そこはかつて、緑豊かな地だった。
人々は巨大な環状の建物を造り、そこに住んだ。その環状楼は姓を同じくする一族の住まいであり、そして同時にひとつの街だった。楼の外側には田畑が広がり、更にその外側はなだらかな山に守られていた。環の中心部には皆の祖霊を祀る廟が建てられ、住人たちは祖を敬い、子を愛し、平和に暮らしていた。
――鳥のように翼があればいいのに。
ジェシカは巨大なドーナツの穴の中から空を見上げた。乾いた風が砂埃を運んでいく。古びた瓦で丸く縁取られた青空を、鳥の群れが通り過ぎていった。
あの鳥たちのように自由に空を飛ぶことができれば、日々の暮らしももう少し楽になるに違いない。なにせ、自分たちは拠点(ベース)の外に出るのも命懸けだし、だからといって永遠にこのドーナツに引きこもってもいられない。ここにはもう、なにも残されていないからだ。
以前は緑が広がっていて食べ物にも水にも困らなかったと聞くが、その面影は跡形もない。こんな荒野のど真ん中に数年前まで水田があっただなんて、いったい誰が信じようか。
(……ま、アタシは信じるけど)
彼女だけでなく、この世界の人々の殆どは知っている。ある日突然現れたあの黒い竜巻が、何もかも壊してしまったことを。ジェシカの大切な日常を容赦なく奪っていった竜巻は、きっと環状楼も同じように襲ったのだろう。拠点として再建される前は楼の一部が崩落してしまっていたらしい。まるで巨人に齧られたドーナツのように。
ジェシカがここへ流れ着いたのは修復作業が終わってからのことだから、当時のことはわからない。ただひとつわかるのは、元々ここに住んでいた人たち――本来の住人たちは、誰一人として残っていない、ということだった。
ぽっかりと空いた中庭には何かの土台が残っていた。それが何だったのかは、誰も知らない。そこそこ広いその空間は、今は住人たちの戦闘訓練に使われている。
「おい、ジェシカ!」
咎めるような呼び声にジェシカは舌打ちした。――ちぇっ、見つかった。
振り返ると若い男のシルエットがそこにある。ユーシュエンだ。声などなくても、影だけでわかる。ユーシュエンが一歩近づいてくるごとにディティールが露わになっていく。強烈な陽光と砂嵐から身を守るためのマントを頭からすっぽり被って、肌が見えるのは顔と手くらいだ。それでもジェシカにはユーシュエンだと悟るには十分すぎた。
「またこんなところでサボってんのか。炊出しの当番だろ」
「だってアタシ、料理ニガテだし」
「だったら楼の補修作業に回れよ」
「力仕事、やーだ」
ユーシュエンは拠点の若者グループをまとめるリーダーだった。責任感も強くて、誰にでも優しい。家族も友達も住む場所も一度に喪くしてすっかり斜に構えるようになってしまったジェシカとは正反対だ。水一滴すら容易に手に入れることができない世界になってしまっても、彼の誠実さは枯れ果てることがなさそうにみえた。
「……何してたんだ」
ユーシュエンは諦めたようにジェシカの隣に座った。鼻の頭に浮かぶ汗の玉まで見えるようだった。
「あらぁ? リーダーもサボりですかぁ?」
「何ばか言ってんだ」
つい、とそっぽを向いて揶揄するジェシカの心を、ユーシュエンは知らない。――きっと知らない。だって、いつも気付かれないように目を逸らしているんだから。
あの恐ろしい竜巻さえ現れなければ。平和な日常が続いてさえいれば。そうしたら、少しは素直になれただろうか。
(……なんてね)
ジェシカは想像の行き着くところに思い至って、溜息をついた。乾いた溜息はそのまま青い空へ霧散していく。竜巻がなければ、きっと出会いすらしていないだろう。皮肉なもの、とは、こういうことを言うに違いない。
「うまくできなくてもいいから、何か仕事になることをしたほうがいい。体を動かしていれば昔のことを思い出さなくて済む」
マントの端で汗を拭いながら、ユーシュエンは言った。極限の状況にあってサボりは許されないとか、皆そうしているのだからとか、そういうことは決して言わない。寄り添うように、熱された石に染み込む雨水のように語りかける。いつでも。誰にでも。
「はいはい。考えと……、――!」
「またそういう適当なことを、……どうした?」
いつものように聞き流そうとするジェシカが不意に言葉を呑み込んだのに気づいて、ユーシュエンもジェシカと同じように空を見上げた。
雲ひとつない青い空。今日も雨は降りそうにない。その青空に黒いシミがひとつある。シミはみるみるうちに広がっていく。いや、あれは――。
●
「お前らには、アポカリプスヘルに行ってもらう」
実に単刀直入に、アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)が言った。背後のスクリーンに投影された荒野の風景が妙に似合っている。彼自身も「なんだか懐かしい気分だ」などと慣れない冗談を言う始末だ。
「ある拠点がオブリビオンの襲撃を受ける。通常なら多少は持ち堪えられるところだろうが、今回は内部に侵入された。拠点壊滅までの猶予はあまりない」
次に映し出されたのは、荒野とは真逆の風景だった。緑の中に建つ円形の建物。客家土楼、福建土楼と呼ばれる建築物だ。
「これはUDCアースからの資料画像だが、今回向かってもらう拠点も以前はこんなような建築物だったらしい。規模はもうちょい大きいかな。オブリビオン・ストームによる被害の修復や外敵に備えた補強で多少は改装された部分もあるだろうが、基本的には同じ構造と思って差し支えない」
大きな中庭をぐるりと囲むような構造で、物資さえ備えがあれば籠城にはもってこいの様式といえた。だが、それは人間相手であれば、の話である。
「対空防御に難があったな」
アレクサンドラは拠点の構造資料をまじまじと眺めて、呟いた。中庭がある、ということは、そこは外と繋がっているということだ。飛行能力のある敵に対してはあまりにも無防備だった。
「鳥型のオブリビオンが中庭の上空から飛び込んできた。でっかい鴉のゾンビだ。腐りかけだからプンプン臭うし、体液や体臭は猛毒、並大抵の人間じゃ太刀打ちできない」
民間人でも即死には至らないが、何の処置もせずに放っておけばゆっくりと呼吸困難に陥るだろう。そうなる前に鴉に啄ばまれる地獄を味わうことにもなりそうだ。
「鴉の討伐がお前らのお仕事――というわけなんだが、襲われた住人の救助も視野に入れてもらいたい。もちろん、余力があれば、の話だ」
優先すべきはオブリビオンの討伐である。“枝葉末節”に囚われて本来の任務を忘れてはならない、と、アレクサンドラは表情を引き締めた。だが心の内では願っている。生を諦めない全ての人間の勝利を。
「さあ、準備はいいか」
幼い日、生活の全てが戦場に在ったサイボーグはその腕にグリモアを掲げる。身体の殆どを機械に譲ってでも、生きていたいと願った。守りたいと誓った。その日々と、その何かを思い出すように。
本多志信
こんにちは、本多志信です。
本シナリオは3章とも敵との戦闘を主に行っていただきます。日常、冒険フラグメントは含みませんので、ご了承ください。
第1章につきましては、敵オブリビオンの討伐が完了となれば任務達成です。転送位置は「拠点内であればどこでも可」とします。オブリビオンの前に即駆けつける、住人への接触を優先する、どちらでも構いません。「引っ掛け」的なギミックはありませんので、プレイヤーさん、キャラクターさんが優先したいこと、大切にしたいことなどを踏まえてプレイングを考えていただければと思います。
(可能性としては低いと思いますが、住人の救助にプレイングが偏った場合は、バランス等を鑑みてオブリビオンとの戦闘に回っていただくキャラクターさんが出てくることもあるかと思います。ご了承ください)
(本多個人の価値観ではございますが、「“切り捨てるライン”がある」というRPも大変カッコいい!おいしい!!と思っておりますので、そのあたりのことは一切気にせず、ご自分の価値観や好みを目一杯輝かせていただければと思います)
第1章 ボス戦
『ジャックレイヴン』
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POW : トキシックフェザー
【両翼】から【血液で汚れた無数の羽根】を放ち、【血液に含まれる神経毒】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : オールモストデッド
【腐食、腐敗を促進させる毒ガス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : デッドレイヴン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【屍鴉】が召喚される。屍鴉は敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:龍烏こう
👑11
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●
「――鴉?」
急速に近づいてくるそれは、確かに翼を羽ばたかせる鴉の形をしていた。しかし何かが違う。
「避けろッ!」
咄嗟にユーシュエンがジェシカの身体を抱きかかえて横に飛ぶ。同時に2人が一瞬前まで座っていた場所に鴉が嘴を突き立て、その衝撃で地面が抉れた。
「……っ、なんだ、この臭い……!」
突き刺さった嘴を引き抜いて土を払うその仕草は間違いなく鴉そのものだ。その体躯がやけに大きいことを除けば。既に常識など破壊し尽くされた世界で“ありえない”などと呟く気力すら湧かないが、この大きさならば、なるほど人間を餌だと認識するのも無理はないだろう。だが2人をゾッとさせたのはその巨体ではなく、鴉の全身から放たれる強烈な腐臭だった。
陽を浴びて青みを帯びて光る黒羽は、ところどころに血がこびりついて艶を失っている。鴉が脚を一歩踏み出すごとに、身体から肉片がずるりと落ちる。腐臭は鴉自身の肉体が朽ちてゆく残渣だった。
「ジェシカ、逃げろ」
「ユーシュエン、あんたは?」
「とりあえず時間を稼ぐ。おまえは逃げて、皆に知らせろ」
大鴉から目を逸らすことなく、ユーシュエンは言った。
とても大丈夫だとは思えない。こんなバケモノに、たった1人で。――でも。
「わ、わかった」
ジェシカは頷いて後退りした。その動きに反応して、大鴉がジェシカに狙いを定める。
「行け!」
ユーシュエンの声に弾かれるようにジェシカの身体が動いた。羽が空気を打つ音が聞こえたが、すぐに鈍い音が聞こえた。ユーシュエンが自慢のナイフを鴉に突き立てたに違いない。この拠点で、ナイフ捌きで彼の右に出る者はいない。もしかするとユーシュエンは勝てるのかもしれない。この異形の大鴉にも。
「ぐ……ッ」
僅かな望みを打ち砕くようにユーシュエンの呻き声が聞こえる。後ろは見ない。早く、はやく。皆のところへ行かなければ。そして、助けを呼ぶのだ。
(神さま、神さま……!)
そんなものを呼ばなくなって久しい。それでもジェシカは必死に祈った。
どうか、アタシの大事なものをこれ以上持っていかないで。
ルフトフェール・ルミナ
不思議な建物だね。平和な世界でここを探索、とかなら、どんなにワクワクしただろう。
でも、今は生き延びた人達が身を寄せる場所、守らなければいけない場所だ。
にしても、でっかい鴉だね。ここに何か用あんの? なかったら帰って。あっても過去に帰ってもらうけどさ。
【WIZ】
アレクサンドラさん、僕を中庭に転送してくれる? 鴉を惹きつけて、中庭から出させないようにするんだ。
魔術『大いなる冬』を使えば、毒ガスで対抗されないかな。この術で動きを止めるんだ。屍鴉が召喚される? それは、このフック付きワイヤーの餌食だよ。
うん、逃げ遅れた人、他の猟兵、僕自身が狙われた時に身代わりにする盾にするってわけ【敵を盾にする】。
スキアファール・イリャルギ
敵の前に即駆けつけて、
まずはユーシュエンさんを呪瘡包帯で無理やり引っ張り敵から引き離します
ボンジュ。(ボンジュールの略らしい)
臭いのが嫌なんでガスマスク越しで失礼
手練であれど突っ込み過ぎたら死にますよ
私ですか?
只の人間、只の"怪奇"です
話しつつ相手に敵意を向け攻撃を誘発
屍鴉を炎(属性攻撃)を纏ったオーラで防御
ユーシュエンさんあんまり動かないでくださいね庇えないじゃないですか
さて、"借り"ますか
【Ghoti】で数は劣るでしょうが『屍鴉』を召喚
そうだな、今回のアレンジは――燃やしましょうか
あと臭いのは嫌なんで抑えましょう
空へ逃げても『屍鴉』なら届くでしょう?
どうぞ"仲間"の身体で燃えてください
テリブル・カトラリー
既にオブリビオンに襲われているか…私にできる事は…
オブリビオンの横合いに転送、目的は敵オブリビオン撃破。
狙撃銃で【スナイパー・早業】即座に烏の頭部に狙いを定め【部位破壊】
頭部、というより嘴を狙い狙撃。嘴での攻撃を封じる。
お前の相手は私だ。この程度で死ぬ程、簡単なものではないだろう。
羽の飛んでくる軌道を【見切り】ブースターで自身を【吹き飛ばし】回避。
武装変更【クイックドロウ・カウンター】大型自動拳銃で翼を銃撃、
体勢を崩させる
その身体でよく飛んで来れたな。…厄介なものだ。
『燃焼爆弾』発動。
手榴弾型の爆弾を【投擲、属性攻撃】で烏の腐った肉を焼き尽くす。
●
乾いた足音が遠ざかってゆく。
ユーシュエンは安堵の息を吐いた。これでいい。――少なくとも、今ここで彼女が異形の餌食になることだけは避けられた。
だが状況はお世辞にも芳しいとは言えない。ナイフは手の届かないところに弾き飛ばされて転がっている。大鴉の脚に踏みつけられたまま、ユーシュエンは睨み上げた。鼻が曲がるほどの腐臭。顔を顰めながらしかし、心のどこかで新鮮な驚きを感じてもいた。この類の臭いを嗅がなくなって随分と久しかったのだと、彼は思う。水の一滴が血の一滴にも等しいこの環境で、死者の安寧のために火葬が常となったこの世界で、肉が腐っていく臭いを間近にすることはついぞなかったのだ。
鴉はしきりに首を傾げ、虚ろな目でユーシュエンを観察している。これは美味い餌なのだろうかとでも考えているのだろうか。
「……はっ、そんな嘴で何が食えるってんだ」
革製の頑丈な拘束具で嘴を戒められた鴉を、ユーシュエンは嘲笑った。それは毒ガスや細菌を防ぐためのマスクにもよく似て、自らの腐った身体から饐えた臭いを放つ大鴉がそれを身に着けているさまはひどく滑稽だった。
嘲笑に腹を立てたということもあるまいが、鴉は嘴で鋭い一撃を繰り出した。
「……ッ」
首を曲げて紙一重のところでそれを躱す。嘴はマントを地面に縫い付けて、腐った血と肉で汚した。
思うように身体を動かせないのは、押さえつけられているせい――だけではないとユーシュエンは理解した。腐臭が、血が、肉が、猛毒を帯びているのだ。指先は痺れ、肺は思うように酸素を吸ってくれない。目に映る鴉の嘴が歪んでいるのは元からだったか、それとも眩暈のせいか、それもわからない。
(ここ、までか――)
まだ、死ぬわけにはいかない。ここでただ喰われるだけでは、皆を、彼女を守りきったとは言えない。それは喰われる順を入れ替えただけだ。せめて、道連れにしなければ――。
ユーシュエンはマントの下に隠し持っていた手榴弾へ手を伸ばした。
●
「おっと。“それ”はおすすめしませんよ」
駆けつけるや否や、大鴉に踏みつけられている青年が物騒な物を手にしているのに気付いたスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は黒包帯でその腕を縛り上げた。それとほぼ同時に、大鴉が横っ面を張り倒されたように吹き飛ばされる。間髪入れずに黒包帯を巻き取ると、鴉から解放された青年の身体は釣り上げられた魚のように宙を舞い、そしてスキアファールの足下に落ちた。
「ボンジュ」
地面に転がったままのユーシュエンへ、スキアファールは背中越しに挨拶をした。
「ガスマスク越しで失礼。臭いのは嫌なんで。それはともかく、手練れであれど突っ込み過ぎたら死にますよ」
場違いにも思える軽口をペラペラと叩くその姿はやたらと細くて、やたらとのっぽで、ガスマスクの隙間から見える顔は、――名状しがたいなにか――、顔はちゃんとあるはずなのに、意識がそれを正しく認識しようとはしない。本能がそれを直視することを拒絶する。ユーシュエンは無自覚にその人物を『影人間』だと認識した。そして更に「敵の新手」だとも思ったのだろう、スキアファールの黒包帯を振り解こうと麻痺の進行している身体でもがいた。
「ユーシュエンさん」
名乗ったはずのない自分の名を呼ばれ、ユーシュエンの唇は「なんで」と動くが、麻痺の進行で声が出せなくなっているらしい。
「あんまり動かないでくださいね。庇えないじゃないですか」
――庇う? 俺を?
揺らめく視界の端々に、影人間以外の人影が動くのが見えた。一人は大型のライフルを構え、もう一人は星型の飾りがついた杖を掲げている。先刻鴉を吹き飛ばしたのは、きっとライフルの方だろう。それにしては銃声も聞こえなかったし、硝煙の臭いもしないが――。曖昧になっていく意識の中でユーシュエンは考える。……なんだ、そうか。味方じゃないか。助かっ――。
「ユーシュエンさん!」
「緊張が解けたな。まだ生きている」
ロッドを掲げて詠唱の準備に入っていたルフトフェール・ルミナ(空を駆ける風・f08308)が、ユーシュエンが昏倒したのを見て叫んだ。ライフルを背負ったテリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)が素早く近づいて、脈を確認しながら応えた。
「治療や救護の用意をしている仲間がいるはずだ。そちらに任せよう」
「…うん、そうだね」
「そうそう、何はともあれ毒の元を断たないことにはね」
テリブル、ルフトフェール、スキアファールは、ようやく立ち上がって態勢を整えたばかりの大鴉に向き直った。
血で固まった羽根や崩れていく肉の感覚が不快なのだろうか、鴉は何度も羽根を震わせた。その度に腐った血と肉が中庭に飛び散る。汚れた土から腐臭が漂い、中庭に毒が充満していく。
「こちらさんも、あんまり動いてほしくありませんねぇ」
「動き回られると、それだけ毒が広がるね。僕の魔術で動きを封じようか」
ガスマスクの下でスキアファールが顔を歪めた。なにしろ彼は他の二人と違って毒に耐性がない。戦いが長引けばマスクでも防ぎきれなくなるかもしれない。なにより、今以上に悪臭が強くなるのは勘弁願いたかった。
「では私が引き付ける。ルフトフェールはその間に術を完成させろ」
「オッケー、任せてよ」
言うが早いか、テリブルはライフルの代わりに自動拳銃を構えて大鴉に突進した。
「お前の相手は私だ」
静かに、しかし射抜くように。テリブルは鴉へ告げる。私を見ろ。その本能、その敵意を全て自分へ向けろと。鴉も翼を羽搏かせてテリブルに応える。小さく跳ねて鋭い鉤爪のついた脚を蹴り出した。
テリブルは突進する勢いのまま身体を地面に落とし、鴉の身体の下へ滑り込んだ。鼻先を後趾の爪が掠め、金属を引っ掻く耳障りな音がした。おそらく変声マスクに傷がついただろうが、それに構わず彼女は乾いた地面を滑る。鴉の後ろへ抜けた瞬間に最小限の動きで身を起こし、大型拳銃の引鉄を引いた。
出会い頭に発砲したライフルも同様に、彼女の扱う銃器はサイズが大きい。装甲を纏った長身に加えてその重装備である。並の人間では金属に埋もれて身動きすら取ることができないような代物だった。しかし彼女は長年の経験でそれらの重量を補う術を心得ていた。身体に装着したブースターを使いこなし、加速や急旋回を可能にしているのだ。
一度目の狙撃と同じように、また嘴を正確に狙い撃つ。弾丸の勢いに弾かれて鴉が仰け反ると、嘴のマスクが剥がれ落ちた。
「すごい……!」
「いやはや、さすがは歴戦の猛者ですね」
テリブルの鮮やかな身のこなしに、ルフトフェールもスキアファールも舌を巻く。
「ゲッ、ゲェエッ」
自由になった嘴をカチカチと合わせて、鴉は喜んでいるように見える。その場で何度も跳ねて羽根をばたつかせた。
「……嘴での攻撃を封じるつもりだったが、裏目に出たか」
とはいえ、二度の銃撃で鴉の嘴には風穴が二つも空いている。喜びの舞いらしいその動きも、腐りかけの身体をひきずるように動き回るせいで、傷を受けてのたうち回っているのと大差ない。
「その身体で、よく飛んで来られたな」
一抹の哀れみを含んでいるのか、ただの純粋な疑問か。それとも何の意味も持たない呟きか。淡々とした声音の裡を量ることはできない。
「その穴を繋げて、嘴ごと撃ち落とせば問題ない」
テリブルが三度目の狙いを付けたその時、鴉が翼を大きく広げ、けたたましく鳴いた。己へ敵意を向ける者への警告。生きるという本能を死んで尚走らせる鴉へ、テリブルは弾を撃ち込んだ。
「『我、己が体熱を代償に、異なる時、異なる地への途を開かん。』――!」
術を編み上げ詠唱するルフトフェールの意識が僅かに逸れた。中庭で翼を広げ威嚇行動を続ける大鴉の周囲に、夥しい数の鴉が召喚され始めたのを見たためだ。喚び出された鴉たちもまた、生ける屍だった。血に汚れた羽根と腐臭を撒き散らし、大鴉の上を飛び回る。
「こりゃあ、圧巻ですね」などと、スキアファールがすっと呆けたように呟く。ただし、その目は得物を狙う獣のそれだ。
「――『三度の冬を経し世の吹雪、この世に阻めるものはなし』!」
ルフトフェールが呪文を最後まで唱えきると、その背後で空間が歪み始めた。魔術『大いなる冬』の完成だ。メリ、と何かが裂ける音がした気がするが、幻聴かもしれない。それを確かめる間もなく、歪んだ空間の向こうに吹雪の荒れ狂う雪原が見えた。その吹雪は瞬く間に大鴉へ襲いかかって血に濡れた羽根を氷漬けにしていく。
「やあ、これは涼しい」
相変わらずの軽口を叩きながら、スキアファールが炎のオーラで屍鴉を一羽ずつ叩き落していた。テリブルも襲ってくる屍鴉の軌道を完全に読んで軽々と躱す。
ルフトフェールは掲げたロッドを納めて、鞄の中からワイヤーを取り出した。
「ここは生き延びた人たちが身を寄せる場所、守らなければいけない場所だ。君たちを中庭から出すわけにはいかない。言いたいこともあるだろうけどさ、過去に帰ってもらうよ」
ワイヤーの先端にはフックが取り付けられている。投げ縄の要領でワイヤーに勢いを付けるルフトフェールにも屍鴉が迫った。それを躱す反動でワイヤーを放り、すれ違いざまに屍鴉を釣り上げる。鴉の勢いと重さも加わってワイヤーからは低い風切り音が鳴った。それでも屍鴉は間断なく襲いかかる。自分目がけて次々と飛来する鴉に、ルフトフェールは釣り上げた鴉をぶつけて撃墜していった。
「さて、ここからが見せ場ですよ」
殺気立った屍鴉の群れを凌いで、スキアファールがニヤリと笑った。
「――それ、貸して」
まるで友達におもちゃを借りる子供のように、さらりとした呟き。それを皮切りに、スキアファールの周りに再び屍鴉が殺到した――かに見えた。だが、それは彼のユーベルコード、『Ghoti』。相手の攻撃を我流にアレンジして借用する技だ。
「今回は燃やしてみました」
こちらの世界じゃ、火葬が一般的みたいですしね。と、ガスマスクの下で愛想笑いに似た笑みを浮かべる。「あと、臭いも消しました」
――いいとこどり、いいじゃないですか。借用に借用を重ねて、我流に捏ね繰り回して、原形を留めない“なにか”に成り果てたとしても。それが矛盾を孕む存在だったとしても。
「どうぞ、“仲間”の身体で燃えてください」
くい、とスキアファールの指が大鴉を示すと、燃え盛る鴉の群れは勢いよく飛びかかった。
ルフトフェールの魔術で羽根を氷漬けにされた大鴉は自由を得ようと我武者羅に暴れた。身体を揺する度に凍らずに残っている部位から肉片が落ちる。それを見たテリブルが手榴弾型の爆弾からピンを引き抜いて放り投げた。
「そこら中に毒を振りまかれても厄介だ」
『燃焼爆弾』から放たれた無数の針が、撒き散らされた肉片を焼き尽くしていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
加々見・久慈彦
住人の救助は他の方々にお任せして、私は害鳥駆除に専念しましょうかね(「悪人を殺す」という形でばかり活動してきたので、虐げられている人々を直接的に救う/守る術を実はよく知らない)。
環状楼の屋上の一角に陣取り、中庭の鴉めがけてキングのカードを連投します。ダメージを与えることよりも、ユーベルコード(とくに広範囲に被害をもたらす毒ガス)を封じることが狙いです。
戦闘終了後に敵の死体が消えなかったら、綺麗さっぱり【焼却】しましょう。しかし、残念ですなぁ。これが七面鳥だったら、そして腐ってなかったら、ちょっと時期外れのローストターキーを住人の皆様にご馳走できたのに……。
※煮るな焼くなとご自由に扱ってください
鵜飼・章
呼んだ?
神は神でも死神だけど
生きたいと願うひとを殺したりはしないよ
その為に『いらない子』は処分します
ジェシカさん達を助ける為にも僕は数を減らす事に集中する
あえて目立たない物影に転送して貰って
UC【万有引力】で針を投げ僕に気づいていない敵の急所を次々【串刺し】にするよ
脳を貫通し一撃で落とすつもりで
各種耐性も適宜役に立て毒や臭いの対策に
それにしてもマナーの悪い子たちだ
僕の鴉を敵に紛れさせてジェシカさん達の所へ送り
防毒マスクを届けて救助の支援をして貰う
敵が減るか気づかれた場合は【恐怖を与える】【動物と話す】で圧をかけ無力化する
死んでも鴉は鴉だ
僕に逆らえると思っているのかな
獣奏器を奏でて踊らせておこう
才堂・紅葉
「こっちは初めてだけど随分な鉄火場ね」
アポカリプスの荒涼とした空気を吸って小さく吐息。
戦場を見渡して仕事モードに切り替え、冷ややかに意識を澄ます。
予め【情報収集】で資料から拠点の構造を把握し、中庭を見下ろす屋根の上に位置取りたい。
方針は中庭から侵攻を試みる大鴉を、頭上から自動小銃で釣る瓶撃ちにしつつ味方の【援護射撃】。出来るだけその翼を【部位破壊】して機動力を奪いたい。
注意点は毒ガスの距離と新手による上空からの攻撃だ。
ガジェットブーツでの大跳躍で適宜距離を取りつつ【制圧射撃】で弾幕を派張り、【戦闘知識】で戦場の立て直しを支援したい。
「ポイントクリア。今の内にお下がりなさい」
【アドリブ連携歓迎】
●
「ゲッ、ゲェエッ」
忌まわしい鳴き声に背中を殴りつけられ、ジェシカは思わず足を止めた。だが振り返る勇気はない。大丈夫、きっと大丈夫――と、幸運を天に祈るばかりだった。
「神さま……!」
もう一度、祈る。祈ったところで何も救われないと、誰も帰ってきやしないとあれほど思い知ったのに、それでも縋る。縋るしか、ないのだ。
「呼んだ?」
「――!?」
思わぬ返事に、ジェシカは身を竦ませた。
強い日差しが瓦屋根で遮断された、濃い陰の奥。声はそこから聞こえた。恐る恐る語りかける。
「だっ、誰……?」
「“神さま”さ」
『陰』が人の形をとったならば、もしかしたらこんな姿なのかもしれない。漆黒の髪に白い肌。この世界にを生きる人間とは真逆の容姿をした青年が、ぬう、と現れた。
「――神は神でも、死神だけど」
陰から這い出た青年――鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、そう嘯く。“死神”と聞いて、ジェシカは引き攣った顔で後退った。無理もない、章の肩には都合よく鴉まで留まっているのだ。たった今自分たちを襲ったバケモノの仲間なのではないか、という考えが頭を過るのは当然だった。
章はその顔に薄い笑みを浮かべてみせた。
「生きたいと願うひとを殺したりはしないよ」
実のところ、章は“神さま”ではない。少なくとも、この宇宙に存在する種族としては。だが、ジェシカにとってはまさに“神さま”であり、大鴉にとっては“死神”に違いなかった。この逼迫した事態を打破し得る力を持った、猟兵なのだから。
「その為に、『いらない子』は処分します」
変わらぬ笑みで、ひんやりとした声で、告げる。
慈愛の滲む、しかしどこか冷たい章の態度に、ジェシカは戸惑ったようだった。だが、中庭からは絶えず恐ろしい音が聞こえてくる。ここで足を止めてはいられないと再び走り出した彼女の後姿を見送って、章は太陽が照り付ける中庭へ顔を向けた。
「日陰の中からだと、余計に眩しいね」
大鴉からの視線を避けながら、章は環状楼の屋根の下を進んだ。前線で戦う猟兵たちが翼を氷漬けにしてその動きを鈍らせたが、鴉はしぶとく眷属を召喚し続けている。
ギャアギャアと喚き飛び交う屍鴉を見上げて、章は呟く。
「マナーの悪い子たちだ」
懐から針を取り出して、狙いを定めた。――と、その時。
「メリー、クリスマァス!!」
まったく場違いの掛け声が聞こえたかと思うと、大鴉にひとつ、ふたつと何かが突き刺さった。声のした方を辿ると、それは環状楼の屋根の上。古びた瓦の上に陣取って大鴉を狙い撃つ加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)の姿があった。視線を巡らせれば他にももう一人、屋上から大鴉に狙いを定める少女がいる。
(なるほど。遠距離からの狙撃を考える人は僕以外にもいたか)
かつ、と軽い音に足元を見ると、一枚のトランプが石畳に跳ねて転がった。絵柄はクラブのキング。
「あーっ、申し訳ありません!」
屋根の上から久慈彦が叫ぶ。白いスーツが陽光を反射して余計に眩しい。章は一層目を細めた。
「私としたことが、手元が狂ってしまいました。お怪我はありませんか?」
頭にぐるぐると巻き付けた包帯の隙間からは炎がチロチロと上がっている。トランプの持ち主は久慈彦らしい。大鴉に突き刺さったのも、彼の手札なのだろう。拾って投げ返そうと手を伸ばすと、カードの縁に鋭い刃が仕込まれているのに気づいた。
「どうぞ、お構いなく! 刃で手を切ってもいけません。それに、実は――スペアもありますのでね」
慇懃無礼な口調とは裏腹に、久慈彦はニタリと笑ってみせた。
その一方、ちょうど久慈彦の対面に陣取った少女が屍鴉の群れを次々と撃ち落としていった。少女の名は、才堂・紅葉(お嬢・f08859)。紅葉は凛とした横顔で眉一つ動かさず、自動小銃を撃ち続ける。大鴉と対峙している猟兵は常に全方位から屍鴉に狙われていたが、紅葉の援護射撃のおかげで幾分かは楽に戦えているようだった。
空になった弾倉をパージして再装填するまでの時間はごくわずか。銃の扱いを熟知した手捌きで、数秒の暇も敵に与えない。
「こっちの世界は初めてだけど」
手を休めることなく、紅葉は独り言ちる。屋根の下は俄かに騒がしくなってきた。拠点の住人達も侵入者に気付き始めたのだろう。避難しようとする者、反撃に出ようとする者が入り乱れて混乱が生じ始めている。
「随分な鉄火場ね」
どこか品のある表情や佇まいには不釣り合いな言葉で、階下の喧騒を評する。その“鉄火場”にかつて出入りしていたのは反対側からカードを投げる久慈彦だが、それを紅葉が知る由もない。
屋上のスナイパーたちが選んだ場所は、特等席と言えた。鴉どもを釘付けにさえすれば、中庭はぐるりと囲まれた檻も同然だ。あとは飛び上がってきた屍鴉を撃ち落とし、大鴉の羽根を撃ち抜いて追い詰めればそれでいい。
地上からは章も狙撃に加わっていた。ユーベルコード『万有引力』の命中率はほぼ必中、しかも狙った部位を正確に射抜く。物陰に身を潜めて、章は獲物を狙う。鴉を仕留めるのに十分な長さと強度を備えた針は過たず標的を捉え、貫き、環状楼の壁に磔にした。
「まるで昆虫採集の標本ですねえ」
章の鮮やかな手並みに久慈彦が口笛を吹く。
一羽、また一羽と羽根を広げて壁に縫い留められる鴉は、遠目で見ると揚羽蝶のようにも見えた。
「しかし、残念ですなぁ」
誰が見ているわけでもないのに、久慈彦は芝居がかった仕草で肩を竦める。
「これが七面鳥だったら、そして腐ってなかったら、ちょっと時季外れのローストターキーを住人の皆さまにご馳走できたのに」
残念、いや残念。と、独り芝居を続けながら久慈彦は壁から大鴉へ視線を移した。彼のユーベルコード、『THREE KINGS』は敵の攻撃を弱めるためのもの。全弾的中は逃したが、二人のキング――もとい、東方博士が大鴉の毒を抑えてくれることだろう。特に、広範囲に被害をもたらすことが予想される毒のガスは、被害を最小限に留めなければならない。
誰かを守る、誰かを救う術など、久慈彦にはない。ない、が――。
(……今ここで私にできるのは、害鳥駆除だけですからねぇ)
それでも拠点の住人が一人でも多く助かるための手段を選んだのは、彼の心の底に正義の炎が揺らめいているからだろう。チリ、と、包帯の下の火が僅かに勢いを増した。
(そろそろ、来てもおかしくない)
慎重に大鴉の様子を観察し、紅葉は身構えた。上下左右、複数の猟兵から攻撃を仕掛けられ、無尽蔵に湧くかのように見える屍鴉たちは召喚する度に猟兵たちが叩き落してしまう。大鴉も痺れを切らしてくる頃だった。鋭い声の威嚇や殺気立った羽搏きもそれを示している。
駆け付けた多くの猟兵が警戒している、腐敗ガス。それがひとたび生じればこの拠点を丸ごと呑み込んでしまうだろう。
大鴉が大きく首を振った。大口径の銃で何度も撃ち抜かれた嘴は、未だ鴉の身体からもがれてはいない。銃創からは、鴉が動く度に体液とも腐肉ともつかない半液状の物体が零れた。
「ゲッ、ゲッ」
太い嘴から、異様な音が漏れ始めた。それは鳴き声というよりも、もっと別の何かだ。腹から喉を波打たせ、――ごぽり、と、腐った臓腑を吐き出した。
地面に吐き出された臓腑はたちまち黒いシミを作り、そのシミは見る見る広がっていく。いや、それよりも早く一段と強烈な腐臭が猟兵たちを襲った。毒耐性のない者は急いで鼻と口を覆う。
「これは……ッ」
紅葉は撃ち落とされた屍鴉たちの身体が急速に腐敗し始めるのに気付いた。
「住人たちの避難と救援を急がなくては!」
「僕に任せてくれ」
紅葉の足下から名乗りを上げたのは、章だった。
「治療・救援に当たっている猟兵の元へ僕の鴉を向かわせよう」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
バジル・サラザール
正直不思議な毒鴉も気になるけど、皆の治療が優先ね
住民への接触を優先しましょう
中庭から極力離れたところで、毒を防げそうな場所に動ける人を避難させましょう
『毒使い』『医術』の知識を生かして、『ヒュギエイアの薬箱』や施設の備品を借りて皆を解毒、治療するわ
私は『毒耐性』があるから大丈夫
向こうが襲ってきたり、もし治療がひと段落したりしたら、住民の人達を庇いつつ『毒使い』『属性攻撃』を生かして『ポイズン・スピア』で攻撃して追い払うわ
敵意は私に向くと思うけど、それでも住民の人達に攻撃が行きそうなら庇いましょう
大丈夫、この調子ならきっと乗り切れるわ。だから頑張りましょう
アドリブ、連携歓迎
リュカ・エンキアンサス
空を飛んでくるならちょうどいい
撃ち落としてしまおう
…って言っても、まずは情報収集から
星鯨、頼んだよ
立体感のない鯨たちを召喚して放って、まずはこの拠点の様子を探る
今回は一人だから、隠れながら狙撃できるポイントを数か所
それと、一般人がいないかの探索
早めに救助できそうなら、
もしくは早急に手当てが必要な人間が発見されたら救助優先
救助活動と医術を使って何としてでも生き残ってもらう
その後安全な地形を探してそちらへ誘導する
一般人が急を要さないなら、もしくは手遅れなら戦闘専念
狙撃ポイントから制圧射撃で撃ち落としたい
同じ場所から攻撃していたら敵に見つかるから、ある程度撃ったらまた別の狙撃ポイントに移動を繰り返す
●
「落ち着いて聞いて。皆、中庭からできるだけ離れるのよ」
バジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)は己を取り囲む群衆に告げた。人々は半信半疑の眼差しで彼女を見るが、猟兵は彼らにとって“腕の立つ奪還者”、いわば救世主のようなものだ。その彼女が言うのであれば本当なのだろう。更にバジルは真剣な面持ちで続ける。
「敵が拠点に侵入したの。今は私の仲間が抑え込んでいるけれど、毒を使う異形よ。いつ拠点中がその毒に侵されるかわからない」
その眼差しは大半の住人を頷かせる説得力を持っていた。未だに信用しきれないという顔をしている者も、中庭の方角から鳥の異様な鳴き声と銃声が響いてくると、少なくとも「害意を持った何者かが侵入した」ということは理解し始めた。しかし住人の一人が不安げに言う。
「だからといって、ここを飛び出すわけにもいかねえ。外に出たところでレイダーどもに身包み剥がれるのがオチだ」
「そうね」
グリモア猟兵は外の脅威には何も触れなかったけれど――、この荒廃した世界では何が起こるかわからない。バジルは直感的に、拠点に留まった上での避難に同意した。
「ガスマスクや防塵マスクはあるかしら?」
「あ、ああ」
「それを全員に配りましょう。数が足りなければ、子供や高齢の人、身体の弱い人を優先に」
薬剤師を本業としているバジルは、応急処置の他にも緊急時の対応を心得ていた。
(救命救急の現場で働く人たちには及ばないけれど、私も何を優先すべきかは知っているわ)
――大丈夫、きっと助ける。
不安げな顔で壁際に蹲る子供たちへ、バジルは優しく微笑みかけた。
リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は独り拠点内を探索していた。
「星鯨、頼んだよ」
ユーベルコード『星鯨の聲』で召喚した小さな鯨たちを泳がせ、様子を探る。探しているのは、――主に拠点の住人たちだ。転送直後は狙撃に向いたポイントを探していたのだが、すぐに拠点の構造的弱点に気付いて住人の救助優先に方針を切り替えた。
環状楼は、言葉の通りリング状の建築物だ。端から端まで移動する場合、円状の地形ならば中心を通過するのが最短コースになるが、今その中心には猛毒を撒き散らす大鴉が足止めされている。ここを住人に通過させることはできない。即ち、リング状になっている外縁部を伝って避難するしかないのだ。「中庭から極力離れる」だけであればそれほどの移動をする必要はないが、――そして分散することでの生存率上昇を期するのであれば――、一か所に集まる必要もないが、多くの猟兵たちが一人でも多くの住人を助けたいと考えていた。猟兵から離れた場所に分散されてしまっては、救いの手が届かない者が出る。
だから、リュカは環状楼の中を走った。
住人のほとんどは既に異変に気付いているだろうが、息を殺して隠れている者もいるに違いない。
鯨たちとリュカは最奥から拠点内の部屋を虱潰しに探した。
一つの部屋を通り過ぎたとき、鯨の一匹が人の気配を察知して戸口の前で跳ねた。
「誰か、いる?」
扉を叩いてリュカが問う。ややあって、僅かに開いた戸の隙間から子供が怯えた目を覗かせた。
「――なにが、あったの?」
年がさほど離れていない相手と見たのか、警戒を解いた少年は扉を開けてリュカの前に姿を見せた。随分と痩せている。年は十を過ぎた頃だろう、と当たりを付けた直後にリュカはそれを内心で否定した。食料を得るのもままならない世界だ。もしかするとリュカと大差ない年齢なのかもしれない。
「拠点が敵に襲われてる」
「えっ」
少年は目を見開いた。
「じゃあ、あの鳥の声は――」
「そう」
頷きながらも、それがどんな敵なのか、何が起こるのかは敢えて口にしなかった。怯える人間に詳細を話しても徒に恐怖心を煽ってしまうだけになるのは、往々にしてある。彼に今必要なのは、安心感と勇気だ。
「でも大丈夫、俺たちは助けに来たんだ。ここも危ないかもしれないから、なるべく安全な場所へ行こう」
「わ、わかった」
励ましの言葉と共にリュカが差し伸べた手を取って、少年は戸口から一歩足を踏み出した。そこへ――
「わっ」
突如襲いかかってきた屍鴉に蹴り飛ばされ、少年は砂まみれの床に倒れ伏した。
「こんなところまで……!」
倒れた少年を庇うように立って、リュカは愛用のアサルトライフルを構える。横目で少年の様子を伺うと、額が浅く裂けて血が滲んでいるのが見えた。傷口から毒が浸透してしまうかもしれない。早く手当をしなければ。再び二人を狙おうと空中旋回する屍鴉を撃ち落とし、リュカは少年を肩に背負った。
●
大鴉が臓腑と共に吐き出した毒は、中心地でこそ猛威を振るったが、拡散するにつれ急速に薄まっていった。毒の威力や拠点の被害を最小限に抑えるよう、猟兵たちが心を砕いた成果だ。バジルが的確にマスクの配布を割り振り、かつ派遣された鳥たちの支援があったことで住人たちの備えもほぼ万端だった。拠点内に分散していた住人たちを集めてリュカが合流したときには、混乱は収束しつつあった。
「よかった。この調子ならきっと乗り切れるわ」
蛇が巻き付く杯の紋章が入った薬箱の蓋を閉めて、バジルは負傷者を励ました。マスクの装着が遅れた者も、はぐれてきた屍鴉に襲われた者も、バジルとリュカの尽力によって軽傷で済んだのだった。
――守りきれる。そう確信して、バジルはようやくホッと息を吐いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
転送と同時に光の盾を展開し襲われている最中の男を庇い群がる敵を『なぎ払』わんとメイスを振るおう
…死して尚空腹の欲に苛まれるとは…憐れな物だ
後は一般人と宵を庇う様に前衛に立ち攻撃が一般人等に行かぬ様派手にメイスを振るいながら『おびき寄せ』つつ
【生まれながらの光】にて襲われていた男や怪我の深い一般人等を回復して行こうと思う
俺が危うい時は宵が撃ち落としてくれるだろうからな
それに宵の美しい星に叶う敵等いなかろう?
敵の攻撃は『早業』にて避けながらも勿論戦闘の最中宵を『かば』い護る事は忘れん
だが、宵が怪我をしたならば眉間に皺を寄せその敵を即座に撃破、回復の光を放とう
本当に数が多いと厄介だな
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
このような危機、見捨ててはおけぬというものです
ユーシュエン君とオブリビオンの間に立ちはだかるように身体を滑り込ませ
彼ら一般人を背に庇うように陣取ります
此処は大丈夫です、僕らにお任せください
ふふ、僕らはただの正義の味方ですよ
しかし、生臭い……腐った臓腑の匂いがしますね
ザッフィーロ君の怪我人治療の援護をしつつ
「高速詠唱」「属性攻撃」「マヒ攻撃」を添えて
【天航アストロゲーション】を放ちましょう
敵の攻撃は「第六感」「野生の勘」でなるべく察知し 「オーラ防御」で受け
「カウンター」にて敵のユーベルコードによる屍烏を「衝撃波」で「吹き飛ばし」ます
ああ、鼻が曲がりそうです!
●
大鴉の放った毒が猛威を奮ったのは、実際のところ十秒もなかっただろう。猟兵の活躍によって薄められた毒は、やがて太陽に分解され、風で運ばれていった。中庭に転がる屍鴉の骸もほとんどがその形を留めたままになっている。
しかし、その中にあってただ一人、瀕死に陥っている者がいた。
「ユーシュエン君!」
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)がいち早くユーシュエンの容態に気付き、駆け寄る。血の気が引き真っ青になった唇、浅く吸うばかりで充分に吐き出せていない呼吸――。呼吸器官が正常に機能していないことは明らかだ。
「いけません、このままでは……!」
身体を強張らせたまま横たわるユーシュエンの衣服を寛げ少しでも呼吸が楽になるようにと、懸命に介助する宵の背後で赤黒い影が揺らめいた。
「伏せろ、宵ッ!」
それが誰の声か、何を意図するのかを思考で確かめる必要はない。宵は反射的に身を伏せ、ユーシュエンを身体で庇った。刹那、宵に光が降り注ぐ。耳には聞こえない祈りの言葉が漣のように弾けて消えた気がした。
大鴉を光の盾で弾き飛ばして、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が二人の前に立つ。
「大事ないか、宵」
「ええ、おかげさまで」
地面でのたうつ大鴉から目を逸らさずにザッフィーロが問う。その広い背中へ、宵は信頼に満ちた声で応えた。
「……死して尚空腹の欲に苛まれるとは……。哀れなものだ」
「それよりも、ザッフィーロ君。ユーシュエン君の容態が危険です。今すぐに治療しなくては」
「――わかった」
言葉少なにザッフィーロは頷く。
「背中は任せた」
「承りました」
そして二人は背を合わせ、それぞれの戦いに挑む覚悟を決めた。
「必ず、助ける」
「決して、通しません」
死に抗ってみせる。生に伸ばされた手を掴んでみせる。――そう、互いに誓って。
ザッフィーロの唇が聖なる祈りを紡ぎ始めた。腕を天に向け掲げると、その掌に光が宿る。その光は祈りが届いた奇跡か、はたまた蒼玉の煌めきか。掲げた腕を下ろし、聖なる光をユーシュエンの身体へと移した。これだけの至近距離で治癒術を使うのだ。効力は瞬く間に発揮されるだろう。
ユーシュエンの呼吸が徐々に深く、穏やかになっていく。唇にも血の色が差し始めた。それと引き換えに体力や気力が消耗していくのを感じながら、ザッフィーロは考えた。
(――だが、これだけでは足りぬ)
あと一歩、紙一重のところで繋ぎ留めているユーシュエンの命を、確実に現世まで引き戻さねばならない。しかも、大鴉の執拗な攻撃を避けきれなくなる前に。ならば、自分にできることはひとつだ。治癒術を開始して以降途切れることのない祈りの声が、更に力を増した。
(持てる力のすべてでこの者を救う――!)
低く歌うようにも聞こえる祈りに誘われたか、大鴉は足下をふらつかせながらもザッフィーロとユーシュエンに狙いを定めていた。否、単に“仕留めやすそうな獲物”を諦められないだけだろう。ただ“生きる”ために食う。腐り落ちた自分の臓腑を踏みつけたことにも気づかずに大鴉は二人の隙を伺っている。
「させませんよ」
本能だけが鮮烈に刻まれている鳥の死骸を、宵は哀れまない。
ぐちゃり、ぐちゃりと鉤爪で踏み荒らされる度に、腐臭が鼻をつく。ぶちまけられた肉片は既に血の色を失って、ともすれば地面と見分けがつかなくなりそうだった。
あまりにも醜怪な光景から思わず顔を逸らしたくなるが、そうもいかない。自分の背中には守るべきものがあるからだ。そして信頼を、――信頼以上の“心”を預かっている。故に、己に課された使命は明快にただひとつ。
「屍鴉一羽、毒羽根の一枚もここから後ろには通しません」
ドン、と大地に突き立てたウィザードロットの重みは、同時に意思の重みでもあった。
「『彗星からの使者は空より墜つる時、』――」
宵色の精霊術士が星を呼び寄せる術を編み始める。その柔らかい声がサファイアの聖者の祈りに重なった。
「ギィィイッ、ギッ、ギッ!!」
二人の“歌”が不快だとでも言いたげに大鴉が耳障りな鳴き声で警告行動をとる。しかしザッフィーロと宵がそれで怯むはずもなく、大鴉は再び屍鴉の群れを喚び寄せるべく雄叫びをあげた。
「――『星降る夜を、あなたに』」
呪文を詠い上げ、宵帝の杖が指し示す先は、大鴉。その巨体目がけて隕石が空から降ってきた。
「ギャアアアアアッッ!!」
大鴉も負けじと濁った声を張り上げると、屍鴉たちは一斉に宵へと殺到する。舞い散る黒い羽根の間から、宵は隕石が大鴉に直撃するのを見た。
「ああ、鼻が曲がりそうです!」
屍鴉から降り注ぐ悪臭も、大鴉ほどではないにしても煩わしい。素早い動きではあるが、避けて避けられないことはないだろう。――だが。
(今は、避けられない)
一羽たりとも通さないと誓ったのだ。少しくらいは痛いだろうが、腐った鴉に啄まれたくらいで死ぬこともない。なにしろ彼はヤドリガミ。仮初の肉体に命は宿っていないのだ。
(この臭いだけは、ちょっと困りますけどね)
ふ。――と、宵は口の端に笑みすら浮かべる。君のためなら、怖いことなんて何にもないんです。
屍鴉の嘴と鉤爪が宵の白い肌に食い込む――かと思われた刹那、胸にまた祈りの歌が波寄せる。
「――ザッフィーロ君
……!?」
宵の黒い前髪を掠め、ザッフィーロの白い外套がその視界を覆った。掌から展開された光の盾が屍鴉を弾き飛ばしている。
「……怪我は、ないか」
大きく上下する肩の、その向こうにある顔はどんな表情をしているのだろうか。宵は只管に首肯した。背を向けたザッフィーロにそれが見えるはずもないのに、彼は「そうか」と満足げに笑った。その笑みも、宵には見えるはずがないのに感じたのだ。「笑った」と。
「でも、ザッフィーロ君、ユーシュエン君、は……っ」
話もそこそこに崩れ落ちるザッフィーロの身体を咄嗟に抱え、宵は後ろを見遣る。そこには、意識を取り戻して状況の把握に必死な様子のユーシュエンがいた。
「……連れ帰った、ぞ」
宵の腕の中でぐったりと、しかし誇らしげにザッフィーロは言う。
「お疲れ、さまでした……!」
へたり込んで抱き合うヤドリガミたちに屍鴉の群れは怒りを隠さない。その向こうでは彼らの主たる大鴉が、宵のユーベルコードで負ったダメージから回復しきれずに身体を痙攣させている。ヒステリックな鳴き声は次第に渦巻いて中庭に充満した。他の猟兵たちも膨れ上がった群れを叩いてはいるが、この集団ヒステリーは更にエスカレートしそうだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
可能な限り鴉の近くに転送してもらい
ユーシュエンを【かばう】
あんたの役目は十分果たした筈だぜ
あの子にいいトコ見せるっていう、な
駆けつけて安心させてやんな
情報伝達の手は多い方がいい
頼むぜ
【ゲヘナの紅】発動
焔纏った身体での肉弾戦を仕掛け、かつ
派手に燃えて本体と配下の屍鴉どもを惹きつける
ヒカリモノとして見てくれりゃァいいんだが
多少の負傷は【激痛耐性】でスルー
UC効果による【生命力吸収】で補い
癒しきれない傷は血を燃やして無理やり止血
とにかく短期決戦を優先
奴が本来の目的に戻る前にブッ叩く
避難の手が足りてねえ場合は常に住人を庇える位置取りを担う
適材適所さ
作戦がかち合う仲間がいればそっち優先で!
アド共闘歓迎
●
「お、俺……」
ギャア、ギャアと甲高く鳴き続ける屍鴉の群れの下。いったい何が起こったのだろう、と、ユーシュエンを首を傾げる。日除けのために着込んでいたマントや衣服はなぜかはだけているし、肌身離さず持ち歩いているはずのナイフと、手榴弾も消えている。
あれは、確か――などと記憶を辿る暇もなく、背後からやけに馴れ馴れしく話しかけてくる奴がいた。
「よーう、死に損なったな」
ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)の声に、ユーシュエンは驚いて小さく飛び上がった。漫画みてェな奴……と思いながら、ジャスパーはナイフと手榴弾を差し出す。青年は更に「解せない」という顔でそれらを受け取った。どうやら、オブリビオンの毒で死の淵を彷徨った結果、前後のことを覚えていないらしい。
(……マ、無理もないか)
大きな耳に連なるピアスのひとつを弄りながら、ジャスパーは考えた。交通事故程度のことでも、一時的な記憶の混乱はそこそこあると聞く。“オブリビオン事故”にそれが生じないわけもないのだ。
「まー、アレだよ。覚えてないかもしんないけどサ。あんたァ役目を十分果たしたぜ。あの子にいいトコ見せるっていう、な」
「あの子……?」
ユーシュエンはまた、「なんのことやらさっぱり」という顔だ。
(こいつはもしかすると、もしかするぞ……)
これはいわゆる鈍感君というやつだ。真面目が服を着て歩いているようなこの青年にとっては、年頃の娘の心情など異世界の事象のようなものなのだろう。
「あー……。まあ、ほら。駆け付けてやンなよ。“仲間”のところにさ」
ジャスパーはジェシカに言及するのをやめて、避難を促した。どのみち、腐った鴉どもを退治するまではここにいない方がいい。ユーシュエンには避難してもらう方がいいだろう。さっきまでと違って、今は一人でも歩ける。
「ああ、そうだな」
ユーシュエンが頷きかけたところへ、住民たちが駆けつけてきた。煤けたガスマスクや防塵マスクを着けたまま拳を盛んに振り上げている。救援に回った猟兵たちが被害を最小限に留めてくれたのだろう、とジャスパーは察した。毒ガスによる難を逃れた後、反撃の機会、あるいはリーダーの仇討とばかりに中庭に殺到してきたに違いない。
「ユーシュエン! ユーシュエン!!」
皆が口々に彼の名を呼んでいる。
「へー。人望あるンじゃん」
ジャスパーが人だかりを見渡すと、隅の方にジェシカがいた。遠慮がちに――というわけでもなく、彼女も必死にユーシュエンを呼んでいるようだが、他の住人たちに圧されて前に出て来られないらしい。
「――ははッ。ま、いっか」
これから先、愛情を育むも信頼を築き上げるも、それは彼らの選択次第だ。しかし、それにはまずこの危機を乗り越えなくてはならない。
「おぅ、あんたら! 威勢は悪かねェが、あのバケモン相手じゃクソする時間も稼げねーぞ!」
とっとと戻れ、と半ば脅すように追い払おうとするが効果は薄い。興奮した屍鴉と興奮した住人とで、収拾がつかなくなりそうだった。
チッ、と舌打ちをして、ジャスパーはその身に炎を宿す。こうなったら屍鴉どもを引き付けるしかない。
「鴉ってのは、ヒカリモノが好きなんだろ?」
瞬く間に身体のそこここから炎が吹き上がる。触れる者すべてを焼き尽くす勢いで屍鴉の群れへと突進し、住人へ襲い掛かろうとする屍鴉を一羽、また一羽と叩き落していった。
大成功
🔵🔵🔵
無明・緤
転送はオブリビオンの真ん前に頼む
鴉狩りの時間だ!
人形へ指示電波を飛ばし、出会い頭にジャックレイヴンへ組み付かせる
【操縦】の技術でその翼を圧し極め、機動力を奪えないか試みよう
その隙に、近くに住人が居れば避難を促す
換気窓のある上階の部屋へ逃げろ
猟兵が居たら敵を井戸に近付かせないよう頼む
水は大事だろ、この世界でも
鴉を正面から睨み、牙を剥き唸り声で威嚇
多くの命を守るためおれは囮になろう
とびきりの敵意を向けて気を惹いてやる
屍鴉はUC【エレクトロレギオン】で迎撃
敵一体につき兵複数を差し向けて逃げ道を塞ぎ、熱線で焼き殺す
鴉どもを振り切らない程度に【逃げ足】で
新鮮な空気のある方へ場所を移しつつ長く時間を稼ごう
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
全てを助けたいなんて綺麗事だと分かっていても、それでも一人でも多くを助けたい
それは無二の友であるカガリも同じはず
俺の流す血で掬われる命があるならば本望
血を代償に【炎竜轟天】で炎竜の群れを召喚
爆炎で環状楼の外、あるいは上空高くに敵を吹き飛ばし、カガリに鉄柵で可能な限り囲って貰う
侵入を遮断し、家屋の中へ避難を進める時間を稼ぎ、鉄柵の中に残ってしまった個体を撃破する為だ
毒の羽根はカガリの【駕砲城壁】と竜骨鉄扇の(衝撃波・範囲攻撃・なぎ払い)で跳ね返す
泉照焔で攻撃を見切り、黒華軍靴(ダッシュ・シャンプ)で機敏に避ける
避難終了後、鉄柵を解除して貰う
さあ、残りを掃討するぞ
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と
空からの敵襲か
不動の門であった頃は成す術もなかっただろうが
今は自由になる肉体と、頼もしい無二の槍がいるからな
まるが初撃をぶつける間に、拠点の屋上から中庭に蓋をする感じだ
【籠絡の鉄柵】を大型化して、中庭の上に円錐型に広げる
その上で、カガリ自身は【鉄門扉の盾】を構えて【駕砲城壁】を
鉄柵の隙間であろうと、羽根の一枚、敵の一匹も通さないぞ
【不落の傷跡】が、城門であるカガリの意志が、ここを境界と定めた
全てのひとを守るため、ひとに害為すものを、ひとつの例外なく拒絶する!
既に侵入したものがあろうと
まるが逃さず駆逐してくれよう
…なあ、まる。血。…血!(代償の血の痕を気にする)
レナータ・バルダーヌ
住人の皆さんは心配ですけど、元を断たなければどうしようもありません。
急いでオブリビオンさんを倒せば、被害も防げるはずです!
相手が鳥さんなら、こちらも炎の翼を形成して【空中】で応戦します。
向こうは数で攻めてくるようですし、手数で対抗できる【B.G.ブロッサム】で残らず燃やしてしまいましょう。
召喚される鴉さんも屍体のようなので、衛生的にも火葬が最適ですよね。
住人さんの救助は他にしてくださる方がいればお任せしますけど、わたしも必要なときはサイキック【オーラで護り】ます。
わたし自身は多少の【痛みなら耐え】られるので、住人さんへの被害を防ぐことを優先します。
●
腐った身体が言うことを聞かない。地を蹴り跳ね起きようとしても、その脚は宙を掻くばかりだ。大鴉は首をもたげ、鳴いた。鳴き声は音にはならず、赤黒い血がボロボロの嘴から噴き出た。
その巨体の前に、黒く小さな影が降る。
――餌だ。大鴉は本能的に嘴を開き、それを丸呑みにしようとした。
「俺はおやつじゃない」
無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)の操るからくり人形が大鴉に組み付いて、身体を締め上げた。ゆっくりと、しかし確実に。朽ちた骨と肉の崩れる音がする。
あと少しのところで餌にありつけたはずの鴉だったが、その嘴は悔し気にガチンと音を鳴らすだけだった。
大鴉の自由を奪った緤は、今のうちにと住人たちへ駆け寄る。
「まだ安全になったわけじゃない。油断してるとまた毒ガスが来るぞ」
それを聞いて、ヒートアップしていた住人たちも徐々に冷静さを取り戻した。被害が軽微で済んでいるのは、猟兵たちの尽力と、そして住民たちの協力よる賜物なのだ。
炎の翼を羽搏かせて屍鴉たちを抑えていたレナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)も、それに頷いた。
「私たちは皆さんを助けるために来たんです。これ以上の被害を出さないためにも、どうか協力してください」
住人を狙って飛来する屍鴉をサイキックのオーラで弾きながら、レナータは訴える。
痛みに耐えるのは慣れている。だから人々を守るためにならいくらでも身を挺する覚悟があるが、こうまで屍鴉の数が多くては守れるものも守り切れなくなってしまうのだ。
「彼らの言う通りだ。今は安全な場所へ移動して身を守ろう」
ユーシュエンが仲間たちを見渡して言うと、住人たちはようやく頷いて中庭から離れ始めた。
「ありがとうさん」
人々の後姿を見送りながら短く礼を言う緤に、ユーシュエンは首を振る。
「いや、それはこちらの台詞だ」
――後は頼んだ。そう言って、ユーシュエンも中庭を後にする。それを追うようにして、最後に残っていたジェシカが立ち去って行った。
●
「さぁて」
ぽふ、と両手の肉球を合わせて緤が気合を入れ直す。
「最後の仕上げと行くか」
まずはこの屍鴉の群れを一掃しよう。猟兵たちは互いに目配せをして、頷いた。身体の損傷が激しい大鴉を斃すのは、難しいことではないだろう。だが、未だに興奮状態で飛び回る屍鴉の群れを放置していては住人を守りきれないかもしれない。後顧の憂いを断つ。彼らの意見は一致していた。
「大鴉さんも屍鴉さんも、火葬にしてしまうのが最適ですよね」
朗らかな声でレナータが言う。その背の翼は、身体から噴き出る地獄の炎だ。生来の翼は根元からもがれている。炎の翼を花弁に変えながら、オラトリオの少女は声高に叫んだ。
「ここから先には、通しませんよ!」
『B.G.ブロッサム』――、自身の装備武器を炎の花に変えて複数の敵を攻撃するユーベルコード。翼の炎が尽きても、まだ屍鴉を焼き尽くすには足りない。レナータは手にしていた巨大な剣も炎に変えた。
それを助けるかのように、何匹もの竜が飛来する。マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が己の血を代償に召喚した炎竜の群れだ。
「『我が血、我が憤怒をもって焦土灰燼と化すまで焼き尽くせ』!」
掲げた掌からは赤い血が滴り落ち、もう一方の手に携えた槍の穂先は地で濡れていた。竜たちは飛び回る屍鴉を追い回し、瞬く間に消し炭にしていく。
「まる、血。……血!」
その隣で、出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)が落ち着かない様子で代償に捧げられた血の痕を気にしていたが、当のマレークは涼しい顔で竜を操る。
「俺の流す血で掬われる命があるならば本望。――綺麗事だと分かっていても、それでも一人でも多くを助けたい」
カガリとて、それは同じだろう? と、無二の友にマレークは語りかける。
「それは、そうだが」
何かにつけ自己犠牲を厭わない、生真面目な男なのだ。それはきっと彼の性分であり、また贖罪でもあるのだろうとカガリは理解しているが。友を案じるこちらの気持ちも多少はわかってくれてもいいものだ、と思わないでもなかった。
「カガリ、それより鉄柵だ」
「わかっている」
両の手を胸の前で合わせ、開く。掌の間に一尾の魚が現れた。――魚、と言っていいのかは定かでない。正しく表現するならば、それは頭を失った魚の骨、だった。頭と肉体を失っていても何も構わぬとでも言いたげに、骨は宙をゆらりと泳いだ。カガリが骨を囲う手を広げると、それに合わせて骨もぐんと巨大になっていく。そしてついに、この中庭をぐるりと囲えるほどの大きさになった。
「【不落の傷跡】が、城門であるカガリの意志が、ここを境界と定めた。全てのひとを守るため、ひとに害為すものを、ひとつの例外なく拒絶する!」
その腕に抱いたものを守る。それが、かつて城門であったヤドリガミの矜持だった。鋼鉄の意志を高らかに宣言する。
「なぁるほど、考えたもんだ」
それを見物していた緤が感心したように唸った
骨の檻に閉じ込められて、屍鴉たちは中庭から出ることができない。わずかな隙間から脱出を試みようとしても、鉄門扉の盾を構え頑然と守りを固めたカガリがいる。拠点の住人を追おうとしても叶わないのだ。
「これで、安心して焼き鳥パーティーができるってなもんだな!」
にゃはは、と笑って緤は小型の戦闘兵器を召喚した。巧みにそれらを操り、確実に屍鴉の数を減らしていく。多対一の構図に持ち込んで各個撃破する作戦は、戦い慣れしている故だろう。耐久力の低い機械兵器を一体ずつぶつけて潰し合わせるやり方がないでもないが、なにしろ屍鴉の数が多い。戦力を温存するに越したことはないのだ。
――屍鴉を焼き尽くし、猟兵たちは大鴉の前に立つ。大鴉は屍鴉を倒される度に次々と召喚を続けていたが、ついには力が尽きたらしい。鉄柵の檻の中には、もう一羽も残されておらず、新しく喚び出される屍鴉もいない。
「ゲェエッッ!」
残った力を振り絞るようにして放たれた毒羽根を、マレークが鉄扇で弾き返した。カガリも仲間を守るようにして盾を構える。
その隙を縫ってレナータが空中から飛びかかり、炎の花を大鴉へ浴びせた。
大鴉は身を捩って抗おうとするが、緤のからくり人形がしがみついたままだ。血肉で汚れた羽根が、瞬く間に燃え上がった。
灼かれる苦しみにもがいているのか、満たせぬ空腹を嘆いているのか、大鴉は空をつんざくように鳴き叫び、暴れる。その度に肉が飛び散り、骨が砕けた。そしてようやくからくり人形を撥ね退けて、ドシャリと地面に身を投げ出した。
身体中のあちこちが崩壊し、既に“鴉”の形すら保てていない。銃創でボロボロになっていた嘴はついに捥げ、だらりとした舌が露わになった。羽根は抜け落ち、露出した肉は一歩踏み出すごとに零れていく。
大鴉は猟兵に近づいて、眼球の溶け落ちた目で獲物を品定めした。そして、ほとんど残っていない嘴を大きく開き、――その場に崩れ落ちた。
大成功
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第2章 集団戦
『ゾンビの群れ』
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POW : ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
イラスト:カス
👑11
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●
中庭から聞こえてくる鴉たちのけたたましい鳴き声に耳を澄ませながら、住人たちは息を殺してすべてが終るのを待っていた。中には我もと武器を手に飛び出そうとする血気盛んな者もいたが、周囲の人間が押しとどめる。曰く「彼らの強さを見ただろう」と。奪還者をも凌駕する猟兵の力を目の当たりにして、誰もが「彼らに任せるのが一番いい」と納得したようだった。
ジェシカは薄暗い避難所を見渡した。そこは正面ゲートのすぐ内側のエントランスホールだ。通常なら中庭が避難所としての機能を果たすのだが、その中庭を敵に占拠されてしまっていてはどうしようもない。
楼が建てられた当時から、ゲートは狭く分厚い門で外敵の侵入を阻む構造だった。現在ではバギーや重機の格納、資材の搬入出のために拡張されており、門も更に強固なものに造り替えられている。周辺の土壁も金属で補強されているため、仮に外からの襲撃があったとしても多少は持ちこたえられる。
「すっげぇー! ドラゴンだ!!」
子供たちが首を伸ばして中庭の様子を伺っている。大鴉の襲来には心底怯えていたにも関わらず、猟兵たちが圧していると見るや呑気に観戦モードだ。それを大人たちが静かにしているように窘める。
そうして束の間、緊張を解いて日常の表情が戻ってきた時だった。
――ダン! ダン! ダン!
ゲートの門を外から誰かが殴る音がした。若い男が苦笑しながら立ち上がる。
「まーたピン爺さんだな。門を殴らずにインターホンを使えって、いつも言ってるのに」
荒廃した世界の中に在って、この環状楼は完全には孤立していない。一日で行き来できる距離にある、もう一つの環状楼拠点と定期的に交流があった。互いに余剰物資を譲り合ったり、補修工事に必要な人足を都合しあったりして共存しているのだ。相手方の物資を運搬するチームを取り仕切っているのがピンという老人だった。なんでも生まれてからずっとこの地域に住んでいるとかで、昔ながらの暮らしを何十年も続けてきたらしい。おかげでデジタル機器の扱いには疎い、――というよりも、本人に覚える気が一寸もないのだろう。ゲートのインターホンを鳴らさずに鋼鉄の門扉を力任せに殴るというやり方で、いつも押し通っている。
「そのうち爺さんの腕が折れるぞって言ってやれよ」
呆れと親しみの入り混じった揶揄を聞きながら、ユーシュエンも口許を緩ませる。――が、はたと気付く。
「――おい、待て」
「はいよー、爺さん。静かにしてくれ、今開けるからよォ」
ユーシュエンの制止に気付かない若者がゲートの開閉レバーに手を伸ばす。
「次の搬入は明後日じゃなかったか?」
「予定が早まったんだろう」
「そうかもしれないが――」
訝しむユーシュエンの耳に、若者の絶叫が飛び込んだ。
「おいッ、なんだよこれ!!」
必死にレバーを上げて、若者は仲間に「逃げろ!」と警告を発する。レバーを上げるのは――ゲートを閉めるときだ。
「どうした!?」
ゲートから離れようと騒乱状態に陥る人々をかき分けユーシュエンが見たものは、閉じようとする扉をこじ開けようと伸びる腕だった。それが纏っているのは、確かにピン老人が愛用しているマントと同じ色をしている。年月を経て色褪せてはいたが、遠くからも目を引く赤だからユーシュエンもよく覚えている。離れていても自分だとわかって便利だろう、と皺くちゃの顔を更に皺くちゃにして笑うピンの表情がユーシュエンの脳裏を過ぎった。
「なんで……っ」
その腕は、皮膚が捲れて腐った肉が覗いていた。指先の肉は削げ、細い骨が露出している。そして鼻をつく腐臭には覚えがあった。ついさっき、中庭で暴れている鴉に踏みつけられたときに嫌というほど嗅いだ匂いだ。
力任せに閉じられた扉の内側にボロボロの腕がぼとりと落ちた。グズグズに溶けた肉が悪臭を放っていた。
「……」
誰もが「信じられない」という顔でそれを見下ろす。
ドォン! ドォン!
再び門が強かに打たれる音が響く。覗き窓から外の様子を伺った男が上擦った声で叫んだ。
「大勢いる! 奴ら、この拠点に押し寄せてやがる……!」
●
乾いた土に崩れ落ちた、かつて鴉だったものを見下ろす猟兵たちの許へジェシカが息急き切って走ってきた。
「助けて! 外からも、敵――、そう、敵が……!」
“敵”と言いかけてほんの僅かに言い淀んだジェシカに猟兵の一人が訊ねた。
「敵、なのか?」
「わ、わかんない……。でも、なんか、おかしいの」
聞けば、先刻倒した大鴉のように身体の腐った人間たちがこの拠点に押し寄せて来たのだという。しかも、彼らの身に纏っているものを見る限りでは、普段から交流のある近隣拠点の住人たちだとしか思えないと。
腐った人間――ゾンビたちは力づくでこの拠点に侵入しようとしているらしい。防衛部隊が侵入可能な全ての場所にバリケードを設置し始めているが、手が足りずに防御の薄くなっている箇所がある。正面ゲートの反対側、裏門だ。また、非常時の脱出用に地下通路が造られているらしい。ゾンビに知性、あるいは記憶のようなものがあるとすれば、そこから侵入される可能性も考えられる。更に近隣拠点の人間と特に親しい者――例えば恋人や友人がいるような――には、その地下通路を通って外に出ようと考えている様子も見られるという。自分の大切な人が無事かどうか、危険だとわかっていても確かめずにはいられないのだろう。
「ユーシュエンは精鋭部隊を指揮して、敵……を迎撃するって言ってた」
ジェシカも近隣拠点の人間には親切にしてもらった記憶しかない。彼らを『敵』と呼ぶのには抵抗があるらしかった。
武器は充分にある。だが、皆の心がそれに追いつくとは限らない。大なり小なり複雑な感情を抱えたまま、住人たちは『敵』を迎え撃ちこの危機を乗り切らなければならない。
猟兵たちは朽ちた鴉に背を向けて駆け出した。この拠点を最後まで守り抜くために。
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●プレイングで行動を一つに絞ってください。
(1)攻撃部隊と共にゾンビと戦う
ユーシュエン率いる攻撃部隊と行動を共にします。拠点からは出ず、外壁の上から外の敵を狙撃する、侵入してきた敵を倒す、といった行動になります。拠点の構造を活かした戦い方をしたい場合などにもどうぞ。
また、攻撃部隊の中には突然のことで気持ちを切り替えられずにいる住人もいるため、彼らを励まし鼓舞するのも有効です。
(2)防衛部隊と共にゾンビの侵入を阻む
手薄になってしまった箇所の防衛を手伝います。拠点内にはフォークリフトのような重機類、補強工事用の資材もあるので、それを活用するのも方法かもしれません。
負傷者の手当てなどを行いたい場合もこちらになります。
(3)拠点の外に出てゾンビと戦う
攻撃部隊とは別行動で、猟兵のみでゾンビと戦います。開けた場所で無双したい場合などにどうぞ。また、近くに住人がいないため、敵に対しての痛烈なセリフや行動などを楽しみたい方にもこちらをお勧めします。
地下通路を通る場面は描写しませんので通路に関するプレイングは不要です。
(4)拠点の外に出ようとする住人を説得する
地下通路を通ろうとする住人たちへ、外へ出ないように説得してください。彼らは親しい友人や想い人の安否を心から案じていますが、無事かどうかは猟兵にもわからず楽観はできません。
(5)その他
上記選択肢に当て嵌まらない行動も歓迎します。自由に考えて、キャラクターさんの活躍の様子を教えてください。
※ご注意※
誰も選ばなかった選択肢があったとしても、そのフェーズで甚大な被害が出ることはありません。青丸(成功)が必要数に達すれば第2章成功となり、拠点内の被害は軽微に抑えられたことになります。リプレイで描写するのは「とある場面」としての抜粋、といった風にお考えいただければと思います。
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才堂・紅葉
(2)選択
蟻の一穴という言葉もある。後方の安全を確保しよう
【情報収集】と【戦場知識】を用いて【拠点防御】を実施する
具体的には【メカニック】を活かし、重機を用いて資材を運び脆弱な地点を補強を計る
「あのマッドの卵共。今回は使える奴かしらね」
補強資材を積んだら、召還符から超速攻型の硬化剤の充填ガンを取り出して噴射し急造のバリケードを展開したい
ゾンビがいたらまとめて硬化剤で固めてしまおう
なお作業途中にゾンビ共が顔を見せたら、見掛けによらぬ【怪力】で振るう六尺棒で【吹き飛ばし】急場を凌ぐ
周囲に負傷者もいるので、今回は跳弾の危険のある火器は控えたい
「下がりなさい。怪我が増えるわよ」
【アドリブ・連携歓迎】
レナータ・バルダーヌ
住人の皆さんのお知り合い……?
オブリビオンストームに巻き込まれてしまったのでしょうか?
皆さんのお気持ちを考えると忍びないですけど……オブリビオンさんになってしまった以上、倒すしかありません……!
とりあえず、ゾンビさんの目標が建物の中だけに集中するのはまずい気がします。
飛行して外壁の外へ降り、侵入しようと殺到しているゾンビさんたちの注意を引きつけましょう。
多少攻撃を受けても構わないので、いくらかでも標的をこちらに逸らすことができたら、集まったゾンビさんを【B.I.ライダー】で燃やします。
炎の温度は一般的な銃弾なら蒸発する程度まで上げられるので、狙撃などはわたしを気にせずしてくださって大丈夫です。
バジル・サラザール
皆も、私も切り替えないと……
念のためマスクはそのままでお願い
(3)
住民の皆のケアは一旦皆にお願い
毒を盛って毒で制す。主に『毒使い』『属性攻撃』を生かした『バジリスク・スモッグ』で攻撃するわ
ポーションやウィザードロッド等で敵をいなして潜り込んで仲間を巻き込まず、敵をたくさん巻き込める位置で使いましょう
新しく現れたゾンビも巻き込んでいくわ
敵の攻撃は『野生の勘』も用いつつ回避や防御しましょう
オブビリオンストームの影響は根深いみたいね。大変だけど一つ一つしっかり対処していきましょう
アドリブ、連携歓迎
●
重い衝撃に耐え続けるゲートの前で、住人たちは右へ左へとせわしなく走り回っている。外から扉を殴る音が先刻よりも鈍くなっているのは、抉じ開けられるのを防ぐために内側から土嚢を積み上げたからだ。その土嚢の内側に資材や重機を更に配置して“敵”の侵入を阻む防衛体制が敷かれた。
「手慣れたものね」
資材の運搬を手伝っていた才堂・紅葉(お嬢・f08859)が、額の汗を拭いながら呟く。大地も人の心も荒み自衛と自活のスキルが不可欠なこの世界では、程度の差はあれどどの拠点でも非常時の対応は徹底されているのかもしれない。――それができない者は、ただ淘汰されてゆくのだろう。
「普段から訓練してるからな」
そう応えたのは、先刻から防衛部隊を指揮している男だ。周りで働く住人たちに「隊長」と呼ばれているのが聞こえた。ユーシュエンと同じように日差しを遮るマントを纏い、肌の殆どをその下に隠している。しかし、その佇まいや身の動きを一目見れば、相当に鍛えられた身体の持ち主であろうことはすぐにわかった。
「嬢ちゃんも大したもんだな。大の男でも一度でそんなには持てないぜ」
隊長が感心したような呆れたような口調で言う。紅葉の肩には子供の重さほどの土嚢が担がれている。それも、三つ。
「へぇ。ここの人たちならこのくらい持てると思ってたわ」
「そりゃあ、持ち上げるだけならな。だけどあんたはさっきから何度も涼しい顔で運んでる」
少女のか細い身体の、いったいどこにそんな力があるのか不思議でならない。と、隊長は苦笑する。どこか品の良さを感じさせる紅葉の顔立ちと振る舞いがアンバランスさを引き立てていた。
「さあね。企業秘密よ」
二人がそんなやりとりをしている間も、ゾンビたちが門を叩く音は収まらない。一体一体がめいめい殴っていたかと思えば、まとまって一斉に体当たりを始める。そうしてしばらくすると今度は扉の表面をカリカリと引っ掻く音が聞こえてくるのだ。誰かが手を止めて音の方を不安げに見る度に、隊長が声を張り上げて作業を促した。
「隊長、様子がおかしい! 連中、ゲートから離れ始めたぞ」
門の上方に開けられた覗き穴から外を見張っていた若者が鋭く叫ぶ。若者の言葉が事実であることを証明するかのように、門を殴る音がぴたりと止んだ。
「諦めて帰ってくれたんじゃ……」
「ないな」
「ないわね」
誰かが絞り出した期待を紅葉と隊長が即座に斬って捨てる。希望はときに毒薬だ。修羅場を潜った数だけそれを思い知らされる。
「この拠点に他の出入り口は?」
「反対側に、裏門。それから緊急脱出用の地下通路だ」
「裏門へ回ったのね」
防御に特化した環状楼に裏門は通常存在しない。だが、オブリビオン・ストームに破壊された区画を補修する際に一部が出入り口として改築されたのだという。出口がひとつしかない構造では竜巻のような突発的な災害に襲われた場合に全員が脱出できない。防衛の利を棄てることにはなるが、住人たちにとっての脅威はレイダーやゾンビだけではないのだ。
「どうしたの?」
異変に気付いたバジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)とレナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)も紅葉たちの傍へ駆け付けてきた。
「ゾンビが他の場所から侵入しようとしているみたい」
「えっ」
思わず声を上げたレナータに、隊長が説明を添えた。拠点を襲撃しているゾンビたちは近隣拠点の住人だった可能性が高いこと、それが事実ならゾンビたちはこの拠点の構造を熟知している可能性があること――。
「皆さんの、お知り合いだったんですか……」
表情を曇らせてレナータが俯く。
オブリビオン・ストームが破壊するのは物の形だけではない。破壊した物の在りようまでをも壊し尽くしていく。あのゾンビたちも、そうやって人ならざる者に変えられてしまったのだろう。
レナータの隣で、バジルも眉根を寄せた。薄い唇を噛みしめるのは、無念さ故か。
「やりきれないけれど、切り替えないと。……皆も、私も」
「そう、ですね」
胸を痛めている時間はない。今は。生きている者たちの明日を守るために戦わなければならない。哀しみを抱きしめるのは、その後だ。
●
炎の翼を羽搏かせて動く屍たちの眼前に舞い降りるレナータの姿は、いかにも“天使”と言えた。正面ゲートからの侵入を諦めて裏門へ殺到しようとしていたゾンビたちは、突然現れた“天使”にたじろいだが、すぐに彼女を獲物だと認識いたらしい。我先にと争ってレナータへ突進し始めた。
腐臭を放ち、腐った血肉を滴らせながら迫る“かつて人間だったもの”を、しかしレナータは避けようとしない。
(傷ついても構わない。わたしがゾンビさんたちを引き付けて時間を作る……!)
仲間が防衛体制を整えるまでの間、敵の注意を引き付ける。それがレナータの選んだ方法だった。決意の眼差しでゾンビを見据えるレナータをボロボロの腕が力任せに引きずり倒した。
「きゃ――、!」
草もろくに生えず、剥き出しになって乾いた地面。耕された畑のように優しくは受け止めてくれない。砂利に肌を削られ、レナータの背中は擦り傷だらけになった。せめて脚が自由ならば受け身の取りようもあっただろうが、別のゾンビがふくらはぎをがっちりと掴んで離さない。倒れた仲間ごと更に上から押さえ込む者、もう一方の腕を別の方向へ引っ張ろうとする者、ゾンビたちは獲物を奪い合うようにしてレナータを襲う。手足に巻いた白い包帯はあっという間にどす黒い染みだらけになった。
「……あ、ぐ…っ」
ぶつり、と皮膚を食い破られる――どこか懐かしい痛みに喉を仰け反らせた。肩を、腕を、足を。次々に喰らいつく彼らの顔は肉が崩れ、骨が覗き、蛆虫が這う。べっとりとこびりついた血は彼ら自身のものかどうかもわからない。全てを食らい尽くす、全てを壊し尽くす、衝動と狂気で濁った眼が、かつてどんな表情を浮かべていたのかもわからない。ただ、彼らの纏う衣服は拠点の住人たちと変わらず、確かに彼らはこの地で暮らしていたのだと、そう語っていた。
一体のゾンビがレナータの腹に跨り、真上から覗き込む。口は裂け、傷口から腐敗が進んでいるのが見て取れた。捲れた上唇から見える歪んだ歯並び。何本かは抜け落ちて既にない。その口が大きく開いて細い首筋に狙いを定めた。
「無謀すぎるわ!」
レナータに群がるゾンビたち目がけてウィザードロットを振りかぶり、バジルは叫んだ。全力で横に振り払ったロッドは大口を開けた一体の頸をへし折って身体ごと吹き飛ばす。怯んで立ち上がろうとするゾンビへ返す動作でロッドを身体に引き付けて突きを繰り出すと、ぐしゃりという感触が掌に伝わった。――心地好い音、とはとても言えない。わずかに顔を顰める。が、再びロッドを握る手に力を込めて敵を睨みつけた。胸部を貫かれたゾンビが、ロッドを手繰ってバジルへ喰らいつこうともがいていた。
「バジルさん……!」
新手に気を取られたゾンビたちが力を緩めた隙に、レナータは身体を起こした。巨大な蛇の半身を持ったバジルが立つその場所からは、大きくうねって地を削る跡が拠点まで続いている。敵の只中へ飛び込むレナータの姿を見て、駆け付けて来たに違いない。
「引き付けるのはいいけれど、自分の身体も大切になさい」
「は、はい」
バジルはゾンビを貫いたままのロッドを振り上げて、それを群れへと叩きつけた。骨の砕ける音がして、肉片が飛び散る。
「避けて!」
レナータが反射的に横へ跳ぶのとほぼ同時に、ゾンビたちの悲鳴が上がった。肉と体毛の焼ける臭いが漂う。思わずレナータは手の甲で鼻を押さえた。
「これは……」
「毒を盛って毒で制す、ということよ」
面倒見のいいラミアの手にあるのは、いくつかの小袋。ひとつひとつが毒で満たされているらしかった。
肉を焼かれ、骨を溶かされて尚も蠢くゾンビへ、バジルは更に毒ガスで追い討ちをかける。風に乗ったガスが瞬く間にゾンビたちの身体を崩壊させていくのを後目にレナータは風上へ回り、自身の傷跡から炎を吹き出させた。
「……すぐに、終わらせてあげます」
炎はガスに引火し、ゾンビの身体を舐めるように燃え広がっていく。
――オブリビオンである以上、こうするしかない。そうわかっていても、心に小さなトゲが刺さって抜けそうにない。燃え上がる炎を見守る二人の眼には、哀しみの色が滲んでいた。
●
「急いで! 侵入される前に塞ぐのよ!」
フォークリフトを操って、紅葉は裏門のバリケードを完成させようとしていた。仲間たちが外のゾンビを引き付けてくれたおかげで多少は時間がある。この拠点に転送された瞬間から状況を冷静に俯瞰し情報を蓄積してきた。傭兵としてのノウハウと経験もあって、少ない労力でより高い効果を引き出す術もわかる。
あと少し、あと少しで。
そう祈るときに限って、天は味方してくれないものだ。それもよく知っていた。
「ああ、もう! フラグってやつは!」
狙いすましたように封鎖間近のタイミングで裏門を打ち破ってきたゾンビへか、気紛れな神さまか何かに向かってか。紅葉は投げ槍に言い捨てた。しかし心の中まで自棄になったりはしない。彼女はプロフェッショナルなのだ。
「この局面を切り抜けてこそのプロよ」
迷宮の学園都市から持ち出してきた召喚符を指で挟み構える。
「――あのマッドの卵ども。今度は使えるやつだといいんだけど」
学園に在籍する学生が開発したその符は、状況に応じて有効な道具を呼び出してくれる――、ということらしいのだが、時折まったく役に立たないものも飛び出してくるのが玉に瑕だった。尤も、使用者がその道具を効果的に使いこなせるかどうかにも大きく左右される術ではあるだろう。
(使いこなしてみせるわよ!)
手早く詠唱すると、紅葉の手には拳銃型の道具が現れた。すぐ近くにいる防衛部隊の姿が脳裏を過る。本当なら、この状況では跳弾のリスクがある銃は避けたいのだ。だが今は躊躇っている猶予がない。眼前まで迫ったゾンビに照準を合わせてトリガーを引いた。すると――、
「固まった
……!?」
防衛部隊の誰かが驚いた声を上げる。紅葉の前には、襲い掛かろうとしたそのままの体勢でゾンビが力尽きていた。
「これ、硬化剤ね!」
目を見開いて、年相応の表情が輝いたのも刹那。すぐに“プロフェッショナルの顔”に戻った紅葉は、ゾンビごと裏門を封じるために銃を構えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
環状楼の内部で甲高い笛の音が鳴る。最上階から外を攻撃していた狙撃班からの合図だ。
「“敵”、侵入!」
知らせを受け、“敵”を待ち構えていた攻撃部隊にも緊張が走った。――いよいよ覚悟を決めるときだと、誰もが固唾を飲んだ。昨日まで“友”と呼んでいた相手の、無残な姿を直視しなければならないことに。そしてこの手で彼らを葬らなければいけないことに。
拳を握る手に力が入る。だが、躊躇ってはいられない。一秒、一瞬の躊躇が招くものは、死だ。ユーシュエンは眦をキッと吊り上げた。
「侵入ポイントは!」
「西側、補修工事中の外壁が突破されました!」
「東側外壁にも攻撃が加えられている模様です!」
「くそ、……出入口を封じられて壁を破壊しにかかったな」
正面ゲートと裏門の両方が封鎖完了したとの報せが入ったのはついさっきのことだ。この二箇所は元々防衛のために強化改修が施されている。それを周辺を更に防衛強化したため、ゲート周辺の突破は容易にできなくなった。ゾンビたちもそれを察知したのだろう。補強された門ではなく、老朽化した壁を打ち壊して拠点内に押し入ってきたのだ。
補修工事をもっと急いでいれば。ゲート以外の強化を積極的に行っていれば。しかし、そうは言っても資材も人手も“潤沢”からは程遠い現状だ。いつだって今日という日を生きるのにも綱渡りをしているような状況なのだ。
――いや。今更、それを言っても始まらない。何に祈ったところで誰一人還ってきやしない。
「現場に向かうぞ」
腰に下げたホルダーからナイフを抜き、ユーシュエンは走り出した。
●
壁に穿たれた穴から何本もの腕が伸びる。老朽化していたとはいえ、大人一人の背丈ほどもある分厚い土壁だ。藁を混ぜ、練り上げ、押し固めた――、長い年月の間この環状楼を守り抜いた壁だ。それが呆気なく崩されていく。うそだろ、と、誰かが呟いた。
穴から伸びた腕は周りの壁を掴んでは削り崩し通路を広げる。その指先から土と一緒に青黒い爪が剥がれ落ちるのが見えた。腕は気にも留めない様子でひたすら壁を壊す。
「構え」
ユーシュエンが低い声で号令をかけた。部隊の隊員たちは腰を落として銃を構える。まだ“敵”はこちらに気づいていない。勝機は最初の一瞬にある。
――ぼろり。と、大きな土塊が崩れて落ちた。ついに人の形をしたものが通れるほどの大きさになったその穴から、おぞましい怪物が姿を現した。怪物が纏っているのは黒地に鮮やかな縞模様が織り込まれたマント。よく、見知った柄だった。
「……ティエップ――!!」
ユーシュエンの口が紡いだのは号令ではなく、友の名前。
黒い竜巻から逃れてこの地にたどり着いたとき、初めて出会った人間だった。「俺の名は『続く』という意味なんだ」と、不敵な笑みと共に名乗った南方の男。だから、生き続けてやるんだ、と。――彼は、そう言っていた。
一秒、一瞬の躊躇が招くものは、死だ。
奥歯を噛みしめ目を見開く。
ティエップの後ろからは押し合うようにしてゾンビたちが這い出てくる。壁には“もうひとつの門”が完成していた。
「撃て!!」
ずらりと並んだ銃口が一斉に火を噴いた。
何発もの弾を浴び、ティエップたちの身体が跳ねて踊った。振り回される腕の先から手首が吹き飛ぶ者もいる。ただでさえ腐敗した身体で堅い壁を掘り進んできたのだ。指先がまともな形状を保っている者は一体もいない。
骨と肉を撒き散らして倒れた“死体”を苦い表情で見下ろし、ユーシュエンは深く溜息をついた。
「――!!」
刹那、背後に殺気を感じてナイフを閃かせる。泥を切るような感触と異臭に冷や汗が肌を伝う。身を翻して振り向けば、いつの間にか攻撃部隊の背後に新手がいた。音もなく、壁の穴を通ることもなく、それはそこにいる。
「なん……」
ひとたび“これ”の侵入を許せば、そこは死霊の巣になり果てるとでもいうのか。
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と(1)
ゾンビは1体でも逃すと無限に増殖する
殲滅が必要だ
俺達は拠点内に侵入してきた敵を前後に伸びた通路で迎え討つ
ここなら住人を巻き込まずに済む
カガリの【錬成カミヤドリ】で通路の前後を塞ぐ
俺達と敵のみの空間が作られたら【神速雷鳴】を発動し前方の敵を竜骨鉄扇の範囲攻撃で出鼻を挫き、槍で討ち果たす
通路という構造は回避や逃走を許さず、超高速連続攻撃が敵に技を使わせる暇を与えないだろう
殲滅中に俺の背後側の敵が新たな敵を召喚せぬよう、背中合わせとなったカガリが俺達と敵の間を盾で遮断
前方殲滅が完了後カガリと位置を交換
盾を取り払ったと同時に反対側の敵も一掃
背中は頼んだぞカガリ!
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と(1)
知っているひと同士が、このような形で再会、してしまうのは
とてもよくない
この世界では、とても得難い、他の拠点の仲間…だったものなら、尚更
一本道に誘い込み、そこでまると背中合わせで迎撃しよう
敵が十分来たら、通路の入口と出口を【錬成カミヤドリ】で複製した【鉄門扉の盾】で封鎖
カガリの前にも1枚立てて、まるの攻撃によって現れる増援を防いでいくぞ
こちらからは基本的に、それ以上は手を出さない
カガリの背後…まるの方に、増援を出してしまうからな
数が増えてきたら、盾に風を纏わせて吹き飛ばす(属性攻撃)くらいは
任せろ、カガリの後ろに脅威は通さない
まるも、やられるなよ
●
「お前たちの相手は、この俺だ!」
「このひとたちには指一本触れさせない!」
攻撃部隊を取り囲むゾンビの群れへ、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)と出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)が身を躍らせた。疲弊した様子で武器を構える隊員たちの目の前で、あっという間に異形を蹴散らす。
「皆、大丈夫か?」
「ここはカガリたちに任せてくれ」
「あ、ああ……、でも――」
隊員がカガリの背後を指さすよりも早く、マレークが鉄扇を閃かせてゾンビの首を切り落とした。
「――! どこから……」
ずしゃり、と湿気た音を立てて崩れ落ちるゾンビを見下ろしてカガリがわずかに身を仰け反らせる。
「俺たちも倒したんだ、彼らを。何度も、何度も。……でも」
部隊を率いているらしい若者が二人の前に進み出た。そして今度はマレークの背後を示す。
「――ほら、また」
肌の粟立つ感覚を押し込めて、マレークとカガリは振り向きざまに武器を払う。骨の砕ける音と腐った肉が飛び散った。
「どれだけ倒しても、倒しきれなかった奴が仲間を喚び寄せる。一度に殲滅すればいいんだろうが、俺たちの装備じゃ追いつかない」
「……キリがないな」
じりじりと間合いを詰めてくるゾンビに鉄扇の刃を向け、マレークが嘆息した。
「こちらがこうなら、東側に向かった部隊も似たような状況に陥っているだろう。分散するよりもまとまった戦力で当たるべきだ」
「だけど、ここを守らなければ――」
ここを退いて東側に合流しろ、と暗に示すも部隊長は首を縦に振らない。
「大丈夫。カガリとまるが必ず守り通してみせる」
その身の丈よりも大きい鉄門扉の盾をがしゃりと地に打ち立て、カガリが胸を張った。――そうだ、彼らはあの鴉共を狩り尽くしてくれたではないか。部隊長――ユーシュエンは中庭の光景を思い出す。
「……わかった。」
全力で後退する攻撃部隊にゾンビたちは容赦なく追い縋る。先頭の一体をカガリの盾が頭から圧し潰した。
「……袋小路、か」
マレークが首を巡らせ、戦いの場となった一角を見渡す。
環状楼の一階。居住区は二階より上で、非戦闘員の住人たちも上の階に避難しているらしい。ここは、かつては飲食街のような区画として使われていたのだろう。二人が立つ場所から前後に伸びる小径の脇には、からっぽの店がいくつも並んでいる。この地が豊かだった頃には店々の軒先からたくさんのランタンが吊るされていたに違いない。
袋小路の行き止まりには壁の穴があり、二人を挟んだ反対側、環状楼の中へと続く方にはカガリの盾が立ち塞がっている。盾に通せん坊をされたゾンビたちは、恨めしそうにカガリを睨みつけていた。
「カガリ、こっちの穴も塞げるか」
「聞くまでもない」
背を任せた友が何を考えているのか、カガリは即座にその意図を悟った。そして詠唱もなく、指先一つ動かさず、ユーベルコードを発動させる。すると、ゾンビたちの行く手を阻んでいる盾と寸分違わぬものが次々と小径に出現した。
「さすが。鮮やかな手並み」
「ふ。この盾、我が身そのものなれば」
指を動かすのに大層な呪文など不要だろう? と、紫色の目が細く笑う。瞬く間に壁の穴と小路の出口が鉄門扉の盾でがっちりと封鎖された。
「違いない」
マレークは満足げに口の端を上げて、呻き声と共に迫るゾンビに向き直った。ざん、と鉄扇を開く音が空間に響く。
「さあ。これでお前たちはどこへも逃げられぬ。我が神速の技、その身を以て味わうがいい!」
バチ、バチ――、鉄扇の表面を青白い電光が走る。新手を喚ばれるのならば、その前に殲滅すればいい。簡単だ。実に、簡単なことだ。出口のない一本道を愚直に突き進んでくるゾンビたちは、鮫の口に自ら飛び込む小魚の群れのようなものだった。
開いた扇を圏のように扱い、閉じる動作で一撃の重みを加速させる。そのまま閉じた扇を刺突に転用して、形状と動きを常に変動させては敵を翻弄した。稲妻の如き電光石火の連続攻撃で、ゾンビたちは瞬く間に切り刻まれていく。最後の一体を袈裟懸けに斬り捨てる瞬間、そのゾンビは残った力を振り絞って仲間を喚んだ。
「――カガリ!」
「応ッ!」
新たに敵が現れるのは常に背後。先刻の応酬でマレークもカガリもそれに気付いていた。故に互いに背中を預け、死角を補い合う作戦に出たのだ。死臭を放って食らいつこうとするゾンビを、カガリは盾で防ぐ。まるで飢えた猛獣のように鉄柵にかじりつく死者の形相を目の当たりにして、カガリの表情が僅かに曇った。
(これがもし、カガリの知っているひとだったなら――)
こんな形で支え合った仲間と再会してしまうなんて。誰もが大切な何かを一度失った世界で、ようやく手にすることができた、得難いもの。――だったはずだ。
(それは、とてもよくない)
生きることは、生き残ることは難しい。生を手離さないでいるための支えは必要だ。この世界にあっては殊に、それは命綱に等しいものなのではないか。助けに入ったときの、絶望を滲ませた隊員たちの顔が忘れられなかった。
カガリは渾身の力で盾ごとゾンビを振り上げ、地に叩き落した。それを合図にマレークが鉄扇を翻してカガリの前に飛び出す。一糸乱れぬ連携で、二人はついに檻の中の敵を一体残らず撃破した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
無明・緤
地下通路の場所を聞き直行
(4)外に出ようとする住人を止めにいく
拠点を守りもせずどこへ行くんだ?
【操縦】【早業】で人形を行手へ割り込ませ
猫の視点で、人の注意が及びにくい足元を警戒
鼻で腐臭を、気配を髭と【第六感】で探り
ゾンビが居たら素早く飛びかかり人形用の糸で拘束
コイツはこの道を覚えていた
つまり知性や記憶が残っているんだ
何か聞けるかもしれない
そちらの拠点で何があった
どんな敵に襲われた
…誰かへ伝えたい言葉はあるか
情報を聞き出したら礼を告げ
頸辺りを牙で優しく咬み神経系統を【ハッキング】して正常な死へ導く
それから、電脳魔術で扉を描きUC【星への扉】使用
骸を拠点内の安全地帯へ移し集めておく
あとで弔うために
●
環状楼の中庭、かつてそこに建っていた廟の基礎。その脇に枯れた井戸があった。住人たちは水脈の復活を期待することなく、水の通り道だった空洞を拡張して地下通路を作った。
(なるほど。籠城からの脱出を想定するなら、中庭に出入り口を作るのは道理だ)
地上部よりもひんやりとした地下通路を走りながら、無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は思った。
楼の外縁部、外壁の近くはいつ戦闘の最前線になるかわからない。より安全な位置からの避難を考えて作られたのだろう。水路だった穴を利用することで労力を最低限に抑えることもできた。改築の重ねられた環状楼の其処此処に「生き残ってみせる」という意志を強く感じる。
――だからこそ、誰一人として無駄死にはさせられない。
「どこへ行くんだ?」
追い付いた人影へ、緤は鋭く声をかける。二人、――いや、三人か。いずれも若い男だ。照明のない通路を手探りで進んでいた彼らは、身を竦ませて振り返った。彼らには薄闇しか見えないのかもしれないが、緤の猫の瞳は三人の驚いた表情まではっきりと捉えた。
「知り合いの安否が気がかりなのはわかるが、今は拠点を守る方が大事だろう」
言葉を続けながら、からくり人形『法性』を起動させる。機体の駆動ランプが緑色に点灯した。光源を得て、三人はようやく緤の姿を認識して安堵の顔を見せる。先刻、中庭で鴉を駆逐した腕利きの一人だ、ということは理解したようだった。
「……もちろん、わかっているさ」
ばつの悪そうな顔で、一人が口を開く。
「でも、俺は――、向こうに住んでる彼女の方が大事だ」
拠点の皆には悪いけど、と、消えそうな声で付け足す。今はお互いに別の拠点に住んでいるが、ゆくゆくは共に暮らすつもりでいるのだという。
「それが悪いことだとは、言ってない」
法性の光を受けて緑色に光る緤の眼は、険しい。長いヒゲは前方向へピンと張り、耳はいかなる音も聴き洩らさぬとしきりに角度を変えた。小さな黒猫の身体から放たれる圧に、青年たちは後退った。
「――動くな!」
空気を擦る威嚇音を発し、緤が叫ぶ。そして、手にしていた鋼糸を闇の奥へ放った。
「ア゛、ア゛ア゛……」
「な、なんだ
……!?」
誰もいるはずのない方向から聞こえる呻き声に、三人は色を失う。「なんだ?」と言いながら、誰もいるはずがないと思いながら、全員が理解していた。奴らが来た、と。
三人を自分の後ろへ下がらせ、緤は鋼糸を手繰る。大きな魚を釣り上げるかのように暴れるワイヤーの先には、一体のゾンビが絡め取られていた。拠点の外を囲んでいたゾンビと同様に腐敗が進んでいるが、顔つきや体格から女性であることは伺えた。
「……コイツだけか」
緤が通路の奥を凝視して他に敵の気配がないことを確認する。その後ろで、男の一人が息を呑んだ。
「シャオラン……!」
いつか愛する人と一緒になるのだと、恋人の身を案じていた青年だった。緤の瞳孔が針のように細くなる。
(くそ……っ!)
“こういうこと”が起こり得るだろうとは、わかっていた。
残る二人に押し止められながらも、青年は半狂乱になって恋人へ腕を伸ばす。なぜ、どうしてと喚く青年の声から意識を逸らすようにして緤は考える。
(緊急用の隠し通路……。それを伝って侵入しようとした。ということは、やはり知性や記憶が残っているんだ)
鋼糸の戒めはそのままに、緤は慎重に語りかけた。
「――何が、あった?」
「ア゛、ア゛……」
「どんな敵に襲われた?」
「ア゛ア゛、ア゛……」
質問や言葉を変えてみても、シャオランの反応は同じだった。ただ、呻き声を喉から垂れ流している。
(……ダメか)
小さく溜息を漏らして、緤がもうひとつだけ問う。答えなど期待はできないだろう。それでもその問いを口にした。
「……誰かに、伝えたいことはあるか」
「ア゛――…、ン、ディ……」
「!」
初めて言葉らしい言葉を発したシャオランの、それが何を――誰を指しているのかは明らかだった。仲間に押さえられたまま、アンディと呼ばれた青年が女の名を叫んで応える。
「シャオラン!」
「ア、ンディ、アンディ、ア、ア゛ア゛ア゛
……!!」
しかしそれも束の間。シャオランは再び暴れ出して自由を得ようともがいた。身体を捩る度、鋼糸が皮膚にめり込んで肉を削ぐ。
(これ以上は、ダメだ)
潮時だった。鋼糸が切れることはないだろう。だが、腕や足をちぎって拘束から逃れることができないわけではない。そうやって自由になったところで拠点の中まで辿り着けるとも思えないが、恋人だった男に無惨な光景を披露する必要はひと欠片もない。緤は躊躇わずにシャオランの頸へと牙を突き立てた。
再び静かになった通路の中、緤は緑の光線で小さな扉の絵を描く。電脳魔術で作り出した扉を媒介に、ユーベルコードで拠点内へシャオランの遺体を転送するためだ。柔らかな光は横たえられたシャオランを慈しむように照らしている。――ぽたり。涙が地面を打つ音が聞こえた。
「あんたに、会いに来たんだな」
唇を震わせて耐えるアンディに、緤が話しかける。オブリビオンとしての衝動に突き動かされていたとしても。その奥底には「愛する人に会いたい」という感情があったに違いなかった。たった一人で。隠された通路の記憶を辿って。シャオランは、アンディに会いたかったのだ。
光が消えた闇の中で、嗚咽が響いた。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
(3)
攻撃部隊の負担や中にいる方々の不利を減らすとなれば
必然と大元の数を叩くのが道理というものでしょう
ふふ、死にませんよ
僕たちはこの死地を駆け抜けるのです
鬨の声とともに、ね
ザッフィーロ君と背をあわせ死角をなくすようにし
「戦闘知識」「視力」「第六感」により敵が密集している個所を判断・判別
「高速詠唱」「属性攻撃」「一斉発射」「2回攻撃」「範囲攻撃」をのせた
【天撃アストロフィジックス】で星を落としましょう
ザッフィーロ君の死角から出た敵には「衝撃波」にて「吹き飛ばし」を
攻撃は最大の防御というものです
……そうですね、僕らの活躍が彼らの助けになると信じるばかりです
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
(3)
壁の寸前迄近づかれれば矢張り侵入を許しやすくなるだろう
ならば壁に近づく前に少しでも数を減らせればと宵と拠点の外にて敵を減らして行こうと思う
囲まれたとて本体は互いに安全な所にあるからな。死ぬことは無かろう
…まあ、宵の肉が怪我をする所は視たくない故、宵の事は常に『かば』い護る様に行動はするが、な
戦闘時は宵と背を併せながら行動
宵の星を逃れ近づいて来た敵を【罪告げの黒霧】…麻痺毒性のある毒霧にて弱らせた後、メイスにて『なぎ払い』ながら攻撃をして行こうと思う
ああ、本当にお前の星は美しいなとついぞ見惚れてしまいながらも時折壁の方へ視線を向けよう
…少しでも助けになっていれば良いのだがな
テリブル・カトラリー
(3)拠点の外に出てゾンビと戦う
外壁から下りる
ゾンビ達に『戦争機械・三腕』発動
【氷結耐性】を持たないゾンビ達を冷凍霧で【範囲攻撃】
凍結したゾンビ達の中心に降りる
……
大型汎用機関銃で【鎧無視攻撃】後方以外の凍結ゾンビを達を破壊し、
ぶれる銃身を【怪力】でねじふせゾンビの群れを【なぎ払い】処理する
…………
引き延ばした時間から的確に【早業】でリロード。
即座に近付くゾンビを狙い【スナイパー】【制圧射撃】
また迫るゾンビ共を処理する。
……………………
ゾンビの死体がある程度集まったら火炎放射で【属性攻撃】
後方の凍結ゾンビや生き残りも片付ける
次だ。
●
オブリビオンの侵入を許した環状楼は騒乱状態に陥った。内部で対応する猟兵たちの働きもあり今のところは大きな被害に至っていないが、外壁の脆い場所を攻め続けられればいつまでも持ち堪えられないだろうことは明白だ。
「楼の内で迎え撃つだけでは、更なる侵入を許すだけだろう」
「……ええ。攻撃部隊も圧されているようです。そちらへ加勢することもできますが――」
状況を分析するザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の後ろに、大きな人影が立った。
「――巣から這い出た蟻を一匹ずつ潰しても埒が明かない。巣ごと駆逐するのが合理的だ」
二人が振り返ると、大きな人影――テリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)が淡々とした声で告げた。
「私も行こう」
●
環状楼の壁に穴を穿とうとゾンビたちが群がる様は、まさに蟻の襲撃だった。ほとんどのゾンビは壁に取り付くのに夢中になっていたが、そのうちの何体化が駆けつける二人の余所者に気付く。ぐるりと不自然なほどに首をねじって、濁った目をザッフィーロと宵へ向けた。
「来るぞ!」
「ええ!」
互いに死角を補い合いながら、ヤドリガミたちは武器を構えた。
敵の接近を知ったゾンビは次々と壁から離れ、二人へ襲い掛かる。髪を振り乱し、狂った雄叫びを上げ、彼らは何を思うのか。――喰らってやる、とでも叫んでいるのだろうか。
「『太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。』」
宵が『天撃アストロフィジックス』の詠唱をゆっくりと開始した。素早く呪文を唱え切ることもできるが、今はゾンビ共を十分に引き付ける方が重要だ。“流れ星”が外壁を破壊してしまっては元も子もない。その背後ではザッフィーロがいつでも動けるように重心を落として機を伺っていた。
(まだか、宵)
顔には出さないものの、ザッフィーロの心中は穏やかでない。常に共に戦う身なのだから、大丈夫だと頭ではわかっているのだが。それでも半身が傷つく痛みにはいつまでも慣れない男なのだった。
先頭を走るゾンビがその腕を振り上げ、今にも宵に襲い掛かろうとしたとき、
「――『さあ、宵の口とまいりましょう』!」
詠唱速度を急速に上げて宵が術を完成させた。空を切る音を残して、最初の流星がゾンビの頭蓋骨を貫く。頭を砕かれたオブリビオンは乾いた大地に崩れ落ちた。そして立て続けにゾンビの群れへ幾多の星が降り注ぐ。
ほう、と安堵の息をついてザッフィーロが口を尖らせた。
「焦らすのが上手くなったのではないか?」
「そんなことはありませんよ」
澄まし顔で宵が嘯く。その足元でゾンビが蠢いた。
「嘘つきめ!」
しぶとく立ち上がろうとした異形をメイスで弾き飛ばすザッフィーロの顔は、しかし笑っている。
「――半分、というところか」
「ええ。なかなかにしぶといですね」
宵も、身体を引きずって間合いに飛び込んでくるゾンビを宵帝の杖から放つ衝撃波で吹き飛ばしザッフィーロを援護する。頭を砕かれた個体はさすがに動かぬ屍になっていたが、脚を撃ち抜く程度では連中も諦めないようだ。ボロボロになった腕を脚替わりにして這いずり回っている。
「ならば、俺の毒で動きを止めよう」
今度はザッフィーロが深く息を吸い込んだ。己の身の内に少しずつ澱積もった罪や穢れを、毒の霧に変えて吐き出すユーベルコード、『罪告げの黒霧』。
「罪なき者には効かぬ、……が、宵も口を覆った方がよいぞ」
「大丈夫ですよ。毒の耐性がありますから。罪は、ありますけどね」
――誰かを愛することを『罪』と呼ぶのならば。
(なんてね)
宵は一人、笑った。
「……そういえば、先程の方は」
テリブルの姿が見えないと、宵が辺りを見回した。二人と同じように考えたのだろう、拠点の外へ打って出た猟兵は多い。遠目にも何人かの仲間の姿が見えた。だが、彼女ほどの体躯は見当たらない。そうする間にも新手が拠点を襲い始めた。
「際限がないな!」
再びゾンビたちを引き付けるべく、ザッフィーロが駆け出す。
「近隣拠点の方が犠牲になった故と聞きましたが、それにしては数が多すぎますね」
「攻撃部隊の者が話すのが聞こえたが、奴ら、増殖するらしい」
「……それは、また」
厄介な相手だ、と宵は言葉を詰まらせる。
「だが、それだけではない。……そんな気がする」
それが何なのかはわからないが。ザッフィーロは己の勘が何かを告げようとしていると感じた。
「ザッフィーロ君、あれを……!」
視界の端、上方で金属質の何かがきらめくのに気付いて宵が指をさす。示された先は、――環状楼の屋根。その上にテリブルが立っていた。
「まさか、降りるつもりか……?」
四階建ての建築物である。羽根を持つ種族ならば地下通路を抜けるよりも壁を飛び越える方が容易いだろうが、彼女はその体躯と装備から予想するにウォーマシン、機械の身体を持つ種族のはずだ。人間に比べて質量ははるかに大きいのではないか。いかに猟兵といえども、その高さから飛び降りて無事で済むものだろうか。二人は思わずテリブルの様子を見守った。
●
四階建ての、更にその屋根の上。吹き付ける風は強い。風に混じる砂埃が金属製の装甲を小さく叩く。テリブルは眼下の光景を見下ろした。――巨大なドーナツに群がる蟻。払っても払っても諦めずに喰い散らかそうとやってくる。おまけにその数は減るどころか増えているようにさえ感じる。また一団、蟻の群れが現れた。
「――突入」
機械音混じりの音声で行動開始が宣言された。
屋根瓦を蹴り、オブリビオンの群れ目がけてテリブルは飛び降りた。下から見上げる仲間が目を見開いたのが視覚デバイスの端に映る。そういった反応は、彼女にとって特に珍しいものではなかった。
時間にして、約1秒。降下する間に両腕を特殊機能を備えた機械腕に換装し自身を強化した。そして地面に激突する直前でブースターを起動、その反動で着地の衝撃を完全に相殺する。
餌めがけて突進していたはずのところへ敵がいきなり現れたせいで、ゾンビたちはわずかに怯んだ。しかしすぐにテリブルへの敵意を剥き出しにして一斉に襲い掛かった。
奇声を発して迫るゾンビに眉一つ動かさず、機械腕の機能を冷凍霧散布に切り替え、発射する。そのまま右脚を軸にぐるりと身体を回転させた。テリブルへ殺到したゾンビたちは瞬く間に凍り付き、身動きが取れなくなる。だが、太陽がぎらぎらと照り付ける陽気である。放っておけば氷はあっという間に解けて、再びゾンビたちが自由になるだろう。もちろん、テリブルにそれを許すつもりはない。
「…………」
ウォーマシン用に設計された大型汎用機関銃、クロスグロウを無駄のない動きで構えトリガーを引く。鎧をも貫通する威力の弾丸が凍ったゾンビの身体を粉々に砕いていく。発砲の反動で暴れる銃身を力ずくで押さえ込み、決して狙いを外さない。最前列の敵を全て砕いたところで手早くマガジンを交換する。ひとつのミスもない手際は、まるで高画質のシューティングゲームの画面を見ているようだった。弾丸の残っているマガジンを片手でしまい、テリブルは再び人差し指に力を込めた。
戦っている間、テリブルは終始無言だった。元々寡黙な性格ではあるが、実のところ彼女自身は争いを好んではいない。もしかすると拠点の住人たちへの黙祷を捧げているのかもしれない。
「――――……」
ゾンビの群れを悉く粉々にした後で、テリブルは拠点内で耳にした話を思い出す。
(増殖する、のだったか)
なにがきっかけになるのか、どういう原理なのか。今はわからないが――、
「焼却」
機械腕の機能を火炎放射にスイッチして、詰み上がった死体に向けて火を放った。これで、跡形もなく燃え尽きるだろう。増殖のリスクも。そして、彼らがどこの誰だったのかも。
「――次だ」
テリブルは環状楼に目を向けることなく、次の群れを目指した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
加々見・久慈彦
●拠点の外に出てゾンビと戦う
アポカリプスヘルにも蘇格蘭(すこっとらんど)はあるのでしょうか?
まあ、なかったとしても、かの地の呪いは我が手にありますがね。(♦9のカードをシュッパと取り出す)
……と、ゾンビ相手に格好をつけても虚しいですなぁ。
「突然のゾンビ襲来」を察知して素早く振り返り、蘇格蘭の呪い(♦9の異名)で攻撃を受け止めます(【第六感】【早業】)。
これでこちらもゾンビを使えますね。敵の背後に新たなゾンビを呼び寄せ、同士討ち(共食い?)をさせましょう。目には目を、歯には歯を、屍人には屍人を……しかし、凄惨な光景ですな。住人の方々にはとても見せられませんね。
煮るな焼くなとご自由に扱ってください
●
桜の狂い咲く帝都からやってきた男、加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)は荒涼とした風景に佇んで視線を靴に落とした。
(なんてこった。せっかく磨いた靴が台無しじゃありませんか)
グリモアベースを出発したときには確かにぴかぴかだった、自慢のシングルモンクが既に砂塗れだ。おまけに腐った肉や鴉の羽根もこびりついている。帰還したらまず最初に靴のメンテナンスをしなければ。久慈彦は心に誓った。同じく砂埃で黄ばんだ白いスーツの肩口を手ではたいて、襟を正す。実のところ、彼の靴もスーツもとりたてて高価な品というわけでは全くないのだ。舶来物の高級ブランドに似せて仕立てられた真っ赤な偽物――の、しかも古着である。
だが、この元詐欺師は経験上よくわかっている。くたびれた靴では上等なカモを捕まえられないということを。
「……とはいえ、ゾンビ相手にそんなハッタリは虚しいだけでしょうなぁ」
知性のない相手に駆け引きを仕掛けたところで、ただの独り相撲でしかない。先刻拠点内に運び込まれた“ゾンビの遺体”はわずかながらに生前の記憶を残していた――というのを小耳に挟んだりもしたが。
「さあ、ショーダウンといきましょう。――あんたがたの“ハンド”は何でしょうね?」
歯茎すら剥き出しにして、久慈彦は哂う。その笑みは己をぐるりと取り囲んだゾンビたちへ向けられたものだ。勝負師の炎が包帯の隙間から吹き上がった。
視界の奥、おそらく他の猟兵たちが戦っているのであろう地点に星が降るのが見えた。こんな真っ昼間に流れ星とは、贅沢だ。惜しむらくは空が明るすぎて星の軌跡が見えないことか。
環状楼の外側で繰り広げられる激戦に比べて、久慈彦の振る舞いはあまりにも「普通」だった。仲間が派手に引き付けてくれているおかげか、はたまた彼の殺気のなさ故か、久慈彦を包囲するゾンビの数もまばらだ。まるで散歩中に出会ったご近所さんへ会釈でもするような気安さで久慈彦は右手を上げた。その指に挟まれているのは、彼愛用のトランプ。なぜか『仔猫ちゃんの爪』などという名前が付いているが、それは――、
「!!」
久慈彦が詐欺師の仮面を自ら外してゾンビたちに斬りかかった。刃の仕込まれたカードを剃刀の要領で振り回す。脇から一斉に飛びかかってくる相手にはナイフのように投擲して突き刺し、それが脳天に的中したのを見るや、
「Bonanza!」
仰向けに倒れるゾンビに向かってウインクを飛ばした。――かどうかは、頭部が炎と包帯に包まれた彼の容貌からはわからない。
「無害だと思って甘く見ると、痛い目を見ますよ!」と言い終えぬうちに、久慈彦は真横の地面に飛び込んで身体を回転させた。転がる勢いのまま身体を起こして自分のいた場所を見る。目に映るのは、背後から久慈彦に襲い掛かったゾンビが虚しく空振って仲間の肩を抉る瞬間だった。
「――ふぅ、危ない危ない。第六感ってのは馬鹿にできませんねぇ」
甘く見たのは自分の方だったかもしれない。胸の裡で自分に毒づく。数が少ないと見て油断した。気付けば最初に囲まれていたときよりも敵の数が増えている。あの大鴉と同じように仲間を召喚する能力でもあるのだろう。
(……いやはや。数で圧されると面倒ですね)
占うように手の中のカードをめくる。鬼が出るか、蛇が出るか。ここが一番の大博打――。
ニタリ。引いたカードのインデックスを見て、久慈彦は笑った。
「この勝負、私の勝ちです。かの地の呪いは我が手に」
ダイヤの9。『CURSE OF SCOTLAND』、“スコットランドの呪い”と呼ばれることもあるカードだ。そしてこのカードが発動するユーベルコードは、敵のそれを複製する技。新たに喚び出されたゾンビの攻撃を掲げたカードで受け、刃で腐肉を削り落とす。ゾンビの膝を横からしたたかに蹴りつけると、関節を砕かれたゾンビがぐしゃりと潰れた。
「これでこちらも同じ能力を使えます」
――イカサマだって? とんでもない。
しれ、と笑ってみせる。
久慈彦に相対するゾンビたちの後ろに、更にゾンビの群れが現れた。
「ハンデと言っていただきたい」
久慈彦が喚び出したたちまち敵方のゾンビに襲い掛かった。肉を食いちぎり、骨を砕く。襲われた方も負けじと応戦して、同じように腐った身体を貪る。ゾンビの同士討ちはあっという間に一帯へ広がった。こうなってしまうと、ゾンビたちは久慈彦のことなど眼中にないようだ。獣の咆哮と人の身体が潰れる音。立ち上る悪臭を風が攫うも、すぐにまた臭いが充満する。
しばらくの間、高みの見物を決め込んでいた久慈彦は沈痛な表情で首を横に振った。
「凄惨な光景ですな。住人の方々にはとても見せられませんね」
それが本心かどうかは、誰も知らない。彼は再び詐欺師の仮面を被っていた。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
攻撃部隊と一緒に行動
あぁ、そうだ
ユーシュエンさん先程はすみません
あなたを助ける為とはいえちょっと手荒いことをしました
こんな状況ですが自己紹介まだでしたね
顔を晒して挨拶します、すぐガスマスク被りますが
バリケード以外の無機物を影に変換し敵を討つ
部隊の後方にも影を複数配置
攻撃を受けそうな人を庇ったり、
地面を這って侵入した奴をその影で逃さず倒す
首、は折ったらもげますかね
じゃあ心臓一刺しで
普段だったら躊躇なく纏めて火葬したんですが、
……知り合い、なんでしょう?
遺体が残るかはわかりませんけど
遺品を集め弔えるように、あまり身体を損傷させないであげたいんです
気休めでしょうが、しないと後悔しそうなんで
●
ざわつく心をマントの下に押し隠してユーシュエンは戦った。拠点の東側、外壁に隣接した区画でもゾンビたちの侵入で混乱が生じている。攻撃部隊の戦力を集中させた甲斐もあって一進一退を繰り返しながらも被害を出すことなく戦線を維持できてはいるが、倒しても倒しても現れ増殖し続けるゾンビを殲滅するよりも先に隊員たちの心が折れるだろうことは予想に難くなかった。
「銃撃隊、下がれ!」
数にものを言わせようとするゾンビたちを一斉射撃で押し止め、怯んだところをナイフで狩り取った。近接部隊がトドメを刺す間に銃撃退は弾倉を交換して次の波に備える。
(……まただ)
ユーシュエンは正確にゾンビの頸を狙い斬り付けた。長刀のように一閃で刎ね飛ばす威力こそないが、肉や骨を深く抉れば頭部の自重と斬られる反動で首がねじ切れる。
――ごとり。重い音に続いてゆっくりと倒れる胴体が纏っている衣服には見覚えがあった。そんなことが何度もあった。何人も殺せばいつか心も麻痺するだろうかとも思ったが、喉の奥の苦みが増すだけだ。
(殺すために、殺し合うために今日まで来たわけじゃない)
奥歯が折れそうなほどに歯を食いしばる。
生きるためだ。生き残るために、彼らと手を取り合ってきたはずなのに。乾いた喉にせり上がる何かを強引に呑み込もうとするがうまくいかない。
「ティエップ……!」
無意識に友の名を呼んだ。
●
「ボーっとしてると、死にますよ?」
耳元で飄々とした声が聞こえた気がした。ハッとして振り返ると、黒い影が自分の背後に立っている。影はユーシュエンの足下へ縋りつくゾンビの心臓を一刺しして消えた。この声には聞き覚えがある。鴉に喰われそうになったときに助けてくれた、あの男だ。
「すまない。……また、助けられたな」
「あぁ、先程は手荒いことをしてすみません」
影とは別の方向からスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が姿を現した。どういう仕掛けかはわからないが、スキアファールは影を自在に操り攻撃部隊の隊員を守るようにして戦っている。
「こんな状況で何ですが、自己紹介がまだでしたね」と、ガスマスクを外して顔を晒す。ユーシュエンには相変わらず“影人間”としか認識できないそれを、スキアファールは再びガスマスクで隠した。被害を出さずに済んでいるのは、この奇妙な影人間の尽力によるところが大きい。ただ、部隊を守ってくれている――わりには、彼の態度は慈愛に満ちた聖者という風でもなく、どこか胡散臭く、つっけんどんでもある。
今倒したゾンビで、一旦は内部の敵を全て撃退できたらしい。しばらくすれば再び攻防戦になるだろうが、わずかな時間だけでも一息つけるのがありがたい。隊員たちも、各々武器の整備をしたり身体を休めたりし始めた。壁に穿たれた穴を塞ぎに、防衛部隊の面々がバリケードの資材を運び込んでいる。
「いや、それにしてもなかなか面倒ですな。こうも数が多く、こうも動き回られては。いつもならまとめて燃やしてしまうところです」
スキアファールは手をひらひらさせて炎の形を示してみせる。
「それは困るな」
「でしょう?」
環状楼の内側は木材を多用した建築物だ。乾燥した状況で火を使えば、なるほどゾンビどもは一掃できるだろうが自分たちも道連れである。
「まあ、これを使おうとした俺が言えることじゃないけど」
「おーっと! それは使用禁止! ダメですよ。命は大事に、巻き込み厳禁、生きて帰るまでがお仕事です!」
マントを捲って腰に提げた手榴弾を見せるユーシュエンの手を、子供を叱る親のようにスキアファールが叩く。おどけた口調と態度で本気か冗談かは読み取れない。
「延焼は、まあ私たちにはどうとでも食い止められますけどもね」
実際、猟兵たちがユーベルコードで操る炎の多くは術者の意志で自由に制御できる。仮に環状楼に燃え移ったとしても、それで二次被害が出るなどということはほとんど考えられないのだ。
「――知り合い、なんでしょう?」
「え――」
スキアファールの眼を、ユーシュエンは今日初めて認識できた。かもしれない。
「そうは言っても生きている者の方が大事ですからね。どこまでやれるかはわかりませんけど」
弔うのに必要でしょう、と、スキアファールは言った。だから彼は、ゾンビたちの顔を狙わないのだ。身体を引き裂かないのだ。すべて焼いてしまえば、彼らが生きていた証は何も遺せないから。
「……そんな顔、しないでくれます?」
のっぽの影人間は、おそらく困ったように笑っているのだろう。
「ただの自己満足ですよ」
●
――そう。別に、彼らのためというわけでもない。ただ、そうしないと自分が後悔するからやるのだ。
(自身が怪奇であることを忘れてはならない)
半ば自虐的にスキアファールは気を引き締める。まるで自分が人間だと思い上がっているみたいじゃないですか。彼は知っている。その己惚れの先にあるものは、自滅だということを。
ゾンビたちは飽きもせずに壁を壊しにやってくる。再び穴から侵入しはじめる群れを、攻撃部隊とスキアファールは迎え撃った。攻めの勢いは先刻よりも緩い。拠点外での戦況も上々なのだろう。つまり、この籠城戦も終わりが近い。――当然、防衛成功という形での、だ。
「さーあ、もうひと働きしますよ」
スキアファールは意識を集中させた。一定範囲内の無機物を影に変えて自分の体の一部のように操るユーベルコードだが、間違えてバリケードを影にしてもいけない。影を配置する場所、数、媒介、神経を研ぎ澄まして最善の一手を打つ。
「伝染れ、伝染せ」
ゆらりと影が伸び上がる。
それは、私自身。
それは、あなた自身。
――彼我の境界はいったいどこにあると言うのだね?
影がまた、異形の胸を刺し貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
(3)
章お兄さんf03255と連絡取りつつ
基本は人の少ない手薄になったところに支援に向かう
俺は前に出るタイプじゃないから、機械類や資材を遮蔽に取りながら銃撃
住人とはなるだけかかわらないようにする
いざって時に足を引っ張られるのは避けたいからね
俺はいつだって自分の安全重視なんです
とはいえ…お兄さんから連絡がきたらものっそ嫌そうな顔をしながらも承るよ
外に出ちゃった人の援護ね。わかった
…安否確認ね。わかった
口では邪険にしながらもできる範囲で言うことは聞く
まあ、ついでだし
ゾンビ自体は、見つけた瞬間問答無用で頭を打っ飛ばすかそれでも動くなら足を潰すんだけどね
死者は死者だから
…とにかく、さっさと片を付けよう
鵜飼・章
(4)説得
別行動するリュカさん(f02586)に渡した無線で情報共有し
一人でも多くの命を守れるよう連携
地下通路の前に立ち【模範解答】を発動
行くの?
死ぬよ
言葉は簡潔に
生半可な覚悟ではここは通さない
恐怖を乗り越えられるひとがもしいたら止めはしない
命より大切なものがあるんだろう
ただ生きて帰ってくるんだ、と
鴉を護衛につけ送り出す
外に居るリュカさんに連絡し
出ていった人の人数や特徴を伝える
出来る範囲で護ってあげて
頼んだよ
【優しさ/コミュ力/慰め】で残った人の話を聞き
探している相手の安否確認もお願い
もし生きていたら迎えに出るよ
大丈夫
今喋ってるひとは僕の信頼する友達だから
きっと皆の力になってくれる
…生きるんだ
●
(そろそろここもクリアになったかな)
立ち枯れて石のようになった木の影から、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が顔を覗かせた。まだあどけなさの残る顔立ちに似合わぬ乾いた表情を纏って、辺りの様子を伺う。200mほど離れた場所にゾンビの屍が折り重なって倒れている。もしもそれを近くで確認すれば、ほとんどのゾンビが額を撃ち抜かれているのがわかるはずだ。
一帯にオブリビオンの姿が見えなくなったことを確認すると、幹に背中を預けてアサルトライフルの弾倉を交換した。銃身をチェックしながら耳を澄ます。――戦闘が集中しているのは、東側のようだ。環状楼の内側から聞こえる音もする。きっと敵が侵入するために壁を破壊したのだろう。
「――よし、さっさと片を付けよう」
遠距離の射撃を得意とするリュカは、外で戦う猟兵たちの支援に徹していた。決して前線には出ず、物陰に身を隠しながら敵を一体ずつ確実に仕留める。そういう戦い方であれば本来は環状楼の上階に布陣するのがいいのだろうが、彼は住人との接触を極力避けるために外へ出た。
(いざって時に脚を引っ張られるのはごめんだ)
愛銃のストラップを肩に背負い、移動の準備をする。
薄情だって? ――そうだとも。俺はいつだって自分の安全重視なんです。
死んだら何も守れないじゃないか。
●
一方、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は中庭の井戸を降りて地下通路を進む。先行した仲間から遅れてしまったのは、リュカに無線機を押し付けるのに時間を食ったからだった。一回り下の友人がまさに“渋々”といった表情で受け取った時のことを思い出し、章は闇の中で笑みを浮かべた。が、すぐに唇を引き結ぶ。ついさっき、通路の奥から獣のような叫び声と悲痛な嗚咽が聞こえたのだ。既に猟兵が合流しているはずだから大事には至っていないだろうが、急がねばならない。
程なく、章は三人の男を発見した。一人は項垂れて地に座り込み、残る二人が同情と不安の混ざった顔で立ち尽くしている。
「――なるほど。わかったよ」
傍らにいた猟兵から事情を聞いて、章は頷いた。そして男たちに向き直り問いかける。
「それで、行くの?」
「…………」
「――……」
座り込んだ男は力なく首を横に振る。そのすぐ隣に立つ男も章から目を逸らした。
だが、三人目の男が声を絞り出す。
「……俺は、行く」
「死ぬよ?」
ごく簡潔な言葉に、底知れない圧が加わる。章が密かにユーベルコード『模範解答』を発動させ、男達に尋常ならざる恐怖を与えているのだ。
(……生半可な覚悟で、ここを通すわけにはいかない)
環状楼の中にさえいれば猟兵が守れる。しかしそこから飛び出せば誰も守ってはくれないのだ。しかも、今現在環状楼を襲っているゾンビたちは近隣拠点からやってきているらしいと推測されている。そこへ向かう。一人で。生きて辿り着ける方が奇跡と言っても過言ではない。ただの好奇心や一過性の熱で命を棄てさせるわけにはいかない。
「娘が、いるんだよ。……向こうに」
男はこの環状楼の住人ではなかった。近隣拠点から補修作業の手伝いにやってきたのだという。一週間ほど滞在して働き、明日帰るはずだった。
「もう死んでるかもしれない」
「生きてるかもしれないだろッ!!」
ひんやりとした空気の中で男は叫んだ。
「まだ生きて、助けを待ってるかもしれないだろ……! 一人で、怖がって、『パパ助けて』って呼んでも俺は行けないんだ! そんなのってないだろ!!」
ユーベルコードの効果は十分以上に発揮されたはずだった。現に、残りの二人は絶望的な顔をしている。あとは優しく促すだけで大人しく拠点の中へ戻ってくれるだろう。だが、この父親は……。
「何に命を懸けるべきか知っている人を止める術は、僕にはない」
小さな息と共に章が頷くと、父親は顔を弾かれたように上げた。
章は無線機を手に取り、受信側にいるはずのリュカに話しかけた。
「――リュカさん? 地下通路から退出する民間人、一名。援護お願い」
通信機の向こうの人物が、やけに不機嫌そうに応答するのが聞こえる。不安げに見守る父親へ、章は柔らかく笑いかけた。
「大丈夫。今喋ってるひとは僕の信頼する友達だから。きっと力になってくれる」
だから、生きるんだ。そう言って、章は鴉を守りにつけて父親を送り出した。
●
「外に出ちゃった人の援護ね。わかった。……安否確認ね。わかった」
まったく、お兄さんも面倒なことを押し付けてくれた。心底嫌そうな顔のまま、リュカは無線をホルダーにしまう。
(俺が民間人とあまり関わりたくないのは知っているだろうに)
とはいえ、助ける必要があるのなら当然助ける。できる範囲で、ではあるが。
強いこと、生き残ることが世界の全てだと思って生きてはきたけれど、この宇宙にはそれ以外のものさしもたくさんあるんだということを教えてくれたのは、たまたま自分と関わってくれた誰かだ。そして章もその中の一人なのだろう。誰かのものさしと誰かのものさしが交わって重なり合い織りなす景色が美しいことを、リュカは知った。
「まあ、ついでだし」
思わず口をついて出たのは、素直になりきれない自分への言い訳だろうか。
地下通路の出口は拠点の北東にあるらしい。襲撃を受けている東側の区画へ向かうルートの途中だ。今は移動距離が無駄に延びずに済んだことを喜んでおこう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
(3)
説得だ鼓舞だなんてのは向いてねえ
好きに暴れるぜ、なァ相棒
己にナイフ突き立て抉った肉で【ジャバウォックの歌】
相棒の巨体でゾンビどもの注意を惹きつける
混沌の焔で屍肉を混ぜっ返してやれ
討ち漏らした奴をナイフで掃討しつつ
万一地下通路なんかから出てくる阿呆がいても対応できるように注意を払う
殴ってでもお帰り頂くぜ
これ以上ゾンビが増えたら面倒だからな
相棒の「焔」は厳密にゃ炎じゃねえ
肉体を保持したまま斃す事も出来るはずだ
衣服や外見特徴を保持しておきゃ
後からでも被害状況は判別できるだろ
その拠点とやらの「誰が無事か」振り分ける必要がねェってセンが濃厚だとは思うけどよ
それで感傷に浸るのは俺の仕事じゃねえからな
●
「おおおぉぉおおオッッ!!!」
鬼の如き叫喚を戦場に響き渡らせてゾンビを次から次へと打ち倒しているのは、ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)。鬼の如き、とは比喩とも言い切れないかもしれない。彼の前頭からは、その華奢な体躯に不釣り合いなほどの太く大きい角が二本、そそり立っている。根本で複雑に折れ曲がった後で大きくカーブを描いて再び上前方に伸びるその赤い角は、幾多のナイフを突き立てられても尚戦意を失うことのない闘牛のようでもあった。
襲い来る屍どもに全身の体重を乗せたひと突きを繰り出す。魔角を飾るピアスがゾンビの頭蓋にめり込み、ナイフが肋の隙間から腐った臓腑を抉る。もう何体斬り伏せたか、端から数えてもいないが、肉とも土塊ともつかないものがナイフにこびりついて、既にその切れ味は鈍だ。しかしゾンビたちの肉や骨自体が生者のそれよりも遥かに脆く、組織の継ぎ目さえ見誤らなければ容易に刃を食いこませることができた。――とはいえ。
「焼き尽くさないように加減しろよ、相棒」
ジャスパーは背後で暴れまわる巨大な竜に呼びかけた。血のように赤い身体をうねらせて、竜は黒い焔を吐く。その頭部を飾るのは、ジャスパーとそっくり同じ形状の角だった。竜の形をしてはいるが、その正体は――オウガ。名は魔炎龍ジャバウォック。ジャスパーをオウガブラッドたらしめている元凶であり、また相棒でもある。
血塗れの左腕をだらりと身体の脇に垂れ、ジャスパーは“相棒”を見上げる。とびきり巨大で危険な彼女は、今日も美しい。
(なるべく身体や持ち物を壊さない方がいい)
ジャスパー自身、ナイフを閃かせながら致命的な損壊を避けられる部位を選んで攻撃し続けている。この拠点を守るために戦う猟兵たちの中にも遺された人間のために必要以上の破壊を避ける者がいた。しかしジャスパーは更に「生存の望み」に賭けた。
即ち、――『もしかしたら、まだ無事な人間がいるのかもしれない』。
犠牲になった人々の身元を確認できれば、「この場にいない者」、つまり「死んでいない者」を特定できるかもしれない。そしてそれは早ければ早いだけ助けられる可能性が上がる。そのために、顔や衣服の色形を損なわずにしておきたいのだ。
そう思いはするものの、これだけの大群で襲撃されている現状を見ればその可能性が絶望的だということも嫌というほど理解できる。
(誰が無事かを“振り分ける必要すら”ねェ、ってセンが濃厚だとは思うけどよ)
必死に足掻いたところで無駄な努力というやつになるのかもしれない。
ゾンビに突き刺したナイフを引き抜く。刃にべったりとついた灰色の肉を、ズボンの太腿で拭う。腐った肉だ。悪臭が鼻をつく。だが、これも誰かの大切な誰か、そのひと欠片だったものだ。――なら、俺と共に来るがいいさ。
飛びかかるゾンビを躱して身を捩ると、大きく抉れた上腕から新たに血が噴き出した。ジャバウォックを呼び出す代償にジャスパー自らがナイフで抉り取った痕だ。おかげで今は左腕を動かせない。痛みはいい。むしろ痛みはあった方がいい。それは生きているということだ。痛みがあるから、自分がここに在るということを実感できる。しかし肉を失えば身体を思うように動かせなくなることもある。それはしばしば厄介な問題でもあった。
(……ま、ゾンビの群れくらいだったら片腕で十分だしな)
倒れているゾンビの一体がむくりと身体を起こしたのが目に入って、ジャスパーは舌打ちした。
「チッ、仕留めそこなってた」
掌の中でナイフを転がして構え直す。地を蹴り走り出すと同時に右腕を身体の脇に引きつけ、突進した。狙うはマタドールの赤い旗――。
「――!!」
ナイフを突き出すために腕をしならせようとした瞬間、ゾンビの下から生きた人間が顔を覗かせた。しまった、これは赤い旗じゃない。猛牛は慌てて軌道を逸らす。
「……っとぉ!」
「ヒッ!」
辺りの惨状を目の当たりにしたせいか、顔を出すなり刺されそうになったせいか、悪鬼のような外見の男が血塗れで突進してきたせいか――、生者は悲鳴を上げた。
まさかゾンビの群れに生きた人間が紛れていたとでもいうのか?とジャスパーは目を疑ったが、よく見ればなんのことはない。地面に人一人通れる大きさのハッチが設えてある。地下通路がここに繋がっていたのだ。
「おい、おい……おいおいおいおいおい!」
怯えた顔で自分を見てくる住人につかつかと歩み寄り、ハッチから地上に出ている上半身を力いっぱい揺さぶる。
「ナニ考えてンだ、こんな時に外に出ようなんてよォ! 阿保かあんた! とっとと引っ込んで中に戻れ! そんでもってクソして幸運を祈りやがれ!!」
思いつく限りの罵倒を浴びせて間抜けな住人をハッチに叩き込もうとしたそのとき、ジャスパーの後ろから呼びかける声がした。
●
「あー……っ、そう」
めんどくさそうな顔で口を歪ませるジャスパーの隣に、これまためんどくさそうな顔をした少年猟兵。二人を前に、地下通路を抜けてきた男は焦りを募らせる。その肩には護衛の鴉が留まっていた。
「あんた方についてきてくれとは言わないさ。これは俺の我侭だからな。ただ行かせてくれりゃそれでいい」
男は、本来の住処である向こうの拠点に戻って娘の安否を確かめたいと言う。耳のピアスを弄りながらジャスパーは渋った。
「まあ、ゾンビはあらかた片付けたからさっきよりはマシだけどよ……。向こうの拠点だかまで安全かどうかは保障しないぜ」
もう少しだけ辛抱して、全てが片付いてから猟兵たちに任せればいいのではないか、とジャスパーが言いかけたとき、男がジャスパーの後ろを見て顔色を変えた。
「なんだ、あれは……!」
「あァ?」
鬱陶しそうに振り向いたジャスパーは“それ”の姿を認めて双眸を見開いた。
残酷なまでに青い空。腐りかけの屍に埋め尽くされた砂と石の大地。その中心に、黒い天使が降り立っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『業病のジュピター』
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POW : 病勢のニーズヘッグ
【両手の砲身から放たれる医療用レーザー】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 病臥のラタトスク
【自動追尾麻酔ミサイル】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ : 病理のフレースヴェルグ
自身の身体部位ひとつを【対象の病魔根絶に適した形】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
イラスト:ekm
👑11
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●
天使。そう呼ぶべきなのか否か、居合わせたすべての人間が躊躇った。
ギョロついた眼を思わせるレンズのついた防疫用マスクは嘴のような形をしていて、その下、胴体は何も纏わず――そう、肉すら纏わず、白い肋骨が露出している。歪んだ脊椎が下へ曲線を描く先には球状の関節があり、僅かにモーター音が聞こえる。関節を包み込む骨盤に似た形の部位からは、機械の脚が二本、大地に突き刺さるようにして伸びている。その胴体から下半身にかけての華奢な造形を裏切るかのように、両肩から生える腕は重量級の銃火器そのものだ。背後に伸びる蛇の骨格に似た黒い尾は、機体のバランスを取るためのものなのかもしれない。
あまりにも禍々しい姿は、むしろ『悪魔』と呼ぶ方が正しいだろう。しかしその頭上には燦然と輝いている。ネオングリーンに輝く天使の輪が。そしてその背にあるのは、風に靡く羽根。――黒い、羽根。
「天、使……?」
誰かが耐えきれずに呟く。そんなはずがあるか。そう反射的に返す者も心のどこかで思う。未来のない世界に天使が降臨するならば、もしかしたら。――と。
「beeeeeeep
......。目標追尾、完了。スキャン開始」
“天使”から機械仕掛けの音声が発せられた。間を置かず、双眸のレンズから線状の光線が放たれる。光線は倒れ伏したゾンビたちの身体を舐めるようにして天使の周囲10メートルほどを行き来する。
「熱反応、無シ。心肺機能、停止。死亡確認」
内部でデータ処理をしているのだろう、時折カリカリとHDDの作動音によく似た音が聞こえる。が、それに混じってガリ、ギギ、と大きな異常音も聞こえた。
「死者多数。死因特定、不能。人体ノ79%デ腐敗進行。――高致死率ノ感染症ノ可能性ヲ提示」
「感染症? まさか、そんな……。俺が出発した時にそんな兆候はなかった」
唖然とした顔でそう漏らしたのは、別拠点の住人だという男だ。彼が自分の拠点を後にしてから十日も経っていない。何らかの病が猛威を奮ったとしても、それで住人たちのほとんどが死に至ることなど、到底考えにくい。
「そこまで強い病気なら、こっちの拠点にも犠牲者が出ておかしくないだろうしな」
男の傍らに立つ猟兵も同意する。頻繁に交流があるというのなら、片方だけが一度に壊滅状態に陥ることもないだろう。じわじわと両方の拠点を蝕むはずだ。
「……あの機械、壊れてんじゃねェか?」
誰かが訝しむ声を上げた時、
「感染拡大ノ予防ヲ優先。遺体ヲ焼却」
「な……ッ」
猟兵たちが止めに動く暇もなく、もたげた砲身からネオングリーンのレーザー光線が射出された。レーザーは腐敗ガスに引火して瞬く間に死体を焼く。すべてが灰になったのを確認して、機械仕掛けの天使は次の死体に目標を定めた。
「やめろッ!」
たまらずに誰かが殴りかかる。不意の一撃にたたらを踏んで、天使は猟兵たちと、その後ろの拠点へレンズを向けた。
「――生存者、発見。カガガガ、感染ノ可能性有リ。…bbbbb、zzz...、感染ン、拡大ヨ防、予防、ヨボウ、――抹消、殲滅、実行――」
この天使を、倒さねばならない。誰もが確信した。生き残るために。
=======================================
●プレイングで行動を一つに絞ってください。
(1)敵オブリビオンと戦う
第3章のメインになるパートです。無差別攻撃を行う敵を容赦なく叩き壊してください。第1章、第2章に引き続き、熱くカッコいい戦闘プレイングを楽しみにお待ちしております。
(2)男性を護衛して近隣拠点へ向かう
家族を案じる男性は一人でも近隣拠点へ帰ろうとします。当然ながらオブリビオンの攻撃を受けますので、守ってあげてください。
(3)辿り着いた拠点内で行動する
生存者を捜索する、応急処置をするなどの行動をしたい方はこちらをどうぞ。
(4)その他
上位選択肢に当てはまらない行動も歓迎します。自由に考えて、キャラクターさんの活躍の様子を教えてください。
※ご注意※
(2)(3)は第3章のメインパートではありません。選択するキャラクターさんがいなくても大きな被害が出ることはありません。青丸(成功)が必要数に達すれば第3章成功となり、民間の被害は最小限に抑えられたことになります。基本的にはオブリビオン討滅に注力していただいて大丈夫です。護衛や救助活動をメインにしたい、一般人のその後が気になる、という方向けの選択肢だと受け取っていただければと思います。
=======================================
スキアファール・イリャルギ
思わず顰めっ面
……あの敵個人的に嫌いでして
多分凄い顔だったろうな
弔いの手伝いをしようと思ったんですが
スキアファールさん不機嫌スイッチ入ったんで
後のことは任せますユーシュエンさん
ちゃんと"人間"として生きて、生き抜いて
ジェシカさんのこと護ってあげてくださいね
……ははっ
影人間の言葉なんて理解しなくていいですよ
――さぁ伝染れ
ありったけの影を作り襲撃
拠点に当たらぬよう影で攻撃を受け
呪瘡包帯で相手の変異した部位を縛り
影で群がってその身体を分解してやります
あなたは怪奇人間の業病をどう思うのでしょう
あなたの言う感染症とは違うけども
"感染源"はここにいますよ
抹消し、根絶してみせろ
黙ってやられる気はないけどな
才堂・紅葉
(1)選択
「ここまで来て、邪魔させるわけないでしょ」
舌打ちと共に地上から自動小銃で応戦する
高速で飛翔し馬鹿げた火力と変則的な行動パターンは詰め切れない
奴の意識をこちらに向ける牽制で撤退を【援護射撃】しつつ、回避パターンを【情報収集】
見極めた奴の行動形式を【戦闘知識】で見極め、榴弾等を【フェイント】に誘い込み、【地形を利用】して盾に用いていた「紋章板」で奴を絡めたい
後は【怪力】と「ガジェットブーツ」の跳躍機能で奴を捕え
「コード・ハイペリア!」
「真の姿」の【封印を解き】、空中関節技の【グラップル】で翼を【部位破壊】し、そのまま重力【属性攻撃】で地面への叩き付けを狙う
「地を舐めなさい、クソ天使!!」
ジャスパー・ドゥルジー
(1)
なァーにサラッと俺の陰の努力を踏み躙ろうとしてやがんだこのF(検閲されました)
いくら温厚な俺もこれは赦せねェなオイ
つーわけでテメーが燃えろ
今すぐに燃えろ
前回召喚時の傷に更に歯を立て【ジャバウォックの詩】
黒い炎に身を包み肉弾戦を仕掛ける
奴が空に逃げるなら【かたわれ】で飛んで追うぜ
ぜッてえ逃さねえ
勿論奴のレーザーがゾンビどもに飛び火しそうなら全力で【かばう】
体勢がなんだって?へーきへーき死ななきゃセーフ
動き鈍るどころか愉しくてはしゃいじゃうし?
俺の【激痛耐性】舐めンなよ?お??
ここまで来たら全力で完遂してやるっての、クソッタレ
※アドリブ歓迎/作戦かち合う仲間がいればそっち優先で!
●
人間というのは思った以上に重いものだ。熱と砂埃を遮るためのマントと身を守るための武器を携えていれば、尚更。おまけに、ハッピー気分でお姫さまを抱き上げるのとはわけが違う。力なく垂れ下がる腕と足は抱える人間を助けようとなどしないし、見知ったはずの顔がかつての面影をわずかに残して崩れた様は人々の足取りを更に重くする。
「――どうぞ、安らかに」
スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は運び終えた女の遺体に呟いた。見知らぬ女の額に触れ、せめて死後の苦しみだけはないようにと祈る。だが、悠長にそうしている暇もない。背後からは他の遺体が次々と運ばれてきていた。
「すまない。こんなことまで手伝わせて」
「いいんですよ。単に気が向いただけですから」
拠点の若きリーダー、ユーシュエンが異邦者たるスキアファールに礼を告げた。なぜここまで親身になってくれるのか、という視線を時折投げかけてくるが、彼らもまた助け合い支え合いながら生きている集団だ。スキアファールたちの素性が気になりはすれど、深く立ち入らずとも人の思い遣りを素直に受け取る下地が出来上がっているのだろう。スキアファールは、彼らをまるで砂漠に芽生えた若葉のようだと思った。
「ユーシュエンさん」
と、スキアファールが何かを言おうとしたとき、拠点の外で光が一閃し、空気の軋むような音がした。
「!?」
二人は同時に身を翻し、走り出す。目指すは外壁に穿たれた覗き窓。
「どうした!」
簡素な足場で組まれた見張り台によじ登り、ユーシュエンが外の様子を伺っている青年に尋ねる。スキアファールも彼に続いてひらりと飛び乗った。そして、もったいぶった仕草で窓を覗き込む。その瞳が天使を気取った機械人形を捉えたその瞬間、スキアファールの纏う空気が鋭く凍りついた。
(まったく――……)
不健康そうな隈に縁取られた目を見開き、唇をわななかせる。食い縛った歯が息の出入りを妨げたせいで、呼吸の度に白い鼻翼が大きく膨らんだ。スキアファールの様子に気付いたユーシュエンが「大丈夫か?」と声をかけるが、それも耳には入らない。
「――“冒涜的”という言葉が私よりも似合う輩がこの宇宙に存在するなんて、思ってもみませんでしたよ」
くくく、と喉を鳴らして笑う、その表情は先刻までの飄々としたものとはまったく違った。
凄まじい怒気に圧されてユーシュエンが言葉を呑み込んだとき、拠点のバイクを駆った才堂・紅葉(お嬢・f08859)が飛び込んできた。
「ここに猟兵はいる!?」
彼女もまた、拠点内の防戦に区切りをつけたところで外の異常を知ったのだ。そしてごく少数の猟兵と一般人が敵と対峙していることにも気づいていた。
「急いで援護に行かないと!」
紅葉は見張り台のスキアファールに気付き、バイクに乗れと顎で示す。スキアファールは無言で頷いて窓から離れようとした。その肩をユーシュエンの右手が引き留める。
「――後のことは任せます」
手伝えなくてすみません、と、スキアファールは己の肩に手を置いたユーシュエンに頭を下げた。
「ちゃんと"人間"として生きて、生き抜いて――。ジェシカさんのこと、護ってあげてくださいね」
“あんなもの”なんかじゃなく。“こんなもの”なんかでもなく。人間らしく生きようとするあなたたちが、私は――、
「あんたのことを、“冒涜的”だなんて俺は思わない」
強く、真直ぐに、ユーシュエンはそう言った。目の前の“異形”に。
「……――、ははっ」
目を伏せ、笑い、怪奇人間は憤怒を道化の仮面で抑え込んだ。
「影人間の言葉なんて、理解しなくていいんですよ」
再びいつもの調子を装ったスキアファールは「早く!」と急かす紅葉のバイクへと飛び降りる。紅葉が片脚を軸に車体を転回させると、オフロード仕様の太い後輪が砂地を削った。
あっという間に小さくなっていく二人の影を、ユーシュエンは暫しの間、拱手で見送っていた。
●
「なァーにサラッと俺の陰の努力を踏み躙ろうとしてやがんだこのクソッタレ!!」
こめかみに青白い血管を浮き上がらせてジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)が吼えた。獣の怒号は乾いた大地と空気をびりびりと震わせる。
「感染の予防だァ? てめェ、医者か何かのつもりかよ!」
ジャスパーが威勢よく中指を突き立てて罵声を浴びせる相手は、巨躯の機械人形。『業病のジュピター』――と、かつて、どこかで、誰かがそれを呼んでいたことを、ジャスパーは知らない。知る必要もない。
焼かれずに残っている死体を庇うようにして、ジャスパーはジュピターとの間合いを詰めた。しかしそれを意にも介さぬか、それとも嘲笑うか、黒衣の偽天使は再び砲身を構える。眉間に狙いを定められたのをはっきりと自覚できるが、そんなことで歩みを止めるつもりはさらさらない。
果たしてジュピターは無感情に腕のレーザー砲から高密度のエネルギーを放った。
「ぐぁ……ッ」
頭部が撃たれた反動で後方へ仰け反る。重い角が勢いを加速させるせいで頸の軋む音がした。二歩、三歩、倒れぬように地を踏みしめる。十センチを超えるピンヒールが腐った肉を刺し貫くのを感じて舌を打った。
幸いにして直撃は免れたらしい。自慢の角がいささか不格好にはなったが、ピアス用の穴が増えたと思えばいい。
「へッ。こんなので俺が怯むワケねーだろ」
これ以上焼かせやしない。なんたって俺がいるんだから。焼かせるわけがない。ビッと親指を下に向けて、ジャスパーは宣言した。
「お医者さんゴッコは終わりだ。テメーが燃えろ」
だらしなく身体の脇に垂れ下がったままの片腕を持ち上げて、まだ血の止まる気配がない傷痕に喰らいつく。
「今すぐ燃えろ!!!」
自らの肉を食み、咀嚼しながら声の限りに叫ぶ。黒い焔がジャスパーの全身から吹き上がった。
敵意を漲らせて殴りかかってくる黒い火の玉をジュピターが“ただちに排除すべき障害”と見做したのは当然だったろう。両腕の砲から間断なく放たれるレーザーはジャスパーを狙い撃ちにした。力を解き放って突進する鬼は我が身を焼き抉る光線をものともせずに黒い天使に肉薄し、剥き出しの肋をしたたかに打ちのめす。
「はーッはァ!!」
裂けそうなほどに口を大きく開けて笑う表情は心底楽しげだ。ぐしゃり、と骨の砕ける感触に満足して、ジャスパーは嗤い、謳う。
「俺の“健気さ”を舐めンなよ? お?? ピアスホールが増えたくらいでビビるかッてんだよォ!」
ピアスホール――というには少々大きすぎる穴から肉を焼いた煙が立ち上っては消える。ひとつは動脈を焼き切ったのだろう、塞がりきらない血管から血が噴き出している。血に染まる腕に口づけ、薄い舌でべろりと舐めとると、ジャスパーを包む黒い焔が勢いを増した。拳を引き抜く動きのままに身体を捻り、懲りずに己を狙うレーザー砲を横薙ぎに蹴り飛ばす。ジュピターの機体が揺らいで大きく隙が生まれた。
その時だ。
ジャスパーの後方、環状楼の方向から砂埃を巻き上げて一台のバイクが現れた。“新手”の出現を察知したジュピターが視線をバイクに移すも、ジャスパーの猛攻で機体の均衡を保てない。
「ここまで来て、邪魔させるわけないでしょ!」
またひとつ、ジャスパーがジュピターを弾き飛ばした瞬間を狙って、紅葉が自動小銃を威勢よくぶっ放した。弾丸の限りを撃ち尽くした後はバイクごと体当たりを噛ます。ジュピターは更に後ろへとよろめいた。
「押すわよ! 拠点からできる限り遠ざける!!」
「任せなッ!」
攻め手が一人から二人に増え、紅葉とジャスパーは入れ代わり立ち代わりジュピターに攻撃を仕掛けた。
「やれやれ」
バイクがクラッシュする寸前に後部座席から飛び降りたスキアファールは、無残にへしゃげたバイクのボディを眺めて肩を竦めた。その呆れた声音は、誰に対してのものだったか――。包帯の下に押し込めた苛立ちが隠し切れずに双眸から滲む。
「感染症――、ね」
(……やっぱり、回避行動にパターンがある)
何個目かの手榴弾をジュピターに投擲し、紅葉は思考した。
医療用に開発された機械だったのだとしたら、そもそもが戦闘に特化した構造をしていないのかもしれない。機動性に偏りが生じるのも不自然ではない。それにずっと鳴り続けている軋みの音はメンテナンスが十分に施されていない証左でもある。そして――。
「はッ!」
気合と共に蹴り技を繰り出す紅葉を狙うレーザーと、ジュピターのごく近くで炸裂する手榴弾。威力は手榴弾の方が高いはずなのに、それを撃ち落とそうとする気配がない。
(人間の体温や呼吸に反応するように作られているんだわ――)
そのプログラムがどう表出するかはともかく、医療用の機体である可能性は限りなく高そうだ。崩壊以前の世界で作られたものか、崩壊後の世界を救うために作られたものか、それはわからないが。
紅葉は、特殊鋼で作られた紋章板を盾代わりにして降り注ぐレーザーを空へと弾き、板から飾り緒のように連なる鎖を掴んで回した。伸縮自在の鎖をジュピターめがけて投げても、壊れた天使は反応しない。目の前で動き回る紅葉たちを狙い続けている。
「かかった!」
鎖は見事、ジュピターの首にかかった。腕に力を籠めれば露出した喉の骨をぎっちりと締め上げる。
「eeeeeerrror,エラー、エラー、エr」
警告音を発し飛び上がろうとするジュピター、それを抑え込もうとする紅葉の脇を摺り抜けて、スキアファールが飛び込んできた。
「……伝染れ、――伝染せ……!」
腹の底から絞り出すような呪いの言葉が、機械人形を侵食していく。徐々に金属製の砲身がその形を失い、部品のひとつひとつがスキアファールの影へと移り変わる。
「“感染源”は、ここにいますよ。ほら――、早くしないと」
――あなたはわたし。わたしはあなた。わたしがあなたをおかしてゆく。
科学の概念を一切無視したこの技。この業。根絶できるものなら、してみるがいい。根治こそ我が望み。――だが、
「どう根絶する?」
鋭いメスのように、その言葉をジュピターへと突き付ける。
スキアファールには許容できなかった。『疫病から人を守る』という名目で命の選別が行われることを。己が切り捨てられる側にいるということを、嫌というほど理解していたから。これが“天使”などであるものか。……ああ、いや。天はいつだって理不尽に人を選別するものだ。ならばこれはまさしく天使と言えるのかもしれない。
「オオオ汚染ヲ確認、汚染、汚染ン。修復作業ニ移行」
機体の異常を検知したジュピターは“治療”を始めようとする。――が、
「させないわよ!」
紅葉がジュピターの首に巻き付けた鎖を怪力で振り回し、ハンマーのように大空へ放った。そのまま後を追って跳び上がると、ガジェットブーツが彼女の跳躍力を後押しする。自らが放り投げたジュピターに追い付いたところでその巨体にがっちりと組み付く。
「コード・ハイペリア!」
封印を解き放ち、紅葉は真の姿を晒した。茶色だった髪はその名に相応しく紅色へと変化している。瞬間的に、そして著しく増強された膂力で自分の身体よりも大きい機械を抑え込み、腕の自由を奪うべく関節を極める。体勢を固定したまま周囲に高重力場を発生させると口吻をブーツで踏みつけた。ジュピターはもがいたが、紅葉の操る重力場に囚われた以上はどうにもならない。落下の速度は依然として加速し続けていた。
「――地を舐めなさい、クソ天使!!」
大成功
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リュカ・エンキアンサス
章お兄さんf03255と(2)
…なかなか楽しい造形の敵が出てきた
いいな。ああ言うの。わくわくする
機械っぽいのって、いいよね
急所を探るように撃ちたい…ところだけど
…ああうん
わかった。わかった。
お兄さんを一人で行動させてもろくなことにならないし、
勝手に死んで化けて出られても寝覚めが悪いから、協力するよ
反抗期っていうか……
お兄さんって、ある種本当に悪趣味なんだよなあ(ぼそっと
まあ、それがお兄さんらしいんだけど
と、いうことで男性の護衛
といっても俺は、章お兄さんのそばで撃つだけなんだけどさ
メンタルケアとかそういうのは任せます
こっちは敵が近寄ってこないように、なるべく近い敵から足止めするように撃っていくよ
鵜飼・章
リュカさんf02586と(2)
天使か…僕にはこの子、鴉の親分に見えるよ
かっこいいよね
僕も故障してなければ一体欲しいな…
さて行こう、勇気あるお父さん
僕とこのリュカさんが護衛するよ
娘さんと変わらない歳に見えるかもしれないけど
銃の腕前なら世界一だ
ご覧の通りちょっと反抗期だけど…そこはご愛嬌って事で
戦場には大量の死体か
ならその死を『なかった事にする』
指定UCで時を戻せばゾンビのゾンビ完成だ
知性と損傷も最大限生前の状態へ戻し訴える
この彼と娘さんは皆の血を未来へ繋ぐ希望
護るんだ
闘うんだ
きみたちの手で
大丈夫、二度死んだ人間は簡単には死なないさ
言ったでしょ?
僕は死神って
親しい人にせめて別れを告げられますように
レナータ・バルダーヌ
これを病気というのでしたら、感染しているのは天使さん……と呼ぶのはちょっと抵抗がありますね……。
何人か建物から出て行く影も見えましたし、飛び道具はしばらく遠慮していただきたいです。
自身の両腕を念動力で自縛することで【A.E.トラメル】を発動して敵の両腕を操り、攻撃を封じた上でレーザーで自傷させられないか試してみます。
腕といっても銃器に近いようなのでうまく動かせるかわかりませんけど、少なくとも制御を奪っている間は時間が稼げると思うので、失敗しても他の皆さんが有効活用してくださると信じます。
これを使っている間はサイキックオーラを防御に回す余裕はないので、攻撃されたときは炎の翼で飛行して回避します。
無明・緤
(1)敵と戦う
老人の屍の傍に跪き、赤いマントを借りる
相手と識別が付くよう人形に羽織らせたら
【操縦】で跳躍など派手な立ち回りを交え敵と戦闘
遠くからでも目を引く赤は、仲間を励ます為に
離れていてもわかるだろ?
おれたちは諦めず戦い続けてるよ
心配するな、立ち止まらず先へ進め
愚かな鼠を食い殺すように
ミサイルは【早業】でつかみ取り
【グラップル】で握りつぶせ
傀儡に麻酔は効かないと思いたいが
もし人形やおれに効果が及ぶならば…
すぐ全ての力を抜き、起死回生のUC【オペラツィオン・マカブル】
毒を【ハッキング】で解析、昏睡に陥る前に無効化を試みる
首尾よく行ったら、そうだな
マントの持ち主の分も込めてブン殴ってやれ、法性!
●
――ズドォン!
もうもうと砂煙を噴き上げて、ジュピターが乾いた大地に激突した。
先駆けて攻撃をしかけた猟兵たちの甲斐もあって、敵影は拠点から、そしてリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)と彼が守る男から充分な距離を保っていた。
「さて行こう、勇気あるお父さん」
男に続いて地下道からの脱出口から顔を出した鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が、冷静に好機を汲み取って二人の背中を押す。
「あ――、ああ。そうだな」
我に返った男は素早く周囲を見渡す。確か、この辺りにあったはず――と何事かを呟きながら。その様子を未だ狼狽えて決意できずにいるのだと受け取った章が重ねて声をかける。
「怖気づくことはない。僕とこのリュカさんが護衛するよ。見た目は頼りないかもしれないけど、銃の腕前なら世界一だ」
そう友人の優秀さを売り込もうとリュカへ目線を遣ると、当のリュカは砂煙の中から再び立ち上がる業病のジュピターに吸い込まれるようにして見入っていた。
「ちょ、リュカさん……!」
「――え。なに」
「『なに』じゃないよ、いま君の話をしていたのに!」
「ああ……、うん」
章がなんとか話を合わせさせようと水を向けるも、リュカは相変わらずジュピターに釘付けだ。
「もう!」
リュカの耳には章の大袈裟な溜息も聞こえない。
(……いいなあ、ああいうの。わくわくする)
どんな構造をしているのか。どんなからくりで動いているのか。――それから、どこから切り崩せば仕留められるのか。
「……骨の髄までハンターです、って顔してる」
「戦場傭兵って、言ってほしいな。死神のお兄さん」
この緊迫感の只中にあって、二人の会話はいつも通りだ。しかしのんびりと軽口を叩き合っている暇があるわけでもない。さあ、いい加減に出発を――と章が自分たちの護るべき“勇気ある父親”を目で探すと、彼はどこからともなく小型トラックを“召喚”させていた。
「……なんでも取り出せる不思議なポケットでも持っているのかな」
なんだいそれは、ときょとんとした顔を一瞬だけしてみせた男は「隠しガレージに脱出用の車両を格納してあったんだよ」と手短に説明した。
「なるほどね」
地下通路を辿って拠点の外に出られたとしても、徒歩では移動できる距離も限られている。普段から交流のある拠点が近くにあるなら、そこまで安全に辿り着ける次善策を用意しておくのは妥当なところだろう。
「ちゃんと動いてくれるかどうかは賭けだがね」
男はトラックの運転席に乗り込んでエンジンをかけた。ブルン、と車体が震えてマフラーから黒い排煙が上がる。――行ける。その場の全員が確信した。悪くてもあの機械人形の射程範囲を突破するくらいは保ってくれるだろう。男をホームの拠点まで無事に送り届けることを選んだ猟兵たちは急いでトラックに乗り込む。章とリュカも荷台に飛び乗ってそれぞれの得物を構えた。
「守りは任せて。おじさんは運転することだけ考えてくれればいい」
「わかった!」
男がアクセルを踏み込むと、トラックは猛スピードで発進した。
●
先陣を切った仲間に続いて、拠点の内部、あるいは周囲で戦っていた猟兵たちも『業病のジュピター』を倒すべく集結し始めていた。紫炎の翼で空を打って飛来したレナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)、人間型のロボットにも見える傀儡『法性』の背に乗り到着した無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)もその中にいる。黒いボディに蛍光グリーンのランプが埋め込まれた法性は、色だけを見ればまるでジュピターの一味であるかのようだ。しかし、今はその上から赤い外套を被せられている。
「拠点から脱出する住人がいる、援護するぞ!」
「はい、わかりました」
地下通路を通って外に出てきた緤が、危険を承知で脱出する住人がいることを仲間に知らせた。レナータも離れた場所でトラックに乗り込む彼らの姿を確認して応える。
「何をおいても飛び道具を遠慮していただかないとですね」
そう言いながら見据えるのは、ジュピターの両腕――二門の砲身だ。自分たちが敵をどれほど雁字搦めにしても、遠距離攻撃で追尾されては危ない。幸いにして片腕は仲間の与えたダメージが大きい。
「ゥウ右腕、43パパーセ――損傷。出力ヲ調整、砲身ノ負担軽減」
ジュピターは再び立ち上がり、射出威力の調整を始めている。イレギュラーにも耐えうる自己修復、状況判断の機能は一体何のために設定されたのか。何を想定して創られた“医者”なのか。
「あれを、止めます!」
「オーケー、乗った」
包帯だらけの天使とロボットに乗った黒猫が突進を開始する。が、ジュピターは二人以外の何かに反応して顔を回転させた。
「bzzzz
......脱ソ脱走者、発見」
チ――……、とレンズを絞る音。ジュピター内部ではカリカリと何かを分析しているらしいコンピュータの駆動音も聞こえる。そして両腕を上げ、走り出したトラックへと照準を合わせた。
「おまえの相手は、そっちじゃねえよッ!」
おれたちは生きてるんだ、焼かれて、焼かせてたまるか。緤は両手から伸びる操り糸をぐん、と張り巡らせる。小柄な猫が操る屈強な機械の戦士が、赤いマントを靡かせてジュピターに躍りかかった。
「――来る」
「お父さん、避けて!」
双眼鏡でジュピターの動向を警戒していたリュカの一声に章が叫んだ。
「しっかり掴まってろ!」
男はハンドルをほんの一瞬右に入れ、すぐに左へ目一杯切った。トラックの後輪が横に滑り、車体の前方を中心にぐるりと円を描く。
「うわわ……っ!」
荷台のヘリに必死でしがみつく章の目と鼻の先を緑色の光線が射抜いた。
ジュピターはトラックの走行速度を演算した上で軌道の先を読んでレーザーを発射した。前へ走りながらハンドルを右に切ろうが左に切ろうが車体のどこかしらは撃ち抜かれただろうし、既にトップスピードで走る車をそれ以上に速く走らせることもできない。ブレーキでの減速は、再加速までのタイムラグを狙われただろう。故に、男はトラックを滑らせて旋回させることでレーザーの直撃を避けたのである。
ドリフトの回転に振り回されたリュカと章はすぐに体勢を立て直し、それぞれの為すべきことに備えた。砂と錆だらけのサイドゲートに青いマフラーを乗せて、それをクッション代わりに愛用のアサルトライフルを構える。ジュピターとの距離を稼げた、それだけに命中に難がある。章は――と横目で見ると、彼特有の“慈愛に満ちた眼差し”を目の前の光景に注いでいた。
「――死神は、気まぐれみたいだ」
章の呟きが耳に入った瞬間、反射的にぼやく。
「ある種、本当に悪趣味なんだよなあ……」
空中から鴉の羽根が降り注ぎ、地に満ちる死を覆い尽くした。そして、倒れ、あるいは身体を四散させて伏した死者たちが次々と起き上がる。運転席でも異常の発生に気付いたのだろう、トラックの軌道が僅かに歪んだ。
『閉じた時間的曲線の存在可能性』――。章が“タイムマシーン”という愛称で呼ぶそのユーベルコードは、時間軸と世界線を歪めることで為し得る仮初の蘇生術である。
「ゾンビのゾンビだから――、逆に“元通り”、だよね?」
ふ、と笑みを湛える章が言った通り、腐り溶けた身体だったゾンビたちは、生きていたときのままの姿で蘇った。
「さあ、護るんだ。闘うんだ」
立ち上がった死人たちの視線を集め、章は高らかに命じる。今ここにある男と、そしてホームで救いを待っているはずの娘。それこそが死んでいった者たちの血を継ぐ希望であると。おまえたちの未来を守り繋ぐために、最後の力を振り絞れと。
一方でリュカは思う。親しい人の理不尽な死に直面し、絶望し、それでも生きるしかないと前を向いたばかりの人間にこれを突き付けるとは、なんて酷薄な願いの強制だろう。だが、そのある意味偽りのない平等な愛に何某かの信頼を置く自分がいるのも確かだ。
(こういうとこ、“らしい”んだよな)
トラックの回転に合わせて視界もぐるりと一周する間、運転している男の視界にひらめく赤いマントが飛び込んだ。
(ピン爺さん――……!)
見間違えるはずがない。俺を、いや、拠点に身を寄せる皆を我が子のように迎え入れてくれた人。環状楼のゲートでゾンビになってしまったピン爺さんを見た。腕が落ちても痛みにもがきもせず、虚ろな表情で彷徨い続けた――。
それが今ジュピターに取り付いてひらりひらりと翻っているのは、荷台に乗っている彼らの仲間が戦っているからだろうというのは男にも想像がついた。
「くそ……ッ!」
法性の纏う赤は訴える。行け、立ち止まるな。生きろ、――と。死した仲間たちが、背中を押す。
アクセルに無念を叩きつける。スピードメーターの針が急速に右へと振れた。
「こんなにたくさんの“願い”を煽るなら、支えが必要だね」
ジュピター目指して移動を始めた死者の行進を見送りつつ、リュカがライフルの装填を完了させる。数多の苦難を乗り越えるための祈りを込めた弾丸。それがリュカの選んだ一手だった。
●
不屈の祈りを込めた赤い旗が、乾いた青空と無情な大地に火を灯す。
(そうだ、行け――!)
ジュピターのレーザーを巧みに躱し走り抜けるトラックへ緤は声なき雄叫びを投げかける。緤の操る機械人形はジュピターの片腕にしがみつき、第二射の充填を妨害していた。
「beep,beeeeep...,障害、確認」
防疫マスク――、いや、どちらかといえば“嘴”と呼ぶ方が相応しいだろう。黒い羽根に飾られ、死臭を嗅ぎつけて、執拗な攻撃を繰り返す様は天使というよりも鴉だ。
「ああ、今夜は鳥鍋が食いたいな」
レンズの焦点を自分に合わせた野良鴉に緤は不敵な目線を返した。
その時、一発の銃弾がジュピターに直撃した。肩――にあたる部分――に命中した弾の道筋とジュピターがぐらつく向きから察するに、トラックに乗る誰かが放ったものだろう。そして更にレナータの驚愕に満ちた声が聞こえる。
「緤さん、ゾンビさんたちが……!」
「!?」
背後に視線を巡らせると、どこにこれだけの人がいたというのかと首を傾げるほどの人の群れが緤たちのいる地点に押し寄せようとしていた。
「おい、あんたら! 近寄るんじゃない、死ぬぞ!!」
トラックに乗った猟兵たちの策を知らない緤は、狼狽えながらも人々を退けようとがなる。が、レナータがそれを止めた。
「違うんです、倒したはずのゾンビさんたちがまた立ち上がって――」
「なんだって?」
ゾンビが生き返った――などということが、あるのだろうか。緤が思考を巡らす間にも元ゾンビの人の波は輪を狭めて近づいてくる。そしてついにジュピターと、それと戦う猟兵たちを取り囲んだ。
(ゾンビさんが復活したということは……、――敵、なんでしょうか)
苦い表情でレナータが武器を構える。異形と成り果てた姿と対峙するのにも心が痛んだというのに、この“元ゾンビ”はまるで生きた人のようではないか。これと戦えと、斬れというのか。同じように緤も奥歯をギリリと軋ませる。――ちくしょう、なんて世界なんだ。
――ところが、人々はレナータ達など存在すら感知しないかのように、我も我もとジュピターに取り付きはじめた。蛇の骨のような尾にしがみつき、苛立ち紛れに地に打ち付けられようとも再び押さえこむ。そして、アンバランスに細い脚を目指した一群は声を合わせてジュピターを引き倒そうと力をかけた。
「……どなたかの、ユーベルコードでしょうか」
「かもしれないな。少なくとも、皆の敵と俺たちの敵は一致しているようだ」
ジュピターが足を払う。しがみついていた何人かが吹き飛ばされる。払った足を下ろせば倒れた人間の腹が貫かれた。誰かの術が働いているのならば、きっとこれは一時的な生命なのだろう。生ある者と寸分も違わない外見のものが蹂躙される様は見るに堪えないものではあるが――、
「感染拡大、ヨヨ予防、予防」
ジュピターの関心はトラックから離れ、己に群がる人々の排除を次なる目標に据えたらしい。自由の利く方の腕を高く振り上げ、麻酔薬の仕込まれたミサイルを一斉に発射した。
「ああ……っ!」
砲撃をまともに喰らったレナータが苦悶の表情で倒れる。急速に朦朧とする意識、失われていく手足の感覚――、……薄らいでゆく、視界。
「がんばれ! 俺がなんとかする!!」
すばしっこい動きでミサイルを避け続けていた緤がレナータを励まし、法性の拘束する腕に駆け上がった。
「俺はここだぞ、このヘボ鴉!」
追尾機能を備えた誘導弾が緤を捉えようとしたとき、緤はジュピターの腕から身を躍らせた。そして完全に身体を弛緩させてミサイルを受け止める。オペラツィオン・マカブルは緤の十八番だ。故にちょっとしたプラスアルファもお手の物――とはいえ、これだけの量を相手にするのは骨が折れるが。麻酔薬が身体に浸透し始めるや否や、緤は成分の解析を開始する。更にこれまで接触したジュピターの行動から予想されるデータを組み合わせ、ユーベルコードで反射する誘導弾に麻酔の解毒機能を組み込んだ。電脳魔術師の力を遺憾なく発揮する瞬間である。
「法性!」
糸を引かれた法性は赤いマントを投げ打ち、全身からミサイルを発射した。
緤のもたらした解毒薬でレナータもほどなく意識を取り戻す。
「完全に、してやられちゃいましたね」
頭を振ってふらつく身体に喝を入れると、愛らしい紫色の瞳をキッとジュピターの砲身に向けた。
「おいたはダメですよ!」
翼を羽ばたかせ、ジュピターの視線の上へと舞い上がる。そして自身の念動力を発動させた。
この似非天使の攻撃手段は、主に砲撃――つまり、この厄介な両の腕さえ封じてしまえば、勝ちが見えてくるのだ。ならばレナータが取るべき手段はこれしかない。
「ん……っ」
サイキックでジュピターの腕を封じると見せかけて、レナータは己の腕を封じた。見えない縄で戒められたように両腕は身体の後ろに回り、手首を交差させている。上半身を逸らせて白い喉は露わになり、肩から鎖骨にかけての滑らかなラインが強調された。
ジュピターは眼前の煩い蠅を追い払おうとでもいうかのように、レーザーをレナータに浴びせる。腕の自由を封じてはいるが翼は健在だ。どこか艶めいた体勢のまま、レナータは極力最小限の動きで襲い来る光線を回避し続ける。身体を捩る度に仰け反った喉からは苦し気な声が小さく漏れた。翼を掠める弾道もあるが、いま羽搏いているのは地獄から呼び出した幻影のようなもの。穴がひとつふたつ空いたところですぐに再生されてゆく。
「わたしは結構ですので、ご自身で……どうぞっ!」
全神経を集中させて編み上げた念動力をぶつける。――その途端、レナータを攻撃し続けていたジュピターの両腕が見えない力によって機体の後ろにぐるんと回った。
(できた――!)
レナータのユーベルコード、それは「自身の身体の自由を代償に、敵の同じ部位を操る」もの。己の身体にリンクさせることができれば、あとはこちらのものだ。レナータは自縛した腕の手首をくい、と曲げ、指で銃を形作った。
「――BANG!」
凶悪な武器を縛り上げられた機械天使はその砲身を自身の脚に向け、操られるままにレーザーを発射した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マレーク・グランシャール
1
【壁槍】カガリ(f04556)と
バグを起こしているのか生きた者すら殲滅されかねん
行くぞ、カガリ
俺達で敵の目を惹き付け、攻撃が住人に向かわぬよう戦力をそぎ落とすのだ
ますは俺が敵の目に付くよう、敵の前へ飛び出す
敵かロックオンしたら攻撃を見切ってダッシュし、カガリの盾の後ろへ一旦待避
カガリの【駕砲城壁】が医療用レーザーを跳ね返している最中、光弾に紛れて敵の死角へ回る
左手の聖痕、金月藤門による迷彩と残像とでフェイントを仕掛けよう
カガリが光なら俺は影だ
レーザーを放つ敵の腕をめがけて碧血竜槍を一投し砕き、【流星蒼槍】の双頭竜で追撃
もう片方の腕は魔槍雷帝の雷撃で電気系統へのダメージを
目指すは両腕の破壊だ
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と(1)
生きていれば、病人として駆逐するし
死んでいれば、焼却して消滅させる
そもそも、病気など無かった…というし…動いているものは、何でも駆逐するものではないかな、これは
まると協力して、狙いをこちらへ向けさせるぞ
レーザーがまるを狙うのを、【鉄門扉の盾】を構えて【駕砲城壁】で反射する
まるがこちらの背後へ回り込むのが間に合わなければ、カガリがシールドバッシュと怪力であちらの体勢を崩そう
シールドバッシュだけでは、持ち堪えてしまう、かもしれないので
属性攻撃として、盾に風を纏わせて、安定できないようにしてみよう
腕への攻撃は、まるに任せる
部品の、繋ぎ目とか、狙いどころだと思うぞ
●
自らが放った緑色の光線で、ジュピターの片脚が焼き切れた。球体関節の下――、ちょうど大腿骨に当たる部分がすっぱりと切り落とされたのだ。機械仕掛けの黒衣の天使。これを堕天させるべく機体にまとわりついていた死人の群れは、ジュピターの転倒に巻き込まれるのを避けて蜘蛛の子のように散った。
――ぐらり。脚を失ったのに気づくのが遅れたかのように、ゆっくりとジュピターは傾く。だがしかし、完全に倒れるには至らず、尾と片腕を器用に使って身体全体を支え持ち堪えた。
「しぶといな」
マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が凛とした眉を寄せた。これで倒れてくれれば攻め落とすのも楽になったろうが――。
「だが見ろ、まる」
マレークに並び立つ出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)が指し示すのは、脚替わりに身体を支える片腕。
「未だ尾が残るだけに油断はできないが、あの腕を武器として存分に振るうのは無理だ」
「ああ」
両腕を操ることで次弾の速やかな発射を可能にし、また対面への同時攻撃も行っていた――つまり、死角がほぼ存在しなかったジュピターの射程に大きな穴が生じたのだ。この状態では急な方向転換もできまい。戦局が猟兵たちにとって大きく有利に傾いたのを、二人は悟った。
「ならば、征くか」
「応」
黒龍の男と金門の青年が戦場を駆ける。
「あなた方を二度も死なせたくはない、下がれ!」
ジュピターが倒れぬと見るや、死人の群れは再び敵に群がろうとした。猟兵に比べ身体能力の劣る彼らは、殺戮機械の格好の的だ。まやかしの生者であることを見抜いているのか、それとも生きた者であろうとも問答無用で灼くのが使命だとでもいうのか――、ジュピターは群衆に照準を合わせた。いかに死者であるとはいえ、それを見過ごすことはマレークにはできない。そして、彼には頼もしい相棒がいる。人々を守りながら戦うのに、うってつけの守護神が。
マレークは手に携えた長槍を大きく振り回してジュピターの前に飛び出した。
「お前の敵は、ここにいるぞ!」
碧い玉をあしらった優美な槍は、マレークが振るう度に煌めく軌跡を描く。敵の注意を引くべく、マレークは大柄な身体と長い手足を使い大振りの型を多用して攻めた。
「zzzz
......,buzz,buzz――」
もしもジュピターに感情があったとしたら、こんなことを考えたに違いない。私は使命を果たそうとしているだけなのに、次から次へと邪魔者が現れる、と。屠るに容易い群衆を焼き払おうとしても、黒い騎士が槍で砲身を叩いて照準をずらす。おまけに騎士と共に駆ける金色の衛士、此奴の盾が光線を巧みに防ぐ。これではいつまで経っても疫病を根絶できないではないか!
苛立たし気に尾を地へ叩きつけ、ジュピターは両腕の砲をマレークに向けた。
(いいぞ、――来い!)
ジュピターが自分に狙いを定めたと見るや、マレークは長槍を右の脇に収め、左手を相手に向かって掲げた。手の甲に刻んだ月と藤の紋が浮かび上がり、主の姿を機械の探知機能から覆い隠す。まやかしの敵の残像に向かってジュピターのレーザーが発射される――が、光弾の集中砲火を浴びたのはジュピター自身の腕だった。
解せぬ――。そんな表情にも見えたかもしれない。己が攻撃したはずの男がいた場所を、ジュピターのレンズが解析しようとしている。光線と光弾によるハレーションが治まったとき、そこにいたのは黒龍の騎士ではなく、金門の衛士だった。
カガリは鉄門扉の盾を構え、堅牢な守りを固めていた。そして盾に受けた光線を全て光弾に変えてジュピターに見事撃ち返したのだ。
――反撃せよ。
――砲を撃て。
かつて幾度となく聞いた兵士たちの号令が、カガリの脳裏に蘇る。彼らが命を懸けて守った城門。それが我が身なれば。
「これなるは我が砲門。我が外に敵がある限り、砲弾が尽きることはなし!」
以後、ありとあらゆる攻撃から全てを守ってみせると胸を張る。いついかなるときも。民の砦たる己の矜持を捨てることはない。
それに対し、この“医者”はどうだ。人を生かすための生業、人の心に寄り添うのが医者というものではないのか。――カガリは訝しんだ。“予防”と言いながら無慈悲にも遺体を灰にし、治療もせずに生きた人間を焼こうとする。そんなものが医術であるわけがない。まるで「治療しなければならない対象が全て消えれば任務を全うできる」と盲信しているかのようだ。「守るべき民が消えれば守る必要がなくなる」などとカガリは考えない。考えたこともない。守るべき民がいてこその城門だ。救う患者がいてこその医者ではないのか。
カガリの静かな怒りを、マレークはジュピターの背後から感じ取っていた。そして黒い機体を見上げる。――なるほど、レーザーといい麻酔といい、医療用の技術を転用したものであることは間違いないようだ。だがこの身体を見てみろ。人々を救うための機構はひとつとして設えてはいないではないか。戦闘に特化していると言い難い構造ではある。しかし逆に医療行為に適しているとも言えない。バグを起こした状態であることは明瞭だが、それを差し引いても「医療技術を意図的に悪用した何か」のように、マレークには感じられるのだ。それを造り出した者がいったい誰なのかは知りようもないが、――ずいぶんと歪んだ性格の持ち主であろうことは予想できる。
(なれば、俺の為すべきはひとつ)
叩き潰すのだ。何者かの悪意を、完膚なきまでに。
走り出す前に、相棒が言っていた。狙うならば、部品の繋ぎ目。――あるいはケーブルだ。背後から見上げたジュピターの腕からはケーブルが露出している。蛍光グリーンの光を帯びたそれは、おそらくレーザーのためのエネルギー供給用だろう。これを断ち切ってしまえば厄介な光線を封じられる。できることなら両腕を潰したかったが、羽根が邪魔をしてマレークの潜む場所からは片方しか狙えない。静かに構えた碧血竜槍を、マレークは渾身の力で投擲した。
「beeeeeeeeeeeeeeeeep!!! 警告、警告! 左腕、電気信号ニ異常発生!!」
「星を穿て、蒼き稲妻を纏いし碧眼の双頭竜!」
正確にケーブルを切断し、上腕にあたる部位の裏側に命中した碧血竜槍へ命じる。全身に稲妻を走らせた双頭の竜が姿を現し、長槍の突き刺さった箇所から部品の継ぎ目を伝って腕全体へとダメージを与えた。更にマレークはもう一頭の雷竜も呼び出す。
「魔槍雷帝!」
召喚された竜はたちまちもう一振りの槍に姿を変え、空になった右手に収まった。穂先を碧血竜槍へ向け、雷撃を放つ。槍から槍へ、そして腕の中へ走った竜へ。雷が駆け巡り、ジュピターの左腕を完全に沈黙させた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
加々見・久慈彦
●(1)
やれやれ。とんだ藪医者ですね。
遺体より先に焼却すべきものがあるでしょう?
そう、貴方自身ですよ。
カード群を燃え上がらせ、敵の関節に炎を撃ち込みましょう。『病理の~』の変異のタイミングを先読みして(【第六感】【見切り】)、展開や伸縮する部位にも撃ち込みます。
嫌がらせじみた攻撃で移動や変形をネチネチチクチクと阻害し、他の方々を援護しようという寸法です。
クリーニング代のかわりに貴方の命をいただきますよ。馬徳里で仕立てた(大嘘)スーツに腐臭が染みついてしまったのでね。
もっとも、機械じかけの藪医者さんに『命』と呼べるものが宿っているかどうかは疑問ですが……。
※煮るな焼くなとご自由に扱ってください。
テリブル・カトラリー
(1)敵オブリビオンと戦う
この世界の兵器か、それに準ずる物か、なんにせよ…破壊する。
『戦争機械・蒼い戦機』発動
【盾受け】粒子シールドを展開、敵レーザーを防ぎ
【空中浮遊】空を飛翔しながらライフルで【制圧射撃】
私を、見ろ…!
【存在感】注意を引きつつ射線を空に向けさせ、
【フェイント】AI操縦の装甲車で砲撃。不意をつき、
【見切り・早業】攻撃の手が切れた瞬間、高速移動。接近。
ライフルからビーム刃を放出、敵に叩きつけて【属性攻撃】
…壊れていようと、使命を果たそうとするのは、
同じ機械として敬意を表する。
【二回攻撃】ビーム刃を叩きつけた後、
片手からブレード状の粒子シールドを出現させ、敵を貫く。
●
「なぁるほど。その手がありましたか」
機械故の弱点を的確に突いた攻撃で砲身を一門潰してみせた仲間に、加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)は揶揄とも賞賛ともつかぬ拍手を送る。右手から左手へカードをパラララと渡し、
「では、私も後に続きましょう」
ニヤリ、と笑った久慈彦の指に挟んだカードに火が灯った。そして誰宛かもわからぬ注釈が飛ぶ。曰く、「良い子は真似をしてはいけませんよ」。――私はほら、ご覧の通りの存在ですから。火遊びなんて日常茶飯事なんですよ。
頭部を燃え上がらせたペテン師は自嘲気味に笑って、燃え盛るカードを敵めがけて投げた。もう一方の“ペ天使”ジュピターは、武器としての機能を失った左腕を完全に杖替わりとして扱うことにしたらしい。残る砲身――出力が半減している右腕を振り上げ、周囲を取り囲む猟兵たちに向かってレーザーを撃ち込んでいる。久慈彦はといえば、
(あんないかつい奴との肉弾戦なんて、まっぴらご免ですな)
損得勘定を忘れないところは詐欺師の性か、それとも“探偵”としての慎重さか。ちゃっかりとジュピターとも他の猟兵とも距離をとり、極力レーザーの標的にならない位置取りをキープしている。
何枚目かのカードがちょうど肩関節の駆動部に刺さって口笛を吹いたとき、久慈彦の頭上を青い飛行体が通過した。
(――ん?)
まさか新手か、と思わず視線を空へと向ける。しかしその機影は久慈彦たちを狙うことなく、ジュピターに銃口を向けた。
蒼い装甲と髑髏にも似たマスクに身を包んだテリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)が、 飛翔したまま敵に対する制圧射撃を開始した。眼下に見えるのは、黒い人型の機械。それを猟兵たちが取り囲んでいるのがわかる。高威力のレーザーが面倒な存在であることは確かだが、仲間たちは既にジュピターを半壊の状態にまで追い込んでいる。完全に破壊できるまで、あと間もなくだろう。
「私を……、見ろ!」
二メートルを超す巨躯を更に特殊なパワードスーツで覆っているテリブルの姿は圧倒的な存在感を放つ。甲虫の翅に似た背中のパーツからは、彼女の身体を支えてホバリングが可能になるほどの揚力が常に供給されている。ゴォンゴォンと飛行機のような音を立てれば「目立つな」と言う方が無理というものだ。そして巨大なブレードライフルから発射される弾丸の威力も凄まじい。命中した弾はジュピターの装甲を砕き、大きな穴を穿つ。細身の部位が多いジュピターにとっては、穴が開いた箇所からぼっきりと折れかねない、驚異的な弾だ。故に、「無視できぬ」と判断したのであれば、それはジュピターの演算能力が未だ健在であることを示してもいるのだ。
「いやいやいやいや……」
半ば呆れた顔で久慈彦が「ロボット決戦の映画を見に来たわけじゃあないんですがね」と呟く。それほどまでに、圧倒的だった。しかし、有能な同僚が働いているからといってポップコーンを片手に観戦を決め込むほど久慈彦も莫迦ではない。テリブルが滞空したまま応戦しているのは、ジュピターのレーザーを空へ引き付けることで地上の仲間たちを援護する意図があるからだろう。テリブルに向けられた光線は、彼女が展開する粒子シールドの形をなぞるようにして空へと消えていく。
レーザーを撃ち続ける右腕の肩から炎が燃え上がっていた。久慈彦が置いた布石が効きはじめたのだ。金属製の巨体にトランプサイズの火種では拳銃で熊に立ち向かうようなものだったが、それはでたらめに撃つからである。狙う場所とタイミングさえ絞りに絞れば、小さな一手であっても戦局を覆し得るのだ。
(――いや、)
むしろ取るに足らないと思わせておくことこそが、詐欺師の真骨頂。罠だと気取られぬように相手を泥沼に嵌める、この心地よさ。気付いたときにはもう抜け出すことはできないと悟った獲物の顔。
「……おっと」
久慈彦は己の口が醜悪に歪んで笑みを浮かべていることに気付いた。いけないいけない。猟兵となった今、“悪さ”は慎まなければ。口許を手で押さえ、空いた右手でカードを捲った。
「甘く香り立ち、熱く燃え上がる……そんな死はいかが?」
テリブルとの応酬に意識を向けているジュピターは、久慈彦の言葉になど耳を傾けない。傾けたところで、機械の人形にとってはただの“音声データ”でしかないだろう。
「機械に死の甘美さなど理解できないでしょうがね」
肩の次は上腕の動きを司るシリンダー、その端にある接続部分を狙う。肘側にあたる外側は装甲に守られているが、内側――人間でいう上腕二頭筋――は内部機構が露出している箇所も多い。位置を変え、狙いを定め、カードを投げ続ける。僅かな隙間に小さなカードを差し込む、その難易度。だが粘り続けることで好機を捉えてついに狙い通りの部位を破壊した。
既に威力が落ちているところへ、肩と肘の可動域を潰したのである。ジュピターの攻撃力のほとんどを削ぎ落したと言っても過言ではないだろう。空中戦が終了したと判断したテリブルもエンジンを切って地上に降り、ライフルをブレードモードに切り替えた。テリブルの身長と変わらないほど大きい銃身を空に向け、先端からビーム刃を放出する。そうして、大剣を携えた戦士のごとくジュピターへと接近した。
「汚染、汚染ン……ジョジョジョ除去、除去」
銃火器が使用不能になったジュピターはついに奥の手を出す。自らの危機を察してか、コンピュータをフル稼働させてデータの解析を行っているようだ。
「汚染源、――特定。病原、――特定。予防、――不能。対処法、――区域内ノ生命体殲滅」
「――はっはっはァ!!」
ジュピターの結論を聞いて久慈彦が身体を揺らして笑う。
「ついに正体を現しやがったな、藪医者め!」
包帯で抑えているはずの炎が制御不能とばかりに燃え上がる。「死体よりも先に焼くべきものがあるだろうがよ!!」
怒りを滲ませ牙を剥き出しにして嗤う怪奇人間に反応することなく、ジュピターは己の機体を解体し始めた。脛、関節、腕の砲身――、様々な部位が一斉に変形し、バラバラになって独立していく。そして、鴉の化物じみた頭部と毒々しい天使の輪だけを残して、全ての部品がなんらかの武器に変わり、猟兵たちをぐるりと取り囲んだ。
普段の口調に戻った久慈彦が肩を竦める。
「……ふ。医者を気取っておいて、“病状”が手に負えなくなったら見捨てるわけですな」
「――壊れていようと、プログラムされた倫理が間違っていようと」
その隣へテリブルが歩み出た。
「使命を果たそうとするのは、同じ機械として敬意を表する」
大剣を構え、宙に浮かんだジュピターの頭部へ一歩、また一歩と近づいた。テリブルが動くと同時に猟兵を包囲している武器が一斉に攻撃を開始する。銃弾や刃を避け、叩き落し――猟兵たちは窮地を切り抜けるべく死力を尽くす。
(お前が使命を果たそうとするならば、私もそうする)
地を蹴って走り、ジュピターに突進しながらテリブルは心で語りかける――機械の心、そんなものがあるのなら。否。あるに違いない。あってもらわねば困る。でなければ私は何のために戦っているというのか。どこまでがプログラムで、どこからが心なのか。それは世界が続く限り結論の出せない謎なのだろうか。
「おおおおおッッ!!!」
装甲に叩きつけられる銃弾に構わず、テリブルは大剣を振りかぶった。そして力の限り、防疫マスクの頭部へと叩きつける。蛍光グリーンのリングが砕けて散り、電光が走る。振り下ろしたライフルを重力に任せて地面へ投げ捨て、腕の装甲から粒子シールドをブレード状に放出すると、ジュピターの顔を真正面から刺突した。
「zzzzz
......bbbbeeeep,beeeeep,beeee――――」
ブツ、とスピーカーの途切れる音がして、ジュピター――だったもの――は一斉に地へ堕ちた。
●
テリブルは黒い眼鏡のようなレンズをしばらく見つめたまま佇んでいる。
その隣へ久慈彦がスーツを整える素振りをしながら歩いてきた。
「クリーニング代のかわりに貴方の命をいただきましたよ」
顔を上げると、久慈彦はジュピターの残骸に話しかけているようだ。馬徳里で仕立てたスーツに腐臭が染みついてしまったのでね――などと、嘘か本当かわからないことを言いながら久慈彦はネクタイをきゅっと締め直している。そもそもテリブルには『馬徳里』がどこにあるのかわからない。自分には関係のない話だろう、と視線を地に戻す。――が、次の言葉で再び久慈彦の顔を見た。
「――もっとも、機械じかけの藪医者さんに『命』と呼べるものが宿っているかどうかは疑問ですが……」
テリブルの視線に気が付いた久慈彦が顔を上げていささかばつの悪そうな苦笑いを浮かべた。
「おおっと。貴女のことじゃありませんよ、セニョリータ」
「わかっている」
頷いて、テリブルは空を見上げる。
「――私も、それを考えていたところだ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
赤茶けた岩肌の露出した崖が左右に切り立っていた。横方向にオレンジと黄色の縞模様が走る。低地のところどころに草むらが点在し、崖の上には立ち枯れた木の幹が残っている。緑が豊かであった頃の残渣だ。気の遠くなるような時間をかけて風雨が削り、大地が隆起した渓谷。その底を一台のトラックが走り抜ける。
トラックの荷台に乗った数名の猟兵が周囲を警戒するように見回している。幸いにして、恐ろしい機械人形の追撃を逃れ、無事に射程圏外へと脱出できた。道中も新たな敵、新たなトラブルに出くわすことなく目的地へと順調に近づいている。
オブリビオン・ストームによって自然の恵みを無惨に剥ぎ取られた大地。だが、悲劇の只中にあっても、数千万年の時間が生み出した地形だけは泰然とそこにあった。
進行方向の右手、重なる空気の層で色が僅かに褪せる距離。赤い山の麓に彼らの目指す拠点が見えていた。
バジル・サラザール
元々はちゃんとした救うための医療用ロボット……だったのかしら
(3)
『野生の勘』も用いつつ、拠点を捜索、生存者を救出するわ
さっきと同じく『毒使い』『医術』を生かして、この状況の原因を調査、『ヒュギエイアの薬箱』や施設の備品を借りて皆を治療するわ
敵が現れたり、治療がひと段落したりしたら、『毒使い』『属性攻撃』を生かした『ポイズン・スピア』で戦うわ
相手が対象に応じて形を変えるならこちらだって毒の特性を変えて次々と攻撃しましょう
敵の攻撃は『野生の勘』も用いつつ回避や防御
ただし他の人に攻撃が向かいそうなら庇いましょう
人を救いたい、その気持ちは同じのはず……
アドリブ、連携歓迎
●
五感を研ぎ澄ませて、バジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)は巨大な土楼の中を歩く。ここへの移動には数十分ほどかかっただろうか。皆でオブリビオンの侵入を防いだ環状楼と様式がよく似た建築物ではあったが、内部はひどく荒れている。まるで嵐が拠点の中を吹き荒れたかのようだ。そして明確な違いがもうひとつ。それは――、
「……人の気配がしないわ」
視界に入った戸口は扉が内側に開け放たれたままになっている。用心深く観察すると、戸板は傾いで蝶番の半分が壊れていた。
「なんてこった」
バジルの後ろから恐る恐る覗き込む男は、自分の住む“町”の無惨な姿を目の当たりにして動揺を隠せずにいる。――無理もない。バジルは男が呑んだ息の音に瞳を伏せた。この拠点が危機的状況にあるだろうことは、ゾンビたちが環状楼に押し寄せたときから想像に難くなかった。危険を承知で混乱の中を飛び出してきたのも、彼の娘を案じる想いがあればこそだった。
「娘は、……娘は無事なのか」
テーブルの上には、食べかけのミートローフとパン。何日かの時間が経っているのだろう、乾いた断面に蠅が集っていた。
「どの住居も、似たような状態ね」
オブリビオンそのものに襲われたのならば、住人の遺体が残っていてもおかしくない。しかし探せども探せどもそんなものは見つからない。あるのはただ、前触れもなく断ち切られた日常の名残りと嵐に引っ掻き回された町だけだった。これまで探索したいくつかの住居、同じように生存者の捜索に当たっている猟兵からの情報を総合して、バジルは結論づける。
「――オブリビオンストーム」
「それは……、あの黒い竜巻のことか」
「そうね。私たちはそう呼んでいるわ」
耳慣れない言葉を訝し気に反芻する男に、バジルは頷く。この世界の生きる人々の多くは、その災厄を経験している。だからそれが何か、それに襲われたらどうなるのかは身を以て知っているのだ。
「……さっき現れた、あの奇妙な機械人形がやったんだな」
男は無念さに拳を震わせた。最初の災厄からは運よく逃げ果せた。生き残った今日を友と喜び、明日が来るはずという希望を家族と分かちあう。ささやかな幸せをそうやって積み上げても、理不尽に崩しにやってくる連中がいるのだ。――いつまで続くんだ。どれだけ失えばいいんだ。
「それは断定できない」
淡々と、だが穏やかに、バジルは男の絶望と怨讐を押し止める。
「あの機械の音声を聞いたでしょう? 元々は医療用に開発されたロボットなのかもしれないわ。それに、『目標追尾』と言っていた。治療や処置の必要な人間を検知する機能を備えているのよ」
――追尾が完了した後でどのような“治療”を施すにしても、だ。あの機械仕掛けの天使がオブリビオンストームを発生させたというよりも、オブリビオンストームの発生によって生じた被害を察知してゾンビ化した住人たちを追ってきた可能性が高い。つまり、一連の事件は偶発的なものなのではないだろうか。
「音声や挙動を見た限りでは、正常に動作していないようにも思えた。きっと何らかのエラーが起こっているせいで――」
思考を続けようとしたところで、バジルは首を横に振る。
(ダメね。考えたって、仕方がない)
心のどこかで祈る自分に気付いて苦笑いを滲ませた。あの機械人形だって“人を救いたい”原動力は同じはずだと、善を信じたい己がそこに居座り続けている。医療に携わる者として、客観的な分析と感情的な願望は分けるべきと常日頃自分に言い聞かせてはいるのだが。
「……この様子じゃ、もう――」
立ち尽くす男の顔に、窓から差す夕日が当たっている。唇を震わせ、涙を堪えて、どうにかして絶望を消化しようとする表情。バジルが何度も見たことのある表情――。
「諦めないで。大丈夫、落ち着いて考えましょう」
男を励ましながら、バジルはありとあらゆる知識、それから経験を総動員して考える。ストームに襲われた――。もしかしたら、一部の人は逃げる暇があったかもしれない。この土地の人々の絆を思えば、子供は真っ先に逃がすはず……。
「子供たちだけで拠点の外に出たりするのかしら?」
「いいや、普段だったら小さい子供だけでなんか外には出さない」
何があるかわからないから、と男は言う。それもそうだ。拠点を一歩でも出たら危険地帯。略奪者やモンスターに出会わないという保証は一切ない。大人でさえ単身で外に飛び出すのは自殺行為だろう。しかも、突然のことで長距離を旅する用意も整えられたかどうか怪しい。一か八かで外へ出た可能性も否定はできないが。
「子供たちが、普段よく遊んでいた場所には、心当たりがない?」
“子供”という生き物の行動パターンを思い出しながら、バジルは問う。「――そう、たとえば、かくれんぼをするような」
「……あるぜ」
ハッとした様子で男が顔を上げた。
「あいつ、かくれんぼは得意らしくて――、いつも絶対に見つからないんだって自慢してた」
その場所は娘しか知らない特等席なのだと。皆には教えられないが父親にだけ内証で、と。教えてもらったことがある。
ささやかな希望を見出して目を見開く男の背中を叩いて、バジルは下肢をうねらせた。
「そこだわ! 行きましょう!」
●
――のどが渇いた。おなかもすいた。
だけど、もう外に出てもいいのか、わからない。怖い音はしなくなったけれど、大人たちが自分を探しにくる気配もない。呼び声も、歩く音もしない。聞こえるのは、ただ風の音だけだった。
赤い西日が扉の隙間から差し込んできた。じきに日が暮れる。もう何回目だろうか。カサカサに乾いた唇は油断していると上下で貼り付いて口を開けられなくなってしまう。たまに乾燥して剥がれた唇と皮膚の裂け目から滲む血を舐めて、喉の渇きと空腹感をごまかしてきた。これをあとどれくらい続ければいいのだろうか。どれくらい続けられるのだろうか。
少女は祈った。
(……パパに、会いたい)
「――――!」
何か、音がする。音? いいえ、これは――声。
わたしを呼ぶ、声。
お気に入りの隠れ場の扉を、ドンドンと叩く音がする。それを内側から開ける力もない。でもわかる。あれはパパの声。
(最後に聴けて、よかっ――)
少女の意識は、そこで途切れた。
男が示した場所で娘は発見された。階段の下の収納庫。ストームが暴れたせいで扉の前に大きな家財やガラクタが飛ばされてきたらしく、それらの撤去に時間がかかってしまったが――。
「――もう大丈夫よ」
少女の容態が落ち着いたのを確認して、バジルが微笑んだ。手荷物の中から経口補水液のボトルを取り出して置く。
「だいぶ衰弱しているし脱水症状も起きているけれど、水分をしっかり摂っていれば回復できるわ」
少女の父親ははらはらと涙を膝に落としながら、しきりに頷くばかりだった。
(救えなかった人もたくさんいたけれど……。一人でも助けることができて、よかった)
バジルの脳裏に浮かぶのは、生ける屍と化して死んでいった、この拠点の住人たち。娘を発見した後も同じように隠れている者がいないか探してみたが、見つからなかった。もう、彼ら二人だけになってしまったのだ。
(生き残ったことを、悔やむ日がくるかしら――)
バジルは思う。もちろん、きっとあるだろう。
しかし、生きてこそなのだ。人は、生きてこそ。
明日に希望を見出し、天に祈る。明日は幸せでありますように、――と。
猟兵たちに生存者発見の報せが届くのは、機械仕掛けの天使を倒した3時間後のことだった。
大成功
🔵🔵🔵