●良縁結びの神が住まう土地
「センセ達は死ぬ事も得意っスよね」
ね、と首を傾いだ小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は狐のように瞳を細めて笑った。
――いすゞ曰く。
サクラミラージュの温泉街、奥の奥に存在する或る洋館。
その館は古くは『良縁結びの神』が住まう旅館として栄えていたそうだ。
しかし、ある日突然。
惜しまれながらも、その暖簾を下ろしてしまったのであった。
そうして旅館が暖簾を下ろしてから、幾数年。
――『良縁結びの神』が住まう旅館を再開致しました。
当館は良縁・縁結び、恋愛成就に良く良くご利益が御座います。
この度。
再開サアビスとして抽選に当選した皆様に、は特別にお部屋をご用意致しました。
勿論お代金は結構で御座います。
是非、お立ち寄り下さい。
ある日、突如。
様々な者へと旅館の再開を伝える『招待状』が届いたのであった。
「ま、それは。旅館のご利益――良縁や縁結び、恋愛成就を願う人々をまるっと害そうとする影朧による罠なので、招待状が届いた方々にはみーんなお帰り頂いたっス!」
めでたし、めでたし。
……とは行かないのが猟兵達だ。
人を害そうとする影朧を、野放しにする訳にも行かないであろう。
「と、言う訳で。センセ達には『招待状』が届いた態で温泉街に出向いて、死んで欲しいっスよォ!」
影朧は、館にたっぷり殺人罠を張って待ち受けてくれている。
別段、その罠に引っかからずとも良いが――。
猟兵達が迫真の死んだふりをする事で『連続殺人』を実現すれば、殺害成功に満足した影朧はウキウキと姿を現してくれると予知には出ていたそうだ。
一般人が死んでしまうようなダメージでも、猟兵なら多分生き延びる事ができるであろう。
多分、恐らく。きっと……。
頑張れ~。
そして――特に。
影朧は『恋人同士』や『恋を弄ぶ浮気者や軽薄な者』を狙って、招待状を出していたそうだ。
きっとそれこそが影朧の過去。
――傷つき虐げられた『壊してしまいたい』ものなのであろう。
「センセ達がそういう人たちを演じる事で、更に影朧は騙されてくれると思うっス!」
そうしていすゞは、ぽっくり下駄をコーンと響かせて。
「それに――『良縁結びの神』も、もしかしたらまだ館に居るかもしれないっスよ!」
ご利益あるかもしれないじゃァ無いっスか、なんて。
また笑った彼女は、ぴかりと掌の中でグリモアを輝かせた。
絲上ゆいこ
サクラミラージュでは、はじめまして。
こんにちは、絲上ゆいこ(しじょう・-)です。
こちらは犬塚ひなこマスター、つじマスターとのふんわり合わせシナリオです。
温泉街での殺人事件と言うだけのふんわり合わせなので、同時参加も可能です。
全てのシナリオに参加すると、合わせた衣装が並んで気持ちお得です。
●一章について
洋風旅館に招待されているのは夜です。
先に洋館で過ごすことも可能ですが、基本的にはお昼は温泉街でごゆっくりお過ごし下さい。
また影朧は『恋人同士』や『恋を弄ぶ浮気者や軽薄な者』を狙う為、そういう人たちを演じておくことで影朧を確実に惹きつける事ができるかもしれません。
ミステリ小説のように無闇な探偵ムーブや、恰も死にやすそうな演技を加えておくと影朧的にテンションあげあげ↑↑です。
●二章について
殺人罠が張り巡らされた洋風旅館――。
『良縁結びの神』が住まう旅館にて様々な殺害をされて頂く事で、『連続殺人』を成立して頂きます。
罠以外で死ぬ事も可能です。
上手に死んだふりをしてくださいね! 多分猟兵だし死にません。多分。
ミステリ小説のように、無闇な仮面を残してみたり、密室殺人やアーモンド臭のする死体、ダイイングメッセージなど意味深な事をすればするほど影朧的にテンションあげあげ↑↑です。
●三章について
上手に影朧を誘い出す事に成功すれば、影朧と戦闘になる事でしょう。
そのためにもがんばって死んでくださいね!
●迷子防止のおまじない
・冒頭に「お相手のキャラクター名(または愛称)とID」または「共通のグループ名」の明記をお願いします。
・グループ名等は、文字数節約の為に括弧で囲わなくても大丈夫ですよ!
●その他
・プレイングが白紙、迷惑行為、指定が一方通行、同行者のID(共通のグループ名)が書かれていない場合は描写できない場合があります。
それでは素敵なプレイングをお待ちしておりまーす。
第1章 日常
『桜舞う温泉街でのひととき』
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POW : 飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。
SPD : 湯畑を見たり、屋形船に乗る。
WIZ : 温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●朱戀温泉
温泉地独特の湯の泡の香りが鼻をつく。
庇の下には、人々が寛ぎ炉端会議を行う公衆足湯。
露天風呂、蒸し風呂に薬湯。
観光客らしき人々が行き交う大通りには、様々な特色を押し出した洋風和風、様々な大きな温泉施設が幾つも並び。
ほこほこと饅頭の湯気が店先よりあがる和菓子屋に、土産物屋。
地酒の飲み歩きに、温泉で蒸し上げた野菜に温泉卵。つめたーいあいすくりん。
そして縁を繋ぐと謳う、練り香水に美しき紅。
山手に見える神社には、戀みくじ、家庭円満、良縁のお守り。戀の願掛け絵馬――。
ここは『朱戀』と言う名の通り、良縁・縁結び、恋愛成就を祈る者達が集う街。
――恋の病にも効く湯と、謳われる温泉街。
真っ赤な橋を渡った先、山を登って奥へ、奥へ。
そこに件の洋風旅館はぽつんと建っている。
オニバス・ビロウ
恋に軽薄な振り…こう、か?
そこの綺麗なお姉さん、饅頭を貰えるかい?
あっ、この子狐の分も一緒だから出来れば安くしてよ
この超絶に可愛い子狐に免じてさ
何なら食べ歩きながらお店の宣伝もするから!
子狐と饅頭を分けながら散策と宣伝をするよ
地酒のお店を見かけたけど我慢!
おふの探偵と言えど、この頭脳のこんでぃしょんは保ってないとだからね
…え、探偵が狐連れてちゃだめなのかい?役に立つんだけどなぁ
この子がいると女子や子供が近付いてくるんだぞ
つまり証言を得易く、何より可愛い女の子とお近付きになれる!
ほらとても良い事尽くめだろう?
じゃあ次は…あっ練り香水とか良さそうじゃないか!見に行こう!
これで大丈夫なのだろうか…?
●花咲く街の探偵
幻朧桜の花弁がちらちらと降り注ぐ。
こつ、こつ、こつ。
靴底が地を叩く音が小気味よく響く、石畳の街並み。
湯の泡の香りに混じる、かすかな甘い香り。
和菓子屋の前に設置された蒸し器より、甘い蒸気がほこほこと上がっている。
「――あっ」
そこに冷たい風がひゅうるりと吹いて、店先に立つ店員――少女の帽子を攫い。
ふ、と立ち止まったオニバス・ビロウ(花冠・f19687)が、風よりその帽子を奪い返すと少女へと差し出して。
「大丈夫?」
桜の花弁がぱらりと舞い。
柔らかな金のように揺れる髪、眼光鋭き藍の瞳はまさに王子様めいている。
彼の肩に襟巻きのように身体を投げ出している、小さな白狐がこゃん、と鳴いた。
少女が目を見開いて、息を呑み――。
「ああ、そうだ。饅頭を一つ貰えるかい?」
なんて。
小狐の顎をくっと指先で擡げたオニバスは、この超絶に可愛い子狐に免じて少しまけて貰えると嬉しいなと肩を竦めて笑うが、少女はオニバスをぽうっと見つめるばかりで。
「……大丈夫?」
再度の問い。長い睫毛を揺らして首を傾いだ彼に、少女ははっと顔を上げて。
「あ、あっ、ああ、はいっ。あっ、あ、ありがとうございます大丈夫です、お安くはできませんけれど……、一つおまけしておきますねっ」
「おお、ありがとう! 食べ歩きながらお店の宣伝もしておくよ」
受け取った帽子をきゅっと被り直すと、一度店の奥へとぱたぱたと駆けてゆく少女。
その背を視線だけで追って、瞳を細め。
「向こうに地酒の店もあったけれど、ふうむ。――おふとは言え、探偵として頭脳のこんでぃしょんは保っておかなきゃね」
くすくすと笑いながら狐に話しかけたオニバスは、戻ってきた少女から饅頭を受け取って掌を握りしめるように代金を手渡して。
「ありがとう、綺麗なお姉さん」
そうして踵を返すと、ひらひら手を振り饅頭を一口。
「うーん、美味しい」
こゃん、と狐が催促するよう。
頭を首にぐりぐりと押し付けられたオニバスは、はいはい、と袋よりもう一つ饅頭を取り出して。
「花桃が居ると、女の子や子どもが寄ってくるからな」
――それは、『軽率な探偵の振り』をするには丁度良い。
熱くないように半分に割ってから、狐の鼻先に饅頭を差し出したオニバスは小さく呟き。
「さあ、次は何処に……あ、練り香水だって。良いじゃないか、女の子も居そうだしね」
じゃ、見に行こうか。
肩口で饅頭に齧りつく花桃に声をかけたオニバスは歩き出す。
……本当にこの感じで大丈夫だろうか????
なんて、ずっと脳裏に過ぎっちゃあいるけれど。
うん。
なんかこう……見惚れられてた感じもあるし。多分、きっと、大丈夫。
仕事だから、と心の中で妻に謝罪を重ねて。
靴底が地を叩く音が小気味よく響く、石畳の街並み。
こつ、こつ、こつ。
温泉街をすり抜けて行く、彼の足音。
大成功
🔵🔵🔵
多々羅・赤銅
灯人/f00902
はいはい恋人ごっこしたい!
ともひと、一緒に死にに行こ!手ぇ繋いで歩こ!
足湯この先だってさ、やっぱ冷えには敵わねえし行きたくね?
地酒も甘ぇや、寝る前に飲んだらめろめろじゃん。買ってこー
ともひと行きたいとこある?漬物いいね〜べったら漬かな〜
事前の計画どこへやら
いざ着けばやいやい結局行き当たりばったり
酔いに湯の匂い、甘い饅頭と恋人ごっこに浮かれて笑いが止まんねーや、恥ずかしーね!
願掛け絵馬だって。書いてく?こーゆーのは神頼みってか記念だよ記念
…………浅沼赤銅って書いていい?わはは!
いひひ
深く指を絡めて繋いだ手指
太い薬指にキスして笑う
ね、私今お前の最高の女じゃね?
んー!最高愛してる!
浅沼・灯人
赤銅/f01007
恋人ごっこだぁ?
いいねえ死のうか。心中旅行と洒落こもう
手を繋いだら引っ張られるままあちらこちら
おっ、足湯してくか?風も冷てぇしな
酒そんなに甘い?……甘いなこりゃ
そんならつまみも探しに行こうぜ。漬物とか?
計画してたことなんて放り投げて楽しげな赤銅について歩く
そらそうだよこっちは延々惚れてんだよ
ごっこ遊びでも浮かれらぁとは言えず
ああそうだなで返すのみ
絵馬ぁ?そんな神様に願うもんか?
ああ、記念にゃなるか。書こうぜ
勝手に名字変えんなよホントに変えっぞこんにゃろ
ん?なんだよ擽ってぇ
勝手ににやける口元を引き締めるのも忘れて
おう。俺の、最高の女だよ
んじゃ俺も、お前の最高の男にならねぇとなあ
●恋人ごっこ
――はいはいはいはいはーーい!! 恋人ごっこ! 恋人ごっこしたいでーーす!
――ああ?
――ともひと、一緒に死にに行こ!
――おう、いいねぇ。死のうか。そんじゃ、心中旅行と洒落こむとすっか。
湯気上がる街並みに、枯れる事無き桜の花弁がちらちら散っている。
「足湯この先だってさ。ねーね、ともひと。今日寒ィし。やーっぱ冷えには敵わねえよなー」
ピアスに塗れた右耳に、疵無きまっさらな左耳。
楽しげに笑う多々羅・赤銅(春荒れに・f01007)の姿はどうみたって一人のオンナなのに、その表情はどこか童女めいている。
「おっ、足湯してくか、確かに今日は風も冷てぇしな」
眼鏡の奥の鋭い眼光の眦を緩めた浅沼・灯人(ささくれ・f00902)が、笑って同意を重ねるが――。
「うわっ、この地酒甘ぇ~、旨ぇ~」
既に試飲のカップ片手に、別の事に興味を持っている赤銅。
「こんなん、寝る前に飲んだらめろめろじゃん……」
「そんなに甘い?」
赤銅の試飲カップを持つ掌に掌を重ねて、赤銅の酒を奪った灯人も一口。
「……はー、甘いなこりゃ……」
鼻腔を抜ける米のふくよかな甘味に、感心したかのように声を零した。
「買ってこ、買ってこー。宿で飲も」
「ん、そんならつまみも探しに行こうぜ」
温泉地だし漬物とかかな。
うきうきで瓶を掲げる赤銅から、瓶を持ち上げた灯人はさっさと包んでもらい。
こっくり頷いた赤銅は、もはや笑みから顔が戻らなくなってしまっている。
「いいね~~、べったら漬けかな~~」
会計が済めば彼の大きな骨ばった指先に指を絡めて。
湯の泡の香りの街を、二人は歩み出す。
結局飲み歩きの酒も買って。
あまあい饅頭を二人ではんぶんこ。
つまみに買ったチーズを揚げたホットスナックに、いい匂いがするなんて練り香水をちょいと嗅いで。
計画なんてなんのその。
気分が移ろうがままに逆らわず歩を進める二人は、混雑していた足湯の前をすり抜け――。
「あ、こっち神社だって、見て行こー」
長い長い石階段を了承も取らずに、こつこつ登りだした赤銅に逆らうことも無く、灯人も背を追う。
「しっかし、酔いに湯の匂い、甘い饅頭――浮かれて笑いが止まんねーや、恥ずかしーね!」
歯を見せて、いかにもおかしげに笑う赤銅に、灯人は肩を上げるばかり。
「ああ、そうだなぁ」
――そらそうだよ。
こっちはお前に延々と惚れてんだ。
ごっこ遊びでも浮かれらぁ。
なんて。
口には出来ぬ言葉を喉の奥にきゅっと押し込んで、流し込むように灯人は手に持った酒を一口。
鳥居を抜けた赤銅が、花弁と同じ色の髪を揺らして軽いステップでくるりと振り返れば。
「やっぱ神社にも桜が満開できれーねー」
「先ずは挨拶に行っとくか」
二礼二拍一礼。
軽く参拝をこなして、社務所を覗く。
戀みくじ、お守り、御札。縁結びの朱い糸。
そうして、はたと赤銅の目に止まった先。
「あ、願掛け絵馬だって。書いてく?」
「……絵馬ぁ? そんな神様に願うもんか?」
彼女が手に取ったハート型の絵馬を、胡散臭げに瞳を細めて見やった灯人。
そんな視線に、長い前髪を揺らして赤銅はからからと笑い。
「こーゆーのは神頼みってか記念だよ、記念」
「あぁ、記念にゃなるか。そーなー、んじゃ、書こうぜ」
お金を納めると絵馬に向かい、二人並んで願いを書きだした。
走るペン、ちらりと横を見る赤銅。
「ねー、ねーえ」
「……おう?」
「………………浅沼赤銅って書いていい?」
「勝手に名字変えんなよ」
じゃれ合って願いを吊るせば、赤銅は擽ったげに笑う。
「わははは、語呂もいいじゃんね」
「あー? ホントに変えっぞこんにゃろ」
風に揺れる揺れる、絵馬の前。
舞う桜の花弁。
からからから、強い風に煽られて絵馬が音を立てた。
不意に灯人の手を取った赤銅は、貝のように深く深く指先を絡めて、つないで。
しったりとした肌の感覚、骨ばった関節、彼女よりも太い指。
「……なんだよ、擽ってぇ」
いひひ、と赤銅が笑えば、灯人も思わず口元を引き締める事を忘れてしまう。
振る舞いや見た目以上に、自らとは違う生物だと感じさせられる女の指先。
柔らかくて、暖かくて。
……ああ、ここにいる。
そうして灯人の太い指先に口づけした赤銅は、彼女の名前と同じ色を瞳に揺らして笑った。
「――ね。私今、お前の最高の女じゃね?」
「おう。――俺の、最高の女だよ」
眩しそうに眦緩めた灯人も肩を竦めて、笑う。
「んじゃ俺も、お前の最高の男にならねぇとなあ」
「んーー、努力してくれちゃうなんて最高の男じゃ~ん、愛してる~!」
からから笑う赤銅は、戯けたように言葉を紡いで。
恋人ごっこ。
ホントじゃない関係。
手をしっかりと繋いだまま、二人は歩み出す。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オルハ・オランシュ
アルジャンテ(f00799)と
んー……まぁ、ちょっとね……
今日だけは私達、恋人同士だよ
恋愛小説の登場人物になりきって頑張って!
行き当たりばったりになりそうだね……
思い出すね、いつかの洋館でのこと
あの時は君にたくさん助けてもらっちゃったな
さてと、どこ行こう?
露天風呂だと別行動になっちゃうよね、それは寂しいなー
離れ難いもの
あ!足湯……!
ほら、こっちこっち
もっと隣にくっついて。ね?
気持ちいいな
浸かっているのは足だけなのに、あったまるね
彼なりに演技しているのが微笑ましくて顔が綻んでしまう
そろそろ旅館に向かう?
一緒にお泊りなんて初めてだねー、わくわくしちゃう!
今日は夜更かしして、たくさん一緒に過ごそうよ
アルジャンテ・レラ
オルハさん(f00497)と
何故私なのですか?
生憎そういった書物はあまり嗜みませんので、お役には立てないと思いますよ。
ああ、懐かしいですね……。
また死を装うとは少々複雑ではありますが、罠に掛からない事には先に進めませんから。
心して、共に死にましょう。
なるほど。ここは寂しがるべきなのですね……。
オルハさんに倣い同調しておきます。
急に走り出すと危険ですよ。
……止める間もありませんでしたね。
はい。お邪魔します。
貴女と同じく人間ならば、血液循環が良くなり同じ感想を述べられたかもしれません。
機械の私には叶いませんが、……同じ時間を共有出来た。それだけで十分です。
そうですね。
夜が更けても尚、語りましょう。
●足湯
私には読書を沢山しているという、自負はあります。
しかし。
生憎彼女の言うような、恋愛についての書物はあまり嗜んでいなのです。
だからこそ私はお役には立てないと思い、何故私なのかと尋ねると彼女は『まぁ、ちょっとね……』と、言葉を濁していました。
不思議ですが、言葉を濁すという事は何かあるのでしょう。
いつか読んだ書物にもあったような気がします。
しかし。そもそも、彼女には他に――。
「あ、足湯!」
オルハ・オランシュ(六等星・f00497)が指差す先に、ふかふかと上がる湯気。
庇の下に備え付けられた腰掛けに並んで、低い浴槽に湯が満たされている。
「急に走り出すと危険ですよ」
アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)の言葉よりも早く、既に駆け終えたオルハは既に腰掛けに座って靴を脱ぎ始めていた。
「アルジャンテ! こっちこっち!」
「……止める間もありませんでしたね」
彼女の早業に瞬きを二度重ねたアルジャンテがテクテクと歩いて、彼女の横に腰掛けて靴を脱ぎ始めるとオルハが一歩間合いを詰め。
「……もっと隣にくっついて、……ね?」
今日だけは私達恋人同士なんだから、と新緑色を揺らしてオルハが瞳で訴える。
その揺らめきの意味はわからないが、言葉にアルジャンテは小さく頷き。
「はい。お邪魔します」
「ふふふ、気持ちいいな。浸かっているのは足だけなのに、あったまるねー」
彼が横にぴたりと座れば、オルハも頷いて。
翼をきゅっと折りたたみ獣の耳を倒して、湯の中で足を揺らした。
石畳の上を歩いて来た、微かな疲労が溶け出して行くような柔らかな感覚。
「……私が貴女と同じく人間ならば、血液循環が良くなり同じ感想を述べられたかもしれません」
アルジャンテの言葉に、首を傾げるオルハ。
「――機械の私には叶いませんが、それでも。……同じ時間を共有出来た。それだけで十分です」
「……そっかあ」
彼がつらつらと紡ぐ言葉。
――それは、彼なりに演技しているという事がよく分かる言葉。
それがとっても微笑ましくて、ふ、と息を漏らしてオルハは笑って。
「思い出すねー、ほら、前も洋館に行った事があったでしょ?」
あの時も彼は一生懸命演技をしていたものだ。
……いや、演技だったのだろうか。
遠目に見た彼は素だったかもしれない。
考える事で更に笑いを深めたオルハは、翼を少しだけはためかせて。
「――あの時は、君にたくさん助けてもらっちゃったな」
彼の機転も、正確な矢捌きも。――本当に助かったものだ。
「ああ……、懐かしいですね」
こくりと頷いたアルジャンテ。
手紙を探して、――ああ、思い返せばあの時も『恋』文でしたね。
よくよくこの世界では、『恋』に縁があるのかもしれない。
その時。
肩にオルハの体重を感じて、アルジャンテはふ、と視線を向ける。
「……露天風呂に行くのは、少し寂しいな、と思ってたんだ」
「寂しい?」
相違うアメジスト色の瞳を瞬かせて一つ、二つ。
アルジャンテは言葉をそのまま返す。
「だって、別行動になっちゃうでしょ? ――離れ難いもの」
なるほど、とアルジャンテは心の中で納得した。
そうですか、ここは寂しがるべきシチュエーションなのですね。
実に勉強になる。
「そうですね、私もですよ」
「同じ気持ちで嬉しいよ」
くすくす、と笑ったオルハが足を引き上げると、ピンク色になった足先をタオルで拭き。
「ね、そろそろ旅館に向かう?」
「はい、オルハさんの足先も十分に暖まったようですしね」
追従する形で足を拭くと、アルジャンテも靴を履く。
「ふふ。でも一緒にお泊りなんて初めてだねー、わくわくしちゃう!」
ぴょんっと跳ねるように立ち上がったオルハがアルジャンテに手を伸ばして。
「今日は夜更かしして、たくさん一緒に過ごそうよ!」
「そうですね、――夜が更けても尚、語りましょうか」
彼女の手を取って立ち上がったアルジャンテ。
――この後に舞っているのは、死を装う時間であると本当は知っているけれど。
死なぬ事には話も始まらなければ、先に進むことも出来ぬ事も理解している。
今はこの、演技をこなす事に集中を。
――二人は並んで、石畳の道を歩む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルファ・ユニ
親友のレイ(f09183)と
恋を弄ぶ軽薄者を狙う…相当報われない恋愛をしたみたいだね
同情しないこともないけど
目に止まるくらい男食っては捨ててそうな綺麗で腹立つ遊女な格好していこっか。
楽しく互いのコーディネートしたりして
髪もメイクも盛って、少し多めに肌見せて…この世界だと花魁…っぽい感じになるのかな?
道中で男を見かけたら優しく微笑んでみたり
さー、あとは温泉楽しも(本命)
レイはどこ行きたい?ついてくよ
美肌効果とか気になるね。設定的にもアリ
普段の会話に今まで捨ててきた男の悪口とか(捏造)を織り交ぜて。
このまま殺しにきてもおかしくないやってくらい悲惨な男の話をね
…こわぁい。後つけられてるかもね?
レイ・キャスケット
親友のユニ(f07535)と一緒に
恋愛って良くも悪くも人を変えちゃうよねぇ
未経験なボクからすると羨ましくもあるけど、なんにせよ他人にあたるのはダメ
恋を弄ぶってどんな感じ?
事前に情報収集(漫画とか)をしつつ変な部分はユニに直してもらえばいいかな
見た目はともかく中身はチャラJKみたいになってそう
楽しく遊びながらフラグふりまくっていうのも大事な目的、ってことで温泉旅行だー!
幸薄そうな男子物色するふりをしながら「昨日のお財布くんはしけてたよねー」とか会話しながら仮想ポイ捨てられ男ディス話題で盛り上がり
「ユニマジ悪女!逆恨み男に夜中に突然グサーとかされちゃうんじゃ?」
盛ってる話の内容は自分も大概だけどね
●悪女
藍色の髪を綺麗に結いあげて、眦を彩る紅。
着物を着崩して、遊女のように肩を見せて。
――男たちの目に止まる程、綺麗に。
――男たちを捨てていそうな程、腹の立つ程の美しさを。
下世話な視線を向ける男に、優しく微笑むアルファ・ユニ(愛染のレコーディングエンジニア・f07535)。
寄ってきそうになった男をすり抜け、十分に距離をとると横を歩くレイ・キャスケット(一家に一台便利なレイちゃん・f09183)に、へらっと笑った。
「さっきの男、金持って無さそうだったよねえ」
「お財布くんにもなれなさそーだったよねえ。ああ、でも昨日のお財布くんもしけてたかあ」
朱色の髪を簪で結い、ユニと同じく着崩した着物を纏ったレイはくすくすと悪戯げに笑い。
「中々優秀なお財布って落ちてないよね。あー、働かなくて良いくらい貢いでくれるお財布落ちてないかなあ」
「あはは、そんなのいたら紹介してよ」
「もっちろん、……あ、折角温泉街に来たんだし。お財布もいいけど温泉も楽しみたいね」
レイはどこ行きたい? と首を傾いだユニ。
「じゃあ、向こうの美肌効果がすごいって書いてある薬湯はどう?」
「あー、いいねー」
レイの指差す先にある温泉施設。
湯の泡の香りが混じる湯気がほこほこ上がる道のり。
石畳にころころと下駄の音を響かせ、二人は歩む。
その中でもひしひしと感じる、こちらへと向けられる下世話な男の視線。
ユニははだけた肩を見せつけるように上げてから、視線があった男にウィンクを一つ。
「しっかし、あの時の男は傑作だったよ。わざわざ手紙を手渡しにきた奴」
「ああ~~、あのポエムみたいな手紙を送ってきた男? 笑ったよねー。何? 月とか太陽とかさあ」
「そうそう、振られたってーのに気が付かないのかな? あんな手紙送ってかっこ悪いと思わないのかな」
「金の切れ目が縁の切れ目だっていうのにね~」
「あは。ホントそう、ユニに指輪も贈れないくらい、ユニの為に借金背負ったなんて言うからさ。身の丈に合わないお金の使い方する方が悪いのに、ユニのせいにするの可笑しくない?」
「そんな事言ってさ、ユニが唆してたじゃん」
「そうだけどさ」
「もー、ユニマジ悪女! 逆恨み男に夜中に突然グサーとかされちゃうんじゃ?」
ユニの言葉にレイが話を盛る。
これは全て架空の男の話である。
もっともっとフラグを立てるべく、二人はくすくすと笑い合って。
「……こわぁい、後付けられてるかもね。……レイもだよ」
「え? あのキッタナイけれどお金持ってるおじさん?」
「他にも心当たりあるでしょー?」
「え、ある……」
「でしょ?」
困ったなー、なんて戯けるレイ。
もちろん、全て架空の男の話だけれども。
「ま、お財布くん達にそんな度胸ある訳ないけれどね」
「あぁ、そうだねー」
ユニが肩を竦めて温泉施設へと足を踏み入れると、レイもその背を追って。
恋愛は良くも悪くも人を変える。
『恋を弄ぶ軽薄者を狙う』なんて。
――きっと、影朧は相当報われない恋をしたのであろう。
同情すべき点はあろうと、――他人にあたって良いという訳では無い。
だからこそ、二人は全力で演技を重ねる。
影朧を呼び出すべく。
――影朧を説得すべく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリス・ビッグロマン
ロカジ/f04128
は~ん?
カミナリ眉毛は女難の相って知らねぇのかよ
クハハハ!と大口開けて闊歩する
浴衣に着替えて地酒を煽り、すっかり街に溶け込んでいる
いやまったくだ、オンセンガイってのも悪くない
湯上がりに色付いた桃色の乙女に片目を瞑れば、
ころころ笑ってはしゃいでいる
おめでてぇな。風呂入る前からのぼせたか?
今の子はオレに笑ったんだぜ
ああ?バカ言うなよ、若い子はオッサンなんて相手にしねぇさ
ケッ、なんなら賭けるかよ?
負けたら飯の余興にハラオドリだぜ!?
さあどうだオッサン、身の程を知ったかよ
ああ!?テメェこそ吹かしてんじゃねけだろうな!?
納得いかねぇ、次は飲み比べといこうじゃねぇか!!
ロカジ・ミナイ
トリス/f19782
横を見て
わぁ、浮気者顔〜軽薄顔〜ぶっ殺されそ〜
カカカ!と笑って大通りを練り歩く
手にはもちろん地酒と温泉饅頭さ
しかしいい景色だねぇ…街ゆく女は揃って恋を探してる、いい顔ばかり
ちょいと手を振りゃ可愛い笑顔で振り返してくれる
…ああ?いやいやさっきの子は僕の方を見てたんだし
僕の方がモテるし
大人の色気と金の匂いに勝てると思ってんのか若造が
…カーッ!しゃらくせぇ!勝負してやろうじゃないの!
この通りが終わるまでに
女子から今夜泊まる部屋を聞き出した数の多い方が勝ち!
腹踊りでもなんでもしてやらぁ!
僅差!?同数!?ふざけんなズルしただろうテメー!
この俺に酒っつったな!?酒持ってこーい!
●悪い男
少しばかり気崩した浴衣に身を纏い。
手には地酒、片手には温泉まんじゅう。
笑い声を上げて、大通り闊歩する雷眉毛と三毛頭。
「カカカ! しかし良~い景色じゃないかい。街ゆく女は揃って恋を探してる、いい顔ばかりで、湯上がりに頬を染めて色っぽいと来た」
いやあ、最高だねえ。
手ぬぐいを肩にかけたロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)がにっと歯を見せて笑って。
「クハハハ! いやまったくだ! オンセンガイってのは悪くないな!」
桃色に肌を染めた乙女達が歩いている姿を見られるだけで僥倖だと。
言葉を紡ぎながら、歩んできた艶やかな乙女にぱちりと王子様めいたかんばせの片目を眇めたトリス。
ロカジもすれ違いざまに手を振れば、ふっと笑って彼女は手を振り返し。
「おいおい見たかい? さっきの美人さん、こっちを見て手を振り返してくれていたよ」
酒を一口啜るとなんとも旨い。くすくすとおかしげに笑う雷眉毛。
美人に微笑まれて呑む酒が、まずい道理はないのだけれども――。
酒を一口煽ってから、正気? みたいな顔で逆の手でこめかみをとんとん、を叩き。
ロカジに向かって不快感が全面に現れた視線を向けるトリス。
「……ああ? おめでてぇな。風呂入る前からのぼせたか? 今の子はオレに笑ったんだぜ」
肩を竦めたロカジは、大きく大きく肩を竦めて大きなため息ひとつ。
「はぁ~~、ダメになったネギみたいな髪色の坊やはバブだから何も解らないようだねえ」
くるくる、前髪を指先で弄んで可愛そうな子を見る瞳でトリスを見やった。
「は!?」
狂犬の如く、噛み付くように吠えるトリス。
「バッッッッッッカ。若い子はオッサンなんて相手にしねぇさ。なんだよそのカミナリ眉毛」
「はああああ? 僕の方がモテるし、大人の色気と金の匂いに勝てると思ってんのか、若造が??」
ギリギリと奥歯を噛み締め――。
吠えた二人は額と額を押し付けあい、どうでもいい火花を散らす。
本当にどうでもいい。
「ケッ、なんなら賭けるかよ?」
「……カーッ! しゃらくせぇ! 勝負してやろうじゃないの!」
同時にぱっと顔を離すと、今すぐにでも戦闘を始めそうな構えで睨めつけあう二人。
腰に手を当ててトリスは、びしっとロカジを指差し。
「ハッ! 負けたら飯の余興にハラオドリだぜ!?」
「腹踊りでもなんでもしてやらぁ! 精々腹踊りの練習をしておきな!」
売り言葉に買い言葉の大バーゲンセール。
交わす形でロカジは、トリスの鼻先に指を突きつけた。
「この通りが終わるまでに、女子から今夜泊まる部屋を聞き出した数の多い方が勝ちだよ!」
そうして一気に酒を煽った二人は、同時に別れて歩みだす
凄くどうでもいいけれど、彼らにとって大切な戦いを成すために――。
しかしこの二人、演技の筈なのに無闇に鬼気迫っている。
……演技だよね? ねえ?
そうして大通りの終わり。
再び顔を突き合わせた二人は、また額を額を押し付けあっていた。
「………はあああああああああ???? 同数!? ふざけんなズルしただろうテメー!」
「ああぁン?? テメェこそ吹かしてんじゃねえよ!」
どうやら、女の子から聞き出せたのは同じ数だったようで。
ギリギリと睨めつけ合う二人。
「お前みたいなカミナリ眉毛には女難の相があるのを知らねぇのかよ!?」
「お前みたいな浮気者で軽薄顔よりずっとマシだねえ!」
埒が明かない、と。
とん、と後ろに跳ねたトリスが、女の子に貰った焼き鳥を齧り。
「あーーもーー。納得いかねぇ、次は飲み比べといこうじゃねぇか!?」
「あ!? お前、この俺に酒っつったな!?」
勝てると思ってんのかと、ロカジも女の子に貰ったタマゴボーロをガリと齧った。
「行くぞテメェ!!」
「望む所だ、コラァ!! 酒持ってこい、酒!」
なんて。
二人は並んで酒屋に消えて行く。
15分後にはまた、クハハとかカカカとか笑い声が聞こえてきたとか、こなかったとか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
勾坂・薺
クレムさん(f03413)と
クレムさんと初めての旅行なんて緊張するなぁ
綺麗だよね
朱戀って、洒落た名前というか
……え?懐かしい?
クレムさん、前に誰かと来た事があるの?
あ、似てる街ね
だよね、初めての恋っていってたし
クレムさん、どこ行きたい?
温泉も良いけど観光も楽しそうだね
スイーツにお酒、色々目移りしそうだし
香水や紅も綺麗だなぁ
え、良いの?ありがと、この紅にしようかな
戀みくじとか戀の願掛け絵馬もあるんだ、へえ
……この街に詳しいね、クレムさん
あ、わたしの為に調べてきてくれた?嬉しいなぁ
そうだ、折角だしツーショットしない?
スマホ、ちょっと貸して
……クレムさん、この女の人誰?
従妹に納得して笑顔でツーショ
クレム・クラウベル
薺(f00735)と
立ち並ぶ和洋入り乱れた建物に、薄く漂う湯の霞
……懐かしいな
いや、以前に滞在していた街を思い出してな
よく似た景色だったからつい重ねてしまった
そうだな、温泉はまた夜にでも楽しめるだろうから先に街をまわろうか
そこの店は昔ながらの老舗だし、名物の温泉饅頭も一等美味いとか
あとは、そちらの練り香水や紅は縁を深めるとの謳い文句付きだ
好みのものがあるなら一つ贈ろう。好きなのを選んでいいぞ
神社の方も縁に関するものが揃っているそうだ
戀みくじにお守りに、絵馬に……
ああ、勿論。折角こうしたいわれのものが揃った街に来たのだからな
……従妹だよ。年柄もなく甘えたでな
ほら、撮るのだろう?
笑って笑って
●虚構
湯気纏う石畳を踏みしめた、クレム・クラウベル(paidir・f03413)と勾坂・薺(Unbreakable・f00735)は二人並んで。
万年枯れる事の無い桜の木は靭やかに枝を大きく張り、艶やかな花弁を咲き誇っている。
湯のにおい、湯気のにおい、温泉街のにおい。
立ち並ぶ建物は和洋折衷。
700年以上、大正時代の続く『地球』の『日本』の姿。
――ああ、今日は彼との初めての旅行。
緊張が伝わらないように。
この鼓動の高鳴りを悟られないように。
努めて琥珀に柔らかい色を宿した薺は、彼を見上げると瞳を細めて笑ってみせた。
「綺麗な街並みだね。朱戀って、洒落た名前というか……」
「……懐かしいな」
「え?」
彼女が言葉を紡ぎ終わる前に。
思わずと言った様子で、クレムから零れ落ちた言葉。
薺は呆然と瞬きを、ひとつ、ふたつ。
「――懐かしい?」
戀の街と言われる場所が、懐かしい。
そりゃあ、クレムにもこれまで歩んで来た人生があるだろう。
それでも、それでも。
薺は確かめなければ、行けなかった。
――だって彼は薺に『初めての恋』だと言ったのだから。
「……クレムさん、前に誰かと来た事があるの?」
問いに小さく頭を振ったクレムは、緑色の視線を真っ直ぐ交わして。
「いいや、以前に滞在していた街を思い出してな。――よく似た景色だったからつい重ねてしまった」
「……へえ、なるほど。似てる街に居た事があるんだ」
そっかあ、と息を吐く。
そうだ、彼がわたしに嘘を付く訳なんて無い。
だって、彼はあんなにも優しくて、頼れて――。
肩を竦めて、気を取り直して微笑んだ薺は改めて彼の腕を引く。
「そっか、そっか。……ねえクレムさん、どこ行こっか!」
「そうだな。温泉はまた夜にでも楽しめるだろうから、先に街をまわろうか?」
腕を引かれながらも、すっと大通り側に立ったクレム。
こうやって自然にエスコートしてくれる彼が――好き。
や、まあ。演技だけど。
あっ、危ない。一瞬素に戻っちゃった。
えーっと、好き。らぶー。にーじゅー。オッケーオッケー。
「うん、温泉も良いけど観光も楽しみだね。どんなお店があるのかな」
そうして薺はクレムに寄りかかったまま、二人並んで歩み出す。
「こーんなにお店があると、スイーツにお酒、色々目移りしちゃうね」
寿司の店、アクセサリーの店、うなぎの店。
酒屋に、ほこほこと湯気をあげる温泉饅頭が蒸されている和菓子屋。
おでんの炊ける匂いに――。
「ああ。そこの店は昔ながらの老舗だし、名物の温泉饅頭も一等美味いとか。それにその真横の店は調香師が直接調香してくれる練り香水の評判が良いし、紅も鮮やかで綺麗だったな」
「え?」
「それにそちらの練り香水や紅は、『縁』を深めるとの謳い文句付きでな」
解説しながら、ゆっくり店へと歩み寄るクレム。
そのまま彼はぴかぴかと隊列を組む兵隊みたいに胸を張って並ぶ、紅の収められた貝を一つを手に取り。
ぱかりと開くと、そこには玉虫色の輝きが収まっていた。
「これは紅花から作られているのだが」
「綺麗だけれど……凄い色の紅だね」
光を照り返す緑色。貝の内側に薄く塗り広げられた玉虫色は、とても口紅には見えぬ色だ。
「ああ、しかし――水を含ませた筆や指で点すと実に鮮やかな紅色になるんだ。その色は人によって違って、実に自分に馴染む色でな」
クレムは、ふ、と柔く眦を緩めて。
「一つ贈ろう」
「え、良いの?」
「――きっと似合うだろうからな」
「うん、ふふ。……うん、……ありがと」
擽ったげに笑った薺がこっくりと頷けば、商品を手早く包んで貰ったクレムは先の道を指指す。
「向こうに見える神社の方も、縁に関するものが揃っているそうだ」
戀みくじ、お守り、御札。縁結びの朱い糸、それに願掛け絵馬。
「へえー……」
何処か懐かしげに瞳を細めた彼に、薺の中で再び募る違和感。
……彼を直視できない。それでもこの違和感を払拭するには――。
買ってもらったばかりの紅を胸元に抱いて、薺にはその違和感を言葉に紡ぐしか無い。
「ねえ。……この街に本当に詳しいね、クレムさん」
ツアーコンダクターみたいな彼。
違和感、居心地の悪さ、嫌な予感。
本当に。本当にあなたは、この街に始めて来たの?
「ああ、勿論。折角こうした謂れのものが揃った街に来たのだからな」
それは、とても優しい言葉。
「……あは。わたしの為に調べてきてくれてたの? ……嬉しいなぁ」
やっぱり、彼は優しい人だった。
ああ、よかった。
この違和感と、居心地悪さは気の所為だったんだ。
ぱっと彼のスマートフォンをコートから抜いた薺は、へんにゃりと笑って。
「そうだ、折角だしツーショットしよ! ちょっと貸し……」
そして、彼女は言葉を失う。
その壁紙は赤髪の獣耳の女と寄り添う、彼の写真だったのだから。
「……クレムさん。この女の人、誰?」
「ああ。……従妹だよ。年柄もなく甘えたでな」
「えっ、……ああー、従妹かあ。ふふ、そっかそっか。甘えたなんだねえ」
「ああ。甘えたの上に気分屋で……、それより――撮るのだろう?」
ほら、笑って笑って、なんて身体をぴったりくっつけられれば薺にだって笑顔が浮かぶ。
彼は従妹にも優しい人。
それにわたしにだって、優しい人。
ぱしゃり。
軽い音と共に笑顔で寄り添う二人の写真が、スマートフォンのモニタに刻まれる。
ああ。
本当に、ここに一緒に来れたのが彼で良かった。
……ほんとうに、ほんとうに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スバル・ペンドリーノ
お姉さま(f00791)、リア(f00037)と
足湯でいつものようにリアを挟んで、お湯の中、足で2人の足をくすぐったりしつつ
えと、痴情のもつれのフリ、よね
「わぁ、ほんと? 楽しみー、『私に』渡したいものがあるのねっ」
膝の上に身を乗り出し、きらきら見上げ
姉に邪魔がられるのは生まれて初めてで本当に動揺
「ふ、ふぅん……」震え声でリアにぎゅっと抱きつき、演技演技と自分に言い聞かせ
「もう、勘違いのお姉さまには困っちゃうわよねぇ、リア。……夜、一緒に温まり直しましょ? 2人で」
姉にも聞こえるくらいの、聞こえよがしの小声
……あ。その後、本当の小声で、リアの耳元に
「お風呂入るのは、本当でもいいわよ?」
悪戯ぽく
コーディリア・アレキサンダ
>スバル(f00127)とステラ(f00791)と
>台詞のアドリブ大歓迎です
足湯で2人の間に座って、その、ええと、いちゃいちゃ
ボクは普段通り……よりは少しやりすぎなぐらい仲良さそうにすればいいんだよね
横顔を見たり、脚を見たり
今日はもう少し頑張って、こう2人の足の指にボクの足で悪戯したり
「んと……。渡したいものがあるんだ。部屋に戻ったら――――」
……え、なんでケンカみたいな感じに、あ、演技……止めたほうがいいのかな(2人の間でおろおろ)
「ケンカは――あ、うん、お風呂。そういえばまだ露天風呂はまだ行ってなかったね」
でもそしたら渡すタイミング――まあ、お風呂終わってからでも大丈夫かな🚩
ステラ・ペンドリーノ
スバルちゃん(f00127)とリア(f00037)と
温泉の足湯でいちゃつくカップルをするわ
三角関係のフリ……なのよね
リアの言葉に
「あら、『私に』渡したいものがあるのよねリア。私にはちゃんと分かったわよ?」
って返すけど、スバルちゃんには
「チッ……やっぱりスバルちゃ、じゃない。この子邪魔だわ……」
と不穏な独り言を呟いてみたり
「……え? 二人でお風呂入るの? わ、私も……」
となりかけるけど、そうよね、これは演技だもん。忘れてないわ、大丈夫
大丈夫よ、うん
足を延ばして、きゅっとリアの足をつまんでみたり
スバルちゃんのほうをそわそわしながら見ちゃうかもしれないけど
……大丈夫
大丈夫だもん……っ
●演技
さらさらと流れる川の水面に、花弁がほたりと落ちた。
浅い浴槽より白い湯気がほこほこと上がっている。
川沿いに立ち並んだ幻朧桜を臨む足湯。
庇の付いた木で作られたベンチが並べられ、望めばそこに茶屋や軽食屋から、食べ物や茶を用意してもらえるそうだ。
――そのベンチに腰掛ける、三人の背。
「良い湯ねー」
「ええ、良い湯ねえ」
お茶を啜るステラ・ペンドリーノ(きみ達と見つけた流れ星・f00791)の言葉に、こっくりと頷いたスバル・ペンドリーノ(星降る影の六連星・f00127)は桜餅を一口。
「うん」
姉妹の間に挟まれたコーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は、左右からぎゅっと押し込まれてちょっと狭い。
お饅頭を一口齧れば、コーディリアの細い足首を足指先がすうっとなぞった。
ひたりと肌を押し付ければ、心地が良い。
少しだけ肩を跳ねるコーディリア。
薄紅色に色づいた足先。
姉妹はコーディリアの足の指に、自らの足の指を絡めて、離して、擽って。
二人の顔を窺うように、ちらりと見やるコーディリア。
そう、今日はすこしやりすぎな程仲良しなアピールをしなければならないのだ。
なんたって、今日のコーディリアは二人を拐かす魔性の悪魔でもあるのだから。
……うん、だから。そう。
ボクは普段通り……よう、もう少し。
ええと、いちゃいちゃ……そう、いちゃいちゃすれば良いんだよね。
どうすれば……?
……ベリアルとかに聞けばすぐに答えてくれるだろうけれど、絶対喚びたくない。
凄く面倒くさい事を言い出しそうだし。
あのUDCの倉庫での一件をコーディリアは忘れては居ない。
――よし。
「……」
腹を括ったコーディリアはこくり、と饅頭を飲む。
「んっ!?」
「ひゃっ!?」
足の親指と人差し指で彼女達の足先をきゅっと掴んで、交互に二人を見やって――。
突然の反撃に、小さく肩を竦めた姉妹。
やった、反撃成功だね。
コーディリアは、お茶を一口啜ってからやっと言葉を紡ぎ出す。
「んと……えっと、そう。……渡したいものがあるんだ。後で、部屋に戻ったら――」
「わぁ、ほんと? 楽しみー! 『私に』渡したいものがあるのねっ」
食い気味に反応したスバルは、瞳に星をぴかぴかに宿して。
コーディリアの膝の上にその身を乗り出して彼女の顔を見やり。
「あーら、『私に』渡したいものがあるのよね、リア? 私にはちゃんと分かったわよ?」
大げさに頭を振ったステラが、顎をしゃくってスバルを見下ろした。
「チッ……やっぱりスバルちゃ、じゃない……、……ええと、この子邪魔ね……」
これは演技。
演技だからと自分に言い聞かせて、独りごちるように言い放ったスバル。
もちろん、近くにいるのだからスバルにもその言葉は聞こえている。
――目を見開いて、口を甘くひらいたまま絶句するスバル。
ああ、演技、演技なのだから。
「……ふ、ふぅん」
スバルは戦慄く唇をきゅっと一度絞って、コーディリアにぎゅっと抱きついてなんとか言葉を紡いだ。
細める瞳。
愛するお姉さまが本気で私を邪魔だと思っている訳じゃ無い。
これは、演技。演技なのだから。
一方。
ステラも自分の放った言葉に思った以上にダメージを受けていた。
あああああごめんねスバルちゃん、ごめん、演技だから、本気じゃないからね……!
努めて真顔を作りながら、押し黙ってしまう二人。
真ん中でコーディリアはオロオロ、あわあわ。
口には出さないけれど、演技だから、演技だけれど。
……え、なんでケンカみたいな感じに……??
あっ、演技……、え、いや、本当にケンカになるなら止めたほうがいいのかな……??
オロオロするコーディリアも、なんと声を掛けてよいか分からず空中をさまよう掌。
ぱっと顔を上げたスバルは、小さく息を吸って。
コーディリアのウロウロする掌をぎゅっと握ると、吸血鬼みたいに笑った。
「もう、勘違いのお姉さまには困っちゃうわよねぇ、リア?」
「え、あ、う、うん?」
混乱したまま、よくわからない相槌を打つコーディリア。
「ねえ、……夜に一緒に温まり直しましょ? 2人で」
そんなコーディリアの耳元に、スバルはよく通る声音で囁く。
……ねえ、お姉さまにも聞こえているでしょう?
だって、聞こえるように言ったんのだもの。
「え……、――ああ、……うん。お風呂。そういえばまだ露天風呂はまだ行ってなかったね」
ぱちぱちと瞬きを重ねるコーディリアが、そうだねえ、と首を傾ぐその横で。
ステラは――。
「……え? 二人でお風呂入るの?」
呆然、唖然。
ぽそ、と私も、……と、言葉が零しそうになるけれど。
いや、これは演技。
演技だから、大丈夫。忘れてない演技だからスバルちゃんが冷たくても大丈夫。
そわ、そわ。
コーディリアの服の裾をきゅっと掴んで、スバルを横目で見やって。
ぷるぷる顔を振るステラ。
……うん、大丈夫。大丈夫ったら、大丈夫……。
……大丈夫だもん。
「あ。でも夜にお風呂に入るなら渡す時間が……、……ま、お風呂が終わってからでも大丈夫かな……」
コーディリアが一人で納得したように、推理小説なら絶対に渡せなくなるタイプの独り言を囁くと。
スバルが更に身体をぎゅっと寄せて、もう一度コーディリアに耳打ちを一つ。
「ね、リア。お風呂に入るのは、……本当でもいいわよ?」
――今度はステラにはきこえないように、ちいさな、ちいさな声。
くすくす、と笑うスバル。
そんな彼女の様子を見て、ステラはちょっと泣きそうになったけどなんとか我慢する。
なんかないしょばなししてる~~~。
……うん、でも、演技だから……。
うん。
……大丈夫だもん……!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
死ぬのは流石に未経験ですよ!?
と、お約束のツッコミはさて置き。
旅館にて。
本来はこの館も、既に仲睦まじい番に限らず、
縁を求めて訪れるお嬢さん方も多かった事でしょう。
…ならばそこに群がる不埒者も、きっとおりました事で。
声を掛けたらお連れ様が!とすごすご引っ込むのも一興ですが。
お一人、且つ乗って下さる猟兵がいらっしゃれば、
例えば恋、例えば悩み、例えば過去…
お話に耳を傾け。
佳き所を見付ければ素直に褒め、時に共感し、意気投合出来たなら、
今宵は、あなたのお側に――なぁんて、
要はナンパですね!
えぇ。廊下なり庭なり、企みなど独り言ちていたなら、
背後からバーン!っとなんて、お約束ですよねっ?
(連携は特に歓迎です
花剣・耀子
もう今月いっぱいはお正月やすみということでよくない?
よくないの。
そう。
そう……。
えっ、恋……こい……びと……???
……かつてない難題だわ。
今日のあたしは、……ええと。そうね。
恋人が急な流行性感冒で来られなくなったけれど折角のご招待なので楽しんで土産話を聞かせてって言われて送り出された彼女を装うわ。
離れていてもラブラブよ。ええ。ラブラブ。
ともあれ。
仕事が始まるまでは、温泉饅頭を頂きながらのんびりと温泉街を散策しましょう。
歩くだけでも楽しいから好きよ。
冷えてきたら足湯に寄り道。
地元のひとたちに混ざって、この辺りのオススメでも聞きましょう。
そうそう。彼を思わないと。
近況報告の絵葉書でも書いておくわ。
●番犬
ちらりちらり、散る薄紅色。
幾ら花弁が散ろうとも、その花々は絶えること無く。
枝振りの良い幻朧桜の下に少女が一人、ぼうと立っていた。
うーん、うーん。
もう、今月いっぱいはお正月休みという事で良くないかしら。
……よくないのね。
そう。
……そう。
もう転送だってされてしまったのに、彼女の思考はなかなか健気に現状への反骨精神を忘れてはいない。
「……難題ね」
長い睫毛の影を瞳に落として、ぽつり、と呟いた花剣・耀子(Tempest・f12822)。
恋人。
恋人なんて考えた事も無かった。
かと言って、仕事とは言え人を誑かす女を演じきれる自信もない。
か細く息を吐いて、耀子は瞳を眇めて頭を上げる。
そうね、……今日のあたしは――。
「おや、お嬢さん。何かお悩みでしょうか?」
そんな彼女の前へと、ひょこりと顔を覗かせた柔和な笑顔。
アンダーリムの眼鏡に、ふわふわ遊ぶ柔らかな黒髪を一つにまとめたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)が悪戯げに耀子へと首を傾いで。
「……ええ、そうね」
突然声を掛けられて、少しだけ眉を寄せた耀子。
もう設定はこころの中で固め終えたけれど――。
「なるほど、僕で良ければ話を聞きますよ」
なんて、言うが早いか。耀子の横にぴたりと立つクロト。
――これはきっと、ナンパという奴ね。
耀子はかしこいのでわかります。
「……恋人が、……急な流行性感冒に罹ってしまって。旅館に招待をされたのに、来れなくなってしまったのよね」
顎に指を当てた耀子は、今日の設定を騙りだす。
折角招待されたのだから楽しんでお土産話を期待しているよ、と送り出された、なんて。
嘘八百を並べ立て。
「おや、それは残念でしたね。それでは、今日はお一人でこられたと言う事ですか?」
招待をされた、という事は彼女は確かに猟兵なのだろうと内心、納得と確認をしながら。
うん、うん、と何度も頷くクロトは、耀子の話にいかにも共感したような表情。
――彼の目的は縁を求めてこの街に訪れた女性に群がる不埒者……を、演じる事だ。
耀子の言葉を信じるのならば、彼女には恋人が既にいるという事になる。
……しかし、彼女は今、一人だ。
ならば、好都合。
「ええ、でも、良いの。温泉街は一人で歩くだけでも楽しいもの」
「そうですね、しかしこの様な縁結びを謳った街だ。女性の独り歩きは面倒な事が起こるかもしれませんよ」
「……それって。今、目の前で起こっているような事かしら?」
「はは、手厳しい。そうですね、大体その様な感じです」
ふうん、と瞳を細めた耀子に、くすくすとクロトは笑いかけて。
「あたし、離れていても恋人の事を裏切ったりしないわよ」
架空の恋人に操を立てる宣言をする耀子。
その存在は架空なのに、実に彼女は頑なだ。
「ええ、それはそれで構いませんよ」
耀子の語る恋人が架空の恋人かどうかは知りもしないが、食い下がるクロト。
「しかし、ただ散歩をするのにも番犬が居た方が便利でしょうと思って」
「……そうかしら」
「そうですよ、あなたほど綺麗なお嬢さんならば掃いて捨てるほど声を掛けられるでしょうから」
「……そう」
すこうしだけ悩んだ様子の耀子。
確かに何度も興味のない者達に声を掛けられるのは面倒だ。
しかし――。
「……彼に、絵葉書を買いたいのよね」
「では、そこまででもお付き合いしましょうか?」
に、と笑うクロト。
耀子は肩を竦めて、頭を振って。
「うぅん、そうね。……じゃあ、郵便局までだけ、お付き合いしてもらおうかしら」
本当に面倒なら撒いてしまえばいい、と、顔を上げ。
耀子は一度肩を竦めてから歩き出し。
「えぇ、えぇ。それではしっかり郵便局まで忠犬を致しましょう!」
これは掛かったかな?
――このまま上手く行けば、今宵はあなたのお側に――なんてセリフも吐けるだろうか。
彼女も猟兵のようだし、これが演技だという事も理解してくれるでしょう、きっと。
大きく頷いたクロトは、彼女の背を追って――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎
奇跡みたいな良縁に恵まれ
鮮血より赤い絲に結ばれたけど
より強くごんぶとにするのもいいわよね
リルは今日も愛らしくてあたしの桜も満開
温泉街の桜舞う露天風呂へ!
え?そりゃあ…隠すわよ
いやん!恥ずかしい!
リルも隠し――何で頭隠したの?!
そんなッ破廉恥よ
きゃー!
リルの髪や尾鰭を洗い尾鰭ビンタされたり楽しいわ
恋人の醍醐味ね
湯船に浸かりほっこり心地
益々美肌になるわ!
お酒があったら最高…
演技を兼ねて愛しい子を
困らせたくなるのも醍醐味ね
…ねぇリル
私の事すき?
あなたを愛する(殺す)のは私だけ
あなたの全てお腹に納め永遠にするのは私よ
…何故浮気したの?
私知ってる
寝言でノア様とか!
座長の事呼んでたの!
リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎
縁結びの神様のいる旅館に愛する君と一緒
僕はなんて幸せな人魚
桜舞と湯煙の露天風呂
戀の病に効く湯といえど、この熱病は治せないだろうなんて思いながら愛しの桜龍をみやれば
…胸元までタオルで隠していた
ねぇ、隠す必要あるの?
髪を解けば意外と長くて
白桜の肌はほんのり春桜、流し目は色っぽい
どう見ても桜の乙女
目に毒な気がする
僕?頭隠してる
ほら洗うよ!とって!
何とか髪と身体を洗いっこして湯船でのんびり
ほこほこあたたかくて心地いい
鰭を思い切り伸ばす
お酒はダメ――え
僕は櫻宵がすきだよ?ま、まだ食べられたくないけど
櫻宵どうしたの突然
ん?浮気なんてしないよ?
え、な…何で?!
へっ?記憶にない!
誤解だよ!
●月下美人と桜
愛する君と一緒に、縁結びの神様がいる旅館に訪れる事ができるなんて。
なんて、なんて、僕は幸せな人魚なのだろう。
戀の病に効く湯といえど、この熱病は治せないだろうなんて。
そう、思っていたのに。
――どうして。
かぽーん。
暖かな湯気。
幻朧桜の見下ろす露天風呂の湯面に、はらはらと花弁が舞い落ちる。
薄青に染まる乳白色の髪を上げて、シャワーキャップを被ったリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は、怪訝そうに瞳を細めて。
「……ねえ、櫻宵」
「何かしら、リル?」
普段は結っている長い灰髪をさらりと流し、額より伸びる角には薄紅色の桜の花を満開にさせた誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は首を傾ぎ。
胸元まで覆う形で垂らしたタオルを抑えるように添えた拳を、きゅっと握った。
「それ、……隠す必要あるの?」
「えっ? そりゃあ……隠すわよ」
リルの問いに照れたように口元を覆ってみせた櫻宵。
「そんなリルこそ、……え、なんで頭を隠してるの!?」
「えっ、こういうお風呂じゃ髪の毛をまとめるのがまなぁなんだろ?」
そうしてぱちぱちと空色の瞳を瞬かせたリルは、櫻宵のタオルに手を伸ばす。
「それに、タオルもまなぁ違反だよ!」
「いやん、恥ずかしい! そんなっ、リル! あたし……そんなにされちゃ……! ダメよっ、破廉恥よっ!」
きゃー。
なんてじゃれ合う二人は、じゃれ合いながらも洗い場にたどり着き。
バスチェアに腰掛けたリルは、瞳を閉じて。
「もう! 先に身体を洗おう、ほら、洗うからとって!」
「はいはい、お任せください王子様」
リルのシャワーキャップを外し、備え付けられた桜の香りがする固形シャンプーを泡立て始める櫻宵。
二人で身体を洗いあいっこ。
くすぐったさから、尾鰭でリルが櫻宵を叩くがそれはご愛嬌。
そんなリルの事も、櫻宵は愛おしくてたまらないのだから。
――こんなにも奇跡みたいな良縁に恵まれて、血よりもずっとずっと赤い絲に結ばれた関係。
それが櫻宵にとっては、愛らしくて、愛しくて。
こんなに楽しい一時を過ごせる事は、リルの恋人である醍醐味なのであろう。
「さ、綺麗になったわ。湯船に行きましょうか」
長い髪を一つに纏め終えれば、リルをエスコートするように手を伸ばした櫻宵。
二人で桜の花弁が揺蕩う、湯船に浸かり――。
「あたたかくて、心地がいいね」
「ええ、こんなのますます美肌になっちゃうわね!」
鰭をぐっと伸ばしてほわっと表情を緩めたリルに、櫻宵はくすくす笑って。
「後は、お酒があったら最高よね……」
お湯を掬って、とろとろと零す櫻宵。
この街は地酒も美味しいと、道すがら見た酒店でも謳われていた。
風呂上がりに冷やした酒なんて、最高だろう。
「もう、櫻宵。君はお酒を飲んじゃ、ダメだよ」
そんな櫻宵を、リルはいつものように窘めて。
「ふふ、解っているわ。……ねぇ、リル」
「……ん?」
薄紅色に染まった肌。リルの名を呼んで流し見る櫻宵の姿は、空色の瞳に艶っぽく映る。
どうみても、桜の乙女だよな、なんて。
リルはぽんやり考えていたのだけれど――。
「リルは、私の事すき?」
声音から櫻宵が真剣に聞いている事は解った。
「うん、僕は櫻宵がすき」
その言葉にリルは思わず居住まいを正し、くっと背を伸ばして頷き。
瞳を細めた櫻宵は、更に言葉を紡ぐ。
「……あなたを愛するのは、私だけ。あなたの全てをお腹に収めて永遠にするのは、――私よ」
「うん。……君にとって一等美味しいのは僕。君が望むなら、僕は食べられたって良いよ。こわくない、……今はまだ、食べさせてあげられないけれど。いつか君の――」
「……それなのに。何故浮気したの?」
「……」
櫻宵の言葉に目を丸くしたリル。
一瞬遅れて。
「へあっ!? えっ!? 何!? えっ!? ん!? 浮気なんてしないよ!?」
ぴぴぴぴぴと尾鰭を揺らしてリルは驚いた。
記憶に無い言葉。
えっ、何の話?
えっ、なんで?
「ご、誤解だよ櫻宵! 僕そんな事してない!」
「――私、知ってるのよ」
櫻宵の真剣な声音の色は変わらない。
きりり、とリルと視線を合わせて――。
「寝言でノア様とか! 座長の事呼んでいたでしょう!」
「え、えええっ、き、記憶に無い! 本当に誤解だよ櫻宵!」
「嘘よ! 私よりまだ座長の事を……」
「櫻宵ー!?」
思わず緩んでしまいそうな唇を引き絞って、櫻宵は言葉を紡ぐ。
そう、これは演技。
でも。
演技を兼ねて可愛くて愛しい子を困らせてしまいたくなるのも、リルの恋人である醍醐味なのだ。
わあわあ慌てるリルの姿に、眦を緩めて――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴォルフガング・ディーツェ
エル(f01792)と
騙るのは得意だよ、其れが戀であってもね
事前にエルにはお金を渡しつつ、「年下の純情なお嬢さんを誑かす紐系屑男」でいこうか
エルは今日はまた一段と愛らしい
櫻も君の美しさの前では形無しだ…妖精さん、今日は俺がエスコートさせて貰っても?
とびきり甘い顔で微笑みつつ、常にお姫様扱いを忘れずに
水溜まりがあればお姫様抱っこも披露しようか
土産物を冷やかしつつ、似合う土産があればプレゼント…と見せ掛けて少女の財布から言葉巧みに出させる
コレ、とても君を引き立てるなあ!着飾っている姿、見たいんだけれど…駄目かい?
その際、誘惑技能を用いて店員さんに意味ありげに流し目も用いて浮気性を演出もしようか
エレアリーゼ・ローエンシュタイン
ヴォルフ(f09192)と
エルも嘘を吐くのは得意
演技や礼儀作法だって知ってるもの
少しはヴォルフを本当に驚かせられないかしら?
今の私は育ちが良くて何も知らない女の子
悪意なんて知らない
戀しか見えてないような
彼の為に着飾ってお化粧もして
本当は満更でもない癖に
褒めて貰えたらとんでもないって頬を染めてみせるの
はい…貴方とでしたら、私は何処へでも
夢見心地で彼の手を取る
彼が褒めてくれるならお金を出す事も躊躇わない
まあ、揃いの耳飾りもあるわ
折角だもの、これはどうか私から送らせて
まるで世界に彼と二人きり
利用されているなんて
彼が他の人を見ているだなんて疑いもしない
でもこれはお芝居
本当は悪戯でもしている気分だわ!
●騙る
ひらひら舞う、薄紅色の花弁。
枯れる事無き、万年桜。
立ち並ぶ桜並木に吹く風に混じる湯の香りが、花のように着飾ったエレアリーゼ・ローエンシュタイン(メロウマリスの魔女・f01792)の服を揺らして吹き抜けて行く。
「はあ、……今日は寒いわね」
ふるる、と小さく身体を震わせたエレアリーゼは両手に、はあと吐息を吹きかけて。
その小さな手を取ったヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)が、両手で包み込むように掌を挟んで、にいと笑った。
「それは大変だ。エルの手を温める大役、オレに預からせてもらっても良いかい?」
「……まあ、……そんな」
ふるる、と顔を小動物のように振ったエレアリーゼ。
「キミの愛らしい顔が陰ったり、キミの指先が冷えてしまうなんてオレには耐えられないよ。それに――今日は一段と綺麗に着飾っているんだね。とても似合っているよ」
さあ妖精さん、エスコートはお任せあれ。
手を引くヴォルフガングの言葉に、頬をさっと朱色に染めたエレアリーゼは小さく小さく頷いて。
「……ありがとう、はい。――貴方とでしたら、私は何処へでも」
夢を見るみたいな瞳で、彼に手を引かれるがままに歩みだす。
本当はまんざらでも無いくせに、謙遜してみせる恋の駆け引き。
――と、思っているであろう姿を、演じる。
チョコレヱトみたいに、とびきり甘い顔で微笑むヴォルフガング。
熱されたマシュマロみたいに、とびきりとろけた瞳で頷くエレアリーゼ。
――そう。
これは演技。
騙ることは二人共得意だ。……たとえ、それが戀だとしても。
今日のヴォルフガングは、年下の純情なお嬢さんを誑かして寄生するヒモ男。
善意を食い散らかして、恋を手玉にとって。
骨までしゃぶりつくす、女を食い物にする、わるーい男。
今日のエレアリーゼは、育ちが良いあまりに世間を知らぬ、お嬢さん。
悪意なんて、なあんにも見えない知らない。
見えているのは、目の前の戀だけ。
戀に恋して、後ろから目隠しされていたって気づくことの出来ない、愚かな女。
「やあ、コレなんてとても君に似合うんじゃないかい?」
ふ、と店先で足を止めたヴォルフガングがエレアリーゼの髪に幾つもの白い花の咲く髪飾りを透かして。
「君の赤い髪にきっと映えるに違いないよ」
着飾っている姿が是非見てみたいなあ、なんて顔をぐっと寄せた。
「……まあ、そうかしら?」
視線が近づけば、ぽぽぽと頬を赤く染めて。
瞳を細めたエレアリーゼ。
その横の並んだ白い花弁を閉じ込めた耳飾りに視線を止めると、手にとって。
「……揃いの耳飾りもあるのね。ねえ、折角だわ。どうか、これを贈らせて貰えるかしら?」
「いいや、そんなの悪いよ」
「いいえ、私が贈りたいのよ」
一度引くことで、さらに押させる。
ヴォルフガングは言葉巧みにエレアリーゼの気持ちを掻き乱して――。
「お会計してくるわ! そこでまっててね」
彼が似合いだというのならば、彼と揃いにできるのならば。
高鳴る気持ち、きゅっと震える心。
ああ、彼と世界で二人きりみたいな気持ちだわ。
……と、言っても。このお金は先にヴォルフに預かったものだけれどね。
――上手にヒモにひっかかってお金を出させられる子を演出できているかしら?
内心エレアリーゼが苦笑しつつも、演技を重ねる。
そうして。
店先で会計を待つヴォルフガングは、彼女の会計をする店員の少女をじいっと見ていた。
ふ、と少女が視線に顔を上げた、瞬間。
流し目でウィンク一つ。ヴォルフガングは愛嬌たっぷりに笑んでみせて。
君、かわいいね。
誘惑するように揺れる視線が語る、好色さ。
思わず店員が頬を染めて、瞳を背けた瞬間。
そこに会計を終えたエレアリーゼが、ぱたぱたと駆けてきて。
「……はい、ヴォルフ! 受け取ってくれるかしら?」
「うん、勿論。――ありがとう。……早速付けてくれたんだ。とっても可愛いね」
「……そう、そうかしら?」
白い花飾りを桃色の髪一杯に咲かせた彼女。
両頬を押さえて、夢見るみたいに笑ったエレアリーゼが歩みだそうとすると――。
「おっと、危ない!」
「きゃっ?!」
石畳が割れており、転びそうになったエレアリーゼを抱き上げたヴォルフガング。
顔が近い、抱き上げられた身体は重たくないのかしら。
乙女心をぐるぐるかき混ぜる演技をして頬を染めた彼女を抱えたまま、ひょーいと石畳を踏み越えるヴォルフガング。
「……いっそこのまま回ろうか? お姫様」
「それは流石に恥ずかしいわ……!」
まんざらでもない顔を浮かべる事は忘れずに。
エレアリーゼは睫毛を揺らして、照れて見せて。
そんな彼女の様子に、ヴォルフガングはくつくつと笑った。
「――では、後もう少しだけ、このままで」
「……もうっ」
ぷう、と頬を膨らせたエレアリーゼ。
それでも、これはお芝居なの。
ああ、まるで。
何処かで見ているはずの影朧に、悪戯しているみたいな気持ちだわ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
f09129/ユルグさん
観光で心浮き立つ人々の賑わいへ笑み浮かべつ
地酒を手に逍遥
湯上りの女達が集う店先は殊更華やか
練香に紅と、縁を願う品々に染まる頬は
戀に恋する姿にも
想い人への切実な祈りにも見えて微笑ましい
風に舞う桜がひとひら、
彼女達の項うつくしき上げ髪に遊んでいたなら
桜も
あなたの愛らしさに懸想している様子ですよ
賛辞と共に葩を摘まみ
悪戯な花を風に還す
乙女の頬が益々色づく様は
いとけなさと艶との狭間、危うさがまた可憐
追う眼差しに名乗りはせず
淡く笑んだまま流し
向かう橋は赤い糸の如く彼岸と此岸を結ぶよう
戀の駆け引きめいた遊びも
旅の浪漫たり得ますかね、と
並び歩くユルグさんへ嘯き歌う
招待状を持ち、ひらひら
ユルグ・オルド
f01786/綾と
雑踏に紛れ列から戻る足の途中でふと
賑わう中でも目立つ男だなアなんて
観光だからと酒杯片手だから差し引きかな
その先の賑わいと視線の先
縁遠い店の並ぶ通りときて
化粧道具の種類に細工の多彩さには恐れ入る
艶紅の器なんてつい手を取れば驚異の値段
贈り物かと問われるなら
彼女が粧かすなら似合うだろうな、と
隣で話に花咲かせていた娘をさして
どンな色が流行りなのか教えて欲しいな
和装束に顔立ちのよさは本当だけど
ぶっちゃけ紅の違いはさっぱりわからん
集合とばかりに歩み寄れば
桜色の視線が尾を曳くようで
綾のそれ天然じゃない?
その浪漫とやら旅の先々でやってたら絶対刺される
――とは内緒の噺
代わりにそれも一興と嘯いて
●火遊び
焼き餅の焼ける醤油の香ばしい香り。
湯の泡の香りが湯気にまじり。
人々が行き交い、賑わう大通り。
全く。
――賑わう中であっても、目立つ男だなァ。
ああ、でも。
観光であれど酒杯片手だから、差し引きかな。
都槻・綾(夜宵の森・f01786)の姿を雑踏の中に見つけ、肩を竦めたユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)。
食べ物屋の多い通りから一本小道へと歩を進めれば、細工屋と白粉売りの並ぶ通りへと。
自らと縁遠い通りを歩むのは、なかなか勇気がいれど面白いものだ。
化粧道具の種類に、細工の多彩さ。
ふと目についた艶紅の器を手に取れば、想像より二桁ほどゼロが多かった。
「おや、贈り物かい?」
「……彼女が粧かすなら似合うだろうな」
店主の爺に尋ねられたユルグはくっと笑って見せて。
隣できゃっきゃと紅を選んでいた娘たちを示した。
「そりゃあ、きっと似合うだろう」
爺は冷やかしか、と肩を竦め。
ユルグが悪戯げに顎をしゃくる。
「だろう? ねえ、君。どンな色が流行りなのか教えて欲しいな」
「わ、わたしですかっ!?」
目を丸くした娘に、ユルグはこくり頷いて。
その赤い瞳に射止められたように、ぱちぱち紅と彼の顔を見比べた。
「そ、う、ですね……」
「へえ、それが流行ってンだ」
娘の選ぶ紅の色は確かに美しいが。
――和装束に顔立ちのよさは本当だけど、紅の違いはさっぱりわからないもので。
地酒片手に、歩む道。
年中枯れること無く咲き誇る桜の花弁が、はらはらと風に舞う。
湯上がり美人とはよく言ったもの。
暖まった頬を桜色に染めて、店先に集う女達。
縁を願う紅に、練り香水。
むっとあまい香りは、彼女たちの戀の香りか。
――戀に恋する姿にも、想い人への切実な祈りにも見えるその姿は、綾の瞳には微笑ましく映る。
「ああ、あなた」
店先で紅の色を見る娘に、綾は柔らかく瞳を細めて声をかける。
整ったかんばせの男に声を掛けられ、きょとりと綾の顔を見やった娘。
彼女の絹のような髪に落ちた花弁をそっとすくい上げて、綾は笑んだ。
「桜の花弁も、あなたの愛らしさに懸想している様子ですよ」
「あ、ありがとうございます……!」
すくった花弁を風に再び遊ばせれば、娘の頬がぽぽぽと更に色づいて。
その幼さと艶の狭間に揺れる危うさに、可憐と名をつけて。
小さく頷くだけで応えとした綾は、名を告げることもなく淡く笑み。
踵を返せば歩み出し。
さあさあと水の流れる音。
「よう、色男。それ、天然?」
橋の手すりに背を預けて立っていたのはユルグの姿であった。
掛けられた声に、綾はくすと笑って。
「――戀の駆け引きめいた遊びも、旅の浪漫たり得ますかね?」
……その『浪漫』とやら旅の先々でやってたら絶対刺されると思う。
が、今日ばかりは赦そう。
『刺される』。
なんたって、今回はそれが目的の旅なのだから。
だからこそユルグは、ただ笑みを深めて一言。
「……それも一興だなァ」
鈴のように笑った綾は、招待状をひらりと遊ばせて。
「さあ、行きましょうか」
二人は並び、歩みだす。
向かう先は、件の――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千桜・エリシャ
【桜鏡】
クロウさんと恋人ごっこ
悪い男に騙されないようにしませんと、なんて
きゃっ!…もう、悪い男ね
赤い顔を見られないようぷいっ
露天の混浴へ
うち以外で入る温泉もいいものですわね
胸までタオルを巻いて彼の前へ
徐に見せつけるように外し…
…ふふ、どきっとしました?
もちろん、下に水着を着ていましてよ
反応に満足そうにくすり
うちにいらして下さったら
もっとご奉仕しますわ
ほらほら、一緒に入りましょう?
ぴとり
寄り添い湯を楽しむ
これがあなたの熱…身も心も温まりそう
私だって
意地悪だけれど
時折滲む優しさに絆されて
人と鬼
双方認めて下さる懐深さに救われて
あなたの真が知りたいわ
…なんて
高鳴る鼓動はどちらの音?
今は聴こえないふり
杜鬼・クロウ
【桜鏡】
アドリブ◎
銀ピアス無
和装
彼女の番傘持つ
よくこの誘いに乗ったな羅刹女
満更でもねェのか?ン?
碌でもねェ奴に誑かされる位なら
…俺にしとけよ(顎クイ
ごっこ、だろ(意地悪な笑み
朱戀通り歩き地酒飲む
混浴の露天風呂へ
恋の病に効くってどう…ってオイ!前!(思わず顔背け
…
覚えとけや
まだお前が営む旅館行けてねェな
髪下ろし化粧無
極力顔見ず見せない
湯の熱さと体温と
触れ合う肌
色香に惑う
気付いちまった
人と鬼
両方を兼ね備えてるお前に、今も
見惚れてた
嘘か真か
湯煙に紛れ
手重ね
魑魅にはさせねェし
ふ、俺も知りてェ
どちらが先に暴けるか
勝負しようぜ
「千桜エリシャ」に囚われて
此れは何?
戀と呼ぶには余りにも難解な…
御籤どおりで怖ェ
●『恋人ごっこ』
――よくこの誘いに乗ったな羅刹女。 満更でもねェのか? ン?
――ふふ、どうでしょう。悪い男に騙されないようにしませんとね。
――碌でもねェ奴に誑かされる位なら、……俺にしとけよ。
――きゃっ、…もう、悪い男ね。
――ごっこ、だろ?
――ごっこ、ですわ。
湯の泡の香り。
暖かな湯気が満ちる露天風呂。
いくつも温泉の在る中でも、混浴という事もあり人の姿は余り見えない。
ゆっくりと歩む足先二つ。
「偶には、うち以外で入る温泉もいいものですわね」
胸までタオルを巻いた千桜・エリシャ(春宵・f02565)は、周りをぐるりと見渡して。
万年咲き誇る桜が見下ろす露天温泉の光景は、雅と言えよう。
振り返って髪を下ろし、化粧も落とした杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)を見やった彼女はくすくすと笑い。
「そういや、まだお前が営む旅館に行けて――……」
ゆるゆると歩むクロウが、振り向いたエリシャに視線を向けた瞬間。
エリシャは徐々にタオルをゆっくりと外し始め――。
「って、オイ! お前、前!」
思わず。
ぱっとクロウが顔を背けると、鈴を転がす様にエリシャの笑い声が響いた。
「ふふ、どきっとしました?」
クロウの反応に、とびきり悪戯げな声音。
水着をタオルの下に着込んでいたエリシャは、桃色の瞳を眇めて。
「……うちにいらして下さったら、もっとご奉仕しますわ」
なんて、唇に指を当てて首を傾げば。
「……覚えとけや」
やっとの事で顔を上げたクロウが、額にあてた指の隙間から彼女の姿を見た。
誂われた事が解ったからこそ、恥ずかしい。
「ほらほら、身体も洗い終えたなら、一緒に入りましょう?」
誘うように手招きしてから温泉へと入って行くエリシャを、先程の照れを誤魔化すようにゆっくりと追って。
湯の中に座りこめば、クロウへとエリシャがぴとりとよりそった。
少しばかりぬるりとする湯に、触れ合う肌がしっとりとくっつく様。
――ああ、これがあなたの熱。
とく、と震える胸を落ち着かせるように、掌でエリシャは押さえ。
「身も心も温まりそうですわ」
「……ああ、そうだな」
クロウはエリシャの言葉に、顔を上げる事もできない。
そんな姿、見る事が出来る訳が無いだろう。
こんな顔、見せる事が出来る訳がないだろう。
彼女の髪を上げたうなじが、肩が、頬が桜色に色づいている。
甘い香りがする気がする。
触れ合う肌が、ひどく柔らかい。
――ああ、気づきたくはなかった。
いいや、気づいていたけれど気づかないふりをしていた。
相違う瞳を閉じるクロウ。
人と、鬼。両方を兼ね備えてるお前に、今も。
「……見惚れてた」
ぽつり、と響いたクロウの声音。
その言葉に、エリシャは瞳を瞬かせて。
――ああ、意地悪だけれど、彼の時折滲む優しさに。
絆されている。
人と鬼、双方認めて下れる懐深さに。
救われている。
「そう。……あなたの真が知りたいわ」
言葉紡いだエリシャの掌に、ふれる指先。
彼女を魑魅にさせるつもりは無い。
しかし。
嘘か、真か。
そんな事、クロウ自身解りはしない。――知りたいくらいだ。
それに、あの日の香が記憶にまだ残っている。
――この掌を重ねる権利だって、あるのかすら解りはしないのに。
重ねた掌、指先を柔く握って。
「――どちらが先に暴けるか勝負しようぜ」
……花に見惚れれば後は堕ちていくのみ。
千桜に囚われて。
恋の病に効く湯とは言うものの、これを戀と呼んで良いものか。
響き、高鳴る鼓動はどちらの音なのかも解りはしない。
それでも。
ああ、今は聴こえないふりをしていたい。
指先の熱が、ひどく熱いから。
ひらり、ひらり。
舞う花弁が、水面にほたりと落ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎殿と神社へ祈願
家庭円満、ですね
お守りも買っておかなくては
祈願の後は買い物へ
変わらず彼と手を繋いで行きましょう
和菓子屋で子供達の為にお菓子を買い
民芸品も見て回ると良い香りに足を止める
なるほど、練り香水でしたか
液体の香水に比べて刺激は強くなさそうです
それよりも……先程から覚えのある香りがすると思っておりまして
やはり梔子の香りだったのですね
貴方から頂いた匂い袋と同じでしたので気になってしまいました
洋服で出かけたりする時には、これを付けて出ても良さそうです
倫太郎殿は如何ですか?
自然のものであれば、貴方の肌にも合うかもしれませんよ
柑橘類の香りのものは如何でしょう
此方も良い香りですよ
篝・倫太郎
【華禱】
夜彦と二人
神社で家庭円満を祈願したら
のんびり土産物を見て廻る
勿論、手は繋いで
ちゃんと子供達への土産も買って……
ん……?
あぁ、練り香水だな
夜彦が興味を抱くから何かと思えば練り香水
入れ物も小洒落てるのが多いし
男性向けつーか、ユニセックスな奴もあんのか
体温が高くなるとこに塗るんじゃなかったっけ?
髪に塗っても良いらしいけど……
その辺は店員に聞いてみたらいーんじゃねぇかな
っと、夜彦、夜彦
これ、梔子だってさ……
キツすぎず、弱すぎず、いい感じじゃないか?
俺よりも、あんた向きな気もするし
匂袋の匂いと喧嘩する事も無さそうだ……
俺?
はは、そだな
柑橘系は嫌いじゃない
ん……いい匂いだ
なら、俺はこれを貰ってこう
ひらひら舞う、薄紅色の花弁。
枯れる事無き、万年桜。
家族が幸せに暮らせますように。家族が苦しみませんように。
お祈りする事は、家庭円満。
お守りもちゃあんと買った。
しっかりと手を繋いだ篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)と月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は神社の石階段を背に。
「子ども達へのお土産も買えましたし、祈願も出来ましたね。後は……少し大通りをぶらりと致しましょうか?」
「ん。しかしその豆大福うまそうだよな、きっと喜ぶだろーな」
二人の顔を思い浮かべた倫太郎がへら、と笑い。
そうですねと眦緩めて頷いた夜彦が、ふ、と店先に並んだまあるい錻力の缶に目を留めた。
「ん?」
「……先程から、良い香りがすると思っていたのですが……」
「あぁ……、練り香水だな」
「なるほど」
香料をアルコールに溶かした通常の香水よりも、匂いも刺激も控えめそうだと夜彦は手に取り。
「たしか、体温が高くなるとこに塗るんじゃなかったっけ? 髪に塗っても良いらしいけど……」
倫太郎も一つ手に取り、瞳を眇める。
「入れ物も瓶じゃなくて持ち歩きやすそうだし、小洒落てるなあ」
そして、おや、と首を傾げた倫太郎。
白い花が並ぶ、そのブリキ缶に書かれた文字は。
「……と、夜彦、夜彦。これ、梔子の香りだってさ」
「おや、やはり。先程から覚えの在る香りがすると思っていたのですよね」
貴方から頂いた匂い袋と同じ香りだったもので、と夜彦は倫太郎より錻力の缶を受け取って開いた。
ふうわり香る、濃厚な甘い香り。
「……キツすぎず、弱すぎず、いい感じじゃないか?」
「はい、洋服で出かけたりする時には、これを付けて出ても良さそうですね」
彼に勧められれば、勧められるがままに。
何より彼にもらった匂い袋とも、匂いが喧嘩する事は無さそうだからと。夜彦は錻力の缶を一つ手に取って。
「……倫太郎殿も一つ如何でしょうか?」
自然のものであれば、貴方の肌にも合うかもしれませんよ、なんて。
様々なデザインの錻力の缶より、自らの持つ缶と色だけが違う揃いの缶を選び出し。
「例えば、此方なんて……」
「ん、俺も?」
夜彦より缶を受け取った倫太郎は、缶を開いて鼻を近づける。
ふんわり香る、レモンとオレンジの混じったような柑橘の華やかな香り。
「……うん、いい香りだな」
きゅっと蓋を閉じた倫太郎は瞳を細めて笑って。
「なら、俺はこれを貰ってこうかな」
「はい、……おそろい、ですね」
「……はは、そだな。おそろい、だ」
くすくす、と夜彦と倫太郎は顔を合わせて小さく笑って。
ひし形で表現された、シンプルな白い梔子の花。
ひし形で表現された、シンプルな白いレモンの花。
甘い香りを引き連れて。
缶の色が違う、おそろいの練り香水をひとつずつ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千家・菊里
【迫真の演技】ふぃくしょんです
ウルスラさんと恋人同士で小町さんと浮気関係
(小町さんと仲良くほくほく温泉饅頭あーんしていれば、うっかり伊織&ウルスラさんと鉢合わせ☆)
いやぁこれはですね、ちょっと(美味しいものを半分こして)幸せを分かち合っていただけです
ウルスラさんこそ其方は?新しい哀玩用ぺっとですか?
浮気だなんていやだなぁ
俺はちょっと美味しいものをくれる方に懐き易いだけの、いたいけな狐ですよ
(色々起きても涼しい顔で)
ははは、これ(渾身の泣真似)ぞおまえがいうなという奴ですね
仕方ないな――伊織は俺が慰めてあげようか(何とか此方も丸め込もうと笑顔で距離詰め)
あぁ、後で君だけに伝えたい事が――(🚩)
ウルスラ・クライスト
【迫真の演技】
お菊と恋人?伊織ちゃんと浮気?って設定みたいね
色技で釣るために口裏合わせたとはいえ
これはどういう状況かしら
(伊織と腕を組むのも、浮気現場の鉢合わせも、面白く楽しみつつ)
あらあら……菊ったら、鼻の下伸ばしちゃって
小町姐さまに、よっぽど持て成して貰ったのね。
ねぇ、伊織ったらギクシャクしちゃって可愛いでしょう?
随分後ろ暗そうにしてると思ったら、
そう……謎がとけてしまったわね
(態とらしいため息でそっと伊織の腕を離し)
色男ふたりも袖にされては
さしもの私も傷つくというものね
でも喧嘩は好みでないの……
ねえ、お姐さま。ここは女同士で楽し~く飲み明かしに参りましょう?
(ひらり笑顔で小町の腕を組み)
呉羽・伊織
【迫真の演技】※ふぃくしょん
小町姐サンさんと恋人&ウルスラサンと浮気関係(配役だけで既にしにそう)
(湯上がりにウルスラサンに引き摺られ――もとい腕組み散策に出た矢先、姐サン&菊里と遭遇)
――え、何この空気?コレが噂の昼ドラ?
ヤダな~、オレはちょっと役得…いやウルスラサンの護衛してただけダヨ
解くべきは腕でも謎でもなく誤解ダヨ
断じてペットでも浮気でもないから!
そんな…泳がせてた…?
オレを騙してたのっ…弄んだのっ…(渾身の泣真似)
…ねぇ聞いてる?
何この軽薄が軽薄を呼ぶ展開!
何で女子同士くっついて丸く収まってるの!
くっ付き合ってられるかオレは一人で宿に行くっ
(妙な菊里を全力で遠ざけるも結局自分も🚩)
花川・小町
【迫真の演技】ふぃくしょん
伊織ちゃんと恋人兼菊ちゃんと浮気
菊ちゃんと温泉饅頭あ~んなんていちゃついてたら
あらやだ伊織ちゃんとウルスラちゃん☆
こら菊ちゃん、なに誤解を招きにいってるの――これは少し戯れていただけよ
伊織ちゃんこそそんな別嬪さんとどうしたの?
私にはそんなに寄り添ってくれないのに?(笑顔)
――なぁんて
ふふ、大丈夫よ
ぜーんぶ分かってるから
浮気に浮かれる姿が余りに可愛くて可哀想だったから、ちょっと泳がせて愉しんでいたの
でもそれももう飽きたわ
だから、ええ、そうね――お互い乗換えちゃいましょ、ウルスラちゃん
こんな男達には付き合ってられないわ
温泉も地酒も楽しみ明かして、二人で別天地に旅立ちましょ
●フィクション
温泉の匂いがぷんと漂う大通り。
立ち並ぶ戀を謳うノボリの数々。
和菓子屋の前のベンチに腰掛ける二人の姿。
「はい、あ~ん」
「ん、む」
花川・小町(花遊・f03026)の差し出した、蒸したての暖かな温泉饅頭を千家・菊里(隠逸花・f02716)が齧る。
うん。中の小豆餡の甘さも絶妙で、美味しい饅頭である。
「もう一口貰っても良いでしょうか?」
「ええ、勿論」
菊里の問いかけに、綺麗に笑んだ小町は残していた饅頭を手に取り。
彼の口に向かって――。
「はい、あ……」
「……ねえ、これはどういう状況かしら?」
今まさに湯上がりなのであろう、桜色に染まった頬の色。
ウルスラ・クライスト(バタフライエフェクト・f03499)が首を傾ぐと、腕を組んでいる呉羽・伊織(翳・f03578)に更に寄り添って。
悪戯げに瞳を細めたウルスラが、真っ直ぐに『あ~ん♡』をする菊理と小町の行動の意味を問うた。
「あらやだ伊織ちゃんとウルスラちゃん☆ ウルスラちゃんこそ、私の伊織にくっついてどうしたの?」
くすくすと笑う小町も、首を傾げ。
笑っているのになぜだかその瞳には、全然笑みが宿っていない。
「あらあら。小町姐さまこそ、私の菊に餌付けを施しているのかしら」
くすくすと笑ったウルスラが、こてんと逆方向に首を傾げた。
「――え、何この空気?コレが噂の昼ドラ?」
ウルスラに腕を絡められたまま、目の笑っていない笑顔の圧から逃げられなくなった伊織は腰が引けたまま。
「そうそう。勿論伊織ちゃんにも訊くわよ。私にはそんなに寄り添ってくれないのに、えらい別嬪さんと一緒なのね」
小町に名を出されれば、射抜かれたようにびくんと肩を跳ねた伊織。
ぷるぷると首を振って、いや、いや。違いますよ、ねえ。って顔。
「や、ややや、ヤダな~、オレはちょっと役得……いやいやいや、ウルスラサンの護衛してただけダヨ~」
誰も同意をしてくれる者はいないけれど、ぷるぷると小刻みに震えながら伊織は白々しい言葉。
肩を竦めた菊里がちゃっかりあーんされた饅頭を齧りながら、伊織とウルスラを真っ直ぐに見遣る。
「俺はちょっと幸せを分かち合っていただけですよ」
「こぉら菊ちゃん、なに誤解を招きにいってるの? ――これは少し戯れていただけよ」
やれやれ、と小町が肩を竦めて、菊里にお茶を差し出し。
「そうそう、いやだなあ。俺はちょっと美味しいものをくれる方に懐き易いだけの、いたいけな狐ですからね。……まさか浮気なんて、とても、とても。いやだなぁ、全く」
こくん、と饅頭を飲んで茶を啜る菊里は顔を上げ、赤い瞳を真っ直ぐに向けて。
「……ウルスラさんこそ其方は? 新しい愛玩用ぺっとが欲しい、と言っていましたが――もしかして?」
「あらあら……菊ったら、鼻の下伸ばしながら下手くそな言い訳をしちゃって。小町姐さまに、よっぽど持て成して貰ったのね」
答えぬウルスラ。
瞳の温度は三度ほど下がっている。
さて、ここで。――彼女たちの関係をおさらいしよう。
小町は伊織と恋人同士である。
ウルスラは菊里と恋人同士である。
そうして、今は。
互いのパートナーに寄り添って、火花をバチバチに散らしている――という状況であった。
……いいや、状況と言うのは正確では無いかも知れない。
なんたってこの関係は初めから全部、口裏を合わせた上の演技なのだから。
この場に存在する大人達は全員不誠実な設定であると言うのに。
それでも伊織の胃をしくしくと痛める圧は本物であるし、小町とウルスラの冷たい視線の温度も本物だ。
のんびりもう一つ饅頭を齧る菊里。
美味しい~。
それにしても、と前置きをしてからウルスラは小町に見せつけるように伊織の頬に掌を這わせた。
「ふふふ……ねぇ。小町姐さま、伊織ったらギクシャクしちゃって可愛いでしょう?」
ウルスラの赤い瞳が、伊織を見上げる。
すっかり怯えてしまった瞳の色。
かわいそうに、かわいいわね。
「随分と後ろ暗そうにしてると思ってはいたのよ、……謎がとけてしまったわね」
あたかも自らは被害者である、と言った様子で。
そしてウルスラは投げ出すようにすっと伊織の腕より腕を離すと、大きな大きなため息を零してみせ。
「まって、待って! 待ってクダサイ! 解くべきは腕でも謎でもなく誤解ダヨ! 決して断じて絶対にペットでも浮気でもないから!」
それに慌てて両手を広げて、弁明を開始する伊織。
そんな彼の様子に、小町が鈴を転がすようにころころと笑った。
「ふふ、ふふふふっ、――なぁんて、ふふ。……大丈夫よ」
口元に寄せた指先、肩を竦めて艶っぽい笑み。
小町は確信を持った口調で――。
「ぜーんぶ分かってるから。 ……浮気に浮かれる姿が余りに可愛くて可哀想だったから、ちょっと泳がせて愉しんでいたのよ」
驚いた表情を浮かべた伊織。
ほほーうって顔で小町の言葉を聞いた菊里は、新たに花見団子を注文して食べている。
「でも。それも、もう飽きちゃったわ」
「っ、え……、そんな……泳がせてた……? オレを騙してたって事……? 弄んだって事……!?」
感情と共に、つ、と伊織より流れる涙。
いやーお上手。
「ははは、これぞおまえがいうなという奴ですね」
当てつけのダシにされた宣言に、菊里は朗らかに笑う。
なんたって、自分も人の事を言えぬ状況ではあるのだから。
ゆるゆると首を振ったウルスラが、肩を竦めて。
「……色男ふたりも袖にされてはさしもの私も傷つくわ、……でも、それでも、私は喧嘩は好みでないの……」
「まあ、ウルスラちゃん、奇遇ねえ」
小町が立ち上がると、ウルスラにニッコリと微笑み。
「そうよね。……ねえ、お姐さま。ここは女同士で楽し~く飲み明かしに参りましょう?」
「ええ、そうね。こんな男達には付き合ってられないわ。お互い、乗り換えちゃいましょ」
「ふふふ、流石お姐さま。私も同じ気持ちよ!」
今日一番の笑顔で、小町へと寄り添ったウルスラ。
「温泉も地酒も楽しみ明かして、二人で別天地に旅立ちましょうか」
「そうしましょう、そうしましょう。傷を癒やすにはそれが一番ですものね」
そうして踵を返す二人。
「えっ……、ねぇ聞いてる? オレ泣いてるよ?」
渾身の泣き真似をスルーされた伊織は、涙を拭って。
「何!? この軽薄が軽薄を呼ぶ展開! 何で女子同士くっついて丸く収まってるの!?」
わんわん咆えるが、小町とウルスラは振り返る事も無く。
雑踏に消えゆく背中を伊織は見守るばかり。
「えーー、放置! オレの事はもう放置するのー!?」
「……仕方ないな」
そんな彼へと、じわじわ寄りそう影一つ。
それはどのような展開にも飄々とした表情で、団子を食べ終えた菊里の姿。
伊織の涙の後が残る頬へと掌を伸ばし――。
「――その悲しみは俺が慰めましょう。あぁ、後で君だけに伝えたい事があるのです……」
拭う親指、伊織は肩を跳ねて。
「いや、いやいやいや、くっ――付き合ってられるか! オレは一人で宿に帰らせて貰う!」
「そんなつれないこと言わずに……」
「帰るったら帰るーッ!」
無闇にフラグを立てまくる発言をしながら、伊織はなぜだか笑顔で丸め込もうとしてくる菊里よりじりじりと後ずさり。
全員が全員不誠実な物語は、始まったばかり――。
……えっ本当に? このまま続くの?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディイ・ディー
【🎲🌸】
紺の着流しに帽子と黒手袋
下駄を合わせてレトロモダン風に
からころと響く足音は心地よく
隣を歩く志桜を見れば口許も自然に綻ぶ
ん、温泉饅頭が売ってる。あっちは足湯か
よし、どっちも行くか!
本当の恋人ではないし装うのも控えめだが
隣同士、聖夜の日よりも近い距離に
腰を下ろして素足を浸し、湯に浮かぶ桜花を眺める
桜、綺麗だな
俺は先にもっと可憐な花を見つけてたけどな
志桜の髪に舞い落ちた花弁に手を伸ばして
そのまま軽く肩を抱き寄せて、
なんてことも今日は許されるはず
実は恥ずかしいが、薄く笑みを浮かべて誤魔化す
さてと、次はどこを回る?
志桜の行きたい所に全部付き合うぜ!
傍に在る桜を大切にしたい
この感情は、多分――
荻原・志桜
【🎲🌸】
矢羽に桜柄の小振袖と袴にブーツ
気分はレトロな女学生さん
恋人じゃないけどわたし達らしく過ごすのもいいよね
少し高鳴る鼓動は賑やかな温泉街が楽しみだから
或いはもうひとつの理由なのか
うん、それじゃまずは足湯!
袴の裾を上げてほっこりあたたかい
舞う桜も相まって穏やかな時間が居心地がいい
ん、ホントにきれい
可憐な…?どこに?と視線を彷徨わせ
抱き寄せられた瞬間は少し強張る
思わず視線をあげようとするが
また意地悪い顔をしてるかもと俯いたまま
だけど今日はもう少しだけ、彼に寄りかかり瞳を閉じる
次はお饅頭!そのあとはお土産屋さん!
彼の手を引いて彼方此方に振り回すのも
いまだけの、わたしの特権だからと言い聞かせて
●その感情の名前
冷えた冬の風に混じって、そこかしこより湯の泡の香りがする湯気が立ち上っている。
から、ころ、から、ころ。
石畳に小気味好く響く下駄の音。
紺の本麻を着流して、黒い帽子に手袋を合わせて。
ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は、荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)と並び、街歩き。
矢羽に桜の小振袖に、袴にブーツ。
ハイカラ女学生めいた志桜も、ディイと同じくレトロモダンな装い。
「わー、色々あるね!」
「そうだな。雑誌にも載ってたけど、観光地してんなぁ」
「うーん、何から行くか悩んじゃうねー」
目移りしちゃう、なんて言いながら、志桜はぐるりと辺りを見渡して。
土産物に、食べ物屋、細工品に、化粧品まで。
大通りのにぎにぎしい雰囲気は如何にも楽しげで、志桜の瞳も抑えきれないわくわくに輝いている。
「お、あっちに足湯があるみたいだな」
その中でも、ディイが目を留めた先。
川に沿って立ち並ぶ幻朧桜を臨む形で、庇の付いたベンチと足湯が連なる一角。
ディイと並んで目の上に掌を当てた志桜は、遠くを見る構え。
いくつも上がったノボリをじっと見て。
「お湯に浸かりながら、お饅頭を食べられるって書いてあるね」
「そりゃ欲張りセットだな、――よし、どっちも行っとくか!」
「にひひ、勿論っ」
志桜が笑えば、ディイも眦緩めて笑みを深め。
目標は川沿いの足湯へと、二人並んで歩き出す。
履き物を脱いで、お湯に足を浸ければじんわりと足から全身が暖まるよう。
二人の距離は――あの日の夜よりも、ずっと近い距離。
それは今日の本分の為か。
それとも、別の理由か。
ほう、と志桜が吐息を零すと、零れ落ちてきた薄紅色の花弁が湯面でくるくると舞った。
「――桜、綺麗だな」
「ん、ホントにきれい」
ディイの呟きに、袴を持ち上げながる志桜はこくこく頷き。
目前に広がる、枯れる事無き桜の群れへと顔を上げた。
さらさらと流れる清流に、はらりはらりと舞う花弁。
それは影朧で無くとも惹き付けられるであろう、美しく和やかな優しい風景。
そんな光景に、ふ、とディイが小さく鼻を鳴らして肩を竦め。
「――俺は先に、もっと可憐な花を見つけてたけどな」
はらり、はらり、落ちる花弁。
「可憐な花……?」
彼の言葉に志桜が首を傾ぐと、志桜の髪に舞い落ちた薄紅色をディイは黒い指先で掬い。
そのまま志桜の肩へと腕を回すと、軽く抱き寄せた。
彼女の匂い、彼の匂い。
ぴゃっと身体を跳ねて、身体を強ばらせる志桜。
――そう、今日の本分は恋人を装う事。
二人は本物の恋人では無い。
本当の関係では無いけれど、――胸がとくとくする事は止められはしない。
――もしかして、また意地の悪い顔をしてるのかな。また、からかわれているのかな。
志桜で遊ぶ、なんて言っていたディイに負けないとは言ったけれど。
どうしても、顔を上げる勇気はでない。
――だけれど、今日はもう少しだけ。
だって今日は、本当じゃないけれど恋人を装う日だから。
志桜はディイにそのまま寄りかかり、体重を預けて。
長い睫毛を揺らして、瞳を閉じた。
「…………」
その柔らかな重みを感じながら、ディイは小さく息を呑んだ。
ああ、彼女が顔を上げなくてよかった。
薄笑いを浮かべてディイは肩を竦め、気取られないようにゆっくりゆっくりと息を吐き出す。
なんたって俺様にだって、恥ずかしい事はあるのだ。
息を吐いてから、ゆっくりとディイは瞳を眇め。
「志桜、次はどこに行きたい?」
「……ん、まずはお饅頭を頼むでしょ、そのあとはお土産屋さんに寄って、……あ、後はアクセサリ屋さんも見てみたいかも!」
「おう、全部回ろうか」
「ふふふ、じゃ、あの喫茶店にも寄ってみたいな」
「はい、はい。どこへでもお供いたしましょう」
くすくすと瞳を瞑ったまま、志桜は笑う。
――ディイをあちらこちらへと振り回す事ができるのも、『今だけの』特権なのだから。
今だけは、沢山付き合って貰おう、なんて。
はらり、はらり、舞う花弁。
――桜はずっと、ずっと、傍にもあるもので。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クーナ・セラフィン
なーんかサクミラ殺人事件多くないかにゃー?
愛憎重い…まあ、影朧原因なら何とかしないとね。
軽薄に…アレで行こうか。
温泉街らしい服装の浴衣?でのんびり女の子をナンパ。
良さげな茶店見繕いお茶しない?と誘う感じ。
旅先で一時のアバンチュウル?如何かなととびっきりキザっぽくね。
女同士なら後腐れあんまりないし遊びにはもってこいだにゃーとか軽薄さアピール。
袖にされてもダメージ少ないし、次々トライするのがいい…かな?
…やっぱり難しい方が燃えてくるしね。
ところで。ナンパしてる筈だけど…なんか本気にされてないというかマスコットと遊んでるように思われてるのは気のせいかにゃー?
愛想振りまくけども。
※アドリブ絡み等お任せ
●温泉地のゆるキャラ
そこかしこより香る、湯の泡の香り。
少女達がきゃっきゃと話に花を咲かせながら、桜舞い散る道を歩いて行く。
そんな少女達に、呼びかける良く通る声音。
「やあ、やあ、キミ達。私と一緒に――旅先でのアバンチュウルなんて、いかがかな?」
「え?」「なに?」
少女達が声の主を探すべく、廻りを見渡せば茶屋の塀の上に腰掛ける小さな猫を見つける事ができた。
小さな猫――、浴衣を纏ったクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はすとんと飛び降りると、茶屋の椅子の背もたれに乗ってぐいっと背伸び。ぎりぎり届かない少女の顎下に指を伸ばして。
顎をくいっと出来ない。
うん。大丈夫。
「――女同士だからこそ出来る遊び、やってみないかにゃ?」
「え、なになに、かわいいー」
「どこのマスコット?」
とびきりキザったらしい流し目を送るクーナに、少女達はきゃっきゃと声を上げて。
「でも私達、他のカフェーの予約があるのよね。またね、猫ちゃん」
「また気分が変わったらいつでも待ってるよ」
「はいはーい」
少女達は交互にクーナの頭をくしゃくしゃと撫でると、クーナより離れて行く。
声をかけ続けて幾数人。
おかしい。
袖にされているというよりは、何かこう……。
遊園地のマスコットキャラに対する扱いに近い気がするにゃー。
……難しい方が燃えてくる、と自分に言い訳をしたクーナは、すっかり冷えてしまったお茶を一口啜って。
――まあ、まあ。
軽薄で軟派な印象はきっとつけられているはずだ。
多分。……きっと。
それでもナンパが成功しない事は、なんだか悔しい事は悔しいけれど。
――難しい方が、燃えてくるものだ。
次のターゲットに狙いを定めたクーナはひょい、と立ち上がって――。
「はぁい、お姉さん。一緒にお茶しないかにゃ?」
「えっ、なに? かわいい~」
不屈の精神で、難題へと太刀向かうのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『恋は偲ぶもの、怨みは晴らすもの』
|
POW : 恋人や軟派師や尻軽女、自らが囮となって影朧をおびき出す
SPD : 対象が分かっているならそれを探せばいい、広範囲をくまなく捜索だ
WIZ : 影朧を見つけ出す、あるいはおびき寄せる斬新な策を閃いたぞ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●戀し恋しや
戀と云ふ文字は、もつれた絲を言の刃で分けること。
人を恋ひ慕い、心が乱れること。
人は戀した時、彼等は彼等の主観のうちに、又彼等の理想のうちに。
赫として、一時に燃焼せられたるを喜ぶものである。
況んや戀が愛へと至らぬまゝ、燃え尽きて仕舞つたとしても。
之を彼等の他が、悲しむの必要もなければ、之に悶ゆるの理由もない筈である。
所詮失戀と云ふものは、主観の苦悶。
斯くあれかし、斯くありたしとの希望が現実にそぐわぬ丈であるもの。
――けれども。
叶わぬ理想を、妬む事も。
叶わぬ理想を、踏みにじる者を憎む事も。
全て、全て、全て、死んでしまへと想うてゐる吾がある。
馬鹿げてゐる、滑稽である。
さふ雖止められぬ。
●洋風旅館にて
――幾数年人の気配の無かった筈の洋館は美しく掃除が成され、どうにか操られて居るのであろう従業員達がせっせと働いていた。
夜の帳が落ちれば、猟兵達にとって仕事の時間が始まる。
そうして猟兵たちにあてがわれたのは、それぞれ洋風の個室であった。
個室毎に風呂も備えられてはいるが、名物であった美しい露天風呂も健在だ。
土産屋は流石に開いてはいなかったが、洋食の提供されるレストランに、甘味の提供されるカフェは営業中。
一番の特色と言えば。
一番奥の一番立派な部屋が『良縁結びの神』の住まう部屋として使われておらず。
良縁を願う者たちが、その部屋の前で祈る姿が昔はよく見られたそうだ。
――従業員達の洗脳は、敵を倒せば自ずと正気に戻るであろう。
逆に今の時点で従業員に手出しをすると、敵に気取られてしまう為手出しは禁物であると、猟兵達は理解をしている。
さて。
ピアノ線に、落ちてくる刃物、感電する個室風呂、毒に、何らかに見立てられた怪しい人形。
行く先々にひしひしと感じる、猟兵――客だけを狙う『罠』の気配。
さあ! 猟兵達よ!
各々安全を確保しながら、ヒロイックな死んだフリにて連続殺人されるのだ!
オルハ・オランシュ
アルジャンテ(f00799)と
露天風呂、とっても気持ち良かったよ
アルジャンテも入ればよかったのに!
なんて言葉を交わしながら、甘味に舌鼓
ふふっ、これでも美味しく食べられない?
あいすくりんをスプーンで掬って「あーん」と差し出す
楽しく時間は過ぎていくけれど、――きっとそろそろ
広いロビーを歩いていれば、それは一瞬の出来事
痛みを感じた時にはシャンデリアの下敷きで
予めUCで防御力を高めていなかったら、本当に危なかったかもしれない
きみが、ぶじなら、それで……
これは演技なんかじゃない
心からの言葉
手はどうにか動きそう
血で床に書き残したのは二桁の数字
これぐらいやらなくちゃ
影朧、誘き出してみせるよ……!
アルジャンテ・レラ
オルハさん(f00497)と
いえ……浸かっても"気持ちよい"という感覚になれず"温かい"と感じるだけです。
このような甘味も味はわかりますが、貴女のように美味しく食べるのは……
いけませんね。恋人同士らしい会話が成り立っていません。
……いただきます。
オルハさん。こちらの抹茶ババロアも如何ですか?
彼女が罠に襲われ、流石に動揺を隠せず。
出血はあれど対策済み……恐らく命に別状はない筈ですね。
待っていてください。助けを呼んできます。
時計から何か、恐らく毒針が飛んできたのは視認済み。
無策でしたがどうやら神経毒。
人間ならば苦しみ息絶えたでしょうが、機械人形の身に救われましたね……。
そのまま倒れ、死を装います。
●カフェにて
浴衣を纏ったオルハは、肌を湯上がりの薄紅に色づかせて。
「アルジャンテも、露天風呂に入ればよかったのにー」
とっても気持ちよかったよ、なんてオルハはあいすくりんを一口。
「いえ……浸かっても『気持ちよい』という感覚になれず、『温かい』と感じるだけですので」
抹茶ババロアを前に小さく首を振ったアルジャンテは、やわらかな否定にさらさらと銀絲のような髪を遊ばせる。
スプーンをババロアに押し込めば、ぷるりと抹茶色が揺れた。
「……このような甘味も味はわかりますが、貴女のように美味しく食べる事は――」
アルジャンテは造られた存在だ。
何処まで行っても博士に造られた、機械人形である事は変わりがない。
知識は蓄えられる。
感情だって知識から蓄えられる。
――人よりも、人らしく。
学びたい、知りたい。
再び小さく頭を振ったアルジャンテは細く息を吐いて、スプーンの上で揺れるババロアに相異なる双眸をじいと向ける。
良くない。
これでは『恋人同士らしい』会話が成り立っているとは思えない。
そこに差し出されたのは、一つの銀の匙。
「アルジャンテ。はい、あーん」
「……?」
黄色がかった乳白色のあいすくりん。
アルジャンテはオルハの新緑色の瞳と、あいすくりんを交互に見やり。
「ふふっ、――これでも美味しく食べられない?」
ぴっと獣の耳を立てた彼女の言葉に、瞬きを一つ重ねた。
「……いただきます」
なるほど、実に『恋人同士らしい』会話だ。
口の中でとろりと冷たく蕩けるアイスクリンは、あまい。
一般的には『美味しい』と呼ばれるものなのだろう。
アルジャンテは掬ったまま、手に持っていたババロアの乗ったスプーンを差し出して。
「――オルハさん、こちらの抹茶ババロアも如何ですか?」
『恋人同士らしく』、オルハに首を傾げた。
「勿論! いただきまーす」
小さく笑みに瞳を細めて頷いたオルハは、ぱくりとババロアを一口。
「そう言えば、ここのクッキーも美味しいんだって!」
「そうなんですね、部屋用に用意してもらっても良いかもしれませんね」
「あっ、良いね、それ。後で頼んでみようかな」
『恋人同士』。
和やかな会話、優しい時間が過ぎて行く。
「さて、と。そろそろ部屋に戻りましょうか」
――アルジャンテは椅子を引いて立ち上がると、伝票を手に。
「うん、そうだね」
立ち上がろうとしたオルハは、ぴりりと首筋に嫌な予感が走るのを感じた。
それは一瞬の出来事。
オルハはと机越しに、アルジャンテの身体を咄嗟に押して――。
「あ、」
「!」
きらきら、きらきら。
イミティションの宝石達が砕けて弾けて、ばらばらと弾け飛ぶ。
押し出されて床に倒れたアルジャンテが見たものは、つうと床に広がる赤。
――鮮血。
普段のオルハの身軽さならば、きっとそれは避ける事もできた一撃であっただろう。
しかし、アルジャンテを庇った今は――。
シャンデリアに押しつぶされたオルハは、けほ、と咳き込んで。
彼を見上げて、尚笑った。
「……きみが、ぶじで、良……」
――これは、心よりの言葉。
防御を固めた身体は、実際重症なんて負ってはいない。
……しかしコレが、無防備な状態であれば。
狙われたのが、普通の人達ならば――。
その指先が床へと完全に落ちる前に、彼女は最後の仕事、と。
文字を描き出す。意味ありげな言葉、――『12』。
――影朧。君の事、絶対に誘い出してみせるよ。
くて、と力を失ったように、オルハは力を弛緩させて――。
「オルハ、さん……」
こぼれ落ちるように、小さく漏れる言葉。彼女の名前。
アルジャンテだって勿論、罠が来ることは理解していた。
重厚そうなシャンデリアが落ちてくる事は予想外で、少しびっくりしたけれど。
あの大時計から嫌な気配がしている事だって、――彼女に手を伸ばす自分が今狙われている事だって。
全部、理解している。
だからこそ時計に敢えて背を向けたアルジャンテは、しゃがんだままオルハの身を案ずるように、庇うように。
「……待ってください、今助けを」
瞬間。
「っ……!」
プツ、と首筋に小さな衝撃を感じて、アルジャンテは小さなうめき声を上げた。
……ああ、恐らくこれは神経毒であろう。
ぐ、と膝を付いて、揺れる上半身。
ゆっくりとアルジャンテは倒れ伏し――。
……アルジャンテは機械人形だ、こんな微弱な毒が効くわけも無い。
しかし人の身であればきっと、息絶える程の苦しみを得たのであろう。
首を掌で覆って、苦しそうに身体をこわばらせて――。
うん、あの本ではこんな感じだったかな。
ばたり、と床に倒れるアルジャンテ。
血に沈む娘と、彼女に手を伸ばして倒れた少年。
騒然とするカフェの店内で、二人は――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロカジ・ミナイ
トリス/f19782
運良く貸し切り状態の大浴場にて
酒を持ってきてくれた女中さん、綺麗だったねぇ…ヘケケ
そうだろう?いいだろう?でっけー温泉は最高よ
ああ、まぁ、ちょいとぬるいけども
…おい
待て、何か、そのコケシ…動いてないか?
僕ってばそんなに酔っ払ってんのかな…
いやいややっぱり可笑しいって!
だってなんかほらヤバい目してるし
やめ、
ほらぁー!やっぱりオバケじゃないかぁ!
イヤァーーーー!コケシもオバケもイヤァー!
血糊に襲われるトリスを置いて浴場からの脱走を試みるが
後方から腰を引っ張られ盛大につんのめり
盛大に眼前の岩だか壁だかに突っ込んだっぽい
っぽいってのは、確かめる前に頭が割れて死んじまったからさ
トリス・ビッグロマン
ロカジ/f04128
ふう、湯に浸かりながら飲む酒がこんなに美味いとは…
慣れてみりゃいいもんだな、大浴場ってのも
お前の地元は釜茹で地獄だったからな
んあ?なんだあの石の上に置いてあんの…
…木彫り人形?おいロカジ、ちょっと来いよ
コケシっつーのかこれ
なにビビッてんだよ、よく見たらカワイイかもしれんぜ
う、うわ!?なんだこれ!?
コケシの目からドロドロの血糊が!!
く、クソッきもちわりぃ!
愛銃を探すが手は虚空を掻くばかり
げぇ、足元が……
スッテーーーーーン!!
逃げようとするやつの腰のタオルを咄嗟に掴む!
暗転する視界
そこから先は覚えていない
意識を失う前に、何かとても嫌なものを見た気がする
●かぽーん
ほこほこと上がる湯気。
「ふうーーー……、湯に浸かりながら飲む酒がこんなに美味いとはなぁ」
盆に乗った冷や酒。お行儀よく三毛を頭上に纏めたトリスは、タオルを頭に。
「いやあ。しっかし酒を持ってきてくれた女中さん、綺麗だったねぇ」
ヘケケ、なんていやらしい笑い声を上げたロカジは、ぐうっと湯船の中で足を伸ばして、畳んで。
「そうだな、まあ小ぶりなみかんって所だったがな」
下世話な返事、トリスが肩を竦めて湯を掬った。
――時間が良かったのか、または入る人が『もう』いないのか。貸切状態となった露天風呂。
男二人は並んで、肩まで湯に浸かっていた。
「いや、しかし慣れてみりゃいいもんだな、大浴場ってのも」
「うん、うん。そうだろう? いいだろう? でっけー温泉ってぇのは、最高よ。――ああ、まぁ、ココはちょいとばかしぬるいけどもね」
「いやいや、お前の地元の釜茹で地獄風呂と一緒にするなよ」
以前二人で訪れた湯では老若男女が芋洗いの如く、風呂を楽しんでいた。
他人と一つの風呂に入るだけでも驚きだと言うのに、男女を分けぬ事にもトリスは驚いたものだ。
しかし、今日は男同士二人きり。
思い切り足を伸ばす事も、曲げる事も、なんなら泳ぐ事だってできてしまいそうな程広い露天風呂。
「やれやれ、本当に坊っちゃんは適温ってものを知らないようだねぇ」
「はいはい」
しょうもない事を言う雷眉毛から、湯を掬った掌に視線を移したトリスは、ほうと息を吐いて。
とろとろとした湯に映る、掌の中に閉じ込めた月。
ゆっくりと掌より月を零して、視線を上げると――。
? ……今、石風呂の縁に何かあったな。
「………なんだ、あれ……?」
ざばざばと湯を掻き分けて、トリスが近づけばそれはどうやら木彫りの人形のようだ。
「うん? 何を――……、コケシ?」
「へえー、これコケシっつーのか」
「止めな、そんな妙な人形置いておきなよ」
まじまじと見やるトリスの手に握られた円柱の上にまあるい顔がついた人形、――コケシにロカジはひどく嫌なモノを感じていた。
……さっきまであんなもの、あったかい?
――嫌な予感、気味の悪さ。
ロカジはお化けとか、そういう類がとても苦手だ。
いるんだかいないんだか五感で感じられないモノは、どうにも居心地が悪くて仕方が無い。
ほら……怖いとかじゃないけど、ちょっとビックリするし……。
「んあ? なになに、お前こんなのにビビってんのかよ? ほら、よく見ろよ。可愛い顔して……」
そんなロカジの様子に、軽口を叩いたトリスはからからと笑い。
「いやいやいや、なんかやっぱり可笑しいよ、ソレ。絶対ヤバい目をしてるじゃないか。何か起こってからじゃあ遅いんだよ!」
ロカジの腰の引けた返事。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。
何か起こってから――いいや、既に何か起こっている。
「は?」
トリスがロカジに見せつけるように掲げた掌の上で、こけしは振動を始めていた。
「……え、何、何? 何かそのコケシ動いてないか……? なんだいトリス。いやだね、そんな悪戯……」
「何もしちゃいないが?」
「え? なら、その動きは気の所為だよね? いやあ。僕ってば、そんなに酔っ払って……」
怪訝な表情のトリス、どんどん腰が後ろに逃げていくロカジ。
ぎり、ぎり、ぎり、ぎり。
そこへと更に響く、軋む音。
トリスの掌の中でコケシの首が回って、トリスを見上げ――。
どぼ、とコケシの瞳から溢れ出す血。
「うわっ!? な、ななななんだこれ!?」
「ウヒャアッ!?」
ビクーンと肩を跳ねたロカジの視線の先。
思わず一瞬で血に染まった腕でコケシを投げ出したトリスは、咄嗟に腰に手を伸ばすが愛用の得物は何も無い。
そりゃあそうだ、風呂だ。丸腰だ。
虚空を掻いた指先が、虚しく宙を掴む。
「いやいやいやいやいやいやいや、可笑しいって、うわ、うわああやめ、あああああッッ!!」
戦慄く唇。風呂に入ったというのに、ロカジのその唇の色はひどく青い。
「モオオオオッ!! ほらァー!! やっぱりお化けじゃないかぁ!」
絹を裂いたような悲鳴を上げ、一目散に風呂から上がったロカジはそのまま遁走を開始する!
「ちょっ、待てよ! オレを一人にするな!!」
「イヤァーーーー! コケシもオバケもイヤァァ!! 男もイヤァァア!!!」
「ウルセエーー!! お前、そんっ」
逃げようとしたロカジが手早く腰に巻いたタオルへと、思わずトリスは手を伸ばし。
「ゲェッ!?」
瞬間。
とろみのある湯に足を取られ倒れるトリス、そのまま一回転したトリス・ビッグロマンのビッグロマンはぶうらりと宙に遊び。
響く鈍い音。
後頭部を思い切り打ち据えられ――。
「……あ、」
握りしめたタオル。
浴場の床に大の字になったトリスの意識が飛ぶ前に、最後に見えたのはロカジの白い尻であった。
その引き締まった尻エクボの向こうに――、トリスは『真実』を見た。
「おまっ、このネギ!?!?」
それとほぼ同時。
倒れたトリスにタオルを持っていかれ勢いにつられて思いっきりつんのめったロカジは、鈍い音を立てて壁へと頭を打ち。
とぱ、と朱色が壁に散った。
「……う、ッ……」
小さなうめき声。
膝をついて、ゆっくりと倒れ伏すロカジ。
ああ、やっぱり、ああいう類は苦手だねえ。
――静かになった露天風呂。
床に伸びる朱色、あられもない姿で倒れた男二人。
カツカツカツカツカツカツカツ。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。
その横で血まみれのコケシだけが、床とぶつかり合って振動音を上げていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
多々羅・赤銅
【明々】
や〜〜遊んだ遊んだ、楽しかったなー!
ベッドに大の字、うひゃひゃふかふか!ハイで寝れねーから平気ーー!
ね!風呂だカフェだも良いけど、暫く部屋でゆっくりしねえ?
さっき買った酒開けよ開けよ〜、こんな甘いの一人じゃ飲めね〜♡
乾杯!
ねーともひと
今ならさあ、恋人だからー
嘘でも何でも言えるとしたらさー
一緒に死ぬ前に、私に言っておきたい事とか、あーる?
はーい、じゃー私嘘付くぅ!
『寂しくないよ』。
……うひひ。ありがと♡
毒酒を煽る
毒がまわる
からから笑って、寝台に灯人を押し倒して口付ける
祈酒、唇を噛み切って。不浄を漱ぎ命を繋ぐ血を、口内にこぼす、流し込む。
私、生きてるお前が好い。
ふは
ねむてえなあ
あったけえ
浅沼・灯人
【明々】
はー、たぁのしかった
おいすぐ布団に行くなよ、風呂前に寝ちまうぞ
あー?まあ折角買ったんだしな、飲むか飲むか
お互いに注ぎ合って、甘ったるい酒の匂いに酔いながら乾杯
ん?言いたいこと?
まあそうか、恋人だしなぁ
嘘でもとか言うなよ。冗談抜きで言ってやるよ
『……これでもう、寂しかねぇか?』
はは
そうかそうかどういたしまして
じゃ、死ぬかぁ
笑いながら毒を呷る
即効性のやつか?やべえ甘いわ痛ぇわ苦しいわで吐きそうだ
持ってかれそうな意識の中でされるがままに口付けられ
血の味、女の匂い
ああ、そういやこいつは真似事だったなと目を閉じながら
赤銅
死んでも傍にいてやらぁ
はは、酔ってんなぁ俺
だめだなぁ
●孤毒
「や〜〜、遊んだ遊んだぁ。楽しかったなー!」
部屋に入るなりベッドに倒れるように寝転がった赤銅は、マットレスのスプリングを軋ませ。
「うひゃひゃ、ふっかふかじゃーん」
ベッドを叩く彼女を横目に、酒瓶の入った袋を片手にぶら下げた灯人が肩を竦める。
「おいすぐ布団に行くなよ、風呂前に寝ちまうぞ」
「んーん。ハイで寝れねーから平気、平気~~」
ごろんごろ。
寝返りを一つ、いや二つ。
そうして寝転がったままいとけなく笑った赤銅は、灯人を見上げて。
「ね、ね。ともひと、――おかえり」
彼女の言葉に一瞬目を丸くした灯人は、ふ、と眼鏡の奥の眦を緩め。
「……おう、ただいま。あー、今日はたぁのしかったなぁ」
「おー、楽しかった楽しかったぁ」
喉の奥でくっくっと笑った赤銅は、行儀悪くベッドに寝転んだまま。彼の持つ酒瓶の入った袋を引き寄せて。
「風呂だカフェだも良いけどさー、暫く部屋でゆっくりしねえ?」
灯人が袋を手放すとぎゅっと酒瓶を抱き寄せた赤銅が、ベッドの上に座り込みながら提案をした。
「あ? 構わないけどさ」
二人分の外套をハンガーにかける灯人は、背を向けたまま相槌一つ。
「はーい、じゃぁ決まり、決まりぃー。酒開けよ開けよ〜、こんな甘いの一人じゃ飲めね〜♡」
「はいはい、まあ折角買ったんだしな」
そうして備え付けられたグラスを二つ手にすると、さっさと酒瓶を取り出し始めた赤銅の横にベッドを軋ませて灯人も腰掛けた。
とっ、とっ。
部屋に果実めいた甘い香りが広がり、まろやかな透明な液体が彼のグラスを満たし行く。
「ねー、ともひと。今ならさあ、恋人だからさあー、嘘でも何でも言えるとしたらさー」
『最後に』『死ぬ前に』。
早速彼のグラスに酒を注ぎはじめた赤銅は、思いついたように口を開いて。
「……私に言っておきたい事とか、あーる?」
「ん? ……言いたいこと? まあそうか、恋人だしなぁ」
赤銅色の瞳が、黒の瞳を覗き込む。
――この恋人ごっこの結末は、既に決まっているのだから。
「――嘘でもとか言うなよ。冗談抜きで言ってやるよ」
バトンのように酒瓶を受け取った灯人は、まばたき一つ。
とっ、とっ。
彼女のグラスに酒を注ぎ入れる灯人は、少しだけ、悪戯げに笑って。
『……これでもう、寂しかねぇか?』
真っ直ぐに視線を返して言葉を紡がれれば、ふは、と笑った赤銅は桃色の髪を揺らし。
「はーい、じゃー、私は嘘付くぅ!」
グラスに満たされた液体を片手に、先生に当ててもらおうとする生徒のように逆の手をぴっと上げた。
『寂しくないよ』
そうして真っ直ぐに視線を合わせたまま告げる言葉。
「……うひひ。ありがと♡」
「はは、――そうかそうかどういたしまして」
グラスを交わして、乾杯は一度だけ。
言葉重ねて、二人は一気に毒酒を煽った。
「っあ~~~~、甘ぇ、甘いなぁ」
からから笑いながら、更に酒を煽る赤銅。
「あー……、何だコレ。即効性のやつか? やべえ甘いわ痛ぇわ苦しいわで吐きそうだなあ」
反して、灯人は。
甘み、苦味、身体の中に入れてはいけないものに対する反応だろうか。
粟立つ肌、背がぞっと震え、胃が拒否しているかのように冷や汗が吹き出る。
「吐かせねーよぉ」
眉を寄せた灯人の手をとる、掌。
「ん――」
一気に酒を飲み干した赤銅はグラスをベッドの上に転がすと、灯人の掌と貝のように手を結んで。
逆の手でベッドに付いて、自らの体重を支えるように。
馬乗りになって、彼の顔を真っ直ぐに見下ろす赤銅。
きつく犬歯で唇を噛みしめれば、血が滲む。その朱に宿る力は、不浄を漱ぎ命を繋ぐ力だ。
滲んだ血で紅を引けば、彼に噛み付くように唇を重ねる。
――私、生きてるお前が好い。
なんて甘く甘く響く、女の囁き声。
――ああ。そういや、こいつは真似事だったなあ。
唇に当たるピアスの感触にくっと笑った灯人は、逆の手で赤銅の背を引き寄せると、ひしと掻き抱く。
回る視界の中、赤銅色と鮮やかな桃色。
青が天井と混じる。
鉄の味。
むせ返る程の酒の匂い、女の匂い。
熱っぽい息を吐く、彼女の心臓の音まで伝わる距離。
「……ふは、――ねむてえなあ、ほんと、……あったけえ」
そのまま唇を離すと、灯人の胸元に赤銅は頭をぺったりと落として。
「おう、寝ても良いぞ、赤銅。――死んでも傍にいてやらぁ」
そうして灯人はふは、と吹き出した。
「……はは、酔ってんなぁ俺」
だめだなぁ、本当に、本当に――酔っているようだ。
むせ返る酒と、彼女の匂い。
喉奥に残る薬の苦味、鉄の味。
ああ、苦しいなァ。
瞳を瞑った灯人は、貝のように結んだ指先に力を籠めて。
――後に残るのは、甘い匂いばかり。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
夜は様々な事を考える
縁結ばれようとも永遠は無く、軈て終わりを迎えるもの
如何に固い絆とて遅かれ早かれ裂かれる
……死という結末を以て
風呂上がりの彼が戻れば、いつも通り迎える
おかえりなさい、倫太郎殿
温かいお茶を用意しておきました
顔は強張っていないだろうか
貴方の前で変わらぬ「私」を演じられただろうか
何せ、その茶に毒を盛っているのだから
風呂に入るよう言われたのが救いだ
殺そうとしながら、苦しむ顔を見たくないのだから意気地が無い
浴槽に浸かり、いつか、いつかと待ちわびる
そんな時に浴槽に投げ込まれた物を確認する間も無く
体は痺れ、目の前は白くなる
誰がしたかは分かるだろう
――彼も私も、似た者同士なのだから
篝・倫太郎
【華禱】
昼には思い留まったのに、なんて移ろい易い
でも、それが人なんだろう
それでしか独占出来ないんだから仕方ない
仕方ない……嫌な言葉だ
諦めるなんてらしくねぇけどな
風呂、あんたも入れば?
お茶を淹れてる夜彦にそう声を掛け
風呂に入ったのを見届けたら
洗面台に置かれた小洒落た電気スタンドを手に
湯船で寛ぐ夜彦に声を掛ける
やっぱりこれしかないかな?って
そう告げて、スタンドを浴槽に放り込み
呼吸を確認したら
拝借した練り香水を夜彦のコメカミに少しだけ
さて、俺はどうしようか
浮かれた気持ちで
あの人が俺の為に淹れてくれた最後のお茶を飲んで考え……
咽喉が灼けて苦しい
毒……?
なんだ、あんたも同じ結論だったのか――
なんて滑稽な
●薫るは梔子
昏い夜は様々なことを考えてしまう。
どれだけ固く絆を繋ぎ、縁を結ぼうとも、永遠は無い。
やがては終わりを迎えるもの。
『死』と言う結末から、誰しもが逃れる事は出来ないものだ。
――ならば、ならば。
湯上がりの匂い。
浴衣を纏った倫太郎に、夜彦は瞳を細めて笑った。
「おかえりなさい、倫太郎殿」
努めて普段通り、いつもどおり。
「そろそろ上がる頃合いかと思いまして、温かいお茶を用意しておきました」
昨日と、昼と、変わらぬ顔で、今笑えているだろうか。
「ん、あんがとな。次、風呂、あんたも入れば? 内風呂にも温泉が引いてあるなんて贅沢だよなあ」
瞳を細めて応えた倫太郎が、タオルで頭をくしゃくしゃと拭きながら首を傾ぐ。
「ああ、そうですね、では湯が冷えぬ内に、私も頂くと致しましょうか」
「ん、いってらっしゃい」
藍色の髪を纏める飾り紐を引いて、簪を抜き。
「ええ、――いってきます」
頷けば、さっと浴室へと向かった夜彦。
――ああ、『最後』まで貴方は私を救ってくれるのだ。
あの茶に入っているのは、毒だ。
貴方が先に逝く事は、とても恐ろしい。
しかしそれが自らの預かり知らぬ場所で、手の届かぬ場所で逝ってしまうとすれば。
ああ、ゾッとする。
ああ、肝が冷える。
それは何より、恐ろしい事だ。
だから、だから。
貴方を独占するために。
貴方を私のものにする為に。
貴方の最後を、奪うが為に。
貴方を殺す、毒だ。
それでも貴方の苦しむ顔を見るのが恐ろしい。
貴方を殺そうというのに、その最後の顔を見る勇気がないのだから、意気地がないものだ。
ぱしゃり、と跳ねる水音。
とろみのある湯に浸かった夜彦は瞳を閉じて、その時を待ちわびる。
その時。
「――なあ、やっぱりこれしかないかな? って」
壁へと向いていた夜彦の背に、掛けられた声音。
「――ッ、あ……ッ!」
瞬間、視界に星が散った。
痛いとも熱いとも感じない。
意志とは関係無く跳ねる身体。
星が、爆ぜる、爆ぜる。
「……もっと綺麗に出来たら良かったんだけどな」
設置されていた、小洒落た電気スタンドを浴槽へと投げ込んで。
夜彦を感電させた倫太郎は、先程一緒に購入した練り香水を彼のこめかみに少し塗ってやり。
「さあて、俺はどうしようかな」
ゆるい笑みを浮かべた倫太郎は、小さく首を振った。
ああ、こんなにも苦しいのに。
ああ、こんなにも浮かれている。
独占できないなら『仕方ない』だろう。
諦めるなんて、一番らしくなかった筈なのに。
少しばかりぬるくなってしまった最後に彼が淹れてくれた茶を、一気に飲んだ倫太郎はまた笑った。
喉から胃が灼ける様な、熱さ。
呼吸が苦しい気がする。
「……毒?」
本当におかしくなって、はは、と倫太郎は乾いた笑いを零す。
「なんだ、あんたも」
床に膝をついて、そのまま崩れ落ちるように床へと倒れた倫太郎。
――あんたも同じ結論だったのか。
そりゃあ、そりゃあ。
なんて、滑稽な話だろな。
――薫るは梔子の香り。
その部屋に動く者は、もういない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディイ・ディー
🎲🌸
志桜のやつ、何処に行ったんだ?
部屋でゆっくりしようと言ったのに
……志桜!?
倒れている彼女に駆け寄り
上半身を抱き起こす
駄目だ、こんな血……助からない
志桜、ああ、志桜!
伝えたかった事も未だ言えてないってのに
俺を置いていかないでくれ
……嫌だ、いつも俺は遺される側だ
志桜、俺もお前のことが――
腕の中で目を閉じた彼女を絶望の表情で見下ろして
そうか
……
俺も追いかければいい
何処に行っても探すと約束したからな
血で張り付く彼女の髪を指先で掻き分け
額に口付けを落とす
待ってろ志桜
俺もすぐそっちに逝くから
落ちていたナイフで自ら腹を裂き
彼女を掻き抱く
ほら、これでずっと一緒、だ……
(よし。俺様の演技、最高じゃね?)
荻原・志桜
🎲🌸
願わくば、この想いを――
良縁祈る場所にて横たわり
床に広がる咽返るような血の匂い
因みにお手製の血糊(魔法使いに不可能はない!
血濡れのナイフ(芝居用)を恰も投げ捨てられた様に
心臓付近に致命傷と見える細工も
――声が聞こえた気がした
重くなる瞼を薄らと開き
掠れた声で彼の名を紡ぐ
あのね…
言わないと、ぜったい後悔するから
アナタが好きだった、
もっとはやく…言えたら良かった、なぁ…
ごめんね、ディイくん――
芝居であろうといつもの様に笑う彼が好きだなぁと思い乍ら
さいごに少しだけ笑みを作って
滲む世界に彼を残し瞳を閉ざす――
諸々違う意味で死にそうだけれど演技続行
内心叫びたいが態度も顔にも出さない、出さないよ…!
●お芝居
神様、神様。
願わくは、この想いを――。
よく磨かれた廊下が、歩む度に綺麗な音を立てる。
キョロキョロと周りを見渡す、焦茶色の髪。
「うーん……。志桜のやつ、何処に行ったんだ?」
姿を消した志桜を探してディイは、薄ぼんやりとした明かりの照らされた廊下を歩み行く。
ロビーにも、カフェにもその姿は見えず。
彼女から部屋でゆっくりしようと言っていたのに。
喜ぶであろうとカフェで包んで貰ったホロホロの甘いクッキーを片手に、ディイは彼女の姿を探して、探して。
――後、まだ見ていない場所と言えば、『良縁結びの神』の住まう部屋とやらだろうか。
あそこは後で志桜が一緒に見に行こうと言っていたからこそ、まだディイは足を向けてはいなかったのだが……。
「……ま、居なけりゃ居なかったでまた後で一緒に……、……あ?」
紡ぐ言葉を途切れさせて、廊下の角を曲がった先。
朱色に濡れた銀のナイフが落ちている。
ディイは、むせ返るような鉄の香りに目を丸くして。
「……志桜!?」
吠えるように名を呼ぶと、一気に扉の前へと駆け寄り。
クッキーを投げ捨てたディイは、彼女の上半身を抱き起こした。
「志桜……ああ、駄目だ、志桜……!」
朱色に染まった彼女は胸がぱくりと裂けて、とろとろと血が流れ続けている。
ああ、ああ、こんなに血が流れている。
こんなに血が流れて、人が助かる訳も無い。
服が血に染まる事も厭わず、ディイは彼女をぎゅうと抱き寄せて。
「嫌だ、嫌だ。……俺を、俺を置いていかないでくれ。まだ、俺は、何もお前に――!」
「……ぁ、」
声が、聞こえた。
小振袖を真っ赤に染めた志桜は、ひどく重たそうにうっそりと瞳を開く。
「……で、ぃい、くん」
掠れた声。
睫毛を力無く揺らして。
薄く開いた碧は、それでも真っ直ぐにディイを見上げている。
ディイははっと、瞳を見開いて。
「無理に喋るな、傷が――」「いい、の。……あのね、今、言わないと、ぜったい後悔するから」
ディイの言葉を遮るように、志桜は言葉を重ねる。
今、言わなければ。――もう、言えなくなってしまうだろうから。
「……わたしね。わたし、……アナタが好きだった」
ああ、もっとはやく、もっとはやく言えたら、良かったなぁ。
今言ったって、もう、もう、――手遅れなのに。
彼の黒手袋に包まれた掌を握ると、どろりと滑る。
そんな志桜の掌をきゅっと握り返す、ディイの大きな手。
「待て、志桜。俺も、……俺もお前のことが――」
彼の言葉に息を零せば、血が溢れ。
志桜は、笑って見せる。
笑って見せた。
「……ごめんね、ディイくん……」
――いつものように、笑う彼が好きだったのに。
最後にわたしが見る顔は、そんなに昏い顔にさせてしまった。
ねえ、笑って。
言葉にならない言葉。
口を開いて、閉じて、息を吸って、吐いて――。
滲む世界。
腕の中で、強張っていた彼女の身体の力が抜けた。
彼女の為に買ってきたクッキーが、血に濡れている。
ディイの空色の瞳奥に揺れるは、絶望の色。
あのきれいな翠色が、輝く事はもう無い。
ぎり、と奥歯を噛むディイ。
「……いつも、いつも俺は遺される側だ」
瞳を閉じた彼女を一度強く掻き抱いたディイは、動かなくなってしまった志桜を見やって。
「そうか……ああ、……そうだな……」
そうして。
血でへりついた彼女の薄紅色の髪を指先でかき分けてやると、その額に口づけを落とす。
――おやすみ、桜の魔女。
「……俺もすぐ、そっちに逝くからな」
肩を竦めていつものように笑ったディイは、落ちていたナイフを拾い上げ。
一気に、自らの胸を刺し貫く。
「待ってろ志桜。――これでずっと、一緒だ……」
ナイフを引き抜くと、血が一気に溢れた。
もう一度だけ強く彼女を抱いて、ディイは瞳を瞑る。
ああ、神様、神様。
願わくは、この想いを――。
――それはそうとして。
ディイは内心でガッツポをキメていた。
よし。俺様の演技、最高じゃね? おう、完璧じゃね??
――その腕の中。
涼しい顔をして死んでいる志桜は、勿論死んでいた。
死んでいたけれど、いや、死んでいる理由は芝居の傷なんてそんな理由じゃなくて。
違って……、わああ。わああ。ディイくん! ちょっと、わあぁ!
叫び出したい気持ちだけれど、動く事も許されぬ志桜。
大丈夫、演技は上手な方……だから! 大丈夫! 多分!
志桜は耐える。
耐えて、死に続ける。
わああ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
前を歩む君をぼんやり見る
どうして
浮気を疑うの
考えて考えて解った
櫻は僕を愛してくれる
けど戀をしたわけじゃないんだ
朧気ながら感じてた壁の正体に気がつき震える
愛を喰らう櫻龍に愛を歌う人魚は良い贄
それだけ?
ぐるぐるどろどろで苦しい
胸が痛い
温もりも笑顔も香りも全部全部離したくない
こんなに好きなのに
信じてくれない
嫌われてしまう
殺すことが愛であると櫻は言う
ならば
櫻宵
揺桜を握りしめ
振り向く君の脇腹を刺し貫き押し倒し
揺れる桜を縫い止める
子供の戀と馬鹿にするな
僕は本気で誘名櫻宵を愛してる
殺したい程愛してる
幸せなど要らない
君の愛があればいい
零れる涙
血の味のするキスをして
毒蜜煽り溶けるよう泡になる
(本気だバカ
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
まだ拗ねてるの?
噂の部屋を見に行くわ
リルを守る為
罠に警戒し前を歩く
愛してるのは本当
戀の淵に踏み留まり
大人と子供という壁で誤魔化し
咲かせてはいけないと戒めた
本当に喰い殺す前に逃がせるように
戀が咲いて
戀獄堕ちれば
もう取り返しがつかないの
振り向けば突然の熱に衝撃
驚き見遣り…人魚に見蕩れ
戀桜が咲く
いけない
縫い止められる
潤む湖面に映るのは私だけ
愛を示し白を赤に染めた人魚が愛しい
殺戮の高揚とは違う鼓動
歓喜に暴れる心臓が煩い
甘い血馨と刃が伝う愛に傷が笑み
人魚の泪が八塩折之酒より私を酔わす
重なる脣で紅をひき
毒に人魚を攫われて
零れる桜雨
泡となる人魚をかき抱き倒れ伏す
いつも喪ってから
気がつくの
(これ演技?
●人魚の戀
先を歩む、櫻宵の背。
『良縁結びの神』の住まう部屋に向かう道。
ねえ、どうして?
どうして、浮気を疑ったりするんだ。
ずっとずっと、リルは考えていた。
そして行き当たった、一つの結論。
『櫻宵はリルを愛してくれている、けれど戀をしたわけではない』。
ずっと、ずっと。
朧気ながら感じていた壁の正体に行き当たってしまったリルは、肌がぞっと粟立つ。
愛を喰らう櫻龍へと、愛を歌う人魚。
そこにあるのは、愛。
そこにあるのは、ただの贄。
贄。
――僕は、贄。
それだけ?
ぐるぐる、どろどろ。
胸の奥から嫌な気持ちが溢れて混ざって、苦しい。痛い。
だから、浮気を疑ってみたりするんだ。
こんなに好きなのに。
こんなに、こんなに、こんなに。
抱かれる温もりも、綺麗な笑顔も、甘い香りも、全部、全部、全部、全部。
離したくない。
離れたくない。
信じてくれない。
――嫌われてしまう。
「リル、まだ拗ねてるの?」
その言葉に返事は無く、肩を竦める櫻宵。
勿論、影朧の罠が仕掛けられている事は知っている。
死んだふりをする必要が在るとは言え、罠にかかって本当に死んでしまっては意味がない。
だからこそ櫻宵は前を歩み、警戒をしながらリルが見に行きたいと言った部屋へと向かっていた。
――櫻宵がリルを愛してるのは、本当だ。
だからこそ。
『戀に落ちぬように』。
大人と子供という壁で誤魔化し、戀の花をけして咲かせてはいけないと自らを戒めた。
――櫻宵の愛は、愛した者を喰らう形で満たされる。満たしてしまう。
甘い甘い血。
甘い甘い肉。
だからこそ、リルを本当に喰い殺す前に逃がせるように。
戀に落ちぬように、戀の淵で踏みとどまる。
――戀が咲いて、戀獄堕ちれば。もう取り返しがつかないものだ。
赦されたとしても、赦してはいけない。
困らせるように誂う言動は、最後の防波堤。
――その言葉で今日のリルは、随分と思い悩んでしまったようだけれども。
そこに。
「……櫻宵」
やっとの事で口を開いてくれたリルに、櫻宵は少し笑って。
「なあに、リ……」
振り向くと同時に感じたのは、脇腹への熱。
――目を見開く。
自らの贈った桜色の短刀が、鍔まで腹に押し込まれていた。
リルが尾鰭で空気を弾いて飛び込めば、そのまま櫻宵を押し倒す、縫い止める。
そうして覆いかぶさる形で、腕を床へと立てたリルは、櫻宵を見下ろして。
「――子供の戀と馬鹿にするな! 僕は本気で、誘名・櫻宵を愛してるんだ」
吠えた。
海色の瞳奥に、激情が揺れる。
とくとくと脇腹が熱打っている。
櫻宵は息を飲むばかり。
リルの瞳一杯に溢れて溜まった熱い雫が、ゆらゆらと揺れたかと思うと。ほたり、と頬へと一粒落ちた。
……熱い、熱い、泪。
「殺したい程、愛してる」
潤むリルの瞳に映るのは、櫻宵の姿だけ。
頬に掌を添えると、噛み付くように口づけを重ねてリルは囁く。
「幸せなんて要らない、――君の愛があればいい」
櫻宵の血がリルの白い手を染めている。
「……リル」
一度離れた唇に、櫻宵は人魚に血で紅を引いてやる。
愛を示して、白を赤に染めた人魚がこんなにも愛しい。
鼓動がとくとくと、首を刈る時とは違った高鳴りを見せる。
心臓が痛い。
これは喜び、歓喜に跳ねる心臓の痛み。
心臓が脈打つたびに、血の匂いが強まって傷口が笑むように歪む。
人魚の泪は、7回絞られた八鹽折之酒よりもよっぽど強く櫻宵を酔わせる。
幾度も重ねられる甘い香りのする、血の味の口づけ。
――王子に愛を貰うことが出来なければ、人魚は海の泡となって消えてしまう。
「……櫻」
とろりとこぼれ落ちた人魚が、泡と化す。
ねえ。
たとえ僕が泡になったとして、君は、僕を――。
「あ、……」
自らの血と混じり、泡と化したリルをすくい上げて櫻宵は惚けたように言葉を零した。
泡を掻き抱いて、もう力の入らぬ身体を床に預けてると、瞳を瞑る。
とく、とく。
脇腹からこぼれ落ちる命の色。
――いつも、いつもそう。
いつも、喪ってから気がつくのだ。
――ところで、これ演技よね?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オニバス・ビロウ
件の一番奥にある立派なお部屋を目指しながらあっちこっち散歩してるよ
折角だし僕も良縁結びの神様にお祈りしたい
いつの日かまだ見ぬ僕の可愛いお嫁さんに会える事を何よりも願っているからね!
おっと思わず本音が
と、無駄口を叩きつつ仕掛けられた罠を避ける
ぴあの線も縦横無尽に刺しに来る刃も転がる大岩も何のその!
探偵は頭脳だけでなくふぃじかるも大事なのさ
でも流石に疲れたのでべんちがある中庭で一休み
…しようとしたら深い落とし穴に落ちたー!
うわー何か底に長い棘状の何かが仕込んである!
完全に罠を避けきって油断した所をやられたー!ぐえー!
…花桃の念動力で浮かせて貰えなければ本当に串刺しだった訳だが
あっやめろ高度落とすな
●事件の匂い
いつの日か、連れ去られたオニバスの可愛い可愛いお嫁さんにまた会える事を祈って『良縁結びの神』の住まう部屋へと願掛けにゆこうかと。
部屋を目指して廊下を歩くオニバスの探偵の勘が、ビンビンに働いていた。
「ううむ……そこもかしこも事件の匂いがするね」
血の匂い。
残された血痕。
閉鎖されたカフェ――……、どこもかしこも何かしら起こりだしているようであった。
成程、影朧も動き出しているのであろう。
だってさっきから、沢山の罠がオニバスを襲いかかって来ていたし。
丁度首の位置に設置されていたピアノ線をひょいとくぐり抜けて、降り落ちてきた刃を既の所でバックステップで躱す。
探偵に必要なものは、灰色の脳細胞煌めく頭脳だけでなく、ふぃじかるも大切なのだとはオニバスの言。
「……でも流石に少し疲れたな」
罠を潰して回るのも良いが、『良縁結びの神』の住まう部屋に向かいたいだけだと言うのに。
ふう、と肩を竦めて設置されていたベンチに腰掛けると――。
「うわー!」
いわゆるブービートラップというやつだ。
がこん、と床が開いてその身体が自由落下する。
こゃあん!
肩に巻き付いた小狐が小さく鳴いて、その落下がぷかりと緩やかになるが――。
しかし、オニバスは叫ぶ。
「完全に罠を避けきって油断した所をやられたー! グエー!!!」
底に仕込まれた長い棘。
しかし小狐――花桃が念動力で浮かせてくれて、棘はギリギリオニバスの腹にあたるか、当たらないかの位置で留まっている。
「串刺しになってしまったー!!」
そっかあ~。
めちゃくちゃオニバスは演技が下手くそであった。
力強い棒読みだが、本人は真剣そのもの。
気の抜けた花桃が念動力を緩めた瞬間、ちくっと腹が痛い。
「あっあっやめて、高度落とさないで、まって。後で甘いのあげるから!」
その言葉に、こやん! と気合を入れ直す花桃。
よし、よし。
頷いたオニバスは舌をべろんと出して。
生殺与奪の権利を小狐に握られたまま、穴の中で死んだふりをするのであった。
哀れ、探偵は事件を解決することなく死んでしまった!
……えっ、これ落ちない? 大丈夫かな~~。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・ペンドリーノ
スバルちゃん(f00127)とリア(f00037)と
「そんな! リアが死……死ん、死んでっ……ぷっ……ふふ」
ダメよ私!
いくら真面目に死んだふりしてるリアがおもしろ可愛いからってここは笑っちゃダメ!
…つんつんしても我慢してるっ…ダメ、かわいい
「っく……す、スバルちゃんっ! 貴女が殺したんでしょっ!」
と、次の死んだふりにつなげるためにスバルちゃんに襲い掛からなきゃ!
「ゆるせなっ、ふふっ、ゆるせない! これはリアの、ぷふっ、リアの怨み、よっ!」
駄目だこれ笑いすぎて力入らない
って、あぶないっ! リアに躓くところだったわ、ってあら、バランスが…
(転んでスバルちゃんに頭をぶつけ気絶、もとい死んだふりする)
スバル・ペンドリーノ
お姉さま(f00791)、リア(f00037)と
「リ、リア……!? 嘘よ、そんなわけが……!」
伏線ぽいセリフを混ぜつつ演技、駆け寄って
けど、ちょっと不安
きっと、死んだリアなんて見てたら、嘘でもほんとに悲しく……悲し、く……(ちらっ)(吹き出す衝動を堪える)
あ、お姉さま、半笑いじゃない! ズル、じゃない、ダメよもう!
「っ……な、なに言ってるの!? お姉さまこそ、私とリアの仲に嫉妬して……ぷ、ふふっ」
リアの首を取り合うように抱く……振りをしながら、耳をこちょこちょ
もう、リアが面白い恰好してるのが悪いんだからね!
「なんですって!? こっちのセリフよ、リアの仇は私が――えっちょっ話と違、おね」
ごいーん
コーディリア・アレキサンダ
>スバル(f00127)とステラ(f00791)と
>台詞のアドリブ大歓迎です
パタパタと2人より先に部屋に戻らないと
色々準備があるし……旗を立てた手前、先に死んでいなきゃいけないし
頑張ろう(ぐっ)
…… ……
……
…
(お手製のテーブル(箱)に入って、穴から首だけ出している)
(まるで首だけ斬り落とされたように)
(……口元に塗ったこの血糊っていうのあんまり美味しくないな……)
(生首らしく動かないようにしなきゃ……)
(え、なんで笑ってるんだろう。何か面白いこと……だめだめ、目は開けないようにしなきゃ)
(あっあっ、また喧嘩してる……大丈夫かな、ケガしないといいけど)
(あ、待って触らないで。くすぐったい!)
●ちゃんとやって
「そんな……、リア、リアッ!!」
客室の一室より響いた、絹を裂くような悲鳴。
戦慄いた様子でステラはふるふると首を左右に振り、その凄惨な光景に口を押さえて思わず後ずさった。
「リアが、死っ……死ん、死んで……」
「リ、リア……!? 嘘よ、そんなわけが……!」
姉とは逆に、目を見開いたスバルは一目散に床を蹴って。
血に塗れたコーディリアへと駆け寄ると、鮮血が掌を汚す事も厭わずにその頬に手を添えた。
変わり果ててしまった愛おしい彼女の姿。
――瞳を瞑った、首だけのコーディリア。
首元に広がった鮮血が、ぽたりぽたりと床へとこぼれ落ちている。
その下にある筈身体は見えず、なんだか箱っぽい机の上に置かれたその首は……、そう、ええと。
……あああ、まって、駄目よ、駄目。
笑っちゃダメよ私!
「……うっ……ぷ、ふ……」
口を押さえて小さく息を飲んだステラが、なんだかすごくシュールな光景に噴き出しそうになるのを我慢すべく、頬を膨らせて。努めて難しい表情で眉を寄せて、我慢。
えっ、なんだろう。
頑張って死んだふりをしているけれど、どうみたって箱に詰まった可愛い生き物。
うん、笑っちゃダメ。……ダメよ。我慢、我慢よ。
喉を引きつらせて、ステラは顔を振る。
それはあたかも傷嘆に沈む娘のように。
「リア、……リア! ああ、どうして……」
スバルは耐え忍ぶように瞳を瞑ってから、目を開く。
コーディリアが死んでしまう事なんて、想像だけでも悲しくなると言うのに。
――悲しく……。
目の前のコーディリアを見下ろして、スバルは頬を優しくなで、なで。
ソレに合わせて小さく震えるコーディリア。
「……ふ、……ぷ、く……っ」
あっ、我慢してる~、可愛い~~。
小さく吹き出ししそうになったスバルは、慌てて口を抑え。
その二人の様子につられて、吹き出しそうになったステラも顔を覆った。
え~~、なになに? 二人ともめちゃくちゃ可愛い~~!
その時。
生首たるコーディリアは、努めてじっと身体を動かさないようにぎゅっと箱の中で身体を縮こまらせていた。
――えっ、何?
何?
なんで笑ってるんだろう……、何か面白い事があったのかな……?
うう、これはスバルの指かな。頬がくすぐったい!
でも、我慢、我慢……。
――そう、コーディリアが必死に耐えている通り。
今は笑っている場合では無い。
ちゃあんと『演技』しなければいけない時だ。
きりりと唇を引き絞ったステラは、スバルを睨めつけるとその鼻先に人差し指を突きつけて。
「っく……ふ、……す、スバルちゃんっ! 貴女が殺したんでしょっ!」
……あっ、お姉さま、ちょっと半笑いじゃない!
ズル……、じゃなくて。もーっ、ダメよもう! ちゃんとやりましょう!?
内心姉を窘めながら、ステラをきっと睨み返したスバルも吠える。
「……な、何を言ってるのっ!? お姉さまこそ、私とリアの仲に嫉妬してリアを……!」
「嘘よ! ……嫉妬したからって、リアを殺す訳ないじゃないの!」
一気に地を蹴って飛び込んで来るステラに対して、ぐっと身構えたスバルはコーディリアの首を護るように抱きしめて。
腕の中にコーディリアの頭がある事がちょっとおもしろくなってしまったので、ついでにコーディリアの耳を擽った。
ごめんね、リア。
でも、あなたが面白い格好をしているのも悪いと思うわ!
腕の中でぷるぷるするコーディリア。
また二人とも喧嘩して。
ケガ、しないかな。
……大丈夫かな。
って、――あっ、まって、まって、触らないで、くすぐったいっ。
う、うう。
垂れてきた血糊が口に入って、変な味がする。
我慢、我慢。
う、動かないように、動かないように……。
ぷるぷるするコーディリア。
スバルの腕の中だから、きっと大丈夫。きっと……。
「ゆるせなっ、ふふっ、ゆるせない! これはリアの、ぷふっ、リアの怨み、よっ!」
飛び込んできたステラはもう、半分以上笑いながらスバルへと腕を伸ばし。
「なんですって!? こっちのセリフよ、リアの仇は私が……っ」
ぎゅっと更にコーディリアの頭を抱き寄せたスバルは、ステラから身を護ろうと腕を前に突きだした。
あっ。なんだかリアが、スバルちゃんの腕の中でぷるぷるしてる~。
かわいい~。
ふっと笑気が零れたステラは、スバルの腕を避けた先で気を緩め。
そうして、コーディリア箱に足を引っ掛けて――。
「あっ……」
「――えっ? ちょっ、まっ……話と違……っ、おね」
ずべっ。
滑る足、宙を泳ぐ視線。
ステラが落ちてきて慌てるスバル。
コーディリアを守るべく、スバルはぎゅっと彼女の頭を抱えて。
制御を失ったステラの身体は、慣性のままに。
大きく一回転したステラは、スバルの頭に向かって――。
ごんっ。
響く鈍い音。
視界が白くなって、ばちりと星が散り。
ステラとスバルは、頭と頭をぶつけ合ってその場に崩れ落ち――意識を失……、もとい二人は死んだ。
……えっ、何、何?
何、今の鈍い音?
二人とも、本当に大丈夫……?
えっ、目、目をあけちゃ……だ、だめだけれど。
だ、大丈夫なのかな……?
ど、どうなっちゃったの……???
静かになってしまった部屋で、目を瞑って生首のフリをしているコーディリアだけが静かに慌てていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐那・千之助
すっかり出遅れてしもうたな
ナンパしては清々しく全滅しておった。おかしい。
…逸楽に耽ってきたこの身も
ひとりを知りそめてから、余所見が下手になったようで
良縁結びの神の元へ
ナンパ成功祈願に来た軽薄な者にでも見えるかの?
静かに捧ぐ祈りは
私の想い人に、この先の良縁がありますように
…私の想いは、ただの『好き』
往くべき道があるから共に歩めない。先の約束を交わせない。
これを戀とは呼ぶまい
離れたあとで戀しいなどと思わぬよう
神様、どうか幸せな縁を
私のただひとつの宝へ
重症じゃ。恋の病に効く湯で治そう!
湯の暖簾を潜れば足元にピアノ線、身体を貫く弓の罠。
最期にひとしずく、そなたの血を…と虚空に呟き死ぬ
こっそりUCで治療
●『戀』
旅館の中に漂う血の香りが濃くなってきている事を、佐那・千之助(火輪・f00454)はその血で理解していた。
しかし。
彼はあくまでも、この旅館で何が起こっているかも与り知らぬ好色で放蕩な青年のように振る舞い『良縁結びの神』の住まう部屋へと向かって歩いていた。
いやまあ。
実際昼間にしたナンパは、全て清々しいまでに全滅してしまったのだけれども。
ううむ。……こんな筈では無い予定だったのだが、実に不思議だの?
……――或いは。
逸楽に耽ってきたこの身も。
『ひとり』を知り初めてしまってから、ただ余所見が下手になってしまったのだけなのかもしれない。
内の想いは、外には見えぬ。
この旅館に招待されている、という事は既に影朧は軽薄な男だと判断してくれている事だろうが。
そう思ってくれているのならば、好都合。
――この想いは、ただの『好き』だ。
千之助には往くべき道がある、赫奕と照らすべき道がある。
だからこそ共に歩む事は出来はしない。
どれだけ歩もうとも、この先の道が交わる事は無い。
――果たされない約束を交わす事は、千之助にはとても出来ない。
だからこそ、だからこそ。
この想いを、『戀』などと呼ぶことはしない。
血の匂いが遠く薫る廊下の奥を、千之助は見遣る。
「――……神様」
神様。
そこにいらっしゃるのならば。
どうか、どうか。
――私のただひとつの宝へ、幸せな縁を。
私の想い人に、この先の良縁を。
共に歩み、先を誓う事の出来る縁が結ばれる事を。
――離れた後に、戀しいなどと私が思わぬように。
「……は、重傷じゃの」
肩を竦めて、千之助は自嘲するように唇を擡げて笑った。
こりゃあ、恋の病に効く湯で治すしかあるまい。
そうして千之助が踵を返した、瞬間。
「ぐ……ッ!」
最初に感じたのは熱。
次に冷たさ。
ふらついた身体を廊下の壁に押しつけて腹に掌を当てると、ひゅう、ひゅう、と笛のように喉が鳴った。
「……最後に、……一雫」
――そなたの血を。
虚空に掻き消えた言葉は、紡ぎきられる事は無く。
掌の間から溢れる朱色。
とくとくとは流れ出る命の色は、止まらない。
そう。
――音もなく真っ直ぐに飛んできた矢が、千之助の腹を貫いていた。
膝をついてその場に崩れ落ちた千之助を、ひいらりひらり。
炎の蝶だけが見下ろしていた。
大成功
🔵🔵🔵
エレアリーゼ・ローエンシュタイン
ヴォルフ(f09192)と
これからの筋書き、これが影朧の好みなのかしら
バッドエンドも甚だしいじゃない
夜更けに彼の部屋へ
…今宵、貴方だけに
どうしてもお伝えしたいことがあるの
そっと、彼の胸に寄り添って
——袖口に隠した刃を突き立てて
本当は私、知っていたのよ
貴方が私を見ていないことも
花を求める蝶のように
いずれ遠くへ行ってしまうことも
倒れる彼を見下ろして
これで私だけのものと、涙を流して笑ってみせて
これが幕切れ
戀の終わり
あまりに愚かなバッドエンド
…稼働式の刃に仕込の血糊
本当に彼を傷付けてはいない筈だけど
大人の、証?
少しだけ演じるのを忘れてた
だってこんなの、子供じみた無いものねだりって
そう思っていたんだもの
ヴォルフガング・ディーツェ
エル(f01792)と
さて、ね…悲劇はとみに人の気を惹くものではあるけれど、彼の者の胸中は如何なるかね
ぬばたまに響く音にうっそりと嗤って
嗚呼、「悲劇」が芽吹いたか
胸中はおくびにも出さず、いつもの甘ったるい笑顔で迎え入れれば…胸元に咲くのは血糊から溢れる赤の花
…嗚呼、愛してなどいなかったさ
君は綺麗過ぎて、止まり木になど出来はしなかった
だが…今の君なら、大人になった君になら囚われても、良いかもね
おめでとう「妖精さん」
想像の翅は墜ちた、地を踏みしめる大人になったんだ、よ
最後に笑って呪いを掛けて事切れる演技を
…素の儘立ち尽くす君をくしゃりと撫でて
大丈夫、君は無理に大人にならなくて良い
まだ、早すぎるよ
●おめでとう
夜の帳も落ちた頃。
乾いたノックの音が、こつこつと部屋に響いた。
「開いてるよ」
部屋に備え付けられていた小説を手慰みに、開いていたヴォルフガングは本を閉じて。
「……どうしても、お伝えしたい事があるの」
「そうか、じゃ。入っておいでよ。――お茶は飲むかい?」
ノックの主――エレアリーゼが扉より顔を覗かせると、ヴォルフガングは柔らかく笑んでみせた。
その言葉の後半には、小さく首を左右に振って応じるエレアリーゼ。
彼女はゆっくりと彼の腰掛ける椅子まで歩み寄って、彼へと撓垂れかかり。
「お茶はいいわ。それよりも、ね?」
いとけなく笑ったエレアリーゼは、ヴォルフガングの胸に手を這わせる。
――そして。
袖口に隠した銀の刃を、一息に彼の胸へと突き立てた。
「……!」
冷たい刃に貫かれた胸に、まるで熱い鉄をねじ込まれたかのような表情を浮かべたヴォルフガング。
とく、とく。
仕込んだパックより零れ落ちる命の色が、どこか非現実的に胸に朱色の花を咲かせている。
「本当は私、知っていたのよ、貴方が私を見ていないことも。――花を求める蝶のように、いずれ遠くへ行ってしまうことも」
刺されたのはヴォルフガングの方だと言うのに、赤い瞳よりほろり、ほろり零れ落ちる大粒の滴。
酷く苦しげに。痛みに耐えるような言葉を絞り出すようなエレアリーゼの頬を、包み込むヴォルフガングの節ばった大きな掌。
「嗚呼、――愛してなど、いなかったさ」
「なら、……これで私だけのものね」
エレアリーゼは笑みを作る。
先程と同じく、いとけなく笑ってみせる。
首を振ったヴォルフガングは、かひゅ、と血糊混じりの咳を零して。
泪を湛えた桃色の瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。
――ああ、『悲劇』は芽吹いたか。
「君は綺麗過ぎて、……止まり木になど出来はしなかった」
包み込んでいた白い頬に朱を残して、力なく滑り落ちてゆく指先。
しかし狼は、嗤って尚も言葉を紡ぐ。
「だが……今の君なら、大人になった君になら囚われても、良いかもね」
「ヴォルフ……」
彼の言葉に、エレアリーゼの握る刃の持ち手に力が籠もる。
ああ。
コレが幕切れ。
コレが戀の終わり。
影朧の好みがこのようなものだとしたら、余りに悪趣味であろう。
「――おめでとう、『妖精さん』。想像の翅は墜ちた、地を踏みしめる大人になったんだ、よ」
椅子の上でひゅうひゅうと肩で息をしながら、ヴォルフガングは甘い呪いを口にする。
――彼の者の胸中は知りはせぬが、悲劇とは人の気を惹くものだ。
「おとなの、……証?」
彼の言葉を拾って、思わずぽつりと零しすエレアリーゼ。
欲しいから奪う。
欲しいから閉じ込める。
――それは癇癪を起こした子どもじみた、無い物ねだりじゃないのかしら?
瞬きを重ねて。
演じるのを少しだけ忘れてしまった彼女の頭に、ヴォルフガングは掌を乗せて。
くしゃ、となで回すと、弛緩させた身体を背もたれに預けた。
「……大丈夫、君は無理に大人にならなくて良い」
――まだ、早すぎるよ。
ひゅ、と息を吸って、吐いて。
そうして、瞳を瞑って動かなくなったヴォルフガング。
そこに。
「……そんなの、ずるいじゃないの」
小さく響く、少女の声。
残されたエレアリーゼの持つ朱色に染まった刃を、てらてらと妖しく月明かりだけが照らしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
勾坂・薺
クレムさん(f03413)と
個室で運ばれて来る料理の数々に目を爛々と
どれもおいしそうだなぁ
早速食べよっか、クレムさん。頂きまーす
謎の粉を食べ物に振りかけて
はい、クレムさん、食べてみて。あーん。
……効いてきた頃かな。
え、身体が痺れる?そっか。
まぁそれ、痺れ薬が入ってるからさ
何でこんな事するのかって?
だって、クレムさん、他の女の匂いがするし
怪しいと思ってたんだ、ずっと
言ったよね、わたし
浮気は絶対許さないってさ
ナイフを手にとり
大丈夫、クレムさんをめった刺しにしたら
わたしも死ぬから
死ぬ時は一緒で嬉しいなぁ
ふう。……もう息してないかな。
……うっ、苦しい
さっき食べた食べ物、
痺れたけどまさか本当の毒じゃ――
クレム・クラウベル
薺(f00735)と
女というのは単純だ
美味いものや綺麗なもの、かわいいもの
そんなものを与えればころりと機嫌もなおる
――ほら、この通り
ああ、頂きます
差し出された料理を一口食んで舌鼓を打つ
流石噂に聞く場所なだけはあるな、美味い
薺も遠慮せずに食べてくれよ
違和感が訪れるのは間もなく
うん……? なんだ、酒も入れてないのに酔ったか?
いや、これは……痺れ……な、ぜ
舌も回らねば弁解も許されず
……ああ。これだから、小賢しい女は厄介だ
ただ、騙されていればいいものを
とぷりとあふれる生温い血
やれやれ、どうせ死ぬにしても、もう少し楽なのが良かった……な……
(※ご安心ください血糊です)
●一緒
部屋まで運んで貰った料理は、机を埋めつくさんばかり。
根菜のスープに、冬野菜のサラダ。
野菜をしっかりと煮込んだ料理に、キノコと魚のオーブン焼き。
パイで包んだお肉に――。
ずらりと綺麗にならんだ美味しそうな食事達の姿に、薺は瞳を輝かせて。
「どれもおいしそうだねぇ」
「そうだな」
彼女の言葉に頷いたクレムは、知っている。
女はひどく単純な生き物である事を。
女がどれほど簡単に、掌の中で転がってくれるかと言う事を。
美味しいもの、綺麗なもの、可愛いもの。
すこし望むものを与えてやるだけで、ころりと機嫌だって直ってくれる。
こちらを見る彼女の瞳の色からは、昼間に感じた何か疑うような不機嫌そうな色は既に消えているように見えた。
「ね、クレムさん。冷える前に食べようよ」
「……ああ、頂きます」
「いただきまーす」
クレムが食事を始めると、ささっと懐から薺が取り出したのは白い粉。
女――薺だって。
美味しいものを前にすれば、ほらこの通り。
少し望むものを与えてやるだけで、こんなに楽しそうにしている。
スープを飲むクレムが気付かぬうちに、さらさらとパイの包み焼きにかけてやり。
一瞬で肉汁と馴染んだ粉は、これで食べやすくなっている事であろう。
「はい、クレムさん。コレ美味しかったよ食べてみて。あーん」
食べてもいない料理を美味しいと言い切って。
薺が差し出した肉を、クレムは疑いも無くぱくりと一口。
「ん。流石、噂に聞く旅館なだけはあるな、美味いよ。薺も遠慮せず食べてくれよ?」
「うん、勿論」
女を掌の上で転がしていると信じているクレムは、なにも気づきもしない。
こっくり頷いた薺は、更にサラダを取り分け――。
「はい、どうぞクレムさん」
「悪いな、ありがとう」
「あ、そういえばこの前……」
和やかな食事。
柔らかく交わす言葉。
他愛の無い雑談を重ねている内に、クレムは違和感に気がついた。
「……ん?」
酒も飲んでいないのに、痺れる身体。
けだるさ、喉の奥が腫れぼったい気がする。
「あ、効いてきたかな?」
「効いて……? 何を……」
「え、それに痺れる薬を入れたからさ。動ける?」
「…………な、……こ、れ」
「ふふ、効いてきたみたいだね」
舌すら回らなくなってきたクレムに、薺はくすくすといかにもおかしそうに笑いかけた。
それは先程料理を目の前にしていた時よりも、ずっとずっと楽しそうな笑顔。
その瞳の色は変わらぬ筈なのに、酷く冷たい色をしているように思える。
「ねえ、クレムさん。――どうして他の女と浮気したりしたの?」
薺が鞄から取り出した大きな大きなナイフが照明を浴びて、妖しい光を照り返している。
「言ったよね、わたし。浮気は絶対許さないってさ」
「……ん、ぅ!」
弁明も出来ず、口を利くことすら許されぬ状況。
瞬間。
与えられた衝撃に、銀色の髪へとぱっと朱色が散った。
大きなナイフを叩き込まれたクレムの胸より、とぷりと生ぬるい血が溢れ落ちる。
それは命の色。
それはただの血糊。
「っ、……く……」
「怪しいと思ってたんだよね、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと」
言葉に合わせて、何度も、何度も、クレムへと振り下ろされるナイフ。
その度に血が飛び散り、身体が小さく跳ねて、その中心で薺はほうと息を吐く。
「大丈夫、すぐわたしも死ぬからね」
薺のきれいな緑色の奥に宿った狂気が、ゆらゆらゆれている。
ああ。
これだから小賢しい女は厄介なのだ。
――ただ、掌の上で転がって騙されていれば良いものを。
幾度も叩き込まれた刃に、肉が潰され、筋が裂かれ、骨だって痛んでいる設定だ。
けぽ、と血糊を吐き出してクレムは、まともに動かぬ身体に向かって狂刃を叩き込まれるばかり。
――やれやれ、どうせ死ぬにしても。
「……う、……すこ、し、……楽なのがよかった、――な」
「あは、大丈夫。すぐわたしも同じように逝くからさ。死ぬ時は一緒で嬉しいなぁ」
他の女の匂いは、全部クレムさんの血の匂いでかき消しちゃおう。
わたしの血の匂いと、混ぜて、交わして。
なんて。
「ふう。クレムさん……、あれ。もう息してないかな?」
首を傾いだ薺は、最早動かなくなったクレムに刃を振り下ろすのを止めると――。
「……うっ」
その場で肩を跳ねて、嘔吐くように。
ぴり、と指先が痺れるような気がする。
薺はその吐き気と痺れに首を押さえる。
「もしかして、さっきの食事に本当の毒が――?」
……例え、本当に毒が入っていたとしても。
ヤドリガミの薺は本体に傷さえ付かなければ、身体自体は仮初めのもの。
平気では、あるのだが――。
ひゅう、と息を零して。
薺は動かなくなったクレムを横目で見遣った。
「……これも、おそろいだね」
そうして。
ナイフをしっかりと両手で握り直した薺は、その刃を自らへと向け――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佳月・清宵
【迷作劇場】
混迷極める泥沼に迫る新たな魔の手
(更なる浮気相手役で乱入の意)
拗れに拗れた糸の先は――
◇
(待ち焦がれた相手――伊織に笑顔向け
咄嗟に扉へ其処らのこけし挟み)
何でってそりゃあお前が恋しくて追ってきたんだよ
俺というものがありながら――俺の(?)小町やウルスラや菊里(?)といちゃつく(?)姿を見かけたが、ありゃ何だ?(己も全方位浮気なのは棚上げ)
答えろよ
(ぐいと引き寄せ壁際にドンと――した拍子に天井から刃がさくり
刃吊る糸が血に染まる様子に嗤い)
…はっ
死神と紅い糸で結ばれるたァ傑作だ
俺は本気(で迫真の出オチ)に決まってんだろ…
嗚呼、そんな顔(酷い涙目)すんなよ
(傍らにはこけしが血塗れで嗤い)
千家・菊里
【迷作劇場】
あの後敢えて伊織を見逃(また泳がせ&踊らせてあげる事に)し庭でのんびり
何処かに美味しいものくれる人でも転がっていないかなぁなんて思っていたら
おやおや――
やはり俺が恋しくなったんですね
何だか既に息も絶え絶えですがまたフラれたんですか?
(出オチ要員の件は素知らぬ顔で)
可哀想に…では改めて、慰め愛でてあげようか
あ、その前に
あの雪(不自然に山盛)の下に御馳走の気配がするので見てきます
(狐に変化し狩りもといぴょんと頭から雪に――嵌まった侭固まり
某湖足の様な光景が)
(迫真)
(最後の力で尻尾使い雪に『ごはん』と書き――毒餌の見立か、傍らには口から血流し嗤うこけしが)
(後は色んな意味で任せました)
ウルスラ・クライスト
【迷作劇場】
館内索敵の道すがらに
調達した洋酒とつまみを抱え
我が身を狙う刃物には目も遣らず、ひらひら避けながら
小町と酒宴中の自室へ帰還
賑やかな隣室も少しだけ様子を伺ったけど
もう事件は始まってるみたいね
ただいま小町姐さま、お隣は何だか盛り上がっていたわ!
あっちの雪溜まりに刺さってた狐
もしかして菊だったかしら?
楽しい夜ね――(来訪の気配にドアを引き)
あら伊織、男の修羅場はもういいの?
そう、先立たれてしまったの……
それは寂しいわね。ついでで良ければ慰めてあげましょうか?
ころころと毒酒を注いでは呷り
伊織が倒れ、小町が気持ち良さそうに眠ったのを見届け
満足そうに微笑んで
私だけなんて、あぁ嬉しい。胸が苦しいわ
花川・小町
【迷作劇場】
■粗筋
紛れ込む新手
色気にも食気にも抜目ない狐
再び泳ぎ踊る総受難子羊
二人の世界に旅立った侭の女達
死の影には嗤うこけし人形
果たして良縁神が微笑む刻は――
■
事件?痴話喧嘩かしら?
隣(出オチ)は私もチラ見したけどお取込中だったからそっとしておいたわ♥️
庭の子(ごはん)は行き倒れかしら
まぁいっか☆
二人酒宴を楽しんでいれば不審者(伊織)到来
あらお邪魔虫
性懲りもなく出歯亀?
でも可哀想だから特別に一口恵んであげるわ
此処のお酒ったら凄く胸が熱くなる逸品なのよ(※毒)
まぁ…一杯で潰れて眠っちゃうなんて
やはり私には貴女しかいないわ
(笑いつつ鱈腹毒酒飲み尽くし漸くすやり)
(こけしが惨体、もとい三体ころり)
呉羽・伊織
【迷作劇場】
命辛々部屋に着いた傷心のオレを待つ運命はっ
(扉そっ閉じ)
っ何で此処に!
アンタとは全く身に覚えがないてか今何てった!?
寄るなっ
ちょ、待っ…
え、マジ(で出オチ)なの…?
(ぷるぷる涙目)
(笑い堪えるのに必死な涙目)
…コレはきっと悪い夢だな
と逃避気味に庭に出たらまた身の危険
寄るなっ(再)
待てソコ露骨に怪し…嗚呼
コレはきっと略(笑いを略な涙目)
はっコレは女子達も危険な予感!
と急ぎ2人の部屋を覗見…
デバガメジャナイヨ護衛ダヨ(本気で涙目)
同情するなら愛を…
え、妙な味?
ソレ拙…(むぐ)
嗚呼…まともに甘い旅行したいだけの人生だった
(頑張ったオレにどうか微笑んで神様!良縁を!と心中で叫びつつふらり)
●あらすじ自己申告制度
「――襲いかかる困難。不貞に次ぐ不貞。命からがら食欲と色欲の権化を振り切り、部屋にたどり着いたオレを待つ運命は――!」
しつらえられた調度品は、落ち着いた色合い。
二人掛けのソファに座った伊織は長い黒髪をさらりとかきあげて、何処かに向かって前回のあらすじを語りかけていた。
「混乱極める泥沼に迫る新たな魔の手――」
そこに響いた、扉の軋む音。
黒い髪の妖狐――佳月・清宵(霞・f14015)が悠々とした笑みを浮かべて。
「ソイッ!」
清宵があらすじを付け足しながら開けようとした扉を、猟兵たる膂力で駆けた伊織は勢いをつけて閉じた。
――閉じた、つもりであった。
扉の間にガッチリとはまり込んだこけしが、完全に扉を閉じる事を阻止し。
そのこけしを挟み込んだ張本人。――清宵は、待ち焦がれつづけた彼……伊織に向かって、それは綺麗な笑顔で微笑んだ。
「あぁ、元気してたか、伊織?」
「それなりだヨ。んで……あんまり聞きたくないケド、一応確認するな。……何で此処に?」
扉をぎゅっと押さえて、彼が入ってこないように力強いブロッキングを行う伊織。
「何でって……そりゃあ、お前が恋しくて追ってきたんだよ」
「……ドユコトデスカ?」
恋しい?
身に覚えが無さ過ぎる宣言に、赤い瞳を細めた伊織は乾ききった言葉を漏らし。
そんな彼の様子を気にする事も無く、清宵は飄々と笑う。
「あぁ、俺というものがありながら――俺の小町に、ウルスラ。あまつさえ菊里といちゃつく姿を見かけたもんでな。――俺だけ除け者たァ、ひでぇよなぁ」
「イヤイヤイヤイヤ、アンタとは何もしてな……えっ、今、何てった!? 俺のってった!?」
急展開に目を白黒する伊織。
そんな彼を置いてけぼりで、清宵はドンドコ言葉を紡ぐ。
「ありゃ何だ? 俺を差し置いて俺のモンといちゃつくたぁ、俺のモンの自覚はあるのか?」
「いや無いですケド!?」
ギリギリギリギリ。
こけしを挟んだ扉越しにドアノブを引き合っていた二人だが、伊織が思わず力いっぱいのツッコミを行えば、腕の力が緩んでしまい。
その瞬間を猟兵が逃す訳も無い。
すかさず扉を引いた清宵は、扉が開いた勢いで体勢を崩した伊織の手首を片手で掴んで。
とん、と。
前腕を壁に押し付けて、身体で彼を壁へと押し込むように。
「なあ、答えろよ」
獣の耳を立てた清宵は、捕食者の笑みを浮かべ。
既にちゃんとお答えしてくれている伊織へ覆いかぶさる形の、いわゆる壁ドンポーズ。
「寄る、なっ!」
吠える伊織は、その角度から見れば完全に名前が右側の顔。
くっと喉を鳴らして笑う清宵は、の美しき朱色の宿るかんばせを、彼へと更に寄せ――。
瞬間。
天井から落ちてきた刃が、清宵の背を貫いた。
「え?」
ぐら、と揺れた清宵の身体。
目を丸くする伊織。
「――は、死神と紅い糸で結ばれるたァ……傑作だな」
清宵の瞳と同じ色の液体が、清宵よりぽたり、ぽたりと滴っている。
そのまま膝をついて玄関に倒れ伏した清宵に、伊織はまるで絶句したかのように口元を掌で覆って。
「待っ……、……マジ、なの?」
えっ、この人マジでこの出オチの為だけに来たの?
本気? 本当に出番ここまでで大丈夫なの?
伊織は思わず笑いに吹き出しそうになった口を掌で押さえる。
噛み締めた唇が痛い。
笑いを我慢する瞳には、並々と雫が満たされ――。
「――俺は、本気に……決まってんだろ?」
勿論。
本気で迫真の出オチをしにきた、と。
瞳だけで語った清宵は、その瞳に睫毛の影を落として。
掌を伊織の頬へと伸ばす。
「嗚呼、――そんな顔すんなよ。もっと、構いたくなっちまうだろ……」
ず、る。
伊織の頬に朱色の線を残して、その場に崩れ落ちる清宵。
――傍らには、こけしが血塗れで嗤っていた。
「……っ!」
こいつ、本気の出オチかよ。
ああ、もう。
これは、これは、きっと、悪い夢だ。
伊織の衣服と頬には朱色が宿り。
慄いた伊織は覆いかぶさるように動かなくなった清宵の下から逃げ出すように、一気に廊下へと飛び出した。
そんな彼とすれ違ったウルスラは、小さく首を傾げて。
彼の出てきた部屋から一つ向こう。
丁度隣接する部屋の扉を開いた。
「ただいま~、小町姐さま、お隣は何だか盛り上がっていたわ! 痴情の縺れって所かしら? 血塗れだったもの」
「あらー、流血までしたのね。私もチラ見したけれど、お取込中だったからそっとしておいたわ♥」
痴情の縺れってやーねぇ、なんて小町は肩を竦めて。
「本当ね。あっ、それはそうと小町姐さま、美味しそうな洋酒とおつまみを買ってきたの、飲みましょうよ!」
「ええ、そうね、沢山楽しんじゃいましょ!」
男達がどうなっていようと関係ない、と。
きゃいきゃい女二人は、楽しんでいた。
夜の風。
中庭を行く伊織は、小さく頭を振って――。
「おやおや、伊織。やはり俺が恋しくなったんですね?」
その行く先を阻んだのは、またもや黒い毛並みの妖狐の男――菊里であった。
「何だか既に息も絶え絶えですが、……またフラれたんですか?」
「――寄るなッ!」
出オチの匂いに身構える伊織。
くつくつと笑った菊里は伊織の制止も聞かずに彼へと寄ると、ふかふかの大きな尾を揺らして――。
「可哀想に……、顔が汚れているじゃないですか。よっぽどひどいフラれ方をしたようですね。――では改めて、慰め、愛でてあげましょう」
「そういうの結構なんですケド」
拒否をする伊織の頬に付いた朱色を親指で拭い、菊里は舐めとる。
――イチゴ味。ジャムだこれ。
そこでふ、と何かに気がついたように菊里は瞬きを一つ。
鼻をスンと鳴らして。
「あ、その前に。あの雪の下に御馳走の気配がするので見てきますね」
「えっ、待て待て、幾らお腹が空いたとしてもそんな露骨に怪しい場所に突っ込むのはどうかと……」
一瞬で踵を返した菊里が、こんもりとした雪山を指差すと狐へとその姿を変えて。
伊織の制止も聞かずに――。
ズボン。
深い雪山にピーンと伸びた後ろ足と尾以外全て埋まってしまう菊里。
獣の足で、ワタワタする菊里。
抜けなくなった菊里。
ぱたぱたする菊里の後ろ足。
その動きが徐々に弱まり――。
かろうじて外へ出ている尾が、ダイイングメッセージを刻む。
『ごはん』。
かくん、と二本の獣足がそのまま動きを止めて――。
「き、菊里ーーーーッッ!!」
叫びながら。
また出オチか~~、と言う気持ちと、下手に助けると言い寄られるしという気持ちが混ざりあった伊織は、別段彼を助けるつもりが無い様子。
一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし……。
そう、――毒餌の見立だろうか。
気がつけば、傍らには口から血流し嗤うこけしが転がっていた。
――また、こけしか。
こめかみを押さえた伊織は……。
「……コレは、女子達も危険な予感!」
はっと気がついた様子で、彼は来た道を駆け出した。
あとに残るは、獣足二本とごはんの文字。
そして、死の影には嗤うこけし――。
「……泳ぎ、踊る、総受難子羊。二人の世界に旅立った侭の女達――」
ウルスラの注いでくれたお酒をくっと煽った小町は、楽しげにあらすじ自己申告制度によってあらすじをおさらいしていた。
「果たして良縁神が微笑む刻は……」
「ふふ、楽しい夜ね――」
微笑むウルスラも、小町に注いでもらったお酒を一口。
洋酒には意外とチョコが合うらしい。
ソーセージ、チーズケーキに、貝のオイル漬け。
広げたつまみと酒で、二人酒宴。
そこへばん、と開いた扉。
ウルスラと小町はそちらへと顔を向けて――。
「……あら、伊織、男の修羅場はもういいの?」
「まあ、お邪魔虫。性懲りもなく出歯亀にきたのかしら?」
「修羅場でも出歯亀でも無くて、護衛ダヨ」
冷たすぎる二人の対応に、おもわず涙目になった伊織はぷるぷる首を振って。
「俺に近づいてきたオレ達は、みんな死んでしまった……、つー訳で姐サン達を心配してだなあ」
伊織が何か言おうとするが、さっと瞳を伏せたウルスラが小さく首を振って。
「そう、先立たれてしまったの……それは寂しいわね……」
「同情するなら愛が欲しい……」
伊織が合わせて頭を振ると、ウルスラが蔑むように瞳を細めて。
「うーん、本当に本当に本当に、ついでで良ければ慰めてあげましょうか、姐さん」
「自業自得な気もするけれど……、でも可哀想だから特別に一口恵んであげるわ」
えいやっと小町は、伊織のお口に酒を押し込んであげる。
「むぐ」
「此処のお酒ったら凄く胸が熱くなる逸品なのよ」
くすくす笑う小町。
――うわ、これ、妙な味がする。
――え、これ、ドウ考えても、ヤバい、や、つじゃ。
伊織の一瞬で心臓が跳ねる。
――毒、じゃね?
呼吸が浅くなる、冷や汗が溢れ出て――。
――嗚呼……まともに甘い旅行したいだけの人生だった。
ばたん、と倒れた伊織。
ぱち、ぱち。
そんな様子に小町は首を傾いで。やれやれと肩を上げて、下げて。
「……あらまぁ……、一杯で潰れて眠っちゃうなんてよっぽど疲れていたのかしら?」
「うーん、お酒に弱い人ですね」
ころころと鈴を転がすように笑ったウルスラは、毒酒を更に呷る。
「やはり私には貴女しかいないわね、ウルスラ」
小町がウルスラのグラスを持つ掌に掌を重ねて、彼女の飲む酒を一口奪った。
「私だけなんて、あぁ嬉しい。……ふふ、胸が苦しいわ」
小町にしなだれかかるウルスラ。
ウルスラを抱きとめながら、小町はボトルからグラスに琥珀色の毒酒を注ぎ――。
「あ、またボトル空いちゃったわね。もう一本開けましょうか」
「ええ、まだまだありますもの。……楽しみましょう?」
優美な華のように笑う二人。
……どれだけ毒に強くとも。
これほどの量の毒酒をたらふく飲めば、数時間後には彼女たちもそこで眠る事となるだろう。
部屋中に転がった毒酒のボトル。
その端に――血に濡れたこけしが3つ、転がっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
耀子さん(f12822)と旅館でも同道。
演技にご理解頂き僥倖。
トークが心解いた…という事にでも。
何せひとの心の隙間につけ入るのは、不届き者の十八番。
食に足湯、旅館の情緒、良縁結びの神サマのご利益まで
…なぁんて。“生きている”間は楽しませて頂きますとも。
夜の自室、お招きした彼女との一時は、お戻りを待つ間も愉しいものと。
浴室へ。湯船に張った湯の具合を確かめようと手を触れて
――サクッと感電死、ですね!
密室で想い人のある方と二人きり、しかもこんな用意とか、
軽薄の極みでしょう?
意味深に、或いは予見めいて、手には懐中時計を。
痛いは絶対痛いでしょうしヤなんですけどねー…
耀子さんの方も、大事無いと良いのですが
花剣・耀子
クロトくん(f00472)と
ほだされて旅館までご一緒するていで。
“だって寂しかったの”は浮気の常套句。
不貞ポイントを貯めるわ。
死ぬ迄は旅館を満喫。ごはんも温泉も楽しみだったの。
本番はその後。個室にて。
緊張してしまって。と、外の空気を吸いに出ましょう。
――扉が開かない。
マスターキーを借りて戻った部屋に、流れっぱなしの水の音。
クロトくん?
そんな、まさか――なんで、
そう、これは密室殺人。
後ずさった所に鳴り響く鐘。機械音。
柱時計から発射された矢があたしを撃ち抜いて、それでお終い。
『理想を踏みにじる者に呪いあれ』
嗚呼、あの時計、は――……
ところで鏃はある程度呪詛で潰すわ。
まあ死なないでしょう。たぶん。
●火遊び
『だって、寂しかったの』。
らぶらぶの彼氏(架空)が居るとは言え、今日は横にいない。
こんなに戀に、愛が溢れた街で、女が一人。
その心の隙間につけ入るのは、不届き者の十八番であろう。
耀子に寄り添ったクロトは、言葉巧みに彼女を『火遊び』へと誘う。
足湯にカフェ。
香水を見立てて、小さなアクセサリをプレゼントして。
意気投合したの二人は同じ旅館に招待されていた事を知ると、更にその火遊びの炎を燃え上がらせていた。(設定)
食事を終えた二人は、クロトの部屋で過ごしていた。
「なかなか美味しかったわね」
「創作コース料理だと言っていましたが、見たことの無い食べ物もありましたね」
「そうね。楽しみにしていたから、美味しくて安心したわ」
他愛のないお喋り。
これこそ旅先に一人で向かう彼女の、心の隙間を埋める炎なのであろう。
「そう言えば、内風呂まで温泉を引いてくれているそうですよ」
「へえ、……露天風呂も有名らしいけれど、内風呂でゆっくりするのも良いかも知れないわね」
肩を竦めた耀子は、彼の眼鏡奥で揺れる空色の真意を図るように見上げ――。
胸の奥で燻る炎。
「……少しだけ、外の空気を吸ってきても良いかしら? 部屋がなんだか暑くって」
「ええ、どうぞ」
浴室から薄く聞こえる、湯を張る音。
クロトがわざわざ耀子を部屋に喚び出して、その様な事を伝えるという事は――そういう事、なのだろう。
……本当にそんな事、赦されるのだろうか。
ぎゅっと拳を握りしめた耀子は設定上の彼氏を胸に、内庭へと歩み行き――。
とぽ、とぽ、とぽ。
湯の溜まる音。
「思った以上にチョロかったですねえ」
誰も居ない浴室で、聞こえよがしに口を開くクロト。
くる、くる、ぱしん。
掌の中で懐中時計を弄び、誰かに説明するかのように彼は独り言を紡ぐ。
「ま、どうせ一晩限りです。上手く行けばまた良い思いもできるかもしれませんけれどね」
くすくすと笑い。
そうして、手慰みにお湯の温度を確かめようとクロトが浴槽へと手を入れると――。
「~~っ!」
ばちんっ。
大きな音が響いた。
焦げた匂い、ゆっくりと倒れる身体。
――丁度見えぬ死角に、沈められたコードの付いたランプ。
一瞬で感電したクロトは、魔力でその防御を固めていなければ実際に死んでいたかも知れない。
ぎゅうと懐中時計を握りしめたクロトは、浴室の床にその身体を横たえて――。
「……クロトくん? ねえ、クロトくん!」
耀子が散歩より戻って来た所、部屋の扉が開かなくなっていた。
慌ててマスターキーを借りて。
部屋へと戻った耀子が見たモノは、浴室に倒れた彼の姿。
掌の中へ意味ありげに握り込まれた懐中時計が、8時15分を指し示しているのが妙に頭に残る。
しかし、その持ち主の彼の息はもう――。
――密室殺人。
その言葉に思い当たった耀子の肌が、ぞっと粟立った。
そんな、まさか、なんで?
「また、あの悲劇が……?」
意味深な言葉を彼女が囁いた、その時。
ボーン、ボーン、ボーン。
思わず後ずさった耀子を追い立てるように、柱時計が鳴った。
反射的に何か歪さを感じて、耀子は目を見開いて後ずさる。
何かがおかしい。
そう。
懐中時計を信じるのならば、今は時計が鳴るような時間では――。
風切り音。
ぶわ、と呪詛を吐き出した耀子は、柱時計から射出された矢に背より貫かれて、真っ直ぐにそのまま倒れ伏す。
「……っ、!」
倒れた先。
それはクロトの掌の目前である。
懐中時計の横手に刻まれた、呪いの言葉。
『理想を踏みにじる者に呪いあれ』。
ああ、ああ。
……そういう事、だったのか。
ふ、と息を吐いた耀子は、瞳をそのまま閉じて――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
【桜鏡】
アドリブ◎
髪下ろす
演技と本音の境目は朧気
言葉にし改めて気付く
己を占めるこの女の存在に
未だ名が無い感情の危うい事
演技に没頭
思考放棄では決して…ない
設定
丑三つ時
温泉後、浴衣で庭散策
女を狙う邪な敵の気配察知
俺は周囲警戒
羅刹女へ氷の怜悧な刃が
身を呈し血桜の下で死ぬ
致命傷回避
実際は中傷
恋人達の血で…
不謹慎だがその妖美さに魅入っちまう
お前程ではねェが
自身の紅で血化粧する所なんざ
見たくなかった
贄の血でこそ映える悪鬼なお前
…否、本当は
俺の手で華やぐ桜の鬼が見たいなど
ちざくらが艶やかに
紅く
緋く
染まる
異の麗眸を薄ら開け見遣る
其の貌は
真か嘘か
お前は今
何を馳せて…?
桜に埋もれた偽の頚が転ぶ
はなの香りに噎せ返る
千桜・エリシャ
【桜鏡】
庭の桜の木の下
この桜は恋人たちの血で美しく咲くそうよ
まるで血桜ね、なんて
(本当に作り話かしら、ね)
私を庇い凶刃に斃れたクロウさんの紅い血が
桜の花弁のごとく舞って
嗚呼、それは私が散らしたかったのに
その首を刎ねて愛でて血肉を肚に収めて――
…この気持ちは一体
これは演技のはず
私はあなたのことを…
いけない
これ以上は
嗚呼、けれど
私を庇ったことも許せなくて
演技と本音の境界が曖昧に
…死に際まで気障なのね
(血で美しく咲く桜は私のこと
あなたの血で彩られて)
彼の血を舐めれば甘美で震える
私はこれが欲しかった…?
思考を掻き消すように頭を振れば演技に戻って
彼のいない世界を生きていくなんて地獄と同じよ
服毒し後追い
●血桜
昏い昏い夜の事。浴衣姿で歩む男女が一組。
風がひゅうるりと吹き、内庭にも万年咲き誇る幻朧桜の花弁が散った。
「――この桜は恋人たちの血で美しく咲く、なんて言われているそうよ?」
なんて。
月明かりを浴びて薄ぼんやりと輝く、白い花弁を見上げてから。
こつと下駄を響かせて振り向いたエリシャは、クロウに向かって薄く笑った。
「恋人達の血、か」
恋人達。
甘美な嘘の関係を表す言葉を口にすれば、彼女に対する名の無い――名を付け難い感情に、はらはらと薄紅花が零れ落ちる。
彼女の言葉を追うように呟いたクロウは、肩を竦め。
――桜の妖美さに魅入られたのであろう。
そして、それ以上に。
桜の下で笑むエリシャの笑みが、あまりに婉前に見えてしまったから。
浴衣の裾を揺らした彼は喉を鳴らして一度首を振り、相異なる夕赤と青浅葱の双眸を細めてから。
――今はただ目の前に与えられた役割。
『恋人ごっこ』に集中しようと、顔を上げる。
「……!」
「きゃ……っ!?」
その刹那。
暗闇――『何もなかった』空間に殺意が膨れ上がり、鋭い氷刃が真っ直ぐに彼等に向かって放たれた。
「……く……、っ」
咄嗟に髪を靡かせてエリシャに覆いかぶさったクロウは、奥歯をギリと噛み締め。
「クロウさん……!?」
「……は、ヤキが回ったモンだな……」
ぱっと散った赤い紅花のようなクロウの鮮血が、エリシャを染める。
彼女がクロウ自身の紅で血化粧する所なんて、――たとえ演技でも見たくも無かった。
既に力が入らぬ様子で。
腕をだらりと垂れ下がらせたクロウを、エリシャは抱きとめる。
嗚呼。
どうして、どうして、どうして?
落ち着かぬ肚の奥。
――この色は、この血は、この花は。
その首を刎ねて、愛でて、血肉を肚に収めて――。
「……私が散らしたかったのに」
ぽつりとエリシャが漏らした言葉に、クロウは視線だけで彼女の真意を図るように。
――彼女は贄の血でこそ映える、桜鬼。
否。
否、否、否。
本当は、本当は。
――俺の手で華やぐ、桜の鬼が見たいなど。
くっと喉を鳴らせば、クロウの口から溢れ零れる血。
とく、とく。
彼の傷口から、彼の命の色が流れてゆく。
クロウを抱き寄せたエリシャはぎゅっと目を瞑って、耳元で囁くよう。
「あなた、――死に際まで気障なのね」
そのまま首筋に流れる血を吸い上げれば、エリシャはぞっと背に走った甘い電気にその身を震わせた。
――これは演技。
これは、嘘の気持ち。
これは、恋人ごっこでしかない。
なのに。
どうして――こんなに、自分を庇ったことを許せないのだろうか。
エリシャはこくりと喉を鳴らして彼の血を飲み込めば、その甘さに桜色の瞳を眇める。
……私は、これが、――欲しかった?
ああ。
――血で美しく咲く桜とは、桜の鬼の事。
作り話を体現するのは、ヤドリガミの血に染まったエリシャなのであろう。
咲いて、咲いて、咲いて、『裂いて』。
その御首を、その血を、その肉を。
動かなくなってしまったクロウから、とくとくと流れる命の色。
彼を抱くエリシャのかんばせが、手が、身体が。
朱に染まる。
血に染まる。
それは、ひどく美しく月明かりに照り映えて。
息を引き取ったフリをするクロウは薄く薄く眸を開いて、こっそりと彼女を見あげる。
――ああ、お前は今、何を馳せているのか。
「……クロウさん」
名を呼ばれても、反応はできない。
クロウはただ、その身体を預けるばかりで。
「あなたの居ない世界を生きていくなんて地獄と同じよ」
立ち上がったエリシャが、パキリ、と何かを飲み込む事も止める事は出来ない。
万年枯れること無く、鮮やかに咲き誇る桜の下。
折り重なるように倒れた男女。
むせ返る程の、甘いあまい桜の薫り。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
f09129/ユルグさん
レストランにて
優雅に掲げる馥郁たる香りは
林檎の酒、カルヴァドス
ユルグさんは
幾つの戀を渡り歩いて来たの?
頬杖をつき
とろり光る酒精を
もう片手で揺らしながら
悪戯に問う
あなたほどの美丈夫なら
眼差しだけで人心を惑わし虜にしそう
そして
何事も無かったかのように
あしらうのでしょう?
何人の清らな乙女を堕として
自我を喪う失楽園へと導いたのか
戀さえ知らなければ
穏やかな日々でいられたでしょうに
まことしやかな嘯きの
実態は知れないけれど
――案外、当たらずとも遠からず?
忍び寄る蛇に噛まれるが先か
毒林檎に斃れるが先か
罪を識りし者達は
楽園から追放されるのが理、と
真白き卓布を奥津城に
うつくしく散華しましょ
ユルグ・オルド
f01786/綾と
どこへも投げられない黄金の林檎
融かした酒の泡越しに囁く声へ
――噎せるかと思ったわ
さァどれ程だったかな
考える素振りの深呼吸
綾こそ如何にも識った口振りじゃアない
その声に撫ぜられて振り返る頃には
もうその瞳に映ってもないんでしょ
ついと遠のく視線は過去の戀とやらに
身を焦がすような慕情も知らず
箱庭で散るよかしあわせだろうさ
なんて刃越しなら存外否定もしないンだけど
応とも否とも、ああでも
さっき綾が声掛けてた子、可愛かったよネ
譲ってくれるなんて駆け引きひとっつ
嫉妬の蛇か林檎を奪った天罰か
窺う視線の気配がしただろうか
忍び寄る影も甘んじて受けよう
手から落ちて砕けた杯が
雷のように響くだろう
●罪の林檎
レコードが優美に謳う店内。
落ち着いた雰囲気のテーブル席に、綾とユルグは腰掛けていた。
甘いまろやかな馥郁たる香り。
交わす杯に満たされた黄金の林檎酒。
「ねえ。ユルグさんは、幾つの戀を渡り歩いて来たのでしょうか?」
頬杖を付いた綾が、杯を逆の手で揺らしながら悪戯げに問えば。
「……あァ?」
ユルグは、僅かに眉を跳ねて。
一瞬噎せそうに鳴った喉をならすように、一口酒を含んで肩を竦めた。
「さァ、――どれ程だったかな?」
赤い瞳を泳がせて、思考を巡らせるユルグ。
否、思考を巡らせるフリをして、深呼吸を一つ。
「あなたほどの美丈夫なら、その眼差しだけで人心を惑わして、幾人も虜にしたのでしょう」
ふくふくと笑って杯を傾ける綾は、そんなユルグの考えを知っているのか、いないのか。
「そして何事も無かったかのように、あしらってきたのでしょ?」
頬杖を付いて見上げる綾の碧色に、ふ、と唇を緩めてみせたユルグ。
杯で綾を指し示すように揺らして。
「んふふ。――綾こそ、如何にも識った口振りじゃアない。その声に撫ぜられて、振り返る頃には、もうその瞳に映しても居ないんでしょ?」
質問には応える事無く、ユルグははぐらかすような言葉を重ね。
視線の先に『過去の戀』を見やるよう、くるくると回るレコードに視線を移す。
「やぁ、あなた程では無いでしょうけれどね」
本当におかしげに微笑んだ綾は、瞳を一度閉じて。
「あなたは一体、何人の清らな乙女を堕として、自我を喪う失楽園へと導いたのか。彼女達も戀さえ知らねば、――穏やかな日々でいられたでしょうに」
ねえ。
林檎がまるごと漬かったボトルを傾けて、空いてしまったユルグの杯へと注ぐ綾。
琥珀色がシャンデリアの光を浴びて、きらきらと揺れる。
「さてね。身を焦がすような慕情も知らず、箱庭で散るよかしあわせだろうさ」
――例えばそれが刃越しであれば、本当に否定は出来ないのだけれども。
注がれた杯を軽く掲げたユルグは、まるで同意を求めるように小さく顎をしゃくり上げて。
彼等の紡ぎ重ねる不埒な言葉は、嘘か真か。
「ああ、でも。――さっき綾が声掛けてた子、可愛かったよネー」
良かったら譲ってよ、なんてユルグが笑えば。
からりと笑って瞳を細めた綾は、ただ酒を傾ける。
「えぇ、可愛い方でした。ふふ、機会があればまた一緒に遊びましょ」
「へぇ、楽しみだネ」
不貞たる会話を重ね。
――毒林檎の酒を、二人はなおも深く深く交わしあう。
忍び寄る蛇に噛まれるが先か、毒林檎に斃れるが先か。
罪を識りし者達は、楽園から追放されるのが理だ。
それは蛇の視線だろうか、それとも彼等の齧った林檎を護る者の視線であろうか。
ぞっとするほど冷たい視線を感じた、気がした。
――もはや、二人に確かめる術は無い。
高く響いた、杯の割れる綺麗な音。
二人の手より滑り落ちた杯は、もう元通りになる事も無いのであろう。
咳き込む、肌が粟立つ、喉を抑える、零れる血。
「……っ!」
そうして机に突っ伏した二人は――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『眠れぬ夜の夢魔』
|
POW : 古人曰く、恋と戦は手段を選ばず
自身が【女性への嫉妬】を感じると、レベル×1体の【自身の半分の大きさの分身】が召喚される。自身の半分の大きさの分身は女性への嫉妬を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD : あなたを想うとわたしの胸はこんなに高鳴るの
全身を【薄紅色の流体】で覆い、自身が敵から受けた【ときめき】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : 好きって答えてくれないなら殺してやる!
対象への質問と共に、【自身の影や足元】から【悪夢の精霊】を召喚する。満足な答えを得るまで、悪夢の精霊は対象を【拘束し、催眠効果のある毒針】で攻撃する。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠神楽火・天花」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●戀し憎し
叶わぬ理想を、妬む事も。
叶わぬ理想を、踏みにじる者を憎む事も。
全て、全て、全て、死んでしまへと想うてゐる吾は、実に馬鹿げてゐる、滑稽である。
さふ雖、さふ雖、止められぬ。
予定していた方法では無かった者も多く居た。
何故か殺し合った者達も居た。
やはり、やはり、やはり。
戀する者達は、愚かである。
「あはは、あはははは、みんな、みんな死んだわ!」
内庭の幻朧桜の下で、桃色の髪の少女がくるくると舞うように跳ねていた。
今この館内で立っているのは、彼女一人。
操られていた従業員たちは、皆揃いも揃って意識を失い眠り。
後は、幾つもの猟兵の死体ばかり。
「戀を踏みにじる奴も、戀を楽しむ奴らも、戀をしている奴らも、みーんな、死んじゃったわ!」
自らを傷つけた戀も。
自らの憧れた戀も。
全て、全て、全て、壊れてしまえば良い。
「さあ、次はどうしようかしら。――またお手紙を出そうかしら、それとも――……」
くる、くる、くる。
浮かれた影朧の少女は気づいて居ない。
――真に死んだ者など、一人も存在しない事に。
オルハ・オランシュ
アルジャンテ(f00799)と
いたた……
まぁでも、アルジャンテを守れて良かったよ
影朧を誘き出すこともできたしね
もう演技も終わりかぁ
……またいつか、一緒に来たいね
来れたらいいな
ごめんね、私達死んでいないんだ
槍を振り回す力だって――この通り残ってる!
君を突き動かすのは戀への執着心なの?
誰かに戀をしていたのかな
聞かせてくれない?君のこと
全てがうまくいくなんて、有り得ない
理想と現実なんていつだってイコールにはならないのに……
アルジャンテへの攻撃は【武器受け】で庇う
彼の射撃が要
私はサポートに重きを置くよ
【鎧砕き】も交えて、より攻撃が通りやすくなるように
守りが不要な時はタイミングを合わせて連携攻撃
アルジャンテ・レラ
オルハさん(f00497)と
私が受けた神経毒は貴女のユーベルコードでは防げなかったでしょう。
お互い良い死に方が出来たと思います。
……そうですね。生きてさえいれば、機会はいつでも作れる筈。
その時こそ部屋でクッキーを食べてみましょうか。
"甘い"だけでなく、他にも何かを感じられるかもしれません。
他の方々も全員無事です。糠喜びさせて申し訳ありませんが。
どのような理由があれど殺戮など……見過ごすわけにはいきません。
元凶を絶つまでです。
普段は援護に回る事が多いのですが、今回は彼女を頼りに敵への攻撃に専念を。
連携時はオルハさんの狙いを推測して標準を合わせます。
……「好きです」。偽りの言葉でも、満足ですか?
●いきてさえいれば
アルジャンテは首筋の針を無造作に引っこ抜くと立ち上がり。
壊れたシャンデリアを掻き分け、持ち上げ――、手を伸ばす。
「立てますか? オルハさん」
「いたた……、ありがとう、アルジャンテ」
差し出された手を取って。
こっくり頷いたオルハはシャンデリアの下より這い出ると、立ち上がる。
そうして彼の手を離すと、動きを確かめるように掌を握って、開いて。
ぐー、ぱー。
「うん、大丈夫みたい。……うん、アルジャンテを守れて良かったよ」
「私の受けた毒は貴女とは相性が悪かったでしょうから、お互い良い死に方が出来たと思います」
「良い死に方……かあ」
肩を竦めて、くすくす小さく笑ったオルハ。
「……またいつか、一緒に来たいね」
「……そうですね。生きてさえいれば、機会はいつでも作れる筈です。――その時こそ部屋でクッキーを食べてみましょうか」
その時こそ。
アルジャンテにだって『甘さ』以外の他に何かを感じられるかもしれない。
再び小さく頷いたオルハは、黒い翼を小さく畳んで、開いて。
「うん、――来れたらいいな」
血に染まった服は少しばかり着心地が悪くて、今こそ温泉に入りたいけれど。
――影朧の気配を大きく感じる今、そんな事も言ってはいられない。
ぐっと血を拭ったオルハは振り向き。
「じゃあ、アルジャンテ。……行こうか!」
「はい」
次に頷くのはアルジャンテ。
二人は強く気配を感じる方向、中庭に向かって――。
「――ごめんね、私達死んでないんだ!」
「どのような理由があれど殺戮など……見過ごすわけにはいきません」
窓から一気に飛び出した!
「……ッ!?」
目を丸くした影朧は、咄嗟に淡紅色の流体を自らに纏わせて。
三叉槍の刃の上に足先を乗せたオルハの体重と重力を乗せた一撃に、交わす形で持ち上げた腕のガードが紅色の火花を散らす。
重ねて叩き込まれたのは、炎の矢だ。
地を蹴って庭を転がる影朧の軌道を追って、炎の矢が地へと突き刺さる。
「は……ァ!? 何? ……何なの!?」
「言った通りですよ。糠喜びさせて申し訳ありませんが、他の方々も全員無事です」
「ああ、……もう、そう! ならあたくしがもう一度殺すだけよ!」
アルジャンテの言葉に、影朧は心底嫌そうに吠え。
三叉槍を振り下ろしながら風のように跳ねたオルハの一撃を、淡紅で受け流す。
睨めつける様な影朧の視線に、オルハは碧の瞳の奥をゆら、と揺らして。
「……ねえ、君を突き動かすのは戀への執着心なの?」
「……ッ!?」
小さくステップ踏んだオルハが刃先を翻して素早く突きあげると、彼女の背後よりアルジャンテの炎の矢が雨と降り注ぐ。
「誰かに戀をしていたのかな、……聞かせてくれない? 君のこと」
「……貴女になんか、分からないわよ。――あたくしの事を聞いてどうするつもり? 『転生』でもさせようって訳かしら!」
炎を捌きながら、炎に灼かれながら。
オルハを睨めつけて、その背後に立つ『彼氏』に対して敵意を膨れ上がらせた。
「どうせ、どうせ、どうせ、貴方も彼女を捨てるのでしょう? ああ、貴女こそ彼を捨てるのかしら」
「わっ」
首を傾いだ影朧は、低い位置からオルハの足を薙ぐように蹴り飛ばすと一息に横をすり抜けて。
一瞬蹈鞴を踏んだオルハ。
アルジャンテに肉薄した影朧は、瞳を眇めた。
「……ねえ、あたくしの事を好きっていいなさいな」
毒の爪でアルジャンテの顎を擡げる。
――影朧となった彼女は、生前には無かった『異性を魅了する力』が生まれていた。
だからこそ、ここの従業員も集める事ができたのだ。
だからこそ、彼女には自信があった。
『この男もまた、彼女を裏切るのであろう、と』。
「……」
アルジャンテは瞬きを一つ。
「――好きです」
「……あは、そう? なら、あの女を――」
笑う影朧、アルジャンテは相違う虹彩の瞳を揺らして。
「……なんて。偽りの言葉でも、満足ですか?」
「どうして、利いてな……っ」
――それはただ単に、猟兵には通じない程度の力であったのだろう。
「申し訳ありません、どうやら私にはその力は利かないようです」
淡々としたアルジャンテの謝罪と同時に、膨れ上がった炎の矢。
「――全てがうまくいくなんて、有り得ないよ」
「~~~ッッ!」
影朧が咄嗟に跳ねた先に、オルハの槍が振り落とされる。
理想と現実なんて、いつだってイコールにはなってくれないもの。
だけど、だけど。
だからこそ。
「でも、生きてさえいれば、いつか上手くいくかもしれないでしょ!」
いつかは、いつかは。
甘いだけのクッキーも、それだけじゃ無くなるかもしれない。
そうしてオルハは刃先を切り返すと、大きく槍を横薙いだ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディイ・ディー
🎲🌸
悪ぃな、死んでないんだ
妖刀を構えて夢魔へ
俺様は戀の想いなんかで死にはしない
志桜にも望まぬ死を齎したりはしねえ
そうさ、俺の傍に居てくれる限りは絶対に
ただ自身が命を尽くして戦うのは嫌いじゃない
妖剣を解放して刀に呼びかける
やるぞ、クガネ
夢魔の想いごと断ち斬ってやろうじゃねーか
衝撃波に混ぜるのは己が纏う呪炎の蒼
掻き乱される感情、ときめき
恋ってのも悪い感情じゃない
踏み込んで刃を振るいながら夢魔を見据える
俺の生命力くらい幾らでも喰らえ
呪物共に喰らわれ慣れてるからな
だが、俺が大切に想う花には触れさせてやらねえ
志桜!
名を呼び、彼女に併せ揮うのは全力の一閃
さあ、こんな殺人劇なんてさっさと終わらせようぜ!
荻原・志桜
🎲🌸
にひひ、ごめんね
簡単に死ぬわけにはいかないんだ、わたしたち
彼の言葉ひとつひとつが胸の内に入っていく
知らず知らずに口元に笑みが浮かび
逆もまた然りってやつだよ、それ
掌を前に出せば現れる魔導書
わたしは桜の魔女、だからね
その幻朧桜にも負けない桜をみせてあげる
本が崩れ魔力を宿す花弁となり
周囲の桜も巻き上げ風を起こす
範囲攻撃の応用で少しずつ敵の行動範囲を狭め
彼が戦いやすいようサポートに回る
もちろん隙あらば攻撃に転じて
アナタには少し同情する
だけどごめんね、
大切な人だから渡すことも傷つけさせることもイヤなの
…わたしはワガママだから
うん!
名を呼ばれれば頷き返し花弁操ることに集中する
これで殺人劇も終演だよ
●賽桜
「悪ぃな、この通り俺様も死んでないんだ」
月明かりを背に、朗々と響いた声。
「――やるぞ、クガネ」
既に血糊によって、紅に染まった身体。
黒鉄色の刃が冴えた光を飲み込み。
宿った邪なる神に声を掛けたディイが、一気に地を蹴り駆けた。
「そうそう。……にひひ、ごめんね」
合わせて。
風を薙ぐように腕を差し出した、志桜の目前。
ぱっと現れた魔導書が、ひとりでに開いてぱらぱらと頁がさざめく。
「簡単に死ぬわけにはいかないんだ、わたしたち」
――代わりといっては何だけど、桜の魔女の魔法をご覧あれ!
魔導書が綻び、解けて、薄紅の花弁となって崩れ落ち。
蠢く風が、影朧を呼ぶという幻朧桜の花弁すら巻き上げて――薄紅の嵐と化す。
薄紅の嵐を扶翼に。
飛び込んだディイの右腕に纏う蒼き呪炎が、刃に蛇のように絡みついて栄え燃える。
「――俺様は戀の想いなんかで死にはしないし、志桜にも望まぬ死を齎したりはしねえ」
青を焦がしながら刃を叩き込んだディイ。
「俺の傍に居てくれる限りは、絶対にな」
「……逆もまた然りってやつだよ、それ」
知らず知らず緩んでしまった頬は、もはや不可抗力であろう。
彼の言葉に唇をきゅっと噛んだ志桜は、小さく肩を竦めて。
魔力を練る指先を、まるで指揮者のように。
彼の刃に合わせて。桜の嵐を鉄砲水の如く、影朧に向かって頭上より撃ち放つ。
「なあに、なあに、なあにそれ、嫌味かしら」
底冷えするような青と赤。
影朧はもう笑ってなんかいない。
ガードに上げた腕に薄紅色を纏い、ギヂギヂと骨をきしませて刃を受け止めて。
叩き込まれた花弁にその身体を押し流されるが、それでも影朧は戦意を喪ったりしない。
「気に食わないわ、……気に食わないわ、気に食わないわ。どうして貴女だけ、貴女だけ、貴女だけ」
そうして彼女は悪魔めいた翼を大きく広げ風を切ると、幻朧桜の幹を蹴り上げて一気に跳ねた。
その鋭い勢いは、ディイの頭上を飛び越えて。影朧の足元より膨れ上がった影は、小さな精霊の形を取る。
影の精霊を侍らせた影朧は、鋭く滑空し。狙うは――。
「おいおい、待て待て。今は俺を見ろよ」
狙いを一瞬で察知したディイが、一気にバックステップを踏み。
志桜をか庇う形で背に隠して、刃を真一文字に構えて真っ直ぐに影朧を見やった。
そんな彼に向かって薄紅色纏う影朧の拳が、逆水平に薙ぎ払われ。
ディイは拳の軌道を反らす形で刃を返して、切り上げる。
掠めるだけでその薄紅色のオーラが自らの力を削ぎ食らっている事が、ディイにはよく理解できる。
――なんたって、喰らわれ慣れてしまっているのだから。
「俺の生命力くらい幾らでも喰らえ。――だが、俺が大切に想う花には触れるんじゃねぇ!」
「うるさい。今は貴方には訊いていないわ」
志桜を庇うディイの言葉に、忌々しげに舌を打つ影朧。
刃を避けてステップを踏み、逆袈裟に蹴り上げた足先を返して。彼の黒刃を叩き落さんと、足を押し込むように蹴りを叩き込み。
「それでもあたくしに吸い殺されたいと言うのならば、今すぐ吸い殺してあげるわ!」
「上等だ、やれるもんならやってみろよ!」
――させやしねぇけどな。
青を纏う刃と、薄紅を爪のように変形させた影朧のオーラが再びぶつかり合い。
鈍く軋む音、彼を援護しようと身体を動かそうとした所で、志桜は息を咽んだ。
「……ッ」
ぴくりとも動こうとしない足。
そう。
既に志桜は、術下に捉えられていたのだ。
くるくると踊り舞う、影の精霊。
――似たような術を見たことがある。
つまり『今は訊いていない』という事は、影朧の言葉……質問によって動きを、この場に繋ぎ止められているのであろうと、志桜には推測ができた。
――ならば、応えるだけだ。
翠色の大きな瞳の奥に覚悟を宿して、志桜は真っ直ぐに影朧を見やる。
「……アナタには少し同情する。だけどごめんね、大切な人だから渡すことも、アナタに傷つけさせることもイヤなの」
は、と瞳を見開いた影朧が、息を飲んだ。
「わたしは、ワガママだから」
ぎり、と奥歯を噛む影朧。
彼女は納得してしまったのであろう。
納得をしたくもないのに、してしまったのであろう。
解ってしまう。――だからこそ、こんな場所にいるのであろう。
再び渦巻く花弁。
影朧の一瞬呆けた隙を、ディイが逃す訳も無い。
――ああ。
掻き乱される感情、ときめき。
『恋』ってのも悪い感情じゃないように、思える。
だからこそ、彼女の名を呼ぶ。
「志桜!」
「うん、ディイくん!」
呼びかけられる声に、確かに感じる信頼。
こっくりと頷いた志桜は、大きく腕を奮って。
舞う薄紅色の花弁を、月明かりが青白く照らす。
「――さあ。こんな殺人劇、さっさと終わらせてやろうぜ」
振り下ろした腕は、花弁を龍の如く渦巻かせ。
大口を開いた花弁に飲み込まれた影朧に向かって、ただ真っ直ぐに、真っ直ぐに。
青炎が大きく膨れ上がって、斬撃が叩き込まれた!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オニバス・ビロウ
名探偵 皆を集めて「さて」と言い…うむ、若干違うな
左様、俺は探偵ではなく武士である
縺れた絲を探偵の如く言葉で分けず心で支えず…ただ刃で斬る武士である
毒の耐性はある
悪夢の精霊へは桜鈴に破魔の力があるので拘束も緩みはしよう
…そう、拘束されば刃は振るえぬ
故に刃を言葉ではなく、蓮の花弁に変えて攻撃とする
まぁ、刃で斬ると啖呵を切ったが此度の俺は探偵だからな
だが質問か…何と言われようと妻に恋した事、互いに愛し合っている事は真実である
そしてその恋で救われた事も己にとっての真実だ
どんなことがあろうと、俺は妻が…楓の事がずっと大好きだ
お前が恋に望みを見つけ、その喜びを感受できる生を…転生できる事を祈るよ
●種明かしの時間
月明かり。
青白く照らされた桜。
「――名探偵は皆を中庭に集めると『さて』と言った」
なんて、な。
小さな白狐を侍らせたオニバスが、顎に拳を寄せて言い。
「……は?」
ぽかん、とした影朧が赤と青の瞳をまん丸にして首を傾いだ。
「ああ、違う。違うな、左様――俺は探偵でなく、武士である」
自らの言葉さらっと否定しつつ。
すらりと銀に青光を照り返す刀を抜いたオニバスは、真っ直ぐに影朧を見やって。
「――縺れた絲を探偵の如く言葉で分けず心で支えず……ただ刃で斬る武士である」
「そう、……貴方はあたくしを斬り殺しに来たという訳?」
やれやれと肩を上げた影朧が、淡紅色のオーラを爪のように変えてると大きく跳ねた。
「いいや、そうでは無い」
ぐっと身を低く屈めたオニバスは、地に轍を生みながらその刃を受け止める。
オーラの爪と刃が重なり合い、鈍い音を立て。
「なら、あたくしを愛してくれるのかしら?」
逆の手にも淡紅色を宿した影朧が、重ねる形で振り下ろせば。
相違う双眼で彼を見つめた彼女は『尋ねた』。
「いいや、そうでも無い」
そのまま刀を振り上げたオニバスが、バックステップを踏み。
同時に空中を一回転した影朧は、その銀刃を足場として弾かれるように後ろへと跳ねた。
刹那。
その白い足先から膨れ上がる影。
影は翼を大きく広げてその形を、幾匹もの精霊と変えて。
オニバスの周りをぐうるりと纏わり付き、跳ねて、舞う、
その姿に、害虫を見つけたときと同じ反応でこゃん、と威嚇する花桃。
「……!」
――そこで、オニバスは気がついてしまう。
ステップを踏んで着地した形より、その足が動かなくなっている事に。
そして、彼女が尋ねた言葉。
『愛してくれるのかしら』、が妙に頭に残っている事に。
「……成程」
これはそういう術なのであろう。
そうろりと刃を手放すと、刃が綻び、解けて。
蓮の花弁と崩れ落ちる。
「――何と言われようと。俺が妻に恋した事、互いに愛し合っている事は真実である」
渦巻く風。
「そしてその恋で救われた事も、己にとっての真実だ。お前を呼び出すために、軽薄な演技をしたとしてもそれは変わりはしない」
蓮の花弁が刃と化して、嵐と成る。
「どんなことがあろうと、俺は妻が……、楓の事がずっと大好きだ。――お前は愛せない、偽りの言葉でお前を満足させることも、出来ない」
その場を動けぬオニバスを蝕む影の毒針。
青と青の虹彩が不思議なものを見る瞳でじいとオニバスを見やり。
「……ああ、そう、そうなのね。……最悪だわ」
渦巻く蓮の刃に飲み込まれながら、影朧は眉を寄せる。
瞬間。
動けるようになったオニバスが、咄嗟に指揮者のように腕を振るえば、嵐が更に激しさを増した。
「そうか。後な――刃で斬ると啖呵をきりはしたが、今宵の俺は探偵でもあるのでね」
「……うるさいわよ」
蓮の刃を切り裂き、青と赤を揺らす影朧。
「いいや。言葉で解決できる事は、言葉で解決を成そう。探偵としてな。俺は――お前が恋に望みを見つけ、その喜びを感受できる生を――転生できる事を祈るよ」
「うるさい、うるさい、うるさい! 貴方みたいな、……貴方みたいな……ッ!」
あなたみたいな、ひとなら。
影朧は言葉を飲み込み、睨めつけ。
その手に刃を収め直したオニバスは、その視線を真っ直ぐに受け取った。
成功
🔵🔵🔴
月舘・夜彦
【華禱】
なるほど、これが感電
雷撃耐性が無かったら……いえ、普通の人ならば死んでいましたね
倫太郎殿、生きていると思いますが戦えますね?
話さねばならない事はありますがお互い様
後にして戦いましょう
攻撃は刃に破魔の力を宿し、敵とは接近戦に挑む
分身には視力にて敵の数を確認
少しでも分身が集中している所へなぎ払いと2回攻撃で一掃
敵の攻撃は術ならば残像と見切りで回避
体術ならば武器受けにて防御
カウンターで早業の断ち風
壊したとて、失くしたとて
その時の痛みまで消されるはずも無く
戀する者を愚かと言いながら己が「それ」に縛られている事に気付かない
馬鹿げようと滑稽だろうと、理屈で無いのも戀と言う
……私も、帰ったら教えます
篝・倫太郎
【華禱】
だいじょぶ、だいじょぶ
毒耐性ぐっじょぶ!
えー?話す事なんかあ……あ、ハイ
戦い終わってからデスネ
拘束術使用
射程内の総ての敵を鎖で先制攻撃と拘束
同時に俺も華焔刀でなぎ払い
刃先返しての2回攻撃
総ての攻撃に破魔と衝撃波を乗せて、傷口をえぐる
俺自身の攻撃は
可能な限り夜彦と同一方向、同一対象を狙ってく
夜彦と自身の死角のフォローは怠らないよう留意
敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防いでカウンター
縛られてるなら解いて還してやりゃあいい、そんだけだろ?
拘束術使っといて言う事じゃねぇけど
理屈じゃねぇからなぁ
で、夜彦
あんたの俺への感情は「戀」?「愛」?どっち?
俺のは……帰ったら教えてやるよ
●戀と愛の違い
ふうわりと梔子の香りがした。
仮初めの身体の中を爆ぜた衝撃は、未だ肌を焦がしたままだ。
「――普通の人ならば、死んでいましたね」
服を羽織りながら、掌の感覚を確かめるように夜彦は手を閉じて、開いて。
電撃に対しての耐性も少しばかり夜彦にはあるが、それもけして高い耐性では無い。
――彼が今生きているのは、何よりも。
彼の身体が本体を別とした、仮初めのモノであったからこそ。
彼がヤドリガミであったからこそだ。
「倫太郎殿、……生きているとは思いますが、戦えますね?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。――まだピリピリすっけど動けないほどじゃねぇよ」
少し喉の枯れた声、倫太郎も身体の具合を確かめるように、屈伸運動。
彼もまた毒に対する耐性があるが、それもまた完全に毒を防ぐ程の耐性では無かった。
彼の喉奥を灼いた痛みは、まだそこに在る。
腹の中を焦がす心地悪さも、健在だ。
――彼等は決して万全では無い。
それでも、この場所に来た目的を忘れた訳では無い。
「うっし、やりますか」
彼等がここに訪れた理由は、戦う為だ。
薙刀を構えた倫太郎が、中庭に向かって踵を返し――。
「……倫太郎殿。お互い、後で話さねばならない事がありますね」
靴を履く夜彦が、彼の背に伝える言葉。
「……へっ? 話すことなんか……」
瞳を丸くした倫太郎は、瞬きを重ねるが。
「全て終えた後に致しましょう」
「あ、ハイ。終わってからデスネ」
さっさと歩き出した夜彦に被せるように言われてしまえば、コクコクと倫太郎は頷くしかない。
ならば、さっさと終わらせるだけだ。
地を蹴った彼は、中庭に一気に飛び出す。
「なあに、本当に誰も死んでないのね。ぞろぞろぞろぞろ増えるものだわ」
二人の姿を認めた瞬間。
溜息に近い声を漏らした影朧は、大きく腕を振るって。
身の丈半分程の、彼女の分身体を大量に顕現させる。
「そんなに増やして、ぞろぞろ増えるのはお互い様じゃねぇか?」
にっと笑った倫太郎が、彼女と同じく大きく腕を横薙ぎに振るって。
そうしてぐん、と見えぬ鎖を引き絞った。
――十把一絡げ、といった様子か。
向かい来る大量の影朧の分身体が、見えぬ鎖に脚を取られ体勢を崩した瞬間に。
倫太郎の放った薙刀が、真一文字に彼女達を薙ぎ払う。
そこに重ねて叩き込まれるのは、黒塗りの鞘から弧を描いた青銀の軌道。
夜彦が放った、居合いの一撃だ。
「――壊したとて、失くしたとて。その時の痛みまで消されるはずも無いものでしょう」
そうして。
口を開いた夜彦は、分身ではない彼女へと真っ直ぐに視線を向けて踏み込み。
月明かりを浴びて冴え冴えと輝く刃を、駆けさせる。
「戀する者を愚かと囀りながら、己が『それ』に縛られている事に気付いていないのですか?」
「……うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいッ!」
そんなこと、誰よりも、誰よりも。
彼女自身が理解している。
影朧に落ちた理由だって、誰よりも、誰よりも。
――彼女自身は、理解しているのだ。
だからこそ、壊す、潰す、失わせる。
咆えた影朧は、指揮者のように指を立て。
瞬間。
更にその数を増した小さな少女達――、分身体は一斉に薄紅色のオーラを爪や刃と成して夜彦を睨め付けた。
「……縛られてるなら、解いて還してやりゃあいい。なぁ、夜彦。――そんだけだろ?」
見えぬ鎖を放っておきながら、言えた言葉でも無いかもしれないけれど。
更に鎖を放った倫太郎は、ぐうっと見えぬ鎖を引きながら唇を笑みに擡げた。
「ええ、馬鹿げようと滑稽だろうと、理屈で無いのも戀ですから」
身を低く、低く。
地を蹴って弾丸のように、向かい来る敵に敢えて対峙するように距離を詰めた夜彦が、こくりと頷き。
そのまま黒い鞘より一瞬だけ抜き放たれた青が半円を描いて、分身体を真っ二つに分断する!
「だからこそ……気持ちは理解出来ます」
呟き瞳を眇めた夜彦に、倫太郎は肩を竦めて。
「――理屈じゃねぇからなぁ」
身を低く落とすと夜彦の背を守る形で薙刀を構え、首を傾げた。
背に立つ彼に、尋ねる言葉。
「で、夜彦。……あんたの俺への感情は『戀』? 『愛』?」
「――倫太郎殿は?」
「俺のは……、帰ったら教えてやるよ」
ふ、と夜彦は鼻に抜ける息で笑って。
「……では、私も。――帰ったら教えます」
そうか、なんて萌黄の髪を揺らした倫太郎は頷いた。
「なら、生きて帰らなきゃな」
「ええ」
勿論、死ぬつもりなんて一つもない。
二人は背中合わせ。
自ら達を囲む、分身体達を見やって――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
コーディリア・アレキサンダ
>スバル(f00127)とステラ(f00791)と
>台詞のアドリブ大歓迎です
(動かないのに疲れてふるふるしながら目を閉じてる)
あ、もういいのかい?
よいしょ、と立ち上がり――待って、2人とも手伝って
入ったのはいいけれど箱から出られない……
こほん。
ふたりは少し話がしたいみたいだし――ボクたちで始めようか
……なんか首がぬめぬめ……あ、血糊落としてないからか
それにしても、箱のところで血糊が途切れてるからこれって首輪みたい――
こほん。
燃やし、却けるもの。アレを焼き払うよ
多少増えても、キミの力なら纏めて排除できる
約束? あ、……ええと、ごめんスバル、どの約束だろう(素)
ステラも!? あっ、えっ、うん!!
スバル・ペンドリーノ
お姉さま(f00791)、リア(f00037)
えっ信じてる……ほんとに??
「わ、私たちの名演技にすっかり騙されたみたいね!」
……あ、あれ、2人とも!? もういいのよ!?
戦う前に……リアに、敵を任せちゃうけど
「……えと、お姉さま。さっきは酷いこと言ってごめんね」
謝って、仲直りの証に――ぐいって引き寄せて、首筋に、がぶり
喉を潤す大好きな人の血が高めるのは防御力
「ありがと、リア。……リアも後で、『約束の場所』で、ね? もちろん、お姉さまも一緒に」
ウィンクして前に
うふふ、やった。楽しみね、温泉
「ふふ、羨ましくなっちゃった? ――けど、だぁめ。2人とも、あげないわ」
分身を全部受け止めて、爪で刻んであげる
ステラ・ペンドリーノ
スバルちゃん(f00127)とリア(f00037)と
死んだふり超信じてる。もしかして私、女優に慣れるかしら……
「え、あ。もういいのね……?(もそもそ)」
置きあがったらちょっと髪直すわね
「……ううん、私もごめんなさい。本当は、すっごくすっごく大好きよ、スバルちゃん」
スバルちゃんに謝って、私の「邪眼の楼閣」で強化結界を展開
私自身の防御力を強化しつつ……その強化した私の血をスバルちゃんに吸わせて、高める力を底上げ
「……えっ、私も行っていいの? 行っていいんだって! ね、リア。私も約束の場所でねっ! 場所わかんないけど…!」
さて、こうなったら心置きなく反撃開始ね
強化結界で、皆の力を合わせて戦いましょう
●やくそく
中庭の方で、楽しげな笑い声が聞こえる。
その声の主は猟兵の気配では無い。
――それこそ敵の気配であるのだろうと、猟兵である彼女達には感覚で理解が出来る。
「え、……あの声。私達の名演技に、すっかり騙されたって事かしら……!?」
えっ、ほんとに!?
アレでよかったの……!?
よいしょ、と身体を起こしたスバルは、喜色の滲む声でわくわくと未だ倒れたままの二人へと声を掛けて。
「二人とも、もう演技はいいのよ! 敵の声が聞こえるでしょう!」
そうしてスバルは、ステラの上半身をぐいっと立たせてあげた。
「……え、あ。もういいのね……?」
妹に起こされたステラは、ふるふると首を振ってから、そのまま姿見を覗き込み。
大きなたんこぶを撫でて、くしゃくしゃになってしまった髪の毛を整えだした。
あの演技で死を認められた、ということは――。
もしかして、女優にだってなれてしまうかもしれない、なんて。
脳裏に過ぎったその光景に、ステラはふふふと笑う。
……その横。
机の上の生首――否、もう良いよね??
垂れてきた血糊に、へぷち、とコーディリアはくしゃみを一つ。
箱に入ったまま、コーディリアは目を閉じたまま瞼をふるふるとする。
……動かないで何もしない事に、一番疲れてしまった。
「もう良いみたいだね。はーぁ、やっと動け、……動、……」
動けない。
のそ、のそ。
がさ、がさ。
箱の中で悶えるコーディリア。
のそ、のそ、ぽてん。
箱ごと倒れるコーディリア。
そんなコーディリアの健闘にも気が付かず。
姿見の前で髪を整えるステラの服を、きゅっとスバルは引いた。
戦う前に、どうしても言っておかなければならないことがある。
――……これを言わなければ、スバルはスバルとして戦える自信が無くなってしまう程の事。
「……えと、お姉さま。さっきは酷いこと言ってごめんね」
ステラの背に向かってスバルは額を押しつけると、ぽつりと呟いて。
「……ううん、私もごめんなさい。本当は、すっごくすっごく大好きよ、スバルちゃん」
「……お姉さま、私も、……だいすき」
仲直りのハグ。
そのまま、スバルは背よりぎゅうとステラを抱きしめた。
くすくすと笑ったステラが、その掌に掌を重ねて。
戦いの前に、愛しい妹の為に、愛しい魔女の為に。
星の加護を与えてみせましょう。
私が立つ此の境界は、――邪眼の楼閣。
戦いの前に、愛しい姉と、愛しい魔女を守る為に。
少し血を分けて頂戴、お姉さま。
――いただきます。
あ、と大きく口を開いたスバルの細く鋭い牙が、ステラの細い首筋を蝕む。
流れる暖かな血、甘くて、頭が蕩けそうな程幸せな味は、スバルの力を漲らせる。
二人が仲直りの言葉を重ねながら、防御能力の強化を重ねる横。
「……!」
のそ、のそ、と箱で転がったコーディリアは勢い良く両手両脚を突き出すと、一気に箱を突き破り。
箱を破壊しながらの疲れ切った表情で、箱よりの生還を果たした。
そんな彼女にやっと気がついた様子で。
スバルはコーディリアへと手を伸ばすと、優しく笑んで。
「……リアも後で、『約束の場所』で、ね? もちろん、お姉さまも一緒に」
コーディリアは、スバルの手を借りて立ち上がり――。
……約束?
あまり身に覚えの無い言葉に、コーディリアは赤瞳に瞬きを重ねて怪訝そうにスバルを見た。
「あ、ええと……、ごめ……」
そうして、謝罪を口にしようとした、瞬間。
「……えっ、私も行っていいの? 行っていいんだって! ね、リア。私も『約束の場所』でねっ!」
約束の場所って何なのかもしらないし、どこなのかも知れないけれど。スバルとコーディリアが二人だけで約束していた場所に行って良いのならば、ステラは嬉しい。
弾んだ声で言葉を重ねたステラと、ウィンクするスバルに見つめられてしまえば――。
「あっ、ステラも!? あっ、えっと、う、うん! そうだね」
何の約束か、なんて聞き返せなくなってしまったコーディリアは、二度頷いて答えた。
あれー、なんだったっけな。
視線をなんとなく逸らしてしまうと目に入ったのは、先程までステラが髪を整えていた姿見だ。
……首の所で血糊がちょうど途切れているその姿は、赤いチョーカーか――首輪みたい、なんて。
コーディリアは鏡の中の自らと見つめ合い――。
「うふふ、やった。楽しみね」
「そうね、そのためにもちゃちゃっと倒さなきゃ、ね」
そうして。
姉妹の声に、はっと顔を上げた。
帽子をぎゅっと被り直したコーディリアは、中庭を見下ろして。
「う、うん。そうだね、じゃあ――はじめようか」
「ええ、心置きなく反撃開始ね」
くすくすと笑ったステラが結界の強度を更に高めるが為に、魔力の出力を上げる。
その魔力に、敵もやっと気がついたのであろう。
中庭の下から睨め付ける気配。――影朧の姿。
「――そこにも居たのね」
そうして影朧は薄紅色のオーラを膨れ上がらせると、一気に分身体を三人へと向かって放ち。
「ふふ、羨ましくなっちゃった? ――けど、だぁめ。2人とも、あげないわ」
その碧の瞳を血色に染めたスバルが笑った。
長い長い爪で分身達を受け止めて貫くと、その後ろで構えるのはコーディリアだ。
我身に宿る悪魔、燃える双眸――。
君の力なら、纏めて排除できるだろう。
「焼き払いなさい」
人差し指で敵軍を指し示したコーディリアの指揮に合わせて。
彼女の背後に浮かぶ地獄の炎を纏った双眸が、真っ直ぐに放った熱線が分身達を一閃する。
同時に。
スバルは魔力を星屑と散らしながら、窓を飛び退けて。
分体を踏み台に蹴り上げ、爪を振るい――中庭へと飛び降りた。
大丈夫。
頼もしい援護が付いている今、スバルは負ける気持ちなんて一つもしない。
……ふふ。
ねえ、リア、お姉さま。温泉、とってもとっても楽しみねっ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ロカジ・ミナイ
トリス/f19782
遅くなってゴメンよかわい子ちゃん
なぁに、ちょいと野暮用よ
…なんて、前髪をかき上げる風に額に手を当てて
(めっちゃオデコにタンコブがある)
もう身体中痛いから気怠げだし服なんかややはだけてるし
「いい夜」を過ごした様に見えちゃう形跡を敢えて残して対峙
そう妬くなって…
君の相手は今からたっぷりと
しかも二人がかりでするんだからさ
ねぇ?
横でカッコつけてるネチャネチャになったネギも
…なんか4色になってるけど顔はそこそこのままだね、OK
100ぺん尻叩き?いい案だ
僕は大蛇を程良いサイズで召喚
8本の首で敵を簀巻きにして…
あんまり色気のある巻き方じゃないけども?
愉快愉快!悠長に見学といこうじゃないか
トリス・ビッグロマン
ロカジ/f04128
水も滴る……にもこれじゃちょっと無理があるな
べっとりした髪を額から除ける
三色の髪は赤く濡れて、もはやワケのわからないカラーになっていた
さて困ったなァ、一晩(風呂場の床に転がされた)の代金は高いぜ?
なんだい、よく見りゃ見てくれ悪くないな
その顔に免じて遊んでやろう
今日は”弾”は使わねぇ
オレの長ぁい銃一本でたっぷり虐めてやる
さあ、お仕置きを楽しもうぜ
こいつがオレの<In a TRICE>!!
ロカジ、悪い子へのお仕置きといえばなんだ?
ああ、やっぱり『100ぺん尻叩き』だよなあ!
愛銃の銃身を持ってゴルフクラブのようにスイング!!
●色男の概念
ひょい、と窓より顔を覗かせたのはロカジの姿であった。
「やあ、やあ。遅くなってゴメンよ、かわい子ちゃん」
前髪をじったりと流せば、その額には大きなたんこぶ。
とりあえずで織った浴衣は、はだけ気味。
全身ぶつけた痣は、赤に青。
「なぁに、ちょいと野暮用があってねェ、これでも急いで来たのさ」
――まるで『いい夜』を過ごした後かのような立ち姿のロカジは、軽薄そうな笑みを浮かべて影朧へとひらひらと手を振った。
そんなロカジの後ろに立つ男。
じっとりとした前髪を掻き上げると、どろりとした固まる事の無い朱色が、トリスの掌と額を染める。
「しかし水も滴る……にも、これじゃちょっと無理があるな」
彼の三毛であった髪は、今やまだらな朱色に濡れて滅茶苦茶な4色仕様だ。
トリスは肩を竦めて、マスケット銃で自らの肩を二度叩き。
「いや、大丈夫よ。いんやまぁ、性格も髪の毛も滅茶苦茶でネチャネチャネギって所だが、顔はそこそこのままだよ」
「黙ってなクソ眉毛、その口にクロッケーの球を押し込まれたく無けりゃな。――さてしかし。困ったなァ、子猫ちゃん、オレの一晩の代金は高いんだぜ?」
一晩の内訳は大体、全裸の男と風呂場に転がされていた時間の話だが。
ひらりと身を翻したトリスがさっさと窓を飛び降りると、眉を寄せた影朧。
「……あたくしにあまり陋劣な言葉を掛けるのをやめて頂けるかしら? 穢らわしいわ」
「そう妬くなよ、君の相手は今からたっぷりと――しかも二人がかりでするんだから、さ。 ねぇ?」
からからと軽薄に笑ったロカジがトリスを追って、よっこらしょと窓を越えようとすると。
「黙れと言っていますの」
影朧が言い捨てると同時に、身の丈半分ほどの分身を幾人も放った。
銃を構えたトリスは、何か気付いたよう。
掌の中でマスケット銃を切り返して握り直すと、分身体にまるでフェンシングのようにその銃口を突きつけた。
「なんだいなんだい、よく見りゃ見てくれは悪くないな子猫ちゃん。――その顔に免じて遊んでやろう、今日のオレは『弾』を使わねぇ」
くっく、と喉を鳴らして笑ったトリスは、分身とキスしそうな程顔を寄せると。
最高に下衆な顔で、唇をきゅっと笑みに引き絞った。
「オレのこの長ぁくて逞しい銃一本で、たっぷり虐めてやるよ」
「うーわ、そりゃなんともお行儀の良い話だね。ほれ、お前たち、おいでよ」
窓枠に腰掛け背を預けたまま、肩を竦めたロカジは煙管を片手。
ぷか、と煙を吐くと適度な大きなの七つ首の大蛇を中庭に顕現させた。
良い男は人を使う事もわきまえているってなモノだ。
――ま、使うのは人じゃ無いけれどね。
顕れた大蛇は分身の爪をその尾で払い落とすと、大口を開いて喰らい。
食欲の侭に影朧の分身を丸呑みだ。。
「ロカジ、悪い子へのお仕置きといえばなんだ?」
銃口を突きつけて、大きく薙いだ銃身で分身を捌くトリスが、突然なぞなぞを一つ。
「何だい、突然に」
こちらへと向かってきた分身の爪を煙管で捌いたロカジが、首を傾ぐ。
その瞳は、可哀想に、突然頭がおかしくなってしまったに違いないと哀れむ瞳だ。
なんたって自分から望んで不利な戦い方をするような男だ、あたまがおかしいに違いない。
「ああ、やっぱり『100ぺん尻叩き』だよなあ!」
「僕は一言も答えちゃいないが、悪い案じゃないね。どちらかと言えばいい案じゃないか」
しかし、別段突然頭がおかしくなってしまった訳では無さそうだ。
いいやもしかすると、頭がおかしいのは前からで、今更だっただけかもしれないな。
肩を竦めて笑ったロカジは、指揮をするように煙管を振るって。
「やあ、かわいいオロチたち。聞いたかい?」
さあ頼んだよ。
彼が『お仕置き』をする手伝いをしておくれ。
「……貴方達思った以上に、タチが悪いのね」
尻を叩かれては堪らないと、マリアナ海峡のように深い溝を眉の間に刻む影朧。
呼びだした分身を前へと侍らせて、人の壁とすると――。
「気にするなよ、お前も相当さ。子猫ちゃん!」
一気に地を駆けたオロチが、本体である彼女を巻き取ろうと鋭く跳ねた。
それに合わせて銃身をバットのように握ったトリスが、大きく円を描いてソレを振りかぶり。
跳ねる4色の髪の毛。
「さあ、お仕置きを楽しもうぜ!」
「近寄らないで下さいます!?!」
最悪の誘いに、あからさまに嫌がる影朧。
そんな様子に、オロチにお仕事を任せてしまったロカジはからからと笑って。
尻叩き叩かれショーの見物をしながら、ぷかりとまた一服を重ねた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エレアリーゼ・ローエンシュタイン
ヴォルフ(f09192)と
私は…エル達はまだ子供で、ほんとの戀だって分からない
けれど、例えばどんなに望んでも
…絶対に手に入らないものもある事は、知ってる
UCを展開
ヴォルフが敵に近付けるよう弾幕で援護
教えて貰った情報と【2回攻撃】【地形の利用】で彼に有利に働くように
少しばかり足元にぶつけてあげれば
このチョコレートがどんなに危険か解るんじゃないかしら?
ありがとう…でも、エルは怒っている訳じゃないわ
気に食わないだけ、見ていたくないだけ
だから、もう全部消し去ってやるの!
彼の作った隙を逃さず、弾幕を束ねて一気に頭から浴びせてあげる
熱くて甘いチョコレート
ねぇ、これもまるで、アナタが望んだ戀みたいじゃない?
ヴォルフガング・ディーツェ
エル(f01792)と
戀を憎むか
戀を怨むか
許せないのならぶち壊す――ま、その気分は分からないでもないけどね
残念ながら、うちのお姫様は御前にお怒りの様だよ?
持参品「ヘルメス」を【メカニック】とUCで強化
相手の身体情報や攻撃パターンを掌握、エルにも伝えておくよ
情報を元に攻撃をいなし、懐まで飛び込んだらガジェットを爪に変えてその身を抉りながら【ハッキング】【精神攻撃】
影朧の憎んだ光景を、その脳裏に再演してあげよう
集中して行使するUCを崩壊させるのが狙い
――ほうら、おちおち攻撃も出来ないだろう?
作った隙は全ては彼の娘の為に
さあエル、行っておいで
鬱屈をため込むのは体に良くないからね、全力を出してくるんだ
●あまくて、とろける
エレアリーゼ『達』は、まだ子ども。
自分『達』が知らない事がある事も知っている。
――例えば、ほんとの戀。
エレアリーゼ『達』は、まだ子ども。
それでも、それでも、知っている事も沢山ある。
――例えば、どんなに欲しいと望んでも絶対に手に入らないものもあるって事。
「……許せないのならぶち壊す――ま、その気分は分からないでもないけどね」
戀を憎むか、戀を怨むか。
その先に在るものが、碌でも無い事くらいきっとあの影朧も理解はしているのであろう。
――だからこそ、ぶち壊したいのかもしれないけれど。
ゴーグルで目を覆ったヴォルフガングは、獣の耳を敵の気配にぴっと立てて。
「残念ながら、うちのお姫様は御前にお怒りの様だからね」
一気に地を蹴ったヴォルフガングの言葉に、エレアリーゼはゆるゆると首を振って。
「……違うのよ、ヴォルフ。エルは怒っている訳じゃないわ」
エレアリーゼが茨を模した黒の棘鞭を撓らせれば、チョコレートの弾幕が溢れ零れる。
「ふうん、どうだって良いわ。あなたが怒っていても、いなくても。――もうこうやって対峙してしまった以上、倒すか倒されるしか無いのだもの」
舞い散る花弁が混ざれば溶け、地を焼くチョコレート。
既の所で掌で地を叩いて避けた影朧は、薄紅色のオーラを防御に固めて。
ひゅうるり、響く口笛。
チョコレートの弾幕を扶翼として、一気に距離を詰めたヴォルフガングの腕輪が巨大な爪と化した。
交わす形で爪を叩き込めば、薄紅色のオーラとがちりと噛み合って。
「……ッ!」
受け止めた一撃の重さに影朧が地を引きずられて、その足の形に轍を生む。
間髪入れず幻朧桜の幹を蹴って方向転換したヴォルフガングは、勢いそのまま影朧を蹴り上げて。
流れるままのフォロースルーから、その腕に宿した爪を再び叩き込んだ。
ゴーグルによって彼女の戦いを分析した結果、ある程度まで彼女の動きの解析は出来ている。
そしてこの爪の一撃が少しばかり彼女の精神を蝕んで攻撃を阻害しているであろう事も、彼はちゃあんと理解していた。
「――ほうら、おちおち攻撃も出来ないだろう?」
次は彼女がオーラを爪の形に変えてこちらへと向かってくるであろうと言う予測を、ゴーグルは告げている。
だからこそヴォルフガングは敢えて、振りかざされたオーラの爪と自らの爪を噛み合わせて。
彼女を押し留めるように、強く強く捻り込む。
「――さあ、エル、怒っていなくとも感じている事はあるんだろう? 鬱屈をため込むのは体に良くないよ」
ここまで押さえ込めば、彼の仕事は終わったようなものだ。
後は――。
「……ありがとう、ヴォルフ」
あまい桃色の髪を揺らして、指揮をするかのように鞭を真っ直ぐに掲げたエレアリーゼ。
「エルはね、気に食わないだけ、見ていたくないだけ。――ぜんぶ、ぜんぶ、消し去ってやりたいだけ!」
ヴォルフガングが避けた先に、エレアリーゼが纏め放った弾幕は、巨大な砲の如く。
地を溶かして、花を溶かして、――戀までも溶かしてしまえ!
あまくて、あつくて、とろけるチョコレートを、召し上がれ。
抑え込みから開放された瞬間を狙って、影朧にチョコレートのような強酸が叩き込まれる!
「……っ、う!」
灼ける、焼ける。
強い痛み蹈鞴を踏む影朧は、ぎりりと奥歯を噛み。
「……ねぇ、これもまるで、アナタが望んだ戀みたいじゃない?」
エレアリーゼは小さく首を傾げて、尋ねた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クロト・ラトキエ
耀子さん(f12822)と。
何とも派手な皆殺し。
これは傭兵も形無しですね!
耀子さんもご無事で何より。
さて、万倍返しのお時間です。
実は僕、好いた方が既におりまして?
なぁんて、懸想される前にぶった斬る&不届き者度倍増発言。
殺されかけたのにときめかれるとか、ちょっと引くんで!
敵の視線、狙い。体幹に挙動…
見切り、躱し、時に鋼糸を用いて空中も利用しつつ。
操る糸で一閃
…なんてフェイント。
動作に紛れ、袖より滑らすナイフ。
縛れ――玖式
後は耀子さん、派手にお願いしますね!
こんな処で暴れる不信心者ですがね?
願掛けの一つもしたかったんですよ!
(唯一の人。
その往く道の先に、優しい倖いを。
…其処に、己はなくともいいから
花剣・耀子
クロトくん(f00472)と
嗚呼、随分と沢山殺してくれたこと。
クロトくん、ちゃんと生きているわよね。
ゆきましょう。
手段を選ばないのはあたしも同じよ。
数が増えようと、全部斬れば良いのでしょう?
クロトくんは巻き込まないよう気をつけて、
作ってくれた期を狙って踏み込みましょう。
おまえがどんな事情で此処に居るのかは知らないけれど、
人を呪わば穴二つと云うでしょう。
呪って仕舞ったなら、おまえは只の敵なのよ。
ええ、派手に。
密室殺人は好きだけれど、
物語の幕引きはスッキリする方が好みなの。
大団円といきましょう。
その徒花は、ここで散らすわ。
同情なんてしないわよ。
……でも、ねえ、おまえの戀は、どこへやってしまったの。
勾坂・薺
クレムさん(f03413)と
いやぁ。わたしの演技、女優さん並じゃない?
恋愛って結構大変なんだなぁ。
クレムさんは災難だったね。痛くなかった?
少し過剰かなって思ったけど、ほら。
真に迫るの大事っていうか。楽しんでた訳じゃなくてね。
これも成功の為というか。
まあちょっと楽しかったけど。うそうそ。
さてと、浮かれてる所残念だけど
どんな過去や執着があっても
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてって言うし?
真剣な恋なら尚更だよね。うんうん。
やろっか、クレムさん。
しゃぼん玉を吹いたら【Jenga Code】を走らせて
めった刺ししたようにずたずたに書き換えて行き
麻痺したら今がチャンス、と目線で
次は良い恋を知れるといいね
クレム・クラウベル
薺(f00735)と
さてな。評価は傍観してただろうそいつにでも訊くといい
やれやれ……こんな演技は二度と御免だ
上着のポケットから煙草を一本引き抜いて火を付ける
敵前だが知った事ではない
……楽しんでたんだな
嘘とは聞こえぬ口振りに肩を大げさに竦めて
まあ、騙し損なうよりは良いのかもしれないが……道理で本気で痛いと
薄着ではなかったのが幸いか
害為すなら打ち払い浄化する
理由など知ったことではない。ただいつも通り事をこなすのみ
言い残す事があるなら聞かないでもないが
ないのなら、祈る時間も必要ないだろうかな
送るは一雫の銀
……廻る先の生が良きものであることくらいは祈ってやるさ
戀を妬み憎むことなどないように
●いたいのいたいのとんでけ
「いやぁー、恋愛って結構大変なんだね。わたしの演技、女優さん並じゃなかった?」
「さてな、評価は傍観してただろうあいつにでも訊くといいさ」
のんびりと首を傾げる薺。
クレムは上着のポケットから一本煙草を抜くと、火を灯した。
吸わなきゃやっていられない事だって、この世界には沢山あるものだ。
敵はもう目前にいるが、知ったことか。
作り物のおもちゃの凶器だったと言うのに、肋骨がどうにも痛む。
クレムがぷかと煙を吐き出しながら胸を撫でる横で、薺がくすくすと笑った。
「ナイフ、痛くなかった? ほら、少し過剰かなって思ったけど、真に迫るの大事っていうか」
「……」
ジト目で見やるクレムに、薺は手を振って、振って。
「いやいや、……やだなぁ、楽しんでた訳じゃなくてね? これも成功の為というか、ほら。ね」
クレムが無言で煙を吐き出すものだから、薺はうんうん、と頷いて言葉を重ねて。
「まあちょっとだけ楽しかったかなー、なんて思うけれど。……うん、うそうそ。うそだからね」
「そうか、……楽しんでたんだな」
嘘というものの、嘘に聞こえぬ薺の語調。
溜息に似た煙を吐き出すクレム。
「や、やだなぁ。そんな風に聞こえた?」
「まあ、騙し損なうよりは良いのかもしれないが……、道理で本気で痛いと思った訳だ」
「……ははあ。まあまあ、それで騙されてくれたなら、結果オーライだね」
「……全くだな。――こんな演技は二度と御免だ」
やれやれ、と大げさに肩を竦めたクレム。
薺はそんな彼を振り返る事も無く、中庭へと歩みだし。
「はじめよっか、クレムさん」
クレムは返事代わりに煙草を躙り消し、彼女の背を追った。
●祈り
包帯を巻き直す。
いつもの事、いつもの慣れた手付き。
「クロトくん。ちゃんと生きているわよね」
肩を竦めた耀子は、冴えた空色を眼鏡の奥で瞬かせて。
口端に包帯の端を噛み締めて、きゅっと引き絞る。
纏った服は、既にいつもの制服だ。
もう偽る必要なんて、無いのだから。
「はい、耀子さんもご無事で何より」
意味ありげな懐中時計を机に置いたクロトは、腰掛けていた椅子より立ち上がり。
見下ろした中庭には、随分と猟兵が集まってきていた。
「嗚呼、それにしても随分と沢山殺してくれたこと」
「そうですねえ、何とも派手に皆殺しされたようで。――これでは傭兵も形無しと言った所でしょうか」
肩を竦めたクロトは、眼鏡の奥で柔らかく笑む。
傭兵の理論、クロトの理論。
――生き残ったら即ち勝利、勝ち戦でも死ねば無意味。
生還を得手とする彼としては、皆殺しされた時点で負けなのである。
まあ実際はまだ負けてはいないのだけれども。
それでも――『生還を得手とする』者が一度でも殺されたのだから、仕返しは必要であろう。
「さて、それでは――万倍返しのお時間ですね」
「ええ、行きましょうか」
瞳を眇めた耀子はひらりと窓の外へとその身を翻し、同時にクロトも窓の外へと跳んだ。
青白い月明かりが照らす内庭。
立派な幻朧桜の花弁が散る中、猟兵達の攻撃に晒され傷つく影朧の姿。
「どうも、お嬢さん。始めまして」
「まあ、ご丁寧に。貴方も女の子連れで私を苦しめに来たのかしら」
影朧が挨拶を終えると同時に、幾人もの彼女の分身が生まれ。
一斉にクロトへと向かって、小さな影朧達が殺到する。
「クロトくん、――気をつけて」
その言葉の意味する所は、『自分の攻撃に巻き込まれるな』。――敵とクロトの間に割入ったのは、耀子であった。
包帯の端を靡かせて。
軸足の踵を捻じ込むように踏み込むと腰を低く構え、上体を振って逆方向に腰を切る。
勢いよく機械剣が半円を描き、鈍い音を立てて振りかざされると、飛び込んできた影朧の分身が真っ二つに斬り放たれた。
「おまえがどんな事情で此処に居るのかは知らないけれど、人を呪わば穴二つと云うでしょう。――呪って仕舞ったなら、その時点でおまえは只の敵なのよ」
返す手で更に立ち向かってくる影朧の分身を振り払いながら、耀子は言う。
「あっ、後。実は僕、好いた方が既におりまして。耀子さんとはただの遊びなので!」
かるーく手を振ってクロトが宣言すると、本体の影朧が彼を睨めつけた。
「……人を呪わば穴二つ、そうよ。もうあたくしの身体は二つどころじゃない穴があいているわ。――ああいう最低の男がいる限り、それはもっと増える事でしょうね!」
「おおっと!」
分身が耀子を抑え込む中、クロトに向かって影朧が一直線に駆けてくる。
彼女に纏わりつく薄紅のオーラが爪と化して、クロトを狙い。
「いやいや、こんな処で暴れる不信心者ですがね? 僕も願掛けの一つもしたかったんですよ」
本当ですよ、なんて軽口を叩きながら。
脳裏によぎるは太陽の色。ああ、その往く道の先に、優しい倖いを。
――其処に、己の姿は、無くとも良いから。
それは、祈りに似た願い。
叩き込まれる軌道を身体が動くがままに見切ったクロトは、鋼糸を引きしぼり爪先を滑らせて横に跳ね避け――。
「縛れ――玖式」
袖より滑り出た三本のナイフが、月明かりに照らされた影朧の影を縫い止めた。
「何、を……!」
そこに、ぱちんと弾けたシャボン玉。
「……ひ、ぐ、……ッ!」
びくん、と身体を跳ねた影朧が、身動きが出来ぬままにその場で身を仰け反らせた。
「――さてと、どんな過去や執着があっても、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてって言うでしょ」
シャボン玉ストローを片手に、薺がねえ、なんて視線だけでクレムに同意を求めるよう。
――そのシャボン玉には、生体ハッキングのコードが仕組まれている。
影朧には今、身体を引き裂かれる痛みを与えられていることであろう。
「そいつの理由など俺が知ったことか」
クレムはいつも通り、敵を倒すだけだ。
それでも、――廻る先の生が良きものであることくらいは祈ってやろう。
彼女の次の命には、戀を妬み憎むことなどないように。
「密室殺人は好きだけれど、物語の幕引きはスッキリする方が好みなの。――お話の終わりは、大団円といきましょう」
クレムの真横に構えた銃より、祈りを籠めて放たれるは銀の弾丸。
全てを喰らう白刃が、耀子が振り放った機械剣より放たれる。
ぷう、と大きくシャボン玉を膨らせた薺が、思い出したように首を傾いだ。
「そういえば、私の演技はどうだったのかな?」
「……さあな」
首を小さく振ったクレム。
身を貫かれた影朧が、地を跳ねて強かに背を打ち据えられ。
「……あなた、たち……!」
ぎりり、と奥歯を噛み締めて猟兵達を睨めつける。
「……同情なんてしないわよ、かかってきなさい」
機械剣を構え直して、耀子は朗々と告げ首を振った。
同情はしない、……しないけれども。
――でも、ねえ、おまえの戀は、どこへやってしまったの?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
多々羅・赤銅
【明々】
おはよ、嬢ちゃん
お陰様で、良い夢見れた!
欠伸、元気!刀一振り
ともひと、身体平気?
やー、私が聖者でトクしたね♡
嬢ちゃんはさ、もしかしたら恋とか嫌なのかもしんねーけど
良いもんだよ!
やっぱさー恋してると元気になるし、君が好き!で満ちた頭は幸せだし。ともひともそう思うー!?
現れる分身を斬っては捨てて愉快に踊る大立ち回り
ああ、今日はとびきり身軽なんだ!
へいへい炎にも分身蹴り入れていこーな、ナイッシュー!
叶わない恋が嫌って気持ちには、生憎寄り添ってやれねえけど
来世あたり私と恋したら、幸せになっかもよ!なーんて
軽薄?真面目真面目!
え?灯人に恋したい?
んーーー
じゃ、どっちが魅力的な女になれるか勝負な!
浅沼・灯人
【明々】
おはようさん、嬢ちゃん
武器の類いは持たず、伸びをひとつ
いや、本当に死ぬかと思ったけどな俺
耐性皆無の俺にゃややキツかったわ
まあ赤銅の血のお陰で戦うのには支障はねぇさ
俺の意見は参考になんねぇよ
まぁあれだ、阿呆になれるのは悪かねぇ
一緒になって笑えていられたら万々歳
叶わなくとも惚れた相手が楽しそうなら……って、あり得ない?
だろうな、ごめんな
噴く灼焼、逃げ場をなくすように囲い燃やし
赤銅が愉快に勝負するのを見守る
寄ってくるなら焼き尽くそう
身を焦がすのは苦手か?
今これ以上苦しみたくないなら、来世の出会いを期待しな
恋に死ぬのも悪くはねぇぞ?
っはは、俺ぁ止めとけ
なんせ頭ん中に嬢ちゃん分の隙間がねぇんだ
●こいはたのしいもの
弾き飛ばされて転がってきた影朧の腕を引いて、立ち上がらせてあげる赤銅。
「おはよ、嬢ちゃん。ありがと! お陰様で、良い夢見れちゃった」
からからと気っ風良く笑った赤銅は、そのまま影朧をぶん投げると強く踏み込み。
上半身を引き絞って反動をつけると、影朧の胴体を刀で薙ぎ払わんと真一文字に刀を放ち。
その背を追ってゆっくりと歩きながら、大きな欠伸を噛み殺した灯人は猫のようにぐうっと伸びを一つ。
「おー、ともひと、身体平気? 私はめちゃくちゃ元気~♡」
「おはようさん、……いや、俺は本当に死ぬかと思ったけどな」
毒に対する耐性も、解毒方法も無い灯人からすれば、服毒などまさに『自殺行為』であったのだが。
「あーそっか、そしたらともひと、私が聖者でトクしちゃったね~~♡」
「あー、はいはい。トクした、トクした」
「でっしょ~~、もっかいやる?」
「暫くは遠慮しとく」
灯人が首をコキコキ鳴らす横で、からから笑う赤銅。
「な、何……?」
いきなり刀を振るわれた上で、フレンドリーに会話を始められてしまえば怪訝な表情にもなろう。
「……まあ、いいわよ。全部、全部、全部、殺してあげる」
叶わぬ理想。
叶う事はもうありえない理想。
笑う女を見るだけで、あふれる居心地の悪い感情。
ああ、馬鹿げているなんて、滑稽であるなんて、自分が一番知っている。
力を振り絞って幾度目かの分身を放つと、また女は笑った。
「嬢ちゃんはさ、もしかしたら恋とか嫌なのかもしんねーけどさ。やっぱ良いもんだよ!」
近くの分身体の顔に靴を捻り込むと、円を描いてその胴を斬り飛ばす。
「恋してると元気になるし、君が好き~~! で満ちた頭は気持ちよくて幸せだし。ねーねー、ともひともそう思うー!?」
「……俺の意見が参考になる訳ねぇだろ」
得物も持たぬ灯人が、ふう、と息を吐けば、それは燃える竜の吐息。
向かい来る分身を燃やし、焦がし。
そうして反動をつけぬ足を差し出すだけの動きで放つヤクザキックで、分身の一体を蹴り倒す。
「まぁあれだ、……阿呆になれるのは悪かねぇ、一緒になって笑えていられたら万々歳ってな」
「……」
灯人の言葉に、本体の影朧がきゅっと拳を握りしめた。
「叶わなくとも惚れた相手が楽しそうなら、それだけで……」
「……知ってるわよ、……知ってたわよ。でも。……そんなこと、もう」
「……ああ、だろうな。……ごめんな」
彼女は叶うことが無かったからこそ、その形と成ってしまったのだ。
彼女は叶わなかったからこそ、此処にいるのだ。
肩を竦めた灯人の横。分身の背中をぱあんと叩いてはっ倒した赤銅が無駄なポージングを決めてピースした。
「あー、そっかそっか。叶わない恋が嫌って気持ちには、生憎寄り添ってやれねえけどさあ。生まれ変わって来世あたり私と恋したら、幸せになっかもよ?」
灯人の炎が作ってくれたまあるい炎のリング。
踊るみたいに、跳ねるみたいに。
跳び膝蹴りから廻し蹴りに繋いで、分身の腕を蹴り上げた赤銅が刀を振り上げ。
「……貴方、ほんとうに軽薄に生きているのね」
うんざりとした様子で影朧が半眼で彼女を見やれば。
「ははは、そうだよなあ」
誰よりも先に笑ったのは灯人であった。
ひょいと跳ねて攻撃を躱して、熱い熱い炎で分身を焼き焦がし。
「え~、そんなこと無いって、真面目真面目!」
「ふうん。……なら、あたくしが彼を欲しいと言ったらどうするのかしら」
「え? んーーーー、そったらねぇ。どっちが魅力的な女になれるか勝負な!」
身を低く構えた赤銅が、分身を刀の柄頭で叩いてよろけさせると、一気に地を蹴って。
肉薄する影朧の本体。
赤銅は卵雑炊の刃を、すらりと彼女の首へと這わせて。
そこに再び響いた、灯人の笑い声。
「……残念だけど、俺ぁ止めとけ。なんせ頭ん中に嬢ちゃん分の隙間がねぇからさ。――それよか、今これ以上苦しみたくないなら、来世の出会いを期待しな」
恋に死ぬのも悪くはねぇぞ? なんて。
「……そう、……そうかもしれないわね」
彼女は少しだけ、笑ったのかも知れない。
「おわっと!?」
そうして影朧は赤銅の身体を蹴りあげると、バックステップを踏んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐那・千之助
さて、めいっぱい祈らせてもらった賽銭に
平和を取り戻しに参ろう
矢は痛かったし体力削がれたが。まぁ器用な演技などできぬ。
…この姿では分が悪いか
おや可憐な娘さん
戀という戀を消してしまって
そんなに戀に傷つくのがこわかったのかな
吐き出したい思いがあれば聞き届けたい
向き合う暇があればよいが
あ、軽薄なイメージが付いている男ではお嫌か…?
UCで吸血鬼化
二体で来るとは好都合。血と寿命を流したぶん、倍増しで戴こう
敵の攻撃は炎の壁のオーラ防御。寄れば燃やす
小さな敵への攻撃は面倒か
焔噴く大剣(黒剣)でいずれか、なんなら諸共攻撃
捉えれば失った体力を補うため生命力吸収
多少の負傷も此処で取り返すつもりで。
弱ったところを吸血
クーナ・セラフィン
うーんとてもテンション高いねーこの影朧(罠から放たれた矢を胸に刺して死んだふりしつつ)
計画が上手くいったと思ってるからのテンションなのかにゃー。
ともあれ出てきた黒幕には次はない、そうだよね?
やれやれと立ち上がってこんにちはとご挨拶。
なぜ生きてるのか問われれば戀とはきっと不滅なものだからさとかはぐらかし。
何を抱えて憎悪に転じたのかは知らないけれど、他人の戀に害するのは止めないといけないんだとUC発動。
さっと飛び込み薄紅色の流体を貫くような槍さばきで攻撃。
反撃で生命力奪われぬよう攻撃後は即距離を取ろう。
私の姿に惚れたかにゃーとか冗談めかしたり。
…ナンパはダメだったけどもね!
※アドリブ絡み等お任せ
●祈る
跳ね飛んできた少女に、柔らかく笑みを向けて。
「可憐な娘さん。――戀という戀の炎を全て吹き消して、そんなに戀に燃される事が怖かったのかの?」
朝焼けにも、夕焼けにも似た髪を揺らして首を傾いだ千之助。
応急処置と防御こそしたが、貫かれた腹の傷は演技ですら無い。
「戀が怖ろしい事は私も心得る所での。吐き出したい思いがあれば聴かせて貰えるかのう」
きゅっと身構えた影朧は、キッと千之助を睨めつけて。
「……一つの戀も消すこともできなかったあたくしにソレを尋ねるのかしら?」
「そうだね。なんたって戀は、きっと不滅なものだからねえ」
そこにこんばんは、なんて挨拶一つ。
ひょい、と飛び込んできたのはクーナであった。
全く、と。やれやれ肩を竦めた影朧は振り向いて。
「二人共軽薄で軽率で人にだらしなかったから、矢でしっかり貫いてあげたつもりだったけれど。……本当に皆生きているのね」
小手調べのように甘く差し出されたクーナの槍先を淡紅色のオーラで受け流すと、大きく後退り。
「にゃはは、戀が不滅なように私だって不滅なのさ。それに……何を抱えて憎悪に転じたのかは知らないけれど、他人の戀に害そうとする女の子は止めないといけないからね」
軽くステップを踏んで更に踏み込んだクーナは、銀槍を掌の中で握り直し。
飛び込もうとした、刹那。
幾つもの分身を顕した影朧は、分身達を一気に駆けさせ。
「にゃにゃっ!」
慌ててステップを踏むとクーナがその突撃を避けた。
避けた先に、立ちふさがる男。
「しかし、そうよな。軽率なイメージが付いた男には、なかなか話しにくいものよの」
ずぐ、と痛む腹を抑えると困ったように笑った千之助は仕方あるまい、と肩を上げ。
それが例え必要な演技だったとは言え、そういう姿しか見えなかったのだから仕方はあるまい。
細く細く息を吐いて、全身に力を巡らせるとアメジストの瞳は血色に染まり。
千之助の陽光の髪が白に染まった。
小さな身体に合わせて身を低く構え。
長い爪を合わせて掌を真っ直ぐに突き出すと、胸を貫かれた影朧の分身。
――例え作られた仮初の命とは言え、形作られている力を多少吸収する事は出来る。
背より千之助の腕を真っ直ぐに生やした身体が、先程よりも縮み行き。
「仕方あるまい、話は気が向いたら聴くとして……血と寿命を流したぶん、少しばかり馳走になるぞ」
「そういうつもりじゃ、ないのだけれど!」
「中々上手くいかないものだよねー」
影朧の嫌そうな悲鳴じみた声に合わせて軽口一つ。
ケットシーの身軽さで片手ロンダートで跳ねたクーナが、バク宙で幻朧桜を蹴って。
跳ねた鞠の如く軌道を変えると、風のように銀槍を駆けさせた。
すら、と本体を貫く槍。
「……ッッ!」
「私の姿に見惚れちゃったかにゃ?」
着地と同時に地を蹴って距離を取ったクーナがくすくすと笑って。
片手で円を描く形で黒剣を振るった千之助が、群がる分身達を焦がし燃やす。
「おぬしの思い通りにさせてやれないのは申し訳ないがの。ここの神にはめいっぱい祈らせて恩義があるゆえ、賽銭に平和を取り戻させて貰うとするぞ」
戀が怖いのは、当たり前である。
それでも、だからと言って。
――全ての戀を失わさせる訳には行かぬからの。
炎を纏い、白髪を掻き上げた千之助は、少女と視線を交わして――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎
私は私の戀の歪さを識ってる
戀とは奪うもの
血を肉を存在を魂を
渇愛のまま求め貪り屠り
全て我が物とする事
あの女に戀した時のように
ごめんね
私はリルを『愛して』いるわ
愛ではいけない?
与えるだけではダメ?
人魚の桜雨を掬い抱き締め
やまない鼓動隠し笑む
壊される程度の愛ではないわ
人魚の歌に心が燃えて
呪殺桜を吹雪かせ衝撃波と共になぎ払う
私、見初めたものは屠らずにはいられないの
戀殺すあなたが欲しいわ
ねぇ殺(戀)させて
哭華の桜嵐に斬撃重ね影を散らす
人魚の戀焔と冷たい温もり
氾濫しそうな熱を留め否定する
恋せじとみたらし川にせしみそき神はうけすもなりにけらしも
ねぇ
あいしてるの
愛が戀に至ったらならば、私は
リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎
恋しきに命をかふるものならば死には安くそあるべかりける
噎せ返る甘い桜馨
君の血の、毒の馨
愛するひとを傷つけた感触と血のあかに痺れる熱に酔う
今更震える
ごめんなさい
人魚に戻り血濡れの櫻に縋り付く
死なないで
僕はいつも求めてばかり
君がこんなに愛して慈しんでくれて
僕の世界に薄紅のあいを咲かせてくれたのに
もっと欲しくなる
愛が欲しい
僕の愛をあげるから
君を奪いたい
だめ
櫻の愛は渡さない
全部僕のなんだよ
燃えてしまえ
燃やしてやる
歌唱に誘惑蕩かし歌う「恋の歌」
尾鰭で包み
水泡のオーラで君を守る
櫻が見初めるのは僕だけでいい
愛は与えるもの
この戀が愛に至っても
僕は花咲く櫻に戀を重ねる
僕の愛で櫻を染めるだろう
●読人不知
この心臓と引き換えにこの戀が叶うとしたら、死を待つ事すら容易いというのに。
甘い匂い。
むせ返る程の、彼の香り。
それは、彼の中を流れる命の、毒の香り。
彼に賜った刃が一番初めに貫いたのも、また彼であった。
泡と溶けたリルは既に人魚の姿を取り戻し、小さく震えている。
重ねる言葉。
「ああ、ごめんなさい、……ごめんなさい、ごめんなさい、櫻宵……」
震えは後から来た。
愛するひとを傷つけた感触、血のあかに痺れる熱。
彼の血の匂い、肉の感触。
リルは癒やしの力を籠めて、櫻宵に祈るように縋る。
ああ、櫻宵、……櫻。
「――死なないで」
呼んでいる、呼ばれている。
傷の痛み、とくとくと熱打つ脇腹。
敵に貫かれる事もあった、斬られることもあった。
しかしこの傷は、何よりも重くて、何よりも深くて、何よりも冷たくて、何よりも熱い傷。
櫻宵は、櫻宵自身の『戀の歪さ』を誰よりも識っている。
戀とは奪うもの。
血を、肉を、存在を、魂を!
渇愛のまま求め、貪り屠り。
身も心も、全て全て、我が物とする事。
――あの女に戀した時の様に、ひどく歪な形をした戀しか、櫻宵には出来ないのだ。
いつか、必ず欲しくなる。
いつか、必ず、この手で――。
縋るリルを櫻宵は見やる。
熱い雫を露と零し、その顔をくしゃくしゃに歪めて縋るように抱きつく人魚。
「ねえ、櫻宵……君がこんなに愛して慈しんでくれて、僕の世界に薄紅のあいを咲かせてくれたのに」
青の瞳から、後から後から雫が止めどなく溢れてくる。
「僕はいつも求めてばかりで。……それでも。それでも、もっと欲しくなってしまうんだ」
こんなに好きになってしまうなんて。
こんなに、こんなに、こんなに。
抱かれる温もりも、綺麗な笑顔も、甘い香りも、全部、全部、全部、全部。
離したくない。
離れたくない。
好き、好き、好きだ。好き。
愛してる。
本当なんだ。
「愛が欲しい、僕の愛をあげるから――君を奪いたい」
リルのあふれる泪を掬って、櫻宵はリルをぎゅうと抱き寄せた。
縋るように、求めるように。
「……ごめんなさいね、リル。心配させてしまったわね」
いつもより高鳴っている鼓動は、きっと傷のせい。
ねえ、リル。
愛ではいけない?
与えるだけでは、ダメ?
――あたしの『戀』を、あなたにだけは見せる訳にはいかないのよ。
「大丈夫よ、私はリルを『愛して』いるわ」
「……ごめんなさい」
「いいえ、あたしこそ――」
更にきつく、きつく抱いたリルの身体。
高鳴る鼓動を隠すみたいに、櫻宵は微笑んだ。
白白とした青い月。
照らし出された大きな幻朧桜が、立派な枝を広げて風に揺れている。
舞う櫻の花弁。
立ち尽くす影朧に向かって、刃を構えた櫻宵は首を傾いだ。
「私ね、見初めたものは屠らずにはいられないの」
戀を殺すあなたは、きっときっと、きっと。
大きく踏み込んだ櫻宵。
「――ねぇ、殺させて」
「……やぁよ、誰にでもそうやって口説くの?」
「ふふ、そんな事ないわよ」
刃を月光に瞬かせて、櫻宵は嵐の如く桜の花弁を巻き上げて。
駆ける一閃。
刃に向かって影朧が分身を放てば、そこに響いた歌声は、甘く響くこいのうた。
だめ。
だめ、だめ、だめ。
櫻宵の愛は、渡さない。
――燃えてしまえ、燃やしてやる。
櫻宵が見初めるのは僕だけでいい。櫻宵が戀して仕舞う前に、僕が燃やしてやる。
分身が燃えて、焦げて。桜の花弁が大きく舞った。
――愛は与えるもの。
たとえば、この戀が愛に至ったとしても。
リルは花咲く櫻に戀を重ねるだろう。
――その愛で櫻を染める事だろう。
「……全部、全部、僕のなんだ」
燃える燃える、心。
人魚の呟いた小さな小さな声。
刃を駆けさせる櫻宵は、瞳を細めた。
――今にも溢れて氾濫しそうな熱を留めて。
その思いを櫻宵は戀では無いと、『否定』する。
否定をしなければいけない、と言う事はどういう事か、だなんて。
識っているけれど、識らない振り。
――戀はせぬと禊いだ筈であるのに、どうして神は聞き入れてくれぬのか。
ねぇ、あいしている、あいしている、あいしているわ。
これが、――戀に、至ったなら。
その時、櫻宵は。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
千桜・エリシャ
【桜鏡】
…今更ですわね
私はずっとそのつもりでしたわ
(なんて、本当は…)
――!
それはどういう…もう
本当に狡い方…
そう…クロウさんのことも教えて下さるなら
話して差し上げますわ
己の浴衣をしとりと濡らす
彼の血の香りに
舌先に残る味に
酔わされるようで
…いけない
今は集中しなくては
花弁に変じて奇襲し先手を
実体化しては斬りつけ変化
分身の合間をすり抜け翻弄
そうね
愚かかもしれませんわ
想いに身を焦がし
熱に浮かされ病のよう
消えぬ心の爪痕すら愛しくて
あなたならご存知のはず
憎しみに変わるほど
戀に身を窶したあなたならね
クロウさんと合わせて斬り付け
即座には二回攻撃
首をいただきましょう
次の世で素敵な戀が出来るよう
祈っておりますわ
杜鬼・クロウ
【桜鏡】
アドリブ◎
連携×
お前に一つ確認したい(小声
この一連は影朧を手繰る為の”恋人ごっこだった”ンだよな
安堵した。が
…俺は、お前へ伝えた総てに
一切の偽飾はねェ(伏した儘彼女の頭に手置き
終焉の後に聞かせろ
知りたい
もっともっと
エリシャのコトが
甘い薫り
桜に酔う
欲が渦巻く
もしも俺がお前を希うのなら
これは、
演技は終い
血染めの浴衣で戦闘
羅刹女へ目配せ
敵の背後忍び寄り玄夜叉で先制攻撃
本当に愚かなのは何方か
戀は綺麗で温かいものばかりじゃねェ
テメェの本当の憂いや渇きは一生晴れねェよ
益々虚しさが募るだけだ
憐れな影朧へ鉄の楔を
【沸血の業火】使用
桜に変じた女と共に
撹乱し妬みごと刻む
紅焔を剣に宿し戦力削り二連斬
首は女へ
●こいねがう
月明かりを浴びて、桜花が白白と降っている。
花の香り、血の香り。
「一つだけ確認しておきたい事が在る」
ゆっくりと身体を起こしたクロウは、小さな声でエリシャへと問いを一つ。
「――今日の出来事は、全部『恋人ごっこ』だったンだよな?」
「……まあ、今更ですわね。私はずっとそのつもりでしたわ」
常の様に。
物腰柔らかに笑んだエリシャは、内心見せぬ表情で口元に袖を寄せて。
その言葉にクロウは、小さく鼻を鳴らして瞳を細めた。
「安堵した、――が。……お前へ伝えた言葉総てに、一切の偽飾はねェ」
そうしてクロウは視線を交わす事も無く、エリシャの頭に掌を乗せてから立ち上がり。
「――! それは、どういう……!」
彼の背を見やって、ぱっと顔を上げるエリシャ。
なんて、なんて――狡い事を言う方なのでしょう!
「後は総て終わった後に聞かせろや」
得物を取り出したクロウは、振り向くことも無く。
「……そう、――クロウさんのことも教えて下さるなら、話して差し上げますわ」
ゆるゆる首を振ったエリシャも立ち上がる。
甘い幻朧桜の香りに浮かされたように、酔わされたように。
渦巻く欲。
もっと、お前を。
――あなたを。
二人の浴衣を染める朱色は彼のもの。
血の香り、エリシャの舌先を今も痺れさせる甘い味。
――それは、まるで、上質な美酒の如く。
「……さぁて、演技は終いだ。往くぞ羅刹女」
思わず唇に指を寄せたエリシャは、はっと頭を上げて。
――今は、集中する時だ、と。瞳を細めた。
「ええ、往きましょう」
他の猟兵を相手取り、分身を駆けさせている影朧の姿。
ちら、とクロウはエリシャへと目配せ一つ。
――力を籠めれば、滾り燃える血潮。
クロウは身を低く地を蹴って間合いを詰めると、鋭く黒魔の刃を鋭く振り抜いた。
「新手、ですのね!」
指揮をするように、腕を振るった影朧の動きに合わせて。分身体が刃の前へとその身を晒せば、肉の盾と化し。
「ああ、新手だぜ」
盾とされた分身を切り捨てた刃を前に、クロウは言葉を零す。
「……戀は綺麗で温かいものばかりじゃねェ。戀を殺すだけじゃ、テメェの本当の憂いや渇きは一生晴れねェよ」
吹き抜ける桜の花弁が、ちらちらと舞った。
片手で髪をかきあげて、クロウは影朧に向かって言葉を紡ぐ。
「そんなンじゃ、益々虚しさが募るだけだろ」
「……黙ってくださいます?」
知っている、知っている。
そんな事、誰よりも。
奥歯を噛み締めた影朧。
「……そうですわね、きっとあなたはご存知でしょうものね」
そこにひらひら。影朧へと舞い落ちた花弁は、――幻狼桜のものでは無い。
その想いに身を焦がし。
熱に浮かされた心は、まるで病のようにも思えて。
――その消えぬ心の爪痕すら、愛しくて、恋しくて。
……舞い散る花弁が纏まり人の形を成し、影朧へと突きつけられたのは桜花模す鍔の大太刀。
「想いが憎しみに変わるほど、戀に身を窶したあなたならね」
桜の花弁へと、その姿を変えていた女。
――太刀を真っ直ぐに構えたエリシャが、空中にその姿を顕し。
その刃を袈裟斬りに叩き込み。
鋭く吐き出した呼気。
奇襲に合わせて踏み込んだクロウが、逆袈裟に燃える刃を捻り込む。
散る花弁。
ああ、きっと。
戀をする事は愚かなのだろう。
それでも、それでも――。
「――次の世では、素敵な戀が出来るよう祈っておりますわ」
刃先を返して、刃を重ね。
エリシャとクロウは、影朧を斬り飛ばした!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
呉羽・伊織
【大団円】
先んじ1人内庭へ
敢えて姿見せ早業で娘に迫り
幻朧桜へどんと(出来ずともめげず)
毒?
そんなのこの戀の苦悶に比べたら可愛いモノ
キミに逢いたくて地獄(泥沼)の底から帰ってきたんだ
勿論好きだよ
(ここで渾身のきめがお)
――なーんて
御免な、芝居は此処迄だ
ってうわーコワイ!(仲間が)
毒も精霊も各耐性とこけし(解毒剤入)で緩和
得物や変眩を不規則に手繰りフェイント交え翻弄
さて、俺のなけなしの純情を弄んでくれた礼を――(?)は、兎も角!
なぁ、愛憎劇は終いにしよう
こんな事繰り返しても傷は深まるだけだ
――俺も色々痛感した(真顔)
過去の苦悶に終止符を
そして願わくは君にも誰にも(俺にも)
良縁の神が微笑む未来を――
ウルスラ・クライスト
【大団円】
解毒剤こけしに酒を注ぎ呷りながら
いち早く飛んで行く伊織ちゃんの勇姿を、にやにや見送って。
小町姐様、お菊の無事を確かめて…宵くんいつの間にいたの?
頑丈で何よりね。さ、行きましょうか
身の毒ほどに希み呑み干して
それでも涸れそうなほど飽き足らず、想うこころ。
誰も彼も眩しいほど愚かで……だからこそ
選び難いほど、可愛いのよね
迷子も愛しく思うけど
あなたのような一途な子も大好きよ、可愛いお嬢さん。
紫電を纏うUC「はじまりの蝶」を、彼女の退路に先回りさせ
眩さは目を奪い、さながら罠のように。
さぁさ、佳い声で歌って頂戴ね
あら、私はとくに懲りてないわよ。
こういう遊びも楽しいわね。いつでもお付き合いするわよ。
千家・菊里
【大団円】
ふぅ、こけし(解毒剤)と耐性(毒すら凌ぐ食欲)がなければ即死でした
影から伊織の勇姿見守り
盛り上がった所ではいはいお邪魔しますね
俺というものがありながら、またそんな火遊びを――地獄の業火で焼いてあげようか
と伊織に向ける嫉妬の炎(UC)はフェイント
これは精霊を祓い目を醒ます為の破魔の炎です、はい
自らもオーラ防御や耐性でやんわり精霊受流し
一部炎を合体強化し少女自身にも向け牽制
序でに伊織には生暖かい視線送り
未だその心身を焦がし苛む傷が、如何程か
戀とは何か
俺には分からないけれど
まぁ玉砕続きの可哀想な伊織でも見て元気出して下さい
こほん
叶うなら
彼女を縛る拗れた糸こそを断ち
違う物語を紡ぎに行けるよう
花川・小町
【大団円】
ええ、こけし(目覚ましの一杯)がなければ即死だったわ
影で悠々と子羊見守り
はい、そこまで♥️
UC使い二人の間裂く衝撃波を
(これは同じく精霊から守る為よ)
私達というものがありながら、またそんな大火傷をしに行くなんて懲りない子ね
あらウルスラちゃんはあの子もお好み?
そうね、とっても可愛いわ
私も好きよ、一途な在り方は
だからこそ
拗れた姿は見るに耐えない
攻撃は敢えて正面から受け
真直ぐに衝撃波をお返し
貴女の傷は癒せないけれど
せめてその想いは受け止めましょう
だから貴女も私達の想い、受け取ってね
止められぬなら、止めてあげる
――戀とは言葉と心で絲を縒り合わすもの
さて出来ると良いわね?(可哀想な子に微笑み)
佳月・清宵
【大団円】
――持つべきものはこけしだな
俺ァ旨い肴(子羊)の気配を察して、まぁふらりと
一応菊里に介入伝言(最初の🚩)を任せた筈が、どうも投げやがった様で
等と色々回収しつつ影で子羊眺め
気が引かれた?瞬間介入
おう、俺達と以下略
そりゃ俺への当付けか?
と派手に放つUCは此方もフェイント兼視界撹乱
あぁ、この炎に他意はねぇから安心しろよ
――本命はその影で放った2回攻撃
マヒ毒齎す手裏剣を娘へ向け牽制
全く、どいつもこいつも酔狂が過ぎんだろ
だがまぁ付き合ってやろう
雁字搦めが解けるまで
惨い茶番劇に幕を引き、穏当な次に繋がる瞬間まで
耐性で凌ぎ炎重ね悪夢焼き
――最後に笑うは良縁の神か
否、鬼が笑うか(小町に重ねて笑い)
●こけし推しなの何なの
駆けてゆく伊織を横目に、こけしに酒を注ぎ入れるウルスラ
――その中に滲み現れたのは解毒剤である。
「ふぅ……」
「――持つべきものはこけしだな」
こけしを呷る、菊里と清宵。
「ええ、こけしがなければ即死だったわ」
追加でこけしに酒を注ぎ入れる小町も真顔で頷き。
はた、とウルスラは首を傾いだ。
「……宵くん、いつの間にいたの?」
はっと笑った清宵。
格好良く唇を擡げて笑みを深めると、獣の耳をピンと立てて。
「俺ァ――旨い肴の気配を察して、まぁふらりと訪れただけさ」
ぷは、とこけし酒より口を離す。
よく考えたらこの人毒殺じゃないから、肴だけで無くただただ飲みたいからお酒飲んでますね。
一応。
清宵は菊里に来る事は伝えていたようであった。
しかし、伝えていたけれど、伝えて貰えたとは言っていない。
そう、と。
肩を竦めたウルスラは、変わらぬ面々の表情を見やって。
「ま、皆体調は大丈夫そうだし、頑丈で何よりね。……さ、行きましょうか」
最後の戦いに、なんて。
嘯いたウルスラの言葉に、こけしを握った皆は立ち上がる。
……結局、そのこけしは何なのかなんて、誰も答えてはくれる人はいないけれど。
青い月明かりを浴びて。
薄紅色を揺らす影朧と対峙するは、黒髪を靡かせた伊織の姿。
「――貴方は毒……だったかしら、それもみーんな嘘だったのね」
「フッ。毒なんて、この戀の苦悶に比べたら可愛いモノ。――キミに逢いたくて地獄の底から帰ってきたんだ」
すっと歩み寄ると、影朧を幻朧桜の幹へと追いやり。
所謂壁ドンのポーズを取る伊織。
実際はゴクゴク毒を飲まされていたけれど、そんな事をわざわざ言わないのがいい男なのかもしれない。
大丈夫こけし飲みました。
「……ふうん、あたくしが好き、なんて言うの?」
「勿論、好きだよ」
赤い瞳に宿る色気は、酒精によるものだろうか。
ぷんと薫る酒の薫り。
努めて格好良い顔で、影朧と見つめ合った伊織は――。
「――なあんて、御免な、芝居はおし……」
伊織の言葉を紡ぎきらせる事無く、放たれたのは狐火。
影朧の影より溢れた精霊が、炎に飲み込まれ――。
「はい、そこまで♥️」
「はいはーい、お邪魔しますね」
咄嗟に伊織が腕を引っ込めていなければ腕は失われていただろう。
重ねて放たれた刃圧は、衝撃波を生む。
影朧と伊織の鼻先を通り抜けてゆく炎と圧。
弾かれるように、伊織と影朧は間合いを取り――。
「へえ、そりゃァ、俺への当付けか?」
狐火を派手に燃え上がらせて、地へと拳を叩き込んだ清宵はにっと笑った。
そして。
二人の動向を優しく見守っていた三人は、影朧の攻撃から伊織を護るために攻撃をしたので、別段炎等に他意は含まれていないと言う共通認識の元に、同時に口を開いた。
「私達というものがありながら、またそんな大火傷をしに行くなんて懲りない子ね」
今日一番の笑顔で微笑む小町。
「俺というものがありながら、またそんな火遊びを――、地獄の業火で焼いてあげようか?」
伊織の横に立つと、ふかふかとした尾を彼へと巻きつけて頷く菊里。
オーラ防御で精霊を受け流しつつ、伊織にむかって優しい流し目。
「おう、俺達というものがありながら、そんな当て擦りをするなんて寂しかったんだな。大丈夫今夜は寝かせねぇからよ」
最後は、両腕を広げる清宵。
「ウワーーー!! なにそれコワイ!!!」
吠える伊織。
わかる。
やや混乱しながらバックステップを踏んだ影朧を、炎影に紛れて追った清宵の手裏剣。
「来たわね、ズッコケさんにんぐ……ッ!?」
ガード腕を上げて、その刃を受け止めた影朧がもう一歩後ずさると。
地に刻まれた印章がばちん、と高く音を上げて雷を弾けさせた。
「残念。新手は四人なのよね、――ズッコケるつもりは勿論無いけれど」
肩を竦めた新手――ウルスラがその姿を表せば、真っ直ぐに影朧の赤と青に相違う瞳と視線を交わして。
「あと、私もとくに懲りてないわよ。こういう遊びも楽しいものね」
小さく笑ったウルスラは蝶の印章を地に刻ながら、更に間合いを取った。
――身の毒ほどに、庶幾い。
呑み干して、それでも涸れそうなほど飽き足らず、想うこころ。
誰も彼も眩しいほど愚かで。
……だからこそ、選び難いほど可愛い。
そうして。
ふ、と眦を緩めたウルスラは、小さく笑って。
「迷子も愛しく思うけど――、あなたのような一途な子も大好きよ、可愛いお嬢さん」
「あらウルスラちゃんは、あの子もお好み?」
「ええ、とっても眩しくて――、可愛いでしょう?」
小町の問いに。ウルスラは愚かで、とは言わなかった。
ぱちぱちと瞬きを重ねた小町は、頷いて。
「……そうね、とっても可愛いわ。私も好きよ、一途な在り方は」
そうして小町は、握ったなぎなたの柄を唇に寄せて瞳を細めた。
――だからこそ。
だからこそ、拗れた姿は見るに耐えないもので。
「っていうか! 俺は別に浮気をしたワケでもなくて! いや浮気っていうかもともと、え!? 何!?」
説明できなくなってきた仲間たちとの拗れきった爛れた関係(設定)をおさらいする気にもなれず、伊織はわあわあ喚く。
「……本当に、何なのよ貴方達!」
影朧も大体、伊織と同じ気持ち。
影より精霊を溢れさせながら、影朧は一気に地を蹴る。
詰められた間合いに、大きく薙刀を振るう小町。
「そうね、……貴女の傷は癒せないけれど、あなたの想いを受け止めに来たのよ」
激しくぶつかり合う衝撃波と、少女の纏う薄紅色のオーラの爪。
反動を受け流して、薙刀の上で跳ねた影朧はその柄を蹴って。
小町が柄を蹴った少女ごと柄を振るえば、大きく影朧は後ろに跳んだ。
「だから貴女も私達の想い、受け取ってね。――止められぬなら、止めてあげるわ!」
舞い上がる精霊に炎を燃え上がらせて。
首を振る菊里。
――人としての生を喪って尚。
未だその心身を焦がし苛む傷が、如何程だろうか。
戀とは何か。
菊里には解らない、理解も出来ない。
「……まぁ、このように。玉砕続きの可哀想な伊織でも見て元気出して下さい」
だから言える事なんて、こんな事ばかりで。
「そういう事言う!?!?!?!?」
ぴゃっと伊織が肩を跳ねて。
くつくつと清宵が笑った。
「――全く、どいつもこいつも酔狂が過ぎんだろ。……だがまぁ、付き合ってやるとするか」
大きく清宵が腕を振るえば、炎が燃える。
影朧が逃げられぬよう。
自ら達も退路を立つように。
すらりと黒い刃を掌に潜ませた伊織も、深呼吸一つ。
「俺のなけなしの純情を弄んでくれた礼を……は、兎も角。――愛憎劇は幕引きにしようぜ。こんな事繰り返しても、アンタの傷は深まるだけだろうからな」
舞う精霊を炎の壁へと誘導するように跳ね跳んだ伊織が、真一文字に腕を振るえば闇に紛れていくつもの刃が放たれる。
――過去の苦悶に終止符を。
そして願わくは君にも誰にも、良縁の神が微笑む未来が訪れん事を。
あと俺にも。
そうして伊織は真顔でこっくり頷き。
「――俺も色々痛感した」
なんて、付け足した。
そうね、今回ひどい目あってたねえ。
「そうね」「そうだな」「そうですね」「そうねえ」
皆が優しく伊織に微笑む、優しい世界。
爆ぜる炎。
響く剣戟。
――戀とは言葉と心で絲を縒り合わすもの。
「……叶うなら、あなたを縛る拗れた糸こそを断ち。違う物語を紡ぐ事ができるように」
菊里が祈りに似た言葉を紡げば、清宵は小さく俯き、笑う。
雁字搦めが解けるまで。
それは――惨い茶番劇に幕を引き。穏当な次へと繋がる瞬間まで。
仲間たちは、戦いを止める事が無い事を知っている笑みだ。
「――最後に笑うは良縁の神か。……否、鬼が笑うか」
なんて、肩を竦めた。
成功
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都槻・綾
f09129/ユルグさん
骸海から還るほどに
深い戀だったのですねぇ
酔いは何処へやら
すっきりと身を起こし
薫らす馨遙で影朧を誘眠
眠りに落ちる僅かの隙を
彼は決して逃さないだろうとの確信
おや、狡い
いつか私とも一閃交わしましょうよ
あなたの戀を見せてと
ユルグさんへ笑って嘯き
帛紗をひらり
咲き初めの桜は戀の芽生え
満ち綻びた薔薇は朱を引く唇の芳しさ
花開くみたいに香りが変化する様は
宛ら恋心の深まりのよう
きっと
ひとつとして同じ戀は無い
ならば
ひとつきりを抱えて彷徨うのは勿体ない
次の世ではどんな戀が待っているのか
見てみたいと思いませんか
「今」に足踏みしている時間は無いですよ
来世でもどうぞ
鮮やかに「戀」を咲かせてくださいな
ユルグ・オルド
f01786/綾と
溢した分勿体なかったな、なんて
酔い潰れるにはまだ早かったネ
人の恋路は邪魔しちゃいけないってこったな
こわいこわいと嘯いて、隣の言葉に肩竦め
過去の骸になる程ならば、
俺は到底知りたかないなァ
馨る風を切欠に駆けだそう
夢見心地は薫りか戀か
招くのは錬成カミヤドリ、掴むのは一振り
刃越しなら戀も出来る
紗を裂くように拓く一閃、
お好みの駆け引きといこうじゃないか
降らす刃で塞いで離して
三つ巴の修羅場にでもする?なンて
撃ち漏らそうと掬ってくれるのは知ってるから
そうネ、他人の邪魔してるよか
新しい戀でも探しに行く方が良いンじゃない
咲き初む花に限りはなくて
綾の薫の導く先なら、きっと悪いもんじゃないだろう
●おやすみなさい
月影に舞う、桜の花弁。
酒に火照る身体を冷やす夜風は、実に心地が良いものだ。
しかし、酒を飲んだ後だと言うのに。
横に佇む男――綾は常とは変わらぬ表情。
影朧の少女の姿を認めた綾はが、ふと指を上げれば燻る馨。
帛紗に灯る薫りが、儚き薫りだとしても、彼女の――影朧の心を落ち着ける薫りと成ろう。
それは綾の信頼に似た、確信。
言葉無くとも、柔らかな風を合図に。
片刃の彎刀を片手に一気に踏み込んだのはユルグであった。
月影に舞う、その数実に六十を超える刃。
彎刀が冴え冴えとその月明かりを照り返し。
すこうしばかり瞳を閉じた影朧は、その気配にはっと顔を上げて。
「貴方達、まだ増えるの?」
一瞬だけ襲われた眠気に舌打ち一つ、その腕に力を宿した。
降り注ぐ銀の雨。
薄紅色のオーラで咄嗟に刃を防ごうとした影朧に向かって、逆袈裟に刀を一閃したユルグ。
「――お好みの駆け引きといこうじゃないか。んふふ、三つ巴の修羅場にでもする?」
真っ直ぐに裂かれた身体より、血が舞った。
「刃越しならば戀も出来るさ、……なぁんてね」
「いいえ、……そういうのは結構よ!」
軽口を叩く彼の一撃に後退り、足の形に轍を生んだ影朧は眉を寄せて吠えた。
そうして薄紅のオーラを爪と変える影朧。
舞う刃でその爪を塞ぎ、ユルグは軽く跳んで。
「おや、ならばいつか私とも一閃交わしましょうよ」
「ははァ、なに何、俺と戀したいの?」
「あなたの戀ならば、見てみたいですね」
ふくふくと笑う綾の言葉に、くっと笑ったユルグ。
帛紗が彼が間合いを取る為の扶翼と化して、薄紅色のオーラを弾き返す。
――咲き初めの桜は戀の芽生え。
満ち綻びた薔薇は朱を引く唇の芳しさ。
花開くみたいに、香りが変化する様は宛ら恋心の深まりのよう。
きっと、きっと。
ひとつとして同じ戀は無いものだ。
だからこそ、綾は影朧を見据えて首を傾ぐ。
「ねえ、――ひとつきりを抱えて彷徨うのは勿体ない、と私は思いますよ」
薄紅色のオーラを叩き込み、刃を帛紗を叩き落とし。
眉を寄せる影朧。
ああ、……きっと、そうなのだろうけれど。
迷い子のように惑う視線。
「次の世ではどんな戀が待っているのか見てみたいと思いませんか?」
そんな彼女と、ひたりと視線を交わす綾。
『今』に足踏みしている時間は勿体ないと、綾は瞳を眇めて。
「そうネー、他人の邪魔してるよか、新しい戀でも探しに行く方が良いンじゃない?」
影朧の拳を捌きながら、ユルグもゆるく笑み一つ。
――咲き初む花に限りは無い。
それでも、それでも。
綾の薫りが導いてくれるのならば。
きっと悪いもんじゃないだろう、なんてユルグは思ってしまうのだ。
「……そんなの、わかっているわよ」
呟く影朧。
彼女の動きが悪くなってきているのは、荒ぶる魂が静まってきているのか。
慰められて、肉体が静まってきているのか。
――或いはただ、倒れようとしているのか。
ユルグが白刃を一閃させた、瞬間。
影朧の身体が、桜花と成って散った。
「……おやすみなさい、――来世でもどうぞ、鮮やかに『戀』を咲かせてくださいな」
はら、はら、舞い落ちる桜花。
青白く月を照り返す花弁を浴びて、綾は呟く。
「骸海から還るほどに深い戀だったのですねぇ」
「人の恋路は邪魔しちゃ大変ってこったなァ」
こわいこわい、なんてユルグは肩を竦めて空を見上げ。
はらり、はらり、舞う花弁。
未だ花弁の雨は留まる事無く。
「……過去の骸になる程ならば、――俺は到底知りたかないなァ」
そうしてユルグは、月の眩しさに瞳を閉じた。
大成功
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