#UDCアース
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
●SIGHT:???
海の中だった。
厚い氷が蓋の様に、海の上と下とを分かつ。
その、分けられたうちの下の方で、ひそやかに、誰にも気付かれることが無い様に、■■は潜伏していた。
ああ、でも。もう、いい。辛抱の限界だ。
■■のカラダを隔てていた氷を砕き、水飛沫を上げ海を割って浮上する。海から現れる異形。それを見たものが恐れ慄くように、声を出す。
ああ。その声を、■■は――――。
――あとは、その声を、赤い色彩が塗り潰した。
●SIGHT:JAEGER
「――ブリーフィングを始めよう。UDC出現の予知があった」
赤縁眼鏡のグリモア猟兵、零井戸・寂(PLAYER・f02382)が、周囲に集う猟兵たちに告げる。
「まずはスクリーンに注目してほしい。召喚が予測されたのは、ココ」
虚空にバーチャルスクリーンを展開し集った猟兵らに見せながら、寂はイントロダクションを続ける。
仮想の窓越しに移るのは、事件が起こると思しき場所。日本の関東圏、海沿いにある某町。都心からはやや離れたもの静かな、水平線と共に人々が暮らす町。
「UDCが召喚されるまでのプロセスは僕の見た予知の中では明らかになってない。けど、召喚の予兆めいた異常事態が既に発生してる」
言葉ととも、スクリーンが切り替わる。
「"異常気象"って言うべきかもしれないな。これは現場で組織のエージェントが撮った海辺の写真だけど……」
映し出されるのは、町に隣する浜辺の景観。夏ならばきっと、海水浴に駆けつける人らで大賑わいをするのだろう。だが、季節は冬。観光シーズンからは大きく逸れて人足も遠のいている――筈なのだが。
「なかなかに壮観だろう?――"流氷"だ」
虚空に映されたのは、水平線を埋め尽くすかの如くにある、翡翠色の氷の群れ。海に漂着する、数多の氷の厚板。
ひしめき、波に寄せられ、鈍く吼えるような音を立てては互いに衝突し、くっつき、歪なパズルのような凍てる大地を築くそれ。
日本であれば、北の大地の限られた地で、限られた時期にのみ見られる筈のもの。
その流氷が、本来あるべきでない海に現れる。
「当然今回のUDCと何等かの因果関係がある筈で、危険性を孕んでる可能性も高い。けど、一般人がそんな事知る由もない」
むしろ、町ではこの荘厳な光景を前に祭りの如くはしゃぐ人らもいる程らしい。更には地元の人らに加え、情報を聴きつけた観光客まで流氷目当てにやってくるような始末になってる、とは寂の言葉。
そしてこの一件を起こすキーマンが、海岸に訪れる人々の中の誰なのかは不明だ。故に、
「限りなくスピーディにケリを付けたい。――だから、最初にお願いするのは現場調査。手早く原因を突き止め、UDC召喚を阻んでほしい」
まず優先すべきは、流氷が流れ着く海岸、そこにいる人々を調べる事。何か怪しい動きを見せる人を見つけ、マークする。
「既に異常気象って形でUDCの影響らしきものが出てるくらいだ、事態は進行しつつあるし、完全な召喚阻止は難しいかもしれない。けど、未完全な儀式を経て召喚されたUDCは、弱体化を余儀なくされる筈だ。君達の敵ではない筈だよ。――懸念があるとしたら、その場に居合わせた人だ」
仮に敵の抗戦があれば、その場にいた一般人が巻き添えを喰らう可能性がある。
「――実際、UDCが誰かを攻撃する内容の予知も見た。可能な限りで良いから、敵が現れた時は一般人も守ってあげて」
目を一度瞑って、何かを思い出すようにした後で寂がそう言う。そんな中に、グリモア猟兵へ一つ質問が投げ掛けられた。
"被害を被るのが誰かわかるか"、と。
「…………、ごめん。予知の光景では誰がそうなるのかも判らなかった。――でも、君達なら守ってくれるって信じてるよ」
他人任せにも思える言い草で、それでも猟兵への信頼の証か、微笑みを湛えグリモア猟兵がうそぶく。
そして、最後にまた顔を引き締める。
「――最後に、唯一確かな情報。僕の予知の中に現れたUDCについての情報提供だ」
"名前だけは知っている人もいるかもね"という寂の顔は、極めて平坦で事務的だ。
そうあるべきと己に言い聞かせるかのように。
「"ジャガーノート・ポーラー"。――UDCオブジェクト、"ジャガーノートシリーズ"の内の一体だ。……僕が君達に提示できる情報は、以上」
対峙する敵の名前を告げ、最後にもう一度目の前の猟兵らを見て、グリモア猟兵は転送の準備を開始する。
「グッドラック、みんな。……無事な帰還を祈ってる」
祈りと、願いを。或いはもっと他の何かを込めたような顔と声色で、少年グリモア猟兵は転送を開始する。
――そうして、淡い翡翠色の海岸線が、眩く。君達を迎え入れたのだった。
戦雨匠
お久しぶりです、またははじめまして、戦雨匠です。
2020年も宜しくお願い致します。
此度はUDCアースにて、邪神の召喚阻止・撃破を担うシナリオとなります。
●第一章:冒険シナリオ
流氷が漂着した海岸を探索するシナリオとなります。
海岸を訪れた人に話を聞いたり、探索をしてみましょう。
●第二章・三章
戦闘シナリオとなります。
詳細は各章公開時にお知らせする形となります。
●各章採用数について
第一章はさっくりめ(5人程度?)、二章以降は10人程度採用できればと思ってます。
人数が想定より多いと全員採用は難しいかもしれませんが、なるべく頑張って執筆したく思います。
それでは宜しくお願いいたします!
第1章 冒険
『流氷の探索』
|
POW : 流氷が怪しい、砕いて調べる!
SPD : 流氷の周りに異変がないかチェック!
WIZ : 流氷を見に来た人に聴取調査しよう!
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●"翡岸"
海の岸辺は、きっと翡翠色に見えたろう。
朝日が昇って間もないその海には、さざめく様な波音に乗って、雄大な氷の厚板達がぎしぎしと犇く音も聞こえてくる。
その景色を前に、流氷を見にきた観光客らは感嘆の声を上げスマホを手にし、歓喜の声を上げている。この海辺で貸しボートを営む壮年の男性はそれをなんとも言えない眼差しで、半笑いで見遣っている。そして、そんな人々に目もくれず、じっと氷を見つめる誰かも、また居るようだ。
さて、この翡岸にきた君たちは、周囲にいる人達に声をかけてみるも良し、海や海岸線を調べてみるのも良いだろう。
UDCが現れると予知が為されたここには、きっと何かがあるのだから。
舘林・祀
ふぅん、UDC、か。
せっかくなら完全な状態で相手したかったけど、そうもいかないか。
じゃあ、ちゃちゃっと儀式邪魔してお目当ての怪物退治とまいりますか!
うーん、海岸にいる人全員が怪しく見える。
一人一人ふん捕まえて口を割らせる?
でも間違ってたら面倒だしなぁ……よしっ、それは他の人に任せて流氷をどうにかしてみましょう!
こんな大きな氷の塊、私の拳が通用するか……ふふん、やってやろうじゃない。
《一撃必殺》
溜めを作って、呼吸を整えて。
一点を穿つ弓矢のように拳を叩き込む。
この寒さで縮こまってた筋肉もいい具合に温まったでしょ。
さーて、なーにが出てくるかしら?
強い敵とかわらわら出てこないかなぁ。
●
「ふぅん、UDCかぁ。せっかくなら完全な状態で相手したかったけど」
てくてくと冬の浜辺を歩く少女が、そうもいかないよねと呟く。
ふさふさと腰の後ろに揺れる尻尾とぴこぴこ動く尖った耳を見れば、彼女がこの世界の出身者でない事は知れよう。金髪の妖狐の少女、舘林・祀(一拳十殺・f24918)はきょろりとあたりを見渡しむむぅと唸る。
「全員怪しく見える……」
可愛げのある緑の瞳が、じぃと海岸線に集う人らを一周ねめつける。さて、見目麗しさの割に喧嘩っ早く、口より先に手が出るタイプの彼女はこう考える訳である。
則ち、全員ふん捕まえて口を割らせるべきだろうか?と。
そしてこう考える。いやいや面倒くさい。
「ん、決めた。そーゆーのよかやっぱあっちよね、あっち」
んんーっ、とまっすぐ伸びをした後、爽やかな足取りで祀はステップを踏む。一歩、二歩と軽やかに。
三歩目で、その足は砂浜を跳ね上げ、思い切り空を跳ね駆ける。
「っ、とっ、とぉ……ひゃーつめたっ」
降り立ったのは当然、翡翠色に凍てついた厚い氷、流氷の上。その中でも飛び切り大きく厚いものだ。
寒さにとたとたと足踏みをしつつも、白い息を吐きながらにんまりと祀は笑う。
こんなにも大きな氷の塊。恐らく岩にも負けず劣らずの硬い自然の猛威。
それに己の拳が通用するのか。
「ふふん。……やってやろうじゃない」
氷の前に、妖狐の少女は牙を覗かせるように笑って見せた。
鼻から息を吸う。息吹を丹田に溜めるようにして、口から静かに吐く。
白い吐息は吼々、獣が狩るものを前にするかのような研ぎ澄まされた。
そうして、腕を引く彼女の構えは、或いは弓を引く武士のそれにも似ていたろう。
「――――破ッ」
ごきんッッ。
鏃が獲物を穿つかの如く、あまりにも鋭い拳だった。
衝音がぐわんと氷の大地を揺るがし、亀裂を生み、それが海に波紋を呼ぶ。
「……へへっ、アタシの勝ちぃ」
ニンマリ笑って、ぐるりと腕を回す。鼻柱の赤らみととも、頬にも紅が差す。血が通い寒さ所縁の筋の強張りも解けていくのがわかる。
「よぉしあったまってきたしもう一丁……ん?」
そこでふと、彼女は気付く。
海の下、氷が揺れ波紋を呼ぶ以外にも。
何かが波を立てる気配があった。
それはもう、彼女のいた氷の下からは逃れてしまった様だけれど。
それを感じ取り、ははぁと彼女は笑う。
「……何かいるのは当たり、と。……さぁて、何が出てくるかしら」
できれば強い敵がいい。
そう思いつつ、祀はまた別の氷に飛び移る支度を始める。
幸い、氷は多い。彼女のウォームアップはまだ始まったばかりだ。
成功
🔵🔵🔴
アラン・スミシー
さて、始めるとしようか。
調査の基本は足という格言もある事だし、詳しい情報を聞いてまわろう。
ああ、私は週刊誌の記者という体で行くとしよう。
済まないがそこの君、…そう君だ。
知っていることだけで構わないから、あの流氷に関係する事を教えてくれないかい。
例えば流氷の前に前兆のようなものが無かったか、あるいはあれが見え始めてから今までと違う何かが変わったとか。
音や見た目、臭いや人や動物、気づいたことがあったら教えて欲しい。
なんなら君の知り合いを紹介してくれないかい。
頼んだよ。(連絡先渡して)
さて、別の所でも聞いてみるかな。飲み屋…が良いかな。船に乗る人物が集まりそうな店でも聞いてみるとしよう。
●
「さて、始めるとしようか」
枯れた様な風貌の、トレンチコートに身を包んだ男が寒空の下に言葉を吐いて歩き出す。男、アラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)の表情には、これから起こる事に対する悲壮も切迫もない。ただ、そう請われたから。自分が猟兵であるからという理由のもと、淡々飄々と凍る風吹く浜辺を歩いてゆく。
さて、依頼されたからには情報を集めなければならない。トレンチコートの襟を立て、浜風に飛ばされぬように帽子を抑えつつ、目についた一人に声を掛けた。
「ああ、すまないがそこの君」
声を掛けたのは、一人の主婦じみた女性。コートと肩に掛けたストールで寒さを凌ぎつつ、岸辺に集う氷の群れに、目を奪われたように見つめていた。
「…………。……?あ、え、私ですか?」
よほど熱心に眺めていたのか、一拍遅れつつ女性も応じる。
「そう、君だ。私はこういうものなのだが……」
建前上の身分を示す為に用意した、偽の名刺を見せつつ言う。名刺には週刊誌の名前と記者という肩書き。この世界で、一般の人らに話を聞くのにはうってつけだ。
「……記者。……あぁ、流氷の。そうですよね、貴重な光景ですし」
特段、女性も違和なくすんなりと納得したようだ。それを見てアランも頬に緩やかな笑みを湛え、"聞き取り"を再開する。
「ああ全く。それで、流氷に関する事を聞きたいのだが……気になった事や気付いた事、何でも構わない」
「気付いた事……流氷が来たのが確か……二日、三日前位、だったかしら」
「へぇ、成る程。現れた時もあんなに壮観だったのかい?」
「そうですねぇ、気付いた頃には……。ああでも、昨日よりなんだか一層壮大になってる気もします」
このままだとその内辺り一帯氷の海になるかもしれませんね、等と女性は笑って言う。応じるアランもハハハと笑うものの、冗談にはならぬ事を知ってる手前、笑みは何処か曖昧だ。
「……でも、こんなだと仕事もうまく出来なくて参っちゃうわ」
「おや、お仕事を?どんなのか聞いてもいいかな?」
困ったように溜息を吐く女性に、アランが問いを投げかけた。
「ああ、貸しボートをしてるんですよ。旦那の友人に誘われて」
女性がアレです、と指で示す先。確かに簡素な木造の建物があり、ボートを止める為の小さな埠頭らしきものもある。
「食事処も兼で。でもこんな海だとボートで出たりは無理でしょう?」
氷に触れてみたいって人もいるけど危ないからお断りしてるの、と。商売上がったりなんです、なんてやはり困ったように笑って、女性が言う。
「ここ暫くはボートは休みで、飲み屋さんみたいになってるわ、ふふ。私も暇で長めの休憩中。参っちゃう」
「ははぁ、なるほど……それは困り物だ。でもその割に」
「?……その割に?」
無精髭をさすりつつ、アランは微笑する。
「君は流氷を随分と熱心に見てたようだった。邪魔なものを見つめる目には見えなかったな」
あくまでも穏やかな問いに、女性は少し呆気に取られ。
「――――。……旦那もこう言う氷を見てたのかな、と」
「……。ほぉ、旦那さんが」
「えぇ。氷の海に、深く関わる仕事だったんです」
微笑みながら、女性が言う。
今一度、淡い翡翠色の氷群を眺めて。
「――。氷海については、旦那の友達も詳しいんですよ」
そしてまた、言葉をぽつりと溢す。
「其方に聞いてみるのもいいかもしれません。お酒はお好きですか?偶々良いのが入ってますので、食事も兼ねて是非」
「ほほぉ、興味深い。行ってみよう。ああ、何か思い出した事があれば名刺の連絡先に」
丁寧な物腰で情報の礼を言いつつ、アランが視線を貸しボート屋兼食事処に移す。
情報はそれなりに得た。次の情報の仕入れ先として、次の場に向かうべきだろう。
「ふふ、毎度さまです。少しくらいならサービスもしますから」
女性もまた、いえいえと会釈をしつつ穏やかにそう言った。
「私の……白峯、って名前を出して貰えれば、融通してくれると思うので」
「……成る程、今日一の良い情報だね。肖るとしようかな」
目を細め、礼をまた告げ、飄々とした男が次の目的地へと向かってく。
それを見送り、女性――白峯は、また凍てつく海岸線へと目を向ける。
まるで、誰かを探すかのように。
成功
🔵🔵🔴
ペパシア・ドロキペ
WIZ 事情聴取
流氷だなんて初めて見ましたわ。世界にはまだまだ面白いものがいっぱいね!
スマホで氷を撮影してる人達がいるんですって?
何か変なものが写ってたりしないかしら。話を聞くのと同時にちょっと見せてもらいたいですわね。
「こんにちは!かかし新聞の記者ですけどインタビューいいですか?」
って感じでスムーズに情報を集めたいですわ。
ところでいつ頃から異変は起き始めたのでしょうか…。地元の人にも話を聞いておきたいですわ。
長く海を見てきている人なら、変化にも敏感なことでしょう。一番信頼出来る情報源な気がしますわ。
異常気象とはいえせっかくの魅力的な光景。惨劇にするわけにはいかないわ!わたくし頑張ります!
●
浜辺にぽつんとある食事処は、建屋の半分を貸しボート屋の事務所が占めているのもあり手狭ではあった。だがストーブがフル稼働で焚かれていて、寒空の外と比べれば格段に居心地がいい。そして海の街らしくもある海産料理の香りが、温かにやってきたものを迎えてくれていた。
「……流氷がいつからあったか、ねぇ。んーそうだな、確か七日位前にゃもう海に浮かんでたかなァ」
「ふんふん、なるほどですわ!」
さてそんな中、他の猟兵より一足先にこの食事処を訪れていたペパシア・ドロキペ(お嬢様はカラスと戯れたい・f00817)は店の主の話を聞きつつメモを書き取っていた。猟兵の中、ひいてはミレナリィドールの中でも一風変わった見た目の彼女であれ、猟兵である限りは見た目で怪しまれる事もなく、こうして聞き込みができる。
「しかし"かかし新聞"ねぇ、聞いたことのない新聞社だな」
「これから世にどんどん羽ばたいていきますわ!あ、それでインタビューの続きよろしいですの?」
奇しくもペパシアもまた他の猟兵と同じく、架空の新聞社の記者を名乗りインタビューをしていた。海についての話を詳しく聴くならあのお店の人がいい、と聞きつけてやってきたのである。
役作りの眼鏡も忘ない。クイッ(メガネを上げる音)
「お、ハイハイ悪いね。あ、注文のココア」
「わーいありがとですわー!」
インタビュー代も兼ねて注文してたココアをウキウキと受け取るペパシア。
湯気がもわぁ。メガネが曇る。
……。スチャッ(役作り用のメガネを外してしまう音)
「あちちですわ。……それで、店主さんは長く海を見てたとお聞きしたんですけど」
貰ったココアを啜りつつ、ペパシアが訊ねる。
「おう、前の仕事でも海所縁だったもんでなァ。そりゃもう長いよ」
にかりと笑う店主が言う。気前と気風の良い壮年男性の彼は、一度窓の外から覗く海を眺め、懐かしそうにするのだった。
「そうですの。それで、海のベテランの店主さんからして、おかしく思う事とかはありませんの?」
「んー、そうだなァ。つっても海なんておじさんに言わせりゃいつだって不思議でおかしなもんさ」
「そうですの?」
「そうとも。海の中の世界ってぇのはな、ありゃ宇宙みてーなもんだ」
海から視線を外し、カウンター越しからまたペパシアの事を見てから言う。
「或いは別の世界、つっても良いかもな?どんだけ研究が進んで人や機械が深く潜れるようになったとしても、人間なんてちっぽけなモンが知れる海の事はほんの一握りサ」
豆粒のように小さい丸を片手で作りつつ、店主はそんな事を嘯いて。
その後で、打って変わったような真剣さを込めて言うのだった。
「……ま、でもそうだな。今の目の前の海の下にゃ何かがいる、そんな予感はする」
「……!ふむふむ、何かですの。因みにそれが何かは……」
「いやァそこまではわかんねぇなァ!」
「とほほ、そうですの」
ケラケラと笑う店主とかくりと項垂れるペパシア。
「ま、何もいないでくれると嬉しいんだけどなァ……」
「むむむ。……あ、そうですわ。七日も前に流氷に気付いてたなら、スマホで写真とか撮ってませんの?」
ズズー、とココアを飲みながら案山子のお嬢様が尋ねる。
「ん?……あー、あるよ。見るかい?ホレ」
「あっありますの?ぜひぜひ見せて欲しいですわー!」
ほれ、と店主が出したスマホの写真一覧を、ペパシアが受け取って眺めていく。
「……それにしても白峯さん遅いな。嬢ちゃんワリィ、ちょっと従業員探しに店の外見てくるから此処にいて貰ってもいいか?すぐ戻ってくっからサ」
「あ、いいですわ!その間に写真見させて貰いますので!」
いってらっしゃいまし、の言葉と共に店主を送り出す。
わりぃね、と一言掛けて、店主はコートをひっつかんで外に行くのだった。
「んー、思いの外写真が沢山ですわ……」
1日ごとに十数枚は下らない写真が、店主の渡してくれたスマホには収まってた。
海と流氷。
日の光を浴びる氷の板の輝き。
夕暮れに輝く氷群。
流氷と水面の写真たちがずらりと並ぶ。
「んん、特に変哲はなさそうですわね……あら」
基本的に綺麗な流氷を写したと思しき写真たちの中、ある一枚に目を留める。
「なんか暗いですわね……お天気が悪かったのかしら?」
むむぅ?とペパシアが眺める写真は、確かに曇りの日で撮ったかのように、浮かぶ氷も、その下の海すらもどんより淀むように暗い。
だが同じ日に撮ったと思しき前後の写真は、からっと晴れ、輝かしい流氷がフォルダ内に収められている。
「…………うーーーーーん……?」
首を傾げつつ、写真を見比べるペパシア。
店主が戻ってくる気配は、まだ無い。
成功
🔵🔵🔴
ロク・ザイオン
(己は、凍りつく海を知らない。
ひとびとは、喜んでいるから。きっと病ではないのだろう)
……ジャガーノート。
(ここにいない、キミへ)
大丈夫。
おれは、うまくやるよ。
(ひとびとは他の猟兵に任せる。
【地形を利用】し【ジャンプ】で氷を飛び渡り、その上を探索する。
この氷は本当に遠い彼方から来ているのだろうか。冷気の源があるなら、そこを目指そう。
【野生の勘】は割れやすい箇所や、氷に残る痕跡を見抜くのに重宝するだろう。必要ならば「燹咬」で氷を断ち、その下の水面を探る)
アンチ・アンディファインド
【POW】
ハッ!
要は探して、見つけて、ぶち殺せばいいんだろうが
いいじゃねぇか、そういう分かりやすい方がやりやすい
【海獣型UDCの残骸】【魔獣型UDCの残骸】を食って、【T・B】を発動
水中向きの力を宿した怪人形態へ変身
【二回攻撃】と【怪力】で目に付いた氷からぶっ潰していく
とりあえずでけぇのから壊してくか、そっちのが隠れやすいだろ
中に隠れるやら小さいやらめんどくせぇことをやるとも限られねぇ、粉々になるまで念入りにぶっ潰しとくぜ
UDCは殺す
殺して、殺す!
だから、とっとと出てきやがれや!!
●
燃えるような赤い髪の、凛々しい顔つきの青年にも見える乙女は、凍てる海というものを知らない。
「…………」
だから彼女、ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は言葉なく、浮かぶ氷の上に足を下ろし、そこから浜辺の方を眺めていた。
視線の先には人らがゴマ粒めいて小さく見える。
この、森に非ず、命のない冷たい大地をそれでも美しいのだと讃え喜ぶ。森番は流氷も、寒き凍える海も知らずに生きてきた。それでも人間が喜ぶのならば、これは"病"ではないのだろう。そのような事を考えて。それから、
「……ジャガーノート」
ざらりと、一言だけ口にした。
グッドラックと言う言葉と共に、己に委ねられたものを想う。
きっとあの少年は、願いと祈り以外にも、他のものも己に託したのだろう。
「……だいじょうぶ」
ざり、ざり。
荒い鑢めいた声でロクは言いつつ、懐から刃を取り出して、その後に氷の海原を歩き出す。
「おれは、うまくやるよ」
●
一方、ロクとはまた別の氷の上。
そちらにもまた、明るい燃える様な髪を持つ少年がいた。ただ髪色は似ていたとて、瞳に宿す色合いは大いに違っていたろう。
森番の瞳が今は穏やかな灯火の様だったとして、少年の―― アンチ・アンディファインド(Anti UnDefined Creature・f12071)と己を称する彼の瞳は、憎き怪物達に対する憎悪に燃え盛っていた。
「ハッ!要は探して、見つけて、ぶち殺せばいいんだろうが」
吐き捨てるようにアンチは言う。大変結構だ。
そう言う分かりやすいのの方が自分にとっては好ましいし、やりやすい。だから噛みつくように言った後で、手に持つおどろおどろしい肉片にかぶり付いたのだった。
ぐちゃりと、口内に糞でも食った方がマシかと言う臭気と食感が広がった後、ミシリ、ミシリとアンチの体が軋み、変異をする。
「ぁ゛、がぁ゛ぁあ……ッッ」
ぶるりと身を振るうそれは、最早人の身ではない。手には水掻きが生じ、尾鰭が生え、身体は流線型となり皮膚も厚くなり、そしてエラまでもが生成される。
T ・ B
"テラ・バイト"と彼が称するユーベルコードにより、彼の身体は海の中を探り暴れるのに適した形態へと変貌した。
ふしゅぅぅぅ、と吐息を吐いた後。アンチはざぱりと冷たい海中に潜り、そのまま泳ぎ出す。鯱と見紛う如き荒々しい泳ぎを伴って、海にその身を鎮める氷、その内の一つを見定めた。
"――殺すッッ!!!!!"
ごぽりと泡混じりに言葉を吐いて、恐るべき怪力を以て氷の塊を殴り抜く。
一度、二度、四度、八度、まだ、まだ。
鬱憤を晴らすかのような純粋な暴虐を二本の腕を以て齎し暴れ抜く。
"殺して、コロしてころして殺し尽くすッッ!!!!"
氷の中に隠れたり、小さかったりと小賢しい手合でないとも限らない。念入りに、燃えるような憎悪を燃料とするかの様に、氷の塊を暴力によって分解していく。
"――ちっ、コレはハズレか"
漸く彼の手が止まったのは、一つの巨大な流氷をシャーベットのように変え尽くし終わった時だった。
不機嫌そうな声を泡と吐いて、アンチは次の氷塊を潰すべく泳ぎ去っていく。
●
「――、」
森番の耳がぴくりと跳ねる。
海中で何かが暴れ、氷を壊す音が聞こえた。病の音か。そう思い鼻をひくつかせる。
――否。森番の鼻は、機械達に乗っ取られた子供達を救う為に参じたとある仕事、そこにいた一人と同じ匂いを捉え、また彼女の勘がそれが敵ではないと告げている。
則ち、あれは猟兵なのだろう。姿が凡そ人とは言えない人間を、森番もまた良く知るが故に納得も早かった。そして味方が仕事を全うするならば、己もまた職務を全うするべきと気を引き締める。
冷気の源、或いは流氷の根源――それを発生せしめるものを探っていたロクは、ある点を訝しんだ。
流氷のサイズはまちまちで、小さく薄いものもあれば氷の小山めいた大きさのものもある。それだけならば自然の理でもあろう。
が、"氷の大小があまりに散逸している"。
小さいものの隣に大きなものがあり、それから遥か離れた先に同じように大きなもの、そのように点々ばらばらと氷の群れは散っている。
例えば小さな流氷が大きな氷から剥がれ生ずるなら、巨大な氷をぐるりと囲うように小さな流氷がある筈。だが、この氷の海にはそう言った規則性が見られず、野放図に大きな氷塊と小さな氷が混在してる。
偶々そうなっているのか。或いは――。
調べる為に、森番は刃渡り一尺一寸の剣鉈を握り、白んで輝く厚い氷へとそれを向ける。
するり。
煌々光る刃は音を立てる事もなし、溶けたバターを切るのにもにてすぅと氷を裂いていく。
"燹咬"は遍くものを灼き断つ牙。
況や氷など。
刃が触れる前に氷を融かして水へと還し、濛々と蒸気を上げ揮発させていった。
――大きな氷と小さな氷が混在する理由が、偶然でないなら。例えば森の獣が留まる所に痕跡が残るように、大きな氷塊も"そこに何かがいた痕跡"なのでは。そう思った森番は、氷の厚板に穴を穿ち。
「…………。……っ」
ぽっかり空いた、頭一ついれるのがやっと程度の穴を前、少しだけ逡巡した後に、ざぶりと頭をつっこんだ。
きんと冷たい水を逆さに見つつ、何かないかと勘も頼りに探り――そして青い目が、水にぼやける視界の中で何かを確かに捉える。
「――っ!……ぷはっ」
ざぷん!また顔を出し息を整える。
「……、つめたい」
ざりりと唸りつつ、ぶるりと濡れた犬のように頭を揺する。耳先から飛沫が飛び散る。
髪から伸ばして出した炎で更に水気を飛ばし、こんな事もあろうかと持ってきたブランケットを寒さ凌ぎに肩にかける。
そうして、己が見つけ、また己に見つけられた事を察し速やかに逃げていったらしい"ナニか"を思い起こしつつ、言葉を削り出す。
「……、まるくて、ながい……?」
森番にはあまり預かり知らぬ、未知の何か。
ただ、それが確かにいた事を、獣の勘が告げていた。
●
"くそが、またハズレかよッッ!!"
一方、海の下。アンチが三つ目の氷塊を、丁度かき氷へとバラし終えた折だった。目的としているUDCの反応は、どうにも察知できない。まだ当たりを引いてないだけだろうか。それとも――、
"……まさか氷の大小は関係ねータイプじゃあねぇだろうな?"
ここまで暴れて小虫一つほどの気配も感じない事に、その可能性もアンチは勘案し出す。氷のサイズにUDCの潜伏・召喚条件が関係ないならば、この行動は無意味なのかもしれない。
海面を、形を崩されぷかぷかと漂う、氷粒と変じた元氷塊を水中から見つつ、アンチは面倒臭そうに舌打ちした。――その後だった。
"……ッッ!?"
何モノかの気配を一瞬だけ感じ取り、其方に目を向け――確かに"ナニか"をその眼に捉えた。
"待――チッ、どこ行った!?"
捉えたのは僅か一瞬に満たない時間のみ。姿を認めた後、それは瞬きの間もなく何処かへと消えていってしまった。それが通過したと思しきルートをぐるりと周回し探索するも、痕跡はどこにも残ってない。
"クソがッッ!逃げやがった……次は絶対殺してやる、忘れねぇぞ――"
恨めしげに言いながら、見逃したそれを目に焼き付け記憶する。
"ふざけた面ァしやがって!"
見逃したソレ。長く細く丸く、白い棒のようなもの。
それの先端には、どこか子供じみたデザインの。
丸い顔が描かれていたように、アンチの眼には映ったのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
斬幸・夢人
ジャガーノート・ポーラー……?
それなりに世界のことについちゃ勉強してるつもりなんだが……知らねぇ名前だな
【情報収集】を使って流氷を見に来た人に聴取調査を行う
ま、こういうのはえてして地元の奴らより、わざわざ遠くから見に来る奴らのほうがしっかり調べてるもんだからな
……ついでにこぶつきじゃなくて可愛い女だったら最高なんだが
聞きたい話は……さてなにせノーヒントだからな
流氷についての噂話と……あとは雑談ぐらいか
以外と先入観のない奴の考えが的を得たりもするし、それにもし当たりを引いたら……
ま、情報収集は上手くいきゃラッキー、誰かがキーになるってなら人が集まるところにいた方がいいだろ、攻めるにも守るにもよ
波狼・拓哉
流氷か……いやこれどっか流れてきてんだ。どっかにもとになるとこあるんだろうってことだけど…簡単に見つかってりゃここで情報収集する必要もないのですよね…
まあ、いいや。調べてりゃそのうちわかるでしょう。
観光客に変装、演技しつつ周囲の人達から情報収集。コミュ力発揮していきますか。
聞きたいことは「どこで流氷の噂を聞いたか」「どこで流氷が多く見られたか」…かな。そのほかは流れ任せてはお喋りして回りましょう。
流氷が唐突に出てくるとは考えにくいし大元のとこで故意か偶然生産されてるんでしょう。生産場所に向かえば流氷は増えるでしょうし、方向が分かれば何かしらあった時に察知しやすいですしね。
(アドリブ絡み歓迎)
●
「ジャガーノート・ポーラー……ねぇ。知らねぇ名前だな」
それなりにこのUDCアースの事は勉強しているつもりだが、聞き覚えのない敵名だ。カリカリと頭を掻きつつ、灰髪の鋭い眼光を持つ男、斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)が呟く。
「アンタぁ知ってるか?」
「ん?……ああ、ポーラーじゃなかったけど戦った事はありますよ。イーグルって奴でしたね」
そう丁寧に応じるのは、隣で流氷並ぶ海岸を見つめていた黒髪の猟兵、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)。かつて戦った鋼の鳥人を思い出し、雑駁にどんなモノだったかを次の様に述べた。
「我儘な子供みたいな奴でした」
「へぇ。そりゃぁ今回の某くんも面倒臭そうだ」
うっそりと夢人が応じ、煙草に火をつけてふかす。
「そうかもしれないですね。……しかしこの流氷、何処から流れて来たんだろう」
「それがわかってりゃ苦労はしねぇだろ」
「それもそうか。……ま、調べてりゃそのうちわかるでしょう」
紫煙を吐きながらの夢人の返事に拓哉も頷く。
「そう言うこった。んじゃぁそっちはそっちでヨロシク」
そう言って、夢人が背を向ける。
「……ん、あれ。二人で一緒に探す流れじゃないんですね?バラバラにやるんですか」
はて、と首を傾げつつ、歩きゆく夢人の背中を見ながら拓哉が声をかける。
「おう、野郎二人だと女の子に声掛けづれぇだろ?後で情報共有はすっからよ」
「……あ、そうですか。ま、分かりました。ご健闘を」
ともあれ、そのような流れで二人は別れ、別々に情報収集に回るのだった。
――そうしてお互い情報収集に勤しんで、30分ほどが経った頃。
「――おう、あんがとな。観光楽しみな」
「はぁい!お兄さんも楽しんでねぇー」
きゃっきゃとはしゃいだ様子の観光客らしい女子大生3人組に礼を言い、夢人が手を振って別れた後だった。
「あの、すいません」
誰かが掛けてきた声に応じ、夢人がゆっくりと振り返る。
「おう何だ、俺になんか用……って、アンタか」
「おや。すぐ分かりましたね。結構頑張ったんですけど」
観光客――に扮し装いを改め、変装した拓哉が意外そうに言う。そんな拓哉に夢人は適当な様子で言葉を返す。
「勘でわかる。……で、何だ?情報共有か?」
「あぁ、はい。因みに何組くらいから情報を聞けました?」
「今し方別れたので二組。そっちは?…………はー旨ぇ」
かち、しゅぼっ。
聴き込みの間は吸わずにいた煙草を咥え、火をつけつつ夢人が尋ねる。
「同じですね。……一つ気になった事が」
「へぇ?言ってみな」
ぼんやりと紫煙を吸ってた夢人の目つきが、少し鋭さを増す。
「――流氷の話をいつ耳にしたかについて、聴きましたか?」
「あぁ、聞いたぜ。観光客連中が噂聞いたのは二日か三日くらい前って所だな、どうも」
煙草の燃殻を落としつつ、夢人が応える。聴取をした人達(いずれも若い女性グループ)によれば、流氷がこの海岸に来たと聞きつけたのは二、三日前程らしい。
「…………。そうですか、わかりました」
夢人の話を聴き、何かを拓哉は確信したらしく踵を返し歩き出す。
「……何かヒットしたか?」
その拓哉を、夢人もまた追う様にして歩きつつ聞く。
「二組、話を聞きました。この近辺に在住らしい方、後は観光客らしい壮年の男性。片方はやはり流氷の事を聞いたのは、二、三日前と言ってましたが……」
「……もう片方は違う、ってか?」
夢人の言葉に、拓哉が頷く。
「"一週間ほど前に聞いた"と」
「……へぇ。なるほど、そりゃあグレー臭ぇ」
寒空の海岸線、白んだ息混じりに煙草の煙を吹きながら、夢人が言う。
聴取した四組のうち三組が同じような日付を述べた中、唯一それより先に聞いたと言うその人物。つまる所、他の面々より先に情報を知っていた、とも取れる。少なくとももっと詳しく話を聞いて見ない手はないだろう。
「どっちだ?」
簡潔な問い。
"二組のうち怪しいのは何方か"と、"何方へ向かったか"を兼ねた言葉。
「壮年男性の方。ボートを借りに行くと言ってましたよ」
ざく、ざく。
ざ、ざっ、ざっ――!
目標への追い脚を早めつつ、拓哉が応ずる。
「成る程」
「えぇ」
夢人が黒手袋をくいと嵌め直し、拓哉がロープの射出装置の照準を合わせる。
「「アレだな/アレです」」
ギュルンっっ!!
偶然二人の言葉は重なり、そして目標を同時に補足して捕縛した。
「……っ、なんっ!?だ、コレは……!?」
ある建屋――"貸しボート屋"に入る前に拿捕された男が、絡みつく黒糸とロープとに取り押さえられる。
それに、ざくりざくりと足音を立て近づく二つの影。
「おう旦那、ちょっとお話聴いていいかい?」
「特段害意はないのでご安心を」
「っ!?ひ――ッ」
蜘蛛の糸に囚われたような男が、二人に見下ろされ悲鳴を上げかける。
「「――知ってる事、喋って貰おうか」」
黒と灰の猟兵達が重ね放った言葉の前に、哀れな獲物がなす術など、あろう筈もなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●SIGHT:MAN WHO CAPTURED
――あの日、確かに私達はみたんだ。
北の果ての、氷に阻まれた地で。
海は。
ああ、海は。氷の海の下には。
その闇の中には。
確かに、違う世界があったんだ。
"ヒガン"があったんだ。
――あんた達にはわからないだろう。
わかるはずもない。
それの恐ろしさも。
その悍ましさにどうしようもなく惹かれてしまった、私達の気持ちも――!!
雨宮・いつき
海の上に浮かぶ氷の山…実に雄大ですね
これが災いの予兆でなければ、僕も鑑賞をしていたところです
さて、海岸へ集っている人々を護るためにも、まずは調査ですね
稲荷符を八咫烏達へと変じさせ、周囲の【情報収集】をして頂きます
未だ儀式の途中…という事は、儀式を執り行っている人物が居るはずです
明らかに遠巻きから流氷を眺める者、鑑賞しながらも何か別の道具の操作をずっと行う者…
周りを飛ぶ海鳥達にも話を聞きつつ(【動物と話す】)、上空から怪しげな動きをする者を探します
目星をつけたらその人物の近くまで移動し、八咫烏から変じた彼岸花の花弁を浴びせます
魅了して何をしようとしているのか聞き出しましょう
●
漣が立ち、波打ち際に静かに音を立てる。
時折、遠くから氷達が犇きあい、軋むような音を上げている。
そうして、淡い翡翠の海岸線は、荘厳に在った。
「実に雄大ですね……」
潮風に髪と耳とを靡かせつつ、雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)がそう呟く。これが災いの予兆でなければ、時間を掛けて海岸線を眺めていただろう。が、そう言うわけにもいかない。ここには人を救う為に訪れたのであり、あれは揺るぎ様もなく不穏を齎すものがいる証左なのだから。
使命感を胸に秘めて、いつきが懐から稲荷符を取り出して空に飛ばす。風に舞うそれはやがて形を変え、八咫烏の式神となって海岸一帯を鴎のように飛び交ってゆく。
「さぁ、怪しい人を探るとしましょう」
紙の烏達はいつきに五感を伝う第二の耳目だ。空の視座から流氷集う海岸線を俯瞰して、更には海鳥達からも声を聴いて、遍く情報を束ね上げる。
幸いにして、既に怪しい人物を捕縛した猟兵から、目星となる情報は収集してある。
"不審人物は30~50代の男性と断定"、"流氷へと向かおうとする模様"と。これだけ解っていれば、空の目を持ついつきが怪しい対象を追跡するのも容易い。そして、やはりと言うべきか。
「――見つけました」
当然のように、流氷へと向かわんとする怪しい人影を、八咫烏が捉えたのだった。
●SIGHT:MAN WHO HEAD TO THE ICEBERG
此処にきた連中のうち一人はもう捕まったらしい。さっき"副長"から連絡があった。ボートを借りるという手は打てない。自分達の預かり知らない何者かが、自分達の使命を阻止しようとしてるのだと。
一番安易に"辿り着く"手段は絶たれた。
で、あるなら仕方ない。
流氷が漂着し、波打ち際に氷片が引いては寄せる岸辺を眺める。それほど遠くない所に、薄い氷の足場がぷかぷかと浮かんでいた。
あそこに辿り着きさえすれば、流氷を渡って歩いていける。
「――、――ッ」
息を呑み、目を瞑った後に覚悟を決め、冷たい海水の中に脚を踏み入れに――――、
「いけませんよ」
「……ぇ、あ?」
声に、つい足を止めた。
何処か蠱惑的な、少女と言うには少し低く、少年と言うには少し高い声。それについ耳を寄せてしまい。
続いて振り向いてしまえば、極彩の彼岸の花弁が、真冬の潮風の中を舞っていて自分の目を離してくれない。
「ぁ、あ」
口は上手く回らない。酸欠の魚のようにぱくぱくと動いては、今の自分に欠落してしまった何かを求め、莫迦になったように開いては閉じる。
「真冬の海は冷たいでしょう?それより、さ、此方へ」
薄い、けれど嫋やかな唇と。穏やかに弧を描く蒼い眼が、心臓を鷲掴みにするようだった。
「少し、お話をしませんか」
呼吸も最早定かではない。
"木行・抱心艶狐"。
海へ殉じるかのように足を進める筈だった男は、今はもう、彼岸の花吹雪と妖狐の少年の言葉とに、捉えられてしまった。
●SIGHT:FOXY BOY
「……海は、宇宙に似てるんだ」
「宇宙、ですか」
蕩け、正気を半ば失ったかのような目の男に膝を貸し、その顔を見下ろしながらいつきは返す。
「……そう。……もしかすると、宇宙よりも、もっと遠い。……海を知ったつもりでいた」
「…………」
蕩けた瞳には、うっすらと涙すら浮かぶ。正気を逸脱した男の語り口は、何処か曖昧で夢を見るに似ている。
「…………ばかだったんだ。何一つ、知ってはなかった」
或いは、懺悔のようでもあったろう。
哀れにも見える男の髪を緩く撫で、穏やかに、眠る赤子の声かけのように、いつきは聞く。
「……あなたは、いえ、あなたたちはその海で何を見たんですか?」
「…………」
暫くの沈黙。
空を泳ぐ男の瞳が、ひらり舞う彼岸花の花弁を追い。
「…………あぁ、……あれだ」
「……?……アレ?」
いつきの瞳も紅い花弁を追った。青い瞳に、一筋の赤が写る。
「…………そう。……"ヒガン"」
「ヒガン?」
放心したように呟いた男の言葉を、いつきが追い掛ける。視線の先には、自分が散らした"彼岸"の花。
「そうだ……。……私達は……この世にあらざるものを見た。……此岸に、ないセカイを見たんだ…………」
「……そう、ですか」
小さくそう呟いてから、いつきは優しく囁く。
「……話して疲れたでしょう?もう、おやすみなさい」
「…………あぁ。……ぁの日…………、…………………―――――」
夢心地に、微睡むように。いつきの囁きに促され、男の言葉は沈みゆく。
こくりと意識を手放した男を見てから、妖狐の少年は男の頭を砂浜に下ろし呟いた。
「……情報は得ました。後はこの人の引き渡しと、連携を――」
速やかに式神の烏達を飛ばし、いつきは他の猟兵らに得た情報を伝達する。
幻の夢に誘われるように眠り落ちる前。
男が意識を手放す前に、確かに男が言い、いつきが耳にした事も含めて。
――――あの日、海の中に、"彼岸"を見たんだ。
そう、男は最後に言った。
"此岸"と"彼岸"。
此方と彼方。
此の世と彼の世。
うつしよとかくりよ。
生者の世界と、死者のーー或いは、生から外れたモノの世界。
男の言う"彼岸"が、そう言ったものならば。
「この海には、一体何が……?」
流氷に覆われた翡岸。それが先に見た時よりも、その美しい氷の下に、悍しいものを秘めてるようにも見えるようだった。
妖狐の少年が身震いしたのは、果たして海風の冷たさによるものだったかーーそれとも。
大成功
🔵🔵🔵
フェルト・フィルファーデン
正直、寒いのは苦手なのだけれど……ええ、今はともかくどういう形で被害が出るかわからないわ。手早く済ませましょう。
海の中にいるのは確実。隠れているということは気が熟すまでは目立ちたくないという事。ならば追い詰め、炙り出すわ。
UCで人形兵士達を呼び出し五体1組で海の中を捜索よ。海岸線には人が多いからそこからは引き離して、でもそのまま外海に逃げられないように。徐々に捜索範囲を狭めていくわ。せめて、一体何が海中にあるのかだけでもわかるといいのだけれど……
その間わたしは海岸線で万が一の自体に備えましょう。いざとなったら騎士人形を呼び【盾受け】で人々を護るわ。
……何事もなく、無事に済めば良いのだけれどね。
夕凪・悠那
おー(写真をぱしゃり)
そりゃお祭り騒ぎにもなるよね
裏を知らなきゃ普通に綺麗なだけだし
……人を集めるのが目的なのか、それともただの副産物か
生贄を求めるタイプなら前者だけど話に聞くジャガーノートなら微妙だよなぁ
――ともあれ、だ
ボクは異常の中心地を調べてみよう
【エレクトロレギオン】を[(武器)改造]して水中に適応
更に防御プログラム([オーラ防御])を纏わせて防御力を強化
流氷漂う海に潜行させて、海中の様子を調査([情報収集])
空間ウィンドウで進歩をリアルタイムで確認
アドリブや絡み歓迎
ヌル・リリファ
アドリブ連携など歓迎です
わたしは。おはなしききだすのが得意ってほどでもないし……。
人形だから出来ること、あるとおもうから。
直接、みにいく。
うみのしたになにかいる可能性がたかいなら、うみにもぐってさがしてみる。
わたしはもともと身体がひえてもそこまで問題にはならないし……。このくらいなら魔力でおおえば、こおったりもしないよ。(【氷結耐性】)
流氷のしたにもぐったら、おyぴで【視力】であやしいいきものをさがす。
どんなすがたをしてるかくらいならわかるとおもうしね。
そっからは臨機応変としかいえないけど。
もしもやばそうだったら飛翔していったんひくよ。
●
「おー」
ぱしゃり。雄大な景色を写真で一枚。薄い翡翠の氷群と深青の海原のコントラストは、確かに人々が浮かれるのも分かるほどには綺麗だった。
せっかくなのでもう数枚、スマホのカメラモードでぱしゃぱしゃと撮影する。ついでに流氷をバックに自撮りもしておく。ぴーす。
「……ま、こんだけ綺麗ならお祭り騒ぎにもなるよね」
何も知らぬ人々からすれば、ただ美しいだけの景色なのだから。
そう思いつつ、スマホをポケットに収めた黒髪の少女、夕凪・悠那(電脳魔・f08384)が、今一度流氷の群れを見ながらぼやく。
「しかし、人を集めるのは何なのかね?」
人の収集が目的か、はたまたそれは唯の副産物なのだろうか。
生贄を求める手合の邪神だとするなら人を集めるのも頷ける。しかし、話にも聞き、一度対峙した事もある"ジャガーノート"シリーズがそうとは悠那には思えなかった。生贄を求める邪神らしさよりも、アレはもっと純粋に"子供じみていた"ように思う。
「……ともあれ、まずは探索だなぁ。よし」
ぐ、と背筋を伸ばし解して、海の方を一度見据える。
「じゃ、そろそろやろっか。準備は良い?」
空間に電子ウィンドウを展開し、タッチパネルめいて操作をしながら悠那が言った。
「えぇ、海岸線にも人形を配備できたし、いつでも大丈夫よ」
「わたしも、いつでもいい。ふたりに合わせるよ」
悠那の言葉に応じる声は二つ。
まずは人形遣いにして電脳魔術師でもあるフェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)。寒風吹く浜辺を小さな羽で飛びつつも、二頭身の妖精兵士人形達を五人組で編成。それを60組超呼び寄せ一部の隙もなく整列させている。
もう一人はヌル・リリファ(未完成の魔導人形・f05378)。フェルトとも、フェルトと同じように電脳空間から小型の潜水用機械兵器を呼び寄せた悠那とも違い、特別何をするでもなく立っている。
「しかし良いのかいヌルさん。生身は流石に寒くない?」
「平気。このくらいなら魔力でおおえば、こおったりもしない」
それを示すかのように、ヌルが己の魔力を展開する。不可視のそれは肉眼には見えずとも、確かにそのあまりある魔力で空気をひりつかせ、そしてヌル自身を空中へと持ち上げる。
「そう?ま、そうならいいけど」
「まぁ、凄いのねヌル様!私なんて……へくちっ」
小さくくしゃみをしたのち、お淑やかにすん、と鼻を鳴らすフェルト。
「……ご覧のように寒いのはあまり得意じゃなくて……。と、とにかく手早く済ませしょっ!」
恥ずかしそうに小さな両手で赤らんだ顔を隠しながら、フェルトが言う。
「はは、そうだね。何にしても速やかにやる方がいい」
可愛らしさに笑いつつ、悠那も続ける。
「じゃ、異常の中心地を調べようか」
クールな電脳魔術師の言葉を皮切りにして、三人の作戦が開始される。
●SIGHT:???
海の中で、■■は待っていた。
まだ■■には、力が完全には備わっていなかったから。
もう少し、もう少しでいい。
■■に誘き寄せられ、集まってくるのがわかる。
それさえ来ればいいのに。
だが、邪魔な奴がいる。
――――ああ、また!また海に!この"氷の下"に!"彼岸の世界"にやってきた!
●SIGHT:JAEGER
ごぽり。
海中を、泡を吐きつつ小さな姿達が進んでいく。
姿のうち一つはフェルトの操る兵士人形達。妖精姫の為に命を賭し敵を葬り去る忠実な騎士たちが、命を受け海中を探る。
そしてもう一つは悠那の操るエレクトロレギオン達。スクリューを取り付けられ意のままに海中を進むそれは、フェルトの騎士達と結託し隙なく海中を虱潰しに調べ上げていく。
「ん、順調。そっちはどう、フェルトさん?」
「此方も順調よ、悠那様。このまま岸側に包囲網を縮めて行きましょう」
「オッケー、了解」
悠那は空間ウィンドウでレギオン達のカメラアイ越しに怪しい何かがないかをつぶさに見ながら。フェルトは騎士達の視界越しに、海の様子を認識しながら。外海から浜辺に向かって行くように、二人は捜索範囲をじりじりと狭めていく。こうして地引網めいて捜査をしていれば、何処かで敵を掴める筈。そういった思惑だ。ゆっくり、しかし確実に、輪を絞るように。機械と人形のレギオンが、流氷の下に潜む何か、その正体を掴む為に進んでく。
「……視覚上、異常は今のところなし。人形達はどう?」
「……こっちも見る限りは――あ、ちょっと待って」
「ん、何?」
何かを気づいたようなフェルトの言葉に、悠那が傾注する。
「目では判らないけど――確かに何かいる。動いてる!」
忠実な人形達のうち一つが、その身で海水の"揺らぎ"を感知し、フェルトにそれを伝達してきた。
「成る程、座標お願い」
「送るわ!」
ピピッ。電脳魔術師同士、スムーズな連携が行われる。受信した座標を元、悠那の繰るレギオンも何体かが集合して、動く何かの正体を突き止めんと辺りを隈なく探る。
「……目視では見つかりづらいタイプかな?」
「かもしれないわ、確かにいはするのだけど……」
氷の下の海は光も刺さず、深い闇めいている。水の揺らぎから何かがいることはわかるのに、それが何かは水の中に広がる暗がりが包み隠してしまっているようだった。
「……いや、」
待てよ?と悠那が何かに気付く。
「――何か分かったの?」
ハッとした悠那にフェルトも声を掛ける。
「ああ、もしかすると。追い込みを掛けよう。――ヌルさん」
通信機のスイッチをオンにし、待機してたヌルに繋ぐ。
海の下に潜む何かに、王手を掛ける為。
●SIGHT:???
逃げる。
逃げる。
この■■の世界の中を。
まだ捕まる訳には行かない。
今はまだ、その時ではない。
もっと、この■■の世界が帳を広げる時まで。
■■がより強くなるまで。
だから、今は逃げよう。
問題はない。■■は易々とは見つからない。
この氷の下は、まさに理想の世界だ。
これがある限り、私達は――
――いや、待て。アレはなんだ?
此方に向かってくるアレの掲げるそれは。
ああ、やめろ。それは、それだけは――ッッ!!
●SIGHT:NULL
『レギオンたち、発見した。……座標は教えてもらった通りでいい?』
ザザッ。
「問題ない。派手にやっちゃってくれ、ヌルさん」
『ん、わかった』
ザザッ。
岸辺にいる悠那との通信を終え、ヌルは海の生き物よりも遥かに早く、滑らかに海中を進んでいく。
"極魔覚醒"、あるいは魔力の真髄と彼女が称する不可視のオーラは、爆発的な魔力の噴射とその推進力を以て、海中でさえ飛翔するかのように彼女を標的の元へと運ぶ。
そして手に湛えるは、彼女が最も得意とする魔法。
『―― かけゆく閃光は暗翳をけしさり、乱立するひかりはうせたのぞみをてらす』
詠唱の通り、闇を祓い照らす為の術式。
"死斬光雨"。
無数の光の束が、悠那が示した箇所を――氷の帳に覆われた闇の中を薙ぎ払い、海を閉ざし蓋する氷塊ごと砕き割いていった。
――バキィィィィイイインッッッ。
"――――ッッ!!!?!"
声なき声が、氷の海に轟く。
●SIGHT:YUNA & FELT
「……!これは……!」
「――ああ、敵の正体見たりってな」
空間ウィンドウ越し、レギオンの視野を通して、ヌルが光の雨で薙ぎ払ったそれが見える。
それは曖昧模糊として、黒い靄のように在るモノ。闇の中ではその姿を見せず、しかし光に照らされその姿をはっきりと浮彫にされたもの。
光の雨が身体を貫いても、なお"闇"をその身に湛えるもの。即ち、
「"影"ね……!」
「そう、ご名答」
海を漂う流氷の群れ。日の光を通さないほどの厚みある氷の蓋は、海面の下に影を、光刺さぬ世界を作っていた。
敵はそれに潜むもの。"影"を繰るもの。或いは"影そのもの"と言えるだろうか。
しかし、一つ引っかかる点がある。
影を繰るUDCが潜んでいたのは探り当てた。だが。
(――ジャガーノートは何処だ……?)
肝心の予知にあったUDCの方は、未だに姿を捉えられてない。
――そんな悠那の思索を他所に、未だ邪なるモノとしての完全体には満たぬ"影"は、氷の殻を破り、海の上へと弾き出され、海の上へと曝け出された。
光と相容れぬものが日の下に晒され、声にならぬ苦悶を上げ、呻くように踠き身じろぐ。そしてそれは、その苦しみから最後の足掻きをしようと。
己の"影"を、ある男へと伸ばして――――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●SIGHT:"SUB-LEADER"
極北の氷の地。其処に住むモノと、其処にあるモノを調べるのが、調査隊の副長に任じられた私に、そして"私達"に課せられた務めだった。
幾人もの、厳しい訓練を耐え凌ぎ鍛えられた調査員達。氷の海をものともせぬ船。それをネジ一本に至るまで知る船員達。
頼れる仲間たちとともに、職務を全うする熱意と、それ以上の凍てる海への好奇心を、私達は誰一人例外なく持ち合わせていた。
そこに赴き、凍てる大地を、海を解き明かす私達は、やがてはこの海の全てを詳らかにするだろうと思っていた。驕っていた。
だがそれは、間違いだった。
あの日、確かに私達は目にし、耳にし、味わい、体験した。
氷に包まれ、閉ざされたあの地で。あの海で。あの氷の岸部で。
海の底から現れたそれは、まるで海の上に影が溢れるかのようだった。
それが私達を、私達の乗っていた船を、無造作に半分呑みこんだ。
たったひと噛み。それが緩慢に、欠伸でもするかのように上顎と下顎とを開き、閉じただけで。或いは、赤子が戯れに玩具を握りしめるようにしただけで。あっけなく、私達の乗っていた船は穴を開け、半分に折れ、海に沈んでいく。
海の中には、私達の知らない対岸がある。
うつしよの此岸とは違う、かくりよの"彼岸"が。
それを、私達は見たんだ。
私達は。
食まれ、闇に吸い込まれていく調査員達を、千切れる船員の肉片を、、潰れ行く船の鉄片を。
、、、、、、、、、
千切れ混ざる、私達を、あの日見た。
恐ろしかった。逃げ出したかった。死んでしまいたかった。
けど、ああ。それ以上に。
、、、、、
愉快だった。どうしようもないほどに。
混ざっていく。食われ行き闇に沈む人々の、腹から臓腑ごとひり出したような狂嗤と。残された私達の、絶望に満ちた狂笑とが。それだけではない、感情も、痛みも、彼我すらも、きっと。まぜこぜに、あべこべになっていた。
気が狂ってしまったんだ。
そうでなければ説明が付かない。
だって、ああ、だって。
こうして助かって、十年が経って尚。いや、或いは十年が経った今だからこそ。
私達は、もう一度あの"彼岸"を見たいと、こんなにも願ってしまって――――
「――止まれ」
厳かな声が、私の回想を止める。
イリーツァ・ウーツェ
召喚者を探す
UCを使い、緊張や憎しみなどの匂いを辿る
その中で、流氷だけを見る人間が居れば
邪魔するように話しかける
UDCを呼ぼうとしているかを尋ね、
匂いによって嘘か否かを判別する
犬とて人間の感情を嗅ぎ取れる
竜の鼻は、より能く利くぞ
召喚者であれば、軽く突いて気絶させる
殺して良いなら、殺してしまおう
●SIGHT:"DRAGON"
「――止まれ」
びくり、と間の前の男は震えた。
密やかに貸しボートを海へと出し、流氷の影に隠れ、海を掻き分け、這い這いの体で翡翠の氷地へ降り立った壮年の男――"食事処の店主"の肩書を持つ男は、ぎこちなく振り向く。
静止は彼を睥睨する大男、イリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)に因る。
射抜くような、されど温度のない瞳は、或いは赫い宝玉のようだ。超然とした視線は心の裡を見透かすようで、それは店主にとって恐ろしいものとして映った事だろう。
しかし彼も此処で挫ける訳にはいかなかった。
畏れを心の内へと隠し惚けて言う。
まだ、まだ誤魔化せる。偶々興味を惹かれ流氷の上に来たのだと偽れば良いと、そう信じて。
「……はは、やァ、奇遇だなアンタ。観光しに来たクチかい?気持ちァ良くわか」
「端的に聴く」
が、竜はその言葉を己が言葉を以て遮る。
「る……って、え、いや」
店主の焦りと困惑を余所に、イリーツァは目の前の壮年の男を見据えたまま、続く言葉を厳かに吐いた。
「邪なるものを、呼ぼうとしているか」
――氷の上の筈が、灼熱の溶岩の前にいるかの様だ。そのように錯覚する。脂汗が滝のように、壮年の男の背を伝う。
「……ヨコシマって、なんだいそりゃ。一体なんのことを」
「――もう良い」
その一言で充分だ、と。竜のような男は示し、一歩踏み出す。
"聞香"と、そうイリーツァは呼ぶ。
竜の鼻は物を嗅ぎ分けるのみに非ず、人が心の裡に秘めるものまでをも嗅ぎ分け暴き立てる。確かに其の鼻が、男の持つ嘘の香を捉えた。
そも、これは最後の確認。他の猟兵らの努力もあり、目の前の男がUDC完全顕現を企む、その最後の一人だとは九割五分予測がついていた。最後に問うたのは、残りの五分を埋める為。そして、
「――大人しくしていれば、殺しはしない」
無為に人を傷付けぬ為の、降伏勧告を告げる為。
「……ッ、糞ォォ!!!」
一方、竜と対峙した男には決死の相が浮かんでいた。
もう、形振りは構っていられない。そう断じた壮年の男――かつて極北の地を調査する団体、その副長をも務めた男は、年齢を感じさせない機敏な動きでイリーツァに肉薄する。
手には眩いものが握られている。食事処の厨房から持ち出した、手入れの行き届いた包丁だった。人の身に突き立てたなら、牛や豚の肉と同じように難なくそれを裂いた事だろう。
だが。
――ガ、キィンッッ。
「――――は、ァ?」
握っていた筈の刃は真ん中から半分に折れて、もう半分が氷の地に音を立て落ちる。その事実に、唯々男は呆けてしまった。
イリーツァがしたのは、ただ無造作に腕を前に突き出した、それだけ。
皮膚に刃が触れたと同時、平伏すようにその刃は折れた。
「あ、」
竜の肌に、斯様な矮小な刃が通る由もない。そして、
「――――」
害される事、或いはその意を見せられれば、竜は人殺しの禁を解く。
言葉を発する事も無く、やはり無造作に、竜の腕が振られた。
――めき、ばき、ぱきり。
「あ゜ギッ」
珍妙な声を上げ、薄氷が割れるような音と共に男の腰骨が砕け肉が裂け、常軌を逸した膂力による一撃を受け吹き飛んでく。
邪なるものを呼び寄せんとしていたモノは肉屑とほぼ等しくなった。僅かにだけ残ったその命も、あと五秒を待たずに絶えるだろう。
此れで、終わり。
その筈が、運命は思わぬ悪戯をする。
――バキィィィィイイインッッッ。
"――――ッッ!!!?!"
「――む」
声なき声。姿なき姿。
曖昧模糊な"影"が光の雨に海中から穿たれ、流氷の殻を破るようにして海の上に打ち上げられる。奇しくもそれは、イリーツァのいた流氷の直ぐ側だった。
光を浴び、光に突き刺されつつも、宙に跳ね上げられた"影"が暴れ、最後の力を振り絞り。
――同じく宙を舞った瀕死の男の体を、"影"で包み込んで。
「―――――――。――――ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
そうして"彼岸の怪物"が、この氷の海に産まれ堕ちた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『群狼型潜影艦』
|
POW : イェーガーウォッチング
予め【影の中から潜望鏡を上げて索敵行動を行う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : シャドウ・ゼーフント
【影の中を移動・潜航しつつ、同様の機能を持】【つ、小型潜影艇をレベル×5体を放出する。】【小型潜影艇はホーミング魚雷(小型)】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 影面下に潜む恐怖の魚影
【影の中を移動・潜航しつつ、艦首】を向けた対象に、【発射した、高威力高命中のホーミング魚雷】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:柴一子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●SIGHT:MEN WHO BECAME THE "MONSTER"
海の中だった。
厚い氷が蓋の様に、海の上と下とを分かつ。
その、分けられたうちの下の方で、ひそやかに、誰にも気付かれることが無い様に、"私達"は潜伏していた。
――――"邪魔者達"が来るまでは。
ああ、でも。もう、いい。辛抱の限界だ。
"私達"のカラダを隔てていた氷を砕き、水飛沫を上げ海を割って浮上する。海から現れる異形。それを見たものが恐れ慄くように、声を出す。
ああ。その声を。"私達"は――――聞くのを待ち侘びていたんだ!!
恐怖に歪んだその声を聞きたかった。
あの日聴いた狂嗤と狂笑とを奏でたかった!
"此岸"のものの脆さと儚さを、また混ざり合って、分かち合いたかった!!
"私達"はこの時を待ち侘びていた!
この身体が不完全であれ、もう構いはしない。
後は、赤く、赤く塗り潰そう。その脆く儚き命を以て!薄緋の肉屑と朱の血とで――――!!!
●"彼岸"の怪物
「――――。――――ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
意味なき声を上げ呻くそれは、潜水艦が獣になったかの様な姿をしていた。
古めかしい朽ちた海底探索艇に、邪なるモノを宿した、怪物ともいうべき貌。
その闇の如き"影"の裡に、それが今まで喰らったモノ達の魂が染み憑いて、鈍く吼えるように声をあげた。
「ァ゛ア゛ア゛ァ゛――――」
唸り声。のち、それがとぷりと海の中――流氷の下に潜水する。光を避け、影に潜んで。そして。
――ざ、ぱぁぁぁぁぁん――ッッ!!
ざわりと海が膨れて、飛沫を上げた。影の塊が氷を持ちあげ海を割り、蜘蛛の巣めいて日々が入った氷の下を、歪な黒い靄が毒蛇の如く伸びていく。
それは明らかに飢えていた。人の悲鳴に、柔肉に、血潮に、贄に。
自らを生贄の道具とし呼び寄せた男の肉を取り込んだとて、到底まだ足りない。
もっと、もっと混じり合いたい。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――!!!」
その獣欲に従うように、不完全な影の獣が浜に群れる人々へと這いずり寄っていく――!
美しく麗しかった淡い翡翠色の下に、こんなものが潜んでると思ってなかった人々は恐れ慄き、悲鳴を上げ、叫び、逃げ惑う。が、人が逃げるよりも影は疾く忍び寄る――!!
彼らに手を差し伸べ、邪悪から救えるのは君達しかいない。
彼岸の怪物を破れ、猟兵達よ!
――――――――
◆INFORMATION◆
▼ENEMY:『群狼型潜影艦/"彼岸"の怪物』
かつての大戦で沈んだ潜水艦が邪神の力を得た存在。
中でもこの個体は贄と認めたモノを食み、混ざり合う事で自己強化をする。猟兵らに儀式=贄の捕食を邪魔された為に、今は不完全な顕現状態。自身の力を強める為にも更なる贄を貪ろうと無辜の民を狙う。
▼PLAYING OPTION :"RESQUE LEVEL"
プレイングに以下のレスキューレベル(=PC各位が何処までNPC達を助けたいと思ってるか)を以下の数字で記載して頂ければ、数字を加味した上でリプレイを作成します。
【RESQUE LEVEL】:
『1』自分が傷つこうと人を守る事を優先
『2』人を守る事を優先し攻撃は控えめ
『3』攻撃を優先し人の護衛は消極的
『4』人が死のうが敵を殺す事を優先
◆受付開始:2020/01/15 AM8:31~◆
▼GOOD LUCK, JAEGERS!
ミコトメモリ・メイクメモリア
RL:1
殺させるものか、誰一人。
安全な場所に出口……UDCの施設がいいかな。
事前に、ポータルとなる『記憶の欠片』を設置しておく。
あとは海に飛び込んで、入り口となる『記憶の欠片』を片っ端から人にあてがって、転送していく。
投げてても、ばら撒いてでも、触れさえすれば安全な場所まで逃がすことができる。
……欠片の増産に自分の記憶を消費するのが難点だけどね。
……ああ、邪魔をするなよ。
無辜の民を助けるのは、場所も世界も国も違えど、等しく王族という立場に課せられた使命なのだから!
●
影の動きは拙速極まりない。流氷の下から黒い触手の如く伸び、押し寄せる波と共に湿った浜辺へと乗り上げ、蛇が這うように砂浜を駆け、うねり、そしてーー、
「あ、ぁぁあぁあ――!!」
幾人かの、哀れにも蛇に睨まれた蛙のようになり動けずにいた人々を、影の触手で絡みとってはずるりと海の中へ引き摺り込んでいく。
「ぁあ、嫌だあぁあ!!助け――」
ごぼり。
悲鳴は最後まで続かず途切れた。
海に呑まれてしまえばそれは唯、泡となり冬の海へと混ざり無為となるのみ。無力な贄はもう言葉を吐くことも叶わず、他の"混ざった"人々と同じように影の影の怪物に喰われ、ひとつになるのを待つだけ。
(誰か――)
それでも手は、希望を探るように伸び。
そしてその希望を探る手を、小さな手が優しく握った。
(――――ぁ)
手の持ち主が優しげに此方を見るのが、ぼやけた視界に映る。
"――大丈夫"
泡を細く吐く唇は、そんな事を言ったように捕われた人からは見えた。
そう思ったのも束の間の事。
――シュンッッ。ドサッ。
「――っ!?げ、げほ゛っ……はあ、こ、ここは……!?」
「ポータル起動!!転送人数3名!」
「――どうか落ち着いて。大変な目に合いましたね、無事ですか?異常がないか確認しますから目を此方に向けて」
先程まで流氷の漂着した海に居たはずが、いつの間にか見覚えのない建物の中にいる。急な場面展開に目を白黒させつつ、何が起きたのか理解も及ばないままに言われたままにする。
「は、はい?……落ち着けって……えっとこれ」
チカッ。
「……は……あれ……zz」
「記憶処置と催眠完了、後は救護班へ!」
「了解、次が来るぞ!」
眠りに落ちた被害者がどたばたと搬送される中、次の被害者達が転送される。――海で人々を救う為に励む、とある姫の手によって。
●ある姫の場合
迷いはなかった。
人々が黒い触手に捕まり海に引き摺りこまれたと同時、ミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)は小柄な身体を懸命に動かし、真冬の海へと飛び込んだ。水が刺すように冷たく、息は苦しい。だがそれが何だと言うのか。
(――絶対に、殺させるものか、誰一人!)
無辜の民を守り救うのは、王族という立場に課された使命。それはどの世界で、どの国であれ変わらない。彼女の世界はもうないが――或いは彼女が、なくなってしまった彼女の世界の為に、何もできなかったからこそより強くそう思う。それが姫の小さな、けれど尊い最後の矜恃。
飛び込んだ海の中、どうにか追い縋れた一人へと手を伸ばす。救いを求めるその手を小さな手で握り、優しく微笑んで。泡と共に言葉を吐く。
"――大丈夫"
声は聞こえずとも伝わればいい。それで人が絶望から救えるのなら、自分の味わう苦しさなど。その思いを胸に秘めつつ、"記憶の欠片"を作動させ――瞬間、影に捕われた人が消える。
メモリアピース・エクスポータル
"境界を渡る記憶の欠片"はミコトメモリ自身の記憶を元に作った"記憶の欠片"を媒体とし、欠片に触れたものを別の欠片のもとへとワープをさせる。予知内容を聴き事前に設けていた"UDC組織"にある欠片のもとへと、被害者をワープさせたのだ。
手の届かない所にいる犠牲者も、《御言命守》から取り出した銃で記憶の欠片を弾丸とし射出、当たると同時にワープさせる。
(一先ずはこれで――!)
海の中に引き摺り込まれた人々は救えた。その事に安堵を覚える。"記憶の欠片"を増産した事で、自分の記憶がさらさらと消失していくのを何処かで感じつつも。――だが安堵も束の間。
「――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――!」
獲物を逃した事に怒るように、今度は姫の元へと影の触手が伸び、その細い脚を捉える。
(――っ!)
海の底へと常軌を逸した力で引き寄せられ――る前に、自分自身に"記憶の欠片"を当てがう。
――シュンッッ。
「……ぷはっ、……はぁ……っ!」
肩で息をしつつ、浜辺の上に設けた"記憶の欠片"にワープする事で捕まるのを回避。
「――!!ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛――!!」
まんまと逃れられた事を理解した"彼岸の怪物"が、怒るような声を上げる。
「……ああ、邪魔をするなよ」
それを、海の水に濡れ、肩で息をし、凍えそうな白い息を吐いてなお。
一国の姫は怪物を怯むことなく見据える。その間にも記憶の欠片を飛ばし、恐怖で動けぬ人々を安全な場所へと送りつつ。贄をみすみす逃した影が怒りの咆哮をあげようと、その目は一点の恐れも、曇りも一つとてない。
「ボクの前で無辜の民たちを傷つけられると思わない事だね――!」
例え我が身を危機に晒そうとも。
例え悪意に捉えられかけようとも。
例え己の記憶を削ろうとも。姫の矜恃は揺るがない。
成功
🔵🔵🔴
夕凪・悠那
2
ああくそ、読み違えた……!
ジャガーノートとは別種の邪神らしい邪神がもう1体いたんだ
周囲に展開した電脳空間からの【崩則感染】で艦首魚雷に対処
攻撃は捨て守勢に専念
――だって、もう手は打ってある
『仮想具現化』で召喚したモブキャラ
一般人に紛れて逃げ惑う、徹底して贄に近づけたそれ
それでいて、他者を庇ったり転んだり――本物より食べやすい様な動きをプログラムした疑似餌
いいよ、食べても
"崩則"ウイルスを内包した木馬だ([罠使い+カウンター+破壊工作])
取り込めば魚雷か子機か、それとも潜影能力が壊(いか)れるかな?
なんにしても――
安地から一方的に攻撃するなよ
出てこい
これがボクの攻撃
後は任せた
アドリブ、連携歓迎
富波・壱子
海岸線を一望できる高台で待機しておいて、出現したオブリビオンの姿を確認したら行動を開始するよ
来た!思ったよりも数が多いけど、頼んだよ!
チョーカーに指で触れて、人格を日常用から戦闘用へと切り替えます
了解しました。これより対象の殲滅を、いいえ、一般人の救助を開始します
グリモア猟兵の一般人も守ってあげてという言葉を思い出し、レスキューレベルを4から1に変更します
刀と拳銃を抜き、ユーベルコード【あなたの姿が見えている】を発動。瞬間移動で現場へと急行し、予知した未来で逃げ遅れていた人から順に救助していきます
こちらは猟兵です。現在この場はオブリビオンの襲撃を受けており危険な状況です。速やかに避難して下さい
●あるゲーマー少女の場合
「ああくそ、読み違えた……!そういう事か!」
"ジャガーノート"を見つけ出すつもりで海を探り、その代わりに出現したUDC――"彼岸の怪物"を見据えつつ、夕凪・悠那(電脳魔・f08384)が声を上げる。
はじめに感じていた違和感。
何故贄を求めそうにないジャガーノートが、人の集う場所に出現する予知が出たのか。その答えを彼女は察する。
「別の邪神が元々潜んでたって訳か――!」
そう。ジャガーノートとは別に、"贄を集めようとした邪神がいた"。そしてそれはジャガーノートとは全く別の思惑で贄とすべき人を己が元に集め、己が身を完全な姿で顕現させんとし、尚且つ他の贄も貪り更に己を満たさんとしていた。
思い出せば、告げられた予知で唯一確かな情報と言われたのは"ジャガーノートの出現"のみ。召喚のプロセスも、それが故意か偶発かも、誰が召喚するのかも、殆どの情報が不明な状態。
そして"召喚されるUDCが一体だけ"という保証は、最初からどこにもなかった。
(て言うかマズいんじゃないか、これ……!?)
心の内で悠那が苦虫を噛み潰す。
確かに"彼岸の怪物"を召喚せんとしていたモノらは三名の内二名、過半数を捕え無力化する事が叶った。海の中にいた不完全体の"彼岸の怪物"を事前に察知し攻撃できた事、贄となった一人がほぼ瀕死だった事も幸いしてか、恐らくこのUDCは不完全で、そこまで強力ではない。
ほぼほぼ完全に"彼岸の怪物"を完封する形で、この海岸線の調査は実ったと言えるだろう。
が、逆に。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
ジャガーノートの事はほぼ掴めていないとも言える。
未だ何故それが召喚されるのかも、誰が召喚するかも、その召喚の儀がどういったプロセスを辿るかも不明。こ
そして本命とは別の邪神が現れてしまった今、それを調べる猶予は恐らくない。
――ざぱぁん!
「――――――ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ!」
「きゃぁあぁああぁああ!!」
「――!」
悍ましい唸り声と悲鳴とを聴き、悠那はハッとする。海の中から"彼岸の怪物"が現れる。大本の影がその身を分けた分身体ともいうべきそれが、海から這いずり、巨大な咢を岸部に晒した。否、海からだけではない。岩陰、建物の影、そして陸に顔を出した怪物のその影からすらも這い出るように、それらは上陸を開始し人々を捕食せんと現れる。
「――まずは目の前の敵だ!」
今はまだ見ぬ敵の事を考えるより目前の怪物をどうにかするべき。そう己に強いて言い聞かせ思考を切り替え、逃げる人と怪物との間に割って入る。
「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛――!!!」
小賢しいとばかりに、怪物達が悠那ごと贄とするべき人々に、海面から突き出た艦首を向ける。
――シュボォ!!
凡そ機械とも生物とも付かないその身体から飛び出すのは、黒い魚じみた魚雷群。当たれば爆発を巻き起こし、浜辺を阿鼻叫喚の地獄に塗りつぶす――筈だった。
ヴンッッ。
空間にバーチャルウィンドウが多重展開する。仮想の窓から溢れ出るのは、電脳魔特性のアンチウイルス。
コードブレイカー
"崩則感染"と彼女が呼ぶ、触れたものの構成情報を崩し尽くすプログラム。影の魚雷は電脳細菌に触れた端から、脆い消炭のようにぼろぼろと崩壊してゆく。
「今だ、速く逃げて!」
「え、あ、ありがとうございます!!」
「ア゛ア゛――!?――ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛――!!」
悠那の声に応じて、戸惑いつつも人々が逃げる。放った魚雷が無為となったのを理解した怪物は、ならばと触手めいて影を伸ばす。そう遠くない所、丁度いい贄がいる。
「キャァァァァー!」
「ウワァァァァー!」
狙われたのは足を縺れさせ、逃げ損ねた人ら数人。なんとも動きが鈍く捕まえやすい。
咢を割り、影を舌のように伸ばし――バクリッ。ごき、ごきんと咀嚼音を立て、怪物が憐れな贄を貪り尽くした。
「ァ゛ァ゛ァ゛――」
したり、と悦びの呻きをそれが上げる。
「――ア゛、ア゛ア゛?ア゛ガッ!?」
しかし、それも束の間の話。ぎしり。ぎぎギ、と影の怪物の身体が不穏に軋り、バチバチとスパークを飛ばす。
「――よくできてるだろ。結構凝って作ったんだ、それ」
人が捕らわれ食まれたとして、電脳魔を称する少女は涼しい顔だった。それもその筈、今補食されたのは彼女が用意したデコイ。
サイバー・リアライズ
"仮想具現化"と彼女が呼ぶ電脳魔術は、プログラムであれ道具であれ、或いは人型であれ仮想世界の物を現実世界へと再現する。
既に仕込みはしてあった。狙われやすいようにわざと逃げ遅れる行動ルーチンを仕込んだモブキャラクターたち。その中に紛れ込ませたのは、無論"崩則"のウイルス。
トロージャンホース
「 木 馬 の味は如何だった?おかわりが欲しけりゃこっちにおいでよ」
「ァ゛、ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛――ッッ!!」
影の怪物が身を震わせる。先のように魚雷を撃とうとするものの、ウイルスのバグに蝕まれ作動しない。
その怒りからか、はたまた悠那の挑発に乗ったのか、ずるりと海からそれが這い出して、蜘蛛めいた脚を蠢かせゲーマー少女の下へと肉薄する――!
手に届く範囲、救える人は救った。敵も罠に嵌め、誘き寄せる事が出来た。
ロール
自分の役割は終えたと信ずる少女は、脅威が迫るのを、何処か他人事のように見つめつつ。
「ボクに出来るのは此処まで。後は任せた」
ぽつり、そう零す。
「――了解しました」
「ァ゛―――――ァ゛ァ゛ァ゛ア゛……?」
ずるり。
訝しげな唸りを漏らす"彼岸の怪物"の身体が、斜めにずれ二つに分かれたのと。冬の海風に負けないほどに怜悧な声がしたのは、ほぼ同時だった。
●あるサイキッカー少女の場合
「わぁぁ出てきた……!なんか思ったよりおっかない感じのだ!」
高台から海岸線を見下ろしつつ、眼下にある光景を何処か慌てたようにとある少女が見ていた。流氷集う淡い翡翠色の岸辺には、恐ろしい影闇の怪物が暗がりから現れ人々を襲わんとしている。
「あれがジャガーノート?なんか結構不気味だね……!……あ、違うの?」
戦況を見つめつつ、長髪の少女―― 富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は誰も側にいない高台で、誰かに話しかけるように言う。
「……と、のんびりしてる場合じゃない!始めよう!」
そしてそう声を上げて、チョーカーに手を掛けた。
「頼んだよ――」
パチン。
トリガーピース、即ち人格切替の為のスイッチであるそれに触れることで、"明るく人懐こい"富波・壱子は彼女の心の裡へと引き下がっていく。その、退場した"日常"の壱子の代わりに。
「――了解しました」
暖かみのあった言葉すら冷ややかに変え、"冷徹な兵士"としての、"戦闘時"の富波・壱子が表舞台に現れる。
「戦場確認完了。目標を確認。今回の戦闘の目標を敵の殲滅――」
殲滅と設定。――そう言いかけたところで、短く目を瞑り、転送前の事を反芻する。あの眼鏡のグリモア猟兵は、"どうか人を守って"と言っていた筈。
「――――から、一般人の救助に変更。武具装着。サイキックの正常作動確認」
行動目標を改め、己のうちにその目標を刻みつつ、壱子は戦場の友たる銃と刀とを握りしめる。
「任務を開始します」
シュンッッ――
音もなく、冷徹な少女兵士は高台から消え。
「き、きゃぁぁあぁ!?」
「ァ゛ァア゛ア゛ァ゛ァ゛――!!」
――シュバッッ。
「討伐対象に接近」
ズドム。
「ア゛ギィッ――!?」
突如として、逃げ惑う人とそれを襲わんとする"彼岸の怪物"の前に壱子が現れ、銃弾で怪物を撃つ。射撃は怪物を正確に穿つ。銃撃一発程度では相手を怯ませはすれ、殺しきる事は出来ないかもしれないが――それでなんら問題はない。
「命中。救助対象に接触、退避します」
「ぇ、あ――」
シュンッッ――シュパッッ。
怪物が怯むうちに襲われていた人の手を取り、共に"テレポート"で安全地帯へ退避する。
「襲われる"あなたの姿が見えた"ので、拙速に救助しました」
冷静な言葉を以て、安全圏へと移動しつつ、抱えた救助した人へと壱子が言う。
彼女のユーベルコードは己と周囲の人への害意を敏感に感じ取り、未来予知で攻撃を察知した上でテレポートによる回避・反撃を行う。混迷を極めるこの海岸線で人を救うにはうってつけの能力だ。
「こちらは猟兵です。現在この場はオブリビオンの襲撃を受けており危険な状況です」
「ぇ、あ、りょ……はい……?」
壱子の言う猟兵という言葉にピンと来ないまま、降り注いだ災難に思考回路を麻痺させた一般人が曖昧に相槌する。
「――速やかな避難を勧めます」
「――!は、はいっ!あっあの、ありがとうございましたっ!」
が、避難という言葉に漸くハッとし、救助されたその人は慌てた様子で安全な方へと逃げていく。
「救助完了人数:1。――任務を続行します」
それに浮かれる事もなく、"兵士"の壱子は次の救助対象を救わんと跳ぶ。
「ア゛ガァッ――!?」
銃撃、救助。
「ア゛ア゛ア゛グェッ!?」
斬撃、救助。
「ア゛ィ゛ィ゛ッ!?!」
打撃、救助。
跳躍と奇襲と反撃をと救助とを。化物を時に穿ち、時に容赦なく斬り払い、時に純粋な腕力と脚力とで襲撃し、一瞬の間をついて人々を助け出し。幾度も幾度も繰り返していく。連続した未来予知とテレポートの使用で頭が痛みを発し出す。額を一雫の汗が伝う中――。
「――、予知確認。跳躍します」
その痛みを顔に出す事もなく、少女兵士が空間を跳躍する。
予知の中で、黒髪の少女が"彼岸の怪物"を前に戦っていた。スパークを飛ばしぎこちなく動く怪物が、怒りに突き動かされるように少女に迫り――その少女は、たしかに"後は任せた"と口にした。
「――了解しました」
怜悧な返答を口にして。
跳躍を終え、怪物と少女の頭上に壱子が出現する。
"カイナ"と名付けられた刀剣が鈍色の光を放ち――ずぱん。
「ァ゛―――――ァ゛ァ゛ァ゛ア゛……?」
"崩則"のウイルスに侵されていたそれは、両断するのも容易かった。袈裟懸けに斜めに斬られ、彼岸の怪物の身体がずるりとずれて分かたれる。
「……わぉ、ナイスタイミング」
それをヒュー、と口笛を吹いて。
「御礼っていう訳じゃないけどさ。お手伝いとかご入り用じゃないかな?」
にかりと笑いつつ申し出る悠那に対し。
「……どういたしまして。連携協力は助かるものと判断します」
壱子は細く息を吐いて整えた後で、申し出を受け入れたのだった。
そうして二人の少女が共に、人々の救助の為に駆け回り始める。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
イリーツァ・ウーツェ
【RESQUE LEVEL】:1
ニンゲンは如何とも思わない
ニンゲンを殺す敵も、同様に
だが約定だ 全力で守る
封印を一部解き
ニンゲンを襲う物から殺す
小さい物は尾で払い砕く
潜望鏡は象撃ち銃で破壊する
其処に敵が居る、という事だから
杖を使い、水で氷を持ち上げ
敵に叩き付け潰す
傷も痛みも興味が無い
動ける内は、ニンゲンを守り
敵を破壊する 殺す
●ある竜の場合
ニンゲンというものに対し、彼は特に深い感慨も感情も持ち合わせていない。それが目の前で死んだとて、きっと何も思うまい。人が目の前にいる蟻一匹が死のうと何も想う事などないように。
そして、ニンゲンへ深い感慨も感情も持ち合わせないのと同じくして。ニンゲンを殺し害そうとするものに対しても、何も思わない。
ただ彼が準じるのは一つだけ。
"約定"。第一に、ニンゲンを己から進んで害するべからず。そして第二に、過去の残滓は殺し、猟兵は補佐せよ。その誓いを守り準じる為に、イリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)は己の力を一部解放する。
「ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛――!!」
「う、うわぁぁぁぁ!?」
彼岸の怪物たちは影と海とから続々現れ、人々を襲わんとしている。怪物の影から怪物が現れ、その怪物が影を作り、またそこから怪物をだす。はたまた建物の影からも、それはずるりと現れ――そして。
「ぁ、ひぃぃい!?」
「ァ゛ァ゛ァ゛――!!」
逃げ惑う人々、その影からすらも出現する。
人の影から潜望鏡が目玉のごとくぎょろりと伸び、同じくして影から伸びる触腕を以て人を絡めとる。
「ァ゛ァ゛ァ゛……」
品定めするかのように、影の目はじぃぃと獲物を見つめ。どこか満足したようにした後で、ずるずると影の中へと贄を引き摺りこんでいく。ずぶりずぶりと、影のうちに贄人の身体が呑まれて――。
「あぁ、い、嫌だ、助け……!!」
その時だった。
――ず、ぱぁぁぁん!!
「ァ゛ァ゛ッ――ギィィッ!?」
空気が破裂したかの様な音の後、影の触腕がブチリと千切れる。影下に潜む怪物の分体も、飛び出ていた潜望鏡ごと串刺しにする形で貫かれ、その拙い命を終えた。
「ひぁ、た、助かっ……?」
何も分からぬままに助かった事を理解するも、呆けるようにするニンゲン。
「――此処は危険です。速やかな退避を」
「ヒッ!?は、はいっっ!?」
それへ、無味乾燥な敬語を以てイリーツァが警句を吐く。
言葉選びだけは丁寧な、しかし機械的で何処か冷めた――ともすれば、助けたものになど興味がなさそうな竜の言葉に慄いたように、襲われかけていた人も慌てて逃げていく。
「ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛――!!」
面白くないのは無論怪物の方。獲物を奪い逃がした竜へと、わらわらと影の獣が近寄り、唸り声を上げ敵意を表す。
「――――」
対する竜は何処までも静かだった。
それはそうだ。竜は獣如きと言葉を交わす事はない。敵対者にかける慈悲もそれへの憤怒も何もなく、くれてやる言葉など持ち合わせていない。
故に竜はただただ単純に、足を前に踏み出した。所作としては、たったそれだけ。――たったそれだけの筈なのに、怪物達は反応さえする事が叶わなかった。
――ず、どんッッッ。
「ア゛ヒ゛ッッ」
「ァ゛、ァ゛ア゛ッ!?」
いつのまにか、イリーツァの腕が怪物のうち一体の甲板に突き刺さり、それを深く抉りひしゃげさせていた。感知不能の一撃に幾匹かの怪物が驚愕の呻きを出す。
"疾風迅雷・衛命道"。人を無為に傷つけぬ為の約定。それに準じる為に己の力の一部を解放し、イリーツァは嵐の如き力と雷霆の如き速度を以て害なすものを屠る。
――ず、ぱぁぁぁん!!
「ッッ゛」
腕に続き、破城槌の如き竜尾が振るわれた。
空気を真二つに裂いたかのような音を伴って、イリーツァの周りにいた怪物達が紙屑のように引き千切れ消し飛んでいく。
――ビュゥウウン!!
「ア゛ギョ゜ッ」
止め代わり、片手にもつ鋼杖が風を鋭く斬る。鈍器めいた筈のそれは、竜が爪で裂いたかの様な斬跡を遺して影の獣を屠る。腕を突き出し、尾で叩き、鋼杖を振る。その三つの挙動だけで、負号の竜は彼の周りにいた浅ましき怪物どもを殺し尽くした。そしてそれに何と思う事もなし、人の姿をした竜は空いた片手に象撃ち銃を取る。
――ズド、ズド、ズドンッッ!!
「ァ゛ァ゛ァ゛――ッ!?」
雷霆が地を穿つような音を立て、離れた場にいた人々、その影から出ていた潜望鏡が砕け散る。それらの元へ文字通りの疾風迅雷に駆け、丹念に影の中に潜む邪を抉り潰していった。
「ァ゛――ア゛ア゛ア゛ア゛アッッ!!!!」
体躯は他の贄らと大きくは変わらぬ筈の、然しその実恐るべき力を持つそれに、影の獣は慄いた。身震いし、そして己の身から影の魚雷群を放つ。浜辺にまだいる贄諸共、あの脅威を爆ぜ潰してしまおう、と。
――シュボボボォ!!!
影の裡から殺意が飛翔し、竜と逃げ遅れた人とがいる地へ飛んでいく。
それをイリーツァは温度の乏しい赫眼で見据え――、
「――――」
やはり何も口にする事なく、沈黙を守り。言葉を吐く代わり、己の羽を広げた。まるで竜の背にいる者達の盾とするかのように。
――ズドォォォン!!!
魚雷群が竜に命中し、赤い炎を散らす。
「ア゛ア゛ァ゛――」
これで良い。少なくともあの恐ろしい贄は無事ではあるまい。浜辺の砂を巻き上げ烟る爆心地を眺め、ごろごろと喜びの唸りを上げ――
――ヒュッ。
ず が ん ッ ッ ! !
「ア゛カ゛――ッッ!!?!」
気を抜いた怪物の顎をかち上げるに、強烈な蹴撃が突き刺さった。鯨にも似た体躯を持つ彼岸の怪物の身体が、なんたる事か宙を吹き飛んでいき、分厚い流氷のうち一つに盛大な音を立て打ち上げられる。
「ア゛、ギィィ……!?!?」
氷の陸地でのたうつ怪物がみたのは、爆炎に晒され黒煤に塗れつつも、大きな怪我をした様子もないイリーツァの姿。竜の翼と鱗とは卑賎な影獣の爆撃に幾分も揺らぐ事なく人々を守り切り、竜自身も堅く護った。
その竜は翼はためかせ、通りすがりに鋼杖で手頃な氷塊を突き刺し、そのまま持ち上げる。
「――――」
黙々掲げたそれは、氷で出来た巨大な槌矛の如し。
そしてそれは無感動に、無慈悲に、竜の膂力をも以て、天から地へと振り抜かれた。
――バッ、ギィィイイイイイイインッッッ!!!
「ア゛、ア゛――ギィィィイイイ―ッッ!?!!」
氷と氷とが、哀れな怪物を磨り潰すように挟んで殺した。
ざぱぁぁぁあん、と氷に覆われた海面をもが揺れ、波を生み流氷を押し流す。
波立てる海域を赤い瞳で見つつ。
「――――」
次だ、と心の裡でのみ唱え、竜は次の屠るべき敵の元へと向かうのだった。
成功
🔵🔵🔴
アラン・スミシー
【3】
ふむ、多くの猟兵は守る側に行くだろうね
なら私は彼らの代わりに武器を抜くとしよう
目標は潜水艦か、赤い蛸ならぬ黒い蟹とは、少し惜しかったね
さてお喋りはこれまでにしておこう、狙いは潜望鏡、そこに弾丸を撃ち込んで目を潰していく
彼らが別の探知手段に切り替える前に駆け寄って、ショットガンを至近距離で放つよ
後は繰り返しだけども、人に近い相手から潰していくとしよう
安心して避難の補助をすると良い
食事の邪魔悪いね
でもお互い様だろう?
私も君達の気配に引かれて食事の途中で出てきたんだ
こんなに寒いとすぐに冷めてしまうから、その意趣返しさ
そうそう、もう一つ
言葉のいらない関係とか少しばかり味気ないと私は思うがね
●ある"平和主義者"の場合
「きゃぁあぁあ!」
「あ、ぁあぁー!!」
美しかった浜辺は阿鼻叫喚の声響く地獄と様相を変えた。或いはうつしよの此岸がかくりよの"彼岸"へと変わる、その過渡であるとも言えたろうか。なんにせよ、"彼岸"から現れし怪物は浜辺へと現れ、人々を襲い命を食もうとしている。
人々は懸命に逃げる。が、その影から黒い潜望鏡がずるりと現れ、蛇の如き触腕でその足を絡めとろうとする――!
「おっと、それは見逃せないな」
――タァン!!ばりんッ!!
「ア゛ァ゛ッッ!?」
しかし発砲音が一つしたあとに潜望鏡が砕け、影の企みは無意と化す。
発砲音を齎したのは、トレンチコートを纏う枯れた男、アラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)。
「ヒッ!?な、け、拳じゅ……!?」
「ああ失礼、驚かせたかい?……ついでにもう一つ驚かせるなら、君の影を見てご覧よ」
日本の日常生活では見慣れぬソレに驚き飛び上がる人にも飄々と応じつつ。一度トレンチコートの懐へと銃を納めながら、アランは言う。
「へ、え、か、影?……えっな、気持ち悪ッ!?」
目を白黒させつつ、襲われかけたその人も言われるままに後ろを振り向き見る。なんたる事か。自分の背後、影の中では黒い蛇か虫めいたものがびくりと蠢いて震えているではないか。
「何だこ」
――ズドム!!
「れ……ヒィッ!?」
「ァ゛ビュッ」
襲われかけたその人が疑問を発し終わる前、先程よりも大きな銃撃音がする。いつの間にやら先程の銃の代わり、銃口を短く詰めたショットガンを構えたアランが影へとそれを向け撃ち放ったのだ。不意を突かれるようにして自分の影――正確にはその中にいた怪物に向けて――へと散弾をぶちかまされた人が飛び上がるも、アランはどこ吹く風。
「さて何だろうね?さ、それより早く逃げるといい。もう影の中には何もいないよ」
「あ、そ、それもそうだ!えっと、あ、ありがとう……それじゃ!!」
口元に浮かべた笑みと逃走勧告による意識逸らしとで、それが何かは曖昧にしたままにらアランは一般人を逃す。
「ああ、気をつけて……さてさて」
地獄めいた浜辺の様相にもなんら動じる事なく、枯れた男は前を見る。目前には無数の"彼岸の怪物"たち。
「黒いカニ、かな……ちょっと惜しいねぇ」
赤いタコなら縁起物なのだが、生憎目の前のそれはどちらかというと不幸を運ぶ類のようだ。ともあれ戦況を見るに、他の猟兵たちは人々を守る事に勤しむものが大多数らしい。ならば。
「じゃ、私は前に出よう」
片手にショットガンを握り、そしてもう片手に今一度ピースメーカーを握る。人を守る事に力を尽くすものが多いなら、自分は攻手に回るべき。男は淡々とそう断じて、そしてそれを実践する。
「ァ゛ァ゛ア゛――!!」
ピースメーカー
「これでも"平和主義者"なんだけど……まぁ偶にはこう言うのもいいさ」
静かに嘯いた彼の言葉が指すのは、彼自身か、はたまた彼が片手に握る銃の事だったか。なんにせよ、彼は彼自身がいつかスクリーン越しに見た俳優たちのように、散弾銃の引金を引く。
――ズドンッ!!
「ァ゛ゲョッ!?」
続け様、平和の為の銃が火を吹き影に潜んでいた潜望鏡を撃ち砕く。
――タァン!
「ァ゛ッッ――!?」
「はいそこ」
――ズドンッッ!!!
「ギェア゛ッ!?」
影の上を望む為のレンズを割られ怯む怪物に隙を与えず、その影下へショットガンの雨を降らせる。
銃弾と散弾、リボルバー銃ととショットガンが交互に火を吹いては怪物達を打ちのめしていく。平和主義者が聞いて呆れる、激しさすら伴う"銃撃戦"だった。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛――!!!」
撃っては次の標的を正確無比に撃ち抜いてを繰り返す男に、怪物は怒りの声を上げる。贄を食むことを邪魔された怒りを込めて。
「やぁ、食事の邪魔をしてすまないね。でもお互い様だろう?」
その怒る怪物の事も飄々受け流しつつ、アランもまた返す。
「こっちも君達の気配に引かれて食事をほっぽり出してきたんだ」
店主は既にいなかったが、件の女性の名前を出したら、年若いバイトの少年が旨い摘みと酒を出してくれたのだと言うのに。全く惜しい事をした、せっかくの燗酒もきっと冷めてしまう。意趣返しの一つもしたくなるというものだ。
「ああそうそう、ついでに言うと」
両手から交互に銃弾の雨霰を撒きながら、アランは怪物へ告げる。
「言葉のいらない関係とか、少しばかり味気ないと私は思うがね」
「――!!ァ゛ア゛ア゛――ッッ!!」
吐く言葉に意味はなく、彼我をまぜこぜにし己を拡張する怪物は。
人である事と、言葉とを捨てたそれは、枯れた男のもう一つの意趣返しに怒号を発する。
「ハハ、そう怒るなよ――思った事を言ったまでだろう?」
――対する猟兵は何処までも普段通りに、手にした銃器達で猛威を振るうのだった。
成功
🔵🔵🔴
●SIGHT:???
『言葉の要らない関係とか、少しばかり味気ないと私は思うがね』
――"海豹"が言葉を拾ってくる。
それを、■■は海の底深くで聴いていた。
――――――。
まだ。
まだ、その時じゃない。
"海豹"の視覚と聴覚とで、海と浜の上とで起きる全てを。
□□□□の行方を一秒たりとも逃さないようにしながら。
――いっそ、"その時"が
、、、、、、、
来なければいいと、■■は思う。
舘林・祀
【RESQUE LEVEL】:『3』
ようやく敵のおでましね
影の中を移動する潜水艦……さーて、どう料理してくれようかしら
ほらほら、おいでなさいませ。腹ペコの狼さん?
敵は堅くて早くて、さらに隠れるのを得意としてる
でも、図体はでかくても所詮植えた獣
血肉を欲するその動きは、案外読みやすいものよ?
≪壱之型:陽炎≫
敵の攻撃をいなし、懐に入り込む
相手をいらだたせ、攻撃を単純化させる
くふふ、いいわいいわ。楽しくなってきた
さぁ、あなたの力と技。もっとアタシに見せなさい!
っていうか、外野がわーきゃーうるさいわね
弱い奴らはさっさと逃げ散りなさい
アタシとこいつの勝負の邪魔だっての
あらら、流れ弾がそっちにいくわよ
波狼・拓哉
『3』
あーれーは…ジャガーノートじゃないな。
ま、いいや。どうせ還すだけなんです。ミミックー仕事の時間ー。時間をかせ…ぶっ殺した方が早い?いやまあ、そうではありますけど。
一応ね、関係ない人が死ぬのは目覚めが悪いんで…行く前に止めて殺せば一緒?あー…んじゃそうしましょうか。化け喰らいな。影を移動するのなら此方も影で。潜望鏡とか狙って動き止めつつ喰らい尽くしてください。
自分は衝撃波込めた弾で動き止まったものや、一般人に近い奴らに撃ち込んでやりましょう。戦闘知識、第六感、視力で撃つべき場所を見つけ早業で傷口をえぐるように部位破壊していきますか。魚雷は察知次第撃って処理しとこ。
(アドリブ絡み歓迎)
●ある妖狐拳士の場合
「ァ゛ァ゛ア゛――!」
「ひ、ひぁぁ……ッッ!」
「あ、あぁ――!!」
化物が逃げ惑う人を追う。それが最早、この海岸ではそこかしこで見れる景色と化してしまった。彼岸の怪物が寄ってたかって、此岸にあるものを襲おうとしている。
そんな光景のうち一つに――、
「やぁーーーっと敵のお出ましねぇ――ッッ!!!」
逞しき叫びと共、影が一つ影の化生へと飛び掛かる。
――ズガァアァアンッッ!!
「ァ゛……?ッッア゛ガッッ!!?」
めしゃり。
怪異の背をその華奢にも見える拳で、容赦なくブン殴る。弓反りに背中を曲げた彼岸の怪物のうち一匹が、破壊音を立てて砂埃と共浜辺に轟沈していく。
「ア゛ア゛ア゛――ッッ!」
「ァ゛ァ゛……!」
「ハハ、いいわよいいわよ!あんたたちみたいなのを待ってたの!!」
怒りと警戒の声を上げ彼女を取り囲む怪物にも構わず、腕をぶんぶんとするのは無論、舘林・祀(一拳十殺・f24918)。肩慣らしはは氷の瓦割りで十二分に済ませた。可憐な顔は勇ましくも牙を見せるように笑い、拳をぱきりと鳴らして構えを取る。
敵は怪物と呼ぶに相応しき黒き魔物。それも見よ、奴らは影に潜み此方を狙う。今も数匹が影に潜って獣の如く虎視眈々と自分を狙っている!
「いいじゃない、相手に不足ないわ――!」
あなよし。それでこそ燃えると言うものと、祀が闘志昂らせ構えを取る。その血の気の多さと勇ましさとは裏腹に、構える彼女の立ち姿は自然体で、かつ隙が無い。息吹吐き余計な力を入れずゆるやかに構える様は、揺らぐ焔のよう。
「――ア゛ア゛ア゛ッッ!!」
だからなんだと言わんばかり、彼女を三百六十度取り囲む怪物達の影を伝って、祀の背後から黒い顎が躍り掛かる!
「――疾ッッ」
だがそれが何するものぞ。
砂地である事をものともせず、しなやかな狐女の脚が音もなく滑り半身で獣の噛みつきを躱し――めしゃり。
「ア゛ッ゛ッ゛!?!?」
痛烈な裏拳が黒い影獣の身体にめり込み罅を入れ、一撃でそれをノした。高々牽制のつもり程度の一撃。ただ其れが神威の豪腕とも謳われし拳士のものとあらば、その威力言うに及ばず。
「ア゛ア゛ァ゛――ァ゛ッ゛!!!」
負けじと別の獣が踊りかかるも、揺らめくように動く祀を捉える事は叶わずに、神の如き拳が顎を撃ち抜き砕き飛ばす。また別の獣が飛び掛かろうと結果は同じ、今度は肘鉄が頭を破城槌がぶち当たったのかと言わんばかり抉り飛ばした。
「――あんた達の動き、手に取るようにわかるわ」
緑の目をギラつかせ、祀は言う。
"壱乃型:陽炎"。研ぎ澄まされた"見"と祀の技量を以ての予知めいた回避、それに続け様放たれる当て身。揺らぐ熱の幻の如く、その足捌きを捉える事は叶わず、またその一撃は烈火の如し。
「ァ゛ァ゛ァ゛――ッッ!!!」
苛立つような影の獣どもが、ならばと一斉に飛び掛かる。一度に攻め手数を増やし、攻める時間を与えまいとしての事だった。
「くふふ、そうよそうよもっと来なさい!アンタ達の技と力をもっと見せなさい――!!」
二を超え四を超え八を超え、十をとうに超えた彼岸の怪物達の攻撃を揺らめく焔のように躱しつつ、いっそ楽しげに祀が言う。
「す、すげ……あの嬢ちゃん化物どもをものともしてねぇ!」
「いや見てる場合かアンタ、それより逃げ……!」
「つ、つっても足が上手く……!」
そんな彼女の側、なかなか逃げ足が回らない一般人が数名。影の化物に慄いてか、あるいは祀の踊るような武踏に見惚れてしまってか、足が言う事を聞かないらしい。
「ちょっとアンタら、戦いの邪魔ッ!てか弱いならさっさと逃げなさいよ!!」
そんな彼らへ戦いにだけ集中したい祀が、どこかムッとした様子で彼らへ忠告する。
「そ、そうしたいのは山々だけど……!」
「ァ゛ア゛ア゛ア゛――!!!」
「いいからさっさと……あ、やばっ」
痺れを切らした彼岸の怪物が、がぱりと身体を開き魚雷群をせり出し発射する。目標は祀――ではなく、逃げ遅れた人々に向けて。
「ひっっ!?!」
悲鳴とほぼ同時、ボシュゥと音を立てて黒い弾丸が飛ぶ。
「おっと、それはよろしくないですね」
――ズガン!!
非力な贄の男どもを喰らう筈だった魚雷達が、誰かが言葉と共に放った銃弾に貫かれ、空中で爆ぜた。
●あるミミック使いの場合
「あーれーはー……ジャガーノートじゃないっぽいな」
ぽつりと呟く男は、緑色の瞳越しに影の怪異を見遣る。一度見た"ジャガーノート"、それとは異なる物であることは、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の目には直ぐに判った。まぁ、構いはしない。どうせ怪物を骸の海へと還す事にはなんら変わらないし、どちらの化物を先に還すのか程度の違いしかないのだから。
「ま、どうでもいいさ。ミミック、仕事の時間ー」
だから拓哉はいつも通り、間延びした声で相方を呼ぶ。多面体の水晶から現れたのは、宝箱に足が映えたかのような存在。所謂"ミミック"と呼ばれるもの。
「時間を稼ぎ……ん?殺す方が早い?」
パカパカと蓋を開け拓哉へと意思疎通をせんとするそれを見ながら、サモナーが返す。
「いや、まぁそうかもですけど。とは言え知らない人に死なれると目覚め悪いし……死ぬ前に殺せばいい?」
逐一物騒な傾向があるのは、それが怪異の類だからか。だが的を射た意見でもある。
「ぁーー……じゃあいっか、そうしましょう。いつも通りで」
ぽりぽりと頭をかいて言う拓哉に、意を得たりとばかりにミミックが口を開いて――その姿を変じさせる。
「じゃ、丁度よく目の前あたりでなんかやってるから。その辺から行きましょう。――GO」
合図ととも、ミミックだったそれが駆け、とぷりと"沈む"。
拓哉もまたそれに続くように、銃を構えて近づいていく。ふと、人々の声と女性の声、そして化物たちの呻きが聞こえ、何かの発射音がした。――飛び交うのは無数の魚雷。
「おっと、それはよろしくないですね」
――ズガン!!
迷わずの発砲。狙い通り衝撃波を込めた弾丸は魚雷の土手っ腹に当たり、誰も傷つける事なく宙空で散った。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛ア――ッ!?」
何たる邪魔を!意としてはきっとそんな呻きだった。ならば邪魔なお前から殺す、そう怒り逸る怪物のうち一体が影の中に潜り拓哉を狙い――
「今だミミック、化け喰らいな」
――グルルルルルルぁぁぁ!!!
「……ァ゛ッ?」
唸り声ととも、影から"狼"が現れる。喰らい闇色の毛皮は、奇しくも彼岸の怪物どもと同じく影でできており――バクン。鋭く巨きなその顎で咀嚼し、影の獣を"還す"。
スコル・プレデター
"偽正・神滅迫撃"。ミミックが変じた吠え猛る影の狼は、飢えて獲物を求めるが如く、枝分かれした顎を以て一匹、また一匹と影の怪物を噛み、咬み、殺す。
「ァ゛、ア゛――」
「ちょっと、ぼさっとしないでくれる?」
「ア゛ッ!?ア゛――アベ゜ッ!!?」
――めしゃッッ。正中からその面を射抜く様な拳が、容赦なく突き出た怪物の顎牙を平らに凹ませ殴殺した。
「あーあ、つまんない……ちょっとアンタ!!何人の獲物横取りしてくれてるわけ!?」
「え、怒られるの俺なんです??」
今日は変な人に変な事言われる日だ、なんて拓哉は思う。俺そんな悪くないよね??
「いやまぁまぁ、ホラ攻撃避けるに集中してるみたいだったですし……一般人の皆さんも危ない所でしたし。ね?あ、今のうちにどーぞ皆さん」
結果オーライでしょ?と拓哉は一般人を逃しつつ言う。そそくさと礼もそこそこに逃げてく人々を尻目、祀も少し痛いところを突かれたと唸る。敵との勝負に熱を上げてしまってたのは確かだとは彼女も思うのだ。
「む、むむぅ……いいわ、判った!じゃあもう邪魔しないでよね!」
「あ、ハイ。邪魔はしないです。協力はしますけど」
「要らないわよ!!どっか行って別の人助けたら?」
「まぁまぁ。ほら俺いればあんまり一般人気にせず戦えますよ」
ぴくり。祀の耳が跳ねる。
「人に被害いきそうもなければ基本そっちにお任せしますし。要はホラ取りこぼさなきゃいいわけですよ。……自信ないなんて言わないですよね?」
ぴくーーーんっっ!!
「言うじゃない!!良いわよアンタの仕事全部取ってやるんだから!!ホラさっさと行くわよ!!」
まんまと拓哉の挑発に乗った祀がズカズカと進んでゆく。
「ハイハイ。……ん、これで俺は楽に仕事できるってもんですね」
状況は入念に把握し上手く動くべし。モットーからすれば上々な結果を得られたと言える。なんにせよ、尻尾をピンと立て次の獲物を飛び跳ね狙う妖狐と、それの側で人を助ける為の援護をするミミック使いのひと時のコンビが、怪物達を丹念に吹き飛ばしてあくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雨宮・いつき
1
無辜の人々が怪異によって傷付くなどあってはならない事
ましてや僕の手の届く範囲で、させるわけにはいきません!
手持ちの稲荷符に魂縛符、雷撃符を纏めて空に放り投げます
起動した魂縛符で敵を吸い寄せて【時間稼ぎ】をし、その隙に多重結界の発動を
この海岸にいる全ての人を対象に取るために、全力を注ぎ込みます!(【全力魔法】【高速詠唱】【範囲攻撃】)
これで一先ず皆さんを御護りして…続いて第二手、皆さんが逃げ切れるよう此方へ敵の気を惹きます
僕は動けませんが、先んじて投げた稲荷符から変じた八咫烏達は別
雷撃符を掴み、上空から敵を影ごと雷撃で撃ち抜いて下さい!
仕留めるよりも、動きを妨害する事を優先でいきましょう
●ある妖狐の少年の場合
逃げ惑う人々の声が聞こえてくる。そして悍しい怪物達の呻き声も。
「これが"彼岸の怪物"ですか――!」
影で出来た獣のような、壊れた潜水艦のような歪な形。意味なき声を上げて贄と混ざり合う事を望み、その悲鳴を聴くのを好む悪き存在。あの男性が言っていた、此岸の反対側にある"彼岸"より出ずり、人に害なすものども。
「させません――!」
無辜の人々が怪異によって傷つくなど。
ましてやそれが自分の目の手の届く範囲でなど、断じてさせはしない。その想いを胸に、雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は海岸線を駆け懐から御符を取り出し宙に放った。
「い、いやぁぁぁぁあ!!」
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――!!」
浜辺を女性が一人走っている。その後ろを怪物が数匹追い縋り、その顎門を開いて女を丸呑みにせんとしていた。恐怖からか脚がもつれる女の背に、まさにその牙のうち一つが掛かろうとした時。
「ァ゛――ァ゛、ア゛ア゛ッ!?」
ずぉぉ――ッッ!!
怪物達の身体が何かに吸い寄せられるようにして、地から引き剥がされ宙を浮く。悪あがきのようにその爪が女を狙うも、それらは宙を泳いで空振った。
「ア゛ガ――!?」
「ァ゛ァ゛ッア゛ア゛ア゛――ッッ!!」
獲物を逃したそれらは怒りの咆哮をあげ、一体何が自分達の身を捕らえ渡しているのかを確かめようとし――確かにその正体を見た。自分を引き寄せる先に一匹の、尾の生えた贄がいる。その傍らには幾枚もの紙が舞い飛び、うち一枚が宙に張り付き己らを引き寄せていた。
「ア゛ア゛――!!」
小賢しい。先の贄の代わりにあの紙切れごとお前の柔肉を食ろうてやる。そう言いたげに、怪物達が揃って顎を開き、引き寄せられる力に逆らわず進み、いつきに牙を立てんとする――!
そんな脅威の迫る中、いつきは決して慌てる事はなかった。肉体ごと魂を縛る"魂縛符"の力を以て化生を人々から引き剥がした事で、時間稼ぎは既に叶っている。
印を結び、そして呪言を唱え全身全霊を込め術を練る。
「――猛き勇士に不可侵の加護を。金剛不壊、急急如意令!」
――ギュオン。
神氣がいつきの身を包み、更に眩いそれが方々へと飛んでいく。
だがそれがどうした。そう言わんばかり、化け物どもは狐の身体に殺到し影の牙を立て、或いは触腕わ以て引き千切らんとし。
――ガキッッ。
「ア゛ア゛……ッ!?!」
ついぞその企みが叶う事はなかった。
眩い神氣がいつきを害そうとする影を拒み阻んで、彼の身を護る。それだけでなく、辺りに飛び散っていった神氣は逃げる人々へと憑き、彼の"魂縛符"の吸引範囲から漏れた影の脅威から、いつきと同様に守り抜くのだった。
「ア゛ッ、ア゛ガ――!?!」
「ひっ……、あ、あれ無事だ!?」
「よくわからないけど今のうちに――!!」
光に包まれた人々はこれ幸いとばかりに、怪物蔓延る浜辺から足早に去っていく。
"甲式多重結界"はいつきの身から出た霊力を以て己と味方とを守り抜く結界術式。何者もそれを傷つける事は能わず、されど代償としていつき自身をその場へと縛り付ける。
「ア゛ァ゛ァ゛……!!」
従って身動きの叶わぬ彼へ怪異どもが集うのも自然と言えたろう。今は手出しできずとも、時間が経ち術が破れれば。彼岸の怪物どもの思惑としてはそのような処だったか。だが甘い。
――ぱさ、カササ。
空を舞っていた無数の符が形を変えて、紙神の八咫烏と化しいつきの周囲を守るように飛ぶ。そしてその爪がまた別の符を握りしめ、彼岸の怪物へと飛んでいく。
――バチィィィィッ!!
「ア゛ッギガガガガ!!!?」
「ア゛ギィィィィイ゛!?」
"雷撃符"と彼が呼ぶそれが雷を呼び、光霆以て卑賤なる影を灼き穿つ。
「この場から動けずともやりようは幾らでもあるのです――!行きますよ!」
「ア゛、ア゛ァ゛ァ゛――ッ!?」
闇より出ずるものを調伏するのが陰陽師の生業である。ならばこの影から出ずる怪異どもが彼に敵う道理などあろうはずもなく。"彼岸"は唯、遍く雷光に打ち据えられて消えてゆく他はないのだった――!
大成功
🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
【RESQUE LEVEL】:1
彼岸に渡ったものが戻る道はないぞ
敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
受ける攻撃は自身への影響を『無現』で否定し『明鏡』『天冥』にて攻撃者を害するものへ転化
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げ、行動は全行程を『刻真』で無限加速し即座に終える
天楼で捕獲
対象は戦域のオブリビオン及びその全行動
原理を編み「迷宮に囚われた」概念で縛る論理の牢獄に閉じ込める
出口は自身に設定
俺か迷宮か、好きな方を壊してみるが良い
呼び出すものも攻撃手段も自壊対象故に容易ではなかろうが、何もせねば消えるだけのこと
出口へ辿り着くなら『討滅』を乗せた打撃で始末
※アドリブ歓迎
非在・究子
『1』
こ、今回は、ざ、雑魚を蹴散らして、NPCを、守る、ステージ、か……げ、撃墜スコアは、稼ぐ、救出、ボーナスも、拾う。りょ、両方、やらなくちゃ、ならないのが、猟兵の、つらいところで……醍醐味だ。
て、敵は、陰に潜んで、厄介な、事だけど……ゆ、UCを、使って、まとめて、ダンジョンに、ご招待、だ。
だ、ダンジョンの、光源の、管理は、アタシの、ものだ。つ、つまり、影がどこに、出来るのかも、コントロール、できる。あとは、トラップコンボに、嵌めてやる、まで、だ。
え、NPCが、やられそう、なら、盾になる、ぞ。あ、アタシには、HPと、防御力と、残機と、コンティニューの、盾が、あるから、よ、余裕、だ。
●
ひび割れた流氷の下、彼岸の怪物の太守とも言うべき影の根源はもどかしげに身じろぐ。まるで、こんなはずではなかった、とでも言うように。
それもそうだろう。光に穿たれ、漸く取り込んだ贄も死に体の有り様。他の贄を取り込もうとしても猟兵らが邪魔立てをしうまくいかない。
ならば数だ。数を増やそう。蜘蛛の巣状に広がる流氷の亀裂から、泡めいて"影"が形を変えてぼこりと湧き立つ。
「ァ゛ァ゛ァ゛――!」
「ァ゛ァ゛――!!」
その泡が弾ければ、卵から生まれた虫の如く、小型の"彼岸の怪物"達がわらわらと湧き出てくる。それらは親たる彼岸の怪物の太守の命を受け、浜へと向かい贄となる人々を狙わんとして――
「お、オブリビオンのくせに、生意気だな」
「――彼岸に渡ったものが戻る道はないぞ」
ガチャリ。
「――ァ゛!?……ァ゛、ァ゛ァ゛――!?」
二つの声が重なった後、"二つ"の迷宮が怪物達を捉えた。
●ある非実在性少女の場合
テッテレテー テレテテー テレテテー♪
「ァ゛ア゛ッ!?」
いつの間にか彼岸の怪物の仔らは、どこかデジタルな装いの壁に四方を取り囲まれていた。元々いた筈の流氷漂う海は何処にもなく、頭上では謎のBGMが流れている。そして何より、
「ァ゛、ァ゛ギィ゛ィ゛……ッッ!?」
――"光"が強い。
頭上から、燦々と眩いライトが己達を照らしている。影を元にできた怪物の、尚且つ生まれたばかりの仔らには毒に過ぎた。身を焦がすような光から逃れる為に、仔らは影を探し――確かにそれを見つける。そこに潜りさえすれば光を避けられるだけでなく、影から影へと伝い元の流氷の元へ出られる。そう思い、影さすそこへ飛び込もうとして――、
――ビカァッッッ!!
「ァ゛ッ――」
殊更眩い光が、360度サラウンドで仔の群れを貫く。断末魔を上げる間もなく、仔らは何も残す事もなく、迷宮からデリートされ短い生を終えた。
「よ、よし、スコアゲット。ぐひひ……」
そう呟くのは緑髪の少女、非在・究子(非実在少女Q・f14901)その人。握っている携帯ゲーム機の画面を弄りつつ、あまり少女らしからぬ笑みを漏らしている。画面の中には蜘蛛めいたモンスターがダンジョンを右往左往しているのが見え――当然それは"彼岸の怪物"であり、彼らが閉じ込められている迷宮そのものであり、そして究子こそがこのダンジョンゲームの主に他ならない。
イッパンジン
どうやら今回はN P Cを救助しつつ、ポップアップする雑魚敵をも倒す、そう言った趣旨のミッションらしい。
「げ、撃墜スコアは、稼ぐ、救出、ボーナスも、拾う。りょ、両方やらなくちゃ、ならないのが、猟兵の、つらいところで……醍醐味だ」
そう溢しつつも、その二つを両立する為にオブリビオンを閉ざしたダンジョンを、ボタンを押して弄り回す。迷宮は究子の思うままに配置を変える。閉ざしたオブリビオンの出現位置は無論、壁の配置や罠、そして光源すらも思いのまま。わざと影が出来るように照明を配置すれば、影を求める怪物達はそれへと殺到するのは自明の理だ。
そこを即死級の罠――彼岸の怪物の弱点である"光"を使って、一網打尽にするのが究子のダンジョンだ。
「ぐ、ぐひひ……いい感じにスコアが、の、伸びてく……。た、タンクやらなくても良さそうだし、もう少し、そっちの、も、貰う、か?」
にやにやと楽しげにゲーム機を操作しつつ、究子は隣に立つ男へと問う。
「……不要だ。此方も別段困窮はしてない」
対する男は、感情の色薄く、否との言葉を返すのだった。
●ある原理の男の場合
究子の罠が遊び心を有するものであったとするなら、此方はそのようなものは最初から持ち合わせず、無慈悲極まりないものだったと言えたろう。
「ァ゛、ァ゛ァ゛……ッ」
"天楼"と、その迷宮は字される。或いはそれが本当に迷宮であるのかも定かではない。原理という不定形の概念で編まれた迷宮の壁は超常的で、されどどうあれ捉えた者どもを離すことはない。そして、それは刻一刻と捉えし者どもに自壊を促す処刑機構。
「ァ゛……」
さらさらと、風に吹かれる砂塵の城の如く、怪物の仔の一匹が融けて消えた。
「ァ゛、ァ゛ガッ――ッッ!!!」
獣の浅知恵とて、このまま待つばかりでは死ぬだけと理解が出来る。故に必死で、この原理の檻の出口を探す。それを探し這いずるうちに、一匹、また一匹と怪物の仔たちがかき消え自壊し絶えていき――。
「ァ゛、ァ゛ァ゛ァ゛――ッッ!!!!」
死に物狂いの一匹だけが、どうにか"出口"を見つけ出し、光差すそこへと飛び込むように這い出ていった。
「――お前は俺を選んだか」
「ァ゛?ァ゛――」
出口を抜けたそれに差し伸べられたのは、救いの手では断じてなかった。
それは一つの呟き、そして淡く青い光。光はその字を"討滅"と言う。無情な死の光を浴び、化物の仔は光の塵となり音もなく消し飛んでいく。痛みがないのがせめてもの慈悲と言えたかもしれない。
「……ダ、ダンジョン出たらラスボスがいるの、あまりにも、クソゲー、だな。ぐ、ひひ」
「――そういうものか?生憎よくわからない」
死の淡青光を齎した白い男、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の返事は淡白で味気ない。ただ彼は己に出来ることをするのみと、天楼のうちに囚われた怪物達を自壊させ、運良く出口――則ち己の前にやってきたモノを光をもって滅殺するのみ。
「ま、まあ、なんにせよ。アタシたちは、ココで、ざ、雑魚掃除してるのが、良さそうだな」
「――異論ない」
怪物達が迷宮へと囚われては消えていく。奇しくも原初の迷宮であるミノスのそれとは逆に、内に招かれた怪物達を縊殺する形で。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アマラ・ミュー
RESQUE LEVEL:2
木っ端な化け物っていうのはどうしてこう喧しく喚くかな。
弱い犬ほど、ってやつ?
とは言えだ。私の得物じゃイマイチ駆除効率悪そうだし
他の猟兵への援護と町の人たちの救出を優先するよ。
陸へ近づいた敵の近くか、撃ち込める物が何もないならやつらの身体に直接【種を蒔く】。片っ端からね。
拘束して動けなくしてやるさ。可能なら、そのまま息の根を止める。
目的は時間稼ぎだ。
町の人達が逃げる時間だとか、他の猟兵が攻撃しやすいように。助けになれば何でもいい。
奴らの「攻撃」に対しても同様にね。全部止めてやる。
ここは生きてる連中の住む場所だよ。
弁えろ。
ロク・ザイオン
【1】
……あれは、ちがう。
(ジャガーノート。何度か相対したものたちと、
相棒と、
同じ匂いをしていない)
(呻く病どもが求めるものが解るのは【野生の勘】故か
それとも)
……………ちがう。
(歪んだ耳が同じ声を、求めるが故か)
(敵と浜を隔てるように【拠点防御】ひとびとを【かばい】)
――ああァアアア!!!
(【恐怖を与える】【大声】であらゆる声を塗り潰し
纏う六十二の「悪禍」で魚雷を、病を灼き尽くす)
お前たちに、ただの一声も
悲鳴(うた)を喰らわせてやるものか!!!
●ある森を捨てたエルフの場合
醜い呻き声が、この翡岸のそこかしこで聞こえてくる。人より尖った形の聡い耳は、それを鋭敏に捉えていた。
「……木っ端な化け物っていうのは、どうしてこう喧しく喚くかな」
顔を顰めつつそう溢すのは、赤髪のエルフのアマラ・ミュー(天のカミサマを射るように・f03823)。犬は弱いほど吠えると言う。ではあれらもそのような類だろうか。実際見る限り、大して強くはなく見える。今あれが暴れていたとして、それは手負いの獣が虚勢を張り威嚇をするが如き様相にも、狩人の女エルフには思えた。
「……案外そう言うのの方が油断ならない時もあるけどね」
どうあれ着実で堅実に対処をするべきだ。狩りは獣であれ狩人であれ、それを怠ったものから命を失う。愛銃に弾を装填しつつ、彼女は行動を始める。
「ア゛ァ゛ァ゛――ッッ!!!」
「ひ、ひぃぃぃい!!」
前方に逃げ惑う人一人。それを追うバケモノ一匹。牙を剥き獲物に食いかからんとするそれへ、アマラが照準を絞り銃口を向ける。
――タァン。
乾いた銃声が怪物の身体に突き刺さる。
「――ァ゛ッ!?」
寸分違わずに狙い通り、化物の脚のうち一本、その継目に吸い込まれるように当たった。さしもの怪物も足並みを崩し、その間に贄とされかけていた人は離れゆく。ならばと彼岸の怪物が"影"の内へ潜り逃げようとした所――。
「――芽吹け」
「ァ゛ァ゛ァ゛――ア、ア゛ッ!?!」
ぎちり。
蔦のようなものがその脚に絡み付いて、浜辺の砂地へも貪欲に根を伸ばし、怪物を繋いで離さない。逃れようにも一層"蔦"は戒めの力を増していく。
格好の的を前に、アマラは静かに愛銃、"木枯らし"に唇を落とす。冷たい海風に乗って少し湿った口づけの音がして――。
「カミサマまで――」
――届け。
銃の中に残った七発が、一斉に火を吹いて飛んだ。楔のような銀の弾丸達が遍く怪物の表皮を穿ち体内へと捻じ込まれ、"毒"を撒き散らす。
「ァ゛、ァ゛ギァ゛ァ゛ァ゛ァ……!!!」
木が枯れ果てるように、それは命を絶たれた。真冬の海風にと、解けるように影の貌が崩れては散り消えて行く。いなくなった獲物の跡を前に、赤髪のエルフはただ愛銃をリロードしつつ。
「……。効率が悪いな」
淡々と、ただそうとだけ呟いて、次の行動を取り始める。
●ある森を追われたヒトの場合
「――ちがう」
ざり。砂嵐めいた呟きが、冷たい浜風蔓延る浜辺に流れる。
氷の上から急ぎ浜辺の方へと跳び駆けやってきた橙髪のその人、ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)が見たのは、黒く暗い影で出来た怪物たち。獣と鋼の何かとが合わさり混ざり、化生へと変じた如きその姿。
あれは違う。幾度か対峙した"ジャガーノート"の匂いと――相棒の匂いとも異なるもの。あれは、"ジャガーノート"ではないただの"病"。そう断ずる。
その病どもが呻く声を、猫じみた耳がひくりと震え聞き取った。
意味なき筈の呻きが意味するものを。怪物どもが求めるものが何かを、何故か理解できてしまうのは、彼女の優れた野生の勘ゆえか。それとも――、
「……ちがう……!」
歪んだ耳が、浜辺に呻きと同じく蔓延る"歌"を聞き取ってしまうが故か。
――ちがう、ちがう。違ってあれ。祈るように、唸るよう呟いて。森番はその口を大きく開き、息を吸い。
「――ァ」
「ァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛――」
「いやぁぁ、助け――」
――――ァ゛ア゛ァ゛亜゛阿ぁ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ァ゛亞ア゛ア゛ァ゛――ッッ!!!!!
咆哮。
サイレンよりも尚けたたましく凄絶で恐ろしいそれが吐き出され、怪物の呻きも人々の悲鳴も掻き消してしまう。聴いたものは誰であれ、それが怪物であれ身が竦み怯んだ。
「――ァぁ゛ア゛ぁ゛あ゛アア゛ア゛ッッ!!!」
例外は血を吐くように叫んで、二刀の山刀を握り締め飛び跳ねたロクだけ。
手近な化物の頭頂に飛び乗り、烙印刀の柄尻を叩きつける。それだけで病の化生は燃えつき炭滓と化した。
刹那のうちに燃え尽きた病の元を即座に離れ、また飛び跳ねて別の病へと飛び掛かる。白煌放つ刃以て、別の彼岸の怪物を顎から尻へ刃を走らせて、ロクは真二つに引き裂いた。瞬きほどの僅かな間に、二匹の怪物が荼毘に伏される。
「――ァ゛、ァ゛ァ゛ア゛……!!」
殺される。牙の如きあの刃を持って、或いは燃やされて"私達"は死ぬ。怪物たちが死期を悟り――ならばせめて、一人でも贄を多く殺してから死のうと一同にそれは思った。身体がぼこりと膨れる。ぎちりと音を立てせり出るのは、無数の魚雷群ら。
――それを見たロクの蒼い眼に憎悪の情が灯る。明らかに自分のみならず、ここにいる猟兵以外の人らも狙う意がある事を森番の勘が告げ、警鐘を己の裡に鳴らす。
殺す。この病の存在を赦してはならない。――その意に従うかのように、虚空に紅い火の球が燃え上がり現れる。悪禍と字されし怨敵を灼き尽くす焼夷の火球。それが遍く影の化物とそれが撃った魚雷群を灼滅せんと、彗星のように空より堕ち征く――!
「――!!ァ゛、ァ゛ァ゛ア゛――ッ!!」
影らも必死だった。シュボォと音を立て、怪物達の身体から魚雷の群れが放たれる。十、二十、三十いやその倍――それよりも更に多い死の弾頭。六十を超えるロクの火球の数より尚多い。
どうする?どうすれば――、
「――ァ゛阿゛あ゛亜゛ぁ゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!!!」
――その解を思案するより先に、身体が動く。火球で幾つかの魚雷を相殺させつつ、地を跳び、空をも蹴って高く高く跳ね、箒星を思わせる動きで森番が遥か上空を舞う。
「お前たちに唯の一言も――ッッ!!」
そうして、飛んでいた影の魚雷のうち一つの前に踊りかかり。
ウタ
「――悲鳴を食わせてやるものかッッッッッ!!!」
無辜の人々を、その悪意の牙にかけてなるものか。人の営みをも守るのが、森を守る者の、そしてロク・ザイオンの"人間"としての使命なれば。
裂帛の叫びと共に烙印刻まれし山刀を振るう。印に触れた魚雷が、熱を帯びた炭屑へとぼろりと代わり、炭の熱に誘われ幾つかの魚雷が誘爆する。爆発に巻き込まれた森番が宙から地に向け落ち――その間に烙印刀とは別の剣を握る。
「――射て!!"ライカ"ッッ!!」
《――音声認証完了・Gun-Mode:アクティベート。発射します》
――ズドドドドド!!
花開くようにその銃口を開いた可変剣銃が、雷撃を発射し魚雷をまた数個射抜いた。だが、まだ足りない。穿ち残した魚雷達が、のろのろと砕け腰で逃げようとする人々の元へ向かっていくのがロクの目に見える。
「ァ゛、ァ゛ア゛ァ゛――ッッ!!!!」
叫びは影の歓喜か、ロクの必死の咆哮か。或いは何方もだったか。
今にも人らの元に悪意が堕ちてくる――
「……すごい声がしたと思ったけど」
――その僅か前に。
――タァン!
「……ッ!?」
「……ァ゛ァ゛?」
響く発砲音。それがあと七つ続く。
それは一つとも違わず人々を狙った魚雷を穿ち、"蔦"で絡めとってあらぬ方向へとそれらを導き――ズドムッッッッッ!!
蔦同士が絡まり集まるようにして、誰もおらぬ空の上で魚雷群を誤爆させ、影の企みをそれは無に返した。
ロクが未だ地に向かい墜ちゆく中で瞠目し、怪物が突然の事に呆けた呻きを上げるその傍ら。
――タァン!
「――ァ゛、ァ゛ギィィ!?!?」
八つ連なるかのような銃吼が響く。その一拍のち怪物どもの身から蔦が生えて、それを縛りつけ魚雷の発射口を封じつつ、かつ影中へ逃すまいとする。
現れたのは無論アマラ。見慣れぬ赤髪の女の登場にロクが僅かな間だけ瞠目し、アマラはそんなロクを見つつこう言った。
「……ほら、どうした。遠慮なくやっちまいな」
「……!」
逃げようとする怪物たちを全て蔦で縛るアマラの言葉に、ロクも頷きで了解し。指揮棒めいて手にした刀を振り翳す。それに従うよう、火球の彗星が彼岸の怪物へと殺到し――!!
「――ァ゛、ァ゛ガ゛ァ゛ア゛ア゛――ッッ!!!?」
――ヒュゴォォアア!!
篝火の如き火柱を立てて、影を焔が焼き尽くした。"病"は尽く焼き祓い、人はどうにか守れた。安堵の息をざらりと漏らして森番が地へと落ちてゆき――。
「……オーライ、オーライ……っと、っととぉ」
「……っ!」
ぼすん。落下地点で待ち構えていたアマラの腕の中に、ロクがすっぽり収まる。
「無事かいキミ。まぁ無茶したもんだな……怪我は平気か?」
「……へいき。……ありがと」
ざり、ざり。声量を控え、努めて抑えた声で礼を言い、ロクは地に降りる。淡く光って自らの怪我を治すロクを見つめつつ、アマラは言葉を続ける。
「そうかい。で、キミはソロで動いてる訳?」
「……」
光るのをやめ、黙したままこくりと首肯する森番。
「そう。……なら丁度良い、とりあえず一時的にでも一緒に仕事しないか?」
「……!」
ぴくん!ロクの橙の耳が跳ねあがる。
「捕まえんのは得意だけどどうも決め手にかけててね。私としちゃキミなら丁度良い。どう?」
「…………」
少しの沈黙の後、ロクがざりりと呟く。
「……キミが、この声が嫌でないなら」
「……へぇ、なるほど」
顎に手を立て頷いたのち、赤髪のエルフは答えた。
「連中の喧しさよかよっぽど好きだな。……名前は?」
「……。ロク」
「そう。アマラだ。よろしく」
嘗て森に連なっていた者同士。影の怪物を討ち滅す為の結託が此処に為され、共に影達を狩っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴宮・匡
『4』
護衛には手を貸さず敵の殲滅を優先
誰が何人死のうが
俺は多分、なんとも思わない
だけど別に、死んでほしいと思ってるわけでもない
手を貸さないのは見捨てるわけじゃない
適材適所ってやつだ
出来るだけ派手に弾をばら撒き、多数の敵へ攻撃を加え
可能な限りこちらへ注目させる
潜望鏡っていういい目印もあるからな、余程でなければ見逃さない
墜とせそうであれば急所を貫いて墜とすが
そうでなければ駆動部や動力部を破壊して勢いを削ぐよ
生憎と、俺には殺すことしかできない
できないことは素直に、他のやつらを信じて託すさ
その代わり、できることは十全にこなしてみせる
悪いが、お前らにやる餌は銃弾(これ)だけだ
さっさと骸の海に還りな
ヴィクティム・ウィンターミュート
【1】
…合理的に考えれば、さっさと敵を殺した方がいい
正義のヒーローでも無いし、そこまでしてやる義理も無い
どんなことにも犠牲は付き物さ
──なんて言ってちゃよォ、ハッピーエンドは無いんだぜ
求めるものは?幸福な結末だ
そうだろう?観客ども
なら俺がやることは決まりだな──疾ろうぜ、どこまでも
アイ、アム──『BlessDancer』
ヘイ、フリークスども!
そんなパンピー相手じゃ満足できねえだろ?俺と踊ろうぜ
襲われそうな奴には優先的に走って、強化と治癒のパルスを撃って離脱させ、ヘイトを俺が掻っ攫う
避けて走り回れればいいが、有事の際は【かばう】
なに、死ぬ気で踊るのは怖くない
きっちり全員逃がすまで、脚を止めるなよ
●ある"凪の海"の場合
この場に集まった猟兵の中で、一つだけその男に違うものがあったとすれば。それはきっと、戦いに臨む心構えだった。
男は自分の事を何より理解しているつもりでいる。少なくとも、自分がどういうものかを俯瞰的に評価はできていると認識している。だから多くの命が危機に晒されるこの場で、顔も知らない誰かが死んだとして。"自分は何も思う事はないだろう"と、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は考えた。そしてだからこそ、彼は進んで"人を守る事"を選ばなかった。
それは別に人々の死を願っている訳ではないく、ただどうしようもなく、そう言った事が"向いていない"と考えたからだ。そしてそう考えるこそ、自分に向いてない事をするのではなく、自分にできる事を――敵を殺す事で、人を救う事に寄与しようと彼は考える。
「生憎と、俺は殺す事しかできないから――」
ブレインストーミングを終え作戦を反芻しつつ、敢えて言葉を口に出して、己が己へと課した任に忠実であろうとする。そうして"共鳴"の名を持つアサルトライフル、その照準越しに匡は敵を見据えた。
「出来ない事は、素直に出来るやつに託すさ」
――目についた狙い易い敵から順に、敵を撃ち抜いていく。たったそれだけのシンプルな作戦。
適当に撃っていればそのうちに此方の方に注意も向くだろう。それで自分を倒そうと敵がやってくるなら、それでいい。一般人達が逃げる為の時間稼ぎになる筈だ。
だからこうするのが一番効率的だろうと、スコープを覗き敵を見定める。後はトリガを引く、それだけでいい。
――それだけでいい筈だったのだが。
●ある"冬寂"の場合
「ァ゛ァ゛ア゛――!!」
「いやぁぁ、きゃぁぁぁ!!」
猟兵達の努力の甲斐もあり、奇跡的にというべきか怪物に喰われ命を失ったものはまだ居ないらしい。しかし逃げ惑う人は多く、怪物もまた多い。致命的な綻びは出ず死者は未だ出ていなくとも、怪我人や負傷者は少なからず居る。
小型の怪物に追われ逃げ惑うその女性も、服の引き裂かれた腕から血を流しつつも生存願望に駆られ必死に走っていた。されどそうして長く逃げられるものでもない。怪物の爪が鋭く脚を掠める。
「きゃっ!?」
「ァ゛ァ゛ア゛――」
痛みと恐怖で脚のもつれた女へ、バケモノが近づいていく。他の怪物達よりも幾分小柄なそれは、彼岸の怪物の子機とも言うべきもの。ただしいくら小柄であろうと、人一人を縊り殺すのにはなんの造作もない。牙をガチガチと鳴らし脚を軋ませつつ、哀れな贄の柔肉をそれが食い千切ろうとしたその時。
「ヘイフリークス!!」
――ビュンッッ!!
「ァ゛ギゲッっ!?」
溌剌とした声ととも、人間大の蜘蛛めいた体に矢が突き刺さる。
「ぁ、え……」
「よぉアンタ!ダンスを止めるにゃ少し早ぇってモンだぜ!!」
何が起こったのかよくわからないと言いたげな女性に向け、飄々とした言葉が寄せられる。語るのはヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。歳若き敏腕ハッカーがにやりと笑って、腕のサイバーデッキ内に搭載したクロスボウ、その次弾を装填する。
「ァ゛ガギ……!!」
警戒し距離を置くためにじりりと後退する怪物子機。
「そら、こうすりゃァまた踊れるってもんだ!!」
そうして生まれた隙を逃さず、端役を称するカウボーイが電磁パルスを女性に向け放った。
――ヴンッッ。電磁波が女性を包むと、負った怪我すらも逆再生めいて治癒され、併せて身体が軽くなったような感覚すら覚える。
「ァ゛イァ゛ッッ!?」
「え、あ」
「さぁ行った行った!!スロット&ランだぜ!!」
「っ、はいっっ!!……っと、ゎ、わっ――!?」
――シュタタッッ!
走る本人が驚くほどの韋駄天めいた速度で、怪我人だった筈の女性は去っていく。ギギギ、と歯軋りめいて呻く彼岸の怪物の子機と、カウボーイを遺して。
「ハッハァ、そんな熱い目で見るなよ!あんなパンピーじゃ満足できなかったろ?」
――俺と踊ろうぜ。
不適な笑みを浮かべつつ、ヴィクティムはそう嘯く。
「I am ――"Bless Dancer"!」
――キィィィィィン!
何かの共鳴するような音ととも、ヴィクティムがその身にあるプログラムを纏う。則ち、ヘイトコントロールの電脳魔術。
祝福の舞踊の名を冠するそれは、カウボーイへと全ての敵意を集約する効果を有している。
「ァ゛ガ……ッッ、ギギギィィィィ!!!」
ヴィクティムの踊る相手を募る言葉に喰らいつくように、目の色を変え怪物も端役の少年へと襲い掛かっていく。
「ウィズ!ハ、その意気だぜフリークス!そう来ないとなァ!!」
デコイを進んで担う端役は意気揚々、戦場と化した浜辺を駆け抜ける。身体能力にブーストを掛け飛び廻りながら、時折パルスを打っては逃げ遅れた人を癒し強化し、敵の身体をクロスボウで撃っては自分に注目を集め、更にヘイトを高めていく。
無論そんな事をしていれば、影の怪物の大群が彼を殺さんと殺到する事になるのは自明の理。端役の背を追い掛けるそれは最早十や二十では到底聞かない数となる。己にヘイトを集中させているからか、熱心なラブコールを伴いつつ怪物達はヴィクティムと"混ざり合う"為に津波めいて押し寄せ――、
――ズダダダダダダダダダダ!!!!!
「ア゛ビュッッ」
「ア゛ッッ」
「ァ゛ギョッ!?」
連続する発砲音が冬の海沿いに響いた後、その"津波"は凪を迎えた。
「――ハ、流石のタイミングだ。なぁチューマ?」
ピピッ。
耳元に手を当て、ヴィクティムが何処かへ向けて音声を発信する。
『……相変わらず無茶してるな、ヴィクティム』
●
ピピッ。
『――ハ、流石のタイミングだ。なぁチューマ?』
「……相変わらず無茶してるな、ヴィクティム」
受信した言葉を聞いてから細く吐いた言葉は、何処か溜息めいたものも混じっていたろう。高台から見下ろす海岸線、そこには踊るように敵を翻弄する慣れ親しんだ顔がおり、"目"の良い匡がそれを見つけるのはあまりに容易かった。
とまれ、進んで"踊った"彼へ向けインカム越しに言葉を放つ。それは冬寂の耳には何処か呆れを孕んでるようにも聞こえたかもしれない。
「そんな無茶しなくても、お前ならもっとやりようあったんじゃないか?」
――タァン。
――ァ゛キ゛ガ゛ァァア゛!?
言葉の合間にも、匡の銃撃が怪物の急所を的確に見抜き抉り千切る。
影から覗く潜望鏡。
怪物の脚部の関節部分。
敵の身体の構造的弱点となる部位を容赦なく狙い、それで動きを止めればなお致命的な箇所へ。
"死神の咢"は命を咬み千切る為に、怪物の元へ吸い込まれるように飛んでいく。
『ハ、それもそうかもしれねーな?』
さて、一方の問いかけを受けた端役の答えは、飄々と冗談を口にするようないつもの彼らしいものだった。
『合理的に考えりゃさっさと敵を殺した方がいい。それ用のプランを練るのも俺にとっちゃお手のモンさ』
「……」
ビュンッッ。彼が喋る間にもクロスボウが飛び、怪物を攻撃する。直前に言った言葉とは裏腹に、それを殺す事はせずに。けれど決して無視などさせない加減を以てして。そして高台からの死神の弾が、冬寂の創った綻びを寸分違わずに噛みちぎっていく。
『俺らは正義のヒーローでも無いし、そこまでしてやる義理も無い。どんなことにも犠牲は付き物だ。そんなのとうの昔にご存知さ』
チームの参謀の言葉を、狙撃手は黙って聞きつつトリガを引いていた。死神の牙弾に捉えられ、また怪物が数匹消えてゆく。
英雄ではない。
これは事実だ。
冬寂にとっても、凪の海にとっても。
カウボーイは舞台の主役を立てる端役であり、傭兵は殺す事でしか己の存在を確立できなかったひとでなしだった。
到底正義の味方なんて名乗れやしない。――そんなとっくの昔に知っている。ヒトである事をすすんで証明できない自分が、ましてや英雄を称するなど烏滸がましいにも程がある。
『──――なぁんて言ってちゃよぉ、何処にもハッピーエンドは無いんだぜ、チューマ』
「――――」
だが、暫くの間を置いて聞こえたのは。インカムの向こうで皮肉げに笑うヴィクティムのその顔が、ありありと目に浮かぶような一言だった。
『求めるものは何だ?決まってる、幸福な結末だ。少なくともオーディエンスどもはそうだ』
そう、誰一人怪物に食べられてお終いなんて"悲劇"は求めていない。だから脅威から逃げようとし、助けてと手を差し伸べる。
ハッピーエンド
結末は幸せである方がいい。多くの人はそう願うだろう。
――なら、お前自身はどうなんだ?そんな問いが僅かに凪の海の心の裡に浮かんで。浮かんでしまった問いかけを持て余してるうち、ヴィクティムの方からクエスチョンが飛んでくる。
『そんでお前はどうだ、チューマ?』
「――え、俺か?」
その答えを考えるより早く銃火が吹き、そののち刹那にも満たない瞬間だけ、問いかけの答えを思案する。
"自分の幸せ"がどういうカタチなのかは、今もしっかりとは解っていない。やっと"人らしさ"というものを学びはじめた傭兵にとって、その全容は未だ図り知れない――それが在るのかもまだ掴めてない、そのようなもので。
ただ、自分の周りの人が――住まいを同じくするものが、共に戦うものが。一緒にいてくれる人々が幸せであればいいと、そう思いはする。
そう思うから、
「……幸せな事に、越したことはないんじゃないか」
ありきたりな言葉なようで、それでも些か、彼らしからないかもしれない言葉を口にした。
『ウィズ!そう来ねぇとなチューマ!そんじゃ引き続きシューターは任せたぜ。出来る奴に出来る事任せた方がお互い楽だろ?』
「……まぁそうなるのは解ってたよ。て言うかいつから傍受してたんだお前」
『さぁ、なんの事だか?』
強引な物言いに半ば呆れたように、それでも慣れたように返す匡と、惚けたように応じるヴィクティム。
「――ま、いいさ。じゃ、陽動は任せる」
『おう、死ぬ気で踊ってやるさ』
「馬鹿言え」
――ズダダダダダダダダダダダ!!
――ア゛ギィィィィィィィイ゛!!!!?
連続した発砲音。重なったそれが響くと同時、カウボーイを追っていた影が全て、死神の咢に平らげられた。
「――狙撃手が陽動担当死なせる訳に行かないだろ」
カシャリと一度銃を降ろし、淡々と凪の海が呟く。
『ヒュゥ!チルな仕事ぶりだな。もう一丁行っとくか?』
「任せるよ」
弾丸をリロードしつつ、凪の海は淡々と言葉を口にした。"凪の海"にできる事は殺す事だけ。他の事は大してできないが――
「出来る事は十全にこなしてみせるさ」
「結構!それじゃぁ次のビズを始めるとしようか――!!」
怪物の呻き蔓延る流氷の海岸線。
そこに冬寂と凪の海に依って、静寂が齎されていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アンチ・アンディファインド
3
あァ?
聞いてた奴ともさっきのとも違ぇじゃねぇか
まぁいい
殺すのが先か後かの違いだ
クソUDCは殺す、殺して殺して死んでも殺す!!!
手持ちの残骸をまとめて【捕食】して怪人形態へ
両腕を機械型の銃火器へ変えて、辺り一帯を【乱れ打ち】で【蹂躙】
手応えがあったら【2回攻撃】で念入りに
影の中に居ようが襲う時は出てくるんだろ
だったらどこから出ようが徹底的に潰す
クソUDCの思い通りにさせるのは気に食わねえが、一々人のことなんざ守ってられるか
要は殺す前に殺せばいいんだろうが!!
殺す、殺す殺す殺す!!
方針は殺られる前に殺る
目の届く範囲で襲われる女子供が居ればそちらを守りに入ってしまう
ウィリアム・ウォルコット
『2』
助けを呼ぶ声に悲鳴か
嫌なことを思い出す
あの時は、誰も助けてはくれなかったけれど
おっと、らしくないね
この間変な話をしたからかな
いけないいけない、ヒーローらしく仕事をしようか
影の中に潜むとは考えたね
悪いやつらしいすごい防御手段だ
だからこそ、光に弱いのは本当によくできてると思うよ
増えたところで全部射貫けばいいのさ
影を掻き消すような連射で容赦なく本体を貫いて行くよ
さぁお兄さんのレーザーを突破する魚雷はあるかな?
敵の殲滅を優先、守るのは他の猟兵に任せるよ
あぁ、でも“たまたま”敵がそばにいたからね
一般人、特に小さい子を襲おうとしてる敵は貫いちゃおう
お礼はいいよ
偶然近くにそいつがいただけなんだから
●ある反UDCの少年の場合
「――あァ?聞いてた奴ともさっき見たのとも違ぇじゃねぇか」
噛み付くように、苛立った声を出すものがいた。凍てる海から顔を出すのは、凶暴な海獣じみた人外。
その正体、アンチ・アンディファインド(Anti UnDefined Creature・f12071)が、出現した怪物たちを海から頭を出して見遣る。
海岸へと暗い海から這い出て進み行く、彼岸の怪物を称するそれら。黒い影の獣にして、人と混ざり合い絶望を味わう事を望むモノども。話に聞いた"ジャガーノート"と趣が異なるということを理解するのは早かった。そして流氷を探す傍らに見かけた、白く長いふざけた顔の付いた何某とも違う。
「――。まぁいい」
憎悪の篭る片目で、彼は怪物たちを睨み付ける。どうあれUDCは殺す。そうすると決めている。それを殺すのが少し遅くなる程度の違いしかない。
「――――クソUDCは殺す、殺して殺して死んでも殺す!!!」
哀しいまでに、怒りを孕んだ叫びだった。そうして吠えた少年は海を蹴り海面の上へと飛んで、自分の持つ"残骸"たちを纏めて宙に放りぎぱりと開けた咢を以て喰らった。
相変わらずの酷い味が口内を侵し、そしてみしりと体が軋む。めりめりと骨の砕けるような音がしたのち、"ソレ"は立っていた。
「――殺す、殺す殺す殺す殺す――」
"T・B"。UDCの残骸を取り込むことで、自身を怪人型のUDCに変ずる力。海獣機械巨獣魔獣邪神猛獣植物昆虫、遍く残骸を取り込んだアンチは、ハリウッドムービーのスクリーンにだけ居るかのような超然とした怪人と化す――!
「――殺す!!!!!」
ドウ、と音を立ててそれが海面を蹴り飛ばす。爆発するように海が爆ぜて、アンチが宙を飛び――眼下に見える怨敵に向け両腕を翳す。機械のUDCを取り込んだそれは、五指が筒状になっていた。
――ズガガガガガガガガガッッッ!!!!!
「ァ゛、ァ゛ァ゛ア゛ア゛――ッッ!?!?」
――ズザッ。
機関銃と化した両手から、銃弾を雨の如く降り注がせ彼岸の怪物をボロ屑へと変えながら、怪人が阿鼻叫喚の浜辺へと降り立った。
「――クソUDCは全部殺す!!!」
新たな殺意の嵐が、凍てる浜辺へと吹き荒れる。
●ある"セイギの味方"の場合
助けを呼ぶ声。悲鳴。聞き覚えのあるものばかりがこの浜辺に転がっている。フラッシュバックが過ぎる。
「――嫌な事を思い出すなぁ」
切迫を感じさせない声色と表情で、なんの気なしと言うように溢す彼――金髪の男、ウィリアム・ウォルコット(ブルータルジャスティス・f01303)は、その実吐いた言葉通り、あまり晴れやかな気持ちにはなれないでいた。
「……いや、あんまりらしくないか。いけないいけない」
こんな事を呟いてしまったのは、前に眼鏡の彼と"昔話"をしたからか。何にせよ、浅からぬ縁のある少年の依頼だ。一、二度と軽く頭をふるった後に、海岸に蔓延る怪物たちを見遣った。
「――それじゃ、ヒーローらしく仕事をしよう」
――ガシャリ。ウィリアムの声に応じるよう、彼の持つ拳大のガジェットが起動する。甲虫めいたそれは音を立て昆虫めいた鉄脚を出して浜辺に突き刺し、ガコンと六連装ガトリングをその内から迫り出した。
"エピタフ"――墓碑銘を意味する鋼の墓掘りが、獲物へとその銃口を向ける。
目標:黒い影の怪物達。
問おう。汝は悪也や。
「――決まってるよね、ヒトを襲っちゃうんだし」
答えなど聞くまでもない。一方的で、それでいてきっとこの場においては間違いのない断定を以てして、エピタフが唸った。
――ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!
「ァ゛ア゛!?――ア゛、ア゛ア゛ア゛ア――ッッ!?」
Merciless Justice Ray
"無慈悲なる正義の光"。正義とは時に無慈悲な暴力をも伴い成し遂げられるもの。容赦のひとかけらもない光の弾丸が、雨の如く降り注いで怪物を穿ち潰していく。そして光の濁流の後、影は元々いなかったかのように消え果ててしまった。
「……ほらね、やっぱり悪者だった」
"正義は必ず勝つ"。それがウィリアムの信条なれば、勝ち残れなかったそれは言うまでもなく悪に過ぎないのだ。
「しかし影の中に潜るなんて、悪いやつららしい防御手段だね――ま、お兄さんはやりやすいけど」
そう呟きつつ、ウィリアムは続けざまに次の標的を探してゆく。敵は影に潜む。であるならば、光を以て影ごと撃ち貫いていけばいいだけ。ウィリアムが溢す通り、光の蹂躙は影の中に潜む怪物を影ごと掻き消すようにして殲滅していく。
「この調子でやってこう……っと?」
――そしてそうしてる内、ある声を聞きつけるのだった。
●ただ、殺す為のみに闘うには
「――殺す、殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!」
両手から飛び出る弾丸で、或いは怪異のそれと変じた五体の怪力で。縦横無尽に駆け飛びつつ、アンチは怪物達を殺しで回っていた。
「ァ゛ァ゛ァ゛、ア゛ギァ゛ァ゛ァ゛――!!」
「ア゛――ア゛ギィィ!?」
怪物達も魚雷での応戦をするものの、撃つ端からアンチの弾丸がそれを撃ち抜いて吹き飛ばし、その間に怪腕がこちらへ伸び、毟るように影の身体を引き千切る。
「ひ、ひぃぃぃぃ!?」
暴虐の嵐と言うに相応しい猛威だった。
そして、近くにいた逃げ惑う一般人からすれば溜まったものではない。怪物と怪物が殺し合うのを砕けた腰で、どうにか匍匐前進で逃げてゆくのがアンチの瞳にも映った。そしてそれを助けようとは思わない。彼がすべきと思うのはUDCを殺すことのみなれば、それは必然であり当然と言えた。
「オラァどうした!!!そんなもんかクソUDCども!!なら死ね!!殺す!!」
「ァ゛、ア゛ア゛ア゛――!!!」
自分より尚怪物らしい目の前の怪人に、彼岸の化生らも慄いたように呻く。どうすればいい。こいつを倒すには力が足りない。どうすれば力が――、
「!!ッッア゛ア゛ァ゛――ッッ!!」
それが何かを閃いたと言うように、一匹の怪物が影の中に潜る。それとは別の怪物を、上顎と下顎を引き裂くようにして殺しつつ、アンチが吼える。
「アぁ?!影に潜った程度で逃げられると――――」
――アンチの言葉が途切れた。
悲鳴が二つ聞こえたからだ。幼い子供のような声と、それを必死に守るかのような女の声。
――ァ゛ァ゛ア゛ア゛――ッッ!!
そしてそれと重なるような、化物の呻き。
「――――ッッ!!!!!!」
考えるよりも早く脚が動く。砂浜を爆発させるように、怪人が悲鳴の元へと駆けてゆく。――いる。チビガキを抱く女。母親だろう。自分を喰い千切ろうとする怪物を前に身が竦んで動けず、それでも子供を庇うように抱く。
腕を伸ばす。両腕の機関銃はまだ有効射程外。もっと早く動け。走れ。届け。届け届け届け!!!!
しかし少年の祈りに反し、彼の攻撃が届くより先に、怪物は無慈悲に親子をその咢で喰い殺すだろう。アンチの救いが届くより、悪意が贄を呑むのが僅かに早い。その事実は覆りようもなく――
「――キミも悪者だ。そうだろう?」
ただ、それより先に。お約束めいて"正義の味方"が現れた。
――ズダダダダダダダダダダ!!!!!!!
「……!?ァ゛、ア゛ギガァッッ!!?」
光の嵐が怪物を打ち据えた。人が射程のすぐ側にいる為か威力は抑えてあり、それ故に怪物を殺すことはなかったが。
「ギィィ……ッ、…………? ア゛」
光の雨が止んだ中、怪物は見た。見てしまった。
緑色の、殺意が止めどなく溢れるその眼光を。
「――――――――殺す」
それまでとは違う、打って変わって静かな死刑宣告。だが先のどれよりも激しい怒りと、憎悪に満ちた両腕が。
――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!!
「ァ゛ ゜ 」
まともな断末魔を上げさせる事すらなく。千々に怪物を細かく千切り、ただの二本腕で屑肉にと変え滅殺したのだった。
「……あ、あれ……私達まだ生きてる……?」
「や、大変だったね。もう安心だ、足腰は立つかい?」
「え、あ、はい……なんとか」
よろよろと、子供を抱き抱えてどうにか母親が立つ。
「あ、あの、ありがとうございます……お陰さまで」
「ああいいよ、偶々お兄さんは通りかかっただけだから。それに……」
自分の周りを見渡しつつ、首をすくめてみせる。――側にはウィリアムとその母子以外、誰もいなかった。
「――僕だけが助けたわけじゃないしね」
――赤い怪人は、もうとうに姿を消していた。親子には夢か幻めいて見えたかもしれない、ある怪人と乱暴なセイギの味方の救済劇。ただ、怒りに燃える怪人も、残忍な正義を齎す男も。尊い命を二つ救った事は間違いようもなく、真にあった出来事なのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
詩蒲・リクロウ
『1』
どれだけ恐ろしく強大な敵を相手にしなきゃいけないのだとしても、それでも僕は傷つく誰かを見捨てたりはしたくない。
僕の力はこの為にある。
だから、もっと、もっと力を!【チキンハート・シャウト】
一人でも多く、一秒でも速く誰かを助ける為ならば、僕は僕の限界だって超えてみせる。
群がる敵を大斧でなぎ払い、それでも人々に向かう物は蹴り飛ばし、なお襲いかかるならば身を呈してでも守ってみせる。
僕一人の力じゃここにいるすべては無理でも、僕の手の届く範囲で……いや、手が届かなくても斧を投げればいい、敵を、流氷すらも砲弾にして投げつけて。なにを使ってでも守ってみせる。
僕の目の前で誰一人犠牲になどさせるものか。
ティアー・ロード
【2】
「乙女(正義)の為ならば私は傷など厭わない」
「だが、私以外の猟兵までそうでは少々困るな」
「乙女は彼らの中にもいるだから!」
今日は手足にする体も仲間もいないのでね
久しぶりにシャーマンらしく、だ
使用コードは【刻印「比翼連理」】!
デッキから盾を持った槍騎士と炎を操る魔術師を召喚し
前衛と後衛で前線に参加させるよ
「ここは寒すぎる、炎で浄化といこうか」
「来い!
ガイスト・ランサー、エンフォーサー!」
エンフォーサーは炎で敵を攻撃
ランサーには槍で攻撃させつつ前線の猟兵を守らせるよ
悔しいが私は動けない
後方で紅茶でも飲みながら戦局を見守る……ん?
「まったく、守るというなら
斧だけでなく盾くらいはもってきたまえ」
●ある若きシャーマンゴーストの場合
「ァ゛ア゛ア゛ア゛――!!!」
「ひっっえ怖い怖い怖いムリムリムリぃぃ!!!」
ぐわっと大口を開けて叫び呻くそれに全力後退ダッシュをキメんとしている猟兵が浜辺に一人。一人?人なのか?人じゃないかもしれない。なんかもさもさとしてるし変な鳥っぽい顔だし。
ネタバラシをするなら超ダッシュしてるそのもさもさはシャーマンズゴーストと呼ばれる友好的UDCの一種で、名前を詩蒲・リクロウ(見習い戦士・f02986)と言う。
「「ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛――!!×2」」
「あ゛あ゛あ゛な゛ん゛で゛増゛え゛て゛る゛ん゛で゛す゛か゛あ゛あ゛あ゛!!!?!?」
どっかのフジでドラゴンな俳優めいてシャウトしつつ、もさもさもといリクロウは全力で走る。なんたって相手が相手でだいぶシルエットが怖いしこう、あれだ。いくらUDCとは言えまだ年齢的には未成年で16歳、いつも大体一緒にいる感じのジャーマンズゴースト(鹿)に"若きジャーマンズゴースト"と呼ばれるように、大人というにはまだまだ若いリクロウ的には結構怖い。そもそも彼は小心者ゆえにあまりホラーチックな敵には免疫がないのだ。
でもその割に君のグリモアだいぶ怖くない??転送の時とか平気??えっなんで自分のシーンだけこんなコミカルなのかって?シリアスばっか書き散らして疲れたからだよ(迫真)。閑話休題。
まあとまれ三十六計逃げるに如かずと言う通り、逃走はある種最大効率の戦略だ。戦って無駄に体力を使うよりは逃げた方がいい時も当然ある。
――だが、逃げる訳にいなかいときとて無論ある。
「ぁ゛あ゛あ゛あや゛だ……、ッッッッ!!!」
ギギィッッ!!リクロウの足が急ブレーキを掛けて砂が飛び散る。
「ァ゛?……!!ァ゛ア゛ア゛――ッッ!!」
その理由を怪物達も察した。参考方向からに逃げてくる人がいる。そしてそれを追う怪物達も。つまるところ、リクロウと逃げる人とは怪物達の挟撃に晒され掛けている。それを恐れての急ブレーキだろう。
にたりと嫌らしく怪物が嗤ったような気がするのは、果たして気のせいか。
――されど、その実若きシャーマンズゴーストが止まった理由は、それらが予想したものとは違っていた。
――斬ッッッ!!!
「――ァ゛?」
下から上にかちあげられるように、怪物の首が飛んでいく。
見習い戦士のジャーマンズゴーストが、握る斧で切り飛ばしたのだ。
「――僕自身はどこまでもみっともなくてもいいんですけど」
ぎちり。丸太のようなその腕で、強く斧を握りしめつつ言う。
「人が傷つくくらいなら。どんなバケモノでどんだけ強かろうと立ち向かってやりますよ――!!」
チキンな少年の裡にある、矜恃ともいうべき彼が武器を手に取る理由。
その奮い立つ心ととも、弱い自身をも鼓舞しつつリクロウは続け様に斧を振るった。
「ァ゛ア゛ッッガギァッ!?!」
めしゃりと頭頂から地面に縫い付けるよう、鋭く重たい一撃が刺さり怪物が轟沈する。
「っ、はぁ……ッ!」
熱い息を冬の海岸にて吐き、今度は対面から向かい来る怪物と救うべき人を見る。
「……こっちです!!僕の背中に!!」
「っ、ひぃぃ!!」
「ァ゛ア゛ア゛――ッッ!!!」
悲鳴を上げつつ、追いすがる怪物ども幾匹から逃げてきた人が、言われるままにリクロウの背へと隠れる。それを見たのち、リクロウは斧を盾のように構えその人を守らんとして――
「――いやいやキミ、守るんなら盾くらい持ってこないと」
そんな呆れ混じりの呟きが、リクロウへと放たれた。
●あるヒーローマスクの場合
時間を少し巻き戻そう。
「正義の為なら私は傷を負う事も厭わない――!!」
そう堂々担架をきる、小さい影が海にあった。
ともすればフェアリーなどよりも小さいかもしれないそれは、紛れもない生命体であると同時に一介の猟兵。ヒーローマスクなるマスク型の人と共生する仮面、個体名をティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)と言った。
なお格好いい事をいってるけど正義のルビはオトメだそうです。
「だが私以外の猟兵までそうでは少々困るな」
ほほう。その心は?
「決まっている!乙女は彼らの中にもいるだから!」
アッハイ。まぁこんな感じの乙女第一主義なティアー氏なのであった。些かクセが強めな彼女……彼女?マスクに性別は……あ、あるんですねハイ。古事記と第六猟兵の設定にもそう書いてある。とまれ一癖ある猟兵の彼女は他にも一癖か二癖三癖くらいありそうなこゆい面々とチームを組んで方々で暴れてたりするけどこれは与太話。閑話休題。
とまれどうあれこうして仕事場に来たからには、彼女もまたやる事は一つなのである。則ち、人の救済こそがそれ。
「まだ見ぬ乙女を傷物にさせる訳には行かないからね――と言うわけでカモン!」
パチン、と留め具のリボンをフィンガースナップめいて振るえば、現れるのは二体の炎の化身。
「冬場で寒いからね。今回は君達の力を借りるよ――!」
冗談とも本気とも言えぬ口調で召喚したのは、炎槍幽士"ガイスト・ランサー"と炎操霊士"ガイスト・エンフォーサー"!炎操る比翼連理の勇士たちである。
召喚されたと同時、二体は空をかけてゆく。
「ひ、ぁぁぁ――!!」
「ア゛ア゛ア゛――ッ!!」
そして人を襲う彼岸の怪物の元へと降り立つと、ランサーが立ちはだかり逃げる人を守るようにすると同時、エンフォーサーが炎で怪物を焼き尽くす!
「ァ゛ッ!?ァ゛ア゛ア゛ァ゛――!?」
ごおぅ。豪炎がまるまると影の怪異を舐めて呑み尽くす。その間に速やかに、ランサーは人を誘導し流していく。見事なまで炎達の連携だった。
「いやぁお見事。しかしこの技、私は動けないから暇なのだよ……んん?」
動けないと抜かしつつ紅茶などを嗜まんとしていたティアーが、その赤いレンズに何かを認めた。
「……紅茶は後にしよう。ランサー、私を運んで。エンフォーサーは後続」
指令を守り、ランサーがティアーを掴み、目標に向け突進するかの如く進み始める。エンフォーサーもその後を追っていく。
――彼女が見たのは、見慣れたもさもさの姿。よくよく悪巧みを一緒に為す悪友染みたチームメイトが、斧を盾にするかの如く誰かを庇っている。
「――いやいやキミ、守るんなら盾くらい持ってこないと」
ランサーに流星の如き勢いで引っ張られつつ、そのまま炎槍士に一匹を貫かせる。
「ァ゛ア゛ァ゛……ッ!!?」
後続のエンフォーサーが、更にもう一匹を炎で灼いた。
「ァ゛ギィァ゛――ッ!?!」
「っ!ティアーさん!」
「ほら、私はいいから残りをさくっとよろしくね」
「ハイ!!……うぉりゃぁぁぁああッッ!!!」
裂帛の叫びととも、唐竹割に斧が振るわれた。
「ア゛……ギァァァア!!!?」
壮絶な断末魔ととも、ぱくりと怪物が真二つに割れた。そうしてその場にいた彼岸の怪物が討伐されつくされる。
「ヨシ!大丈夫だったかいキミ……ああ無事そうだね何より」
リクロウが庇ってた人の安否を確認(男だと判明した瞬間少しトーンダウンした)した後、ティアーが避難ルートを提示し、救護者は素直にそれに従って逃げていく。
「まぁ何、無事で何より。しかしこんな所で遭うとはね」
「ん、助かりました……そりゃこっちの台詞ですよ。……あ、そうそう」
「ん、なんだい?」
斧を構え直すリクロウの問いかけに、ティアーが応じる。
「盾ってんならティアーさんなれません?確かそういうユベコありましたよね?」
・・・・。
えー……とあからさまに嫌そうな沈黙のち。
「キミがバニー乙女になるなら検討しとくよ」
「えっ嫌ですよってかそれ美男子専用の奴ですよね!!?」
大丈夫スタイルいいって特徴欄に書いてあんじゃんキミ(令和2年1月22日時点)。いけるいける。
「ロリボディになるのでもいいよ?」
「どっちも嫌ですけどぉ!?!!?」
――まぁ、そんな漫才めいたやりとりをしつつ。悪巧みの二人が怪物たちを討つ為に、冬の浜辺を行くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フェルト・フィルファーデン
『1』
させないわ。ええ、そのためにここへ来たのだもの。……絶対に誰1人、死なせはしないんだから。
まずはUCで作り出した炎の壁の3/4を敵の進行方向に幾重にも突き立て即席のバリケードを作るの。人々を護りつつ逃げる時間を稼ぎあわよくば炎の光で影が弱まる事を祈るわ。
逃げ遅れた人がいれば助けに向かい、残りの炎の壁と騎士人形達で護り早く逃げるよう促すわ。
どうしても逃げられないなら、笑顔で励まし【鼓舞】しながら助けが来るまで護りきる。「大丈夫よ!もうすぐ無事に帰れるわ!」
……わたしの体躯じゃ、抱えて逃げる事もままならないものね。
ふふっ……わたし、諦めがとっても悪いの!……最後まで、絶対に諦めるものですか。
壇・骸
『1』
ようやくお出ましか。
細々と調べるのは不得手なんでな、ここからは分かりやすくて助かるさ。
てめえが『ジャガーノート』か?まあ、どちらでもいい。
遍く全て、ここから先は通行止めだ。
数だけが多いのが厄介だな。おまけに標的が分からねえと来た。
まあ、やる事は単純だ。標的を作り出してやればいい。
……別に身を挺してでもってわけじゃねえ、これが最も効率がいい。
こっちだ、獣共。血の匂いに惹かれて来い。
肉を切らせてーーだったか。
肉でも、骨でも、血でも、くれてやる。贄が欲しいんだろう?
代償は、頂くがな【生命力吸収】
喰らわれるのは、この屍一体で十分だ。
燃え尽き滅べ。この向こうは、てめえらが存在していい場所じゃねえ。
●ある人形繰りの妖精の場合
「ア゛ァ゛ァ゛――!!」
「う、うわぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁあ!!」
黒い化生、彼岸の怪物たちが続々と浜辺へ押し寄せ、そして贄を貪ろうとしている。悍しい化物が無辜の民を害そうとしているのを、とある小さな姫君がその両の眼で見ていた。
「――させないわ」
人の身の凡そ六分の一の、いと小さきその姿。されどそのうちに確固たる決心と堅い意志を秘め、フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)が宙を舞いつつ術式を展開し始める。
最初のブリーフィングにて眼鏡のグリモア猟兵は"一般人が襲われるだろう"と言った。それを聴いた時から、フェルトは必ず人々を守ってみせると、そう心に堅く誓っていた。
「そのためにここへ来たのだもの。……絶対に誰一人、死なせはしないんだから!」
そして彼女は完成した術式を、彼岸の怪物と人々との間へと放つ――!
「ひ、助け……っ」
「ァ゛ア゛ァ゛ア゛――ッッ!!」
――ヒュボオオオオッ!!!!
「……!?ァ゛ギァ゛ッ!!?」
突き刺さるように、無数の炎の柱が現れ燃え盛り、柵状に突き立って炎の壁と化す。
"Firewall-protection"。電脳魔術で作られし炎の防壁。それは人と怪物との間を遮るバリケードめいて、襲われた人々を守ってみせた。
「今よ!早く逃げて!」
「へ、えっ……あっいや、わかったありがとう!!」
予期せぬ逃走勧告に一拍驚きつつも、すぐに自分がするべき事を察した人が、フェルトの声に応じるように逃げていく。
「ァ゛ィ゛ァ゛ア゛ァ゛……ッッ!!!」
忌々しげに呻くのは怪物達。炎が影の身体を照らしじりじりと焦がす不快感からか、それらはフェルトを睨みつける。
「あら、ごめんなさいね。……でも生憎、アナタ達の望み通りにしてあげるつもりはないわ」
――ズラリ。
元々海岸線に配備していた人形騎士たちも招聘しつつ、それに自分を護らせるようにしながらフェルトは逞しくも言ってみせ――そののち妖精姫は怪物達には目もくれず、次の救うべき人の元へと飛び去ってゆく。
「!?――ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア――!!!」
逃げるそれを見て、獣の本能に突き動かされるように怪物達が追いすがる。或いは彼女のいる先に、贄とすべき人がいる事を察してか。だが追いかけてくる獣どもに構う暇などフェルトにはない。彼女が己の使命とするのは敵を破ることではなく、人を救うこと故に。
怪物に後を追われながらも、それを人形と炎の壁を遣いながら怪物の行手を防ぎ、或いは人の逃げ道を守って、フェルトは人々を次々と救っていく。そして逃した人の数に比例するように、フェルトを追う怪物達もまた増えていった。
「目につく人は助けおわったかしら……!」
兵士人形を随伴させつつ、フェルトは背後を見つつ呟く。既に十や二十では効かない怪物達が追走してきている――が、さして問題はない。彼女だけならば、空にでも逃げてしまえばそれで怪物たちは追ってこれない。そしてそろそろ自分も逃げる頃合いだろう。
―――――そう思った矢先だった。
――ァ゛ア゛ァ゛ア゛……
――ぅ、うぇぇ……ん
「――っ!?」
鳴き声。子供。呻きも。何処から?
「――あそこッ!!」
鋭角に空を曲がって、声のした方へとフェルトは向かう。其処は三方を岩に囲まれた、小さな洞穴じみた隙間。その中へ、彼岸の怪物が口先から伸びる影の舌を差し向けんとしていた。悲鳴と嗚咽が一層大きく聞こえる。
「――兵士達よっっ!!!!」
そしてその影の舌が子供と捕えるより早く、姫の号令に応じた人形達が勇敢な騎士の如く突進し、怪物を吹き飛ばす。
「ァ゛ギャッッ!?!」
「いやぁぁあぁっ……ぁ、……ふぇ」
「……っ!もう大丈夫、助けに来たわ……!」
怪物を押しのけて隙間の中へと入り、フェルトはまず悲鳴の主が無事だった事に安堵の息を漏らした。
いたのはまだ齢にして五つにも届くかどうかというくらいの小さな女の子。恐らく親とはぐれたのだろう。
「……怖かったわね。でももう大丈夫……」
「ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ッッ!!!!!」
「――っ!」
「……っ!?ひっ、いや……」
ガリ、ガリガリガリ!!!
追い縋ってきた怪物達が、怒りを露わにしつつ隙間の入り口を爪で掻いている。それに慄き、女の子は縮み上がるようにしてギュッと目を瞑る。
子供が夜に見る悪夢より恐ろしい光景が目の前には広がっていた。それもこんな子供だ、怖いのは当然と言えよう。
それでもフェルトは気丈に、そして優しいお姫様のような笑顔を浮かべ、女の子を励ます。その小さく嫋やかな手を、女の子の頬へと差しのべながら。
「…… 大丈夫よ。もうすぐ、無事に帰れるわ」
「……ふ、ぁぇ?」
もし自分が彼女を抱えて飛び去れる程に、大きければ。――そんな悔しさを心の片隅で感じていようと。
炎の防壁で入り口を護り、隙間の中を照らす事で影を消して、影獣の内からの侵入を阻みつつ――背にするその炎の熱で、身体中から汗が流れようと。
それらの苦しみをひとかけらも表に出さず。少女の頬から流れる大粒の涙を拭いながら、妖精の姫は花のように笑ってみせた。
「ね?もうすぐ格好いい騎士様がやってきて、助けてくれるから……それまでの辛抱よ」
そんな笑顔を見てか、女の子も目をごしごしと拭って、一度こくりと頷く。
「……良い子ね。……ありがとう」
こんな追い詰められた果てでも、自分の言葉を信じてくれて。
そう思うからこそ、フェルトの心に諦めてたまるかと言う気持ちが一層強く燃える。
絶対に、諦めなどするものか。
「――――おい。こっちだ獣ども」
そして、奇しくも姫の言った言葉の通り。"騎士"が姫と無辜の子とを救いに現れる。
●ある骸騎士の場合
「ア゛ア゛ア゛――」
「――、漸くお出ましか」
蜘蛛か蟻の如く、わらわらと彼岸の怪物達が影から這い出てくるのを見遣る一人の男がいた。
淡々と吐かれた言葉は彼が最初から翡岸の浜辺にいた事を示している。とは言え、特段捜査を手伝うような事はしなかったが。
別にそれは面倒だった、などという怠惰な理由からではない。ただ何処かの傭兵と同じく、彼もまた自分がそう言った事を得意でないと――"向いてない"と思うが故。
そして行動を始めたという事は則ち、今この時からは彼の領分であるという事を示してもいる。
「――ここからは、わかりやすくて助かる」
首をごきりと鳴らし、その男――壇・骸(黒鉄・f17013)は足を進めていく。向かう先は無論、彼岸と混ざりゆく過程にある浜辺。そのうち更に悲鳴と叫びと、そして獣どもの声の煩い方。
やがて逃げる人が、此方に向かって駆けてくるのが見える。それを追う怪物も。
「ひ、ぁぁぁああ!!!」
「ア゛ァ゛ア゛ア゛――!!」
「――――おい、お前」
逃げる人はそのまま駆けさせ、その後ろに続く怪物へと声を掛ける。訝る怪物はと言えば、ア゛?と短く声を発したのち、邪魔だとばかりに顎門を開き骸に食いかかろうとして――、
――めき゛ゃぁッッッ!!!
「ア゛ガッッ!?」
「――――お前が"ジャガーノート"か?」
衝突音。鈍く重い音が響くと同時、籠手を嵌めた骸が問いかけを放つ。
行われたのはただ、ただ只管に単純な暴力。すれ違いざまのクロスカウンターめいた拳は、しかしダンプカーが衝突したかのような衝撃を怪物の顎にぶちかまし、それを真上に弾き飛ばして轟沈させる。
「まぁ、別にそうでも違ってもどうでもいい」
聴きはしたものの、特段答えは求めていない。目の前のコレがそうであれそうでなかれ、やる事は変わらないのだから。ア゛ガギギと唸る怪物と、警戒するように自分を取り囲むようにする怪物の仲間たちを一瞥だけして。
「そうだ、それでいい。丁度良かった」
もう下準備はいいだろうとばかり言い放った後。彼は一本のナイフを取り出して、なんら躊躇う事もなく自らの腕を裂き傷つけた。ぶしゅぅ、と間欠泉めいて骸の血が飛び散る。
「ア゛、ア゛ア゛……ッ?!?」
飛沫は幾匹かの怪物にとて届く。
不可解な骸の行動に警戒心を抱きつつ、しかし溢れる血の香りに何処か昂るような呻きを漏らす怪物達。
――そうしてそれらが昂ったのも、ほんの束の間の話だった。業、と音立てて血が燃える。赫々と赤き焔の色が骸の揺らぎ――そして、骸の血を僅かにでも浴びた怪物までもが轟々と燃え盛る。
「ア゛ギァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛――ッッ!!!?!?」
「ア゛ァ゛ッッ!?!ア゛、ア゛ギィィィ゛!?!」
焔は燃え移り、燃え移った焔がまた他へと燃え盛る。伝染するように焔は広がり、怪物達を害する。
陸式"業"。そう彼が呼ぶ呪炎の血は、化物を燃やす為に野火のように広がってゆく。
「これだけ目立ちゃあ充分だろう。……ほら、どうした、来いよ。贄が欲しいんだろ?」
燃え燻る手で掛かってこい、と骸が彼岸の怪物を誘う。仲間が燃える断末魔に囲まれつつ、苛立たしげな怪物が数匹、骸へと殺到する――!炎がどうした、ならば此方を焼き尽くす前に裂き食い殺すまで。そう勇んだ怪物どもが、爪と牙とで骸を千切り尽くさんとして。果たして怪物が望んだままに、それは確かに骸の身へと突き刺さった。
「……それを待ってた」
「………………ァ゛ァ゛?」
だが、亡骸の男は斃れない。
ごぽり。腹に風穴を開けられ、首に牙が食い込む骸が、どろりと黒い血を流す。
――血?否、断じて違う。
それは泥。血のように溢れるそれが骸の身を伝っていき、やがてそれは堅く硬化し始める。黒い泥は骸の遍く全身を覆い、鋼と紛うばかりの硬度と装いを手にし――それは漆黒の騎士とも言えるだろう威容になる。
「ア゛、ァ゛……!?ァ゛ 」
くしゃり。
噛み付いた相手の急激な異変に動揺した怪物の、その頭をただただ単純に握り潰す。紙屑の如く手の内で歪に丸く纏められた怪物が断末魔を発するよりも早く、骸の籠手がそれの命を吸い尽くした。
"禍"と彼が呼ぶその籠手が不気味に光り、味わう命の甘露に悦ぶかのように軋る。それを気に留める事もなく、続けざまに剛腕を振るい怪物を引き千切り、或いは未だ燃え盛る呪炎で影獣を灼く。
「ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛――ッッ!?!」
泥の騎士の苛烈な剛腕魔炎に彼岸の怪物たちはなす術もなく打ち倒される。焦げ臭い匂いが辺りを包み、奪った命が自分の身体を修復していくのを、骸は感じつつ。
「――次だ」
亡骸は、次の戦地へと足を向ける。
傷を負おうと、肉と骨と血とを食まれようと、それがする事はなんら変わりはしない。
人にも獣にもなれない、生きも死にもしない"生ける屍"。上手く生きる器用さなんてものは凡そない。が、死に損ないには死に損ないなりにできる事があるとは思っている。
この怪物どもが贄を狙うなら、自分がその贄の役を買って出る。血と肉とがそれを引き寄せるなら、進んで血を流す。
喰われ噛み砕かれるものが要るというなら、それはこの屍一つだけでいい。骸の騎士はそう信じる。
愚直なまでの騎士の歩みは、足の向くままに進む先にいる怪物どもを灼滅しあるいは轢殺し、――そうして一際大きい悲鳴と呻きの元へと辿り着いた。
「――――おい。こっちだ獣ども」
「――ア゛?ア゛」
ごしゃぁん。
「ァ゛ビ゜ュッ」
間の抜けた最期の一言ととも、怪物が一匹潰された。続けざまに振るう拳が無造作に、そして呆れる程の剛力と呪いの炎を以て次々に怪物を屠ってゆく。
岩場にいた彼岸の怪物どもが、一匹、また一匹とその数を減らしてゆく。
「ア゛、ァ゛ァ゛ァ゛――!!」
いつの間にか獲物を追う側が、追われ屠られる側になっている。拙いと思った影のモノ共が、逃走せんと影の中に潜もうとし――
「あら、今さら逃げるなんてさせないわよ――!」
――ゴォォォォォウ!!!
「ァ゛ァ゛!?」
泥の騎士が振るう炎とは別の、炎の壁が燃え盛り囲うように怪物たちを包む。四方八方からの炎の包囲網は怪物を照らし、それ故に潜る筈の影は消え。
「――――尽きろ」
「ア゛、ア゛――ッ!?」
そして骸の言葉と共に放たれた呪火を以て、怪物達が塵へと還っていった。
「――――、一先ず終いか」
どろり、黒泥の鎧を一部解き、顔を覗かせつつ骸が零す。そこへひらひらと、焔の壁を放ち怪物達を押し留めたフェルトがやって来て礼を述べようとした。
「――有難う、助かったわ!なんて御礼を言ったらいいか……」
「いらねぇ。それよりガキがいんだろ、さっさと逃がして来い」
ぴしゃり。丁寧な妖精姫の言葉に反し、亡骸の男はどこまでも不器用でぶっきらぼうな返事をつっけんどんに返す。
「……あら。えぇ、それもそうね。……さ、こっちよ!」
兵士人形で手をひくようにしながら、フェルトは幼子を連れ出し。
最後に振り向きざま。
「――有難う、騎士さま!この御礼はまたどこかで!」
笑顔とともにそう言って、子供を連れて去ってゆくのだった。
「――――チッ」
寒空の、淡翡の氷漂う海岸線に、泥騎士の小さな舌打ちが響く。
――仕草は荒んだものであれ。泥の騎士の、その胸の裡に灯るは人肌に似た温度の、存外温かみのあるものだったかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
斬幸・夢人
アレンジ大歓迎です
敵が強敵であればあるほど3
敵がさほど脅威を感じない、または攻撃の意思が弱いほど2
おー、おー、こりゃまた大物だな
周囲に猟兵でない民間人がいる場合は、蹴飛ばす投げ飛ばすなどでなるべく早く遠くに無理やり離脱させる
もしいるのなら力なき猟兵も含めて
救う気持ちはあるが、そこは結局命あっての物種、丁寧さまで要求される筋合いはない……、という考え
使用するUCは「神さえも覆せない確実」
人だろうが鬼だろうが神だろうが悪魔だろうが――斬れぬものなし
必中即死超射程の魔剣、即ち――
悪いがお呼びじゃないぜ、邪神さんよ
海の底が飽きたなら次はそこらへんで寝てな
すぐに、テメェも過去に返してやるよ
夷洞・みさき
『2』
彼岸の船、か。
残念だけど、そちらに沈んだのなら此岸に仇為す事は咎なんだよ。
本当は艦戦と征きたい所だけど、ここは皆を護るとしようか。
僕等にはどれだけでも撃つといいよ。
この船は君達と同じ、彼岸の船。
ただ、船員全ては咎人殺しなだけだけどね。
沈んでも牽引して骸の海まで牽引してあげるから安心すると良いよ。
それに、僕だって波打ち際に泳ぐ身だしね。
【POW】
敵船と人のいる岸の間に【UC船】を顕現。
盾としつつ、船員達による潜望鏡捜索。
見つけ次第、砲撃を行い、攻撃行動を牽制する。
また、一般人に攻撃させないために挑発的、誘導的に海を征く。
白兵戦を望む人がいるなら送るけど、乗っていくかい?
●ある七人岬の場合
「彼岸の船、か」
静かな呟きが寒さに満ちたこの海岸に、淡雪めいてぽつりと落ちた。あたり一帯は骸の海より来たるものどもの手により阿鼻叫喚の地獄めき、救いを求む声がそこかしこで聞こえる。
そんな中を、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が慌てるそぶりも見せずに歩いてゆく。海原の方には、罅の入り割れ砕け、そこから黒い影を生み落とす化生が見える。あれが"彼岸の怪物"。あそこに見えるのが、彼岸。
「……残念だけど、そちらに沈んだのなら。此岸に手を伸ばす事は咎なんだよ」
咎を禊ぐ為に此岸に在る女は、そう言って対岸にある影の首魁を見遣る。それは或いは"彼岸"を称するものを見ての、郷愁にも似たものを込めた眼差しだったろうか。それとも或いは、呻く巨大な影をみて何かを理解して――――。――いや、何れも詮無き事。
その言葉の意がどうであれ、みさきは一度黙祷のように目を閉じた後、また目を開け耳を澄ます。悲鳴だ。生きし人らの救い求む声。ならば己がするのは決まってる。
「―― 帆を張れ、郷愁の風を背負って」
羅針盤よ、憧憬の彼方を示せ。舵輪に祈願を託し、いざ征こう、あの彼岸の海原へ。祝詞めいた船出の言葉によせられるよう、何かがみさきのもとへとやってくる。
――ご、ご、ご。
軋り鳴くような音ととも、現れたのは朽ちたガレオン船。
「――抜錨せよ」
船名は"涸れた波"号。涼しげで淡く、それでいて何処か厳かなみさきの声以て、巨大なそれが宙を泳ぎ征く。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛―――……!!!」
無論それを見逃す怪物達でもない。ぼこりと身体を膨らませた後、その内から影で出来た魚雷の弾達が、ガレオン船目掛けて飛んでいく。
――ズ、どぉぉん!!!
古び朽ちたガレオン船は、お世辞にも耐久性に優れるとは言えない。何発か魚雷を貰えば、それは海の底へと沈んでしまうだろう。
「ァ゛ア゛ァ゛ア゛……!!」
魚雷を浴び、炎をその土手っ腹から吹くガレオン船を見てか、怪物達は喜び勇んだ呻きを発する。――愚かしき軽率さだった。
――ずどおおぉおおんッッ!!!
「――!?ァ゛ギァ゛ア゛ア゛!!?」
声を発した怪物のもとへ、ガレオン船の古めかしいキャノン砲が火を吹いた。海に潜んでいた怪物達も、また潜望鏡でガレオン船を見つめていた者どもも、平く火が飲む。船に乗る咎削ぎの船員は骸であれど生前と同じ仕事振りを見せ、素早く敵を捉えては撃ってゆく。そして。
――じゃら、ぎちり。
「ァ゛ギッッ……!?」
火砲の当たった相手を、骸の混ざった骨の如き鎖が繋ぎとめていた。
なんだこれは、と怪物達が唸る。十を悠に超えてその倍、さらにその倍。無数の怪物達を船へと繋ぎとめるその鎖は、化生らを此岸へと送らせてはやらぬとばかりに鎖を引き、彼岸の方へと向かっていく。
「ァ゛ア゛ア゛――!?ァ゛、ア゛ア゛ッッ!!!」
幾十を越える怪物たちを繋いでなお、それが力負けする事はなかった。まともに抵抗すらさせずに船は彼岸へ向かっていく。
ならばその不気味なその鎖で"私達"を繋ぐ船を、早々に沈めてくれる。怪物の身体から飛び交う魚雷の数を一層増やし、そしてガレオン船に当たり爆炎を上げる。
――お゛ォ゛オ゛ぉ゛ォ゛ぉ…………
ぎしり、ぎしりと軋りつつも、魚雷の猛威に耐えかね崩れ、ゆっくりと沈んでいく。
「ア゛ァ゛――!!……ア゛?――――ァ゛、ァ゛ア゛ッッッ!!!!?」
勝利を信じそれが喜色含む呻きをあげ――しかし、それもほんの僅かな間だけだった。船はただ沈んでいく訳ではない。鎖で自分達を繋いだままに死の旅路へ道連れにしようとしている事を、怪物たちは遅巻きに察して呻き声を上げる。
ずるり、ずるり。刻一刻、船が崩れ行くのと合わせるように、海の中へと朽ちた船が進んでいく――いや、それは海の中へなどではない。船首の先は氷の海を掻き分け、暗く淀んだおどろおどろしい海の中へと向かってゆく。
――朽ちた船が沈み行くのは"骸の海"。その先へと、道連れの如く怪物達を繋いだままに沈没していく――!
「ァ゛、ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛――――!?!」
救いを求めるが如き呻きを怪物どもが上げるが、最早無意味。
――ぱき。ざぷり。……ざ、ぁぁああん……
流氷を砕き、水音を立て溺れるように船は沈んでいく。
とぷん、と音立てて船と怪物とが心中を終え、やがて骸の海へと繋がってた水面も閉ざされて、唯の流氷漂う海辺がまた戻ってくる。
そうして流氷の上へと着地し、みさきは静かに呟いた。
「……一応、必要分の仕事はしたかな?僕はとりあえず此処まで」
そして一緒にいたもう一人を見て、もう一言。
「……船頭は務めた。あとの怪物退治は君に任せるよ」
「――――おう。大船に乗った気でいな」
口に煙草を咥えたまま紫煙を吐いて、灰髪の男が言う。
●ある刹那主義者の場合
彼岸の怪物は痺れを切らしていた。
いつまで経っても贄の一人も殺せていない。悲鳴は聞こえど嘗て聴いた狂った協奏には遠く及ばない。満足など到底出来はしない。まだ、まだだ。もっと混ざり合いたい、その絶望と悲鳴と一つになりたい。
、、、、、、、、、
また一緒になりたい。
何がこの影たる身をそう突き動かすのか。その理由は分からぬまま、或いは考えもせぬまま。ただ彼岸の怪物はそうありたいと、そうすべきと願い想い、そしてそれを具象せんとする。
――だからそれは、ぱきりと氷の殻を破って海の上へと顔を出す。
産み出した子機とも言うべき小型艦とも、影を分け裂き創り出した分身体とも違う、黒き威容の影の太守艦。"彼岸の怪物"の本体とも言うべきもの。
「ア゛ ァ゛ ア゛ ――」
尖兵とも言うべき分身どもを浜辺に上陸させる傍ら、流氷の下にあった影を己の身へと拠り集め、闇の帳を鎧の如く纏って築き上げた、巨大な姿が鈍く吠える。今まで上陸したどれよりも巨大な威容は、あまり猶予のない怪物としての寿命すら削り、突貫で築き上げたもの。それは正しく戦艦とも言うべき巨大さだった。
ゴ ゴ ゴ ……。
軋る氷を掻き分け、それが進み出す。この馬鹿げた大きさだ、陸に上がればただそれが這い進むだけで海岸線を臨む街並みを毀し、人々の命も摘み取るだろう。
――チリン。
「――おぉ、おぉ。こりゃあまた大物だな」
その大いなるモノを前に、立ちはだかる男が一人。連れ添いの代わりとするのは、小さき鈴の音ただ一つ。
「ア゛ ア゛ …… ?」
訝しむように呻く影の太守艦に構う事なく、それは飄々と立っていた。灰髪の、黒纏い紫煙燻らす男の名前を斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)と言う。
怪物から見れば、氷の上に立つソレは何とも矮小な存在だ。人が蟻を見下ろす時の如き心持ちで、影の戦艦は夢人の事を見ていたろう。そしてその不躾な睥睨を夢人は特段気にする事もなく。吸っていた煙草の灰をトンと落として、なんの気無しに呟いた。
「こっちにゃ大して興味なさそうだな。ま、別にいいぜ」
そうして尽きた煙草を捨てた後で、腰に帯びた黒い刀の柄へと無造作に手を伸ばす。
「――俺はどうあれ屠るだけだ」
言葉を皮切りに、夢人のその目と纏う空気とに鋭さが増す。冬の海辺の空気が凍てつくように一層冷えてゆく。
「―― !ア゛ ア゛ ア゛ ―― !!」
太守もその変異を察したようにして、身震いを起こす。ごぽりと影が湧き立ち出ずるは、それらの尖兵とも言うべき小型艦。――ただ太守が産んだそれは、全てが鯨や鯱とも紛う大きさであり。それがさらにぼこりと体を膨れさせ、魚雷の群れを発射せんとした。
人一人に差し向けるには、あまりに過剰な脅威の嵩と数。
そうであれ、灰の男がする事はなんら変わらない。迫る猛威を前に男は唯、黒刀の柄を握り泰然と構え――。
"チリン"。
鈴の音の音めいたものが、重なるように氷の上に響く。
「―― ア゛ …… ?」
音の正体を、怪物は掴めずにいた。それが何をしたのかもわからず――その真相に気付く前、魚雷と小型艦達とがずるりと"斬れた"。
「ア゛ …… ッ! ?」
訳のわからない事象に、それは慄きと共に呻く。一体何が。――そう思うよりも早く、それの体にもずるりと"ズレる"感覚が奔った。
「ア゛ 、ア゛ ア゛ ……ッ ! ! ?」
「何されたかもわかんねぇか?……ま、それも仕方ないさ」
構えを解きつつ、うっそりと夢人が言う。した事と言えば、唯鞘から刀を抜き再び納めただけの話。つまる話は、"居合抜き"をしただけの事で、鈴の音と重なった鍔鳴りの音がそれが為された事の証左。
「ともあれお前はお呼びじゃねぇんでな。後はその辺で寝ててくれ」
あり得ぬ、と影の太守は思ったろう。黒い刀は唯色が墨のように黒いだけで、それ以外は何の変哲もない唯の刃だ。
だがそれがどうした。握る刀の長さや彼我の間合いや斬るモノの姿貌など、夢人にとっては問題にもならない。その一閃は魚雷を斬り小型艦を裂き、影の太守をすらも真二つに両断する。ただそれが、そう云うものであるが故に。
「ァ゛ 、ァ゛ ア゛ ア゛ …… ッ ッ ! ! !」
人も鬼も悪魔も――それを凌駕するものすらも、彼が振るう命刈の刃の前にはあまりに無為。
それは神すら覆せない、神越の剣閃。
「……つっても、もう聞こえちゃいねぇか?」
ずるり崩れ落ちる彼岸の怪物に背を向け、夢人が一仕事終えた後の一服と共に吐く。
ちりんと鳴る鈴の音は、斬り伏せられたそれへの憐憫にも似た音色をしていた――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●SIGHT:"MONSTER OF LIMBO"――/"F■■■■■"
身体が二つに割れた。
全き無慈悲なる死がこの身に襲い掛かった事を理解する。
混ざり合った魂のうち、半分が死に絶えた事を直感的に"私達"は――否、"私"は理解する。
いや、そも、"私"とはなんだ。思い出せない。霞みかかったように何もかもが曖昧だった。――だが、それでもこの身を突き動かすものがある。
そうあれと。
そうあるべきだと。
、、、、、、、、
一緒になるべきだ、と魂が叫ぶ。
ああ、だからまだ。まだ死ねない――!!
「……ア゛ 、ア゛ア゛ア゛ア゛――――!!!」
だから、割れた身体をどうにか繋ぎとめ、縫い合わせ。一度死を味わってもなお、食い下がるように。
対岸に――"此岸"に焦がれるように、目の前に映る、冬の砂浜へと向かってゆく。
.
リア・ファル
1
アドリブ共闘歓迎
WIZ
彼岸の船よ
誰かの明日を阻むというのなら、容赦はしない
『イルダーナ』で現場を周り、人々を助けて廻る
(空中戦、救助活動、かばう)
続ける度に、ボクの中に、終わりにしよう、
敵船を落とさねば止められぬという気持ちが生じる
「…ヌァザ、次元探査(ディメンジョンサーチ)!」
足下の多元空間に『ヌァザ』を突き立て、潜む敵を探知
(情報収集、追跡、ハッキング、失せ物探し)
「そのまま虚数空間へ接続(アクセス)、資金リソース投入。
ティル・ナ・ノーグ、ミサイルハッチ開け。対象、群狼型潜影艦」
UC【無限の流星群】で、魚雷迎撃と本体攻撃を敢行する!
(誘導弾、範囲攻撃)
「飢えず、静かに、骸の海で眠れ」
ヌル・リリファ
3
アドリブ連携歓迎です
ひかりの武器を生成。
ひとをねらってたら、そこに武器のひとつをとばして影をはらうことで阻止。
……わたしからみえる、武器がとどく場所がわたしのてのとどく場所。仕事でもあるし、敵の強化をゆるすつもりもないから。てをのばせばたすけられる場所にいるひとはたすけるよ。
でも、わざわざ敵からめをそらして、どこにいるのかわからないひとをさがして。
てをとどかせることを優先させるほどは、わたしはこのばにいたひとたちのいのちに興味はないかな。
あとはのこった武器でかげの潜水艦をこわしていく。
敵は、殺す。それがわたしのやるべきこと。
むくろのうみまでのみちならてらしてあげるから。まっすぐもどりなよ。
●ある三界の魔術師の場合
「……ア゛ 、ア゛ア゛ア゛ア゛――――!!!」
「……ッ!まだ倒れない……!」
電脳の肉体もつ乙女、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)が空の上で呟く。
イルダーナと彼女が名付けた制宙高速戦闘機で冬の海岸の上を飛びつつ、彼岸の怪物が浜辺へと打ち上げたその分身体、それに襲われそうな人を空中から素早く駆けつける。空には影と呼ぶべきものがない。イルダーナの影は地へは落ちれど、そこから空とへは、怪物達の牙は届きようがない。唯一の脅威は空さえも飛び交う魚雷の群れだが、それも頼れる仲間が防ぎきってくれている。
「――さ、早く逃げて!」
「あ、あぁ!ありがとう不思議な姉ちゃん!」
そうしてまた一人、要救護者を安全圏へと逃がし終わる。概ね今自分達の周りにいる要救護者は助け終わったらしい。それを認めたのち、彼女の桃色の瞳が迫りくるとある脅威を見つめる。
"彼岸の怪物"、その首魁とも言うべきもの。それが一人の猟兵に斬られ、それでも拙くも命を繋ぎとめ、尚も人々のまだ残る岸辺へと向かってくる。今度は警戒心を以てか、海の中、氷の影へと潜っての接近。ダメージを負った為か侵攻速度は先よりも遅いが、それでも遠からずこの岸辺へと足を着けるだろう。
「――させはしない!」
確固たる決意の元、彼女はそうはっきりと言う。
あれを終わらせなければならない。そう心の中の何かが叫ぶ。きっとそう叫ぶのは、彼女が人と寄り添い共にあらんとする"隣人"だから。人と一緒にいる事を尊ぶから――"混ざり合う"という獣欲のもと、人に害をなすそれを許すことはできないと思うからこそ。リア・ファルという電脳の魔術師は、それを討たねばならないと強く思う。
「掃討、完了したよ。……ほかのてつだい、いるよね?」
そしてそこへ、一つの声が掛かる。彼女にとっては、それは度々聞いたことのある声であり、そして今回も互いを助け合う頼れる仲間。
「……ええ、お願い、ヌルさん」
●ある未完の人形の場合
光の雨が――正確には、刃の形を為す数多の光の武器達が、無数に飛んで浜辺に上陸している怪物達を薙ぎ払っていく。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛――ッッ!!?」
「撃破。……つぎ」
ヴンッッ。
声に応じるように、形なき光の武具たちがずらりと並ぶ。発射待機状態になり滞空したのち、タクトの如く振られる少女の―― ヌル・リリファ(未完成の魔導人形・f05378)の指に誘われるよう、それは空気を裂いて飛んでいく。
「ァ゛ギァ゛ア゛……ッッ!?」
「ア゛ア゛ア゛……ッッ!!」
「……撃破。……魚雷群も対消滅完了」
淡々と、処置めいて討伐と迎撃が進んでいく。何せ相性は頗る良い。敵は影。此方が操るのは光の武器。守る事など許さずに此方は敵の身体を引き裂き、地に落ちる影すら照らす事で消すことが叶う。空を飛び交い要救護者を助けていくコンビ相手のリア目掛け飛ぶ魚雷も、"死斬光雨"の光刃一つを放ち易々と相殺していく。
「――発射」
ビュオッッ!!
「――ア゛ギァ゛ァ゛ァ゛――ッッ!!」
ヌルの命に従って、また光の雨が散り散りに飛んで影の怪物を抉り抜く。
見える範囲は彼女の光の届くうち。そも天の眼を持つ彼女にとって、この海岸線全てを見渡せるのであれば、それはこの海岸線の遍くところに手が届くという意味でもある。ただ、それをするには天眼を敵以外に向ける必要があり、そしてそこまでして人を救おうと思うほどに、ヌルは見知らぬ人に入れ込みはしない。
故に今はリアの活動範囲に絞り光雨を穿ち、その救護活動を支援していた。ヌルが敵を討ち、その間にリアが人々を助かる分業体制。そして今の一撃で怪物も、影すらも残す事なく掃討が終わった。それを伝える為、不可視のオーラを纏って彼女は飛ぶ。
「掃討、完了したよ。……ほかのてつだい、いるよね?」
確信めいてヌルは言った。彼女との共闘歴は存外長い。人形故に人間味は薄く、人形故に人の気持ちや感情というものには、人ほどにら解さない彼女でも。経験からして、リアが何を求めるかは察する事が叶った。
「……ええ、お願い。……あれを撃とうと思うんだ」
「――かげの怪物を?」
こくり、頷くリアをヌルは水晶のような瞳で見る。
「――わかった、援護する。なにをしたらいい?」
「ありがと。……僕に合わせて貰えたら、それでいい」
今度はヌルが、静かにこくりと頷く。それを見てからリアが己のデバイスに向け指令を投げ掛けた。
ディメンジョンサーチ
「――ヌァザ、次元探査!」
足下の多元空間に"ヌァザ"を突き立てる。普段は銀虎猫型のキャラクターはその実、電脳魔術製の多次元デバイス。魔剣の形をしたそれが、次元を切り分け進み"彼岸の怪物"の正確な所在を暴く。もはやそれが影へと隠れていようと、次元すら切り拓くデバイスの前では関係ない。
アクセス
「ヒット。虚数空間へ接続、資金リソース投入」
言葉と共、ヌァザが己を鍵とするが如く、異次元への門戸を繋ぐ。接続された先から轟音を上げ飛び立つ準備を始めるのは、機動戦艦が有する無限増殖ミサイル、それの発射口。
「ティル・ナ・ノーグ、ミサイルハッチ開け――!」
ガゴン、とその顎門が開き、照準を定める。
ヒガンノカイブツ
対象、"群狼型潜影艦"。
発射準備を終えたリアに合わせるよう、ヌルもまた詠唱を始める。
「―― かけゆく閃光は暗翳をけしさり、」
――ヴンッッッ!!
それは百を優に超え、二百を越し、三百集いし光の剣雨達。
「乱立するひかりはうせたのぞみをてらす」
彼岸の怪物という絶望を祓う為の光が、此処に揃う。
「行こう、ヌルさんっ!!発射よーい……!」
「うん、リアさん。……天眼捕捉完了。照準よし……」
――射て、という二人の声が重なり、ミサイルと光の武器が空を駆け、黒く巨きな怪物へと殺到した。
「ア゛ ……?ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛――ッッ!!!!!」
流星群と光雨が重なり落ち、隠れ潜んだ黒い影を祓っていく。
もはや怪物の命は、風前の灯となり。
――――そして、死を目前にした獣ほどにしぶとく、諦めの悪いモノもいないのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●SIGHT:"MONSTER OF LIMBO"――/"■■TH■■"
流星と光の雨とが、悉く影を吹き飛ばしていく。
一度斬り殺され、身体中を余す事なく穿たれ。
――それでも尚、"私"は前に進んでいく。
最早戦艦めいた身体を得た時と比べれば、あまりにか細く矮小な体となった。
せいぜいが陸に上げていた分身達、それと同じかそれより一層小さい程。
浜辺に残った影たちも、最早長くはあるまい。
そもそもが、贄をろくに食んでないのに、無理に力を使い過ぎた。
滅びはもう、すぐそこにある。いっそあの男が言ったように、斃れ伏してしまえば楽だったろう。
――そうであれ、この欲は。
"私"を突き動かす衝動は。
止まる事を知らず、"私"を前進させる。
―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――!!!!!!
意味のない叫びが、"私"の、怪物の口からまろび出る。
そして、一人。浜辺でまだ逃げずにいた、"それ"を見て。
唐突に、理解した。
ああ。
そうだ。
"私"は
、、、、、、、、、、、
お前と一緒にいたかった。
これはきっと"ヒガン"だったのだ。
――ああ、その声を、"私"は――――。
●
――あとは、その声を、赤い色彩が塗り潰した。
.
ペパシア・ドロキペ
【RESQUE LEVEL:1】『かかしは人を守るために立つ』
なんてこと!店主さんが取り込まれてしまいましたわ!?さっきまでお話してたのに…とても悲しい…
いいえ。こうなったら猟兵として、退治するしかありませんわね。【土地神召喚】でこの地のご当地悪魔を召喚して対処させますわ。まだ見ぬ悪魔さん、悪いよそ者をやっつけて!
○方針
彼岸の怪物は流氷の下を移動しているみたいですわね。でも襲ってくる時には姿を見せるはず!
敵は集まった人々を贄として食べようとしているみたい。そうはさせませんわ!皆さん、わたくしの後ろに隠れて!
かわりにお野菜をお食べ!ぽいぽいぽい!(影から顔を出した瞬間を狙って野菜を投げる)
●あるカカシのお嬢様の場合
「ァ゛、……ァ゛ァ゛……ッ」
「――!?なんだか急に弱って来てますわ!?」
殆どの救済が叶ったものの、未だにぽつぽつと人を残す浜辺で、ペパシア・ドロキペ(お嬢様はカラスと戯れたい・f00817)が声を上げた。
彼女の言う通り、彼岸の怪物たちの様子が何処かおかしい。最初と比べればいかにも弱々しい呻きで、動きも鈍った様子でそれは這いずり回る。
恐らく先に此方まで見え聞こえた眩い閃光と轟音とが、怪物の本体を叩いたのだろう。
「ああもう、店主さんは知らないうちに食べられますし!!ちょっと色々理解が追い付きませんわ!?」
あの店主は優しそうに見えたのに。あるいは実際、本当は自分が見たままの人だったのかもしれないと、ペパシアは思う。何かの因果でそれが狂ってしまっただけで。
だが、こうなってしまえば最早倒すしかない。それが猟兵としての使命とそう心に決め。人を助ける為に走り続けたせいか棒のようになりそうな足で――というかそのまま文字通り棒のような足で、それでも未だこの浜辺を駆けずり回る。
カカシとは誰かを守る為に在るモノ。そのレゾンデトール故にか、或いは彼女の心優しい気質故か、困った人々を守ろうとする意志は強く固いものだった。
そしてそんなペパシアの前に、困窮し逃げ惑う人が見える。
「ァ゛、ァ゛ァ゛ァ゛ァ……!!!」
「お、おぉぉ、もうダメだ……!!ばあさんだけでも……!!」
「何を言ってるんです、弱気になるんじゃありませんよ!!」
足腰が弱い為か未だこの浜辺から逃れられず、それ故に弱った怪物に目をつけられたのは、とあるご老体の夫婦だった。
「そこーーーーーーーッッ!!!!」
ムキィーーッ!と怒ったような声を上げ、駆けつけたペパシアが何かを投げる。
「ァ゛、……ァ゛モガァ゛ッ!?!」
ずしーん。放物線上を描いて何かが飛んでいく。何事か気をとられた彼岸の怪物の口にジャストフィットしたのは……おお!ホクホクに煮えたあまいカボチャ!!
「ホラホラホラお代わりはまだまだありますわーーーっ!!」
「ァ゛モモ゛モ゛ァ゛!?!?」
彼岸の怪物に負けじとばかりの巨大な南瓜の怪物がぽいぽいぽい!!と大きなお口の中に詰め込まれていく。
カボチャは栄養豊富だし縁起のいい食べ物だからね。冬至はそこそこ前に過ぎたけどまあ細かいことは言いっこなしだ。閑話休題。
とまれ、ここまで随一というくらいに類を見ない奇特な攻略法を喰らいびくんびくんとしてる彼岸の怪物を尻目に、ペパシアは言うのだった。
「今のうちですわお二人さん!!どうぞ安全な所まで!」
「え、あ、ああ!」
ぽかんとしていた老人夫婦もお互いを支え合うようにして去っていく。それを良かったと思い見ながら、ペパシアはふぅと息を吐く。
「さ、流石に疲れましたわね……!」
さもありなん。これまでさんざ走り回って、怪物たちをどうにか押し留めひとつの犠牲もなくやってきた。疲れも溜まる頃合いだろう。
――だが、オブリビオンがそれに構うことは当然のように無い。
「―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
今も最後の力を振り絞るようにして、彼岸の怪物の首魁とも言える――随分と小さくなった一体が、零下の海と氷とを掻き分けて、此岸へと向かってくる。
サイズは小鯨程度。先程流氷の殻を破り現れた威容とは比べるべくもないが、それでも滲む必死さは段違いで鬼気迫るものを感じさせる動きだった。
「ひわっ!?や、やばそうなのが来てますわーーっ!?」
怒涛の勢いで、それはまっすぐと波打ち際に向かっている。目指す先に、確かに一人、"贄"として狙っているのだろう人が見えた。
さぁどうする、あの速さで投擲物をあてるのは難しいかもしれない。あの気迫では当てられた所で怯みもしないかもしれない。――なら!
「あーもーー!!こうなったら面倒事の解決はご近所さん同士でまるっとお任せですわっっ!!」
岸辺に立つペパシアが、枝を取り出し砂浜に陣を描く。描き終わった後にトンと叩けば、それが淡い光を放つ。
"土地神召喚"はその土地由来の、今ペパシアが立つその場に所縁が深い"悪魔"を召喚する術式。
敵はUDC。ならば餅は餅屋。最近はUDC-Pなるシャーマンゴーストらのような友好的UDCも見つかったと聞いている。ならばここは"彼岸の怪物"の同類たるUDCに相手をしてもらうのが良いだろう。
何が呼び出されるかはペパシアとて未知だが――今はこれが最善と信じて。
「さぁいらっしゃい!!"あの方を守って下さいませ"――っ!!」
襲われそうになってる人を見据えつつ、ペパシアはコンと魔法陣を叩く。
――が、悪魔も何も訪れる事はなく、魔法陣の上には静けさがあるのみ。
「……ぇ、あれ、なんで不発ですの!??!?」
光っていた魔法陣は、何故かバチバチとスパークを発しつつも正しく起動しない。
ゴンゴンと慌ててペパシアが魔法陣を叩くも、やはり悪魔は現れず。
「……っ!い、きゃぁぁあ!!?」
――そして、怪物が"女性"を捕え、悲鳴が上がった。
「――えぇぇい!!!!なんでもいいから早くきやがれですわぁーーーっっ!!!!」
お嬢様言葉すら半端にかなぐり捨てかけつつ、ズゴンッッ!!とペパシアが魔法陣をぶち叩く。ギシリと、その魔法陣は不自然に軋むように鳴き、バチンとスパークを盛大に放ったのち。
バチッッ。
――バキィィィィィイイイイイイイッッッ!!!
魔法陣から青い稲妻が走り、それが海原を真っ直ぐに駆け氷を砕いていく。
――そうして、"悪魔"は召喚される。
●ある"■■"の場合
――運よく、と言っていいのかはてんで判らない。
ただ、小賢しい事に"猟兵"の連中はどいつもこいつも優秀らしく、余さず襲われた連中を救ってく。
忌々しい。本能的にそう思うと同時。■■は安心もしていた。
この分なら、■■はいらない。
"その時"はやって来ないだろう。恐れていた時は来ない。それならそれでいい。だからさっさと全部終わらせてくれ。
いっそ祈るように、そう思っていた。
そう思っていたのに。
"怪物"が□□□□を目指していくのを、"海豹"が捉えた。
――ッッッッ!!!
叫びそうになるのを堪える。
ああ。
それだけは。
それだけは、
天地がひっくりかえろうと、■■が何になろうと。
誰であっても。何が相手でも、絶対に赦さない。赦せないのに。
――奇妙な感覚が身体に奔る。何かに呼ばれてるかのようだ。
邪魔だ。煩い、くたばれ。
二度、三度と此方に呼びかけてくるかのようなそれに構ってる場合じゃなかった。
ただ、怪物と□□□□とを"海豹"越しに見ている。
一瞬、一番恐れていた事が脳裏を掠めて。
それがすぐに、目に映ったものに、聞こえた声に掻き消された。
――"怪物"が、□□□□を捉えた。薄汚い手が触れ、牙が迫って
――ああ、もう、いい。
辛抱の限界だ。
「――――――ァァァァァァァァァァアアア!!!!!!」
――――"俺"の口から、怒号が迸る。
●
補足をするのであれば、カカシの猟兵のユーベルコードは"彼女がいる地に所縁を持つ悪魔を召喚する"ものだ。
そして今ペパシアがいるのは"流氷漂う海岸線、その浜辺"であり。このUDCアースに於いて悪魔が何であるかを強いて言うなら、それは無論"邪神"――或いは"UDC"であると言って良かっただろう。
そして偶然、此処には"流氷に所縁を持つ""UDC"が潜んでいた。
一つ難点があるとすれば、それは間違っても人の味方ではなく。
そして一つ幸いだったのは、それが"絶対に赦せない"と思った事と、ペパシアの願いが偶然にも一致していた事だろう。
●SIGHT:PROLOGUE――/"MONSTER OF ICEROCK"
海の中だった。
厚い氷が蓋の様に、海の上と下とを分かつ。
その、分けられたうちの下の方で、ひそやかに、誰にも気付かれることが無い様に、"俺"は潜伏していた。
ああ、でも。もう、いい。
辛抱の限界だ。
"俺"のカラダを隔てていた氷を砕き、水飛沫を上げ海を割って浮上する。
海から現れる異形。
それを見たものが恐れ慄くように、声を出す。
●
バチッッ。
――バキィィィィィイイイイイイイッッッ!!!
「――あひぇっ!!?!!?な、何が起こったんです――」
――――――ァァァァァァァァァァアアア!!!!!!
「ひぃっ!?」
ペパシアの事態の解明を求む声は、途中で掻き消される。獣の怒りの咆哮めいた叫びが、割れた氷の下から聞こえた故に。
そして、その亀裂から何かが飛翔し、重々しい音を立てて波打ち際に着地し、地を揺らす。
「ぎゃーっ!!次から次に一体何……なの……え」
嘆きを叫び切る前に、ペパシアは現れたそれを――"悪魔"を見て硬直する。
「……はぁ、え……!?」
"貴方が悪魔さんですの!?"と彼女が叫び切る前に、それは行動を取った。
"白熊のような悪魔"は、ただ影の怪物が女性を――"白峯"という名の貸しボート屋の店員を、影の触腕で捉え今にも食おうとしているのを見て。
その女性が。□□□□が、悲鳴を上げるのを聞いて。
みしりと音を立て、膨張して。
「――――触ってじゃねぇよクソがァァァァァアアアッッッッ!!!!!!」
怒号と共に歪に膨らんだ怪物の腕が、火砲をぶちまけた。
「っ、きゃっ……!?」
寸分の狂いもなく、それは"彼岸の怪物"だけを狙い穿ち――
「ァ゛……、」
最期の呻きを上げ、彼岸の怪物が、別の怪物の憤怒に呑まれていき。
「……ァ゛ァ゛ア゛ア゛―――― 」
"あとはその声を、赤い色彩が塗り潰した。"
赤く熱い、憤怒の色込めた紅蓮の炎以て。囚われていた女性には、傷一つたりとて負わせずに、影の怪物だけを苛烈な砲撃とその爆炎以て消し飛ばし――
グウハツテキショウカン
そして、予知にあった光景が此処に成る。
気が抜けたようにぺたりと座る女性に背中を向けて、異変を検知しその場に集い出す猟兵達を、射殺す眼光で睨むそれが。
「――――どうして俺だったんだ」
この場の誰一人、その意味の真意を解さないだろう呟きを溢すモノが。
ジャガーノート
圧倒的破壊者と称される、白熊の如き威容のものが。
"彼岸"の怪物にトドメを刺し殺したそれこそが。
"氷岩"の怪物に――
"ジャガーノート・ポーラー"に。
猟兵たる君達が、討つべき怪物に、他ならない。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ジャガーノート・ポーラー』
|
POW : 挽き潰されたいか!!撃ち殺されたいか!!?
自身からレベルm半径内の無機物を【自分の移動力を爆増する氷海領域】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD : なんで俺が化物にならなきゃならなかった!!!?!
【"母の待つ家に帰れなかった"事を思い起す】事で【砲撃と肉弾戦を強化した激怒戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 邪魔する奴は吹っ飛んじまえ!!!
【凡ゆる地形に潜航可能なアザラシ型魚雷】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
イラスト:もりさわともひろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ジャガーノート・ジャック」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●SIGHT:BOY WHO SAVED HIS MOTHER
――ああ。その声を。
俺をみて、恐れ慄く□□□□を。その表情を。
――――――俺は何よりも、聴きたくなくて、見たくなかった。
.
●SIGHT:JAEGERS
「――――どうして俺だったんだ」
意味のわからぬ言葉を、"氷岩"の怪物が唸るように溢す。
それがどういう意図を孕むのかは判然として知れない。然しそれは溢れ出んばかりの怒りが滲む声色で。ギリギリの所でそれに蓋をしているかのようだった。
「――!大丈夫ですか!?怪我は!?」
「奇跡的に負傷はないみたいだ!」
「………、ぇ、あ」
紅蓮の業火と轟音とを間近で浴び、ぺたりと座り込んだ女性――"白峯"の元に幾人かの猟兵が集いバイタルチェックをする。
上の空で反応は薄弱だが、幸いな事に女性に怪我は見られず、掠り傷ひとつとて負ってないらしい。白熊型UDCの攻撃が猟兵のユーベルコードを介してもいたからこそ訪れた奇跡か――或いはそれとも別の理由か。
だが、その"奇跡"ももう終わりだ。
君達が此岸に在るものだとして、君達の前にいるそれは彼岸に連なるもの。
例えそれが元は同じ岸部にいたものであれ、今は対岸に居るモノが、相容れることは最早ない。
――そして、女性のとある呟きが、開戦の合図となる。
「……ご、く……」
譫言めいて、未だぺたりと座り込んで、白い熊の如きそれに何か、言葉をかけようとした。それが最後まで呟き終わる前に。
「―――――ァァァアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
"氷岩の怪物"が、そのか細き声をかき消すように咆哮を上げた。
凍てつく冬の大気を震わせ揺るがして、鳴動するように流氷漂う海も揺れ――否。
怪物の叫びがそれを揺らした訳ではなかった。
パキリ。バキリ。
バキバキバキバキバキバキバキ――!!
骨の平原を巨獣が踏みならすかのような音を立て、壁の如き氷の塊達が、海の中きらせり上がっていく。
現れるは、壮観とも言うべき氷の岩場。則ち"氷岩"。
そして水も氷も無い筈の砂浜から凍てつく波濤が吹き上がり、ジャガーノートを氷岩の山、その頂へと押し上げる。
クソ
「――来いよ猟兵共。俺は今死ぬ程機嫌が悪ィんだ――」
憎悪を口内で磨り潰し、じゃりじゃりと吐き出すかのような。低く唸る獣のような。
氷の海には似合わぬ灼熱の激憤以て、それは叫んだ。
「死にたい奴だけ掛かって来い糞猟兵共!!!!!テメェら全員俺がブチ殺してやる――!!!!」
癇癪を起した子供じみた怪物の咆哮が、海岸線に響き渡る。
その裏に、どうしようもない程に。血反吐を吐くかのような痛みを滲ませていたのが、誰かには判ったろうか。
敢えて今一度言おう。
君達の任は最初から何一つ変わらない。
それが召喚されてしまえば、"討伐する"のが君達の使命。
――――その怪物をどう終わらせるかは、君達の手に委ねられている。
◆INFORMATION◆
▼ENEMY:『ジャガーノート・ポーラー/"氷岩"の怪物』
寄生した人間の子供をベースに造られた電脳機械型UDC、"ジャガーノート"シリーズのネームド個体。巨大な両腕や身体を駆使しての肉弾戦・腕の砲塔を用いた砲撃や海豹型の全地形対応魚雷での攻撃を得意をする他、無機物を氷海領域と変換し、それを操作する事で自身の移動性能を爆発的に向上させる。
特定個人へ強い執着心を持っており、今回の"偶発的召喚"もその執着心がトリガーとなった模様。
▼LOCATION:『浜辺と氷岩』
流氷集う海、その浜辺。
ジャガーノートは自らの能力で海上に築いた"氷の岩山"を自分の拠点としている。
拠点で待ち構え迎撃する他、必要に応じ氷海を操作して浜辺へ急襲を掛ける事で、猟兵達と戦闘する模様。
▼SCENARIO TRIGGER:『□□□□』
基本的に通常通りの戦闘シナリオと考えて頂いて構いません。但し何らかの形で"ジャガーノート・ポーラー"の核心をつくようなプレイングがあった場合、シナリオのエンディングが変わる可能性があります。
各位、自由な発想を以てプレイングをご提示下さい。
◆受付開始:2020.01.24 AM8:31~◆
▼GOOD LUCK, JAEGERS!
アンチ・アンディファインド
真の姿を開放
ようやくもう一匹も出てきやがったか
何をほざいてようが関係ねぇ
そのふざけた面ごとぶっ潰す!
殺して殺して、ぶち殺してやるよ、クソUDC!!
【P・B】の発動で怪獣形態に変貌
殺意と憎悪に身を任せて突撃
コピー能力による【学習力】で氷海領域を操る能力を取得
【属性攻撃】として扱いながら己が進む道を作りながら、敵の退路を断つ
近づいたら後はどれだけ攻撃されようが関係ねぇ
【限界突破】して【捨て身の一撃】を叩きこむ
【怪力】による【2回攻撃】で体が動き続ける限り【蹂躙】してやらぁ!
あの怪物を見ていると無性にイラつく
さっきしちまった柄でもないことまで思い出す
ぎゃーぎゃー喚くんじゃねぇよ、クソガキがぁ!
●怪物の同族嫌悪
「ハッ、なんだって構うかよクソが!!漸くお出ましか――」
ジャガーノートの口から吐き出された啖呵に、いち早く反応した猟兵が一人。めきりと体から音を立て、ジャガーノートを睨み付けるのはアンチ・アンディファインド(Anti UnDefined Creature・f12071)。めぎ、べきりと身体中から異音を発し、骨格すらも元の姿から大きく違え変生する。
「―― 殺して、殺して殺して!!殺して殺す!!!」
叫ぶその姿もまた、怪物と呼ぶに相応しいものだったろう。
肌は鱗を有するものに変わり、目はぎょろりとギラつき、爪と尾と大きな顎門とを有した恐竜じみた姿。"P・B"と彼が呼ぶ怪獣型UDC形態――それに変身したアンチが、ギロリと己を睥睨する氷岩の怪物へと叫ぶ。そして、それと同時。
――パキパキパキパキ!!!
氷と海の柱が浜辺からせりあがり、ジャガーノートをそうしたように、アンチの身体を氷岩の頂へと運んでいく――!この形態特有のUDCの特性を模倣する能力以て、アンチが氷海の操作能力を手にしたのだ!
「――ぁ゛あ゛?真似してんじゃねェよテメェェッッ!!」
一方のそれを氷の頂から見遣るジャガーノートは忌々しげな声を上げつつ、ずしんと地に手をつけ背中を晒すようにした。その次の瞬間。
――シュボォォ!!
発射音と共、白く丸く長い、緊張感が何処か欠けて見える"海豹"めいたシルエットのそれ――"魚雷"が発射されアンチへ襲い掛かる!
「ぁア、そのふざけた面――あん時のはお前かァ!!殺す!!」
それは正しく彼が海中で見たもの。ジャガーノートが放っていた魚雷こそが、アンチともう一人、橙髪の猟兵がみたモノの正体に他ならない。そしてそれへ殺意の一言と共にアンチの操る氷礫が射出され相殺、氷岩浮かぶ海上を爆炎で包んだ!
「ッッギ、糞猟兵が――!」
「――クソはお前だUDC」
――ズシンッッ!!
呻くジャガーノートの前に現るは、氷の山に響く重々しい着地音。そしてバキ、と氷を砕く音と共に、憎悪を伴ってアンチが踊り出る――!
「――殺して殺して殺し尽くして!!ぶち殺してやるよォクソUDC!!!!」
目前にいるものへの有り余る怨嗟と憤怒と。或いは先に自分が為した、"自分らしからぬ"事への怒りも、八つ当たりめいて込めて、アンチの怪物の腕が唸りジャガーノートへと振りかざされた!
「――――ッッ!!!」
ガギィィッ!重々しい音と共、ジャガーノートの機械の腕とアンチの怪獣の腕とかぶつかり合い激しい音を発する。負けじとジャガーノートもその巨大な爪と大砲を持つ腕を乱暴に振るいアンチを狙う。それを同じく、アンチも己の腕を以てガードした。けたたましい音が氷岩の上に響く――!
「チィッうざってぇなクソUDCッ!!さっさと死ねよオラァぶち殺すぞ!!?」
「ウゼェのはテメェだ糞猟兵がァ!!!あぁ゛あァァ゛糞腹立つなクソがァッッ!!」
ガン、ガキン、バキッメキッガキガガガッ!!!
かたや機械の装甲による堅き身体、人外の動力に基づく腕力。
かたや怪獣の分厚い皮膚持つ肉鎧、化物じみた猛々しき剛力。
十、二十を超えお互いの腕が衝突し、その度に衝撃音と怒号とが響き渡る。戦闘力は均衡していると言ってよかったろう。そして、その姿すら等しきものがあった。
クリーチャー ジャガノート
怪 物と 怪 物 。正しくお互い怪物同士、そして猟兵と過去の亡霊、相入れぬもの同士。そしてそれ以上に。
「テメェの面ァ見てっとどうしようもなくぶち殺したくなんだよォクソUDC!!!」
アンチは目の前のそれがどういう訳か女一人助けた事が――それが先の自分の柄にもない行動と、何処か被って見えたが故に。化物の、この世に仇なす怨敵の分際で人を守ろうとした事に、怪物風情がと唾を吐く。
「煩ェ糞猟兵!!!俺もテメェの化物みてぇなナリで猟兵やってる奴は百回ぶち殺してやりたくならァッッ!!!!」
そしてジャガーノートもまた、目の前の猟兵がいかにも人外めいてる事と、自分に向ける激昂が――自分が一番いけすかない、自分を退けて"帰った"誰かと被って見えたが故に。その姿で"此岸"のものでいる事に、人を守るものでいる事に、怪物風情がと唾を吐く。
互いが互いを通し何かを見て、互いを嫌う。同族嫌悪の如き殴り合いだった。
「――ハッッ、やるならやってみろやァクソUDC――ッッ!!!」
バギッッ!!ぶつけられた言葉に触発されるよう、アンチが豪腕を振るいジャガーノートを吹き飛ばす。それと同時、コピー能力で氷海の一部を操作する。
「――ッ!!?」
吹き飛ばされたその先、氷岩の怪物を捉えるようにして展開された氷の壁。
動きを抑えられるのは一瞬だけ。そしてその一瞬で十分と言わんばかり、アンチが氷海を操りその勢いすら使って吶喊してゆき――バギィィィィィッ!!怪獣の猛突がぶちあたり、その装甲をひしゃげさせた!
「ぐっっ――――畜生がぁぁアア!!」
「――ッ!!この――」
――ドドォォォォア!!
怒りの叫びと共、ジャガーノートが氷の波濤を呼びアンチを外へと押し流していく。
息荒くそれが遠のくのを見遣ってから、怪物はぽつりと呟く。
「クソが……!!」
忌々しげに、氷の下を。――そこにいる□□□□を、一度だけ見て。
そしてそれはそうするべきでなかったと言うように、またすぐ目を逸らした。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・フィルファーデン
……所詮ただの想像に過ぎないけれど、もしかしたら……ええ、やるべき事が増えたようね。
まずは白峯様の安全を確保、というのは建前。きっと彼は流れ弾の1発も許さないでしょうから。
話が聞きたいの。不躾でごめんなさいね?ねえ、白峯様にあなたを大切に思ってくれる人……例えばお子様は、“いた”かしら。
もしいたなら……何か、伝えたかった事はない?
UCの蝶で幻を作り、彼……ジャガーノート・ポーラーの前に投影するわ。白峯様の姿をね。
幻の応用でわたしの見て聞いている白峯様の姿、声を五感を共有した蝶達から伝えるの。
ええ、敵は殺すしかない。だからただの自己満足。それでも、その痛みを和げてあげる事くらい、出来るわよね?
夷洞・みさき
これは困った。
まだ咎を犯さず、それどころか、人を助ける事までしていると僕は戦えないじゃないか。猟兵?それは枠外で。
【SPD】
巡り合わせが悪かった。
君を覚えている人々がまだいた。
だから、君は此処に来た。
どうもあの女性と縁があるようだね。それも浅くないね。
彼岸に還るとして護りたい相手に怖がられたままは寂しいだろう?
なら、恐怖から守ってあげればよい。
勇猛に立派に、喜んでもらえる様に。
己の姿を魚めいた様相に変え、周囲に無差別に【恐怖を与える】。
ポーラーに女性を護らせるために【敵を盾にする】
女性には被害が行かないように、ポーラーから見ると危険に見える様に攻撃。
え?まってよ。敵はあっちだよ。
アド絡歓迎
●
「……これは参った」
氷の岸辺にぽつり、泡沫のように言葉を吐かれた言葉は、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)の薄い唇から零れ落ちた。
そう、咎人殺しは参っていた。
"咎"であるなら。過去から出ずり、人に害を為すのであれば、みさきはいつもの如く薄く笑みを湛えつつ、それを殺し屠っただろう。それが咎濯ぐものの使命故に。
――だが、"彼"はどうだ?現れたばかりのそれは、未だ人を襲う咎を起こしておらず、逆に"人を一人助けた"。それは明らかに咎と罪とはかけ離れた行為。少なくとも、みさき独特の感性と基準において。あの白熊めいたモノは罪を犯しておらず、禊ぐべき咎を持っていない。
「……これじゃあ僕は戦えないな」
故に、彼女は闘う意義を見出せない。溜息めいてみさきはそう独りごち、そしてそうであるならばどうするべきかと考える。やがてその眼がへたり込む女性の方を見る。丁度、一人の猟兵がその女性――"白峯"へと声を掛けていた。
●
数人の猟兵が救護の為に駆けずり回っている。"彼岸の怪物"はいなくなり、"氷岩の怪物"は自らが築いた氷の岩山から出てくるような様子は今のところない。きっとアレは、あまり砂浜に降りてこようとは思ってないらしい。人を襲おうとは思っておらず――或いは、"誰かとの遭遇を避けている"のかもしれない。
それはただの考え過ぎ、想像の産物に過ぎないのかもしれないけれど。そうも思いつつ、フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)は猟兵達に救護されたうちの一人、最後に襲われていたその人、"白峯"へと声をかける。
「……マダム、少し宜しいかしら?」
「――――ぇ、あ……ぁ、の」
魂をそこに囚われてしまったかのように氷の頂を見て、そこから響く戦闘音を聞いていた白峯は、声を掛けられ漸くフェルトの方を見る。ピントがずれているかのように何処か暈けた瞳を向ける白峯に向け、フェルトは穏やかに言葉を紡いでいく。
「どうか落ち着いて、先ずは息を整えて。……大丈夫、ここにはあなたを襲うものも陥れるものもいないし……私は貴方の味方よ。ね?」
「ぁ、…………――、……えぇ」
小さき姫は何処までも気品に溢れ、かつ無辜の民に優しく在った。フェルトの言葉に、白峯の瞳も幾分冷静さを取り戻した色合いを帯びる。
「…………有難う、大丈夫よ。…………何か、私に……?」
「――えぇ。不躾な問いかけでごめんなさい。けど、大事な質問なの」
白峯のつっかえつつの応答に、フェルトはなるべく真摯な言葉を選びつつ聞かんとする。
「……あの、貴方を助けた"誰か"に。……何か、心当たりはあるかしら?」
「…………っ!」
"何か"とは言わなかった。それが確かに人であることを――少なくともそうだろうとフェルトが思ってる事を示しつつ尋ねる。そして、問い掛けにびくりと白峯の肩が震えた。
「――もし、心当たりがあるなら。私なら、少しだけ、お手伝い出来るかも知れないわ」
「……手伝、い……?」
その言葉が意味するものを上手く理解できず、茫然と呟く白峯。そしてその彼女へ、また別の声が掛かる。
「……ああ、丁度いい。それなら一枚噛ませてもらえないかな」
●夢幻
忌々しい。腹立たしい。
この様な姿を晒す事が。怪物としてこうしてある事が。よりによってそれが、□□□□の前で為された事が。腸が煮えくりかえる程に苛立たしい。この氷の頂にあって尚、怒りは冷める気配を見せない。
だから怪物は――ジャガーノート・ポーラーは怒りの吐き出し口を求めていた。糞雑魚の人間なんてどうでもいい。オブリビオンとしてのとしての権能が、或いは"ジャガーノート"の本能が叫んでいる。"猟兵を殺せ"と訴えてくる。――そして、殺すべきそれがやってくる。
――人型が九。獣型が一。手にする武器が其々異なる者が併せて十。氷の頂に向け真っ直ぐ、飛ぶようにジャガーノートの方へとそれは向かってきた。
「……チッ」
舌打ちととも思うがままに氷の海を操れば、氷塊と海の飛沫とが柱めいて噴き上がりそれらを迎撃せんとする。だが十の人型らは散開し、或いは盾持つ騎士めいた一体が他を護り回避して、ジャガーノートの元へと接近してゆく――!
「……クッッソウゼェなちょこまかとよォッ!!!?」
――ギャリンッッ!!
スケートリンクを滑るスケーターのように高速移動したジャガーノートが、戦場たる氷の岩場に現れた"人型"へ勢いのままに殴り掛かる!
その一撃を盾持つ一体がガードし、一瞬の間をそれが稼ぐ間に剣を持つ二体と弓持つ一体がジャガーノートへ牽制の攻撃を放つ!
「――ッ、邪魔くせェなッッ!!」
パキンッ!氷の壁が瞬時にでき、怪物に迫る剣撃と矢とを阻む。その隙に人形達が編隊を組み直し、氷の上にてジャガーノートに向き直っていた。
「……乱暴なのね。何にそんなに怒っているの、貴方?」
そして聞こえるのは、小さくともよく通る凛とした声。それは人型――十つ並ぶ人形達の中から。無論それを繰るのは人形遣いの妖精姫、フェルトに他ならない。
「……あァ?なんだテメェ、オママゴトならガキとやってろよ」
「あら、それなら目の前にうってつけのお相手がいるわね。一緒に遊んでくださる?」
「――――ブッ殺す」
人形繰りを揶揄する不躾なジャガーノートの言葉にも、余裕の笑みを持ってフェルトは返す。対してのジャガーノートは零度の言葉ととも、苛立ちをぶつける為に氷を滑り行く!巨大に見合わない滑らかで音すら殺した滑氷移動。それを以て瞬時にフェルトの元へ肉薄し、巨大な腕を振るい――ガギィィッ!!と鋭く強い衝突音が響き、ジャガーノートの腕と騎士人形の剣とが攻めぎ合った。
「……ところで一つ、聞きたいのだけど」
「答える訳ねェだろ糞チビがよォ!!死ねよ――ッッ!!」
ズドムッッ!!問いかけを口にしたフェルトに、ジャガーノートの腕から砲弾が飛ぶ。それをひらりと人形とともに舞うように躱しつつも、なお妖精の姫は言葉を紡いだ。
「――何故貴方、あの人を守ったの?」
妖精姫は、オブリビオンの行動の意を問う。何を思い、人一人を助けるような真似をしたのかと。
「――――」
ズド、ズドンッッ!!言葉を掻き消す為だけに放たれたかのような乱雑な砲火。それを盾の人形が壁となりフェルトを守る。
「あの人は貴方にとって――」
「……何言ってやがる。バカかテメェは?」
怪物は鼻で笑う。
「知るかよあんなババア。守った?ハ、笑わせんな!!!」
腕の砲塔から火を吹きながら、白熊が轟音に負けじと啖呵を切った。
「糞みてェにデカくて目障りな奴がいた!!見てて腹が立った!!だからぶち殺してやった!!的がデカすぎて一緒にいたババアは殺しそびれちまったけどよォ!!」
牙を剥いてそれは叫ぶ。それの凶暴性をなんら隠さず、むしろ誇示するかの如く。己がそういうものであると対峙するものに示すかのように。
そして叫びに呼応するかのよう、火砲の暴威はみしりと音を立て膨れる腕とともに増していく――!
「偶々俺が糞ババア一匹殺し損ねたくらいでおめでてェ夢見てんなァ!!アァ゛!?テメェの面に付いた節穴じゃ俺がお優しい正義の味方にでも見えたってかァ!!?」
ズドドドドドドドッッ――!!!人形達に己を守らせるフェルトに向かい、容赦ない砲弾の嵐が飛び交っていく。苛烈なそれをどうにか凌ぎつつ、フェルトは人形達の影に隠れ、操り糸を数本解し電脳魔術を展開し始める。
「――そう。そうね。おめでたい夢かもしれないわ。なら――」
バチリ。音を立てて現れるは、眩い電子の翅持つ蝶達。
「貴方も夢をご覧なさい――っ!」
「――ッッ!?」
ざわり。無数の蝶が飛び交って、チャフの如く電子の鱗粉を飛ばす。それは"幻"を操る眩惑の電子魔術。フェルトが命じたままに、それはリアルな幻をジャガーノートに見せる。
そして、その幻を目視しジャガーノートが絶句した。
「――――な」
目の前に映るのは、自分が"殺しそびれた"女。白峯、と言う名前の女一人。それが目前に。この氷の岩場の上に立っている。
実際は、フェルトが浜辺に一匹残した蝶が送る映像を中継した虚像だが――電子蝶が見せる夢めいた幻の作用か、ジャガーノートには本物の白峯がこの場にいるように感じられた。そして事実、中継という事は映される映像は本人のものに違いなく。白峯も蝶越しに、確かにジャガーノートに対峙していた。
『………………』
「――――ッッ」
黙したまま、白峯はじっとジャガーノートを見つめる。
いつの間に。どうして此処に。そんな思考が木霊する中、ジャガーノートは白峯に両腕から伸びる砲塔を向ける。
「俺の言葉が聞こえてなかったのか糞ババア!!?言ったよなァ!!!"死にたい奴だけ掛かってこい"ってよオ!!!!」
死にたいのかテメェ。今すぐにでも俺はお前を殺せるぞ。
そう思わせる身振りで白熊ががなり立てる。――が、白峯は動かず。そして。
「何か言えよオイッッ!!!ぶち殺すぞ糞ババ――ア?」
――――――ォォォオォアァォア……
白峯が動くよりも、唸り叫ぶジャガーノートが動くよりも先に、新たな闖入者が躍り出る。
それもまた、化物と呼ぶに相応しい顔をしていた。死体のように白い体、鋭い牙、人のモノとは思えぬ咢。海のいと深き処よりいでし怪異。
蝶に惑わされたジャガーノートには、より一層それが恐るべきものに見え。
そしてそれは、白峯を食い殺さんと襲いかかろうとしている――そんな風に、ジャガーノートには見えた。
「―――ろ」
今にも長く鋭い歯が、□□□□の華奢な首に掛かる。
「――めろ」
白熊は未だ電子蝶の羽搏きで、造られた夢を見る。
か□□□が、何者かに殺されそうになる恐ろしき夢を。
□あ□□が殺される。
□□さ□が死んでしまう。
□□□んに――――――
「――――――"かあさん"に触んじゃねェよダボがァァあァアアア!!!!!」
これまでの何れより色濃い、怒りの色が声に滲む。
めしゃり、めきりと音を立て変異した両の砲塔が、白峯以外――幻蝶と死体の如き魚人を諸共に打ち砕かんとして。
そして、砲撃は遍く全て宙を泳ぎ飛び、辺りの氷を削るだけに終わる。砲火が咲いたのちに聞こえたのは、ちゃぷりという水音のみ。
「……ああ、そう。やっぱりかい」
「――ッ!?」
水音を立てて射線の外で佇むは、魚人ではなく生気のない肌をした一人の女。
態と白峯を襲うフリをし、フェルトの幻夢も併せる事でジャガーノートの行動原理を再確認・再証明せしめたのは、無論夷洞・みさきその人に他ならず。
「……、ぁ」
そして、夢幻から醒めハッとするジャガーノートの声と。
『……やっぱり』
「――ぁ」
一人の女の、みさきの証明により確信を得た女の声が、氷の頂に小さく響いた。
「浅からぬ縁があるとは思っていたけど」
「…………そう。だから、彼女を護ろうとしたのね、貴方」
『……ゴクト。……極人なのね……!?』
白峯の虚像が、とある者の名前を呼ぶ。
「君は彼女の――白峯の"息子"か」
そして、それが何を指すのかを、みさきの淡々とした声が証した。
「ぁ」
――――ア゛アァアァアァアァアァアァア――――ッッッッ!!!!!!!!!
叫び。
取り乱した悲鳴のようでも、子供の駄々のようでもあったかもしれない。
それととも、砲火の轟音が氷岩を包み、それを砕いて散らして行く。
「――っ!一時退避が賢明そうね……!」
「あぁ、そうだね。……彼の正体と、彼が何を思ってああ動いたかは掴めたし」
降り注ぐ氷塊の雨と出鱈目な砲撃から身を守りつつ、フェルトとみさきが撤退を決意する。
何故彼がオブリビオンに似つかわしくない行動をとったのか、その理由が知れた。
蓋を開けてみれば、なんとも人臭く、そして子供じみている。それがあの"氷岩の怪物"の裡にある、何より重き行動原理。
「彼が"何か"は判った。後は――"どうするか"だね」
未だ哀しき叫びが木霊する氷の上を見つつ、みさきが言う。
怪物の咆哮は未だ怒りと嘆きを孕んで、氷の上に響き渡っていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アラン・スミシー
まずはミセス白峯の退避を、まあ他の猟兵に任せてもいい
少なくともこの場は危険だし、いてもらっても困る
君もそうだろう?
ミスター白峯
君がどの様な因果の果てにその様な姿になってしまったか私には知る由もない
なんにせよオブリビオンと化した君と猟兵の私達ではどうあがいても戦う定めだ
ただ、ミスター白峯としての君が残ってるからここに現れたのだろう?
だから私個人として尋ねよう。…彼女に伝えたい事はあるかい?
君は優しいよ、「死にたいやつだけかかってこい」なんて、怪物のセリフじゃない
だから私は君の本懐を叶えようとするのさ、猟兵だけが私の職務じゃない
後日、ミス白峯にメッセージを届けるとしよう
それが希望で有ることを望むよ
リア・ファル
WIZ
アドリブ共闘歓迎
足場は『イルダーナ』で駆ける事で対応
味方をタンデムしたり支援しつつ立ち回る
(操縦、空中浮遊、空中戦)
『ハローワールド』と『ヌァザ』を駆使して魚雷を探査
(情報収集、聞き耳、失せ物探し)
ハッキング弾を精製して『セブンカラーズ』から射撃
ジャミングと妨害に努めよう
(援護射撃、ハッキング、マヒ攻撃、時間稼ぎ)
ボクにできるのは……キミを骸の海に還す
それだけだ
だけど、
たとえばボクでなくても、他の猟兵が
その想いを受け止めない訳でも
汲み取らない訳でもない
UC【琴線共鳴・ダグザの竪琴】発動!
伝えられなかったもの、キミの中のモノをココに吐き出してみてよ!
●
何処から間違っていたんだろう。
海の底からかあさんの様子を伺おうとした時からだろうか。
そうかもしれない。
ただ、ただ焦がれるようにひと目だけでも見たいと思って、その海へと引き寄せられた。
遠目に見るだけで良かった。元いた筈の世界とは違う、海の底より深いもっと遠くから、視界をリンクした"海豹"越しに見るだけで。
"俺"の存在を示すように、小さな氷が海に浮かぶだろうけれど。そんなもの、すぐに溶けて消えてしまう。
誰にも気付かれないままに、去る筈だった。
でも、そうはならなかった。
いつの間にか俺が出した氷の裏に、黒いモノ――"影"がへばり着いていた。
どうして現れたのか、何に引き寄せられたのかはしらないが、それが俺と似たものだとすぐに解った。そして"俺たち"らしく、遠からず人を襲うだろうと言う事も。その襲われる人の中に、"かあさん"が含まれるだろう事も。
――海からは離れられなくなった。
海を去れば、"影"が何をしでかすかは解らない。
氷は別のUDCの力に触れたからか、勝手に版図を広げていく一方だ。
いざ、それが人を――かあさんを襲うなら、俺が助けなければならない。
ああでも。
それが一番恐ろしい。
俺が、こんなバケモノになってしまった事を知られるのが。
俺を見られる事が恐ろしかった。
だから連中――猟兵が来た時は、忌々しく思ったと同時に安堵もした。
これで俺が出る幕はなくなった。
忌々しいが、連中がかあさんを助けるならそれでいいと。
かあさんが無事ならそれでいいと。そう思った。
――そう思ったのに――――!!!!
●叫び
「ア゛アァアァアァアァアァアァア――――ッッッッ!!!!!!!!!」
膨れた巨大な両腕から逆立った毛のように砲塔が乱立して、其処から出鱈目な両の砲火が爆ぜる。
八つ当たりのように、轟音が氷の岩山を削り、その果てからまた氷の巖を生み出してはまた紅蓮の砲火が削りとっていく。
氷が破壊と再生の輪廻を、馬鹿げた大音響と咆哮を以て織りなしていく。
雹というにはあまりに巨大な氷礫が降り注ぐ中、縦横無尽にそれを躱しつつ飛び交う影が一つあった。
「いやぁ悪いね色々。どうやって行こうか迷ってたんだ、渡りに船とはこのことだ」
「御礼は後で!とにかくしっかり捕まってて、もうすぐで到着するから!」
飛び交う影の正体は高速戦闘機"イルダーナ"に他ならず、勿論それを操縦するのはリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)。
そして後ろにタンデムするのはトレンチコートの枯れた男、アラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)。イルダーナに搭乗する二人は、この氷の瀑布めいた光景の創造主たるジャガーノートへ接近していく。
「ア゛アァ゛ァア゛アアア死ねよ糞がぁあアァアァアアァアッッ!!!!!」
増えた憂さ晴らし相手を見つけて、ジャガーノートとその両腕の砲筒が咆え、背からは海豹の姿をした魚雷も発射された。襲い掛かる火砲と爆撃を前にイルダーナが急旋回・急加速で回避をし、多次元探査で魚雷を回避しつつ、ジャガーノートに声の届く間合いまで辿り着く。
「生憎そう易々と死ぬ訳にもいかなくてね。――君もそうなんじゃないかな、"ミスター白峯"」
ジャガーノートの周囲を三次元機動で飛び回るイルダーナに乗ったまま、アランが言葉を発する。
「――そ ッの名前を呼ぶんじゃァねェよ糞クソくそ糞共がァ゛ア゛ア゛ア!!!!」
旧い呼び名を――人だった頃の名を呼ばれた事に、激情と憎悪の砲撃を以て怪物が応える。乱れ飛ぶ氷と爆炎の嵐は一層勢いを増し、その中にいるイルダーナを墜落させんと牙を剥く。
「……ッ、流石にずっとは避け続けてられない。稼げる時間はそんなに多くないよ……!」
「ああ、解ってる。なるべく手短に済ませるさ」
その氷嵐に負けじと飛び交い続けつつも、イルダーナを操るリアもどこか張り詰めた声を出した。それにアランはいつも通り、風に吹かれる柳の如く応じる。
「ちょこまかと逃げてんじゃねェよ糞どもが――ッッ!!!!テメェらは俺と殺し合いしに来たんじゃァねェのかよ!!!!?アァ!?!!?」
白熊が慟哭する。それと共に爆炎が散り、幾匹もの海豹が標的に忍び寄り爆殺せんと接近してくる。それをリアがリボルバー銃から放ったハッキング弾で牽制し、スーパープレイじみた操舵技術で回避を継続しつつ叫ぶ。
「ああ、そうだ!ボクにできるのはキミを骸の海に還す、それだけだ!!」
そして飛ばされそうになる帽子を抑えつつ、アランもまた言葉を紡ぐ。
「そう。オブリビオンと化した君と、私達猟兵。どう足掻いても戦い殺し合う宿命の上に私達はいる」
目の前にいるそれが如何様な因果の果てにそうなったのか。それは知る由もなく、そして知った所で如何しようもない。此岸と彼岸が交わる事はない。対岸のもの同士、どちらか一方が消え果てるまで戦うのみ。
「――だが、戦うのは避けようがなくとも。話を"聞く"事と"届ける"事はできる」
しかしアランは懐に収めた銃弾を放つ事はなく、代わりに言葉を舌先から撃ち出す。
「――――アァ゛?」
怒りと疑心を隠そうともしない怪訝そうな声が、ジャガーノートから零れ落ちる。それに構わず、アランが言葉をまた紡ぐ。
「オブリビオンとしての気質だけでなく、"君"の気質が残ってもいたからああして……或いは先のように母君を助けようとしたんだろう」
「――――ッッッ」
アランの言葉に触発され、白熊の動きが鈍り砲火と氷の嵐が弱まる。それを受け、枯れた男は続けて言葉の弾丸をジャガーノートの急所へと浴びせる。
「"死にたい奴だけ掛かってこい"と言ったのは――思うに戦う相手を猟兵だけに絞る為かな。そう言っておけば一般人は間違っても来ようとはしないだろう……君の母君も含めてね」
「――めろ」
「――もし伝えたい事があるなら、確かにそれを届ける事を約束する。きっとこんな機会は二度とはない」
骸の海よりいずる忘却の化身、オブリビオン達。それは過去から浮かび出る際に何かを零れ落とすからか、例え同じ個体であっても出現ケース毎に行動原理と思考ルーチンを変える。ここまで"母"に思い入れを残す個体も、今居るこのジャガーノート・ポーラーきりかもしれない。むしろその可能性が高いだろう。
だから心残りがないように、とアランは言葉を撃ち尽くさんばかりにそれへ放つ。猟兵としての職務以前に、アラン・スミシーという個人が、希望を淡々と実践するものだからこそ。
「君は怪物じゃない、優しい子だ。ミスター白峯。誰よりも君の母君を想ってる。――――君の本懐は何だい?」
「――――やめろっつッてんだよ糞食らえがアァアァ゛――ッッッッ!!!!」
答えは白熊の口と腕からの咆哮を以て為される。拒絶の為の砲火が吹き、アランとリアが載るイルダーナを消し飛ばそうとした。
「……少し不足だったかな、これは」
参ったね、と言いつつアランがぼやき。
「――なら、その"少し"はボクが補うよ」
そう、リアが呟く。アランの話術は確かにジャガーノートに揺さぶりを強くかけたのは見て取れる。なら、あと一押しをする程度なら。
「おや、そうかい?ではお手並拝見といこう。……頑なな彼の心の声を引き出してやってくれ」
「……うん、任せてよ」
先に言った通り、自分に出来るのは彼を骸の海に返す事だけ。自分にはオブリビオンを倒す機能はあっても、それを助ける機能は搭載されていない。
けれどリア自身がそうでなくても。アランがそうしたように、自分以外の誰かが――他の猟兵が彼の事を受け止め想いを汲み取る可能性はある。なら、それを助ける為の一手を紡ぐのが自身の役目。そう思い、リアは虚空から金の竪琴の弦を呼び寄せる。
「コード承認!……さあ、キミの中のモノをココに吐き出してみてよ――!」
感情を揺さぶる電脳魔術の弦。それがデバイスの力を借りて空間を越えて鳴り響き、砲撃の轟音さえ飛び越えジャガーノートを揺さぶる――!
「――――!?」
オルゴールにも似て聞こえる弦の音は優しい。それがジャガーノートの鎧の裡にある心を揺さぶり響かせる。
記憶が渦巻く。まだ"人"だった頃に交わした父との約束。母を守る為に強くあろうとした事。自分がこうなった時の出来事。自分を押し退けて"此岸"に残った黒い歪な鎧姿。怒りも懇願も無為と化し、人でなくなつたある日の記憶とが、ぐるぐるとジャガーノートの中に渦巻いて、そして――
「――煩ェ…………煩ェ煩ェ煩ェ煩ェ煩ェウルセェ!!!!」
ジャガーノートが。"白峯・極人"だったモノが、声を荒げ叫ぶ。
「どの目線でモノ言ってやがるテメェらァ゛アァ゛アア!!!!!!!!!アァ゛!?!」
「誰がやッッすい同情くれなんて言った!!?いるかよそんなモン!!!糞の役にも立たねェんだよ!!!!!」
「テメェらに何が判る!!!!知らねェ内にバケモノになった俺の気持ちが判るってか!!!?なァ!!!?」
「いいよなァテメェらも!!!!俺を押し退けて一人帰りやがったあの糞弱虫も!!!お前らはニンゲンだもんなァ!!!?バケモノじゃァねェんだもんなァ?!!!!」
「どうしてバケモノになるのは俺だったんだ!!!!!どうして――――」
「――――どうして俺じゃなかった!!!?どうして俺は帰れなかった!!?なんでかあさんの隣にいるのがテメェらなんだ!!!!!なんで俺じゃねェんだよ糞がァアアア!!!!!!!!!!」
――がらり。ぱらり。
怒りと裡に秘めた哀しみとを刺激され、一帯はなお激しい嵐の跡地のように変生していた。無論、アランとリアはとうにこの場を離れた後だ。――ジャガーノートの叫びを確かに聞き届けた後に。
「――――どうして」
そして自分以外は誰もいない氷の世界で。
打って変わって、静かな。泣き出しそうな子供のような声で、怪物が呟く。
咆哮とは違うその小さな声は、崩れる氷の音の中に紛れるように呑まれて消えるだけだつた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
富波・壱子
引き続き戦闘用の人格で行動
救助した一般人の避難完了、ならびに予知された標的の出現を確認。これより戦線に復帰します
拳銃では標的の装甲には効果が薄そうですね。武装を対物狙撃銃に変更。【スナイパー】として他の猟兵を援護します
UCを発動。【第六感】による未来予知で【情報収集】し、【戦闘知識】と合わせ敵味方の動きを【見切り】、最適のタイミングを見計らって【援護射撃】を行います
なぜ自分がと問われても、私には偶々でしょうとしか答えられません
標的の怒りその他諸々の感情、全て私では共感不能です
ですがもし他の猟兵がそれを利用するつもりなら、どうぞ行って下さい
それが有効であるならば、そこまでの道は私がつけます
鳴宮・匡
これも“ジャガーノート”か
……多分、あの時の黒いやつと同じ
元はあいつの知り合いだったんだろう
攻防の一挙一動、性格からくる動きの癖
あらゆるものから動きを予測して戦闘を運ぶよ
頭に血が上っていれば視野はその分狭くなる
動きも単調になるだろう
……とはいっても、元の力量も火力も高い相手だ
油断できるわけじゃないが――視るのは得意だ
どうにか食らいついてみせるさ
女の呟きも、相手の唸るような吐露も聴こえていた
きっと“そういうことだろう”とは思っても
それに何を思うこともできやしない
そういうものだ、と他人事のように思うだけだ
だから結局、すべきことは変わらない
……ああ、でも
この光景を視たあいつは、どう思ったんだろうな
日埜・晴翔
アドリブ/連携歓迎
いたくご立腹だなぁ、クマザラシ!(命名)
じゃあ、ちょっとアブナイ大人の鬼ごっこしようぜ!
撃ち狙われているならフェイントを潜ませつつ忍び足で移動。
氷海領域に変えられちまったら、慣れない足場は空中浮遊で凌ぐしかねぇな。地形の利用もできるか?
鬼さんの気が晴れるまで、付き合うぜ!(UC)
暴れてスッキリしたら、逃げるほうやりたくならないか?
次はこっちが反撃する番に交代だって。鬼やりたーいー!
盗み攻撃で弱みになる物がないか探りスライディングや踏みつけで足技を中心に仕掛けていく。
遊んでると、何で怒ってたか忘れてスッキリしねぇ?
お前も遊べ遊べ! 悪さの分は、きっちり仕置きが待ってるけどな。
非在・究子
れ、レイドボスの、登場だ、な……ふむ。な、何やら、癇癪持ちの、様だ、な。
う、うん?『なんで俺が化け物に』? ……そ、そう言う、類のUDCか。そ、そう言えば、飛行型の、奴とも、やったな。あ、アイツは、ゲームを楽しんで、いたけど……お、お前は、楽しめては、いない、みたいだ、な。
ゆ、UCを介して、物理変数を【ハッキング】。限界を、超えた、スピードの、向こう側を、魅せて、やる。
ほ、ほら、そんな駄々っ子、みたいな、攻撃じゃ、アタシを、捉える事、なんて、出来ない、ぞ?
おっ、おっと、い、今のは、悪くない。
な、なかなか、やるじゃ、ないか……せ、せめて、ちょっとくらいは、楽しく、やろう。
●
浜辺の上から、崩落した氷が漂う海原を臨む二つの影がある。冬の海に轟くような叫びを上げていた白熊型UDCとは正反対の、静かな四つの瞳。
うち、蜂蜜色の冷えた二つが富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)の両眼。
そして焦茶色の、凪いで静かな水面のような瞳が鳴宮・匡(凪の海・f01612)の両眼だった。
「……あれも"ジャガーノート"、か」
浜辺の冷えた砂上にぽつりと、匡の言葉が染み込むように落ちた。その名前は匡がよく知るものであり、馴染みがあるものでもある。
「――同系機と対戦経歴が?」
同じくして、冬の風のような怜悧な質問が匡に届く。隣に立つ壱子の掛けた言葉だ。
両名がその手に担う任務を果たす迄にはまだ時間があるらしい。それまでの時間潰し兼、敵に関する情報収集の一環として、合理的な判断の元に壱子は会話に興じる。
「……ああ、何度か」
まだ人として救う余地があったモノ、なかったモノ。
戦い、救ったモノ、殺したモノ。そして"あいつ"が対峙したモノ。
一度閉じた瞼の裏に僅かな間だけ思い浮かべて、匡は壱子の問いかけに返事をして、そして今度は逆に問う。
「そっちは?」
「ありません。が、同名を持つ猟兵との連携経歴は有します」
「…………そっか。ジャックと」
シリーズ名、ジャガーノート。その名を聞いて凪の海が一番に思い起こすのは、目前で暴れる白熊とは別の、度々戦場を共にする黒い豹鎧。――同じシリーズ名を持つなら、やっぱりあの白熊めいた機械も豹鎧のジャガーノートの知り合いだったんだろう。
「"どうして"、か……」
冬の海峡と氷の世界に、幾度と響いた白熊の叫びを匡は反芻する。
血を吐くような慟哭は聴き覚えがあった。黒鎧がまだ怪物めいた姿だった頃、闇の帳に覆われた世界でとある吸血鬼に向け吐き散らした憎悪と憤怒。それとよく似た音を響かせていた。
肉親を呼ぶ声。どうして選ばれたのは自分だったのか。どうして側にいるのは自分じゃなかったのか。それと、助けられた女が漏らした言葉とを合わせれば、あれらの関係も推理することができる。きっと、"そういうこと"なんだろう。――そう、他人事のように考えるだけで、凪の海は思考を止める。
その不運と不幸を悼む事も憐む事もない。ただ淡々と、あの白熊型UDCの身に起こった出来事を、事実として認識するだけ。
「――どうして、なぜ自分がと問われても。私には"偶々でしょう"としか答えられません」
壱子もまた、合理的に淡々と、彼女なりの解を口にする。
特別な理由などありはしない。例えるならば、落雷で命を落とす人と同じ。
きっとそれは、この世に起きる万象の内ではマジョリティとは言えない、ただ確かに実在はする、誰かの身には起こり得る災厄。偶然その災厄に襲われたのが、アレだったというだけ。そう壱子は解釈する。
そしてその意見に、匡も特段否やはない。
「……そうだな。それだけだ。それだけの事で――すべき事は何一つ変わらない」
「肯定します」
匡は人でなしを称し、己は心を捨てていると自認する為。
戦闘人格の壱子は感情を解さず、ジャガーノートの怒りと叫びを共感できない為。
そして対峙するそれがオブリビオンであるが故に。
そして自分が猟兵であるが故に。
そして何より、そう依頼されたが故に。
二人は手にした銃でそれを殺すだけ。
「――、対象の行動に変化あり」
「……そろそろか。陽動組との連携は任せるよ」
「了解。――では、手筈通り」
『はーーい、わかりー。まぁまっかせといてぇ』
ピピッ。通信音ととも、軽々しい返事がスマートフォン越しに届いた。
●
アランとリアが退避し、それでもなおジャガーノートが暴れ爆音と崩落音とが海の上を支配した後は、凪のような静寂が氷海の上に訪れていた。
それはあたかも嵐の前のような不気味さと不穏さを孕んでいるかのようで、そしてそんな暴落した氷岩の跡地から少し離れた流氷の上の一角で、溢れる声が二つあった。
「……んじゃ、そろそろオレらの出番だそーだよぉっと」
「……あ、ああ。わ、わかった。や、奴さんも、動き出したみたい、だな」
嵐の前の静けさという表現は正鵠を得ていた。
究子の言葉のすぐ後に、ジャガーノートが自ら崩した氷の巌から、その怒涛の声と音とが響いてくる。
「―――――ァァァァァァアァアァ゛アア゛アァア殺す殺す殺すブチ殺す糞猟兵共ォオオオオオオオ!!!!!」
怒りに駆られたジャガーノート・ポーラーが、砕けた氷山と凍海とを割り砕く戦艦さながらに飛沫を上げて猛進していた。真っ直ぐ岸辺を目指しているのは、先程対峙した猟兵ら――アランとリアを目指しているのか。
「……そ、それにしても、な、なんでバケモノに、か」
氷岩の崩落ととも断片的に聞こえた言葉。それがきっとアレが怒る理由なのだろうと、非在・究子(非実在少女Q・f14901)は考える。台詞から推理するなら、恐らくはそう言うことなのだろう。
「……んー、まぁ兎にも角にも偉くご立腹みたいだねぇ、あのクマザラシ」
そして隣に立つ一人も、白熊の姿に海豹を背負うジャガーノートを揶揄するように言いつつ、笑うような言葉尻で言った。
名を日埜・晴翔(嘘つき×快楽主義の軟弱メンタル・f19194)と言う彼は、しかしその瞳だけは冷めたように笑っていない。
「……だ、だな。ア、アイツの仲間は、ゲーム、た、楽しんでた、のにな」
究子は、いつか対峙した鳥型のジャガーノートを思い浮かべる。あれは闘う事をゲームのように楽しんでいたのに、目の前の白熊からはそのような余裕を全く感じられない。
鳥が快楽に支配された怪物だとして、海を駆けるアレは怒りに支配された怪物なのだろうか。
「何がそんなに面白くないのかねぇ。人生なんて唯のゲームだろうに」
「ち、ちがいない、な。も、もっと楽しくやればいい、のに」
晴翔が応じ、究子が返す。
晴翔は世の全てを生命を賭けた娯楽と嘯くが故。
究子はゲームの世界に生まれゲームの中に生き、世の全てをゲームと認識するが故。
猟兵としての職務の中にも遊びを見出し、それ故の強さを持つ二人にとって、"遊び"なく暴れ怒りを持て余すジャガーノートの有様は理解し難くもある。
「ま、まぁ、アタシたちがやることは、な、何も変わらない。い、いくぞ」
「あいあい。そんじゃあ楽しくやってやりましょぉか!」
声と共に二人が流氷を蹴り、"海を飛び跳ね行く"。
リアル バーチャル
現実に介入しそれを仮想に改竄する究子のハッキングが、足元にある海面の物理指数を変換、自身が走り抜けるに適したフィールドへと書き換える。
晴翔も究子の現実改竄を電脳魔術師としての手腕を以て読み取り、それに乗じる形で海を奔る。二人の足は海原を蹴り、なんら陸と変わらぬ動きで、或いはそれよりも早く駆け水を蹴り飛ばし氷を踏み、そして一直線にジャガーノートへと向かう――!
「――ッッ!!なんだ糞が!!ァア!!?邪魔すんじゃァねェよ――ッッッッ!!!!!」
邪魔だとばかり、海上を爆走するジャガーノートが両腕を爆ぜさせ二人を撃ち落とさんとする。それを晴翔は海上を低く滑るように潜り抜け、或いは空中での急停止を織り交ぜた超常軌道で回避!
そして一方の究子は――
「……お、おそい、な」
「――ッッ!!?テメッ――」
自前の晴翔が攻撃を引き付けた一瞬の内に、究子がワープと見紛うばかりの瞬速移動でジャガーノートに肉薄!手にしたレトロなデザインの剣で斬りつける!
鋼と鋼がぶつかる音と火花とを散らした後、小柄なゲーマー少女と巨躯の怪物とが再度間合いを取る。
「ほ、ほら、そんな駄々っ子、みたいな、攻撃じゃ、アタシを、捉える事、なんて、出来ない、ぞ?」
「ァア゛ッッ!?!糞ウゼぇ事抜かしてんなよ糞が――」
「――おっと、よそ見は勘弁。ほらオレとも遊んでよ?」
――バキンッッ!!
砕ける様な音はジャガーノートの頭上より生じる。光る靴底が強かに、白熊の頭を踏みつけたのだ。
「アッガ……ッッ!!!?」
呻くジャガーノートの頭を足場に、華麗な宙返りを決めつつ晴翔が海上に着地する。
「テッッメェら……!!」
ぐわんと揺れ乱れる頭を振りつつ、白熊が唸り海に立つ二人を睨む。
「ほらほらそんな睨みなさんなって。鬼ごっこしよーぜ。一度タッチしたからそっちが鬼でいいよな?」
「――おちょくってんのかテメェらァ……!!!いい度胸だァテメェらからすり潰してやらァァアア゛ッッ!!!」
――バキンッッ!!!!
海から音が鳴り響き、瞬時にあたり一帯を氷と海と世界へと創り換える。さながらそれは氷で出来たアスレチックの如く、上下左右前後隈なく、二人を閉すように張り巡らされた。
「くたばれ糞がァァァァァアアッッッ!!!」
慟、と氷と化した足場を蹴り、白熊がその腕で二人を薙ぎ払い刈り取ろうとする。
しかし晴翔も究子もそれが二人を千切り飛ばすより早く、思い思いの方向へと逃走し追い鬼の手を掻い潜る。
白熊がアスレチックドームめいた氷の檻を猛スピードで滑り、氷海を掻き分け砲火を散らし猟兵へ追い縋る。対する猟兵らも縦横無尽に駆け回り、飛び跳ね回るかのように定められた氷の世界での逃走劇を楽しんだ。
「――ッッ、糞がちょこまかとォォ!!!これならどォだオラァァッッ!!!」
「――っ!!?」
バキンッッ!究子の足場の氷海が突如割れ"無くなる"。突如の足場欠落により機動力を削ぎ、尚且つ槍めいた鋭い氷山がいくつも競り上がり究子を串刺しにせんとした。
「うぉ、と、とととっ!さ、さすがに今のはあ、あぶなかった。や、やるじゃない、か」
ヴンッッ。虚空から''ボム"が現れ氷山を爆破し、尚且つ散り散りに爆ぜ飛ぶ氷礫を"抜け"つつ究子が言う。
「はは、その調子じゃん。ちったぁスッキリするかぁクマザラシ?……、っとっととぉ!」
究子と同じく、氷海の牢獄の四方八方から晴翔に向かっても槍めいた氷がせり出し、詰将棋の如く彼を追い詰めていく。そして逃場を失いつつある晴翔に向かい、ジャガーノートが冷めやまぬ叫びつつ弾丸のように吶喊していく――!
「煩ェぞ糞眼鏡――ッッ!!!テメェの面見てるだけでこちとら吐気がすんだよォッッッッ!!!!」
「はは、人の言う事聞かねぇのな。そりゃあダメだ、悪いコだぜ」
晴翔の顔を見て、何が気に入らないのか殊更に憎悪を募らせるジャガーノート。対して追い詰められた筈の晴翔は然し、挑発するように笑ってすら見せる。
「知ってるか?悪いコにはお仕置きが待ってるってのが相場なんだ。……つーわけで、此処でいいっしょ?」
――――――ズ、ドンッッッ。
「――ッッ!!?ガ、ァ゛……ッッ!!?」
重々しい音が氷の壁を引き裂き、晴翔を潰さんとした怪物を穿ち飛ばす。
『――誘導に感謝します。命中確認。引き続き狙撃支援を継続します』
●射穿
「――命中確認。引き続き狙撃支援を継続します」
壱子が怜悧な目で、彼女が巨大な狙撃銃のスコープ越しに氷の檻を――その先にいる標的を見つめている。
彼女がした事は簡単。研ぎ澄ました第六感を以て未来を予測し、敵を誘導する晴翔の動きに合わせるように、アンチマテリアルライフルから弾丸を飛ばした。それは氷の檻の隙間を掻い潜るようにしつつ、確かにジャガーノートを捉えたのだった。
最初の狙撃で割れた氷檻から二つ影が飛び出して離脱していくのが見える。彼らの任務であった陽動は恙無く完了した。
故に次は自分達が任を熟す番。
「ああ。――俺も続くよ」
匡もまた、愛銃のアサルトライフルを構えて凪いだ瞳越しに標的を見つめる。
それが氷の檻を縦横無尽に奔るのを、じっと見つめて観察していた。それの動きは学習が済んだ。
その声と、怒りも聴いた。迸る感情は短絡的な行動を産み、綻びを作る。いつか、黒鎧のジャガーノートもそうしたように。
――そしてそれらの綻びを見抜き射抜くのは、凪の海にとっては造作もない事だった。
――ズドンッ。
――――ズドンッッ。
――――――ズ、ドンッッ。
「――――ッ、ッッ!!?」
仮に氷海の上を超速で動こうと関係ない。
行動を分析し、先手を打つように敵を射抜き、射抜いた時に出来た綻びを次の射撃の布石として、また敵を穿つ。
敵に声すら上げさせない連続精密狙撃。氷海の上には獣の声一つ上がらず、銃撃の音が静かな海原の上に鳴り響くのみ。
そして、壱子の対物狙撃銃も容赦なく、ジャガーノートの身体を啄むようにして抉り飛ばしていく。
「――一定の効果を認めます。このまま狙撃を継続、対象を足止めします」
「……了解」
何処までも静かに、二人の狙撃手が怜悧に、フラットに怪物を銃弾以て釘付けにし、その身体を銃弾で削り取っていく。
浜辺にライフルの火が吹く音を響かせつつ――凪の海は、ふと思う。
(――なぁ、フルイド。予知を見たお前は、どう思ったんだ?)
ひょっとしたら、この景色もお前は見たろうか。
ジャガーノート
同じ怪物の叫びを聴いていたとしたら。
それが自分と似てると、お前も思ったろうか。
このジャガーノートがこう動く事を、予期していたろうか。
どう思って、自分達を送り出したろうか。
生憎、心を捨てたひとでなしには、友達がどう思ったかはやはり判らない。
(――けれど託されたからには、お前の分までやり遂げるよ)
自分にできる事は、それだけだと信じるから。
銃撃が、白熊をその地に銃弾で繋ぎ止めつつ、身を啄むように削っていく。啄まれた数だけ、その怪物は確かに滅びへと向かっていき――そして、怪物へ差し向けられる滅びは、まだ途絶える事はない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雨宮・いつき
…彼女の能力を疑うわけではありませんが
あれ程の力を持つオブリビオンが、一時でも猟兵の願いを聞き届けるという事があり得るのですか…?
…もしや聞き届けたのではなく、それが彼自身の…
…いえ、向こうがやる気ならこちらは迎え撃つまで
海王が姫よ、参られよ
悍ましき彼岸のその先に、絢爛なる常世を示し給え
陸も空も氷山も、あらゆる空間を高速で泳げる加護を皆さんに
魚雷は幻惑で狙いを狂わせ、自分自身を狙うように仕向けます
五感を共有しているのが命取り、どうぞ御覚悟を
貴方の事情も来歴も、僕は知りません
知れば、貴方を倒す事が出来なくなるかもしれませんから
…骸の海へと還る前に、
せめて貴方が求む幻を見てから御逝きなさい
斬幸・夢人
どうしてが分からねぇなら、きっとそこに理由なんてねぇんだろうよ
偶然、たまたま、運の良し悪し……一番気に入った理由を使えばいいさ
挑発的なことを言いながら一気に距離を詰めて接近戦を仕掛ける
使用するUCは「神さえも覆せない反逆」
敵の攻撃を紙一重で見切り、死中に活あり、捨て身ともとれる踏み込みと共にカウンターで攻撃する
刀でも四肢でも攻撃方法はお任せします
……まぁ“どうして”って思っちまうことはあるわな
それが理不尽であればあるほどよ
俺もあるよ、謎の適合者扱いで記憶がとんじまって……
……いや、同情しちまうようなことは止めておくか
大切なのは俺が猟兵で、テメェがUDCだってことだ――少なくとも今この場ではな
舘林・祀
ようやく予知にあったUDCのお出ましか
ふふ、この鳥肌は寒さのせいだけじゃなさそうね
こりゃ本気出さないとやばいかも
真の姿、妖狐の力を完全開放
四肢や無数の尻尾に真紅の焔を纏って、打撃力と機動力を強化
あの氷岩の強度なら、アタシの焔で溶けることもないでしょ
遠慮なく足場として使わせてもらうわ
相手の巨体にびびらず、至近距離戦を挑む
リーチの差は明白だしね
≪弐之型:崩珠≫
その巨大な爪・砲塔・魚雷発射管。壊しがあるものばかりね
悔しいけど、一人で勝てると思うほど無謀じゃないの
今日のところは他の猟兵に譲ってあげるわ
それにしてもこの白熊
図体ばかりでかくて、言動はまったくの悪ガキね
おねーさんが折檻してあげましょ
●
「――東春南夏西秋北冬、顕現するは竜の宮。艶美に酔い痴れ享楽に溺れ、常世に呑まれ果て給え」
氷岩の岸辺に静々とした祝詞が木霊する。その声の主は、吹き渡る凍てるような海風に身を任せ、浜砂を踏みしめつつ舞っていた。
透き通る羽衣が彼が動く度に揺れるように踊り、焔のような蒼扇がそよぐ度に神氣が集ってその身を輝かせる。
雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)が、遠くに見える氷海領域に――其処にいる怪物を、その蒼い瞳で見つめながら神楽を舞い奉り納めていた。
創造神話の如く、幾度も氷岩の世界が崩れまた創られ、崩壊と再生の輪廻を繰り還す。その度に怪物の慟哭が届く。
あのUDCを呼び寄せる契機を作った猟兵の事を疑う訳ではないが、あれほどの力を持つUDCが例え一時的にとは言え、素直に猟兵の要請に応じるだろうか。
現れたジャガーノートを見た時に、いつきの脳裏にその疑問がまず浮かんだ。
そして、海の向こうから響いた咆哮。氷の崩落と轟く波濤とに阻まれて全てを耳にしたわけではないが、それが唯怒りだけ故に吐き出されたものでない事は解った。
ともすれば、あれが人を守ろうとしたのはあのUDC自身の――
(――いえ、詮無き事ですね)
広がる思索を強いて打ち切り、いつきは舞う事に集中する。
どうあれオブリビオンと猟兵が相容れる事はない。此岸と彼岸の隔たりは大きく、対峙すればどちらかが斃れるまで戦う他ない。
事実あれは確かに猟兵へ憎しみを募らせている。此方を殺す事に躊躇いなどないだろう。であるならば、此方もそれに応じる他はない。
海から、バキィィンと言う音が鳴り響く。怪物の操る氷と海とが形を変え、幾重にもそれを包む殻の様に形成される。結界の如きそれは、己を戒め苛む銃撃から身を守る為のものだろう。――いつきにとっては願ったり叶ったりだ。
「海王が姫よ、参られよ。悍ましき彼岸のその先に、絢爛なる常世を示し給え――!」
氷の結界が出来るのとほぼ同時、舞と祝詞とが結実する。
神楽舞により顕現するのは、極光に包まれし雅な宮殿。そして極楽浄土の如き宮の主たる、夢幻の美しさを誇る天女。
ニライカナイ
竜宮演戯が開帳し、竜宮の姫に従う星鱗の魚らが猟兵達に加護を与える。
「――さぁ、支援はお任せを!御武運のあらん事を!」
「待ってましたぁぁ!!さぁさぁ行くわっっ!!!」
「……やれやれ、元気なこったなぁ」
気力溢れんばかりの声と、うっそりとした気怠げな声。二つの言葉が吐かれたのち、影が二つ氷海へと向かって飛んでいく。
●
「――ッ、ク ッッソ喰らえッッッッ―――!!!!」
バ、キィィィンッッッッ!!!!!
苛立つジャガーノートの叫びに応じるよう、大気が凍りつく音を立て、それの外周を幾重にも重なる氷の壁で包み込む。
氷の世界は厚い氷と圧縮された海とで球状の結界を創り、狙撃手らが放つ弾丸をジャガーノートに届く前に阻む多重防壁となる。
銃弾が飛び交う音が止む気配はない。未だ氷と海の壁を抉り穿ちつつ――唯、多重に展開された氷壁と超水圧の海水が障壁となり弾丸の威力を数回に分け削ぎ、そしてそれが超速で再生・再展開し猟兵らの狙撃を阻んでいた。
啄まれていた機械装甲も、蚯蚓腫れめいた跡が盛り上がり、その後にめきりめきりと音を立てて修復していく。完全に直すには到らないのが歯痒いが、漸く、というように怪物が息を吐く。氷の結界の維持に集中していれば、銃撃を凌ぐ事は叶うだろう。
――叶うと思ったが。
「――ハ、畜生がッッ……次から次によォッッッッ!!!!」
氷の結界の外、海豹型魚雷の目を通して影が二つ、宙を泳ぐように飛んでやってくるのが見える。それが飛翔する原理は不明だが、此方に向かって来るからには何か方策があることは理解できた。
――ならば、此方に届く前に殺すまで。
ざばぁんっっ!!!海を破り、魚雷が飛び跳ねるように現れる。
海に潜み機を伺って獲物に食い掛かる海獣の如き、唐突な奇襲。
避けさせる気など毛頭ない。
「――ぶっトべ糞がァァァァァッッ!!!!!!!」
完璧なタイミングだった。肉屑が冬の海に散るだろう――!
避け得ぬだろう猟兵と魚雷との接触に、怪物がほくそ笑んだ。
●
「……さて、二人が着く前にもう一仕事ですね」
泳ぐように飛ぶ二人を見送りながら、いつきが呟いた。
怪物がああして自らをも閉ざすなら、砲撃ではなく別の攻撃手段を使うだろう。その予測は出来ていた。そしてあれは海豹の姿をした魚雷を用いるらしい。それはどうやらあれの目としても機能するらしい、というのも他の猟兵らの情報提供で理解している。
飛び行く二人を阻むなら、それを使うだろう。
だからいつきは、蒼い扇を海へと向けてひそりと声を溢した。
併せるように海が割れて"海豹"が現れる。
「――せめて、貴方の望む幻を見せましょう」
――その言葉を皮切りにして、海豹の眼に"走馬灯"が映された。
●
肉屑が散り、冬の海を紅く濁して汚すだろう。
そう思いほくそ笑んだジャガーノートの眼に映ったのは、しかし冬の海でも肉屑でもない景色だった。
"――ゴクト。"
「―――――――は?」
母親の顔が目の前にあった。
自分の名前を呼んでいた。笑顔だった。
昔、まだこの姿でない時にみた光景。
過去に実際あった出来事が、映画のフィルムじみて再生される。
何気ない日常の。
他愛無い日々の。
僅かな特別な日の些細な記憶が走馬灯のように流れ行く。
時間にして、一秒足らずの幻。
そして現実時間で一秒に足らぬ時間で、"二人"には十二分だった。
動きを鈍らせた魚雷を躱し、其の儘氷の結界に肉薄し――その中へと、氷と超高水圧の壁を"なんの抵抗もなく、とぷりと進んでいく"。
竜宮の加護を得しものは、如何なる空間をも隔てられる事なく泳ぐ。
それが空であれ、氷と水とで閉ざされた結界の中であれ、それらは海を進む魚の如くするりと氷海結界を抜け――そして。
「――やぁっっとだわぁぁっっ!!!!」
――ズドぉんッッ!!!!
溌剌とした少女の歓喜の声、そしてそれに相応しからぬ重々しい音と共、舘林・祀(一拳十殺・f24918)の拳がジャガーノートにめり込み、その巨体を吹き飛ばす。その四肢と幾本もの尻尾には、轟々と真紅の炎が燃え盛っている。
「あーーーもー出てきたと思ったら氷の上に逃げるとかまどろっこしいたらなかったわ!!!」
侃々諤々、祀が啖呵を切りつつ燃拳を構える。その翠眼は好戦的に煌めいてもいた。
「……はぁ、血気盛んなお嬢ちゃんだなぁオイ」
そして咥え煙草の紫煙を巻き、ちりんと言う鈴の音を侍らせ呟くのは斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)。
「……んで、テメェが件の"ジャガーノート"だな?」
燻る煙の奥、拳を叩きつけられ氷の壁面にめり込んで動かないそれを見つつ、うっそりと夢人が問う。
「…………」
怪物は問いかけには応えず、動かぬまま。
「……え、ちょっともしかしてもうノックダウン??全然不完全燃焼なんだけど!!」
沈み込む怪物を見て、祀は冗談よね?と言いたげに唸る。
一方の夢人は、ただ項垂れるように鎮座するジャガーノートを見つめるのみ。
「――――す」
やがて怪物が小さく言葉を発する。
「おっ、起きた!?勝負再開かしら!!」
「……成る程」
祀はそれに目を輝かせ。夢人は煙草を吸い、それを短くした後でぽつりと呟く。
「――――殺す!!!!」
シームレスな殺意と挙動だった。
刹那の間に巨体が氷壁際から祀の眼前へと移動し、機械熊の腕を棍棒の様に真っ直ぐ振り下ろす。
「――っ!そうこなくっちゃぁ!!!」
突然のそれにも、祀は尚猛るようにして応じた。
拳には拳を。垂直に落ちてくる豪腕に真向から拳を打ち返す。
轟音。
拳と拳が撃ち合った衝撃波が氷の結界を揺さぶり、拮抗した力は互いの腕を弾き飛ばす。その一度では飽き足らず、衝突が幾度となく繰り返されていく。
「――殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ねよ糞アバズレがァァァァァ!!!!!!」
「口の悪いガキンチョねっ!!!年長者とレディに対するマナー知らない訳!!?」
ばき、ずど、がぎぃ、ずどどどどッッッッ!!!!
零距離で繰り広げられる肉弾戦と罵声の応酬。双方一歩も譲らずに乱れ撃つように両拳を振り翳し、その攻撃の余波だけで二人の近くにある氷が砕けていく。そうして破壊を繰り広げつつ、狐と熊が諍い合う。
人外の域にあるだろう馬鹿げたデスマッチを見ながら、夢人は"成る程"という呟きの続きを煙草の灰とともに落とす。
「……話に聞いてた通り、餓鬼みてぇな奴だな」
変装上手の猟兵が言っていたのを思い出す。"我儘な子供みたいなUDCだった"と彼奴は言っていた。
そして目の前の、子供の喧嘩めいて拳骨を振り回すアレも、確かに気の短い餓鬼のようである。――いや、ともすれば本当にそうだったのかもしれない。
「――、煩ェよ糞ボケ野郎ォッッ!!!」
言葉に敏感に反応したかのように、ジャガーノートが怒り片腕を夢人に向ける。
めき゛り。装甲が軋む音を立て、腕の砲塔が脈打つように膨れ砲火を吐き散らした。
「ガキみてェ!!?あァそうだガキだ!!!ガキだったんだよ!!!!」
慟、獰ッッ!!
祀の相手を片腕と氷海を繰る事でこなしつつ、続け様に夢人へ向けられた腕が火を吐く。
唸り溢す怨嗟と憤怒に応じるが如く、白熊はより強力に、より迅速になって行く。まるで怒りが怪物に力を齎しているかの如く。
「ガキだったのに!!!唯のガキの筈だったのにどうして――!!!」
「……分からねぇなら、きっとそこに理由なんてねぇんだろうよ」
「――――ッッ!!?なッッ」
ギィンッッ!!
紅蓮の砲火の中から黒装束が現れ、手にした黒刀を怪物の腕とぶつけ鎬を削る。ぶち抜いたと思った敵が無傷である事に驚くジャガーノートへ大した反応も示さず、夢人は言葉を紡ぎ続ける。
「偶然、偶々、運の良し悪し。好きな理由を使えばいい。……ま、"どうして"って思っちまう気持ちはわからねぇでもねぇが――」
そう言う間にも幾度と剣を閃かせ、その度に鋼と鋼がぶつかり合う堅い音が氷界に響き渡る。
鳴り響く音ととも、灰髪の男が想いを馳せるのは自身の境遇。
自身の意が介さぬ形で摩訶不思議の世界へと連れ出され。
そして、それまでの記憶を失った。それが彼の身に起きた災厄。
怪物のそれとは度合と境遇が違えど、同じく不条理を受けた身として感じ入る所が全くない訳ではない。
――が、こと此処に於いてそのような、"情"を所以とするモノは不必要だろう。
大事なのは其処では無い。
ことこの局面で最も重要視されるべきは、もっと別の事だ。
「――ァァア゛ァ゛アウゼェな糞が!!!!!同情も説教も聞きたくねェんだよ糞カスどもがよォォッッ!!!!!」
激昂するジャガーノートが更に攻撃の手を強めんとする。
両の手が放つ剛力も砲火も、操る氷海とそれに後押しされた怪物の動きも、なお激しさを増していく――!
「――っ!しゃあないわねっ!!先手打つから後は任せるわよ!!!」
「……応、任せな」
ギン、がぎっ!ギ、ばき、ギギ、がきっ!ガギィンッッ!!
猟兵の拳と剣、怪物の腕とが鬩ぎ合う音が響き――先に動いたのは祀だった。
――呼。
刹那の間に息を吐ききり、また静かに吸うととも氣を練り上げる。
息吹とともに掌の焔も、煌々と輝きを増す。
二本の腕が弓反りの如く目一杯引かれている。
一拍ののち、あれらは自分ともう一人を真二つに千切る為に振り抜かれるのだろう。
「仲良く死ねやオラァァァァァアアア――――ッッッ!!!!!!!」
そしてその予感のまま、思い切り。死神の鎌の如き腕が振るわれ――
その前に、焔掌が白熊の胴を穿ち、激震がその身を貫く。
「――――ガ、なァ゛ァ……ッッ!!?」
ばきぃぃいんッッ!!
土手っ腹に叩き込まれた筈の一撃は、しかしその衝撃を身の内を通し波状の激震を伝播させ、白熊の腕装甲を左右ともに破砕する。
"弐之型:崩珠"、狙った獲物のみを砕く神拳使いの超技、此処に成る!!
「――こ、ンの糞ァァァァァア゛ア゛!!!!!」
が、腕が使えぬならば、と。
ジャガーノートの胸が真ん中から二つに割れるよう、がぱりと裂けた!
中から迫り上がるのはギラリと光を湛える砲塔――!!
機械らしく、秘蔵されし兵器を以て奇襲の一手を紡ごうと怪物が足掻く!
「……悪ぃな。もう終いだよ、坊主」
"チリン"。
鈴の音が二つ輪唱するように響いた。
その実、涼しげな鈴音に重なって聴こえたのは鍔鳴りの音。
「――――は、ァ?」
いつの間にか、黒衣の男は刀を納め終わっている。
何が起きたのかすらジャガーノートの眼には追えなかったが――刹那の間に叩き込まれたのは、袈裟と逆袈裟、その二太刀。
神すらも覆し得ないほど、研ぎ澄まされた剣戟だった。
罰の字を描くように。撃つ筈だったブレストレーザーを中心点に添えるよう、ばっさりと"斬られた"のだと。
怪物がそう理解出来たのは、撃てずに終わった為エネルギーの逃場を失い、内部爆発を起こし自滅するその間際で漸くだった。
「――――――ァ、ぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――ッッ!!!!?」
――ず、ドォォォォォォォンッッ!!!
切り裂かれた胴から白光が溢れたのち、ジャガーノートの身を裂くように爆炎と灼煌が迸る。
「別に恨みだの何だのはねぇが――強いて言うなら」
仕事終わりの一服を喫しつつ、灰髪の男が言う。
「お前がオブリビオンで、俺らが猟兵だった。それだけだ」
「――――……」
爆炎の名残たる煙と、氷を融かした水蒸気とに隠れる向こう。
崩れ落ちているだろう敵に向け、夢人がそう言った。
そう、情の挟まる余地などない。
此処にあるのは絶対的な条理のみ。
ただ、猟兵は世界を守る者で。オブリビオンは世界を害すもので。
そしてそれ故に、猟兵がオブリビオンを倒すのは宿命であり。
必然であると言うことだけ。
それ故に、猟兵らはジャガーノートと戦い。
「――――ぅ」
そして、ジャガーノートもまた。
「ゥァ゛ァ゛ァ゛ァァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!!!!」
煙の奥から叫びを上げ、べきりべきりと異音を立てつつ立ち上がる。
傷を重ね、憎悪を募らせ。
一層理性を削り、憤怒の果てにその身を歪に変じさせつつ。
それがオブリビオンであり、猟兵らと戦う宿命を負うものであるが故に。
死に瀕する瑕疵を負おうと、まだ斃れてなどやらないと示すかのよう、それは再起する。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アマラ・ミュー
基本はさっきまでと同じだ
他の面子が動きやすいよう、援護主体でいこうか
あの氷岩ってやつに【手を伸ばし】て飛び回れば、少しは鬱陶しがってくれるかな
そうして奴の顔に[木枯らし]の弾丸を……
……。さっきの女の人、巻き添えにならないよね
奴の飛び道具、全部止めよう。他の面子への援護にもなるし丁度いいや、全部【土へと返す】
奴の攻撃を遮る位置に[木枯らし]の弾丸を撃ち込んで発芽させる
最悪私の両腕をアレに変えて受け止めて、返してやろう
子供が駄々をこねているみたいで面倒だな
何が気に入らないのか知らないけどさ……そうしたって無駄だよ
喚く子供は、オトナから黙らされるのがオチって決まってるんだから
波狼・拓哉
ふむ…んー…ああ、怖がられるのが怖いのか。自分が自分じゃないみたいな感覚にでも陥ってるのかな?だからそうであろうとする…みたいな?まあ傍から見てるだけの感想だし話半分くらいで。
じゃ化け潰しなミミック。氷の岩山、氷海領域事砕いてやりましょうか。さ、行ってきな。バケモノとしての差を見せつけにね。
自分は衝撃波込めた弾で撃ちつつ、視力、戦闘知識、地形の利用、第六感を使用してミミックやら前衛の動きに合わせて援護射撃。魚雷とかも先手で撃って処理しとくか。
あ、何か言っときたいことある?出来そうな事ならやっとくよ?…誰かに伝言伝えたいとかね。
(アドリブ絡み歓迎)
イリーツァ・ウーツェ
標的オブリビオンを確認、殺す
奴の過去等関係が無く、恨みも怒りも持たない
だが、オブリビオンは殺す
然う云う約定だ
無機物上では、移動力が上がるか
ならば奴に掛かる重力を操作
浮かして仕舞えば、動き難かろう
繋ぎ目が細い様子
ペインレスを全弾撃込み、下半身を切断
機動力を奪う
後、私自身の重力を操作
敵に向かい、勢いよく“落下”して
体重を乗せた、全力の怪力で殴る
頭を砕くか、庇うならば両腕を粉砕する
では死ね
アルトリウス・セレスタイト
理由がどうあれ此処に在るのは過ちだ
始源を展開
目標は『天光』で逃さず捕捉
『絶理』で物理法則から離脱し目標の上方より
魔弾として投射し静止の原理をもって鎮圧を図る
『刻真』で無限加速した高速詠唱を『再帰』で無限循環
『解放』で全力の魔力を注いだ、天を覆う数の爆ぜる魔弾での包囲攻撃
魔弾自体も加速し生成・射出・着弾を「同時」に
魚雷も逃さず捉え対象に
叩き込む衝撃と原理で無理矢理にでも停止させる
止まれば恨み言くらいは聞く
紡いだものは尊重されるべきだが
誰かのそれを侵すのであれば引き下がれ
●
「――ァァァアアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!」
装甲を破壊された腕が、両袈裟を斬られ断たれた体が、めきめきと嫌な音を立て修復していく。
機械鎧装に見えるそれが不気味に脈打ち、蚯蚓腫れの如き痕を遺しつつも、機械よりは生物的に、そして其れより遥かに怪物らしく千切れた身体を繋ぎ合わせ、疵を負う前よりも巨大になる。
「殺すコロスこロす殺す殺スコロす殺すころスコロス――――殺スッッッッッ!!!!!!!!!!!」
元より巨大だったその体はより一層巨きく変じ、今や二桁メートルに届くだろう体躯へと変じた。
白い機械鎧に裂傷の如く亀裂が走り、その奥に青白いスパークを迸らせる。怪物が動く度に明滅するそれは、青い血のようでもあった。
猟兵が憎いが故か。
死に瀕する程の傷を受け、オブリビオンとしての本質が色濃くなった故か。
それともそれら全てを凌駕するほどに、その身を怒りが包んだが故か。ジャガーノートが発する言葉に理性は伴わず、その殺意は体躯以上に膨れ上がっている。
その目は最早何も、それが守りたかった筈の母親さえも見出せない程に盲いて。そうしてそれは、辛うじて残っていた人らしさもかなぐり捨て、唯の愚かなバケモノへと成り下がってしまっていた。
「殺すコロスこロす殺す殺スコロコロスころスコロスコロスコロスこロスコロスコロス―――――!!!!!!!!!」
只管にそれは、憎悪と怨嗟と激昂とを叫びがなり立てる。
――そして、氷の結界が融けるように消えた。
残ったのは、歪に巨大化したジャガーノートを支える為の、地盤の如き丈夫な氷の厚板だけ。白熊を護る為の氷の防壁がなくなり、真冬の日輪がその姿を照らす。ジャガーノートを覆い隠すものが消え、そしてそれは同時にジャガーノートの砲火を遮るものもいない事を意味している。
不特定多数へ激憤を撒き散らしながら、ジャガーノートが腕を無造作に突き出した。
め
き
り。
鉄塔を捻じ曲げるような破音が響く。それととも、怪物の両腕が体長と同じサイズまで肥大化する。そして、それが尚、出来損ないの風船のように膨れ上がって。
「―――――― コ ロ ス ッッッッッ!!!!!!!」
遥か彼方まで届くだろう砲撃音ととも、爆発するように怪物の両腕が弾ける。
破滅を齎す業火の種が、猟兵達のいる浜辺へと風切り音とともに押し寄せ――
「――――駄々をこねるガキそのものだな」
タァン。
乾いた音が災厄の火種を叩いた。
鋭く吹き渡る冬風の如き銃声が響くととも浜辺へ着弾する筈だった砲弾のうち一つが、ずるりと着弾箇所から這い出た"蔦"に絡まれ、勢いを削がれる。
「アア゛――――ッッ!?」
苛立ちの声とともに怪物が叫んだ。
邪魔をするのは誰だ、というかのように。
「……タマ一つ落としただけで、そんなにかっかするなよ」
怪物の叫びに気怠げに応じるのは、波打ち際に立つ赤髪のエルフ、アマラ・ミュー(天のカミサマを射るように・f03823)。
「それで終わりのつもりなんて、コッチは更々ないんだから」
一つだけ勢いを弱めた砲弾に、アマラが銃を持たない方の手を伸ばす。その手がずるりと形を変え、砲弾に絡まっている蔦と同じモノと化し――それは元から同じ一つであったかのように、互い同士絡まり結びつき合った。
「……掴まえた」
蔦と化した腕をアマラが振るう。横薙ぎに振るわれたそれは、蔦同士を絡ませ合って即席の網を創り出し、それを以て飛翔していた災厄の火種を根こそぎ摘み、絡め取って掴まえる。
「――そ、おらっっ!」
ぎゅんッッ!もう一度アマラが思い切り蔦と化した腕を振れば、網は流氷漂う海面へと思い切り叩きつけられ――ずどぉぉぉん、と言う激しい音とともに、叩き落とされ爆発した砲弾の数だけ水柱を立てる。
「ァアァァアアアアアアアアアア!!!!殺ス殺スころスコロスコロスコロス!!!!!!」
飛沫を上げる翡岸の奥で、怪物が咆え叫んだ。そして尚も腕は怒りに触発されたように膨れ上がり、再び砲火を吐き散らす。
彼方の岸より再来せしは、死を振りまく火の種の群れ。
「――――そんなに気に入らないか?」
自分たちの存在が。あるいは世界そのものが。
怒り故に盲と化し、もはや守りたいと思ったものすら呑まんばかりの暴威に身を窶してしまう程に、憎しみを抱くのか、と。そう静かに、赤髪のエルフは呟く。その声が対岸にいる怪物に届くことはなくとも。
「……どうあれ、無駄だよ」
そう零しつつ、アマラが手にした銃を掲げる。
銃口を向けるは迫りくる無数の砲弾。一と七しか弾を込められない"木枯らし"には些か手に余るだろう数を前に、然しエルフの射手は怖じも焦りもしない。
そして、銀色の銃に蔦が絡みつく。
銀のそれは大地の色に覆われ、アマラの腕と銃とを繋ぐように巻き付き――そのまま射手がトリガーを引いた。
――ズドンッッ。蔦の銃口からいずるのは、まさに今空を飛び交うそれと瓜二つの砲弾だった。
最初に砲弾から生やした蔦と、それに自分が伸ばした蔦とを繋ぎ合わせた。その蔦が花草を育み実を付け種を溢すかのように、"ジャガーノートの砲弾"を無数に生み落とし飛ばしていく。引鉄を引く度に砲音が幾度も連なるように鳴り響き、火種同士がぶつかって空中で散華していった。
「ァ、アアアアアアア゛ア゛アッッ――!!!!?」
自分の怒りが無為と化す事に、不理解と不機嫌を表す咆哮を怪物が上げた。
「子供めいた駄々捏ねたところで、どうしようもないよ」
エルフの射手はそれに向かって、そう淡々と返すだけ。
「喚く子供は、オトナから黙らせられるのがオチって決まってるんだから――こんな風にね」
そう、アマラが零す声に応じる様。
ジャガーノートへと、空を飛ぶ大いなるモノが向かっていく。
●誅滅
「標的オブリビオンを確認――」
重く、厳粛な声で、そして事務的で平坦な、いっそ感情を感じさせぬ声だった。
その声の主たる竜の名をイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)と言う。
「――――殺す」
その宣告は無慈悲で容赦なく、鋼のように揺るぎない。
竜にとってはそれが何だったかも、今は何かも関係などありはしない。
ただ、過去の残滓は殺す可し。盟約に然う在るが故、竜は其れを屠ると決めている。
「――!!殺ス、殺スコロスコロスこロスコロすコロス殺スァァア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!!!!!」
竜の宣告に触発された故か、ジャガーノートが咆哮し再度歪な腕へ砲弾を装填し、爆音と共に吐き出す。
「――――」
しかしなんたる事か、イリーツァへと飛び掛かりそれを噛みちぎらんとした砲弾らは、見えぬ壁に当たりひしゃげ潰れるかのように爆ぜ飛んだ。焔すらイリーツァを避けるようにして散っていく。無論、イリーツァに阻まれず浜辺へ飛んでいく砲弾は根こそぎアマラが撃ち尽くす。
「――ッッッ!?――ァア゛ア゛ア゛殺オオォォォォォォォォオス!!!!!!!」
ならばと言わんばかり、怪物の呼び声に応じるよう海氷を割って、幾匹もの海豹が現れる――!
ジャガーノートが巨大化した事に合わせてか、それらは巨大な鮫か鯱の如き、イリーツァを凌駕する巨きさとなっている!それらが砲弾ほど愚直ではない、生物めいた動きで海の中を掻き分けつつイリーツァを爆破せんと迫り――
「――止まれ」
然し天上からの冷ややかな声と共、青白く輝く光球がそれのもとへ墜ちた。
無数のそれらが雨の如く海豹達を貫き、超常の力を以てそれらを"縫い止める"。
まるでピンで刺し貫かれたかの如くに、ピタリと海豹達が――そして光の当たった海すらも動きをとめてしまう。
「恨み言くらいは聴いてやろうと思ったが――人の言葉すら喪ったか」
脱色したように白い男、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、何もない空の上に立ちつつそう言い捨てる。その冷めた眼が歪な巨躯となった怪物を射竦めるように見つめていた。
「ァア゛アアッッ!!!?ァァァァァアアアアロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス――――!!!!」
砲弾も、魚雷も等しく阻まれた。あとは何度打っても同じ結果となる。
怒りに支配されつつも、それの判断力はまだ冷静な部分を残していた。
そして、ならばと怪物は歪になった腕で、バキリとその掌下にある氷を掴み握る。
バキ。バキバキバキバキバキバキ――!!!
氷岩がまた形を変える。
ジャガーノートを支える足場としてのみあったそれが、衝角の如き氷柱を伸ばし、翡翠色の分厚い氷板を鋼甲の如く聳え立たせる。それは海にある戦車、或いは砕氷機を備えた氷の戦艦の如き威容となる。
「――コ、 ッッ ロ スゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!!!」
自分のもとに飛び来る竜ごと引き潰そうと、ジャガーノートが海を破り爆音を立てて、戦艦の如き"氷岩"とともに発進する――!
――が、それは最高速に到達する前に、呆気なくも文字通りに"潰された"。
「――はい、残念でした。化け潰しなミミック」
――ず、どがぁぁぁぁあんッッ!!!!!
「ァ゛ア゛、ア゛ガァ゛……ッッッッ!!!?」
ひゅるる、と寒風を裂く音を立てて落ちてきたのは、最初は小さな箱めいた何かの筈だった。しかしそれは突如めきりと音を立てて貌を変え、巨大樹めいた姿へと変生し、勢いを殺す事なく氷岩の戦艦へと着弾した。
ゾス・カリス
"偽正・水植聖杯"。樹木の杯めいた巨大な超常生物が、氷の戦艦を砕き穿ち、ジャガーノートをもその杭めいた木の根で破り貫き縫い止める。
「しかし途端に怪物めきましたね。どんな理由からですかね」
何の気なしに、鋭い言葉を投げ放つのは波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)。怒りに目を曇らせたジャガーノートの隙をつき、流氷を渡り歩いて接敵しつつ最適のタイミングでミミックを放ったのだ。そうして一種の好奇心めいた情をも持ちつつ、じっと大樹に穿たれた怪物を彼は見る。
「――そうするのは自身がそうだと自認するから?それとも望む自身の形を否定された時に向けて作った、自己防衛の為のペルソナ?」
その探偵業を営む者としての性からか、拓哉は一人で呟きつつジャガーノートの精神性を解析・分析していた。
「――それともただ単に、オブリビオンらしさを取り戻しただけ?」
さもありなん。
所詮元が何であろうと今は彼岸にあるべきもの。此岸にあるべきでないもの。
過去のものであり、未来へは進めぬもの。世界を脅かすもの。
間違いようもなく、此れは世界の敵なのだ。
偶々人らしさの残滓が一欠片ほど残っていたとして、ふとした切っ掛けでその本質を取り戻す事も充分にあり得る。
――そして仮にそうでないとしても、此れが斃すべきものであるという事は揺るぎようもなく、確かな事実なのだ。
故に。
「――ま、何だっていいです。恨み言は十分他の人に聞いてもらったでしょう?」
ぽつりと拓哉は呟く。
話半分の、誰へ宛てたでもないひとりごとめいた推論だ。時間潰し程度の意味しかない。――そして、それの"終わり"はもう見えている。
もがこうとする怪物へ、無数の光の球が落とされる。
「ァ゛――――ガッッ!!!?」
"始源"と字されるそれらは、アルトリウスが操る"原理"を用いた超常の光弾。
自在に編まれし原初の理を秘めるそれには、今は"静止"の理が一つ一つに刻み付けられている。一つでさえ仔鯨めいた大きさの機械兵器を、その下にある海ごと停めてみせる力。
――況やそれが天を覆い尽くす程の数を、全て一匹の手負いの獣に浴びせるとなればどうなるか。
「ガ、ァ゛、ァ゛…………ッッ」
もはやジャガーノートはピンで留められた標本の虫の如く、自由の効かない身と成り果てていた。
「――紡いだものは尊重されるべきだろう。だが」
やはり零下の眼でそれを見ながら、白い男が言う。
「誰かの――お前のそれすらも侵し壊すならば、骸の海へ還るがいい」
いっそそれは、慈悲すらあった言葉だったのかもしれない。
そして縫い付けられたそれへ、断頭台たる一撃が齎される。
その首を刈る為の刃は、竜の肢の形をしていた。
天より真っ直ぐに、竜が――イリーツァが墜ちてくる。
竜は重力を操る力を持っていた。
或いはそれは壁の如くなり、己に飛び来る弾を真つ向から叩き潰し。
或いは天高く竜の身を雲上へと運び。
そして或いはそのいと高き処より、神の断罪の如き暴威を睨下へ齎さんとする。
他のものが動きを封じてくれた分だけ易かった。
それはまさに、地に降る流星の如きモノだった。竜の拳が身動きのとれぬ白熊の頭を真っ直ぐ狙う。
「死ね」
――――断頭台の落ちる音は、山をも砕く雷霆が落ちたかのようなものだった。
竜拳はジャガーノートの頭を、その下にあった氷ごと真二つに割り砕く。
容赦も慈悲もない。
それは、それが斃される宿命にあるが故振るわれた。
ただ、それだけの事だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●激憤
「ァ゛」
頭蓋代わりの兜が割れ、中身がどろりと零れ落ちる。
生憎、中にあるのは人の身ではなく青白い電気の塊であり、それがまろび出た所で死滅に直結はしない。
機械と電子の殻を剥いた先、その中身も骨の髄までも。何処までも、怪物は怪物だった。常人なら百度を越え死を迎えるだろう傷であれ、それは怪物ゆえに死にはしない。
しかし、猟兵より受け、積み重なった瑕疵は致命に届いた。
最早ジャガーノートの滅びは一寸先にあるばかり。動かずにいるだけでも、やがては骸の海に還る事となるだろう。
「ァ゛……、―― 」
いっそ目を閉じ伏せ、そのまま斃れて、彼岸の海へと還れば楽なのかもしれない。そんな思考のパルスが、怪物の電子の頭脳を過った。
そうして、ジャガーノートの疵からまろび出ていた青白い光も。
その命の終わりを表すかのように弱まり、終わりを迎えようとして。
「 ―――― 」
ふと、機械のバイザーの奥に記憶が過った。
人だった頃の全て。
まだ幼かった頃に握った母の手。
その温もり。
父がいなくなったとしった日。
母が零した涙。
それを拭った手。
母を自分が守ると誓った事。
――そして、その全ては唐突に無為と消えた。
もはや温もりを感じる為の身体はない。
腕は人を千切る事はできても、涙を拭う事は叶わない。
誓いは破られ、二度とそれが結実することはない。
願った事は全て叶わない。
そうだろう。
当然かもしれない。
直前まで、母の事すらも忘れ暴れ。
ジャガーノート
圧倒的破壊の名に従う侭、全てを壊しつくそうとしたのは自分に他ならないのだから。
いっそ唯一残していた矜持さえ怪物性に呑まれてしまったなら、此処で消えた方がいいのかもしれない。
心まで怪物になるくらいなら――
とうになってるのに?
「 」
もう身も心も、人を殺しても何も思わないそれに成り下がっているのに。
「 ァ」
どうして。
「ァァァアアア」
何故こうなった。
どこから間違った。
どうして俺はかあさんの傍にいることができない。
「アアアアアアア ア ア ア ア―――」
解らない。
もう何もわからない。
ただ
憎い。
苛立たしい。
腹立たしい。
呪わしい。
殺したい。殺してやりたい。
俺の敵が。世界が。何もかもが恨めしい。何もかもを磨り潰したい。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――――
俺をこうしたものが全部憎い!!!!!!!!!!
この憎悪が燃え尽きるまで死んでなどやるものか!!!!!!!!!!!!
潰れてしまえ!!!!!!!!!
無残な肉屑と瓦礫の山になれ!!!!!!!!
全部、全部死んじまえ!!!!!!!!!!!!!
「―――ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―――――ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! !」
燻っていた憤怒と憎悪が再燃する。
蝋燭が、消える間際に一際大きく燃えるが如く。
消失する寸前だった蒼白の光が疵から激流のように迸り、白熊の身体を覆う。
そしてそれは、馬鹿馬鹿しいほどの、巨人と見紛うばかりの体躯を海上に晒す。
体長は先のの二倍、いやその更に倍――否、もっとか。
極北の海に浮かぶ凍てつく巖山にも似たその身体、まさに"氷岩の怪物"。
異形と化したジャガーノートが激昂に突き動かされ、理性を蒸発させた咆哮を上げる――!!
壇・骸
……俺のやる事は、何も変わらない
屍に出来る事など、限られているのだから
故に、その暴虐、憤怒、悲哀、全てを受け止めてやるよ
さて、破壊力に機動力まであるとは面倒くせえ
ならば、逃さないように張り付き続けるしかねえだろう
教えてやるさ、化物って奴を
俺を喰らえ、禍。お前の「真の姿」を見せてみろ
お望みどおり掛かって行ってやる。どうせそれしかできねえ性分だ
禍を全身に纏って一直線に突っ込む
とにかく接近して足を止めさせるしかねえ
魚雷?耐えるしかねえな。他の奴に被害が行くよかマシだろう
さあ、殴り合おうぜクソガキ。過去を嘆いてもどうにもならねえのはよく知っている。だから、憂さ晴らしに付き合ってやるよ
ペパシア・ドロキペ
メタルかかしへと変化し、攻撃をひきつけ受け止める。
いくら足場が悪かろうと、決して倒れない。ここが踏ん張りどころですわ。
…やっぱりこの流氷はシロクマさんの仕業だったのですわね。
恐るべき力ですけど、今は重畳!立てる土地があるのならば、わたくしは戦えます!(かかしは泳げない)
シロクマさん…その方がお母さんでしたのね……
お辛いでしょうね…悔しいでしょうね…こんなにも激しい感情の渦を浴びるのは初めての経験ですわ。どうしたらいいんでしょう…わたくしにはわかりません。
……でも、かかってきなさいな!わたくしが、かかしとしてその怒り、無念、全て受け止めてあげます!!
ヴィクティム・ウィンターミュート
…おい
どうしてこの女を守った?
テメェ、やっぱそういうことかよ
白峯の、縁者なんだろ?
…白峯のガキか、テメェ
…ジューヴ連れ出して、事故って沈んだか?
それとも別の要因か…いずれにせよ
哀しいことに、テメェを救う脚本を書くことはできねぇ
今はただ…その怒りと獣性を吐き出し切っておけ
安心しな!俺も"怪物"だからさ
Void Linkスタート
虚無に染まれ、俺の全て
向けてこい、殺意を!怒りを!
どんな攻撃も感情も、虚無に還す
武器に虚無を纏わせて、斬り裂いて、撃って、抉り穿つ
とことんまで喧嘩しようぜ
…最期くらいは、白峯に言い残していいよ
骸の海に還るだけとはいえ、今の心残りは消していけ
…いつかは、ちゃんと彼岸に還れよ
ジン・エラー
ガギヒャバハハハハ!!!オレは死ぬ程上機嫌だけどなァ~~~!!!
ま、死ぬ気はゼロだがよ
地の利は向こうに傾いているどころか、断崖絶壁。やっこサンが超有利
一方オレは打つ手ナシ。ワープなり狙撃なり出来りゃァなァ~~~~
じゃ、オレは眺めてまァ~~す あとよろしくゥ
なンつって。【独立赴輝】
オイオイお前ら足元見てるか?
ほれここ、魚雷がドカン。そンで空の旅でも出来りゃァ思惑通り
ダメージ?知るかよ。【高慢知己】
殴りに来たぜお前を救いに
吐き出せお前の怒りを全部
祈れよ、クソガキ
【オレの救い】
ウィリアム・ウォルコット
アドリブ歓迎
"白峯"、ね
相棒なしの変身でどこまでやれるかな
身に纏うのは“残忍な正義”
君の激憤を踏み躙り、君の激情を捻じ伏せるもの
その戦意が絶えるまで、この鎧は砕けない
【一斉射撃】で魚雷を迎撃、視界を狭めて追い込むよ
まぁ、つまるところ
癇癪が収まるまで相手をしよう
視野を狭め思考を停止させるその怒りを滅ぼそう
君が叫ぶべきは罵倒でも挑発でもないはずさ
言葉は伝えられる時に伝えるべきものだよ
後悔しても遅すぎることがあるのを君は重々知ってるはずだ
判断するのは君次第、けれど
(過去と化してなお母を守ることを取った君なら――)
ブルータルが堕ちたものだね
(これじゃ討たれるべきセイギではない)
今日はつくづくらしくない
●憐憫
「……シロクマさん」
偶然にも、自分が召喚の契機の一つを作ってしまった"悪魔"を見つめ、小さく声を漏らす猟兵がいた。
ペパシア・ドロキペ(お嬢様はカラスと戯れたい・f00817)が見つめる悪魔、即ちジャガーノートは今や聳え立つビルにも似た巨大さでその威容を知らしめている。
言葉に僅かに残していたらしい理性すらも完全に蒸発した。
もはや人の言葉を操る事すら放棄したならば。
それはまさに、絵に描いたような。
モンスター
怪物と言うべき存在だったろう。
多くの人がそれを見るだけで斃すべき敵だと理解した筈だ。
速やかに駆逐すべきと言うものが多勢を占める筈だ。
だが、ペパシアはそうでなかった。
海の向こう、怒りを露わにしてその獣心の侭に暴力を尽くそうとするそれは。
案山子の、人を守る人形のお嬢様には、もっと哀しいもののように見えた。
叫ぶような。喚くような。嘆くような。
怒りとともに、それより遥かに哀色を帯びた感情も、叫声の裡に聴こえる気がした。
そのような感情をぶつけられるのは、ペパシアは初めてだ。
それ故に戸惑いを覚えもする。
自分があの渦巻く感情を前にして、何ができるのかと。
――だが、何もしない訳にもいかない。
それだけは、人形の心でも理解ができる。
「……すみません、皆さん。お付き合い頂いて。手筈通りにお願いしますわ――!!」
ペパシアが張り詰めたような声を出す。そして。
「応よ、準備はいいか主役ども!!さァて大一番の開幕だぜ――ッ!」
「誰が主役だ、ガラじゃねぇ……まぁいい。別に俺がやる事は何も変わらない」
「右に同じく、ってね。……ま、ともあれ踏ん張りどころだ」
三者三様、案山子の御嬢様を助けるべく声を上げる男らが三人。
「おいおいシャイな役者ばっかだな?まァいいさ、エースオブスペーズでも晒さねェ限りはよ――!」
戦死を意味するスラングを吐きつつ、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべるハッカー―― ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が言う。
「……あれ、もう一人いらっしゃいませんでした?」
「ん、あァーー……まァアレはフリーにさせといた方が色々生きるからな。当座はこの四人だ」
ペパシアの問いに、頭を掻きつつヴィクティムが応じる。
「ま、ともあれ時間だ!準備はいいな?それじゃァ――――」
そうして、カウボーイが号令を掛けた。
「スロット・アンド・ランだッ!!!行くぜお前ら――!!」
その言葉ととも、四人が一斉にジャガーノートに向かい走り出す。
浜辺と波打ち際とを駆け抜け、海に足を踏み入れ――驚くべきことに、その上をそのまま駆け続けた!敏腕ハッカーたるヴィクティムが即座に海面へ電子介入、リアルタイムで海のデータをなんら普通の地面と変わらぬものへと書き換えたのだ。
そうして四人は海の上を走り続ける――!
「ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―――――ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! !」
自分からすれば胡麻粒のように小さい敵影。
しかし氷岩の怪物はそれらを見逃す事はなかった。
そして無論、情けも容赦もそれにはない。
耳を塞ぎたくなるような怒りの咆哮を上げ、それは腕を前へ突き出した。
「――来るぞ!!」
果たして、カウボーイのその発言の通りだった。
め
り
ぃ
。
怪物の骨がひしゃげ曲がるかのような、不穏を孕んだ異音。
それとともに、怪物の腕は捻れ、後に毛を逆立てるようにして両腕から無数の砲塔が隆起し――一斉にそれが火を吹く。
百の雷が一度に落ちたかのような音。けたたましきそれを合図に、数百にも及ぶ砲弾がヴィクティム達とその奥にある浜辺の方へと向かって飛んだ――!!
「へ、先手ァソレか!じゃあ俺が一番槍だなァ――!!」
馬鹿げた数の砲弾を前にヴィクティムか浮かべるのは、やはり何処までも不敵な笑みだった。
海を駆け行く端役が足を早め、他の三人とジャガーノートが放った弾丸らとの間に割り込み――
「セットアップ、Void Linkスタート――行くぜジューヴ……!!」
カウボーイは静かにコード解禁の宣言をした。
その宣告と共に現れるのは、漆黒とも言うべき闇の帳。それがヴィクティムの全身を包み、彼を黒い影法師のようであるかのように黒く包み染め上げる。
禁忌コード"Forbidden"シリーズが一つ、"Void Hex"。
虚無の呪いと字されるそれは、影が太陽を背にしその領域を拡げるかの如く音もなく砲弾の元へと伸び行き――それが触れるととも、たちどころに砲弾らを虚無の彼方へと消し去ってしまう。
「ア゛ ア゛ ア゛ ―――― ッ ッ ! ! ! ?」
虚無たる影に触れ掻き消える砲弾を目にし、怪物は驚愕と怒りの叫びを上げる。
そして、ならばと今一度腕を膨れさせ、百を越える雷音を再度具象した。
無論、焼き回しめいてヴィクティムの影にそれは呑まれるだけだ。だが虚無を操る彼にとて代償は確かにある。ヒーロー世界での最大にして最悪のオブリビオン、クライング・ジェネシスの用いていた"漆黒の虚無"。人理を超越した物質のそれは、触れれば触れるほどに人間性を蝕んでいく。無論それは使い手のヴィクティムにも著しい影響を与え、サイボーグの身を人でないものが侵していく。
「――悲しイことに、俺はテメェを救ウ為の脚本ハ書けねェ」
過去の侵食により言葉にノイズが散る。それでも尚、敢えてヴィクティムは言う。
プランナー
如何に優れた脚本家であったとして、怪物になっても母を護ろうとしたそれにハッピーエンドを用意する事は、ヴィクティムには不可能だ。
だが。
「ダガなァ。ソんな俺デもテメェの獣性ヲ吐き出ス手伝イ位はできルゼ――!!」
ヴィクティムの繰る闇が、続け様に放たれる百雷千火の砲弾らを悉く呑んでいく。
「役不足ナンて言イやしネェよな!!――オ前と同ジ"怪物"ダゼ、こッチハ――!!」 だから遠慮なんて捨てちまえ、と。
人らしさが損なわれていく一方の彼の笑みは、それでも大胆不敵で逞しく屈託がない。
「――――!!!!」
怪物が瞬ぐようにしたのは、何故かは判らない。
判らないが、それはヴィクティムの言う通りにするつもりはないらしかった。
「ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―――――ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! !」
咆哮が再度響く。
次いで現れたのは、海を割り参上した歪な白鯨めいたそれ――否、ジャガーノート と同じく膨れるように歪に巨大化した、海豹型魚雷、その群れ。
ざぱりと波を割り氷を砕き、鯨群めいた白の軍団が襲い掛からんとする――!
「――今度は僕の番だね」
砲弾に対処しそれを虚無へと還し続けるヴィクティムに代わり、魚雷の群れの前に踏み出すのは金髪の男、ウィリアム・ウォルコット(ブルータルジャスティス・f01303)。携行するエピタフをモードシフトしつつ、セイギの味方は静かに思考を紡ぐ。
目の前には大いなる怪物。
誰がどう見ても斃すべき巨悪がある。
況や正義の味方を称するウィリアムが、それを誅滅しない手はないだろう。
――ない筈なのだが、その目は何処か普段の彼らしからぬ色を帯びてもいた。
とまれ、どうあれ敵が強大である事は変わらない。
「……やれやれ、相棒がいない中で何処までも出来るかな……まぁ、やってみるさ」
そんな一言ととも、ウィリアムがエピタフを起動させる。
「――Activate:"Brutal Justice"」
墓碑銘を拝せし機銃機構が、ウィリアムの声とともにガシャリと変形する。
それはガトリング砲を迫り上がらせつつ、更に鎧の如くウィリアムの体を包み――そして、甲虫じみた黒い鎧に覆われた銃兵が現れた。
甲虫の銃士がガトリングを構える。
四つの砲身が旋回し、連なり重なるよう光の銃弾を吐き散らす。光の連鎖に貫かれた白獣たちは爆散し、冬の凍海に飛沫を立てた。
だがそれがどうした。そう言わんばかり、穿たれずに生き残った白き機械海獣の群れが、甲鎧に向け吶喊し――!
ず ど ぉ ん ッ!!!
まず一体が起爆し、甲鎧纏うウィリアムを爆炎が丸々と呑む。その爆炎へ鯨めいた巨大な魚雷が殺到し、連鎖する爆発音が海に鳴り響いた。
「ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ――ア゛ ア゛ ッ ! ?」
一匹怨敵を爆ぜ飛ばした。それに幾許程度は胸が空くかのような気持ちになりかけ、しかし巨大な白熊はすぐに違和を感じとった。
視覚のリンクした魚雷越し、火柱の奥に揺らめく影がある。
黒い鎧姿。憎々しさ募る見た目でもあるのは――爆ぜ飛ばしたと思った甲鎧。傷一つ見えないそれは、片手のガトリングを再度構えて光の暴威を解き放つ。
「やれやれ、乱暴な子だ――ほら、もっとおいで。そんなもんじゃ気が済まないだろう?」
"残忍な正義"を称する鎧を纏う男は、そうして挑発するように怪物へと言う。
「……君の目には、僕は殊更憎く映るだろうしね」
ちょっと似てるだろう、あの子の鎧と。そう鎧姿が嘯いた。
「――! ! ! ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ――ッ ッ ! ! ! !」
果たして声が届いたのか、それとも怪物の中にある記憶がフラッシュバックしただけなのかは定かではない。ただ、確かにそれは尚怒りに駆られるように叫んで、海の底から新たな白獣達を呼び寄せ、それらはウィリアムに殺到する。
しかし揺るがぬ正義を具象する鎧は、決して悪には屈しない。
故に、どれだけの暴威を前にしたとて、その暴威を上回る堅固さをそれは誇る。
故にこそ、セイギの味方は断じて倒れず。
決して膝を折る事なく、白獣達の突撃を態と受け、返し刀と言わんばかりにレーザーガトリングで獣を撃ち、海に水柱を立てる。
悉く、甲鎧は怪物の激憤を光の雨で踏み躙り、激情を黒い甲鎧で捻じ伏せる。
――が、
(……つくづくらしくないな)
目の前の、母の為に力を振るった"怪物"を見て。
そしてその"怪物"を、悪をただただ屠り斃すのではなく。
その"怒り"を屈させる為に――ひいては、子供を宥めるように、その癇癪の相手を買って出るなんて。
(――ブルータルが堕ちたもんだね)
そんな自嘲をパワードスーツの中に溢しつつ、ウィリアムは白き獣達と対峙し続ける――!
一方の"氷岩の怪物"は、思い通りにならない現実を前に苛立つように瞬いだ。
砲弾は悉く、影の様な男が虚無の果てに呑む。
爆ぜる白獣の群れは甲虫じみた鎧が撃ち、阻み防ぐ。
そしてこの身の怒りは、放つ暴威に乗せたところで膨れ上がっていく一方だった。
「ア゛ ア゛ ア゛ ―― ! !」
それがもがくように身を震わす。
砲弾を打つことも止め、白き海獣の群れも呼ぶことを止めた。
では、諦めたのか?
――否。断じて、否。
その仰々しい、巨塔の如き腕が海にぞぶりと刺さる。
――バ キ ン ッ 。
突き刺さった腕を中心に、海が凍りつく。
それは氷山の鎧をジャガーノートに纏わせるかのよう。
「ア゛ ア゛ ―― 」
「――!!クるぞ主演どモォッッ!!!プランSだァ!!」
ヴィクティムが叫ぶ。
此処までの"詰め"は上々。そして正念場でもある。
使った力の残滓で未だノイズの奔る声を出しつつ、ヴィクティムが指示を出す。
怪物の姿はクラウチングスタートめいて。
低く、低く構え――そして。
と゛
ッ
。
冬の海が爆ぜ飛んだ。
何が起こったのかを言うなら、至極単純。
"ジャガーノートが自ら吶喊した"、それだけの事。
言葉にすれば至って単純なそれは、然し齎す破壊は余りに大きい。
蹴り脚は大きく海底を抉り、超質量の急突進は海と氷とを吹き飛ばし津波の如き波濤を呼び――無論、氷の鎧をも纏ったその呆れるほどの巨躯は、それが起こした津波以上の災害を齎す。誰の目にも明らかな、圧倒的破壊だろう。
では、それをどう防ぐ。
「……出番か。おい、行くぞ」
その迫り来る馬鹿げた破壊の前に立つのは壇・骸(黒鉄・f17013)。
此処まで共に進み、隣にいるペパシアへと声を掛ける。
「ハイッ!!さぁ行きますわーーー!!!」
気迫の篭った声を上げ、ペパシアが大声を出し、瞬間的にその全身を光が包む。
一瞬のちにずしりと重たい音を立て現れたのは――なんとも巨大な鋼鉄製の案山子!
「さあ、此方はいつでも!!ごめんなさいですけど後はお願いしますわ――っ!」
鋼色の大楯めいた姿を彼女は手に入れた。しかし代償として脚すらも案山子そのもののように一本脚と変じ、それ故に自分自身では身動きが取れないペパシアが、骸に言う。
「――応」
短く答える骸も、またその姿を変じさせた。装備する籠手、"禍"が不気味に光り――その鎧具がばきりと延びゆく。肘先から肩へ、肩から胸へ、そして全身へと黒泥が這うように身を侵していき――そしてそれは、黒い怪騎士の如き姿と化した。
"禍獣"と化した骸が手を伸ばし――それは確かにペパシアの"脚"を無遠慮に、丸太を握るようにして掴んだ。
対峙するは無論迫りくる破壊の化身、ジャガーノート。
猛速で浜辺を、その先を、世界を侵し壊す為に突撃する怪物へ――
「――ふンッッッッ!!!!」
「――なんのこれしきですわぁ!!!!」
――ゴ ッッ!!!!!!!!
「ア゛ ―― ア゛ ガ ッ ッ ! ! ! ?」
重々しい衝突音が響く。
突進したジャガーノートのその額と、骸と。そして骸が大剣のように振り抜いたペパシアが正面衝突した音だ。
今は力と力が奇しくも拮抗しているのか、ペパシアがジャガーノートと、額同士を合わせるようにして向かい合い、鍔迫り合いのように鬩ぎ合っている――!
「ァ ―― ァ゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―――― ッ ッ ! ! ! !」
怪物は吼えた。何だお前は、と言うかのように。
「シロクマさん……お辛いんでしょう……!!哀しいんでしょう!!」
「 ―― ッ ッ ! !」
対して、向かい合うペパシアに怒りの情はない。
敵対者への怒りより、どうしようもない不幸に陥ってしまったものの、それへの悲しさが遥かにペパシアの中で優っていた。
「――お母さんと一緒にいれない気持ち、私に推し量り切る事は出来ないかもしれません……」
きっと、その気持ちを解るなどとは言わない。言ってはいけない。
間違っても自分は同じ岸辺にはおらず、自分が此岸の者で、目の前のシロクマは彼岸のものなれば。
違う岸にいる者達が、相互理解をするのは不可能だろう。
それがどういう激情なのかを、完全に理解するのなど無理だろう。
しかし、それでも。
「――でも、貴方の怒りを受け止める事は出来ます!!!だから全力でぶつかってらっしゃいな!!!」
そして、暫く口を閉ざしていた怪騎士もまた、重々しく言葉を吐く。
「……俺のやる事は、何も変わらん」
生ある者でも死せるものでもない、生きる屍にできる事は限られている。
ただ、死なないが故に。こうして誰かの暴威や、怒りや悲しみを受ける事は、リビングデッドの男に出来る数少ないことの一つでもある。
そして、目の前のそれが生を求めて足掻いていたなら。その怒りがそれ故にあるなら、それを受け止めてやるのも役目なのかもしれない。生きるにも死ぬにも不器用すぎ、どっちつかずの身と成り果てた半死半生の男はそう考えて。
「――来いよクソガキ。憂さ晴らしに付き合ってやるよ」
結局、吐き出された言葉は。やはりというかひどく不器用で。ただ、骸というヒトらしさも表していたのかもしれない。
「 ァ ―― 」
「 ―― ァ゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―――― ッ ッ ッ ! ! !」
奇しくも、ペパシアと骸の言葉をそのまま受け入れたのか。
それとも目の前にいる猟兵が憎かったのか、それは判らない。
ただ、ジャガーノートが更に力を振り絞る。
憎悪と激憤を糧にして、それは無限に己を強力にするが故。
ペパシアを骸は、その暴威の前にも尚折れず退かない。
然しそれより先、足場が根を上げた。めきり、ばきりと割れるような音を立てて、二人の足元の海が砕け、足場としての役割を放棄する。そうして、今立つ海上から浜辺までの距離が少しづつ、されど確実に削られていく。
「ハ、オイオイオイトんダ馬鹿力ダな――!?」
「まだまだ怒り冷め止まぬってトコロかな――僕も手を貸すよ」
ヴィクティムが電子防壁を空中に浮かべジャガーノートを抑えんとし、その傍らでウィリアムも骸とともにペパシアを支える。
然し尚も、怪物の進撃は止まらない。憎悪は無限のリソースとなり、ジャガーノートの破壊を助長する。
「――ふ、んぎぎぎぎぎぎい――っ!!!」
「ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―― ッ ッ ! ! !」
ウィリアムと骸に支えられつつ、ジャガーノートの剛力を一身に受けるペパシアも必死の思いで耐え凌ぐ。それになお激昂するかの如く、怪物も吼えた。
そんな中、甲虫の如き鎧に身を包むウィリアムが声を出す。
「――そうして叫ぶのが君の望みかい?」
牙を剥き、吼え、剛力を以て世界を潰そうとするかのように進むジャガーノートへと、ウィリアムは問う。
「君が叫ぶべきは、それじゃ筈だ――言葉は伝えられる時に伝えるべきものだよ」
「ア゛ 、ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―――― ッ ッ ッ ! ! ! !」
拒絶のように、怪物は叫ぶ。
憎悪を募らせ、業火の如き激昂と憎悪と怨嗟を慟哭とともに吐き、それを燃料とするかの如く進撃する。
それをたった四人の力で防ぎつつ、しかしじりじりと、浜辺までの距離は縮まっていく。もはや怪物の上陸は時間の問題だった。
そして翡岸臨む海岸線、その波打ち際。その巨大な手が掛かる、僅か前。
ヴィクティムが呟いた。
「――――さっキも言ッタな。俺ハテメェを救ウ脚本ハ書ケねェ」
そう、確かにそう言った。
ヴィクティムでは、ジャガーノートを救う事は出来はしない。
「"俺"はナ」
そう。
端役たる自分はそのハッピーエンドを綴れない。
そんなものはとうに解っている。
イェーガー
が、他の主役ならどうだ。
「―――― ガギヒャバハハハハ!!!やぁぁ〜〜〜ッッッッと俺の出番かァーーーーーッッ!!!!?」
例えば、そう。
唐突に現れた、この泥のように黒い肌の男なら。
●救済
「―――― ガギヒャバハハハハ!!!やぁぁ〜〜〜ッッッッと俺の出番かァーーーーーッッ!!!!?」
けたたましい笑い声だった。
呵々大笑であり爆笑であり、ともすれば嘲笑でもあったろうか。
静かな海に相応しからぬ大声でそれは嗤い――しかし、それが纏う光は正に聖者の如きものだった。その光ととも、何処からともともなく瞬時に男は――"ジャガーノートの頭上10m"に現れた。
「! ? ア゛ ア゛ ―――― ッ ッ ! ! ! ?」
不意に出現したそれに、驚嘆と怒号を怪物が発する。
「ゲハハヒャハハハ!!!絶賛大不機嫌モードかァ!?オレは死ぬ程上機嫌だけどなァ~~~!!!」
怪物の怒りを前にしても、男は些かも揺るがない。
ただ重力に従い自由落下し――
「ま、死ぬ気はゼロだけどよ」
「―― ア゛ ッ ッ ! ? !」
ご ぉ ん ッッ!!
極々シンプルな暴力を以て、背負った棺桶を振り下ろしジャガーノートの頭頂を容赦なくぶち殴る。
自由自在と豪放磊落を通り越し、身勝手で無軌道で横暴な振舞い。
品行方正な聖人君子とはかけ離れたチョコレート色の肌の男は――然しその実、聖をその身に宿す者。
ジン・エラー(救いあり・f08098)は横柄に横暴に、ただ救いを齎しに現れた。
「ア゛ ガ …… ァ゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―― ! ! !」
怒るジャガーノートが腕を振る。
しかし、にやけたマスクを付ける男は煙めいて瞬時に消失し。
「ゲヒヒヘァッ、何言ってるか全ッッッッ然わっかんねェなァオイ!!」
「 ―――― ッ ! ?」
今度はジャガーノートの肩上に現れ、ジャガーノートの顔の横で嗤って見せるのだった。
それへジャガーノートが向き直るよりも早く、再びジンの姿は消える。
"独立赴輝"と呼ばれるそれで、ジンは自在に"味方"の側へと瞬間移動を繰り返す。
味方?何処にいる?
ジンの側にいるのはジャガーノートのみだ。
如何なる理由でこの奔放極まりない、ワープでの自由機動が成り立つのか?
――その理由は至極単純だ。
ただ単に。
ジンはこの大仰なクソガキを、"敵と見做していない"。
「図体もくッッそでけェわ言葉も忘れちまうわ……はーーーーーーーァんなるほどなァ?つまりアレだわ」
耳糞をほじくるような舐めた仕草ととも、ジンが言う。
嵐の如く、ジンを潰す為に振るわれる腕がその髪を掠めようと。
「故障って奴だ。そーだろォ?なんかポンコツっぽいしなァ!知ってるかァ古いテレビって叩くと治るらしーーーーーーぜェ!!!?」
一歩間違えれば自分の身が裂け臓腑が飛び散る暴力圏内に身を置いても、一ミリたりとて彼の軸にはブレが生じない。
彼にとって巨大な怪物は、ただの小僧で、そして救いの対象で。
広義で見れば、彼は怪物の"味方"に他ならなかった。
ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、と品性の欠片もない笑いを上げた後。
「――じゃアちゃっちゃと治すか」
ぴたりと、打って変わって静かに呟いた後、稲妻めいて聖者が突然光る。
全てを救うと言う傲りと驕りと不遜さ。
それを救いの光へと昇華し、聖者は"救うべきモノ"を見る。
にやけたマスクの上にある金と桃の目は、静かにジャガーノートに向けられていた。
閃くような光ととも、聖者は跳ぶ。
「怒りはさんざ吐いたよなァ?救いの時間だ」
傲慢不遜なる聖者の救い。
それは、握り拳の形をしていた。
「 ―――― ア゛」
「――――祈れよ、クソガキ」
ば
き ん
ッ
|
|
‼︎!
烈光を纏った拳が、神速すら帯びてジャガーノートを捉えその頭部をカチ上げる。
一切の容赦ないストレートだった。
だが然し、その拳が目を覚ます契機となったのか。
はたまた聖者の光を浴び、受けた瑕疵が僅かに減った事で思考が正常化されたのか。
「――ァ゛、ア゛ ア、 っ…… な 、 ん ――ッッ!!!?」
――怪物の目に、その言葉に、僅かに理性が戻る。
「――――お目覚めァどうだジューヴ。……最期くらイはシャんとシとけよ」
動きを変えたジャガーノートを見て、端役が言った。
それが例え骸の海に還るものだとしても。
心残りは無い方がいい。
狂った機械のままでは、母親に別れも紡ぐ事はできない。
なら、正気に戻すくらい迄は担ってやる。
それが端役で筋書綴りたるものの、ヴィクティムなりのジャガーノートへの手向け。
物語はなるべく幸せなエンディングの方がいい。
――そして、それを紡ぎ得る最後のピースが動き出す。
エンディングまでは、残り僅か。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●母
――声は、昔のままだった。
あの子がいなくなるまで、いつも聴いていた声そのまま。
突然消えてしまった、あの子の声のまま。
無理して私の為に頑張って、強くなろうとして。
いつも私を守ると息巻いて――ふっと、居なくなってしまったあの子が。
変わり果てた姿で、海の上にいる。
叫んでいる。
怒っている。
見たこともない姿で。
聴いたこともない声で。
――それでも、守ろうとした。
顔を合わせたくないと目を背けて。私を遠ざけようとしながら。
それでも、私の事を"かあさん"だと言う。
守ろうとする。守ってくれた。
側に入れない事を、泣くように叫んでいた。
間違いなく、あれは私の息子だ。
身体の震えが止まらない。
目の前にある事実が上手く受け入れられない。
流されるまま兵隊か軍隊らしい人に避難誘導されて――それをいつの間にかふらりと抜けて、海岸を望める高台まで来た。
遠目にあの子が見える。
"アレ"は危険なものだと。
もう、ヒトとは呼べないものだと。何人かに説かれはした。
それでもこのまま遠ざかる事は出来ないと、そう思って避難場所を抜け出した。
その筈なのに、結局まだ、どうすればいいかは分からない侭で――
「――みつけた」
そんな私に、ざらつく声が掛けられた。
詩蒲・リクロウ
●プレイング
【ティアー・ロード】
うわっ、でかっ!?こわっ!?
ちょ、ティアーさん!なにやってんですか!早く援護を…
……だめだあの人女性が絡むと役に立たない!!
と、とにかくティアーさんと女性の前に立って攻撃を受け止めつつ、グラウンドクラッシャーで氷塊を割り砕きます!
貴方が何を怒ってるのか知らないですし分からないです!!僕にはどうにも出来ませんが、そういうのは仲間に任せるって決めてるんで!!!僕だって死にたくはありませんので、全力で行きますよ!!
後!!!女体化もロリ化も嫌です!!
ヌル・リリファ
アドリブ連携歓迎
あれ、お姉さんのしりあいなの?
(座り込んだ女性に首を傾げる。悲鳴を上げようとせず、声をかけようとしたのが気になったらしい。)
あれは、殺すよ。それがするべきことだから。
もしお姉さんのしりあいにみえたとしても、お姉さんがいまをいきたいのならともにあれたりはしない。所詮あれは過去だから。
だけど、なにがつたえたいことあったりするなら。てつだってもいいよ?
……まあべつにかれらがどうなってもいいんだけど。
なんとなくきになった。
あってたらお姉さんを【かばって】のぞみにそうようにうごく。
氷海になってもアイギスはまもりだけじゃなく足場にできる。
かんちがいならそれでいい。いつもどおり殺すだけ。
夕凪・悠那
――どうして、ね
ジャガーノートの性質から大体の事情は想像できる
彼じゃなければいけなかった理由なんてきっとない
【英雄転身】
空駆ける魔法少女
攻撃は空中機動で[見切り]躱し[オーラ防御]で余波を軽減
[誘導弾]で削る
でもキミがそう為ったからお母さんは助かった
理由はなくても意味はあったんだよ
ボクらなんて放っておいて、お母さんと話しなって
こんな機会もう来ないよ
癇癪続けるなら[ハッキング]で[目を潰し]て隙を作り
チャージで[限界突破]した収束魔力砲撃(力溜め+全力魔法)
一回ぶっ飛ばせば頭に上った血も少しは下りるかな?
いざという時のためのダメ蓄積って狙いもあるけど
――ああ、もう
最後くらい素直になれ!
アド絡歓迎
ロク・ザイオン
何かを求める咆哮だ
何かを失った咆哮だ
かつての、怒り狂った相棒のように
あれは、子供の、わがままだ。
視線の先の女。
生き残ったキミは何と言った?
その言葉でも。キミ自身をでも。この身を以て【庇う】から
あの病に届けたいものがあるのなら、おれはその願いを負おう
凍り捲れ上がる【地形を利用】、【ダッシュ】【ジャンプ】で肉薄し
――お前にはまだ言葉があるだろう
全部言え!
それが出来るのはひとだけだ!!
おれには悲鳴に聞こえたんだ
かえりたいと泣く声だと思ったんだ
だから見えているか、かつてこどもだったもの
お前の帰りたい場所は
母親は
誰にも、お前にも、傷付けさせない
還ろう
もっとあたたかな場所へ
大丈夫。おれは、お前より強いよ。
ティアー・ロード
【RESQUE LEVEL】:『1』
「参ったな、思った以上に強敵のようだ
……が、ボディ作れるほどのエナジーも溜まっていない、か」
「仕方ない、最悪詩蒲くんを……おっと!」
例え目の前に標的がいたとしても
座り込んだ女性がいるならば避難誘導が先だ!
「大丈夫かい!ひとまず避難を……?」
ひとまず女性の安全を確保し(詩蒲くんを盾にします)
しっかりと話し込むとしよう
「奥方、私は乙女の味方、正義のヒーローだ」
「私は貴女に戦う力を、救う力を貸す事ができる。
勿論、貴女がここから逃げるのにも役立つ力をね」
「私が力を貸す条件は、たった一つ
貴女の意思だ」
「貴女は、今、何がしたい?」
「この拳はキくぞ、なんといっても……!」
●邂逅
「――みつけた」
肩で息をして、白い吐息を吐きつつロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)が言った。海辺から他の猟兵らによって避難させられた彼女――白峯を、探していたのだった。
「――――あ、あの、ごめんなさい……!でも私……」
白峯は、はじめロクが勝手に避難場所を離れた自分を見つけ出したのだと思った。
このままでは避難場所へ戻されると思い、それはどうにか避けたいと思い弁明を口にしようとした白峯へ。
「――キミはあの時、何と言った?」
「…………ぇ?」
鑢を掛けるような声で、ロクが尋ねる。
その問い掛けは、白峯にとっては予想外のものだった。ただ危険を説かれ、別の場所に誘導されると思ったが故に。
「あ、あの時って……」
「――キミが守られた、そのあと。なにか言った。何を言った?」
「――――!」
さり、さり。砂を崩すように、控えめな声でロクが言葉を探るようにしながら聞く。
そして白峯はロクの言葉に逡巡する。言っていいものか、どうなのかと。
そんな二人へ、何処か乱痴気めいた二つの声が掛けられる。
「――おっとぉ、困りごとかなご婦人!そう言う事ならこの私にお任せあれ!!」
「あーーちょっとティアーさんそんな好き勝手に声掛けないで下さいよぉ!!?」
空気感にあまり合わないかもしれない二つの声は、一つはひらひらと宙を舞う仮面から。もう一つは毛むくじゃらの、鳥の仮面を被ったような巨軀から発された。
片方がティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)、もう片方が詩蒲・リクロウ(見習い戦士・f02986)に他ならない。
「へ、ぇ、あの」
ロクでさえ戸惑いを覚えたのに、新たな――それも見慣れない姿形をした闖入者たちに、更に白峯の困惑は広がる。
「おやおや、奥ゆかしいミセスだ。でも遠慮は要らないとも。何たって私は全ての女性の味方――」
「いや絶対ティアーさんが突然声掛けて固まってるだけですよコレ」
「詩蒲くん静かに。ロリになりたいなら別だけど」
「絶対嫌ですけどぉっ!!!!?!」
突如の騒がしさに一層困惑を広げそうな白峯。
だが、その前にざらりとした粗氷のような声が話を元の路線上に戻す。
「――その女には、やりたいことがある」
「……あ、えっと」
「あれに、いいたいことはないのか」
あれ、と赤髪の森番が指し示すのは、無論海で暴れる怪物、ジャガーノート。
その指差す方をみて、白峯は俯くようにする。
「ん、その人よく見たら……あ、最後に襲われそうになってた人ですね?」
「……、へぇ、なるほど?」
そして目の前の人物が誰であるかに気づいたリクロウが言葉を発し、ティアーも興味を寄せる。
「…………ん、え、でもやりたいことって……ジャガーノートにですか?やめた方が良くないです?」
しかし、ふとある事を思い立ったリクロウが言葉を発する。
「――だってどう……」
「詩蒲くんロリとバニーの二重苦を御所望かい?」
「はいスミマセン黙ります!!!!!!!!」
何かを言いかけたリクロウに、ティアーがやんわり(?)と窘めの声をかけ静止する。コント地味た声を他所に、ロクは静かに、さりさりと言葉を重ねた。
「その言葉でも。キミ自身をでも。届けたいものがあるのなら――おれはその願いを負おう」
「…………」
沈黙しつつ揺らぐ白峯に、今度はひらひらと風に舞うよう、ティアーが言葉を紡ぐ。
「奥方、私は乙女の味方、正義のヒーローだ」
「……正義の……?」
「そう。私は貴女に戦う力を、救う力を貸す事ができる」
復唱する白峯に、白磁のように白い仮面が言葉を重ねた。
「――そして、力を貸す条件はたった一つ。貴女の意志、それだけだ」
「――――っ」
仮面の赤い目と、森番の青い目がつぶさに白峯を見つめていた。
「――貴方は今、何がしたい?私が――私達がそれを叶えよう」
そして。
「私は、極人に……あの子に……っ」
女の願いが、猟兵の手へと委ねられる。
●後悔
何がいけなかったんだろう。
かあさんのことを一目見ようとしたのか。
怪物なのにかあさんを助けようとしてしまったことか。
負けた事か。
殺した事か。
――いや、もっと。
もっともっと前から、もしかしたら間違っていたのかもしれない。
もう、何が間違いなのか、間違いだったのかもわからない。
「――あ ぁ、 く そ――」
動きは鈍い。膨れすぎた身体は上手く動いてもくれない。
いや、体がどうなったかに関わりなく、単純に終わりが近いのかもしれない。
少し油断するだけで巨体は瓦解して、俺は消えてしまうのだろう。
そんな予感がする。
いっそ眠るように倒れてしまえば楽かもしれない。
「く そ ――――――」
それでも。
「――――ク ソ が ぁ ァ ア ア ア ! ! ! !」
まだ、まだだ。
だってまだ、俺の怒りは、消え切ってない。
俺は燃え尽きるまで、死にはしない――!!
●奮励
「まだ暴れるのか――!!」
聖者の拳が刺さり、幾分怪物は冷静さを取り戻したらしい。
証左として、叫び散らすだけだったそれが言葉を取り戻した。
それでも尚、燻り燃え続ける怒りには舌を巻くばかりだ。
空を舞いつつ、夕凪・悠那(電脳魔・f08384)が苦さを含んだ表情で零す。見遣るのは、氷の海の上に聳え立つジャガーノートの巨躯。よくある戦隊モノ番組のラスト10分、巨大化した悪役みたいだなどと現実逃避めいた思考が過ぎる。
「 ―― う る せ ェ ! ! 死 ね や ァ ―― ッ ッ ! !」
怒号。
それととも、無数の巨大な氷柱が悠那の上空に出現。生成されると同時に落下し悠那を串刺しにせんとする――!
「っ、なんの――ッ!」
それに対し、悠那は宙で身体を捻るように旋回。ひらりと可憐な衣装を揺らしながらも滑らかな空中起動で氷柱の半数を躱しつつ、彼女の持つ何処かサイバーめいたロッドが残りの氷柱を見据え――キュインッッ!!幾条もの眩いレーザー線が飛びそれらを粉砕した!
ロール
"英雄転身"で悠那が今纏う役割は"魔法少女"。自在に空を舞い、そのロッドから放つ閃光は易々とジャガーノートの氷を切り裂く!あまりに巨大なジャガーノートの威容を前にしても、強大な敵となんら遜色なく悠那は立ち回ってみせていた。
が、悠那の顔にはあまり余裕は見て取れない。
「く そ っ た れ ェ ェ ェ ―― ! !」
再度の怒号。
今度はそれだけでビル一つに比肩しそうな腕がめりり、と盛り上がり、その砲火を出鱈目にぶち撒ける。
無論、それは浜辺を超え、人のいる地へも災害を齎さんともするが――
「させないよ」
温度の薄い言葉ととも、光の雨がカーテンのように降り注ぎ、飛び散った災厄を遍く上がって無に還す。ヌル・リリファ(未完成の魔導人形・f05378)が放った光の刃達がジャガーノートの砲撃を断ち切ったのだ。
「っ、ありがとヌルさん――っ!」
「大丈夫、たのまれたならちゃんとやるよ。――でも」
無色の、されど極大の魔力を以て、悠那とともにジャガーノートの周りを飛び回りつつ――しかし、ヌルの淡々とした顔が、悠那の方を見る。
「どこまで"まつ"――?ずっとはむずかしいよ?」
「――――っ」
――最早、ジャガーノートが滅ぶまで幾許もない。
トドメを刺すのは簡単だろう。
全力を出せば、悠那とヌルの二人で事足りてしまうに違いあるまい。
それどころか、この氷の海辺には数多の力ある猟兵がいる。
竜の大地砕く腕でも。
原理司る男の死の術理でも。
箱型召喚獣の変じた怪異でも。
神すら覆し得ぬ絶技を放つ男の一撃でも。
死神の如き狙撃手達の、怪物の急所を射抜く弾丸でも。
それ以外の超技超力でも、どれであれジャガーノートを殺し得るだろう。
それらがジャガーノートへ最後の一手を向けないのは、今それをするのは悠那達への邪魔になり兼ねないと理解しているから。余計な手出しはせず、今はジャガーノートへ対峙する二人へと事を委ねている。
だが、仮に二人で押さえきれぬか――もしくは膠着に陥るなら、誰かしらが次の手を紡ぐだろう。その時が、ジャガーノートにとってのエンディング。
ゲームセットとなり、この事件は終わりを迎える。
(――本当は、それでいいのかもしれない)
そう、本来ならそれで良い。
この地に現れる筈のUDCの召喚阻止、或いは討伐が元々の大筋だったのだから。
本来のルートに戻り、このクエストはお終い。
何らおかしくないエンディングだ。悠那だってそう思う。
そう思うが――
「――もう少しだけ」
納得するかどうかは別だ。
「――ごめん、もう少しだけボクの我儘に付き合って――っ!」
「――ん、わかった」
もう少し。
もう少しで、最後のピースができる筈だ。
電脳ゴーグル越しにその"最後のピース"の様子を見る悠那が、ヌルに告げる。
そして魔導人形の少女もこくりと頷き了承する。
――叫びを上げる怪物を前に、少女達が空を舞った。
●記憶
出番はもう少し先だろうか。
岸辺で暴れる巨大な白熊を、異形の二人――ティアーとリクロウとが見ていた。
側に白峯はいない。この光景を目に映すのは毒になるかも知れないが故に。
少し離れた場所で、気持ちに整理を掛けておくといいと言い残し、暫しそっとしている。側にはロクもいるから心配はあるまい。
「――いいんですか、ティアーさん」
そんな中、リクロウがティアーに問う。
「何がだい?バニーかな、それともロリ?なんならもっと別方面開発するかい?」
「そろそろそこから離れません!?!?これでも結構真面目なんですよ僕!!!」
「はは、ごめんごめんつい」
茶化すティアーにリクロウがむきぃと怒る。
そしてリクロウが何処か諦めたように溜息を吐いた後。
「はぁ……あのですね、これ飛んだ骨折り損ですよね?だって――――」
一息ついて、さっきはティアーに阻まれ言えなかった事をリクロウが口にした。
、、、、、、、、、
「――どうせ、記憶消されますよね?」
「――恐らくはそうだろうねぇ」
そう。
UDCの存在は隠すのが基本。
今はこうして暴れるUDCを止めるのが第一義となっているが、事が終われば事後処理として情報封鎖と改竄処理が為されるのが通例だ。
UDCを見た記憶も消去、或いは改竄される。何事もなく、ただ都合のつくように記憶を整理されたのち、また普段通りの日常が続いていくのだろう。
誰もが翡岸にいた、彼岸の怪物も、氷岩の怪物も、憶える事なく忘れてしまう。
――それは無論、白峯とて例外である筈もないのだ。
そしてあの怪物、ジャガーノートとて。
ジャガーノート・ポーラーは今回討伐が成功したとて、また何処かへと現れるかも知れない。そしてその個体が今回の事を覚えているような事は、先ず間違いなくないだろう。次に現れるジャガーノート・ポーラーは、今回出現したジャガーノート・ポーラーとは別の存在と考えた方がいい。
「――無意味じゃないです?結局忘れちゃうんなら」
だから、仮にジャガーノートと白峯とを遭わせたとして、"何にもならない"。
全て泡沫と消え、それが未来へ何かの身を結ぶ事はない。
その邂逅は無為とされ、骨折り損となるだろう。
故にこんな無駄な事をする意味があるのか、とリクロウは訝る。
そして、応じるティアーの反応はと言えば。
「さぁ、どうだろうね?」
そんな、あっけらかんとしたものだった。
「どうだろうって、そんな無責任な――」
「はは、そう聞こえるかい?……確かに君の言葉には一理ある」
砲火の音がする。
その発生元へと目を眇めつつ、ティアーは言う。
「――もしかすると、意味はないのかもしれない。でも」
砲火の音に混ぜつつ、ティアーが零す。
「もしかすると、意味があるかもしれない」
それを聞いたリクロウが、やはり訝しみつつ言葉を返す。
「……どっちだかわかんないんじゃないですか」
「そうさ、分からないよ。未来の事なんて――でも」
若きシャーマンズゴーストの方を翻り、白い仮面が言う。
「何もしなければ、何も変わらない侭だ。だったら何かしてみた方がお得だろう?」
「……そんな行き当たりばったりみたいな」
「おや、そうは言うけど私達はだいたいそんな感じじゃないかな?」
――"悪巧み"ってそんなもんだろ?と、ティアーは言う。
「――――――――あんま否定できない気がするのが悔しいです」
苦々しげにリクロウが呟いて、重々しく溜息を吐いた。
「はぁぁぁぁもう分かりました、乗り掛かった船ですしこうなったらとことんまで手伝いますよ!」
「ん、それでこそ詩浦くんだ。……さ、そろそろ頃合いみたいだ。準備しよう」
●回想
どうしてこうなったのか。
どうして母の隣にいれなくなってしまったのか。
疑問は絶えず、答えはみつからない――いや。
見つけようとしていないだけかもしれない。
どうしてと誰かに叫んでいれば、怒りを誰かにぶつけられる。
どうしてだろうと、何でだろうと、どうでもいい。
だってそうだろう。
俺がもう、かあさんを守れないのには何ら変わらない。
それだけは天地がひっくり返ったとして、もう覆らないんだから。
どうしてだろうと何故だろうと、それが怒りの根源であるのには変わらない。
怒りだ。
この身には、もうそれしかない。
結局、俺にはもうそれしか残っていない。
だから。
「く た ば れ や ァ ア ア ア ア ア ―― ッ! ! !」
まだ、俺は怒号を上げる。
まだ。まだ、俺の憎悪は潰えない。
――――――そしてそれが消えた時が、俺の最期だ。
●背水
魔法少女の撃つ光と人形の齎す光が、ジャガーノートの暴威を全て打ち消す。
依然、状況は拮抗している。或いはそのようにしてる、と言っても良いだろうか。
「――っ、ああっもう分からず屋め――!!」
ジャガーノートに向け、悠那が叫ぶ。
「――いつまでそうして喚いてる、"白峯・極人"ッ!!」
「 ―――― ッ ッ ! !」
呼ばれた名前に、びくりと怪物は反応する。
「そうして唸るだけがキミの望みか!!そうじゃないだろ!!」
「 ―― ッ、 煩 ェ 黙 れ よ 糞 が ァ ア ―― ッ ! ! !」
砲火。そして応酬の光線条雨。
怪物と魔法少女の攻撃がぶつかり相殺し合う。
「嫌だね!母親の事が心残りなんだろう!!」
氷が嵐のように巻き起こる。それを全て打ち落としつつ、悠那が叫んだ。
「そんな姿になっても大事なヒトなんだろう!!だったら素直に話しておいでよ!!」
こんな事をしてる場合ではないだろう、と。
そう悠那は叫ぶ。
「 ―――― 煩 ェ ッ ! ! 」
怪物も、なおけたたましい怒声で応じ叫ぶ。
「も う ど ォ し よ う も ね ェ ん だ よ ―― ッ ッ ! !」
もう、この身体はバケモノだ。
こんなになってしまった。
海を割り、海上に姿を晒し。映画かテレビの向こうにあるような怪物性を晒した。
バケモノを殺した。
母親に誇れない事を、いくつも、いくつもした。
望んでも此岸には戻れない。
手遅れなんだ、何もかも。
「――そんな事ないかもしれないだろ!!」
それでも、電脳使いの少女は叫ぶ。
「そんな姿になってもお母さんを助けたかったんだろ!そんな姿になっても助けたんだろ!ちゃんと会って、面と向かって言葉の一つや二つ伝えたっていいだろ!」
「―― ッ ッ ! ! テ メ ェ に 何 が 判 る ッ ッ ! !」
言葉ととも、砲火と光とがぶつかり合う。
売り言葉に、買い言めいたやり取りで、子供の喧嘩じみてもいた戦闘の様相だった。
「―― こ ん な 俺 を 見 て か あ さ ん が 喜 ぶ 訳 ね
ェ だ ろ ォ ―――― ッ ッ ! !」
「――っ!」
叫び。氷の乱舞。砲弾の嵐。
圧倒的破壊が冬の岸辺に訪れ、全てを吹き飛ばそうとし――辛うじて悠那とヌルがそれを防ぎ切る。
「だ い た い ど う や っ て 顔 合 わ せ ろ っ て ン だ よ ! ! な ァ ッ ッ ! !」
母はとうに避難してるのだろう。
何処へ行ったともしれない。もうそれを追う余裕もない。
だいたいこの体で、母親とどう対峙しろというのだ。
叫ぶ言葉と共に、怪物が怒りを吐き散らす。
「――、悠那さん。そろそろ、限界だとおもう」
未だ怒り冷め止まないその怪物の様子を見て、そろそろ"頃合い"かとヌルが問う。
もう斃すべきではないか、と。
「――は、ァ――ッ、……そうかもね」
息を吐き、悠那が一度目を瞑る。
また目を開き、電脳ゴーグルの隅を一度見て。
「――――頃合いだ。なぁ、キミ。言ったな」
その目は、じっと真正面からジャガーノートを見据えた。
幾人かの猟兵が彼女に接触し、その情報を共有してから。
その様子を伺うために、一機だけ"レギオン"を"彼女"に貼りつけていた。
そのレギオンの目が、此方に走りくる人を捉えている。
――準備は、整った。
「"どうやって顔合わせるんだ"、って言ったね?」
「―― ァ ア゛ ?」
巨大な怪物が訝しむような声を上げ。
その一拍のち。
――ァ゛ァァア゛あ゛ア゛あアアアア゛ア゛―――――――ッッッッ!!!!!!
陸の方から、サイレンのような叫び声が上がった。
「 ―― ! ?」
海に響く声と、ジャガーノートの驚愕を前にし、悠那が言う。
「――ピースが揃ったぞ。腹をキメなよ」
●啀呵
何かを求める咆哮だった。
何かを失った咆哮だった。
狂った耳を持つ自分にも、それはわかる。聞いた事があったから。
常闇の世界で、まだ獣のような殻だった相棒が立てた叫び。
不条理に対する、怒り、嘆き、怒号、悔恨。
それと似ていた。
そっくりだった。
あれは――子供の、我儘だ。
おれには悲鳴に聞こえたんだ。
かえりたいと泣く声だと思ったんだ。
唯の我儘な子供が、ぐずる声のようだと思ったんだ。
――そう、思うからこそ。
ロク・ザイオンは、森番は雄叫びを上げる。
自分達の存在を知らしめるように。
此処におまえの逢いたかったものがいるぞ、と。
そう叫ぶように。
「――ァ゛ァァア゛あ゛ア゛あアアアア゛ア゛―――――――ッッッッ!!!!!!」
叫びは歪に膨れ上がった"子供"にも届いたのだろう。
「 ―― ッ ッ ! !」
身を固まらせ、動きを止めるのがわかった。
「 ―― く」
そして、
「 ―― 来 る な ァ ア ア ア゛ ア゛ ――! ! !」
―― バ キ ン ッ ッ !!!
拒絶の声と音とが響く。
氷が無数に、ジャガーノートの周囲を防壁のように幾重にも包み込む。
誰かを避け近づけさせず、そして阻む為の障壁。そしてそれと同時、氷柱と巌の如き雹とが降り注ぎ、走り来るロクたちと――
「ヒィィィァああ馬鹿でかッッってか怖っ冗談でしょうコレぇぇッッ!!!?!」
やや後方、白峯をおぶさりつつダッシュするリクロウ、そして白峯の側に控えているティアーの方へと降り注ぐ。
悲鳴を上げつつリクロウが戦斧を振り、飛び来る氷を破砕して二人を守りつつ猛ダッシュする――!
「はいはい余計な事言うよりちゃかちゃか腕動かして!」
「あ、あの、頑張ってください!」
「ぁぁぁあもうやってやる頑張る頑張りますよぉ!!!!しっかり掴まってて下さいよ!!!?」
ティアーの鬼のような叱責と白峯の声援を受け、それでも臆病を殺してシャーマンズゴーストの少年が疾る。
その前には、分厚い氷の壁。
「――いくぞ――ッッ!!!」
がらがらの歪な叫び声ととも、まずそれに取り掛かるのは赤毛の森番、ロク。
焔を操る二刀を以て臆する事なく氷壁に近づき、真二つにそれを引き裂く!
「ウォォォオォォ割れろォォォオッッ!!!」
続くリクロウも大斧を振り翳し、思い切り氷の壁面に叩きつけ障壁を破壊する!
ばき、バキと音を立てて立て続けに氷の壁が減って、その分白峯とジャガーノートとの距離が縮まる。
「 あ 、 ァ アあ ―― ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ―― ッ ッ ! !」
悲鳴のような、絶叫のような声を上げ、怪物は氷の障壁を一層厚く張り巡らせた。
どうあっても、近づくそれとは逢いたくない。
目を向けたくない。
それと邂逅して。
その目を見るのが。
その声を聴くのが。
自分の姿をまざまざと見られるのが。全てが怖い。
だから、それは肉親を拒絶しそれから逃げようとし――
「――ヌルッッ!!!手伝って――――!!!!」
「――!わかった」
だが、猟兵はそれを許さない。
ロクが近くを飛んでいた知り合いへと声を掛け、協力要請をする。
人形は顔見知りのそれに二つ返事で応じた。
元々頼まれればそれを断る事は殆どない性格であったし、知り合いのそれなら尚のことだ。だが。
(――あのひと、あのUDCの――)
シャーマンズゴーストの彼が背負っているのは、海辺で影の怪物に殺されかけ、そして目の前の怪物に助けられたそれだと判った。あの人が最初、助けられた時に怪物へ声を掛けようとしていた。それをヌルは覚えている。
悠那が粘っていたのも、このタイミングで此処に来るのも、何かこのUDCにするべき事があるからなのだろう。そう、人形少女は思考する。
この白熊型のUDC討伐に、特段ヌルは思うことはない。
ただ単に、これは斃すべき災厄であるが故、斃されて然るべき。猟兵らしい真っ当な判断と人形らしき明快明晰な思考を以て、そう考えるだけだが――あの女性が何をするのかは、何故かヌルには気になった。
強いて挙げるならそのような理由ととも、ヌルは膨大な魔力を以て光刃を無数に作り出す。慈悲なき光の雨が氷の壁を穿ち壊し削る――!
「ァ ア ア゛ や め ろ 糞 共 が ァ ア゛ ア ―― ッ ッ ! !」
しかし尚も怪物は往生際が悪い。
殊更厚く堅い氷の壁を、阻むようにまた出す――!
「ああ、もう――」
その厚い氷壁へ、魔法少女の姿をした電脳魔、悠那がサイバーロッドを突き出す。
ガパリ、その機構が開きスパークを湛え――
「最後くらい――っ素直になれぇぇぇぇえ――――――ッッッッ!!!!!」
素直じゃない怪物への一言ととも、白閃が奔る――!!
それは氷の隔たりを砕き融かし――そして、ジャガーノートを顕にする。
「 ァ 、 ア ア ア゛ア゛ア ―――― ッ ッ ッ ! !」
それでも尚、まだ怪物は足掻く。
或いはそれは唯の癇癪を起こすようなものだったか。
恐るものを前に逃げたくて、それでも逃げられず。
あたりにあるものを手当たり次第、怖いものに向けて投げるような。
そうして、氷の塊が嵐のように飛び交い――その中を、赤い一条が跳ぶ。
「――させないッッ!!!!」
流星のような赫が、悉く氷を砕き灼き融かし、無に返す。
声を抑えるのはとうに忘れた。
がなる様な、酷い声だろう。
しかし、それでも。
こんなに酷い声でも――言わねば伝わりはしないのだ。
「お前の帰りたい場所は!!母親は誰にも、お前にも、傷付けさせない――!!!」
悲鳴に聞こえたんだ。
帰りたいと、そう泣く声だと思ったんだ。
歪んだ耳がそう捉えただけなのかは、わからない。
それでも獣の勘が、それは間違ってないと叫ぶ。
だから森番も、がなるように吼えた。
衝動に突き動かされるままに。
「――お前達にはまだ言葉があるだろう!!!全部言え!!それが出来るのはひとだけだ!!」
だから、この叫びを聞いたものよ。
明日へと手を伸ばせ。
先へあるものを掴め。
「――さぁミセス、手筈通り。私が力を貸すのは着地までだ――!!」
「――行きますよぉ!!!!後は任せましたからねティアーさんッッ!!!」
見えているか。
かつてこどもだったもの。お前の目の前にあるものが。
「――――ア、 ぁ」
――お前が、言葉を伝えるべきものの姿が。
● "悲願"
――人間大のものが、俺の顔の上に乗る。
毛むくじゃらが強引に投げて寄越した。
オリンピック選手か何かのような――或いは超能力じみた何かすら感じさせる見事な着地を決めたそれは、見慣れた顔だった。
三年と少し前までは、毎日見ていた。
こんなに間近で見て――目元は何故か妙ちきりんなマスクを付けてるけど。
少し窶れて老けたな、なんて冷静に思ってしまった。
「――――ぁ、さ……」
言葉は、やっぱり上手く紡げない。
――そんな俺を見て、かあさんは。
「――外しても、いいですか?」
オトメ
「……私は正義の味方だ。貴女の意志を尊重するよ」
「――有難う。連れてきてくれて、助かりました」
ぱさりと、マスクを外した。
「――――ぁ、」
覚えていたかあさんの目、そのものだ。
何も変わらない。
優しい目をしてる。
変わらない目で、俺をみてる。
「――かあさん」
「―― 変わらないわね」
少し呆れたように、それでもずっと優しく。
思っていたより。俺が怯えていたより。ずっとずっと穏やかな。
覚えているままのかあさんだ。
「――かあさん、――かあさん、――――――ごめん!!」
思うより先に、機械の喉から声が出る。
「――約束守れなかった――!!とうさんと約束したのに!!」
ずっと。ずっとずっと、心残りだった。謝りたかった。
「かあさん守るって言ったのに、俺、俺――ッッ」
堰を切るように、言葉が漏れる。
約束したのに。
守るっていったのに。
ずっとそれが蟠りになってて――――
「……平気よ、極人」
「――ぇ」
――なってたのだけれど。
かあさんの声に、つい言葉が止まった。
「大丈夫。心配しなくていいの。……極人は母さんに世界一優しいから、ずっと心配してくれてたけど」
細い、強いなんて言えないだろう身体で。
昔よりも衰えただろう身体で。
それでも、笑う顔は昔のままに。かあさんは言う。
「……かあさん、極人が思ってるよりも強いんだから。ね?」
こうやって、ヤンチャして極人に逢えるくらいだもの。
そう言って、細い腕で、力拳をつくる真似をしつつ。
俺のよく知るかあさんが。
俺の知ってる通りに言う。
「――――ぁあ」
そうか。
俺が心配しすぎてたか。
俺のかあさんだもんな。
――俺より強いのは、当たり前だよな。
「――そっか。――――かあさん」
――ぱきん。
白熊の身体が、罅割れる。
その限界を表すかのように。
「ん。なに?」
その身を繋ぎ止めるのは、怒りだけだった故に。
怒りが潰えた時が、このジャガーノート・ポーラーの最期で。
「――――いつまでも、」
――――――大好きだから。
そう、言い残して。白熊型の怪物は。
その中に、ただ肉親との再会を願う子供を納めていたUDCは。
"悲願"を叶え、崩れ去ったのだった。
「――、きゃっ」
「……おっと、失礼」
ジャガーノートが崩れ去り宙に放り出されそうになった白峯を、ティアーがぺちりと自ら装着されに行くことで力を貸す。
念動力により、二人はふわふわと浮くようにしてゆっくりと下降していく。
「――あ、ありがとうございます」
「何、力を貸したのはほんの少しだったしね……」
事実、ティアーが助力をしたのはほんの少し。
リクロウが白峯を宙に放った後、上手く着地をする為の念動力での支援。
そして、その身体を念のために守る為の、防護服代わりとなった事。
挙げるとするならそれくらいだ。
「他は全て、貴女の意志で貴女がやった事だ。誇っていい」
「…………はい」
「――――ゆっくり下降していく。安心したまえ」
ティアーの言う通り、時間を掛けて白峯の身体は地へと緩やかに降りていく。
「…………私以外に君の涙を知る者もいない。安心なさい」
「……………………はい」
――ぽたり、ぽたりと。マスクの奥を涙が伝い落ちていく。
(……あぁ、全く。惜しいものだな)
滴る好物を前にしつつ、それでもティアーがその涙を頂戴する事はない。
(――その涙は、君の為のものなのだから)
他人に贈られたものを横取りするほど、落ちぶれちゃいないよ、と。
そう思いつつ、ゆっくりと。
涙を覆い隠す仮面が、息子を悼む母親を地へと送り届けたのだった――。
●終幕
ジャガーノートは消えた。
それが齎した流氷達も、同じくして消え果てた。
"翡岸"は消え。
"彼岸"の怪物も消え。
"氷岩"の怪物も、それが持っていた"悲願"を叶え消え去った。
一連の怪異も怪物も消え、そして今度はそれが齎した禍根も痕跡も抹消される。
組織の手で、遍く"ヒガン"に纏わる記憶が修正・改竄・抹消される。
流氷漂う海に一時訪れた真冬の熱狂もやがて冷め、元通りの冬の海が戻ってくる。
――これにて、"ヒガン"の怪物たちの話は終幕となる。
そこに住む人で、そこにあった出来事を憶えている人は、もういない。
――一人を除いて。
●嘘吹
ふわぁ……ん?ああ、こないだはどーも。助かったよ。
派手に暴れたらしいね、例のジャガーノート。
そりゃもうこっちも情報改竄と修正にてんてこ舞いさ。
あんなにバカデカく出現したんだもの。流氷のせいで注目も浴びてたしね。
UDCの情報がメディアに流れた時の面倒さったらないよ。
今のご時世SNSとかあるし尚更ね……放送局から個人まで全部処理するんだぜ?
僕まで記憶処置に駆り出されるし……お陰様で寝不足さ。
ま、記憶処置は問題なく終わったよ。
テレビやSNSどころかネットの噂にもなってない。
誰もジャガーノートの事なんて覚えてない。
……あー、まぁただ。さっきも言ったけど大忙しだったから。
一人くらい、記憶処理が雑だった人はいるかもね?
完全に忘れるまではいかなくて。
不思議な夢を見たくらいに思うんじゃないかな。
ま、立ち話もなんだしこれだけ。
じゃあね。
●EPILOGUE ――そして、明日へ
――海を望む小さな町。
冬の海岸沿いには、貸しボートと小料理を出す小さな店が一つ。
そこの新しい店主、"白峯"という女性が、今日も店をゆるやかに切り盛りしている。店の窓からは、見慣れた海が臨める。その瞳はもう、誰かの面影を探すようなものでなく。
「さ、今日も頑張っていきましょっか!」
――希望へと。
明日へと向かってゆかんとする瞳の色をしていたのだと言う。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年02月09日
宿敵
『ジャガーノート・ポーラー』
を撃破!
|