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願ってはいけなかったのか

#ダークセイヴァー #異端の神々

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#異端の神々


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 ──聞こえるかい?この声が。
 森よ、神よ。

 ──聞こえるかい?この叫びが。
 貴方は何処から。

 ──聞こえるかい?この嘆きが。
 語りかけてくるのでしょうか。

 森の慟哭は魂を乗せた旋律。しかして其れは成れの果てが鳴く本能の叫び。
 葉が風で奏でるのは心を掴む音、伝播し揺さぶるのは狂気を育む森の声。
 意思ある者の心中に語りかけるのだ。共に在ろう、共に往こうと。
 惑わし、声を造り、貴方の深く知る者の声帯で頭の中を響かせる。
 屈せよ意思ある者達よ、同化せよ生を識る者達よ。
 抗う事を無意味と知れ、森はお前達を求めているのだけなのだから。

 どこからか、遠吠えが聞こえてくる。また何者かが迷い込んだのだろう、文字通り、神隠しとして。

●共に在りたいと願う事は罪なのか。
「さて、皆様はどう思います?強く、激しく求められるという事は果たしてそう悪い事なのでしょうか」
 トレンチコートを靡かせ集まった猟兵達の方へと振り返る晴久。サングラスの奥に隠す瞳は純粋な興味の色が宿っている。
「あぁいや失礼。それでは説明させて頂きましょう」
 今回の予知はダークセイヴァーの辺境、人里も吸血鬼の根城も見えない森の中、未知の領域の一つである。
「敵は異端の神々……オブリビオンに攻められ身体を失くした神々は強き肉体を依代とし、憑依する事で生き長らえオブリビオンと化した存在」
 生きている、と言うが既に神としても、依代元としても意思は混濁し理性は壊れている状態となっているらしい。
「森の中では常時獣のような鳴き声が聞こえて来るそうで、聞き続けていると何時しかそれは親しい者や自身が良く知る者の声へと変え、時にはその者を幻視させてくるそうな」
 その声はひたすら森の奥へ誘う物であったり、心の中に何かを訴えかけ、共に在ろうと貴方へ呼びかけてくるだろう。
「事件として報告されている訳ではありませんが、所謂神隠し、と呼ばれる現象で送られる場所の一つとなっている様ですねぇ」
 さて、と晴久は鉄扇を鳴らしながら。
「皆様に依頼したい事、誘いの森を進み、まやかしの元凶となる異端の神を撃破して頂きたいのです。困窮するダークセイヴァーの中でここを開拓できれば、今後の一手にも大きな一歩となる事でしょう」

 友人、仲間、家族、恋人……共にここへ在ろうという誘いの声に意志の力で抗い、幻を生み出すオブリビオンを撃破するのだ。
「誰しも何かを背負い、抱えている物です。しかし私は貴方達を信じております。声に、姿に惑わされずにオブリビオンと対峙出来ることを……それでは宜しく御願い致しますね」
 帽子で目元を隠しながらゲートを開く。
 猟兵達の強さを見せてくれると信じて……。


グラサンマン
 おはこんにちばんは、グラサンマンです。
 今回の依頼はダークセイヴァー辺境の森。それでは説明と行きましょう。
『一章』
 冒険。森の奥を目指す猟兵達。そこで聞こえてくるのは獣の声……やがてその声は貴方のよく知る者の声となり貴方に何かを訴えかけるでしょう。
 プレイングに何者の声なのか、訴えてくる内容は何かを自由に盛り込んでください。内容は健全な範囲ならば得に制限しません。

『二章』
 集団戦。ゴーレム君です。断章にも追記しますがゴーレムの他に、幻視された猟兵達の関係者が襲ってきます。幻視なので実際にはゴーレムが相手となります。既知の姿との戦闘を思い思いに繰り広げて頂ければと思います。

『三章』
 ボス戦。元凶です、此方は姿は変わらずとも幻聴を発しながらの戦闘となります。姿はオブリビオンなのに既知の声を発しながら襲ってくる……怖いですね。
 一章、二章で幻視・幻聴を振り払って侵攻出来ているのならば此方でプレイングボーナス(振り直し)が発生いたします。

 以上となります。三章通して断章を挟んだ後のプレイング募集となります。それでは皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『異端の森』

POW   :    異常な特性など関係無いと、力業で突っ切る。

SPD   :    異常を避けながら、速やかに森を抜ける。

WIZ   :    森の特性を調べあげ、対策をとった上で森を進む。

イラスト:みささぎ かなめ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 しんしんと静まり返る森の道中。その声は突然に猟兵達の耳元へ語りかけてくるだろう。
 それは獣の遠吠え、或いは家族の叫び。
 それは奥へと誘うまやかしの咆哮、或いは友の優しい誘導。
 耳朶を伝い脳に響く声は貴方がよく知った物である。
 立ち止まるか、進むか、受け入れるか、拒絶するか……全ては貴方次第。

 物語を始めるとしよう。
万象・穹
私は他の世界……というよりその世界の境界に棲まう存在だけど……そういう存在さえも惑わしてくるのね。

……聴こえる。これは……私の主の声ね。

あの時はびっくりしたわ。まさか、私たちの棲まう領域に続く門を自らの魔力そのものでこじ開けてくるなんてね。

……そう、あの時と同じように言うのね。「ボクと一緒に、世界を見に行こうよ」って。

どこまでも純真で、どこまでも愚直で……でもだからこそ、この小さな存在を護ってあげようと思ったの。

あなたは私の主じゃない。手を差し伸べてくれたのは、幻の手じゃない。私と同じような小さくて暖かい手だったのよ。

UC発動、私の看破の魔眼はあらゆる異質を見抜く。幻聴を振り払うわ(破魔)



●果てなき世界の外側から
「これは……空間の隔離……?」
 否、それは万象・穹(境界の白鴉・f23857)の脳が錯覚している幻聴、視覚さえも騙す森の罠。
「この世界に住まう者とは関係無しに惑わすのね……獣……いえ、これは」
 世界の境界『幽世』の存在を知る敵というのは考えにくい、では……この聞こえてくる声は。

 ──穹……穹……

「主の、声……」
 昨日の事の様に鮮明に思い出せる彼との記憶、穹が棲う領域、到達する事自体も困難なそこに一人の魔道士がやってきたのだ。
「どうやって……と聞いても笑って誤魔化すのよね」

 ──共に……一緒に……

 門を魔力でこじ開け惚けていた穹に差し伸べられる手、優しくも小さい掌は暖かく彼女を包み込む。
「どこまでも純真で、どこまでも愚直……でも、だからこそ、この小さな存在を護ってあげようと思ったの」
 もう二度と彼から大事な物を喪わせたりしない。この『銀の星』である万象、白き鴉である穹が彼の往く道を照らすのだ。八咫烏と銀の星、二つが揃えば彼に不可能は無い。

 ──世界を……見に……

 風の音と共に流れてくる声は進むごとに鮮明に、はっきりと耳に届く。揺れる葉と葉の擦れは何事も無い森の日常を奏でる、ただ一つ、脳に響く主の声だけがその場に違和感を与えるのだろう。

 ──ボクと一緒に、世界を見に行こうよ

「…………そう、あの時と同じように言うのね。変な感じ、同じ声音で言われたというのに出会った時とは全然違う感じに聞こえる」
 アニヒレート、穹の持つ看破の力を宿す魔眼はこの空間の異質を見抜く。
「あなたは私の主じゃない。手を差し伸べてくれたのは、幻の手じゃない」
 響いていた青髪の魔道士の声はやがて獣の咆哮となりて木霊する。宿るのは悲しみか、怒りか、どちらにせよ穹は幻惑の道を立ち止まる事無く進むだろう。
「私達の『一番目』が帰りを待っているの……こんな所で立ち止まる必要は無いわ」
 共に在るだけでは無い、絶望を知った魔道士を護る為、また何もない存在になってしまったなんて言わせない為に……
 本当の意味で彼と共に歩む事を穹は望む。
「退屈な世界から解き放ってくれた主、あの時を思い出させてくれた事だけは……よかった」
 自分の事ながら普段より饒舌だな……と思いつつ彼女は森の奥へ足を踏み入れるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
周囲をキョロキョロ見回して
他の猟兵の様子を探る
微妙に何かを堪える仕草を見せる仲間に
心の中だけでなるほどと思う
何もない者と言うのは
本当に極少数であるようだ
様子を違えた者をほんの少しだけ羨ましく思いつつ
だからこそこういう仕事向きなのだとも思う
狂気という属性を防ぐだけで
これが森のざわめき神の妄執の声にしか聞こえない猟兵は

書割以下にしか思えなかった死の都
顔の区別もつかなかった死者の山
誰にも話しかけれず地下の座敷牢のような部屋で育っていなければ
こういう時に喚ぶ声もあったのか

帝都で桜花を拾って店子にしてくれた矍鑠とした遣り手婆ぁが
もしも死んだら自分を喚ぶようになるのだろうか

呼声の強まる方角へただ歩いていく



●鳥は仄暗いの籠の中で何を見るか
 葉の擦れる音が聞こえる、風が草の匂いを乗せて御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の頬を擽りながら通り過ぎる。
 説明を受け、この地へ送って貰って暫く歩いているが、件の声は聞こえてこない。それどころか獣の声さえも来ないではないか。
「(皆様の様子にも変わった所は見られませんね……)」
 御行儀は悪いかもしれないと自覚しつつも横を歩く猟兵の姿をちらりと覗いてみるも特に変化は見られない。
「(予知が起こっている以上何かしらあるのでしょう……あら……?)」
 聞こえてきた。
 先程まで鳴っていた葉の音が潜み、遠くから何か……獣の様な鳴き声が確かに聞こえてくる。
 他の方の耳にも届いているでしょう、と振り向いてみれば俯き何かを堪える仕草をしている猟兵達。
 あぁ……何も無いという者はこの場では少数なのか。
 心中でなるほど、と頷き納得する。羨ましいと思う気持ちは否定できない。
「(だからこそこういう仕事向けなのかもしれませんが……)」
 僅かに頭を下げて地に視線を移す。聴覚に神経を注いでみてもやはり流れ込んでくるのは森のざわめきと獣……神の妄執。

 何か無いか、ふと思い浮かべるのは猟兵となる以前、初めて太陽の光に目を眩ませたあの日の事。
 元は雅な建物内であったのだろう、素晴らしい景色だったのだろう、想像の中でしかないが全てを蹂躙され書割以下にしか思えなくなってしまった死の都。
 周囲を倒れ腐敗する死者の山。ついぞ最後まで話す事の無かった者達は物言わぬ骸となりて大地へ還るのか。
 誰かに話しかけられず、話しかけれず……地下の座敷牢のような部屋で育っていなければこういう時に己を喚ぶ声もあったのだろうか。
 何処に、誰に向けてかは本人も知らず目を逸らす。もう、終わった事なのだから。

 置いておこう、と思考の片隅に追いやった時にふと別の事を思い浮かぶ。
 帝都に住まう矍鑠とした婆ぁ、ふらふらとさ迷い歩いていた己を拾い、店子にしてくれた女性。
 もしも、もしも彼女が死んだとしたら、自分を喚ぶ様になるのだろうか。

 今考えても仕方の無い事、顔を上げ前を見る。神の鳴き声は未だ止まず大きくなるのみ。
 生きる先、己の声が喚ばれる者は居るのか。
 ほんのりとそんなことを考えながら、桜花は呼声の強まる方角へただ歩いていく

成功 🔵​🔵​🔴​

ファリス・エクナーネ
「求められているということ自体は良い事なのではないでしょうか?」
拒絶されるよりは、やはり必要とされたいから。もっとも、食欲的な意味で求められるのは困るけれど。
他者に害を与える神なら排除しないといけないわね。それで人々が住む場所が確保できるというのなら尚の事よ。

『ファリス、先日はご苦労様』
この声は我が主……?いえ、この森では幻覚があるのでしたね。
『疲れているだろう?こちらに戻ってゆっくりお休み』
う……。それが真実であるならば今すぐにでもそうしたいのですが。まだ短い期間とはいえ、この体では苦労が絶えず、もどかしい思いを幾度もしたのだから。
この声が本物にせよ、罠にせよ、奥に進むしかないわよね……。



●主よ、其の祝福を此処に
「求められているということ自体は良い事なのではないでしょうか」
 ふと呟いてみる。周囲の猟兵達には聞こえていなかったのか反応が返ってくる事は無かった。
 転送してもらう前、案内役の言葉を思い出す。求められる事……ファリス・エクナーネ(ポンコツ修道女・f25090)にとってそれは決して悪い意味に捉える必要は無いと思考する。
「(そりゃ食欲的な意味で求められるのは困るけれど……)」
 誰であれ拒絶される、という事には一定の忌避感があるだろう。この獣のような咆哮は私達に何を求めているのか、受け入れてほしいのか……分かるはずも無いしこの先も分かる事も無いのかもしれないけれど、出来うることなら聞いてみたい……興味本位という物は尽きないなと思いながら歩いていた。

 ──ファリス、先日はご苦労様。

「(おぉう?……あぁ、そう言えばこの森では幻覚があるのでしたね)」
 それは突然に、唐突に聞こえてきたものだからファリスも驚き視線だけキョロキョロと辺りを覗き見る。特に変化は無い、この声を聞こえているのは自分だけなのだろうか、様々な疑問もない訳では無いが今は置いておこう。

 ──その慣れない身体での生活、疲れているだろう?

 疲れている、疲れているし苦労する事も多い。何より元来持ち合わせていた力が使えないばかりか人間の器としての能力も発揮出来ないのがもどかしい。あの頃ならば、この身体で無ければと思ってしまうのがなんとも嫌な気持ちにさせられるのだ。

 ──戻っておいで、こちらでゆっくりとお休み。

 敬愛する主の声、森の罠、幻聴と言われていてもぐらついてしまう程にはファリスの心は本人も知らず内に摩耗していた。
 銀の瞳は物憂げに揺れて虚空を見る。

 ──充分に頑張ってる、ここで休んだとしても誰も怒らないさ。

 あぁ、欲しい言葉を掛けてくれるこの声はきっと私の中で生まれた主であり、欲というものなのだろう。
「(この声が本物にせよ、罠にせよ、奥に進むしかないわよね……)」
 溜息を吐けども見える光景は立ち並ぶ木々のみ、なんにせよここで立ち止まるには早すぎる。
「まぁ、少なくとも今帰ったとしても……見識を深める事は出来た、とは言えませんか……」
 流れてくる声をそのままにファリスは足を進める。この身体になってそう長い時は経ってないが自然と思うのだ。

 主の声を聞くのも久しぶりだな、と……

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
慣れた声は親友でも恋人でもなく、自分の親代わりで先生で尊敬してやまない劇団の団長だった

猿顔で痩身で背が低くて
くりっくりの茶髪ショートヘア
ヨガやってるから所作もしなやか
そのくせ茶目っ気たっぷりなんだよなぁ
本当、50過ぎとは思えない綺麗で活発な女性だよ

遠からず劇団止めようと思ってる私にはきつい幻想だ
しーちゃんしーちゃん言わないで下さいよ、私もいい歳ですよ……
やらなきゃならないことがあるんです
その為に邁進しなきゃならんのです
私でト書きしたって正気ですか、もう舞台には立たないって言ったのに

……全部終わったら戻ってきますよ
ええ、約束です
おっきな箱(舞台)用意しといてくださいね
(大嘘。帰る気は一切ない)



●演者の居ない舞台
「まいったねこれは……」
 親しい者の声が惑わしてくるという森、猟兵となって幾許か……良きにしろ悪しきにしろ様々な経験を経てきた鈴木・志乃(ブラック・f12101)、自身にもそういった近しいと呼べる誰かの声が聞こえるかと多少の興味と警戒を滲ませた心持ちで森を歩いていたのだが。
「まさか貴女がくるとはね。いや、やはりと言うべきなのかもしれないけど」

 ──しーちゃん……

「やめてくださいよしーちゃんは……私も良い歳ですよ……」
 このご老体は……否、ご老体とは失礼だろう。背は低めで痩身な体躯だが五十過ぎとは思えない程の美麗な髪質に、ヨガで鍛えられたしなやかな所作。茶目っ気多いがその声は良く通り離れていてもよく聞こえる。特別に大きな声、特殊な声質という訳でも無いのに直ぐ団長と分かるのだ。
「団長……」
 そう、志乃は直ぐに分かった。森の声の主は親友でも恋人でもなく、自分の親代わりで先生で尊敬してやまない劇団の団長だった。

 ──しーちゃん、しーちゃん。聞いてるの?

「えぇえぇ、聞いておりますとも」
 あぁ、幻覚まで見えてくるのか。はたまた懐古した脳が錯覚を起こしているのか。白い靄がかった森の中、眼前に見えるのは忘れる筈も無い見慣れた姿。
 記憶領域を揺さぶられ現れたのであろう幻覚。実際に団長が現れ声を発しているのでは無い、志乃の記憶というフィルターを通り『そういう声』として聞こえてくるのだろう、正に幻聴というものだ。
 遠からず劇団止めようと思ってる志乃にとってはなんともきつい幻聴であり幻覚だ。何故彼女なのか……
「いや、だからこそ貴女が現れたのかな」
 親友と恋人、双方共に志乃にとっては団長に負けじと大切な存在である。その中で彼女が出てきたのは。

 ──しーちゃん見て、ここからここまでのト書き、しーちゃんなら問題無いでしょ?

「正気ですか、もう舞台には立たないと言ったのに」
 確かに言い伝えた。彼女もそれに対して納得したのかはさておきとして頷いた筈なのに。
 それは……
「私の中の記憶、か……」
 或いは未練の残滓。望んだ言葉なのかもしれない。
「やらなきゃならないことがあるんです」
 後悔しない為に。
「その為に邁進しなきゃならんのです」
 先にある笑顔の為に。

 ──しーちゃん、待ってるからね。

「えぇ、全部終わったら戻ってきますよ」

 ──本当?

「約束です。おっきな箱、用意しておいてください。一仕事終わったら向かいますから」

 ──待ってるからね。

 広がる視界、靄が晴れていく。相も変わらず聞こえてくるのは団長の声……では無く獣の咆哮。
 幻聴とはいえ帰る気も無いのによくもあんな事言えた物だ、と心中で苦笑しながら歩みを進めていく。演者では無く、猟兵として。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルパート・ブラックスミス
【POW】
此度はニクス(爆槍フェニックス)も置いて独りきり。
【狂気耐性】のもと俯瞰的に誘いの声を聞き【情報収集】、【覚悟】をもって森を進む。

こっちだ、と誘う仲間の声がする。
幻聴だ。今は独り、仲間はいない。

抗ウな、といつか会った神の声がする。
幻聴だ。あの神は他ならぬ自分が生命の『巡り』に還した。


いつも一緒よ、と。『聞き覚えのないはず』の女の声がする。
…幻聴だ。自分は人間としての命と共に何もかも喪ったのだ。
事実、今の『俺』はこれが誰の声なのかわからない。
記憶の喪失、大切なソレを忘れて生きている罪悪感から…そう聞きたいだけだ。

幻聴だ。何もかも、幻聴なのだ。
【アドリブ歓迎】



●蒼炎
 ニクスを置いて立つ、というのも久方振りだろうか。相棒として共に在る事が当然の様に感じてそこだけが少し手持ち無沙汰に思ってしまう。
 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は金属の擦れる音を鳴らしながら足を踏み入れる。
 歩みを進めていけば聞こえてくるのは獣の咆哮、やがてそれは何者かの声になる。

 ──こっちだ、此方へ来い

 幻聴だ、今は独り、仲間は居ない。

 ──抗ウな……我ハ……命ノ剪定者

 幻聴だ、あの神は他ならぬ自分が生命の『巡り』に還したのだから。
 ここまで特に問題は感じられない。脳、記憶領域を揺さぶりそう聞こえてくる様に見せているのか。狂気という感情の振り幅は生憎と持ち合わせていないが、なんの為に奥に居るであろう堕ちた神はこの森で惑わせ続けるのか。
 気にしても仕方ないと分かっていてもこれが性分なのだ。性分、それは果たして今の自分なのか、それともかつて喪う前の自分のものなのか。詮無き事、しかし蒼炎の中、己の最も深く濃い部分の隅でそれはゆっくりと燃え続けている。

 ──いつも一緒よ

 ……幻聴だ。自分は人間として生命と共に何もかも喪ったのだから。肉体も、心も、記憶も……

 ──貴方の傍に

 聞き覚えのないはずの女の声がする。あの時から今ここに立つまでに聞いた誰の声とも違うもの。
 事実、今の俺はこれが誰の声なのかわからない。

 ──忘れてしまったの?

 そうだ、自分は何もかも失くしてしまったのだから。
 違う、忘れる筈が無い。そう俺の魂が己に語り続ける。
 仮初とは言え仲間の助力で身体を得た、猟兵として動く内に様々な世界を、光景を目にした。動く世界は見ていて飽きなければ、共に体感していく事で確かな生きる楽しみとなった。
 決して目を逸らしていた訳では無い。過去を見続けているだけなんて誰も望んでは居ないのだから。

 ──本当に?本当にそう思っているの?

 わかっている、記憶の喪失、俺は大切なソレを忘れて生きている罪悪感から……そう聞きたいだけだ。
 だから、『知らない』声で俺を呼ぶのはやめてくれ。
 幻聴だ。何もかも、幻聴なのだ。

 ルパートは金属の擦れる音を鳴らしながら、歩み続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

エルザ・メレディウス
▼カマル・アザリーさんと一緒に行動します
*POWを使用します。森に異常などは無いと自分に言い聞かせて、力強く森へと踏み出すための心構えに過ぎないかもしれませんけれど。。


・最初は、二人で森の中を進んでいきます...途中から聞こえてくる獣の声に誘われるように、徐々にカマルさんの姿を見失い、気付けば一人だけで森の中に。
◆獣の声と内容
獣の声は、良く聞けばそれはカマルさんと似たモノへ。復讐はやめて、一緒に...安らかな時を・・・と彼女らしい心地の良い優しい声で私に囁いてくれています。
過去の復讐に沿いたい気持ちと、カマルさんとただ日常を生きたい気持ちに揺れ動きながら森の中を進みます


カマル・アザリー
【pow】
ではエルザ先輩と共にいきましょう
どうも怪しいどころか危険な気配がしますね……
何か吠えるような声が聞こえてきますね。先輩……あれ?先輩どこ行っちゃいました?もしかしてはぐれちゃいました!?
落ち着いて探さなきゃ。あ、先輩の声だ!よかった……え?手を貸して?皆殺し?いや、一体何を仰ってるのかな私……そんな!やめてください!先輩はそんなことを……言うはずがありません!
あ!先輩見つけました!よかった、復讐とか何とかって先輩の声が話してたので。先輩はそんなこと考えたりしてませんよね?ね?



●光か闇か、陽だまりか小陰か
「それではエルザ先輩行きましょう!」
「えぇ、宜しく御願いします」
 エルザ・メレディウス(復讐者・f19492)、カマル・アザリー(永遠の月・f16590)は並んで森の中へと足を踏み入れる。
「特に変わった様子は見られませんね?」
「油断せず、ですよ。声が聞こえるとの事でしたがもう少し奥へと進まないとなのでしょうか……」
 カマルの平時と変わらない調子を見て緩みかける思考を引き締めるエルザ。どうにもあの日、二人でクッキーを作ったクリスマスの日から心が御しきれない事を自覚している。誰の、何のせいでも無い、思い出すだけで暖かな気持ちがエルザの中でホワホワと生み出されるのだ。
「……先輩!」
 ハッと意識を現実へ戻すと聞こえるのはカマルのこちらを呼ぶ声、そして気づくこの森の異質さ。
「……咆哮?これが……」
「油断せず、ですよ先輩!呼んでいるというのなら遠慮せずに向かいましょう!」
「もう……ごほん……えぇ、行きましょう」
 イタズラに成功した様な茶目っ気のある笑顔を浮かべながらエルザの言葉の真似をするカマルにまた暖かな感情が心を包ませるが、今は依頼中、緩んだ己に喝を入れて足を進める。
「怪しいどころか危険な気配がしますね……さっきまでとは全然違う……」
 呟きながら歩くカマル、張り詰めた空気が獣の咆哮によって破られる……この繰り返しは確かに精神に大きな負荷を抱える事になるだろう。
「先輩、多分ここからが本番……幻聴が聞こえてきても……」
 反応が無い、と後ろを振り返ってみれば。
「……先輩?」
 そこには何者も立っては居なかった。

 同時刻、同じくはぐれたことに気づいたエルザは焦燥感に身を燻らせながら歩く。
「(カマルさん……体感でそう長い時は見失っていない筈、近くには居る筈なのに……)」
 下手に動かずに待つかとも考えたが、周囲からは彼女の気配すら感じられず捜しに動いた方が良いと判断。入れ違いを防ぐ為に声を出しながら捜索を開始する。

 ──……先輩……先輩

 やがてここまでずっと聞こえていた獣の鳴き声が潜み、『先輩』と耳朶に響く慣れ親しんだ声に振り向けばそこには誰も居らず。

 ──復讐はやめましょう?

 復讐、そうだ復讐だ。その為に彼女は猟兵になったのだし、エルザの生きる意味その物だった筈なのに。

 ──そして……一緒に安らかな時を過ごしましょう?

 これは幻聴だ、わかる、わかってしまう。何故なら心の底で生まれた暖かな気持ちが同じ事を語り掛けてくるから。
 怨恨の誓いを己の中で打ち立てたあの日からずっと、雁字搦めになった感情をカマルがゆっくりと解し取っていってくれた。その手を取りたい、彼女の隣で陽だまりの日々を共に在りたい。願いは欲となってエルザの心の中を占めていく。

 ──止まってはくれないのですか?この手を取ってはくれないと?

 取りたい、取りたいに決まっている。心に占めていた復讐という闇をカマルという灯りが照らしてくれた。写真を撮った日、楽しい思い出を一緒に、と言った言葉は嘘では無い。
 だが、それでも……
「私は復讐者なのです……」
 明るくなっても影が消える訳では無い。闇を果たす為にここまで生きてきた。過去を消し去る事なんて出来ないのだから。
 陽だまりと小陰、自らの想いに葛藤しながらエルザはカマルの元へ。その瞳からは、いつの間にか透明な雫が流れ落ちている事に彼女は気づいていない。

「先輩……あれ? 先輩どこ行っちゃいました?もしかしてはぐれちゃいました!?」
 所変わり、エルザとはぐれ周囲を捜しまわるカマル。獣の咆哮以外は変哲もない森という事実が却って不安を煽る。
 焦りは禁物、向こうもこちらを探していると仮定して耳をすませながらエルザの名を呼び続ける。

 ──カマルさん……

「先輩の声……!」
 よかった、と声を出しエルザの姿を捜す。

 ──カマルさんに手を貸して欲しい事があるのです。

「え?なんでしょう……とりあえず合流しましょうよ!」

 ──私の復讐を共に……貴女と一緒に彼等を皆殺しに……私の悲願、叶え……

「復讐……?一体何を仰ってるのかな……これは、先輩じゃない……?会話になってない」
 エルザの声で流れてくる言葉は、普段の彼女からは聞きそうにも無い復讐という物。
「やめてください! 先輩はそんなことを……言うはずがありません!」
 同時にカマルは一つの疑念を己に問うた。
「(本当に……? 私はエルザ先輩の全てを知っている訳でも無いのに。たまに見せる寂しそうな、今にも消えてしまいそうな笑顔を、私が照らしてあげたいとは思っていた……だけど、私はまだエルザ先輩の全てを知っている訳では無い)」
 彼女はカマルに弟の面影を感じると言っていた。彼女の故郷にもお邪魔する約束もした。
「(全てを知る訳ではないけれど……今のエルザ先輩を一番知っているのは私……の筈です!)」
 首を振り心の中のしこりを吹き飛ばす。今は悩む時間ではない、眉をひそめ脳に響く声から意識を離す。

 開けた道を歩くと見える人影。
「先輩!」
「カマルさん……! 無事でよかった……」
「良かったです! 先輩の声で復讐とかなんとか聞こえてきたから……」
 エルザは軽く目を見開きカマルの顔を見る。伏せていたので気付くことも無くカマルは続ける。
「先輩はそんなこと考えたりしてませんよね?ね……?」
「……今は先を急ぎましょう。落ち着いたら、ね?」
 またこの表情だとヤドリガミの少女は思う。振り返り前を歩くエルザの背をカマルは追いかけるのだ。
 陽だまりか、小陰か。二人の想いが重なる日は何処に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
―― サワサワサワ

森の声

―― サワサワサワ

私の耳に聞こえるのは森の声

『― ディアナ…』

森の声とは別に響く、懐かしい声が
嗚呼、それを私はよく知っている

懐かしい声

柔らかく笑むと深く刻まれる皺、優しい瞳
真っ白い髪の――
私を拾い、慈しみ育ててくれた人

…お爺ちゃん…でも、私は知っている
彼の老人は自分が最期を看取った
失われる温もり。冷たくなった身体
確かにこの手で埋葬したのだから

『― ディアナ…おいで…』

…私を呼んでいるの?何処…何処に、いるの…?
(ふらりと誘われるように声が聞こえる方に歩き出す)

オブリビオンと分かっていても、声を聞きたくて応えてしまう

さあ―何処に、居るの―お爺ちゃん?(紛い者は、壊すから)



●光か闇か、陽だまりか小陰か
「それではエルザ先輩行きましょう!」
「えぇ、宜しく御願いします」
 エルザ・メレディウス(復讐者・f19492)、カマル・アザリー(永遠の月・f16590)は並んで森の中へと足を踏み入れる。
「特に変わった様子は見られませんね?」
「油断せず、ですよ。声が聞こえるとの事でしたがもう少し奥へと進まないとなのでしょうか……」
 カマルの平時と変わらない調子を見て緩みかける思考を引き締めるエルザ。どうにもあの日、二人でクッキーを作ったクリスマスの日から心が御しきれない事を自覚している。誰の、何のせいでも無い、思い出すだけで暖かな気持ちがエルザの中でホワホワと生み出されるのだ。
「……先輩!」
 ハッと意識を現実へ戻すと聞こえるのはカマルのこちらを呼ぶ声、そして気づくこの森の異質さ。
「……咆哮?これが……」
「油断せず、ですよ先輩!呼んでいるというのなら遠慮せずに向かいましょう!」
「もう……ごほん……えぇ、行きましょう」
 イタズラに成功した様な茶目っ気のある笑顔を浮かべながらエルザの言葉の真似をするカマルにまた暖かな感情が心を包ませるが、今は依頼中、緩んだ己に喝を入れて足を進める。
「怪しいどころか危険な気配がしますね……さっきまでとは全然違う……」
 呟きながら歩くカマル、張り詰めた空気が獣の咆哮によって破られる……この繰り返しは確かに精神に大きな負荷を抱える事になるだろう。
「先輩、多分ここからが本番……幻聴が聞こえてきても……」
 反応が無い、と後ろを振り返ってみれば。
「……先輩?」
 そこには何者も立っては居なかった。

 同時刻、同じくはぐれたことに気づいたエルザは焦燥感に身を燻らせながら歩く。
「(カマルさん……体感でそう長い時は見失っていない筈、近くには居る筈なのに……)」
 下手に動かずに待つかとも考えたが、周囲からは彼女の気配すら感じられず捜しに動いた方が良いと判断。入れ違いを防ぐ為に声を出しながら捜索を開始する。

 ──……先輩……先輩

 やがてここまでずっと聞こえていた獣の鳴き声が潜み、『先輩』と耳朶に響く慣れ親しんだ声に振り向けばそこには誰も居らず。

 ──復讐はやめましょう?

 復讐、そうだ復讐だ。その為に彼女は猟兵になったのだし、エルザの生きる意味その物だった筈なのに。

 ──そして……一緒に安らかな時を過ごしましょう?

 これは幻聴だ、わかる、わかってしまう。何故なら心の底で生まれた暖かな気持ちが同じ事を語り掛けてくるから。
 怨恨の誓いを己の中で打ち立てたあの日からずっと、雁字搦めになった感情をカマルがゆっくりと解し取っていってくれた。その手を取りたい、彼女の隣で陽だまりの日々を共に在りたい。願いは欲となってエルザの心の中を占めていく。

 ──止まってはくれないのですか?この手を取ってはくれないと?

 取りたい、取りたいに決まっている。心に占めていた復讐という闇をカマルという灯りが照らしてくれた。写真を撮った日、楽しい思い出を一緒に、と言った言葉は嘘では無い。
 だが、それでも……
「私は復讐者なのです……」
 明るくなっても影が消える訳では無い。闇を果たす為にここまで生きてきた。過去を消し去る事なんて出来ないのだから。
 陽だまりと小陰、自らの想いに葛藤しながらエルザはカマルの元へ。その瞳からは、いつの間にか透明な雫が流れ落ちている事に彼女は気づいていない。

「先輩……あれ? 先輩どこ行っちゃいました?もしかしてはぐれちゃいました!?」
 所変わり、エルザとはぐれ周囲を捜しまわるカマル。獣の咆哮以外は変哲もない森という事実が却って不安を煽る。
 焦りは禁物、向こうもこちらを探していると仮定して耳をすませながらエルザの名を呼び続ける。

 ──カマルさん……

「先輩の声……!」
 よかった、と声を出しエルザの姿を捜す。

 ──カマルさんに手を貸して欲しい事があるのです。

「え?なんでしょう……とりあえず合流しましょうよ!」

 ──私の復讐を共に……貴女と一緒に彼等を皆殺しに……私の悲願、叶え……

「復讐……?一体何を仰ってるのかな……これは、先輩じゃない……?会話になってない」
 エルザの声で流れてくる言葉は、普段の彼女からは聞きそうにも無い復讐という物。
「やめてください! 先輩はそんなことを……言うはずがありません!」
 同時にカマルは一つの疑念を己に問うた。
「(本当に……? 私はエルザ先輩の全てを知っている訳でも無いのに。たまに見せる寂しそうな、今にも消えてしまいそうな笑顔を、私が照らしてあげたいとは思っていた……だけど、私はまだエルザ先輩の全てを知っている訳では無い)」
 彼女はカマルに弟の面影を感じると言っていた。彼女の故郷にもお邪魔する約束もした。
「(全てを知る訳ではないけれど……今のエルザ先輩を一番知っているのは私……の筈です!)」
 首を振り心の中のしこりを吹き飛ばす。今は悩む時間ではない、眉をひそめ脳に響く声から意識を離す。

 開けた道を歩くと見える人影。
「先輩!」
「カマルさん……! 無事でよかった……」
「良かったです! 先輩の声で復讐とかなんとか聞こえてきたから……」
 エルザは軽く目を見開きカマルの顔を見る。伏せていたので気付くことも無くカマルは続ける。
「先輩はそんなこと考えたりしてませんよね?ね……?」
「……今は先を急ぎましょう。落ち着いたら、ね?」
 またこの表情だとヤドリガミの少女は思う。振り返り前を歩くエルザの背をカマルは追いかけるのだ。
 陽だまりか、小陰か。二人の想いが重なる日は何処に。

成功 🔵​🔵​🔴​


提出ミス申し訳ありません。
ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)様のリプレイは此方になります。

●還りましょう、あの時、あの場所へ
 ──サワサワ

 森の声

 ──サワサワ

 私の耳に聞こえるのは森の声。
 此処は彼処とは違うけれど、葉の擦れや風の流れる音は似ているなと何処か思いを馳せてしまう。

 ──『ディアナ』

 森の声と別に響く声、懐かしい想いが、あの時の思い出が胸中をほんのりと熱くする。
 嗚呼、それを私はよく知っている。

 懐かしい声

 ふと手を天に翳してみれば、今でもその感触を覚えている。柔らかく笑むと深く刻まれる皺、私を慈愛の心で見てくれた優しい瞳。
 真っ白い髪はサラサラと雪のように綺麗で。

 ──何をしているんだい。

 貴方の真似事、歩んだ道を私もなぞっているの。価値も、場所も、記憶さえも喪ってしまった私を拾い、慈しみ育ててくれた貴方の跡を私も追いたかった。
 汚れた手を躊躇いもせずにそのしわくちゃで優しい手は取ってくれた……だからこそ今ここに私は立つ事が許されているのよ。

 ──だがその道は決して楽な物では無い。

 えぇ、わかっているつもり。妄執な美を騙る領主を下し、願いを顕在化させる妖精とも戦った……あの時に言い出せなかった想い今なら言えるわね。
 もう一度、その手で頑張ったねと撫でて欲しい。猟兵になって出会った素敵な経験をたくさん師父に聞いて欲しい。
 叶わぬ願いだと分かっていても、理解していても、私の心の中には何時も貴方が居る、手を握る事さえ、出来ないの。
 夢の中だけでもと想う度に出てくる光景。私が看取った貴方の最期。失われる温もり、冷たくなった身体は確かにこの手で埋葬したわ……
 優しい瞳から光が消えて、物言わぬ身体は私に夢を見る事さえ許してはくれなかった。それでも貴方が生きていたという証を、軌跡を私も歩きたいと願い頑張ったのよ?

 ──あぁ……そうだね、ディアナはよく頑張っているよ。

 そうでしょう? そうでしょう?

 ──ディアナ、撫でてあげよう。此方においで。

 私を呼んでいるの? 何処……何処に、居るの……?
 分かっているの、これがまやかしだなんて。師父を看取り、最期まで共に在ったのは誰でもない私なのだから。オブリビオン……人類の敵、分かっていても……私はその声を求めてしまう。

 ──そう、良い子だ……おいで……

 何処……? 何処……?
 何処に……居るの……? ねぇ、お爺ちゃん……?
 声だけでは足りないわ、早く逢いたい。逢いたいのよ。
 姿を見せて頂戴。

 ────「紛い物は、壊すから」
護堂・結城
おーおー、聞こえやがる
あんたはいる世界が違うし自分の幻聴なんだろうけど

ま、とりあえず偽物でもイラついたから八つ当たりで殲滅確定だ

【POW】

よーく聞こえるさ我が姉弟子、我が宿敵、不浄殺し
外道を、この世の不浄を殺すべし。そういっていたお前がオブリビオンになって
なんでもかんでも不浄って言いながら殺しまわるのは驚いたがね

ユキが戦う術と力をくれたっていうなら
あんたがくれたのは戦う意味だったか
だから…

――外道狩りなんて不毛な事、やめてもいいじゃない
――ここで幸せに暮らせばいいの

例え幻聴でも、その声でそれを言うのは許さない

絶対に言わないようなことを聞かせるとは、侮辱か?
終わった者を悪用する外道は…殺す



●外道に慈悲は無し
「獣の声……奥へと誘ってるのか……?」
 護堂・結城(雪見九尾・f00944)、妖狐である彼が耳を澄ませて聴く咆哮は如何なる感情が混ざっている様にも、何も感じられない虚無の様にも聞こえるのだ。
「怒りじゃあない、哀しみでも喜びでも無い。子供のように無軌道で感情を吐き散らかせているのか」
 本能か、理性を以て読ませない為か、だが如何なる呼び掛けも結城の心が揺れる事は無いだろう。
「おーおー聞こえてきやがったな」

 ──そこに居るのね。

「あぁ聞こえるさそっくりさん。居る世界も違うし思ったより似た声はしているが幻聴だってのはわかる」
 そうだ、幻聴に惑わされず断言出来るには理由がある。

 ──まだ、続けているのね。外道狩り。

「続けているさ、我が姉弟子……我が宿敵、不浄殺し」
 外道を狩る者、不浄殺し……かつては結城の姉弟子として互いを研磨し、悪しき外道を手に掛けてきた外道狩りの一人であった。
「オブリビオンとなって元の意志も保てず。ただあるがままに不浄を殺すという名目で罪無き人々を殺める……あんた自身が『不浄』になっちまうとは俺も驚いたがね」
 最早あの時の記憶も残滓に過ぎない。既に生物としての生は終わり、僅かに残った本能を元に暴虐する事しか残されて居ない不浄殺し……結城にとって彼女は討伐対象以外の何者でもないのだから。

 ──外道狩りなんて不毛な事、やめてもいいじゃない。

 結城の足が止まる、ここまで聞き流してこれたが、その一言だけはどうにも反応せざるを得ない。
「俺の脳内にある記憶を元に適当に話させているのかもしれん、奇妙な術で読み取り喋らせてるのかもしれない。それはどうでも良いさ……だが……」
 虚空を睨む緑眼に赤みが帯びる。
「例え幻聴だとしても、その声でそれを言うのは許さない」
 ある時は互いに譲れぬ場面で殴り合いもした。初めて一本上回った時は褒めてくれた裏で悔しがり、鍛錬をしていたのも知っている。

 ──ここで幸せに暮らせばいいの。伴侶を悲しませたら駄目よ。

「違ぇなぁ……あいつならそんな事は言わない。絶対に言わないようなことを聞かせるとは、侮辱か?」
 幸せに暮らせば良い? そんな事を彼女は口にしない。言うとするならば……

 “護れるぐらいに強くあれ。何者からも奪わせない為に”

 そうだ、不浄殺しというならばこうでなくてはならない。こんな紛い物の声を許してはならない。
「なんのつもりか知りはしないがお前は狐の尾を踏んだ」
 ユキが戦う術をくれたというのならば、彼女がくれたのは戦う意味。それを踏み荒らすというのならば……

「終わった者を悪用する外道に慈悲は無い……死を以て贖え外道」
 怒りを妖気へと変えて、結城は奥へと歩いていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

花園・スピカ
聞こえてくる青年男性の声はかつて『外になんて出たら穢れてしまう!』と外に出してくれなかった私の元持ち主

私が学園にスカウトされ出ていったあの日、何故貴方は涙を流していたの?
私は外に出られた事を喜べばよかったのか、貴方と同じく泣けばよかったのか…未だ分からず心に引っ掛かったまま

感情が分からない私は欠陥品?
それでも貴方は私を手放さず別れの際に涙を流した…何故?何故…?

激しく心乱すも、青年の「もう穢れた外の世界になんていなくていい。僕と帰ろう」という言葉にはっとする

…外の世界は穢れてなんかいない
人々の優しさや希望に満ちていました

だからごめんなさい、貴方とは帰れません

青年に背を向けて
過去の幻にさよならを



●その涙に目を背けて
『外になんて出たら穢れてしまう!』
 今でもその光景を思い出そうとすると肩を竦めてしまう。
 花園・スピカ(あの星を探しに・f01957)は森の中、重い足取りで先へと進んでいく。
 獣の呻き声が聞こえてくる中、スピカは思う。
「(大切な、人……)」
 彼女にとってそれは誰にあたるのだろうか。友達? ずっと一緒に居てくれたてんちゃん? 猟兵となって交流した仲間達かもしれない。
「それとも……」
 足を止め、空いた手で自らを抱き締める。そんな事は無いと思いながらもまだ自分はあの光景を夢に見てしまうのだ。

『行くな……行かないでくれ……!』
 ──行くな……行かないでくれ……!

 ハッとなって我に返る。聞こえてきた……
「これが……やっぱり出てくるのは貴方なの……」
 記憶と流れ込んでくる幻聴が重なる。僅かに震える足は無意識に後退りしてこの場から逃げ出したくなる。
「(あの星が降り注いだ夜……私は猟兵として覚醒した……どこから調べたのか、学園からスカウトが来た時、私は少し迷った後に首を縦に振った……)」
 スピカの主人は彼女を溺愛していた。それは時として執着と呼ばれる程までに。決して外に出す事は許さず、籠の鳥として長い時を過ごしていた。
「何故あの時、外へ出た時貴方は涙を流していたの……?」
 外に出られた事を喜べばよかったのか、彼と同じく泣けばよかったのか、未だにスピカの心の中で引っかかっているわだかまり。
「(感情の分からない私は欠陥品……? それでも貴方は私を手放さず別れの際に涙を流した……分からない……分からないは……こわい……)」
 何故、その言葉だけが脳裏にこびり付く。

 ──帰ろう……帰ろう……

 やめてほしい、そうやって私を惑わせるのは、分からないという恐怖を抱いたままあそこに戻っても後悔するだけだ。
 恐怖という感情を感情と理解しないままここまで来てしまった少女、だが……猟兵となった彼女は最早檻の中の鳥では無い。

 ──もう穢れた外の世界になんていなくていい。僕と帰ろう。

 浮かび上がる微笑、手を伸ばしスピカが手を取ってくれるという事を信じてやまない顔。
 元主人との記憶……哀しみと同時に流れ込んでくるのは猟兵としての日々。恐怖を上塗りする程の充実した時間。
 今も感情というものはよく分からない、だが分からないなりにもスピカは理解しようとしている。聖夜に友と見た星は彼女の心臓部に暖かな何かをもたらしてくれたのは忘れられない思い出だ。

「外の世界は穢れてなんかいない……人々の優しさや希望に満ちていました」
 それは決別。
「だからごめんなさい、貴方とは帰れません」
 勇気の言葉。
 震える足は確かな一歩として地を踏み前へと進む。
 思い出して欲しい、気づいて欲しい。花園・スピカ、その思いは、暖かな何かとは……

 それはきっと、君自身が生み出した己の感情なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
※幻聴は恋人の芦屋晴久の声で共に生きようと訴えてくる

…ん。困ったわ、本当に貴方の声が聞こえてくるなんて…。
幻聴程度、呪詛で精神を強化すれば事足りるし、そうするべきなんだけど…。

…ええ。私もずっと、ずっと貴方の傍にいたい。
幻と分かっていても、貴方の声を聞き続けていたい。
いつまでも貴方を抱きしめて二人で過ごしていたい…。

…でもね晴久。幻の貴方。
…貴方の声を聞いても喉が渇かないの。
…貴方の気配を感じても我慢する必要が無いの。

五感の全て、第六感が貴方を受け入れても、
彼が私の魂に掛けた呪痕が何より明確に幻の存在を否定する。

…ゆえに、消えなさい耳障りな幻よ。
血の抱擁はこの森を抜けてからするわ。存分に…ね。



●手と手を繋いで
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)、ダークセイヴァーを拠点とし吸血鬼狩りを営む猟兵である。オブリビオンとなった己の姉や両親も自らの手でケジメをつけ、その意志を継ぎながらも今を生きている少女。
「……幻聴程度、呪詛で精神を強化すれば事足りるし、そうするべきなんだけど、ね……」
 こと、ダークセイヴァーの呪詛というならば心得のある彼女にも防ぎ様はある。何故それをしないかと言うと……
「ん、困ったわね……本当に貴方の声が聞こえてくるなんて……」

 ──リーヴァ……リーヴァ……

 ここに居る筈も無く、依頼の終わるまで聞くことは無いと思っていた最愛の恋人……まさかこの様な所で耳に入れる事になるとは思わなかった。

 ──リーヴァ、君の使命は既に終えた筈……

「……ん、確かにそう……なのかしら」
 振り返ってみる、己が何故吸血鬼狩りなんてことを、猟兵となったかを……オブリビオンとなった家族を解放してあげる為、ダークセイヴァーに蔓延る吸血鬼という種をその手で刻む為。まだ秘めた願いはあるが前者は既にほぼ遂行し、後者は自分だけが動かないといけない訳でも無い。
「私の業を……共に背負ってくれると言ってくれたものね」
 彼女の中にはもう吸血鬼狩りだけでは無い。一緒に歩いてくれる恋人が居る。あの時では考えられなかった、自身に大切な人間が出来るなんて。

 ──えぇ……だから私の近くへ……もう、武器を手に取らなくても良いのです……傍で笑っていてくれれば……

 なんて甘い、甘露の様な声、聞いているだけで頬は紅潮し、何時までも己の物にしていたくなる。
「ええ、私もずっと、ずっと貴方の傍にいたい。幻と分かっていても貴方の声を聞き続けていたいの。この胸の高鳴りは……決して止むことは無い……本当よ?」
 虚空に向かって呟くリーヴァルディは何時もの凛々しい猟兵としてでは無く、普通の……恋する少女の顔つきであった。
「いつまでも貴方を抱きしめて二人で過ごしていたい、デートにだって行きたいわ。水族館、また行きましょ? 迷家にもまた二人でお邪魔したいわ」
 優しく、蕩ける様な微笑は楽しそうで、愛らしく、そこに恋人が居るかと錯覚させる程で。

「でも……でもね……?」
 慈しむ様に……
「幻の貴方」
 楽しそうに……
「貴方の声を聞いても喉が渇かないの。貴方の気配を感じても我慢する必要が無いの」
 笑顔の中の瞳は
「五感の全て、第六感が貴方を受け入れても、彼が私の魂に掛けた呪痕が何より明確に幻の存在を否定する」
 幻聴を断ずる。
「故に消えなさい耳障りな幻よ……お遊びはここまで……その首、これから落としてあげるから」

 フフ……血の抱擁はこの森を抜けてからするわ。
 存分に……ね。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『グレイブヤードゴーレム』

POW   :    なぐる
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    ふみくだく
【踏みつけ】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の土塊を取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    さけぶ
【すべてをこわしたい】という願いを【背中の棺群】の【怨霊】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 幻聴は未だに続いているか?
 森の道を越えた先に出た広場、木々に囲まれ薄ら暗い中。
 脈動放つ大地が土塊を放出させながら生まれるは歪な岩人形……ゴーレム。
 貴方達の周囲を囲む様にいでたる自然界の異物、獣の咆哮は一層大きく鳴り響く。
 呼応するかの様に向けられる殺意に猟兵達は如何に対応するのか。

 まだ獣は鳴いているよ。
 聴こえる声は誰の声?

 ──瞳に映っているのは、一体誰?

 ふと気づくだろう、ゴーレムと共に前に立って此方に敵意を向ける存在に。
 夢幻の欠片、貴方はその刃を振り下ろす事はできるのだろうか。
 さぁ、戦闘の始まりだ。
鈴木・志乃
……参っちゃうなぁ
そうですか、貴女と戦闘ですか

んなわきゃねーだろバカ
あの人血は大っ嫌いだからなぁ、間違っても誰かと戦いなんてしたがらんよ
操られてここにいる? それもないな、有り得ない。私はグリモア猟兵の予知に絶対の信頼を置いてるんだ。

……心配だから浄化UC発動
あの見た目を殴るのも辛いしな
さ、団長、舞台の上ですよ
思い切り殺陣やりましょう?

第六感で攻撃を見切り光の鎖で早業武器受けからの念動力と鎖で捕縛、絞殺を狙う
高速詠唱と糸であちこちにワイヤートラップを仕掛け、転倒や捕縛罠を組む

いやぁ、きついきつい……
でも冗談のような本気で昔言ってくれましたよね

操られたら殺してね、って

鎧砕き魔改造ピコハンで殴る


御園・桜花
「…私、随分寂しいモノでしたのね」

UC「桜鋼扇殴打」使用
風の属性攻撃を纏わせた桜鋼扇で敵をぶん殴る
敵からの攻撃は見切りや第六感使用して効果的に盾受け又はカウンターからのシールドバッシュ

喚く遣り手婆ぁの首を一閃する
サクラミラージュの一般人がここに居るわけがないし猟兵なら敵に回るわけがない
もし本当に世界を飛ばされたなら此処がアリスラビリンスでなければ猶おかしい
今まで見送った影朧やオブリビオンに見える影もゴーレムに定着せず、またその間もなく首を一閃し続ける
それは動揺も全くない作業のよう

そして生じる僅かな納得

此処は私にとって非日常で
誰かが私に寄り添う感情をむけることなどないと
私自身が信じている事を



●舞台に咲き誇る紅い桜
「……参っちゃうなぁ、そうですか……貴女と戦闘ですか」
 被っている帽子を押さえながら志乃は溜息をつく。ここまでの道中で聞こえてきた幻聴、その主が眼前に居るのだから仕方ない。
「これは確かに迷い人の気力を削ぐには充分過ぎる、人が寄り付かないわけだ」
 揺らぐ事の無い夢幻、本物と言われても疑うには難しい程の造形、果たしてこれは……
 本当に偽物なのか……?
「ほんと、参った……」
 押さえていた帽子から手をどかし、改めてその姿を瞳に写せば。
「──わきゃねーだろバカ」
 見せるのは強気な笑み、戦意に衰えは無く、静かに構えを取る。
「あの人は血が大っ嫌いだからなぁ……間違っても誰かと戦いなんてしたがらんよ」
 そもそもだ、いくら殺気を放たれようが彼女は彼女の中の団長を信じている。団長の姿をした幻覚の口が動き、合わせて脳内に幻聴が響く。
『どう……して……?』
「操られてここに居る……?幻覚より信じられないな、有り得ないと言いきってやろう。私はグリモア猟兵の予知に絶対の信頼を置いてるんだ、信じなくてどうして依頼へ赴けるのかという話だがね」
 取り出した二冊の魔導書が光を帯びる。志乃の口が式を紡げば風に流れてくる浄化の力。銀貨の雨が幻影を包めばその姿が朧気になり土塊の人形の一部が見えてくる。
「さ、団長、舞台の上ですよ。思い切り殺陣やりましょう?」
 既に此処は舞台の上。
 始まるは命を懸けた演技。
 志乃は地を蹴り、霞んだ幻影へ向かうのであった。

 もう一方、志乃と僅かに離れた広場にて同じく土塊の人形と対面しているのは桜の精である桜花。
 ここに来るまで聞こえては来なかった幻聴、それが今……桜花の耳に鳴り響く。
 婆ぁの事を思考したからだろうか、何故その姿で現れたのか気にはなるが、此方への殺気を感じる限り疑問の解消は後にした方が良さそうだ。
「……私、随分寂しいモノでしたのね」
 その言葉に含まれるのは、自らへの諦念か、他の者への憧憬か。開かれた桜鋼扇をパチンと閉じて婆さまへと向ける。
「纏うは風……どの様な存在かは存じませんが、遠慮なくその首、頂きますね?」
『──っ!!こりゃ桜花!!何をやっとんのか!!』
 あぁ、聴こえる……周りの猟兵達はどの様な気持ちでこれに抗っていたのだろうか。だが改めて思うのだ、聴いて尚、この心は凪いでいる。だからこそ先程の言葉を己に投げかけるのだ。
 ──寂しいモノ
 ……と。
 風の流れを察知、土塊の剛腕が桜織衣を掠る。動きは鈍いのだ、受け流して回避を選択。
「声も仕草も同じ……でも不自然な殺気、ですね」
 扇を横薙ぎに振るい、婆さまの首を一閃。躊躇の無い様は彼女が本物では無いと確信している証左でもある。
「あぁ……やはりまやかし。肉を断つ感触に似せてはいますが、隠しきれない硬質感がありますね」
 断つというより砕かれる、と言った方が正しいだろうか。婆さまの首が落ちてもその口は何かを呟くように動いている。表情さえ変わらないそれは見る者によっては恐怖でしか無いだろう。
『お……う……か』
 首だけとなった婆さまの首を風が押し潰し砕く。
「サクラミラージュの一般人がここに居るはずもありません……幻惑が効かないとあればその幻は不自然な的にしかならないのです」
 ぐにゃり、と姿を変えるゴーレム、それは今まで送った影朧だったり、滅したオブリビオン等様々だ。打ち上げ、袈裟斬り、返す刃で一閃……鈍重な拳を避けて反撃。惑いの言葉を流し聞きながら倒し進んでいく。

「これはこれは……幻影というならば動きも拘って欲しい所だ」
 迫る拳を跳躍で避け、腕を踏み台にし首元へ飛び乗る、袖の中から出した光の鎖をゴーレムの首に巻き体重を乗せて後方へ降りる。己の重さが加わり踏ん張りきれずに倒れたゴーレムを銀の糸を伸ばし拘束。力を込めても切れない糸はそのまま絞まり首を切断する。
「視覚と聴覚にだけ影響があるのか……」
 姿が変わっている訳では無い。あくまで志乃の視覚を騙しているだけなのだ。
 死骸となったゴーレムを起点に銀の糸と光の鎖を伸ばし走る。動きは鈍い、団長の姿で怨霊の力というのも最早違和感しか感じられないと苦笑しながら罠を張る。あちこちでトラップにかかったゴーレム達が倒れる音がする、その中に混ざって頬を擽るのは扇によって生まれた風のささやき。
「おや、合流かな」
「助太刀を……と思いましたが此方も終わりそうですね」
「あぁ、あれがこの付近では最後の二体になる、かな」
 合流した桜花に目配せをしながら鎖を手繰り寄せ拘束。ギチギチと締め付けられる幻影は口を動かし言うのだ。
『──操られたら殺してね』
 志乃は泣き笑いの様な表情を浮かべて。
「いやぁ、きついきつい……今のはちょっとばかし、ね……冗談のような本気で昔言ってくれましたよね
。それをここで聞くことになろうとは」
 砕かれた身体をピコハンでトドメを刺す。その横で桜花もまた、最後の一体、その頭部を扇で貫き砕く。
 戦闘が終わり、桜花は志乃を横目で眺め思う。
 それはここまで来て考えていた事への僅かな納得。
「(此処は私にとって非日常で……)」

「どうかしたかい?」
「いえ……なんでも。お怪我はありませんか?」

「(誰かが私に寄り添う感情をむけることなどないと……)」

「大丈夫、さて……奥へ進もうか。元凶を倒しにね」
「はい、行きましょう」

 ────私自身が信じている事を。

 土塊が大地へと還る。霧散した夢の跡を二人は往く。
 サワサワと、木の葉が風に揺れるのを感じながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ファリス・エクナーネ
「つ、ついに敵が出てきたようですね」
ゴーレムの相手をするのは相性的にちょっと無理よね。それに――
『君は本当に手のかかる子だね。いいからここで休んでいきなさい』
十中八九幻視の産物とはいえ、我が主に武器を向ける事は出来ないわ。
今回も私は足手纏いでしかないの?
……ゴーレムの背後に感じるのは、怨霊の類かしら。あれくらいなら、きっと!

存在を顕わにしている怨霊達に向けて【ジャッジメント・クルセイド】を放ち、浄化を狙います!敵の攻撃手段を潰せるはずよ。
相手の攻撃には無防備だから、攻撃を受けそうな時は杖のレヴレスに受けてもらいましょ。
「いたた……。ごめんなさいね、レヴレス。あぁ、そんなに怒らないでくださいな」


花園・スピカ
十分な衣食住を保証され、乱暴どころか丁寧に扱われ触れられるのも手袋越しの最低限
あるいは他の人形ならば、篭の鳥であろうとその生活に満足できたのかもしれません

でも、外に憧れてしまった私には…もっと知りたいと思ってしまった私には…耐えられなかった

『手に入らないのなら…いっそ君を壊して僕も死ぬ!』と狂気の表情で迫ってくる貴方

…違う

猟兵となった後学園に届いた「君のいた離れ(※現:個人旅団)の鍵は渡しておくよ」と書かれた手紙に同封されていた鍵を握りしめ

手袋もせず私に手をあげる目の前の貴方はあの人じゃない

…この感情は知らない
でも…これ以上私を嫌な気持ちにさせないで…!


【全力魔法】のUCの花弁が激しく舞い散る



●身より湧き上がる感情を彼女はまだ知らない
「つ、ついに敵が出てきたようですね」
 ファリスは一歩後退りながら息を飲む。道を抜け漸く広場の様な所に出たと思ったらこれだ、地面が揺れたと思った次の瞬間、目の前には見知った影が見える。

『君は本当に手のかかる子だね。いいからここで休んでいきなさい』

 あぁ……このような所に居るはずが無いのだ、これは十中八九幻視の産物であり、こんなものは偽物でしか無いとファリスは理解している。
 でも……それでも、だ。
「(それでも私は、我が主に武器を向ける事はできない……)」

『どうしたんだい、何時もなら喜んで傍に来ると言うのに』

 優しい声音と裏腹にファリスを襲う殺気の波。なんでもない様にそちらへと招いてくる主の姿は酷くちぐはぐであり……不気味だ。
「…………今回も、私は足手まといでしかないの?」
 幾度幾千幾万思った事か、この器である事への気持ちは焦燥。限られたモノで生きるという事はなんと難しく、もどかしい物なのか。

『よくやったね、ファリス……辛かったろう、さぁ、その枷を今こそ解き放とう……』

「(その御言葉を……私はどれほど求めていた事か……弱き者として地に立ち、人々に寄り添ってきた。自らに足りない物とは何かを探しながら)」
 同じ目線で生きて彼女は弱さを知った。だがそれだけでは足りないのだろう、わかっている、理解している。
 自身に足りないものがあるという事を彼女は知っている。だからこそ目の前の主の姿をした何かが偽物だという事を確信できるのだ。
「分からない私に、主は手を差し伸べる事はなさいません」
 主の声にノイズが走る、それは魍魎の叫び。視界は晴れ周囲に見えるのは土塊の巨人。
「足手まといだとしても……やれる事はある筈」
 退いた足を一歩前へ、休むべきは今では無い。

 硬直、スピカの身体は強ばり、僅かな時ではあるが動く事も困難であった。
 眼前に立つのはかつての主。記憶の中と同じ顔、手、足……何故ダークセイヴァーの森で、と混乱した頭で考えるが答えは出ない、出る筈も無いのだ。堂々巡りした思考、忘れる事も出来ない最後に見た顔が否が応でも片隅に封じていた記憶の箱を開けてしまう。
「(生きる事に問題が無い所か、衣食住は充分に保証され、乱暴なんて以ての外……メンテナンスも丁寧に行われ触れられるのも手袋越しに最低限だった……)」
 或いは他の人形……スピカでは無い誰かであったならば篭の鳥であろうとその生活に満足できたのかもしれない。
「でも……」

『さぁ……帰ろう……二人で、あの家に……』

「でも……憧れてしまったんです」
 小さく首を振る。
「もっと知りたいと、手を伸ばしてしまったんです」
 耐えられなかった憧憬、望んでしまった機会、今は全て終わった事。
 ザザ……と声にノイズが走る。

『手に入らないのなら……僕の手を取らないのなら……』

 いつの間にかスピカの震えは止まっていた。じっと前を向き。

『いっそ君を壊して僕も死ぬ!』

 違う。
「……違う」
 この人は、この幻は主とは程遠い何かだ。
 幾ばくかの日が経った時、猟兵となり学園に届いた彼からの手紙、同封されていた離れの鍵を握りしめ彼女はハッキリと拒絶する。
「手袋もせず私に手をあげる目の前の貴方はあの人じゃない」
 嫌だ、黒いモヤモヤが己の中を渦巻いていく。知らない、知らない事は怖い。ならば知れば良いだけ。
「でも……これ以上私を嫌な気持ちにさせないで……! これ以上あの人の姿で、そんな事言わないで!」

 杖が輝き白百合の花弁となって主の姿をした何かを襲う。姿は霞み土塊へ、声は掠れ魍魎の物へと変化していく。
「天ノ河を作りし大いなる神々の女王よ、私に力をお貸し下さい……!」
 スピカの力強い詠唱が更なる花弁と嵐となってゴーレムの足を止める。背に憑いている怨霊の叫びがスピカを穿こうと疾走るも。
「させません……!」
 ファリスがスピカの前へ躍り出て杖を突き出して迎撃する。
「いたた……ごめんなさいねレヴレス。あぁ、そんなに怒らないでくださいな」
 宿る精霊に謝りながら指先をゴーレムの、その背後へ指し示し。
「終わりです!」
 ジャッジメント・クルセイドが怨霊を焼き尽くすのであった。

「大丈夫、ですか?」
「は、はい、大丈夫です。ありがとうございます!」
 ファリスがスピカの顔を心配そうに覗き見る。
 知らない感情、だけど今まで自身の中で生まれるどの気持ちよりもスピカは心が重くなる何かを感じていた。
「……幻影も一旦は大丈夫そうです……! 残りのゴーレムもこの調子で行きましょう!」
「……はいっ!」
 残るゴーレムが此方へと向かってくる。思う事はあれど、今は無力化に集中しようと二人は構えを取るのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カマル・アザリー
ゴーレムの集団!?いけない、囲まれる前に……先輩!?一体何処を狙ってるんですか!ゴーレムはそっちじゃないですよー!
(おかしい……さっきは先輩が変なこと囁いてたし、私には見えないものが見えている?私が見えないのは生まれたばかりで写身となる対象がいないから?そんなことよりまずは先輩を止めないと!)
暴れ回る先輩か先輩を狙うゴーレムの攻撃、どちらかをUCで庇って止めます!ダメージを受けても構いません!先輩が目を覚ましたら今度はゴーレムをこのUCで拘束します!
先輩!起きてください!それは幻覚ですってばー!


エルザ・メレディウス
*カマル・アザリーさんと一緒に行動致します
*復讐の対象の姿なども含めてアドリブ大歓迎です
◆幻聴が私にとって安らかな逃避のための毒なら...幻視は私にとっては決して、目を瞑りたくなるような復讐の相手の一人のようですね。

▼幻視の相手
・復讐の相手の一人:30代位の壮年の男性。道化師が悪意に微笑むような、不気味な男です
・ゴーレムでは無く、私の視線は復讐の対象者へとだけ向けられると思います。復讐者の前に立つと怒りと恐怖の感情で自分を制御できないかもしれない
・カマルさんの声とテラリウム...この二つに気付いた時にやっと私は正常を取り戻せるのだと思います。

戦闘:カマルさんと力を合わせて白王煉獄で相手に一撃を



●灯火が涙に濡れて
 何時からだろう、この気持ちに揺らぎが生じたのは。

 何時からだろう、暗闇より光を求め始めたのは。

 何時からだろう、共に……生きたいと思ったのは……

「広場……やっと道以外の所に出ましたね先輩! どうしましょう、少し休憩します?」
「いえ、ここまで何も出なかったとはいえこの先何があるかわかりません、幸い戦闘も無く疲労もそこまでありません、先へ進みましょう」
 カマルとエルザの両名は細い道を抜けて草の生い茂る広場へと出る。薄暗く月の光も木々に隠されてはカマルの炎だけがゆらゆらと印の様に目立っている。
 そして事態とは、唐突に訪れる物なのだ。
「カマルさん……!」
「え? あぁ!? おぉっと!」
 カマルの足元を盛り上がる大地、咄嗟にエルザの方へと飛んで受け止められる。
「大丈夫ですか……!?」
「は、はい、ごめんなさい先輩……! 油断していたつもりは無いんですけど……」
 地を砕き現れるは土塊の巨人。気配無きそれは自然の物とはかけ離れた何者かの創造物だからだろうか。一体だけでは無い、次々と生まれでる土塊は僅かに照らしていた月光さえも遮ってしまうのだ。
「ゴーレムの集団!? いけない、囲まれる前に……」
 カマルが手を前に突き出し術式の展開を始める。彼女の炎が牽制し、エルザが動きを止める。最近は言葉に交わさずとも基本的なパターンの一つとして動ける様になってきている、筈であった。
「…………先輩?」
 反応が無い。おかしいと思いエルザの方を見てみれば彼女は構えも取らずに一点を睨み続けていた。その瞳にカマルも見た事の無い怨嗟の感情を乗せて。

「(胸がドクンと脈打つ事を自覚している)」

 ──ふは……

「(眼前に居るのは誰だ?)」

 ──ふはは……

「(確かに見える、見えた、見えてしまった)」

 ──ふははははははははははっ!!!!
 ──呼んだか、俺を、私を、儂を、僕を!!

「(あぁ、どれだけ待ち望んだ事か。私は待っていた、この時を、この瞬間を)」
 見覚えのある家紋が印された洋服にコート姿の男。伽藍堂の様に光の灯っていない瞳に大仰な笑い声。
「あの時も、そうやって皆を……」
 鞘から刀身を抜く、刀を持つ指は力み過ぎて爪が皮を割いて赤い雫が地に落ちる。
「……皆をっ!!!!!!!!」
 痛み等どうでも良い、占めるのは激しく燃え上がる殺意の炎のみ。何時ものエルザでは行わない隙だらけの大振りは男の身を両断する……が、手応えは無く、倒れる筈の男の身体は霧散し、再度身体を構築させる。それがまたエルザを正気の道から外していくだろう。
「先輩……! 何処を狙って……っ! ゴーレムはそっちじゃないですよっ!」
 近寄るゴーレムを炎で牽制しながらカマルはエルザに呼び掛けるが効果が見られない。
「(おかしい……さっきは先輩が変なこと囁いてたし、私には見えないものが見えている? 私が見えないのは生まれたばかりで写身となる対象がいないから?)」
 カマルの視界には依然ゴーレムしか見えてはいない。ヤドリガミとして生まれたばかりというのもあるのだろうか、或いはエルザの身の変化への戸惑いに意識が埋められ幻視を遠ざけたのか。
「(私が何故見えないのか、今はどうでも良い……っ! 先輩を止めないと!)」
 振り上げられる土の剛腕、エルザはそれに気づく事無く目の前の土塊を刻んでいる。
「先輩っ!!!!」

 ──どうした、先程からお前は何を斬っているのだ?

「うるさい……」

 ──無意味なんだよ、既にな。独りで何が出来ると言うんだい?

「うるさい……!」

 ──怒りの直ぐ後ろに見えるぞ? この姿に恐怖を抱いた恐怖の色が。

「無意味だとしても……それでも私はこの命を以て贖わなければならないのです……!」

『本当に?』
「……っ!?」
『本当にそう思っているの? 貴女は……私は本当にそれを望んで居るの?』
 己の声が脳内に聞こえてくる。そうだ、その筈だ、その為にエルザ・メレディウスという存在はここまで生きてきた。
『……せ……ん……ぱい……』
 誰……?
『……せん……せんぱい……』
 暖かな、私を引っ張るこの声は……眩き光と声が沈んだ私を呼び覚ます。
「先輩っっ!!!!」
 エルザはここに来て漸く気づく、自身が仰向けに寝転がり、その上をカマルが覆いかぶさっている事に。
「カマル、さん……?」
「先輩!? 気づいた? 私がわかりますかー!?」
 ゴーレムの拳と踏みつけをカマルが寸での所で押し飛ばして避ける、その拍子で地に横になる形となっていた。カマルの声とエルザのテラリウムが光り、正気を取り戻せた。見てみれば幻視は霞み、消えかけている。
「そう、ですか。私は……カマルさんごめんなさ……」
「先輩! 話は後で聞きます! 今は目の前の土人形達へ仕返ししちゃいましょう!」
 言いかけた言葉の上に被しエルザの手を取り立たせるカマル。避けた際に拳を受けた背は赤くなっている。迷惑を、怪我をさせた事を謝る……それは後だ。カマルの意を汲んでエルザはゴーレムに視線を移す。先程までとは違う、冷静な静かな戦意を発しながら。
「私の翼、獄炎は流動しその身動きを止める……」
 背から現れる紅き翼が炎を飛ばしゴーレムの足元に渦巻いていく。
「先輩……私の炎も持っていって!」
 エルザの握る刀にカマルの炎が宿り……
 構え、駆ける。
「罪を断ち切り……この炎は、魂を浄化する……! 元の大地へと還りなさい!」
 腕を踏み台に、首を一閃。返す刃で後方に居たゴーレムの胴を斬り伏せる。
「……カマルさん、この度の謝罪は後程……今は……」
「気にするとことなんか……いえ、わかりました! こんな幻とか見せたり聞かせたりする元凶、やっつけにいきましょう!」

 二人は走る、全てを終わらせる為に……

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
◆アドリブ・共闘可

深い緑の森を超えて
そこに見ゆるは
会いたいと焦がれた、師父の姿

ああ、嬉しい。会えて、嬉しいわ
ねえ、知っている?
大切な人の事を忘れたくなても忘れてしまうの、声を
だから、聞かせてくれてありがとう。

例え姿は師父を象っていても、オブリビオンだと理解しているわ
顔を歪め敵意を、殺意を向けられても私は受け止められる

充分に懐かしさを味わったわ、あと…偽物を『壊す(殺す)』だけ
でも……呻き声や悲鳴を上げてくれると声は忘れなくなるかも、ね
(狂気にも似た笑みを浮かべて)

一閃、また一閃と剣を振って先ずは幻影を。ゴーレムのは二の次

ああ、楽しい、楽しい、もっと、もっと
骸の海に還るまで私と舞い踊りましょう


リーヴァルディ・カーライル
…ん。情報は聞いていたし、理解もしているけど……駄目ね。
…幻とはいえ、貴方と闘うなんて出来ないもの。

…だから、この一撃で終わらせるわ。

常以上の殺気で微笑を浮かべつつ地上に残像を残し、
空中戦を行う“血の翼”を広げ闇に紛れ上昇
吸血鬼化した自身の生命力を吸収しUCを二重発動(2回攻撃)

…何処の誰かは知らないけど覚悟する事ね。
私の怒りに触れた以上、お前の命運は今日、潰える事になる。

両掌に“闇の重力”を溜めた両手を繋ぎ怪力任せに圧縮し、
限界突破した超重力の“闇の流星”を発射して、
重力のオーラで防御ごと周囲をなぎ払う重力属性攻撃を放つ

…闇の精霊、星の精。我が声に応えよ。
全てを無に還す大いなる力を此処に…!



●その声を聞きたくて
 深い森を越えた先。
 ディアナの目の前に立つのはあの時と変わらない姿で立つ師父の姿。会いたいと焦がれたその姿を視界に収めてディアナは恍惚めいた微笑みを浮かべるのだ。

 リーヴァルディの目の前に立つのは何時もの姿と変わらない、見慣れた姿の恋人。会いたいと焦がれていた筈なのにその姿を視界に収めてリーヴァルディは痛みを含んだ悲しみを浮かべるのだ。

「あぁ……嬉しい、嬉しいわ……まさかこんな所で逢えるなんて思わなかった」
 目は離さずにコロコロと少女の様な笑顔を浮かべて声を出す。
「ねぇ、知っている?幾ら思い出していても、想っていても、忘れたくなくて脳に刻んでいても……」
 少しでもこの時を楽しもうとしているのか、他には目もくれずに老人だけを見ている。横を衝撃の風圧が掠っても今のディアナには些細な事だ。
「忘れてしまうのよ、声も、姿も……だから貴方には……いえ、この怪異には感謝してるわ。これでまた私は心にその姿を刻む事が出来る。忘れずに済むのだから」
 ディアナは気づいている、理解している。これがオブリビオンの仕業であり、目の前の師父の姿をした何かはただの幻影であることを。だがそんな事は関係無い。彼女にとって大事なのは己の願望が叶った所にあるのだから。
「…………危ないわ」
 振り下ろされる土塊の拳を大鎌の一閃が弾き飛ばす。
「あら……ありがとうね」
 リーヴァルディ・カーライルは頷きディアナの隣に立つ。
「良いの、貴女も見えているの? 誰かの幻影を……」
「えぇ、大事な人が見えているわね、その様子だと貴女もかしら?」
 ディアナの声に俯き歯噛みをする姿を彼女は肯定と判断する。
「……ん、情報は聞いていたし理解はしている、でも駄目……幻と言えどあの人とは戦えない……」
 笑う者も居れば、リーヴァルディの様に刃を向けられずに辛いという者も居る。同じ意思のある存在でありながら生命とは多様性に富んでいるとディアナは思う。笑みを浮かべながら幻影に視線を移し言葉を放つ。
「例え姿は師父を象っていても、オブリビオンだと理解しているわ」
 伽藍堂の黒目が此方を睥睨する。同時に起こる衝撃は幻影に隠れたゴーレムの足、轟音と共に猟兵を狙う踏みつけを人狼の咎人殺しは拷問器を構え退くと共に力ずくで殴る。土塊が砕け、自らの重みでバランスを崩したゴーレムを見下ろし。
「例え顔を歪め敵意を、殺意を向けられても私は受け止められる。だって私はそれを皮だけのニセモノだって理解しているから。何より愛する人だもの、なんであれ受け入れたいと思うのよ」
 それはオブリビオンにだけでは無い、隣に立つリーヴァルディに向けておくる言葉。
「……ん、そうね……そうだわ。今も愛する人に傷なんて与えたくない、でも……幻影に、私の頭の中のあの人がオブリビオンに表現されるのはもっと嫌。あの人を一番想っているのは私なのだから」
 リーヴァルディの背から紅き翼が顕現、ゴーレムの怨念の叫びがリーヴァルディを貫かんと襲うもそこに残っていたのは残像。既に空へと避けていたリーヴァルディは大鎌を手放し両手を合わせる。

「ふふ……私もそろそろ、懐かしさは充分に味わったわ……後は偽物を」
 ──殺すだけ。
 リーヴァルディを狙うゴーレムを端から刻む、刻印が煌めきキリサキヒメはその真価を発揮するされる。
「ふふ……ふふふ……あの子だけを見るなんて酷いわ。私とも遊んでちょうだいな。呻き声や悲鳴を上げてくれると声は忘れなくなるかも、ね」
 土塊に言葉を繰る意思等は無いと分かっている。
 楽しそうに、嬉しそうに笑い、武器を振るう。紅潮した頬は艶かしい色気さえ感じられるだろう。
「……何処の誰かは知らないけど覚悟する事ね。私の怒りに触れた以上……お前の命運は今日、潰える事になる。私はこの日を忘れない……この怒りを、想いを弄んだ事を忘れない」
 両の手を巡る闇の力、重力の法を掌に集中させ一つの塊を形成。
「……限定解放。テンカウント、吸血鬼のオド、闇の精霊、星の精。我が声に応えよ……」
 延々と回転する球体が膨れ、周囲のマナを吸い続けていく。
「避けて……っ!」
「大丈夫よ、此方は此方で上手くやるわ。遠慮せず放ちなさい」
 楽しい、楽しい……
 ディアナは高らかに笑う。
「……っ! 全てを無に還す大いなる力を此処に……!!」
 リーヴァルディの詠唱が終わる。ブラッドドグマと呼称される精霊の力を借り受ける術式、黒き球体から放たれるのは超重力の弾丸。
「ふふ……ふふふ……まるで篠突く雨の様……」
 雨の如く降り注ぐ無数の闇の間を踊るように潜り抜けて行くディアナ。その足取りに恐怖は無くゴーレムを刻んでいく。

 最後の一体を頭部が貫かれる。大きな音と共に倒れるゴーレムはポロポロと風化し大地へと還る。
「……ん、大丈夫?」
「えぇ、傷一つ無いわ。さぁ、前座は終わり……楽しかった催し物も最後みたいね、行きましょう。是非ともお礼、してあげなくちゃね」
 笑みを崩さずリーヴァルディに語りかけるディアナにダンピールの少女は小さく頷く。
「……ん、終わらせてあげましょう。私を怒らせた事、許してはいけないのだから……」
 此方を呼ぶ声に向かっていく二人。

 終わりの時はもうすぐそこに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルパート・ブラックスミス
敵の間合いを【見切り】【挑発】、【指定UC】と【怪力】込めた大剣による【カウンター】戦法。
呪いと脚部の【部位破壊】で自由を封じつつ始末する。

仲間も、嘗て戦った神も。
所詮、幻覚だ。その力が本物に及んでない。
【狂気耐性】と【覚悟】で凌ぎ、青く燃える鉛の翼を羽ばたかせ【衝撃波】で【吹き飛ばし】ていく。


…見覚えのない、『青の髪と翼のオラトリオの女』がいる。
知らない。わからない。
事実、斬り捨てるのすら躊躇いなく、容易い。

それなのに。何故消えない、
何度、否定しても。斬り捨てても。
何故、俺を見つめ微笑み続ける。

誰だ。あの幻は…俺が『知っているはず』のお前は誰だ。
俺は、誰を忘れてしまったんだ。

【アドリブ歓迎】


万象・穹
……あら、今度はあなたが出てくるの。私の半身である、あなたが。(鴉羽のローブを纏った男が立っていた)
主によって連れ出されたのはあなたも同じだけど、そういう退屈そうな顔は今も全く変えないのね。……私のイメージのせいかしら。

UC発動、敵の弱点は……間違いなくその胴体に突き刺さった棺桶の束ね。あなたの場合は、弱点なんて存在しない、なんて言いそうだけど。

弱点がなかったとしても、あなたは私の魔眼からは逃れられない。『破魔』で怨霊を喚ぶ棺桶に『なぎ払い』。

打ち消せそうにない怨霊たちは、『第六感』で回避を試みるわ。

……退屈だったのはあなたも同じ。良い転機だったでしょう?



●夜空舞う鴉を青き羽が見ている
 ──誰だ……
 鈍く輝く銀の刃に少女の姿が反射する。
 ──お前は……一体……
 胸が痛い、ざわめく、既にその様な感覚は失っている筈なのに。
 ──見るな、此方を……見るな……っ!
 青い翼、青の髪、暗い森の中で月の光に照らされる綺麗な群青。
 その色は、黒き騎士に宿る炎の色と酷く似ていた。
「ちょっと……大丈夫……?」
 ルパートの様子に何か異変を感じたのか穹が声を掛ける。
「……あぁ、問題無い。数は……二体か」
「先行していた同業者が数を減らしてくれていたのかもしれないわね」
 構えをとる猟兵達に二体のゴーレムがそれぞれ脚部を上げて体重を乗せた踏みつけを放つ。重量に任せた一撃は大地を震わせ、まともに喰らえば如何に屈強な力を持った者でも只では済まないだろう。
「単純に殴る蹴るだけの人形か……?」
 自ら接近し土人形の攻勢を受け流しながら様子を見る。重量故の一撃の速さや力強さはあるものの予備動作も大きく単調な軌道は読むに容易い。
「いや、それだけじゃないみたい。背中に埋まっている……あれは、棺……? 力の流れが彼処に集まっているわ、弱点とも言えるしまだ見せていない何かがあるかもしれない」
「承知、警戒は怠れないという事だな」
 様子見は終わり、と言わんばかりにルパートは大剣に滴る鉛を湾曲線上に流動させ一回りも巨大な湾曲刀へと変化させる。
「私も援護を……あら……」
 穹も距離を置いて術式による援護を始めようと駆けたその時、突如霧散していた力の集まりを感じる。光が集中し形成していくのは人型の影、やがて収まりそこに立っていたのは穹もよく知る人物。

 ──主の命にて参上……と言うべきかここは。

「笑えない冗談はやめて欲しいわね、今度は貴方が出てくるの。私の半身である、貴方が……」
 共に境界から出た者、解き放ってくれた主の為に生きようと誓った者。鴉羽のローブを羽織った黒髪の男は穹にとっては主と同じく切っても離せない間柄なのだ。

 ──あぁ出てくるともさ。わかっているだろう? このまやかしを見せている存在はお前達に近しい者を把握している訳では無い。

「私達それぞれが、貴方達を創り出して視ているということ……」
 自身の中の大事な存在……それは恋慕、悔恨、妄執、怨念、抱えている何かを具現化させているだけに過ぎない。
「ふふ……だとするのなら私のイメージもまだまだなのね」

 ──なんの事だ……?

「そういう退屈そうな顔は全く変えないのね、今の貴方では無い貴方はもう少し楽しそうに見えるわ」
 確かに穹の知る男は、彼女が知る限り激しい感情を表に出す事は滅多に見ない。眼前の鴉は境界に居た頃、つまらなさそうにただの日々を過ごしている表情と同じ顔をしていた。そしてそれは穹にとっても同じ、だからこそ分かるのだ、この男はかつて穹が見ていた……退屈という同じ気持ちを抱いていた頃の幻影なのだと。
「私の魔眼は看破の力……さよなら我が半身の影、儚く散りなさい」
 開かれる眼に魔力が宿り、真っ直ぐな視線で射貫かれ霧散する男の姿。
「視えたわ……人形の弱点が……」
  視界に泥人形を収め情報を抜き取る。
「背中……背中の怨霊と石碑を狙うのよ!」
 剥き出しとなっている怨霊と石碑、土塊を人形として自立させている核と言っても良いだろう。それは一人の猟兵……僅かに離れた所でもう一体のゴーレムを相手取っているルパートに向けた言葉。しかし穹の声は今の彼に届く事は無かった……

 ──所詮幻覚だ……力が本物に及んではいない、
 ルパートと何者かの剣閃ぶつかり合い、鋼の鳴る音がひたすらに聞こえてくるのみ。
 仲間も、嘗て戦った神々もただの幻に過ぎない。距離をとり、広げられる鉛の翼……巻き起こる衝撃波で幻影を吹き飛ばす。
 ──見覚えの無い女が立っている。
「誰だ……誰だお前は……」
 青の髪と翼のオラトリオの女がルパートを見たまま微笑みを崩さない、何か仕掛けてくるわけでも無い、ただ……じっと此方に微笑みかけてくるのだ。
 知らない……わからない……
 揺れる心を必死に抑えながら大剣で横薙ぎにすれば、その姿はあっさりと両断されて霧散するが……
「何故、消えない……っ! お前は誰だ……!」
 何度否定しても、幾度斬り捨てても次の瞬間には目の前で此方を見つめてくる。
 刃を向ける事に躊躇いは生まれない、容易いとすら言えるだろう。
 ざわめくのだ、喪った筈の己の中の空白な部分が激しく揺さぶられる感覚に陥る。
 自分は……俺は誰を忘れている……?
 俺の何を知っていて笑っている……
「俺は、誰を忘れてしまったんだ……」
 指に力が入らない、僅かな脱力が大きな隙を生み出してしまう。振り下ろされる土塊の拳が抵抗の遅れたルパートの頭上へ襲いかかり……

「……アニヒレート」

 その兜に触れると思われた瞬間。ゴーレムの背に埋め込まれている石碑が白き閃光により薙ぎ払われた。穹の空間を超越した斬撃は耐久強いゴーレムの弱点を根こそぎ荒らしていく。
「しっかりして……! 囚われてはいけないの……!」

 ──囚われる……俺は今、何をしている……?
 大地に還った土塊の人形跡を気にする事無く、もう一体の人形は目の前の猟兵を砕かんと手を振り上げる。

 ──良いのか……? このままで……このまま……何も知らずに終わってしまって……
「……良い訳……無いだろう……!」
 剣と拳がぶつかり大きな衝撃音が放たれる。ギチギチとゴーレムの一撃を大剣で受け止めて。
「先ずは、片付けるぞ」
 受け流し、身体を弾き飛ばす。
 一閃与えれば足を刻み。
 二閃、返す刃で放出される魔力を叩き斬る。
 三閃、揺らいだ巨体の隙間に刀身を挟み込み流し斬る。
 咄嗟に反撃として繰り出した命を虚ろにせし亡撃がゴーレムに致命傷を与える。
「…………未だに俺は何も思い出せてはいない……だが何も……何も成し得ないまま終わる事だけは嫌だ」

 核が斬られたからか、土塊の身体……塊が轟音と共に地へと落ちる。
「……二体目、撃破ね」
「あぁ、後は最後……元凶の元へ急ぐとしよう」
 振り返る事はしない。己の中の何かと向き合う時は別の機会に。

 戦場は刻々と終わりへと近づいていく……

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

護堂・結城
声だけで足りないなら今度は姿、か…
なるほど、この罠を張ってる奴はよく考えているようだ

OK、OK、そんなに斬首がお望みなら今すぐやってやる

【POW】

「覚えておくといい、大事だから偽物でも手が出せなくなる奴と
大事『だからこそ』偽物は完膚なきまでに破壊する奴がいるってことを」

指定UCを発動、氷鳳の翼で【怪力・武器受け】
翼が破壊されようが【継戦能力】で凍らせて再生だ
ついでだ、吹雪の【属性攻撃・範囲攻撃】で地面も凍らせ回復を封じてやる

氷翼をギロチンがわりに最速で突進し【捨て身の一撃】
ゴーレムも幻影も、まとめて叩き切ってやる

「天翔せよ、我等は死を断つ流れ星」
「……偽物が、そのツラして立ってるんじゃねぇ」



●氷天轟けば魔は大地へと還り
 土の剛腕が風を震わせる、動きは単調なれどその重さは速さとなり猟兵へと襲い掛かるだろう。
 土塊の人形、親しい者の影をその身を包ませる怨霊を抱えた人形。猟兵達との戦闘は終盤へと向かっていた。

「そこか」
 後方へ跳び向かい来る拳の一撃を避ける結城。土人形自体の動きは察知しやすく、軌道を読み避ける事だけならそう難しい事では無い。しかし。
「なるほど、この罠を張ってる奴はよく考えているようだ。当たらないならば当てられるように妨害を加えてやれば良い、ね」
 パフォーマンスを上げられないというのであれば標的の力を下げれば良い……確かに合理的ではある。
「声だけでは足りないなら姿さえも掠め取るか……OK、OK、そんなに斬首がお望みなら今すぐやってやる」
 土塊の人型と理解はしている、だが結城の視界に収まるその姿は彼の記憶の中そのままの既知の者の姿であった。その声、その動作、一つ一つが結城の記憶をつついて更に浮かび上がらせていく。
「懐かしい、こんな所で思う事になろうとはな」
 見れば見る程にその動きはかつて共に研鑽した女傑の姿だと感じる。
「だが……」
 自身の脳内に住まう彼女の写し身、今はもう共に並ぶ事も叶わぬと思っていた。
「覚えておくといい、大事だから偽物でも手が出せなくなる奴と……」
 それは今でも変わらない、既に彼女……姉弟子である女性とは立ち位置が違うのだ。
『まだ、外道狩りなんて続けているのね』
「大事、だからこそ偽物は完膚なきまでに破壊する奴がいるってことを」
 響く幻聴に被せるように一撃を顔面に喰らわせる、霧散した影はその一歩先でまた形成されるだけだ。
「他人の思い出にずかずかと土足で踏み入る外道、狩らにゃいかんよな」
 結城に生えるは氷結の翼、持ちうる遠距離攻撃法を捨てた代わりに強力な速度とフィールド掌握能力を得る氷装。
『貴方が私に勝てるとでも? 弟弟子、経験も浅い貴方が?』
「勝つともさ、経験? バカを言うなよ、俺の中の“記憶”でしかないお前が歩んだ軌跡を語るな」
 何処からか飛んでくる剛腕の一撃、幻影に紛れながら撃ち込んできているのだろう。
 見えぬ拳に氷翼が砕かれるも再生は容易い、地を蹴り宙へと飛ぶと地に向けて力を放つ。大地が凍れば汲み上げている大地の影響を遮断する事ができる、即ち回復の妨害だ。
『終わらせましょう』
「あぁ終わらせよう、天翔せよ、我等は死を断つ流れ星」
 そもそもだ、眼前の幻影は受けた当人の中にある記憶から生み出されたもの。思い出を投影されたに過ぎない。
「あの頃には戻れない、袂を分かち、外道と成り果てたあんたという存在を知っているから」
『戻りましょう、あの頃の私達に』
 天高く跳躍し地に視線を向ける。狙うは一つ……
『また、共に並ぶのです』
 勢いを付けて急降下、己を弾丸として氷翼を更に巨大化させながら突撃するのだ。
『外道狩り……』
 幻影、では無く、その背後で暴れる土塊の人形へと。結城の翼がギロチンの如く背に埋め込まれている墓標を抉るように断つ。

「……偽物が、そのツラして立ってるんじゃねぇ」
 横一文字に断裂する巨体が轟音鳴らし地に倒れる。姉弟子の姿はそのまま霧散していった。
 辺りが静寂に包まれ、結城は静かに歩き出す。未だに止まぬ幻聴の元、この依頼の元凶を誅する為に。
「外道、死すべし……」

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『高き森の怪物』

POW   :    圧倒的な膂力
単純で重い【剛腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    原始の魔眼
【視線】が命中した対象に対し、高威力高命中の【石化の呪い】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    聖域の守護者
【燃え盛る青き瞳】に覚醒して【かつての力を取り戻した聖獣】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。

イラスト:もりさわともひろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アウル・トールフォレストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【断章は3/16、8:30までに更新致します】
 それは男の声であり女の声でもある。
 無邪気な子供の声にも聞こえるし少し掠れた老人の声にも聞こえる。

 あれは昔世話になった恩師。

 あれは初恋であった少女。

 あれは己の人生を捻じ曲げた許されざる女。

 あれは一番大切な家族となった男。

 聞こえる……聞こえる……求めていた声だ、欲していた言葉だ。
 郷愁駆られる心地で天を仰ぎ思うのだ。

 あぁ……私は何故ここに来たのだったか……
 しかしそれも最早どうでも良い……

 ここに居ればずっと、お前と一緒なのだから……

☆破れたメモ帳☆
・開けた森の広場、木々に囲まれ月の光も僅かしか届かない暗い場所。
・一章、二章で幻聴と幻影に打ち勝っていればプレイングボーナス。
・三章でも「幻聴の言葉、誘惑に打ち勝つプレイング」が入っていれば追加のプレイングボーナスが発生します。
鈴木・志乃
……あー、凄いね
とうとう何人か混ざって聞こえて来たか
むしろ気味が悪いよ重なると

また演劇やらせて下さいねと団長に宣言して
死んだらまた遊ぼうねと親友に笑って
一緒に生きようと言う男の声には、無理な相談だと吐き捨てる

生命体の埒外であるこの体は、全人類の幸福を願って神様が創ったもの
人の肉体を持っていても、やっぱりヒトではないのだ
生きる年数もそう、感情の起伏もそう
何一つとして結局のところは嫌いになれない異常な価値観もそう
人の幸福の為の感情をもった機械。

でもね、心の底から……大好きだよ、みんな
だから、今目の前の紛い物は力の限りぶっ潰す!!
UC発動、風と共に油をぶちまけ敵に叩きつける
高速詠唱全力魔法で焼却


御園・桜花
「声に言葉に信はなく、言葉なくして信はない。自分の狂いぶりが嫌になりますね」

UC「エントの召喚」使用
破魔の属性攻撃乗せ制圧射撃で足止め
何本もの木の根で下から刺し貫く

私の記憶は視覚的でほぼ音がない
崩れた梁の間から初めて見た青い空
死体と瓦礫に埋め尽くされた山間の古都
ミルクホール界隈の目映く煌めく帝都の夜
まるでサイレントのワンシーン

言葉をかけて育てられたら
惹かれる音もあったのだろうか

言葉を尽くしたいのは
言葉を尽くされたことがないからだろう
酷く転生を望むのは
最初の関われぬ死で飽和したからだろう

「私、音では心が動きませんの。骸の海にお還りになって、貴方自身の言葉で語れるようになってからおいでなさいませ」


ファリス・エクナーネ
コレがこの幻覚、ひいては神隠しの元凶かしら?
よくも我が主の姿形を用いて私の心を掻き乱してくれたわね。塵も残さず消し去ってやりたいくらいだわ!
「いけないいけない。落ち着きませんと」
強敵相手に冷静さを失うのは危険ですからね。

あの体躯で殴られたりしたら危険ですし、近づかれないように立ち回りつつ【残された能力】で負傷者の治療に回りましょう。
傷が深い方は少し離れた場所までお連れしてから治療します。治療中に視線を向けられるようなことがあるなら、私が負傷者を庇います。僅かばかりですが呪いに耐性がありますし、誰かのために行動することの大切さを知りましたから。
助けた人達が敵を倒せば、呪いも解けるわよね?



●願望を叫ぶ獣
 森が揺れる、ビリビリと肌に刺激が浸透するその叫びは確かにここに来るまでに聞こえてきた獣の鳴き声に間違い無いのであろう。
 その中に混じる何者かの声、脳内に響いてくるそれもまた、変わらずに猟兵達の動きを止めんと様々な声音を奏でる。
「あー……凄いね、とうとう何人か混ざって聞こえてくるようになった」
 おもむろに帽子を外した志乃は脳内に流れ込む幻聴に呆れた様子を見せながら苦笑いを浮かべる。
「声に言葉に信はなく、言葉なくして信はない。自分の狂いぶりが嫌になりますね……」
 この森に足を踏み入れ幾度聞いてきただろうか、最初から、そしてここで対面して尚、桜花の心を動かす何かは無い。
「アレがこの幻覚、ひいては神隠しの元凶かしら? うぅ……確かにごちゃごちゃと聞こえてきますね……」
 志乃や桜花の落ち着きぶりに関心しつつもファリスも流れてくる幻聴を首を振って払う仕草を見せる。己の主、敬愛せし者の姿形を用いて自分の心を掻き乱した事、許す事は出来ない。
「塵も残さず消し去ってやりたいくらいだわ……!」
「まぁまぁ落ち着きなよ、というか重なって方々から聞こえてくるから気味悪くなってるよねこれ」
 昂っているファリスの肩を優しく叩きながら獣の周囲を眺めていく。
「……襲ってくる様子が見られないのは警戒しているから、でしょうか」
 此方には気づいている筈の獣が鳴くだけで襲ってこない理由は何か、迎撃体勢は取っているので敵対の意思は見られるのだが。
「ハッ……! 申し訳ありません……! いけないいけない、落ち着きませんと」
 昇っていた血がすぅっと戻る感覚がわかる。そうだ、冷静にならなければ出来ることも出来ない。
「ふふ、此方の出方を待っているのかな。どうであれ長々とこの声を聞いているのも精神的に宜しくない、待つというのならば攻めてやろうじゃないか。お先に行かせてもらうよ」
 志乃が飛び出すようにその場から駆ける。
「(これ以上膠着していても仕方ない、流れを作らなきゃね)」
「続きます」
 牽制に向かう志乃を援護する為に桜花は腕を前にかざし、木々の力を解放する。
 猟兵達の動きと同時、獣が一際高い咆哮を天へ向けて放つ。身体が青白く発光し、目元へ収束していけば現れるのは全身を纏う紋様を浮かべ、蒼き眼光で此方を睥睨するオブリビオンの姿。
「あれは……!」
「殺気が強まりましたね……」
 エント、桜花の召喚出来る霊であり植物の力を繰る牧人。地から貫かんと獣の足元から根が突き出していく。
「速い、ですね」
 ここまで動作という動作を見せてこなかった獣、三人の想定を超えた俊敏性で根の槍を避ける。
「──ならばその動きを止めるまで」
 根を交差させる形で突出させ獣の脚を絡めとる、更に避けようと獣も跳ねて後退する。失敗……否、これで良いのだ。
「有難い、向こうの警戒が地面に向いている」
 側面に回る志乃が光の鎖を獣に放る、生物のカテゴリに在るのなら効かない事は無いであろう窒息を狙い。
「……っ! 接近すればする程声が……!」
 ──しーちゃん……しーちゃん……

 ──どうしてそんな酷いことを

 ──しーちゃん、次はこんなのどうかしら……

 ──行かないでくれ、行かないでくれ私の……っ!

「混ざってる……! 団長の声で、他の人の記憶を混在させて発してるのか……!」

 ──しーちゃん……
「団長、また演劇……やらせてください、帰ったら、ですけどね」
 聞こえる女性の声、幻聴とわかっていても
「死んだら、また遊ぼう。まだちょっと掛かるけどさ」
 敢えて応えよう。この空虚な声真似に返そうではないか、これもまた……一つの舞台として。

「志乃さん……!」
 光を繋ぐ段階で暴れる獣の爪に激突する志乃、引き裂く、と言うには体格差がありすぎて激突という形になってしまうのだ。獣の目を避けて動いていたファリスの近くへ志乃が受身を取りながら着地、膝を着いている彼女に駆け寄って見てみれば大きな怪我は無いが服の下には幾つかの打ち身が出来ている事だろう。命に支障は無くとも戦闘は難しいかもしれない。
「まだまだ……いけるさ」
「……少し待っていてください」
 立とうとする志乃の肩を優しく押さえ、掌に力を込める。それは優しく暖かな光、ファリスが持つ高位の力、その断片。
「これは……」
 掌から志乃の身体を巡る癒しの力が傷と痛みを取り除いていく。
「今の私に出来る数少ない事だから」
 ──ファリス、優しい子……さぁ、護るのです……
 幻聴だろうか、いや、最早どちらでも良い。
「(誰かの為に……)」
 他の為に力を行使する事、慈しみの心を持って他者の為に動く事が大切だと彼女は知る。
「治療はお任せ下さい、私に出来る最善を貴女達に……」

 獣の足止めを引き受けている桜花はちらりと二人の様子を覗き見る。
 この己の中に滲む感情は何だろうか、嫉妬? 羨望? 答えが出ないという事は元から自分の中には無い物なのか、望んでも仕方の無い物なのだろうか。
「(私の記憶は視覚的でほぼ音が無い……崩れた梁の間から初めて見た青い空、視線を落とせば山となっていた死体と瓦礫達)」
 よく覚えている、覚えているのにその時に聞こえていた音は何も思い出せない。
「(帝都の夜……婆ぁに拾ってもらう前の私はミルクホール界隈の煌めく闇で何を耳にしていたのでしょう)」
 歩き、倒れ、拾われ……今でも覚えている筈なのにそれはサイレントのワンシーンの様に無音なのだ。
 果たして、ずっと小さい頃……言葉をかけて育てられていたのなら……
「(惹かれる音もあったのでしょうか……)」

 言葉を尽くしたいのは
 ──言葉を尽くされたことがないから
 心の内、酷く転生を望むのは
 ──最初の関われぬ死で飽和したから

「さて、仕切り直しだ……行こう!」
 志乃が再度駆ける、眩い彼女を傷つけはさせない。
「援護します、存分に……魅せてください」
 ──おいでませ我らが同胞、その偉大なる武と威をもちいて、我らが敵を討ち滅ぼさん……
 緑豊かなこの地であるならエントもまたその力を最大限に発揮出来る。
「絡め、突き刺しなさい」
 大地を抉り走る獣の足に生える根、転倒させ槍の如く四肢の一部を貫く。
「私、音では心が動きませんの。骸の海にお還りになって、貴方自身の言葉で語れるようになってからおいでなさいませ」
 ──あぁ……寂しいモノと己を定義した自分が欲しているのは……
 その先を知るのは、桜花ただ一人なのだ。

 生命体の埒外であるこの体は、全人類の幸福を願って神様が創ったもの。結局の所、人の肉体を持っていても、やっぱりヒトではないのだ。
 何一つとして彼女は嫌いになる事ができない。
 価値観もその一つ、人の幸福の為の感情をもった機械。志乃は己をそう定義している。でも……
「でもね、心の底から皆大好きと言える! 」
 思い出とは決して良い物では無いかもしれない。だがそれを振り返るのか大事にしまっておくかはその者が決める事。
「偽物が引きずり出して良い事なんて無いんだ……今、目の前の紛い物は力の限りぶっ潰す!!」
 引っ掛けていた光の鎖を握り獣の上に立つ。
【メテオストリーム】
 手を離し、鎖を風へと変えて油を降り注がせる。暴れようにも桜花の生やした根が掴んで逃げる事を許さない。
「その足、貰ったよ」
 志乃の左もも、聖痕が輝き獣を燃やす光が放たれる。
「桜花さん! 志乃さん!」
 一度に力を使い過ぎた事もあるのだろうファリスの額からは汗が流れ落ちる。だが彼女のお陰で志乃達はここまで強気な攻勢に出る事が出来たのだ。

 苦しみ咆哮する獣、三人の猟兵達の背後からは後続の足音が聞こえてくるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。今さらこんな声に惑わされると思って?
お前はただ殺すだけでは終わらせない。
私を怒らせた報いを受けなさい、森の魔獣。

常以上の殺気と気合いで敵の精神攻撃を弾きつつ、
今までの戦闘知識と第六感から敵の視線を見切り、
“写し身の呪詛”の残像を囮に闇に紛れ接近してUCを展開

真の姿に変化して【血の魔装】を九重発動
右掌に限界突破した時間属性の魔力を溜め、
触れた物の時間を巻き戻す“時の逆流”と右掌を融合
手を繋ぐような気軽さで敵に触れる時間属性攻撃で敵を消滅させる

…これが時を支配する名も無き神の力。
現在、過去、未来を圧縮して時を回帰し、
お前の存在は骸の海に還るのよ。


…ああ。喉が渇いた。早く本物の彼に逢いたいわ。


万象・穹
また主の声……いい加減しつこいわね。
私の選択は間違っていなかったか。自分の世界から離れて、他者に付き従う存在になって後悔はないのか。その声でそんなことを訊くなんて悪趣味ね。
よく言うでしょ。何もしないほど意味のないものはない。
この選択が間違いかどうかは、『未来』の先にある。だから……『過去』の残影が何を言おうと、私は私の選択を否定しない。

聖獣に変貌した後の攻撃は『第六感』で回避、【ゴッド・クリエイション】で自身の鴉羽の一つを指定、繁殖力を向上させて高き森の怪物を包み込んで行動阻害よ。
消え失せなさい、森の怪物。鴉羽を裂くように突進、『破魔・なぎ払い』で攻撃よ。


ディアナ・ロドクルーン
・共闘・アドリブ可

生きる者の行動理念は快か不快

神隠しにあった人たちの大切なものに扮して
何を求め、何を得られたのかしら?

お爺ちゃんの声を、姿を模して忘れかけていたのを思い出させてもらったのは感謝する
けれども、これ以上はただただ、不快なだけ
いくらあの人の声で言葉を紡ごうとも私の魂までは響かない

そう簡単には絶命させない
狂える獣と言えども痛みは分るでしょう?

【第六感】で敵の攻撃を【見切り】、直撃地点からの衝撃は【激痛耐性】で耐え

刻印を発動させた鋭い爪を以てオブリビオンの身体に食い込ませる

心を踏み躙られた怒り、悲しみ、そして苦しみはこの程度じゃすまされない
少しでも長く苦しみもがいて、骸の海に逝きなさい



●虚空に響く
 獣は鳴く。四肢の一部に甚大な損傷を喰らい、一時的な興奮状態となっているのだ。木の葉が振動で揺れ落ち、暴れる爪が木の枝を折っていく。その目に理性の光は無く、轟々と蒼く猛らせていた。
「あらあら、随分とお怒りのようね」
 振り下ろされる剛腕をするりと避けながら様子を見ているディアナ、到着した時には既に手傷を持ち、この様に怒りに身を任せ暴れていたのだ。
「片腕が機能していないのかしら、庇う……というより動かない事へのストレスで昂っているのかも」
 目を細め、じっと獣を観察している穹。攻撃の精度は些か散漫としており、痛みでのたうち回っているようにも見える。
 ──リーヴァ……どうしてこんな事を……

 ──ディアナ……良い子だ、私の手を取っておくれ……

 ──穹、一緒に行こう。僕には君が必要なんだ。

 ──ディアナ、私が望んだのはそんなことでは……

 ──主を、リーヴァ……主を……穹……

 脳に響く声、この森へ入ってからはずっとであったが何処か違和感を感じる。
 リーヴァルディならば恋人。
 ディアナならば育ててくれた恩師。
 穹ならば主。
 各々聞こえていた声はその人の関係した人物の物であったはずなのだが……
「混ざっているのかしら……語りかけてくる内容に齟齬がある気がするわ」
 そう、揺らいでいるのだ。傷を負った苦しみと猟兵達への怒りが放つ幻聴にも影響を与えている。
「……ん、そうね……でも今さらこんな声に惑わされると思っているのかしら。ただ殺すだけでは終わらせない、私を怒らせた報いを晴らすのはこれからよ」

「いい加減しつこいわね、早々に終わらせてあげま……」
『穹……穹……俺は間違っていたのかな、万象と神羅……君達二人をあの世界から解き放って、本当に良かったのだろうか。境界から離れて、俺という他者へ付き従えさせるのは君達にとって後悔では無いのだろうか……』
 言いかけた穹の耳元で囁く声色。それは覚醒した主の声……何時もの少年のものとは違う、低く、青年らしい声音だ。しかしてその内容は穹にとっては到底心地好い物では無い。
「……その声でそんなことを言うのね、悪趣味……」
 違う、違うのだ。主はこんな事を我等には言わない。穹達は望んで差し出された手を取り、主もまた自分達の選択を決して貶めたりはしないのだから。己を他者と定義付ける事は有り得ない。
「よく言うでしょ? 何もしないほど意味のないものはない……」
 穹の指が光、ユーベルコードの輝きが発現する。
「この選択が間違いかどうかは、『未来』の先にある。だから……『過去』の残影が何を言おうと、私は私の選択を否定しない」
 穹も、もう一人の相方も、主と共に在る事を後悔した事なぞ一度も無い。未来を決めるのは過去では無い、今、この場に居る己なのだ。
「終わらせましょう、過去が現在を侵してはならないのよ」

「どれだけ鳴き叫ぼうが私はもうお前を許す事は無い、手心も加えない、滅びの先にある骸の海へ還すだけよ」
 大鎌を振るい乱暴に獣の爪牙を弾いていくリーヴァルディ。宿る殺気が瞳から漏れ出ている。
「許せないわ、許せない、彼の声を偽り私の心を掻き乱したお前を」
 声が、重なる。
【許せない、アイツの声を偽り私の心を汚したお前を】
 獣の声では無い、リーヴァルディの唇が紡ぐ言葉……同じ声音なのに。
「お前は彼では無い、心を弄び嗤う邪悪な獣……」
 瞳の色が移ろい変化する。藍から……真紅の瞳へと。
「後悔しなさい」
【懺悔に跪け】
「抗っても」
【生命を乞うても】
「【決して許しはしないけれど】」
 彼女の中の吸血鬼が表層へ出る。獣を、物言わぬ骸へと変える為に……

「……神隠しに遭った人達の大切なものに扮して何を求め、何を得られたのかしらね」
 ディアナの瞳に宿る感情は怒りと失望、欠け落ちた記憶を埋める位には楽しめたが度が過ぎればただの写し絵の具現化としか感じる事が出来ない。
「お爺ちゃんの声を、姿を模して現れてくれた事には感謝するわ。忘れかけていた所も思い出せたのだから」
 獣との距離が間近へと迫る程にその声は強く響いてくる。僅かに顔を顰めながら距離を取り、拳を大地に打ち付けた衝撃を避ける為に跳躍し、獣の視界から外れるように行動する。
「けれどもこれ以上はただただ不快なだけ、いくらあの人の声で言葉を紡ごうとも、私の魂までは響かない……」
 ディアナは最初から、この森に足を踏み入れてから聞こえてくる老人の声に懐古の想いは抱けども、そこに己の情を混合させる事はしなかった。
「偽物は偽物……人の心に土足で入ろうとした罪は重いわよ。意思無き獣さん、お仕置きしてあげるわ」
 ────ドクンッ!
 体内の刻印を起動、心の臓から肩、肩から腕、腕から手……指へと循環される力……
「ふふ……心の折れない相手は初めてかしら? 思考を捨てたケダモノだとしても……私達は容赦しないわよ?」

「先ずはその動きを……」
 穹が輝く掌をかざし自身の鴉羽の一つに力を込める。輝きが羽へと移り、光の中から白き鴉が羽ばたき出る。繁殖力、つまるところの分見の術を放ちて枝分かれする様にその数を増やしていく。
「止めさせてもらうわ────」
 幾つもの鴉が獣を押し出すように群れを成して囲い込む。振り払えども分散し思う様に払えない。
「……限定解放。代行者の羈束、最大展開開始。起動せよ、血の光輪」
 側面へ回り込んだリーヴァルディの背には赤く紅い血色に輝く輪、掌を渦巻くは時間属性の魔力。時間を巻き戻す"時の逆流"を注ぎ込み、白鴉を振り払っている獣の脇腹へ叩き込む。
「時よ……乖離せよっ!」
 無防備な部位に魔力の塊が押し付けられる。現実と魔力が互いに削り合い、肌という物体が削り抉られる。
 痛覚、痛い──痛い、痛い……痛い、痛い痛い痛い。
 正気も失った獣が身が削れる程の痛みに耐えられる筈も無く、叫びのたうち回る。石化の魔眼は鴉に封じられ、拳や脚も避けられる。そして今、腹の一部を失った。ゆらゆらと揺れる蒼炎の瞳は小刻みに振動し焦点が定まって居ない。
「痛い? 苦しい? 大きな声で鳴いちゃって……でもね、心を踏み躙られた怒り、悲しみ、そして苦しみはこの程度じゃすまされないの」
 消失した腹の肉、抉れたままの部位にディアナの刻印の力を乗せた爪が肉を突き刺すように掴む。
「ふふ……ふふふ…………残念だったかしら、共に永久で在ることが出来なくて……」
 痛みから逃れたいという無意識なのだろう、動く腕が空を掴み振るわれる。
 爪から流れ込む力の奔流が獣の体内へ駆け巡り爆ぜて中から五臓を破壊する。
「皆、下がって!」
 穹の声に反応し跳び退るリーヴァルディとディアナ、ゆっくりと立ち上がる獣は緩慢な動作で首を下げ猟兵達を睨む。

「……終わらせましょう、過去に囚われる前に」

「ん……喉が渇いた。早く本物の彼に逢いたいわ……早く、おしまいにしましょう」

「立ち上がるのね、良いでしょう……少しでも長く……苦しみもがいて、骸の海に逝きなさい」

 戦闘は続いていく……

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
(未だ見えたままの女の幻に惑わさぬよう自身を【鼓舞】し交戦)

…お前が何者であろうと。
騒めく俺の中、振り返る過去は空ろで。
遺っているのは騎士道という価値観だけ。

重ねてきた猟兵としての己は。
ここにいる『ヤドリガミのルパート』は。
きっとお前が知るルパートとはかけ離れている。
そんな俺が、もうその笑みに応えることも出来ない俺がここに居て何になる!

味方を巻き込まない位置に敵を【おびき寄せ】【指定UC】起動、【限界突破】した鉛への変換能力で周囲の森林そして幻ごと呑み込み【焼却】する!

進むしかないのだ、未来に。
在りもしない郷愁、過去と共になどと…願ってはいけないのだ!

(最後まで幻は微笑むまま)
【アドリブ歓迎】


護堂・結城
さて、偽物の声も聞き飽きた
ここらでしまいにさせてもらおうか

外道、殺すべし

【SPD】

氷牙を大槌に変化させ九尾終命を発動

「殺意の琴と焔の詩を、咆哮と共に奏でよう」

厄介な石化の視線から潰す
【先制攻撃】で頭部周辺を【焼却・蹂躙】する白炎の【属性攻撃】

「…本能で悟れ、此処がお前の幕引きだ」

視界を塞いだら【ダッシュ】し接近
大槌による【怪力・範囲攻撃・鎧砕き】で防御を崩しにかかるぜ

「人の想いを食い物にする外道は…噛み砕いてやるよ、この『牙』で」

持ち替えた紫電双月に【生命力吸収】を込め、牙を突き立てるように【捕食】の一撃
持ち手をぶっ叩いて内側から【衝撃波】の追い打ちだ

「人の心を弄ぶからそうなる」


花園・スピカ
あの人と別れたあの時どうすべきだったのか…そもそもあの人への感情が分からなくて…ずっと向き合う事を避けてきました
でも今回の道中、そして今あの人の声で私に暗い言葉を投げ掛けてくる貴方はとても…嫌です
私があの人に抱いていた感情は…少なくとも暗いものだけではなかったのですね

【先制攻撃・高速詠唱・早業】でUC発動
先に相手の自己強化を封じる

相手の攻撃は【第六感・見切り・地形の利用・オーラ防御】で防ぐ

ずっとあの人から逃げてばかりではいけない…ちゃんと向き合わなければいけないことに気づいてしまったから
ここで足を止めるわけにはいきません…!

【第六感・スナイパー】で【破魔・属性攻撃】の【全力魔法】を確実に当てる



●空ろい往く外道に過去の価値は分からない
「……あれが、元凶……」
 スピカは見る、四肢の一部は中の筋が断裂しているからなのかおぼついていない、横腹は何で持っていかれたのか不自然な形で保たれている。
「先鋒組が抉ったか、此方に殺気を向けるぐらいの体力は残っているがそれも時間の問題かもな」
 目を細め、冷静に状態を把握していく結城にルパートが示す。
「奴のフィールドだ、何をやってくるか……油断はできんな」

「(あぁ……油断なぞしている余裕は無い……まだ……まだ俺の前に現れるのか、お前は……!)」
 ルパートの眼前で微笑む女性……それは共にここまで来たスピカでは無く、森に足を踏み入れてからずっとルパートの心を苛ませる記憶に無い幻影。
 彼女が何者であろうと、騒めき揺さぶられる彼の中、振り返る過去は空ろであり虚無に浸されている。
「遺っているのは、騎士道という価値観だけ……」
 ここに立つ自分は唯一持っていた要素に縋って自我を保っているだけの存在に過ぎない。
 過去とはなんぞや?
 振り返ってみれば己の歩んでいた道がぽっかりと消えて無くなっている。それでは自分はどうやってこの道を辿っていたのか、記憶の無い道程に答えが出るわけも無く、何も知らない自分は気持ちの悪い焦燥感だけが思考の底から這い上がってくる。
 考えるな、思考の外から聞こえてくる自分の声。それと共に混ざってくる女の声にルパートは大剣を構え大地を踏み抜き駆けるのだ。この苦痛から逃れる為に……

「(ルパートの様子が……こりゃあ早々に終わらせなければな……)」
 傷つき動作に翳りを見せているが、相手は元々力ある聖獣、仕留めるにはもう少しかかるだろう。
 供である氷牙を大槌へと変化させルパートに追随する様に駆ける。
 ──まだ抗っていたのね、不毛という言葉……聞こえなかったのかしら。
 響く姉弟子であった者の声、結城の心中へ語りかけてくるそれは甘く、へばりついて離さないと言うかのように彼の中にまとわりついてくる。
 やめましょう、意味の無いこと、と知った声で戦意を鈍らせようとするだろう。
 しかし外道殺しの心は揺さぶられ事も、足が鈍くなる事もなかった。
「偽物の声も聞き飽きた、確かに思う事がない訳でじゃあない……だが覚えておくんだな。世の中にゃ誰がなんと言おうと貫かなきゃならん矜恃が、信念がある」
 コツ……コツ……と歩みを進め。
「俺はあの時誓った想いを曲げずにここまで来た……今も……これからもだ」
 獣の眼光が結城へと向けられる。混じるのは殺気か、憤怒か。
「ここらでしまいにさせてもらおうか、外道……死すべし」
 咆哮による威圧に対し、外道殺しの青年は薄らと笑みを浮かべ戦闘態勢へと移る。

 獣の咆哮に僅かに身体を震わせる。怒りと、哀しみ……痛覚はあるのか何処と無く負った傷を庇う動きも見られる。
「(……私は、私は……)」
 青年と別れたあの時、自分はどうするべきだったのか、スピカ自身、彼に対してどのような感情を抱いているのかをわかっていなかった。
 わからない、は時として恐怖を生み出す。確かに感じられる己の中の感情の渦、しかしスピカはそれが何かを知る機会が無かったのだ。
「(だから……私はあの人と向き合うことを避けてきた……)」

 ──スピカ

「でも……それでも……森の道中、そして今……」
 スピカの瞳に宿るのは感情の色。
「あの人の声で私に暗い言葉を投げ掛けてくる貴方は……」
 それは、嫌悪。
「とても……嫌です」
 はっきりとした拒絶の言葉。自分はあの人に対して暗い感情しか無いのだと思っていた、決めつけてう。違うのだ、わからなかった事を怖いと錯覚していただけだ。

 獣の怒号は空気を振動させ風を切る。腕は封じられど身体は動く、聖獣としての力を更に解放し強靭な足で猟兵達を踏み砕こうと。
「させません……!」
 スピカの指先が光り、糸が飛び出して獣の腕を絡めとる。
「災いを戒めし魔法の紐……グレイプニルッ!」
 細い繊維の糸が他の部位にも流れるように巻き付き、抵抗しようにも見た目以上に固く切断が出来ない。
 腕、足、首……糸が這い進み絡んでいく。残り少ない力を全て解放しようと吐いた怒号だが、グレイプニルの糸の効果により力の発現が封じられもがくことしか出来ていない。
「……殺意の琴と焔の詩を、咆哮と共に奏でよう」
 糸を強引に解いて起き上がる。スピカを狙わんと彼女の方を向いてみれば眼前には既に結城が獣を肉薄していた。避けられないと悟ったのか獣は回避行動もせずに結城の姿を目で追うだけ……石化の魔眼を発しながら。
「遅いな。本能で悟れ、此処がお前の幕引きだ」
 視線が交差する事は無かった、白炎が獣の目を包み込む様に発火して宙の水分を奪う。
 大槌を振るい、庇っている足を砕く。体勢が崩れ片膝をつくと同時に獣の腕を踏み台にして頭上へ躍り出る。持ち替えた紫電双月、橙と白の刀を肩部へ突き立てる。
「人の想いを食い物にする外道は……噛み砕いてやるよ、この『牙』で……」
 深く刺さった刀身に力を込めて衝撃波を放てば、筋肉の繊維がブチブチと切れているかの如く脱力して痙攣を始める。
「人の心を弄ぶからこうなる……まだ、終わってないぞ」
 結城の言葉を理解するより早く、衝撃が獣の身に襲いかかる。
「あぁ……重ねてきた猟兵としての己は……ここに居る『ヤドリガミのルパート』は、きっとお前の知るルパートとはかけ離れている……」
 まぼろしとわかっていても語りかけずにはいられない。己のルーツ、喪ってしまったルパートという存在。知りたいのは己なのだ。
「そんな俺が、もうその笑みに応えることも出来ない俺がここに居て何になる!」
 もう知りようのない過去、囚われてはいけないと理解していても思考の片隅で何時までも燻っている。
「ルパートさ……」
「下がるぞ。大丈夫さ、進む為に今、気張ってるんだ……」
 スピカと結城はユーベルコードを解きそれぞれその場から後退する。
「進むしか……ないのだ……未来にっ」
 幻視の女性は微笑みを崩さない。
「在りもしない郷愁、過去と共になどと……願ってはいけないのだ!」
 ルパートの鎧から流れ出る鉛が広場一帯を包むように広がり……

「俺は……! 今を、ヤドリガミのルパートとして生きねばならんのだぁっ!」

 叫びがトリガーとなり、鉛は青き業火となって森を飲み込む。木々は燃えず、飲み込むように幻と獣の周囲だけを焼却する。
 
 ──ルパート……

 獣とルパートの間に立つ女性は炎に飲まれ、夢幻としての役割を終えようとしていた。
 最後のその時まで微笑みを崩さない彼女を、鎧のヤドリガミは目を離さず、見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エルザ・メレディウス
●カマル・アザリーさんと一緒に...戦います
◆幻聴に対して
1.カマルさんと声を掛け合いながら戦います
2.身に着け、テラリウムを握りしめて、心を冷静に保つように心がけます


私の本当に倒すべき敵は...ここにはいない
心を焦がしている復讐の火は...ここで燃やすべきではないのですね
過去を変えることもできませんし、復讐の気持ちを消すこともできません。
ですけれど、今は私の隣にはカマルさんがいらっしゃいます
なら...今だけは『復讐者』ではなく『猟兵』として、敵を倒してみせます
*カマルさんと連携しながら、タイミングよく白王煉獄で敵へ攻撃を...


カマル・アザリー
うるさーい!そうやって皆を惑わして狂わせるのはいい加減にしてください!
もうっ!頭にきました!そもそも最初以外何も見えないし聞こえないんですけど……惑わせるなら生まれたばかりの人にも対応出来るようにしてから出直してください!
そんなわけでUCで先輩が強引に踏み込めるのを手助けします。オブリビオンが先輩へ注意を向けたら次の準備です!
先輩!私の魔力を先輩の手持ちの赤い石を媒介にして刀へと送り続けます!私はその場から動けなくなりますが気にせずドカーンと全部燃やしちゃってください!



●独りじゃない
 轟々と燃え続ける戦場、盛る炎の中で獣……高き森の怪物は立ち上がった。
 昇る熱気がゆらゆらと揺れる影を錯覚させる。強靭な四肢は筋が切れ、骨は砕け立ち上がる事はおろかまともな痛覚を持っている者ならば意識を保つのも難しい。緩慢な動作の中で輝き続ける青き瞳だけが一層の殺気を籠らせており、不気味さを際立たせているのだ。
「カマルさん……」
「大丈夫ですよ先輩! 私が着いてます!」
 エルザの懸念はただ一つ、森の道を進んでいた時に聞こえてきた幻聴がまた聞こえてきている事。
「えぇ……もう、迷いません。今は貴女と共にあるのだから」
 身につけているテラリウムを優しく握りしめる。無意識に行っているそれはエルザにとって心の均衡を保つ為の動作。

 ──ふは……ふはは……

「……っ」
 聞こえてくる笑い、あの時と同じ、此方を嘲笑うような不愉快な声。騒めく心を鎮めようとエルザは唇を噛む。

 ──言った筈だろう? 無意味とな、心を強く持つ? 先程の体たらくからこの短期間で?
 ──無理だね、お前が俺を、私を、僕を、儂を識る限り、復讐を抱き続ける限りその激情の炎を消す事は出来ない……
 ──気づいているんだろう? この身はお前の脳内に潜む夢を幻視させた物。つまるところ、この台詞も、嘲笑も憐憫も悲しみも怒りも言葉も全て、全てっ!

『お前が自分自身の心にぶつけている事に過ぎないのさぁ!』

「違う……違います……私は……っ!」
 耳元で囁く夢幻の言葉にエルザは首を振り抵抗する。共に歩く少女が隣に居る限り、自分は迷わないと。此方を睥睨する獣を睨み返し、エルザは息を吸い柄に手をかける。汗ばむ指が僅かに強ばるが気にしてはいられない。戦闘に入り、幻聴を振り払おうと抜こうとしたその時……
「うるさーい! そうやって皆を惑わして狂わせるのはいい加減にしてください!」
「カマル……さん……?」
「もうっ! 頭にきました! そもそも最初以外何も聞こえないし見えないんですけど! 先輩の様子がおかしかったから、また何か先輩に吹き込もうもしてるんでしょう! 惑わせるなら生まれたばかりの人にも対応出来るようにしてから出直してください! ネチネチと先輩ばかり狙ってほんと許せないんですけど!!」
 体重を乗せた獣の拳が迫るのもお構い無しにカマルが怒りを表に出す。生まれたばかりの彼女には森の声も届かず、ただの咆哮にしか聞こえない。
「先輩っ!」
「カ、カマルさん……?」
 突然呼ばれ戸惑いながらも聞き返すエルザ、その手を取って獣から距離を取るように走り出す。
「先輩が何を見て、何を聞いたのか私にはわかりません……それは私でも助けにはならないのかもしれない……」
「そんなこと……」
 エルザの否定を遮る様にカマルは続ける。
「でもっ! 今っ! 先輩と一緒に居るのは私です! 私なんです! あんな怪物の聞かせた幻聴より……」

 ────私の声を信じてっ!

 その言葉に心が一気に落ち着いた事を自覚する。エルザがカマルを信じないなんて事は無い。それはカマルも分かっている。だからこそ今このタイミングで告げたのだ。
 自分は既に独りでは無い。互いに心を預けるに値する仲間が共に居てくれる、この事実はエルザの復讐に傷つく想いを優しく暖めてくれる。
「私の本当に倒すべき敵は……ここには居ません」
 彼女の心を焦がす復讐の火、それはここで燃やして良い物では無い。
「はいっ!」
「(過去は変わらない……変えることも出来ない。そしてこの身に宿る復讐心も消す事は出来ない……)」
 でも、今は隣にカマルが居る。何も無いと感じていた自分に陽だまりをくれたヤドリガミの少女。彼女の言葉に応えたい、ならばどうする?
「そうですね、それなら今は……今だけは……」
 ────『猟兵』としてこの刀を振りましょう。
 復讐者としてでは無く猟兵、カマルとエルザが育んだ絆の道程がここに表れる。
「先輩! 先輩が持っている赤い石を媒介に私の魔力を刀に送ります、私は動けなくなりますが気にせずにドカーンとやっちゃってください!」
「カマルさん……いえ、わかりました。貴女の元には攻撃はいかせません」
 カマルが炎に紛れ魔力を精製する。エルザの持つ石が呼応するかのように黄緑色の炎色反応を見せながら輝く。
 反転、エルザは獣の方へと向かい合い刀を抜けば反応した獣が粗雑な動きで腕を振るう。読みやすい軌道ではあるが力の加減が出来ないからこそ当たれば只では済まない傷となるだろう。
 青き殺気がエルザを執拗に追い回す。
「もう少し……」
 剛腕を踏み台にして首筋を切りつける、振り回される両の腕を柳のように受け流し。
「……後……後少し……!」
 額の汗を拭う事も忘れ、カマルは魔力を送り続ける。エルザが着地し、柄を強く握りしめ……
「……っ! 先輩っ!」
 分かる、力の奔流が、カマルの優しい焔の力が流れてくる。ならば後は、自分がその炎に応えるだけ……
「その刃は罪を断ち切り」
 咆哮たてながら向かい来る森の怪物、静かに目を瞑りて息を吸う、背筋を伸ばし構えるは霞の構え。
「その炎は魂を浄化する」
 頬を掠める風が教えてくれる、その拳がエルザに当たる事は無いと。風きり音が過ぎた……その時、無音が戦場を支配する。

「──白王煉獄」
 振るわれる一刀を捉える事は叶わず、燃え上がる黄緑色の炎が獣を包む。
 身動ぎもしない獣の胴体がゆっくりと傾き、上半身だけが大地へと轟音立てて沈む。
「……これにて、終いです」
 エルザが静かに目を開くと、此方へと駆け寄ってくるカマルの姿が見える。微笑みを返しエルザも彼女の方へと足を進めるのであった。

 声は、もう聞こえない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月23日


挿絵イラスト