ゲーム、青い鳥、あなたの欲望
#UDCアース
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会場は熱狂していた。
ーゲームで遊びましょう。
見知らぬ人と笑い、興じていた。
ーボードゲーム、カードゲーム。
人と遊ぶことは楽しい。
勝利を求めて相手の隙を伺い読み合い、探り合い。
ープレイは紳士的に、ルールに則って楽しく遊びましょう。
…ふいに、青い羽根が落ちてくる。
熱狂がさらに盛り上がる。大きい笑い声に怒声も混じりはじめる。
ーもしもあなたが次を望むなら、相手を貶めるようなプレイはいけません。
ふいに、黒い影が溢れる。
勝利を求めて人々が、互いにもみくちゃになって殺し合う。
ーもしもあなたが次を望むなら。
後には誰も、残らない。
●汝、遊戯卓へつかんや●
「つらい!」
イージー・ブロークンハートは財布を抱えて膝から崩れ落ちた。「あそこでなら勝てると思ったもん!!」嘆く。「つらい…あそこで予知こなかったら勝てたもん…」賭け事にボロ負けしたらしい。
のろのろ起き上がり猟兵たちを見回す。
まだ半泣きの涙目に頭を掻きつつ、椅子に座り直す。
「今回の舞台はUDCアース。ありふれた邪神復活計画。生贄大作戦だ」
テーブルの上には遊具。
「なんてこたないさ、ゲーム大会で盛り上がってそのままみんな殺し合って死んでおしまい」
サイコロ、トランプ、チップ。
「勝ちたいと思ったことはあるか?」
ゲーム。
「遊ぶ側じゃなくてもいい」イージーは財布からなけなしのコインを取り出した。「熱狂する場に飲み込まれて身を乗り出したことは?」
「勝ちたいと相手を狙うのは悪だろうか?」
弄びながら予知を語り、
「つまり会場の熱狂を儀式に使おうという企みなんだな」
取り落とす。「おっと」拾いにテーブル下へ潜りにいき、
硬いものが固いものに当たるひどい音がした。
「…思われるん、だが、どうもあの盛りあがりようはおかしいんだよな」
二度目の涙目をたんこぶと共に披露しながらイージーは続ける。
「まずは会場行ってゲームで遊んでりゃいい。まあ警護でうろつくとかでもいいし…イカサマすんならバレないようにな。
基本対人ゲームだ。ニッチなのもあるらしいから好きなのしたらいい。真面目に結果分析してして邪神復活を目論む教団のさぐり入れるとか、そーいうのもアリなんじゃないか?」
飽きもせず再びコインを弄り始める。
「程々に盛り上がったらお次は殲滅戦だ。熱狂をさらに煽り駆り立てるものがやってくる。雑いわゆる駆逐戦だな」
コインを弾く。
「雑魚だがやられると厄介だぜ。そうだろ?熱狂ってさ」
イージーはそれを左手の甲で受けて右手で蓋をした。
「…そういう意味じゃ、やっこさんはオレたちだって計算済みなのかもな」
苦く笑う。戦場に立つものなら多かれ少なかれ抱くもの。
「最後はその熱を殺し合いに変えるような奴が来る」
コインを隠したままひたと猟兵たちを見つめて、イージーはそう言った。
「…多分雑魚だけど、メンタル気を付けてな」ガラスのハートの男はそう釘を刺す。「予知を見るに、オレだったら絶対心が折れてるからさ」彼はいつも折れている。
それから近くにいた猟兵へ尋ねた。「コイン、表と裏、どっちだと思う?」猟兵の回答を聞き笑う。「じゃ、オレは裏にしよっかな」
開けて、「つらい」顔を伏せた。
「…じゃ、よろしく頼んだ」
本日三度目の涙目を披露しながら、彼はあなたがたを見送る。
さて、あなたはどちらに賭けていただろうか?
それとも、賭けてすらいなかっただろうか?
いのと
はじめまして、いのとです。
初シナリオとなります。
ゲームで遊ぶことになります。
ゲームは熱くなる方です。殺意ってえっちですよね。
受付の日程は、お手数ですがマスターページを御覧ください。
一章は楽しく遊べます。
純粋に楽しく(イカサマ含め)遊べますのできゃっきゃしましょう。キャッキャッ。不穏の香りなんてそんなそんな。
二章で殲滅戦。みなさんの血が滾ることになります。
三章でボス戦。敵さえ倒せば猟兵のみなさんなら殺し合うなんてことありません。燻って残ってしまってなんてこと、きっとありません。
ところで殺したいほど憎んだ人はいますか?
嫌いな人は誰ですか?
最近ちょっとイラッとした相手でもかまいません。
それはなぜ?
あなたがこのシナリオを遊ぶ最初にひとつ教えてもらえると、ちょっと盛り込むかもしれません。
それでは、卓へ着くといたしましょう。
なにごとも、席へつかねば始まらないものです。
どうぞ、お手柔らかに。
ご参加、お待ちしております。
第1章 冒険
『ゲーム大会』
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POW : 真面目にプレイしたり警護をする。
SPD : ネタに走ったりイカサマしたり会場を歩き回って調査する。
WIZ : 会場内の人々の会話や試合ログを分析して情報収集する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
さて。
ホールは既に盛り上がっている。
ボードゲーム、カードゲーム。
トランプ、チェス、…どうやって台を運んできたのだろう?ビリヤードやダーツといったベーシックなものから、どうも企画者のオリジナルらしいものまで。
きみが見たことのあるものもあるだろうし、ないのもある。
初対面同士も旧来の友のように笑って盛り上がっている。
場は健全そのもの。まあゲームで優秀成績を叩き出すと金券のひとつももらえるようだが、些細なものだ。
ルールの心配ならご無用。
ゲームマスターや運営者や、あるいは遊ぶ相手が懇切丁寧に教えてくれるだろう。
きみはどれに興味を惹かれ、何に座るだろうか?
どう遊ぶ?
ちよちよちよ。どこからか鳥のさえずりがする。
入谷・銃爪
まず、質問に答えようか。
世界に憎む価値のあるモノなど無いんだよ。
所詮、他人は自分の世界を作る構成要素でしかないからね。
情を抱くから、自分の思い通りにならなかった時に裏切られたと感じるんだ。
目の前にある結果だけが真実で、それ以外は考慮する必要が無いんだよ。
ガラスコップに力を込めれば割れる、引き金を引けば人は死ぬ、それと一瞬だ……。
俺は、ポーカーをさせてもらおうか。
イカサマをする気はないよ。
ただ、配られた手札を正しく利用して勝つ、それの繰り返しだ。
少しの運がこちらに向けば最終的に負けは無い。
まあ、ディーラーが配る時点で既にカードは調整済みだろうからね、相手のイカサマを前提に勝負させてもらうよ。
●ポーカー、引鉄、生への執着・あるいは愛に似たもの
「お見事」
ディーラーからの言葉に、入谷・銃爪(銃口の先の明日)は穏やかにかぶりを振った。
手元には完成したハートのフラッシュ。
何度目かの勝負、そして何度目かの勝利だった。
「素晴らしいですね、よく遊ばれるんですか?」
「いや…」
配られた手札を正しく利用して勝つ、それだけのことだ。
戦場とそう変わりない。
「なんと!それでこの結果はなかなかのものですよ」
そうだろうか?と軽く首を傾げる。
前提を理解し、場を読み、手段を読み、そうすべき時に退く…あるいは引鉄を引く。
「負けてもいるよ」
銃爪は自身のチップの山を示す。高くはない。今休憩に席を立っている右隣の男は今回負けたとはいえ銃爪の倍ほどあるかもしれない。
「それはうわべっつらです」
もっとも。
右隣の男のチップは徐々に減り続けており、
「あなたは少しも負けちゃいない」
銃爪自身のそれは少しずつ増え続けているのだと、
「そう思う?」
「思いますね」
銃爪とディーラーのみが知っている。
「負ける気がない」
銃爪は肯定しないが、否定もしない。
千里眼で見据え、見逃さず、撃つ。
そして一瞬だ。
それが戦場かゲームかという違いだけ。
「ディーラーのし甲斐があります」
「それは冥利に尽きるな」
おだやかに笑いながら、同じ。
信頼して遊んでいるようにみえて相手を信頼せず、銃口を向け合う。
そういう、ひそやかな戦いだった。
銃爪が立てていた前提通り、このディーラーは黒だ。場を支配するためのイカサマをしている。
「…死にたくない、というのかな」端からカードを回収していく。
「あなたのカードはそんな感じです」
それでもなお、銃爪が彼の支配を掻い潜りイカサマ抜きで勝ちを重ねていた。
銃爪の頭にふと記憶がよぎる。
細く長い煙を吐き出す銃口。
相手の死体と生きている自分。
それで明日がやってくる。
「…生きるためだけにただ引鉄を引くような?」
言葉が口をつく。
そうすることでしか明日は来なかった。
周囲の熱狂がやけに遠い。
「そう」ディーラーは同じ静けさで頷いて銃爪のカードを回収する。
赤いハートが消える。「非常に恐ろしく、手強い」
「信念や理想がなくてもか?」
銃爪は見据える。銃に手をかけたままのような心持ちで。
薄暗く長い通路で、向こうの足音を聴くような。
「信念?理想?」ディーラーがずいと銃爪のほうへ身を乗り出してそうささやいた。
ディーラーの視線をたぐり、左一番奥の客を見る。
交代でプレイする楽しそうなカップル。彼女が景品が欲しいのだったか。
「…こういった勝負の場で?」
しかしそのチップもまた、増減をくりかえしながら、少しずつ減っている。
「イカサマしてますと聞こえるな」
銃爪は少々露骨だと言外に指摘してやる。「わはは、失敬!」コミカルな仕草でディーラーは自分の額をぴしゃりと叩いた。「そんなまさかまさかちなみにわたくしお客様に楽しいゲームを提供するのが仕事でーす」
やれやれ。
ディーラーがそのままカードシャッフルをはじめ、銃爪はそれを見つめる。
「ポーカーに限らず、こういう対人ゲームはいいですよ」
一度半分にカットし、また重ねて切り始める。
豊かなコミュニケーションの底に、握ったままの銃。
「百の語りより一のゲームで互いを知ることができる」
カードが分けられていく。
「彼ならこう動くだろう…こう言えばこう感じるだろうと分かる。
現実の結果・事実の分析の延長には深い理解があります。それは期待は無論、信頼を超える…」
各山の、5枚目がおかれる。
「むしろ、愛に等しい」
それからディーラーは破顔した。「と、わたくし思ってるのですが、これちょっとキザですかね」「そうだな」さすがにちょっと理解が及ばない。「わははお恥ずかしい!忘れてくださ〜い!」
分けられたカードが配られる。
「さあ、準備完了でございます」
人を憎んだことはあるか?
所詮、他人は自分の世界を構成する要素でしかない。
目の前にある結果が全てで、引鉄を引けば人は死ぬ。
勝手に情を抱けば思い通りにならなかった時に裏切られると感じる。
失われるのも一瞬だ。
だから、憎むほどの、価値なんかない。
では。
勝ちたいと思ったことはあるか?
「わたくし、あなたに勝ちたいと思っているのですが」
「何度か勝ってると思うけど」
銃爪の返しにディーラーはあの笑い声をだす。わはは。「ご冗談を。本当の意味でです」
生を得ることを勝利だというのなら。
「本当の意味で、ねえ」
想像もつかない。
一戦交えれば分かるのだろうか?
本来今日オブリビオンによって死ぬはずだったろう男は笑っている。
いや、もしかするとことによってはやはり今日死ぬ男なのかもしれない。
「いかがでしょう。もうワンゲーム」
勝利と生への執着・相手を信用しない・できない歪さを肯定して誘っている。
「ああ」
勝とう。これまでのゲームと同じく。
正しく利用して、真正面から。
ホールには軽やかなBGMとともにアナウンスが繰り返し、邪魔にならないように響いている。
ーどうぞ、楽しい一日をお過ごし下さいませ。
成功
🔵🔵🔴
月藤・紫衣
十朱さん(f13277)と
アドリブ等歓迎
ふふ、今日はよろしくお願いしますね
十朱さんはゲーム全般が得意でしょう?
私は遊戯の類いはそう詳しくないので手解きをお願いします
十朱さんのオススメは?
トランプはいくつか知っていますが…だぁつ…?
ああ、射的のようなものでしたか
それでしたらなんとかなるかと
ふむ…景品の代わりに得点を競うのですね
こう構えて…!
ああ…外れました
難しいですね…本気で投げようとすると、このダーツの矢とやらが壊れそうに軋みますから
(少しばかり困ったように)
十朱さんはお上手ですね
勝負になる程度には私も上手くなるといいのですが
ええ、そうですね
たまにはこうして友人と健全に遊ぶのも楽しいものです
十朱・幸也
月藤(f03940)と
アドリブ等大歓迎
ゲーム全般っつーか
そんなに体力使わないやつ全般な?
まっ、用意されてるゲームは大丈夫だろうし……いいぜ
トランプとかが定番だろうけど
……イカサマとか仕込まれても面倒臭ぇしな
ダーツの方に行こうぜ、縁日の射的感覚に近いし?
射的は設置された物を落として、景品貰うだろ?
コレは的に矢を投げて、当たった所に応じて得点が入る
で、何回か投げた後の総得点を競う……感じかね
月藤用の矢を用意しておけば良かったか?
真ん中じゃなくても、そこそこの点数入る所もあるぜ
(けらけら笑いつつブルを狙い、軽く投げてみる
昔、ちょっと火遊びついでにな?
こうやって普通に遊ぶのも楽しいし、いいんじゃね?
●ダーツ、白昼の月、平穏の青
花が薫る。
人も雑多に熱狂もあるなかでその色は昼の月のようにずいぶんと爽やかにあかるく光っていた。
「ふふ、今日はよろしくお願いしますね」
月藤・紫衣(悠々自適な花旅人・f13277)の歩みはいつもより軽い。
いつもどおりの無表情に見えて、なんとはなしの所作や明るさからはしゃいでいるのだと、わかる者ならわかるだろう。
「おう」
少なくとも、共に歩く十朱・幸也(鏡写し・f13277)の鼻は、いつもより爽やかな香りを嗅ぎ分ける。
「十朱さんはゲーム全般が得意でしょう?」
「ゲーム全般つか」尊敬にも近い眼差しが少々くすぐったく、幸也は頭をかく。「そんなに体力使わないやつ全般な?」全般として一括りにされてしまうとちょっと困るものもある。
「私は遊戯の類はそう詳しくないので、手解きをお願いします」
…そもこういったもので遊ぶ、という経験が藤衣にはそこまでない。
どれもこれも興味はあるが、知らないが故にどれも同じに見えて手が出しづらい。
幸也は軽く区分けこそされているものの雑多なホールを見回した。「…ま、用意されてるゲームは大丈夫か」ひとりごちて、
「いいぜ」紫衣を先導する。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な〜」
「ど・れ・に・し・ま・しょ・う・か〜」
幸也が口ずさみながら配られたマップをのぞくと、紫衣も併せて覗き込んでくる。
…盛り上がっているといえばトランプだが、幸也はそこで眉を潜めた。
ポーカーでは健全とは言えチップがやりとりされている。
楽しいは楽しいが、まっさきに思い浮かぶのは
(…イカサマとか仕込まれても面倒臭ぇしな)
普通に遊びに来たのになぜ戦場を味わねばならないのか。
トランプはまた今度にしよう。何人か誘って、と胸に留めて足を別の方へ向ける。
初心者がいるのなら、お互いに一手ずつ遊べて、かつアドバイスしやすいものがいい。
「ダーツの方にいこうぜ」
「だあつ…?」聞き覚えのない音に紫衣は首を傾げた。だ、だ、だ…と繰り返し、蛇か打打つかそういう遊びだろうかと考える。
歩きながら幸也は知らないことに気づいて補足を入れた。
「射的みたいなもん」「ああ、射的のような…」紫衣は肯く。
「射的は設置された物を落として景品貰うだろ?」
幸也に誘われて藤衣が向かった先に見たのは、弓道の的のようなものがいくつか並んでいる光景だ。
紫衣の知っている的よりも模様も違えばずっと薄く、人に近い位置にあるし、景品もない。
はて。
再度紫衣が小首をかしげているところへ、幸也は説明を続ける。
「コレは的に矢を投げて、当たった所に応じて点数がはいる」
幸也はダーツを受け取って、紫衣へ矢を何本か渡した。
ふむ、と紫衣は唸る。
やはり幸也と来て良かった。
遊戯に秀でているだけあって、選ぶ遊びも説明も非常にわかりやすい。
「景品のかわりに得点を競うのですね」
未知のものに安心して楽しく触れることができる。「そう」
「この矢、これがダーツってんだけど」紫衣の納得は露知らず、幸也は説明を続ける。
「この矢を…こう持って」幸也がダーツを一本、自身で持ってみせる。
「こう?」見よう見真似で紫衣も持つ。「そう」笑って幸也が頷く。
「スジいいじゃん」
紫衣も褒められれば嬉しい。「ありがとうございます」
「そう持ったら」幸也は次に的…ダーツボードを狙いダーツをゆっくりと引く。「こう」軽く投げるジェスチャーをしてみせる。「構えて、狙って、ちょっと腕引いてっからなげんの」
幸也は一歩、紫衣の構え・スタンスが見える位置に下がった。
「やってみ?」
先に褒められていたのもあって、紫衣は大きく頷いた。
狙って当てるなら、できるかもしれない。
「こう、構えて…!」
投擲。
紫衣の期待とは裏原に、放たれた矢は、ぺこん、と的より少し離れた位置に当たって落ちてしまう。
「ああ…外れました」肩を落とす。「ドンマイ」
「難しいですね…」
紫衣は唇をほんの少し窄ませてダーツをじっと見つめる。
「本気で投げようとすると」持ち方を変え、幸也のしていた構えを思いだしながら動作を研ぎ澄ませる。「おっいいじゃん」
「このダーツの矢とやらが」「おっその調」
ミシイ!
何かの崩壊の序章が聞こえた。
ぶっちゃけてしまうとその手の中の矢が、みしみしと音を立てている。
「壊れそうに軋みますから」
……。
脅威的握力。美しくとも華やかたろうとも Oh 羅 刹。である。
紫衣はほんの少し眉を寄せた。
幸也にとってなんでもなく投げることのできる矢が、自分にとってはこんなにも脆いことが、ほんの少し紫衣にはひっかかった。
「あーそっか、月藤用の矢を用意しておけばよかったな」
紫衣のかすかな憂鬱をなんてことないように幸也はけらけら笑った。
明るい声はやけに晴れやかに青く、紫衣の耳にとどく。
「…ありますかね」
「あるっしょ」肯定は力強い。
「ダーツもだいぶいろんなとこで売ってるようになってるし」
暇があったら探しておくか。幸也はもうひとつ心に留めておく。
最近はダーツの羽の部分…フライトに綺麗な模様の入ってるのも多い。もし紫衣が気に入って、ヒマが合ったら選びにいくのもいいかもしれない。誰かに頼んだっていいだろうし。
パーツごとに自分で選べば愛着も湧く。月か藤柄があればいいが。
「そうですか」
ささやかな返事が嬉しく、紫衣は再びダーツを構えてみる。
壊れない矢があるのなら、それが手に入ったとき、うまく投げられた方がいい。
紫衣はじっと的を睨んで、真ん中をねらう。「ちなみに真ん中ってブルっていうの」「ぶる」「そ」
その集中顔が面白く、幸也は笑って一歩近づく。「つか」隣に立った。
「真ん中じゃなくてもそこそこの点数はいるとこもあるんだぜ」
幸也はボードを見る。
人が投げているのを見れば、やっぱり遊びたい。
「っと」
投擲。
命中。
「ッシャ」小さくガッツポーズ。
紫衣は笑って軽く賞賛の拍手を送る。「さすが」
「十朱さんはお上手ですね」目を輝かせ紫衣は幸也の放った矢を見つめる。
「やー。昔、ちょっと火遊びのついでにな?」まさかこんなところで役にたつのだから、まったく分からないものだ。意外と覚えてるし。
こんな手腕を見せられては、と紫衣は再びダーツに挑戦してみる。
「勝負になる程度には私も上手くなるといいのですが」
「すぐなるって」「なりますか」「ナリマスナリマス」「むう」
なれるだろうか。紫衣の肩に力がはいる。
「つか、こうやって普通に遊ぶのも楽しいし、べつにいんじゃね?うまいとか下手とか」
…肩の力が抜けた。
「ええ、そうですね」「でしょ?」
幸也が笑っている。
「たまにはこうして友人と健全に遊ぶのも、よいものです」
さわやかな夏の青い風に揺れる藤のように、紫衣はゆるり微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
波狼・拓哉
ふむ…熱狂させる感じがいいのか。
ならば…カードゲーム、ポーカー辺りがいいかな。皆何だかんだ知ってるだろうし…一番盛り上がる手も分かりやすい。
最初のほうは普通に純粋に楽しんで…中盤辺りに負け込もう。交換した分で揃うぶんは仕方がないが…手を崩したりブラフに乗ったりはこっちの匙加減ってとこだしね。最後はロイヤルストレートフラッシュの逆転勝利で〆ましょう。ああ、俺は希望を持ってプレイをしてるさ。だから幸運がクリティカルのさ。(ユーベルコードを目立たないように発動しておく)
憎む、嫌い…個人事に考えると面倒何だよねぇ。…ああ、平穏乱す奴ってのは自分の心情的に気にいらないことが多いかな。
(アドリブ絡み歓迎)
●ポーカー、希望の筐(ミミック)、エンターテイメント
ふむ。
波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)はまず現状把握にとりかかる。
最善へ至る第一歩だ。
聞いた話ではキーワードは「熱狂」だということだった。
だとすれば盛り上がるゲーム…と考えたところでちょっとした歓声が聞こえる。
ポーカーのテーブルだ。どうやらいままで大勝ちしていた男が負けて、かわりに今までそれほど目立たなかった男が段々と勝ち上がり、ディーラーとの一騎打ちにまでもつれ込んでいるようだ。
うん、そうしましょう。
足をポーカーのコーナーへ向ける。
皆、なんだかんだ知ってるだろうし、盛り上がる手もわかりやすい。
今丁度ひとも集まり始めているし。
・
最初は純粋に楽しめた。
手札に一喜一憂しテーブルのメンバーやディーラーとの手札を読み合い、探り合う。
勝てれば嬉しいが、負けた相手への気遣いも忘れない。
メンバーは時々入れ替わり、冗談を交わしながらもうワンゲーム。
……だったのだが。
拓哉は今、派手に負け混んでいた。
「なかなかツキがまわってこねえなあ、兄さん」
ポーカーテーブル、ちょうど拓哉の向かいに座っている男が囃してくる。
少し前からこのテーブルにやってきた男だ。
「いやあ、どうしてでしょうね…」
有り体に言って態度が悪い。手が悪ければ舌打ちから始まり、その他諸々…非常にお行儀がよろしくない。ディーラーによる注意も守るのは上部だけだ。
「がんばれがんばれ、次こそ勝てるかもしれんぜ」
…今もこうして派手に負けている拓哉を非常に愉しそうに煽ってくる。
こちらをムキにさせて卓につかせ続け、巻き上げようという魂胆なのだろう。
はっきり言って、気に食わない。
悪というほどのものではないが平穏を乱す者という点は個人的に、非常に引っかかる。
だってほら、アナウンスだって語っている。
ールール・マナーを守り、どうぞお楽しみください。
また、ディーラーも良く思っていないようで、大敗させて叩き出そうとしているようだが…数名とグルでイカサマをしているらしく、なかなかどうして苦戦しているようだった。
「ええ、そうですね」
崩れない拓哉の言葉遣いに、彼はますます気を良くしてにたにた笑う。
…まあ、そろそろかな。
拓哉は作戦の最終段階へと入ることにした。
我慢もここまででいいだろう。
この男の大声のおかげで、人だって集まってきた。
ーこんどは俺が、楽しませる番だ。
向かいの男は、否、この場の誰もが知らない。
拓哉の負けは彼自身で選択したものであると。
宝箱に擬態したミミックのように、息を潜めていただけだ。
「でも、俺は希望を持ってプレイしていますから」
ポケットの中のかわいい相棒。
箱型生命体の化けたちいさな賽子が、運命を結成している。
「いいねえ希望!確かにそいつがあればいい手がくるのかもしれねえなあ!」
「ええ」
手札はいつだって、万全だったのだ。
だから数分後。
5枚のスペードが拓哉の手元に燦然とかがやいていた。
「ロイヤルストレートフラッシュです」
痛いほどの沈黙のなか、拓哉は爽やかにその名を告げる。
エースから始まり、王から王子、そして最大の数字が彼の前に頭を垂れていた。
65万分の1の奇跡だ。
BGMやアナウンスもかき消え、他のブースの者まで思わず見にくるような歓声が上がる。テーブルに広げられた拓哉の手札をスマートフォンで撮影する音まで聞こえた。
チップは右から左をかき集め、足りないと追加も持ってくる。
スペード、剣の象徴。
見事に勝利を、切り裂いた!
「もう一回、もう一回だ!」大歓声の中かかる声に微笑む。
「いいえ、これでおしまいです」
拓哉はとどめの一言を言い放ち、高得点者に渡される商品券を受け取って勝者の笑みであたりを見回す。
人々の、じつに楽しそうな熱狂。
追い込まれていた彼の鮮やかなる逆転勝利は、きっと今日の参加者の多くの心に残るだろう。
…。
皆、生き延びていれば。
ーみんな殺し合って死んでおしまい。
…少々乱暴ではあるが、これだってありふれた平穏だ。
気に食わないな。再びその想いが湧く。
さあ、お望みの熱狂はくれてやった。
どこから来る?
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
◎ユキと
ユキは。ゲーマー、か。
…おれの相棒と一緒。
(森番はゲームを知らない
遊びを知らない
森からこの世に落とされてはじめて
それはとても楽しいものだと聞かされて)
10の次がJ。
…おぼえた。
(【野生の勘】でルールを把握する)
大丈夫。いける。
……しょっぱいのか(カード舐めかける)(大丈夫ではない)
(しかし謎の勘で妙に勝負強かったりする)
喧嘩は。よくない。
(場が拗れたら控えめに「惨喝」で威圧しよう)
Jは。
6、より強い。
……うん。そうだな。
(ちょっと満足気。
おれの相棒は強いのだ)
憎いもの?
病。
…あと、こどもを苛めるもの。
おれの守りたいものを、ぐちゃぐちゃにするものだ。
ユキ・パンザマスト
◎ロクさんと
大富豪!ゲーマーの血が騒ぐ!!
(娯楽は大好物。
不死を慰み、多様で飽きない)
ロクさんはゲームやるほうです?
おお、飲み込み早い。
んじゃいきましょ!
おわっ手札しょっぱ!?
いやいやいや味じゃないすよ???
うーん、パス。巻き返し甲斐のある展開すね!
次、ロクさんの番です!
(一喜一憂、渾身で楽しみ)
ゲームに仕込みがないか情報収集。
度の過ぎた熱狂には、
【夕眩幽玄】で侘助をこっそり複製&操作。
死角から痛みなく情動食べて、クールダウン!
ん、
何かうれしそーすね、ロクさん。
(大富豪気に入ったんすかねえ)
憎いもの。
邪神復活企てる敵には思うとこ大有りです。
只人を巻き込む真似するんじゃあねえ。
……今回みたいに。
●大富豪、防災無線/病焼き、生の慰み・正しい娯楽
アナウンスが響いている。
ー本日は、ご来場いただき 誠にありがとうございます…。
「だいっ・ふ・ごーーーーーう!!!」
両腕を上げてたまらずユキ・パンザマスト(暮れ泥む・f02035)は叫んだ。
「ごーう」ユキにならってロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)も合わせて両腕をかかげてみる。「以上が大富豪のルールです、大丈夫ですか?」「ん」
このテーブルのゲームはこれから始まるところだ。
ルールを教え遊ぼうと意気込む2人を同じテーブルのメンバーたちは談笑しつつ微笑ましく見守っている。
非常に穏やかで和やかな空気に満ちていた。
「もう〜あっちも〜こっちも〜ゲームゲームで〜ゲーマーの血がもう騒ぐ〜〜」ユキはどうにもたまらないとくねる。
それをただ純粋に見つめるロク。「ユキは」こういうひとをなんというんだったか、と記憶から引っ張り出す。
「ゲーマー、か」
「はい!!」
ちからいっぱいの肯定。
「…おれの、相棒といっしょ」「おっ、そうなんですか、えへへ、なんだか嬉しいですねえ」
ささやかな理由で微笑みあう。
「ロクさんはゲームやるほうです?」
ユキの問いにロクの返答は声でなく動作。静かに左右へロクの頭が振られる。「…知らない」「知らない!?」飛び上がらんばかりに驚いたユキに、ロクは再度頷く。
「森に、ない…」「ない…!」
…森に生き森と生きていた森番たるロクには世界に満ちる命に関しての知識はあっても、世界のことは未知が多い。ゲームもそのひとつだ。
ただ、それは楽しいのだと聞かされた。「たのしい」も「おもしろい」も語ってくれたあの声色がとても暖かくて、もどうにも心のどこかにーそう、彼がそれをそうと自覚しているかはさておきー小さな憧れとして芽吹いていた。鑢の声でもあんな温もりを持てるだろうか、と。
…それにー
ユキは表情をそれはそれは嬉しそうに崩す。
「それって色んなのこれから遊べるってことじゃないですか〜〜」
なんという将来有望株!喜ぶユキに、ロクは小さいが力強く頷く。
「うん」
ー…それに、いっしょに「あそべ」たら、とても「たのしい」のではないだろうか。
それもあってロクはついてきた、のだが。
…すん、と鼻を鳴らし意識して場の空気の臭いを嗅いだ。
「じゃあまずは大富豪のルール、もいっかい行きますよ」ユキは再びトランプを手に取る。「うん」ロクは言われて素直にトランプを手に取る。ここは森ではない。だが。「おお、飲み込み早い」「勘」「野生…!」
どうにも、きな臭い。
「準備はいいかい、お嬢ちゃん兄ちゃん。手札配るよ」
2人の会話がちょうどよく区切りの頃を見計らって最初の親役がユキたちへ声をかける。
「んじゃいきましょ」「うん」
「もうちょい練習しててもいーよー?」同じテーブルの女が声をかけてくる。
「大丈夫、いける」
「おわっ手札しょっぱ!?」
大富豪におけるユキの一喜一憂ぶりは、それはそれは派手だった。
わざとではない。心からの渾身のものだ。
「しょっぱ…?」ロクが思わずカードを口元にやって舌を出す。「いやいや味じゃないすよ???」
卓の心はひとつだった。
大丈夫 とは なんだったのか。
これで時たまどういう訳か勘鋭くロクが勝利をさらうことが度々あるのだから、いやはや、なんともはや。
勝負というのは、分からない。
…場はすっかりユキとロクのペースだった。ユキがそのリアクションで盛り上げて、ロクが慰めたりはたまたとぼけたりしてさらに笑いないしは誰か(主にユキではあるが)のツッコミを誘う。
それが、表の話。
裏の話?
ユキとしては、この事件。
まったくもって腹立たしい。
「ううーん…パス!」
ユキは手元の手札を一つにまとめる。「おやおや〜続いてませんかな〜〜?」メンバーから声がかかる。
理由?たくさんあるがー
「なかなかに巻き返し甲斐のある展開すね!」
鼻息荒くユキは返す。
ーまずはさっきから侘助の出番の多いこと!
今だって少し前に”いただいて“いなければどんなヤジが飛んできたやら。
痛みなく情動だけを喰いとる刻印、その複製が、ここぞとばかり本領を密かに発揮していた。
最初はそうでもなかった。
じわじわと鍋に火でも入れるように徐々におかしくなっている。
注意して遊んでみたがゲームに仕込みはない。誰かがキーマンになっているわけでもない。
プレイヤーも企画者も誰も彼もほとんど一般人だ。
…教団の人間がいないわけではないだろうが、ほぼ何も知らない一般人に近い。
確かに褒められたものではないプレイヤーだっているが、目的があるような動きではない。
味わう情動は「熱」ばかりだ。もっと。勝ちたい。面白い。
…不死の身にとってゲームは悠久を伴、生の慰みだ。何百万回生きる猫にとって生きる誰かと楽しく共有できる時間は、降りてくる蜘蛛の糸のうちの一本だ。
これはなかなかに腹の立つ話だ。
全力で楽しんでいるからこそ、なおのこと。
「あ!?お前このタイミングでそれ出すか!?」
「突然何?ケチつけるわけ?」
…取りこぼしたか。
「喧嘩、良くない」
控えめだが、確かに鑢でおろしながら殴るような一喝をロクが放つ。
ささやかながら効果は覿面で、両者が引っ込む。
ユキの取りこぼしをロクがとりなす。
この卓は“まだ“平穏に保たれている。
「次、ロクさんの番です」「ん」
ロクはカードを見つめる。
場の数字は6。ろく。自分と同じ。手持の中にそれより大きいのは…と…7から10まではない。先ほど習ったことを思い出す。10の次は…
「うん、そうだな」
ひとりごちてJを出す。
そう。6よりJは強い。
おれの相棒は強いのだ。
今度今日のこのゲームの話をしよう。と思いつつ鼻から満足を出す。むふー。
カードを出されたことで他のプレイヤーから声が上がる。おわっ!
「ロクさん、なんかうれしそーすね」
「ん」
大富豪が気に入ったのかもしれない。それはそれで遊び冥利に尽きるな、とユキは思う。
全力で楽しみにきているが全力で楽しみきれないのも事実だ。
ロクは隣のユキに軽く身を寄せてかすかに告げた。
「きもちは、わかる」
視線は正面を見ている。手札を見ないようにの気遣いか?
「何すか?」
否。
「病の、匂いがする」
ロクの目は、子供向けのコーナーを見ている。
病を焼く、守人の目で。
ーどなたさまもどうぞ、マナーを守って楽しく遊んでください。
嗚呼。
パンザマストを名乗るからだろうか?
ユキの耳に館内放送がひどく障る。
その放送に何か、ノイズのようなものが走り始めたような。
「気軽には遊ばせてくれないんすね」
上等だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋奈森・鈴音
おねーさんも久しぶりにがんばろー!
会場を回って、軽めのゲームをつまみ食いしながら情報収集!
動き回るのは面倒だけど、一ヶ所にいると熱くなっちゃうもんねー。
「あっ、こんなに勝っちゃった! えっと、次はねー。うん、この辺で止めておくねー?」
あれ? 次にレート上げようとしてたの?
「ちょっと休憩ー。あっ、君は今日どんな感じだったー?」
特に調べるのは、誰かと競り合って不自然なほど熱くなっちゃった人がいたかとか、周りが羨むような大勝ちした人がいなかったかとか。
何か特殊な能力が有るのかもしれないけど、それだけに頼らずに煽ったり盛り上げたりとか工作してるんじゃないかなーって。
怪しい人がいたらみんなに連絡しよう!
●つまみ食い、観察、放送と
「んー…」
唇に指を当てて、マップ片手に緋奈森・鈴音(妖狐の化身忍者・f03767)はひと思案。
鈴音の前ではルーレットが回転しており、転がるボールの行方を多くのプレイヤーが固唾を飲んで見守っているが…鈴音はそうではない。
マップに示されるゲームはかなりある。
カードゲーム、ボードゲーム、ビリヤードにダーツ、ダイス、ルーレット、チェス、将棋、などなどなど…。
次はどこに行こうか。結果そっちのけだ。
ここに鈴音の探しているものはなかった。
ルーレットはただのつまみ食いだ。
「おねーさんも、久しぶりにがんばろー」
おー、と自分にエールを送って…次の行き先はほんとにどうしようか。もうサイコロとかで決めちゃおうか。
「お客様、チップ交換はいいの?」「えっ」
ルーレットのディーラーが鈴音を見たまま苦笑して、とんとん、とある位置を叩いた。
目をうつせば冗談交じりに1点だけ賭けたところに『たまたま』ボールが入ったらしい。
要するにストレート勝ちというやつで、
「あっ、こんなに勝っちゃった!」
それなりに立派なチップの塔が立っている。
「次はどうする?」「次?」「ああ」「えっと、次はねー…」
赤黒。そして金。
運命の輪。
「うん」肯く。「うん」ディーラーも肯く。
「この辺でやめておくねー?」
ええ!?返ってきたのはあからさまに不満と驚きの声だ。「こっからレート上げてもう少し楽しくなるとこだぜ?」
「ごめんあそばせー」
黒髪を爽やかに揺らし、マイペースに、靴音高らかに鈴音はルーレットを離れる。
熱狂のち、殺し合い。
今回の事件で聞いたワードだ。
であれば、とっても(とっっっっっっても)名残惜しいが、なるべく盛り上がることは避けたほうがいい。「動き回るのは面倒だけど一ヶ所にいると熱くなっちゃうもんねー」
…もうちょっと勝つとポイント貯まってあの券と交換できるなー、などとちゃっかり自分の勝ちを把握していてよぎった雑念を軽く振りおとす。
あてられないようにしているが、やっぱり影響は出ているのかもしれない。
歩いていると、ちょうど良くあのでスペースが見えてきた。
「ちょっと休憩」
軽食のコーナーだ。
ブースとブースの間にはこういったものも設けられていて、軽く飲食もできる。
並ぶのは面倒なので、空いているスタンドカウンターに軽く寄りかかって勝っといたジュースでも…
いた。
鈴音はするどく目的のものを見つける。
軽快に近寄って、声をかける。「おつかれさま」「わっ」顔が赤いのは鈴音に声をかけられたせいもあるだろうが、先ほどまで興奮していたほうが理由としては強いだろう。
「君は今日どんな感じだったー?」
朗らかに尋ねた。
鈴音の目的は『調査』だ。
特に誰かと競り合って不自然なほど熱くなってしまった者や周りが羨むような大勝ちした者がいなかったか。
邪神関連であれば無論、特殊な能力や呪術の出番だろう。しかしそれだって行うのは人だ。それだけに頼らずに煽ったり盛り上げたりとか工作しているものがいてもおかしくない。
…のだが。
例えば教団関係者と思しき者は見つけたし、他の猟兵に伝えもしたが、小物以下だ。たまたまゲーム大会の事を教えてを貰ったから来ただけ、といったレベルだ。
読み通りイカサマ師も少なくないが、自分のために軽く儲けよう、くらいのもので、そうそう事件の本筋に引っかかるような「怪しい人」ではない。
「んー…」
ー本日は、御来場いただきまして誠にありがとうございます…。
変わらぬBGMとアナウンス。人々のざわめきで誰も聞いちゃいないだろう。
けれど鈴音は聞いていた。
だから、気づいた。
ちいちいちいちい…ちちちち…。
室内に不釣り合いな鳴き声がする。
どこから?わからない。
「…とりー?」
良く見れば、会場に時たま小さな青い羽が落ちている。
放送とBGMは、これをごまかすためのものだとしたら。
BGMにノイズが混ざりはじめている。
ノイズ?
違う。もっと物理的なものだ。
内側から蓋を叩くような音だ。
「伝えなきゃ」
誰に?誰でもいい。
猟兵の誰かに。
成功
🔵🔵🔴
カイム・クローバー
俺もコイン投げは好きでね。コインは表さ。…ほらな?当たりだろ?
確率は二分の一。まぁ、ちょっとばかし運が無かっただけさ。
俺がやるのはビリヤード。ナインボールをプレイする。
相手は誰でも構わねぇが…出来れば経験者が良い。
まずはバンキングだな。この時、わざと下手に見えるように【フェイント】を入れて行う。つまり、俺が後攻からスタートだ。
前半は本気を出さず、様子見。俺の事を侮ってくれた方が勝負に出やすい。
後半から的球を狙いつつ、落とせるボールを【早業】で【見切り】、ポケット。UCも使いつつ、いきなり落とせそうなら9番も狙っていくぜ。
こう見えて経験者さ。ま、齧った程度の実力だが…そこそこ悪くはねぇだろ?
●ナインボール・狡猾・コインの表裏
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はポーカーコーナーの大熱狂を聴きながら鼻歌まじりにキューを取った。
どうも誰かがとんでもない勝利を決めたらしい。実に結構だ。
派手な花火が上がっている方が、便利屋としては仕事をやりやすい。
ビリヤード。ナインボールのコーナーだ。
さて、相手へのこだわりはない、が、できれば経験者がいい…と、ちょうど前のゲームが終わったらしい台を見つける。
ボールを回収していた彼とカイムの目が合う。「丁度終わったとこか?」近づきながら話しかける。「ああ」警戒のひとつもない軽い返事。
幸先が良い。
「じゃ、どうだ?ワンゲーム」
もちろん、断られるはずもなかった。
先後を決めるバンキングでカイムがわざと下手を装った甲斐あって、男の口はとても軽かった。
「あー、ダメだ、外した」
カイムは笑ってビリヤード台からキューを離す。中途半端な位置で止まるボール。
「もーちょい強く打っても良かったかもなぁ〜」男が気さくに話しかけてくる。
続けて本気を出さずに様子見をしていれば尚。
「だな」
…自分より弱いと感じれば誰だって油断する。
「何?見た目に寄らず慎重派?」
「なんだよ見た目に寄らずって」
「いや〜いざって時はズババーンとやりそうじゃん」「偏見だな」「褒めてるって」「どこが」
適当に軽口を叩きながら頭は使う。
ここの男も隣で遊んでいるグループにも特段おかしなところがない。
…徐々におかしくなってきているのは分かるが、誰かが接触したわけでもなければ魔術のような干渉もない。
男が言うには、こういったゲーム大会は種別ごとなら度々開かれているものの、ここまで多種多様にそろえ規模の大きいものは初めてだという。
「フォームは綺麗で文句ねえのになあ〜〜」
「そうかい、そりゃどうも」
肩をすくめてカイムは応える。「ま、齧った程度だからな」「だははそりゃしゃーねーわ!俺も初めはそーだったし」
言いながら男はキューを構えてボールを狙う。
…企画者はあちこち走り回ってなんとかこの大会の開催にこぎつけ、今日も裏方で管理をしているのだという。
ふむ、そちらに向かった方がいいか…そう思ったところで、カイムは自身の靴が妙なものを踏んでいることに気づいた。
小さいが、青い鳥の羽根だ。
疑問に思いながらそれを手に取る。
どこから?
よく見ると、あちこちに落ちているが…鳥のなどどこにもいない。
また一枚、どこからともなく落ちてくる。
あーっ!男の悲鳴が上がったのはその時だ。「ちっくしょー外した!」
少々乱暴な仕草で頭をかいている。
そう、先ほどよりもほんの少し乱暴に。
……。
予定変更だ。
もう少し情報を探っても良かったが、優先順位が変わった。
「おうカイム!お前の番だぜ」「ああ」「今度こそ上手くやれるって」「おう」
……カイムを応援しているようで、失敗しろ、と思っているのが考えなくても伝わる。
ひとつ。またひとつ。
カイムにとって死線に比べれば打つべきボールや角度を見抜くことなど容易い。
突然の早業に男の口があんぐりと開く「え?…ええええ?」
そして、ナインボール。
このゲームの名を冠する球が、踊る。
「バーン」
カイムが指で銃をつくって撃つ動作をするのと同時にボールがポケットに落ちる軽やかな音がする。
「かじっただけって、お前…!」
「ああ。齧った程度の経験者さ。“こう見えて“な」二の句が告げない男に、カイムは自身の胸を軽く叩いて笑う。「そこそこ悪かねえだろ?」ウインクひとつ。
キューを置いてカイムは歩き出す。
歩きながらポケットを探り、コインを取り出して弾く。手の甲で受けてもう片手で蓋をする。
表か/裏か。
開ける。口笛。
「二度目の当たりだ」
表。
…裏を選んだあの硝子剣士は、カイムが運が悪かっただけさ、と軽く慰めると半眼でこう抜かしたのだったか。
『…きっとあとでべつのところで勝つもん…』
…。
……大の男が「もん」とはいかがなものかというツッコミはさておき(ちなみに余談だが『…だから負けたんじゃねえか?』『…一理ある…超十理ぐらいあるわ…』などという会話が続いたのだがそれもさておき)
コインをしまいながらカイムは笑い、場を見据える。
コイントスなら表か裏かでケリが付く。
だが『事件』はそうはいかない。
こっちが表だと得れば、あっちが裏を掴んでいる場合も、確かにある。
「さあて、こっちは表か裏か…どっちだろうな」
青い羽根。
どこかに鳥がいる。
撒き散らしている。
うまく情報を得て尻尾を掴んだのか/伝わるほど事態が進行してしまっているのか。
コインの表裏は、未だ開かず。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ルリハ』
|
POW : セカンダリー・インフェクション
自身に【病源体】をまとい、高速移動と【病源体】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : アウトブレイク
【伝染力の高い病源体】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : スーパー・スプレッダー
【病源体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にばら撒くことで】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:龍烏こう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●青い鳥
ゲームを遊ぶ、何人かが気付く。
ー本日 ご ただき に ありが ご います。
ー…放送が妙にくぐもっている。
ゲームを遊ぶ、何人かが危機感を覚える。
「お前どういう頭してんだよ!?」
「あぁ!?別にいいじゃないのよ!?」
ー…混じり始めた怒号。大きすぎる笑い声。
ゲームを遊ぶ、何人かが疑問に思う。
卓の下、あるいは床の片隅。時にはテーブルの上に。
小さな青い、鳥の羽。
ー…いったいどこから?
ゲームの中、目論みを探らんとするあなたがたは気付く。
話に聞いた、熱狂。
もはや会場の狂気は隠しようもないほど膨れ上がっている。
ならばそれを駆り立てるものが現れる。
どこだ?
上だ。
がこん、と。
天井やあちこちに備え得られたスピーカーの蓋が、吹き飛ぶ。
そこから飛び出すのは青い鳥の群れ。
この場の誰もが求める、幸福の象徴。
自由を喜び、歌って飛び回る。
人々はほんのいっとき、その美しい光景に見惚れる。
そうして、狂乱の病が降り注がれた。
ただの鳥ではない。その羽根から撒き散らされるのは病だ。
人々を凶暴化させるウィルス。
ただそれだけ。
ー本日は御来場いただきまして誠にありがとうございます。
爆音で響くアナウンス。
鳥のいくつかはスピーカーの中にもおり、増殖していたようだ。だから音がくぐもっていた。
青い鳥が歌い、人々は狂気と享楽に笑う。
ーどなたかさまもどうぞルールを守り、良きプレイングを。
そうだ、あいつはルールを守っていなかったのだから…
そうだ、どうしても勝てないこいつのことなど
…勝ちたいと、思ったことはあるか?
誰だって勝負の卓につけば思うだろう。
…勝ちたいと思い相手の隙を狙うのは悪か?
ーまたとない 一期一会の機会となれば幸いです。
口火を切ったのは誰だったろう?
誰でも良い。
拳を振りかぶった誰かを、止めようと誰かが殴りかかり、襲われると危惧した誰かを、徒党を組まれては困ると誰かが掴んで引きずり倒す!
まあ、出口にはロックがかかりシャッターが降りている。避難しようとしても一般人ではどうにもならなかっただろう。
そうして炎が広がるように、感染は拡大し。
享楽が狂楽へ塗り変わる。
このままではどんな悪徳が振る舞われよう?
…語るのも恐ろしいほど醜い人の業であることは間違いない。
ー楽しい一日をお過ごし下さいませ!
さあ猟兵、戦争の時間だ。
大狂乱が全てを飲み込む前に鳥を落とし切らねばなるまい。
ただし。
室内であることと一般人のことをお忘れなく。誰かに任せるも良し。
教団員は誰も初めから助かる気などないだろう。狂乱を加速させるなら襲いかかってくるものがいる可能性も高い。
そして。
あなたもご自分にはお気をつけて。
この場に立つあなたもまた、感染者だ。
コインは弾かれ、あなたの手の甲の上に伏せられ、隠されている。
表か/裏かー正気か/狂気か?
さあ、あなたは、どうする?
●マスターからのお願い●
こんにちは、軽度の地獄です。
敵は雑魚にはなりましょう。
敵を倒す/味方のカバーに回る/一般人をどうにかする。
これだけの混戦ですから素晴らしい効果をもたらすでしょう。
ここからなら参加できる、そんなあなたも大歓迎です。
しかし。
悲鳴を、蹂躙を、己の力を、心地よく思ったことがあるのではないですか?
そんな感情があなたを震わせるでしょう。勝てば嬉しい。できれば楽しい。
それは遊び問わず当然のはずです。
・あなたは感染するとどうなりますか?
・感染したあなたを満たす暴力の喜びを、あなたはどうしますか?
・NGがある場合はお伝えください。
以上3点、もしあれば記入いただけますと幸いです。
さあ。
青い鳥が飛びました。
命のかかったゲームをしましょう。
入谷・銃爪
幸せの青い鳥はどこか遠くに居るのではなく、すぐ側に居てただ気付いていなかっただけだったらしいな……(銃器を構えて正確に鳥だけを狙い撃つように弾丸をばら蒔く)
まあ、傍らにいたのが自分に害するものなら居ない方がいい……殲滅させてもらおうか(引き金引きっぱなし)。
しかし、病原体か……熱狂に幻惑、混乱……この辺りの効果なら話は簡単だ……(拳銃で自分の左太股を撃ち抜く)。
今回は機動力は要らないだろう?
一つ傷痕が増える位なら、問題ない。
行き続けるということは、勝ち続けることと同義なんだ……最後の最後に負けては意味が無い、だからただ勝たせてもらおうか。
(本人に自覚は無いがこの場の人々を死なせたくないご様子)
●自覚/無自覚ー銃口/銃創
入谷・銃爪(銃口の先の明日・f01301)の元では花火のような破裂音と箱いっぱいのコインをぶちまけたような音が響いている。
狂乱の中でそこだけまだゲームをしていて、しかも大当たりをかましつづけているような喧しさだ。
炸裂音は構えた銃口から。金属音は足元から。
引鉄引きっぱなしのフルオートバースト。
千里眼は正しく青い鳥を捉え、放たれ続ける銃弾が逃さず穿つ。何体落としたかなど数えない。時間の無駄だ。
散る青い羽が、祝いの紙吹雪のようだ。
幸せの象徴はすぐそばにいた、気付かなかっただけだったのだ…というあの話はどこで聞いたのだったか。
実際はそんな素敵なものではない。
ちちちちちちち…るぅるるるるるるる…!
次々と仲間を撃ち落とされたことで青い鳥の一匹が大きく鳴く。まずい!
危険を感じすかさず撃ち落とすものの一手遅れた。降り注がれたのは高濃度のウイルスだ。といっても見えたわけではない。自分が異常な興奮状態に陥りかけているのが分かるからだ。嗚呼、こんな感覚久しぶりだ、目眩がする!
それは同胞の鳥に対してもらしく…青い渦が襲い来る。撃つ、散らす。
この程度のことで、狙いがぶれたりなどしない。
むしろ異常に集中できてー…
一般人が何事かを喚きながら銃爪へ殴りかかってきた。自分を撃つのかとか銃刀法がなんとかかんとかー…理解する必要のあまりなさそうな言葉。
…ウイルスの散布は無差別だ。
そう。この場には鳥と、猟兵と、
そして一般人がいるのだ。
容易く拳をかわし、躊躇いなく銃口を突きつける。
引け。
胸の内の誰かが叫ぶ。
いつものとおりに。
現れた敵を撃つ、銃を構えて引鉄を引く、相手が死んで自分が生きて生き延びてきて、こうして今ここにいてそうしてまたそうする時が来ているだけのことで自分に害なすのなら斃したほうが良いという大前提の前に差はあるかといわれれば無くむしろ人のほうが厄介であり生きるためだけに(死にたくない、というのかな)ただ引鉄を引く死体を積んで歩くだけなのだ(そう)敵が動かなくなってようやく安心して歩けるのだ (非常に恐ろしく、手強い)まったくもっていつものとおりに信念も理想もなく(信念?理想?)出来損ないの人形が明日を得るためには(こういった勝負の場で?)ただただいつものとおりにただただいつものとおりにただただいつものとおりに
引き金をー…
腕を引いた。
銃を握ったままの拳で、思い切り、殴る。
とっさのことで加減が出来なかったのが逆に良かった。男は軽く吹っ飛び呻転がったまま呻いて動かない。しばらく放っておけるだろう。
肩で息をする。
ーそう。しばらくだ。
しばらくすれば起き上がる。しばらくすれば起き上がるしばらくすれば起き上がって再び自分に襲いかかるだろう攻撃したのだから当然のことで不意をつかれてはまずいのだから処理しておくべきで相手がどうであれ今の状態と攻撃してきた事実を比べればもはや疑うべくもなくなくなくくくくくー
青い鳥が飛んでいる。青い羽が落ちてくる。
明日はいつだって銃口の先だ。
煙、死体、そして、ひとり。
銃爪は、自身の左太腿を打ち抜いた。
「狂乱に幻惑…混乱なら、この方が簡単だ」
ひとりごちる。
応急処置を済ませる。痛みはある。当然ながら。動けば尚更だろう。
だが、頭は晴れた。がなりたてていた思考もまとめて打ち抜いたような気すらする。
「傷痕ひとつ増えたところで問題ない」
機動力は若干落ちるが、飛び回る目標を狙うなら要らないだろう。
……いったい自分は、誰に言い訳をしている?
鳥も含めて始末した方が速い。
襲いかかって来た相手だけでも。
左脚を軽く動かす。痛みで思考が黙る。
正気を戻しても感染の事実は変えられない。
……。
「生き続けるということは、勝ち続けるということと同義なんだ」
リロード。カードを引くように。
ゲームはひっくり返され会場(カード)はいまや、青い鳥に襲われ人が人を襲う凄惨な図(スート)へと塗り替えられている。
「最後の最後に負けては意味がない」
構え、集中する。配られた手札と場を読むように。
もしもこの場に誰かがいたら、銃爪にこう問うたろう。
“勝ち”/“負け”とは?
自身の生死だ、と彼は言うだろう。
ちょっとした意地悪、あるいは親しいものならばさらにこう問うかもしれない。
本当の意味で?
…彼は気づいていない。
自分があの男を“撃たなかった”理由に。
人々の混乱に無表情(ポーカーフェイス)ではいられていない己の表情に。
「だから、ただ勝たせてもらおうか」
銃爪は。
イカサマを掻い潜り、真正面から勝ち続けたように。
正しく、青い鳥だけを撃つ。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
これが連中の狙いの一つか。勝ちたい、負けたくない。人間の真理に付け込む、実にイカレ宗教の教団らしいやり口じゃねぇか。
二丁銃を取り出して、数発を鳥に向けて発射。数発で銃声は会場に轟くはずだ。ご丁寧にシャッターまで締めてくれてる。反響してくれりゃ声を大にして叫ぶぜ。
良いか!死にたくなけりゃその場に伏せやがれ!!…まるで強盗だが、まだマトモな神経なら何人かは伏せるだろうさ。そうなりゃ、喧嘩は勿論、流れ弾の被害もゼロに出来る。
UCを使って【二回攻撃】に【範囲攻撃】。鳥を落としていくぜ。
…俺が感染すると内の邪神が暴れやがる。右目は僅かに金色。
暴力は…全てオブリビオンにぶつける。一匹残…サズ……コロス
波狼・拓哉
さて…熱狂してますねぇ。
別行動でいこうか。ミミック!鳥の方は任せるわ。化け撃って来い。出来るだけ射線を下に向けないように。じゃよろしく。
自分は…ま、熱狂させた一人だしね。狙われるよねそりゃあ。戦闘知識、視力、第六感で動きを見切り、気絶攻撃とロープワークを駆使して周りの鎮圧を。縛って放置していきましょう。…熱狂も動きがあればこそ。なら誰も動かなくなれば…ってね。
暴力?ばかばかしい。他人がゆがむ顔見たいだけならそいつが思う【平穏】をゆがめる方が早いんですよ。…例えばこの儀式の主催者なら儀式の成功が【平穏】です。…ええ、乱すんですよ。人の嫌な事を進んでしましょうっていうでしょう?
(アドリブ絡み歓迎)
●便利屋/匣を閉じるものー表/裏ー探偵/匣をあけたもの
かちたい、まけたくない、いきたい、しにたくない、ほしい、ほしい、わたしはすぐれている、おとってなんかいない、まけてなんかいない、いない、いない、いないー…
ホールに欲望が響き渡り、青い鳥が業を祝福している。
あるブースではさっき相手と遊んだ遊具で、相手を弄ばんと腕を振るう。
「どう思う、探偵?」
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)のあからさまな舌打ち。
「やりようがあるでしょ、って感じですね。便利屋さん」
波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の呆れ果てた溜息。
「同感だ」吐き捨てる。
絶え間ない発砲音が少し離れた聞こえる。
少し先で別の猟兵がぶっ放しているらしい。
動き始めたようだ。
「さて、どうしましょう」
「こうする」カイムが拳銃を抜いた。「わっ」拓哉は身を引いた。
カイムがそのまま派手に乱射する。
「良いか!」
だん!
テーブルに思い切り足を乗せて吼える。
「死にたく無けりゃその場に伏せやがれ!」
銃と怒号に恐慌状態に陥った何名かが思わず伏せた。
そのまま鳥へ向かって連射をー…
「いよっ、便利屋!」ちゃっかり自分も伏せた拓哉が茶々を入れる。「手伝え」右手のオルトロスで拓哉を撃つジェスチャー。バーン。
「あー」拓哉はそこでちらと視線をそらしてどこかを一瞥し「手伝うっちゃ手伝いますけど」立ち上がりながらかわいいかわいい彼の匣へ囁く。「ミミック、化け撃て」箱はほろほろ崩れ、化ける。無数の小さな戦艦へ。「カイムさんを手伝え」人差し指の一振りであっちと便利屋へ指揮をする。「射線だけ下げないようにね」
「これで勘弁してください」
そして茶目っ気たっぷりに両手を合わせた懇願のポーズ。
カイムが訝しみ片眉を歪めると「俺が離れた方がやりやすいですよ、きっと」拓哉は親指で、そう遠くない位置で徘徊しながら叫んでいる集団を指す。あー。カイムは察して肯く。「理解した」「話が早くて助かります」
拓哉が何を受け持つのかを察したカイムは吹っかける。
「大事な匣を貸していいのか?“ロイヤルストレートフラッシュ”」
すると拓哉もにやりと笑う。
「俺は”こう見えて“結構上手くやるんですよ、”ナインボール”」
くっくとカイムが笑いを漏らす。「お互い調査済みかよ」拓哉は飄々と言い切る。「当然でしょ?熱狂と言われたらゲームを盛り上げたやつをチェックは基本ですよ」「そいつも全く持って同感だ。優秀な探偵だぜ」「どーも」軽く会釈。
それから茶々を引っ込めて、カイムへ切り出す。
「…そっちこそ」
「ん?」
「大丈夫ですか?」拓哉は自分の顔、右眼の傍を軽く叩く。
「“出て”ますよ」
ハ。
カイムは笑う。本当に優秀な探偵だ。
厄介なくらい。
「何、こんなもん鋏と同じだ」余裕を騙る。鏡など見なくてもわかる。右目の奥が熱い。
「使いよう?」「その通り」
この光景は、病は、カイムに宿る邪神も肯定する。
破壊や死を降り注げと、そこにあっていいのだと、あなたの欲望は何ひとつ間違ってはいないのだと。
そうあれかし。
残念ながらその欲望(破壊衝動)はカイム自身のものではないと、蹴り飛ばす
「せめてもう少しマシなBGMが欲しいもんだ」かわりにぼやく。そっちのがよっぽど重要だとばかり。「ですね。ロックとか」拓哉が乗る。「いいな。だったら爆音でも許せるぜ」
軽口を叩き合い。「じゃ」「ええ」
「「また後で」」
互い、振り返りもせず走り出す。
青い鳥より小さく可愛らしい洒落た戦艦たちが放つのは、洒落にならないレーザービーム。「ッハ!」カイムは声を上げて笑う。「おいおい」冗談めかす。敢えて。「何が誰の補佐だって?」
一瞬。
オルトロスを手放して、剣を掴みたくなる。
青い鳥だけを落とすだなんて面倒くさい。
全てぶった斬れたら、そいつはさぞかし素敵だろう。
きれいに真っ二つに叩っ斬られた物体が転がる光景は、それはそれは滑稽で愉快に違いない。
…ー神への反逆とはそういうものだ。
傲慢に、あらゆるすべてを否定するー…
衝動が、強く駆け巡る。
レーザービームがきらめく。
眩い光線に、よぎるのは彼のいとしの羅刹。
無論、彼女が繰り出すそれとはまた違う。
だが、悪くない。
拓哉のやつ、良いばけものを飼ってやがる。
「オーケー」笑う。どこまでも笑う。
嗚呼、やってやろう。青い鳥に嗤う。この存在を力を衝動を是とするのなら
嗚呼、総て、くれてやろう!
受け取れ、一匹残らず!
真ん中に飛び込んで、ビリヤード台やポーカーテーブル、ルーレット台を次々飛び回り、時にターンをかましながらカイムはその衝動を、暴力を、全て、落とすべき幸い/災いにむける!
オルトロスがめちゃくちゃに吼える。
二頭の頭で攻撃は二重。レーザービームに負けず劣らぬ雷が銃弾にまとわり奔り回る。
アナウンスはスピーカーがだんだんイカれてきたのか千々に乱れ、その上に発砲音がセッションをぶちかますドラムの激しさで重なる。
盛り上げるシャウトは阿鼻叫喚。
当たれば無傷では済まされない光線はカラフル。放たれる銃弾は容赦なく。
満ちる青を食い破り喰いちぎる。
享楽のダンスホール。あるいはライブハウス。
とことんピーキーな、ハードロック(激しくぶち壊せ)・テクノメタル(技巧に満ちた銃撃)!
さなかで紫電のように踊る男は、誰より正気側に立とうとするものだと。
この場で知っているのは彼に取り付く邪神のみか。
否。
もう一人居た。
「ふうっ」
ようやく振り返ってパーティ騒ぎを眺めながら拓哉は一息ついた。「いやー派手だなあ」その手に持つ鮮やかなモデルガンでちょこっと構えを真似などしてみる。
…してみながら、発狂者から振り下ろされてきたパイプ椅子を見切り、紙一重で避けて、
ゴム弾で相手をノック・アウト。
「はいお次は?」問うた瞬間にキューが鳩尾目掛けて突き出される。「狙いは悪くないですね」遠距離には遠距離ーだが残念。こっちに余裕で有利なんだよねーヘッド・ショット!
もちろんこちらもゴム弾だが打たれた方はたまらない。首を強くひねってよろけ、そのまま数人を巻き込んで倒れ込む。「ストライク」ボウリングに見立ててガッツポーズ。笑う。
熱狂を煽った人間として。
拓哉は同じ人間に狙われまくる羽目となった。
だがUDCを追っかける探偵としてはこういう人間の集団にに出食わすこともままある。狂信者とか。ただの人間はUDCどものように顔や背中がぱっくり開いて不意を突かれるなんてこともない。
戦闘知識と反射で充分対処できる範囲内だ。
慣れている。
だからこちら側を引き受けた。
だからー
複数人に追われる。多勢に無勢。流石に取り押さえられる事は避けたい。そういう時は簡単だ。
背中を向けて一目散。
”わざと負けこむ”のだ。
適当に角を曲がりパーテーションを引きずり倒せばあら不思議。
拓哉があっちとこっちに張っていたロープが作用する。
よいしょ。引っ張ればバケット・ヒッチ。結び目が完成し。
何名かを一気に縛り付けて鎮圧する。
ーこの場でできる最善の対処が叩き出せる!
お前のせいだお前のせいだお前のせいだ!
…唾を飛ばす喚き声。
ま、完全に否定はできないんだよなあ。
…正直カイムから離れたのはそういう理由もまあ、ある。
襲いくる狂乱ををひとつ、またひとつとつぶしていく。
『どう思う、探偵?』
彼(カイム)は正気(匣を閉じる)側ー
『やりようがあるでしょうって感じですね』
ほんとうに。
拓哉は現場を嗤う。
暴力の肯定?ばかばかしい。
歪む顔が見たけりゃ、平穏をゆがめてやればいいのだ。
ー自分(拓哉)は狂気(匣を開く)側なのだ。
ただのゲーム大会、平穏を乱されて人間性がグチャグチャに歪んだ人たちの顔。
お前のせいだお前のせいだおまえのせいだ!
そう。
聞きたいのはその言葉だ。
ただしこれを企てた教団のあんたらの口から聞きたいんですよ。
「だって油断するでしょ、そうすると」
種明かしを語る。思いどおりにゲーム大会が盛り上がれば、上手くいくとあんたたちは思うだろう。
「そうしたらこっちのもんです」
正気なんかほとんど残ってなどいやしない拓哉ににとって、熱狂とはちょっとやる気が出るなあぐらいでしかない。
全力でぶっ潰す。
平穏を壊したあんたらが望む平穏を、儀式をぶっ潰してやろう。いくら熱狂させようと動けないなら意味がない。歯噛みすれば良い。せっかくの仕掛けが無駄になるところを。
「人の嫌がることをしましょう、ってね」
くつくつ笑う。
さてその姿に邪教徒との違いを語れる者はありや?
「…いや、でも待てよ」
不意に足を止める。
これを企てた者は無事でいられるだろうか?こんな中で。青い鳥の影響をもろに受ければ、邪教徒なんか儀式のため喜んで自ら命を差し出しそうじゃないか?
儀式には色々な形式があって、そこには確かに術者自ら自身の命を投げ打つような形式もある。
深く推理していたために、反応が遅れた。
ウィルスに相当やられているらしい。だらだらと垂れるよだれも構わず大口を開けて吠える姿は獣と大差ない。
まあ。
ちょっと殴られるぐらい普通にあるか。
どうやって受けるか拓哉が考えたところで、
声がした。
「伏せろ!」
今日一度聞いていなければ、従おうとは思わなかっただろう。
しゃがんだ拓哉の頭すれすれを通過する飛び蹴り。
「意外と早く再会したな」狂人を蹴り倒し。
振り返ってこちらを見たカイムへ
「ええ」拓哉はモデルガンを撃つ。
…正確にはその後ろに迫った鳥を。「狭い会場ですね」嘯く。「鳥が餌求めて追うんだよ」
かくして背中合わせ、早すぎる再会の共闘。
一人は再び鳥を落とし「なあ」もう一人は襲いくる一般人を返り討ち「はいはい」転がす。「この事件、気付いてるか?」「…あー、はいカイムさんも?」「拓哉もか」「予感するんですよね」「合わせてみるか?」「せーので言ってみましょうか」「いいぜ」「せーの」
「「甘い」」
…最悪なことに声がハモった。
空薬莢が床に転がる。
「まだなんとかなるんですよ」拓哉が縄を引く。何名かが転ぶ。「ああ」カイムが肯く。リロード。
「あくまで熱狂だ、このウィルスは」
そう。
あくまで熱狂させるだけなのだ。感情に火をつけて踊らせるだけ。「ええ」拓哉は肯く。
「現に逃げようとする人だっています」得た情報で論理を組み立てる。「ああ」カイムもそれを後押しする。せざるを得ない。
探偵も便利屋も、同じ邪神を追うものとして、同じ結論にたどり着いている。
「このレベルじゃ必ずしも『みんな殺し合ってくたばっておしまい』にはなりません」
「…ああ」
たどり着いて、しまっている。「これはあくまで」「ええ」カイムの言葉を拓哉が継ぐ。
「あくまで、御膳立てなんです、おそらく、まだ」
「どこまでも人間の心理につけこむ、とこっとんイカれた宗教のやる事って感じだぜ」
カイムが吐き捨てる。
「ぶっ潰してやる」
金の瞳が先程より輝く。
正気で、狂気の自分と同じ言葉を吐く。
拓哉はとっさに虚をつかれた。
「どうした?」
珍しく拓哉から返事がないのでカイムは拓哉の方を見る。
…表/裏、いずれであろうと。
「いえ、別に」
拓哉は微笑む。
コインは、コインか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
◎ユキと
(炎は御されなければならない
衝動を抑え込む)
(悲鳴が)
(「うた」が)
(ととさまを讚える歓びのうたが
ああ、このうたのために
病を灼いて灼いてととさまのために
炭を敷け灰を降らせ森の糧とせよ
ととさまがおれをみつけてくださるように!)
(衝動は全て信仰に塗り潰され
嬉々として
狂ったように
青く舞う病を「燼呀」で【薙ぎ払い】)
(ユキの叫びに鼓膜を殴られる)
(九撃目は己自身に)
……ごめん。
そうだ。おれは。森番は。
ひとを、守る。
(ユキに追撃し道を作る。
皆がこの病の檻から逃れられるように)
(今は、まだ。
ひととして、ひととともにいなければ)
ユキ・パンザマスト
◎ロクさんと
左掌で己の体を掴む。
爪を噛むよう侘助で己の情動を喰らう。
そうでもしなけりゃ只人の前で
教団員の喉笛を喰い破っちまいそうで!
ロクさんと一般客を【此岸祝呪】で守る。
情報収集で周りの客を認識。
ロクさん?
しっかりして下さい、ロクさん!
──力なき者を逃がすのが先でしょう!!
(逃げてくれ、と願うような、
彼女の獣の咆哮を思い返し)
大声と捨て身一撃、
熱狂の残滓を込めシャッターを蹴る!
醒めたなら、何より。ええ。
誰ソ彼にも彼岸にも
只人は連れて行かせねぇ。
いきましょ、ロクさん。
(安堵し、シャッター破壊、
逃げられる者から逃がす。
認識しきれぬ分は彼女が護るだろう。
……悲鳴、お好きです?
その問いは飲み込んで)
●彼岸(悲願)/此岸ー讃歌/惨禍ー父(とと)/伴(とも)
陰惨甘美な宗教画だ。
青い鳥。悲鳴。狂乱。豪笑。
けたたましく、醜く、全く罪深き人の業。
鳥の歌声が阿鼻叫喚を彩り、降り注ぐ青い羽とウイルスが、賛美とばかり欲望を肯定して煽る。
誰かが叫んでいる。
嗚呼、嗚呼、とうとうこの時がきてくださったのですね!
ーああ、むしゃぶりついて、噛みちぎってやりたい。
欲望がユキの脊椎を駆け上がり脳味噌で跳ね回る。
口の中に唾が溜まる。
むしゃぶりついて噛みちぎるだけでは事足らぬ。八つ裂きのまま生かしてもまだ足りぬ。
其は怒りか?衝動か?本能か?
ユキはとっさに身をくの字に折って直視を避けた。
左手を自らに思い切り押し当てた指先を口に突っ込み爪を立てる。中指の爪先が舌に刺さる。それだけでは飽き足らず人差し指を動かせば我ながら口でも広げようというのか爪で唇を横へ引っ掻いた。わりと深く。
青い鳥が是と歌っている。
ユキの衝動へ肯定を舞っている。
そうしていい、それがいい。
それであなたはきっと幸せとーああその通り。
ありがたすぎて反吐しか出ねえな。
ぞりっ、っと。
ユキはありもしない音を聴く。
侘助が、自分を丸呑みしたような想像が脳裏をよぎる。
巨大な真白い椿がーその中央はきっと普段見えるのとは違い偏食らしく好みのものしか通さない金の針が山のように上下噛み合い凶悪に食事を求めて金属音を鳴らしているのだーずるりと自分を容赦なく細切れにするが。
そうやって死ねたらいいのかもしれない。死ねるか阿呆。
自分の衝動を丸ごと侘助に食いちぎらせ、冴えた眼でユキは惨状を直視する。ついでに己の血を吐き捨てる。怒りはある。この上なく。憤っている。どうしようもなく。
平穏、只人、すべてをひっくり返して作られた光景。
ばかりでなく、罪なきものにも罪を被せ、此岸に彼岸を再生せんとする傲慢。
逆鱗を思い切り引き剥がされた上に塩まで塗り込まれた気分だ。
誘われる通り、これを作りやがった教団員の首に噛み付いてへし折りたいのはやまやまだが、それがなんの意味もないと彼女はわかっている。
鵺(キマイラ)の尾を踏みやがったな。
此岸をひっくり返して彼岸をつくるというのなら。
この身に在る彼岸の呪いを此岸に与え、抗え生きろ(ストライブ・サヴァイブ)と、場をひっくり返す。
渡してやらぬ。
「ロクさん」
「ん」ロクは肩で息をしている。炎/衝動/を抑えようとして。目がちかちかする。悲鳴/歌声・涙/甘露・暴虐、混沌
蔓延る、病。
誰かが繰り返し叫んでいる。
嗚呼、嗚呼、とうとうこの時が!
きてくださったのですね!
きてくださった。
ふいに熱(病)に浮かされ、ロクの信仰(病)の火が燈る。
ひとである限り、病/過去(オブリビオン)からは逃れられぬとばかり。
燃え上がる。
ほのおはてんにのぼりはいはだいちをうるおし
ああ。
ああそうか、そうか、そうか、ああ、そうか!
「ーーーー、!ーーーーー!!!!!!」
ロクの喉から、絶叫が迸る。
常人ならば聞き取れないだろう。感染して発狂した少年が獣の叫びを振り乱しているようにしか聞こえないに違いない。
ーととさまととさまー
「ロクさん?」
ユキは違う。
聞き取って分かってしまう。
歌うものだから。防災無線/危ないからお逃げと叫ぶもの/パンザマストだから。
そしてなにより。
「しっかりして下さい、ロクさん!」
ああやっぱり噛みちぎってやったほうが今回ばかりは良かったかもしれない!
おなじ、ひとでなしのさみしいけものだから。
ー(ととさまととさまとうさまちちよわがちちよどうぞどうぞどうかどうかどうかおねがいおねがいおねがいみてごらんになってこうしてここからもりはうるおうよやまいはきえひとのこえはうせうつくしいもりがきっとととさまのめにとどくようなみえるみえるみてみてみつけてみつけてここにここにここにいるのどうかみつけてこっちをこっちをみておねがいおねがいおねがいおねがい)ー
青い鳥が燃え上がる。焼け落ちる。
ひのけもののその首よりふり踊る鬣の炎の原初的で美しいこと!
青い空を焼いて引きずり落としているようだ。
届かぬものに捧げるような。届かぬものへ両腕を広げて懇願するような。
ああ、なんという信仰の尽華/燼呀。
ユキは聴く。
バイオリンが、そのほとんど錆びた弦を引きちぎりながらも必死に掻き鳴すような。
哀れでいじらしい、
悲痛の叫び、悲願を彼岸を求める声を、
けもののさけび(うた)として
聞き取ってしまう。
ー(みつけて どうか そのみてで すくって つれてって おそばに おねがい おねがい いいこだから いいこだから いいこでここにいるから)ー
そしてちぎれゆく弦とはロクが彼女の相棒や自分たちで必死に錆をすこうしずつ落としながら繋ぎ合わせてよりあわせた人間性なのだ。
ユキの腹の底がひえる。
焼けてしまう。あんなにも大切に丁寧に積み上げられた日々が。
あおい瞳は此方(此岸)を見ていない。
ついさっきまで笑ったあの時間すらこんなにも早く。
灰にかえってしまう。
ー(ととさま ととさま ともに ともに)ー
ーいち にい さんー
炎が振る舞われる。何もかもを顧みぬ大振りは、鳥ではなく捧げる命(ひと)を求めて揺れる。いいこでいるから。ととさまにみせねばいけないから。
ーしい ごおー
いけない。
ユキは手を伸ばす。でもひかりの掌ではないこの化物の手で何ができる?
ーろくー
いけない。
前へ進もうか?灰になったら届かない。
その死に様は思うだけでもとても甘美ではあるけれど。
ーしちー
いけない。だめです、ロクさん。
第九を超えてはいけないのです。
ならば
ーはちー
のどをひらけ、パンザマスト。
叫べ、悲鳴のように。悲願のように。
彼岸(悲願)を求むる獣の叫び(うた)を
(ああたとえそれを理解できるとしても)
ーさあ、これがさいごのひとふるまいー
此岸(にんげん)の咆哮(さけび)で
獣ではなく子供を呼ぶ歌で
炎をーー夕焼け小焼け(パンザマスト)へと
「ーー力なきものを助けるのが先でしょう!!!!」
書き換えろ!
此方/此岸(こちら)をみろ。
シャッターに穴をぶち開けた渾身の蹴りは。
派手な癖になぜか子供の地団駄じみていた。
ロクの青い目が、たしかにそちらを捉える。
ユキがいた。
ルールを知らなくても将来有望株って。カードを舐めようとしたら止めて。勝ったら褒めて。負けたら励ましてくれて。相棒とおなじっていったらなんだか嬉しいって。
ーいっしょに「あそべ」たら、どんなに「楽しい」だろうかー…。
さいごの振る舞いはしかしふりあがっていた。ちちがためのひつじをもとめるさいごのひとふり。
だからロクは、最後の一振りでおのれ(けもの)を灼いた。
守りたいものを、ぐちゃぐちゃにするやつがここにいたから。
彼岸から、此岸に帰るために。
「ッヅ…!」ぶずぶずと衣類と皮脂のこげる匂いがする。「ロクさん!」
「…ごめん」
決して獣からは臭わない、科学と生き物が混ぜこぜになった匂い。
ユキのあけた穴から外気が吹き込む。
「醒めたなら、何より」首を振って笑う。「ええ」大富豪のルールを教えた時と同じように。
炎が煽られて舞い上がる、飛び立つ。
喧しい鐘の音と共に、スプリンクラーが作動してー雨が降り注ぐ。
濡れる。
水滴がいくつもいくつもロクの顔を滑って落ちる。
迷子みたいだ。浮かべた笑いが嬉しいような悲しいような切ないような気分で、歪んでしまう。
けものだなんて、とんでもないー…ただのひとのこへ、ユキは近づく。
「行きましょ、ロクさん」ユキはロクの肩を叩く。遊び友達をせかすのと同じ仕草で。「ん」ロクは肯く。静かに。いつものように。
「そうだ」ロクは、咆哮ではない、気遣いの練習の音で喋ろうとする。「はい」ユキは肯く。「おれは」唱える。「ええ」肯く。「森番だ」おまじないのように。「ええ、そうです」肯定する。
「森番は」「うん」
「ひとを、守る」
ロクは唱える。おのれの在り方を。
いまは、まだ。
「…ええ、まったくその通りです」
ユキは肯くー誓う。
誰ソ彼にも彼岸にも、只人は連れて行かせねぇ。
あんなところ、あんなおもい、あんな怠惰。
知っているのは自分だけでいい。
死んでも死ねぬ、ばけものだけで。
シャッターの穴を広げて、ふたりは一般人を避難させる。狂気に陥っているものは幸いなことに他の猟兵の手でで拘束されており、負傷した身でもなんとかなった。
ひとりまたひとりと運びながら、ユキはふと聞いてみたくなる。
ー悲鳴、お好きなんですか?
………。
やめた。おのれを定めるロクの声は微かに震えていた。
炎の煤とスプリンクラーの雨だれでロクの顔はしっちゃかめっちゃかに汚れている。そっちの方が気になる。
そういうことにする。
「はっ」ユキは気付く。「ん」「ということは今ユキの顔って」何百十四歳にはつらい事実が待っている。「ん」肯首。現実(森番)は残酷である。「うーわーーーまじすかーーーー!!!つ〜〜ら〜〜い〜〜」大袈裟に嘆くユキにロクの口端がほんのすこうしほころぶ。
「…あらしの」「ん」「よる」「はい」「に」「はいな」「咲いてる」「ほう?」「つばき」
「ん!?」ちょんちょん、と指先でユキの左手をつつく。「侘、助」
「きれい」
ロクの感情を食ってやれなかった侘助。
戦闘のせいで残念なほど薄汚れたようにしかユキには見えない、のに。
「……」「だと」「……」「思う」「……」「もうひとり」「……」「ん」「……」「つぎ」「……」
「……ユキ?」
…あのスプリンクラーの中、ユキもまた、こどもが思い切り泣いたような顔だったのを、果たしてロクは理解しているだろうか。
「わあああああああ!!!!」「ん」「うひゃあ〜〜〜〜〜!!!!!!!」「ん」「このこのこのこのこのこのーーーーーこの森番ーーーー!!!」「ん」
ユキに謎の悲鳴(どういう意味だろう、あとで聞こうとロクは決める) をあげながら森番と呼ばれたのでちゃんと肯く。
そう。自分は森番だ。
ひととして、ひととともに。
まだ。
いつのまにか爆音だった館内放送はすっかり止み。
火災報知器のベルだけが響いている。
開幕/終幕の知らせがごとく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
緋奈森・鈴音
水と風の魔力を使って鳥の周囲を強風で覆って病原体の放射を一定範囲内に収め、被害を防ぐわねー。
「ほかのテーブルの人に迷惑かけちゃだめよねー?」
その範囲内で水蒸気も使って気圧の高い部分も作って、相手の高速移動に制限を掛けた所に攻撃を加え、倒していくわー。
「折角の動きが遅くなったら、駄目よねー?」
暴力の喜びに感染ねー。
誰かをねじ伏せることに快感を覚えるってのは否定しきれないけど……
おねーさんは、わざわざ力を振るってそんな喜びを得るような面倒なことするより、のんびり楽しくしている方が好きかなー。
なので、早く力を振るって解決してのんびり遊びたいな……あれ? こーいうのも影響されちゃってるかな(くすり)?
●享楽/堕落ー風(封)/火(華)
ポーカー・ルーレット・ブラックジャック・バカラ・ビリヤード・など・など・など。
カードゲームもボードゲームもテーブルごと。
すべてのゲームをひっくり返してぶちまけ入り混ざる。
丁寧にに扱われていた道具は乱暴に踏み潰され、あるいは暴力の道具として使い潰される。
あんなにも管理され整理されていた遊戯たちは面影もない。
最早どんなゲームであろうとも再開することはできないだろう。
ただ一つ。
勝利を求める、暴力の争いを除いては。
怒号の非業・暴尽なる暴虐・滑稽な悲劇。
全てがけだものに化したような光景のなか。
「あららー」
緋奈森・鈴音(妖狐の化身忍者・f03767)は飄々と会場の混沌をながめていた。
その瞳の温度も調子もゲームを渡り歩いていた時とほとんど変わらない。
んー…と唇に指を当て考える仕草はマップ片手に会場とまったく同じだ。
目の前の予知の現像/現状/運命盤(ルーレット)に強い肩入れもない様子で。
目の前の地獄に眉ひとつ動かさず。
違いといえば、さすがに椅子に座っていると危ないのでルーレットのカウンターに浅く腰掛けているくらい。そんな彼女の上を青い鳥が歌いながら舞っている。
「そうねー」
鳥の舞う風が、細い黒髪をさらさら揺れる。
周囲の悪辣な人の業がなければ、ちょっとした雑誌の一面だって飾れるだろう。
地獄から切り取られて離れた世界のような。
…そう。
妖狐はいつだって人間の業など関係ない。
人間なんかとは一段違うテーブルに着いているのだ。
遠くで激しい銃撃音がする。
レーザービームや紫電がひらめき、炎も上がる。
色とりどりの光が鈴音の姿を何度も彩って照らし、消える。
足をぷらぷらと揺らしながら鈴音はそれらを眺めている。
しばらく考えた後、うん、とうなずいた。
「そうよね」
くすくす笑いはじめた。
鈴音を転がすような声で笑いながら、テーブルからぴょんと飛び降りた。
妖狐はいつだって人とは違うところにいて、気まぐれに眺めて、いたずらに現れて。
気まぐれに遊ぶ。
「ほかのテーブルの人に迷惑かけちゃだめよねー?」
せっかくがんばろー、おーって来たんだし。
ゲームを気ままにつまみ食うのと、同じような気ままさで。
彼女はそう理由をつけて手出しを決めた。
指先が動く。舞いのように。
空気が蠢く。彼女の纏う衣のように。
「嫁入りするわけじゃないんだけどねー?」
おかしそうに笑いながら。
燦々と熱に狂った畑へ慈雨を降らすように/病の籠もった部屋の窓を開けてやるかのように。
水と風の合わせ技。
初夏を思わす涼やかな空気が、吹き荒れる。
鳥の歌が乱れる。まっすぐ飛ぶはずの青い飛行線が突然湾曲する。
「だぁめよー」狐が嗤っている。
ちいさくて可愛い愚かなことりの無駄な足掻きを。
「そういういけないことは、おねーさん、ゆるしてあーげないっ、と」
生み出した風は空気の檻。
青い鳥たちは空を区切られる。
…ばかりでなく。
鳥の群れが異様な声で鳴き始める。
その翼や体から散布されたウイルスが、空気の檻によって人々のもとへ降ることが叶わず、鳥同士に作用しはじめたのだ。
これで人々への加速は一時、抑えることができる。
檻から出ようと飛ぶ速度は異様を極め、歌と言うにはあまりに狂った旋律がわめく。
きいきい、きいきい、きききききぎいいいいい!
「すごいすごい、おっきいこえー」
ぱちぱち、と手元でかわいらしい拍手をし、青い狂乱を讃えてやる。「飛ぶのもすっごいはやいのねー、じょうずじょうず」
鈴音は一切揺らがない。
「じゃあ、折角の動きが遅くなったら、ダメよねー?」
何かを撫でるような指で、さらに鳥たちに悲鳴をあげさせる。
水蒸気。人界では起こり得ない異常な気圧差。
動かずして、翼(うごき)すら捥ぐ。
…鳥など、狐にとっては獲物以外の何物でもない。
「ていうか、獲物以下よねー」
涼しげな微笑みのままで、鼻歌を歌いながら両手をぐっと伸ばす。
赤い瞳をにい、と歪めて。
舞をもう、ひとしぐさ。
火が、付く。
大輪の牡丹でも咲かせたように
飛びながら焼かれる、逃げることもできず焼かれる。
一匹でも助かろうと逃げ口を探し、狂乱しながら生き延びようと同胞すら殺す。
鳥が人々に降らせた幸福/地獄をそのまま、鳥に叩き返していた。
鈴音の唇は笑んでいる。
赤緋の眼に炎のかがやきが映り込んで、そこから燃えているようだ。
「たしかにね」語り口はやわらかで甘い。「暴力って楽しいわ」
青が焼ける。赤く染まって。黒ずんで落ちる。
花を咲かせて、枯らすように。燃え上がらせて、燃え尽きさせるように。
「ねじ伏せるって、快感よ?否定できないわー」
掌ひとつで、鏖殺する。
「でも」
笑っていた唇を、艶かしく歪める。
「わざわざ力を振るって得るほどのものじゃないのよね」
ゆったりと小首をかしげる。
白い頬に黒髪がこぼれる。
「おねーさんは、そういう面倒なことより、のんびり楽しくしてる方が好きかなー」
笑っている瞳の奥は、嗚呼。
まったく笑っていない。
「そんな面倒なことするぐらいなら」
焼け落ちる鳥の匂いに鼻を歪めることもなく。
火をのがれて落ちてきた青い羽一枚を、その靴で踏む。
「こうして早く力を振るって解決して、のんびり遊びたいのよね」
だからごめんね?
視線はもはや鳥に向けられていない。見なくてもわかる。
踏んだ青い羽根を見つめ、そのまま爪先で羽を踏みにじる。
獲物に立てた爪で、とどめを刺すけものえげつなさで。
「あれ?」そこで彼女はふと気付く。手を口に当てて顔をあげる。
「これも影響されてるっちゃってるのかな?」
鈴音(妖狐)は微笑む。
唇も、瞳も。
にっこりと。
幸せの青はすべて炎の顎で原型残さぬ黒へ喰い切られ。
涼やかな風の爪からようやく解き放たれて。
地へと堕ちたところだった。
「ま、いっか」
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『デカダント・ブラック』
|
POW : 人の性は悪なり、その善なるものは偽なり
【悪意を暴く力】を籠めた【黒い波動】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【善心】のみを攻撃する。
SPD : 集合無悪識
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【悪意】に染め、【デカダント・ブラック】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ : 退廃的な黒
【根源的な悪意に満ちた退廃的で底知れぬ黒】を披露した指定の全対象に【心の奥底から湧く嫌悪感と全てを破壊したい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ウラン・ラジオアイソトープ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
● あなたの欲望
管理室はすでに死体だ。
企てたものたちは青い鳥によって狂乱して、笑いながら殺し合った。
監視カメラには、猟兵によって鎮圧されたフロアが写っている。
被害は少なくないが、決して多くもない。
そうして骸は起き上がり。
真っ黒な陰となって画面を覗き込む。
光の匂いにつられてやってくる。
会場は、鎮まりかえっていた。
あらゆる遊戯はルールごと棄てられ。
青い鳥(こうふく)はうしなわれ。
暴虐を働いたものは倒れ伏し。
倫理を説く館内放送も、もう聞こえない。
平和が訪れた、と言えるだろう。
立つのはきっと、あなたがただけ。
あなたはここまでどうやって立っていただろう?
肯定された本性にどうやって抗ってきただろう?
倫理?正論?かけがえのないもの?
きっとそれは、大きかろうと、小さかろうと、光に違いない。
痛いほどの沈黙に、ふと、黒い影が立ち昇る。
死んだ青い鳥も、色とりどりの人々も、黒く変色し、起き上がる。
光があれば、影がある。
コインの片面が光れば、もう片面はいつだって昏い。
度々邪魔をされれば、誰だって思うだろう。
きっと何かをしかければ、自分たちの邪魔に、どこからか猟兵が現れると。
であれば表を裏に、白を黒に、光を陰に、堕とせば良い。
ようこそ、猟兵。
あなたとて、ちっぽけなひかりに縋るだけで自分たちと同じものだと、教えてやろう。
●GMからのお願い●
受付はマスターページをご覧ください。
さて、ボス戦です。
OPに嫌いなものを問いました。
ですので最終章はこう問います。
あなたの失いたくない善性はなんですか?
その軸になるものは?かけがえのないものは?
敵は雑魚の部類になりましょう。
元は鳥と一般人ですから勝つこともたやすいはずです。
大事なものへの想いをちぎられたあなたが残らないよう、お気をつけて。
そう、もう殺してしまってもいいかと思ったりしないよう。
入谷・銃爪
(ターゲットが変わってもフルバースト継続)
人の本質は善だろうか…悪だろうか…。
性善説、性悪説…どちらがホントウだと言える…?
倫理、正論…それは誰にとって善きことだ?
時としてこいつ等のように自ら死を選ぶのだって信念のもとに正しいことをしていると言えるだろ?
俺のように理想も信念もなく、ただ銃口の先に死と意味の無い生を造り出す生き方は善きことか…?
答えなんてない…。
躊躇えば明日が来ない…ただそれだけのこと…生き続けることが正しいとも限らない…そもそもの前提が間違っているのかもしれない。
明日に光は無いのかもな…。
それでも俺はこの生き方を変えられない…変える気もない。
(辛そうな表情で引き金を引き続ける)
●、あすのゆくさき、あるいはこころのそこにて●
まず、
かおがみえないな、とおもった。
入谷・銃爪の指先は引き金を引き続ける。
立ち塞がるものが青かろうが黒かろうがやることはいつだってシンプルだ。
猛掃射は止まらない。
顔が見えない程度で止まるはずもない。
デカダンス・ブラック。
この場で気絶したもの・死んだものに取り憑き、無意識悪の集合体として悪意に染まって起き上がり、迫りくるオブリビオン。
黒への変質は人を選ばない。気絶しているか死んでいるか、どちらかの生き物であれば簡単に染め替えて動かし始める。
だから顔なんか見なくてもわかる。わかっている。
誰も彼も、会場にいた誰かだ。
あんなにも輝かしかった落ちる薬莢の音が、何故か今は出来損ないドールたちが廃棄される時の、あの音に聞こえる。ばらばらに吹き飛んだ鉄屑ども(クラック・スクラップ)。ばかばかしい幻聴だ。死なない。ただそのために引いているのに。
銃を撃つ。
“やりやすい”。
銃爪の才覚はそう判断する。
銃を撃つ。銃を撃つ。
所詮、オブリビオンとはいえ、
ベースが一般人だ。
銃を撃つ。銃を撃つ。銃を撃つ。
殺傷力の高い武装をしているわけでもなければ、
銃を撃つ。銃を撃つ。銃を撃つ。銃を撃つ。
訓練された兵士でも、ない。
熱狂のウィルスはなく、耳を邪魔する爆音のアナウンスもない。突然横から勢いよく殴られることもなければ混乱した人間が射線に飛び出してきて邪魔をすることもなく喚きながら乱闘する人間に巻き込まれたりすることもなく非常に安定している
銃を撃つ、撃って、撃って撃って撃って撃って
“先刻より、よっぽどやりやすい”
環境だって室内で多少荒れてはいるが地雷などのトラップを警戒する必要もないし広さもあるが物陰や遮蔽物にできるものも多くいくらでも敵を誘導できるうえにスナイパーの心配もないし左太腿を負傷していなければ落ちている遊具などを利用してトラップを作成し一網打尽にすることもできたろう
撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って
だから、ずっとずっとよっぽど、やりやすいはずなのだ。
わけのわからない焦燥が胸の奥を引っ掻く。
ウィルスならとうに抜けたのではないのか?
カチン!弾倉から音がする。弾切れ。
すかさずリロード。爪が引っ掛かった。舌打ちをする。装填する。セット。
銃を撃つ、撃ち続ける。
躊躇ってなんかいない。
躊躇えば明日は来ない。
だから引き金を引く。簡単に引ける。
黒い鳥が群れで突っ込んでくるのを捌き、お次は人型だ。
頭を狙い
わはは、と、
誰かが笑った気がした。
射線をずらした。肩。吹き飛んで数名にぶつかってしかし、相手は、生きている。
ああまただ。ずっとそうだ。
どうして
(頭/だれかが笑う/ぴしゃりと額を叩く/)
(手/カードを切る・配る/)
(首/胸/腹/ただの大会のくせにきっちりとシャツにベストとタイを絞めた)
どうして人型にとどめを刺せない。
千里眼は正しく機能している。
敵の数、動きを正しく見極め撃つことができる。倒れた敵を一瞬認識が追うのは再び動かないかの警戒だ。そのはずだ。
躊躇うわけではない。
撃つことに罪悪感があるでもない。ただ、ただー…なんだ?
肩や足を打ち抜きつづけひたすら機動力を落とし続ける。
事実鳥はたやすく撃ち落とせる。
吹き飛ぶ黒。
(そういえば戦場で死体の間で息を殺しているとまず現れるのは鴉だった。真っ黒な羽根を大きく鳴らして鳴くのだ。おおい、ここに死体があるぞ、おおい、ここに肉があるぞー…)
銃を撃つ、銃を撃つ、
(そうだ。俺が作った死体だ。
俺が俺の生が為、積み重ねた死だ。
信念も理想もなく生だけのために積んだのだ。)
唸り声がする。
(戦場で幾たびも聞いた風に錯覚する)
倒れたものが次から次へと起き上がる。
(そして俺は今、再び死を積み上げようとしているのだ)
切り捨てられぬ過去(オブリビオン)が、迫り来る。
銃を撃つ、銃を撃つ、銃を撃つ、銃を撃つ銃を撃つ。
止まらない。
激しい音を聞きつづけて耳がおかしくなったのだろうか。発砲音がやけに遠い。
わはは。黒の向こうで誰かが笑っている。そんなまさかまさかちなみにわたくしお客様に楽しいゲームを提供するのが仕事でーす。道化た台詞に首を振る。やれやれ。
…人を憎んだことはあるか?
ーない。
顔が見えない。黒く染まり人間性が退廃し剥き出しの悪意に晒されているために誰が誰やら分からない。だから言ってやるしかない。誰が誰とも分からなくとも、耳くらい、空いている筈だ。
だから言ってやる。教えてやる。
「誰がお客様だ」
俺はそんなものじゃない。
所詮、他人は自分の世界を構成する要素で、憎むほどの価値なんてない。
情を抱くから、自分の思い通りにならなかった時に裏切られたと感じるんだ。
価値なんか、ない。
じゃあなぜ足を撃ち抜いた。
ならなぜ自分はこうも撃てない。
撃てるさ。
引き金を引く。
ガラスのコップに力を入れれば割れるように、銃口を向けて引き金を引けば穴が開く。
銃爪(じぶん)の世界を構成する要素を、引き金(じぶん)を引いてぼろぼろにする。
粉々に割れてゴミになる(クラック・スクラップ)だなんて、なんて喩えすらばかばかしい。ばかばかしいのだ。
『わたくしそろそろあなたに勝ちたいのですが』
ー勝ってると思うけど。
再び繰り返す。
銃爪には倫理も理想も信念も正しさも目的もない。『それはうわべっつらです』
邪教徒の方が善かもしれない。彼らの行いは少なくとも彼らの教義においては善だろう。
なんにもない。
『ご冗談を』
『本当の意味でです』
ほんとうのいみとは、なんだ。
勝ちたいと思ったことはあるか?
ーある。
勝ちたいと相手の隙を狙うことは悪だろうか?
“イカサマをする気はないよ”『死にたくない、と言うのかな』“運が傾けば““負けは無い”
『恐ろしく、手強い』
”正しく利用して、勝つ“
確実に勝ちたいなら何とでもやりようはあったのに。
”ただ勝たせてもらおうか”
勝ちたいと思った。
確かに勝ちたいと思ったのだ。
あの青いの嵐、立っていれば、この銃口を、積み上げる死を、肯定し寿ぐ幸福の嵐の中に立ちながら、それでも思ったのだ。
“正しく“勝とうと、引き金を引いたのだ!
それがどうだ?
見ろ。
誰も彼も倒れ伏して、ひとりぼっち。
煙のぼる銃口、静寂。
あの戦場とどこが違う。
目の前の結果だけが真実だ。
他は考慮する必要なんてない。
ひっくり返ってしまったテーブル。
ばらばらのカード。汚れきったスート。数も足りず、割れたチップ。
ぽっかりとあいた、あすがここにある。
過去が積み上がった今日がここにある。
今日が昨日になったら、きっと明日(未来)もこういう風景なのだろう。
昨日(過去)から続いた今日(未来)が、こうだったのだから。
全力で走ったみたいに息が上がっている。
左脚が痛い。
ほら見ろ。
生き方なんか、変えられない。
正しいとはなんだ。
銃口の先の明日には、やっぱり銃口を向ける明日しかないじゃないか。
生き延びた、勝った。そのはずだ。
なのにこの苦しみはなんだ。
……。
…いったいどうして、
生き延びたいのだったか?
もう一度かぶりを振る。振り落とす。生死に答えなんかなく、故に正しさもない。それを問うてはいけない気がしたし、問うても答えてくれる誰かもいない。
生き方なんか、変えられない。
床いっぱいの空薬莢がミレナリィドールの内臓(パーツ)みたいだ。
銃はほとんど焼け付いて、メンテナンスに苦労するのが容易に見て取れた。
どうも激しい消耗にグリップの方まで熱が来ていて指先まで焦げ付いているようだ。
変える気も、ない。
吐き出そうとして、銃爪は自身が力の限り歯を食いしばっていたことに、気付いた。
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
◎ユキと
(己は森とひとを守る森番だ
ととさまに御旨を賜りあねごがそれに名付けてくれたから
何より大切な、失ってはならないよすが
それが、無ければ、ただの)
(炎の鬣と尾
獣の相
真の姿はひとには足りない
ただの炎には善も悪もなく
名も無い獣は、さみしさだけは知っていた)
ユキ。
どこ。
(ひとが羨ましくて
恋しくて
欲しいだけだ)
ユキ。
おれはユキと遊びたい。
ユキと話したい。
まだ、
――まだ教えてもらってない
さっき何で叫んだんだ!
(椿の花園を根こそぎ「捎花」で喰らい返し
おれの我儘で、キミを取り返そう)
キミはおれを。
森番、って、呼んだんだ。
(いつもの笑顔に微笑み返す、けれど)
…そんなに恥ずかしい…?
(ますます、わからない)
ユキ・パンザマスト
◎ロクさんと
(黒に想起。
忘れ得ぬ根源。
儀式。暗闇の檻。枷。
丸一体分の肉を胃に、
椿、咲いて、元の姿は忘れたよ)
【杯盤狼藉】藪椿の増殖、
体覆うホロは揺らぎ、枝葉のデータ片、
生命力吸収と捕食、影ごと壁床を食みかける物量。
端からそれがよかった、
全部喰らいませ、輩も檻も枷も場も!
(皆皆、帰れぬでしょう。
迷い子見るはもう沢山。
八百年の怨嗟、では)
ぁ、
ロク、さん。
(椿森は眠り。
そうだ。善、もう一個。
拠る辺の少年、団地の皆──
危なっかしく頼もしい遊び友達。
千切らせてやんない。
縁、は)
手数かけました。
なんか、相子っすねこれ。
サンキュです。
(遊びの続きのよに笑おう、
森番の、ひとへ)
意味。
……恥ずいんすけどお!?
●、”せい“へのよすが・ひとなること○
だれだって知っている。
夕焼け小焼けが流れたら、まっくらな夜がくるのだ。
ユキ・パンザマスト(暮れ泥む・f02035)
は特にようく知っていた。
帰って来れなかったから知っていた。
だからパンザマストになったのだ。
おかえり、おかえり、あぶないよー…。
立ち昇り、起き上がる。
黒い影が起き上がる。いくつもいくつも起き上がる。
ただただ、黒い。
くらやみが、やってくる。
ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)の鼻は病を嗅ぎ分ける。
青い鳥には確かに病を嗅いだ。
だが目の前のそれからは、病の匂いが一切しない。
誰しも抱く、純粋な悪意。ただそれだけ。
一瞬、逡巡する。あれの中は人だ。死人もいるだろうが生きている方がよっぽど多い。どう見分けるか。
空気が鳴ったのはその時だ。
ぱきっ、と。
小枝を踏むような音だった。
善悪の彼岸。
ユキが揺らいだ、音だった。
屍鬼(グール)ならまだ良かったのかもしれない。死んだ人間が身を崩しながらも動くえげつなさは視覚的な毒が強いが、現実の風景だ。
それに比べて、これは。
よくなかった。ユキにとってまったくもって最悪だった。くらやみがやってくる。
どうしようもないほどのくらやみの波。
…如何なる花も木も、葉が落ちて芽吹き枝が折れ新たに伸び花が散って実が弾け再び蕾をつけるとしても、最初にやがて木になる芽を出したその根だけは、変わりようがない。
何百十四年生きようと何百生きても十四年しか入らなかろうと、入れ違おうとも変わらない、彼女が「ユキ・パンザマスト」となったその根を掘り当て、手をかけた。
フラッシュ・バック。
引きずり込まれればどうなるか。
普段なら、あれはちがう、そんなことないとユキは踏みとどまったろう。
本当に相手がよくなかった。
デカダンス・ブラック。
ユキのブレーキを切り取った。
何が起こったか?
生まれ変わり廻る(中から食って出て来る)を八百椿咲くと言うのなら、
ユキがとったそいつはまるきり“逆廻転”。
根源廻帰。
咲いた花が内側からひっくり返って根に還る。
ユキの身体を覆うホロが揺らぐーーー続き猫の瞳が抜け落ちて頭の狼尾がすっぽぬけ蝙蝠の羽はひとひらずつ舞い上がり蜥蜴骨がぽろぽろ落ちる
溶解。
他にどう言おう、そのありさまを。
のこった躰の細さよ、白さよ。
その躰(うつわ)が、ぶるりと震える。
強い風に煽られた、一本の藪椿のように。
否、震えている。
その身を彩る、赤い椿が。
かくして鵺より獣が抜け落ちて
幸あれかしの祈り(ユキ・パンザマスト)は暮れ泥み、
夜になる。
赤い椿が震え、少女の心身を杯・盆とし、狼藉ーー飛び出して迸る、咲き誇る。
根は床を疾って影へむしゃぶりつく。枝葉を伸ばす、容赦ない捕食。影を軸に現れる椿の木。
黒に椿の赤が映えること。
ぽっとあかりがついたようなのだ。
ああ。
安堵する。
そうすりゃ良かったんです、はじめから。
安堵して枝を伸ばす。
飛び立とうとした鳥の群れも津波の如く押し寄せる影もに枝(て)をのばす。
そしたらロクさんは自分を焼くこともなかったでしょう。
そうです。
そうすりゃよかったんです。
輩も檻も枷も場も。
ぜえんぶ、喰らいませ。
葉を茂らせて、蕾を膨らます。
生命を吸い上げ、貪欲に捕食、無造作に増殖する。
床だけでは足りぬ。
最早、爆発に近い。
テーブルも飲み込む、カードも飲み込む、使ってみたかったチップ、あそんだことのあるゲーム、あそんだことのないゲーム、同じを囲んだかもしれない誰かさんのろわしいあおいとり苦手なゲームすきなゲームおやつきあたった、ゆかはここでおしまい?ならばかべまでのびましょう、ほそいすきまにねをはって、めりめりまるごといただきましょう
デカダンス・ブラック(黒へと退廃す)。
飲み込むことは、飲み込まれることだと、ユキは誰より知っていたのに。
根源。口の周りがべったり濡れるあの感覚。理性も論理も倫理も全てかなぐり捨てさせられ、御行儀なんぞなんのその、ぐちゃぐちゃ鳴らし、ひとっこひとり、まるっと喰った。
彼方の過去(オブリビオン)はユキに追いついた。
そうともそいつはまるきり逆回転。
もう一度ああなりたくはないという抵抗が、輪廻をたぐって至元、根源の再現。
おのれのすがたをまるっとわすれ
何もかも食う椿の森が、生い茂る。
そうしてひとり、ロクがとりのこされた。
「ユキ…?」
ロクの声が、かすれる。
気遣いの音調ではない。このかすれにそんな余裕はない。
目の前でユキが吹き飛んだのが大きかった。突然椿の森にぶち込まれたのも大きかった。それがロクの知る森とは全く違う、それもとても大きかった。その森はロクの手を必要としていなかった。
ここではロクは森番ではない。
大事なよすがが悲鳴を上げる。
だからここにいるロクは、ずいぶんけものに近かった。
だから探す。
ユキ。呼ぶ。憧れる、羨ましい、天真爛漫な、ひとを。
獣も人も等しく持つ音で。
こんなにずいぶんむしゃむしゃと
たべることもいつぶりでしょう
「…、どこ…?」
まいご、群れからはぐれた一匹。
こいしと鳴く、その音階。
…答えはない。
どうぞどうぞどなたさまも
このいぶくろへおはいりください
暗闇の椿の森。
「ユキ」誰かを追って来た彷徨い人がそうするように。「ユキ」ロクは炎を掲げて影を探す。「ユキ」迷い込んではぐれた獣がそうするように。「ユキ」ロクは首を振り振り覚束なく足取りで歩く。
そのあゆみはどこか、森番よりもけものに近い。
そうすればみなさまいっしょでござい
まいごのひとりもだしませぬ
椿が揺れる度鳴る葉擦れの音が「ユキ」泣き疲れてからっぽになった鼻をそれでもすする音みたいだ。「どこ」あそびたいよ。
そうすればみなさまといっしょでござい
ひとりのこされることもござませぬ
椿が落ちる度鳴る微かな音は「ユキ」嘆き尽くして嘆き足りずに嘆いて漏れる呻きに似ている。「どこ」話したいよ。
たといこのみがうまれかわろうと
たといのうずいがわすれましょうとも、
きにはねんりんがあるのでございます
きざまれているのでございます
「ユキ」
だからずっとおもっておりました
どうしてまたねばならぬのでしょう
ながくながーいじかんは、
とってもたいくつでございます
「どこ」
あんなにも応えてくれた相槌が、どこからもきこえない。
森の中だというのに、どうしてこんなにひとりなのだろう。
たのしいあそびにぼっとうしましょう
ぼういんぼうしょくいたしましょう
「ユキ」
どうして?
どうして応えてくれない?
ロクの腹の底にちりと火が灯る。
そいでもそいでもどうしても、
なかなかどうしてとってもながい
ゆきひとりのこして まわりはぐるぐるうつろいまわる ゆきばっかりひとりにして
病のせいで焦げたロクの傷痕に、その火は余りに痛かった。
激しい焦燥。ひどい切望。
どうしてどこからも応えてくれない?
…たっぷりあそんだこどもだって、からすといっしょにかえれるのに。
あなたがたにひはなくとも、こいつはさすがにちょいとばかりふこうへい
ちょっとぐらいうらんだって
ちょっとぐらいうらやんだって
ぐるぐるまわってはっぴゃくねん
ーまだー
ほんとは
ーまだ、教えてもらってない。
ばけものになんて
「っ」
ロクの腹の底が燃えた。
今まで揺らいでいた自己がはっきりと形を取った。
炎の鬣がいっとき舞い上がり、尾が靡く。
真の姿は獣の相にて、人というには少々足りぬ、けものというにも抱いた炎がまばゆすぎる。どっちつかず、どこにもゆけぬ。
しかし、しかし。
だから、だからこそ。
ひとりのさみしさを、けものはようく、しっていた。
ひとこいし、ひとうらやみ、ひとねがう。
じゃあ聞けよ。
応えろよ。
どうして、応えてくれないんだ。
腹の底の火が巻き上がり自ら焼いた胸、その奥の肺を焼いて迫り上がる。喉を駆け上がってーー嗚呼。
口を、開かせる!
「さっき!!!!!!!!!!!!!!!」
普段なら思い遣って抑える己が声質を忘れたように。
聴いて欲しい、ではなく。
聴かせたいという本心の駄々。
音量の制限も言葉の拙さも捨てて叫び上げる。
…森の安らかさを、ロクは知っている。だからよぎる。ユキはこの方が幸せなんじゃないか。
それがどうした。それが今おれがこの感情を捨てる理由になるか。
それが叫ばない理由になるか!
咆哮というには
「なんで、叫んだんだ!!!!!!!」
あんまりにも“問い“(ひとのことば)だった。
……。
声が、しない。
「……ッ!」所詮獣はのけものか。聞く価値もないか。
ならばと子供(けもの)はムキになる。
繋いでやる。
ぐるりと廻った逆回転を
無理矢理、再び回してやる。
キミは、おれを、森番と呼んだ。
(そうだ、おれは森番だ)(信仰と受けた慈愛が在り方のよすがだ)(それがなければただのけものだ)
ならば病んだ森を切り開き芽を出させる、森番の仕事を見せてやる。
(だけど森番とは)(ひととともにあるには)(ひとに受け入れてもらえなければ)(けっきょくさみしいけものなのだ)
狂い咲く花は、森の悲鳴。
(森番と、だれかがよんでくれなければ)
ユキ。
炎が。
椿の森を昇華/捎花する。
ばらばらの枝もめちゃくちゃな根もびっしり覆う葉もたわわに狂い咲く華も、まるごと炎でまとめ上げる。
依り合わせる。
焼き払う。
あつい いたい くるしい いたい。
…いくら自己を分散し増殖しているといえど、さすがに一焼に伏せられればひとたまりもない。炎に焼かれて椿が落ちる、うつむく、しなる。
いたい、いたい、
自身を包む炎は、花というより。
てのひらのように思われる。
ずるいです ずるいです
強すぎる炎の光は、あんまり強くて白のよう。焼け落ちる葉の動きがまぶたにやきつき、ちょっと汚れたようにも見える。
べったり白く塗られた団地の壁。雨だれの汚れがちょっとある。
ひどいです ひどいです
ばらばら焼け落ち崩れる枝で白が一瞬黒くかげる。それがちょうど、無数の人影に思われる。影絵あそび、あれはだれ、これはそれ、ああ、このぶぶんはあのくせっけみたい。
まぶしいです、まばゆいです。
ずるいです。そんなにあかるくてまばゆいなんて。ひとりになったらどんなにくらくおもうでしょう。ひっぱるんならユキのお願い聞いてください。
繋がれる。
結ばれる。
そうだ、手放してやるものか、この糸だけは。
炎が焼き尽くし、収束する。
「ユキ」
かくして森は灰と眠り。
ユキはいつものように一巡り、焼けた椿(うち)からその身を起こした。「ぁ」
ぺったり座り込み、灰と煤で汚れきった顔で。
「ロク、さん」
しばし、見つめあって。
「…ん」ロクがうなずいた。
「…へへ…」それだけのことがひどくくすぐったい。「ん」「どーも…」「ん」
ロクがかがむ。自身の服の袖を引っ張って、その顔を拭いてやる。「わぷ」「ん」拙い慈愛の真似事。真似事でも、充分。
「手数、かけました」
ユキのゆれる声に、ロクはかぶりを振る。「…ん」
「なんか」なんだか腰が抜けて立てず、ユキはへらりと笑う。「ん」「相子っすね、これ」「…ん」
ロクからユキへ手が伸ばされる。掌。ああ、会いたいな、などとユキは思い出して、思い出せる自分に笑う。「ん?」「いえいえ…」誤魔化して、はたと思う。
「なんかロクさん、相槌多いっすね」
「ん」
手を取る。
立ち上がるー立ち上がれる。「はっ」「ん」「ユキの真似ですか!?」「……」「真似ですね?」「……」「ロクさーん」「んー…」「そこ考え込むんですかあ!」ユキは笑う。笑える。
「サンキュです」
思い切り笑む。ひとのこへ、ともだちへ。
遊びの続きのように。
「ん」
ロクもまた、微笑み返す。ともだちへ、ひとのこへ。
笑う。
笑い合える。
「ところで」「はい?」「意味」「意味?」「さっきの」「さっき?」「わああーの」真似っこリプレイ。「わあああ!?!?」「それ」「恥ずいんですけどお!?」「…そんなに恥ずかしい…?」「いやもーほんっと勘弁!勘弁してください!」「……」「ちょっと唇尖らせてもだめ!ダメですから!」
夕焼け小焼けで日が暮れて
明日の青い空がやってくる。
おててつないでみなかえろ。
からすもけものもへだてなく
なかよく、いっしょに、かえりましょう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋奈森・鈴音
失いたくないもの?
おねーさんは欲張りだから全部失いたくないなー。
だって今のおねーさんの土台だから、大事なものばかりなのよねー。
だから全部守り切ってみせよー!
自分に宿した悪鬼に戦闘を任せ、おねーさんの心には触れさせないの。
意思はあるから、周りの様子を見て、自分の攻撃も含め(操られてる)生きてる人に止めを刺すようなことは制止するわねー。
「女の子の秘密は簡単に暴けないのよ?」
どんどん増えてキリがなさそうなのでおねーさんが囮になって、根本を潰す手段を誰かが見出す時間を稼ごう!
影響されてなくて、生存者を助ける善性を失わないおねーさんはみんな邪魔したいわよねー?
「おねーさん達が簡単に堕ちると思ってたー?」
波狼・拓哉
さてさて…まあ、一応死んでない人までやるのはあれなので。化け明かしなミミック。悪意も善意も虚空に消しな。
善性…善性なぁ。正直その辺分からないんだよな。狂気に染まった時にそういう感性全部吹っ飛んだし。…何事にも表裏一体とは言うけれど大体例外はあるわけで。縁で立つコイン。灰色。透明。エトセトラ…
…んーまあ、あれか。自分が死ぬかどうかってのが大きな判断基準の一つかなぁ。多分。後は基本面白そうな方に進むしな俺…
まあ、たとえ俺がいくら迷おうと、失おうと、千切れようと大体ミミックが背中を蹴るからな。答え出す前にいらんことしてきた奴を消すのが先ではってな。それじゃ、弾丸の餌食にしますか。
(アドリブ絡み歓迎)
○、強欲○、びっくりばこ○
あっちでは響くフルバースト。
そっちでは花咲く椿の森。
悲鳴と怒号と業は止み煽る爆音も祝いの青もないのに、あちらもこちらも内臓でもぶちまけたような騒ぎだ。
「ほとんど音がしないのに騒ぎって表現としてはアリなんですかね?」
顎に手を当て波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)はすっとぼけたことを言う。
拓哉を囲むデカダンス・ブラックの群れなどまったく意に介さずに。
流石に気絶させた後の拘束まではしきれていなかったし、まとめられるものはまとめて倒していたから、まあ、そう言うことにもなる。
「どうなのかしらねー」
頬に手を当て緋奈森・鈴音(妖狐の化身忍者・f03767)もすっとぼける。おなじように囲まれながら。
彼女で一段高いところで青い鳥を焼いていたので…まあ、こちらもやっぱりそういうことにもなる。
その瞳にも黒の群れが映ってはいるはずだが特段警戒していない。
二人はゲーム大会運営ブースにいた。会場を見回し各ゲームの進行を確認、不備があれば報告する。開会式と閉会式をそこからアナウンスする、わざわざ組んで用意されたコーナーだ。
もっとも折り畳める長机はへし折られ、マップは引き剥がされぶち破られて転がされたスピーカー。ゲーム大会の倫理の心臓は見る影もない。一体誰が(そして何名が)どんな暴力でこんな風にしたのか、考えたくもないし、考えても意味がない。
少し高いため、あちらこちらがまあまあ見える。
拓哉はゴム弾を、鈴音は狐火を、時折、思い出したように放って寄せる影を追い払う。
「どっちかというといちだいじって感じー」
「確かに」
…のんびりとした会話はまったく正気のようでいて、まったく正気の沙汰ではない。
悪意で動かされているだけあってそれらに気絶の手段は効かない。うぞうぞと増殖しただ猟兵すらもひっくり返さんと手を伸ばしている、黒、黒、黒。
目の前にあるのは、命、自身の精神、ならびに魂への緩やかな危機なのだ。
「うーん、どう思うー?」
唇をとんがらせ鈴音は拓哉を振り返る。
「そうですね」なんだか今日はよくどう思うか聞かれる日だ。拓哉は冷静に分析を口にする。「生死を問わず意識がないものにとりつき動かす。そういった手合いですね」まあ観客がひとりとはいえ探偵の面目躍如ではある。「うんうん」鈴音は何度も首を縦に振る。
「死体も気絶も端末にリサイクル。効率的ではあります」…できればもっと入り組んだ謎の方が楽しいのだが、それはそれ。
「どうしておねーさんたちを狙うと思う?」「心か精神があるからか…」「善性かー?」拓哉は笑みを苦笑に変えて、継がれた言葉に首を振る。
「ノーコメント」「あらー」
「ぶっちゃけ俺はそこらへんの感覚はよくわかりませんので」
鈴音の顔へ笑みに歪んだ赤い月が浮かぶ。
「奇遇ね」「おや」
「おねーさんもよ」
さも当然とくすくす笑い。
人の姿によく似ながら、その実、甘い獣のように。
「やっぱり呪術じゃないわよねー」「…ですね」
「本体がどこかにいるかー?」鈴音が右手の人差し指を立て
「ないしはすべてが本体になりうるか」拓哉が左手の人差し指を立てる。
「数を鎮圧?」鈴音が左手の人差し指を立てれば
「蘇る間もなく」拓哉が右手の人差し指を立てる。
鈴音の人差し指の上で揺れる狐火が、それぞれ伸びてつながって、丸を描いた。
「おっけー」
そして鈴音は、炎を引っ込めた。
「それじゃ、おねーさんは行くわねー」
あまりにあっけらかんとした、一言だった。
「この中を?」「ええ」問うても揺らがず変わらずに、鈴音は微笑んでいる。
「対策は?」
問いに返ってきたのは愛嬌たっぷりの笑み。
「見ての、お・た・の・し・み」
「…わーお」
「おねーさんはねー、欲張りなの」小気味良くかかとを鳴らして先へ向かう。あと数歩でブースの床がない。「あれもこれもほしいしーのんびりダラダラしてたいしー」
しなやかになびいた鈴音の黒髪のきらめく黒。
「土台なのよね、得たすべてが。ぜーんぶ失いたくないの」
真黒に狂気にあえて自らを染めながら、燦然と笑っている。
拓也へ、囁く。
「だから、手に入れたものをあげるなんてまっぴら」
ひときわ高く飛んで、
「解決よろしくねー、探偵さん」
落ちる。
あっと言う間に、見えなくなる。
輝きを求めて影が動く。おお、おお。唸り声は亡者のようでいて無機質だ。
波が一気に動く。
狐火が上がる。かまいたちが舞う。突然氷が降り注いでー…狐の祭りのようだ。
「よろしくねー、だって」
残された拓哉が、ぽつりともらした。「いたっ」右斜め45度、割ときっちり痛そうな角度でジャケットのポケットの中に潜んでいた函が拓哉の脇腹に刺さる。「いたいって、ミミック、脇腹、脇腹に角はいたいって、ぐりぐりすんなっ」
…ぶっちゃけしまえば、これで拓哉の安全は半ば確保されたと言っていい。遠くの狂気より近くの正気だろう。鈴音に殺到すればするほど拓哉は楽ができる。
とはいえ。
パイプ椅子を出し、どっかと座る。
「依頼されちゃあしょうがないよね、探偵としてはさ」
観察しろ。
最善の一手(ロイヤルストレートフラッシュ)を得るために。
鮮やかで力強い笑みを浮かべた。
鈴音を知る誰かがそれを見たら、きっと心からぎょっとしただろう。
いつもの怠惰は何処へやら?
それどころではない。
怨霊・悪鬼、その類い。
なりふり構わず、我が身省みずーー…。
あり得ない、と誰かは言うだろう。
その通り、ありえない。
鈴音自身とてこんなふうに動きたいとは思わないしやりたくない。だって負荷すごい。疲れる。
鈴音を動かすのは、彼女が呼んだ悪鬼だ。
毒を持って毒を制すと言わんばかり、彼女はその身を悪鬼へ明け渡した!
直に侵食するというのなら、なんのことはない、一枚挟んでやればよい。
「女の子の秘密は簡単に暴けないのよ?」
伸びる手を掻い潜る自分を認識しながら、鈴の鳴る音で笑う。笑ってやる。
意識は失わない。失ってはいけない。
ないとは思うが悪鬼の操るデカダンス・ブラックだなんて、洒落にもならない。かわいくもないし。
自分が自分ではない振る舞いで敵をなぎ倒すのを見つめながら、時々表に出て手加減をさせる。腹に穴を開けてはいけないし、首を切り飛ばすなんてもってのほか。
誰が生者で誰が死者か?わかりようなんかないから、一瞬でも気は抜けない。
荒々しく、優しく。
二律背反を同時成立なんて無理で道理を殴り飛ばす力業だ。
UDCアースの治療技術ってどんなんだったかなー、体から切り離した思考で考える。音もうるさいし痛いのも嫌なので聴覚・痛覚を心から切ってある。おかげできちんと、遠い。
もーいーかなー。徐々に苛々がつのり始める。できるからやってるがとても面倒だ。
いんじゃないかなーもー斬ったって。
首の一個や二個。
だって死んでるのか生きてるのかもわからないし。
そもそも
デカダンス・ブラックになったものが
生きて元に戻れる確約もない。
あなたの善性を引きちぎろう。
明かりを灯して暗闇をごまかしても、そいつはゆっくり浸食する。
守りたいものに守る価値もないとしたら、
守りたくて守るものの、すでに中身が空っぽだったら。
さあ、どうだろう?
再び。
鈴音の唇が笑む。艶やかに赤く。
妖狐はいつだって人間と違う位置にいる。
今回は、
「さあ、化け明かしな、ミミック」
パイプ椅子から立ち上がった男を見ていた。
無数の太陽が、ひらく。
偽りを正し/正しく偽る、天の瞳。
あるいは門。
会場をまっさらに塗り替える。
「悪意も善意も、虚空に消しちまえ」
なにものもゆるさぬというのなら。
なにもかも消して残る虚無(ラスト・ヴォイド)というのなら、
その光は、黒より黒い。
「まあ眩しいんだけどね」
拓哉は茶化して笑う。狂気は死人に届かない。生者は等しく狂気に焼かれ、善も悪もが抜け落ちる。
だから残る。
影だけが。悪意だけが。
…もちろん、陽(ひかり)を強めてもっと焼くこともできるが
「死んでない人までやるのは流石にちょっとアレだしね」
冗談めかして、付け加える。
影が炙り出せれば充分だ。
悪鬼のものではない、
美しい、舞が影を断つ。
「おねーさん達が簡単に堕ちると思ってたー?」
どんな光より輝く、勝利宣言。
「正直思うんだけどさ」
拓哉はぼやく。「善悪、表裏、そんな区切れるもんじゃなくない?」聞いているのはよすがだけだ。「白黒には灰色があるし七色あったら透明もある。表裏を問われるコインだって縁で立つ」彼にしては妙に語調が弱い。「そんな白黒善悪問うてやれどっちがどっちがなんてやるくらいならさ、どっちでもない俺はなんだっての」面白ければいいかというあのあっけらかんとしたさまがどこかなりを潜めて。
「そんな白黒問うてあっちこっちが悪いだなんだやるならさ」
「このまま狂気でまっさらも悪くないと思ったりしない?」
密やかな悪魔的(ミミクリー)に笑みを浮かべて。
返事はない。「ミミック」ただ「あのミミックさん?ねえちょっと?俺に当てる光だけ一部強くない?ねえ?今俺端物理的に焦げてない?」
……。もちろん、そんなことはなかった。
あーあ、と仰ぐ。燦々とかがやく眼と眼が合う。
狂いきっても、自分を肯定するもの。
「ー分かってるよ」
拓哉の眼下、黒が再び立ち上がる。
やはりこの会場にはいないのだ。
どこかにいるはずだ。おそらくそれが根源。
どこだ。思考する。思考する。そして気づく。
かわいいミミック、無数の目。
建物ならどこだって、監視する目があるのだ。
拓哉はありったけの声で叫ぶ。
「管理室だ!」
Q.E.D。
Q:根源の位置、大群の制圧、ともに。
証明、完了。
大成功
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カイム・クローバー
ラッキーだ。丁度、魔剣を振り回したいと思っていてね。反応のない死体相手ってのは少し白けるが。さぁ、ラスト・ゲームは俺とのダンス勝負だ
善性は俺の持つ信念。やりたい時に自由にやる。助けたい奴を助ける。気に入らねぇ連中はぶちのめす。正義のヒーローとは違う。俺のは究極のワガママさ。
軸は大事な相手と多くの友人。無様なザマは見せられねぇ。
嫌いなのは過去の化物共。全部って訳じゃないが、気に入らねぇ連中の方が遥かに多い。
【二回攻撃】に黒銀の炎を纏わせた【属性攻撃】。静まり返った館内じゃ、BGMは期待できねぇか。じゃあ、しょうがねぇな!(携帯でロックを流し、UC)──死体なら『殺して』しまってもお咎めないだろ?
○、ラストゲーム:コイントス○
“管理室です。”
たった一行のショートメール。
だれから?なにが?いつの間に?
一切の問いは野暮だ。
死者や気絶したものを動かすオブリビオン。
その形は増殖。全てを速やかに討たねばならない。
であるならば、さて、すべてのオブリビオンを一か所に置くだろうか?
置かないだろう。
同じことを考え、追っていた男がいたらしい…らしいというか、
「流石だ、探偵」
知っているというか。
会場を真白に焼くコードも見当が付く。
暗闇をあばき、討つべき死者の影のみをあぶり出す、その手腕。
メールを消して、オルトロスを仕舞う。
誰が生者か死者かわからぬが故に手加減して行動不能を狙う、番犬の仕事はおしまいだ。
「なら俺も、便利屋の腕を見せないとな」
背中の剣に手をかけた。「反応がないのがちと白けるが…ま、死体なら、殺しちまっても『お咎め』なしだしな」獰猛に笑う。
影が唸る。おおお、おおおーーー…。
「散々あんたらの好きな音楽を聴かせてくれたんだ」メールを消してスマートフォンを操作する。
「最後の一曲ぐらいは、こっちが好きなのかけたっていいだろ?」
是非は問わない。応える口もない。
大音量で響き始める、ハードロック。
「さあ、ラストゲームといこうか」
剣を抜き、振り下ろす。
「付き合えよ、一曲」
それより先は、死の舞踏(ダンス・マカブル)。
魔剣が影を断つ。神々に比べればずいぶんとやわらかい。
黒い炎が影を焼く。銀でもって邪を払う。
揺らぐ影にいびつな翼を見る。うねる姿に呪わしい角を見る。あれは歪んだ尾だろうか。過去に見た連中に錯覚する。
おそらくまずはそうして、精神にえぐり込もうというのだろう。
まさしく過去(オブリビオン)ーー廃退からの黒(デカダンス・ブラック)。
ハ、笑う。本当にまったくもっていけ好かねえ連中だ。
手加減のしようもないくらい!
黒い炎に焼かれた影の動いてくねるさまが
いくつも伸ばされる手がバカ騒ぎ(ロックン・ロール)のようだ。「できるじゃねえか」ご褒美は重い一撃だ。
思い切りぶちかまし、激しく叩き伏せる(ロック・アンド・ロール)はこうするんだと。
なぜ剣を振るのか?
不意に問いがやってくる。
馬鹿馬鹿しくてたまらない。
俺がそうしたいからだ!
迫りくる黒い波を掻い潜り、時には踏み台にすらし、剣を振り上げ、振り下ろす。
まったく関係ない。
その足に床も天井もなく。
ひっくり返されたテーブルも易々叩き切って蹴り飛ばす、数体同時ヒット!
剣を振り払い影の一部を振り落としてくつくつ笑う。
…そういう意味では、この身に宿る邪神と自分は確かに近しいのかもしれない。
やりたい時にやる。
悪党だろうが助けたい奴は助け、
気に入らねえ奴はぶちのめす!
…いったいそこに、どうして善悪があろうや?
「残念だったな」にやりと笑う「こう見えて俺は結構ワガママでな!」
…仲間の一人もいればそこに茶々の一つも入れたかもしれない。いや見たまんまですよとかなんとか。うるせえ。思い描いたそいつらに言い返す。
「生憎と千切られるようなモンは持ち合わせてねえんだよ」
嗚呼、ゆらぎようもない。
それでも時に影が囁く。
真に大事だと思うなら。
うるせえ、それも斬り飛ばす。けらけら笑い飛ばす。
そんな事してみろ、あいつらカンカンになって俺を殺そうとするだろうよ!脳裏にひらめく金髪。とくにあいつは金棒持って追っかけてくるかもな。涙目で。そんな無様見せられるかよ!
踊る黒を、銀が飾る。
ラスト・ダンスに相応しく、その舞踏は死を笑う(ダンス・マカブル)。
青い鳥に祝福されて振るのではない、
自分の意思で、斬りたいものを叩っ斬る。
管理室の扉を蹴り開けた。
血糊でべっとりと汚れながら、一切の死体がない部屋。
「ヘイ、待たせたな、ナインボール(大目玉)」
死体のゆくえ?
無数のモニターを無数の首で覗き込み、ぼたぼたと黒を垂らすもの。
「寂しかったろ?」茶化す。「それともあれか?神様気取って高みの見物か?」旧友の友のようにべらべらしゃべり、区切る。
「いいねえ」
「俺もこいつ(剣)も、そういう奴が一番気にくわねえんだ」
ラスト・ステップを刻み込む!
黒い炎でひときわ燃え上がるナインボール。
カイムは右手の人差し指と親指を立て、銃に見立てて撃ち真似をする。
「バーン」
キューに打たれたボールと同じく。
カイムのその一言と共に、ボールがポケットに落ちるように。
デカダンス・ブラックは消滅した。
モニターを覗き込めば、黒はない。
代わりに転がる人間と、起き上がる人間が見える。
「事件解決ってな」
ことのゆくさきを思い描き、面倒になる前におさらばしようとちゃっちゃと決めて、ふと気づく。
放送スイッチがいくつかある。
少し吟味して一つを選ぶ。
「ま、俺の趣味じゃ全くないが」
というか、流したのを聞かれたら笑われそうだ。
音量を下げて、スイッチを入れる。
「こういうセンチメンタルなのも、たまには悪くねえだろ。ゲーム大会、だったわけだしな」
流れ始める、「ゆうやけ こやけ」。
○
長い通路を歩けば、ゲーム会場にたどり着く。
そこにはたくさんのゲームがとっ散らかっている。
ルーレット、ダーツ、ビリヤード、など、など、など、カードは汚れて散らばり、無事な遊戯はひとつとしてないように思われた。
会場は沈静している。
どこもかしこも人が転がり派手な祭りのあとの様相。
…事実、そうだったわけだが。
ブースの一角には休憩コーナー
「んーとねー、結構いろいろ楽しそうだったのよねー」
「ルーレットでしょー投げるやつでしょー、ボール打つやつでしょートランプもいっぱいあったしー、巨大だるま落とし?みたいなのとかー」
「こんどはふつーに遊べるの、してくれないかなー」
大富豪、
「あ」「ん」「夕焼け、小焼け」「っすね、あ〜〜終わったァ〜〜って感じっすね〜」「ん」「もう散々っすよ〜ボッロボロ」「ん」「ゆーやけこーやけで ひがくーれてー」「てー」「ふふっ」
ポーカー、
「あっどうも」「…」「お客様もご無事でしたか!いやあハハハどういう訳か足がこのザマでして」「そうか…大変だったな」
「しかし幸いなことに比較的傷が浅んですな」「…幸いなことに、か」
「幸いなことに、です。そして残念なことに多分救急車は後回しです」「……」「そしてなんということでしょう!なんとこんなところにカードが!こんなところというかベストの裏ポケットなんですが!」「……、知ってるよ」「おや何故」
「イカサマ」「わははは」
「どうでしょう、もうワンゲーム。暇人の相手をすると思って」
「…あー」「おや」「ああ」「失敬失敬、指先、火傷ですか?」「ああ、少し…気付いたら」「さようで」「では」「ああ」
「またあした」
「…また、あした?」
「いけませんか?あっいけませんよな明日は急ですねわはは失礼失礼!」「また、あした、か」「ええ」「明日と言わず、明後日でも明々後日でも」「そう、か」
「そうですねえ…いかがです?
次は、ブラック・ジャックでも」
……様々なブースを横切って、様々な会話を横聞きに、出口はもうすぐそこだ。
見かけた猟兵もいたし、探偵はやっぱりちゃっかり面倒になる前におさらばしていたようだ。
まあ縁があったらメールのひとつも来るだろう。
カイムは歩きながらポケットを探る。
いつかつかまされたクソ金貨が一枚。
その輝きに目を細めーいつもならここでちょっとした私怨を思い出すのだが、今日はどうしてかそれを許してー弾く。
コイントス。
左手で受けて、右手で素早く封をする。
間髪開けずに開く。
む、と眉を寄せた。
裏
●
やっぱりあいついつかしばく。理不尽な怒りが追加された瞬間だった。
それからカイムは不意に気付いてコインをその指でつまみ、あろうことか自らの指でひっくり返した。
「これで、三回連続だ」
表。
○
(ゲーム、青い鳥、あなたの欲望/you may do it,If you wish)
—-(幕)
大成功
🔵🔵🔵