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星夜にステップを

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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 いつもは静かな村の夜も、今宵は少しだけ浮き立っていた。
 ぱたぱたと駆けてくるのは、麻のドレスで美しくおめかしした女性達。自分達で織った服で精一杯のおしゃれをした男性達も、平素よりどこかすらりとして見える。
 流れ星の降る時分。
 隣村で寄り合って催されているのは──舞踏会だ。
 都市じゃないから大きな屋敷は無いし、人の数も多くはない。それでも三つの村で集まって、偶にだけ開かれるこの小さなダンスパーティーが、人々にとっては数少ないイベントなのだった。
 食べ物も供されて、子供達だって参加する。
 時に愉快で、時に優美な弦楽器の音色とともに。人々は窓から空も見える集会場でステップを踏む。
 澄んだ夜に星が線を引いて、皆々を祝福しているようだった──けれど。
 村を南に望む丘の向こうから無数の鎧、そして竜の影が迫る。そのすぐ後に待つ凄惨な殺戮劇を、人々は知らなかった。

「皆様はダンスをされたことはお有りですか?」
 グリモアベース。
 変わらぬ柔らかな声音で、千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は猟兵達へそんな言葉をかけていた。
「私は給仕をする側ですので、自慢できる経験は御座いませんが……とても素敵な舞踏会を開かれる村が、アックス&ウィザーズの世界にあるようですよ」
 尤も、その村は今危機に見舞われようとしているのだとレオンは語る。
 即ちオブリビオンの出現が予知されたのだ。
「ここは小さな村です。現れるオブリビオンは村を蹂躙し、人々を殺戮してなお余りある軍勢でしょう」
 放置しておけばおそらく村は壊滅。
 人々の憩いは勿論、その生命までもが全て狩りつくされてしまうだろう。
「それを防ぐために、皆様にはこの世界へ赴いて頂きたく思います」

 現場は村の北方の丘だという。
「幸い、予知によって敵が村に到達する前に戦闘することが出来ます」
 猟兵達は丘で待ち伏せ、北から攻める敵陣を迎え討つ形を取る。これにより、村に一切の被害なく討伐を完了することも可能であろう。
「軍勢を構成するのは、宵闇の騎士団──首の無い、異形の鎧騎士達です」
 夜に乗じて攻めることを得意とするようで、彼らにとっては格好の戦場となるだろう。
 現場は高い丘や低い丘が複数あり、それらの谷に当たる部分も多い地形だ。
「高台をとってもいいですし、敢えて谷で敵を迎える手もあるでしょう。戦法によって立ち位置を考えておくのもいいかと思います」
 そして軍勢を指揮するのは──ワイバーン。この敵こそ強者であろうということで、警戒を欠かさぬようにとレオンは念を押した。
 さて、とレオンは少し表情を明るくする。
「無事に討伐と相成りましたら──舞踏会がちょうど開かれる時分となるでしょう」
 村の人々は猟兵達も是非にと招くことだろう。
 元より誰でも参加が出来るという催しである故、皆様も立ち寄られてはいかがでしょうとレオンは言った。
「格式張ったものではないようですので……戦いの疲れを癒やすというためだけでも、村の皆様には喜んで頂けるでしょう」
 美味しい食事なども用意されるということで、それを楽しみにしてもいいだろう。
 そのためにも先ずは討伐を、と。
 レオンはグリモアを輝かす。
「参りましょう。星夜の戦場へ」


崎田航輝
 ご覧頂きありがとうございます。
 アックス&ウィザーズの世界でのオブリビオン討伐となります。

●現場状況
 夜の丘。高い丘や低い丘が複数あり、多少の高低差のある戦場です。
 村の北方に当たりますが、距離はあるために普通に討伐できれば村に被害は出ません。

●リプレイ
 一章は集団戦、二章でボス戦となることと思います。
 三章では舞踏会に寄ることが出来ます。
 二章や三章からでもご参加頂ければ幸いです。
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第1章 集団戦 『宵闇の騎士団』

POW   :    闇討ち
【自身以外に意識】を向けた対象に、【死角からの不意打ち】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    追討ち
【周囲に潜ませていた多数の伏兵】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ   :    返討ち
いま戦っている対象に有効な【武器を持った多数の援軍】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エウロペ・マリウス
皆が楽しみにしている舞踏会
紹介状が無い無礼なキミ達には、ご退場願うよ

行動 WIZ
使用技能
【視力4】【暗視5】【高速詠唱9】【全力魔法4】【誘導弾4】【属性攻撃9】

暗闇の中、【視力4】【暗視5】で高台にて相手の動向を確認しつつ、他の皆にも状況は伝えるよ
相手が、攻撃の有効範囲内に入ったのを確認したら、【射殺す白銀の魔弾】で攻撃だね
暗視技能を最大限利用して、闇に紛れた他の猟兵の皆への奇襲攻撃などを、【誘導弾】と【高速詠唱】で潰していこうか
この後は、ボスもいることだし、下手に被害が出ないように
視野は広く、全体を把握して、素早く、的確に
集団戦は、如何に敵と味方の位置と動きを把握できるかが勝負
頑張ろうか


ユノ・フィリーゼ
星空の下の舞踏会
招待状も持たずに押し寄せ騒ぎを起こす
マナーのなっていないお客人には
速やかに退場して貰わないとね

敵を上から確認出来る高台に陣取る
近くに仲間が居れば協力して行動を

夢幻の指先で己に触れ、己の分身を呼び出しておく
私とこの子の役目は囮
敵の孤立を誘い仲間を守るための
足場に出来そうな大きな岩や木々等、
地形の利用出来そうな所には予め目星をつけておこう

まだ此方に気がついていない敵がいれば、
視認出来るギリギリの位置に分身を移動させる
視線が合えば慌てて逃げ出す様な素振りをさせ
釣られ囮に気を取られた一瞬を狙い攻撃を仕掛けよう

敵の攻撃は見切りで
傷深い仲間居れば誘惑や挑発で気を惹けないか試みるね


西院鬼・織久
【POW】
【心情】
良い所に居合わせました
丁度飢えていた所です
片っ端から喰らってやりましょう

【行動】
狙う場所:高所
周囲の状況は「暗視」と「視力」で確認
敵は夜戦が得意なので炎の光を利用する
高い丘から「殺意の炎」を敵に向けて燃やして行く
敵に到達したら炎の影から「ダッシュ」で接近し「先制攻撃」
防御力が高く有効打を与えられそうにないなら「鎧無視攻撃」
問題無いなら「範囲攻撃」「二回攻撃」で打撃を与える

周辺の敵を常に視界に入れられるよう動き回る
敵の攻撃は「見切り」、「残像」を利用し敵の隙を突く
避けられない致命傷のみ「武器受け」
囲まれそうなら「敵を盾にする」
「範囲攻撃」と「殺意の炎」で牽制しながら後退



 藍夜に流星が降る。
 微かにだけ肌寒い空気は、その分透明に澄み渡っていて、天に散らばる宝石の光を遮ること無く地上に降ろしていた。
 その景観を穢す黒い影がある。
 視線を下ろせば、夜闇よりも濃色の群れが北方から現れるのが見えていた。
「やってきたみたいだね」
 長けた視力を活かし、それをいの一番にみとめる声。
 エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)。氷色の髪とローブを夜風に揺らして、真っ直ぐの瞳で影の群を見つめていた。
 鎧騎士の軍勢──宵闇の騎士団。静謐に乗じて音もなく、黒い塗料を広げるように丘に侵攻し始めている。
「丘の陰に隠れながら進むつもりみたいだね」
 同じく高台にしゃがみながら、ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)はその動きを目で追っていた。
 あのまま何者にも気づかれずに村へ侵攻し、破壊の限りを尽くし、また別の場所へと攻め入っていく計画なのだろう。
 勿論、させるつもりはない。
 ユノは雄大な天球を仰ぐ。
 青空とは違う静寂と深さを持つ、宵の眺め。
 この星の下で開かれる舞踏会がある。それを何よりも待ちわびている人々が、自分達の背中にいる。
 ユノはエウロペと目を合わせて頷いた。
 ──招待状も持たずにやってくる無礼な客には、ご退場願おう。
 始めに動いたのはユノ。
 しなやかな指先でそっと自身に触れてから宙を差す。そこに柔風が吹いたかと思うと、人間大のシルエットが地に降り立っていた。
 それはユノと瓜二つの姿。夢幻の指先(トロイメライ)──分身を作るその能力が作り上げた、精巧な囮だ。
 瞬間、それは跳ぶ。一足先に夜の舞台へと踊り出すような、優美なステップで。
 未だ距離があるとは言え、身軽に翻ったその姿に敵の鎧騎士達はすぐに気づく。分身が横方向に移動すれば、幾体かの敵影は釣られるようにそれを追い始めていた。
 エウロペがそこへコキュートス・アニマ──氷晶に彩られた杖を向ける。
 刹那、空気が凍りついて白銀に耀いた。
 生まれたのは巨大な棘の如き氷の弾。矢のように飛ぶそれ、射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)が分身に気を取られた騎士を二体、蜂の巣にした。
 静けさの中に、敵が色めき立つ気配が漂う。
 何かが起きている、と。
「ここから、どんどん攻撃していこうか」
「ええ」
 間を置かず、エウロペに応えて奔り出している影があった。
 西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)。漆黒の髪は夜にも影を落とす暗さだが、その赤い瞳は戦意に爛々と輝いている。 
 数多の敵が居る景色。狩りには打って付けの場だと本能が告げていた。
「良い所に居合わせました」
 実感するように呟く。
 丁度、飢えていた。
 だから──片っ端から喰らってやりましょう。
 瞳に殺意と狂気が色濃く映った。次の瞬間、その怨念が焔となって燃え上がる。『殺意の炎』──名のごとく眩く輝くそれは、放たれると同時に一体の鎧を溶解させた。
 眩しさに怯む敵陣へ、織久は続けて肉迫している。速度のまま、敵に先手を取らせず一撃。花の彫られた一刀を振り下ろした。
 硬質な鎧が裂け、破片が散る。
 重量を誇る刃は、力をもって切断するための武器。金属の塊ですら咬み切るように、一体を両断していた。
 騎士達はがちりと威嚇するように関節部を噛み合わせ、織久を囲もうとする。
 が、織久は踏みしめる足に力を込め、その場で廻転した。
「想定済みですよ」
 放つのは大鎌による円を描く斬撃。衝撃の嵐が起こったように、敵は弾き返される。
 そこへ天から降り注ぐ白色。エウロペが氷弾を雨と注がせ、鎧達を串刺しにしていた。
 織久の周囲だけでなく、敵は丘の影からも迫り始めている。だがエウロペはそれすら見逃さない。
「高台の視野から逃れようなんて、意外に楽じゃないものだよ」
 一際尖った氷の槍が、エウロペの掲げた杖先から生成される。高速度で飛来したそれは曲線を描き、闇討ちを試みる鎧を正確に撃ち貫いた。
「そっちは大丈夫?」
「ありがとう、問題ないよ」
 返すユノは、分身を後退させていた。未だそれが囮と気づかぬ鎧騎士達は、二体で群れから離れてくる。
 その仕草は、餌を追い詰めたとでもいうかのよう。
 だが無論、追いつめられたのは鎧達の方だ。ユノはその後方から跳び──細い丘の先端を蹴って加速。空中散歩をするような足取りのままに鎧達の頭上を取っていた。
 直後、踊るような蹴り落とし。美しい動きで一体を砕くと、反作用で再度跳び上がって銀の長剣を握る。
「これで仕留めさせてもらうよ」
 頭を地上に向けた姿勢から、縦の斬撃。ひらりと着地する頃には二体目も斃れていた。
 何者かの反撃に遭っているという認識が、敵の中にようやく波及し始めていく。それによって後続の個体も加わり、敵の前線は厚くなるが──織久は怯まず面前の一体を突き、横の個体を薙ぎ、回り込もうとする鎧を潰していた。
 敵が巨大な槌を振るってくれば素早く見切って回避。続く攻撃も残像に当てさせて自身は身を躱し、尚攻勢を続ける。
「中々、楽しめそうです」
 血のように艷やかな光を湛えて、織久は前の二体を切断。エウロペ、ユノと共に最前にいた敵を掃討していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルガーレ・マリノ
村で行われる舞踏会…素敵ですっ
きっと村の人々は開催される日をずっと
心待ちにしているんですよね
それを台無しにするなんて…させません!

(舞踏会…お父様も屋敷で開いていたような…
どうして私は参加させてもらえなかったのかな…
…思い出せない…)
(※記憶を失っている奴隷時代に見た光景)

戦闘≫
ワタシは谷で敵をお出迎えしマス
だって…その方がゾクゾクするじゃないデスカ…!
迫り来るオブリビオン達…アァ…!
【おびき寄せ】でなるべく多くの敵を集めてカラ
【人狼咆哮】を使いマス
回避し辛い攻撃は【武器受け】するか【激痛耐性】で耐えて
【捨て身の一撃】を放ちマス
苦しくなったら【生命力吸収】を
…ネェ…もっと楽しみまショウ?


麻生・竜星
幼馴染みの風魔昴と。他の仲間とも共闘OK。アドリブOK
昴のことは『スー』と呼んでいる。

闇に紛れて奇襲か……
お前達の思う様にはさせないぞ

他の仲間から離れない程度の低い丘の上昴と共に。
【サモニング・ガイスト】を使用し、古代の戦士を前線にいる仲間の場所へ送り、攻撃支援を。

もし敵が自分達の所へ来た場合、『月影』を使い炎の【属性攻撃】で昴を守りながら対抗する
「親愛なる母、敬愛するルナよ。月の炎を剣に宿したまえ!」


風魔・昴
幼馴染みの麻生竜星と共闘ですが他の仲間とも共闘OK。アドリブOK
竜星のことは『竜』と呼んでいる

「星の夜に襲撃って……納得いかないわ」
天に対する冒涜よね?
それに人々が楽しみにしている日を狙うなんて……
必ず阻止して見せるわ

他の仲間から離れない程度の低い丘の上
『Bellatrix』の【属性攻撃】を使って、【全力魔法】で広範囲に支援攻撃を
「風の精霊、我が友よ。戦友の手伝いと守りを!」
できるだけ多くの敵を倒す事を心がけるわ



 涼やかな風音に、合金の擦れる鈍い音が混じる。
 影に潜み、夜に襲う異形達は、無音の内に全てを終わらせるつもりだった筈だろう。だが猟兵という予想だにしなかった敵の急襲に、それは挫かれた。
 身動ぐ金属音は、動揺の顕れ。
 同時にそれは抑えがたい憤怒の表現でもある。最前の仲間が屠られていようが構わず、首無し騎士達は全軍で侵攻を速めてきた。
 そこへ歩む高貴な衣服の少女が一人。
 ヴォルガーレ・マリノ(天真なるパッツォ・f03135)。絹地の裾は嫋やかに揺れ、シックなリボンも控えめに風に踊る。あどけなさも残る瞳で一度、後ろへ振り返っていた。
 見えるのは、今はまだ灯りの少ない素朴な村。
 それがもうすぐ、舞踏会で華やぐことだろう。
(「とても、素敵ですっ……。きっと村の人々は開催される日をずっと、心待ちにしていたんですよね」)
 舞踏会、と口にすれば、脳裏を擽る朧げな記憶もあった。
(「……お父様も屋敷で開いていたような……。どうして私は参加させてもらえなかったのかな……。……思い出せない……」)
 欠落している、過去の一部分。
 裕福な家庭。そして舞踏会という言葉にそぐわぬ、何か底の昏い記憶。
 それでもヴォルガーレはううん、と小さく首を振る。自身の奥底の事は気に掛かる、けれど──今やるべきことは決まっているから。
「台無しにするなんて……させません!」
 瞬間、まるで空気に亀裂が入るかのような気配が奔る。一歩谷へと踏み入ったヴォルガーレの、纏う空気が一変していた。
 それは自身でも制御の出来ない、戦闘への欲求。
「迫り来るオブリビオン達……アァ……!」
 低地に鎧騎士達がなだれ込んでくるのを、ヴォルガーレは恍惚と見つめる。
 敢えて谷に入り込んだのは自身の選択だ。こうして多くの敵を相手にする方が──ぞくぞくするのだから。
「さあ、始めまショウ」
 眼前へ迫る異形の群れ。ヴォルガーレはそこへ咆哮を劈かせた。
 人狼の力を伴った叫声は、大気を震わせて騎士達の鎧を軋ませる。ひびの入った体で、それでも敵は攻め込んでくる、が、ヴォルガーレは槌の打撃を耐え抜いてみせた。
 逆に、無骨な戦斧を振りかぶって一撃。捨て身の斬打で鎧達を薙ぎ払うように粉砕していった。
 敵は未だ全滅というには遠く、後方からさらなる個体が湧いてくる。
 その数体はヴォルガーレを消耗させようと、塊で攻め入ろうとしていた──が。
 夜闇を裂く焔がそこへ降る。
 漆黒の鎧が眩い炎を映して……彼らが気づいたときには既に着弾。関節部を溶解させて足止めさせていた。
 鎧達が体を向けた先にいたのは、人型の霊体。召喚魔術によって顕現された、炎を操る古代の戦士の姿だ。
 それを生み出した魔術者が、谷を見下ろす低い丘の上にいた。
 白の魔法衣を纏った端正な青年、麻生・竜星(銀月の力を受け継いで・f07360)。
「悪いが、お前達の思う様にはさせないぞ」
 漆黒の髪をさらりと風に靡かせて、微かな月色を宿す魔力を伝搬させる。すると離れた位置にいる古代の戦士が槍を携え、更に鎧騎士に連撃を畳み掛けていた。
 それによって敵陣の右方を抑えながら、竜星は隣に目を向ける。
「スー、左を任せてもいいか」
「分かったわ。しっかりと押し留めてみせるわね」
 応えるのは誠実で、それでいて元気な色を含んだ声音。
 銀杖の魔力を媒介に、淡い光の塊を招来している風魔・昴(父の心と星の力を受け継いで・f06477)。
 艶のある黒髪を煌めかせて、杖を直線上に向ける。刹那、喚び出した輝きを宵闇へと撃ち出していた。
「風の精霊、我が友よ。戦友の手伝いと守りを!」
 詠する声が、飛翔する光に渦巻く風を生み出させる。
 それは真っ直ぐの軌道を描く旋風。敵陣の足元に命中すると爆発する豪風を生み出し、左方の敵を数体切り刻んでいた。
 竜星はちら、とそちらを見やる。
「流石だな」
「まだよ。次は正面からくるわ」
 油断なく昴が言えば、竜星もそうだなと呟く。二人の攻撃が烈しいからこそ、その合間を縫うようにする個体もいたのだ。
「合わせられる?」
「勿論だ、やろう」
 短い遣り取りで、二人には充分だ。
 竜星は光の魔法円を描いて更に霊体を召喚。湛えた炎を真正面へ放たせる。 
 昴はそこへ烈風を合わせ、巨大な炎の渦を形成。前面の敵を広く灼いていった。
 敵の中には、大回りの動きで横合いから襲ってくるものもいる。しかし竜星がそれに気づかぬわけもなく。
「親愛なる母、敬愛するルナよ。月の炎を剣に宿したまえ!」
 銀月に輝く剣を奔らせれば、漆黒の鎧が焦げ付くように切断されていった。
 昴もまたその背後から魔法で援護していく。
 苦闘する鎧達は、呻くように鎧を鳴らしていた。
 それは、奇襲で全てを蹂躙している筈の自分達が、なぜこれほどの苦境に遭っているのかと訴えているようでもあった。
 自分達は捕食者であり、苦しむべきは自分達以外のものであるはずだろう、と。
 昴は美しい星空を見上げて応えた。
「星の夜に襲撃するなんて、天に対する冒涜でしょう? それに──」
 何より人々が楽しみにしている日を狙うなんて、許せない。
 だから、必ず阻止する。
 昴は精霊の力を借り、星光煌めく疾風を放つ。
 輝く斬撃に見舞われた漆黒達は、揺るがぬ意志と淀みのない魔力によって消滅させられていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

麻古衣・紬
平和な村を不必要に攻撃しようだなんて放っておけるようなものではないですね。ましては、舞踏会のような人の集まる日に夜襲だなんて狡猾ですが卑劣ですね。

複数敵、それも夜襲の状態で相手するのでユーベルコードのインディスクリミネイト・フリージングの吹雪で周囲の敵はすべて無差別にまとめて攻撃して一気に削ってしまいましょう。

無差別攻撃なので潜伏した敵などのクリアリングだったり索敵にもなると思うのです。
味方の安全には気を付けて発動したいですね。


ファレリア・リトヴァール
舞踏会、素敵ですわね。
それを邪魔し人々を殺戮する輩など、許してはおけませんわ!

丘の高所で敵を待ち受けた方が、
敵の様子が分かって良いでしょうか。
現場が村から離れているのは幸いですわね。
村にも村人にも一切の被害は出したくありませんもの。
万一の時は避難をお願いする事になるかも知れませんけれど。

援軍を呼ぶとは厄介ですわね。
瓊嵐で一気に蹴散らしてやりますわ!
闇を切り裂く宝石の嵐をとくと味わいなさい!


アルバ・ファルチェ
『騎士』の名を持つくせに、何とも卑怯なやり口だね?

安心して、君らから意識はそらさない…けど、君らも僕から意識をそらさないで居てもらおうか。

【地形の利用】で囲まれないですむ場所に【おびき寄せ】。
【挑発】して僕に注目を集めるよ。
【かばう】や【見切り】、【武器/盾受け】に各種【耐性】で敵の攻撃は通さないように頑張る。

攻撃は…『ドラゴンランスのコルノ』がある程度は自由意思で行動できるから、僕の防御の隙をつこうとする個体がいたら【追跡】して【槍投げ】の要領で【串刺し】にして欲しいかな。
当たらなくても牽制になればいい。
僕の役割は仲間のために道を作ることだから。



 濃すぎる闇が晴れていくように、僅かずつ丘が本来の静けさを取り戻し始めていく。
「敵の数も半数程度になりましたでしょうか?」
 高所からそれを見下ろす、麗しきラベンダーカラーのクリスタリアンがいた。
 ファレリア・リトヴァール(白花を纏う紫輝石・f05766)。
 淑やかな面持ちながら、紫輝石の瞳の奥にはどこか溌剌とした色も同居させる。観察を欠かさずに高台の位置を保つことで、的確に戦況を読みながら継戦していた。
 減じたとはいえ、敵数は未だこちらを遥かに上回る。微かの予断も許さぬ状況──だからファレリアは一度背の方を見た。
「現場が村から離れているのは幸いでしたわね」
 今も完全に敵陣を押し留めているわけではなく、緩く立ち位置が前後している。
 ともすれば大きく後退しかねない状態でもある。だからこそこちらが苦闘することよりも──それに村が巻き込まれないことが一番の幸いだと思っていた。
 豊かな髪をふわと踊らせ、ファレリアは一つ頷く。
 ここで援軍などを呼ばれても面白くない。
 ならば、一気呵成に蹴散らすのみ。
 丘の影から這い上がってくる鎧騎士が複数いた。ファレリアは手を伸ばすと、星明りに反射する綺羅びやかな光の粒を撒く。
「煌めく玉(ぎょく)よ、我が意のままに──!」
 宙に舞うように花びらへ変化してゆくのは、紫煌の輝石。花嵐となったそれは、下方に吹き付けるように鎧騎士達へ飛来していった。
「闇を切り裂く宝石の嵐をとくと味わいなさい!」
 瓊嵐(ケイラン)──敵を取り巻くように襲った輝石の舞いが、鎧の全身を切り刻み、鮮やかなる衝撃を与えていく。
 結果として丘を登ろうとしていた敵陣は、その半数が散り散りに砕かれて、もう半数は下方へと転げ落ちていた。
 ならばと鎧騎士達は、後続の個体も加えて再度の侵攻を試みようとする。
 が、それを通さぬ厳然たる盾がある。
 進軍する鎧達の体を弾き返し、立ちはだかってみせる“騎士”──アルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)。
「自由に進めるだなんて、思わないことだよ」
 呟きながら、周囲に目線を奔らせている。
 鎧騎士の数は確かに減りつつあった。だがそれは同時に、敵にとっては潜伏や奇襲がやりやすくなっている状態とも言える。
 事実今も無為に前進するばかりではなく、回り込み、潜み、こちらの裏を囲うとする敵が多くいた。
 あくまでも、夜に乗じた殺戮を狙ってくる。
 ふぅんと、アルバは息を吐いていた。
「『騎士』の名を持つくせに、何とも卑怯なやり口だね?」
 少しは正々堂々とすればいい──盾を揺らしてみせるのは、挑発の仕草だ。
 鎧騎士達はそれに釣られるように駆け込んでくる。おそらくアルバ一人ならばどうとでもなると踏んだのだろう──だがそれは、大きな誤謬。
 数歩横にずれて、アルバは幾分か高さと傾斜のある位置についた。自然、敵は攻めやすい方向からかかってくることになる。それがアルバの招いた状況とは知らず。
 敵から意識を逸らさない、同時に敵に意識を逸らさせない。
 それが盾として選んだ策だった。
 踏み込んできた鎧騎士は、その槌を強く振り下ろす。
 が、金属音が反響するばかりでアルバは傷一つつかない。その盾が、無辜の人々も仲間も護ってみせるという意志が、攻撃を通さない。
 連撃をされても見切り、盾の縁で受け、剣で受け流し、全てを防御してみせた。
 大外から隙を突こうとしてくる個体には──アルバの傍らから飛び出す影がある。
 犬のような毛並みが愛らしい、ドラゴンのコルノだ。
 小さな翼で、それでも高速に飛んでみせると、立派な角を前にして槍の形態へ変化。敵の一体を貫いてからまた元の姿へと戻っていた。
 無論、敵の全てを退けるには至らないが──それでいい。アルバの目的は盾として、仲間の道を切り開くことだから。
「さあ、この隙に」
「ええ、ありがとうございますわ!」
 ファレリアはそこへ、上方から宝石の雨。無防備とも言える鎧騎士達を一掃していく。
 前方が開けてくると、猟兵達も前進が叶うようになってきた。 
「ここらで、クリアリングなども必要ですかね」
 そこで帽子を軽く押さえつつ、呟くのは麻古衣・紬(灼華絶零・f06768)。
 きょろりと巡らす視線には、戦いの佳境の中でも気負いは窺えない。寧ろほわりとした少年の容貌に浮かぶのは眠たげな色で、あくびの一つも零れていた。
 だが夜は、紬の時間でもある。
 杖をくるりと手に取ると、溢れる魔力でマントを棚引かせ始めていた。
 螺旋状に高まっていく靄。それが生み出すのは極寒の冷気。
「全てを瞬く間に凍て尽くせ──“考え無しの立往生(インディスクリミネイト・フリージング)”!」
 刹那、一帯を凄まじい凍気が包み込む。吹雪が荒れ狂い、その猛威が空間を隙間なく襲っていた。
 ばきり、ばきりと金属が砕ける音がする。丘の陰に潜んでいた一体の鎧騎士が斃れたのだ。次にはどしりという大きな衝撃音。丘に登ろうとしていた別の一体が息絶え落下していた。
 無差別の攻撃はそれ故に無慈悲。潜むものもそうでないものも、等しく凍てつかせていく。
 冷気の範囲から逃れたものや、防御態勢を取って受けきった敵もいる。だが吹雪によってその存在が浮き彫りになったことに変わりはなく──索敵としては既に大きな効果を生んでいた。
 騎士達が反撃に躍り出てくれば、アルバがしかと止めてみせる。
「守りは引き受けるからさ。攻撃は遠慮なくやってよ」
「では、そうさせて貰います」
 紬は二撃目を撃って、さらに敵を片付けていった。
 騎士達が殺意を表すように獰猛な擦過音を上げても、紬が怯むことはない。ただゆるりと、首を振ってみせていた。
「平和な村を不必要に攻撃する、ましてや舞踏会のような人の集まる日に夜襲だなんて、狡猾で卑劣です。放っておく理由も──手加減する謂れも、ないです」
「ええ、素敵な舞踏会を邪魔し、人々を殺戮する輩など許してはおけませんわ!」
 ファレリアも頷き、紫の嵐を畳み掛ける。
 そこへ紬も暴風を連ねて騎士を凍らせ、砕いていく。気づけば騎士達の背後に居る存在の姿も見えるようになってきていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎
ココが狩場ですわな
ワイルドハントの始まりっスよ


●POW
敵行軍に対して、下り傾斜を背にして仁王立ち

自然の中だとどうも【野生の勘】が冴える気がしまさ
・開戦前は敵勢と接敵する瞬間を
・交戦中は敵が仕掛けて来る方角を
余さず感じ取って、諸々有利に運んでやりますわ


――【砂嵐の王・単騎行軍】!
伸ばした腕でラリアット、伸ばした腕で廻し蹴りの【2回攻撃】
敵頭数をまとめて下り傾斜の方へブチ転がしてやりますでよ

ココで本命の作戦
下り傾斜下に予め注いどいたモザイク状の空間――【砂嵐の王】

モザイクの渦中に飛び込んで自己強化キメつつ、更にモザイクを撒いてのガンガン攻撃

ハマった輩は全員俺めの巣に掛かった獲物
ブチ殺してやりまさァ



 戦況が傾く程に、敵の中に蔓延るのは焦りだろうか。
 動く足音の数は減っているのに、反比例してその慌ただしさが伝わってくる。
 声を持たぬ鎧達の、死出の足取り。
 ──尤も、丘に降り立った白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)には、それが無くても敵の動きが手に取るように判る。
「自然の中だとどうも、野生の勘が冴える気がしまさ」
 今宵はどうしてかそれが一層顕著だ。
 僅かな地鳴りが敵の一挙手一投足を捉えさせる気がする。風のゆらぎがその動きを伝えてくれる感覚がある。
 目を閉じれば、まるで光の粒が敵の位置を映し出すかのように──鋭敏に、あらゆる事物を感じ取っていた。
 下り傾斜から視線を降ろす。丘の麓から数体、鎧騎士達が登ってきていた。
 物九郎はそれも予想済み。
「ワイルドハントの始まりっスよ」
 無造作気味の黒髪を揺らがせて、一歩進みながら拳を握るのは刻印のある左腕。
 動物的な鋭さを視線に湛えるけれど、単なる猫というには金瞳に少々、悪知恵が宿る。目を細めたその一瞬、坂で加速し敵へ肉迫していた。
 ──【砂嵐の王・単騎行軍】!
 高速で迫られた事に鎧騎士が反応できぬ内に、伸ばした腕でラリアット。板金がひしゃげる音が響く間に、物九郎は翻って回し蹴りを放っていた。
 息つく暇もない二回攻撃。
 のけぞった鎧騎士がそのまま斃れゆくと、勢いを止めずに乱打を繰り出す。
 同時に踊るのは極彩色のモザイクだ。輪郭がぶれ、蛇のようにのたうち、軌道も読めぬそれが飛来して鎧に侵食し命を削り取っていた。
「かかってくんなら、一気にやるべきでしたな」
 後続の個体へは飛びながら蹴り下ろし、さらに拳での打撃も重ねていく。
 高台から背後を取ってくる敵もいた。
 が、物九郎は無論それも察知済み。傾斜下へ転げた敵を追う形で自身も疾駆、麓に予め注いでおいたモザイク空間──砂嵐の王(ワイルドハント)へ飛び込んだ。
「ココが本命。甘かったですわな」
 色の暴れるモザイクを体に纏い、自身の力を強化する。
 丘を登る敵も降りる敵も、全ては物九郎の巣に掛かった獲物。
「──ブチ殺してやりまさァ」
 殴打が鎧を穿ち、蹴りが槌を砕いてゆく。モザイクを撒きながら進軍し、物九郎は周囲に散った残党も狩っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンバー・ホワイト
‪ユハナ(f00855)と共闘、まだ知り合いではない‬

‪籠の中からでは見ることも叶わなかった星降る夜空、何度焦がれたことだろう‬
‪舞踏会、なんとしても守らなくては‬
‪きっと素敵なものなんだろうな

‪宵闇の騎士団に、谷の正面から立ち向かおう‬
‪響く歌声に、背中を押されて‬
‪大丈夫、わたしは、振り向かない‬

‪谷に流し込むように雪の焔を散らすぞ‬
‪指揮するように指先を振るって‬
‪さあ、雪のはなびらと、一緒に踊ってもらおうか‬
‪焼き尽くした灰のように、真っ白になるまで‬

‪範囲で集団の足止めを狙いつつ、通り抜ける敵には星屑の鎖で捕縛を‬
‪おまえは、舞踏会にお呼ばれしていないだろう?

さあ、ここでさよならだ‬


ユハナ・ハルヴァリ
アンバー(f08886)と共闘・まだ知り合いではない

夜空を見上げて息をひとつ
こんなに綺麗なのに、
物憂げなそれは嘆息になる
だめだよ、この先には、行かせない。
騎士団なのに
人は守らないなんて
…変なの。
少し子供じみた語調で、ふとした疑問を呈するけれど
首がないのでは答えようもない

戦場見渡せば黒白の竜の子が映る
振り向かないその背に歌声ひとつ届けて
大丈夫だよ、真っ直ぐ、走っておいで
背中を押す様に
何処か見守る様に
叶うなら、傷つく事のない様に
そんな勝手な祈りを込める
村へ向かおうとするのなら全力魔法で止める
――だって君たちは、ここで終わるのだから

彼女の纏う雪の花弁には六花の魔法の目眩し乗せて
さよならの、時間だよ。



 夜に静謐が還り始めていた。
 世界に宵色のカーテンが掛かって、灯りの代わりに星が耀く。光が瞬くその音すら聞こえそうな程のそれが……多分、本来の夜の姿。
 アンバー・ホワイト(Snow・f08886)は丘から一度、そんな空を仰いでいる。
 綺麗な硝子玉みたいに、瞳がきらきらと光を映していた。
 籠の中からでは見ることも叶わなかった、星降る夜空。
 ──何度焦がれたことだろう?
 出来るならもっと見つめていたい、と思った。
 でも、駄目だ。
 夜はまだ、その姿を完全には取り戻していないのだから。
 目を下ろすと、鎧騎士がいる。
 それは敵の最後の勢力だった。竜を守る位置についていた彼らは、最早闇に潜むことも無為と悟ったか──谷を駆け、残る勢力の全てで直進してきている。
 残党と言えど、やはりそれは軍勢と言って然るべき数。あの漆黒を排除しなければ、本当の夜は訪れない。
 だから、少し離れたところに立つ白の少年も、夜を見上げて息をひとつついていた。
 つめたいばかりじゃなく、どこか儚さも抱かせる冬のエルフ──ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)。
 空がこんなに綺麗なのに、否、だからこそ嘆息は物憂げで。深い海の瞳を武骨な鎧騎士達に向けて、その吐息だけに憂いの色を含めていた。
 全てを壊そうと奔る漆黒を、見つめる。
「騎士団なのに人は守らないなんて……変なの」
 少年は少し子供じみた語調で、彼らにふとした疑問を呈してみる。
 けれど首のない鎧達はそれには答えようもない。故にユハナも、戦うしかないのだと一歩踏み出した。
 と、そこで斜め前方。
 谷の正面に立つ、黒白の竜の少女を見つけた。
 気になった、とまでは言えないのかも知れない。けれどユハナは、巨躯の鎧にひとりで立ち向かっているその背を支えたいと思ったのだ。
 唇をそっと動かして、紡いだのは歌だ。
 冬の空に澄明に反響する、雪色の声音。しんしんとした空気に伝わるそれは、不思議と鎧の足音にかき消されることなく前の背中に届く。
 アンバー自身も、後ろからの歌声にはすぐに気づいた。
 顔の見えない仲間の詠う、心地いい旋律。
「大丈夫だよ、真っ直ぐ、走っておいで」
 そんな声も聞こえる。振り返らずに前に進んで、と。
 アンバーは前を見据えたままに頷いていた。
「大丈夫、わたしは、振り向かない」
 元より敵を前に逃げも退きもしないのだから。それでも多勢に無勢ではあったけれど──その歌声が背中を押してくれるなら。
 尾を靡かせて、アンバーは高速で前へ。谷の縁まで進んで、頭上にはらはらと白色を舞わせていた。
 それは焔に煌めく雪。
 少女は指揮するように、細い指先を振るっていた。
「さあ、雪のはなびらと、一緒に踊ってもらおうか」
 瞬間、煌々とした吹雪が谷に流し込まれていく。
 雪の焔(スノウホワイト)。夜地のキャンバスに雪色の飛沫を描くように、美しい燦めきの欠片が敵に降り掛かっていく。
 湛える炎は漆黒をも白に染めるかのように、その躰を眩く包んで燃やしてしまう。
 一体、また一体と。アンバーが拍子を刻むたび、鎧の集団が斃れていった。
 ──焼き尽くした灰のように、真っ白になるまで。
 濁らぬ心が、敵陣を容赦なく融かしていく。
 その小さな背にユハナは唄を届け続けていた。
 何処か見守る様に。叶うなら傷つく事のない様にと、そんな祈りも込めながら。
 集団から逸れて通り抜けようとする鎧騎士がいれば、ユハナは魔力を集めて飛ばす。ぱり、ぱり、と咲いたのは氷花。急激に成長して大きくなったそれは、壁となって鎧に立ちはだかった。
「だめだよ、この先には、行かせない」
 ──だって君たちは、ここで終わるのだから。
「そうだぞ。おまえは、舞踏会にお呼ばれしていないだろう?」
 次にかけられたのは少女の声。鎧騎士が惑って横を向く頃には、そこへ星色の弦が伸びてきていた。
 アンバーの飛ばした星屑の鎖。
 硝子と化したそれは脆くても、敵が倒れるまでは砕けない。
 琥珀の視線で、アンバーは強く見据える。
 舞踏会が素敵なものなのだろうということは、分かっていた。だからそれを、この星空と共にしっかりと守りたい。
 地に打ち付けられてその一体が息絶えると、竜の少女は前を向く。
 敵の残りはあと僅か数体。捨て身で攻めてくる彼らへ、アンバーは再び雪の焔を顕現していた。
 ユハナはそこに六花の魔法を乗せて、満天の星空みたいに煌めかせる。
 一度魅了されたように見上げてから、アンバーはそれを降り注がせた。
 誰も傷つけさせない──だから。
 ──さあ、ここでさよならだ。
 ──さよならの、時間だよ。
 重なる意志は、共鳴するように強く。漆黒達を光に包んで消し去っていった。
 残滓が光の雨のように降る中で、一瞬の無音が訪れる。アンバーはそこで初めて、ありがとう、と伝えるためにそっと振り返ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●支配者
 赤鱗の亜竜が夜に鎮座していた。
 奥に潜み姿を垣間見せなかったのは、今までは自らが出る必要もなかったからだろう。
 忠実な鎧達に命じれば狩りに苦心などしない。闇と共に顕れて、全てを喰らいつくす。抵抗できるものもない中で、あらゆるものを蹂躙する死の宴に酔い痴れる。
 夜空の支配者。
 それが自分達であったから。
 たが、鎧騎士は殲滅させられた。だから赤竜はゆっくりと羽ばたき始める──憤怒と、捕食者の眼光をもって。
 人の身を高みから見下ろすその瞳は、小さき存在は餌としか認めない。
 だからどちらが喰らう側なのかを教えてやる、というように。巨大な体躯と威容で竜は飛ぶ。抵抗するなら踏み潰す──獰猛な殺意を携えて。
エウロペ・マリウス
行動 WIZ
【全力魔法4】【誘導弾5】【高速詠唱10】【属性攻撃10】【暗視5】【視力5】

引き続き【暗視】と【視力】を併用して、相手の行動をしっかりと把握して戦闘を行うよ
相手のワイバーンブラストは、急降下後のようだから、相手が上昇したら注意だね
極力、【全力魔法】と【誘導弾】で、急降下を阻害できるように頑張るよ
相手は攻撃力が高そうだから、他の皆の安全を考えて、
ユーベルコードは【清浄なる魔力の調和】を使用していこうか

ボクは攻撃よりも補助と回復に回る形かな
一歩下がって、敵と味方を視野に入れる立ち位置を保ちつつ、逐一相手の行動を皆に教えるよ
急降下は、戦闘中の視野が狭まる場面では察知しにくいだろうからね


白斑・物九郎
大将自ら出て来ざるを得なくなった喧嘩ってモンがどんなオチを辿るか
教えてやりまさァ


●SPD
(※各判断には常時【野生の勘】ON)
敵接近が察せたら、周りの面子へ教えてやるくらいはしますでよ

敵襲来方角に対して、なるべく長い昇り傾斜(傾斜は出来れば傾斜18mあれば)に臥せて待機
【砂嵐の王・単騎行軍】使用
傾斜のテッペンに手ェ掛けて、腕伸ばして、傾斜の底に待機
竜が近付いて来たら腕を超弾力で「戻す」

つまりスリングの要領で自分の体を吹っ飛ばす【ジャンプ】!
竜の回避予測の効果圏外、竜よか高高度に陣取ったら、竜の素っ首目掛けて腕でも脚でも伸ばして組み付いて絡み付いて極める【グラップル】

地へブチ落としてやりまさァ!


アンバー・ホワイト
‪ユハナ(f00855)と共に‬
‪竜の威嚇に負けはしないぞ‬
‪わたしはちいさな竜だけれど‬
‪踏み潰されてなんかやるものか‬

‪餌になるのは、お前の方だ‬
‪この牙でズタズタに喰らってやろう‬

‪古竜の息吹を使い、聖なる竜の力を借りる‬
‪さあ、共に、あかい竜を喰らってしまおう‬
‪光の咆哮に併せて、自身の持つ牙で竜の心臓を狙いに
‪臆すことなく勇敢に‬
‪守ることに、倒すことに、躊躇いなど無いのだから‬

‪鈴の様な音と、やわらかな風に支えられ
‪ああ、一緒にだ。白の君‬
‪名を知らずとも、共に戦える者がいる。それだけで‬
‪自信をつけて、より前へ
‪星屑の鎖を使い間を詰めて‬

‪最後まで立ち続けるのは、わたしたちだ


ユハナ・ハルヴァリ
アンバー(f08886)と

夜の中に燃ゆる赫
怒っているの?
そう。
でも、それは僕らと、並び立てるものじゃないから
最後まで立てたら君の勝ち
そうでなければ、僕らの勝ちだ

りん、と鈴の様な音を鳴らして
長杖は貴石へと変ずる
砕けて、華となって
ちりちりと花びらは解ける
隣の君を守るように風に廻る
ローブの下に提げた短刀を手に、くるりと回したなら
さあ、今度は
一緒に往こう
頷く君と足取り揃え
好きに動いて、黒の君
置いて行かれはしないから

凍える花を枷に
赫を地へ落とすように花弁降らせて
夜の隙間を繋ぐ様に歌を紡ぐ
大丈夫だよ
君となら。

星空までの道はあと少し
その時には、名前を尋ねよう
それまで僅かな間の、内緒話のように


西院鬼・織久
【POW】
【心情】
ああ臭う、臭うぞ
死臭に満ちた血肉の臭い
その身にはさぞや怨念が染み付いているだろう
我等が糧として喰らい尽くす

【行動】
「暗視」「視力」で敵の動作、攻撃の前兆を見る
「第六感」も働かせ攻撃の機会を逃さないように

【戦闘】
ベリザリオ(ID:f11970)と協力

攻撃の機会を狙い上空からの攻撃は「ダッシュ」「見切り」で回避
回避不可の時や動きが鈍るような余波は「武器受け」も使って防ぐ
「影面」の射程に敵が入ったら捕縛
「怪力」「ダッシュ」「敵を盾にする」の応用で引っ張り地面に引き下ろす
力が足りなければ鎖を手繰り自分から敵に近付く
「鎧砕き」「鎧無視攻撃」でドラゴンの防御に対抗する


アルバ・ファルチェ
セラ(f03368)とユエちゃん(f05601)と一緒に行動。

ワイバーン…毒が厄介だよね。
毒耐性はあるけど、どこまで粘れるか…僕の腕の見せ所だね。

敵が変わっても僕のやる事は同じ。
【挑発】【おびき寄せ】【かばう】【盾/武器受け】…いつものコンボで皆の盾となり、道を開く。
ただ今回は出来るだけ【見切って】、初撃を外させたいかな。

万が一毒を貰ったらユーベルコードでの治療を試みるよ。
医術の心得もあるし、完治は無理でもどうにか出来ないかな。

あとはコルノに【援護射撃】をさせて、僕の防御と一緒に敵を撹乱する。

2人とも、頼りにしてるから派手にやっちゃって。
フォローには僕の全力を持ってしてあたるから。


ベリザリオ・ルナセルウス
私には織久のような独特の嗅覚はないが、分かる
どれだけ多くの人々が犠牲になったのだろうか
悲劇をここで止めよう
織久も仲間も、人々も守って見せる
【無敵城塞】を使う。織久は私を盾にして戦ってくれ
ただ立っているだけでは動けない私は無視されてしまうだろう
先に【かばう】で仲間を守りながら【鼓舞】し【祈り】を捧げる
それでワイバーンが私の存在を疎むように仕向けよう
充分注意を引き付けるまでは【盾受け】で攻撃をしのぐ
【覚悟】と【勇気】を持って臨めば一撃で倒される事はないだろう
だが味方がピンチになったらその時点で【無敵城塞】を使って【かばう】
織久は特に特攻気味だから気を付けて見ておかないとな


ユノ・フィリーゼ
労苦もせずに手に入れた支配者としての肩書き
名ばかりではないと言うのならば、今此処で証明してみせて

―さぁ、一緒に踊りましょう?

星空の下、刻むのはステップでなく命と命の鼓動
油断はせず慎重に
見切りや残像で攻撃を躱しつつ好機を待つよ
空は貴方だけの独擅場じゃない
喰らわれるのはどちらの方なのか
教えて、さしあげるわ

剣を手にし奏で唄うは盟約の歌
鋼鳥の戯れを使用し赤竜へと群れを嗾ける
…みんな沢山遊んでおいで?
あの子が疲れ果てて地におちるまで

狙うのは大きな翼
どちらか片翼に攻撃を集中させ、バランスを崩せないか試すね
竜の強襲を受けそうになっている仲間が居れば、
視界を遮る様に鋼鳥を舞わせる
目眩ましにでも、なればいいけど


ヴォルガーレ・マリノ
冷たく重苦しい空気を感じます
これが支配者のオーラなんですね…

(動悸が速くなる…顔が熱い…ぼうっとする…)

…凄く…心地良いデス…!
血のように赤いその体躯を…その強靭な鱗を…
破る感触を想像しただけで…ワタシ…アァ…!!

孤立しない程度に単独で動き狙われ易くなるヨウ
【誘き寄せ】て急降下からの攻撃を誘えたら
【見切り】で交わシテ身体を捕え【怪力】で地に落としマス
ツカマエタ…フフッ…ワタシと…一足先に踊ってくだサイ
【深紅の返礼】はキツく熱く
(性能は攻撃力重視、両手を鉤爪化させ素早く【二回攻撃】を繰り出す)
だって胸の高鳴りが抑えられないんデスもの…!

滾る血潮の舞踏会も
モウ終わってしまうのデスね
名残惜シイけれど


月守・ユエ
ファルチェ兄弟(f03368/f03401)と一緒

嗚呼
手ごわそうなワイバーン
うん、アルバくんが無理して大怪我しないように早く終わらせよう!

オルタナティブ・ダブルにて人格交代
早く終わらせる為にお願いね?僕の月影

ユエが月影と呼ぶ人格が戦闘を行う
ユエは穏やかな性格だが、月影になるととんでもない戦闘狂の殺戮者に変貌

さぁて、ボクの出番だね~♪
よろしくね、お2人さん

【だまし討ち】を用い敵の隙を伺い攻撃を撃ち込む
月影は「リザレクト・オブリビオン」を使用
【呪詛】を術に織り込んで【蛇竜を召喚】
蛇竜は猟奇的でいて凶暴。主人に似て戦狂い

狩りの時間だよ!
存分にワイバーンをぶっ潰して!

仲間と連携を取って
さっさと殺ろう


セラータ・ファルチェ
アル(f03368)とユエ(f05601)と一緒に行動。

毒とはまたやっかいな物持ってるな…
とはいえ、アルが無理しすぎる前に潰す。

【地形を利用】しながら味方と連携して【援護射撃】をしよう。
もちろん、俺もチャンスがあれば【気絶攻撃】【マヒ攻撃】の技能を駆使して直接攻撃する。

鱗が厚かったりした場合は【鎧砕き】の要領で攻撃してみよう。
飛ばれるのもこちらの手数が減る原因になるし翼の皮膜を【なぎ払い】機動力の低下を狙ってみる。

敵からの攻撃は【野生の勘】、【見切り】、【地形の利用】を駆使して回避を試みる
どうしても難しい場合は【武器受け】などで受け流すようにする。


風魔・昴
幼馴染みの麻生竜星と共闘ですが他の仲間とも共闘OK。アドリブOK
竜星のことは『竜』と呼んでいる

驕った者は必ず地に落ちる……って言うのよ?
小さき者は命が係れば全てをかけて戦うわ
さぁ、小さき者の力をじっくり味あわせてあげるわ!

仲間達から離れない程度の高い丘に陣を
【星光雨】でダメージを狙います

また竜星との協力で
『Bellatrix』の【属性攻撃】を使って【全力魔法】で攻撃を
「風の精霊、我が友よ。戦友の生み出す炎を邪悪なる者に届け焼き尽くせ!」


麻生・竜星
幼馴染みの風魔昴と。他の仲間とも共闘OK。アドリブOK
昴のことは『スー』と呼んでいる

来たか……ここはお前達の世界ではないことをはっきりと教えてやろう
小さき存在の命でも生きる権利はある……お前達の為にあるのではない
早急に骸の海に帰ってもらうぞ。
この後の祭りのためにもな……

仲間達から離れない程度の高い丘に陣を取る
【サモニング・ガイスト】を使用し、古代の戦士に【炎】を主に敵を攻撃する
「古の戦士よ、小さき者の為に正義の炎を燃やし邪悪を地に落とせ!」


ファレリア・リトヴァール
空を飛ぶ相手は厄介ですわね……。
けれどここで退く訳にはまいりませんわ。
村に被害を出さないためにも、舞踏会を開くためにも。

降りてきて下さるなら好都合。
私の頼もしい『お友達』を召喚。(サモニング・ガイスト)
降りてきたタイミングを見計らって攻撃をお願いしますわ。
さあ行きますわよ、お友達!
その炎の槍で敵を貫いて下さいませ!
私自身も衝撃波で援護いたしますわ!


麻古衣・紬
単体でさえ住民にとっては十分危険なワイバーンに用意周到さがあるというのはなかなか恐ろしくもあるですねぇ

無論、住民に手出しさせるつもりはないのでこちらも徹底的にやるのみなのです

近接攻撃には毒があるようなので、極力近接戦闘は避けて距離を取りながらウィザード・ミサイルで隙を見て攻撃を入れましょう。
クイックドロウ効果で抜打ちは速まっているので極力敵の攻撃を誘導して、外させながら戦いますです。

赤竜を誘い込む際も味方への攻撃も低減できる方向へするのが望ましいと思うのです。



 宵の天空に影が落ちる。
 美しき星空を塞ぐのは赤の巨体。吹く風に鋭い吐息を交じらせて、下方の猟兵を睥睨する竜種、ワイバーン。
 どの餌から潰してやろうかという、強者の眼光がそこにはあった。
「体躯は、かなりのものだね」
 エウロペは仰ぎ、それを見据える。
 濃色の赤に相反した、磨かれた氷面の瞳はどこまでも冷静だった。寒風よりも冷えた色の目なのに、風よりも静やかに敵の力を看取っている。
 故に、あれが紛うこと無い強者であると理解できていた。
 彼我の距離を一息で詰める疾さを持つだろう。
 人一人など軽くひねる膂力があるだろう。
 それは確かに、絶対的な実力を持つ種族の一端だった。
「冷たく重苦しい空気を感じます……」
 竜が翼を揺らがせただけで、ストレートの髪が大きく煽られる。ヴォルガーレはその威容に一度、声を静めている。
「これが支配者のオーラ、なんでしょうか──」
「だとしても、それは……労苦もせずに手に入れた支配者としての肩書き」
 ユノはそっと呟いていた。
 手先の鎧騎士に前線を任せ、自身が座して見ているだけならば、それは役者不足。
 この昊を覆い隠す権利は無いのだと、澄んだ声音で言ってみせていた。
 挑発の色を含んだ声音を、竜の自尊心が聞き逃すはずもない。視線を注いできたワイバーンは、まるで獣のように喉を鳴らした。
 ぴりと空気が張り詰めて、肌が粟立つ程になる。
 殺意の助走。
 けれどヴォルガーレは、淑やかな表情を恐怖に歪めることはなかった。
(「動悸が速くなる……顔が熱い……ぼうっとする……」)
 脈打つものを自身に感じ、内奥からもたげてくるものを自覚する。現れるのは、強い戦いへの欲求だった。
 ──……凄く……心地良いデス……!
 血のように赤いその体躯を、その強靭な鱗を破る感触を想像しただけで。
「……ワタシ……アァ……!!」
 地が沈むほど強く踏みしめたヴォルガーレは、次には疾駆。ワイバーンの間合いに近づく方向へ移動し始めていた。
 ユノも長剣をひゅるりと手に取り見上げた。
「支配者が名ばかりではないと言うのならば、今此処で証明してみせて」
 ──さぁ、一緒に踊りましょう?
 猟兵達の言葉に、竜は吼えた。
 瞬間、豪速の飛行を見せる。それは高度を落とさない平行移動だった、が。
「気ィつけて下さいや。すぐに、来るつもりっスからな」
 ぶっきらぼうな声音が響く。
 丘の傾斜から上方を見つめる物九郎。確信する声音は観察だけではなく、未だ健在な野生の勘によるものであろう。
 緑と丘陵、雄大な空に囲まれた環境はそれを深く鋭敏にする。数瞬の未来には、竜が軸を合わせてから直下に降下することが予測できていた。
 とはいえ、物九郎の声に危急の色はない。敵の標的はヴォルガーレであり──彼女自身が、敵を誘き寄せる策をとっていたからだ。
 即ち全ては予期どおり。
 その言葉とヴォルガーレの動きによって、ユノは敵の軌道を読んで一歩前に出た。
 星空の下、刻むのはステップでなく命と命の鼓動。
 だからこそ、油断は無い。
「空は貴方だけの独擅場じゃない。喰らわれるのはどちらの方なのか──教えて、さしあげるわ」
 携える剣は、柄が竪琴となっている。
 ユノはそれを爪弾いて、奏で唄っていた。
 紡ぐは盟約の歌。静謐に澱み無く。昇らせる声音は、鋭刃の翼を持つ鋼鳥の戯れを喚び出していた。
「……みんな、沢山遊んでおいで? あの子が疲れ果てて地におちるまで」
 使命を遂行するように、それでいて戯れるように。鳥達は一斉に赤竜へと飛び立っていく。嗾けられた刃の群れは片翼へ躍りかかり、そのまま端の部位を食い破っていった。
 巨体のバランスが僅かに崩れる。
 エウロペはそれを見逃さず、魔力を集中させて鋭利な氷晶を生成していた。
 見惚れるほどの芸術的な造形は、しかし飾りではない。ぱり、と割れて六つの氷槍へと分解されたそれは、弾かれたように飛翔。正確な誘導で翼に突き刺さっていた。
 同じ翼を負傷して、竜の機動が更に歪む。
 だが獰猛な性格が攻撃の中断を良しとしなかったか、竜はその体勢のままに大きく上昇を始めていた。
 エウロペはそれが何かすぐに判る。
「あれは、急降下の前触れだね」
「なら──好機っスわ」
 上昇と下降の狭間の、一瞬の静止。
 竜が生んだ間隙に、行動したのは物九郎だった。
 傾斜に伏せるように位置したのは、決して悠長に居座るためではない。
 砂嵐の王・単騎行軍(ワイルドハント・エグザイル)──物九郎はその腕をモザイク空間を宿した状態へと変異させ、強い伸縮性を持たせた上で伸ばしていた。
 手の先が掴むのは、傾斜の天頂。
 およそ二十メートルに迫る張力が生むのは、凄まじいほどの弾性。
「大将自ら出て来ざるを得なくなった喧嘩ってモンがどんなオチを辿るか、教えてやりまさァ」
 刹那、腕を“戻す”。スリングの要領で弾かれた物九郎の体は丘上へ一息に飛翔。弾丸のごとき速度で竜の眼前へ迫っていた。
 敵の瞳が、微かにだけ驚きを浮かべたか。
 猫は竜すら、喰らってみせる。
 物九郎は巨体の首に腕を絡め、円を描くように宙を踊る。そのままもう片腕も伸ばして竜に組み付いていた。
「終わりじゃねっスよ。このまま──地へブチ落としてやりまさァ!」
 零距離同士ならば、それは正しく喧嘩。幹のような首を締め上げ、極めることで鳴き声を零させ、墜落させようとする。
 高度を落とした竜は、一度地に追突。それでも浮上し物九郎を振り払おうと四肢を振るうが──その脚に別の衝撃が奔る。
「ツカマエタ……フフッ……」
 陶酔したかのような笑みを見せるヴォルガーレ。暴れる竜の動きをかいくぐり、鉤爪でその脚を掴んでいたのだ。
「一足先に踊ってくだサイ……ワタシとも──!」
 強烈な怪力のかかった爪が、鱗を突き破る。竜は翼で打ってヴォルガーレを弾くが、それでヴォルガーレが退くことはない。側の丘を蹴って眼前に再接近した。
 鉤爪に全ての力を込めて、斬撃。
 深紅の返礼(アイノオカエシ)。抉る爪撃において、高めるのはただ攻撃力のみ。
 ──だって胸の高鳴りが抑えられないんデスもの……!
 両手で繰り出した素早い連撃が、赤の鱗を削ぎ、濁った血潮を零させていった。

 夜風に剛暴な風圧が交じり、丘の緑が乱雑に揺れる。
 喉を絞った声を発して、赤竜は高空に間合いを取っていた。
 眼下に居る者がただの“餌”ではないのだと、ようやく本能が告げたのだろう。その相貌に垣間見せるは、僅かな警戒だった。
 尤も、その瞳は未だ自身の勝利を疑ってはいない。それを裏打ちするのは、喰らう側で在り続けてきた、捕食者の経験。
 ──ああ臭う、臭うぞ。
 仰ぐ織久は、それを強く、強く感じ取っている。
 死臭に満ちた血肉の臭い。
 ──その身にはさぞや怨念が染み付いているだろう。
 死にゆく者達、流れる血滴、無念たる憎悪。
 日常的に触れる織久だからこそ、竜にそれが渦巻いていることが、この目で見るように理解できる。
「どれだけ多くの人々が犠牲になったのだろうか」
 織久の傍らで、ベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)も呟いていた。
 揺れるは金の髪と紫水晶の花、携えるは四枚の大きく柔らかな翼。
 端麗な容姿の中に、しかし浮かべるのは微かな憂い。
(「私には織久のような独特の嗅覚はないが、分かる」)
 あれが狩りの名の下に、只管に命を食い荒らしてきた存在だということが。
 そして猟兵も、その背中に居る村の人々をも、押し並べて牙にかけようとしていることが。
 ──させるものか。
「悲劇をここで止めよう」
「ああ……怨念ごと、我等が糧として喰らい尽くす」
 織久は言うが早いか、迅風のように駆け出した。
 竜もその殺意に反応し、下方への加速を開始していた。
 夜に降る赫色──対する漆黒は、鱗より色濃く耀く赤眼で動きを見取り、軸をずらして回避を試みる。
 先んじたその動きは成功、だが竜もそれで終わらず低空で旋回し、織久の背後を取ろうとしてきた。 
 が、放たれた爪撃は織久に届かない。素早く翔けたベリザリオが後ろ方向へ滑り込み、その攻撃を受け止めていたのだ。
 獰猛な牙を通さぬ、純白の盾。
 その意志が、その勇気が巨体の膂力にも気圧されない。
「織久も、仲間も、そして人々も守って見せる」
 だから臆さず戦いを。背後だけでなく皆を鼓舞しながら、ベリザリオは祈りを捧げた。
 その声音の清廉な響きに、骸の海から這い出た竜は強い敵意を抱いたことだろう。再び低く飛び上がり勢いをつけていた。
 だがそれもまた狙い通り。
 ベリザリオは敢えて避けず、全身を防御態勢にすることで敵へ立ちはだかる。
「織久、私を盾にして戦ってくれ」
「──ならば、その様に」
 織久の第六感もまた、それによって道が開けると告げていた。だから言を否定せず、しかと前をベリザリオに任せ、自身は横合いへ飛んでいた。
 赤竜が降下すると、風圧だけで吹き飛ばされそうになる。だがベリザリオは言葉通り微動だにせずその巨体と衝突、無傷の内に耐えきってみせた。
 その頃には織久が手を伸ばし、夜闇よりも濃密な影の塊を生み出している。
 影面(カゲツラ)。
 高速で竜へと距離を詰めたそれは、闇色の爆破を起こす。足元からの衝撃に竜が微かにふらついた所で、その影の腕が巨体を縛り付けていた。
 拘束して終わりではない。織久は怪力をもって影を引っ張り、竜を丘の側面に叩きつける。同時に影を手繰って面前にまで迫り、大鎌を振るって一撃。狙い澄ました斬閃で硬い表皮を突き破り、肉を抉った。
 吼え声を零しながら、竜は尾撃を返そうとする。
 だが敵が体を翻す勢いをも活かして織久は一閃。旋転しながら刃を突き出して、喉元へと鋭利な一刀を見舞っていた。

 ぽつぽつと俄雨のように落ちるのは、巨体の血滴。
 絶対的強者の自覚を持つ竜の肉体にも、徐々に傷が刻まれ始めていた。
 内奥にまで達する深い痛み。
 自身の威容にも怯まぬ獲物達。
 或いは経験もしたことの無い感情が、その相貌にも浮かんでいたろうか。
 だからこそ竜は殺意を尚濃く、強く露わにしながら空を回遊する。未だ動きも鈍らぬ故に、自身が死ぬ未来など予期することもなく。
 ──嗚呼、本当に手ごわい相手だ。
 だから呟いて、空の巨影に視線を送る、そんな歌い人が居た。
 宵を象った漆黒の毛先が風に揺らぐ。月にも似た瞳色が、星明りの中でも精彩を放つ──月守・ユエ(月ノ歌葬曲・f05601)。
 美しさの中に同居するのは、しかし猫の如きマイペース。
 敵の強さを肌に感じながらも、ついっと視線を降ろす顔には臆す色もなく。ただやわりとした笑みを仲間へと向けていた。
「ワイバーン、まだまだ元気みたいだし。気をつけないとね?」
「ああ。警戒するべきは、毒か」
 応える青の瞳は冷静に黒銀の銃を手にとっている。
 セラータ・ファルチェ(蒼蒼の盾・f03368)。
 隣立つアルバと瓜二つなのは一卵性であるからに他ならない。その瞳を僅かな差異にして、緩く癖のついた銀髪も、端整に過ぎる顔もよく似ていた。
 尤も、似たのは外面ばかりではなく。互いを想う気持ちも同じだからこそ、戦いに臨んで一切の油断はなかった。
 敵が強いというのならば、思うことは一つ。
「──アルが無理しすぎる前に潰す」
「うん、そうだね。アルバくんが大怪我しないように早く終わらせよう!」
 ユエもこっくりと頷いてみせる中、当のアルバは少しだけ笑みを返す。けれど次には盾を手に、真っ直ぐ敵に向いていた。
「気持ちは嬉しいけど、粘れるだけ粘ろうかな」
 何より強者であればこそ、腕の見せ所なのだから。
「さあ来なよ。それとも小さい存在一つ、ひねることも出来ないのかな」
 空へ向けたのは挑発的な声音だ。
 それを無視するほど、今の竜は悠々とはしていない。低い吐息を響かせて、大きなはためきから高速の降下を見せてきた。
 一瞬で迫る赤色。アルバは盾を前面に向けながら、しかし受け止めるばかりが防戦の遣り方ではないと知っている。
 直後、目を微かに見開いて体を横にずらす。誘いに乗ったからこその単純な軌道を見切り、盾に掠めさせるようにして爪を回避していた。
 アルバにしても、毒の脅威は判っている。
 だからこそ初撃を躱し、尾の確実に避ける手を取ったのだ。
 そこへ飛ぶ、もっふりの毛玉は──コルノ。羽ばたいて速度をつけると、真横から突き通すように角で体当りし、竜の姿勢を微かに崩させる。
 そこでアルバは、頼りにしている二人に声を掛けた。
「派手にやっちゃって」
「ああ」
 判っているさ、と。自然に意志を汲み取るように、セラータは銃口を向けていた。
 既に丘に陣取ることで少しばかりの高さを得ている。高度を落とした敵の頭部を狙うにはそれで充分だ。
 銀色の光を瞬かせて、竜の顔を銃弾が穿つ。
 苦悶の中に、反撃の意を滲ませて竜は眼光を向けた。
 だがその時には足元に立つユエが──その髪をふわと靡かせている。
 語りかける言葉は、自分の中へ。
「早く終わらせないといけないから──お願いね? 僕の月影」
 とくんと一度、脈打つ感覚が奔った。
 瞬間、意識が自身の奥深くに吸い込まれる。鮮やかな月と、美しい歌の光景が見えた気がした。
 呼びかけられたのはもう一人の人格。
 背中合わせの心がくるりと裏返るように、それはユエを隠して表に顕れた。
 微かに細まる瞳に、表すのは戦意の笑み。
「さぁて、ボクの出番だね~♪ よろしくね、お二人さん♪」
 月影──爛漫に、鋭利に。それは殺戮者たる戦闘狂の人格だった。
 地面を蹴り飛ばすように、月影は竜の背面側に廻っていく。同時に呪詛を術に織り込んで、漆黒の光を伴った召喚能力を行使していた。
 ぐらりと鎌首をもたげて現れたのは死霊蛇竜。
 死の力を纏ったように、昏い空気を漂わせながら──咬み鳴らす牙には、主人譲りの戦狂いの性格が強く表れていた。
 ふふっ、と、天衣無縫に微笑んで。月影はそれに呼びかける。
「狩りの時間だよ! 存分にワイバーンをぶっ潰して!」
 劈く程の鳴き声が夜を裂いて、蛇竜は翔んだ。轟と唸る音を上げて赤竜に喰らいつくと、喉笛を噛み切らんばかりに牙を立てる。
 呻く敵がそれでも下がらず爪を振り上げてくれば、蛇竜は体を撓らせて、逆にその脚を痛烈に打ち据える。
 赤竜が僅かによろめけば、そこへセラータも疾駆。丘を駆け上がり、数瞬の内に敵の斜め後方へと迫っていた。
「好機は逃さないぞ」
 携えるのはすらりと抜いた片手半剣。星明りに刀身を煌めかせて、流麗な線を引くかのように薙ぎ払い。翼の皮膜の一端を刻み、その機動力に瑕疵を生ませていく。 
 一歩引いた赤竜は、跳ぶように空に抜けると衝撃波で反撃を試みた。 
 だが常に敵の機動に注意を払うアルバが、それを看過することはない。 
 全員の前に立つ位置へ進むと、盾を掲げて防御態勢をとっていた。
 瞬間、爆風とも言える衝撃が降り掛かってくる。
 地に立つアルバの足元が抉れ、腕が軋みを上げるほどの威力──だが、アルバはふらつきもせずに、真っ向からその衝撃の全てを受け止めた。
 背中にいるものを守ることこそ、盾の本懐。
 衝撃の芯である最前の暴風を防いだことで、後背の仲間達を無傷に留めていく。
「セラ」
「任せろ」
 時を同じく、セラータは弓弦を引き絞っていた。
 アルバの背後から正確無比な狙いで一射。限りなく直線に近い放物線を飛んだ矢は、違わず赤竜の片目を射抜いている。
 高い啼き声を上げた赤竜に、月影は容赦もなく蛇竜を放った。
「おまけの一撃だよ!」
 廻って後ろを取った蛇竜は鋭い牙で咬む。肉が破れる音と共に赤竜の首筋が抉れ、その巨体が一度大音を上げて墜ちてゆく。

 地響きにも似た声が漏れる。
 赤鱗の巨体は、すぐに爪を地に刺して起き上がり──低空へと飛んでいた。
 だが浅い呼吸は拍が荒れて、煙のような白色を零させている。貫かれた片側の瞳からはとめどなく血が溢れていた。
 竜のおもてに見え始めたのは、小さき存在と見下していたものへ対する苦渋の色だ。
 矮小であったはずの餌を前に、何故自身が苦闘を強いられるのかと、含むのは疑問の感情でもあったろうか。
「驕った者は必ず地に落ちる……って言うのよ?」
 昴は応えるように見据える。
 瞳には透徹な意志が宿っていた。或いはそれこそが、圧倒的強者に勝ち得る人の力。
「小さき者は命が係れば全てをかけて戦うわ」
 だから負けはしない、と。
 自己以外の存在に高を括り、矮小と決めてかかり、戯ればかりに狩りをするだけの──そんな存在には。
 竜は反意を表すように耳障りな吼え声を返す。あくまで絶えるのは、死ぬのはお前達の方だと言うかのように。
 竜星は惑わず首を振る。
「お前達にとって小さき存在の命でも、生きる権利はある。……そしてその命は、お前達の為にあるのではない」
 高い丘の上から手をかざすと、魔力が銀河のように耀いた。
 逆巻く靄のように収束するそれは、瞬く内に形を取っていく。
「ここはお前達の世界ではないことをはっきりと教えてやろう。早急に骸の海に帰ってもらうぞ。この後の祭りのためにもな」
 瞬間、淡い光とともに再度召喚されるのは──焔を携えた人型。
 竜星は魔力を注ぎながらその存在へ呼びかけていた。
「古の戦士よ、小さき者の為に正義の炎を燃やし邪悪を地に落とせ!」
 地を踏んだ召喚体──古代の戦士はそれに応えて鮮烈に燃え上がる炎を顕現していた。
 同時に、昴は頷いて銀杖、Bellatrixを輝かせている。
「小さき者の力をじっくり味あわせてあげるわ! 風の精霊、我が友よ。戦友の生み出す炎を邪悪なる者に届け焼き尽くせ!」 
 ちかりと一瞬だけ杖が明滅し、次の刹那に昴の前髪が僅かに揺れる。
 その直後、疾風が生まれた。杖より放たれし豪風は、竜星の焔と合わさって眩い風炎と化していた。
 二人の合図で、それは宙を翔ける。竜は翼を動かして僅かな移動で回避しようと試みるが、焔はそれを許す速度ではなかった。
 巨体が滾る焔に包まれる。
 竜が高度を低めてしまえば、そこを更に狙う紫の影がある──ファレリアだ。
 白いドレスをふわと上品に揺らがせ、輝石色の光を目の前に展開する。円陣として固めたその輝きへと、ファレリアは声を送っていた。
「さあ、来てくださいな!」
 呼応してそこへ顕れるのは、槍を携えた人間型のUDC。
 ファレリアの艶髪が熱気だけで踊る程の炎を湛えたそれを、その存在は悠然と手に携えていた。
 紛うことなき超常の存在──しかしファレリアにとってそれは頼もしい『お友達』以外の何者でもない。信頼と期待を瞳に浮かべて、声をかけていた。
「さあ行きますわよ、お友達! その炎の槍で敵を貫いて下さいませ!」
 UDCは竜へ眼光を注ぐと、炎槍を下段に構えたままに疾駆。素早く接近して跳躍し、至近から槍を投げ放つ。
 炎が重なって、生まれるのは夜が明けんばかりの明度。練達の手際で投擲された槍は、竜の腹部へと突き刺さり、深々とその内奥まで抉っていた。
 竜が零したのは悲鳴だったのだろう。呼吸を整えようとするように、巨体は高空へと昇っていく。
 手の届かぬ位置に退避した敵を、ファレリアは一度見上げた。
「本当に、空を飛ぶ相手は厄介ですわね……」
「なら、それでも撃ち落とせる攻撃をするだけよ」
 杖を上方へかざす昴は、空の敵にも猶予を与えない。
 精霊の祝福が、天空の星々を瞬かせていた。
「夜空に輝く数多の星達よ──不浄なるかのモノを浄化せよ!」
 声音に喚ばれたように、星空から圧倒的な輝きが降り注ぐ。
 星光雨(スターライト・シャワー)。名に違わぬ光の雨を作り出したそれは、無限の流星の渦中に閉じ込めるように、竜を無数の衝撃で貫いていく。
 再度墜ちた竜は、距離を取るよりも爪でこちらを振り払おうと目論んだ。
 が、そこにこそ竜星は攻撃の機を見る。
 古代の戦士に再度炎を現出させると、素早く横へ目をやっていた。
「スー」
「ええ、行くわよ」
 そこへ昴が高密度の風を交えさせれば、焔は弾丸の如く圧縮される。直後に発射されたそれは竜の爪の一端を粉々に砕き灰にした。
 ファレリアも同時にUDCへ槍を握らせる。
「私も決して、退きはいたしませんわ。あの村へ被害を出さないためにも。人々が期待する、舞踏会を開くためにも!」
 空へ奔った焔の矛先は、竜の傷へ直撃。腹部を貫通して鮮血を散らしていく。
 
 赤竜が、鱗よりも濃色の紅で染まり始める。
 星明りに照りを生む異形の血が、刻々と流れていた。まるでその死期を竜自身に伝えるかのように。
 だから、竜はそれを認めない。
 自身が負けるはずはないと。
 だから、竜は怒りを誇示した。
 自身が否と言えば否になった。それを否定する小さき存在を、許せるはずもないと。
 静寂を破る憤怒の咆哮。
 夜の中に燃ゆる赫。
「──怒っているの?」
 それを前にしながらちいさな白──ユハナは容易く、心を手折られない。
 そう、と呟いて。
 向ける深色の瞳は竜を映しても朱に染まらなかった。
「でも、それは僕らと、並び立てるものじゃないから。最後まで立てたら君の勝ち、そうでなければ、僕らの勝ちだ」
 ただそれだけのことだ、と言うように。
 声音は降り始めの雪のように静やかで、どこか優しくて、そしてしんと冷えている。
 そこに並ぶアンバーもまた同じ気持ち。
 白が赤に染まらないなら、黒だって同じこと。だから空気が痺れるような声と風の中でも、一歩でも退かず、前を見ていた。
「そんな威嚇に負けはしないぞ。わたしはちいさな竜だけれど──踏み潰されてなんかやるものか」
 餌になるのは、お前の方だ、と。
 アンバーは白色の光を招来し始める。それは折り重なって大きなシルエットとなった。
 古竜の息吹(ツガレシチカラ)。佇むのは神話に記された白い竜だ。
「さあ、共に、あかい竜を喰らってしまおう」
 応えるように、白き竜はアンバーの側に立つ。
 そこへりん、と鈴のような音が鳴った。
 ユハナが携えた長杖を貴石へと変じていたのだ。
 美しく砕けたそれは、星のように、雪のように、煌めく華となる。そしてちりちりと花びらへ解けてゆき、少女を守るように風に廻った。
 ローブの下に提げた短刀を手に、くるりと回したなら。ユハナは隣へ声を向けた。
「さあ、今度は一緒に往こう」
「ああ、一緒にだ。白の君」
 綺麗な音とやわらかな風に支えられて、アンバーはその一歩を大きく踏み出せる。
 名を知らずとも、共に戦える者がいる。それだけで自信をつけて、より前へ進める。
 白き竜が光の咆哮を輝かせて、赤竜を地上に近づけさせた。アンバーはそこへ奔って、星屑の鎖を放つ。
 花びらの祝福を浴びて綺羅びやかに伸びた硝子は、しかと大きな体を捕まえて、少女をすぐそばまで運んだ。
「この牙でズタズタに喰らってやろう」
 そのままアンバーは自身の持つ牙で赤竜の胸を穿つ。
 一撃で貫くことは叶わずとも、諦めはしない。黒の少女は赤の竜には比べ物にならないくらい小さいけれど、臆すること無く勇敢に。
 倒すことに、躊躇いなど無いのだから。
 何よりこの背を支えてくれる存在がある。
 赤竜は爪で振り払おうとしてくる。そこに凍える花が降り注ぎ、アンバーを助けた。
「好きに動いて、黒の君。置いて行かれはしないから」
 頷く少女が鎖を繰り、竜に離されずに戦えば──少年は夜の隙間を繋ぐように、歌を紡ぐ。
 初雪のように静やかで、どこか優しくて、そして仄かにあたたかな声音。
「大丈夫だよ、君となら」
 その声が心と力を後押ししてくれる。だからアンバーはきっと大丈夫なのだと感じる。旋回して赤竜の裏を廻れば、今度はしかと少年と目が合った。
 それをまた糧にして、アンバーはぐるりと正面を取り攻撃。同じ場所を牙で突き、今度は僅かに胸の奥まで届かせる。
 赤竜が啼くほどに、アンバーは攻める。
 ユハナはそれに手を添え続けた。
 ──星空までの道はあと少し。
 その時には、名前を尋ねようと少年は思った。だから今は、それまで僅かな間の、内緒話のように。

 赤の亜竜、ワイバーンは死に瀕しようとしていた。
 途切れ途切れの啼き声が風音を穢す。
 表皮だけでなく、どろりとした血が傷ついた心臓からも流れゆく。
 骸の海より蘇り、嘗てと別の存在になってからはきっと、嘆く声音を零したことなど無かったろう。
「これだけ傷ついてもまだ倒れないというのが、むしろ驚きですねぇ」
 紬は見つめて呟く。
 単体でさえ十分危険な存在だというのが、嫌というほど判る。これが手下を使い用意周到な狩りをしていたのだから、今更ながらに恐ろしくも感じられた。
「まあ、だからこそ徹底的にやるのみですね」
 自分達の背には無辜の住民がいる。だから元より、迷うつもりはありはしなかった。
 杖を真っ直ぐに向けた紬は、そこに赤い魔力を収束させている。
 徐々に光り輝き滾るそれは、炎属性の矢へと変貌していた。瞬間、高速で撃ち出されて偏差で宙へ踊っていく。
 接近戦を避けて距離こそ空けたが、紬が魔法を撃つまでのラグは瞬く間。赤竜がそれに満足に反応する暇もないままに、矢は巨体へと突き刺さっていった。
 赤竜は弱っても、未だ動きを止めたわけではない。自然、紬を狙って接近してきた。
 だが予期していた紬は常に先を取る形で射撃と誘導を繰り返す。方向、そして地形も思惑通りに誘い込まれた竜は、結果として紬への爪撃を外すこととなった。
「皆さん、今のうちに攻撃するですよ」
「──ええ」
 無論、という様に駆ける織久は、大剣を振り下ろして潰すように鱗を破っていく。
 慟哭を上げる竜は爪での反撃を試みる、が、ベリザリオがそれを庇いきっていた。
「こちらは問題なく。次手を」
「では私も援護いたしますわ!」
 走り上がったファレリアは、UDCに炎撃を撃たせつつ自身も衝撃波を放って巨体を後退させていく。
 唸る赤竜も衝撃波で広範を飲み込もうとした──が、直後にはエウロペが星明りに光る氷の結晶を生み出した。
「我が癒し手の魔力(マナ)を贄に。かの者の傷よ、調和せよ、調和せよ、調和せよ」
 ──清浄なる魔力の調和(クラルス・コンコルディア)。
 舞い降る結晶は仲間達の体に触れ、溶け行き、傷を瞬時に消滅させていく。
 この間隙に、ユノは鋼鳥を竜の顔面へと飛ばし、その肉を切り刻ませる。血の飛沫を上げさせるそれは視界を塞ぎ、竜の連撃を未然に防いでいた。
「敵もきっと──もう長くない」
「なら尚更、加速して行きますでよ」
 伸びた腕で跳んだ物九郎は、弱った竜へ軽々追いつき、空へ逃さない。四肢を使って巨体に絡みつくと、そのまま関節部を極めて片翼をへし折った。
 螺旋を描いて墜ちる竜。竜星は丘上から炎を飛ばし、追い打ちをかけている。
「あのまま地へ叩きつけよう」
「ええ、任せて」
 応える昴は風で焔を加速。上方から衝撃を与えて竜を追突させた。
 鈍い音を零す翼は、もう満足に動かない。それでも獣の本能は違わず、死物狂いで爪を暴れさせ、尾撃をも繰り出してきた。
 決死の反撃、だがアルバの盾はきっと、それより強い意志の体現。衝撃を受け止め仲間に攻撃を及ばせなかった。
 自身は毒を貰うも、即座に医術で自己処置。瞬時に致命を免れている。
「セラ、みんな、後は頼んだよ」
「よし、このまま最後まで行くさ」
 セラータは剣を縦横に振るって竜の命を削いでいく。
 そこへきらと光る花弁はユハナの魔法。
「さあ、まっすぐに」
「ああ──最後まで立ち続けるのは、わたしたちだ」
 その中を跳んだアンバーは牙で一撃──赤竜の心臓を貫いていた。
 瀕死となった竜は、間合いを取ることも叶わない。
 そんな巨体をヴォルガーレは見据えた。どこか、残念そうに。
「滾る血潮の舞踏会も、モウ終わってしまうのデスね──名残惜シイけれど」
 漏れる啼き声は、竜の最期の抵抗の意思だったのかも知れない。だがユエの中の月影もまた、最期まで戦意に鈍りはなかった。
「もうそろそろだし。さっさと殺ろう♪」
 声に応じる蛇竜は、赤竜を容赦もなく喰い千切る。
 ヴォルガーレの鉤爪が同時に奔れば、竜の肉体とて耐えきれるわけもなく。骸の海より甦った狩人は、遥か彼方の過去へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ようこそ、ちいさな舞踏会へ』

POW   :    体力に任せて踊ったり、食事をいっぱい楽しむ

SPD   :    楽器の演奏や華麗な舞踏により、会場を盛り上げる

WIZ   :    軽妙なトークや武勇伝により、人々を楽しませる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●宵と舞いの世界へ
 美しい夜は保たれ、何人も傷つきはしなかった。
 猟兵達の戦いによって、丘と村は平和を取り戻した。人々は祝福に湧き、猟兵へ絶えぬ感謝の言葉を贈ったのだった。
 勿論、贈られたのは言葉ばかりではない。
 宵も深まろうという時間、村では今まさに舞踏会が開かれようとしていた。
 巨大な屋敷は無いけれど、豪奢な乗り物は無いけれど。
 弦楽器による歓迎の音楽は既に流れ、着飾った人々は楽しみな笑みを見せている。
 そんな舞踏会へ、猟兵達は招かれた。
 場所は窓から星も見える集会場。
 この日のために綺麗に磨かれた床は、豪華でなくても踊るには充分。クロスの敷かれたテーブルには食べ物や飲み物が置かれて、それだけでも楽しめるものだろう。
 ダンスは勿論、初めてでも気軽に参加できるものだ。
 貸し出している服を好みで着てもいいし、着の身着のままでもいい。
 多人数で踊るスクウェアダンスは、軽やかな音楽に乗ってステップするだけでも皆と一緒に楽しめるし、ワルツでペアを創ったり、ポルカを朗らかに踊っても盛り上がることだろう。
 音楽は繰り返し演奏されて、好きな時に好きなダンスに参加できる。
 暇をしていたり、壁の花になっている村人を誘ってもいいだろうし──自身が誘われるのを待っても、いつもと違った時間が過ごせるかも知れない。
 何せ、祝いの席。
 美しい音楽と共に過ごせば、それだけでも癒やされる。
 だからとにかく遊びにきてくださいと村人は語った。灯りがついて、楽しげな空気となった舞踏会場へ、猟兵達は歩き出す──。
ヴォルガーレ・マリノ
皆さん笑顔で、とっても楽しそうですっ
こんな事を言ってはお父様に怒られてしまうかもしれないけれど…
朧気な記憶の中にある舞踏会よりも、ずっと…素敵…

ダンス…踊ってみたいけれど…女性から殿方を誘うのは
はしたないでしょうか…?
(首を横に振り)いいえっ、待っていても私の世界は動きませんっ
色んな事を知りたくて、色んな経験をしたくて
今、私はここにいるのだから
す、すごく緊張しますけど…頑張ります!

(暇をしている村人に声をかけ)
あ、あの…!私、ダンス初めてで…
ご迷惑かけてしまうかもしれないんですが…っ
その…一緒に…踊って頂けませんか…?

(戦闘時とは全く違う穏やかな胸の高鳴りに)
ふふっ、とっても、楽しいです!



 鳶色の髪を控えめに揺らして、こつり。
 ヴォルガーレは舞踏会場へと足を踏み入れていた。
「まぁ──」
 歓談する人々。
 程なく始まりそうな音楽に期待感を浮かべる女性と男性。
 ヴォルガーレをくるりと避けて、盆に入れた飲み物を巧みに運ぶ一日だけの給仕役。
 村には普段響かない、フロアーを靴で踏む小気味のいい音に──楽しげな声。
 和やかながら非日常の空気も含む光景に、ヴォルガーレは目を奪われている。
「皆さん笑顔で……とっても楽しそうですっ」
 こんな事を言っては、お父様に怒られてしまうかもしれないけれど。
(「記憶の中にある舞踏会よりも、ずっと……素敵……」)
 朧気な記憶は未だ判然としない。
 それを覗こうとすると、不思議な心がそれを拒もうともする。
 過去の事は、今は判らない。
 それでもこの空間がどこかわくわくとするのは事実。だからヴォルガーレは、人々の間へと入っていく。
 同時に音楽が始まった。
 ヴィオラ・ダ・ガンバとリュートの音が、先ずは歓迎の意とばかりに陽気な旋律を奏でる。思わずステップを踏んでしまいそうになるそれは、スクウェアダンスの伴奏だった。
 始めに、慣れた者達が簡単に踊りの手本を披露する。
 振り付けは村独自と言っていいが、カドリーユに似た簡易な振り付けだ。
 ゆるくペアになった複数組が、円を描き、近づいて、離れゆく。軽やかながら体力を使わず、会話交じりに踊れる一曲だった。
 徐々に人々が踊りに加わると、演奏者も愉快げに首を揺らしてリズムをとる。
 高貴じゃないけれどそこには確かな趣があって、ヴォルガーレは少しだけ見惚れた。
「素敵……」
 そう呟けば、自分も踊ってみたいと感じる。
 あの中に入って、自分も皆と共に笑顔で。
 周りを見れば勿論、踊っていない人もたくさんいて──彼らに声をかければきっと。
(「女性から殿方を誘うのは……はしたないでしょうか……?」)
 少しだけ迷ってしまったのは、そんな躊躇いがあるから。
 けれどヴォルガーレはふるふると首を横に振っていた。
 ──いいえっ、待っていても私の世界は動きませんっ!
 色んな事を知りたくて、色んな経験をしたくて、今自分はここにいるのだから。
 微かに自分の手をきゅっと握って。
 こつっと歩を踏み出していく。
(「す、すごく緊張しますけど……」)
 歩み寄ったのは一人の村人。
 優しそう、というよりは朴訥な青年。
 ヴォルガーレより少し年上だから、或いはまだ少年と言っていいくらいかも知れない。振り向く顔も邪気のない、柔らかな表情の村人だった。
「あ、あの……! 私、ダンス初めてで……。ご迷惑かけてしまうかもしれないんですが……っ。その……一緒に……踊って頂けませんか……?」
「……僕と? 勿論、嬉しいですけれど。いいんですか?」
 驚きつつも、穏やかな声音で彼は言った。
 聞けば彼も舞踏会は初めてらしく、踊る人がいないかと探していたという。
 ヴォルガーレははい、と頷く。そして青年と共に輪へと加わって、ダンスを始めた。
 弾むスタッカートに合わせて、小さくジャンプするように足を踏み鳴らす。綺麗なメロディに従うように青年と近寄り、すれ違う。楽しげなパッセージが響けば、また彼と距離を近づけて、ステップを楽しむ。
 髪をふわふわと踊らせて、ヴォルガーレは笑顔が零れる自覚があった。
 それは戦いとは全く違う、穏やかな胸の高鳴り。
「ふふっ、とっても、楽しいです!」
 一曲が終わってしまうと何だか名残惜しいくらいで。
 やっぱり素敵な空間だ、と改めて思った。だから次の曲が始まると──ヴォルガーレはすぐにまたステップを踏みたくなるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
ボクは、皆が楽しんでいる姿を見れただけで充分かな

行動 WIZ【礼儀作法】

楽しんでいる村人に、雰囲気を壊さないように【礼儀作法】で丁寧に挨拶
その後は、竜の死骸、或いは戦闘場所に行って、鎮魂の舞を歌い踊るよ

“命を奪うことに慣れてはいけない”
“失われた命に貴賤はない”

どちらも師匠の教えさ



 心楽しい音楽が宵を彩り始める。
 そんな様子をエウロペは静々と見つめていた。
 暖かな灯りと人々の憩いの声、平和な空気。それが確かにそこにあるのだと確認するように。
「ん、始まったみたいだね」
 目を向ければ、フロアーの中心へと歩んでいく男女達。その中には猟兵の姿もあって、それを見ると戦いも終わったんだなと実感される気持ちだ。
 村人の一人がエウロペを見つけて、頭を下げてきた。
「この度はありがとうございました。魔術師様も、ぜひ一緒にお踊りになっては」
「うん。後でお邪魔させていただくよ。ありがとう」
 エウロペはそう言って、その場は辞する。
 その後も、踊りに行くわけではなく──会場の傍らにいた村長の下へ。改めて礼を言ってきた老齢の彼に、エウロペもまた丁寧に礼を返して挨拶した。
「とても、良い催しだね。きっと皆が楽しめると思う」
 そう言葉を贈ると、最後に舞踏会を取り仕切っている人々へ挨拶をして──エウロペは村を出て歩き出す。
 皆が楽しんでいる姿を見られれば、自分にはそれで充分だった。
 ひとり向かったのは、あの激しい戦いがあった北の丘。今はただ夜に沈んで、冬風に背の低い草を揺らすばかりの静寂の自然。
 エウロペはその中腹、赤竜の絶えた場所まで歩むと、暫し見下ろしてから鎮魂の舞を踊った。
 ゆっくりと、流麗に。
 宵に交じる透明な歌声を昇らせて。
 想いを込めた舞は、どこか風を清浄にしていく。或いは澱のように固まった無念を、還るべき場へと導いていくように。
 “命を奪うことに慣れてはいけない”。
 “失われた命に貴賤はない”。
 それはどちらも、エウロペの師匠の教えだ。
 舞を終えて鎮まった丘を見ながら、エウロペは少しだけその人の顔を思い出す。今はどこにいるだろうか、と。
 ただそれも一時のこと。
 踵を返すエウロペは、そのまま夜に去っていくように。風の中を歩んで、帰路へついていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベリザリオ・ルナセルウス
●目的
織久(f10350)と舞踏会でゆっくり過ごしたい。帰る前に捕まえよう
無理に踊れとは言わないよ。飲み物や食べ物も出ると言うじゃないか
ダークセイヴァーでは食べられない物があるし、少し休んで行こう

……本当は彼が敵を倒した事で救われた物があると教えたいんだが、きっとそれを理解する気はないだろうな。
それが西院鬼が……彼が選んだ道だ。

●舞踏会
実は私も踊りは分からないんだ
でもこれ(Misericordia musica)を持っているからね
演奏者に頼んで混ぜてもらおう

飛び入り参加は受け付けていますか?
私も多少は音楽の心得があります。私の大事な連れにも聞かせてあげたいのです。


西院鬼・織久
【POW】
【心情】
次の敵を探しに行きたいのですが、仕方ありません
ベリザリオの提案を受けます
ですから笑顔で圧をかけないで下さい
こんな事で意地を張ったりしませんよ

【行動】
ダークセイヴァー出身
敵を探して各世界を放浪しているが、割と各世界の食事も味わっている
食べこぼすなどしない
無駄なく、丁寧に、淡々と、ひたすら食べて回る
ベリザリオ(f11970)が楽器を持ち出しているのを見ると食べる速度を落とす
彼は情操教育とし称して何かと演奏や歌を披露して来るので、自覚はないがこの舞踏会でも聞けるだろうかと少し期待している



 和やかな音楽が人々にステップを踏ませ始めた時分。
 織久は仕事が滞り無く済んだことだけを確認すると、踵を返して帰ろうとしていた。
 何より、次の敵を探すことが最優先なのだから──と。
 その肩に置かれる手。
 振り返るとベリザリオがそこに居た。
「何でしょうか。そろそろ次の戦いに赴こうと思っていたのですが──」
「まあそう言わずに。折角だからゆっくり過ごしていくのはどうだ」
 紫の瞳にゆらゆら揺れる灯りを映して、ベリザリオは集会場へと顔を向けている。
 織久もちらとだけ視線を戻した。
「俺が舞踏会に、ですか」
「無理に踊れとは言わないよ。飲み物や食べ物も出ると言うじゃないか」
 長身の二人が並ぶと灯に長い影が伸びて、画になる。けれどベリザリオは目線を動かして、ダンスフロアよりその近くのテーブルを見ていた。
 実際、そこには続々と料理が置かれ始めている。
「ダークセイヴァーでは食べられない物があるし、少し休んで行こう」
 近づく顔に、織久は微かにだけ息をつく。
「仕方ありません。その提案を受けましょう。ですから笑顔で圧をかけないで下さい」
 こんな事で意地を張ったりしませんよ、と。織久が降参して歩き出せば、ベリザリオもようやく歩を踏み出して集会場へと向かった。
 聞こえる音楽が大きくなって、視界も一層明るくなる。
 ダンスを謳歌する人々は、非日常の空気を楽しんで浮き立った笑顔を見せていた。そこかしこで話し声も花咲いて、そこは賑やかな世界だ。
 入っていく道中、ベリザリオは一度織久の顔を窺う。
 その表情は変わらず色の薄いものだった。
 戦いではない平時の織久は、常にそういった様相をしている。
 本当は、織久が敵を倒したことで救われた物があるのだとベリザリオは教えたかった。けれど織久にそれを理解する気はないだろう。
 それが西院鬼が──彼が選んだ道なのだから。
 それを判っているから、諭そうとは思っていない。一先ずは、織久が食べ物に目をやっているのを見つけてそれで良しとした。
 そこに並ぶ料理は、村なりに豪華で彩り豊かだ。
 早々に帰ろうとしていた織久ではあったが、食に興味を持っていないわけではない。各世界を放浪するのは敵を探すことが第一の理由だが……その過程では割と各地の食事を味わってもいるのだ。
 だから織久は端から料理を食べ始めた。
 事実、食べ物はダークセイヴァーでは見られないものが殆どを占める。
 この近辺にしかいない種の牛や豚に、美しい色合いの野菜。総じて味も見た目も自由な作風なのは、この地域の平素の平和さを表しているようでもあった。
 そんな品々を織久は無駄なく、丁寧に、淡々と、ひたすら食べて回る。
 手際は上品な程で、食べ零しなどしない。
 しかと一つずつ口に運び、村の味を知っていった。
 けれど途中、唯一織久が食べる速度を落とす時が訪れる。ベリザリオがMisericordia musica──美しき竪琴を手にふらりと歩み出していたからだ。
 目的地は、ダンスの伴奏を奏でる演奏者達。
 ベリザリオも実のところ踊りは分からない。だからそれを嗜むよりもやりたいことがあった。
「飛び入り参加は受け付けていますか? 私も多少は音楽の心得があるのですが」
 その言葉に、彼らは喜んで頷いた。
 今宵は宴──踊るばかりが楽しみではないと。
 ベリザリオは柔らかな表情を作る。よかった、と──織久の方を見ていた。
「私の大事な連れにも聞かせてあげたいのです」
 
 清らかな滴が水面に落ちるような、澄んだ音色が響いた。
 人々は思わず目を留めてしまう。
 美しい翼を持った麗しきオラトリオが、竪琴を爪弾いて清廉なアルペジオを奏でていたからだ。
 音の粒がメロディアスに音階を昇り、空気に鮮やかな色合いを与える。優美でありながら同時に軽やかで、それは確かにダンスに興を加えるものであったろう。
 村人達も曲に酔うように踊りに戻っていく。
 その間も織久は、ゆっくりと食を進めながらその演奏を見ていた。
 元々ベリザリオは、情操教育と称して織久に何かと演奏や歌を披露している。或いはその効果があったと言えようか、織久は自分では意識しない内に、この舞踏会でもそれが聴けるだろうかと少し期待していたのだ。
 だから、その音楽を聴いた。
 村人の弦楽器が加わって、更に次の曲を奏でるその終わりまで。
 演奏を終えたベリザリオは織久の隣に戻ってきた。
「多少なりとも、聴いてもらえたかな」
「ええ」
 織久はそうとだけ応える。ただ、ベリザリオは織久がちゃんと聴いていた姿を見ていたから、それで良いと思った。
 夜が更けていくに連れて舞踏会は尚盛り上がる。
 ここに来て真新しい料理が運ばれてくれば、織久も放ってはおかず賞味しに向かった。
 ベリザリオも、ならば自分ももう一曲くらいは奏でようかと──再び竪琴を手にとって歩み出していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月21日


挿絵イラスト