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雲海のアリス -揺蕩ティラミス-

#アリスラビリンス #雲海のアリス #挿絵

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#挿絵


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●揺蕩ティラミス
 わたしは名前を知らない。
 大切な仲間だって、言ってくれるひとがいる。
 めいっぱいの幸せがきっとある。
 それでも──足りないと感じる。

 ──本当にそれがアリスのさいわいかなあ?
 ──■■■で■■を■■■ね。

「っ……!」

●雲海の国
 その国は、ふわふわで真っ白な、雲で出来ている──と、道端に咲く花々が言います。
 その国ではオウガに喚ばれた記憶の無いアリス達が、喚ばれ、殺戮を強要されたけれどその呪縛からなんとか逃れたアリス達が小さな集落を作っていました。
 たくさんのお菓子を道端に咲く花々が与えてくれるその集落では、いつしかアリス達はそれぞれにお菓子の名前をつけて過ごしていました。
「ねえオペラ、マカロンを知らない?」
「知らないわ。スコーンと話しているのは見たけれど」
「ああ、マカロンは『自分の扉』を見つけたんですって」
「まあ!」
「良かったわね!」
「いいえ。でもマカロンはとても悩んでいるの。……だって、帰ったところで記憶が戻るなんて保証もないでしょう? 『こちら』の記憶だって持っていけるか判らないわ。と、なったら……知らない世界に、またひとりぼっちでしょう?」
「ああ……ならここに居た方が、って?」
「そうなの。ここなら……少なくともわたし達は、家族みたいなものでしょう?」
「……確かに、迷うかもしれないわね。……私なら、ここに居ることを選ぶわ」
 アリス達は思案に沈んだ表情で向き合いました。ふとオペラと呼ばれた黒髪の女が視線に気付きました。
「あら、ネージュ、どうしたの」
 けれど、白い髪に紅い瞳のその少女は反応しません。
「ネージュ? ブールドネージュ? どうしたの?」
 ブールドネージュ──ネージュと呼ばれた少女は、はっとして顔を上げて、そして首を振りました。
「な、……なにもない……っ」
 そして足音も立たないふかふかの雲の上を走って、集落から離れました。

「考えたことも、なかった……」
 ──記憶が、また消えるかもしれないなんて。
 ──また、ひとりぼっちになるかもしれないなんて。
「……わたし……どうしたらいいの……」
 くしゃくしゃと顔を歪めた少女は知っていました。見つけてしまったのです。
 たったひとつしかない『自分の扉』が、この先の花園にあるのを。

●ご案内
「正しい選択なんて、この世にあるのかな」
 ぽつり、トスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)は告げる。
 その困り眉はいつものことではあったけれど、真実彼女自身もまだ迷っていた。
「……とにかく、みんなにはアリスをひとり救けて欲しいの。彼女──ブールドネージュは前に『白のアリス』って呼ばれてた子。『自分の扉』を花園の中に見つけたんだけど。……当然、オウガが扉をくぐるのを邪魔しに来るの」
 彼女が死ねば、すべてが無に帰す。
 導くのか、背を押すのか、あるいは彼女の前に立ち塞がるのか。そんな選択肢を呈することすらできなくなる。
「まずやってくるオウガはかわいらしい『偽アリス』達。ネージュもちょっとだけなら、戦えると思うけど。……少し、彼女にはつらい戦いになりそう」
 ネージュはまだ元の記憶を喪ったままだ。
 だが、この戦闘によってその記憶が刺激されそうだと、トスカは言う。
「その集団戦を凌いだら、ボス戦。……それが終ったら、扉をくぐるかどうかの選択に、なる。ネージュはたぶん、ずっと迷い続けるよ。だってそうだよね。アリス達が噂してたのは、確かに可能性として存在し続けてるままなの。もし、みんなの中に『還ってきた元アリス』が居たとしても。……その経験が、ネージュにも適応される保証なんて、ない」
 そう言い切るトスカの声は、平坦で。
 冷たくも聴こえるかもしれないけれど。
 それでもどうしようもないほど、それはただの事実だったから。
「……ねえ、きみは。記憶を喪うかもしれなくても進む?」
 最後にトスカは、俯きがちに問いを落とした。


朱凪
 目に留めていただき、ありがとうございます。
 個人的に追っていた【雲海のアリス】物語、最終幕です。朱凪です。

 まずはマスターページをご一読ください。

▼蛇足
 当シナリオは拙作【雲海のアリス -悪戯ショートケーキ-】【雲海のアリス -倒錯キャンディ-】の続編ですが、読んでなくても全く問題ありません。
(ボス戦のオウガは『-倒錯キャンディ-』のOPで触れた、まみえることのなかった『なにか』です)

▼アリスについて
 ブールドネージュ:通称『ネージュ』。10歳前後の少女。白髪ストレート、赤い目、白いワンピース。
 『プログラムド・ジェノサイド(【予め脳にプログラムしていた連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。)』を使用可能です。

▼判定について
 アリスが死んだら失敗です。
 各章において、募集の開始は『幕間追加の翌日 朝8時30分以降から』です。

 それでは、迷えるアリスを導くプレイング、お待ちしてます。
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第1章 集団戦 『『偽アリス』アリーチェ』

POW   :    ミルクセーキはいかが?
【怪しげな薬瓶】が命中した対象に対し、高威力高命中の【腐った卵と牛乳で作ったミルクセーキ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    甘いおねだり
レベル×1tまでの対象の【胸ぐら】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
WIZ   :    お茶を楽しみましょ?
【頑丈なティーポット】から【強酸性の煮え滾る熱湯】を放ち、【水膨れするような火傷】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『偽アリス』
 その花園は、雲海の道の奥に続いている。
 ふかふかの雲が延々と続くその道。柔らかな木々が生い茂るその入口でひとりぽつんと立ち尽くす少女に、軽やかな足取りで少女達が近付いていく。
「あら、アリス」
「どこへ行くの?」
「えっ、もしかして、わたし達を置いていくの?」
 わいわいと兎の耳を生やした『アリス』達が告げるのに、「っ、」少女の身が震えた。
「そんな、ひどい。わたし達、同じアリスじゃない」
「もう家族でしょ? なのに置いていくなんて」
 ──『家族』。
 ぴり、と脳裏になにかが走った。それは痛みのようで、あるいはそれでも手に入れたくなるような。
 身体の震えが、──止まらない。
 『アリス』のひとりが口角を上げて、白い少女の胸ぐらを掴み上げた。
「ねぇお願いよ、アリス。わたし達の言うことを聞いて?」
「……っな、なに……」
 かろうじてそれだけを口にすることができた白い少女に、『アリス』達は揃ってにこりとかわいらしい微笑みを向けた。

「お願い、死んで?」
 
境・花世
久しぶりだね、かわいいアリス
きみの笑顔を見に来たんだよ

ひらりと扇を一閃すれば、
二つに分かたれるわたしと私
片方はネージュの守りから離れずに
片方は弾丸みたいに飛び出してくよ

自在に動く足で敵の手をするりと抜ける早業、
肉薄したら花の種を蒔いてあげよう
女の子には似合いの可愛いピンクだよ、どうか受け取って
とびきりきれいな苗床になってみせてよ

ぱたぱたとオウガを減らしても、
アリスの中の記憶ばかりは斃せない
震える肩を見守るしかできない自分は
花の咲いている方だったっけ?

どうやらわたしも忘れてしまったみたい、
なんて困った様子もなしにからりと笑う
今ここにきみを守ると決めた心がある、駆けられる脚がある、
それだけで十分だ


夏目・晴夜
お久しぶりです、『白のアリス』
失礼、今はネージュさんでしたっけ
まあどっちでもいいですし、覚えてなくてもいいですよ
何があろうともハレルヤの価値は揺るぎないので

ネージュさんがUCを使わずに済むよう、庇う立ち回りで戦います
その方が安心ですし何より褒められますからね
敵は妖刀で【串刺し】或いは斬撃から【衝撃波】を放って広く【蹂躙】を

いや力凄いですね…!
胸ぐらを掴む無礼な手は斬り落としてしまいましょうか
ハートの女王もそんな感じの事を言ってたと知っておりますよ、私は

しかし流石のハレルヤでもわからない事があるのですが
家族とは死を望んで与えてくる輩を指す言葉なのですか?
もしそうならば、私だったら要らないですねえ


都槻・綾
家族に対するなさりようとは
到底思えませんね

立ち回りは
ネージュさんを護ることを念頭第一に

身を包むオーラは破魔の結界
邪な心も
ネージュさんの胸倉を掴む悪しき手も
弾いて防御
彼女を苛む偽アリス達との間へ割り入る

お怪我は無いですか

どんな明日を描きますかと問うたあの日から
息災でいらしたかしら
幸いな日々を過ごしていたかしら
覚えて居ても
忘れて居ても
どちらでも良いの

生きてさえいれば
いつか互いの道が交わるかもしれない、
そんな楽しみが私は嬉しい

今は伝わらなくても
ただ柔らに笑んで

陶器の腕を焦がす火傷の痛みもまた
生の証だろうか
自身を見下ろす眼差しには感情の色は乗らぬまま

詠う花筐
清浄なる真白き花嵐で
欺瞞の穢れを濯ぎましょう


ソルティリア・ブレイズ
アドリブ/連携 歓迎
SPD

どうして同胞にそんなことができるんだよ、オウガの類とはいえ、アリスはアリスなんだし。
いや、何言っても無駄なんだろうねっ。でも、罪のない子を脅かす子は私、許さないよ。
もし殺そうとしていた場合なら――さらに許せないっ!

胸ぐらを掴んでいたらそう言いながらネージュから離す。

それでも襲うというのなら、話し合いは通じないとみなし――
その攻撃を見切って、妖刀・逢魔時の《貫通攻撃》とUCの合わせ技で集団できた偽のアリスを次々に貫いて救い出す。

お姉さんが来たからにはもぉ~大丈夫っ! だから安心していいよっ!
仲には優しいオウガだっているのにね……私の弟子みたいにさ。
どうして……。


クロム・ハクト
何かを果たせるなら惜しくはないが、
そうとは限らないならやっぱり迷うだろうな。

随分と身勝手なお願いをする家族も居たものだな。
仮初ですらない偽物の家族(アリス)なら当然か。

アリスを守るorこれ以上集中させないため、拷問具の糸をオブリビオンの腕に巻き付ける。
出来ることならUC咎力封じの拘束ロープか手枷で早々に動きを封じたいところだ。
引き離しアリスを巻き込まない状況に持ち込めたなら、UCで拘束し、断つ。
偽りの言葉もそこまでだ<猿轡

――それでも進む事を選ぶと思うのは、
今の自分があるのはそれを選んだからかもしれない、
そんな気持ちがどこかにあるからだろうか

アドリブOK


コーデリア・リンネル(サポート)
 アリス適合者の国民的スタア×アームドヒーローの女の子です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、機嫌が悪いと「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。

内気な性格のため、三点リーダーや読点多めの口調になります。
ですが人と話すのが嫌いでは無いため、
様々な登場人物とのアドリブ会話も歓迎です。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


曽我部・律(サポート)
『この力を得たことは後悔していない……』
『私以外の人間が不幸になるところを見過ごすことはできないんでね』
『こういうのには疎いんだが……ふむ、こんな感じか?』
とある事件で妻子を失い、その復讐の為にUDC研究を続けているUDCエージェントです。ですが、UDCを強引に肉体に融合させた副作用として徐々に生来の人格は失われつつあり、妻子の記憶も彼らの写真によって辛うじて繋ぎ止めています。
多重人格者としての別人格『絶』は凶悪なオブリビオンの存在を察知すると、律に代わって表に出てきて戦います。その際、口調は『おい律……うまそうな匂いがするじゃねぇか。代われよ』みたいな凶悪な感じになります。



●かぞく
 周囲はふかふかの雲。木々達もやわらかく身を傷付けないことは充分に知っている。
 けれど振り回し叩き付けられたなら、己の体重と速度そのもので間違いなく身体はこわれるだろう。
 震える白のアリスに、『アリス』達は目を細めた。アリスの絶望は、オウガの好物だ。
「──お願い、死んで?」
 甘いおねだり。紅い瞳に狂気が宿るのを見て取って、白のアリスはぎゅっと瞼を伏せて震える身を硬くした。
「随分と身勝手なお願いをする家族も居たものだな」
「ええ。家族に対するなさりようとは、到底思えませんね」
 涼やかな声と同時、白のアリス──ネージュは己が身が弾かれ空中に放り出されたのを感じた。思わず目を開くと同時、ふかふかの白黒熊がニッと牙を剥いて笑い、彼女の身体を掬い上げる。
「……まあ、仮初ですらない偽物の家族〈アリス〉なら当然か」
 ふわと軽い着地で下ろされた彼女が見たのは、彼女を吊り上げていた『アリス』の腕を弾いた男と、白黒の熊猫を繰る黒い狼耳の少年。そして彼女を護るべく迅速に『アリス』達との間に『ひと』の壁が出来た。
「お怪我は無いですか」
 攻撃を弾いた男が問うのにネージュが肯くと、次いで右目に大輪の牡丹の咲いた女と、白い狼耳の少年の視線が返った。
「久しぶりだね、かわいいアリス。──きみの笑顔を見に来たんだよ」
「お久しぶりです、『白のアリス』。……失礼、今はネージュさんでしたっけ」
 わざとらしく肩を竦めて見せた彼に少女が瞬くけれど、少年は一切頓着しない。
「まあどっちでもいいですし、覚えてなくてもいいですよ。なにがあろうともハレルヤの価値は揺るぎないので」
 「……憶えて、なくても」ぽつり零すネージュの前に立ち塞がった小柄な女がすらりと長く美しく妖しい刀を抜き、『アリス』達を睨めつける。
「どうして同胞にそんなことができるんだよ。オウガの類とはいえ、アリスはアリスなんだし、お前達の言い分を借りればこの子は『家族』なんだろう?」
 女の言葉にうさぎ耳の『アリス』達はきゃらきゃらと笑う。
「ええそうよ。なのにアリスったら私達を置いていこうとするんだもの」
「言うことを聞いてくれない悪い子には、おしおきしなくちゃいけないわ」
 まるで揺るぎなく当然のように告げる『アリス』達の様子に、女は肩が落ちるほどの息を吐き、そして金色の瞳がきらと光った。
「なに言っても無駄なんだろうねっ。でも、罪のない子を脅かす子は私、許さないよ」
 そして地を蹴り、刃が閃く。
「もし殺そうとしていた場合なら──さらに許せないっ!」
 鋭い突貫に『アリス』達が揺れた。

 ぱらり開いた桜色の扇。春霞に暈けたように見えた境・花世(はなひとや・f11024)の姿がふたつ分。右目に牡丹のあるかなしかの再葬──マチガイサガシ。
 かつても同じく彼女を護ってくれた姿にネージュの表情が僅か緩んだ。それを確認し、すこし待っていてねと微笑んだ『ひとり』が駆け出し、『ひとり』がネージュの傍で隙なく艶めく銃身を構える。
「全く、いつもながら惚れ惚れしてしまいますね」
 夏目・晴夜(f00145)(不夜狼・f00145)の言葉に、その澄んだアメジストの瞳の向く先に──熊猫を繰ったクロム・ハクト(f16294)(黒と白・f16294)は「……」迷った。
「……俺のことか?」
「ええ。このハレルヤが誰かを褒めることなんてほぼありませんから、誇ってくださって構いませんよ」
 ぴくりと自らこそ誇らしげに白い耳が揺れるのに、黒い耳は困惑を映し出して垂れる。
「あー……その、ありがとう?」
「どういたしまして。どうぞそのまま攻め込んでいただいて結構ですよ。ネージュさんの護りはこのハレルヤと牡丹の君とで担いましょう」
 それなら安心ですし、なにより褒められるでしょう? ニィと口角を上げる晴夜の表情は、もはや見慣れたものだ。
「──ああ、任せた」
 そしてクロムは幾多の拘束具を『アリス』達へと展開し、晴夜は彼からの信頼に軍帽を引き下げて妖刀を一閃した。

「……集団戦は得手ではないと言っているのにな」
 ひしめく『アリス』達の姿に曽我部・律(UDC喰いの多重人格者・f11298)はうんざりしたような溜息を零し、コーデリア・リンネル(月光の騎士・f22496)は菖蒲色の大きな瞳をぱちぱちと瞬いた。
 支援の転送先はいつだって唐突に判断を強いられる。
 コーデリアは周囲を見遣り、護るべき存在──戦場にいるすべての猟兵達が庇護に意識を割いている白い少女の傍へと迷いなく駆けた。
「お……っ、お手伝い、しますね……!」
 そうして展開する、光子銃と身を包む煌めくオーラ。移動速度を代償に攻撃威力と射程距離を増大するユーベルコードは誰かと共にただひとりを護り抜くのに適している。
『喰やいいんだろ、いつも通りだ』
「いや、」
 聞き捨てならない言葉を聞いたんだ。
 内なる人格である『絶』の促しに、律は微か首を振り、銃を握った。状況はよく判らぬまま、それでも──家族が家族を殺すと、そういう状況らしい。
「……悪いが、出番はやれそうにない」

「お姉さんが来たからにはもぉ~大丈夫っ! だから安心していいよっ!」
 『アリス』が投げつけてくる怪しげな小瓶を『妖刀・逢魔時』で叩き落として、快活な笑みをネージュに向け、ソルティリア・ブレイズ(過去の剣豪・f27901)は戦場を駆け抜ける。
 ちらと視線を遣ると、都槻・綾(糸遊・f01786)が柔らかな笑みを浮かべてその袖を何気ないふうを装ってふうわり揺らし、喚び起こすは真白の花嵐。世界を埋め尽くす花弁が、背後のネージュの視界を遮る。
 それを確認すると口角を吊り上げ、ソルティリアは鋭く踏み込んだ。
 彼女らを取り囲む『アリス』達と話が通じないことは既に明白。となれば、情けも容赦も必要ない。
「──ふッ」
 繰り出す切っ先は『アリス』の胸を貫いて──そしてソルティリアは力強く手首を捻り妖刀は敵をまっぷたつに掻き裂いた。見慣れた光景。彼女は更に次へと躍った。
「ネージュさん」
 幸いなことに、凄惨な光景は花嵐に紛れながら塵が如くに散り消えたけれど。綾はより白のアリスの気を惹くため、半身振り向いて彼女へ声を掛けた。
「どんな明日を描きますかと問うたあの日から、息災でいらしたかしら」
「……そくさい?」
「ああ、……幸いな日々を、過ごしていたかしら」
 齢十程度の少女に、彼の物言いは難しかったらしい。首を傾げるネージュに綾もふくりと笑う。
「覚えて居ても、忘れて居ても、どちらでも良いの。生きてさえいればいつか互いの道が交わるかもしれない、──そんな楽しみが私は嬉しい」
「……忘れてても?」
 ふたりの花世を見て安堵したことから、彼女が以前出逢った猟兵達のことを憶えていることは間違いない。それでもそう問うネージュの心境を察したなら、綾は唇に笑みを湛え続けた。

「これでも飲んでおくといいわ!」
「っ!」
 徐々に敵の数は減っているものの、次々と降り掛かる謎の薬液と腐ったミルクセーキはコーデリアの気力を大きく削っていた。
 小さな小瓶ひとつを撃ち落とすよりはと、コーデリアは展開した銃口から不可視の螺旋を周囲の敵へと叩き込んでいく。
「ねえ、あなたもアリスでしょう? ということはわたし達の家族でしょ?」
「あなただって家族に置いて行かれるなんて許せないわよね?」
 くすくす、くすくす。アリス適合者であるコーデリアへと浴びせかけられる言葉に動揺するほど彼女は未熟ではない。けれど。
「そこまで」
 ふわ、と舞ったのは牡丹の香。
 『アリス』達の間を縫うように過ぎた女の衣が躍る。ぱらら、と指先から敢えて零して見せるのは種。燔祭。彼女のUDCの媒介道具。
「女の子には似合いの可愛いピンクだよ、どうか受け取って──とびきりきれいな苗床になってみせてよ」
 コーデリアに向けた敵の言葉達に、白のアリスが震えるのを前衛にも後衛にもいる花世だからこそ気付くことができた。
 甲高い悲鳴を上げて『アリス』達が鮮やかな牡丹に浸食されていく。
「このッ!」
 首から大輪の花を咲かせながらも苛立ちも明らかに伸びて来る幼い手を、ひらりひらりと風に舞う花弁の如くに避ける。しかしそれにも限度がある。掴み上げられた胸ぐらを自覚すると同時、
「お願い、大人しくしていて?」
 世界が回った。
 白雲の中に叩き付けられる花世の姿を、ネージュが蒼白な顔で見つめる。
「……ごめん、なさい……」
 震える唇から零れた音。ユーベルコードで生み出された存在は、ただでさえ痛みに疎い花世の更に写し身だ。花世自身はそれを一切案じていない。けれど。
──震える肩を見守るしかできない自分は、花の咲いている方だったっけ?
 ああ、どちらが?
 ああ、なにが?
 ふるふる、かぶりを振って「アリス、」花世はあえかに微笑んだ。
「どうやらわたしも忘れてしまったみたい、」
 そのかんばせに困った様子は欠片もなくて。ネージュは蒼い表情のままそれでも純粋に疑問を浮かべて花世を見上げる。
 そんな彼女に見てごらんと指した先では、叩き付けられたはずの花世が変わらぬ速度で駆けていた。
「でもね。今ここにきみを守ると決めた心がある、駆けられる脚がある、──それだけで十分だ」
 そう言い切る彼女の左目は迷いなくまっすぐに、そして楽し気に前を見ていた。

「ねぇアリス。あなたなんて帰ったところでどうせ──、っ?!」
「偽りの言葉もそこまでだ」
 クロムの放った猿轡がうさぎ『アリス』のよく回る口を縛める。同時に放った拘束用のロープを掻い潜り、『アリス』は怒りに燃えた紅い目でクロムの胸ぐらを掴み上げた。
「──」
 なにを願われたのかは、判らない。ただ彼の身体は少女のものとは思えぬ速度で傍の樹の幹へと叩き付けられた。
「がッ……!」
 全身に響いた痛みに眩暈を感じつつ、クロムは霞む目を擦る。
「記憶を喪うかもしれなくても進むかどうか、か……」
 己の意識を引き寄せるため、彼は呟く。敵に思い切りぶち撒けられた強酸性の煮え滾る熱湯により動きを鈍らせた律が、聴くともなしにその呟きを耳にした。
「なにかを果たせるなら惜しくはないが、……そうとは限らないならやっぱり迷うだろうな」
 クロム自身も過去の記憶がない。けれど喪ってから得た記憶を再び喪うことを選ぶには彼は様々なことを経験してきた。喪ってなおなにも果たせない可能性に賭けるには、その賭け金は大きくなり過ぎていた。
 我知らず痛む腕で律も首に下げたロケットペンダントを握り締めた。力の代わりに喪いつつあるのは己の人格。境を喪い融けていく意識。
 いつか果たす目的のため。そう己を奮い立たせてきている。けれど。
 いつか『律』の人格が完全に喪われたとき。そうして得た力は、──妻と息子の仇討ちを果たすのか?
 力を得たことに後悔はない。それは揺るぎない感情だ。けれど同時に、思う。
「ふむ。……もう少し、『私』に付き合ってもらおうか」
 手放すことを望むわけでも、ないのだから。

 白く舞う花弁の中を、ひとりの『アリス』が高く跳んだ。その手にはティーポット。紅の瞳が綾を見て、注ぎ口から──なんてお上品さはまるでなく、蓋が吹き飛ぶ勢いで振り回した。
「ほら、あなたもお茶を楽しみましょ?」
「おや、まあ」
 咄嗟に袖で身を庇うも、しとどに濡れた袖の下、腕にはひどく灼ける痛みが広がる。
 痛み。そう確かに感じているのに、綾の表情は変わらない。
──これもまた、生の証だろうか。
「お茶の楽しみ方すらご存知ないとは嘆かわしいですね」
 しゃん、と鞘鳴り。奔った斬撃は綾へと躍り掛かった『アリス』を斬ると同時に妖力を纏って吹き飛ばした。
「ここの花達さえきちんとハレルヤをもてなしたというのに」
「そう、それはごめんあそばせ?」
「!」
 声は、背後から聞こえた。ネージュに迫った『アリス』の手。
 突き飛ばすようにふたりの間に身体を割り込んだなら、掴み上げられた胸ぐらに「いや力強いですね……!」晴夜は思わずツッコんだ。引き攣るように口角が上がるが楽しくはない。当然息も苦しい。
「……っ! っ、」
 けれど慌てふためいたのは、晴夜ではなかった。
「ネージュ、さん」
「っごめんなさい、ごめんなさい……っ、ごめんなさい……っ」
 チリ、と彼女の白い髪が光を放つ。頭を抱えて震える姿は、見覚えがあった。ユーベルコードの発動が近いのだろう。
 だが。
「や、れ、やれ」
──これしきでハレルヤが案じられるなんて、心外ですね。
 ネージュにユーベルコードは使わせない。視線を走らせる。その意を汲んだ仲間からの──クロムの放つ糸が、晴夜を掴み上げる『アリス』の手首へひょうと巻き付き、そして断ち斬った。
「ええ、無礼な手は斬り落としてしまいましょうか。御伽噺のハートの女王もそんな感じの事を言ってたと知っておりますよ、私は」
 空咳をひとつ。首に絡みつく手首をこともなげに払い落とすが早いか、大股で一歩踏み込むのは『アリス』の身体。駆け上がりにじる肩。くるりと妖刀を逆手に握った。
「──おや、怪我しておられる様子」
 白々しいまでの台詞と共に疵口へ振り下ろす切っ先に、絹を裂くような悲鳴が渡った。
 敵の身体を蹴り飛ばして花世がその肩に手を添えたネージュの隣へと着地すると、彼はいつものも無表情で淡々と告げた。
「謝るよりは、褒めてもらいたいのですが?」

 律の放つ記憶消去銃が『アリス』を吹き飛ばし、最後に残ったひとりをソルティリアの白刃が斬り伏せた。
 さらさらと消えていく姿に、ほんの僅か、ソルティリアは眉を寄せる。
「中には優しいオウガだっているのにね……私の弟子みたいにさ」
 どうして、と。口の中だけで零した言葉の続きが詮無き事だと、彼女自身も知っているが故にソルティリアは静かに瞼を伏せた。
「お怪我は無いですか」
 敢えて同じ言葉を繰り返してみせて、綾は悪戯っぽくネージュへと微笑む。
 しっかと花世の衣の端を握り締めていた彼女は未だ震えの残る身体で、それでも肯き、猟兵の面々へと礼を述べた。
「しかし流石のハレルヤでもわからない事があるのですが」
 束の間の休息のさ中、晴夜が首を傾げる。
「家族とは死を望んで与えてくる輩を指す言葉なのですか?」
「っ、」
「もしそうならば、私だったら要らないですねえ」
 つまらなそうな口振り。至極もっともなことを述べているとでも言いたげに、雲の上に脚を放り出して告げる彼は、軍帽の下からネージュを窺う。
 繰り返された謝罪は、『誰に』向けられたものだったのだろう。
 この戦闘が、ネージュの喪われた記憶を刺激するはずと転送の前に聞いている。クロムはそっと足許の熊猫へと視線を落とす。
 喪うかもしれない今と、それでも進む決意を天秤に乗せて、迷って、迷って。
──それでも進む事を選ぶと思うのは。
 今の自分があるのは、それを選んだからかもしれない……そんな気持ちがどこかにあるからだろうか。

「……わたし、」

 少女は小さく、口を開いた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『リカイシャ』

POW   :    どうして帰りたいの?
自身が【疑問】を感じると、レベル×1体の【アリスが元の世界で体験したトラウマ】が召喚される。アリスが元の世界で体験したトラウマは疑問を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD   :    どうして帰りたくないの?
自身が【疑問】を感じると、レベル×1体の【アリスがこの世界で体験したトラウマ】が召喚される。アリスがこの世界で体験したトラウマは疑問を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    どうして“  ”たいの?
対象の攻撃を軽減する【傷一つ付かない外殻を持つ姿】に変身しつつ、【物理攻撃も魔法も全てを喰らう口】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はサフィリア・ラズワルドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●記憶の欠片
 ブールドネージュ──ネージュは、縮こまったまま絞り出すように声を出した。
「……たぶん、わたし、家族に、さっきの子達と同じこと、……されてた」
(まったく、役に立たない子ね)
(はは、役には立つだろう。ほら来い■■、お仕置きだ)
 その後の記憶はない。
「……防衛反応、でしょうね」
 ぽつりと誰かが零す。
 つらい記憶を敢えて消すことで身を護る手段。おそらく雲海の国に来たことによる弊害以外にも、彼女の記憶の蓋をしているものがあったということなのだろう。
「……その、後はどうだ?」
 誰かが探るように問う。
「その、あと?」
 ネージュは首を傾げる。
 そして首を振る。
「……わからない……」
 今の彼女にとって『家族』は彼女を害すものでしかない。──雲海の国の、お菓子の名を持つアリス達以外は。
 ふかふかの雲の上に蹲って震えるネージュの肩を誰かが抱き締める。
 そこへ、ふわりと蒼い姿が浮かび上がった。
 それは──リカイシャ。
「可哀想なアリス」
 それは、ぼたぼたと黒い雫のようなものを眼窩から零し、優しい声音で告げる。
「どうして帰りたいの? ──帰ってもあなたには歓迎してくれる『家族』なんて居ないのに」
 猟兵達は直感的に知る。
 このオウガが、アサイラムからアリス候補達を掬い上げてきた存在であることを。
「どうして帰りたくないの? ──ここに居たとしても、またデスゲームが始まるかもしれないのに。今度はあなたが『家族』を殺すかもしれないのに」
「っ、」
「ねえ、」
 リカイシャは、彼女の前にふよりふよりと浮いたまま、問いを重ねる。

「どうして“  ”たいの?」

 
都槻・綾
どうしてでしょうねぇ

ネージュさんが翻弄されぬよう
或いは
惑わされても其れで良いのだと
少女の頭を撫で
敢えて妖の言質を取って
齎された呪を解していく、破魔

悩まずに済むのなら
進むも戻るも
ずっと楽なことかもしれないのに

答えに惑うのは
あなたがアリスだからでも
記憶が欠けているからでも、無いの
私達もみんな同じ

誰もが生きるのは初めてで
たったひとつのいのちだから

失くしたくないもの
忘れたくないもの
耳を塞ぎたいもの
無かったことにしたいもの

喜びと苦しさの中で
歩む道を
在りたい場所を
探し続けているのです

詠唱は高速なれど
構える符はゆるり
僅かでも動きを鈍らせられたなら
皆様の刃が仕留めるとの信頼のもと
馨遙でリカイシャを眠りへ誘おう


華倉・朱里(サポート)
 桜の精のサウンドソルジャー×闇医者の女の子です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
 時々「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

あまり感情は大げさには表さないクールで物静かな感じの少女で
慌てる事は少なく、また仕事は淡々とこなしていくタイプです。
花や動物などの自然が好きです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


ソルティリア・ブレイズ
アドリブ/連携 歓迎

これが……黒幕だって言うのか? そんな事は今どうだっていいか。
人の未来や命運を誰かに揺さぶられるっていうの、私は凄く嫌いなんだ。
家族が嫌い? 嫌いじゃない? どっちでもいいから、嫌な事をしてきたら思いっきり叫べばいい、アレなら一発殴ってみるのもいいんじゃないか?
ま、それをやるにしても、アンタみたいな奴がいたら話にならねぇか。

自分の未来は自分で切り開けと言わんばかりにUCを発動し、剣に変身。リカイシャに向かって、何度も突進し突き破ろうとする。剣に傷が入れば、自身も傷を負う、それは未来を切り開くのは簡単な事じゃないと示唆しているかのようだ。

さ、君の答えは? アリスさん。


境・花世
どうして? 意味のないことを聞くね

生まれ揺蕩う幾つものトラウマから、
アリスを守るように位置取って
躰を侵食する花を千と散らして迎撃しよう

過去はいとおしい/おぞましいんだろう
未来はすばらしい/おそろしいんだろう
だけど触れない、どうしようも出来ない
動かせるのは今の自分の手足だけだ
動いてるのは、この瞬間の心なんだ

――どうか、きみの心が向かう方へ

いざとなれば身を挺してでも彼女を庇おう
痛いかも、とか、この後のこと、よりも
心を捻じ曲げる方が辛いや
今、ただ、そうしたかったんだ

流れる血さえも鮮やかな花びらに変えて
恐怖も絶望も切り裂いて
今を塗り替えて世界を埋め尽くそう
理由なんていらない、間違っていても、それでいい


夏目・晴夜
あまり喋らないで下さいよ、笑いすぎて死にそうです
だってどうしてどうしてって先程から尋ねてばかりで
知らない事ばかりで何も理解できていないではないですか

まあ私もネージュさんの事はまだ全然知りませんが
でもネージュさんに、おねえちゃんに会いたいと大泣きして頑張っている少年を知っている分、私のが上です
格上は格上らしく、召喚されたトラウマを残さず食べて差し上げます
もしネージュさんが此処に残る道を選んでも、それはそれで良いと思いますよ
その時は怖い目に合う前にまた皆で助けにきてあげます

何が正しいかなんて誰にもわかりません
沢山悩んで決めた道を行く他ないのです
おっと失礼、未来のない塵芥の前でする話ではないですね!


六代目・松座衛門(サポート)
ヤドリガミの人形遣い×UDCメカニック。人形を用いて異形(オブリビオン)を狩る人形操術「鬼猟流」の使い手です。
 ヤドリガミの特徴である本体は、腰に付けている十字形の人形操作板です。
 普段は「自分、~君、~さん、だ、だろう、なのか?)」と砕けた口調で、戦闘中は言い捨てを多用します。

UCは全て人形を介した物で、非常に多数の敵を相手にする場合以外は、人形「暁闇」か、その場にある生物を模った物を操り戦います。

人形「暁闇」:「鬼猟流」に最適化された人形で、自律しません。操作糸を介した操作の他、ワイヤーガンやフレイルのように扱いつつ、UCを発動させます。

機械的な仕掛け(からくり等)に興味があります。


クロム・ハクト
進むには直視しなければならないものもあるんだろうが、
不安を膨れ上がらせるばかりのものはいらないな。
余計に必要なものが見えなくなる。
ひとつひとつ片付けていくまでだ。

他のことを思い出せないにしても、
余計なものを消していって判断を絞れるようにという気持ち。

先程の言葉がアリスに棘になっていなければ良いがと思いつつ。

拷問具で対処しきれないと感じたならUCを使用。
この身体なら、余計なものを視界に入れない事にもいくらか都合が良い。
(アリスの視界から隠す、トラウマを屠る際にその様子を見えにくくする等)
仕舞うのに支障あるor不安和らげるに足ると判断したらからくり人形を一時アリスに。

アドリブOK



●リカイシャ
 ねえ、と優しい声音で問うリカイシャ。
「どうして?」
「どう、して……」
 震える、ネージュ。
「わ、わたし、」

「あっはっはっは!」

 反響をあまり返さぬはずの雲海の国で、それでも響き渡ったのは哄笑。
 明らかに楽し気な──楽しくない笑い声。嘲笑。軍帽を抑えて高い高い空を仰いで大口で笑った夏目・晴夜は、すいと顎を引くとそのつばの下からアメジストの双眸で一転静かに敵を睨め据えた。
「──あまり喋らないで下さいよ、……笑い過ぎて死にそうです」
 傍らの白柴から受け取った妖刀の切っ先を差し向けて、立ち上がった彼は吐き捨てる。
「どうしてどうしてって先程から訊ねてばかりで、知らない事ばかりで。何も理解できていないではないですか」
 “理解者”が聞いて笑わせる。
 彼の少し後ろでは、ソルティリア・ブレイズも怪訝な表情を隠さない。
「これが……黒幕だって言うのか?」
 大したものではないと言外に告げる彼女も、呆れたように続けた。「ま、そんな事は今どうだっていいか」。
「人の未来や命運を誰かに揺さぶられるっていうの、私は凄く嫌いなんだ」
「……同感だな」
 じゃらりと太い枷のついた鎖を手許に滑らせて、クロム・ハクトも足許の雲を音もなくにじる。ひょうと風を切った枷は、勢いを得てリカイシャの不安定な身体を縛めた。
「確かに進むには直視しなければならないものもあるんだろうが、不安を膨れ上がらせるばかりのものはいらないな。──余計に必要なものが見えなくなる」
 「ああ」ソルティリアが是を返しながら刀を動けぬリカイシャへと刀を振るう。
「人は、自分で歩いて行く路を選べるんだよ!」
「見なければいけないものがあるなら、それ以外をひとつひとつ片付けていくまでだ」
 大きく斬り裂かれた傷へと晴夜が深々と刃を突き刺したなら、そこからまた黒い液体がぼたぼたと白い雲へ染みをつくった。
「どうして?」
 リカイシャの問いと共に浮かび上がったのは目が○と×になった猫のぬいぐるみ。その口許は血で汚れ、その爪は血で穢れている。──ロン。この雲海の国で彼女にデスゲームを迫ったトラウマの姿。
『アリス! 名も知らないアリス! きみには帰る場所なんてないよ!』
「ねえアリス──可哀想なアリス。どうしてあなたは選ばないの?」
「ひっ、」
「どうしてでしょうねぇ」
「どうして? 意味のないことを訊くね」
 大きく身を震わせたネージュの肩に手を添え、ぐ、と力を籠めて都槻・綾が常と変わらぬ笑みで告げるのと、彼女の壁となるべく一歩前に進み出た境・花世が唇に笑みを刷くのとが同時だった。
「それを聞いてどうするのかな」
 ふわり。牡丹の香が一層濃くなって、彼女の右目のUDC“絢爛たる百花の王”の浸食がその身に拡がっていく。血葬──イケニエ。
「それを訊く価値がきみにある?」
 ふわり。瞬きの間に花世の身体は紛い物のロンの眼前へと躍り出る。
「その答えを──“きみに”渡す必要はある?」
 ふわり。彼女の全身を覆った薄紅の花弁が弾けるように散って、ロンを貫き──過ぎてリカイシャへと襲い掛かった。薄紅と粘性の黒が舞い散る。
 リカイシャはいよいよ哀し気に身を捩らせた。

 少女の傍に寄り添った綾は、少女の混乱を感じ取っていた。彼女が心を乱さぬようにと策を講じることは、もはや初めから不可能だ。
 ならばとそっとその白い髪を撫でる。
「良いのですよ」
 ネージュは綾を見上げ、青磁の瞳を和らげてただ微笑む。
「迷っても悩んでも良いのです。確かに、帰ってからのことなんて誰にも判りませんね。ここに居たとしても、楽しいことばかりではないのかもしれません」
 そしてすこぅしだけ眉根を寄せて、困ったふうな顔をして見せる。
「……ほんとう、悩まずに済むのなら、進むも戻るもずっと楽なことかもしれないのに」
 そのたなごころをちょっぴり花世が振り返るのにちいさく綾は口角を緩めつつ。
『名も知らないアリス! 臆病者のアリス! きみのさいわいはどこにもないよ!』
「ええ──あなたにはどこにも見当たらないでしょう」
「、」
 鋭い爪を振りかざすロンの姿を一切顧みず、はらり中空へ撒くのは八十を超す数の帛紗。そのひとつひとつに眠りを誘う香を沁ませたそれは馨遙──ユメジコウ。
「皆様がおっしゃっているとおりですよ。ネージュさんさいわいは、あなたが決めるものではないの」
 動きの鈍ったロンの顔面を斬り裂いたのは、皮肉にも鋭い鉤爪。ばさりと黒衣が舞ってその姿は──その人形は掻き消えた幻影にも構わず同じく動きを鈍らせていたリカイシャへと躍り掛かった。
 リカイシャの悲鳴とも呻きともつかぬ声が零れる。
 十字の操作盤で人形『暁闇』を繰るのは六代目・松座衛門(とある人形操術の亡霊・f02931)。やれやれと彼は息を吐く。
「またややこしそうなところに来たなぁ。とにかく──この『鬼猟流』がお相手する」
 絡繰りではなく幻惑。理論ではなく感情を揺るがす世界。幾多の戦いの経験のある彼もあまり渡ることのない場所だ。それでも、やることはひとつだ。
 ぎゅる、と手にした操作盤を捻りつつ引く。消えたはずのロンが再び現れ、構えるよりも先に『暁闇』の爪が容赦なくその首を掻いた。
 次々と生み出されるトラウマ──偽物のロンの咢が、ガクリと壊れたみたいに開いて、文字通りに剥かれた牙がネージュへと向く。
「アリス!」
 飛び出したのは、咄嗟でも無策でもなかった。
 痛いかも、とか。この後のこと、よりも。
──今、ただ、そうしたかったんだ。
 その心を捻じ曲げるほうがつらいや、と小さく笑った花世の左腕が、ぶつりと飛んだ。
 薄紅の中に鮮血が溢れ出た。
 一瞬の判断でクロムは自らの親指を噛み切り、溢れた血を帳としてその身を五メートルにも及ぶ巨大な狼の姿へと変えた。その巨躯はネージュの視界を遮る。
 現れた大狼の姿に花世はうっすらと微笑み、その溢れる血をも花弁へと変えていく。
「……理由なんていらない。間違っていても、それでいい」
 零す声音は、誰に聞かせるでもなく。
 そこに意地のいろが滲むでもなく。
 ただの、本音。
「……無茶は、いけないの」
 牡丹の花弁の中に、桜がすいと割り込んだ。ぱちり、瞬いた花世の左目が捉えたのは、華倉・朱里(桜の精のサウンドソルジャー・f25828)。彼女の手には、大型のノコギリ。そして拾い上げた、花世の腕。
「あなた達人間は、時々とんでもないことを平気でするから、驚くわ」
「あ、はは」
──……だって、
 笑って誤魔化そうとする花世に構わず、僅かたりとも驚いた様子のない表情で告げて、朱里は淡々となくなった場所に腕を添えて刃を寄せた。
「私の領分は癒すこと。痛みには強いのよね?」
 ギタギタ血まみれ外科手術が、発動した。

「ねえ──どうして帰りたいの?」
『おい■■! また隠れやがって、あのガキ!』
『ああもう、本当に面倒臭い子ね』
 響いたダミ声に、ネージュの身体がひと際震えた。『アリスが元の世界で体験したトラウマ』とやらが、あれなのだろう。
 普段よりもずっと高くなった視野で見下ろすと、それはどこにでもいるような普通の、ただ少し柄の悪いだけの男とヒステリックなだけの女に見えた。
 しかしそれが、ネージュにとってはなによりも恐ろしいものだったのだろうと、察することはできる。クロムはそっと銜えた相棒を──ふかふかの白黒の熊猫の人形をネージュに押し付けた。
「預かっていてくれ」
 くぐもった声で伝えれば、彼女は肯いて震える手でそれを受け取り、胸に抱き締めた。
──これは、直視しなければいけないものか?
 その判断は、彼には付かない。けれど、彼女に、ネージュに見て欲しいものが他にあるのは、間違いないから。そのためにリカイシャが“余計なもの”であることに、間違いはないだろう。
 クロムは断じた。巨躯に見合わぬ俊敏な跳躍でひと息に距離を殺し男と女を蹴散らし、リカイシャの気味悪く柔らかな蒼い身体を裂いた。ぼたぼたぼたっ、と黒い液体がまた、散る。
 リカイシャは“理解者”。問いを投げかけ、なによりも対象を理解しようと寄り添う者。そしてリカイシャは“離開者”。塞がっているはずの対象の傷を開き暴かんとする者。
 その存在の悍ましさに気付いたのはクロムだけではない。ソルティリアも眉を歪めて、ネージュに問う。
「あれが君の家族なのかな?」
「……うん……」
 男と女はまだなにか喚いている。小さく息を吐き、朱里が黙ってギターを弾き始める。その音は決して煩くはなかったけれど、不快な音だけを巧みに掻き消した。
「事情は知らないけれど、私……あなた達のその音は好きではないの」
 彼女のギターによってネージュの表情が僅かながらでも和らいだのを見てとって、ソルティリアは感謝の眼差しを朱里に送り、そして彼女はネージュに向き直った。
「家族が嫌い? 嫌いじゃない?」
「!」
 誰も口にしなかった、直球の問い。ネージュの赤い瞳がまんまるに見開いた。
 ソルティリアはニッと口角を上げると、拳を握って見せた。娘の手というより、職人のそれ。敢えて彼女は、答えを訊かない。
「どっちでもいいから、嫌な事をしてきたら思いっきり叫べばいい、アレなら一発殴ってみるのもいいんじゃないか?」
「……、そ、……そんな」
 想像したこともなかったのだろう。ネージュは一瞬、再び現れては近付いてきている男と女の幻影──『両親』のことを忘れたようにぽかんと口を開けた。
 その姿にソルティリアはひとつ肯いて肩越しに『両親』とリカイシャを睨んだ。
「ま、それをやるにしても、アイツみたいな奴がいたら話にならねぇか」
 低い声音は這うように。
──自分の未来は、自分で切り拓く……!
 輝いた彼女の身が、光と共に収束し、ひと振りの剣と成る。遂に叶う事のなかった神妖刀 -荒神-。我が身を転じることで爆発的な戦闘能力の増加を伴う彼女のユーベルコード。
 その刃は風を切り一閃し、クロムの足許を縫って『両親』とリカイシャを裂いた。
『ったく、ままならねぇなァ! おい■■!』
 ずたずたに斬り裂かれ掻き消えるその刹那。中空を踊る刀に苛立ちを隠さず、『両親』の男が刀を──ソルティリアを掴んだ。そしてネージュに向けて投げた。
『お前の所為だろうが!』
「!!」
 ひゅんひゅんひゅんっ、と弧を描いて刃が迫る。
 ネージュが全身を縮こまらせる。
 けれど。
「はいまあ私もネージュさんの事はまだ全然知りませんが」
 ぱしっ、とその柄を掴んだのは晴夜。そしてそのままリカイシャへ向けてひょうと投げ──リカイシャの身を深々と貫いた。
 彼を初め、ソルティリア自身も、──猟兵ら全員がなにひとつ焦ることはない。彼女を猟兵が傷付けることなど、有り得ないのだから。
 だから晴夜は何事もなかったかのように片眉を上げる。
「でもネージュさんに、おねえちゃんに会いたいと大泣きして頑張っている少年を知っている分、私のが上です」
「──」
 背後の少女の反応など、晴夜に見えるはずもない。彼は構わずただ謳い上げる。
「格上は格上らしく、喚された食事〈トラウマ〉は残さず食べて差し上げます」
『名も知らないアリス! 逃げたがりのアリス! 逃げてばかりの臆病アリス! 本当にこいつらは正しいのかなあ?』
「正しいに決まっているでしょう。このハレルヤなのですから。ですが、」
 ずずず、と纏う暗色の怨嗟が『悪食』を染め抜く。一歩。柔らかなはずの雲に強く強く踏み込んで振り抜く刃は呪詛を伴う衝撃波となってロンを両断し、
「ハレルヤ以外の方々には、何が正しいかなんて誰にもわからないでしょう。沢山悩んで決めた道を行く他ないのです」
 ──そのまま背後のリカイシャをも斬りつけた。黒い飛沫が散る。
「おっと失礼、未来のない塵芥の前でする話ではないですね!」
 晴夜の清々しいまでの哄笑が再び渡った。

 過去はいとおしい。あるいはおぞましいのだろう。
 未来はすばらしい。もしくはおそろしいのだろう。
「だけど触れない。どうしようも出来ない。動かせるのは今の自分の手足だけだ」
 ぐ、と元通りになった左の拳を握って確認しながら花世は更に更に花弁を散らす。
 薄紅がもはや浮かぶことすら困難になったリカイシャを覆い隠すように侵食していく。花世はゆるり振り返る。その左目がひたと見据えるのは、ネージュ。
「動いてるのは、この瞬間の心なんだ」
 だから。だから、どうか。彼女の祈りを籠めた視線の向こう側から、最期の問いが堆く重なった花弁の下から漏れ聞こえた。

「……どうして、 “逃げ”たいの、アリス?」


●拓かれた路
 辺り一面の白い雲が戦いの残響を全て吸い尽くし、静寂が訪れた頃。薄紅の花弁が風に流れたなら、その下にはもはやなにも残っていなかった。
 これで、少なくともこの『雲海の国』に新たなアリスがやってくることはない。
 ただじっと蹲って熊猫の人形を抱き締めるネージュの傍に、綾が膝をつく。
「答えに惑うのはあなたがアリスだからでも、記憶が欠けているからでも、ないの。私達もみんな同じ」
 その頬に掛かる白い髪を指先で払い、彼は言う。
「誰もが生きるのは初めてで、たったひとつのいのちだから、失くしたくないもの、忘れたくないもの、耳を塞ぎたいもの、──無かったことにしたいもの。喜びと苦しさの中で歩む道を、在りたい場所を、探し続けているのです」
 だから迷ってもいいのだと告げる綾の傍らで、花世も両の膝を揃えて柔らかい雲の上につきネージュの表情を覗き込む。そのいろは恐怖? 絶望?
 きみは今を、塗り替えることができる?
「迷ってもいい。悩んでもいい。ただ、わたし達には動く心があるから」
 ……──どうか、きみの心が向かう方へ。
 大狼の姿から元の形に戻ったクロムもただ俯いているネージュを見守る。そんな彼らの中で、晴夜はあっさりと肩を竦めて見せた。
「まあ私は、もしネージュさんが此処に残る道を選んでも、それはそれで良いと思いますよ。その時は怖い目に遭う前にまた皆で助けにきてあげます」
 家族が怖いんでしょう?
 彼の言葉に、ネージュは顔を上げた。白い人狼は飄然と首を傾げる。
「『家族』が死を望んで与えてくる輩を指す言葉なのであれば要らない──という言葉を、ハレルヤは撤回する気はありませんから。ただ、」
 そこで言葉を一旦切って、晴夜はぴくりと耳を揺らした。
「──あなたの『家族』は、本当に“あれ”だけだったんでしょうか」
「……!」
 赤い目が見開く。
 白雲の感触を確かめていた松座衛門も振り返る。自分も事情は詳しくは知らないけど、と言い置いて。
「家族じゃなくてもいいだろうと思いはするけどな。もし『家族』って言葉が受け容れられないなら、『繋がり』ならどうだ? 大切にしたい『繋がり』はなんだ、って」
 歴代『鬼猟流』を継承していた彼らにとって、そしてヤドリガミたる彼自身にとって、先代達の在り様は『家族』とはまた違う。だが、それは揺るがすことのできないほど彼の芯になってしまっている。
 ソルティリアは掌を道の先へと差し向けた。
 そこには、鮮やかな色合いの花々が咲いているのが見えた。

「さ、君の答えは? アリスさん」
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 冒険 『なぞなぞ花園』

POW   :    赤い花のなぞなぞに答える

SPD   :    青い花のなぞなぞに答える

WIZ   :    黄色い花のなぞなぞに答える

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●三色の花園
 そこは雲海の国。
 ふわふわで真っ白な雲で出来ている、と道端に咲く花々は言う。
 その雲で出来た道を進んだ先には、赤い花と、青い花と、黄色の花で彩られた花園と、──白い扉。
 ブールドネージュ──ネージュは扉を確認すると怯えたような、困惑したような表情を浮かべた。
「あれがきみの扉?」
 誰かが問えば、彼女はこっくりと肯く。
 そして少女の代わりに花々が答えた。
『そう。世界でたったひとつの扉』
『アリスのための扉』
『でもアリス。あなたはまだ決めてない』
『扉をくぐるか、決めてない』
 花々達のあけすけな台詞にネージュは俯く。喪った過去は、一部分思い出した。しかし彼女が最初に悩んだ問題は、なにひとつとして解決はされておらず──これからもされることはない。
(……だって、帰ったところで記憶が戻るなんて保証もないでしょう? 『こちら』の記憶だって持っていけるか判らないわ。となったら……知らない世界に、またひとりぼっちでしょう?)
(私なら、ここに居ることを選ぶわ)
 他のアリス達が言っていた可能性は、確かに在り続けている。
 少女の瞳が翳る。
 すると赤い花が言った。
『ねえアリス。雲海の国は良いところよ。もう襲ってくるオウガも居ないわ? せっかく新しい家族も出来たじゃない。わざわざ記憶を喪って帰ることになんの意味があるの?』
 すると青い花が言った。
『ねえアリス。記憶を喪う可能性はあるわ。けれど、記憶を喪わない可能性だってあるのではなくて? ここで躊躇する必要がどうしてあるの? 帰って復讐でもなんでもしたらいいのだわ』
 すると黄色の花が言った。
『ねえアリス。過去を忘れてしまっても良いじゃない。貴女はとてもつよいもの。この国に馴染んだ貴女なら、元の世界でひとりぼっちになったって平気じゃないの?』
「……っ、」
 ネージュは答えられない。
 おそらく、彼女にいくら促し確認したところで、現状では答えは出ないだろう。あるいはそれを望むなら、促し続けるのも良いのかもしれない。
 しかしそれを望まないのであれば、花々の問いに『己が白のアリスの立場だったら』と想定して『己なりの答え』を返すしかないだろう。どの花の問いに答えるかは、喋る花と同じ色の花を一輪摘めばいい。
 猟兵達の考えを聞いた上でなら、ネージュも自分の答えを導き出すことができるに違いない。

 記憶を喪い、新しい『世界』に来た。
 その『世界』で、新しい仲間を、家族を、繋がりを得た。
 その記憶を喪うかもしれない危険性を承知で、元の世界に戻るかどうか。
 戻ったところで喪った記憶とて戻るとは限らない扉を、くぐるかどうか。

「……教えて、ください」
 少女は猟兵へと頭を下げた。
 
夏目・晴夜
私だったら、青い花を摘んで
ええ、仰る通り!
喪う事は怖いですが、立ち止まるのは絶対に嫌です。ハレルヤらしくないので

単純すぎて格好悪いですか?
でも、たとえ何かを喪おうとも譲れぬものがあるのです
私は如何なる時でもハレルヤらしく在りたい

そして私は、ナツ少年が待つ世界へ帰ってあげて欲しいと思っています
ユキおねえちゃんを思う彼の気持ちは何があっても揺るぎないでしょう
たとえ忘れられたとしても

ですが本人の気持ちを一番に尊重したく
記憶を喪ってでも、という決意も
記憶も今の家族も喪いたくない、という決断も
どちらも勇気が要りますよね
しかしどの道を選んでも貴女は独りにはなりません
どうぞ悩んで貴女らしい答えを、心のままに


ティモシー・レンツ(サポート)
基本は『ポンコツ占い師』または『本体を偽るヤドリガミ』です。
カミヤドリも魔法のカードも、「Lv依存の枚数」でしか出ません。(基本的に数え間違えて、実際より少なく宣言します)
戦闘についてはそれなりですが、戦闘以外は若干ポンコツ風味です。(本体はLv組で出せない、UCの枚数宣言や集団戦は数え間違える、UCを使わない占いは言わずもがな)

探しものは疑似妖精(UC)か占い(外れる)で頑張りますが、多くの場合は有効活用を思いつけずにマンパワーで探します。
猟兵としての体力は、可もなく不可もなく。
「本体が無事なら再生する」性質を忘れがちのため、普通の人と同じように危険は避けます。


マルコ・ガブリエル(サポート)
『初めまして、わたくしはマルコと申します』
『皆様を苦しめるのであれば、わたくしも情けは捨てましょう!』
『まあ、なんて美味しそう……! 宜しければ、一緒にいかがですか?』
笑顔が魅力的で朗らかな女の子です。実は故郷を滅ぼされて天涯孤独の身ですが、そうした悲壮感を仲間に感じさせることはなく、いつも明るく振る舞っています。
誰に対しても優しく、敵にさえ「できれば戦わず、穏便に事件を解決したい」と考えるような優しい性格ですが、無辜の人々を苦しめる悪い奴には心を鬼にして全力で攻撃をお見舞いします。
美味しいもの、特に焼肉をみんなで食べるのが大好きで、無事に事件解決した後はよく他の猟兵をご飯に誘おうとします。


都槻・綾
何色にも変われる可能性の白、「雪」色の花
無ければ「夏」空色の青を一輪

私なら
何処でより
どう生きたいかで道を選ぶかしら

気持ちを伝える言語を持たないのなら
あらゆることを学ぶ道もあるでしょう

大切にしたいものを
傷つけることが怖いのなら
制御して活かせる道を――猟兵として歩むのも良い

でもね
知れば知る程
力を己が物にしてさえ
儘ならないことが世には溢れていて
私もまだ一足ごとに惑うの

そんな時は
立ち止まっても良いのです
俯いた足元に
草木が芽吹いているかもしれない

可能性の種や芽を見つけて
咲かせていってほしい

御守りに渡す霊符
何処に居ても「帰る場所」があるのだと言う安堵のまじない
ふわり笑んで

行ってらっしゃい
そして
お帰りなさい


クロム・ハクト
扉を見つける条件ってなんだろうな。
辿り着いて見つけたから、
それは確かなんだろうけど、
条件が、準備が整ったから、
そう思ってもいいんじゃないかと、俺は思う。

扉をくぐった先でも生きていける術を身に着けたから、
生きていく術といっても、この場合はその先を耐えられる心の持ち方といった話になるか。

これは真実とは違うかもしれない、
あくまでそういう事にして自分を納得させる、そういう話だ。

例えその覚悟を忘れてしまっても、残っている感覚や今回のように何かの拍子で思い出すこともあるだろう。

なんだか問いの答えになっていない気もするな。

要はそう思って扉をくぐる、そういう話だ。


境・花世
わたしもね、故郷を覚えていないんだ
花に食い尽くされた記憶のなかに
どんな大切があったかも知れないまま

ただ否応なしに咲いている、
寄る辺のないいきものだ

だから、そうだね、もし、
在るべき世界が待っていて、
そこではわたしが望まれるなら
川を流れ去ってく花びらみたいに、
此の岸から跡形もなく消えたって良かった

……今は約束があるから、
勝手にはいなくなれないけど

すこし困ったみたいに首を傾げて、
ネージュの髪をさらさらと撫でる

こわいの、沢山我慢して、がんばったね
きみがうんとやさしい子だって知ってる
「あの子」も、ここのアリスたちも、
きっとみんなネージュを好きだから

もう逃げるためでなくていい
きみの居場所を、選んでおゆき



●扉の前
 美しい花園と、白い扉。俯いたままの、白い髪のアリス。
「ええと、この子が歩むべき道を占えばいいんだね」
 放り出された世界の物語に瞬いたティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)はそう言って、いそいそと艶めく水晶玉を取り出した。それに両手をかざし、覗き込む。
「見えた! 見えました! あなたの進むべき道は、虹色に彩られて──え? 三色の中から選ぶの?」
 意気揚々と顔を上げた彼に、花園に咲く赤い花があらだめよ、と食い気味に伝えた所為でティモシーの占いはもはや見慣れた顛末を迎えた。うう、何度目だろうか、こんなやりとりも。
 そんな彼に淡く笑んで都槻・綾は小さくかぶりを振った。
「いいえ。きっとあながち間違いでもありませんよ」
 なにせと見遣るのは少女の姿。綾とて選べるものなら三色に拘らず白を選びたかった。
 なに色にも変わることのできる可能性の白。『雪』色の花。
 それは言い換えるならば、ティモシーの言う虹色の可能性だろう。
「私なら“何処で”より、“どう生きたいか”で道を選ぶかしら」
 軽く首を捻りながら、けれど揺れぬ青磁でただ穏やかに綾は少女を見つめる。紡ぐ言葉はうたうように。
 気持ちを伝える言語を持たないのなら、あらゆることを学ぶ道もあるでしょう、と。
「大切にしたいものを傷つけることが怖いのなら、制御して活かせる道を――猟兵として歩むのも良い」
 綾の提案に黙したままクロム・ハクトも小さく肯く。山の上の城の如きあの場所で泣きじゃくる少年にも提案したこと。
 実際のところ──ユーベルコードを使用できたとしても、世界に選ばれない限り猟兵になることはない。それはヒーローズアースやサクラミラージュの人々から伺い知ることができる。
 そんなことは知っている。それでも、路がないわけではないと伝えたかったから。
 それが『己なりの答え』だったから。
『ねえアリス。過去を忘れてしまっても良いじゃない。貴女はとてもつよいもの。この国に馴染んだ貴女なら、元の世界でひとりぼっちになったって平気じゃないの?』
 遠く離れていく見知った背中を見送ったマルコ・ガブリエル(焼肉天使・f09505)は黄色の花の声を聴いて、くるりと少女に向き直るといつも通りの朗らかな笑顔を浮かべ、そっと彼女の手をとり柔らかな雲に両膝をついた。
「初めまして、わたくしはマルコと申します。あなたの、お名前は?」
「わたし、……」
 ブールドネージュ。この雲海の国でもらった名前があるはずなのに、少女はなぜかそれを口にしない。
 先程の家族に呼ばれていた、はっきりとは聴こえなかった名前の存在が彼女を揺らす。
 躊躇う少女の姿に「困らせてしまいましたか、ごめんなさい」マルコは小首を傾げて、握る手にやんわりと力を籠めた。
 これまで出逢ってきた者は敵であろうと、例えばキマイラフューチャーの個性的な怪人であろうとも彼女は否定しなかった。
 黄色の花は言った。元の世界でひとりぼっちになっても平気なのではと。
「──いいえ」
 それでも、花の言葉を受け容れることはできなかった。彼女は静かに、けれど靭い声で花へ応え、少女を見つめる。喪った故郷。孤独の恐怖と苦しみをマルコも憶えている。
 幼いこの手が受け止められるものであるかなど、花が知ることではあるまい。
「ひとりは、恐ろしいですわね」
 優しい声音が少女に寄り添う。
 ふわと衣の袖を泳がせて、境・花世も少女の前に膝をついた。マルコの言葉に、瞳の翳に、察するところはあった。
「わたしもね、故郷を覚えていないんだ」
 赤い瞳を瞬いた少女が花世を見る。
 そっと指先に触れるのは、右目があるべき場所に艶やかに咲いた牡丹。それはUDC〈アンディファインド・クリーチャー〉、“絢爛たる百花の王”。
「花に食い尽くされた記憶のなかに、どんな大切があったかも知れないまま──……ただ否応なしに咲いている、寄る辺のないいきものだ」
 ぽつりと零した言葉は、切なさを含んでいただろうか。
 おそらく、“否”だ。
 言葉通りただ花が咲くように、女はからりと笑った。
「だから、そうだね、もし、……在るべき世界が待っていて、そこではわたしが望まれるなら。川を流れ去ってく花びらみたいに、此の岸から跡形もなく消えたって良かった」
 ちらと見据えるのは赤い花。
 例えば雲海の国が “花”に根を下ろすことを最初に許してくれたなら、それを選ぶ手段もあっただろう。けれど。
 そこで『は』。
 当たり前のようにさらりと告げられた言葉に潜むちいさな翳りに、少女が気付くことができたのは、それと同じことをロンに言われたからだろう。
 薄紅の牡丹は根付くことを許されることなく今に至り、日々を揺蕩い生きている。そういうことらしい。
 窺うみたいな、気遣うみたいな少女の視線に、花世はやわく微笑んで少女の髪をさらりと撫でた。
「……今は約束があるから、勝手にはいなくなれないけど」
 すこし困ったように小首を傾げる彼女の左目には“それ”だけではないいろが宿っているように見えて。少女は優しい掌の感触も相俟ってこくりと肯く。
 ようやく僅かばかりに張り詰めていた緊張が和らいだのを見て取って、クロムは小さく息を吐く。
 誰かを慰めるとか慮るとか、そういうことは嫌いではないが、得意でもない。仕事だけを使命としてきた彼にとっては仕方のないことだろう。
──俺なりの答え、か。
 それでも向き合う。真っ向から自らの経験に引き寄せて考える。
 彼自身が気付いているかどうかは判らないが、その誠実さはクロムの特長だと言えた。
 鮮やかに咲き誇る花々を見渡して、それから「……そもそも、」彼は白い扉を見た。
「扉を見つける条件ってなんだろうな」
 独白にも似たその言葉に、少女もクロムを見上げる。その視線を受けて彼もちらと視線を返してから、もう一度扉を見据えた。ゆらり、彼の尾が揺れる。
「辿り着いて見つけたから、自分で見付けること──それは確かなんだろうが。条件が、準備が整ったから、……そう思ってもいいんじゃないかと、俺は思う」
「準備が、整ったから?」
 オウム返しに問う少女に、ああ、と彼は軽く首肯を返す。
「扉をくぐった先でも生きていける術を身に着けたから、──生きていく術といっても、この場合はその先を耐えられる心の持ち方といった話になるか」
 だからきっと、この扉を見つけた時点でアリスの準備は整っていて。
 扉を開くことに、迷う必要はないのではないかと。
 ああいや、とクロムはかしかしと黒い髪を掻き交ぜた。
「これは真実とは違うかもしれない、あくまでそういう事にして自分を納得させる、そういう話だ」
 例えその整った準備──覚悟を忘れてしまっても、残っている感覚や、今回の戦闘での出来事のように、なんらかの拍子に思い出すこともあるだろうと、自らの中にぼんやりと朧ろにまみえることのある“過去”を思い浮かべながら、彼は言う。
「……なんだか、問いの答えになっていない気もするけどな。まあ、要はそう思って扉をくぐる、ってことだ。……俺ならそうする」
『ええアリス。記憶を喪う可能性はあるわ。けれど、記憶を喪わない可能性だってあるのではなくて? ここで躊躇する必要がどうしてあるの? 帰って復讐でもなんでもしたらいいのだわ』
 ひたと黄金の瞳が見据えたのは青い花。見られた花が得意げにゆらゆら揺れる目の前で「ええ、仰る通り!」勢いよくぷちりと同じ色の花を一輪手折ったのは夏目・晴夜だ。
 その迷いのない手は、そのまま花を自らのボタンホールへと差した。
「喪う事は怖いですが、立ち止まるのは絶対に嫌です。ハレルヤらしくないので」
 ふぅと息を吐いて、晴夜は『訊くまでもないでしょう』とでも言いたげないつもどおりの自信に満ちた笑みを口許に刻んだ。
「単純すぎて格好悪いですか?」
「え、う、ううん──」
「なんと言ってくださっても結構ですよ。……でも、たとえ何かを喪おうとも譲れぬものがあるのです。私は如何なる時でもハレルヤらしく在りたい」
 自分が選んで来た道を自分が肯定しなければ、途方に暮れてしまうから。迷子になってしまうから。
 だから彼は、迷わない。
「まあ、ハレルヤのこの生き方を他の方に褒めてもらうのも歓迎ですけどね?」
 なんて、軽口を叩いて。そうですね、と彼はなにかを考える仕種をして真っ白な空へと視線を一旦やってから、アリスを見た。
「そして私は、ナツ少年が待つ世界へ帰ってあげて欲しいと思っています」
「!」
 はっきりと告げられたその名前に、アリスの心が大きく揺れた。赤い双眸がまんまるになる。それは期待だろうか。
 最初のこわい家族と、雲海の国のアリスと、そしてもうひとつの彼女の“家族”。
「おねえちゃんを思う彼の気持ちは何があっても揺るぎないでしょう。たとえ忘れられたとしても。──ねえ、ユキおねえちゃん」
「……ゆき……」
 ぽろぽろと、なにかが落ちる気がした。
 立ち竦む彼女の小さな頭を抱え込むように身を寄せて、花世はよしよしとその髪を撫で続ける。
「……こわいの、沢山我慢して、がんばったね」
 きみがうんとやさしい子だって知ってる。
 そう伝えるのは、ネージュが記憶を取り戻すことがない限り、あくまで推測でしかないけれど。猟兵達の持つ野生の勘、あるいは第六感が『きっと』と告げる。
「『あの子』も、ここのアリスたちも、きっとみんなネージュを、ユキを好きだから」
 しんぱい要らないんだよ、と。
 もう逃げるためでなくていいんだよ、と。

「きみの居場所を、選んでおゆき」

 ぱた、ぱた、と。小さく雲に雫が落ちていく。
「……足りないって、思ってたの」
 少女は子供らしくなく、しゃくりあげることもなくただ涙の筋を頬へつける。身に染みついているのだろう。声を上げずに泣く方法が。それは助けを求めることもできなかった過去を思わせる。
 しかし同時にクロムは思い起こす。教えてくださいと、救けを請うた彼女の姿を。しかと花世の袖を握るその手を。
 ひとつ手折るのは『夏』空色の青。
 あらゆることを学ぶ路を示し、たくさんのことを知り──あるいは思い出したとして。その先に待つのが幸福ばかりとは限らないだろう。
「……知れば知る程、力を己が物にしてさえ、儘ならないことが世には溢れていて。私もまだ一足ごとに惑うの」
 そう告げて綾は青い花を少女の髪に挿した。
 白い髪に、赤い瞳に青い花。鮮やかな彩りに彼は眦を緩めた。
「そんな時は立ち止まっても良いのです。そうしたら、俯いた足元に草木が芽吹いているかもしれない。可能性の種や芽を見つけて、咲かせていってほしいと、そう願います」
「ええ、もちろんハレルヤとて本人の気持ちを一番に尊重したく思っていますとも。記憶を喪ってでも、という決意も。記憶も今の家族も喪いたくない、という決断も」
 どちらも勇気が要りますよね。
 そう告げた晴夜のアメジストの双眸はどこかひどく儚く──けれどそう見えたのも一瞬のことだった。くいと顎を上げて、彼は言う。
「しかしどの道を選んでも貴女は独りにはなりません。どうぞ悩んで貴女らしい答えを、心のままに」
 猟兵達は、ただ静かに待った。
 彼女の選択を、ではなく、彼女が落ち着くのを。
 立ち止まってもいい。迷ってもいい。逃げなくもていい。それはきっと大切な準備期間だから。
 どれだけの時間が経っただろうか。
 あるいは、たった数分の間だったのかもしれない。
 頬を両手で擦り、マルコと花世にありがとうと告げてアリスは身を離し、彼女は綾を見上げて、ちいさく笑った。
「お願いがあるの」
「おや、なんでしょう」
「“家族”に伝えて。“ブールドネージュ”は、足りないものを探す明日を描いたって」
(貴女は『自分の扉』の向こうに、どんな明日を描きますか)
 軽く目を見張る綾の後ろで、クロムは微かに口角を上げてこっそりと肯く。彼の思ったとおり、彼女はきっと準備できていた。
 ひとつめの家族の中で喪われた助けを求める力を、彼女はふたつめの家族の中で喪ったことに気付き、みっつめの家族の中で取り戻していたのだろうから。
「あ、じゃあ爾今について占ってみますね。……『落石注意』……?」
 首を傾げるティモシーのそんな言葉を背に、猟兵達に見守られながらネージュあるいはユキと名乗るのだろう少女は白亜の扉を開いた。

●扉の先
 開いた先は──雲だった。
 否。
「!」
 扉の先。正確に言うと、開いた先の下方から吹き上げる風にユキの白い髪が暴れた。
 恐る恐る覗き込んだ先は、雲の下に山や、集落や、なにやらが見えた。
 それは所謂、普通の雲の上からの景色だった。高度は軽く眩暈がする程度。
「おお……石じゃなくてあなた自身が落ちるんだ……」
「……いやいやいや! 死ぬじゃないですか!」
 感動を返してくださいと言わんばかりに青い顔のユキに変わって晴夜が声を荒げたなら花々はころころと笑った。
『大丈夫よ』
『それはアリスのための扉』
『世界でたったひとつの扉』
『他の人はどうか知らないけれど、アリスは絶対大丈夫』
『そういうものよ』
 クロムと花世もついつい下を覗かずには居られないけれど、そう言うのであれば仕方がない。何度も何度も深呼吸をして覚悟を決めたユキへ、ふわりと笑んで綾は一枚の霊符を手渡した。
「何処に居ても『帰る場所』があるのだと言う御守りですよ」
 行ってらっしゃい。
 そして、──お帰りなさい。
「……ありがとう。……ありがとう!」
 符を握り締め、それから少女は扉の向こうへ飛び込んだ。

 ダウン、ダウン、ダウン──……。

 猟兵達に救われたアリスの物語はここで終わりを告げる。
 同時にきっと、またどこかで始まるのだろう。
 彼女だけの、物語が。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日


挿絵イラスト