アルダワ魔王戦争5-A〜白煙の主
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「場所としては中間点位、かしら? 皆、大分迷宮を進んできたわね」
エリス・シルフィード(金色の巫女・f10648)が天使の様な微笑みを浮かべて呟くのに、猟兵達が其々の表情で返す。
「新しいダンジョンを見つけることが出来たわ。そこは、白煙と鮮血に彩られた、そんな場所よ」
微笑みのままにさらりと告げるエリス。
「どうも此処は、蒸気機関から出てくる白煙が濃霧と言っても良いくらい濃い場所なのよね。その影響か、普通の方法で災魔を探知することが出来ないわ」
充満した白煙は鮮血に微かに彩られていることからも分かる様にただの煙では無い。
この薄赤い白煙は、視覚のみならず、聴覚や嗅覚、センサー等、敵の居場所を探るための、あらゆる手段を封じている。
「つまり、災魔を見つけ出すのは極めて困難。でも、グリモアを使って予知することは出来たから……無理矢理私が災魔の傍に転送することは出来る。とは言え、距離を取られたら補足するのは極めて難しくなるけれども」
要するにグリモアで転移した後、零距離での災魔との戦いを強いられる、と言う訳だ。
「いずれにせよ、至近距離での戦いを余儀なくされるから、そうなった時にきちんと戦うための手段を確立しておいて欲しいの。因みに今回の敵なのだけれど……」
鮮血、から想像することが出来るものもいるだろう。
今回の敵は、吸血鬼の少女と、共生する人形。
互いに利己的な理由から手を取り合い、人々の生命を啜り、肉を喰らう、そんな災魔。
「まあ、要するにこの災魔にとってはかなり有利な状況から戦いが始まるって訳ね」
零距離である以上、吸血も、肉を喰らう事も災魔からすればやりたい放題。
この災魔との戦い方、それ自体の対策も必要となるだろう。
「でもまあ、皆のことだから心配ないでしょ。そういうわけでどうか皆、宜しくね♪」
――ポロリン。
そう告げて、エリスが春風のライラを爪弾いた時。
金色の風に包み込まれた猟兵達がグリモアベースの片隅から掻き消える。
――新たな戦場へと向かうために。
長野聖夜
――鮮血の白煙は、決死と共に。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
アルダワ魔王戦争シナリオをお送りします。
オープニングでも説明がある様に、このシナリオのダンジョンは、鮮血の混じった白煙で覆われています。
その為、視界を初めとしたありとあらゆる敵の探索手段が断たれています。
今回のプレイングボーナスを満たす手段は下記です。
==============
超近接戦闘で戦う工夫。
==============
濃霧に覆われているため、迷宮が大凡どんな地形なのか、それを把握することも難しいです。
また、状況によっては災魔もこの白煙を活用するために白煙に紛れて逃げると言った手段も考えてくるため、判定はやや厳しめに行ないます。
尚、少女達との会話は一応可能ですが、特に情報などが手に入るわけではありません。
一応、吸血鬼の少女アルマは『女性』、受肉のフラジールは『男性格』と扱います。
プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付期間:2月9日(日)8時31分~2月10日(月)一杯。
リプレイ執筆期間:2月11日(火)~2月12日(水)一杯。
プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間の変更がある場合は、マスターページにてお知らせ致しますので、其方もご参照下さいませ。
――それでは、良き戦いを。
第1章 集団戦
『『吸血鬼アルマ』と『受肉のフラジール』』
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POW : Necrosis
【アルマに対して恐怖】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【浮遊する巨大な目玉】から、高命中力の【生物の体組織を壊死される光線】を飛ばす。
SPD : 獄
【フラジールの胸の空洞】から【無数の手枷、足枷、鎖】を放ち、【SPDの数値が低い者から順に追尾すること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : こうやって狩りをしているの
【フラジールが捕らえた対象にアルマの拳】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
イラスト:春都ふゆ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メディツ・フロレンティア
*アドリブ歓迎
判定:POW
超至近距離での戦闘か。素手での攻撃がメインの私としては願ったりかなったりではあるが、吸血や噛みつきが得意というのであれば確かに対策が必要か。
であるならば、あえて噛みつかせ、腕をもっていかせるという手法をとってみようか。素手で相手と相対し、相手の吸血、噛みつき攻撃を狙ってわざと片腕に噛みつかせ、しっかり噛みついたのを見計らってUCを発動させれば、相手はもろにUCを喰らってくれるだろう。噛みつかれた時点で片腕が使い物にならなくなるだろうが、元から片腕を犠牲にする技だしね。
「ほら、食いついてきな、君の大好きな血肉だよ。刺激的な味であることを保証してあげよう」
月影・このは
五感センサー沈黙…
ゼロ距離から、となると遠隔系の猟兵には鬼門ですね…
必要なのは会敵した際の咄嗟の行動…
対ヴィラン用量産型戦闘ロボ518号これより気を張って進みます…
こういうのは事前の備えですね、両手足のバトルホイールからソーを展開
回転させることで遭遇した場合にすぐ使えるように
聴覚を封じるというのがこちらの居場所も分からなくさせるので此方にも有利ですね…
吸血等この身であれば恐れるにあらず…
遭遇すれば逃がす前に此方からがっしり組み付き腕と足の鋸で
早急な排除を…
目玉の攻撃は組み付いたならそのままオブリビオンを盾に…
そのままオーラブラスターでまとめて消し飛ばします…
任務完了!
鈴木・志乃
UC発動第二人格『昨夜』で戦闘
厄介過ぎる……
敵の気配や居場所、攻撃は【第六感、聞き耳、念動力】で【見切り】ましょうか
【高速詠唱】で簡易バリア
を張りつつ【罠使い、ロープワーク】の要領で周囲に捕縛罠を設置
トラバサミみたいなのもいいかな……
敵の居場所が少しでも別れば【呪殺弾】を牽制でばらまき、【念動力】で嵐を起こして追いたてたりもしてみる(精神攻撃)
隙が出来たら【高速詠唱】【全力魔法】の【衝撃波】で【なぎ払い】攻撃
いかんせん目が使えないから位置が割り出し辛いのが難点だけど……
御桜・八重
【POW】
「ほんとになーんにも見えないね。」
気配も全然わからない…
敵も条件は同じとは言え、やっぱり不安にはなるわけで。
どうしようこうしようとドキドキしながら、
グルっと思考が一周したら落ち着いた。
よし。叫ぼう。
いきなり出会ったら驚くだろうけど、
二刀使いに超接近戦は望むところ。
相手も同じなら先に立ち直った方が勝ち!
「う。どわあああああああああっ!」
びっくりしたびっくりしたびっくりしたーっ!
その勢いでブンブン刀を振り回し、アルマに迫る!
アルマの威嚇に成功したら目玉の視線に注意。
狙いを見切り桜色のオーラを纏わせて強化した刀身で光線を弾く!
【花嵐】を発動し、そのまま懐に潜り込んで神速の八連撃を見舞う!
●
「……厄介過ぎるね」
それが、濃霧の様に濃い白煙に覆われたその場所に転送されるや否やポツリと鈴木・志乃……否、それに憑依する昨夜が漏らした言葉だった。
その美しい黒髪が純白と化し、瞳もまた、オレンジから茜色へと染まる。
「ほんとにっ、なーんも見えないよねっ」
気配すら感じ取ることが出来ない、この状況。
胸中をヒタヒタと満たす黒いものを吹き飛ばす様に、溌剌とした声で昨夜に同意したのは御桜・八重。
メディツ・フロレンティアが必死に背を伸ばしたり、目を細めてみたり、周囲にブンブンと陽刀と闇刀を振るって周囲を確かめたり、と何処か挙動不審な八重を見て、医療ノコギリを構えながら口元を綻ばせた。
「安心してよ。何があっても君達は死なない。私が生き返らせてあげるからさ」
「ええっ?! い、生き返らせる……?!」
愉悦を孕んだ少し歪んでいる様に見えるメディツの笑みに八重が大仰に驚き、ささっ、と思わず2、3歩後ずさった。
「そっかぁ、生き返らせてくれるのかぁ。まあ、僕には関係ない話だねぇ」
(「そもそも僕、もう死んでいるわけだし」)
昨夜が冗談めかしてそう告げて、その背の一対の美しい白翼をはためかせ、懐から取り出した豆乳青汁(紙パック)に口をつけつつ、光の鎖を自慢のロープワークで所々に網の様に張り巡らし、じっ、と周囲の気配を伺うが……。
(「……やはり、五感センサーは完全に沈黙している様ですね」)
それでも尚、敵を捕らえることが出来ていない事を察した月影・このはが冷静にそう判断した。
「皆さん、こういう時に一番必要なのは、事前の備えです。落ち着いて目標が向かってくるのを待ちましょう。尚、これより対ヴィラン用量産型戦闘ロボ518号も、気を張って進みます。皆さんも、周囲の索敵をお願いします」
「あっ……うん、そうだね。結局、それが一番か……」
周囲を窘める様なこのはの呟きに、八重がすう、はぁ、と深呼吸を一つ。
(「そうだよね。とにかく落ち着いて、それで……」)
次にどうするのか、ぐっ、と拳を握りしめて八重が一つの決意を固めた、丁度、その時。
「ウフフ……より取り見取り」
周囲に響き渡る何処か艶を帯びた、愉快そうな少女の呟き。
と、同時に。
――ギュィィィィィィィン!
このはの両手足のバトルホイールが回転鋸の牙を生やし、このはがその場でぐるぐると回転し始めた。
このはの背後に現れたのは、吸血鬼の少女。
『アルマ』と呼ばれる彼女が犬歯を剥き出しにしてこのはの首筋に食らい付こうとした所に、バトルホイール・ソーが迫る。
「例え、聴覚を封じられようとも。吸血等この身であれば恐れるに非ず……!」
呟きながらのこのはのそれを、アルマは、側転して即座に回避。
そのまま入れ替わる様に姿を現した受肉のフラジールが、その胸の空洞から、無数の手枷、足枷、鎖を解き放った。
放たれたそれが狙ったのは……。
「えっ……えええええええっ?!」
「私だねぇ!」
素っ頓狂な八重の叫びに、それまで敢えて敵を待ち伏せし続けていたメディツがはっ、とした表情になり、大地へと転ぶ様に前に倒れて無数のそれらを躱そうとしたその時。
「遅いよっ!」
首筋を走った寒気の様な感覚に従って、光の呪殺弾をばらまく昨夜。
掌から弾幕の様に撃ち出された無数の呪殺弾がフラジールの手枷、足枷、鎖を撃ち抜き、更に気を籠めて、昨夜が背の白翼を羽ばたかせる。
――バサ、バサ!
羽ばたかせた翼により巻き起こした風に念を籠め、周囲の白煙に干渉し、暴風と化させてフラジールを牽制する昨夜。
「ふむ。煙に紛れた奇襲は失敗したか……」
抑揚なく呟くフラジールをアルマが軽く睨むが、直ぐにその口元に飢えた肉食獣を思わせる獰猛さと酷薄さを感じさせる笑いを浮かべた。
「さぁて、最初に私の血となり、こいつの肉になってくれるのは誰かしら?」
「う、ちょ……どわぁぁぁぁぁぁぁ?!」
同時にアルマから発される立っているだけで震えてしまいそうな程の狂気を孕んだ莫大な殺気を感じ取り、びくり、と八重が反応し、驚きの声をあげる。
そんな八重とは対照的に。
「そうだねぇ。それじゃあ私が、君達の、血と肉になってあげよう!」
クツクツ、クツクツ。
肩を震わせるメディツにフフッ、と嬉しそうにアルマが妖艶な笑みを浮かべ、手を上空に翳しながら、メディツに肉薄。
周囲の白煙が奇妙な動きを取って魔法陣が作り出され、そこに巨大な目玉が姿を現わし、ギロリ、と射貫く様にメディツを見つめた。
(「この圧倒的な殺気……逃がすわけには行きませんね」)
バチ、バチ、と微かに戦き嘆く様に自らの全身を電流が駆け巡るのに戦慄を禁じ得ぬままに、このはが横合いからアルマに組み付かんとするが。
「私の事を忘れて貰っては困るな!」
それを妨害せんと、横合いからフラジールが口腔を開いてこのはに襲いかかる。
「おいおい、それは僕の台詞だよ?」
――轟。
フラジールの周囲で大気が流動し、暴風となって横っ腹からフラジールを打ちのめし、更に無数の弾幕が、フラジールの行く手を阻んだ。
「面倒な小娘め……!」
昨夜の足止めに忌々しそうに呟きながら、フラジールが手に持つ先端にハート型の宝石が取り付けられた杖を一振り。
振るわれたそれから、赤熱した一閃が横薙ぎに放たれ、アルマに追撃をかけようとしていたこのはの足を一瞬止めた。
(「利己的な共生関係と聞いていましたが……それでも最低限の連携は取ってきますか。ならば、尚更一刻も早く……!」)
咄嗟にそう判断したこのはがフラジールに向けて、腕と足の鋸で組み付かんと両手足の鋸を射出。
それに対するフラジールの反応も素早く、先程昨夜に撃ち抜かれた手枷、足枷、鎖でこのはを捕獲しようとするが……。
(「如何せん、目が使えないから位置が割り出しづらいのが難点だけれど……出来ないことも無いかな」)
このはの動きに、合わせて。
閃きの如く脳裏を過ぎった直感に従い、昨夜が、左ももの溢れる光を力に変えて、魔法のランプに魔力を注ぎ込む。
光を帯びた魔法のランプが、一本の鋭い夕焼け色に輝く光剣へと姿を変える。
それを上段から振り下ろす昨夜。
光剣の軌跡が弧を描き、空間事、フラジールを断ち切る剣閃と化し。
フラジールの杖持つ左手を断ち切った。
「……っ!?」
腕を切り落とされた衝撃に思わず仰け反ったフラジールの懐にこのはが飛び込み、その体にがっしりと組み付くと同時に、両手の動輪の回転鋸をフルドライブ。
この戦いの後には、オーバーヒートを起こしかねないほどの熱量を摩擦によって発生させ、それによってフラジールの右腕を断ち切っている。
(「一先ず、フラジールの捕獲には成功ですか。後は……」)
このはが次の一手を打つために、フラジールを羽交い絞めにしながら、背後を振り返ろうとした、丁度その時。
――カッ、と白熱した光と光の交差による爆発を、機械の肌で、感じ取った。
●
このはが咄嗟の判断で、フラジールの動きを止めていた時。
アルマの上空に浮遊する巨大な目玉は、生物の体組織を壊死させる光をメディツを狙って発射していた。
(「これは……アルマの吸血にばかり、気を取られすぎたかな?」)
肉薄してくるアルマの牙の距離に敢えて踏み込み、その牙で片腕を持って行かせようとしていたメディツが、内心で軽く小首を傾げていた、丁度その時、メディツと光線の間に、割り込む様に影が一つ飛び込んでくる。
「えええええいっ!」
それは、陽刀と闇刀、二刀をブンブンと振り回して気合いを入れる八重。
間近に迫ってくる光線を反射して、陽刀・桜花爛漫の刀身が美しき桜の波紋を波立たせ、闇刀・宵闇血桜の刀身に刻まれた花弁の紋が血色を閃かせる。
「もう、びっくりしたんだからぁっ!!」
叫びながら、二つの波紋を波立たせる双刀をだらりと構え直し。
それを、X字型に交差させる様に撥ね上げた。
撥ね上げられた双刀の刃が混ざり合い、昼には生を実感させる明るく華やかな温かさを、夜には生の儚さ……死を思わせる静謐を齎す桜色の光を伴ったそれが、光線に真っ向からぶつかり合い、そのまま横薙ぎにアルマに向かって飛ぶ。
だが、それはアルマにとっても想定の範囲内。
ならばと自らに向かって反射された光線の着弾地点に、体捌きでメディツとその位置を入れ替えるべく、彼女に牙を突き立て、その血を思うままに啜ろうとする。
「一杯、一杯私に頂戴! 私の大好きな人間の血を!」
「ああ……好きなだけ、食いついてきなよ。君の大好きな血肉だからねぇ。刺激的な味であることは、保証してあげよう」
からかう様に告げるメディツに心底愉快そうにアルマが笑い、喜んでその牙をメディツの片腕に突き立てる。
そのまま吸血鬼の膂力を利用して、メディツを光線の着弾点に入れ替えようとするが、その刹那。
「さて、楽しいECTの時間だよ」
「!?」
アルマの喰らいついた右腕が、膨大な電流の波と化し、アルマの牙を通して脳と全身に流れ込み、その体を激しく痙攣させた。
あまりの衝撃に泡を吹くアルマが、先程の思考を保つことが出来たのか。
――その答えは……言わずもがな、であろう。
自らの目玉が放った光線に、まだ激しく痙攣している両足を撃ち抜かれて、その体組織を壊死させられるアルマ。
すかさず、桜色の光を曳いた八重が懐に飛び込んだ。
「ちょっと可哀そうな気もするけれど……いけ、いけ、いけーっ!」
二刀の刀身に浮かぶ美しき波紋が、八重の気迫に呼応する様に桜色に光り輝く。
繰り出されるは、陽闇の……災魔の浄化と死を彩る神速の八連撃。
大上段に振り上げられた、陽刀・桜花爛漫と闇刀・宵闇血桜による袈裟と逆袈裟。
返す刃で振るわれる、左右対称の横薙ぎの一閃が、アルマの両胸を切り裂き、そのまま下段から、双刀を撥ね上げアルマの両肩を切断し、そして……。
『桜の紋が……乱れ飛ぶ!』
叫びと共に双刀の最後の二連撃で、その体をずたずたに斬り裂いた。
――バシャリ、と辺り一帯を血飛沫が舞う。
既に、アルマは虫の息。
呪詛の言葉を投げかけるよりも先に、ゴボリ、と喉から血を吐き出すアルマ。
――そこに。
「このは君。終わらせよう」
「はい! 『エネルギー充填! 『エネルギー充填! オーラッ、ブラスタァアアアアアアアア!!』」
昨夜が周囲の白煙を誘導して、吹き荒れさせた突風に押される様に。
フラジールをアルマと目玉に向けて投擲したこのはが、その胸部から全てを焼き尽くす熱線砲を撃ち出す。
昨夜の風に煽られた熱線は、豪炎となってフラジールと重なり合ったアルマと、その目玉を纏めて焼き尽くした。
――残影を、その場に遺しながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●断章
されど、アルマとフラジールは再び現れる。
無数の影持つ力弱き災魔は、その影完全に尽きるまで、何度でもその場に現れる。
――次なる戦いの足音は、刻一刻とその場に近づいていた。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン、濃霧と言うよりもはやスモッグだな
それにこの血の臭い…確かにこちら側から仕掛けるのは無謀だな
ナガクニを装備し、デゼス・ポアを宙に浮かせ周囲を警戒
敵が近づいて来たら見切り、カウンターで対処し、待ちの姿勢を取る
なにせこの深い霧だ、こちらから手を出すには決め手に欠ける…と敵に思い込ませるにはこれで十分だろう
フッ…喰らいに来るか
では大物を馳走してやらねばな?
敵がUCで動きを封じ、襲い掛かってきたらこちらもUCを発動
頭部を大型のカノン砲に変えて大型の砲弾を続けざまにぶち込む
次いで腕部をビームソードに変えて拘束している枷と鎖を断ち切り、ナガクニとデゼス・ポアの連携で敵に追い討ちをかける
天星・暁音
超接近戦かあ…まあ、偶には本気でやらないと知らない内に腕は鈍るっていうからね
いい機会と思いましょう
素手で殴るのとかかなり久しぶりだけどもね
とりあえず逃げられた困るから先ずはある程度は短くした銀糸を自分と相手の巻き付けて逃がさないようにして、其処からは殴り合いといきましょう
銀糸を解かれるの最優先に妨害しつつ避けられる攻撃は避けて避けられないならしっかりその辺りを硬化して防御して、どうしても逃げられそうなら髪の毛も伸ばして引き止める
攻撃には必要なら爪を鋭利に変化して切り裂くとかも出来るけど必要なければ天星流・拳術だけでどうにかしたいとこだね
強化は攻撃力重視
共闘アドリブ可
アイテム、UC、スキル自由に
宇冠・龍
由(f01211)と参加……って由ー、どこですかー?
※別描写でも構いません
ああ、娘が迷子になってしまいました(※自分もです)
この状況は、敵を認識する以前に同士討ちしないよう気配りしないといけませんね
冒険でもそうですが、こういう場合は無暗に動かない方が得策の場合もあります
【竜逢比干】で夫の霊を召喚。二人一組は敵だけはありません
心細いので一緒に手をつなぎます
過去冒険者だったときはいつだって夫婦で助け合い補い合っていました
その経験を活かしましょう
私が捕らわれれば夫が反撃、夫が狙われれば私が迎撃します
アルマさんは少女です。あまり褒められた戦い方ではありませんが、呪詛で苦しまずに眠らせましょう
宇冠・由
お母様(f00173)と参加
※別描写でも構いません
※真の姿は母には内緒です
何も見えませんね
お母様とはぐれてしまいましたわ……
けれどこの状態なら、お母様からも私の姿は見えないはずです
仮面を割って一時的に真の姿に
伸ばした腕の指先まではぎりぎり見えますでしょうか
踊る分には問題ない視野、反応速度と攻撃速度が極限まで高まった攻撃的なこの姿ならいけます
その場でくるくる踊り、巨大な目玉が見えたら火炎剣で即両断
光線は踊る要領で身を翻して回避
もしも味方と遭遇したら攻撃は中断します
霧が晴れたら踊りも終わり
元の仮面へと戻り、いつも通りに母と対面しますの
司・千尋
連携、アドリブ可
…血の臭いがする
どれだけ殺してきたんだか
常に周囲に気を配り敵の攻撃に備える
少しでも戦闘を有利に進められるよう意識
近接武器での攻撃も混ぜつつ
基本的には攻防ともに『錬成カミヤドリ』で全方位から攻撃し
敵に紐を絡めて行動の阻害を狙う
フラジールの胸の空洞を飾り紐で縛り手枷等が放てないよう邪魔をする
可能ならアルマとフラジールを一緒に縛りアルマでフラジールの胸の空洞を塞ぐ
手枷等が放たれたら飾り紐を蜘蛛の巣のように展開し防ぐ
敵の攻撃は可能なら相殺か回避
難しいならシールド防御でダメージを減らす
会話等も積極的にし敵の位置を探る
相討ちでも紐を敵に絡めておき見失う事や逃亡を阻止
捕まえた…もう逃がさない
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
吸血鬼と言えばダークセイヴァーにしかいないと思っていたが
ここにもいるとはな
敵が血肉を喰らい放題になるほどのゼロ距離になるのは厄介だ
だが、ゼロ距離ならこちらも好都合さ
出会い頭に「早業、ロープワーク」で左手からフック付きワイヤーを投げ2体の胴を拘束
右手の黒剣で息がかかるほどの超近接距離から「咄嗟の一撃、2回攻撃、怪力」+【憤怒の解放・両断剣】
至近距離から両断されて灰になれ!
Necrosis対策は恐怖を感じなければいい
確実に吸血鬼を殺す「覚悟」を濃密な「殺気」としてぶつけ「挑発」
もし光線が飛んで来たら「第六感」で察して「早業、見切り、オーラ防御」で全力回避
●
――微かな赤色の混ざった白煙から漂う血の臭い。
その薄赤い白煙から漂うその臭いを嗅ぎつけながら、フン、とキリカ・リクサールが一つ鼻を軽く鳴らした。
「これは……最早スモッグだな」
「全くだな。この吸血鬼と人形……どれだけの人を殺してきたんだか」
毒づくキリカのそれに同意の首肯を一つしながら、司・千尋は、張り詰めた気配を漂わせつつ周囲を探る。
――と、丁度その時。
「由―、どこですかー?」
「……猟兵の、声?」
濃霧の様な白煙の影響も相まって、殆ど視界も聴覚も遮られているが、それでも直ぐ近くに居るのだろうか。
誰かを探す声が聞こえてくる事に、思わず千尋がくぐもった声を漏らした。
キリカもそれを聞き取ったか、愛らしいが、全身に飾られた無数の錆びた刃、何よりも不気味なオペラマスクに嗜虐的な笑みを浮かべた人形、デゼス・ポアを宙に浮かせながらほんの微かに眉を顰める。
「どうやらその様だ」
「しかし、何故誰かを探す様な声をあげる必要がある? それでは、態々敵に位置を……」
千尋がキリカにそう問いかけながら、ふと、何かに思い至ったか、ふむ、と軽く自らの顎を撫でながら頷きを一つ。
千尋のそれを引き取る様に、そうだ、とキリカが静かに頷いた。
「何せこの深い白煙だ。声をあげることで、敢えて注意を引き付けてやった方が、アルマにフラジールだったか? 奴等の気も引きやすいのだろう」
「ならば、俺達も合流するべきだな」
キリカの解に我が意を得た、とばかりに頷く千尋にそうだな、とキリカが頷きを返し、声を張り上げる宇冠・龍の方へと濃厚な白煙の中を辿って向かっていく。
……尚、敵を誘き寄せる意図も無い事は無いのだが、娘共々、龍が白煙の中で本当に迷子になっていたのだとキリカ達が知るのは、もう少し先の話である――。
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(「何も見えませんね。お母様と、はぐれてしまいましたわ……」)
キョロキョロと辺りを見回しながら、その愛らしい小動物の様な顔に、困惑した表情を浮かべる、宇冠・由。
「これは困りましたわね。どうしましょうか……」
由が軽く腕を組みながら、それを考えていた、丁度その時。
「……由さん、か?」
嘗ての戦いの中で聞いた事がある声を耳にして、由が思わず其方を見やった。
至近距離までやって来ていたのは、赤と青のオッドアイの黒騎士、館野・敬輔。
「貴方は確か、敬輔様、ですわね。お久しぶりですわ」
「あなた達は知り合いなんだね」
そう問いかけたのは、血の臭い漂うこの場所の中で、白き闇を切り裂く、銀の如き輝きを発する糸を周囲に張り巡らし、アルマとフラジールが現れた時に直ぐに対応できる様、準備を整えていた敬輔の隣の天星・暁音だ。
「そうですわ」
そう、暁音の確認に由が頷き、それから、はた、と何かに気がついたかの様に、地獄の炎で作られた両手を重ねて敬輔に尋ねた。
「そう言えば敬輔様。お母様を見ておりませんか? どうやら、はぐれてしまった様でして……」
「いや……見ていないな」
対する敬輔の答えは、何処か上滑り。
その様子を少し怪訝に思ったのか、由がコトン、と愛らしく首を横に傾げた。
「何処か、上の空の様に見えますが……どうか致しましたか、敬輔様?」
「ああ……吸血鬼、と言えばダークセイヴァーにしかいないと思っていたんだが……此処にもいるとはな、と思ってね」
呟く敬輔の口調にあるものを感じ取り、由がそっと息をつく。
(「この語調……」)
由が、敬輔のその心の奥底にある、自分達と同じ『それ』を感じ取り、口を開きかけた、正にその時。
「敬輔さん、由さん。話はそこまでだ」
共苦の痛みが鋭く鈍い痛みを与えてくるのに内心舌を巻きながら、聖なる銀糸を体に巻き付けた暁音が、抑えた声で囁く様に由達に呼びかけた。
「ウフフ……今度は、たっぷり血を楽しませて貰うわよ」
――ゾクリ。
不意に、身の毛もよだつ様な寒気が由達の背筋に走る。
気がつけば、アルマが、準備をしていなければ全身の毛が逆立ってしまいそうな程に酷薄な笑みを口の端に乗せて、敬輔の背後に姿を現していた。
「……背後を取られた、か。油断したな」
敬輔が左手に仕込んだフック付きワイヤーを、アルマに背を向けたまま射出する。
それをタン、とまるでダンスのステップを刻むかの様に、軽やかに地上を蹴り後退して躱しながら、愉快そうにアルマが笑った。
「さあ、ひれ伏しなさい、猟兵達。今度こそ貴方達の血を、私が吸い上げてあげる」
そう告げながら。
アルマは、思わず暁音達の背がぞっとしてしまいそうな程に、凍える気配を叩き付けてきた。
●
――今は亡き夫の形見、氷風の槍を右手に携え、左手で龍の手を握る。
淡々と、主の命令に従うだけの人形と化した夫の成れの果てを見て、龍は少々重苦しい息を吐いた。
(「これを私が呼び出しているのを、由が見たら何と言うでしょうね……」)
そんな事を思いながら、ゆっくりと動いていた、丁度その時。
「……いたな」
視認さえ難しい血の臭いの混じった白煙の向こうから聞こえてきたのは、キリカの呟き。
咄嗟に亡き夫の成れの果てと繋いでいた手をぎゅっ、と強く握り締める龍だったが、まるで彼女を安心させるかの様に、結婚指輪の青い宝玉がきらりと輝く。
或いはそれは、龍が、今、龍の傍に自分の『夫』がいるのだと思う錯覚が為せる技だったかも知れない。
その結婚指輪と、胸元で鈍く輝く黒い竜玉の光から何かを感じ取ったのか。
千尋がどうやら、と何処か安堵するかの様に息を吐いた。
「お前は、猟兵の様だな」
「分かるのですか?」
千尋の呟きに龍が問いかけると、ああ、と千尋が軽く頷き、龍の結婚指輪をちらりと見やる。
「……想いの籠められた物をそれ程までに大事にする災魔を、俺は知らない。俺の名は千尋。お前の名は?」
「龍、と申します、千尋様。貴女は……?」
龍の呼びかけに、腰に帯びていたナガクニを抜き身に構え、キャハハハハハ、と笑い声を上げているデゼス・ポアを一瞥したキリカが呟く。
「キリカだ。先程から、娘を知りませんか、と言い続けていたのはお前だな?」
「はい。あっ、キリカさんと千尋さんは私の娘……由と言うのですが……を見ておりませんか?」
龍の問いに、一瞬、酢でも飲んだ様な顔付きになり顔を見合わせる千尋とキリカ。
そんなキリカ達の様子が愉快だったのか、それとも、敵の気配を察したのか。
デゼス・ポアがキャハハハハハッ、と甲高い笑い声を上げた。
同時にキリカの目つきが鋭くなり、龍を庇う様に、龍の夫の霊が氷風の槍を構えて撥ね上げる。
――キーン!
辺り一帯に響き渡る、場違いな程に、澄んだ音。
気がつけば、龍の夫の霊の携える氷風の槍と、フラジールの構える杖がぶつかり合い、火花を散らしていた。
「フッ……待っていれば喰らいに来るだろうとは思っていたが……先ずはお前が来たか、フラジール」
弾ける様に跳んだフラジールと龍の夫の霊の間に割り込む様に、ナガクニを逆手に構えて突進するキリカ。
キリカのナガクニによる横一閃を弾き、その動きを封じるべくフラジールが胸の空洞から無数の手枷、足枷、鎖を解き放とうとするが。
「遅いな。踊れ、結詞」
刹那の時間を利用して54本の結詞を錬成した千尋の挙げていた手が、手枷等が解き放たれるよりも早く振り下ろされる。
千尋の手の振り下ろしに合わせる様に、宙を舞い、大地を駆け抜ける様に結詞が全方位からフラジールを締め上げんと襲いかかった。
そのまま胸元を拘束されたフラジールに、嘲笑う様な高笑いを上げたデゼス・ポアが全身に飾られた錆びた刃で斬りかかる。
千尋の結詞に隠れていたデゼス・ポアの攻撃を避けきれず、フラジールの体は千々に切られ、鮮血を散らした。
「ちっ……待ち伏せか!」
「そう言うことだ。さて……そろそろ大物を馳走してやるべきかな?」
忌々しげな舌打ちをするフラジールを、虚仮にする様な口調で挑発するキリカ。
フラジールがその双眸に怒りの火をちらつかせるが、追撃はせず、怒号を発する。
「来い、アルマ!」
――その時、アルマは……。
●
「……?」
不意に、アルマは違和感を覚えた。
敬輔のワイヤーロープは軽く身を引いて躱した筈だったのだが、何か血の混ざり合った白煙の中で一際輝く銀の糸が、自らの腰の辺りに巻き付いているのだ。
「アルマだっけ? フラジールも近くにいるとは思うけれど……一先ず、君だけでも逃がさないよ」
銀糸を手繰ってアルマが其方へと視線をやったその時には、ともすれば頬が触れてしまいそうな程の距離に暁音が肉薄し、アルマの鳩尾へと掌底を解き放っている。
「天星流・拳術。……行くよ」
神気を勁として全身に巡らせて放った強烈な一打に、咄嗟に腕を交差させてその攻撃を防御するアルマ。
「この……!」
返す刃の如き動きで、回し蹴りを放って無理矢理暁音を叩きのめしながら、その銀糸を振り解こうとするアルマの様子を見た由が、口元に微笑を閃かせる。
(「この状況でしたら……お母様からも、私の姿は見えない筈ですね」)
そう由が思った正にその時。
由の小動物を思わせる仮面が、パカリ、と音を立てて割れた。
仮面の向こうに現れたのは、人形の様に愛らしい顔をした、頭頂部に二本の角が生えたドラゴニアンの少女。
何処か淑女然としたドレスを身に纏い、黒い尻尾を生やしたその少女を見た敬輔が、吸血鬼達への憎悪と怒りという苛烈な炎の如き輝きを右目に宿らせる一方で、左目を、驚きに見開かせている。
「……由さんなのかっ?!」
「ふふ、そうですわよ、敬輔様。あっ、この姿、お母様には内緒にしておいて下さいね?」
少し冗談めかしてパチリ、と軽くウインクをする由に敬輔が一瞬唖然となるが、由は気にした風を全く見せず、アルマの周りを踊る様にくるくると回りながら、二本の火炎剣を構えて踊り始める。
先程、アルマから叩き付けられた凍える様なそれに体は微かに恐怖で戦いていたが、けれども、由は迷わない。
その間に右腕で暁音のジャブを受け止めて、左指を、上空へと突きつけるアルマ。
その頭上に現れたのは、巨大な目玉。
けれども……。
「御覧遊ばせ!」
呟き、タン、とその口元に優雅な微笑を閃かせながら、優美にして繊細な足運びで
軽快に大地を蹴る由。
同時に、二刀の火炎剣を燕の如く翻して二閃。
(「踊る分には、問題ない視野。反応速度と攻撃速度が極限まで高まった攻撃的なこの姿なら、十分いけますわ!」)
そのまま猫の如くしなやかに体を反らしながら、全身のバネと跳び上がった反動をも双炎剣に乗せて、華麗に振るう。
――二閃、一刃。
由の深紅の閃光と共に放った斬撃が、召喚された目玉を十文字に切り裂く。
一方、目玉から放たれた光線を、由はまるで重力等感じさせないかの様にフワリ、と空中で体を踊る様に翻して躱す。
そのまま火炎剣を伸張させて刃を深く抉り込み、内側から目玉を地獄の劫火で焼き払った。
光線は、暁音と敬輔の後ろに着弾して爆発音と共に炸裂し大地を抉るが、その大地の破片がバラバラと土砂の様に降り掛かるだけで、実害は無いに等しい。
「くっ……このっ……!」
怒りを露わにしたアルマが牙を暁音に突き立てるべくその喉元に牙を向けるが、暁音は、それを咄嗟に爪を鋭利化させて受け止める。
「……流石に拳術だけでは、上手くいかない、か」
呟きながら、さっ、とアルマに足払いを見舞う暁音。
――インパクトの瞬間に、自らの足を鋼の硬度に変化させて。
「がっ!」
ガツン、と言う鈍い音が辺り一帯に響き、鈍痛がアルマの足を襲い、思わず転倒するアルマ。
その隙を敬輔は見逃さなかった。
息が掛かるほどの超近接距離で、右手に構えたままの黒剣を大上段に振るう。
その刀身が、生き物の心臓の様に、赤黒く不気味に光り輝いた。
「怒りと憎悪、闘争心に導かれるままに……貴様を両断する!!」
叫びと共に、黒剣を唐竹割りに振り下ろす敬輔。
転倒させられていたアルマの脳目掛けて振り下ろされたそれは、容赦なくその頭部を一部叩き割り、更に返す刀で撥ね上げた一閃が、アルマの左脇腹から、右肩までの肉を易々と貫通して骨まで深々と切り裂いていく。
吸血鬼を殺している、という確かな手応えと感触に、憤怒に塗れた敬輔の魂が、微かに愉快そうに打ち震えた、正にその時。
「アルマ!」
アルマの背後から聞こえた、呼びかける様な声音。
それに対して……。
「フ……フラジール!」
悲鳴の様なアルマの震える声音を聞きながら、由が、空中で猫の如き柔らかい回転の速度を乗せて、アルマに向けて二刀を振り下ろした。
●
「……ちぃっ!」
巨大な爆発音の後に続いた背後からのアルマの悲鳴に、彼女の加勢を望めない事を悟ったフラジールが舌打ちを一つ。
そのまま自らの胸をがんじがらめにしていた千尋の結詞を力任せに引きちぎり、強引に自らの空洞を広げて、無数の手枷、足枷、鎖を放った。
放たれたそれらは龍を捕らえんと迫り掛かってきていたが、龍はそれに動じず、ひゅっ、と鈍い光沢を放つ黒の竜玉を持つ右手を振るう。
黒の竜玉より放たれた光を受けた夫の霊が、両手遣いに構えていた氷風の槍を風車の如く回転させて、荒れ狂う氷礫の嵐を呼び出し、無数の手枷、足枷、鎖を凍てつかせていく。
「貴様等……!」
憤怒の表情を浮かべながら、フラジールは、繰り出した手枷を、手に持つ杖の先端のハートの宝石から発した光で操り龍の夫の霊の動きを鈍らせようと試みるが、それに対しては、千尋が結詞……飾り紐であるそれの幾つかを蜘蛛の巣の様に広げて展開。
それらを絡め取る盾とした。
「おいおい、どうした? この程度で俺達を倒せると思っているのならば、無謀にも程があるぞ。これだけの血の臭いだ。お前達は余程多くの人々の血を啜り、肉を喰らってきたのでは無いか? それとも……」
畳みかける様に言の葉を紡ぐ千尋のそれを引き取り、これでもか、と言う程の侮蔑と嗜虐的な笑みをキリカが浮かべた。
「所詮、弱者を虐げることしか出来ない雑魚だったか。無様だな」
「キャハハハハハハハハハッ!」
嘲弄を隠せぬ響きを伴ったキリカの挑発に合わせる様に、今までで最高の甲高さで、デゼス・ポアが嘲笑した時。
――プツリ。
フラジールの頭の中で、何かの弦が、切れる様な音がした。
「言わせておけば……! ならば、先ずは貴様から葬ってやる!」
千尋と、龍に絡め取られた以外の手枷と足枷、そして鎖を解き放ち、キリカに向かって誘導するフラジール。
出来ることならば捕らえてアルマの拳を叩き付けて、その身を粉々に粉砕してやりたかったが……先程上がった悲鳴から、アルマには期待できないだろうと判断。
「今度こそ……!」
手枷と足枷が、カチリ、と音を立ててキリカの手足に嵌まり。
更に鎖が、キリカの両腕を締め上げる。
「! キリカさん!」
龍の驚きの声など気にも留めず、フラジールは心から愉悦の笑い声をあげた。
「ハハハハハハッ! 口ほどにも無かったな! さぁ、その肉を私に喰らわせ……」
「――バカめ」
そのまま喜び勇んでフラジールがキリカの肉を喰らわんと飛びかかってこようとした、正にその時。
キリカの頭部が、シュナイダーM1913を想起させる巨大なカノン砲へと変形し、その巨大な砲塔から、大型の砲弾を続けざまに叩き込んだ。
凄まじい爆発音と共に、フラジールの右腕と頭部が吹き飛び、ヨロヨロとフラジールの体が、フラジールの背後で瀕死に陥っているアルマの方へとよろけていく。
「ば……バカなっ……!」
何処から声を発しているのかは分からないけれども。
無念の思いの伝わる思念を耳にしたキリカが、フン、と軽く鼻を鳴らし、左腕部をビームソードへと変形させて、自らの腕を拘束した鎖を断ち切り、続けざまに、自らの手枷と足枷を焼き切った。
「私の挑発に乗り、迂闊に近付いたお前の判断ミスだ、フラジール」
フラジールの激高した思念に対して、クツクツと肩を震わせてやりながら。
キリカが右手にナガクニを構え直して、絶頂の笑い声を上げるデゼス・ポアと共に、フラジールを完全に解体するべく肉薄した。
「これ以上は、見るに堪えませんね。お休みなさい……フラジール」
微かに憂いげな表情を浮かべた龍が、囁く様にそう告げて、夫の霊に氷風の槍を振るわせて、残されたフラジールの体を凍てつかせるのを見届けながら、歌う様に呪詛を紡ぎ。
「もう……逃がさない」
千尋が、解いて蜘蛛の巣としていた飾り紐を鋭く振るった。
大気を切り裂く風と為るほどの速さで振るわれた飾り紐が鋭利な刃物の如く、凍てついたフラジールの体を切り裂き、ガシャン、とそのがらんどうの胸から全身を斬り裂き、フラジールを屠る。
――そして……。
●
上空から振り下ろされた由の二刀の火炎剣による一撃を、全身全霊のバネを使って躱す事が出来たのは、アルマにとって僥倖だった……とはとても言えない。
何故なら、躱してそのまま白煙の向こうに隠れる筈だったアルマの動きは常に先手を取って維持され続けていた暁音の銀糸を結局振り解くには至らなかったのだから。
「そろそろ、君も終わりだね」
もう殆ど残されていない力を使って、尚自らを締め上げる銀糸を振り解こうとするアルマの様子を見ながら、暁音が静かに諭す様にそう告げる。
「まだ……まだよ……!」
呻く様に呟きながら、アルマはある事に気がつき、残された力を使って暁音の体の何処かに食らい付こうとした。
(「何処でも、誰でも構わないわ! 血さえ……血さえ啜ることが出来れば……!」)
その血を以て自らの体と力を修復し、もう一度逃げる機会を作ることが出来る。
……そこに一縷の望みを掛けようとした、正にその時だ。
――体中を覆い隠す呪詛に身を蝕まれ……凄まじい眠気に囚われ、そのまま昏々とアルマが夢の世界へと旅立ったのは。
「これは、お母様の……!」
呪詛に気がついた由の呟きに暁音が頷いて、銀糸でアルマの全身を締め上げその動きを完全に阻害しそして深々と腰を落として真っ直ぐに硬化した拳をアルマに放ち。
「貴様達は……一人残らず殺すっ!」
側面を取った敬輔が、右目を激しく光らせながら、自らの黒剣に全力を乗せて、真っ向両断にするべく振り下ろした。
振り下ろされた敬輔の黒剣が、アルマを側面から容赦なく断ち切り、暁音の拳が、めり込む様にアルマの腹部を潰さんばかりの重い一撃となって叩き込まれる。
敬輔と暁音の重い一撃を受けたアルマが、あまりの衝撃に昏睡したまま空中へと跳ね上がったその瞬間。
「今度こそ……終わりですっ!」
蝶の様に舞いながら空中へと躍り出た由が、火炎剣の一振りを弧の様に描いて振り抜いてその身を切り裂き、更にアルマの胸に、もう一振りの火炎剣を突き立てた。
獄炎が、アルマの胸から全身へと広がり、その体を貪る様に焼き尽くし。
ハラハラ……ハラハラ……。
そして今までに吸い尽くしてきた血事、焼き払われたアルマの灰が、パラパラと大地へと降り注ぎ……そのまま、溶ける様に消えていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●断章2
――かくて、吸血鬼の少女と人形は、二度目の死を迎えた。
されど、彼の地のスモッグ……深き白煙は、未だ晴れず。
まだ、少女と人形は残滓と化して、この地に残っているのだから。
案ずるなかれ。
少女と人形という闇がこの地に存在しているのと同様に。
猟兵という希望の光もまた、この地を訪れている。
――最後の戦いが、今、始まる。
トリテレイア・ゼロナイン
普段マルチセンサーでの情報所得に頼っている機械の身にとって、此処まで周囲の情報が入手出来ないという事態には、センサー故障時の訓練をしていても恐怖を覚えます
ですがアルダワの人々の為、臆する訳には参りません
光学センサーで濃霧の動きを●情報収集して物体の動作による霧の動きを●見切り対処致しましょう
目玉からの光線は発光を確認次第●盾受けで防御…
どうやら壊死する体組織を持たぬ生体パーツ皆無の鋼の私とは相性が悪かったようですね
血も肉も持たぬ相手と交戦する不運を恨んで頂きましょう
弱点指摘と同時にUCを発動し●ロープワークで拘束
そのままフラジールを●怪力●シールドバッシュで砕き、アルマを斬り捨てます
●
(「普段マルチセンサーでの情報取得に頼っている機械の身にとって、此処まで周囲の情報が入手できないという事態には、センサー故障時の訓練をしていても、恐怖を覚えますね……」)
濃霧と言っても差し支えない程に濃い白煙の中を彷徨う様に歩きながら、トリテレイア・ゼロナインは、コアユニットの中でそう思う。
「ですが、アルダワの人々の為、臆する訳にも参りません。一刻も早く、白煙の主を倒し、この場を解放しなければ……」
誰に共無くそう呟き、自らの光学センサーを起動して、周囲の白煙についての解析を行い始めるトリテレイア。
(「この白煙の動きを解析できれば、恐らく……」)
トリテレイアのその判断は、正しく報われた。
白煙の向こうに、本当に微弱ではあるが、微妙な違和感を感じ取ったのだ。
――人であれば、間違いなく身震いしてしまいそうな程におぞましいその気配を。
「……あらあら。また、新しいお人形さんが姿を現したって訳ね」
何処かからかう様な声でそう呼びかけながら。
目視できる範囲に姿を現したアルマとフラジールに、面頬の奥で目を鋭く細めて光らせている様に見える……否、見せかける様に翡翠色の瞳を輝かせるトリテレイア。
「現れましたね、災魔アルマ。この地の利の影響もあるのでしょうが……どうやら貴女は、貴女自身が私達に恐怖を抱かせる力を持っている様ですね」
「そう言う事よ、お人形さん。さぁ……あなたの血を、私に頂戴?」
フワリ、フワリ。
まるで散歩にでも出る様な気軽さで、軽やかにステップしながら、トリテレイアに噛み付くべく接近し、左指を上空に突きつけるアルマ。
その上空に現れたのは、フワフワと浮遊する巨大な目玉。
(「成程。あれがアルマのユーベルコードの……」)
その攻撃に備える様に。
超重フレーム&偽装甲冑装甲の前に体組織を破壊する光線に備えて、重質量大型シールドをしっかと構え、儀礼用長剣・警護用を下段に下ろし翡翠色の瞳(に偽装したセンサー)で、アルマを睨み付けるトリテレイアに、アルマがアハハハハッ♪ と愉快そうに笑った。
「そんな目したって、だ~めっ! あなたは私に両手両足を壊死させられちゃって、そのまま私達の餌になっちゃうのよ♪」
「さて、それはどうでしょうか?」
トリテレイアの虚勢とも取れるその呟きにクスクスとアルマが嗤う。
「強がっている、強がっているの~? まあ、いいや。それじゃあ、Good-By!」
完全な至近距離で告げて、パチン、とその指を鳴らすアルマ。
上空に浮遊していた巨大な目玉から、生物の体組織を壊死させる光線が迸る。
――閃光……そして、轟音。
「ど~んなに君が自分の身を鎧と盾で守っていてもね、この光線は君の防具をすり抜けて、君の体組織を壊しちゃうんだよ♪」
ケラケラケラ、と笑い声をあげながら、牙を剥き出しにするアルマ。
――だが。
「……そうですね。壊死する体組織が私にあれば、この光線は致命傷になっていたでしょう」
光線の直撃の衝撃を受けながら。
ギラリ、とトリテレイアの面頬の奥の翡翠色のセンサーが輝く。
その時、初めてアルマの表情に狼狽が過ぎった。
「な……なんで……?!」
「生憎ですが、私は壊死する生体パーツは皆無の鋼です。命中率の高さは認めますが……残念ながら、血も肉も持たぬ私には、そのユーベルコードは脅威に値しません。……そんな相手と交戦する不運を、恨んで頂きましょう」
—―そう。
それは、証明。
アルマのNecrosisの弱点を指摘するために、トリテレイアが行うべき一連の行動。
「そ……そんなっ! それじゃあ……!」
「証明完了。腰部稼働装甲格納型 隠し腕、起動します」
狼狽し、咄嗟に白煙の中に紛れて撤退しようとするアルマとフラジールに向けて、腰装甲からワイヤー制御の隠し腕を射出するトリテレイア。
それは、トリテレイアの手にある剣から逃れようとしていたアルマの体を、見事に絡め捕った。
「!?」
「粉砕します」
見事に全身を絡め捕られたアルマの様子を見て、微かに動揺を見せたフラジールへと、トリテレイアが重質量大型シールドを叩きつける。
その衝撃に大きく全身に罅の入ったフラジールを後回しにして、儀礼用長剣・警護用をアルマに向けて振り下ろすトリテレイア。
180秒もの間、自らのユーベルコードを封じられているアルマにとって、儀礼用長剣・警護用による唐竹割の一太刀は、さしずめ、死神が自らに鎌を向けて振り上げる様であった。
「ひっ……!」
「終わりです、アルマ、フラジール」
儀礼用長剣・警護用で無慈悲にアルマを叩き切り、更に重質量大型シールドをフラジールに向けてもう一度叩きつけるトリテレイア。
重質量大型シールドの圧倒的な重さによる一撃に、フラジールが大きくよろめきながら、体中に切り傷を作っているアルマを抱きかかえる様にして、反射的に右手に持つ先端にハート形の宝石が飾られた杖を振り上げる。
――カッ!
目も眩まんばかりの光がトリテレイアの光学センサーを一瞬覆い、咄嗟に重質量大型シールドを掲げてその光を遮った時。
アルマとフラジールは、濃霧の様に濃い白煙の向こうに消えていた。
「成程。あのユーベルコードはあくまでも、『アルマ』のユーベルコード、という訳ですか。それでは、フラジールまで纏めて絡め捕ることは叶いませんね」
急いで光学センサーで周囲を索敵するが……既に周囲から、アルマ達の反応は消えている。
――だが。
「痛打は、確かに与えられました。後は、皆様にお任せ致しましょう」
そう囁く様に呟くトリテレイアの姿が、白煙の中に紛れて消えた。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・つかさ
なるほど……霧のせいで見えず聞こえず、って訳ね。
でもそれなら、触覚で探せばいいだけのことよ。
転送後、速やかに【妖術・九十九髪】を展開
自身を中心にふわっと髪を伸ばし、網を張る
地面だけではなく、空中にも漂わせるように
そうすれば、髪に接触した所から接近を感知できるわ
襲い掛かって来たら、髪の感覚を頼りにカウンターで拳なり蹴りなりぶちかます
出鼻さえ挫ければあとはこっちのもの
そのまま掴みかかり、怪力を活かして寝技に持ち込んで捕縛しつつ攻撃するわ
片割れが逃げたり捕縛を抜けられたりしたなら、展開していた髪で捕まえる
その時は……体中の孔という孔から髪を侵入し体内で暴れさせて、逃げるどころじゃなくしてあげるわ
ウィリアム・バークリー
白兵戦か。ただの魔法使いじゃなく魔法騎士にとってはそれも必須の技能。負けるわけにはいきません。
目標は二人組と言うことは、それぞれ死角を補いなってるんだろうなぁ。不意打ち出来るとは思わないことにしよう。
戦闘に入ると同時に「オーラ防御」を張る。
合わせて、『スプラッシュ』で「見切り」ながら「武器受け」。
『スプラッシュ』に氷の「属性攻撃」と「衝撃波」を乗せて、「串刺し」に。続けてルーンスラッシュ!
逃げ出す素振りがあったら「高速詠唱」でStone Handを発動し、相手の足を止める。
これ以上『狩り』はさせません。ここで討滅させてもらいます。
戦ってる間は周りを見る余裕無かったけど、どういう場所だろ、ここ?
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
全く、何がいるかわかったもんじゃねえな、この洞窟
…いや、だんじょんだったか
こりゃ見えた一瞬で勝負決めるしかねえな
下手すりゃ俺も大やけどだが止むを得んか
肉を切らせて骨を断つ…っと
転移するなり「高速詠唱」から【悪魔召喚「アスモデウス」】
「アスモデウス! あの吸血鬼と人形を周りの霧ごと焼き尽くせ!」
「範囲攻撃、なぎ払い、属性攻撃」で獄炎を吐かせて一気に焼いてやる
…俺も巻き込まれそうだが、淡紅のアリスグレイヴを回転させて「範囲攻撃」しつつ炎を少しでも散らすぜ
拳は甘んじて受けてやる
受けたら「力溜め」からの「ランスチャージ」で至近から撃ち抜くだけだ
てめえのような敵はここで消えろ
●
(「この感覚……近いわね」)
自らを中心にふわっ、とその髪を伸ばし、気配を張り詰めながら。
とあるアンテナの様に髪の毛の先が、ピン、と爪立ちの様にさせた荒谷・つかさが内心で軽く頷きを一つ。
「吸血鬼ねぇ……全く、何がいるか分かったもんじゃねぇな、この洞窟。……いや、だんじょん、だったか?」
飄々と、何処か掴み所のない態度でわざとらしく肩を竦めて小首を傾げたのは、森宮・陽太。
「ダンジョン、ですね。正直、ぼく達、アルダワ魔法学園生でもどうなっているのかと聞かれれば、全てが分かっているわけでは無い、と答えるしか無いのですが……それにしても、白兵戦か……」
陽太の軽口めいた問いにポツリ、と小さく漏らす様にそう答えたのはウィリアム・バークリー。
「……こういう戦いは、久しぶり、だったかしら」
つかさのその呟きには、力を渇望して止まない少年……つかさの場合は女性だが……の様な、飢えた猛獣の如き剣呑な響きが含まれている。
地面だけでなく、空中にも漂わせる、目に見えない九十九の髪々が、彼女のその思いに応える様に、細部にわたってまで、鋭く感覚を研ぎ澄ませていた。
「ね、ねーちゃん、ちょっと力入りすぎやしてないか……?」
何故か声音を引き攣らせながら問いかける陽太に、そうかしら? と口の端をあげるつかさ。
――と、その時。
ゾクリ、とウィリアム達の背を、冷たい感触が撫でる。
つかさの九十九の髪が、それに過剰反応し、直感的に危険を伝えてくるのとほぼ同時に。
不意を打つ様に陽太の背後に、体の彼方此方に打撲傷を負ったフラジールが姿を現し、陽太を捕らえんと迫ってきた。
「! 不意打ちは出来ないと思っていたけれど……不意打ちを食らった?!」
咄嗟に銃型のダイモンデバイスを構え、その銃口を背後に現れたフラジールに突きつけながら、素早く呪を紡ぐ陽太の即応に、ほっ、と内心で胸を撫で下ろしつつも、ウィリアムが緊張を孕んだ声音を上げて、自らが抱いた恐怖を振り払う様に叫びつつ、自らの周囲に水色の結界を張る。
「違うわよ、ウィリアム。前!」
ウィリアムの問いかけに、髪を伝って、直接肌に伝わってきた恐怖を周囲に伝播させる殺気を感じたつかさが怒号で返しながら。
臨戦態勢に入り、自らの髪の感覚を頼りに、肉薄してきた切り傷を体に作ったアルマへと重ね合わせた両拳を、正拳に振り抜いた。
「読まれていたって訳ね……!」
焦りと苛立ちを募らせながら、その顔半分に、まるで大重量の剣で斬り裂かれた様な巨大な斜め傷を作ったアルマが忌々しげに呻き声をあげる。
つかさの鉄拳制裁をまだ命からがら逃げ延びた時に、辛うじて繋がっていた左腕で受け止めるが、鈍い音が辺り一帯に響き渡り、アルマの顔が、苦痛に歪んだ。
「これ以上、あなたに『狩り』はさせません。ここで、討滅させて貰います!」
阿吽の呼吸で、体を屈めて自らが大地を駆け抜ける速度を高めていたウィリアムが、大地に氷の精霊を召喚、アイススケートの要領で滑る様にアルマに肉薄、居合いよろしく、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣。
『スプラッシュ』は凍てつく様な、碧き刀身を白煙の中で輝かせている。
「居合い……?!」
反射的にそう思ったか、まだ残っている右手の人差し指で、天空を指差すアルマ。
その指先に導かれる様に、アルマの頭上に巨大な目玉が姿を現し、その目を怪しく輝かせていた。
(「やっぱり来るか……!」)
その瞳の輝きを読み取ったウィリアムが、『スプラッシュ』に這わせた氷の精霊達に命じて、自らの周囲に展開した結界を、上空へと集中させる。
「Ice Shield!」
「死んじゃいなさい!」
アルマの金切り声に合わせる様に、ウィリアムとつかさ、そしてフラジールが捕らえようとしている陽太に向けて目玉から掃射される光線。
「くっ……Over Drive!」
ウィリアムがそう叫び声を上げながら、左手を咄嗟に上空へと振り上げ、その掌を開いた。
掌の中に集っていた氷の精霊達が、一斉に『スプラッシュ』とその先に重ねがけされていた結界に集い、その力を更に強化させて、そのまま、目玉に向けて光線を跳ね返す。
跳ね返された光線が逆にアルマの召喚した目玉を撃ち抜き、目玉が砕けて肉塊となって大地に降り注いだ。
「ちっ……でも、今なら!」
「っ!」
目玉の破片がバラバラと雨あられと空中から降り注ぎ、それにつかさとウィリアムが一瞬だが取られた隙をつき、アルマが既に傷だらけの体に鞭打って、二人の脇を駆け抜けながら、傷だらけの拳をきつく握りしめる。
その拳が、緋色に彩られている様に見えたのは、アルマの気のせいであろうか。
――否。
「ちっ! やっぱりそうなるか! だが……『アスモデウス! あの吸血鬼と人形を、周りごと焼き尽くせ!』」
アルマによって陽太の鳩尾に叩き込まれそうになった正拳を彩った緋色……それは、両腕を後ろから抱きすくめられる様に掴まれて、身動きの取れなくなっていた陽太が、自らのダイモンデバイスの引金を引いて呼び出した……。
「アスモデウスの獄炎、ですか」
「そういうことだ! アスモデウス! 構わねぇ、俺事そいつらを焼き払え!」
ウィリアムの呟きに頷きながら、陽太が召喚したアスモデウスにそう命じる。
アスモデウスが陽太とフラジール、そしてアルマを纏めて薙ぎ払うかの如く、獄炎の炎をその口から吐き出し、戦場全体を覆い尽くした。
――カッ。
獄炎により、白熱する洞穴。
洞穴全体を覆う爆発から最初に姿を現したのは……。
「……髪、焦げちゃったわよ、私」
その獄炎が暴発する直前に超至近距離に横合いから接近、拳を振るって陽太の背からフラジールを吹き飛ばし、焼け焦げた戦場の真ん中で、ブンブン、と煩わしげに頭を振るつかさ。
つかさの頭に応じて、ハラハラと焼け焦げた髪の毛が数十本、地面に落ちていくのに、血相を変える陽太。
「おっ……おい、アスモデウス! これ、ちょっとやり過ぎだろう! ね、ねーちゃん、す、すまねぇ!」
尚、陽太自身はつかさによって自由になった右手に握りしめた、伸縮自在の淡紅のアリスグレイブを風車の様に旋回させて風を起こして、炎を吹き散らし、更に……。
ウィリアムが、咄嗟に『スプラッシュ』の先端で描き出した魔法陣から呼び出し、陽太達の周囲に展開された氷塊の盾によって、軽く衣服が焦げた程度で、すんだようだ。
「……なんで、これ使っているのかな、ぼく……」
ウィリアムが思わずと言った様に目を細めて溜息を吐きながら、トン、とまるで、支えにするかの様に、『スプラッシュ』を大地に突き立てている。
一方、アリスとフラジールは、アスモデウスの獄炎に焼かれ、苦しげにのたうち回っていた。
「あら? 誰が逃がしてあげると言ったかしら?」
それは、絶対零度を思わせる、凍てついた声。
鬼も……否、悪魔もかくや、と言わんばかりの、つかさの言の葉。
その言の葉に操られる様に、そのまま転がりこむ様に白煙の向こうに逃げ込もうとしたアルマの下を、無数の黒きそれが走った。
それは、先程の大火災で焼け爛れた、つかさの黒髪の群れ。
更に……。
「あなたも逃がしませんよ」
ウィリアムの呟きと共に、這う様に白煙の向こうにそろそろと逃げようとしていたフラジールの下に不意に黄色い魔法陣が描き出され。
「……Stone Hand!」
叫びと同時に魔法陣からにゅっ、と岩石で出来た大地の精霊の腕が突き出し、フラジールをガッシリと掴み上げた。
更に……。
「ガハッ!? ガハハハハハッ?!」
アルマが驚愕と恐怖に彩られた笑い声を上げている。
じっくりと力を蓄えていた陽太が、その光景に驚愕で目を白黒させた。
何故なら、全身の孔という孔からつかさの黒髪に侵入されて、その全身を弄られるアルマの笑い声が、あまりにも無残だったから。
(「ね、ね~ちゃん、怒らせるとマジおっかねぇ……」)
ねっとりと背を伝う冷汗を感じながら。
陽太が、ウィリアムのStone Handに捕らわれたフラジールに、濃紺のアリスランスを解き放った。
「……てめぇらの様な奴は、此処で消えろ」
『敵』という言葉を避けたのは、果たして無意識だったのであろうか。
それが分からぬままに、陽太が溜めた全身の力を乗せて、乾坤一擲の濃紺のアリスランスによる一撃を、フラジールに叩き付け。
そのまま淡紅のアリスグレイブを旋回させて、フラジールを薙ぎ払う様に切り払い、止めを刺しているその間に。
「が……ガハハッ……ガボ、ゴボォッ?!」
体内で暴れ回る黒髪に全身を虐め抜かれて、笑いと苦痛にのたうつアルマの脇腹につかさが無造作にのし掛かり、そのまま持ち前の怪力を生かして袈裟固めにして、アルマの動きを完全に拘束。
――刹那。
ウィリアムが、凍てつく精霊達を纏う『スプラッシュ』を全力で振り下ろす。
「終わりだよ……断ち切れ、『スプラッシュ』!」
その凍てついた刃は、つかさとその黒髪に拘束されたアルマを、バッサリと断ち切っていく。
更にウィリアムに断ち切られたアルマの体の傷口から、氷の精霊達が広がっていき、見る見るうちにアルマの体が凍てついていった。
その様子を見たつかさがアルマの体を離し、代わりに上段から両拳を力一杯叩き付ける。
――ガシャァァァァン!
まるで、硝子が砕けるかの様な甲高い音と共に。
アルマの凍てついた肉体が粉砕され。
更に陽太に薙ぎ払われたフラジールの遺された体が、何となく怯えた様子を見せながらも、尚その場に踏みとどまっていたアスモデウスの吐き出した獄炎に焼き尽くされて、灰となり、何処から吹いた風に乗って消えていく。
程なくして。
――濃霧の様な白煙が、ゆっくりと、晴れ始めた。
●
(「戦っている間は周りを見ている余裕は無かったけれど……迷宮、と言うより広場みたいな場所だったんだね、此処」)
アルマとフラジールが滅びた反動で自分達のいる場所の白煙が晴れ、迷宮の本当の姿を見たウィリアムが、納得の頷きを一つ。
それまでに幾度かアルマ達を滅ぼしたであろう他の猟兵達も、其々の表情で周りを見つめ、或いは、漸く探し人と会えたのか、手を繋いで喜びあっている。
「……このダンジョンの主は、アイツら、だったんだな」
陽太の呟きに、そうね、とすました表情で頷くつかさ。
先程までの修羅の様な様子から、至って涼しげな表情で冷静に辺りを見回しているつかさを見て、これ以上の怒りは買わずに済みそうだぜ、と何となくほっ、と陽太は胸を撫で下ろした。
「任務完了。さて、次ね」
つかさの呼びかけにウィリアムと陽太が同意する様に頷き、他の猟兵達と共に、その戦場を後にする。
――かくて、吸血鬼と人形と、猟兵達の戦いは……猟兵達の勝利という結末を迎えたのだった。
大成功
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