だろうフィーナ! 我らがお前を置いてなど行くものか!」
 遠巻きに応えるイデアールだが、やっぱその声は遠い。絶対置いていったってこれはさすがのフィーナにもわかる。
「……薄情者! でもいいわ、私にはまだ耳が付いているもの! そう、このフィーナイヤーが!」
 ――耳を澄ませば聞こえる。確かに聞こえるではないか。神の嘆きが。
「違う!! そっちじゃないのよ!!!!」
 もうヤケクソで漆黒の火球を浮かべるフィーナ。そこへ救いの神は舞い降りる。
「まったくやれやれね。好きに動いてもいいけど私たちを巻き込まないように遣って頂戴」
 地下通路から顔を覗かせたジャバウォック。その背中で、室内の俯瞰MAPを作成したアリスが肩を竦めてフィーナへと呼びかけた。
「いい? しっかり聞きなさい。右に少し、行き過ぎよちょっと戻して。戻りすぎ。そう、そこよ。その角度で杖を気持ちもう少し下に――今よ、やりなさい」
 まるでストラテジーゲームの駒に指示を下すように、直接果樹を視認すること無くフィーナに敵の座標を誘導して攻撃を放たせる。
 射出された炎は寸分たがわず果樹を焼き尽くし、立ち込める甘ったるい香りはかき消えた。
 一安心――地下通路から這い出してきた一行がフィーナの肩を叩き、目を開けていいと促す。ほら、置いていってなど居ないだろう。ずっと側に居たとも。
 そんな空気を醸すアリスとイデアールに、真実を黙して苦笑するアリシアとアイ。
「疑わしいけどまあいいわ。これであの訳のわかんない木のバケモノは始末出来たのよね?」
 フィーナの問いに否を応えるのはアイだ。
「その、さっきの一瞬で得られた情報をもとに演算したのですが……たぶんさっきのオブリビオン、この部屋の外にまだたくさんいます」
 あれが旧領主軍の成れの果てであったならば。グリモア猟兵の曰く、この砦には兵士だけでなく森を開墾するための農民もいたはずだ。狂った騎士がいくらか切り捨てたとしても、一人の逃げ延びたものがなかったという情報を勘案すれば騎士の手に掛からなかった者たちがあの果樹になっていないという道理はない。
「困りましたね……」
 アリシアが腕を組み、顎に手を宛て考え込む。
「見るだけでも魅了するだけの魔性、どれほどのものか気にはなりますが……好奇心が身を滅ぼすとも言います。見ずに倒すのが望ましいのでしょうが……」
「目を瞑ったまま戦うにしても、数が多ければ苦戦は避けられませんね。特にあれがオブリビオンなら、自発的に攻撃してくる可能性もありますし」
 アイの言葉に頷いて、アリシアはどうしたものかと思案する。
「何を難しく考える必要がある。視覚から惑わし、香りにすら心を誘う毒がある。なるほど高位の呪いのようなものだがこの程度の呪いならばいくらでも対処できるとも」
 クククと喉を鳴らすイデアール。
「なんか今日、普段に増してイデアールが頼もしく見えるわ……」
「そのまま惚れても構わんぞ? 私はお前だって愛してやる用意はある。それで作戦だがな――口呼吸して目を閉じれば問題なかろう!!」
「……気の所為だったみたいですねフィーナさん」
 しかしそれ以外に有効な策が思いつかないのも事実。仕方無しに一同は念の為この部屋の埃っぽい空気を胸いっぱいに吸い込んでから、蝶番の錆びついたドアをゆっくりと押し開けた。
 その瞬間感じる気配は数人というレベルではない。数十人からなる気配が一斉に一行を捉え、然る後に口呼吸でも感じるほどの甘ったるい蜜の香りが流れ出す。
「だが私には、我々には無意味ッ!!」
「そのとーりっ! 私たちを止めたければ果物より肉を用意しなさい肉を!!」
「貴方達が神を守るというなら、無理にでも押し通るまでっ!!」
 三者三様に啖呵を切って、フィーナの黒炎が床を這って果樹の根を焦がす。
 先手は取った。ならば次だ。
「アリスさん、座標の指定をお願いします!」
「任せておきなさい」
 アイが歪めた重力が、空中に非実体のレンズを生み出した。それ単体では何の意味もないレンズだが、アイの演算はそれこそ最適解だと判断している。
「目標、前方! 殲滅執行!! クク……アハハ、アーッハッハッハ!! 我々を止めるにはその程度の誘惑では足りなかったなぁ!!」
 なぜならイデアールの魔導レーザーの光がレンズを通過し、拡散して果樹を根こそぎ焼き払うことを予見していたからだ。
 ここまでされてようやく果樹たちも反撃を開始する。
 本来であればこれだけの数でけしかけた芳香が正常な判断を奪い、果実に目を奪われた獲物は無抵抗に自ら供物へと身を捧げるはずだったのだ。それを予想していた果樹は、先制攻撃など思ってもみない。故に遅れた反撃、生き残りが伸ばす蔦の鞭。
「させません! 変身! ティターニアアーマー!!」
 仲間たちへ伸びる反撃と、それを遮るように顕現した鉄巨人。アリシアのティターニアアーマーが仲間を庇って蔦の鞭に巻き取られる。
 触れたところから侵食同化する蔦は、しかししっかりと気密処理された巨人装甲の内部にまでは入れない。
 ぶちぶちと蔦を引きちぎり、巨人の心臓で目を閉じるアリシアは仲間たちの声に耳を傾けその鋼鉄の拳を振り下ろす。
「細かい狙いは付けられませんが……今回はアリスさんの指示に頼れます!」
 鉄腕が果樹をなぎ倒し、折れた幹を魔法の炎が焼き払う。
 しばらくの後、広々とした廊下と焦げた匂いが改めて侵入者一同を迎えるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

菫宮・理緒
【恋華荘】

狂った神ではなく、嘆きの神だったかー。

とはいえ、裏切られて、嘆いて、望まぬものを生み出すとか、
神の深い愛にも限界はあるってことなのかな?

領主のやり方やそれまでの信仰とか忘れちゃう人間にも問題はあるけれど、
望まない未来を作り出してしまった神様にも、問題がないわけではないよね。

ほんとうに狂ってしまったなら、消すしかない。
でもまだ、望む未来へと頑張れるだけの力があるなら、
わたしはそれを手伝おう。

わたしも、望まない未来を変えようと外に出てきたんだから、ね

といって、いちごさんやみんなをこっそり見ます。
誘惑には【狂気耐性】と【呪詛耐性】で対抗。
果樹は【Nimrud lens】で焼いていきたいな。


彩波・いちご
【恋華荘】
神はやがて忘れられ、新たな人の時代が生まれるもの、ですかね?
私の中にも神はいるので(邪神ですが)同情もしますが
その悲しみが今の世を壊すなら、それには全力で抵抗しますっ

果物の匂いの誘惑には狂気耐性で耐え…
というか美味しい匂いなら、私の手料理で生活している寮の皆さんが負けるはずありませんよね!
という料理人の自負でも耐えきってみせましょう!

そんなにその果物を食べさせたいなら、たっぷりくらってあげますとも
異界から呼び出した私の眷属のスライムがね!
【異界の浸食】で召喚
実も袋も全て食らいつくしてあげますっ!

色々耐えてるみんなにはそれぞれに目配せ
私の存在で皆が耐える力になるなら、精いっぱい支えます


織笠・アシュリン
【恋華荘】

同情はしないよ
神殺しは人の常、忘れられた神の領域は人に拓かれるものだからね
それが嫌なら、関わり続けるべきだったんだよ……
よし、割り切った!
堕ちたる神が人に仇なすなら、神に叛逆仕る、だよ!

狭いけど【月光翔ける魔女の装】で天井付近を飛び回る!
【騎乗】技術の限りをもって乗ったライフルを操縦、できるだけ実を見ないよう「攻撃の一瞬だけ木が目に映る」ように旋回を繰り返すよ
【狂気耐性】は気休めかな
両手持ちのAU50とシルバーバレットで幹を【鎧砕き】し、その間に使い魔のスーに弱点らしい場所を【情報収集】してもらう
「スー、ナイスっ!これで、どうだっ!」
騎乗した【スナイパー】ライフルの一撃を決める!


御影・雪乃
【恋華荘】の四人で
●ぼやーっと心情
居場所は、限られていますから
人も増えれば新たな場所や相手を求め、時には奪ったりもするのでしょう
それでも居続けたいのなら、求められることが必要なのでしょう

私は、居なくなった子の代わりとして求められ造られたから
…もしオリジナルが帰ってきたら、私もまた、なぜ居場所を奪ったのかと問い詰められるのでしょう

●果樹への対抗
ミレナリオ・リフレクションで対抗
手持ちの『携帯ハーブ&調味料セット』の中から、ブレンドしたハーブを無水エタノールに漬け込んで作った、匂いの強い誘惑効果もある液体を時々撒くことで、同じようなユーベルコードとして香りに対抗しましょう
攻撃は『冷気』で




 城壁の上に最後の一人――雪乃を引き上げた恋華荘の面々もまた、神の記憶の残り香を視た。
 それは後世の傍観者たちに言わせれば愛情深い神への感謝を忘れ、自らの利益のために領主とともに攻め入った人々の自業自得だろう。この森を魔境と化したものの正体は人の欲深さが招いた至極当然の結果だったのだ、と。
 だがだからといって幾年月を経て嘆き続け、森を不踏の聖域たらしめる神を捨て置く訳にもいかない。
「神はやがて忘れられ、新たな人の時代が生まれるもの、ですかね?」
 いちごの言う通り、幾多の世界で神の時代はすでに終わりを迎え、人の時代が迎えられてきた。頼られ縋られる神からいつか人は自立し、自らの足で歩んでいくもの。その決別が悲劇であったとしても、その哀しみが世界を蝕むのであれば人の世を守るものとして抗うのが猟兵だ。
 その身に神を宿すものとして、あるいは“求められ、在ることを望まれた”者として、いちごと雪乃は神に同情と共感を覚える。
 神としての在り方を貫いたが故に人に滅ぼされた存在を、哀れと想ってやることくらい構わないだろう。
「……居場所は、限られていますから」
 雪乃はぽつりと呟く。人が繁栄するならば、新たな土地を欲するだろう。自らに無いものを持つ相手とのつながりを求め、あるいは時として他者から奪うことを良しとする。それが人という種族だ。
 そんな種族と共に在り続けたかったのならば、神は自らが求められるよう務めるべきであった。
「雪乃さん?」
 ――私は、居なくなった子の代わりとして求められ、造られたから。
 己の在り方はきっと、在りし日の神と同じ。ならばいつか、例えば“本物”が還ってきた時、彼女に何故居場所を奪ったのかと責められることがあるのかもしれない。その時自分はどういう反応をするのだろう。そんな思考から引っ張り上げてくれた理緒の呼びかけに、なんでもないと首を振ってぼんやりとした仮定を脳内から追い払う。
「大丈夫です。それよりも――」
 城壁に絡みつくように生える木々。その幹が不気味にうねり壁上を塞ぐように一行の前に立ち塞がる。
 よくよく見ればどこか人の面影の在るそれらが纏うのは見た目のおぞましさにそぐわぬ甘い香り。
 嗅いでいるだけで正気を奪われそうな濃密な果実の匂いに危険を察知し、真っ先に動いたのはアシュリンであった。
 長銃に跨り分厚い天蓋に覆われた夜天に舞い上がった魔女。木々に親しいケルトの教えは、アシュリンにこの魔樹への強い、しかして適切な警戒心を持たせることに成功していた。
 あれは嗅いではならない魔性の媚香。ともすれば視野に収めるだけでもその魔力に惹き込まれるだろう。
「みんな、この匂いを吸い込んじゃ駄目だよ!! なるべくならあの木も見ないで!!」
 眼下で応戦の準備を始めたはずの仲間たちへ視線を下ろしたい。
 けれども、それで木を――その枝の先で猟兵たちを誘う果実を見てしまえば、如何に魔女たる我が身でも囚われぬという自信はない。
 故にまっすぐ前だけを見て、使い魔の黒猫スーに魔力の核、あの木を魔物たらしめる要素を探るよう念じて背面飛行。手放しで狙撃銃を引き抜き構え、そのまま長銃の銃口を引き下げ高度を急激に落としながらくるりと反転、城壁スレスレを滑空しながらトリガーを引き絞る。
 放たれた砲弾が樹木の枝を打ち砕き、果実をひとつ叩き落とす。
「神殺しは人の常、忘れられた神の領域は人に拓かれるものだからね。君たちはきっと至極当たり前の事をしたんだよ」
 夜の森を舞う魔女は、苦悶にのたうち蔦を振り乱す妖樹の脇を抜けて再び上昇する。
 ――だから同情はしない。神はそれを嘆くのならば、忘れられぬよう人と関わり続けるべきだったのだ。それが例え、神の在り方を自ら壊す行いだったとしても。
「美味しそうな匂いですね。うん、とっても甘い匂いです」
 アシュリンが警告する直前、いちごは漂う甘い香りを僅かに吸い込んでしまった。
 肺を満たす甘い匂い。瑞々しく糖度の高そうな、今すぐにでも駆け出して身をもぎ取り、仲間たちの視線もお構いなしに齧りつきたいような衝動を誘うそれを、いちごは意志だけでねじ伏せた。
 彼は料理人だ。料理人が調理もされていない生の素材に心奪われるなどあってはならない。ああ、しかしあの果実を使ってお菓子など作ったらどんなに美味しいだろう。――否!
「確かに美味しい匂いですが、私の手料理の方がもっと美味しいはずです! そして毎日それを召し上がってくれる寮の皆さんがこの匂いなんかに負けるはずがありません!」
「――そのとおりです」
 いちごの鼓舞で正気を保つ――彼女に至っては正気でない姿が今ひとつ想像出来ない――雪乃が、いくらかのハーブを漬けたアルコールを辺りに撒けば、揮発したそれに乗って甘ったるい匂いを爽やかで清涼感のある香りが押し流す。
「一瞬で正気を刈り取るくらいでもなければ、私たちは引き込めませんよ。ね、理緒さん」
 雪乃の呼びかけに、振り返るいちごの視線に、こくりと頷く理緒。
 果実の魅了が失敗したと理解したのか、人面樹は蔦を振るって物理的な手段で一行を排除しようとする。
 それを阻むように上空から降り注ぐ銃弾の雨。
「させないよ! スー、引き続き観測手お願いね!」
 肩に乗った黒猫の視野を頼りに、ノールックで短機関銃の弾丸をばら撒くアシュリンが頭上を抜けてゆく。
「そんなにもその実を食べさせたいなら、私の眷属がたっぷり喰らってあげますとも!」
 その弾雨を浴びて大部分が引きちぎられながらも、運良くそれをすり抜け迫る蔦はいちごの呼び出した異形の粘体が壁となって受け止めた。
 半透明のぶよぶよとした粘液の塊がまたたく間に蔦を溶解し、まけじと蔦も粘体を侵食しそれを苗床に自身の複製を萌芽させてゆく。
 一進一退、喰らいあう妖樹と粘液の戦いの中、しんと夜の森の冷たい空気が一層冷え込んだ。
 雪乃の放つ冷気だ。冷えて重くなった空気は森を舞う雑多な微粒子を下へ下へと誘い込み、城壁の上、高所の空気は澄み渡ってゆく。
「領主のやり方に乗って信仰を忘れたあなた達にも問題はあるけれど、望まない未来を作り出してしまった神様もまるきり被害者ってわけではないよね」
 どこかで何かが狂ってしまった。誰もが被害者で、しかしただ被害者であるだけではない。
 裏切られて、嘆いて、その末に愛した者を己の永遠の悲嘆に引きずり込んでしまった神。それが本当に狂ってしまったならば、妖樹に堕ちた民に代わって引導を渡してやるのが自分たちの役目。
 けれどもし、神にもう一度人間たちのために、未来のために頑張るだけの力が在るならば――
「屈折率、固定……収斂」
 澄んだ空気を通って降り注ぐ微かな月光が、理緒の創り出したレンズを通って収束し、熱線と化して囚われの妖樹を焼き払う。
「安心して眠って。わたし達が望まない未来を変えるのを手伝うから」
 冷たく澄んだ夜の砦の城壁で、紅々と燃える人面の果樹。その生木が弾けるぱちぱちという音の中で、理緒の言葉はよく響いた。
 きっと彼らも、その言葉を信じ託して逝っただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

藤堂・遼子
アドリブ、絡み歓迎

あぁ、こういう手合いの神なのね
まぁ同情してあげてもいいわよ。ただ同情するだけでやることは変わらないわ
お前はもう終わった過去なのよ。すべては巡りゆく、命も、信仰も、神さえも……
それを認めず、自ら嘆きの呪いに囚われ、その呪いを巻き散らすのみなら、お前はもう神ですらないわ

迫る蔦を2丁拳銃のデモンハンターとデビルベインに迎撃して、接近されたら大鎌の狂気を刈るモノに持ち替えて農作業での草木の如く薙ぎ払って刈り取ってやるわ
仮に蔦に捕まっても瞬時にコートや服を脱いで抜け出してやるわ。最悪義肢の一つぐらいはパージしてもいいわよ!
隙を見て射線が開けたら【邪神たる獣の螺旋牙弾】をぶっ放すわ!




「あぁ、こういう手合いの神なのね」
 過去の幻視から現世に引き戻され、遼子はさほど興味もなさげにそう声を掛ける。
 眼前には蠢く人面樹。二丁拳銃で幹を削り取られ、あるいは城壁もろとも肉の何かに変貌させられすでに沈黙した有象無象とは異なり豪奢な鎧の板金を枝に引っ掛けたそれは、一回り大きな体躯からも他より強い個体だと予想できる。
 おそらくは騎士階級だったのだろう。生前がヴァンパイアだったのか人間だったのかはもう伺い知れないが、戦闘の為に鍛え上げられた肉体を苗床に育った木は振り回す蔦の鋭さも一線を画している。
「お前達みたいに同情してあげてもいいわよ」
 迫る蔦を両の拳銃で迎え撃つ。先にリボルバーが弾を吐き出しきり、続いて自動拳銃がカチリと金属音を叩き出して沈黙する。
 すでに両の手指で足りぬ数の妖樹を撃ち倒した後だ。弾が尽きるのも道理だが、あいにくどちらもすぐに弾込めできる構造をしていない。そして敵もそれを許すほどには優しくない。
 撃ち抜かれてズタズタになった蔦が地に落ちると同時に、新たな蔦が人面樹の根本から遼子に迫る。
 先込め銃と違って連射の利く未知の銃だが、弾数は無限ではない。騎士たる妖樹はそれを理解し、その隙を正確に狙ってくるだけの判断力を持っている。
「ただ私は同情するだけ。やることは変わらないわ」
 弾を込める時間がないなら銃での迎撃に見切りをつける。迅速に判断を下した遼子が拳銃をホルスターに収め、触れられるすんでのところで大鎌を振り払い蔦の鞭を斬り落とす。
 ――切断された蔦が突進の勢いのまま吹き飛ばされ、遼子の頬をかすめてゆく。
 あれに触れられればまずい。物理的な破壊力はもとより、あれに宿る魔力――呪いは遼子であっても跳ね除けることは出来ないだろう。
 触れられればどうなるのか。きっと草花の苗床にされるなり、あれを通じて自身の身体に挿し木されるなりだろうと当たりを付けて――事実正解である――遼子は触れられぬよう細心の注意を払いながら重厚にして巨大なる大鎌で薙ぎ払い進む。
 遼子が一歩踏み込むたびに銀色が閃き、そして切り落とされた蔦がぼとりぼとりと地面に落ちて枯れ果てる。
「お前達の神はもう終わったの。過去なのよ」
 サイボーグの膂力をして軽やかに振るわれる大鎌だが、重くないからと言って取り回しまで易くなるわけではない。それをかつて職業軍人たる騎士であった記憶が識っていたのか、あるいは本能が引き起こした偶然か。大鎌の刃が振り切れたその瞬間に雌伏の一撃が刃を絡め、遼子の手から弾き落とす。
「っ……命も信仰も、神でさえも全ては巡りゆくものよ! それを認めないのなら!」
 認めるものか。まだ贖罪はおわっていない。まだ神は嘆いておられる。何より神の御許には――断固たる意志で行かせぬと立ち塞がる妖樹が蔦をさらに振るい、武器を失った遼子の片腕に巻き付いた。
 侵食する呪詛が急速に腕を樹木に置き換えてゆく。抗えない。じき脳も樹液の塊に成り果て、果樹の仲間入りをすることだろう。
 してたまるものか。腕を――義肢を切り離し、コートもろともに片腕を置き去りにして、大鎌をすら捨て置いて距離を詰めた遼子がリボルバーをすらりと抜いた。
「自らの嘆きに囚われて、その呪いを撒き散らすものはもう神なんかじゃない」
 永遠の贖罪に従属する妖樹。その芯材と成り果てた騎士の顎先に銃口を押し当て遼子は獰猛な狩猟者の表情を浮かべる。
 残弾はゼロ――否、こんな時のためのとっておきがその弾倉には残されている。
 異界の邪神を穿つための強装弾。一発で発射装置を崩壊させる文字通り最後の切り札。
 本来なら神に叩き込む為のものだが、手段を選んでいる場合ではない。
「外宇宙の深淵より来たれ邪なる大神……我が弾丸に宿り、我が敵を討つ牙となれ!」
 重厚な破裂音が砦の壁に反響し、後には穿たれ折れた無数の果樹と人面の頭部を失った一際立派な木だけが残された。

「――呪いは過去に還しましょう。邪な神でなかったのなら、それがきっと手向けになるから」

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『異端の騎士』

POW   :    ブラッドサッカー
【自らが他者に流させた血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮喰血態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    ブラックキャバリア
自身の身長の2倍の【漆黒の軍馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    フォーリングローゼス
自身の装備武器を無数の【血の色をした薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 砦の至るところに根を張る妖樹を破壊し、神の哀しみに囚われたかつての領民たちを解放してゆく猟兵達。
 彼らが最後にたどり着いたのは砦の中心部に位置する中庭だった。
 ぎぃ、と錆びついた音を立てて扉が開いてゆく。妖樹が残した甘い残り香に石とカビの混じった砦の内側の暖かな空気が、良く冷えた外の清涼な風に押し流されてゆく。
 中庭へと足を踏み入れた猟兵達の目を惹いたのは、奥に生えた巨大な樹だ。
 砦を越える背丈に、本館の屋根全体を覆うほど広げられた枝葉。外からも見えては居たが、屋根の上に根を張ったわけではなくこの中庭の地面から伸びたものだったらしい。淡く青白い光を放つ樹肌は神々しさを覚えるほどで、それが今まで倒してきた妖しげな果樹とは異なる性質のものだと想像させる。
 ――神の骸。誰からともなく、何故という理由もなくそんな印象を抱かせる巨木の幹の中ほど、地面から二、三メートルほどの高さに精巧な女の像が埋め込まれ、あるいは樹の内部からその上半身を覗かせている。
 髪の毛の一本一本に至るまで丁寧に、魂を宿すかのように造形された木像。触れればさらりと流れそうな長い髪が巨木の光を浴びてきらきらと輝き、豪奢ながらも勇ましい軍装は細かな細工に至るまで余さず彫り込まれている。
 その胸元を押し上げる豊かな膨らみの中心を貫く巨大な両手剣。それだけは別のパーツであるかのように金属の色彩を放っているというのに、まるで最初からそれありきで作られたかの如く自然に像と馴染んでいるそれに猟兵達はようやく気づき、そして剣に目が向いてやっと、こちらに背を向け樹の前に跪き像に祈りを捧げる黒鎧の騎士の存在を認めた。
『――何故』
 此処に至るまで幾度も聞いた嘆き。
『――何故ですか』
 騎士はゆっくりと立ち上がり、女の胸に突き立った剣に手をかける。
『――私は、ただ』
 ずるり。ゆっくりと剣が抜かれ、真っ白な女の胸元を流れ出る真っ赤な樹液が染めてゆく。刀身にもまとわりつく樹液を、騎士は愛おしげに指先で撫で、それから猟兵たちに振り返った。
『――皆と共に』『――貴女と共に』
『在りたかっただけなのに』『生きたかっただけなのに』
 騎士の兜、その目元からも紅い樹液が流れ出る。
 両手剣を片手で振るい、夜風を切り裂き剣を構える身の丈二メートルを越す巨体の黒き騎士。彼こそが神の狂気を宿したオブリビオンで相違無いだろう。
 この地を呪いで縫い止める最後の楔を打ち倒すべく、猟兵達は各々の武器を構える。
セシル・バーナード
ご機嫌よう、主無しの騎士様。ちょっと引導を渡しに来たよ。
て言っても、自我が残ってるかどうか怪しいけどね。
どっちにしろ、全ては終わった後なんだ。終わった物語に更なる終わりを付けよう。

軍馬に乗って騎士が突撃してきたら、空間転移でその死角へ瞬間移動。そのまま「全力魔法」の「暗殺」で致命傷を狙う。鎧に隙が無いのなら、それなら鎧ごと手刀で貫くよ。

初撃を凌がれたら、空間断裂を放ちながら仲間を援護する。騎士の攻撃を次元障壁で妨害したりね。
敵の動きが止まったところで空間裁断。一息に細切れにして終わり。

もう異端の神が現世にいる時代じゃない。吸血鬼が現れた時に世界を守れなかった無力な神が見捨てられるのは当たり前。


ヴォルクルス・ブラックエッジ
「…行くぞ、相棒」<左手をかざす
『あいよ!夢へ向かっての一歩ってヤツか!』<槍変化
その後、黒剣と竜槍を手に突撃。

-俺の愛剣の名を騙るなぞ百年早い事を教えてやる!

・行動 POW
まず【2回攻撃】で牽制
【生命力吸収】【呪詛】【鎧無視攻撃】でダメージを重ねる
敵の反撃にはそれぞれの【~耐性】で耐える

止めを刺せるか逃亡を図ろうとしたなら
心臓を【串刺し】て、UC『ドラゴニック・エンド』発動
『喰らえ!オイラの全開パワー!!』<発動時のファングの台詞

止めを刺せたら
『どうだ?これがオイラの実力さ~♪』とはしゃぐファングを尻目に、
静かに祷りを捧げる。
そうでなければ、後は他の猟兵に一任
-もう次の一撃はできないからな




「御機嫌よう、主無しの騎士様。ちょっと引導を渡しに来たよ」
 胸に手を当て一礼するセシル。自我が残っているとは思えない、嘆きに囚われた存在であっても騎士は騎士。終わった物語を更に終わらせに来たとはいえど、かつて誇り高かった男を前に礼儀を知らぬ振る舞いをする少年ではない。
 しかしてそれに相対する騎士は答礼もなく、紅い涙を流す甲冑の虚ろな眼窩で少年を認めて剣を構える。
『私は……』
「やれやれ、挨拶も無しだなんて。そんな風じゃ騎士とも呼べないよ?」
 呆れたように肩を竦めるその一瞬を見逃さず、騎士は巨木の陰から姿を現した漆黒の軍馬に飛び乗り一直線にセシルへと迫る。
 まるで魔獣の如く鍛え上げられた逞しい軍馬は、騎士が死なぬ限り不滅の命を持つ吸血鬼の眷属。それ故にたとえセシルが火を放ったとて恐れること無く華奢な少年をその蹄で踏み殺すだろうし、仮に仲間たちが槍衾を組んだとて止められまい。
 手綱を操り加速を掛ける騎士。もともと軍馬で駆けるほどの広さもない中庭だ。瞬く間に最高速に至った埒外の駿馬の速さは、その巨体を回避する暇さえ与えること無くセシルの頭上に至らしめる。
 見上げた空には視界を制圧する馬の胸腹と黒銀の蹄鉄。主とともに嘆き狂う軍馬は、主の心のままに聖域を犯す侵入者を踏み殺すだろう。
 誰もがそう理解せざるを得ない、圧倒的な先制攻撃。そこに騎士の誇りも無ければ些か程の慈悲もない。
 それをその小さな身体で受けようというのに、セシルは騎士を憐れむような、そしてすぐに不敵な色へと変わった微笑を浮かべていた。
『守りたい人を手に掛けてまで、私は――!』
 敷き詰められた煉瓦の道を踏み砕いて蹄が落ちる。いかな猟兵といえども頭蓋を粉々に粉砕され死に至るほどの強烈な踏みつけ。思わず目を逸らす者が居るのもむべなるかな。
 しかし一同の――当の騎士と軍馬を除いて――悪い予想を裏切って、耳朶を打つのはセシルの鈴のような声音。
「もう神が現世に居る時代じゃないんだ。吸血鬼たちから世界を守れなかったときにきみたちの時代は終わったのさ」
 だから見捨てられるのは当たり前で、それがどれほど受け入れがたくとも受け入れるべきだ。
 ひび割れた空間からその身を躍らせ騎士の背中に襲いかかる金色の少年。軍馬の蹄が落ちるその刹那、彼は自らの立つその空間を割り裂き次元の狭間を通って死角に回り込んだのだ。
 空間をも切り裂く力を纏った手刀が騎士の背へと突き込まれ――鎧を貫き心臓を潰す。
『――がふっ』
 騎士は仰け反り、セシルを振り落として軍馬が嘶く。騎士が只人であったならば致命となる一撃だが、しかし。
「あぶねぇッ!!」
 背後の少年目掛けて振り抜かれた黒い刃。それを同じく黒い刃が受け止め、火花が薄暗い中庭を一瞬明るく照らし出す。
 心臓を貫かれてなお斃れぬ騎士の無造作に振り抜いた一撃。吸血鬼の名を冠した刃がセシルの首筋を狙って滑り、それを割り込んだもうひとりの黒騎士の刃が受け止める。
「怪我は無ェかい!?」
 堕ちた黒騎士と鍔迫り合いを繰り広げる新手の黒騎士の肩で、小さな竜がセシルを振り返る。
「なんとかね。心臓を潰されても戦えるなんて、いよいよ神の呪いかなにかじゃないか」
 嘆き悲しみそして愛情の為に、敵だったとはいえヒトを一人不死のバケモノに変えてしまった神の行いを唾棄してセシルは体勢を立て直す。
「確かに! でもオイラの相棒はこんなバケモノより強えェ!」
 新手の黒騎士――ヴォルクルスの剣を跳ね除け、その右肩の鎧の隙間を狙って突き出される刃。それを肉で受け止め、刃を封じたヴォルクルスは静かに告げる。
「……行くぞ、相棒」
「あいよ! 夢へ向かっての一歩ってヤツか! 任せな!」
 竜は槍に。剣を振るう右手を奪ったと騎士が思っているならば、それは過ちだ。
「痛みには慣れている。呪いにも耐えられる。この程度ならば何のことはない」
 騎士が刃を引き抜いて、ヴォルクルスの血を以て吸血剣の権能を目覚めさせる。だがそれよりもヴォルクルスが疾い。同じ銘を持つ刃が目覚めかけの剣を弾いて守りを崩し、むき出しの胸甲へと槍が突き刺さった。
「――俺の愛剣と同じ銘だと聞いた。お前にそれは百年早いと教えてやる!」
 それはこの世界ではありふれた銘なのやもしれない。血を啜る武具などあまりにも多い。
 けれども、誇りも無ければ意志も無く、ただただ生前の残滓と神の狂気のままにその名の刃を振るうならば我慢ならぬ。
「……やれ、ファング」
「おうさ! 喰らえオイラの全開パワー!」
 槍が解け、竜に戻って全力のブレスを叩きつける。
 胸甲は貫いた。ともすれば心臓まで達した傷口へと竜の息吹が流れ込む。
「どうだ? これがオイラの実力さぁ!」
 騎士を倒し喜ぶファング。だがヴォルクルスは、そしてセシルはその身を以て識っている。
 死せる騎士のしぶとさを。心臓を貫かれてなお動き続けるその執念を。だから――
「退くんだ二人とも! 来るよ!」
 セシルが開いた空間の狭間へと、ファングの首根っこを掴んでヴォルクルスが飛び込む。続いてセシルが滑り込み、空間の亀裂を封じれば間一髪、触れたものの血を吸い尽くし主へ捧げるための殺戮喰血態を顕にした魔剣が空を薙ぎ払った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エル・クーゴー
●POW



>アーカイブ参照
リーズニングを開始します


・敵は「元領主の腹心、剣才を謳われた騎士」当人?
・像はかつて在りし神の姿?
・騎士の像への崇拝は、単に「心を惑わされた末路」というだけとは見えず
・騎士はかつて神の庇護下にあった村の子々孫々ないし信者に該当?
・砦から神の支配圏への進軍往時、信仰と神殺しの命令の板挟みめいた状況下にあったのでは?

・神の騎士として外敵を狩らんとする今、ひょっとすると彼は今こそ真に守りたい者の為の「騎士」なのでは?


――躯体番号L-95
当機には、騎士に騎士としての闘争を供する以外の適性が存在しません


・【ワイルドドライブ】発動
・銃砲火器群を全周展開、殺戮喰血態に対抗(一斉発射)


リーヴァルディ・カーライル
…ん。どれだけ嘆いても過去を変える事はできず、
どれだけ祈っても失われた生命を取り戻す事はできない。

…異端の神よ。過去を認める事ができないその嘆きこそ、
この地を染め上げる狂気の源泉と知りなさい 。

今までの戦闘知識から敵の死角を見切り、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを発動
殺気や気合いを断ち存在感を消す“闇属性の影”と融合する

…さぁ、訣別の時よ。この一撃を手向けとする。

周囲の第六感や暗視を遮断する残像となり闇に紛れて死角に踏み込み
限界突破した魔力を溜めた大鎌を怪力任せになぎ払い、
影のオーラで防御を無視して首を断つ闇属性の先制攻撃を放ち、
戦闘終了後、心の中で祈りを捧げる

…眠りなさい、安らかに。




「>アーカイブ参照」
「リーズニングを開始します」
 猟兵たちと刃を交える黒騎士を見つめて、その嘆きを鎮める為の推論を開始するエル。
 得られた情報は多くはない。神の嘆きとその背景と、そして今騎士が譫言のように繰り返す呟き。あとは出撃前にあの胡散臭いグリモア猟兵が語った過去の記録が少々。
 そこから結論を導き出せたとして、それは万人が救われるハッピーエンドには至らないかもしれない。否、おそらくきっとそうなる可能性のほうが高かろう。
 それでもエルはそうせねばならぬと思った。少しでも救われる可能性が在るならば、それを追求してこその。
 オブリビオンを狩る百鬼夜行の長、その傍に控える者としてその思考は甘いのやもしれない。けれども、だからこそ、こういう手合いに慈悲を示すのは主ではなく己の役割なのかもしれないと。
「>友軍に通達」
「当機の解析完了まで、騎士の遅滞戦闘への協力を要請します」
 ならば任せなさい。そう言って前に出たのはリーヴァルディ。黒き大鎌、過去を刻む死神の刃を肩に担いだ彼女は、練り上げた魔力を帯びた重厚な刃を力任せに振り払う。
 ――影、あるいは闇。巨木の微かな燐光を塗り潰すような斬撃が飛翔し、撤退した猟兵を追って剣を振るった直後の騎士へと襲いかかる。
 だがそれを受け止めたのは騎士ではない。主を守るべく黒い軍馬が嘶き、その首を斬撃の前に差し出したのだ。
 不思議と一滴の血も流さず、撥ねられた馬の首が宙を舞う。それが地に落ちるより速く、騎士は軍馬の背を蹴り跳び上がり、大上段からの振り下ろしをリーヴァルディの脳天目掛けて放っている。
「くっ……! 流石に一撃ではやらせてくれない」
『――今度こそ守る』
『彼女を――』『この森を――』
 二重にブレる嘆きとともに殺戮喰血態の魔剣を振るう騎士は、瀕死の重傷を負っているようには見えないほどに練達の技を活力に満ち満ちた両の腕で繰り出してくる。リーヴァルディもそれを鎌で迎え撃つが、ぐいぐいと距離を詰め剣の間合いに押し込んでくる騎士を相手では全力での応戦は至難であろう。
 死角からの奇襲。死すれど練達の騎士たる彼を相手にはこれこそが最適解。だがそれを許すほど騎士は甘くはない。
 少なくとも一騎打ちの形となった今、リーヴァルディとの連携を取るための一瞬の隙を生むリスクを飲み込んでまで他者がこれに介入することは難しかろう。
 かといってリーヴァルディが今退けば、背後に守るエルが無防備となる。
「……どれだけ嘆いても過去は変えられない。どれだけ祈っても喪われた生命を取り戻すことは出来ない」
 貴方達も本当はもう分かっているのでしょう? リーヴァルディは答えなど返ってこないと知っての上で騎士たちに問いかけながら、じりじりと追い込まれる剣舞から逃れられずにいる。

「敵は「元領主の腹心、剣才を謳われた騎士」当人?」
 リーヴァルディは見たところ腕利きの猟兵で、吸血鬼狩りだ。黒騎士の類との戦闘経験も豊富であろう彼女が攻めきれぬところを見るに、あの騎士の腕は尋常ではない。これまで駆除した妖樹の中には騎士階級に在ったであろう存在の成れの果ても居たが、腹心の騎士が神の狂気に飲まれ領主軍を殲滅したという話が事実であれば目の前の彼こそがその騎士で間違いあるまい。
 エルはひとつ目の推論をそう結論づけ、次の推論に移行する。
「あの像はかつて在りし神の姿?」
 これには材料が足りない。ただ、聞く所の――神自身の記憶の残滓も含めて――自然神の系統であろう彼ないし彼女の装いが軍装というのは拭いきれぬ違和感を覚える。では誰なのか。神の眷属に成り果てた騎士が崇拝するのだ、神そのものかそれに並ぶほどの存在で在ったはず。彼の祈りは単なる心惑わされた狂信者というにはあまりにも純粋で静謐なもののように見えた。
「――推論A:騎士はかつて神の庇護下にあった村の子々孫々ないし信者に該当」
「――推論B:像はかつて騎士が忠誠を捧げた吸血鬼本人ないしそれを模した姿」
 前者であれば、信者であろう騎士が神の権能とはかけ離れた姿の偶像を崇める様に違和感が残る。
 後者であれば、敵である前領主を神の眷属に堕ちた騎士が慈しみ祈る理由がわからない。
 だが、もし。
 その両者が正解であったならばどうだろうか。その日、神と領主が刺し違えたのだとしたら。
 神の断末魔がまず領主を取り込み、あの美貌の女吸血鬼を依り代に嘆きをこの地に縫い止める楔として打ち込んだのならば。
 敬愛し仕えるべき主と、信仰していた神。両者の板挟みの中で戦いを繰り広げていた騎士をも狂気に引きずり込んで余りある存在がそこに生まれたことだろう。もしこの想像が真実だったのなら。
「結論:「神」の「騎士」として外敵を狩らんとする今、彼は真に護りたいもののための「騎士」なのでは?」
 忠誠と信仰。その両者が合一したならば、彼の騎士の剣に迷いは無いだろう。だとすれば。
「躯体番号L-95」
「当機には、騎士に騎士としての闘争を供する以外の適性が存在しません」
 その心を揺り動かす言葉を紡ぐことも。後悔を融かす想いを伝えることも。過ちを気づかせ諭すことも出来ない。彼は彼の信義に従い、狂気の中で最も己の望む正気を得たのだから。
「リーズニング終了……ワイルドハントを開始します」
 ならばもはや討ち倒す他の道はない。あらゆる銃砲火器を一斉展開したエルと、それを視界の端で捉えたリーヴァルディ。大鎌がその長柄で剣を弾き、二人の距離が僅か離れたそこへとエルの硝煙弾雨が降り注ぐ。
『――くぅッ』
「――そう、救えないの。だったら狩るわ。異端の神よ、過去を認められないその嘆きこそこの地を汚し染め上げる狂気の源泉と知りなさい」
 エルが導いた結論は聞いていない。けれども、もはや武を持って意志を通す他に救いはないとリーヴァルディは理解した。
 無数の弾丸を切り払い、動きを止めた騎士。今こそ好機にほかならぬ。
 リーヴァルディの瞳が紅に輝き、そして中庭を包む闇へと溶け込んだ。それと同時にエルの砲撃を文字通り“切り抜けた”騎士が、ほんの一瞬前まで吸血鬼狩りの少女の首があった高さを切り裂いた。
 振り抜かれた刃。一瞬に満たない隙。その間隙を縫って、騎士の脇腹へとリーヴァルディの鎌が突き刺さる。
 過去を刻むもの。変えられぬ結末を刻みつける刃は、するりと鎧の隙間から騎士を貫いた。
「……さぁ、訣別の時よ。この一撃を手向けに眠りなさい、安らかに」
『…………何故、私は』
『まだ、認めたくない』『まだ、貴女を護りたい』
 ――しかして神は、そして騎士は。突き込まれた慈悲の手を振りほどき、なおも己の哀しみと無念の為に剣を取る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
【PPP】
やっとしっかり目をあけて戦えるわね!世界が広いわ!
異端の神の狂気ねえ。それにしてもあっちこっちと神様がいるわね!
ありがたみがないわね!結局の所神様っていったい何なのかしらね!


っていうわけで戦闘よ!
アリシアが前で盾となってくれるみたいだし
今回は私は普通に後ろで魔法を詠唱してチャンス、もしくはピンチの時に
【全力魔法】でUCをぶちかますわ!ドッカーンって!
なんかこいつも木っぽいし、よく燃えるんじゃないかしら!

(アレンジアドリブ等々お任せ!)


アリシア・マクリントック
【PPP】
元はほんの些細なすれ違いだったのでしょう。譲れないものがあるとか、ただ単に間が悪かったとか。あるいは……自らが歩み寄ることを忘れてしまったか。
たとえそれが狂気によるものだとしても、私がいつか向き合うかもしれないこと。貴方の全て、受け止めてみせましょう!……変身!
スカディアーマー!これ以上貴方に誰かを傷つけたりはさせません!仲間を狙ったものも含めてすべての攻撃を受け止める覚悟です!

そして全てを受け止めたら反撃です。
……残念ですが、いかなる者も己のカルマからは逃れられません。貴方が為したことの報い、受けなさい!
『傷こそ我が力なり』!


葛葉・アリス
【PPP】

さて、本番ね
私は普段通りジャバウォックに乗ってるわ
運動音痴さんも乗せたままかしら?

「人と共にありたい、神としてはその言い分はわかるわ」
人が私達を神と崇めるから、私達は神でいられる
故に神は人と共にある、良くも悪くもね
「でも、貴方を崇めるものはもういない。なら、退場の時よ」

…なんて、崇められてるかもわからない私だけど、ね?

「敵はキング1体。すぐにチェックメイトにしてあげる」
【戦場俯瞰遊戯】で各自に適宜指揮を
…ま、みんな好き勝手やった方がいい結果になるだろうから、必要な所だけ最低限ね
私もジャバウォックで走りながらコイツの爪と嘴で撃ちまくって援護するわ
逃げ場を1手ずつ塞いで追い詰めましょう?


アイ・リスパー
【PPP】

「神の狂気……
人々のためにも、あなたには退場いただきます!」

相手は大剣を持った騎士……
ならば相手の武器が届かない遠距離から攻撃しましょう!

「皆さんの攻撃準備が整うまで、これでも受けていてください!」

【チューリングの神託機械】で電脳空間の万能コンピュータに接続。
【超伝導リニアカタパルト】で実体化させたリニアレールを
【マックスウェルの悪魔】で絶対零度に冷却します。
質量弾体は、周囲に転がる瓦礫の岩!

「こちらの砲弾の備えは十分です!
この大質量攻撃、受けきれますか!?」

瓦礫を撃ち出し、砲身を強制冷却。
さらに次弾を発射というサイクルを繰り返します。

「こちらの攻撃で牽制になれば十分です!」


イデアール・モラクス
【PPP】
何故、何故、何故!?
そう問うならば歩みを止めるな、思考を止めるな、己が内にある熱の赴くままに探し続け心の奥を抉るのだ、騎士よ!

・行動
「さぁ疾く答えを導いてみろ、その狂気の果てに辿り着いてみよ、さもなくば我が幾千の剣が貴様も、女もただ串刺しとなるぞ!」
UC【鏖殺魔剣陣】を『全力魔法』で威力を増し、『範囲攻撃』で空を埋め尽くすほどの数に増やした上で『属性攻撃』で《氷》を纏わせ、『高速詠唱』を用いて『一斉射撃』と『乱れ撃ち』による二種の『制圧射撃』を敢行し敵勢を『蹂躙』
魔剣は命中したら敵を『串刺し』にした上で剣に血を『吸血』させ『生命力を奪い』嬲り尽くす。
「さぁ、早く!」

※アドリブ歓迎




 騎士が刃を横薙ぎに振るえば、血色に染まった黒刃がはらりと解けて薔薇が散る。
 鋼鉄の剣が変じた薔薇の花弁はその形状に違わぬ軽やかさで夜風に舞い、しかして本来の姿と違わぬ鋭さで触れるものの肌を切り裂き血を啜るのだろう。
 そうして解けた剣の、柄だけを握る騎士はそれを振るう。その動きに操られるように風が吹き、猟兵たちへと薔薇が押し寄せた。
 全てを引き裂き、神――あるいは君主へと捧ぐ真っ赤な血を誘う黒薔薇。その前に飛び出したのはアリシアだ。
「これ以上――」
 その嵐のような斬撃を目にしても、アリシアの目に怯えはない。
 あるのはただ騎士への同情の念。憐憫などではありはしない。いつかどこかで自分が堕ちるかも知れない未来の姿を憐れむような傲慢さを、今のアリシアはまだ持っては居ない。これからだって持つつもりはない。
 ――だから。
「貴方に誰かを傷つけさせたりはさせません!」
 純白のドレスがまばゆく輝き、黒き鎧がその身を覆う。スカディアーマー、誰かを守るための騎士の姿。その姿をもってアリシアは黒薔薇の旋風に飛び込み、後方の味方の盾となる。
「人とともに在りたい。私も一柱の神としてその言い分はわかるわ」
 薔薇の剣戟を耐えるアリシアの後ろ、怪鳥戦車ジャバウォックの背でアリスは語りかける。その相手は騎士ではなく、その後ろに根を張る白い巨木だ。
 微かに残る神気の残り香。同じ神であればこそ、かの神の意志がそこに微かに留まっている事を感じ取れる。
 もはや知性など無く、荒御魂というほどの力もない。騎士という強大な依代が居なければ権能を振るうことも出来ない神の亡霊へ、新しき人の世の神はせめての慰みに言葉を掛けてやることしかできない。
「人が私達を神と崇めるから私達は神でいられる。故に神は人とともに在る」
 信仰を失った神の末路は、神であることを辞めるか、あるいは消えゆくのみだ。
「貴女を崇める者はもういない。なら、もう退場すべき時よ」
 アリスの眼前に広がる盤面。敵のキング――神たる巨木は脅威に非ず。戦場を縦横に駆け、死すれど死なぬ不死を以て猟兵を攻め立てるナイトをまずは排さねばなるまい。
 ルーク――アリシアが今は薔薇の剣舞を受け止めているが、いつまで持つとも限らないのであればなおさらに速攻が肝要。
 戦力としてはあちらのキングより多少マシ、とはいえキングの駒に変わりないアリスはジャバウォックに騎士を迎え撃つよう命じながら、仲間たちに指示を出す。
「敵のキングは物の数ではないわ。ナイトさえ倒せばすぐにチェックメイトよ」
「それなら!」
 アリスの後ろでジャバウォックに跨るアイが、身を乗り出して銃を構える仕草を取る。
 電脳空間から実体化させた仮想超伝導体のレールをマックスウェルの悪魔が絶対零度に冷却するそれは、かろうじて銃の形をした射出装置だ。
 小型のマスドライバー、あるいはリニアガン。ジャバウォックが蹴り上げた石塊をそれに装弾して、アイは引鉄を引き絞る。
「神の狂気――人々の為にも貴方には此処で退場してもらいますっ!」
 超音速で自ら崩壊しながら飛翔した石塊。如何に不死の騎士であれど、被弾すれば欠損は免れない大威力の狙撃だ。
 これにはさしもの騎士も潰れた肝を冷やしたことだろう。アリシアを襲っていた薔薇を引き戻し、黒剣に戻して砲弾を切り伏せる。
「まだまだ! 砲弾の備えは十分です、この連続攻撃を受けきれますか!?」
 まさか迎撃されるとは。驚きは在る。如何に達人と言えど剣でリニアガンを迎え撃つなど正気の沙汰ではない。が、そも狂気に堕ちた腕利きが相手なのだ。ならばとアイは目的を牽制に絞ってただ只管に連射するのみ。
 射撃、迎撃、冷却、次弾装填、射撃。ただの一撃も届いては居ないが、しかしジャバウォックも持てる火器を投じて火力投射を開始すれば騎士をその場に押し止める事は出来る。
 キングとナイトが場を食い止めたならば、続くのは。
「目を開けて戦えるって素晴らしいわね! 世界が広いわ!」
「まだ目を瞑っていたのかお前は!」
 ビショップ、そしてクイーン。
 フィーナとイデアールが猛攻を凌ぐ騎士へと反撃を仕掛ける番だ。
「異端の神だかなんだか知らないけど、あっちこっちでありがたみがないのよ! 結局アンタ達なんなの!?」
 火焔魔法を連射して側面から襲撃を掛ければ、騎士は飛来する石塊を斬り落として次弾が到達するまでのほんの一秒足らずで身を翻して火球をくぐり抜ける。
 だがそれが隙となる。まんまと背を向けた騎士に剣が突き刺さり、間髪入れずに無数の剣が天より降り注いだ。
「何故、何故、何故!! そう問うのならば歩みを止めるな、思考を止めるな!」
 猟兵達が敷く戦線の向こう側を軒並みに破壊する剣の雨。それは神の骸、白い巨木をも例外なく切り刻み破砕するだろう。
「己が内なる熱の赴くまま、答えを求め心の奥を抉るのだ、騎士よ! さあ疾く答えを導いてみろ、その狂気の果てにたどり着いてみよ! さもなくば――」
『――――様!!』
 騎士が駆けた。それまでの不死者なりし泰然たる振る舞いを脱ぎ捨てて、敵に背を向けみっともなくも両腕を振り乱して。
 白い樹肌を抱きしめるように、女の像を守るようにその巨躯で覆いかぶさり、降り注ぐ刃を一身に受け止める。
 剣が突き刺さったところから、失って久しい体温の残滓、この激しい戦いで取り戻しかけた温もりが抜けてゆく。肉が凍りつくようだ。血が吸われていくようだ。
 寒い。冷たい。ああ、このような感情を感じるのはいつぶりだろうか。
 さりとてそれもよくわからないままに、騎士は再び黒剣を握りしめて振り返る。大切なものを侵さんとする侵入者達を屠るために。
「残念ですが」
 その喉へと刃が滑り込んだ。
「元はほんの些細なすれ違いだったのでしょう。譲れないものがあるとか。単に間が悪かったとか。あるいは自ら歩み寄ることを忘れてしまったか」
 アリシアにも他人の話ではないのだろう。騎士が背に庇う、安らかな死顔をした女吸血鬼の像。彼女もまた、自らの利益のため――それを齎す領民の利益のために神に挑んだ領主なのだろう。アリシアが同じ様に領民のために何かを得んと剣を握ることが、絶対にないとはいえようか。
「…………ですが、いかなる者も己の業からは逃れられません。貴方が、貴方達が為したことの報いを受けなさい! ――傷こそ我が力なり!」
 喉笛に突き込んだ刃から、黒薔薇の中で受けた呪いをそのまま騎士に送り返す。
 善行も悪行も、行いには報いがあるのだ。アリシア自身もその理から逃れられぬと肝に命じながら、剣を引き抜き血を振り払う。
『…………わ、たし、は』
「……!! アリシア後ろ! ええいもう、消し飛べェェェェェ!!」
 敵は斃した。撤退をと背を向けたアリシアの背後で、ゆらりと立ち上がる騎士。
 その姿を見たフィーナは、咄嗟に制御など後回しに最大威力の火焔爆裂魔法を叩き込む。
 騎士が吹き飛べばそれでよし。あの神木が燃えればなおよし。
 されども。
『私は――』『我は――』
『我が徒に』『我が騎士に』
『『――勝利を望みます』』
 嗚呼。それは神が末期に残した奇跡であろう。
 最後に残ったたった一人の信徒の、たった一人の騎士のために。
 清涼な風が神木の葉を揺らし、火焔の直撃で焦げ付き燻る騎士に再び生命力を与えてゆく。
 アリスは見た。それと引き換えに神木から神の気配が消えてゆくのを。
 縫い留められた呪いは、最後に奇跡となって消滅したのだ。
『……何故。何故、貴女達は』
 騎士が立ち上がる。焼け付いた剣を握り締め、真っ赤な樹液ではない、透き通った涙を流して。
『私などの為に、そのような…………』
 違う。騎士は未だに過去に囚われている。現実を見ているわけではない。
『ならばせめて、貴女たちのために敵の血を捧げましょう』
 だが。だがその刃は、かつての騎士そのものの精彩を取り戻している。
『私は剣しか知らぬ。故に剣で貴女達の慈悲に応えよう……!』
 異端の神の信徒にして、領主の最高の騎士。その刃が猟兵たちに再び突きつけられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩波・いちご
【恋華荘】
何故か…ですか?
悲しい話ですけれど、人はもう神の手を離れているんです
…この身に邪神を宿す私が言っても説得力はないかもですが、もう時代が変わったんですよ
神はただ去り、物語として残るのみ

だから、今の時代を守るため、人としての力で、貴方を討ちます
なので邪神の力に由来する【異界の~】系列の力は、今回は使いません
私は私の人の力で、貴方と相対します
私の力……歌で

貴方に贈るのは葬送曲
【天使のような悪魔の歌声】でレクイエムをお届けします
静かに……そして惜別の想いを込めて
襲い来る薔薇の花びらをも吹き飛ばすように
そしてその鎧を破砕するほどに

静かに語り掛けるような歌声で
…あなたの物語を歌にしましょう


御影・雪乃
【恋華荘】の四人で
●神の骸に思う
知り合いの錬金術師が言っていました
この世に留まれるかは環境に合うかどうか…適者生存なのだと
理由や意味は、望みに対する後付けなのだと
…あなたは、環境に合わせられなかった
それだけなのだと思います

●戦闘
…今この時、私は『私』になる
コアに宿る前世の記憶…人形ではない真の姿の私

薔薇の花びらは冷気で凍りつかせ、吹雪で押し返すことを試みましょう
眠りなさい
苦しみも、悲しみも、虚しさも、不安も。すべて氷に閉ざされてしまえば考えずに済むわ
…あのまま永遠に眠っていたかったのに代用として蘇させられ、その理由すら失った私にとっては生きたかったという願いは贅沢に見えるわね

アドリブokです


織笠・アシュリン
【恋華荘】

貴女と共に生きたかった、か……
不幸な結末だったけど、忘れなかった人はいたんだ
けど、神代は過去になったし、過去は留まっていいものじゃない!
堕ちた神はもはや人に仇なす魔
なら討つよ!

いちごの鎮魂歌をBGMに、地に足を降ろして銃撃!
短機関銃【2回攻撃】で、動きながら制圧射撃!
「みんなには近づけさせないよ!」
でも、本命はウィロー・ブルームからの【呪弾装填】!
敵の動きが大きくなった所に、破邪【属性攻撃】を【スナイパー】としての精密さで鎧の隙間に叩き込む!
多少の装甲は【鎧砕き】で砕く!
「この地を待っている人がいるんだ……!」

戦後は理緒と一緒に、神の事を伝えるよ
「物語でも歌でもいいよ、伝えてあげて」


菫宮・理緒
【恋華荘】

何故、か。
それは人が感謝を忘れ、神は許しを忘れたからじゃないかな。
それにね、いまはもう神さまに出る幕はないと思うよ。

それでもあなたはもういちど、いっしょに歩む気はある?
あなたは人と歩みたいと望むかな?

それとそこの騎士さん、かな。あなたはどうするのかな?
このまま消えていく? それとも自分で決着つける?

わたしは、あなたを、あなたたちを手伝うって約束したの。

好きな方を選んで。
あなたたちの選択を、わたしは手伝うよ。
【虚実置換】で望む未来にレタッチアンドペースト

ここに入る人には、アシュリンさんといっしょに、
このことをしっかりと伝えておくよ。
「敬わなくてもいい、だけど、忘れないでいてあげて。」




「悲しい話ですけれど、人々はもう神の手を離れました。時代が変わったんです」
 だから、神は去り物語としてのみ在るべきだ。
 その身に神を宿しておいて何を、と貴方は言うかも知れませんが。いちごはそう言って苦笑して、剣を構える騎士の前に出る。
「だから私たちは、今の時代を守るために人として貴方を討ちます」
 人の世を切り拓くために神に抗った騎士よ、ならば貴方はこの意味を解るだろう。
 神の世を守るために狂気に堕ちた騎士よ、どうかこの意味を解ってほしい。
 いちごはすぅと、神が遺した清らかな風を肺に取り込み歌声を紡ぐ。
 それは消えゆく神への葬送曲。ほんの少しもこの世に未練を残さないように。もう二度と、狂気などという楔で世界に縫い留められることがないように。
『――よせ』
 いちごの意図を理解した騎士は狼狽え、そして刃を再び薔薇の花弁に変えて解き放つ。
『あのひとを』
 吹き抜ける涼やかな夜風に乗って、歌声と花弁が交差する。
 いちごへと押し寄せる黒薔薇を、しかしていちごは躱さない。なぜならきっと、彼の仲間たちがそれを阻止してくれると信じているから。
「――眠りなさい」
 夜風を上書きするように冷たい風が吹きすさぶ。
『私から奪わないでくれ』「眠る自由すら奪おうなんて、贅沢な願いというものよ」
 騎士の言葉を遮って、雪乃の声が中庭に響いた。
 神もきっと、領主軍に討たれてその時死に絶えていればまだ楽だったのだ。
 それが何の因果か狂気などというもので周りを巻き込み死にきれない残滓となってこの地にこびりつき、なぜ生きたかったのかすら忘れて嘆き続ける存在に成り果てた。
 雪乃と同じだ。死者であることすら許されず、挙げ句蘇った理由など喪われてしまった。何のために生きるのかわからない彼女――雪乃の中心に在る、かつて喪われた少女の記憶がそう嘆いている。
 もう休ませてやってもいいじゃない。苦しみも哀しみも、虚しさも不安も。すべて考えないで済むように。受け入れられないのなら、貴方も氷に閉ざしてあげる。
 雪乃が放つ吹雪が薔薇の花弁を凍りつかせて地面に落とす。だが騎士も全てを凍らされる前に残った花弁を引き戻し、折れた刃に変えて駆け抜ける。
『――たとえ誰も望まぬとしても、私は!!』
 雪乃へと振り下ろされる刃。高く鳴り響く金属音、跳ね上げられる黒剣。
 銃口から硝煙燻る短機関銃を隙なく構えて、アシュリンが雪乃のフォローに入る。
「それ以上近づけさせないよ!」
 軽やかな破裂音はいちごの歌声を彩る楽器のごとく。銃弾が鎧や刃を叩く音すら歌声に添えて、アシュリンの迎撃が騎士を引きつける。
『そんな玩具で止められるものか!!』
「不幸な結末だったかもしれない。納得なんて出来ないかもしれない!」
 銃弾を物ともせずにアシュリンへと迫る騎士が、まるで手足の一部のように剣を振るう。しなやかに滑る刃が短機関銃を跳ね上げ、思わず手を離してしまった彼女の指からその射撃機械を絡め取る。
『そうだ! 私は納得などしていない! できるものかッ!!』
 空中で剣に打たれた銃がくるくると回転しながら吹き飛ばされ、冬季を放とうとした雪乃を妨害してのける。
「でも、それでも過去は留まっていいものじゃない! 堕ちた神はもう人に仇為す魔だよ! 討つしかないんだ!」
『ならば人など滅んでしまえ!!』
 騎士にとって、彼女たちはもう世界の全てだ。幾年月をたった二人――あるいは三人でこの地を呪い続ける為にのみ費やした騎士に、もうそれ以外のものはありはしない。
「――それは貴方の意志でしょう。わたし達は神様に聞きたいな」
 感謝を忘れた人を滅ぼしたいと、消えゆく神はそう願うのか。
 本当に貴女は許しを忘れてしまったのか。
 理緒の問いかけに、神の言葉は返らない。
「貴女はもう一度、一緒に歩む気はある? 人と歩みたいと望むかな?」
 望むとも。かの御柱を縛った呪いは、人とともに生きたかったというささやかな、しかし欲深な願いの変じたものだ。
 たとえ答えが返ってこなくとも、神はきっとそう望まれる。でも、でもその御霊はもうどうしようもなく狂気と呪いで擦り切れてしまっているから。
 だから一度召されるべきだ。そして再び彼女が舞い戻るときまで、人が――猟兵達が、この地とそこに住む者たちを守ろう。
『黙れッ!! 私は、私は――!』
「私は、なに? あなたはどうしたいの? 神様が消えるなら、このままあなたも消えていく? それとも自分で決着つける?」
 それは理緒の“約束”である。神の嘆きを垣間見て、その本当の願いを叶えるために力を貸すと約束した。誰にでもない、自分の心に。
「好きな方を選んで。あなた達の選択を、わたしは手伝うから」
 神はきっと頷いた。だから眼前の空間に、消えゆく神のための虚構を描く。
 理緒の描いた女神の形代に、狂える神は静かに宿る。
『――頼みます』
 狂うほどに人を愛した森の神は、かくてさらさらと光の粒になって消えていった。
『あああ、あああああ! 私は、私はまだ貴女への信仰を捨てては居ないのに』
『信じるものを失って、私はどうすれば……』
 騎士の嘆きが形となったように、分厚い雲からぱらりぱらりと雫が落ちる。
 夜の雨は木々の葉を叩き、猟兵も騎士も等しく濡らす。
『きっと貴様たちの言葉が正しいのだろう。神は終わりを望まれた。この地は人の為に使われるべきなのだろう。かつて私が愛した領主閣下の望んだように』
 だが。
 だが、納得は出来ぬ。如何に正しい言葉であろうと、騎士の騎士たるを奪っておいて正論だから飲み込めなどと。
 首なしの黒馬が主の憤りに寄り添うように立ち上がり、騎士はその背に跨り刃を構える。
 これよりは止まらぬ騎馬突撃。一人の男の、狂い果て決して折れることのない魂を貫くための無意味な暴力。
「それで滅びを受け止められるのなら、私はあなたの物語をそう歌いましょう」
 いちごの歌に鎧を震わされようと、その装飾がひび割れ砕けようと、騎士は止まらず駆け抜ける。
 刺し違えようとも己が無念を貫き通す。その我武者羅な突進は、いちごを踏み潰さんと瞬く間に両者の距離を切り取り――

 がごん。
 重く腹に響く銃声と共に、騎馬がその腸を地面に撒き散らしながら地を滑り、いちごの脇を転がってゆく。
 騎士もともに転倒し、いちごに振り下ろされるはずの刃は地面を穿って騎士が姿勢を立て直す杖の代わりとなった。
「……その意地は通させない。この地を待ってる人たちが居るんだ……!」
 硝煙くゆる長銃を抱え、雨に濡れる地に泥が付くのも構わず伏せたアシュリンは、軍馬を仕留めた狙撃を誇るでもなく呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 かつて騎士は一人の少年であった。
 面白みのない農村の、ありふれた農夫の次男であった。
 次男だから農地を継ぐことはない。かといって何かを学ぶような余裕も、それを教えてくれる教師も村には居ない。
 だから少年は森に入り浸り、狩りをして薬草の類を集めることを生業とした。
 そんな中で、村の大人たちも忘れてしまったような古い信仰に出会った。
 打ち捨てられた祠を、石碑を、なんとなく放置できなくて。不器用ながらにそれらを修復して、そのままなんとなく祈るようになった。
 それから少年の狩りは不思議と上手くいくようになった。少し分け入れば貴重な薬草が抱えるほどに手に入った。
 少年は自然な流れでこれが神の加護によるものだと察していたし、その恩寵にただ甘えること無くより一層の信仰を神に捧げるようになった。――いつしか少年は姿の見えぬ、しかして母や姉のように見守ってくれているであろう神に恋をしていた。
 少年は誰もが忘れ去ってしまった神の、唯一にして最後の信徒になった。
 それからしばらくして、少年は青年になり村は街と繋がった。
 街の領主がその旨を告げに村に訪れたとき、青年は出会った。
 美しき女領主。吸血鬼だという領主にはじめ青年も恐れを抱いたが、領主は噂に伝え聞く吸血鬼のように戯れに民を殺したり、魔物を野に放って遊ぶようなことはしなかった。
 むしろ他の領主たちとの競争に腐心する彼女は、民の富こそが領地の富であると積極的に民の生活に介入し、その暮らしをより良くする為の努力と投資を惜しまなかった。
 青年はそんな領主の力になりたいと願い、村を出て都で領主の騎士に志願した。
 それからも青年は祈ることを忘れなかったが、兵卒が隊長に任命され、隊長が領主の親衛隊に、親衛隊から騎士にと力量を認められ、位が上がるほどに祈る余裕は喪われていった。
 ――そして騎士は領主に愛を抱く。領主もそれに寵愛で応え、二人は他領を圧倒する強く豊かな領地の為にそれぞれの力を高めあいながら暫しの蜜月を過ごし――そして、その戦いを始めてしまったのだ。
 ――止めればよかった。止めるだけの理由を騎士は持っていた。
 けれど、領主の望む豊かな領地を作り上げるには避けられない戦いだった。
 故郷がより一層豊かになるというのも、騎士にとって魅力だった。
 それにきっと、あの神も自分が去ったことであの地を離れただろうという思いもあった。
 だから騎士は領主とともに軍を率い、森に攻め入ったのだ。
 結果は知っての通り。愛する領主と恋した神は刺し違え、両者を失った騎士は神の嘆きに共鳴して狂い堕ちた。
 領主軍をその手で滅ぼし、あるいは神の嘆きが生み出した眷属の肥やしにして、騎士は今日までただこの地で神と領主の骸を守り続けて在り続けた。
 それが嘆きしか生まない残滓に過ぎないとしても。その狂気が己の裡にあることが、未だに神と領主がそこに居る証のようで嬉しかったのだ。
 だから。
 だから、それを。
 奪わないでくれ。私はただ、此処で愛した者たちと永遠の孤独を享受していたかっただけなのだ。
 その邪魔をするのなら。ならば私は、彼女たちの意に沿わぬと承知でこの森を荒らす者尽くを斬ると決めねばならぬ。
 騎士はゆっくりと立ち上がり、狂える神の加護も消えかけ、命が喪われつつあるボロボロの身体を引きずって、今一度猟兵の前に立つ。
チトセ・シロガネ
アイシー……この嫌な感じはユーが元凶みたいダネ。
ユーをスラッシュしてこの悲しみの連鎖をカットオフするだけヨ。

オゥ、他者の血でリミッターオフするなんて。
なら、こちらも本気で行かせてもらうヨ!
UC【光輝体系】を発動、稲妻を纏ったこの体。
これがボクの全力全開ってやつサ!

ムラクモを鞘に納め、抜刀の構えを取る。
残像を残しつつ、早業で相手の懐へ。

相手の刃は怪力による回し蹴りで軌道をそらす。
ボクの刃は一本じゃないのサ!

回転の勢いをそのままに念動力と稲妻を込め、
刃を抜いて逆袈裟で振り上げる。
気合を込め、限界突破した最大出力の一撃、受けきれるカナ!

【アドリブ歓迎】


藤堂・遼子
あー、隻腕だとバランス取りにくいわね
まぁ今回は仕方ないわ。帰ったら義手作り直して貰わないと
さっき落とした大鎌の狂気を刈るモノを拾いなおして、見た目は騎士でも中身は神に対峙するわ

まったく既に滅んだ身なら、未練がましくこの世に縋りついてるんじゃないわよ
自分を殺した相手を乗っ取るとか、よくあることと言えばよくあることだけど鬱陶しいのよ
だから、【魂滅の刃(サバキノヤイバ・タマシイヲカルモノ)】でその魂を滅ぼしてやるわ
我より逃れ得るものはなく、我が刈りしものは死すらも死せん。ってやつよ
胴体と頭以外は作り物だから四肢、残りは三肢だけど、そこからは血は流れないわよ
片足で剣防いで、お返しに鎌で刈り取ってやるわ




「アイシー……この嫌な感じはユーが元凶みたいダネ」
 もはや神の狂気は名残しか感じない。だがそれ以上に感じるこの嫌な想念は、きっと騎士本人が放つものだろう。
 何があったかは聞くまい。これほどの執念を生み出す何かが在ったことは確かだろう。それだけで十分。
「なら、ユーをスラッシュしてこの悲しみの連鎖をカットオフするだけヨ」
 ばちばちと稲妻を纏い、念動の刀を居合の構えで携えるチトセ。
「隻腕だとバランスとりにくいわね。ま、今回は仕方ないわ」
 片腕で大鎌を担ぎ上げ、欠けた不足を感じさせぬほど堂々と立つ遼子。
 二人の猟兵を前に、狂える騎士は欠けた黒剣を振りかぶる。
『私を斬れば確かにこの連鎖は断てるやもしれぬ。そうとも、そうであろうとも』
 死せる従僕、頚を刈られ腹を吹き飛ばされた軍馬に刃を突き立てて、その血を剣に吸わせながら騎士は滔々と呟いた。
『だが、私は呪おう。かつて愚かしかった私が愛するひとと守るべき神を呪いで縛ってしまったように。この地に安寧など許しはしない。この地こそ我が哀しみ、我が過ち! それすらも奪われてなるものか!』
 領主より賜り共に過ごしてきた愛馬の地を啜り、欠けた刃先を修復してさらに騎士の怨念を形にしたが如く禍々しい姿へと変貌した黒剣。
『――――筆頭騎士の名の下に、最後の領地を我らが敵対者から守り抜かん』
 ――いざ。
 どちらからともなく、チトセと黒騎士が踏み込んだ。
 黒騎士の裂帛の気合とともに放たれた振り下ろし。剣であろうが盾であろうが、受ければそれを粉砕して敵を切り落とすであろう一撃。それをチトセは流水のようにしなやかな蹴脚でくるりと受け流し、剣は空を斬って地面にめり込んだ。
「まったく未練がましくこの世に縋り付いてるんじゃないわよ!」
 殺した相手を乗っ取る。意図してかそうでなかったかは定かではないが、そういう神には腹が立つ。だがそれ以上に、それほどまでにこの世に未練を遺した神が去ったというのにいつまでもそれを受け入れず死に急ぐこの騎士にも腹が立つ。
 遼子はチトセと激突する騎士の背後から、大鎌の一撃で頚を狙う。が、騎士もそれを見切ったかのように空いた片手で裏拳を放つ。鍛え上げられ装甲を纏った騎士の打撃だ。細身の女が受ければただでは済むまい。
「っ……後で作り直して貰う!」
 故に遼子は潔く、片脚を諦め身代わりに供した。膝を高く掲げ、裏拳に対するクッションとして脚を挟む。
 べきべきと義足が砕け、殺しきれなかった衝撃に遼子は弾き飛ばされる。
「まだまだ! ボクの全力全開、受けきれるカナ!」
 剣は地にあり、拳は空を。胴はがら空き、今が好機。剣を蹴り防いだままの勢いで、チトセの刃が騎士の胴体を逆袈裟に斬り上げる。
『おお…………ッ!!』
 鎧が引き裂かれ、どす黒く紅い血と樹液の混合が吹き上がる。それを浴びながらチトセはさらに手足に光刃を携え、踊るように連撃を放った。
「ボクの刃は一本じゃないのサ! このまま押し切らせて貰うヨ!」
『なんの……!』
 対する騎士もただでは斬られぬ。深く突き刺さった黒剣を、斬り上げられたその衝撃で引き抜いて、チトセの連撃を巧みに防いで反撃をすら放ってのける。
 だが。騎士はひとつ過ちを犯していた。チトセを相手に互角で事を運びながら、騎士は遼子を片手片脚を失った時点で脅威に非ずと認識していた。
 否。神殺しの執念は、狂気は、その程度で止まらぬと他ならぬ騎士自身が証明していたであろうに。
「我より逃れ得るものはなく、我が刈りしものは死すらも死せん――」
 片腕片脚を奪われようと、執念だけで騎士の背へ再び襲いかかる遼子。
 細腕一本で振るわれた刃は、チトセへと刃が放たれた一瞬の隙間を縫って騎士の頚へと滑り込む。
「いい加減に神様のところで寝てなさい」
 す、と。何の抵抗も感じさせること無く、鎌は騎士の頚を落とした。
 それでもまだ動こうとする胴体へ、チトセの突きが心臓を三度穿くことでとどめを刺す。
 流された電流が騎士の肉体を完全に破壊し、かくて狂気に呑まれた男は二度と剣を振るうことはない。
「終わった、ネ……」
「ええ、終わったわ」
 見上げれば神木は白い燐光を失い、さらさらと葉を散らしながら枯れてゆくところだった。
 女神像のごとく木と一体化していたかつての領主は、愛した男の死に一筋の血の涙を流し、神とそして騎士とともに滅びゆく。
 もう、嘆きは聞こえない。
 もう、愛は此処にない。
 ここはただの、空白の森だ。ここに新たな呪いが描かれるのか、あるいは新たな愛が芽生えるのか。それはこの地に拠点を作る人間たちが決めることだろう。
 猟兵に出来るのは、騎士の呪いが現実になるとき、あるいは現世の吸血鬼たちの魔手がこの森に伸びたときにはすぐさま駆けつけ人々を守る、それだけだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年03月18日


挿絵イラスト