アルダワ魔王戦争8-E〜歪
●望むのです
まるで羽化したてのような繊細な質感の翅を持つ妖精が、ファーストダンジョンに舞い降りた。
妖精は自分のことを、『自動なる者』にして『宝石の妖精』だと言った。
そして『宝石を歪める』ために『造られた』と言った。
妖精は、人の願いを叶えるモノ。
しかし願いは捻じ曲げられる。
願いが叶えられた果てに待つのは、ただの不幸。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
理不尽な妖精は、人々を唆す。
無感動に、淡々と、望みを欲す。
●望んではなりません
「絶対に望みを口に出したら駄目だよ。思い浮かべてもいけない」
表情はいつも通り。だのに連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は語彙を強めて言う。
敵はあらゆる望みを叶えるという、エリクシルの妖精。
「望みを叶えてくれるなんて、願ったり叶ったり――って思ってしまうのは早計に過ぎるよ。だって『望み』は歪めて叶えられる。望みを叶えられた人は、間違いなく不幸になる」
希望を元に生まれた青年にとって、希望の悪用は己が根源にも関わる大問題。だからこそ、決して『望み』を妖精に悟られてはならないと、声を大きくしてしまうのだ。
望みを秘すこと自体は、さほど労を要するようには感じないかもしれない。
確かに平穏な時であれば、そうだろう。でも命の遣り取りをする戦いの場において、希望は光。勝利をつかみ取る為の、心の礎。
極限状態は、心の護りを脆くする。不意の刹那、綻びは簡単に生じてしまう。
「そうならないよう、精神を律する必要がある。もちろん、戦いながらね」
『ヒト』であるからには『心』は必ず存在する。その『心』を意思の力で制しろと、希夜は猟兵たちに望む。
「そうでもしなくちゃ、望みを叶えて貰える誘惑には抗えないからね。ちなみに、うっかり望みを口にしたり気取られたら、反動ダメージで一発KOだから気をつけて」
――お前を斃す、と望んでもいけない。
――未来を切り開く、と望んでもいけない。
だって何れも、己の願望としてエリクシルの妖精には理解されてしまうかもしれないから。
何を軸に、己の心を律するのかが、勝利の鍵になる。
「希望は自分の手で叶えるもの。余計な誰かのお節介なんて、勘弁願いたいからね。みんな、がんばって。大丈夫、きっとできるよ」
締め括りは、いつもの通りに。
そうして希夜は、青き妖精の元へ猟兵たちを転移させるべく、グリモアを発動させた。
七凪臣
お世話になります、七凪です。
アルダワ魔王戦争『エリクシルの妖精』戦のお届けに参りました。
●受付期間
受付開始時間、受付締切時間共に、『マスターページ』にてお知らせ致します。
受付期間外に頂いたプレイングは一律お返しする事になりますので、プレイング送信前にお目通し頂けますようお願い申し上げます。
●シナリオ傾向
シリアス純戦系。
●プレイングボーナス
『エリクシルの妖精に願いを伝えない』
●他
作業可能日が限られているため、全員採用はお約束できません。
ご了承下さい。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 集団戦
『エリクシルの妖精』
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POW : 力翼
【魔力を纏った翼を震わせながらの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【残っている他の妖精達】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう
対象への質問と共に、【虚空】から【新たなエリクシルの妖精】を召喚する。満足な答えを得るまで、新たなエリクシルの妖精は対象を【秘めたる真の欲望を暴く精神波】で攻撃する。
WIZ : ドッペルゲンガー
戦闘用の、自身と同じ強さの【交戦中の猟兵と同じ姿を持ち、同じ武器】と【同じユーベルコードを使う『鏡像存在』1体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
イラスト:高芭タカヨシ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
榎本・英
望みは、自らの力で叶えるからこそ価値のあるものになるのだよ。
何もかも望んではいけない。
いとも簡単な事だ。
見守るのも隠すのも得意だ。
私はただの人だからね。
攻撃は一体ずつ、確実に。
さて、問おう。
『お前の願いは何かと』
問いを問いで返す。
返答は最初から望んではいない。
無。いつにも増して心を無に。
襲い来る妖精を無心で払う。
いつまで持つのか。
それは自分でも分からない。
いつも、望みも願いも言われる側なのだ。
今更望んでも良いと言われても、何も思い浮かびやしない。
嗚呼――
心を蝕む。
それでも、浮かばぬように手の甲に爪を立て
あふれる痛みで誤魔化した。
●問いには問いを
10メートルはあるだろうか。
青銅の像を思わす妖精の威容を前に、しかし榎本・英(人である・f22898)の心は僅かも動かなかった。
『望み』を。
成就を求める心を詳らかにせよと、青い瞳が英をじっと見つめてくる。
だが英は、宝石の妖精を見上げて、口元だけで笑った。
「望みは、自らの力で叶えるからこそ価値のあるものになるのだよ」
――何もかも望んではいけない。
素直な心根を持つ者ならば、それは酷く困難な事だったろう。けれど英にとっては、容易に過ぎること。
(「見守るのも、隠すのも得意だ」)
裡に抱えた心に完全な封をして、英は妖精向けて一歩を踏み出す。
(「何せ私は、ただの人だからね」)
真にただの人ならば、さぞや苦しい状況に陥るだろう現状を、悠々と制して。
汝の『望み』を『言う』が『よ――。
「お前の願いは何か?」
頭上から天命の如く降り注いだ聲に、英は問いを重ねて返した。
常に問う側である妖精は、問われた不思議に、超然とした眼差しに異を兆す。そこを逃さず、英は手にしていた自著から情念の獣を招き寄せた。
一瞬、遅れて妖精が新たな妖精を顕現させる。
『知りません』『知りません』。
『問われる』ことは『知りません』。
「まぁ、そんなことだろうと思っていたよ」
ふ、と。極めて短い息を一つ吐き、英は新たな妖精へ目線を移す。その頃には、既に最初の一体は、情念の獣と互いを喰らうことに懸命になっている。
満足ゆく答を得られるまで、両者のにらみ合いは終わらない。しかしその答が決して得られぬことも、英は分かっている。
戦いに行く末は、運に委ねられた。
英が妖精を出し抜き、完璧に先んじられることが出来れば、勝利することが出来るだろう。
反して、僅かに遅きに失した時に、無数の妖精に囲まれ圧されることになるだろう。
(「――無に」)
ひたすらに問いを投げ乍ら、英は心の原稿用紙を墨一色で塗り潰し続ける。
(「――無に」)
容易だと思った。事実、容易であった。
しかし極限状態に、人の心は綻ぶ。どれだけ人でなしと言われようと、英が人を自認する以上。
(「大丈夫だ」)
(「いつも、望みも願いも言われる側なのだ」)
(「今更望んでも良いと言われても、何も思い浮かびやしない」)
そうだ、浮かびやしない。浮かびなど、するはずがない。
妖精の翅が巻き起こす風に煽られ、ずれた眼鏡を指先で突いて戻し、英は徹頭徹尾、人を写し映す小説家であらんとする。
――自己などない。
――望みなどない。
「嗚呼――」
知らず心を蝕む熱に、英は己の手の甲にギリっと爪を立てた。
(「大丈夫だ」)
痛みが、熱を掻き消す。
じっとりと溢れ出した血は、相応の代償。
(「大丈夫だ」)
英が妖精に後れを取ることはない。その身の内から、血の一滴までもが失われるまでは。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
君を想ってもいけないなんて
願いなんて僕の手で叶えるんだから
櫻宵こそ大丈夫?
むう……けれど、そう
思い出そう
水槽の中にいた時の僕に今だけ戻るよ
僕自身を律してみせる
僕は風だと感情を殺して心を沈める
全てが他人事のあの頃のように
願いはない
希望はない
僕には何もない
欲しがることすら知らない
ただ、演者に合わせて歌うだけの自分に
そうある自然のように奔放に歌う
君の水と風と桜に添える嵐を歌おう
歌う「泡沫の歌」
呼び出すのは荒れ狂う洪水の春の嵐
踊る八岐大蛇の彼を包んで斬撃運んで
ただ奔放に蹂躙する嵐を歌う
オーラ防御の水泡も嵐にのせるよ
そうさ
歪んで叶えられる願いなんて
呪いと同じ
君たちに叶えられるべき願いはないんだよ
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
慾深き龍に何も求めるな愛するななんて難儀だわ
リルは大丈夫?
虚無みたいな顔してる…
溜息一つで切り替える
陰陽師ならば己を律せよ
お前は雑念が多く慾深すぎる
それでは敵に足元をすくわれる
一切を見せるな
思い出すのは父の言葉
凪いだ湖面を撫でる風のように
そこに在って無きもののように
心身を律し
無心に自然の事象のように舞う
リルの歌とひとつになったよう
なぎ払う刃に生命力奪う呪詛をのせて
私は水よ
流れて溢れて暴れる洪水のように斬撃放ち
私は風よ
ただ無心に吹雪く暴風雨のように呪詛弾の雨を降らせ衝撃波重ね傷を抉るわ
私は桜よ
「花華」にて舞い散る桜花となり人魚の歌う暴風にのり斬る
慾はあれど
コレに願えるものなど
ありはしない
●二人舞台
――リルは大丈夫?
――櫻宵こそ大丈夫?
誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)とリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)が、互いを思い遣ったのは転送されるまでの僅かな間だけだ。
戀しくて堪らぬ櫻宵のことを想ってもいけないなんて、リルにとっては責め苦に等しい。
だが想ってしまえば、櫻宵の身に危険が及びかねない――それは、望めぬ。絶対にだ。
(「願いなんて、僕の手で叶えるんだから」)
然して月光ヴェールの尾鰭を持つ人魚は、暫し昔へ立ち返ることを択んだ。
――此処は、水槽。
――冷たい、水槽。
――歌うことだけを求められた、昏くて孤独な水槽。
――僕は、風。感情のない、風。全ては地上の他人事。
(「リル……いいえ」)
櫻宵を見つめては光を灯す薄花桜の双眸が、淀んでゆくのを櫻宵は心を鬼にして見守った。
本当なら、リルにこんな貌をさせたくなどない。いつだって笑っていて欲しいし、自分のことを、「もっともっと」と貪欲に求めて欲しい。
――こんな慾深き龍に何も求めるな、愛するな、なんて。
苦しい、苦しい、苦しくて堪らない。思わず櫻宵は己の喉元を掻き毟りそうになる。と、その時。
『陰陽師なら、己を律せよ』
苦々しい声が、櫻宵の内側で沸き起こった。
『お前は雑念が多く慾深すぎる』
声は荒げられることなく、淡々と指摘する。
『それでは敵に足元をすくわれる』
――一切を、見せるな。
溜め息に混ぜて、かつての父の台詞を反芻し、櫻宵は桜霞の目を眇めた。
――あたしは、凪いだ湖面を撫でる風。
――その場に在って、無きが如きもの。
研ぎ澄まされてゆく感覚に、櫻宵の角から桜がはらはらと散る。やがて蕾さえつかぬ真冬の枝と化した頃、櫻宵は戦場に溶けた。
青い妖精が巻き起こす風に抗わず、けれど決して押し流されることなく、櫻宵は嵐の中枢を目指してひた走る。
「ゆらり ゆれて 夢の中」
翻弄されて乱れる櫻宵の髪を、リルは見ていた。いつもなら、游ぎ駆け付け、撫で梳きたくなる髪だ。
――願いは、ない。
――希望は、ない。
――僕には、何もない。
しかし今のリルは何も欲さぬ――欲しがることさえ知らぬオルゴール。演者の為に奏でられる楽器。
「全て、すべてを泡沫に――、」
戦場という舞台に、誰かが躍っている。赤い刃を手に、剣舞を踊っている。故にリルは、高らかに歌う。
模された鏡像が完全に現れて尚、微塵も気にすることなく歌い続ける。
だってリルの歌は、演者を躍らせる為だけの歌。歌を真似られたところで、鏡像に躍らせる相手はいない。
いや、リルの鏡像の歌に宝石の妖精は輝きを増すかもしれない。しかし妖精には演者たる自覚がない。
「――舞うわ」
さくら、さくら、花ざかり。
我が身はさくら、桜は私。
聴こえる旋律に櫻宵は声を重ねて、まずは一蹴り。さらに一蹴り。裾を捌いて、軽やかに跳ねて、見上げる妖精の巨躯を駆け上がる。
決して一人で駆け上がっているわけではない。春の嵐が櫻宵を高みへ高みへと押し上げているのだ。
「私は水よ」
押し留めることなど叶わぬ洪水のように、櫻宵は剣を振るって妖精を薙ぐ。まずは太もも、脇腹。そこで軌道を変えて、指をひとつ落として、それから肘、首筋。
『この世界』は『知りません』。
『この世界』は『知りません』。
『この世界』は『知りません』。
『この世界』は『知りません』。
翻弄された妖精が、櫻宵を払い落とそうと藻搔く。が、ひとたび桜色の風に後押しされた龍に、翼を休める枝はない。
「私は桜よ」
誘う宵は――桜華絢爛。
最後の一舞は、無感動な青い瞳へ。全身を世にも美しき桜の花弁に換えた櫻宵は、リルが吹かせ続ける風に身を任せて、望みを見透かそうとする眼を抉り、切り刻み、霧散させる。
『望み』が『ある』でしょう?
『望み』を『叶え』たくは『ない』ので――。
「お生憎様。慾はあれど、お前に願うものなど、ありはしない」
断末魔すら皆まで言わせず、人身に戻った櫻宵は妖精を上段からの一刀に処す。
宝石が砕けて塵になり逝くように、万能宝石の妖精がさらさらと消失し始め、そこでようやくリルは、櫻宵と共にあるリルに戻る。
――歪んで叶えられる願いなんて、呪いと同じ。
「君たちに叶えられるべき願いは、少なくとも僕と櫻宵の間にはないんだよ」
此処は櫻宵とリルの為の舞台。
無粋な演者は要らぬ。
疾く、消えよ。疾く、還れ。
全てが鎮まるまで、心に蓋をして二人は歌い、舞う。
再び思うが侭に、慾し、戀し合う為に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
オーダー、『がんばって』。
えぇ。万事熟しましょう。
前兆は翼に現れる…
ならば。羽搏き、視線、突進へ向ける体勢、速度、
視得る全てを見切りきり、回避を。
けれどあの体積。跳躍のみで厳しかれば、
壁や、已むを得ぬなら他の敵にワイヤーフック掛け、
思い切り引き、無理繰りにでも進路上より避け躱し。
妖精自体に鋼糸掛け、駆け、跳び登り、
巻いては引いて斬り傷付けつつ…
すべきは“此れを墜とす”事。
狙うは、腹…羽…否、頸か。
知らぬでしょうね。
戦さ場ってのは、余計な事を考えてる奴ほど先に逝く。
今、此処に、生きてる俺に、
『望み』を『言う』が『よい』?
…頭が高い。
狙い澄まし放つ渾身、
UC――肆式
さぁ。
次はどれを破壊しましょう?
●傭兵
クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の瞳の青は、常と変わらず深いまま。
ただ、激しい動きについて来そびれる恐れのある眼鏡の位置だけは入念に確認し、クロトは一気に筋力の限界手前まで加速した。
先んじて、鋼糸をセンサーのように周囲へ展開する。
指へ使わる触覚は、第二の視覚。視線を動かすことなく自身のおかれた状況を知ることが出来、同時にエリクシルの妖精の翼に目を留めたままにできる。
美しい女性の形をしながら、クロトを遥かに上回る巨躯の持ち主だ。その羽搏きが齎す推進力が、侮れば命取りになることをクロトは最初に見て取っていた。
故に、その動きを。
細波のような揺れまでをも見逃すまいと、クロトは柔らかなビロードを思わす翅に全神経を注ぐ。
一歩間違えれば、危険な賭けだ。
しかし些細な一瞬にこそ、勝機は潜み、息衝く。
「――、」
来る、と。
僅かな翅の戦慄きを視認したクロトは、地に這わせた鋼糸を思い切り引いた。
広げられた鋼糸が、収束しきらずクロトの身体を逆に攫う。僅かに左へ体が傾ぐ程度の反動だ。けれどクロトの脚力に依らない軌道変更に、青銅色の妖精の出足は瞬きの刹那ほどのタイミングを失する。
見切るには十分な隙に、クロトは体重を乗せた左足を軸に一回転すると、強く右足で踏み切った。
――跳ねる。
まずは、巨大な足の甲へ。
――飛ぶ。
そして息吐く間もなく、フックつきのワイヤーを上へと投じ、中空へと躍り上がった。
纏わりつく羽虫を払うべく、妖精が身もだえる。だが取り付いたからには、目的を果たさぬまま無様を晒すクロトではない。
「知らぬでしょうね」
膝にかけたフックでみぞおちの窪みにクロトは降り立ち、今度は肩甲骨にフックをかけて肩を目指す。
「戦さ場ってのは、余計な事を考えてる奴ほど先に逝くんです」
無感動に、淡々と、クロトは己が知り得る事実を語る。
確かに常人ならば、望む心を制することは難しかろう。
だがクロトは傭兵。仕事場に私情を持ち込むなど、愚の骨頂。
――今、此処に、生きてる俺に、
――『望み』を『言う』が『よい』?
とんだお笑い種に、クロトの裡はしんと冷えて、微塵の熱も兆さない。
そして狙う一点。頸を眼前に捕らえ、クロトは狙い澄ました渾身を放つ。
「UC――肆式」
繰糸が、閃く。射に、刃が乗る。
「……頭が高い」
理を歪めた波状の攻撃が、重なり、万能宝石の妖精の首を落とした。
『がんばって』、と言われた。
それ即ち、オーダー。
傭兵として、恙無く熟すべきもの。
「さぁ。次はどれを破壊しましょう?」
淡々と、粛々と。果たすべき務めとして、クロトは望みを歪める妖精たちを滅し続ける。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
望むなと云うが、そも何も思い浮かびやしねえ
あァ、なれば普段通りで構わねえのか
俺ァてめえの手で何とかせにゃあ気の済まねェ質さ
まして、見ず知らずのよくわからねえモンに力借りる程落ちぶれちゃいねェ
粋と根性
てめェを殴ってでもブレさせやしめえよ
戦いは、体に染み付いた経験と本能の髄
ひと振りで二回分、二群の千鳥
一つは本体、もう一つは其の影として手繰り、時間差の衝撃としてぶつける
筆は三、他の事しつゝ無意識で動かせるなァ此処迄だ
相手が俺だろうが誰かだろうが同じサ
二つで防ぎ一つは敵を追尾させる
幻が消えりゃあ本体を叩く
其処に希望なんざありゃしねぇ
楽しい
求めている訳でもねェが
在るなァ、その事実だけよ
●江戸の華
状況が許されるなら、悪戯をした子供をこんこんと叱りつける親のように、菱川・彌三八(彌栄・f12195)はエリクシルの妖精の周囲をこれみよがしに歩いただろう。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
万能宝石エリクシルの妖精が繰り返す甘言は、危うい誘いなのだという。喩えどれだけ望まれても、望んではならないのだという。
「……とは云われてもなァ? そも、何も思い浮かびやしねえ」
ひょいと肩をすくめて彌三八は、徹夜明けに見る太陽みたいにかんらかんらと笑った。
元より彌三八は、成すべき事は己が手で成さねば気が収まらぬ性質なのだ。
(「まして、見ず知らずのよくわからねえモンに力借りる程落ちぶれちゃいねェ」)
軽く手の腹で鼻の下を掻き、彌三八は天高く聳える塔が如き青銅色の妖精を見上げる。
造形は、なかなかだ。
似せて浮世絵でも描けば、好んで買い求める連中も少なくあるまい――ただし縮尺には手心を加える必要がありそうだが。
――と、疼きかけた絵師心を、彌三八はほっかむりの結びを締め直すことで散らす。
「とどのつまりが、普段通りで構わねえってこったな!」
どでかい相手だが、特段片肘を張る必要はない。ちょいとばかし、見てくれと攻撃手段が風変わりなだけだ。
現状をそう彌三八は認識すると、喧嘩駒のように走り出す。
考える必要はない。戦いは、身体に染み付いた経験と本能の髄。絵を描くのと同じくらい、朝飯前。
「いや? 構図を考えねえといけないだけ、絵の方が厄介だぜ」
足を止めぬまま、まずはひと振り。次いで、間を置かずにもうひと振り。慣れた手付きで筆を捌き、彌三八は千鳥の群れをふたつ描きあげると、もうひとつおまけとばかりに筆を振る。
「まァ、ここいらが俺の限界よ――だが、おめぇにはこいつらで十分だ!」
合わせて三つ、千鳥の群れを従えた彌三八が見るのは、己の姿。とはいえ鏡ではない。彌三八と切り結ぶ為、妖精が作り出した彌三八の鏡像だ。
見馴染んだ顔が真っ向勝負を挑んでくるなぞ、滅多に出来る経験ではないし、所詮鏡像は鏡像。
「――ほら、よ」
自分なら、右から攻めるか、左から攻めるか。
日頃の癖を意識して、彌三八は鏡像を逆から攻める。
まずは一群、差し向けて。襲い来た千鳥は、残した二群で追い払い。隙をついて、先行させた一群を死角へやって。
「楽しい、なァ!」
鏡像を千鳥に啄ませてからが、いざや本番。だか得た稀有な機会に、彌三八は子供のように目を輝かす。
求めているわけではない。ただ事実として、心が浮き立つのだ。
粋と根性だけを携えた、力技の真剣勝負。
とどのつまりが喧嘩上等。これぞまさしく江戸の華。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァルダ・イシルドゥア
願いを叶えるもの
望みを叶えるもの
それは……それは、嘗て
父さまと母さまの辿った、
――アナリオン、アイナノア!
この巨躯を相手取るならば地上からでは不利となる
掠れた音を噛み殺し精一杯に声を張る
竜たちの名を、呼ぶ
多くのことばがなくとも
それが確かな私の力となるから
もしも望みを暴かれてしまった
大きく負傷した仲間が近くに居れば
敵の攻撃から庇い飛竜の背に乗せて退避させましょう
空中より飛来し本体の喉を穿たんと竜槍を振るい続ける
頭の中に響き渡る問い
揺らぎそうになったとしても
倒しきるまでただ無心に
けして口を開かぬまま
ねがいは無理に暴くものではありません
……夢も、希望も、なにもかも
想いは、そのひとだけのものなのだから
●戸惑い
――願いを、叶えるもの。
――望みを、叶えるもの。
伏し目がちに視線を落とし、ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)は戸惑った。
願いを、叶えてくれるという。
望みを、叶えてくれるという。
知らぬ間に、ヴァルダの心は揺れていた。まるで月の満ち欠けに惑わされたような心地だ。
――望み。
――願い。
(「それは……それは、嘗て」)
竜の娘の脳裏に、二人の人物の影が過る――父と母だ。
(「……そう、父さまと母さまの辿った、」)
「――アナリオン、アイナノア!」
竜たちの名を呼んだのは、半ば反射であり、半ば悲鳴でもあった。
無理やり引き出したせいで声は掠れてしまった。にも関わらず、太陽の君たる飛竜も、太陽の仔たる仔竜も、風の如く地上へ舞い降り、瞬く間にヴァルダを空へと運ぶ。
ざぁ、と流れる視界に巨大な妖精の威容が映る。
その際を垂直に翔け上がりながら、ヴァルダは万能宝石エリクシルの妖精の大きさを計った。
概ね、己を縦に並べて六人ほどか。
明らかに、地上から挑むには不利な相手だ。冷静に思考することで、心が落ち着く。そしてヴァルダには多くの言葉を必要としない絆で結ばれた竜たちがいる。
(「――これは、確かな私の力」)
「アナリオン」
そよ風の如きヴァルダの囁きに、仔竜が姿を竜のそれがら槍へと転じた。
握り締めると、しっとりと手に馴染む。まるで安心して振るってくれと仔竜が告げているようだ。
同時に、跨る飛竜が一際力強く羽搏いた。
青銅色の巨躯の四方を素早く旋回し、ヴァルダは妖精の喉に狙いを定める。
如何な巨体も、急所を突かれれば終わるはず。
「アイナノア」
呼ばれた名に、飛竜もヴァルダの意を察して、右上方から喉元を掠める軌跡を描こうとした――その時。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
されど、『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られ』ました。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
耳にしてしまった誘いの言葉に、ヴァルダの精神がぐらりと揺らいだ。掻き消した幻影が、再び首を擡げそうになってしまう。
「……っ、ねがいは。無理に、暴くものでは、ありません」
勝手に綻びそうになる唇を痛いほど噛み締め、ヴァルダは全ての意識を宝石の妖精に注ぐ。
倒しきるまでは、もう口は開くまい。
無心、無心、無心であるのだ。
(「そう……夢も、希望も、なにもかも。想いは、私だけ……そのひとだけのものなのだから」)
明け渡してはいけない。
望みは、宝。歪められては、ならぬもの。
血が滲むほど唇をきつくきつく噛み締めて、ヴァルダは槍を構えた。矛先が、蒼焔を吹く。間近に見た、蒼眸より青く青く、美しく。
その蒼焔でヴァルダは抱えた戸惑いごと、エリクシルの妖精の喉を貫いた――。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
羽織から取り出すのは香水瓶
忘却を齎すとっておきの催眠毒
毒耐性を弱めた自身の周囲へと散らす
願いも祈りも、そのなにもかも
ナユ自らの手で沈めましょう
催眠の気化毒が浸透する
思い出すわ
ナユの想いだもの
戀した『あなた』も
あかく染めたあなたも
今だけは心の奥深く沈めるだけ
あの面影が、聲が遠退いてゆく
奪われるくらいなら自らの手で断つわ
両の手には彼岸と此岸の双刀
大切であったはずのふたつの残華
どうして、大切だったのかしら
手に馴染んで、懐かしい心地がする
たんたんと駆ける
同じ動きを見切り早業で一閃を引く
かろやかに空中へ舞う
破魔の力を込めて本体を薙ぎ払い
ひとつの記憶を置いてゆく
自らの毒に侵されるなんて
嗚呼、なんて滑稽なの
●誰かに渡すくらいなら
望みを歪める敵らしい。
「まぁ、そう」
けぶる睫毛をしっとりと上下させ、蘭・七結(こひくれなゐ・f00421)は紫の眼を瞬かせた。
「でも……そうなら」
逡巡に要した時間は幾ばくも無かった。
蝶の羽搏きを思わす軽やかな仕草で七結は羽織の内に手を差し入れると、ころりと小さな香水瓶を取り出す。
目の高さに掲げると、中で液体が揺らめいていた。
「まさか、こんな使い方をする日がくるなんて――ね?」
一度だけ、ことりと首を小さく傾げて微笑み。それから七結は香水瓶の蓋を迷わず開ける。
独特の香りが、七結の鼻先を擽った――忘却を齎す、とっておきの催眠毒だ。
必要量は、ほんの少し。
――だいじょうぶ。ちゃんと、おもいだすわ。
願いも祈りも、なそのなにもかも。
――ナユの想いだもの。戀した『あなた』も、あかく染めたあなたも、今だけは心の奥深く沈めるだけ。
ナユは自らの手で沈めていく。
――嗚呼、遠退いていく。遠退いていく。あの面影が、あの聲が……。
他人に奪われるなど、断じて許せぬ。ならば奪われる前に、自らの手で断つだけ。
――……ぷつり。
「ころせばいいの?」
暗転、からの、瞬きで。七結は宝石の妖精を赤い瞳に捕らえた。
気付いた時には、右と左の手にそれぞれ一振りの刀を握っていた。
銘は、彼岸と此岸。とてもとても大切であったはずの、残花の双刀。
――どうして、大切だったのかしら?
白牙と白刃を手に、七結はエリクシルの妖精の足元を目掛けて走った。
――わからない。わからない。
疑問を繰り返しても、酷く手に馴染む感触が、七結に懐かしさを抱かせる。今はきっと、それで十分。
髪に飾った牡丹を一輪、あかくあかく咲かせて七結はたんたんと直走り、とんっと巨大な足に飛び乗ると、左右の刀を踊るように突き立てた。
直後、もうひとりの七結が七結の前に現れる。
妖精が作り出した七結の鏡像だ。されど七結はそれへ一瞥も呉れることなく、突き立てたままだった刀で妖精の肉を深く抉った。
苦痛に、妖精が足を踏み鳴らす。
ころり転げた七結は、幼子のように大きく瞬き、襲い来た鏡像の一閃を跳ね起きて躱した。
「だいじょうぶ、だいじょうぶよ」
何が大丈夫なのかさえ分からぬまま、七結は呟き、そして妖精と鏡像と戯れ踊る。時に自身と同じ貌を足場に中空へ舞い、落下の加速を味方につけた剣閃で妖精を薙ぎ払い。
毒の扱いに長けた七結だ。
事が終われば、ひとつの記憶を置き去りにしたことを想い出すだろう。
嗚呼、でも、でも。
自らの毒に侵される行為の、なんと甘美で滑稽なことか――。
大成功
🔵🔵🔵
呉羽・伊織
ヒトの、心
元々持ち得なかったモノ
――大丈夫
願い等持たず
望み等捨てた
心を隠すのはいつもの事
心を殺すのにも慣れてる
――慣れていた
そうやって生きてきた
そんな雑念も敵前では即切り捨て、唯嘗てに戻るだけ
今一時は唯、“忌まわしきモノ”に戻るだけ
じわりと何か滲んでも、痛んでも、切り捨て無心に返る
早業の先制攻撃でUC使い、試しにあの煩い口の部位破壊を
其で止まぬなら
得物に、この身に、強い拒絶の呪詛纏い、敵の精神波を拒む――己の心すら呪詛で覆い尽くして拒む
後はフェイントと2回攻撃交え隙探りつつ
衝撃波重ねて潰すのみ
残念だったな
その問への答は持ち合わせない
俺は絶望こそあれ、希望とは無縁――そういう“モノだった”んだよ
●邪なるモノ
日頃は軽薄にも取られかねない呉羽・伊織(翳・f03578)の笑顔が、おぞましいまでの美しさを放つ。
元々、無駄に造作は整っているのだ。気安く見られがちなのは、伊織が軽妙な振る舞いをしているからに過ぎない。
(「ヒトの、心」)
ヒトならざる宝石の妖精を前に、伊織は視界を閉ざして己が裡へと深く潜る。
(「元々、持ち得なかったモノ」)
――大丈夫だ。
心は光の届かぬ水底のように、しんと冷えていた。或いは、研ぎ澄まされた刃が照り返す月光のように、妖しく冴えていた。
大丈夫だ。繰り返し、唱える。
願いなど、持ってはいなかった。
望みなど。抱く前に捨てていた。
――心を隠すのは、いつもの事だった。
――心を殺すことにだって、慣れている。
(「そう……慣れて、いた」)
『今』ではない『過去』、伊織はそんな風に生きていた。
だから、大丈夫。
嘗てに戻るだけだ。ただそれだけ。難しい事なぞ、何もない。
「そうだ。今一時は、唯“忌まわしきモノ”に戻るだけだ」
ゆっくりと瞼を押し開く。
まず見えたのは、洒落て斜めに被った烏の反面の嘴。それを上向けると、青銅色の妖精の全貌が視界一杯に広がった。
巨大な敵だ。
されど伊織の心は微塵も揺れず、騒がず、静かに静かに、不気味なほどに凪いでいる。
そして伊織は、音もなく走り出す。
切り捨てた風が呪詛と化し、伊織の全身に纏わりつく。懐かしい感覚に、伊織の心は黒一色に塗りつぶされた。
――大丈夫だ。
――何も、滲まない。喩え痛んでも、斬り捨てるだけ。
翳りを帯びるのに、どうしてだか煌々と輝く赤い双眸で赤き宝石『エリクシル』の妖精をねめつけ、伊織はしなやかに舞う。
地面から、跳んだ。
巨大な膝を蹴って、更に飛んで柔らかな腹部に着地すると、重力を無視して垂直に駆け上がる。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』
汝の『望み』を『言う』が『よい』で――。
「残念だったな」
望みを求める声を、伊織は冷ややかなる黒刀で物理的に縫い留めた。
全てを語り切れなかった青い唇が、無念に蠢く。そこを更に伊織は深く穿ち、怨恨と暗翳の衝撃波で内側から砕く。
「お前の問いへの答は、持ち合わせない」
我武者羅に死を運ぶ妖刀を振るい、それが放つ邪念で己を染めて、伊織は歪んだ妖精を尽く斬って砕いて、消滅へと導く。
「俺は絶望こそあれ、希望とは無縁――そういう“モノだった”んだよ」
自嘲めいた呟きは戦火の剣戟に紛れ、攫われ、人知れず消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
ジャック・スペード
此の手の話には代償が付き物だ
そして、そんな話を持ち掛けて来る奴に
碌な者は居ないという事も知っている
ただ勇気と奉仕のこころだけを胸に抱き
エリクシルの妖精と対峙しよう
衝撃波が襲おうと狂気耐性で堪え、決して口を割らない
この身はヒトに捧げたモノ
ゆえに当機に一切の見返りは不要だ
――誰が何と言おうと、不要なんだ
その覚悟を示すように仲間の前に出て
この身を盾として攻撃から庇おう
余裕があれば、大丈夫かと声掛けを
損傷しても構わないと激痛耐性を活かしつつ
頭部を機関銃に変化させて沈黙を守りながら
妖精たちを氷の弾丸で範囲攻撃して行く
接近して来た個体は怪力でグラップルして捕え
其のまま零距離射撃をお見舞いしよう
自動・販売機
自動販売機は機械である。
機械が故に製作者の望みの通りの動作はせども、それ自体が望みを持っている訳ではない。
そういう意味でこの設備は『妖精』と同質の存在であるとも言えた。
望む対象から代価を得て、それに見合った結果を取引すると言う点において。
しかし大きな違いがある、この妖精は『望まない希望』を返すのだ。
これは恐らくこの製作者にとって、憎むべき事であったのだろう。
その正当ではない取引、それを察知したのか『自発的に戦闘を行う』ために自動販売機は現れた。
誰にも依頼されず戦うのはこの機械にとって特殊な行動だ。
不公正の是正こそ、この機械に求められた望みなのかも知れない。
だとすれば既に望みは叶っている。
ミンリーシャン・ズォートン
望むもの全てを叶えてしまう、万能宝石『エリクシル』
人の願いを無理矢理捻じ曲げ、世界を滅亡へと導く闇の力を放っておく事は出来なくて
「望みは、己で叶えます」
氷剣を鞘から抜いた瞬間から、戦闘に集中。
何も考えずに唯腕を、足を動かして万能宝石を氷の世界へと誘いますう
私の心を動かそうとする言葉には、歌を口ずさんだり、己をわざと傷つけ、痛みを用いて心を無にするよう心掛けて
偽の自分が出現すれば、剣と体術を駆使して戦い、偽の自分と万能宝石ごと氷漬けにする機会を窺い、反撃へと繋げます
他の猟兵達とも可能ならば声を掛け合い、助け合う事を心掛けます
●無機の心
青銅を思わす色の肌を持つ巨大な妖精の威容を前に、自動・販売機(何の変哲もないただの自動販売機・f14256)は微動だにしなかった。
名は体を表すという言葉もある。実際、販売機は製作者の望みの通りに動作し、様々な商品を販売するだけのウォーマシンだ――と、本機は己を認識している。
あらゆる挙動は、製作者に意図されたもの。数多のロジックを経て、インプットをアウトプットするだけの無機なるモノ。
故に、販売機自体が望みを持つことはない。『望み』を持つ、という回路を有していないから。
販売機は、己を設備だと称する。
それはまるで『自動なる者』である宝石の妖精と同じではあるまいか。
『望む』対象より対価を得ることで、それに見合った結果を『取引』するという一点ではなおさらに。
僅かな駆動音だけをたてながら、変わらず販売機は似て非なるモノを見る。
――そう。同質であっても、全く同じではない。
妖精は正当であるはずの取引を、歪め捻じ曲げ、望まぬ結果を相手に返す『不良品』。
その悪行は、販売機の製作者にとっては憎むべき事象。
――バグは速やかに取り除かねばならない。
――機能不全に陥った機体は、須らく廃棄せねばならない。
不正を察知した販売機は、製作者の命を実行すべく『此処』にいる――だけの、はず。
ジャック・スペード(J♠️・f16475)という男は、かつて不良品として廃棄されたウォーマシンであった。
だが彼は、多くの奇跡を経て、『正義の味方』になった。
今や各個がオリジナルの知能を持ち、人権をも認められるウォーマシンだ。ジャックもまた、そうして世界に少しずつ馴染み、自分の機械仕掛けの胸に『こころ』の芽生えを自覚している。
世界を渡り歩き、人々と出会い、知識を吸収し、感情に触れて。ジャックは己の意思で、理不尽と相対する為に『此処』へ至った。
(「此の手の話には代償がつきものだ」)
一般的人間種族よりも大柄なジャックをしても見上げる妖精と相対し、、ジャックは目まぐるしく思考する。
知っている。
こういう話を持ち掛けて来る相手に、碌な者はいない。甘い言葉で近付き、手酷く裏切るヴィランそのもの。
――勇気。
――奉仕。
(「この身は、既にヒトに捧げたモノ」)
柔らかな熱を宿すココロを、ジャックは二つの言葉で満たす。
(「ゆえに当機に一切の見返りは不要」)
望みなど、持ちはしない。
自らをジャックはそう位置付ける。
(「――誰が何と言おうと、不要なんだ」)
既に身に余る幸運に恵まれている。だからこれ以上、ジャックに望むものなどない。
望むものなど、ありはしないのだ。
●羽搏き
日頃は外套の中に隠す小翼を顕わにし、ミンリーシャン・ズォートン(流浪の花人・f06716)は青空を映したような瞳を、じっと凝らす。
同じ青でも、ミンリーシャンと巨大な妖精のそれは随分違う。
「万能宝石『エリクシル』――の、妖精」
そっと唇に乗せた単語に、人好きの少女の心が、きゅっと痛みを訴える。
望むものを全て叶えてしまうという、赤き万能の宝石エリクシル。
だが人の『望み』は尽く捻じ曲げられ、果ては世界を滅亡へと導くのがエリクシルだ。
(「――放っておくなんて、出来ない」)
強さと優しさは、両立でき得ると信じ、だからこそ敵さえも敬うことを忘れぬミンリーシャンにも、許せないものはある。
臆病な性質だ。
特別な『好き』に対しては、つい一線を引いてしまう――強くない、自分。
しかしそんな自分を変えたいと望むミンリーシャンだから、絶対に譲れない。
「望みは、己で叶えます」
他力本願なんて、必要ない。
自らの足で、進んでみせる。
掲げた決意に、ミンリーシャンは薄氷にも似る杖に秘す剣を抜き放つ。
●望み叶える為
ハチドリのように素早く剣を繰り出すミンリーシャンの鏡像を、最終武装モードへ転じた販売機が破砕する。
今や狂戦士と化した販売機にとって、妖精よりも、ジャックよりも、そしてミンリーシャン当人よりも速い鏡像は、格好の獲物であった。
だが販売機の牙は、いつジャックやミンリーシャンに向けられてもおかしくないもの。
「味方であれば誰より心強い、が」
「敵としては一番厄介ですね」
求められるのは、早期の決戦終結。顔を見合わせた黒きウォーマシンと、可憐なオラトリオは、視線で意を交わし――まずはジャックが前へ出た。
「此の身は異形なればこそ――」
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
ジャックの攻勢に反応した青銅色の妖精が、望みを引き出そうと精神波を放つ。
堪らず綻びかけた心の手綱を、ミンリーシャンは歌を口ずさみ、更には剣を腿に突き立てることで引き締める。
そしてジャックは、巨大な砲塔と化した己の身体を防御壁として展開する。
直後、ジャックを妖精の突進が襲う。
鋼の身体であっても、凌ぐのは容易くない質量に、ジャックの全身が軋む。あちこちで、限界を超えた事を示すアラートが点滅していた。
痛覚が実装されているジャックの全身を、強烈な痛みが責め苛む。しかしヒーローたる男は折れず、妖精を押し返すように一歩踏み込んだ。
――まずは、掴む。
腕部を伸ばしたジャックは、鍵爪を思わす掌部で妖精の首を鷲掴み。
――そして、撃つ。
動きを制していられる一瞬に、零距離から主砲に火吹かせた。
顔面を狙った一撃に、エリクシルの妖精の喉が仰け反る。
「――征け」
「はい!」
ジャックの一声に、ミンリーシャンは勇気を翼に羽搏く。
「――さぁ、いきましょうか」
守護者と認められた者に代々受け継がれて来たレイピアから、六花の冷気を迸らせる。
巨体に相応しい双眸が、ミンリーシャンを捕らえた。心を見透かされるような感覚に、またしても萎縮してしまいそうになる――が、唇を噛み切ったミンリーシャンは更に飛ぶ。
そして辿り着いた頭頂部。
とん、っと舞い降りたミンリーシャンは、足元に細剣の切っ先を突き立てた。
凍てつき、やがては雪のように万能宝石の妖精は崩れ去った。
正気を取り戻した販売機は、冷気の余韻に身を浸す。
変わらず、販売機に独自の思考は存在しない。けれども販売機は確かに、誰に命ぜられるでもなく戦った――戦ってしまった。
それはとても稀有なこと。
表に行動として現れるプログラムではなく、軸にある概念を実行したに過ぎないのかもしれない。
不公正の是正こそ、販売機に求められた望み。
だとするなら、販売機は自身の望みを叶えたのかもしれない――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
「誰か」にかなえてほしい望みがあるわけじゃない
だけど
なにをかんがえても望みだと思われるかな
そんなつもりじゃなかったって思うような
そんな叶え方はずるい
なにも望まない
…のぞまないよ
どうしようか、シュネー
しりとりでもしようか?
笑み浮かべ斧を構える
わたしのあいては、「わたし」?
まじまじと自分の姿を見ることはあんまりないから
ふしぎな心地
ふしぎ、ぎ、ぎゅうにゅう、うし、シュネー
斧を武器受けしながら
シュネーを妖精のもとへ
「わたし」に押し負けてもオーラ防御
しりとりは不規則なカウントダウンのよう
いつもと違うリズム
いつもとと違うタイミングで「わたし」を蹴り飛ばす
距離を取ったら妖精にシュネーの飛び蹴りを食らわせるよ
●オズ色の世界
――かみさまが造ったものみたい?
つい、ぽかんと口を見上げたくなる巨大な妖精は、神秘的な姿をしていた。
青銅色の全身は、丁寧に作り込まれた像の如く。長く伸びた耳の先は、やがて可憐な花びらのように散り、蝶を思わす繊細な翅の羽搏きに踊っている。
仮装行列の先頭にいたら、さぞや皆の目を楽しませてくれることだろう。
でも――。
「どうしようか、シュネー」
いつも朗らかなキトンブルーの瞳を僅かに翳らせ、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は抱え上げた姉であり友達でもあるからくり人形に問いかける。
巨大な妖精は、人々の『望み』を歪んで叶える悪しきものだという。
オズ自身に、「誰か」に叶えて欲しいような『望み』はない。
だが、人形の身体に宿った大切な心が、思い浮かべてしまった何かを、勝手に『望み』だと思われたらどうしよう。
大好きな友人たちと過ごした一日を、楽しかったなと思い出しただけで、『楽しい』の再来を望んでいるように解釈されたら、明日が、友人たちが消されてしまうかもしれない。
そんなつもりじゃなかったと訴えても、取り消しはきかない。
(「そんな叶え方は、ずるい」)
だからここでは、なにも望まない。望めない。考えてはいけない。
感受性豊かなオズにとっては酷く難しいこと。しかし成し遂げねばならない。
どうしよう、どうしよう、うう、ううう。
(「どうしよう、うう――う?」)
ただの胸裡の唸りだったものの、なんてことない規則性に気付いたオズの表情が、ぱぁと輝く。
「ねぇ、シュネー。しりとりしようか?」
言葉と言葉を繋げるだけの遊びに、『理』はあれど『意味』はない。脈絡のない連なりに、きっと妖精は混乱するだろう。
ふふ、と。
白い頬が赤みを帯びる。
うん、楽しい。
そうすれば、オズはいつも通りのオズで、世界はあっという間にオズ色に染まる。
「まずは、ふしぎ!」
唱えて斧を構えたオズへ、そっくり笑顔のオズが迫ってくる。エリクシルの妖精が作り出した鏡像だ。しかしどこからどう見ても「わたし」な鏡像に、オズはもっともっと楽しくなって、笑顔はますます輝き出す。
「ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎゅうにゅう!」
踊るリズムで薙がれた斧を、オズは自身のオノで受け止める。せめぎ合う力と力に、濛々と蒸気が噴き出した。
「う、う、う、う、うし!」
押し返すことは出来なかった。せめて、とオーラを乗せた足を踏ん張る。
もう一人のオズの向こうでエリクシルの妖精が、オズが折れて望みを口にするのを待つように、事の成り行きを見つめていた。
「し、し、シュネー!」
刻んで来たリズムを不意に変え、オズは足元からシュネーを走らせる。同時に、地面に円を描くみたいに足を滑らせた。
足元を狙われたもう一人のオズが、見事にバランスを崩す。そこへオズはもう一蹴り。
「ね、ね、ね、ね――ねぇ、シュネー。うけとって!」
弾む調べは、カウントダウン。
オズによって蹴り上げられたもう一人のオズを、妖精の足元で待ち構えていたシュネーが打ち上げる。
上がった鏡像の花火は、妖精の鼻先で大輪の花を咲かせた。
大成功
🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
俺がなにより望むものなど
もとより、他者の手では叶えられんさ
…叶えられてはならぬ
それでも問われるたび浅ましく浮上しかける
幼子の夢めいた願望は
得物の一閃で斬り捨てて
決して、その奥底に沈め続けるモノが浮かばぬよう
…そうして望みを叶えるのが
お前の望みなのだな、妖精
問うたところで傷は負わせられずとも
ささやかな意趣返しを
突進に対し、地に槍を突き立て【星守】発動
妖精らの勢いが弱まれば直ぐに解き
<怪力>乗せた<なぎ払い>で断つ
語らず
想わず
捨てられず
ならば、ただ此の身で、生で表すだけ
心優しき妖精が願いを叶えてくれる
幼い頃に読み聞かされた物語
…思い出だけで十二分
御伽噺は、ただ御伽噺のままであればいい
●星守の御伽噺
黒銀の鱗で覆われた竜尾で、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は地面を叩く。
たすり、たすり。
規則的なリズムは、苛立ちと、不安と、惑いの顕れか。
「俺がなにより望むものなど。もとより、他者の手では叶えられんさ」
平素を装う聲の語尾が、僅かに掠れる。
叶えられはしないと言いながら、「叶えられてはならない」と思っている。
心の糸は、解し方を忘れる程に複雑に縺れていた。
ジャハルにさえ、筋道のつけかたが分からない。
故に、沈めども、沈めども。妖精の甘やかな囁きを耳にする度、浅ましく浮上するものがある。
――しかし。
そうだ。
叶えてはならないのだ。
「――」
再び唱えたジャハルは、数多携えた得物の中から、真っ先に指先に触れた黒剣を振り抜いた。
無言の一閃は、敵ではなく、己の裡こそを切り裂くもの。幼子の夢めいた願望を処すもの。奥底に沈め続けるモノが、決して浮かばぬようにするものだ。
即ち、ちかい。奇しくも、黒剣の銘と同じに。
そして全てを一度かなぐり捨て、ジャハルは漆黒の風と化す。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
「……そうして望みを叶えるのが、お前の望みなのだな?」
己を睥睨する双眸へ、ジャハルは問いを嘯く。妖精のそれとは異なり、何の力も持ちはしないが、ささやかな意趣返しくらいにはなる。
事実、静かに波打っていただけの翅が大きくざわめいた。
タイミング的に、ただの偶然だったかもしれない。しかしジャハルは、我が意を得たりと獰猛に口の端を吊り上げる。
大気さえ圧する風が、進む側から吹いて来た。
刹那、ジャハルは逆手に握った槍を回転させて、矛先を地に突き立てる。
「――触れるな」
吐き出した拒絶に、ジャハルの全身が竜鱗の装甲へと転じた。直後、聳える山の如き妖精がジャハルに体当たる。
空間が戦慄き、楔にした槍が地を削った。
だが星守の壁と化したジャハルは、無傷。
手応えの無さに、妖精の眼が動く。その時既に、ジャハルは竜人へ戻り、ちかいの剣を握り締めていた。
「――」
気勢さえ発さず、ジャハルは剣を真横に薙ぐ。
――語らず。
――想わず。
――捨てられず。
――ならば、ただこの身で、生で表すだけ。
全霊を賭した剣閃は音速を超え、衝撃波となり宝石の妖精を真っ二つに割り砕く。
むかし、むかし。
心優しき妖精が、願いを叶えてくれる物語を読み聞かされたことがある。
心弾む物語に、ジャハルは眼を輝かせ。そんなジャハルに、稀有なる輝石はまた沢山の物語を紐解いてくれた。
――願いが叶えられる夢物語は、思い出だけで十二分。
――ただの赤い宝石になぞ、何も望まぬ。
(「御伽噺は、ただ御伽噺のままであればいい」)
大成功
🔵🔵🔵
ユルグ・オルド
刃一つに願いなんて
当然なかった、はずでしょう
描く軌道も届く間合いも手足と同じように
当然全部、知ってるからさ
いやァ願えば叶えてくれるだなンて
大盤振舞いもあったモンだわ
つっても無事とはいかないんじゃアどうしようもないな
短く息吐いたら振り抜いて駆け出して
走る熱も鼓動も忘れて、在ったままで
目の前にあるなら斬るだけ
反撃があるなら弾くだけ
善いも悪いもなく応じるだけ
笑うより泣くより、願うより
きっと息をするより手馴れた所作で
突進で近づく間合いへ、熄を
振れかけた心とやらは、目の前の一重に集中しよう
ただ息をするのも忘れる程に
律しなければならない程に
よくもまァ抱いたもんだわ
●月を砕く
携えた得物のうち、片刃の彎刀をユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)はじぃと見る。
鍔のない刀剣だ。使い込んだ分、よく手に馴染んでいる――いや、馴染む理由はそれだけではない。
(「よくもまァ、こんなトコまで来たもんね?」)
ケラリ。胸中でユルグは嘯き笑う。
ただの刃だ。
ヒトに振るわれることで、何かを斬り削ぎ突く刃だ。願いなんて高尚なもの、持つはずもないものだ。
刃とはつまりそういうもの。ユルグは一から十まで知っている。描く軌道も、届く間合いも、手足とおんなじように、知っている。至極当然のこととして。
「それにしたって。願えば叶えてくれるだなンて、大盤振る舞いにも程があるんじゃあナイ?」
そっと抜いた刃の腹を、指先で撫でる。
欠かさぬ手入れにしっとりとした触感だが、何処か痛いくらいに冷たくもある。
「つっても無事とはいかないんじゃアどうしようもないな」
そして短い息をひとつ吐いた後、ユルグは前置きなく走り出した。
疾く、疾く、疾く、疾く。
巨大な妖精の動きが追いつかないほどの速さを目指して、ユルグは全身の筋肉を躍動させる。
あまりの速さに、まずは自身の熱を忘れた。それから鼓動。
ただ、走る。
エリクシルの妖精の足元を掠め、背後へまわり。かと思いきや、伸びて来た青銅色の手を緩やかに旋回で躱し、気紛れに跳ねて、棒立ちになった股下を潜り抜ける。
まるでユルグ自身が刃と化したような速さだ。
(「……化した、ねェ?」)
不意に浮かんだ思考を、ユルグは蹴り上げて来た巨大な足を刃で弾くことで吹き飛ばす。
いや、吹き飛んだのは思考だけではなく、ユルグそのものが妖精の力に圧し飛ばされた。けれど中空で膝を抱えたユルグは、猫のように音もなく地面に着地すると、再び加速する。
――斬るだけ。
――反撃は弾くだけ。
――善いも悪いもありはしない。ただ、応じるだけ。
とてもとても簡単なことだ。笑う事より、泣く事より、願う事より――呼吸をする事よりもずっとずっと手慣れた風に、ユルグは理不尽な妖精と対峙する。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
されど、『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られ』ました。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
聖歌のように頭上から降り注ぐ妖精の繰り言に、ユルグは意識を研ぎ澄ます。
振れかける「心」とやらを置き去りにする高みまで、速くなるのだ。一撃で、月をも砕く速さに。
いつまでも止まらぬユルグに、妖精が羽搏く。
その一瞬に、ユルグは一際高く跳んで、上も下もなく駆けて、薄翅の付け根に狙いを定める。
「――王手、」
雲みたいな長い髪から飛び降りて、渾身の一撃を放つ。
衝撃音は硝子が割れるみたいに甲高く。青銅色をした妖精は、吸収しきれなかった威力に、脆く崩れ始める。
(「よくもまァ、律しなければならない程に抱いたもんだわ」)
ちらちらと降る青い残滓を見上げるユルグの嘆息は、己の裡にのみ自嘲めいて響いた。
大成功
🔵🔵🔵
黒門・玄冬
一筋の汗が流れ
その冷たさに
破れんばかりに張り詰めていると感じる
未練を断ち切れずに破戒した僕にとって
これは危うい賭けだ
でもだからこそ
今度こそ、律しなければ
余計な事を考える余裕を潰す為、死地の奥深くへ飛び込む
自らを棄て駒とするを厭わず
戦闘知識、情報収集、見切り、怪力を
かばう、咄嗟の一撃、追跡、だまし討ちへ
結びつける糸
すなわち、合理
無垢にして
人の心も慾も白灰と化すもの
眼前が白む程の痛みで
精神波に揺れる僕自身を焼き切り
『俺』を封じ込める
削れれば削れる程
血が流れれば流れる程
積み重ねた苦役は
【叛逆】という
無慈悲な爆華で咲く
僕に
『俺に』
誰かに、叶えてもらえる願いはない
『誰かに、叶えさせてやる願いなんてねぇ』
●爆華咲く
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
耳を閉ざしても、最早幻聴として再生される聲に、黒門・玄冬(冬鴉・f03332)は息を殺した。
こめかみから伝った汗が、目尻を経て、頬を辿り、顎を滑り落ちて鎖骨から更に下へと流れてゆく。
そのあまりの冷たさに、玄冬は己が薄い皮膚の内から破れてしまうくらいに張り詰めていることを感じ取る。
望みを抱いてはならぬ敵との相性は、未練を断ち切れずに破戒した玄冬にとって最悪だ。
(「危うい賭けだ」)
懸命に意識を眉間一点に集中し、玄冬は感覚の一切の排除を試みる。
わかっている。一歩間違えば、全てが終いだ。
(「でも、だからこそ。今度こそ、僕は律しなければいけない」)
二体の妖精が玄冬を左右から挟み込み、秘めたる真の欲望を暴く精神波を浴びせ続けている。
呼吸音を頼りに、千切れそうな理性をかき集め、玄冬は『一瞬』を探す。
既に此処は死地も同じ。だがもっともっと奥へと求め、敢えて己を捨て駒と切り捨て去り、思考する余裕を潰してゆく。
あとはただ、己の持ち得る可能性を、薄氷の上に結び付けるだけ。
まるで糸を縒るようだ。それ即ち、合理。無垢にして、人の心も、慾も、おおよそ人らしき全てを白灰と化すもの。
心のない人なぞいない。
慾のない人なぞいない。
分かった上で、玄冬は自身を極限まで追い込んだ。
――ふ、と。
詰めた呼吸を己への合図とし、玄冬は右の一体向けて走り出す。
実体のない嵐が、内側から玄冬を食い荒らす。浅黒い肌が裂け、見る間に赤い血がぼとぼとと溢れ出した。
生暖かい血だまりが、玄冬の走りの跡に残る。
そうして削って、削って、削って、削って、玄冬は門番たる黒を焼き切って、慾に素直な裡なる白を封じ込める。
意識が朦朧とした。
拍動も弱くなってきている。
遠くなる五感――それを、手放す間際。
「時が満ち、条件は整った。さぁ、始めよう……」
叛逆の時は、遂に至れり。
重ねた苦役の分だけ、一帯の大気ごとあらゆるものを薙ぎ払う無慈悲な爆華が大きく花開いた。
妖精二体を消し去った玄冬は、暫し血だまりに伏す。
「僕に」
――『俺に』。
「誰かに、叶えてもらえる願いはない」
――『誰かに、叶えさせてやる願いなんてねぇ』
赤みを失った唇は、譫言のようにふたつの音をいつまでもいつまでも繰り返していた。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
願い、かあ
自分の「それ」は持たないようにしてるんだ
願われる側だったから
逆に言えば…誰かの願いを叶えたい
苦しむ人達を救いたいなんてのも
思ったら歪められるんだろう?
趣味が悪いね覗き見なんざ
誰も、悪意に巻き込まない
教えてやらぬ
心を、ただ凪ぐ
逆に望みを写そうとする精霊の問いを写すだけの鏡面にして
突進は、見切りと残像交えた足運びで直撃を避け
破魔込めた薙ぎ払いで威力わずかでも相殺
反撃には、流れる血で手繰る瓜江の封を解き
問いかけに割り込ませ、物理的に遮断し
二回攻撃で、風刃放つ
望みは?と何度問われても
言葉返さず、跳ね返し
無感動に刻み、反撃に傷を負おうと
その分魔力込め瓜江の刃を羽に向け
写すのは、覗き込んだ者自身
●鏡
望みを――願いを欲する聲を、冴島・類(公孫樹・f13398)はどこか懐かし気に聞く。
口にして、「願い、かぁ」と呟くと、遠い時間が押し寄せる。
類自身は持たぬようにしている「それ」は、かつて類が聞くものであった。
田舎の小さな社。
そこに祀られていた鏡こそ、類の本質。
沢山の声を聞いて来た。
ささやかなもの、切実なもの、前向きなもの、後向きなもの、過去を悔いるもの、未来を切り拓こうとするもの。
戦場に踏み出す間際。腕から肩へと駆けずっていたヤマネの子の喉元を撫で、そっと懐へ仕舞うまでの短い時間を、類は思索にあてた。
もし、自分が。
誰かの願いを叶えたい、苦しむ人たちを救いたいなんて、人を慈しんだだけで、その想いは歪められてしまうのだろう。
叶えた果てに、苦界に堕ちるのか。救われた末に、絶望するのか。
「まったく。趣味が悪いね、覗き見なんざ」
一切を気負わぬ軽やかさで肩を竦め、類は万能宝石エリクシルの妖精を見上げた。
――誰も、悪意に巻き込まない。
――教えてやらぬ。
神のようなものと、神として祀られたものの視線が交わる。そこに含まれた類の意図を察した妖精が、ゆるりと翅を広げた。
薄翅が、光を透かす。
類の視界は、青一色に満たされた。
穏やかな海のような青でありながら、人心を惑わす青だ。しかし類は、ただ立ち尽くし、心を凪がせる。
他の事は、一切しない。足も腕も、指さえも動かさない。唯一綻んだのは口元だけ。野生の勘で何をか気取ったらしきヤマネの子が、そそくさと背中の方へ移動したからだ。
あとはもう、思い残すことはない。
意識を空間全体に溶かす。溶かし広げて、限りなく無に近付け、そうして類は妖精の問いを写すだけの鏡面となる。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
されど、『わたしたち』は『宝石を歪める』た――。
ふつり、と妖精の繰り言が何かに慄いたように止まった。直後、翅が大気を掻いて、巨体が加速する。
待ち受ける類が、身体を大きく動かすことはない。僅かな足運びで、直撃を避けられたらそれでよい。
「荒れ狂え、瓜江!」
重い衝撃に裂けた腕から迸った血を代償に、類は濡羽色の髪をした絡繰人形の封印を解く。十指に繋がる赤糸で類に繰られる瓜江が、まるで己が意思を持つように風の刃を放った。
ひとつ、ふたつ。
目にも留まらぬ二閃は、ひとつが妖精の唇を裂き、もうひとつが片目を抉る。
汝の『望み』を、汝の『望み』を、汝の『望み』を、汝の『望み』を、汝の『望み』を、汝の『望み』を、汝の『望み』を、汝の『望み』を、――。
苦痛を呻く代わりに、宝石の妖精は壊れた機械のように唱えた。
だがその何れにも類は無為で返す。唯一見せるのは、鏡の心。
覗き込む者は、覗き込まれるのもまた同義。
望みを欲する妖精は、望みを欲する己を無限に繰り返し、やがて飽和する。
何れは自壊したやもしれぬ。けれど瓜江の風刃が翅を断ち、巨体を微塵にする方が早かった。
大成功
🔵🔵🔵
九泉・伽
心を封じるお守り言葉
“――俺は過去にしかいない”
俺には望みはないよ
だってもう叶ってるからね
一度死んでるくせに、またこうやって煙草吸ってお喋りしてんの
継続を望まないのかって?
これは泡沫の夢
だから、自分で操ろうとした(のぞんだ)時点で全ては無意味になんのよ
(ああこれ気を付けないとね。俺を覗き見するなってのも、あんたの心の弱みを見せろってのも望みだわ)
(心を見せないよう戦うのって、むーずかしー)
煙草の煙を吐きつけて
棍で喉の下をつつきあげて
…こいつらにとっての「甘い言葉」って要は俺の願いなわけで、俺は「甘言」なんて吐けません
だとしたらUC封じは捨てて只管に煙り吐いて棍で殴り回し蹴り喰らわすしかないねー
●NO TITLE
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
遠くに響く妖精の声に、九泉・伽(Pray to my God・f11786)は左手に握った身の丈より長い棍に、体重を預けるようにして立ち、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
“――俺は過去にしかいない”
それは、心を封じるお守り言葉。耳の奥にこびりつこうとする妖精に言葉から、伽の『願い』を隠す魔法の言葉。
されど決して、一時しのぎの“戯言”ではない。
だって、伽は――。
「お生憎様、俺には望みはないよ」
沈みかけ裡から浮上するのに合わせて瞼を押し上げ、そうして伽は赤い瞳で青銅色の妖精の巨体を振り仰ぐ。
「だってもう、叶ってるからね」
三十路手前のくせに、妙に草臥れた仕草で、今度は棍を肩に担ぎ、空いた右手で胸ポケットから煙草を取り出すと、よどみない流れで咥え、火を点け、伽は煙を吹かす。
そうだ。
伽の望みはもう叶ってしまっている。
一度死んだのにも関わらず、こうしてまた煙草を吸って、お喋りに興じている。
これ以上の大願成就など早々あるまい。むしろ望んだだけで罰が当たりそうだ――なんて、伽はゆるく嘯き、泣き黒子の目元を皮肉に弛めた。
継続は、望まない。
何故なら『現実』は伽にとって、泡沫の夢。外野の視線で愉しみ愛でるものであって、自らの意思の介在を欲せぬもの。喩えるならば、娯楽映画か超大作RPG。自分で展開を操ろうとした(のぞんだ)時点で、無価値で無意味なものへと成り果てる。
「――あ、駄目か」
ぐらりぐらりと揺れる思考を紫煙に映し見ていた伽は、そこではたと我に返った。
(「ああこれ気をつけないとね」)
――覗き見をするな。
――むしろあんたの心の弱みを見せろ。
(「なぁんて思っちゃうのも、既に望みだわ」)
心を見せないように戦うのって――。
「……むーずかしー」
ここでコンセントを抜くという荒業でパソコンをシャットダウンするみたいに――もちろん、バッテリーなんて積んでない旧式タイプ――、伽は完全に心を封じる。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
“――俺は過去にしかいない”
「“過去”だからって踏みにじるの、俺はやだなぁ。だって俺もまた“過去”なんだから。ほら、同類で戦う必要なんてない、もうやめましょ?」
つらりつらりとした語りは、語りの体を取った、唱え台詞。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
“――俺は過去にしかいない”
降る誘惑は遮断して、襲い来る精神波は咥え煙草を噛み締めて堪え。そうして伽は万能宝石エリクシルの妖精を紫煙で包み、ついでにえいやと棍で突く。
本当はもうひとつ。甘言の一つでも囁き聞かせれば、妖精の力を封じることも出来るのだけれど。今日に限って『甘言』は『望み』に転換されてしまいかねないから。
「力技あるのみってね。喰らえ、回し蹴りー」
掴みどころなく飄々と、伽は妖精を煙に巻き続ける。
大成功
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ユエ・ウニ
...あれにとって、『願い』は宝石のように美しいものなんだな。
基本は青年型の人形を操り攻撃。
その両手で【傷口をえぐる】様な【2回攻撃】を中心に。
デカい相手だ、出来る限り周囲と連携しよう。
誰かを【かばう】事があれば、【激痛耐性】で攻撃を耐えオペラツィオン・マカブルで反撃を。
願いは自分で叶えるものだ。
過程のない結果だけなんて面白くも無い。
お前に願う事はない。
僕は僕自身と僕の作った人形、それにこの戦場にいる奴らを信じる。
いくら聞いても無駄だ。
…ふと、浮かんでしまった冬の夜の森。
幾千も前の最初の記憶。
懐かしい影と声。
思い出せない僕のー。
口には出さず、けれど知られた願いはひとつ。
●静寂
万能宝石エリクシル――あらゆる望みを叶えると言われる、真紅の宝石だ。
その宝石に宿り、人々の願いを叶えるのがエリクシルの妖精。
(「つまり……あれにとって、『願い』は宝石のように美しいものなんだな」)
繰る青年型の人形を巨大な妖精へ差し向けながら、ユエ・ウニ(繕結い・f04391)は独自の解釈で以て『敵』を見る。
が、妖精に対してパパラチアサファイアを思わすユエの瞳に映るものは、それだけだ。
もし妖精が、人形やぬいぐるみといった綻びを繕うことが出来る『物』だったならば、感傷のひとつも浮かんだかもしれない。けれど青銅像によく似た肌の色をしていても妖精は『物』にあらず。
美しき人の望みを歪め汚す、悪しきモノ。
一踏みで圧し潰されそうな足払いを、辛うじてのフェイントで躱し、そのまま連続攻撃をしかけ、生じた隙に間合いを取り直す。
特に思う処などない筈の相手。しかしどうしてか妖精の在り様に、ユエの心は疼く。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう――。
新たな気配を戦場へと呼び込む妖精が放つ、傲慢な問いと秘した内側を暴こうとする精神波を、ユエは唇を引き結んで耐える。
(「願いは、自分で叶えるものだ」)
過程のない結果になぞ、興味も湧かなければ、甘受する気にさえなりはしない。
「――お前に願う事はない」
淡々と突き放し、五感を人形へと集中させる。
こんなモノに負けはしない。
ユエはユエ自身と、繰る人形――手製だ――と、そして同じ戦場に在る同胞を信じている。
幾ら問われようと、繰り返されようと、唆されようと、心の宝石――願いを差し出すことなど有り得ない。
決意は強い。
されど頑なに拒めば拒むほど、不意に綻ぶものはある。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう――。
二度目か、三度目か。はたまた、他の誰かに投げられたものであったか。
耳に届いた声に、半ば反射でユエの脳裏に夜の森の風景が過る。
「――ッ」
幾千も前の、最初の記憶。
懐かしい、影と声。
(「思い出せない僕の――」)
まろびでたのは輪郭だけ。明確な形をとりきる前に朧に溶けた記憶からは、完全に読み解くことができなかったのか、妖精の問いはユエをすり抜けた。
残されたのは、不測の事態に晒された無防備。
だがこの無防備こそ起死回生の一手。
襲い来る精神攻撃を、ユエは人形を介して妖精へと逆流させる。
予想していなかった反撃に、妖精は翅を震わせながら崩れ出す。
やがて齎される静寂は、夜の森のそれと酷似していた。
大成功
🔵🔵🔵