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散るは造花の桜吹雪

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #グラッジ弾

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#サクラミラージュ
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●永久に咲く桜へ“恨み”言を
「……世の中に、たえて桜のなかりせば」
 桜舞う神社にて、ひとつの人影が散る桜へ手を伸ばす。和服に身を包んだその女は己の手に滑りこんだ花弁をじっと眺めながらぽつりと思い浮かんだ歌を呟いた。サクラミラージュの歴史でも和歌は古くから重宝され、大正の現在までしっかりと伝わっている。
「春の心はのどけからまし……ええ、そうでしょうとも……」
 ぐしゃり。
 その白い手に包まれていた花弁は握りつぶされ、小さな粒となって地面に落とされる。桜の花弁で埋め尽くされた地面に転がってしまえばそれはもう見つけることができない。女は、ほう、と白い息を吐いてその手を擦った。
「博識だねぇ」
 サクサクと雪を踏みながらもう一人の影が姿を現した。雪に劣らない白い髪をしたその男は、笑顔を浮かべながらその女へ近づいてくる。女は特に警戒する様子も喜ぶ様子もなく男へ向き直った。彼女の栗皮色の瞳に光はない。それは、とっくに死を決めた者の瞳だ。
「大したものではありません……この程度、いくらかの教養があれば……」
「ははは、謙遜のしすぎは皮肉にもなるよ? まあいいか」
 男は一度視線を切り、ぐるりと周囲を見渡した。
 幻朧桜が立ち並ぶ山中の神社、そこはとあることで有名な場所であった。
 山を少し登った場所にあるその神社では長い期間雪が降る。降り積もったその雪は神社内に整然と並ぶ幻朧桜に見劣りしない美しさだ。そこへ通年花をつけ続ける幻朧桜の花弁が舞い、広がるのは現実離れした幻想世界。特に夜は、月の光も加わって神秘的な光景をこの世にもたらすのだ。
 ここの神社はその光景を多くの人に見てもらうため、雪解けの少し前、春一歩手前の時期の夜に祭りを執り行う。あたたかい甘酒や豚汁が配られ、くつろぐためのシートが敷かれ。訪れた人々は思い思いの時間をそこで過ごすことができる。弁当などを持ち寄ってくればちょっと早い花見にもなるだろう。
 この催しは大変人気で、毎年多くの人が雪と桜のコントラストを眺めにやってくる。ときにはスタァや高官、身分の高い人々が訪れることも珍しくない。そんな帝都の人々が大勢集まるこの地で、事件は起きようとしていた。
「桜は好きかい」
 男の問いに女はその薄い唇をきつく結んだ。答えずともその答えは明確であった。そうでなければ、彼女の首に黒い鉄の輪は嵌っていない。
 女の様子を見てくつくつと笑った男は、懐からあるものを取り出す。差し出されたそれは鈍い光沢をもつ黒い拳銃であった。
「散ればこそ、いとど桜はめでたけれ。憂き世になにか、久しかるべき。……散るからこそ桜は美しいのさ。さあ、派手に散ってもらおう、ね?」
「……はい。この命、散らしましても」
 拳銃を受け取り懐に収めながら、女は男に背を向ける。その感情の抜け落ちたような表情は一変し、歪んだ笑みを湛えていた。

●雪月花の宴
「雪に桜、そして月か。ううん、風流揃い踏みだねぇ」
 さぞ美しかろう、とアメーラ・ソロモンは何度もうなずいた。実際、予知をした彼女にはその美しい光景が思い描かれているのだろう。そしてその後に起きる、惨劇も。
「そんな雅な場所を土足で踏み荒らす無法者が現れたよ。それも厄介なことに“一般人”だ」
 アメーラの言葉にどよめく者、覚えのある者、それぞれがそれぞれの反応をする中、アメーラはその手で軽く紋を描いた。幻影魔法で浮かび上がるのは神社の光景とひとりの女性。その手には黒い拳銃が握られている。
「グラッジ弾について知っている者はいくらかいるかな。これはサクラミラージュにて帝都が世界を統一するまでに起きた大戦で使われた影朧兵器のひとつ。すでに廃棄されたはずのものだ。だというのに、なぜかこうして手にしている者たちがいる」
 女が身に着ける黒い鉄の首輪―――それは幻朧戦線と名乗る集団が共通して身に着ける装身具だ。彼ら自身は一般人だが、その思想は危ういものと言わざるを得ない。
「簡単に言ってしまえば、テロリストだね。そのうちのひとりがこの神社に大量の影朧を呼び寄せるつもりらしい。大勢の一般人が詰めかけるこの場所で、だ!」
 そんなことが起きればどうなるか、想像に難くない。
「まずはこの神社に客として訪れて祭りを堪能してほしい。あまり目立ったことをすると逃げられ日を変えられてしまう可能性があるからね。グラッジ弾を持つ彼女が動き出したら行動開始だ」
 グラッジ弾を持っているのはこの女ひとりだが、仲間が全くいないとは考えにくい。黒い鉄の首輪をしている者がいないか目を光らせておくのもアリだ。ただ、下手に動かない方がいいだろう。警戒されては予知が狂ってしまうかもしれない。
「ま、ちょっと早めの花見だと思って楽しんでおいで。寒いだろうから風邪はひかないようにね?」
 予言書が雪桜の神社へと猟兵たちを導く。飛べば銀と桜色のコントラストがその目に飛び込んでくることだろう。


夜団子
 こんにちは、夜団子です。雪に夜桜、美しい光景で花見はいかがですか?

●今回の構成
 第一章 まずは雪桜を楽しもう! 予知から外れてしまうような行動はNG。
 雪と夜桜によるお花見をお楽しみください。温かい甘酒と豚汁を無料で配布しており、有志の屋台では定番の品々を購入することができます。神社なので、参拝することも可能ですよ。もちろん、お弁当などを持ち込めますし、ブルーシートなんかをひいて座ることもできます。(ちょっとお尻が冷たいかもしれませんが……)
 幻朧戦線の面々も忍び込んでいますが事件を起こそうとするまで彼らは無害です。花見を楽しんでいればなにがしかの情報は入りますのでどうぞご自由に満喫ください。

 第二章 祭りからこっそり離れた幻朧戦線の者たちを追おう!
 動き始めた幻朧戦線(一般人)を捜索や尾行、捕縛していただきます。第二章に進んだ段階でまた追加OPを挟みますのでそちらを参考にしていただけたらと思います。

 第三章 呼び出された影朧を倒そう!

●備考
 勿論ですが、公共良俗に反することや未成年の飲酒・喫煙、他の方への迷惑行為は禁止です。
 また、複数人での参加も大歓迎です。人数上限はありません。(もちろんおひとりさまも!)その場合は、『相手の名前(呼称可)とfから始まるID』か、『グループ名』をしっかりと記載願います。送信タイミングが大きくずれますと対応しかねることがありますので、できるだけ合わせて送っていただけると幸いです。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『雪と桜』

POW   :    美味しい食べ物、飲み物を楽しむ

SPD   :    仲間たちとの愉快な雑談を楽しむ

WIZ   :    幻想的な雪桜と澄んだ空気を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セレシェイラ・フロレセール
雪桜とはまた一興🌸
夜の帳に一層映える白銀の雪と可憐に咲く桜
幻想的な光景に感嘆の意を示そう
この寒さも景色をより楽しむ為のスパイスだと思えばなんてこと無いわ

このひと時は静かに過ごすのが良いかしら
幻想的なこの光景を目に焼き付けるかの如く、いつものように気儘にお散歩
サクサクと雪を踏みしめる音までも小気味良いわね
嗚呼、今宵の桜は月までもが美しいのね

身体が少し冷えてきたところで温かい甘酒をいただきます
お散歩してたら何だか小腹もすいてきたみたい
屋台で美味しいもの巡りもしちゃいましょうね
やっぱり温かいものが良いかしら
あれもこれも美味しそうで迷っちゃう
でも、今日の甘味はベビーカステラで決まりね



 ひらり、ひらりと舞う幻朧桜。神社の境内に積もった白雪へピンク色を彩るそれらは、どれだけ舞っても失われる様子がない。実にサクラミラージュらしい光景とも言えよう。
「夜の帳に一層映える白銀の雪と可憐に咲く桜……雪桜とはまた一興ね」
 鈴を転がすような声が、愛らしくころころと笑う。セレシェイラ・フロレセール(桜結・f25838)は静かで幻想的なこのひとときを、気儘に歩きながら楽しんでいた。どこへ視線を流しても、映るのは雪と桜のコントラスト。桜が好きなセレシェイラにとっては、心躍る幸福な時間だ。
(……この寒さも、景色をより楽しむ為のスパイスだと思えばなんてこと無いわ)
 ほう、と白い吐息にその小さな手を絡ませ温める。サクサク、サクサクと雪を鳴らしながらセレシェイラは足を止めることなく歩き続けた。雪を踏みしめるその音はどこか小気味よく、静かで厳かなこの空間では喧騒に邪魔されることなく響き渡る。時折すれ違う人の足音も、足を止めて雪桜を眺める人の感嘆の吐息も、どこか趣深い印象と共にセレシェイラの耳へと届いた。
 ふと思い立ち、雪桜を眺めていた視線をずっと上に持ち上げてみれば。雪と桜を柔らかく照らし、この幻想世界を生み出しているもうひとつの要因が、桜色の瞳に映りこんだ。
(……嗚呼、今宵の桜は月までもが美しいのね)
 夜空に浮かぶ望月に、かかる桜吹雪。雪に彩りを与えていた花びらは月にも見劣りすることなく舞い踊り、人々の目を楽しませている。
 右を向いても左を向いても、そして上を見ても、瞳に映るのは雪月花の幻想世界。そんな光景を楽しみながら足の向くまま歩いていたセレシェイラは気が付けば、屋台の並ぶ石畳までやってきていた。先ほどまでの静粛な雰囲気から少し変わり、子ども連れなどが多いこの場所は楽し気な笑い声がいたるところから聞こえてくる。少し離れたところでは巫女が甘酒を配っており、その隣では温かい豚汁が大きな鍋で煮られ、人々に手渡されていた。
(そろそろ身体も冷えてきた頃合いだし……いただこうかしら)
 紙コップに分けられ差し出された甘酒を両手で受け取れば、温もりがじんわりと手のひらに広がる。優しい温かさに思わず頬も緩んだ。
「どうもありがとう。いただきます」
 甘酒の独特な風味に舌鼓を打ちながら、セレシェイラは屋台の通りへ改めて足を向ける。歩き回ったからか、小腹がすいた。なにか軽くつまめるような、美味しいものはないだろうか。
「やっぱり温かいものが良いかしら……あれもこれも美味しそうで迷っちゃう」
 いくつか目移りをしながらセレシェイラは進む。たこやきに焼きそば、いろんなものがあるけれどどうせならば甘味がいい。きょろきょろと屋台を見て回る彼女に、ひとりの男が声をかけた。
「そこの嬢ちゃん! 今焼きあがったんだがどうだい!」
 振り返ると気のよさそうな笑顔を浮かべた男が、屋台の向こう側からセレシェイラを招いていた。その屋台に並ぶのは一口サイズのカステラたち。きつね色の焼き色と焼きたての香りが、食欲を掻き立てさせる。
「ふふ、今日の甘味はベビーカステラで決まりね」
 数分後の神社内では、たくさんおまけしてもらったベビーカステラの紙袋を抱えながら、神社内を散策するセレシェイラの姿があったそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
夜の神社か
少し前は、多く人を運んだ

此の世界の神は
実体を持たないのだな
以前は解せなかったが
今は少し感じられる
此の社には、中身[かみ]が在るな

"楽しい"は、未だ解せん
見回りをしよう
鉄の首輪は目立つ
影に蟲を潜らせておくか
何もせず、只ひそめ
今はまだ

彼の植物、桜といったか
皆、彼の木を眺めている様子
同様に視線を向けて居れば
目立ちもすまい

意識干渉の"糸"が絡みついて
植物の形が全く解らん
いつもの事だが
人間社会は、"繭"ばかりだ



「……夜の神社か」
 桜舞う神社、その境内に足を運びながらイリーツァ・ウーツェ(虚儀の竜・f14324)はぽつりとつぶやいた。少し前の頃は、タクシーで多くの人を運んだ場所だ。日ごろから人が集まるところだとは思ってはいたが、このような祭りをやっていたとは。
 何度も訪れた場所でありながら、今回初めてこの場所の土を踏む。積もった雪がイリーツァの足を沈ませ、ズボンの裾を湿らせた。
「……此の世界の神は、実体を持たないのだな」
 境内で祭りを行えるほどの広さを持つこの神社。祭りを楽しむ者たちがどれほど神を信じているかはわからないが、これだけ大きな社を持つのならば祀られているのはよほど力のある神なのだろう。
 以前はわからなかった神の気配だが、今ならば少しだけ感じ取ることができる。此の社には、中身―――神が在る、と。
 サクサクと雪を踏みしめながら神社内を進むイリーツァ。その視線が向かう先は雪桜……ではなく、人々の首元だ。黒い鉄の首輪……幻朧戦線を示すその符号はとてもよく目立つ。少し気にかけながら視線を巡らせればすぐに目についた。アクセサリーとするには無骨が過ぎるし、この寒い中無理をしてつけているのも不自然である。
 周りに目を向けながら歩き続けるイリーツァの横を、学生の一団がすれ違った。彼らは手に思い思いの料理を持ち、互いに笑いあいながら話している。
 彼らの中に鉄の首輪をつけている者はいなかった。祭りを楽しむ一般客だろう。
(“楽しい"は、未だ解せん)
 彼らがなぜ笑い、なぜこの場所に足を運んだのか、イリーツァにはまだ理解が及ばない。理屈としてわからないわけではないが、それを感覚として理解するには至らなかった。故に古竜はただ、仕事を果たすべく見回りを続ける。
(一人……向こうには二人か。まばらだがそれなりの人数がいるな。影に蟲を潜らせておくか)
 鉄の首輪をつけている者とすれ違うその瞬間、死角にある影から小さな蟲の群れが飛び立った。具現化せずに幻朧戦線の者たちの影へと迫ったその魂喰蟲たちは、なにをするでもなくそのまま影へと混じる。
(何もせず、只ひそめ。……今はまだ)
 蟲たちがひそんだことを確認し、イリーツァは次の者へと視線を映した。できる限り多くの者へ蟲をひそませておこう。そうすれば、彼らがことを起こそうとした際簡単に制圧できる。
(あれは……)
 そうして見回りを続けていたイリーツァの足が、不意に止まった。視線の先には若者の集団。一見するとただの集まった客だが、その全員に鉄の首輪が嵌められている。
 それなりの人数だ、イリーツァはその場で自ら監視をしておくことに決めた。
(彼の植物、桜といったか)
 イリーツァが足を止めることにしたその場所にも首輪のない人々が多く集っていた。皆一様に桜を見上げ、雪を眺め、感嘆の吐息を漏らしている。その中に紛れ込み、目の前の桜へ顔を向けながら、イリーツァは監視を始めた。
(同様に視線を向けて居れば目立ちもすまい)
 目を直接向けずとも彼らを観察する手段はいくらでもある。無感動に桜を見上げながらイリーツァはそれを紡ぎ始めた。……しかし、ほどなくしてその眉間に皺を寄せる。
(意識干渉の“糸"が絡みついて植物の形が全く解らん。いつもの事だが、人間社会は“繭"ばかりだ)
 仕方ない、と桜を眺めつつ彼らを視界に収められる位置まで足を運ぶ。この広い神社の中でイリーツァほど淡々と桜を眺めている者は、きっとひとりだって居やしないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小烏・安芸
【ヤド箱】

桜の絶えないこの世界で、そうまでして散らしたいもんかねぇ……ま、あんまし人ばっかりジロジロ見とったら怪しまれるやろうし、ここはいざというときまで素直に祭りを楽しんどこか。

花と雪の組み合わせも風流やけど、ウチはやっぱし花より団子。腹ごしらえもかねて屋台を色々見て回るわ。一通りぐるっと回ってどんな屋台があるんかチェックしとこ。軽めで持ち運びが楽そうなの……そうやな、焼き鳥とか団子とかええかな。ああ、ついでやしおすそ分け用に一本多めに買っとこ。

一通り見て回ったら情報交換も兼ねて他の子と合流。手近で邪魔にならん場所見つけてお食事といこか。やっぱし外で食べると雰囲気違うもんやなぁ。


神楽・鈴音
【ヤド箱】
神域でテロ行為とか、罰当たりにも程があるわね
まあ、とりあえずは屋台回りながら様子見ね

大正ならではの「物品系」屋台を探して回るわ
風船、万年筆、後は珍しい細工物とか、なるべくサムライエンパイアになさそうな品物中心に
お金はエンパイアの小判(なけなし)を古銭商に売りつけて換金しておけばいいかしら?
「こうやって、異世界の品物を集めて故郷で売れば、少しは私の生活も……

一通り買って回ったら、残りのお金で食べ物でも買おうかしら?
いつも碌な物食べてないし、ちょっとくらい贅沢してもいいわよね
安芸さんと合流したら、焼き鳥とタイ焼きを交換するのもいいかも
「あら、美味しそうね。こっちのタイ焼きと交換する?



「桜の絶えないこの世界で、そうまでして散らしたいもんかねぇ……」
 桜舞う幻朧神社へやってきた小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)はぽつりとつぶやいた。彼ら、幻朧戦線の思想はもちろん、そこからこんなテロ行為に及ぶ思考に理解が及ばない。オブリビオンは“そういうもの”としても、彼らは一般人だ。一体、なにが彼らをそうさせるのだろうか。
(ま、あんまし人ばっかりジロジロ見とったら怪しまれるやろうし、ここはいざというときまで素直に祭りを楽しんどこか)
 鉄の首輪の彼らをちらりと見送りながら、安芸は気を取り直して足をある通りに向けた。花と雪の組み合わせは確かに風流だ。だが、安芸はどちらかというと『花より団子』派なのである。
 子ども連れや学生の一団が多い屋台通り。祭りらしく人通りも聞こえてくる声も多いその場所を、安芸は気儘にゆらゆらと歩いていく。周囲から漂う香りは進むごとにその種類を変えて、安芸の鼻をくすぐった。
 ちょうど腹が減っていたのもあってどれもこれも魅力的に見える。野菜の焼ける小気味のいい音や食欲を増してくる香りに耐えながら、安芸は買うものを吟味していった。
(軽めで持ち運びが楽そうなの……そうやな、焼き鳥とか団子とかええかな)
 どれもこれもおいしそうだったが、箸が必要な焼きそばやじゃがバターなんかは食べにくそうだ。どこかに座って花見をするには向いているのだろうが、そういう予定はいまのところない。ならば、立ったまま、ひいては歩きながら食べられるものがいい。
 さっきから空腹を刺激してきている焼き鳥と、甘味に団子を買おう。そう決めると安芸はさっそく焼き鳥の列へと並んだ。
 屋台にしては珍しく、結構種類があるようだ。じゅうじゅうと音を立てて焼ける鳥皮にきつね色の焦げ目がついたぼんじり。合間にネギが挟まった鳥ネギも実に旨そうだ。
 さて、どれを買おうか。香りに近づいて溢れそうになってきた唾液を飲み込みながら、安芸の目はメニューの中を移ろうのだった。

「神域でテロ行為とか、罰当たりにも程があるわね……」
 はぁー……と深い息をついて神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)は肩をすくめた。世界や神様は違えど鈴音も巫女だ。神域でテロなど考えるだけで腹が立ってくる。そんなことをしでかそうと思う輩の気持ちなどわからないし、わかりたくもない。
「まあ、とりあえずは屋台回りながら様子見ね……このときのために、このお金を用意しておいたんだから……!」
 ちょっとだけずっしりとした小銭入れを持って鈴音は笑みを浮かべる。その様子はいかにもなにか企んでいますと言わんばかりだが、彼女のやろうとしていることは大したことではない。屋台で出ている安めの小物を買って、故郷のサムライエンパイアで高く売りつけ儲けようという些細な企みである。
「こうやって、異世界の品物を集めて故郷で売れば、少しは私の生活も……」
 やはり、異世界の小物というのは物珍しさで目を引くらしく、結構馬鹿にならない値段がついたりするものだ。だから鈴音はこの日のために、なけなしの小判をわざわざ換金して持ち込んだのである。
「なにがいいかしら……よく目立つ風船は絶対外せないとして……」
 文房具はウケがよさそうね、だったらちょっと値が張るけれどこの万年筆は買いかしら、などと思案しながら鈴音は屋台を巡る。今の彼女ほど真剣に屋台を回っている者はいないだろう。
 桜の彫り物がされた少し値の張る万年筆を筆頭にした戦利品を大切に風呂敷で包み、鈴音は改めて周囲の屋台を見渡した。小物系ばかりを巡っていたのであまり目に入っていなかったが、食べ物系の屋台の種類もかなり豊富だ。子ども連れも多いからか、甘味だけでもかなりの種類があるように思える。
「いつも碌な物食べてないし、ちょっとくらい贅沢してもいいわよね」
 ひい、ふう、みいと残りの金額を数え、額に問題がないことを確認した鈴音は、近くの屋台へと向かった。生地の焼けるいい香りがする。そこの店主が焼き途中の生地へたっぷりと餡子を乗せるのを見て、鈴音は満足そうに笑顔を浮かべた。

「あ、いたいた。安芸さん、待たせちゃったかしら?」
「ん、大丈夫。ウチも今来たところやで~」
 桜舞い踊る境内、屋台通りから少し離れたところで、ヤドリガミの二人は合流した。それぞれの手に焼き鳥と団子、たい焼きを持って。お互いに二つずつ買われているそれを見て、二人は顔を見合わせた。どちらが早かったか、二人は共にくすくすと笑いあう。
「あら、美味しそうね。こっちのタイ焼きと交換する?」
「ええよぉ、おすそ分け。あっちの邪魔にならなそうな場所でお食事といこか」
 互いの見つけた食べ物を取り換え、彼女たちは共に食事を始めた。桜と雪に想いを馳せ、話を弾ませあいながら。楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「……やっぱし外で食べると雰囲気違うもんやなぁ」
 口に着いた餡子をぬぐいながら安芸はつぶやく。その声には確かな喜色が乗せられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
幻朧戦線は相変わらず動きが活発ですね。
すんなりとはやらせはしませんよ。

とはいえ、今は相手が動き出すまでは英気を養うこととしましょう。
栄養補給、大事です。

雪と桜の組み合わせは確かに綺麗なんですが、心の栄養よりも体の栄養。花より団子です。
各屋台の焼きそばを買い巡って、食べ比べをしてみます。
量は食べられるので、そこは心配無用。
しばし、味を堪能させていただきます。



 花見客に混じり、神社境内のいたるところへ潜む幻朧戦線。その特徴である黒い鉄の首輪を一瞥しながら黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は神社内をずんずん進んでいた。
(幻朧戦線は相変わらず動きが活発ですね。ですが、すんなりとはやらせはしませんよ)
 これだけの人がいる場所でテロ行為とは、弁明の余地もない非道行為だ。それに先の大戦の兵器を用いようとしているのならばなおさら。
 摩那は以前にも幻朧戦線がらみの依頼へいくつか関わったことがある。そしてそのグラッジ弾がどんな効果を及ぼすものであるかをよくよく知っていた。あれを人ごみの中ででも使われてしまったら確実に大きな被害が出ることだろう。それだけは、阻止しなくては。
「……とはいえ、今は相手が動き出すまでは英気を養うこととしましょう。栄養補給、大事です」
 ぱちん、と手を打ち気分を切り替えて、摩那は桜へ背を向ける。雪と桜の組み合わせは確かに綺麗だが、摩那が求めているのは心の栄養よりも体の栄養だ。つまり、彼女も花より団子派なのである。腹が減っては戦もできぬともいうことだし、ここは思う存分舌と腹を満足させてから戦に臨むとしよう。
「おいしそうなものがいろいろありますが……ここはやはり定番どころの食べ比べと行きましょうか」
 祭り定番の屋台料理といえば、焼きそばである。屋台の鉄板で店主のおっちゃんが気前よく作ってくれるあの料理は、ボリュームも味も早々ハズレがない。それでいて作り方や使う材料によって味がごろりと変わってくるなかなかに奥の深い料理なのである。
 流石は帝都からわんさか人々がやってくるお祭り、出されている屋台の数も半端ではない。神社の敷地自体が広いのもあって、一つの通りにいくつもの屋台がひしめきあっている。そしてこれだけ店があれば、同じメニューを出している店も少なくないのだ。
「ふむふむ、こちらの焼きそばはソースの味が濃い口……こちらは野菜がたっぷりと……ふむふむ……」
 焼きそばを出している屋台と同じ数のプラスチックパックを持ちながら、摩那はもぐもぐと焼きそばを頬張っていた。すべての屋台を見て回り、焼きそばを出している店を確認、一パックずつ買い巡って今は腰を落ち着けて食べ比べとしゃれこんでいるのだ。
 どれもできたてほやほやの一品で、身体が内側から温まっていくのを感じる。それぞれの味の良さを吟味しながら、摩那は真面目な顔で焼きそばの食べ比べを進めていった。
 本来ならばこんな量の焼きそば、食べきれずに残してしまうのがオチだがそんな心配など摩那には無用である。結構な大食いである摩那の箸は止まることなく進み続け、既に食べきられたパックには野菜の一切れも残っていない。時折懐からマイ唐辛子を取り出して味に変化まで付け加えている彼女に、死角はなかった。
「……どれも甲乙つけがたいですが三番目に買った場所が一番おいしく感じましたね。堪能させていただきました」
 最後に手を合わせて、ごちそうさま、と呟き、摩那は立ち上がった。焼きそばは全て食べきったしたっぷりと味は堪能した。それならば次の行動は―――
「……最後にもう一回、一番おいしかったところのものを買いましょうか」
 そう口にして、摩那は屋台通りへともう一度消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『桜舞う幻朧神社』

POW   :    くまなく神社の中を歩いてみる

SPD   :    事前に調べておいた神社の情報を元に探索してみる

WIZ   :    社の周辺を探索してみる

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 桜舞い踊る幻朧神社。雪に桜、そして月に酔いしれる人々の中で、冷たい光を瞳に宿す者たちがいた。その首には黒い鉄の輪が嵌められ、桜を楽しむ笑顔の裏に黒々とした想いを抱えて。その人数はひとりやふたりではない。広い神社の敷地内に散った彼らは、決行の時間を今か今かと待ち構えていた。
 そんな彼らの様子をこっそりと伺っていた猟兵たちは気が付く。今までは普通の客たちの中に混じっていた彼らが一斉に、それとなく他の客たちと距離を取り始めたことに。
 彼らの起こした明らかな行動。恐らくはグラッジ弾を持つ女性が動き始めたのだろう。彼女の居場所を突き止めるためにも幻朧戦線の者たちを追いかけるべきだろう。
 また、別のアプローチとしてこの神社について調べたり探索してみるのも良いかもしれない。幻朧戦線の彼らがどうしてこの神社でテロを起こそうとしたのかを知ることができるだろう。
 そして……幻朧戦線の構成員は皆一般人だが、その中には猟兵の監視に気が付いている者がいるかもしれない。むろん、確実に気が付いているのではなく「なにか見られている気がする」というささやかな疑惑程度だろう。それでもその疑惑の元で、猟兵を待ち伏せしたり、人気のない場所で排除してしまおうとする者は出てくるかもしれない。彼らを迎え撃ち捕えることができれば、幻朧戦線の戦力を減らすことができるはずだ。

 猟兵たちがどう行動するにせよ、幻朧戦線の者たちは動き出した。となれば、華やかな花見の舞台は一度お終い。ここからが、猟兵たちの“仕事”の時間だ。

~~~
【PL情報】
※フラグメントのPOW、SPD、WIZは参考程度に考えていただいて大丈夫です。
 第二章では祭りから離れた幻朧戦線の者たちの尾行・捕縛、神社の探索を行っていただきます。彼らは祭りから離れていっているので、場所は神社内でも人気のない裏道などになります。木や草の生い茂り、道がある程度の自然の中を想像していただけると幸いです。そんな場所なので、隠れる場所も多く動物なんかもいることでしょう。

・幻朧戦線の者たちを気が付かれずに尾行する
・神社について調べるため探索・調査する
・一部襲ってきた幻朧戦線の者を迎え撃ち、捕縛する

 上記三つのうち、いずれかをひとつでも満たしていただければ、第二章は成功になります。それぞれに対応した情報を手に入れることができるでしょう。
 なお幻朧戦線の者たちは“一般人”です。なるべく殺さず捕まえてください。また、あまり派手なことをしてしまうと他の幻朧戦線の者たちにバレ、逃げられてしまう可能性があるのでご注意ください。

 では、みなさまのプレイングを楽しみにお待ちしております。
終夜・還
花見はアメーラと来たかったし俺はここからでいーや


んで構成員の尾行だっけ
狼の姿で野良犬的な紛れ込み方をきて後をつけようかな

気が付かれたら犬に徹して、積もりに積もったものがあるんだろうし「犬に愚痴る」「犬に吐露して気持ちを発散させる」為に寄り添って慰めてみよう

あ、流石に顔は舐めないよ
鼻先を手に触れさせたりしてクゥーン?って首傾げたりそんな感じね

で、だ。情報を吐いたら後ろから悲鳴も上がらんように襲いかかり、押し倒してのしかかったら前脚で踏み付けて【呪詛での気絶攻撃】
おねんねしてもらうよ

諸々の情報はスマホに人の姿に戻ったときにメモ。やってる暇がなければ省くぜ



(花見はアメーラと来たかったなぁ……)
 舞い踊る桜と白雪を一瞥して終夜・還(終の狼・f02594)はその尾を垂らした。確かに綺麗な光景だが、愛する者と共に来られないのならあまり意味は無い。彼女が予知した事件なので、共にいられないのは百も承知なのだが、理解と納得は別だ。
 そのため還は花見をするでもなく、雪を踏みしめながら神社の裏を探索していた。特に気配を消したりだとか、こそこそ動く必要はない。なぜなら今の還の姿は犬……否、狼なのだから。
 一見したらこの山か神社に住み着いた野良犬にしか見えないだろう。あえてこの姿でいることにより、自然と一体化し人々の意識外に入り込んでいるのだ。
(さてと……構成員の尾行だっけ。鉄の首輪の奴というと……)
 森の中で潜みながら、あたりを付けておいた男に合わせて還も動き出す。不自然にならぬよう、一定の距離を保ちながら、こっそりと。
「……ちょっと早めに来ちまったか。ああ、合図が待ち遠しい……!」
 ある程度裏道を歩くと男は立ち止まり、わくわくとした様子で懐中時計を取り出した。その様子からも言動からも、テロリストであることは確実だ。
(飛びかかるにしても死霊呼ぶにしてもこの距離はなァ……)
 ガサ、と一歩前に踏み出した音に、男が弾かれたように振り返った。まずい、と思ったがここで逃げたり取り繕ったりと人くさい動きをする方が余計怪しいだろう。そこで還はあえて、野良犬らしく男の前に姿を現すことにした。
「なんだぁ野良犬かよぉ……お、こいつひとなつっこいな!」
 男は現れた還に対して存外好意的な反応を示した。寄り添ってくる還を追い払わず、撫でてみたり視線を合わせてみたりとどうやら警戒はされていないらしい。あわよくばこのまま情報収集を、と還は男の手に鼻先を当ててやる。見ず知らずの奴に撫でられるのは好きではないが、今回ばかりは仕方ない。
「わんころ聞いてくれよ。俺たちは今から、この帝都をひっくり返すんだぜ! 平和って言えば聞こえはいいけどよ、それって生き物として停滞してるッてことだろ? 俺たち人間は進化し続けなきゃいけねぇ。それにはやっぱり、戦争が必要なんだよ!」
 仰々しく語る男の口ぶりはどんどん激しくなっていく。自分たちのその主張が言いたくてたまらなかったのだろう。その目は恍惚と緩んでいた。
 こういうタイプか、と還は冷めた目で男を眺める。もちろん男がそれに気が付くはずもなく。
「文恵さんがお参りを終わらせたら作戦開始。ああ俺はその時が待ちきれねぇよ……!」
 ついに立ち上がり腕を広げた男に、還は静かに動き始める。自分の世界に入った人間は大抵視界が狭まる。その隙をついて、還は背後にまわった。
「……おっと、そろそろ合流の時間か……ってあれ、わんころどこに……」
 その瞬間、還は背後から男へ飛びかかった! 悲鳴を上げる暇も与えず雪に押し倒し、起き上がれないようのしかかる。同時に浴びせた呪詛によって、男はあっけなく意識を飛ばした。一般人に耐えられるはずもない。
「悪ィな、おねんねしてもらうよ」
 ぼん、と人の姿に戻り、得た情報をスマホにメモしながら、還は倒れた男の首根っこを掴む。どこか適当な、凍死しなそうな場所に隠しておこう。その場所を探しつつ、還は器用に情報をまとめていく。
「……停滞でも、平和なら結構なことだと思うけどなァ……」
 そのつぶやきは、誰に向けられているでもなく、雪桜に吸い込まれて消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
ついに幻朧戦線が動き出しました。
英気は十分に養いました。
すぐにでも捕らえてしまいたいところですが、
問題のグラッジ弾を見つけるのが先決です。
しばし、我慢して泳がせましょう。

捜索は天地で行います。
社内で見つけた幻朧戦線の隊員はUC【影の追跡者の召喚】を付けて、密かに尾行します。そして、上空にはドローン『マリオネット』を滞空させて、尾行をサポートするとともに、隊員たちが向かう先の検討をつけます【情報収集】。

テロをするならば、効果は最大化するように狙うでしょうから、向かう先に何か目立つ建物や人の集まりがあるでしょうか?



(……しばし、我慢して泳がせましょうか)
 幻朧戦線が動き始めたことを察知し、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)もまた行動を開始していた。
(英気は十分に養いました。すぐにでも捕らえてしまいたいところですが、問題のグラッジ弾を見つけるのが先決です。それならば……)
 コンコン、と摩那が足を鳴らすと、彼女の影が不自然な形に歪み、飛び出した。【影の追跡者】と呼ばれるそれは主人である摩那と五感を共有する優れた偵察兵である。人の体を持たない以上、一般人である幻朧戦線の者たちに発見される可能性は0%と言っていい。人々の足の間を、森の木々の間をすり抜けて素早く尾行を開始した影の追跡者は、大した時間もかからずに人ごみから離れた幻朧戦線の者たちに追いついた。
「さてと、私は……」
 視覚と聴覚を影の追跡者越しに研ぎ澄ませながら、摩那もまた人ごみから離れていった。人の目につかない建物の影。そこに幻朧戦線がいないことを確認し、摩那はあるものを取り出した。
 取り出されたそれは『マリオネット』。各種センサーが搭載され、ステルス性が高く極めて発見され難いよう設計された索敵ドローンだ。一度滞空させてしまえば花見を楽しむ客にも幻朧戦線にも、見つかることはないだろう。今回の尾行は、影の追跡者とマリオネットの二段構えというわけだ。
(……うん、『ガリレオ』との同期も問題なし。さあ、どこへ向かうのか教えてもらいましょうか)
 眼鏡型HMDウェアブル端末でマリオネットの情報を、影の追跡者との五感リンクで歩く幻朧戦線の者たちの様子を、それぞれ漏らすことなく汲み取っていく。二段構えの情報収集によって得たものは多かった。
(向かっている先は……拝殿? お花見客も一度は必ず参拝するから確かに人は多い……!)
「僕もお参りしたかったな……」
「はは、作戦が完遂されたらいくらでもお参りできるだろ。文恵さんと違ってオレらは生き残る可能性だってあるんだから」
 聞こえてきたのは影の追跡者経由の話し声。幻朧戦線の彼らは、他の仲間と合流することなくこのまま二人で拝殿の方へ向かうらしい。彼らの会話から情報を聞き逃すまいと摩那は耳を澄ませた。
「確か、慰霊碑は拝殿の裏にあるんだっけ……どうか僕たちに力をお貸しください英霊さま……」
「オレたちの分も文恵さんが頼んでくれるさ、大丈夫だ」
(拝殿の裏……! それに、英霊って……)
 即座に摩那はマリオネットを拝殿の方へ飛ばした。大勢が集まる参拝場所とは逆側、拝殿の裏を上空から見下ろしてみると……。
(! いました、あの女性はグリモア猟兵から告げられていた……)
 熱心に小さな石碑へ祈る着物姿の女性。その外見は予め幻影魔法で見せてもらっていたものそのものだった。彼女がグラッジ弾を持つ、今回の事件の主犯格。
(おそらくあの女性が文恵さん……そして)
 グラッジ弾で、自らと多くの者の命を葬らんとする者である。
 目的の人物は見つかった。おそらくはあのまま拝殿の表へ躍り出て、テロを敢行する気だろう。拝殿へ向かう二人は直接のサポート役と言ったところか。ならば、彼女のお参りが完全に終わる前に、手を打たねばならない。
「……急ぎましょう」
 摩那は油断なく情報を集めながら、その足を拝殿の方へ向けた。同じく彼女を討たんとする仲間たちへと情報を共有しながら―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小烏・安芸
【ヤド箱】

さて、そろそろお仕事の時間みたいやな。お祭り気分はひとまず置いといて切り替えていこか。

鈴音ちゃんは神社の調査に回るからひとまず別行動。こっちは幻朧戦線の捕縛に当たるわ。

本命が事件を起こすとしたら人気の多い場所やろ。で、補助役は動くにも見張るにも楽なよう騒ぎから距離を置いた場所いうんがセオリーやな。まず狙うのは後者、道に迷ったふりしてそれっぽい場所をうろついて、追い払うなり始末するなりしようとするのを咎力封じで捕まえたろ。

他の構成員への連絡や自害もありうるし、捕縛後はボディチェックした上で物陰に隠しとくわ。ついでに手掛かりになりそうなもんを持っとったら後で鈴音ちゃんと情報共有しとこ。


神楽・鈴音
【ヤド箱】
幻朧戦線の抑えは安芸さんに任せて、私は神社を調べるわ
確かに人の多く集まる場所だけど、それだけが理由じゃない気がするし……

祭神は何で、どんな神様なのか?
幻朧戦線にどんな関係があるのか?
可能であれば、神主に頼んで由来なんかを教えてもらうわ

「桜の神といえば、木花咲弥姫命……帝のご先祖様とされる存在が有名よね
「あるいは、何らかの慰霊を目的として建てられた御霊神社とか?
「もしくは、神域でのテロ行為自体に、何らかの儀式的な意味があるのかしら?

調査の結果、判明したことは安芸さんと共有
残る時間で、私も幻朧戦線の捕縛に協力するわ



「……さて、そろそろお仕事の時間みたいやな。お祭り気分はひとまず置いといて切り替えていこか」
 二人の猟兵は互いに頷き合い、逆方向に歩き始める。直前までお花見を楽しんでいたとは思えない切り替えの早さで、彼女たちはそれぞれの役割に合わせて散った。

「幻朧戦線の抑えは安芸さんに任せて、私は神社を調べなくちゃ……どうも引っかかるのよね、確かに人の多く集まる場所だけど、それだけが理由じゃない気がするし……」
 それはほとんど直感のようなものだった。だが考えれば考えるほど妙なのだ。
 確かにこの場所は人が多い上、有力者なんかもやってくるらしい。でもそれだけならば満たす場所でもっとやりやすいところは多いだろうし、極論帝都のど真ん中でもいいはずなのだ。なのに、幻朧戦線はこの神社を選んだ。
「祭神……幻朧戦線との関係……」
 ぶつぶつと呟き考えをまとめながら神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)は神社を歩く。
「そういえば桜を妙に目の敵にしていたような気がしなくもない……。桜の神といえば、木花咲弥姫命……帝のご先祖様とされる存在が有名よね」
(んー……もやもやするわね。神主さんとかいないかしら。由来を聞いてみるのが一番早いわよね)
 巫女たちに声をかけ猟兵であることを明かせば、彼女たちはすぐさま神主に取り次いでくれた。ここサクラミラージュにおいて、ユウベルコヲド使いであり超弩級戦力である猟兵への対応は基本的に厚遇だ。奥から急いで出て来た神主に礼を払い、鈴音は本題に入る。
「この神社の由来……でありますか」
「恥ずかしながらここの祭神様を知らなくて……」
 ひとつふたつと考えていた可能性をあげていく鈴音。神主は静かにそれを聞いていたが、次に挙げた言葉にぴくりと肩をゆらした。
「……あるいは、何らかの慰霊を目的として建てられた御霊神社とか?」
 その動きを鈴音は見逃さず「そうなのね?」と念を押す。それに対して神主はゆっくりと頷き「この神社は先の大戦でこの帝都を護った者たち、英霊様を祀っております」と答えた。
「普段ならばここまでしかお話しないのですが……実は拝殿の裏に何も刻まれていない石碑がございまして、そこには特別な英霊様を祀っているのです」
「あら、その人たちは他の人たちとは別扱いなの?」
「はい……そこに祀られるは名を刻まれることも許されぬ者たち……先の大戦で非人道的な手術を受け、戦場を駆けた戦乙女たちでございます」
 影朧を操るグラッジ弾のように、人間の兵器化という非人道的な技術もまた、歴史の闇に葬り去られた。大戦の露と消えた改造兵たち……その中でも造花の桜を持ち、幻朧桜の癒しの技を放つ女性軍人たちがいたのだという。
「様々な力を持った改造兵が生み出されたのだと聞いております。この神社には桜花組が祀られ、その魂を慰めるためにも幻朧桜が移植されました」
「なるほど……幻朧戦線の目的はそれってわけね」
 戦争好きなやつらがいかにも飛びつきそう、と鈴音は苦い笑みをこぼした。
 幻朧戦線がここを選んだ理由はわかった。そして“何を呼び出そうとしているか”、まで―――。
「……全く、罰あたりなんてレベルじゃないわよ、これ」

 場面変わって同刻、小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)はできるだけ人の居ない方へと足を進めていた。
(本命が事件を起こすとしたら人気の多い場所やろ。で、補助役は動くにも見張るにも楽なよう騒ぎから距離を置いた場所いうんがセオリーやな)
 まずは後者から片づけておこう、そう考えた安芸は出入り口付近で補助役が潜みやすそうな場所を探っていた。
 警戒しながら進んでいると、やはりそこには人影があった。男が二人、手に武器は今のところなし。首にはしっかりと黒い鉄の輪がかけられている。彼らは出入り口から少し離れた場所、入り組んだ社の影に潜んでいた。合図があれば飛び出して、十分出入り口を襲える位置だ。
「おにーさんらいてくれて助かったわぁ。ウチ、みんなとはぐれて迷ってもうてな、ずっと歩き回ってこまっとってん。どっちにいったら表に出られるか教えてくれへん?」
「迷子か……どうする?」
「ただのガキっぽいが……なにか余計なことを漏らされでもしたら面倒だしな。ヤッちまおうぜ」
「ふん、どうせ出入り口封鎖のために人質が欲しかったところだしな」
(うーん丸聞こえやで、おにーさんら。小声のつもりなんやろうけど)
 眼鏡で視線を誤魔化しつつ、不用心な女子を装って近づく。追い払うでもなく手荒に捕まえる選択をした彼らに、容赦をする必要はないだろう。
「ちょうどお兄さんたちも表に戻ろうと思っていたところなんだ。それじゃあいっしょに行こうか」
 そういいつつ安芸を奥へ誘導する二人組。さりげなく片方が前に、片方が安芸の後ろを取っている。
「ほんまにこっち? なんか奥に行ってる気ぃすんねんけど」
「大丈夫大丈夫……そう、ちょーっと大人しくしてようなッ!」
 背後の男がまず動いた。先ほど懐を探っていた男、そこにはどうやらナイフが入っていたらしい。安芸の口をふさいでナイフを首に当てようと手を伸ばし―――
「ふがっ!?!?」
 ―――その口を猿轡で塞がれた。想定外のことで目を白黒させているその間に、手枷と拘束ロープが追撃をかける。あっという間に男は拘束され、無様に地面を転がった。
「なッ、なな、なにを……むがッ!!!」
 もうひとりの男も抵抗などできずに、芋虫のようにされて地面へ転がる。むごむごともがき必死に動こうとしているが、安芸の足元で蠢くことしかできない。
「連絡とか自害とかされても困るしなぁ。ちょっと漁らしてもらうで?」
 連絡道具やナイフやらをぽいぽい取り出し、あらかた装備を解除したところで彼らを陰に転がしておく。ただでさえ入り組んでいる場所だ、しかも彼らはご丁寧にも奥へ安芸を連れて来てくれた。ここに転がしておいたらしばらく見つかることはないだろう。
「安心しぃ、そのうち迎えに来たるから。そのときまで死なへんよう気張り……ん、なんやこれ?」
 安芸が見つけたのは手のひら程度の枝付きの桜だ。本物ではなく造花。男たち二人両方が持っていたことが気にかかって、安芸はそれをポケットにしまった。
「神社調べとる鈴音ちゃんと共有しとこ。確か待ち合わせ場所は……」

 数分後、合流した二人は互いの情報を共有し合いながら拝殿へと急いでいた。安芸の見つけた造花の桜は鈴音の情報を裏付けるものだった。やはり幻朧戦線の目的はここに祀られた桜花組。彼女たちに花見客を襲わせるつもりなのだ。
「なら、はよ行って止めへんと。拝殿でことを起こすつもりなら、絶対そこにも補助役おるで!」
「そうね、先にその辺りを排除しましょ! できれば拝殿の裏から出させずにテロを阻止したいところね……」
 そう方針を固めながら少女たちは走る。首謀者の居る、拝殿へと向かって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
殺してはいけないのか
そうか
手加減は必須だな

先程に潜ませておいた蟲を辿る
彼方から見えない程度に離れて
目立たぬ様、人混みに紛れて追う
見失ったとしても問題は無い
付けた蟲は"兵士"
私の影に寄生している"女王"は
兵士の位置を正確に把握している

神社については、他猟兵に任せる
此の世界特有の概念――"かみさま"と云う物には
私は詳しくない
人間の"信仰"は理解出来ない
神は種族の一つでは無いのか?

今は関係の無い話
沈黙を保ち、追跡しよう
襲撃者は……指先で額を弾き、気絶させよう
軽く、軽くだ



(幻朧戦線が動いたか。……相手は一般人。殺さないのなら手加減は必須だな)
 多くの幻朧戦線の者たちを見張っていたイリーツァ・ウーツェ(虚儀の竜・f14324)は彼らの動きを敏感に察知していた。
 花見のふりを止め、人混みの中へ紛れる。目立たぬよう動くことで尾行がばれることはないだろうが、イリーツァの視界からも彼らの姿は消えてしまった。しかしイリーツァは焦ることも迷うこともなく、一定の距離を保ちながら確実にその後をつけている。
 花見客に紛れながら彼らの影に潜ませた蟲たち。それらは“兵士”だ。働き者の彼らが従うはイリーツァの影に寄生する“女王”。兵士の位置を見失うことなく正確に記憶している。影を通してその居場所がイリーツァに通じるのだから、彼が幻朧戦線の者たちを見失うはずがないのだ。
(どんどん奥へ……人が多い方へ向かっているのか。この先は、確か“拝殿”と書かれていた場所か)
 予め内部の地図は頭に入れてある。その記憶を辿りながらイリーツァは尾行対象の目的を思考し始めた。拝殿といえば多くの者が神へ祈りを捧げる場所だ。やはり、人が多い所をテロの開始場所に選ぶのか。
(此の世界特有の概念――"かみさま"、か)
 神様、というものにイリーツァは詳しくなかった。故にこの神社について調べるのは他の猟兵に完全に任せてしまっている。……知識としてこの神社がどのような造りになっているかだとか、そういうことは理解できるのだが。未だに人間の"信仰"は理解が出来ない。言葉でわかっても感覚的な部分で、その概要を掴むことができないのだ。
(わからん……神は種族の一つでは無いのか?)
 それはイリーツァの神に対する捉え方がこの世界の人間たちのそれとあまりにも大きく離れてしまっているからだが―――それは、今考えても詮無き事。
(……人の目をかいくぐって裏へ入り込んだか。立ち止まったということは、誰かと接触しているのか?)
 イリーツァは一切の躊躇もなく幻朧戦線が入っていった裏へと足を踏み入れる。目立たないよう気を配り暗い中へ目を凝らしながら進んでいくと―――そこには尾行していた男と、同じく幻朧戦線であろう男が二人、集まってなにか言葉を交わしていた。
「そこの」
 短くイリーツァが声をかけると三人は明らかな動揺を見せながら振り返った。ひとりは焦りをひとりは怒りをひとりは敵意を、イリーツァへ向ける。
「貴様らが幻朧戦線だな。捕縛する」
 死にたくなければ、と続ける前に彼らはイリーツァへ襲い掛かった。その手には取りだしたナイフや警棒、スタンガンなどが握られていたが、彼らは相手が悪すぎた。彼らの動きなど、イリーツァにとっては止まってすら見える。
「がぁッ!?」
 真っ先に飛び出してきた一人目の攻撃を避け、すれ違いざまにその額を指でばちんと弾く。たったそれだけでも男は軽く宙を舞い、地面に叩きつけられて動かなくなった。
(軽く、軽くだ……)
 その怪力で脆弱な者たちを壊してしまわぬよう。イリーツァは攻撃を避けることよりよっぽどそちらに神経を使いながら襲撃者たちの額を弾いた。あっという間に彼らは気絶させられ、地面へ転がされる。それらを一瞥することもなく、イリーツァは次へと向かった。
(この辺りは蟲が多い……やはり首謀者もこの辺りにいるか)
 別の蟲の位置を読みながら、イリーツァは歩を進める。この神社で起きる事件を、起こさぬまま終わらせてしまうために。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『旧帝都軍突撃隊・桜花組隊員』

POW   :    疑似幻朧桜の鉄刃
自身の装備武器を無数の【自分の寿命を代償に起動する鋼鉄の桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    疑似幻朧桜の霊縛
【舞い散る桜の花びら】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    疑似幻朧桜の癒やし
【自分の生命力を分け与える桜吹雪】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※追加情報を記載した断章掲載まで、少々お待ちください※
 桜舞い散る幻朧神社。そこで行われる華やかな花見の裏で、幻朧戦線の者たちが粛々とお縄にかかっていく。猟兵たちの活躍で、テロの不穏分子は狩られていった。
 そんな中でひとり、何も刻まれていない石碑に祈りを捧げている者がいた。和服に栗皮色の瞳を持つ女性―――グラッジ弾を持つこのテロの首謀者、文恵だ。
 彼女の居場所とテロの開始地点を突き止めた猟兵たちは、文恵が表に出る前にその場所を包囲することができた。表には行かせない。被害者を出させることなく、テロを止めてみせる。
「……直情的で愚か。それでももう少しばかり、使えると思いましたのに……」
 ぽつり、とお参りをしていた文恵が声をこぼす。組んだ指をほどき猟兵たちへ振り返った文恵は、意外なことに焦りを見せなかった。表情の抜け落ちた顔で、猟兵たちを眺めている。
「停滞を続ければ人間は、自然と堕落の道をたどります……だってそうでしょう? 天敵がいない豚は、ただ肥えるのみ。私たち幻朧戦線は、それを止めたい。人々は進化をするべきなのです……」
 彼女が懐から取り出したのは黒い拳銃。文恵との距離を猟兵が詰める前に、彼女は銃口を自分のこめかみに当てた。
「……と、そう説けば、頭の足りない青年たちは簡単に仲間に加わってくださりました。停滞が続けば“こういう”愚か者が出てくる良い証左ではありませんか? ふふふ……話が長くなりましたね」
 猟兵たちは察する。おそらく文恵は自棄になったわけではない。表へ向かう道はしっかりと塞いである。それでも文恵は、グラッジ弾を放つ気なのだと。
「アア忌々しき幻朧桜……永遠に咲き続けるなど、なんて興ざめなことか……! 桜は散るからこそ美しく、平和は変動するからこそ尊いというのに! こんな退屈な世界の、なにが尊きものか!」
 その言動に、思想に、共感などできるはずはないだろう。ただ自分勝手に吼えた文恵はその顔に歪んだ笑みを浮かべた。テロが成るかなどどうでもいい。ただこの引き金を引くのが目的なのだとでもいうように。
「それでは皆様。英霊様たちが表に漏れぬよう、せいぜいがんばってくださいね……では、ごきげんよう」
 乾いた発砲音に、雪へ散る赤色。地面へ転がった文恵の体には禍々しい瘴気が生じ、それは傍にあった石碑にまで及んだ。
 瘴気の中から突如、桜吹雪が巻き起こる。何が呼び出されたのか、猟兵たちは調査によって知っていた。造花の桜を持ち、幻朧桜の力を疑似的に植え付けられた非道の改造兵―――桜花組。
「……あた、し、たち、は、このくに、をまもる、のが、やくめ……」
「たくさん、たたかっ、た……たくさん、うしな、った……たくさ、ん、ちを、ながした……」
「でも、もう……だれ、も、あたしたち、を、しらない……なまえ、も、よんで、くれない……」
「…………………あたしたちの居場所は、」
 ―――――――――戦場にしか、なかったんだ。

 文恵の死体は依り代となり、影朧『旧帝都軍突撃隊・桜花組隊員』を呼び寄せた。その数は多く、見ているうちにもまたひとりまたひとりと桜吹雪より姿を現す。その様子を見る限り、正気は失われており話が通じるとは思えない。ただこの場所を戦場にするために、その力を振るおうとしている。
 花見客たちのど真ん中で影朧が召喚される惨事は回避できた。あとは彼女たちを表に出さないようここで、あの世へ送り還してやるのみである。

【PL情報】
 『旧帝都軍突撃隊・桜花組隊員』は女性のみでの改造兵たちで、基本的に複数人で襲い掛かってきます。
 彼女たちの目標は猟兵たちの突破です。現在猟兵たちは彼女らを包囲することに成功していますので、すり抜けられないように彼女たちへ引導を渡してください。
終夜・還
ぶっちゃけ目の前で銃弾頭にブチ込んだ女にはなにも感じねェや
死んでよかったとすら思えちまう
…はーァ、平和ボケってのは怖いねェホント


で、だ。戦場にしか居場所が無い、かぁ
誰にも個人として覚えて貰えなかったのは辛いよねぇ
俺も俺が死んだら全て風化しちまうもんを抱えてるし

でも今或る平和をブチ壊される訳には行かないの。なァんて、正義の味方みたいな事言ってみる★

俺より少し前を起点に、俺の後方へかけて線引きするようにUCを展開
此処から先には行かせねえよ。過去は骸の海へとお還り。

挑発し、俺の方へおびき寄せ無力化
そこにクイックドロウ、早業で呪殺弾をブチ込むぜ
呪殺弾の一斉射撃で範囲攻撃もイイよね。黒い雨って感じで❤



「……はーァ、平和ボケってのは怖いねェホント」
 散った赤色を見下ろす終夜・還(終の狼・f02594)の瞳はどこまでも冷たく、そこには興味すら存在しなかった。いっそ死んでよかったとすら思えてしまうほど身勝手で、馬鹿げた思想。気を割いてやる価値もありはしない。
 それよりも向き合うべきは、目の前の過去たちだ。視線を死体から桜吹雪の女たちへと移す。
「う、ウ……戦場は、どこ……あたしたちの、いるべき、場所は……」
「コロ、さなきゃ……戦果、あげれば……きっと……!」
「戦場にしか居場所が無い、かぁ」
 その辛さ、苦しさは理解ができる。歴史からも人々の記憶からも忘れ去られる恐怖。一度でも自分のことを「記録に残したい」と願った者であれば、その想いをよく知っていることだろう。
 血走った眼の彼女たちが還の方へ襲い掛かる前に、還はその手の記憶の書を開いた。目には目を、歯には歯を……過去の存在には過去の存在を。
 喚び出された死霊たちは還と桜花組隊員たちの間を隔てるように大きく展開し、穢れをまき散らした。
「誰にも個人として覚えて貰えなかったのは辛いよねぇ。俺も俺が死んだら全て風化しちまうもんを抱えてるし」
 でも、と還はこぼす。その想いが理解できることと、その行動を受容するかどうかは、また別の話だ。
「今或る平和をブチ壊される訳には行かないの。……なァんて、正義の味方みたいな事言ってみる★」
 少し真面目だった雰囲気から一転、からかうような声色に戻った還はその手を彼女たちに向け、クイッと手招いた。「来いよ」という明らかな挑発。それでも理性を失っている彼女たちには十分だった。
 突撃隊の名の通り、迷いなく踏み込んできた彼女たちを展開された死霊たちが受け止める。その行動は己が傷つくことにあまりにも無関心であるように思われた。死霊たちにその身を斬り裂かれようとも、ひるむことなく押し通ろうとする。
「此処から先には行かせねえよ。過去は骸の海へとお還り」
 だがそれをみすみす許す還ではない。素早く生み出した呪殺弾をクイックドロウの要領で撃ち放つ!
「がァッ!!?」
 呪殺弾で撃ち抜かれた隊員たちのすぐ後ろで、ひとりの隊員が造花を振り上げた。還はその様子を目で追うが、止めることなく見送った。
「癒、せ! 桜吹雪!」
 彼女の掲げた造花の枝から、桜吹雪が吹き荒れる。舞い上がった花弁は仲間の隊員たちの傷口へ集まっているように見えたが……特に何も起きることなく、地面へ落ちてしまう。その様子に、造花を掲げた隊員だけでなく、治療を待っていた隊員も目を見張った。
「回復ありきのゾンビアタックってやつだろ、その戦法。なら、回復を防いでやればいいよなァ」
 穢れはあらゆる技を無効化する。この壁に突っ込んできてしまった以上、彼女たちに勝ち目などなかったのだ。
 彼女たちがまんまと罠にかかり、それに驚いている間にも還の詠唱は終わっていた。浮かび上がるは無数の呪殺弾。数は、先ほど撃ち放ったものの十倍を軽く超えるだろう。
「呪殺弾の一斉射撃で範囲攻撃ってのもイイよね。黒い雨って感じで❤」
 クイ、と還が軽く手を降ろせば浮かび上がっていた呪殺弾が一斉に襲い掛かった。弾幕と化したそれに、遮蔽も身を護る術も回復手段も持たない桜花組隊員たちが対抗できるはずもなく。蘇った肉体をぐずぐずのひき肉にされて彼女たちはまた、眠りに落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
先の大戦で散った英霊たちには敬意を払いますが、
祟って出てきてしまった霊は祓うしかないです。
ましてや、生者を脅かす存在とあっては。

ここから先は通行止めです。

ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
質量を軽くして反応性重視で設定します。
相手の武器を【武器落とし】したり、
【先制攻撃】【なぎ払い】したり、
ヨーヨーのワイヤーを絡めることで、相手を引っ張ったり、こちらから飛び込むことで、【敵を盾にする】します。

相手の懐に入ったところでUC【風舞雷花】で一網打尽にします。

防御は【第六感】とスマートグラスのセンサーで対応します。



「先の大戦で散った英霊たちには敬意を払いますが……」
 ひゅん、と音を立ててヨーヨーが空気を裂く。一見おもちゃに見えるこのヨーヨーも、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)自慢の立派な武器だ。
 かつての戦争で手に入れた、超可変ヨーヨー『エクリプス』。謎金属が素材で超頑丈なうえ複雑な操作までできる。こういった乱戦に実はかなり向いている武器なのだ。
「祟って出てきてしまった霊は祓うしかないです。ましてや、生者を脅かす存在とあっては。残念ながらここから先は通行止めです」
 居場所を求め戦場を作りだそうとしている桜花組隊員たちにとって、それを阻む猟兵は総じて敵だ。武器を手に道を塞ぐ摩那へ、彼女たちは牙を剥いた。
「テ、キは、倒す……ッ!」
「そして、あたしたちの、戦場、を……」
 可憐に見える姿だが彼女たちは苛烈な大戦の第一線で戦った兵士たちだ。桜色の袖口から覗くのはギラリとした鋭い刃の光。しかしそれらは、彼女たちが摩那に襲い掛かる前に、後方へと“弾き飛ばされて”いた。
「え……ッ?」
 ひゅんひゅん、と空気を裂く音がまた響く。一斉に襲い掛からんとした桜花組隊員たちがその一歩を踏み出すその前に、摩那はその手のヨーヨーを振るっていた。質量を軽くし、反応性を重視した設定のそれは、器用に空を駆けて桜花組隊員たちの手を弾き飛ばしたのだ。
 一瞬でも呆けた彼女たちの隙を摩那は見逃さない。一気に距離を詰め懐に飛び込んでヨーヨーを振るう。摩那に最も近かった桜花組隊員は、その手をその体をワイヤーにからめとられ、自由を奪われた。彼女の体をもって、摩那は即席の盾を手に入れる。
「……っ!」
 しかし、仲間が盾にされてもなお他の隊員たちはひるむことがなかった。後方にいて武器を弾かれなかった者、あるいはすばやく拾い直した者が盾ごと摩那を貫かんとその刃を振り上げる。そして盾とされた隊員も、その行動に疑問を持たないようだった。
(怪我を厭わない……なにがなんでも敵は殺すってことかしら)
「……それなら!」
 スマートグラスのセンサーで彼女たちの行動をいち早く察知した摩那は盾の隊員を軽く突き飛ばし攻撃をかいくぐった。そしてヨーヨーを素早く回収し、一度構えなおす。
「励起。昇圧、帯電を確認。敵味方識別良し……散開!」
 摩那の手にあったヨーヨーが七色に光り輝き、ばちんと弾け飛んだ。その破片―――否、七色の花弁は摩那の周囲の敵へ殺到し襲い掛かる! 高電圧を帯びた花弁は触れるだけでその身を焼き焦がさせ、喰らった桜花組隊員たちは引き攣った悲鳴を喚き散らした。
「だいじょ、うぶ……! いま、癒すから……ッ!」
 痛みに耐えながら造花を振り上げた隊員を中心に、桜吹雪が舞い起こった。その花弁は傷ついた隊員に触れると柔らかな桃色の光へ変わり、その傷を癒してしまう。
「回復技……でも、無限ではないのでしょう?」
 桜吹雪を起こす隊員の顔色は悪く、肩が大きく揺れている。己の体力を犠牲にする回復技ならばいつか限界が来るはずだ。
 対して、こちらの花弁にはまだまだ余裕がある。耐久戦となれば摩那が有利だ。
 混ざり合う七色の花弁と桃色の桜吹雪。幻想的な光景でありながら、この戦場には冷たい緊張感が漂い続けていた。造花を持つ最後のひとりが倒れるまで、彼女たちの長期戦は続く……。

成功 🔵​🔵​🔴​

神楽・鈴音
【ヤド箱】
ここまで魂が歪んじゃうと、浄化や転生は望めない、か……
仕方ないわね。閉じ込めて、一気に叩くわよ!

開幕と同時にUCを使用し、敵を迷宮の中へ閉じ込める
その上で、迷宮の効果で認識を歪め、桜花組の面々に互いを敵だと思わせて同士討ち狙い
「悪いけど、あなた達を逃がすわけにはいかないのよ

その後は安芸さんが討ち漏らした敵、迷宮の出口方面に向かって行く敵を優先的に討伐
最悪、自分が迷宮の出口で待ち構えて、突破して来た子を返り討ちにして行った方がいいかも
「居場所がない? 忘れられた?
「こちとら、100年間、殆ど誰も参拝に来てくれなかったけど、タタリガミになんてならなかったわ!
「甘ったれてるんじゃないわよ!


小烏・安芸
【ヤド箱】

言葉を尽くして慰められる相手でも無し、か。見た感じ自分に負担がかかる戦い方するみたいやし、時間をかけるだけこの子らには酷やろ。せめて速攻で終わらせたる。

突破阻止のための手は鈴音ちゃんが打ってもらってウチは各個撃破に回るわ。連携して回復されるとその分長引かせてしまうし、包囲を抜けそうな子や孤立した子から狙うか。

本来なら痛くするための拷問具やけど今回は事情が事情やし特別や。ちょっと罰当たりかもしれんけど迷路の壁になっとる賽銭箱を足場にして最大限加速、回復させんようにいうのもあるけど……できるだけ痛い思いをせんで済むよう一撃必殺を心掛けるわ。

願わくば、散った過去が未来で実を結びますように。



「言葉を尽くして慰められる相手でも無し、か……残念やけど」
「そうね、ここまで魂が歪んじゃうと、浄化や転生は望めない……」
 蘇った桜花組隊員たちを眺め、小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)と神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)はため息を漏らした。二人とも、神社に由縁があるヤドリガミだ。言葉を交わして成仏させられるのならば、と少しばかり期待していたが。そう甘くは行かない現実が目の前に広がっていた。
「仕方ないわね。閉じ込めて、一気に叩くわよ!」
「せやね。見た感じ自分に負担がかかる戦い方するみたいやし、時間をかけるだけこの子らには酷やろ。せめて速攻で終わらせたる」
 鈴音がその手の賽銭箱ハンマーを天へ掲げると、重量のあるなにかが大量に降り注いできた。ドカドカッと積みあがるはハンマーと同じ賽銭箱。悲しいかな、そのよく響く音はその中身が空っぽであることを表していた。
 中身がなくともガワが硬くて重い賽銭箱が積み重なれば十分な壁となる。桜花組隊員たちを取り囲むように降り注いだ賽銭箱の山は迷宮を生み出し、彼女たちを封じ込めた。
「悪いけど、あなた達を逃がすわけにはいかないのよ。戦場が、敵が欲しいのなら……そうね。そこにいるじゃない?」
 鈴音の言葉に数人の隊員たちの目の色がギラリと変わる。その瞳に宿るのは明らかな敵意。そしてそれを向けられたのは鈴音ではなく、同じ桜花組の隊員たちであった。
 互いに背中を預け、共に大戦を潜り抜けた彼女たちを同士討ちさせるのは残酷なことではある。だがここを譲れないのは猟兵たちにとっても同じだ。取れる手は、すべて取らせてもらう。
 味方を敵だと認識した桜花組隊員たちは、数人のグループに分かれて互いへと襲い掛かった。回復を前提とした捨て身の攻撃を繰り返す隊員たち同士の戦いはすさまじく、まさしく血で血を洗う戦場であった。足元の桜と雪は踏みにじられ、壁の賽銭箱には血が飛び散る。
 許容範囲以上の攻撃を受けた隊員は、即座に造花を高く掲げた。巻き起こるは桜吹雪、そのほのかに輝く薄紅色の輝きが彼女たちの怪我を癒す。
「やっぱり長引かせてまうなぁ。悪いけど、ひとりずつ確実にいかせてもらうで」
 そんな色彩豊かな戦場に、黒い羽根が舞い落ちた。
 呪詛を羽根のように纏い、迷宮の上空を飛び回る安芸。迷宮といえど上から眺めてしまえば争う彼女たちをまとめて見渡せる。
 ほとんど乱戦のような状態になりながらも、数人で固まって戦いあう桜花組隊員たち。その様子をいっそ感心する思いで見下ろしながら、安芸は視線を巡らせた。探すのはもはや隊列を組むこともできなくなっている者たちや、孤立してしまった者、そして包囲を突破しようとしている者だ。下手にやりあっているところをつつけばこちらに敵意が向くかもしれない。それならば狙い目は、団体行動ができていないやつだ。
(ちょっと罰当たりかもしれんけど……)
 安芸は空を駆け、壁と化している賽銭箱を足蹴にスピードを上げる。先ほど目をつけた者たちの頭上へ急行し、強化された拷問具……咎刻の顎で容赦なく斬りつけた。
 ギザギザの細かい刃は彼女たちの肉を抉り、ぐずぐずに傷つける。本来ならば拷問のため致命的な怪我はさせないよう使われる拷問具だが、今回ばかりは一撃必殺のために急所を狙った。
「本来なら痛くするための拷問具やけど今回は事情が事情やし特別や」
 それは回復されて長引かせるのを防ぐのと同時に、せめて痛い思いをあまりさせないで眠らせてやりたいという安芸の心遣いでもあった。
 想定していない第三の敵、しかも上空からの強襲ということで桜花組隊員たちは太刀打ちすることができなかった。肩から首を斬り裂かれ、頭を割られ、ひとりずつ地へと沈んでいく。
 死してなお現世に呼び出され、戦場の中に沈んだ彼女たちを一瞥して安芸は少しだけ、表情を歪めた。
(……願わくば、散った過去が未来で実を結びますように)

 安芸が確実に桜花組隊員たちを減らしていく一方で、鈴音も彼女たちと対峙をしていた。鈴音の役割は桜花組隊員たちの足止め。迷宮に閉じ込めたのなら、ひとつしかない出口をふさいでしまえばいい。
 討ち漏れた隊員たちの数人が戦場をすり抜けて出口への道へ入り込んだ。その先に待つのは賽銭箱ハンマーを肩に担ぎ仁王立ちしている鈴音。彼女たちはなんの躊躇いもなく、鈴音に突撃を開始した。
「ここは通さないわよ!」
 真正面から向かってきた隊員を容赦なく吹き飛ばし、返すハンマーで二人目を叩き潰す。回復前提で突っ込んでくるのなら徹底的に叩き潰すのが吉だろう。鈴音はブンッとハンマーを振るい血を払い、まだ無事な隊員たちを睨みつけた。
「居場所がない? 忘れられた? ……よく言うわ」
 沸々と湧き上がって来た感情に言葉をこぼす。その間にも飛びかかって来た二人の隊員へ向かいハンマーを構えた。思い切り振り抜き、まとめて吹き飛ばす。
「こちとら、100年間、殆ど誰も参拝に来てくれなかったけど、タタリガミになんてならなかったわ!」
 小さな村の寂れた神社なんて、人っ子一人来てくれやしなかった。忘れられるどころか、覚えていてももらえない。そんな時間を長らく過ごしてきた鈴音にとって、桜花組隊員たちの嘆きは苛立ちを起こさせるものでしかない。
「甘ったれてるんじゃないわよ! 出直して来なさい!」
 後方で回復を続けていた隊員に、トドメとばかりに飛びかかる。疲労していた隊員に正面からの叩きつけは避けられず、彼女もまた地面のシミとなって眠りに落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
話は終わった様子
では、戦闘行動を開始する

一人も逃がさない
花弁の一片も、外には出さない
敵全員にかかる重力を、十倍に
動ける様子で在れば、更に十倍
鋼の花弁だ、重力の影響は大きかろう
杖か手足で殴り、骨折させれば
止めも用意と為ろう

"争い"と"種の進化"
何故、其の二つが繋がるのか
私には、まるで理解が出来ない
長い時間と数々の偶然
其等が、大きな流れの中で
奇跡的に噛み合い、主流と為る
其れが"進化"と呼称される現象だ
高々二桁の命程度で、為せる事では無い

河川に石を投げても、波紋が起きるだけ
度合いを増せど、濁るか氾濫するか
新たな河川には為らん
無駄な事をした物だ



 呼び出された桜花組隊員たちの嘆きも気に留めることなく、イリーツァ・ウーツェ("竜"・f14324)は上空へと浮かび上がった。
 空に舞い上がりつつも、イリーツァは己の翼で羽ばたいてはいなかった。それどころか、翼を現わしてすらいない。ではどうやって浮かんでいるのか。答えは単純で、彼はただ“立って”いるのだ。上空に。
 ―――空も歩けるならば地に等しい。イリーツァは重力を自在に操り、己の体を上空で固定していた。重力とはこの地を支配する絶対的な物理法則である。それを操ることができるということはすなわち、相手の攻撃も動向すらも、ある程度押さえつけてしまうことができるということである。
(一人も逃がさない)
 イリーツァのまばたきひとつの間に、そばにいた桜花組隊員たちは地面へ崩れ落ちていた。なにか怪我をしたわけでも、心を折られたわけでもない。彼女たちは動けないのだ。己にかかる重力が、十倍にもなってのしかかってきたために。
 動けなくなった彼女たちにとどめを刺すため、イリーツァは改めて地に足をつける。意識がありながら動けない桜花組隊員たちは、杖を手にやってくる敵へ必死に視線だけを向けた。
 その中でもひとり、根性を見せたものがいた。のしかかる重力に耐え、ゆっくりと造花を構え、その力を解放する。ごぶ、と血を口から漏らしながら祈る彼女の造花が、すべて花弁となってその場に散った。
 鋼鉄の花弁はその場で弾け、一斉にイリーツァへと向かった。鋭い刃は人の肌を裂き肉を削り血を流させたことだろう。本来であれば。
「まだ動けたか」
 だが、鋼鉄の花弁がイリーツァへ届くことはなかった。イリーツァが操るのは重力そのもの。別に桜花組隊員たちの質量を重くしたわけでも、重力を加算する対象が人間でなければならないわけでもない。そもそもイリーツァは攻撃を逃れるために浮かんだのではなく、上空から敵の規模を確認したかっただけなのだ。
 鋼鉄で出来た花弁は特に重力の影響を受けやすい。あえなく地面へのめりこんだ花弁たちを追うように、その隊員もぶつりと崩れ落ちた。他の隊員たちはイリーツァがさらに課した十倍の重力に負けて倒れていく。動けなくなった彼女たちへとどめを刺すのはあまりに簡単なことだった。
(“争い"と“種の進化"……何故、其の二つが繋がるのか)
 淡々と残りの桜花組隊員たちを潰していたイリーツァの視界に、文恵の死体が入り込んだ。ふと幻朧戦線の主張を思い返しイリーツァは首をかしげる。言うまでもなく、彼女たちの主張は全く理解ができなかったのだ。
(長い時間と数々の偶然。其等が、大きな流れの中で奇跡的に噛み合い、主流と為る。……其れが“進化”と呼称される現象だ。高々二桁の命程度で、為せる事では無い)
 長くを生きた古竜にとって、幻朧戦線の者たちがやったことは大きな河川に石を投げ入れる程度にしか思えなかった。石を投げこめば波紋は起こるだろうが、その度合いが多くともせいぜい引き起こせるのは濁流か氾濫程度だ。主流を害することも新たな河川を生み出すこともできはしない。
「無駄な事をした物だ」
 物言わぬ文恵を見下ろし、イリーツァは端的につぶやいた。その視線には侮蔑すら乗っていない。ただ無為に死んだ人間を眺めている時間もそう長くはなく、すぐにイリーツァは踵を返した。まだ残って這いつくばっている敵を、片付けてしまうために。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月23日


挿絵イラスト