●花墜ちる
雪のちらつく寒村に、一人の美しい女性が訪れた。波打つ金の髪を足下まで降ろし、憂いに伏せられた瞳は凍り付く様に青く透き通っていた。
裾の破けたドレスを纏いながらも凜と背を伸ばした姿は、並々ならぬ彼女の言い様を現したかのようだった。ざくざくと素足で雪を踏みしめながら彼女の墓場の方へと歩いて行くと、一時静かに俯いてその場に佇んだ。
雲の切れ間より現われた月が降ろしたヴェールに包まれて、その姿は神々しさすら感じられた。何より精緻で整った顔立ちと荒行に似合わぬ楚々とした振る舞いは、伝承に聞く聖女に相応しいと誰とも無く呟いた。
「血を拒む吸血鬼を知っていますね」
向けられた言葉と共に白い指先が伸びて、遠巻きに見ていた女性へと歩み寄り首筋を撫でる。まるで雪のように冷たく凍えた肌は、命の色を失ったかのよう。
――命を、失ったかのような。
「まさか……」
「知っていますね」
表情を変えず問いかけた聖女の言葉に、女性はとうとう耐えかねて悲鳴を上げた。鍬や鎌など手近なもので武装した村人たちが駆けつけると、女性を庇うように若い男性が抱きしめた。
「お前も吸血鬼の仲間なのかい!」
「あなた方は血を拒む吸血鬼を知っていますね」
壊れた人形のように同じ言葉を繰り返し問いかけるも、村人たちは口をつぐんだまま。ならばと首筋から手を放すと指先を空に滑らせた。炎に包まれた古城の迷宮が現われ、村人たちを取り囲む。
じりじりと輪を狭める炎の前に、彼らは決断を迫られた。答えなければどうなるか、想像できる未来は一つしか無い。
「……この村を出て谷の方角を真っ直ぐ進みなされ。万年雪の城に生わす城主様は人の血など好まれん。じゃが、牙を向けるものには容赦はされぬ」
「そう」
年老いた村長が重い口を開くと、彼女は興味でも失せたのか淡々と言葉を返すと破れたドレスの裾を翻した。
「この……悪魔め!」
聖女の皮を被った悪魔、人を貶めのうのうと生きる女。――裏切り者。
口々に上がる罵りを受けても振り返ること無く、村人たちを包む炎を残したまま裏切り者の聖女は雪の中へと消えていった。
一人の女が雪中を歩く。
「世界に救いなど在りはしない」
雪を素足で踏みしめながら、次第に大きくなる門へと足を進めた。
救いの無い世界の中、常闇において輝きを放つもの。闇をかき分けて咲く花のように存在するもの。それは――。
鐘楼の鐘が鳴る。佇む女の声を掻き消して、けたたましく谷底へと響き反響した。
いよいよ彼女は門を破り庭園を駆け抜ける。立ちはだかる土塊の人形を見て、赤黒く染まった指先を向けた。
●開けぬ黎明、暮れぬ黄昏
多くの猟兵が行き交うグリモアベースの一角で、静かに手を組み祈りを捧げる人がいた。
「常闇の世界に、一筋の規模が現れ始めた。けれどまだ夜明けには遠く、儚すぎる」
指先を解いて現われたのは白いダリア。輝く花のグリモアを手にしたアシニクス・レーヴァ(剪定者・f21769)は立ち止まった人々を見やると、静かな視線を向けゆっくりと瞬くだけの挨拶をした。
「集まってくれてありがとうございます。話し方がいつもと違う――ですか。少し学びまして、人と接する時は人当たりを良くする方がいいらしいと考え、少々訓練を重ねてこの様になりました」
何かおかしいところはありますか、と首を傾げるアシニクス。至らぬ点は後々の課題と致しましょう、と一人頷くと居住まいを正した。
「話が逸れましたね。早速ですが本題を、ダークセイヴァーに現われた一人のオブリビオンの予知が見えました。今回は二人のオブリビオンを皆様に討って頂きたいのです」
解ける花弁が落ちて床で弾けると、空から舞い落ちる雪の幻想を辺りに投影した。
「皆さんはオブリビオンを討つオブリビオンを聞いたことがあるでしょうか」
ダークセイヴァーにおいて最も忌み嫌われる存在、同族殺しの狂えるオブリビオン。今回現われたのはそんな狂気に踊るものなのだという。
「『彼女』はオブリビオンでありながらそれらを狩るもの――同族殺しと呼ばれる存在で、正に一つの城を襲撃しようとしています。
彼女が何故狂い、この城に住むオブリビオンを狙ったのか。詳細なことは一切分かりません。彼女の狙う『領主』は強大な力を持つヴァンパイアです、ですが彼女もまた力あるオブリビオン。その力を利用し一時的な共同戦線を張ることで勝機が見えるほどです。今回は少し急ぐ理由があるため、彼女の存在はむしろ好都合だと判断しました」
急ぐ理由を尋ねられたアシニクスは僅かに目を伏せ、静かな眼差しでダリアの花を見つめた。
「領主たるヴァンパイアは『渇きの王』と呼ばれる存在です。血を求めることを止めた風変わりな吸血鬼なのですが、その事により彼は弱り、誇り高き精神は獸同然に落ちようとしている。このままでは暴走し見境無く『略奪』を行う可能性も無きにしも非ず、という状態です」
今はまだ持ちこたえているが、それもいつまでもつか分からない。溢れ出そうになる水を、何とか蓋をして抑えているような状態だ。
「これは単なる私の独り言。同族に対しても厳しく、刃向かうものには容赦ない。誇り高き王のまま逝かせてやって欲しい」
幻想の雪が落ち、アシニクスが空に滑らせた指先で広げた地図に染みて目的地を指し示す。場所は未だ春遠き城、薔薇の庭園の奥に彼は居るという。
この渇き飢える王の下へひた走り、彼女はやってくる。
「城の中へと入れば、あとはエントランスホールを抜けて反対側にある庭園まで道なりに進むことになります。案内は『彼女』が努める事でしょう。道中には忠実な衛兵たるグレイブヤードゴーレムが多数配置されています。この先も息つく間もなく戦うことになりますし、先陣を切る危険な役目はいっそ任せてしまうのも一つの手では無いでしょうか」
あくまで同族殺しの力を『利用する』こと、それがこの作戦の肝だとアシニクスは言う。
「信頼しろとは言いません。お互いに都合良く利用するだけすればいいのです。さて、城門までは私の力で転送します。門を潜った先はもう戦場です。――健闘を祈ります、猟兵達。どうか無事の生還を」
青く輝く光の転移門を開いたアシニクスは、世界を渡る猟兵達を見送りながら祈りを捧げた。
水平彼方
お久しぶりです、水平彼方です。今回はダークセイヴァーのお話です。
未だ春遠き、雪深き地より。同族殺しとそれに纏わる物語をお届けします。
●シナリオについて
第1章 集団戦『グレイブヤードゴーレム』
第2章 ボス戦『渇きの王』
第3章 ボス戦『???』
各章戦闘のみとなる章立てですが、皆様の心情に寄り添いながら進めていきたいと思っています。
●プレイングについて
迷子防止のため【グループ名】または【お相手のID】をお忘れ無いようにお願いします。お相手が揃わない場合などは届いたプレイングの分をご案内させて頂くか、流させて頂きます。
プレイングについてはマスターページにもご案内させて頂いております。よろしければそちらを参照ください。
またオープニングにもあるとおり、第2章までは同族殺しと共闘することになりますのでご留意ください。
●アドリブについて
指定がなければプレイング内容を汲み取りつつ、アドリブや連携をいれつつリプレイをお届けします。
アドリブにつきましては、プレイング冒頭に以下の記号を付けて頂ければ伝わりますので、よろしければお使いください。
◎ アドリブ、連携歓迎
▲ 連携×
△ アドリブなし
●シナリオ運用について
第1章の断章公開後から受付開始となります。
その後につきましては【簡易連絡】および【Twitter】にて告知致します。
告知以前に頂いたプレイングは場合によってはお返しさせて頂きます。
なるべく全てのプレイングを採用させて頂くつもりですが、内容によってはお返しさせて頂きます。
それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『グレイブヤードゴーレム』
|
POW : なぐる
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : ふみくだく
【踏みつけ】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の土塊を取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : さけぶ
【すべてをこわしたい】という願いを【背中の棺群】の【怨霊】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●灰と塵
遠くから見れば、それは一人の娘が城主の元へと嫁ぐ婚礼の日だと思うかも知れない。
体により沿うようなシルエットも、白いドレスに施されたレースや花の意匠も。まるで髪に白薔薇を戴く彼女に合わせて誂えられたかのようにぴったりだった。
月光のヴェールを身に纏い、いよいよこれから夫となる人の元へと歩き出しそうだと、瞳に揺らいで見える狂気に気がつかなければ勘違いしてしまいそうになる。
彼女はこれから王を殺めに行く。
優雅な襞を描くフレアスリーブの裾から、ほっそりとした手が伸ばされた。たどり着いた城門の前に立ち手のひらを押し当てると、並々ならぬ力で鉄門を開いた。
そこから先は、恋に焦がれる少女のように。自然と軽くなる足取りにまかせて、少しでも早くと自らを急かして『あの人』の元へ。
爪先で雪を蹴り、破れたドレスの裾を雪と共に寒風の中に踊らせながら、同族殺したる女はプロムナードを駆け抜けた。
「血を拒む吸血鬼はどこ」
しかし溢れた言葉は甘い恋の囁きでは無く、冷たい死の宣告だった。譫言のように繰り返したあと目の前に立ちはだかるそれらを見た彼女は、嗚呼と憐憫のため息を漏らした。
「どこ」
侵入者に感付いたグレイブヤードゴーレムが岩のような拳を振り上げ、巨木のような足を持ち上げた。
「我ガ王、我ガ主……触レサセヌ!」
奮起するゴーレム達の折り重なるような攻撃をすり抜けたかと思うと、一瞬で土塊へと還し目的の方角へと進んでいく。
「どこ」
城内へと続く扉の前を護っていたゴーレムを破壊した彼女は、迷うこと無く把手に手をかけると重い扉を開け放つ。
薄暗い城内には蝋燭の明りが点々と掲げられているだけで、あとは妖しく光るゴーレムの目が星のように散らばっていた。
「どこ」
問いかける声に答える者はいない。
殺すために王を求める彼女は、まだ走り出したばかり。
遅れること僅か。城門の前に猟兵達が転移してくると、既に門は開いていた。そしてその合間から聞こえてくるのは僅かな足音とゴーレムの断末魔。
門を潜ればその背中を視界に収めることができるだろう。
客人を迎える為の庭はすっかり枯れ落ちて、土塊へと還ったゴーレム達に押しつぶされていた。
その向こうに見える華奢な後ろ姿を見て、彼女が『同族殺し』だと猟兵達は気づくだろう。既に庭を制圧し終え、いよいよ城内へと押し入るところだ。
彼女を見失うわけにはいかない。
同族殺しは吸血鬼を殺すため。
猟兵達は同族殺しの力を利用し吸血鬼を倒すため。
お互いを手駒にした束の間の共闘が始まろうとしていた。
======================================
第1章 集団戦『グレイブヤードゴーレム』
プレイング受付期間
【4/18 9:00~
エルネスト・ポラリス
聖女、ですか。
狂えるオブリビオンとなってなおそう呼ばれるのは……いえ、その是非を決めるのは私ではありませんね。
吸血鬼と聖女、その双方を殺めるために来ているのですから。
ユーベルコードで平静を保ちつつ同族殺しを追いましょう。
基本的には彼女に露払いをしてもらいますが、この後を考えると消耗されすぎても拙いのですよね。
前へ前へと出てくれるなら、此方は銃ででも援護しましょうか。
大火力のリボルバーにて、ゴーレムの四肢を狙い撃っていきます。
リロードも、彼女の背後でなら落ち着いてできるでしょう。
……血を吸わない吸血鬼、か。
ヴァンパイアの誇りなど知ったことではないですが、何を考えてるのでしょうね。
●月に牙を剥く
淡々と手を振るうたびに、前を行く同族殺しは目の前のゴーレムを砕いた。まるで人形など眼中にないと言わんばかりの静かな動作も、今この一瞬を切り取ってみれば『悪の吸血鬼の城へ乗り込み単身立ち向かう聖女』だと言われても疑問を持たなかっただろう。
白いドレスも、長い金髪も、どれもが冷たい光を孕んだ顔すらも。どれもが美しいと賞賛されるに値するものだった。
正義が目に見える形として現われるのなら、それは美しさを伴ってくるのだろう。
「聖女、ですか」
狂えるオブリビオンとなってそう呼ばれるのは、果たして彼女の行いに所以するのだろうか。眼鏡の弦を持ち上げて僅かなピンとのずれを直したエルネスト・ポラリス(たとえ月すら錆びはてるとも・f00066)は、誰に聞かせるでも無く独り胸の中で問いかけた。
「……いえ、その是非を決めるのは私ではありませんね」
行き詰まりかけた思考を振り払い、エルネストは前を向く。今は考える時では無い。吸血鬼と聖女、その双方を殺めるために来ているのだから。
「奮え、正せ、踏み越えろ。勇気とは──己に打ち克つ為にある!」
周囲の雑音がかき消えたなか、【W&G E800】のグリップを握り獲物を見定める。豪奢だったホールの飾りや先を行く白い背中の向こう、巨腕を振り上げたゴーレムへと銃口を向けた。
轟音が空気を震わせたかと思えば、放たれた銃弾はゴーレムの肩の土をごっそりとえぐり取っていった。かろうじてつなぎ止めた部分は、続けざまに放たれたエルネストの追撃で引きちぎられる。片腕を失いバランスを崩したゴーレムへと聖女が畳みかけ、どう、と音を立てて床の上に倒れ伏した。
後に控える吸血鬼との戦いの前に彼女が消耗されすぎても拙い。エルネストがゴーレムの四肢を狙い撃ち攻撃の手を奪いつつ、聖女がとどめを刺す。時間のかかるリロードも、圧倒的な力でゴーレムを砕いていく彼女の背後であれば落ち着いて行うことができた。
「血を拒む吸血鬼は、どこ」
最後の弾丸を弾倉に込めた時に聞こえた彼女の声に、エルネストはレンズの下の表情を険しくする。
「……血を吸わない吸血鬼、か」
ヴァンパイアの誇りなど知ったことではない、だが生命維持の手段を自ら断った彼の考えが分からない。
理解できないが、できずともいい。
何故なら彼は、もうすぐこの銃弾に撃ち抜かれる運命なのだから。
成功
🔵🔵🔴
キッテン・ニコラウス
『利用』、かぁ……
どうせなら2人まとめて正面から倒す方が私的には好みなんだけれど
ま、新米猟兵がそんなこと吠えたところで、よね
なんにせよ、まずはこのゴーレム達を片付けましょう
こんな雑魚達、悠長に構ってる暇なんてないんだからすぐ蹴散らしたげる!
私のこの溢れる「存在感」でゴーレム達の注意を引きつけるわ
OK、バカみたいに私に向かってきてくれてるわね?
なら私は【アイス・ランス・ショット】で全方位に氷の槍を放って迎撃!
お腹から背中の棺をブチ抜いて、うるさい怨霊共を黙らせてやるわ!
土塊はその辺に転がってなさい
ここは私が征く道よ
●わたしらしく“わたし”を貫く
「『利用』、かぁ……」
けたたましいゴーレムの破壊音を聞きながら、キッテン・ニコラウス(天上天下唯我独尊・f02704)は冷えた右目を細め、苦々しげに口元を歪めた。
キッテンが好むのは小細工無しの真っ向勝負だ。どうせなら二人纏めて正面から倒す方が好みではあるが。
「ま、新米猟兵がそんなことほえたところで、よね」
何より立ち止まって時間を浪費するくらいなら、燻った思いごと相手にぶつけるのが『私』らしい。
また一体のゴーレムを土塊へと変えて、聖女が前へと一歩踏み出した。一体ずつ確実に倒していくのはいい、完膚なきまでに叩きのめすのは清々しく好ましい。だが彼女は時間なんて気にしてやいない、ああ、もっと早く! 出し惜しみせずにやっつけてしまえばいい!
「こんな雑魚達、悠長に構ってる暇なんてないんだからすぐ蹴散らしたげる!」
見てられないと前に飛び出したキッテンは左眼に点した炎を赤々と燃やし、高らかに啖呵を切った。
突如現われた少女の姿に、周囲のゴーレムの注意が一斉に集まった。敵意の眼差しと共に迫り来る腕や足を見てなお、キッテンは不敵に笑う。
「OK、バカみたいに私に向かってきてくれるわね?」
――なら私が、容赦なく砕いてあげる。
限られた空間の中に浮かんだ一七五本の氷の槍を、空間に敷き詰めゴーレムへ向かって放つ。
その隣で足を捥がれたゴーレムが叫び声を上げ、背中の棺群に収めた怨霊へと呼びかける。
ここにあるもの、すべてをこわしたい。
幼稚な、しかし強い破壊の意志に応えた怨霊達がキッテンへと一目散に押し寄せる。
「お腹から背中の棺をブチ抜いて、うるさい怨霊共を黙らせてやるわ!」
キッテンは止まらない。彼女の意志を表すかのように、迷わない強さが氷をより強靱な刃物に変えた。
悲鳴とも怒声ともつかない声が、巨体が崩れ落ちる音に混ざって廊下に反響するなかを彼女は征く。
「土塊はその辺に転がってなさい、ここは私が征く道よ」
更なる相手を貫くべく、キッテンは再び氷の槍を生成し構えた。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◎/SPD
目標の元へ向かう為『彼女』を追う
ゴーレムを倒す様子を見ると下手な手出しは不要だろうか
ユーベルコードの効果も併せて常に周囲は警戒、
こちらに向かってきたり『彼女』の不意を突いて襲うゴーレムがいれば攻撃を行う
『彼女』がこちらに気付いたら、邪魔をする気はない事を伝えておく
ゴーレムの巻き添えにされてはたまらないからな
「俺の今の標的はこの城にいる吸血鬼だ。同じ目的なら邪魔はしない、好きに動くといい」
余裕があれば、なぜ同族を狙うのかと聞いてみる
以前戦った同族殺しは強い相手との戦いを娯楽としていた
しかし、彼女はそうは見えない
最終的に敵対する相手に聞く事ではないかもしれないが、つい疑問が浮かんでしまう
●銀の射手
エントランスホールを抜け奥へと続く廊下を進みながら、城主たる吸血鬼の元へと向かう聖女の背をシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は追いかける。
他愛なくゴーレムを倒す様子を見ていると、下手な手出しは不要だろうか。なら『彼女』の思うまま前へと進ませるのがいいだろうか。
人狼たるシキの鋭敏な感覚を更に研ぎ澄ませ、行く手を阻む敵の動向を観察する。地響きと共に巨木のような足が持ち上げられ、聖女諸共力任せに大理石の床を踏み砕かんと迫る。
「させるか!」
すぐさま【ハンドガン・シロガネ】を構えたシキはトリガーを絞った。正確に狙い定めた弾丸は雨だれが石を穿つように足を削り、やがて砕けて散った。
「オオ……ッ!」
傾いだ体が壁にぶつかり、肖像画ごと大穴を開けて倒れ込む。腕で体を支え起き上がろうとした頭と心臓を、容赦なく撃ち抜き機能を停止させた。
持ち上げた手を所在なさげに引いた彼女の視線が、弾倉を交換するシキへと向けられる。
「俺の今の標的はこの城にいる吸血鬼だ。同じ目的なら邪魔はしない、好きに動くといい」
敵意が無いと示すように両手を挙げると、彼女は興味が失せたようにするりと視線を外して再び歩み始めた。
ガラガラと音をたてて崩れるゴーレム達。彼女の歩んだ軌跡は艶やかな大理石の肌を覆い尽くすように、墓場の土が幾つもの山を作っていた。
聖女の歩いた跡に、死の標が立ち並ぶ。
粛々と敵を破壊していく聖女の姿に、シキは以前戦った同族殺しと比較せずにはいられなかった。彼は強い相手との戦いを娯楽としていた。闘争の内に見出される血湧く快楽に浸るためにトリガーを引き続けた彼。
しかし、彼女はそうは見えない。
「なぜ同族を狙う」
最終的に敵対する相手に聞く事ではないかもしれないが、つい疑問が浮かんでしまう。
尋ねた問いに彼女は答えない。
「血を拒む吸血鬼はどこ」
代わりに彼女は同じ言葉を繰り返した。
成功
🔵🔵🔴
ノエマ・アーベント
◎
同族同士で殺し合う、吸血鬼とは実に業が深いわね
でも如何なる理由があるにせよ、私達はただオブリビオンを殺すだけ
その為に、まずは邪魔な門番達から片付けましょう
それにしても随分と物騒なお出迎えね
こちらも【錬成カミヤドリ】で振り子ギロチンを複製し、敵の攻撃に備えるわ
オーラを纏ったギロチンを周囲に展開させて、牽制しつつ出方を窺う
踏み付け攻撃に対しては、ギロチンを盾代わりにして受け止めて
相手の重い一撃も、踏み止まってすかさず反撃
返す刃でギロチンを、宙に飛ばして振り下ろす
鎖を四肢に絡めて動きを抑え、頸を狙って斬り落とし
墓地たる庭に還してあげるわ
所詮は造り物でしかない生命
そのまま冷たい土の中で眠り続けなさい
●黄昏よりも暗い赤
陽炎が立つように不安定で、朧気ですら在った。
「同族同士で殺し合う、吸血鬼とは実に業が深いわね」
冷めた表情には感情らしき熱すら感じられず、ただ只管殺す相手を追い求める彼女をみてノエマ・アーベント(黄昏刻のカーネリア・f00927)はぽつりと胸の内を呟いた。
「でも如何なる理由があるにせよ、私達はただオブリビオンを殺すだけ」
音を立てて倒れ土塊の山と化したゴーレムが、その勢いで同胞の塵を巻き上げた。合わせて揺れたドレスの裾がはためいて、覗いた足が土を踏みつけて超えていく。
「それにしても随分と物騒なお出迎えね」
ノエマはリボンの付いたベレー帽を片手で押えながら、凪いだ黄昏色の瞳で蠢くゴーレムの群れを見つめた。金輪を握り締めると、唱和するように鎖のすれる音が重なり合った。ノエマの本体である振り子ギロチンを複製すると、攻撃に備えて呼吸を整えた。
一つ左へ揺れると息を吸い、右へ振れると息を吐く。時計の針が進むように一定のリズムを体に刻みながら、意識を選り鋭敏に尖らせた。
オーラを纏った振り子ギロチンの刃が揺れる向こう側で、ゴーレムが一歩踏み出す毎に振動で体が震える。
「王ノ元ヘ、行カセルモノカ!」
自由を奪うように行き交うギロチンを躱すことなく、忠実な僕たちは進軍を止めることはない。岩塊のような足が巨躯の重さを乗せて、華奢な体を圧壊させようと迫った。
ノエマが金輪を引き寄せると器用に刃を手繰り、掴むと盾代わりにして受け止めた。
気を抜けば意識ごと押しつぶされそうになりながらも耐えたノエマは、弾かれたギロチンを素早く引き戻した。倒れそうになる体を堪えそのまま捻ると、勢いもそのままにすかさず反攻に転じた。
黄昏に日は暮れゆき、命が眠る夜が来る。
「おやすみなさい」
片足が地に着く前――次の一撃が来る前に。返す刃でギロチンを高々と中に飛ばすと、自重と重力を合わせた勢いで一気に頸を斬り落とし、墓地たる庭に還す。
ノエマが生まれた時から続く運命は、被造物すら苦しむ余地を与えない。そう願われ、願いを現実にするためにあり続けるものだ。
「所詮は造り物でしかない生命、そのまま冷たい土の中で眠り続けなさい」
鎖の端に結わえた赤いリボンを寄せて瞳を閉じると、例え仮初めでも一度は生きた生命達へ安らかな永遠を願い祈りを捧げた。
僅かの後、舞い上がる土煙の中に黄昏色が現われると、無慈悲なギロチンの刃が再び頸目がけて振り下ろされた。
成功
🔵🔵🔴
フォルク・リア
◎
同族殺しを遠目に見て。
「この場には場違いな佇まいだな。
その狂気さえなければだが。」
同族殺しとゴーレムを観察し
ゴーレムに警戒しつつ同族殺しを見失わない様に追跡。
同族殺しとは付かず離れずの距離を保ち
同族殺しの攻撃範囲を見極め、その前に立たず
ゴーレムと同族殺しの戦いには基本的には関与しないが
自分に襲い掛かってくるゴーレムもあわよくば
同族殺しに押し付ける様に立ち回り
自分が進む為に障害になるものには
生命を喰らう漆黒の息吹を発動
花びらで身を守りながらゴーレムを攻撃。
ゴーレムの背中の怨霊にも可能な限り先手を取って攻撃し
願いの実現を阻む。
「まだまだ先は長いからな。
此処であまり消耗する訳には行かないんでね。」
●フラスコ詰めの花
彼女は、この場において異質な存在だった。
目深に被ったフード越しにフォルク・リア(黄泉への導・f05375)は、先行く同族殺しを遠目に見る。
金の髪に白いドレス。そして美しい容貌。血に濡れようとも戦場の直中にあっても損なわれることのない潔さ。
圧倒的な力もさることながら彼女が身に纏う空気は泥中の花の如く、清濁が溶け合うことなく入り交じったものだった。
「ああ、どこ。どこにいるの」
「この場には場違いな佇まいだな。その狂気さえなければだが」
譫言のように繰り返す同族殺しの言葉を聞きながら、フォルクは彼女とゴーレムを視界に収め観察する。ゴーレムに警戒しつつ同族殺しを見失わないように、一定の距離を保ちながら追跡を続けた。
同族殺しの間合いを計っていたファルクは、彼女がゴーレムに『何か』を差し向ける瞬間を見た。
伸ばされた指先に立ったゴーレムが、同胞を踏みつけ殴り、壊していく。
「操ったか」
同士討ちとは厄介なとフォルクが唸ると、視界の先のゴーレムが割れ目の様な口を開いた。
「オオオオォオッ――!」
すべてをこわしたいという願いが空気を震わせ、背中にある棺群の怨霊に呼びかける。忠実なる僕が主人の所有物を傷つけるという荒唐無稽さに、覚悟の程を汲み取った怨霊達が閉じられた棺を開けて這いずりでる。
四方八方に散った怨霊を掻い潜りながら、フォルクは自分に襲いかかってくるゴーレムの狙いを同族殺しにすり替え押しつけた。相手取るゴーレムが増えたことにもかまわず、彼女は生涯を倒し進むことに集中する。
それでもなおフォルクの障害になるものへと、フォルクは手に持った武器を冥界に咲く鳳仙花の花びらへと解いていく。
「よく見ておけ。これが、お前の命を刈り取る手向けの花だ」
花弁で身を守りながら握った【デモニックロッド】へとフォルクの魔力を喰わせ、闇の魔弾を撃ちだしてゴーレムを破壊する。
次なる願いを叫ぶ前にフォルクの魔弾が飛び、口を開いたゴーレムの頭部を破壊し願いの実現を拒む。
「まだまだ先は長いからな。此処であまり消耗する訳には行かないんでね」
フォルクが向けた視線の先に、月光に照らされた薔薇のステンドグラスがきらきらと輝いていた。
吸血鬼は近い。激しくなるゴーレムの攻勢を撃ち砕きながら、フォルクと同族殺しは前へと進んだ。
成功
🔵🔵🔴
アルバ・アルフライラ
ふん、悪鬼に手を貸すなぞ以ての外
ただ彼奴の力を利用する――それだけだに過ぎぬ
視界の先、蠢く傀儡を眺めながら
魔法陣を描き、詠唱を短縮
放つは【暴虐たる贋槍】による範囲攻撃
壊し、殺し、道を切り拓いては歩を進める
叫びすら上げる暇のなきよう
高速詠唱で召喚した風槍で絶え間なく
数の暴力で串刺しにしてくれる
…ふふん、斯様に私を壊したいか
我が身は堅固なる宝石なれば
砕くは至難の業ぞ?
不敬には罰を与えねばならぬでな
ただの土塊に還りたくなくば
死に物狂いで挑むが良い
魔術を行使する手は決して休めず
白き鬼に立ちはだかる敵も巻き込みつつ
たとえ彼奴が此方へ意識を向けようと
素知らぬ様子で歩を進める
…ふん、壊れた人形に興味なぞない
●ポラリス
先を行く同族殺しを見やるスターサファイアの瞳は、不機嫌さを現すように尖った光を放っていた。
「ふん、悪鬼に手を貸すなぞ以ての外。ただ彼奴の力を利用する――それだけに過ぎぬ」
鼻を鳴らして尊大に構えるアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、視界の先に蠢く傀儡を眺めながら手にした【星追い】の先で魔方陣を描く。
言葉はその中に閉じ込めた。あとは解き放つだけ。
嵐の夜は閉じられた扉などこじ開けて、容赦なく飲み込んでいく。
「――運の悪い奴等め」
他愛ない、と笑う隠者の傍でまた一つ土塊へと還っていく。悠々と歩を進めるアルバに合わせて、壊し、殺し、そうして道を開きながら嵐は城の中を進む。
嵐以外は叫び声すら上げる暇も与えないように、アルバは次々と風槍を生み出すとゴーレムを串刺しにしていく。
「行カセヌ、行カセヌ!」
薔薇のステンドグラスに迫る同族殺しを見て、追い詰められたゴーレム達は我武者羅に腕を振り回す。ようやっと手を伸ばした彼女の前で、追い詰められた忠実な僕達は怨霊を呼ぶべく叫ぼうとした。
「言わせぬよ」
口を開きかけたゴーレムの顔に槍を突き刺して、願いが届く前に立ちきるアルバ。それを見たゴーレム達は、一斉にアルバへと敵意を向けた。
「主ノ前ニ、行カセテナラヌ!」
窮鼠の叫びを前にしてなお鷹揚な所作で首を傾けると、余裕綽綽といった笑みで答えた。
「……ふふん、斯様に私を壊したいか。我が身は堅固なる宝石なれば、砕くは至難の業ぞ?」
やれるものならやってみよとアルバが言外に告げると、彼らは一斉に隠者へと挑みかかる。
叫び声に呼応した怨霊がアルバの元へと殺到する。
「不敬には罰を与えねばならぬでな。ただの土塊に還りたくなくば、死に物狂いで挑むが良い」
泰然と構えるアルバだが、魔術を行使する手は決して休める事なく、同族殺しに牙を剥くものすら巻き込んで破壊する。
頬を掠めた風槍に一時アルバの方へと視線を向けた聖女だったが、すぐに止めた歩みを再開する。
「……ふん、壊れた人形に興味なぞない」
在るとすれば、それは土塊を踏み越えた先にこそある。
頭上に導となる星はない。
暴虐とも言うべき風が吹き荒れる、眼前の敵を願いごと破壊する嵐の夜が訪れた。
大成功
🔵🔵🔵
ディアナ・ロドクルーン
◎/SPD
ふぅん…血を拒む吸血鬼なんているものなのね
何ゆえ王は血を拒むのか。そして何ゆえ彼女は王を狙うのか
彼の王に振られでもしたのかしらね…ふふ
理由は知らないけど、勝手に潰しあえば良いというのが本音
だけど、最後に残ったものがいたらそれは其れで後が、ね
ある程度消耗させるとはいえ、今彼女に潰れてしまっては困る
軽く露払いをしましょうか
【追跡】で彼女を見失わぬように追いかけて
来るゴーレムはHalos Lilaで薙ぎ払いましょう
仕留めるまで行かなくても構わない、一瞬でも好きが出来れば
聖女が止めを刺すでしょう
完膚なきまでに、好きに叩き潰せばいいわ
●サンドリヨン
『血を拒む吸血鬼』
同族殺しが譫言のように繰り返すかの王を指す言葉を聞いて、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)の艶やかに色づく口唇からほろりと笑いが零れ落ちた。
「ふぅん……血を拒む吸血鬼なんているものなのね」
艶然とした笑みを浮かべるディアナは指先で紫の髪を弄ぶ。
何ゆえ王は血を拒むのか。そして何ゆえ彼女は王を狙うのか。
「彼の王に振られでもしたのかしらね……ふふ」
彼女が王に固執する理由をディアナは知らないが、これといった興味もないのもまた事実。このまま二人だけで勝手に潰しあえば良いというのが嘘偽らざるディアナの本音だった。
「だけど、最後に残ったものがいたらそれは其れで後が、ね」
ある程度消耗させるとはいえ、今彼女に潰れてしまっては困る。本命の王子様の前で惨めな使用人の姿でたどり着いてしまっては、舞踏会にすら入れない。
彼女を見失わぬように追いかけつつ、障害となるゴーレムを【Halos Lila】のクリスタルオパールの刀身で斬り伏せる。仕留めるまで行かなくても構わない、一瞬でも隙ができれば――というディアナの考えを汲むように聖女は一息にゴーレムを屠った。
灰の中の悪い豆を食べて、いい豆を鍋の中に。でも悪い子は目玉を突き出されるから、くちばしにはお気を付けなさいと誰かに読み聞かされはしなかっただろうか。
狂った女が辿る結末ならば、ディアナが選ぶ筋書きはただ一つ。
「完膚なきまでに、好きに叩き潰せばいいわ」
なぜならここは常闇の世界。夜は夢見る時間なのだから。
ディアナが見つめるその先で、薔薇の描かれたステンドグラスの下にたどり着いた聖女は白い指先を扉の把手へと掛けた。
重たく軋む音を響かせながら、庭園へと続く扉が開いた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『渇きの王』
|
POW : 『高貴なる赤』
単純で重い【先制 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 『夜を歩くもの』
無敵の【影の従魔 】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ : 『渇きの王』
対象のユーベルコードを防御すると、それを【略奪】する。【自身の力を上乗せして 】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
イラスト:なつみか
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ギド・スプートニク」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●渇きの王
この城の庭園には、冬に咲く珍しい薔薇があった。
暖かな季節を避け、厳しい冬の寒さの中に花弁を晒し。一段と鋭く長い棘は、人を傷つける害あるものとして阻害されてきた歴史を持つ。
薄く青みを帯びた花弁は雪のような白一色のみ。この薔薇は主を失い寂れた城の庭園で、ひっそりと咲き続けていたのだった。
白い薔薇の垣根に囲まれて、一人の王は衝動に耐えていた。
耐えて、耐えて、耐え続けた。
だが押さえ込めるはずもなく、時間の経過と共に理性は蝕まれ限界に近づこうとしていた。
訪れるものも無く開かずの扉と化していた扉がうめき声を上げた。きしむ音に意識を引き戻された王は、そこで初めて侵入者の存在を認知した。
王に挑むとは一体どれほどの身の程知らずなのだろう。その顔を見てやろうと振り返った視線の先に、懐かしい白薔薇を戴いた聖女現われる
「みつけた」
地に足の着かない浮ついた声に重なるようにして、王もまた心の内で感嘆の声を漏らした。
見つけた。
忘却の海に飲まれ消えてしまった記憶の中で、心のどこかで僅かな痂皮のように引っかかる白い薔薇。
唐突な既視感に襲われたものの、今はその違和感さえ今は考える余地はない。敵が――王を討たんとする愚かな人間が、再び現われたのだ。
吸血鬼、それはこの世界の支配者である。例え一度破れ滅び去ろうとも、再びこの世界に君臨した圧倒的たる統治者である。
王は影の従魔を創造し蒼い炎の鬣を震わせた馬に跨がると、堂々とした姿で猟兵達の前に立ちはだかる。
そして自らの血で剣を創造し、切っ先を野蛮な人間達へと向けた。
「人如きが吸血鬼に刃向かうか……。よかろう、その女共々自らの愚かさを呪い、ここで朽ち果てるがいい」
その声を聞いた同族殺しの聖女もまた、惹かれるように王の下へと走り出した。
「やっと、みつけた」
対してこちらは淡々と、溢れ出る狂気をその瞳に光らせて躍り出る。
『渇きの王』と同族殺しの聖女、そして猟兵。それぞれの思惑が交錯する戦いが始まった。
シキ・ジルモント
◎/SPD
血を求める感覚は分からない、しかし理性を蝕む衝動というものは多少理解できる身だ
救いなどと言うつもりはないが、その衝動に耐えられず狂うくらいならここで終わらせてやる
…『彼女』がどうかは知らないが目的は同じだ、共闘を続行する
真の姿を解放する(※月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化し瞳が輝く)
従魔は強力だが彼女の力なら多少揺らぎもする筈
ユーベルコードで増大した速度で、体勢を立て直す前に攻撃を重ね従魔にダメージを通したい
従魔が無敵ではないと領主に見せつけて弱体化を図る
従魔が弱体化したら突破して領主に銃弾を撃ち込む
手傷を与えると共に彼女が動く隙を作りたい
好きに動くと良い、と言っただろう
●月下の咆哮
うねる影に髪を揺らし威風堂堂たる出で立ちで、その王はシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の前に月を背負い立った。
冷静な態度の内側で静かに闘志を燃やすシキに対して、同族殺しの聖女は無言のまま狂気に身を浸していた。
「好きに動くと良い」
冷めた瞳の向こうに見える感情は見えぬままだが、『渇きの王』を倒す目的は同じだ。ならばこのまま彼女との共闘を続けて行けばいい。
吸血鬼ではないシキには血を求める感覚は分からない、しかし人狼であるが故に理性を蝕む衝動というのは多少理解できる身だった。
これで救われるとも、救ってやるとも言うつもりは無いが、その衝動に耐えられず狂うくらいなら。
「彼はここで終わらせてやる」
その思いを叶えるために、シキは冷静な仮面を剥ぎ取り普段は抑えている獣性と真の姿を曝け出した。
月が雲の間に隠れ、さあっと闇を落としていく。だというのにシキの体は月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように鋭く伸び瞳は爛々と輝いていた。
「そこまでして我に牙を向けるか――征け、我が従魔達よ」
荘厳な声と共に赤い剣の切っ先を向ければ、王の足下の影が膨れ弾けると無数の蝙蝠へと変わり敵へと牙を剥く。
同族殺したる聖女は威圧感など歯牙にもかけずさくさくと雪を踏むと、行く手を阻む従魔の蝙蝠を掴もうとした。しかし影であるそれらを掴むことはできず、靄となってすり抜けるだけ。それでも構わず、彼女は更に上回るスピードで蝙蝠をその手に捕えんと腕を伸ばした。
シキも限界を超えた反応速度で蝙蝠を撃ち落としていく。つかみ千切られ、撃たれては靄と消え。両者一歩も譲らないなか、すこしずつ聖女は王へと歩み寄っていった。人の可聴領域を超えた鳴き声が、シキの耳に五月蠅く反響する。喚く声を振り払い銃口を向けた先で、鋭い爪に指先をぱっくりと切られた彼女が瞠目する。しかしそれも束の間、シキの弾丸が穿った蝙蝠を掴まんと血に染まった指先を伸ばした。彼女の血に触れた先から滲むように、黒い体がくすんだ赤へと染まっていく。
「何……?」
一瞬の動揺。しかしその隙に彼女は完全にその蝙蝠を王から『奪って』いった。
「『略奪』は我の権能だが、その我より奪うとは」
感服する王が更なる従魔を呼び寄せると、シキは片っ端から従で撃ち抜いていく。
彼女の一手が王の意識に僅かなほつれを与えたのだ。その証拠にシキの銃弾に撃ち抜かれた羽に穴が開き、痛みからバランスを崩し羽を縺れさせる。
王を守るように壁となっていた蝙蝠の群に亀裂が入り、その合間を逃すことなく踏み込むと聖女は赤い蝙蝠を一羽差し向けた。
顔を咄嗟に庇った腕の肉に齧り付くも、王の剣に斬られ靄と散る。
聖女は手近な一羽を再び血で染め上げると、今度はそれを他の蝙蝠へと伝染させていく。シキは彼女に近い蝙蝠を銃で撃ち抜き弱らせると、嬉々として彼らは同族に集っていった。やがて互いに食い潰すように蝙蝠同士が争い始め、十分な数を従えた聖女は一気に群をけしかけた。
羽虫を振り払うように剣を薙ぐと断末魔を残して従魔だったものたちが散っていき、まるで油を撒いていたかのように勢いよく火の手が上がった。
「どうやら彼女の力の前では、無敵とはいえないようだな」
影の狼に炎を喰わせるも爛れた腕の痛みに顔をしかめた王へ、シキは淡々と事実を告げ容赦なく引き金を引く。傷ついた従魔達は聖女の僕へ、また一匹赤く染まり同胞を喰らうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
◎
「ああ、人間如きだ。
だが、その人間は吸血鬼だろうが。
王だろうが討つ事ができる。」
同族殺しとは適度に連携を保ちつつ
後方から、冥空へと至る影を使用。
【残像】を使ってかく乱し、
極力防御されないように
デモニックロッドの闇の魔弾での呪装銃「カオスエンペラー」から放つ
死霊での呪詛によるマヒ攻撃を行う。
防御されユーベルコードを略奪されたら
敵の動き、冥界から送られる魔力の流れを【見切り】
冥界へ繋がる影を【全力魔法】を込めた
デモニックロッドの闇の魔弾で攻撃し冥界との繋がりを断ち
その瞬間再度冥空へと至る影を発動。
拘鎖塞牢で渇きの王の力を封じ
【2回攻撃】でカオスエンペラーを使い攻撃。
「お前は王のまま逝って貰う。」
ノエマ・アーベント
ディアナ(f01023)と
貴方が吸血鬼の王……
血を求めることを拒むが故に、獣に成り果てようとする哀れな魂
でも堕ちゆく前に、その生命、この手で断ち切らせてもらうわよ
魔力を増幅させて力を解放
これまで葬ってきた咎人達の霊を身に宿し、渇きの王に立ち向かう
力と引き換えに、受ける苦痛も厭わず、罪断つ刑具の刃を振り翳し
蒼き炎の鬣震わす影の従魔の攻撃も
超強化したギロチンで受け止め、蹄を払い、脚を薙ぐ
確かに貴方の力は強力よ
だけど渇きに耐えるその身では、もう限界なんじゃないかしら
これ以上、苦しまないよう、楽にしてあげる――
無言でディアナと視線を交わし、小さく一つ頷いて
互いの意思を確認しながら、力を合わせて挑むわよ
ディアナ・ロドクルーン
ノエマ(f00927)と
白い、薔薇。白薔薇の聖女。―ああ、古の約定出もあったのかしら
聖女には手を出さない、やらせたい様にするわ
恐らく…この戦いで王は我を失うでしょうね
溢れ出る衝動を律する精神は賞賛に値する。
でも……そろそろ限界よね
ええ、感傷に浸る暇はないわ。
獣と化す前に、断ち切りましょうノエマ。
刻印の力を引き出し、影の従者も薙ぎ払う
ノエマにも力を与えて共に協力しながら刃を振るう
自らの命を削りながら、
一閃、一閃、部位破壊で馬の足を薙ぎ
マヒ攻撃で王の手を鈍らせる
その渇きを、その苦しみから解放を
誇り高き者に安らぎを
アルバ・アルフライラ
はっ、何だ何だ
随分と情熱的な殺しあいではないか
戯れを挟めど鬼に挑むからには慢心は禁物
これは共闘ではない
互いを利用する――唯、それだけよ
高速詠唱により描き出す魔法陣
召喚するは【女王の臣僕】
凍らせ、痺れさせ、動きを封じてくれよう
これで多少は狙い易かろう?
…くく、誰に云う訳でもないが
略奪出来るものならばしてみるが良い
臣僕たる蝶の鱗粉、防ぐ術は用意しておる
予め魔力を込めた宝石を砕き
風属性の魔術を我が周囲に発動
吹き飛ばし、時に激痛、毒耐性で耐えつつ
この身に罅すら入る事すら厭わず
渾身の全力魔術にて、氷の棺へ閉じ込めてやろう
――ほれ、貴様が討たぬならば
私が彼奴の首を取ってしまうぞ?
ふふん、もたもたするでない
●葬送の白薔薇
声に従い影より生まれた従魔の背に跨がり猟兵達を見下ろす男は、さながら一枚の肖像画のように堂々たる出で立ちであった。
「貴方が吸血鬼の王……」
ノエマ・アーベント(黄昏刻のカーネリア・f00927)が静かに呼びかけると、鋭い視線が馬上から突き刺さった。
「よもや人如きと、それに与する女に一太刀入れられるとはな」
「ああ、人間如きだ。だが、その人間は吸血鬼だろうが。王だろうが討つ事ができる」
侮るな、とフォルク・リア(黄泉への導・f05375)が静かに吼える。
人が想いを束ねて力を結集した時、目論見をも遥かに凌駕して奇跡のような結果を掴む。猟兵達は幾度となくそうして危機を乗り越えて来たのだ。
「小賢しい」
再び従魔を創造すると、叩きつけるような勢いで蝙蝠達をけしかけた。それを見た聖女がひらりと躍り出ると、暗褐色の指先が触れた獣を奪い同族を食らわせる。長い金色の髪が流れ、雪のように白い薔薇が間近で揺れた。
「白い、薔薇。白薔薇の聖女。――ああ、古の約定でもあったのかしら」
髪に戴く白薔薇と、庭園に咲く白薔薇。同じ形をしたそれらを見て、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は対峙する二人へとちらりと見た。
「はっ、何だ何だ、随分と情熱的な殺しあいではないか」
まるで恋い慕うものへと思いを告げるかのようだと、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は磊落に笑った。捻れ暴れ回る狂気などではなく、一途に見える姿は突き抜けていていっそ清々しい。自分本意な振る舞いでも、彼らの思いはアルバにとって快いものだった。
「ほう、この場を見てその様な戯れ言を申すか」
気分を害したのか、王はアルバへ射殺すような視線を向けたが、当の隠者は肩をすくめてさらりと受け流す。
「唯の冗句だ、前座には必要だろう。どこぞの作家であれば喜んだかもしれないが」
戯れを挟めど鬼に挑むからには慢心は禁物。これは喜劇でも児戯でもない、命をかけた闘争の舞台なのだ。
「血を求めることを拒むが故に、獣に成り果てようとする哀れな魂。でも堕ちゆく前に、その生命、この手で断ち切らせてもらうわよ」
ノエマの握り締めた鎖の先で、振り子の刃が頸を求めてゆらりと揺れる。
「ならば挑むが良い、人のか弱きその手で我の首を取って見せよ」
王の声に答える声は無い。
返答代わりに詠唱を端折りながら、アルバが【星追い】の先に魔方陣を精緻に描いていく。
術の完成を待たずに飛び出した聖女の背中へとスターサファイアの瞳を向ける。
これは共闘ではない。互いを利用する――唯、それだけの関係だ。
蝶が羽ばたくと同時に、冱てつき痺れを齎す鱗粉を辺り一帯に散布する。
「これで多少は狙いやすかろう?」
誰に云うわけでも無く、不遜な笑みを浮かべてアルバは更なる女王の臣僕を召喚した。
視界を埋める青い輝きを忌々しげに睨め付けると、その手を伸ばして掴み取る。王の影から蝶が生まれ、今度は猟兵達のいる一体へと黒い鱗粉が漂い始めた。それらは聖女が奪った従魔に食らわせ、幾らか道を開いていった。
フォルクは傍らに冥界へと繋がるもう一人の自分の影を召喚すると、残像を生み出し黒と青がきらきらと舞う中を闇へと征けと命じた。影と僅かにずれるようにして撹乱しつつ、デモニックロッドから供給された闇の魔弾を【呪装銃「カオスエンペラー」】へと装填し狙いを定めて放った。死霊の呪詛を纏った魔弾は王の腕によって阻まれたが、その先は痺れわなないてしまう。
傷つき、それを修復し。影たる従魔を召喚する度に、王は獣へと近づいていく。
「ああ――」
傷ついた王を見て聖女は吐息を震わせ嘆息した。その瞳に狂気と共に現われたのは、憐憫の情だった。彼女の纏う陽炎の中から無垢なる子ども達が現われると、王を追従し小さな手を伸ばす。
触れた場所から力が奪われていくのを感じ、王は血の剣で子ども達を荒々しく薙ぎ払った。
保ってきた余裕さが剥がれ落ち焦燥感が滲み始めた王を見て、ノエマは小さな体にこれまで葬ってきた咎人達の霊を身に宿し、渇きの王に立ち向かう。
「――ッ」
力と引き換えに、受ける苦痛も厭わず、手に握り締めた刑具の刃を振り翳して前に進む。
「一閃一閃また一閃。無慈悲な歌が耳を裂く 高鳴る鼓動に身を任せ 足音高く舞い踊れ」
歌うようなディアナの言葉に合わせて、【Halos Lila】が白い軌跡を閃かせる。
ノエマの進む道を作り出すように、ディアナは刻印の力を引き出し、一閃、一閃と従魔を薙ぎ払う。
「猪口才な!」
王の意志に呼応するように嘶いた馬は、蒼き炎の鬣を震わせ、上体を起こし蹄で空をかき回すように振り回した。強かな踏みつけもギロチンの刃で受け止めると、ディアナは刻印の力を引き出して自身とノエマへ分け与えた。
ノエマは受け取った力が暖かく体を巡るのを感じると、自身の握る金輪を起点に円を描くようにギロチンを振り回す。ディアナも命を削りながら合わせるように刃を振るうと、夜を裂くように幾筋もの光が流星のように煌めいて走る。
一振りすれば九つの刃がひゅんと空を裂き、蹄を払い、脚を薙いだ。
脚を失った馬が悲鳴を上げると、王は馬から飛び降りて苦悶の声を上げる背を叩いてねぎらった。
よろめいた体で二人を睨み付けるも、先ほどまでの威圧感はもうない。
恐らく、この戦いで王は我を失うだろう。ディアナの予感が現実へと変わりつつあるのを感じ取った。
溢れ出る衝動を律する精神は賞賛に値する。だが飢餓感はより強く王の精神を蝕み、揺れる瞳孔はまともに敵を捉えられているのかすら妖しい。
「でも……そろそろ限界よね」
気高き王の姿は失われれば、残されるのは血に飢えた獣のみ。
「確かに貴方の力は強力よ。だけど渇きに耐えるその身では、もう限界なんじゃないかしら」
「なに、を……!」
答える声も押し留めるように震えて、余裕は感じられない。
「これ以上、苦しまないよう、楽にしてあげる――」
「ええ、感傷に浸る暇はないわ。獣と化す前に、断ち切りましょうノエマ」
ノエマは無言でディアナと視線を交すと、小さく頷いて返した。
その渇き、苦しみから解放を。誇り高き者に安らぎを。
苦しまずに逝けるよう『私』は作られたのだと、ノエマ改めてギロチンを握り締めた。
「オオオッ!」
咆哮と共に王は略奪した埒外の力を周囲にまき散らし始める。黒い蝶が鱗粉を撒き、傍らに自身の影を呼び魔弾を撃つと、赤錆びた従魔を落とした。フォルクは彼の動きと冥界から送られる魔力の流れを見切り、力を送り続ける影へと向かってありったけの魔力を込めた魔弾を撃った。
影が消え冥界とのつながりを絶つと、再びフォルクの影を呼び冥界とのつながりを得て送られた魔力を得物へと与えていく。
アルバは暴れ回る黒い蝶をみやると、予め魔力を込めた宝石を手にし不遜な笑みを浮かべた。
「略奪出来るものならばやってみるが良い、臣僕たる蝶の鱗粉、防ぐ術は用意しておる」
宝石に力を流し砕くと、アルバの黎明色の髪を巻き上げ周囲に暴風が吹き荒れた。
鱗粉を吹き飛ばし、時に激痛と毒に耐えながら風を操り防壁と為す。
「王よ」
フォルクが呼びかけるも応えはない。【拘鎖塞牢】で王の体を一瞬だけ棺の中に拘束すると、アルバは風に乗せて氷の魔力を掻き集めた。スターサファイアの体が、薔薇色輝石の指先が。ひび割れる程の魔力を振り翳してなおアルバは笑う。やがて漂う冬の冷気すら生ぬるい凍てつく魔力が結集し、一つの棺を作り出す。
「お前は王のまま逝って貰う」
フォルクは王へ狙いを定めると【カオスエンペラー】から二発の魔弾が放った。
「――ほれ、貴様が討たぬならば、私が彼奴の首を取ってしまうぞ?」
アルバが聖女をからかうように言うと、蒼い瞳は王へと向いた。その瞳に浮かぶのは、狂気に侵されながらもありありと浮かぶ憐憫の情。
「ふふん、もたもたするでない」
フォルクの魔弾が王の体を貫くと、ノエマとディアナが呼吸を合わせて刃を振り下ろす。
さくさくと雪を踏みしめて駆け寄る聖女の後に、無垢なる子ども達が着いていく。斬撃により棺が砕かれ、崩れ落ちる体を両手で抱き留めると、彼女は優し声で一言。
「もう、苦しむ事はないのよ。あなた」
そう、告げた。
「そうか」
答えは短く、二人が交した会話はこの一言だけ。
小さな手が最後の力を奪うと、王の体は緩やかに崩れ去り塵へと変わっていく。最期の一時、愛しの薔薇を腕に抱きしめると、王は安らかに骸の海へと還っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『裏切りの聖女』
|
POW : あの日、我が身は煉獄に灼かれ
戦場全体に、【炎に包まれた古城】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 世界に救いなど在りはしない
自身の【過去】を代償に、【猟兵同士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【ユーベルコード】で戦う。
WIZ : あぁ、愛しき我が子よ
自身が【憐憫】を感じると、レベル×1体の【無垢なる子供たち】が召喚される。無垢なる子供たちは憐憫を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:藍
👑8
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ギド・スプートニク」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●告白
あの人が血を拒むようになったのはいつからだろう。記憶というものをもたない今の私にとって、いくら考えたところで分からない事だった。答えの分からない疑問が頭の中を巡り巡って、それしか考えられなくなったのはいつからだろう。
血を拒む吸血鬼、私が愛していたという吸血鬼。
愛していた。私は彼を愛していた。
人の身でありながら吸血鬼の王である彼を愛し、そして子を授かり、母として生きた。
人の身でありながら人を裏切り、虐げ、圧制者として生きた。
確かにそれは『私』の物語、知らないはずの『私』の人生。
――裏切り者は城と共に焼け落ちて、世界に平和が戻りましたとさ。めでたし、めでたし。
そうやって閉じられた歴史の中で、一人の女として、母として、妻として。
――裏切り者として。
どうやって生きたのだろう、今の私はどの私だろうと考えるようになっていった。
どれが正しいのか分からなくなった頃には、欠けたものを求めるようにあの人を求めていた。
結局私は人を救う聖女ではなかったけれど、きっとそれでいいのだと思う。
この世界に救いなど在りはしない。身を焼かれながら世界を呪った私の思いは正しかったのだ。
そうか、私はあなたが王でなくなる事が許せなかったのだ。そう理解した時には腕に抱いた体は解けて先に還ってしまったけれど、それでいい。
ここから先は、私の舞台。貴方のいない世界で生きられない、私の物語。
『渇きの王』が倒れ骸の海へと還った後、『裏切りの聖女』は青く輝く瞳を猟兵達へと向けた。
力の殆どを王殺しにつぎ込んだ彼女は満身創痍と言ってもいい。
「さあ、次は私たち」
そう静かに告げると、裏切りの聖女は猟兵達へと向き直る。農具で武装した人間ではないのね、と呟いた彼女は冷めた表情で真っ直ぐに眼前に立つ人間たちを見据えた。
「あなたたちが人として次も吸血鬼を殺すなら、私はあなたたちを殺さなければなりません」
凜然と告げる声は雪中にあっても存在を主張する白薔薇のように美しく、棘を纏い他者を寄せ付けない強さがあった。
王を追い詰めたその力は油断ならない。従魔達を蝕んだ力も未だ健在だ。
王が『略奪』の権能を持つのなら、聖女は敵の力を奪い形として現す権能を持つ。もしもう一人の自分が現われたのなら、それらと戦わねばならないだろう。
「答えなさい、私の敵はどこですか」
猟兵達よ。いま立ちはだかるものが何者かその目で確と見定めよ、そして為すべき事を為すのだ。
――裏切り者の人生、その幕引きを再演しようか。
シキ・ジルモント
◎/SPD
…人や世界を害する存在なら、猟兵として次も殺すだろう
「あんたの敵は、ここに居る」
現れるもう一人の自分も、今の俺と同じ真の姿を解放した状態だろうか
…好まない姿を見せつけられて、あまりいい気はしない
交戦しつつ、相手の背後に彼女が来るように誘導する
隙を突いて攻撃に移りたいのは相手も同じか
ただし相手が狙うのは俺でも、俺が狙うのは彼女の方だが
誘導後は銃を構えてみせ、相手に先手を取らせる
被弾は耐える、急所さえ外せばいい
攻撃の瞬間に生じる隙に、背後の彼女をユーベルコードで狙い撃つ
吸血鬼を“あなた”と呼ぶ彼女に、多少同情するが躊躇はない
異形の姿を晒してでも、猟兵として生きる道を選んだのは自分だからな
フォルク・リア
◎
「分っている筈だ。敵は誰かなど。
人の敵は吸血鬼。吸血鬼の敵は人。
ならば、俺の敵は。」
「お前だけだ。」
無垢なる子供たちが召喚されたら、飛び退いて距離を取り。
「それの危険さは見せて貰った。真面に相手をするつもりはない。」
と、真羅天掌を発動。
凍結属性の吹雪を発生させ。
無垢なる子供たちを凍らせていく。
自分に近づくものを凍結させることができたら
そのまま急激に温度を下げ
デモニックロッドの闇の魔弾を放って氷を砕く。
その後は自分と裏切りの聖女の間を【範囲攻撃】で
吹雪で覆って自分の姿を隠しながら
徐々に裏切りの聖女を凍てつかせていく。
「このまま。その過去も未来も裏切りも
雪の中に全てを閉ざす。」
ノエマ・アーベント
ディアナ(f01023)と
愛の為、吸血鬼の妻としての道を選んで
多くの人を裏切った、嘗ての聖女の成れの果て
でもその王がいなくなった今、貴女は何を望むのかしら
罪を重ね続けた咎人に、待っているのは『死』の結末だけよ
骸の海から蘇り、死して尚、彷徨い続ける憐れな聖女
貴女は本当は、人の身である私達を怖がっている
人に裁かれる事を何よりも、それで全てが無に帰す事を
だからこの世の未練を断ち切って、全ての罪を赦してあげる
ディアナが拓いた道を迷わず進み、聖女を【断頭台】に拘束させて
最期の餞に、鎮魂歌を口遊みながら、彼女の頸を斬り落とす
後はあの世で、お休みなさい
その魂が、せめて安らかなれと、祈りを捧げて別れを告げるわ
ディアナ・ロドクルーン
ノエマ(f00927)と
同族を裏切る愛…?
渇きの王が血を拒むようになったのは…貴女の存在があったからね
だけど、いかなる理由があれ。いかなる想いがあれども関係ないわ
私はか弱き者たちを蹂躙しようとする吸血鬼なれば倒すのみ
貴方の敵は、此処よ。
傷ついた仲間がいれば傷を癒しましょう
【第六感】や【見切り】で敵の攻撃を躱して
無垢なる子を剣で薙ぎ払い、ノエマが聖女に近接する道を切り開く
未練を―、断って!
貴女は間違いなく、倒れた王と同じく骸の海に還さねばならぬ者
愛する者が還った海へ、貴女も―還りなさい
…二人の魂に安寧あらんことを
アルバ・アルフライラ
ああ、殺すとも
オブリビオンは全て鏖にする――それが私の使命
…さて
斯様な鬼を前に、貴様は如何する?
問題ない、魔方陣は素気なく描ける
召喚するは【死への憧憬】
聖女の攻撃を喰らわぬよう屍竜の陰に立っては
騎士に牽制を任せ、隙をついて屍竜に攻撃を指示
感覚を研ぎ澄ませ、挙動を予測し
時に第六感を頼って見切りに徹する
童が現れようとも決して怯みも躊躇いもせず
悉くを範囲攻撃で薙ぎ払うのみ
彼の童は、聖女にとって如何様な存在か
推し量る事も容易であろうが…否、止めておこう
斃すべき敵の事を考えて何とする
…ほれ、疾く骸の海へと沈むが良い
この世を憂う貴様にとっては
少なくとも此処よりも心地好い場所やも知れんぞ?
――それ、幕引きだ
●哀弔のカンパニュラ
彼女が歩んだ軌跡は、この世界においても異質なものだったに違いない。
「同族を裏切る愛……?」
ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は暫し思考を巡らせると、一つの答えに行き着いた。
「渇きの王が血を拒むようになったのは……貴女の存在があったからね」
ディアナの言葉を聖女は肯定も否定もしない。もしくは彼女自身も知らない過去の出来事なのかもやも知れぬ。いずれにせよディアナの推測が正しかったのか、真相は薮の中だ。
「だけど、いかなる理由があれ。いかなる想いがあれども関係ないわ」
「愛の為、吸血鬼の妻としての道を選んで。多くの人を裏切った、嘗ての聖女の成れの果て。でもその王がいなくなった今、貴女は何を望むのかしら」
言葉を引き継ぐようにノエマ・アーベント(黄昏刻のカーネリア・f00927)が続けると、本体である【断罪ギロチーヌ】をしっかりと握り締めた。
「罪を重ね続けた咎人に、待っているのは『死』の結末だけよ」
「なら、あなたたちは」
「分っている筈だ。敵は誰かなど。人の敵は吸血鬼。吸血鬼の敵は人。――ならば、俺の敵は」
フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は冷たく静かな声で答えると、手にしたデモニックロッドを先を視線の高さまで上げ裏切りの聖女の姿を確と捉えて宣言する。
「お前だけだ」
「私はか弱き者たちを蹂躙しようとする吸血鬼なれば倒すのみ」
「あんたの敵は、ここに居る」
自らの前に立つオブリビオンこそが敵であるとフォルクが告げ、聖女の前に立つ猟兵達こそが敵だとディアナとシキが答える。
彼女がオブリビオンである限りそれらを害するのならば――人や世界を害する存在なら、猟兵としてシキは、彼女に再び出合う事があれば次も殺すだろう。
何度だって殺す。その為に銃口を向ける敵はここだと、シキは明示した。
「あなたたちは、私の敵なのですね」
「ああ、故に殺すとも。オブリビオンは全て鏖にする――それが私の使命」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は冬の星空のような静かな煌めきを瞳に宿し、気高き意志と共に聖女へと向けた。
「……さて。斯様な鬼を前に、貴様は如何する?」
「王と同じく、何も変わらない。――そう、争わずにはいられないのですね」
告げる声音の穏やかさとは裏腹に、ありありと浮かべられた隔意が両者の立場を物語っていた。闇の中で輝く瞳はそれすら憐れむように、ほんの僅か眇められた。
足下から滲む朱殷が斑を描き陽炎のように立ち上がると、幼子の姿となって猟兵達へと手を伸ばす。
「それの危険さは見せて貰った。真面に相手をするつもりはない」
フォルクは外套をはためかせ、すかさず飛び退いて距離を取ると、深く長く息を吸い込んだ。
「大海の渦。天空の槌。琥珀の轟き。平原の騒響。宵闇の灯。人の世に在りし万象尽く、十指に集いて道行きを拓く一杖となれ」
地を這うような低音が厳かに唱えれば、轟々と音を立てて吹き荒れる吹雪が子ども達を包み凍らせていく。フォルクの制御の手を離れた冷気を、時間を止め閉じ込めるように急激に温度を下げた。
身に染みる寒さの中であってもアルバの指先は素っ気なく魔方陣を描いていく。
招き喚ぶは首の無い騎士と屍の竜。
「さあ、思いの儘に蹂躙せよ」
竜は両翼を広げアルバを陰に隠すと、騎士は手にした剣を振るい子ども達を牽制した。
立ち止まる子ども達を、ディアナは【Halos Lila】で薙ぎ払い、シキの弾丸が撃ち抜く。
――速い。
姿形は幼子ながら、本質は聖女のもつ埒外の力だ。フォルクは心中で毒づきながらも、更にもう一歩踏み込んで飛ぶ。
傷つきながらも執拗に追跡する子ども達が猟兵達に触れると、血の気が引くような目眩に襲われた。
「焼き払え」
アルバは屍竜に焼き払うように命ずると、彼は赤い瞳を爛々と輝かせ赤い炎を吐きかけた。
彼の童は、聖女にとって如何様な存在か。
「(推し量る事も容易ではあろうが……否、止めておこう)」
斃すべき敵の事を考えて何とする。相対すると決めた以上、余計な事は考えない方がいい。
「其が優しさは万物に向けられるならば 幸無き我が盟友に祝福と抱擁を与えよ」
ディアナが聖なる光を放ちフォルクを癒やすと、すぐさま子ども達へと向き直る。油断すれば瞬く間に命すら奪っていきそうな彼らだが、生憎とディアナから渡すものなど一欠片もない。
隣に立つノエマもギロチンの刃を巧みに操り攻撃を防ぎながら首を刎ねていく。
回復したフォルクは小さな体が彫像のように凍り脆くなるまで、魔術を行使する手を緩める事はない。黒杖から放った闇の魔弾で小さな体を砕くのを見やると、アルバは研ぎ澄ませた感覚で挙動を予測し回避する。
雪に混ざりゆく欠片悲しげに見送りながらも、しかし聖女は動かない。生まれた子が駆け回る様子を、じっと静かに見つめている。
既に潰えた命、そして今ここにあるのはあの時とは違う『私』。思いを馳せた記憶でさえ、過去と現在の継ぎ目が分からなくなる程曖昧だ。
聖女は朧気になっていく記憶をさしだして、もう一人のシキを作りだした。それは月光のような冴えた光を纏い、爛々と輝く瞳をぎらつかせてシキを睨み付けた。ぐうと唸り声がもれる唇の端から伸びた犬歯が、獲物に飢えた牙のように鋭く伸びている。
好まない姿を見せつけられて、あまりいい気はしない。視線を逸らしそうになるのを堪えながら、二人はハンドガンを構え狙いを定めた。
弾丸の雨を潜り抜け、シキは雪を蹴って飛び回る。
銃口を向けられればどこを撃たれるか考えずとも分かる。激しい撃ち合いの中、相手に悟られぬようごく自然な流れでもう一人のシキと聖女が一直線上に並ぶように誘導する。
二人の姿が重なり合った瞬間、シキは両手でしっかりと銃を構えてみせた後、わざと引き金を引くのを遅らせた。
重い銃声が庭園に響き渡る。脇腹を貫通した傷が焼けるように、激しい痛みを訴えてくる。呻きそうになるのを食いしばり、無言で彼らを睨み付けると息を止め引き金を引く。
敢えて影に撃たせ、攻撃後の硬直にカウンターを仕掛ける。肉を切らせて骨を断つシキの作戦は思い描いたとおりに、己の影をすり抜けて背後の聖女を見事撃ち抜いた。
「ああっ」
悲鳴を上げる聖女に、容赦などしない。吸血鬼を“あなた”と呼ぶ彼女に、多少の同情はすれど躊躇はない。
例え異形の姿を晒し誰かに恐れられたとしても、猟兵として生きる道を選んだのはシキ自身だからだ。
そしてその姿すら受け止めてくれる存在にであい、力になりたいと思ったのも猟兵として生きるシキが得た掛け替えのないものだ。
「無茶をするわね」
ディアナが呆れたようにため息を吐きながら、聖なる光でシキの傷を癒やしていく。
「だが、道は開けたろう」
「ええ、そうね」
ディアナが視線を戻す最中、叩きつけるような暴風が意思を持つかのようにうねり押し寄せるのが見えた。
フォルクが黒杖を掲げ竜巻のような激しい吹雪を呼び寄ると、彼我の間に横たわらせた。
風は荒れ、地吹雪を起こし、フォルクの姿を白い世界に掻き消してしまう。
「このまま。その過去も未来も裏切りも――雪の中に全てを閉ざす」
殴りつけるような風の中、髪を嬲る雪風に凍えながら。
聖女は地面を転がる小さな欠片を拾い上げると、そっと抱きしめた。
「……ほれ、疾く骸の海へと沈むが良い。この世を憂う貴様にとっては、少なくとも此処よりも心地好い場所やも知れんぞ?」
傲岸不遜に告げるアルバが命ずるまま、一切の容赦なく騎士は剣を突き立て竜の息吹が陽炎を掻き消していく。
「――それ、幕引きだ」
「ノエマ。未練を――、断って!」
「ええ」
ディアナの願いに応えたノエマは、静かな足取りで聖女へと向かう。鉄が擦れ合う音は小さな鐘が鳴るように、弔いの歌を奏でた。
「骸の海から蘇り、死して尚、彷徨い続ける憐れな聖女。貴女は本当は、人の身である私達を怖がっている。人に裁かれる事を何よりも、それで全てが無に帰す事を」
さらさらと消えていく欠片を見て、はっと彼女は瞠目した。
裏切った事では無い、その事を後悔などしていない。『私』が『私』で在るための、もっともたるもの。人でありながら吸血鬼に与した証として人々に恐れられた『裏切りの聖女』としての罪が無くなれば、一体何になるというのだろう。
「私は――」
震える唇を閉ざして、彼女はそれ以上語らず黙したまま。ならば、刑具たるノエマに出来る事は一つだけ。
「だからこの世の未練を断ち切って、全ての罪を赦してあげる」
ディアナが、皆が開いた道の先で、血染めの断頭台が堂々たる姿を現した。首に嵌められた枷が閉じられ、手足を捕える鎖が自由を奪う。
刃が揺れる。
少女が死を告げると、聖女は静かに瞳を閉じた。
「ああ――」
天から降る白い花が舞い落ちる。
どんな形であれ再び会えた。だから今度は永遠に閉ざされた過去の中で、また会おう。
最期の餞に、鎮魂歌を口遊みながら、ノエマは彼女の頸を斬り落とした。
「……さようなら。後はあの世で、お休みなさい」
「……二人の魂に安寧あらんことを」
その魂が、せめて安らかなれと、ノエマとディアナは祈りを捧げて別れを告げた。
ああ、これが。あの日の炎の向こう側なのだろうか。
穏やかに降り積む雪を仰ぎ見たのを最期に、聖女の体はほろほろと崩れていく。
雪を巻き上げる風に乗って、彼女は高く高く舞い上がる。そして誰も居ないはずの鐘楼の屋根をそっとひと撫ですると、厳かな鐘が辺りに鳴り響いた。
王の死を告げる鐘が鳴る。
連なった小さな鐘の音が、さざ波のように冷たい空気に染み渡る。
僅かに緩み始めた風が遅い春の訪れを人々に触れ回る、そんな日の事だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵