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アルダワ魔王戦争2-A〜怨霊の鋼糸

作者：ヨグ

「み、皆さんお疲れさまです。
　少しずつ、地下へ向かえてます、ね。
　続けて、いきましょう。」
　グリモアベースに集まった猟兵達を見渡し、労いの言葉をかけていく影山。
「で、ですね……また、新しい場所が出てきたんです。
　今度の場所は、怨霊の地下墳墓って、言われてます。
　大量の死霊や怨霊が、集まってて……そこにいる、オブリビオンを倒してほしいんです。」
　影山が手にしたグリモアを輝かせると、グリモアベースの壁に地下墳墓の様子が映し出される。
　広間には墓石と思われる石が転がり……ひらひらとした服を着た、一人の女性が立っていた。
「今回、倒してもらいたいのが、あの人です。
　『死の幻想』モリィ・グレイル・メメントス……昔、アルダワ魔法学園の生徒だった人見たいで、鋼糸を使った戦いが得意だったみたい、です。
　それに、綺麗な顔も合わさって、昔は『学園のNo.1ヒロイン』って呼ばれたとか……。
　あ、あまり関係なかったかもしれないですけど、そういう方です。」
　そして周囲を見渡すと……霊を見る力のない人にも白い影として見えてしまうほど、死霊たちが浮かんでいる。
「ここは、名前の通り……大量の死霊や怨霊がいます。
　そして、あのモリィさんも、霊に操られてます。
　少しでも、霊を引きはがしたり、浄化したりすれば……モリィさんの動きが、鈍るかもしれません。
　それでは、皆さん、頑張ってください。」
　グリモアが輝くと、地下墳墓へのゲートが開いた。

第1章 ボス戦 『『死の幻想』モリィ・グレイル・メメントス』

POW   :    切り裂いてあげる。『鋼糸一閃』 【鋼糸】が命中した対象を切断する。 SPD   :    搦め捕るわ。『鋼糸搦篭』 【鋼糸】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の上に鋼糸で出来た数多の蜘蛛の巣を張り】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。 WIZ   :    ――塵も残さない。『鋼糸鏖殺』 【鋼糸による連撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。 イラスト：Nekoma 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「学園の生徒、か……。それも、かつての学園アイドルとか。」
「成程。『古強者』が相手、というわけか。このような形で再び蘇ることになるとは、哀れな。」
　墓石と思しき石が転がる、陰鬱な広間。
　そこに俯いて立つ、ひらひらとした服を着た女性へ、憐みに似た視線を向ける栗花落・澪（泡沫の花・f03165）と愛久山・清綱（飛真蛇・f16956）。
「モリィ・グレイル・メメントス……メメント・モリ、ですか。」
　女性の名前を呟き、その意味に思いを馳せる霧島・絶奈（暗き獣・f20096）。
「生ける者は何時か逝き、過去になる。だからこそ……、」
「ここで、解放してあげなきゃね。」
「うむ……必ずや俺が、祓ってやろう。」
　各々武器を抜き、女性の元へ……その横から勢いよく飛び出していく、一人のフェアリー。
「……え？」
「鋼糸を使う、糸使いとな！？」
　キラキラと光を曳きつつ、フィロメーラ・アステール（SSR妖精：流れ星フィロ・f07828）が女性の元へ。
　気配を察したか、俯いた顔をあげ……その目が合うと、踊るように動きながら後ろへ下がる。
「あたしも糸を使う技を持ってるからな！　さぁ勝負うわあ！」
　フィロメーラの周囲に流れる光の糸……それにふわりと反射する、硬質な鋼の糸が波状に襲い来る。
「はぁ！」
　猛禽の翼を羽ばたかせ、一気に近づいた愛久山の居合一閃。
　さらにフィロメーラの身体を、清浄な風が一押しし……鋼糸は断ち切られ、空を切る。
「……なかなか、やりますね。」
「ありがとうな！　……うん、用心してかかるぞ！」
　周囲の風を操作する霧島の隣に飛び、フィロメーラの周囲に広がる輝く糸が女性の放つ鋼糸を待ち構える。
「油断をするなよ、」
「来ますよ！」
　愛久山、栗花落の言葉に身を躱す猟兵達。
　その体があった場所を斬り裂く鋼糸……それは意志を持つかのように、墓石などから断ち上がってくる。
　女性の躍るような動き、指先の動き一つが必殺の威力で……自然と猟兵達は分断されていった。

「……ん、本当に死霊やら怨霊やらが大量に居るな……。」
　激しい戦いが繰り広げられている墳墓。
　少し離れたところから眺めるメンカル・プルモーサ（トリニティ・ウィッチ・f08301）の目に映る、白く霧のように立ち上る死霊たち。
「地下墳墓である以上、当たり前かも知れないけど、いくら何でも多すぎる……魔王がなにか関係してるのかな？」
「そうかもしれないね。でもまずは、あの霊をなんとかしないと！」
「ええ、ヒロインを闇堕ちさせたままにしておくわけにはいきませんし。」
　フォルセティ・ソルレスティア（星海の王子様・f05803）とフィオリナ・ソルレスティア（サイバープリンセス・f00964）の言葉に頷くメンカル。
「……ほかの人が戦ってくれてるけど……操る鋼糸を、死霊たちが手助けしてるね。」
「困りましたね。やはり、彼らを祓う必要がありそうです。」
「よーし、じゃあいくよ！　フィオ姉ちゃん！」
　銀月琴を取り出し、旋律を奏でるフォルセティ。
　それは明るく優しい音色の鎮魂歌……墳墓に浮かぶ死霊たちに、穏やかに広がっていく。
「みんな、安心して。もう休んで大丈夫だから。」
「……穏やかな、眠りの世界に誘うわ。」
　続けてフィオリナも歌い、姉弟のデュエットが響き渡る。
「安息へ導け、紡ぎ車の錘よ。」
　歌の響きに合わせ、フィオリナの髪飾りから発せられる眠りの電波……これも穏やかに、墳墓を包む。
　……動きの止まる死霊たちの足元、さらに墳墓全体へと広がる魔法陣。
「……対象を視界内任意に補正……。」
　メンカルの言葉に乗って、何度も何度も繰り返される浄化の術式。
「……魔女が望むは、膨れ逃さぬ天の網。」
　魔法陣へと幾重にも重ねられた術式を解き放ち……墳墓がまばゆい光に包まれる。
　よく見れば、光を放つのは浮かぶ死霊たち。
「うまく、いったようですね。」
「……そうだね。」
　光が収まれば、辺りを漂っていた死霊たちは姿を消していた。
　残るのは猟兵達と女性のみ。
「よーし！　後はあの人だけだね！」
　フォルセティが箒に乗って飛び出し、二人も後に続いていった。

　鎮魂の歌が響き、死霊たちが浮かぶ中……鋼糸と光の糸が交差する。
「この……容赦ないな！」
　フィロメーラが周囲に張る光の糸が、女性の放つ鋼糸へと絡み付く。
　しかし、強度では鋼糸の方が上……一部がキラキラと、鋼糸へ巻き付いたままになっていた。
「でもな！　これで糸の動きはわかりやすくなってるんだぜ！」
「……。」
「反応がありませんね。」
　霧島の祈りの篭もる風が吹き荒れ、放たれる鋼糸を吹き流し、狙いを逸らす。
　そうされようとも……女性は表情すら変えることなく、次の鋼糸を放ってくる。
　……絡み付くフィロメーラの光の糸に、周囲の死霊が斬り裂かれて消えていくとも知らずに。
「ここにいる死霊、過去の亡霊たちに囚われているのでしょう。憐れなことに。」
「……ねぇ、君のやりたい事はなに？」
　と、反応がないとしても語り掛ける栗花落。
　純白の羽で周囲を飛び、踊るように鋼糸を躱しながら……かつての学園アイドルへと。
「楽しい事は好き？　怨霊じゃなく……生徒としての、君自身だよ。」
「気持ちは解るのだが、」
　黒い翼の愛久山が踏み込み、霊刀を居合に引き抜く。
　非物質化した刀身が周囲の霊魂を断ち切り、浄化させるが……その霊魂に押し出されるように女性は刀身を避け、後ろに跳んでいた。
「霊たちをなんとかしなければ、手出しも」
　そこへ広がる魔法陣によって、一気に死霊たちは浄化されていく。
　光が収まった時……それまで何も映していなかった女性の目に、光が差し込むのが見えた。

「お、勢いが変わったな！」
　鋼糸の動きに対抗していたフィロメーラ。
　これまでの相手をただ引き裂こうとする冷たい殺意に満ちた動きと違う、意表を突く楽しみに満ちた動きが加わっていた。
「へへ！　糸使いの本領発揮って事かな！」
「……ふふ、上手いじゃない、おちびさん。」
「お褒めに預かり光栄だぜ！　ちびじゃないけどな！」
　生前の記憶だけを持つ操り人形から、意志を持って動く一人の女性へ。
　その視界に映る、白い翼。
「ねぇ、歌は嫌い？　僕は歌が大好き！」
「もちろん、嫌いじゃないわ。」
　だが、栗花落へ鋼糸を放つ動きは止めない……それこそが自身の生き甲斐と言いたげに。
「１人で歌うのも勿論だけど……誰かと歌うのはもっと好き！」
「そう、そこは意見が合わないのね。」
　飛びまわる栗花落の周囲を、蜘蛛の巣のように編まれた鋼糸が包む。
　しかし、留める鋼糸を断ち切る一閃と吹き飛ばす清浄な風。
「意思は取り戻せても、戦う意図は消えないか。」
「ふふ、元々の彼女がそうだった、ということでしょう。」
　愛久山、霧島の妨害を受けつつも、さらに鋼糸を編み上げて解き放つ女性。
　次はどうやって斬り刻もう……それを考えるのが一番楽しい、そうとわかる顔で。
　勢いよく飛び込んできたフォルセティは、その表情が気がかりで、
「モリィさんも、学園のアイドルだったんでしょ？」
「……そう呼ばれていたこともあったわ。」
　遠い昔の過去の事だ、と言い捨てる女性。
「みんなのアイドルが人を傷つけたらダメだよ。」
「うるさいな。」
　言葉を続けるフォルセティへ、苛立ちと共に鋼糸の波状攻撃が放たれる。
　しかしそれも、光の盾に弾かれる……大好きな弟を守る、姉のフィオリナの手によって生み出された魔力の盾に。
「さあ、後は貴女だけよ。」
「ふふ……チェックメイトってところかしら。」
　得意の技は、彼らには通じない……それを悟り、笑みを浮かべる女性。
　だがその動きを止めることなく、
「でもね、私を止めたければトドメを刺しなさいよ。」
「……ふむ、悪あがきでしかないのに？」
　メンカルの問いかけと共に放たれる魔術の炎、それを鋼糸で斬り裂いて、
「それが、私の生き方だからよ。」
「なら遠慮なくやらせてもらうぜ！」
　光り輝く糸での波状攻撃……フィロメーラが返す、彼女の技。
　防御に鋼糸を張ろうとするが、風にあおられうまくいかない。
「貴女が扱う糸が、完全に物理的なもので助かりますよ。」
「く……そうね。」
　光の糸に絡み付かれ、衝撃波に弾き飛ばされる女性。
　霧島の言葉に思うところがあるのか、歯切れの悪い言葉を返している。
「でも、モリィさんらしく戦えてるね。」
　栗花落の周囲に放たれる浄化の光に、さらに女性の動きが鈍る。
　そこへ叩きつけられる、眩い光輝の柱。
「最後はアイドルらしく、」
「光の中で逝きなさい。」
　フィオリナの放つ魔術を増幅するフォルセティ。
　そして、動きを見せない光へ駆ける愛久山。
「荒ぶる魂に、救済を……。」
　引き抜かれる霊刀の刀身は、鋼ではなく霊気そのもの。
　その一閃が斬り裂くのは、相手の魂。
「ふふ……本当に強い、のね、あなた達。」
　笑みを湛えた言葉を最期に、女性の姿は光に溶けて消えていった。

　こうして、怨霊の地下墳墓の一つは完全に浄化された。
　だが、大魔王の居城……ファーストダンジョンは、まだまだ奥へ続いている。
　暗闇を光で照らし、大魔王を滅ぼすために……猟兵達はダンジョンへ挑み続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2020年02月09日